なぜ、名刺のデジタル化が必要なのか

製造業勤務、機械系エンジニアライターの野口です。「営業の効率化を図るために名刺情報を最大限活用したい」こんな悩みはありませんか。本記事ではデジタルマーケティングとしての名刺デジタル化の目的、名刺のデジタル化サービスの事例、手順を紹介します。

名刺のデジタル化

名刺のデジタル化とは、紙媒体である名刺情報をスマートフォンのカメラやスキャナーで読み取り、電子(デジタル)化することです。

デジタルマーケティングの一歩目は名刺情報

近年、「デジタル情報」を活用したデジタルマーケティングの重要性が増しています。なぜなら、顧客に向けて最適なタイミング、頻度で情報の提供が求められているからです。

デジタルマーケティングと聞くと、WebサイトやSNS、ECサイトとWeb上でのマーケティングを想像するかもしれません。しかし、製造業でも営業効率化のためにデジタルマーケティングのニーズは高まっています。

製造業がデジタルマーケティングに取り組むならば、名刺情報のデジタル化は欠かせません。その理由は顧客への案内メールや打合せ、商談のきっかけに名刺情報が必要不可欠だからです。

また、今後クラウドサービスの普及で、名刺管理ツールとSFA(*) / CRM(**) と連携の増加が予測されています。つまり、デジタルマーケティングに取り組む最初の一歩として、顧客情報である名刺のデジタル化が必須なのです。

*SFA( Sales Force Automationの略)
**CRM(Customer Relationship Managementの略)

営業効率を高める名刺デジタル化の3つのメリット

ここでは、名刺をデジタル化ソフトを紹介する前に、具体的なメリットを3つ紹介します。

メリット1:情報を組織で一括管理できる

名刺をデジタル化すると、組織での戦略的営業に取り組めます。その理由は顧客情報を組織のデータベースとして管理できるからです。紙の名刺は個人管理が多く、個人での営業が増えてしまいがちです。しかし、顧客データベースがあれば、それを基にした分析、解析に基づいた営業戦略に活かせます。

メリット2:検索やグルーピングが容易にできる

名刺を探す時間が短縮でき、生産性が向上します。なぜなら、データベースの検索機能に名前さえ入力してしまえば、ほんの数秒で顧客情報が表示されるからです。重要顧客をあらかじめグループ分けしていればその手間さえなくなります。

紙の情報ではきれいにファイリングしていても、目的の名刺を探すのに少なからず時間が必要です。しかし、データベース化されていれば、短時間で検索可能です。

メリット3:どこでも名刺情報を閲覧できる

出先で急に顧客の情報が必要になった状況でも、名刺をデジタル化していれば対処できます。近年の名刺デジタル化ソフトはクラウド上やアプリ上で管理されているからです。そのため、通信環境さえあればいつでもどこでもスマートフォンから名刺情報を閲覧できます。

名刺デジタル化サービス

ここからは、無料・有料の名刺デジタル化サービスを紹介します。

Wantedly people

Wantedly peopleは無料の名刺デジタル化サービスアプリです。

名刺管理機能

スマートフォンのカメラ機能を用いて、10枚まで同時に名刺をデジタル化します。名刺データベースから、名刺情報をアプリでいつでもどこでも閲覧可能です。

顧客管理機能

Wantedly peopleの連絡先を知っている場合、相手がプロフィールを更新するとアプリ上で確認できます。

セキュリティ機能

名刺情報は高い信頼性とセキュリティ水準を持つデータセンターで管理されています。

その他機能

着信時の名前表示、名刺データの移行、Excelへの書き出し機能も搭載しています。

Sansan

業界No.1、シェア80%以上を占める有料の法人向けクラウド名刺管理サービスです。

名刺管理機能

スキャナまたはスマートフォンを用いて名刺をデジタル化できます。面倒な名刺情報の入力や誤入力、重複入力を99.9%の精度で防ぐAI機能も充実しているのが特徴です。

顧客管理機能

人事異動の通知や顧客情報タグ付け、グルーピング機能も搭載しています。One to Oneメール機能やメール開封のクリック率も測定も可能です。

連携機能

外部サービス(OutlookやSalesforce)との連携が可能です。また、名刺情報を基にしたデータ分析をもとに、マーケティングの判断材料の獲得や、顧客情報の見える化で営業ロス削減による生産性向上に寄与します。

セキュリティ機能

2段階認証や端末の利用制限、ログの管理もできます。

ホットプロファイル

業界No.2のシェアを持つ有料の名刺デジタル化サービスです。ホットプロファイルは、名刺のスキャン情報をハンモックの担当オペレーターが名刺情報を入力しています。

名刺管理

名刺のデータ化や名刺情報の自動整理、人脈の可視化が可能です。

MA(マーケティングオートメーション)

リード管理やメール配信、Webのアクセス解析で見込み客を分析できます。

SFA(セールス・フォース・オートメーション)

営業活動の可視化や顧客情報の一元化で営業を効率化できます。

セキュリティ機能

経済産業省『クラウドセキュリティガイドライン』に準拠した運用体制で高いセキュリティ能力を持っています。

3Stepで簡単にできる名刺のデジタル化

名刺デジタル化には難しい手順はありません。たった3Stepで名刺をデジタル化できます。

Step1 名刺を集める、回収する

個人で名刺を管理している場合は、部や課単位で名刺を個人から回収しましょう。

Step2 名刺をスマートフォンのカメラやスキャナーでとる

名刺を回収したら、デジタル化作業に移ります。スキャナーの場合は同時に何枚も読み取り可能です。

Step3 目視でデータミスを確認する

最後に、デジタル化した内容を確認しましょう。なぜなら、AI機能が発達したとはいえ、誤植は起こりえるからです。目視で正しい情報が入力されているか最終確認しましょう。

Wantedly peopleによる実際の手順

では、実際にはどのように名刺をデジタル化するのでしょうか。Wantedly peopleを用いた例を紹介します。

①名刺を準備する(本記事では、著者の名刺を利用しています。)

デモ用名刺①

②スマートフォンで名刺を撮る

Wantedly peopleを起動させると下のような画面になるため、名刺を準備しましょう。

デモ用名刺②

名刺の準備ができ、カメラで写すと探索用の丸が表示されます。この状態で撮影すると名刺がアプリ上に保存されます。

デモ用名刺③

③デジタル化された内容の正誤を確認する

デジタル化された名刺はアプリ上で確認できます。名刺に記載のある情報量によりますが、名前、会社名、部署、名刺の画像、電話番号、メールアドレス、会社の住所がデジタル化されます。この内容が正しく入力されていることを確認し、名刺のデジタル化は終了です。

デモ用名刺④

まとめ

生産性の向上が求められる社会だからこそ、デジタルマーケティングには大きな可能性があります。その一歩目として名刺のデジタル化を始めてみませんか。名刺を管理するだけではなく、組織全体の効率化につながるはずです。

月井精密のデジタル化への道【2】

こんにちは。名取磨一です。

前回のブログでは、デジタル化へまい進するため、NCのマシニングセンターを購入しようと銀行へ向かう事を決意したところまででした。銀行の反応は如何に。

事業計画書

それまで自分では借金の経験がなく、会社は借金などしなくとも、うまく回っていくものだと思っておりました。しかし、製造業においては定期的に大きな設備投資をする必要があり、数千万円もする機械を現金で一括購入することの方がリスクが大きいということを税理士や金融機関の方から教えてもらい、借金をするということに強い抵抗感を感じつつも、初めて銀行融資を申し込むことにしました。

その際にどのように事業計画書を作成したらよいのかもわからず、融資担当の方に経理の仕方、会計の仕分け方、管理会計、決算書の読み方など手取り足取り教えてもらい、なんとか事業計画書を完成させ、銀行に行くと意外にも温かい目で事業計画のプレゼンを聞き入れてくれました。融資を受け、弊社にとって初めての数値制御の工作機械であるマシニングセンターを設備することができました。

CAD/CAMとの出会い

しかし、どんなに生産性の高い工作機械を設備しても、ダウンタイムを減らし稼働率を上げなければ、売り上げにはつながりません。早急にマシニングセンターのプログラムを早く作る方法を教えてもらう必要がありました。

山梨県都留市でマシニングセンターの達人がいると聞き、知り合いから紹介してもらって1週間泊まり込みで修業させてもらいました。そこで生産効率を劇的に上げることのできるツール「CAD/CAM」に出会いました。

CAD/CAMはまさに僕の考える「デジタルものづくり」には欠かせないツールで、これを使いこなせばどんなメーカーの工作機械でも動かすことができると知り、今度はドイツ製の5軸マシニングセンターを導入し、ドイツのものづくりを学ぶために、シュトゥットガルトに修業に向かいました。

当時はまだ生産効率がとても低い状態でしたが、好景気の追い風もあり順調に設備投資を重ね、人員も増加し、受注量も伸びていきました。しかしこの時、売り上げは伸びているのに利益が思ったほど伸びない状況にあることに気が付きました。中小製造業によくある「忙しいのに儲からない現象」です。

原因は見積りに

当時は北京オリンピックと円安の影響で毎月のように材料代や工具代、燃料代が上がっていましたが、僕が行っていた見積り方法はまさに「どんぶり勘定」でした。そのため、経費が上がって利益を圧迫していることに気が付きませんでした。

そんな中、突然やってきたのがリーマンショックでした。新規案件はストップし、依頼される仕事のボリュームは半減し、次から次に値引きの価格交渉に応じなければなりませんでした。客先からは毎日のように「どこまで値下げできる?」と聞かれ、今まで受けていた仕事をどんどん値下げしていきました。

低価格対応と円高対策のため、タイのアユタヤにてローカル企業とジョイントベンチャーを組んでNatori High Precision Thailand CO.,LTD.を設立し海外生産を進めることで損益ギリギリの状況が続きました。

会社を維持するためには、どこまで値下げしたら赤字がどれくらいで納まるのかが正確に算出できるシステムがないと会社維持は不可能なのではないかと思いました。

その時初めて製造業には「技術力」と「見積力」が必要であるということに気が付きました。

このように、設備投資や人員の増加、リーマンショックや海外進出など中小製造業は会社の状況が刻々と変化する中、見積り金額自体も刻々と変化していかないと、きちんとした最終利益を確保できなくなるのではないか、との思いから助成金を活用し、大学と連携し合いながら「クラウド見積りネットワークサービスTerminalQ」を開発し、株式会社NVTを立ち上げました。

現在は「日本で試作・タイで量産」という製造の流れを確立し、「世界中で使えるクラウド見積りネットワークサービスTerminalQ」を使って国内2工場、海外1工場、協力企業約100社をつないで連携をとりながら「デジタルものづくり」を推進しております。

今後ともよろしくお願いいたします。

月井精密のデジタル化へ道【1】

こんにちは。名取磨一(なとり きよかず)と申します。

月井精密株式会社 http://www.tsinc.jp

Natori High Precision Thailand CO.,LTD. http://www.tsinc.jp/natori_high_precision-thai.html

株式会社NVT https://terminal-q.com

の代表取締役をしております。今後ともよろしくお願いいたします。

今回は自己紹介

僕は都立日野高等学校を卒業後、18歳で祖父の経営する月井精密株式会社に入社しました。進学したいという気持ちもありましたが、当時祖父は75歳。技術を教えてもらうには進学を待つ時間的余裕がありませんでした。同級生300名の中で卒業後一般企業に就職したのは僕一人だけでした。

月井精密には当時数名の社員がおりましたが、僕が入社した直後に全員辞めてしまい、僕と祖父の二人だけの職場が二年間続きました。休日は日曜日だけという過酷な会社でしたが、高校時代からバイク好きということもあり機械が大好きで、汎用旋盤・汎用フライス盤に没頭する毎日がとても楽しかったです。

職人気質の祖父は、ものづくりにおいて、「見る・聞く・嗅ぐ・感じる」ことが最も重要である。と教えてくれました。特にドリルの研ぎ方、エンドミルの研ぎ方、完成バイトの研ぎ方など、刃物の研ぎ方を教わるのがとても楽しかったです。

加工する材質の硬度に合わせて自分で研いだ刃物を汎用の工作機械に装着し、手動で機械を操作して金属を削る。その時に機械から出る音や振動や臭いを感じ取り、それが製品の仕上がりにどう影響するのかを仮説を立てて検証し推理し、改善していく。刃物というものの奥深さにどっぷり浸かった充実した毎日でした。

そんなある日

祖父が脳梗塞で倒れました。工場内で真っ青になって震えていた祖父を発見し、急いで救急車を呼んだため、一命はとりとめましたが、左半身が不随になってしまいました。一級技能士の職人にとっては翼をもがれるほどの致命的なダメージでした。その日から祖父は入院とリハビリの毎日で、工場には来られなくなってしまいました。

たった一人の職場で、誰とも会話することもなく朝から深夜まで仕事をする毎日。当時20歳の僕には過酷な日々でした。見積・加工・納品・経理・会計・給料計算、すべての業務を一人でこなさなければならない上に、誰も教えてくれない状況は正直辛かったです。

デジタル化への道

そこでまず取り組んだことは、インターネット回線を引くことでした。当時の工場は、なんとまだアナログ回線の黒電話でした。社員は僕一人という状況では困ったときのインターネット検索が生命線だと思い、生まれて初めてパソコンを購入しインターネットの環境を整備しました。

そこから一気にすべての業務がアナログからデジタル化されていきました。手書きの見積書・納品書・請求書は販売管理システムに、タイムカードや給料計算は勤怠管理ソフト、会計は会計ソフト、FAXはメール、買い物はアマゾンと大塚商会、月末の振り込みや入金チェックはネットバンキング、手書き設計はCADへ。

祖父がリハビリから戻ってきたとき、劇的に変化した工場環境と事務処理環境を見て、祖父は社長を退く決断をしたそうです。20歳で事業承継を受けた僕はアナログ技術の伝承の難しさに直面しました。若い社員を採用し、「技術は、見て・聞いて・感じるものだから、10年間本気で修行して、やっと身に着くものなんだ!」と言い聞かせたところで「よし!10年後に給料がもらえるようになるなら10年間修業しよう!」なんて言う若者はいるはずもなく、八王子市の主催する集団面接会に来た新卒者に、どんな会社で働きたいかを聞いて回りました。

すると、デジタルツールやIT機器を使いこなしている会社、情報の透明性の高い会社、修業期間の短い会社、などの意見が多かったので、月井精密の当面の第一目標は「IT機器を使いこなし、暗黙知を数値化し、情報の透明性を高め、修業期間を短くして、若い人材が早く自立できるような空間を提供すること」となりました。

まず、手動の工作機械では新人が技術の習得までに3年はかかってしまうので、数値制御の工作機械を導入し、数か月間の教育で自力で製品が作れるような社内体制にしようと考えました。マシニングセンターの見積をもらうと1400万円とあり、20歳の僕には見たこともない数字でしたが、とりあえずプレゼン資料を持って銀行に相談に行くことにしました。

つづく