知財を意識した技術マーケティングにより技術情報漏洩を防ぐ

テクノポートの徳山です。今回はWebを活用した技術マーケティングを行う中で気をつけたい「技術情報漏洩への対応策」をテーマに取り上げます。Webを活用した技術マーケティングとは、Webマーケティングにより積極的に情報発信を行うことで技術の新たな用途を発見し、有望な事業を見出していくための活動のことと定義します。

本記事では、技術マーケティングを進めていく際に常にリスクとして付きまとう「技術情報の漏洩」に対し、どのような対応を行っていけばよいのかについて解説します。

※本記事は、かめやま特許商標事務所の亀山弁理士に監修していただいております

Webで情報発信する際の注意点

Webサイトにて技術情報を発信していくことで、さまざまな技術者へ自社技術の存在を知ってもらえます。しかし、商品の問い合わせと称して顧客を装った競合他社によって、自社の技術情報が盗まれるリスクも考えられるでしょう。本項では、そのような技術情報の漏洩リスクを少しでも減らしていくために、Webで情報発信する際の注意点についてお伝えします。

技術の優位性を伝えつつ秘伝のタレのレシピは隠す

技術に対する詳細な情報を出せば出すほど、それが他の技術と比べてどう違うのか、どこが優れているのかが伝わりやすくなるため、技術探索者には刺さりやすい内容となります。このため、刺さる内容を多く盛り込むことが問い合わせ獲得につながると考え、惜しみもなく技術情報をWebコンテンツ化している企業も少なくありません。

例えば、「秘伝のたれ」についての問い合わせから始まったお客様に対して、様々な情報交換を行った結果、「秘伝のたれ」のレシピのように具体的な情報を出しすぎてしまうと、レシピが相手に理解され模倣されたり、そのヒントを教えることにつながったりしてしまい、ひいては自社の技術の優位性が失わるため、相手に対する自社の交渉力が下がります。このような事態にならないようにするためには、情報開示の範囲や開示方法について注意が必要です。

そのため、技術の詳細情報に関しては、技術探索者へ技術の優位性が伝わり、問い合わせを獲得できるギリギリのラインを攻めて表現する必要があります。これを実現するためには、技術者がどのような切り口で技術情報の探索を行っているのかを深く理解するのがポイントです。

技術をMFTフレームワークで分解して情報発信する

情報発信を行う際、MFTフレームワークを使って要素分解することが重要な鍵となります。なぜなら、詳細情報以外のWebコンテンツでユーザーを集客・訴求できるからです。MFTフレームワークについては以下の記事もご参照ください。

技術者が技術探索を行う際、使用する検索キーワードは技術名称だけではありません。現在抱えている技術課題や求める機能などといった検索キーワードも使用する傾向があります。どういった切り口の検索キーワードを使用するかは、技術者の属性や現在抱えている技術課題などにより大きく異なります。

そのため、必ずしも技術の詳細情報を出さなくても、技術が持つ機能やどのような市場で使われているか、といったWebコンテンツをうまく発信することで技術者に技術情報を届けることが可能です。

プロテクトする方法は「特許」と「契約」

自社の技術情報をプロテクトするには、ブラックボックスにしてしまうことが一番です。しかしながら、すべてをブラックボックスにしてしまうと、見込顧客へのアプローチができなくなってしまいます。

そこで、自社の技術情報のうち、「開示する技術情報」「開示しない技術情報」に分けます。「開示しない技術情報」はこのままでもプロテクトされますが、「開示する技術情報」をこのまま開示してしまうとプロテクトができません。

このため、「開示する技術情報」を守る手段として「特許」と「契約」の2つが良く利用されます。これらの手段は技術マーケティング戦略のもと、使い分けていく必要があります。この2つの手段をどのように使い分けていけばよいのかについてお伝えします。

「特許」により技術を守る

特許を取得することで、その技術の独占権を獲得でき、法的に技術を守ることができます。しかし、特許を取るためにはその技術に関する情報を開示する必要があるため、その技術自体は盗まれないとしても、類似した技術開発のヒントを与えることもあります。そのため、技術をどのように開示し、どの部分を守っていくのかは技術マーケティング全体の戦略の中で決めていく必要があります。

ちなみに特許情報を開示していたとしても、その情報まで入念に調査する人は意外と少ないのが実情です。Webマーケティングで情報発信する際に、特許情報として情報開示している情報だからと言って、Webコンテンツとしてどんどん情報発信していくことは控えたほうがよいでしょう。

なお、大企業の場合は、取得する特許と事業の数が多いため、どの特許をどの事業で使用するのかを類推しにくく、その背景を十分に知られないようにするための防衛策(特許群による防衛)があります。中小企業の場合、特許と事業を紐付けるのが容易なため、権利取得のための開示と技術情報漏洩のバランスは特に注意が必要です。バランスのとり方については、特許のみならず技術マーケティングの知識のある弁理士や弁護士などの専門家と相談しながら決めていった方が良いです。

「契約」により技術を守る

技術情報を漏洩させないために、敢えて特許を取得しないという選択肢を取る場合は、契約によって技術を守っていく必要があります(特許を取得している場合でも、もちろん契約は大切なのでご了承を)。具体的には、商談の段階に応じた契約を都度結んでいく方法を取ることが望ましいです。

フリーの話し合いには何の法的拘束力を持たないため、まず話し合いを行うための軽めの秘密保持契約(NDA)を結んだうえで商談を始めましょう。NDAでは、技術情報漏洩防止だけでなく、目的外使用禁止の2点を盛り込むのが必須です。軽めのNDAとは、スコープが広くて義務の重さが軽いイメージです。契約期間は半年〜1年程度とし、契約終了時の条件としてプラス2~5年とする形がよいでしょう。

技術情報を話さなければ、商談がこれ以上前に進まなくなるという段階で、スコープを狭めて、厳し目の条項を盛り込んだNDAを締結します。この段階では商談が途切れてしまう可能性も高いので、契約期間を長期(3年ぐらい)にしておいたほうがいいでしょう。

そして、商談が進み技術の提供方法が確定した段階で、共同開発契約、販売店契約契約、ライセンス契約、業務委託契約などのケースに応じた適切な契約を結びます。各契約の中において、NDAの条項が通常入ることが多いため、締結する契約に応じた内容を記載する必要があるでしょう。

なお、技術情報を盗む目的で近づいてくる企業は、軽めの秘密保持契約(NDA)などを嫌がることが多いため、そのような企業をあぶり出すフィルタ的な効果も期待できます。

また、情報漏洩の観点から言えば、秘密保持契約書やNDA条項が含まれる契約書については、自社のひな型を用意しておいたほうが良いでしょうし、契約書を(ざっとでもよいので)理解できる人材を育てることも同時に行いたいところです。そのような人材がいない場合には、外部の専門家に業務を委託したり、社員教育を依頼することもよいでしょう。

まとめ

Webでの技術情報発信を行う場合は、MFTフレームワークなどを活用し、MとFの情報を中心に情報発信を行いましょう。Tの情報は、技術探索者に刺さる内容を詳細に書きすぎることなく表現する必要があります。

常にリスクは存在することを前提に、技術情報をプロテクトする手段である「特許」と「契約」を使い分けることで、交渉力を維持しながら自社技術を守りましょう。使い分けは技術マーケティング戦略に基づき行っていくことを忘れないようにしてください。

また、短期的な利益に惑わされず、技術から得られる中長期的な利益にしっかりと目を向け、自社技術を守り抜く姿勢が最終的には重要です。特に知財部門がない中小企業の経営者は肝に命じていただければと思います。

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インターネットは「攻める手段」であると同時に「攻め込まれる部分」である理由

中小企業専門の弁理士の亀山です。よくある相談事例の1つに、「見知らぬ会社から警告書を受け取ったときの対応」があります。今回は、その点について説明します。

警告書ってどんなもの?

警告書に記載されている内容次の3点です。

  1. 貴社事業において商標ABCを使用する行為は、弊社保有の商標権(登録商標ABC)を侵害している。
  2. このため、貴社事業において、商標ABCの使用を直ちに停止せよ。
  3. さらに、商標ABCを無断使用していた分の使用料(〇〇万円)を弊社へ支払え。

警告書は、内容証明郵便で届く場合が多いです。

なぜ、警告書がウチに届くの?

自社HPやランディングページは、通常、PRやマーケティング目的で制作される場合が多いです。しかし、商標権侵害の発見は、このようなページがきっかけになる場合がほとんどです。なぜならば、インターネット検索は、無料で手軽にできる調査ツールだからです。すなわち、「インターネットは、攻める手段であると同時に、相手から攻撃される入口にもなる」といえます。

また、意外と知られていないのが、ポータルサイトへの掲載ページです。ときどき、自社の情報が勝手にポータルサイトに掲載されている場合もあります。一度、自社の社名や商品名でインターネット検索してみるのもよいかもしれません。

警告書をもらったときにはどうすればよい?

商標権の警告書をもらった場合、なんでも相手の言い分を聞く必要はありません。相手の言い分のうち妥当性の低いものについては、法律に基づいて反論しましょう、すなわち、自社HPやランディングページ。

具体的には、次のようなポイントを検討します。

  1. 相手企業の商標権の範囲の把握はどのあたりまでか?
  2. 自社行為が、相手企業の商標権を侵害しているか否か?
  3. 相手企業の商標権はどこまで有効性であるのか?

さらに、相手企業による警告書発動が、「自社ブランドの保護の一環で行っているのか?」あるいは、「(自社ブランドの保護目的ではなく)単なる金銭の請求目当てであるのか?」を検討します。

いずれの検討も、専門知識が必要なため、お近くの専門家にご相談したほうが良いです。

警告書を無視するとどうなるの?

相手方の主張が正しいにも関わらず、警告書を無視して侵害行為を継続した場合には、刑事罰の対象になる可能性があります。商標権侵害の場合における刑事罰は、以下の通りです(意匠権や特許権の場合も同様です)。

  • 個人の場合:10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(両方が科される場合もあります。)
  • 法人の場合:法人に対して3億円の罰金。代表者等には、個人と同じペナルティが課されます。

よって、専門家に相談せずに、警告書を無視することは勧めできません。

まとめ

  1. 商標権侵害は、インターネット検索から見つかる場合が多い。
  2. インターネット検索で見つかるページは、自社サイトHPやランディングページなどPR・拡販目的のものが多い。
  3. 警告書を放置すると刑事罰の恐れがある。
  4. 警告書に記載の相手方の主張は、いつも妥当とは限らない。
  5. 自社が正当であるならば、自社の妥当性を法律上から検討する必要がある。

【商標登録】取得も大切ですが、取得後の3年以降は「もっと大切」

中小企業専門の弁理士の亀山です。よくある相談事例の1つに、「自社が取得した商標登録が取消されてしまう」があります。どんな場合に、商標登録が取り消されてしまうのでしょうか?

商標登録が取り消されてしまう理由

商標登録が消滅してしまう理由として、主なものは以下の4つです。

  1. 異議申し立て
  2. 無効審判
  3. 取消審判
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)

この中で、頻度が高いものが、3.取消審判の中の「不使用取消審判」です。弊所でも、年に1~2回は相談を受けます。

※その他の理由の詳細は、過去の記事「折角の商標登録が消滅してしまう場合」をお読みください。

不使用取消審判はなぜおこる?

不使用取消審判はどのような時に起こるのでしょうか?例えば、このような場合です。

ある会社が新商品のために商品名を考案します。登録商標をしようと思い、弁理士さんに先行調査を依頼したところ、「他社商標権の存在により、その商品名が登録商標を受けることができない」旨を弁理士さんから知らされます。

このようなケースでは、

  • 名称変更
  • 当該登録商標の取り消し

を検討しますが、ほとんどの場合には前者となります。

しかし、「どうしてもこの名前でなければ困る!」という場合には、後者を検討し、使用調査の結果「相手は商標を使用していなさそうだ(取り消しの可能性が高そうだ)」との結論が出た場合には、不使用取消審判を請求される場合が多いです。

どんなときに取り消されるの?

簡単に言うと、以下の1~3がすべて満たされた場合に、対象となる指定商品(指定役務)の範囲において取消となります。

  1.  商標権者やライセンシーが、登録商標を使用していない
  2.  登録商標を使用していない時期は、直近3年の間である
  3.  登録商標の使用は、指定商品(指定役務)についてのものではない

取消を受けないためには、どうすればよい?

不使用取消審判により登録商標の取り消しから免れるためには以下が必要です。

  1.  登録商標した商標と、実際に使用している商標との関係
  2.  指定商品・指定役務と、実際に使用している商品・役務との関係
  3.  上記1.~2.について使用した日付を立証できる記録

3.の記録の例としては、

  1. 商品・役務についてのチラシ・HP・カタログ
  2. i.が配布された日付

等の組み合わせが多いですが、過去の取り消し例を見てみると、「ii. i.が配布された日付」の証明で苦労されているケースが多いです。つまり、日頃からの取引書類の整理・日付の記録が必要となります。

さらに、不使用取消審判を請求されないためには、自社では、継続して、登録商標を使用しています!という事実をインターネット上で掲載しておくことが良いです。使用事実をインターネット上で掲載しておけば、不使用取消審判の前に行う使用調査において、不使用取消審判を請求しても認められる可能性は低いだろう、と相手側の弁理士さんが考えるためです。

まとめ

  1. 折角の商標登録も取り消される可能性がある。
  2. 商標の取消理由で多いのは不使用取消審判である。
  3. 不使用取消審判の対策(その1)自社の商標登録の使用は、インターネット上で公開しておく。
  4. 不使用取消審判の対策(その2)商標権の内容を把握したうえで普段の取引書類の整理・記録が必要。

ECショップで模倣品を見つけたときの手順

中小企業専門の弁理士の亀山です。よくある相談事例の1つに「ECショップで自社模倣品が売られています!」があります。今回は、ECショップで模倣品を見つけたときの手順について、楽天を例に説明したいと思います。

楽天に申し出よう!

楽天の問い合わせページを開き「権利侵害に関する通知」をクリックすると、入力フォームが出てきます。

入力フォームに入力してみよう!

入力する項目としては、

  • 申出人の情報
  • 侵害されている申出人の権利の内容
  • 模倣品を販売しているURL
  • 侵害理由詳細
  • 侵害理由コメント

があります。

(1)申出人の情報

氏名、勤め先、運営する楽天サイト名、連絡先 等を記入します。

(2)侵害されている申出人の権利の内容

「商標権・著作権・特許権・意匠権」のうちいずれか1つを選びます。

(3)模倣品を販売しているURL

そのまんまですね。URLをコピーペーストすればOKです。

(4)侵害理由詳細

「偽造品・商標無断使用・画像無断使用・その他」のうちいずれか1つを選びます。

(5)侵害理由コメント

「〇〇商店が販売する商品は、・・・なので、〇〇権侵害です」といった趣旨の文章を記載します。ここは、法律の知識が必要なため、弁理士や弁護士等の知的財産の専門家に依頼したほうが良いと思います。

入力の前に準備しておきたいこと

(1) 見つけたら証拠を押さえよう

申し出には、申し出の根拠が必要です。そのため、申し出に必要な証拠を押さえる必要があります。証拠としては、模倣品の販売サイトを特定できる情報、模倣品の特定できる情報、会社の特定できる情報があります。

具体的には、URLを記録しておくこと、併せて、販売サイト、模倣品や会社情報の画面をスクリーンショットで保存しておくとよいです。

(2)出願中ではなく、権利を取得しておきましょう

楽天の「権利侵害に関する通知」からの申し出では、「出願中」では不十分のようです(2021/6/8時点)。このため、楽天の「権利侵害に関する通知」からの申し出の際には、早期審査を活用して、権利化を進めましょう。

【特許・商標登録】手遅れとなるDIY出願にご注意!

中小企業専門の弁理士の亀山です。お客様からのご相談の内容・タイミングによっては、「もはや手の打ちようがない」「もう少し早く来てくれれば、手の打ちようがあったのに」となってしまう場合があります。

それは、お客様がご自身で出願を済ませた後、新商品を販売し・・・しばらくたった後に、「やっぱり専門家にお願いしよう」と方向転換した場合です。

そして、その出願が特許や意匠の場合、手遅れになる可能性が高いです。

手遅れになるケース

新規性が問われない商標登録の場合、DIY出願と再出願の間に、第三者の出願が割り込まれなけばそれほど問題になりません。しかし、特許、意匠のように新規性が問われるものは、再出願の際に、既に新規性が確保できません。よって、気づいたときには、出し直しの出願ができず「手遅れ」となります。

具体的には、以下のどちらかに該当すると出し直しの出願はできません。

  • 出願公開(出願から1.5年)後
  • 自社が公開してから1年経過後

こうなると、別の発明(改良発明)で出願するしかありません。

まだ間に合うケース

過去の例として、DIY出願(出願公開済み)に、十分に開示されていない発明があったので、「開示漏れの発明のかけら」をきっかけに再出願を検討したこともあります。

「なんでもいいから特許を取りたい!」であれば、話は別ですが、「ビジネスに活用できる特許を取りたい!」となると、ちょっと厳しいです。

こうなると、「ビジネスモデルからを見つめ直して、改めて権利化する部分を考えましょう」のほうがよいかもしれません。

DIY出願した後、「あ、やっぱり心配になってきたゾ・・・」と思われた場合は、お早目にご相談ください。

相談期限の目安としては、以下の3つがギリギリになるでしょう。

  • DIY出願から10か月程度まで(国内優先が利用できる余地あり)
  • 自社による公開行為(宣伝、販売)から10か月程度(新規性喪失の例外が利用できる余地あり)
  • DIY出願から1年3か月くらい後まで(出願公開前)

もちろん、上記を過ぎたしまった場合でも、「開示漏れ」による検討もゼロではないので、ソコは諦めないで欲しいです。

特許・商標登録のDIY。趣味なら良いですが、ビジネスであれば、やり直しのリスクはもちろんのこと、やり直しがきかないリスクの大きさを知ってもらいたいです。

なぜならば、ビジネスは、趣味と違って、競合が存在し、そことの競争の要素があるためです。・・・ということで、DIY出願しちゃったけど、ちょっと気になるな~という場合は、お早目に専門家にご相談ください。

アマゾンに出品する際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。新型コロナウイルスの影響もあり、ECサイト出展に関するお問い合わせが増えています。今回は、アマゾンに出品する際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

出品方法は2つ

AMAZONへの出品方法は2つあります。

  1. 新規出品
  2. 相乗り出品

以降、それぞれの違いについて説明します。

新規出品のメリットとデメリット

アマゾンでは、原則、商品ページは1商品につき1ページというルールになっています。

このため、新規出品をしたい場合は、「セラーセントラルの商品登録」において、ご自身で新しい商品のページを作成する必要があります。新規出品のデメリットとしては、商品ページの作成が大変ですが、オリジナル商品を販売できる分、ライバルが少ないため、価格競争に陥りにくいです。

したがって、中長期的に見て収益力のある事業を構築しやすくなります。

さらに、新規出品では、Amazon Brand Registryを利用することができます。Amazon Brand Registryを利用すると以下のメリットが得られます。

  • ストアページ(商品紹介用のLP)が作成・公開可能
  • スポンサーブランド広告(Amazon.co.jp内における広告)が掲載可能
  • 事前に商標権の保有を証明しているため、相乗りをしている同業他社の排除が容易

相乗り出品のメリットとデメリット

相乗り出品とは、既に作成されている商品ページに出品する方法です。商品ページの作成の手間がかからないというメリットがありますが、ライバルが多く、価格競争に陥りやすいです。したがって、中長期的に見て収益構造を構築しにくいです。

また、商品ページの修正もできませんし、オリジナル商品の販売にも向いていません。もちろん、Amazon Brand Registryも利用できませんので、そのメリット(上述)を受けることができません。

Amazon Brand Registryの利用のために必要なこと

Amazon Brand Registryのためには、商標登録が必要です。しかし、商標登録には時間がかかります。通常審査であれば約6か月ですが、1年近くかかるものもあります。また、商標登録は必ず取得できるとも限りません。使用しようとする商標が他社商標権に抵触するもの等である場合、商標登録を受けることができませんし、そもそも使用することもできません。新規出品をすでに始めている方はもちろんのこと、これから予定されている方は、Amazon Brand Registry のために商標登録の準備を早めにしたほうが良いです。

そして、使用予定の商標が、

  • 合法的なものであるか否か
  • 登録登録できるものであるか否か

を担保すべく、出願前の調査から始められたほうが良いと思います。

まとめ

  1. 出展方法は、新規出品と相乗り出品の2つある。
  2. オリジナル商品を出品をする場合は、新規出品が必要。
  3. 新規出品による宣伝力&ブランド力向上のためにはAmazon Brand Registryが必要。
  4. Amazon Brand Registryのためには、商標登録が必要。
  5. 商標登録の前に事前調査が必要。

WEBサイト制作者・担当の方へ 危険なメタタグ

中小企業専門の弁理士の亀山です。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。さて、今回は、Webサイトの保有者、制作者や管理者に対して、大事なお話があります。それは、メタタグも使い方によっては、商標権侵害になってしまう点です。

とあるお客様との会話

お客様:自社のWEBサイトを刷新しましたので、ご覧ください。

かめやま:おお!こちらですね。

お客様:はい!SEO対策もしているため、キーワード「ABC」の検索結果で、弊社WEBサイトが上位に表示されます。

かめやま:本当だ!・・・ん?検索結果に表示される文章にあるキーワード「XYZ」って大丈夫ですか?確か、他社の登録商標だったと思うのですが・・・

お客様:商標登録かどうかはわかりませんが、”惹きの良いキーワードの方がクリックしやすくなるかな~”と思ったので・・・あれ?このままだと、何かまずいですか?

かめやま:「XYZ」が他社の登録商標の場合、この表示が商標権侵害の対象となってしまいます。結果、損害賠償請求や差止の対象となりますし、悪質な場合には刑事罰にもなります。

お客様:キーワード「XYZ」ってどう直せばよいのですか?

かめやま:おそらく、貴社WEBサイトの「メタタグ」で定義されている部分だと思います。すぐに直せる部分なので、制作会社に一早く連絡したほうが良いです。

お客様:あれ?制作時、制作会社は「XYZ」のリスクについて何も言わなかったな・・・

かめやま:おそらく、制作会社は、商標の知識がないと思うので仕方ないと思います。

お客様:承知しました。ということは、うちの商標登録「あいう」が検索結果に表示されるように他社が無断でメタタグに設定した場合には、訴えられるのですか?

かめやま:指定商品・指定役務が同一または類似であれば、商標権侵害になるので、訴えることもできます。

お客様:そうなんですね。私も、他社がうちの登録商標を使用していないかチェックしてみようかな~

かめやま:それもよいですが、まずはご自身のご商売を前に進めることが先だと思いますよ。

メタタグに商標権の効力が及んでしまう場合も

検索結果に表示されるページの説明部分は、ディスクリプションメタタグ(*1)で設定できます。

*1 <meta name=”description”content=” ・・・で始まる部分です。

自社のWEBサイトのクリック率向上のために、ディスクリプションメタタグを重要視されている方も多いと思います。

しかしながら、判例(「クルマの110番」事件 大阪地判 平成17年12月8日判時1934号109頁)によれば、以下のように述べられています。

「一般に、事業者が、その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その役務に関する広告であるということができるから、インターネットの検索サイトにおいて表示される当該ページの説明についても、(中略)その役務に関する広告であるというべきであり、(以下省略)」

これをわかりやすく言うと、「検索エンジンの検索結果としてWEBサイトのURL近傍に表示されるページの説明は、広告表示であるから、商標としての使用行為となる」となります。

このため、

  • WEBサイトのディスクリプションメタタグに設定されたキーワードが他人の登録商標と同一または類似である
  • 当該WEBサイトの商品またはサービスが、登録商標の指定商品または指定役務と同一または類似である

場合には、当該キーワードの使用は商標権侵害となります。

商標権侵害のペナルティ

ライバル企業が、あなたのWEBサイトを見て、メタタグによる他社の登録商標の表示を発見した場合、商標権侵害を根拠とする警告書が、内容証明郵便にてあなたの会社へ郵送されてくることになります。

侵害行為となる名称(商標)は、継続して使用できません。もちろん、特許権等のようなライセンスも可能ですが、商標権の場合には、権利者側のブランドイメージの棄損につながるため、ライセンスを許可する場合は少ないです。したがって、名称変更をせざるを得ない場合がほとんどです。結果としては、チラシ制作やパッケージ制作は0からやり直しになりますし、PR活動(プレスリリースや宣伝広告)も0からやり直しになります。

このように、ライバル企業の商標権の侵害行為によって、新しい商材によるビジネスが困難になるばかりか、これまでに投じた時間やコストの回収ができなくなってしまいます。すなわち、他社の商標権の侵害行為は、あなたの事業、ひいてはあなたの会社の存続に直結します。

警告書を無視したらどうなる?

相手方の主張が正しいにも関わらず、警告書を無視して侵害行為を継続した場合には、刑事罰の対象となります。商標権侵害の場合における刑事罰は、以下の通りです。

  • 個人の場合:10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(両方が科される場合もあります。)
  • 法人の場合:法人に対して3億円の罰金。行為者には、個人と同じペナルティが課されます。

よって、専門家に相談せずに、警告書を無視することは、とてもお勧めできません。

まとめ

  1. メタタグにキーワードを使用する行為が、商標権侵害となる場合がある。
  2. メタタグに使用したいキーワードには、他人の商標登録であるか否かのチェックが必要である。
  3. メタタグに使用できるキーワードは、商標権が発生しないキーワード(普通名称や記述的な単語)を選ぶようがよい。
  4. 自社で積極的に使用したいキーワードがある場合には、それを商標登録することも一考です。

なお、メタタグに表示するキーワードが、商標権が発生しないキーワード(普通名称や記述的な単語)であるか否かは専門知識が必要なため、安心してキーワード設定したい方は、一度、専門家にご相談ください。

Webサイト刷新における失敗事例

中小企業専門の弁理士の亀山です。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、Webサイト刷新における失敗事例についてお話します。

とあるお客様との会話

お客様:以前、ご相談した商標「ESCAPEX」(仮の名前です)のロゴマークですが、無事に登録証が届きました。ありがとうございます。

かめやま:よかったですね。これから、ロゴマークを大切に使ってくださいね。

お客様:はい!せっかくなので、Webサイトも少し変更しようと思っているんです。

かめやま:新しいWebサイト楽しみにしています。

Webサイト刷新!!

それから数か月後。そのお客様のWebサイトを拝見すると・・・。あれ?登録したロゴマークがなくなっている。正確に言うと、ロゴのデザインが大きく変わっている・・・。この文字の崩れっぷりだと、商標権の範囲から外れてしまうかも!?

(イメージです)

お客様へ問い合わせ

かめやま:Webサイトが刷新されましたね!

お客様:そうなんです。社員たちもフレッシュな気分になったといっています。

かめやま:それは良かったですね。しかし、ロゴマーク、だいぶ変わりましたね~

お客様:そうなんです。最初は、サイトのデザインだけと思ったのですが、新デザインに前のロゴマークがマッチしなくなったので、少し変えました。

かめやま:なるほど。少し変えたのですね。

お客様:あれ?なんかまずかったですか?

かめやま:新しいロゴマークですが、先日商標登録したロゴマーク「ESCAPEX」から印象が大きく変わってしまいました。今回の新ロゴマークは、今回の商標権の範囲から外れてしまうかもしれません。

お客様:え?それでは意味がないじゃないですか?

かめやま:ロゴマークを戻すことはできないですか?

お客様:それは、困ったな~。HPデザインもロゴマークも、社員も私も、新しい方を気に入ったいるんですよね。

かめやま:困りましたね・・・そうすると、新ロゴマークについて、改めて調査、そして商標登録を済ませた方が良いです。

商標権の効力の範囲

かめやま:商標権の効力が及ぶ範囲は、登録商標の同一または類似であり、かつ、指定商品等と同一又は類似の範囲となります。今回の場合、登録商標の「ロゴマーク」に対し、新ロゴマークが類似であるか否か?が問題となります。

お客様:商標の類似はどのように判断されるのですか?

かめやま:外観(見た目)・称呼(発音の仕方)・観念(意味合い)の3点から分析する場合が多いです。今回の場合、称呼(発音の仕方)・観念(意味合い)の2点の影響が大きそうです。

称呼

文字部分「ESCAPEX」のうち文字「X」は、装飾の度合が強くなった結果、文字「X」と認識できなくなってしまいました。こうなると、登録商標の称呼「エスケイペックス」に対し、新ロゴマークの称呼は「エスケイプ」となるので、紛らわしいとは言いにくくなります。

観念

登録商標は、「ESCAPEX」という造語であり特定の観念を持たないですが、新ロゴマークは、「ESCAPE(逃げる)」という異なった意味合いが生じます。

このため、新ロゴマークは、登録商標に対して非類似と判断される可能性が高いです。

お客様:え~。なんだか難しいですね。どうすればよいですか?

かめやま:今回の場合、文字部分「ESCAPEX」の文字「X」の装飾が大きく崩れてしまったので、この装飾を弱めればよいと思います。

お客様:なるほど。文字「X」の部分が読み取れる程度にすればよいのですね。商標ってデザインにも深くかかわってくるんですね。

かめやま:確かにそれもあります。しかし、それ以上に、ロゴマーク等の商標は、「お客様の目印」なんですね。では、「お客様の目印」は誰のものですか?

お客様:誰のもの?って、うちの会社のものじゃないんですか?

かめやま:確かに、「お客様のもの」でもあります。しかし、ロゴマーク等の商標が「お客様の目印」である以上、「お客様のお客様」のものなのです。

お客様:え??どういうことですか?

かめやま:なぜならば、「お客様のお客様」は「お客様」を探すために、ロゴマークを目印にしています。肝心の目印となるロゴマークが、ガラッと変わってしまったり、コロコロ変わってしまっては、「お客様のお客様」は「お客様」を探せなくなってしまいます。ロゴマークを変更する都度、大企業のように、広告費をかけて、CMをバンバン打つなんてできませんよね。

お客様:言われてみれば確かにそうですね。商標もロゴマークも、見た目のカッコよさばかり気にしていましたが、「うちのお客様のもの」だなんて考えもしなったです。奥が深い世界ですね。

Webサイトのデザイン刷新の際に失敗しがちなこと

ロゴマークは誰のもの?

ロゴマークは、「お客様のお客様」が「お客様」を探すための目印です。その目印として機能するよう、そして、「お客様のお客様」が「お客様」をすぐに探せるようにしておくことが望ましいです。そうすると、ロゴマークとしては、「お客様のお客様」にとって見つけやすいもの、「お客様のお客様」にとってわかりやすいもの、「お客様のお客様」にとって覚えやすいものがよいです。そして、何よりも、頻繁な変更は望ましいとは言えません。

新ロゴマークのリスク1 模倣の取り締まりができなくなる?

新ロゴマークを安心して使えるようにするためには、新ロゴマークが登録商標と同一又は類似である必要があります。このため、Webサイトのデザインを刷新する際に、ロゴマークまで刷新してしまうと、商標権の効力の範囲から外れる結果、新しいロゴマークが商標法上保護されない場合も出てきます。こうなると、新ロゴマークの模倣行為を止めることができなくなります。

新ロゴマークのリスク2 折角取得した商標登録が取り消される?

さらに、新ロゴマークが登録商標の「社会通念上同一の範囲」でなければ、せっかく取得した登録商標が、第三者の不使用取消審判により取り消される場合も出てきます。

新ロゴマークのリスク3 他人の権利侵害となってしまう?

さらに、新ロゴマークの使用行為が第三者の商標権の侵害行為となる可能性もあります。このため、新ロゴマークが、商標権の範囲にあるのかな?というチェックは必要です。

 

まとめ

Webサイトのデザイン刷新の際に失敗しがちなこと

  1. ロゴマークは、あなたのお客様にとっての目印。
  2. ロゴマークは、誰のもの?「あなたのもの」でもあるし、「あなたのお客様のもの」でもある。
  3. ロゴマークは安易に変更しない。
  4. 新ロゴマークを採用する場合には、商標権の範囲であるか否か、そして、不使用取消審判の対象にならないか?を確認する。
  5. 新ロゴマークが商標権の範囲外になる場合には、再度、商標登録をする。

クラウドファンディングを行う際に気を付けてほしいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、クラウドファンディングを行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

とある特許相談にて

お客様:今回の便利グッズ「財布」は、特許が取れるでしょうか?

かめやま:便利グッズ「財布」のポイントは、こことここですね。まずは、この2点について、先行技術調査とクリアランス調査を済ませておきましょう。

お客様:ああ、そういえば、前回の発明品のときもやりましたね。今回も調査をお願いします。

かめやま:かしこまりました。調査の結果が出るまでしばらくお待ちください。

かめやま:ところで、前回の発明品「万能キッチンハサミ」の販売計画はどうなっていますか?特許出願を済ませて半年くらい経つと思うのですが・・・

お客様:あれですね! まずは、クラウドファンディングをやろうと思っています!

かめやま:なるほど。今回のアイデアは消費者向け商品。クラウドファンディングは、マーケティングリサーチの側面もあるので良い方法ですね。ところで、いつ頃申し込むのですか?

お客様:もう申し込みは完了しています!!1か月後には掲載される予定ですので、現在、ページのデザイン制作をしているところなんですよ~

かめやま:あらら・・・

お客様:え?? 何かまずかったですか?前回の発明は、調査を済ませているので、他人の特許権は問題なかったはずですよね?

かめやま:それはそうなのですが・・・クラウドファンディングをする際には、特許権以外にもチェックポイントがあるんです。

特許権以外にチェックすべき点(1) 商品名

お客様:特許権以外に何をチェックする必要があるのですか?

かめやま:まずは、クラウドファンディングの規約を見せてください。ほら、ここに「第三者の商標権、著作権、特許権などの知的財産権等を侵害する行為をおこなってならないこと」と書いてありますよね?

お客様:本当だ。特許権の他に、商標権や著作権もあるのですね。

かめやま:まずは、商標権ですね。現在の原稿をみると、この商品名は○○ですね。この商品名○○は、もう確定ですか?

お客様:はい。クラウドファンディングの運営にも届けています。

かめやま:おぉぅ・・・万が一、届け出た商品名を変更するとどうなります?

お客様:うぅ。変更届を出さないとマズいですね。最悪、一から原稿を作り直しになるので。掲載が1か月遅れてしまいます。

かめやま:確かに1か月の遅れは痛いです。しかし、この商品名の使用が、他人の商標権を侵害していたら、この商品名を使用できなくなるので、それこそ問題です。まずは、この商品名を使用してよいかの調査をしましょう。万が一、侵害している場合は、名称変更、そして、掲載が1か月遅れることを覚悟してください。

お客様:それでは困ります!ここまで準備していたのが水の泡になってしまいます!

かめやま:しかし、仮に、権利者がこちらのサイトを見つけたらどうしますか?商標権侵害による差し止め請求によって、この商品名が使用停止となってしまいますから、どのみち、やり直しになると思います。今、商標調査を先送りして、日に日に大きくなる「やり直しの爆弾」を抱えて進むくらいなら、やり直しの範囲を「本日まで」としておいたほうが良いのではないでしょうか?

お客様:それもそうですね。あれ?ということは、クラウドファンディングを申し込む前に、商品名の相談も先生に済ませておいた方が良かったのですか?

かめやま:それがベストでした。私も、前回の発明品「万能キッチンハサミ」の先行技術調査のご依頼のときに、販売計画のところまで確認しておけばよかったですね。

お客様:いえいえ。あのときは、まだクラウドファンディングのアイデアもなかったときなので・・・まずは、商品名の調査を進めて下さい。

特許権以外にチェックすべき点(2) イラストや写真等

お客様:商標権のチェックはOKとして、著作権はどうすればよいのですか?

かめやま:現在の原稿をみると、ここのイラストや写真は、貴社のオリジナルですか?それとも誰かに制作依頼をしたものですか?

お客様:このイラストはA社のフリー素材です。こっちの写真はB社のフリー素材です。

かめやま:A社の利用規約をみると、クラウドファンディングにおける使用はOKそうですね。B社の方は、・・・くわしく書いていないですね。ちょっと怖いので、B社に問い合わせするか、A社の素材に差し替えた方が良いかもしれません。

お客様:この写真は、結構、気に入っているんですよね。こだわって選び抜いたものですし・・・

かめやま:お気持ちはわかります。しかし、著作権侵害となった場合には、商標権同様、結局やり直しになることを覚悟しないとなりません。後々のリスクを負ってまでその写真を使いたいですか?

お客様:わかりました。B社に問い合わせして、許可をもらいます。もしも、NGの場合には、A社のものに差し替えます。

クラウドファンディングを行う際に気を付けてほしいこと

その商品名は合法的に使用できますか?

商品名は、ほぼ間違いなく商標権の対象となります。そして、あなたが使用しようとしている商品名も、見知らぬ他人が商標権を持っている場合もあります。商標権侵害の場合には、権利者側のブランドイメージの棄損につながるため、ライセンスを許可する場合は少ないです。したがって、名称変更をせざるを得ない場合がほとんどです。そして、このような名称変更によるリスクを減らすためには、クラウドファンディングを申し込む前に、専門家に相談した方が良いでしょう。

その著作物は合法的に使用できますか?

イラストや写真も、ほぼ間違いなく著作権の対象となります。あなたが使用しようとしているイラストや写真にも、第三者の著作権の効力が及ぶ場合があります。著作権侵害の場合、差し替えとなる場合も多いですが、権利者の意向によっては、相当のライセンス料の支払い等の条件を前提に使用を許可してくれる場合もあります。このような著作権侵害のリスクを小さくするためには、デザイン制作会社へ依頼した場合には、業務委託契約書の中で著作権の処理が必要になりますし、フリー素材を使用する場合には、フリー素材の利用規約をよく読み、用途に合ったものを選ぶようにしましょう。

出品する商品の技術的アイデアやプロダクトデザインは合法的に使用できますか?

出品する商品の技術的アイデアやプロダクトデザインは、特許権や意匠権の対象となります。そして、特許権侵害や意匠権侵害の場合には、著作権侵害同様、クラウドファンディングの出品の中止、または、相当のライセンス料の支払い等の条件に出品を許可してくれる場合もあります。上述の「万能キッチンハサミ」のケースのように、事前にクリアランス調査を済ませていた場合はよいですが、クリアランス調査が未実施の場合には、他社の特許権侵害のリスクを把握する意味でも事前に進めた方が良いです。また、万が一、特許権侵害のリスクが高い場合には、特許権侵害のリスクが低くなるよう「どのような設計変更が望ましいか」を専門家と検討したほうがよいでしょう。

クラウドファンディングの規約を守っていますか?

どのクラウドファンディングでも利用規約があります。そして、その規約の中に、第三者の知的財産権を侵害しない旨を規定しています。かりに、あなたの商品や商品名等が他社の侵害品であることが判明すると、規約違反により、ページの削除などの対応を迫られる場合もあります。もちろん、クラウドファンディングの利用規約には、知的財産権以外についても触れられています。このため、クラウドファンディングを行う際には、後から規約違反といわれないように、申し込み時に利用規約をしっかりと理解しておきましょう。利用規約を読み込むのが大変な場合には、お近くの専門家に問い合わせして下さい。

専門家にはいつ相談すればよいのですか?

他社の商標権や著作権等の存在によって、商品名変更、設計変更やイラストの差し替えが発生するかもしれません。また、他社の特許権等によって商品の設計変更が必要になるかもしれません。名称変更や設計変更等によるやり直しを防ぐためには、クラウドファンディングに申し込む前に、お近くの専門家にご相談ください。万が一、申し込んでしまった場合には、できるだけ早く、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

クラウドファンディングを行う際に気を付けてほしいこと

  1. 商品名は合法的に使用できますか?(商標権侵害のチェック)
  2. ページに利用されるイラストや写真は合法的に使用できますか?(著作権侵害のチェック)
  3. その技術的アイデアやプロダクトデザインは合法的に使用できますか?(特許権侵害や意匠権侵害のチェック)
  4. クラウドファンディングの利用規約のチェック(利用規約違反とならないため)
  5. ご相談タイミングは、クラウドファンディングの申し込み前が望ましい(やり直し量を最小限に抑えるため)

自社技術を提案する際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、自社の技術を提案する際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

自社の技術を提案する際のリスク

自社の技術を提案する際、どのようなリスクが考えられるでしょうか?それは、相手企業が自社技術を理解してしまうことです。

自社技術が部品の構造であれば、部品の構造を相手企業に見せてしまうと、相手企業はその構造に関わる技術を理解してしまいます。また、自社技術が製造技術であれば、製造現場や製造装置を相手企業に見せてしまうと、相手企業はその構造に関わる技術を理解してしまいます。そして、部品の構造や製造装置や製造現場を相手企業に見せてしまうと、理解を通して、相手企業も自社と同じような技術を、あるいはそれに近しい技術を持つこととなってしまいます。

その結果、相手がその技術を利用して、自社と同じような商品やサービスが再現できてしまうと、自社の技術的優位性がなくなってしまう場合も多いです。したがって、自社の技術を提案する際のリスクとして、「相手企業が、理解した技術を利用して、自社と同じ商品やサービスを模倣(再現)する」というリスクがあります。技術で収益を立てているモノづくり企業にとっては無視できないリスクですね。

模倣防止リスク対策は非常に悩ましい

「相手企業が再現できる程度に自社の技術を理解してしまうこと」を回避するためにはどうすればよいでしょうか?そのためには、自社の技術を見せないことです。簡単ですね?しかし、これも問題があります。「自社の技術に興味のある相手企業」に対して、自社の技術を全部見せないまでも、全く見せないままでは、商談が進みません。商談は進めたい。しかし、商談を進めるために、技術を開示すると、自社の技術を模倣リスクが生まれてしまう。

商談を優先したいが、模倣リスクは回避したい。どうすればよいでしょうか?「えーい!面倒くさいから、とりあえず、商談を進めて、模倣リスクが危なくなったら、対策を講る?」としましょうか?いえいえ。技術を理解してしまった相手企業に対し「あの技術のことは、忘れてください!」な~んて言えません。

自社技術の開示には、「技術を一度開示してしまうと、開示前(知らない状態)に戻すことができない」という悩ましさが、常に付きまといます。

リスク対策

技術の模倣リスクに関してよく知られている対策としては、2つがあります。

対策1

解決策の1つ目は、「相手企業に自社技術を開示する前に特許出願を済ます」です。これにより、特許権の取得の際には、特許発明の模倣を防止することができますし、出願を済ましておけば、権利化後に模倣行為を取り締まることができるため、相手企業側から見れば「後で取り締まりの対象になるかもしれない」と、一定の牽制効果(保護効果)を得ることができます。

対策2

解決策の2つ目は、「相手企業に自社技術を開示する前に秘密保持契約を締結する」です。これにより、秘密保持契約の締結によって、「秘密情報(自社の技術)の漏洩禁止」及び「秘密情報(自社の技術)の目的外使用禁止」を課すことができます。

2つの対策のメリットとデメリット

(1)特許出願

模倣防止のためには、特許権取得が前提になりますが、特許権取得のためには、少なくとも、①新規性、②進歩性の2つのハードルが課されます。また、特許権取得にかかる期間は、通常は4~5年、最短でも半年はかかります(参考記事)が、出願による牽制効果(保護効果)も得られます。特許出願までの費用は、30~40万円(目安)、特許権取得までのトータル費用は、約60~100万円程度で収まる場合が多いです。手続面でいえば、同じ技術内容であっても、相手が変わる都度、出願をせずに済みます。

保護の終了条件に関してですが、特許権は、特許料納付により特許権の延命が可能なものの、延命は特許権の存続期間出願日から20年が限度です。この延命については、相手の同意も不要です。また、出願後に、自ら、自社技術を公開しても、保護を受けることができます(ここは、とても重要です)。

(2)秘密保持契約(NDA)

模倣防止のためには、秘密情報である必要があります。つまり、①新規性が必要です。契約に要する時間は、契約書の提示から署名まで、通常1~2か月で済む場合が多いです。契約書作成の費用は、約3~5万円のところが多いですし、相手との交渉が含まれる場合には、トータルで約5~15万円となるケースが多いです。

手続面でいえば、相手が変わる都度、同じ技術内容であっても、相手が変わるたびに、契約をする必要があります。

また、保護の終了条件に関してですが、契約は、更新を続けることで延命が永続的に可能ですが、更新には相手の同意が必要です。しかし、秘密保持契約締結後であっても、自ら、自社技術を公開・販売してしまう場合や、第三者が同じ技術を公開してしまう場合は、秘密情報ではなくなるため、契約上の保護を受けることができません(ここは、とても重要です)。

保護を受けられる技術の条件 保護が開始するとき 費用 保護が終わるとき
特許出願 ①新規性

②進歩性

の2つが必要。

権利取得まで4~5年。最短でも半年。

※権利化前でも、出願後は、牽制効果あり

出願まで30~40万円

権利取得まで60~100万円

(目安)

出願から20年が限度。※相手の同意:不要

出願後に、自ら、自社技術を公開(販売)しても保護される。

第三者が、同様の技術を公開(販売)しても保護される。

秘密保持契約 ①新規性が必要。

※②進歩性は不要

契約書の署名まで。約1~2か月。 3~15万円

(目安)

契約の更新について相手の同意が得られれば永続的に可能。※相手の同意:必要

契約後に、自ら、自社技術を公開(販売)してしまうと、保護が終了する(契約上の秘密情報ではなくなるため)。

第三者が、同様の技術を公開(販売)した場合も保護が終了する(契約上の秘密情報ではなくなるため)。

2つの対策をどう使い分けたらいいの?

特許出願のメリットは、「①出願後、自ら自社技術を公開(販売)しても保護が継続される」点、「②出願後、第三者が同一の技術を公開(販売)しても保護が継続される」点にありますが、デメリットとして、開示技術には、進歩性が必要なこと、費用が掛かること等があります。

秘密保持契約のメリットは手続きが簡単なところにありますが、デメリットは、「①契約後、自ら自社技術を公開(販売)してしまうと保護が終わる点」、「②契約後、第三者が同一の技術を公開(販売)した場合に保護が終わる点」にあります。

つまり、特許出願は、保護を受けるための条件が難しいですが、保護の安定性が高いといえますし、秘密保持契約は、保護を受けるための条件が簡単ですが、保護の安定性が低いといえます。

特許出願と秘密保持契約。これら2つの対策をどう使い分けたらよいの?という点は、守りたい技術の内容や技術の使い方によっても変わってくるため、なかなか一言では言えない部分があります。実務上、不特定多数の公開・販売をしない間は秘密保持契約とし、不特定の公開・販売をせざるを得なくなる場合には、前もって特許出願とするケースが多いですし、「商談の序盤はで、秘密保持契約を結んで、特定企業のみに技術開示を行い、収益が見込めるようになった場合には、公開(販売)までに特許出願を行う」というハイブリットケースも多いです。

※特許の新規性と秘密保持契約の関係:「秘密保持契約を結ばない状態での情報開示」は新規性が否定されますが、「秘密保持契約下による情報開示」は新規性が確保されます。

まとめ

  1. 自社の技術を提案する際のリスクは、「自社技術の模倣リスク」である。
  2. 自社技術を一旦開示してしまうと、元に戻すことができない。
  3. 模倣リスクの回避策としては、特許出願、秘密保持契約の2つがある。
  4. 特許出願は「不特定の公開・販売をせいざる得なくなる場合」に行う場合が多い。
  5. 秘密保持契約は「不特定多数の公開・販売をしない場合」に行う場合が多い。

このように、自社技術を一度開示してしまったあとでは取り返しがつきません。自社技術を提案する際には、事前に、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、輸入販売を行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

輸入品販売を行う際に気を付けたいこと

外国の商品を日本に輸入販売する際、気を付けなければならない点は何でしょうか?まず、「日本に輸入しようとする商品が、日本の法律に適合しないか否か?」は気になるところですよね。

日本に輸入できない商品って何?

日本の法律に触れそうな商品として、詳しくは、税関「輸出入禁止・規制品目」の「3.輸入が禁止されているもの」に掲載されております。ここでは、主要なものを以下に記載します。

  1. 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚せい剤、あへん吸煙具
  2. 指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
  3. けん銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及びけん銃部品
  4. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第20項に規定する一種病原体等及び同条第21項に規定する二種病原体等
  5. 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品及び偽造カード(生カードを含む)
  6. 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
  7. 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

輸入販売についてよく相談を受ける内容

輸入販売をしようとする方から良く相談を受ける内容としては、「輸入しようとする商品の商標権」に関するものが多いです。商標権は、前項の「輸入が禁止されているもの」の「7.特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」に関連するものですね。

さて、よく相談を受ける内容としては、以下のようなものが多いです。

  1. パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?
  2. パートナー企業に黙って日本において商標登録を済ませても大丈夫?

パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?

大丈夫ではありません。商標権は、国単位で権利が認められます(これを属地主義と呼びます)。例えば、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」がパートナー企業の国(例えば、アメリカ)において商標登録を済ませていたとしても、日本において当然に保護されるわけではありません。したがって、日本において保護を受けるためには、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」について日本の商標登録を済ませる必要があります。

パートナー企業の商標登録を勝手に行ってもよいの?

さて、外国において商標登録を受けている商標が、日本において、当然に保護されないことは前項で述べました。このように、日本において、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」の商標登録を済ませていない場合はどうすればよいでしょうか?

(1)パートナ企業に商標登録を済ませてもらったほうがよいでしょうか?

それとも、

(2)自社で商標登録を済ませておいた方が良いのでしょうか?

いずれを選ぶかは、パートナー企業との間で取り決めをした方が良いでしょう。もし、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、パートナー企業の請求によって商標登録が取り消される可能性があります。万が一、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、今後の対応について、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際、忘れがちな内容

輸入販売する際、商標権は重要なチェック項目の1つです。しかしながら、その本質は、商標権ではありません。その本質は、パートナー企業との取り決めにあります。つまり、「あなたの会社と第三者(日本のライバル企業)との関係」も大切ですが、それ以上に「あなたの会社とパートナー企業との関係」は、それ以上に大切になるということです。

「あなたの会社とパートナー企業との関係」について大切なことは、

(1)あなたの会社は、日本で販売し利益を上げるために、とある商品を輸入すること

(2)パートナー企業は、あなたの会社に対し、所定の数量の商品を所定の場所に納品し、あなたの会社から売上を立てること。

といった「輸入販売スキームそのもの」の取り決めです。これに付随して、「支払い時期は納品から何か月後にするか?」や「支払いが遅れた場合の利息はどれくらいにするか?」等があります。

商標権に関するテーマとしては、「輸入した商品を日本で販売する際、商品名を変更してもよいか否か?」という点もあります。パートナー企業が指定した商標の使用義務がある場合には、その商標の使用権原の確保(商標登録の手続きや費用負担等)は、パートナー企業が行うことが通常でしょう。反対に、パートナー企業が指定した商標の使用義務がない場合には、あなたの会社が好きな商品名(商標)を選び、その使用権原の確保はあなたの会社自身が行うことが通常でしょう。

また、パートナー企業が日本において商標登録を済ませていた場合、あなたの会社は、その商標登録を無償で使用できるのでしょうか?という点も大切なポイントです。実務では、使用量に応じたライセンス料を支払うケースが多いです。

さらに、日本において第三者による商標権侵害の取り締まりを誰が行うか?という点も大切なポイントです。ここは、パートナー企業ではなく、日本で取引を行うあなたの会社が行うことが多いです。

このように、商標登録の手続き、侵害者の管理、それぞれの費用負担といったものを、あなたの会社とパートナー企業との一方が一手に担うことは難しいです。つまり、あなたの会社とパートナー企業との間で、役割分担や責任分担をあらかじめ決めておくことが必要になります。

輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容

前項では、輸入販売する際、パートナー企業との取り決め(契約)を明確にしておきましょうと述べました。ここでは、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、商標権について、必ずチェックしてほしい事項について述べます。商標権について、必ずチェックしてほしい事項は、「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」です。

「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」が大切な理由

商標権は、原則、先に使用していても、先に出願していなければ保護を受けません(ここは、特許権や意匠権等と異なるところです)。したがって、あなたの会社またはパートナー企業がその商標権を取得していない場合、あなたの商品を見たライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することも可能です。こうなると、あなたの会社が先に使用していたとしてもあなたの会社が侵害者となってしまいます。

商標権侵害による致命的なインパクト

さらに、商標権侵害の場合、商標権者から差止め(名称使用の停止)や損害賠償(簡単に言うと、「侵害行為によって権利者が失った利益相当額」の支払い)があります。いずれも大きなインパクトがありますが、輸入販売で特に気を付けなければならないのは、差し止め(名称使用の停止)による影響です。差し止めがなされると、日本国内にある在庫の販売は不可能になります。そして、在庫商品を活かすためには、商品から商標を剥がす必要があります。

「商品から商標を剥がす」って何?

侵害を構成する商標がシール等で商品に貼り付けられている場合には、そのシールを剥がせばよいでしょう。しかし、商標がパッケージに印刷されていれば、商品を剥がすことができないため、パッケージの廃棄になります。また、商標が商品に刻印されている場合にはその商品を破棄しなければなりません。そして、在庫商品のパッケージや、商品全体が廃棄となってしまった場合、その損害額は計り知れないものとなります。

差し止めの影響はパートナ企業にも及ぶ?

差し止めの対象は、日本にある在庫だけではありません。権利者の手続きにより、海外から輸入される侵害品は、税関で止められます。そして、税関で止められた商品は、侵害品であると認定されると、廃棄される場合が多いです。パートナー企業が輸出した商品が税関により廃棄されてしまった場合、この商品の代金や輸送代は、誰が負担するのでしょうか?パートナ企業でしょうか?それとも、あなたの会社でしょうか?こうなってしまっては、輸入販売のために意気投合したパートナ企業との関係もこじれてきます。

商標権侵害による致命的なインパクトを避けるためには?

このような事態を封じるには、どうすればよいでしょうか?そのためには、ライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することを封じ込めることが必要です。そして、ライバル企業の商標権取得を封じるためには、パートナ企業とあなたの会社のいずれか一方が商標権を取得するしか方法がありません。

輸入販売を行う際、最低限チェックしてほしい内容(商標関係)

前項では、「輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容」として、「商標権の確保」について述べましたが、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、チェックしてほしい事項は「商標権の確保」以外にもあります。その主なものは以下の通りです。

  1. 日本において、他の代理店を認めるか否か
  2. パートナー企業からの指定された商品名(以下、商標)の使用義務の有無
  3. パートナー企業が商標権を持っている場合には、商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものであるか否か
  4. パートナー企業が商標権を持っている場合には、ライセンス料の支払い義務や支払い方法等
  5. パートナー企業の商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものではなかった場合の取り決め
  6. パートナー企業から登録商標の使用許諾をもらう場合には、サブライセンスを認めるか否か
  7. パートナー企業が商標権を持っていない場合には、商標登録の手続き、費用、登録後の管理等についての役割分担及び責任分担
  8. 商標権が消滅したときのペナルティの有無
  9. 契約を打ち切る際、在庫処分の方法(打ち切り後一定期間の販売を認めるか否か 等)

以上の項目は、あくまでも最低限の部分にすぎません。このため、取引の形態によっては、他の事項も重要になる場合もあります。どの項目が必要になるかは、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 輸入販売をしようとする際に大切なことは、パートナー企業との役割分担と責任分担の取り決め(契約)である。
  2. 取り決め(契約)の中には、「輸入販売のスキーム」の他、輸入禁止となる商品に該当しないか否かの観点が必要となる。
  3. 「輸入禁止となる商品に該当しないか否か」の中に、「知的財産に関する条項」があり、その中でも、商標のリスクは、どの企業も避けられない。
  4. 商標権は、国ごとに設定されるため、パートナー企業の国で商標権が存続していても、日本において当然に保護されない。日本において保護を受けるためには日本の商標権が必要となる。
  5. 商標権の取得手続き、管理手続、費用負担等の役割分担を明確にしておく。

このように、輸入販売を行う際には、商標権をはじめ、特許権、意匠権等のリーガルチェックも欠かせません。輸入販売のリーガルチェックは、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、輸入販売を行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

輸入品販売を行う際に気を付けたいこと

外国の商品を日本に輸入販売する際、気を付けなければならない点は何でしょうか?まず、「日本に輸入しようとする商品が、日本の法律に適合しないか否か?」は気になるところですよね。

日本に輸入できない商品って何?

日本の法律に触れそうな商品として、詳しくは、税関「輸出入禁止・規制品目」の「3.輸入が禁止されているもの」に掲載されております。ここでは、主要なものを以下に記載します。

  1. 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚せい剤、あへん吸煙具
  2. 指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
  3. けん銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及びけん銃部品
  4. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第20項に規定する一種病原体等及び同条第21項に規定する二種病原体等
  5. 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品及び偽造カード(生カードを含む)
  6. 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
  7. 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

輸入販売についてよく相談を受ける内容

輸入販売をしようとする方から良く相談を受ける内容としては、「輸入しようとする商品の商標権」に関するものが多いです。商標権は、前項の「輸入が禁止されているもの」の「7.特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」に関連するものですね。

さて、よく相談を受ける内容としては、以下のようなものが多いです。

  1. パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?
  2. パートナー企業に黙って日本において商標登録を済ませても大丈夫?

パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?

大丈夫ではありません。商標権は、国単位で権利が認められます(これを属地主義と呼びます)。例えば、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」がパートナー企業の国(例えば、アメリカ)において商標登録を済ませていたとしても、日本において当然に保護されるわけではありません。したがって、日本において保護を受けるためには、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」について日本の商標登録を済ませる必要があります。

パートナー企業の商標登録を勝手に行ってもよいの?

さて、外国において商標登録を受けている商標が、日本において、当然に保護されないことは前項で述べました。このように、日本において、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」の商標登録を済ませていない場合はどうすればよいでしょうか?

(1)パートナ企業に商標登録を済ませてもらったほうがよいでしょうか?

それとも、

(2)自社で商標登録を済ませておいた方が良いのでしょうか?

いずれを選ぶかは、パートナー企業との間で取り決めをした方が良いでしょう。もし、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、パートナー企業の請求によって商標登録が取り消される可能性があります。万が一、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、今後の対応について、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際、忘れがちな内容

輸入販売する際、商標権は重要なチェック項目の1つです。しかしながら、その本質は、商標権ではありません。その本質は、パートナー企業との取り決めにあります。つまり、「あなたの会社と第三者(日本のライバル企業)との関係」も大切ですが、それ以上に「あなたの会社とパートナー企業との関係」は、それ以上に大切になるということです。

「あなたの会社とパートナー企業との関係」について大切なことは、

(1)あなたの会社は、日本で販売し利益を上げるために、とある商品を輸入すること

(2)パートナー企業は、あなたの会社に対し、所定の数量の商品を所定の場所に納品し、あなたの会社から売上を立てること。

といった「輸入販売スキームそのもの」の取り決めです。これに付随して、「支払い時期は納品から何か月後にするか?」や「支払いが遅れた場合の利息はどれくらいにするか?」等があります。

商標権に関するテーマとしては、「輸入した商品を日本で販売する際、商品名を変更してもよいか否か?」という点もあります。パートナー企業が指定した商標の使用義務がある場合には、その商標の使用権原の確保(商標登録の手続きや費用負担等)は、パートナー企業が行うことが通常でしょう。反対に、パートナー企業が指定した商標の使用義務がない場合には、あなたの会社が好きな商品名(商標)を選び、その使用権原の確保はあなたの会社自身が行うことが通常でしょう。

また、パートナー企業が日本において商標登録を済ませていた場合、あなたの会社は、その商標登録を無償で使用できるのでしょうか?という点も大切なポイントです。実務では、使用量に応じたライセンス料を支払うケースが多いです。

さらに、日本において第三者による商標権侵害の取り締まりを誰が行うか?という点も大切なポイントです。ここは、パートナー企業ではなく、日本で取引を行うあなたの会社が行うことが多いです。

このように、商標登録の手続き、侵害者の管理、それぞれの費用負担といったものを、あなたの会社とパートナー企業との一方が一手に担うことは難しいです。つまり、あなたの会社とパートナー企業との間で、役割分担や責任分担をあらかじめ決めておくことが必要になります。

輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容

前項では、輸入販売する際、パートナー企業との取り決め(契約)を明確にしておきましょうと述べました。ここでは、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、商標権について、必ずチェックしてほしい事項について述べます。商標権について、必ずチェックしてほしい事項は、「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」です。

「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」が大切な理由

商標権は、原則、先に使用していても、先に出願していなければ保護を受けません(ここは、特許権や意匠権等と異なるところです)。したがって、あなたの会社またはパートナー企業がその商標権を取得していない場合、あなたの商品を見たライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することも可能です。こうなると、あなたの会社が先に使用していたとしてもあなたの会社が侵害者となってしまいます。

商標権侵害による致命的なインパクト

さらに、商標権侵害の場合、商標権者から差止め(名称使用の停止)や損害賠償(簡単に言うと、「侵害行為によって権利者が失った利益相当額」の支払い)があります。いずれも大きなインパクトがありますが、輸入販売で特に気を付けなければならないのは、差し止め(名称使用の停止)による影響です。差し止めがなされると、日本国内にある在庫の販売は不可能になります。そして、在庫商品を活かすためには、商品から商標を剥がす必要があります。

「商品から商標を剥がす」って何?

侵害を構成する商標がシール等で商品に貼り付けられている場合には、そのシールを剥がせばよいでしょう。しかし、商標がパッケージに印刷されていれば、商品を剥がすことができないため、パッケージの廃棄になります。また、商標が商品に刻印されている場合にはその商品を破棄しなければなりません。そして、在庫商品のパッケージや、商品全体が廃棄となってしまった場合、その損害額は計り知れないものとなります。

差し止めの影響はパートナ企業にも及ぶ?

差し止めの対象は、日本にある在庫だけではありません。権利者の手続きにより、海外から輸入される侵害品は、税関で止められます。そして、税関で止められた商品は、侵害品であると認定されると、廃棄される場合が多いです。パートナー企業が輸出した商品が税関により廃棄されてしまった場合、この商品の代金や輸送代は、誰が負担するのでしょうか?パートナ企業でしょうか?それとも、あなたの会社でしょうか?こうなってしまっては、輸入販売のために意気投合したパートナ企業との関係もこじれてきます。

商標権侵害による致命的なインパクトを避けるためには?

このような事態を封じるには、どうすればよいでしょうか?そのためには、ライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することを封じ込めることが必要です。そして、ライバル企業の商標権取得を封じるためには、パートナ企業とあなたの会社のいずれか一方が商標権を取得するしか方法がありません。

輸入販売を行う際、最低限チェックしてほしい内容(商標関係)

前項では、「輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容」として、「商標権の確保」について述べましたが、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、チェックしてほしい事項は「商標権の確保」以外にもあります。その主なものは以下の通りです。

  1. 日本において、他の代理店を認めるか否か
  2. パートナー企業からの指定された商品名(以下、商標)の使用義務の有無
  3. パートナー企業が商標権を持っている場合には、商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものであるか否か
  4. パートナー企業が商標権を持っている場合には、ライセンス料の支払い義務や支払い方法等
  5. パートナー企業の商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものではなかった場合の取り決め
  6. パートナー企業から登録商標の使用許諾をもらう場合には、サブライセンスを認めるか否か
  7. パートナー企業が商標権を持っていない場合には、商標登録の手続き、費用、登録後の管理等についての役割分担及び責任分担
  8. 商標権が消滅したときのペナルティの有無
  9. 契約を打ち切る際、在庫処分の方法(打ち切り後一定期間の販売を認めるか否か 等)

以上の項目は、あくまでも最低限の部分にすぎません。このため、取引の形態によっては、他の事項も重要になる場合もあります。どの項目が必要になるかは、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 輸入販売をしようとする際に大切なことは、パートナー企業との役割分担と責任分担の取り決め(契約)である。
  2. 取り決め(契約)の中には、「輸入販売のスキーム」の他、輸入禁止となる商品に該当しないか否かの観点が必要となる。
  3. 「輸入禁止となる商品に該当しないか否か」の中に、「知的財産に関する条項」があり、その中でも、商標のリスクは、どの企業も避けられない。
  4. 商標権は、国ごとに設定されるため、パートナー企業の国で商標権が存続していても、日本において当然に保護されない。日本において保護を受けるためには日本の商標権が必要となる。
  5. 商標権の取得手続き、管理手続、費用負担等の役割分担を明確にしておく。

このように、輸入販売を行う際には、商標権をはじめ、特許権、意匠権等のリーガルチェックも欠かせません。輸入販売のリーガルチェックは、お近くの専門家にご相談ください。

商標権侵害を特に注意しなければならない業界

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回の記事「プレスリリースを検討する際に気を付けて欲しいこと」では、これから売り出そうとする自社商品・サービスの名前等が、他社の商標権等を侵害していないかのチェックを、プレスリリースの前に行いましょうね。と述べました。今回はその続きです。

商標権侵害により逮捕された例

高級ブランド「ウブロ」の偽腕時計販売 容疑で会社員逮捕

埼玉県警浦和西署は8日、高級ブランド「ウブロ」の偽物の腕時計を販売したとして、詐欺と商標法違反の疑いで、さいたま市浦和区常盤、会社員(23)を逮捕した。容疑を認めている。逮捕容疑は平成30年11月、商品の売買ができるインターネット掲示板にウブロに似たロゴマークを付けた腕時計を出品し、埼玉県戸田市の自営業の男性(45)から、代金として現金10万円をだまし取ったとしている。「YAHOO ニュース 2020/6/8 17:33配信より引用」

偽シャネルのヘアゴムをSNSで販売‥埼玉県の27歳女を逮捕 岐阜県警

偽のブランド品をSNSで販売していた女を逮捕です。商標法違反の疑いで逮捕された、埼玉県川口市の容疑者(27)は去年12月、SNSを利用して偽の「シャネル」のヘアゴム10点を2000円で販売した疑いがもたれています。 岐阜県警が、サイバーパトロールで偽ブランド品がフリーマーケットアプリで販売されているのを発見し、容疑者の犯行が明るみに出ました。容疑者は容疑を認めています。警察は、偽のブランドのネックレスやイヤリングなど約2000点を押収していて、入手経路などを調べています。「YAHOO ニュース 2020/6/4 19:25配信より引用」

それは「売っても大丈夫だと思っていた」人気ブランドSupremeの偽造品を販売目的で所持…男に求刑【長崎】

偽のブランド品を販売するため所持していた罪に問われている男の初公判が2日、長崎地裁で開かれました。商標法違反の罪に問われているのは長崎市新小が倉1丁目の会社員(46)です。起訴状によりますと被告は、去年11月、長崎市出島町で自分が経営していた雑貨店で人気ブランド「Supreme」の偽のウエストポーチなど124点を販売目的で所持していたとされています。長崎地裁で開かれた初公判で被告は、「注意で済むと思った」と起訴内容を認めました。検察側が懲役1年6カ月、罰金100万円を求刑したのに対し、弁護側は「利益はごくわずかで反省の態度を示している」として執行猶予つきの判決を求めました。「YAHOO ニュース 2020/6/2 18:14配信より引用」

このように、インターネットで検索してみると、商標権侵害によって逮捕されてしまった例というのは珍しくないようです。

商標権侵害事犯の数

では、商標権侵害事犯数は、どれくらいあるのでしょうか?

統計(※1)によれば、商標権侵害事犯は、平29年302件、平成30年 309件です。こうしてみると、1日1件くらい起きているケースになります。なお、証拠不十分等によって、上の数値にカウントされない場合もありますので、実際にはもっと多くの侵害行為が起きていそうだと考えた方が良いでしょう。

商標権侵害で摘発されやすい業種・業態

商標権侵害で摘発されやすい業種・業態としてはどのようなものがあるでしょうか?

商標権侵害事犯(平成30年 309件)のうち、インターネット利用は、265件(85%)となっています(※1)。したがって、インターネット経由の商取引(具体的には、ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション)は、商標権侵害を根拠に検挙されやすいといえそうです。

また、平成30年における侵害品数(129,328個)のうち、4.5%は国内製造品、海外の仕出国においては、中国(37%)、韓国(6.8%)となっており、その後に、フィリピン、台湾、タイ(いずれも1%未満)が続きます(※1)。出元不明のものが49%(※1)もあることを鑑みると、もう少し多い可能性がありますが、いずれにしても、侵害品のほとんどが国外から輸入品であり、そのほとんどが中国・韓国からの輸入品であるといえそうです。

(※1)平成30年における生活経済事犯の検挙状況等について(警察庁生活安全局)

このように、インターネット経由の取引においては、商標権者から発見されやすいこともあり、摘発されやすいといえます。また、侵害品数の内訳から見てみると、中国等の海外から輸入品に多く見られます。

前回の記事で述べた通り、新しい事業を始める場合や新商品・サービスを開始する際、商標権侵害をはじめ、他社の知的財産権利の侵害について注意をした方が良いと思います。その中でも、ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション等の「インターネット経由の取引」や「輸入品の販売」を行う場合には、特に、商標権侵害について注意をした方がよさそうです。

 

商標権侵害にならないようにするためにはどうすれば?

商標権の侵害行為によって、刑事罰を受けてしまうと、あなたの会社に対して、金銭的ダメージのみならず、社会的ダメージが大きくのしかかってきます。それでは、他人の商標権を侵害しないためには、何をすればよいのでしょうか?

そのためには、他者の商標を調べる必要があります。この調査は、事業の企画段階、商品の仕入れ段階において行う必要があります。このような商標権の調査(クリアランス調査といいます)は、専門的知識が必要ですので、調査の際には、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 商標権侵害による逮捕は意外と多い。
  2. 商標権侵害について特に注意したい業種・業態は、「インターネット取引(ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション)」や「輸入品販売」である。
  3. このようなリスクを回避するためには、事前のクリアランス調査が必要。

プレスリリースを検討する際に気を付けて欲しいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、プレスリリースを行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

あなたのプレスリリースを見る人

プレスリリースを見る人は、どのような人でしょうか?

  • 既存のお客様
  • まだ見ぬ新規のお客様
  • ・・・

これだけでしょうか?これ以外にもあります。

それは、あなたのライバル企業や、ライバル企業の取引先です。

ライバル企業がみていること

プレスリリースされた新しい商品やサービスについて、ライバル企業は何を見ているでしょうか?あなたの商材について、機能や品質の優劣や、価格の競争力も比較しています。さらに、以下のようなものを見ています。

それは、うちの知的財産権を侵害しているか?という点です。

知的財産権の侵害について

さて、知的財産権には、特許権・実用新案権(技術の権利)、意匠権(プロダクトデザインの権利)、著作権(大雑把にいうとアートの権利)や、商標権(商品名やサービス名の権利)等があります。ライバル企業からみれば、「せっかく知的財産権を取得したのだから、模倣犯がいれば取り締まりたい。」と思うでしょう。

このため、ライバル企業は、

  • プレスリリースされた商材の機能は、わが社の特許発明を使っていないかな?
  • プレスリリースされた商材のプロダクトデザイン、わが社の登録意匠を使っていないかな?
  • プレスリリースされた商材の名称は、わが社の登録商標に似ていないかな?
  • プレスリリースに掲載された写真は、自社サイトの写真を流用していないかな?

と、様々な角度から、目を皿のようにしてチェックしています。実際に、そのような侵害発見を依頼されるときもあります。そして、何かしらの権利を侵害している可能性が高い場合には、特許権侵害等を根拠とする警告書が、内容証明郵便にてあなたの会社へ郵送されてくることになります。

法的手段を取られたときのインパクト

警告書で要求される主なものは、差止請求と損害賠償請求の2つがあります。今回は、プレスリリースの場合ですので、差止請求についてのみ述べます。

さて、相手が要求が差止請求の内容に正当である場合、あなたの会社はどうなるでしょうか?

特許権侵害や意匠権侵害の場合

特許発明や登録意匠を使わないような設計変更をしなければなりません。すでに仕掛品や在庫を持っている場合には、廃棄せざるを得ない場合も多いでしょう。また、設計変更や仕掛品等の廃棄を受け入れられない場合には、相当のライセンス料を支払う必要が出てきます。

そして、これらを受け入れられなければ、新しい商材のリリースを中止せざるを得ません。

商標権侵害の場合

プレスリリースされた商材の名称は、継続して使用できません。特許権等のようなライセンスも可能ですが、商標権の場合には、権利者側のブランドイメージの棄損につながるため、ライセンスを許可する場合は少ないです。したがって、名称変更をせざるを得ない場合がほとんどです。結果としては、チラシ制作やパッケージ制作は0からやりなおしになります。また、プレスリリースや宣伝広告も0からやり直しになります。

このように、ライバル企業の知的財産権の侵害行為によって、新しい商材によるビジネスが困難になるばかりか、これまでに投じた時間やコストの回収ができなくなってしまいます。すなわち、他社の知的財産権の侵害行為は、あなたの会社の存続に直結します。

警告書を無視したらどうなる?

相手方の主張が正しいにも関わらず、警告書を無視して侵害行為を継続した場合には、刑事罰の対象となります。特許権、意匠権や商標権侵害の場合における刑事罰は、以下の通りです。

  • 個人の場合:10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(両方が科される場合もあります。)
  • 法人の場合:法人に対して3億円の罰金。代表者等には、個人と同じペナルティが課されます。

よって、専門家に相談せずに、警告書の無視することは、とてもお勧めできません。

ライバル企業の権利を侵害しないためにはどうすれば?

前項では、ライバル企業の知的財産権を侵害してしまうと、あなたの会社の存続が危うくなることについて述べました。それでは、ライバル企業の知的財産権を侵害しないためには、何をすればよいのでしょうか?

そのためには、ライバル企業の権利を調べる必要があります。この調査は、プレスリリースよりも前に行う必要があります。より詳しく言えば、他社の特許権や意匠権の調査の場合には、万が一の設計変更やデザイン変更を考慮して、試作のテストに目途がついた段階に行うことが望ましいでしょう。他社の商標権の調査の場合には、万が一の名称変更を考慮して、名称の案がある程度絞り込まれた段階で行うことが望ましいです。

このような特許権、意匠権、商標権の権利の調査(クリアランス調査といいます)は、専門的知識が必要です。調査の際には、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. わが社のプレスリリースは、お客様だけでなく、ライバル企業も見ている。
  2. ライバル企業は「プレスリリースの商材が、自社の知的財産権を侵害しているか?」を見ている。
  3. ライバル企業が知的財産権の侵害を発見した場合には、差止請求により、プレスリリースの商材の販売は停止し、在庫処分となるため、経済的損失は大きい。
  4. このような経済的損失を回避するためには、「プレスリリースの商材が他社の知的財産権を侵害していないか」のチェックが必要。
  5. チェックのタイミングは、プレスリリースの前に行うこと。

税理士さんも勘違いしてしまう?商号と商標の違い

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。

今回は、どの企業であってもチェックすべき知的財産権についてお話したいと思います。

どの企業でもチェックすべき知的財産権

どの企業であってもチェックすべき知的財産権とは、何だと思いますか?答えをお伝えする前に、質問をしたいと思います。

「今行っている事業(これから始めようとする事業)は、合法的に行うことができるのでしょうか?」

これを、もう少しわかりやすく言うと、

「今検討されている事業は、他社の特許権や商標権等の知的財産権を侵害しませんか?」

となります。

「うちは特許なんて関係ないよ~」

と思われる方も多いかもしれません。確かに特許権は、技術を守る権利。技術要素が低い事業であれば、あまり関係がないかもしれません。しかし、商標権は、商品やサービスの目印となる名前やマーク(商標)を守る権利。つまり、商売を行う人は必ず商標は使用しているといえるわけですから。商標権は、特許権とは違い、どの事業でも関わりの深い権利といえます。

商標のタイプ

商標権がどの業種においても関わりの深い権利であることは述べました。ここでは、商標権が守る商標について簡単に説明したいと思います。これから開こうとする「お店の名前」は商標です。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が経営する「TUSTAYA」、株式会社モンテローザが経営する「白木屋」「魚民」等があります。また、これから作ろうとしている法人の名称(正確に言うと、法人の名称の略称)も、商標となるケースが多いです。

株式会社ソニーであれば「SONY」、トヨタ自動車株式会社であれば「TOYOTA」がここに相当します。また、これから製造販売しようとする「商品の名前」も商標です。「SONY」の「ウォークマン」や「TOYOTA」の「プリウス」等があります。

このような名前を競業他社に勝手に使用されたらどうなるでしょう?売上の減少はもちろんのこと、名前にくっついていた信用が傷つき、ひいては、これまでに築いてきたブランドが崩壊します。したがって、自社の商標は他社に使わせたくないと思うのが、事業主の心情。そうしますと、商標は、事業において誰もが使用すると言えますし、商標権は、事業を行う人であれば取得していて何ら不思議はないといえます。

実際にあった勘違い

このような商標権であるよく勘違い。それは、「商号上問題ないから、商標権も問題ないのでは?」というものです。

商号の保護と商標の保護は、法律上異なり、取り扱いが全く異なるのですが、税理士さんのような専門家の方でも間違えてしまいやすい問題なのです。さて、今回は、実際にあった相談事例をご紹介します。

Aさんは、レストランを開業しようと思い、とある税理士さんに相談しました。レストランの店名について、法人の商号調査の必要性を確認したらしいのですが、その税理士さんからは、

「法人ではなく、個人事業主なので調査不要です」

とコメントをもらったようです。Aさんは安心してレストランを開業したのですが、開業して3か月たったところ、他社から商標権侵害をいわれ、店名を泣く泣く変えることになってしまいました。結果、新しい名前を考え、新しい看板をつくり、看板ができるまで、営業ができなくなってしまいました。

商号と商標の違い

前述の事案の敗因は、「商号と商標を混同してしまった点にあった」といって良いでしょう。今回のように、税理士さんの中でもその違いを説明できない人がまだまだ多いようです。そこで、今回は、商号と商標の違いについて簡単にご紹介したいと思います。

<商号>

  1. 商号とは何? 法人の名前。人でいうところの氏名みたいなもの。法人の名前なので、個人事業主には関係ない。
  2. 届出 法人設立時に登記が必須。届け出先は法務局。代理には、司法書士。
  3. 調査の要否 法人登記に必須。
  4. 競業他社との商号との関係 商号調査(法人登記)時に問題となる。問題となるのは、同一の所在地&同一名称。登録後から他人から文句を言われることはない。

<商標>

  1. 商標とは何? 商売上の目印となる名前やマーク等。法人・個人に関係なく商売をするのであれば必要。
  2. 届出 必要な方はご自由にどうぞ。届け出先は特許庁。代理人は弁理士。
  3. 調査の要否 必要な方はご自由にどうぞ。
  4. 競業他社の商標との関係 問題となるのは、同一の所在地ではなく日本全国&登録商標に同一な名称に限らず、類似の名称使用(開業)している限り、商標権者(競業他社)から文句「商標権侵害だから名前変えろ」と言われる可能性がある。

商標リスクの要因

商号にはない商標のリスクの要因は3つあります。

1つ目は、商標の場合、商号と異なり、調査や登録せずとも、使用できてしまう点にあります。

2つ目は、商標の場合、商号と異なり、使用(開業)している限り、商標権者(競業他社)から文句「商標権侵害だから名前変えろ」と言われる可能性がある点にあります。

そして、3つ目は商標のリスクマネジメントは自己責任という点にあります。すなわち、商標の調査を行っていないと、自社の事業活動において、他人の商標権を侵害してしまいますし、また、商標登録を済ましていないと、自社の事業活動開始後に、他人の商標権が発生したため、事後的に他人の商標権を侵害してしまう可能性があります。このような商標のリスクは、商標の調査や商標登録によって取り払うことができますが、上述の通り「必要な方はご自由にどうぞ」となっています。このため、商標リスクについて、ただし知識を持っていないと、上述のようなケースに陥ってしまいます。「自社の使用していた名称が他人の登録商標だったとは知らなかった」では済まされません。

したがって、事業の責任者は、商標リスクについて「知らなかった」ではなく、チェックすべき事項であるといえます。

まとめ

商号とは違う商標リスク。これから新しく事業を始めようとする人も、すでに事業を始めようとする人も、商標権のリスクはしっかり管理しましょう。

  1. 商標の場合、使用自体は自由にできてしまう。
  2. 商標権者(他社)からが登録商標の使用を停止される可能性がある。
  3. 商標リスクのマネジメント(商標調査や商標登録)は「必要な方はご自由にどうぞ」。
  4. 真剣に事業をしたい方ならば、商標リスクのマネジメントは必須。

建築・内装・WEBデザイン業界も無視できない!?「意匠法改正」をざっくりと説明

中小企業専門の弁理士の亀山です。今回は、令和2年4月1日より施行される令和元年改正意匠法について、意匠法に不慣れな方のために、改正内容をざっくりとご紹介します。

令和元年意匠法改正の概要

久しぶりの大改正(平成18年の関連意匠導入以来?)ということで、知財業界では意匠法が盛り上がっていました。中小企業の方々の中には、「今まで、わが社は、意匠法と関係がなかった。だから、今回の改正も、わが社とは関係ないのでは?」こう思われる方も多いと思います。しかし、いままで意匠法と縁が薄かった業界も、今回の改正意匠法によって、意匠法を無視することができなくなってしまうケースがあります。今回は、その辺について、ザックリと説明したいと思います。

まずは、改正されるテーマは以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

これだけでは、何のことかサッパリなので、もう少しかみ砕いて説明します。

各テーマについてザックリと説明

1、関連意匠

  • 従来:本意匠に類似する関連意匠までが保護範囲だった(保護範囲は親子関係まで)
  • 改正後:関連意匠に類似する意匠まで保護範囲だった(保護範囲は親子のみならず孫以降にも及ぶ

2、建築物の意匠

  • 従来:建築物は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:建築物も、意匠法の保護対象となった

3、内装の意匠

  • 従来:内装は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:内装も、意匠法の保護対象となった

4、画像の意匠

  • 従来:意匠法で保護される画像は、物品に表示される操作用画像または表示画像に限られていた。
  • 改正後:意匠法で保護される画像として、物品を含まない画像のみ意匠も保護対象となった

組物の意匠

上記の2~4による保護範囲の拡充に伴って保護範囲が拡充された。つまり、細かいことはひとまず置いておいて、意匠法改正のキーワードは、「意匠権として保護される範囲が広がった」ということです。

これまで意匠法に馴染みのない方が気を付けたいところ

さて、「意匠権として保護される範囲が広がった」これをどうとらえてばよいのでしょうか?デザインを創作する側からみると、自分が創作したデザインに関し、いままでは著作物に限り著作権で保護されていた。(裏を返せば、著作物でないデザインは保護されなかった)これからは、著作物であるか否かにかかわらず、意匠権でも保護が可能となる。つまり、「デザインをたくさん制作して、意匠権を利用してたくさん保護を受けるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

一方、デザインを利用する側から見ると、自分が利用したいデザインに関し、いままでは著作物に限り、著作権の処理(契約)をすればよかったものの、これからは、著作権で保護されないものも、意匠権で保護されてしまう。つまり、「著作物でないデザインも簡単には利用できなくなるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

このように、デザインを創作する側と、デザインを利用する側とでは、法改正の捉え方が異なりますが、その原因は、「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」にあります。例えば、お仕事を今まで通り行っていると、改正によって自分(自社)のデザインが保護されたはずなのに、保護の機会を失ってしまう場合もあるでしょう。また、今までは自由に使えた他人(他社)のデザインが、今回の改正によって意匠権で保護される結果、今までのように他人のデザインを自由に使えなくなってしまう場合もあるでしょうし、無断で使用した結果、「意匠権侵害だ!」と相手方から文句をいわれる場合もあるでしょう。

つまり、今回の改正によって、意匠権の効力が及ぶようになった業界において、令和2年4月1日以降、今まで通りお仕事を行っていると、大怪我をしてしまうこともあるわけです。これは、デザインを創作する側も利用する側にも当てはまることです。

大怪我をしたくない人が最低限知っておきたい部分

仕事で大怪我をしたい人なんていませんよね。今回は、そういう人のために、冒頭で掲げた改正テーマのうち、大怪我につながりやすい部分、すなわち「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」部分について説明したいと思います。

さて、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになったデザインは、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」になります。「画像の意匠」は改正前から一部の画像について保護対象になっていましたが、今回の改正で大幅に広がったため、説明に加えました。関連意匠と組物の意匠に関する説明は、長くなるので割愛しました。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

1、建築物の意匠

保護される建築物の例として、以下のようなものがあります。

住宅、寮、校舎、体育館、オフィス、研究所、工場、倉庫、ホテル、保養所、百貨店、量販店、飲食店、病院、保健所、公衆浴場、公衆便所、博物館、美術館、図書館、劇場、映画館、競技場、駅舎、車庫、神社、橋梁、トンネル、鉄塔、ガスタンク など・・・たくさんあります。

個人的には、倉庫のデザインやトンネルのデザインも保護されるのだなぁと思いました(もちろん、これまでに知られていたデザインは、新規性がないため、保護を受けません)。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

2、内装の意匠

保護される内装としては、「複数の物品からなり内装全体として統一的な美観(※)をおこさせるもの」になります。内装を構成する物品の例としては、以下のようなものがあります。

  • 机、椅子、ベッド、衝立などの家具類
  • 陳列棚などの什器類(販売商品等が含まれていても可)
  • 照明器具など

(※)「統一的な美観」の説明は、長くなるので割愛します。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

3、画像の意匠

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

意匠法により保護される画像として、従来の「物品等の部分に画像を含む意匠」(上図の(2))に加え、「画像意匠」(上図の(1)」が加わりました。意匠法で保護される画像のカテゴリーは2つあります。1つめは、操作用画像(機器の操作の用に供される画像)であり、2つめは、表示用画像(機能を発揮した結果として表示される画像)です。

操作用画像の例として、具体的には、オンラインショップにおける商品購入用の画像デザインや、スマホのアイコン用画像、コピーの操作パネルの画像等があります(上図(1)(2)における左側)。表示用画像の例として、具体的には、(測定装置)における測定結果表示画像、壁に投影された時計画像や、針が電子表示で動く電子メトロノーム画像等があります(上図(1)(2)における右側)。

このように、今回の改正によって、すべての画像が意匠法で保護されるわけではありません。意匠法保護される画像として、前述の操作用画像・表示用画像になります。こちらが覚えにくければ、「もともとはハードウェアだった部品(操作ボタンや時計の針)が、デジタル表示として置き換わった画像」として理解してもらってもよいです。

※なお、コンテンツ画像は、改正にかかわらず、意匠法の保護対象とはなっておりませんが、こちらは著作物なので、著作権で保護されます。

今回の改正に影響が大きな業界

今回の意匠法改正によって、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」が、保護対象として追加されました。このため、当該分野においてデザインを創作する方と、そのデザインを利用する方は、お仕事をする中で、それぞれ留意する必要があるでしょう。「建築物の意匠」であれば、建築デザイン業界が関わりが深いでしょうし、「内装の意匠」であれば、内装デザイン業界が関わりが深いでしょう。

また、「画像の意匠」にかかわりが深いところは、ユーザインタフェース(UI)をデザインする業界やウェブデザイン業界になるでしょう。デザイン制作を外部に発注する場合、それを受注して制作する場合には、その制作物の意匠権(正確には、意匠登録を受ける権利)が、発注者側に帰属するのか、受注者側に帰属するか等を、あらかじめ契約書などで定めておくとよいでしょう。

もっと詳しく知りたい方へ

知的財産権制度説明会 -知的財産権について学べます(参加費・テキスト無料)-(特許庁)のページにある「知的財産権制度説明会テキスト」をご参照ください。

まとめ

令和元年意匠法改正の概要は以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

ですが、意匠法に馴染みのない方は、こちらで理解してください。

  1. 意匠権の保護範囲として、建築物・内装が、新たに加わり、画像が結構広がった。
  2. 意匠権を気を付けなければならない業界としては、建築デザイン業界、内装デザイン業界、UIデザイン・WEBデザイン業界がある。
  3. デザイン制作する側は、デザインが権利で保護できることを理解しておく。
  4. デザインを利用する側は、デザインに権利があることに気をつける。
  5. 制作する側と利用する側との間の権利の調整は、発注時に契約書にて定めておくことがベター。

何かの参考になれば幸いです。

建築・内装・WEBデザイン業界も無視できない!?「意匠法改正」をざっくりと説明

中小企業専門の弁理士の亀山です。今回は、令和2年4月1日より施行される令和元年改正意匠法について、意匠法に不慣れな方のために、改正内容をざっくりとご紹介します。

令和元年意匠法改正の概要

久しぶりの大改正(平成18年の関連意匠導入以来?)ということで、知財業界では意匠法が盛り上がっていました。中小企業の方々の中には、「今まで、わが社は、意匠法と関係がなかった。だから、今回の改正も、わが社とは関係ないのでは?」こう思われる方も多いと思います。しかし、いままで意匠法と縁が薄かった業界も、今回の改正意匠法によって、意匠法を無視することができなくなってしまうケースがあります。今回は、その辺について、ザックリと説明したいと思います。

まずは、改正されるテーマは以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

これだけでは、何のことかサッパリなので、もう少しかみ砕いて説明します。

各テーマについてザックリと説明

1、関連意匠

  • 従来:本意匠に類似する関連意匠までが保護範囲だった(保護範囲は親子関係まで)
  • 改正後:関連意匠に類似する意匠まで保護範囲だった(保護範囲は親子のみならず孫以降にも及ぶ

2、建築物の意匠

  • 従来:建築物は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:建築物も、意匠法の保護対象となった

3、内装の意匠

  • 従来:内装は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:内装も、意匠法の保護対象となった

4、画像の意匠

  • 従来:意匠法で保護される画像は、物品に表示される操作用画像または表示画像に限られていた。
  • 改正後:意匠法で保護される画像として、物品を含まない画像のみ意匠も保護対象となった

組物の意匠

上記の2~4による保護範囲の拡充に伴って保護範囲が拡充された。つまり、細かいことはひとまず置いておいて、意匠法改正のキーワードは、「意匠権として保護される範囲が広がった」ということです。

これまで意匠法に馴染みのない方が気を付けたいところ

さて、「意匠権として保護される範囲が広がった」これをどうとらえてばよいのでしょうか?デザインを創作する側からみると、自分が創作したデザインに関し、いままでは著作物に限り著作権で保護されていた。(裏を返せば、著作物でないデザインは保護されなかった)これからは、著作物であるか否かにかかわらず、意匠権でも保護が可能となる。つまり、「デザインをたくさん制作して、意匠権を利用してたくさん保護を受けるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

一方、デザインを利用する側から見ると、自分が利用したいデザインに関し、いままでは著作物に限り、著作権の処理(契約)をすればよかったものの、これからは、著作権で保護されないものも、意匠権で保護されてしまう。つまり、「著作物でないデザインも簡単には利用できなくなるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

このように、デザインを創作する側と、デザインを利用する側とでは、法改正の捉え方が異なりますが、その原因は、「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」にあります。例えば、お仕事を今まで通り行っていると、改正によって自分(自社)のデザインが保護されたはずなのに、保護の機会を失ってしまう場合もあるでしょう。また、今までは自由に使えた他人(他社)のデザインが、今回の改正によって意匠権で保護される結果、今までのように他人のデザインを自由に使えなくなってしまう場合もあるでしょうし、無断で使用した結果、「意匠権侵害だ!」と相手方から文句をいわれる場合もあるでしょう。

つまり、今回の改正によって、意匠権の効力が及ぶようになった業界において、令和2年4月1日以降、今まで通りお仕事を行っていると、大怪我をしてしまうこともあるわけです。これは、デザインを創作する側も利用する側にも当てはまることです。

大怪我をしたくない人が最低限知っておきたい部分

仕事で大怪我をしたい人なんていませんよね。今回は、そういう人のために、冒頭で掲げた改正テーマのうち、大怪我につながりやすい部分、すなわち「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」部分について説明したいと思います。

さて、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになったデザインは、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」になります。「画像の意匠」は改正前から一部の画像について保護対象になっていましたが、今回の改正で大幅に広がったため、説明に加えました。関連意匠と組物の意匠に関する説明は、長くなるので割愛しました。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

1、建築物の意匠

保護される建築物の例として、以下のようなものがあります。

住宅、寮、校舎、体育館、オフィス、研究所、工場、倉庫、ホテル、保養所、百貨店、量販店、飲食店、病院、保健所、公衆浴場、公衆便所、博物館、美術館、図書館、劇場、映画館、競技場、駅舎、車庫、神社、橋梁、トンネル、鉄塔、ガスタンク など・・・たくさんあります。

個人的には、倉庫のデザインやトンネルのデザインも保護されるのだなぁと思いました(もちろん、これまでに知られていたデザインは、新規性がないため、保護を受けません)。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

2、内装の意匠

保護される内装としては、「複数の物品からなり内装全体として統一的な美観(※)をおこさせるもの」になります。内装を構成する物品の例としては、以下のようなものがあります。

  • 机、椅子、ベッド、衝立などの家具類
  • 陳列棚などの什器類(販売商品等が含まれていても可)
  • 照明器具など

(※)「統一的な美観」の説明は、長くなるので割愛します。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

3、画像の意匠

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

意匠法により保護される画像として、従来の「物品等の部分に画像を含む意匠」(上図の(2))に加え、「画像意匠」(上図の(1)」が加わりました。意匠法で保護される画像のカテゴリーは2つあります。1つめは、操作用画像(機器の操作の用に供される画像)であり、2つめは、表示用画像(機能を発揮した結果として表示される画像)です。

操作用画像の例として、具体的には、オンラインショップにおける商品購入用の画像デザインや、スマホのアイコン用画像、コピーの操作パネルの画像等があります(上図(1)(2)における左側)。表示用画像の例として、具体的には、(測定装置)における測定結果表示画像、壁に投影された時計画像や、針が電子表示で動く電子メトロノーム画像等があります(上図(1)(2)における右側)。

このように、今回の改正によって、すべての画像が意匠法で保護されるわけではありません。意匠法保護される画像として、前述の操作用画像・表示用画像になります。こちらが覚えにくければ、「もともとはハードウェアだった部品(操作ボタンや時計の針)が、デジタル表示として置き換わった画像」として理解してもらってもよいです。

※なお、コンテンツ画像は、改正にかかわらず、意匠法の保護対象とはなっておりませんが、こちらは著作物なので、著作権で保護されます。

今回の改正に影響が大きな業界

今回の意匠法改正によって、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」が、保護対象として追加されました。このため、当該分野においてデザインを創作する方と、そのデザインを利用する方は、お仕事をする中で、それぞれ留意する必要があるでしょう。「建築物の意匠」であれば、建築デザイン業界が関わりが深いでしょうし、「内装の意匠」であれば、内装デザイン業界が関わりが深いでしょう。

また、「画像の意匠」にかかわりが深いところは、ユーザインタフェース(UI)をデザインする業界やウェブデザイン業界になるでしょう。デザイン制作を外部に発注する場合、それを受注して制作する場合には、その制作物の意匠権(正確には、意匠登録を受ける権利)が、発注者側に帰属するのか、受注者側に帰属するか等を、あらかじめ契約書などで定めておくとよいでしょう。

もっと詳しく知りたい方へ

知的財産権制度説明会 -知的財産権について学べます(参加費・テキスト無料)-(特許庁)のページにある「知的財産権制度説明会テキスト」をご参照ください。

まとめ

令和元年意匠法改正の概要は以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

ですが、意匠法に馴染みのない方は、こちらで理解してください。

  1. 意匠権の保護範囲として、建築物・内装が、新たに加わり、画像が結構広がった。
  2. 意匠権を気を付けなければならない業界としては、建築デザイン業界、内装デザイン業界、UIデザイン・WEBデザイン業界がある。
  3. デザイン制作する側は、デザインが権利で保護できることを理解しておく。
  4. デザインを利用する側は、デザインに権利があることに気をつける。
  5. 制作する側と利用する側との間の権利の調整は、発注時に契約書にて定めておくことがベター。

何かの参考になれば幸いです。

盗まれた発明

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、とあるお客様との特許相談についてご紹介いたします。

事件発覚

新規のお客様は、特許出願をしたいという方。そこで、発明の内容を伺うと結構、複雑な発明。なので、「どこかで特許とれそうですね~」と思いながら、先行技術調査を行いました。

後日、先行技術調査の結果を報告したところ、お客様が驚かれる。

お客様:あれ?この特許文献にある技術。これウチが、昔、企業Xに納めたやつじゃない?

かめやま:え?こちらの出願人は・・・本当だ、企業Xです。発明者はご存知ですか?

お客様:そこまでは覚えていないです。

かめやま:納品したのはいつですか?

お客様:〇年〇月〇日。

かめやま:出願日は・・・、その3か月後か。

お客様:うちの発明をそのまま出願したということですか??こんなこと、法律上アリなんですか?

かめやま:アリかナシかといえば、ナシですが・・・ときどき起こります。

お客様:本当にそっくりですよ。この図面も、うちのものをそのまま描いたんじゃないのかな?

かめやま:仮に、当時の商品そのままの内容だとしたら、新規性もないので、特許は取れません。今回の場合、審査請求をしないまま請求期限を過ぎていますので、心配はいらないと思います。

お客様:油断も隙もないですね~。

かめやま:まぁ、今回の発明のポイントとは違うので・・・気を取り直して、今回の発明について作戦を立てましょう!ちなみに、今回の商品は、まだ納品前ですよね?

お客様:もちろんです。

情報開示の悩ましさ

提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品。これらの行為は、取引上、避けて通ることができません。しかし、提案書、図面、試作品、商品には技術情報がたくさん詰まっています。そして、これらを相手方に開示し、その技術情報を相手方に理解されてしまうと、その情報は相手の頭の中に入ってしまいます。相手の頭の中の情報に対しては、「無断で使わないで!」といった制御は不可能です。

したがって、提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品といった行為を、無策のまま行ってしまうと、その技術情報は相手に盗まれる一方・・・ともいえます。とはいえ、技術情報を非開示しようとすると、商売に発展しません。「商売のために開示するか」それとも「保護のために非開示するか」。ここは、悩ましいポイントです。

もちろん、相手を信用するというケースもあるでしょう。しかしながら、上述のケースのように、勝手に特許出願を出す企業(技術者)もいます。少し古い記事になりますが、昔からよくある事例なのでご紹介します。

記事「名ばかり共同研究」で知財搾取726件、公取委 オープンイノベのわな」 (日経XTECH 2019/06/19)

公正取引委員会は、共同研究先や取引先の知的財産権などを搾取する事例を調査し、結果を明らかにした。多くのメーカーが「オープンイノベーション」を掲げる中、かけ声とは裏腹な「名ばかり共同研究」のあくどい事例が多く見つかった。知財の獲得は技術開発の根幹で、搾取を放置すればその進展を妨げる。1万6000社弱が公取委に書面で回答し、知財やノウハウの開示を強要される事例などが726件あった。公取委にはかねて、「優越的地位にある事業者が取引先の製造業者からノウハウや知財を不当に吸い上げている」といった複数の指摘があった。その指摘を裏付けた形である。

記事より抜粋

もちろん、「盗まれた!」と証明できれば良いですが、相手は相手で、「自分で作りました」と言い張るでしょうし、こちらの主張を証明する作業も結構メンドクサイです。そして、こちらの主張が認められるか否かわからないようなメンドクサイことに手間をかけるほど、中小企業も暇ではありません。

技術情報の開示の防衛策

「商売のために情報を開示するか」それとも「保護のために情報を非開示にするか」。この悩ましさを解決する方法としては、次のようなものが良く利用されます。

  1.  納品前・開示前のNDA(秘密保持契約)  
  2.  納品前・開示前の特許出願

それぞれのメリットデメリットは以下の通りです。

  1. 納品前・開示前のNDA(秘密保持契約)
    保護される情報:秘密情報
    効力の発生:相手の合意が必要
    効力の範囲:合意した相手のみ
  2. 納品前・開示前の特許出願 ※1
    保護される情報:進歩性のあるもののみ(秘密情報より狭い)※2
    効力の発生:特許出願が必要。相手の合意は不要
    効力の範囲:日本における行為であれば誰でも。

※1、開示後の場合には、最初の開示から1年以内であれば、「新規性喪失の例外」を利用した特許出願も可能です。
※2、どの辺まで保護されるかは、個別の技術及びその技術分野ごとに変ります。

まとめ

提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品の際に気を付けたいポイント。

  • 開示前のNDA(秘密保持契約)
  • 開示前の特許出願
  • 開示後の特許出願(新規性喪失の例外あり)

お金がかかると、人の態度は変わります。企業の態度は変わります。明日の飯を食べていくために、そのビジネスチャンスを狙っています。ビジネスにおいて、油断はできないのです。

何かの参考になれば幸いです。

技術開発時に検討していただきたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、顧問企業における技術開発を通した特許支援の概要についてご紹介いたします。

最初の特許相談

とある中小企業は、本業の売り上げがしぼむ中、これを補えるような新規事業を模索していました。地道なマーケティングの結果、既存顧客の困りごとに対する新しい「加工装置」の開発に成功しました。

そこで、既存のお客様から頂いたサンプルに対し、「加工装置」を用いた新しい加工を施し、お客様の指定する検査を社内で行いました。その後、そのサンプルの試験結果及びサンプルの写真を送ったところ、「合格!」。お客様は、すぐにでも、その「加工装置」を購入したい!のことでした。

そのような中、私が呼ばれました。

どうやら、新しい「加工装置」について特許を取得したいようです。ヒアリングの結果、特許を取りたいところは、「加工装置」の肝となる機能であり、具体的には、ワークのチャック構造であることがわかりました。

新技術の市場価値は?

すぐに、「ワークのチャック構造」について特許を取る準備をしてもよいのですが、気になることがありました。それは、

  1. 加工装置の売値
  2. 加工装置の原価
  3. 加工装置の販売数はどれくらい見込めるか

です。

つまり、この加工装置のビジネスによって、トータルでどれくらいの利益を獲得できるか?ということが気になりました。

※加工装置ビジネスによって得られる利益(粗利)は、(1-2)×(3)で表されます。

上記についてヒアリングしたところ、加工装置の売値と原価を聞いて驚きました。原価率が悪すぎます。これだと、加工装置が売れてもビジネスとして成り立ちにくいです。

新商品の利益構造を見直してみる

新商品の利益構造をよいものとするために、「原価が高額となっている部品はどこですか?」ときいたところ、「チャック機構」であることがわかりました。そこで、「チャック機構」のコストダウンとして以下を提案しました。

  • Xプラン 「チャック機構」の機能を維持して、コストダウンが可能か?
  • Yプラン 「チャック機構」の機能を少し落としてのコストダウンが可能か?

また、チャック機構に関し、α部品と、β部品のコストが高いので、この2点のコストダウンとなる改良の方向性を伝え、その検討をお願いしました。

2週間後、お客様より連絡が入ります。前回のチャック機構から、改良したチャック機構が完成しました。この改良により、チャック機能は維持しつつ、原価率が15%改善される!とのことです。どうやら、Xプランが成功したようです。

チャック機構の改良が成功したことにより、まとまった利益が獲得できる目途が立ちました。結果、「まとまった利益」を得る機会を守るべく、その利益の源泉となる「改良版のチャック機構」について特許を取りましょう!となりました。

最初のチャック機能で特許を取った場合

もし、チャック機構で特許を取ってしまった場合、どうなったでしょうか?次の問題点があります。

  1. 自社で特許は取れますが、肝心のビジネスがうまくいかない可能性が高いです。
  2. ライバル会社が、チャック機能の改良版を発明し、特許を取ってしまう場合があります。

1の場合は仕方がないですが、2の場合には、折角の発明の種がしっかりと保護できないだけでなく、競合により良い製品の独占の機会を与えてしまうこととなります。

技術開発時に検討していただきたいこと

市場のニーズにこたえられる新商品であっても、採算が合わなければ、収益が期待できません。したがって、その新商品の事業を保護する価値も下がってしまいます。言い換えれば、市場のニーズにこたえられる新商品であって、採算が合うような事業であれば、収益が期待できます。したがって、その新商品を保護する価値が高まってきます。

このように特許を取る場合には、模倣防止対策はもちろんですが、その前に、ビジネスとしての採算が合うか、そして、収益が得られるかといった商品の企画を検討した方が良いと思います。

このため、技術開発時に検討していただきたいことは、以下の3つになります。

  1. 市場のニーズにこたえられる新商品であるか否か
  2. まとまった利益が取れるか否か
  3. 利益の源泉を特許権や意匠権等で守ることができそうか

何かの参考になれば幸いです。

特許相談のときに、思わず心配になってしまうこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、特許相談のときに、思わず心配になってしまうことについてご紹介します。

特許相談において心配になること

特許取得を希望されるお客様と話していて、ときどき気になることがあります。確かに、お客様が新商品やそこに採用する新技術に頭が行きがちなことはわかります。しかしながら、

  • 肝心の新商品を、どこに、どうやって提供するか?
  • その新商品を使って、どのようなビジネスを行うのか?

の検討が足りていないのでは?というケースです。

特許取得!の前に検討してほしいこと

そのようなお客様には、特許の説明をする前に、

  • お客様のビジネスモデルはどうなっていますか?
  • そして、今回の特許は、ビジネスモデルのどこに貢献するものですか?

と聞きます。ここでいうビジネスモデルについて、簡単に言うと以下のようになります。

利益 =( 売値 - 原価 ) × 販売数

例1:ある新製品を考えているお客様

  • 新技術を採用することで、売値をどれくらい高くできますか?
  • 言い換えると、付加価値が提供できますか?
  • そのような付加価値を理解する人たちはどのような人たちですか?
  • そして、どのようにして、彼らに販売をしようとしてますか?
  • そのためにどのようなPRを行いますか?

例2 生産技術を確立したお客様の場合

  • 新技術を採用することで、原価をどれくらい安くできますか?
  • 結果、売上の何%増がみこめますか?

等です。

特許取得を希望されるお客様の本心

特許取得を希望されるお客様の本心は、特許取得ではなく、「特許の活用により自社ビジネスをより強固にする」ということのはずです。しかし、こちらがお客様のビジネスモデルを理解していなければ、お客様のビジネスに活用できる特許はつくれませんし、お客様もご自身のビジネスモデルを理解していなければ、やはり難しいと思います。

※このような傾向は、下請けから脱却のような、請負から企画へ移行しようとする企業に多いように思えます。

折角、弊所へ特許相談していただくお客様に対しては、特許の前に新商品や新技術に関して、自社のビジネスモデルをデザインしていくか?という検討をお願いすることもありますし、その検討を一緒に行うこともあります。

このような検討は、1回や2回行ってすぐに身につくものではありません。しかしながら、検討の繰り返した経験がモノを言います。

新商品や新技術に関して、特許取得も大切ですが、新商品や新技術に関して、自社のビジネスモデルってどういうものか?という観点も併せて検討していかれるとよいと思います。

お知らせ

12/4に日本弁理士会において、知的財産セミナーを行います。

タイトル:中小企業の経営者必見!!60分でまるわかり「売れる商品の仕組み」

内容は、ビジネスモデルと、特許や登録商標の関係を整理するインプットの時間と、参加者がグループになって実際に商品企画をしてもらうというものです。もちろん、単なる商品企画でなく、販売の仕組みまで検討してもらいます。

ビジネスモデルの検討が苦手だなぁというかたは、この機会に参加してみてはいかがでしょうか?

ご興味のある方はこちらまでよろしくお願いします。

特許相談でよくある「取り返しのつかないこと」

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許相談でよくある「取り返しのつかないこと」

お客様:スミマセン、この新商品で特許を取りたいのですが…取れるでしょうか?

かめやま:ハサミの発明ですね。

お客様:そうです。こちらで特許が取れるでしょうか?

かめやま:なるほど。特許取得のためには、3つのハードルを越える必要があります。

  • 条件1、法上の”発明”であること
  • 条件2、新規性があること(新規性)
  • 条件3、進歩性があること(進歩性)

まず、「法上の”発明”であること」についてですが、今回の発明品が、ハサミなので、ここはクリアできます。あとは、「新規性」及び「 進歩性」を超えることができか否かポイントになりますね。

お客様:なるほど。

かめやま:ところで、この新商品のウリはどこですか?

お客様:柄の形状になります。

かめやま:ここの形状ですね?どのようなメリットがありますか?

お客様:操作性が良くて、長時間握っていても疲れない!と、多くのお客様から評判を頂いております。

かめやま:えぇ!!もう、販売済みですか?

お客様:はい。結構、好評なんです!!

かめやま:最初の販売はいつになりますか?

お客様:えーと…半年前?いや3ヶ月前です。

かめやま:あらら、ちょっと危ないですね~。

お客様:危ないですか?

かめやま:えぇ。ハサミの出願前に、ハサミを公開してしまったわけですよね?

お客様:ええ。

かめやま:「新規性」や「進歩性」の基準は、出願時に、その発明の内容と同一の物が公開されていないか否かとなります。仮に、ハサミの発明を今日出願したとした場合、今日までに公開された全てのハサミが、審査の対象となります。しかし、今回の場合、出願しようとするハサミと同じものが、3か月前に販売(公開)されていますよね?

お客様:でも。私が販売したハサミですが。

かめやま:お客様が販売したハサミであったとしても、特許の世界では、出願の前に、同じものが販売(公開)されているので、新しくない(新規性なし)と判断されてしまいます。

お客様:私が販売したハサミなのに?

かめやま:そうです。結果、「新規性をクリアーできず、特許を取得できない」となってしまいます。

お客様:ちょっと、解せないです。非現実的じゃないですか?売れるかどうかわからないのに、その都度、特許を出願しなければならないのですか?

かめやま:そうなんですが・・・特許法の基本スタンスは、こういう立場です。ところが、特許法では、こういうお客様の事情を考慮して、新規性喪失の例外という救済規定が用意されています。その条件は、以下の2つです。

  • 条件1、最初の公開から1年以内に出願すること
  • 条件2、出願時に、自分の公開事実を特許庁に申し出すること

お客様:今回は、公開から3か月しか経っていないので・・・?

かめやま:そうです。新規性喪失の例外を利用すれば、自分の販売行為で「新規性」がNGになることはありません。あとは、他社の類似商品との戦いになります。

お客様:よかった!でも、条件1についてですが、あと8か月ありますね。もう半年、出願を先送りできますか?

かめやま:可能です。しかし、デメリットもあります。半年間販売をし続ける間に、同業者から類似品を販売する場合がありますよね?

お客様:確かに・・・それはあり得ます。

かめやま:同業者から類似品の販売事実が、お客様の特許出願よりも前に行われてしまうと、その販売事実によって新規性がなしとなってしまいます。また、新規性喪失の例外の適用もまず難しいです。

お客様:そうすると、模倣行為が取り締まれない・・・

かめやま:そうなってしまします。

お客様:うーん・・・結局、可能な限り早めに出さなければならないということですね。

かめやま:そうです。A.S.A.P(As soon as possible)という心構えが基本になります。今回は、新規性喪失の例外を受けられそうですので、まずは先行技術調査を進めていかがでしょうか?調査の中で、他社の類似技術と比較し、特許性がありそうであれば、出願すればよいですし、厳しければ別の方法を考える・・・という流れでどうでしょうか?

お客様:わかりました。お願いします。

2、「特許取得」に立ちはだかる3つのハードル

1、法上の”発明”であること 大雑把にいえば、物(ハードウェア)であるか否かです。その後の法改正により、物にプログラムが追加されました。よって、有体物(ハードウェア)であれば、発明となります。

2、新規性があること 出願時点において、特許を取得しようとしている発明の内容が公開されていないこと。公開行為としては、販売行為、展示会での出展や、インターネット上の販売や宣伝等があります。

3、進歩性 詳しい説明は、次回以降にしたいと思いますが、大雑把にいえば、組み合わせの妙(1+1=3になるようなもの)であるか否かです。

4、「販売が先か?それとも、特許出願が先か?」というジレンマ

新製品が完成すれば、市場の反応は早くつかみたいし、反応がよければ早く販売したいと思います。また、大きな利益が出そうであればこの利益を守るために特許を出しておきたい!と考えるのが企業側の本音です。ところが、特許法における「新規性」は、「販売前に出願してくださいね!」のように、企業側の想いとは真逆の立場を取ります。

特許出願の意思決定には、「販売が先か?出願が先か?」といったジレンマが起こります。

5、新規性喪失の例外

こうしたジレンマを解消すべく、新規性喪失の例外が用意されています。新規性喪失の例外の適用を受けるためには、以下の条件1~2をクリアーする必要があります。

  • 条件1、最初の公開から1年以内に出願すること
  • 条件2、出願時に、自分の公開事実を特許庁に申し出すること

中でも、条件1を満たすか否かが大きな問題となります。「時計の針は戻せない」ですから。

6、新規性喪失の例外の限界

便利な「新規性喪失の例外」にも限界があります。1つ目は時期の問題です。最初の公開から時間が経ってから出願をすると、他社の類似品が市場に出てしまいます。他社の類似品の販売行為は、「新規性喪失の例外」の適用を受けることができません。

2つ目は、国の問題です。「新規性喪失の例外」のような制度は国ごとによって異なります。アメリカは、日本と同じような制度を持っていますが、中国やヨーロッパは、厳格な制度を持っており、「新規性喪失の例外」をほとんどで起用することができません。このため、海外(特に、中国やヨーロッパ等)で特許を取得したい場合には、「公開前に出願する」という形をとらざるを得ません。「すでに販売していしまったよ~」という場合には、「新規性喪失の例外」の制度を持つ国でしか特許を取得することができません。

7、まとめ

  1. 特許取得には、「発明であること」「新規性があること」「進歩性があること」の3つのハードルがある。
  2. 「市場の反応」に基づき出願の意思決定したい場合、「新規性」が厄介になる
  3. 強い味方の「新規性喪失の例外」
  4. 便利な新規性喪失の例外にも限界がある。
  5. 特許出願は、可及的速やかに。外国出願を検討している場合には尚更。

限界その1:出願を遅らせることは、自社の出願前に「第三者からの類似品販売」のリスクが高まる。結果、救済規定「新規性喪失の例外」を受けられないリスクが高まる。

限界その2:海外には、「新規性喪失の例外」がそもそも厳しい国もある。

この特許出願や特許権。まだ活きているの?それとも、死んでいるの?

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、前回に引き続き、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は過去の記事を参照ください。

2、特許出願や特許権が死んでしまうケース

特許出願が死んでしまうケースとして主なケースは、以下の3つです。

  • ケース1:出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。
  • ケース2:審査において拒絶査定が確定した。
  • ケース3:特許料の不納により消滅した。

※レアケースを含めると、ケース1~3以外のケースもありますが、説明が複雑になるため割愛します。

前述の6つのイベントとケース1~3の関係は、次のようになります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求 ⇒ ケース1(出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過)に該当すると死んでしまう。
  4. 審査対応   ⇒ ケース2(審査において拒絶査定が確定)に該当すると死んでしまう。
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持 ⇒ ケース3(特許料の不納)に該当すると死んでしまう。

3、ケース1の判別方法

(1)ケース1(出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。)の判別方法は次のように行います。

(2)まず、J-Platpatにおいて、出願番号や、公開番号などから、知りたい特許公開公報を検索します。

※検索方法は、過去の記事をご参照ください。

(3)特許公開公報を選ぶと、下のような画面が表示されます。ここで、「経過情報」を見るためには、赤枠で囲まれた「経過情報」のボタンを押します。

(4)「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース1の場合、「未審査請求によるみなし取下」と表示されます(赤枠部分)。

4、ケース2、3の判別方法

(1)ケース2(審査において拒絶査定が確定した)の判別方法も同様です。「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース2の場合には、「拒絶査定」と表示されます(赤枠部分)。

(1)ケース3(特許料の不納により消滅した。)の判別方法も同様です。「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース3の場合には、「年金不納による抹消」と表示されます(赤枠部分)。

(2)ちなみに、特許権が継続している場合には、「本権利は抹消されていない」と表示されます(赤枠部分)

5、まとめ

  1. 特許出願が死んでしまうケースは、3つある。
    ケース1:出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。ケース2:審査において拒絶査定が確定した。
    ケース3:特許料の未納により消滅した。
  2. どのケースに該当するかは、「経過情報」を見ればわかる。
  3. 「経過情報」は、J-Platpatを見ればわかる。

何かの参考になれば幸いです。

よくあるお客様の勘違い【特許公報と特許公開公報】

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、前回に引き続き、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許発明の公開

特許権が成立すると、その特許発明の製造販売は、特許権者だけが独占的に可能となります。言い換えれば、他人がその特許発明の製造販売を無断で行うと、特許権侵害となるため、他人は、その特許発明の製造販売を自由に行うことができません。しかしながら、特許権が発生した場合、その権利の内容が非公開のままでは、どうなるでしょうか?自社の商品は、誰かの特許権を侵害しているかもしれない?突然、誰かから特許権侵害だ!と訴えられるのかもしれない?

といったような不安がよぎるため、他の人は安心して事業活動ができません。そこで、特許権が成立した場合には、特許公報を発行して、他人に権利の内容をお知らせしているのです。

3、特許公報だけが公報ではない

これが、お客様が良く勘違いする点です。実は、特許に関する公報として、主なものは2種類あります。1つは、特許公報。

もう1つは、特許公開公報。特許公報との見分け方は、「公開」の文字が入っているか否かになります。

(1)特許公報について

こちらは、特許出願について特許権が成立した場合に公開されます。

(2)特許公開公報について

こちらは、特許出願の日から1年半が経過すると、特許出願の内容が公開されます、つまり、特許権が成立していなくても、公開されます。

このため、

特許に関する公報に記載の発明だから、誰かが独占している発明なんだ!

なーんて早合点しないでください(ここが勘違いされるポイントです)。公報の種類が、特許公報なのか特許公開方向なのかを調べた上で、

  • 特許公開公報である場合には、出願日から1年半が経過した発明なんだな!
  • 特許公報である場合には、特許を取得した発明なんだな!

と思ってください。

4、特許公報を見てみよう

実際の特許公報を見てみましょう。こちらが特許公報の1ページ目の全体です。

下が、特許公報の1ページ目の上半分の拡大図になります。

主要部(赤線部)を説明しますと、一番上の中央部に大きく「特許公報」と書いてあります。その右下に、特許番号と登録日が書いてあります。その下の2本の二重線を飛び越して左側には出願番号(特許庁が付与した番号)

  • 出願日(特許庁が出願書類を受け付けた日)
  • 右側には、
  • 特許権者
  • 代理人
  • 発明者

等々いろいろなことが書いてあります。※こちらは弊所のお客様の特許公報です(本人の許可をもらっています)。

 

5、肝心の特許権の内容はどこに?

特許権の内容、つまり、特許発明の内容は、【特許請求の範囲】に書いてあります。下は、特許公報の1ページ目の下半分の拡大図になります。

請求項1のところに、発明の内容が書いてあります。平たく言うと、「ペット用の被服で、保冷剤やカイロを入れるポッケの口を、被服の縁に持ってきました!」という発明です。文章だけだとわかりにくいのですが、図を見れば一目瞭然です。

6、特許公報はどこでもらえる?

特許公報は、J-platpatで検索することができます。

番号が分かっている場合は、特許番号で検索します(上図の①から入ります)。出願人が分かっている場合は、出願人名で検索します(上図の②から入ります)。

7、まとめ

  1. 特許発明は、特許公報に記載されている。
  2. 特許公報と、特許公開公報は別物なので注意しよう。
  3. 特許発明を知りたければ、特許公報の【特許請求の範囲】を読もう。
  4. 特許発明の理解には、図面を合わせて読もう。
  5. 特許公報は、J-platpatで検索して入手することができる。

「特許表示」 一歩間違えると刑事罰対象に!?

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回は、「特許の権利化までの手続きがわかりくい!」という声に応え、「特許の権利化までの手続き」できるだけわかりやすくご紹介したました。今回は、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許出願を済ませばOK?

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許表示の罠

「特許出願を済ませた」=「特許取得」と勘違いする方は多いようです。通常、特許出願した後に、発明品の販売を行うのですが、その発明品のチラシに、「特許製品」「特許技術」や、「オリジナル特許」と表示されるケースを時々見かけます。ところが、「特許製品」「特許技術」「オリジナル特許」という表示に問題があります。

3、特許法によると・・・

特許法第百八十八条(虚偽表示の禁止)には次のようなことが記載されております。

何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

  • 一 特許に係る物以外の物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
  • 二 特許に係る物以外の物であつて、その物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付したものの譲渡等又は譲渡等のための展示をする行為
  • 三 特許に係る物以外の物の生産若しくは使用をさせるため、又は譲渡等をするため、広告にその物の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為
  • 四 方法の特許発明におけるその方法以外の方法を使用させるため、又は譲渡し若しくは貸し渡すため、広告にその方法の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為

すなわち、特許を取っていないのにもかかわらず、あたかも特許権を取得しているような紛らわしい表示をした場合には、虚偽表示に該当します。さらに、特許法第百九十八条には次のようなことが記載されております。

第百八十八条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

また、特許法第二百一条(両罰規定)には、には次のようなことが記載されております。

1 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

  • 一 第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑
  • 二 第百九十七条又は第百九十八条 一億円以下の罰金刑

2 前項の場合において、当該行為者に対してした前条第二項の告訴は、その法人又は人に対しても効力を生じ、その法人又は人に対してした告訴は、当該行為者に対しても効力を生ずるものとする。

3 第一項の規定により第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。

つまり、特許を取っていないのにもかかわらず、あたかも特許権を取得しているような紛らわしい表示をした場合には、刑事罰の対象となり、懲役3年以下、300万円以下の罰金に科されますし、法人の場合には、1億円以下の罰金の対象となります。

発明品のチラシを作って販売する時点で、ほとんどが法人である可能性が高いと思いますので、行為者には、懲役3年以下、300万円以下の罰金に科され、その勤め先の企業には、1億円以下の罰金が科されます。無視することのできない大きな問題です。

4、ではどう表示すればよいの?

特許出願後、特許取得前においては、「特許製品」等ではなく、「特許出願中」「特許出願済」と表示します。一方、特許取得後は、「特許製品」「特許技術」等と堂々と表示することができます。

5、まとめ

  1. 特許表示を一歩間違えると刑事罰になる
  2. 特許出願後、特許権取得前 → 「特許出願中」「特許出願済み」と表示
  3. 特許権取得後       → 「特許製品」「特許技術」と表示

弊所のお客様の成功事例のご紹介 ~技術系の中小企業の成長パターン~

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。ここ数年、お客様の中の数社が、良い業績を出しつつあります。その例について、ご紹介したいと思います。

1.技術開発に成功したので、特許を取りたい!

最初の出会いは、今から約3年前、特許相談でした。

とある技術的なアイデアを保護したいんです!以前は、特許を取らなかったがために、オリジナル技術が他社に使われてしまった。今回はそうなりたくないので、特許が欲しい!

というものでした。そこで、新商品リリースの前に、特許出願を行いました。

2.「新商品リリース」の前にすべきこと!

特許出願後、その技術を利用した新商品をリリースすることになりました。商品名も決まりました(ここでは、仮に、「ABC」とします)。

お客様:新商品リリースの前に、特許出願を済ませたので、もう大丈夫でしょうか?

かめやま:インターネット経由のPRを行うのですよね?そうすると、皆がこの商品名を知ることになります。良い方に転べば、売り上げにつながりますが、悪い方に転ぶと、第三者による名称の模倣や、商標登録の抜け駆け出願のリスクがあります。このため、商品名の商標登録を取得を勧めました。

3.新商品の商標登録だけじゃ「モッタイナイ」

そこで、次のような提案をしました。単に、名称「ABC」の商標登録をするだけではもったいないです。折角のオリジナル技術なので、「その技術のブランド化のための商標登録」を併せて勧めました。より詳しく言うと、その技術のブランド化に寄与しそうな名称「ABX」に微調整し、名称「ABX」を、新商品及び新技術サービスの共通名称としました。

4.営業活動 兼 ブランディング活動

その後、お客様の努力の甲斐もあって新商品が市場に次第に浸透していきました。と同時に、新商品の商品名「ABX」が市場に浸透していきました。これに伴って、商品名「ABX」と同じ名前の技術サービスが市場に浸透し、お客様の技術がオリジナル技術として認知されるようになりました。すなわち、商品名「ABX」の宣伝を通して、お客様の技術がブランドとして成長していったわけです。

5.新しい商談が舞い込む

とある展示会にて、新商品及び技術サービスを展示しました。そこでは、沢山の企業から声をかけられました。これまでであれば、「こちらから声をかけても相手にしなさそうな企業」ばかりでした。商談の内容は、お客様の技術及び技術ブランド「ABXを利用したコラボ商品の提案でした。そこで、商標権を利用したライセンス契約による名称使用料という収入源構築を目論見ながら、コラボ商品のための技術開発を進めることとなりました。

その結果、

  1. 新しい技術が生まれたので、この技術を採用したい・・・。
  2. この技術について特許を出しておけば、コラボ先から浮気されることもなくなる。
  3. 結果、継続的な収入を確保できる。

という良い流れになります。

6.技術系の中小企業の成長パターン

この企業の成長フローは以下のように表せます。

  1. 技術開発に成功
  2. 技術の保護(特許、契約か秘匿)
  3. 商品企画
    名称決め(単なる名前ではなく、信用・ブランドの器となる名前決め)
    その名称の商標登録
  4. 営業開始
    商標を利用した自社商品のPR活動
  5. 新商品が浸透し、新しい商談が舞い込む(売上UP+α)
    新商品のブランド化
    そのブランドを通して、技術に興味を持つ企業も現れる
    オリジナル技術のブランド化
  6. その技術を利用した新しい開発案件が舞い込む
  7. 技術開発の成功
  8. 技術の保護(特許、契約か秘匿)・・・(2に戻って繰り返し)

これが、技術系の中小企業の成長パターンの1つだと思います。実際のところ、弊所のお客様の中でも、数社がこのパターンに乗っかっていますし、数社はこのパターンに乗っかろうとしています。しかも、いずれの技術内容もローテクに属するもの。市場に受け入れられるものであれば、技術レベルは関係ありません。

弊所のお客様の中から、このような会社が1社でも多くなるような活動を継続していきたいと思います。

大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。4月になりました。新しい期の始まりです。新しい期に入ったことで、これから開発系の助成金の募集も始まると思います。開発系の助成金を取って、大学と共同研究して、その技術成果を利用して次のご商売につなげたい!と考えている方も多いと思います。

先日も、地元のものづくり企業の社長さん達に対し、共同開発契約書のレクチャー行いました。そこで改めて思ったことは、大学との共同研究が初めての方や、まだまだ経験の少ない中小企業の社長さんも多いということでした。大学との共同研究では何が起こるのでしょうか?

  • 途中でもめてしまい、最終的には破談となったり・・・
  • 成果が出たものの、当初の企業側の希望とは全く異なるものになってしまったり・・・

上手に進めていかないと、最終的に損をするのは、大学ではなく企業側となります。そこで今回は「大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと」について述べたいと思います。

弊所でも共同研究の契約書のチェックや交渉(またはその立ち合い)を行う場合がありますが、知的財産の関係では、

  • 研究成果の帰属
  • 共同出願の取り扱い
  • 秘密保持(成果物の発表含め)

が特に重要になります。

※実際には、他条項へ影響が及ぶ場合もあるため、全体的なチェックが必要になります。

1、研究成果の帰属

共同研究を通してできた知的財産(アイデア、技術等)は、

  • 大学のもの?
  • 企業のもの?
  • 両社の共有物?

といった取り決めを行います。

この取り決めを、成果物ができた後に行う場合、成果物利用する側(つまり企業側)の交渉力が下がってしまいます。

※その理由は「ルパン三世と不二子ちゃん」の関係です。ピンとこない方は、弊社の過去のブログ記事「特許出願に関する誤解」 をご参照ください。

したがいまして、「こちら側に交渉力があるときに契約をまとめてしまう!」これが交渉のセオリーです。

大学との交渉の場合には、大学の研究費は企業負担となるため、「大学側が研究費が欲しいなぁと思う時」つまり、申し込み時に行うのがセオリーです。

2、共同出願の取り扱い

成果物に関する特許出願。成果物が大学との共有物の場合、大学との共同出願となるケースが多いのですが、出願に関する費用は企業持ち・・・となるケースが多いです。費用が企業持ちなら、出願の持ち分は企業単独がイーブンでは?という考えもありますがが・・・

ここは、

  • 大学の協力なしには、成果物はできなかった
  • 大学の名前を実績として使いたい!

等、別の理由もありますので、最終的には、事業戦略上のトレードオフとなります。

3、秘密保持(成果物の発表含め)

成果物の中には、

  • (企業側として)ブラックボックスにしたく特許出願をしない!

というものもあります。一方、

  • 大学としては成果を論文発表したい!

ここで利害が対立します。秘密保持(成果物の発表含め)という条項は、この利害調整の役割を果たします。要点としては、

  • 発表前の事前承諾
  • 発表内容の時期・内容・方法などの協議の機会の確保

となります。

4、他には?

気を付けたいポイントとして実は、もう2つあります。それは、

  • 大学(組織として)のスタンスと
  • 教授のスタンス

肝は

  • 信頼関係が構築できる相手なのか?

前者は組織なので、ポリシーの確認でよいと思いますが、後者は個人。ポリシーとキャラクターが混在するため、そのジャッジが難しいところ・・・です。

5、まとめ「大学との共同研究で気を付けたいこと」

1、研究成果の分担

アイデアはだれのもの?

2、共同出願の取り扱い

費用負担は誰が? 権利保有は誰が? 両者のバランスは?

3、秘密保持(成果物の発表含め)

時期・内容・方法の協議の機会は事前にもらう。

4、大学のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーの面からジャッジ可能。

5、教授のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーとキャラクターの混在につき、ジャッジが難しいケースも有り。

何かのご参考になれば幸いです。

大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。4月になりました。新しい期の始まりです。新しい期に入ったことで、これから開発系の助成金の募集も始まると思います。開発系の助成金を取って、大学と共同研究して、その技術成果を利用して次のご商売につなげたい!と考えている方も多いと思います。

先日も、地元のものづくり企業の社長さん達に対し、共同開発契約書のレクチャー行いました。そこで改めて思ったことは、大学との共同研究が初めての方や、まだまだ経験の少ない中小企業の社長さんも多いということでした。大学との共同研究では何が起こるのでしょうか?

  • 途中でもめてしまい、最終的には破談となったり・・・
  • 成果が出たものの、当初の企業側の希望とは全く異なるものになってしまったり・・・

上手に進めていかないと、最終的に損をするのは、大学ではなく企業側となります。そこで今回は「大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと」について述べたいと思います。

弊所でも共同研究の契約書のチェックや交渉(またはその立ち合い)を行う場合がありますが、知的財産の関係では、

  • 研究成果の帰属
  • 共同出願の取り扱い
  • 秘密保持(成果物の発表含め)

が特に重要になります。

※実際には、他条項へ影響が及ぶ場合もあるため、全体的なチェックが必要になります。

1、研究成果の帰属

共同研究を通してできた知的財産(アイデア、技術等)は、

  • 大学のもの?
  • 企業のもの?
  • 両社の共有物?

といった取り決めを行います。

この取り決めを、成果物ができた後に行う場合、成果物利用する側(つまり企業側)の交渉力が下がってしまいます。

※その理由は「ルパン三世と不二子ちゃん」の関係です。ピンとこない方は、弊社の過去のブログ記事「特許出願に関する誤解」 をご参照ください。

したがいまして、「こちら側に交渉力があるときに契約をまとめてしまう!」これが交渉のセオリーです。

大学との交渉の場合には、大学の研究費は企業負担となるため、「大学側が研究費が欲しいなぁと思う時」つまり、申し込み時に行うのがセオリーです。

2、共同出願の取り扱い

成果物に関する特許出願。成果物が大学との共有物の場合、大学との共同出願となるケースが多いのですが、出願に関する費用は企業持ち・・・となるケースが多いです。費用が企業持ちなら、出願の持ち分は企業単独がイーブンでは?という考えもありますがが・・・

ここは、

  • 大学の協力なしには、成果物はできなかった
  • 大学の名前を実績として使いたい!

等、別の理由もありますので、最終的には、事業戦略上のトレードオフとなります。

3、秘密保持(成果物の発表含め)

成果物の中には、

  • (企業側として)ブラックボックスにしたく特許出願をしない!

というものもあります。一方、

  • 大学としては成果を論文発表したい!

ここで利害が対立します。秘密保持(成果物の発表含め)という条項は、この利害調整の役割を果たします。要点としては、

  • 発表前の事前承諾
  • 発表内容の時期・内容・方法などの協議の機会の確保

となります。

4、他には?

気を付けたいポイントとして実は、もう2つあります。それは、

  • 大学(組織として)のスタンスと
  • 教授のスタンス

肝は

  • 信頼関係が構築できる相手なのか?

前者は組織なので、ポリシーの確認でよいと思いますが、後者は個人。ポリシーとキャラクターが混在するため、そのジャッジが難しいところ・・・です。

5、まとめ「大学との共同研究で気を付けたいこと」

1、研究成果の分担

アイデアはだれのもの?

2、共同出願の取り扱い

費用負担は誰が? 権利保有は誰が? 両者のバランスは?

3、秘密保持(成果物の発表含め)

時期・内容・方法の協議の機会は事前にもらう。

4、大学のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーの面からジャッジ可能。

5、教授のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーとキャラクターの混在につき、ジャッジが難しいケースも有り。

何かのご参考になれば幸いです。

商標登録って、自分でもできるんでしょ?

弁理士の亀山夏樹です。今回は、中小企業200社以上の相談実績を通し、知的財産の相談における「あるある」についてお話したいと思います。

今回は、商標登録についてです。

「商標登録って ネットでちょちょいと調べられるんでしょ?」時々、知り合いの経営者からこんなことを聞かれます。結論から言うと・・・「いいえ」です。専門家でも悩むときがありますので。その理由は次の通りです。

1.商標調査の目的

商標調査の目的は大きく2つあります。

  • A.使用予定の商標が、本当に(合法に)使用できるかを調べる
  • B.使用予定の商標が、商標登録を受けることができるかを調べる

調査の観点はいろいろありますが、上記2つに共通するものとして、先行登録商標(商標権が発生している商標)の有無があります。先行登録商標の有無は、J-Planatでも調査可能です。

2.先行登録商標の有無

先行登録商標の調べ方は、以下のようにして行います。

  1. お客様の希望する商標権の範囲の特定
  2. お客様が希望する商標を使用した場合に、それは、「ウチの商標権侵害じゃない?」と文句をいわれそうな商標権の抽出
  3. 抽出した商標の権利範囲を特定
  4. 商標権侵害の成立の判断

1)と3)の両者がオーバラップしているか否かを判断し、「オーバラップしている ⇒ 侵害成立 ⇒ 使えない」「オーバラップしていない ⇒ 侵害非成立 ⇒ 使える」といった判断をします。

ここで、慎重にジャッジしたいのは1)~3)、すなわち、権利範囲に絡む部分です。そもそも、商標権の侵害は、商標と商標・役務(サービス)のいずれかが非類似であれば、不成立となります。縦軸に商標、横軸に商品・役務(サービス)をとって表に表すと、このように表されます。

商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 侵害 侵害 非侵害
類似 侵害 侵害 非侵害
非類似 非侵害 非侵害 非侵害

侵害成立するか否かについては、侵害成立の境界線、つまり、

  • 商標が類似か非類似か?
  • 商品・役務が類似か、非類似か?

がポイントになることがわかります。しかも、類似・非類似の判断には、画一的にゆかないところがあるので本当に気を使います。とてもとても、ちょちょい とはいきません。しかし、難しいのは商標・商品の類否だけではありません。

3.商品・役務の選び方

ここで問題です。

指定商品「コーヒー豆」と指定商品「コーヒー」。この2つの違いはどこにあると思いますか?

特許庁の見解では・・・

  • 商品「コーヒー豆」  ⇒  焙煎前のコーヒー豆
  • 指定商品「コーヒー」 ⇒  焙煎後のコーヒー豆、 液体のコーヒー

となります(ざっくりいえば、前者は、BtoB、後者はBtoCとなります)。

なので、「焙煎後のコーヒー豆」を販売しているかたは、指定商品「コーヒー豆」と表記したくなっても、指定商品「コーヒー」と表記しなければならない。手間隙かけて、指定商品「コーヒー豆」で権利をとっても、実際の事業で使用している肝心の商標はノーガード・・・と、なってしまいます。

これは、笑えません。

商標権を取得するにあたり、特許庁の方言をかみしめながら、「法律上、自社ビジネスは、どのように表現されるのか?」をよくよく吟味する必要があります。コーヒー豆(焙煎後)を売ってるからといって、

「指定商品「コーヒー豆」で商標登録を受けよう!」

ということは危険なんです。

4.まとめ

1 商標調査の目的

使用可能性の調査と登録可能性の調査の2つがあります。

2 先行登録商標との関係

自社商標の使用行為が、相手の商標権を侵害するか否かは、「商標」と「商品・役務」の2つの観点から検討します。

商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 侵害 侵害 非侵害
類似 侵害 侵害 非侵害
非類似 非侵害 非侵害 非侵害

3 同一か否かの判断あれば素人でもできますが・・・

類否判断は専門家でも悩む場合もあります。なお、一次調査として、同一の調査はご自身で行い、そこをクリアーしたものについて、類似の範囲における判断を専門家に依頼する、とすることもよいと思います。

4 商品・役務の指定は意外と難しい

いわゆる「コーヒー豆」であっても、特許庁の方式によれば、焙煎前では「コーヒー豆」の表記となって、焙煎後では「コーヒー」の表記となります。このように、商品の表現の仕方は、特許庁の方言を考慮しないとならないため、よくよく検討されることが必要です。

最後までお読みいただきありがとうございました!

何かの参考になれば幸いです。

法人設立時の会社の名前決めの際にチェックしたいところ

弁理士の亀山夏樹です。1年くらい前の弊所の話になりますが、雇用準備の関係もあり、法人設立の準備をしておりました。法人設立にあたり、本店の所在地、資本金や役員の数など決めごとをしなければなりません。この辺の決め事は、リクツでなんとかなるのですが。リクツで決めにくいモノは、悩ましく・・・

それが、法人の名前決め。

自分にとって非常に悩ましいのです。ここでは、知的財産の観点から、法人の名前決めについて考えたいと思います。

1.名前選びの基準

名前決めに当たっては、通常

  • A 経営理念
  • B 商号
  • C 商標
  • D 商売の内容を示唆する名前

あたりを検討すると思うのですが、今回は、商品名ではなく、法人名(企業名)。ということなので、Dの優先度を下げ、A~Cの3点で検討したいなと思っていました。A~Cを分解すると、

  • A1 経営理念に沿っているか
  • A2 お客様に理念が伝わるか
  • A3 社員に理念が伝わるか
  • A4 協力会社に理念が伝わるか
  • B1 名前を会社名として使用できるか(商号の問題)
  • C1 名前を商標として使用できるか(商標の問題)
  • C2 同じ商標を先行使用されている企業があるか?ある場合は、そのイメージ(特に悪い方)を引きづらないか?

この中で一番難しいのは、経営理念に関するA1~A4。経営理念に沿った言葉・・・千葉県中小企業家同友会での学びのおかげで経営理念は一応あるのですが、経営理念に沿った言葉って何?正直、自分探しみたいなもので、正解がみつからないところ。ほどよい着地点がみつかればよいなぁ、と思っていました。

一方、会社の名前として・・・

ありふれた名前では個性がないだろうし、覚えてもらいにくい。とはいえ、狙いすぎた結果、これまでの自分と整合性のない名前もイマイチ・・・昨年の流行語大賞にあやかって

株式会社そだねー

・・・イマイチですよね。

2.名前探しの旅

と、いうことで。理念に沿った言葉探し。なぜ、今の仕事をしているのか?なぜ、開業したのか?いわば、自分探しの旅。自分の言葉を振り返るべく、過去のブログを読みあさっていました。(ブログをやっていて良かったです。)旅を終え、名前の候補が3つくらいみつかる。

1つ目は、開業前に考えた名前。2つ目・3つ目は、ブログから引っ張って来た名前。これらを、A 理念の観点でチェックしてみると・・・。

1つ目はイマイチ。なんか、「らしさ」というか、自分の手垢感がない。さすがは開業前の言葉。一方、2つ目・3つ目は、「らしさ」がある。さすが、開業後の言葉です。

3.商標・商号のチェック

どんなに良い名前でも、適法に使用できなければな意味がありません。ここでチェックしたいのは、B 商号と C 商標。

まずは、C 商標についてチェックしてみる。2つ目は、役務違いですが、登録数が多い。使用数も多い。したがって、目立ちにくいし、憶えてもらえにくい。3つ目は、登録数・使用数がほとんどない。よって、目立ちやすいし、憶えてもらいやすい。

ここから、3つ目の社名が第1候補となります。次に、B 商号に戻って、3つ目の社名候補について商号のチェック。現在、敏腕司法書士に調査してもらっています。

4.良い名前のリスク

良い名前。良い名前であればあるほど、自分だけが使いたいと思うはずですし、他人に使ってほしくないと思う方も多いです。そのため、自分が良いと思った名前も、他人にとっても良い名前であり、結果、多くの他人が使用していることも珍しくありません。

そういった名前には、良くも悪くも、他人の手垢がついており・・・それ以上に、自社ブランドイメージの毀損、商標権侵害の問題につながっりやすく・・・一方、そこから離れた名前は誰も使っていないことが多く・・・自社ブランドイメージの毀損、商標権侵害の問題から遠ざかる。結果、自社ブランドイメージをつくりやすくなる。

他人の手垢(土俵ともいうのでしょうか?)から離れたところで、自社の経営理念との整合性を取る・・・名前決めは、難しい部分も多いですが、

  • 一度使い始めたらそうそう代えられない物が名前。
  • その事業(その人)の信用がくっつくのも名前。
  • ブランドの器となるのが名前。

なので、会社の名前は、慎重に考えたいところです

5.まとめ

法人設立時の会社の名前決めの際にチェックしたいところ

A 経営理念

  • 経営理念に沿った名前か
  • 名前を通してお客様に理念が伝わるか
  • 名前を通して社員に理念が伝わるか
  • 名前を通して協力会社に理念が伝わるか

B 商号

  • 名前を会社名として使用できるか?(登記前の調査)

C 商標

  • 名前を商標として使用できるか(商標調査)

何かの参考になれば幸いです。

集客に寄与する店舗名・商品名の考え方

中小企業・個人事業主を支援する弁理士の亀山夏樹です。今回は、「集客に寄与する店舗名・商品名の考え方」についてお話したいと思います。

1.ある日の商標相談

お客様は、新商品の商品名について商標登録をされたい方。

お客様 :事務所ホームページの記事を見てきたのですが・・・

かめやま:ありがとうございます。

お客様 :商標登録の活用についてどのように考えればよいのですか?

かめやま:商標は、ご商売の目印。いわば看板です。

お客様 :えぇ。そうですよね。

かめやま:魚屋さんを例にとってみると・・・同じ魚屋さんでも、みな持ち味が違う。気に入るお店もあれば、そうでないお店もある。気に入ったお店には、次回も来たくなる。当然、他の友達にも伝えたくなる。お友達は、何を目印にお店に向かえばよいですか?その目印をどう伝えますか?

お客様 :場所とかですか?

かめやま:そうですね。角の銀行の向かいにあるお店・・・というのもあります。でも、それだけではないですよね?

お客様 :看板とか。

かめやま:そうです。店名とか、サービス名とか。例えば、店名「魚屋さくらや」。これが表に出ていれば、始めていく人も、「記憶にあるあの店」と「目の前にある店」がつながる。

お客様 :なるほど。

かめやま:「記憶にあるあの店」が「目の前にある”隣の店”」では困りますよね。

お客様 :お客様がよそへ流れていってしまう。

かめやま:だから、その目印となる商標は大事。なぜならば、商標は集客動線を構成するので。したがって、「集客に寄与する商標であれば自社で独占したい!」となりますよね。

お客様 :店名以外にも商標登録しておいたほうが良いものはありますか?

かめやま:例えば、キャッチコピー的なものですね。カメラのさくらやではないですが、「鮮度爆発」みたいなものです。そのお魚屋さんの差別化要素が、お客様の心をフックする言葉がよいですよね。

お客様 :たしかにそうですね。

2.商標登録の際に検討したい3つのポイント

かめやま:商標登録の際に検討したいのは、次の3つです。

  1. 自社の差別化要素の把握
  2. 差別化要素を利用した集客の動線づくり
  3. 自社水路の確保

お客様 :なるほど。

かめやま1の「自社の差別化要素」が「鮮度」であれば。2の「集客の動線づくり」として、店名「魚屋さくらや」もよいですが、「鮮度爆発」のようなキャッチコピー的な要素があるとよいですよね。

お客様 :となると、守るべきは、「魚屋さくらや」だったり「鮮度爆発」になるのですね。

かめやま:そうです。中でも、自社が使い続けたいものや、自社だけが使いたいものを優先して守りたいですよね。

お客様 :それが、3の「自社水路の確保」につながるのですね。

かめやま:そうです。その目印を商標登録することによって、動線となりえる目印を他社が使えなくなる。結果、自社水路の確保が達成される。

お客様 :なるほど。よくわかりました。商標登録って、営業とか販売促進の考え方に近いものがありますね。

かめやま:そうなんです。営業戦略に基づいて商標登録を活用する方法もあるんです。

3.まとめ

商標登録の際に考えたい3つのこと。

1、自社の差別化

例 魚屋であれば「鮮度」

2、差別化を利用した集客の動線づくり

例 「鮮度爆発」によって、差別化要素「鮮度」を際立たせる

3、自社水路の確保(動線となりえる目印を他社に使わせない)

  • ア 「動線となる目印」の商標登録を済ませておく。
  • イ アにより、他社が「動線となる目印」を無断使用する行為は、商標権侵害となる。
  • ウ イにより、他社は「動線となる目印」を自由に使えなくなる結果、自社水路の確保が達成される。

お客様のご商売繁盛の参考になれば幸いです。

新商品リリース時における「落とし穴」

弁理士の亀山夏樹です。今回は、中小企業200社以上の相談実績を通し、新商品リリース時における「ありがちな落とし穴」についてお話したいと思います。

1.ある日の特許相談

相談者は、とあるアイデアを思いついた中小企業の社長。このアイデアをベースにした新商品の工具を試作してみたところ、社内の反応では、どうやら売れそうだとの感触を得ました。そこで、新商品について特許をとれるかどうか、弊所へ相談に来られました。

2.特許取得も大事ですけども・・・

かめやま:なるほど、この工具のグリップが三角形になっているところがポイントなんですね。

お客様:そうなんです。特許は取れそうでしょうか?

かめやま:類似品は他社から販売されてないのですか?

お客様:どこからも販売されていません。もちろん、ウチもまだ販売していないですよ。特許を出してから販売ですよね?

かめやま:公開前・販売前の特許出願、良い習慣ですね。しかし、製品が出ていなくとも、特許出願だけ出されているケースもありますし・・・そこは特許文献の調査をしてみましょう。

お客様:お願いします。

かめやま:ところで、この商品は、どのように販売するのですか?自社販売ですか?それとも、営業代行会社を使いますか?それとも、Amazonのようなネットショップでの販売になりますか?

お客様:HP(ホームページ)を使った販売になりますが、自社でやろうか、他社に頼むかは検討中です。

かめやま HP上の販売なのですね。ところで、商品名はどうされますか?

お客様:この「三角形」をイメージした「おにぎり君」でいいかな?と思っています。

3.たかが商品名。されど商品名

かめやま:「おにぎり君」、可愛い名前ですね。ところで、この「おにぎり君」は、商品名として使えるのですか?

お客様:え?どういう意味です?

かめやま:工具の商品名「おにぎり君」について他人の商標権が存在した場合、お客様は、工具について、商品名「おにぎり君」を使えなくなります。正確に言うと、工具の商品名「おにぎり君」を使用することによって、その他人の商標権侵害となってしまいます。

お客様:商標権侵害になるとどうなるのですか?

かめやま名称使用の差し止め(名称の使用停止)と、損害賠償請求の対象になります。また、悪質な行為は、刑事罰にもなります。

お客様:犯罪にもなるんですね。

かめやま:そうです。現実的によく発生するペナルティは、名称使用の差し止め(名称の使用停止)、そして、これに伴う副作用です。

お客様:副作用というと?

かめやま:まず、商品の出荷停止・在庫処分が余儀なくされます。次に、HPの変更作業が発生します。そして、古い商品名のパッケージの廃棄と、新しい商品名のパッケージの制作も必要になります。そして、新しい商品名でのPRのやりなおし・・・このように、金銭的な損失だけでなく、時間的なロス(機会損失)にもつながります。

お客様:たかが名前なのに、そんなに重いのですか?

かめやま:たかが名前・・・ではないですよ。特に、ネット販売の場合、調べ物をするとき、キーワード検索をしますよね。調べものと同じように、話題となっている商品名や、気になる商品名もまた、キーワード検索をする人が多いと思います。キーワード検索するためには、どんな名前が良いでしょう?

お客様:えぇ。どんな名前???

かめやま:覚えやすい名前です。覚えてもらわなければ、検索してもらえませんよね。

お客様:確かにそうですね。

かめやま:さらに、検索結果では、自社が先頭(少なくとも1ページ目)に出てこないとなりません。したがって、ネット販売する場合の商品名としては、「記憶しやすい名前」、「検索のしやすい名前」、「検索結果で一番前に出てくる名前」がよいですね。

お客様:なるほど。「検索結果で一番前に出てくる名前」というのは、SEOみたいなことをするのですか?

かめやま:それもありますが、それだけではありません。自社商品と同じ同じ商品名を、多数の同業他社が使用していたら、お客様は、同業他社のHPに流れてしまう。

お客様:それは困りますね。自社商品と同じ同じ商品名を、多数の同業他社に使用させては・・・あ!ここで商標権を使うのですね。そうすると、ウチの商品名(登録商標)を同業他社が使用できなくなる。その結果、商品名を記憶したお客様を確実に自社HPへ集まることとなる。

かめやま:PRを一生懸命し、お客様に商品名を記憶してもらっても、同業他社に流れてしまう。これでは、穴の開いたバケツみたいなものですよね。そうならないためにも、自社の商品名を覚えてくださったお客様を、自社HPへ確実に誘導する仕組みをつくる。この仕組みづくりのために、商標権を利用するケースも多いです。特に、ネット販売系では、そのような目的で商標権を取得される企業様は多いです。しかも、キーワード検索によって商標権侵害を見つけやすい。

お客様:使用する側から見れば、商標権者から侵害行為が見つかりやすい。

かめやま:なので、他人の商標権の侵害行為となるような名称使用は避けたほうが良いです。

お客様:そして、集めた見込み客を漏らさず自社HPへ誘導するためにも、自社の商標登録は確保したほうがよい、というですね。

かめやま:そうです。しかし、まずは、他人の商標権に抵触するか否かの調査を行い、その後に、商標登録の手続きを進めることが良いと思います。

お客様:特許だけではなく、登録商標(商品名)の活用も大切なんですね。

4.まとめ

(1)商品名は、大切な集客ツール

(2)良い商品名

  • A 記憶しやすさ
  • B 検索のしやすさ
  • C 合法的に使用できる名前(他人の商標権侵害にならない名前)
  • D 合法的に独占できる名前(商標登録のしやすい名前)

何かの参考になれば幸いです。

コスパのよい特許出願 その1

弁理士の亀山夏樹です。小職は、中小企業200社以上の相談実績があります。今回はコストパフォーマンスのよい特許出願について、これまでのお客様の相談内容を振り返りながら考えていきたいと思います。

1.とある日の特許相談

先日お会いしたお客様。数年前に特許を出し、それから10か月が経過したころ。

優先権の利用を確認すべく、発明品に関する事業の現状を伺うも、「諸々の事情により、事業化は難しく・・・今回の発明は、権利化を見送ろうかなぁ」とのことでした。

2.相談から1年後

ひょんな出会いをきっかけに、その発明品についての商談が入る。しかも、スポットではなく、それなりの規模のようでした。

かめやま:お~!それは、良かったじゃないですか!

お客様 :そうなんですよー。発明品を見たいといわれたのですが、まだまだ改良も必要だし。

かめやま:そうであれば、○○○(発明のポイントその1)に対する周りの関心について探ったほうがよいですよね

お客様 :なるほど。しかし、その流れで、こちらが非公開情報までしゃべってしまいそうで・・・

かめやま:◇◇な観点で切り分けて、こっちならしゃべってOK。そうでなければお口チャック、とすればよいのでは?

お客様 :・・・うーん

かめやま:どうされました?

お客様 :やっぱり。かめちゃん、一緒に来てくれない?

かめやま:・・・ その商談にですか?

お客様 :一人だと、余計なことまでしゃべってしまいそうで・・・

かめやま:わかりました。

3.特許出願の後のすべきこと

出願から3年間は、無条件で”出願中”を維持できる。出願中にすべきことは、出願した発明品の内容を公表して営業活動。その営業活動により

  • 市場が反応するか否か
  • 商談が舞い込むか否か

リターンの見込みがあれば

  • 本当に権利取得したい形が見えてくる
  • 経済的価値のある部分が見えてくる

これが一つの権利化のタイミング・・・

もし、出願した内容が、市場の反応がずれていた場合は、

  1. ずれを補充するような別の特許出願を行う・・・(補強の発明については、お口チャックで)
  2. 特許出願が難しければ、意匠・契約など別の観点で、自社のポジションを守る手立てを行う。
  3. 諦めて別の事業を検討する

このように動かないと、権利化のための無駄なコスト・手間が生まれてしまいます。結果、特許出願のコストパフォーマンスは、中々向上しません。

特許出願は投資活動。事業の進捗と連動させなければ、コストパフォーマンスは悪くなるばかりです。言い換えれば、事業の進捗と連動させることができれば、コストパフォーマンスを向上させることができます。

本当は市場の反応を見てから出願したいところ・・・・。ところが、特許(実用新案登録・意匠登録も同じ)の世界では権利化のために新規性が要求されます。このため、発表前の出願が原則。もちろん、救済措置として、新規性喪失の例外がありますが、そこも完全な救済ではないため、場合によっては、使えない場合も。ということで、どうしても、不確実性が残ってしまう。

この不確実性をどう担保するかといったマネジメントが肝なのですが・・・。このマネジメントが甘いと、結果として、使えない箱モノをドンドンつくっちゃう某自治体のようになってしまいます。

※もちろん、出願してすぐに権利化に動くこともありますが、条件が揃わないと見切り発車の要素が大きくなり・・・

4.まとめ

特許出願の後にすべきこと

  1. 出願が活きている間(通常は3年間)に出願内容について営業活動を通し、その経済的価値を判定する
  2. 出願した内容に経済的価値が見込めれば、権利化へ。そうでなければ、補強を考える。
  3. 補強策の関係で、1.においては済ました特許出願に書いていない非公開情報(補強策に関係あること)はお口チャック

特許出願は投資活動。リターンが見込めそうな領域の権利化が望ましく・・・。リターンが見込めない特許権なんて不要ですよね。

何かの参考になれば幸いです。

特許出願の際に検討したい3つのこと ~差別化戦略の実行のために~

弊所は、中小企業200社以上の相談実績があります。これまでのお客様の相談内容を振り返りながら、特許出願の際に検討したいことについて述べたいと思います。

1.ある日の特許相談

先日の特許相談。

特許出願を検討されているお客様。特許出願を検討している背景として

  1. 研究成果による差別化
  2. 差別化の維持

があり、「差別化要素を保護するために特許を取りたいです!」とのことでした。

ここまでは、いつもの特許相談とほぼ同じなのですが、どこかスッキリしいない違和感を覚えていました。翌々考えてみると「なぜ、お客様が守りたいと言っている部分は、本当にお客様のビジネスにとって大切なものなのか?」という疑問が払拭できずにいたためです。そこを深堀りすべく、相談時間をいつもより長くとり、いろいろな質問を投げかけました。

すると、でてきました!

特許取得の背景の3番目(事情により非公開です)

その背景は、お客様の業界構造の特性等によるものです。条件が揃えば、こういう特許の使い方もあるのだと、感心します。

2.特許出願の目的は何?

特許出願を検討されている背景として

  1. 研究成果による差別化
  2. 差別化の維持

が相場です。

その背景には、事業における特許の活用が特許出願の前提であるのです。そうであるならば、単なる特許取得ではなく、

  1. その企業にとって事業基盤を保護できる特許
  2. その企業にとって事業に活用できる特許

が重要です。

そのために特許事務所としては「技術内容の把握」はもちろんなのですが、それだけでは足りません。どちらかというと、お客様の業界構造やビジネスモデルを把握した上で、「他社から守るべきはどこ?」を検討する必要があります。

しかし、そこは特許事務所だけが検討することはできず、弁理士とお客様が一緒になって検討することが重要なのだろう、と再認識しました。

3.特許活用のために、検討すべきこと

つまり、事業における特許の活用のためには

  1. 事業環境とビジネスモデル
  2. 保護すべき技術
  3. 法律

の検討が必要です。しかしながら、実際のところ、特許相談に来られるお客様のほとんどは、

  1. 保護すべき技術 を説明し、
  2. 法律 の見解を求める

といったケースが多いです。

しかし、特許の活用を考えると、

  1. 保護すべき技術

も当然ですが、

  1. 事業環境とビジネスモデル

も伺った上で、

  1. 法律の活用

についてコメントしなければ、折角取得した特許も、ビジネス上の実効性が乏しい特許に、つまり、活用しにくい特許になってしまう・・・

これでは、お客様と弁理士との双方にとって、アンハッピーな結果になってしまいます。折角の特許なのですから、自社の利益に結び付くような活用をしたいですよね。

4.まとめ ~特許出願の際に考えたい3つのこと~

1.事業環境とビジネスモデル

  • どのようなビジネスモデルを考えていますか?
  • なぜそのようなビジネスモデルを検討しているのでしょうか?

このプロセスを経て初めて、活用できる特許の道が開けます。冒頭のお客様のように、特有の事業環境が鍵を握っている場合もあります。

2.弱みとなる部分の検討

  • このビジネスモデルの強みはどこにありますか?
  • その強みは、模倣されやすいでしょうか?

模倣されやすい強みは、弱みになりやすいためです。

3.法律の活用

模倣による弱みを補うために法律を活用します。弱みの種類によっては特許でカバーできない場合もあります。そのため、当初の相談は、特許の内容であっても、意匠登録、商標登録や契約で対応することも珍しくありません。

皆様のご商売の参考になれば幸いです。

中小企業にとって特許出願が必要な場合

弊所は、中小企業200社以上の相談実績があります。これまでのお客様の相談内容を振り返りながら、中小企業にとって特許出願が必要な場合について述べたいと思います。

1.他社による模倣防止

特許出願が必要な場合。すぐに思いつくのは、自社商品の模倣を防止したい場合です。売れる自社商品は、他社も関心をもっています。特に、その商品の利益率が高い場合は、なおのことです。このため、「売れそうだな」「売れる」と思った場合には、販売前に特許出願をする場合が多いです。特に、インターネットにて販売する場合には、その商品を多くの人が見るため、模倣されるリスクも高くなります。

しかし、特許出願が必要な場合はこれだけではありません。弊所のお客様の例を挙げて説明したいと思います。

2.協力会社からの要請

よくあるケースは、自社商品の販売(の一部)を他社に委託する場合です。委託先からみれば、「売れそうだな」と思った商品であれば、自社だけが独占して販売したいはずです。つまり、模倣品が出ては困るのです。そこで、委託先は、委託元(製造元)に特許を取るように打診します。仮に、委託元(製造元)が特許を出すことを渋った場合には、「特許を受ける権利」を製造元から譲り受けた上で委託先が単独で特許出願を出す場合もあります。

弊所のお客様の場合、販売委託先から「この商品については、貴社が特許を出さないのであれば、ぜひ、わが社で特許を出させてくれ」という打診がありました。しかし、「このまま、相手方に特許を出させてしまうと、この商品が売れた場の利益はあまり得られないだろう・・・」ということで、お客様の方で出願されました。

実は、このお客様。過去にも似た経験がありましたが、当時は、「そんなに売れそうにないだろう」ということで、相手の特許出願を無料で許可してしまいました(※)。その後、予想に反して、その商品が売れてしまい、事業のチャンスを逃してしまいました。

※なお、「相手方に特許出願を無料で認める」くらいあれば、「有料で売る」または「譲渡の代わりに、自社の実施権(ライセンス)を確保する」という交渉カードを出しても良いと思います。

別のお客様の例としては、海外進出の際、現地のパートナー企業から「現地で、特許を取ってほしい」「現地で、商標登録を取ってほしい」と要請されたことを受けて、特許権や商標権を取得したこともありました。

3.技術ブランドの向上

どんなに素晴らしい技術であっても、その技術が小さな企業や無名な企業のものの場合、その技術に対する信用はなかなか得られない場合も多いです。ところが、その技術について特許を取得しているとなると、その会社の技術の独自性について国が認めたということになります。このように、国の力を利用して、自社の技術ブランドを高めることもできます。

さらに、その発明品が他社との共同開発の場合には、共同開発の相手方の技術ブランドを利用して、自社の技術ブランドの向上を図ることもできます。共同開発の相手先としては、大学や大手企業が考えられますが、中小企業の場合には、大学の方が多いです。

4.中抜き(浮気)防止

取引先から試作の開発依頼が入り、納品しました。試作納品の後の、量産依頼を期待したものの、その発注は来なかった。しらべてみると、取引先が、別の会社に量産依頼を出してしまった、という話もよくききます。

このような行為を防ぐために、すなわち、レッドカードを出せるようにするためにどのようにすればよいでしょうか?

それは、自社の試作開発で得た技術に関し、予め特許出願を済ませておくことです。この特許出願に基づいて特許権が成立した場合には、取引先がその開発品を製造販売する行為は、特許権侵害となります。特許権侵害のペナルティとしては、製造や販売差し止めや、損害賠償といった民事上のものもあれば、刑事上のものもあります。また、「特許出願中」という表示により、権利が成立した場合のペナルティを利用して、取引先に対し牽制をかけることもできます。このようにして、取引先は、無断で、開発品の製造販売をしにくくなります。なお、開発の契約内容によっては、開発した技術について特許出願を自由にできない場合がありますので、専門家にご相談されたほうが良いと思います。

まとめ

中小企業にとって特許出願が必要な場合としては、以下の4点があることをお伝えしました。

  1. 他社による模倣防止
  2. 協力会社からの要請
  3. 技術ブランドの向上
  4. 中抜き防止

特許出願の目的として、典型的な模倣防止以外にも3点あることを覚えていただければと思います。皆様のご商売の参考になれば幸いです。

海外進出の際に検討したい3つの事

ものづくり企業を支援するかめやま特許商標事務所の弁理士、亀山と申します。今月からものづくり経革広場へ記事を投稿させて頂くことになりました。これからよろしくお願いします。

海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?

先日の話です。

お知り合いの経営者と雑談していたところ、

1年前にリリースした新商品が、海外でも引き合いがあって・・・海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?

と質問されました。

その方との出会いは、3年前。出会った当時は「知的財産?なにそれ?」という方でしたが・・・。冒頭のような質問が出るということは、知的財産に対する意識が高まっている証拠です。さて、冒頭の質問「海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?」について考えていきたいと思います。

(知的財産のことは少し忘れて・・・)海外進出の際に検討したいことは何でしょうか?

まずは・・・

  • 自社商品・サービスが、現地で受け入れられるか?

そして・・・

  • 自社商品・サービスの提供により収益があがるか?

いずれも大切です。しかし、大切なことは、これだけではありません。

それは、

  • 自社商品・サービスを、現地で合法的に販売できるか?

です。

1、よくあるトラブル事例(現地の展示会に出展した場合)

展示会に出展し、反響は良好・・・。販売数も徐々に立ち上がってきて、上々の滑り出し・・・。そこで、突然、商標権侵害の警告状が届きます。

商標権侵害・・・。つまり、当該国において、自社商標(店舗名、サービス名、商品名等)の使用に違法性がある、ということです。

2、警告状の対処方法

警告状の対処方法としては、基本的には、以下の2つが考えられます。

  1. 自社商品の名称変更
  2. ロイヤリティの支払うことを前提に、商標を使用する。

在庫品ラベルの変更費用やチラシの変更費用を考慮すると・・・。現時点での名称変更は避けたく・・・このまま使用したい!

と思われる方が多いと思います。しかしながら、ここは、相手(権利者)の合意が必要ですので、必ず使用できるとも限りません。したがって、名称変更をせざるを得ない、となることが多いのが実態です。

3、問題の所在はどこに?

商標法、特許法、意匠法などの知的財産法では、日本の権利と外国の権利は別個のものと取り扱います。このため、日本の権利を持っているからといって、当然に、当該国でも同様の権利が認められる・・・とはなりません

したがいまして、当該国へ進出する前にすべきことは、自社商品の名称等の使用が合法であるか否か?つまり、当該国において、自社商品の名称等が、他人の登録商標になっていないか?となります。

4、どうすれば?

このようなリスクを回避するためにはどうすればよいでしょうか?まずは、当該国において、「自社の事業の障害となる他人の登録商標の有無」について調査(クリアランス調査)する必要があります。クリアランス調査を行わない場合、上記のような、商標権侵害などの警告状を現地企業からもらうリスクが高まります。

また、現地の代理店と提携している場合、現地の代理店から、「商標権侵害の有無はチェックしたのか?現地での商標登録は済んでいるのか?」と確認される場合もあります。

したがって、当該国において、事業の合法性を担保する意味でも、クリアランス調査は必須項目となります。

※今回は、商標権のリスクについて述べましたが、特許権や意匠権についても同様のことが言えます。

5、まとめ

海外進出の際に検討したいこととしては、

  • 自社商品・サービスが、現地で受け入れられるか?
  • 自社商品・サービスの提供により収益があがるか?

も大切な検討事項ですが、それよりも、前に・・・

  • 自社商品・サービスを、現地で合法的に販売できるか?

となります。何かの参考になれば幸いです。

参考:弊所のブログ記事

海外進出の際に検討したいこと その1

海外進出の際に検討したいこと その2

【助成金】海外進出・外国出願【H30年度】