キュレネの古代遺跡、洪水被害で影響懸念 リビア東部
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このお話は「初恋の行方」の後日編です。
呆れ顔の昌平君が腕を組み、何かを考える素振りを見せる。
「…状況は読めぬが、私は執務のために、これから蒙恬に会いに行かねばならん。信、お前も来い」
「いやだ」
顔を合わせることはおろか、もはや蒙恬の名前を聞くのも嫌だと、信はそっぽを向いた。
「もしも不貞が事実だとすれば、処罰を下すことになる。婚約者であるお前の証言が必要だ」
処罰という言葉を聞き、信はぎくりとする。
まだ婚姻を結んだ訳ではないので、不貞の罪が認められたとしても、そこまで厳しい処罰は下されないだろうと自負していた。
しかし、昌平君の冷静な物言いに、まさか丞相権力でも使って厳しい処罰を下すのではないかと不安を覚えた。
(ま、まずいことになったんじゃ…)
蒙恬が自分以外の女性と関係を持っていたことを知った衝撃のあまり、昌平君に愚痴を零してしまったことを信は後悔した。
それに、此度の件で婚姻が白紙となったことを親友である嬴政が不審に思い、蒙恬の不貞を耳にしたとしたら、きっと処罰が下されるのは確実だ。
もしも蒙恬が嬴政から不貞の件を責められて、厳しい処罰を命じられたらと思うと、顔から血の気が引いていく。
確かに不貞の件は許されることではないが、そこまで重い処罰は望んでいない。
狼狽える信を見て、昌平君は彼女の考えていることを読み取ったように肩を竦めた。
「…蒙恬がお前以外の女と関係を持っていたのは事実だが、大将軍に昇格した頃には、すべて清算したと誇らしげに話していた」
「え…?」
信と正式の婚姻を結ぶ前、大将軍に昇格するまでの蒙恬は、数々の女性と褥を共にしていた。
誰彼構わずではなく、れっきとした婚約者候補の女性たちであるが、蒙恬は信との初夜のために技を磨いていたと話していた。それが事実なのか建前なのかはよくわからない。
彼の年頃なら女性と遊びたい盛りだと言っても過言ではないし、しかし、蒙恬が自分に向けてくれる愛情は本物だと疑わなかった。
「…見極めるのはお前だ、信」
昌平君の言葉には重みがあった。
蒙恬から向けられていた、ひたむきな愛情を受け入れるのも、一切彼を信じないことも、自分で決めろと言われてしまい、信は唇を噛み締める。
強く拳を握って瞼を下すものの、浮かび上がるのは自分でない女性を相手にしている蒙恬の姿だった。
「俺だって…あいつのこと、信じたかった…」
でも、と言葉を紡ごうとした途端、頭頂部に物凄い衝撃が落ちて来る。
「いってえ!?何すんだよッ」
雷の如くげんこつを落とされ、痛みのあまり、涙目で昌平君を睨みつける。
「今この場で見極めろと言った覚えはない。自分が納得するまで、蒙恬の不貞の確証を得るまで行動しろ」
「…んなこと、言われたって…」
「此度の件、大王様の耳に入れば、まだ婚姻を結んでいないとはいえ、確実に罰せられるだろう。お前と大王様が親友でなければ回避出来たやもしれぬが」
ひゅっ、と信は息を飲んだ。
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妻や妾以外の女性と関係を持つことは重罪とされている。蒙恬が大将軍となった途端、これまでの女性たちとの関係を清算したのも、そのためだろう。
蒙恬との婚姻が決まった報告をすると、嬴政はとても喜んでくれていた。
二人の婚儀には必ず顔を出すことも約束してくれたし、親友である信の花嫁姿も楽しみにしていると、まるで身内のような温かい言葉を掛けてくれたことも覚えている。
しかし、親友の夫となる男が不貞を働いたなどと知れば、怒った嬴政が処罰を命じるのは確実だと昌平君は予見した。
「え、えっと…不貞の罰って、なんだ…?」
「宮刑だ。婚姻を結んでいないとはいえ、大王様が命じれば避けられぬ」
もしも勅令により、蒙恬が去勢されて、蒙家に子孫を残せなくなったとしたらと思うと、信は全身が凍り付いてしまうほど恐ろしくなった。
まさか不貞の罪で罰せられれば、嫡男の立場どころか、大将軍としての地位も失うだろう。
弟の蒙毅がいるとはいえ、彼は武官の道を歩んでいないし、不貞の罪で裁かれた息子をあの父親が許すとも思えない。
勘当されるどころか、父によって斬首されるのではないだろうか。
嬴政と蒙武の逆鱗に触れて、蒙恬が全てを失ってしまうのではないかと思うと、いたたまれない気持ちに包まれる。
「慈悲を頂けたとしても、お前という親友をたぶらかした罪で、一族の地位剥奪もあり得る」
「………」
開いた口が塞がらない。
蒙驁がここまで築き上げてきた蒙一族が、蒙恬の不貞行為によって壊滅の危機に陥っている。
処刑を免れたとしても、幼い頃から恵まれた環境で育って来た蒙恬が、低い身分で慎ましく生きていけるとは到底思えなかった。
昌平君も旧友である蒙武と、彼の息子である自分が師として軍略を教えて来た弟子二人のことを想えばこそ、見過ごせないのだろう。
「そ、…そうだな…ほんとなのか…確かめねえと…」
つい先ほどまで蒙恬に裏切られたと涙を流していた信であったが、今は蒙恬と蒙一族の未来が心配でならなかった。
無言で廊下を歩いていく昌平君の背中に続き、待ち合わせをしていたという執務室に向かう。
扉を開けると、蒙恬はまだそこにいた。てっきりもう居なくなっているのではないかと思っていたが、彼がそこに残っているのは昌平君の予見通りだったようだ。だからこそ信を連れて来たのだろう。
「………」
部屋の隅で膝を抱えている姿はまるで、こっぴどく母親に叱られた子供のようで、信は呆れ顔になってしまう。
虚ろな瞳はすでに泣き腫れていて、頬には涙の跡がいくつかあった。ずっとそうやって泣いていたのだろうか。
少しも動かないことから、どうやら昌平君と信が来訪したことにも気づいていないようだった。
「あ…」
彼の傍には蒙恬のことを押し倒していた女性が立っており、昌平君と信に気づくと、彼女は迷うことなくその場に膝をついて頭を下げた。
「申し訳ございませんッ!!」
開口一番に謝罪をされて、信と昌平君が目を丸める。
驚いている二人の顔を見上げることもなく、令嬢は頭を下げたまま話を始めた。
「私は、来月には嫁ぐ身。誓って、蒙恬将軍との不貞の事実はございません。どうか、どうか罰せられるなら、私だけを…!」
誤解だと訴える女性に、信は戸惑った瞳で蒙恬を見た。
令嬢が頭を下げずに慈悲を訴えているというのに、蒙恬は心ここにあらずといった様子で、今もなお二人が来たことに気づいていない。
「じゃ、じゃあ、なんで蒙恬と二人で…」
なるべく令嬢を怯えさせないように、信が穏やかな口調で問う。
「…幼い頃、奴隷商人からお救いくださった方の手がかりを探していたのです」
「奴隷商人…」
はい、と頷いた令嬢が、過去の奴隷商人の事件について話し始めた。
咸陽の城下町、二人組の奴隷商人、狙われた貴族の子どもたち…心当たりがあり過ぎるその話を聞いていると、
「当時はまだ幼かった蒙恬将軍も、二人組の奴隷商人に馬車で連れ去られたのです」
その言葉が決定打となった。忘れもしない。あの事件で信は初めて蒙恬と出会ったのだから。
もう十年以上は前のことなので、おぼろげではあるが、芋づる式に当時の記憶がどんどん浮かび上がってくる。
「えっ…それじゃあ、まさか、あの時のガキの一人か!?」
令嬢が笑みを浮かべて頷いた。その双眸にはうっすらと涙が滲んでいる。
それからもう一度、彼女は額を床に押し付ける勢いで頭を下げた。
「信将軍だと存じ上げず、あの時にお救いくださった方をずっと探していたのです…蒙恬将軍様にお伺いを立ててしまい…勢いのあまり、誤解されるような真似を…」
あの時、自分を助けてくれた者の正体を知りたいあまり、蒙恬に強引に迫ってしまったのだと令嬢は何度も謝罪した。
「な、なんだ…そういうことだったのか…」
心の中のわだかまりが溶けていき、信は長い息を吐き出した。
背後では昌平君も納得したように話を聞き入っている。これで蒙恬の不貞の罪は晴れ、蒙一族も悲劇を免れた。
しかし蒙恬といえば、ずっと虚ろな瞳のまま、膝を抱えている。
仕方ねえな、と信は肩を竦めてから、彼の前にゆっくりと歩み寄った。
「蒙恬」
名前を呼んで肩を揺すると、虚ろな瞳が鈍く動いた。ようやく目が合うと、蒙恬の瞳に僅かに光が戻る。
「信…?」
一方的に破談だと告げられて、よほど傷心したのだろう。
離れてからそれほど時間は経っていないはずだが、あまりにも憔悴し切っているものだから、一気に老け込んでしまったように見えた。
「………」
令嬢の証言によって誤解は解かれたとはいえ、一方的に破談だと告げてしまった気まずさもあって、信はなんと声をかけるべきか分からずに口を噤んでしまう。
後ろから痛いほどの視線を感じて振り返ると、何か言いたげに昌平君が腕を組んでいた。
この様子だと、昌平君は初めから蒙恬の無実を予見していたようだ。
それならさっさと教えてくれれば良かったのにと心の中で毒づくも、自分の早とちりのせいで蒙恬を傷つけてしまったことには変わりない。
「その…悪かった。さっきの話はなしだ」
すぐには信じられなかったのか、蒙恬はゆっくりと瞬きを繰り返している。
呆けた表情で見上げた蒙恬は、涎を垂らしてしまうのではと心配になるほど口をぽかんと開けていた。
「ほんと…?」
まるで子どものような聞き返しに、信がふっと頬を緩ませる。
「ああ、破談にはしねえよ」
すぐに頷くと、蒙恬の瞳がみるみるうちに歓喜の色を浮かべていく。
「信~ッ!!」
ぎゅうと体を抱き締められ、肺が圧迫される苦しみに信が呻いた。
大人になって、大将軍の地位を得たくせに、中身は変わっていないなと信は笑ってしまう。
令嬢も無事に誤解が解けたことにほっと胸を撫でおろしていたが、蒙恬に抱き締められている信を見つめる眼差しには、どこか切ない色が混じっていた。
ごほん、と昌平君がわざとらしい咳払いをする。
「あっ、先生も軍師学校から戻られたんですね?」
ようやく昌平君もこの場にいたことに気が付いたらしい。
先ほどの蒙恬の放心した姿を見るのは昌平君も初めてのことだったので、ようやく普段から見慣れている彼に戻ったことで、昌平君も安堵した表情を浮かべていた。
蒙恬の腕の中から抜け出した信は、同じく安堵した表情を浮かべている令嬢を見る。
「そっか、お前もあの時のガキだったのか…蒙恬と同じで、立派になったんだな」
令嬢が淑やかに頭を下げる。
「信将軍のおかげです。あのとき、もしも助けてくださらなかったら、どうなっていたかと思うと…」
ずっと信のことを探していたように、当時のことをまだ鮮明に覚えているのだろう。攫われた時の恐怖を思い出したのか、令嬢の顔がわずかに強張った。
咄嗟に信は彼女の肩を優しく叩いていた。
「もう大丈夫だ。これからは、お前を守ってくれる男がいるんだろ。…もしも妻の一人も満足に守れないような男だったら、俺がその根性叩きのめしてやるから、引きずっててでも飛信軍に連れて来い」
力強い言葉を聞き、強張っていた令嬢の顔がみるみるうちに笑顔に変わっていった。
「…お前たち夫婦が安心して暮らせるように、俺たちが全力でこの国を守っていく。だから、安心しろ。な?」
そう語った信の顔に、つい先ほどまで見せていた弱々しさは微塵もなかった。
「信将軍…」
令嬢はわずかに唇を震わせて何かを言いかけたが、それをやめて、笑顔で頷いた。
なんとなく、彼女が言わんとしていた言葉を予想した蒙恬はとっさに信の着物を引っ張ってしまう。
「蒙恬?」
不思議そうに眼を丸めている信に、蒙恬は何も言わずに笑みを浮かべる。上手く笑えているだろうかと不安になったが、信にはそれが作り笑いだと見抜けなかったらしい。
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「…軍政の件だが、また日を改める。今日はもう帰っていい」
三人の傍に立っていた昌平君が本題を引き戻した。
このまま話し合いを始めても、蒙恬が信を放さないことは目に見えている。昌平君の言葉に、蒙恬は満面の笑みを浮かべて礼を言った。
「行こう、信」
「え、あ?お、おう…」
部屋を出ようとした寸前、蒙恬が思い出したようにゆっくりと後ろを振り返る。
「それじゃ、…末永くお幸せにね」
端的な挨拶をしてから、蒙恬は信の手を引いて部屋を出て行った。
今日の話し合いが保留になったとなれば、このあと蒙恬が信と一緒の時間を過ごすことは目に見えている。
もしかしたら婚儀の前に、信の懐妊の報告を聞くことになるのではないかと考えて、昌平君はやれやれと肩を竦めた。
(…息子に正式な手順を教えておくべきだったな、蒙武)
本来は婚儀を執り行い、正式に夫婦と認められてから初夜に臨むものなのだが、信を愛するあまり、蒙恬は幾つもの手順を無視している。踏み外しているのではなく、無視だ。
蒙驁も蒙武も、信が蒙家に嫁入りすることには賛成しているようだし、一族の繁栄を考えればこそ、彼女が懐妊する時期も特に定めていないのだろう。
…そこまで考えて、一般的とされる規則を破って子を儲けようとする弟子に、つい口を出してしまいそうになる自分は、頭の固い老人扱いされてしまうかもしれないと危惧したのだった。
屋敷へ帰還する馬車に揺られながら、二人は気まずい沈黙の中でじっと俯いていた。
馬車に乗り込むまでは、誤解が解けたことに上機嫌でいた蒙恬だったが、また暗い表情を浮かべている。
誤解が解けたとはいえ、信を傷つけたことは事実だし、信も破談を言い渡して蒙恬を傷つけたのは事実なので、お互いに何を話せば良いかわからなくなっていたのだ。
隣に座っている蒙恬から、時々視線を向けられるのを感じたが、信もずっと口を噤むことしか出来ない。
(あ…)
膝の上に置いている手に、そっと蒙恬が自分の手を重ねて来たので、信は反射的に顔を上げてしまった。
「信」
眉根を寄せて、まるで祈るような表情で、蒙恬がじっとこちらを見据えている。
そんな表情を見せられれば、信もこれ以上黙っているわけにはいかなかった。
「えと、あの…悪かった…ちゃんと、話も聞かないで…」
風音が吹けばすぐにでも搔き消されてしまいそうなほど小さな声で謝罪する。しかし、蒙恬の耳にはしっかりと届いたようだった。
「ううん。俺の方こそ、すぐに追いかけて説明すれば良かったのに、しなかったから…不安にさせたよね」
確認するように上目遣いで見つめられ、信は戸惑ったが、ちいさく頷いた。
「ごめん、ごめんね、信」
今にも泣きそうなほど弱々しい表情を浮かべた蒙恬に、信は胸が締め付けられる。
「…信が部屋から出て行った後、破談になるんだって諦めちゃって…追いかけられなかった」
「………」
鼻を啜ってから、蒙恬が言葉を続ける。
「信を傷つけたのは変わりないし、何を言っても、不安にさせちゃうって、わかってたから…」
ますます嫌われることになるのが嫌だったのだと打ち明ける蒙恬は、今にも泣き出してしまいそうな表情で、それは決して演技などではなく、本音だと分かる。
「…もういい。分かったから…」
手を伸ばして、慰めるように蒙恬の頭を撫でてやった。
「信…」
静かに名前を囁いた蒙恬が甘えるように上目遣いで見つめて来る。
ゆっくりと蒙恬が顔を寄せて来たので、信は応えるように目を閉じた。
「ん…」
唇を重ね合うと、昨夜まで習慣的にしていた行為のはずなのに、なぜだか今はとても懐かしい感覚に襲われた。
離れていた心の距離を埋めるように、何度も唇を重ねて、蒙恬は信の体を抱き締めたまま離さない。
「ふ…ん、ぅ…」
口づけを深めると、信は恥ずかしそうに舌を伸ばしてくれた。
堪らなくなって、蒙恬が信の着物の衿合わせの中に手を忍ばせて来る。驚いた信が蒙恬の体を押しのけて、強制的に口づけを終わらせてしまった。
「ば、バカッ!なに考えてッ…」
馬車の外に御者がいるというのに、まさかこんなところで体を求められるとは思わず、信は顔を真っ赤にさせた。
何も言わずに蒙恬が信の体に抱きついた。脚の間にある硬くて上向いているものを押し付けると、あからさまに信が狼狽えた。
屋敷に着くまで、まだ時間がかかるのは信も分かっていたが、だからと言ってこんな馬車の中で体を重ねれば、絶対に御者に気づかれるだろう。
業者は蒙家に昔から仕えている従者で、彼でなかったとしても、誰かに営みを聞かれるのは嫌だった。こればかりは羞恥心に勝てそうもない。
「だめ…我慢できない」
しかし、口づけ以上のことがしたいという自分の欲求を抑えられず、蒙恬が駄々を捏ねる。
あのまま本当に破談になってしまったらと思うと、二度と信に会えなくなるのではと恐ろしくてたまらなかったし、本当に彼女が戻って来てくれたのだという事実を体を重ねることで実感したかった。
彼女と体を一つに繋げる時の幸福感は何にも代え難い。誤解のないように言っておくが、快楽に溺れている訳ではなく、愛しい女をこの腕に抱いているという実感は、男が生まれて来た喜びでもあるのだ。
「こ、ここ、馬車ん中だぞっ?」
外の御者に聞かれぬよう、声を潜めて訴えかけられるも、蒙恬は幼子のように首を横に振る。
「誰に聞かれてもいいし、見られても恥ずかしくないよ。俺たち、正式に夫婦になるんだもん。後ろめたいことなんて何もない」
「~~~ッ…」
目を泳がせた信が返事に悩んでいる。
彼女が気にしているのは将軍としての立場だとかそういう堅苦しいものではなく、単なる羞恥心によるものだと蒙恬は分かっていた。
もしも信が誰にでも軽率に足を開くような、羞恥心と道徳が欠如した女性だったのなら、蒙恬は早々に見限っていただろう。
しかし、そうではなかった。彼女は自分と蒙家の未来を思って、自分を蔑んで、何度も婚姻から手を引こうとした。
そんな信だからこそ、愛おしくて、絶対に手放したくなかった。
「信…」
蒙恬の手は止まらず、彼女の右手をそっと掴むと、自分の足の間に導かせる。
硬く上向いたそれを確かめさせるように、着物越しに触らせると、信が目を見開く。
「…ね、だめ?」
確認するように上目遣いで見上げると、彼女は真っ赤な顔のまま、わずかに開いた唇を震わせていた。
…その後、馬車の中で濃ゆい時間を過ごした二人だが、屋敷に戻ってからも濃ゆい時間は続いた。
今では寝台の上ですっかり動けなくなってしまった信は恨めしそうに蒙恬を見据えている。
「信、ほら、水だよ」
「………」
蒙恬といえば、彼女とは反対に活き活きとした表情で信の看病を行っていた。宮廷では膝を抱えて情けない姿を見せていたというのに、顔つきも肌と髪の艶も、はたまた雰囲気まですべて別人である。
笑顔で水の入った杯を差し出してくる彼に、無性に苛立ちを覚えるものの、信は黙って杯を受け取って水を一気に飲んだ。
馬車の中では御者に気づかれぬように必死に声を堪え、屋敷に戻ってからはさんざん叫びつくした喉に水が染み渡る。
寝室に閉じこもる前に、蒙恬は従者に人払いを命じていたが、きっと何をしていたかは知られているに違いない。
「はあ…」
腹の内側に未だ蒙恬の男根があるかのような甘い疼きに、信は深い溜息を吐いた。
「…無理させてごめん」
「………」
寝台に腰かけた蒙恬が申し訳なさそうに謝罪するものの、あまりの倦怠感に信は返事をするのも億劫だった。
馬車の中は密室とはいえ、外にいる御者に聞かれたらどうするのだと何度も言ったのに、結局は子どものように駄々を捏ねる蒙恬に絆されてしまった。
屋敷に帰還してからも寝室に連れ込まれて、つい先ほどまで体を重ねていた訳だが、何度も蒙恬の男根を受け入れていた淫華が焼き付くようにひりひりと痛む。
夫となる男と体を重ねる行為自体は嫌いではないのだが、なんというか、蒙恬の若さゆえか、かなり体力を消耗することになるのだ。
飛信軍の指揮を執る将として、信自身も日頃から厳しい訓練を行っているものの、蒙恬と体を重ねると、動けなくなってしまうほど疲労するし、腹が減る。
布団の中で信の腹の虫が鳴いたのを聞きつけ、蒙恬は穏やかな表情を浮かべていた。
「夕食は部屋に持って来させるよ。俺が食べさせてあげる」
「………」
それほど動けない訳ではないが、むしろ、そこまで無理をさせた自覚があるのなら少しは加減をしろと睨みつけた。
あれだけ激しく体を重ねていたというのに、蒙恬は疲労を感じていないのだろうか。もしも本当にそうなら、身を重ねたことで自分の精気を吸い取った化け物だと信は心の中で毒づいた。
もしかしたら、蒙恬はあの美しい顔の下に、人の精気を吸い尽くす化け物を飼っているのかもしれない。
そんなことを考えてみるものの、もう二度と婚姻を破談するつもりはなかった。
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信の隣に横たわりながら、蒙恬が嬉しそうな視線を向けて来た。
「そうだ。俺、信にぴったりな助言を思いついたんだよ」
「?」
助言という言葉に、信は目を丸める。
彼女の隣にごろりと横たわった蒙恬は、汗で額に張り付いた信の前髪を指で梳いた。
「上品な歩き方。信はいつも着物の裾を踏んづけたり、視線があちこち向いちゃうでしょ」
普段練習している歩き方に対しての助言らしい。まさか情事の後にそんな話を持ち出されると思わなかった。
「特別なことは何もしなくて良い。戦場を見渡すみたいに、将として、堂々と胸を張って前に進んでみて」
「え?」
「そりゃあ着るのは鎧じゃないけど…でも、その方がきっと、信らしさが出るはずだから」
確かに今までは着なれない着物や靴、はたまた髪飾りで身に着け、頭の先から足のつま先まで束縛感を感じていた。
高価な着物を踏んづけないだろうか、歩幅はこれくらいで良いのだろうか、視線はどこに向け続けたら良いのだろうか、さまざまな不安と疑問を抱えながら歩く自分にぎこちなさが現れていたのは自覚していた。
それを改善するために蒙恬が練習に付き合ってくれていたのだが、戦場だと思えという助言が意外だったので、信は呆気に取られてしまった。
「戦場って…婚儀はめでたい場じゃねえのかよ」
「信の堂々とした姿は美しいもん。論功行賞の時もそう。…強さと自信に満ち溢れていて、誰もが背中を追いかけたくなる」
鼻息を荒くしながら興奮気味に語る蒙恬に、信はそれは言い過ぎだと額を小突いた。
「なんでいきなりそんな助言を思いついたんだよ」
蒙恬がにんまりと両方の口角をつり上げる。
微笑を浮かべるだけでも多くの女性たちから黄色い声が上がる蒙恬だが、そのにやけているその顔を見せるのは信だけだった。
「色々懐かしいことを思い出したんだ。あの子のおかげだよ」
あの令嬢と再会したことで、奴隷商人から救出してくれた信の勇姿を思い出したことがきっかけだという。
まさかあの時は助けてくれた少年が少女だったとは思いもしなかったのだが、あの騒動があったからこそ、蒙恬はずっと信に惚れ込んでいると言える。
「信は俺のお嫁さんで、俺の子どもの時からの英雄だから」
真顔でよくそんな恥ずかしいセリフを吐けるものだと信は頭を掻いた。
「うっ…」
体を動かした途端、腰に鈍痛が走り、信は寝台の上にぐったりと沈み込む。
「しばらく練習は休む…」
「えっ?どうして」
普段から練習を怠ることのない信が休息を優先する発言に、蒙恬が不思議そうに首を傾げた。
まさかこんな動けない状態にあるというのに、すぐにでも練習しようとでも言うと思っていたのだろうか。
ただでさえ揺れの多い馬車の中で身を重ね、その後もろくに休むことなく、この寝室で身を重ね合っていたのだ。ずっと揺すられていた腰がとにかく辛いし、彼を受け入れるために広げてていた脚も悲鳴を上げていた。
力を入れようとすれば内腿がぶるぶると震え始め、これ以上酷使しないでくれと訴えていた。
「お前のせいで足腰が立たねえんだよ。こんなんで歩ける訳ねえだろ…」
つい言葉に棘が生えてしまうが、蒙恬の自業自得だ。
棘のある言葉を聞いても、蒙恬の顔から笑みが崩れることはない。
「ごめんね、仲直り出来たのが嬉しかったから」
「ったく、仕方ねえな…」
子どものような無邪気な笑顔が憎らしくもあるが、絆されたように、結局は許してしまう。
それだけ自分は蒙恬に惚れ込んでいるのだと、認めざるを得なかった。
初恋とは、盲目になるまじないのようなもの、なのかもしれない。
終
番外編(割愛した馬車内のシーン)はこちら
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