輸入販売を行う際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、輸入販売を行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

輸入品販売を行う際に気を付けたいこと

外国の商品を日本に輸入販売する際、気を付けなければならない点は何でしょうか?まず、「日本に輸入しようとする商品が、日本の法律に適合しないか否か?」は気になるところですよね。

日本に輸入できない商品って何?

日本の法律に触れそうな商品として、詳しくは、税関「輸出入禁止・規制品目」の「3.輸入が禁止されているもの」に掲載されております。ここでは、主要なものを以下に記載します。

  1. 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚せい剤、あへん吸煙具
  2. 指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
  3. けん銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及びけん銃部品
  4. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第20項に規定する一種病原体等及び同条第21項に規定する二種病原体等
  5. 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品及び偽造カード(生カードを含む)
  6. 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
  7. 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

輸入販売についてよく相談を受ける内容

輸入販売をしようとする方から良く相談を受ける内容としては、「輸入しようとする商品の商標権」に関するものが多いです。商標権は、前項の「輸入が禁止されているもの」の「7.特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」に関連するものですね。

さて、よく相談を受ける内容としては、以下のようなものが多いです。

  1. パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?
  2. パートナー企業に黙って日本において商標登録を済ませても大丈夫?

パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?

大丈夫ではありません。商標権は、国単位で権利が認められます(これを属地主義と呼びます)。例えば、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」がパートナー企業の国(例えば、アメリカ)において商標登録を済ませていたとしても、日本において当然に保護されるわけではありません。したがって、日本において保護を受けるためには、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」について日本の商標登録を済ませる必要があります。

パートナー企業の商標登録を勝手に行ってもよいの?

さて、外国において商標登録を受けている商標が、日本において、当然に保護されないことは前項で述べました。このように、日本において、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」の商標登録を済ませていない場合はどうすればよいでしょうか?

(1)パートナ企業に商標登録を済ませてもらったほうがよいでしょうか?

それとも、

(2)自社で商標登録を済ませておいた方が良いのでしょうか?

いずれを選ぶかは、パートナー企業との間で取り決めをした方が良いでしょう。もし、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、パートナー企業の請求によって商標登録が取り消される可能性があります。万が一、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、今後の対応について、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際、忘れがちな内容

輸入販売する際、商標権は重要なチェック項目の1つです。しかしながら、その本質は、商標権ではありません。その本質は、パートナー企業との取り決めにあります。つまり、「あなたの会社と第三者(日本のライバル企業)との関係」も大切ですが、それ以上に「あなたの会社とパートナー企業との関係」は、それ以上に大切になるということです。

「あなたの会社とパートナー企業との関係」について大切なことは、

(1)あなたの会社は、日本で販売し利益を上げるために、とある商品を輸入すること

(2)パートナー企業は、あなたの会社に対し、所定の数量の商品を所定の場所に納品し、あなたの会社から売上を立てること。

といった「輸入販売スキームそのもの」の取り決めです。これに付随して、「支払い時期は納品から何か月後にするか?」や「支払いが遅れた場合の利息はどれくらいにするか?」等があります。

商標権に関するテーマとしては、「輸入した商品を日本で販売する際、商品名を変更してもよいか否か?」という点もあります。パートナー企業が指定した商標の使用義務がある場合には、その商標の使用権原の確保(商標登録の手続きや費用負担等)は、パートナー企業が行うことが通常でしょう。反対に、パートナー企業が指定した商標の使用義務がない場合には、あなたの会社が好きな商品名(商標)を選び、その使用権原の確保はあなたの会社自身が行うことが通常でしょう。

また、パートナー企業が日本において商標登録を済ませていた場合、あなたの会社は、その商標登録を無償で使用できるのでしょうか?という点も大切なポイントです。実務では、使用量に応じたライセンス料を支払うケースが多いです。

さらに、日本において第三者による商標権侵害の取り締まりを誰が行うか?という点も大切なポイントです。ここは、パートナー企業ではなく、日本で取引を行うあなたの会社が行うことが多いです。

このように、商標登録の手続き、侵害者の管理、それぞれの費用負担といったものを、あなたの会社とパートナー企業との一方が一手に担うことは難しいです。つまり、あなたの会社とパートナー企業との間で、役割分担や責任分担をあらかじめ決めておくことが必要になります。

輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容

前項では、輸入販売する際、パートナー企業との取り決め(契約)を明確にしておきましょうと述べました。ここでは、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、商標権について、必ずチェックしてほしい事項について述べます。商標権について、必ずチェックしてほしい事項は、「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」です。

「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」が大切な理由

商標権は、原則、先に使用していても、先に出願していなければ保護を受けません(ここは、特許権や意匠権等と異なるところです)。したがって、あなたの会社またはパートナー企業がその商標権を取得していない場合、あなたの商品を見たライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することも可能です。こうなると、あなたの会社が先に使用していたとしてもあなたの会社が侵害者となってしまいます。

商標権侵害による致命的なインパクト

さらに、商標権侵害の場合、商標権者から差止め(名称使用の停止)や損害賠償(簡単に言うと、「侵害行為によって権利者が失った利益相当額」の支払い)があります。いずれも大きなインパクトがありますが、輸入販売で特に気を付けなければならないのは、差し止め(名称使用の停止)による影響です。差し止めがなされると、日本国内にある在庫の販売は不可能になります。そして、在庫商品を活かすためには、商品から商標を剥がす必要があります。

「商品から商標を剥がす」って何?

侵害を構成する商標がシール等で商品に貼り付けられている場合には、そのシールを剥がせばよいでしょう。しかし、商標がパッケージに印刷されていれば、商品を剥がすことができないため、パッケージの廃棄になります。また、商標が商品に刻印されている場合にはその商品を破棄しなければなりません。そして、在庫商品のパッケージや、商品全体が廃棄となってしまった場合、その損害額は計り知れないものとなります。

差し止めの影響はパートナ企業にも及ぶ?

差し止めの対象は、日本にある在庫だけではありません。権利者の手続きにより、海外から輸入される侵害品は、税関で止められます。そして、税関で止められた商品は、侵害品であると認定されると、廃棄される場合が多いです。パートナー企業が輸出した商品が税関により廃棄されてしまった場合、この商品の代金や輸送代は、誰が負担するのでしょうか?パートナ企業でしょうか?それとも、あなたの会社でしょうか?こうなってしまっては、輸入販売のために意気投合したパートナ企業との関係もこじれてきます。

商標権侵害による致命的なインパクトを避けるためには?

このような事態を封じるには、どうすればよいでしょうか?そのためには、ライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することを封じ込めることが必要です。そして、ライバル企業の商標権取得を封じるためには、パートナ企業とあなたの会社のいずれか一方が商標権を取得するしか方法がありません。

輸入販売を行う際、最低限チェックしてほしい内容(商標関係)

前項では、「輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容」として、「商標権の確保」について述べましたが、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、チェックしてほしい事項は「商標権の確保」以外にもあります。その主なものは以下の通りです。

  1. 日本において、他の代理店を認めるか否か
  2. パートナー企業からの指定された商品名(以下、商標)の使用義務の有無
  3. パートナー企業が商標権を持っている場合には、商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものであるか否か
  4. パートナー企業が商標権を持っている場合には、ライセンス料の支払い義務や支払い方法等
  5. パートナー企業の商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものではなかった場合の取り決め
  6. パートナー企業から登録商標の使用許諾をもらう場合には、サブライセンスを認めるか否か
  7. パートナー企業が商標権を持っていない場合には、商標登録の手続き、費用、登録後の管理等についての役割分担及び責任分担
  8. 商標権が消滅したときのペナルティの有無
  9. 契約を打ち切る際、在庫処分の方法(打ち切り後一定期間の販売を認めるか否か 等)

以上の項目は、あくまでも最低限の部分にすぎません。このため、取引の形態によっては、他の事項も重要になる場合もあります。どの項目が必要になるかは、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 輸入販売をしようとする際に大切なことは、パートナー企業との役割分担と責任分担の取り決め(契約)である。
  2. 取り決め(契約)の中には、「輸入販売のスキーム」の他、輸入禁止となる商品に該当しないか否かの観点が必要となる。
  3. 「輸入禁止となる商品に該当しないか否か」の中に、「知的財産に関する条項」があり、その中でも、商標のリスクは、どの企業も避けられない。
  4. 商標権は、国ごとに設定されるため、パートナー企業の国で商標権が存続していても、日本において当然に保護されない。日本において保護を受けるためには日本の商標権が必要となる。
  5. 商標権の取得手続き、管理手続、費用負担等の役割分担を明確にしておく。

このように、輸入販売を行う際には、商標権をはじめ、特許権、意匠権等のリーガルチェックも欠かせません。輸入販売のリーガルチェックは、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、輸入販売を行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

輸入品販売を行う際に気を付けたいこと

外国の商品を日本に輸入販売する際、気を付けなければならない点は何でしょうか?まず、「日本に輸入しようとする商品が、日本の法律に適合しないか否か?」は気になるところですよね。

日本に輸入できない商品って何?

日本の法律に触れそうな商品として、詳しくは、税関「輸出入禁止・規制品目」の「3.輸入が禁止されているもの」に掲載されております。ここでは、主要なものを以下に記載します。

  1. 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚せい剤、あへん吸煙具
  2. 指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
  3. けん銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及びけん銃部品
  4. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第20項に規定する一種病原体等及び同条第21項に規定する二種病原体等
  5. 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品及び偽造カード(生カードを含む)
  6. 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
  7. 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

輸入販売についてよく相談を受ける内容

輸入販売をしようとする方から良く相談を受ける内容としては、「輸入しようとする商品の商標権」に関するものが多いです。商標権は、前項の「輸入が禁止されているもの」の「7.特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」に関連するものですね。

さて、よく相談を受ける内容としては、以下のようなものが多いです。

  1. パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?
  2. パートナー企業に黙って日本において商標登録を済ませても大丈夫?

パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?

大丈夫ではありません。商標権は、国単位で権利が認められます(これを属地主義と呼びます)。例えば、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」がパートナー企業の国(例えば、アメリカ)において商標登録を済ませていたとしても、日本において当然に保護されるわけではありません。したがって、日本において保護を受けるためには、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」について日本の商標登録を済ませる必要があります。

パートナー企業の商標登録を勝手に行ってもよいの?

さて、外国において商標登録を受けている商標が、日本において、当然に保護されないことは前項で述べました。このように、日本において、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」の商標登録を済ませていない場合はどうすればよいでしょうか?

(1)パートナ企業に商標登録を済ませてもらったほうがよいでしょうか?

それとも、

(2)自社で商標登録を済ませておいた方が良いのでしょうか?

いずれを選ぶかは、パートナー企業との間で取り決めをした方が良いでしょう。もし、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、パートナー企業の請求によって商標登録が取り消される可能性があります。万が一、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、今後の対応について、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際、忘れがちな内容

輸入販売する際、商標権は重要なチェック項目の1つです。しかしながら、その本質は、商標権ではありません。その本質は、パートナー企業との取り決めにあります。つまり、「あなたの会社と第三者(日本のライバル企業)との関係」も大切ですが、それ以上に「あなたの会社とパートナー企業との関係」は、それ以上に大切になるということです。

「あなたの会社とパートナー企業との関係」について大切なことは、

(1)あなたの会社は、日本で販売し利益を上げるために、とある商品を輸入すること

(2)パートナー企業は、あなたの会社に対し、所定の数量の商品を所定の場所に納品し、あなたの会社から売上を立てること。

といった「輸入販売スキームそのもの」の取り決めです。これに付随して、「支払い時期は納品から何か月後にするか?」や「支払いが遅れた場合の利息はどれくらいにするか?」等があります。

商標権に関するテーマとしては、「輸入した商品を日本で販売する際、商品名を変更してもよいか否か?」という点もあります。パートナー企業が指定した商標の使用義務がある場合には、その商標の使用権原の確保(商標登録の手続きや費用負担等)は、パートナー企業が行うことが通常でしょう。反対に、パートナー企業が指定した商標の使用義務がない場合には、あなたの会社が好きな商品名(商標)を選び、その使用権原の確保はあなたの会社自身が行うことが通常でしょう。

また、パートナー企業が日本において商標登録を済ませていた場合、あなたの会社は、その商標登録を無償で使用できるのでしょうか?という点も大切なポイントです。実務では、使用量に応じたライセンス料を支払うケースが多いです。

さらに、日本において第三者による商標権侵害の取り締まりを誰が行うか?という点も大切なポイントです。ここは、パートナー企業ではなく、日本で取引を行うあなたの会社が行うことが多いです。

このように、商標登録の手続き、侵害者の管理、それぞれの費用負担といったものを、あなたの会社とパートナー企業との一方が一手に担うことは難しいです。つまり、あなたの会社とパートナー企業との間で、役割分担や責任分担をあらかじめ決めておくことが必要になります。

輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容

前項では、輸入販売する際、パートナー企業との取り決め(契約)を明確にしておきましょうと述べました。ここでは、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、商標権について、必ずチェックしてほしい事項について述べます。商標権について、必ずチェックしてほしい事項は、「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」です。

「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」が大切な理由

商標権は、原則、先に使用していても、先に出願していなければ保護を受けません(ここは、特許権や意匠権等と異なるところです)。したがって、あなたの会社またはパートナー企業がその商標権を取得していない場合、あなたの商品を見たライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することも可能です。こうなると、あなたの会社が先に使用していたとしてもあなたの会社が侵害者となってしまいます。

商標権侵害による致命的なインパクト

さらに、商標権侵害の場合、商標権者から差止め(名称使用の停止)や損害賠償(簡単に言うと、「侵害行為によって権利者が失った利益相当額」の支払い)があります。いずれも大きなインパクトがありますが、輸入販売で特に気を付けなければならないのは、差し止め(名称使用の停止)による影響です。差し止めがなされると、日本国内にある在庫の販売は不可能になります。そして、在庫商品を活かすためには、商品から商標を剥がす必要があります。

「商品から商標を剥がす」って何?

侵害を構成する商標がシール等で商品に貼り付けられている場合には、そのシールを剥がせばよいでしょう。しかし、商標がパッケージに印刷されていれば、商品を剥がすことができないため、パッケージの廃棄になります。また、商標が商品に刻印されている場合にはその商品を破棄しなければなりません。そして、在庫商品のパッケージや、商品全体が廃棄となってしまった場合、その損害額は計り知れないものとなります。

差し止めの影響はパートナ企業にも及ぶ?

差し止めの対象は、日本にある在庫だけではありません。権利者の手続きにより、海外から輸入される侵害品は、税関で止められます。そして、税関で止められた商品は、侵害品であると認定されると、廃棄される場合が多いです。パートナー企業が輸出した商品が税関により廃棄されてしまった場合、この商品の代金や輸送代は、誰が負担するのでしょうか?パートナ企業でしょうか?それとも、あなたの会社でしょうか?こうなってしまっては、輸入販売のために意気投合したパートナ企業との関係もこじれてきます。

商標権侵害による致命的なインパクトを避けるためには?

このような事態を封じるには、どうすればよいでしょうか?そのためには、ライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することを封じ込めることが必要です。そして、ライバル企業の商標権取得を封じるためには、パートナ企業とあなたの会社のいずれか一方が商標権を取得するしか方法がありません。

輸入販売を行う際、最低限チェックしてほしい内容(商標関係)

前項では、「輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容」として、「商標権の確保」について述べましたが、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、チェックしてほしい事項は「商標権の確保」以外にもあります。その主なものは以下の通りです。

  1. 日本において、他の代理店を認めるか否か
  2. パートナー企業からの指定された商品名(以下、商標)の使用義務の有無
  3. パートナー企業が商標権を持っている場合には、商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものであるか否か
  4. パートナー企業が商標権を持っている場合には、ライセンス料の支払い義務や支払い方法等
  5. パートナー企業の商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものではなかった場合の取り決め
  6. パートナー企業から登録商標の使用許諾をもらう場合には、サブライセンスを認めるか否か
  7. パートナー企業が商標権を持っていない場合には、商標登録の手続き、費用、登録後の管理等についての役割分担及び責任分担
  8. 商標権が消滅したときのペナルティの有無
  9. 契約を打ち切る際、在庫処分の方法(打ち切り後一定期間の販売を認めるか否か 等)

以上の項目は、あくまでも最低限の部分にすぎません。このため、取引の形態によっては、他の事項も重要になる場合もあります。どの項目が必要になるかは、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 輸入販売をしようとする際に大切なことは、パートナー企業との役割分担と責任分担の取り決め(契約)である。
  2. 取り決め(契約)の中には、「輸入販売のスキーム」の他、輸入禁止となる商品に該当しないか否かの観点が必要となる。
  3. 「輸入禁止となる商品に該当しないか否か」の中に、「知的財産に関する条項」があり、その中でも、商標のリスクは、どの企業も避けられない。
  4. 商標権は、国ごとに設定されるため、パートナー企業の国で商標権が存続していても、日本において当然に保護されない。日本において保護を受けるためには日本の商標権が必要となる。
  5. 商標権の取得手続き、管理手続、費用負担等の役割分担を明確にしておく。

このように、輸入販売を行う際には、商標権をはじめ、特許権、意匠権等のリーガルチェックも欠かせません。輸入販売のリーガルチェックは、お近くの専門家にご相談ください。

折角の商標登録が消滅してしまう場合

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、中小企業の方が忘れがちな「商標登録の消滅」についてお話したいと思います。

商標登録が消滅してしまう理由

商標登録が消滅してしまう理由としては、以下の4つがあります。

  1. 異議申し立て
  2. 無効審判
  3. 取消審判
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)

異議申し立てについて

制度概要

特許庁の審査結果(商標登録のみ)について、第三者チェックの機会を与えるために制定されています。申し立てできる期間は、商標公報(*)の発行後から2か月以内に限られます。(*商標公報:商標権設定登録後に発行されます。)

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 417
  • 請求(一部成立含む)成立 35
  • 請求不成立・却下 236
  • 取下放棄 58

となります。

申立数417件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.34%と結構レアです。また、申立人側の勝率は、8.3%(417件中35件)といったところです。

無効審判について

制度概要

異議申し立てと似ている制度です。こちらも、私益的・公益的の両面からのチェックする制度ですが、設定登録の日から5年を経過すると、無効理由は公益的なものに限定されます。無効審判の請求は、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 98
  • 請求(一部成立含む)成立 26
  • 請求不成立・却下 35
  • 取下放棄 15

となります。

請求数98件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.08%ということで、かなりレアです。また、請求人側の勝率は、26%(98件中26件)といったところです。

取消審判について

取消審判としては、不使用取消審判、不正使用取消審判、国内代理店等による不正な商標登録に対する取消審判がありますが、取消審判のほとんどは不使用取消審判ですので、不使用取消審判について説明します。

制度概要

日本の商標法では、登録主義(使用していなくても、登録されていれば商標法の保護を認める考え方)を採用していますが、登録主義にも次のような問題があります。

  • 問題1:不使用のままの登録商標が増えてしまうと、第三者が使用したいのにも関わらず、先登録の事実のみによって、登録も使用できなくなってしまう(これは不合理だ)。
  • 問題2:使用していない登録商標なんて、そもそも信用が化体しない(≒のりうつらない)ので、商標法で保護する必要もないよね。

このような問題の是正のために、不使用取消審判が設けられています。不使用取消審判の請求は、登録後から3年経過後の商標権であれば、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 1045
  • 請求(一部成立含む)成立 858
  • 請求不成立・却下 80
  • 取下放棄 88

となります。

請求数1045件について、2018年の登録査定件数(119610件)に対する割合は、0.87%ということで、レアです。また、請求人側の勝率は、82%(1045件中858件)といったところです。発生頻度はレアですが、異議申立や無効審判に請求されると負ける確率が高いところが特徴です。なお、弊所の実務レベルでいうと、年に3~4回、このような相談を受けます。

存続期間満了(更新手続き忘れ)について

制度概要

日本の商標法では、10年ごとの更新手続きによって半永久的に商標権を維持することができます。ここは、特許権・実用新案権・意匠権とは異なる部分です。

発生頻度

統計データがないのですが、弊所の問い合わせレベルでいうと、年に1~2回、このような相談を受けます。10年という長期の期限管理が必要になるため、途中で忘れてしまう人が多いようです。

注意すべきこと

異議申し立て・無効審判

権利者側から見れば、これは避けられません。公報発行後、二か月の辛抱です。ただし、逆の見方をすれば、公報の定期的チェックにより、自社ブランドと紛らわしい商標登録をいち早く発見し、異議申し立てによって、紛らわしい商標登録を取り消すことも可能です。費用的には、無効審判よりも異議申し立ての方が安価に済むことが多いので、まずは、異議申し立てを選ぶ方が多いでしょう。

不使用取消審判

特に、商標権者やライセンシーが、継続して3年間、登録商標を使用していないときは、取消の対象になります。このため、登録商標を指定商品について使用してください。特に、設定登録直後は問題ありませんが、3年が経過すると不使用取消審判の対象になるため、注意が必要です。また、「現在の登録商標の使用方法が、商標法上の使用になっているか否か」について自信がない場合には、お近くの特許事務所にご相談ください。

存続期間満了(更新手続き忘れ)

10年ごとの期限管理に自信があれば、ご自身で行っても良いと思います。しかしながら、期限管理に自身のない方は、特許事務所の専門サービスを利用された方が良いと思います。

万が一、消滅してしまった場合にはどうすれば?

残念ですが再出願するか名称変更するかしかありません。どちらが良いかはケースバイケースですのでお近くの専門家にご相談下さい。

まとめ

  1. 商標登録の消滅事由は意外と多い。
  2. 特に気を付けるべきことは、不使用取消審判と存続期間満了(更新手続き忘れ)。
  3. 不使用取消審判対策は、登録商標を指定商品について使用すること。「商標法上の使用」に自信がなければ、特許事務所に相談する。
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)対策は、期限管理を行うこと。期限管理に自信がなければ、特許事務所に依頼する。

商標権侵害を特に注意しなければならない業界

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回の記事「プレスリリースを検討する際に気を付けて欲しいこと」では、これから売り出そうとする自社商品・サービスの名前等が、他社の商標権等を侵害していないかのチェックを、プレスリリースの前に行いましょうね。と述べました。今回はその続きです。

商標権侵害により逮捕された例

高級ブランド「ウブロ」の偽腕時計販売 容疑で会社員逮捕

埼玉県警浦和西署は8日、高級ブランド「ウブロ」の偽物の腕時計を販売したとして、詐欺と商標法違反の疑いで、さいたま市浦和区常盤、会社員(23)を逮捕した。容疑を認めている。逮捕容疑は平成30年11月、商品の売買ができるインターネット掲示板にウブロに似たロゴマークを付けた腕時計を出品し、埼玉県戸田市の自営業の男性(45)から、代金として現金10万円をだまし取ったとしている。「YAHOO ニュース 2020/6/8 17:33配信より引用」

偽シャネルのヘアゴムをSNSで販売‥埼玉県の27歳女を逮捕 岐阜県警

偽のブランド品をSNSで販売していた女を逮捕です。商標法違反の疑いで逮捕された、埼玉県川口市の容疑者(27)は去年12月、SNSを利用して偽の「シャネル」のヘアゴム10点を2000円で販売した疑いがもたれています。 岐阜県警が、サイバーパトロールで偽ブランド品がフリーマーケットアプリで販売されているのを発見し、容疑者の犯行が明るみに出ました。容疑者は容疑を認めています。警察は、偽のブランドのネックレスやイヤリングなど約2000点を押収していて、入手経路などを調べています。「YAHOO ニュース 2020/6/4 19:25配信より引用」

それは「売っても大丈夫だと思っていた」人気ブランドSupremeの偽造品を販売目的で所持…男に求刑【長崎】

偽のブランド品を販売するため所持していた罪に問われている男の初公判が2日、長崎地裁で開かれました。商標法違反の罪に問われているのは長崎市新小が倉1丁目の会社員(46)です。起訴状によりますと被告は、去年11月、長崎市出島町で自分が経営していた雑貨店で人気ブランド「Supreme」の偽のウエストポーチなど124点を販売目的で所持していたとされています。長崎地裁で開かれた初公判で被告は、「注意で済むと思った」と起訴内容を認めました。検察側が懲役1年6カ月、罰金100万円を求刑したのに対し、弁護側は「利益はごくわずかで反省の態度を示している」として執行猶予つきの判決を求めました。「YAHOO ニュース 2020/6/2 18:14配信より引用」

このように、インターネットで検索してみると、商標権侵害によって逮捕されてしまった例というのは珍しくないようです。

商標権侵害事犯の数

では、商標権侵害事犯数は、どれくらいあるのでしょうか?

統計(※1)によれば、商標権侵害事犯は、平29年302件、平成30年 309件です。こうしてみると、1日1件くらい起きているケースになります。なお、証拠不十分等によって、上の数値にカウントされない場合もありますので、実際にはもっと多くの侵害行為が起きていそうだと考えた方が良いでしょう。

商標権侵害で摘発されやすい業種・業態

商標権侵害で摘発されやすい業種・業態としてはどのようなものがあるでしょうか?

商標権侵害事犯(平成30年 309件)のうち、インターネット利用は、265件(85%)となっています(※1)。したがって、インターネット経由の商取引(具体的には、ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション)は、商標権侵害を根拠に検挙されやすいといえそうです。

また、平成30年における侵害品数(129,328個)のうち、4.5%は国内製造品、海外の仕出国においては、中国(37%)、韓国(6.8%)となっており、その後に、フィリピン、台湾、タイ(いずれも1%未満)が続きます(※1)。出元不明のものが49%(※1)もあることを鑑みると、もう少し多い可能性がありますが、いずれにしても、侵害品のほとんどが国外から輸入品であり、そのほとんどが中国・韓国からの輸入品であるといえそうです。

(※1)平成30年における生活経済事犯の検挙状況等について(警察庁生活安全局)

このように、インターネット経由の取引においては、商標権者から発見されやすいこともあり、摘発されやすいといえます。また、侵害品数の内訳から見てみると、中国等の海外から輸入品に多く見られます。

前回の記事で述べた通り、新しい事業を始める場合や新商品・サービスを開始する際、商標権侵害をはじめ、他社の知的財産権利の侵害について注意をした方が良いと思います。その中でも、ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション等の「インターネット経由の取引」や「輸入品の販売」を行う場合には、特に、商標権侵害について注意をした方がよさそうです。

 

商標権侵害にならないようにするためにはどうすれば?

商標権の侵害行為によって、刑事罰を受けてしまうと、あなたの会社に対して、金銭的ダメージのみならず、社会的ダメージが大きくのしかかってきます。それでは、他人の商標権を侵害しないためには、何をすればよいのでしょうか?

そのためには、他者の商標を調べる必要があります。この調査は、事業の企画段階、商品の仕入れ段階において行う必要があります。このような商標権の調査(クリアランス調査といいます)は、専門的知識が必要ですので、調査の際には、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 商標権侵害による逮捕は意外と多い。
  2. 商標権侵害について特に注意したい業種・業態は、「インターネット取引(ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション)」や「輸入品販売」である。
  3. このようなリスクを回避するためには、事前のクリアランス調査が必要。

お金がかかる商品名

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、とあるお客様から受けた質問についてご紹介いたします。

最初の特許相談

とある中小企業が研磨技術を確立しました。この技術を用いた研磨装置によれば、今まで、手作業だった研磨の自動化が実現できます。結果、大量の研磨も夜中に行うことができます。これにより、研磨のコストダウンも可能となります。

このような研磨装置はきっと売れるだろう!

ということで、特許の相談にきました。特許については、調査をした結果、特許の可能性もあったので、特許を出願し、ひと段落となりました。

研磨装置の販促物制作

お客様:HP掲載用の研磨装置のデザインができたのですが、ここに特許出願中と表示してもいいですか?

かめやま:まだ特許取得していないので、特許を取得したような表現はだめですが、特許出願中のような書き方であれば大丈夫ですよ。

お客様:わっかりました!

その後、どうも嫌な予感がしたので、特許出願中の表示を確認したいので、修正カタログをみせてもらえませんか?とお願いしておきました。

修正デザインを見て驚く

修正デザインを見て驚いたのは、「特許出願中」のほうではなく、商品名。商品名は、てっきり「研磨装置」と思っていたのですが、今回の商品名は、「晴れ晴れ研磨君」。この名前は、商標登録が可能な名前。そうだとすると、先に誰かが商標権を持っている可能性もある。ということで、「晴れ晴れ研磨君」についての商標調査と商標登録について検討するようお願いをしました。

商標登録?お金がかかる

お客様:商標登録?新しい加工装置のたびに商標登録をしていたら、おカネばっかりかかってしまいますよ。

かめやま:そうであれば、商標登録できない名前にしてはどうですか?

お客様:どういうことですか?

かめやま:誰もが商標登録できい名前、つまり、普通名称や記述的商標のような名前にしてみてはどうですか?

お客様:普通名称って何です?

かめやま:例えば、商品「りんご」であれば、商品名「りんご」です。

お客様:あ、なるほど。商品そのままの名前ですね。

かめやま:そうです。

お客様:では、記述的商標は何です?

かめやま:例えば、商品「りんご」であれば、商品名「赤いりんご」や「おいしいリンゴ」です。

お客様:あ~なるほど。あまり特徴がなさそうな名前ですね。雰囲気はわかりました。

かめやま:そうなんです。ありふれているような特徴がない名前は、商標としての機能が発揮されないので、商標登録出願しても、審査で撥ねられます。

お客様:今回の加工装置は、「晴れ晴れ研磨君」。あちゃー、特徴がありすぎますね。

かめやま:お金をケチるなら、「研磨装置」でよいと思いますよ。

お客様:今回の商品については、名前で惹かせる作戦を考えていないので、「研磨装置」にしたいと思います。

商標登録を考慮した商品名の決め方

普通の名前にするか?変わった名前にするか?今回のお客様の例で言えば、「研磨装置」にするか?「晴れ晴れ研磨君」にするか?です。

前者であれば、誰もが商標登録ができないので、自社で商標登録をしなくても、そのまま販売できます。後者であれば、商標登録ができる名前なので、早く出願したもの勝ち。自社が出さなかった場合、研磨装置「晴れ晴れ研磨君」がリリース後、別の誰かが「晴れ晴れ研磨君」という商標登録を受け、研磨装置を販売してしまう恐れもあります。「晴れ晴れ研磨君」の商標登録を他人に先を越されてしまうと、こちら側が商標権侵害者となってしまいます。
※先使用権という救済策もありますが周知性の要件が厳しいため、中小企業では、なかなか認められません。

商標権侵害者となってしまうと、権利者側へのお金の支払いの他、在庫の対応(商標が付されたパッケージの廃棄など)、カタログの再制作等、後々、お金が発生してしまいます。したがって、後発的に、商標権侵害者とならないよう、こちら側が、商標登録を先に済ませておく必要があります。

まとめ

  1. 普通名称や記述的商標のような特徴の名前は、誰もが商標登録できない
  2. 目立つ名前で売り出したいのであれば、誰もが商標登録ができてしまう。このため、商標登録を先に越されない様にすべく、こちら側が先に済ませる。
  3. 目立つ名前で売り出す必要性がないのであれば、誰もが商標登録ができない普通の名前にする。

何かの参考になれば幸いです。

商標登録って、自分でもできるんでしょ?

弁理士の亀山夏樹です。今回は、中小企業200社以上の相談実績を通し、知的財産の相談における「あるある」についてお話したいと思います。

今回は、商標登録についてです。

「商標登録って ネットでちょちょいと調べられるんでしょ?」時々、知り合いの経営者からこんなことを聞かれます。結論から言うと・・・「いいえ」です。専門家でも悩むときがありますので。その理由は次の通りです。

1.商標調査の目的

商標調査の目的は大きく2つあります。

  • A.使用予定の商標が、本当に(合法に)使用できるかを調べる
  • B.使用予定の商標が、商標登録を受けることができるかを調べる

調査の観点はいろいろありますが、上記2つに共通するものとして、先行登録商標(商標権が発生している商標)の有無があります。先行登録商標の有無は、J-Planatでも調査可能です。

2.先行登録商標の有無

先行登録商標の調べ方は、以下のようにして行います。

  1. お客様の希望する商標権の範囲の特定
  2. お客様が希望する商標を使用した場合に、それは、「ウチの商標権侵害じゃない?」と文句をいわれそうな商標権の抽出
  3. 抽出した商標の権利範囲を特定
  4. 商標権侵害の成立の判断

1)と3)の両者がオーバラップしているか否かを判断し、「オーバラップしている ⇒ 侵害成立 ⇒ 使えない」「オーバラップしていない ⇒ 侵害非成立 ⇒ 使える」といった判断をします。

ここで、慎重にジャッジしたいのは1)~3)、すなわち、権利範囲に絡む部分です。そもそも、商標権の侵害は、商標と商標・役務(サービス)のいずれかが非類似であれば、不成立となります。縦軸に商標、横軸に商品・役務(サービス)をとって表に表すと、このように表されます。

商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 侵害 侵害 非侵害
類似 侵害 侵害 非侵害
非類似 非侵害 非侵害 非侵害

侵害成立するか否かについては、侵害成立の境界線、つまり、

  • 商標が類似か非類似か?
  • 商品・役務が類似か、非類似か?

がポイントになることがわかります。しかも、類似・非類似の判断には、画一的にゆかないところがあるので本当に気を使います。とてもとても、ちょちょい とはいきません。しかし、難しいのは商標・商品の類否だけではありません。

3.商品・役務の選び方

ここで問題です。

指定商品「コーヒー豆」と指定商品「コーヒー」。この2つの違いはどこにあると思いますか?

特許庁の見解では・・・

  • 商品「コーヒー豆」  ⇒  焙煎前のコーヒー豆
  • 指定商品「コーヒー」 ⇒  焙煎後のコーヒー豆、 液体のコーヒー

となります(ざっくりいえば、前者は、BtoB、後者はBtoCとなります)。

なので、「焙煎後のコーヒー豆」を販売しているかたは、指定商品「コーヒー豆」と表記したくなっても、指定商品「コーヒー」と表記しなければならない。手間隙かけて、指定商品「コーヒー豆」で権利をとっても、実際の事業で使用している肝心の商標はノーガード・・・と、なってしまいます。

これは、笑えません。

商標権を取得するにあたり、特許庁の方言をかみしめながら、「法律上、自社ビジネスは、どのように表現されるのか?」をよくよく吟味する必要があります。コーヒー豆(焙煎後)を売ってるからといって、

「指定商品「コーヒー豆」で商標登録を受けよう!」

ということは危険なんです。

4.まとめ

1 商標調査の目的

使用可能性の調査と登録可能性の調査の2つがあります。

2 先行登録商標との関係

自社商標の使用行為が、相手の商標権を侵害するか否かは、「商標」と「商品・役務」の2つの観点から検討します。

商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 侵害 侵害 非侵害
類似 侵害 侵害 非侵害
非類似 非侵害 非侵害 非侵害

3 同一か否かの判断あれば素人でもできますが・・・

類否判断は専門家でも悩む場合もあります。なお、一次調査として、同一の調査はご自身で行い、そこをクリアーしたものについて、類似の範囲における判断を専門家に依頼する、とすることもよいと思います。

4 商品・役務の指定は意外と難しい

いわゆる「コーヒー豆」であっても、特許庁の方式によれば、焙煎前では「コーヒー豆」の表記となって、焙煎後では「コーヒー」の表記となります。このように、商品の表現の仕方は、特許庁の方言を考慮しないとならないため、よくよく検討されることが必要です。

最後までお読みいただきありがとうございました!

何かの参考になれば幸いです。

法人設立時の会社の名前決めの際にチェックしたいところ

弁理士の亀山夏樹です。1年くらい前の弊所の話になりますが、雇用準備の関係もあり、法人設立の準備をしておりました。法人設立にあたり、本店の所在地、資本金や役員の数など決めごとをしなければなりません。この辺の決め事は、リクツでなんとかなるのですが。リクツで決めにくいモノは、悩ましく・・・

それが、法人の名前決め。

自分にとって非常に悩ましいのです。ここでは、知的財産の観点から、法人の名前決めについて考えたいと思います。

1.名前選びの基準

名前決めに当たっては、通常

  • A 経営理念
  • B 商号
  • C 商標
  • D 商売の内容を示唆する名前

あたりを検討すると思うのですが、今回は、商品名ではなく、法人名(企業名)。ということなので、Dの優先度を下げ、A~Cの3点で検討したいなと思っていました。A~Cを分解すると、

  • A1 経営理念に沿っているか
  • A2 お客様に理念が伝わるか
  • A3 社員に理念が伝わるか
  • A4 協力会社に理念が伝わるか
  • B1 名前を会社名として使用できるか(商号の問題)
  • C1 名前を商標として使用できるか(商標の問題)
  • C2 同じ商標を先行使用されている企業があるか?ある場合は、そのイメージ(特に悪い方)を引きづらないか?

この中で一番難しいのは、経営理念に関するA1~A4。経営理念に沿った言葉・・・千葉県中小企業家同友会での学びのおかげで経営理念は一応あるのですが、経営理念に沿った言葉って何?正直、自分探しみたいなもので、正解がみつからないところ。ほどよい着地点がみつかればよいなぁ、と思っていました。

一方、会社の名前として・・・

ありふれた名前では個性がないだろうし、覚えてもらいにくい。とはいえ、狙いすぎた結果、これまでの自分と整合性のない名前もイマイチ・・・昨年の流行語大賞にあやかって

株式会社そだねー

・・・イマイチですよね。

2.名前探しの旅

と、いうことで。理念に沿った言葉探し。なぜ、今の仕事をしているのか?なぜ、開業したのか?いわば、自分探しの旅。自分の言葉を振り返るべく、過去のブログを読みあさっていました。(ブログをやっていて良かったです。)旅を終え、名前の候補が3つくらいみつかる。

1つ目は、開業前に考えた名前。2つ目・3つ目は、ブログから引っ張って来た名前。これらを、A 理念の観点でチェックしてみると・・・。

1つ目はイマイチ。なんか、「らしさ」というか、自分の手垢感がない。さすがは開業前の言葉。一方、2つ目・3つ目は、「らしさ」がある。さすが、開業後の言葉です。

3.商標・商号のチェック

どんなに良い名前でも、適法に使用できなければな意味がありません。ここでチェックしたいのは、B 商号と C 商標。

まずは、C 商標についてチェックしてみる。2つ目は、役務違いですが、登録数が多い。使用数も多い。したがって、目立ちにくいし、憶えてもらえにくい。3つ目は、登録数・使用数がほとんどない。よって、目立ちやすいし、憶えてもらいやすい。

ここから、3つ目の社名が第1候補となります。次に、B 商号に戻って、3つ目の社名候補について商号のチェック。現在、敏腕司法書士に調査してもらっています。

4.良い名前のリスク

良い名前。良い名前であればあるほど、自分だけが使いたいと思うはずですし、他人に使ってほしくないと思う方も多いです。そのため、自分が良いと思った名前も、他人にとっても良い名前であり、結果、多くの他人が使用していることも珍しくありません。

そういった名前には、良くも悪くも、他人の手垢がついており・・・それ以上に、自社ブランドイメージの毀損、商標権侵害の問題につながっりやすく・・・一方、そこから離れた名前は誰も使っていないことが多く・・・自社ブランドイメージの毀損、商標権侵害の問題から遠ざかる。結果、自社ブランドイメージをつくりやすくなる。

他人の手垢(土俵ともいうのでしょうか?)から離れたところで、自社の経営理念との整合性を取る・・・名前決めは、難しい部分も多いですが、

  • 一度使い始めたらそうそう代えられない物が名前。
  • その事業(その人)の信用がくっつくのも名前。
  • ブランドの器となるのが名前。

なので、会社の名前は、慎重に考えたいところです

5.まとめ

法人設立時の会社の名前決めの際にチェックしたいところ

A 経営理念

  • 経営理念に沿った名前か
  • 名前を通してお客様に理念が伝わるか
  • 名前を通して社員に理念が伝わるか
  • 名前を通して協力会社に理念が伝わるか

B 商号

  • 名前を会社名として使用できるか?(登記前の調査)

C 商標

  • 名前を商標として使用できるか(商標調査)

何かの参考になれば幸いです。

集客に寄与する店舗名・商品名の考え方

中小企業・個人事業主を支援する弁理士の亀山夏樹です。今回は、「集客に寄与する店舗名・商品名の考え方」についてお話したいと思います。

1.ある日の商標相談

お客様は、新商品の商品名について商標登録をされたい方。

お客様 :事務所ホームページの記事を見てきたのですが・・・

かめやま:ありがとうございます。

お客様 :商標登録の活用についてどのように考えればよいのですか?

かめやま:商標は、ご商売の目印。いわば看板です。

お客様 :えぇ。そうですよね。

かめやま:魚屋さんを例にとってみると・・・同じ魚屋さんでも、みな持ち味が違う。気に入るお店もあれば、そうでないお店もある。気に入ったお店には、次回も来たくなる。当然、他の友達にも伝えたくなる。お友達は、何を目印にお店に向かえばよいですか?その目印をどう伝えますか?

お客様 :場所とかですか?

かめやま:そうですね。角の銀行の向かいにあるお店・・・というのもあります。でも、それだけではないですよね?

お客様 :看板とか。

かめやま:そうです。店名とか、サービス名とか。例えば、店名「魚屋さくらや」。これが表に出ていれば、始めていく人も、「記憶にあるあの店」と「目の前にある店」がつながる。

お客様 :なるほど。

かめやま:「記憶にあるあの店」が「目の前にある”隣の店”」では困りますよね。

お客様 :お客様がよそへ流れていってしまう。

かめやま:だから、その目印となる商標は大事。なぜならば、商標は集客動線を構成するので。したがって、「集客に寄与する商標であれば自社で独占したい!」となりますよね。

お客様 :店名以外にも商標登録しておいたほうが良いものはありますか?

かめやま:例えば、キャッチコピー的なものですね。カメラのさくらやではないですが、「鮮度爆発」みたいなものです。そのお魚屋さんの差別化要素が、お客様の心をフックする言葉がよいですよね。

お客様 :たしかにそうですね。

2.商標登録の際に検討したい3つのポイント

かめやま:商標登録の際に検討したいのは、次の3つです。

  1. 自社の差別化要素の把握
  2. 差別化要素を利用した集客の動線づくり
  3. 自社水路の確保

お客様 :なるほど。

かめやま1の「自社の差別化要素」が「鮮度」であれば。2の「集客の動線づくり」として、店名「魚屋さくらや」もよいですが、「鮮度爆発」のようなキャッチコピー的な要素があるとよいですよね。

お客様 :となると、守るべきは、「魚屋さくらや」だったり「鮮度爆発」になるのですね。

かめやま:そうです。中でも、自社が使い続けたいものや、自社だけが使いたいものを優先して守りたいですよね。

お客様 :それが、3の「自社水路の確保」につながるのですね。

かめやま:そうです。その目印を商標登録することによって、動線となりえる目印を他社が使えなくなる。結果、自社水路の確保が達成される。

お客様 :なるほど。よくわかりました。商標登録って、営業とか販売促進の考え方に近いものがありますね。

かめやま:そうなんです。営業戦略に基づいて商標登録を活用する方法もあるんです。

3.まとめ

商標登録の際に考えたい3つのこと。

1、自社の差別化

例 魚屋であれば「鮮度」

2、差別化を利用した集客の動線づくり

例 「鮮度爆発」によって、差別化要素「鮮度」を際立たせる

3、自社水路の確保(動線となりえる目印を他社に使わせない)

  • ア 「動線となる目印」の商標登録を済ませておく。
  • イ アにより、他社が「動線となる目印」を無断使用する行為は、商標権侵害となる。
  • ウ イにより、他社は「動線となる目印」を自由に使えなくなる結果、自社水路の確保が達成される。

お客様のご商売繁盛の参考になれば幸いです。

知財(商標・特許)のDIY出願、登録のお話

ものづくりドットコムの熊坂です。

早いもので今年も残り一か月を切りました。やり残したことを少しでも片づけたいものです。

ものづくりドットコムのセミナー案内コーナーは、自分に最もあったセミナーを1,000件以上の中から選択できると大好評ですが、先週から利用可能となったスマートサーチ機能は、入力された単語に関連するセミナーが関係性の高い順番に表示されますので、これまで以上に要望に沿ったセミナー選択が可能となります。

今年のうちに新たな知識を仕入れておきましょう。

さて毎回一つずつ紹介している、ものづくり革新の知恵の今回は、「商標・特許のDIY出願」についてお話します。

自分でやっちゃっていいの?

ご存知のように特許や商標の登録出願業務を代行できるのは、弁理士もしくは弁護士資格を持っている人だけです。しかし自分が創案した特許や自社が使おうとしている商標を自分で登録出願することは全く問題ありません。むしろ本来はそれが原則ながら、慣れないことを自分でやっていては時間がかかったり、手続きを間違えたり、あるいは出願できても効果の小さい内容になったりするために、弁理士さんに手伝ってもらうというのが本筋の考え方です。

出願に関する最小限のことは学習し、弁理士をリードしないと本当に有効な知的財産権は獲得できません。ゆめゆめ事務所に丸投げしないようにしたいものです。

私は去年から今年にかけて、商標と特許を自分で出願してみましたので、その経験から手順と注意点についてお伝えします。決してDIYをお勧めするわけではありません。目的と状況次第で判断してください。

商標出願のDIY

当社で運営するWebサービス「ものづくりドットコム」は2012年3月にスタートした時は「ものづくり革新ナビ」という名前でした。当時からURLは「www.monodukuri.com」でしたので、サービスの認知度向上には、URLとサービス名が一致した方が良いだろうということで、2014年からサービス名変更の検討を、次のような手順で開始しました。右図2を参考にしてください。

図2 商標登録の手順

  1. 調査:特許庁の特許情報プラットフォーム「J-Plat Pat」にて検索窓にキーワードを入れれば、登録された類似商標を比較的簡単に見つけることができます。ただし、完全同一商標はすぐ見つかるものの、紛らわしい呼び名や図形を見つけるには経験とセンスが必要です。おそらくここが素人の一番弱いところです。
  2. 出願願書作成:指定のフォーマットはありません。特許庁のホームページなどに「商標登録願」のひな形が載っていますので、それに準じてA4用紙で作成します。最も悩ましいのは【指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分】という項目でしょう。ここにはまず45種類に分かれた商品または役務(サービス)の区分から、登録しようとするものが属する区分を選んで記入する必要があります。さらに商品あるいはサービスの内容詳細を記述します。他は迷うところもなく記入作成ができるでしょう。
  3. 出願する:出願には郵送と電子出願がありますが、電子出願は個人認証などの仕組みが非常に複雑、煩雑であり、DIYで1~2回使うだけなら紙に印刷して出願する方が圧倒的に簡単です。この時作成した書類に印紙を貼る必要があります。その金額が3400円+[区分数]×8600円ですから、最少の1区分の場合の出願費用は12,000円ということになります。これが費用の全てです。この費用の少なさがDIY最大の魅力でしょう。
  4. 拒絶理由通知書に応える:出願の内容がすべて条件に適合すれば登録査定となりますが、不備があると拒絶理由通知書が届きます。実際ものづくりドットコムの場合も、出4か月後にこれを受け取りました。ただしご丁寧に「こうすれば登録できますよ」という例文付きでしたので、その通りに補正書を作成して郵送したところ1カ月ほどで登録証が届きました。
  5. 登録料の納付:登録査定が届いたら登録料を納付することで、商標権が登録されます。特許庁のホームページなどから「商標登録料納付書」の書式をダウンロードして、商標登録料に相当する印紙を貼って特許庁に郵送します。登録料は10年分で[区分数]×28200円ですが、分納してまずは前期5年分の[区分数]×16400円だけを支払う手もあります。
    これで届いた登録証が右図3です。

図3 商標登録証

DIY登録の留意点

商標登録の最終目的は権利を得ることではなく、自社の事業を有利に進めることです。上記の手順を見る限り、自分でもできそうだと思う方も多いでしょう。弁理士さんに頼むと調査から登録までの一連の作業で数万円から十数万円の費用が発生しますので、主力製品ではないが、一応登録しておく程度であれば、DIYはありだと思います。しかしどの区分にいくつ登録するのか、どのような名称、形態で登録するのが後々有利なのか、多角的な検討が必要な場合もあり、特に主力製品、サービスで大きな事業を計画している場合は、その微妙な判断が大きな問題を作る危険性があります。

そんな時は専門家と共に登録作業を進めた方が無難でしょう。

特許のDIYも書こうと思いましたが、字数が過ぎてしまいましたので、別稿にあらためたいと思います。

いかがでしょう?私は、知的財産管理技能士2級という(微妙な)資格を所有しており、多少は知識があるのですが、本格的な知財戦略は鶴見隆さんが御専門です。不明の点はQ&Aや問い合わせフォームで質問してください。