イリバーシブル(桓騎×信)中編①

  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・将軍ポジション。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 桓騎×信/漂×信/シリアス/上下関係逆転/IF話/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

前編はこちら

 

脅迫

桓騎は不敵な笑みを浮かべたまま、まるで信の反応を楽しんでいるかのように、何も喋らなかった。

これが間違いなく親友に宛てた書簡――敵国への密書――である以上、信は桓騎に将としての未来を握られているということになる。

謀反の疑いがあると軍の上層部に告発されたなら、処刑されることになるかもしれない。

桓騎は地位や名誉に興味を持たず、他人から命や財産を奪うことに微塵も罪悪感を覚えない男だ。
信の将としての未来を費やすどころか、親友を救い出せずに殺されるという苦痛を味合わせるつもりなのだろうか。

桓騎がいつどこで書簡を盗んだのかを問い詰めるつもりはなかった。

だが、漂を助け出していないうちに命を奪われるのだけは何としても避けたい。今はとにかく自分の首を守る手段を見つけなくては。

何を言われるのか信がじっと身構えていると、桓騎が椅子の背凭れに体を預け、大胆に足を組んだ。

これまでは信の前でそのような横暴な態度を取ることはなかったのに、ずっと仕えて来た上官の弱みを握ることが出来て優越感にでも浸っているのだろうか。

「………」

心臓が痛いくらいに脈打っていたが、信は冷静を装って桓騎から一度も目を逸らすことをしなかった。無様に許しを乞うことはしたくなかったし、動揺する姿を見せればこの男をますます楽しませるだけだと分かっていたからだ。

「随分と冷静だな」

「………」

信が思うように動揺しなかったことが気に食わなかったのか、桓騎はつまらなさそうな表情を浮かべる。

興を削ぐことが出来て何よりだが、こちらが不利な立場であることには変わりない。
少しの沈黙のあと、桓騎は信の目を真っ直ぐに見据えながら口を開いた。

 

 

命令

「今ここで脱げ」

桓騎は頬杖をつきながら、信にそう命じた。
その命令を聞いても、信は眉一つ動かさない。木簡を渡してから動揺している様子は見られないが、かといって素直に従うつもりはなさそうだ。

「………」

着物を脱ぐよう指示をした理由を尋ねることもしないが、信は棘を持った視線を向けて来るばかりで動き出す様子がなかった。

桓騎はわざとらしく溜息を吐く。

「俺の気が長くないのは知ってるよな?」

副官として信に仕えるようになってからそれなりの年月が経っていたし、桓騎の性格については信もよく理解していることだろう。

「………」

桓騎の言葉を合図に信の左手が動き、自らの帯に手を掛けた。織物の軋む音を立てながら結び目が解かれて、着物の衿合わせが開く。

態度はともかく、こちらの命令に従ったということは、あの書簡のことを上層部に告げ口されては都合が悪いのだろう。

催促するように信を睨むと、彼女は自分の皮を剥ぐように着物を脱ぐ。着物が床に落ち、続いて信は躊躇うことなく※ズボンを脱いだ。

さらしで包まれた胸と、必要なところにしっかりと筋肉が兼ね備えられている体が現れる。

その行動に少しも恥じらう様子がないのは残念だが、こちらの興を煽ぐまいとして気丈に振る舞っているのはすぐに分かった。

「…色気のねえ体だな」

右肩には先日の戦で受けた矢傷が残っていた。包帯は外れていたが、まだ完治はしていない。

女の裸は見慣れている桓騎だったが、信は今まで見て来た女とは随分と違う体を持っていた。傷だらけで、それが過去の戦で受けたものなのは分かったが、中には目を背けたくなるような大きな古傷もある。

普段から着物や鎧で隠れている傷だらけの肌は、血管が浮かび上がるほど青白かった。しかし、女にしかない胸の膨らみや腰のくびれには、男としてそそられるものがある。

「………」

桓騎の視線を受けながらも、信は恥ずかしがる素振りを見せなかった。てっきり羞恥を堪えながら、頬を赤らめて涙目で俯く姿を見せてくれると期待していたのに残念だ。

何の反応も示さず、言われるまま指示に従って沈黙を貫いているのも、恐らくはこちらの興を削ぐために違いない。

これから何をされるのかという不安を顔に出さないように努めているようだが、僅かに体が強張っているところを見れば、緊張しているのは明らかだった。

だが、今日という日を待ち侘びていた桓騎は、もちろんこの時間を簡単に終わらせるつもりなどなかった。

目の前にいるこの女を抱くと以前から決めていたが、決行するまでに随分と遠回りをしていた・・・・・・・・ことを認めざるを得ない。

 

それまで無表情を貫いていた信が顔色を変えたのは、胸を包んでいるさらしを外そうとした時だった。

「っ…」

まだ右肩の痛みが残っているようで、さらしの結び目を解こうとした時に苦悶の表情を浮かべたのである。

着物と褲は命令通りに脱いだので、それくらいは許してやろうと桓騎は考える。

「来い」

顎をしゃくると、信は左手で右肩を押さえながら近づいて来た。まだ眉間のしわが取れないのは痛みを感じているからだろう。

「跨れ」

さらしを外してやろうと思い、桓騎は自分の太腿を軽く叩いて新たな命令を告げた。

「………」

命じられるままに桓騎の膝に跨った信は、後ろで結ってある自分の髪に左手を伸ばす。髪を一括りに結んでいる紐を解くと、日に焼けて傷んだ黒髪が広がった。

これから自分に抱かれるのを受け入れたかのように思えたが、桓騎はその行動に僅かな違和感を覚えていた。

普段から諦めの悪いこの女が嫌悪している相手に対して、こんなにもあっさり白旗を揚げるだろうか。

「―――」

瞬間。視界の端で何かが光って、反射的に体が動いた。それは本能が危険を察知したことによる防衛機制に違いなかった。

「うぐッ」

咄嗟に信の左腕を押さえ込んで、反対の手で彼女の頬を打つ。加減は一切しなかった。

後ろに仰け反った体が床に倒れ込む前に、桓騎は掴んだ左腕を引き寄せて、勢いのまま長椅子の上に押し倒す。

「…確かに、色気のないお前には簪よりもこっちの方が似合ってるな」

信の左手に握られているを奪い取りながら、桓騎が独り言ちた。鋭い先端が黒ずんでいるその暗器を見て、毒か薬の類が塗られていることに気づく。

「ぐあぁッ!」

焦った信がすぐにその暗器を取り戻そうとしたので、桓騎は未だ治り切っていない彼女の右肩をわざと握り込んだ。容赦なく握り込んでやったせいで、信の口から悲鳴が洩れる。

もしも彼女がこの屋敷に来るにあたって、簪の一本でも差していたのなら、それで眼か首を突いてくるのではないかと警戒しただろう。

目の前で着物を脱ぐように指示をしたのは暗器の類を持ち込んでいないかの確認の意味もあったのだが、まさか結っていた髪の中に隠していたとは思わなかった。

「随分と楽しませてくれるじゃねェか」

一瞬でも反応が遅れていたら、今頃無様に寝かせられていたに違いない。

…とはいえ、殺されることはなかったはずだと断言出来るのは、彼女から微塵も殺意を感じられなかったからである。そのせいで隠し持っていた暗器を警戒出来ず、反応が遅れてしまった。

さらしを外そうとして右肩を庇ったのは、こちらに疑われずに接近をするための演技だったのかもしれないが、傷が癒えていないのは確かのようだ。

「くっ…」

信は悔しそうに桓騎を睨みつける。どうやらこの暗器が最後の抵抗手段だったらしい。

桓騎は表情こそ変えなかったが、これまで抑え続けていた征服欲がはち切れんばかりに湧き上がって来て、興奮のあまり自分の唇を舐めずった。

ようやくこの女を好きに扱える時が来た。

 

 

歯を食い縛りながらも、信は桓騎を睨みつけたままでいた。

嫌っている男に組み敷かれる屈辱と右肩の痛みが同時に襲って来て、苦悶の表情を滲ませている。

やっと見せてくれたその表情に、桓騎の口角は無意識のうちにつり上がっていた。

きっと右肩を負傷していなければ、今こうして桓騎に組み敷かれることはなかっただろう。抵抗する両手を押さえ込むのに時間がかかっていたかもしれない。

それにしても結った髪の中に暗器を忍ばせておくくらいだったのだから、信は相当自分を警戒をしていたに違いない。今となっては全て無駄だったのだが。

「どうした?普段よりも調子が出ねェな」

「っ…」

右肩の傷は塞がっていて包帯は外れていたのだが、まだ痛むのだろう。信の表情を見ればそれは明らかだった。

普段よりも治りが遅いことを彼女は気にしていたが、それは当然のことである。

「当然か。お前の右肩は俺が射抜いた・・・・・・んだからな」

「…は?」

信がこちらの言葉を理解するまでに時間を要した。しかし、正解に辿り着くより前に、桓騎は追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。

やじりに微量の毒を塗っておいた。死ぬことも腕が腐ることもねェが、完治するまでにはまだ時間がかかるだろうな。だが…」

言いながら桓騎は信の手首を頭上で一纏めに押さえ込んだ。

「これで十分だ」

男女の力量差を教え込むように、桓騎がにやりと笑った。

 

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仕組まれた罠

「ぐ、ぅ…!」

いつもならすぐに振り払えるはずなのに、右肩の痛みが信の抵抗を邪魔する。

―――背後から右肩を射抜かれた時、信は戦場を飛び交う流れ矢に当たったのだと直感した。

敵の弓兵部隊は後方からこちらを攻撃していたが、それは自軍も同じである。戦場で流れ矢を受けたことは初めてではなかったし、信も大して疑問を抱かなかった。

先の戦では、桓騎軍が飛信隊の後方を持ち場としていた。飛信隊を前面に出すことで、敵兵の戦力を中央に集めさせる目的である。

敵兵が飛信隊と応戦している間に、その背後で桓騎軍が奇策を成す動きを悟られないようにというもので、それは紛れもなく桓騎の指示であった。

武器を握る利き腕を負傷したのは痛手であったものの、致命傷には至らなかったし、自分を射抜いた相手が誰かなど考えもしなかった。

しかし、戦を終えてからは療養に専念していたというのに、矢傷の治りが普段よりも遅いことに信は疑問を抱いていた。

まだ痛みはあるものの、きっと生活と鍛錬を続けているうちに治るだろうと言われていたので、信も深くは気にしていなかった。

それがまさか、桓騎が意図して自分を狙ったという言葉を聞き、信は驚愕のあまり言葉を喉に詰まらせてしまう。

今思えば、右肩を流れ矢で貫かれたのは、桓騎軍が敵の本陣を落としたという報告を聞いて信が油断した時だった。矢を射った時機さえも見計らったのだろうか。

(何の目的で…)

戦を利用してまで確実に毒創を負わせるなんて、桓騎は自分を殺害しようという計画を企てていたのか。

だが、致死量を塗らなかったと自白したのは殺意の否定に違いない。

今この場で桓騎に組み敷かれている状況から、恐らくは抵抗が出来ないように枷を嵌めたつもりでいるのだろう。

着物を脱げと言われた時から薄々予想はしていたものの、まさか自分がそんな対象・・・・・として見られているとは思いもしなかった。

「…女なら、この屋敷に余るほどいるだろ」

「生憎、お前は一人しかいねェからな」

皮肉にも上官として特別扱いはしてくれているようだが、小娘を敬うつもりなどなかったことがこれで証明された。凌辱を強いた後に、拷問にでも掛けて殺すつもりなのだろうか。

この屋敷に自分の味方はいない。自分の身は自分で守らなくてはと思い、袖の中や帯の裏地に暗器を忍ばせていたのだが、着物を脱ぐように指示をされたのはきっと桓騎も警戒していたからだろう。

最後の抵抗手段として、痺れ薬を塗布してある針を結った髪の中に忍ばせていた。しかし、それすらも奪われてしまった。

自分の身に何かあった時のために、帰宅が遅くなるようなことがあれば迎えに来るようにと従者には頼んでいたが、到底まだ来る刻限でもなかった。

もしかしたら桓騎はそれを見越して、酒を飲み交わしてからすぐに木簡を差し出して来たのかもしれない。

 

 

桓騎に両手を押さえ込まれているせいで身動きが取れない。幸いなのは両手首を拘束しているのが縄の類ではなく、桓騎の手であることだ。
隙を見て拘束を振り解き、漂に宛てた書簡を取り返す機会を伺う。

(くそ…)

右肩さえ負傷していなければ力づくで頭を殴りつけていただろうが、今はそうもいかない。どうにか桓騎に奪われた暗器と木簡を取り戻せればと思い、信は必死に思考を巡らせていた。

そんな彼女の考えを読んだのか、桓騎は怒りを煽るように笑う。

「それにしても、お前のとこの護衛は警戒心が緩いな。あんなアホみてェな訓練させておいて、名ばかりか?」

「おい、どういう意味だ」

急に衛兵たちを小馬鹿にするような話を桓騎が持ち出したことに、何故そんなことを言い出すのか、信は意図が分からずに聞き返した。

伝令の鎧を着ていれば・・・・・・・・・・腰牌※身分証明証も確認せずに通しちまうんだからな。形だけの護衛だって言ってんだよ」

「な…」

驚愕のあまり、言葉が喉に詰まってしまった。

秦将として活躍する信のもとには頻繁に書簡が届けられる。軍の総司令を務める昌平君や、共に出征する仲間からのものがほとんどだ。

そのため、屋敷には頻繁に伝令兵が出入りする。屋敷の警備に当たっている兵たちもその存在を黙認していた。

漂に宛てた書簡が今この場にあるのは、元野盗である彼が警備が手薄になる隙を突いて、屋敷に忍び込んでいたのかと思っていたが、そうではなかった。

(まさか)

顔から血の気を引く感覚に眩暈を覚える。
桓騎の言葉は、彼自身が伝令兵に成り済まして、堂々と屋敷に侵入していたことを示していたからだ。

―――李信将軍。

―――どうした。昌平君からか?

―――いえ、桓騎将軍からです。

先日、書簡を持って来た伝令兵とのやり取りを思い出し、信は目を見開いた。

その伝令兵はかぶとを深く被っており、書簡を渡す時には礼儀正しく頭を下げていることもあって、顔をよく見ていなかった。

しかし今思えば、その伝令兵はいつも桓騎からの書簡を携えて信の屋敷にやって来た。それが伝令兵に扮した桓騎だったというのなら、

「いつ、から…?」

動揺を態度に出せばこの男を楽しませると分かっているものの、信は震える声で問いかけた。

この男は、一体いつから自分の屋敷に侵入していたのだろうか。いつから趙にいる漂と書簡のやり取りをしていることに気づいていたのだろうか。

どうやらすぐに正解を教えるつもりはないようで、桓騎は楽しそうに目を細める。

 

 

桓騎からの書簡が屋敷に届けられたのは先日が初めてではない。今までも他愛もない内容や、軍政についての書簡を送って来ることがあった。

思い返してみると、それは桓騎が信の副官に志願してから始まっていた。
あの伝令兵――伝令兵に扮した桓騎――が屋敷に来るようになったのは、その時からだと思い出す。

「まさか、俺の副官になってから・・・・・・・・・・、ずっと…?」

「さあ?どうだろうな」

あえて正解を語ろうとしない相変わらずの性格の悪さに信は激昂した。その言葉が問いを肯定していると直感したからである。

この男は、自分の副官になってから、趙国への密書をしていることを知っていたのだ。

「てめえッ!」

勢いのまま、信は桓騎の体を蹴り上げようと試みた。しかし、馬乗りの体勢では彼を押し退けることも出来ず、悔恨に顎が砕けそうなほど歯を食い縛る。

自分を見下ろしながら桓騎がクク、と喉奥で声を上げて笑った。

「もう抵抗する手段が残ってねえようだが…この後はどうする?」

「ッ!」

ますますこちらを挑発するように桓騎が顔を寄せて来たので、信は反射的に彼の喉笛を食い千切ろうとに獣のように大口を開けて牙を剥いた。

しかし、寸前のところで顔を背けられて、未遂に終わってしまう。

「ハッ、飢えた野良犬かよ」

一撃でも与えることが出来れば逃げ出す隙が作れるというのに、全て回避されてしまい、信は怒りを上回る焦燥感に冷や汗を滲ませた。

 

ご馳走の下準備

片手で信の両手を押さえ込みながら、桓騎は反対の手で何かを手繰り寄せる。それは信が護身用に髪の中に隠していた暗器だった。

「…この程度で俺を黙らせられると思ってんなら、随分と甘く見られたもんだ」

使うことがないように祈りながら忍ばせていた護身用だったのだが、まさか失敗するなんて思いもしなかった。

「だが」

暗器を見据える桓騎の目がにたりと怪しく細まったのを見て、信はなにか嫌な予感を覚えた。

この表情を見るのは初めてではない。相手の裏をかく時や、相手を苦しめる時、桓騎はいつも嫌な笑みを浮かべるのである。

「これが薬と毒のどっちなのか、興味があるな」

二本の指で針を持ち直した桓騎は、あろうことか信の首筋に針の先端を突き付けたのである。

針の先端が黒ずんでいるのは、強力な痺れ薬を塗布してあるからだ。
毒ではないので命に別状はないと頭では理解しているものの、信は咄嗟に顔を背けて針先から逃れようとする。

「…やッ…!」

首筋に一突きされれば数刻は動けない。
意識はあっても手足の自由が利かなくなるし、舌にも痺れが出るので、ろくに言葉を話すことも出来なくなってしまう。

抵抗出来ない状態で拷問にでも掛けられるのだろうかと思うと、背筋が凍り付いた。

先ほど阻止されなければ、今頃は漂に宛てた木簡を取り戻して早々に逃げ出していたはずだった。

もしも従者たちに引き止められても、桓騎が酔い潰れたので先に帰宅すると言えば怪しまれることはないだろうし、薬で動けない桓騎を見れば従者たちも眠っていると信じ込んだだろう。

失敗さえしなければ、適当に理由をつけて誘いを断っていればと、信の中で後悔が駆け巡った。

「うっ…!」

無情にも首筋に走った小さな痛みに、信は桓騎に敗北したことを嫌でも悟った。

首筋から針が引き抜かれてから、すぐに異変が起きた。指先が痺れ始め、力が入らなくなって来たのである。

「あ…だ、誰かッ、誰か来てくれッ!」

舌にも僅かな痺れが襲ってきて、信は口が塞がれてしまう前に、最後の希望に追い縋ろうと大声を出した。

この屋敷に自分の味方など一人もいないのだと分かっていても、無様に助けを求めずにはいられなかった。

(まだ、まだ死ねない。漂を助けるまで、こんなところでくたばるワケには)

目まぐるしく思考する頭とは反対に、少しずつ体に力が入らなくなって来る。まるで手足が鉛になってしまったかのような重さを感じながら、信は涙を流した。

もしもこんな場所で桓騎に殺されたら、殺されなくても手足の何本かが使い物にならなくなるようなことがあれば、漂を助けられなくなってしまう。

自分の命が奪われるよりも、漂を助けられなくなることが恐ろしかった。

「いや、だ…」

必死に声を振り絞って拒絶の意志を示すが、桓騎は薬が効いていき人形のように動かなくなっていく信を楽しそうに見つめるばかりだった。

 

 

信が暗器に塗布していたのは即効性の痺れ薬だったようで、彼女の体はみるみるうちに動かなくなっていった。先ほどまで喚いていたうるさい口もようやく静かになる。

呼吸は阻害されていないものの、信の瞳は涙を浮かべていた。どうやら自由を抑制するようだが、彼女の顔を見れば意識だけは繋ぎ止められていることが分かる。

頭上で抑え込んでいた手首を放しても、信が逃げ出すことはない。ようやく桓騎は彼女の足首に枷を嵌めることが出来た安心感を覚えた。

彼女の体から退くと、涙を浮かべた弱々しい瞳が桓騎の姿を追い掛ける。動けないながらも意識だけは鮮明にある今の状況下で、信は何を思っているのだろうか。

「来い」

部屋の外に待機している侍女たちに声を掛け、桓騎はある物を持って来るように指示を出した。
持って来させたのは女物の着物と化粧品、それからと爪紅の塗料だった。

脱力した体を抱き起こすのは多少面倒ではあったが、道具を持って来させた侍女たちの手を借りて着付けを進めていく。

やわらかい灰みが入り交ざった青色の着物には、銀の糸で竹の花の刺繡がされていた。
花弁が多い花や、存在感のある大きな花が描かれているものを好む女性も多いが、それらに比べると味気ない竹の花の着物を選んだのは桓騎の好みである。

せっかくなので信が普段着ることのない色や、艶やかな花が刺繍されている着物を選別しても良かったのだが、やはりこの着物にして正解だった。

信から一体何をしているのだという視線は向けられていたものの、桓騎は侍女たちと黙々と準備を済ませていった。

彼女が化粧をすることや、※スカートを穿くのは国家行事の時くらいで、桓騎も彼女の副官になってから滅多に見ることが出来ない姿であった。信が着飾ることの方が国家行事くらい頻度が少ないと言ってもいい。

論功行賞ですら、そこらの民が着ているような普段のみすぼらしい格好なので、それとなく指摘したことがあったのだが、大王から許しを得ているので問題はないのだそうだ。

侍女に着替えや化粧を任せていたが、信の黒髪だけは丁寧に梳いただけで結い直すことや、簪を差すことはさせなかった。
彼女に装飾品を与えればそれを武器として抵抗するに違いないし、それがたとえ簪や紐一本でも使い道によっては凶器となる。薬はまだ効いているとはいえ、油断はできない。

着替えと化粧が終わったあと、桓騎は信の体を抱きかかえて寝台へと運んだ。彼女の体に触れるのは初めてではないが、抱えるのはこれが初めてだった。
脱力しているというのに、想像していたよりもその体は軽く、こんな体でよく死地を生き抜いて来たものだと思う。

寝台に体を下ろしてから、まじまじと豹変した信の姿を眺めていると、信から嫌悪を込められた瞳で凄まれる。眉間は少しも動いていないが、睨まれていることが分かった。

白粉で顔の傷が隠れ、瑞々しく色をつけた唇目つきはともかく、やはり女だ。しかし、鋭い眼差しを向けられて桓騎は口角を持ち上げた。

自由の利かない体になってもなお、諦めることも自分を受け入れようともしないこの女に、桓騎は堪らなく加虐心を煽られた。全身の血液が沸き上がるように昂っていく。

主が爪紅の準備を始めたのをきっかけに、侍女たちは足早に退出していった。

 

 

筆と爪紅の塗料が入っている小皿を手繰り寄せ、寝台の端に腰を下ろす。それから桓騎は信の脱力している手を持ち上げた。

何をするつもりだという視線を向けられたのが分かったが、桓騎は信の手から視線を逸らさない。

手の平は武器を強く握り込むせいでまめだらけで、手の甲は傷だらけだった。家事などの水仕事をしている女の手とはまた違う。こちらにも白粉を叩くべきだっただろうか。

怪我の絶えない信から戦という存在を切り離すことが出来ない。それこそが信から女らしさを感じさせない原因だろう。

そんなことを考えながら、桓騎は筆の毛先に紅花を磨り潰した塗料を馴染ませた。

「動くなよ。やりづらくなるからな」

薬のせいで動けないことは分かっているものの、桓騎はわざと声を掛けた。器用に筆を動かして、彼女の爪に紅い塗料を塗っていく。

「……、…」

僅かに信の唇が慄いた。しかし、それは言葉にはならず空気を僅かに震わせるだけだった。
その後は桓騎も言葉を発することなく、黙々と作業を進めていく。

常日頃から傷だらけのせいで、信の爪の状態は良いものとは言えなかったが、それでも色を塗っていけば女らしさに磨きがかかる。

丁寧に筆を動かし、一枚ずつ爪を赤く染めていく。時間をかけて両手の十枚の爪に塗料を塗り終えると、桓騎は上を向いて凝り固まった首を動かした。随分と夢中になって塗り続けていたらしい。

心地良い疲労感を感じていたものの、信からは相変わらず嫌悪を込めた瞳を向けられていた。

手首を持ち上げて、塗料を乾かすために爪に息を吹きかける。その刺激に連動するように、それまで脱力していた信の体がわずかに動いたのを桓騎は見逃さなかった。どうやら痺れ薬が切れ始めて来たらしい。

薬が完全に切れて信が自由を取り戻したとしても、桓騎には勝算しかないのだが、あまり喚かれるのは面倒だ。

塗料が完全に乾いたのを見計らい、外見だけは誰が見ても女になった信を見下ろし、ようやく食べ頃になったことを察したのだった。

 

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凌辱

寝台の上に寝かせている信の体を組み敷くと、桓騎を睨みつけていた信の目が僅かに見開かれた。まさかこれで解放されると思っていたのだろうか。

身を屈めて首筋に唇を押し当てる。太い血管がある首には、他の箇所と比べて傷が圧倒的に少なかった。

侍女たちの手を借りて着用させた上質な着物の中に手を忍ばせると、信の瞳が左右に泳ぐ。直に肌を触れられて戸惑っているようだった。

「っ…」

傷だらけの肌を手の平で味わいながら、今度は耳元に唇を寄せて舌を差し込んだ。信が声成らぬ声を上げて、鳥肌が立ったのが分かった。痛みとは違って経験したことのない刺激に戸惑っているのだろう。

信が生娘処女であることは以前から何となく察していた。

こればかりは確実な証拠を目撃したというわけではないのだが、男関係に疎い彼女のことだからそういうこと・・・・・・は未経験に違いないと思っていた。

しかし、この反応をみれば、信が男に抱かれたことがないのは間違いないだろう。

「っ、ぁ…」

掠れた声が聞こえて、どうやら口の痺れも少しずつ解けて来ているようだ。
まだしっかりとした言葉を成さなくても、やめろと言われているのは手に取るように分かった。

額や頬に唇を押し当てながら、ゆっくりと帯を解いていき、果物の皮を剥くように着物の衿合わせを丁寧に開いていく。

胸の膨らみを手で包み込むように持ち上げる。柔肉に指が沈む心地良い感触に、女を抱く楽しみを再認識させられた。

数多くの女を相手にして来たが、こちらに憎悪を向けて来る女を抱くのは信が初めてだ。

この女の反抗心を完膚なきまで崩してみたいという好奇心を覚えたのは一度や二度の話ではなかった。

 

 

せっかく良い着物と化粧で着飾らせたのに全て脱がしてしまうのは惜しい。桓騎は※スカートをたくし上げて、筋肉で引き締まった内腿をそっと撫ぜた。

常日頃から馬に乗っている信は、そこらの女よりも腰回りの筋肉がついている。強い締まりが期待出来そうだ。

膝を開かせて剥き出しになった淫華に視線を向けると、まだ男の味を知らないそれはくすみもなく鮮やかな色をしていた。

「は…っ…」

唇を震わせながら信の顔が赤く上気したのを見て、羞恥に悶えていることが分かる。

顔を動かすことは出来ないらしく、天井を見つめることしか出来ずにいるが、視覚が制限されるせいで敏感に反応してしまうのだろう。

過去の戦で信が救護班の手当てを受けており、ほぼ半裸である姿は幾度も見たことがあったが、その時は微塵も恥ずかしがる様子を見せなかった。(あの時は副官と軍師の娘たちによって早々に天幕から追い出された。

しかし、これから女にさせられるのだという事実にまだ抗おうとしているようだ。
信の反応を楽しみながら、桓騎は手を動かすのをやめない。

「や、め…」

「ん?」

空気を震わせるばかりだった唇が、僅かに言葉を紡いだので桓騎は小首を傾げた。

どうやら下準備に時間を要したせいで、少しずつ痺れ薬の効果が薄まって来ているらしい。とはいえ、まだ言葉を出すのが精いっぱいのようで、手足は動かないままだ。

たとえ信が将軍とはいえ、女一人を相手に自分が負けるとは思わないが、完全に自由を取り戻せば面倒なことになる。信は身軽ですばしっこい。反撃を受けることはないとしても、隙を見せれば逃げ出されるだろう。

せっかくここまで下準備をしてご馳走に昇格させてやったのに、逃げられては意味がない。

動けないことを良いことに、彼女の体を心行くまで味わい、嬲るつもりでいたのだが、桓騎は計画を変更した。

 

 

桓騎が指を口に含んで唾液を湿らせたので、信が僅かに顔を歪めた。声を出す以外にも顔の筋肉を動かせるようになったようだ。

湿らせた指で花弁の合わせ目をなぞると、信が喉を引きつらせた。
他の女ならば、すでにぐずぐずに蜜を垂れ流しているはずの淫華はまだ固く口を閉ざしたままで、蜜を零す気配すらない。

「なに、してっ…」

男と身を繋げるために何をするか知らないはずがないだろう。

「ひっ」

唾液の滑りを利用して、固く閉ざされた淫華の中に指を鎮めていくと信の体が仰け反った。自分でも弄ることはしないのか、中はかなり狭い。

すぐに突っ込んでも良かったのだが、こんな狭さでは入り口を抉じ開けるのに時間がかかりそうだ。

入口をくすぐるように指を出し入れしていると、信の顔が苦悶に歪んでいく。初めての刺激に戸惑っているようだ。

休むことなく指を動かしながら、開いた衿合わせから覗く胸に顔を寄せる。素肌に溶け込んでしまいそうな桃色の芽に吸い付いた。

「ふ、…ぅ…」

口に含んだ芽を舌で軽く弾くと、信が下唇を噛み締めたのが分かった。舌と唇で刺激を続けていくと、口のなかで少しずつ勃ち上がって来る。

上と下の刺激を続けていくにつれ、少しずつ淫華の内部が潤み始めていった。

「ああっ」

先ほどよりも指が動かしやすくなり、根元まで突き入れると一気に女の艶を帯びた声が上がった。

淫華の襞が指を押し返そうとしているのか、桓騎の指を締め付ける。親指の腹で花芯を擦り上げると信の顎が跳ね上がって白い喉を晒した。

「ひぃ、んっ」

前歯で胸の芽に甘く噛みつくと、信が僅かに腰をくねらせた。やはり薬の効果が薄まって来ているらしい。

 

漂との約束

桓騎に甘噛みされた乳首が疼くように痺れた。しかし今度は優しく舌で転がされて、むずかゆい感触に襲われる。

自分でも滅多に触れない場所を桓騎の指が動く度に勝手に腰が跳ねてしまう。血が滲むような激痛を与えられたのなら理性を繋ぎ止めることが出来たのに、初めての感覚に信は戸惑うことしか出来ない。

痺れ薬が切れて来たのか、先ほどよりは動けるようになって来たものの、手足の自由はまだ戻っていない。

(くそっ…)

本当に身を繋げることになる前に何とか逃げ出さなくては。薬の効果が切れたなら、桓騎の頭を殴りつけて逃げ出そうと考えていた。

しかし、桓騎も薬の効果が切れ始めていたことに気づいている。下の入り口を押し広げる指が増やされたことに、信は危惧感を抱いた。

何としても逃げ出さなくてはならない。たとえ卑怯な手を使って、自分の信念に背いたとしても、信は絶対に桓騎と身を繋げるわけにはいかなかった。

信は自分の破瓜を捧げる相手を、漂だと決めていたからだ。

幼い頃からずっと一緒で、大将軍になるという夢を持つ親友で、下僕の身分を脱してからも好敵手としてお互いを高め合う存在だった。

唯一無二の親友を異性としても意識するようになったのは信だけでなく漂も同じで、互いに夢を掴んだのなら、その時は一緒になろうと言ってくれた。

捕虜となっている以上、漂は出征できずに武功が挙げられないし、もしかしたら趙国で殺されてしまうことになるかもしれない。

まだ二人とも大将軍の座には及ばないが、それも時間の問題だろう。
二人で天下の大将軍になることと、その時は婚姻を結ぼうと約束したことを、信は一日だって忘れたことはなかった。

その約束を守るために、漂が生還して二人で大将軍の座に就くまで、彼を裏切るわけにはいかない。それは信が命を懸けてでも守るに値する約束であった。

「そろそろ良いか」

淫華が奥までよく濡れていることを確認し、桓騎が独り言ちたので、信は死罪を宣告されたような心地になった。

 

更新をお待ちください。

桓騎×信のバッドエンド話はこちら

桓騎×信の立場逆転設定のお話はこちら

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イリバーシブル(桓騎×信)前編

  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・将軍ポジション/桓騎が信の副官
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 桓騎×信/漂×信/シリアス/立場逆転IF話/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

 

下僕出身と野盗出身の二人の将軍

見上げれば、弱者から得られる甘い汁を吸いながら生きる権力者が雲の数ほどいる。
見下ろせば、権力者の機嫌を損ねないように無様に頭を下げながら泥水を啜る弱者の山がある。

そんなもの、数えたところでキリがない。道端に落ちている石ころの数になど興味はない。

自分の立場を考えると、王族だとか名家だとかそういう恵まれた血筋ではないものの、大勢を見下ろしている側に立っていると断言出来た。

その観点からいうと、元野盗である桓騎には一つ気に食わないことがある。

それは桓騎の上官にあたる、信という名の女将軍のことである。下僕という身分から将の地位を築いた女だ。

下僕は絶対的弱者であり、卑しい身分とも言われる。もちろん親の顔も名も知らぬ戦争孤児が軍の中に縁故関係があるはずもない。

権力者を見上げることなど許されない身分でありながら、信と桓騎が秦国の将になったのは単純な理由なことで、実力を買われたからだ。
桓騎は知略を、信は武を評価され、今の立場を築いたのである。

信はこの秦国一の権力者ともいえる秦王嬴政との繋がりがあった。嬴政と成蟜との権力争いの際、信はどういった経緯か嬴政側に就き、勝利をもたらした。

その功績が称えられた信は、若いながらも三百人将への昇格し、その後の戦でも数多くの武功を挙げるようになっていた。

時を同じくして、桓騎も蒙驁の副官を務めていた。しかし蒙驁は山陽の戦いで負った傷が癒えずに没することとなる。

蒙驁の服喪期に入り、桓騎は信の副官として仕えるようになった。
それは誰かに指示を受けた訳ではなく、桓騎自らが志願したのである。信の方も断る理由はなく、彼を副官として受け入れた。

まだ数年しか経っていないが、桓騎は信とそれなりに信頼関係を築けていると思っていた。

飛信隊の援助は滞りなく行っているし、桓騎しか知り得ぬ奇策で戦を勝利に導いて武功を挙げ続けている。副官としては申し分ない働きをしていると桓騎は自負していた。

しかし、信の態度から察するに、自分は未だ彼女から厚い信頼は得られていないらしい。

 

宴の夜

宮廷の廊下では宴の準備のために、酒や食事を乗せた盆を抱えた侍女たちが慌ただしく動き回っていた。広い厨房では庖宰ほうさい ※料理人たちが休むことなく食事の支度をしている。

先ほど論功行賞を終えたばかりであり、これから戦の勝利を祝う盛大な宴が行われるところだった。

桓騎と信は此度の戦での活躍を評価され、秦王から直々に褒美を授かったのである。

このあとは勝利を祝う宴が始まるのだが、そういった集まりには興味がない。早々に桓騎は屋敷に帰宅することにした。

他の将と交流を深めるつもりなどなかったし、付き合いの長い仲間たちと共に過ごす時間の方が気兼ねなく寛げる。

無駄に広い作りになっている宮廷の廊下を進んでいると、前方に見覚えのある女が歩いているのが見えた。

この宮廷で堂々と背中に剣を背負っている女など、あの女しかいない。

「李信将軍」

桓騎は自分の前を歩いている上官の名前を呼んだ。

「………」

ゆっくりとこちらを振り返った信が桓騎を黙認すると、何の用だと言いたげな瞳で見据えられる。

これから宴が行われるというのに、相変わらず化粧気がなかった。

将軍という高い地位に就いておきながら、着物もそこらの民が着ている物と変わらない。日焼けで傷んだ髪には相変わらず艶はないし、香油を使ったこともないのだろう。

顔の傷は白粉を叩けば誤魔化すことは出来るだろうが、これだけの傷を負っているなら女としては致命傷だ。

信は将軍として生を全うすると決めているようで、嫁にいく気はないようだから、女としての幸せには興味がないのだろう。

将軍という立場で相当な給金を得ており、戦での褒美も山ほどもらっているくせに、信は少しも金を遣っている様子がない。

装飾品の一つも興味がないようで、もともと物欲がない女だというのは、桓騎は出会った頃からなんとなく察していた。

 

 

「何の用だ」

素っ気なく呼び止めた理由を問われる。

論功行賞で秦王や仲間たちには笑顔を見せていたというのに、桓騎は未だ彼女から笑顔を向けられたことはなかった。

信は寡黙な女ではない。しかし、桓騎を前にした時は途端に口数が少なくなる。

戦において必要な軍略や情報を共有する時くらいしか、まともな会話を交わした記憶がなかった。戦を終えた後は労いの言葉を掛けられるが、それが本心かどうかは分からない。恐らくは形式的な建前だろう。

信が自分に向ける視線からはいつも棘を感じる。戦ではいつも飛信隊の補佐を行い、救援だって積極的にやっているというのに、どうやら桓騎は信頼されていないらしい。

反乱の意志など見せたこともないし、そんな予定も今のところはないのだが、信の態度から警戒されていることは明らかである。

過去に嫌われるような言動をした自覚もなく、信から避けられている理由が分からなかった。

「宴には出席されないおつもりで?」

この自分が年下の、それも女に敬語を使っていることに、桓騎は未だ違和感が拭えずにいた。あの女の副官になると志願した時、仲間たちから大層驚かれたことは今でもよく覚えている。

将の中でも一番地位の高い大将軍ならともかく、どうしてあの小娘に仕えるのかと幾度となく理由を問われた。

結局、桓騎が副官に志願した理由を配下たちに答えることはなかったのだが、納得できないとしても、桓騎の決定に反論する配下はいない。

桓騎軍の中で桓騎に意見出来る者は昔から付き合いの長い重臣くらいだ。しかし、彼らは首領が一度決めたことを曲げぬと知っている。

さんざん文句を言われたものの、最後は桓騎の判断に従ってくれた。

 

 

「先の戦で受けた傷が痛むのですか?」

「………」

今は着物で隠れているが、信の右肩に包帯が巻かれていることを桓騎は覚えていた。先の戦で矢傷を負った箇所だ。
救護班から適切な処置は受けていたので、あとは傷が癒えるのを待つだけらしい。

戦が終わってからまだ日は浅い。傷が癒えていないとしても不思議ではないが、彼女が宴を欠席するのは珍しいことだった。

信は桓騎と違って、他の将や高官たちとの交流には積極的である。以前、戦いの最中に落馬して肋骨にヒビが入った時も、脇腹を抑えながら参加していたくらいには宴が好きらしい。

昇格のために周りに媚びを売っているのではなく、単純に宴の賑わいが好きなのだろう。信の表情を見ればすぐに分かる。しかし、今日は珍しく宴には欠席らしい。

「お前もゆっくり休めよ。じゃあな」

桓騎の問いには答えず、信は形だけの労いの言葉を掛けるとすぐに背を向けて歩き出した。

右肩を庇うような動きは見られなかったものの、表情は優れないままだ。宴を欠席するくらいなのだから、きっとまだ傷が癒えていないに違いない。

つまりは多少の無理も出来ぬほど、右肩の傷が深いというワケだ。

(まァ、当然だろうな)

桓騎は僅かに口角を持ち上げた。

 

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拒絶

「李信将軍」

「ッ…」

足早に彼女に近づき、背後から右手首を掴んだ。信が奥歯を食い縛って痛みを堪えたのを桓騎は見逃さなかった。

右肩を負傷していることは知っていたのに、傷に響くように右手を掴んだのはわざとである。

いつもなら彼女の体に触れようとしても、すぐに振り払われるのがお決まりだが、それをされなかったのはまだ傷が癒えていない決定的な証拠だ。

「良ければ、此度の勝利を二人きりで祝いませんか?」

「いや、今日は療養に専念する。お前も節度を守って仲間たちと楽しめ」

手を振り払われることはされなかったものの、信の言葉は桓騎の誘いを拒絶するものだった。

信から誘いを断られるのは初めてのことではない。成功した試しは一度もなかった。

美味い酒を手に入れたことや、参謀である摩論の手料理をエサにすれば、少しは理性が揺らぐかもしれないと思ったこともあったが、この女は頑なに誘いを断るのである。

酒や料理でも靡かないのなら、次なるエサは奇策だ。

「此度の戦で使用した奇策の全貌を、ぜひとも信将軍だけにお伝えしようと思ったのですが」

「………」

話に興味が湧いたのだろう。痛みではなく、僅かに信の片眉が動いたのを桓騎は見逃さなかった。

しかし、信は静かに首を横に振る。

「そりゃ興味深いが…悪ィな、まだ戦の事後処理が残ってんだ」

療養だけじゃなく、総司令官に会いに行かなくてはならないというもっともらしい理由をつけて断られてしまう。

事後処理が残っているのが嘘か本当か、桓騎にはどうでも良かった。こうなればいかなる誘いをかけたところで信は拒絶するだろう。

引き際を見定めるのも肝心である。桓騎は素直に彼女の右手を放した。

「では、また」

拱手の挨拶を交わし、桓騎は何事もなかったかのように踵を返す。

少しでも気を抜くと盛大に舌打ちをしてしまいそうで、静かに歯を食い縛ることで耐えた。どうやらあの女は微塵も自分に靡かないつもりらしい。

 

 

「ちっ…」

桓騎の姿が見えなくなってから、信は乱暴に舌打った。
彼に掴まれた右手首が痺れるように痛む。未だ肩に残っている傷も引きつるように痛んだ。

自分を酒の席に誘うためだったとはいえ、掴んだその手は一切の加減をしていなかった。恐らくは右肩に響かせるためだろう。

まだ傷が治り切っていないのは桓騎も知っていたくせに、わざと右手を掴んだのだ。本当に性格の悪い男だ。掴まれた部分にはくっきりと指の痕が残っていた。

敵味方の区別はついているくせに、それが誰であっても相手の嫌がることしか考えていない。

自分の副官になりたいと志願された時、信は彼の考えが少しも分からなかった。

これまでの功績が称えられ、副官という立場に留まる必要はないほどに自分の実力を示したというのに、なぜ桓騎は自分の副官になりたいと考えたのだろう。

何か裏があるとしか思えないのだが、それが読めないため、下手に断ることも出来なかった。

断れば良からぬ仕打ちをされるような気もするし、奇策を用いて相手を貶める桓騎をこのまま野放しにしておくことは気が引けたのだ。

王翦のように国を作る野望を持っている訳ではないし、反乱の意志は感じられないが、蒙驁の管轄下にあった時でさえ、桓騎軍の周囲には良からぬ噂ばかりが付き纏っていた。

悩みはしたが、信は監視役を兼ねて、桓騎の志願を受け入れたのである。

奇策で敵兵を翻弄する桓騎の軍略は、確かにこの秦国に勝利を貢献している。敵の行動を先読む鋭い観察眼を持っており、桓騎の指示によって敵の策を回避出来たことも多い。

犠牲を最小限に、秦軍を勝利に導く桓騎の才には感謝をしているが、信は彼と軍務以外での付き合いを控えていた。

理由は単純なもので、信が桓騎という男を好きになれないからである。
自分の中でなにかが彼を拒絶しているのだ。それは言葉には上手く言い表せないが、恐らくは本能的なものだろう。

それに、彼が秦国に忠誠を誓っていないのは明らかだ。蒙驁が没した後は潔くこの国を見限るのではと思っていた。

腹の内では何を考えているのか分からない男と杯を交わすなんて危険過ぎる。いつ手の内を返されて首を掻き切られるか分からない。

自分はともかく、嬴政にまで危害が及んだらと思うと、信はますます桓騎を警戒するばかりだった。

 

誘い

論功行賞が終わってから、信はしばらく自分の屋敷で療養していた。

右肩の矢傷は塞がったものの、まだ引きつるような痛みが残っている。そのせいで思うように手指に力が入らず、自分の意志のままに動かせないことがあった。

流れ矢に当たるのは初めてのことではない。
大抵のものは鎧で食い止められるのだが、肩を貫通するほど強力な矢を受けたのは随分と久しぶりのことだった。

傷口が塞がっているのに痛みが残っているということは、もしかしたら当たった位置が悪かったのかもしれないと軍医に言われた。

日を追うごとに肩の痛みは軽減して来ているので、そのうち治るだろうということだったので、信は大して気に留めていなかった。

鍛錬で武器を振るった拍子には思い出したように痛むが、今のところ生活に大きな支障はない。何か力を入れる動作をしなければ何ともなさそうだった。

戦を終えたあとで飛信隊の兵たちにはゆっくりと休養を取らせている。鍛錬を再開するのはまだ先になりそうだ。

「李信将軍」

屋敷で剣の手入れをしていると、伝令兵が木簡を抱えてやって来た。まだ戦を終えてから日は浅い。軍の総司令を務める昌平君からだろうか。

「どうした。昌平君からか?」

戦時中での報告や事後処理はすでに済ませたはずだが、まだ何かあるのだろうか。

「いえ、桓騎将軍からです」

桓騎の名前を聞いた途端、信は内容に意識を向けるよりも先に、反射的に溜息を吐いていた。

 

 

屋敷で療養していることは桓騎も知っているだろうに、そんな中でわざわざ屋敷に書簡を寄越すなんて何の用だろうか。

渡された木簡を開くと、そこには見舞いの言葉が綴られていた。どう考えても本心とは思えない。

桓騎は奇策を用いて敵を陥れることを得意としているが、前提として相手を苦しめるのが大好きな男である。

先日だって心配するような言葉を並べておきながら、信の右手首を掴んだ時の桓騎の手は少しも加減していなかった。

自分から副官になりたいと志願したくせに、自分のことが気に食わないのだろう。副官の立場になれば自分と接する機会が増える。それを利用して嫌がらせをしているとしか思えなかった。

元野盗の魁を務めていたあの男が、年下であり女の自分に従うだなんておかしい話だ。戦の才は認めているものの、信は桓騎のことを信用していなかった。

「…ああ、確かに受け取った。もう行って良いぞ」

「失礼します」

すぐに伝令兵を下がらせたのは、桓騎に返事を書くつもりがなかったからだ。

木簡を薪にでもしてやろうと思ったのだが、療養を終えたら自分の屋敷で酒でも飲み交わそうという誘いの言葉が並べられているのを見つけて手を止めた。

思えば、桓騎と酒を飲み交わしたことは一度もなかった。これまでも幾度か誘いは受けていたものの、理由をつけて断っていたのだ。

酒の席であろうとなかろうと、あの男に一瞬でも隙を見せれば寝首を掻かれるに決まっている。今後も二人きりで酒を飲み交わす機会などないだろう。

信は最後まで桓騎からの書簡を読むことなく、木簡を乱雑に折り畳んだ。

 

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囚われの親友

近くにいた従者に薪にしていいと桓騎からの木簡を手渡し、信は書斎に戻って筆を取った。親友に書をしたためようと考えたのである。

先日趙国から届いた漂からの書簡には、こちらは特に変わらないと記されていた。親友である漂は今、趙国に捕虜という立場で囚われている。

漂から書簡が送られて来る前は、酷い拷問を受けていないか、きちんと食事は与えられているのか、安否を心配するばかりだったのだが、彼自身の言葉で近況を知ることが出来て安心した。

彼が捕虜となってから初めて送られて来た書簡には、今は捕虜という立場で労役をこなしているが、下僕時代の頃に比べたらなんてことはないと書かれており、信は笑ってしまった。

漂は共に下僕時代の苦悩を乗り越えた唯一無二の親友で、信には欠かせない存在だった。

まだ趙国では捕虜たちを解放する気配がない。秦国と次の戦が起こる前に、人質として交渉材料にするつもりなのだろうか。

人質は漂だけでなく大勢いる。それだけ大勢の命を天秤にかけた交渉には大いなる価値があるので、趙国も簡単に彼らを解放しないのだ。

「………」

信は筆を取ったまま、何を書こうか考えた。
互いに近況を知らせてるのはいつもそうだが、この書簡は漂の手に届く前に必ず趙の者に見られてしまう。

暗号を紛れ込ませれば漂は気づいてくれるに違いないが、趙国の者に勘付かれたら危険な目に遭わせてしまうかもしれない。

それに自分の近況を赤裸々に伝えれば、秦国の内政状況を突き止められてしまう恐れがある。本当は漂に伝えたいことが山ほどあるのだが、趙国の者の目に留まる以上は下手なことは掛けなかった。

(漂…)

書簡の文面から漂は健気に解放される日を待っていることが分かる。しかし、いつまでも解放される気配がなく、労役を強いられる日々に嫌悪しているに違いなかった。

もしかしたら漂のことだから、自分を心配させないために、本当はもっと酷い目に遭っていることを黙っているかもしれない。

漂は子供の頃から我慢強い。どれだけ苦しい想いをしていても、いずれそれは過ぎ去ると信じてじっと苦痛に耐えていた。

共に下僕という身分を脱してからも、漂は持ち前の忍耐力でこれまでの苦難を乗り越えて来た。そんな彼に何度も激励されたおかげで信は将の座にまで上り詰めた。

漂がいなければ、きっと自分は将軍の座に就くことはなかっただろう。

辛抱強い親友にいつだって信は救われて来たし、今度は自分が漂を助ける番だと思っていた。

しかし、こればかりは信の独断で解決出来る問題ではない。
軍政に携わる官吏であったなら趙国に赴いて交渉をすることが出来たかもしれないが、将軍という立場ではそうもいかない。

一刻も早く趙国から捕虜解放の報せが出ることを祈るものの、将軍という立場であっても自分は親友を救い出すことが出来ないのだという無力感に、信は重い溜息を吐いた。

 

 

こちらは特に変わりないという近況と、体を大切にするようにという健康を尊重した言葉を書いてから、信は裏庭に出た。

辺りを見渡して従者たちの姿がないことを確認してから、信は裏庭の中を進んだ。中央にある広い池には頑丈な石橋が掛けられている。

橋から池に転落せぬよう欄干らんかん ※手すりのことがあり、欄干の柱には雨水などによる木材の腐食を抑える役割を持つ金具が一定の間隔で設置されていた。

石橋の中央を渡って五歩目、そこから右に三歩進み、欄干の中柱に設置されている金具に触れる。
すると、その金具だけはほかの箇所と違っての役割をしており、簡単に開いた。

中には書簡を入れられる空洞があり、信はもう一度辺りを見渡して、誰も見ていないことを確認してから漂に宛てた書簡をその空洞へ押し込んだ。

あとは密偵がここから書簡を持ち出して趙へと運んでくれる。
次にこの金具を開けた時、漂からの返事が届いていることを期待して、信は何事もなかったかのように金具の蓋を戻したのだった。

信は静かに目を閉じると、温かい日差しを浴びながら漂の無事を祈った。

(俺の寿命の半分やるから、漂が無事に秦国に帰って来るように)

物心がついた時から両親の顔も名も知らぬ信は、神の存在などいないものだと思って生きていた。

しかし、漂の身を案じる時間が長く続き、彼女は形のないその存在に縋るようになっていた。そうでもしないと不安で胸が押し潰されてしまいそうになるからだ。

書簡が届く度に安堵はするものの、次に返事が来なかったらと思うと、夜も眠れなくなる。

いつまでもこんな思いをするくらいなら、自分が漂の代わりに捕虜になれば良かったと思うほどに。

しかし、漂にそんなことを言えばきっと叱られてしまうだろう。彼が敵地で耐えているのだから、自分もやるべきことをやらなければいけない。

 

桓騎の罠

それから数日後。昼を回った頃に桓騎が信の屋敷を訪れた。

これまでも書簡を送られることは何度かあったのだが、桓騎の方から屋敷を尋ねることは今までなかったので、突然の来訪に信は驚いた。

適当に理由をつけて追い返そうとしたのだが、用があるらしく正門の前から動こうとしないらしい。見舞いの言葉でも掛けに来たのだろうか。

仕方なく出迎えると、桓騎は馬から降りた状態で腕を組んで待っていた。信が門から姿を現すと、すぐに姿勢を整えて礼儀正しく拱手する。

「お迎えに上がりました」

「…はっ?」

開口一番そんなことを言われて、信は大口を開けて聞き返した。

なにか約束を交わしていただろうか、軍政のことで呼び出しでもあったのだろうか、思考を巡らせるものの、思い当たる節は一つもない。

あからさまに戸惑っている信を前にして、桓騎は僅かに呆れたように肩を竦めた。

「返事を頂けなければ承諾とみなしますと、先日の書簡に記していたのですが」

(しまった)

桓騎の言葉を聞いて、ようやく状況を理解した信はあからさまに顔を引きつらせた。

確かに先日、桓騎から酒の席に誘う内容の書簡が届いた。しかし、最後まで目を通すことなく、信はその木簡を薪にしてしまったのである。

きっと桓騎は信が返事を寄越さないことを知った上で、返事を寄越さないなら・・・・・・・・・・、誘いに承諾したとみなすと記したのだろう。

案の定、信にはその文面を読んだ記憶がなかった。恐らくは書簡の最後の方に記されていたに違いない。

(くそ…)

もしかしたら、信が最後まで書簡を読まないことも想定した上での計画だったのかもしれない。

もしも書簡に軍政のことを書いていたのなら、最後までしっかり目を通していたはずだが、桓騎にしてやられたというワケだ。

右肩の怪我が治り切っていないことを理由に断ろうとも思ったが、それならばなぜ返事を出さなかったのかと問われるに決まっている。

「あー…すぐに支度する。ちょっと待っててくれ」

「お待ちしております」

書簡をきちんと読んでいなかったことも、薪にしたことも本人に向かって言えるはずもなく、信は部屋に戻って大袈裟なまでに深い溜息を吐いた。こうなれば仕方ない。

(一度だけ付き合ってやれば、しばらく誘われないだろ。だが、用心はしとかねえとな)

渋々身支度を済ませたあと、信は桓騎と共に彼の屋敷へと向かうのだった。

 

 

桓騎の屋敷には初めて訪れたのだが、門楼屋根つきの門を潜ると、予想通り派手な作りだった。

この屋敷の主は桓騎一人で、代々名家が受け継いでいる豪邸でもないのに、母屋以外にも別院がいくつもある。

使用人も大勢雇っているようだ。使用人の女性たちは娼婦かと思わせるような派手な化粧と香を着物から漂わせている。さまざまな香の匂いが混ざり合い、信は思わず鼻を塞ぎそうになった。

招かれた立場で嫌悪感を露わにするわけにはいかず、信は奥歯を噛み締めて何とか表情に出すのを堪える。桓騎はこの香りに何も感じないのだろうか。

派手なのは着物や化粧だけでなく、色鮮やかな宝石が埋め込まれた腕輪や簪などの装飾品もだった。まるで妓楼にでも招かれた気分だ。

元野盗である彼は手に入れた敵の領土から強奪をすることを当然としている。

しかし、鎧ならともかく、派手な装飾品には何の意味があるのだろう。
自分の地位や名誉を示すのは武功と名前があれば十分だと思っている信には、桓騎の金銭の使い道はよく分からなかった。

将も給金を与えられるし、戦での活躍が認められれば報酬を与えられる。
使い道に口を出すことはなかったが、敵地の領土を手に入れた際に、その地に住まう民たちを虐殺したり、財産を強奪することだけは許さなかった。

桓騎も信の言葉に従っているものの、他人を欺くのを何よりも得意としていることから、こちらの目の届かぬ場所で何をやっているか分からない。

かといって監視をつければその監視役の命も危ういため、信も完全には桓騎という男を管理し切れていない自覚があった。

 

もてなし

客間に案内されると、信は桓騎に勧められるまま、長椅子に腰を下ろした。

長椅子には白虎の毛皮の中に綿を詰め込んで作った座布団が置かれている。柔らかくて座り心地は良いが何とも悪趣味だ。

桓騎軍には拷問に長けている砂鬼一家がいるので、もしかしたら屋敷のどこかに人の皮で出来た家具があるのではないだろうかと不安になる。

念のため、座っている長椅子に触れてみたが、これは本当に黒檀で出来ているようで安心した。

桓騎が向かいの席に腰を下ろすと、すぐにあの派手な格好をした侍女たちがやって来て酒や料理を並べていく。宮廷や店で振る舞われるのとは違う、皿の中央に少量だけという特徴的な盛り付け方には見覚えがあった。

「摩論の料理か?」

「お好きでしょうから、用意させました」

桓騎軍の参謀であり重臣の一人である摩論はいけ好かない男だが、料理の腕前は確かだ。桓騎軍と共に出陣した際の野営生活で摩論の手料理を振る舞われた時、素直に信はその料理を称賛した。

今日は鴨肉の味噌漬けと根菜の付け合わせだ。湯気と共に良い香りが漂ってくる。他の料理も今作っている最中らしい。

量が少ないことだけは不満だが、摩論曰くその食材の中で一番良い部位だけを使っているから仕方ないのだそうだ。

摩論の手料理を食べられるなら来た甲斐があったものだが、桓騎の腹の内が読めない以上、あまり長居をしたくなかった。

料理を堪能して酒はほどほどに、右肩の傷が癒えていないことを理由にして早々に帰還しよう。

屋敷の留守を任せている従者たちには桓騎の屋敷に行くことを伝えているし、もしも帰宅が遅くなるようなことがあれば必ず迎えに来るよう指示をしていた。

あえて桓騎が見ている前でそのような指示をしたのは、彼への抑止力になると考えたからである。

もしも桓騎が自分の命を狙っていて、行動しやすい自分の屋敷で殺害計画を実行するつもりなら、証拠隠滅を図って死体を見つからぬように処理するかもしれない。

簡単に殺されてやるつもりはないが、従者たちに迎えの指示を出しておけば、もしも自分の身に何かあったとしても、桓騎に容疑を掛けられるのは間違いない。

唯一信が失敗したことといえば、桓騎から届いた書簡を薪にしておけと指示したことだった。とはいえ、彼が信を酒の席に誘ったことは事実だ。言い逃れは出来ないだろう。

 

 

「贔屓にしている酒蔵から取り寄せたものです」

ぎらぎらと怪しく光る金の杯に酒を注ぎ、桓騎は信に手渡した。

素直に受け取ったものの、信はその酒を飲むことなく彼の前に置く。それから桓騎の手にある酒瓶を奪うと、信はもう一つの杯を手繰り寄せて酒を注いだ。

「いつも誘いを断って悪かったな」

正直、罪悪感など微塵も感じていないが、何かと理由をつけて酒の席を断っていたのは事実だ。

桓騎が注いだ方の酒は彼に渡し、信は自らが注いだ方の杯を軽く掲げた。

杯に口元に寄せながら、桓騎も同じように杯を煽るのをじっと見据える。彼が喉を動かしたのを見届けてから、信もようやく酒を口に含んだ。

桓騎が酒を飲む時に躊躇う様子はなかった。つまりは酒にも杯にも毒や薬の類が盛られていないことが証明されたというワケである。

「…うん、美味い。良い酒だ」

雑味が少しもなく、滑らかな舌触りだ。喉を流れ落ちた後に胃が燃えるように熱くなったので、かなり強い酒であることが分かった。これは飲み過ぎると確実に酔い潰れてしまうだろう。

年齢が近いながらも、自分を慕ってくれている蒙恬や王賁たちの前で酔い潰れたなら快く介抱してもらえるが、信頼に欠ける桓騎の前では決して隙を見せたくはなかった。

酒の酔いを理由に転んで頭をぶつけただとか、不審に思わせないような死を演出されるかもしれない。この男の前では弱みや隙を見せることは命取りになると信は疑わなかった。

つい不吉なことを考えてしまったが、自然に振る舞おうと会話を続ける。

「こんな美味い酒を造れるなら、お前がその酒蔵を贔屓にするのも分かるな」

「李信将軍に称賛されたとなれば、醸造家も本望でしょう。良ければご紹介しますが」

「ああ、頼む」

桓騎はすぐに侍女を呼び寄せると、木簡を持って来るよう声を掛けた。贔屓にしている酒蔵の情報を教えてくれるのだろう。

少ししてから侍女が一つの木簡を手に部屋へと戻って来た。桓騎に手渡すと、すぐに一礼して下がっていく。
派手な身なりはともかく、礼儀を弁えていることから、きちんと教養を受けている者たちを雇っているらしい。

「どうぞ」

手渡された木簡を、信は疑うことなく開いた。

 

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動揺

「―――」

木簡に記されている言葉を目視して、信は思わず目を見開いた。
桓騎が贔屓にしている酒蔵の場所が記されているのだとばかり思っていたのだが、そうではなかった。

(なんで俺の書簡がここに…?)

それは明らかに自分の文字で、趙国にいる漂に宛てたものだったのだ。桓騎からの書簡が届いたあの日に、信が送ったものである。

何度か読み返してみるが、やはり自分の字だ。確かに石橋の欄干らんかん ※手すりのことに隠したはずなのに、どうしてこの書簡が今ここにあるのだろうか。

「………」

桓騎は信の動揺を見逃すまいとして、瞬き一つせずにこちらを見据えている。その視線を受けながら、信は思わず身震いした。

(こいつ、一体なんのつもりだ)

背中にじわりと嫌な汗が浮かぶ。まさか桓騎が自分の屋敷に忍び込んで盗んだのだろうか。

元野盗の彼が屋敷に忍び込むのはあり得なくはないが、あの隠し場所を突き止められたということは以前から行動を見張られていたのかもしれない。

屋敷の敷地内とはいえ油断した。この書簡がここにあるということは、信が内密に趙国に書簡を送っていることが気づかれたということになる。

機密情報の類は誓って口外していないが、秦将である自分が敵国に密書を送るとなれば裏切り行為であると誤解されかねない。謀反の意志があると思われても仕方ないだろう。

人質になっている親友の安否を心配しているからだったとはいえ、内密にしていたことには確かに後ろめたさはあった。だが、それを素直に白状したところで敵国に書簡を送るのを禁じられるのは目に見えている。

それでも信は、親友との連絡手段を絶つことは出来なかった。漂は自分の命よりも大切な存在で、漂も信のことを同じように想ってくれている。

自分からの書簡が途絶れば、趙国で人質として耐えている彼の心の拠り所を失いかねない。
そんな事情を桓騎が知っているはずがないだろうが、この書簡を持ち出したということは何か自分と取引でもしたいのだろうか。

(いや、違う)

これは取引ではなく脅迫・・だ。信は直感した。

自分に利がないと動かない桓騎が一体なぜ副官になったのかを、信は未だに理由が分からずにいた。もしかしたら自分の弱みを握るためだったのだろうか。

生唾を飲み込んでから、信はようやく桓騎と目線を合わせた。

「…何が望みだ」

低い声で問いかけると、桓騎はその言葉を待っていたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべたのだった。

 

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