1.吉原精工の有給休暇制度の考え方
「従業員目線で経営を考える」という吉原会長。
実践した改革のひとつに「社員全員が、年に3回10連休をとれる」というものがあります。長期間の休暇を取得することで従業員は家族と過ごすことができたり、心身ともにリフレッシュができ、仕事の効率がさらに上がると吉原会長は言います。
吉原精工では、入社1年目から年間20日の有給休暇を設けています。その上で、会社側で14日分の有給をゴールデンウイーク、お盆、年末年始に割り振り、それぞれ10連休を作っています。法律では、最低5日間を従業員が取得できるようにしておけば何ら問題ありません。
ちなみに、法律では、入社後最初の有給休暇がもらえるには、
- 入社から半年間継続して働いた
- その間の全労働日の8割以上出勤した
という2つの要件を満たした者に、19日間付与されます。そうすると、吉原精工では法律以上に優遇した運用をしているということになります。
2.計画年休の実施
この「会社が有給を割り振る」というやり方を専門的に解説すると、「計画年休」という制度を取り入れているということになります。計画年休とは、有給休暇のうち5日を超える部分について、会社が有給休暇を強制的に付与できる制度です(労基法39条6項)。この制度は、年休取得率の向上のために導入された制度です。「誰も有給の取得なんてしていないのに自分だけ有給を下さいなんて言いにくい」と思っている従業員は全国に非常に多くいるはずです。
特に製造業や美容業界は、有給休暇を取得することはまだまだ当たり前になっていません。有給休暇の取得率がいまだに低い会社は、是非とも計画年休を検討して欲しいと思います。なお、計画年休の導入に当たっては、労働者の過半数で組織する労働組合、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者と書面による協定で、有給休暇の時季を定めることが必要です。
3.労基法改正~使用者に義務付け
さて、有給休暇に関して、新たなルールが追加されることになりました。
平成30年6月29日に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「改正法」といいます)で、年次有給休暇の時季指定義務というものが新設されることになりました。改正法は、労基法に基づき会社が与えなければならない有給休暇の日数が10日以上である者にについて、その有給休暇のうち5日間について、取得する時期を労働者ごとに会社が決めなさいと規定しています(改正労基法39条7項)。しかも、これは罰則付きの規定なので、会社としては対応が必須となります(労基法120条1号)。この制度の新設がなされた理由は、有給休暇取得率を向上させるという点にあります。
「会社が必ず5日間は有給を取得させなければならない」と聞いて、衝撃を受ける経営者の方は多いのですが、筆者としてはそこまで心配する必要はないのではないかと思います。その理由は、従業員から有給休暇の申請があり、実際に5日間取得させた場合や、先に述べた計画年休の実施により5日以上有給休暇を取得させている場合については、年次有給休暇の時季指定義務は会社にはないと定められているからです(改正労基法39条8項)。
以上、有給休暇制度をうまく活用して働き方改革を進めていきましょう。