NYの公園で「非常に無気力な」ワニ捕獲
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「―――これは私とお前の主従契約だ」
男は汚いものを見るかのような目つきでそう言った。
今自分が声を出せば、迷うことなく喉元を切り裂かれてしまうような、躊躇いのない刃のように、その瞳は冷たかった。
あの瞳の冷たさを、少年は今でも忘れることはない。
「私の言うことには全て従え。歯向かうことは決して許さぬ」
自分を主として認めろと男は言った。
それは同じ人間という種族の中での上下関係ですらなかった。
飼い主と犬。もはや自分は人としての扱いもされなくなるのかと、少年は他人事のように考えた。
男の上質な着物にも返り血が染みついていた。瞳はあんなにも鋭いのに、彼が握っている剣の刃は、刃毀れをしており、切れ味が悪そうだ。
今あの刃で斬られたらきっと痛いだろうなと、他人事のように考える。
男は剣を持っていない方の手を差し出した。
その手も血で真っ赤に染まっていたが、少年は決して汚いとも恐ろしいとも思わなかった。
「…この手を取るのなら、その命、私が生涯責任を持って飼おう」
少年は躊躇う素振りもなく、男の手を取った。
大きな骨ばった手は、刃のような冷たい瞳と違って温かく、少年はついその手を握ってしまう。
男がその手をすぐに握り返すと、少年は思い出したように辺りを見渡した。
自分たちの足下に、無数の屍が転がっている。
見慣れた顔のはずだったのに、今の少年の瞳には、どれも同じ見覚えのない顔に映っている。
体つきから、それが女か男、子供や大人かくらいの違いは分かるのだが、それが誰であるのかを少年はもう思い出すことが出来なかった。
あれから数年の月日が経ち、信という名の少年は下僕の立場から、秦の総司令を務める右丞相・昌平君の護衛を担う側近へと昇格を果たした。
素性も分からぬ下賤の少年を護衛役に任命したのは、彼を保護した昌平君自身だが、家臣たちから大いに反対をされたことは言うまでもない。
しかし、彼らを説き伏せたのは、意外にも主ではなく、信自身だった。
屋敷に連れて来られた時から、信は言葉でなく、態度で昌平君に対する忠義を示していた。
初めは一向に喋ろうとしないことから、口が利けぬのかと誤解されていたようだが、そうではない。
主である昌平君から許しが出るまで、信は一言も口を利かぬよう、健気に命令を守っていたのだ。
傍に昌平君がいない時でさえも、信は従順に言いつけを守っている。
返事の一つさえ、決して声を出さないようにしている少年を、初めの内は家臣たちも薄気味悪い目で見ていた。
なぜ信を拾ったのか、どこから連れて来たのか、家臣たちは誰一人知らない。それを知っているのは昌平君だけである。
後に信は護衛としての役目を全うするために、剣の扱いを学び始めた。
昌平君と、彼の近衛兵である豹司牙から手ほどきを受けたせいか、着実に剣の腕は上達を見せていた。
男にしては身のこなしが軽い信は、剣術の型に縛られることなく自由に戦い方を学び、たった数年の間で、昌平君にも豹司牙にも劣らないほど剣の腕を磨き上げたのだった。
今や、昌平君の護衛役を担うことに反対する者は誰もいない。信はまさに自分の努力で、家臣たちを説き伏せたのだ。
まさか昌平君自らが武を授けることに家臣たちも驚いていたが、信の上達具合から、彼の武の才を見抜いて連れて来たのだろうと噂が広まった。
初めは素性の分からぬ少年を受け入れられないでいた家臣たちだったが、長年共に過ごせば情も湧くもので、今や信は昌平君の側にいるのが当たり前の存在になっている。
信の年齢で初陣を済ませている将は多くいる。将として育てるつもりだったのだろうと誰もが考えていたが、昌平君は信を戦に出すことはしなかった。
護衛としての役目を全うさせようとしているのだろうか。真意は誰にも分らない。
ただ、信が昌平君にとって使える駒であり、犬のように従順な存在であることだけは誰もが分かっていた。
そのせいか、いつからか信には、「昌平君の駒犬」という呼び名がついて回るようになっていた。
主のためなら駒同然に命を投げ捨てる従順なる犬。
命の価値を軽視した皮肉も込められた呼び名ではあるが、信はこの呼び名を密かに気に入ってた。
それまで真剣な表情で木簡に筆を走らせていた昌平君が小さく息を吐いたので、今日の分の政務が終わったのだと信は察した。
もうとっくに陽は沈んでおり、蝋燭の明かりだけが室内を照らしている。
昌平君の顔に疲労が滲んでいるのが見える。今宵は月が雲隠れしており、いつもよりも薄暗かった。眉間に刻まれた皺がいつもより深いところを見れば、随分と目を酷使したのだろう。
机の端に重ねられている大量の木簡は、全て内政のことが記されているものばかりだ。しかし、机の端に寄せられているということは、それがもう用済みである証拠である。
しかし、筆を置いたまま背もたれに身体を預けている姿を見る限り、今日の政務はもう切り上げるのだと分かった。
積み重ねられている木簡を書庫へ片付けてこようと信が立ち上がる。
「…信、来なさい」
椅子に腰掛けたまま、昌平君が信を呼んだ。命じられれば必ず従うことを骨の髄まで調教されている信は、すぐに昌平君の前に向かう。
返事を声に出さないのは、まだ話す許可を得ていないからだ。
「………」
昌平君が自分の太腿を軽く二度叩いたのを見て、信は椅子に腰を下ろしている主の身体に跨り、その膝の上に腰を下ろした。
連れて来られたばかりの頃は、信に字の読み書きを教えようと、膝に座らせて木簡を読んでくれたり、筆の使い方を丁寧に教えてくれた。
下賤の出である自分に字の読み書きを教えてくれたのは、自分の仕事を手伝わせるつもりだったのだろう。
そう言った経緯があり、信は昌平君と身体を寄せ合うのは嫌いではなかった。むしろ、幼い頃からずっとそうして来たので、好きだと言ってもいい。
ただ、体が成長しても、幼い頃と同じように扱われるのは少々気恥ずかしさがある。
もちろん人前ではしないのだが、二人きりになると昌平君は、ここに連れて来た時と同じように信を愛でるのだ。
「っ…」
顎に指を掛けられると、信の体が自然と緊張した。
端正な顔が近付いて来るのを見て、思わず目を閉じるが、その瞼も震えてしまう。
目を閉じるのに許可は要らなかった。もしも目を開けているように強制されていたら、もちろん指示に従ったし、主の端麗な顔を見続けて心臓が止まっていたかもしれないと信は思った。
「…、……」
もう何度となくされているはずなのに、未だに緊張してしまう。昌平君が小さく笑った気配を察した途端、唇に柔らかいものが触れる。
口を合わせることも、肌を重ねることも、幾度となく教え込まれた行為だが、身体が成長していくにつれて、少しずつ背徳感を覚えるようになっていた。
元は下僕の身分である自分を拾ってくれたことには感謝しているが、右丞相という役職に就いている昌平君には未だ妻がいない。
秦王からも厚い信頼を得ている高官の彼に、絶えず縁談の話が来ているのも信は知っていた。
まさか自分の存在が足枷になっているのではないか、自分を引き取ったせいで、昌平君が家庭を作れないのではないかと不安を覚えることもあった。
しかし、主の許可がなければ発言を許されない信は、その不安をいつまでも胸の内に秘めている。
素直にその不安を打ち明けたことにより、昌平君が自分を捨てて伴侶を選んだらという不安の方が大きかった。
彼に捨てられたくない。
昌平君の駒犬として役割を果たすことだけが、信の生きる道であり、生きる術であった。
「ぁ…」
主の柔らかい唇の感触を味わっていると、腹の内側を優しく抉られるあの甘い刺激を思い出してしまい、下腹部が甘く疼いた。
唇が離れると、信は軽く息を乱しながら、恍惚とした瞳を向けた。
次の命令を急かすような瞳に、昌平君は骨ばった手で信の頬をそっと撫でる。
「…おすわり」
命じられると、信は昌平君の身体から降り、すぐに床へ膝をついた。次の指示を聞くために、主の顔を見上げている。
すぐに命令に従ったことを褒めるように、黒髪をくしゃりと撫でてやると、気持ち良さそうに信が目を細める。
頭を撫でられるのが好きなのは、昌平君も知っていた。もしも信に尻尾があったのならば、きっと大きく振っていたことだろう。
想像するだけで愛らしいと思い、昌平君は口角をつり上げた。
「……、……」
静かに微笑んだ主の顔に見惚れ、信は薄口を開けて頬を赤く染めている。
頭を撫でていた手を滑らせて頬を撫でてやると、意を察したのか、信が椅子に腰掛けている昌平君の足の間に身体を割り入れて、そこに手を伸ばした。
「っ…」
室内を照らしている蝋燭の明かりだけでも、信の顔が赤く染まっていることが分かった。
僅かに震えている手で、着物を持ち上げている男根にそっと触れる。確認するように見上げられ、昌平君が小さく頷いた。
遠慮がちに動く信の手が帯を解いていく。
緊張のせいか、その手が僅かに震えているのが分かると、昌平君は褒めるように信の頭を撫でてやった。
着物を捲り、僅かに上向いている男根に信がゆっくりと顔を寄せる。
「ん…」
切なげに眉を寄せながら、信が喉奥まで男根を咥え込む。
気道が狭まって呼吸が苦しくなるが、鼻で呼吸を続けながら、陰茎に舌を這わせた。
頭を前後に動かしながら口の中で男根を扱き、舌を這わせ続けていく。頭上で昌平君が息を乱しているのが分かった。
その吐息を聞くだけで、信の下腹部がずんと重くなる。自分の口で感じてくれているのだと思うとそれだけで胸が熱くなった。
「っ…ぅ、ん…ぐ…」
唾液と先走りの液が溜まっていき、まるで猫が喉を鳴らすかのように、信の喉奥でごろごろと音が響いた。
苦しくなったのか、信が男根から口を離して喘ぐように息を整えている。唾液の糸を引いている男根を頬に擦り付け、信が何か訴えるように見上げて来た。
うっすらと瞳を浮かべているその瞳に見据えられると、背筋に戦慄が走り、加虐心が煽られてしまう。
「っ、ん……」
信の息が整ったのを見計らい、再び後頭部を押さえ込んで再び男根を咥えさせる。
ざらついた上顎の感触、つるつるとした舌の表面、生暖かい口内の感触、喉に繋がる狭い肉壁の感触。生々しい感触に包み込まれるだけで、つい息を零してしまう。
見下ろすと、信の足の間にある男根も同じように上向いているのが分かった。着物を持ち上げているそれが涎じみた液を洩らし、着物にはしたなく染みを作っている。
まだ触れてもいないのに、口淫をしているだけで感じていたのか。
男根を口から引き抜き、身を屈めて信の男根を着物越しにやんわりと掴むと、先走りの液で着物の染みが濃くなった。
「はっ、…はあ…ぁ…」
息を整えるのに必死で閉じられない唇が切ない吐息を洩らす。
着物越しに形を現わしている敏感な先端を指の腹で円を描くようにくすぐってやると、ますます涎じみた液が溢れ出す。
先端の割れ目を何度もなぞってやると、信の腰と内腿が震え出したのが分かった。しかし、まだ射精の許可を出すつもりはない。
このまま調教を続けていけば、いずれ男根に触れずとも、口淫をしているだけで絶頂を迎えてしまうのではないかと苦笑した。
もしもそんな淫らな体になったのなら、もう二度と外を自由に歩かせる訳にはいかないだろう。
(女の味など一生教えてやるものか)
異性だけではない。もしも自分以外の人間に興味を抱くことがあれば、すぐに去勢してやると考えながら、昌平君は愛撫を続ける。
自分が女だったならばともかく、信の子種を実らせるつもりなど微塵もなかった。
「ん、ぐっ…ぅんん」
再び両手で彼の頭を押さえ込みながら、喉奥を抉るように一番深いところまで咥えさせる。
過去に無理やり口を犯し続けたことで、喉をひどく腫らしてしまい、翌日は水を飲むことも出来なくなったことを思い出した。
確かあの時は、まだ口淫に慣れておらず、歯を立てられたことに腹を立てて仕置きをしたのだ。
竹製の口輪を噛ませ、口が閉じられぬように、歯を立てられぬようにした上で口淫とは何かを教え込んだ。
その成果は着実に表れており、今では口輪など使わずとも、立派に口を使いこなすようになっている。
主に歯を立てるなんてもってのほかだと、賢い犬は学習したようだ。
「ふ、…っぅ、んぅ…」
苦しがるのは分かっているので、喉を突かぬように加減しなくてはと思うのだが、健気に男根を頬張る姿を目の当たりにすると、どうしても我慢が出来なくなってしまう。
むしろこのような愛らしい姿を前にして我慢出来る男など、この世に存在するのだろうか。
「んんっ…ぅ…」
口の中で男根が完全に勃起すると、信がますます苦しそうに眉根を寄せていた。
しかし、歯を立てぬように精一杯口を開けて、尚も舌を這わせて来る。躾の出来た良い子だ。
骨の髄まで自分に従順になるよう躾けたのは、他の誰でもない昌平君自身であるが、健気に男根を頬張る姿には愛おしさが込み上げて来る。
「っ、はあ…は、あ…」
男根を口から引き抜くと、信が肩で呼吸を繰り返していた。
褒めるように頬を撫でてやると、それが次なる指示だと気づいた信はゆっくりと立ち上がる。
躊躇うことなく自分の帯を解いた信は、切なげな表情を浮かべていた。帯が解かれたことで襟合わせが開き、隠れていた肌が露わになる。
普段から剣や槍を握っていることもあり、手の平はマメだらけであるが、着物の下には目立つ傷は一つもない。
あるのは先日の情事の際につけた痣だけだ。強く唇で吸い付いたものと、歯形が幾つも刻まれている。
普段は着物で隠れているが、信の素肌を見れば、常日頃から独占欲の強い男と身を重ねていることがよく分かる。
「ん、ぅ…」
貪るように唇を重ね合い、昌平君は帯が解かれて肩に引っ掛かっているだけの青い着物を脱がせた。
白い下袴の紐を解くと足の曲線に沿って下袴が落ちる。それを合図に、信が机に手をついて昌平君に背中を向けた。
背中から身体を抱き締めて、肌を重ね合う。
「っ…う…」
肩越しに期待を込めた眼差しを向けられ、昌平君は思わず息を飲んだ。
発言の許可は与えていないので、信は健気に命令を守り続けているのだが、その瞳は「早く欲しい」と訴えている。
飲み込めない唾液のせいで、艶めかしく濡れた唇が男を誘っていた。
「ふ、く…」
口の中に指を突き入れると、躊躇うことなく信は舌に絡ませて来た。
唾液で存分に潤いを纏わせて、普段は固く閉じている孔にくすぐるように指を這わせる。
入り口に指を這わせているだけというのに、信の其処が反応するように打ち震えたの感じた。
主の男根しか知らぬ其処は内壁への刺激を求めているのだ。女の淫華よりも煽情的に思えた。
「…ッは、ぅ…」
唾液の滑りだけで、二本の指がすんなりと入っていく。
初めて体を繋げた時は、長い時間を掛けて解きほぐしていた其処は今ではすっかり男の形を覚えてしまったらしい。
今や痛みを感じることなく、切なげに眉根を寄せる表情も堪らなく愛おしい。
肩で息をしながら、こちらを振り返る信は顔を真っ赤にさせている。発言の許可をすれば、早く欲しいと訴えるに違いなかった。
しかし、昌平君はわざと視線に気付かないフリをして、後孔を弄っている反対の手で上向いている男根を包み込む。苦しいまでに硬く張り詰めていた。
指で輪っかを作り、硬く張り詰めている男根を上下に扱いてやると、信が喉を突き出して体を仰け反らせる。
「―――ッ…ふ…、んぅ…!」
後孔を弄る指を、中を掻き混ぜるように動かすと、信が両手で口を塞いでしまう。発言の許可を得ていないことから、必死に声を堪えようとしているのだろう。
こんな時でも健気に命令を守る姿に、昌平君は思わず口角をつり上げた。
しかし、そんなことをされれば何としても鳴かせたくなるのは男の性というものだろう。
中でぐるりと回した指を鉤状に折り曲げる。
「んぐッ」
腹の内側にあるしこりを指で突くと、信が手の下で悲鳴を押し殺した。全身を硬直させた後、内腿の痙攣が始まる。
粘膜に埋もれた急所である其処を突かれると、頭が真っ白に塗り潰されるような感覚と全身に戦慄が走り、自分の意志ではどうしようもなくなってしまうらしい。
そこを重点的に弄られるのを信が苦手としていることを、本人は言葉にはしないが、昌平君は彼の反応と態度から分かっていた。
「ッ……、ふ…ぅ」
怯えた瞳を向けられるが、相変わらず目を合わせることはしない。
許しを請うような、涙を浮かべている弱々しいその瞳に見据えられれば、良心が痛み、やめてしまいそうになる。
しかし、それでは躾にならない。主従契約を結んだ以上、躾は重要だ。
傷つけないように中を広げる目的のはずが、いつの間にか信の声を上げさせる目的にすり替わってしまった。
昌平君が発言を許可すれば、たちまち淫らな鳴き声を上げるのは分かっていたのだが、健気に命令に従う姿はやはり愛おしい。
信といえば、命令に背いた時の厳しい罰に怯えているようだ。
誤解のないように告げておくが、信が従順であるのは忠義心が厚いためであり、決して罰に対する恐怖心によるものではない。
そんなもので心が折れるような弱い駒犬でないことを、昌平君は誰よりも分かっていたし、信の心根の強さを何よりも気に入っていた。
「ッぐ…」
くぐもった声が聞こえて、昌平君はようやく信の顔に視線を向けた。
声を堪えようとするあまり、自分の腕を噛んでいることに気付き、昌平君は指を引き抜く。
このまま放っておけば、血が滲んでもなお歯を立てて声を堪えようとするので、そろそろ潮時のようだ。
「信」
名前を呼ぶと、信ははっとした表情で腕から口を放す。その腕にはくっきりと歯形が残っていた。
涙で濡れた黒曜の瞳と目が合い、昌平君は生唾を飲み込む。下腹部が鈍く疼いた。
お互いにもう余裕がないことを察し、それが合図となったのか、昌平君は背後から信の体を抱き締める。
背後から回された腕にぎゅっとしがみつき、信は息を整えていた。
「っ…ぁ…」
先ほどまで指で入れていた其処に、昂りを押し当てると、信が息を飲んだのが分かった。腕にしがみ付いている手に力が込められる。
「ッ…ん、んんッ…!」
唾液と先走りの液を馴染ませるように何度か擦り付け、腰を押し進めた。狭い入り口を掻き分けていき、柔らかい肉壁の中をずんと突き上げる。
「はあっ、あ、ぁぅ…」
激しい圧迫感に信が耐え切れず、声を洩らした。無意識なのか、身を捩って逃げようとする素振りを見せる。
腰を掴んで強く引き寄せて、男根を根元まで押し込むと、昌平君は吐息を零した。
もう何度となくしている行為だが、信の中は温かく、それでいて強く締め付けて離さない。
どんな女よりも具合が良いのは、自分だけを受け入れるように身体に躾けて来た成果なのかもしれない。
最奥まで挿入した後、しばらく動かずにいたのだが、信の息が整ったのを感じてから昌平君はゆっくりと腰を引いた。
陰茎と亀頭のくびれの部分まで引き抜き、容赦なく叩き込む。
「ッぁぅうう」
これ以上ないほど奥深くまで繋がると、信がようやく声を上げた。思い出したように腕を掴んでいた両手で口に蓋をしようとする。
しかし、昌平君は背後からその両手を掴んで、机に押し付ける。
「っあっ、な、んで…」
発言を許可していないにも関わらず、声を上げさせようとする主の行動が理解出来ないのだろう。
信が眉根を寄せて振り返るが、何も答えることはなく、昌平君は激しい抽挿を送った。
硬い男根が奥深くを抉る度に、信の目の奥で火花が散る。
何とか声を堪えようと歯を食い縛るものの、もう声を堪える余裕など残されていないようだった。
信の腰を抱え直して後ろから揺すぶっていると、机に響く激しい揺れのせいで、積み重ねていた木簡が落ちてしまった。
「あっ…」
派手な音を立てて床に散らばった木簡を拾い上げようと手を伸ばした信に、そんなものより自分だけを見ろと腕を押さえ込んで、項に強く歯を立てる。
普段は着物で隠れる箇所ばかりに痕を残すのだが、最近は歯止めが利かなくなってしまうことがある。
押さえつけながら腰を振る滑稽な姿に、これではまるで獣の交尾だと自虐的な笑みを浮かべた。
うつ伏せにさせていた体を反転させ、向かい合うように抱き締める。
「ひいッ…!」
耳の中に滑った舌を差し込むと、腕の中にいる信がぶわりと鳥肌を立てたのが分かった。
激しく腰を突き上げながら、硬く張り詰めて上向いている男根を扱いてやると、ぼろぼろと涙を流しながら信が頭を振っている。
やめてくれと訴えているのは分かったが、中断するつもりなど毛頭ない。鳴き続けている信を宥めるように、その体を強く抱き締めた。
昌平君は耳から舌を引き抜くと、そこに唇を寄せたまま、
「信、いい子だ」
低い声でいつものように褒め言葉を囁くと、信が目を剥いた。
「~~~ッ!」
内腿ががくがくと震え、昌平君の男根を咥え込んでいる肉壁がぎゅうときつく締まる。手の中と下腹部に生暖かい感触が伝った。
見下ろすと、同時に信の男根の先端から白濁が溢れていて、互いの腹と、昌平君の手の平を濡らしていた。
射精の許可はまだしていなかったはずだが、習慣にもなっているその言葉を耳元で囁くと、安易に絶頂を迎えてしまう癖がついてしまったのかもしれない。
主よりも先に達してしまうなんて悪い子だ。耐え性のない犬に苦笑を深めてしまう。
浅い呼吸を繰り返している信の膝を抱え直すと、信が怯えたように顔を上げた。
荒い息を吐きながら、信が小さく首を横に振る。まだ達したばかりで敏感になっている体には、強過ぎる快楽が恐ろしいのだろう。
「――ッ、ぁ、っぅううッ」
構わずに抽挿を再開すると、甲高い声が上がった。
これは主よりも先に達した罰だ。余裕のない笑みを浮かべながら、昌平君は信の腰を抱え直して激しく最奥を突き上げる。
「ひぐッ」
加減をせずに突き上げたからだろうか、信が奥歯を打ち鳴らしているのが分かった。
縋るものを探して、それまで拳を握っていた信の手が、昌平君の背中にしがみつく。護衛役の側近として、普段は主を傷つけまいとする彼が、理性を失ったように夢中で背中に爪を立てて来るのが愛おしかった。
翌日にその痛々しい傷痕に気付いた信が、情事を思い出して羞恥と申し訳なさに委縮する姿を見るのも、楽しみの一つであった。
「やあ、ぁ、ぐっ…」
ここに自分という存在が刻まれているのだと教え込むように、自分の男根を受け入れている薄い腹を手で圧迫してやると、信が幼子のように嫌々と首を振った。
「~~~ッ」
信が喉を突き出して、大きく身体を仰け反らせたかと思うと、再び内腿を痙攣させていた。
「くッ…」
子種を求めた女の淫華のように、ぎゅうと男根が絞られる。あまりにも強い締め付けに、背筋に戦慄が走った。
勢いづいて精液が尿道を駆け下りていく瞬間、全身に快楽が突き抜ける。
低い唸り声を上げながら、最奥で吐精したのだが、信の男根からはまるで涙のように精液がぽつりと流れるだけだった。女のような絶頂を迎えたのだろう。
「はあ、はあ…」
まだ体が繋がったままの状態で息を整えていると、信が瞳を揺らしていた。
熱に浮かされていた意識が少しずつ冷静になって来て、主より先に達したことや、発言の許可を得ずに声を出したことを咎められるのではないかと不安を抱いているらしい。
「ッ、…ぅ…」
ゆっくりと男根を引き抜くと、机に寝かされていた信が身体を起こした。絶頂の余韻に浸ることもなく、疲労感に苛まれている体に鞭打って、主の足の間に屈んで顔を寄せて来る。
「ん、む…」
今の今まで自分の中を抉っていた主の男根を、信は迷うことなく口に含んだ。
まだ何も指示を出していないというのに、何度となく同じ行為を繰り返して来たから覚えていたのだろう。
賢い犬を褒めるように、昌平君は優しく頭を撫でてやる。撫でられるのが好きな彼は、惚けた顔で男根を口と舌を使って清めていた。
残りの精液を掻き出そうとしているのか、尖らせた舌先で敏感な先端を突かれ、ちゅうと吸い付かれる。
尿道に残っている精を啜られると、思わず腰が震えてしまう。
男根を咥えたまま何かを確認するように昌平君を見上げる。もう一度頭を撫でてやると、信は小さく喉を上下させた。
「…ん、…」
ゆっくりと口を開けて、舌を伸ばす。
「信」
白濁を飲み込んだことを示すような態度を褒めるために、昌平君は身を屈めると、信の額に唇を落とした。
身体を重ねるのは何度もして来たが、信に向けている感情が愛情なのかと問われれば、頷くことはないだろう。
だからと言って性欲を処理させる道具として見ている訳ではない。
飼い主と犬の関係であり、それ以上でもそれ以下でもない。そしてこの関係はこれからも永遠に続いていくのだと思っていた。
昌平君の護衛役として、常に彼の傍についている信だったが、軍師学校と謁見の間の立ち入りは禁じられていた。
理由としては単純なもので、信は軍師学校と謁見の間を出入り出来る立場ではないからだ。
逆に言えば、昌平君が軍師学校と謁見の間に行く時は、常に彼と行動を共にしている信が一人になれる貴重な時間ということである。
今日は政務はなく、一日を軍師学校で過ごすらしい。陽が沈む頃に終わると話していたので、その時刻まで信は一人で過ごさねばならなかった。
「……、……」
昌平君と離れている間も発言する許可は出されていない。
きっと信の声を聞いたことがあるのは、昌平君と稽古をつけてくれた豹司牙と、幼い頃から信を知っている昌平君の家臣たちくらいだろう。
護衛役として昌平君が信を連れ歩くようになってから、発言の許可を得られる回数はめっきり減ってしまった。
昌平君に引き取られたばかりの頃の、文字の読み書きを教わっていた頃も許可は必要だったものの、今よりも自由に口が利けた。
幼い頃から昌平君の護衛役として育てられて来た信には、同年代の者たちと関わることもなく過ごして来たせいで、友人と呼べるような存在もいない。
自分のことは後回しに、昌平君の駒として、犬として動くことを最優先にして来たからだ。
そのせいで、急に一人の時間を渡されると、どうしようもなく時間の使い方に悩んでしまう。
主が生徒たちに指導する軍略について興味はあったのだが、戦に出ることもない自分が軍略について学んだところで何の役にも立たないのは分かっているし、昌平君はこの先も信を戦に出すつもりはないのだと断言していた。
木簡の整理などの雑用も、指示がないとして良いか判断がつかない。
いつも主の指示を待つ従順で厚い忠誠心のせいで、信は自ら行動を起こすことに不慣れなのである。
さすがに食事や睡眠まで許可を得ることはないが、それも指示されるようになれば、迷わず従うだろう。
陽が沈むまでには戻って来ようと考え、信はどこかで時間を潰すことにした。
建物の中に入らずとも、いつまでも軍師学校の近くをうろついていれば、生徒たちが集中出来ないかもしれないし、そうなれば昌平君の執務を増やすことになる。
久しぶりに豹司牙に稽古をつけてもらおうかと思ったのだが、近衛兵団の指揮を執るのに多忙だと聞いていた。
諦めて信は咸陽の城下町を歩いて時間を潰すことに決めた。
(街でも歩くか…)
軍師学校の方を振り返る。
窓から昌平君の姿を見ることは叶わなかったが、主が生徒たちに軍略を指導する姿を一度も見たことがない信は、無性に苛立ちのようなものが胸に込み上げて来るのを感じていた。
他の誰よりも自分が昌平君の傍にいるというのに、未だに彼の知らない一面があることを信は許せなかったのだ。
秦の首府である咸陽ともなれば、その辺の町よりも坐買の数は比べ物にならない。着物や食材はもちろん、珍しい品も取り揃えているようで、城下町は多くの人で賑わっていた。
ざっと坐買を見渡してみたが、興味を引かれる物はない。
必要なものは買い与えられていたし、だからと言って趣味で収集しているような物もなかった。
(あ…)
並べられている商品の中に簪や櫛を見つけ、信はつい足を止めてしまう。
派手な宝石がついた女物が目立つ隅で、烏木や欅などの高級樹で作られた男物の簪も並んでいた。
髪の長い主は、常日頃から紐で括ったり、簪で纏めている。当然ながら、女のように見目を気にすることはなく、邪魔にならなければそれで良いのだろう。
「………」
大勢の客越しに、信は品物として並べられている男物の簪を見つめていた。
自分を引き取ってくれた恩を昌平君に返そうと考えるのは初めてのことではない。
しかし、発言の許可を得られなければ感謝の言葉を告げることも出来ないし、だからと言って贈り物をしても感謝の気持ちは伝え切れない。
駒犬として主の身を守り続けることが、信に出来る感謝の方法だった。
(…戻るか)
他の坐買を一通り見て回ったが、興味を引かれる物は一つもなかった。
陽が沈むまではまだ時間がある。昌平君が執務に利用している宮廷の一室に行こうと信が踵を返した時だった。
「!」
すれ違い様に大柄な男と肩をぶつけてしまい、その勢いのまま信は尻餅をついてしまった。
「おい、何だァ?このガキ」
上から不機嫌な色に染まった野太い声が降って来る。信は自分とぶつかった男だろうとぼんやり考えながら立ち上がった。
ぶつかったのは、信よりも背丈があり、がっしりとした筋骨の男だった。
「………」
軽く砂埃を払い、さっさとその場を去ろうとするのだが、後ろから肩を掴まれてしまう。
「おい、ガキ。ぶつかったんなら謝れよ」
芋虫のような太い指が肩に食い込む。痛みを覚えて、信が眉根を寄せてその手を振り払った。
ぶつかったのはわざとではないし、大柄な体に弾かれて転んだのはこちらの方だ。
「何黙ってんだッ!とっとと謝れ!」
いつまでも口を噤んでいる信に、男がますます苛立ちを見せていた。男の怒鳴り声を聞き、辺りに重い緊張が走る。
何事だと人々からの視線が集まるのを感じ、信は思わず溜息を飲み込んだ。
(やっぱり来なきゃ良かった)
こういう男と遭遇したことは、過去にも何度かあった。
騒ぎをこれ以上広めないためにも、自分が勝手を起こして主の顔に泥を塗らないためにも、さっさと要求を呑ませるのが早いことも学習していたのだが、主からの発言の許可を得ていないので、信は謝罪の言葉を述べることが出来ない。
しかし、信は自分の身がどうなろうとも、昌平君からの命を守ることを優先する。
主が傍にいない場所でも命に従う信の忠義心は、何よりも厚かった。
信は冷静に男の背後を見渡した。この男の体格なら、そう素早い動きは出来ないだろう。隙を見て人混みの中に逃げ込めば追って来ることもないはずだ。
「このガキッ…!」
いつまでもだんまりを決め込んでいる信に痺れを切らしたのか、男が胸倉を掴もうと腕を伸ばして来た。
伸びて来た男の手を、寸でのところで信が後ろへ跳んで回避したその時、
「―――あれ?久しぶり。こんなところで何してるの?」
重々しい空気を打ち破るような軽快な声がして、信は背後から両肩を掴まれた。
反射的に振り返ると、桃色の着物に身を包んだ、長い茶髪の人物が視界に飛び込んで来る。
(男…?)
華奢な体つきをしているが、声は間違いなく若い男だ。
体格からして自分と近い年齢であることは分かっていたが、上質な着物を見る限りはどこぞの名家の出だと分かる。
邂逅の挨拶をして来たが、知人にこのような人物がいただろうかと信が呆気に取られていると、桃色の着物に身を包んだその男は信を庇うように前に出た。
こちらを注目している野次馬たちから、話し声が聞こえ、信はつい小首を傾げた。
こんな不穏な空気の最中で、女性たちが黄色い声を上げているのも聞こえる。野次馬たちの会話から蒙恬という名が聞こえ、この青年の名前だろうかと信は彼の後ろ姿を見つめていた。
(蒙、恬…?どこかで聞いたことがある…)
それまで信に謝罪するよう凄んでいた男が、蒙恬という青年を前にすると、途端に慌て出したのが分かった。
「ねえ、知り合い?」
振り返った蒙恬が、男に目配せをする。信は大きく首を横に振った。
「へえ?」
二人が知人でないことを知った蒙恬は楽しそうに声色を明るめた。
「この子、もう連れてって良い?せっかく久しぶりに会えたんだから、早く話したくてさ。…邪魔するなら、こっちも考えがあるけど」
信の肩に腕を回し、親しい関係であることを知らしめるように蒙恬が顔を寄せて来た。
返事をすることもなく、それまで謝罪を要求していた男がまるで別人のように、その場から逃げ出していく。
「………」
何度か瞬きをしてから、ようやく騒ぎが終息したのだと理解した信はほっと安堵した。
平和的解決に導いたことを評価しているのか、野次馬をしていた者たちがなぜか拍手を贈ってきた。女性たちの黄色い声援もますます増えている。
未だ自分の肩に腕を回したままの蒙恬という名の男がくすくすと笑い始めた。
「大丈夫だった?」
心配するように声を掛けられるものの、信は頷くことしか出来ない。
先ほどから記憶の糸を手繰り寄せてみるが、やはりこの男と出会ったことは一度もなかった。名前には聞き覚えがあるのだが、どこで聞いたのかを思い出せない。
「………」
多くの人目が気になり、信はこの場を去ることに決めた。腕の中からすり抜けた信は、早急に屋敷に戻ろうと歩き始める。
「ねえ、もしかして、先生の駒犬?」
先生という呼び方に、信は思わず足を止めた。昌平君を先生呼ばわりする者には軍師学校の生徒か卒業生という共通点がある。
昌平君が指導をしている時間帯だというのに、軍師学校ではなくこんな場所にいることから恐らくは卒業生だろう。
彼が自分と年齢が近いことは察していたが、初陣を済ませていてもおかしくはない年齢ということは、将か軍師として活躍しているのかもしれない。
そして、こちらに駒犬かと問うてくることから、先ほどの男を追い払うために彼はわざと自分の友人を装ったのだと気づいた。
騒ぎを広めることなく早急に解決させたことから、頭の回転が早い男なのだろうと考える。
「………」
信は一度止めた足を動かして歩き始めた。
秦国に昌平君を師と慕う者は少なくない。その中に、護衛役として付き添う信の存在を認めようとしない者がいるのも分かっていた。
彼も名家の出の者だろうし、もしかしたら下賤の出である自分という存在を嫌っているのかもしれない。
自分は何を言われても構わないが、その延長で主のことを悪く言われるのは耐えられそうにないし、手を出してしまうかもしれなかった。
だから、蒙恬という男から離れようとしたのは、自分が勝手を起こして昌平君の顔に泥を塗らないための行動である。
「ねえ、返事は?ワンって鳴かないんだ?」
さっさと離れようとするこちらの意志が伝わったのかそうでないのか、蒙恬は信の隣を歩いている。
顔を覗き込んで来る辺り、しつこく付き纏うつもりらしい。足を速めても彼は諦めることなくついて来た。
無言を貫き、眉間に皺を寄せている信の表情に気付いたのか、蒙恬があははと笑う。
「ごめんごめん、自己紹介がまだだったね。俺は蒙恬。…楽華隊の蒙恬って言えば分かる?」
簡素な自己紹介ではあったが、聞き覚えのある言葉が幾つか並んでおり、信は思わず足を止めた。
(…楽華隊の、蒙恬…?…って、こいつ、まさか蒙家の嫡男か?)
ぎょっとした表情を浮かべて振り返った信に、蒙恬が機嫌が良さそうに口角をつり上げた。
信は蒙家との関わりはないのだが、主の友人である蒙武将軍の存在は信の中でも大きく根付いている。
そういえば、蒙武将軍の息子は軍師学校を首席で卒業し、今は楽華隊隊長として活躍しているのだと以前教えられたことがあった。
戦に出ない自分と関わることはないだろうと考えていたが、まさかこんなところで彼と出会うことになるとは思わず、信は険しい表情を浮かべた。
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