こんにちは、製造業のDXに注目する岩手在住IT系ライターの宮田文机です。
工場のIoT化に役立つツール・サービスを事例付きで紹介してきた本連載も今回でいったん最終回。第1回「センサの選定・設置」、第2回「通信環境の構築」、第3回「低コストなIoTの実現」につづいて、いよいよ”データを生かす”フェーズで役立つツール・サービスをご紹介します。
データは「加工」しなければ使えない
IoTの目的は工場から収集したデータを生産性向上や異常検出、育成などに生かすことにあります。そのため、収集したデータは使える形に加工しなければなりません。生データを目的に合わせて分類・整理・抽出することで、本当に有用な情報が見えてきます。また、センサから得たデータを勤怠データや基幹システムから得たデータとかけ合わせて分析することで見えてくる事実も少なくありません。そこで役立つのがいわゆるBI(Business Intelligence)ツールです。
BIツールは“企業の膨大なデータを集約・分析し、わかりやすく表示するツール”と定義されます。データ集計・分析ツールとしてもっともポピュラーなのはMicrosoft Excelですが、BIツールはより大量のデータを多様な形式で表示・出力することが可能です。
例えばERPに集約された受注データや勤怠データと、IoTによって取得した工場の稼働データをダッシュボード上で一覧することで、幅広い視点から生産計画の最適化に取り組めるようになります。
ただし、もちろんランプやアラートでワークの状態や機器の故障を知らせるような現場ですぐに使えるシステムも立派なIoTによる見える化ではあります。大事なのは、“何を見える化するか”ということなのです。
それでは、データの集計・加工に使えるツールを事例とともに見ていきましょう。
事例1:世界的に有名で使いやすい、Tableau
おそらく世界的に最も有名なBIツールで、データの取り込み・加工からOLAP分析、サーバーやオンラインでの共有など基本的な機能をすべて揃えています。一般的に、ITシステムに不慣れな方でも使いやすい使用感を持っており、比較的誰でもすぐに使えるようになるといわれています。
画面はシンプルに構成されており、ドラッグ&ドロップで基本的な操作は進められます。一度無料トライアル版を使ってみるとその使用感が伝わるかもしれません。
【活用事例】
それまでデータ活用文化のなかったタイヤメーカーに導入。データ活用推進チームを組織し、Tableauに取り込んだデータに日々触れることでExcel入力や会議にかかっていた工数を大幅に削減できるように。
事例2:表現の多様さに定評のある、MotionBoard
生産ラインの稼働状況をリアルタイムで反映できる純国産のBIダッシュボードツールです。「ダッシュボード」はBIツールにおいて“様々なデータをひとまとめにして表示する管理画面”のことを意味します。
各種データベースやExcel、CSVのデータまで取り込むことができ、グラフや地図、サンキーダイヤグラムなど多様な形式で表現してくれます。表現の多様さに定評のあるBIツールであり、プログラミング知識はないが多角的な視点からデータ分析に取り組みたいという方は重宝するでしょう。
【活用事例】
多品種少量生産が基本の工作機械メーカーにおいて、工場内の部材の位置や数量、滞留時間を見える化。ビジュアルで直観的に状況を把握できるダッシュボードを開発することで生産のボトルネックを解明した。
事例3:機能の豊富なWebベースBI、Yellowfin
2003年に誕生したクラウド型BIダッシュボードツールで、iPhone・Android用のモバイルアプリもリリースされています。アクションボタンによるワークフローの作成やAIによる分析など、痒いところに手が届く機能がその特徴といえるでしょう。
その代わり、レポートやダッシュボードの表現力は他の製品に比べてやや制限されていると言われています。ほかにもプレゼン作成を助けるストーリーボード機能や、分析内容を見ながら施策に投票する採択機能などがあります。
【活用事例】
工場の見取り図を画像としてYellowfinに取り込み、設備の震動データと連携させることで故障の予兆発生をビジュアル化。ブロードキャスト機能で自動アラートを設定し、予知保全の効率化を進めた。
事例4:製造業に特化したIoTプラットフォーム、Orizuru
データ収集のためのゲートウェイからデータの一元管理、ダッシュボード機能まで備えたIoTプラットフォームです。製造業に特化しており、CNCやPLC、ロボットやセンサーから取得したデータをダッシュボードに収集して一覧できるのがそのポイントといえるでしょう。
工場での利用が前提となっているため、早期導入を助けるテンプレートや3DCADデータの表示といった機能が搭載されています。
【活用事例】
NCデータとセンサから得られた温度・振動などのデータをOrizuruで統合。AIによるデータ解析を実施することで穴あけ加工時の位置ずれといった問題の予測精度を高めた。
まとめ
データを使う、という視点で役立つ情報・ツールについてご紹介しました。本連載のこれまでの記事も合わせて参照すれば、それぞれで扱われている悩みの解決法だけでなく、IoT導入の流れ・注意点についても把握できるはずです。
自社のIoT導入の目的と照らし合わせつつ、ぜひご一読ください!