英語サイト制作時の5つの注意点

テクノポートの稲垣です。
現在「海外Webマーケティング事業」の責任者を務めています。

英語サイト制作時の注意点と題して、英語サイトを通して中長期的に引き合いを獲得するために気を付けるべき点を羅列しました。サイト制作時だけではなく、すでに英語サイトを運営されている読者の方にも役に立つ内容です。

注意点1. ターゲット地域

英語サイト制作時において、ターゲットとする地域(引き合い獲得に特に注力する地域)は、大きく以下の2つの種類に大別されます。

  1. 英語圏
  2. 全世界(英語圏を含む)

それぞれにおいて、英語サイト制作時に意識するポイントを解説します。

英語圏をターゲットとする場合

サーバー・ドメインの選び方

英語圏の中でも、特定の国(例:アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、シンガポール)が決まっている場合、対象地域のサーバー、ドメインを取得することを検討しましょう。

理由は、英語サイトのサーバーはなるべくターゲット地域に近い場所に設置した方が、その地域からのアクセス速度が速くなり、SEO的にもWebサイトの使いやすさの観点からも良い効果が期待できるからです。

ドメインに関しては、もしターゲット地域に現地法人がすでに存在する場合、現地企業の専用ドメイン(例:.us、.uk)が取得できるか検討しましょう。現地企業ドメインを使用して英語サイトを制作することで、現地の検索エンジンからの評価が良くなる傾向があります。(例:アメリカの検索では、アメリカ企業ドメインのサイトが表示されやすい)また、現地のドメインを取得できている=現地に法人がある、という解釈もできるため、ユーザーからの信頼も得やすいと言えます。

サーバーの設置場所がサイトの表示速度に与える影響については、こちらの記事で詳しく解説しています。

ドメインの選び方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

英語の種類

英語圏の特定の国にターゲットが定まっている場合、その国の英語(例:アメリカ英語、イギリス英語)をサイト内の言語として採用しましょう。これは必須ではないですが、現地の人が親しみやすい英語を使用することで、深層心理に安心感、親近感を抱かせる目的です。最低でもキャッチコピー部分の英語は、その国のネイティブに表現のチェックをしてもらうことをおすすめします。

ちなみに話者の人口としては、アメリカ英語が約3.7億人、イギリス英語が0.75億人、オーストラリア・ニュージーランド英語が0.3億人となっており、アメリカ英語話者がイギリス英語話者よりも約5倍多いです。(出典:American or British English? 🇺🇸🇬🇧 Which one should you study?)

検索エンジンのシェア

ターゲット国でシェアが高い検索エンジンを調べておきましょう。特にGoogle以外の検索エンジンが多くの割合で使用されている国については、SEO対策、広告配信に際して、特別な対応が必要か事前に確認しておきましょう。特に広告配信を行う場合、どのメディアにどれくらいの予算を投下するべきかは、この調査の結果を参照して判断することをおすすめします。

検索エンジンのシェアについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

全世界をターゲットとする場合

サーバー・ドメインの選び方

英語圏を含めた、全世界向けに英語サイトを制作する場合、全世界向けドメイン(例:.com、.net)を採用することをおすすめまします。これらのドメインは名前の通り、全世界の検索エンジンにおいて、検索結果への表示の確率を高めてくれるためです。

詳しいドメインの種類、それぞれのメリット・デメリットについては、以下の記事で解説しています。

特に現在は日本企業ドメインを使用しているが、なかなか海外からのアクセス(引き合い)が増えずに困っている、という場合はドメインの切り替えを検討する価値があると考えます。ただ、ドメインの切り替えに伴うデメリット(例:ドメインスコアの低下)も考慮する必要があるため、様々な要因を複合的に考慮し、中長期的にメリットがあるかどうかで判断をしましょう。

英語の種類

全世界向けの英語サイトを制作する場合、結論、アメリカ英語を採用することをおすすめします。理由は、非英語圏の話者にとって、アメリカ英語が最も理解しやすい英語であるためです。

非英語圏の英語話者にって、アメリカ英語は馴染みがある可能性が高いです。理由は、アメリカが世界の文化的中心であり、映画、ドラマ、音楽、などアメリカ英語が世界中にすでに浸透しているためです。

検索エンジンのシェア

基本的に、GoogleによるSEO対策、広告出稿をおすすめします。理由は、全世界で見ると、Googleのシェアが圧倒的だからです。

以下のグラフは、全世界の検索エンジンのシェアを示しています。(期間:2021年12月〜2022年12月)

Source: StatCounter Global Stats – Search Engine Market Share

こちらのグラフからも一目瞭然ですが、Googleが全世界において90%以上のシェアを得ています。すなわち、全世界向けの英語サイトを制作する場合、Googleを中心にSEO対策、広告出稿、並びに付随する調査・分析作業を行えば問題ないと言えます。

注意点2. SEO対策・広告運用

英語サイトへの集客方法の軸となる、SEO対策・広告運用について、注意するべき点をまとめます。

難度は高い

これは遅かれ早かれ気づくことではありますが、英語サイトによる集客、引き合いの獲得は国内のそれらに比べると難度は高いです。言い換えると、現在国内で順調に成果が出ているページ、サイトをそのまま英語翻訳するだけで、国内と同じような成果が出る、ということにはならない可能性が高いです。

理由は単純で、海外の方が市場が大きく競合の数も多いからです。もちろん、国内のサイトの英語翻訳によりそれなりの成果が出る可能性はあります。ただ、日本語サイトで成果が出た方法が英語サイトでも通用するだろうと盲信し、必要な調査、分析作業を怠った状態で成果が出るほど甘い世界ではない、というのが私の感覚です。

つまり、国内での成功はあくまで参照程度に活用し、英語サイトは英語サイト用にきちんと戦略から考え直した方が、中長期的に考えると成果が出ると私は考えます。

キーワード選定

テクニカルな話ですが、キーワード選定の方法も英語サイト制作時には大きく変わります。よくある方法として、日本語サイトで集客しているキーワード、ページをそのまま英語翻訳しSEO対策を行う、という方法です。

この方法を否定するつもりはありませんが、往々にして成果が出にくい傾向があります。理由は大きく2つあります。

1つ目は、日本語にはそもそも存在しない英語キーワードを発見することができないためです。日本語からの翻訳、という手段を取る以上、発見できる英語キーワードは、翻訳元となる日本語の範囲内に制限されます。そのため、キーワードの抜け漏れが発生しやすくなり、結果的に有効なSEO対策が行えない可能性が生じます。

また、ページ内に使用されているキーワードについても同様に、日本語の直訳が当該の製品・サービスを表すために適した言葉であるとは限りません。そのため、製品・サービスを呼称する英語は、日本語の翻訳ではなく、海外の競合サイト、画像検索を徹底的に調べる方法が確実です。(特に、日本語で使用されている和製カタカナ英語は、注意を払って英語キーワードを調査することをおすすめします)

2つ目は、日本語サイトのコンテンツでは、海外の検索結果で上位表示させるために不十分である可能性があるためです。これは単純に、国内では最も網羅的で質が高いと評価された記事が、海外のさらに作り込まれた記事に敗れる、というイメージです。こちらは必要に応じて加筆修正を加える形で、十分に軌道修正ができると考えます。

海外SEO対策については、以下の記事で網羅的に解説しています。

注意点3. サイト構成

次に英語サイト制作時の全体の方向性(例:サイト全体の仕様、ページ数、方向性)を決める際に、気をつけるべき点を記載します。

サイト全体のページ構成、作り方は、日本語サイトのそれに縛られる必要はありません。むしろ、日本語サイトはないものだと考え、柔軟に考え直した方が結果的に成果がでる英語サイト制作に近づくと私は考えます。

架空企業A社の例

ここでは架空企業A社を例にとって説明します。(A社は実際には存在しない企業です)
日本では、知名度も販売実績もある製品メーカーA社があると仮定します。

同社の製品は高い品質、短納期、丁寧なアフターサポートを武器に国内で順調に売り上げを伸ばしています。国内向けの日本語Webサイトからは、継続的にアクセス、引き合いが獲得できており、標準品、カスタム品を含めて堅調な売り上げをキープしています。

そこでこの日本語Webサイトの成功を活かして、海外向けの英語サイトからも引き合いを増やすことができないか、と考えます。まずは、日本語Webサイトをそのまま英語に翻訳し、どれくらい引き合いがくるか様子を見てみることにしました。

結果的としては、アクセス数も引き合いの数も思ったほど伸びず「なぜ国内であれだけ成果が出ているサイトが、海外では通用しないのか?」という壁に直面します。

どうするべきだったのか?

ではA社はどうするべきだったのか?、またはこれからどうしていくべきなのか?、についてですが、結論、英語サイト用にサイト全体の構成から考え直すことをおすすめします。思考の流れは、以下のようなイメージです。

  1. 自社製品・サービスの海外における強みは何か?(例:長年の業界経験による安定した品質)
  2. その強みが生きる市場、地域はどこに存在するのか?(例:品質の良い製品には、コストがかかっても投資を惜しまない気質がある北米企業)
  3. その地域における競合他社と比較したときの強みはどこにあるのか?(例:カスタム品に対する柔軟な対応能力、設計へのアドバイス)
  4. 特にその強みが生きる製品・サービスは何か?(例:豊富なラインナップがあり、海外の競合がそれほど強くない製品)
  5. その強みが生きる製品・サービスを表す英語キーワードは何か?(例:custom xxxxx xxxxxx)
  6. そのキーワードで上位表示を狙うために必要な施策は?(例:サービスページの新規作成、既存ページの改修、コラム記事の執筆、被リンク獲得試作)

特に1番、3番については、国内で生きた強みがそのまま海外で生きるとは限らないため、海外における強みを客観的に評価することが必要です。これは海外の顧客からすると、日本はただのアジアの1つの国であり、ヨーロッパ、北米の企業からするとむしろ地理的に不利な立場にある印象を持たれる可能性もあるためです。

また強みというのは、絶対的な指標ではなく、海外の競合との比較により決定されるため、競合のことをよく調べ、彼らがどの製品にどのような強みを持っているか(どの分野に特に注力しているか)を理解しておく必要があります。この情報を頭に入れておくことで、海外の競合がそれほど力を入れていない分野において、自社の優位性が発揮できる可能性に気づくことができます。これは英語サイト制作の方向性を決める際に、大きな役割を果たします。

また5番のキーワード調査については、先の工程で洗い出した強みと製品・技術をうまく表現したキーワード(ニーズを持った顧客が検索しそうなキーワード)を発見することが一番の目的です。日本語では需要がないようなニッチな分野において、全世界で見るとキーワード検索ボリュームが見つかることは往々にして起こり得るので、先入観を捨てて丁寧に調べることが必要です。

長くなりましたが、要は英語サイトでは英語サイト用に企画からきっちり作り直した方が、遠回りに見えて中長期的に見ると成果が出ます、という主張です。

注意点4. 制作するべきページ

次に英語サイトでは意識して制作しておいた方がよいページを記載します。

海外の拠点、代理店一覧ページ

既に海外拠点がある、もしくは海外の代理店がある場合に限られますが、海外の製造・販売能力をアピールするページは制作した方が良いと言えます。

顧客側の立場になった時に、製品を販売する企業の拠点・代理店が自国にあるかというのは、製品導入の是非を決める上で大きな要因になり得るからです。特に特定の地域に向けて英語サイトを制作する場合は、その国における販売実績、納入実績も可能な限り公開できると望ましいと言えます。

取引の流れページ

海外の顧客が製品を注文、サービスを依頼してからどのような流れで取引が進むのかは、英語サイトにページを作成し説明しておきましょう。理由は、顧客側の視点になったときに、海外の企業との取引の方法は、イメージが難しい場合があるためです。

特に貿易、納品の方法については、代表的な例でも構わないので丁寧に記載しておくと、問い合わせへのハードルを下げることにつながると思います。

よくある質問ページ

特に海外の顧客が疑問に思いそうな点は、HP上で先回りして記載しておくことをおすすめします。例えば、以下のような情報です。

  • 返品ポリシー
  • 支払い方法
  • アフターサポートについて

シンプルな回答を用意することが難しい場合でも「Please contact us for further details.(詳しくはお問い合わせ下さい)」という受け皿を作っておくことで、質問の内容に対して少なくとも対応できる体制がある、ということは伝えられます。

プライバシーポリシーページ

個人情報保護法をはじめとする、情報の取り扱いについては国内以上に気をつける必要があります。

特にヨーロッパ地域、北米をターゲット地域として考える場合、プライバシーポリシーはターゲット地域の法律に則る形で作成する必要があります。可能であれば、対象地域において知見のある弁護士に相談し、法律的観点からページの内容を精査していただくことをおすすめします。

注意点5. その他

最後に上記のカテゴリには属さない内容で、注意すべき内容を記載します。

GDPR(General Data Protection Regulation)

ヨーロッパ地域、北米をはじめ各国で個人情報保護の規制が厳格化される傾向が強まっています。数ある個人情報保護規制の中の一つがこのGDPRと呼ばれるものです。

英語サイト制作において、顧客個別の情報を取得する場合、Cookieの設定をはじめとする必要な対策を、このGDPRに準拠する形で導入しておくことが必要です。

フォント

英語サイトで一般的に使用されるフォントは、大きく分けてセリフ体とサンセリフ体の2つがあります。

セリフ体のセリフとは、文字の先端にある飾りのことです。Century、Georgia、Times、Garamondなどがあります。下記の表の上4つと下4つを見比べていただければ違いがわかると思います。

サンセリフ体のサンセリフとは飾りがないことを意味しており、Webサイトでは日本語Webサイトでは、サンセリフ体のほうが読みやすいとされています。Arial、Helvetica、Verdana、Lucida Grandeなどがあります。

最後に

英語サイトからの引き合い獲得に注力にされる企業様のほとんどが、既に日本語サイトを持っており、かつ一定の成果を挙げられていると思います。そのような場合であっても、安直に日本語サイト制作で成功した手法が、そのまま英語サイト制作時でも活用できるだろう、と考えずに地道に設計から行なっていただくことを私は推奨します。その方が、中長期的に見ると、最短距離でゴールに近づくと実感しているからです。

長くなりましたが、英語サイトを制作時に上述した内容が少しでもお役にたてば幸いです。

 

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【オンライン商談攻略法】海外販路開拓の方法とは?

こんにちは、製造業系ライターのよどはらです。今回は動画のまとめ記事になります。テーマは「海外販路を開拓するためのオンライン商談攻略法」です。コロナ過になってオンライン商談の機会が増えているようです。本記事では、オンライン商談のメリットや具体的な方法について解説します。

今回は、特に食品を取り扱っている中小企業向けの内容になっています。オンライン商談を使った海外販路開拓に興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

【講師】
中 正宏 様
株式会社 KM International 代表取締役

2003~2005年:ワーキングホリデイビザでオーストラリア・パースへ
2005〜2007年:シンガポール駐在。国際物流企業でのキャリアをスタート
2008~2014年:ベトナム駐在
2015年:インドネシア駐在
2016年:KM International Trading & Consultingを設立
地元東北で独立起業家としての活動を開始
2016年~2021年:農林水畜産・食品輸出分野のエキスパートとして、日本全国の中小企業の海外輸出支援を担当

動画はこちらから

中小企業におけるオンライン商談のメリット

なぜ、オンライン商談が中小企業にとって重要なのか、具体的にどういったメリットがあるのかを解説します。

オンライン商談のメリット1:移動時間がなくなる

1つ目のメリットは、移動時間がなくなることです。

たとえば、海外での商談のためにベトナムのホーチミンへ行くとします。その場合、家を10時に出発したとすると22時くらいに現地へ到着するため、移動だけでトータル12時間もかかってしまいます。

こうした移動時間がなくなることは、オンライン商談の大きなメリットの一つです。

オンライン商談のメリット2:商品を高く売れる可能性がある

2つ目のメリットは、商談のオンライン化によりプレゼンテーションの仕方が変わったため、商品を高く売れる可能性があることです。

たとえば、食品の商談を対面で行う場合、サンプルを持って行き試食してもらうパターンが多いです。試食後、バイヤーさんから食品の値段を聞かれますが、他にも競合品があるため、それらと比べて「なぜ高いのか」と質問されることがあります。そこで初めて、商品のこだわりや差別化ポイントなどを説明するわけですが、高い理由を後から説明するので、どうしても言い訳のようになってしまうのです。

一方オンライン商談の場合、この順番が逆になります。つまり、最初に商品のプレゼンをしてから、試食してもらうという流れです。先に商品の特徴やベネフィットを説明することが、値段の高さに対する説得材料になります。その結果、高い商品でも売れやすくなったわけです。

中小企業におけるオンライン商談の進め方

ここからは、オンライン商談の具体的な進め方について解説します。海外販路を開拓するには、まずオンライン商談の機会を得ることから始まります。そのためには、JETRO(日本貿易振興機構)などが開催する商談会に参加するのがいいでしょう。

ジェトロ以外であれば中小機構や商工会議所、産業振興機構などが主催して商談会を開くこともあります。まずは、こうした公的機関を入口として利用するのがおすすめです。

特にジェトロは、食品に関しては一番多くの商談会を開催しています。食品分野でオンライン商談会を探している場合は、ジェトロのホームページを確認してみてください。

中小企業におけるオンライン商談に向けた準備

オンライン商談の機会を得られた後は、どのような準備をすればいいのでしょうか。オンライン商談に向けた準備としては、大きく2つに分けられます。

オンライン商談に向けた準備1:相手企業について理解する

1つ目は、相手企業について理解しておくことです。オンラインの商談の場合、相手企業の情報が載っている「バイヤーシート」という資料が主催者から送られてくるので、それをしっかり読み込んでおくといいでしょう。得られた情報を元に、相手企業へどのようなプレゼンや提案をしたらいいかを考えながら資料を作っていきます。

なお、バイヤーシートがない場合というのは少ないですが、もしない場合は主催者に確認してみてください。

オンライン商談に向けた準備2:視覚・聴覚に訴えられるプレゼン資料を作成する

2つ目は、視覚・聴覚に訴えられるプレゼン資料を作ることです。オンライン商談の場合、基本的に食品の試食などはできないため、視覚や聴覚に訴えかける資料作りがポイントになります。そのため、文字だけでなく、写真や動画を資料に盛り込むのがおすすめです。

たとえば、日本の伝統的な食品の製法を動画で見せると、海外の方からは良い反応を得られることがあります。他には、食品の食べ方などを動画で見せることで、「おいしそう」とか「食べてみたい」と思ってもらえることもあります。

「動画の用意にはお金がかかるのでは?」と心配な方もいるかもしれません。しかし、質にこだわりすぎなければ、スマートフォンにより自前で撮影・編集を行うことは十分可能です。

オンライン商談時のプレゼンテーションのコツ

次に、オンライン商談本番におけるプレゼンテーションのコツや注意点を解説します。まずプレゼンテーションのコツを4つ紹介します。

プレゼンテーションのコツ1:時間の使い方を事前に決めておく

1つ目は、時間の使い方を事前に決めておくことです。通常、オンライン商談は30~40分くらいの時間になりますが、この時間の使い方を前もって決めておくのが重要です。

特に商品が多い企業の場合、すべての商品を紹介してかなりの時間が経過していた、といったこともあります。このような事態は避けなければいけません。

事前に相手企業に適した商品を分析しておき、商品を2、3個に絞った上で提案してみてください。その後は、次項で説明するヒアリングを行うといいでしょう。

プレゼンテーションのコツ2:一方通行ではなく双方向のコミュニケーションを意識する

2つ目は、一方通行ではなく双方向のコミュニケーションを意識することです。商品説明を一方的に行うだけだと、プレゼンが終わった後に「どれもいまいちだな」という反応だった場合、成約につながらないからです。

これを防ぐため、プレゼンの早い段階からヒアリングを行い、要望に合った商品を提案するといいでしょう。たとえば、プレゼンの5~8分くらいの段階で、一旦、商品の説明を打ち切ってみてください。そして「今の段階で何か気になったものありますか」とか「どういったものが御社の国では求められていますか」といったことをヒアリングします。

相手の反応を確認したら、プレゼン資料を変えて「それでは、この商品はいかがですか」と提案してみましょう。相手の要望に対応できるよう、いくつかのプレゼン資料を事前に用意しておくのがおすすめです。

プレゼンテーションのコツ3:商談時に顧客と次のステップを共有しておく

3つ目は、商談時に顧客と次のステップを共有しておくことです。これによって、返事が来ないといった状況を避けられます。

たとえば、見積もりやサンプルを送った後に「今週中くらいに返事をいただけませんか」と伝えておくといいでしょう。相手から承諾を得られたり、来週でもいいかと提案されたりなど、次の約束事を決められます。

プレゼンテーションのコツ4:SNSなど、メールアドレス以外の顧客との連絡手段を確保する

4つ目は、メールアドレス以外の顧客との連絡手段を確保することです。LINEやWhatsAppといったSNSのほうが、相手との連絡がスムーズになります。

実際、メールでは1週間返信がないこともあるのに対して、LINEなら送信して3秒で返事が来ることもあります。なぜなら、営業が中心のバイヤーさんなどは、普段オフィスにいないためパソコンを開けず、基本的にスマホでやり取りをしているからです。

オンライン商談後のフォローアップマネジメント

次に、オンライン商談後の成約率を高めるためのフォローアップマネジメントについて解説します。ポイントは2つあります。

フォローアップマネジメントのポイント1:さまざまなツールを活用する

ポイントの1つ目は、さまざまなツールを活用することです。前述の内容とも関連しますが、フォローアップをしっかり行うには、LINEやWhatsAppといったSNSツールや、ZoomによるWeb会議などを使いこなすことが重要です。

フォローアップマネジメントのポイント2:文字ベースのやり取りであることを有効活用する

ポイントの2つ目は、文字ベースのやり取りであるのを、有効活用することです。商談の際は通訳を介してやり取りしますが、商談後に電話で話すことはほとんどなく、基本的に文字ベースでやり取りが進みます。

そのため、たとえ英語が得意でなくてもGoogleなどの翻訳機を活用すれば、しっかりとフォローアップしていくことが可能です。実際、もともと英語が得意でない方でも、翻訳機を使うことで、ほとんど問題なくやり取りを行えています。

Googleで英語以外を翻訳する際のポイント

Googleの翻訳機を使う際のポイントは、英語以外の言語の翻訳時に、英語を中心にして訳すことです。基本的にGoogle翻訳は英語が軸になっているので、中国語やベトナム語などを日本語に変換すると違和感のある文章になりやすいためです。

英語を読むのに問題がなければ、中国語やベトナム語などを英語に変換してから、その英語を訳すのをおすすめします。そのほうが正しい翻訳になり、メッセージの内容を理解しやすくなります。

逆に文章を作るときも、英語で案文を作成してから、必要な言語へ翻訳するといいでしょう。

商談を進める際は各国の法規制にも注意

特に食品に関しての注意点として、国によって使用できる成分や材料が異なることが挙げられます。国によって「この成分が入るとダメ」とか「こうした前準備が必要」といったケースがあるため、せっかく商談がうまくいってもストップしたり延びたりする恐れがあります。

とはいえ、どこの国と取引につながるか分からないので、事前の法規制調査は困難です。そのため、商談の時点で相手に確認しておくといいでしょう。

これから海外販路開拓に取り組みたいと考えている企業の方へ

海外販路開拓に取り組みたいと考えていても、輸出に取り組んだ経験がなく足踏みしてしまう方もいるかもしれません。しかし全く分からない状態でも、セミナーや模擬商談といった専門家のサポートを受けることで、見違えるほどプレゼンが上達した方もいます。

現時点で不安を感じている方も、まずは一歩踏み出して、アクションを起こしてみてはいかがでしょうか。

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海外SEO対策の本質|基礎から具体的な進め方

テクノポートの稲垣です。
現在「海外Webマーケティング事業」の責任者を務めています。

この記事では「海外SEO」について、私が持てるノウハウを余すことなく公開しています。

海外SEOの基礎

「海外SEO」とは?

この記事では「海外SEO」を「外国語サイトに施すSEO対策」であると定義して話を進めます。

丁寧に言い換えると「海外で検索が行われた際、自社のWebサイトを検索結果の上位に表示させるための施策」と言えます。なおこの記事では2022年4月現在、世界の検索エンジンのシェア約92%のGoogleでの英語のSEO対策を解説しています。

参照

Search Engine Market Share Worldwide | Statcounter Global Stats

国内SEOとは何が違う?

結論から言うと、国内であっても海外であっても同じ検索エンジンを使用する場合、本質的な違いはないと考えます。国内でも海外でもSEO対策の本質は「検索者の意図(需要)を満たす情報を提供する」ことだからです。

ただ、検索エンジンのアルゴリズム自体は同じでも、言語や環境の違いによって、サイトを検索結果の上位に表示させるポイントは変わります。今回は私が考える6つの違いを紹介します。

1. 競合サイト

まず競合サイトの数、質が変わります。

例えば、海外のGoogle向けにSEO対策を行う場合、(その言葉の話者の数に比例し)競合サイトの数が増えます。単純計算で、英語話者は世界に約15億人いるため、日本語話者より10倍以上多い、すなわち競合サイトも10倍以上多いと言えます。

これは後ほど説明しますが、良い意味でも悪い意味でも海外SEO対策の重要な観点の一つになります。

参照

Most spoken languages in the world | Statista

2. キーワード選定

言語が変わればキーワード選定のコツも変わります。

特に英語は、日本語では一つの呼び方である言葉に対して、複数の呼び方がつけられることも多々あります。すなわち、盲目的に日本語から機械翻訳を使って翻訳したキーワードでSEO対策をしても、英語話者からすると見当違いなキーワードを選定してしまっている場合があります。

これは海外SEO対策をする上で最も難いため、丁寧かつ根気強い調査が求められます。

3. 検索エンジン

国によって、独自の検索エンジンが使われていることがあります。

有名な例は、中国のBaidu(シェア84.27%)、ロシアのYANDEX(シェア50.4%)韓国のNAVER(シェア17.49%)が挙げられます。これらの検索エンジンでSEO対策を行う場合は、Googleのアルゴリズムが適用されない可能性もあります。(私は詳しくありませんので、これ以上のことは言えません)

参照

4. 表示速度

これはややテクニカルな違いですが、Webサイトの表示速度が国内と海外で変わる可能性があります。

例えば、国内で速い速度で表示されていたWebサイトが、海外からアクセスされると表示速度が落ちることがあります。これは、Webサイトが使用するサーバーの位置によって回線の速度が変わるためです。(国内のサーバーを使っている場合、海外からのアクセスには時間がかかる傾向があります)

Webサイトの表示速度はGoogleが「検索順位を決定する上で重要視する項目の一つである」と公式に発表しているため、海外SEOを進めるにおいて、こちらも考慮する必要があります。

ページの読み込み時間を最適化します。表示の速いサイトはユーザーの満足度を高め、ウェブ全体の質を向上させます(特にインターネット接続速度が遅い場合)。PageSpeed InsightsWebpagetest.org などのツールを使用してページの読み込み速度をテストすることをおすすめします。

(引用:ウェブマスター向けガイドライン(品質に関するガイドライン) | Google 検索セントラル  |  ドキュメント  |  Google Developers

具体的な対策は、記事の後半で詳しく解説します。

5. 対象地域

対象とする国によって、SEO対策の施策も変わります。

具体的には、Webサイトのドメインの選び方、および「ターゲティング設定」と呼ばれるWebサイトの対象地域設定が変わります。これは後半で詳しく解説しますが、海外SEOを進める上でとても重要な視点になりますので、必ず考慮する必要があります。

6. 検索エンジンのバージョン

これは頭の片隅入れておく程度で大丈夫ですが、国内と海外の検索エンジンのバージョンが異なる場合があります。

特にGoogleは研究開発を行う本社がアメリカに位置するため、最新のアップデート、実験的なアップデートはアメリカの英語検索が初めに行われるためです。(例:Googleレンズとテキスト検索を組み合わせたmultisearchをGoogleが導入 – 海外SEO情報ブログ

特に大きな問題にならないことがほとんどなので、個人的にはあまり気にしなくてもいいと思います。

海外SEOのメリット

次に海外SEOを行うことのメリットを解説します。国内のSEOとも重複する内容は割愛しています。

1. 市場が大きい

海外SEOを行う最大のメリットは、ターゲットとする市場の大きさです。

先にも述べましたが、英語話者は日本語話者の10倍以上存在します。それは競合が多くなるという負の側面ももたらしますが、一方で国内とは比べ物にならない数の潜在顧客がいることも意味します。

すでに国内に需要が存在する製品・サービスはもちろんですが、国内では需要がないようなニッチな製品・サービスでも、海外に市場を広げることで顧客を獲得できます。海外SEOに本格的に取り組むことにより、(広告を使うより低予算で)この大きな市場に対して自社の製品・サービスをアピールできます。

2. 新市場の発掘が可能

Google広告をはじめとするリスティング広告を外国語サイトに使用する場合、ある程度需要が見込める地域を絞って掲載することが現実的です。そのため、ある地域における需要調査には向いていますが、全くの新規の市場を発掘することには不向きと言えます。

一方、海外SEOはSEOという手法の特性上、対象地域は国外全域になります。例えば、英語サイトでSEO対策を行った場合、世界中に存在する潜在顧客がその英語サイトにアクセスする可能性があります。

すなわち英語サイトにSEO対策を行うことで、世界中の新規顧客の開拓が可能になります。これはSEOという手法ならではのメリットと言えます。

海外SEOのデメリット

次に海外SEOのデメリットを解説します。こちらも国内のSEOとも重複する内容は割愛しています。

1. 競合が多い(難度が高い)

先ほどメリットで「市場が大きい」と説明しましたが、同時に海外SEOは競合が多くSEO対策の難度が高くなります。(※日本語より話者が少ない言語でSEO対策をする場合は当てはまりません)

検索順位は、他の競合サイトと自社サイトの相対評価によって決定されます。したがって、あるキーワードで国内のGoogleで検索結果1位のページをそのまま翻訳し外国語サイトに公開しても、対象の英語キーワードで検索結果1位を取れる可能性は低いです。(国内で一定の反響があるサイトをそのまま英訳しても、国内ほど反響が出ないのはこれが一つの原因です)

すなわち英語サイトでSEO対策を行う場合は、日本国内の検索順位は全て忘れ、一から海外の競合サイトを調査し「上位表示させるためにはどのようなコンテンツが必要なのか」を別途調査する必要があります。そして調査の結果、ほとんどの場合、日本語ページよりもより質の高いコンテンツ(検索者の意図を多く満たすページ)が求められます。

2. コストがかかる

英語サイトの専用のドメイン・サーバーを用意するためのコストがかかります。(現在、日本語サイトのみ持っている場合、もしくは日本語サイトのドメイン配下に英語サイトが格納されている場合)

これは海外SEO対策を本格的に進めるにあたって、ドメイン・サーバーを国内とは別に用意することが有効であるためです。特に国内企業向けドメイン(.co.jp)に英語サイトが格納されている場合、海外からの検索結果に表示される可能性が低くなるため、.comをはじめとするgTLD(Global Top Level Domain)に切り替えることをおすすめします。(詳しくは記事の後半で解説します)

ドメインとサーバーの費用は一般的には、ドメイン費(年額 約1,500円)、サーバー料金(安いもので月額 2,000〜5,000円、高いもので月額 10,000円〜)となります。サイトに予想されるアクセス数、サイトの用途・目的を複合的に考慮して選定することをおすすめします。

海外SEO対策のポイント

それではここから本題の「海外SEO対策のポイント」を4つ解説します。

キーワードの選び方

外国語のキーワード選定の方法は、基本的には言語の違い以外に日本語のそれと大きな違いはありません。ただ外国語のキーワードは日本語話者にとってはなじみのないことが多いため、海外のユーザー、競合他社がどんなキーワードを使っているのかを徹底的に調査する必要があります。

私が普段、英語のSEO対策においてキーワード選定を行う際に意識していることをまとめます。

1. 海外の英語圏の同業他社が使用しているキーワードを調査する

英語圏の企業が使っている製品・サービスの呼び名は正しいであろう、という仮定のもと海外企業のWebサイト(特に英語圏の企業)を重点的に調べ、彼らがサイト上で使用しているキーワードをリストアップします。

リストアップしたキーワードの中から「月間平均検索ボリュームが大きい」かつ「自社の製品・サービスを正確に表すもの」をSEO対策するキーワードとして選定します。特に英語は類語が多いため、日本語では一つの呼び名しかないものに、複数の呼び名が当てられていることもあるので、注意が必要です。

細かな外国語キーワードのニュアンスがわからない場合は、Googleの画像検索をすることで、キーワードがイメージ通りのニュアンスを持っているかを確認できる場合もあります。

2. 問合せに使用されているキーワードを使用する

外国語サイトに問合せが既に来ている場合、問合せの文章に使用されているキーワードをSEO対策のキーワード候補として検討することも重要です。

特に、こちらが意図したキーワードとは別のキーワードを使用したお問合せが来た場合は、両方のキーワードの月間平均検索ボリューム、海外のGoogleでの検索結果をよく調べ、お客さまが使用しているキーワードに合わせた方が良いのかを検討する必要があります。

実際に弊社が海外Webマーケティングを支援させていただいている企業様でも、同様の状況になったことがあります。

3. 海外の競合サイトは専用のツールを使用して調べる

キーワード選定を行う際に海外の競合サイトが使用しているキーワードを調べる必要があります。海外の競合サイトを探す際に一つ注意することは、検索結果の表示の仕方です。というのは、Googleは検索者が使用するGoogleの言語と位置情報によって検索結果の表示を変えるためです。

例えば、同じアメリカのGoogleを使用して検索を行ったとしても、日本から検索を行った場合とアメリカで検索を行った場合では、検索結果が変わります。そのためアメリカの検索結果を調べるためには、専用のツールを用いて仮想的にアメリカから検索を行う必要が生じます。(詳しくは記事の後半「海外SEO対策に使えるツール」で紹介しています)

これは細かいテクニック的な話ですが、キーワード選定の精度を上げるためにも意識しておくべきことだと思います。

コンテンツの作り方

外国語コンテンツ(記事の中身)を作る上で最も重要なのは、文章の質です。まず、外国語話者が読んで誤解を与えない文章(意味が一意に取れる文章)を掲載することが最低限必要です。これができていない場合、誤解を与え、トラブルに発展するおそれがあるためです。

そのほかで私が普段意識していることを以下にまとめます。

1. まずは不自然でなければOK

よく海外SEOの記事で「翻訳は必ず業界に詳しいネイティブに校正してもらいましょう」という記述を見かけます。ただ個人的には、最初の段階でそこまで丁寧にお金をかけて文章を作りこむ必要はないと考えています。

大きな理由は、製品・サービスに価値を感じてもらえれば、細かない言い回しがネイティブのようにできていなくても外国語話者の方は理解し、お問合せをしてくるからです。(より自然な言い回しの方がお問合せが増えるかもしれませんが)

特に国際色豊かな欧米の企業では、普段から英語を母国語としない企業とのやりとりにも慣れており、多少文章がネイティブよりぎこちなかったとしても、問題なくコミュニケーションができます。

またSEO対策に取り組む以上、検索順位が低い場合、一度書いた記事を加筆・修正する可能性が大いにあります。そのためネイティブの校正が必要とした場合、加筆修正が発生するたびに時間とお金がかかってしまうことも考慮する必要があります。

もちろん社内でネイティブ、もしくは母語並みに外国語に堪能な方がいる場合は、チェックしてもらいましょう。

2. 自社で文章作成が難しい場合は外注する

外国語で文章を作成する場合、「翻訳」という工程が加わる分、日本語記事を書くよりも手間がかかります。

そのような場合には、海外のライティングサービスを利用するのもおすすめです。弊社ではWriting Studioのコンテンツ制作サービスを利用し、英語記事の執筆代行を依頼することもあります。

こちらで記事の見出しを作成し、あとはお願いします、という感じです。レスポンスも早く記事の品質も良いため優れたサービスだと思います。

サーバーの選び方

海外SEOを行う場合、サーバーの選び方も上位表示を狙うために重要な項目の一つになります。

特に重要なことは「特定の国と地域で速い速度で表示させたいのか?」それとも「世界中どこからアクセスされても速い速度で表示させたいのか?」ということです。

前者の場合は、対象の国、地域からアクセスされた際に早く表示されるサーバー(例:現地にサーバーを有する会社)と契約することが効果的な対策になります。

一方、後者の場合は、弊社ではクラウドサーバーの一つである「AWS(Amazon Web Services)」使用を推奨しています。AWSとは、ショッピングサイトで有名なAmazonが提供しているクラウド型のWebサービスです。

このサーバーを使用するメリットは「CDN(Content Delivery Network)」と呼ばれる世界中に張り巡らされたネットワーク回線を利用して、世界中のどの地域からアクセスされても高速でWebサイトを表示できる点です。(詳しくはこちら

またAmazonが管理していることもあり、セキュリティのレベルも担保されているため安心して利用できます。

ドメインの選び方

外国語サイトでSEO対策を行う場合、ドメインは大きな意味を持ちます。

まず大前提として、国内企業向けドメイン.co.jp」の配下に外国語サイトを格納している場合、海外SEO対策ではかなり不利になります。これは海外のGoogleで検索が行われた際「.co.jp」ドメインのサイトは検索結果に表示されづらくなることが大きな理由です。詳しくは以下の記事で解説しています。

では「.co.jp」以外のドメインを使用するとして、考えられるのは以下の4パターンです。

1. 全世界用ドメイン

全世界向けドメインを日本語サイトとは別に取得する方法です。

例えば、日本語サイトが国内企業向けドメイン「.co.jp」を使用している場合、外国語サイトでは地域性を持たないジェネリックトップレベルドメイン(gTLD)である「.com」や「.net」を使用するという方法です。

こちらの方法を採用することで、世界中のどの国と地域から検索された場合でも、検索結果の上位に表示される可能性を高めることができます。(検索者が使用している言語がWebサイトの言語と一致していることが前提です)

一方で、日本語サイトとは別でドメインを取得するための費用が発生します。(年額 1,000〜1,500円程度)

※Googleサーチコンソールの「インターナショナルターゲティング」という機能を使うと、サイトがジェネリックトップレベルドメイン(.com や .org など)を使用している場合でも、どの国を重要視しているかの判断材料となる情報をGoogleに提供することができます。

2. 国別専用ドメイン

特定の国と地域で上位表示を狙う場合に有効な手法です。

例えば、韓国語のWebサイトを作成し、ccTLD(国別コードトップレベルドメイン)と呼ばれる韓国企業が使用できるドメイン「.co.kr」を利用するというイメージです。こうすることで、韓国で検索が行われた際に検索結果の上位に表示されやすくなります。(国別コードトップレベルドメイン一覧はこちら

こちらも先のジェネリックトップレベルドメイン(gTLD)を取得する場合と同様に、ドメインの取得費用が日本語サイトとは別に発生します。また、こちらのccTLDは現地に法人がないと取得できない場合もあるため、取得自体が難しいケースもあります。

3. サブドメイン

同じ内容のWebサイトを多言語で運営する場合に適した方法です。

例えば、「en.xxxx.com」は英語サイト、「cn.xxxx.com」は中国語サイト、「de.xxxx.com」はドイツ語サイトのように、一つのジェネリックトップレベルドメイン(gTLD)に対して、複数のサブドメインを作成する方法です。

サブドメインを使用するメリットは、作成したサブドメインごとに最適なサーバーを使い分けることができる点です。例えば、「cn.xxxx.com」というサブドメインで作成した中国語サイトは、中国本土のサーバーを使い、「de.xxxx.com」はドイツ本土のサーバーを使う、といったイメージです。

このように国別にサーバーを契約することで、地域毎にWebサイトの高速化を実現できます。また日本国内のサーバーを使用し中国語のWebサイトを作成した場合、中国政府の検閲によりサイトが表示されなくなったり、表示されたとしても表示速度が極端に遅くなったりする場合があります。そのような国別の規制の影響を受けないようにするためにも、地域ごとにサーバーを契約するのは有効な手段になります。

ただこちらの方法も、サーバーの契約毎に料金が発生する、契約情報の管理が煩雑になるというデメリットはあります。

4. サブディレクトリ

こちらも3のサブドメインと同様に、同じ内容のWebサイトを多言語で運営する場合に適した方法です。

例えば、一つのgTLD「xxxx.com」に対して、英語サイトは「xxxx.com/en」、中国語サイト「xxxx.com/cn」、ドイツ語サイト「xxxx.com/de」といった感じです。

③サブドメインで管理する方法との違いは、すべてのドメインが一つのサーバーに集約される点です。これはすべての多言語サイトが一つのgTLD「xxxx.com」の配下に属しているためです。

この方法のメリットは、複数のサーバーを契約しない分、サーバーの管理費が安く済むことです。一方で、3のサブドメインで国別にサーバーを契約する場合と比較すると、世界各国からアクセスされた際に当該のWebサイトの表示速度が遅くなる可能性が高いです。

海外SEO対策の具体的な進め方

次に海外SEO対策の具体的な進め方を6つのステップに分けて解説します。国内のSEO対策と違いがある部分を中心に解説しています。

1. キーワード候補の洗い出し

まずSEO対策をするキーワード候補を洗い出しスプレッドシートにまとめます。特に英語でSEO対策を行う場合、製品名に複数の名称がないか入念に確認しましょう。

ここでは私がキーワード候補の洗い出しを行う際に、実際に使用しているツールを紹介します。なお主に以下のツールではキーワード候補の「月間平均検索ボリューム」と「関連キーワード」を調査します。

Google広告|キーワードプランナー

Google公式のキーワード調査ツールです。外国語キーワードを調査する場合は「言語」と「地域設定」を対象の言語、地域に合わせて設定するようにしましょう。(画像赤枠部を参照)

また「地域設定」は複数の地域を選択することができるため、例えば以下のようにASEAN地域に絞ってキーワードの「月間平均検索ボリューム」を調べることもできます。(※「キーワード候補」を調べる際は最大10ヶ所指定可能です)

これは例えば東南アジア向けにリスティング広告を出す際に、キーワードの「月間平均検索ボリューム」を調べる時に非常に役に立ちます。

上記の違いを除けば、基本的な使い方は日本語キーワードを調査するときと変わりません。

UberSuggest

こちらのツールも外国語キーワード調査をする際に便利です。

サイドメニューの「キーワード候補」からこちらの画面に入り、「言語」と「ロケーション」を設定することで、対象の言語、地域におけるキーワード調査が可能です。(画像赤枠部を参照)

これらのツールを用いてキーワード候補を洗い出すことに加えて、必ず実際の検索結果を確認しましょう。そうすることで、キーワードが意図した製品・サービスを的確に表しているか?、競合他社は違うキーワードを使っていないか?、の2点を確認することができます。

またUbersuggestには「トラフィック」というメニューがあり、特定のWebサイトのURLを入力することで、そのWebサイトが国別でどのようなキーワードで流入を獲得しているかを調査できます。この機能もキーワード候補を洗い出す上でも、見当違いなキーワードを選ばないためにも役に立つ機能です。

これら2点を確認し、ツールを用いた調査で洗い出せていなかったキーワードがあった場合は、それらのキーワードを再度ツールを使って「月間平均検索ボリューム」と「関連キーワード」を調査しましょう。

2. 対策キーワードの選定

次に「1. キーワード候補の洗い出し」で洗い出したキーワードの中から海外SEO対策を進めるキーワードを選定します。選定基準の例は以下のとおりです。

  • キーワードを使用するユーザーは自社の製品・サービスの顧客を含んでいるか
  • キーワードと自社の製品・サービスは十分に関連性が高いか
  • キーワードを使用するユーザーの検索需要を満たすコンテンツが自社で用意できそうか
  • キーワードの「月平均検索ボリューム」は十分大きいか
  • キーワードはSEO対策で十分に上位表示できる可能性があるか

これらを判断するためには、海外SEO対策を試行錯誤してきた経験による直感と丁寧な調査が必要です。しかもこれらの判断と判断に必要な調査を外国語で行う必要があるため、必然的に難度は高くなります。

よくある失敗パターンとして、「月平均検索ボリューム」が大きいという理由だけでキーワードを選定し海外SEO対策を行った結果、自社の製品・サービスには関心度の薄いユーザーから大量のアクセスが来たが、お問合せの件数は変化しなかった、というケースがあります。

このような失敗を防ぐためには、海外SEO対策を行う目的をキーワード選定の段階から明確にしておくことが必要です。そうすることで、判断軸も明確になり作業自体もスムーズに進みます。

3. 記事の見出しを作る

このステップは海外SEO対策の中でも最もセンスが求められる部分です。基本的な作業は国内SEO対策と同じですが、外国語になる分難度は高くなります。

②までのステップで対策するキーワードが決定しています。次に「キーワードを検索するユーザーがどのような情報、コンテンツを求めているのか?」、仮説を立てます。この仮説をもとに見出しを決定します。

例えば「cmm machines(三次元測定機)」という英語キーワードを使って検索を行うユーザーは、大きく以下のような情報を求めていることが予想されます。

  • 三次元測定機が欲しい(どんな製品があるのか知りたい)
  • 三次元測定機について知りたい(情報収集がしたい)

この中でも前者「どんな製品があるのか知りたい」という検索需要に対しては「三次元測定機の製品一覧」のような製品紹介ページが上位に表示されます。一方、後者の「情報収集がしたい」という検索需要に対しては「三次元測定機についての一般知識」のようなコラム記事が上位に表示されます。

英語キーワードの検索結果を確認する際は、英語の記事が世界で最も多く集まっているアメリカの検索結果を参照することをおすすめします。世界で最も競争が盛んなアメリカの検索結果で上位表示できれば、他の国でも上位表示できるであろう、という判断です。(ただしアメリカ英語とイギリス英語でキーワードが異なる場合は別で調査する必要があります)

次にこれら大きな分類分けをした「検索需要のどれを満たすのか?」を決めます。今回は、後者の「情報収集がしたい」を満たす記事を作成する場合を考えます。この時やるべきことは、キーワードを実際に検索した際に現在上位表示されている記事のコンテンツ(記事の見出し)を全て洗い出し、ユーザーが具体的にどのような情報を求めているのかについて仮説を立てることです。

今回の「三次元測定機」というキーワードの例では、以下のような情報をユーザーが求めているだろうと仮説を立てました。

  • 三次元測定機とは
  • 三次元測定機の特徴
  • 三次元測定機の種類
  • 三次元測定機を使うメリット
  • 三次元測定機を使うデメリット
  • 三次元測定機の機器構成
  • 三次元測定機の測定方法
  • 三次元測定機の選び方
  • 三次元測定機の製造メーカー

最後にこれらの情報の中でどの需要を満たすのか?を決めます。これがそのまま記事の見出しになります。この工程で決定した見出しによって検索順位が決まると言っても過言ではないほど重要な工程です。

もし記事の検索順位が上がってこない場合は、上記で決定した仮説が間違っている、もしくは仮説はあっているが記事に含んでいない、のどちらかになります。まずは仮説で洗い出した見出しを全て含める形に記事を加筆・修正し、それでも検索順位が上がってこない場合は、上記の仮説自体を再度考え直す必要があります。

4. 記事を執筆する

記事の見出しが決まったら執筆に移ります。執筆は自社で行う場合は誤解を招くような表現がないかのチェックだけは必ず行いましょう。可能であればネイティブ、もしくはネイティブ並みに外国語が堪能な方に表現のチェックをしてもらえればより良いと思います。

記事を自社で用意することが難しい場合は、Writing Studioのようなライティング代行サービスを利用することも検討しましょう。実際に頼むときは、「SEO対策で〜というキーワードで上位表示させることを目的とした記事を書きたいです。つきましては構成を作りましたので執筆をお願いします」とだけ伝えて、構成を別ファイルで添付してさえおけば快く引き受けてくれます。

文章が揃い次第、Webサイトへの反映、その他の必要な設定も国内SEO同様に行いましょう。

5. 効果測定

記事をWebサイトで公開後に効果測定を行います。効果測定では主に対策しているキーワードでの検索順位を調査します。

海外SEO対策の場合は、どの国における検索順位を調査するのかを決める必要があります。ターゲット地域が明確に決まっている場合は、その国における検索順位、特にターゲット地域がない場合はアメリカの検索順位を調べておくことをおすすめします。(理由は先ほどと同様です)

検索順位の追跡には、先ほど紹介したUberSuggestが使えます。

6. 加筆・修正

記事の検索順位が上がってこない場合は、加筆・修正を行いましょう。目安としては、3ヶ月経っても低い順位で変動しないようであれば加筆・修正が必要と考えて間違いないと思います。

加筆・修正の手順は「③記事の見出しを作る」を参照してください。

海外SEOの対策の実例

ここでは弊社が実際に海外SEO対策を支援した実例を紹介します。

株式会社メルテック

本社 千葉県流山市
社員数 100名
事業内容 フォトエッチング加工、エンコーダ用スケールの設計、製造、販売
取材記事 英語サイトで「海外の新規顧客開拓」と「製品の需要調査」を実現

株式会社メルテックは、エッチング加工を主事業とする金属薄板加工を行っています。このエッチング加工の技術を用いて製造することができる製品の一つに「エンコーダー用スケール」と呼ばれる部品に関するキーワードを中心にSEO対策を行いました。

以前は広告を使っていましたが、現在ではSEO対策のみで東南アジア、ヨーロッパ、北米の企業を中心に世界各国から問い合わせが来ています。

詳しくはこちら

海外SEO対策に使えるツール

最後に私が普段使用している海外SEO対策に使えるツールを紹介します。

1. Google広告|キーワードプランナー

キーワード調査を行う際に使用します。

海外SEO対策時にキーワードプランナーでは、主に世界全域における月間平均検索ボリューム、関連キーワードを調査するために使用しています。特定の国における場合でも使えるため非常に便利です。

またキーワードプランナーは「WebサイトのURL」を入力するだけで、該当のWebサイトの関連性が高いキーワードを一覧で表示することができます。これは特に競合のWebサイトがどのようなキーワードで流入を獲得しているかを調べる際に役に立つので、積極的に活用されることをおすすめします。

先ほど紹介した「言語」と「地域」の設定を組み合わせることで、かなりの情報を取得することができます。

2. Ubersuggest

こちらのツールはSEO対策全般に非常に役立つツールです。

私が主に使っている機能は以下の3つです。

項目名 用途
ランク追跡 国別にキーワードの検索順位を測定
キーワード候補 キーワードの月間平均検索ボリューム、関連キーワードの調査
海外の検索結果の調査
トラフィック概要 競合他社サイトが獲得している流入時に使用されているキーワードの調査

キーワードプランナーだけでも十分ではありますが、さらに深く抜け漏れがないように調べる意味で使用しています。また海外のGoogleの検索結果が手軽に調べられる点でもとても便利です。

3. Windscribe

このツールは海外のGoogleの検索結果を表示する際に非常に役に立ちます。

このツールはVPN接続と呼ばれる方法で、仮想的に海外からの位置情報を利用してインターネットに接続できます。要は海外の位置情報を利用して検索できるということです。

これは海外の競合サイトを調べる際に使えるため、海外SEO対策では役に立ちます。(もしくは2.Ubersuggestで検索結果を調べる方法でも全く問題ありません)

4. WebPageTest

こちらのサイトはWebサイトの表示速度を測る際に使用できます。

こちらのツールではWebサイトが世界の指定の地域からアクセスされた時の表示速度を計測できます。したがって、アメリカのGoogleでSEO対策をしたいという場合には、アメリカでの表示速度を測定し改善するべきかどうかを判断することができます。

ちなみにGoogle公式の計測ツール「PageSpeed Insights」は世界の4ヶ所(アメリカ:オレゴン、南カリフォルニア、オランダ、台湾)の一番近いロケーションから測定されているそうです。

参照

How does Calibre differ from Google PageSpeed?

まとめ

本記事では「海外SEO対策の本質」と題して、私が考える海外SEO対策に関する見解、ノウハウを説明しました。

まとめると、国内SEO対策と海外SEO対策は本質的には同じですが、言語と環境が変わる分、難度は上がる上に必要なテクニックも変わります。そのため、やるからにはしっかりと時間を投資して取り組むことをおすすめします。

海外SEO対策を任せられる業者をお探しでしたら、お気軽にテクノポート株式会社にお声がけいただければと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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海外進出の支援をしている組織や企業

今の日本経済の状況を見ると、各企業の海外進出という選択は決して大げさなことではありません。海外進出を狙っているのは大手企業だけにとどまらず、コアな技術を持っている中小企業にも十分チャンスはあります。

たくさんのメリットがある海外進出ですが、その反面、課題やリスクもあります。デメリットとなる部分も考慮して、国内には海外進出を支援する機関がたくさんあります。それぞれの機関は特徴や得意な支援サービスなど、いろいろな観点から比べることができます。今回の記事では、海外進出の支援をしている機関について紹介をします。

それぞれの機関の違いや、自社にあった支援機関の選び方なども細かく紹介します。

海外進出の支援をしている組織や企業

行政法人

ここでは行政法人の中から3機関を紹介します。

JETRO

名称 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
代表者 理事長:佐々木 伸彦
住所 〒107-6006 東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル(総合案内6階)
電話番号 03-3582-5511(総合案内)

・特徴
ジェトロは経済産業省所管の独立行政法人です。70ヶ所を超える海外事務所を持ち、日本の輸出入の振興を目的として設立された組織です。海外市場の調査や研究に加え、日本企業の海外進出や、スタートアップ企業海外事業のサポートを行っています。

日系企業の海外進出支援においては、日本の農林水産物や食品の企業の海外進出支援、化粧品や日用雑貨の海外EC販売プロジェクトがあります。また、国外企業への日系企業投資サポートも行っており、広く国内・国外の貿易振興に取り組んでいます。

・受けられるサービスの種類
<輸出・海外進出支援>
計画段階から契約交渉まで、各フェーズに応じてのサービスがあります。ジェトロ独自の調査資料から進出するマーケット計画を行い、展示会や見本市にて具体的な輸出先(取引先)の決定もサポートしています。

<展示会やウェビナーの企画開催>
海外にて開催される見本市・展示会にジェトロジャパンブース(ジャパン・パビリオン)を確保し、そこへの出展をサポートしています。

また、海外マーケットの情報発信にも力を入れており、海外進出を考えている日系企業向けにオンライン説明会(ウェビナー)も頻繁に開催しています。

<サービス対象外の内容について>
貿易手続きなどの代行や、翻訳・通訳、契約書の内容判断など個別の実務代行は行っていないのでご注意ください。実務代行は民間企業へ有償で依頼する形になります。

・向いている企業
商社
製造業
建設業・土木各工事業・農業・林業・漁業・鉱業
マスコミ(新聞・雑誌・放送)・広告業・出版・印刷業
運輸・倉庫業・電気・ガス・熱供給・水道業・電話通信・不動産業
卸売・小売業・百貨店・スーパー
金融業・証券・保険業
コンピューター関連情報処理業・ソフトウェア業・情報提供サービス業
大学・研究機関・教育
コンサルタント(エンジニアリング・法律事務所・会計事務所)
その他のサービス業
非営利団体ほか各種組合・団体
その他(個人を含む)

上記は、独立行政法人日本貿易振興機構の公式HP(https://www.jetro.go.jp/)からの情報を元に記載しております。

中小企業庁

名称 中小企業庁
代表者 長官:角野 然生
住所 〒100-8912 東京都千代田区霞が関1-3-1 経済産業省別館
電話番号 03-3501-1511(代表)

・特徴
中小企業庁は中小企業の育成や発展、経営向上を目的としている行政機関です。中小企業をあらゆる方面から支援しており、その内容は経営サポート、金融サポート、財務サポートに渡ります。

中小企業支援の一環として海外展開の情報も扱っていますのでその内容をご紹介します。

中小企業庁は行政機関のため、海外展開を目指す中小企業・小規模事業者向けに各種支援施策や制度情報等を紹介するのみで、実際の業務サポートは行っておりません。

・受けられるサービスの種類
<セミナーの開催>
海外進出に関する情報共有の場としてオンラインセミナーを開催しております。過去のテーマとしては「中小企業による海外ECサイト活用促進セミナー」(令和2年5月29日)、「取引価値向上セミナー」(令和元年10月7日)などが開催されています。

<APEC中小企業大臣会合>
アジア太平洋経済協力域内での中小企業のデジタル化、グローバル・バリュー・チェーンの強化、起業家精神の醸成等に関する意見交換を行っています。

APECには民間企業は原則参加できませんが、その他にもワークショップやイベントが開催されているため、参加することで自社の取り組みの発表や意見交換を行うことができます。

・向いている企業
スタートアップ、ベンチャー支援を受けたい企業
再生支援を受けたい企業
海外展開支援を受けたい企業
小規模企業支援を受けたい企業
ものづくり(サービス含む)中小企業

上記は、中小企業庁の公式HP(https://www.chusho.meti.go.jp/index.html)からの情報を元に記載しております。

東京都産業労働局

名称 東京都産業労働局
代表者 局長:坂本 雅彦
住所 〒163-8001 東京都新宿区西新宿2-8-1
電話番号 03-5321-1111(代表)

・特徴
東京都産業労働局は、産業や雇用に関係する課題に対して様々な取り組みを行っています。対象の分野は、商工、金融、観光、農林水産、雇用就業の5分野です。

その中で海外展開支援は、主に「金融」分野との連携の中で資金支援をベースに海外進出サポートを行っています。

・受けられるサービスの種類
<東京都中小企業制度融資>
東京都中小企業制度融資では中小企業の幅広い資金需要に応じた支援を行っていますが、海外販路開拓のための資金融資も行っています。

特に東京都と連携している支援機関である、日本貿易振興機構(ジェトロ)、中小企業基盤整備機構、東京都中小企業振興公社が事業計画や施策を支援しますが、その施策に必要な資金を融資する形となっています。

なお、東京都中小企業制度融資の利用者が、特定の金融機関を経由してジェトロへの支援を申し込む場合、ジェトロに支払う金額の累計が1企業当たり50万円となるまで無料で支援を受けることができます。

・向いている企業
成長発展を目指すための資金を調達したい企業

上記は、東京都産業労働局の公式HP(https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/index.html)からの情報を元に記載しております。

一般社団法人・財団法人

次に、一般社団法人、財団法人の中から3機関を紹介します。

日本商工会議所

名称 日本商工会議所
代表者 会頭:三村 明夫
住所 〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-2-2 丸の内二重橋ビル
電話番号 03-3283-7823

・特徴
日本商工会議所は商工業の振興を目的とした機関で、各商工会議所の調整や国内外の経済団体との円滑な連携を図り、様々な取り組みを行っています。

政策提言から、日商簿記検定試験などの各試験の実施、創業塾やものづくりに関する情報発信も行っています。

海外情報においては、「海外展開イニシアティブ」という枠組みで国際ビジネス情報の集約と発信を行っています。こちらも実務サポートではなく、情報発信のみになります。

・受けられるサービスの種類
<海外展開イニシアティブ>
商工会議所間での国際ビジネスに関する情報を吸い上げ、支援情報を会員企業に提供します。具体的にはセミナーの開催や商工会議所での好事例の共有で、ECを活用した販路開拓支援も行っています。

<国内海外展開支援施策情報の整理>
国内には様々な海外進出支援の政策や施策がありますが、それらをワンストップで情報収集し、会員企業への効率的な情報共有を行っています。

・向いている企業
海外展開フェーズを細かく把握しながら進めたい企業

上記は日本商工会議所の公式HP(https://www.jcci.or.jp/)の情報を元に記載しています。

日本代理店協会

名称 一般社団法人日本代理店協会
代表者 理事長:佐藤 康人
住所 〒154-0024 東京都世田谷区三軒茶屋1-32-3-1F
電話番号 03-3248-1500

・特徴
様々な業界の代理店が加盟する日本代理店協会は、代理店運営のマネジメントに対するコンサルティングや、メーカーに対する代理店指導や戦略のアドバイスを行っています。

代理店のコーチングプログラムや、業務アウトソーシング、市場調査など幅広いサービスを提供していますが、その一つとして海外進出支援も行っています。

・受けられるサービスの種類
<海外進出支援>
国内外で開催される展示会への出展支援や、事業展開対象国のマーケット調査、現地企業のマッチング支援を行っています。

海外展開している代理店企業の情報も広く有しており、特定の国や業界に強い代理店の紹介やマッチングに強みがあります。

・向いている企業
代理店や加盟店として活動しているが次の展開が分からない企業
自社に合った代理店やフランチャイズの探し方が分からない企業

上記は日本代理店協会の公式HP(https://j-dma.org/)の情報を元に記載しています。

Glocal Solutions Japan

名称 一般社団法人Glocal Solutions Japan
代表者 代表理事:深野 裕之
住所 〒102-0073 東京都千代田区九段北1-12-4 徳海屋ビル2階3号室
電話番号 03-4595-0127

・特徴
Glocal Solutions Japanは、海外進出支援に特化した一般社団法人です。日本から海外、海外から日本の両方向でビジネスのグローバル展開を支援しています。

海外の市場調査から、営業代行、マーケティング支援、業務効率化など一歩踏み込んだ実務サービスを提供しています。

また各民間企業の専門家が多数在籍し、会社設立手続きから製品企画、知財戦略に至るまで具体的なサポートを受けられます。

・受けられるサービスの種類
<調査関連>
実際に販売をする予定の商品やサンプルを用い、海外販売店へのヒアリングを行います。机上の市場調査だけでなく、実際の商品を実際の顧客に見せ意見を聞くことにより、精度の高いマーケティング調査ができます。

<営業支援>
プレゼンテーション資料の作成から、商談時における通訳まで実際の業務にまで踏み込んだソリューションを提供しています。また、販売代理店のマッチングも行っており、実際の商談サポートと顧客開拓の両面からサポートする体制があります。

<DX支援>
受発注管理システムの構築などのシステム・ソリューションやWebマーケティングを用いた集客施策など業務のデジタル化に対する支援も行っています。

海外へのEC販売や、問い合わせ創出の仕組みを作ることもでき、オンライン対策にも力を入れています。

・向いている企業
実際の業務のアウトソースなど、実務レベルで海外進出のサポートを求めている企業
法務、IT、翻訳、会計など様々な専門家のアドバイスを受けたい企業

上記は一般社団法人Glocal Solutions Japanの公式HP(https://glocal-solutions.org/)の情報を元に記載しています。

営利法人(海外進出支援)

次は、営利法人(海外進出支援)の中から3企業を紹介していきます。

株式会社HIS

名称 株式会社エイチ・アイ・エス
代表者 代表取締役会長:澤田 秀雄
住所 〒105-6905 東京都港区虎ノ門4-1-1 神谷町トラストタワー5階
電話番号 03-5205-1515(グローバルビジネスアドバンス)

・特徴
旅行代理店で有名なHISですが、各国の拠点を通じた情報収集や現地コーディネーション力を活かし、法人向けに海外進出支援サービスを提供しています。

海外企業とのコミュニケーションが得意で、商談アポの取得や現地車両の手配などのコーディネートをすることができます。

・受けられるサービスの種類
<視察>
特定の製品や食材などテーマを決めて、その分野の第一線の国での視察旅行を計画します。旅行業で培った現地の情報網を通じて、効率的な訪問工程を組むことができます。

<中国越境ECサービス>
Tmall国際、京東、RED、VIP、Kaola、PINDUODUO、SUNINGなど、中国の連携先のECプラットフォームによる製品販売のサポートをします。オンラインモールへの出店だけでなく、プロモーション全体の提案も行うことができます。

<ビジネスマッチング事業>
海外での販売店や顧客の企業リストを作成し、マッチング候補対象を提案します。商談が決まった企業へのアポイントメント調整や、実際の現地訪問の際には現地拠点スタッフが同行し、商談時の専門通訳の手配なども行うことができます。

・向いている企業
現地のアポイントや車両手配などのコーディネートも求めている企業
通訳や企業アポなど現地企業とのコミュニケーションに不安がある企業

上記は株式会社エイチ・アイ・エスの公式HP(https://www.his-j.com/corp/)の情報を元に記載しています。

INTLOOP株式会社

名称 INTLOOP株式会社
代表者 代表取締役:林 博文
住所 〒107-0052 東京都港区赤坂2-9-11 オリックス赤坂2丁目ビル6F
電話番号 03-5544-8040

・特徴
INTLOOPはコンサルティング企業で海外進出支援も行っています。「TENKAI」という中国・香港・東南アジアへの海外進出に特化した情報サイトも運営し、特にアジア・東南アジアへの進出を得意としています。

・受けられるサービスの種類
<展示会出展支援業務>
展示会や会場選定、ブースレイアウトの設計、施工人員の手配など、出店に必要な業務を代行します。

<販路開拓支援>
現地の数百社にのぼる弊社の取引先に対して、継続的な営業支援活動を行っています。

<SNSマーケティング・ECサイトの立ち上げ>
著名人やインフルエンサーを起用し、SNSでの商品プロモーションを行うことができます。また、ECサイトの立ち上げでは、オンラインモールの出店だけではなくブランド単独でのサイト立ち上げも行うことができます。

・向いている企業
販売戦略から実行支援までコンサルタントと並走して業務を進めていきたい企業

上記はINTLOOP株式会社の公式HP(https://www.intloop.com/)の情報を元に記載しています。

株式会社Resorz

名称 株式会社Resorz(リソーズ)
代表者 代表取締役:兒嶋 裕貴
住所 〒162-0844 東京都新宿区市谷八幡町2-1 DS市ヶ谷ビル3階
電話番号 03-6228-1801

・特徴
Resorzは日系企業の海外進出支援に特化したサービスを展開しています。海外求人・メディアの運営、海外への業務委託支援サービスなどを通じて、海外ビジネスに関する支援事業を行っています。

・受けられるサービスの種類
<海外ビジネス支援サービス>
海外の代理店探しや、海外視察のコーディネート、通訳や車両手配、海外ビジネス展開研修サービス、会員制コミュニティをサービスとして提供しています。

<海外ビジネスメディア>
Digima News(https://www.digima-news.com/)、Digima Juarnal オンライン(https://www.digima-japan.com/knowhow/)の2つのメディアを運営しています。

海外現地のローカルメディアと連携し、各地のビジネスニュースを配信したり、海外ビジネス専門家からの寄稿記事も提供しています。

<海外ビジネスイベント>
海外ビジネスのイベントである「海外ビジネスEXPO」「海外ビジネスサミット」を開催しています。海外ビジネスに関するあらゆる情報やサービスが集まる総合展示会です。

・向いている企業
オンラインで販路開拓したい企業
有効なプロモーション方法を探している企業

上記は株式会社Resorzの公式HP(http://www.resorz.co.jp/)の情報を元に記載しています。

営利法人(海外Webマーケティング)

最後に、営利法人(海外Webマーケティング)の中から3企業を紹介していきます。

BEENOS株式会社

名称 BEENOS株式会社
代表者 代表取締役 執行役員社長兼 グループCEO:直井聖太
住所 〒140-0001 東京都品川区北品川4-7-35 御殿山トラストタワー7F
電話番号 03-5739-3350

・特徴
BEENOSはEコマース事業とビジネス支援事業を手掛ける企業です。海外への販売も可能なグローバルコマースを運営し、EC販売に関連する様々なサービスを提供しています。

・受けられるサービスの種類
<グローバルコマース>
「Buyee」「セカイモン」「転送コム」「FASBEE」などの海外向けECプラットフォームを開発・運営しています。自社の製品にあったサイトを選び、効率的に海外販売を実現することができます。

・向いている企業
ECサイトをベースに海外への販売を行いたい企業

上記はBEENOS株式会社の公式HP(https://beenos.com/)の情報を元に記載しています。

世界ヘボカン株式会社

名称 世界へボカン株式会社
代表者 代表取締役:徳田 祐希
住所 〒170-0013 東京都豊島区東池袋4-39-1 ナルハマビル3F
電話番号 03-5207-2780

・特徴
海外向けのWeマーケティングに特化した企業です。インターネットマーケティングによる市場調査、リスティング広告、SEO対策などを実行支援しています。

・受けられるサービスの種類
Webマーケティングの戦略立案、Webサイト改善コンサルティング、Shopify越境EC構築、製造業・メーカー向け海外ウェブサイト制作、英語リスティング広告、英語コンテンツマーケティングなど、海外向けのWebマーケティングを包括的に提供しています。

・向いている企業
Webマーケティングによってリードの獲得や製品販売を行いたい企業
海外向けの英語版のコーポレートサイトなどを制作したい企業

上記は世界へボカン株式会社の公式HP(https://www.s-bokan.com/)の情報を元に記載しています。

テクノポート株式会社

名称 テクノポート株式会社
代表者 代表取締役:徳山 正康
住所 〒135-0064 東京都江東区青海2丁目7-4 theSOHO-710
電話番号 03-5579-6528

・特徴
製造業に特化したWebマーケティングを行う会社です。高度な技術を持つ製造業のサイト制作や技術ライティングを得意としており、日本の製造業の海外進出支援にも力を入れています。

また「モノマド」というサプライヤーや共同開発のパートナーマッチングサービスも行っており、製造業の業績向上をWebマーケティングから支援しています。

・受けられるサービスの種類
<サイト制作>
BtoB製造業に特化したWebサイトの制作やリニューアルを行っています。BtoBの購買決定においてもオンラインでの情報収集が主となっているため、競合や市場を見据えたコンテンツ設計を行い、オンラインからの新規顧客創出を効率的に実現します。

<技術ライティング>
高度な技術力も持つ製造業がオウンドメディアやコーポレートサイトにコンテンツを投稿する場合は、通常のWeb制作会社はその専門性の高さゆえに対応が難しいケースが多々あります。

その中で製造業に精通したコンサルタントがコンテンツ設計を行い、実際に製造業の第一線で働いている技術系ライターが高品質な記事を作成します。

・向いている企業
BtoB製造業の企業
技術系マーケティングで課題を解決したい企業

上記はテクノポート株式会社の公式HP(https://techport.co.jp/)の情報を元に記載しています。

自社にあった支援機関の選び方

ここまでにたくさんの機関や企業を紹介してきましたが、自社にあった支援機関をどのように選べばよいかを各法人別に紹介していきます。

行政法人

海外進出にコストをかけられない企業におすすめです。

無料相談で幅広い情報収集から、低コストで準備を進めることが可能です。

また資金調達ができる可能性もあるので、すすんで相談をすることをおすすめします。

一般社団法人・財団法人

行政では発信されないような、一歩踏み込んだ情報がほしい企業におすすめです。

ツールに関してもメルマガや動画コンテンツなどがあり、着手しやすくハードルを低くしてくれるのもメリットです。

営利法人(海外進出支援)

有料ではありますが、踏み込んだ形で具体的に実務としてサポートしてもらえます。

自社にマンパワーやリソースが足りないなどの課題がある場合でも、一部の業務をアウトソースすることができます。

細かく手の届いたサポートを受けたい企業におすすめです。

営利法人(海外Webマーケティング)

Webマーケティングを効率よく集客したい、コンテンツを上手に活用したい、外国語でネット売り込みするのが難しいなどの企業におすすめです。

Webマーケティングは自社のみだと、どうしても技術的にもリソース的にも難しいというケースがあるのではないでしょうか。

まとめ

海外進出をサポートしてくれる組織やサービスは、日本国内にも豊富にあります。

それぞれの組織の特性を理解し、まずは一歩踏み出し相談してみることで知見を広められるでしょう。

ぜひ様々なサービスを利用して、事業の成功に近づいていきましょう。

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中小企業のための海外販路開拓の進め方

製造業のエンジニア兼、Webライターの大城です。

今回は動画のまとめ記事です。テーマは中小企業のための海外販路開拓の進め方について。

コロナ禍で海外展開がうまくいかず困っている方や、これから海外展開を検討している方に、製造業が海外販路開拓を進める方法について紹介します。

【講師】
深野裕之
一般社団法人「グローカルソリューションジャパン」代表理事・認定専門家
NPBトレーディング株式会社 代表取締役

これまでに47ヵ国に新規の販路開拓をしてきた経験と人脈を活かし、これから海外事業を始めたい企業、なかなか海外事業の成果が出ずに悩んでいる企業をサポートしている。

動画はこちらから

海外販路開拓の方法6選

海外販路開拓には次の方法があります。

1.展示会への出展

海外の展示会に出展してみることが王道のパターンです。しかし、コロナ禍の影響で一般の展示会が相次いで中止になり、オンラインで開催される機会が増えてきました。対面では、偶然に商品を見つけ、そこから話が広がる場合がありますが、オンライン展示会は事前に検索されて興味がある企業しか見てくれない分、自社の製品が認知されにくくなってきています。これからはオンライン展示会への出展を意識して、以下を実施しましょう。

  • 自社のマーケットに合致した展示会を選ぶ
  • 直接会うことのできない海外の取引先に直接問い合わせる
  • 商談の準備をする

2.越境ECを使う

越境ECとは、インターネットを活用して日本国内から海外へ向けて商品を販売するEC(電子商取引)のことです。例えば、健康食品を輸出する場合にはいろいろな許認可が必要になるのですが、越境ECではこれらをスキップできるので、海外に自社製品を販売するまでのプロセスが早く済みます。

3.公的機関の活用(オンライン商談会)

JETRO※では、「オンライン商談会」という会が行われており、オンラインで自社に合った商談相手をマッチングする機会を設けています。

※JETRO(日本貿易振興機構)とは、対日投資の促進や中小企業の海外展開の支援を行う独立行政法人です。

4.クラウドファンディング

クラウドファンディングで海外からの出資を募ることで、問い合わせを得る企業が増えています。

5.販路開拓の会社を活用

グローカルソリューションのような販路開拓の会社を活用することで効率的に販路開拓を進めることができます。

6.現地のネットワークの活用

既に販路を持っている会社や、現地で販路開拓会社とパートナーになっている会社から紹介してもらう方法です。

海外販路開拓の具体的な進め方

ここからは海外販路開拓の具体的な方法を紹介します。

まず、「周りの同業者が海外販路開拓をしているから」という理由で直感的に販路開拓を決めてしまうのはおすすめしません。事前に十分な情報収集が必要です。

海外の情報がない中で海外展開を進めていく場合は、国内の実績をもとに「仮説」を立てていくことが重要です。まず、「国内のお客様が自社の何を評価しているのか」を事前に理解し、海外で自社が優位性に立てる部分は何なのか、仮説を立てておきます。

次に、販売店から情報を収集します。販売店は、自社の強みが一番生きる販路を持っていそうな販売店を探します。販売店と商談がうまく話がまとまらなかったときは、「なぜ販売店が自社の商品を売っていこうとしなかったのか」をしっかりヒヤリングすることで、営業しながらリサーチしていくことができます。調査に資本をかける余裕のない中小企業には効率的な調査方法です。

販売店の他にも、自社と競合せず、同じお客様を共有できそうな日本メーカーから情報を得る方法もあります。その企業が取引しているお客様を紹介してもらうことで空振りが少なくなります。

また、思わぬところで、自社の製品が海外で使われる例もあります。
例えば、自社の製品が日本経由で購入されて、中国の工場に行き、現地のどこかの会社がメンテナンスで使用する、というケースです。そのメンテンナンスを行っている会社が分かれば、現地のお客様を紹介してもらうのも有効な手段です。

メーカー・サプライヤーの海外進出戦略

海外販路の進め方や注意するポイントは、メーカーとサプライヤーで異なります。

メーカーの場合、自社を評価してくれるお客様と同じような海外の企業を販売先として持っている販売点を探すことが大事です。

サプライヤーの場合、自社の商品を調達しそうな会社から情報収集をします。調達部に直接「どんなことに困っているのか」をヒヤリングします。

JETROでは、現地にどんな日系企業が進出していて、現地にどんなサプライヤーがいるのかを調べることができます。そこから自社のお客様になり得る会社や、自分たちの業界が飽和しているか、もしくは足りていないのかを調べます。

現地への供給方法としては日本から供給する場合と現地で供給する場合が考えられますが、輸送コストの面から現地での供給を考えたほうがいいでしょう。

現地での供給方法は次の選択肢があります。

  • 自社で工場を出す
  • 委託先を探す
  • 合弁会社を探す

お客様にメリットが出るような技術や加工製品があれば、日本からの供給でもうまく行く可能性がありますが、よりニッチなマーケットに入っていくことが重要です。

日本でできる海外進出情報の集め方

先にお伝えした通り、海外進出において事前の情報収集は欠かせないのですが、どのような情報収集の方法があるのでしょうか。

JETROの短信ニュース

日経新聞や日刊工業新聞にJETROの短信ニュースが掲載されることがありますが、現地の情報が要約されていて読みやすくなっています。

現地のビジネス情報メディア

今はWebの翻訳機能が優秀になっているので、現地の言語を知らなくても違和感なく読めます。できればニュースで言っていることが本当なのかどうか、現地の経営者に聞くことが望ましいのですが、ここまでやるにはある程度人脈を築くことが大事です。

「LinkedIn」の活用

LinkedInはビジネスをする目的でできており、世界で6億人以上のユーザーが使用しているSNSです。使われる頻度の多い英語で情報発信をすることが重要です。LinkedInで海外の経営者や取引先と繋がることができれば、その人が転職したとしてもすぐ連絡が取れます。

これから海外進出をお考えの製造業の方へ

まず、海外展開する前に「日本と海外ではニーズもライバルも全然違う」ことを受け入れる必要があります。
一方で、日本で評価されている技術や製品というのは海外でも十分通じる可能性があるという自信を持ちましょう。

大切なのは、自社の強みをしっかりと把握することです。
そしてニッチで尖ったところだけで勝負する、絶対勝てる自信があるところだけで勝負する、という考え方が大切です。
そのために、Webでの発信を強化して、自分たちが勝てるところはどこなのかを特定しましょう。

「何となく海外に出ていって、メイドインジャパンだから人気が出る」という時代は残念ながらだいぶ前に終わっています。

いかにピンポイントで自分たちが勝てるところで勝負するか、ということが大切です。

販路開拓会社の「グローカルソリューションジャパン」は【的確な戦略】と【販路開拓のアドバイザリ】をできる専門家が揃っています。

海外販路の開拓を自分たちでやるには難しいと感じている方は、お気軽にご相談ください。

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BtoB企業が海外でやるべきSNSは?海外のSNS利用動向

マーコム・サポーターの椎名です。中小企業や個人事業主のマーケティング活動をサポートする傍ら、ライティング活動も行っています。今回は、BtoB企業が海外でSNSマーケティングを検討するにあたって役立つ、海外SNSの利用動向について取り上げます。

企業における海外向けSNSの利用動向

コロナ禍以降、デジタル活用の動きが活発になっていますが、その流れの中で、SNSのグローバル展開を検討する企業が増えています。SNSは、潜在顧客への認知喚起やブランディングとして企業に積極的に活用されています。それは国内に限らず海外でも基本的に目的は同じです。

ただし、ソーシャルメディアの活用方法は国によって特性が異なります。Facebookの利用率が非常に高い国もあれば、独自SNSが発展した国もあります。ユーザーの属性、用途は国によってバラバラです。全く同じ投稿でも文化の違いや国民性によって受け入れられるものとそうでないものがあります。

海外でSNSを活用するのであれば、対象国のSNS利用状況や各国のソーシャル事情を理解した上で情報発信したいところです。ここからは、世界各国のSNS利用状況について解説いたします。

BtoBで主に使われるSNS

BtoBの領域でも、海外でのSNS活用を積極的に行っている企業が多いです。現在は、海外進出先、特に日本の周辺国であるアジアやアメリカなどで主に検討されています。

BtoBで主に海外向けに利用されているSNS媒体は、主にFacebook、Twitter、YouTube、LinkedInの4種類です。グローバルでシェアの高い媒体で情報発信されている傾向がありますが、中国のように政府規制が入っていて発信が難しいところでは、自国のローカルSNSも対象になります。

BtoBが海外活用する主要SNS

ここでは、BtoB企業が海外でよく使う主なSNSについて、利用者数の多い国地域や、中核となる利用者の属性について簡単に概要を説明します。

Facebook

Facebookは、全世界で利用者数が最も多いSNSです。2022年1月時点で約29億人が利用しています。実名制SNSであり、ターゲティング精度が高く、低価格で広告運用しやすい特徴があります。

地域別にみると、特に浸透率が高いのは東南アジアで、なかでも台湾、フィリピンはネット利用者の9割を超えるユーザーが利用しています。欧米でも利用者は多く、浸透率は概ね6割前後となっていますが、足元は伸びが鈍化しています。

YouTube

動画SNSで、近年目覚ましく成長しているのがYouTubeです。2022年1月時点での利用者は約26億人で、Facebookに次ぐ規模になります。Facebookの利用者が全体的に鈍化基調なのに対し、YouTubeはここ数年、Facebookの倍のスピードで伸び続けています。

YouTubeは地域問わず普及していますが特に欧米の浸透率が高く、おおむね8割前後となっています。また幅広い年齢層に受け入れられており、広告のリーチも高いです。動画マーケティングの注目度の高さもあって力を入れている企業が非常に多いです。

Twitter

Twitterは匿名で情報発信できるSNSで、拡散力の高い媒体です。2022年1月時点の利用者は約4.3億人となります。情報収集目的で利用するユーザーが多く、ニュース性の高い発信が好まれる傾向にあります。

利用者が一番多い地域は米国、次いで日本です。日本ではネット利用者の過半数がTwitterを利用していますが、海外ではそこまで浸透率は高くありません。比較的浸透している米国や英国でも浸透率は3割前後になります。

LinkedIn

LinkedInはビジネス特化型のSNSです。日本ではほとんど普及していませんが、世界では8億人以上が利用しています(2022年1月時点)。25~34歳の若手ビジネスユーザーが中核で、リクルーティング目的で活用している企業が多く、人に焦点をあてた発信内容が目立ちます。

主な地域のSNS事情

ここでは、BtoBで対象となる主な地域について人気のSNS媒体の傾向や主な利用者層、用途について簡単に整理します。

米国

米国で普及しているSNS TOP3は以下になります。

  • 1位:YouTube
  • 2位:LinkedIn
  • 3位:Facebook

米国ではYouTubeの普及がダントツ1位です。2位はLinkedIn、3位は僅差でFacebookとなります。LinkedInに関してはメンバーの登録数をベースとしているので同じ土俵での比較ではないことをご注意ください。Facebookは以前YouTubeと同等の水準でしたが、近年その差が広がっています。

米国は日本同様、若年層のFaceboo離れが進んでいて利用者層の高齢化が進んでいます。Instagram(現在4位)が追い上げており勢いが強いです。

中国

中国のSNS TOP3は以下です。

  • 1位:WeChat
  • 2位:Sina Weibo
  • 3位:Baidu Tieba

中国は政府の規制で外国のサービスが遮断されているため、ローカル企業によるサービスが強くなっています。1位のWeChatは、いわゆる中国版LINEで、年代問わず広く使われています。ビジネス利用率も高いです。2位のSina Weiboは、中国版Twitterで、10~30代の若手層に人気です。

韓国

韓国のSNS TOP3は以下です。

  • 1位:Kakao Talk
  • 2位:YouTube
  • 3位:Facebook

1位のKakao Talkは、韓国ローカル企業が運営するメッセンジャーアプリでLINEに近いです。幅広い年齢層で活用されていますが、特に40代以上の利用率が高い状況です。3位のFacebookは日本と違い、若年層に受け入れられています。

台湾

台湾のSNS TOP3は以下です。

  • 1位:Facebook
  • 2位:Instagram
  • 3位:LINE

台湾ではFacebookの利用率が非常に高く、ネット利用者の9割超が利用しています。一方台湾ではTwitterは全く使われていません。台湾では口コミよりもブログが人気を集めており、ブロガーを活用したインフルエンサーマーケティングが有効になっています。

BtoB企業の海外SNS事例

最後に、BtoB企業の海外の取り組みについて2社ご紹介します。

オムロン株式会社

制御機器、電子部品を手掛けるオムロンは、中国ではWeChatとSina Weiboを活用し、それ以外の海外ではFacebookとLinkedInを使って情報発信をしています。 同社はオウンドメディアに力を入れており、SNSもこうしたメディアへ誘導するものが目立ちます。

Facebook: https://www.facebook.com/omron.corporation.global
LinkedIn: https://www.linkedin.com/company/omron-corporation/

株式会社三ヶ島製作所

三ツ島製作所は自転車ペタルや自動車部品を手掛ける従業員85名の企業です。企業規模は小さいですが、数年前からSNSで積極的に情報発信を行っています。Instagram とYouTubeは英語で情報発信しており、Instagramではフォロワー数が1万人に達しています。投稿頻度は月に数回程度とそれほど高くないですが、クオリティの高さがうかがえる写真投稿が目を引く内容となっています。

Instagram: https://www.instagram.com/mkspedal/
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCHyzsDrJ0Yfu2UlMXdxWf2g

まとめ

認知喚起やブランディング目的で海外のSNS活用を検討するBtoB企業が増えています。BtoB企業が活用する媒体はグローバルでシェアが高いFacebook、Twitter、YouTube、LinkedIn の4種類です。

ソーシャルメディアの活用のされ方は国によって特性が異なります。YouTubeはどの国でも人気が高いですが、特に欧米が顕著です。台湾などアジアではFacebookの利用が非常に高いですが、米国では若手層が離れていく傾向にあります。中国のように独自SNSが活用されている国もあります。

国ごとに出し分けるのは手間がかかりリソースがないとなかなか難しいですが、企業規模は小さくても高い認知度を獲得できている企業もあります。国ごとの特性の違いを見ながらうまく活用していくとよいでしょう。

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【実例あり】海外市場調査の5つの調査項目と具体的な調査方法を解説

テクノポートの稲垣です。この記事は、以下のような課題を抱えている方に読んでいただきたい内容になります。

▶︎「海外市場調査」とは何?
▶︎海外市場調査の必要性はある?
▶︎海外市場調査の具体的な方法は?
▶︎実際に海外市場調査を行なった例は?

そこで、この記事では以下の内容について解説します。

・海外市場調査について(定義、目的、必要性)
・海外市場調査の具体的な方法(調査項目、情報の収集方法)
・海外市場調査を行なっている企業の実例

テクノポート株式会社は、製造業の「海外販路開拓」を支援しています。

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海外市場調査の必要性

ここでは、海外市場調査の定義と、海外市場調査を行う目的を説明します。

「海外市場調査」とは?

海外市場調査とは「海外の進出候補国の市場を調査し、自社がその市場に参入できる余地があるかを確認すること」を言います。

海外市場調査の必要性(目的)

海外市場調査を行う最大の目的は「自社の海外進出の失敗確率を下げる」ことです。具体的には「自社の進出目的やビジネスモデルに適切な進出国を見極める」ことが目的です。
一般に海外進出には、以下の2種類の費用がかかります。(詳しくはこちらの記事を参照ください)

①準備費用
・情報収集コスト(例:市場調査費、現地調査のための渡航費、人件費)
・Webサイト関連コスト(例:海外販路開拓用のWebサイトの構築、運用費用、現地語への翻訳コスト)

②現地で事業を開始するための費用
・海外法人設立費用(例:事務所を作成し登記するための事務費用)
・ビザ発行費・ライセンス費(例:現地での労働ビザ発行費用、業種によってはライセンス費)
・事務所家賃(例:事務所を賃貸で借りる場合に発生)

仮に海外進出に失敗(撤退)してしまった場合、これらの費用が意味をなさない可能性があります。したがって、海外市場調査を入念に行うことで、海外に進出してから失敗(撤退)する確率を、可能な限り下げておく必要があると言えます。

また、調査の目的は「適切な進出国を見極める」ことであるため、調査結果によっては候補国に進出しないほうが良い、という結論が導かれる可能性も十分にあると言えます。

海外市場調査の5つの調査項目

次に海外市場調査で調べるべき5つの調査項目を紹介します。

①市場規模・成長率

自社製品(もしくは類似する他社製品)の「現地における市場規模」と「現在までの成長率」を調べます。

市場規模の大きさと成長率は、特にアジアの市場は変化が早く、先進国で数年かかった技術革新が1年ほどで完了することもあるため、最新の情報を収集する必要があります。

メーカーの場合

メーカーが市場規模を調査する場合、「製品の価格帯別の市場規模」「現地顧客の所得水準」「自社製品と同じ価格帯の他社製品の売れ行き」は最低限必ず調査しておく必要があります。

加工業の場合

加工業が市場規模を調査する場合、「納入先が販売する最終材が現地市場で今後も順調に伸びていく見込みがあるのか」を調査する必要があります。具体的には、納入先の移転の可能性、工場停止の可能性を調査します。

②潜在顧客

具体的に自社の製品・技術を購入してくれる「取引先候補のリスト」を作成します。

この潜在顧客のリストは、進出後数年の売上計画を立てる上でも、営業候補先も決める上でも重要な役割を果たします。

製造業の場合

製造業が潜在顧客リストを作成するときには「日系の潜在取引先」に加えて「他国からの外資企業」「地場企業」を確認しておく必要があります。加えて、現地の同業他社の流通経路(例:どのように部品、原材料を調達しているのか)も併せて確認しておくと、競合のビジネスモデルを理解するときに役立ちます。

③同業・競合他社

進出候補国の同業他社、競合他社の調査を行います。具体的には、以下のような点を調べる必要があります。

情報収集項目
現地業界の地場有力企業 提供する付加価値、収益を得る仕組み
以前から進出している外資企業、日系企業の現地法人 提供する付加価値、収益を得る仕組み
現地で成功している企業 品質、価格、納期
現地企業、現地外資企業 製品の品質、価格、納期
現地業界の特徴 生産規模が最低どのくらい必要か、自社が他社に対して保持する優位性は何か
業界組合 業界組合があるか、ある場合はどのような活動を行なっているか
地場企業と外資企業の関係性 対立構造があるか、ある場合の要因は何か、宗教的な製品に関する基準や観点は関係するか

④仕入れ先

進出候補国内において自社製品製造のための原材料や部品の供給元があるかを調べます。

特に注意して調べることとして、以下のような項目が挙げられます。

原料に天然資源が含まれる場合

供給業者が公社など政府機関や国営企業であったり、国の規制や慣行から取り扱いができる業者が限られていないか(外資企業が直接調達できるかどうかも調べる)

原材料の供給が進出先以外の国からの輸入になる場合

直接費用(例:関税、輸送代金)と間接費用(例:材料や製品の在庫維持費)を考慮し、コストが合うかどうか

現地の日本企業から新規に部品を調達する場合

安定的に部品を調達してくれるのか

⑤新規参入障壁

進出先の市場に自社が新たに参入する場合の参入障壁の高さを調べます。

参入障壁は低ければ低いほど良いわけではありません。なぜなら参入障壁が高いことは、自社の競合先が追いかけて参入してくる際の障壁も高いことを意味するためです。

参入障壁の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 進出先の国内の業界規制(例:会社設立は可能でも、現地での営業権が与えられない場合)
  • 一定の設備投資が進出の条件となる場合
  • 販売ルートの確立に費用と労力がかかる場合
  • 現地の有力企業がすでに競合と提携を結んでいる場合(例:現地の有力企業と提携を結ぶことを考慮している場合)

この中でも、1つ目の「進出先の国内の業界規制」は国内での調査が困難であるため、現地の同業者へのヒアリング、もしくは専門家への調査依頼が必要になります。

また、2つ目の「一定の設備投資が進出の条件となる場合」は、進出の際だけではなく、撤退の際も障壁になることを念頭に置く必要があります。

具体的な情報収集方法5選

次に具体的な情報収集の方法を5つ紹介します。

①公開情報

1つ目の方法は、公開情報を利用することです。特に信頼できる機関が発信している情報を優先的に使用することをおすすめします。

信頼できる機関が発信している情報の例として、以下のようなものが挙げられます。

情報の種類 代表的な情報源
進出候補国の基礎的な情報 JETROやアセアンセンターのWebサイトに掲載されている情報
会計・税務情報、現地の法律に関する情報 会計事務所、法律事務所のWebサイトに掲載されている情報
海外進出全般に関わる情報 公的機関および海外進出支援機関が行うセミナー、およびセミナーで配布される資料
外資規制に関する情報 進出先候補国の政府の外資誘致担当部署のWebサイトに掲載されている情報

②専門家

①公開情報だけでは収集しきれない、進出候補国の業界情報、現地の有力企業に関する情報は、専門のコンサルタントに調査を委託する方法があります。

専門家に頼るのではなく、自社の社員による出張調査という手段もありますが、時間とコストがかかる上に、経験不足により思ったような情報が得られない可能性があります。

中小企業が注意すること

中小企業が専門家に委託調査をお願いする場合、大手日系コンサルティング企業へ調査を委託することはやめた方が良いと言えます。理由は、費用が高い上に、現地からの生の声が聞けなくなるため、費用に見合った成果が得られないケースがあるためです。(詳しくはこちらの記事を参照ください)

したがって、中小企業がなるべく費用をかけずに調査を行う場合、現地の調査会社に直接依頼する方法が無難と言えます。現地の調査会社を選定する際は、調査会社ができるだけユーザーに近い場所に所在しており、十分な調査実績がある会社を探して調査を依頼するほうが良いと言えます。

調査会社の探す方法として、信頼できる経営者仲間に紹介してもらう方法も有効であると言えます。以上のような方法がいずれも現実的ではない場合、進出候補国に自社より先んじて進出している同業の企業、もしくは競合しない企業の日本本社に赴いて情報収集を行うことも視野に入れましょう。

③本邦事務所

進出先の政府機関などの本邦事務所(各国の政府機関の事務所)が日本にある場合、訪問して情報収集を行う方法があります。

本邦事務所には、投資認可に関する最新の情報が揃っており、自社の投資計画に関する意見をもらえる可能性があります。また本邦事務所のスタッフは、日本企業の進出を支援することが仕事であるため、出張に先立ち現地本庁への確認や自社のPRポイントも考えてくれることがあります。

本邦事務所の例としては、以下のような機関が挙げられます。(リンクは別タブで開きます)

本邦事務所
韓国 大韓貿易投資振興公社(KOTRA)
マレーシア マレーシア工業開発庁(MIDA)
インドネシア インドネシア投資調整庁(BKPM)
タイ タイ投資委員会(BOI)
インド インド商工省産業政策振興庁(DIPP)
フィリピン フィリピン投資委員会(BOI)

④自社Webサイト

外国語でWebサイトを制作し、現地取引候補企業からの反応を調査する方法です。(外国語で各国の需要調査を行う具体的な方法は、後日別記事で解説予定です)

自社Webサイトを制作し、運用することで海外の顧客からの反響度合い、顧客の属性、海外の企業が抱えている課題を直接情報収集できます。

外国語Webサイトを作るにあたり、進出候補先の候補が絞りきれていない場合、英語サイトを作り全世界向けに情報発信を行い、反響が大きかった国に焦点を絞って候補先を選定する方法が一般的です。(英語サイトで反響を出すまでの流れはこちらの記事を参照ください)

一方、進出候補国が数カ国に絞れている場合、進出候補先の言語でWebサイトを制作し、現地企業からの問い合わせ獲得を狙う方法が効果的です。

⑤現地出張

国内での情報収集を一通り終え、進出候補国が絞り込めた場合、現地出張を行う方法があります。(現地出張の情報収集の具体的な方法は別記事で解説予定です)

現地出張では、以下のようなポイントに気をつけて情報収集を行いましょう。

現地でしか得られない情報を収集する

現地では、アポイント先からのヒアリングを中心に、現地でしか得られない情報を収集します。事前に用意した質問に対する回答を集める方法が効果的です。

アポイント候補先の例として、以下のような訪問先が挙げられます。

訪問先 収集する情報の例
現地政府機関 外資誘致の条件
現地の公的機関、金融機関、すでに進出している会社 自社が現地で予定している事業内容に関する意見

国内で収集した情報の確認

国内で収集した情報の確認を行います。現地で新しい情報を獲得することと同じくらい、国内で得た情報が正しいのかを現地で確認する作業も重要であると言えます。

海外市場調査の実例紹介

最後に海外市場調査を行い、世界中の企業から問い合わせを獲得している企業の例を紹介します。今回の例は、先ほどの海外市場調査の情報収集方法の中でも「④自社Webサイト」を使った事例になります。

株式会社メルテック

本社 千葉県流山市
社員数 100名
事業内容 フォトエッチング加工、エンコーダ用スケールの設計、製造、販売
取材記事 英語サイトで「海外の新規顧客開拓」と「製品の需要調査」を実現

こちらの企業は、英語サイトの制作・運用を通して、取引を拡大させたいヨーロッパの企業を中心に、世界中の企業から自社製品に対してどのような反応が得られるのか、を調べることを目的に海外市場調査を実施しました。

現在では、ヨーロッパ(フランス、イギリス)、アメリカ、カナダの企業からの問い合わせが来ているため、進出候補先を絞るための貴重な情報源として活用しています。

まとめ

本記事では、以下の内容を解説しました。

  • 海外市場調査の必要性(目的):自社の進出目的やビジネスモデルに適切な進出国を見極める
  • 海外市場調査の5つの調査項目:①市場規模・成長率、②潜在顧客、③同業・競合他社、④仕入れ先、⑤新規参入障壁
  • 具体的な情報収集の方法5選:①公開情報、②専門家、③本邦事務所、④自社Webサイト、⑤現地出張

海外市場調査を行う上で、本記事の内容が参考になれば幸いです。

テクノポート株式会社は、製造業の「海外販路開拓」を支援しています。

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【2021年版】中小製造業が海外進出で失敗する3つの理由と対策

テクノポートの稲垣です。この記事は、以下のような課題を抱えている方に読んでいただきたい内容になります。

▶︎中小企業の海外進出が失敗する主な原因は?
▶︎海外進出の失敗の影響を抑えるために必要な準備は?
▶︎海外進出で失敗しないための戦略は?

そこで、この記事では以下の内容について解説します。

・中小企業が海外進出に失敗する3つの理由
・中小企業が海外から撤退できた要因3選
・中小企業が海外進出で失敗しないための戦略

なお本記事で使用するデータは、すべて参考文献へのリンクを記載しています。ご自身でデータの内容を確認したい方は、ご参照ください。

この記事を執筆しているテクノポート株式会社は「外国語サイトの制作・運用のサポート」を通して、企業様の海外販路開拓を支援しています。(サービスの実績はこちらからご覧いただけます)

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中小企業が海外進出する割合

失敗する理由に入る前に、まずどれくらいの中小企業が海外展開しているのかを確認します。

こちらの図は、中小企業庁が1997年から2018年における「中小企業の海外展開比率」を表したグラフです。


参考資料:中小企業庁:2021年版「中小企業白書」 第3節 グローバル型・サプライチェーン型企業の目指す方向性と支援の在り方

グラフが示す通り、中小企業の海外展開の動き(直接輸出と直接投資)はともに増加傾向が続いており、統計が開始された1997年の時に比べ、どちらも約5%の増加が確認できます。

日本企業の海外拠点数を調べたこちらの記事でも解説しているように、ASEANを中心しとたアジア諸国への進出が特に目立ちます。

参考記事


海外進出に失敗する3つの理由

「海外進出の失敗」とは?

本題に入る前に、この記事における「海外進出の失敗」という言葉の定義を明確にしておきます。

この記事では海外進出の失敗とは、撤退という意味と同義になります。厳密には「本国の親企業が在外子会社の企業活動に対する支配を放棄すること」と定義します。(参考文献:日本企業の海外進出と撤退についての一考察

結論

それでは、本題の海外進出に失敗する3つの理由を紹介します。

結論からまとめると、海外進出で失敗する3つの理由は「①現地市場での売上の減少」「②輸出の低迷」「③コストの増加」です。これらの理由は、2020年12月の日本貿易振興機構の「2020年度 海外進出日系企業実態調査」のデータを参照しています。

以下では順にそれぞれの要因について解説します。

①現地市場での売上の減少

回答グループ 「事業縮小もしくは移転・撤退の理由」として回答した割合, %
製造業全体 46.0
中小企業(非製造業含む) 50.9

最も大きな理由とも言えるのが「現地市場での売上の減少」です。

こちらの理由が原因で事業縮小もしくは移転・撤退をした回答した企業は、大企業、中小企業関わらず最も高い比率となっています。

製造業の場合、東南アジアにおいて現地の日本企業から獲得していた案件が急になくなる(もしくは規模が縮小する)ことによって利益の確保が難しくなることが典型的なケースとして挙げられます。

タイのバンコクに拠点を構えて、現地の日本企業向けに部品調達を行っていた会社が、急に仕事がなくなり現地企業から新規の仕事を獲得するか、撤退するかの選択を迫られるケースもあると言われています。

②輸出の低迷

回答グループ 「事業縮小もしくは移転・撤退の理由」として回答した割合, %
製造業全体 51.2
中小企業(非製造業含む) 36.6

製造業全体で見ると、先ほどの「現地市場での売上の減少」より高い比率であったのが「輸出の低迷」です。

輸出が低迷する原因として、物流コストが上昇傾向にあることが挙げられます。物流コストの上昇にともない、海外に拠点を持つ日本企業が生産部品供給を現地で完結させたいという需要が強まり、結果として輸出に対する需要が低迷していると考えられます。

例えば、以前は中国から部品を輸入していたベトナムの日本企業メーカーが、物流コストを抑えるために現地の部品供給先に切り替えます。この動きによって、中国からの部品供給が低迷するといった流れです。

③コストの増加

回答グループ 「事業縮小もしくは移転・撤退の理由」として回答した割合, %
製造業全体 37.0
中小企業(非製造業含む) 30.8

こちらの「コスト」とは、主に原材料・部品の「調達コスト」「人件費」のことを指します。

調達コストの上昇は、物流コストの上昇の影響を受けていることが主な原因であると考えられます。調達コストが増加した結果、利益の確保が難しくなり、撤退の選択を迫られる企業が多いと言えます。

人件費の問題については、近年では中国を含めたアジア諸国の人件費の高騰が続いていることが関わっていると言えます。アジア諸国の人件費が高騰している主な理由として、現地の低賃金労働者が収入の増加を目的に海外へ出稼ぎに行くことが増えていることが挙げられます。

海外から撤退できた要因3選

次に海外からの撤退経験を有する日本企業が、撤退できた要因として挙げた3つの取り組みを紹介します。なおこれらのデータは、「中小企業による海外撤退の実態 −戦略的撤退と撤退経験の活用−」のデータを参考にしています。

それでは要因として挙げた企業の比率が高いものから順に紹介します。

①独資での進出(回答企業の比率:37.0%)

撤退できた要因として最も挙げられたのが、「独資での進出」です。一般に独資で法人を設立するメリットとして「製品や技術情報の流出リスクが少ない」ことや「経営の自由度が高い」が挙げられますが、撤退の際にも、特に後者の「経営の自由度が高い」ことが有利に働くと言えます。(一方で、独資での法人設立のデメリットは、投資資金が高く、現地での販路開拓が難しいことが挙げられます。詳しくはこちらの記事を参照してください)

一方で、合弁で法人を現地に設立する場合は、進出前の段階であらかじめ撤退の基準を明確に決めて、進出前にパートナー企業と合意形成をしておく必要があると言えます。

②撤退の決断の早さ(回答企業の比率:33.3%)

撤退できた要因として次に多かった回答項目が、「撤退の決断の早さ」です。こちらの行動は単に撤退を迫られた状況下での決断の早さだけではなく、進出時に撤退の条件を具体化しておくことが重要であると言えます。

撤退の条件の策定に加えて、以下のような事前準備も必要になると考えられます。

・税理士・会計士への相談
・パートナー企業との事前交渉
・現地従業員、現地日本人スタッフの処遇の決定
・撤退資金の調達
・現地政府、自治体との交渉

③現地パートナーの協力(回答企業の比率:30.9%)

「撤退の決断の早さ」の次に多くの回答を集めたのが、「現地パートナーの協力」です。現地パートナーとビジネス上で良好な関係を築くことは、現地で仕事の受発注を円滑に行うことに加え、撤退する上でも重要だと言えます。

現地パートナー企業との関係性の重要さを示すデータとして、2012年の中小基盤整備機構の調査によると、「現地パートナー企業とのトラブル」を撤退理由として挙げた企業は全体の23.6%にのぼり、3番目に大きな理由として挙げられています。(1位は受注先、販売先の開拓・確保の困難性(27.6%)、2位は生産・品質管理の困難性(23.6%))

海外進出で失敗しないための戦略

最後に、海外進出の撤退の要因を考慮した上で、中小製造業が海外進出で失敗しないための戦略をご紹介します。今回は、弊社が主に海外進出をサポートさせていただいている「中小製造業の海外進出」に焦点を絞って戦略を説明します。

中小製造業全体の海外進出戦略

まず製造業の業種に関わらず、全体として共通の戦略を説明します。

国内の戦略を応用する

海外進出で失敗しない企業の特徴として、国内のニッチな分野で戦略を立てて成功している企業は、海外でも成功しやすいということが言えます。なぜなら、国内でも海外でも利益を上げる構造の根幹となる考え方に大きな違いはないからです。

海外進出という言葉を聞くと、世界の競合と戦うために何か特別な戦略が必要ではないか、と考えられる方が多いと思います。しかし実際は、国内の市場で生き抜くために考え抜かれた戦略が海外の市場開拓においても通じることが多いと感じます。加えてほとんどの中小製造業の場合、市場開拓にかけられる予算を考慮すると、世界的なシェアを取りに行くことは難しいため、国内で強みが活きるマーケットをそのまま海外に拡張する形が最も安全な方法であると言えます。

また、進出する上での最低条件として、質の高い製品・サービスが提供できることに加えて、独資での進出が望ましいと言えます。(理由は海外から撤退できた要因の①独資での進出を参照してください)

メーカーの海外進出戦略

次に中小製造業の中でも、メーカーの海外進出戦略を説明します。

現地語でWebサイト構築する

中小完成品メーカーが海外で自社製品を販売する場合、海外の「販売代理店」を通して自社製品を販売する方法が一般的です。

しかし、大企業に比べ、中小企業が優秀な販売店を捕まえるこは難しい現実があります。理由として、優秀な販売代理店は有名企業がコンタクトをとっている可能性が高く、代理店側も売上が見込める製品、すなわち大企業の有名な製品を販売したい傾向があることが挙げられます。

この問題を解決する一つの方法として、中小完成品メーカーは、外国語(少なくとも英語と現地語)で自社製品について理解してもらえるサイトを構築することをおすすめします。外国語のWebサイトは、見込み顧客への自社および自社製品の紹介の役割もありますが、自社の製品を売ってくれる販売店の獲得を狙う意味もあります。

加えて、外国語Webサイトから候補となる販売代理店が見つかると、展示会に参加する必要性も抑えられるという副次的なメリットもあります。

営業活動に積極的に関わる

2つ目の戦略は、メーカー自身が現地での顧客開拓、クロージングに積極的に関わることです。先ほども説明したように、優秀な販売代理店は大手企業、有名企業に持っていかれてしまう可能性が高いです。したがって、販売代理店に現地での顧客の発掘からクロージングまで全て任せてしまうと、成果に結びつかないケースが多いです。

したがって、現地での新規顧客開拓で失敗しないためには、少なくとも販売店が独り立ちするまでは、中小企業自らが営業活動に積極的に関わる必要があると言えます。また現地の販売代理店は、製品のメンテナンスや現地の顧客対応、現金やり取りが必要な場合に使われることが多いため、そもそも営業活動に十分な時間を確保できないケースも考えられます。

加工業の海外進出戦略

最後に加工屋の海外進出戦略を説明します。

現地の異業種と積極的に関わりを持つ

日本の加工屋が海外進出する際の主な理由の一つとして、「現地の日本企業向けの部品供給」が挙げられます。この目的での海外進出自体は問題ありませんが、現地の日本企業からの仕事が減った時のためにリスクを分散させる仕組みを作っておくことはとても重要です。(中小企業が海外進出に失敗する3つの理由で説明したように「現地市場での売上の減少」が中小企業全体で最も大きな原因となっています)

このリスク分散の方法として、現地の異業種の企業を含めたさまざまな業界と繋がりを築いておくことが挙げられます。具体的な手法には、海外の現地企業から見つけてもらえるようなサイトを作ることが考えらえれます。こうすることで、現地の日本企業からもらえる仕事が減った時に、困らなくなる仕組みを作ることができます。

したがって、加工業が海外に拠点を作る場合、現地の日本企業からの仕事を受けつつ、現地の企業からも仕事を受注できるようなマーケティング活動を同時並行で行う方法が安全であると言えます。

まとめ

本記事では、以下の内容を解説しました。

  • 中小企業が海外進出する割合:年々増加傾向
  • 海外進出に失敗する3つの理由:①現地での売上の減少、②輸出の低迷、③コストの増加
  • 海外から撤退することができた要因3選:①独資での進出、②撤退の決断の早さ、③現地パートナー企業との協力
  • 海外進出で失敗しないための戦略:中小製造業全体(国内の戦略を応用)、メーカー(現地語Webサイトの構築、営業活動への参加)、加工業(異業種との関わりを持つ)

海外進出を成功につなげるために、本記事の内容が少しでも役に立てば幸いです。

この記事を執筆しているテクノポート株式会社は「外国語サイトの制作・運用のサポート」を通して、企業様の海外販路開拓を支援しています。(サービスの実績はこちらからご覧いただけます)

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【解決事例あり】日本企業が海外進出時に直面する3つの課題と解決策

テクノポートの稲垣です。この記事は、以下のような課題を抱えている方に読んでいただきたい内容になります。

▶︎海外進出する日本企業の数はどのように変化しているのか?
▶︎日本企業が海外進出時に直面する課題は?
▶︎それらの課題の解決策は?

そこで、この記事では以下の内容について解説します。

・海外進出する日本企業の数の推移
・海外進出する日本企業が直面する課題
・課題を解決するための解決策と解決した事例

この記事を執筆している弊社(テクノポート株式会社)は「英語サイトの制作・運用のサポート」を通して、企業様の海外販路開拓を支援してきた実績があります。

この記事では、実際に弊社が海外進出の支援をさせていただいているお客様からのご意見を参考に執筆しています。(弊社の詳しいサービスの内容はこちらからご覧いただけます)

統計情報

まず、海外進出する日本企業の数の推移を調査した結果を紹介します。

海外進出の日本企業拠点数の推移

下のグラフは、外務省の「海外在留邦人数統計」のデータを用いて、海外の日本企業の拠点数を地域別にまとめたグラフです。

データ引用元:統計表一覧(令和2年(2020年)以前)|外務省

こちらのグラフを見ると、どの地域においても(多少の増減はあるものの)日本企業の拠点数は増え続けていることが確認できます。この結果から、日本企業の海外進出への機運は年々高まっていることが予想されます。

海外の日本企業拠点数の年成長率の推移

下の図は、それぞれの地域の拠点数の年成長率の推移を表すグラフです。

データ引用元:統計表一覧(令和2年(2020年)以前)|外務省

こちらのグラフを見ると、中南米に進出する企業の成長率が、大きく伸びていることが確認できます。この要因として、中南米の自動車市場向けの工場建設や、生産設備の拡大が考えられます。(参考:「2019年度 中南米進出日系企業実態調査」の結果について | 2020年 – 記者発表 – お知らせ・記者発表 – ジェトロ

地域別の日本企業の拠点数の割合

また、下の図は、2020年10月時点の地域別の日本企業の拠点数の割合を示したグラフです。


データ引用元:統計表一覧(令和2年(2020年)以前)|外務省

こちらのグラフを見ると、海外の日本企業の拠点の約7割がアジアに位置していることがわかります。これは、中国をはじめとする新興国市場の急成長が関係していると考えられます。

参考記事

日本企業が海外進出において抱える3つの課題

次に、日本企業が海外進出の際に直面する3つの課題を説明します。これらの課題は、弊社のお客様にインタビューをさせていただいた内容を参考にしています。

①社内体制の整備

「社内体制」とは、具体的には以下のような業務を行える体制のことを指します。

・貿易の実務作業を行える人材の確保、貿易実務の実行
・料金回収の実務(例:信用状の作り方)
・取引相手の与信管理
・外国企業との取引におけるリスクマネジメント(例:法律リスクの管理、契約書の作成方法)
・外国企業からの問い合わせ対応できる人材の確保
・自社製品・サービスが海外で問題を起こしたときの顧客対応

これらの業務は社内に「外国企業との取引に関する専門知識を有する人材」と「語学力を有する人材」を確保していないと、実現が難しいため、国内の企業とのみ取引を行なってきた企業の多くが直面する課題であると言えます。

また、これらの取引体制の整備に加えて、外国企業との取引には法律上のリスク(例:法の未整備、外資規制)、カントリーリスク(例:進出先の経済状況の悪化、テロ、内乱)がともなうため、これらの問題に対する対処方法も考えておく必要があります。

②取引拡大の方法

「外国企業とどうやって取引を拡大させたらいいのかわからない」という課題です。具体的には、以下のような課題が当てはまります。

・自社の製品、サービスの販売を代行してくれる代理店の見つけ方がわからない
・海外展示会に参加を考えているが、どうやって取引企業・販売代理店を見つけるのかわからない
・外国企業との取引拡大をする方法は知っているが、どの方法が自社に適しているのかわからない
・外国語のWebサイトは持っているが、海外の企業からお問い合わせが来ることはほとんどなく、どうやって反響を出せば良いのかわからない

海外に自社の製品・サービスを売るためには、貿易を通した取引を行う場合は「取引を行なってくれる外国企業」、現地で製品を売る場合は「販売代理店」を見つける必要があります。

また、これらの方法で取引を行うにしても、複数ある手法の中からどの方法を採用するのかを検討する必要があります。(海外進出の方法については、こちらの記事を参照してください)

③市場の選定

世界中の国と地域の中から「自社の製品・サービスの需要が見込める市場を絞り込む方法がわからない」という課題です。具体的には、以下のような課題が当てはまります。

・自社の製品、サービスが海外で需要があるのかどうかがわからない
・自社の競合・顧客となる企業が多く集まる地域がわからない
・自社と同じ業種、業界でオンライン上で競合となり得る企業がわからない
・海外の競合他社と比較したときに、自社製品の強みが何かわからない
・世界中の企業と取引を拡大するべきか、ある程度ターゲットを絞った方が良いのかわからない

海外の市場の選定方法は、次で解説する「課題の解決策」を参照してください。

課題の解決策

次に先に挙げた3つの課題の解決方法を3つ紹介します。

①海外進出支援サービスの活用

これは、先に挙げた課題の中でも「①社内体制の整備」と「③市場の選定」の解決策となり得る方法です。例えば、以下のような利用法が考えられます。

・海外企業との取引業務、リスクマネジメント業務を代行してくれる社外の専門業者(副業人材)に外注する
・海外進出先の選定、拠点設立に関して専門家から助言をもらう
・進出先で販売ネットワークを持っている販売代理店に製品の販売、顧客対応、料金の回収を依頼する
・国際展示会の出展支援サービスを活用する

これらの方法の共通のメリットは、海外進出に必要な自社の人材・労力の使用を最小限に抑え、外部のプロフェッショナルのノウハウ、労力を活用できることです。

したがって、前者のメリットは社内の人件費の節約、後者のメリットは海外進出を成功する確率を高めることにつながると言えます。

一方で、これらの方法の共通のデメリットとして、外注するための費用がかかることが挙げられます。そのほかに外注先の候補となる企業の選定、そもそもの外注するべきサービスの選定にも、時間と労力をかける必要があります。

②国際展示会への出展

これは、先に挙げた課題のうち「①社内体制の整備」、②取引拡大の方法」の解決策となり得る方法です。例えば、以下のような利用法が考えられます。

・自社の製品、サービスに興味を持ってくれるお客様を発掘する
・自社の製品、サービスの販売代理店の候補を発掘する
・自社と海外で協業、パートナー関係を結ぶ候補となる企業を発掘する

国際展示会へ出展する最大のメリットは、海外の顧客開拓と同時に、販売代理店の候補を発掘できる点です。

というのも、国際展示会には新しい商材を探している小規模な商社や販売代理業者も数多く来場しているため、それらの業者に向けて発信をすれば、彼らの興味を引くことができます。

したがって、展示会に出展する際は必ず目的を明確に設定し「どのターゲットに向けて情報発信をするのか」をあらかじめ設定しておく必要があります。ターゲットが決まったら、そのターゲットに向けた文章(例:〜の地域における販売代理店募集)を掲載する必要があります。(海外展示会で代理店開発をする詳しい方法は、こちらの記事をご参照ください)

一方で、国際展示会へ出典するデメリットは、出展のための費用と労力がかかることです。

国内で開催される展示会と比べても、外国語での資料の準備、外国への渡航費・機材の輸送費(外国で開催する場合)、外国語対応できる人材の準備を行う必要があります。

③外国語Webサイトの制作・運用

これは、先に挙げたすべての課題(「①社内体制の整備」、「②取引拡大の方法」、「③市場の選定」)の解決策となり得る方法です。例えば、以下のような利用法が考えられれます。

・外国企業からの直接の問い合わせを獲得する
・世界中に情報発信を行うことで、自社の製品・サービスに興味を示してくれる企業が多い場所、需要が見込める地域を発見する
・進出先の言語でWebサイトを制作し、信頼の構築、現地企業との取引獲得の確率を高める
・外国人の採用力を強化し、社内で外国企業への対応を完結させる

外国語Webサイトの制作・運用を行う最大のメリットは、比較的に低予算で新規顧客の開拓、進出先の候補となる市場の発掘を行えることです。加えて、外国語Webサイトを外国人労働者の求人用に活用することもできるため、社内で外国語に対応できる人材を揃える上でも役に立ちます。

一方で、外国語Webサイトの制作・運用を行うデメリットは、制作・運用にある程度の知識とノウハウがある人材を揃える必要があることです。これは、そもそもWebサイト制作のノウハウに加えて、外国語への翻訳作業が発生することが大きな理由です。

また、制作だけは自社で行うことができても、実際に成果を上げるための作業にも専門的な知識が必要になるため、自社でWebサイトの運用に詳しい人材がいない場合は、業者に外注する必要があると言えます。

加えて、お問い合わせに外国語で対応する人材、貿易実務の対応は社内で行う必要が生じます。これらの業務に対しての社内体制の準備が揃っていない場合は、自社で完結することができない業務のみを「①海外進出支援サービスの活用」で補う必要があります。

海外進出における課題を解決した事例

次に、海外進出における課題を解決した事例を紹介します。今回は先に挙げた解決方法の中でも「③外国語Webサイトの制作・運用」により、海外の新規顧客開拓と、市場の発掘を行っている「株式会社メルテック」の事例を紹介します。(詳しい内容はこちらの記事からご覧ください)

株式会社メルテック

本社 千葉県流山市
社員数 100名
事業内容 フォトエッチング加工、エンコーダ用スケールの設計、製造、販売
取材記事 英語サイトで「海外の新規顧客開拓」と「製品の需要調査」を実現

同社は、海外との貿易業務、外国語対応できる人材は有していましたが、海外の新規顧客の開拓に課題を抱えていました。

そこで、英語サイトの制作・運用に本格的に取り組んだ結果、現在では安定して月に4,5件のお問い合わせを獲得できています。

また、英語Webサイトを経由したお問い合わせを通して、自社の製品・サービスに対する海外の顧客の需要を把握することにも役立てています。

まとめ

本記事では、以下の内容を解説しました。

  • 海外進出する日本企業の数:どの地域においても、日本企業の拠点数は増加傾向、2020年10月時点ではアジアが全体の7割
  • 日本企業が海外進出において抱える課題:①社内体制の整備、②取引拡大の方法、③市場の選定
  • 課題の解決策:①海外進出支援サービスの活用、②国際展示会への参加、③外国語Webサイトの制作・運用

海外進出における課題解決に、本記事の内容が参考になれば幸いです。

The post 【解決事例あり】日本企業が海外進出時に直面する3つの課題と解決策 first appeared on モノカク.

【製造業】海外進出する5つの方法・進出方法の選び方(メリット・デメリットも解説)

テクノポートの稲垣です。本記事は、下記のような疑問をお持ちの方に読んでいただきたい内容です。

・海外進出するための方法の種類が知りたい
・それぞれの方法のメリット・デメリットが知りたい
・自社にあった海外進出の手法が知りたい

そこで本記事では、以下の内容を解説します。

▶︎海外進出する5つの方法
▶︎それぞれの方法のメリット・デメリット
▶︎自社にあった海外進出方法の選び方

なお本サイトを運営する弊社テクノポートは、Webサイトの制作・運用を通して製造業の海外進出のサポートをしています。本記事には、海外進出サポートを通して得られた知見を生かした内容も含まれています。

海外進出する5つの方法

日本企業が海外進出する5つの代表的な方法と、それぞれの方法のメリット・デメリットを紹介します。

①現地生産法人

進出先の国において工場を設立、または既存の工場を買収し自社製品の生産拠点を設ける方法です。

この方法は「現状の生産設備では供給が間に合わない」または「新しい生産拠点を設けることに明確なメリットがある」場合に取るべき方法であると言えます。

現地生産法人には、現地で部品製造をするパターンの他に、自社製品の組み立てに必要な部品を特定の国に輸出し、現地の自社工場で組み立てて販売するというパターンもあります。(例:東南アジアで日本車メーカーのエンジンを組み立てる)

現地生産法人の設立方法は、次の2つのパターンに分かれます。

①独資
自社の出資のみで生産拠点法人を設立

②合弁
現地や他国のパートナー企業との共同出資により生産拠点法人を設立

以下の記事では、フランスで受託加工業の会社を経営する方に「現地パートナー企業の見つけ方とビジネスの進め方」を伺った内容を掲載しています。現地パートナー企業の探し方を詳しく知りたい方は、参考にしてください。

メリット・デメリット

メリット デメリット
独資
  • 自社の裁量で会社経営が可能
  • 利益配分の必要がない
  • 海外企業に技術・ノウハウの流出抑止
  • 出資の負担が大きい
  • 販売を伴う場合、販売網の構築を自社で行う必要がある
  • 国や事業内容によって禁止される可能性がある
合弁
  • 投資額とリスクを軽減可能(パートナー企業と分担できるため)
  • パートナー企業のノウハウを利用可能(例:政治力、販売力、設備)
  • パートナー企業の選定に手間がかかる
  • パートナー企業と経営方針、配当方針に関して衝突する可能性がある

②現地委託生産

進出先で自社製品の製造に協力してくれる工場を探し出し、製品の製造を委託する方法です。必要に応じて、製品の製造に必要な原材料の現地供給、部品調達先の確保、技術者の派遣を行う必要があります。

この方法は「海外に生産拠点を持ちたいが、自社だけで生産拠点を出資することが難しい」場合に取るべき方法であると言えます。

委託生産方式には次の2つのパターンが存在します。

①OEM(Original Equipment Manufacturer)
委託側が企画、設計を行った製品を受託側が製造し、委託側が販売(例:iPhone)
②ODM(Original Equipment Manufacturer)
委託側が企画を行なった製品を、受託側が設計から製造まで行い、委託側のブランドを利用して販売(例:Xiomi)

メリット・デメリット

メリット(委託側) デメリット(委託側)
  • 受託側の製造能力を利用し、製造力不足を補うことが可能
  • 製造にかかる設備投資・人件費を削減可能
  • 製造工程を委託することで設計開発に人的資本を投入可能
  • 増産や製造ラインの変更に時間がかかる(例:新製品製造用のラインを作る際にかかる時間)
  • 製品の品質が受託側の技術力に依存する
  • 製造ノウハウが自社に蓄積されない

③代理店・販売店取引

進出先の国に拠点を有する販売代理店と契約し、その国における販売を委託する方法です。販売代理店との契約形態は、以下の2つのパターンに分かれます。

①独占販売契約
特定の代理店に自社の製品を販売する権利を独占的に付与する契約(販売地域、販売期間を設定することが一般的)

②非独占販売契約
代理店が自社の製品を含めて複数社の製品を販売しても良い権利を与える契約

また販売代理店には「代理店(エージェント)」と「販売店(ディストリビューター)」の2種類が存在します。

代理店(エージェント)
製品の販売代行を行い、売り上げ金額に応じて成果報酬を与える契約形態を取る

販売店(ディストリビューター)
製品を販売店側で購入し、現地で売る際に発生する差額を与える契約形態を取る

以下の記事では、ベトナムで販売店(ディストリビューター)を活用し、製品を販売した経験のある方にインタビューした内容をまとめています。販売店(ディストリビューター)の探し方から具体的な販売のコツに関心のある方は、参考にしてください。

メリット・デメリット

メリット デメリット
  • 販売ネットワークを活用可能(例:現地の得意先、料金の回収、保守点検、メンテナンス)
  • 人件費を削減(自社の営業用人材を用意する必要がないため)
  • 品質管理、価格管理が困難(価格や販売方法が代理店・販売店任せになるため)
  • 信頼できるパートナー探しの手間がかかる
  • 自社に販売ノウハウが蓄積されない

④商社・輸出業者

自社製品を国内の商社または輸出業者を通して代理販売してもらう方法です。「貿易の実務から現地での販売までを全て任せたい」という企業が取るべき方法であると言えます。

メリット・デメリット

メリット デメリット
  • 商社のノウハウを活用可能(例:販売網、人脈、海外市場情報)
  • 貿易の実務経験がなくても海外に製品を販売可能
  • 海外顧客との取引業務における自社の負担を抑えられる(例:与信管理、代金処理、顧客対応)
  • 手数料がかかる(例:商社に仲介費用を支払う)
  • ノウハウが蓄積されない(貿易業務を外部委託するため)
  • 顧客の声が届きにくい(例:市場、顧客のニーズが把握しにくい)

⑤直接販売

自社の製品を海外の顧客に直接販売する方法です。外国語Webサイトを運用し外国企業と取引を行うパターン、越境ECサイトを構築し自社製品を海外顧客に販売するパターンも直接貿易に分類されます。

「貿易の実務から現地での顧客対応までを全て自社で完結させたい」場合に取るべき方法だと言えます。

メリット・デメリット

メリット デメリット
  • 費用の削減(例:商社にかかる手数料、現地に人を送り込む費用)
  • 海外市場調査が可能(Webサイト運用を通して各国の市場ニーズを把握できるため)
  • 貿易に関するノウハウの蓄積、社員の育成
  • 貿易取引リスクを自社で負担(例:法律知識、貿易実務を行う人材の育成、物流業者の選定)
  • ノウハウが必要(例:Webサイトの制作・運用、翻訳)

自社にあった海外進出方法の選び方

以上5つの方法を踏まえた上で、自社にあった海外進出方法の選び方を見ていきましょう。今回は、製品の「製造」が目的である場合と製品の「販売」が目的である場合の2つの場合に分けて解説します。

以下の表に、企業が抱えている課題とその企業が取るべき進出方法をまとめています。

「製造」が目的の場合

取るべき方法 課題
①現地生産法人(独資)
  • 出資額はかかっても良いので、自社の裁量で製造したい
  • 製造で発生した利益は全て自社で獲得したい
  • 製造に関する技術情報を他社に公開したくない
①現地生産法人(共同出資)
  • 現地法人を独資で設立するまでの資金を捻出するのは難しい
  • 現地法人への共同出資に協力してくれるパートナー企業の候補がある
  • パートナー企業との共同経営をうまく進める自信がある
②現地委託生産
  • 現地製造にかかるコスト(設備投資、人件費)をできる限り抑えたい
  • 人的資本を可能な限り設計開発に投資したい
  • 現地での原材料調達、部品調達の経路が明確にイメージできる

「販売」が目的の場合

取るべき方法 課題
③代理店・販売店取引
  • 海外で製品を販売したいが、現地で営業拠点を作るまでの投資はしたくない
  • 現地での販売を請け負ってくれる代理店の候補がある
  • 海外での販売に不安があるので代理店に販売業務を任せたい
④商社・輸出業者
  • 海外に製品を販売したいが貿易実務の経験がない
  • 利益が少なくなってもいいので、外部委託して貿易リスクを軽減したい
  • 自社製品を海外で販売するためのネットワークを有する商社の候補がある
⑤直接貿易
  • 海外で製品を販売するためのコストをできる限り抑えたい
  • 外国語Webサイトを有している、もしくはこれから作成し運用していく予定がある
  • 海外企業との取引を通して貿易ノウハウの蓄積、社員の育成を実現したい

まとめ

本記事では、以下の5つの海外進出方法を解説しました。

  1. 現地生産法人:進出先の国で工場を設立、買収し生産拠点を設ける方法
  2. 現地委託生産:進出先の国で他社の製造設備を利用し製品を製造(OEM)もしくは設計・製造(ODM)を行う方法
  3. 代理店・販売店取引:自社製品を海外に拠点を有する代理店・販売店に販売代行してもらう方法
  4. 商社・輸出代行:自社製品の輸出・販売業務を委託する方法
  5. 直接貿易:海外企業と直接やりとりを行い、自社製品を販売する方法

自社の海外進出の方法を決める上で、本記事の内容を参考にしていただければ幸いです。

世界の製造業⑬「アメリカ」

テクノポートの稲垣です。今回は「アメリカの製造業」を紹介します。

2020年11月3日から投票が行われたアメリカ大統領選挙は、民主党のジョー・バイデン候補が当選確実となりました。

今回は、バイデン大統領がアメリカの製造業にどのような影響を与えるのかを含めて、アメリカに進出する日本企業の目線からアメリカ製造業を掘り下げていきたいと思います。

基本情報

  • 正式名称:アメリカ合衆国(United States of America)
  • 首都:ワシントンD.C.(Washington, D.C.)
  • 大統領:ドナルド・J・トランプ(2017年1月~)
  • 通貨:アメリカ合衆国ドル(1ドル=104.66円 ※2020年10月31日時点)
  • 人口:約3億2775万人
  • 面積:約962.8万km2
  • 公用語:英語
  • 宗教:信教の自由を憲法で保障,主にキリスト教
  • 平均寿命:男76.1歳、女81.1歳

経済の特徴

強み

  1. 米ドル:世界の貨幣の中でも中心的な存在(準備通貨の約6割を占める)
  2. 市場:世界最大の市場規模を誇る(GDPで約20兆ドル)
  3. 研究開発:世界の研究開発費の20%を占めるイノベーションの拠点

弱み

  1. 政治の二極化:アメリカ国内での政治の分断(共和党支持者と民主党支持者、沿岸部と内陸部、都市部と地方)
  2. 格差社会:先進国の中でもトップクラスの経済格差(上位1%の持つ資産が下位90%の持つ資産を上回る)
  3. 労働市場参加率:2019年の労働市場参加率は78.4%と先進国の中では低い数字(OECDの調査)

産業構造

まずはアメリカの産業構造の調査結果を紹介します。下の図はアメリカの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:USA: Sectoral composition of the economy of USA| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業の割合は年々の減少傾向(サービス業の割合は増加傾向)
  • 2019年のGDPは約18.3兆米ドルで世界第1位(2位の中国は約11.5兆米ドル)

現状

  • 2020年7月から9月までのGDPの伸び率は前3ヶ月に対しプラス33.1%を記録(ビジネスの再開、個人消費の増加、輸出の増加などが要因)
  • ヘルスケア産業がアメリカ経済の中で存在感を高めている(2006年から2016年までの間で7倍の規模に成長)

今後

  • 専門家の予想によると、2020年のアメリカのGDPは前年比5.3%の減少
  • 専門家の予想によると、2021年のアメリカのGDPは前年比4.0%の増加

製造業全体

次にアメリカの製造業の調査結果を紹介します。下の図はアメリカの製造業が生み出す付加価値の遷移を示したグラフです。(縦軸は10億U.Sドル)


データ引用元:USA: Manufacturing value added| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 2009年以降、増加傾向が続く(2016年を除き)
  • 2017年の製造業が生み出す付加価値額は20億ドルで世界第2位

現状

  • 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年5月に36.1を記録するも、翌月以降急速に回復し2020年10月に53.3を記録
  • 非耐久消費財(使用寿命が3年以下の製品)がGDPの4.8%を占めておりアメリカの経済の大黒柱的な存在

今後

  • 人材不足により、GDPに対する製造業の割合は今後も縮小が続く見通し(熟練技術者の流失、他業界へ吸収されるため)
  • 生産効率の向上、天然ガス、原油の生産、新興市場の賃金の高騰などの要因でアメリカ製造業は市場規模が増加するという見通しもある

バイデン大統領がアメリカ製造業に与える影響

  1. 需要拡大:アメリカ製の製品、材料、サービスに対して4000億ドルの投資を行いアメリカ製造業に対する新たな需要を喚起
  2. 再教育:小規模な事業者、女性、有色人種が所有する製造業事業者に再教育を行い、製造業を活性化
  3. イノベーション産業:研究開発と最先端技術産業に3000億ドルの投資を行い、付加価値の高い分野の活性化、雇用の創出
  4. 投資拡大:都市部と農村部を含むすべての州に公共投資を行い、製造業の生産性の底上げ
  5. サプライチェーンの見直し:重要な商品の生産を中国をはじめとする他国に過度に依存することをやめ、アメリカ国内でサプライチェーンを構築

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からアメリカの製造業市場を調査した結果です。下の図はアメリカに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。


データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 進出日本企業数は統計開始の2008年から一貫して増加傾向
  • 州別の日系企業拠点数ではカリフォルニア州が516社で1位(2位はイリノイ州、3位はテキサス州)

現在

  • 2018年のJETROの調査によると、アメリカにおける日系企業の雇用者数は88万5200人で英国に続く世界第2位
  • 2018年のJETROの調査によると、在米日系企業の雇用者の41万8700人が製造業に従事

今後

  • インディアナ州(118件)を始めとする自動車工場のある州への投資が顕著であり、今後もその傾向が続く見通し
  • 日本企業によるアメリカへの投資はG7加盟国の中で最大であり、先進国の中でも安定的に成長を続けるアメリカに今後も投資が拡大する見通し

アメリカに進出した日本企業

株式会社バイタル

▶基本情報

  • 本社:長野県佐久市
  • 従業員数:37人
  • 事業内容:自動水栓の製造・販売

▶概要

近赤外線センサ内蔵の非接触式手洗い蛇口の製造・販売を行う企業。軽量かつ低価格な自動水栓の開発に成功し、1999年に米ボーイングのB777型機のビジネスクラス用に供給を開始。現在では、B787型機全機で同社の自動水栓が採用されている。同社は、部品製造を外注し、自動水栓の開発・製造のみに注力することで競争力を保っている。

山陽精機株式会社

▶基本情報

  • 本社:岡山県真庭市開
  • 従業員数:53人
  • 事業内容:金型の開発・製造

▶概要

金属製や樹脂製の工業製品部品用の金型を製造する企業。1995年にシカゴ州に同社初の海外事務所を設立。シカゴ事務所では北米での射出成形金型の販売に加え、同社の製品の修理・メンテナンス業務を行う。現在では、韓国、中国に生産拠点を構えており、積極的に海外展開を進めている。

株式会社ワールドケミカル

▶基本情報

  • 本社:東京都台東区台東
  • 従業員数:70人
  • 事業内容:耐食性ケミカルポンプ、ろ過機、浮上油(物)回収機器の製造・販売

▶概要

水処理場向けのケミカルポンプ、浮遊物回収機の製造・販売を行う企業。1998年1月に米国の代理店契約が失効したことをきっかけに、自ら自社製品を販売するために米国に事業所を設置。米国進出後、最初の2年間は利益が出ない状態が続いたが、3年目以降アメリカ流の販売開拓方法を導入し、現在に至るまで徐々に利益を伸ばしている。

まとめ

今回はアメリカの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果、他産業の急成長に伴いアメリカにおける製造業の市場規模は縮小傾向であるものの、製造業の生み出す付加価値額は増加傾向であり、依然として国の主柱的な産業であることが分かります。

進出する日本企業の傾向としては、自動車産業を中心に投資が活発であることが分かります。今回紹介した3社はそれぞれ自社独自の技術を生かした製品を駆使し、アメリカ市場に販路を拡大させています。今回の内容がアメリカ進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

【2022年版】アメリカの製造業(主要産業・進出している日本企業も調査)

テクノポートの稲垣です。今回は「アメリカの製造業」を紹介します。

2021年1月20日からアメリカ大統領に就任したジョー・バイデン氏の政権がスタートしてから1年以上が経過しました。

今回は、バイデン大統領がアメリカの製造業に今後どのような影響を与えるのかを含めて、アメリカに進出する日本企業の目線からアメリカ製造業を掘り下げていきたいと思います。

製造業のための新時代「海外販路開拓」overseas-web-marketing

基本情報

  • 正式名称:アメリカ合衆国(United States of America)
  • 首都:ワシントンD.C.(Washington, D.C.)
  • 大統領:ジョー・バイデン(2021年1月~)
  • 通貨:アメリカ合衆国ドル(1ドル=114.37円 ※2022年2月3日時点)
  • 人口:約3億2775万人
  • 面積:約962.8万km2
  • 公用語:英語
  • 宗教:信教の自由を憲法で保障,主にキリスト教
  • 平均寿命:男76.1歳、女81.1歳

産業構造

まずはアメリカの産業構造の調査結果を紹介します。下の図はアメリカの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:USA: Sectoral composition of the economy of USA| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業の割合は年々の減少傾向(サービス業の割合は増加傾向)
  • 2019年のGDPは約18.3兆米ドルで世界第1位(2位の中国は約11.5兆米ドル)

現状

  • 2020年7月から9月までのGDPの伸び率は前3ヶ月に対しプラス33.1%を記録(ビジネスの再開、個人消費の増加、輸出の増加などが要因)
  • ヘルスケア産業がアメリカ経済の中で存在感を高めている(2006年から2016年までの間で7倍の規模に成長)

今後

    • 専門家の予想によると、2020年のアメリカのGDPは前年比5.3%の減少
    • 専門家の予想によると、2021年のアメリカのGDPは前年比4.0%の増加

経済の特徴

強み

  1. 米ドル:世界の貨幣の中でも中心的な存在(準備通貨の約6割を占める)
  2. 市場:世界最大の市場規模を誇る(GDPで約20兆ドル)
  3. 研究開発:世界の研究開発費の20%を占めるイノベーションの拠点

弱み

  1. 政治の二極化:アメリカ国内での政治の分断(共和党支持者と民主党支持者、沿岸部と内陸部、都市部と地方)
  2. 格差社会:先進国の中でもトップクラスの経済格差(上位1%の持つ資産が下位90%の持つ資産を上回る)
  3. 労働市場参加率:2019年の労働市場参加率は78.4%と先進国の中では低い数字(OECDの調査)

製造業のための新時代「海外販路開拓」overseas-web-marketing

製造業全体

次にアメリカの製造業の調査結果を紹介します。下の図はアメリカの製造業が生み出す付加価値の遷移を示したグラフです。(縦軸は10億U.Sドル)


データ引用元:USA: Manufacturing value added| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 2009年以降、増加傾向が続く(2016年を除き)
  • 2017年の製造業が生み出す付加価値額は20億ドルで世界第2位

現状

  • 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年5月に36.1を記録するも、翌月以降急速に回復し2020年10月に53.3を記録
  • 非耐久消費財(使用寿命が3年以下の製品)がGDPの4.8%を占めておりアメリカの経済の大黒柱的な存在

今後

  • 人材不足により、GDPに対する製造業の割合は今後も縮小が続く見通し(熟練技術者の流失、他業界へ吸収されるため)
  • 生産効率の向上、天然ガス、原油の生産、新興市場の賃金の高騰などの要因でアメリカ製造業は市場規模が増加するという見通しもある

バイデン大統領がアメリカ製造業に与える影響

  1. 需要拡大:アメリカ製の製品、材料、サービスに対して4000億ドルの投資を行いアメリカ製造業に対する新たな需要を喚起
  2. 再教育:小規模な事業者、女性、有色人種が所有する製造業事業者に再教育を行い、製造業を活性化
  3. イノベーション産業:研究開発と最先端技術産業に3000億ドルの投資を行い、付加価値の高い分野の活性化、雇用の創出
  4. 投資拡大:都市部と農村部を含むすべての州に公共投資を行い、製造業の生産性の底上げ
  5. サプライチェーンの見直し:重要な商品の生産を中国をはじめとする他国に過度に依存することをやめ、アメリカ国内でサプライチェーンを構築

製造業の主要産業

次にアメリカの製造業の調査結果を紹介します。下の図は2017年のアメリカ製造業における市場規模トップ10を占める分野をまとめたグラフです。
データ引用元:2019 United States Manufacturing Facts | NAM

加えて、下の図は2018年のアメリカ製造業における雇用拡大率トップ10の分野をまとめたグラフです。
データ引用元:2019 United States Manufacturing Facts | NAM

それぞれのグラフから以下のことが分かります。

  • 1位化学製品(354m$)、2位エレクトロニクス製品(281m$)、3位食料品・タバコ(270m$)が上位3品目
  • 医薬品分野は市場規模、雇用の拡大率ともに最上位
  • 航空宇宙分野の市場規模は全体の7位だが、雇用の拡大率は9.67%と急成長
  • 自動車分野は市場規模は4位、雇用の拡大率は5位

製造業の代表企業

次に、アメリカ製造業の主要産業とそれぞれの分野における代表企業を紹介します。 ※企業のリンクは日本法人がある企業は日本法人のものを使用しています。

①医薬品関連産業

▶ファイザー(Pfizer)

  • 本社:ニューヨーク州
  • 事業内容:医療用医薬品の製造・販売・輸出入
特徴
  • 医薬品:2020年の売上高は517億ドルで世界第2位
  • 研究開発:2020年の研究開発費は86.5億ドルで世界第6位

▶ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)

  • 本社:ニュージャージー州
  • 事業内容:製薬、医療機器その他のヘルスケア関連製品の開発・製造・販売
特徴
  • 医薬品:2020年の売上高は422億ドルで世界第6位
  • 研究開発:2020年の研究開発費は88.3億ドルで世界第5位

②航空宇宙産業

▶ボーイング(Boeing)

  • 本社:イリノイ州
  • 事業内容:民間・軍用機器、宇宙空間用機器の製造・販売
特徴
  • 売上高:2019年の売上高は766億ドルで世界第2位
  • ジェット機:2018年のジェット機の納入数は806機で7年連続世界第1位

▶ユナイテッド・テクノロジーズ(United Technologies)

  • 本社:コネチカット州
  • 事業内容:航空機のエンジン、宇宙産業、防火・消火製品およびセキュリティサービス、その他工業製品の研究開発・製造
特徴
  • 売上高:2019年の売上高は469億ドルで世界第4位
  • 航空機部品:2019年の市場シェアは5.2%で世界第1位 ※レイセオンと合併して計算した場合

③エレクトロニクス産業

▶ヒューレット・パッカード(Hewlett-Packard)

  • 本社:カリフォルニア州
  • 事業内容:パーソナル・コンピューティングその他のアクセス・デバイス、イメージングおよびプリンティング関連製品の開発、製造、販売
特徴
  • PC:2019年のPC出荷台数は約5,800万台で世界第2位(世界シェアは22.2%で世界第2位
  • PCサーバー:2019年第4四半期のPCサーバーの市場シェアは14.9%で世界第2位

▶デル(DELL)

  • 本社:テキサス州
  • 事業内容:デスクトップ・コンピューター・システム、コンピューター周辺機器、モビリティ製品、ソフトウェア及び周辺機器の開発・製造・販売
特徴
  • PC:2019年のPC出荷台数は約4,400万台で世界第3位(世界シェアは16.8%で世界第3位
  • PCサーバー:2019年第4四半期のPCサーバーの市場シェアは16.1%で世界第1位

製造業のための新時代「海外販路開拓」overseas-web-marketing

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からアメリカの製造業市場を調査した結果です。下の図はアメリカに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。


データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 進出日本企業数は統計開始の2008年から一貫して増加傾向
  • 州別の日系企業拠点数ではカリフォルニア州が516社で1位(2位はイリノイ州、3位はテキサス州)

現在

  • 2018年のJETROの調査によると、アメリカにおける日系企業の雇用者数は88万5200人で英国に続く世界第2位
  • 2018年のJETROの調査によると、在米日系企業の雇用者の41万8700人が製造業に従事

今後

  • インディアナ州(118件)を始めとする自動車工場のある州への投資が顕著であり、今後もその傾向が続く見通し
  • 日本企業によるアメリカへの投資はG7加盟国の中で最大であり、先進国の中でも安定的に成長を続けるアメリカに今後も投資が拡大する見通し

アメリカに進出した日本企業

株式会社バイタル

▶基本情報

  • 本社:長野県佐久市
  • 従業員数:37人
  • 事業内容:自動水栓の製造・販売

▶概要

近赤外線センサ内蔵の非接触式手洗い蛇口の製造・販売を行う企業。軽量かつ低価格な自動水栓の開発に成功し、1999年に米ボーイングのB777型機のビジネスクラス用に供給を開始。現在では、B787型機全機で同社の自動水栓が採用されている。同社は、部品製造を外注し、自動水栓の開発・製造のみに注力することで競争力を保っている。

山陽精機株式会社

▶基本情報

  • 本社:岡山県真庭市
  • 従業員数:53人
  • 事業内容:金型の開発・製造

▶概要

金属製や樹脂製の工業製品部品用の金型を製造する企業。1995年にシカゴ州に同社初の海外事務所を設立。シカゴ事務所では北米での射出成形金型の販売に加え、同社の製品の修理・メンテナンス業務を行う。現在では、韓国、中国に生産拠点を構えており、積極的に海外展開を進めている。

株式会社ワールドケミカル

▶基本情報

  • 本社:東京都台東区
  • 従業員数:70人
  • 事業内容:耐食性ケミカルポンプ、ろ過機、浮上油(物)回収機器の製造・販売

▶概要

水処理場向けのケミカルポンプ、浮遊物回収機の製造・販売を行う企業。1998年1月に米国の代理店契約が失効したことをきっかけに、自ら自社製品を販売するために米国に事業所を設置。米国進出後、最初の2年間は利益が出ない状態が続いたが、3年目以降アメリカ流の販売開拓方法を導入し、現在に至るまで徐々に利益を伸ばしている。

まとめ

今回はアメリカの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果、他産業の急成長に伴いアメリカにおける製造業の市場規模は縮小傾向であるものの、製造業の生み出す付加価値額は増加傾向であり、依然として国の主柱的な産業であることが分かります。

進出する日本企業の傾向としては、自動車産業を中心に投資が活発であることが分かります。今回紹介した3社はそれぞれ自社独自の技術を生かした製品を駆使し、アメリカ市場に販路を拡大させています。今回の内容がアメリカ進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

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世界の製造業⑫「ロシア」

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業ヨーロッパ編の第五弾として「ロシアの製造業」を紹介します。

世界最大の国土を有するロシアですが、東南アジアに比べ日本製造業企業の進出先として候補に挙がることは多くないと思います。しかし、2020年1月の調査によると、在ロシア日系企業の68%が2019年の営業利益見通しを黒字と回答しています。同データからも分かるように、ロシア市場は日本企業にとって利益の見込める市場であると言えます。

今回は、そんなロシア製造業を日本企業の視点から掘り下げていきたいと思います。

基本情報

  • 正式名称:ロシア連邦(Russian Federation)
  • 首都:モスクワ(Moscow)
  • 大統領:ウラジーミル・プーチン(2000年5月~2008年5月、2012年5月~)
  • 首相:ミハイル・ミシュスティン(2020年1月~)
  • 通貨:ロシア・ルーブル(1ロシア・ルーブル=1.37円 ※2020年10月2日時点)
  • 人口:約1億4680万人
  • 面積:約1710万km2
  • 公用語:ロシア語
  • 宗教:ロシア正教、イスラム教、仏教、ユダヤ教
  • 平均寿命:男67.5歳、女77.6歳

経済の特徴

強み

  1. 天然資源:世界銀行の推定によると、ロシアが有する天然資源の価値は75兆USドル(天然ガス、木材、鉱物等)
  2. 経済安定性:公口座(政府の資金)と外部口座が強固であるため、外部からの障害による影響を受けにくい
  3. 市場規模:ロシアの名目GDPは1.64兆円(世界で11番目に大きい市場規模)
  4. 変動相場性:ロシア・ルーブルの為替レートが固定されていないため、外部環境に柔軟に対応することができる

弱み

  1. 人口変動:人口は1993年まで単調増加していたがその後は増加、減少を繰り返す
  2. インフラ未整備:2018年の調査によるとインフラ整備度ランキング世界61位(投資の不足が主な原因)
  3. 技術力:外国の技術への依存度が高い(アメリカとヨーロッパ諸国によりオフショア開発を阻害されているため)

産業構造

まずはロシアの産業構造の調査結果を紹介します。下の図はロシアの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:Russia : Sectoral composition of the economy of Russia| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業と農業が減少傾向、サービス業が増加傾向
  • 世界のGDPの1.96%を占める(世界第12位)

現状

  • 製造業のGDPは前年比10%マイナス成長見通し(新型コロナウイルスの影響により、鉱業と輸送車両分野で深刻な打撃を受けたため)
  • 天然ガスによる収益はGDPの3.7%、天然資源による収入がGDPの15.5%を占める

今後

  • 2021年のGDPは2.7%の上昇、2022年のGDPは3.1%の上昇見通し(2022年に新型コロナウイルスの影響から完全に回復する予想)
  • 2020年から2022年にかけて、原油価格の下落により政府の予算が赤字に転じる見通し

製造業全体

次にロシアの製造業の調査結果を紹介します。下の図はロシアの製造業が生み出す付加価値の遷移を示したグラフです。(縦軸は10億U.Sドル)


データ引用元:Russia : Manufacturing value added| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 2016年以降、製造業が生み出す付加価値は増加が続く
  • 2019年の製造業が生み出す付加価値額は2兆225億ドル(世界第8位)

現状

  • 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年5月に31.3を記録するも、翌月以降急速に回復し2020年8月に51.1を記録
  • 2020年の製造業の生産高は現在も減少傾向が続く(2020年8月の生産高は前月比-8.0%

今後

  • 2020年のGDPは前年比-4.5%が達成可能である見通し(消費者主導型分野の回復、国家主導型製造業の落ち込み等が要因)
  • 専門家によると、2020年の製造業の生産高は4.7%の減少見通し(2021年は3.4%の増加見通し)

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からロシアの製造業市場を調査した結果です。下の図はロシアに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。


データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフと関連データから以下のことが分かります。

現状

  • 2016年の調査によると、製造業は進出企業の43.0%を占める
  • 2016年の調査によると、進出企業の64.7%がモスクワ州に拠点を設けている

今後

  • 2020年6月の調査によると、2021年以降もロシア市場で事業を継続する在ロシア日系企業は約8割
  • 2020年6月の調査によると、事業の拡大を図る在ロシア日系企業の数は約半減

ロシアに進出した日本製造業企業

フラット合成株式会社

▶基本情報

  • 本社:北海道札幌市
  • 従業員数:20人(海外駐在1名含む)
  • 事業内容:プラスチック素材の製造・販売

▶概要

プラスチック製品の製造、プラスチック素材の販売を行う企業。1989年にロシアにサケ・マス人工増殖孵化機器の輸出を開始し、2012年に同地域に事務所を設立。同社は、人工孵化機器のプラスチック製容器の製造に加え、養殖の成功率を高める技術の提供も行う。現在は、ロシア政府の方針によりサケマスの孵化施設の建設が盛んであるサハリン州で販路を拡大。

株式会社ニッコー

▶基本情報

  • 本社:北海道釧路市
  • 従業員数:96人
  • 事業内容:食品加工機械設備の製造・販売

▶概要

食品加工ロボットシステムの企画から製造・販売まで手掛ける企業。ホタテ貝加工機をはじめとする水産加工機械を主軸商品に、2009年ロシア企業との販売代理店契約を締結。「顧客ニーズに対応したものづくり」を基本軸に装置改良を行い、海外パートナー企業との信頼関係を構築。

和同産業株式会社

▶基本情報

  • 本社:岩手県花巻市
  • 従業員数:256人
  • 事業内容:草刈り機、除雪機器、農業機械の製造・販売

▶概要

中・大型除雪機器の国内生産台数トップ企業。2017年秋にジェトロが主催する日露中小企業交流会への参加を機に、2018年に同社初の国際展示会への出展。同年にロシア現地企業とのパートナー契約を締結。現在は、製品購入後のサポート体制構築と海外各地で部品供給先の確保に力を入れている。

まとめ

今回はロシアの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果、国家主導型製造業は新型コロナウイルスの影響により大きな落ち込みを記録し、回復に時間を要している印象を受けます。

今回紹介したロシアに進出した日本製造業企業はいずれも、ロシアの地理的特徴を上手く利用し自社の製品を販売していることが分かります。今回の内容がロシア進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業⑪「イギリス」

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業ヨーロッパ編の第四弾として「イギリスの製造業」を紹介します。

かつては「世界の工場」と呼ばれたイギリスですが、1979年のサッチャー政権以降、製造業からサービス業、金融・保険業へのシフトが続いています。また2020年2月1日のEU離脱により、イギリス進出を考えなおしている日本の製造業事業者の方も多いと思います。今回は、上述したトピックを今後のイギリス製造業と合わせて掘り下げていきます。

基本情報

  • 正式名称:グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain & Northern Ireland)
  • 首都:ロンドン(London)
  • 首相:ボリス・ジョンソン(2019年7月から)
  • 通貨:ポンド(1ポンド=133.89円 ※2020年9月21日時点)
  • 人口:約6602万人
  • 面積:約24.9万km2
  • 公用語:英語(ウェールズ語、ゲール語等含む)
  • 宗教:キリスト教(約72%)、無信仰(約15%)、ムスリム教(約3%)
  • 平均寿命:男78.6歳、女83.1歳

経済の特徴

強み

  1. 石油・ガス:石油とガスがイギリスの総一次エネルギー需要の3/4以上を占める
  2. 先端産業:航空宇宙産業、医薬品産業、自動車産業で最先端技術を有する企業が複数
  3. 税制:2015年の国際企業に対する法人税は20%でG20諸国の中で最も低い数字

弱み

  1. EUとの関係:EU離脱によるEU各国との貿易の不安定性
  2. 労働生産性:労働生産性の低下が続く(資本投資の低下、熟練労働者の減少、高雇用率・低金利による非効率な会社の存続が理由)
  3. 地域格差:ロンドンを中心とする南東イングランド地方とそのほかの地域での輸送、エネルギーインフラの格差

産業構造

まずはイギリスの産業構造の調査結果を紹介します。下の図はイギリスの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:United Kingdom: Sectoral composition of the economy of the United Kingdom| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業と農業はGDPに占める割合が減少傾向が続く
  • 世界のGDPの3.36%を占める(世界第5位)

現状

  • 製造業がGDPに占める割合は2010年から2014年の間に回復傾向を示したが、その後は減少が続く
  • サービス業がGDPに占める割合は71.26%と高い(世界第9位)

今後

  • 2020年のGDPは前年比-10.1%と大きく減少し、2021年に6.5%の増加予想(新型コロナウイルスの影響)
  • 2020年の失業率は8.3%と大きく増加し、2021年に6.6%に減少する予想(新型コロナウイルスの影響)

製造業

次にイギリスの製造業の調査結果を紹介します。下の図はイギリスの製造業が生み出す付加価値の遷移を示したグラフです。(縦軸は10億U.Sドル)


データ引用元:United Kingdom: Manufacturing value added| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業の生み出す付加価値は約8年の周期で上下を繰り返す
  • イギリスの製造業が生み出す付加価値は2兆431億ドル(世界第7位)

現在

  • 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年5月に13.8を記録するも、翌月以降急速に回復し2020年8月に59.1を記録(世界第1位)
  • 国内の需要は回復傾向を示しているが、輸出は過去3年の中で最も低い数字を記録

今後

  • 熟練技術者不足の課題を解決すべく、行政と企業が若手技術者の育成に力を入れる方針
  • EUを脱退したため、製造業の輸出先としていたEU諸国との貿易が従来よりも難航する予想

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からイギリスの製造業市場を調査した結果です。下の図はイギリスに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。


データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフと関連データから以下のことが分かります。

・2014年の1084社以降は単調減少傾向
・在英日本商工会議所の会員数は現在371社

現在

  • 進出日本企業の業種は、製造業39.3%)、サービス業(17.4%)、卸売業(17.2%)、金融・保険業(13.6%)
  • 進出日本企業の年商規模は、100億~1000億円未満が32.3%、1000億円以上が26.5%、10億~100億円未満21.5%、都道府県別では東京都が56.5%で最多

今後

  • イギリスのEU離脱に伴い、イギリスを経由して欧州とのやり取りが発生する場合関税が往復で2度発生するため、サプライチェーンの再構築に取り組む企業が増加する予想
  • 在英日系製造業企業の内、EU離脱によってマイナスの影響を受けたと回答した企業の割合は70.8%(通関・物流の混乱、関税コスト、通関手続きの発生が主な理由)

イギリスに進出した日本製造業企業

株式会社ネリキ

▶基本情報

  • 本社:兵庫県尼崎市
  • 従業員数:190人
  • 事業内容:高圧ガス容器用バルブの製造・販売

▶概要

1930年創業の高圧ガス容器用のバルブ製造販売メーカー。1995年にアイルランドに現地法人「NERIKI EUROPE LTD.」を設立。「商品ではなく、品質を売る」をモットーにISO9001(製品・サービスの品質マネジメントシステムの国際規格)を取得。現在では、イギリスを含めた世界7カ国の工業規格に合わせた製品を販売し、高圧ガス容器用バルブの分野で世界的なシェアを拡大している。

巴バルブ株式会社

▶基本情報

  • 本社:大阪市西区
  • 従業員数:210人
  • 事業内容:流体制御機器及び周辺機器の製造・販売

▶概要

国内シェア1位を誇るバタフライバルブメーカー。1986年に海外進出の拠点として現地のサンダースバルブ社と折半出資で同社初の海外製造・販売拠点「トモエサンダース」をウェールズに設置。現在ではイギリスをはじめ、台湾、シンガポール、フィリピン、タイ、中国、インドネシア、アメリカに工場および製造・販売拠点を有する。

東洋シール工業

▶基本情報

  • 本社:奈良県生駒郡
  • 従業員数:535人
  • 事業内容:工業用/自動車用ゴム製品の製造・販売

▶概要

転がり軸受用ゴムシールの開発から製造・販売までを行う。1997年にイギリス工場で生産を開始(2006年に生産を終了し、現在は営業所として機能)。現在は、インドネシア、ポーランド、中国に工場を有しており、それぞれの向上でISOを取得済み。

まとめ

今回はイギリスの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果,イギリス製造業はGDPに対する割合は年々減少しているものの、生み出す付加価値自体は近年増加傾向であると分かります。またイギリス製造業のPMIは2020年8月時点で世界トップの数字であり、新型コロナウイルスの影響からの急速な回復が期待されます。

進出する日本企業の視点から考えると、EU離脱によって関税、通関、物流の問題が浮上し、日本製造業企業の多くがサプライチェーンの見直し、もしくはイギリスからの撤退を検討していることが分かりました。ただ、世界5位のGDPに代表されるように、市場規模は大きく進出先の一つの選択肢として考慮するべき国であることは変わりないと思います。今回の内容がイギリス進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業⑪「イギリス」

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業ヨーロッパ編の第四弾として「イギリスの製造業」を紹介します。

かつては「世界の工場」と呼ばれたイギリスですが、1979年のサッチャー政権以降、製造業からサービス業、金融・保険業へのシフトが続いています。また2020年2月1日のEU離脱により、イギリス進出を考えなおしている日本の製造業事業者の方も多いと思います。今回は、上述したトピックを今後のイギリス製造業と合わせて掘り下げていきます。

基本情報

  • 正式名称:グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain & Northern Ireland)
  • 首都:ロンドン(London)
  • 首相:ボリス・ジョンソン(2019年7月から)
  • 通貨:ポンド(1ポンド=133.89円 ※2020年9月21日時点)
  • 人口:約6602万人
  • 面積:約24.9万km2
  • 公用語:英語(ウェールズ語、ゲール語等含む)
  • 宗教:キリスト教(約72%)、無信仰(約15%)、ムスリム教(約3%)
  • 平均寿命:男78.6歳、女83.1歳

経済の特徴

強み

  1. 石油・ガス:石油とガスがイギリスの総一次エネルギー需要の3/4以上を占める
  2. 先端産業:航空宇宙産業、医薬品産業、自動車産業で最先端技術を有する企業が複数
  3. 税制:2015年の国際企業に対する法人税は20%でG20諸国の中で最も低い数字

弱み

  1. EUとの関係:EU離脱によるEU各国との貿易の不安定性
  2. 労働生産性:労働生産性の低下が続く(資本投資の低下、熟練労働者の減少、高雇用率・低金利による非効率な会社の存続が理由)
  3. 地域格差:ロンドンを中心とする南東イングランド地方とそのほかの地域での輸送、エネルギーインフラの格差

産業構造

まずはイギリスの産業構造の調査結果を紹介します。下の図はイギリスの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:United Kingdom: Sectoral composition of the economy of the United Kingdom| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業と農業はGDPに占める割合が減少傾向が続く
  • 世界のGDPの3.36%を占める(世界第5位)

現状

  • 製造業がGDPに占める割合は2010年から2014年の間に回復傾向を示したが、その後は減少が続く
  • サービス業がGDPに占める割合は71.26%と高い(世界第9位)

今後

  • 2020年のGDPは前年比-10.1%と大きく減少し、2021年に6.5%の増加予想(新型コロナウイルスの影響)
  • 2020年の失業率は8.3%と大きく増加し、2021年に6.6%に減少する予想(新型コロナウイルスの影響)

製造業

次にイギリスの製造業の調査結果を紹介します。下の図はイギリスの製造業が生み出す付加価値の遷移を示したグラフです。(縦軸は10億U.Sドル)


データ引用元:United Kingdom: Manufacturing value added| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業の生み出す付加価値は約8年の周期で上下を繰り返す
  • イギリスの製造業が生み出す付加価値は2兆431億ドル(世界第7位)

現在

  • 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年5月に13.8を記録するも、翌月以降急速に回復し2020年8月に59.1を記録(世界第1位)
  • 国内の需要は回復傾向を示しているが、輸出は過去3年の中で最も低い数字を記録

今後

  • 熟練技術者不足の課題を解決すべく、行政と企業が若手技術者の育成に力を入れる方針
  • EUを脱退したため、製造業の輸出先としていたEU諸国との貿易が従来よりも難航する予想

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からイギリスの製造業市場を調査した結果です。下の図はイギリスに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。


データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフと関連データから以下のことが分かります。

・2014年の1084社以降は単調減少傾向
・在英日本商工会議所の会員数は現在371社

現在

  • 進出日本企業の業種は、製造業39.3%)、サービス業(17.4%)、卸売業(17.2%)、金融・保険業(13.6%)
  • 進出日本企業の年商規模は、100億~1000億円未満が32.3%、1000億円以上が26.5%、10億~100億円未満21.5%、都道府県別では東京都が56.5%で最多

今後

  • イギリスのEU離脱に伴い、イギリスを経由して欧州とのやり取りが発生する場合関税が往復で2度発生するため、サプライチェーンの再構築に取り組む企業が増加する予想
  • 在英日系製造業企業の内、EU離脱によってマイナスの影響を受けたと回答した企業の割合は70.8%(通関・物流の混乱、関税コスト、通関手続きの発生が主な理由)

イギリスに進出した日本製造業企業

株式会社ネリキ

▶基本情報

  • 本社:兵庫県尼崎市
  • 従業員数:190人
  • 事業内容:高圧ガス容器用バルブの製造・販売

▶概要

1930年創業の高圧ガス容器用のバルブ製造販売メーカー。1995年にアイルランドに現地法人「NERIKI EUROPE LTD.」を設立。「商品ではなく、品質を売る」をモットーにISO9001(製品・サービスの品質マネジメントシステムの国際規格)を取得。現在では、イギリスを含めた世界7カ国の工業規格に合わせた製品を販売し、高圧ガス容器用バルブの分野で世界的なシェアを拡大している。

巴バルブ株式会社

▶基本情報

  • 本社:大阪市西区
  • 従業員数:210人
  • 事業内容:流体制御機器及び周辺機器の製造・販売

▶概要

国内シェア1位を誇るバタフライバルブメーカー。1986年に海外進出の拠点として現地のサンダースバルブ社と折半出資で同社初の海外製造・販売拠点「トモエサンダース」をウェールズに設置。現在ではイギリスをはじめ、台湾、シンガポール、フィリピン、タイ、中国、インドネシア、アメリカに工場および製造・販売拠点を有する。

東洋シール工業

▶基本情報

  • 本社:奈良県生駒郡
  • 従業員数:535人
  • 事業内容:工業用/自動車用ゴム製品の製造・販売

▶概要

転がり軸受用ゴムシールの開発から製造・販売までを行う。1997年にイギリス工場で生産を開始(2006年に生産を終了し、現在は営業所として機能)。現在は、インドネシア、ポーランド、中国に工場を有しており、それぞれの向上でISOを取得済み。

まとめ

今回はイギリスの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果,イギリス製造業はGDPに対する割合は年々減少しているものの、生み出す付加価値自体は近年増加傾向であると分かります。またイギリス製造業のPMIは2020年8月時点で世界トップの数字であり、新型コロナウイルスの影響からの急速な回復が期待されます。

進出する日本企業の視点から考えると、EU離脱によって関税、通関、物流の問題が浮上し、日本製造業企業の多くがサプライチェーンの見直し、もしくはイギリスからの撤退を検討していることが分かりました。ただ、世界5位のGDPに代表されるように、市場規模は大きく進出先の一つの選択肢として考慮するべき国であることは変わりないと思います。今回の内容がイギリス進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業⑩「イタリア」

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業ヨーロッパ編の第三弾として「イタリアの製造業」を紹介します。

イタリア産業は新型コロナウイルスの影響により大きな打撃を受けました。しかし2020年5月以降、製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は急速に回復しており、従来の数値を超えるほどにまで力を取り戻しています。今回は2020年9月現在、急速に回復しているイタリア製造業を日本企業の視点から掘り下げていきたいと思います。

イタリアの基本情報

  • 正式名称:イタリア共和国(Repubblica Italiana)
  • 首都:ローマ(Roma)
  • 首相:ジュゼッペ・コンテ(2018年6月から)
  • 通貨:ユーロ(1ユーロ=125.88円 ※2020年9月7日時点)
  • 人口:約6,060万人
  • 面積:約30万1328km2
  • 公用語:イタリア語
  • 宗教:カトリック(約80%)イスラム教、プロテスタント、ユダヤ教、仏教
  • 平均寿命:男79.6歳、女85.1歳

イタリア経済の特徴

強み

  1. 製造業:自動車産業、医薬品産業、繊維産業が盛ん
  2. 輸出:製造業関連の輸出(高級車、自動車部品、金属)に加え、衣料品(服、靴)の輸出が盛ん
  3. 観光業:2018年の統計によると、イタリアには6,160万人の観光客が訪れた(世界第5位)

弱み

  1. 失業率:2014年に過去最高の失業率12.7%を記録、若者の失業率が高く頭脳流出(優秀な人材の流出)が深刻化
  2. 企業競争力:国内の90%以上の企業が従業員10人以下の小企業、競争力の低下が進む
  3. 地域格差:治安の良い北部地方(殺人発生率の低さOECD加盟国の中でトップ1%圏内)に対し、治安の悪い南部(殺人発生率の低さOECD加盟国の中で下位10%圏内)

イタリアの産業構造

まずはイタリアの産業構造の調査結果を紹介します。下の図は2017年のイタリアの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合を示したグラフです。


データ引用元:Italy GDP – composition by sector – Economy – IndexMundi

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業と農業の占める割合は全体の約1/4
  • GDPの総額は約21.47億ドルで世界第9位(2019年)

現状

  • GDPにおける製造業が占める割合は2013年に13.85%を記録して以来緩やかに上昇を続ける
  • サービス関連業は増加傾向が続いていたが2014年以降、減少が続く

今後

・イタリアのGDP増加率が近年減少傾向(不安定な政治情勢、ユーロエリアでの不景気などの理由)
・新型コロナウイルスにより2020年のGDP増加率は-9.1%を記録する予想(2021年は4.8%の増加予想)

イタリアの製造業

次にイタリアの製造業の調査結果を紹介します。下の図はイタリアの製造業が国内総生産(GDP)に占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:Italy : Manufacturing value added| TheGolobalEconomy.com

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 製造業生み出す付加価値は2015年から上昇傾向
  • 製造業が生み出す付加価値は世界5位(2019年)

現状

  • 製造業のPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年5月に31.1を記録するも、翌月以降急速に回復し2020年8月に53.1を記録
  • 製造業がGDPに占める割合は14.91%で世界41位(2019年)

今後

  • イタリアの製造業は2019年から2023年までCAGR(年平均成長率)1.6%で成長する見通し
  • イタリアの製造業がPLC(Programmable Logic Controller)市場で80%以上、低電圧ACモータードライブ市場で70%以上のシェアを獲得する見通し

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からイタリアの製造業市場を調査した結果です。下の図はイタリアに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。


データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフと関連データから以下のことが分かります。

  • 進出日本企業数は2015年をピークに減少傾向が続く
  • 在イタリア日本商工業会議所の会員数は199社(内135社が普通会員、64社が賛助会員)

現状

  • 電機、自動車部品、化学・素材、エネルギー分野の日本企業の進出が多い
  • 近年、日本企業が現地イタリア企業を買収する形で進出するケースが増えている(毎年10~20件程度

今後

  • 2020年3月にイタリア政府はEUガイダンスを公表し外資規制を強化する姿勢を示した
  • 新型コロナウイルスの影響により多くの企業が経営難に陥り、企業価値が下がっている中で自国の戦略的資産を保護する動きが散見される

イタリアに進出した日本企業

株式会社ダイドーリミテッド

▶基本情報

  • 本社:東京都千代田区
  • 従業員数:42人(単体)
  • 事業内容:衣料品の製造・販売

▶概要

2016年イタリアのPontetorto S.p.a(ファッションウェア向け生地の製造・販売業者)を子会社化する形で欧州に進出。Pontetorto S.p.aが有する欧州での強固な販売基盤と婦人服向け衣料素材、スポーツ向け衣料素材を取り込むことで顧客の拡大を狙う。同社は中国にも製造拠点を有しており海外への事業展開に積極的。

石川ガスケット株式会社

▶基本情報

  • 本社:東京都港区
  • 従業員数:137人
  • 事業内容:ガスケットの製造・販売

▶概要

自動車エンジン部品の一つであるガスケット(液体の漏れを防止するための部品)を自社独自の技術で製造・販売する企業。2000年にイタリアのトリノにヨーロッパ初の支店を設立。現在は現地企業SPESSO GASKETS, SRLに生産委託で業務提携をしており、欧州のみならずアジア、北米地域への販路開拓にも積極的に取り組んでいる。

滲透工業株式会社

▶基本情報

  • 本社:長崎県西彼杵郡
  • 従業員数:187人 ※国内グループ全体
  • 事業内容:金属表面改質処理、ランスパイプの製造

▶概要

金属材料に所望の特性を付与させる金属表面改質技術を強みにする企業。1984年に同社初の海外子会社となるSHINTO ITALIA S.p.Aを設立。1996年に同子会社でISO9001(製品・サービスの品質マネジメントシステムの国際規格)を取得。現在は本社と同じ事業を扱っており、欧州の市場開拓の拠点として重要な役割を担う。

まとめ

今回はイタリアの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果、前回紹介したフランスの製造業同様に欧州の製造業は急速な回復傾向を示していることが分かりました。

進出日本企業数は増加傾向とは言えないものの、イタリア製造業がGDPに占める割合は近年増加傾向にあるため、魅力的な市場であることに変わりはないと言えます。今回紹介したデータを含めて考えると、ヨーロッパの拠点としてイタリアも有力な候補になると思います。今回の内容がイタリア進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

2020年の製造業「フランス」

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業ヨーロッパ編の第二弾として「フランスの製造業」を紹介します。

2017年の国別日系企業数の調査によると、フランスには719の日系企業が進出しており、ヨーロッパではドイツ、イギリスに次ぐ日本企業が拠点を構えています。イギリスのEU離脱(2020年1月)を皮切りに、ドイツに次ぐ日系製造業企業の進出ターゲット国として注目を集めるフランスを日本企業の視点から掘り下げていきたいと思います。

フランスの基本情報

正式名称:フランス共和国(République Française)
首都:パリ(Paris)
元首:エマニュエル・マクロン大統領(2017年5月から)
首相:ジャン・カステックス(2020年7月から)
通貨:ユーロ(1ユーロ=125.43円 ※2020年8月21日時点)
人口:約6,699万人
面積:約55万km2
公用語:フランス語
宗教:カトリック(約65%)イスラム教、プロテスタント、ユダヤ教
平均寿命:男78.8歳、女85.2歳

フランス経済の特徴

強み

1. インフラ:世界トップクラスの速さでインフラ整備が進む(フランス政府が力を入れて投資をしていることが要因)
2. 観光業:2017年の調査によると、フランスに訪れる外国人観光客は8,690万人で世界1位
3. 農業:EUの農業生産の約1/5を占める(植物油、穀物、ワインはEUの約1/3の生産高を占める)
4. 国際企業:各種産業で高い競争力を誇る企業を有する(航空宇宙、エネルギー、環境、医薬品、高級品、食品、流通)

弱み

1. 税金:給与税40%は世界で最も高い(政府がインフラ整備に投資する財源を確保するため)
2. 失業率:失業率8.1%はEUで4位(2019年第四四半期の調査)特に若者と高齢者の失業率が高い
3. 競争力:熟練労働者が不足しているため製造業の競争力は停滞傾向

フランスの産業構造

まずはフランスの産業構造の調査結果を紹介します。下の図は1970年から2019年までのドイツの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:France: sectoral composition of the economy| TheGlobalEconomy.com

グラフから以下のことが分かります。

  • サービス関連業は増加傾向を維持しており、全体の78%を占める
  • 製造業と農業は減少傾向にあり、合わせてGDP全体の22%を占める

現状

  • 2020年のGDP成長率は-7.2%になる見通し(新型コロナウイルスの影響)
  • 2019年の財政赤字はGDPの3.1%を記録し、過去9年間で最も高い数字となった

今後

  • 2021年にGDPは4.5%の回復が見込まれている(新型コロナウイルスの影響が弱まると予想されるため)
  • 失業率(特に若者)は近年増加傾向であり、2020年、2021年ともに10.4%となる見通し(新型コロナウイルスの影響)

フランスの製造業全体

次にフランスの製造業全体の調査結果を紹介します。下の図はフランスの製造業が国内総生産(GDP)に占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:France : Share of manufacturing | TheGolobalEconomy.com

グラフから以下のことが分かります。

  • 統計開始を開始した1960年から減少傾向が続く
  • 製造業が生み出す付加価値は増加傾向が続く(世界第6位の額)

現状

  • 新型コロナウイルスによる不況により製造業労働者の失業数が増加
  • 2020年4月に31.5%まで落ちたPMI(Purchasing Managers’ Index:購買担当者景気指数)は2020年7月に55%近くまで回復

今後

  • 新型コロナウイルスによるロックダウンを機に生産性改善に取り組む企業が増加
  • 医薬品の輸出が急速なスピードで増加(2019年に前年比+4.9%の増加を記録)

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からフランスの製造業市場を調査した結果です。下の図はフランスに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。


データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフから以下のことが分かります。

  • 2016年を除いて、統計を開始した2012年から増加傾向が続く
  • 在仏日本商工会議所の正会員数は2000年から210社辺りで横ばいが続く

現状

  • フランスに拠点を持つ日系企業の中で約29%が自動車関連企業電子工学が19%農業・食品関連が11%機械・機械設備が9%
  • フランス進出した日系企業の46%が生産・製造関連のビジネスを行っている

今後

  • 在仏日系企業の内2020年の営業利益見込みが改善すると回答した割合は41.3%(有効回答数80社)
  • 在仏日系企業の内25.0%の企業が景気が回復していると回答、11.9%の企業が景気が悪化していると回答(有効回答数80社)

フランスに進出した日本企業

次に実際にフランスに進出した日本の製造業企業3社を紹介します。

株式会社ダイショウ

▶基本情報

  • 本社:神奈川県茅ケ崎市
  • 従業員数:3人
  • 事業内容:受託加工業(切削部品)

▶概要

日仏を技術で繋ぐ「町工場」の名の下に、2015年よりフランス・サンテティエンヌ近郊で事業を展開。試作、中小ロットを対象とした切削部品の受託加工業で欧州進出を果たす。フランスでは現地パートナー企業と連携して加工生産、現地サプライチェーンの構築を行い日本品質の技術を駆使し現地での生産を行う。※詳しくは下記の過去のインタビュー記事を参照。

▶インタビュー記事(株式会社ダイショウの石塚社長)


(フランス進出の経緯、フランスでのビジネス、フランスでの加工業について)


(フランス進出、フランスの日本企業、フランスのネット事情、フランスの現状について)

株式会社由紀精密

▶基本情報

  • 本社:神奈川県茅ケ崎市
  • 従業員数:42名(パートタイマー7名含む)
  • 事業内容:精密部品製造(航空・宇宙・医療・電気電子・機械式時計)

▶概要

2015年5月に航空宇宙関連事業の拡大を目的にフランス子会社「YUKI Précision SAS」を設立。精密切削加工分野の日本企業として初のフランス進出を果たす。2016年5月に日仏の中小製造業4社が共同で精密加工部品の製造を請け負う組織「ACT」を創設。現在では本業の精密切削加工に加えて欧州に進出する日本企業のサポート事業も行っている。

松本機械工業株式会社

▶基本情報

  • 本社:石川県金沢市
  • 従業員数:94名
  • 事業内容:工作周辺機器の製造販売

▶概要

高性能のパワーチャック・シリンダー・NCロータリーテーブルの製造・販売を行う。フランス・リヨンに販売子会社を有しており航空機エンジン関連の市場開拓に力を入れている。フランスのみならずASEAN各国、台湾・韓国・アメリカを中心に各国のニーズに合わせた販路開拓を展開している。

まとめ

今回はフランスの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。調査の結果、フランス製造業PMIが示すようにフランス製造業は新型コロナウイルの影響から回復傾向にあり、生産効率改善への取り組みを始め次のステージへ移行しています。

進出日系企業に着目すると、今回紹介した企業はいずれもフランスの航空宇宙産業関連の市場に自社の製品・技術を展開していることが分かります。このことからもヨーロッパ進出には世界に通用する高い技術力と品質がカギであると分かります。今回の内容がフランス進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

2020年の製造業「ドイツ」

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業ヨーロッパ編の第一弾として「ドイツの製造業」を紹介します。

2017年の国別日系企業数の調査によると、ドイツには1814の日系企業が進出しておりヨーロッパのなかで最も多くの日本企業が拠点を構えています。同データからも分かるように、日本企業から多くの注目を集めるドイツの製造業を掘り下げていきたいと思います。

ドイツの概要

  • 正式名称:ドイツ連邦共和国(Bundesrepublik Deutschland)
  • 首都:ベルリン(Berlin)
  • 元首:フランク=ヴァルター・シュタインマイアー(2017年3月から)
  • 首相:アンゲラ・メルケル(205年11月から)
  • 通貨:ユーロ(1ユーロ=125.57円 ※2020年8月12日時点)
  • 人口:約8046万人
  • 面積:約36万km2
  • 公用語:ドイツ語
  • 宗教:カトリック(29.9%)、プロテスタント(28.9%)、イスラム教(2.6%)、ユダヤ教(0.1%)
  • 平均寿命:男78.5歳、女83.3歳

ドイツ経済の特徴

強み

  1. 工業基盤:2018年のGDPの約25%を工業が占める
  2. 輸出:ハンブルク、ブレーマーハーフェン、キールといった世界的な貿易港を有する
  3. 職業訓練制度:毎年約500,000人の生徒が職業訓練を受ける、訓練後のフルタイム勤務を支援
  4. 中小企業:年間売上高5000万ユーロ以下、従業員500人以下の企業が国の経済の屋台骨を支えるという意味を込めて「ミッテルシュタント(Mittelstand)」と呼ばれている

弱み

  1. 労働人口:医者と看護師を始めとする技能労働者不足が深刻化する予想
  2. 自動車産業:自動車に対する需要の低下などの要因により、400万人分の雇用が2030年までに消失する予想
  3. 政党分裂:支持者の高齢化、会員数の減少、投票基盤の縮小、意思決定プロセスの複雑化等の問題が浮上

ドイツの産業構造

ドイツの産業構造を調べます。下の図は2019年のドイツの国内総生産(GDP)における各経済部門の占める割合を示したグラフです。


データ引用元:Germany – Share of economic sectors in gross domestic product (GDP) in 2019 | statista

グラフから以下のことが分かります。

  • サービス関連業がGDP全体の2/3以上を占める
  • サービス関連業は2007年からドイツのGDPの60%以上を安定的に占める

現状

  • 新型コロナウイルスの影響により2020年の製造業の生産高は約10%から15%減少する見通し
  • 2020年現在、ドイツ国内における製造業の生産高は5月から徐々に回復しており、同傾向が続く予想

今後

  • ドイツは世界の産業拠点として以前ほど魅力的ではなくなる予想(賃金、実効平均法人税率、電気代が他国と比較して高いことが理由)
  • 輸出産業が盛んなドイツにとってコロナウイルスの収束による輸出産業の回復が経済のカギを握る

ドイツの製造業全体

次にドイツの製造業全体について調べます。下の図はドイツの製造業が国内総生産(GDP)に占める割合の遷移を示したグラフです。


データ引用元:Germany : Share of manufacturing | the Global Economy.com

グラフから以下のことが分かります。

  • ・2009年の17.68%を除いて安定してGDPの20%前後を占める
  • ・2016年以降、サービス関連業の拡大により減少傾向が続く

現状

  • 新型コロナウイルスの影響により、機械工学産業、自動車産業、金属産業において顕著な生産高の減少が発生する見通し(工場の生産効率低下などが理由)
  • 2020年3, 4, 5月の製造業の生産高は大幅に下落、第三四半期から回復の兆しを見せる予想だが回復のスピードは遅く、前年の水準には及ばない予想

今後

  • 2021年の製造業の生産高は10%以上増加する見通し
  • 2021年に回復傾向に転じることが予想されるが、過去最高を記録した2018年の水準には達しない予想

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からドイツの製造業市場を調査した結果です。下の図はドイツに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。


データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフから以下のことが分かります。

  • 統計を開始した2007年以降、ドイツに進出する日系企業数は増加傾向が続く
  • 2014年から2017年まで成長率は減少傾向

現状

  • 2017年において、欧州に進出した日本企業の約24%がドイツに進出(欧州内でトップの割合)
  • 進出している分野は卸・小売業が約31%製造業が約28%サービス業が約11%宿泊・飲食業が約7.2%情報通信業が約5.5%運輸業が約4.2%教育・医療・福祉業が約2.0%金融・保険業が約1.7%不動産業が約0.7%その他が約8.5%

今後

  • ここ数年日本の中小企業がドイツに進出する件数が増加傾向
  • 2020年6月の調査によると、在独日系企業のうちドイツにおけるビジネス展開の縮小・撤退を検討している企業は約5%であり、ほとんどの企業がこれまで同様にドイツでビジネスを続ける方針

ドイツに進出した日本企業

次に実際にドイツに進出した日本の製造業企業3社を紹介します。

株式会社五鈴精工硝子

▶基本情報

  • 本社:大阪府泉佐野市
  • 従業員数:78人
  • 事業内容:光学フィルターの製造・販売(OA機器、写真機器、照明器具、医療機器用)

▶概要

オリジナルの組成素材を用いた光学フィルターを試作から量産まで自社で一貫生産を行う。ヨーロッパへの事業拡大拠点として、ドイツ(フランクラフルト)とに事業所を構える。世界でも有数なラインナップ数を誇る機能性ガラスや世界トップクラスの特殊形状レンズの量産化技術を活かし海外企業と取引を行う。

向陽技研株式会社

▶基本情報

  • 本社:大阪府堺市
  • 従業員数:80名(中国工場70名、ベトナム工場200名、ドイツ販社4名)
  • 事業内容:ラチェットギアの製造・販売(ソファ用ギア、座椅子用ギア、テーブル脚用昇降パーツ)

▶概要

家具製品用の角度調節金具の製造販売を行う。2年に1度ドイツ(ケルン)にて開催される家具部品の展示会に新製品を出展し続けソファーメーカーを始めとするヨーロッパでの顧客を獲得。現在ではドイツ(ディッセルドルフ)に販売拠点を構える。

三星ダイヤモンド工業

▶基本情報

  • 本社:大阪府摂津市
  • 従業員数:698名(連結)
  • 事業内容:電子部品の分断加工、パターニング工程向け装置・加工工具(刃先等)・レーザー光源・光学系の開発、製造、販売

▶概要

電子部品の加工装置メーカー。オリジナルの刃先やレーザー発振器を利用し生産性を高めた加工装置を製造、販売する。2005年にSchott AG(ドイツ・マインツに本社を置く産業用ガラスメーカー)のレーザー分断事業を買収しドイツに子会社を設立。現在では、中国、韓国、台湾においても事業を展開している。

まとめ

今回はドイツの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。今回の調査の結果、ドイツの製造業はコロナウイルスの影響で2020年の上半期に大きな影響を受けたものの、下半期から徐々に回復するであろう見方が強いことが分かりました。

以前紹介したアジアに進出している日系企業は、現地の労働者雇用や現地の日本企業への部品供給を主な目的として挙げられました。一方で、ドイツに拠点を構える日本企業は、ヨーロッパへの販路開拓の拠点としてドイツを選んでいるケースが多いと感じました。今回の内容がドイツ進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

「DeepL翻訳 vs. Google翻訳」プロの翻訳家が徹底評価!

テクノポートの稲垣です。現在、日本人ユーザーが驚異的な勢いで増加している機械翻訳「DeepL翻訳」をご存知でしょうか?DeepL翻訳とはドイツの人工知能システム開発を行うDeepL社が提供する機械翻訳システムです。

本記事では、DeepL翻訳とGoogle翻訳の翻訳精度(日本語→英語)の評価をプロの翻訳家の方に行って頂きました!翻訳評価をして頂いたプロの翻訳家の方の詳細については、過去の記事「フリーランス翻訳家にインタビュー①「カナダ在住のM.H.さん」前編」/「後編」をご参照ください。

DeepL翻訳とは?

概要

  • 人工知能システム開発を行うDeepL社(ドイツ)が提供する機械翻訳システム
  • 2020年3月に日本語対応して以降、日本人ユーザーが急増中
  • Google翻訳より自然な翻訳ができると話題 ※下記の参考記事を参照してください

参考記事
1. 「「DeepL翻訳」が日本語対応、「自然な訳文」と話題に 独ベンチャーが開発」、ITmeia
2. 「ドイツの機械翻訳「DeepL」がすごい。ついに日本語対応も。」Forbes Japan
3. 「Googleより自然な翻訳「DeepL」が日本語有料版を展開 月額1200円から」HUFFPOST

基本仕様

  • 使用料金:無料 ※有料版DeepL Proを使う場合、月額750円~5000円の使用料金
  • 対応言語:11言語(英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語、オランダ語、イタリア語、ポーランド語、ロシア語、日本語、中国語)
  • 対応可能ファイル形式:Microsoft Word(.docs)、Power Point(.pptx)、テキストファイル形式(.txt)※テキストファイル形式はDeepL Proへの登録が必要

無料版と有料版の違い

無料版を用いても基本的な翻訳機能は無制限で利用可能です。以下に有料版でのみ利用可能なサービスを列挙します。

  • 文字制限なし:1度に翻訳するテキストの文字制限がなくなる
  • 文書ファイル翻訳:プランによって毎月5~100の文書ファイルを翻訳可能
  • 用語集の上限なし:用語集(特定の単語やフレーズの訳し方を定義できるシステム)に登録できる単語の上限がなくなる ※日本語は未対応
  • データの機密性確保:DeepL翻訳を用いて入出力されたテキストは、ユーザーに訳文が届けられた後すぐに削除

特徴

DeepL翻訳の最大の特徴は、自然な訳文を作成する能力です。この能力を検証するために、DeepL社が行ったブラインドテストの結果を紹介します。下のグラフは、オンラインで使える3つの大手翻訳システム(Google、Amazon、Microsoft)で訳した文章とDeepL翻訳で訳した文章を並べ、翻訳システムの名前を伏せた状態で翻訳者に示し、評価をさせた結果を示しています。なお、翻訳に使用する文章は様々な分野のテキストから119段落を抽出したものを使用しています。


出典:DeepL翻訳が日本語と中国語を習得、DeepLブログ、DeepL

グラフの縦軸は各翻訳システムの訳文が、他より高い評価を得た確率を示しています。ただし、複数の翻訳システムが同時に最高評価を得た場合はカウントしていません。グラフから以下のことが分かります。

  • 英語→日本語:DeepL翻訳はGoogle翻訳に対して約3.7倍の確率でプロの翻訳者から高い評価を得た
  • 日本語→英語:DeepL翻訳はGoogle翻訳に対してい約2.8倍の確率でプロの翻訳者から高い評価を得た

以上の結果から、DeepL翻訳がプロの翻訳者から高い確率で高評価を得ていることが分かります。

翻訳精度評価

本記事では、プロの翻訳家の方にDeepL翻訳の精度評価(日本語→英語)を行っていただきました。詳細は下記に示します。

評価試験の条件

▶使用する機械翻訳:DeepL翻訳、Google翻訳

▶翻訳評価の方法:2種類の機械翻訳ツールを用いて翻訳した文章を1センテンスずつ下記の5段階評価を行う。

「5段階評価」
5 : 意味が分かる・自然
4 : 意味が分かる・やや不自然
3 : 意味が分かる・不自然
2 : 意味がやや分かる・不自然
1 : 意味が分からない・不自然

▶翻訳に使用する文章(日本語ビジネスメール)

①件名:【ABC株式会社】お問い合わせありがとうございます

②※このメールはシステムからの自動返信です

③ジョー・スミス様

④お世話になっております。
⑤ABC株式会社へのお問い合わせありがとうございました。

⑥以下の内容でお問い合わせを受け付けいたしました。
⑦3営業日以内に、担当者 田中よりご連絡いたしますので 今しばらくお待ちくださいませ。

結果

それでは、順に結果を見ていきましょう!

原文①

件名:【ABC株式会社】お問い合わせありがとうございます

訳文
DeepL翻訳 : Subject: [ABC Corporation] Thank you for your inquiry!
Google翻訳:Subject: [ABC Corporation] Thank you for your inquiry

評価
DeepL翻訳:5
Google翻訳:5

プロ翻訳家のコメント
DeepL翻訳:問題ありません。!はあってもなくても問題ありません。
Google翻訳:問題ありません。

原文②

※このメールはシステムからの自動返信です

訳文
DeepL翻訳 : This email is an automatic response from the system.
Google翻訳 : *This email is an automatic reply from the system

評価
DeepL翻訳:5
Google翻訳:5

プロ翻訳家のコメント
DeepL翻訳:※の部分は訳されていませんが内容は問題ありません。
Google翻訳:問題ありません。

原文③

ジョー・スミス様

訳文
DeepL翻訳 : Mr. Joe Smith.
Google翻訳 : Joe Smith

評価
DeepL翻訳:5
Google翻訳:5

プロ翻訳家のコメント
DeepL翻訳:基本的には問題ありませんが、Mr, Mrs, Miss, Ms, (他に Dr)などは会社側が把握していれば問題ないですが、女性か男性か分からない(または既婚、未婚か分からない)場合は、気を付けなくてはいけません。
Google翻訳:基本的には問題ありません。会社によっては最初に Hi XXX、や Dear XXX をつけることもあります。

原文④

お世話になっております。

訳文
DeepL翻訳 : Thank you for your help.
Google翻訳 : We become indebted to.

評価
DeepL翻訳:1
Google翻訳:1

プロ翻訳家のコメント
DeepL翻訳:”Thank you for your help” = 「助けてくれてありがとうございました。」というのはここでは必要ありません。メールの最初にもってくるのも不自然だと思います。
Google翻訳:文法的にも間違っていますし、不自然です。メールの最初にもってくる必要もないと思います。文法的には “We are indebted to you” ですが、普段あまり使用しません。使う場面としては、命を救われた時など、危機的状況を救われた時などに使います。

原文⑤

ABC株式会社へのお問い合わせありがとうございました。

訳文
DeepL翻訳 : Thank you for your interest in ABC Corporation.
Google翻訳 : Thank you for your inquiry to ABC Corporation.

評価
DeepL翻訳:5
Google翻訳:5

プロ翻訳家のコメント
DeepL翻訳:問題ありません。
Google翻訳:問題ありません。

原文⑥

以下の内容でお問い合わせを受け付けいたしました。

訳文
DeepL翻訳 : We are pleased to hear from you as follows.
Google翻訳 : We have accepted inquiries with the following contents.

評価
DeepL翻訳:2
Google翻訳:2

プロ翻訳家のコメント
DeepL翻訳:”hear form you as follows”というのは不自然です。例えば “We are pleased to accept your inquiry with the following contents.”、または “Below is a summary of the inquiry that we have received.” の方が自然です。
Google翻訳:文章として不自然ですし、1 inquiryもしくはmulitiple “inquiries” なのかによって文章は変わると思います。なので、先に挙げた例のような文章の方が適切だと思います。

原文⑦

3営業日以内に、担当者 田中よりご連絡いたしますので 今しばらくお待ちくださいませ。

訳文
DeepL翻訳 : Our representative, Tanaka, will contact you within 3 business days. Please be patient for a while.
Google翻訳 : Within 3 business days, Tanaka will contact you. Please wait for a while.

評価
DeepL翻訳:3
Google翻訳:3

プロ翻訳家のコメント
DeepL翻訳:最初の文章は問題ありませんが、2番目の文章が不自然なので削除した方が良いと思います。何か付け加えたい場合は “Thank you for your patience.” と付け加えても良いと思います。
Google翻訳:意味は分かりますが、Tanakaさんが”担当者”である。という部分が訳から抜けています。こちらも2番目の文章はなくても良いと思います。

総評

基本的には、内容が分かれば機械翻訳を利用してメールのやり取りをしても問題ないと思います。というのは、英語に不慣れな人たちもビジネスで英語の文章を書くことも多いからです。

一方で、”お世話になっております”の英訳は相手を混乱させてしまうかもしれません。また”Mr”なども、性別が前もってわかっていれば問題ないありませんが、名前から推測すると間違っている場合もあるので注意が必要です。

まとめ

結果からまとめると、DeepL翻訳、Google翻訳共に26/35点と同じ点数になりました。今回の検証結果から言えることは、現時点ではDeepL翻訳とGoogle翻訳のどちらが圧倒的に優れているということはないということです。

個人的な意見として、どちらの機械翻訳も意味が一意的に決まる文章の翻訳は高評価を得ていたと思います。対して、日本語独特の表現(例、お世話になっております。)や主語、単数・複数の概念が欠如した意味が曖昧な文章の翻訳に苦戦している印象を受けました。つまり、機械翻訳を使ってビジネスメールのやり取りをする場合は、原文の日本語は極力、日本語独特の定型表現を排除し、具体的な文章に置き換える必要があると感じました。(例、いつもお世話になっております。→ いつもご支援いただきありがとうございます。)

今回の記事で紹介した内容を参考に機械翻訳を上手にビジネスに役立てて頂ければ幸いです。

世界の製造業インタビュー④「巨大な先進国アメリカ」後編

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業インタビュー企画です。第4回目後半の今回は前回の記事に引き続き、アメリカのロックウェルオートメーション株式会社で品質管理のコンサルタントとして働く津吉政広さんにインタビューを行いました。津吉さんはこのモノカクでも記事を執筆頂いています。津吉さんのプロフィールはこちら。後編の今回は、

  • 「アメリカ企業の品質に関する考え方の違いは?」
  • 「アメリカと日本の商習慣の違いは?」
  • 「コロナウイルスで会社にどのような変化があったか?」
  • 「英語Webサイトを作ってアメリカに販路開拓したい企業にアドバイスは?」

などの質問に対し、現地企業でコンサルタントとして働く方ならでは意見をお届けします。

日本企業について

日本企業のイメージは?

Made in Japanの品質神話は昔ほどではありませんが、今でも活きていると感じます。なので、良い品質のイメージがあります。

日本企業が強い分野は?

自動車、自動車部品産業、機械、製造ロボット産業、電気製品(Panasonic、Sonyなど)だと思います。

アメリカ企業の品質に関する考え方は?

アメリカ企業は数字明確なデータを欲しがる傾向が強いと思います。例えば、不良品の割合などを数字ではっきりと示すこと、データで提出することが交渉事でも必要不可欠になります。

アメリカの商習慣について

アメリカと日本企業の商習慣の違いは?

アメリカでは基本返品が可能です。一度使ったものも返品されることがあるとも聞きます。それは、返品可能かどうかが会社の評判に影響することも関係していると思います。

製造業だと契約があるので、そこまでひどいケースはないと思いますが、製品を買ってもらってすぐに壊れているとクレームを言ってくるケースはよくあります。

日本企業とアメリカ企業のメールのやり取りに違いはある?

大きく違いは4つあると思います。

1つ目は、日本企業はアメリカ企業に比べて返信が遅い事です。アメリカ企業は少なくとも翌営業日には返信のメールがくることを期待しています。なので、メールの内容に対する返信はしなくてもいいので、「メールを受け取って検討に入った」、という趣旨のメールが欲しいですね。アメリカではこのスタイルが普通です。

2つ目は、日本企業のメールの文面は過剰なほど丁寧と言う印象を受けます。アメリカ企業は内容に対してストレートに返信している印象があります。

3つ目は、日本企業が使う専門用語がアメリカ企業が使うそれとは違うことが多い事です。端的に言うと、品質用語等の専門用語のチョイスを間違えている日本企業が多いので気を付けて欲しいということです。

4つ目は、CCが多くついていることと、責任者が誰なのかよく分からないことが多い事です。

アメリカ企業同士でのやり取りはどうやって行う?

社内でのやり取りはメールがほとんどです。注文などを含めて、私の産業ではお金に関することはメールでやり取りすることが多いです。

日本企業とのやり取りは、(日本企業は)英語が苦手なことが多いのでメールでのやり取りがほとんどです。電話対応があればもちろん良いと思いますが、アドバンテージになるかと言われるとはっきりとしたことは言えません。

ビジネスでよく用いられるSNSは?

LinkedInを使っている人が多いです。ただ、LinkedInは商売で使われることは少ないイメージで、転職や求人に関するやり取りをするイメージです。また、LinkedInは企業が求人広告を上げる最も大きなプラットフォームの一つでもあると思います。

アジア系労働者に対する差別はある?

ありません。会社のルールとして禁止されているため差別を受けたことは全くありません。ただ絶対数の問題もあると思いますが、アジア系の人が上級管理職につく割合は少ないと思います。

支店はアメリカ国内に設置した方が良いか?

そうだと思います。同じアメリカ国内の方が連絡が取りやすいですよね。あと、海外のやり取りになると商習慣の問題とかが複雑なので、アメリカ国内で直接やり取りできた方が何かと都合が良いと思います。

コロナウイルスについて(インタビュー実施日2020年5月2日)

コロナウイルスで会社にどのような変化があったか?

大きな変化は3つあります。

1つ目は、会社の出入りが厳しくなったことです。例えば、会社の入り口で検査をやって体温を測ったりですね。

2つ目は、家で働ける人は家で働くようになりましたね。現在、会社内で働いている人よりも家で働いている人の方が多いくらいだと思います。ただ、製品の実験だとか組み立てだとかは会社でしかできないので、そういう仕事をしている人は通常通り会社勤務しています。

3つ目は、アメリカ企業全体に言えることですが、オンラインできるものはオンラインでやろう、という風潮が強まりましたね。コロナウイルスが流行する以前からこういう企業は多かったですが、今回のパンデミックをきっかけに、さらに増えた印象があります。

コロナウイルスで私生活にどんな変化があったか?

お店が休業したり、学校が休校になったり、行くところが限定されとにかく不便になりましたね。特に、病院などの出入りはチェックが厳しくなり、病院内の食事などもすべて個室で済ませているところがほとんどです。

最後に

英語Webサイトを作ってアメリカに販路開拓したい企業にアドバイスは?

注意して欲しいことは3つあります。

1つ目は、言葉よりも写真デザインを重視した方が良いと思います。なぜかと言うと、あるWebサイトを初めて見て、そのWebサイトに留まろう、読もうと思うのは写真やデザインが目に留まるからだと思います。要は、第一印象が最も重要で具体的な内容は次に来ます。その意味において、言葉よりも写真やデザインを優先することが英語Webサイトを作るうえで重要だと考えました。

2つ目は、日本独特な言い回しをアメリカ英語的なストレートな表現に上手に翻訳することも重要だと思います。

3つ目は、図面データ実績を目につきやすい場所に配置する方が良いと思います。数字ではっきりと分かる情報を重要視するアメリカ企業が多いため、Webサイトを作る際には、そのような部分にも気を配る必要があると思います。

まとめ

いかがでしょうか。冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

「アメリカ企業の品質に関する考え方の違いは?」

アメリカ企業は明確な数字やデータを求める傾向が強い

「アメリカと日本の商習慣の違いは?」

アメリカでは基本返品可能

「コロナウイルスで会社にどのような変化があったか?」

  1. 会社の出入りが厳しくなる
  2. 在宅ワークの推奨
  3. 事業のオンライン化

「英語Webサイトを作ってアメリカに販路開拓したい企業にアドバイスは?」

  1. 言葉よりもデザイン
  2. アメリカ英語的な表現
  3. 数字ではっきりと分かる情報の配置

のようになります。今回のインタビューを通して、アメリカ企業がWebサイトに求める情報の違い、メール対応の違い、返品ポリシーの違いなど、アメリカ企業と日本企業のビジネス上での様々違いを感じ取って頂けたと思います。今回のインタビューで得られた知見を、アメリカへの販路開拓に少しでも役に立てていただければ幸いです。

世界の製造業インタビュー④「巨大な先進国アメリカ」前編

テクノポート稲垣です。第4回目前半の今回は、アメリカのロックウェルオートメーション株式会社で品質管理のコンサルタントとして働く津吉政広さんにインタビューを行いました。津吉さんはこのモノカクでも記事を執筆頂いています。津吉さんのプロフィールはこちら。前編の今回は、

  • 「アメリカ企業のWebサイトを見る時に注意してみる内容は?」
  • 「日本企業の英語Webサイトとアメリカ企業のWebサイトの違いは?」
  • 「機械翻訳と人間の翻訳はすぐに分かるか?」
  • 「翻訳はネイティブに依頼するべきか?」

などの質問に対し、現地企業でコンサルタントとして働く方ならではの意見をお届けします。

津吉さんについて

津吉さんの経歴は?

アメリカに来てロックウェルオートメーション(産業用オートメーション事業に特化した世界最大規模の企業)にジョインしたのが2000年なので、もう20年くらいになります。

その前は日本のリライアンスという会社に4年ほどいました。ただ、ロックウェルオートメーションがリライアンスを買収したという経緯も考えると計24年今の会社で働いていることになります。

現在の業務内容は?

現在の業務内容は、ロックウェルオートメーションでリーンシックスシグマの導入を行っています。リーンシックスシグマ※とは品質管理をターゲットにしたもので、統計などを使って品質を高めることがメインの目的になります。

※リーンシックスシグマについて詳細は以下の記事を参考にしてご確認ください。
海外のものづくりの現場で使われているリーンシックスシグマとは?

私の立場は開発部隊に属しているわけではなく、開発部を助ける立場です。先ほど述べたリーンシックスシグマには組織があり、私はマスターブラックベルトという立場で全体の総括みたいなことを行っています。

渡米前から英語は話せたのか?

渡米前は英語は全然話せませんでしたよ。ですが、エンジニアとしてコードが書けたので英語がそこまで流暢ではなくても意思の疎通は十分にできました。

アメリカのWebサイト事情について

アメリカ企業のWebサイトを見る時に特に注意して見る内容は?

製造業に関する英語Webサイトに関して、注意して見る内容は4つあります。

1つ目は、自分の地域にコンタクト先があるかどうかです。アメリカと言っても広いので、例えばアメリカでもウィスコンシン州に支店があるかどうか、などです。

2つ目は、導入実績例、3つ目は、データシート(※1)等の詳細な情報が入手可能かどうかです。

※1 データシートとは製品の仕様が書かれたドキュメントのことです。製造業では一般にデータシートのようなドキュメントを基に設計を行うため、英語で書かれたデータシートの情報が手に入るかは重要になるそうです。(Datasheetの画像検索結果

4つ目は、Secureサイト(※2)かどうかです。アメリカではほとんどがSecureサイトなので、逆にSecureでないと気になります。

※2 Secureサイト、SSLについての詳しい内容は以下の記事を参考にしてください。
「保護されていない通信?」「http://」と「https://」の違いについて

補足情報

日本の大手企業でサイト全体をSSL(通信データを暗号化し保護する仕組みのこと)を導入しているところが増えてきているが、中小企業になると全体の約3割程度しか導入していない。

アメリカで日本企業の英語Webサイトを見る時に注意して見る内容は?

製造業に関する日本企業の英語Webサイトに関して言えば、大きく3つあります。

1つ目は、商習慣があっているかどうかです。具体的には、クレジットカードが使えるかどうかをはじめとする決済方法の問題、為替の問題などが挙げられます。アメリカではビジネスの取引でもクレジットカード決済が主流です。もちろんすごく大きな金額の取引になると話は変わってきますが、エンジニアが製品を購入するレベルの話だと会社のクレジットカードを使って購入するケースが多いです。

2つ目は、返品可能かどうかということです。アメリカでは返品が自由な企業がほとんどなので、日本企業から商品を購入する時は特に確認します。

3つ目は、支店のサポートが受けられるかどうかです。これはアメリカ国内に支店があった方が直接やり取りできて、より有利になります。

日本企業のサイトがアメリカのGoogle検索でヒットすることはあるか?

あります。例えば、”Industrial robots”で検索すれば、FANUCがでてきます。アメリカのロボット業界でもFANUCは有名で強いですね。他にも、業界のリーディング企業であるオムロン、川崎重工、安川電機などは数ページ後ろの方に出てきます。

日本企業の英語Webサイトが改善すべきことは?

製造業のサイトではありませんが、楽天グローバルマーケットのサイトは、海外に住む日本人の間では、日本企業の英語Webサイトの良くない例として有名です。例えば、下記のページの”Oneでゆるwinding”って何のことでしょうね。(笑)

https://global.rakuten.com/en/store/sacom/item/ehhv24p/

楽天グローバルマーケットのサイトを見てもらえば分かりますが、商品名に日本語が混じっていたり、日本語の写真サンプルをそのまま使っていたり、英語の文章が読めなかったりと、ある意味結構笑えます。(笑)あと、これはWebサイトの内容とは直接関係ないかもしれないですが、楽天グローバルマーケットが対象とする顧客が不明です。

なぜかと言うと、アメリカ人が楽天グローバルマーケットで商品を買うことは少ないと思いますし、アメリカに住む日本人がターゲットなら英語に自動翻訳する必要もないですよね。

日本企業の英語Webサイトとアメリカ企業のWebサイトとの違いは?

端的に言うと、アメリカ企業は製品中心、対して日本企業は会社中心、という印象を受けます。例えば、アメリカ企業のWebサイトでは、トップページに新製品を出していることが多く、会社のイメージは後ろのページに隠れているイメージがあります。

一方で、日本企業の英語Webサイトは社長メッセージだとか会社の事業方針などが目につきやすい箇所に配置されているイメージがあります。具体的な例としては、都ローラー工業の英語Webサイトを見ると、社長のメッセージが顔写真と一緒に最初の方のページに出てくるところが、日本的で微笑ましいですよね。

出典:Miyako Roller Industry

翻訳について

Google翻訳でも十分意味は通じるか?

結論、通じないことが多いと思います。Google翻訳でも無いよりはましかもしれませんが、意味が通じない可能性もあると思います。製造業に関して言うと、技術的な内容は言い回しが違ったり、単語が違ったりすると通じなくなってしまうことがあると思います。

また、意味が通じないのであればまだ良いですが、文章が誤解されたときは大きな問題に発展するかもしれないですよね。最悪の場合、Google翻訳がもとで誤解が生じ、法的な問題に発展することがあるかもしれません。

機械翻訳と人間の翻訳はすぐ分かるか?

すぐに分かります。特に言い回しが違うと感じることが多いです。例えば、自動翻訳された文章は、文章表現の方法や使用する構文の選択が不自然なことが多いです。個人的には受け身の文章が多用されていたりすると、自動翻訳を疑ってしまいますね。

翻訳はネイティブに依頼すべきか?

お願いするべきだと思います。特に製造業をはじめとする技術系の企業が、自社の技術や製品をWebサイトを通して伝えたい場合には、適切な言い回しを選択できるネイティブに依頼するのが無難だと思います。

専門用語の選択など、自社でできる翻訳は事前に行い、分からない文章だけを依頼する形が良いと思います。

まとめ

いかがでしょうか?冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

「アメリカ企業のWebサイトを見る時に注意してみる内容は?」
→ 1. コンタクト先があるか、2. 導入実績例、3. データシート等の詳細情報、4. Secureサイトかどうか

「日本企業の英語Webサイトとアメリカ企業のWebサイトの違いは?」
→ アメリカ企業は「製品中心」、日本企業は「会社中心」

「機械翻訳と人間の翻訳はすぐに分かるか?」
→ すぐに分かる。言い回しが適切ではないことが原因

「翻訳はネイティブに依頼するべきか?」
→ 依頼するべき。文章表現はネイティブに任せた方が無難。

となります。後編の次回は、日本企業のイメージ、アメリカの商習慣、コロナウイルスの影響について掘り下げていきます。具体的には、

  • 「日本企業に対するイメージは?」
  • 「アメリカと日本の商習慣の違いは?」
  • 「日本企業とアメリカ企業のメールのやり取りの違いは?」
  • 「コロナウイルスで会社にどのような変化があったか?」

などの質問に答えて頂きました!後編を読んで頂くと、日本企業とアメリカ企業のビジネスに対する考え方、文化の違いなどを感じて頂けると思います。今回の内容がアメリカへの事業展開に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業インタビュー③「日系メーカーの海外展開(ベトナム)」後編

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業インタビュー企画です。第3回目後編の今回は前回の記事に引き続き、メーカー勤務時代にベトナムに赴任し自社製品を現地に売り込む仕事をされていたブルーイノベーション株式会社経営戦略室の田中さんにインタビューを行いました。後編の今回は

  • 「駐在所に現地で雇ったスタッフは必要か?」
  • 「商社を介して製品を売るメリットは?」
  • 「販売代理店の探し方は?」
  • 「海外で商品を売る際に重要な考え方は?」

などの質問に対し、現地で営業を行っていた方ならではの意見をお届けします!

海外でのビジネスについて

駐在所に現地で雇ったスタッフは必要か?

もちろん必要だと思います。

結局、日本人が駐在所にいても現地のお客さんに対してできることってすごく少ないんですね。なので、現地に駐在する日本人とお客さんとの間をつないでくれる優秀な現地人スタッフがカギになります。加えて、問い合わせの対応などを通してお客さんに良い印象を与えるという意味でも重要です。

あとは、現地で雇ったスタッフは現地の商習慣を理解しているということが大きいです。ベトナム語が話せる日本人がいたとしても、現地の商習慣を理解して現地ならではのビジネスの取引ができる人は少ないですよね。

現地でカタログ作成を任せる時の注意点は?

ブランドイメージを守ることです。

と言うのは、日本企業が現地で製品を売る時は比較的ハイエンドなイメージで売っていく企業が多いと思います。しかし、現地の会社が作るカタログはいかにも現地の企業が作りました、みたいなチープな見た目になることが多いんです。

この問題に対処する方法として、グローバル向けの英語カタログをあらかじめ作ってしまうという方法があります。つまり、英語の総合カタログを作っておき、現地の営業マンにそれを使って営業してもらうという方法です。この方法なら日本企業のブランドイメージを守りながら現地での営業活動も行えます。

特にB2Bでは専門用語は英語でも分かってもらえることが多いですし、かつグローバル企業としてのイメージも持ってもらえます。また、他の国にグローバル展開する際にも同じカタログが使えると思うので、工数や費用の面でも効率的だと思います。

商社を介して商品を販売したことはある?

私自身はないですけど、身近なケースで、以前ベトナムの外資規制で外資100%の販売機能だけの会社が許可されない時代に商社を使って販売していたということがありました。

実際にはその外資規制が撤廃されることが分かっていたので、本格参入する前のマーケティングという目的です。その後は現地に拠点を作り、自ら販路を開拓して販売するようになりました。

商社を介して製品を売るメリットは?

広く浅く商品を売れるということですね。具体的に言うと、現地でマーケテイング兼販売実績を作っていくという足掛かり的な意味で商社を利用することは有用だと思います。その国で製品が売れるかどうかを探るという意味合いですね。なので、本格的に投資をして事業を大きくしようと考えているのなら商社経由ではなく、自社の拠点を作ったほうが良いと思います。

また、色々な国に事業を展開したい企業にとっては商社は価値があると思います。複数の国に拠点を作るのは投資も膨らみますし、販売代理店を使うにしても数が多いと管理するのは大変ですからね。そういった場合は、既に世界各国に拠点のある商社を利用するのが効率的だと思います。

商社を介して製品を売ることのデメリットは?

お客さんの生の声が届きにくいということですね。なので、お客さんのニーズに合わせて事業を拡大していくなら自社で拠点を設けたほうが良いと思います。

料金の回収方法の決め方は?

理想は全額前払いですが、業界に自社が後から参入する場合は業界のスタンダードに従うのが現実的です。ただ日本企業としてハイエンドなポジションで取引したい場合は、業界より厳しめの料金回収方法を要求した方が良いと思います。というのは、最終的にこちら側の要求を下げるか、料金の支払い方法で妥協することになるからです。

また、近い業界に日本企業の先人がいるなら情報を共有してもらうなり教えを乞うなりする。もしくは、業界に詳しい現地人を採用して、その人から情報を聞き出す。あとは、コンサルティング会社に調査を依頼するパターンもあります。もし、コンサルティング会社に依頼するなら現地の商流やお客さんのニーズなども含めて調査を依頼することをおすすめします。

販売代理店について

販売代理店の探し方は?

大きく2種類あります。1つ目の方法は、ジェトロ在日本の各国大使館日本人商工会に相談にいく方法です。比較的規模が小さい会社の場合は、こういった機関に、「今どういうことをしていて、海外でこういうことをやっていきたい、ついては現地の会社を紹介してもらえませんか?」と言う感じで相談してみると良いと思います。お金もかからないので。

2つ目の方法は、コンサルティング会社を利用する方法です。もしもお金があるならば海外進出のコンサル会社があるので、販売代理店の候補となる企業をリストアップしてもらうという方法もあります。

上記のような方法で候補となる企業を探したら、実際に面談をして信用調査をしていく感じです。

展示会を利用して販売代理店を探すのは良い方法か?

結論から言うと、闇雲に展示会に出て販売代理店候補を0から探すのは効率的ではないと思います。結局、展示会に来る人の目的は商品を購入することが多いので、御社の製品をいくつか買いたいという人には会えるかも知れませんが、販売代理店として御社の製品を担ぎたいですという企業にはなかなか出会えないと思います。

もしも展示会で販売代理店を探すなら予め先に挙げたような機関に相談して代理店候補見つけて展示会に来てもらい、自社の製品を見せながら「販売代理店になりませんか?」という話をする方が効率的だと思います。

海外の展示会に出て現物を見せるというのは費用もかかるし手続きも複雑ですごく大変なことです。なので、もし海外の展示会に出展するとなったら、その効果を最大化すべく事前に代理店候補となる企業を見つけておいた方が良いと思います。

1つの国に複数の代理店を持つことはあるか?

基本的には、1つの国には1つの代理店と言うケースが多いと思います。なので、もうその国の販売はその1つの代理店に任せる状態です。つまり、その代理店の売り上げは、その国における自社の売上の全てになります。そうなると、売ってくれそうな代理店、自社に的確な代理店を探すことが重要だと思います。

先の質問の回答ともつながりますが、闇雲に展示会に出て代理店探しをしても効率的ではないというのは、こういった事情も関係しています。

現地で販売支援の営業をする業者を利用したことは?

検討したことはありますが、実際に利用したことはありません。検討した理由は、現地の販売代理店は新規の顧客開拓がそれほど得意ではなかったからです。つまりは売上が伸びなかったからです。よって、その時は販売代理店をサポートして営業活動を行ってくれる人材、企業を調査しましたね。実現しなかった大きな理由は、適格な人材が見つからなかったからです。適格な人材とは自社の売る製品の業界に詳しく、かつその業界で人脈がある人です。そういった人でないと効果は出ないんですが、結局は見つかりませんでした。

あとは、費用対効果が読みにくかったからという理由ですね。海外で製品を売る日本企業にとって、販売代理店を現地に作るのは広く普及していますが、営業による販売支援のサービスはまだそれほど普及していないということも背景としてあると思います。

現地で販売代理店を持つ理由は?

大きく2つの理由があります。

1つ目は現地で在庫を抱えられるということです。以前、私自身もお客さんの納期の要望に応えるために現地で在庫を用意しておく必要があったので、在庫を抱えてくれる販売代理店は必要でした。

2つ目は、現地で必要なバリューチェーンを請け負ってくれるということです。私の場合、販売、施工から保守まで現地の対応が必要でしたので、そういったサービスをちゃんと対応してくれるという面も大きかったです。

3つ目は料金の回収をしてくれるということです。やはり回収の話になると、現地人同士のやり方があったりするので販売代理店に任せた方が良いと思います。

海外で商品を売る際に重要な考え方は?

個人的な意見としては、自ら現地に足を運び、現地の市場と顧客を理解することです。なぜかと言うと、現地の販売代理店に任せても上手くいかないケースが多いからです。日本から距離的にも離れているので、そもそも販売代理店を管理するのが難しいんですね。管理しようとしても現地の事情が分からないので都合の良いことばかり言い返されてしまう。

なので、自分自身が何度も足を運んで、お客さんのニーズを聞いてコミュニケーションをすることが重要だと思います。市場と顧客を理解できていないと販売代理店と深い議論はできないし、売る為のアイデアも出てこないのではないでしょうか。

最後に

海外進出を考える中小企業事業者の方にアドバイスは?

2つあります。1つ目は、本当に海外で事業を伸ばそうと思ったら、日本でやっている事業を海外で0からつくる、というくらいの気概、覚悟が必要だいうことです。日本で売っている製品は日本のお客さん向けに作っているから売れるのであって、海外の市場でも同じです。自社の強みを活かすのはもちろんですが、現地に合わせないといけない。そのためには先も言ったように、自分自身で現地に足を運び、お客さんのニーズ、市場、現地の商流、商習慣がどうなっているかを理解することが必要です。そして、現地の市場と自社の製品・技術を掛け合わせてこれならいける!という事業を0から作っていくという気概、覚悟が必要です。

2つ目は、海外には国内の何倍ものチャンスがあるということです。これから海外に事業展開を考える方には、成熟した日本市場に留まるのか、新たな市場に挑戦するのか、ということを今回のインタビューを通して感じていただけたらと思います!コロナウイルスの影響で現在海外との行き来がストップしていますが、長い目で見ればグローバル化が止まることはありません。コロナ後を見据えて海外展開を考えてみませんか?

まとめ

いかがでしょうか。冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

「駐在所に現地で雇ったスタッフは必要か?」

→ 必要、問い合わせの対応や現地の商習慣を任せられる

「商社を介して製品を売るメリットは?」

→ 広く浅くマーケテイングを兼ねて商品を売れること

「販売代理店の探し方は?」

→ ジェトロ、在日各国大使館、現地の日本人商工会、コンサル会社に相談

「海外で商品を売る際に重要な考え方は?」

→ 自分自身で現地に足を運び、現地の市場と顧客を理解した上で製品を売る

のようになります。今回のインタビューを通して強く感じたメッセージは、現地に足を運び自分自身で商流を理解することの重要性です。また、展示会を利用して販売代理店を探す際の方法など実際に現地でビジネスをされた田中さんならでは回答が得られた貴重な回だったと思います。今回の内容がベトナムはじめ海外への事業展開に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業インタビュー③「日系メーカーの海外展開(ベトナム)」前編

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業インタビュー企画です。第3回目前半の今回は、メーカー勤務時代にベトナムに赴任し自社製品を現地に売り込む仕事をされていたブルーイノベーション株式会社経営戦略室の田中さんにインタビューを行いました。前編の今回は、

  • 「ベトナム現地企業のWebサイトの特徴は?」
  • 「現地の大手企業とコンタクトを取る方法は?」
  • 「日本企業に対するイメージは?」
  • 「日本企業に対するネガティブなイメージは?」

などの質問に対し、現地で営業を行っていた方ならではの意見をお届けします!

田中さんの経歴

ベトナムに駐在していたのは、2010年から2013年までの3年半です。その時は、シャープの現地法人で家電製品の営業企画をしていました。その後、東京に戻り機械系のメーカーであるナブテスコに転職し、出張ベースでベトナム、インドネシア、フィリピン、韓国、インドなどに営業に行ってました。

現在は、これまでの経験を活かし、ドローンのリーディングカンパニーであるブルーイノベーションで経営戦略や海外展開の指揮を執っています。日本のテクノロジーを海外に展開するという大変やりがいある仕事です。

ベトナム企業との関係構築について

ベトナム現地企業のWebサイトの特徴は?

2つあります。1つ目は内容の誇張があることですね。

例えば、建築業界の企業のWebサイトを見た時に何か実績集みたいなページがあったとします。そのページにはベトナムのランドマーク的な建物が実績でという記載があるんですが、その情報が真実かどうかというのは疑わしいところがあります。

2つ目は日本企業のWebサイトに比べて、企業の情報自体が少ない事ですね。

日本の会社のWebサイトは凄く丁寧に資本金、株主構成や会社の沿革情報を記載している企業が多いと思います。一方で、ベトナム企業のWebサイトはそういった情報の記載が少ないので日本企業ほどの深さの情報は取れないですね。加えて、ベトナム企業のWebサイトに用意してある英語ページはベトナム語のそれよりも情報量が少ないことが多いので、企業情報収集がWebサイトだけでは満足にできないということがあります。

Webサイトの情報以外に現地企業に足を運ぶのは必要か?

必要ですね。現地のWebサイトだけを見て判断するのは難しいと思います。なので当然、Webサイトから取れる情報を取った後に、実際に企業に訪問して話を聞いてというステップが必要です。私の経験から言うと、東南アジアにおいてはよほど知名度のある大きい企業でないと、Webページの情報だけで会社自体を信用することはできないと思います。小さい会社だとそもそもWebページがあっても実際に存在するのかどうかも分からなかったりします。

なので、気になった企業があればメールや電話でコンタクトをとって、事務所や工場があれば見に行きます。

現地の大手企業とコンタクトを取る方法は?

間に誰か信頼できる人企業の紹介を挟んだ方が良いと思います。理由は、取引する相手が大手でこちらの知名度がない場合は、初めの交渉から不利になってしまう可能性が高いからです。なので、相手企業と既に取引のある会社や現地の日本企業なりに紹介してもらう方がその後の物事もスムーズに進むと思います。

現地の日本企業とコンタクトを取る方法は?

結論から言うと、現地の日本の商工会議所日本人会もしくはジェトロなりに紹介してもらうと効率的だと思います。

なぜかと言うと、Webで闇雲に検索しても効率的ではないと思うからです。ベトナムに進出している日本企業は確か1800社ほどだったと思うんですけど、その内の多くの企業が先に挙げたコミュニティのいずれかに属していると思います。なので、そういったルートを使って探した方が良いと思います。

ベトナム語検索した時に日本企業は検索結果に表示される?

表示される確率はすごく低いと思います。どうしてかと言うと、日本企業のWebサイトは基本的に日本語メインで作っていますよね。だから当然、ベトナム語で検索しても日本語のキーワードは引っかからないので出てこないことになります。

ベトナムで英語で検索した時に日本企業の英語版Webサイトが表示されることはあると思います。その時は、おそらく日本本社の英語版Webサイトが表示されるので、日本企業のベトナム法人のページがピンポイントに表示されるケースは少ないと思います。

ベトナム語Webサイトを作る際、ネイティブによる翻訳は必要か?

結論から言うと、ネイティブによる翻訳は必要でしょうね。Google翻訳だけでは不十分というより凄くおかしいことになると思います。例えば、ベトナム語のWebサイトを日本語にGoogle翻訳してみれば分かると思いますが、すごくおかしな日本語になってしまうんですね。なので、日本語をベトナム語にGoogle翻訳したら逆のことが起こると思います。

それと会社のWebサイトはその会社のブランドもしくはコーポレートイメージになるので、かっこいい表現が必要ですよね。仮に日本語でかっこいいプロダクト名をつけたとしてもその表現は機械的に翻訳されないはずです。

ベトナムから見た日本企業について

日本企業に対するイメージは?

やっぱり品質ですね。ベトナム人は非常に親日でアジアの中で日本が一番品質が良いという認識を持っています。日本の次に韓国、その後は台湾、タイ、マレーシア、現地(ベトナム)、中国という順で続くと思います。

品質とは具体的にどのような品質?

一番は耐久性ですね。使って長持ちするということです。故障や不良品が少ないという点の評価も高いです。あとは、生産工程やプロセスがしっかりしているという印象があると思います。私も現地で営業をしていた時に、日本の品質管理基準に基づいて生産しているという証明書類だったりを求められたことはあります。

日本企業に対するネガティブなイメージは?

日本製品は価格が高いという認識は多くの現地の方が持っています。距離的にも離れているので納期が遅いというイメージもあると思います。なので、日本企業がベトナムで商品を売っていこうと思ったらその辺のターゲットを明確に設定する必要があると思います。実際に、日本で良い商品だからベトナムで売ろうとしたけど思ったように売れなかったということはよくあります。日本と同じ価格設定では高いと思われてしまう。だから、しっかりと製品の価値をお客様に伝えることがカギになります。

まとめ

いかがでしょうか?冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

「ベトナム現地企業のWebサイトの特徴は?」

→ 2つの特徴(1.内容の誇張、2.企業自体の情報が少ない)

「現地の大手企業とコンタクトを取る方法は?」

→ 信頼できる人、企業の紹介を挟んでコンタクトを取る

「日本企業に対するイメージは?」

→ アジアの中でトップの品質、信頼性が高い

「日本企業に対するネガティブなイメージは?」

→ 価格が高く、距離的に離れているので納期が遅い

となります。後編の次回は、海外でのビジネスと販売代理店との関係構築方法などのトピックを掘り下げていきます。具体的には、

  • 「駐在所に現地で雇ったスタッフは必要か?」
  • 「商社を介して製品を売るメリットは?」
  • 「販売代理店の探し方は?」
  • 「海外で商品を売る際に重要な考え方は?」

などの質問に答えて頂きました!後編では、海外で販売代理店を探す方法、料金の回収方法など現地での営業活動なしでは語れない内容になっています。今回の内容がベトナムへの事業展開に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業インタビュー③「日系メーカーの海外展開(ベトナム)」前編

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業インタビュー企画です。第3回目前半の今回は、メーカー勤務時代にベトナムに赴任し自社製品を現地に売り込む仕事をされていたブルーイノベーション株式会社経営戦略室の田中さんにインタビューを行いました。前編の今回は、

  • 「ベトナム現地企業のWebサイトの特徴は?」
  • 「現地の大手企業とコンタクトを取る方法は?」
  • 「日本企業に対するイメージは?」
  • 「日本企業に対するネガティブなイメージは?」

などの質問に対し、現地で営業を行っていた方ならではの意見をお届けします!

田中さんの経歴

ベトナムに駐在していたのは、2010年から2013年までの3年半です。その時は、シャープの現地法人で家電製品の営業企画をしていました。その後、東京に戻り機械系のメーカーであるナブテスコに転職し、出張ベースでベトナム、インドネシア、フィリピン、韓国、インドなどに営業に行ってました。

現在は、これまでの経験を活かし、ドローンのリーディングカンパニーであるブルーイノベーションで経営戦略や海外展開の指揮を執っています。日本のテクノロジーを海外に展開するという大変やりがいある仕事です。

ベトナム企業との関係構築について

ベトナム現地企業のWebサイトの特徴は?

2つあります。1つ目は内容の誇張があることですね。

例えば、建築業界の企業のWebサイトを見た時に何か実績集みたいなページがあったとします。そのページにはベトナムのランドマーク的な建物が実績でという記載があるんですが、その情報が真実かどうかというのは疑わしいところがあります。

2つ目は日本企業のWebサイトに比べて、企業の情報自体が少ない事ですね。

日本の会社のWebサイトは凄く丁寧に資本金、株主構成や会社の沿革情報を記載している企業が多いと思います。一方で、ベトナム企業のWebサイトはそういった情報の記載が少ないので日本企業ほどの深さの情報は取れないですね。加えて、ベトナム企業のWebサイトに用意してある英語ページはベトナム語のそれよりも情報量が少ないことが多いので、企業情報収集がWebサイトだけでは満足にできないということがあります。

Webサイトの情報以外に現地企業に足を運ぶのは必要か?

必要ですね。現地のWebサイトだけを見て判断するのは難しいと思います。なので当然、Webサイトから取れる情報を取った後に、実際に企業に訪問して話を聞いてというステップが必要です。私の経験から言うと、東南アジアにおいてはよほど知名度のある大きい企業でないと、Webページの情報だけで会社自体を信用することはできないと思います。小さい会社だとそもそもWebページがあっても実際に存在するのかどうかも分からなかったりします。

なので、気になった企業があればメールや電話でコンタクトをとって、事務所や工場があれば見に行きます。

現地の大手企業とコンタクトを取る方法は?

間に誰か信頼できる人企業の紹介を挟んだ方が良いと思います。理由は、取引する相手が大手でこちらの知名度がない場合は、初めの交渉から不利になってしまう可能性が高いからです。なので、相手企業と既に取引のある会社や現地の日本企業なりに紹介してもらう方がその後の物事もスムーズに進むと思います。

現地の日本企業とコンタクトを取る方法は?

結論から言うと、現地の日本の商工会議所日本人会もしくはジェトロなりに紹介してもらうと効率的だと思います。

なぜかと言うと、Webで闇雲に検索しても効率的ではないと思うからです。ベトナムに進出している日本企業は確か1800社ほどだったと思うんですけど、その内の多くの企業が先に挙げたコミュニティのいずれかに属していると思います。なので、そういったルートを使って探した方が良いと思います。

ベトナム語検索した時に日本企業は検索結果に表示される?

表示される確率はすごく低いと思います。どうしてかと言うと、日本企業のWebサイトは基本的に日本語メインで作っていますよね。だから当然、ベトナム語で検索しても日本語のキーワードは引っかからないので出てこないことになります。

ベトナムで英語で検索した時に日本企業の英語版Webサイトが表示されることはあると思います。その時は、おそらく日本本社の英語版Webサイトが表示されるので、日本企業のベトナム法人のページがピンポイントに表示されるケースは少ないと思います。

ベトナム語Webサイトを作る際、ネイティブによる翻訳は必要か?

結論から言うと、ネイティブによる翻訳は必要でしょうね。Google翻訳だけでは不十分というより凄くおかしいことになると思います。例えば、ベトナム語のWebサイトを日本語にGoogle翻訳してみれば分かると思いますが、すごくおかしな日本語になってしまうんですね。なので、日本語をベトナム語にGoogle翻訳したら逆のことが起こると思います。

それと会社のWebサイトはその会社のブランドもしくはコーポレートイメージになるので、かっこいい表現が必要ですよね。仮に日本語でかっこいいプロダクト名をつけたとしてもその表現は機械的に翻訳されないはずです。

ベトナムから見た日本企業について

日本企業に対するイメージは?

やっぱり品質ですね。ベトナム人は非常に親日でアジアの中で日本が一番品質が良いという認識を持っています。日本の次に韓国、その後は台湾、タイ、マレーシア、現地(ベトナム)、中国という順で続くと思います。

品質とは具体的にどのような品質?

一番は耐久性ですね。使って長持ちするということです。故障や不良品が少ないという点の評価も高いです。あとは、生産工程やプロセスがしっかりしているという印象があると思います。私も現地で営業をしていた時に、日本の品質管理基準に基づいて生産しているという証明書類だったりを求められたことはあります。

日本企業に対するネガティブなイメージは?

日本製品は価格が高いという認識は多くの現地の方が持っています。距離的にも離れているので納期が遅いというイメージもあると思います。なので、日本企業がベトナムで商品を売っていこうと思ったらその辺のターゲットを明確に設定する必要があると思います。実際に、日本で良い商品だからベトナムで売ろうとしたけど思ったように売れなかったということはよくあります。日本と同じ価格設定では高いと思われてしまう。だから、しっかりと製品の価値をお客様に伝えることがカギになります。

まとめ

いかがでしょうか?冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

「ベトナム現地企業のWebサイトの特徴は?」

→ 2つの特徴(1.内容の誇張、2.企業自体の情報が少ない)

「現地の大手企業とコンタクトを取る方法は?」

→ 信頼できる人、企業の紹介を挟んでコンタクトを取る

「日本企業に対するイメージは?」

→ アジアの中でトップの品質、信頼性が高い

「日本企業に対するネガティブなイメージは?」

→ 価格が高く、距離的に離れているので納期が遅い

となります。後編の次回は、海外でのビジネスと販売代理店との関係構築方法などのトピックを掘り下げていきます。具体的には、

  • 「駐在所に現地で雇ったスタッフは必要か?」
  • 「商社を介して製品を売るメリットは?」
  • 「販売代理店の探し方は?」
  • 「海外で商品を売る際に重要な考え方は?」

などの質問に答えて頂きました!後編では、海外で販売代理店を探す方法、料金の回収方法など現地での営業活動なしでは語れない内容になっています。今回の内容がベトナムへの事業展開に関心のある方の参考になれば幸いです。

2020年の製造業「フィリピン」

テクノポートの稲垣です。前回の記事では製造業のGDPの60%以上を縫製業が占める「カンボジアの製造業」について紹介しました。今回は日本と同じアジアの島国である南国のフィリピンの製造業について紹介します。

フィリピンの人口は2014年に1億人を突破し2023年には日本の人口を上回る予想です。また、アジア2位の経済成長率と豊富な若者人口で注目を集めるフィリピンの製造業を日本企業目線から掘り下げていきます。

フィリピンの概要

  • 正式名称:フィリピン共和国(Republic of the Philippines)
  • 首都:メトロ・マニラ(Metro Manila)
  • 大統領:ロドリゴ・ドゥテルテ(2016年6月から)
  • 通貨:ペソ(Peso)(1ペソ=2.07円 ※2020年3月17日時点)
  • 人口:約1億98万人
  • 面積:30万km2(参考:日本の面積38万km2)
  • 公用語:フィリピン語、英語
  • 宗教:カトリック(82.9%)その他キリスト教(9.6%)イスラム教(5%)その他(2.5%)
  • 平均寿命:男 65.9歳、女 73.1歳(日本:男 81.2歳、女 87.3歳)

フィリピン経済の特徴

強み

  1. 若年者人口:1億人を超える人口の約50%を25歳以下が占める
  2. 出稼ぎ労働者:海外の出稼ぎ労働者からの仕送りがGDPの約10%を占める
  3. 貧困層の減少:フィリピン政府は0~14歳の健康と教育に投資することで極度の貧困の根絶を目指している
  4. 英語:人口の多くが英語を話せるため、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)分野でアジアのリーダー的な立ち位置

弱み

  1. インフラ未整備:交通渋滞の蔓延やスラム街など、インフラ未整備の地域が多い
  2. 所得格差:富裕層が全体の約1%であるのに対し、貧困層が全体の約60%を占める
  3. マネーロンダリング:銀行やカジノによる資金洗浄(マネーロンダリング)が横行

フィリピンの産業構造

フィリピンの産業構造を調べます。下の図は2018年におけるフィリピンのGDPにおけるサービス業、製造業、農業の割合を示したグラフです。


データ引用元:ASEAN Key Figures 2019

グラフから以下のことが読み取れます。

  • 製造業の割合は34.1%でASEAN諸国の平均36.6%をわずかに下回る
  • GDPに占めるサービス業の割合は57.8%でASEAN諸国の中で3番目に大きい

▶現状

  • サービス産業が増加傾向で製造業は緩やかに増加傾向
  • 農業はGDP全体の8%だが、労働力の約30%が農業に従事している
  • 1980年から2017年までの経済成長率は3.7%と緩やかだが、2012年から2017年の経済成長は6.1%と急速な成長を記録

▶今後

  • フィリピン政府は製造業とサービス業に投資をシフトしており、農業は衰退傾向
  • ドゥテルテ大統領は2014年から2033年の20年間で年平均4.8%のGDPの成長を目指すと宣言

フィリピンの製造業全体

次にフィリピンの製造業全体について調べます。下の図は2019年におけるフィリピン製造業GDPにおける各セクターの割合を示したグラフです。


データ引用元:NATIONAL ACCOUNTS OF PHILIPPINES

グラフから以下のようなことが読み取れます。

  • 食品製造業が製造業全体の47.8%を占め、ここ数年増加傾向が続く
  • 化学および化学関連製品の割合はGDP全体の11.2%と2番目に大きい
  • ラジオ、テレビ、通信機器および家電分野は10.3%で3番目に大きい

▶現状

  • 製造業はGDP全体の34%を占めるが、従事している労働力は全体の16%で労働賃金も低い
  • 鉱業、鉱物処理産業、医薬品、造船、電子部品・半導体産業は近年政府が力を入れている

▶今後

  • 短期的な目標として、1. 優位性のある産業の保護、2. 新興企業の強化、3. 現存企業の強化を挙げている
  • 中期的な目標として、1. 高付加価値産業へのシフト、2. 業績が上向いている分野への投資、3. 製造業を農業、サービス業と融合、4. イノベーション産業の推進を挙げている
  • 長期的な目標として、1. 世界的な競争力の強化、2. 革新的な製造技術の強化を挙げている

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からフィリピンの製造業市場を調査した結果です。下の図は2008年から2017年までのフィリピンに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。

データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフから以下のようなことが読み取れます。

  • 統計を開始した2008年から2017年の間に日系企業数は1.76倍に増加
  • 2017年におけるフィリピンの進出日系企業数は1502で8位

▶現状

  • 進出日系企業は経営上の問題点として原材料・部品調達の難しさ、調達コストの上昇、従業員の賃金上昇、品質管理の難しさ、税務の負担などを挙げている。(出典:ジェトロ『2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査』2018年12月)
  • 2020年2月のフィリピンの※製造業購買担当指数(PMI)は、新型コロナウイルスの影響を受けながらも0.2ポイントの増加を記録しASEAN首位。※製造業の購買責任者を対象に、生産高や新規受注、在庫レベル、雇用状況、価格などの指数に一定のウエイトを掛けて算出する指数。0から100の間で変動し、50.0は「前月から横ばい」、50.0を超えると「前月比で改善や増加」を意味して景気拡大を示し、50.0未満は「前月比で悪化や減少」として景気減速を表す。

▶今後

  • 2023年のフィリピンの人口は1億2300万人と日本を追い抜くと予想されており、ASEANの経済大国としての地位を確立する見込み
  • 首都マニラでの月額法定最低賃金の上昇率は2019年で4.9%と上昇傾向だが、他のASEAN諸国(インドネシア:8.0%、マレーシア:10%、ベトナム:5.0%)と比較すると上昇率は小さい

フィリピンに進出した日本企業

次に実際にフィリピンに進出した日本企業3者を紹介します。

株式会社ティアンドエス

▶基本情報

  • 本社:埼玉県草加氏
  • 従業員数:64名
  • 事業内容:レーザ加工・曲げ加工・溶接加工・組立加工、その他板金加工全般

▶概要

2004年にフィリピンマカティシティに現地法人を設立。フィリピン国内および、アジア域内に進出済みの日系企業への部品の供給元としてレーザー加工、切削加工を行う。日本本社でトレーニングを受けたスタッフが様々な加工依頼に24時間体制で対応。

群馬合金株式会社

▶基本情報

  • 本社:群馬県伊勢崎市
  • 従業員数:99名
  • 事業内容:非鉄金属ダイカスト製造業

▶概要

1996年にフィリピン現地法人を設立。創業以来、自動車部品などに使用される軽量でリサイクル性に優れるアルミニウムダイカストのパイオニアとして事業を展開。フィリピン法人ではダイカストから切削加工まで一貫生産を手掛ける。現地では国内同様の生産体制を整え、現地日本企業の海外工場への供給基地として需要に応えている。

伊藤製作所

▶基本情報

  • 本社:三重県四日市市
  • 従業員数:120名
  • 事業内容:順送り金型設計製作、プレス部品加工、部品組立

▶概要

1995年に設立した合弁会社を2003年に100%独資にし現地法人を設立。輸出加工区である工業団地に拠点を設け、現地日本企業を対象とした高度な順送り金型の制作とプレス部品加工を行っている。英語力に優れた現地スタッフの教育と日本からの設備投資により生産体制を確立。

まとめ

今回はフィリピンの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。個人的には、豊富な若年層の労働人口と安価な労働賃金が企業の関心を集めている要因であると再認識しました。ただ、フィリピン国内ではインフラ未整備地域も多く、所得格差による貧困層と富裕層の壁が依然として残っていると感じました。

進出する日本企業の目線に立って考えると、今回紹介した3社のように現地のスタッフを雇い、日本企業の向けの部品加工や製品の供給をメイン事業にしていくスタイルが一般的だと思いました。今回の内容がフィリピン進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

2020年の製造業「フィリピン」

テクノポートの稲垣です。前回の記事では製造業のGDPの60%以上を縫製業が占める「カンボジアの製造業」について紹介しました。今回は日本と同じアジアの島国である南国のフィリピンの製造業について紹介します。

フィリピンの人口は2014年に1億人を突破し2023年には日本の人口を上回る予想です。また、アジア2位の経済成長率と豊富な若者人口で注目を集めるフィリピンの製造業を日本企業目線から掘り下げていきます。

フィリピンの概要

  • 正式名称:フィリピン共和国(Republic of the Philippines)
  • 首都:メトロ・マニラ(Metro Manila)
  • 大統領:ロドリゴ・ドゥテルテ(2016年6月から)
  • 通貨:ペソ(Peso)(1ペソ=2.07円 ※2020年3月17日時点)
  • 人口:約1億98万人
  • 面積:30万km2(参考:日本の面積38万km2)
  • 公用語:フィリピン語、英語
  • 宗教:カトリック(82.9%)その他キリスト教(9.6%)イスラム教(5%)その他(2.5%)
  • 平均寿命:男 65.9歳、女 73.1歳(日本:男 81.2歳、女 87.3歳)

フィリピン経済の特徴

強み

  1. 若年者人口:1億人を超える人口の約50%を25歳以下が占める
  2. 出稼ぎ労働者:海外の出稼ぎ労働者からの仕送りがGDPの約10%を占める
  3. 貧困層の減少:フィリピン政府は0~14歳の健康と教育に投資することで極度の貧困の根絶を目指している
  4. 英語:人口の多くが英語を話せるため、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)分野でアジアのリーダー的な立ち位置

弱み

  1. インフラ未整備:交通渋滞の蔓延やスラム街など、インフラ未整備の地域が多い
  2. 所得格差:富裕層が全体の約1%であるのに対し、貧困層が全体の約60%を占める
  3. マネーロンダリング:銀行やカジノによる資金洗浄(マネーロンダリング)が横行

フィリピンの産業構造

フィリピンの産業構造を調べます。下の図は2018年におけるフィリピンのGDPにおけるサービス業、製造業、農業の割合を示したグラフです。


データ引用元:ASEAN Key Figures 2019

グラフから以下のことが読み取れます。

  • 製造業の割合は34.1%でASEAN諸国の平均36.6%をわずかに下回る
  • GDPに占めるサービス業の割合は57.8%でASEAN諸国の中で3番目に大きい

▶現状

  • サービス産業が増加傾向で製造業は緩やかに増加傾向
  • 農業はGDP全体の8%だが、労働力の約30%が農業に従事している
  • 1980年から2017年までの経済成長率は3.7%と緩やかだが、2012年から2017年の経済成長は6.1%と急速な成長を記録

▶今後

  • フィリピン政府は製造業とサービス業に投資をシフトしており、農業は衰退傾向
  • ドゥテルテ大統領は2014年から2033年の20年間で年平均4.8%のGDPの成長を目指すと宣言

フィリピンの製造業全体

次にフィリピンの製造業全体について調べます。下の図は2019年におけるフィリピン製造業GDPにおける各セクターの割合を示したグラフです。


データ引用元:NATIONAL ACCOUNTS OF PHILIPPINES

グラフから以下のようなことが読み取れます。

  • 食品製造業が製造業全体の47.8%を占め、ここ数年増加傾向が続く
  • 化学および化学関連製品の割合はGDP全体の11.2%と2番目に大きい
  • ラジオ、テレビ、通信機器および家電分野は10.3%で3番目に大きい

▶現状

  • 製造業はGDP全体の34%を占めるが、従事している労働力は全体の16%で労働賃金も低い
  • 鉱業、鉱物処理産業、医薬品、造船、電子部品・半導体産業は近年政府が力を入れている

▶今後

  • 短期的な目標として、1. 優位性のある産業の保護、2. 新興企業の強化、3. 現存企業の強化を挙げている
  • 中期的な目標として、1. 高付加価値産業へのシフト、2. 業績が上向いている分野への投資、3. 製造業を農業、サービス業と融合、4. イノベーション産業の推進を挙げている
  • 長期的な目標として、1. 世界的な競争力の強化、2. 革新的な製造技術の強化を挙げている

日本企業の進出状況

ここからは日本企業の視点からフィリピンの製造業市場を調査した結果です。下の図は2008年から2017年までのフィリピンに進出した日本企業数(拠点数)の遷移を示したグラフです。

データ引用元:海外在留邦人数調査統計|外務省

グラフから以下のようなことが読み取れます。

  • 統計を開始した2008年から2017年の間に日系企業数は1.76倍に増加
  • 2017年におけるフィリピンの進出日系企業数は1502で8位

▶現状

  • 進出日系企業は経営上の問題点として原材料・部品調達の難しさ、調達コストの上昇、従業員の賃金上昇、品質管理の難しさ、税務の負担などを挙げている。(出典:ジェトロ『2018年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査』2018年12月)
  • 2020年2月のフィリピンの※製造業購買担当指数(PMI)は、新型コロナウイルスの影響を受けながらも0.2ポイントの増加を記録しASEAN首位。※製造業の購買責任者を対象に、生産高や新規受注、在庫レベル、雇用状況、価格などの指数に一定のウエイトを掛けて算出する指数。0から100の間で変動し、50.0は「前月から横ばい」、50.0を超えると「前月比で改善や増加」を意味して景気拡大を示し、50.0未満は「前月比で悪化や減少」として景気減速を表す。

▶今後

  • 2023年のフィリピンの人口は1億2300万人と日本を追い抜くと予想されており、ASEANの経済大国としての地位を確立する見込み
  • 首都マニラでの月額法定最低賃金の上昇率は2019年で4.9%と上昇傾向だが、他のASEAN諸国(インドネシア:8.0%、マレーシア:10%、ベトナム:5.0%)と比較すると上昇率は小さい

フィリピンに進出した日本企業

次に実際にフィリピンに進出した日本企業3者を紹介します。

株式会社ティアンドエス

▶基本情報

  • 本社:埼玉県草加氏
  • 従業員数:64名
  • 事業内容:レーザ加工・曲げ加工・溶接加工・組立加工、その他板金加工全般

▶概要

2004年にフィリピンマカティシティに現地法人を設立。フィリピン国内および、アジア域内に進出済みの日系企業への部品の供給元としてレーザー加工、切削加工を行う。日本本社でトレーニングを受けたスタッフが様々な加工依頼に24時間体制で対応。

群馬合金株式会社

▶基本情報

  • 本社:群馬県伊勢崎市
  • 従業員数:99名
  • 事業内容:非鉄金属ダイカスト製造業

▶概要

1996年にフィリピン現地法人を設立。創業以来、自動車部品などに使用される軽量でリサイクル性に優れるアルミニウムダイカストのパイオニアとして事業を展開。フィリピン法人ではダイカストから切削加工まで一貫生産を手掛ける。現地では国内同様の生産体制を整え、現地日本企業の海外工場への供給基地として需要に応えている。

伊藤製作所

▶基本情報

  • 本社:三重県四日市市
  • 従業員数:120名
  • 事業内容:順送り金型設計製作、プレス部品加工、部品組立

▶概要

1995年に設立した合弁会社を2003年に100%独資にし現地法人を設立。輸出加工区である工業団地に拠点を設け、現地日本企業を対象とした高度な順送り金型の制作とプレス部品加工を行っている。英語力に優れた現地スタッフの教育と日本からの設備投資により生産体制を確立。

まとめ

今回はフィリピンの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。個人的には、豊富な若年層の労働人口と安価な労働賃金が企業の関心を集めている要因であると再認識しました。ただ、フィリピン国内ではインフラ未整備地域も多く、所得格差による貧困層と富裕層の壁が依然として残っていると感じました。

進出する日本企業の目線に立って考えると、今回紹介した3社のように現地のスタッフを雇い、日本企業の向けの部品加工や製品の供給をメイン事業にしていくスタイルが一般的だと思いました。今回の内容がフィリピン進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業インタビュー企画②「先進国フランスの試作市場へ」後編

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業インタビュー企画です。第2回目後編の今回は前回の記事に引き続き、切削部品加工受託業でフランスに事業展開を果たした、株式会社ダイショウの石塚社長へのインタビューをお届けします。後編の今回は、

  • 「フランスに事業展開を考える企業にアドバイスは?」
  • 「フランス企業と比較した時の日本企業の特徴は?」
  • 「日本の製造業企業がフランス語Webサイトを作る際に注意すべきことは?」
  • 「アジア系の人、企業に対して差別はある?」

などの質問に対し、現地で会社を運営する方の生の声をお届けします!

フランス進出について

ドイツ進出とフランス進出の違いは?

私個人としては、ドイツに進出する方が楽だと思います。なぜかと言うと、ドイツは今までの進出してきた日本企業とのつながりが多いからです。要は、歴史や経験値がフランスよりも深いということです。今私が言ったことは、実際に展示会に行ってみるとよく分かると思います。ドイツの展示会に出展している日本企業の数は、フランスのそれと比較すると断然多いです。なので、一般にフランスに進出しようとする日本企業の数は、ドイツに進出しようとする企業に比べて格段に少ないように感じます。

ですが、フランスに進出のチャンスがないわけではない思います。自分の仲間内ではフランスは日本人が想像するより工業国だよ、進出のチャンスはあるよ、という話をよくしますからね。

フランスに事業展開を考える企業にアドバイスは?

一つ確実に言えることは、ヨーロッパに支社を設けた方が良いということです。なぜかと言うと、例えば何かトラブルがあったときに、対応してくれる営業窓口や支店があるのと、ないのでは受注の幅が大きく変わるからです。

自分の経験から言うと、展示会に出展してお客さんが興味を持ってくれて「すごく良い品質だね!一回買ってみようかな。」と言ってくれることはよくあります。その後にお客さんが「ところでおたくはヨーロッパに支社はあるの?」と訊かれて、「ちょっとまだないんですよね。」と言うと、途端に「残念だなぁ」というリアクションが返ってくるんですよね。こういった考えの根底には、やはりヨーロッパから見ると日本は遠いアジアの国の一つ、という認識があると思います。

お客さんからしたら、ただでさえ輸送費の影響で高い買い物になるのに、サポートがヨーロッパで受けられないとなると、さらに不安ですよね。つまり、ヨーロッパに支店を持つということは、お客さんの不安を減らすと言う意味で価値があるんです。

支店はヨーロッパにあればいい?

ヨーロッパにあればいいと思いますよ。というのは、ヨーロッパにおいて国境はさほど関係ないですから。逆に、ヨーロッパに支店がないとなると、ちょっと遠いなぁという印象を持たれちゃいますね。また、既にヨーロッパのどこかに支店があるなら、どんどんほかの国にも進出した方が良いと思いますよ。

フランス進出に英語は必要?

やはり英語は必要ですね。それは、欧州展示会は国際即が豊かだからです。出展した中小企業の展示会MIDESTの場合、ヨーロッパの国はもちろん多いですけれど、北アフリカのモロッコ、中東の国を始め、中国、台湾企業も出展しています。先ほど紹介した、我々より前にフランスに進出した由紀精密さんは、我々と同じくフランスに支社があります。その支社に勤める従業員の方の一人に日本人なんですけど、英語とフランス語をしっかり話す女性の方がいるので、その違いは大きいですね。

理想的には、事務所には英語を話せる現地の人が常駐してすぐに電話が取れる、という状況ですね。例えば、ドイツに進出するなら英語が話せるドイツ人が常駐しているようなイメージです。

フランス語ができなくてもビジネスはできる?

私のフランス語もまだまだなんですが、ヨーロッパはそういう人達でも対等にビジネスをやっていけるような受け入れ態勢があると感じます。それは、ヨーロッパの中でもフランスは移民の多い国で、移民の中には読み書きが十分にできないという方も多いんですよね。そうした理由もあって、ヨーロッパは言葉が流暢ではない人を受け入れる態勢が日本よりあると思います。

加えて、ビジネスにおいて重要なのは品物です。品物が評価対象なので、そこがしっかりしていれば問題ないと思います。

フランスの日本企業ついて

フランス企業と比較した時の日本企業の特徴は?

良い質問ですね。よく言われるのは、「質」と「繰り返し精度の高さ」ですね。後者の繰り返し精度の高さと言うのは、繰り返し同じ品質の製品を作り続け、安定供給ができる技術力のことです。このおかげで、お客様から重要部品を依頼されることもあります。こういった細部までこだわって作るという力に関しては、日本企業はすごいと思います。おそらく、より良いものを作ろうという意識や気質の違いがそうさせていると思います。

対して、こちらの企業は最低基準さえ満たしていればOKという考えが普通です。わかりやすく言うと製品の裏面に傷があったとしても、その部分が機能的に問題なければOKという感覚です。

フランスで成功している日本企業の特徴は?

製造業に限って言うと、技術が優れている企業です。よく言われる海外に進出する企業が直面する課題として、値段と技術のバランスがあります。海外で商品を売るには当然、輸送費や関税といったコストがかかりますからね。その中でも成功している企業は、値段が持つ以上の技術的な価値を提供できる企業だと思います。要は、替えがきかないような製品を持っているような企業は、我々の周りでも成功している印象がありますね。

加えて、高い技術力はお客さんとの信頼関係に直接的につながります。信頼関係の構築に必要な継続的な仕事の受注という面でも、技術力は必要ですよね。

日本製品に対するリスペクトはあるか?

結論から言うと、日本人が思っているほど「ジャパンクオリティ」みたいな感覚はこっちにはありませんね。全体的にリスペクトしている感じは受けます。ですが、やはり会社対会社が基本です。日本企業といってもピンからキリまでありますからね。

日本企業に対するイメージは?

一般的に言うと、遠いなぁという印象ですね。なので、ただでさえ距離が遠くて輸送費もかかるので、その中でお客さんと関係を構築するのは難しいと思います。ただ、お客さんが一度日本企業と取引して良い品物をもらっているとか、試しに一回注文を受けてそれがすごく良い経験になった、などの経験値があると日本企業に対する印象は大きく変わると思います。

フランスのネット事情について

フランスのWebサイトを見る時に特に注意してみる内容は?

日本と同じですけど、更新頻度ですね。要は、情報が新鮮かどうかです。あとこれはWebサイトの見方の話ですが、Webサイトを見る時はあくまでも参考程度に見ています。というのは、Webサイトというのは実際の内容よりも良く見せるようにできているからです。なので、情報をうのみにせず、大事なことは実際に会って確認することを心がけています。

日本企業とヨーロッパのWebサイトの違いは?

製造業に限って言うと、ヨーロッパのWebサイトの方が洗練されている感じがしますね。そうなる理由の一つは、業界以外の人にも分かりやすいデザインにする必要があるからだと思います。フランスは地元の行政が製造業を支援していて、製造業のWebサイトにも県のロゴやリンクが貼ってある場合が多いです。すなわち、地域のリンクを通して業界以外の人が見に来るケースも多いので、直観的に分かりやすいデザインにしているんだと思います。

フランス語Webサイトを作るにあたって、Google翻訳でも十分意味は通じるか?

ある程度は通じると思います。しかし、ネイティブの翻訳は必ず必要だと思います。例えば、私たち日本企業が中国企業からダイレクトメールをもらった時に、中国企業(外国企業)の日本語はすぐ分かりますよね。特に、日本企業は外向企業からの拙い日本語メールに対する免疫が少ないと思います。

先ほども言った通り、ヨーロッパには現地語に不慣れな外国人が比較的多く、受け入れ態勢もあります。なので、Webサイトの出来が外国語チックでも日本より受け入れてくれる可能性はあると思います。ただし、業界の専門用語、専門的な話をするにはGoogle翻訳だと不十分です。

これは参考の話ですが、私の前の会社のパートナー(フランス企業)の中で日本語Webサイトを作ろうという話がありました。その際に私は翻訳担当として参画しました。これがそのWebサイトです。当時はフランス語も不慣れでしたが、加工現場の経験のおかげで専門用語に関しては苦労しませんでした。なので、外国語HPを作る際の理想としては、専門用語を知る翻訳家に翻訳してもらうことだと思います。

フランスのネットで日本企業のサイトがヒットしたことはあるか?

ないですね。グローバルに事業展開している大手を除くと、日本企業のHPが引っかかったことはないです。

これは余談ですが、フランスを含めたヨーロッパで検索を行う方法は2種類あります。1つ目は、現地の言葉で検索する方法。2つ目は、英語で検索する方法です。後者の英語で検索する方法はグローバルな検索結果が表示されるので、もしかしたら英語で検索すると日本企業HPが引っかかる可能性はあるかもしれないです。ただ、私個人としてはフランス語検索することがほとんどなので、分からないですね。

日本の製造業企業がフランス語Webサイトを作る際に注意すべきことは?

専門用語の翻訳精度です。これは良くある話なんですが、エンジニアが現地の中小企業町工場に行って英語で話しても通じない、専門用語も英語だと通じないというケースです。

私事ですが、ブログで日仏の専門用語辞典を作っています。

先ほど言った経験をする方がいれば、自分のブログページを見て写真を見せながら説明すれば伝わると思います。英語とフランス語に対応していて、発音もついているので役に立ててもらえれば幸いです。

フランスの現状について

フランス生活で日本ギャップを感じる?

ギャップはすごいありますね。日本は色々なものが綺麗に整っていて、人もインフラもしっかり整っていると思います。一方で、日本にいると自分もしっかりしなければ、と堅苦しくなってしまう面もありますよね。なので、フランスの価値観になれてしまうと、もう日本には戻れない気がします。(笑)こういったギャップは、日本とフランスの違いというより、日本と外国の違いだと思います。

海外に住んでみて初めて日本という国の特殊性、優れている部分を感じましたね。加えて、現地の人の考え方の違い、文化の違いなんかも分かります。その辺は、海外旅行では感じられない貴重な経験だと思っています。

アジア系の人、企業に対する差別はある?

私自身あまり感じたことはないです。これは先ほども言った理由で、特にビジネス上では差別はないです。国ではなく会社対会社で取引しますからね。

一つ意識して欲しいことは、日本人はアジア人の一員であるという認識が必要だということです。フランスの人からしてみれば、中国も日本も遠いアジアの国の一部ですからね。その中でもう一歩関係性を進めて、日本の文化の違いなどについて話せるような仲になれば良いですよね。

フランスの治安は?

治安が悪いと感じたことはないですね。例外的に、特に都市部では文化も価値観も違う色々な人種の人がいるので、ある程度のトラブル、治安の悪さみたいなものはあります。テロもあります。

ただ、一つフランスに来て分かったことを伝えさせてください。

例えば、フランスでテロが起こったとなると「フランスってあぶねぇ」って日本から見ると思いますよね。ところが、実際は特定の地域に住む特定の人が犯した事件なので、フランスの国全体が危ないことはないんです。フランスで何か事件が起こると、日本から「大丈夫なの?」って心配されることもあるんですが、現場から場所が違えばほとんど関係なかったりするんですね。なので、今回のコロナウイルスの件でフランス国内のアジア系の飲食店が襲撃されたり、人種差別を受けた、みたいなニュースが日本ではクローズアップされますが、その外から見た報道の仕方と受け取り方に必ずギャップが存在するので、現地の人間はそこに違和感を感じてしまいます。

実際に事件を起こしているのは、全体数の内のほんのわずかな人達ですよね。報道や記事はメディアが売るために作るわけなので、必ず情報の受けて側が責任を持って取捨選択する必要があると思います。ブログでもそういう話を挙げているので、フランスに実際住んでみて感じた価値観の違い、文化の違いなんかを感じていただけたら嬉しく思います。

コロナウイルスの影響は?

日本の人からすると、フランスに住んでいるからコロナウイルスは関係ないと思われがちですが、実際そうではないんです。ヨーロッパは地続きなので、私の住んでいる地域だとイタリアやスイスの国境が近いんですね。なので、イタリアの北部でコロナウイルスが拡大しているニュースの方にむしろ注意しています。(2月23日インタビュー時)

最後に

最後に、少しだけ自分の話をさせてください。私がフランスに来た当初は、工場も何から何まで売って来ました。つまり、ずっこけたらそれでおしまいという訳です。誰からの保証もありませんでした。つまり、ビジネスをしに来ていると同時に、生き方を選択しに来たんです。中小企業って日本国内でもそうですが、仕事と家庭が表裏一体なんですよね。会社の売り上げが上がれば家族も円満で、会社の売り上げが落ちれば家庭内にも不和が生じる、みたいな。(笑)

そういうバックグラウンド中で、こっちに来てたくさん苦労をしてきました。なので、今回のインタビューを通して、メディアの情報だけからは分からない、現場の生の声と言うものを感じてもらえれば嬉しく思います。あと今後、この世界の製造業インタビュー企画を通して、世界中で働く日本の製造業事業者の座談会みたいなものが開けると面白いと思います。裏話とかも聞けそうですよね。(笑)

まとめ

いかがでしょうか。冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

  • 「フランスに事業展開を考える企業にアドバイスは?」

→ ヨーロッパに支社を設けた方が良い

  • 「フランス企業と日本企業を比較した時の特徴は?」

→ 日本の中小企業は「質」と「繰り返し安定供給する力」が高い

  • 「日本の製造業企業がフランス語Webサイトを作る際に注意すべきことは?」

→ 専門用語の翻訳精度を保つこと

  • 「アジア系の人、企業に対して差別はある?」

→ 差別はなく、ビジネス上問題になることもない

のようになります。現代ではメディアやインタ―ネットを通して、誰もが簡単にオンライン上のデータにアクセスできます。しかし今回のインタビューを通して、石塚さんのような現場で働く生の方の声ほど説得力のある情報はないと改めて実感しました。今回の内容がフランスへの事業展開に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業インタビュー企画②「先進国フランスの試作市場へ」前編

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業インタビュー企画です。第1回目の前回は、中国の工場運営者の方にインタビューを行いました。第2回目の今回は、切削部品加工受託業でフランスに事業展開を果たした、株式会社ダイショウの石塚社長にインタビューを行いました。前編の今回は

  • 「なぜフランスを選んだ?」
  • 「フランス企業のメールのやり取りの特徴は?」
  • 「フランスでの協力企業(パートナー企業)の探し方は?」
  • 「加工する時の材料の仕入れ先は?」

などの質問に対し、現地で会社を運営する方の生の声をお届けします!

フランスに進出の経緯について

フランスに進出した経緯は?

きっかけは、元々の本社があった神奈川県の茅ケ崎市の企業ネットワークでフランスに事業展開しようという話が挙がったことですね。加えて、我々の会社は試作をメインとして生業を立てているので、試作の市場は発展途上国ではなく、アメリカやヨーロッパ諸国などの先進国がターゲットになることも理由の一つですね。

なぜフランスを選んだ?

理由は大きく3つあります。

1つ目は、フランスは先進国の中でも航空機市場が大きいことです。我々の会社はもともと航空系、宇宙系に関する試作部品などを作っていました。なので、有名なエアバス社や軍事関連の企業も多いフランスに進出すれば、航空系、宇宙系の仕事に当たる確率が高いと思ったからです。

2つ目は、由紀精密さんがヨーロッパ市場を既に開拓していたことです。先ほど言った茅ケ崎の企業ネットワークの中に、精密加工業を専門とする由紀精密さんがいて、彼らが既にヨーロッパでの取引実績を持っていたことがもう一つの理由ですね。

3つ目は、家族の同意が得やすかったからですね。これは、半分冗談で半分真面目なんですけど、海外に家族を連れてくるとなったときに、奥さんに「うん」と言ってもらう必要があるんです(笑)。そうなったときに、ヨーロッパの中でもフランスは食文化や文化的な側面で日本人が持つ印象が良いんですよね。加えて、実際に現地で生活するとなったときに、美味しい食事が食べられないとなればストレスにもつながってしまうので、住むのが辛くなってしまいますよね。

現在の業務内容は?

現在は、アドバイザー的な立場の仕事が多いですね。具体的に言うと、(仕事を受けている)パートナ―企業の現場に行って、生産効率の改善、職場環境の改善などに貢献することがメインです。要するに、今までの経験を活かしてアドバイスや意見交換をしています。

なので、以前は一日中現場に立って機械を触っていることが多かったですが、現在では事務所にこもって仕事をする時間の方が長いです。

フランスでのビジネスについて

何語でコミュニケーションをしている?

90%はフランス語です。まず、フランス全体の話をすると、若い人ほど英語が話せる割合が高い印象を受けます。それは、フランスの多くの大学生が、半年から一年ほど外国に留学し語学を習得しよう、という姿勢を持っているからだと思います。

一方で、我々が取引している中小企業では、現場にいる職人さんを始め、フランス語しか話せない人が多いですね。大企業になると話は別で、英語が話せる人の割合は高くなると思います。

フランス企業はメールを使う?

使いますね。中国では、企業間でもSNSでやりとりすると聞きましたが、我々が仕事でSNSを使ったことはありません。SNSは信頼性のバックグラウンドが弱いので、図面などの重要書はメールで送るのが主流ですね。

これは直接的に関係ない話ですが、フランスではLinkedInというSNSの普及率が高いです。フランスでは、日本と違って終身雇用という文化はないので、次の会社に転職する時などにLinkedInが使われる印象がありますね。

フランス企業のメールのやり取りの特徴は?

特有の特徴というのはあまりないですね。敢えて言うならば、フランスの方が端的に用件を伝えて回答も端的な感じがします。日本は文化的に遠回しな表現だったり濁したりする印象はあるけど、フランスは簡潔明瞭な文章が多いです。

フランスでの協力企業(パートナー企業)の探し方は?

現在のパートナー企業と出会ったきっかけは展示会です。フランスでは地元の行政が経済活性にしっかり機能していています。なので、我々の会社は地域の経済開発公社的なところと接触し、展示会を通して色々な会社を訪問させて頂き、結果的に現在のパートナー企業と巡り合うことができました。現在のパートナー企業以外にも、数地域からオファーを受けました。中には、日本にも支社がある企業があったり、なかなかグローバルです。

フランスでの営業の方法は?

展示会が多かったです。展示会では新規顧客を開拓するために、地元企業の展示ブースを探して訪問しました。ある日のパリで行われた「MIDEST」という下請け企業の展示会に参加した時の話ですが、その中で感じたことは、日本の技術は世界に太刀打ちできるということです。

MIDESTではフランス国内はもちろん世界各国の企業ブースを見て回りましたが、技術的に我々のレベルは見劣りしない、むしろ上位に食い込んでいけると感じました。それは我々の技術が特別であるというよりも、日本の技術力水準が高いことに起因していると思います。

加えて、パートナー企業の既存顧客にも営業に行ったりしました。この営業方法のメリットは、やはりパートナー企業が一緒にいると、顧客との距離が縮まりやすい事ですね。加えて、パートナー企業からしても、我々の技術を使って顧客に新しい価値を提供できるので相乗効果が生まれますよね。

一つ伝えておきたいことは、良い関係のパートナーに巡り合うことが大きなチャンスにつながるということです。製造は1社だけで完結できません。仕入れメーカーから仕上げメーカーまで必要です。その中で、良いパートナーに巡り合うということは、そのネットワークをすぐに使えて他企業とつながるチャンスをもたらします。一般に日本企業は技術力に優れているので、あとはどうやって営業につなげるか、注文につなげるか、といった部分が課題になると思います。

フランスでの加工業について

加工する時の材料の仕入先は?

大きく2つのパターンに分かれます。1つ目は、フランスを含めたヨーロッパの材料を使う場合です。我々が取引するお客さんの中でも軍事や航空関連事業の方は材料にうるさい場合が多いんです。具体的には、材料の原産地や規格をきっちり指定してきます。そうした場合は、ヨーロッパで材料を買って日本に輸送します。その後、日本で加工し、再びフランスに輸送します。

2つ目は、日本の材料を使う場合です。1つ目のパターンのような縛りがない場合は、JISにおけるISO相当品を使い日本で加工し、輸送してもらいます。この場合はもちろん日本で事前にお客さんに確認をとってから作ります。なので、加工材料はヨーロッパ材料か日本材料、加工は主に日本で行っています。

1つ例外として、ヨーロッパで加工を行う場合があります。それは、仕上げのメッキ加工です。日本のメッキ屋さんは基本的に海外材料の相当品で合っても、若干の成分違いがあれば品質保証ができない場合はが多いので、メッキ加工だけヨーロッパで行うことがあります。これ以外にも例外はあって、材料の違いによって工程が違ったり、受け入れ態勢が違ったりということはよくあります。面白いですよね。(笑)

材料の品質は同じ型番でも原産地によって違う?

日本材料とヨーロッパ材料の品質はそんなに感じないですね。なので、日本材料の品質は高いと思いますよ。それ以外は我々の感覚から言うと、中国材料に若干むらがあって使いづらいという印象です。同じ型番でも日本材料とヨーロッパ材料の品質の違いは切削加工上は感じません。ただし厳密に言うと配合などの違いがあります。材料の品質に関してはアジアメーカーなどと比べると品質の安全性が優れていると思います。

まとめ

いかがだったでしょうか?冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

  • 「なぜフランスを選んだ?」

→ 3つの理由(1. 航空機市場の規模、2. 由紀精密さんの実績、3. 家族の同意)

  • 「フランス企業のメールのやり取りの特徴は?」

→ 端的に用件を伝えて、端的に回答

  • 「フランスでの協力企業(パートナー企業)の探し方は?」

→ 地元の行政を通した展示会

  • 「加工する時の材料の仕入れ先は?」

→ 2つのパターン(1. ヨーロッパの材料、2. 日本の材料)

となります。後編の次回は、フランスへの事業展開を日本企業の目線から掘り下げていきます。具体的には、

  • 「フランスに事業展開を考える企業にアドバイスは?」
  • 「フランス企業と日本企業を比較した時の特徴は?」
  • 「日本の製造業企業がフランス語Webサイトを作る際に注意すべきことは?」
  • 「アジア系の人、企業に対して差別はある?」

などの質問に答えていただきました!後編も、実際にフランス進出を果たした石塚さんならではの興味深い内容になっています。今回の内容がフランスへの事業展開に関心のある方の参考になれば幸いです。

世界の製造業インタビュー①「コロナウイルスの影響は?中国進出企業の今」

テクノポートの稲垣です。今回は世界の製造業インタビュー企画です。本企画の目的は、実際に海外に事業展開している製造業事業者の方にインタビューを行い、日本の中小製造業の世界進出に役立つ情報をお届けすることです。第1回目の今回は、中国の広東省で絞り加工、精密プレス品の製品生産を行う岐阜精器工業の波多野さんにインタビューを行いました。

  • 「中国の人件費は昔と比べてどうか?」
  • 「中国で工場を作るのは、現状良いアイデアか?」
  • 「中国ではいまだに ”Made in Japan” は顧客に響くか?」
  • 「現状コロナウイルスが中国の工場運営に与えている影響は?」

などの質問に対し、現地で働く人の生の声をお届けします!

中国の人件費について

中国の人件費は昔と比べてどうか?

我々が進出した2002年と比べると、約3倍ですね。もちろん中国と言っても土地が広く、最低賃金も場所によって違います。

中国の人件費の上がり方は?

鈍化していると思いますね。東南アジア諸国と比べても、人件費の上がり方にそれほど差はないように感じます。

我々が今工場を経営している地域(広東省)だと、大体ベトナムの人件費と同じくらいだと思います。

中国進出にあたって人件費以外のメリットは?

従業員が確保しやすい事ですね。就職したい若い人間がたくさんいるので、工場の掲示板に張り出せば自然と人が集まりやすいです。

中国人労働者について

何語で中国人労働者とのコミュニケーションをしている?

全て中国語です。英語のコミュニケーションはありませんね。なので、中国国内でビジネスを行うとなると中国語は必須と考えた方が良いと思います。

何割くらいの中国人労働者が英語を話せる?

一人もいませんね。我々の工場には120人前後の中国国籍の人が働いていますが、英語が話せるという人は一人もいません。

経営層レベルでちらほら要る程度で、中間管理職を務める30歳から50歳あたりで英語を話せるのは人はとても少ない印象ですね。

性格的な面で中国人労働者の特徴は?

良い面として「稼ぎたい」という意欲が日本人労働者よりも高いと思います。現在、日本で進められている働き方改革のような気運は中国にはありませんから、どんどん残業してどんどん稼ごうというタイプの労働者が多いです。

一方で、「離職率」が高いという面もあります。忙しく働くことができない会社からは、人が離れていってしまうということもよく起こります。また、自分の望む給料がもらえなかったら、すぐに次の職場に移る人が日本よりも多いですね。上の話と関連したもので言うと、給料によって態度ががらりと変わってしまうということもあります。

労働者間でも、誰がどれだけの給料をもらっているかの情報はなぜかすぐに広まるので、例えば「彼が昇給できて、私が昇給できないのはなぜだ?」みたいな申し出もしょっちゅうありますね。(笑)

中国でのビジネスについて

日本品質を中国工場で実現するための工夫は?

進出した当時は、日本人技術者が中国に行って設計から組み立てまで、手取り足取り教えました。我々は物を作るうえで金型の設計、開発とかが大事になってくるので、技術者の育成に力を入れましたね。

中国国内での協力企業の探し方は?

受け身的な方法としては、「営業メール」をもらうパターンですね。日本では中国企業から来る営業メールはスパム扱いになっているところが多いと思いますけど、我々は、そういったメールに対して従業員にコンタクトを取らせます。その後、実際に工場に行ってもらい、作っているもの、工場の様子などを監査させます。監査の結果、良いものが作れそうだと判断した場合には協力工場の候補として考えるようにしています。

自分たちから探しに行く方法としては、中国国内で開かれる「展示会」が主ですね。

Webから探す時は、「地域名」+「加工方法」という形でHPを見ていく感じです。「地域名」を入力しないと、膨大な量の情報が出てきてしまうんです。先ほども言いましたが、中国と言っても広いので、広東省から北京は海外と同じくらいの感覚なんですよね(笑)

中国で工場を作るのは、まだ間に合うか?

間に合うとは思います。ただし「場所」が重要になりますね。と言うのは、場所によって人件費の上がり方が全然違うからです。例えば、我々が進出している場所は広東省の田舎で日系企業はほとんどいません。よって、人件費の上がり方も遅く、上海のような大都市のそれと比較すると全然安いです。

なので、これから中国への進出を考えるなら人件費の上がらなそうな場所に拠点を設けることが重要だと思います。とは言うものの、中国の田舎でも20年ほど前に比べると3倍くらい人件費は上がっていますが、日本に比べると全然安いですよ。我々の場所で月の最低賃金は4万円/月程度ですから。

中国企業のメールのやり取りの特徴は?

中国の場合、全体的にカジュアルな印象を受けますね。

日本企業はきっちり文章を作るイメージですが、中国企業とのやり取りは一文でOKだったり、「!」を入れてたりします。そういう対応をしても失礼には当たらないんですよね。

もう一つの大きな違いは、中国ではメールを使わないことですね。

日本で言うLINEのようなSNSプラットフォームを企業間のやり取りでも使用します。中国ではWechatというSNSで図面を送って、見積もりをもらうのが当たり前になっています。FAXなんかもってのほかですね。(笑)

日本ブランドについて

日本企業のイメージは?

お客様によく言われるのは、品質と納期についてですね。

我々は生産は中国でやっていますが、あくまでも日系企業の品質を教え込まれた工場なので大丈夫だろう、という感覚で見てもらっていますね。要するに、中国の企業に出すより我々に出した方が安全だろうという感覚だと思います。

中国ではいまだに ”Made in Japan” クオリティーは顧客に響くか?

最近あまりないですね。中国の技術は日本が思っている以上に進展していますからね。なので一昔前の様に、日本企業の家電を使っているからすごい、みたいなことは全くありませんね。

結局、スマートフォン市場も日本の製品はありませんし、家電もサムスンやLGの方が売れているんですよね。強いて言えば、自動車はいまだにトヨタを始めとする日本のブランドが好んで使用されているぐらいですかね。

中国のネット事情について

中国のWebサイトを見る時に特に注意してみる内容は?

中国の工場関係のWebサイトが中心になりますけど、一番見るのは製品の形状、工場内部の様子などの視覚的なイメージが主ですね。言葉が分からないこともあるので。

中国で日本企業のWebサイトを見る際に特に注意してみる内容は?

工場関係を見る時は、どんな加工をしているか写真で判断しています。加えて、その会社が得意としている点をアピールする文面があればそこも読むようにしてます。

中国語HPを作るにあたって、Google翻訳でも十分意味は通じるか?

結論から言うと、ネイティブなり流暢な人が翻訳する必要があると思います。

よく中国企業が片言の日本語でHPを作っているのを見かけますよね。あれと同じような感じになってしまうんですよね。加えて、自分が翻訳した文章とGoogle翻訳で訳したものを比較すると、やはり前者の方が正確だと感じるのも理由の一つですね。

中国のネットで日本企業のサイトがヒットしたことはあるか?

あまりないですね。

中国国内で中国語で検索すると日本語サイトはほぼ引っかからないです。たまに引っかかる海外のWebサイトは、台湾や香港のものくらいですね。

これは直接関係ない話なんですが、お客様とか協力企業とかに我々のHP(日本国内にサーバーがある)を見てもらうと、「なんでこんなに動作が遅いの?」と言われるんですよね。おそらく、中国政府がネット検閲に力を入れている影響もあると思います。

中国のネットを使う上で不自由することは?

Googleが使えたり使えなかったりすることですね。

Googleを使っていて検索できる時もあれば、次のページに行こうとすると急に動けなくなってしまうこともあります。加えて、我々のHPに載せているYoutubeの動画なんかは、全く見れなくなっていますね。

コロナウイルスについて

現状コロナウイルスが中国の工場運営に与えている影響は?

工場の運営にあたっては、政府から大きく2回の指示がありましたね。

1回目は、1月31日から出勤して工場を稼働させる予定が、2月3日まで完全休業してください、と言われたものですね。中国では、1月17日から旧正月(春節)が始まって、それと同時にコロナウイルスが拡大していった影響ですね。

2回目は、先ほどの2月3日から一週間の休業延長命令でしたね。また、一週間後の2月10日から全ての工場が稼働できるわけではなく、中国政府の監査をパスした工場から順に稼働許可が下りるシステムです。監査は主に、工場労働者の体温管理、アルコール消毒の管理度合いなどがチェックされました。我々の工場はOKがもらえて2月10日から工場が稼働しています。

政府の監査に通過する企業の割合は?

実を言うと、我々の工場は運が良かっただけで、まだ工場の運営許可出ていない会社は山ほどあるんですよね。

許可が下りていない割合は地域ごとによって違いますね。それは、大手から順に稼働許可が下りるようになっているからです。我々の工場は田舎町で他の工場が少ないからすんなりOKが出ましたが、例えば、大手企業が集まった深圳などは、中小企業の多くがいまだに稼働許可が下りていないと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。冒頭の4つの質問に対する答えをまとめると、

  • 「中国の人件費は、20程前に比べると約3倍に上昇したが日本に比べるとまだまだ安い。
  • 「中国に工場を作るのは、間に合うが人件費が上がらない場所を選ぶことが重要。
  • Made in Japan が顧客に響くことは、ほとんどない。
  • 「コロナウイルスの影響で、政府からの監査が入り多くの中小企業が稼働休止中。

のようになります。個人的には、日本ブランドが響かなくなっていたり、SNSで企業間のやり取りが行われていたり、中国の技術の発展を感じるインタビューになりました。今回の内容が中国への事業展開に関心のある方の参考になれば幸いです。

次回は、日本の切削部品受託加工技術でフランス進出を果たしたあの方のインタビューをお届けする予定です!

2020年の製造業「カンボジア」

テクノポートの稲垣です。前回の記事では東南アジア最後のフロンティアとして日本企業の注目を集める「ミャンマーの製造業」について紹介しました。今回はそのミャンマーと同じく縫製業が盛んで、2020年のGDP成長率がASEAN最上位と予想されるカンボジアの製造業ついて紹介します。

カンボジアの製造業の最大の特徴は何といっても縫製業(繊維・衣類・履物)です。調査によると製造業のGDP全体の60%以上を縫製業が占めています。今回はカンボジアの製造業を、実際に同国に事業展開を果たした日本企業の紹介を交えて、日本企業の視点から調査しました。

カンボジアの概要

  • 正式名称:カンボジア王国(Kingdom of Cambodia)
  • 首都:プノンペン(Phnom Penh)
  • 首相:フン・セン(1998年11月から)
  • 通貨:リエル(Riel)(1リエル=0.027円 ※2020年2月20日時点)
  • 人口:約1630万人
  • 面積:18万km2(参考:日本の面積38万km2)
  • 公用語:クメール語(カンボジア語)
  • 宗教:仏教(96.4%)イスラム教(2.1%)キリスト教(1.3%)その他(0.3%)
  • 平均寿命:男 62.4歳、女 67.5歳(日本:男 81.2歳、女 87.3歳)

カンボジア経済の特徴

強み

  1. 縫製業:製造業全体の約60%を占める
  2. 炭化水素鉱床:カンボジア領海内に石油・天然ガスを所有(現在調査段階)
  3. 観光業:GDPの約16%を占め、年成長率7%で増加傾向
  4. 若年層人口:国民の50%以上が22歳以下

弱み

  1. インフラ整備不足:電気設備、交通ネットワーク基盤の未整備
  2. 熟練技術者不足:職業訓練不足、高い給与を求める転職などが原因
  3. 貧困:都市部と農村部での格差拡大、人口の35%は1日1ドル以下での生活

カンボジアの産業構造

カンボジアの産業構造を調査します。下の図は2017年のカンボジアのGDPにおけるサービス業(政府の活動、通信、輸送、財政、民間サービス業)、工業(鉱業、製造業、エネルギー産業、建設業)、農業(農業、 漁業、林業)における各部門の割合をしめしたグラフです。


データ引用元:Cambodia GDP – composition by sector | index mundi

グラフから以下のようなことが読み取れます。

  • 産業(鉱業、製造業、エネルギー産業、建築業)の割合は32.8%で近年増加傾向
  • 農業の割合が25.3%でASEANの中ではミャンマーに次いで大きい

▶現状

  • 1998年から2018年までGDPの年成長率約8%の増加を続け、急速に成長している
  • 主要産業として、縫製、軽工業、食料加工、不動産建設、観光業が成長を支えており、産業の多様化が課題

▶今後

  • 2020年現在、低所得国に分類されているが政府は2030年までに中所得国、2050年までに高所得国を目指している
  • インフラ不足や貧困問題による競争力不足に対処するために、IT産業に投資をシフトする見通し

カンボジア製造業全体

次に、カンボジアの製造業全体についてです。下の図は2018年のカンボジアの輸出品目の付加価値額を示したグラフです。


出典:IS CAMBODIA POISED TO BECOME A MAJOR MANUFACTURING HUB? | intouch

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

▶現状

  • 2018年のカンボジアの労働人口割合は84.3%でASEAN諸国で最も高く、製造業従事者の割合は20%(サービス関連業48.2%、農業54.9%)
  • 製造業におけるテクノロジー導入が遅れており、生産効率の低さが原因で世界的な競争力は低い

▶今後

  • アジア開発銀行によると、縫製業の規模は緩やかに縮小し、新興産業として電子部品、自動車部品、自転車、精米、ゴムなどの規模が増加する見通し
  • カンボジア政府は税制優遇など、外資系の投資を積極的に受け入れており縫製業工場のほとんどは外資系企業(台湾28%、中国本土19%、香港17%、韓国13%)

日本企業の進出状況

ここからは、日本企業の視点からカンボジア製造業市場を調査結果です。下の図は1992年から2028年までのカンボジア日本人商工会登録企業数の遷移を示したグラフです。カンボジア日本人商工会(JBAC)とは、日本とカンボジア両国の商工業および経済全般の発展に寄与することで社会貢献を果たすことを目的に設立された組織です。


出典:カンボジア日本人商工会議所2018

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 2018年の会員数は過去最多の261社, 3団体で発足当初の10社から20倍以上に成長
  • 製造業部会の会員数は64社・団体でJBACの7つの業種別部会(製造業、建築不動産、貿易、運輸、金融保険、商業、サービス)の中で最多

▶現状

  • カンボジア商工業会議所に登録されている日系企業の数も2010年から5年余りの間に10倍以上に増加
  • JETROの調査によると、カンボジアに興味を示す日本企業のパターンは2つあり、1つは新規市場開拓や生産拠点としての検討、2つ目は既にタイ、ベトナム、ミャンマーなどに進出済み企業の2次投資

▶今後

  • カンボジア政府は2025年までの産業開発政策で高度な産業を誘致し、産業構造の転換を図っている
  • 近年は労働賃金の上昇により採算が合わなくなり、同国から撤退する企業も目立つ(2017年時点で20社)

カンボジアに進出した日本企業

次に、実際にカンボジアに進出した日本企業を3社紹介します。

マサカツ鋼材

▶基本情報

  • 本社:大阪府枚方市
  • 従業員数:50名
  • 事業内容:鋼材販売、鋼材加工

▶概要

カンボジアの首都プノンペンにて2017年6月からカンボジア向上を本格稼働。すでにベトナムで実績を上げている鋼材加工をカンボジアでも開始。日本の高い加工技術によって付加価値を高め、競争力を上げるという日本企業の強みを活かした方法で事業を展開。材料の仕入れから製品までの仕事をすべて受けることで競合他社との差別化を実現。

株式会社 スワニー

▶基本情報

  • 本社:香川県東かがわ市
  • 従業員数:104名
  • 事業内容:手袋・鞄の製造販売

▶概要

2012年にカンボジアの経済特区にてカジュアル手袋を生産する新工場を建設。進出の主な理由に、カンボジアは縫製業が盛んであるため、安価な労働力の確保が容易であることを挙げている。加えて近年、中国国内の人件費の高騰が進み人材確保が厳しくなってきたため分散生産を可能にするという狙いもある。

日光金属株式会社

▶基本情報

  • 本社:栃木県矢板市
  • 従業員数:110名
  • 事業内容:自動車用耐熱・耐摩耗鋳造部品製造

▶概要

2013年5月に同社初の海外生産拠点としてカンボジアの首都プノンペンに工場を設立。主な目的は自動車メーカーの海外生産拡大への対応。カンボジアに進出を決めた理由は人件費の安さ首都の発展度合い、まじめで親日的なカンボジア国民の国民性などを挙げている。また、工業団地内は日系企業が多く情報交換ができる過ごしやすい環境が整備されていることなども理由の一つ。

まとめ

今回はカンボジアの製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。個人的な見解としては、カンボジアでは縫製業をはじめとする労働集約型産業に頼っており、テクノロジーの導入による生産効率の向上には時間がかかると思われます。加えて、熟練技術者の不足が製造業の成長を鈍化させている原因の一つとして考えられます。

日本企業の視点から考えると、近年カンボジアの労働賃金水準は増加傾向にあり、労働賃金のみ削減を目的としたカンボジア進出は以前ほど魅力的ではなくなってきています。しかし、今回紹介した3社の様に明確な戦略と自社独自の強みを持った企業にとっては魅力的な市場であることに変わりわないと言えます。今回の内容がカンボジア進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

2020年の製造業「ミャンマー」

テクノポートの稲垣です。前回の記事では世界の貿易拠点として近年注目を集める「タイの製造業」について紹介しました。今回はそのタイに隣接し親日国としても知られるミャンマーの製造業ついて紹介します。

ミャンマーの製造業の最大の特徴は、他のASEAN諸国とは異なり、GDPにおける製造業の割合は増加しており、政府もその流れを後押ししていることです。今回はミャンマーの製造業を、実際に同国に事業展開を果たした日本企業の紹介を交えて、日本企業の視点から調査しました。

ミャンマーの概要

  • 正式名称:ミャンマー連邦共和国(Republic of the Union of Myanmar)
  • 首都:ネーピードー(Nay Pyi Taw)
  • 大統領:ウィン・ミン(2018年3月から)
  • 通貨:チャット(Kyat)(1チャット=0.076円 ※2020年2月12日時点)
  • 人口:約5283万人
  • 面積:67万8500km2(参考:日本の面積38万km2)
  • 公用語:ミャンマー(ビルマ)語
  • 宗教:仏教(85%)キリスト教(4.9%)イスラム教(4%)その他(6.1%)
  • 平均寿命:男 66.6歳、女 69.6歳(日本:男 81.2歳、女 87.3歳)

ミャンマー経済の特徴

強み

  1. 豊富な原材料:鉱物(翡翠、銅、金)、天然ガス、石油
  2. 立地:中国、インド、タイなどの急成長国に近い
  3. 若年人口:国民の27%が14歳以下
  4. 産業ポテンシャル:観光産業と農業の成長可能性

弱み

  1. 宗教問題:多数を占める仏教徒による少数派イスラム教徒の迫害
  2. インフラ整備不足:電気、衛生環境、教育格差など
  3. 自然災害:自然災害が発生する確率が高い(地震、サイクロン、洪水など)

ミャンマーの産業構造

ミャンマーの産業構造を調査します。下の図は2017年から2018年までのミャンマーへのFDI(直接対外投資)における各部門の割合をしめしたグラフです。


出典:Myanmar – What to Watch 2019 | AEC

グラフから以下のようなことが読み取れます。

  • FDIの製造業の占める割合は31%で最も高くミャンマーの経済の主要産業と言える
  • FDIのサービス関連業への割合は低く農業と共に縮小傾向

▶現状

  • 製造業への投資が最も多く、製造業はミャンマー経済をけん引する期待が高い
  • 中国はミャンマー経済に最も多く投資しており、アメリカや日本はミャンマー経済の将来性に期待し投資を増加させている

▶今後

  • 「衣料品産業」と「食品加工産業」が好調で、投資の増加と共に生産を拡大する見通し
  • ミャンマーの「豊富な農産物資源」を効率よく活かすためにテクノロジーの導入が急務の課題となっている

ミャンマー製造業全体

次に、ミャンマーの製造業全体を調査します。下の図は2015年のタイの製造業のGDPにおける各部門の割合を示したグラフです。


出典:Manufacturing Guide 2019 | EUROCHAM MYANMAR

グラフから以下のことが分かります。

  • 産業(製造業含む)のみのGDPは統計開始の2013年から2018年にかけて1.58倍に増加
  • 2017年から2018年において産業(製造業含む)はGDP全体の31.6%を占める(サービス関連業42.2%、農業26.2%)
  • 他のASEAN諸国のGDPにおける製造業の割合は減少する中、ミャンマーではGDPにおける製造業の割合がほぼ一定のまま遷移している

▶現状

  • 「食品加工産業」と「衣料品」の対外需要に支えられ、製造業は2017年から2018年にかけて11%成長
  • 「安価な労働力」と「戦略的な立地」がミャンマー製造業を支えていると言える

▶今後

  • ミャンマー政府はGDPにおける製造業の割合を2013年から2014年の33%から、2030年から2031年にかけて37%に増加させる予定
  • 短期的に重点を置く3つの産業として、1. 労働集約型産業(例:機業、衣料品産業)、2. 一次産品(例:食料品)、3. 従来の製造業(例:繊維産業、縫製業、エレクトロニクス産業)を挙げている
  • 中長期的に重点を置く3つの産業として、1. 自動車部品組み立て産業、2. 先進技術産業(例:先進技術を応用した化学産業)、3. インフラ整備事業(例:道路建設産業)

日本企業の進出状況

ここでは、日本企業の視点からミャンマー製造業市場を調査結果です。下の図は2008年から2020年1月までのミャンマー日本商工業会議所登録企業数の遷移を示したグラフです。ミャンマー日本商工業会議所とは、日本とミャンマー間での商工業及び経済全般の促進及び関係強化を目的に設立された組織です。


データ引用元:ミャンマー日本商工業会議所

グラフから以下の特徴が挙げられます。

  • 2012年から急激に増加し、2020年1月末までで2008年の5倍以上の会員数
  • 工業部会(製造業関連)の会員数は2020年1月までで93社で全体の22.5%を占める

▶現状

  • ミャンマー日本商工会議所によると2019年9月時点で会議所の会員数は401社(うち製造業関連は89社)
  • 2017年時点でミャンマーに進出している日本企業数は438社で第21位

▶今後

  • 自動車部品の手作業を必要とする組み立て作業をミャンマーで行う企業が増加する見込み
  • 縫製業などの労働集約型の産業がミャンマーで工場を建設し生産を行うケースが増加する見通し

ミャンマーに進出した日本企業

次に、実際にミャンマーに進出した日本企業を3社紹介します。

株式会社トーノ精密

▶基本情報

  • 本社:岩手県遠野市
  • 従業員数:68名
  • 事業内容:プラスチック製品、MIM製品、TRI製品

▶概要

2019年12月ミャンマー最大都市のヤンゴン近郊のティラワ経済特区に工場を竣工。樹脂成型部品メーカーとしては初めてティラワに生産拠点を構え、海外調達に頼らざるを得なかった現地日系企業をターゲットとして、ティラワ工業団地内の日系企業向けに部品を供給している。

旭日電気工業

▶基本情報

  • 本社:東京都世田谷区
  • 従業員数:205人
  • 事業内容:電気工事、電気通信工事

▶概要

2019年9月ミャンマー最大都市ヤンゴンに支店を開設し、不動産賃貸業を開始。旭日電気工業は経済成長が進むミャンマーへの進出を考え、2017年から駐在員を派遣し調査を行ってきた。短期的には同国の日本人駐在員に対する賃貸を主事業とし、中長期的には内装や設備工事などの事業を開始する予定。

不二熱学工業株式会社

▶基本情報

  • 本社:大阪府中央区南船場
  • 従業員数:236人
  • 事業内容:空調・給排水衛生・低温設備などの設計・保守管理

▶概要

2013年身近な東南アジア諸国の中でも親日的なミャンマーに進出。同国において日系企業を対象に、空調、衛生、冷凍冷蔵や関連付帯業務などに係る技術を提供。また現地の企業に対し、技術を提供し環境保全に貢献。事業展開以外にも社会貢献の一環として、2014年アジアカップに参加するミャンマー女子サッカーチームに寄付。

まとめ

今回はミャンマー製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。個人的な見解としては、ミャンマーの製造業は現在成長の過程にあり、今後は他のASEAN諸国と同様にハイテク産業への転換が進んでいくと思います。同時に農業や縫製業などの労働集約型の産業もGDPの大きな割合を占めていることもミャンマー経済の大きな特徴の一つと言えます。

また、ミャンマーに進出を考える日本企業の数は増加しており、今回紹介した3社の様に高い技術力と現地日本企業のネットワークを利用すれば進出のチャンスはあると言えます。

今回の内容がミャンマーに進出に関心のある方の参考になれば幸いです。次回はASEAN製造業シリーズ第6回目としてカンボジアの製造業について紹介する予定です。

2020年の製造業「ミャンマー」

テクノポートの稲垣です。前回の記事では世界の貿易拠点として近年注目を集める「タイの製造業」について紹介しました。今回はそのタイに隣接し親日国としても知られるミャンマーの製造業ついて紹介します。

ミャンマーの製造業の最大の特徴は、他のASEAN諸国とは異なり、GDPにおける製造業の割合は増加しており、政府もその流れを後押ししていることです。今回はミャンマーの製造業を、実際に同国に事業展開を果たした日本企業の紹介を交えて、日本企業の視点から調査しました。

ミャンマーの概要

  • 正式名称:ミャンマー連邦共和国(Republic of the Union of Myanmar)
  • 首都:ネーピードー(Nay Pyi Taw)
  • 大統領:ウィン・ミン(2018年3月から)
  • 通貨:チャット(Kyat)(1チャット=0.076円 ※2020年2月12日時点)
  • 人口:約5283万人
  • 面積:67万8500km2(参考:日本の面積38万km2)
  • 公用語:ミャンマー(ビルマ)語
  • 宗教:仏教(85%)キリスト教(4.9%)イスラム教(4%)その他(6.1%)
  • 平均寿命:男 66.6歳、女 69.6歳(日本:男 81.2歳、女 87.3歳)

ミャンマー経済の特徴

強み

  1. 豊富な原材料:鉱物(翡翠、銅、金)、天然ガス、石油
  2. 立地:中国、インド、タイなどの急成長国に近い
  3. 若年人口:国民の27%が14歳以下
  4. 産業ポテンシャル:観光産業と農業の成長可能性

弱み

  1. 宗教問題:多数を占める仏教徒による少数派イスラム教徒の迫害
  2. インフラ整備不足:電気、衛生環境、教育格差など
  3. 自然災害:自然災害が発生する確率が高い(地震、サイクロン、洪水など)

ミャンマーの産業構造

ミャンマーの産業構造を調査します。下の図は2017年から2018年までのミャンマーへのFDI(直接対外投資)における各部門の割合をしめしたグラフです。


出典:Myanmar – What to Watch 2019 | AEC

グラフから以下のようなことが読み取れます。

  • FDIの製造業の占める割合は31%で最も高くミャンマーの経済の主要産業と言える
  • FDIのサービス関連業への割合は低く農業と共に縮小傾向

▶現状

  • 製造業への投資が最も多く、製造業はミャンマー経済をけん引する期待が高い
  • 中国はミャンマー経済に最も多く投資しており、アメリカや日本はミャンマー経済の将来性に期待し投資を増加させている

▶今後

  • 「衣料品産業」と「食品加工産業」が好調で、投資の増加と共に生産を拡大する見通し
  • ミャンマーの「豊富な農産物資源」を効率よく活かすためにテクノロジーの導入が急務の課題となっている

ミャンマー製造業全体

次に、ミャンマーの製造業全体を調査します。下の図は2015年のタイの製造業のGDPにおける各部門の割合を示したグラフです。


出典:Manufacturing Guide 2019 | EUROCHAM MYANMAR

グラフから以下のことが分かります。

  • 産業(製造業含む)のみのGDPは統計開始の2013年から2018年にかけて1.58倍に増加
  • 2017年から2018年において産業(製造業含む)はGDP全体の31.6%を占める(サービス関連業42.2%、農業26.2%)
  • 他のASEAN諸国のGDPにおける製造業の割合は減少する中、ミャンマーではGDPにおける製造業の割合がほぼ一定のまま遷移している

▶現状

  • 「食品加工産業」と「衣料品」の対外需要に支えられ、製造業は2017年から2018年にかけて11%成長
  • 「安価な労働力」と「戦略的な立地」がミャンマー製造業を支えていると言える

▶今後

  • ミャンマー政府はGDPにおける製造業の割合を2013年から2014年の33%から、2030年から2031年にかけて37%に増加させる予定
  • 短期的に重点を置く3つの産業として、1. 労働集約型産業(例:機業、衣料品産業)、2. 一次産品(例:食料品)、3. 従来の製造業(例:繊維産業、縫製業、エレクトロニクス産業)を挙げている
  • 中長期的に重点を置く3つの産業として、1. 自動車部品組み立て産業、2. 先進技術産業(例:先進技術を応用した化学産業)、3. インフラ整備事業(例:道路建設産業)

日本企業の進出状況

ここでは、日本企業の視点からミャンマー製造業市場を調査結果です。下の図は2008年から2020年1月までのミャンマー日本商工業会議所登録企業数の遷移を示したグラフです。ミャンマー日本商工業会議所とは、日本とミャンマー間での商工業及び経済全般の促進及び関係強化を目的に設立された組織です。


データ引用元:ミャンマー日本商工業会議所

グラフから以下の特徴が挙げられます。

  • 2012年から急激に増加し、2020年1月末までで2008年の5倍以上の会員数
  • 工業部会(製造業関連)の会員数は2020年1月までで93社で全体の22.5%を占める

▶現状

  • ミャンマー日本商工会議所によると2019年9月時点で会議所の会員数は401社(うち製造業関連は89社)
  • 2017年時点でミャンマーに進出している日本企業数は438社で第21位

▶今後

  • 自動車部品の手作業を必要とする組み立て作業をミャンマーで行う企業が増加する見込み
  • 縫製業などの労働集約型の産業がミャンマーで工場を建設し生産を行うケースが増加する見通し

ミャンマーに進出した日本企業

次に、実際にミャンマーに進出した日本企業を3社紹介します。

株式会社トーノ精密

▶基本情報

  • 本社:岩手県遠野市
  • 従業員数:68名
  • 事業内容:プラスチック製品、MIM製品、TRI製品

▶概要

2019年12月ミャンマー最大都市のヤンゴン近郊のティラワ経済特区に工場を竣工。樹脂成型部品メーカーとしては初めてティラワに生産拠点を構え、海外調達に頼らざるを得なかった現地日系企業をターゲットとして、ティラワ工業団地内の日系企業向けに部品を供給している。

旭日電気工業

▶基本情報

  • 本社:東京都世田谷区
  • 従業員数:205人
  • 事業内容:電気工事、電気通信工事

▶概要

2019年9月ミャンマー最大都市ヤンゴンに支店を開設し、不動産賃貸業を開始。旭日電気工業は経済成長が進むミャンマーへの進出を考え、2017年から駐在員を派遣し調査を行ってきた。短期的には同国の日本人駐在員に対する賃貸を主事業とし、中長期的には内装や設備工事などの事業を開始する予定。

不二熱学工業株式会社

▶基本情報

  • 本社:大阪府中央区南船場
  • 従業員数:236人
  • 事業内容:空調・給排水衛生・低温設備などの設計・保守管理

▶概要

2013年身近な東南アジア諸国の中でも親日的なミャンマーに進出。同国において日系企業を対象に、空調、衛生、冷凍冷蔵や関連付帯業務などに係る技術を提供。また現地の企業に対し、技術を提供し環境保全に貢献。事業展開以外にも社会貢献の一環として、2014年アジアカップに参加するミャンマー女子サッカーチームに寄付。

まとめ

今回はミャンマー製造業と産業構造を日本企業の視点から調査しました。個人的な見解としては、ミャンマーの製造業は現在成長の過程にあり、今後は他のASEAN諸国と同様にハイテク産業への転換が進んでいくと思います。同時に農業や縫製業などの労働集約型の産業もGDPの大きな割合を占めていることもミャンマー経済の大きな特徴の一つと言えます。

また、ミャンマーに進出を考える日本企業の数は増加しており、今回紹介した3社の様に高い技術力と現地日本企業のネットワークを利用すれば進出のチャンスはあると言えます。

今回の内容がミャンマーに進出に関心のある方の参考になれば幸いです。次回はASEAN製造業シリーズ第6回目としてカンボジアの製造業について紹介する予定です。

2020年の製造業「タイ」

テクノポートの稲垣です。前回の記事ではASEANのハイテク産業の拠点である「マレーシアの製造業」について紹介しました。今回はASEAN諸国の中でもマレーシアに次ぐGDP増加率(4.1%)で成長するタイの製造業について紹介します。(出典:ASEAN Key Figures 2019

タイの製造業はシンガポールやマレーシアとは異なり、組み立て・製造業務が中心で、近年は研究・技術開発を推進する風潮があります。今回はタイの製造業の主要産業である自動車産業エレクトロニクス産業バイオプラスチック産業の現状と今後について掘り下げていきます。

基本情報

タイの概要

  • 正式名称:タイ王国(KIngdom of Thailand)
  • 首都:バンコク(Bangkok)
  • 首相:プラユット・ジャンオーチャー(2014年8月から)
  • 通貨:バーツ(1バーツ=3.50円 ※2020年2月3日時点)
  • 人口:約6828万人
  • 面積:51万km2(参考:日本の面積38万km2)
  • 公用語:タイ語
  • 宗教:仏教(95%)イスラム教(3.8%)キリスト教(0.5%)ヒンドゥー教(0.1%)その他(0.6%)
  • 平均寿命:男 71.7歳、女 78.3歳

タイ経済の特徴

強み

  1. 地域経済の拠点:東南アジアをはじめ、グローバルな貿易な拠点としての地位
  2. 輸出産業:好調な貿易関連業と豊富な外貨準備高(直ちに利用可能な対外資産のこと)
  3. 豊富な原材料:天然ゴム、米、サトウキビをはじめとする豊富な原材料

弱み

  1. インフラ整備不足:都市部は開発が進んでいるが、農村部ではインフラ整備が進んでいない
  2. 政治的不安定性:低所得者層の支持の支持を集める親軍派と、中間層・上位層支持を集める反軍派の対立による政治的混乱

タイのGDPの変化

タイの製造業の変化をGDPのデータを用いて調査します。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Production)の略で一定期間に国内で生み出された付加価値の総額を指します。

まず、タイ全体のGDPの変化を確認します。下の図は1960年から2018年までのタイのGDPと年成長率を示したグラフになります。


データ引用元:GDP growth (annual %) – Thailand | Data – World Bank Data

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 1998年以降GDPは右肩上がりに増加を続ける
  • GDPの年成長率は1997年~1998年でマイナスに落ちこむが、その後は回復しプラスを維持している
  • GDPの年成長率は、ここ4年では2.5%~5%の範囲で安定している

タイのGDPの現状

  • タイのGDPは世界26位(対象国196カ国)
  • タイ国民一人当たりのGDPは世界84位(対象国196カ国)
  • タイは東南アジアでインドネシアに次ぐ2番目の経済大国

タイのGDPの今後

  • 2019年~2020年のGDPの年成長率は2.8%という予想
  • 米中の貿易摩擦により輸出をはじめとする対外部門に悪影響が生じる可能性が高い
  • 民間消費の増加と公共インフラ整備の実施が2020年のタイ経済に好影響を与える予想

タイの産業構造

次に、タイの産業構造を調査します。下の図は2011年から2017年までのタイの総GDPにおける各部門(上からサービスサービス業、製造業、農業)の割合をしめしたグラフです。


出典:International Monetary Fund

グラフからタイの産業構造について次のような特徴が挙げられます。

  • 製造業と農業の割合が減少傾向で、それぞれ2011年から2017年にかけて3%ほど減少
  • サービス業は統計開始の2011年から上昇傾向で、2011年から2017年にかけて5%ほど増加

タイの産業構造の現状

  • 2016年にタイ政府はタイランド4.0(Thailand 4.0)政策を宣言し、ハイテク産業やサービスに投資を集中させる意向
  • 製造業と(サービス業の中でも)観光業がタイのGDPの増加に大きく貢献している
  • 観光業はタイのGDPの約10%を占め、観光業による収益はタイの輸出利益総額の50%とほぼ等しい計算

タイの産業構造の今後

  • 国の公式計画(2017年~2036年)によると、タイ政府はビジネス環境を改善し、鉄道、空港、道路、インフラ整備を通して長期的な経済の繁栄を目標にしている
  • タイの主要産業であった食品・飲料の生産は減少し、代わりに製造業の拠点として外貨を稼ぐ方針

タイの製造業

タイの製造業全体

ここでは、タイの製造業全体における変化をデータを通して調査します。下の図は2015年のタイの製造業のGDPにおける各部門の割合を示したグラフです。


出典:HONG KONG MEANS BUSINESS

グラフから以下のことが分かります。

  • GDPを占める割合が多い順に、 食品・飲料産業(23%)エレクトロニクス産業(13%)化学産業(9%)自動車産業(7%)ゴム・プラスティック産業(7%)加工・機械設備産業(6%)石油関連産業(6%)繊維・衣服産業(5%)家具産業(5%)その他(19%)

続いて、下の図は2018年のタイの輸出上位10品目を整理した表です。


出典:THAILAND INVESTMENT REVIEW Vol. 29 | No.2 | February 2019

表から以下のことが分かります。

  • 車部品関係の輸出が最も多く、成長率も最大
  • 輸出品目に大きな偏りがなく、多様な分野に渡って輸出が活発

タイの製造業全体の現状

  • 東南アジアの自動車組み立て拠点の中心的存在
  • 鉄鋼業の生産も盛ん(タングステンの生産量世界2位、錫(すず)の生産量世界3位)
  • 世界2番目のコンピューターパーツの輸出額

タイの製造業の今後

  • 専門家の予想によると製造業全体の出荷額は2.0%増加する見通し(2021年は3.4%の増加予想)
  • タイランド4.0(Thailand 4.0)計画をはじめとするハイテク産業、製造業の自動化に向かう動きが活発

自動車産業

タイの主要産業の一つである自動車産業の現状と今後をデータを用いて掘り下げていきます。下の図は2009年から2016年におけるタイの自動車生産台数の遷移を示したグラフです。


出典:THAILAND’S AUTOMOTIVE INDUSTRY THE NEXT-GENERATION | Thailand Board of Investment

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 2009年から2016年にかけて年平均9.93%成長率で増加
  • 2012年、2013年が製造のピークで近年は緩やかに回復傾向

次に下の図は2009年から2016年におけるタイの自動車生産台数と付加価値額の推移を示したグラフです。


出典:THAILAND’S AUTOMOTIVE INDUSTRY THE NEXT-GENERATION | Thailand Board of Investment

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 2016年の自動車生産台数の57%は1トントラックが占める
  • タイの自動車輸出台数は2009年から2016年にかけ2.2倍に成長
  • タイの自動車輸出でもたらされる付加価値の総額は2009年から2016年にかけ2.5倍に成長

自動車産業の現状

  • タイの自動車関連産業は東南アジアで最大、世界第12位の規模(2017年)
  • タイで製造される自動車のほとんどは外国企業、特に日本、アメリカ、中国の多種多様なブランドが混在

自動車産業の今後

  • 自動車の生産台数は2019年で2~4%減少し、2020年から2022年にかけて同じようなペースで減少する見通し
  • 自動車関連の輸出は2019年で5~7%減少するが、2020年から2022年にかけて国内の需要と新型モデルの発売に後押しされ回復する見通し
  • 電気自動車の生産台数は2018年(9000台)と比較し、2028年では45倍、2036年には133倍になる予想

エレクトロニクス産業

以前に紹介したシンガポール、マレーシア同様にタイにおいてもエレクトロニクス産業は盛んです。それでは、タイのエレクトロニクス産業の特徴を調べていきましょう。下の図は1989年から2015年にかけてのタイのエレクトロニクス産業関連製品の輸入額と輸出額の遷移を示したグラフです。(縦軸はUS$ billion)


出典:Electrical and electronics manufacturing in Thailand | International Labour Organization

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 輸入額は1989年から2015年にかけて約12倍に増加し、年平均27.5億US$のペースで増加傾向
  • 輸出額は1989年から2015年にかけて約17倍に増加し、年平均31.2億US$のペースで増加傾向

続いて下の図は2013年から2016年にかけてタイのHDDディスクドライバーの輸出量の変化を示したグラフです。


出典:THAILAND’S SMART ELECTRONICS | Thailand Board of Investment

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 2013年から2016年にかけて2.17倍に増加(年平均31.5%の成長率で増加)
  • 付加価値に換算すると2013年から2016年にかけて2.27倍に増加

エレクトロニクス産業の現状

  • 近隣諸国(マレーシア、シンガポール、ベトナムなど)が価格競争に参入し、熟練した技術を持つ労働力の不足、労働環境の悪化、労働者の発言力の低下が問題になっている
  • タイのエレクトロニクス産業の中心は組立てと製造業務で、付加価値の高い分野は少ない

エレクトロニクス産業の今後

  • エレクトロニクス産業が生み出す利益は2020年から2024年にかけて年平均成長率2.7%の割合で増加する見通し
  • 国内のエレクトロニクス産業市場は2018年に減少したが、2019年から2020年にかけてタイ経済の回復と同時に緩やかに増加する見通し

バイオプラスチック産業

最後に近年タイで急速な成長を遂げているバイオプラスチック産業について調査していきます。バイオプラスチックとは原料として植物などの再生可能な有機資源を使用することにより、枯渇が危惧され地球温暖化の一因ともされている石油にできるだけ頼らずに持続的に作ることができることから近年注目されている新しいプラスチック素材です。(出典:日本バイオプラスチック協会)下の図は2016年から2019年にかけてのタイにおけるバイオプラスチックレジンの生産量を示したグラフです。


出典:BIOPLASTICS | Thailand Board of Investment

グラフと参考資料より以下のようなことが挙げられます。

  • 輸出量は2016年から2019年にかけて107倍に増加
  • タイのバイオプラスチックレジンの輸出量は2007年には圏外だったが、2019年に世界第3位まで急成長

バイオプラスチック産業の現状

  • タイ政府はバイオプラスチックの研究開発を行うタイ国内と外国企業に対し支援を行い、生産を強化している
  • タイはバイオ関連産業に必要な原材料が豊富なうえ、製品を輸出するための地理的な優位性がある

バイオプラスチック産業の今後

  • タイ政府はバイオプラスチックを使用した梱包を推進するため、2019年から2021年にかけ免税政策を実施
  • タイのプラスチック廃棄管理規定のロードマップ(2018年から2030年)によると2020年までに再利用不可能またはポリスチレンを使用したプラスチックは梱包としての使用が禁止される見通し

まとめ

今回はタイの製造業の現状と今後について主要産業を中心に紹介しました。タイの製造業は他のASEAN諸国と同じようにGDPにおける製造業の割合は減少しているもののハイテク化、自動化の動きが盛んであることが分かります。

また多様な輸出品目をバランスよく有しているため、タイの製造業は今後も世界の貿易拠点の中心的な存在として活躍することが予想できます。今回の内容がタイの進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

2020年の製造業「マレーシア」

テクノポートの稲垣です。前回の記事ではASEAN地域の中でいち早く先進国の仲間入りを果たした「シンガポールの製造業」について紹介しました。今回はそのシンガポールとほぼ同じGDPの成長率(2000年から2018年)で急速に発展を遂げているマレーシアの製造業について紹介します。(出典:ASEAN Key FIgures 2019

マレーシアのGDPの37.5%は製造業関連で、製造業は主要産業として経済成長に大きな役割を果たしています。今回はマレーシアの製造業の主要産業であるエレクトロニクス産業石油化学産業家具産業について掘り下げていきます。

基本情報

マレーシアの概要

  • 正式名称:マレーシア
  • 首都:クアラルンプール(Kuala Lumpur)
  • 首相:マハティール・ビン・モハマッド(2018年5月から)
  • 通貨:リンギット(1リンギット=26.85円 ※2020年1月27日時点)
  • 人口:約3200万人
  • 面積:33万km2(参考:日本の面積38万km2)
  • 公用語:マレー語、中国語、タミル語、英語
  • 公式宗教:イスラム教(61%)仏教(20%)キリスト教(9%)ヒンドゥー教(6.0%)儒教・道教(1.0%)
  • 平均寿命:男 72.7歳、女 77.6歳

マレーシアのGDPの変化

基本的な情報としてマレーシア経済をGDPの変化を通して調査します。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Production)の略で一定期間に国内で生み出された付加価値の総額を指します。

まず、マレーシア全体のGDPの変化を確認します。下の図は2010年から2017年までのマレーシアの総GDPとGDPの年平均率を示したグラフになります。(1リンギット=26.85円 ※2020年1月27日時点)

データ引用元:eDataBank – Department of Statistics Malaysia Official Portal

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 基準年の2010年から一貫して増加傾向が続く
  • 成長率は4%から10%の辺りを上下している

マレーシアのGDPの現状

  • 2018年のGDPは世界37位(196カ国中)を記録
  • 2018年の一人当たりのGDPは66位(196カ国中)を記録

マレーシアのGDPの今後

  • 経済の専門家によると、2020年のマレーシアの経済成長は4.3%になる見通し
  • 2020年の経済成長は停滞する見通し(米中貿易摩擦が対外部門に影響)
  • 民間消費は輸出部門の衰弱によって減速する見通し

マレーシアの産業構造

次に、マレーシアの産業構造を調査します。下の図は2018年のマレーシアの総GDPにおける各部門(上からサービス関連産業、製造業、建設産業、鉱業・採石業、農業)の割合をしめした円グラフです。

出典:Malaysia Economic Performance Second Quarter 2018

グラフからマレーシアの産業構造について次のような特徴が挙げられます。

  • 製造業はGDPの23.6%を占め、4.9%の増加率を記録
  • サービス関連業がGDPの55.3%を占め、マレーシアの主要産業と言える
  • 鉱業・採石業と農業はGDPの10%以下で減少傾向

マレーシアの産業構造の現状

  • 消費者の高所得化により卸売業・小売業部門の成長が進んでいる
  • サービス関連業のビジネスサービスは専門サービスによって大きく成長している
  • 製造業は電気機器・光学製品部門に支えられ緩やかに成長している

マレーシアの産業構造の今後

  • 2020年には5466の開発プロジェクトが企画されており、5億6000万リンギット(約150億円)がマレーシアの経済成長と長期的な発展のために投資される予定
  • 今後10年間において、政府は新しい経済領域を開拓し高給な職を創出するとともにマレーシア経済を加速させる予定

マレーシアの製造業

マレーシアの製造業全体

ここでは、マレーシアの製造業全体における変化をデータを通して調査します。下の図は2010年から2017年までのマレーシア製造業のGDPとGDPの年成長率を示したグラフです。(1リンギット=26.85円 ※2020年1月27日時点)


データ引用元:eDataBank – Department of Statistics Malaysia Official Portal

グラフから読み取れることとして以下のようなことが挙げられます。

  • 製造業のGDPは基準年の2010年から一貫して増加傾向が続く
  • 成長率は年によって約4%から11%の間で大きく変動

次に、下に示す図は2010年から2017年までにおけるマレーシアの総GDPにおける製造業の割合を示したグラフです。


データ引用元:eDataBank – Department of Statistics Malaysia Official Portal

グラフから以下のようなことが挙げられます。

  • 総GDPにおける製造業が占める割合は年々減少
  • 基準年の2010年から2017年で約1.2%減少

マレーシア製造業全体の現状

  • 2017年6月時点のマレーシア製造業の主要分野はエレクトロニクス産業(27.6%)、石油・科学・ゴム・プラスティック産業(24.0%)、木材・家具・紙製品・印刷産業(22.4%)
  • マレーシア製造業が直面している問題として、研究・開発のための資金不足が挙げられる

マレーシア製造業全体の今後

  • 製造業分野においては製造効率化、製品の多様化・複雑化に焦点が当てられる予想
  • 今後成長が期待される航空・宇宙産業、医療機器、エレクトロニクス産業、機械加工・機械装置、化学産業の強化が見込まれる

エレクトロニクス産業

前回シンガポールの主要産業の一つとして紹介したエレクトロニクス産業は、マレーシア製造業においても主要産業の役割を果たしています。下の図は2016年と2017年のマレーシアのエレクトロニクス産業の指標(上から輸出額、輸入額、純輸出、付加価値(基準価格)、労働生産性(製造業全体)、労働生産性(エレクトロニクス産業)、労働者数)を示した表です。(1リンギット=26.85円 ※2020年1月27日時点)

出典:A Study on Productivity and Contribution of the … – WayUp.my

表から読み取れることとして以下のようなことが挙げられます。

  • 総貿易額は統計開始の2012年から2020年(予想)までほぼ一定の傾きで増加
  • 輸出は年を重ねるごとに傾きが増加するのに対して、輸入は減少傾向に転じる見通しが立てられている(国内製造設備の強化により)

エレクトロニクス産業の現状

  • マレーシアは現在、世界14位の天然ガス埋蔵量、世界23位の原油を有している
  • マレーシアは一つの区域内で2300万メートルトンの製造設備を有しており、世界で最も大きな液化天然ガスの製造設備と言われている
  • 日本の大手石油化学企業の一つである出光興産は環境にやさしいシンダイオタクティックポリスチレン(SPS)の製造に4億リンギットを投資した

エレクトロニクス産業の今後

  • マレーシアは現在東南アジアで石油化学産業が盛んなインドネシア、タイに代わって2020までに生産設備容量の面で主導的な立ち位置になる見通し
  • マレーシア政府は統合型石油化学産業区域を作り、生産から貿易までを限られた区域で効率的に計画を立てている

石油化学産業

次にマレーシア製造業のGDPの24.0%を占める石油化学産業の現状と今後について調査します。下の図は2012年から2020年(予想)までのマレーシア石油化学製品の貿易収支を示したグラフです。(1リンギット=26.85円 ※2020年1月27日時点)

出典:malaysia petrochemical country report 2018 – Malaysian …

グラフから以下のようなことが挙げられます。

  • 総貿易額は統計開始の2012年から2020年(予想)までほぼ一定の傾きで増加
  • 輸出は念を重ねるごとに傾きが増加するのに対して、輸入は減少傾向に転じる見通しが立てられている(国内製造設備の強化により)

石油化学産業の現状

  • マレーシアは現在、世界14位の天然ガス埋蔵量、世界23位の原油を有している
  • マレーシアは一つの区域内で2300万メートルトンの製造設備を有しており、世界で最も大きな液化天然ガスの製造設備と言われている
  • 日本の大手石油化学企業の一つである出光興産は環境にやさしいシンダイオタクティックポリスチレン(SPS)の製造に4億リンギットを投資した

石油化学産業の今後

  • マレーシアは現在東南アジアで石油化学産業が盛んなインドネシア、タイに代わって2020までに生産設備容量の面で主導的な立ち位置になる見通し
  • マレーシア政府は統合型石油化学産業区域を作り、生産から貿易までを限られた区域で効率的に計画を立てている

家具産業

マレーシアは豊富な森林資源を活かした木材関連産業が盛んです。先ほども紹介したようにマレーシア製造業の22.4%は木材・家具・紙製品・印刷産業が占めています。その中でも家具産業の現状と今後について調査します。下の図は1986年から2015年までの家具の輸出額と年成長率を示したグラフになります。(1リンギット=26.85円 ※2020年1月27日時点)


データ引用元:the malaysian furniture industry – Universiti Putra Malaysia

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 輸出額は統計開始の1986年から2008年にかけて増加傾向
  • 年成長率は2009年以降0%付近で上下し停滞傾向

また、下の図は1989年から2015年までの家具の輸入額と年成長率を示したグラフになります。(1リンギット=26.85円 ※2020年1月27日時点)

データ引用元:the malaysian furniture industry – Universiti Putra Malaysia

こちらもグラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • 輸出額は2000年から2005年辺りにかけて急激に増加、その後は2010年以降でも増加傾向
  • 年成長率は2009年で大きく減少したが、その後は増加傾向に転じる

マレーシア家具産業の現状

  • マレーシアは世界で南洋材と木材製品の輸出を行っている国の上位10位以内に入る
  • マレーシア国内で生産する(家具を含めた)木材製品の80%以上を輸出している

マレーシア家具産業の今後

  • 国が定める木材産業規定によると、家具産業は2020年に120億リンギット(約3200億円)の輸出額を達成する目標を掲げている
  • マレーシア政府は単純な汎用製品の製造に加えて、デザイン性を兼ね備えたクリエィティブな製品設計に力を入れている

まとめ

今回はマレーシアの製造業の現状と今後について主要産業を中心に紹介しました。マレーシアをはじめ東南アジア各国はGDPにおける製造業の割合は年々減少しています。しかし、マレーシアの製造業自体のGDPは増加を続けています。

そしてマレーシアが保有する天然資源の埋蔵量、製造拠点の立地、豊富な労働資源などを考慮すると、今後もその傾向は続くと予想されます。今回の内容がマレーシアへの進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

2020年の製造業「シンガポール」

テクノポートの稲垣です。前回の記事では製造業の拠点候補として近年注目を集める「ASEAN(東南アジア諸国連合)」について紹介しました。今回はそのASEAN地域の中でいち早く先進国の仲間入りを果たしたシンガポールについて紹介します。

結論から申し上げますと、シンガポールのGDPにおける製造業の割合は縮小傾向にあり、主要産業はサービス関連業にシフトしています。(出典:ASEAN Key FIgures 2019

しかし、製造業は依然としてGDPの22%を占め、中でもエレクトロニクス産業、精密工業産業、医療・バイオテクノロジー産業、航空・宇宙産業は世界でもリーダー的なポジションにあります。それではシンガポールの製造業についての現状と今後を掘り下げていきます。

シンガポールの概要

  • 正式名称:シンガポール共和国(Republic of Singapore)
  • 首都:シンガポール
  • 首相:リー・シェンロン(2004年8月から)
  • 大統領:ハリマ・ヤコブ(2017年9月から)
  • 通貨:シンガポールドル(1シンガポールドル=81.76円 ※2020年1月20日時点)
  • 人口:約570万人 面積:724.2km2(参考:東京23区 619km2)
  • 公用語:中国語、マレー語、タミル語、英語
  • 公式宗教:なし(仏教・道教 43.2%、キリスト教 18.8%、イスラム教 14.0%、ヒンドゥー教 5.0%、無宗教 18.5%)
  • 平均寿命:男 80.7歳、女 85.2歳

参照

  1. STATISTICS SINGAPORE
  2. シンガポール基礎データ|外務省
  3. Singapore | Facts, Geography, History, & Points of … – Britannica

シンガポールのGDPの変化

シンガポールの製造業の変化をGDPのデータを用いて調査します。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Production)の略で一定期間に国内で生み出された付加価値の総額を指します。

まず、シンガポール全体のGDPの変化を確認します。下の図は2010年から2018年までのシンガポールのGDPを示したグラフになります。

出典:Gross Domestic Product Dashboard – Statistics Singapore

グラフから以下のような特徴が挙げられます。

  • シンガポールのGDPは右肩上がりに増加しており、今後も上昇傾向が予想される
  • 2018年のGDPは前年のそれに比較して3.1%増加している

シンガポールのGDPに関する補足情報(出典:What makes the Singapore economy tick?)として以下のような数字が挙げられます。

  • シンガポールのGDPは現在の市場価値で4兆912億ドルで世界35位
  • 2018年の一人当たりのGDPは6万4579ドルで世界9位

シンガポールの産業構造

次にシンガポールの現在の産業構造を調査します。下の円グラフは2018年のシンガポールにおける各部門の名目付加価値額の割合を示したグラフです。名目付加価値額(Nominal Value Added)とは対象年度内において生産された付加価値の大きさを示す指標です。

出典:Gross Domestic Product Dashboard – Statistics Singapore

グラフから以下のことが読み取れます。

  • 約25%を製造業関連(製造業、建設業、電気・ガス・水道サービス)
  • 70%近くがサービス関連業からなる(卸売り・小売業、輸送・保管、宿泊・飲食サービス、情報・コミュニケーション、金融・保険、ビジネス関連サービス、その他サービス関連)

補足情報して(出典:What makes the Singapore economy tick?)として、シンガポールの産業構造は以下のような特徴が挙げられます。

  • 金融関連業GDPは安定して増加している(企業優先の環境と政治的な安定が理由)
  • 近年特に成長しているのは、医療技術、航空・宇宙産業、クリーンエネルギー、ヘルスケア産業

シンガポールの製造業

シンガポールの製造業全体

ここでは、シンガポールの製造業全体における変化をデータを通して調査します。下の図は1983年から2018年までのシンガポールの製造業における工業生産指数(基準年:2015年)の変化を示したグラフです。工業生産指数とは国内での製造業関連の生産量を基準念を100として指標化したものを指します。

データ引用元: Singapore Department of Statistics

グラフから読み取れることとして以下のような事が挙げられます。

  • 統計を開始した1983年から2007年頃までは右肩上がりに上昇
  • 2007年頃から2009年にかけて一時的に下降
  • 2011年から2018年に至るまでは上昇傾向が継続

以上のようなデータに加え、シンガポールの製造業は、インダストリー4.0を軸に国際的な製造業の拠点として地位を確立しつつあります。下の図はシンガポール政府が推進するスマートインダストリー準備指標の概念図になります。スマートインダストリー準備指標とは工業の自動化・デジタル化の準備の完成度合いを評価する指標です。

出典:Economic Development Board

スマートインダストリー準備指標は工程(Process)、Technology(技術)、Organization(組織)の3本の基本構成要素の下に、8つの柱があります。そして8つの柱が16の区分によって評価される仕組みになります。シンガポール政府は上記のスマートインダストリー準備指標を用いて、インダストリー4.0を実行する準備を国を挙げて包括的に行っています。

また、補足情報(出典:Singapore Top Industry Sectors & Key Activities | EDB)としてシンガポールの製造業全体にいて以下のような特徴が挙げられます。

  • 世界で製造される医薬品トップ10の内5つはシンガポールで生産されている
  • シンガポールのエネルギーと化学の複合集積地帯(ジュロング島:Jurong Island)では世界で5番目に大きな精油の製造をおこなっており、化学工業関連の輸出量は世界トップ10

エレクトロニクス産業

シンガポールの主要産業の一つであるエレクトロニクス産業の現状と今後について見ていきます。下の図は1983年から2018年までのシンガポール国内におけるエレクトロニクス産業の工業生産指数を示したグラフです。

データ引用元: Singapore Department of Statistics

グラフから読み取れることとして以下のようなことが挙げられます。

  • 1998年から2005年までの間、停滞が続くがその後は安定して上昇
  • 2018年では過去最高の工業生産指数125.282を記録

シンガポールのエレクトロニクス産業の現状について、以下のような特徴が挙げられます。

  • 主要な分野は半導体、商用電気機器、情報技術など
  • 2900以上の会社がエレクトロニクス産業に関わっている
  • 幅広いエレクトロニクス産業のバリューチェーンを有しており、研究、開発、設計、製造、流通までサービスを提供している
  • シンガポールのエレクトロニクス産業は900億シンガポールドルのGDPを記録し、製造業全体の1/4以上を占める(2017年)
  • シンガポールは1兆80億シンガポールドル以上の半導体、電気集積回路の輸出を行っており、世界全体の10%を占めている

シンガポールのエレクトロニクス産業の今後について以下のような見通しがされています。

  • シンガポール政府はエレクトロニクス分野のGDPを220億シンガポールドル成長させることを目的として、2020年までに2000以上の新しい職を提供する予定

参照

  1. Electronics Industry in Singapore | EDB
  2. Electronics | Industry Profile | Enterprise Singapore

精密工学産業

次にシンガポールの精密工業産業の現状と今後について調査します。下の図は1996年から2018年までのシンガポール国内における精密工業産業の工業生産指数を示したグラフです。

データ引用元: Singapore Department of Statistics

グラフから読み取れることとして以下のようなことが挙げられます。

  • 2011年から2016年まで停滞が続いたが、2017年で大きく上昇
  • 2018年では過去最高の工業生産指数164.146を記録

シンガポールの精密工業産業の現状について、以下のような特徴が挙げられます。

  • 世界の半導体産業で使用されるワイヤボンダの70%をシンガポールで生産
  • 世界中の冷凍コンプレッサーの10%はシンガポールで生産
  • 世界中の補聴器の30%はシンガポールで生産

そしてシンガポールの精密工業産業の今後について以下のような見通しがされています。

  • ここ数年で自動化による生産効率の改善が盛んになっている
  • 2020年までに140億シンガポールドルの経済的な付加価値と3,000以上の新たな職を作り出すとされている
  • 半導体装置(年平均成長率:7%)、試験測定装置(年平均成長率:9%)、3D造形(年平均成長率:30%)、ロボティクス(年平均成長率:11%)、センサー(年平均成長率:10%)、レーザー・光学機器(年平均成長率:8%)、先進材料(年平均成長率:4.9%)で成長が期待される

参照

  1. Precision Engineering | Industry Profile | Enterprise Singapore
  2. Precision Engineering | EDB
  3. Update on the Precision Engineering Industry Transformation Map (PE ITM)

医薬品・バイオテクノロジー産業

最後にシンガポールで現在急成長産業の一つである医薬品・バイオテクノロジー産業の現状と今後について調査します。下の図は1992年から2018年までのシンガポール国内における医薬品・バイオテクノロジー産業の工業生産指数を示したグラフです。

データ引用元: Singapore Department of Statistics

シンガポールの医薬品・バイオテクノロジー産業の現状について、以下のような特徴が挙げられます。

  • GDP全体の約3%を占める
  • 医薬品製造で160億シンガポールドルの利益を上げ、2000年のそれから3倍以上に成長(2017年)
  • 30を超える医薬品関連のトップ企業が新しい研究開発・製造の拠点としてシンガポールを選んでいる
  • シンガポール政府は医薬品関連企業を援助するための土地開発、インフラ整備にも力を入れている
  • 大学から有望な人材を雇用するために、実地訓練と学問を同時進行で推進する教育システムがある

そしてシンガポールの医薬品・バイオテクノロジー産業の今後について以下のような見通しと計画がされています。

  • 国内の医薬品関連の市場規模は2020年に16億シンガポールドル規模になる見通し(2017年:12.8億シンガポールドル)
  • 研究開発施設に加え商品管理・運用までをシンガポール国内で行える施設を増やす運動が加速する見込み
  • 2020年の研究イノベーション事業計画(出典:RIE2020 Plan)によると190億シンガポールドルが国内のイノベーション産業の強化のために投資される

参照

  1. Overview of the Singapore PharmBio Sector
  2. Singapore – A Strong & Growing Healthcare Industry
  3. RIE2020 Plan – National Research Foundation

まとめ

今回はシンガポールの製造業の現状と今後について主要産業を中心に紹介しました。全体を通して言えることは、シンガポールの製造業は自動化による生産効率改善の動きが盛んであることです。それを可能にしているのは、国を挙げたイノベーション産業への投資と、教育機関と連携して優秀な人材を輩出する努力の賜物であると感じました。

個人的には、今後シンガポールの製造業は付加価値の高い産業だけが残り、単純な部品製造拠点は減少していくと思います。今回の内容が、シンガポールへの進出に関心のある方の参考になれば幸いです。

2020年の製造業「ASEAN」

テクノポートの稲垣です。現在、多くの日本企業が東南アジアへ進出しています。東南アジアの中でもとりわけ注目されているのがASEAN(東南アジア諸国連合)地域です。

2016年の調査によるとASEAN地域に進出している日本企業の数は11,328社(出典:帝国データバンク)であるとされています。この数字からも分かるように、ASEANは日本と同じアジア地域として注目度を高めており、今後もこの傾向は続くことが予想されます。そこで、今回はASEANの製造業をテーマに現状と今後を掘り下げてみたいと思います。

ASEANの基本情報

ASEAN設立の歴史

現在、世界には多くの地域統合組織があります。その中でも、比較的長い歴史を有しているのが今回紹介する「ASEAN(Association of South-East Asian Nations)」です。

1960年代初めに、ASEANの前身となる「東南アジア連合」がマレーシア、タイ、フィリピンによって設立されました。東南アジア連合設立の背景には、当時の東南アジア諸国のほとんどが独立したての新しい国であったことが影響しています。

東南アジア連合の設立に次いで、1963年にマラヤ(Malaya)、フィリピン(Philippins)、インドネシア(Indonesia)の頭文字を組み合わせた「マフィリンド(Maphilindo)」が設立されました。

そして、現在のASEANは1967年8月の「ASEAN設立宣言」に基づき設立されました。ASEAN設立の目的は大きく以下の7つに集約されます。(出典:About ASEAN

  1. 経済成長、社会的・文化的発展の加速
  2. 平和、安定の促進
  3. 協力、相互支援の促進
  4. 貿易、研究機関の相互補助
  5. 農業、貿易効率化のための支援
  6. 東南アジアの研究の促進
  7. 緊密かつ有益な協力関係の維持

ASEAN加盟国

現在の加盟国は10カ国(タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア)です。

出典:ASEAN情報マップ

ASEANの製造業

製造業全体のGDPの変化

ここでは、ASEANの製造業全体の変化をGDPのデータを用いて調査します。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Production)の略で一定期間に国内で生み出された付加価値の総額を指します。まず、ASEAN全体のGDPの遷移を確認します。下の図は2000年から2018年までのASEANのGDPと一人当たりのGDPを示したグラフになります。

出典:ASEAN Key FIgures 2019

グラフから分かるように、ASEANのGDPは年々増加しており上昇傾向であることが読み取れます。具体的には、2018年のGDPは2000年のそれと比較すると5倍以上に成長しています。加えて、一人当たりのGDPは2000年の1195ドルから4倍近くの4601ドルまで成長していることが分かります。次に下の図は、ASEANの総GDPにおける3つの主要産業(農業、製造業、サービス関連業)が占める割合の遷移を示したグラフです。

出典:ASEAN Key FIgures 2019

棒グラフの中層にある製造業の割合に注目すると、年々製造業が占める割合は減少していることが分かります。具体的には、2018年の製造業(製造、電気、ガス、水道、鉱業、採掘業)が占める割合は2005年から3.1%減少しています。一方で、サービス関連業(貿易、政治関連事業、通信、情報、交通、金融、経済活動)は年々拡大していることが分かります。以上2つのデータより、ASEANにおける製造業のGDPの遷移を表したものが下のグラフになります。

データ引用元:ASEANStatsDataPortal

先にも述べたように、GDPにおける製造業の割合は年々減少していますが製造業自体のGDPは年々増加していることがこのグラフから読み取れます。

製造業のGDPが増加している2つの要因

ASEANにおける製造業のGDPが増加している要因は大きく2つ考えられます。1つ目はASEAN域内で6億4千万にのぼる消費者の存在です。下の図は1990年から2018年までのASEANの人口と人口増加率を示したグラフです。

出典:ASEAN Key FIgures 2019

ASEAN域内での人口増加率は減少傾向にあるものの、人口は増え続けていることが分かります。また、消費者の数が増加するに従い高所得者の数も増加し、より高価な商品・サービスを求める傾向が増加していることも製造業の発展に貢献していると言えます。2つ目はASEANの安価な労働力が世界中から注目を集めていることです。

世界の製造業の生産拠点として飛躍的な発展を遂げた中国はここ最近、労働賃金の値上げに加え、規制を強化し始めています。よって各国の製造業企業は中国の代替となる生産拠点を探しています。生産拠点の候補としてASEANは低賃金かつグローバルなネットワークを有しているための世界各国の製造業を地域に引き付けています。

業種別の動向

自動車産業

ASEANでは急速な経済発展に伴い、自動車に対する需要も増加しています。下の図は2005年、2010年、2018年におけるASEAN各国内で登録された自動車台数を示したグラフです。

出典:ASEAN Key FIgures 2019

グラフからASEAN各国において自動車の登録台数が年々増加していることが読み取れます。ASEAN全体の登録自動車台数で整理したものが下のグラフになります。

データ引用元:ASEANStatsDataPortal

これらのデータよりASEANの自動車登録台数は年々増加しており、先にも述べた製造業の発展と同じ理由により、これからも上昇傾向が続くことが予想されます。下の図は、2005年から2016年におけるASEAN主要5カ国(インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)の自動車生産台数を示したグラフです。

出典:ASEAN情報マップ

2016年におけるASEAN主要5カ国の自動車生産台数は、統計を開始した2005年と比較し2倍近く増加していることが分かります。これらのデータより、ASEAN域内では自動車に対する需要が高まっており、それに従い自動車の生産台数も年々増加していることが分かります。

補足情報(出典:Electrifying times for automotive industry)として、ある調査によると東南アジア地域において

  • 2018年の自動車売上は、2016年から3年連続で6%上昇
  • 2019年の自動車売上台数は、2018年の357万台から427万台に増加

のような予想がされています。また、一部の専門家は中国とアメリカの貿易戦争の影響により、シンガポール、インドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシアでの販売台数は停滞する見通しであると主張しています。

化学産業

現在、世界の大きな化学工業企業は製造・研究開発の拠点を東南アジアで行っています。World of Chemicals(出典:Rise of the chemical sector)のレポートによると、ASEAN全体の化学工業には以下のような特徴があります。

  • 東南アジアの多くの化学工業工場では自動化とデジタル化が進められ、生産効率の向上が図られている
  • ASEAN諸国の化学工業による環境汚染対策として、先進技術の開発と規制の強化進んでいる

また、それぞれの国別で見ていくと、ASEANの中でも最も成長が著しいシンガポールの化学産業では以下のような特徴が挙げられます。

  • シンガポールはASEANの化学工業の拠点であり、石油化学、特殊化学工業で強みを持つ
  • シンガポールは100を超える先端化学工業企業を有しており、様々な企業が新しい実践的な化学技術の開発に力を入れている

そして、インドネシア、タイ、マレーシアといったASEAN主要国の化学産業には以下のような特徴が挙げられます。

  • インドネシア、マレーシア、タイは安定した市場として化学工業の発展に貢献している
  • マレーシアは世界第2位のパーム油の生産国であり、新しい油脂化学技術の開発に力を入れている
  • タイではバイオプラスティックの開発に注力している
  • インドネシアでは政府の援助不足と産業基盤の未発達により、バイオ化学工業の発達が遅れている

建設用機械産業

ASEAN地域での建設用機械の需要は年々増加しており、世界中の国と地域から企業が参入し競争が激化しています。(出典:ASEAN CONSTRUCTION MACHINERY MARKET

現在、世界中の製造業企業が東南アジアでの操業を考えています。それは先にも述べた、安価な労働力と地域内での需要の増加が主な理由になります。その中でも建設用機械産業は、東南アジア各国でインフラ整備への需要が増加しているため、東南アジアで最も盛んな産業の一つと言えます。

加えて、2019年6月にASEAN内での人、モノ、エネルギーの輸送を強化するためのパイプライン建設プロジェクトを発表し、2019年11月に正式にプロジェクトの合意を発表しました。19のプロジェクトにかかる総額は19億ドルと見積もられており、今後より多くの投資が集まることが予想されます。(出典:Coneecting the region through intitiall pipline of ASEAN infrastructure projects

また、東南アジアでは道路建設用設備の市場がここ数年で大幅に増大しています。その背景には地域内での道路建設の需要が高まっていること、道路建設による物流の改善が求められていることなどが主な理由になります。例えば、ベトナムでは建設業による国の利益が12億ドル(2007年)が128億ドル(2017年)に増加しています。背景には、ベトナムではビルの建設許可が増加したこと、経済の回復、政府の商業・民間建設業に対する援助などの要因が挙げられます。

まとめ

今回は、多くの日本企業が進出し注目度を高めているASEAN地域について紹介しました。ASEANの製造業市場は拡大傾向にあり、個人的な見解として、中国に続く国際的な製造業の拠点として、これから存在感を高めていくだろうと考えています。しかし、ASEAN地域内における製造業のGDP割合は縮小傾向にあり、市場はサービス関連業にシフトしています。

次回はそのシフトを牽引し、ASEAN諸国の中でいち早く先進国となった「シンガポール」について紹介します。今後、ASEAN各国についての詳細記事を随時投稿していく予定ですので、ASEAN地域への進出に少しでも関心のある読者の方に読んでいただければ嬉しく思います。

海外市場調査の方法と5つの分析リスト

テクノポートの稲垣です。海外でビジネスを行う際に必要な行程の一つに、海外市場調査があります。海外市場調査の方法は大きく、国内での情報収集と海外現地への出張調査の2つに分けられます。

今回は海外市場調査の意義からそれぞれの方法のメリット・デメリットと具体的な5つの分析リストを紹介します。

海外市場調査の意義

日本企業が海外進出を行う最大の目的は販路拡大です。そして、販路の拡大を実現するためには、国内同様に市場調査が必要です。海外において市場調査を行う意義は、大きく以下の3つ理由に帰着します。

  • 各国の規格、規制に準じたサービスを提供するため
  • 各国の方針、法規制の変化に迅速に対応するため
  • 事前に損益の度合いをシミュレーションすることで損失リスクを低減させるため

海外市場調査の方法

海外市場調査の方法は大きく以下の2つの方法に分類されます。

  1. 国内での情報収集
  2. 海外現地への出張調査

流れは、1.国内での情報収集を行った上で、2.海外現地への出張調査となります。

国内での情報収集

国内での情報収集はオーソドックスなルートと情報源を使うことが重要になります。以下に国内で取得すべき情報と情報源を表にまとめました。

取得すべき情報 情報源
進出国の基本情報
会計・税務・現地法律問題
  • 会計事務所、法律事務所のHP
  • セミナーに参加
外資規制
進出国マーケット情報
  • 専門家に調査を委託(次項で解説)

国内で情報収集を行う上で重要となるのは、自社でやるべきことと、外部のネットワークを活用するべきことを明確に分けることです。特に自社でやるべきことが明確に決まれば、重点的かつ効率的に調査を進めることができます。

海外現地への出張調査

進出国候補を特定の1国に絞り込んだら、次に現地出張を行います。現地で情報を集める最大の目的は、国内で収集した情報の確認作業となります。つまり、国内での調査がとても重要であることを意味します。現地では現地でしか得られない情報、アポイント先からのヒアリングが中心となります。以下に現地で訪問すべき場所、収集すべき情報を表にまとめました。

訪問すべき場所 収集すべき情報
  • JETRO
  • 最近の日系企業の進出の増加度や業種の傾向
  • 失敗例や撤退
  • 最近の現地政府機関の対応状況
  • 日本企業の進出ロケーション
  • 交通渋滞の状況
  • 日本人居住区とその理由
  • 日本人商工会や日本人会で最近問題になっていること
会計事務所
  • 現地の外資規制、一般的な規則
  • 現地法人設立手続きの概略
  • 関税支払、法人税申告での問題点
  • 移転価格税制の摘発例
  • 個人所得税の申告方法
現地の日本商工会議所
  • 日本企業の意見や改善要望点
  • 日本企業が現地政府に要望している改善事項
  • 現地日本企業の賃上げ交渉状況
工業団地(管理事務所や工場訪問)
  • 電気と水の供給状況
  • 水の供給源(井戸か河川か)
  • 一般工の供給状況
  • 一般工の通勤手段や寮の必要性
  • 諸労務問題(組合の有無、労働争議の実態、当局の対応の様子)
  • 付近の交通渋滞の有無
  • 通関作業の迅速性

進出国の5つの分析リスト

本項では、前項の国内で取得すべき情報(2.1 国内での情報収集)に挙げた進出国マーケット情報について、調査すべき情報を具体的に解説します。進出国マーケット調査で調査すべき項目は以下の5つです。

  • マーケットの規模と成長率
  • 潜在顧客リスト
  • 同業者・競合者調査
  • 仕入先・サプライヤー調査
  • 新規参入障壁

具体的に見ていきましょう。

マーケットの規模と成長率

マーケットの規模と成長率の調査で具体的に取得すべき情報を列挙します。

  • 自社製品が属するマーケットの成長率
  • 自社製品が属するマーケットの現状の市場規模
  • 同じ様な製品の価格帯と売れ行き

マーケット関連の情報は最新の情報を取得することが重要です。なぜなら、マーケットは短期間で大きく変化する可能性があるからです。例えば、アジアのマーケットの変化は思いのほか早く、日本で数年かかった高品質化などが1年ちょっとで進むことも珍しくありません。

潜在顧客リスト

B to Bビジネスの場合は特に、自社の製品を購入してくれる取引先候補のリストを作成しておくことが重要です。日系企業の取引先はもちろん、他国の外資企業や地場企業などもリストアップする必要があります。付加的な情報として、各社が現在どこから部品を調達しているのか、自社部品への切り替えに伴うコストはどうかについてもチェックを行うことが大切です。

同業者・競合者調査

進出先の国の同業者・競合者について具体的に取得すべき情報を列挙します。

  • 自社が進出したい業界の地場有力企業のビジネスの内容
  • 自社が進出したい業界の外資企業や日系企業のビジネスの内容
  • 自社が進出したい業界の特徴
  • 自社が他社に差別化できる要因

個人向け最終財を販売するB to Cビジネスの場合は、現地業界組合について調査しておくことが重要です。なぜなら、自社製品に対するその国特有の基準や観点がある可能性があるためです。例えば、イスラム国におけるハラルなどの宗教的な価値観に起因する禁止事項に触れる可能性があるためです。

仕入先・サプライヤー調査

進出先の国内に自社製品製造のための原材料や部品メーカーの供給があるかどうかは、最も重要な要素の一つです。例えば、原料の供給業者が公社などの政府機関や国営企業である場合には、国の規制や慣行により取り扱いのできる業者が限られる場合があります。

一方で、原材料供給が進出先の国にはなく、輸入となる場合、関税を含めてコストが採算に乗るのかどうかを考慮する必要があります。例えば、賃金が安く、インフラが整い、日本人駐在員の居住環境が良くても、原材料の関税や輸送代金がかさみ、商売が成立しないケースも考えられます。

新規参入障壁

進出先のマーケットに自社が新たに参入する場合、参入障壁は大きく以下の2つが考えられます。

1つ目は、進出先の国内の業界規制です。例えば、外資規制上は会社設立登記が可能でも、業界規制により営業ライセンスが与えられないケースも存在します。この点は専門家等へ調査依頼をする方法もあります。

2つ目は、設備投資に関する条件です。例えば、一定以上の設備投資が必須になるような場合は、進出する際だけではなく、撤退する際の障壁にもなり得ます。

上記2つ以外にも、現地での販売ルートの確立が難しいケースも存在します。解決方法として、既に現地である程度の工場設備と販売ルートを持った現地有力企業との連携や合弁事業が考えられます。しかし、アジアのマーケットで外資企業とタイアップ可能な現地企業の数はそれほど多くありません。したがって、現地の有力企業がすでにタイアップを完了しているような地域では、先発企業がより小さな参入障壁で進出することが予想されます。

まとめ

今回は海外進出に必要となる海外市場調査について解説しました。重要なことは自社で行えることと、外部に任せるべきことを明確にすることです。上記の内容を踏まえたうえで、自社にとって最適な選択を考えていただければ幸いです。

海外進出のメリット・デメリット

テクノポートの稲垣です。ここ数年、自社の専門分野に特化し、世界規模でビジネスを展開する会社が増えています。次のグラフは、日本国外に進出している日系企業の総数(拠点数)を表したものになります。

出典:外務省ホームページ 「海外在留邦人数調査統計」 平成30年要約版

注目すべきポイントは、海外進出する日系企業の数は統計を開始した平成17年度から平成29年度(2017年10月1日)まで右肩上がりであることです。つまり、日本企業の海外進出に対する機運は高まっており、今後もその傾向は続くであろうことが予測できます。そこで今回は、海外進出のメリット・デメリットについて解説します。

自社の海外進出を考えており、海外進出の方法、実現可能性を知りたい、とお考えの読者の方に是非読んで頂きたい内容になります。

メリット

販路拡大

日本企業が海外進出をする最も大きなメリットは販路拡大です。2018年のGDP(国内総生産)を見てみると、世界のGDP(85兆79427万米ドル)における日本のGDP割合は5.8%です。

日本経済は人口減少により、縮小傾向にあります。同時に、日本企業の海外進出による販路拡大のメリットは、重要度を増していきます。

コスト削減

新興国は日本に対し人件費が安価です。新興国に海外進出をすれば、最大で人件費を80%削減できます。原材料を現地で調達する場合は、安価な上に、輸送コストを削減できるためメリットがあります。

他の方法では、日本よりも税率の低い国進出することで、コスト削減が可能です。外国企業からの進出を促進するために、外国企業向けに税制の優遇をする国も存在します。

製品・サービスの専業化

一般に、「商圏の大きさ」と個々の企業が有する「専門特化の傾向」は比例します。言い換えれば、商圏が大きければ大きいほど、自社の製品や技術を専門特化できるということです。例えば、人口が少ない土地で食堂をやろうとすると、うどんもあればラーメンもかつ丼もあります、という品揃えになりがちです。これは、地元の顧客の多岐に渡るニーズを数少ない食堂で満たす必要性が生じるからです。一方で、都市圏では専門店が成り立ちます。これは、無数の店が乱立する都市圏では平均的なサービスに需要が少ないためです。

要約すると、大きな市場規模でビジネスを行うことができれば、専門特化が可能になり、世界規模の競争の中でも勝ち残りやすくなります。世界市場のような大きな市場で勝ち残る為には、日本の中小企業が有する狭く深い技術力が必要不可欠であることが分かります。

人材育成

海外進出という事業を通して、自社の人材を育成できるというメリットもあります。海外とのコミュニケーションや書類作成、交渉の経験を重ね、グローバルに通用するビジネススキルの向上、自社独自のノウハウの蓄積が可能です。

社員の語学力向上、モチベーションの向上といった副次的なメリットも期待できます。

2 デメリット

金銭コスト

海外進出において、大きく以下の2種類のコストがかかります。1つ目は、海外進出のための準備コストです。

  • 情報収集コスト(市場調査費、現地調査のための渡航費、人件費)
  • Webサイト関連コスト(海外販路開拓用のWebサイトの構築、運用費用、現地語への翻訳コスト)

が挙げられます。

2つ目は、現地で事業を開始するためのコストです。

  • 海外法人設立費用(事務所を作成し登記するための事務費用)
  • ビザ発行費・ライセンス費(現地での労働ビザ発行費用、業種によってはライセンス費)
  • 事務所家賃(事務所を賃貸で借りる場合に発生)

が挙げられます。

カントリーリスク

進出先の国や地域の情勢が変化することによって企業が受けるリスクのことをカントリーリスクと呼びます。カントリーリスクは大きく以下の2種類に分けられます。

1つ目は、政治リスクです。

  • 政権交代による進出企業に対する扱いの変化
  • 戦争や内乱に伴う政治の不安定化
  • 日本との外交上のトラブル
  • 反日感情による製品・サービスへの影響

が挙げられます。

2つ目は、経済リスクです。

  • 国債の債務不履行(元利金の支払ができなくなること)
  • バブル崩壊のような国家レベルの経済問題
  • インフラの未整備
  • 法制や税制の相違

が挙げられます。

為替リスク

外貨を円貨に換算する為替レートによって受取円貨額、支払円貨額が変動するリスクのことを為替リスクと呼びます。例えば、2016年にイギリスの国民投票でEU離脱派が勝利を収めました。当時の世界の投資家はユーロやポンドへの信用を疑い、極東のお金持ちの国である日本(2015年末で日本の対外純資産は25年連続世界トップ)へと投資先をシフトしました。結果、日本の輸出産業は急激な円高により大きな打撃を受けました。一方で、日本の輸入産業は円高の恩恵を受け、好調に転じたことも事実です。

このように、海外に進出し日本国外と取引を行う際は、世界規模の経済の動向により、損失や利益が生じるリスクがあります。

文化・宗教上のリスク

対象国の人々の文化や宗教が持つ違いによって発生する諸問題もデメリットの一つとして挙げられます。文化的な問題では、消費者の好みやニーズが国や地域によって異なることがあります。例えば、インドネシアの歯ブラシは、ヘッド部分が日本製の倍ぐらいのものが主流です。海外進出する企業は、商品の市場を事前にリサーチすることが求められます。

宗教的な問題では、宗教的な禁止事項を製品・サービスに含むことがあります。例えば、日本の某大手タイヤメーカーが製造し、日本車に搭載されていたタイヤの溝の模様が、アラビア文字でイスラムの神アッラーと読めたことが問題となり、全品回収に至ったという事件があります。海外向けの商品マーケティングを行う際は、対象国の人々の文化や宗教に対する配慮も欠かせない要素になります。

まとめ

以上、海外進出のメリット・デメリットを紹介しました。メリットとしては、販路拡大やコスト削減が見込まれます。一方、政治、経済、宗教、文化などの諸問題によるデメリットも考えられます。次回以降では、具体的な海外進出の方法を解説する予定です。

海外進出時の顧客開拓5つの方法

テクノポートの稲垣です。現在、工学系の大学院修士1年です。インターン生としてテクノポート株式会社に参加しています。海外進出分野の記事を担当しますので、よろしくお願い致します。

海外に販路を拡大するためには、顧客開拓が必要です。そこで今回は顧客開拓の5つの方法を紹介します。それでは順に見ていきましょう。

国際見本市、展示会への出展

顧客を開拓する上で最も有効な方法の一つに、見本市や展示会への出展が挙げられます。最大の特徴は、見本市や展示会には当該商品に興味のある顧客が多く集まるため、一度に多くのバイヤーに自社製品を紹介することができるという点です。加えて、同業他社も多く出展しているため、マーケットの傾向やライバル企業の動きを探ることができます。

一方で、出展にはお金がかかり、限られた期間で効果的な演出を行う必要があります。そのため、事前に周到な準備を行う必要があると言えます。

公的機関の活用

最も代表的な方法として、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO、ジェトロ)の利用が挙げられます。ジェトロのホームページの「取引先を探す」ページでは、海外展示会への出展サポートを受けることができます。また、同ホームページでは自社製品を案件データベースに登録することで、外国企業と国際ビジネスマッチングを行うことも可能です。

上述した方法以外に、海外各国が日本からの投資や貿易促進のために専門部門を日本国内に設けていることがあります。それらの部門は、貿易や当該国の投資実務面などの有益な情報を提供してくれるため、活用することができます。進出先候補の国名と関連用語で検索すれば、部門の所在地、電話番号等が入手可能です。

また、各国が投資誘致のために開催するセミナーに参加するという方法もあります。これらのセミナーは、投資誘致サービス機関や日本の出先機関が主催しているケースが多いため、情報資料収集や支援を受ける為の人脈を広げることができます。

自社のホームページの活用

外国語版の自社のホームページを構築・運用することで、世界中の潜在的な取引先からの問い合わせを獲得できる可能性があります。

2019年現在、世界のインターネット接続可能な人々は全体の56%(※)であり、ほとんどの企業は自社の情報発信拠点であるホームページ持っています。

(※) https://wearesocial.com/blog/2019/01/digital-2019-global-internet-use-accelerates

海外の販路拡大のためには日本語のサイトだけでなく外国語のサイトを構築する必要があります。外国語サイトを構築する際に何よりも重要なことは、どうしたら自社の製品やサービスを潜在的な取引先に見つけてもらえるかということです。

潜在的な取引先に訪問してもらいたい場合は、狙っているキーワードで少なくとも上位10位以内に表示される必要があります。そのために、検索エンジン最適化(SEO)と言われるテクニックが重要視されています。現在、Googleの検索アルゴリズムは進化を続けており、ホームページに記載されている内容そのものが重要視されるようになりました。これらの具体的な方法は、次回以降に説明する予定です。

コンサルタントの活用

海外進出を専門とするコンサルティング会社を利用して、海外進出の基本方針の策定から販売パートナーの選定までを任せる方法も考えられます。豊富な実績・経験のあるコンサルティング会社に依頼することで、スムーズに顧客開拓を進めることができます。

一方で、金銭的な負担がかかることに加え、自社にノウハウが蓄積しないといったデメリットも考えられます。コストを抑えるためには、自社で行えることは自社で行い、どうしても必要な場合のみコンサルティング会社に依頼するという方法が現実的であると言えます。

商社や取引先からの紹介

商社をはじめとする国内の輸出会社や、既存の取引先からの紹介で顧客開拓を行うという方法があります。輸出会社を利用する方法は、国外に間接的に輸出することになるため、販路開拓の手間を省くことができるというメリットがあります。一方で、輸出会社を通すため、貿易による利益が小さくなる、自社に貿易に関するノウハウが蓄積しない、などのデメリットも考えられます。

既存の取引先からの紹介は、貿易に関わる人脈を有している場合などが当てはまります。例えば、日本国内の銀行は融資につながりそうな案件であれば取引先を紹介してくれる可能性があります。紹介する企業と海外の取引相手先との関係は色々なケースがあり、失敗するケースも多数存在します。そのため、信頼できる取引先からの紹介であっても、自社で十分な調査を行うことが必要であると言えます。

まとめ

以上、海外進出時の顧客開拓の5つの方法について解説しました。自社のホームページを用いる方法の詳細については、次回以降の記事で紹介する予定です。

海外進出の成功は簡単ではないが不可能でもない

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先月発売開始した「TRIZを活用した革新的思考プロセス -利益と元気を出す道具の話-」は、ロシア起源の技術的アイデアの発想法「TRIZ」を解説した本邦初のDVDですので、技術的障壁に悩んでいる方は是非お試しください。

さて毎回ひとつずつ紹介しているものづくりキーワード、今回は「製造業の海外進出」を取り上げてみます。

経済グローバル化の本質

1989年ベルリンの壁崩壊以来、世界は自由貿易に向けて着実に動いていましたが、昨年就任したD.トランプ米大統領は保護主義に戻そうとしています。その成否は分からないものの、大勢としては「ワンワールド」に向かっていると考えて良いでしょう。その根拠は次の3つです。

(1)物理的距離の減少

100年前は船で1週間かかっていた距離が、今は航空機で8時間です。飛行機のスピード自体はここ30年ほど進歩がないといえ、新興国の大衆にとって以前は高値の花だった海外旅行が一般化して、物理的というか、費用的というか各国間の距離が近くなっています。

(2)情報技術の発展

100年前は文字、50年前はラジオ、30年前はテレビなどを通じた海外情報入手でしたが、いまやインターネットを通じて世界中のあらゆる地域の多くの情報が一瞬で手に入ります。物理的距離以上に情報の距離は短くなっているのです。

(3)文化的距離の減少

上記2項目の変化で、人的交流、情報交換が進んでも、長年の文化は簡単には変わりません。ただし、相互理解が徐々に進みます。特に事業の営利が関係すると、理解を進めようとするエネルギーが強まり、変化が加速されます。

これら3つの力によって世界的観点で産業を効率化しようとなると、各国が相互に得意なものを生産して、他国に輸出しようとするのは当然です。

国内において自働車の組み立ては愛知県周辺、メガネは石川県、タオルは愛媛県、ワインは山梨県で多く生産されます。その起源はともあれ、結果的に技術、人、材料などのインフラが整っている場所が効率よく生産できるわけで、世界でも同じことが進むと見て良いでしょう。その自然な動きを関税で阻止しても、消費者に不合理を強いることが長く続くわけがありません。いずれ最も合理的な場所で生産するようになるはずです。

それでは日本が得意な製品とはなんでしょう?

生産の国際分業

図1は工業品目別に国際的な日本シェアと市場規模をグラフにしたもので、点(丸)の大きさが市場サイズを表わしています。規模が小さいうち(グラフの下方)は全量を国内で作ることも可能ですが、市場が拡大し工場数が増えるにつれて(グラフの上方)生産地は世界各地に分散し、日本生産のシェアが低下する傾向が分かります。この右下から左上に分布する点群の中で、比較的右上に分布すれば日本が得意な品目と言えます。

図1.日本製品の分野毎世界シェア(出展:産業構造審議会産業技術分科会2006年資料)

図中で紫の点線で囲まれた領域がそれであり、かなり上方でひときわ大きなオレンジの丸が、世界最大の工業製品である「自動車」です。その右下やや小さなグレイの丸「電子部品」、右下方の青い小丸「複合プリンター」あたりがかなり日本に向いているようで、いずれもアナログなすり合わせ技術がキーとなる製品です。

一方左下にはPCや携帯電話などのデジタル製品や、巨額の投資が必要な医薬品が位置しており、技術的に不得意なわけではないものの、競争力を発揮しにくい分野といえるでしょう。短期での状況変化は難しいかもしれません。

中小製造業の海外進出成功事例

国内での事業維持が難しくなった時に、海外へ進出すれば成功するというほど簡単なものではありません。海外が専門ではない私なりに、知っている3件の成功事例を紹介します。

(1)日本人が一人もいない日系企業

写真1 深圳の金型メーカー

2011年当時MOT大学院に在籍していた私が、研修旅行で深圳の日系中堅金型メーカーを尋ねたところ、工場代表以下全従業員が中国人であり、ほどほどしっかり管理されていました。この代表は日本留学先の大学を卒業と同時に日本本社に就職し、数年の勤務後に海外進出と同時に派遣されたため、日本語、日本文化、企業文化を熟知しながら、当然中国語、中国文化も完全に理解しているため、費用のかかる日本人駐在が不要なのです。

駐在員が複数いる日系企業の現場よりはやや管理が緩い印象はありましたが、ほどほどの方が現地従業者は働き心地が良いかもしれません。受注は全量近辺の日系大手企業で、売り上げが急激に拡大し、従業員数とともに日本本社を大きく上回っているとのことでした。

(2)定着率が極めて高い日系企業

私が産学官連携コーディネーターで県内中小企業を巡回していた2年前に、たまたま訪問した50名ほどの部品加工企業です。古びた建屋で、正直あまり活気が感じられなかったのですが、聞いてみると何と上海と東莞の2工場で4000名の従業員が電子部品を生産しているそうです。

まだ現地生産が本格化していない1994年に進出し、当初は苦労したものの、従業員の家族の入院費用まで負担するなどで労使の信頼関係が高まり、今では低い離職率と高い勤労意欲で、日本の本社を遥かに上回る業績を上げています。

(3)現地での受注が多い日系企業

2013年3月にものづくりドットコム1周年記念大会で、当時の敬愛大学経済学部岸本太一准教授(現東京理科大技術経営専攻講師)が、アジアに進出した中小製造業を研究した結果として、成功するパターンを講演していただきました。それは日本でも十分利益を上げていた企業が、進出した海外でも現地でありえない日本流の気遣い、気配り対応をすることで抜群の評価を得て、高価ながらもそれなりの売り上げ、利益を上げているというものでした。

日本では気配り対応が当たり前で、なかなかそれが価格転嫁できないものですが、海外だからこそ明確な差別化要因となるようです。ということで、三者三様、唯一の成功法則はありませんが、大きな可能性を秘める海外生産です。検討してみる価値がありそうですね。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、根本さんが海外生産の専門家です。不明の点や相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

海外進出の際に検討したい3つの事

ものづくり企業を支援するかめやま特許商標事務所の弁理士、亀山と申します。今月からものづくり経革広場へ記事を投稿させて頂くことになりました。これからよろしくお願いします。

海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?

先日の話です。

お知り合いの経営者と雑談していたところ、

1年前にリリースした新商品が、海外でも引き合いがあって・・・海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?

と質問されました。

その方との出会いは、3年前。出会った当時は「知的財産?なにそれ?」という方でしたが・・・。冒頭のような質問が出るということは、知的財産に対する意識が高まっている証拠です。さて、冒頭の質問「海外進出の際、知的財産的に何を注意すればよいですか?」について考えていきたいと思います。

(知的財産のことは少し忘れて・・・)海外進出の際に検討したいことは何でしょうか?

まずは・・・

  • 自社商品・サービスが、現地で受け入れられるか?

そして・・・

  • 自社商品・サービスの提供により収益があがるか?

いずれも大切です。しかし、大切なことは、これだけではありません。

それは、

  • 自社商品・サービスを、現地で合法的に販売できるか?

です。

1、よくあるトラブル事例(現地の展示会に出展した場合)

展示会に出展し、反響は良好・・・。販売数も徐々に立ち上がってきて、上々の滑り出し・・・。そこで、突然、商標権侵害の警告状が届きます。

商標権侵害・・・。つまり、当該国において、自社商標(店舗名、サービス名、商品名等)の使用に違法性がある、ということです。

2、警告状の対処方法

警告状の対処方法としては、基本的には、以下の2つが考えられます。

  1. 自社商品の名称変更
  2. ロイヤリティの支払うことを前提に、商標を使用する。

在庫品ラベルの変更費用やチラシの変更費用を考慮すると・・・。現時点での名称変更は避けたく・・・このまま使用したい!

と思われる方が多いと思います。しかしながら、ここは、相手(権利者)の合意が必要ですので、必ず使用できるとも限りません。したがって、名称変更をせざるを得ない、となることが多いのが実態です。

3、問題の所在はどこに?

商標法、特許法、意匠法などの知的財産法では、日本の権利と外国の権利は別個のものと取り扱います。このため、日本の権利を持っているからといって、当然に、当該国でも同様の権利が認められる・・・とはなりません

したがいまして、当該国へ進出する前にすべきことは、自社商品の名称等の使用が合法であるか否か?つまり、当該国において、自社商品の名称等が、他人の登録商標になっていないか?となります。

4、どうすれば?

このようなリスクを回避するためにはどうすればよいでしょうか?まずは、当該国において、「自社の事業の障害となる他人の登録商標の有無」について調査(クリアランス調査)する必要があります。クリアランス調査を行わない場合、上記のような、商標権侵害などの警告状を現地企業からもらうリスクが高まります。

また、現地の代理店と提携している場合、現地の代理店から、「商標権侵害の有無はチェックしたのか?現地での商標登録は済んでいるのか?」と確認される場合もあります。

したがって、当該国において、事業の合法性を担保する意味でも、クリアランス調査は必須項目となります。

※今回は、商標権のリスクについて述べましたが、特許権や意匠権についても同様のことが言えます。

5、まとめ

海外進出の際に検討したいこととしては、

  • 自社商品・サービスが、現地で受け入れられるか?
  • 自社商品・サービスの提供により収益があがるか?

も大切な検討事項ですが、それよりも、前に・・・

  • 自社商品・サービスを、現地で合法的に販売できるか?

となります。何かの参考になれば幸いです。

参考:弊所のブログ記事

海外進出の際に検討したいこと その1

海外進出の際に検討したいこと その2

【助成金】海外進出・外国出願【H30年度】