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世界一競争が激しいシリコンバレーで15年生き残れた最大の秘訣とは

2019年8月9日、btraxは創立15周年を迎えた。 アメリカでは新しい企業が10年以上生き残れる確率は5%に満たないと言われる。おそらく、これが15年ともなるとその生存率は数パーセントに満たないだろう。 例えそれがトップの大企業でも、その半分以上が15年以内にその姿を消す。そもそも、アメリカの企業全体の平均寿命が15年なのである。そして、その場所がシリコンバレーになってくると、スタートアップ企業をはじめ、短いスパンで結果を求められるので、よりその生存率は下がる。 参考: 現代における大企業の平均寿命は15年 – 生き残り戦略としてのイノベーション 難易度Maxの状態からの船出 そして、もしそれが世界有数の激戦区にて、ビジネスを全く勉強した事のない人が、僅かな資本金で始めたとしたらどうなるだろうか? この会社の創設者にはビジネスのバックグラウンドがほとんど無く、サンフランシスコという強烈な街で大学卒業直後に$5,000の資金だけを頼りに会社をスタートした。 そう、これが僕がこの会社、btraxを始めた時の状況である。その後、外部からの投資を受けた事はない。ちなみに、The Ultimate Startup Failure Rate Reportによると、毎日123,300のビジネスがその姿を消しているという。 海が荒れているのに出航するのは単なるアホと言われたのに… 会社を始めようと思っていた頃にシリコンバレーで投資家をしている友人に相談した事があった。彼からのアドバイスは ”最高のコンディションだと思って船を出しても途中で遭難するのがビジネス。まして、海が荒れている状態なのに出航するのは単なるアホだよ” と。 至極当然なアドバイスだろう。シリコンバレーという地域では、世界有数の天才たちが多くの資金を元にしのぎを削っている。そんな場所で経営の事を全く知らず、僅かな資金だけでビジネスを始めれば99.9%の確率で秒殺される。 それでも初めて、続けてしまった。今振り返ってみても、なぜそんな事が出来たのか。大きな謎である。良いタイミングなので、その秘訣を自問自答してみたところ、生き残るために重要な1つのポイントが見えてきた。 自分たちにしかできない”ズルい”アドバンテージに着目 それは、会社を初めて数年後に、他の会社が簡単真似のしにくいユニークさ、言い換えると、ズルいアドベンテージに焦点を当てた事だと思っている。 恐らく日本の社会で生活していると意外と気付きにくい事なのであるが、実はビジネスの世界においては、どれだけユニークな存在になれるか、もっと言うと、”ズルい” やり方ができるかが、その会社の大きな武器となる。 ちなみに、英語ではこの武器の事を”アンフェア・アドバンテージ (Unfair Advantage) “と呼ぶ。 では、どのようなきっかけでそのズルさにたどり着いたかを振り返ってみたい。 当初はデザイン力だけで勝ち残るつもりだった 元々大学でデザインしか勉強してこなかった自分としては、せっかくデザイン会社を始めるのだから、デザイン力だけで世界と勝負したかった。 言い換えると、それ以外の部分を”売り”にするのは、いささか邪道な気がしていて、デザイン以外のバックグラウンドを活用する気は全くなかった。振り返ってみると、実はこの”こだわり”は非常に危険で、恐らくそのまま進んでいたら今頃会社は存在していないと思う。 参考: アメリカでWeb制作会社が存在出来ない5つの理由 先輩起業家の一言が視野を広げた 会社を始めてからしばらくした頃、漠然とした行き詰まりを感じ始めていた。優秀なデザイナーも揃い、ちゃんとしたオフィスも構えた。しかし、なかなか大きな規模の仕事を見つける事が出来ない。 その一方で、サンフランシスコにはIDEO、frogをはじめとした世界有数のデザイン会社がいくつかあり、彼らの存在がロールモデルとなっていた。 自分たちもどうにか一流のデザイン会社の仲間入りが出来ないか。そんな想いを先輩に話した。 それに対して彼は一言、”自分だったら競合が上がれない土俵で戦うけどな” と答えた。 そう、同じデザインという漠然としたフィールドで戦うと競争が激しすぎて、経営者としては賢くない。自分が最も優位に立てるフィールドを見つけるべきという事である。 デザイナーとしてのこだわりがデザイン会社を潰してしまう 世界最高のデザイン力でトップを目指す こんなビジョンを掲げるデザイン会社は少なくない。しかし、これは多くのデザイナーやデザイン会社が陥りやすいトラップでもある事に気付く事は難しい。 何を言いたいかというと、デザイン会社を経営するにあたり、デザインのクオリティー “だけ” で生き残るのは、無駄に難易度が高くなり、生存率が急激に下がってしまうという事。 自分たちのユニークさを見つける大切さ 質の高いデザインをする事に加えて、果たしてどんな事がbtraxにとってユニークな価値となるのだろうか?この問いを始めた時から「他にマネのしにくい事をする」という経営における1つの重要な指針が決まった。 ビジネスにおいて競合は少なければ少ないほど良いし、そもそも、ほぼいない状態を見つける事が出来れば、他と争う必要もなくなる。 結果的に、サンフランシスコという場所、日本のバックグラウンド、スタートアップのカルチャーや手法をデザインに掛け合わせる事で、現在のbtraxのユニークな遺伝子が定まっていった。そしてそれがのちに自分たちが持つズルさ=アンフェアアドバンテージになっていった。 ビジネスではズルさが最大の武器になる ズルいという言葉自体は、ネガティブな響きがあるかもしれない。しかし、それをビジネスで上手に活用すればユニークな長所にもなり得る。 もちろん法を犯したりすることや、人を傷つける事は許されないが、それ以外の部分では、自分たちが持つユニークなアドバンテージを最大限活用する事で、競合にはマネができにくい価値が提供できるようになる。 アメリカでは美徳とされるアンフェア・アドバンテージ こちらアメリカでは、通常何かを決める際にはそれが”フェア”であるかが重要視される。一方で、これが経営のフィールドになると、逆の論理が良しとされる事が多い。 例えばスタートアップのピッチにおける質疑の際に「君たちのアンフェア・アドバンテージは?」と聞かれているシーンをよく見かける。これは、そのチームが、自分たちにしか出来ないような”ずるい優位性”や”裏技”を持っているのか?という意味。 どれだけ素晴らしいサービスを作ったとしても、簡単に真似されたりする場合、その会社の競争優位性が下がってしまうため、何かしらマネのできないようなズルいアドバンテージを持ち合わせている必要がある。 シリコンバレーが評価するのは優秀よりユニークな人 なぜシリコンバレーの地域がここまで長い期間で世界から注目されているのか?恐らくその1つの理由は、この地域にしかいないようなユニークな人材が世界中から集まってくるからだろう。 世の中には、いわゆる優秀な人はいくらでもいるが、ユニークな人は少ない。そもそも少ないからユニークと定義されている。こと、会社の経営者となると、ジョブス然り、ザッカーバーグ然り、イーロン・マスク然り、彼らの武器はそのユニークさにある。 彼らは、他の人には持ち合わせていない視点や、強烈なファンベース、PayPalマフィアに代表される独自のネットワークを上手に活用する事で、マネのしづらいユニーク性を確保した。 そして、そのユニークさを活用して優秀なスタッフを束ねる事で、自分たちにしか持てないアンフェア・アドバンテージを作り出している。 ズルい作戦でのし上がった織田信長 実は日本でもこのズルい戦略で運命を切り開いた人がいる。織田信長はまだ弱小大名だった頃、拡大勢力の今川義元を奇襲攻撃で討ち取った。総勢2万5千の今川軍に対して織田軍は数千の規模。誰の目から見てもどちらが勝つかは明白だった。そんな完全状況でも織田信長が勝った。 どのようにして?今川の兵を散らせて、義元を横から奇襲するという、ズルい作戦を取ったらからである。でも、戦いの場ではそれもアリな戦略。その後信長は一気にその勢力を全国へと広げていった。これはビジネスという戦場でも同じ事が言える。 意外なところに転がっているアンフェア・アドバンテージ ちなみにこのアンフェア・アドバンテージは、決して難しい事である必要はなかったりもする。例えば、重要な人物へのコネを持っていたり、すでに多くのファンを抱えていたり、父親が大統領だったり、ルックスの良い社員を入れて営業成績を上げたり、などの方法がある。 また、シリコンバレーの多くのスタートアップはかなりの赤字を出しながらも成長を続ける。Uberだって、WeWorkだって、年間数千億円規模の赤字だったりする。これは、大規模な投資を受けているので、無理に日銭稼ぎに走る必要がない。そうなってくると、赤字でもなんでも、思いっきりユーザー獲得にぶっこむ事が可能になる。これもかなりのズルいアドバンテージである。 重要なのは、コネでも家柄でも、バックグラウンドでも、資金力でも、特殊能力でも、戦わなくてもすむこと。もしくは、”こいつにとは戦ってもしかたがない”と思わせる事。言い換えると、どれだけ”不戦勝”で勝っていけるかが生き残りのポイントとなってくる。 ズルいと言われる回数がバロメーターになる もしかしたら、このアンフェア = “ズルい”アドバンテージをどれだけ持てるかが、その会社の寿命や成長に深く関わってくるのではないかと思う。特に差別化が難しくなってきている現代においては、常にユニークであり続ける事が大きなアドバンテージになってくる。 そのためには、定期的に “これを他の人がやったらどうなるか?” や、 ”今やっていることは他の会社でも出来てしまうだろうか?” を考える。そして、もし少しでも戦いになりそうであれば、やり方やサービス自体をアップデートしていく。それも、自身が持つアンフェア・アドバンテージを最大活用して。 ビジネスや仕事ではどれだけ”アンフェア”なアドバンテージを見つけ、それを活用出来るかが勝負になる。そのバロメーターの1つが、周りの人たちにどれだけ「それ、ズルいよ」と言われるかだと思っている。 横並び主義の日本だと気付きづらい自分のアドバンテージ ここアメリカでは当たり前のズルさの活用が、日本の社会だと意外と気づきづらい。もしくはあまり良いとされてない事が多い。 人と違う事をする人をあまり評価しない風潮の日本の中では、無意識のうちに”フェア”な戦い方をしようとし、なぜか同じ領域でビジネスを展開しようとする会社が後を絶たない。 例えば、ガラケーが一般的だった時代は、日本の各メーカー、キャリアが似たり寄ったりの商品とサービスを提供していた。そんな頃、Appleは全く異なるタイプの携帯電話の開発に注力していた。自分たちのアンフェア・アドバンテージである、iTunesのインフラを最大活用して。 これもまた優れたものを作る前に、まずユニークな視点を重要視するシリコンバレー的な発想だと感じる。 逆にアンフェア・アドバンテージを見つけるないと、企業は競合他社との激しい競争に巻き込まれる。その結果として、長時間重労働を強いられる事になってしまう。 日本のバックグラウンドをアンフェア・アドバンテージにしたショー・コスギ 「君もPerfect Body」でお馴染みのケイン・コスギの父親であり、ハリウッドスターのショー・コスギは、生まれ育った日本で会得した空手の経験を活かした事で、他の俳優にはマネのできない忍者という役柄で大人気を集めた。 これが日本国内であれば、空手ができる人は多くいるし、忍者の役もそこまで特別ではない。しかし、その当時、ハリウッドで空手の動きを使って忍者役ができる人はわずかで、ショー・コスギは自身のアンフェア・アドバンテージを最大限活用したと言えるだろう。 それまでの彼は他の俳優と同じオーディションを受け、英語のハンデもあり、ことごとく落ちていたという。一時は生活にも困窮していたが、自分しかできない忍者というキャラクターを確立した事で大成功を収めた。 優秀である必要は無いが、ユニークである必要はある ダーウィンの進化論によると、最も強いものが生き残るのではなく、最も環境に順応した種族が生き残る。言い換えると「強い者」が残るのではなく、「適した者」が残るという事。 これは、ビジネスの世界でも同じで、モノが溢れ、テクノロジーが発達した現代においては、よりユニークな価値が出せる企業や人材が生き残るのではないかと感じてる。 そういった意味だと、平均値の中にいるよりも、アウトライヤー=ハズレ値である方が、よりサバイバル能力が高いのかもしれない。この概念は、以前の「世界を変えているのは頭の良い不良たちだ」で紹介されている概念にも通じるところがある気がする。 信頼できるスタッフを揃えてユニークなビジョンを語れ こうなってくると、起業家にとって重要な役割は、自分たちのアンフェア・アドバンテージを定め、優秀なスタッフを集め、ビジョンを語ることになってくる。 以前、長年経営コンサルティングを提供している、とあるメンターの方から下記のようなアドバイスを頂いた。 “私には君の会社の社長はできない。なぜなら私は優秀かもしれないが、君は唯一無二の存在であり、ビジョナリーであるからだ。お金儲けの事は信頼出来るスタッフに任せて、自分自身はひたすら自分たちが実現したいビジョンを叫び続けろ。” ちなみに、自分はまだまだこれが出来ていないので、今後の大きな課題でもある。 自己分析: btraxのアンフェア・アドバンテージ では、サンフランシスコという、世界でトップレベルにコストと競争が激しい街で生き残るためのbtraxのアンフェア・アドバンテージは何であるのか? これを機会に少し冷静に自己分析してみた。 1. ロケーション まずは、ロケーション的なアドバンテージ。もともとサンフランシスコでスタートした会社であり、その当時は現在ほど地価が高騰していなかったこともあり、2006年の時点より現在のオフィスビルに入居している。 ここはSOMAと呼ばれるスタートアップの中心地であり、これ以上ないぐらいの立地。もし今から借りようとしてもなかなか物件が見つかりにくいのではないかと思う。 […]