町工場の3代目、由紀精密大坪社長に学ぶ

こんにちは!会いに行ける町工場社長、栗原です!

毎月、原稿の書き出しに、季節の様子をよく使いますが、たったひと月でその移り変わりを実感します。先月はあんなに清々しい気候だったのに、今月は、もう梅雨の真っただ中です。今日は少し暗い事務所でパソコンに向かっています。

さて、3代目候補として我が社(栗原精機)に入社した長男、匠(たくみ)との親子対談を記事にしたのは、4月のことです。おかげさまで、お会いする皆さんに、「良かったね」、「おめでとう」とお声掛けいただきます。息子の入社にあたっては、正直、葛藤もあったのですが、今となって、自分自身も本当に良かった、ありがたいことと実感しています。(記事はこちらでお読みいただけます)

町工場3代目経営者が描く、ものづくり中小企業の成長戦略

しかし、中小、零細製造業の後継者問題が大きく取沙汰される昨今、跡継ぎがいるというだけで注目されるという現実に、少し考えを新たにしなくてはいけないのでは?とも思えてきました。そんな折にお誘いをいただいたのが「町工場3代目経営者が描く、ものづくり中小企業の成長戦略」と題されたセミナーです。講師は、あの、株式会社由紀精密の大坪正人さん!これはもう、息子ともども、勉強させてもらわないわけにはいきません!

6月7日、会場は銀座。雨降る中でしたが、気持ちが若干高ぶりすぎたのか、ずいぶんと早くに到着。一番乗りを果たしました(笑)

ものづくりに関わる皆さんなら、株式会社由紀精密さん、ご存知だと思います。神奈川県茅ケ崎市の金属切削加工、従業員数は50名弱の中小企業ですが、その加工技術は航空宇宙産業から先端医療分野にまで高い評価を受け、いまや、世界中の企業と取引をする、言ってみればリアル「下町ロケット」。天皇陛下も皇太子時代に視察されたという超優良企業です!(詳しくはちら

実は、精密切削加工といえば、うち(栗原精機)も全くの同業なんですよね。1950年代に創業された由紀精密さんに遅れること10年ちょっと。その後の歩みはほとんどいっしょです。日本の経済発展に乗って、通信分野の部品加工で一時代を築いた後は、バブル崩壊やリーマンショックなど、荒波に翻弄されて明日をも知れぬ経験を幾度も味わいました。

私は2代目社長として、なんとか会社を維持するのが精一杯。一方、大坪さんはどん底の時期に3代目として家業に戻り、ご本人もおっしゃっていましたが、想像以上の苦難からの巻き返し、今や日本を代表する企業にまで至るストーリーは、ほんとうにドラマティックで、いやいや、ほんとにすごいなあと唸ってしまいました。

自社の技術を新しい分野に展開しようと、開発部門を社内に立ち上げて研究開発型の工場に転換、さらに、町工場レベルではなかなかハードルの高い広報分野にも人材を置き、ネットや展示会を通じて、その存在感を大きくしていったんですね。まあ、新しい仕事をとるなら、飛び込みでもと、いわゆる営業に力を注ぎそうなところを、さすがに発想が違うなと。もっと深く知りたいって方は、大坪さんが日刊工業新聞に連載されていた「町工場 三代目奮闘記」をぜひお読みになってください。映画かドラマになってもおかしくない話ですよ!

また、講演そのものが、普通のそれとは趣を異に、参加者からの質問に答えながらだったり、いくつかのお題から聞きたい話を多数決とったりという進行だったこともあり、由紀精密ヒストリーから、一昨年設立された由紀ホールディングスのこれからの展望に至るまで、え?そこまで話しちゃうの?って聞いてるほうがびっくりするほどのエピソードも飛び出して、めちゃくちゃ面白くて、かつ、勉強になりました。

とくに今回、セミナーの主催が日本ファミリービジネスアドバイザー協会(以下、FBAA)という団体であったということもあり、創業のおじい様から、先代社長のお父様のことなど、大坪家のちょっと変わった(?)家族愛の話が聞けたのはラッキーだったかも!席を並べて拝聴していたうちの息子も、身を乗り出して聞き入っていました。

栗原精機の3代目は何を思うか

ちょっと、ここで、いっしょにセミナーに参加した我が息子、匠に感想を聞いてみましょうかね!

栗原 匠です。今年の4月に栗原精機に入社しました。これからたまにこのブログにも出没しますので宜しくお願いします!

さて、参加した感想ということですが、仕事に就いたばかりで、右も左もわからない自分にとって今回のセミナーは大変勉強になることばかりでした。由紀精密の大坪社長には、以前からお話を伺いたいと思っていました。というのも精密切削加工の3代目という自分とほぼ同じ境遇で、どん底から世界中の企業と取引をするまでに至った経緯や取組に興味津々だったからです。

実際に話を聞いてホールディングス化についてなど視点が違うなぁ、本当にすごいなぁと関心しきりで。一方で実際に会社を立て直した具体的な事例や社長として心掛けていることなどは今後の栗原精機に活かせることもたくさんありました。

さて、話は前後してしまいますが、このセミナーに誘ってくれたのは、こちらモノカクでおなじみ、テクノポート徳山社長なんですが、徳山さん、FBAAの会員で、フェローとしてその運営にもあたっているとのこと。今回は、また、特別な計らいで、我々親子もセミナー後の懇親会にも参加させてもらいました。ここで西川理事長はじめFBAAの皆さんに伺ったお話は、今後の自社の経営に大きなヒントとなりました。

普段はあまり考えてはいなかったのですが、ファミリービジネスという経営形態の優位性を意識して、より良い方向へ向かえるように歩みを進めていこうと思った次第です。

後継者がいるということ

幸いにして、うちには後継者がいてくれて、正直、胸をなでおろしているところなんですが、それだけではなくて、会社としての価値なり評価なりが高まったなという実感もあります。(はい、お察しのとおり、取引銀行さんは押し並べて喜んでくださっていますよ~)

もちろん、家業は長男が継ぐなんて風習(?)は古い考えですけど、会社を永続的に存続させようとするのであれば、身内を後継者にという選択肢を持っておくことは重要かもしれません。今のご時世、その可能性を持っているというだけでも、会社は大きなアドバンテージを得ることになるんですよね。なので、うちの仕事、息子に継がせるのはどうかなあ、なんてお悩みの社長さん、ぜひ、前向きな気持ちになってほしいと思います。あ、ただね、よし!お前!跡継ぎやれ!って迫っちゃだめですよ!そこは、ほら、うまくことを進めないと。

うーん、なんとか、うちを成功事例にまでもっていくことができたら、もしかしたら、ものづくり日本を下支えする同志に勇気を与えられるかも!なんて思ってます。全国の同じ悩み抱える町工場の皆さんに説いて歩こうかしら。まあ、ちょっと高ぶりすぎですが、ほんと、少しでも世のためになればって。

今後、MAKERS LINKでも中小零細町工場の後継者問題や人材確保、育成のテーマも掲げていくので、ぜひ、ご意見交え、Facebookのグループページへ投稿、コメントをしてください。ものづくりコミュニティ・MAKERS LINKでお待ちしています!

中小製造業の事業承継の新しいカタチ

テクノポートの徳山です。数年前から新聞やTVなどのメディアが日本の事業承継問題について取り上げる機会が増えてきました。今後、後継者不足により廃業に追い込まれる中小企業がますます増えると言われています。そんな中、この問題の解決につながるかもしれない新しいカタチの事業承継も増えているようです。今回は「中小製造業の事業承継の新しいカタチ」について考えてみました。

事業承継問題を抱える日本製造業

後継者不在により廃業に追い込まれる中小製造業

中小企業白書の「中小企業の経営者年齢の分布」によると、2015年の時点で経営者の年齢で最も多いのが66歳となっており、これからも高齢化が進んでいくことが書かれています。後継者が見つからず、そのまま廃業に追い込まれる件数も年々上昇している状況です。

また、事業承継を希望している企業のうち、既に候補者が決まっている企業は44.0%と言われており(中小企業庁調べ)、多くの中小企業で後継者が不足していることが分かっています。このままでは更に廃業の件数が増える見込みで、日本経済にとって大きな懸念材料となっています。

なぜ日本の中小製造業は後継者不足なのか?

日本の後継者不足には少子化など様々な要因があると考えられます。跡取りとなるはずの子供が跡を継がず別の道を歩むというケースもありますが、現経営者である親が子供に苦労をさせたくない、という想いから事業承継に消極的になり、敢えて廃業を選択する、というケースも少なくないようです。

好景気から不景気を経験されている現経営者にとって(下手したら不景気しか経験していない)、自分がしてきた苦労を同族に生まれてきたからという理由だけで、我が子に背負わせることに躊躇してしまう気持ちも分からないでもありません。

また、不景気で会社が儲かっていないから、製造業自体の人気が若者に低いから、ということも積極的な事業承継につながらない理由として挙げられます。どんなに苦労しても会社が儲かっていたり、人気のある職業であれば後継者も積極的に後継の道を選ぶでしょうから。

そんな中、従来の承継方法(血縁関係のある同族内で後継者を探す)にとらわれない、事業承継問題を解決するための様々な解決方法が見出されています。

様々な事業承継のカタチ

中小製造業のブランドグループをつくる由紀ホールディングス

航空宇宙関連の精密部品加工を中心に事業展開している株式会社由紀精密の持株会社となる由紀ホールディングス株式会社は、後継難に陥っている技術力の高い中小製造業を買収し、ホールディングスの傘下に収める形式で事業承継問題解決の一翼を担うことを目指しています。

最近買収した企業は、3DCADを活用した複雑な形状の金型の試作や製造が得意な「昭和金型製作所」や、航空宇宙関連部品の加工を行っている「仙北谷」などがあります。

由紀ホールディングスは「ルイヴィトンなどのブランドを保有するLVMHグループのような中小製造業のブランドグループを作りたい」と考えており、新しい事業承継の在り方として注目されています。

個人的には、中小企業による中小企業のM&Aが増えることは、後継者問題のみならず人材不足解消の一手にもなるので良いことだと考えています。ものづくり補助金で設備を増やす企業は多いですが、M&Aを行う中小企業はほとんどいません。国内での生産量が増える見込みが無い中で、設備を増やすよりも今国内に存在する資産を最適化する方がより意義深いのではないでしょうか。

脱サラし3,000万円でアルミ加工会社を個人で買収

元メーカーのサラリーマンだった溝口勇樹氏(当時25歳)は、脱サラし京都でアルミ加工を行う有限会社美山精機を個人で買収した、というニュースが先日世間を騒がせました。なんでも溝口氏は、株式会社日本創生投資の三戸社長が出版した書籍「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」に影響されて行動を移したとか。

美山精機は地元金融機関が、この会社を潰したらもったいないと考えていた優良企業だそうで、溝口氏が会社を引き継ぐ際に1800万円の融資をし、その資金を元手に新たなスタートを切ったとのことです。

同様の動きが全国で広まっており、山口フィナンシャルグループでは、2019年1月に後継者不足に悩む中小企業と、経営者を目指す若者を結びつける新しい仕組みの事業承継ファンド新設したそうです。

ちなみに、現在弊社で進行中の自作ホームページPJに参画中の杉田社長(株式会社関東精密)も個人で会社を買収されたそうです。会社を引き継いだ後は、メタルDIYというワーキングスペース事業を立ち上げるなど、積極的な事業展開をされています。

後継者が積極的に新事業を生み出すベンチャー型事業承継

ベンチャー型事業承継とは、若手後継者が、家業が持つ有形無形の経営資源を最大限に活用し、新たなビジネスを創出する中で事業を承継していくベンチャー型事業承継が広まっています(引用元:株式会社千年治商店HP)。

ベンチャー型事業承継は、上述した2つの例とは違い、同族内での承継が基本ではありますが、古い業態を後継者が新しい業態に変革することで、後継者不足の理由の一つだった「業界的に人気がない」という問題に対し「自力で人気の高い業態へ変革することもできるんだ」という考え方を示すことで、後継者の意識を変える良い取り組みであると言えます。

実際にベンチャー型事業承継を実施した有名な企業は下記の企業が挙げられます。

西村プレシジョン(老眼鏡「ペーパーグラス」の開発)

福井県鯖江市にて金属加工業を行っていた株式会社西村金属の後継者西村氏が、地場産業であるメガネ製造技術をもとに、紙のように軽くオシャレな老眼鏡「ペーパーグラス」を開発し、製造業から眼鏡メーカーへの転身を果たしました。

愛知ドビー(ホーロー鍋「バーミキュラ」の開発)

愛知県名古屋市で創業された老舗鋳造メーカーである愛知ドビー株式会社は、後継者である土方兄弟が力を合わせ「町工場から世界最高の製品を作りたい」という思いからメイド・イン・ジャパンの鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を開発しました。今では、炊飯器を製造するなど家電事業にも進出しています。

中小製造業の貴重な技術を絶やさないことが重要

様々な事業承継のカタチを紹介しましたが、事業承継がうまくいかないことにより「中小製造業の貴重な技術が絶えてしまう」という大きな問題点をクリアする、という視点が重要ではないかと私は考えています。

製造業の経営者は日本の技術力を保持していくためにも、後継者が同族の人間であるかどうかに限らず、積極的に企業(技術)を存続させる努力をするべきではないでしょうか。

外部の人間が経営権を引き継ぐことに対し、ネガティブに捉える人もいるかも知れませんが、同族企業内では生まれなかったイノベーションが生まれる可能性があるというメリットがあると思います。

逆に気をつけたい点としては、株式の承継などをしっかり行い、新後継者が意思決定を阻害されるような経営権の承継を行ってはならない、という点です。お家騒動に新後継者を巻き込むようなことがあっては絶対になりません。

また、その企業が持つ技術の価値を理解できる人が経営権を引き継がないと、貴重な技術が経営権の承継とともに絶えてしますおそれがあるので人選は慎重に行うべきです。

事業承継問題にお困りの方がいらっしゃったら、私が所属している日本ファミリービジネスアドバイザー協会でお力になれるかもしれません。お気軽にお問合せいただければ幸いです。