特許出願を共同する際に気を付けて欲しいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。2020年10月をもって、7年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、特許相談でよく受ける内容をご紹介したいと思います。

新しいビジネスモデルを思いついた!

社長:アフターコロナに向けて新しいビジネスを考えたのですが、始めてしまうと他社に簡単に真似されそうな内容です。このため、事業開始前に、特許出願を済まして、この事業を守っておきたいと思っています。

かめやま:なるほど。どのようなビジネスを行うのですか?

社長:実は、知り合いのA社の社長に話したところ、意気投合して、一緒にやろうということになりました。一方で、特許に関する費用は可能な限り抑えたく。このため、費用をA社と折半し、特許出願も共同で進めたいと思っています。

かめやま:え?!特許出願を共同で行うのですか?

社長:え?だめですか?

かめやま:ダメではないのですが、ちょっと面倒なケースがありまして・・・

特許出願を共同で行うことのデメリット その1

かめやま:特許権が共同となっている場合、共有者それぞれがその発明の実施ができてしまいます。

社長:うーん。それのどこがデメリットなのでしょうか?

かめやま:今回のA社とはどのような役割分担を行うのですか?

社長:A社は、弊社に材料供給をします。弊社はそれを使って新しい製品Xを製造販売します。

かめやま:今回の特許出願したい内容は、新しい製品Xなのですよね?

社長:はい。

かめやま:そうであれば、特許出願は、御社の単独名義でよいのでは?

社長:それだと特許取得費用や維持費用が掛かってしまいます。共同名義にすれば、費用も折半にできるので良い考えと思ったのですが・・・

かめやま:しかし、A社と共同名義にしてしまうと、A社も製品Xを製造販売できてしまいますよ。

社長:いえいえ。A社は、製品Xの製造設備を持っていませんので、実質的に無理です。

かめやま:しかし、A社が下請けのB社に製品Xを製造を委託して全品を買い取れば、ライセンスの対象とならず、A社の自己実施となり得ます。そうすると、A社も製品Xの製造販売が可能となりますが・・・

社長:それは困ります!

かめやま:どうしても共同名義を行うなら、共同出願の契約の中で、A社が製品Xを製造販売しない取り決めを交わしておく必要がありますが、こちらの案がA社にとって魅力的なものでなければ合意にも至らないように思えます。

特許出願を共同で行うことのデメリット その2

かめやま:もう1つのデメリットがあります。それは、御社がこのX製品の事業を他社に売却したくても、共同名義の特許権が障壁となる場合がてでくる点です。

社長:すみません、あまりピンときていないです。

かめやま:今は、A社との関係が良いのでよいのですが、お互いの経営状況が悪くなったり、経営者が交代すると、その辺りの問題が顕在化してきます。

社長:どういうことですか?

かめやま:他社が製品Xの事業を行うためにはこの特許権又はその実施権が必要になります。しかし、売却先に特許権の持ち分を譲渡しようとする場合にもA社の同意が必要となります。同様に、御社が売却先にライセンスを行おうとする場合にもA社の同意が必要となります。したがって、共同名義の特許権の存在が、御社の意思決定の足かせになります。

社長:うーん。目先の特許の費用軽減を目的として共同名義を思いついたのですが、デメリットもあるのですね。

かめやま:そうですね。ここは、ルームシェアの悩ましさに似ていると思います。

社長:確かに。具体的には、どのようにすればよいですか?

かめやま:もちろん、共同出願自体を否定はしないですが、メリット・デメリットの比較考量をしたほうがよいです。

特許権の共有について

特許権の共有について、特許法では、以下のように定められています。

  1. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
  2. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
  3. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

そして、これを修正するためには、共有者との事前の取り決め(契約書)をしておく必要がありますが、契約の相手方との利害一致ができなければ、合意に至ることができません。とはいえ、何もしないままに特許権の共有を行ってしまうと、折角費用と時間をかけて取得した特許も、御社にとって実効性の薄いものになってしまう場合も出てきます。

まとめ

(1)特許出願は、単独でも共同でも可能。

(2)特許権の共有について特許法では次の定めがある。

  • 他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡等できない(特許法73条1項)。
  • 他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる(特許法73条2項)。
  • 他の共有者の同意を得なければ、その特許権についてライセンスことができない(特許法73条3項)。

(3)上記(2)の制約を変更したい場合には、相手方との別途契約が必要となる。

(4)別途契約が難しいようであれば、単独名義で進める。

単独名義と共同発明のどちらが良いか否かは、発明の内容、事業内容や事業の寿命によって異なりますし、そして御社におけるその事業の位置づけによって異なってくる場合もあります。その結果、共同出願が良さそうとなれば、その契約の中で、A社との取り決めを交わしておく必要がありますし、そこが難しいようであれば単独名義で出願しておくことが良いと思います。このように、特許相談においては、出願する発明の内容だけではなく、その事業内容を含めて、お近くの専門家にご相談ください。

特許相談でよくある「取り返しのつかないこと」

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許相談でよくある「取り返しのつかないこと」

お客様:スミマセン、この新商品で特許を取りたいのですが…取れるでしょうか?

かめやま:ハサミの発明ですね。

お客様:そうです。こちらで特許が取れるでしょうか?

かめやま:なるほど。特許取得のためには、3つのハードルを越える必要があります。

  • 条件1、法上の”発明”であること
  • 条件2、新規性があること(新規性)
  • 条件3、進歩性があること(進歩性)

まず、「法上の”発明”であること」についてですが、今回の発明品が、ハサミなので、ここはクリアできます。あとは、「新規性」及び「 進歩性」を超えることができか否かポイントになりますね。

お客様:なるほど。

かめやま:ところで、この新商品のウリはどこですか?

お客様:柄の形状になります。

かめやま:ここの形状ですね?どのようなメリットがありますか?

お客様:操作性が良くて、長時間握っていても疲れない!と、多くのお客様から評判を頂いております。

かめやま:えぇ!!もう、販売済みですか?

お客様:はい。結構、好評なんです!!

かめやま:最初の販売はいつになりますか?

お客様:えーと…半年前?いや3ヶ月前です。

かめやま:あらら、ちょっと危ないですね~。

お客様:危ないですか?

かめやま:えぇ。ハサミの出願前に、ハサミを公開してしまったわけですよね?

お客様:ええ。

かめやま:「新規性」や「進歩性」の基準は、出願時に、その発明の内容と同一の物が公開されていないか否かとなります。仮に、ハサミの発明を今日出願したとした場合、今日までに公開された全てのハサミが、審査の対象となります。しかし、今回の場合、出願しようとするハサミと同じものが、3か月前に販売(公開)されていますよね?

お客様:でも。私が販売したハサミですが。

かめやま:お客様が販売したハサミであったとしても、特許の世界では、出願の前に、同じものが販売(公開)されているので、新しくない(新規性なし)と判断されてしまいます。

お客様:私が販売したハサミなのに?

かめやま:そうです。結果、「新規性をクリアーできず、特許を取得できない」となってしまいます。

お客様:ちょっと、解せないです。非現実的じゃないですか?売れるかどうかわからないのに、その都度、特許を出願しなければならないのですか?

かめやま:そうなんですが・・・特許法の基本スタンスは、こういう立場です。ところが、特許法では、こういうお客様の事情を考慮して、新規性喪失の例外という救済規定が用意されています。その条件は、以下の2つです。

  • 条件1、最初の公開から1年以内に出願すること
  • 条件2、出願時に、自分の公開事実を特許庁に申し出すること

お客様:今回は、公開から3か月しか経っていないので・・・?

かめやま:そうです。新規性喪失の例外を利用すれば、自分の販売行為で「新規性」がNGになることはありません。あとは、他社の類似商品との戦いになります。

お客様:よかった!でも、条件1についてですが、あと8か月ありますね。もう半年、出願を先送りできますか?

かめやま:可能です。しかし、デメリットもあります。半年間販売をし続ける間に、同業者から類似品を販売する場合がありますよね?

お客様:確かに・・・それはあり得ます。

かめやま:同業者から類似品の販売事実が、お客様の特許出願よりも前に行われてしまうと、その販売事実によって新規性がなしとなってしまいます。また、新規性喪失の例外の適用もまず難しいです。

お客様:そうすると、模倣行為が取り締まれない・・・

かめやま:そうなってしまします。

お客様:うーん・・・結局、可能な限り早めに出さなければならないということですね。

かめやま:そうです。A.S.A.P(As soon as possible)という心構えが基本になります。今回は、新規性喪失の例外を受けられそうですので、まずは先行技術調査を進めていかがでしょうか?調査の中で、他社の類似技術と比較し、特許性がありそうであれば、出願すればよいですし、厳しければ別の方法を考える・・・という流れでどうでしょうか?

お客様:わかりました。お願いします。

2、「特許取得」に立ちはだかる3つのハードル

1、法上の”発明”であること 大雑把にいえば、物(ハードウェア)であるか否かです。その後の法改正により、物にプログラムが追加されました。よって、有体物(ハードウェア)であれば、発明となります。

2、新規性があること 出願時点において、特許を取得しようとしている発明の内容が公開されていないこと。公開行為としては、販売行為、展示会での出展や、インターネット上の販売や宣伝等があります。

3、進歩性 詳しい説明は、次回以降にしたいと思いますが、大雑把にいえば、組み合わせの妙(1+1=3になるようなもの)であるか否かです。

4、「販売が先か?それとも、特許出願が先か?」というジレンマ

新製品が完成すれば、市場の反応は早くつかみたいし、反応がよければ早く販売したいと思います。また、大きな利益が出そうであればこの利益を守るために特許を出しておきたい!と考えるのが企業側の本音です。ところが、特許法における「新規性」は、「販売前に出願してくださいね!」のように、企業側の想いとは真逆の立場を取ります。

特許出願の意思決定には、「販売が先か?出願が先か?」といったジレンマが起こります。

5、新規性喪失の例外

こうしたジレンマを解消すべく、新規性喪失の例外が用意されています。新規性喪失の例外の適用を受けるためには、以下の条件1~2をクリアーする必要があります。

  • 条件1、最初の公開から1年以内に出願すること
  • 条件2、出願時に、自分の公開事実を特許庁に申し出すること

中でも、条件1を満たすか否かが大きな問題となります。「時計の針は戻せない」ですから。

6、新規性喪失の例外の限界

便利な「新規性喪失の例外」にも限界があります。1つ目は時期の問題です。最初の公開から時間が経ってから出願をすると、他社の類似品が市場に出てしまいます。他社の類似品の販売行為は、「新規性喪失の例外」の適用を受けることができません。

2つ目は、国の問題です。「新規性喪失の例外」のような制度は国ごとによって異なります。アメリカは、日本と同じような制度を持っていますが、中国やヨーロッパは、厳格な制度を持っており、「新規性喪失の例外」をほとんどで起用することができません。このため、海外(特に、中国やヨーロッパ等)で特許を取得したい場合には、「公開前に出願する」という形をとらざるを得ません。「すでに販売していしまったよ~」という場合には、「新規性喪失の例外」の制度を持つ国でしか特許を取得することができません。

7、まとめ

  1. 特許取得には、「発明であること」「新規性があること」「進歩性があること」の3つのハードルがある。
  2. 「市場の反応」に基づき出願の意思決定したい場合、「新規性」が厄介になる
  3. 強い味方の「新規性喪失の例外」
  4. 便利な新規性喪失の例外にも限界がある。
  5. 特許出願は、可及的速やかに。外国出願を検討している場合には尚更。

限界その1:出願を遅らせることは、自社の出願前に「第三者からの類似品販売」のリスクが高まる。結果、救済規定「新規性喪失の例外」を受けられないリスクが高まる。

限界その2:海外には、「新規性喪失の例外」がそもそも厳しい国もある。

特許権取得までの道のりをわかりやすく説明してみると・・・

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。お客様より、「特許の権利化までの手続きがわかりくい!」という声をよくいただきます。今回は、「特許の権利化までの手続き」について、できるだけわかりやすくご紹介したいと思います。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

2、各イベントの詳細

1)先行技術調査

  • 今回の新技術(新製品)について、どの範囲で特許権が取れそうか、
  • どの範囲まで権利主張できそうか・・・

出願前に調べます。特許の芽がない場合には、特許出願は見送り!となります。

※受験に例えると「希望校の合格判定を知るために模試を受ける行為」になります。

2)特許出願

先行技術調査によって、特許の芽がある場合には、その内容を書類に記載して、特許庁へ提出します。この出願行為は、郵送でも可能ですが、特許事務所の場合はオンラインで手続する場合がほとんどです。

※受験に例えると「希望校に願書を出す行為」になります。

3)出願審査請求

出願しても、特許庁は自動で審査をしてくれません。そのため、出願人が特許庁に対し審査の開始を行う必要があります。なお、出願審査請求の期間は、出願から3年間。出願審査請求をしないまま3年が過ぎると、その出願は復活できない・・・となります。

※受験に例えると「当日試験会場にて問題を解く行為」に・・・そうなんです。試験日に休んではイケナイのです。

4)審査対応

特許庁の審査官は、出願した発明を読み込み、従来技術を調べ、特許を取りたい発明について、「ここは許可します。ここは許可しません。」といった判断をします。いわゆる「拒絶理由通知」です。しかし、この時点での判断は最終決定ではありません。審査官の判断が合っている場合は、許可しない部分を削除します。また、審査官の判断が間違っている場合は、反論をすることも可能です。

最初、審査官が

といっていた内容も、代理人の説明によって、

と変わるケースも珍しくありませんですし、「欲しい範囲を残しつつ、如何にして”YES”を勝ち取るか?」が弁理士の腕の見せ所でもあります。

※受験に例えると「試験の採点結果(1次結果)をみて、意見を言う行為」になります(少々無理があります)。

5)特許査定

「許可されない部分を反論で覆す」か、「許可されない部分を削除する」を行うことにより、特許がおります。その場合は、特許庁から特許査定が届きます。特許査定から30日以内に特許料(1~3年分)を納付すると、約1か月くらいで、権利が発生し、特許証が届きます。

※受験に例えると「試験に合格して、入学金を支払う行為」になります。

6)特許権の維持

4年目以降は、維持費を納付期限内に納付することにより維持できます。特許料を支払えば、出願から20年まで維持させることができますが、特許料は、「1~3年目」「4~6年目」「7~9年目」「10年目~」に約3倍ずつ増えていきます。例えば、請求項数が1の場合、「1~3年目」の特許料は、年間2,300円ですが、「10年目~」の特許料は、年間110,000円と高額になってしまいます。

※受験に例えると「「留年して、学費を支払う行為・・・」でしょうか?(-_-;)

3.特許権取得までの道のりを受験に例えると・・・

  1. 先行技術調査 → 「希望校の合格判定を知るために模試を受ける行為」
  2. 特許出願   → 「希望校に願書を出す行為」
  3. 出願審査請求 → 「当日試験会場にて問題を解く行為」
  4. 審査対応   → 「試験の採点結果(1次結果)をみて、意見を言う行為」
  5. 特許査定   → 「試験に合格して、入学金を支払う行為」
  6. 特許権の維持 → 「留年して、学費を支払う行為」(笑)

こうしてみると、特許権の取得までのイベントは、受験によく似ていると思います。何かの参考になれば幸いです。