エヌプラス ~新たな価値をプラスする素材・技術の展示会~レポート(後編)

2019年9月11日(水)から9月13日(金)の日程で、東京国際展示場にて「エヌプラス ~新たな価値をプラスする素材・技術の展示会~」が開催されました。エヌプラスは、プラスチックや金属材料などの素材系を中心に、多岐にわたる技術、製品が展示されています。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。後編では、気になった製品や技術を紹介していきます。

消防士のヘルメットにも使われる難燃性の発泡スチロール

最初の製品は、こちらの消防士のヘルメット内部の衝撃吸収ライナに使われている発泡スチロール素材。

愛媛県に本社があるウシオマテックス株式会社の「カルック」という素材です。通常の発泡スチロールと同じ軽さと遮熱性を持ちながら、難燃性という特徴を持っています。発泡スチレン樹脂に特殊なコーティングを行うことで難燃性を実現。通常の発泡スチロールと同じように自由な形に成形できます。

軽く、断熱性があり、丈夫で燃えないので、消防士のヘルメット以外にも、天井や畳床などの建材にも利用されています。シックハウス対策が施され、ダイオキシンの発生もなく環境にも配慮。EVとか航空宇宙関係など、軽くてある強度は欲しいが、燃えては困るというような物なら色々使えそうです。

樹脂と金属を接合

続いては、大阪の中西金属工業株式会社のブースに展示されていたこちら。金属とPP、CFRTP、POMなどの樹脂との接合です。

金属と樹脂素材をつなげる場合、通常は接着材を使うか、穴を開けてボルトなどで固定します。これは、表面処理した金属に樹脂を浸透、凝固させて強固に接合しています。

金属の表面処理には、愛知県の輝創株式会社のPMS処理(Prominent Micro Structure)が使われています。金属表面に微細構造を隆起させてプラスチックとの接合層とする技術で、少ない加圧力で成形済のプラスチックと強力に接合することが可能となります。軽量化を行うため、一部樹脂素材を使いたいような時に使えそうです。

射出成型でつくられた板材

次は、射出成型により作られたブロック状の板材。東京の旭モールディング株式会社の製品。

樹脂を使った切削試作用の厚い板材を、接着ではなく独自の金型を使い射出成型で成形しています。汎用の樹脂素材からスーパーエンプラまで幅広い樹脂素材に対応。顧客から支給される材料にも対応してくれるそうです。

顧客は板材料を自分でつくらなくても済み、そのまま切削加工ができます。既に幅広い業界の開発部門での利用実績があります。

低価格の小型CTスキャン

最後の製品がこちら。長野県の株式会社アールエフの小型CTスキャン装置です。価格は驚異の280万円。

幅650mm、奥行と高さはそれぞれ300mmほどの机におけるサイズながら、医療用のCTスキャンと同じように断層画像を見ることができます。これがあれば、鋳物や樹脂成型品内部の空洞を非破壊で確認したり、組み立てられたままで機械内部の干渉を確認したりすることができます。

ちなみに、画面に映っているのは箱に入ったタケノコの里。食品業界でも使えます。

そして、同じく株式会社アールエフのモニター付き360度先端稼働内視鏡。先端径が6.9mmでケーブル長さ1.5m、モニターサイズ2.4インチのものなら27万円とかなりリーズナブル。客先修理で、装置を移動させたり分解したりするのが難しいところで、見えないとこと確認するような時には活躍しそうです。

どちらの製品も、なんとなく個人的に欲しいと思う品。直ぐに使う用途はないので、もちろん買いませんが、個人でも手の届きそうな価格感が心に響いてきます。

小さいが盛り沢山な展示会

エヌプラスは、展示会としてはかなり小規模ですが、内容は広く、かなり特色のある物が多く並んでいました。大きな工作機械が難題も動いているような派手さはないももの、気になって近づき説明を聞いてみると、そんな凄い物だったのかと驚くこともよくありました。見どころの多い展示会でした。

エヌプラス ~新たな価値をプラスする素材・技術の展示会~レポート(前編)

2019年9月11日(水)から9月13日(金)の日程で、東京国際展示場にて「エヌプラス ~新たな価値をプラスする素材・技術の展示会~」が開催されました。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。前編では展示会の概要を紹介していきます。

素材を中心とした各種技術を展示

エヌプラスは、プラスチックや金属材料などの素材系を中心に、多岐にわたる技術、製品が展示されています。以下の展示会が同時開催され、全体でエヌプラスとなっています。

  • セルロースナノファイバーEXPO(CNFEX)
  • マイクロプラスチック対策展(MI-CONEX)
  • プラスチック高機能化展(N-PLEX)
  • 軽量化・高強度化展(MALSEC)
  • コーティング・表面処理展(COAT-TEC)
  • 接着・接合・ファスニング展(JOINTEC)
  • 耐熱・放熱・断熱展(HEAT-TEC)
  • 受託・加工技術展

来場者としては、自動車、電機・電子、化学・金属、機械、航空・宇宙などの製造業の現場に関わる人をメインターゲットとしています。

会場は、東京ビッグサイト青海展示棟Aホールの3分の1ほどの広さ。隣のBホールと、Aホールの残りのスペースで開催されている、食品製造機械や飲食サービスなどに関する展示会と会場がつながっているため、金属や樹脂の展示を見て歩いていたら、突然肉を焼いているというような、ちょっと変わった展示会場でした。

環境問題に対応した製品展示

展示内容はかなり幅広い分野に分かれていました。樹脂系の素材や、それに関わる製造装置に関する展示が比較的多いものの、精密プレスやめっき加工といった金属関係の展示も各種でていました。

近年、プラスチックストローやビニール袋などによる海洋ごみ問題が注目されており、生分解性プラスチックやセルロースナノファイバーなど、環境負荷に配慮した製品の展示コーナーには多くの人が集まっていました。技術的な向上はもちろん、普及に向けた取り組みも重要になっています。

他にも、環境問題対策ということでは、溶剤の処理装置、冷却効率を上げるための遮熱塗料、環境負荷の少ない金属面の腐食防止剤など、各種展示が見られました。環境問題に対する技術は、今後さらに大きな市場になっていきます。

電鋳、研磨、表面処理、塗装、受託など幅広い展示

エヌプラスは割とコンパクトな展示会でしたが、かなり幅広い分野の展示が行われていました。例えばこちら。

日本電鍍工業株式会社で展示されていた、めっき済みのサックス。形状は通常のサックスと変わらないと思うのですが、なんともメカメカしい色合い。無駄に欲しくなります。吹けないですが。

ちなみに、こちらの拳は、ボクシングチャンピョンのマニー・パッキャオのものだそうです。なぜ、ここに。

こちらはバレル研磨専門の会社、東商技研工業株式会社の展示スペースにあったバレル研磨用の研磨石とその研磨サンプル。こうやって並んでいると、雑貨屋で売っているパワーストーンのように見えなくもない。東商技研工業株式会社は、新潟の燕市にあるので、燕市の金属製品のバリ取り、光沢出しはこの石で行われているというわけです。

そして、エヌプラスの会場の一角では、同時開催でEV・PHV普及活用技術展(EVEX)、衛星測位・位置情報展(EVEX・SATEX)も開催されていました。

こちらは、その中の展示でMIRAI-LABO株式会社の太陽光発電舗装パネル「Solar Mobiway」。道に設置する高耐久性の太陽光パネル。車が上を走っても大丈夫です。従来の太陽光パネルよりも軽く滑らないので、屋上や駐車場などの既存のスペースに設置が可能。これなら人が出入りするデパートの屋上とかにも設置できます。

今回は「モノカク」を運営するテクノポート株式会社も、協力工場5社とともにエヌプラスに出展していました。最適な製造業者を無料で探索・紹介するものづくりの窓口「モノマド」を紹介しています。

(キャプション:株式会社栗原精機)

(キャプション:大東電気株式会社)

(キャプション:株式会社ダイイチ・ファブ・テック)

(キャプション:アツミ工業株式会社)

(キャプション:株式会社モリセ精工)

後編では、エヌプラスで展示されていた、気になった製品、技術を紹介していきます。

MF-TOKYO 2019(第6回プレス・板金・フォーミング展)レポート(後編)

2019年7月31日(水)から8月3日(土)の日程で、東京国際展示場にてMF-TOKYO 2019が開催されました。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。鍛圧塑性加工技術の専門展示会であるMF-TOKYO(METAL FORMING FAIR TOKYO)。プレスや板金装置、ネジやバネの製造装置はもちろん、その周辺機器、サービス、加工技術なども各種展示されています。後編では、プレスや板金機械に欠かせない周辺技術を中心に、気になった製品を紹介していきます。

振動問題を解決

最初の製品は、プレスや板金の装置から発生する振動を抑える防振装置です。

ドイツで100年以上の歴史がある防振・除振・制振・免震装置のメーカー、ゲルブ社の日本法人の出展ブースに展示されていた製品。回転運動やピストン運動など、各種駆動部分を持つ製造装置からは、様々な振動が発生します。プレスや板金の機械からも、単発の強い大きな振動や、連続する小さい振動、高周波の小刻みな振動など各種発生します。振動は、地面を伝わって感じられたり、空気中を伝わって音として感じられたりします。騒音、振動公害として工場周辺の住民からの苦情がきたり、振動で周囲の装置に悪影響を及ぼしたり、振動対策は製造現場にとって避けては通れない問題です。

写真のゲルブ社のダイレクトスプリングサポートは、スプリングと粘性ダンパの組み合わせからなる防振装置。プレス装置などを直接支持し、周囲に伝わる振動を大幅に低減します。既存の防振システムからの入れ替えも容易におこなえます。展示デモでは、小さなモデルに鉄球を落としてその性能をアピールしていました。

静電塗油で油量を大幅削減

プレスや板金製品の製造時はもちろん、機械そのものにも潤滑や冷却など様々な目的で油が使われます。油を効率よく使用できれば、完成品の品質を向上させたり、機械や金型の寿命を延ばしたり、油の使用量を抑えてコストダウンできたりと、多くのメリットがあります。

こちらは東京都世田谷区にあるルブテック社の静電塗油装置です。油に高電圧をかけてマイナスイオン化。ターゲットとなる金属へ接地することで、ノズルから噴霧される油が電気の力で引き寄せられ、均一な油の塗布が可能となります。

塗油膜の厚みコントロールが自由自在にできるだけでなく、上下、斜めなど塗油方向も自在。狙った場所に飛び散ることなく均一に塗油できるので、油消費量も大幅に削減できます。プレスや板金に限らず、切削などあらゆる機械加工で使える技術だと思います。油の飛散を嫌がる食品の加工装置などでも有効なのではないでしょうか。

板金屋の作るバリ取り機

板にパンチやレーザーで穴を開ける際には、穴の周囲に打ち抜く際に伸びてできたバリや、溶けで飛び出したドロスが発生します。加工条件などで抑えることはできますが、完ぺきにゼロにするのはなかなか難しい。そこでバリ取り機の登場です。

写真はバリ取り機に使用される各種ブラシ。新潟県燕市のエステーリンクの製品です。エステーリンクのバリ取り装置では、このブラシが回転しながら旋回運動することで、多方向からワークを研磨。満遍なくブラシが当たり、バリを綺麗に取り除いていました。金属加工が盛んな新潟の燕市と三条市界隈。装置の宣伝文句が「板金屋が追求した板金屋のためのバリ取り機」。なんだか力強い。

プレス油は塩素フリー

もう一つは、プレス加工の際に使用されるプレス油です。

以前のプレス油では、加工性能を上げるために添加剤として塩素化パラフィンを多量に含んだものが多くありました。欧米では規制が進み、作業環境改善や地球環境保全の観点からも非塩素系の物が今は望まれています。こちらは大阪府和泉市のアクア化学の製品。洗浄不要な高性能乾燥性プレス油の展示もありました。

小さな技術も見て回る

こういった大きな展示会。しかも、プレスや板金といった大型の工作機械が並ぶ展示会では、どうしても大きく動き回る大手メーカーの大型装置に目が行ってしまいます。もちろん、そのような機械を見て最新動向を知ることも大切なのですが、展示会場の外周部にあるような小さな会社をじっくり回ってみると、意外な技術に出会うことがあります。解決できないでいた技術的な困りごとが、それで解決できるかもしれません。会場の外周部は、実は見どころ満載です。

MF-TOKYO 2019(第6回プレス・板金・フォーミング展)レポート(前編)

2019年7月31日(水)から8月3日(土)の日程で、東京国際展示場にてMF-TOKYO 2019が開催されました。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。前編ではイベント全体の様子をお伝えします。

鍛圧塑性加工技術の専門展示会

MF-TOKYO(METAL FORMING FAIR TOKYO)は鍛圧塑性加工技術の専門展示会です。プレスや板金装置、ネジやバネの製造装置といった、鍛圧機械とその周辺機器、サービス、加工技術などが一堂に会します。初開催は2009年。2年に一度、JIMTOF(日本国際工作機械見本市)が開催されない奇数年に開催され、今年で6回目。今回の開催では、国内外の254社が出展。1,717小間と、小間数では過去最大規模の開催となり、4日間の開催で、来場者数は3万人を超えています。

プレス機械、板金機械、フォーミングマシンの3つのエリア

会場内は大きく3つのエリアに分かれていました。西1ホールから西2ホールの一部に広がるプレス機械関連のエリア。南1、2ホールの板金機械のエリア。西2ホールに広がる、ネジやバネ、パイプなどを扱うフォーミングマシンエリア。

プレス機械関連のエリアでは、大手から中小のメーカーまで、各社大小のプレス機械が並び、デモ動作が行われていました。その中でも、主要な顧客となる自動車産業に向けてアピールした製品が多くみられます。サーボプレスによる高度な制御により、ハイテン(高張力鋼)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形にも対応したものが各社から出品されていたのが特徴的でした。燃費の向上やEV化に向けた自動車の軽量化への対応が急がれています。

板金機械のエリアでは、大手メーカーの大型の装置が数多く並び、動きのある展示が多くみられます。特にレーザーを使った大型の装置が目立ち、少量多品種生産対応や、パンチングプレスから金型不要のレーザーへのシフトを提案する製品も見られました。その他、中国を中心に、海外のメーカーの出展で、精密板金の技術をアピールする会社も各社見られ、日本市場への更なる売込みに力を入れているようでした。

フォーミングマシンエリアでは、ネジの圧造・転造機、スプリングマシン、パイプベンダー、製缶装置など、金属を曲げたり、伸ばしたり、形をつけたりする装置が並びます。全体的に自動化、省スペース、高速化、省力化をうたうものが多くみられました。労働者不足の現状が感じられます。

進む自動省力化とIoT化

サーボプレスやレーザーなど、加工技術についてアピールする企業が多い中、人手不足や技術継承に対応するための自動省力化、スマート工場を目指したIoT化などをアピールする企業も多くみられました。

複数台のサーボプレス機と搬送装置を高度に連携制御させ、材料搬入から成形までを効率よく行うタンデムプレスライン。板金装置とロボットアームを連動させたベンディングロボットシステム。パンチング装置とレーザー加工機が搭載された複合加工機。途中、人の手を介すこと無く最終製品まで製造できる製造装置や、熟練の技術者の動作を覚えるロボットなど、大量生産だけでなく、今後製造業が直面する問題を見越した技術開発が進んでいました。現場の者と共に作業を行う協働ロボットの展示もみられ、この流れは今後どの展示会でも見られるようになると思われます。

また、人手不足や作業効率の向上のための策として、各種装置へのIoT技術導入も進んでいました。装置の稼働状況を一括で見られるだけでなく、油や空気の消費量の変化、金型の温度状況など、装置内の様々な部分を見える化。効率のよい稼働や、金型の寿命なども含めたランニングコストの低減など、IoT技術でより効率的で高度な加工が行えるようになります。また、IoT技術により得られたデータを蓄積することで、熟練技術者の技術をデータとして残すことも考えられます。IoT、AI技術の導入は、今後の製造業にとって重要な課題です。

後編では、プレスや板金機械に欠かせない周辺技術を中心に、気になった製品を紹介していきます。

INTERMOLD 名古屋 2019 レポート(後編)

2019年6月19日(水)から6月22日(土)の4日間、愛知県名古屋市にあるポートメッセなごやで開催されたINTERMOLD 名古屋。今回は、元エンジニアのライター石川がINTERMOLD 名古屋で見つけた、少し面白い展示をご紹介します。

金属製3Dプリンターで金型の入子を作る

メリットとデメリットの両方が聞かれる3Dプリンターですが、やはり治工具の分野では実用事例が増えていると感じています。INTERMOLD 名古屋でも、金属製3Dプリンターを使用して製作した金型の入子が展示されていました。


1例目は七宝金型工業株式会社様の3D冷却管が内臓されたダイキャスト金型用の入子です。3Dプリンターの特長の1つとして、従来の除去加工では不可能だった中空構造が作れることが上げられますが、七宝金型工業株式会社ではその特性を生かし、凸形状の先端近くまで冷却管を通すことを可能にしました。3Dプリンターで成形後、切削にて仕上げを行っています。


2例目は(株)ケイプラスモールドジャパン様によるプラスチック射出成形用金型のガス抜き入れ子です。ケイプラスモールドジャパンでは、金属製3Dプリンタ-を使用し、入子の表面を微細なメッシュ構造にしました。これにより従来のベントに比べて広い範囲で効率的なガス抜きを可能にしています。このようなガス抜き入子を使用することで、従来ではガスの発生が懸念された成形条件での成形も可能になるかもしれませんね。

特殊なプレス技術が面白い

INTERMOLD 名古屋では目を引く製品も見つかりました。例えば三和パッキング工業(株)様では、自動車のエンジンルームなどで放熱や遮熱に使うNimbus GⅡを展示していました。これは特殊な技術でアルミ主体の金属プレートを立体的な蛇腹構造に加工し、それをさらにプレスで成形したものです。蛇腹構造になっているため占有体積に対する素材の面積が広くなり、高い放熱、遮熱効果を期待することができます。また、見た目も美しく、細部まで品位を要求される高級車などからの需要が高いとの話でした。

金属のプレス技術で一際複雑な形状の製品を展示していたのが、ダイワ精密プレス(株)様でした。看板展示品である大仏プレスに代表されるように、一般的な技術ではアンダー形状などになって加工が難しい形状を数多く加工されています。

昔ながらの工場で使える技術

金型製作が行われているのは、町工場のような中小企業が多数です。そのような昔ながらの工場で生産性を向上させるために使える技術の展示もありました。例えば(株)三雲製作所でプレス加工品を自動でピックアップし、ストックする機械を展示していました。従来のように担当者がプレス機の前に立って材料を送っていく方法に比べ、人件費を半分に押さえることができるといいます。また別のいくつかの企業では既存の金型にセンサーを取り付け、IoTの導入が可能になるシステムの紹介などもありました。
日本では少子化にともない労働人口が現象し、人材の確保が今後の大きな課題になるといわれています。既存の設備やシステムを活かして、工数を削減することができる機械やシステムは、今後さらに需要を伸ばしていくでしょう。

技術と需要のマッチングという課題

このような展示会に足を運ぶと、よく見かけるケースとして「こんなすごいものを作ってみました。でもこの技術を欲しがる企業が見つかりません」というのがあります。大きな視点で見れば、そのような「使い道はわからないがすごい技術」というのは、科学における基礎研究にも似て、技術の裾野を広げ、思わぬ躍進につながる可能性を秘めているとは思います。とはいえ、企業にとってはできるだけ早く実用化へと繋げていきたいものでもあります。技術のみを展示するのではなく、それを使って何ができるか、そんな提案も添えてみるとこで、より多くの企業の目に止まるのではないかと感じました。

INTERMOLD 名古屋 2019 レポート(前編)

INTERMOLD 名古屋は2019年6月19日(水)から6月22日(土)の4日間、愛知県名古屋市にあるポートメッセなごやで開催されました。プラスチック部品の設計経験を持つ、元エンジニアのライター石川がINTERMOLD 名古屋を訪れたので、今回はその概要を紹介します。

INTERMOLD 名古屋 2019とは

INTERMOLD 名古屋はポートメッセなごやの第3展示館で、金型展 名古屋、金属プレス加工技術展名古屋と同時開催されました。タイや中国など、海外の企業を含めた300社以上の企業・団体が出展、来場者は4日間でおよそ4万人となり、期間中は多くの人でにぎわっていました。

INTERMOLD 名古屋 2019の出展内容

メインとなるのは樹脂の射出成形に使う金型の加工技術です。切削や研削、精密加工や溶接などの工作機械や、加工用工具、測定機など様々な加工技術の展示が行われていました。また金型に関わる周辺技術として、3D CAD、CAMをはじめとした設計補助のソフトウェア、IoTなどのソリューションの提案や、安全や教育などを含めた工場の環境改善に関わる商品も数多く展示されていました。

同時開催されていたプレス加工技術展では、金属プレスに使う金型や、試作向けのハイスピードな仮型提供ソリューション、高度なプレス技術、プレス機の周辺で使用する機器などの展示があり、さらに近年注目を集めている3Dプリンター関連技術として、金属製3Dプリンターを使った金型の技術ブースには数多くの人が立ち寄っていました。

INTERMOLD 名古屋では、展示の他にも講演やセミナー、テクニカル・ワークショップも数多く、自動車部品工場が多く集まる中部地区ということもあってか、自動車や自動車部品の開発などに関わる講演も多くありました。

樹脂の射出成形用金型の展示

日本金型工業会による金型ブースは、金型の製造を行っている中小企業がメインです。精密な金型や金型加工の速さ、複雑な金型など、各社それぞれに自社の強みを紹介しています。しかし金型技術という、すでに開発が高みに登りつめている分野という特性上、特に目立った新技術などは見当たりませんでした。そのような中で比較的目立っていたのは、金属製3Dプリンターを使用して金型を製作する技術の紹介でした。

金属プレス金型の展示

プレス金型についても、射出成型用金型と同様、金型の製造を行っている中小企業による展示が主になります。板金のプレスやプレスによるバネの製作、順送装置などの紹介が行われていました。プレス金型についても、射出成型用の金型と状況が似ており、目立った新技術の紹介などは見当たりませんでしたが、3Dプリンターやプレスで作成した仮型の使用により、試作期間を短縮するソリューションの提案なども行われていました。

金型加工技術の展示

INTERMOLD 名古屋で最も目立つ展示が行われていたのは、金型加工技術のコーナーになります。そういう意味では、機械要素技術展とも雰囲気が似ているかもしれません。アマダ、牧野フライス、ファナック、オークマといった主力の工作機械メーカーや、キーエンスやカールツァイスといった測定機器メーカー、キャムタスなどの設計補助ソフトウェアメーカー、ケルヒャーなどの工場で使用する機器のメーカーなどの展示が行われていました。とはいえ金型に特化している展示会ですので、機械要素技術展に比べ、金属に対する加工や、複雑な形状に対する測定などがメインでした。複雑な加工、精密な加工に対する提案も多く行われていたのですが、機器の使いやすさや加工時間の短縮、ワンステップでの加工などの分野でのソリューション提案が多く見られたのが特徴的でした。