デジタルマーケティング担当者が押さえておきたい改正個人情報保護法とは?

マーコム・サポーターの椎名です。中小企業や個人事業主のマーケティング活動をサポートする傍ら、ライティング活動も行っています。今回は、来年施行される改正個人情報保護法について取り上げます。

個人情報保護法は、個人の権利・利益を保護するもので、取り扱い事業者が守るべき義務、違反時の罰則が定められています。海外ではEU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)やカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA:California Consumer Privacy Act)があり、近年個人の権利保護が強化されつつある状況です。

一方、日本は欧米と比べると規制対象が緩い傾向にありますが、方向性は基本的に同じです。国内の個人情報保護法は3年おきに見直されており、今度の改正法は2022年4月に施行されます。

本記事では、この法改正で何が変わるのか、またデジタルマーケティング活動を行う上で、法律がどう影響するのか、主な業務についてポイントをまとめてご紹介します。

2022年、個人情報保護法の改正で何が変わるのか?

今度の法改正で改正される大きなポイントとしては、規制対象の拡大です。従来は5,000件以下のリストを扱う中小事業者は外れていましたが、今回の改正で、全事業者が対象となります。例え数十件のリストでも法律が適用されるようになります。

ルールとして改正される内容は主に以下の5点です。

  1. 漏洩など報告の義務化
  2. 不適正な利用の禁止
  3. 個人情報の第三者提供の制限強化
  4. 海外の第三者への提供時の提供情報の拡充
  5. 仮名加工情報の創設

内容で注目されるポイントとして、3にあげた「個人情報の第三者提供の制限強化」があげられます。強化される部分として2つあります。

ひとつは、本人の事前同意(オプトアウト)の際の手続きが厳格化することです。従来は、同意を取る項目として、以下の4つがありました。

  • 個人情報の第三者提供
  • 提供項目
  • 提供方法
  • 本人が求めに応じ第三者への提供を停止

これが改正後は項目が追加され、「個人情報保護委員会への届け出」が義務として必要になります。

もうひとつは、個人情報の第三者提供を行う際に、本人の同意が必要になる範囲が拡大することです。従来、個人情報の扱いの対象から外れていたCookieや位置情報が個人情報として対象に入る場合があります。いわゆるCookie規制です。

Cookie規制については、欧米の動きにあわせた形になっていますが、Cookieがなんでもかんでも個人情報として規制の対象に入るわけではありません。具体的にどういったものが対象になるのでしょうか?これについては、次の章で広告業務を例としてご説明 します。

ポイント解説!デジタルマーケティングの何が変わるのか?

ここでは、主なデジタルマーケティング業務において、今回の法改正で何が変わるのか、どんなことに気を付けなければならないのか、ポイントを絞ってお伝えします。

WEB広告

WEB広告における注目すべき改正ポイントは、「Cookie規制の強化」です。先に述べたように、もともと国内ではCookieは個人情報の扱いから外れていました。しかし今回、部分的に規制の対象となり、Cookieレスに向けて進んでいきます。

国内のCookieレスに関する改正法については、個人情報の第三者提供を行う際、本人の同意が必要となる範囲が多少広がる程度でしょう 。例えば自社サイトに訪問した個人のCookie情報を第三者の個人データベースと照合してターゲッティングを行う場合、あらかじめ第三者企業における同意と、自社からの同意の両方が必要となります。

なお、Googleなどの大手ITプラットフォーム提供企業の自主規制の縛りが強いため、影響度はそちらの方が大きそうです。特に3rd party cookie廃止により、高精度なターゲッティング広告ができなくなるリスクがあります。

例えば、他サイトのアクセス履歴と個人情報を照合してターゲッティングすることは厳しくなるかもしれません。Google/YahooやSNS広告など自社サイト上で行う運用広告に対してはよいが、パブリックDMPやDSP広告については影響が大きくなるでしょう。

一部ではあるが、1st party cookieでも制限がかかってきます。例えば一度アクセスしたユーザをリターゲティングしたい場合、期間が経ってしまうと追跡しきれなくなるかもしれません。cookieの有効期間が短くなり、経路が特定しにくくなるためです。

メールマーケティング

先に述べたように、今回の個人情報保護法の改正では、5,000件未満のリストを扱う中小事業者が新たに対象となります。つまり、たとえ数十件のメルマガを配信する場合でも、法律が適用されるのです。それが今回の改正では一番大きいポイントになるでしょう。では、メルマガを配信する際、どのようなことに注意する必要があるのでしょうか?ここで改めてメールマーケティングに関する法律をおさらいしておきます。メールの場合、個人情報保護法と特定電子メール法の2種類の法律があり、遵守すべき法律は以下のとおりです 。

  • 個人情報は本人の同意なしで第三者に開示できない
  • 個人情報の利用目的の記載が必要
  • 配信前に承諾が必要
  • 送信者の問い合わせ先や配信解除する方法を明記する義務がある
  • メルマガ受信者の登録情報(※)を記録しておく必要がある
    ※登録日や登録時にユーザが提供した情報

例えば、「配信前の承諾」について、よくある疑問として、「名刺交換した相手にメルマガを送っていいのか」というものがあります。基本的に営業活動やイベントなどを通じて名刺交換した相手のメールアドレスを配信対象にすることは可能です。ただし、本人が配信解除できるようにしておく義務がありますので注意しましょう。

顧客管理

通常、企業では、複数の異なるシステムが点在しています。メルマガなどの登録情報、イベントやセミナーへの申し込み、技術問い合わせなど、別々のツールで管理されていて、一元情報になっていない場合もあります。各々の管理ツールで同じユーザなのに登録時期の違いなどによって情報が食い違ってしまう可能性も十分に考えられます。

今回の改正では、ユーザから、自身の個人情報の開示要求や削除依頼を受けた場合、企業側が提示しなければならない情報、対応義務の範囲が拡大します。

この場合、ツールごとに問い合わせのあったユーザの情報を照会し、各々削除・修正しなければなりません。組織も担当者も異なるケースがあるため連携も大変です。こうした情報は一元管理しておき、煩雑にならないように体制を整備しておくことを推奨します。

今後のデジタルマーケティングの潮流

個人情報保護の法規制は今後も強化される方向性は変わらないでしょう。事業者横断のトラッキングはますます困難な時代になってくると考えられます。大手ITプラットフォームベンダーはこの1,2年で3rd party cookieへの対応を停止する動きを見せています。Googleも予定を1年遅らせてはいるものの、2023年には対応を辞めるとしています。

もちろん、ベンダー各社は個人を特定しない広告技術の開発を強化してくるでしょう。AI技術がもっと進化することで、今よりも効果的なWeb広告が打てるようになる技術が開発されるかもしれません。ですが、基本的には3rd party cookieの停止によって個人を追跡する高精度のターゲッティング広告は難しくなると考えて、今後の施策を検討したほうがよ いでしょう。

Web広告の場合、どうしてもプラットフォームを提供するベンダーの施策・方針に依存します。SNSにしても同じです。各ベンダーの動向をウォッチしていくことも必要ですが、自社でコントロールできることは何かを改めて考えてみたほうがよいかもしれません。

高精度のターゲッティングでニーズの高い顧客をピンポイントで狙い撃ちできなくなってくると、そうした顧客が情報を求めて自ら来訪したくなるコンテンツが重要になります。これからは、本当の意味でコンテンツが勝負となる時代が到来するでしょう。

それに伴い、集客に対する考え方も徐々に変化するでしょう。その場限りの集客施策より、集客した後の関係構築に力点を置き、生涯価値(LTV)をあげる方法を真剣に考えるフェーズに移っていくのかもしれません。

まとめ

日本の個人情報保護法は、欧米のGDPRやCCPAと同じ方向性で、近年個人の権利保護が強化されつつあります。2022年4月から施行される改正法では、規制対象が全事業者に拡大され、報告の義務化などの規制が強化されます。

改正法では、個人情報の第三者提供の制限範囲が拡大され、個人情報と第三者情報の紐づけを行う際のルールが厳格化されます。この際のポイントとして新たに浮上したキーワードが「Cookie規制」です。これは、世界的な規制の動きを受けたITプラットフォームベンダーが先行して対応しており、Web広告やメールマーケティングの業務に影響がでます。

こうした規制の動きを受け、従来行えていた事業者横断のトラッキングが厳しくなってくるでしょう。高精度なターゲッティングありきの集客施策に頼るのではなく、コンテンツを強化し、集客後の顧客生涯価値をあげるマーケティング施策の検討がより求められるでしょう。

せっかくの秘密保持契約(NDA)が水の泡となるケース

中小企業専門の弁理士の亀山です。2020年10月をもって、7年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回の記事(自社技術を提案する際に気を付けたいこと)では、自社の技術を提案する際、提案前の特許出願や秘密保持契約を検討して欲しい点についてお話しました。今回は、秘密保持契約書において、中小企業において「ありがちな失敗例」をご紹介したいと思います。

上場企業から問い合わせが来た!

技術部長:凄いことが起きました。上場企業I社からの問い合わせが入ったんです!まさか、うちのような企業が大企業から声がかかるだなんて・・・

かめやま:おお~!それはチャンスですね!問い合わせの内容はどのようなものですか?

技術部長:現在検討している新規プロジェクトで、とある問題が起きているらしく。で、うちのホームページを見たところ、オリジナル商品の素性から、うちの技術力が使えそうなので、相談したい!とのことです。

かめやま:なるほど。どの商品ですか?

技術部長:商品Eです。たぶん、この製造技術に関心があると思います。

かめやま:こちらは、構造について特許出願を済ませておりましたが、製造技術については、ブラックボックス化するために、特許出願を出さなかった案件ですね。

技術部長:はい。

かめやま:I社との打ち合わせはこれからですか?

技術部長:はい。

かめやま:では、次のようにして、打ち合わせを進めてください。

  • アドバイス1:相手方の要求やその背景を把握する。
  • アドバイス2:製造技術の開示は、いつごろ必要になるか?の目途を立てる。
  • アドバイス3:(相手からどんなに急がれても)製造技術の開示の前に秘密保持契約を締結してほしい。

そして、その結果、K社の秘密保持契約書(ひな形)を使って、秘密保持契約を締結しました。

秘密保持契約の締結後

秘密保持契約の締結後、K社の技術部長より、うれしい報告を受けました。

技術部長:2回目のアポイントがとれました!1回目の打ち合わせでは、I社の部長の反応が良かったため、期待が持てそうです。

かめやま:それは、よかったですね。2回目の打ち合わせでは、サンプルや技術資料等を見せる予定ですか?

技術部長:はい! 現在の商品と、その製造方法に関する技術資料です。

かめやま:(技術資料等を見ながら)現在の商品はすでに販売しているので、秘密情報ではありませんね。しかし、この技術資料は、製造方法について少し触れている部分があるため秘密情報になりますよね。

技術部長:はい。

かめやま:この部分を削ることができますか?

技術部長:いいえ。ここを開示しないと、先方も理解できないと思います。

かめやま:そうなると、この技術資料は開示が必須となりますよね。

ここまでは良かったのですが・・・

かめやま:ところで、この技術資料に「社外秘」という表示が付いていないですが、このまま開示する予定ですか?

技術部長:ええ。問題ありますか?

かめやま:技術資料に、「社外秘」が表示されていないですよ。

技術部長:え? それって、何か意味あります?

かめやま:このままだと、先日締結した秘密保持契約による保護を受けられません。

技術部長:あれれ?おかしいな~。「製造技術=秘密情報」ではないのですか?

かめやま:では、秘密保持契約書を一緒に見てみませんか?

技術部長:はい。ええと「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」と書いてあります。

かめやま:そうですよね。今回の秘密保持契約における「秘密情報」としては、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

  • 条件1:K社が開示した情報
  • 条件2:書面等の有体物として開示した情報
  • 条件3:秘密情報として明示した情報

技術部長:あぁ。なるほど。このままだと、条件3を満足しないのですね。これだと、秘密情報として守ってもらえないし・・・だから、自由に利用されてしまう。

かめやま:そうです。

技術部長:危なかったです。事前に相談しておいてよかったです。

かめやま:ほかの資料やサンプルを開示する場合も、製造技術に関わるものは「社外秘」を付けるようにしてください。もちろん、開示する情報は、I社の採用検討に最低限の範囲でお願いします!もし、心配であれば、事前に見せてくださいね。

技術部長:そうします!

秘密保持契約でチェックしたい事項

今回、秘密保持契約において最低限チェックしたい事項は次の3点です。

  1. 文言「秘密情報の第三者開示を禁止する」が入っているか否か
  2. 文言「秘密情報の目的外使用を禁止する」が入っているか否か
  3. 契約書上の秘密情報について

それぞれについてみてきましょう。

文言「秘密情報の第三者開示を禁止する」が入っているか否か

「開示した情報を、第三者に無断開示することを禁止する」というものです。K社の技術情報を秘密情報として守ってほしいため、当然といえば当然ですね。

文言「秘密情報の目的外使用を禁止する」が入っているか否か

今回の秘密保持契約の目的は、「I社がK社保有の技術を採用するか否かの判断のために情報開示する」と書いてありますよね?。これにより、I社は、K社から開示された情報を「自社採用するか否かの判断材料として利用できる」ものの、「自社の課題解決のための利用することはできなくなります」。

※もちろん、I社に対し情報開示する範囲も、製造技術の「採用の判断」に必要なものに止めることが前提になります。

契約書上の秘密情報について

「秘密情報の第三者開示を禁止する」文言も入っているし、「秘密情報の目的外使用を禁止する」文言も入っている。これなら安心!といきたいところですが、もう1つ。大切なチェックポイントがあります。それが、秘密情報の定義です。

秘密情報の定義

通常、秘密保持契約書には、秘密情報の定義がされています。秘密情報の定義として、よくあるパターンは次の通りです。

  • パターン1 開示した情報の全て
  • パターン2 開示した情報のうち、秘密情報と明示したものに限る
  • パターン3 開示した情報のうち、秘密情報として書面等の有体物に明示したものに限る

秘密情報の定義は、情報管理の実現可能性から検討する

秘密情報の定義として、いずれのパターンが良いかはケースバイケースです。例えば、情報を開示する側からすれば、「開示したものは全て守ってほしい」ということで、パターン1を選びたくなります。一方、情報を受領する側からすれば、「開示された全ての情報を秘密情報として管理することは、手間もかかるので、事実上不可能」ということで、パターン2や3のように、秘密情報の範囲を限定するケースが多いです。

このように、「情報を出す側と」「情報を受け取る側」の情報管理のリソースを考慮し、実現可能なレベルを設定する必要があります。

※決して、実現できないレベルで締結しないでください。

「秘密保持契約が水の泡」とならないようにするために気を付けたいこと

I社に情報開示の際、「I社との秘密保持契約にて定義された”秘密情報”ってどんなものだったけ?」と思いながら、心配な場合には、「秘密保持契約」を見ながら、開示する書類やサンプルの用意をしてください。

今回の秘密保持契約では、お互いに、秘密情報を受け渡しすることから、「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」としました。この場合には、開示する書類やサンプル等について、3つの条件を満足しているか否かを1つひとつチェックする必要があります。

  • 条件1:K社が開示した情報
  • 条件2:書面等の有体物として開示した情報
  • 条件3:秘密情報として明示した情報

そして、この3つの条件のうち、1つでも満足しないまま情報開示を行ってしまうと、冒頭で述べた事例のように、折角の秘密保持契約が水の泡となりかねません。

まとめ

(1)秘密保持契約でチェックすべき事項

  1. 「秘密情報の第三者開示を禁止」が入っているか
  2. 「秘密情報の目的外使用を禁止」が入っているか
  3. 「秘密情報」は、どのように定義されているか?

(2)ありがちな失敗例は、秘密保持契約書にて定義された「秘密情報」から外れてしまった情報の開示行為

例えば、「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」にもかかわらず、

  • 開示文書に秘密情報を明示していなかった(「秘密情報の明示」という条件を満足していなかった)。
  • 口頭のみで秘密情報を明示してしまった(「書面等の有体物による開示」という条件を満足していなかった)。

といったことが良く起こります。

(3)情報開示する際、開示する情報の範囲は、契約の目的を考慮して必要最低限にとどめること。

(4)開示する情報を守るべく、秘密保持契約書上の”秘密情報”の定義を理解すること。

(5)開示する情報のうち「相手方に守ってほしい情報」については、秘密保持契約書上の”秘密情報”に該当するようチェックすること。

秘密情報は、相手方に一度開示してしまったあとでは取り返しがつきません。自社技術を提案する際には、事前に、お近くの専門家にご相談ください。

商標権侵害を特に注意しなければならない業界

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回の記事「プレスリリースを検討する際に気を付けて欲しいこと」では、これから売り出そうとする自社商品・サービスの名前等が、他社の商標権等を侵害していないかのチェックを、プレスリリースの前に行いましょうね。と述べました。今回はその続きです。

商標権侵害により逮捕された例

高級ブランド「ウブロ」の偽腕時計販売 容疑で会社員逮捕

埼玉県警浦和西署は8日、高級ブランド「ウブロ」の偽物の腕時計を販売したとして、詐欺と商標法違反の疑いで、さいたま市浦和区常盤、会社員(23)を逮捕した。容疑を認めている。逮捕容疑は平成30年11月、商品の売買ができるインターネット掲示板にウブロに似たロゴマークを付けた腕時計を出品し、埼玉県戸田市の自営業の男性(45)から、代金として現金10万円をだまし取ったとしている。「YAHOO ニュース 2020/6/8 17:33配信より引用」

偽シャネルのヘアゴムをSNSで販売‥埼玉県の27歳女を逮捕 岐阜県警

偽のブランド品をSNSで販売していた女を逮捕です。商標法違反の疑いで逮捕された、埼玉県川口市の容疑者(27)は去年12月、SNSを利用して偽の「シャネル」のヘアゴム10点を2000円で販売した疑いがもたれています。 岐阜県警が、サイバーパトロールで偽ブランド品がフリーマーケットアプリで販売されているのを発見し、容疑者の犯行が明るみに出ました。容疑者は容疑を認めています。警察は、偽のブランドのネックレスやイヤリングなど約2000点を押収していて、入手経路などを調べています。「YAHOO ニュース 2020/6/4 19:25配信より引用」

それは「売っても大丈夫だと思っていた」人気ブランドSupremeの偽造品を販売目的で所持…男に求刑【長崎】

偽のブランド品を販売するため所持していた罪に問われている男の初公判が2日、長崎地裁で開かれました。商標法違反の罪に問われているのは長崎市新小が倉1丁目の会社員(46)です。起訴状によりますと被告は、去年11月、長崎市出島町で自分が経営していた雑貨店で人気ブランド「Supreme」の偽のウエストポーチなど124点を販売目的で所持していたとされています。長崎地裁で開かれた初公判で被告は、「注意で済むと思った」と起訴内容を認めました。検察側が懲役1年6カ月、罰金100万円を求刑したのに対し、弁護側は「利益はごくわずかで反省の態度を示している」として執行猶予つきの判決を求めました。「YAHOO ニュース 2020/6/2 18:14配信より引用」

このように、インターネットで検索してみると、商標権侵害によって逮捕されてしまった例というのは珍しくないようです。

商標権侵害事犯の数

では、商標権侵害事犯数は、どれくらいあるのでしょうか?

統計(※1)によれば、商標権侵害事犯は、平29年302件、平成30年 309件です。こうしてみると、1日1件くらい起きているケースになります。なお、証拠不十分等によって、上の数値にカウントされない場合もありますので、実際にはもっと多くの侵害行為が起きていそうだと考えた方が良いでしょう。

商標権侵害で摘発されやすい業種・業態

商標権侵害で摘発されやすい業種・業態としてはどのようなものがあるでしょうか?

商標権侵害事犯(平成30年 309件)のうち、インターネット利用は、265件(85%)となっています(※1)。したがって、インターネット経由の商取引(具体的には、ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション)は、商標権侵害を根拠に検挙されやすいといえそうです。

また、平成30年における侵害品数(129,328個)のうち、4.5%は国内製造品、海外の仕出国においては、中国(37%)、韓国(6.8%)となっており、その後に、フィリピン、台湾、タイ(いずれも1%未満)が続きます(※1)。出元不明のものが49%(※1)もあることを鑑みると、もう少し多い可能性がありますが、いずれにしても、侵害品のほとんどが国外から輸入品であり、そのほとんどが中国・韓国からの輸入品であるといえそうです。

(※1)平成30年における生活経済事犯の検挙状況等について(警察庁生活安全局)

このように、インターネット経由の取引においては、商標権者から発見されやすいこともあり、摘発されやすいといえます。また、侵害品数の内訳から見てみると、中国等の海外から輸入品に多く見られます。

前回の記事で述べた通り、新しい事業を始める場合や新商品・サービスを開始する際、商標権侵害をはじめ、他社の知的財産権利の侵害について注意をした方が良いと思います。その中でも、ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション等の「インターネット経由の取引」や「輸入品の販売」を行う場合には、特に、商標権侵害について注意をした方がよさそうです。

 

商標権侵害にならないようにするためにはどうすれば?

商標権の侵害行為によって、刑事罰を受けてしまうと、あなたの会社に対して、金銭的ダメージのみならず、社会的ダメージが大きくのしかかってきます。それでは、他人の商標権を侵害しないためには、何をすればよいのでしょうか?

そのためには、他者の商標を調べる必要があります。この調査は、事業の企画段階、商品の仕入れ段階において行う必要があります。このような商標権の調査(クリアランス調査といいます)は、専門的知識が必要ですので、調査の際には、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 商標権侵害による逮捕は意外と多い。
  2. 商標権侵害について特に注意したい業種・業態は、「インターネット取引(ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション)」や「輸入品販売」である。
  3. このようなリスクを回避するためには、事前のクリアランス調査が必要。

「特許表示」 一歩間違えると刑事罰対象に!?

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回は、「特許の権利化までの手続きがわかりくい!」という声に応え、「特許の権利化までの手続き」できるだけわかりやすくご紹介したました。今回は、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許出願を済ませばOK?

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許表示の罠

「特許出願を済ませた」=「特許取得」と勘違いする方は多いようです。通常、特許出願した後に、発明品の販売を行うのですが、その発明品のチラシに、「特許製品」「特許技術」や、「オリジナル特許」と表示されるケースを時々見かけます。ところが、「特許製品」「特許技術」「オリジナル特許」という表示に問題があります。

3、特許法によると・・・

特許法第百八十八条(虚偽表示の禁止)には次のようなことが記載されております。

何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

  • 一 特許に係る物以外の物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
  • 二 特許に係る物以外の物であつて、その物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付したものの譲渡等又は譲渡等のための展示をする行為
  • 三 特許に係る物以外の物の生産若しくは使用をさせるため、又は譲渡等をするため、広告にその物の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為
  • 四 方法の特許発明におけるその方法以外の方法を使用させるため、又は譲渡し若しくは貸し渡すため、広告にその方法の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為

すなわち、特許を取っていないのにもかかわらず、あたかも特許権を取得しているような紛らわしい表示をした場合には、虚偽表示に該当します。さらに、特許法第百九十八条には次のようなことが記載されております。

第百八十八条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

また、特許法第二百一条(両罰規定)には、には次のようなことが記載されております。

1 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

  • 一 第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑
  • 二 第百九十七条又は第百九十八条 一億円以下の罰金刑

2 前項の場合において、当該行為者に対してした前条第二項の告訴は、その法人又は人に対しても効力を生じ、その法人又は人に対してした告訴は、当該行為者に対しても効力を生ずるものとする。

3 第一項の規定により第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。

つまり、特許を取っていないのにもかかわらず、あたかも特許権を取得しているような紛らわしい表示をした場合には、刑事罰の対象となり、懲役3年以下、300万円以下の罰金に科されますし、法人の場合には、1億円以下の罰金の対象となります。

発明品のチラシを作って販売する時点で、ほとんどが法人である可能性が高いと思いますので、行為者には、懲役3年以下、300万円以下の罰金に科され、その勤め先の企業には、1億円以下の罰金が科されます。無視することのできない大きな問題です。

4、ではどう表示すればよいの?

特許出願後、特許取得前においては、「特許製品」等ではなく、「特許出願中」「特許出願済」と表示します。一方、特許取得後は、「特許製品」「特許技術」等と堂々と表示することができます。

5、まとめ

  1. 特許表示を一歩間違えると刑事罰になる
  2. 特許出願後、特許権取得前 → 「特許出願中」「特許出願済み」と表示
  3. 特許権取得後       → 「特許製品」「特許技術」と表示

経営者に求められる「人間性」とは

私の連載は本日で一旦終了となります。最後に「弁護活動」を通して感じることを書きたいと思います。

社員目線から経営を考える

この連載は、株式会社吉原精工の改革にスポットを当ててきました。「社員目線から経営を考える」という吉原会長の試みを、法的に分析するという取組みをして来ました。弁護士として活動している中で、よく遭遇する①退職の場面の問題、②賃金にまつわるトラブルをメインに取り上げ、法的なアプローチの一端を解説しました。

しかし、語弊を恐れずに言えば、私が一番伝えたかった点は「法律のテクニック」ではありません。

「法律」を使うのは人間です。どのような立派なテクニックを使っても、土台となる経営者の「人間性」がぶれていれば長続きはしません。この考え方に賛否両論はあると思いますが、私は経営者の「人間性」こそが一番大切だと思います。ここでいう人間性とは、経営者は聖人君子であれということではなく、多角的な視点をもって考え、「脳に汗をかく」ことができる知性のことです。

このような考え方に至った理由は、私の弁護活動に起因している点が大きいと思います。

企業側の弁護士をしていると、

  • 「一円も残業代を支払いたくないから、賃金規程をうまく作って欲しい」
  • 「経営者が絶対なので、歯向かう人間はすぐにクビにできて当然だ」
  • 「有給を平気な顔で取得する従業員がいると、士気が低下するからどうにかして欲しい」

といったような、一方的に過ぎる要望を伝えてくるクライアントがいます。

しかし、このような経営者に従業員はついてこないのが現実です。ついてきていると思っているのだとすれば,それは恐怖政治を敷いた結果、「裸の王様」になっているだけであり、土台が足元から崩れている危険性を認識できていない非常に危ない状態だと言えるでしょう。

働き方改革

私が吉原会長に出会い、直接お話をして書籍も拝読したとき、一貫していたのは「人間に対する洞察力の深さ」でした。逆の立場だったらどう思うのか、自分が従業員だったら働きたいと思うか、という点にストイックに向き合い、企業の舵取りをしておられました。その「多様な視点で物事を考え抜く」という知的労働が習慣化しているため、気がつけば「働き方改革を体現している会社」として多くのマスコミに取り上げられることになったのだと思います。

「働き方改革」という言葉が独り歩きしている感はありますが、すべて「人」の所業です。

私も一経営者として、「多角的な視点からストイックに考え抜く」ということを習慣化し、一緒に働く人が幸せになる組織を作りたいと思います。それ以外に、「良い組織」は作ることはできないと思います。

「法律」はその上でこそ活きるものだと信じて疑いません。

本連載を最後までお読み頂いた読者の皆様、お付き合い頂き本当にありがとうございました。またどこかでお会いしましょう!

コスパのよい特許出願 その1

弁理士の亀山夏樹です。小職は、中小企業200社以上の相談実績があります。今回はコストパフォーマンスのよい特許出願について、これまでのお客様の相談内容を振り返りながら考えていきたいと思います。

1.とある日の特許相談

先日お会いしたお客様。数年前に特許を出し、それから10か月が経過したころ。

優先権の利用を確認すべく、発明品に関する事業の現状を伺うも、「諸々の事情により、事業化は難しく・・・今回の発明は、権利化を見送ろうかなぁ」とのことでした。

2.相談から1年後

ひょんな出会いをきっかけに、その発明品についての商談が入る。しかも、スポットではなく、それなりの規模のようでした。

かめやま:お~!それは、良かったじゃないですか!

お客様 :そうなんですよー。発明品を見たいといわれたのですが、まだまだ改良も必要だし。

かめやま:そうであれば、○○○(発明のポイントその1)に対する周りの関心について探ったほうがよいですよね

お客様 :なるほど。しかし、その流れで、こちらが非公開情報までしゃべってしまいそうで・・・

かめやま:◇◇な観点で切り分けて、こっちならしゃべってOK。そうでなければお口チャック、とすればよいのでは?

お客様 :・・・うーん

かめやま:どうされました?

お客様 :やっぱり。かめちゃん、一緒に来てくれない?

かめやま:・・・ その商談にですか?

お客様 :一人だと、余計なことまでしゃべってしまいそうで・・・

かめやま:わかりました。

3.特許出願の後のすべきこと

出願から3年間は、無条件で”出願中”を維持できる。出願中にすべきことは、出願した発明品の内容を公表して営業活動。その営業活動により

  • 市場が反応するか否か
  • 商談が舞い込むか否か

リターンの見込みがあれば

  • 本当に権利取得したい形が見えてくる
  • 経済的価値のある部分が見えてくる

これが一つの権利化のタイミング・・・

もし、出願した内容が、市場の反応がずれていた場合は、

  1. ずれを補充するような別の特許出願を行う・・・(補強の発明については、お口チャックで)
  2. 特許出願が難しければ、意匠・契約など別の観点で、自社のポジションを守る手立てを行う。
  3. 諦めて別の事業を検討する

このように動かないと、権利化のための無駄なコスト・手間が生まれてしまいます。結果、特許出願のコストパフォーマンスは、中々向上しません。

特許出願は投資活動。事業の進捗と連動させなければ、コストパフォーマンスは悪くなるばかりです。言い換えれば、事業の進捗と連動させることができれば、コストパフォーマンスを向上させることができます。

本当は市場の反応を見てから出願したいところ・・・・。ところが、特許(実用新案登録・意匠登録も同じ)の世界では権利化のために新規性が要求されます。このため、発表前の出願が原則。もちろん、救済措置として、新規性喪失の例外がありますが、そこも完全な救済ではないため、場合によっては、使えない場合も。ということで、どうしても、不確実性が残ってしまう。

この不確実性をどう担保するかといったマネジメントが肝なのですが・・・。このマネジメントが甘いと、結果として、使えない箱モノをドンドンつくっちゃう某自治体のようになってしまいます。

※もちろん、出願してすぐに権利化に動くこともありますが、条件が揃わないと見切り発車の要素が大きくなり・・・

4.まとめ

特許出願の後にすべきこと

  1. 出願が活きている間(通常は3年間)に出願内容について営業活動を通し、その経済的価値を判定する
  2. 出願した内容に経済的価値が見込めれば、権利化へ。そうでなければ、補強を考える。
  3. 補強策の関係で、1.においては済ました特許出願に書いていない非公開情報(補強策に関係あること)はお口チャック

特許出願は投資活動。リターンが見込めそうな領域の権利化が望ましく・・・。リターンが見込めない特許権なんて不要ですよね。

何かの参考になれば幸いです。

有給休暇制度の有効活用で働き方改革を実現しよう!

1.吉原精工の有給休暇制度の考え方

「従業員目線で経営を考える」という吉原会長。

実践した改革のひとつに「社員全員が、年に3回10連休をとれる」というものがあります。長期間の休暇を取得することで従業員は家族と過ごすことができたり、心身ともにリフレッシュができ、仕事の効率がさらに上がると吉原会長は言います。

吉原精工では、入社1年目から年間20日の有給休暇を設けています。その上で、会社側で14日分の有給をゴールデンウイーク、お盆、年末年始に割り振り、それぞれ10連休を作っています。法律では、最低5日間を従業員が取得できるようにしておけば何ら問題ありません。

ちなみに、法律では、入社後最初の有給休暇がもらえるには、

  1. 入社から半年間継続して働いた
  2. その間の全労働日の8割以上出勤した

という2つの要件を満たした者に、19日間付与されます。そうすると、吉原精工では法律以上に優遇した運用をしているということになります。

2.計画年休の実施

この「会社が有給を割り振る」というやり方を専門的に解説すると、「計画年休」という制度を取り入れているということになります。計画年休とは、有給休暇のうち5日を超える部分について、会社が有給休暇を強制的に付与できる制度です(労基法39条6項)。この制度は、年休取得率の向上のために導入された制度です。「誰も有給の取得なんてしていないのに自分だけ有給を下さいなんて言いにくい」と思っている従業員は全国に非常に多くいるはずです。

特に製造業や美容業界は、有給休暇を取得することはまだまだ当たり前になっていません。有給休暇の取得率がいまだに低い会社は、是非とも計画年休を検討して欲しいと思います。なお、計画年休の導入に当たっては、労働者の過半数で組織する労働組合、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者と書面による協定で、有給休暇の時季を定めることが必要です。

3.労基法改正~使用者に義務付け

さて、有給休暇に関して、新たなルールが追加されることになりました。

平成30年6月29日に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「改正法」といいます)で、年次有給休暇の時季指定義務というものが新設されることになりました。改正法は、労基法に基づき会社が与えなければならない有給休暇の日数が10日以上である者にについて、その有給休暇のうち5日間について、取得する時期を労働者ごとに会社が決めなさいと規定しています(改正労基法39条7項)。しかも、これは罰則付きの規定なので、会社としては対応が必須となります(労基法120条1号)。この制度の新設がなされた理由は、有給休暇取得率を向上させるという点にあります。

「会社が必ず5日間は有給を取得させなければならない」と聞いて、衝撃を受ける経営者の方は多いのですが、筆者としてはそこまで心配する必要はないのではないかと思います。その理由は、従業員から有給休暇の申請があり、実際に5日間取得させた場合や、先に述べた計画年休の実施により5日以上有給休暇を取得させている場合については、年次有給休暇の時季指定義務は会社にはないと定められているからです(改正労基法39条8項)。

以上、有給休暇制度をうまく活用して働き方改革を進めていきましょう。

特許出願の際に検討したい3つのこと ~差別化戦略の実行のために~

弊所は、中小企業200社以上の相談実績があります。これまでのお客様の相談内容を振り返りながら、特許出願の際に検討したいことについて述べたいと思います。

1.ある日の特許相談

先日の特許相談。

特許出願を検討されているお客様。特許出願を検討している背景として

  1. 研究成果による差別化
  2. 差別化の維持

があり、「差別化要素を保護するために特許を取りたいです!」とのことでした。

ここまでは、いつもの特許相談とほぼ同じなのですが、どこかスッキリしいない違和感を覚えていました。翌々考えてみると「なぜ、お客様が守りたいと言っている部分は、本当にお客様のビジネスにとって大切なものなのか?」という疑問が払拭できずにいたためです。そこを深堀りすべく、相談時間をいつもより長くとり、いろいろな質問を投げかけました。

すると、でてきました!

特許取得の背景の3番目(事情により非公開です)

その背景は、お客様の業界構造の特性等によるものです。条件が揃えば、こういう特許の使い方もあるのだと、感心します。

2.特許出願の目的は何?

特許出願を検討されている背景として

  1. 研究成果による差別化
  2. 差別化の維持

が相場です。

その背景には、事業における特許の活用が特許出願の前提であるのです。そうであるならば、単なる特許取得ではなく、

  1. その企業にとって事業基盤を保護できる特許
  2. その企業にとって事業に活用できる特許

が重要です。

そのために特許事務所としては「技術内容の把握」はもちろんなのですが、それだけでは足りません。どちらかというと、お客様の業界構造やビジネスモデルを把握した上で、「他社から守るべきはどこ?」を検討する必要があります。

しかし、そこは特許事務所だけが検討することはできず、弁理士とお客様が一緒になって検討することが重要なのだろう、と再認識しました。

3.特許活用のために、検討すべきこと

つまり、事業における特許の活用のためには

  1. 事業環境とビジネスモデル
  2. 保護すべき技術
  3. 法律

の検討が必要です。しかしながら、実際のところ、特許相談に来られるお客様のほとんどは、

  1. 保護すべき技術 を説明し、
  2. 法律 の見解を求める

といったケースが多いです。

しかし、特許の活用を考えると、

  1. 保護すべき技術

も当然ですが、

  1. 事業環境とビジネスモデル

も伺った上で、

  1. 法律の活用

についてコメントしなければ、折角取得した特許も、ビジネス上の実効性が乏しい特許に、つまり、活用しにくい特許になってしまう・・・

これでは、お客様と弁理士との双方にとって、アンハッピーな結果になってしまいます。折角の特許なのですから、自社の利益に結び付くような活用をしたいですよね。

4.まとめ ~特許出願の際に考えたい3つのこと~

1.事業環境とビジネスモデル

  • どのようなビジネスモデルを考えていますか?
  • なぜそのようなビジネスモデルを検討しているのでしょうか?

このプロセスを経て初めて、活用できる特許の道が開けます。冒頭のお客様のように、特有の事業環境が鍵を握っている場合もあります。

2.弱みとなる部分の検討

  • このビジネスモデルの強みはどこにありますか?
  • その強みは、模倣されやすいでしょうか?

模倣されやすい強みは、弱みになりやすいためです。

3.法律の活用

模倣による弱みを補うために法律を活用します。弱みの種類によっては特許でカバーできない場合もあります。そのため、当初の相談は、特許の内容であっても、意匠登録、商標登録や契約で対応することも珍しくありません。

皆様のご商売の参考になれば幸いです。

海外進出の際に検討したい3つの事

ものづくり企業を支援するかめやま特許商標事務所の弁理士、亀山と申します。今月からものづくり経革広場へ記事を投稿させて頂くことになりました。これからよろしくお願いします。

海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?

先日の話です。

お知り合いの経営者と雑談していたところ、

1年前にリリースした新商品が、海外でも引き合いがあって・・・海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?

と質問されました。

その方との出会いは、3年前。出会った当時は「知的財産?なにそれ?」という方でしたが・・・。冒頭のような質問が出るということは、知的財産に対する意識が高まっている証拠です。さて、冒頭の質問「海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?」について考えていきたいと思います。

(知的財産のことは少し忘れて・・・)海外進出の際に検討したいことは何でしょうか?

まずは・・・

  • 自社商品・サービスが、現地で受け入れられるか?

そして・・・

  • 自社商品・サービスの提供により収益があがるか?

いずれも大切です。しかし、大切なことは、これだけではありません。

それは、

  • 自社商品・サービスを、現地で合法的に販売できるか?

です。

1、よくあるトラブル事例(現地の展示会に出展した場合)

展示会に出展し、反響は良好・・・。販売数も徐々に立ち上がってきて、上々の滑り出し・・・。そこで、突然、商標権侵害の警告状が届きます。

商標権侵害・・・。つまり、当該国において、自社商標(店舗名、サービス名、商品名等)の使用に違法性がある、ということです。

2、警告状の対処方法

警告状の対処方法としては、基本的には、以下の2つが考えられます。

  1. 自社商品の名称変更
  2. ロイヤリティの支払うことを前提に、商標を使用する。

在庫品ラベルの変更費用やチラシの変更費用を考慮すると・・・。現時点での名称変更は避けたく・・・このまま使用したい!

と思われる方が多いと思います。しかしながら、ここは、相手(権利者)の合意が必要ですので、必ず使用できるとも限りません。したがって、名称変更をせざるを得ない、となることが多いのが実態です。

3、問題の所在はどこに?

商標法、特許法、意匠法などの知的財産法では、日本の権利と外国の権利は別個のものと取り扱います。このため、日本の権利を持っているからといって、当然に、当該国でも同様の権利が認められる・・・とはなりません

したがいまして、当該国へ進出する前にすべきことは、自社商品の名称等の使用が合法であるか否か?つまり、当該国において、自社商品の名称等が、他人の登録商標になっていないか?となります。

4、どうすれば?

このようなリスクを回避するためにはどうすればよいでしょうか?まずは、当該国において、「自社の事業の障害となる他人の登録商標の有無」について調査(クリアランス調査)する必要があります。クリアランス調査を行わない場合、上記のような、商標権侵害などの警告状を現地企業からもらうリスクが高まります。

また、現地の代理店と提携している場合、現地の代理店から、「商標権侵害の有無はチェックしたのか?現地での商標登録は済んでいるのか?」と確認される場合もあります。

したがって、当該国において、事業の合法性を担保する意味でも、クリアランス調査は必須項目となります。

※今回は、商標権のリスクについて述べましたが、特許権や意匠権についても同様のことが言えます。

5、まとめ

海外進出の際に検討したいこととしては、

  • 自社商品・サービスが、現地で受け入れられるか?
  • 自社商品・サービスの提供により収益があがるか?

も大切な検討事項ですが、それよりも、前に・・・

  • 自社商品・サービスを、現地で合法的に販売できるか?

となります。何かの参考になれば幸いです。

参考:弊所のブログ記事

海外進出の際に検討したいこと その1

海外進出の際に検討したいこと その2

【助成金】海外進出・外国出願【H30年度】

「労働契約の終了」について

1、「労働契約の終了」には種類があることをご存じですか?

前回の連載では、固定残業制の誤用例を学びました。今回のテーマは「労働契約の終了」です。なぜこの場面を取り扱うのか、と言うと、労働トラブルに発展することが多いからです。毎度おなじみ『町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由』(ポプラ社)の中でも、原会長が古参の従業員に会社を辞めてもらう際、苦悩したシーンが描かれています。

会社の理念に合致しない従業員がいた場合、「他の従業員の士気を下げる人には会社を辞めて欲しい」と考える経営者は数多くいます。しかし、誤った対応をしてしまい、辞めた(辞めさせた)従業員から訴えられ、多額の損失を被る会社が多くあります。今回の連載では、「労働契約の終了」という場面に関する基本的知識をお伝えします。

簡単に労働契約の終了の場面をまとめました。

労働契約の終了には、大きく分けて「解雇」と「退職」の2種類があります。

【図:労働契約の終了】

2、「解雇」とは何か?

「A君は、同じミスを繰り返し、改善しようとしない。反省の態度も全く無く、不貞腐れて他の従業員にも迷惑がかかっている。A君に『君は明日から会社に来なくても良い。』と告げた。」このように、会社側から一方的に労働契約の解約を告げることを「解雇」と言います。この「解雇」ですが、後日その有効性を従業員から争われると、多くの会社は敗訴します。

その理由は、「解雇権濫用法理」(労働契約法第16条)にあります。

つまり、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして解雇は無効になるのです。裁判では、①と②に当てはまる事実について会社側が主張立証する責任を負っており、これが大変な作業になります。

3、「解雇」が無効と判断されるリスク~「お金で解決できないことがある」~

最大のリスクは、辞めさせた従業員が会社に戻ってくる、ということです。そんな馬鹿な、と思われるかもしれませんが、裁判において解雇無効を争ってくる場合、従業員の訴えは「従業員としての地位が会社にあることの確認」という形を取ります。

要するに、会社が敗訴した場合、解雇した時点から、ずっと従業員はその会社に在籍していたということになるのです。

例えば、Bさん(月額30万円の給料)が平成30年8月1日に会社から解雇されたとします。その後、Bさんは会社を訴え、平成31年7月31日に解雇は不当だという判決が出ました。そうすると、会社は、平成30年8月1日から平成31年7月31日までの12か月分の給料合計360万円を支払うことに加えて、Bさんを再び元の職場で働かせなければならないのです。

現在、日本の法制度では、解雇について金銭的に解決する制度はまだ存在しません。

「お金を払ってでもこの従業員を辞めさせたい」と思っていても、解雇という方法を取った場合、「お金で解決できない」事態に陥る危険性があるのです。

4、それでも「解雇」を選択するのであれば・・

それでも「解雇」とい手段を選択するのであれば、「解雇」に至るプロセスを重んじる必要があります。ポイントは、会社が従業員に対して、いかなる注意指導を積み重ねてきたのか、という記録です。そして、「解雇」という最終手段を取るまでの間、会社がその従業員の能力に応じた仕事を与える努力をしたのか、という点もポイントになります。

これとこれをすれば「解雇」は有効になる、といったチェックリストは存在しません。

「解雇」を選択するのであれば、その前に必ず、「労働法に詳しい弁護士」に相談するようにして下さい。

連載開始に当たって

はじめまして。法律事務所かなめの代表弁護士の畑山浩俊(はたやまひろとし)です。ご縁があってこれから、ものづくり経革広場で連載を担当させて頂きます。お付き合いのほどどうぞ宜しくお願い申し上げます。最初に、簡単に私の自己紹介と今後連載するコラムの概要をお伝えします。

自己紹介

私は、1986年奈良県で生まれ育ちました。現在32歳です。実家は肥料販売店を営んでいます。農家の方々に肥料を配達したり、来店されるお客様に施肥のアドバイスをしたり種苗を販売したりと、商売人の息子として育ちました。土日祝の休みは無し、一年の休みは田植えの時期と盆正月のみでした。朝7時頃には開店に向けて家の中が騒がしくなるという状況でしたので、私の育った幼少期の環境は、「大阪船場編の落語の世界観」に近いと言えるかもしれません。

そのような育ち方をしたお陰で、弁護士として活動している今も、「サービス業としての弁護士」という意識で活動しています。「肥料」の先には人がいますし、「法律」の先にも人がいます。「人」を相手にしているという点で、すべての仕事に違いはありません。

弁護士になってからも「早く自分の看板を掲げて勝負したい」という意欲が人一倍強く、弁護士登録をしてから1年9ヶ月で法律事務所かなめを立ち上げました。「かなめ」とは扇の中心の金具の部分のことであり、「すべての物事の重要な起点になるような場所になろう」という気持ちを込めています。

現在、同期の弁護士4名でフットワーク軽く活動しています。

今後連載するコラムの概要

私の専門分野

私の専門は、労働法です。労働法に携わる弁護士は大きく分けて2種類に分かれます。「会社側で労働問題を扱う弁護士」「従業員側で労働問題を扱う弁護士」です。

このうち、私は「会社側で労働問題を扱う弁護士」です。企業の抱える労務管理全般にまつわるトラブル対応、就業規則作成、労基署対応、労働組合との団体交渉対応等、幅広く労働問題の対応をしています。

株式会社吉原精工 吉原博会長との出会い

様々な労働トラブルを担当する中で、「どうしたら労働トラブルを生じない会社を作ることができるのか」「弁護士としてもっとできることはないのか」と試行錯誤を繰り返すようになりました。

最初に結論めいたことを書くと、どのような会社にしたいのかは、すべて「経営者の考え方次第で決まる」ということです。こう書くと、「経営者の考え方が立派だったら労働トラブルは生じないのか」という意見が聞こえてきそうですが、勿論そんなことはありません。どんな会社であっても、トラブルが起きるときは起きてしまいます。しかし、経営者が労務問題にきちんと向き合っている会社は、そうでない会社に比してそのリスクが格段に低いことも事実です。

私自身も一経営者として、「経営」というものを学ぶために様々な人と積極的に会うようにしています。その中から、今回の連載では、私が直接お会いした経営者の方々の中で、最も強い衝撃を受けた株式会社吉原精工の吉原会長のお話をさせて頂きます。

連載に先立ち、まずはこの記事を読んで下さい。

https://newswitch.jp/p/7811

私と吉原会長との出会いもこの記事から始まりました。この記事に衝撃を受けた私はすぐに株式会社吉原精工に電話し、翌週には吉原会長にお会いし、奇跡の改革についてお話を伺いました。現在は、『町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由』(ポプラ社出版)という書籍も販売されているので、是非手に取って読んでみてください。

この連載では、吉原会長の改革を「弁護士目線で」分析します。そこから「経営は全人格を賭けた戦いである」ということを今一度確認していきたいと思います(自戒も込めて)。

最後に少し宣伝

吉原会長と4月18日に大阪でコラボセミナーをするので、参加頂ける方は是非お越し下さい!

https://www.facebook.com/events/1997617487116895/

お申し込みはこちらから

では、次回以降の連載をお楽しみに!

連載開始に当たって

はじめまして。法律事務所かなめの代表弁護士の畑山浩俊(はたやまひろとし)です。ご縁があってこれから、ものづくり経革広場で連載を担当させて頂きます。お付き合いのほどどうぞ宜しくお願い申し上げます。最初に、簡単に私の自己紹介と今後連載するコラムの概要をお伝えします。

自己紹介

私は、1986年奈良県で生まれ育ちました。現在32歳です。実家は肥料販売店を営んでいます。農家の方々に肥料を配達したり、来店されるお客様に施肥のアドバイスをしたり種苗を販売したりと、商売人の息子として育ちました。土日祝の休みは無し、一年の休みは田植えの時期と盆正月のみでした。朝7時頃には開店に向けて家の中が騒がしくなるという状況でしたので、私の育った幼少期の環境は、「大阪船場編の落語の世界観」に近いと言えるかもしれません。

そのような育ち方をしたお陰で、弁護士として活動している今も、「サービス業としての弁護士」という意識で活動しています。「肥料」の先には人がいますし、「法律」の先にも人がいます。「人」を相手にしているという点で、すべての仕事に違いはありません。

弁護士になってからも「早く自分の看板を掲げて勝負したい」という意欲が人一倍強く、弁護士登録をしてから1年9ヶ月で法律事務所かなめを立ち上げました。「かなめ」とは扇の中心の金具の部分のことであり、「すべての物事の重要な起点になるような場所になろう」という気持ちを込めています。

現在、同期の弁護士4名でフットワーク軽く活動しています。

今後連載するコラムの概要

私の専門分野

私の専門は、労働法です。労働法に携わる弁護士は大きく分けて2種類に分かれます。「会社側で労働問題を扱う弁護士」「従業員側で労働問題を扱う弁護士」です。

このうち、私は「会社側で労働問題を扱う弁護士」です。企業の抱える労務管理全般にまつわるトラブル対応、就業規則作成、労基署対応、労働組合との団体交渉対応等、幅広く労働問題の対応をしています。

株式会社吉原精工 吉原博会長との出会い

様々な労働トラブルを担当する中で、「どうしたら労働トラブルを生じない会社を作ることができるのか」「弁護士としてもっとできることはないのか」と試行錯誤を繰り返すようになりました。

最初に結論めいたことを書くと、どのような会社にしたいのかは、すべて「経営者の考え方次第で決まる」ということです。こう書くと、「経営者の考え方が立派だったら労働トラブルは生じないのか」という意見が聞こえてきそうですが、勿論そんなことはありません。どんな会社であっても、トラブルが起きるときは起きてしまいます。しかし、経営者が労務問題にきちんと向き合っている会社は、そうでない会社に比してそのリスクが格段に低いことも事実です。

私自身も一経営者として、「経営」というものを学ぶために様々な人と積極的に会うようにしています。その中から、今回の連載では、私が直接お会いした経営者の方々の中で、最も強い衝撃を受けた株式会社吉原精工の吉原会長のお話をさせて頂きます。

連載に先立ち、まずはこの記事を読んで下さい。

https://newswitch.jp/p/7811

私と吉原会長との出会いもこの記事から始まりました。この記事に衝撃を受けた私はすぐに株式会社吉原精工に電話し、翌週には吉原会長にお会いし、奇跡の改革についてお話を伺いました。現在は、『町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由』(ポプラ社出版)という書籍も販売されているので、是非手に取って読んでみてください。

この連載では、吉原会長の改革を「弁護士目線で」分析します。そこから「経営は全人格を賭けた戦いである」ということを今一度確認していきたいと思います(自戒も込めて)。

最後に少し宣伝

吉原会長と4月18日に大阪でコラボセミナーをするので、参加頂ける方は是非お越し下さい!

https://www.facebook.com/events/1997617487116895/

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では、次回以降の連載をお楽しみに!