特許出願を共同する際に気を付けて欲しいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。2020年10月をもって、7年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、特許相談でよく受ける内容をご紹介したいと思います。

新しいビジネスモデルを思いついた!

社長:アフターコロナに向けて新しいビジネスを考えたのですが、始めてしまうと他社に簡単に真似されそうな内容です。このため、事業開始前に、特許出願を済まして、この事業を守っておきたいと思っています。

かめやま:なるほど。どのようなビジネスを行うのですか?

社長:実は、知り合いのA社の社長に話したところ、意気投合して、一緒にやろうということになりました。一方で、特許に関する費用は可能な限り抑えたく。このため、費用をA社と折半し、特許出願も共同で進めたいと思っています。

かめやま:え?!特許出願を共同で行うのですか?

社長:え?だめですか?

かめやま:ダメではないのですが、ちょっと面倒なケースがありまして・・・

特許出願を共同で行うことのデメリット その1

かめやま:特許権が共同となっている場合、共有者それぞれがその発明の実施ができてしまいます。

社長:うーん。それのどこがデメリットなのでしょうか?

かめやま:今回のA社とはどのような役割分担を行うのですか?

社長:A社は、弊社に材料供給をします。弊社はそれを使って新しい製品Xを製造販売します。

かめやま:今回の特許出願したい内容は、新しい製品Xなのですよね?

社長:はい。

かめやま:そうであれば、特許出願は、御社の単独名義でよいのでは?

社長:それだと特許取得費用や維持費用が掛かってしまいます。共同名義にすれば、費用も折半にできるので良い考えと思ったのですが・・・

かめやま:しかし、A社と共同名義にしてしまうと、A社も製品Xを製造販売できてしまいますよ。

社長:いえいえ。A社は、製品Xの製造設備を持っていませんので、実質的に無理です。

かめやま:しかし、A社が下請けのB社に製品Xを製造を委託して全品を買い取れば、ライセンスの対象とならず、A社の自己実施となり得ます。そうすると、A社も製品Xの製造販売が可能となりますが・・・

社長:それは困ります!

かめやま:どうしても共同名義を行うなら、共同出願の契約の中で、A社が製品Xを製造販売しない取り決めを交わしておく必要がありますが、こちらの案がA社にとって魅力的なものでなければ合意にも至らないように思えます。

特許出願を共同で行うことのデメリット その2

かめやま:もう1つのデメリットがあります。それは、御社がこのX製品の事業を他社に売却したくても、共同名義の特許権が障壁となる場合がてでくる点です。

社長:すみません、あまりピンときていないです。

かめやま:今は、A社との関係が良いのでよいのですが、お互いの経営状況が悪くなったり、経営者が交代すると、その辺りの問題が顕在化してきます。

社長:どういうことですか?

かめやま:他社が製品Xの事業を行うためにはこの特許権又はその実施権が必要になります。しかし、売却先に特許権の持ち分を譲渡しようとする場合にもA社の同意が必要となります。同様に、御社が売却先にライセンスを行おうとする場合にもA社の同意が必要となります。したがって、共同名義の特許権の存在が、御社の意思決定の足かせになります。

社長:うーん。目先の特許の費用軽減を目的として共同名義を思いついたのですが、デメリットもあるのですね。

かめやま:そうですね。ここは、ルームシェアの悩ましさに似ていると思います。

社長:確かに。具体的には、どのようにすればよいですか?

かめやま:もちろん、共同出願自体を否定はしないですが、メリット・デメリットの比較考量をしたほうがよいです。

特許権の共有について

特許権の共有について、特許法では、以下のように定められています。

  1. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
  2. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
  3. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

そして、これを修正するためには、共有者との事前の取り決め(契約書)をしておく必要がありますが、契約の相手方との利害一致ができなければ、合意に至ることができません。とはいえ、何もしないままに特許権の共有を行ってしまうと、折角費用と時間をかけて取得した特許も、御社にとって実効性の薄いものになってしまう場合も出てきます。

まとめ

(1)特許出願は、単独でも共同でも可能。

(2)特許権の共有について特許法では次の定めがある。

  • 他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡等できない(特許法73条1項)。
  • 他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる(特許法73条2項)。
  • 他の共有者の同意を得なければ、その特許権についてライセンスことができない(特許法73条3項)。

(3)上記(2)の制約を変更したい場合には、相手方との別途契約が必要となる。

(4)別途契約が難しいようであれば、単独名義で進める。

単独名義と共同発明のどちらが良いか否かは、発明の内容、事業内容や事業の寿命によって異なりますし、そして御社におけるその事業の位置づけによって異なってくる場合もあります。その結果、共同出願が良さそうとなれば、その契約の中で、A社との取り決めを交わしておく必要がありますし、そこが難しいようであれば単独名義で出願しておくことが良いと思います。このように、特許相談においては、出願する発明の内容だけではなく、その事業内容を含めて、お近くの専門家にご相談ください。

せっかくの秘密保持契約(NDA)が水の泡となるケース

中小企業専門の弁理士の亀山です。2020年10月をもって、7年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回の記事(自社技術を提案する際に気を付けたいこと)では、自社の技術を提案する際、提案前の特許出願や秘密保持契約を検討して欲しい点についてお話しました。今回は、秘密保持契約書において、中小企業において「ありがちな失敗例」をご紹介したいと思います。

上場企業から問い合わせが来た!

技術部長:凄いことが起きました。上場企業I社からの問い合わせが入ったんです!まさか、うちのような企業が大企業から声がかかるだなんて・・・

かめやま:おお~!それはチャンスですね!問い合わせの内容はどのようなものですか?

技術部長:現在検討している新規プロジェクトで、とある問題が起きているらしく。で、うちのホームページを見たところ、オリジナル商品の素性から、うちの技術力が使えそうなので、相談したい!とのことです。

かめやま:なるほど。どの商品ですか?

技術部長:商品Eです。たぶん、この製造技術に関心があると思います。

かめやま:こちらは、構造について特許出願を済ませておりましたが、製造技術については、ブラックボックス化するために、特許出願を出さなかった案件ですね。

技術部長:はい。

かめやま:I社との打ち合わせはこれからですか?

技術部長:はい。

かめやま:では、次のようにして、打ち合わせを進めてください。

  • アドバイス1:相手方の要求やその背景を把握する。
  • アドバイス2:製造技術の開示は、いつごろ必要になるか?の目途を立てる。
  • アドバイス3:(相手からどんなに急がれても)製造技術の開示の前に秘密保持契約を締結してほしい。

そして、その結果、K社の秘密保持契約書(ひな形)を使って、秘密保持契約を締結しました。

秘密保持契約の締結後

秘密保持契約の締結後、K社の技術部長より、うれしい報告を受けました。

技術部長:2回目のアポイントがとれました!1回目の打ち合わせでは、I社の部長の反応が良かったため、期待が持てそうです。

かめやま:それは、よかったですね。2回目の打ち合わせでは、サンプルや技術資料等を見せる予定ですか?

技術部長:はい! 現在の商品と、その製造方法に関する技術資料です。

かめやま:(技術資料等を見ながら)現在の商品はすでに販売しているので、秘密情報ではありませんね。しかし、この技術資料は、製造方法について少し触れている部分があるため秘密情報になりますよね。

技術部長:はい。

かめやま:この部分を削ることができますか?

技術部長:いいえ。ここを開示しないと、先方も理解できないと思います。

かめやま:そうなると、この技術資料は開示が必須となりますよね。

ここまでは良かったのですが・・・

かめやま:ところで、この技術資料に「社外秘」という表示が付いていないですが、このまま開示する予定ですか?

技術部長:ええ。問題ありますか?

かめやま:技術資料に、「社外秘」が表示されていないですよ。

技術部長:え? それって、何か意味あります?

かめやま:このままだと、先日締結した秘密保持契約による保護を受けられません。

技術部長:あれれ?おかしいな~。「製造技術=秘密情報」ではないのですか?

かめやま:では、秘密保持契約書を一緒に見てみませんか?

技術部長:はい。ええと「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」と書いてあります。

かめやま:そうですよね。今回の秘密保持契約における「秘密情報」としては、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

  • 条件1:K社が開示した情報
  • 条件2:書面等の有体物として開示した情報
  • 条件3:秘密情報として明示した情報

技術部長:あぁ。なるほど。このままだと、条件3を満足しないのですね。これだと、秘密情報として守ってもらえないし・・・だから、自由に利用されてしまう。

かめやま:そうです。

技術部長:危なかったです。事前に相談しておいてよかったです。

かめやま:ほかの資料やサンプルを開示する場合も、製造技術に関わるものは「社外秘」を付けるようにしてください。もちろん、開示する情報は、I社の採用検討に最低限の範囲でお願いします!もし、心配であれば、事前に見せてくださいね。

技術部長:そうします!

秘密保持契約でチェックしたい事項

今回、秘密保持契約において最低限チェックしたい事項は次の3点です。

  1. 文言「秘密情報の第三者開示を禁止する」が入っているか否か
  2. 文言「秘密情報の目的外使用を禁止する」が入っているか否か
  3. 契約書上の秘密情報について

それぞれについてみてきましょう。

文言「秘密情報の第三者開示を禁止する」が入っているか否か

「開示した情報を、第三者に無断開示することを禁止する」というものです。K社の技術情報を秘密情報として守ってほしいため、当然といえば当然ですね。

文言「秘密情報の目的外使用を禁止する」が入っているか否か

今回の秘密保持契約の目的は、「I社がK社保有の技術を採用するか否かの判断のために情報開示する」と書いてありますよね?。これにより、I社は、K社から開示された情報を「自社採用するか否かの判断材料として利用できる」ものの、「自社の課題解決のための利用することはできなくなります」。

※もちろん、I社に対し情報開示する範囲も、製造技術の「採用の判断」に必要なものに止めることが前提になります。

契約書上の秘密情報について

「秘密情報の第三者開示を禁止する」文言も入っているし、「秘密情報の目的外使用を禁止する」文言も入っている。これなら安心!といきたいところですが、もう1つ。大切なチェックポイントがあります。それが、秘密情報の定義です。

秘密情報の定義

通常、秘密保持契約書には、秘密情報の定義がされています。秘密情報の定義として、よくあるパターンは次の通りです。

  • パターン1 開示した情報の全て
  • パターン2 開示した情報のうち、秘密情報と明示したものに限る
  • パターン3 開示した情報のうち、秘密情報として書面等の有体物に明示したものに限る

秘密情報の定義は、情報管理の実現可能性から検討する

秘密情報の定義として、いずれのパターンが良いかはケースバイケースです。例えば、情報を開示する側からすれば、「開示したものは全て守ってほしい」ということで、パターン1を選びたくなります。一方、情報を受領する側からすれば、「開示された全ての情報を秘密情報として管理することは、手間もかかるので、事実上不可能」ということで、パターン2や3のように、秘密情報の範囲を限定するケースが多いです。

このように、「情報を出す側と」「情報を受け取る側」の情報管理のリソースを考慮し、実現可能なレベルを設定する必要があります。

※決して、実現できないレベルで締結しないでください。

「秘密保持契約が水の泡」とならないようにするために気を付けたいこと

I社に情報開示の際、「I社との秘密保持契約にて定義された”秘密情報”ってどんなものだったけ?」と思いながら、心配な場合には、「秘密保持契約」を見ながら、開示する書類やサンプルの用意をしてください。

今回の秘密保持契約では、お互いに、秘密情報を受け渡しすることから、「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」としました。この場合には、開示する書類やサンプル等について、3つの条件を満足しているか否かを1つひとつチェックする必要があります。

  • 条件1:K社が開示した情報
  • 条件2:書面等の有体物として開示した情報
  • 条件3:秘密情報として明示した情報

そして、この3つの条件のうち、1つでも満足しないまま情報開示を行ってしまうと、冒頭で述べた事例のように、折角の秘密保持契約が水の泡となりかねません。

まとめ

(1)秘密保持契約でチェックすべき事項

  1. 「秘密情報の第三者開示を禁止」が入っているか
  2. 「秘密情報の目的外使用を禁止」が入っているか
  3. 「秘密情報」は、どのように定義されているか?

(2)ありがちな失敗例は、秘密保持契約書にて定義された「秘密情報」から外れてしまった情報の開示行為

例えば、「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」にもかかわらず、

  • 開示文書に秘密情報を明示していなかった(「秘密情報の明示」という条件を満足していなかった)。
  • 口頭のみで秘密情報を明示してしまった(「書面等の有体物による開示」という条件を満足していなかった)。

といったことが良く起こります。

(3)情報開示する際、開示する情報の範囲は、契約の目的を考慮して必要最低限にとどめること。

(4)開示する情報を守るべく、秘密保持契約書上の”秘密情報”の定義を理解すること。

(5)開示する情報のうち「相手方に守ってほしい情報」については、秘密保持契約書上の”秘密情報”に該当するようチェックすること。

秘密情報は、相手方に一度開示してしまったあとでは取り返しがつきません。自社技術を提案する際には、事前に、お近くの専門家にご相談ください。

折角の商標登録が消滅してしまう場合

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、中小企業の方が忘れがちな「商標登録の消滅」についてお話したいと思います。

商標登録が消滅してしまう理由

商標登録が消滅してしまう理由としては、以下の4つがあります。

  1. 異議申し立て
  2. 無効審判
  3. 取消審判
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)

異議申し立てについて

制度概要

特許庁の審査結果(商標登録のみ)について、第三者チェックの機会を与えるために制定されています。申し立てできる期間は、商標公報(*)の発行後から2か月以内に限られます。(*商標公報:商標権設定登録後に発行されます。)

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 417
  • 請求(一部成立含む)成立 35
  • 請求不成立・却下 236
  • 取下放棄 58

となります。

申立数417件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.34%と結構レアです。また、申立人側の勝率は、8.3%(417件中35件)といったところです。

無効審判について

制度概要

異議申し立てと似ている制度です。こちらも、私益的・公益的の両面からのチェックする制度ですが、設定登録の日から5年を経過すると、無効理由は公益的なものに限定されます。無効審判の請求は、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 98
  • 請求(一部成立含む)成立 26
  • 請求不成立・却下 35
  • 取下放棄 15

となります。

請求数98件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.08%ということで、かなりレアです。また、請求人側の勝率は、26%(98件中26件)といったところです。

取消審判について

取消審判としては、不使用取消審判、不正使用取消審判、国内代理店等による不正な商標登録に対する取消審判がありますが、取消審判のほとんどは不使用取消審判ですので、不使用取消審判について説明します。

制度概要

日本の商標法では、登録主義(使用していなくても、登録されていれば商標法の保護を認める考え方)を採用していますが、登録主義にも次のような問題があります。

  • 問題1:不使用のままの登録商標が増えてしまうと、第三者が使用したいのにも関わらず、先登録の事実のみによって、登録も使用できなくなってしまう(これは不合理だ)。
  • 問題2:使用していない登録商標なんて、そもそも信用が化体しない(≒のりうつらない)ので、商標法で保護する必要もないよね。

このような問題の是正のために、不使用取消審判が設けられています。不使用取消審判の請求は、登録後から3年経過後の商標権であれば、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 1045
  • 請求(一部成立含む)成立 858
  • 請求不成立・却下 80
  • 取下放棄 88

となります。

請求数1045件について、2018年の登録査定件数(119610件)に対する割合は、0.87%ということで、レアです。また、請求人側の勝率は、82%(1045件中858件)といったところです。発生頻度はレアですが、異議申立や無効審判に請求されると負ける確率が高いところが特徴です。なお、弊所の実務レベルでいうと、年に3~4回、このような相談を受けます。

存続期間満了(更新手続き忘れ)について

制度概要

日本の商標法では、10年ごとの更新手続きによって半永久的に商標権を維持することができます。ここは、特許権・実用新案権・意匠権とは異なる部分です。

発生頻度

統計データがないのですが、弊所の問い合わせレベルでいうと、年に1~2回、このような相談を受けます。10年という長期の期限管理が必要になるため、途中で忘れてしまう人が多いようです。

注意すべきこと

異議申し立て・無効審判

権利者側から見れば、これは避けられません。公報発行後、二か月の辛抱です。ただし、逆の見方をすれば、公報の定期的チェックにより、自社ブランドと紛らわしい商標登録をいち早く発見し、異議申し立てによって、紛らわしい商標登録を取り消すことも可能です。費用的には、無効審判よりも異議申し立ての方が安価に済むことが多いので、まずは、異議申し立てを選ぶ方が多いでしょう。

不使用取消審判

特に、商標権者やライセンシーが、継続して3年間、登録商標を使用していないときは、取消の対象になります。このため、登録商標を指定商品について使用してください。特に、設定登録直後は問題ありませんが、3年が経過すると不使用取消審判の対象になるため、注意が必要です。また、「現在の登録商標の使用方法が、商標法上の使用になっているか否か」について自信がない場合には、お近くの特許事務所にご相談ください。

存続期間満了(更新手続き忘れ)

10年ごとの期限管理に自信があれば、ご自身で行っても良いと思います。しかしながら、期限管理に自身のない方は、特許事務所の専門サービスを利用された方が良いと思います。

万が一、消滅してしまった場合にはどうすれば?

残念ですが再出願するか名称変更するかしかありません。どちらが良いかはケースバイケースですのでお近くの専門家にご相談下さい。

まとめ

  1. 商標登録の消滅事由は意外と多い。
  2. 特に気を付けるべきことは、不使用取消審判と存続期間満了(更新手続き忘れ)。
  3. 不使用取消審判対策は、登録商標を指定商品について使用すること。「商標法上の使用」に自信がなければ、特許事務所に相談する。
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)対策は、期限管理を行うこと。期限管理に自信がなければ、特許事務所に依頼する。

お金がかかる商品名

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、とあるお客様から受けた質問についてご紹介いたします。

最初の特許相談

とある中小企業が研磨技術を確立しました。この技術を用いた研磨装置によれば、今まで、手作業だった研磨の自動化が実現できます。結果、大量の研磨も夜中に行うことができます。これにより、研磨のコストダウンも可能となります。

このような研磨装置はきっと売れるだろう!

ということで、特許の相談にきました。特許については、調査をした結果、特許の可能性もあったので、特許を出願し、ひと段落となりました。

研磨装置の販促物制作

お客様:HP掲載用の研磨装置のデザインができたのですが、ここに特許出願中と表示してもいいですか?

かめやま:まだ特許取得していないので、特許を取得したような表現はだめですが、特許出願中のような書き方であれば大丈夫ですよ。

お客様:わっかりました!

その後、どうも嫌な予感がしたので、特許出願中の表示を確認したいので、修正カタログをみせてもらえませんか?とお願いしておきました。

修正デザインを見て驚く

修正デザインを見て驚いたのは、「特許出願中」のほうではなく、商品名。商品名は、てっきり「研磨装置」と思っていたのですが、今回の商品名は、「晴れ晴れ研磨君」。この名前は、商標登録が可能な名前。そうだとすると、先に誰かが商標権を持っている可能性もある。ということで、「晴れ晴れ研磨君」についての商標調査と商標登録について検討するようお願いをしました。

商標登録?お金がかかる

お客様:商標登録?新しい加工装置のたびに商標登録をしていたら、おカネばっかりかかってしまいますよ。

かめやま:そうであれば、商標登録できない名前にしてはどうですか?

お客様:どういうことですか?

かめやま:誰もが商標登録できい名前、つまり、普通名称や記述的商標のような名前にしてみてはどうですか?

お客様:普通名称って何です?

かめやま:例えば、商品「りんご」であれば、商品名「りんご」です。

お客様:あ、なるほど。商品そのままの名前ですね。

かめやま:そうです。

お客様:では、記述的商標は何です?

かめやま:例えば、商品「りんご」であれば、商品名「赤いりんご」や「おいしいリンゴ」です。

お客様:あ~なるほど。あまり特徴がなさそうな名前ですね。雰囲気はわかりました。

かめやま:そうなんです。ありふれているような特徴がない名前は、商標としての機能が発揮されないので、商標登録出願しても、審査で撥ねられます。

お客様:今回の加工装置は、「晴れ晴れ研磨君」。あちゃー、特徴がありすぎますね。

かめやま:お金をケチるなら、「研磨装置」でよいと思いますよ。

お客様:今回の商品については、名前で惹かせる作戦を考えていないので、「研磨装置」にしたいと思います。

商標登録を考慮した商品名の決め方

普通の名前にするか?変わった名前にするか?今回のお客様の例で言えば、「研磨装置」にするか?「晴れ晴れ研磨君」にするか?です。

前者であれば、誰もが商標登録ができないので、自社で商標登録をしなくても、そのまま販売できます。後者であれば、商標登録ができる名前なので、早く出願したもの勝ち。自社が出さなかった場合、研磨装置「晴れ晴れ研磨君」がリリース後、別の誰かが「晴れ晴れ研磨君」という商標登録を受け、研磨装置を販売してしまう恐れもあります。「晴れ晴れ研磨君」の商標登録を他人に先を越されてしまうと、こちら側が商標権侵害者となってしまいます。
※先使用権という救済策もありますが周知性の要件が厳しいため、中小企業では、なかなか認められません。

商標権侵害者となってしまうと、権利者側へのお金の支払いの他、在庫の対応(商標が付されたパッケージの廃棄など)、カタログの再制作等、後々、お金が発生してしまいます。したがって、後発的に、商標権侵害者とならないよう、こちら側が、商標登録を先に済ませておく必要があります。

まとめ

  1. 普通名称や記述的商標のような特徴の名前は、誰もが商標登録できない
  2. 目立つ名前で売り出したいのであれば、誰もが商標登録ができてしまう。このため、商標登録を先に越されない様にすべく、こちら側が先に済ませる。
  3. 目立つ名前で売り出す必要性がないのであれば、誰もが商標登録ができない普通の名前にする。

何かの参考になれば幸いです。

特許権取得までの道のりをわかりやすく説明してみると・・・

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。お客様より、「特許の権利化までの手続きがわかりくい!」という声をよくいただきます。今回は、「特許の権利化までの手続き」について、できるだけわかりやすくご紹介したいと思います。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

2、各イベントの詳細

1)先行技術調査

  • 今回の新技術(新製品)について、どの範囲で特許権が取れそうか、
  • どの範囲まで権利主張できそうか・・・

出願前に調べます。特許の芽がない場合には、特許出願は見送り!となります。

※受験に例えると「希望校の合格判定を知るために模試を受ける行為」になります。

2)特許出願

先行技術調査によって、特許の芽がある場合には、その内容を書類に記載して、特許庁へ提出します。この出願行為は、郵送でも可能ですが、特許事務所の場合はオンラインで手続する場合がほとんどです。

※受験に例えると「希望校に願書を出す行為」になります。

3)出願審査請求

出願しても、特許庁は自動で審査をしてくれません。そのため、出願人が特許庁に対し審査の開始を行う必要があります。なお、出願審査請求の期間は、出願から3年間。出願審査請求をしないまま3年が過ぎると、その出願は復活できない・・・となります。

※受験に例えると「当日試験会場にて問題を解く行為」に・・・そうなんです。試験日に休んではイケナイのです。

4)審査対応

特許庁の審査官は、出願した発明を読み込み、従来技術を調べ、特許を取りたい発明について、「ここは許可します。ここは許可しません。」といった判断をします。いわゆる「拒絶理由通知」です。しかし、この時点での判断は最終決定ではありません。審査官の判断が合っている場合は、許可しない部分を削除します。また、審査官の判断が間違っている場合は、反論をすることも可能です。

最初、審査官が

といっていた内容も、代理人の説明によって、

と変わるケースも珍しくありませんですし、「欲しい範囲を残しつつ、如何にして”YES”を勝ち取るか?」が弁理士の腕の見せ所でもあります。

※受験に例えると「試験の採点結果(1次結果)をみて、意見を言う行為」になります(少々無理があります)。

5)特許査定

「許可されない部分を反論で覆す」か、「許可されない部分を削除する」を行うことにより、特許がおります。その場合は、特許庁から特許査定が届きます。特許査定から30日以内に特許料(1~3年分)を納付すると、約1か月くらいで、権利が発生し、特許証が届きます。

※受験に例えると「試験に合格して、入学金を支払う行為」になります。

6)特許権の維持

4年目以降は、維持費を納付期限内に納付することにより維持できます。特許料を支払えば、出願から20年まで維持させることができますが、特許料は、「1~3年目」「4~6年目」「7~9年目」「10年目~」に約3倍ずつ増えていきます。例えば、請求項数が1の場合、「1~3年目」の特許料は、年間2,300円ですが、「10年目~」の特許料は、年間110,000円と高額になってしまいます。

※受験に例えると「「留年して、学費を支払う行為・・・」でしょうか?(-_-;)

3.特許権取得までの道のりを受験に例えると・・・

  1. 先行技術調査 → 「希望校の合格判定を知るために模試を受ける行為」
  2. 特許出願   → 「希望校に願書を出す行為」
  3. 出願審査請求 → 「当日試験会場にて問題を解く行為」
  4. 審査対応   → 「試験の採点結果(1次結果)をみて、意見を言う行為」
  5. 特許査定   → 「試験に合格して、入学金を支払う行為」
  6. 特許権の維持 → 「留年して、学費を支払う行為」(笑)

こうしてみると、特許権の取得までのイベントは、受験によく似ていると思います。何かの参考になれば幸いです。