フリーランス翻訳家にインタビュー①「カナダ在住のM.H.さん」後編

テクノポートの稲垣です。今回も前回の記事に引き続きインタビュー企画として、カナダで病院関係のお勤めの傍らでフリーランス翻訳家として活躍するM.H.さんに行ったインタビューの内容についてお伝えします。後編の今回は、

  • 「日本人労働者のポジティブなイメージは?」
  • 「日本人労働者のネガティブなイメージは?」
  • 「日本人が英語話者と正しく意思疎通をするためにすべきことは?」
  • 「新型コロナウイルスが日常生活に与えている影響は?(2020年5月27日インタビュー実施)」

などの質問に対し、カナダで働くフリーランス翻訳家の方ならではの意見をお届けします!

カナダから見た日本企業について

日本企業のポジティブなイメージは?

日本製品は昔ほどではないですが、高品質のイメージがあると思います。

大型医療機器で言うと、近年中国や韓国のメーカーも積極的に参入してきていますが、いまだにシーメンス(ドイツ)、フィリップス(オランダ)、GE(アメリカ)、Canon(旧TOSHIBA、日本)のような欧米や日本企業が強い印象があります。

家電製品については、少し前までは日本製品がよく売れていたんですが、昔ほどのブランド力はないと思います。加えて、最近はTOSHIBAやSHARPが大きな痛手を受けたこともあって不振気味な印象を受けます。

日本企業のネガティブなイメージは?

個人的な体験談になりますが、日本企業からカナダ現地企業に訪れる上の立場の人達の訪問の目的が不明瞭なことが多いと感じます。

私の働く職場にも日本から偉い立場の人が来ることがありますが、来たとしても英語でコミュニケーションをとることが苦手なことが多いため、何のために来たのかが分からないまま訪問を終えることが多いと感じます。迎え入れる企業の立場からしても、時間を割いて対応しているので何のために来て、何を成し遂げたいのかを明確に決めてきた方が良いと感じます。

日本人労働者のポジティブなイメージは?

まじめに一生懸命働くことだと思います。

これは、カナダにある日本企業に関してカナダ人が思うことですが、日本人労働者の特徴と聞いてまず思い浮かぶのがまじめに一生懸命働くことだそうです。しかし実際は、一生懸命という言葉はネガティブなニュアンスも含んでいて、カナダ人でも「過労死」という言葉を知っているくらい、たくさん働きすぎているというイメージが強いと思います。

日本人労働者のネガティブなイメージは?

質問をしない事だと思います。

日本人の方は外国人の方に比べてあまり質問をしない傾向があると思います。例えば、日本人労働者の方が何か仕事を依頼された際に、詳細を詰めずに仕事を進めた結果、できあがった成果物が期待していたものと違ったということが多いように思います。特に外国人と英語のコミュニケーションになると、日本人の方は詳細を詰めずに推し量って仕事を進めるイメージがあります。

カナダ現地企業と日本企業の違いは?

大きな違いは3つあると思います。

1つ目は、カナダ企業は分からないところをはっきりさせる傾向が強いです。例えば、カナダの現地企業で仕事を進める際には、条件をきっちり決めて、これをやるからこういう結果が欲しい、というギブアンドテイクを明確にしてから進めます。一方で、先ほども言いましたが、日本企業はこういうことが不明確なまま仕事を進める傾向があると思います。

2つ目は、カナダ企業は年功序列の傾向が日本より少ないと感じます。私の個人的なイメージですが、日本企業はその人の実力に加えて社内での人間関係が昇進に関わってくると思います。対して、カナダの企業は本人の能力やプレゼンテーション能力といった面が重要視される傾向が強いと感じます。

3つ目は、社員を解雇する方法が違います。カナダ企業は社員を解雇する時は多くの場合当日に伝えられます。なので、前任者の引継ぎという概念がないこともあるので、前の担当者と次の担当者で同じ話ができるかどうか保証されていません。日本だと解雇通知は1カ月、2カ月前など前もって通達されるので、日本企業が海外の企業とやり取りする際には注意した方が良いと思います。

日本人の英語について

日本人が海外で英語に難しさを感じる理由は?

現地の英語話者が話す英語を理解することが難しいからだと思います。

日本で英語教室に通っている方、社内で英語を勉強する時間をとっている企業は多いと思いますが、日本に来て教えてくれる外国人の方は日本人のレベルに合わせて話してくれていることがほとんどです。それは、話すスピードであったり、使う言葉の選択に現れてくると思います。なので、日本で英語話者とコミュニケーションができても、いざ現地の人となると全然ついていけないということがよくあります。

日本人が英語話者と正しく意思疎通をするためにすべきことは?

会議の終了間際に、会議の決定事項と要約を全員に共有し確認をとるべきだと思います。

ビデオ会議などで海外の方とお話をする機会があれば、会議の内容がきちんと伝わっているか確認するためにも、会議の最後にまとめと言う形で今日決めたこと、次にすること、などを明確にした方が良いと思います。特に海外の方とやり取りする場合は、日本から直接会えないことに加えて、時差の関係で気軽に連絡をとることもできないので、書面またはメールできちんと確認しておくのが良いと思います。

新型コロナウイルスが日常生活に与えている影響は?

※2020年5月27日インタビュー実施

カナダは日本より厳しい対策をとっていると思います。

日本では、1月2月辺りから対策を始めていたと思いますが、こちらは3月中旬くらいに学校が閉鎖し、レストラン、美容院、ネイルサロン等のほぼ全てのサービス業が閉鎖されました。また、密な集まり、公園での遊具使用などに罰金が科されていますし、ソーシャルディスタンスを守ることはもちろん、他の市に行くことも基本的には禁じられています。

現在もレストランはテイクアウトのみで、洋服屋さんなどはちょっとずつ開店し始めていると思います。ショッピングモール内にある店舗は外からの入り口がないためいまだに閉店中のところが多いです。

まとめ

いかがでしょうか?冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

「日本人労働者のポジティブなイメージは?」
→ まじめで一生懸命働く

「日本人労働者のネガティブなイメージは?」
→ 詳細を詰めずに仕事を推し量って進めること

「日本人が英語話者と正しく意思疎通をするためにすべきことは?」
→ 会議の最後にまとめとして決定事項、要約、次回すべきことを共有する

「新型コロナウイルスが日常生活に与えている影響は?(2020年5月27日インタビュー実施)」
→ 日本より厳しい対策が取られている

となります。今回のインタビューを通して、カナダ人が日本人労働者に対して持つイメージ、カナダ企業と日本企業との働き方の違いを感じ取って頂けたと思います。また、コロナウイルスで海外への渡航が難しくなっている中、海外の人と正しく意思疎通をする方法は有用かつすぐにでも活用できるため多くの方に有益な内容になっていると思います。

フリーランス翻訳家にインタビュー①「カナダ在住のM.H.さん」前編

テクノポートの稲垣です。今回はインタビュー企画として、カナダで病院関係のお勤めの傍らでフリーランス翻訳家として活躍するM.H.さんにインタビューを行いました。本企画の目的は、海外進出に欠かせないホームページを英語翻訳しようと考えている製造業事業者の方に有益な情報をお届けすることです。前編の今回は、

  • 「日本語から英語への翻訳で難しいことは?」
  • 「英語に訳しにくい日本語の文章は?」
  • 「非ネイティブが翻訳の品質を判断する方法はあるか?」
  • 「機械翻訳と翻訳家による翻訳の違いは?」

などの質問に対し、カナダ現地企業で働きつつプロの翻訳家として活躍する方の意見をお届けします!

M.H.さんについて

M.H.さんの経歴は?

学士は日本で工学部の機械工学科でとりました。その後、日本の外資系の医療機器メーカーに就職し、医療機器の営業をしました。3年半ほどその会社で勤めた後、カナダの大学院に留学して修士課程を血流工学というテーマでとりました。その後、カナダにある日本の医療機器メーカーに就職し、多くのカナダ人の方と働かせていただきました。1年ほどその会社で勤めた後、同じくカナダにあるトロント大学で生体工学を専攻し博士課程をとって、現在、現地で病院関係の仕事をしています。

カナダの大学院に留学した理由は?

理由は大きく2つあります。

1つ目は、学部時代に3カ月ほど研究室留学をしたカナダで修士課程をとってみたいと思ったからです。

2つ目は、奨学金がもらえるからです。理工系に限って言うと、カナダの大学は世界中の国から優秀な学生を集めるために、大学院生には返済不要の奨学金を提供していることが多いので、カナダの大学院に応募しました。あとは、学部時代の教授に知り合いの先生を紹介してもらったということも影響しています(笑)。

博士課程に進学した理由は?

研究者として働くうえで、修士号では不十分だと思ったからです。医療機器メーカーでお医者さんと共に働いていると、やっぱり修士課程卒の人よりも博士課程卒の人の方が対等に議論に参加できると感じました。

あとは、アメリカやカナダでは日本に比べて修士から博士に進学する人の割合が多いので、周りに研究者の方も多かったということも影響しています。

翻訳作業について

翻訳作業の流れは?

題名や、まとめが最初にある場合を除き、基本的には頭から一文ずつ順番に訳していきます。その際は、常に前後の文の内容を考えながら訳すように心掛けています。

注意することとしては、スタイルガイド(固有名詞の翻訳ルールなどを取りまとめたもの)があればそれを参照にしながら翻訳します。スタイルガイドには、「この単語にはこの訳をつけてください」というルールが記載されているので、それに従って訳すことが必要になります。特に、人の名前、製品名に関する間違いは細かくチェックするようにしています。

日本語から英語への翻訳で難しいことは?

日本語の文章には「~など(等)」が多くて訳しにくいことですね。

例えば日本語の文章だと、「医療機器など(等)」という表記がタイトルにも使われますが、英語でタイトルに「~など(等)」とつけることは少ないです。もし、英語の文章で「~など(等)」を使うなら、「これ」と「これ」というように具体的な対象を指定して書くのが普通です。なので、日本語の文章の「~など(等)。」を見ると、「など(等)。」って結局なんなの?って思ってしまいます(笑)。

英語に訳しにくい日本語の文章は?

曖昧で推測しないと読めない文章が訳しにくいです。

具体的には、文章の主語が抜けていたり、省略が多かったり、「~など(等)。」が多用されている文章です。あとは、文章中に使われている「それ」や「これ」などの代名詞が具体的に何を指しているのかが不明確な文章です。

逆に言えば、日本語の文章の翻訳を依頼する方は、これらのことに気を付けて日本語の文章を用意していただけると翻訳者も訳しやすいと思います。

HPの文章翻訳と技術的文章の翻訳の違いは?

大きな違いは2つあります。

1つ目は、翻訳に使われる語彙が違います。具体的には、HPの文章翻訳のターゲットは一般の消費者であることが多いため、難しい表現を使わない傾向があります。一方で、技術的文章のターゲットは技術者なので、専門用語が多く使われています。

2つ目は、文章の表現方法が違います。具体的には、HPの文章翻訳は意訳が多く使用され、分かりやすく印象に残りやすい文章表現を使用する傾向があります。一方で、技術的文章の翻訳は意訳が少なく、元の文章に忠実に翻訳するという違いがあります。

翻訳の品質について

誤訳やその他のミスを防ぐために行っていることは?

ミスを防ぐために行っていることは大きく2つあります。

1つ目は、固有名詞の間違いに注意することです。先ほども言ったように、人の名前、製品名を間違えて翻訳されている文章が多いです。人の名前や製品名は国によって呼び方が変わってくるからだと思います。なのでそれらのミスを防ぐために、私の場合はスタイルガイドがあればそれを参照にして翻訳しています。もし、スタイルガイドがなければインターネットで一つ一つの固有名詞を検索して、あっているかどうかを確かめるようにしています。

2つ目は、翻訳した文章を次の日にもう一度読み返すようにしています。急いで翻訳した文章を次の日にもう一度読んでみると、正しく翻訳されていない箇所に気づく、ということはよくあります。

非ネイティブが翻訳の品質を判断する方法はあるか?

大きく3つあると思います。

1つ目は、翻訳者とは別のチェッカーにチェックを依頼することです。これは日本語の文章でも同じだと思いますが、自分では気づかないような間違いを他の人に指摘してもらえる、という点で有効だと思います。

2つ目は、固有名詞が正しく使われているか確認することです。確認する方法は先ほども言ったように、一つ一つインターネットで調べる方法が良いと思います。例えば、会社のHPを見れば、正しい表記の製品名、社長の名前などが見つかると思います。

3つ目は、文章の抜けがないかチェックすることです。これは、日本語の原稿が翻訳されずに飛ばされる、というミスが起こることもあるからです。

適切な翻訳者の選び方は?

翻訳する文章に関する知識がある翻訳者に依頼するのが良いと思います。

専門的な言葉を理解できるか、企業から提示された内容を正しく理解できるか、といったことが分かりやすい翻訳につながるからです。例えば、翻訳とは別の話ですが、英語の長い文章を短く要約する際にも、内容が理解できていないと重要な部分が分からないので上手な要約ができないことと近いと思います。あとは、背景知識があれば原本に間違いがあるケースにも気づくことができるというメリットがあります。

翻訳された文章のチェックに関して言えば、日本語と英語の両言語に精通したチェッカーに依頼するのが良いと思います。なぜかと言うと、両言語理解していないと気づけないような間違いを見逃してしまうことがあるからです。

翻訳した文章をチェックするチェッカーは必要?

必要だと思います。先ほども言いましたが、自分では完璧な文章だと思っていても、他の人から見たら間違いを含んでいるということがあるからです。なので、チェッカーは翻訳者とは別の方に依頼すると良いと思います。

機械翻訳について

機械翻訳と翻訳家による翻訳の違いは?

最大の違いは文脈まで考慮して訳せるかどうかです。

機械翻訳は一文ずつ別の文章として翻訳するため、翻訳された文章には前後のつながりがありません。例えば、文章の主語がなかったり、次の文章で主語が初めて出てくるような文章を機械翻訳で翻訳すると分かると思います。なので、小説のように前後のつながりを考えて翻訳する必要がある場合、機械翻訳のみだと不十分だと思います。

ただ、近年機械翻訳の翻訳精度はすごく良くなっているので、一文ずつ内容が完結している文章を訳す場合には機械翻訳のみで良いかもしれません。

まとめ

いかがでしょうか?冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

「日本語から英語への翻訳で難しいことは?」
→ 「~など(等)。」が指すものが不明確で訳しにくい

「英語に訳しにくい日本語の文章は?」
→ 曖昧で翻訳する際に意味を推測する必要がある文章

「非ネイティブが翻訳の品質を判断する方法はあるか?」
→ 1. 翻訳者とは別のチェッカーに依頼する、2. 固有名詞が正しく使われているかをチェックする、3. 文章の抜けがないかチェックする

「機械翻訳と翻訳家による翻訳の違いは?」
→ 文脈まで考慮して訳すことができるかどうか

となります。後編は、カナダから見た日本企業日本人の英語新型コロナウイルス(2020年5月27日インタビュー実施)というテーマを掘り下げていきます。具体的には、

  • 「日本人労働者のポジティブなイメージは?」
  • 「日本人労働者のネガティブなイメージは?」
  • 「日本人が英語話者と正しく意思疎通をするためにすべきことは?」
  • 「新型コロナウイルスが日常生活に与えている影響は?」

などの質問に答えて頂きました!後編を読んでいただたくことで、カナダ企業と日本企業の働き方に関する考え方の違い、非ネイティブがネイティブと効果的に意見交換する方法がお分かりいただけると思います。

緊急アンケート コロナ禍において業績は?

こんにちは!ものづくりコミュニティ・MAKERS LINK 主宰の栗原です。緊急事態宣言が解除されぬまま、また、原稿の締め切り日を迎えました。会いに行ける町工場社長として活動できる日が待ち遠しいところです。

コロナ禍にあって、皆さんのお仕事はどんな状況でしょうか?私の会社(金属加工業)も、得意先の工場が稼働停止した影響もあり、受注が激減、かなり厳しい状況となっています。そんな中、MAKERS LINKでは、広く情報を集めてみたいと思い、Facebookグループでアンケート調査を行ってみました。今回は、そのアンケートの集計結果をレポートとしてお届けします。

アンケートはweb上で行い、回答は30名の方にお寄せいただきました。まずは、回答いただいた皆さんの業種や事業規模についてお尋ねしました。

業種

いちばん多いのは、請け負い加工業で50%、続いてメーカーの30%でした。当然のことながら”ものづくり企業”がほとんどとなっています。

事業規模

事業規模については、従業員数20人以下が90%という結果。アンケートの主旨からか、やはり中小、小規模事業者からの回答が多かったのかなと思います。

コロナ禍による業況への影響について

業績が大きく下降したという回答が46.7%、同じくやや下降が40%と、合わせて約9割がコロナの影響が大変厳しいという結果となりました。

もう少し、詳しく見てみると、従業員数 20人以下の請け負い加工、14社のうち、大きく下降が5社。やや下降が8社。影響なしが1社。同じく従業員数 20人以下のメーカー、6社のうち、大きく下降が4社。やや下降が2社。となっており、小規模の事業者のほうが影響が大く、そのほかの業種でも同様の傾向があるようです。

コロナ感染対策

次に、どのようなコロナ感染対策をとっているのかお聞きしました。基本的な手洗い、うがい、マスク着用はもちろん、アルコール消毒や換気などを定期的に行っているという回答が、ほとんどの会社さんから寄せられました。そのほかには、通勤時間や方法を工夫されたり、営業外出の自粛など、それぞれに対策を講じられているようです。

また、景気後退に対する対策を実施されていれば、教えてください、との問いには、

  • 「休業と雇用調整助成金の交付を検討」
  • 「打つ手無しと言ったところです。兎に角今は、コロナ禍が終息を待つしかありません」

といった声のほか、

  • 「業務の幅を広げること、客先を増やすことに集中」
  • 「雇用安定助成金の準備、普段なかなか進捗していなかった自社商品の開発」
  • 「レギュラー仕事が減ってはいるものの、開発相談が多数来ているので、それらに細かく対応していっています。将来の準備をしていっているイメージですね。」
  • 「通常業務のスピード化 DMで情報提供。HPの更なる拡充」

など、前向きに回復への準備を進めているとの回答もありました。

個別の意見をいくつか

最後にお名前を公表しても良いという方からのご意見もいくつか。

有限会社中村電機 代表取締役 中村勝彦様

  • 「製造業の変革時期です。中小企業の協業や連携は必須です。もっともっと面白いことが出来れば良いですね」

万有鍛工株式会社 代表取締役 石田知己様

  • 「コロナウィルス禍を機に行き過ぎたグローバル経済からの決別を」

有限会社ロッキー化成 代表取締役 鎌田和明様

  • 「いつもためになる企画をありがとうございます。何とか皆んなでここを乗り越えていきましょう!」

松原工業株式会社 代表 吉田昭喜男様

  • 「日本国内のものづくりのPower UPが必要。その為の政策を」

全部は掲載できませんが、そのほか、有限会社大竹製作所様、株式会社TOKAI精工様、大谷技研様、メガワークス株式会社様、有限会社スズキ様、総新工業株式会社様、株式会社ワイ・エス・エム様、株式会社Piezo Sonic様、株式会社ブラスト工房様、有限会社寿山工業様、株式会社産業革新研究所様、株式会社甲信商工様、有限会社浅井製作所様、株式会社モリモト様、有限会社永進ゴム製作所様、有木製作所様、有限会社サンアーム工芸社様、有限会社 山崎精工様、株式会社ティアンドエスラボラトリ様、羽野樹脂工業様他より、ご回答、ご意見を頂戴いたしました。

皆さま、ご協力、ありがとうございました。

なお、アンケート結果についてのご意見やご質問などは、MAKERS LINK Facebookグループでディスカッションできればと思います。ぜひ、下記にご参加ください。

ものづくりコミュニティ・MAKERS LINK

町工場ぶっちゃけ対談 vol.12 ~中小製造業の海外展開サポート DIAgate~

こんにちは!この1ヵ月どこにも行ってない、どなたにもお会いしてない町工場社長、栗原です。緊急事態宣言の真っただ中にいて、皆さん、いかがお過ごしですか?

実は。。。私、宣言の出される前日に、39度の熱を出し布団にくるまって、いわゆる家庭内隔離状態となっておりました。幸い、徐々に平熱に戻りそのほかには、これといった症状もなく、もうしばらく自宅にこもってテレワークを続けていれば大丈夫かな?という感じです。

おそらくは単に風邪ひいただけとは思うのですが、こういう時期ですからね。不安を抱えてぶるぶる震えておりました。実際に症状が重くなってしまった感染者の方には、本当に心からお見舞い申し上げます。合わせて、大変なご苦労をされている医療関係者の皆様にも、この場を借りて、エールを送らせていただきます。本当にご苦労様です、感謝申し上げます。

久しぶり町工場ぶっちゃけ対談

さて、今回の記事は、久しぶりの町工場ぶっちゃけ対談としてお送りするのですが、お相手は、Web活用経営株式会社 代表取締役の小野晴世さんです。小野さんには、MAKERS LINKの創成期にホームページ立ち上げでお力をお借りしておりました。それが2016年の3月です。ちなみに今のホームページは、モノカクのテクノポートさんにお願いしてリニューアルしました。

中小製造業のホームページ活用をサポートする事業をされてきた小野さんですが、DIAgateという、日本企業の海外展開を支援する事業を始められました。私自身、少しだけ、海外に目が向いていた時期だけにお話お聞きしたいと思っていたこともあり、お声掛けさせてもらいました。ほんとは、お目にかかってじっくりお話を、と思っていましたが、今はやりのZoom会議にて。。。

 

対談の冒頭は、やはり、コロナウイルスの影響についてから。。。

栗原:本来ならお会いしてお話したかったところなんですが、こんな時期ですので、不慣れなテレビ会議とさせていただきました。今日はよろしくお願いします。

小野:こちらこそです。よろしくお願いします。実際、コロナの影響って、製造業の皆さんのところではいかがですか?

栗原:今のところ、会社によって差があるかと思いますが、今はまだ忙しいと言っているところでも、この先、受注ストップなど確実に広がるでしょうね。コロナ不景気は間違いなく襲ってきますけど、要因ははっきりしてるので、それが無くなれば回復するでしょう。いつか分からないというのが大きな不安ではありますが。

小野:そうですか、動き出せば回復は早いと。

栗原:まあ、コロナうんぬんの前から景気は下降してましたけどね。

小野:そうですね、貿易摩擦などの影響ですね。

栗原:その辺の景気を悪くしていた要因が、逆にコロナのせいですっ飛んでしまって、回復後はイケイケになるんじゃないかと。というのは、楽観的過ぎますかね?

小野:うんうん、そうかもしれませんね。たしかにそうおっしゃる方、いらっしゃいますよ。

栗原:どっちにしても、そうなるまで粘れなければ負けなんで、まずは、粘り切る方法を考えないと。

小野:そうですね。どんなお考えなんですか?

コロナを乗り切る方法

栗原:父親の代から50年、この仕事してきて、大きな波も何度か経験しているので、リーマン含め、その経験からすると、仕事が暇になった時間の有効な使い方ってことになると思います。暇なときにいい準備ができるかどうかにかかってると思います。

小野:暇なときにいい準備ができるかどうか、いい言葉ですね。うんうん。

栗原:リーマンのときも、たまたま、新しい仕事にとりかかろうと思っていた矢先だったので、一か八かの設備投資もしてしまったんで、新規分野に打って出るための準備研究に時間を使いましたね。

小野:リーマンの直前に設備したんですか?

栗原:真っ只中に、ですね。はっきり覚えてますが、2009年1月25日に新しい機械が納入されました。

小野:それは、衝撃的な!

栗原:それが、その後の10年間のうちの稼ぎ頭になってくれたんですよね。ありがたいことに。技術的なことだけじゃなく、新分野への営業方法なんかも勉強しました。お金の余裕はなくなってしまいましたが、時間はたくさんあったので。

小野:リーマンの期間て、ほぼ1年だったんですよね。その間の研究と準備がその後につながったということですよね?体験談を聞けて心強いです。

栗原:まあ、うちの話はともかく、今日は、モノカクの記事のために対談をお願いしたわけでして、そろそろ、小野さんの事業についてお話聞かけせて下さい。

小野:ありがとうございます。

DIAgate

栗原:個人的にもいろいろとお聞きしたいこともあって、ですね。とくに、最近始められた海外との架け橋になろうという、DIAgateという事業ですね。私自身もいつかは海外に事業展開という展望を持ってはいたんですが、なかなかハードル越えられず半ばあきらめかけていたところだったので。そもそも、小野さん自身が製造業というか中小企業の支援事業を始められたきっかけというのは?

(引用元:DIAgate)

小野:一言でいえばご縁なんですけどね。私、大学を中退してフリーランスになって起業してるんですね。創業するときに何もバックグラウンドがないので、結果で勝負、評価してもらうしかないと思って、最初はネットショップの運営からスタートしました。インターネットでモノを売るサポートですね。そもそも「商品」が好きだったんです。商品の開発ストーリーですとか。

栗原:ほう、なるほど。

小野:最初の頃は農産物のご相談が多かったんです。日本中いろいろなところに伺って、現場を見に行ったりしたり。まだ、農産物の直販というのが難しい頃ではあったんですが。

栗原:へえ、そうだったんですか。。。

小野:製造業と出会ったのは、10年くらい前ですかね。興味の持ち方は同じだったんです。一般的な消費者でいると野菜も果物も買うだけじゃないですか、実際はその裏側にあるストーリーがすごく面白くて、私にとっては。商品、モノといっても、生産者、社長さん、その人の考え方が反映されてますよね。

栗原:うーん、たしかに、モノ自体にね。

小野:大学も工学系にいたんですが、モノの仕組みとか、どうできるのかとかということが元々好きだったんですね。やっぱり工場を見るのが本当に面白くて。そういうのを伝えたいなと思うのが、私の原動力ですね。

栗原:具体的には、企業がwebサイトを立ち上げるためのサポートという仕事、ということですよね。まだ、10年前くらいだと、中小の町工場クラスでちゃんとしたホームページ持ってるところ、まだ少なかったですかね?

ホームページの立ち位置

小野:そうですね。私も製造業のホームページ、どう作っていったらいいか、最初は分からなかったですね。モノの写真はアップするんですが、お客さんの見ているところはモノじゃなくて、加工のノウハウだったりするじゃないですか。自分は必要としているものが実現できる会社なのかどうか、そこを翻訳することが面白いなと。技術屋さんは自身の技術を誰にどんな風に使ってもらうことができるのか、そこを伝えることが苦手で、私の中では、実は、宝探し的な面白さがありました。

栗原:なるほど、なるほど。私たちの側から見ると、我々がお客さんに伝えたいのは技術情報だけだったんですね。このような設備を持っていてこのような加工が得意です。10年前くらいから、実は、これだけじゃ足らなくなってきたんですね。技術情報を伝えただけでは、そこから何が作れるのかイメージできない、分からないというお客さんも増えてきたんです。

小野:ああ、すごくわかります。

栗原:新しい分野の顧客開拓しようとすると、機械設備の説明や加工サンプルをお見せしても、いまひとつ手応えのある反応が返って来ないことが多くて。なので、シンプルに分かりやすいモノを作って、うちはこれが作れるんですが、いかがですか?という売り込み方をしないといけない。その辺から試行錯誤が始まったという感じですね。

小野:あ、そういうことですね。そこってポイントですね。よく聞く話として、日本の技術力が落ちたとか、そういうことと関係していますか。

栗原:無関係じゃないとは思いますが、それは価値観が変わってきたってことじゃないかと思っているんですよ。同じものが作れるのであれば価格は安いほうが良い、単純比較でね。ある時期に、業界でもリストラとかが行われて、物知りな中間管理の優秀な方がいなくなってしまったというケースも多かったと思います。価格以外の価値は見てもらい辛くなりました。

小野:それはちょっと悲しいですね。それが10年前くらいなんですね。

栗原:我々のほうも準備がなかったから、新規分野に打って出るとか顧客開発しなくちゃって、そうなってからやっと動き出したんです。それが展示会の出展だったり、ホームページの立ち上げだったり。それと、それまであまりなかったのが、横の連携だったと思うんです。ちょうどSNSとかも出始めて、製造業の現場の側も変わるチャンスだったのかも。

小野:そこで、MAKERS LINKなんですね。だんだんとホームページとかで注文をどんどん取ったりする製造業さん、成功例が出始めていましたね。そんなころですね。

栗原:ホームページをお手伝いする仕事というのも、やっぱりリアルにお会いしないとなかなか進まないものですよね?

ホームページ

小野:そうですね、何もない状態の方のほうが多いですので。事業内容や自社の強みが整理されていたり、なかなかないので、見に行ってお話を聞いて、というところからになりますね。

インターネットって地域を超えるじゃないですか、技術を持っている人が存在して、それを探している人が存在して、そこをつなぐ、とってもシンプルな話で、国内向けにはホームページだけで良かったかもしれません。DIAgateに関しては、それを海外にも広めようっていうことなんですよね。英語で情報発信してみて、日本の中で起きている中小製造業のできごとが、世界の中でどう受け止められるかってわからないですね。手法としては、インタビューして記事にして、海外の興味のありそうな人にアプローチしてみて、コミュニケーションを作って、より興味を持ってもらえそうなネタを探していく場が欲しいと思いました。製造業の中で起こっているストーリーを海外のメディアに紹介してみようと思っています。そこから、メイドインジャパンに求められているもの。例えば、日本の中小製造業の横の連携について興味を持っている国とか。探してみようと思ってます。

栗原:我々のレベルの会社だとなかなか海外との取り引きというのはハードル高くて、なかには、中国や東南アジアに自社工場を出している人もたくさんいますが、海外市場にものを売るっていう意味では、まだまだまだと思うんですよね。

小野:私もいくつか検証したいことがあるんですけど、DIAgateを使って数が少ない試作の案件を日本に持ってきたい、もちろん高単価で。そのような仕事を受けられるんじゃないかと思っているんです。

栗原:アリだと思います。大量生産のコスト勝負っていう仕事はやりたくないので、我々としては小回りの利くお客さんの一番欲しいものをピンポイントで作る、ダイレクトに。役目としてはそれが一番向いてるかなって思いますね。

小野:メディア作った後は、海外展示会とか、そういったことに進めていけたらって思っています。MAKERS LINK さんと一緒にできたらって。

栗原:いいですね!事業計画に入れておきましょう!

人材確保

小野:海外の研修生など、人材確保という面ではどうですか?実際、積極的に外国人の採用をしている中小企業もありますが。

栗原:研修生の受け入れは是非したいのですが、今に制度の下では、せっかく育てた人材との縁が、一定の期間で切れてしまうので、うちに限って言えば、今の段階ではお断りしている状態です。まずは、事業として海外展開が構築されていて、受け入れた研修生のその後の活躍の場も確保できているという状態を作るのが先という考えです。

小野:おお、では、その構想に是非とも加わらせてください。息子さんもいらっしゃることですし、少しずつでも進めていきましょうよ!社長!

栗原:うちだけじゃなくて、MAKERS LINKにも同じように考えている人もいると思うので、そういう人たちのためにも良い事例を作れたらいいですね。

小野:是非、協力させてください。まだ始まったばかりで事例はないんですが、3年間で20か国のメディアとタイアップするというのを目指していて、私がやりたいのは、中小企業さんが、DIAgateで情報発信したら、現地のメディアの人たちがそれを展開してそれを広めてくれる、というプラットフォームなんです。

栗原:なるほど。

小野:日本で英語のホームページを作っても、海外からのアクセスってホントに少ないんですよ。海外で検索してもほとんど出てこないんですね。なので、インターネットを使いながらも、人と人とのパイプで、コミュニケーションを作って行きたいんです。いずれは海外の方からの依頼で、日本の中小製造業を取材させていただく、というところまでもっていきたい。

栗原:我々が、よし、販路を海外に広げるぞ!と思って、まあ、相談に行ったり、セミナーに行ったり、いろいろ調べても、はい、こういう事例があって、こんな会社がこんなに成功を収めていますよって教えられるだけ。夢が膨らむのはいいのですが、一番知りたいのは、最初の一歩はどうやって、どこに向けて踏み出せばいいの?ってことだと思うんです。

小野:いいアドバイスありがとうございます。最初の一歩を手を携えていっしょに踏み出すサービス、参考にさせていただきます。

栗原:今日はお忙しい中、ありがとうございました。移動中だったんですよね?

小野:はい、駐車中の車の中です。Zoomいいですね!これから活用できそうです!また、よろしくお願いします。

既存顧客からの取引拡大のために実践すべき3つのこと

テクノポートの井上です。今回のテーマは既存顧客(メーカー)からの取引拡大方法です。

既存顧客は既に関係性が出来ているからといっても「何か仕事ありませんか?」だけでは獲得できる仕事に限界があります。明確な目的を持ち、顧客の求めるものに対して提案をするためにはどうすればよいか?前回に引き続き、ものづくり商社兼ものづくり営業トータルサポートを行っている野崎社長(COSMO ALPHA株式会社)にインタビューしました。

野崎社長の経歴は以前の記事をご参照ください。協力工場を増やす時の見極めポイントと良い関係の築き方

実際に野崎社長の行っているアプローチの手法をご紹介します。既存の顧客からの受注を増やすために、すべきことは大きく3つあります。

  • 自社と顧客を知り、ターゲットを選定
  • キーマンに会うためのアクションをおこす
  • 一度のキーマンとの面談で、出来る限り話を進める

自社と顧客を知り、ターゲットを選定

相手の会社について、一般公開されている情報を調べます。どのくらいの売上があり、今後どのような業種、業態に進もうとしているのか?また、それは先々伸びそうなものかどうかを考察します。そして、自社の受注状況を調べ、自社にとっての各顧客の重要度を考えます。

また、逆に顧客にとって、自社の重要度を考えます。主要取引先に入っているのか?サプライヤーは何社ぐらいあり、その中で自社はどう思われているのか?自社としては売上が多く重要な顧客だと思っていても、相手にとってのその売上はそれほどの金額ではなく、主要サプライヤーに入っていなかったというケースもよくあります。そのような関係性も考慮した上で、ターゲットの選定のために、その会社の売上規模、業種、業界の伸びしろや、その顧客に納めているサプライヤーが複数存在する場合は、シェア拡大の可能性を模索します。

また、顧客の要望に何で貢献できるか?顧客のやろうとしていることに対して、提案材料を一つ用意します。具体的な提案材料があれば良いですが、無くても、やろうとしていることに対しての、実績や加工技術の強みがあれば大丈夫です。ピンポイントで提案できるような材料はなかなか用意できるものではありません。あくまできっかけを作る目的です。

キーマンに会うためのアクションをおこす

現状の担当の窓口がどのような方なのかは重要です。提案したいものに対し、どこまで関係のある人なのか、あまりわからないということであれば、別のキーマンを紹介してもらう必要があります。窓口が購買の担当さんだけだと、事業の全容が見えてこないので、まずは設計者へのアプローチを図り、そこから事業責任者へアプローチをかけます。具体的な動きかたとしては、図面には設計者の名前が書かれているケースが多いため、「まずは設計者とお話させてもらっても良いですか?」と紹介していただきます。

設計者につないでもらった際には、次に、事業の全容のわかるプロジェクトの部長を紹介してもらっています。設計の方はけっこう垣根の無い方が多いので(あくまで経験上ですが)気軽に上司を紹介頂けるケースが多いです。

一度のキーマンとの面談で、出来る限り話を進める

部長クラスと面談した際には、自社が貢献できそうな内容を提示し、実際にそれに携わる人をその場で紹介してもらうこともあります。一度の面談で、可能であれば図面を頂く所まで進めるのが理想です。

何度も訪問し、関係を構築するということではありません。関係を作って情報を引き出すのではなく、話す材料、キーマンが揃っているのであればむやみに回数を増やさず、短い時間で成果を出すことがお互いにメリットとなります。

そもそも、それまでの顧客とのやりとりで、良好な関係性ができている上で紹介して頂いているわけですから、断られるとしたら、最初の窓口の段階で断られているはずです。ただ、最初の窓口でも新規でアプローチかけるよりは断られる確率はかなり低いと思います。

一番重要なことは踏み込むこと

以上のような流れでアプローチしていますが、一番重要なことは、まずはアクションを起こすことです。顧客をしっかり調べた上でアプローチを行い、相手の反応から、自社との関係性を知り、そこからまた動きを決めます。紹介して提案できるようであればそれは良いですし、かたくなに拒否されるようであれば、そのような現状だということを知る必要があると思います。その場合は、相手が何を求めているのか?何が自社に足りないのかを考えれば良いと思います。

まずは目的をもってアプローチをかけ、断られることを恐れないことが重要だと思います。簡単なことのようですが、実際にそこまで行っている会社は非常に少ないです。

 

以上が野崎社長の実際に行っているアプローチ方法でした。

今後も野崎社長へのインタビューを連載予定です。少しでも売上向上のお役立ちができれば幸いです。

未来を支える 次世代のものづくり職人たちにインタビュー

令和になり、「好きなことで生きていこう!」というキャッチフレーズを多く聞くようになりましたね。終身雇用の時代も終わりを告げ、特にこれからを生きる若者にとっては、会社に守ってもらう働き方ではなく、自分の特技を生かして食いっぱぐれないようにする、生きる力が求められています。

一方、企業側では少子高齢化や働き方の選択肢が増えたことによる人手不足に悩んでいます。この悩みは製造業でもとても深刻です。ものづくりの自動化が進み、仕事内容が見えにくくなっている中で、今までのものづくりを支えてきた熟練社員たちの定年退職が持ったなしの状況!その熟練社員しか持っていない技術が若手に受け継がれる前に途絶えてしまうケースが多くなっているそうです。

そんな時代の中で、これからのものづくり業界を担う次世代は今どんなことを考えているのか、そんな思いでいても立ってもいられず、インタビューに行ってきました。

1年生の実習室

埼玉県立中央高等技術専門校

伺ったのは埼玉県立中央高等技術専門校。機械制御システム科・空調システム科・情報制御システム科と3つの科があり、生徒たちは2年間のうちに技能の基礎から実際の現場で役立つ応用技能までを学んでいます。今回は機械制御システム科をインタビューさせていただきました。

さっそく1年生が実習中の教室を見学させてもらうと、同じ型の汎用旋盤がずらっと20台ほど並ぶ実習室で生徒たちが黙々と課題に取り組んでいました。

削るための刃を近づけては離しを何度も繰り返し、心なしかレバーを引く手にも緊張が走っている一人の生徒に話しかけてみると「ちょうど仕上げの部分なのですごく緊張しますね。でももう少しで出来上がるので、出来上がりが楽しみです。」と笑顔で答えてれくれました。

2年生の実習室

2年生の教室では1クラスが2つのグループに分かれて卒業制作の真っ最中。グループごとに設計担当、プログラムミング担当、加工、組み立て担当など役割に分かれて作業をしています。

2年生では先生たちからもらった課題を図面通りに作っていましたが、2年生では自分たちで企画して図面を引き、それ通りに作れるかトライアンドエラーの連続ですが、グループの仲間たちと意見を出し合いながら楽しんで向き合っているようです。

2年生にインタビュー「これからどんな仕事をしていたいですか?」

今は楽しく卒業制作に向き合っている生徒たちも、4月からは社会人です。そんな卒業を控えた2年生に、これから社会人になってどんなことにチャレンジしてみたいか聞いてみました。

1人目は笑顔でインタビューに答えてくれた鈴木凌太君。

「飛行機の部品と医療関係を作る会社に内定をもらっています。もともと普通科高校の出身だったので、ものづくりの世界に進むことは心配もありますし、難易度も高いと聞いていますが、飛行機部品を作る仕事に携わって、人命に関わる仕事に誇りを持って取り組めたらと思っています。」

2人目は慌ててマスクを外してインタビューに答えてくれた清野千聖君。

「医療関係のカテーテルや装飾品の貴金属などのかなり細かい作業が必要な会社に内定を頂いています。インターンで「極繊細加工」という髪の毛ほどの細い先端を鉛筆の様に尖らす体験させてもらったのですが、その時は上手くできなかったんです。なので今学校にいる間にもっと技術を磨きたいと思います!」

あっという間の2年を終えて

あっという間の2年間を終えてものづくり企業に就職していく生徒たちですが、その2年間を通して、ものづくりに対しての興味や誇りがどんどん芽生えて行っているように感じました。

彼らが大好きなものづくりに没頭して、これからの時代を支えるプロフェッショナルとしての活躍を期待するインタビューになりました。

生きた工業地域が舞台になる「鉄工島フェス2019」

みなさん、はじめまして。C-OILING代表の大後裕子(だいごひろこ)と申します。

ブランディングを主軸に、生活用品メーカーで7年間企画職に従事の経験から、企画立ち上げから海外工場との商談、販促まで商品開発のゼロから一貫して行って累計約1,200点の商品を開発してきました。開発商品は各種TV、雑誌など各種メディアに取り上げていただいています。

鉄工島フェス2019

2019年11月3日(日)に東京都大田区の京浜島で「鉄工島フェス2019」が開催されました。

©︎IRON ISLAND FES 2019 / Ryosuke Kikuchi

2019年で3回目となる「鉄工島フェス2019」は東京都大田区にある工業専用地域・京浜島で行われる、音楽とアートが繰り広げられるイベントです。オープンファクトリーで行うような企業によるワークショップイベントは一切なく、工業地域をまさに「舞台」にして一般来場者に音楽とアートを楽しめる新しい形のイベントです。

作業現場がライブ会場

いわゆる音楽やアートのフェスというと、野原や公園などの広い会場に舞台を組んで、その上で演奏をしたりパフォーマンスをするものですが、鉄工島フェスでは実際に稼働している工場の作業現場が舞台となります。昨日まで通常通り稼働していた工場内の工作機械の前に最小限の機材をセットしたインダストリアルな空間で繰り広げられるアーティストのパフォーマンスに、たくさんの来場者は非日常を思い切り楽しんでいました。

工業地域を舞台に繰り広げられるアート作品

フェス会場内を歩いていると目に飛び込んでくるアーティストの作品やパフォーマンスもワクワクするものばかりです。

国内外で公共空間を中心に大型プロジェクトを行う「西野」逹による、車やタンスなどの工業製品が重なった3メートルを超える高さの圧倒されるようなオブジェの展示や、渋い色合いの工業地帯に一段と映える色鮮やかな集団「ケケノコ族」が会場のいたる場所をシュールに練り歩くパフォーマンスなど、様々なアートが工業地域一帯を舞台に繰り広げられていました。

有名ミュージシャンも参戦

鉄工島フェスでは実に様々なジャンルのミュージシャンが、作業現場を舞台にしたライブ会場で多くの来場者を沸かせていました。

最近人気沸騰中の女性二人組ラップユニット「chelmico」はジャンプスーツ風の衣装で登場し、午前中にも関わらず彼女たちの明るく弾ける歌声でフェスの最初のライブは大変な盛り上がりでスタートしました。

そしてトリを飾ったのはテクノミージックやDJとして有名な石野卓球。鉄工島フェスのロゴが赤く光るネオン看板の前で次々に繰り出されるダンスミュージックには、会場と音楽が合間って、思わず身震いをしてしまうほど盛り上がりでした。

工業地域の見せる、昼の顔と夜の顔

1日のフェスを通して感じたのは、インダストリーでかっこいいと思っていた工業地域の昼の顔と夜の印象が、音楽やアートによってよりくっきり表現されていたということです。

昼間のライブシーンでは、屋内とはいえ、ゆうに2階以上ある屋根の高い工場の空間で、来場者はそこここに置かれたままの大きな金属の部品、年季の入った工作機械、サビのついた古い工具を目の当たりにすることができます。遊園地やテーマパークのようなイミテーション装飾ではない本物のインダストリアルな空間も楽しんでいたようです。

そして日が暮れると、作業現場はガラッと印象が変わります。工作機械や天井に吊るされた工具がライトアップされ、そこにくっきりと影が落ちます。無骨な印象が鮮明になり、様々な会場全体が力強い雰囲気に包まれていました。

工業のかっこよさが伝わる新しい形のフェス

無骨な重機や高さのある工場の空間など、日々工業地域で働く人たちにとっては当たり前でも、普段触れ合うことのない一般来場者の人たちにとっては工業地域の持つ魅力を知る、新しいきっかけづくりの形なのかもしれません。

なんとこれだけの音楽とアートの祭典も、夜のうちに撤収され、翌日からまたいつも通りの工業地帯に戻ってしまうそうです。まるで1日だけの幻だったのではと思うほどあっという間の出来事ですが、しかし、きっとこの街には、工業・音楽・アートの根底にある、何かを作り上げることへの挑戦心が生き続けるのだと思います。

メカトロテックジャパン2019レポート【後編】

メカトロテックジャパン2019は10月23日(水)~10月26日(土)の4日間、ポートメッセ名古屋で行われました。元エンジニアの工業ライターが見たメカトロテックジャパンをご紹介します。後編となる今回は、人と共に働き、作業を助けてくれるロボットや作業環境のクリーン化、その他個人的に面白いと感じた展示についてレポートします。

人と一緒に働くロボット

センシング技術や制御技術の発達により、ロボットはより人間に近い場所で働くものへと進化しています。従来であれば、ロボットが動く場所は人が働く場所とは柵などで隔てられていましたが、メカトロテックジャパンでは、人のそばで、人と一緒に働くロボットが特集されていました。

FANUCの協働ロボット

FANUCの協働ロボットは、組み立て加工などに含まれていた重筋作業を肩代わりしてくれるロボットです。台車の上からワークを作業台へと移したり、作業が終わったワークの向きを変えて治具の上に置き直すような作業を行います。また、ハンドガイドを使用し、軽い力で重量物を移動させるような作業も可能です。いわゆる危険、キツイ作業から作業者を解放してくれるため、人材の定着にも期待ができます。本体が柔らかいカバーで覆われていることや、人とぶつかったときには安全に停止する機構などが組み込まれているため、安全柵は必要ありません。さらに内臓カメラによる画像解析により、ネジの本数の確認やベルトの装着確認のような、作業確認も可能。まさに人のそばで、人を助け、人と共に働くためのロボットになっています。

DENSOのCOBOTTA

FANUCの協働ロボットは比較的大きかったのに対し、DENSOのCOBOTTAは小さなロボットです。約4kgという小型軽量で、デスク上などに簡単に設置することが可能です。アームを手で直接動かすことでティーチングができるため、ボトルへのシール張りや、装飾のビーズを並べるといったような、従来は機械をセットするよりも人の手でやった方が早いと思われていた軽作業を行うことができるようになりました。

作業環境のクリーン化

近年では作業環境の改善なども注目されるようになりました。また人材難から、従来の製造業として強かった3Kのイメージを払拭するために、きれいな工場を目指す企業も増えています。

エバーケミカル工業の手荒れ防止切削油

切削油のような油は、皮膚の油分を溶かして奪っていくため、手荒れの原因になります。エバーケミカル工業の切削油は、従来の切削性は損なわず、手荒れを防止することに成功しました。たかが手荒れと考える人もいるかもしれませんが、手の皮膚の状態は作業者の生活の質そのものに大きく関わります。そのため作業者の定着などにも効果が期待できます。

ホーコス株式会社のミストイーターZ

フィルターレスで 工作機械から発生するオイルミストなどを吸引する装置です。有名な掃除機と同じ、サイクロンテクノロジーによってミストと空気を分離。

フィルター式と異なり、吸引力が下がっていかないのが特長です。オイルミストは、作業環境を悪化させる他、建屋の汚れの原因になったり、スリップ事故の原因にもなります。フィルター交換の要らないミストイーターならば、高い吸引効果を期待することが可能です。

ライターのイチオシ

個人的にとても興味を引かれたのは、インターナショナルダイヤモンド株式会社の超極細ダイヤモンドヤスリです。すき間や細密部の仕上げに使う細長いダイヤモンドヤスリを展示していたのですが、驚いたのはシャープペンシルにも取り付けられる種類があることです。

ピンバイスにも取り付けても使えるそうですが、シャープペンシルに取り付けるという発想がユニークで面白いと感じました。ペンケースからスッと取り出したら、少しかっこいいですね。

筋力的、肉体的に厳しい作業を減らしたり、工場の環境をよくすることは、求職者の裾野を広げ、労働者の定着につながります。労働人口の減少を見据え、新しい技術をどのように活かしていくかも、大切な戦略になっていくでしょう。

メカトロテックジャパン2019レポート【後編】

メカトロテックジャパン2019は10月23日(水)~10月26日(土)の4日間、ポートメッセ名古屋で行われました。元エンジニアの工業ライターが見たメカトロテックジャパンをご紹介します。後編となる今回は、人と共に働き、作業を助けてくれるロボットや作業環境のクリーン化、その他個人的に面白いと感じた展示についてレポートします。

人と一緒に働くロボット

センシング技術や制御技術の発達により、ロボットはより人間に近い場所で働くものへと進化しています。従来であれば、ロボットが動く場所は人が働く場所とは柵などで隔てられていましたが、メカトロテックジャパンでは、人のそばで、人と一緒に働くロボットが特集されていました。

FANUCの協働ロボット

FANUCの協働ロボットは、組み立て加工などに含まれていた重筋作業を肩代わりしてくれるロボットです。台車の上からワークを作業台へと移したり、作業が終わったワークの向きを変えて治具の上に置き直すような作業を行います。また、ハンドガイドを使用し、軽い力で重量物を移動させるような作業も可能です。いわゆる危険、キツイ作業から作業者を解放してくれるため、人材の定着にも期待ができます。本体が柔らかいカバーで覆われていることや、人とぶつかったときには安全に停止する機構などが組み込まれているため、安全柵は必要ありません。さらに内臓カメラによる画像解析により、ネジの本数の確認やベルトの装着確認のような、作業確認も可能。まさに人のそばで、人を助け、人と共に働くためのロボットになっています。

DENSOのCOBOTTA

FANUCの協働ロボットは比較的大きかったのに対し、DENSOのCOBOTTAは小さなロボットです。約4kgという小型軽量で、デスク上などに簡単に設置することが可能です。アームを手で直接動かすことでティーチングができるため、ボトルへのシール張りや、装飾のビーズを並べるといったような、従来は機械をセットするよりも人の手でやった方が早いと思われていた軽作業を行うことができるようになりました。

作業環境のクリーン化

近年では作業環境の改善なども注目されるようになりました。また人材難から、従来の製造業として強かった3Kのイメージを払拭するために、きれいな工場を目指す企業も増えています。

エバーケミカル工業の手荒れ防止切削油

切削油のような油は、皮膚の油分を溶かして奪っていくため、手荒れの原因になります。エバーケミカル工業の切削油は、従来の切削性は損なわず、手荒れを防止することに成功しました。たかが手荒れと考える人もいるかもしれませんが、手の皮膚の状態は作業者の生活の質そのものに大きく関わります。そのため作業者の定着などにも効果が期待できます。

ホーコス株式会社のミストイーターZ

フィルターレスで 工作機械から発生するオイルミストなどを吸引する装置です。有名な掃除機と同じ、サイクロンテクノロジーによってミストと空気を分離。

フィルター式と異なり、吸引力が下がっていかないのが特長です。オイルミストは、作業環境を悪化させる他、建屋の汚れの原因になったり、スリップ事故の原因にもなります。フィルター交換の要らないミストイーターならば、高い吸引効果を期待することが可能です。

ライターのイチオシ

個人的にとても興味を引かれたのは、インターナショナルダイヤモンド株式会社の超極細ダイヤモンドヤスリです。すき間や細密部の仕上げに使う細長いダイヤモンドヤスリを展示していたのですが、驚いたのはシャープペンシルにも取り付けられる種類があることです。

ピンバイスにも取り付けても使えるそうですが、シャープペンシルに取り付けるという発想がユニークで面白いと感じました。ペンケースからスッと取り出したら、少しかっこいいですね。

筋力的、肉体的に厳しい作業を減らしたり、工場の環境をよくすることは、求職者の裾野を広げ、労働者の定着につながります。労働人口の減少を見据え、新しい技術をどのように活かしていくかも、大切な戦略になっていくでしょう。

メカトロテックジャパン2019レポート【前編】

メカトロテックジャパン2019は10月23日(水)~10月26日(土)の4日間、ポートメッセ名古屋で行われました。元エンジニアの工業ライターが見たメカトロテックジャパンを前編・後編に分けてご紹介します。

メカトロテックジャパンとは

メカトロテックジャパンとは、2年に1度、秋の名古屋で行われる国内最大級規模の工作機械見本市です。第17回目を迎えた今回は国内外から477もの企業や団体が出展。およそ9万人が来場する、非常に大きな展示会となりました。展示内容も幅広く、中小企業向けのソリューションから、大きな工場向けの巨大な工作機械まで、数多くの出展がありました。前編では、中小企業からも関心の高い、作業の一般化や省力化についてのソリューション。後編では人と共に働くロボットや作業環境のクリーン化、目を引いた展示についてお送りします。

作業一般化へのソリューション

近年、これまで工場を担ってきた団塊の世代の定年退職や、人材の不足、従業員の定着の困難などに悩む企業は少なくありません。それにともない、従来は熟練工に任せていた作業を誰にでもできるように「一般化」しようという動きが浸透しています。メカトロテックジャパンでも、難しかった作業を簡単にするソリューションが数多く展示されていました。

日研工作所のツールプリセッタ

加工機にツールをプリセットする作業を自動化する装置です。刃先の測定はとても難しく、さらにその精度が加工の精度に反映されるため、熟練の技を必要とします。しかし日研工作所のツールプリセッタは、光学測定を行いますので、ツールを置いてボタンを押すだけで誰でも誤差のない測定が可能です。

さらにツールに取り付けたQRコードをハンディスキャナで読み込むことで、刃先データをサーバーに登録。加工機にセットする際には、QRコードを読み取るだけで、刃先データが自動で入力されます。これによりツールのプリセットが誰にでもできるようになる他、プリセットにかかる時間も短縮することが可能になりました。

GFマシニングソリューションズの超精密加工向けチャック

ワークを固定する治具のチャックです。独自の機構により0.6μmという超高精度のチャックを可能にしました。これにより、ワークのセットアップを誰でも同じ精度で行うことが可能になります。またセットアップにかかる時間も短くなるため、加工効率の向上にも貢献します。

SAIDA・UMSのVERSEC

従来のリアルな加工感覚と、未来的でバーチャルな加工感覚を融合する、新型旋盤です。基本的な形状は従来の普通旋盤と同じですがが、主軸の回転はインバーター制御による無段階制御になり、送り機構にはサーボドライブが採用されています。またネジ切り加工などはプログラム化もされており、半自動で加工を行うことができます。そのため、従来の旋盤のようなギアの調整などの必要がなくなり、より早く、より簡単に加工を行うことができるようになりました。

省力化へのソリューション

人材確保が困難になることにより、従来は人の手で行っていた作業を機械に肩代わりさせようという動きも強まっています。特にワークを加工機から取り出したり並べたりというような単純な作業は、できるだけ簡単な装置で代用しようという提案も増えています。

伊藤精密製作所のダコンアンシン

加工機から排出されてきたワークをパレットの中にストックする際、ダコンを避けるために人の手でワークを並べていたものを自動化する提案です。ダコンアンシンでは、機構を工夫することで、人の手のように「そっと」ワークを下ろすことを実現しました。

100V電源とエアーのみで動き、周囲の装置や求められる動きに合わせてオーダーメイドの装置を提案します。

一般化、省力化へのソリューションは、ここで取り上げたもののように、工場の既存のシステムに追加することで機能するものも数多く展示されていました。次回は人を助け、工場環境や労働環境を改善してくれる展示をご紹介します。

町工場ぶっちゃけ対談 vol.12 ~meta mate オープン直前!特別対談~

こんにちは!会いに行ける町工場社長、栗原です!

秋ですね~。いろいろと楽しみが待っている秋ですが、今年は、なんといってもラグビーワールドカップです!4年に一度じゃない、一生に一度だ!ですよ(笑)もちろん、ラグビーだけじゃない。この秋、ものづくり界にも、見逃しちゃいけないイベントが目白押しです。各地でオープンファクトリーや展示会など、たくさん開催されます。ちょっと目についたものだけでも・・・。詳しい情報は各リンク先をご覧ください。

9月27日(金)グランドオープン

そんなこんなで、大忙しのものづくり界隈ですが、とくに我々、金属加工に携わる者たちにとって外せないビッグニュースがあります!

2019年9月27日(金)、COREDO室町テラス2F「誠品生活日本橋」内に、meta mate 1号店 グランドオープン!meta mate (メタマテ)は、広島県福山市の精密鋳造部品メーカー、株式会社キャステムさんが、アイアンカフェに続いて展開する「金属という熱が伝わりやすい素材を通して人から人へ温かい思いを届ける」をコンセプトとしたメタルギフト・ワークショップのお店です。

今回は、その開店準備に奔走中のお三方、店長の戸田有紀さん、General manager(店長のお目付け役?)の長瀬友行さん、そして紅一点は、プロジェクトメンバーとしてデザイン面を担当されている、眞鍋玲さんにお話をいろいろと伺ってきたので、対談形式でお届けしたいと思います。

アイアンカフェからメタマテへ

栗原:では、まずは、アイアンカフェからメタマテへのいきさつをお聞きしたいと思います。

戸田:アイアンカフェは、キャステムとして初めてのお店で、新たなチャレンジの3年間でした。その3年間の経験をもとに、さらに、新しい場所で新しいコンセプトですべてをアップデートして生まれ変わるのが、メタマテです。

長瀬:もともと”カフェ”をやりたかったわけではないですからね。製造業のキャステムとしては、B to Bの仕事だけに頼ることの危機感は常に持っていて、そこで、まだまだ攻めていない市場である、B to Cへの足掛かりという役目が、アイアンカフェにはあったわけです。一般のお客様向けの商品をただ作って売るだけじゃなくて、お客さん自身の潜在的なニーズを調査しながら製品づくりに活かしていく。ものづくりの相談のできるカフェだったらニーズを引き出せるという考えからです。

栗原:でも、目的を果たしたとはいえ、そのアイアンカフェが無くなってしまったのは。。。自分にとって、とっても居心地がいい場所だったんですよ。ご存知だと思いますが(笑)

長瀬:コンセプト自体は素晴らしいと今でも思ってますよ。できることならまた復活させたいと思うくらい。ただ、会社として、3年間という期限の中で、との結論です。ここからは、メタマテで、もっとお客さんにコミットしたサービスを展開していこうということです。

栗原:私も同じ製造業の中にいて、B to Cの難しさは痛感しているんですよね。町工場の連中、みんなやるけど、遊びで終わる。本格的にやろうとするとなかなかね。ここをビジネスにまで高めようっていう決断には、勇気、覚悟がそうとう必要だったんじゃないかって思います。

長瀬:たしかにハードルは高いと考えていて、個人のお客さんの求めているものと、企業対企業で求められるものとが、違いすぎる。そこに迷っている人って多いんじゃないかな?そこで、ちゃんとビジネスに落とし込むには、どうしたらいいのか、すごく考え抜きました。で、最終的に、ギフトショップに特化したオーダーメイド、メタマテというところにいきついたわけです。

栗原:まさに、自分は迷ってます(笑)。迷っているというか、あえてリスク背負ってそこの壁を越えようとはなかなか思わないなあ。

長瀬:越えた先の利益もそこまで期待できないって、まあ、そう考えますよね。

道楽とビジネス

栗原:言っちゃなんですけど、我々から見たら、アイアンカフェも道楽に見えてたわけですよ。キャステムっていう後ろ盾があってのことだし。あんな秋葉原の素敵な場所に、カフェを開くなんて、夢みたいなもんだし。ただね、そこをやめてまで、販売のお店にシフトするって、その話を聞いた時には、正直、びっくりしましたよ。

長瀬:ぼくらに課せられたミッションっていうのは「ブランドを作る」ってことだったんです。で、まず、そのブランドってなんなんだってところから、ディスカッション重ねました。製造業のネットワーク発信で、金属のいいモノを売っていく、金属特化の雑貨屋さん。これ、ブランドになるんじゃ?というところから走り始めたんです。

分かりやすく言うと無印良品の金属版というようなイメージで。半年走った中で、少しずつ分かってきたことは、大量生産、大量消費の時代から、モノがいらないのにモノを作っているような、モノ余りの時代になった今。無印良品の金属版ビジネスモデルも、それこそ、儲けにならない道楽に終わっちゃうんじゃないかってこと。

そこからさらに、世の中に認められて事業として成立するものを本気で考えた結果が、人の気持ち、ギフトシーンに合わせた商品コンセプト、贈られてうれしい、贈ってうれしいというような、人の思いに寄り添うものの価値は、きっとどんな時代でも変わらないだろう、というところでした。

金属の熱伝導性から「熱を伝える素材でひとの温かい思いを届ける」をブランドコンセプトにと考えたんです。もちろん、ビジネスとして収益化するには高いハードルが待っていると思いますが、それは、これからしっかり答えを出していきますよ。

栗原:そうですよね。ある程度はスタートしてからわかることですね、結果は。それでも、相当に綿密な計画は立てているわけでしょ?

長瀬:計画を立てる上で大変だったのは、製造業の考え方をいったんわきに置いて、販売、マーケティングの思考に切り替えることでしたね。モノを売るっていうのは、こういうことなんだなっていうところまで。道楽とは言われない、事業として成立するモデル、余ってる機械と材料で作って売るっていうものじゃなくて(笑)

栗原:この話を聞くのは、正直、初めてではないので、メタメテの目指すところは理解できているつもりです。ただ、最初に聞いたときは、頭の中に?マークがいっぱいでしたよ。そのぶん、今はね、ものすごく期待値が上がっている。だって我々製造業の人間が、ずっと無理ってあきらめていた領域に、いよいよ乗り込んで行くんですよ。やっぱり、結果は出してほしい。同じものづくりに生きる者としてね。

長瀬:製造業の人にとって壁って、一番最後の出口のところ。出口のところをキチンと考えれば、ビジネスとして成り立つってことを、まず、キャステムが示したいと思ってます。ものづくりの可能性を広げたいですね。製造業が自ら仕事を作っていくいうことの、ひとつの答えになっていくと思ってます。

栗原:そこが一番のポイントですね。製造業も仕事を待ってるだけの時代はとうに終わっている。今までは縦のつながりの中だけで仕事をしてきたけど、世の中、激変しました。我々、この10年くらいの間、生き延びるために、ほんとにもがき続けて、その結果、たくさんの横のつながりができました。その中にあって、キャステムさんが製造業が目指すべき新しい道の一つを見つけ出し、切り開いてくれるっていう期待は大きいです。仕事を自ら作っていく。キーワードですね。

長瀬:キャステムの場合は、20数年前、危機を経験してます。ゼロどころかマイナスからの再スタート。よそがやらない仕事を何とか確保して事業を続け、成長してきました。なので、仕事に対して待ちではなく積極的に、というのが身に染みて、やがてそれが強みになりました。その感覚を持った経営者が成功を目指す事業ですからね。

戸田:その社長が選んだ人材が長瀬さんだったわけですし!

長瀬:まあ、社長からは、何ゆうても、こいつは大丈夫って思われてるんでしょう(笑)

メタマテとは?

栗原:では、ここからは、具体的に新しいお店、メタマテのことをお聞きしたいと思います。

戸田:金属素材というものにこだわりますが、商材はいわゆる雑貨。商品は思いを届けるためにギフト化する。ラッピングやレーザーマーキングでの名入れサービスがそれです。プラス、オーダーメイド。お店で受け付けてから工場で製作する商品です。お客様のご要望を聞いてカタチにします。

栗原:オーダーメイドのサービスは、お客さんの希望を聞いて、ゼロから作り上げるものになるんですか?

戸田:今までの事例などをカタログ化して、予算も含めて、より分かりやすいサービスにしたいと思ってます。まとめると、コンテンツとしてラインナップしているのは、ワークショップ、物品販売、ギフトサービス、オーダーメイド。それと商業施設としては全く新しいサービスになりますが、3Dの全身スキャナー。頭の先から足先までを、素早く3Dデータ化して、オリジナルのフィギュアが作れたり、様々な展開が可能です。

栗原:3Dの全身スキャナー!それは、お店の目玉になりますね!

眞鍋:いわゆる作家さん、アーティストさんの作品の販売にも力を入れてます。とくにオープン後の最初の一ヵ月は、15人の作家さんにスポットを当てて、大々的に展開します!

戸田:メーカーさんの製品とのコントラストも興味深いです。同じ金属製品でも趣がけっこう違うものです。

栗原:15人の作家さんたちと出会われたきっかけって、何かあったんですか?キャステムさんも製造業としてやってこられたわけで、少し、いままでの流れとは違いますよね?

眞鍋:メタマテは、金属の製品を扱ううえで、商品のセレクトにも力を注いでいます。メタマテに来ていただく理由付けのひとつとして、魅力ある作家さんが揃っているというところも重要な要素です。作家さんたちとの出会いは、インスタだったりします。私個人の思い入れもあって、アイアンカフェの最後の時期に作家さんの作品を集めたイベントを企画してみたんです。動き出してから、ひとりひとり交渉して。結果として十分な手応えもあって、これは行けるなって!

栗原:我々、主に工業製品を手掛ける製造業なので、いわゆる作品というものに関する感覚が鈍いんですけど…。

眞鍋:私は美大出身なんで、むしろ、こちらのほうが主戦場と言えるんですよね。素材をメタルに限定したのは初めてですけど。実は、このあと半年分の作家さんも控えていて。オープニングは15名でにぎやかに、そのあとは、4~5名ずつ、月ごとに紹介していきます。

栗原:お話聞いて、アート系の作品、製品というものに興味が湧き始めてきました。

眞鍋:作家さんたちのほうも、工場に興味を持たれてる人、多いですよ。

栗原:話が脱線しちゃうんですけど、自分の地元の川口で、芸大出身の女性アーティストさんと町工場のコラボが進行中だったりします。きっかけは、卒業製作の大きな作品を作るのに、川口の工場が協力したっていうことなんですが。

戸田:アート作品でも工場で生産されたものでも、丁寧に作り込まれたという価値があれば、大量生産のものとは一線を画すと思います。メタマテでは、それを買う人のライフスタイルに合わせた提案ができます。人と人の間の温かいものを届けるギフトとして。

栗原:なるほど。作家さんたちにとっても、メタマテの店頭に自分の作品が置かれることが、ステータスになってきますね。

眞鍋:ただ、作品のクオリティは、日本橋という立地ということもありますし、厳しく見ていきます。作家さんの作るものは、あこがれるもの。買いたいという気持ちになるのは、その作家さんへの想いの部分が大きいです。それに相応しいものを選ぶ仕事はとても大事だって思ってます。

栗原:まだまだ、作家としてはこれからって若い人たちの、目標の場になるといいですね。MAKERS LINKの事業の中でも、目指せメタマテ出品みたいな応援、出来たらいいな。

長瀬:若手のいいアイデアをカタチにできて販売までできる環境。キャステムの社内ではできてます。それを外に広げたものが、MAKERS LINKの事業でできるかもしれませんね。

「体験を売る」というコンセプト

眞鍋:ワークショップの話もしたいです。私たちがテナントとして出店する”誠品生活”の特長でもあるんですけど「体験を売る」というコンセプト。私たちもアイアンカフェ時代に培ったワークショップを、さらにグレードアップさせて拡大展開します。作家さんにも参加してもらいますし、私もデザイナーとして関わっていきます。

長瀬:チャレンジではあるんですけど、ワークショップだからといって、安いものではなくて、ちゃんと商品の価値にコミットしようと考えています。高いクオリティのものを自分の手で作る喜び。自分で金属の製品を作ったという経験、感動はなかなか味わえないですから。

眞鍋:ワークショップはいろいろな方向性に広げていけたらって思います。趣味的なものから本格的な、もっと工業色の強いものまで、タップとダイスでネジ切りからアクセサリーを作るとか(笑)

栗原:我々からしたら、日常の仕事だけどなあ。タップ、ダイスの作業が一般の人に体験してもらうと、それが楽しいって思われるのかあ(笑)

眞鍋:あと、もう一つ。メタメテのプライベートブランドも。第一弾として、精密板金で作ったギフトボックスを企画中です。シンプルにギフト、メタメテを具現化するには、まず、金属製の箱を作りたいって。ほんとはもっともっといろいろやりたいんですけど。今のところ開店準備のほうが優先で。ゆくゆくは切削のものもぜひ!私、大好きなんで。(笑)

栗原:あ、ちょっと作って持ってきたんで、これ、メタマテの商品として売り込ませてください!(笑)さてさて、話は尽きないんですけど、時間の限りはあるので、今日はこのへんで。とにかく、お店の大成功を願っています。頑張ってくださいね!では、最後にみんなで写真撮りましょう。

エヌプラス ~新たな価値をプラスする素材・技術の展示会~レポート(後編)

2019年9月11日(水)から9月13日(金)の日程で、東京国際展示場にて「エヌプラス ~新たな価値をプラスする素材・技術の展示会~」が開催されました。エヌプラスは、プラスチックや金属材料などの素材系を中心に、多岐にわたる技術、製品が展示されています。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。後編では、気になった製品や技術を紹介していきます。

消防士のヘルメットにも使われる難燃性の発泡スチロール

最初の製品は、こちらの消防士のヘルメット内部の衝撃吸収ライナに使われている発泡スチロール素材。

愛媛県に本社があるウシオマテックス株式会社の「カルック」という素材です。通常の発泡スチロールと同じ軽さと遮熱性を持ちながら、難燃性という特徴を持っています。発泡スチレン樹脂に特殊なコーティングを行うことで難燃性を実現。通常の発泡スチロールと同じように自由な形に成形できます。

軽く、断熱性があり、丈夫で燃えないので、消防士のヘルメット以外にも、天井や畳床などの建材にも利用されています。シックハウス対策が施され、ダイオキシンの発生もなく環境にも配慮。EVとか航空宇宙関係など、軽くてある強度は欲しいが、燃えては困るというような物なら色々使えそうです。

樹脂と金属を接合

続いては、大阪の中西金属工業株式会社のブースに展示されていたこちら。金属とPP、CFRTP、POMなどの樹脂との接合です。

金属と樹脂素材をつなげる場合、通常は接着材を使うか、穴を開けてボルトなどで固定します。これは、表面処理した金属に樹脂を浸透、凝固させて強固に接合しています。

金属の表面処理には、愛知県の輝創株式会社のPMS処理(Prominent Micro Structure)が使われています。金属表面に微細構造を隆起させてプラスチックとの接合層とする技術で、少ない加圧力で成形済のプラスチックと強力に接合することが可能となります。軽量化を行うため、一部樹脂素材を使いたいような時に使えそうです。

射出成型でつくられた板材

次は、射出成型により作られたブロック状の板材。東京の旭モールディング株式会社の製品。

樹脂を使った切削試作用の厚い板材を、接着ではなく独自の金型を使い射出成型で成形しています。汎用の樹脂素材からスーパーエンプラまで幅広い樹脂素材に対応。顧客から支給される材料にも対応してくれるそうです。

顧客は板材料を自分でつくらなくても済み、そのまま切削加工ができます。既に幅広い業界の開発部門での利用実績があります。

低価格の小型CTスキャン

最後の製品がこちら。長野県の株式会社アールエフの小型CTスキャン装置です。価格は驚異の280万円。

幅650mm、奥行と高さはそれぞれ300mmほどの机におけるサイズながら、医療用のCTスキャンと同じように断層画像を見ることができます。これがあれば、鋳物や樹脂成型品内部の空洞を非破壊で確認したり、組み立てられたままで機械内部の干渉を確認したりすることができます。

ちなみに、画面に映っているのは箱に入ったタケノコの里。食品業界でも使えます。

そして、同じく株式会社アールエフのモニター付き360度先端稼働内視鏡。先端径が6.9mmでケーブル長さ1.5m、モニターサイズ2.4インチのものなら27万円とかなりリーズナブル。客先修理で、装置を移動させたり分解したりするのが難しいところで、見えないとこと確認するような時には活躍しそうです。

どちらの製品も、なんとなく個人的に欲しいと思う品。直ぐに使う用途はないので、もちろん買いませんが、個人でも手の届きそうな価格感が心に響いてきます。

小さいが盛り沢山な展示会

エヌプラスは、展示会としてはかなり小規模ですが、内容は広く、かなり特色のある物が多く並んでいました。大きな工作機械が難題も動いているような派手さはないももの、気になって近づき説明を聞いてみると、そんな凄い物だったのかと驚くこともよくありました。見どころの多い展示会でした。

エヌプラス ~新たな価値をプラスする素材・技術の展示会~レポート(前編)

2019年9月11日(水)から9月13日(金)の日程で、東京国際展示場にて「エヌプラス ~新たな価値をプラスする素材・技術の展示会~」が開催されました。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。前編では展示会の概要を紹介していきます。

素材を中心とした各種技術を展示

エヌプラスは、プラスチックや金属材料などの素材系を中心に、多岐にわたる技術、製品が展示されています。以下の展示会が同時開催され、全体でエヌプラスとなっています。

  • セルロースナノファイバーEXPO(CNFEX)
  • マイクロプラスチック対策展(MI-CONEX)
  • プラスチック高機能化展(N-PLEX)
  • 軽量化・高強度化展(MALSEC)
  • コーティング・表面処理展(COAT-TEC)
  • 接着・接合・ファスニング展(JOINTEC)
  • 耐熱・放熱・断熱展(HEAT-TEC)
  • 受託・加工技術展

来場者としては、自動車、電機・電子、化学・金属、機械、航空・宇宙などの製造業の現場に関わる人をメインターゲットとしています。

会場は、東京ビッグサイト青海展示棟Aホールの3分の1ほどの広さ。隣のBホールと、Aホールの残りのスペースで開催されている、食品製造機械や飲食サービスなどに関する展示会と会場がつながっているため、金属や樹脂の展示を見て歩いていたら、突然肉を焼いているというような、ちょっと変わった展示会場でした。

環境問題に対応した製品展示

展示内容はかなり幅広い分野に分かれていました。樹脂系の素材や、それに関わる製造装置に関する展示が比較的多いものの、精密プレスやめっき加工といった金属関係の展示も各種でていました。

近年、プラスチックストローやビニール袋などによる海洋ごみ問題が注目されており、生分解性プラスチックやセルロースナノファイバーなど、環境負荷に配慮した製品の展示コーナーには多くの人が集まっていました。技術的な向上はもちろん、普及に向けた取り組みも重要になっています。

他にも、環境問題対策ということでは、溶剤の処理装置、冷却効率を上げるための遮熱塗料、環境負荷の少ない金属面の腐食防止剤など、各種展示が見られました。環境問題に対する技術は、今後さらに大きな市場になっていきます。

電鋳、研磨、表面処理、塗装、受託など幅広い展示

エヌプラスは割とコンパクトな展示会でしたが、かなり幅広い分野の展示が行われていました。例えばこちら。

日本電鍍工業株式会社で展示されていた、めっき済みのサックス。形状は通常のサックスと変わらないと思うのですが、なんともメカメカしい色合い。無駄に欲しくなります。吹けないですが。

ちなみに、こちらの拳は、ボクシングチャンピョンのマニー・パッキャオのものだそうです。なぜ、ここに。

こちらはバレル研磨専門の会社、東商技研工業株式会社の展示スペースにあったバレル研磨用の研磨石とその研磨サンプル。こうやって並んでいると、雑貨屋で売っているパワーストーンのように見えなくもない。東商技研工業株式会社は、新潟の燕市にあるので、燕市の金属製品のバリ取り、光沢出しはこの石で行われているというわけです。

そして、エヌプラスの会場の一角では、同時開催でEV・PHV普及活用技術展(EVEX)、衛星測位・位置情報展(EVEX・SATEX)も開催されていました。

こちらは、その中の展示でMIRAI-LABO株式会社の太陽光発電舗装パネル「Solar Mobiway」。道に設置する高耐久性の太陽光パネル。車が上を走っても大丈夫です。従来の太陽光パネルよりも軽く滑らないので、屋上や駐車場などの既存のスペースに設置が可能。これなら人が出入りするデパートの屋上とかにも設置できます。

今回は「モノカク」を運営するテクノポート株式会社も、協力工場5社とともにエヌプラスに出展していました。最適な製造業者を無料で探索・紹介するものづくりの窓口「モノマド」を紹介しています。

(キャプション:株式会社栗原精機)

(キャプション:大東電気株式会社)

(キャプション:株式会社ダイイチ・ファブ・テック)

(キャプション:アツミ工業株式会社)

(キャプション:株式会社モリセ精工)

後編では、エヌプラスで展示されていた、気になった製品、技術を紹介していきます。

MF-TOKYO 2019(第6回プレス・板金・フォーミング展)レポート(後編)

2019年7月31日(水)から8月3日(土)の日程で、東京国際展示場にてMF-TOKYO 2019が開催されました。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。鍛圧塑性加工技術の専門展示会であるMF-TOKYO(METAL FORMING FAIR TOKYO)。プレスや板金装置、ネジやバネの製造装置はもちろん、その周辺機器、サービス、加工技術なども各種展示されています。後編では、プレスや板金機械に欠かせない周辺技術を中心に、気になった製品を紹介していきます。

振動問題を解決

最初の製品は、プレスや板金の装置から発生する振動を抑える防振装置です。

ドイツで100年以上の歴史がある防振・除振・制振・免震装置のメーカー、ゲルブ社の日本法人の出展ブースに展示されていた製品。回転運動やピストン運動など、各種駆動部分を持つ製造装置からは、様々な振動が発生します。プレスや板金の機械からも、単発の強い大きな振動や、連続する小さい振動、高周波の小刻みな振動など各種発生します。振動は、地面を伝わって感じられたり、空気中を伝わって音として感じられたりします。騒音、振動公害として工場周辺の住民からの苦情がきたり、振動で周囲の装置に悪影響を及ぼしたり、振動対策は製造現場にとって避けては通れない問題です。

写真のゲルブ社のダイレクトスプリングサポートは、スプリングと粘性ダンパの組み合わせからなる防振装置。プレス装置などを直接支持し、周囲に伝わる振動を大幅に低減します。既存の防振システムからの入れ替えも容易におこなえます。展示デモでは、小さなモデルに鉄球を落としてその性能をアピールしていました。

静電塗油で油量を大幅削減

プレスや板金製品の製造時はもちろん、機械そのものにも潤滑や冷却など様々な目的で油が使われます。油を効率よく使用できれば、完成品の品質を向上させたり、機械や金型の寿命を延ばしたり、油の使用量を抑えてコストダウンできたりと、多くのメリットがあります。

こちらは東京都世田谷区にあるルブテック社の静電塗油装置です。油に高電圧をかけてマイナスイオン化。ターゲットとなる金属へ接地することで、ノズルから噴霧される油が電気の力で引き寄せられ、均一な油の塗布が可能となります。

塗油膜の厚みコントロールが自由自在にできるだけでなく、上下、斜めなど塗油方向も自在。狙った場所に飛び散ることなく均一に塗油できるので、油消費量も大幅に削減できます。プレスや板金に限らず、切削などあらゆる機械加工で使える技術だと思います。油の飛散を嫌がる食品の加工装置などでも有効なのではないでしょうか。

板金屋の作るバリ取り機

板にパンチやレーザーで穴を開ける際には、穴の周囲に打ち抜く際に伸びてできたバリや、溶けで飛び出したドロスが発生します。加工条件などで抑えることはできますが、完ぺきにゼロにするのはなかなか難しい。そこでバリ取り機の登場です。

写真はバリ取り機に使用される各種ブラシ。新潟県燕市のエステーリンクの製品です。エステーリンクのバリ取り装置では、このブラシが回転しながら旋回運動することで、多方向からワークを研磨。満遍なくブラシが当たり、バリを綺麗に取り除いていました。金属加工が盛んな新潟の燕市と三条市界隈。装置の宣伝文句が「板金屋が追求した板金屋のためのバリ取り機」。なんだか力強い。

プレス油は塩素フリー

もう一つは、プレス加工の際に使用されるプレス油です。

以前のプレス油では、加工性能を上げるために添加剤として塩素化パラフィンを多量に含んだものが多くありました。欧米では規制が進み、作業環境改善や地球環境保全の観点からも非塩素系の物が今は望まれています。こちらは大阪府和泉市のアクア化学の製品。洗浄不要な高性能乾燥性プレス油の展示もありました。

小さな技術も見て回る

こういった大きな展示会。しかも、プレスや板金といった大型の工作機械が並ぶ展示会では、どうしても大きく動き回る大手メーカーの大型装置に目が行ってしまいます。もちろん、そのような機械を見て最新動向を知ることも大切なのですが、展示会場の外周部にあるような小さな会社をじっくり回ってみると、意外な技術に出会うことがあります。解決できないでいた技術的な困りごとが、それで解決できるかもしれません。会場の外周部は、実は見どころ満載です。

MF-TOKYO 2019(第6回プレス・板金・フォーミング展)レポート(前編)

2019年7月31日(水)から8月3日(土)の日程で、東京国際展示場にてMF-TOKYO 2019が開催されました。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。前編ではイベント全体の様子をお伝えします。

鍛圧塑性加工技術の専門展示会

MF-TOKYO(METAL FORMING FAIR TOKYO)は鍛圧塑性加工技術の専門展示会です。プレスや板金装置、ネジやバネの製造装置といった、鍛圧機械とその周辺機器、サービス、加工技術などが一堂に会します。初開催は2009年。2年に一度、JIMTOF(日本国際工作機械見本市)が開催されない奇数年に開催され、今年で6回目。今回の開催では、国内外の254社が出展。1,717小間と、小間数では過去最大規模の開催となり、4日間の開催で、来場者数は3万人を超えています。

プレス機械、板金機械、フォーミングマシンの3つのエリア

会場内は大きく3つのエリアに分かれていました。西1ホールから西2ホールの一部に広がるプレス機械関連のエリア。南1、2ホールの板金機械のエリア。西2ホールに広がる、ネジやバネ、パイプなどを扱うフォーミングマシンエリア。

プレス機械関連のエリアでは、大手から中小のメーカーまで、各社大小のプレス機械が並び、デモ動作が行われていました。その中でも、主要な顧客となる自動車産業に向けてアピールした製品が多くみられます。サーボプレスによる高度な制御により、ハイテン(高張力鋼)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形にも対応したものが各社から出品されていたのが特徴的でした。燃費の向上やEV化に向けた自動車の軽量化への対応が急がれています。

板金機械のエリアでは、大手メーカーの大型の装置が数多く並び、動きのある展示が多くみられます。特にレーザーを使った大型の装置が目立ち、少量多品種生産対応や、パンチングプレスから金型不要のレーザーへのシフトを提案する製品も見られました。その他、中国を中心に、海外のメーカーの出展で、精密板金の技術をアピールする会社も各社見られ、日本市場への更なる売込みに力を入れているようでした。

フォーミングマシンエリアでは、ネジの圧造・転造機、スプリングマシン、パイプベンダー、製缶装置など、金属を曲げたり、伸ばしたり、形をつけたりする装置が並びます。全体的に自動化、省スペース、高速化、省力化をうたうものが多くみられました。労働者不足の現状が感じられます。

進む自動省力化とIoT化

サーボプレスやレーザーなど、加工技術についてアピールする企業が多い中、人手不足や技術継承に対応するための自動省力化、スマート工場を目指したIoT化などをアピールする企業も多くみられました。

複数台のサーボプレス機と搬送装置を高度に連携制御させ、材料搬入から成形までを効率よく行うタンデムプレスライン。板金装置とロボットアームを連動させたベンディングロボットシステム。パンチング装置とレーザー加工機が搭載された複合加工機。途中、人の手を介すこと無く最終製品まで製造できる製造装置や、熟練の技術者の動作を覚えるロボットなど、大量生産だけでなく、今後製造業が直面する問題を見越した技術開発が進んでいました。現場の者と共に作業を行う協働ロボットの展示もみられ、この流れは今後どの展示会でも見られるようになると思われます。

また、人手不足や作業効率の向上のための策として、各種装置へのIoT技術導入も進んでいました。装置の稼働状況を一括で見られるだけでなく、油や空気の消費量の変化、金型の温度状況など、装置内の様々な部分を見える化。効率のよい稼働や、金型の寿命なども含めたランニングコストの低減など、IoT技術でより効率的で高度な加工が行えるようになります。また、IoT技術により得られたデータを蓄積することで、熟練技術者の技術をデータとして残すことも考えられます。IoT、AI技術の導入は、今後の製造業にとって重要な課題です。

後編では、プレスや板金機械に欠かせない周辺技術を中心に、気になった製品を紹介していきます。

INTERMOLD 名古屋 2019 レポート(後編)

2019年6月19日(水)から6月22日(土)の4日間、愛知県名古屋市にあるポートメッセなごやで開催されたINTERMOLD 名古屋。今回は、元エンジニアのライター石川がINTERMOLD 名古屋で見つけた、少し面白い展示をご紹介します。

金属製3Dプリンターで金型の入子を作る

メリットとデメリットの両方が聞かれる3Dプリンターですが、やはり治工具の分野では実用事例が増えていると感じています。INTERMOLD 名古屋でも、金属製3Dプリンターを使用して製作した金型の入子が展示されていました。


1例目は七宝金型工業株式会社様の3D冷却管が内臓されたダイキャスト金型用の入子です。3Dプリンターの特長の1つとして、従来の除去加工では不可能だった中空構造が作れることが上げられますが、七宝金型工業株式会社ではその特性を生かし、凸形状の先端近くまで冷却管を通すことを可能にしました。3Dプリンターで成形後、切削にて仕上げを行っています。


2例目は(株)ケイプラスモールドジャパン様によるプラスチック射出成形用金型のガス抜き入れ子です。ケイプラスモールドジャパンでは、金属製3Dプリンタ-を使用し、入子の表面を微細なメッシュ構造にしました。これにより従来のベントに比べて広い範囲で効率的なガス抜きを可能にしています。このようなガス抜き入子を使用することで、従来ではガスの発生が懸念された成形条件での成形も可能になるかもしれませんね。

特殊なプレス技術が面白い

INTERMOLD 名古屋では目を引く製品も見つかりました。例えば三和パッキング工業(株)様では、自動車のエンジンルームなどで放熱や遮熱に使うNimbus GⅡを展示していました。これは特殊な技術でアルミ主体の金属プレートを立体的な蛇腹構造に加工し、それをさらにプレスで成形したものです。蛇腹構造になっているため占有体積に対する素材の面積が広くなり、高い放熱、遮熱効果を期待することができます。また、見た目も美しく、細部まで品位を要求される高級車などからの需要が高いとの話でした。

金属のプレス技術で一際複雑な形状の製品を展示していたのが、ダイワ精密プレス(株)様でした。看板展示品である大仏プレスに代表されるように、一般的な技術ではアンダー形状などになって加工が難しい形状を数多く加工されています。

昔ながらの工場で使える技術

金型製作が行われているのは、町工場のような中小企業が多数です。そのような昔ながらの工場で生産性を向上させるために使える技術の展示もありました。例えば(株)三雲製作所でプレス加工品を自動でピックアップし、ストックする機械を展示していました。従来のように担当者がプレス機の前に立って材料を送っていく方法に比べ、人件費を半分に押さえることができるといいます。また別のいくつかの企業では既存の金型にセンサーを取り付け、IoTの導入が可能になるシステムの紹介などもありました。
日本では少子化にともない労働人口が現象し、人材の確保が今後の大きな課題になるといわれています。既存の設備やシステムを活かして、工数を削減することができる機械やシステムは、今後さらに需要を伸ばしていくでしょう。

技術と需要のマッチングという課題

このような展示会に足を運ぶと、よく見かけるケースとして「こんなすごいものを作ってみました。でもこの技術を欲しがる企業が見つかりません」というのがあります。大きな視点で見れば、そのような「使い道はわからないがすごい技術」というのは、科学における基礎研究にも似て、技術の裾野を広げ、思わぬ躍進につながる可能性を秘めているとは思います。とはいえ、企業にとってはできるだけ早く実用化へと繋げていきたいものでもあります。技術のみを展示するのではなく、それを使って何ができるか、そんな提案も添えてみるとこで、より多くの企業の目に止まるのではないかと感じました。

INTERMOLD 名古屋 2019 レポート(前編)

INTERMOLD 名古屋は2019年6月19日(水)から6月22日(土)の4日間、愛知県名古屋市にあるポートメッセなごやで開催されました。プラスチック部品の設計経験を持つ、元エンジニアのライター石川がINTERMOLD 名古屋を訪れたので、今回はその概要を紹介します。

INTERMOLD 名古屋 2019とは

INTERMOLD 名古屋はポートメッセなごやの第3展示館で、金型展 名古屋、金属プレス加工技術展名古屋と同時開催されました。タイや中国など、海外の企業を含めた300社以上の企業・団体が出展、来場者は4日間でおよそ4万人となり、期間中は多くの人でにぎわっていました。

INTERMOLD 名古屋 2019の出展内容

メインとなるのは樹脂の射出成形に使う金型の加工技術です。切削や研削、精密加工や溶接などの工作機械や、加工用工具、測定機など様々な加工技術の展示が行われていました。また金型に関わる周辺技術として、3D CAD、CAMをはじめとした設計補助のソフトウェア、IoTなどのソリューションの提案や、安全や教育などを含めた工場の環境改善に関わる商品も数多く展示されていました。

同時開催されていたプレス加工技術展では、金属プレスに使う金型や、試作向けのハイスピードな仮型提供ソリューション、高度なプレス技術、プレス機の周辺で使用する機器などの展示があり、さらに近年注目を集めている3Dプリンター関連技術として、金属製3Dプリンターを使った金型の技術ブースには数多くの人が立ち寄っていました。

INTERMOLD 名古屋では、展示の他にも講演やセミナー、テクニカル・ワークショップも数多く、自動車部品工場が多く集まる中部地区ということもあってか、自動車や自動車部品の開発などに関わる講演も多くありました。

樹脂の射出成形用金型の展示

日本金型工業会による金型ブースは、金型の製造を行っている中小企業がメインです。精密な金型や金型加工の速さ、複雑な金型など、各社それぞれに自社の強みを紹介しています。しかし金型技術という、すでに開発が高みに登りつめている分野という特性上、特に目立った新技術などは見当たりませんでした。そのような中で比較的目立っていたのは、金属製3Dプリンターを使用して金型を製作する技術の紹介でした。

金属プレス金型の展示

プレス金型についても、射出成型用金型と同様、金型の製造を行っている中小企業による展示が主になります。板金のプレスやプレスによるバネの製作、順送装置などの紹介が行われていました。プレス金型についても、射出成型用の金型と状況が似ており、目立った新技術の紹介などは見当たりませんでしたが、3Dプリンターやプレスで作成した仮型の使用により、試作期間を短縮するソリューションの提案なども行われていました。

金型加工技術の展示

INTERMOLD 名古屋で最も目立つ展示が行われていたのは、金型加工技術のコーナーになります。そういう意味では、機械要素技術展とも雰囲気が似ているかもしれません。アマダ、牧野フライス、ファナック、オークマといった主力の工作機械メーカーや、キーエンスやカールツァイスといった測定機器メーカー、キャムタスなどの設計補助ソフトウェアメーカー、ケルヒャーなどの工場で使用する機器のメーカーなどの展示が行われていました。とはいえ金型に特化している展示会ですので、機械要素技術展に比べ、金属に対する加工や、複雑な形状に対する測定などがメインでした。複雑な加工、精密な加工に対する提案も多く行われていたのですが、機器の使いやすさや加工時間の短縮、ワンステップでの加工などの分野でのソリューション提案が多く見られたのが特徴的でした。

ガジラがつかむ、未来の夢

ものづくりに軸足を置いたジャーナリストの伊藤公一です。製造業に関わる業界や企業、経営者などを対象とする取材活動をしています。業界記者歴三十余年の活動を通して感じたことや気づかされたことなどを自然体で取り上げていく考えです。

解体工事や災害復旧工事の現場で活躍

建物や道路などの建設現場で見かける「はたらくクルマ」は子どもたちの目を輝かせます。作業現場で活躍する建設機械は、物を壊す機械と、造る機械に分かれます。このうち、主に壊すための機械に取り付けるアタッチメントを手がけているのが株式会社タグチ工業(岡山県岡山市、田口裕一社長)です。特に、つかむ作業をする製品では国内トップクラスのシェアを誇ります。

同社はもともと、溶接の仕事を営む会社として設立されました。その後、1985年に、建物を壊した後の廃材をつかむ「グラスパー」というアタッチメントを開発。この装置は非常に頑丈であるため、建物を壊す解体工事ばかりでなく、災害復旧工事の現場などでも使われるようになりました。

1993年にはコンクリートなどを壊す「ガジラ小割機」を開発しました。ガジラは有名な怪獣を思わせるインパクトのあるネーミングと相まって、その後も「カッター」(1998年)、「大割機」(2005年)など、シリーズを拡大。「つかむ、壊すのどちらかが得意なメーカーはありますが、どちらも得意なのは当社だけ」と田口社長は胸を張ります。

「今っぽさ」反映してG賞に輝く

しかし、同社は廃材などをつかむアタッチメントを造っているだけではありません。未来の夢をつかむ取り組みにも力を注いでいます。その一つが、総合的なデザイン評価や推奨をするグッドデザイン賞(G賞)への挑戦でした。

“代表選手”に選ばれたのは「ガジラDSカッター」と「マグ・ゴン」。前者はガジラシリーズのエースで、鉄骨や鉄筋を含むコンクリート構造物を切断・圧砕するカッター、後者はスクラップや鉄筋などの廃材を電磁石の力で引き上げ、収集する油圧発電式マグネットです。

解体現場で活躍する油圧ショベルの先端に取り付けられたガジラDSカッター

結果を先に言えば、2つの製品は2018年度のG賞を受賞。ガジラ~は審査委員が選ぶ「グッドデザイン賞ベスト100」「私の選んだ一品」「グッドフォーカス賞(技術・伝承デザイン)」にも輝きました。同社の広報担当者は「専門業者などの直接的なユーザーだけでなく、社会的にも一定の評価を得ることができた」と受賞の喜びを語ります。

審査員の一人は「ガジラのような製品がG賞に出てきたことは“今っぽい“。久々にデザインらしいデザインを見た思い」とコメント。広報担当者も「ものの美しさについて十分なお墨付きをいただけて、大きな自信と励みになりました」と誇らしげに語ります。

「都市の新陳代謝」を担う最前線に

同社の製品がG賞で獲得した合わせて5つの栄冠には、インフラの老朽化や都市のスクラップ&ビルドによる「都市の新陳代謝」という時代の大きな流れが関わっています。実際、首都圏では、東京オリンピック・パラリンピック関連の新たな施設建設に伴う建物の解体工事が目白押し。日々、少しずつ変わっていく風景は、都市の再生、再創造という大がかりな実験が進んでいることを示しているようです。

こうした時代背景を踏まえているだけに、2つの製品をG賞に導いたことは単なる販売促進のアドバンテージにとどまらず、同社が「都市の新陳代謝」という社会的な仕事に携わっていることを世の中に広く印象付ける効果をもたらしました。

ところが、5冠獲得という快挙を達成したにもかかわらず、田口社長の感想は「銅メダルを獲った気分。悔しい!」。短い言葉の中に無念さがにじみます。その思いを奮起のばねにした新製品は、受賞製品を進化させて年内にも発表される計画です。

「誰も歩いていない道を行く」日本最古の醸造業

ものづくりに軸足を置いたジャーナリストの伊藤公一です。製造業に関わる業界や企業、経営者などを対象とする取材活動をしています。業界記者歴三十余年の活動を通して感じたことや気づかされたことなどを自然体で取り上げていく考えです。

今年469歳を数える超高齢企業

「伊丹の酒、今朝飲みたい」という文章をすべてひらがなで書き表すと「いたみのさけ、けさのみたい」という回文が浮かび上がります。こうした言葉遊びにさえ地名が織り込まれる伊丹はわが国を代表する日本酒(清酒)の産地の一つです。

この伊丹に本拠を置き「清酒白雪」の製造・発売元として知られる小西酒造(小西新太郎社長)は醸造業としては日本最古です。創業は1550年。キリスト教を広めるためにスペイン人宣教師、フランシスコ・ザビエルが来日したころにあたります。人間の年齢に例えれば469歳という「超高齢者」の会社であるにもかかわらず、同社は常に新しいことに挑み続けています。

「ただ単に歴史が古いだけでは時代に取り残されてしまいます。そうならないように当社は『誰も歩いていない道を行く』という気持ちをいつも忘れないようにしています」。小西社長は最古の醸造業を与(あずか)る責任をそう明かします。

「誰も歩いていない道」の一つが古い時代のレシピを使った商品開発です。同社には創業当時から伝わる古文書がたくさん残っています。そこで、江戸(元禄)時代に記された方法を忠実に再現した復刻版の日本酒を造りました。水を半分しか使わない製法なので琥珀色で甘みがあります。当時の酒が味わえるのは古い資料が470年近くもの間、大切に保管されていたからに他なりません。

食事を楽しむコミュニケーションツール

歴史を生かした酒造りとは逆に、歴史に捉われない斬新な発想で力を注いだのが、輸入を皮切りとするベルギービールの普及活動でした。1988年のことです。日本におけるベルギービールの歴史は同社が紹介したこの年から始まりました。日本酒を造る会社であるにもかかわらず、競争相手になるかもしれないビールを広めた背景には、本社のある伊丹市とベルギーのハッセルト市が姉妹都市であったという縁があります。

ベルギービールを手がけ始めた当初は、仕入れたビールを販売するだけでしたが、現在では自社でもベルギービールタイプの商品の製造・販売に乗り出しています。日本酒という看板商品にこだわらない、酒との柔軟な向き合い方の根底には「食事を楽しむためのコミュニケーションツールとして酒を愛してほしい」という小西社長をはじめとする同社の熱い思いがあります。

小西酒造が手がけているベルギービール(ベルギービールウイークエンド2018の会場で)

栄えある王冠勲章コマンドール章を受章

ベルギービールの普及に対する地道な取り組みは2018年6月、ベルギー王国から「王冠勲章コマンドール章」を受賞するという形で実を結びました。ベルギービール輸入30周年という大きな節目にもたらされた朗報でした。この勲章は国家的な功績を残した人に与えられるもので、外国の民間人に対する叙勲では最高位とされています。

会社として、ベルギービールの輸入・販売に貢献するばかりでなく、小西社長個人としても普及に尽力したことが認められた結果でもあります。小西社長は「輸入を開始した30年前、ベルギービールは日本国内ではほとんど知られていませんでいた。そんな中で、その素晴らしさを地道に啓発し、ファンが少しずつ生まれてきました」とこの事業の「道」の歩み始めを振り返ります。

一方、主力商品である日本酒の今後については「正しい飲み方や、おいしい料理との組み合わせを国内だけでなく、海外に伝えていくことが大事な仕事になる」と言い切ります。

他社が願っても決して追い越せぬ歴史の長さに甘んじることなく「誰も歩いていない道」を探る気概はむしろ、最古の企業に似合わぬ若々しさの表れと言えるでしょう。

物言わぬ、満点宣言

ものづくりに軸足を置いたジャーナリストの伊藤公一です。製造業に関わる業界や企業、経営者などを対象とする取材活動をしています。業界記者歴三十余年の活動を通して感じたことや気づかされたことなどを自然体で取り上げていく考えです。

チェンジアップの質問

記者として、記事になるかどうかは分からないけれども、とりあえず尋ねておけば後で重宝することが多い質問に「(製品なり仕事なりの成果を)自己採点すると何点ですか?」というのがあります。「健康法は」「座右の銘は」なども同様です。一種の記者あるあるといえるでしょう。話を聞く相手の緊張をほぐして流れを少し変える効果もあります。野球に例えれば、チェンジアップの球のようなものかもしれません。導いた答は一問一答形式で直接的に引用することがあれば、地の文(記事を形づくる説明や叙述)に織り込むこともあります。無論、まったく使わないこともあります。

富士重工業(現・SUBARU)との共同開発で2012年に発売されたトヨタ自動車のスポーツカー「86(ハチロク)」。その開発チームを率いたチーフエンジニア多田哲哉氏にこの質問をした時、答えは「百点満点」でした。内心はそう思っていても、控えめに言うことが美徳とされる日本社会では、なかなか口にしにくい答えです。

量産化に向けた最終局面では、豊田章男社長が頻繁に足を運び、自らハンドルを握って徹底的なダメ出しをしたそうです。指摘された点は直ちに修正され、完成度を高めるの役立てられました。そういう手順を丹念に積み重ねているので「満点」でないはずがない、との誇りが言外に感じられました。

開発者にとっては破格の厚遇

「本当に納得できるものでなければ無理に出さなくていい。発売日も問わない」。豊田社長が86の開発に臨む多田氏に出していた条件です。製品の種類を問わず、開発を託された担当者にとっては破格の厚遇といえるでしょう。いささか乱暴に言えば「気に入るものができるまでは会社の金で何をしてもいい」からです。

86の開発は「投資対効果」の壁に阻まれ、長らく途絶えていたトヨタ製スポーツカーの新車を世に送り出そうという役員の意見をきっかけに動き出しました。2007年1月のことです。この役員は「技術がしっかりしたら、営業はしっかり売る」と言い切りました。その役員とは現在の豊田社長です。86はプロジェクトの立ち上げ時から「成功させなければならない」宿命を負っていたともいえるでしょう。

写真:東京モーターショー2017で披露されたコンセプトカー、GRハイブリッドスポーツ

採点に込められた思い

実のところ、私には相手から返ってくる答が「零点」でも「満点」でも一向に構いません。それぞれの採点には相応の理由があるからです。その理由から話が広がることもあります。「70点」であれば、理由と共に、足りない30点分を補うためにはどうすればよいのかを聞くことができます。取材者にとって大切なのは点数の単純な大小ではなく、その点数に込められた思いや熱意、言い訳、戸惑いなどを引き出したり読み解いたりすることです。

開発担当となった当初、社内では「(売れない車種の代表である)スポーツカーを押し付けられて気の毒に」と多田氏を哀れむ声が公然と囁かれていたといいます。「俺が断ってやろうか」と男気を見せる役員もいたぐらいです。

多田氏はその後、2017年に創設された社内カンパニーの一つ、GRカンパニーのGR開発担当部チーフエンジニアに就任。BMWとの協業で2018年3月にスイスで公開されたスポーツカー、スープラの開発でも陣頭指揮を執りました。社内の同情をよそに、86で今日的なスポーツカーのムーブメントを起こし、スープラの復活に携わることで、モータースポーツファンの心をざわつかせる多田氏。その仕事ぶりは、無言の満点宣言であるように思えます。

営業活動のコツはアフターフォロー、顧客数を3割アップさせた白根電機産業

ものづくり経革広場の井上です。今回は長年、積極的に営業活動に取り組んでいる白根電機産業に訪問し、どのような営業活動をしているのか、新規開拓のコツなど普段あまり聞けないことを取材してきました。同社はマーケティング大全という本に成功事例としても掲載されている会社です。新規営業の窓口の杉末さんと萩谷さんにお話を伺いました。

会社紹介 白根電機産業株式会社

白根電機産業は東京都品川区にて樹脂切削業を営む会社です。以前にHP制作事例で紹介させて頂いているのでこちらもご参照ください。

積極的に営業活動を始めたきっかけは?

杉末:リストラが世間で多かった十数年前になるのですが、仕事が無くなってからでは遅いと当時の代表が考え、「会社全体として営業活動に取り組もう」と号令をかけたのがきっかけです。号令だけだったので具体策は無く、手探りだったので、既存のお客様からの紹介、電話帳からのアポ電話、飛び込み営業などが主でした。

営業手法はそれから変わりましたか?

杉末:さすがに電話営業等に限界を感じ、2010年ごろから展示会に出るようになりました。最初は信用金庫さんの展示会に無料で出れるからということで出展しました。コンセプトもブレブレで、あるものを何でも展示していたので、自社でできない加工の相談が多かったです。まずは試しにという気持ちだったので失敗しても良かったんですが色々勉強になりました。それから機械要素展や産業交流展に出展しました。

ーその後の展示会でなにか工夫した点はありましたか?

杉末:展示サンプルを絞ったことと、全面に出すサンプルは何が良いか考えました。弊社の場合はアクリル製品が見栄えも良く、光っていたのでそれを全面に出したら結構お客さん来てくれましたね。その時の目線を観察していたんですが、まず製品を見て、そこから一歩下がって上の看板を見るんですね。「なるほどまずはサンプルを見て、それから会社を見るんだとな」と思いました。ちなみにその後の展示会で前面に出すものを塩ビに変えてみたんですが、まったくお客さん来なくなりました(笑い)展示の仕方って大事ですね。

ー展示方法でそんなに反応変わるんですね。その他に取り組んだことはありますか?

杉末:ちょうど展示会で永井さん(テクノポート名古屋営業所長)と出会って、その後にHPのリニューアルをお願いしたのも営業として取り組んだことの一つです。何をしている会社かしっかり明示することで新規の問い合わせが増えました。また、展示会に来る方は図面を持って具体的に頼みたい人と、情報収集している人がいるので、その時は決まらなくても、展示会が終わって何ヶ月後かにHPを見て問い合わせ入れてくるケースがあります。

ずばり!営業活動の成果は?

杉末:営業活動を始める前は継続でお仕事頂けるお客様が20~30社ほどだったのですが、プラスで10社ほど増えました。単発での受注を含めると数えきれないほどですけどね。また、ある一定の新規開拓数を超えると対応力が落ちてしまうため、既存のお客様と新規のお客様のどちらも大事にできるように、出展する展示会も年1件ほどに絞っています。さすがに電話営業や飛び込み営業をしなくてもよい営業スタイルが確立できました。

営業活動のコツって何かありますか?

杉末:展示会でのアフターフォローを徹底しています。あまり言いたくないですが、頂いた名刺にお礼メールを会期中に送ります。それも定形メールではなくその時に話した内容を個別に入れます。展示会が終わってからは電話で後追いを行い、面談します。

ーそこまでするから受注率が違うんですね。会期中にメールって大変ではないですか?

杉末:展示会場にいる自分では無理ですので、社内に連絡し、社長に送ってもらってます。

ー全社的な取り組みなんですね。

杉末:はい、現社長も商社出身ですので、営業手法にこだわっています。また、展示会には営業も製造現場の者も含めて参加するようにしています。なぜ現場の者も必要かというと、お客様は技術の人と話したがっているケースが多いんです。どうしても営業側の説明だと嘘臭く感じてしまうケースもあるので、技術側の者にその場で話してもらうことで信用の度合いが変わってきます。ちなみに製造側は作ってなんぼなので、忙しい時に現場を離れる必要があるのか?という製造側の意見もあるのですが、そこは社長に号令をかけてもらっているのでやりやすいですね。

ーもう一つ気になるのが、見積もりの問い合わせが入った際の対応方法について聞いて良いでしょうか?

杉末:対応可否はできる限りすぐします、電話かメールですね。外注も利用しますが、自分である程度の対応可否の判断はできるので当日には行います。見積もりは翌日までがほとんどです。2日後に返事すると遅いと言うメーカーさんもいらっしゃいます。

ー対応可否の連絡を入れてくれるのはありがたいですね。

杉末:はい、レスポンスが早いと他社検討せずにそのまま決まるケースもあります。逆に時間が経ってしまうと他社検討も入り受注する確率が低下します。

ーレスポンスは受注率にも影響するんですね。ありがとうございます。最後になにか営業のアドバイスあればぜひ!

杉末:そんなに大それたことは言えないですが、めんどくさいと思ったらその仕事はやったほうが良いと考えています。普段のルーチンの仕事は慣れているため楽ですが、新規は大変です。特に立ち上げ当初はお客さん側でも仕様が決まっていないこともあり、ヒアリングを慎重に行い要件を固めていく必要があります。他社では躊躇するような、そのめんどくさいの先に受注が待っていると思っています。どこにでもできそうな相談であれば、他に流れる可能性もありますからね。

ー大事にしたい考えですね。どうしても慣れた方を選んでしまいがちなので、私も胸に刻みたいと思います。

普段はあまり伺うことができない営業活動について詳しく教えて頂き本当にありがとうございました。

その他プチ情報

おすすめの展示会は産業交流展だそうです。機械要素は集客率は高いが最先端を求められることが多いためマッチするものが少ない。産業交流展は差し迫った案件が多いため決まりやすい。また、来客は少ないのでゆっくり話ができる。

今後の営業活動の参考にしていただけたら幸いです。