「喜劇 愛妻物語」公開! 眠くても「エゴサーチ」しまくってしまう映画監督の日常とは?

「足立 紳 後ろ向きで進む」第6回

 

結婚18年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』(全国公開中)で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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9月3日

台風が接近している。湿気というか気圧というかなんというか、全身がじめっとしていて爽快感からほど遠い気分だ。不定愁訴とでもいうのだろうか、どこかが強く不調というわけでもないのだが、肩と背中が重だるく、頭の中が膨れた感じで、何となく目も見えないし何となく息苦しい。近年、気圧の影響をかなり受けるようになってしまった。これは老化現象なのだろうか。それとも肥満のせいか。

 

そんな中、今日は売れている芸能人並みに忙しい一日だ。朝10時から銀座で映画の打ち合わせをして、その後 お昼に「喜劇 愛妻物語」のプロモーション で「活弁シネマ倶楽部」の収録が2時間あり、その後汐留に移動しいくつか取材があり、夕方から濱田 岳さん水川あさみさん新津ちせちゃんと完成披露イベント、その後にまた銀座に移動し20時から「TIFF Studio」の生出演をする予定なのだ。

 

今日の完成披露イベントのために怒れる妻を説得し麻のシャツを買ってもらったが、「TIFF Studio」のころには汗みどろでしわくちゃになっていた。脚本家という仕事にはほとんど取材など来ないのだが、監督をするとマスコミから質問を受けることが格段に多くなる。普段アピールできない心情を吐露するのはとてもうれしい機会なのだが、なぜか良い空気が漂ってくるとぶち壊したい願望というか、不用意なことを言ってしまう癖があるため、発言に注意するのがとっても疲れる。今日も完成披露イベントでテンパって何を言っているか分からなくなり「妻への復讐のつもりでこの映画を作った」と完全に意味不明のことをのたまっていた。

 

また「活弁シネマ倶楽部」の司会の森直人さん、「TIFF studio」の矢田部吉彦さんは本当に博識の方たちなので、知的なことや映画史的なことなどを突っ込まれたりすると、無知にもほどがある私は取り繕うために1リットルくらいの汗をかいてしまう。私が謙遜なし掛け値なしのアホであることは先方も重々承知のこととは思うが、虚栄心だけは人10倍抜きんでているため、何とか良く見られたく必死で誤魔化し続けて、後半疲れすぎてゾンビの心境になった。ただ、森さん、矢田部さんともに「喜劇 愛妻物語」に本当に愛情を持って接していただけて涙がでるほどありがたい。

 

 

23時ごろフラフラになりながら帰宅。サウナに行く気力もない。疲れていたのですぐに眠れるかと思ったが脳が興奮しているのか寝つきがものすごく悪かった。「TIFF studio」を生で見ていた妻が起きていて、「あんた画面で見ると、ほんとハゲ180度いったね」と言うので、頭皮マッサージをしてくれと言ったら「はぁ? ねえよ」と言われた。

 

9月4日

午前4時半起床。始発の新幹線で大阪に向かう。昨日に続いて今日もなかなかに忙しい。11月にクランクインする連ドラのロケハンを朝から大阪市内の公園でして、その後に「喜劇 愛妻物語」の宣伝のためにラジオ出演があるのだ。この連ドラもコロナの影響で止まったり内容に変化があったりと苦労した。いやしている。

 

新幹線内で絶対に寝ようと思っていたのに、昨日の取材がどれほど露出しているかエゴサーチしていたら止まらなくなり、結局一睡もせず、新大阪駅に到着時点でスマホのバッテリーが残り10%を切っている。しかも充電器を忘れた。

 

午前10時過ぎ、プロデューサーや監督らと何とかという駅で(大阪には全く明るくないので駅名忘れた)待ち合わせし、公園やら路地やらをあちこち歩く。その合間に執筆中のシナリオの説明をしどろもどろにする。こういう説明がとことん苦手だからシナリオを書くことを生業としているのだが、やはりどんな仕事でも口頭で分かりやすく説明することを求められるのは当たり前か。

 

その後、タクシーを拾っていただき、気の利く女性プロデューサーが美味しいパンを持たせてくれて、ラジオ局(毎日放送)に向かう。タクシー内でパンを3秒で貪り食う。異様に腹が減っておりもはや噛むというよりほぼ飲むようにして食べたが、とても美味しかった。

 

12時30分にラジオ局に到着後、少し打ち合わせをして「こんちわコンちゃんお昼ですょ!」の生放送に出演させていただく。

 

拙書「それでも俺は、妻としたい」を気に入ってくださったメッセンジャーの黒田 有さんが、映画の宣伝をしませんかとその番組に呼んでくださったのだ。冒頭からみっちり30分も「喜劇 愛妻物語」のために時間をさいていただいた。もう本当にありがたい。

 

コンちゃんこと近藤光史さんは毎日放送の元アナウンサーで4回結婚さていて、4回離婚されているらしい。明石家さんまさんからは「趣味が結婚、特技が離婚」と言われている強者で、そんな方にも「喜劇 愛妻物語」は楽しんでいただけたようでうれしかった。いや、そんな方だから楽しめたのかもしれない。

 

私の出演部分が終わり、ロビーに降りて行くと、ちょうど今着いたという妻と遭遇。妻は子どもたちを学校にやってから新幹線に乗ったのだが、大雨のために名古屋で1時間足止めを食っていたのだ。電波が悪く生放送を聞けなかったと悔しがる妻は「ちょっと皆さんに挨拶してくる」と言って私の首から入館証を引きちぎると、それをくわえてエレベーターに乗ってラジオ局へと入って行った。私ならいくら妻が世話になっているとしても見知らぬ人たちに一人で絶対に挨拶など行けない。そのあたりは本当にたくましいと思う。

 

9月8日

朝6時妻と散歩。午前中、連ドラの脚本執筆。肩甲骨および右腕痛し。その後、近所の行きつけの銭湯へ。

 

銭湯内にあるサウナのテレビがいつも日テレだったのだが、テレ朝に変わっていた。この銭湯はお客にチャンネル権は一切なくリクエストもできない。今までずっと日テレだったのに急にテレ朝に変わったのは何か理由があるのだろうか。お客から「何でいつもいつも日テレなんだ! 飽きるだろ!」とクレームでもあったのか、もしくはシェフの気まぐれサラダのように、番台さんの気まぐれチャンネルにでもなったのか。

 

いつも私が行くこの時間には「ヒルナンデス!」を問答無用に見ることになっていたのだが、テレ朝に替わっていた今日は「大下容子ワイド! スクランブル」という番組が流れており、これは無知な私には「ヒルナンデス!」より勉強になりそうで、このままテレ朝でいっていただけたらと思った。

 

夕方から月島ブロードウエイで「喜劇 愛妻物語」の一般の方向けのオンライン試写。私と妻のトークショー付き。

 

その前にマスコミ取材があったのだが、登壇者が私と妻ではどのくらいのマスコミの方に来ていただけるだろうかと不安に思っているところに、伊勢谷友介さんが逮捕されたとの報が飛び込んできた。もしかしたらマスコミはそちらに行ってしまうかも……と宣伝担当のOさんがポツリと呟いた通り、来てくださったマスコミは2~3社。まあ私と妻では伊勢谷さんのことがあってもなくても変わらなかっただろう。申し訳なく恥ずかしい。

 

わずかに来ていただいたマスコミの方とサクラのように客席に座ってくれた数人のスタッフの前で妻と話すというのはなかなかにヘビーではあったが、妻の作りハイテンションで何とか乗り切った。私は上がり症のくせに観客が少ないとテンションがダダ落ちするという面倒臭い性格だから、どんな時でも意地でテンションをあげる妻はやはり本当に頼りになる。

 

が、帰り道に「お前が監督したんだろうがよ! すかしてんじゃねえよ! ホアキン・フェニックスかよ!(インタビューが盛り上がらないことで有名らしい)千年早えぇわ!」と厳しく叱責された。すかしたつもりはないし、ましてホアキンのつもりなど1ミリもないのは言うまでもないが、妻の繰り出す技(言葉)を正面切って受けなかったらしい。

 

 

しかしオンライン試写というのは当たり前だが、お客様の反応が見られないのがものすごく寂しい。声を出して笑ってもらえたり、自分では予想も付かないところで笑い声が発生したりすると死ぬほどうれしいので、それを体感できないのが残念でならない(全く笑われなくて頭を抱えることもあるが)。

 

妻とのトークショーというのは何と言うか同情も得られそうで、「どうかつまらないと思ったら、SNSなどで何もつぶやかずにこの映画は見なかったことにしておいてください」と話した。

 

9月11日

朝4時には目が覚めてしまう。5時半までどうにか我慢し、妻を起こす。いつもより早い5時45分妻と散歩。

 

とうとう、いよいよ、ついに「喜劇 愛妻物語」の公開初日だ。大変緊張する。どうか少しでも多くのお客さんに観ていただきたい。

 

私は自分の関わった映画はたいてい初日の朝一番の回にどこかの劇場で観るようにしているが、今回はメイン館の新宿ピカデリーに妻と一緒に行った。

 

一席ずつあけてのソーシャルディスタンス映画館はやはり寂しいがこればかりは致し方ない(でも、自分が客として見る時は満員が嫌い)。客席は半分くらいは埋まっていたような感じはあった。終始、妻の笑い声が一番大きく、笑う回数も一番多かったような気がするので、ありがたいがかなり複雑な気持ちにもなった。

 

その後、昼食を食べに焼肉屋に入った。妻は映画を観て寿司が食べたくなったから寿司がいいと言ったのだが(寿司を食べるシーンがあるのです)、私は予告で流れていた寺門ジモン監督の「フード・ラック! 食運」という映画の肉の映像で分かりやすく焼肉が食べたくなっていて、3回勝負のジャンケンをして3連勝で勝ったので、随分昔に来てからずっと行ってなかった「焼肉長春館」に行った(昔は映画館で予告の前に「長春館」の宣伝があり、貧乏学生だった時はあこがれの焼き肉屋さんだった)。

 

ランチ定食では飽き足らず、追加でタンやらカルビやらハラミやらミノやらハツやらレバやらホルモンやらを大いに食らう。最後にコムタンスープを1滴残さず平らげ大満足。食うだけ食ったら今度は甘いものが食べたくなり、高島屋に行きジェラートダブルをいただく。すると強烈な睡魔が襲ってきた。夕方からラジオ出演があるため、一回家に帰ると30分しか家にいれないという微妙な時間で、妻はこのまま「イル・シチリアーノ」を見に行くというので、私は自分へのご褒美と投資のためテルマー湯に向かう。最近睡眠不足が溜まっていたのでゆっくり休もうと思ったのだが、入浴サウナ後に案の定エゴサーチを始めてしまい、結局一睡もできなかった。

 

17時30分木場駅にて岡村洋一さんのラジオに出演させていただく。久しぶりにお会いした岡村さんが「今のところ、今年は愛妻が邦画では一番面白い」と言ってくださったので気分がとても良くなった。

 

9月12日

朝5時半妻と散歩。本日は舞台挨拶がある。娘は以前より用事があったので来れないが息子と妻は来ると言う。娘の用意ができておらず、時間がギリギリになってしまったとかで、朝早くから妻と娘が激しくやりあい、かなり険悪のムード。私はそれを見て見ぬ振りして日課のエゴサーチ。娘を初めての未開の駅へ送るため、妻と娘息子は9時前には出発してしまった。

 

その後、毎朝散歩で行っている近所の神社にも今朝行ったにもかかわらずまた寄り、少しでも多くの人に見てもらって、少しでも多く笑ってもらえますように……と祈り、新宿ピカデリーに向かう。

 

舞台挨拶では、新津ちせちゃんが「私のお父さんとお母さんはこんなケンカはしない」と言ったので「君のお父さんくらい大ヒットを連発していればウチもケンカしなくてすむんだよ」と余計なことを言ってしまい、ちせちゃんを困らせてしまった。彼女の顔にはわりと本物に近い困惑が浮かんでいたようにも見えて、これは大人として言うべき言葉ではなかったかもしれないと心の底から悔いた。妻からも「あんた、私だけじゃなくて誰にでも一言多いね」と言われ、さらに落ち込んだ。

※新津ちせちゃんのお父さんはアニメーション監督の新海 誠さん
↑足立の額のテカリが半端ありません!(by妻)

 

9月13日

朝妻と散歩。余計な一言から少々口論に。後半無言のウォーキング。午前中、連ドラの脚本執筆。肩甲骨および右腕痛し。その後、近所の銭湯へ。日曜は昼から混んでいる。

 

午後から麻布十番でやっている映画「アンダードッグ」のダビングに向かう。「アンダードッグ」は今年の東京国際映画祭のオープニング作品に決定している。前後編合わせて4時間半以上もあるが、森山未來さんはじめ、俳優陣の鬼気迫る演技にきっと釘付けになることと思うので、この機会に是非ごらんいただけたらうれしい。

 

劇場公開は11月27日から。その後に連続ドラマ版の配信が始まる予定だ。

 

身体の凝りを嘆いていたら武 正晴監督がマッサージをしてくれた。さすがに柔道の猛者だっただけあって(中学時代にはあの吉田秀彦選手にも勝利!)、マッサージもお手のものではっきり言ってめちゃくちゃ上手い。絶妙の力加減で肩甲骨の凝りをほぐしてくれて、その後のストレッチで右腕もずいぶんと楽になった。武監督はこの業界で食いっぱぐれてもマッサージ屋さんを開けば、今と同じくらいそちらの業界でも売れっ子になるだろう。その暁には私が受付をさせてもらおうと思う。

 

それにしても昨夏はこの「アンダードッグ」のシナリオを書いている途中に「喜劇 愛妻物語」の撮影もあり、脳みそがパンクしそうであったが、どちらもやりたいことを存分にやらせていただいただけにストレスはまったくなかった。両作品とも何とか興行的にも成功して関わった皆さんも自分も幸せな気持ちになれたらうれしいと殊勝にも思う。

 

殊勝と言えば首相が変わるが、ほとんど興味を持てないでいる。今、自分のことで精いっぱいで、その大事を自分のこととして考えられなくなるくらい自分も自分以外の何かもが鈍りきっているのかもしれない。憂鬱になる。

 

夜、寝床で、平松洋子さん著「肉とすっぽん」を読んでいたら猛烈に内臓とか羊とか馬とか鹿とかクジラとかが食べたくなるが、そんなものは家にない。それでも刺激された食欲を抑えきれず冷蔵庫をごそごそと漁り、近所のラーメン屋から買ってきたチャーシューをかじっていたら止まらなくなり、かじりすぎて胃がもたれ眠れなくなってしまった。バカとしか言いようがない。

 

9月16日

朝妻と散歩。午前中、連ドラの脚本執筆。午後は週に一回、妻と講師をしている高校へ。

 

授業で脚本作「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」を半分だけ見たのだが、久しぶりに見たら南 沙良さんの無垢すぎる歌声に涙が滲んだ。この人はきっとものすごい女優さんになるのではないかと思う。私が勝手に言ってるだけの言葉だが、いわゆるぶちかまし系の俳優さんで、全身で自分の役をしょっている感じがするのだ。「幼な子われらに生まれ」という映画で演じた反抗期の娘役にもすでにその片鱗は見られていた。

 

今日は70分授業で早く終わったため、白金高輪まで電車で向かい、妻がかねてから行きたいと言っていた「鈴木屋」へ。

 

前からその存在は知っていたが、私たちの生活範囲に白金高輪はなかったし、営業時間が週4日の17-19の2時間しかないため行けずにいたが、今日なら間に合うと思い向かった。

 

1630に店につき、ホワイトボードに名前を書いたのだが、我々の前にすでに5組書いてある。店内はカウンター8席くらいとテーブル席2席のみ。ギリギリセーフだった。白金高輪の商店街を散策して時間をつぶし(美味しそうな店が沢山)、開店時間ピッタリに入店。食事は何もかもが美味しかった! 澄んだスープの煮込みも最高だったが、串焼きも最高だった。結局メニューにあるすべての品を食べ尽くし大満足。それでも二人で6千円。絶対にまた来たいと強く思った。

 

9月18日

朝妻と散歩。午前中、連ドラの脚本執筆。肩甲骨及び右腕痛し。その後、近所の銭湯へ。

 

午後、妻と一緒に「TENET」を近所の映画館のIMAXで鑑賞。そりゃ頭悪くていろいろ分からないが、分からないことにすら気づかなったくらい(脳みそ足りなさすぎ)、2時間半あっという間だった。ただし説明は何もできない。

 

9月26日

地元商店街の制服屋さんで娘が中学で着るという学校指定のセーターを買いに行く。この制服屋さんにはお菓子とかカルピスがたくさん置いてあって自由に食べたり飲んだりしてもよく、それを知っている息子がついて行くというので3人で行った。

 

息子は相変わらずのハイテンションで店内で騒ぎまくり、空気も読まずにがんがんお菓子を食べ(私もガンガン食べまくる)それに対して恥ずかしくて娘が不機嫌になるというよくあるパターンが店内で発生しかけたので、まだ食べたいと言う息子を抱えて慌てて店を出た。

 

制服屋を出ると、商店街に新しくできたスイーツ屋に行きたくなりそこに向かう道すがら、突然息子がキレ出した。「こっちの道は嫌だ! 絶対に嫌だ!」と始まる。

 

息子は知らない道を行こうとすると大暴れするのはよくあるのだが、これが非常に面倒くさい。スイーツは食べたいが、息子のスイッチが完全にオンになってしまったので諦めた。こういうときは私よりも娘のほうが諦めが早い。

 

息子は発達障害グレーゾーンで、道を急に変えるとかそんな小さなことでも、突然の変更を受け入れられず癇癪を起こす。療育にも通ってアンガーコントロールなど一応学んでいるのだが、今のところ成果は見られない気がする(妻は休校期間中よりは少し癇癪間隔があいたと言っているが)。まあそれはそれで癇癪起こす姿がかわいい部分もあるからムカつかない時もあるが、今日はスイーツを諦めている上に、暴れる息子のケリが私の金玉を直撃したため、瞬時に脳内が真っ白になって手に持っていた娘のセーターの入った袋で息子をぶっ叩いていてしまった。

 

こちらの痛みにくらべたら数億倍は弱い痛みのくせに、父親が瞬間湯沸かし器のように突然怒ったということで息子の中でまたスイッチが入り、「この暴力男!」「お前なんか死んじまえ!」「逮捕されろ!」「懲役だぞ!」と知っているワードを総動員して商店街のど真ん中でがなりたてる。こうなるともうほっておくしかないのだが、置いてけぼりにすれば、一人で喚き散らしているので、抱えて連れて行くしかない。娘は恥ずかしがってさっさと行ってしまった。

 

それにしても、息子のことで発達障害の本を読んだり専門家の話を聞いているうちに、映画に出て来るちょっとエキセントリックなキャラクターはみんな発達障害に見えてしまうようになった。

 

夕方、声をかけてもらい子ども向けのZOOMセッションに参加する。お題は「未来の自分を考えてみよう」と言うことで、私の他にはブラインドサッカーの日本代表の方や獣医師さんなどが参加していらした。6歳の年長さんから中学1年生までのお子さんが参加してくれた。

 

子どもたちから「失敗をしたらどうやって乗り越えているんですか? クヨクヨしませんか?」とか「生きるために仕事をするんですか? それともやりたいから仕事をするんですか?」とか「周りの友達は将来やりたいことが決まっているのに僕は全然決まっていません。やりたいことはどうやったら見つけられますか?」とかなかなかに鋭い質問が来た。

 

私は今でも失敗は怖い。そして失敗したときにそれを乗り越えられない。なし崩しで次に行くしかない。失敗するたびにクヨクヨしている。人生でクヨクヨしている時間のほうが長いくらいだ。それはとてももったいない時間だと思うが、人生の大半をクヨクヨしていると子どもたちに正直に言った。そんな言葉聞きたくもなかったろうと後になって思った。クヨクヨせずに切り替えられるなら、当たり前だが断然そちらの方が良い。どなたか良い方法があれば教えていただきたいが、私にとっては百メートルを10秒台で走るくらい難しい気がしている。

 

【妻の1枚】

 

 

【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が公開中。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『それでも俺は、妻としたい』。

【喜劇 愛妻物語公式サイトはコチラ】

 

 

予告編がYouTube740万再生の注目作『喜劇 愛妻物語』監督夫妻に訊く、夫婦円満の秘訣

2020年9月11日(金)より公開される映画『喜劇 愛妻物語』。水川あさみさんが濱田 岳さんに暴言を吐きまくる予告編が話題となり、映画公開前にもかかわらずYouTubeで740万回も再生されている超注目の作品なのです。

 

 

本作の監督は、2014年に安藤サクラさん主演で公開された『百円の恋』で脚本を担当し、日本アカデミー賞最優秀脚本賞に輝いた足立 紳さん。人生のバイブルは『ロッキー』シリーズと言っても過言ではない私も、32歳直前でこの『百円の恋』を鑑賞し、エンディングで嗚咽! 人生に悩む全女子が見るべき映画として日頃からいろんな人にオススメしています。

 

そんな足立監督の最新監督作は、なんと喜劇だというではないですか!

 

しかも自伝小説をもとにした夫婦の話で、映画に出てくるエピソードはほぼ実話。内容もかなり赤裸々!! ……って、面白くないわけがない! ということで、今回は足立監督とその「妻」である晃子さんに、映画について、そして夫婦についてお話をお伺いしました。

 

「青春18きっぷ」での四国旅行も、年収50万円も、セックスレスもほぼ実話!

↑足立監督(右)と妻の晃子さん(左)

 

–本日はよろしくお願いいたします。先に映画を拝見したんですが、濱田 岳さんが演じる豪太にイライラが止まらなくて……でも最後にはなんだかこの夫婦が羨ましい気持ちにもなりました。この作品は、足立監督の自伝小説『喜劇 愛妻物語』がもとになっていますが、一体どこまでが本当のエピソードなのでしょうか?

 

晃子さん「警察に捕まるとか、法に触れること以外は実話ですよ!」

 

–えっ!?  青春18きっぷで旅行したりとか、年収が50万円だとか、夫婦がセックスレスで豪太が妻・チカ役である水川あさみさんに猫撫で声で「ねぇ〜マッサージする?」って聞いてくるのも本当……?

 

晃子さん「はい……ってここで言うの本当に恥ずかしいんですけど、この人、すっごいしつこいんですよ。疲れているからやりたくないって言っても『なんで? どうして?』って聞いてきて。やりたくないのになんでもクソもないよ!!  って思うし、実際やったとしても大したことないですし(笑)。セックスもコミュニケーションの一種なんだろうけど、内容よりも回数をしたいって思っているんですかね」

 

足立監督「いやぁ〜そういうわけでもないんだけど。奥さんには『早く終われ』って言われちゃうからね。内容を濃くする時間もなくて……」

 

晃子さん「そんな言い方すると、まるで技があるみたいじゃない!」

 

–ちょちょちょっと待ってください! 取材なのに、映画のワンシーンをみているような気分になってきました(笑)。このやりとりだけで「あぁ〜実話だな」と確信しました! 現在は二人のお子さんもいらっしゃいますが、結婚何年目ですか?

 

晃子さん「結婚してから今年で18年目ですね。私が20歳、彼が24歳のころから6年付き合って結婚しました」

 

足立監督「付き合っている時には、3回くらい別れたりしましたけどね(笑)」

 

晃子さん「この結婚するタイミングも、私が『もう別れる!』って言ったら、『いや結婚しよう!』って、なし崩し的に結婚しちゃって」

 

–なし崩し! そんな結婚初めて聞きます……。

 

足立監督「結婚した時期が、僕のどん底期だったんですよ。奥さんと出会った時は現場で助監督をしていたんですけど、シナリオを書けば売れっ子になれるでしょ〜って、先のことも考えないまま助監督を辞めたのがちょうど30歳になるころで。ろくな仕事もなかったから、もう結婚しないと死活問題で。実家に帰るか、東京でホームレスになるか、そんな状態でしたから」

 

–結婚できて良かったですね、って私が言うのもおかしな話ですが(笑)、私だったら「無理!」って断っちゃいます。

 

晃子さん「そうですね。ほんと今思い返しても本当にアホな選択をしたと思っています。 『そっか、私がいないと生きていけないよね、結婚しましょう』って思っちゃったんですよね」

 

離婚する選択も、結婚し続ける選択も同じくらいツラい

 

–映画『喜劇 愛妻物語』では、若かりしころの仲睦まじい二人が回想シーンとして出てきます。実際のお二人もあんな感じだったんですか?

 

足立監督「あんな感じでしたよ。新婚のころは、僕がなかなかうまくいかないのを同情してくれていたんだと思いますねぇ」

 

晃子さん「私も『この人面白いのになー』って思っていたし、努力をしていたことも知っていたから応援していました」

 

–でもいつのころから、映画のような感じになってしまったと……。

 

晃子さん「彼の企画が成立しないことが続いたり、応援していた私も『あんたが悪いんじゃないの?』って思うようになってきて、いろんな感情が積もり積もって爆発してしまったんですよね。これというキッカケがあったわけじゃないんですが……」

 

足立監督「あ、でも! 上の子が生まれたタイミングで、彼女には仕事も続けて欲しかったから『俺は専業主夫になるんだ』って決意したんですよ。そのころは結構、頑張ってたよね?」

 

晃子さん「……私、いつもその話の時に思うんだけど、あなたの専業主夫って全然専業主夫じゃないよ? 食いしん坊だから食べ物は作るけど、A5ランクのお肉とか豪華なお弁当買ってきたり、掃除は下手だし。昨日だってご飯あるよっていうのに、穴子寿司買ってきちゃったり、そういうところだからね!」

 

–こんなこと言うのも失礼ですが……「もう離婚!」ってタイミングはいつでもあったと思うんですよ。でもそれをせずにここまで過ごせているのは、どうしてなんでしょう? なにか努力したり、仲良くする秘訣みたいなのはあるのでしょうか?

 

足立監督「僕はちょっと恥ずかしいですけど、彼女に……週に1回は求め続けることですね」

 

晃子さん「その感覚が間違えてるから(笑)」

 

足立監督「他の家庭はわからないですけど、求め続けるって大事だと思っています。あと、離婚するという選択をして、それぞれの道を歩むっていう『マリッジ・ストーリー』的なお話もありだけど、一緒にいるのは一緒にいるで超大変なんですよね。その選択の厳しさも映画で描きたかったんです」

 

–なるほど。

 

足立監督「離婚するという選択をするのも、夫婦であり続けるという選択もするのもどちらも大変。僕自身も別れないようにする努力をしてきたつもりです(笑)。だって本当に嫌いだったらもう別れてるでしょ?」

 

晃子さん「そうね。私も大っ嫌いなんだけど、1%のいいところがあるから、そこが引っかかって捨てきれないんですよ。全部嫌いではないんですよね。なんか憎めないところというか……、超憎んでいるんだけど、可愛い部分がねぇ」

 

–取材させてもらってまだ少しですが、失礼ながら足立監督の憎めない可愛さめっちゃわかります!!

 

足立監督「本音を言うと、僕は彼女のことを『お守り』みたいに思っているんですよ。映画の中でも赤いパンツが出てきますけど、手放したらダメだって思っているんです」

 

晃子さん「あぁ〜有名アーティストにありがちな、俺は売れたからって若い女と取り替えちゃうようなやつじゃないって言いたいと!」

 

–あぁ〜なんちゃらガールズに目移りしちゃったりとか(笑)。

 

足立監督「そこまで細かくは言えないですけど、僕の場合、彼女を失ったら暗黒時代に戻ってしまうのではないか? なんて気持ちはありますね。それ、うれしい?」

 

晃子さん「あんまうれしくない!なんか愛妻キャラ作ってるし。全然なのに」

 

なんだかんだ言って、笑って過ごせる夫婦は最強!

 

–映画の中でも実際も、夫が妻を求め続けるってすごいことだな! とも思うんです。最近セックスレスな夫婦って多いじゃないですか? 私自身も結婚3年目ですが、もうやらなくてもいっか、みたいな感覚になっているんですよ。お二人は夫婦のセックスレスについてどう思います?

 

晃子さん「紳はセックスレスが不思議なんだよね?」

 

足立監督「僕の中では、それくらいしか取り柄がないと思っていたから……」

 

晃子さん「待って、その流れだと自分が取り柄あるみたいになるからやめてよ(笑)」

 

足立監督「違う、違う! 彼女に寂しい想いだけはさせないようにしようって新婚のころに思って、ちゃんと求め続けるって決めたんですよ。でも毎回は受け入れられない。そのうち、お願いして断られてっていう攻防が楽しくなってきちゃって『ごっこ遊び』に発展していったんです」

 

–セックスを断られたことがきっかけで、倦怠期ゾーンに突入ってよく聞きますけど、監督はそこでめげなかったわけですね!

 

足立監督「そそそう! 一度やらなくなるだけで取り返しがつかなくなるって周りから聞いていましたし、それは嫌だと思ってました。『ごっこ遊び』についても映画の中でチカが『役所広司で』って言うシーンがありますけど、こういうのよくやるんですよ(笑)」

 

–それも実話だったんですね! 個人的にはもっと詳しく『ごっこ遊び』についてもお伺いしたいのですが(笑)、そろそろお時間なので。最後にこれから映画を観る方や、結婚生活に悩んでいるご夫婦に先輩夫婦として、お二人からアドバイスをお願いします!

 

晃子さん「私たち、別に円満夫婦じゃないからなぁ」

 

–いやいや! 今回お話をお伺いして改めて思ったんですけど、どんな出来事も「笑い」に変えているお二人は、円満夫婦です! 映画を観た人の中には、「こんなの悲劇だよ」って感想もあるかもしれませんけど、喜劇にできる夫婦って最強だな! って思うんです。足立監督の円満の秘訣はやっぱり、アレですか?(笑)

 

足立監督「うん、求め続けることですね。寝室も分けたくないです!」

 

晃子さん「私は安眠も大事にしたいから! それにスキンシップ好きじゃないんですよ。この人年中ベタベタするしっ」

 

足立監督「まぁまぁ(笑)。最近だと二人で40分くらい、朝の散歩をしています」

 

–素敵! やっぱり円満夫婦じゃないですか!

 

晃子さん「勝手についてくるんですよ。コロナの時期から始めたんですけど、近所の神社まで願掛けを」

 

–めちゃくちゃいい夫婦! 晃子さんの思う円満の秘訣も是非教えて欲しいです。

 

晃子さん「私のっていうよりも、周りの人の話を聞いていて思うのは『諦めずに言う』ですね。これが嫌だったとか、どんな小さなことでも言葉で伝えないとダメかな、と。言ったことで喧嘩になって、険悪な1週間を過ごすかもしれないけど、言ったらいいじゃん! って思います」

 

足立監督「言いたいことを言うって難しいですからね」

 

晃子さん「難しいの。私も昔は嫌なことも言わずに、自分でやっちゃってました。洗濯物とか、食器洗いとかね。でも育児に追われて『言わなきゃやってられない!』って状態になったんです。これはお互い様ですけど、『気がつくかな〜』って思っていても、言わなきゃ絶対伝わらない。うるさいなーって思われても言う、言ってみる! ひとつ屋根の下で、一緒に暮らしているわけですから」

 

–確かに。言うことをちゃんと言う妻と、求め続ける夫ということが円満の秘訣ですね!

 

晃子さん「全然噛み合ってない!(笑)」

 

足立監督「(笑)お互い我慢しないってことが円満の秘訣かもしれないですね。映画のタイトルにも“喜劇”って付けましたけど、どんな夫婦でも一緒にいるなら少しでも楽しい方がいいです」

 

–そうですね。足立家のように、悲劇も喜劇にできるような夫婦が増えて、お二人のように“笑う門には福来る”な人生を歩んでいきたいと思いました。今日は本当にありがとうございました!

 

約1時間の取材でしたが、終始笑いが絶えず、私も笑いすぎて帰りに龍角散を飲むほどでした。母性をくすぐる可愛さ満点な足立監督と、海より広い心を持って一家を支える晃子さん。映画『喜劇 愛妻物語』は、そんな二人の赤裸々なエピソードが詰まったコメディ作品ですが、コメディに留まることなく夫婦の愛を感じられる作品でもあります。

 

私が好きなシーンに、チカが豪太に代わり原稿をタイピングする場面が出てくるのですが、これも足立夫妻のエピソードに基づいたもの。タイピングが苦手な足立監督に変わって、晃子さんが原稿を打ち込んでいるのだとか。これまで足立監督が手がけてきた数多くの脚本はもちろん、現在GetNavi webで連載している足立 紳 後ろ向きで進むも、晃子さんがタイピングしているもの。

 

「時間がたっぷりあるんだから、タイピングくらい練習しなさいよ!」なんてチカに怒られてしまいそうですが、きっと二人で過ごすこの時間こそ夫婦にとって大切なものなのかもしれないなぁ〜としみじみしました。

 

そこの旦那さん、最近奥さん求めてますか?

そこの奥さん、旦那さんに言いたいこと言えてますか?

 

夫婦の愛を確認するためにも、映画『喜劇 愛妻物語』ぜひ劇場でご覧ください!

 

<作品情報>

「喜劇 愛妻物語」

2020年9月11日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:濱田岳 水川あさみ 新津ちせ
大久保佳代子 坂田聡 宇野祥平 黒田大輔 冨手麻妙 河合優実
夏帆 ふせえり 光石研

脚本・監督:足立紳
原作:足立紳「喜劇 愛妻物語」(幻冬舎文庫)

配給:キュー・テック/バンダイナムコアーツ

【公式サイトはコチラ

予告編がYouTube740万再生の注目作『喜劇 愛妻物語』監督夫妻に訊く、夫婦円満の秘訣

2020年9月11日(金)より公開される映画『喜劇 愛妻物語』。水川あさみさんが濱田 岳さんに暴言を吐きまくる予告編が話題となり、映画公開前にもかかわらずYouTubeで740万回も再生されている超注目の作品なのです。

 

 

本作の監督は、2014年に安藤サクラさん主演で公開された『百円の恋』で脚本を担当し、日本アカデミー賞最優秀脚本賞に輝いた足立 紳さん。人生のバイブルは『ロッキー』シリーズと言っても過言ではない私も、32歳直前でこの『百円の恋』を鑑賞し、エンディングで嗚咽! 人生に悩む全女子が見るべき映画として日頃からいろんな人にオススメしています。

 

そんな足立監督の最新監督作は、なんと喜劇だというではないですか!

 

しかも自伝小説をもとにした夫婦の話で、映画に出てくるエピソードはほぼ実話。内容もかなり赤裸々!! ……って、面白くないわけがない! ということで、今回は足立監督とその「妻」である晃子さんに、映画について、そして夫婦についてお話をお伺いしました。

 

「青春18きっぷ」での四国旅行も、年収50万円も、セックスレスもほぼ実話!

↑足立監督(右)と妻の晃子さん(左)

 

–本日はよろしくお願いいたします。先に映画を拝見したんですが、濱田 岳さんが演じる豪太にイライラが止まらなくて……でも最後にはなんだかこの夫婦が羨ましい気持ちにもなりました。この作品は、足立監督の自伝小説『喜劇 愛妻物語』がもとになっていますが、一体どこまでが本当のエピソードなのでしょうか?

 

晃子さん「警察に捕まるとか、法に触れること以外は実話ですよ!」

 

–えっ!?  青春18きっぷで旅行したりとか、年収が50万円だとか、夫婦がセックスレスで豪太が妻・チカ役である水川あさみさんに猫撫で声で「ねぇ〜マッサージする?」って聞いてくるのも本当……?

 

晃子さん「はい……ってここで言うの本当に恥ずかしいんですけど、この人、すっごいしつこいんですよ。疲れているからやりたくないって言っても『なんで? どうして?』って聞いてきて。やりたくないのになんでもクソもないよ!!  って思うし、実際やったとしても大したことないですし(笑)。セックスもコミュニケーションの一種なんだろうけど、内容よりも回数をしたいって思っているんですかね」

 

足立監督「いやぁ〜そういうわけでもないんだけど。奥さんには『早く終われ』って言われちゃうからね。内容を濃くする時間もなくて……」

 

晃子さん「そんな言い方すると、まるで技があるみたいじゃない!」

 

–ちょちょちょっと待ってください! 取材なのに、映画のワンシーンをみているような気分になってきました(笑)。このやりとりだけで「あぁ〜実話だな」と確信しました! 現在は二人のお子さんもいらっしゃいますが、結婚何年目ですか?

 

晃子さん「結婚してから今年で18年目ですね。私が20歳、彼が24歳のころから6年付き合って結婚しました」

 

足立監督「付き合っている時には、3回くらい別れたりしましたけどね(笑)」

 

晃子さん「この結婚するタイミングも、私が『もう別れる!』って言ったら、『いや結婚しよう!』って、なし崩し的に結婚しちゃって」

 

–なし崩し! そんな結婚初めて聞きます……。

 

足立監督「結婚した時期が、僕のどん底期だったんですよ。奥さんと出会った時は現場で助監督をしていたんですけど、シナリオを書けば売れっ子になれるでしょ〜って、先のことも考えないまま助監督を辞めたのがちょうど30歳になるころで。ろくな仕事もなかったから、もう結婚しないと死活問題で。実家に帰るか、東京でホームレスになるか、そんな状態でしたから」

 

–結婚できて良かったですね、って私が言うのもおかしな話ですが(笑)、私だったら「無理!」って断っちゃいます。

 

晃子さん「そうですね。ほんと今思い返しても本当にアホな選択をしたと思っています。 『そっか、私がいないと生きていけないよね、結婚しましょう』って思っちゃったんですよね」

 

離婚する選択も、結婚し続ける選択も同じくらいツラい

 

–映画『喜劇 愛妻物語』では、若かりしころの仲睦まじい二人が回想シーンとして出てきます。実際のお二人もあんな感じだったんですか?

 

足立監督「あんな感じでしたよ。新婚のころは、僕がなかなかうまくいかないのを同情してくれていたんだと思いますねぇ」

 

晃子さん「私も『この人面白いのになー』って思っていたし、努力をしていたことも知っていたから応援していました」

 

–でもいつのころから、映画のような感じになってしまったと……。

 

晃子さん「彼の企画が成立しないことが続いたり、応援していた私も『あんたが悪いんじゃないの?』って思うようになってきて、いろんな感情が積もり積もって爆発してしまったんですよね。これというキッカケがあったわけじゃないんですが……」

 

足立監督「あ、でも! 上の子が生まれたタイミングで、彼女には仕事も続けて欲しかったから『俺は専業主夫になるんだ』って決意したんですよ。そのころは結構、頑張ってたよね?」

 

晃子さん「……私、いつもその話の時に思うんだけど、あなたの専業主夫って全然専業主夫じゃないよ? 食いしん坊だから食べ物は作るけど、A5ランクのお肉とか豪華なお弁当買ってきたり、掃除は下手だし。昨日だってご飯あるよっていうのに、穴子寿司買ってきちゃったり、そういうところだからね!」

 

–こんなこと言うのも失礼ですが……「もう離婚!」ってタイミングはいつでもあったと思うんですよ。でもそれをせずにここまで過ごせているのは、どうしてなんでしょう? なにか努力したり、仲良くする秘訣みたいなのはあるのでしょうか?

 

足立監督「僕はちょっと恥ずかしいですけど、彼女に……週に1回は求め続けることですね」

 

晃子さん「その感覚が間違えてるから(笑)」

 

足立監督「他の家庭はわからないですけど、求め続けるって大事だと思っています。あと、離婚するという選択をして、それぞれの道を歩むっていう『マリッジ・ストーリー』的なお話もありだけど、一緒にいるのは一緒にいるで超大変なんですよね。その選択の厳しさも映画で描きたかったんです」

 

–なるほど。

 

足立監督「離婚するという選択をするのも、夫婦であり続けるという選択もするのもどちらも大変。僕自身も別れないようにする努力をしてきたつもりです(笑)。だって本当に嫌いだったらもう別れてるでしょ?」

 

晃子さん「そうね。私も大っ嫌いなんだけど、1%のいいところがあるから、そこが引っかかって捨てきれないんですよ。全部嫌いではないんですよね。なんか憎めないところというか……、超憎んでいるんだけど、可愛い部分がねぇ」

 

–取材させてもらってまだ少しですが、失礼ながら足立監督の憎めない可愛さめっちゃわかります!!

 

足立監督「本音を言うと、僕は彼女のことを『お守り』みたいに思っているんですよ。映画の中でも赤いパンツが出てきますけど、手放したらダメだって思っているんです」

 

晃子さん「あぁ〜有名アーティストにありがちな、俺は売れたからって若い女と取り替えちゃうようなやつじゃないって言いたいと!」

 

–あぁ〜なんちゃらガールズに目移りしちゃったりとか(笑)。

 

足立監督「そこまで細かくは言えないですけど、僕の場合、彼女を失ったら暗黒時代に戻ってしまうのではないか? なんて気持ちはありますね。それ、うれしい?」

 

晃子さん「あんまうれしくない!なんか愛妻キャラ作ってるし。全然なのに」

 

なんだかんだ言って、笑って過ごせる夫婦は最強!

 

–映画の中でも実際も、夫が妻を求め続けるってすごいことだな! とも思うんです。最近セックスレスな夫婦って多いじゃないですか? 私自身も結婚3年目ですが、もうやらなくてもいっか、みたいな感覚になっているんですよ。お二人は夫婦のセックスレスについてどう思います?

 

晃子さん「紳はセックスレスが不思議なんだよね?」

 

足立監督「僕の中では、それくらいしか取り柄がないと思っていたから……」

 

晃子さん「待って、その流れだと自分が取り柄あるみたいになるからやめてよ(笑)」

 

足立監督「違う、違う! 彼女に寂しい想いだけはさせないようにしようって新婚のころに思って、ちゃんと求め続けるって決めたんですよ。でも毎回は受け入れられない。そのうち、お願いして断られてっていう攻防が楽しくなってきちゃって『ごっこ遊び』に発展していったんです」

 

–セックスを断られたことがきっかけで、倦怠期ゾーンに突入ってよく聞きますけど、監督はそこでめげなかったわけですね!

 

足立監督「そそそう! 一度やらなくなるだけで取り返しがつかなくなるって周りから聞いていましたし、それは嫌だと思ってました。『ごっこ遊び』についても映画の中でチカが『役所広司で』って言うシーンがありますけど、こういうのよくやるんですよ(笑)」

 

–それも実話だったんですね! 個人的にはもっと詳しく『ごっこ遊び』についてもお伺いしたいのですが(笑)、そろそろお時間なので。最後にこれから映画を観る方や、結婚生活に悩んでいるご夫婦に先輩夫婦として、お二人からアドバイスをお願いします!

 

晃子さん「私たち、別に円満夫婦じゃないからなぁ」

 

–いやいや! 今回お話をお伺いして改めて思ったんですけど、どんな出来事も「笑い」に変えているお二人は、円満夫婦です! 映画を観た人の中には、「こんなの悲劇だよ」って感想もあるかもしれませんけど、喜劇にできる夫婦って最強だな! って思うんです。足立監督の円満の秘訣はやっぱり、アレですか?(笑)

 

足立監督「うん、求め続けることですね。寝室も分けたくないです!」

 

晃子さん「私は安眠も大事にしたいから! それにスキンシップ好きじゃないんですよ。この人年中ベタベタするしっ」

 

足立監督「まぁまぁ(笑)。最近だと二人で40分くらい、朝の散歩をしています」

 

–素敵! やっぱり円満夫婦じゃないですか!

 

晃子さん「勝手についてくるんですよ。コロナの時期から始めたんですけど、近所の神社まで願掛けを」

 

–めちゃくちゃいい夫婦! 晃子さんの思う円満の秘訣も是非教えて欲しいです。

 

晃子さん「私のっていうよりも、周りの人の話を聞いていて思うのは『諦めずに言う』ですね。これが嫌だったとか、どんな小さなことでも言葉で伝えないとダメかな、と。言ったことで喧嘩になって、険悪な1週間を過ごすかもしれないけど、言ったらいいじゃん! って思います」

 

足立監督「言いたいことを言うって難しいですからね」

 

晃子さん「難しいの。私も昔は嫌なことも言わずに、自分でやっちゃってました。洗濯物とか、食器洗いとかね。でも育児に追われて『言わなきゃやってられない!』って状態になったんです。これはお互い様ですけど、『気がつくかな〜』って思っていても、言わなきゃ絶対伝わらない。うるさいなーって思われても言う、言ってみる! ひとつ屋根の下で、一緒に暮らしているわけですから」

 

–確かに。言うことをちゃんと言う妻と、求め続ける夫ということが円満の秘訣ですね!

 

晃子さん「全然噛み合ってない!(笑)」

 

足立監督「(笑)お互い我慢しないってことが円満の秘訣かもしれないですね。映画のタイトルにも“喜劇”って付けましたけど、どんな夫婦でも一緒にいるなら少しでも楽しい方がいいです」

 

–そうですね。足立家のように、悲劇も喜劇にできるような夫婦が増えて、お二人のように“笑う門には福来る”な人生を歩んでいきたいと思いました。今日は本当にありがとうございました!

 

約1時間の取材でしたが、終始笑いが絶えず、私も笑いすぎて帰りに龍角散を飲むほどでした。母性をくすぐる可愛さ満点な足立監督と、海より広い心を持って一家を支える晃子さん。映画『喜劇 愛妻物語』は、そんな二人の赤裸々なエピソードが詰まったコメディ作品ですが、コメディに留まることなく夫婦の愛を感じられる作品でもあります。

 

私が好きなシーンに、チカが豪太に代わり原稿をタイピングする場面が出てくるのですが、これも足立夫妻のエピソードに基づいたもの。タイピングが苦手な足立監督に変わって、晃子さんが原稿を打ち込んでいるのだとか。これまで足立監督が手がけてきた数多くの脚本はもちろん、現在GetNavi webで連載している足立 紳 後ろ向きで進むも、晃子さんがタイピングしているもの。

 

「時間がたっぷりあるんだから、タイピングくらい練習しなさいよ!」なんてチカに怒られてしまいそうですが、きっと二人で過ごすこの時間こそ夫婦にとって大切なものなのかもしれないなぁ〜としみじみしました。

 

そこの旦那さん、最近奥さん求めてますか?

そこの奥さん、旦那さんに言いたいこと言えてますか?

 

夫婦の愛を確認するためにも、映画『喜劇 愛妻物語』ぜひ劇場でご覧ください!

 

<作品情報>

「喜劇 愛妻物語」

2020年9月11日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:濱田岳 水川あさみ 新津ちせ
大久保佳代子 坂田聡 宇野祥平 黒田大輔 冨手麻妙 河合優実
夏帆 ふせえり 光石研

脚本・監督:足立紳
原作:足立紳「喜劇 愛妻物語」(幻冬舎文庫)

配給:キュー・テック/バンダイナムコアーツ

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予告編がYouTube740万再生の注目作『喜劇 愛妻物語』監督夫妻に訊く、夫婦円満の秘訣

2020年9月11日(金)より公開される映画『喜劇 愛妻物語』。水川あさみさんが濱田 岳さんに暴言を吐きまくる予告編が話題となり、映画公開前にもかかわらずYouTubeで740万回も再生されている超注目の作品なのです。

 

 

本作の監督は、2014年に安藤サクラさん主演で公開された『百円の恋』で脚本を担当し、日本アカデミー賞最優秀脚本賞に輝いた足立 紳さん。人生のバイブルは『ロッキー』シリーズと言っても過言ではない私も、32歳直前でこの『百円の恋』を鑑賞し、エンディングで嗚咽! 人生に悩む全女子が見るべき映画として日頃からいろんな人にオススメしています。

 

そんな足立監督の最新監督作は、なんと喜劇だというではないですか!

 

しかも自伝小説をもとにした夫婦の話で、映画に出てくるエピソードはほぼ実話。内容もかなり赤裸々!! ……って、面白くないわけがない! ということで、今回は足立監督とその「妻」である晃子さんに、映画について、そして夫婦についてお話をお伺いしました。

 

「青春18きっぷ」での四国旅行も、年収50万円も、セックスレスもほぼ実話!

↑足立監督(右)と妻の晃子さん(左)

 

–本日はよろしくお願いいたします。先に映画を拝見したんですが、濱田 岳さんが演じる豪太にイライラが止まらなくて……でも最後にはなんだかこの夫婦が羨ましい気持ちにもなりました。この作品は、足立監督の自伝小説『喜劇 愛妻物語』がもとになっていますが、一体どこまでが本当のエピソードなのでしょうか?

 

晃子さん「警察に捕まるとか、法に触れること以外は実話ですよ!」

 

–えっ!?  青春18きっぷで旅行したりとか、年収が50万円だとか、夫婦がセックスレスで豪太が妻・チカ役である水川あさみさんに猫撫で声で「ねぇ〜マッサージする?」って聞いてくるのも本当……?

 

晃子さん「はい……ってここで言うの本当に恥ずかしいんですけど、この人、すっごいしつこいんですよ。疲れているからやりたくないって言っても『なんで? どうして?』って聞いてきて。やりたくないのになんでもクソもないよ!!  って思うし、実際やったとしても大したことないですし(笑)。セックスもコミュニケーションの一種なんだろうけど、内容よりも回数をしたいって思っているんですかね」

 

足立監督「いやぁ〜そういうわけでもないんだけど。奥さんには『早く終われ』って言われちゃうからね。内容を濃くする時間もなくて……」

 

晃子さん「そんな言い方すると、まるで技があるみたいじゃない!」

 

–ちょちょちょっと待ってください! 取材なのに、映画のワンシーンをみているような気分になってきました(笑)。このやりとりだけで「あぁ〜実話だな」と確信しました! 現在は二人のお子さんもいらっしゃいますが、結婚何年目ですか?

 

晃子さん「結婚してから今年で18年目ですね。私が20歳、彼が24歳のころから6年付き合って結婚しました」

 

足立監督「付き合っている時には、3回くらい別れたりしましたけどね(笑)」

 

晃子さん「この結婚するタイミングも、私が『もう別れる!』って言ったら、『いや結婚しよう!』って、なし崩し的に結婚しちゃって」

 

–なし崩し! そんな結婚初めて聞きます……。

 

足立監督「結婚した時期が、僕のどん底期だったんですよ。奥さんと出会った時は現場で助監督をしていたんですけど、シナリオを書けば売れっ子になれるでしょ〜って、先のことも考えないまま助監督を辞めたのがちょうど30歳になるころで。ろくな仕事もなかったから、もう結婚しないと死活問題で。実家に帰るか、東京でホームレスになるか、そんな状態でしたから」

 

–結婚できて良かったですね、って私が言うのもおかしな話ですが(笑)、私だったら「無理!」って断っちゃいます。

 

晃子さん「そうですね。ほんと今思い返しても本当にアホな選択をしたと思っています。 『そっか、私がいないと生きていけないよね、結婚しましょう』って思っちゃったんですよね」

 

離婚する選択も、結婚し続ける選択も同じくらいツラい

 

–映画『喜劇 愛妻物語』では、若かりしころの仲睦まじい二人が回想シーンとして出てきます。実際のお二人もあんな感じだったんですか?

 

足立監督「あんな感じでしたよ。新婚のころは、僕がなかなかうまくいかないのを同情してくれていたんだと思いますねぇ」

 

晃子さん「私も『この人面白いのになー』って思っていたし、努力をしていたことも知っていたから応援していました」

 

–でもいつのころから、映画のような感じになってしまったと……。

 

晃子さん「彼の企画が成立しないことが続いたり、応援していた私も『あんたが悪いんじゃないの?』って思うようになってきて、いろんな感情が積もり積もって爆発してしまったんですよね。これというキッカケがあったわけじゃないんですが……」

 

足立監督「あ、でも! 上の子が生まれたタイミングで、彼女には仕事も続けて欲しかったから『俺は専業主夫になるんだ』って決意したんですよ。そのころは結構、頑張ってたよね?」

 

晃子さん「……私、いつもその話の時に思うんだけど、あなたの専業主夫って全然専業主夫じゃないよ? 食いしん坊だから食べ物は作るけど、A5ランクのお肉とか豪華なお弁当買ってきたり、掃除は下手だし。昨日だってご飯あるよっていうのに、穴子寿司買ってきちゃったり、そういうところだからね!」

 

–こんなこと言うのも失礼ですが……「もう離婚!」ってタイミングはいつでもあったと思うんですよ。でもそれをせずにここまで過ごせているのは、どうしてなんでしょう? なにか努力したり、仲良くする秘訣みたいなのはあるのでしょうか?

 

足立監督「僕はちょっと恥ずかしいですけど、彼女に……週に1回は求め続けることですね」

 

晃子さん「その感覚が間違えてるから(笑)」

 

足立監督「他の家庭はわからないですけど、求め続けるって大事だと思っています。あと、離婚するという選択をして、それぞれの道を歩むっていう『マリッジ・ストーリー』的なお話もありだけど、一緒にいるのは一緒にいるで超大変なんですよね。その選択の厳しさも映画で描きたかったんです」

 

–なるほど。

 

足立監督「離婚するという選択をするのも、夫婦であり続けるという選択もするのもどちらも大変。僕自身も別れないようにする努力をしてきたつもりです(笑)。だって本当に嫌いだったらもう別れてるでしょ?」

 

晃子さん「そうね。私も大っ嫌いなんだけど、1%のいいところがあるから、そこが引っかかって捨てきれないんですよ。全部嫌いではないんですよね。なんか憎めないところというか……、超憎んでいるんだけど、可愛い部分がねぇ」

 

–取材させてもらってまだ少しですが、失礼ながら足立監督の憎めない可愛さめっちゃわかります!!

 

足立監督「本音を言うと、僕は彼女のことを『お守り』みたいに思っているんですよ。映画の中でも赤いパンツが出てきますけど、手放したらダメだって思っているんです」

 

晃子さん「あぁ〜有名アーティストにありがちな、俺は売れたからって若い女と取り替えちゃうようなやつじゃないって言いたいと!」

 

–あぁ〜なんちゃらガールズに目移りしちゃったりとか(笑)。

 

足立監督「そこまで細かくは言えないですけど、僕の場合、彼女を失ったら暗黒時代に戻ってしまうのではないか? なんて気持ちはありますね。それ、うれしい?」

 

晃子さん「あんまうれしくない!なんか愛妻キャラ作ってるし。全然なのに」

 

なんだかんだ言って、笑って過ごせる夫婦は最強!

 

–映画の中でも実際も、夫が妻を求め続けるってすごいことだな! とも思うんです。最近セックスレスな夫婦って多いじゃないですか? 私自身も結婚3年目ですが、もうやらなくてもいっか、みたいな感覚になっているんですよ。お二人は夫婦のセックスレスについてどう思います?

 

晃子さん「紳はセックスレスが不思議なんだよね?」

 

足立監督「僕の中では、それくらいしか取り柄がないと思っていたから……」

 

晃子さん「待って、その流れだと自分が取り柄あるみたいになるからやめてよ(笑)」

 

足立監督「違う、違う! 彼女に寂しい想いだけはさせないようにしようって新婚のころに思って、ちゃんと求め続けるって決めたんですよ。でも毎回は受け入れられない。そのうち、お願いして断られてっていう攻防が楽しくなってきちゃって『ごっこ遊び』に発展していったんです」

 

–セックスを断られたことがきっかけで、倦怠期ゾーンに突入ってよく聞きますけど、監督はそこでめげなかったわけですね!

 

足立監督「そそそう! 一度やらなくなるだけで取り返しがつかなくなるって周りから聞いていましたし、それは嫌だと思ってました。『ごっこ遊び』についても映画の中でチカが『役所広司で』って言うシーンがありますけど、こういうのよくやるんですよ(笑)」

 

–それも実話だったんですね! 個人的にはもっと詳しく『ごっこ遊び』についてもお伺いしたいのですが(笑)、そろそろお時間なので。最後にこれから映画を観る方や、結婚生活に悩んでいるご夫婦に先輩夫婦として、お二人からアドバイスをお願いします!

 

晃子さん「私たち、別に円満夫婦じゃないからなぁ」

 

–いやいや! 今回お話をお伺いして改めて思ったんですけど、どんな出来事も「笑い」に変えているお二人は、円満夫婦です! 映画を観た人の中には、「こんなの悲劇だよ」って感想もあるかもしれませんけど、喜劇にできる夫婦って最強だな! って思うんです。足立監督の円満の秘訣はやっぱり、アレですか?(笑)

 

足立監督「うん、求め続けることですね。寝室も分けたくないです!」

 

晃子さん「私は安眠も大事にしたいから! それにスキンシップ好きじゃないんですよ。この人年中ベタベタするしっ」

 

足立監督「まぁまぁ(笑)。最近だと二人で40分くらい、朝の散歩をしています」

 

–素敵! やっぱり円満夫婦じゃないですか!

 

晃子さん「勝手についてくるんですよ。コロナの時期から始めたんですけど、近所の神社まで願掛けを」

 

–めちゃくちゃいい夫婦! 晃子さんの思う円満の秘訣も是非教えて欲しいです。

 

晃子さん「私のっていうよりも、周りの人の話を聞いていて思うのは『諦めずに言う』ですね。これが嫌だったとか、どんな小さなことでも言葉で伝えないとダメかな、と。言ったことで喧嘩になって、険悪な1週間を過ごすかもしれないけど、言ったらいいじゃん! って思います」

 

足立監督「言いたいことを言うって難しいですからね」

 

晃子さん「難しいの。私も昔は嫌なことも言わずに、自分でやっちゃってました。洗濯物とか、食器洗いとかね。でも育児に追われて『言わなきゃやってられない!』って状態になったんです。これはお互い様ですけど、『気がつくかな〜』って思っていても、言わなきゃ絶対伝わらない。うるさいなーって思われても言う、言ってみる! ひとつ屋根の下で、一緒に暮らしているわけですから」

 

–確かに。言うことをちゃんと言う妻と、求め続ける夫ということが円満の秘訣ですね!

 

晃子さん「全然噛み合ってない!(笑)」

 

足立監督「(笑)お互い我慢しないってことが円満の秘訣かもしれないですね。映画のタイトルにも“喜劇”って付けましたけど、どんな夫婦でも一緒にいるなら少しでも楽しい方がいいです」

 

–そうですね。足立家のように、悲劇も喜劇にできるような夫婦が増えて、お二人のように“笑う門には福来る”な人生を歩んでいきたいと思いました。今日は本当にありがとうございました!

 

約1時間の取材でしたが、終始笑いが絶えず、私も笑いすぎて帰りに龍角散を飲むほどでした。母性をくすぐる可愛さ満点な足立監督と、海より広い心を持って一家を支える晃子さん。映画『喜劇 愛妻物語』は、そんな二人の赤裸々なエピソードが詰まったコメディ作品ですが、コメディに留まることなく夫婦の愛を感じられる作品でもあります。

 

私が好きなシーンに、チカが豪太に代わり原稿をタイピングする場面が出てくるのですが、これも足立夫妻のエピソードに基づいたもの。タイピングが苦手な足立監督に変わって、晃子さんが原稿を打ち込んでいるのだとか。これまで足立監督が手がけてきた数多くの脚本はもちろん、現在GetNavi webで連載している足立 紳 後ろ向きで進むも、晃子さんがタイピングしているもの。

 

「時間がたっぷりあるんだから、タイピングくらい練習しなさいよ!」なんてチカに怒られてしまいそうですが、きっと二人で過ごすこの時間こそ夫婦にとって大切なものなのかもしれないなぁ〜としみじみしました。

 

そこの旦那さん、最近奥さん求めてますか?

そこの奥さん、旦那さんに言いたいこと言えてますか?

 

夫婦の愛を確認するためにも、映画『喜劇 愛妻物語』ぜひ劇場でご覧ください!

 

<作品情報>

「喜劇 愛妻物語」

2020年9月11日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:濱田岳 水川あさみ 新津ちせ
大久保佳代子 坂田聡 宇野祥平 黒田大輔 冨手麻妙 河合優実
夏帆 ふせえり 光石研

脚本・監督:足立紳
原作:足立紳「喜劇 愛妻物語」(幻冬舎文庫)

配給:キュー・テック/バンダイナムコアーツ

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18年目の挙式は混沌、骨折娘は不機嫌MAX−−酷暑の夏に平穏が欲しい映画監督の日常

「足立 紳 後ろ向きで進む」第6回

 

結婚18年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』(9/11から新宿ピカデリー他全国公開予定)で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

【第1回の日記はコチラ
【第2回の日記はコチラ
【第3回の日記はコチラ
【第4回の日記はコチラ
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8月2日

朗読劇の脚本直しに苦戦。直しというかポイントとなるセリフがなかなか書けない。

 

売れないシナリオライターの夫と売れない女優の妻の話で、最後に二人は離婚するのだが、激しいケンカをした後、数日たって少し冷静になった妻は離婚という決意は変えないが夫に優しい言葉をかける。「あなたの書くシナリオに励まされていた」と。励まされていたからには、夫がどんなシナリオを書いていて妻がどう励まされていたのかを妻のセリフとして書かねばならない。夫である売れないシナリオライターのモデルは私だ。つまり私は、自分のシナリオの良さを自分の作品の中で書いて褒めるという、すごく恥ずかしいことをせねばならない。

 

そのセリフだけ妻に書いてもらおうと思い丸投げしたところ、「あんたへの誉め言葉は虫唾が走るから書きたくない。実感のこもっていないウソになる」と言われ、結果私は自分で自分の良さを書いた。「へぇ~、こういう自己評価なんだ。相変わらず自己愛だけは深いな」と妻に言われて腹が立った。

 

だが書いてみて気づいたがこれは自己評価ではなく、こういう書き手になりたいという願望だ。どんなセリフかというと「あなたのシナリオは目線が低くて、弱者の味方で、実人生では嘘ばかりついているくせに、シナリオには嘘がない」と、だいたいこんな感じのものだ。そういう書き手になれるようにこれから精進していこうと3分ほど思った。

 

夜、店主が一人で切り盛りしている江古田の定食屋に妻と息子と行く。(娘も誘ったが絶賛反抗期のため「行かない」と一言)。この店は初めて入ったのだが、セルフサービスのため価格が安い。そして料理はどれも手作りで大変美味かった。息子が最近よく食べるようになったのでご飯の大盛を2つ頼んだら漫画みたいなザ・山盛りが出てきた。スペアリブと鶏の唐揚げと、鶏南蛮揚、野菜炒めを食べる。空腹だったので絶対に食べきれると思っていたのだが食べきれなかった。ここ数年、この手の失敗が多い。でも食い意地が張っているからついつい大目に注文してしまう。

 

かなり余らせて「もう限界」と言うと、玉ねぎサラダをつまにワインを飲んでいた妻が「何度同じ失敗してんのよ、食い意地だけはった豚野郎が。もったいねえだろ」と言って、残り物を全て食べた。太るんだから食べなければいいのに、と思うが言えない。

 

帰り路の商店街のおもちゃ屋で息子がドはまりしている怪獣・ツインテールの人形を見つけ購入。

 

8月3日

朗読劇とともに並行している映画脚本と連ドラの脚本がまったく進んでおらず(忙しい自慢はバンバンします)、慌てふためいて軽く更年期パニックになっているのに、今日は結婚式だ。

 

以前の日記でも書いたが、特に意味もない結婚18年目で、特に強い意志があったわけでもないのに、この日記を始めるからそのネタのためだけに「結婚式でもあげとく?」と私が提案したのだが(結婚10年目と15年目にもやろうとしていたが両方とも人生のどん底期のため行わなかった)、式場探しや契約などの面倒な作業はすべて妻に丸投げしていた。

 

当初4月開催だった予定がコロナの影響で夏休み中の7月に延期していたのだが、急遽7月末まで夏休み返上になってしまい、再度本日に延期となったのだ。仕事がまったく捗っておらず、結婚式など挙げている余裕はいっさいないので再度延期したいと妻に言ったが、これ以上延期するとキャンセル料も高くなるし、「もとはと言えばお前がネタだけのために式をあげようと言い出したのだろうが!」とガミガミ始まったので強行突破で行うこととなった。

 

まあ、結婚式と言っても家族4人だけでサクッとやるやつだ。だが、中一のクソ反抗期娘はこういう行事やら写真撮影を舌打ち一発「なんで私も行かなきゃなんないの」と、家を出る前から不機嫌モード全開。貸衣裳のドレスを着るのは絶対嫌だと言い張り、妻が今日のために夏用ワンピースを用意していた。一度はそのワンピースに着替えるも、家を出た後「マスク忘れた」と言って一旦家に帰宅し、何の嫌がらせか普段のTシャツ&短パンに着替えて出て来た。

 

「写真撮るんだよ!あんたの親父が面倒くさいこと言い出したせいで!」と妻が怒鳴ると、「知ってるよ。これでいいもん」と一言。私は紋付き袴、妻は着物、息子はタキシードになるというのに先が思いやられる。

 

11時、会場に到着。タキシードに着替える予定の息子が案の定「絶対着ない!」の百連発が始まる。私も妻も半グレ……じゃなかった半ギレで説得を試みるが首を縦に振らない。テコでもラリアットでも振らない。「仕方ない、息子もTシャツ&短パンだな……」と諦めていたら、結婚式場のノリのよいおねえさんに「カッコEーから着ちゃいなYO!」みたいなテンションで言われ、あっさり「じゃ、着替える」と言いやがった。しかし妻が靴を忘れてきて、タキシードに汚いスニーカーというスタイルに。なかなか完璧にはいかない。

 

式では半分スネた娘とタキシード姿になって恥ずかしくてジタバタしている息子の二人が参列しているバージンロードを紋付き袴姿の私と着物姿の妻が歩いた。

 

「あの人たちすぐ怒るんだよ。人殺しなんだよ」ともう訳の分からなくなっている息子が式場のおねえさんや牧師さんに一生懸命しゃべり、姉から「うるさいよ!」と怒られていた。

 

妻と誓いの言葉を交わし(妻が書いた)、その後は娘と息子も子どもたちとしての誓いの言葉(これも妻が書いた)を言うオプションをつけたことを最高に後悔せざるを得ない状況となり(息子「言いたくない言いたくない言いたくない言いたくない」の連呼。娘、人前にも関わらずチョーぶすむくれ)、破れかぶれのうちに式は終了。

 

↑結婚式にて。ずーっと不機嫌だった娘が急にハイテンションに。息子は最初から最後まで走り回っていた(妻)

 

その後の写真撮影で息子は異様にテンションがあがってカメラマンの方の言うことも聞かず走り回り、なぜか意味不明に機嫌の良くなった娘が我々の写真をパシャパシャと撮った。とにかく疲れた。やはり結婚式というものはネタのためにやるものではない。ネタにはしたが。

↑もはや収集つかず。ヤケクソに(妻)

 

8月4日

朗読劇の稽古。といっても今回は稽古が一日しかない。それをも楽しむというのか、やはりこういう状況でもあるし、その上でできるエンターテインメントをやることに意義があるのだと思う。

 

今日はYOUさん、マキタスポーツさんコンビと、りょうさん、三宅弘樹さんコンビの二組と稽古した。先日稽古した平岩紙さん、中尾明慶さんコンビも含めて私は3組の方々とやらせていただくが、同じ台本で皆さんそれぞれに違った夫婦の形は見ていて非常に面白かった。

 

稽古後、妻から「今日、少し疲れているから夜に少し一人時間ほしす」とラインが入っていたが私も疲れており、どうしてもサウナで一汗流したかったので、「ごめん、稽古が少し長引きそう」と返信してサウナで3時間ばかりメンテナンスして帰宅したのだが、マッサージの方から頂いた「次回10分延長無料券」を妻に見つかってしまいえらい逆ギレというのか逆じゃないけどキレられた。だが多分、私のほうが疲れている自信はある。

 

8月7日

朝から「喜劇 愛妻物語」(9月11日公開)の取材をたくさんしていただく。私は話すのが苦手で、面白い話をしようと思ってもいつも何を話すのか忘れてしまい、記者さんから質問されても、支離滅裂な話になってしまうことが多い。だから映像とか文章というものを生業にしているというか、それらのほうが少しでも自分の考えや思いを伝えられるのだ。

 

一つ目の取材が終わると、妻から娘が陸上の練習中に足を負傷したようだから迎えに行くとラインがきていた。その2時間後、ギプスで固められ、松葉づえ姿の娘の写真が来た。え、骨折!? 負傷どころじゃねえじゃん! と一気に気が気でなくなる。

 

「なんなの!?」「どういうこと!?」と妻にLINEするが、返事はパタリとなくなり、既読にすらならない。やきもきしていると、取材終了間際、妻からLINE。「疲れて昼寝してた。骨折判明、絶対安静必須。娘大泣き」。

 

8月1日から夏休みに入ったばかりで、これから合宿やサマーキャンプ、友達と今年最後になる「としまえん」のプールに行く約束など、このコロナ禍の中でも充実した夏休みを送る予定であったのに、それらが全てなくなると思うとそりゃ大泣きもするだろう。なのに昼寝できる妻に激しい怒りを覚えながら帰宅すると、大泣きして落ち着いたのか娘はいつも通り、iPadでゲームしていて「やっちまったよ」と一言。

 

「やっちまったなあ、かわいそうに」と労わると、「別にかわいそうじゃないから」とムカッとくる言い方。「こいつ、もういつも通りムカつくよ」と妻が言った。「なに、こいつって。いつも通りじゃないから!」と娘が返すと「その態度だよ!」と妻が返す。

 

空気を全く読まない息子は私にiPadを見せつけ、マイクラの何とかが何とかと大声でわめいている。明日から朗読劇に備えて部屋を出た。

↑真夏のギブス……(妻)

 

8月8日

朗読劇「大山夫妻のこと」本番1日目。緊張して馬鹿デカイ国際フォーラムに向かう。

↑国際フォーラムの会場。余りのデカさにびびりまくり、チキン丸出しの夫(妻)

 

りょうさんと三宅弘城さんのコンビがこの朗読劇の先鋒となる。簡単な場当たりだけして、あとはお客様と一緒に私は客席から見ていたが、映画とはまるっきり違う緊張感があり、ドキドキした。りょうさんの母性的で落ち着いた雰囲気に包まれた妻と、動作や表情が妙におかしい三宅さん夫妻の、噛み合っているようで噛み合っていない夫婦像が面白く、お客さんから笑いが一つ起こるとあとは落ち着いて見られた。

 

夜は、三島有紀子監督、稲垣吾郎さん、門脇麦さんによる「カラマツのように君を愛す」から始まったが、その世界観を構築する演出家の凄みに圧倒される舞台で、この後に俺のってヤバくね?と委縮した。

 

が、それは杞憂でYOUさんとマキタスポーツさんは稽古中からハマっているように見受けていたのだが、切実なおかしみが滲み出るマキタさんと、言い回しが恐ろしく自然で怖くなるYOUさんのお2人はやはり相性バッチリで、お客さんもかなり受けていた。三島監督の作品とまるきり毛色も違っていてそれはそれで良かったのかもしれない。そして客席に身を沈めていると、「やっぱり劇場はいいよなぁ」としみじみ思った。

 

その後、観に来てくれた若い俳優さんお2人といっぱいだけ飲んで、近ごろ現実逃避をしによく行く池袋のカルマルというサウナでメンテナンスをして帰宅。

 

8月10日

朗読劇の楽日。少し心に余裕が持てる。3回目は平岩紙さんと中野明慶さん。平岩さんの雰囲気のせいか、妻が柔和でかわいらしい雰囲気に。そして中野明慶さんは天真爛漫な雰囲気で、夫が可愛く見えた。激しい夫婦喧嘩のやり取りもあるが、このお2人がお客さんは一番安心して見られるのではないかと思っていたら、大ゲンカのシーンは思わぬ迫力があり、客席も悪い意味ではなく静まり返り、笑うというよりは身につまされる感じがものすごく出た。好みはあるだろうが、私はそういうのは大好きだ。

 

同じキャラクターを三者三様に演じていただいて面白い試みだったなと思う。怖気づいていたが、この仕事を受けて良かった。

 

8月14日

朗読劇が終わって数日、ひたすらプロットを考え書く。それだけの、忙しいけれど空虚な夏だ。私にとって夏とは高校野球と帰省だ。阿久 悠さんだったか、名前は失念したが女性の作家だったか、夏は部屋に引きこもって甲子園の試合をすべて見るとおっしゃっていた方がいたが、私の場合は気が向いたときと、仕事から逃げる時にうたた寝しながら見るのが高校野球で、たまにとんでもなくグレイトエンターテインメントな試合に遭遇してしまうから高校野球は面白い。2006年夏の智辯和歌山vs.帝京高校の試合を私は岡山空港で見ていたが、あまりの面白さに飛行機に乗るのをやめた。何の後悔もないほどにその試合は面白かった。

 

そしてもう一つ、夏を感じるのが帰省だ。帰省=母の小言だ。毎年夏、3泊ほど鳥取の実家に帰るが、待ってましたとばかりに小言がはじまる。顔に生気がない。身体が弛緩しきっている。心も腐りきっている。それが外見に出ている。毎年そんなことを言われ、毎年ムキになって反論している。ついでに横でその小言を聞いている妻は、自分にも言われていると思っているようで、そのとばちりが私にくることもある。だからもう二度と帰るものかと思うこともあるが、帰っている。なぜなら私には自分の理想とする夏というものがあるのだ。それは私が幼いころに夏を過ごした熊本の風景だ。

 

私の母は鹿児島で生まれ育ったが、私が物心ついたときには母の実家は熊本にあった。私は小学生のころ、夏休みに入るとすぐに母と妹と熊本に行き、ほぼ夏休みいっぱい滞在していた。そこで友達もできたし、気の合う従兄や寅さんのような叔父もいた。子どものころの私の夏のイメージは熊本で彼らと目いっぱい遊ぶことだった。今にして思うと、なぜ母があんなにも長く実家で夏休みを過ごしていたのか、そして私と従兄をどこにでも遊びに連れて行ってくれた叔父さんの事情など、大人になってから見えてきたものもあるが、小学生の私にはまるでホウ・シャオシェンの映画のような世界だった。

 

あんな夏を自分の子どもたちにも過ごさせてやりたいという思いが強いのだ。過ごせているのかどうかは知らないが、娘も息子も、鳥取に帰省すれば私の同級生の子と海に行ったりバーベキューしたりして遊んではいる。夏休みにしか会わない友達との慣れるまでのちょっと気まずい時間とか、静かすぎる田舎の夜とか、おばあちゃんとの退屈な時間とか、そういう夏の断片の記憶が頭の片隅にあるといいなと思うのだ。いずれ子どもたちは帰るのも面倒になるだろうし、私の親だって先はもう長くはないのだからあと何回そんな夏を過ごせるのか分からない。そういう夏が今年はなくなってしまったが、皆様、いろいろと失った夏を過ごしていらっしゃるのだろう。大切な時間や場所を失った方も多くいるだろうし、何も失わず「なんなら今年の夏、サイコー!」という方もいるだろう。とりあえず、私はこんな新しい夏ならいらないから来年は普通の夏に戻ってほしい。

 

8月18日

朝から苦戦中のプロット執筆。思うように書けないと右の肩甲骨がうずき出し、腕が痺れ、頭がクラクラする。よってサウナに逃げる。マッサージなどで金も使う。悪循環だ。

 

13時からzoomでメッセンジャーの黒田有さんと対談。黒田さんには拙著『それでも俺は、妻としたい』をラジオで誉めて頂き、帯まで書いて頂き、その後新潮社で対談させて頂いた。1度しか会った事のない人とリモートで対談するのは大変緊張したが、黒田さんのプロのトーク力のお陰でスムーズに話が進んだ。感謝しかない。

 

黒田さんは小説やエッセイも書かれていて、私は勝手に黒田さんの書かれるものにシンパシーを感じている。少年期や幼いころの小さな出来事を書かれているものあり、その小さな出来事が、本人にとっては心にチクリと残っているような感覚のそれらの作品は、黒田さんの原風景が見えるような気がするのだ。

 

「黒田目線」という本にはドラマにしたら面白いと思うエピソードもたくさんあり、特に女性アイドルにサインをもらいに行く話が私は大好きだ。

 

夜、骨折娘が外に出たいというので家族で散歩に出る。娘は日がな一日テレビの前でNetflix、Amazon プライム・ビデオ、hulu、U-NEXTのアニメと言うアニメを見まくっている。たまには普通の映画も観ろというと心底うざったそうな顔をする。

 

松葉杖で歩くと脇が痛いようで自分から散歩に行きたいと言い出したくせに不機嫌になってくる。おまけに夜でもクソ暑く、上半身裸の息子はうるさくはしゃぎまわって娘のイライラの矛先となり、そんな娘を妻が咎めると親子ゲンカになり、黙っている私にも妻がキレだし、私は腹いせにうるさい息子を怒り、息子が泣き、みんなバラバラで帰宅。

 

8月24日

短い夏休みが終わり、親にとっては待ちに待った新学期だ。骨折娘を自転車の後ろに乗せて中学まで送る。他の生徒も通学するなか、父親と自転車に二人乗りというのが猛烈に恥ずかしいようで後ろから悪態つきまくってきてキレそうになったが、人前なのでグッと堪えた。息子は前夜から学校に行きたくないと渋りまくりだったが、いつも迎えに来てくれるⅯ君を見ると、機嫌を直して登校して行った。

 

娘と息子を見送って帰宅すると、妻が不動明王のような顔で待ち構えておりいきなり怒鳴りだした。

「テメェよぉ! 子どもの前だから我慢したけどいい加減にしろよ!」

「え、なに……」と訳も分からずキョトンとしていると、何でも私が朝食のお皿を片付けていた時、食器を洗っている妻の胸の先をケチャップ容器の先でかすめたというのだ。(かすめたじゃねえよ! 突っついただろうが! by妻)それで妻は頭から湯気を本当に出して怒っている。

 

「普通に家事してるときに突然オッパイ突っつかれると、痛ぇしキモいしメチャクチャ腹立つんだよ!」

 

確かにケチャップで胸をかすめたのはわざとではあるし、確かにその時、妻が凄い目で睨んでいたのも覚えている。だがこのように妻が怒り狂っているとき、私は余計な一言で誤魔化そうとしてしまう習性がある。

 

「いや、オッパイじゃなくて乳首だよ」と私は言ってしまった。

 

「はぁ!? そんなのどっちでもいいんだよバカ野郎が! 痴漢ジジイみたいに相手の尊厳踏みにじってるのが分かんねえのかよ、このクソハゲ! テメェもすれ違いざまに金玉握り潰すぞ!」と地獄の底から響き渡るような声でさらに怒鳴るので、そこでようやく謝ったが、「もう今日、取材行かねえ。オメェ一人で行きやがれ」と言って出て行ってしまった。そういえば今日は夕方に妻と一緒に「喜劇 愛妻物語」について取材を受ける予定だったのだ。まあどんなに怒り狂っても取材をすっぽかすようなことをするタイプではないからいいのだが、しかしすれ違いざまにオッパイをさらっと触るくらい若いころは「ヤダ、バカ」と笑って許してくれていたのに、どうしてこうも変わってしまうのだろうか。

 

夕方の取材に案の定、妻は来た。先方の計らいで酒でも飲みながらということになり(妻が酒好きなことをご存じなのだ)、アルコールを前に妻はすっかり上機嫌になって私の悪口を話した。その模様は、このサイトに近日アップ予定ですので是非ご一読ください。

 

 

【妻の1枚】

 

【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が2020年9月11日から東京・新宿ピカデリーほか全国で公開予定。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『それでも俺は、妻としたい』。

【喜劇 愛妻物語公式サイトはコチラ】