テクノポートの稲垣です。今回は「アメリカの製造業」を紹介します。
2020年11月3日から投票が行われたアメリカ大統領選挙は、民主党のジョー・バイデン候補が当選確実となりました。
今回は、バイデン大統領がアメリカの製造業にどのような影響を与えるのかを含めて、アメリカに進出する日本企業の目線からアメリカ製造業を掘り下げていきたいと思います。
基本情報
- 正式名称:アメリカ合衆国(United States of America)
- 首都:ワシントンD.C.(Washington, D.C.)
- 大統領:ドナルド・J・トランプ(2017年1月~)
- 通貨:アメリカ合衆国ドル(1ドル=104.66円 ※2020年10月31日時点)
- 人口:約3億2775万人
- 面積:約962.8万km2
- 公用語:英語
- 宗教:信教の自由を憲法で保障,主にキリスト教
- 平均寿命:男76.1歳、女81.1歳
経済の特徴
強み
- 米ドル:世界の貨幣の中でも中心的な存在(準備通貨の約6割を占める)
- 市場:世界最大の市場規模を誇る(GDPで約20兆ドル)
- 研究開発:世界の研究開発費の20%を占めるイノベーションの拠点
弱み
- 政治の二極化:アメリカ国内での政治の分断(共和党支持者と民主党支持者、沿岸部と内陸部、都市部と地方)
- 格差社会:先進国の中でもトップクラスの経済格差(上位1%の持つ資産が下位90%の持つ資産を上回る)
- 労働市場参加率:2019年の労働市場参加率は78.4%と先進国の中では低い数字(OECDの調査)
産業構造
まずはアメリカの産業構造の調査結果を紹介します。下の図はアメリカの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合の遷移を示したグラフです。
データ引用元:USA: Sectoral composition of the economy of USA| TheGolobalEconomy.com
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- 製造業の割合は年々の減少傾向(サービス業の割合は増加傾向)
- 2019年のGDPは約18.3兆米ドルで世界第1位(2位の中国は約11.5兆米ドル)
現状
- 2020年7月から9月までのGDPの伸び率は前3ヶ月に対しプラス33.1%を記録(ビジネスの再開、個人消費の増加、輸出の増加などが要因)
- ヘルスケア産業がアメリカ経済の中で存在感を高めている(2006年から2016年までの間で7倍の規模に成長)
今後
- 専門家の予想によると、2020年のアメリカのGDPは前年比5.3%の減少
- 専門家の予想によると、2021年のアメリカのGDPは前年比4.0%の増加
製造業全体
次にアメリカの製造業の調査結果を紹介します。下の図はアメリカの製造業が生み出す付加価値の遷移を示したグラフです。(縦軸は10億U.Sドル)
データ引用元:USA: Manufacturing value added| TheGolobalEconomy.com
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- 2009年以降、増加傾向が続く(2016年を除き)
- 2017年の製造業が生み出す付加価値額は20億ドルで世界第2位
現状
- 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年5月に36.1を記録するも、翌月以降急速に回復し2020年10月に53.3を記録
- 非耐久消費財(使用寿命が3年以下の製品)がGDPの4.8%を占めておりアメリカの経済の大黒柱的な存在
今後
- 人材不足により、GDPに対する製造業の割合は今後も縮小が続く見通し(熟練技術者の流失、他業界へ吸収されるため)
- 生産効率の向上、天然ガス、原油の生産、新興市場の賃金の高騰などの要因でアメリカ製造業は市場規模が増加するという見通しもある
バイデン大統領がアメリカ製造業に与える影響
- 需要拡大:アメリカ製の製品、材料、サービスに対して4000億ドルの投資を行いアメリカ製造業に対する新たな需要を喚起
- 再教育:小規模な事業者、女性、有色人種が所有する製造業事業者に再教育を行い、製造業を活性化
- イノベーション産業:研究開発と最先端技術産業に3000億ドルの投資を行い、付加価値の高い分野の活性化、雇用の創出
- 投資拡大:都市部と農村部を含むすべての州に公共投資を行い、製造業の生産性の底上げ
- サプライチェーンの見直し:重要な商品の生産を中国をはじめとする他国に過度に依存することをやめ、アメリカ国内でサプライチェーンを構築
日本企業の進出状況
ここからは日本企業の視点からアメリカの製造業市場を調査した結果です。下の図はアメリカに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。
データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省
グラフと関連データから以下のことが分かります。
- 進出日本企業数は統計開始の2008年から一貫して増加傾向
- 州別の日系企業拠点数ではカリフォルニア州が516社で1位(2位はイリノイ州、3位はテキサス州)
現在
- 2018年のJETROの調査によると、アメリカにおける日系企業の雇用者数は88万5200人で英国に続く世界第2位
- 2018年のJETROの調査によると、在米日系企業の雇用者の41万8700人が製造業に従事
今後
- インディアナ州(118件)を始めとする自動車工場のある州への投資が顕著であり、今後もその傾向が続く見通し
- 日本企業によるアメリカへの投資はG7加盟国の中で最大であり、先進国の中でも安定的に成長を続けるアメリカに今後も投資が拡大する見通し
アメリカに進出した日本企業
株式会社バイタル
▶基本情報
- 本社:長野県佐久市
- 従業員数:37人
- 事業内容:自動水栓の製造・販売
▶概要
近赤外線センサ内蔵の非接触式手洗い蛇口の製造・販売を行う企業。軽量かつ低価格な自動水栓の開発に成功し、1999年に米ボーイングのB777型機のビジネスクラス用に供給を開始。現在では、B787型機全機で同社の自動水栓が採用されている。同社は、部品製造を外注し、自動水栓の開発・製造のみに注力することで競争力を保っている。
山陽精機株式会社
▶基本情報
- 本社:岡山県真庭市開
- 従業員数:53人
- 事業内容:金型の開発・製造
▶概要
金属製や樹脂製の工業製品部品用の金型を製造する企業。1995年にシカゴ州に同社初の海外事務所を設立。シカゴ事務所では北米での射出成形金型の販売に加え、同社の製品の修理・メンテナンス業務を行う。現在では、韓国、中国に生産拠点を構えており、積極的に海外展開を進めている。
株式会社ワールドケミカル
▶基本情報
- 本社:東京都台東区台東
- 従業員数:70人
- 事業内容:耐食性ケミカルポンプ、ろ過機、浮上油(物)回収機器の製造・販売
▶概要
水処理場向けのケミカルポンプ、浮遊物回収機の製造・販売を行う企業。1998年1月に米国の代理店契約が失効したことをきっかけに、自ら自社製品を販売するために米国に事業所を設置。米国進出後、最初の2年間は利益が出ない状態が続いたが、3年目以降アメリカ流の販売開拓方法を導入し、現在に至るまで徐々に利益を伸ばしている。
まとめ
今回はアメリカの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果、他産業の急成長に伴いアメリカにおける製造業の市場規模は縮小傾向であるものの、製造業の生み出す付加価値額は増加傾向であり、依然として国の主柱的な産業であることが分かります。
進出する日本企業の傾向としては、自動車産業を中心に投資が活発であることが分かります。今回紹介した3社はそれぞれ自社独自の技術を生かした製品を駆使し、アメリカ市場に販路を拡大させています。今回の内容がアメリカ進出に関心のある方の参考になれば幸いです。