コロナ下の苦境を乗り切れ!――インドでマンゴー農家の窮地を救ったJICA主導の直販プロジェクト

「インドのマンゴーを守れ!」――新型コロナウイルス(以下新型コロナ)のパンデミックで人々やモノの動きが止まるなか、インドで農作物の流通を滞らせないための取り組みが注目を集めています。それはインターネットを介して生産者と消費者を結ぶ直販プロジェクト。同様のプロジェクトは、日本をはじめ世界でも始まっていますが、インドでの取り組みの背景には、旧態依然とした農業が抱えるさまざまな課題と、それらを解決しようと奮闘する人々の思いがありました。

 

今回、インドの水プロジェクトに長年携わってきた水ジャーナリスト・橋本淳司さんが現地からの声をリポートします。

 

【著者プロフィール】

橋本淳司

水ジャーナリスト、アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。水問題やその解決方法を調査研究し、さまざまなメディアで発信している。近著に『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『水がなくなる日』(産業編集センター)、『通読できてよくわかる水の科学』(ベレ出版)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)など。「Yahoo!ニュース 個人 オーサーアワード2019」受賞。

 

私は2015年頃から、インドの水に関するいくつかのプロジェクトに携わっています。インドは水不足が深刻になりつつあるため、それに対応する雨水貯留タンクの製作や実装、水質調査をはじめ、一般向けや学校向けの水教育などを行っています。水は「社会の血液」と言われるほどで、あらゆる生産活動に必要ですが、とくに農業は大量の水が不可欠。また、水があるからこそ、農作物を加工し販売することができると言えます。そして今回のインドにおけるコロナ禍は、ほかにもさまざまな問題を浮かび上がらせました。

 

日本では、3月上旬以降、学校の一斉休校が始まると給食が休止となり、さらに緊急事態宣言により飲食店や百貨店に休業要請が出されたため、収穫された野菜が行き場を失いました。収穫されないまま農地で廃棄される野菜の様子が報道されるなどし、「もったいない」と感じた人も多かったと思います。同様の問題はインドでも起きました。とりわけ農業技術や流通網の整備が不十分な地域では、事態はより深刻でした。

 

よく「バリューチェーン」という言葉を耳にしますが、農作物においては、生産の過程や加工することなどで食品としての価値を高めつつ、消費者の元に届けるプロセスのことだと個人的に考えています。このプロセスなくしてバリューチェーンは成り立ちません。実際、インドでもコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)が実施され、農作物を流通できず、農家が苦境に立たされました。現地からそうした情報を聞き大変心配しましたが、その救世主となったのが、JICA(独立行政法人 国際協力機構)による、生産者と消費者を直に結ぶ取り組みでした。

 

苦境に立たされたインドの農業

インドでの新型コロナの累計感染者数は、3月3日の時点では5人でしたが、同月24日には492人と急増(9月7日時点での感染者数の累計は420万4613人。アメリカに次いで感染者が多い)。3月25日からは、全土でロックダウンが実施され、ほぼすべての人々の移動や経済・社会活動が制限されました。その後、生活に最低限必要な活動や移動は可能になりましたが、依然として公共交通機関は止まったまま、リキシャー(三輪タクシー)や私用車の利用は禁止され、近隣の町への移動も制限されたままでした。

 

そのため農業従事者が農地に行けない、収穫された農産物を運べない、加工や販売ができないという事態が発生し、流通網がズタズタに寸断されてしまったのです。4月になると、インドはマンゴー収穫の時期を迎えます。このままでは大量のマンゴーを廃棄することにもなりかねません。

↑収穫したマンゴーを箱詰めする現地マンゴー農家の人々

 

この窮地を救ったのが、“Farm to Family”(農場から家族へ)と名付けられた直販プロジェクトでした。オンラインで生産者と消費者を結びつけるデリバリーサービスです。

 

熟したマンゴーを信じられない価格で提供

舞台となったのは、インド南部・デカン高原に位置するアンドラ・プラデシュ州です。人口は4957万人(2017年調査)で、そのうちの62%が農業に従事し、農耕可能な面積は805万ha、ほぼ北海道と同じ面積になります。この広大な農耕地で生産されている作物は多岐にわたりますが、トマト、オクラ、パパイヤ、メイズ(白トウモロコシ)の生産高はインド国内1位、マンゴーは2位、コメは3位という農業州です。

↑収穫時期のマンゴー農園

 

同州にはもう1つ強みがあります。流通の拠点となる海港を5つ、空港を6つも擁しているのです。州政府は農業と流通インフラという強みを活かし、農作物の生産から加工、流通までのフードバリューチェーンを構築し、食品加工産業の発展に注力してきました。ロックダウン下においては、農業従事者が畑に行って収穫することはできましたが、地元の仲介人が収集することも、販売網を通じて販売することもできませんでした。行き場を失ったマンゴーたちは、廃棄せざるを得ません。農家の収入はそもそも多くないのですが、これでは無収入になっていまいます。

 

危機的な状況を受け、州政府はこの地で実施されていたJICAの事業の一環として、州園芸局やコンサルティング会社と対応策を検討しました。そこで考え出されたのが、寸断された流通網をIT技術で修復するという画期的な方法でした。

 

プロジェクトのチラシにはこう書かれていました。「グッドニュース! マンゴーのシーズンが到来しました。政府は、COVID-19でピンチになった小さな農家を支援します。仲介者やトレーダーをなくすことで、農家と消費者に双方にメリットがあります。自然に熟したマンゴーを信じられない価格で提供します」

↑直販プロジェクトの開始を告知するチラシ

 

このプロジェクトには、約350人もの農業者が参画。ネットを使用してコミュニティーごとに需要を把握し、直接消費者に販売しました。ハイデラバードの3つのコミュニティでスタートして以来、これまでに3トンのマンゴーが販売されたほか、12のコミュニティから10トンの事前予約が寄せられ、ロックダウンの解除後も直販体制を継続することが予定されています。

↑農園に集まったプロジェクトメンバー

 

現地のマンゴー農家であるテネル・サンバシバラオ氏はプロジェクトについてこう話してくれました。

 

「この取り組みには大変感謝しています。品質のよいマンゴーを適切な価格で、直接消費者に届けることができました。販売にかかる運搬費や仲介料がかからなかった点もとても助かりました」

 

このコメントの裏からは、農家の深い悩みが窺えます。インドでは一般的に最大4層の仲介業者が存在し、農家には価格の決定権がありません。農家が仲介業者を通じて出荷すると、見込める収益の数十パーセント程度の価格で買い叩かれてしまい、農家の生活は厳しいものとなっているのです。“Farm to Family”(農場から家族へ)は、ロックダウンで分断されていた農家と消費者双方に果実をもたらしたと言えます。

↑出荷を待つマンゴー

 

農業、流通という強み。水不足、技術不足という弱み

そもそもJICAのプロジェクトは2017年12月からスタートしていました。農業と流通に強みをもつアンドラ・プラデシュ州ですが、一方で課題もありました。 まず、バリューチェーンの根幹となる、農作物の収穫量と質が安定していません。そこには農業生産に欠かせない「水」の問題がありました。世界の淡水資源のおよそ7割が農業に使われるというほど、農業と水は切っても切り離せません。

 

アンドラ・プラデシュ州では農業用水の62%を地下水に依存していますが、現在、その地下水の枯渇が懸念されています。これに関しては、原因がはっきりとわかっているわけではありません。私がプロジェクトを行なっている北部のジャンムーカシミール州の村では「雪の降り方が変わったことが地下水不足につながっている」と言う人もいますし、もう1つのプロジェクト地であるマハーラーシュトラ州の村の人々は「森林伐採の影響を受けているのではないか」と主張します。つまり場所によってさまざまな要因が考えられると言えます。

 

また、生産量の高まりとともに地下水の使用量が増加しているという声も多くの州で聞きます。なかには、どれだけの水を農業に使用しているのかわからないという地域も。アンドラ・プラデシュ州も同様で、節水などの地下水マネジメントは急務とされていました。

 

水を管理するうえで、もう1つ重要なのが灌漑用の施設の整備です。施設が老朽化すると水漏れも多くなり、貴重な水が農地まで届きません。それが水不足に追い討ちをかけています。

 

一方で、生産や加工の技術が不足しているという悩みもあります。品質のよい作物を育て、最適な時期に収穫するといった営農技術、収穫後の付加価値を高める加工処理技術などが十分に定着していないため、農産品の加工率が低く、販路が狭くなっています。

 

灌漑設備の改修とバリューチェーンの構築

こうしたさまざまな課題を解決するため、JICAが現地で取り組んでいるのが「アンドラ・プラデシュ州の灌漑・生計改善事業」という、灌漑設備の改修をはじめ、生産から物流までのバリューチェーンの構築を支援するプロジェクトです。「プロジェクトにはいくつかの柱がありますが、重要な柱の1つが、灌漑施設の改修です」とはJICAインド事務所の古山香織さんです。

 

州水資源局によって20年以上前に整備された灌漑施設はあるのですが、前述したように老朽化や破損による漏水、不適切な管理によって、失われる水の量が増えています。農業への水利用効率(灌漑効率)、すなわち農業用に確保した貴重な水の38%しか農地に届いていないのです。実際、末端の水路を利用している農家の中には雨水に頼らざるを得ないところもあります。近年は気候変動の影響で雨の降り方が以前とは変わっているため、収穫量は不安定で一定品質の農作物がつくれません。

↑改修前の灌漑用水路

 

「そこで老朽化した設備を新しいものと交換したり、地面に溝を掘っただけの水路をコンクリート張りの近代的な水路に変えています。 事業は着実に進捗しており、2024年に完了する見込みです。さまざまな規模の灌漑施設の改修が完了(470箇所を予定)すれば、灌漑農業による農作物の収穫量と質の改善が期待できます」(古山さん)

↑改修後の灌漑用水路

 

同時に、現地NGOと連携して地元の農家による水利組合づくりを手伝い、施設改修後の維持管理作業を自分たちで行うことができるよう研修も実施しており、実はこれが大変重要な取り組みなのです。技術を提供するだけでは不十分で、壊れてしまった途端放置される水施設がとても多いことが世界各地の水支援の現場で共通する問題であり、それを防ぐためには、技術を現地に根付かせるための人材育成が欠かせません。

 

さらに灌漑施設の改修を生産量の増加に結びつけるために、関係政府部局と現地NGOで構成する農業技術指導グループも組織しました。

 

「灌漑施設の改修、生産農家の組織化の支援、営農支援などを行うことで、それらが相乗効果をもたらして、高品質の農作物が安定的に生産されるようになります」(古山さん)

 

プロジェクトでは、さらにフードバリューチェーン全体の整備も支援しています。先述のように、マンゴーであればおいしくて大きな果実を育て、それをいちばんよい時期に収穫し、消費者のもとに届けること、あるいは収穫したマンゴーを顧客のニーズにあった製品に加工して付加価値をあげることです。

 

「消費者のニーズに合った加工品を開発・販売することで、付加価値の向上と農産品のロスを抑えることができます。小さな農家同士を組織化することにより、仲介人を介さず消費者と直接取引ができるようになれば、農家の収入向上につながりますし、逆に消費者の立場で考えると、購入できる農作物の種類と品質が向上することになります」(古山さん)

 

実現すれば農作物の収量と品質が高まりますし、農業者の収入も向上・安定します。農業セクターの重要性も高まります。同時にインドの食料安全保障の改善にも寄与していると言えるでしょう。

 

コロナ禍で起きた農家の考え方の変化

新型コロナの世界的な収束は、まだまだ先が見えない状況ですが、人々の心境の変化、生産や流通に対する考え方の変化が確実に起きているとJICAインド事務所のナショナルスタッフであるアヌラグ・シンハ氏は話します。

 

「新型コロナをきっかけに、農家の考え方に変化が起きています。販売のためには農産品の品質の向上が重要で、そのためには収穫のタイミングや選別がとても大切であるという認識がこれまでより強くなりました。同時に、消費者との直接取引などでデジタル・テクノロジーを有効活用すべきとの意識も芽生えています」

↑コミュニティーで販売されるマンゴー

 

農家と消費者が直接つながることで関係性が強くなり、農家は相手に対して「よりよいものを提供しよう」、消費者は「顔の見える生産者を応援しよう」という気持ちが生まれるなど、相乗効果も期待できそうです。

 

またインドでは、テクノロジーを活用して農業の効率と生産性を向上させる「アグリテック」の分野が、2015年頃から注目を集めるようになっています。データを活用した精密農業システム導入のほか、スマート灌漑システムなどの生産性向上、農業経営に特化したクラウドサービス拡充などその事業内容は幅広いのですが、新型コロナはこうした動きを加速させることになるでしょう。

 

一方、日本国内に目を向けると、国産の農林水産物を応援する「#元気いただきますプロジェクト」をはじめ、農家(生産家)と消費者を結ぶさまざまなプロジェクトが立ち上がっています。このような取り組みは今後も世界的に広がることが予想されます。

 

新型コロナにより、従来の社会は大きく変貌を迫られています。しかし、必ずしも悪い面ばかりではありません。大量生産と大量消費を繰り返し、食品廃棄など大量の無駄が存在していたこれまでの社会。しかし、今回ご紹介した、地域社会を大切にし、水や食料を大切にする新しい流通網の構築への取り組みなどは、私たちの社会を持続可能な方向へと向かわせてくれるのではないでしょうか。

 

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途上国の感染症流行に奮闘する国際緊急援助隊――ノウハウの実績は日本の感染症対策にも貢献【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、途上国の感染症流行に奮闘する国際緊急援助隊の活動について紹介します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大により、国境を越えて広がる感染症への対策は、世界各国にとって共通の課題であることが再認識されました。

 

JICAに事務局を置く国際緊急援助隊(JDR:Japan Disaster Relief Team)には2015年、「感染症対策チーム」が設立され、各国での感染症対策に向け活動しています。JDR感染症対策チームの登録メンバーの多くは、日本国内で新型コロナウイルスやインフルエンザなどの感染症対策の最前線で活動する医療関係者です。海外での支援実績とノウハウの蓄積は、日本国内の感染症対策にとって大きな貢献が期待されています。

 

昨年12月には麻しんが大流行した大洋州の島国サモアで、患者に対して診療活動を行い、同国の緊急事態宣言解除を支えました。途上国の感染症対策に奮闘するJDR感染症対策チームの活動の様子を紹介します。

↑JDR感染症対策チームによるサモアでの麻しん患者診療の様子

 

↑人口移動の増加や地球環境の変化に伴い、世界各地で感染症の流行は続いています。JDR感染症対策チームへの期待も増しており、当該国からの要請に備えて平時から訓練や研修を行っています

 

JDR感染症対策チームが直接診療を初めて実施

サモアでは昨年10月、麻しん(はしか)が流行し、サモア政府は11月に緊急事態宣言を発令。こうしたなか、同国政府の要請によりJDR感染症対策チームが12月2日から29日まで現地に派遣されました。これまで、同チームの活動は、検疫、検査診断、ワクチンキャンペーン支援など、公衆衛生関連の活動が中心でしたが、今回初めて、患者に対する直接的な診療活動を実施しました。

 

派遣先は、サモアの首都アピア国立中央病院、首都から西へ約30km離れたレウルモエガ地域病院、隣接地のファレオロ・メディカルセンターの3ヵ所。まさに麻しん診療の最前線での活動です。

 

麻しんは、39℃以上の高熱と発疹が出て、肺炎や中耳炎を合併しやすく、亡くなる割合は先進国でもおよそ1000人に1人といわれています。地方における診療活動は、医師・看護師による診察・処置・処方を行って、症状が重ければ入院、あるいは中央の国立病院へ搬送といった流れで行われました。

 

JDR感染症対策チームの山内祐人隊員(薬剤師)は、サモアでの活動について次のように話します。

 

「麻しんの大流行を防ぐには予防接種が重要ですが、ワクチン接種率の上昇だけでは期待する効果は得られません。特に、サモアのように年間を通して気温が高い国では、ワクチンの日々の温度管理が非常に重要です。サモアでは薬剤師が常駐していない医療機関が多く、看護師がワクチンを含む医薬品の管理を行っているため、看護師に対してワクチンの温度管理の重要性などに関する講習会を開き、ワクチンへの理解を深めてもらいました」

↑熱帯地域における麻しんワクチンの温度管理の講習会。「皆さん熱心に耳を傾け、積極的に質問されていたのが印象的でした」と山内隊員

 

サモアに派遣された薬剤師は2人とも、かつて大洋州のパプアニューギニアで青年海外協力隊として活動。「その経験が今回のJDR派遣で大きく活かされた」と言います。

 

日本で研修を受けたサモアの看護師と共に取り組む

JDRがサモアで活動したレウルモエガ郡病院は、1982年にJICAの無償資金協力で建設され、日本との関係も深く、昨年12月初旬までJICA沖縄の研修「公衆衛生活動による母子保健強化」に参加していた看護師のピシマカ・ピシマカ氏が勤務していました。

 

ピシマカ氏は看護師長として人員や薬品、医療器具・機械などの配置も担っており、JDRに対して現地事情をわかりやすく教え、活動をサポートしました。

 

田中健之隊員(医師)は、「医療資源が限られるなか、サモア人スタッフの献身的な医療へのスタンスは、検査診断にやや頼る傾向にある昨今の日本の医療現場で忘れかけていたものを感じさせてくれました。ピシマカ氏をはじめとする帰国研修員スタッフは、昼夜を問わず診療管理を統括する役目を担い、JICAと現地との連携において非常に大きな存在でした」と、両国スタッフの連携協調がうまく機能したと振り返ります。

↑ピシマカ氏(後列中央)は「JDRは、サモア人医師や看護師、病院職員に常に状況を知らせてくれて、現地スタッフとの協議を大切してくれた。これはとてもありがたかったです」と感謝の言葉を寄せました

 

このように、JDR感染症対策チームは延べ17日間、合計約200名の患者を診療するなど、サモアでの麻しん対策に大きく貢献。麻しん流行は、日本をはじめ、ニュージーランド、オーストラリアなど多くの国からの支援によって終息に向かい、12月29日にはサモア政府によって緊急事態宣言が解除されました。

↑サモアは気温が高く、発熱や嘔吐で脱水症状にならないよう、隊員らは経口補水液(ORS)の重要性などを伝えます

 

長崎大学との連携協定を締結

サモアに派遣されたJDR感染症対策チームには、2015年のチーム設立時から重要な役割を担っている長崎大学から4名のスタッフが参加しました。同大学大学院は熱帯病や新興感染症対策のためのグローバルリーダー育成プログラムに各国からの留学生を受け入れています。

↑JICA北岡伸一理事長(左)と長崎大学河野茂学長による協力協定署名式(2019年12月25日)

 

このような活動のさらなる連携強化を目指し、昨年12月、JICAは長崎大学と熱帯医学やグローバルヘルス関連分野における包括連携協力協定を結びました。

 

感染症は本来、早期に発見し、流行する前に封じ込めるべきものです。JDR感染症対策チームのサモア派遣の経験や長崎大学との包括連携協力協定の締結は、感染症の疫学的な研究はもちろん、新薬やワクチン開発はじめ、各種検査方法や検疫体制の強化など、海外派遣の緊急支援活動だけにとどまらず、日本国内の感染症対策にとっても、さまざまな波及効果が見込まれています。

 

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今、日本からできることを! 一時帰国中の海外協力隊員が活躍――赴任国に向け、リモートで支援【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、新型コロナウイルスの影響により一時帰国を余儀なくされているJICA海外協力隊の隊員の活動について紹介します。

 

中断された活動への無念さ、赴任国への思いなどから、多くの一時帰国中隊員が「今、できることから取り組もう!」と日本から現地に向け活動を始めています。本稿では、日本から赴任国に向け、インターネットを通じて支援を始めた隊員の姿を追います。

 

カンボジア:「手洗いダンス動画」で感染症対策

「病院職員だけでなく、患者さんにも広く公衆衛生の意識が高まってきたタイミングでの帰国で、文字どおり後ろ髪を引かれる思いでした」

 

残念そうに語るのは、看護師隊員としてカンボジアへ派遣された近藤幸恵隊員です。看護師歴13年の近藤隊員は、カンボジア南部のシハヌーク州立病院で、おもに感染症対策と病院経営の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)・KAIZEN活動の協力に携わりました。

↑赴任先の病院で、患者さんやその家族に紙芝居を使うなどして手洗いの重要性を説明する近藤隊員

 

↑同任地の教育隊員の協力も得て、小学校での出前授業も行なっていました

 

そんな近藤隊員が一時帰国後、取り組んだのは、手洗い啓発ダンス動画の作成です。同時期にカンボジアに派遣されていた看護師隊員と小学校教育隊員の3人で制作にあたりました。

 

「この動画は新型コロナウイルス感染症COVID-19対策も含めた公衆衛生改善支援WASH(=Water, Sanitation, and Hygiene) の一環です。カンボジアの人々に馴染みのあるダンスをアレンジすることで、気軽に手洗いの必要性やタイミング、具体的な手洗い法などを知ってもらい、楽しみながら習慣にしてもらうことを目指しています」

 

まず、看護師隊員が手洗いダンスの見本動画を作成。その後、カンボジアに派遣されていた一時帰国中の隊員やJICAカンボジア事務所職員、現地カンボジアの方々など、たくさんの人々に出演協力を依頼しました。日本に戻っても、カンボジアとのつながりを大切にして、動画の制作を進めました。

 

完成した動画は、FacebookやTwitterなどに投稿し、JICAカンボジア事務所や隊員、配属先の人々などに積極的にシェアしていく予定です。

↑手洗いダンス動画の一場面。動画編集は、同じカンボジアの小学校で体育教員として活動していた隊員が担当。カンボジアの皆さんの目に留まるよう、カンボジア国旗の色のイメージで画面レイアウトを工夫しています

 

↑手洗い動画の制作は、同僚隊員やJICAカンボジア事務所とオンライン会議で進めています(画面左下が近藤隊員)

 

「一時帰国後も現地病院スタッフと連絡を取っています。今回、インターネットを活用してリモートでも支援ができることに気づきましたが、オンラインだけでは現地の文化・習慣を肌で感じることは難しいと思います。やはり、相互理解は現地に住むことでより深まり、現場での体験が自分の視野を広げ、考え方も豊かにしてくれると改めて感じました。機会があれば、また海外で活動できればと考えています」と、近藤隊員は語ります。

■完成した動画はこちら↓

手洗い啓発ダンス動画

手洗いの大切さを説明

 

メキシコ:現地食品メーカー向けに品質管理のセミナー動画を作成

「NPO法人メキシコ小集団活動協会(AMTE)のホームページに掲載するオンラインセミナー動画を制作しています。食品の安全・安心を担保するHACCP(注)に基づいた食品の品質と衛生管理に関する内容です。昨年10月、メキシコの全国小集団活動大会で特別講演をした際、知り合ったAMTE事務局のリカルド・ヒラタ氏にいろいろアドバイスをいただきながら作っています。メキシコの皆さんに活用してもらえると嬉しいです」

 

こう話すのは、食品メーカーを定年退職後にJICA海外協力隊に応募し、2018年10月から2020年3月までメキシコの職業技術高校(CONALEP)ケレタロ州事務所で、日本式の5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の導入と定着に向けた活動を行っていた入佐豊隊員です。

(注)Hazard Analysis and Critical Control point:「危害分析重要管理点」=世界中で採用されつつある衛生管理の手法。最終段階の抜き取り検査ではなく、全工程を管理する。日本でも食品関連事業者は2020年6月から義務化となった

↑セミナー動画のリハーサルの様子。入佐隊員(写真左)が作成した食品安全の資料を画面に写し、日本語で講義。スペイン語訳をボイスオーバーで入れます

 

「同じメキシコ派遣のシニア海外協力隊2人とともに、オンライン会議を行いながら、それぞれの職務経験を活かしてセミナー動画を作成しています。いつもながら、スペイン語によるコミュニケーションには苦労しています」と苦笑いを隠さない入佐隊員。「でも、メキシコの方々の人懐っこさや陽気さにはいつも助けられます」と微笑みます。

 

陽気でポジティブな人々に囲まれ、入佐隊員はCONALEPケレタロ州事務所での活動に取り組み、5S活動の現地推進メンバーを募り、いよいよ本格的に実施内容や改善点などを出し合おうとする矢先に、まさかの一時帰国でした。

↑CONALEPケレタロ州事務所が管轄する職業技術高校で、5Sの講義を行っていた入佐豊隊員

 

↑5S委員会の普及活動の様子(サンファンデルリオ校)

 

「軌道にのりかけた5S活動がストップしただけでなく、職業技術学校も休校となってしまい残念です。でも、ケレタロ州事務所が管轄する4つの職業技術高校のうち3校には私の専門である食品科があるので、AMTE向けのセミナー動画が完成したら、それを高校生向けにアレンジできないか、あれこれ検討しています」

↑毎週1回オンライン会議でセミナー動画の進捗を相談するメンバー(写真左下が入佐隊員)

 

初めてのセミナー動画作りに戸惑いながらも、任国メキシコに思いを向ける入佐隊員。道半ばで一時帰国せざるを得なかったシニア海外協力隊たちの新しいチャレンジは、これからも続きます。

 

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コロナ後を見据え、タイで始まった新しい形のサプライチェーン構築【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回はタイからです。新型コロナウイルスが経済にも大きな影響を与えている状況のなか、日本企業が進出し東南アジアの一大製造拠点となっているタイで始まりつつある危機下における事業継続のリスクを最小化する試みとは…。

 

JICAは、タイで2011年に発生した洪水被害の教訓を活かし、「地域全体で取り組む事業継続マネジメント」に向けた研究を産学連携で進めてきました。民間企業だけでは対応しきれない産業集積地の地域的防災対応への研究から得られた知見が今、コロナ後を見据えたサプライチェーンの新しい形にヒントを与えています

↑都市封鎖により人のいないバンコク中心部。高架鉄道サイアム駅(上)と駅前広場(4月撮影)

 

新型コロナでタイ国内のサプライチェーンが寸断

タイは、多くの日本企業が進出し、1980年代以降に石油化学や自動車関連産業の産業集積が進んできました。タイ国内に部品の製造から組み立て、販売までをひとつの連続した供給連鎖のシステムとして捉えるサプライチェーンが構築されており、メコン経済回廊の中心拠点として工業団地の整備が進んでいます。

 

しかし、新型コロナウイルス対策のため各国で都市封鎖や外出制限が広がると各企業とも生産や物流の活動を見直さざるを得なくなります。特に今年2月の中国の生産活動停止はタイをはじめとしたASEAN各国に大きな影響を及ぼしました。

 

JICAタイ事務所の大塚高弘職員はその影響について、「タイでも非常事態宣言が発出され、県境をまたぐ移動制限や外出自粛要請が行われたことから、人の行き来は大幅に減りました。日本企業を含む多くの製造業が立地するタイでも工場の稼働を停止させざるを得なくなるなど大きな影響が出ました」と話します。

 

産業集積地での事業継続リスクに関する研究の成果を活かす

今回の新型コロナウイルス感染拡大という危機下において、2018年からタイで実施してきた災害時における産業集積地での事業継続リスクに関する研究の成果を活かすプロジェクトが開始されました。

↑タイで実施されている自然災害時の弱点を可視化する研究プロジェクトでの会議

 

タイでは、2011年に発生した水害を教訓に、工業団地を取り巻く地域コミュニティの災害リスクを可視化して、企業、自治体、住民が地域としてのレジリエンス(しなやかな復元力)を強化して、災害を乗り越えていくための研究をしています。

↑2011年に発生したバンコク市内での洪水。高速道路上に多数の避難車両が並んだ

 

研究の日本側代表者である渡辺研司氏(名古屋工業大学大学院教授)は、現在実施しているプロジェクト成果の活用について、次のように述べます。

 

「プロジェクトで設計していく枠組みは、迫りくるリスクに対しての対応を地方自治体・住民・企業やその従業員などといった地域内の利害関係者が情報を共有し、意思決定を行い、対応行動を調整するプラットフォームとなることを目指しており、今回のコロナ禍に対しても活用可能と考えています」

↑プロジェクトの日本側代表、名古屋工業大学大学院の渡辺研司教授

 

サプライチェーン再編に備え、ウェビナーで知識を共有

これからに向け、グローバル・サプライチェーンの弱点を見直す手がかりとして、JICAタイ事務所は4月末、「新型コロナウイルスによる製造業グローバル・サプライチェーンへの影響と展望」と題したウェビナー(オンラインwebセミナー)を開催しました。JETRO(日本貿易振興機構)バンコク事務所の協力を得て、タイ政府の新型コロナウイルス感染症に対応した具体的な経済支援政策を紹介するとともに、渡辺研司教授による今後の課題を見据える講演を実施しました。

 

セミナーにおいて渡辺教授は、今回の災害を「社会経済の機能不全の世界的連鎖を伴う事案」と捉えた上で、「コロナウイルスの終息は、『根絶』ではなく『共存』。長期戦を想定したリスクマネジメントが必要となる」との展望を示しました。そして、「今までにない柔軟な発想を持って、転換期を見逃さないことが必要」とし、今後のレジリエンス強化の重要性を強調します。

 

さらに、「災害や事件・事故による被害を防ぎきることは不可能。真っ向からぶつかるのではなく、方向を変えてでもしぶとく立ち上がることが基本となる。通常時から柔軟性をもって対応しこれを日々積み上げることや、いざという時に躊躇なき転換を行う意思決定を行うことのできる体制を持つことこそが、転禍為福を実現するレジリエンスだ」と結びました。

↑プロジェクトの枠組みのCOVID-19事案への適用 (ウェビナー資料より)

 

ウェビナーには、在タイ日本企業の担当者を中心に240人が参加し、うち約6割は製造業およびサプライチェーンを支える企業からでした。

 

JICAタイ事務所の大塚職員は、「ウェビナーは渡航・外出制限下でも機動的に開催できるため、今回は企画構想から18日間で実施することができました。タイの感染拡大が収まりつつある一方、今後の見通しや計画策定に必要な情報が不足しているタイミングで、タイムリーに開催することができました」とオンラインイベントの手応えを語りました。

 

長年積み上げてきた日本とタイとの信頼関係をベースとして、精度の高い現地情報や研究の知見を多くの関係者と共有できる場が、実際の課題解決に貢献する。そんな国際協力の現場がここにあります。

 

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【関連リンク】

産業集積地におけるArea-BCMの構築を通じた地域レジリエンスの強化

危機下で増加する女性や子どもへの暴力を防ぐ――ブータン国営放送で働きかけ【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、ブータンでの取り組みを紹介します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の危機下では、ウイルスへの脅威といった医療的なリスクだけでなく、社会の中で弱い立場におかれる人々がさらされるさまざまなリスクが浮き彫りになります。その一つが、女性や子どもに対する暴力のリスクです。

 

そんな懸念にブータンがいち早く対応しています。

 

ブータンでジェンダー課題への取り組みを続けてきたJICAと、ブータンの女性と子ども国家委員会(NCWC)は、国営放送で家庭内暴力に関するドキュメンタリービデオを放映し、暴力防止に向けた啓発を図るなど、社会的に弱い立場にある人々に目を向けた対策を進めています。

↑放映されたビデオで、家庭内暴力への警鐘を鳴らすクンザン・ラムNCWC事務局長(動画はコチラ→Suffering in Silence 

 

感染者が確認されるやいなや、女性と子どもに対するリスクへの対応を協議

「ブータンで新型コロナウイルス感染者が初めて確認されたのが3月5日。その翌週には、JICAとNCWCの担当者の間で、社会的に弱い立場におかれている女性や子どもたちに向けた支援が必要になると判断し、すぐに協議を始めました」

 

そう語るのは、JICAブータン事務所でジェンダー分野を担当する小熊千里・企画調査員です。東日本大震災の被災地では、経済的な要因に基づくストレスなどが原因で家庭内暴力や性暴力が増加し、悪化するケースが多く報告されるなど、緊急事態下では女性や子どもに対する暴力のリスクが高まることが指摘されています。

 

議論を重ねるなか、コロナ危機下で増加が想定される暴力の被害を防ぐため、家庭内暴力に関するドキュメンタリービデオを国営放送で流すアイデアが浮上。放送局との交渉や、ビデオの放映前に流すメッセージの作成などに奮闘したのが、ウゲン・ツォモNCWC女性部長です。

 

「ブータンではもともと、女性のうち約半数が、夫が妻に身体的暴力をふるうことへの正当性を容認しているといった調査結果もあり、暴力を受けた女性が声をあげにくいことがあります。放映したビデオには、カウンセリングやヘルプライン、シェルターの連絡先なども含まれ、暴力に苦しむ女性たちに具体的な情報を伝えると同時に、そのような暴力は決して容認されるものではないことを広く知らせることができればと思ったのです」とウゲン女性部長は、ビデオ放映を進めた理由を語ります。

 

このビデオは、3月20日から5日間、全国放送で10回以上にわたり放映されました。その後、ヘルププラインには通常より多くの問い合わせがありました。

↑JICAやNCWCは放映されたビデオの冒頭で、自然災害や紛争など緊急事態下では、家庭内暴力や性暴力が増加する傾向があることを訴えました

 

日本での研修で得た知見が素早いアクションにつながる

ウゲン女性部長がビデオ放映を進めた背景には、2017年度に日本で受けたジェンダー主流化(※)促進に向けたJICA研修に参加した経験がありました。

 

ウゲン女性部長は、研修のなかでも特に「女性に対する暴力」について学んだことが現在の業務に活かされていると言います。家庭内暴力や性暴力の現状、そして被害者の声を多くの人に知ってもらうことは、ジェンダー平等と女性のエンパワメントの実現に向けてなくてはならない取り組みの一つであり、今回のビデオ放映にもつながりました。

↑日本で実施された「行政官のためのジェンダー主流化政策」(※)研修の講師らとウゲン女性部長 (左)

 

※:ジェンダー主流化とは、「ジェンダー平等と女性のエンパワメント」という開発目標を達成するためのアプローチ/手法を指す。ジェンダー平等と女性のエンパワメントを主目的とする取り組みを実施する他に、都市開発や運輸交通、農業・農村開発、平和構築、保健、教育など、他の開発課題への取り組みを行う際に、ジェンダー視点に立った計画・立案、実施、モニタリング、評価を行うこと

 

JICAとNCWCは現在、ブータンで女性と子どもの保護やケアにあたる保護担当官の能力向上に向け、国内全24自治体の保護担当官などを対象にした研修を今後2回にわたり日本で実施する計画を進めています。

 

保護担当官たちは、家庭内暴力を受けた女性や虐待に苦しむ子どもたちへのケアや対応を知識としては知っていても、実際に被害者に対して適切に向き合うことができるかどうかといった点では、まだまだ経験不足が否めません。そのため、ウゲン女性部長は今回の研修により、保護担当官たちが被害者の立場に立って適切なケアを行えるよう、具体的な対応力を身に付けることを期待しています。

 

ブータンでは、家庭内における女性や子どもへの暴力や虐待に加え、未成年者の薬物依存や家庭外における性的虐待といった問題も表面化しつつあるなか、被害者に直接対応する保護担当官のカウンセリング能力の向上などは重要な課題です。

 

危機下でより深刻なリスクにさらされる人々の側から考える

国連のグテーレス事務総長は4月、「新型コロナウイルスの影響は全世界、すべての人々に及ぶが、その影響はおかれる状況に応じ異なるものであり、不平等を助長しうるもの」と発言。社会経済の停滞や変化が、男女平等を目指してきたこれまでの取り組みを後退させ、不平等を助長することへの強い懸念を示しました。

 

コロナ危機下の現在、ジェンダーに基づく差別や社会規範により社会的に弱い立場におかれている女性や少女に深刻な社会的・経済的影響が広がっています。感染リスクの増加だけでなく、性と生殖に関する健康と権利や母子保健に係るサービスの後退、暴力や虐待の増加、生計手段や雇用の喪失、学習・教育機会の減少など、女性や少女が直面するリスクがさらに拡大することが指摘されています。

 

このようなリスクが広がるなか、JICAはジェンダー視点に立った取り組みを一層強化し、女性や少女を取り残さない、また、女性や少女がこれまでに培ってきた能力や経験を地域社会で十分に発揮できるよう支援を進めていきます。このような支援の推進は、この困難を乗り越え、より強靭で包摂的な社会を築いていくために不可欠です。

 

ブータンの保護担当官への研修に対しジェンダーの視点から助言を行っている山口綾国際協力専門員(ジェンダーと開発)は、「ジェンダー不平等や格差のない社会をつくっていくためには、誰もがジェンダーの問題を身近な問題として意識することが大切です。ジェンダーの問題を意識することは、女性や少女と同じように社会的に弱い立場におかれている多様な人々が抱える様々な問題に目を向けることにもつながると考えています。そのような人々の声を聞き、取り組みを進めることで、「誰一人取り残さない」よりよい社会の実現につながると信じています。ジェンダーの問題が身近にある解決すべき重要な問題であるという認識が広まるよう、これから先も丁寧な情報発信を続けていきます」とその言葉に力を込めます。

↑新型コロナの感染が拡大するなか、ブータン女性と子ども国家委員会内の託児所で衛生備品が不足していたことから、JICAは寝具などの資材を供与。写真は供与された寝具など

 

↑納品に立ち会ったJICAブータン事務所と委員会のメンバー

 

【JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

いまさら聞けない「SDGs」とは?

2015年の国連サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、「2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す」ための国際目標です。とはいえSDGsの全体像をつかむのはなかなか大変。ならば日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)が取り組むSDGsの活動を追えば、その本質が見えてくるのはないでしょうか。そこで本シリーズは、JICAが発行する広報誌「mundi」に掲載されたSDGsに関する記事をシリーズで紹介していきます。今回紹介する記事は2015年の記事ですが、SDGsの成り立ちやポイントがコンパクトにまとめられている、JICA的SDGs宣言でもあります。

※本記事は、JICAの広報誌「mundi」2015年12月号からの転載です

 

全ての人により良い世界を ――。そんな願いを込めて掲げられた世界の新しい目標「持続可能な開発目標(SDGs)」が、いよいよ2016年から始まる。そこには、私たち一人一人にできることが、きっとあるはずだ。

編集協力:公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)森秀行所長

(c)久野武志

17の目標と169のターゲット

2015年12月31日、ある目標が期限を迎えるのをご存知だろうか。

 

2000年に採択された「国連ミレニアム宣言」に基づく「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成期限が今年、2015年だ。MDGsでは、開発途上国の貧困削減に向けた8つの目標とのターゲットが設定され、具体的な数値目標を踏まえた開発協力が展開された。その結果、最貧困層が1990年の19億人から2015年の8億3600万人まで半減するなど、一定の成果を挙げている。その一方で、紛争地域の人々や女性など、一部の人々が発展から取り残される不平等の存在も指摘された。

 

そうした流れを受けて今年9月に採択されたのが、2030年までの15年間を実施期間とする「持続可能な開発目標(SDGs/※)」だ。SDGsでは、達成が不十分だった一部の MDGsの目標を引き継ぐとともに、先進国を含めた世界全体の持続可能な発展に向けた目標や、先進国と開発途上国の協力関係を深めるための目標が加わっている。

※:Sustainable Development Goals

 

「D、つまり〝Development〞が日本語で〝開発〞と訳されているので、SDGsも途上国の問題と思われるかもしれませんが、これを〝発展〞と理解すれば、世界全体の課題であることがより実感できるのではないでしょうか」と、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)の森秀行所長は指摘する。

 

SDGsは、1992年にリオデジャネイロでの地球サミットで採択された行動計画「アジェンダ」の延長上にあるという考え方もある。アジェンダ21では、社会の発展に必要な環境資源を保護・更新する経済活動への移行が強調され、その一環として貧困削減なども掲げられていたからだ。

 

誰のための目標か自分の頭で考える

もう一つ 、SDGsの目標が多角化した理由として、MDGsが一定の成功を収めたことが挙げられる。MDGsは国連本部が軸となって、幅広い分野の取り組みを主導した。その結果、世間の注目が集まり、目標達成に向けた新たな基金が設立されるなどしたことから、MDGsに参画していなかった国連機関などが、より積極的に参画したのだ。中でも、明確な目標を掲げて国や企業、個人など、多彩なステークホルダーにアプローチする手法は、MDGsへの取り組みを通して定着した。

 

森所長は、「SDGsの内容に目を通し、それぞれの目標やターゲットが誰に向けたもので、どの主体が、これらにどう関わってくるかを考えることが大切です」と強調する。特に、貧困や環境面の課題などでは、途上国と先進国の違いはもちろん、一つの国でも都市と地方で状況が大きく違うため、世界共通の数値目標を作ることは難しい。事実、今回、環境に関連するターゲットは、他のターゲットに比べて数値目標があまり設定されなかった。従って、そうした分野では、自治体や企業などが自分たちに合った目標を作ることが極めて重要になってくる。

 

目標を設定する方法には大きく分けて二つある、と森所長は説明する。一つ目は、「内側から生まれる現実的な目標」、もう一つは「外側で提示されたものを取り入れる目標」だ。内側からの目標は、家庭や企業などの現状を把握した上で、その延長線上で実現可能な目標を設定するもので、これまでも多くの企業や団体などが取り組んできている。一方、例えば、二酸化炭素の排出量を抜本的に削減することなどは「外部から取り入れる目標」に当たる。現実的な目標を定めることはこれまでどおり基本となるが、それと同時に科学的な視点から思い切った目標を定めれば、革新的なイノベーションの可能性が開ける。

 

SDGs の精神を象徴する言葉に、「誰一人取り残されない」というものがある。貧困、紛争、災害など、過酷な状況下にある人たちに手を差し伸べる協力と同時に、全ての主体がさらなる発展に向けて身近な課題を解決していくことで、私たち皆が豊かさを手に入れる、新しい未来が見えてくるはずだ。

 

私たちに何ができる? 新たな開発目標SDGsの特徴

◉「5つのP」と日本の取り組み

「誰一人取り残されない」をキーワードに、People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、 Peace(平和)、Partnership(連携)の「5つのP」に焦点を当てて取り組むことが掲げられた。

 

【People(人間)】

貧困と飢餓を撲滅し、全ての人が平等の下で、尊厳を持って健康に生きられる環境を確保する

↑ポリオの撲滅に向けて、ワクチンの調達や予防接種キャンペーンなどを支援(パキスタン)

 

【Prosperity(繁栄)】

全ての人の豊かな生活を確保し、自然と調和した経済的・社会的・技術的な進歩を目指す

↑メコン経済圏の南部経済回廊の要衝となる「つばさ橋」の建設に協力(カンボジア)

 

【Partnership(連携)】

全ての国・関係機関・人が 、目標達成のために協力する

↑保健システム強化プロジェクトを、アンゴラ・ブラジル・日本の三角協力で実施(アンゴラ)

 

【Peace(平和)】

恐怖や暴力のない、平和で公正、かつ全ての人を包み込んだ社会を育む

↑地雷の除去作業のために必要な地雷探知機などの機材の調達を支援(カンボジア)

 

【Planet(地球)】

持続可能な消費と生産、天然資源の管理、気候変動対策などに取り組み、地球環境を守る

↑アマゾンなどの熱帯林の変化を測定し、森林や生物多様性を守る活動を継続(ブラジル)