なぜIoTに注目が集まっているのか?

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

時々リコールといった製品の不具合に関するニュースがテレビや新聞に流れますが、ものづくりを日頃行っている皆さんは製品の不良品質とどのように付き合っていますか?不良品質に伴うコストをどのように考えていますか?今回は不良品質に伴うコストとそれを防ぐためのコストについて考えてみたいと思います。

不良品質に伴うコスト(Cost of Poor Quality: COPQ)

一概に不良品質に伴うコストと言っても、実際には様々なコストに分類することができます。

防止コスト:製造プロセスの管理や、そこでの製品検査や点検に伴うコストです。そのための社員教育やトレーニング費用も含みます。統計的手法を用いた分析や設計レビューに使われる時間なども防止コストに含まれます。

評価コスト:サプライヤーから送られてきた材料の受入検査、または外部機関に依頼した製品の評価費用(検査や点検)、そしてISO-9001のような外部監査費用などが評価コストに含まれます。

測定器等のコスト:品質対策に使われる機材や測定器等のコストが含まれます(製品の製造目的以外に使われるもの)。

内部エラーコスト:スクラップ品の原材料費、手直しに伴う人件費などが含まれます。また悪い歩留まりを見越した余分な在庫も内部エラーコストに含まれます。

外部エラーコスト:不良品の返品や値引き、品質契約違反に伴う罰金や罰則に伴うコスト、苦情処理に伴う人件費、補償に伴う交換部品や人件費などが含まれます。

顧客が蒙るコスト:不良品が原因で顧客の工場が稼働停止になったり、顧客の設備にダメージを与えた場合の補償費用です。また稼働停止期間中の代替製品や代替サービスの費用も顧客が蒙る(顧客に補償する)コストに含まれます。

顧客の不満足に伴うコスト:不良品が原因で顧客が不満を持てば、その声は市場に広まります。結果的にその製品の売上や市場シェアの低下を招きます。

評判を失うことに伴うコスト:不良品質が企業の評判を落とすことになれば、一つの製品だけに留まらず、他の製品の売上や市場シェアの低下をも招きます。上場企業であれば株価にも悪影響を与え、株主集団訴訟に発展することもあるでしょう。

不良品質に伴うコストの影響

「制御可能な不良品質コスト(防止コスト、評価コスト、測定器等のコスト)」を1とすると、「不良品質の結果に伴うコスト(内部エラーコスト、外部エラーコスト)」は10、そして「間接不良品質コスト(顧客が蒙るコスト、不満足に伴うコスト、評判を失うコスト)」は100になると一般的に言われています。

逆に言えば、不良品質を防ぐためにたった1のコストを支払うことで、100の「間接不良品質コスト」が防げる計算になります。

この不良品質に伴うコストの影響度合いは、私たちの感覚とも一致するのではないでしょうか。

例えば最近あったS自動車会社のリコール費用は800億円以上に上ると言われています。リコールの原因は測定データの改ざんでした(人員不足と教育体制の機能不全のため)。品質管理費用を少しばかり惜しんだために、その100倍以上のリコール費用を払うことになった良い例です。

シックスシグマやIoTを導入する理由

不良品質を改善するシックスシグマでは統計的工程管理を行うため、シックスシグマを導入する際は社員教育や統計処理ソフトウェアが必要になります。これは不良品質の「防止コスト」に当たります。

しかし「防止コスト」は「不良品質の結果に伴うコスト」や「間接不良品質コスト」に比べれば遥かに安くすみます。つまり企業がシックスシグマ等の改善プロジェクトを推し進める理由は、「防止コスト」の相対的安さにあります。

同じ理由から、「測定器等のコスト」に当たるIoT(Internet of Things)の導入も進んでいます。IoTの導入は決して安くはありませんが、やはり「不良品質の結果に伴うコスト」や「間接不良品質コスト」に比べれば遥かに安くすむため、今IoTに注目が集まっているようです。

機会があれば皆さんの職場でも、不良品質に伴うコストを計算してみては如何でしょうか。きっとそれを防ぐための対策費用の方が遥かに安いはずです。

数字ではない情報を整理するN7

ものづくりドットコムの熊坂です。

会社で仕事をしているうちに少しずつ守備範囲が変わっていくことはよくあります。自分の場合学部生の専攻は応用物理でしたが、50歳で技術士を取る時は経営工学(生産マネジメント)で受験し、53歳で社会人入学した大学院は技術経営専攻でした。ものづくりドットコムで扱うテーマも製造業全般ながら、経営工学/技術経営分野にやや偏っているのは、私の専門分野だからです。

そんな中、知人の編集者から声がかかり、ものづくり・産業技術専門誌である月刊JETIの10月号から1年間、「開発/設計者のための技術経営」というテーマで連載することとなりました。ここ、ものづくり経革広場の記事と重複するところもあり、できるだけ現場で役立つMOTを目指して、自分なりの視点を打ち出していきたいと思っています。

さて毎回ひとつずつ紹介しているものづくりキーワードですが、今回は「N7(新QC7つ道具)」を取り上げてみます。

N7?

N7とは”New QC 7 tools”つまり「新QC7つ道具」の略称で、QC7つ道具の略称Q7に対比してこう呼ばれます。しかしそもそも新QC7つ道具自体がQC7つ道具に比べて認知度が低く、その略称であるN7と聞いて即座に回答ボタンを押せる人は、品質管理関係者だけでしょう。

N7の起源ですが、まず製造業におけるQC活動の高まりとともに高度成長期の’60年代末頃から「QC7つ道具」が主に生産現場改善で数値統計に使われていました。それに加えて定性/言語情報の分析に対するニーズが高まったため、日科技連主導の元で’72年から新しいツールの検討が始まり、管理者・スタッフのために’77年に発表されたのがN7です。

その中身は、親和図法、連関図法、系統図法、マトリックス図法、アローダイアグラム、PDPC法、マトリックスデータ解析法の七つであり、主に品質改善、業務改善の計画用途で使用されます。以下簡単に説明します。

(1)親和図法

あいまいな事柄を理解するにあたり、複数のメンバーで意見、事実等をカードに記述し、集めた中から親和性の高いグループを探し、そこに新たな名前を付けていく事で、構造を明らかにし、事象を整理してゆく方法です。考案者の川喜多二郎氏のイニシャルからKJ法とも呼ばれます。

(2)連関図法

複雑な事象に関して「原因→結果」という矢印を付してゆく整理法です。事象が複雑に絡み合う問題では、多くの要因を検討する必要があります。全ての項目、要因を原因→結果の関係で整理する事で、真の原因に手を打ち、効果的に対処することが可能になるほか、作成する過程で気づかなかった要因を発見する契機ともなります。

(3)系統図法

ものごとを考える過程で、ある項目と因果関係のある複数の項目を順次ツリー状に結び付けてゆくことで系統的に整理する方法です。目的を実現する方策・手段を展開してゆく「方策展開型」と、組織図などのように業務や機能の構成要素を系統的に整理する「構成要素展開型」に大別でき、いずれも思考を構造化して整理する方法です。

(4)マトリックス図法

マトリックスとは縦横すなわち行と列からなる構造ですから、この図法は、ある事象を表現する2つの特性を縦横の表形式に配置することで問題点を多面的に把握し、その解決に役立てる方法です。2つの項目の関連度合いを◎○△などと記入してゆく事で、問題の分布状況や全体像が理解しやすくなります。 項目の選び方が重要ですので、連関図や系統図などを利用して重要項目を選択します。

(5)アローダイアグラム

プロジェクトの計画に際して、作業と作業を矢印(アロー)で結び、そこに所要時間を配置することで、最短時間やCP(クリティカルパス)を見つける方法です。タスクをバー状に表現するスケジュール管理のガントチャートに似ていますが、この場合タスク数が増えてしかも相互の関係性が複雑になると管理が難しくなるため、PERTの価値が出てきます。

(6)PDPC法

Process Decision Program Chart(過程決定計画図)の略称で、何らかの計画を策定する時に開始からの過程を、いろいろと予測される全ての事態に対してあらかじめ対策を準備して、矢線でつないだ図を作っておく方法です。もともと1968年の東大紛争の際に、当時教授だった近藤次郎氏が、予測困難な紛争の進展とその分岐ごとに異なる対応を計画したことから創り出したものであり、未確定、未知な事項に対して迅速に行動する必要がある場合に有効です。

(7)マトリックスデータ解析法

多数の数値を整理するにあたり、説明変数同士の相関をもとに、できるだけ少数の指標で記述し、それを平面上に表す手法で、多変量解析分野では主成分分析と呼ばれます。手順としては説明変数間の相関行列を作り、説明変数と同数の主成分を定義し、それぞれの寄与率を評価する事で、各主成分の意味を考えます。特徴的な2つの主成分軸で各サンプルを評価すると、当初の説明変数で比較するよりもそれぞれの特徴を一層際立たせることが可能になります。

QCサークルや問題対策会議などで、たくさんの意見が出た時に、そこから有効な考えを導きだすことが重要となります。ひとつの意見も無駄にせず、しかも明快な結論を出すことは容易でありません。ここで挙げた方法を試して、課題解決に役立ててください。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、浅田潔さんがN7の専門家です。不明の点や相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。