テクニクスの真髄! 最上位ターンテーブル「SP-10R」は開発者もニヤリと笑みが溢れる一台

2017年秋にドイツ・ベルリンで開催されたIFAで、パナソニックが初めてお披露目したテクニクスのアナログターンテーブルのフラグシップモデル「SP-10R」と、フルシステムの「SL-1000R」がいよいよ日本国内で3月27日から受注生産を開始します。

↑ダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1000R」

 

気になる日本での販売価格はオープンですが、SL-1000Rが160万円前後、SP-10Rが80万円前後になる見込み。相応のアンプとスピーカーを組み合わせたらウン百万円の豪華なシステムになりそうです。発売日は5月25日を予定しています。

 

テクニクスの宇都宮「モノづくり革新センター」を訪問

パナソニックは3月に、SP-10R/SL-1000Rをはじめテクニクスの上位クラスの製品が生産されている栃木県・宇都宮の拠点「パナソニック モノづくり革新センター」で新製品説明会を開催。テクニクスの製造ラインも見学することができました。

↑テクニクスのハイエンドモデルの生産拠点、パナソニック モノづくり革新センターを訪問した

 

栃木県といえば古くからモノづくりが盛んな地域として知られています。例えば近年とても有名なのは“いちご”。「とちおとめ」や「スカイベリー」などのプレミアム・いちごの品種は栃木県の名産としても全国に名を轟かせています。ほかにも益子焼の美しい陶器の生産地として、または餃子の消費量が全国でナンバーワンの地域として栃木県を知る人も多いのでは。

 

パナソニックは全世界で様々な種類の家電製品を販売する総合家電メーカーです。その生産拠点はアジアのマレーシアとインドネシア、中南米のブラジル・メキシコなど地球規模に広がっています。今回訪問したモノづくり革新センターは2012年に同社の宇都宮工場から発展するかたちで設立されました。現在は4K有機ELテレビやテクニクスのオーディオ製品の上位モデルがこちらで生産されています。今回発表された新しいアナログターンテーブルも2018年に製造ラインが稼働を始めました。

↑4K有機ELテレビやテクニクスのオーディオ製品の上位モデルを生産

 

パナソニックのモノづくり革新センターは質の高い製品を製造するための施設であると同時に、モノづくりを支える「技術」や「人材」を育むことも使命として帯びている特別な場所。4K有機ELテレビやテクニクスの製品は1台あたりの部品点数も多く設計も複雑です。精度を高くキープしながら、しかもたくさんのユニットを効率よく製造するために求められる作業のオペレーションは、ここモノづくり革新センターで確立され、練度を高めながらパナソニックの全世界に広がる生産拠点に“ひな形”として共有されます。パナソニックのすべての製品が高い品質をクリアしたできる理由を、私たち記者もモノづくり革新センターを訪れることで初めて知ることができた次第です。

 

開発者も胸を張る、テクニクスの最上位アナログプレーヤーの出来映えとは

まずは5月に国内で発売されるテクニクスの新しいアナログターンテーブルがどんな製品なのか、説明会に登壇したテクニクス製品のCTO(チーフ・テクニカル・オフィサー)を務める井谷哲也氏のコメントから概要を振り返ってみましょう。

↑テクニクス製品の開発を統括するパナソニック アプライアンス社 テクニクス事業推進室CTOの井谷哲也氏

 

「SP-10R」はターンテーブル本体、「SL-1000R」はシャーシやトーンアームを含むフルシステムとして発売されます。どちらもテクニクスのオーディオ製品のトップシリーズである「Reference Class」に加わります。

↑ダイレクトドライブターンテーブル「SP-10R」

 

アナログレコードプレーヤーにあまり詳しくない方は「ターンテーブルだけがあっても音が聴けないのでは?」と不思議に思うかもしれません。実は、アナログレコードプレーヤーというオーディオ機器は、それがハイクラスな製品になるほど本体を構成するパーツを交換して、自分好みのサウンドを追求できる仕組みになっています。SP-10Rはアナログレコードプレーヤーの中でも心臓部分になるターンテーブルと、その動きを制御するコントロールユニットのセットになります。

 

こちらの部分をごっそりと、シャーシと呼ばれる筐体に装着して、好みのトーンアームやカートリッジを組み合わせて楽しめる、いわばトップ・オブ上級者向けのシステムが「SP-10R」だとすれば、復活したテクニクスのフラグシップモデルを中心に、アナログレコードを再生できる環境を1からつくってみたいという、いいモノに徹底的にこだわるアナログ入門層に最適なフルシステムが「SL-1000R」というわけです。

 

SP-10Rはテクニクスが1975年に発売した「SP-10MkII」や、1981年発売の「SP-10MkIII」とターンテーブルのサイズや形状に互換性を持たせています。つまり、旧機種をずっと愛用していたという方は、既存のリスニング環境を活かしながらSP-10Rが楽しめることになります。

↑1981年発売の銘機「SP-10MkIII」

 

↑1975年発売の「SP-10MkII」にアクリルのシャーシを装着したもの。ターンテーブルのサイズは互換性があるので、シャーシを流用できる

 

「現代テクニクス」の音を実現した

「テクニクスのアナログターンテーブルにとって、技術の要になっているのがコアレス・ダイレクト・ドライブ・モーターです」と語る井谷氏は、最新のSP-10R/SL-1000Rには基本思想からさらに発展させた「現代テクニクス」のターンテーブル技術が搭載されていると強調しています。アナログレコード再生にとって、ターンテーブルの回転軸の歪みは音質に悪い影響を与える最大の敵。テクニクスでは不要な振動の発生源にもなり得る「コア=鉄芯」を廃して、重量級のターンテーブルプラッター(=皿)のスムーズで安定した回転を実現しています。

↑両面コイルを採用したコアレス ダイレクトドライブモーター

 

さらに回転部の信頼度と精度を高めるため、2016年から発売する「SL-1200G」シリーズに搭載するモーターに改良を加えて、基板の片面に9個ずつ、角度を60度ずつずらしながら12極18個のコイルを配置。モーターの力を最大限に引き出しながら、回転ムラの発生を徹底して抑えています。

 

ターンテーブルの回転を制御するコントロールユニットも、ユニット自体から発生するノイズがターンテーブルに伝わらないように独自のノイズ補正回路を搭載しています。フロントパネルに設けた有機ELの表示窓にはコンマ2ケタ精度で回転数を表示。回転ピッチ調整も細かく変更できる機能が、いかにもハイエンドなアナログプレーヤーらしいですね。

 

そしてユニークな機能をもうひとつ。SP-10R/SL-1000Rともに、ターンテーブルにトーンアームベースを最大3台まで拡張できます。つまり3種類のアームを装着して、音の違うアームやカートリッジの組み合わせに素速くスイッチしながらアナログ再生が楽しむことができます。この機能がない場合はトーンアームやカートリッジを毎度交換しなければなりません。もっともその手間こそ愛おしいと思える方がアナログ再生を極められるのかもしれません。

↑別売のトーンアームベースが最大3本まで取り付けられる

 

熟練の「匠」たちが1台ずつ手作りで組み上げる

テクニクスのフラグシップモデルであるターンテーブル「SP-10R/SL-1000R」は、宇都宮のモノづくりセンターで1台ずつ、丁寧にハンドメイドで生産されます。モノづくりセンターで行われる工程は大別すると「組み立て」「検査」「包装」の3つになります。組み立てはチリやホコリのない、清潔な空気環境も徹底的に管理された専用室の中で熟練した作業員がクリーンな作業着に身を包んで行います。

↑モノづくり革新センターの一角にあるテクニクスの製造ライン

 

テクニクス製品の組み立てラインは、熟練したスタッフたちが集まって1人が1台の商品を組み上げていくオペレーション体制を採っています。ターンテーブルとコントロールボックス、それぞれを構成する全パーツが台車に並べられ、スタッフがパーツを一つずつ確認しながら丁寧に、かつテキパキと素速く組み上げていました。

↑熟練したスタッフが1台ずつターンテーブルを組み上げていた

 

重量級のターンテーブルプラッターは大人の男性でも片手で持ち上げるのは難しいほど重量級。重さは約7.9kgにもなります。プラッターは3層構造になっていて、真鍮製のプレートとアルミダイカストのボディを12個のタングステンウェイトを外周に配置して接続。大きな慣性モーメントを得ています。検査に当たるスタッフは、組み立てられたプラッターを高速で回転させながら重さの偏りをチェック。回転バランスがずれていると、余分な振動のもとになって音に歪みが発生します。偏りを見つけた場合は、その箇所を削りながらバランスを微調整するとのこと。

↑総重量7.9kgという重量級の3層構造プラッター

 

↑組み上げた後にプラッターの回転精度を専用の検査機で確認する

 

全体が組み上がったターンテーブルは、さらにセンター内の専用測定室で検査用レコードを使いながら、全数の回転ムラを検査していきます。この作業にも長年に渡ってオーディオ製品を手がけてきた、テクニクスとパナソニックのノウハウが詰まっています。

↑センター内の専用測定室。検査用レコードを使いながらターンテーブル全数の回転ムラを検査する

 

この日の取材では同じ部屋にセットされていたSL-1000RとReference Classのコンポーネントによる組み合わせを試聴することができました。そのサウンドは、驚くほど見通しがクリアで解像感も高く、明瞭な定位と立体感。深々と沈む低音。目の前に広がる音楽に吸い込まれそうになりました。ハイレゾを超えて、最先端のオーディオ技術から“アナログを超えるアナログ”が生まれたような強い印象を受けました。

↑↑モノづくりセンター内のテクニクス専用試聴室でSL-1000Rのサウンドを聴いた

 

↑ドナルド・フェイゲンの名盤「The Nightfly」を再生

 

世界に広がるパナソニックの高度なモノづくりの技術

パナソニック モノづくり革新センターでは質の高い生産体制を確立して、他の生産拠点に知見を広げるために「モノづくり道場」をセンター内に設けて、スタッフのスキル向上にも力を入れています。

 

センター内で組み立てや検査の作業に当たる生産パートナー企業のスタッフは、モノづくりセンターに入所するとまず最初に2日から最大5日にわたる独自の教育プログラムを受講。プログラムの項目は安全管理から製造の知識習得、さらにはドライバーによるビスどめ、ラジオペンチやピンセットなど工具の扱いなど多岐に及んでいます。そして一定のレベルに到達したスタッフだけが生産の現場に立つことができるのです。プログラムは各々のスタッフが持っている能力を最大限に発揮しながら、適材適所に人材を置いてスムーズなオペレーションを実現することにも重きを置いています。

↑スタッフは現場に立つ前にモノづくり道場でビスどめやラジオペンチの扱い方など実技を学ぶ

 

現場に出た後も、スタッフは技術の習熟度を高めるほど「帯(オビ)」と呼ばれる評価スコアを獲得できるシステムが導入されています。そして最高位である「赤帯」を獲得すると「匠」の称号を授与。モノづくりセンター所長の阪東弘三氏は「匠のレベルまで訓練されたメンバーで丁寧にテクニクス製品を組み上げ、最新の測定技術を組み合わせながら出荷まで品質管理を徹底して行っている」と述べていました。

↑モノづくり道場にて。スタッフは保有するスキルによって「黒帯」「赤帯」といった名称の評価が与えられる

 

パナソニックでは3月28日からパナソニックセンター東京・大阪のリスニングルームにSP-10R/SL-1000Rを公開します。また代官山のT-SITEでは3月28日から4月1日まで期間限定の試聴イベントも開催されます。ひと皮も、ふた皮もむけて生まれ変わったテクニクスの最新フラグシップ・アナログターンテーブルの音は必聴ですよ。