【街中華の名店】築地「中華 ふぢの」はとことん自家製にこだわる味の開拓者だ

 

日本最大級の市場である築地。場内外には鮮魚のうまい店を筆頭に実力派の飲食店が軒を連ね、労働者や観光客の胃袋を満たしている。そのジャンルには街中華もあり、有名なのが「ふぢの」だ。ここは場内にある老舗だが、市場前の「新大橋通り」を本願寺方面に進むと「新富町駅」の手前には「中華 ふぢの」がある。今回は同店の魅力を中心に、一風変わった店名の秘密なども紐解いていきたい。

 

 

自家製調味料を駆使する素材を生かした絶品中華

「中華 ふぢの」の大きなこだわりのひとつが、自家製のうまみ調味料である。街中華では一般的に既製品を使うケースもあるが、同店の場合は野菜や酒などを駆使していちから作っているのだ。そのため、どの料理にも素材のよさを生かした自然な味わいが楽しめる。

↑「酢豚」ハーフサイズ830円。16時以降はライスやスープなどが付くセットにでき、その場合は1000円。ランチタイムのセットは950円とよりお得だ

 

たとえば人気メニューの「酢豚」。街中華をはじめとする大衆店ではケチャップを使う酢豚が少なくない。しかし「中華 ふぢの」ではケチャップは使わず、自家製のうまみ調味料としょうゆ、砂糖、酢などで独自のおいしさに仕上げている。

↑仕事は丁寧だが、スピーディ。これぞ熟練の技

 

調理工程にも職人技が満載。豚肉はやわらかく、脂身が少ないヒレを使い、しょうゆなどで下味を付けてから片栗粉をまぶして揚げる。野菜は、にんじんとたけのこはあらかじめスープで30分程度煮込んでおいたものを使い、油通ししたピーマンやパプリカなどと合わせる。そして玉ねぎは料理によって使う部分を分けており、酢豚には甘みの豊かな中間のみを採用している。素材ごとに最適な時間と調理法で仕上げられているので、ワンランク上のおいしさが楽しめるのだ。

 

↑「チャーハン」800円。ランチタイムに麺類を注文した場合は、半チャーハンを250円で付けられる

 

チャーハンのような定番料理にも、自家製のうまみ調味料は欠かせない。また、チャーハンには乾かしたご飯を使い、卵は水分を飛ばしきるまで炒めてから混ぜることで絶妙なパラパラ感を生み出している。

 

なかには完全なオリジナル料理もあり、そのひとつが「冷やしぶっかけ」だ。これは、店主が素揚げのなすを使った蕎麦にヒントを得て生み出したオリジナルの冷涼麺。同店には「冷やし中華」も同価格で存在するが、それよりも酢を控えてかつおのダシに醤油を効かせた和風のタレで、キリっとした味に仕上げている。

↑「冷やしぶっかけ」1000円。なす、れんこん、かぼちゃ、パプリカ、アスパラガスと色とりどりの野菜がたっぷり。そしてみょうがが爽やかなアクセントに

 

 

創業者の孫が独自の味を目指して“築”いた新境“地”

独創性の高い料理が「中華 ふぢの」の真骨頂だが、それ以外にも珍しい特徴がある。たとえば、たばこ屋というもうひとつの顔。これは約20年前に販売の免許を得て取り扱うようにしたという。その理由は、それまでたばこを販売していた隣のコンビニが閉店することになったから。

↑アイドルタイムでもたばこだけは売っており、直接買いに来るお客も後を絶たない。事実上、近隣の愛煙家のオアシスとなっている。なお、隣のコンビニは「サンチェーン」から「am/pm」へと看板が変わり、やがて閉店したのだとか

 

店名の由来を聞くと、そこには場内市場の「ふぢの」にも関係する深い歴史があった。「ふぢの」は築地市場の誕生と同じ、1935年にいまの地で産声を上げた。創業者は「中華 ふぢの」の森 則次店主の祖母にあたり、姓が伊藤だっため「藤」を「ふぢ」と記して、そこに「の」をつけて店名にしたという。

↑「中華 ふぢの」店主の森 則次さん。御年63歳であるが、若々しい!

 

一方で森さんは、独自の道を切り開くべく若くして都内の中華料理店で修業。やがて1979年に「中華 ふぢの」の前身となる和風のラーメン店をいまの場所に創業させるが、店名は祖母へのオマージュで「ふぢの」を採用することに。当時は出前もやっていたというが、オープン10年後の1989年に業態を街中華へ変更し、いまに至るのだ。

↑手前がカウンターで、奥がテーブル席となっている。ちなみに同店が入っているビルは森さんが建てたもので、しかも業態転換とともに立て替えたものだ

 

なお、場内の「ふぢの」は祖母の後継者が創業家にいなかったところを知人が受け継ぎ、現在の形になっているとか。いまでも両店には親交があり、製麺所は同じところだというが、森さんが独自でレシピを磨いていることもあり、味わいは異なる。

↑つまみで人気の「シューマイ(3個)」390円。もちろん自家製で、しっかりとせいろで蒸している。酒で人気なのは、限られた店でないと飲めない「キリン ブラウマイスター」の生(小グラス370円~)

 

市場近辺には名店が多いが、朝が早いという特性のため早じまいするところも多い。そこでいうと、「中華 ふぢの」は夜も営業していてメニューも酒も豊富。前記のビールは毎月20~25日限定で中グラス320円~になると、サービスもうれしい。築地は場内や場外市場以外にも、素晴らしい街中華があるのだ。

 

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

中華 ふぢの

住所:東京都中央区築地3-3-9

アクセス:東京メトロ日比谷線「築地駅」3番出口徒歩1分、東京メトロ有楽町線「新富町駅」4番出口徒歩1分

営業時間:11:30~14:00(L.O.14:00)/16:00~23:00(L.O.22:00)

定休日:土曜、日曜、祝日

【街中華の名店】納豆とねぎ好きならマスト! 渋谷に2店舗構える「山之内」には魔性の激ウマメニューあり

街中華のなかには、ときに個性的な料理が名物となっている店がある。今回紹介する、キラー通りの「中華風家庭料理 山之内 神宮前店」もそんな一軒だ。たとえば、冷やし麺タイプの「ねぎそば」。夏季限定ではなく、冬でもオーダーが絶えない同店の大定番である。ほかにもトガったメニューが異彩を放つ、同店の魅力をお伝えしよう。

 

 

シンプルなねぎそばと納豆チャーハンはクセになるウマさ

この「ねぎそば」は見た目こそ非常にシンプルであり、使われている食材も必要最低限。麺のうえに白髪ねぎと刻みチャーシューがのり、茶褐色のタレがかかった潔さ満点の一品だ。

↑「ねぎそば」700円(夜は750円)。ゆるやかにウェーブのかかった中細麺は115gで、のど越しがよくなめらかな食感だ

 

ところが、ひと口食べると箸はもう止まらない。特製のしょうゆダレは程よい濃さで、シャキっとしたねぎとも相性抜群。シンプルゆえに単調になるかと思いきや、それぞれのキャラクターが際立っているのでまったく飽きることがない。しかも、さらに味のマンネリ化防止に一役買っているのがチャーシューだ。

↑豚の肩ロースを約2時間半煮込んだチャーシュー。隠し味に使われた八角が、妖艶な風味を醸し出している

 

ただ、肉の存在感をプラスするだけではない。八角という、本格中華でおなじみの甘味を帯びた香辛料が隠し味に使われており、これが好アクセントを演出する。なお、「納豆ねぎそば」(850円で、こちらは昼も夜も同価格)というさらに個性的なメニューもあるのだが、この納豆自体も「山之内」の魅力だ。

↑「納豆チャーハン」850円。パックで売られている一般的な納豆を使っているが、熟練の技でひとつになっておりとにかく味のバランスがいい

 

いくつかの納豆メニューがあり、なかでも多くのファンを持つのが「納豆チャーハン」。納豆だけでなく、細かく刻んだにんじんが入っているのも特徴で、ほんのりと甘みを加えている。そして一般的なチャーハンよりしょうゆの味が強めになっており、これは納豆との相性をよくするためのテクニックだ。

 

 

中華風家庭料理の超名店のルーツだった!

一品料理で絶大な人気を誇るのは「ネギワンタン」だ。これは仕込みが大変なため、夜限定となっているが、それはビジュアルを見れば一目瞭然。ワンタンが隠れるほど、大量の白髪ねぎがのっている。ねぎは「ねぎそば」などにも使われる同店必須の食材であり、聞けば1日に仕入れる数は約30本。5kgもの量を極細にカットし、みずみずしい白髪ねぎに仕上げるのだ。

↑「ネギワンタン」750円。この大量のねぎの下に、ぷるっぷるの手作りワンタンが7ピース眠っている

 

皮は麺と同じ製麺所に特注したものだが、あんは自家製。使う具材はあえて極少にしており、しょうがやにんにくなどは入れず豚の挽肉とねぎだけ。これを薄口しょうゆで味付けし、素材本来のうまみを凝縮させる。

↑あとがけのしょうゆダレはワンタン専用のもの。みずみずしい生地に、白髪ねぎと青ねぎ。ふたつの爽やかな辛味がこのうえない味のメリハリを生んでいる

 

オリジナリティの高い「山之内」の料理だが、にんじんや納豆を使うチャーハンなど、どこか家庭的なレシピを彷彿とさせるものも。この秘密を聞くと、そこには同店のルーツとなる名店の存在があった。

↑歴史を感じさせるたたずまい。「中華風家庭料理」の文字は、古巣へのオマージュだろう

 

キラー通り沿いにあるここは、青山の骨董通りで絶大な人気を誇る「中華風家庭料理 ふーみん」がもともとあった場所。ふーみんは1971年に開業し、1986年に現在の地へ移転したという。それまでふーみんで働いていたのが、「山之内」のオーナーである山之内敏昭さん。つまりは移転を機に独立し、古巣の跡地を受け継いで「山之内」を開業したのである。

↑現在、山之内オーナーは2号店で陣頭指揮をとっており、神宮前店ではその技術を学んだ料理長兼店長が切り盛りしている

 

やがて「山之内」も繁盛店となり、渋谷の宮益坂エリアに2号店となる「中華風家庭料理 Yamaのuchi 渋谷店」をオープン。山之内オーナーはこちらに拠点を移し、いまも渋谷店で腕を振るっている。これら3つの店にはすべて「ネギワンタン」「ねぎそば」「納豆チャーハン」、そして「たらこ豆腐」という個性派メニューなども共通して存在するが、最も街中華な雰囲気なのが原点の地である「中華風家庭料理 山之内 神宮前店」なのだ。

↑神宮前店。テーブル席もあって、ゆっくりと晩酌を楽しむことができる

 

こぢんまりとしているぶんアットホームで、ひとりで気軽に食事やお酒を楽しめる。お客の9割は常連だというが、そのなかにはプロ野球選手や芸能人も少なくない。また、場所柄アパレルやクリエイティブ系の企業で働く業界人も多く、彼らの想像力をかきたてるのに欠かせない存在でもあるのだ。最寄り駅から少々歩くが、だからこそ穴場といえる立地。ぜひ訪れておきたい名店である。

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

中華風家庭料理 山之内 神宮前店

住所:東京都渋谷区神宮前3-38-11

アクセス:東京メトロ銀座線「外苑前駅」徒歩8分
営業時間:平日12:00~14:30/18:00~21:30(L.O.)、土曜12:00~14:30

定休日:日曜、祝日

【街中華の名店】ラーメン400円! 学生の青春に寄り添う「メルシー」は早稲田遺産だ

東京屈指の学生街である早稲田~高田馬場。早稲田大学をはじめ様々な学舎があると同時に若者好みの高コスパな店が多く、ラーメン激戦区ともいわれるエリアである。そのため栄枯盛衰も激しいが、最古参のひとつでありレジェンド的な存在でもあるのが「メルシー」だ。ラーメンが名物であるが、洋食や酒なども提供するスタイルは街中華そのもの。改めて、そんな超名店の魅力を紹介していきたい。

 

キレのあるしょうゆに煮干しが香る高コスパラーメン

看板メニューのラーメンは、まず価格に驚かされる。確かに街中華のラーメンは専門店より比較的安く、500円を切ることも少なくない。だが「メルシー」は400円。同店で最も高価な「五目そば」でも660円となっており、とにかく圧倒的にリーズナブルなのだ。

↑ここには書いていないが、追加料金で1.5倍増量の大盛りにすることも可能だ。麺類なら+90円、ご飯類なら+100円。「チャーシュー」530円、「メンマ」110円といったつまみもある

 

味も、言わずもがなで絶品。同店のスープは豚骨と鶏ガラに、煮干しのダシとキャベツなどの野菜の甘みを加えたものがベースとなる。なかでも特徴的なのは煮干しだ。これには「平子煮干し」といわれる、まいわしを採用。サイズが大きいこの素材を使い、滋味深い魚介のうまみをブレンドする。

↑煮干しの産地は仕入れにもよるが、九州が多いという。量は1日4~5kg。多い日には7~8kgを使用

 

スープの仕込みは毎朝6時前から10時くらいまで。長年変わらない秘伝のしょうゆダレと合わせ、1玉150gの中細ストレート麺を投入。そして同店ならではのコーンなどのトッピングが施され、伝家の宝刀といえる珠玉のラーメンが完成する。

↑「ラーメン」400円。チャーシューは豚のお尻やモモの部位を使い、約1時間煮込んだものをのせる

 

あっさり系ながら、しょうゆのキレをしっかり感じさせるインパクト大のテイスト。したたかながら、あくまで主張しすぎずスープ全体に寄り添う煮干しの風味がたまらない。なお同店は味のカスタマイズができ、濃いめで麺硬めというのが特に多いオーダーだそう。

 

 

早稲田ならではの味。早稲田ならではのストーリー。

ご飯類で人気が高いのはチャーハンだ。この一品に関して同店ならではといえるのが、卵の使い方。普通は、卵を炒めて白米を加えるレシピであろう。ところが同店の場合は混ぜ合わせず、錦糸卵をきぬさや、かまぼこと一緒に後のせする手法を採用しているのだ。

↑「チャーハン 大」590円はステンレスの皿で提供。奥が通常の「チャーハン」490円

 

こうすることで華やかなビジュアルになるのだが、その効果は決して見た目の印象だけではない。あえて卵のマイルドな味わいをご飯と相いれなくすることで、チャーハン全体がエッジの立った味わいになっている。そして、このおいしさを洋風に表現したものが「ポークライス」(490円)や「オムライス」(590円)だ。

↑「オムライス」590円。千切りキャベツが添えられることも特徴のひとつである

 

これらのご飯類には鶏ではなく豚を使うことが特徴。とはいえ「チャーハン」の具材はチャーシューとねぎ、「ポークライス」と「オムライス」はこま切れ肉とたまねぎという違いがある。ケチャップとたまねぎで洋風テイストにしつつ、豚肉のストレートなうまみでパワフルな味にしたいという狙いがあるそうだ。わんぱくな学生が訪れる土地柄を考えれば、その思いには納得できる。

↑カウンターはなく、混んだ場合は相席となる。家族を連れて訪れる卒業生も多い

 

そんな「メルシー」は60周年。1958年に早稲田大学の南門付近で創業し、1970年に現在の駅寄りの場所に移転したとか。店主は現在2代目で、小林一浩さんが腕を振るっている。昔は丼ものや定食、コーヒーなどラーメン以外のメニューがいまより多く、より街中華や甘味中華(甘味喫茶のスタイルでラーメンなどを提供する業態のことを、勝手にそう呼ばせていただきたい)の色が強かったそうだ。その面影は看板に「軽食&ラーメン メルシー」として残されている。

↑2代目店主の小林一浩さん

 

社会が変わればメニューも変わるということだが、同店の代表的なメニューは味すらも60年間不変だ。ただ早稲田の街全体を見れば、跡継ぎがいなかったために閉店を余儀なくされた老舗も存在。そのひとつに“しょうゆのメルシー、塩のほづみ”として人気を二分した街中華「ほづみ」があるのだが、実はそこのおかみさん・鈴木恵美子さんが現在「メルシー」で働いている。

↑もともと早稲田が地元の鈴木さん(手前)。初代のころから「メルシー」と親交が深かったという

 

つまりは、店主や通学生のほか、卒業生や地域住民によっても支えられている“チーム早稲田”な店が「メルシー」なのだ。店名はフランス語で「ありがとう」の意味だが、薄利でおいしい料理を提供し続ける良心的な心意気に、むしろこちらから感謝を申し上げたい。「merci」と。

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

メルシー

住所:東京都新宿区馬場下町63

アクセス:東京メトロ東西線「早稲田」駅3a出口徒歩1分

営業時間:11:00~19:00

定休日:日曜、祝日

【街中華の名店】東京屈指の酸辣湯麺は代々木駅前の「山水楼」にあり! ってマジで駅前じゃん

代々木は穴場のグルメ街であり、駅から足を延ばすと宝物のような名店があるとかつて述べたことがある。では駅周辺はつまらないかというと、実はそんなことはない。代々木駅を利用する人なら、だれもが目にしているはずの街中華が存在する。「中国風レストラン 山水楼」だ。

 

元祖と肩を並べるヤミツキのウマさ

とにもかくにもここはまず、場所がすごい。改札を出た目の前なのだ。駅前と呼べるエリアのなかにスターティンググリッドというものがあるならば、同店はまさにポールポジション。周りはチェーン店だが、そのなかで唯一といえる存在感を放つ。

 

↑駅からの横断歩道が店の入口まで延びている。そして周辺の店よりも専有面積が広いうえに2階建て。好立地すぎる条件だが、街中華なのでもちろん個人経営だ

 

 

↑あまりにも駅前なので、2階の窓側の席はステーションビュー

 

とはいえ、立地がいいだけでは繁盛しないのが飲食の厳しい世界だ。当然としてここには、多くのファンの心をつかんで離さない美食がある。代表的な一皿が「酸辣湯麺」。これはスーラータンメンという、酸っぱくて辛いラーメンだ。

↑「酸辣湯麺」900円。様々な具材を使ったあんが、麺を覆い隠すほどにたっぷりのっている

 

豚ロース、鶏のモモとムネ、たけのこ、しいたけ、えのきだけ、絹ごし豆腐。これらをすべて細かく刻み、鶏ガラ、ゲンコツ、香味野菜からなるスープでサっと煮る。そこにしょうゆダレや溶き卵を投入し、ラストにとろみ、酸味、辛味を調整して完成だ。

↑ストレートの細麺は150g。シャキシャキのえのきだけやふわふわの卵が、とろとろのあんや豆腐とともによく絡み、至福のおいしさだ

 

中国の四川や湖南地方の「酸辣湯」がルーツといわれるこの料理。酢、ラー油、胡椒などが効いたパンチのある味わいだが、決して強烈すぎる刺激ではなく、食べ始めると箸が止まらない。その大きな理由は特製のしょうゆダレにある。タレのなかに昆布と煮干しでうまみをプラスしているため、どこかふくよかでやさしい。また、ごま油の香ばしさが酸味をほどよく抑えるとともに食欲をかきたてる。

↑そのおいしさゆえ、有名雑誌からの信頼も厚い。「酸辣湯麺」の元祖といわれる超名店と肩を並べる形で、大きく紹介されている

 

 

代々木駅前で飲みたいときにも使える!

山水楼は中休みがなく、24時まで営業していることも魅力。昼飲み、早飲み、ちょい飲み、晩酌、2次会と、多様なシーンに応えてくれるのだ。そのため、つまみにも看板メニューが存在。「揚げギョウザ」だ。これもまた、普通の揚げ餃子とは一線を画す特徴がある。

↑「揚げギョウザ」700円。甘酢あんが最大のポイントで、一般的な「焼ギョウザ」600円も人気だが「揚げギョウザ」は熱烈なファンが多い

 

粗挽きと通常の挽肉両方を使って背脂とともに捏ね、キャベツ、にら、白菜、にんにく、しょうがをミックス。これを厚めの皮で包んで揚げ、甘酢あんをかける。表面はサクサクとしていながら、ふっくらもっちりとした生地は食べごたえが抜群。あんには隠し味にレモンが使われており、さっぱりとした余韻で絶妙なおいしさだ。

 

また、「春巻」も人気の逸品である。こちらは豚ロースとハムのほかにたけのこ、しいたけ、キャベツが中華スープのあんでまとめられており、パリパリとした生地とのメリハリがたまらない。

↑「春巻」680円。生地は春巻きの皮のトップメーカーである「富強食品」製で、安定感のあるおいしさ

 

様々な個性を持った名店・山水楼だが、その成り立ちやおいしさの秘密をたずねたところ、興味深いストーリーがあった。現在の店主は2代目とのことだが、取材時は不在のため料理長の中浜 修さんから話を聞くことに。

↑中浜 修料理長。40年以上の職人歴を持つベテランだ

 

「創業は戦後まもなくだと聞いています。私がここに入ったのが1976年。当時から『揚げギョウザ』と『春巻』はありましたが、『酸辣湯麺』は約20年前に私が開発しました。というのも、一度退社して別の店で働いていた時期があるんです。そのお店に酸辣湯があり、まかないで麺を入れて食べていたんですね。そして20年ぐらい前に私が料理長として山水楼に復帰した際に、まかないのレシピを元に『酸辣湯麺』を作ったんです」(中浜さん)

↑昭和の面影が息づく、街中華ならではの温かみにあふれた空間。ここは1階で、2階には入口脇の階段から行ける

 

利便性が高いこともあって、お客のなかには舌の肥えた業界人が少なくない。そしてメディアなどを通じて噂が広まり、同店には麺だけで30以上のメニュー数だが酸辣湯麺は1日に30杯以上出るという。代々木駅は通過するだけという人は、途中下車してでもぜひ賞味いただきたい!

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

中国風レストラン 山水楼(さんすいろう)

住所:東京都渋谷区代々木1-33-4

アクセス:JRほか「代々木駅」西口徒歩数秒

営業時間:11:00~24:00

定休日:日曜

【街中華の名店】100点満点のニラソバとチャーハンが二大巨頭!江戸川橋の行列店「新雅」

本連載は「街中華の名店」をうたうだけあり、行列店が登場することも多々ある。そのなかでも今回は、屈指の一軒を紹介したい。店の名は「新雅」(しんが)。確実に味で勝負している超実力派である。なにせ、場所はターミナルではない江戸川橋駅から徒歩数分の住宅街にあり、お世辞にも好立地とはいえないからだ。

 

 

しかしここにはビジネスパーソンや近隣住民を中心に、そのおいしさを求めて昼夜ともに来客が絶えない。まさに街の中華の名店といえる存在だが、本稿ではその魅力を明らかにしていこう。

 

 

悟りを得たような円熟のニラソバ

看板メニューは「ニラソバ」750円だ。もちろん同店にはスタンダードな「ラーメン」500円や「味噌ラーメン」700円をはじめ、麺類は10種以上と豊富。しかし「ニラソバ」が特に愛されている理由は、具とスープと麺が好バランスに調和し、他店にはない抜群の味わいとなっているからである。

↑「ニラソバ」750円。野菜はにらを中心に、もやしと少量のにんじんを採用

 

奇をてらっているわけではない。しかし調理工程をじっくり観察してみると、圧倒的なおいしさの秘密がわかった。まず、使う素材は至って普通だが、それぞれを調理する温度と熱する時間がパーフェクト。たとえば肉は硬くなりすぎない状態までしっかり炒め、素材が持つうまみを最大限に引き出す。

↑「ニラソバ」には脂身の多い豚バラ肉を使用。細かく切って炒めることで、天然のラードの役目を担わせている

 

そこに加える野菜も同様で、最良の食感と分量を見極めながらスープと麺とでひとつになるゴールを逆算。味付けも、ほどほどのベストチューニングに。仕込みの段階から一連の仕事が丁寧に行われ、それでいて動きに無駄がなく手早いのだ。

↑二代目の湯本浩司さん。「ニラソバ」は1束ぶんを使用と、かなり多い。野菜は天候などによって仕入れ価格が安定しないが、たとえ高騰時でも使用量は変えない

 

味の骨格となるスープは鶏と豚両方のガラをベースに、昆布とムロアジの茹で節を加えて輪郭を整えている。炒める際の隠し味に数種の調味料は使うものの、各素材から出るうまみを知り尽くしているからこそ、スープの味付けに選んでいるのは一般的な醤油。邪魔しないからこそ奥深く、飲み干したくなるうまさなのだ。

↑使っているのは、ゆるやかにウェーブがかかった細麺。初代の修業時代から60年近く愛用している「サッポロ製麺」製で、1玉は150g

 

すべてをひとつに合わせるタイミングもドンピシャだから、食感も素晴らしい。麺はプリプリで、野菜はシャキシャキ、肉は小気味よい弾力であくまでも脇役に徹する。これは言うなれば、悟りを得たような円熟の味。100点満点のニラソバがここにある。

↑「ニラソバ」は文京区が推奨する、野菜を120g以上使うメニューの対象。味だけではなく栄養バランスも優秀だ

 

 

初代の技と心意気を二代目が確かに受け継ぐ

「新雅」にはもう一品ファンの多いメニューがある。特にここ数年でオーダーが急増しているという「チャーハン」だ。こちらにはやや珍しい食材が使われているが、かといって主張するようなものではなく、しかし味は絶品。「ニラソバ」同様に、各素材がハイレベルな計算の妙によって抜群の調和を保っている。

↑「チャーハン」600円。具材には卵、チャーシュー、かまぼこ、ねぎのほか、干ししいいたけが入る

 

珍しい食材というのは、干ししいたけと日本酒。聞けば、どちらも初代が修業した際のレシピで長年変わっていないというが、しいたけは食感のアクセントと、やさしいうまみのアクセントをプラス。日本酒は米をほぐれやすくするとともに、ほのかな甘みを演出してくれるのだという。

↑浩司さんの父親にあたる、初代の湯本国夫さん。いまでも現場に立ち、行列店の味を支えている

 

乱切りのチャーシューが惜しみなく入っている点も見逃せない。同店では肩ロースを採用しており、様々なメニューに使うことから1日2回、朝と夕方に仕込む。塊をスープに入れて約3時間煮込み、硬すぎずやわらかすぎない食感に仕上げる。

↑熟練の技で丁寧かつスピーディに仕込む国夫さん。卓越した腕前はまったく衰えていない

 

たっぷりの野菜と素朴な味わいで人気なのが「焼きソバ」だ。こちらは「ニラソバ」に比べると、にらが少ないぶんキャベツがたっぷり。そのキャベツから甘みが引き出されており、塩と胡椒によるあっさりした味付けながら十分な満足感がある。

↑「焼きソバ」650円。具をキャベツのみでシンプルに仕上げた「ソース焼きそば」550円もある

 

↑息がぴったりと合った親子のコンビネーション。営業時は浩司さんの奥様、花容さんと母親の正子さんも加わり、家族一丸となって切り盛りする

 

二代にわたって愛され続ける同店は、今年で創業46年。以前は少々駅に近い場所にあったが、2015年7月に移転し3年が過ぎた。角地の目立つ好立地からの移転だったが、客足は減らずにむしろ増えているという。

↑移転前より広く、入りやすくなったという店内。営業中はお客でにぎわうが、17~18時は比較的待たずに入れるとか

 

その理由はやはり味。国夫さんが培った技術と心意気を浩司さんがしっかり受け継ぎ、お客を飽きさせない工夫と努力を続けている。薄利多売で重労働な街中華は後継のバトンタッチが難しいジャンルといわれるが、やはり強い絆が生む伝承の味わいは格別なのだ。

 

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

新雅(しんが)

住所:東京都文京区水道2-11-2

アクセス:東京メトロ有楽町線「江戸川橋駅」徒歩5分
営業時間:月~金曜11:00~14:00/17:00~21:00、土曜11:00~13:30/17:00~20:00
定休日:日曜、祝日

【街中華の名店】池尻大橋「鶏舎」の名物中の名物「冷し葱そば」の季節に。それつまり、禁断症状からの解放だ!

街中華の夏の風物詩といえば“冷やし中華はじめました”だろう。筆者の調べによるとゴールデンウィーク明けから秋口まで、というのが多くの店の常套パターンだが、この季節料理が名物となっている街中華がある。池尻大橋の「鶏舎」(チイシャ)だ。

 

 

ねぎを主役にしたエッジのある味がウマすぎる!

ただ同店の場合は冷やし中華ではなく「冷し葱そば」。もともとはおなじみの冷やし中華もあり、こちらも人気が高かったという。だが、独創的かつスピーディに提供できるものを。そんな想いで生まれたのが「冷し葱そば」なのだ。

↑「冷し葱そば」950円。麺が隠れるほど具が満載だが、それでも麺の量は通常の1.5倍で225gある

 

錦糸卵などがのる冷やし中華より色味の華やかさには欠けるが、ねぎを主役にしたエッジのある味わいはインパクト大。いつしか「冷し葱そば」のほうが人気となり、冷涼麺は一本化することに。ただ提供スピードは上がったものの、人気のために仕込む量が増えた。たとえば1日に使う長ねぎの量は90本にもおよぶ。

↑シャキシャキを超えた、ジャキジャキとした食感が絶妙なねぎ。細かく刻み、冷水にさらして辛味を抜くという

 

↑チャーシューは豚の肩ロースを3~4時間煮込んで使用。「冷し葱そば」には約3枚分を短冊切りにしてのせる

 

「鶏舎」はランチから長蛇の列になるほど出数が多いため、もともと仕込み開始は早い。だが「冷し葱そば」の時季は早朝4時半から。真夏の繁忙期ともなれば、さらに1~2時間早くから準備をはじめることもあるという。

↑緑茶のように見えるが、実はこれが味の骨幹となる特製のタレ

 

↑製麺所に特注した細いちぢれ麺を、すべての麺料理に使用。「冷し葱そば」はプリっと、ツルっとした食感に仕上げられる

 

全体のおいしさをまとめ上げるのがタレだ。同店のトップシークレットということで詳しくは明かせないが、決め手となるのは自家製のねぎ油。しょうゆ、塩、豆板醤などを絶妙なバランスで配合することで、香り高くヤミツキになる味わいが生み出されるのだ。

 

 

夏以外でも楽しめる絶品中華が満載だ

シーズンが終わると、確かにファンは“冷し葱そばロス”に苛まれ、また次の夏に恋い焦がれる。だが、真の常連は知っているのだ。ほかにも絶品中華があることを! そのひとつが「五目ウマニかけ飯」。いわゆる中華丼だが、同店の開業当時から人気のメニューである。

↑「五目ウマニかけ飯」950円。「冷し葱そば」同様にご飯が隠れるほどたっぷりと具材がのる

 

名称は五目だが、実際の具は5種以上。豚バラ肉、白菜、にんじん、うずらの卵、ほうれん草、きくらげ、たけのこなどがたっぷり入っている。絶妙な火加減による、野菜のシャキシャキとした食感もたまらない。また、隠し味のオイスターソースが上品さを演出。

↑「ギョウザ」500円。豚肉、にら、ねぎ、キャベツにニンニクとしょうがをブレンドした定番の具材だが、まさにお手本といえる味わいで箸が止まらないおいしさだ

 

また、サイドメニューとしてもつまみの主役にもなるのが「ギョウザ」。オーソドックスな料理ではあるものの、あんの一体感と皮の焼き加減は職人技だからこそなせる技。普遍的なおいしさで、注文率が極めて高い一品である。

 

↑長谷川 淳店主。7歳年下の弟・孝さんとその奥様・和美さん夫妻と一緒に切り盛りをしている

 

そんな「鶏舎」は店主の長谷川 淳さんが1991年にオープンさせた街中華だが、経緯には少し変わった裏話がある。さかのぼること数年前、将来の進路を考えていた長谷川さん。手に職を付けたいと思い、一度は服飾の道を志す。だが80年代中頃は世に「ユニクロ」の1号店が誕生するなど、徐々に安価なファッションが登場していた時代。注文服の難しさを見据えた長谷川さんは料理の道へ方向転換する。そして高校時代のアルバイト経験から、中華料理店の門を叩くことに。

↑長谷川 孝さんは兄の背中を見て「鶏舎」をとともに立ち上げた。オリジナルのTシャツは常連にファッション関係者が多いため、作ってくれるのだという

 

やがて修業開始から6年ほどが経ち、ついに独立して開業したのが「鶏舎」なのだ。このころは、まさにバブル崩壊の足跡が聞こえはじめていた時代。以後、ファストファッションは一層台頭することに。長谷川さんの読みは、少なからず当たっていた。

↑よく見ると「アルバイト募集」の張り紙が。もし「冷し葱そば」の秘密を知りたければ、応募してみてはいかがだろう

 

兄弟のコンビネーションも見事な「鶏舎」だが、店名を考えたのはお父さん。鶏を使った代表的な料理に親子丼があるが、親と子の絆を連想させる「鶏」のイメージが、息子を応援したい気持ちとつながったのかもしれない。そんな同店には「トリソバ」(850円)など鶏を使ったメニューも多く、もちろんどれも絶品だ。ぜひ行ってみていただきたい。

 

撮影/我妻慶一

 

【SHOP DATA】

鶏舎(チイシャ)

住所:東京都目黒区青葉台3-9-9

アクセス:東急田園都市線「池尻大橋駅」徒歩8分

営業時間:月~金曜11:30~14:30/17:00~20:30(L.O.)、土曜11:30~14:30

定休日:日曜、祝日

【街中華の名店】新宿西口思い出横丁の老舗中の老舗ーー「岐阜屋」の魅力はコスパと包容力

乗降客数世界一、といえば新宿駅だ。都庁や大企業のビルがひしめく一方で、古きよきディープなスポットが混在する街であり、特に有名なのが「新宿ゴールデン街」と「新宿西口思い出横丁」である。どちらも個性的な飲食店でにぎわうが、駅に近い後者には昼夜問わず様々な人々が思いおもいの時間を過ごす。今回は、そんなグルメ激戦区にあって高い人気を博す街中華「岐阜屋」を紹介したい。

 

 

戦後すぐオープンした横丁内の老舗街中華

店舗は横丁内でも青梅街道や「新宿大ガード」から近いゾーンにあり、その構造には特徴がある。中央に段差があるうえ、出入口は横丁内の狭い通路からと線路側の2か所。まるで、ふたつの店をくっつけてひとつにしたような空間なのだ。

↑横丁内の通路に面した出入口。冬でもビニールシートの設えだが、活気があるため寒さは感じない

 

↑こちらは線路側の路地に面した出入口

 

全席カウンターとなるが、路地側の一角にはメインの席から離れたL字型の小カウンターが設けられているのもユニーク。界隈には数席のみのこぢんまりした店も多いが、このように「岐阜屋」のスペースは広く約55席と多め。飲まずに麺やご飯類をサっと食べて出ていく客もいるため回転率がよく、入りやすいのも魅力である。

↑L字型の小カウンター。ビールケースの裏には2階への階段があり、上のフロアは仕込みなどを行う調理場となっている

 

聞けば、オープンしたのは1947年。思い出横丁自体が1946年ごろにできた闇市がルーツのため、最古参のひとつといえよう。開業当初の客席は、実はL字型カウンターのみだったとか。その後数回の増改築を経ていまの形に。だから同店は、個性的な店舗設計になっているのである。

 

 

飯も酒も進む高コスパの料理がズラリ

朝9時から通し営業していることもあって、日中から酒を楽しんでいる客が多い。そのため定食の形になっているセットはなく、全メニューが単品でオーダー可能。どれもボリューム満点で、それらをアテに飲むことができる。なかでも人気なのは「木耳と玉子炒め」だ。

↑「木耳と玉子炒め」570円。豚バラ肉や、たまねぎ、にんじん、高菜などの青菜も入った栄養バランスのよい一皿となっている

 

きくらげはコリっと、卵はふっくら、肉はジューシー、野菜はシャッキリ。これらの食材を、やさしく包み込んで一体化させるのがとろっとしたあんだ。強火で手早く炒めることによる絶妙な食感のコントラストは、熟練の妙技といえよう。

↑味付けは秘伝とのこと。塩味のなかに甘みがあって、ご飯も酒もよく進む。空腹を満たすなら「ライス」(並200円、大300円)を

 

麺類も非常にリーズナブルで、「ラーメン 並」なら420円で味わえる。破格の理由は、親会社が高円寺で製麺所を営んでいるから。「岐阜屋」で使用される麺は平打ちのタイプ。締めにラーメンをすするのもいいが、酒のつまみとして楽しむなら「やきそば」がオススメだ。

↑「やきそば」620円。野菜にはキャベツ、にんじん、もやし、にらなどが入り、きくらげと豚肉もうまさを演出する

 

味付けはソースではなく、塩をベースにしたあっさり系。ただ、隠し味にしょうゆを効かせているのでうまみは十分あり、なにより素材の味を存分に楽しめる。これならつまみとしてもアリだし、締めに食べても重くない。思い出横丁でラーメンや焼きそばといえば「若月」という選択肢もあったが、同店が2018年初に幕を閉じたいま「岐阜屋」にかかる期待は大きい。

↑ビールは3種類を用意。大瓶が600円で、黒ビールは小瓶のみとなり430円。ホッピーの外は310円だ

 

当然、酒のアテは圧巻の充実ぶり。「餃子」(400円)をはじめとする点心や中華小皿のほかに「牛もつ煮込み」(360円)、「梅キュー」(360円)などの酒場系つまみも豊富。これだけ多彩なメニューのなかで、特に名物といえるのが「蒸し鶏」だ。

↑「蒸し鶏」(420円)。「酎ハイ」(400円)にはデフォルトでスライスレモンがのっており、さしずめレモンサワーである

 

メニュー名こそシンプルだが、柔らかい鶏モモ肉を蒸して余分な脂を落とし、ほぐして冷やすという手の込んだ調理法が用いられている。そして味付けも秀逸。ごま油の香る塩ダレにポン酢を効かせることでさっぱりさせ、たっぷりのねぎと粗挽き黒こしょうでパンチをプラス。味変アイテムとして、練りからしを添えてくれる心配りもうれしい。

↑店長の坂田信治さん。スタッフや常連客から「シンちゃん」の名で親しまれており、やや強面だが実に気さくである

 

↑中央にいるのは、中野を拠点に全国展開する人気ホルモン酒場「四文屋」(しもんや)グループの大森敏幸社長。ほぼ毎日訪れていて、この日は社員と一緒に。メディア嫌いで知られる社長だが、「岐阜屋を載せるなら俺も載せてよ」とノリノリ

 

なお、店名の由来を聞くと初代が岐阜県出身だからと坂田店長が教えてくれた。戦後の混乱期に闇市からはじまった小さな飲食店は、いつしか世界中から客が訪れる街中華となった。そんな「岐阜屋」には、今日も学生から社長まで様々な老若男女が飲み語らっている。眠らない街で空腹を感じたり飲みたくなったら、ぜひここに立ち寄ってみてほしい。力まないおいしさと、ホっと落ち着く空間が待っている。

 

 

【SHOP DATA】

岐阜屋

住所:東京都新宿区西新宿1-2-1

アクセス:JRほか「新宿駅」西口徒歩3分
営業時間:月~水、日曜9:00~翌1:00 / 木~土曜9:00~翌2:00

定休日:無休

【街中華の名店】神保町の有名店に埋もれない中華ならではのカレーが絶品な「北京亭」

ニッチなグルメカテゴリに「中華カレー」がある。これはその名の通り、中華料理店で提供されるカレーのことだ。知らない人は意外に思うかもしれないが、昨今は一定の人気を得ており、メディアで取り上げられることもしばしば。そしてもちろん街中華の店でも取り扱っているケースは少なくない。そこで今回は数ある街中華カレーの名店のなかから、日本屈指のカレー街として知られる神保町の「北京亭」を紹介しよう。

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上湯スープベースのカレーあんかけご飯は中華ならではの味

“世界最大の本の街”とも呼ばれるこのエリア。同店がある場所は大学をはじめ様々な教育施設が立ち並ぶ白山通り沿いだ。一説によると、若者が多いことに加え、読書しながら食べたい人にスプーン片手で味わえるカレーが好評だったことが、カレー店の増えた理由だという。

 

20180302_DSC_0903↑店を構えて50年以上。風格があり、黄色地に赤の看板からも説得力があふれている

 

学生街であるこの界隈には、当然コスパ抜群の店が多い。並びには全国的に有名なカレー店や、それ以外にもやきそばの行列店などが軒を連ねる。外食激戦区といえるこの地で半世紀以上愛され続ける「北京亭」。そして周辺にはカレー専門店が多いなかでも選ばれる「北京亭」のカレー。魅惑の一皿はどんな味わいなのだろう。運ばれてきたそれは、まさに中華ならではといえる魅力にあふれていた。

????????????????????????????????????↑「カレーライス」780円。日替わりを除くレギュラーメニューのなかでは同店屈指の人気を誇る

 

最大の特徴は、カレー味のあんかけご飯であるということ。日本でおなじみのカレーライスといえば、とろみは小麦粉によるものだ。だが同店では中華丼や麻婆豆腐のあんと同じく片栗粉(馬鈴薯でんぷん)でとろみをつける。そのためソースに透明感があり、テクスチャーもどろっと濃厚な舌触りではなく、とろっとなめらかな風合いになっている。

20180302_DSC_0922↑毎朝9時から炊く中華スープ。同店のほとんどの料理に使われる、味の骨格だ

 

味も街中華特有のもの。ベースとなるのが中華の上湯スープだ。鶏のもみじ、豚足、げんこつのほか、ねぎやしょうがといった香味野菜を加える。それを軸に、油通して絶妙にしんなりさせたにんじん、玉ねぎ、ピーマンとともに豚バラ肉を中華鍋に投入。調理もコトコト煮込むのではなく、鍋を強火で回しながらほかのあんかけ同様スピーディに仕上げる。熟成感のあるカレーとは違う方向性だが、中華ダシのやさしい風味が肉や野菜とひとつになったまろやかなテイストで、スプーンが止まらない。

20180302_DSC_0855↑カレー粉は家庭用としてもおなじみの定番商品を使用。だが辛味を演出する調味料はこれだけではない

 

味付けとしては、濃口しょうゆとオイスターソースでうまみの輪郭を整える。また、辛味の下地としてパウダー状の唐辛子と豆板醤も使用。これがほのかにエッジの効いた刺激と、余韻に残る旨辛さをプラスする。中毒性の高い名物カレーは、こうして生み出されるのだ。

 

 

2タイプある酢豚もボリューミーで人気

定食や麺料理、小皿に本格中華まで、メニューが多彩な点も同店の魅力。そのなかで、よりスタンダードな一皿として人気を博しているのが酢豚だ。おいしいうえにゴロっとした肉とシャキッとした野菜、両方を存分に楽しめるのがその理由である。

20180302_DSC_0853↑「酢豚定食」870円。単品の場合は酢豚の量が増えて980円となる

 

カレーに使ったスライスとは違う、ブロックタイプのバラ肉に衣を付けてカラりと揚げる。そしてケチャップに穀物酢や紹興酒などを加えてあんを作り、カレー同様にしんなりさせた野菜とともに強火で炒めながら絡めるのだ。

20180302_DSC_0846↑料理長の銭宏(センホン)さん。中国の蘇州出身で、2002年に日本へやってきた。日本式中華も本場そのままの料理もお手のもの

 

同店にはケチャップベースの日本式酢豚と、黒酢ベースの本格酢豚の2タイプが存在。後者は単品1080円のみで定食がないものの、日替わり定食として登場することがある。その場合は780円で食べられるとあって、コスパの高さからも絶大な人気だ。

????????????????????????????????????↑晩酌にうれしい破格のセットメニューも

 

また料理や価格のシステムも特徴的。ランチメニューと定食はあくまでも別のカテゴリで、定食は日替わりも含み、昼夜問わず食べることができる。そして表記されている価格に対しての消費税は、ランチに限ってはかからない。昼に利用すると若干おトクなのだ。

????????????????????????????????????↑温かみのある空間。夜はテーブルでまったりくつろぐのもいいだろう

 

大衆的な雰囲気のなか、きわめて良心的な価格で提供している同店。ただ、カウンターの上に飾られた額縁入りの色紙を見ると、そこにはかつて首相を務めた政界のVIPや国民的女優の名も。これは創業者が知人であったとのことだが、多くは謎。ただ、ここが神保町屈指の名店であることは間違いないという証といえよう。

 

【SHOP DATA】

北京亭

住所:東京都千代田区西神田2-1-11

アクセス:JRほか「水道橋駅」東口徒歩5分

営業時間:11:00~15:00/17:00~23:00

定休日:無休

【街中華の名店】「人形町系大勝軒」は街中華のレジェンドだ!その本流の味が息づく「ハレ ウィローズ」

「大勝軒」といえばラーメン界におけるレジェンドとして有名だ。「〇〇系」としてくくられることでも知られ、その二大流派はつけ麺の元祖「東池袋系」と、大きな丼やレンゲが特徴の「永福町系」である。ただこの名店らはあくまでもラーメン店。街中華のレジェンド的大勝軒といえば、「人形町系」なのだ。今回はその伝統を受け継ぐ重要な一軒を紹介しよう。

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超名門のラストシェフの味が楽しめる希少な街中華

人形町系大勝軒の本家は、日本橋人形町の旧地名で芳町と呼ばれた花街にあった「大勝軒総本店」。1905年から1986年の末まで長年営業していたが、現在は業態変更し「珈琲 大勝軒」という喫茶店になっている。つまり、店自体は存在するが中華料理は提供していない。しかし名門のレシピと味はひとりの料理人が受け継ぎ、いまも提供している。その人物こそが「大勝軒総本店」の最後の料理長である楢山泰男さん。そして巨匠の料理を味わえる店こそが、小伝馬町駅が最寄りの「HALE WILLOWS」(ハレ ウィローズ)である。

20180221HaleWILLOWS_180126_009↑オープンは2017年3月。すっきりとした印象の外観だが、店内では落ち着いた風格と温かみを感じられる

 

 

楢山さんは「大勝軒総本店」の閉店後、自身の店「大勝軒」を人形町3丁目に1987年から2010年まで構えたのち2010~2015年には銀座の「日本橋よし町」で料理長を務めていた。これだけ長きにわたって厨房に立ってきたのは、その味にファンが多いからである。事実、大御所のグルメライターや芸能人にも常連がいて楢山さん自身の情熱も衰えてはいない。

 

20180221HaleWILLOWS_180126_114↑シュウマイを包む楢山さん。「日本橋よし町」は現在、モダンチャイニーズの旗手「銀座 やまの辺 江戸中華」となっているが、ここの山野辺 仁シェフにもリスペクトされている

 

麺類、ご飯類、点心などスペシャリテはいくつもある。名物をひとつだけ挙げることは難しいが、テイクアウトもできるメニューとして人気なのがシュウマイ。薄く伸ばされた皮は自家製ならではの透明感で、赤身とバラ肉をブレンドしたあんもジューシーで絶品だ。

 

20180221HaleWILLOWS_180126_039↑「しゅうまい」(486円)と「揚げしゅうまい」(540円)。あんは豚肉と玉ねぎのみとシンプルながら、やさしい味でおいしい

 

そして高級感すら漂わせる美しい逸品が「フヨウハイ」。いわゆるカニタマと呼ばれる料理だ。うまみ豊かな卵に、鶏ガラによるやさしいダシのあんがトロっと重なり合う。その中にはやわらかいかにと、シャキっとしたたけのこが。円熟の技が生み出す、体に染み渡るようなおいしさである。

 

20180221HaleWILLOWS_180126_073↑「フヨウハイ」(1512円)。たらばがにとずわいがにが入った、昔ながらの特選缶詰を惜しげもなく使い、コク深い奥久慈卵を溶いてふんわりと包み込む

 

 

皮も麺も叉焼も100年以上前のレシピで手作り

古の調理法を守り続ける同店は、点心類の皮だけでなく麺も自家製。客席スペースの片隅には絶版となっている「エビス麺機製作所」の製麺機が置いてあり、一つひとつ丁寧に作っている。それが同店のおいしさの秘訣ともいえるが、ラーメン類をオーダーするとほかにも手間暇をかけていることがよくわかる。

 

20180221HaleWILLOWS_180126_082↑「ワンタン麺」(972円)。自家製の細麺とワンタンだけでなく、チャーシューにも注目だ。いまは多くのラーメン店でも焼かず、煮豚のチャーシューを提供するのが普通だが「HALE WILLOWS」は寸胴を活用してローストした本格派の「叉焼」を提供する。なおかつ「支那そば」といわれた時代を象徴する、食紅で染めた古典的なチャーシューだ

 

20180221HaleWILLOWS_180126_130↑人形町3丁目時代の「大勝軒」から楢山さんが愛用している製麺機。生地の撹拌機がセットになった大型のタイプだ

 

ただ、さすがに楢山さんも高齢。いつか引退のときは来るだろう。だが伝説の味はしっかりと後進に受け継がれている。それが店長の保坂礼乃さんと、ご主人のAdam Yoza副店長だ。そう、店名の「HALE WILLOWS」はAdamさんの故郷・ハワイにちなんだもので、ハワイ語でHALEは家屋、英語でWILLOWSは柳という意味。日本語で「柳屋」となる。

 

20180221HaleWILLOWS_180126_112↑左がAdamさん。もともと料理は得意で、いまは日々楢山さんのかたわらで名門直系のレシピを研鑽している

 

「柳屋」というのは保坂さんの家業の屋号。酒屋を営んでいることもあって、「HALE WILLOWS」ではオリジナルの本格焼酎を飲むこともできる。ほとんど流通には出回っていないというこの焼酎、味わいはかなり個性的。まるでバーボンのような樽の熟成香を感じられ、ハマる人にはたまらないテイストなのだ。

 

20180221HaleWILLOWS_180126_102↑「長期貯蔵麦焼酎 神(JIN)」(グラス594円)。詳細は企業秘密だが、福岡県の蔵元が製造しており、原材料の一部にカナダ産スピリッツを使用している。ボトルは3888円

 

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↑最左は楢山さんの奥様・千代子さんで、最右が保坂さん。ベテランと若手の夫婦コンビで常に活気は絶えない

 

街中華は、人気を博している一方で後継者不足という危機も抱えているジャンルだ。強い火力で重い鍋を振る重労働もさることながら、仕込みから丁寧に時間と労力をかける良心的な店は特に大変だろう。しかも比較的に薄利多売な業態であり、現に真の伝説となってしまう名店も少なくはない。だが「HALE WILLOWS」は、街中華界の遺産といえる「大勝軒総本店」のバトンを楢山さんから受け取った。前文で名店「銀座 やまの辺 江戸中華」について触れたが、江戸の街中華といえば、ここ「HALE WILLOWS」が本流といえよう。

 

撮影/我妻慶一

 

 

【SHOP DATA】

HALE WILLOWS(ハレ ウィローズ)

住所:東京都中央区日本橋本町3-9-11

アクセス:東京メトロ日比谷線「小伝馬町駅」徒歩2分
営業時間:月〜金曜11:15~14: 00/17:30~22:00(L.O.21:30)、土曜17:00〜21:00(L.O.20:30)
定休日:日曜、祝日