初恋は盲目(蒙恬×信)番外編

  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 蒙恬×信/ギャグ寄り/年齢差/IF話/嫉妬/ハッピーエンド/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

このお話の本編はこちら

 

馬車の中にて

さんざん悩んだ挙句、信は口ですると妥協案を提示した。

本当なら今すぐに身を繋げたいところだったが、御者の存在があることから、それは許しを得られなかった。
彼女の中の羞恥心は手ごわく、きっと口淫を提案したのは、誰か来ても誤魔化せるよう、着物の脱衣を最小限に留めたかったのだろう。

蒙恬の足元に座り込み、緊張した表情で足の間に顔を寄せる。
 ※ズボンを下げられると、男はすでに硬く上向いており、苦しいまでに張りつめていた。

「う…」

紅が塗られていなくても、瑞々しい唇が男根の先端を包み込む。

それはもう幾度となく見慣れている光景のはずなのに、顔を真っ赤にさせている信を見て、思わず笑みが零れそうになる。

いつまでも羞恥心が抜けないところや、自分を気持ちよくしてくれようと健気に男根を頬張る姿は、何度見たって愛おしかった。

血管が浮かび上がっている陰茎を唾液で滴る唇が滑る度に、蒙恬は息を切らしてしまう。

「ぁ…は、っ…」

亀頭と陰茎のくびれの部分をきゅっと吸い付かれると、喉が引きつってしまった。

以前、特に自分の感じやすい部分を教えたら、信は従順にその教えを学んで口淫に励んでくれるようになったのだ。

まだ婚儀が終わっておらず、正式に夫婦と認められていない立場で自分の子を孕むことは、信も後ろめたさがあるのだろう。

もちろん身を繋げる時もあるが、最近は口でしてくれる頻度の方が多かった。

「んんッ…」

音を立てながら強く吸い付かれると、それだけで呆気なく果ててしまいそうになる。口でされるのも堪らなく気持ちが良いのだが、やはり信と一つになったという実感が欲しかった。

尖らせた舌先で裏筋をなぞられて、蒙恬はつい歯を食い縛った。切なげに眉根を寄せながら、吐精の衝動を堪える。

「信…ねえ、今日は挿れたい…」

縋るような言葉を掛けると、信が男根を咥えたまま見上げて来た。
狼狽えて視線を左右に泳がせたのは、やはり外にいる御者のことが気になるからだろう。

「っ…ん、…む…」

どうやらお願い事は聞き入れられなかったらしく、信は深く男根を咥え込んで、敏感になっている陰茎を唇で扱く。頭を前後に動かしながらも、舌を動かすのはやめない。

このまま口で終わらせようとしている彼女の意志が伝わってくる。自分を求める気持ちよりも、羞恥心が勝っているということだ。

「信っ…お願い、だから、…」

このまま続けられると、口の中で果ててしまいそうだ。縋るように訴えるものの、信は口淫をやめる気配を見せない。こちらの訴えを無視するように、視線さえ合わせてくれなかった。

体を繋げるのを許してくれないのだと分かると、蒙恬はまるで信に拒絶をされてしまったかのようで、泣きそうになってしまう。

ようやく目が合うと、信が驚いて目を見開いた。

「どっ、どうした…?」

慌てて男根から口を離し、唇の端を伝う唾液と先走りの液を拭うこともせず、信は蒙恬が泣きそうになっている理由を問う。

切なげに眉根を寄せ、蒙恬は鼻を啜った。

「…挿れたい」

子どもがワガママを言うような口調で、蒙恬が信をじっと見つめた。

 

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信が扉の方をしきりに視線を向けるので、御者が外にいるこの状況では嫌だと訴えているのが分かった。

屋敷に到着するまでにはまだかなりの時間がかかる。我慢するだなんて到底無理だ。
彼女の口の中で吐精するだけでは満足できないことも分かっていた。

「信」

「あっ、わっ」

自分の足元に屈み込んでいる彼女の脇の下に手を入れて体を抱き起こし、向かい合うようにして自分の膝の上に座らせる。

「う…」

脚の間に蒙恬の固くそそり立った男根が着物越しに当たると、信が顔を真っ赤にして目を逸らす。

「信」

切なげに名前を呼んで、唇を重ねると、信の体が分かりやすく強張った。
しかし、何度も唇を重ねて口づけを深めていくにつれて、信の方も僅かに息を乱し始める。

「やっ、動くなってッ…!」

脚の間に押し当てている男根を擦り付けるように腰を揺らすと、信が叱りつけるように蒙恬を睨んだ。

「だって、こんなに密着してたら…」

言い訳がましく弱々しい口調で反論を試みるものの、腰を動かすのはやめない。早く中に入りたいのだと代弁するように、男根を強く擦り付ける。

「うっ…、ッ…」

何とか蒙恬の上から降りようとしたが、しっかりと両腕で抱き込まれてしまう。肩を押して突き放そうとするものの、着物越しに淫華を刺激されると背筋に甘い痺れが走る。

信の体を抱き締めて、彼女の首筋に顔を埋める。

こんなにも密着して、彼女の香りを嗅いでしまったのならば、もう勃ち上がったそれを抑え込むのは困難だ。

「蒙恬っ…!」

首筋に唇を押し付けると、その柔らかい感触に戸惑ったように信が身を捩る。

破瓜を破ったのも、敏感に反応するように彼女の体を躾けたのも、全ては蒙恬だ。もう少し押せば信が諦めて受け入れてくれることなど、蒙恬は当然予見していたのである。

幼い頃から名家の嫡男として、容姿にも将の才能にも恵まれた蒙恬はいわゆる甘え上手であり、こちらが何をすれば相手が望み通りに動いてくれるのを理解していた。

ただし、信は幼い頃から武術に精進して来たせいか、蒙恬の男らしい色気には引っかからない。

だが、年下にしか出せない甘え・・で存分に押せば、彼女が揺らぐのだと知ったのは恋仲になってからだった。

「信、お願い」

耳元に顔を近づけて熱い吐息をかけると、信がその甘い刺激に身を固くした。
今度は舌を伸ばして、耳の中をくすぐってみる。

「ッ、ふ…」

唾液を絡ませた舌先が、直接耳の粘膜を弄る刺激に、信が自分の口に手で蓋をする。

もう彼女の弱い部分など分かり切っているが、それでもまだまだ知りたいし、どれだけ身を重ねても物足りなかった。

 

馬車の中にて その二

着物の衿合わせに手を伸ばすと、信が狼狽えた視線を向けて来た。しかし、自分の口に蓋をしているせいで、抑えられることはない。

「んッ…」

今日は胸にさらしが巻かれていた。背中にあるきつい結び目を難なく解いて、胸の谷間に指を挟むようにさらしを引っ張る。

形の良い胸が露わになると、たまらずに蒙恬はその豊満な胸を掌で包み込んだ。ゆっくりと指を沈ませていき、その柔らかさに堪らず目を細めた。

体を重ねる度に揉み込んでいるせいか、恋仲になった時よりも豊満さが増したように思える。いずれこの乳房を自分たちの子が独占するのかと思うと、なんだか複雑な気持ちを抱いた。

そっと指を這わせ、素肌に溶け込んでいる桃色の乳輪をなぞるように円を描いた。鋭敏である胸の芽だけは触れず、外側だけを何度も愛撫する。

「は…う…」

口に蓋をしている指の隙間から、信が僅かに吐息を零した。彼女が僅かに腰を動かしたのを見て、微弱な刺激にもどかしくなって来ていることが分かる。

何か言いたげに視線を送られるものの、蒙恬は気づかないふりを決め込み、ただひたすらに桃色の乳輪をなぞる。

まだ中心には一度も触れていないというのに、その微弱な刺激に芽が立つ。
頭を屈めて、ふうと息を吹きかけると、信の体がぴくりと跳ねた。

「っ、うう…」

鋭敏である芽に触れればもっと善がらせることが出来ると蒙恬は分かっていたが、あえてそれをしないのは焦らす目的があった。

無理強いをして嫌われるのは目に見えているし、あまり好みではない。信の方から「欲しい」と自分を求めるように仕向ければ、正式に合意を得た上での性交となる。

初夜の時と同様に、羞恥心の消えない信のことだから、お前が焦らしたからだと後で話を蒸し返すことはしないことも分かっていた。

「ん…」

胸に微弱な刺激を与えながらも、腰を動かして男根を擦り付けるのも休まない。僅かに信の間から熱気と湿り気を感じる。

彼女も感じてくれているのだと分かり、蒙恬の口角が自然とつり上がる。

「ね、信もつらいでしょ」

「ぅう、う…!」

耳元で囁き、そっと舌を差し込むと、信が鳥肌を立てたのが分かった。

舌先で狭いそこをくすぐるように動かしながら、蒙恬はようやく胸の芽に触れる。ただし、指の腹で一度触れるだけだ。

「は、あっ…」

たったそれだけの刺激だというのに、信が涙目で睨んで来る。

このまま我慢比べがまだ続くだろうかと思っていると、信は蒙恬の首筋に顔を埋めて、体を預けるように凭れ掛かって来た。それがいつもの合図だと分かり、蒙恬は心の中で勝利を噛み締めた。

 

交渉成立

信の足の間はすでに熱く濡れていて、蒙恬の着物にまで染みを作っていた。
着物越しとはいえ、何度も硬くそそり立った男根を押し付けて感じたのだろう。

彼女の体をあまり敏感に仕上げてしまうと、他の男に触れられた時に意図せず反応してしまうのではないかと不安になってしまうが、男としては好きな女を狂ってしまうほどに善がらせてやりたくなる。

「…いいよね?」

耳元で静かに問うと、信が首筋に顔を埋めながら小さく頷いた。

許可を得たことだし、蒙恬は遠慮なく信の帯に手を掛けた。すでに衿合わせは大きく開いていて、帯の意味もなくなっていたが、果物の皮を剝くように着物を脱がせていくこの時間も好きだった。

「あ…ま、待て、って…」

帯を解かれて着物を全て脱がせられそうになった信が、なんとか手で着物を落とさないように押さえている。

許可を出したくせに、外の御者がもし見られたらという不安が消えないのだろう。

その気持ちを考慮してやり、蒙恬は着物を全て脱がすのを諦める。袖を通しているので、どれだけ乱れていても脱げてしまうことはないだろう。

しかし、体を繋げるためには ※ズボンは脱がせなくてはならない。紐を解き、足首の辺りまで引き下げると、すでに淫華は蜜で濡れそぼっていた。

一度指を口に含んで、唾液を纏わせてから、蒙恬は足の間に手を差し込んだ。

湿り気と熱気を帯びた淫華の口の付近を何度か指で往復する。
花芯には触れないように指を動かしていると、信が着物を掴む手に力を込めたのが分かった。もどかしい刺激に、まるで早く触ってくれとねだるようなその態度が愛らしい。

「んあッ」

僅かに花芯を擦ると、信が堪えていたはずの声を呆気なく洩らす。ここが女の急所であることは蒙恬もよく分かっていた。

だからこそ簡単に触れないように弄るのが女を狂わせる術でもある。

何度も淫華の入り口ばかりを指の腹で擦り、奥を刺激することも、花芯に触れることもしない。信からすでに許可は得ていたはずなのに、とことん焦らしたくなるのは、彼女の口から自分を求めてほしかったからだ。

いつだって男は女と駆け引きをして、結果的には勝利の酔いを味わいたい単純な生き物なのである。

 

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ムーンライズ・領主の帰還
宝石姫

 

「は、早く、しろって…屋敷に、着いちまう、だろ…!」

催促の理由が屋敷に到着してしまうからだなんて、味気ない理由だったことに、蒙恬は納得出来なかった。

本当は欲しくて堪らないくせに、素直にそう言わないのはやはり手ごわい羞恥心のせいだろうう。

それならば、もっと意地悪をしてやろうという気持ちが膨れ上がる。

「…そうだね。それなら、続きは屋敷に戻ってからにしようか?」

まさかといった顔で信が顔を上げる。

「だって、信は見られたら恥ずかしいんでしょ?」

これは決して意地悪ではなく、気遣いだと主張すれば、信が目を吊り上げて蒙恬を睨みつけた。

つい笑ってしまいそうになるのを堪えながら、蒙恬は馬車の中から御者に呼びかけた。

「ねえ、あとどれくらいで着く?」

一刻※二時間もかからないかと」

「わかったよ」

すぐに返って来た御者の言葉を聞き、蒙恬は確認するように信の顔を覗き込んだ。

「だって。…どうする?」

「っ…」

続行するかどうかを信に問いかけると、真っ赤な顔をした信が首筋に嚙みついて来た。
僅かに痕が残ってしまうくらいの甘噛みだったが、信の意志を確認するには十分過ぎるほどだった。

「っんん…!」

蜜で濡れそぼった指を淫華の中に挿れると、信の体が震えた。

何度も蒙恬の男根を受け入れた其処はすんなりと指を飲み込んだが、相変わらず締まりが良い。

「ふ…ッ…」

根元まで飲み込ませた指を中でゆっくりと折り曲げると、信は蒙恬の肩に噛みついて声を堪えていた。鉤状に折り曲げると、信の内腿が震え始める。

折り曲げた指を伸ばして奥を軽く突くと、柔らかい肉壁に辿り着いた。

「んん、ッ…う…」

「すごい、どんどん溢れてる」

常に短く綺麗に整えている爪先で軽く叩くと、どんどん蜜が溢れて来て、蒙恬の手首近くまで濡れてしまった。

それだけ彼女が自分で感じてくれていることも、自分を求めてくれていることも嬉しくて、蒙恬の口角は下がることがない。

ここが寝台の上だったなら、周りも時間も気にせずに可愛がってやれるというのに、残念ながら今は時間を費やす訳にはいかなかった。

蒙恬は自分の ※ズボンを下げ、信の蜜で濡れた手で男根を扱く。すでに勃起しきっているそれは、早く中に入りたいと先走りの液が溢れていた。

信も物欲しげな瞳で男根を見下ろしており、唾液を零してしまいそうなほど口を開けている。

「…今日は信が挿れてくれる?」

いつもなら蒙恬の方から挿れるのだが、今日は信に主導権を渡した。

馬車の中だから仕方ないとはいえ、せっかく騎乗位の姿勢に持ち込んだのだ。信がどのように乱れるのか誰よりも近くで見てみたかった。

 

背徳感

少し信は戸惑った表情を浮かべたが、もうこれ以上焦らされるのは嫌だったのだろう、蒙恬の男根をそっと掴むと、腰を持ち上げる。

「ッ、ん…!」

硬い先端を淫華に押し当てて、歯を食い縛ると、ゆっくりと腰を下げて来た。

ゆっくりと男根が飲み込まれていき、熱くてとろとろと絡みつくような感覚に包まれて、思わず眩暈を起こしそうになった。

「あ、…っ…」

思わず蒙恬も熱い吐息と共に声を零してしまう。

「ううっ…う…」

なんとか止まることなく腰を下ろし切った信が切なげに眉根を寄せ、肩で息をしていた。

御者に気づかれていないか不安そうに扉の方へ視線を向けたものの、男根を腹に飲み込んだ彼女の顔は蕩け切っていた。

蒙恬は細腰を両手で抱き寄せ、信の胸に唇を押し付ける。胸の谷間を伝う汗に舌を伸ばし、胸の芽に吸い付いた。

信の両腕が蒙恬の頭を抱き込む。

「んっ…」

胸の芽を舌で転がり、甘く歯を立てると、信が泣きそうに顔を歪めた。僅かに浮かべんでいる汗で前髪が額に張り付いており、指で梳いてやる。

それから彼女の頭を抱き寄せると、蒙恬は穏やかに笑んだ。

「…信の中、あったかくて、とろとろしてて、俺のこと欲しいって、ぎゅうって締め付けて来て、気持ちいい」

彼女の臍の下に指を這わせ、蒙恬はそこを何度か優しく叩いた。

「ここ、この部屋の中も、きっと気持ちいいんだろうなあ」

たった今、男根が口づけているその小さな部屋子宮に、赤子が眠るのだと思うと、とても不思議な感覚だった。

「は、う…」

下腹に指を軽く沈ませていくと、信が甘い吐息を零した。外側の刺激に連動するように、淫華が男根に強く吸い付いてくる。

「やっ…」

信が幼子のように首を横に振った。
繋がっている最中に外から下腹を責め立てられると、刺激が強過ぎて、どうしようもなくなってしまうらしい。

(まずい)

子種を搾り取られるように淫華が強く締め付けて来たので、蒙恬はようやく下腹を突くのをやめる。

馬車の中で身を繋げるのは信も蒙恬も初めてのことで、御者に気づかれるのではないかという危機感や、隠れながらいけないことをしている背徳感に、いつもより興奮している自分に気が付いた。

 

 

信の体を抱え直して、蒙恬は上目遣いで彼女を見上げた。

「動くよ」

彼女の返事を聞く余裕もなく、蒙恬は下から腰を突き上げる。

「んッ、うんんッ」

手の甲で必死に唇に蓋をして声を抑えるものの、肉と肉を打ち付け合う音は隠し切れない。

汗ばんでいる肌と肌を密着させて、体の内側だけでなく外側まで繋がろうと、唇を重ね合った。

丸々とした尻の双丘を両手で掴み、より深く男根を飲み込ませる。
最奥にある子宮を突いているというのに、まださらに奥へ行けそうなほど、凄まじい結合感だった。

信と体を重ねる度に、どんどん一つになろうとしている。
最初から自分たちは一つの生命体で、元の姿に戻ろうとしているのではないかと錯覚してしまうほど、愛おしさも結合感も増していく。

「信ッ…」

腰を突き上げる度に卑猥な水音に合わせて、熱い吐息が交じり合った。

「も、蒙恬ッ」

悩ましげに眉根を寄せながら、信が切迫した声で名前を呼ぶ。蒙恬が腰を突き上げる動きに合わせて、信も腰を揺らして男根を受け止めていた。

絶頂に近づくにつれて、信が蒙恬の背中を掻き毟る。爪を立てるのは快楽に吞まれないよう、無意識のうちにやっているらしい。
以前も行為を終えた後、蒙恬の肩や背中に血が流れていることに気づいた信が青ざめて謝罪して来たことは記憶に新しい。

しかし、爪を立てられる甘美な痛みよりも、好いている女と一つになっているという結合間の方が何倍も勝っているし、何より信につけられた傷痕だと思うと、それだけで愛おしかった。

喜悦と込み上げる射精欲を噛み締めながら、蒙恬は信の首筋に舌を伸ばす。

「気持ちいい…信の中、気持ちいいっ…!」

まるで子どものような口調になってしまう。
男として、ましてや夫になるのだから、自分が彼女を導くべきだと頭では理解しているのだが、時々こうして子どもの部分が出て来てしまう。まだ彼女に甘えていたいという現れなのだろうか。

無駄な肉付きが一切ないくびれのある細腰を引き寄せ、目の前で揺れる豊満な胸に唇を押し付けた。

硬くそそり立っている芽にちゅうと吸いつき、上下の歯で挟んでやると、信が体をくねらせてしがみついて来る。

「ふあ、っ、あッ、んぁっ、ぅう」

声を堪えなくてはという意志は僅かに見えるのだが、口を閉じる余裕もなくなっているくらい、もうどうしようもなくなってしまっているらしい。

淫華がまた男根に強く吸い付いて来て、蒙恬の目の奥で火花が散った。

「あ…し、信っ…あ、俺、もうっ…」

もう二人には余裕などほとんど残っておらず、ただお互いを求め合う獣と化している。
絶頂を迎える寸前、蒙恬は信の顔を引き寄せて強引に唇を重ねた。

「んッ、んんーッ!」

急に呼吸を妨げられ、信がくぐもった声を上げた。

「ッ…!」

下腹部で痙攣が起こるのと同時に、全身が燃え盛るように熱くなり、快楽が脳天まで突き抜けた。

意識までも持っていかれそうな強い快感に、蒙恬は縋りつくものを探して、信の体を力強く抱き締める。

背中に回されていた信の腕にも、ぎゅうと力が込められた。

彼女の体も、火傷でもしたかのように大きく跳ね上がり、淫華がこれ以上ないほど男根を締め上げて来る。

普段なら、すぐに男根を引き抜いてから射精をするのだが、今日は違う。
愛おしさのあまり、最後まで信と繋がっていたかった。淫華も痙攣しながら男根を包み込んでいて、一緒に絶頂を迎えたことが分かった。

「はあッ…あ…」

愛しい女の一番奥深くに自分の子種を植え付ける感覚は、今まで感じたことのないくらい気持ち良くて、恍惚とした感情に胸が満たされていく。

「ぁ、は…ぁう…」

腹の奥に熱い子種が吐き出される感覚を、信もしっかりと感じ取っているようで、うっとりと目を細めていた。

蕩けたような、とろんとした顔がかわいらしくて、蒙恬は堪らず唇を重ねてしまう。長い絶頂が終わっても、二人はずっと口づけを続けていた。

「んぅ、むッ…ぅんん…!」

息が苦しいと信が蒙恬の胸をばしばしと叩く。

はっと我に返って唇を離すと、信が大口を開けて呼吸を再開する。
互いに熱い吐息を掛け合いながら、また貪るように唇を重ね、汗ばんだ体を強く抱き締め合った。

絶頂の余韻に浸りながら、蒙恬は幸福感に胸がいっぱいになる。

「…な、中…」

「うん?」

「良かった、のか…?」

以前、まだもう少しだけ二人きりの時間が欲しいと話していたのに、堪らず中で射精をしてしまったので、子を孕んでしまうかもしれないと言いたいのだろう。

責め立てる様子は一切ないものの、確認するように問われて、蒙恬は恥ずかしがりながらも、笑顔で頷いた。

「…本当は、婚儀の後でって思ってたんだけど…我慢出来なかった」

上目遣いで甘えるように信を見つめてから、再び唇を重ね合う。
まだ足りないという蒙恬の気持ちに応えるように信が舌を絡ませて来たので、燃え盛っていた情欲の炎はますます煽られるばかりだった。

未だ信の淫華に飲み込まれたままの男根が再び芯を取り戻していく。信もそれに気づいたようで、物欲しげな視線を向けて来た。

しかしその時、馬の嘶きと共に、馬車の揺れが止まる。

「―――お屋敷に到着しました」

 

 

外から御者に声を掛けられ、二人は弾かれたように顔を上げる。気まずそうに信が目を逸らし、慌てて腕の中から抜け出そうと身を捩った。

しかし、未だ蒙恬の男根を受け入れている淫華は、まだ離れたくないと包み込んで来る。芯を取り戻して来た男根もまだ離れたくないと主張していた。

「う、っ…」

信が眉根を寄せて、なんとか男根を引き抜こうとする。
腰を上げようとするものの、絶頂の余韻から覚めやらぬ体が震えていた。上手く力が入らないらしい。

「…蒙恬様?いかがなさいましたか?」

「あ、ああ、えっと…」

返事のないことを不審に思った御者が再び声をかけて来たので、蒙恬はとっさに普段通りを装い、外から開けられぬように慌てて声をかける。

「信が少し揺れに酔ったみたいだから、このまま少し休ませる」

御者の返事を聞いてから、そういえば目的地に到着したのなら、普段はすぐに扉を開けられるのに今日は違うと気が付いた。

もしかしたら信の心配通りに御者にすべて聞かれていたのかもしれないが、こちらの状況を察した上で扉を開けないでいたのなら、その気遣いはとてもありがたい。

腕の中にいる信に顔を寄せた蒙恬は、額と額をこすり合った。

「…部屋まで我慢できる?」

「……、……」

声を潜めて確認され、信は涙目で小さく頷いた。
行為を始める前は、蒙恬の方が我慢できないと駄々を捏ねていたはずなのに、今ではまるで立場が入れ替わったようである。

「じゃあ、名残惜しいけど、一回抜くね」

「ん、んうっ…!」

蒙恬が信の細腰を掴んでその体を持ち上げると、一度男根を引き抜いた。引き抜かれる瞬間も甘い刺激に、信の体が大きく震えた。

蜜と精液が混ざり合った白濁が未だ二人の陰部を繋いでいる。
蒙恬は手早く着物の乱れを直すと、腕の中ですっかり脱力してしまっている信の着物も整えてやった。

「…やっぱり部屋で休ませることにするよ。出るから開けてくれる?」

外で待機している御者に声をかけ、馬車の扉を開けさせる。蒙恬は信の背中を膝裏に手を回してその体を抱き上げると、すぐに馬車を降りた。

密室の中に立ち込める男女が交わっていた淫靡な匂いと空気は誤魔化せないし、恐らくは扉をすぐに開けなかったことから御者も中で何が行われていたのか気づいているだろう。

しかし彼も蒙家の家臣であり、二人が夫婦になることを喜んでいる一人だ。子孫繁栄を喜ぶとしても、よからぬことは考えないに違いない。

門をくぐって屋敷の敷居に足を踏み入れるなり、家臣たちが帰宅した主を出迎えてくれた。挨拶もほどほどに、蒙恬は信を抱えたまま足早に別院へと向かう。

僅かに乱れている着物のまま、赤い顔で荒く息を吐きながら別院へと急ぐ二人を見て、賢い家臣たちも何かを察したようだった。

別院に踏み入れると、蒙恬は一直線に寝室へ向かう。

「しばらく誰も部屋に近づかないで」

主に頭を下げている従者たちに視線を向ける余裕もなく言い放った。
従者によって、背後で扉が閉じられたことにも気づかず、蒙恬は信の体を寝台へ下ろすと、すぐにその体を組み敷いた。

「んうっ」

唇を重ね、舌を絡ませながら、二人はお互いに着物を脱がせ合う。

馬車の中で簡単に着物の乱れを整えていたとはいえ、帯もほとんど外れており、着物を脱がせるまでにそう時間はかからなかった。

 

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続行

すぐに脚を開かせると、つい先ほどまで蒙恬の男根を咥えていた信の其処から、粘り気のある白い精が零れていた。

「あっ…」

すぐに指ですくい上げて中に押し込むと、信の体が小さく跳ねる。先ほど絶頂を迎えたばかりの体は僅かな刺激でも敏感に反応するようだった。

「も、蒙恬…」

手を伸ばして、信が蒙恬の男根に触れる。
指で輪っかを作り、何度か扱かれるとそれだけで蒙恬は息を荒げた。先ほど射精したばかりだというのに、信に触れられるだけで何度でも絶頂を迎えてしまいそうだった。

「ふうっ、ぅ…ん」

唇を重ね合いながら、舌を絡めながら、お互いの性器を愛撫し合う。

馬車の中で一度果てたはずなのに、すでに蒙恬の男根は芯を取り戻していたし、信の淫華もまた蜜を溢れさせている。

溢れ出る蜜で子種が流されてしまわないように、蒙恬は淫華に子種を擦り付けた。最奥にある子宮には特に念入りに擦り付ける。

「あっ、はあ…」

信の腰が震え始め、淫華が指に強く吸い付いて来た。
奥までよく濡れている肉癖を擦り上げると、信が何か言いたげに、切なく眉根を寄せて見つめて来る。もちろん彼女が何を求めているかなど、手に取るように分かる。

「ね、また挿れてもいい…?」

「う…」

信が小さく頷いたのを見て、蒙恬は指を引き抜くと、彼女の膝裏に手を回した。大きく足を広げさせ、視線を視線を絡ませ合う。

「く、ぅ…」

それを合図に、蒙恬はゆっくりと腰を前に押し出した。今も熱く滾ったそこは蕩けていて、男根が溶かされてしまいそうになる。

この中に男根を突き挿れるだけで、自分は男として生まれて来て良かったという喜びにただ浸ることが出来た。

「はあっ…あっ、あ、ん…」

最奥まで男根を突き挿れると、哀切の声を上げて、信が両腕を背中に回して来た。縋るものを探して、背中を掴む指に力が入ったのを感じ、蒙恬は絶頂に向けて再び腰を突き上げ始めるのだった。

盲目なまでに、幸福感で胸を満たしながら、二人は互いを求め合った。

 

このシリーズの番外編②はこちら

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初恋は盲目(蒙恬×信)後編

  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 蒙恬×信/ギャグ寄り/年齢差/IF話/嫉妬/ハッピーエンド/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

このお話は「初恋の行方」の後日編です。

中編はこちら

 

不貞の罰

呆れ顔の昌平君が腕を組み、何かを考える素振りを見せる。

「…状況は読めぬが、私は執務のために、これから蒙恬に会いに行かねばならん。信、お前も来い」

「いやだ」

顔を合わせることはおろか、もはや蒙恬の名前を聞くのも嫌だと、信はそっぽを向いた。

「もしも不貞が事実だとすれば、処罰を下すことになる。婚約者であるお前の証言が必要だ」

処罰という言葉を聞き、信はぎくりとする。
まだ婚姻を結んだ訳ではないので、不貞の罪が認められたとしても、そこまで厳しい処罰は下されないだろうと自負していた。

しかし、昌平君の冷静な物言いに、まさか丞相権力でも使って厳しい処罰を下すのではないかと不安を覚えた。

(ま、まずいことになったんじゃ…)

蒙恬が自分以外の女性と関係を持っていたことを知った衝撃のあまり、昌平君に愚痴を零してしまったことを信は後悔した。

それに、此度の件で婚姻が白紙となったことを親友である嬴政が不審に思い、蒙恬の不貞を耳にしたとしたら、きっと処罰が下されるのは確実だ。

もしも蒙恬が嬴政から不貞の件を責められて、厳しい処罰を命じられたらと思うと、顔から血の気が引いていく。

確かに不貞の件は許されることではないが、そこまで重い処罰は望んでいない。
狼狽える信を見て、昌平君は彼女の考えていることを読み取ったように肩を竦めた。

「…蒙恬がお前以外の女と関係を持っていたのは事実だが、大将軍に昇格した頃には、すべて清算したと誇らしげに話していた」

「え…?」

信と正式の婚姻を結ぶ前、大将軍に昇格するまでの蒙恬は、数々の女性と褥を共にしていた。

誰彼構わずではなく、れっきとした婚約者候補の女性たちであるが、蒙恬は信との初夜のために技を磨いていたと話していた。それが事実なのか建前なのかはよくわからない。

彼の年頃なら女性と遊びたい盛りだと言っても過言ではないし、しかし、蒙恬が自分に向けてくれる愛情は本物だと疑わなかった。

「…見極めるのはお前だ、信」

昌平君の言葉には重みがあった。

蒙恬から向けられていた、ひたむきな愛情を受け入れるのも、一切彼を信じないことも、自分で決めろと言われてしまい、信は唇を噛み締める。

強く拳を握って瞼を下すものの、浮かび上がるのは自分でない女性を相手にしている蒙恬の姿だった。

「俺だって…あいつのこと、信じたかった…」

でも、と言葉を紡ごうとした途端、頭頂部に物凄い衝撃が落ちて来る。

「いってえ!?何すんだよッ」

雷の如くげんこつを落とされ、痛みのあまり、涙目で昌平君を睨みつける。

「今この場で見極めろと言った覚えはない。自分が納得するまで、蒙恬の不貞の確証を得るまで行動しろ」

「…んなこと、言われたって…」

「此度の件、大王様の耳に入れば、まだ婚姻を結んでいないとはいえ、確実に罰せられるだろう。お前と大王様が親友でなければ回避出来たやもしれぬが」

ひゅっ、と信は息を飲んだ。

 

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妻や妾以外の女性と関係を持つことは重罪とされている。蒙恬が大将軍となった途端、これまでの女性たちとの関係を清算したのも、そのためだろう。

蒙恬との婚姻が決まった報告をすると、嬴政はとても喜んでくれていた。

二人の婚儀には必ず顔を出すことも約束してくれたし、親友である信の花嫁姿も楽しみにしていると、まるで身内のような温かい言葉を掛けてくれたことも覚えている。

しかし、親友の夫となる男が不貞を働いたなどと知れば、怒った嬴政が処罰を命じるのは確実だと昌平君は予見した。

「え、えっと…不貞の罰って、なんだ…?」

宮刑※男は去勢だ。婚姻を結んでいないとはいえ、大王様が命じれば避けられぬ」

もしも勅令により、蒙恬が去勢されて、蒙家に子孫を残せなくなったとしたらと思うと、信は全身が凍り付いてしまうほど恐ろしくなった。

まさか不貞の罪で罰せられれば、嫡男の立場どころか、大将軍としての地位も失うだろう。

弟の蒙毅がいるとはいえ、彼は武官の道を歩んでいないし、不貞の罪で裁かれた息子をあの父親蒙武が許すとも思えない。
勘当されるどころか、父によって斬首されるのではないだろうか。

嬴政と蒙武の逆鱗に触れて、蒙恬が全てを失ってしまうのではないかと思うと、いたたまれない気持ちに包まれる。

「慈悲を頂けたとしても、お前という親友をたぶらかした罪で、一族の地位剥奪もあり得る」

「………」

開いた口が塞がらない。

蒙驁がここまで築き上げてきた蒙一族が、蒙恬の不貞行為によって壊滅の危機に陥っている。
処刑を免れたとしても、幼い頃から恵まれた環境で育って来た蒙恬が、低い身分で慎ましく生きていけるとは到底思えなかった。

昌平君も旧友である蒙武と、彼の息子である自分が師として軍略を教えて来た弟子二人のことを想えばこそ、見過ごせないのだろう。

「そ、…そうだな…ほんとなのか…確かめねえと…」

つい先ほどまで蒙恬に裏切られたと涙を流していた信であったが、今は蒙恬と蒙一族の未来が心配でならなかった。

 

確証

無言で廊下を歩いていく昌平君の背中に続き、待ち合わせをしていたという執務室に向かう。

扉を開けると、蒙恬はまだそこにいた。てっきりもう居なくなっているのではないかと思っていたが、彼がそこに残っているのは昌平君の予見通りだったようだ。だからこそ信を連れて来たのだろう。

「………」

部屋の隅で膝を抱えている姿はまるで、こっぴどく母親に叱られた子供のようで、信は呆れ顔になってしまう。

虚ろな瞳はすでに泣き腫れていて、頬には涙の跡がいくつかあった。ずっとそうやって泣いていたのだろうか。

少しも動かないことから、どうやら昌平君と信が来訪したことにも気づいていないようだった。

「あ…」

彼の傍には蒙恬のことを押し倒していた女性が立っており、昌平君と信に気づくと、彼女は迷うことなくその場に膝をついて頭を下げた。

「申し訳ございませんッ!!」

開口一番に謝罪をされて、信と昌平君が目を丸める。

驚いている二人の顔を見上げることもなく、令嬢は頭を下げたまま話を始めた。

「私は、来月には嫁ぐ身。誓って、蒙恬将軍との不貞の事実はございません。どうか、どうか罰せられるなら、私だけを…!」

誤解だと訴える女性に、信は戸惑った瞳で蒙恬を見た。

令嬢が頭を下げずに慈悲を訴えているというのに、蒙恬は心ここにあらずといった様子で、今もなお二人が来たことに気づいていない。

「じゃ、じゃあ、なんで蒙恬と二人で…」

なるべく令嬢を怯えさせないように、信が穏やかな口調で問う。

「…幼い頃、奴隷商人からお救いくださった方の手がかりを探していたのです」

「奴隷商人…」

はい、と頷いた令嬢が、過去の奴隷商人の事件について話し始めた。

咸陽の城下町、二人組の奴隷商人、狙われた貴族の子どもたち…心当たりがあり過ぎるその話を聞いていると、

「当時はまだ幼かった蒙恬将軍も、二人組の奴隷商人に馬車で連れ去られたのです」

その言葉が決定打となった。忘れもしない。あの事件で信は初めて蒙恬と出会ったのだから。

もう十年以上は前のことなので、おぼろげではあるが、芋づる式に当時の記憶がどんどん浮かび上がってくる。

「えっ…それじゃあ、まさか、あの時のガキの一人か!?」

令嬢が笑みを浮かべて頷いた。その双眸にはうっすらと涙が滲んでいる。

 

それからもう一度、彼女は額を床に押し付ける勢いで頭を下げた。

「信将軍だと存じ上げず、あの時にお救いくださった方をずっと探していたのです…蒙恬将軍様にお伺いを立ててしまい…勢いのあまり、誤解されるような真似を…」

あの時、自分を助けてくれた者の正体を知りたいあまり、蒙恬に強引に迫ってしまったのだと令嬢は何度も謝罪した。

「な、なんだ…そういうことだったのか…」

心の中のわだかまりが溶けていき、信は長い息を吐き出した。

背後では昌平君も納得したように話を聞き入っている。これで蒙恬の不貞の罪は晴れ、蒙一族も悲劇を免れた。

しかし蒙恬といえば、ずっと虚ろな瞳のまま、膝を抱えている。

仕方ねえな、と信は肩を竦めてから、彼の前にゆっくりと歩み寄った。

 

関係修復

「蒙恬」

名前を呼んで肩を揺すると、虚ろな瞳が鈍く動いた。ようやく目が合うと、蒙恬の瞳に僅かに光が戻る。

「信…?」

一方的に破談だと告げられて、よほど傷心したのだろう。
離れてからそれほど時間は経っていないはずだが、あまりにも憔悴し切っているものだから、一気に老け込んでしまったように見えた。

「………」

令嬢の証言によって誤解は解かれたとはいえ、一方的に破談だと告げてしまった気まずさもあって、信はなんと声をかけるべきか分からずに口を噤んでしまう。

後ろから痛いほどの視線を感じて振り返ると、何か言いたげに昌平君が腕を組んでいた。
この様子だと、昌平君は初めから蒙恬の無実を予見していたようだ。

それならさっさと教えてくれれば良かったのにと心の中で毒づくも、自分の早とちりのせいで蒙恬を傷つけてしまったことには変わりない。

「その…悪かった。さっきの話はなしだ」

すぐには信じられなかったのか、蒙恬はゆっくりと瞬きを繰り返している。

呆けた表情で見上げた蒙恬は、涎を垂らしてしまうのではと心配になるほど口をぽかんと開けていた。

「ほんと…?」

まるで子どものような聞き返しに、信がふっと頬を緩ませる。

「ああ、破談にはしねえよ」

すぐに頷くと、蒙恬の瞳がみるみるうちに歓喜の色を浮かべていく。

「信~ッ!!」

ぎゅうと体を抱き締められ、肺が圧迫される苦しみに信が呻いた。
大人になって、大将軍の地位を得たくせに、中身は変わっていないなと信は笑ってしまう。

令嬢も無事に誤解が解けたことにほっと胸を撫でおろしていたが、蒙恬に抱き締められている信を見つめる眼差しには、どこか切ない色が混じっていた。

ごほん、と昌平君がわざとらしい咳払いをする。

「あっ、先生も軍師学校から戻られたんですね?」

ようやく昌平君もこの場にいたことに気が付いたらしい。

先ほどの蒙恬の放心した姿を見るのは昌平君も初めてのことだったので、ようやく普段から見慣れている彼に戻ったことで、昌平君も安堵した表情を浮かべていた。

蒙恬の腕の中から抜け出した信は、同じく安堵した表情を浮かべている令嬢を見る。

「そっか、お前もあの時のガキだったのか…蒙恬と同じで、立派になったんだな」
令嬢が淑やかに頭を下げる。

「信将軍のおかげです。あのとき、もしも助けてくださらなかったら、どうなっていたかと思うと…」

ずっと信のことを探していたように、当時のことをまだ鮮明に覚えているのだろう。攫われた時の恐怖を思い出したのか、令嬢の顔がわずかに強張った。

咄嗟に信は彼女の肩を優しく叩いていた。

「もう大丈夫だ。これからは、お前を守ってくれる男がいるんだろ。…もしも妻の一人も満足に守れないような男だったら、俺がその根性叩きのめしてやるから、引きずっててでも飛信軍に連れて来い」

力強い言葉を聞き、強張っていた令嬢の顔がみるみるうちに笑顔に変わっていった。

「…お前たち夫婦が安心して暮らせるように、俺たちが全力でこの国を守っていく。だから、安心しろ。な?」

そう語った信の顔に、つい先ほどまで見せていた弱々しさは微塵もなかった。

「信将軍…」

令嬢はわずかに唇を震わせて何かを言いかけたが、それをやめて、笑顔で頷いた。

なんとなく、彼女が言わんとしていた言葉を予想した蒙恬はとっさに信の着物を引っ張ってしまう。

「蒙恬?」

不思議そうに眼を丸めている信に、蒙恬は何も言わずに笑みを浮かべる。上手く笑えているだろうかと不安になったが、信にはそれが作り笑いだと見抜けなかったらしい。

 

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ムーンライズ・領主の帰還
宝石姫

 

「…軍政の件だが、また日を改める。今日はもう帰っていい」

三人の傍に立っていた昌平君が本題を引き戻した。
このまま話し合いを始めても、蒙恬が信を放さないことは目に見えている。昌平君の言葉に、蒙恬は満面の笑みを浮かべて礼を言った。

「行こう、信」

「え、あ?お、おう…」

部屋を出ようとした寸前、蒙恬が思い出したようにゆっくりと後ろを振り返る。

「それじゃ、…末永くお幸せにね」

端的な挨拶をしてから、蒙恬は信の手を引いて部屋を出て行った。

今日の話し合いが保留になったとなれば、このあと蒙恬が信と一緒の時間を過ごすことは目に見えている。

もしかしたら婚儀の前に、信の懐妊の報告を聞くことになるのではないかと考えて、昌平君はやれやれと肩を竦めた。

(…息子に正式な手順を教えておくべきだったな、蒙武)

本来は婚儀を執り行い、正式に夫婦と認められてから初夜に臨むものなのだが、信を愛するあまり、蒙恬は幾つもの手順を無視している。踏み外しているのではなく、無視だ。

蒙驁も蒙武も、信が蒙家に嫁入りすることには賛成しているようだし、一族の繁栄を考えればこそ、彼女が懐妊する時期も特に定めていないのだろう。

…そこまで考えて、一般的とされる規則を破って子を儲けようとする弟子に、つい口を出してしまいそうになる自分は、頭の固い老人扱いされてしまうかもしれないと危惧したのだった。

 

帰路にて

屋敷へ帰還する馬車に揺られながら、二人は気まずい沈黙の中でじっと俯いていた。

馬車に乗り込むまでは、誤解が解けたことに上機嫌でいた蒙恬だったが、また暗い表情を浮かべている。

誤解が解けたとはいえ、信を傷つけたことは事実だし、信も破談を言い渡して蒙恬を傷つけたのは事実なので、お互いに何を話せば良いかわからなくなっていたのだ。

隣に座っている蒙恬から、時々視線を向けられるのを感じたが、信もずっと口を噤むことしか出来ない。

(あ…)

膝の上に置いている手に、そっと蒙恬が自分の手を重ねて来たので、信は反射的に顔を上げてしまった。

「信」

眉根を寄せて、まるで祈るような表情で、蒙恬がじっとこちらを見据えている。
そんな表情を見せられれば、信もこれ以上黙っているわけにはいかなかった。

「えと、あの…悪かった…ちゃんと、話も聞かないで…」

風音が吹けばすぐにでも搔き消されてしまいそうなほど小さな声で謝罪する。しかし、蒙恬の耳にはしっかりと届いたようだった。

「ううん。俺の方こそ、すぐに追いかけて説明すれば良かったのに、しなかったから…不安にさせたよね」

確認するように上目遣いで見つめられ、信は戸惑ったが、ちいさく頷いた。

「ごめん、ごめんね、信」

今にも泣きそうなほど弱々しい表情を浮かべた蒙恬に、信は胸が締め付けられる。

「…信が部屋から出て行った後、破談になるんだって諦めちゃって…追いかけられなかった」

「………」

鼻を啜ってから、蒙恬が言葉を続ける。

「信を傷つけたのは変わりないし、何を言っても、不安にさせちゃうって、わかってたから…」

ますます嫌われることになるのが嫌だったのだと打ち明ける蒙恬は、今にも泣き出してしまいそうな表情で、それは決して演技などではなく、本音だと分かる。

「…もういい。分かったから…」

手を伸ばして、慰めるように蒙恬の頭を撫でてやった。

「信…」

静かに名前を囁いた蒙恬が甘えるように上目遣いで見つめて来る。
ゆっくりと蒙恬が顔を寄せて来たので、信は応えるように目を閉じた。

「ん…」

唇を重ね合うと、昨夜まで習慣的にしていた行為のはずなのに、なぜだか今はとても懐かしい感覚に襲われた。

離れていた心の距離を埋めるように、何度も唇を重ねて、蒙恬は信の体を抱き締めたまま離さない。

「ふ…ん、ぅ…」

口づけを深めると、信は恥ずかしそうに舌を伸ばしてくれた。

堪らなくなって、蒙恬が信の着物の衿合わせの中に手を忍ばせて来る。驚いた信が蒙恬の体を押しのけて、強制的に口づけを終わらせてしまった。

「ば、バカッ!なに考えてッ…」

馬車の外に御者がいるというのに、まさかこんなところで体を求められるとは思わず、信は顔を真っ赤にさせた。

何も言わずに蒙恬が信の体に抱きついた。脚の間にある硬くて上向いているものを押し付けると、あからさまに信が狼狽えた。

屋敷に着くまで、まだ時間がかかるのは信も分かっていたが、だからと言ってこんな馬車の中で体を重ねれば、絶対に御者に気づかれるだろう。

業者は蒙家に昔から仕えている従者で、彼でなかったとしても、誰かに営みを聞かれるのは嫌だった。こればかりは羞恥心に勝てそうもない。

 

 

「だめ…我慢できない」

しかし、口づけ以上のことがしたいという自分の欲求を抑えられず、蒙恬が駄々を捏ねる。

あのまま本当に破談になってしまったらと思うと、二度と信に会えなくなるのではと恐ろしくてたまらなかったし、本当に彼女が戻って来てくれたのだという事実を体を重ねることで実感したかった。

彼女と体を一つに繋げる時の幸福感は何にも代え難い。誤解のないように言っておくが、快楽に溺れている訳ではなく、愛しい女をこの腕に抱いているという実感は、男が生まれて来た喜びでもあるのだ。

「こ、ここ、馬車ん中だぞっ?」

外の御者に聞かれぬよう、声を潜めて訴えかけられるも、蒙恬は幼子のように首を横に振る。

「誰に聞かれてもいいし、見られても恥ずかしくないよ。俺たち、正式に夫婦になるんだもん。後ろめたいことなんて何もない」

「~~~ッ…」

目を泳がせた信が返事に悩んでいる。

彼女が気にしているのは将軍としての立場だとかそういう堅苦しいものではなく、単なる羞恥心によるものだと蒙恬は分かっていた。

もしも信が誰にでも軽率に足を開くような、羞恥心と道徳が欠如した女性だったのなら、蒙恬は早々に見限っていただろう。

しかし、そうではなかった。彼女は自分と蒙家の未来を思って、自分を蔑んで、何度も婚姻から手を引こうとした。

そんな信だからこそ、愛おしくて、絶対に手放したくなかった。

「信…」

蒙恬の手は止まらず、彼女の右手をそっと掴むと、自分の足の間に導かせる。
硬く上向いたそれを確かめさせるように、着物越しに触らせると、信が目を見開く。

「…ね、だめ?」

確認するように上目遣いで見上げると、彼女は真っ赤な顔のまま、わずかに開いた唇を震わせていた。

 

妻への助言

…その後、馬車の中で濃ゆい時間を過ごした二人だが、屋敷に戻ってからも濃ゆい時間は続いた。

今では寝台の上ですっかり動けなくなってしまった信は恨めしそうに蒙恬を見据えている。

「信、ほら、水だよ」

「………」

蒙恬といえば、彼女とは反対に活き活きとした表情で信の看病を行っていた。宮廷では膝を抱えて情けない姿を見せていたというのに、顔つきも肌と髪の艶も、はたまた雰囲気まですべて別人である。

笑顔で水の入った杯を差し出してくる彼に、無性に苛立ちを覚えるものの、信は黙って杯を受け取って水を一気に飲んだ。

馬車の中では御者に気づかれぬように必死に声を堪え、屋敷に戻ってからはさんざん叫びつくした喉に水が染み渡る。

寝室に閉じこもる前に、蒙恬は従者に人払いを命じていたが、きっと何をしていたかは知られているに違いない。

「はあ…」

腹の内側に未だ蒙恬の男根があるかのような甘い疼きに、信は深い溜息を吐いた。

「…無理させてごめん」

「………」

寝台に腰かけた蒙恬が申し訳なさそうに謝罪するものの、あまりの倦怠感に信は返事をするのも億劫だった。

馬車の中は密室とはいえ、外にいる御者に聞かれたらどうするのだと何度も言ったのに、結局は子どものように駄々を捏ねる蒙恬に絆されてしまった。

屋敷に帰還してからも寝室に連れ込まれて、つい先ほどまで体を重ねていた訳だが、何度も蒙恬の男根を受け入れていた淫華が焼き付くようにひりひりと痛む。

夫となる男と体を重ねる行為自体は嫌いではないのだが、なんというか、蒙恬の若さゆえか、かなり体力を消耗することになるのだ。

飛信軍の指揮を執る将として、信自身も日頃から厳しい訓練を行っているものの、蒙恬と体を重ねると、動けなくなってしまうほど疲労するし、腹が減る。

布団の中で信の腹の虫が鳴いたのを聞きつけ、蒙恬は穏やかな表情を浮かべていた。

「夕食は部屋に持って来させるよ。俺が食べさせてあげる」

「………」

それほど動けない訳ではないが、むしろ、そこまで無理をさせた自覚があるのなら少しは加減をしろと睨みつけた。

あれだけ激しく体を重ねていたというのに、蒙恬は疲労を感じていないのだろうか。もしも本当にそうなら、身を重ねたことで自分の精気を吸い取った化け物だと信は心の中で毒づいた。

もしかしたら、蒙恬はあの美しい顔の下に、人の精気を吸い尽くす化け物を飼っているのかもしれない。

そんなことを考えてみるものの、もう二度と婚姻を破談するつもりはなかった。

 

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信の隣に横たわりながら、蒙恬が嬉しそうな視線を向けて来た。

「そうだ。俺、信にぴったりな助言を思いついたんだよ」

「?」

助言という言葉に、信は目を丸める。

彼女の隣にごろりと横たわった蒙恬は、汗で額に張り付いた信の前髪を指で梳いた。

「上品な歩き方。信はいつも着物の裾を踏んづけたり、視線があちこち向いちゃうでしょ」

普段練習している歩き方に対しての助言らしい。まさか情事の後にそんな話を持ち出されると思わなかった。

「特別なことは何もしなくて良い。戦場を見渡すみたいに、将として、堂々と胸を張って前に進んでみて」

「え?」

「そりゃあ着るのは鎧じゃないけど…でも、その方がきっと、信らしさが出るはずだから」

確かに今までは着なれない着物や靴、はたまた髪飾りで身に着け、頭の先から足のつま先まで束縛感を感じていた。

高価な着物を踏んづけないだろうか、歩幅はこれくらいで良いのだろうか、視線はどこに向け続けたら良いのだろうか、さまざまな不安と疑問を抱えながら歩く自分にぎこちなさが現れていたのは自覚していた。

それを改善するために蒙恬が練習に付き合ってくれていたのだが、戦場だと思えという助言が意外だったので、信は呆気に取られてしまった。

「戦場って…婚儀はめでたい場じゃねえのかよ」

「信の堂々とした姿は美しいもん。論功行賞の時もそう。…強さと自信に満ち溢れていて、誰もが背中を追いかけたくなる」

鼻息を荒くしながら興奮気味に語る蒙恬に、信はそれは言い過ぎだと額を小突いた。

「なんでいきなりそんな助言を思いついたんだよ」

蒙恬がにんまりと両方の口角をつり上げる。
微笑を浮かべるだけでも多くの女性たちから黄色い声が上がる蒙恬だが、そのにやけているその顔を見せるのは信だけだった。

「色々懐かしいことを思い出したんだ。あの子のおかげだよ」

あの令嬢と再会したことで、奴隷商人から救出してくれた信の勇姿を思い出したことがきっかけだという。

まさかあの時は助けてくれた少年が少女だったとは思いもしなかったのだが、あの騒動があったからこそ、蒙恬はずっと信に惚れ込んでいると言える。

「信は俺のお嫁さんで、俺の子どもの時からの英雄だから」

真顔でよくそんな恥ずかしいセリフを吐けるものだと信は頭を掻いた。

「うっ…」

体を動かした途端、腰に鈍痛が走り、信は寝台の上にぐったりと沈み込む。

「しばらく練習は休む…」

「えっ?どうして」

普段から練習を怠ることのない信が休息を優先する発言に、蒙恬が不思議そうに首を傾げた。

まさかこんな動けない状態にあるというのに、すぐにでも練習しようとでも言うと思っていたのだろうか。

ただでさえ揺れの多い馬車の中で身を重ね、その後もろくに休むことなく、この寝室で身を重ね合っていたのだ。ずっと揺すられていた腰がとにかく辛いし、彼を受け入れるために広げてていた脚も悲鳴を上げていた。

力を入れようとすれば内腿がぶるぶると震え始め、これ以上酷使しないでくれと訴えていた。

「お前のせいで足腰が立たねえんだよ。こんなんで歩ける訳ねえだろ…」

つい言葉に棘が生えてしまうが、蒙恬の自業自得だ。
棘のある言葉を聞いても、蒙恬の顔から笑みが崩れることはない。

「ごめんね、仲直り出来たのが嬉しかったから」

「ったく、仕方ねえな…」

子どものような無邪気な笑顔が憎らしくもあるが、絆されたように、結局は許してしまう。
それだけ自分は蒙恬に惚れ込んでいるのだと、認めざるを得なかった。

初恋とは、盲目になるまじないのようなもの、なのかもしれない。

 

番外編(割愛した馬車内のシーン)はこちら

The post 初恋は盲目(蒙恬×信)後編 first appeared on 漫画のいけない長編集【ドリーム小説】.

初恋は盲目(蒙恬×信)中編

  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 蒙恬×信/ギャグ寄り/年齢差/IF話/嫉妬/ハッピーエンド/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

このお話は「初恋の行方」の後日編です。

前編はこちら

 

宮廷での執務

宮廷に到着し、蒙恬は昌平君が執務に使っている一室へと案内された。

しかし、昌平君の姿はそこになく、どうやら軍師学校での執務を終えて今向かっている途中なのだそうだ。

昌平君が来るまでは軍政の話も進まないので、蒙恬は椅子に腰を下ろして、師である彼を待つことにした。

(信は一人で練習してないかな…無茶してないと良いけど…)

気品高い歩き方というものは、良い家柄に生まれた者が幼い頃からその身に叩き込まれる習慣である。

しかし、下僕は重い荷を背負ったり、農作業や家事など、常に下を向いて重労働を行う。もちろん主や家の者が現れると、作業を中断して頭を下げなくてはならない。

歩幅や着物の乱れをいちいち気にしていては仕事が進まないし、仕事が滞れば主から厳しい罰を与えられる。
それが日常である下僕は、背筋を正して歩幅や着物を気にしながら歩く習慣とは無縁だった。

貴族の娘の侍女として仕えるのなら多少の教育は受けるようだが、信は違う。幼い頃はその外見のせいで、男同然に重労働や家事を強いられていたようだし、王騎の養子となってからも、淑女としての教育は一切受けなかった。

王騎は信の将の才を見込んで、身寄りのない彼女を迎え入れた。養子だとしても命の危機に晒されるほどの厳しい鍛錬を強いられて、信曰く下僕時代よりも地獄の日々を送ったのだという。

王騎は信を嫁がせるつもりなどなく、秦軍の戦力の一つとして彼女を育てていたのだろう。それほどまでに信の将の才は凄まじいものだったのだと分かる。

鍛錬といえど、常に命の危険と隣り合わせだった信には、淑女としての教育を受ける時間などなかったのだ。

信自身も必要ないと感じていたのだろうに、他でもない自分のために練習をしてくれていると思うと、愛おしさが込み上げて来る。

信と自分が出会ったのは、他でもない彼女が天下の大将軍を目指していたからこそで、彼女が下僕のままだったのなら一生出会うことはなかったに違いない。

奴隷商人から自分と大勢を救い出してくれた信の勇姿は今でも覚えているし、今思えば、あの一件を通して自分は彼女に心を奪われたのだ。

(あーあ、早く会いたいなあ)

頬杖をついて蒙恬は信に想いを馳せる。離れていても信のことばかり考えてしまう。

信が傍にいる時はもちろん、そうでない時であっても機嫌が良いことを従者たちによく指摘されるのは、彼女と婚姻出来る幸福と、その先にある夫婦としての生活に胸が満たされているからだ。

 

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「蒙恬将軍」

扉の外で待機していた兵に声を掛けられ、蒙恬はようやく昌平君が来たのかと立ち上がる。

しかし、声を掛けてくれた兵は何やら焦った様子で扉を開けると、困ったように蒙恬に視線を向けて来た。

「どうした?」

「来客がいらっしゃったのですが…その…」

言葉尻を濁した兵は、何か言いたげに蒙恬と扉の外にいるらしい来客へ交互に視線を向けている。

通して良いのか判断を蒙恬に委ねようとしているようだが、あまりにも困惑した表情でいるため、蒙恬は小首を傾げた。

(…もしかして、信?)

嬴政のもとに顔を出したいと話していた彼女が、こっそりついて来たのだろうか。

思い立ったら考えるよりもすぐ行動へ移す彼女ならやりかねないと、蒙恬は肩を竦めた。
自分の嫉妬で秦王には会わないでほしいと訴えたものの、やはり二人の親友という関係性は手強い。

宮廷に来てしまったのなら追い返す訳にもいかないし、信も言われていたのに宮廷に来てしまったことに罪悪感を覚えて顔を出しに来たのだろう。

「いいよ、通して。あ、しばらく人払いもしておいてくれる?」

「よ、よろしいのですか?」

蒙恬が指示を出すと、兵が再確認をして来た。どうしたのだろうと思いながらも、蒙恬は頷いて信を待つ。

兵が来客を通すために一旦下がると、蒙恬はやれやれと苦笑を浮かべた。

屋敷で待つように話していたのに、わざわざ自分に会いに来た信の気持ちを考えると無下には出来ないし、愛おしくて堪らなかった。

「信ってば、屋敷で待っててって言ったのに……えっ?」

入って来たのが自分の妻になる女性ではなく、全く面識のない女性であったことに、蒙恬は大口を開けた。

 

上品な着物を身に纏い、髪も丁寧に結い上げられている彼女を見れば、どこかの令嬢であることが分かる。

気品高く歩き、蒙恬の前にやって来たその彼女は意志の強い瞳を持っていた。

ぴんと張られた一本の弦のように立ち姿も美しい。見目からして、恐らくは蒙恬と同い年くらいだろう。

(えーっと…?)

蒙恬が言葉に悩んだのは当然だった。
自分を尋ねて来たということから、彼女の方には蒙恬に面識があるのだろうが、蒙恬にその女性に関しての全く記憶がないのだ。

記憶の糸を手繰り寄せて見るものの、名前の一つも出て来ない。

これだけ美しい令嬢であるのなら、忘れるはずがないと思うのだが、記憶からは何も手がかりが出て来なかった。

とはいえ、自分を尋ねてくれた女性に恥を欠かせる訳にはいかない。
当たり障りない対応で何とかこの場をやり過ごし、令嬢には早々にお帰り頂くことに決めたのだった。

「どうも、ご機嫌麗しゅう」

酒の酔いで褥を共にした女性でないことを祈りながら、蒙恬はいつものように人の良い笑みを繕う。

信と褥を共にする日のために、蒙恬はそれなりに夜の場数を踏んで来た。一々名前など覚えていないのだが、もしかしたらその女性のうちの一人かもしれない。

蒙恬の言葉に女性は笑顔を浮かべると、これまた美しい一礼で返した。

「…あなた様が蒙恬将軍ですね?突然のご訪問、申し訳ございません」

(ん?初対面で間違いないのか?)

確認するように名前を復唱されたことから、向こうにも自分の面識がないのではないかと考えた。

こちらに面識があるのならば、名前を確認するような質問はしないだろう。
だとすれば、思い出せないとしても納得がいく。そもそも彼女とは出会ったことがないのだから、思い出せないのは当然のことだ。

「それで、本日はどのような用件で?」

心の中でこっそり安堵しながら、彼女の来訪の目的を問う。

「実は、十年以上前のことなのですが…蒙恬様に助けていただいたことがあるのです。将軍昇格をされたと伺い、ささやかではございますが、お祝いの言葉を」

「ああ…」

なるほどと蒙恬は頷いた。
一応、初対面ではないようだが、彼女の言葉を聞く限り、こちらが思い出せないとしても不思議ではない。

それに、宮廷を出入り出来るということは、恐らく父親が宮廷を職場にしている高官なのだろう。

今日は宮廷に自分がいると知り、ついでに顔を出したというところだろうか。
そうと分かれば、不安に思うことは何もないと、蒙恬は笑みを深める。

「信将軍とのご婚約もおめでとうございます。心から祝福致しますわ」

「ありがとうございます」

蒙恬が信と婚姻する話は、すでに秦国で広く知れ渡っている事実だ。

過去に褥を共にした女性たちからは恨みつらみが綴られた書簡が送られることもあったのだが、彼女の言葉には一切の棘を感じないので、蒙恬との婚姻を狙っていたわけではなさそうだ。腹の内を探る必要もないだろう。

「それで、あの…是非とも蒙恬様にお伺いしたいことがございまして」

どうやら本題はそちららしい。将軍昇格と婚約の祝辞は建前といったところか。

「答えられる範囲であるならば、何なりと」

機密事項は洩らすことは出来ないことを前提に返すと、令嬢の目の色が変わったので、蒙恬は思わず身構えた。

あの時・・・、蒙恬様とご一緒に、奴隷商人を成敗してくださった方を探しているのです」

「………」

蒙恬はしばらく沈黙した。

彼女が自分に助けられた十年以上前の話をしているのだというのは理解したのだが、その言葉だけではあまりにも情報が欠けている。

過去に奴隷商人を成敗したことなんて、あっただろうか。

「ええと、奴隷商人から…?」

「はい」

蒙恬が聞き返すと、令嬢は大きく頷いた。

先ほどまでお淑やかにしていた彼女が前のめりで詰め寄って来るあたり、どうやら相当その情報が欲しいらしい。

敵地の領土を手に入れた時の制圧手続きで、親を失った子どもたちが奴隷商人たちに引き取られていくのを見たことはあったが、直接働きかけた覚えはなかった。

必死に蒙恬が記憶の糸を手繰り寄せていると、

「覚えておられませんか?私もあなたも、奴隷商人の馬車に乗せられ、何処ぞへ売られそうになったのです」

「…ああ!」

彼女の言葉を助言に、信と初めて出会った日のことを思い出した蒙恬はつい大声を出した。

 

回想~英雄との出会い~

「もしかして、城下町で…?」

蒙恬の言葉を聞いた、令嬢が満面の笑みを浮かべて何度も頷く。

「そうです!あの時、私も家臣たちと離れたところを狙われてしまい、蒙恬様と同じように馬車の檻に囚われていたのです」

それはもう今から十年以上も前の話だ。

蒙恬はまだ幼い子どもだったにも関わらず、家庭教師の女性に恋をしていた。
もちろんその初恋は実ることなく、子どもながらに失恋の辛辣さを経験した息子を気遣い、父が咸陽に連れていってくれたのだ。

父の蒙武が宮廷での執務をこなしている間に、蒙恬はじィの胡漸と城下町を回っていた。
普段目にしない露店や並んでいる品々に蒙恬ははしゃぎ、大勢の民衆が行き来する城下町の中で胡漸とはぐれてしまったのだ。

その時に、一緒に胡漸を探すのを手伝ってくれようとした親切な男がいて、後に正体を知ることになるのだが、彼は違法の奴隷商人であった。

やり方は実に姑息で、戦争孤児でもない家柄の良い子どもたちに親切に近づいては、馬車の檻に閉じ込めて、そのまま商品として売りに出していた。

蒙恬も胡漸とはぐれて一人でいるところを、その違法の奴隷商人に目を付けられてしまったのである。

馬車の檻に閉じ込められて、このまま見知らぬ土地へ売られてしまうのかと心が絶望に沈んでいたところを助けてくれた者がいる。その救世主こそ、信だった。

彼女は咸陽で起こる人攫いの事件を独自に調査しており、蒙恬が連れて行かれるのを見つけ、尾行していたのである。

違法の奴隷商人は二人組だった。
一人は蒙恬に声を掛けたように、商品となる子供を連れて来る役割を担い、もう一人は馬車の檻に閉じ込めた子どもたちを見張る役である。

信が連れ去られる蒙恬を尾行したことによって現場を突き止めたのだが、子どもたちの見張りをしていた男は、何としても逃れようと馬車を走らせた。

馬車の檻に囚われている子どもたちごと逃がしてしまうと信が必死に追いかけたものの、人と馬ではあまりにも足の速さは違う。

そこで蒙恬は他の子どもたちと共に檻から脱出を試みた。
その甲斐あって、全員が多少のかすり傷は負ったものの、捕らえられていた子どもたちは無事に脱出したのだった。

さらには、これ以上の被害者を出さぬように、蒙恬は機転を利かせて信と協力し、馬車を転倒させて、二人の奴隷商人を逃すことなく捕らえたのである。

「檻から脱出する時は、とても怖かったですが、蒙恬様の力強いお言葉が背中を押してくれたんです」

「…まさか、あの時…一緒に檻の中に!?」

蒙恬が驚愕の表情のまま問うと、令嬢は何度も頷いた。

あの時はとにかく脱出することと、奴隷商人を捕らえることに必死だったので、一緒に捕らえられていた子どもたちの顔など朧げにも覚えていなかった。

しかし、あの場にいた者しか知らない状況を話していることから、嘘偽りではなく、彼女もあの時の被害者だったのだと直感する。

彼女が蒙恬のことを知っていたのは、蒙恬が馬車に乗せられそうになった時に、奴隷商人たちが蒙家の嫡男だと話をしていたことを覚えていたからだったという。

「お互い、無事で良かった」

思わぬ共通点の発覚に、蒙恬は素の笑顔を浮かべた。すっかり敬語も砕けてしまう。

あの時に信が助けてくれなかったら、自分たちは見知らぬ地に売り飛ばされていたかもしれない。

もしそうなっていたら、自分たちがここで再会することもなかっただろう。低い身分に落とされて労働を強いられていたかもしれないし、妓楼や物好きな男のもとで奴隷同然の生活を送っていたかもしれない。

蒙恬が信に恋心を抱いたのはこの後で、男だと思っていた英雄の正体が、実は自分と少ししか歳の違わない少女であったと知ってからだった。

 

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英雄の正体

「それで、ええと、何だったっけ」

すっかり懐かしい思い出話に花を咲かせてしまい、蒙恬は令嬢の目的を忘れてしまっていた。

嫌な顔一つすることなく、彼女は先ほどと同じ言葉を繰り返す。

「あの時、蒙恬様とご一緒に、奴隷商人を成敗してくださった方を探しているのです」

その言葉を聞いて、彼女が探し求めているのは信だと確信した。すぐに伝えようと思ったのだが、

「あの青い着物の御方にも、ぜひお礼を申し上げたくて…」

「………」

白粉おしろいで白く見せているはずの肌が、赤く火照ったのを見て、蒙恬は答えるのを躊躇ってしまった。

頬を赤く染めて、悩ましげに眉根を寄せているその表情を見れば、彼女が自分たちを助けてくれた英雄に、どういう想いを抱いているのかが分かる。

「…蒙恬様?」

声を掛けられて、蒙恬は何とか笑顔を繕った。

「もしかして…君は、その人のことが…?」

「………」

彼女は返事をしなかった。
しかし、より頬を赤らめて俯いたところを見る限り、肯定していると言っても過言ではないだろう。

十年以上前になるとはいえ、今でもずっとその英雄に…つまりは信のことを想い続けているようだ。

蒙恬はあの後で信が女だと知る機会があったものの、どこからどう見ても同じ男だと思っていたのに、少女だと知った時はとても驚いた。

(うーん…どうしたら…)

あの時自分たちを助けてくれた英雄の正体が女だったと知ったら、彼女は恥をかいたと思うのではないだろうか。

今では中華全土でその名を知らぬ者はいない信将軍だと告げれば、納得してくれるかもしれないが、長年ずっと女に恋をしていたという事実を知り、行き場のない怒りの矛先を信本人に向けるのではないかという不安を覚えた。

正体を告げれば、彼女を傷つけることになり、それだけではなく信にも何かしらの被害があるのではないかと思うと、蒙恬はなかなか切り出せなかった。

「えっと…」

少し考えてから、蒙恬はゆっくりと口を開く。

「俺も、その人にお礼を言おうと思ってて、ずっと探していたんだけど、手がかりが全然なくて…」

言葉を濁らせると、令嬢は残念そうに笑った。
どうやら蒙恬が英雄の正体を知らないと答えることは、彼女の中では想定内だったらしい。

「そうですか…あの後、奴隷商人たちを役人へ引き渡すのに、すぐに行ってしまいましたものね」

「うん、残念だけど…」

このまま英雄の正体を明かさない方が彼女のためだと、蒙恬は考えた。
それが勝手な考えだとしても、傷つくことを分かっていながら辛辣な真実を告げるのは、必ずしも正しいとは思えない。

蒙恬は英雄の正体を隠し通すことを決めたのだった。

 

 

「…それにしても、もう十年も前の話なのに、今もよく探していたね」

感心しながらそう言うと、令嬢は恥ずかしそうにはにかんだ。

奴隷商人たちを役人に引き渡した後、信は蒙恬のもとへ戻って来てくれた。一緒に城下町を歩いているときに蒙恬とはぐれてしまったのだと胡漸が泣きながら信に助けを求めたらしい。

もしも胡漸が信に助けを求めていなかったら、きっと信は奴隷商人たちを引き渡したあとに、蒙恬に声をかけることなく王騎と共に帰還していたに違いない。

蒙恬と同じように攫われた子供たちは、目の前の彼女を含めてすぐに保護された。

あの奴隷商人たちを捕らえた者に、子供たちの親は是非ともお礼をしたいと探していたらしい。

しかし、信は善意と正義感から子供たちを助けたとはいえ、褒美目当てに行ったわけではない。そのため、騒動が落ち着いてからもずっと名乗らずにいたらしい。

「役人の御方たちにも聞いて回ったのですが、さすがに当時のことを覚えている方は一人もいらっしゃらなくて…」

「…それは、仕方ないね」

信から奴隷商人の身柄を預かった役人たちまでもが彼女の名前を出さなかったのは、王騎が裏で情報操作を行っていたのかもしれない。

話を聞く限り、どうやらこの令嬢は名前も名乗らずに去っていった英雄の手がかりをあちこちで探していたらしい。

十年以上も前のことだというのに、諦めずに今でも手がかりを探しているということから、相当な執念を感じさせる。

それだけ信へ強い想いを寄せているのだと思うと、ますます正体を明かせなくなった。

「お礼も伝えていませんし、ましてやお礼の品も受け取られていないのではないかと思うと…」

信は褒美目当てに事を起こすような女ではない。
もしも信が褒美目当てに事を起こるような将だったのなら、幼心に蒙恬も感付いただろう。

信がひたむきに天下の大将軍を志していたからこそ、蒙恬はいつまでも変わらないその真っ直ぐな心と強さに惹かれたのだ。

「私…」

令嬢が寂しそうに微笑んだので、蒙恬は思わず小首を傾げた。

「…私も、もう来月には嫁ぐ身。どうか、あの方にお礼を告げて、思い残すことがないようにと思っているのです」

令嬢の言葉を聞く限り、そしてその表情を見れば、彼女が信を男性だと思い込み、恋をしているのは明らかである。

婚約者がいる立場でありながら、まだ彼女の心にはわだかまりが残っているらしい。まさかそこまで信のことを想っているとは思わなかった。

「あれだけ大いなるご活躍をされたというのに、讃えられることもなく、褒美さえ受け取られていないのではないかと思うと、なんだか心苦しくて…」

「ああ、うん。信は・・褒美なんて欲しがる性格じゃないからね」

「え?」

「あっ」

つい洩らしてしまった蒙恬の独り言を聞きつけ、令嬢が目を見開いた。

「今…もしかしてあの御方のお名前をおっしゃいました!?」

「いや!今のは…」

しまったと思った時には時すでに遅し。令嬢の勢いに火を点けてしまったようだ。

「やっぱり何か知っていらっしゃるのですね!」

珍しく口を滑らせてしまったと後悔するものの、反省するのは後だ。
とにかく今は何とかこの場をやり過ごさなくてはと、蒙恬は頭を切り替える。

「今のは本当に、本当に、ただの独り言で、助けてくれた人とは関係ないよ」

笑顔を繕って何とかその場をやり過ごそうとするのだが、令嬢の勢いは止まらない。蒙恬の両肩を掴むと、まるで餌を前にした飢えた獣のように目をぎらつかせる。

「いいえ!確かにお名前をおっしゃいました!何かご存じでしたら、どうか教えてください!」

うろたえている蒙恬を逃がすまいと令嬢が両肩を掴む手に力を入れて来る。

「うわッ!?」

後ろに逃げようとした途端、足がもつれてしまい、その場に倒れこんでしまった。蒙恬の両肩を掴んでいた令嬢も、その勢いのまま一緒に倒れ込んでしまう。

「きゃっ」

自分が下敷きになったせいで令嬢が怪我を負うことはなかったものの、背中を打ち付けた蒙恬は痛みに歯を食い縛った。

「大丈夫ですかっ?」

我に返った令嬢が心配そうに顔を覗き込んできたので、蒙恬は何とか笑顔を浮かべて頷く。

さっさと退いてくれるのかと思いきや、どうやら令嬢はまだ信のことを聞き出すのを諦めていなかったらしい。

「どうかもう一度あの方のお名前を教えてください!」

まさかこの状況でも話を続けられるとは思わず、蒙恬は顔を引きつらせた。

礼儀作法がしっかりしている令嬢だと思っていたのに、自分の想い人のことになるとそれしか考えられない性格らしい。まさに恋は盲目というやつだ。

蒙恬は信に出会う前に、家庭教師の女性に初恋を抱いていたが、当時の年齢で考えると、この令嬢の初恋相手は信なのかもしれない。

ずっと信に片思いをしていた蒙恬も、その気持ちが分からないわけではなかった。
それでもここは引けない。令嬢の気持ちを傷つけないため、そして何より信のためを想ってのことだった。

「さ、さっきのは本当に違うんだって!」

「何が違うというのですか!あの方のお名前でしょう!?」

想い人でも婚約者でもない男を押し倒しているところを誰かに見られたら確実に大変なことになると、今の彼女の頭にはないらしい。

長年の片思いが実り、やっと信と婚約が決まったというのに、悪い噂が流れれば確実に信を傷つけてしまう。

信と婚姻を結ぶことを夢見て、大勢の女性たちを過去に相手して来たが、今ではその関係をきっぱりと絶っている。だというのに、この場を誰かに目撃されてしまえば、すべてが水の泡だ。

「だ、だからっ、俺の話を聞いてって!」

令嬢の両手首を掴んで、多少強引に彼女の体を押しのけようとする。

「いいえ、もう我慢なりません!」

しかし、制止すればするほど、探し求めている人物の情報を持っていると確信されてしまったようで、少しも引く気配を見せない。

参ったなと蒙恬が何とか言い訳を考えていると、背後で扉が開けられた音がした。

反射的に振り返ると、屋敷にいるはずの信が呆然とした表情でこちらを見つめている。

目が合って、蒙恬はまるで頭から水をかけられたような、全身から血の気が引いていく感覚を覚えた。

「えッ!な、なんでここに!?」

今日は屋敷にいると話していたはずの彼女がどうして宮廷にいるのだろうか。やはり親友に会いに来たのかと考えるものの、蒙恬はそれよりも今の状況を思い出して、さらなる冷や汗を浮かべた。

令嬢に押し倒され、蒙恬は彼女の両手首を掴んで抵抗を試みているのだが、何も知らぬ者が見たら男女の仲だと思われてもおかしくはない。

たとえ蒙恬が信と婚姻を結ぶことが決まっていたとしても、不貞をしていると誤解されてもおかしくない状況だった。

「―――破談だ」

低い声できっぱりとそう言い放った信が足早に行ってしまう。

破談という言葉が耳から入って脳に伝わった瞬間、蒙恬はひゅっ、と笛を吹き間違ったような音を口から零した。

「し、信っ!待って!誤解だからーっ!」

必死に呼びかけるものの、信が戻ってくることはなかった。

 

破談の危機

(…終わった…)

蒙恬は魂が抜け落ちてしまったのではないかと思うほど、ぽかんと口を開けたまま、虚ろな表情を浮かべていた。

ようやく退いてくれた令嬢が、信が出て行った扉と蒙恬を交互に見る。

「い、今の御方は…まさか、信将軍ですか?」

「……うん」

この世の終わりだという顔で蒙恬が頷いた。
令嬢もやっと冷静になってくれたようだが、もう全て手遅れである。

今にも自害してしまうんではないかというほど暗い表情のまま、蒙恬は膝を抱えた。

長年の片思いがようやく実り、そして信も自分を同じ想いであったのだと知って有頂天になっていた罰が下ったのだ。

こんな大きな幸福に対して、いつか恐ろしい代償が来るのではないかと不安に思っていたが、まさに今がその時である。

すぐに追いかけて誤解を解くべきだと考えたものの、こうと決めたら絶対に意志を曲げない信が大人しく話を聞いてくれるとは思えなかった。

さすがに令嬢も自分の行動で破談に直結してしまったことを反省しているのか、申し訳なさそうに眉根を寄せている。

「あ、あの…先ほど、信将軍と同じ名前を…?」

膝を抱えながら、蒙恬は小さく頷いた。

「そ、それじゃあ…あの時、私たちを助けてくださったのは…」

「うん、そう…信だったんだよ」

先ほどまでは令嬢の気持ちや信への被害を考慮していたのだが、今となってはもうどうでも良かった。

ずっと探し続けていた英雄の正体が、中華全土で名を広げている女将軍であったと知り、令嬢は愕然としている。

わなわなと唇を震わせて青ざめている様子を見れば、ずっと想いを寄せていた英雄の正体が女だったという事実を受け入れられないでいるようだった。

「…ごめん」

本当は正体を隠しておこうと考えていたのだが、思わぬ形で勘付かれてしまい、蒙恬は謝罪した。

「本当は、君の話を聞いて、すぐに信だって分かったんだ。でも…君がそれを知って傷つくのは、目に見えていた」

令嬢の顔が悲痛に歪んだのを見ても、蒙恬はもう何も感じなかった。

「正体を知らなかったとはいえ…君が真実を知って、辱めを受けたことを理由に、信に何かをするんじゃないかって思うと、嫌だったんだ。…悪いけど、こっちが本音」

あの英雄の正体が実は女だったと知って、彼女を傷つけたくなかったという気持ちがあったのも本当だ。

しかし、蒙恬の中では、最愛の信を傷つけられることが一番許せない。夫になるのだから、守り抜くと誓えばいいものを、自分の見ていない場所で信を傷つけられるのではないかという不安は拭えなかった。

自分はなんて弱い男なんだと蒙恬は自己嫌悪に走る。

すぐに追いかけて誤解を解こうとしなかったのも、本当は彼女に罵詈雑言を向けられるのが怖かったからだ。

長年の片思いが実り、さらには信が自分と同じ気持ちだったと知ってから、彼女を失うことをますます恐れるようになっていた。

ずっと恐れていた現実が急に目の前に現れて、蒙恬は弱々しい表情で膝を抱えることしか出来ない。

この場に令嬢がいなければ、幼子のように大声を上げて泣き喚いていたに違いなかった。もしそんなことになれば、屋敷の留守を任せている胡漸が泣き声を聞きつけて何事かと飛んで来るに違いなかった。

「軽率なことをしてしまい、…本当に、申し訳ありません…」

泣きそうになっていたのは令嬢もだった。その謝罪を聞いても蒙恬の胸の痛みが引くことはない。

しかし、逆上されなかったことから、英雄の正体が信であるという事実を受け入れてくれたようだ。

膝を抱えながら、蒙恬は乾いた笑みを浮かべることしか出来ない。

彼女が信の正体を今さら知ったところで、自分たちの婚姻が破談となったことは変わりないのだから。

 

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破談の危機 その二

普段よりも早足に廊下を進みながら、信はこみ上げる怒りを何処にぶつければ良いのか悩んでいた。

(ふざけやがって…!あいつ、本当は女に会うために宮廷に来たのかよ!)

昌平君と軍政の執務があると話していたのに、いざ蓋を開けてみれば見知らぬ女性と密会をしていただなんて思いもしなかった。

普段なら扉の前に見張りの兵が立っているはずなのに、それもなかったことから、恐らく事前に人払いをしていたのだと気づく。

執務だと嘘を吐いてまで、こんな昼間から不貞行為をしようとしていた婚約者に、信は殺意に近い怒りを抱いていた。

自分を欺いた男と婚姻を結ぶなんて考えたくもない。婚姻を結ぶ前に蒙恬の不貞を知ることが出来て良かったとさえ思う。

これが婚姻を結んだ後に発覚したのなら、確実に蒙恬は処罰を受けていただろうし、信も減刑を嘆願することはなかったに違いない。

幼い頃からの付き合いもあり、不貞の罪で処罰を下される代わりに、婚約を白紙に戻すことで解決に合意してやろうと考えた。

自分と恋仲になる前から、女に不自由していなかったのだから、今後の婚姻に関しては何ら問題ないはずだ。

それこそ信がずっと蒙恬に言い聞かせていた蒙家の未来を想えばこその、相応しい女性が妻になることだろう。

もう二度と顔も見たくないと、信は荒い息を吐きながら、ひたすらに廊下を進む。

「わぶッ!?」

曲がり角のところで、信は誰かと思い切りぶつかってしまい、派手な音を立てて尻もちをついた。

「ってーな!どこ見て歩いてんだよ!」

怒気を籠めながら、ぶつかった人物の方を睨みつける。
自分の不注意だとは百も承知だが、相手のことを気遣う余裕など、今の彼女には微塵もなかった。

「よそ見をしていたのはお前の方だろう」

尻もちをついている信に手を差し伸ばしたのは昌平君だった。

反射的に信がその手を掴むと、軽々と体を起こされる。普段は頭ばっかり使っているくせに、いったいどこにそんな腕力を隠し持っているのか、信には不思議でたまらなかった。

「はあ…」

痛む尻をさすりながら重い溜息を吐くと、昌平君の眉根が不機嫌の色を浮かべた。

「人の顔を見て溜息を吐くな」

もっともらしい指摘を受けるが、信は何も言い返す気になれなかった。
ここに昌平君がいるということは、蒙恬が昌平君に宮廷に呼び出されたというのも嘘だったのだろう。

親友である嬴政に見初められたら嫌だという理由で、宮廷には来ないでほしいと言われたが、それさえも不貞の現場を目撃されないように吐いた嘘だったのだ。

あれだけひたむきに愛情を向けられていたと思ったのに、結局は独りよがりだった。

「……う…」

みるみるうちにその瞳に涙を浮かべて鼻をすすった信に、昌平君が珍しくぎょっとした表情を浮かべる。

堪えようと思えば思うほど、目に涙が押し寄せてきて、いよいよそれを堰き止められなくなると、滝のように涙が溢れ出た。

「うううー」

顔をくしゃくしゃに歪ませて涙を流している信に、昌平君が唖然としている。傍から見れば昌平君が泣かせたと誤解されかねない状況だ。すれ違う侍女や兵たちが不思議そうな顔をして二人に視線を送ってくる。

しかし、信は彼らの視線や、わずかに狼狽える昌平君のことなど構いもせずに胸の奥から押し寄せて来る言葉を吐き出した。

「お、俺が、浮かれてたんだ…やっぱり、蒙恬が、俺なんかを選ぶはずがなかったんだ…」

しゃっくりを上げながら、信が言葉を紡ぐ。
まるで状況がわからないとはいえ、彼女が蒙恬の名前を出したことに、昌平君は溜息を吐いた。

「…痴話喧嘩なら屋敷でやれ」

文句を言われるものの、堰を切ったように溢れる涙と同様に愚痴が止まらない。

「あ、あいつ、お前に呼ばれたって嘘吐いて、俺に隠れて、浮気してたんだよッ!!」

頬を伝う涙を手の甲で拭いながら事実を訴えると、昌平君は片眉を持ち上げた。

「…不貞行為は知らぬが、私が軍政のことで蒙恬を呼び出したのは事実だ」

「え…」

「軍師学校の執務が予定より長引いたので、これから蒙恬と合流するところだ」

昌平君の言葉を理解するまでに、やや時間がかかった。

「え…じゃ、じゃあ、お前に宮廷に呼び出されたのは、嘘じゃないのか…?」

ああ、と昌平君が頷く。
驚きのあまり、ようやく涙が止まってくれたが、それでも胸を締め付ける不安を拭うことは出来なかった。

聡明な蒙恬のことだから、昌平君の不在を良いことに、女性を呼び出したとも考えられる。
誤解が一つ解けたところで、蒙恬が不貞を働いたのは覆せない事実だ。

複雑な表情を浮かべたまま俯いてしまった信を見て、昌平君は深い溜息を吐いた。

 

後編はこちら

The post 初恋は盲目(蒙恬×信)中編 first appeared on 漫画のいけない長編集【ドリーム小説】.

初恋は盲目(蒙恬×信)前編

  • ※信の設定が特殊です。
  • 女体化・王騎と摎の娘になってます。
  • 一人称や口調は変わらずですが、年齢とかその辺は都合の良いように合わせてます。
  • 蒙恬×信/ギャグ寄り/年齢差/IF話/嫉妬/ハッピーエンド/All rights reserved.

苦手な方は閲覧をお控え下さい。

このお話は「初恋の行方」の後日編です。

 

予行練習

その日は、昨夜の暗雲が嘘だったかのように、空は青く澄み渡っていた。

咸陽宮の城下町には多くの坐買露店が立ち並んでおり、大勢の民で賑わっている。

人混みの中で、唯一道が開けている場所があり、その道を歩んでいる男女がいた。秦将の蒙恬と信である。

秦国には欠かせない将の二人が歩いていることに気付くと、民たちはすぐに道を開けていく。

民たちは、二人に対して畏まるような態度を取るよりも先に、微笑ましい視線を向けていた。

彼らの視線に気づく余裕もなく、桃色の上質な布で織り上げて金色の刺繍が施された着物に身を包んだ信は、地面を睨みつけるようにして歩いていた。

それは大勢の民から向けられている視線に嫌悪したのではない。

「大丈夫?信」

ずっと傍で見守っていたが、いよいよ耐え切れずに蒙恬が信に声を掛けると、自分の腕を握っている信の手に、ぎゅっと力が込められたのが分かった。

「は、話しかけんな、今すげえ集中してるんだよッ」

ふんだんに桃色の布を使った女性用の着物に身を包んだ信は、髪にも高価な宝石が埋め込まれた髪飾りをつけており、美しい刺繍が施されている靴を履いていた。

頭のてっぺんから足の先まで美しく装飾された信が何に集中しているのかといえば、気品高い歩き方・・・・・・・である。

何故そんなことをしているのかというと、それは他でもない蒙恬との婚儀のための練習だった。

先に控えた婚姻の儀と祝宴の際、夫に恥を欠かせぬようにと、信は生まれて初めて女性らしい立ち振る舞いについてを学んでいるのである。

普段のように、着物の乱れを気にせずに大股で歩くのは禁忌だ。歩幅は控えめに、背筋をしっかりと伸ばし、視線は地面ではなく、ちゃんと前を見据える。

名家に生まれ育った者たちならば、そういった教育も幼い頃から受けるようだが、下僕出身である信には覚えがなかった。

王騎と摎の養子として名家に引き取られたものの、武の才を見初められて引き取られたことで、そういった教育はされなかったのである。

養子として引き取られた時には、歩き方や言葉遣いなどは子供ながらに確立してしまっており、今さら正そうとしても時間がかかると思われたのかもしれない。

信自身もまさかこの年齢になって嫁に貰われることになるとは思ってもおらず、今になって猛特訓を行っているという訳だ。

しかし、戦の才を見出されて王騎の養子となったので、そういった教養も不要だと判断されたのだろう。机上で何かを学ぶ行為を苦手とする信が、淑女教育を強要されていたら、三日と持たず逃げ出していたかもしれない。

 

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「…そんなに力むから、返って変な姿勢になる。足下じゃなくて、真っ直ぐ前を向いて」

さり気なく歩き方の助言を行う蒙恬は、喜んで信の練習に付き合うと自ら立候補した。

一人で練習させて怪我をさせるのは忍びなかったし、何より他の男に練習相手を務めさせるのが単純に嫌だった。
話を聞けば、飛信軍の副官や兵たちが何名か練習相手として名乗り出たんだとか。

めでたく信との婚約は決まったが、それでも自分以外の男と並んで歩く彼女の姿なんて絶対に見たくない。

ますます独占欲が深まっていく自分に呆れてしまうが、きっとそれは他の誰よりも信のことを愛しているからだ。

「お、おわッ!」

「信っ」

着物の裾を踏んづけて、前のめりに転倒しそうになる信を咄嗟に抱き止める。

柔らかい肢体をしっかり支えてやり、やはりこれは夫になる自分だけの大役だと蒙恬は確信した。

着物の乱れを整えてやってから、蒙恬はにこりと微笑む。

こちらに視線を向けている女性たちの多くがその笑顔に頬を赤らめていることに、蒙恬は気づいていなかった。

以前なら、気軽に手を振って黄色い声を上げさせていたのだが、信が傍にいる時の蒙恬は、これから妻になる彼女のことしか視界に入らないのである。

「もう一度やろうか。しっかり前を向いて」

蒙恬の助言を受けた信は足下ではなく前を向き、まずは一歩踏み出した。先ほどと違って背筋も真っ直ぐに伸びているし、不格好な歩き方が改善されている。

…しかし、また時間が経つと、裾を踏んでしまわぬか心配なのか、信は少しずつ視線を足元へ下ろしてしまう。

「…信?また下向いてる」

「あっ、お、おう!」

指摘された信はすぐに顔を持ち上げるものの、やはり時間が経つと同じように俯いてしまう。

とはいえ、以前は三歩歩けば裾を踏んづけていたし、その過程からみると、随分と成長したように思う。歩幅が狭まったことで女性らしい歩き方に少しずつ近づいて来たのだろう。

婚儀と祝宴さえ終われば、このような畏まった格好もする機会はないだろう。猛特訓と称した信の努力は今しか見ることが出来ない。

さらに婚姻の儀では今以上に華やかな嫁衣かいを身に纏うことになる。採寸は既に終えており、一流の職人が美しい絹で仕立てている最中だ。

値打ちを聞いた信が目を剥いて、一度しか着ないのだからそんな大金を掛けるなと説教じみたことを言ってくれたが、生涯で一度しか着ないからこそ特別なものに仕立ててもらいたかった。

戦場で鎧に身を包む信の姿も嫌いではなかったが、この世で一つしかない婚礼衣装に身を包んだ信の姿を、蒙恬は今からとても楽しみにしていたのである。婚儀を終えた夜に、その特別な婚礼衣装を脱がす楽しみも、もちろん忘れていない。

嫁衣を用意するのは本来、花嫁の実家であるが、今の信には後ろ盾がないのだ。

さらに、信は普段から着る物に無頓着であり、贔屓にしているような仕立屋がないらしい。
彼女自身は大将軍として多大なる給金を得ているものの、嫁衣を準備するにあたっては、夫となる蒙恬が用意すると名乗り出たのである。

蒙恬が信の嫁衣を依頼したのは、蒙家が昔から贔屓にしている仕立屋で、職人の腕は確かだ。

世界で一つだけの嫁衣に身を包んだ信の姿を想像するだけで、蒙恬は胸がいっぱいになってしまう。

「…信?」

信の眉間から深い皺が消えなくなって来た頃、蒙恬は一度足を止めた。

「そろそろ休もうか?」

「いいっ!しっかり支えてろ!」

ムキになって言い返す姿に苦笑を浮かべてしまう。彼女には随分と頑固な面がある。
しかし、夫となる自分の顔に泥を塗らぬよう猛特訓に励む姿が、堪らなく愛おしかった。

 

 

いくら体力のある信とはいえ、慣れていないことを続けるには集中力も体力も消耗しやすい。

彼女の顔に疲労の色が濃く浮かんでおり、裾を踏む回数も少し増えて来たので、今日はここまでにしようと練習を打ち切ることにした。

婚儀までは、まだ十分に月日がある。そう急ぐこともないだろう。

屋敷に戻るまでは普段の動きやすい着物に着替えることが出来ないので、蒙恬は待たせていた御者に指示を出し、馬車の手配を頼んだ。

馬車の扉が開き、先に階段を上がる。振り返って信に手を差し出す。

「足元に気をつけて」

「散々気をつけただろ…」

不服そうな表情で、信が蒙恬の手を取る。裾を踏まぬよう気をつけながら、数段しかない階段を上がると、二人して馬車に乗り込んだ。

「はあ、やっぱり慣れねえな…」

従者によって扉が外から閉められると、信が盛大な溜息を吐いた。

「最初の頃よりは大分進歩したと思うけど」

「んー」

どうやら、信にとって今日の出来栄えはあまり良くないものだったらしい。

「…そういや、前から思ってたんだけどよ。なんでわざわざ城下町で練習する必要があるんだ?歩くだけなら屋敷でも出来るだろ。どうせ婚儀は室内で執り行うんだし…」

「え?あー…」

蒙恬はさり気なく項を掻いた。

「ほら、婚儀には蒙一族が集まるし、王一族も飛信軍もみんな来るだろうから、普段とは違う大衆の視線や雰囲気に慣れておくのも悪くないかなって」

「ああ、それもそうだな」

納得したように信が頷いたので、蒙恬は内心安堵した。

歩く練習だけならば屋敷の敷地内でも出来るのに、わざわざ大勢の民衆が出入りしている城下町を練習場として選んだのは蒙恬だった。

建前として練習の一環であると答えたが、実際は違う。

信に悪い虫がつかぬよう、そして彼女は自分の妻になるのだということを大いに知らしめる目的があったのだ。

そんな子どもじみた独占欲を民衆に振りまいていると知られれば、確実にげんこつを食らうと予想出来たので、これは蒙恬だけの秘密である。

優秀な従者たちはもしかしたら気づいているかもしれないが、何も言わずにいてくれるのはありがたい。

「…自分で馬を走らせてえな」

窓から見える景色を眺めながら、信がぼそりと呟いた。
戦場でも普段の移動でも、自ら馬に跨ることの多い信は、馬車に乗るのは未だ慣れないようだ。

名家の生まれである蒙恬は幼い頃から乗り慣れている移動手段だが、下僕出身である彼女にしてみれば、お偉いさんの乗り物という認識をしている。

将軍の座にまで昇格した信も十分にお偉いさんの部類に入ると思うのだが、いつまでも高い地位に就いたことを鼻に掛けないところが彼女らしい。

戦場で手綱と武器を握って馬を走らせる信の姿は、後光が差しているように見えるし、まさにその姿は天下の大将軍であり、兵たちの士気を高め、軍を勝利へ導く戦の女神のようにも見えた。

蒙恬のもとに嫁ぐことが決まってから、信は多くの民と兵たちに祝福をされている。

下僕出身の身でありながら、天下の大将軍と称された王騎の養子となったことも、名家の嫡男に嫁ぐということも、下賤の者たちからは羨望の声が上がっているという。

(さすが、俺のお嫁さん)

 

思わず頬を緩ませながら向かいの席に座っている信を眺めていると、視線に気づいた信が不思議そうに首を傾げる。

「…何にやにやしてんだよ」

「ううん?好きだなあって」

さらりとそんな言葉が出てしまうのは、世辞ではなく本音だからだ。

突然の告白に信はぎょっと目を見開いていたが、すぐに視線を逸らして窓の方を向いた。顔が僅かに赤いのは決して気のせいではない。

恥ずかしがることもなければ、蒙恬は惜しみなく、信へ好意を告げるようにしている。

それは昔からの癖で、伴侶として迎える彼女を不安にさせないための愛情表現でもあった。

幼い頃にある事件をきっかけに出会ってから、本当は信もずっと同じ想いでいてくれていたはずなのに、元下僕と名家の嫡男という身分差を気にして、わざと自分から遠ざけるような態度を取っていたことがあった。

信は嘘を吐くのが苦手なくせに、本心を隠す悪い癖がある。

だから、彼女に本心を隠さなくて良いのだと知らしめるためにも、蒙恬はこれからも素直な気持ちを伝え続けるつもりだった。

男性経験に乏しい信は未だに蒙恬からの愛情表現に戸惑うことも多いが、それはそのうちゆっくり慣れていけばいい。

―――ねえ、俺が信より大きくなったら、信のことをお嫁さんにしても良い?

あの時の約束をようやく果たすことが出来る。
当時の信は子どもの約束を本気にしておらず、どうせそのうち忘れるだろうと思っていたようだ。

しかし、実際に軍師学校を首席で卒業し、初陣を済ませてからたちまち武功を挙げて昇格していった蒙恬に、あの時の求婚は本気であったことを理解したらしい。

だが、名家の生まれである蒙恬と、下僕出身である自分が共に生きることは出来ないと信は婚姻を拒絶した。

蒙恬の幸せを願うからこそ、信は自分との身分差を気にして、彼の想いを受け入れられずにいたのである。

その気遣いを知ってもなお、蒙恬は諦めることはなく、信に求婚を続け、ようやく承諾を得られたのだった。

蓋を開けてみれば、相思相愛であったのは蒙恬にとって嬉しい誤算であった。

こんな幸せなことがあって良いのだろうかと、蒙恬は毎日のように考えてしまう。

今までは信を妻に迎えたいという一心でがむしゃらに頑張っていたが、いざその願いが叶ってからは、今度は失わないたくないという気持ちが全面に押し寄せていた。

もちろん信と共に過ごす時間は幸せなのだが、その一方で臆病になってしまったように思える。

この幸せが、何かの拍子に泡のように消え去ってしまわぬことを蒙恬は毎日心の中で願っていた。

 

 

帰還

蒙恬の屋敷に帰還すると、信は侍女と共に離れにある別院へと向かう。

普段着慣れていない着物からようやく解放されると、信は疲労と安堵をその顔に滲ませていた。

戦で多くの武功を挙げている信も、褒美として屋敷は与えられているのだが、婚姻を終えるまでは蒙恬の屋敷で過ごしていた。予行練習のこともあるので、その方が都合が良いのである。

婚姻を結んだ後もこの屋敷に住まう予定だったので、今から慣れてもらった方が良いだろうと蒙恬も思っていたし、信も賛同してくれていた。

彼女が屋敷に来たのはここ数日前のことである。

信は従者を誰一人として連れて来ず、愛馬と共に訪れた。
持って来たのが幾つかの着物と、秦王から授かった剣だけだったという必要最低限の荷だけだったのは、思い出しただけでも笑ってしまう。

化粧品や簪の一つも持っていないと言われた時には蒙恬だけでなく、その話を聞いた侍女たちも大口を開けて驚いていた。

仮にも嫁入りに来たというのに、櫛の一つも持たずにやって来た信に、蒙恬は彼女らしいと腹を抱えて笑ったものだ。

信は下僕出身の出ではあるが、もともと物欲のない女性である。
親友である秦王嬴政の中華統一の夢を叶えるために、鍛錬に励むことを日常としており、論功行賞で授かった褒美のほとんどは手を付けていないのだそうだ。

野営の天幕の中であっても、信は横になればすぐに眠ることが出来る。外で休むことに不慣れな者だと、ただ体を痛めるだけで少しも休息など出来ないのだが、信はそうではなかった。

劣悪な環境下で眠ることが出来るのは下僕時代の時に慣れてしまったからで、風と夜露を凌げる場所なら、基本何処であっても眠ることが出来るのだと話してくれたことがある。

下僕時代の苦労が伺えて、その話を聞いた蒙恬はいたたまれなくなり、二度とそんな苦労はさせないと、つい彼女を抱き締めてしまった。

あれは確か、論功行賞を終えた後の祝宴の最中だっただろうか。もちろんその時は恋人同士でもなかったため、すぐに引き剥がされて人前で何をするんだとこっぴどく叱られたが、それも良い思い出である。

 

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食事と湯浴みを終えてから、蒙恬は信が住まう別院へと向かった。

別院は母屋から離れているのだが、屋敷の敷地内に建てられているので、護衛も連れずに歩いて行ける距離にある。

別院には信と彼女の身の回りの世話を任せている侍女たちが住んでいた。

「信、入るよ」

声を掛けてから、彼女の寝室に足を踏み入れる。信は寝台にうつ伏せで横たわり、静かに寝息を立てていた。

蒙恬が来たことにも気づかずに爆睡しているところを見ると、よほど疲れたのだろうか。布団も掛けずに眠っていることから、横になった途端にすぐ眠ってしまったらしい。

戦であらゆる感覚を研ぎ澄まされた彼女は、どれだけ深い眠りに落ちていても、人の気配を感じると反射的に目を覚ますらしいのだが、今は目を覚ます気配はなかった。

これだけ安心し切って眠っている姿を見ると、ここには危険が少しもないのだと思ってくれているようで嬉しくなる。

(…また髪乾かさないで寝てる)

信の髪が濡れていることに気づいた。湯浴みの後にそのまますぐ寝入ってしまったらしい。

侍女たちに世話は任せているものの、信はあまりあれこれ手を焼かれることは得意でないらしく、侍女たちには構わないでいいと言っているらしい。

下僕時代も王騎の養子として引き取られてからも、身の回りのことは自分でやっていたという。王騎も信を将の道に進ませるために養子にしたというのだから、名家の養子になってからも侍女たちの世話になることは少なかったらしい。

一度部屋を出ると、蒙恬は待機していた侍女に、絹布と櫛を持って来るよう指示した。

「信、風邪引いちゃうよ」

信が眠っている寝台に腰を下ろし、そっと肩を掴んで声を掛ける。

「…んー…」

寝言で返事をされて、蒙恬は苦笑を深めた。
疲れているというのに起こすのも可哀相だと思い、そのまま寝かせてやろうと思った。

未だ濡れている彼女の髪に、侍女が持って来てくれた絹布を押し当てる。

彼女の髪をこうして拭いてやるのは初めてのことではなかったのだが、蒙恬は喜びを噛み締めながら、丁重に彼女の髪に触れる。

しっかりと絹布で髪を拭いた後、櫛でゆっくりと髪を梳かしていく。

「…気持ち良いな…」

信が小さく呟く。顎の辺りで両腕を交差させてうつ伏せの状態でいるので、起きているのか、今も夢を見ているのか表情は見えないのだが、どちらにしても嬉しい感想だった。

髪の手入れをする習慣などないと彼女が過去に話していたことには驚いたが、信の初めてなら何だって欲しいと思うのは、惚れた弱みというものなのだろうか。

絹布と櫛を隅によけて、蒙恬は彼女の隣に横たわる。

「ね、今夜はここで寝てもいい?」

返事が来ないと分かっていながら、そして断られても聞こえないふりをするつもりで、蒙恬は自分たちの体に布団を掛けながら問いかける。

「いつまでも甘えただな」

仰向けに寝返った信が呆れながらそう言った。どうやら起きていたらしい。
布団の中で信の身体を抱き締めながら、蒙恬は頬を緩ませる。

「そりゃあ生まれた時から嫡男なんて立場やってると、人に甘える機会って全然ないんだよ」

だから今甘えてるのだと言うと、信が溜息を吐いて呆れた表情になった。

「嘘吐け。ガキの頃から副官のじいさんに甘えまくりだったじゃねーか」

「それは子どもの時の話」

蒙驁と蒙武から直々に蒙恬の世話を任されたじィこと胡漸は、幼少期の蒙恬のワガママぶりには随分と苦労していたらしい。

蒙恬の将軍昇格が決まった時も、信との婚姻が決まった時も、家臣の中で一番喜んでいたのは胡漸であった。

「変わったのは見た目だけかよ」

「良い男に成長したでしょ?」

小首を傾げながら問うと、信の溜息がますます深まった。しかし、その表情は慈愛に満ちている。

「悔しいが、そこは認めてる」

嬉しい言葉に、蒙恬は堪らず唇を重ねた。

人前で接吻を交わすとげんこつが落ちるのだが、こうして二人きりでいる時は許される。

婚姻が決まったのだから、人目など気にしなくて良いのに、まだ羞恥心が抜けないところも可愛いと思う。

思わず体を組み敷いてしまいそうになったが、婚儀の予行練習で疲れている信に無理はさせたくなかった。

 

 

何度か唇を重ねた後、蒙恬は信の髪の毛を指で梳きながら、思い出したように口を開く。

「そうだ。先日も言ったけど、明日から数日の間、咸陽宮で先生に会って来るから、ゆっくりしてて」

「ああ」

分かったと信は素直に頷いてくれた。
将軍として担っている仕事は軍の指揮以外にも多くあり、信自身もその忙しさはよく知っていた。

知将としての才を持つ蒙恬は、軍事政策の提言や、手に入れた領土の防衛における設計についての指揮を頼まれている。

軍師学校を首席で卒業したその実力は、恩師でもある総司令・昌平君も認めており、将軍昇格となってから、一気に執務の量が増えたのである。

そんな中でも婚儀の予行練習に手を抜く訳にはいかなかったし、自分以外の男が彼女の隣に並ぶことは許せなかったので、代役に任せることもしなかった。

しかし、自分に厳しい信のことだから、蒙恬が居ない間も一人で練習をこなすに違いない。裾を踏んづけて転ばないか心配である。

自分が怪我の心配をしたところで、信は気にしないだろう。
練習を始めたばかりの頃、派手に尻餅をついて転んでしまい、痣が出来たとしても、どうせ着物で隠れるから何も問題ないと大らかに笑っていたことを思い出した。

そうやって普段から無茶をするのが習慣になっているからこそ、心配が耐えないのである。

練習をする時は必ず侍女を呼ぶように伝え、そして一人で練習をさせることのないよう、彼女の身の回りの世話を任せている侍女たちには口酸っぱく伝えたので、留守中に何も問題が起きないことを祈っていた。

「…信?」

腕の中にいる信から、静かな寝息が聞こえて来た。
気持ち良さそうに眠っている彼女の顔を見て、蒙恬はそろそろ休もうと思い、彼女の体を抱きながらゆっくりと瞼を下ろしたのだった。

 

宮廷への出立前

目を覚ますと、まだ陽が昇り始めたばかりであったが、隣に信の姿はなかった。

未だ眠い目を擦りながら、蒙恬は寝台から抜け出す。

窓の向こうから風を切るような音が聞こえて、その音に導かれるように窓辺へと向かう。
寝屋を出ると庭院があり、その中でいつものように信が剣を振るっていた。

その身に似合わぬ強靭な剣を振るう姿を、蒙恬は幼い頃から何度も見て来た。やはり信には女性らしい家財道具よりも武器が似合う。

彼女は天下の大将軍と名高い王騎と摎の養子だが、信が今の地位を築いたのは彼らの縁故ではなく、彼女自身の努力の賜物である。

戦場で多くの敵兵を薙ぎ払い、そして同じだけの命を救おうとしている。全ては秦王の中華統一の夢のためだ。

幼い頃から大将軍を目指していた彼女は、夢を叶えた今になっても、慢心することなく武を極めようとしている。

「おはよう、信」

「ああ」

手の甲で額の汗を拭う姿は、太陽よりも眩しくて思わず目を細めてしまう。

「もう宮廷へ行くのか?」

「そうだね。支度したらすぐに出ようかな。先生を待たせる訳にはいかないし」

そっか、と信が頷いた。朝の鍛錬はこれで終いにするのか、慣れた手つきで剣を鞘へ戻す。

「俺も政のとこに顔出して来るかな。全然会ってねえし」

この国で絶対権力を持つ王の名を呼び捨てるのは、きっと信だけだろう。

嬴政自身も信とは昔からの付き合いがあるので、彼女の無礼は少しも気にしていないのだが、嬴政の傍にいる官吏たちはいつも信の青ざめている。

たかが無礼な態度くらいで、嬴政が容易に命を奪うことは絶対にないと分かっているとしても、信の態度は目に余るらしい。

目的は異なるが、共に宮廷へ行こうとする信に、蒙恬は眉間に不安を浮かべた。

「それはだめ」

本当に剣を握っているのか疑わしくなるほど細い手首を掴み、蒙恬が上目遣いで信を睨む。

「は?なんでだよ」

まさか宮廷への同行を拒否されるとは思わず、信がぽかんと口を開けた。

「…間違い・・・が起こったら大変だから」

「間違い?」

言葉の意味を少しも理解出来ずにいるらしい信はその円らな瞳をさらに真ん丸にする。まるで自分の発言を恥じるように目を逸らしながら、蒙恬が重い口を開いた。

「…婚儀の前に、信が大王様に見初められたら嫌だから」

「はあ~?」

そんなことを言われるとは予想もしていなかったらしく、信が大袈裟に聞き返す。

過去に似たようなやり取りをしたことがあることを蒙恬は思い出した。

将軍昇格が決まった論功行賞の夜、蒙恬は秦王嬴政に跪いて頭を下げ、信を後宮に入れないでほしいと懇願したのである。

秦王の権力は、この国で一番強大だ。もしも嬴政が信を妻にすると命じたのならば、いくら信であってもそれを断ることは出来ないし、後宮に連れて行かれれば、そこから出ることは叶わない。

側室であろうが正室であろうが、秦王の妻となったならば、他の男と関係を持つことは生涯許されない。

まだ嬴政は多くの妻を抱えておらず、それもあって、いつか親友の信を見初めるのではないかという不安を蒙恬は拭えずにいた。

信と婚姻を結ぶにあたり、きっかけを作ってくれた恩人でもあるのだが、もしも嬴政が手のひらを返したとしたら、大人しく従わざるを得ない。

それもあって、自分と信が夫婦だと世間から認められるまで、つまりは婚儀を終えるまで、なるべく嬴政に接触してほしくなかったのである。

 

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宝石姫

 

不安がる蒙恬の姿を見て、信が呆れたように肩を竦めた。

「政が俺を見初めるなんて、あるワケねーだろ!あいつは後宮で選び放題だってのに、なんでそんな心配してんだよ?」

「だって…」

あの時と同じように信本人が否定するものの、沸き上がった不安を拭うことは出来ない。

嬴政が秦王という絶対権力を持つ立場に就いている間、そして二人が親友関係で結ばれている限り、きっとこの不安を消し去ることは出来ないだろう。

「お前って、よく分かんねえことで悩むよな。政がそんなことするはずねーだろ」

「………」

信と違って安易に秦王のことを口に出せる立場ではないので、蒙恬はむっとした表情を浮かべて信に訴える。

「信だって、もしも秦王様に求婚されたら靡くだろ…」

「そんなのこっちから願い下げだッ!どう考えても国母って柄じゃねえだろ!?」

どうやら、信は国母の座に就く自分の姿が想像出来ないらしい。

後宮に入っていないにも関わらず、秦王に見初められることを夢見ている女性もいるというのに、秦王に見初められることがどれだけ幸せなことか、信には分からないようだ。

彼女に限って、浮気なんてものはあり得ないと断言出来るのだが、人の心というものは目に見えるものではない。

いずれ自分に嫌気がさして秦王を選ぶかもしれないと思うと、いたたまれない気持ちになってしまう。

信が嬴政に寵愛を求めれば、きっと嬴政は親友の気持ちを無下に出来ず、それを受け入れるに違いないからだ。

ずっと恋い焦がれて止まなかった信と両想いになったはずなのに、この幸せが崩れるのが怖いと臆病になってしまう。

そしてこの臆病な自分を曝け出すことで、信に嫌われてしまうのではないかという新たな不安が募る。これでは悪循環だ。

浮かない表情をしている蒙恬から話を逸らそうと、信は彼の肩をぽんと叩いた。

「ほら、早く支度して来いよ。昌平君との約束があるんだろ?」

催促されて、蒙恬は力なく口元に笑みを繕い、出立の準備を始めた。

 

出立

蒙恬の出立を見送った後、信は屋敷で暇を持て余していた。

女性らしい立ち振る舞いの勉強をしようかとも思ったが、朝は何かと侍女たちも忙しそうにしている。

着物の裾を踏んづけて転倒することを蒙恬から心配されていたのは知っていたので、蒙恬が自分のいない間に、一人で練習をしようとしているのなら必ず誰かが付き添うようにと指示を出していたことを信は知っていた。

しかし、婚儀の下準備にも何かと人手がが必要らしい。名家の嫡男の婚儀ともなれば、一族で盛大に祝うのだろう。

信も王一族の養子であることから、婚儀には王一族が参列することになっている。

まさか王一族が婚儀に参列するとは思わず、その話を知って驚いた信は、当主である王翦のもとを訪ねた。

王騎と摎が馬陽で討たれた後、王一族の一員から抜けるべきだとも考えていたのだが、王翦は婚儀の参列を取りやめることはしなかった。

蒙恬との婚姻をもって王一族から信を除名すると、穏やかな声色を掛けられ、普段は仮面の向こうで何を考えているのか全く分からない王翦のことがますます分からなくなったものだ。

下僕出身である信は王騎と摎の養子となってから、机上で何かを学ぶ経験は相変わらず乏しかった。

最低限の字の読み書きは教わったものの、ひたすらに鍛錬を重ね、死地に送り込まれるという地獄のような日々を送ったものだ。

それもあって、名家の養子といっても教養の類を一切教えられなかったのである。王騎も摎も、戦の才能を伸ばすために教養を不要としていたのだろう。

そんな礼儀知らずの娘がまさか名家に嫁へいくと知って、二人はあの世で驚いているに違いない。

未だに婚儀の重要性を少しも理解出来ないでいる信だが、夫となる蒙恬だけでなく、王騎と摎の顔に泥を塗ることだけは何としても避けたかった。

それに、一流の職人が繕っている嫁衣を着るのにも大きな緊張感と責任感が伴う。

信は上質な着物を普段から着慣れていない。上質な着物を着用するのは、宴の場や畏まった行事ごとに参列する時くらいだった。

王騎の養子となってからも、厳しい鍛錬で鎧と着物を汚すのは日常茶飯事であったので、後ろめたさのないように裏地のついていない麻の着物を着用することが多かったのである。

予行練習の際には、婚儀の時のような着物の方が良いと蒙恬が言うので、いつも上質な着物を着せられる。頭につける髪飾りや簪の類も毎度違うのは、きっと蒙恬の趣味だろう。
言葉にはされないが、自分を着飾らせるのが好きらしい。

予行練習で裾を踏んづける度に、信は着物を汚してしまう罪悪感に駆られた。

蒙恬も侍女も汚れたのなら洗えば良いと言ってくれるが、上質な着物を着慣れていないと結婚後の生活も苦労しそうだ。

(…政に秘訣でも聞いてみるか)

ふと親友の顔が頭に浮かんだ。
名家の嫡男たち以上に、普段から上質な着物を着用し、大衆の前に立つ彼ならば、何かしらの助言をくれるのではないだろうか。

蒙恬は婚儀が終わるまで嬴政には会ってほしくないと言っていたが、そんなのは杞憂に過ぎない。

親友はこの国を担う王であり、自分は彼の剣だ。間違っても恋仲になることはない。

宮廷で蒙恬は軍政の執務をこなしているのだから、会うことはないだろう。気づかれなければ、咎められることはないはずだ。

信は自分の身の回りの世話をしてくれる侍女たちに、これから宮廷へ向かうと声を掛ける。
無断で屋敷を外出してしまうと、侍女たちに心配をかけるだけでなく、不手際があったと彼女たちがお叱りを受けることになるらしい。

蒙恬が女性に声を荒げている姿は一度も見たことがなかったが、自分が不在の間、侍女たちに信のことを任せていることは知っていた。

宮廷へ向かうと聞いた侍女たちは、すぐに支度の準備や護衛の手配をしようとしてくれたが、信はそれを断って、厩舎で寛いでいる愛馬の駿のもとへと向かった。

毎日のようにその背に跨り、広い高原を走らせていたのだが、蒙家に来てから飛信軍の鍛錬は副官たちに任せているせいで、最近は駿をあまり外に出せないでいた。

もちろん蒙家に仕えている家臣たちが欠かさずに世話をしてくれるものの、普段から走り慣れている駿は随分と退屈そうにしているようだ。

「退屈させて悪いなあ、駿」

鬣を撫でつけながら謝罪すると、納得してくれたのかそうでないのか、ぶるると鼻息を鳴らされた。

背中に秦王から授かった剣を背負って愛馬に背に跨ると、信はそれ以外の荷を持たず、まるで初めて蒙家に来た時と同じ姿で宮廷へと向かうのだった。

 

発覚

宮廷に到着すると、信はさっそく親友である嬴政の姿を探しに回った。

彼も秦王としての政務があるので、決して暇ではない。しかし、少し顔を見るくらいなら許されるだろう。

蒙恬との婚儀には、嬴政ももちろん参列すると言ってくれた。
親友の門出を祝うのは当然だと言ってくれたのだが、蒙家の者たちからすれば、秦王が婚儀に参列するというのはこれまでになかったことで、婚儀の準備は抜かりないように手配しているらしい。

信にとっては親友でも、他の者からしてみれば天上の御方であり、滅多にお目にかかることはない存在だ。

見張りの兵からに嬴政の居場所を聞くと、いつもの玉座の間にいるらしい。愛馬の駿を厩舎に預け、信は我が物顔で宮廷を歩き出す。

玉座の間へと向かっている途中、ある一室から大きな物音が聞こえた。

「?」

茶器でも落としてしまったような小気味いい音と、男女の声だった。

「だ、だからっ、俺の話を聞いてって!」

「いいえ、もう我慢なりません!」

立ち聞きをするつもりはなかったのだが、扉越しに男女の声が響く。揉め事だろうか。

男の方が焦燥しており、女の方が怒気が籠っている声だった。もしかしたら浮気でも責められているのかもしれない。

修羅場になりそうだなと考えながら、信はさっさとその場から立ち去ることを決めた。盗み聞きをする趣味はないし、この手の揉め事に関わると面倒事しか待っていない。赤の他人である自分は一切関与しないのが一番安全だ。

そう思い、さっさと玉座の間へ向かおうとしたのだが、

(…なんか、聞いたことがあるような…?)

男の声の方に随分と聞き覚えがあるような気がして、信は思わず足を止めていた。

(き、気になる…!)

一つ気になることがあると、自分が納得するまでとことん調べ尽くそうとするのは、蒙恬の癖がうつったのかもしれない。

男女の揉めごとに関わるべきではないと頭では理解しているものの、信は正体を確認したいという好奇心が抑えられなくなってしまった。

少し覗くだけだからと自分の良心に言い聞かせ、信はそっと扉の隙間から中を覗き込む。

「……へ?」

 

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室内にいたのは、蒙恬と見知らぬ女性だった。

宮廷で昌平君と会うと話していたはずの婚約者がこんなところで何をしているのだろうか。気になるのは他にもたくさんある。

蒙恬と一緒にいる女性に、信は少しも面識がなかったのだが、その美しい見目麗しい外見から、どこぞの令嬢であることは分かった。

先ほど扉越しに聞こえた会話から、どうやら二人には面識があるらしい。

だが、信が一番驚いたのは、令嬢の方が侍女も護衛も連れておらず、この密室で蒙恬と二人きりでいたことと、女性の方が蒙恬の体に跨って、今まさに床に押し倒したばかりの体勢でいることだった。

令嬢の細い両手首をしっかりと掴んでいる蒙恬を見れば、なんとか抵抗を試みていることが分かったが…。
先ほど聞こえたやり取りを除けば、見方によっては蒙恬の方が令嬢を誘ったようにも見受けられた。

頭の中が真っ白になった信は、覗き見のつもりが勢いよく扉を開けてしまった。二人の視線が同時に信へ向けられる。

「えッ!な、なんでここに!?」

愕然としたのは信だけでなかった。蒙恬から予想通りの反応と言葉が返って来る。

一方、女性の方は蒙恬に両手首を掴まれたまま、不思議そうな顔で信のことを見据えている。

(この女…もしかして…)

もしかしたら彼女は、もともと蒙恬の婚約者候補だったのではないだろうか。蒙恬は信との婚姻のために、届いていた数多くの縁談を断っていたので、その可能性も考えられる。

それとも、信と婚約をする前に褥を共にしていた女性かもしれない。

結局のところ、信にはこの女性が何者なのか分からなかったが、二人が男女の関係であることは瞬時に察したのだった。

「し、信?」

黙り込んでいる信に、蒙恬が泣き笑いのような顔で名前を呼ぶ。

口角をひきつらせながら信は、

「―――破談だ」

それだけ言うと、廊下を駆け出していった。

 

中編はこちら

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