知財を意識した技術マーケティングにより技術情報漏洩を防ぐ

テクノポートの徳山です。今回はWebを活用した技術マーケティングを行う中で気をつけたい「技術情報漏洩への対応策」をテーマに取り上げます。Webを活用した技術マーケティングとは、Webマーケティングにより積極的に情報発信を行うことで技術の新たな用途を発見し、有望な事業を見出していくための活動のことと定義します。

本記事では、技術マーケティングを進めていく際に常にリスクとして付きまとう「技術情報の漏洩」に対し、どのような対応を行っていけばよいのかについて解説します。

※本記事は、かめやま特許商標事務所の亀山弁理士に監修していただいております

Webで情報発信する際の注意点

Webサイトにて技術情報を発信していくことで、さまざまな技術者へ自社技術の存在を知ってもらえます。しかし、商品の問い合わせと称して顧客を装った競合他社によって、自社の技術情報が盗まれるリスクも考えられるでしょう。本項では、そのような技術情報の漏洩リスクを少しでも減らしていくために、Webで情報発信する際の注意点についてお伝えします。

技術の優位性を伝えつつ秘伝のタレのレシピは隠す

技術に対する詳細な情報を出せば出すほど、それが他の技術と比べてどう違うのか、どこが優れているのかが伝わりやすくなるため、技術探索者には刺さりやすい内容となります。このため、刺さる内容を多く盛り込むことが問い合わせ獲得につながると考え、惜しみもなく技術情報をWebコンテンツ化している企業も少なくありません。

例えば、「秘伝のたれ」についての問い合わせから始まったお客様に対して、様々な情報交換を行った結果、「秘伝のたれ」のレシピのように具体的な情報を出しすぎてしまうと、レシピが相手に理解され模倣されたり、そのヒントを教えることにつながったりしてしまい、ひいては自社の技術の優位性が失わるため、相手に対する自社の交渉力が下がります。このような事態にならないようにするためには、情報開示の範囲や開示方法について注意が必要です。

そのため、技術の詳細情報に関しては、技術探索者へ技術の優位性が伝わり、問い合わせを獲得できるギリギリのラインを攻めて表現する必要があります。これを実現するためには、技術者がどのような切り口で技術情報の探索を行っているのかを深く理解するのがポイントです。

技術をMFTフレームワークで分解して情報発信する

情報発信を行う際、MFTフレームワークを使って要素分解することが重要な鍵となります。なぜなら、詳細情報以外のWebコンテンツでユーザーを集客・訴求できるからです。MFTフレームワークについては以下の記事もご参照ください。

技術者が技術探索を行う際、使用する検索キーワードは技術名称だけではありません。現在抱えている技術課題や求める機能などといった検索キーワードも使用する傾向があります。どういった切り口の検索キーワードを使用するかは、技術者の属性や現在抱えている技術課題などにより大きく異なります。

そのため、必ずしも技術の詳細情報を出さなくても、技術が持つ機能やどのような市場で使われているか、といったWebコンテンツをうまく発信することで技術者に技術情報を届けることが可能です。

プロテクトする方法は「特許」と「契約」

自社の技術情報をプロテクトするには、ブラックボックスにしてしまうことが一番です。しかしながら、すべてをブラックボックスにしてしまうと、見込顧客へのアプローチができなくなってしまいます。

そこで、自社の技術情報のうち、「開示する技術情報」「開示しない技術情報」に分けます。「開示しない技術情報」はこのままでもプロテクトされますが、「開示する技術情報」をこのまま開示してしまうとプロテクトができません。

このため、「開示する技術情報」を守る手段として「特許」と「契約」の2つが良く利用されます。これらの手段は技術マーケティング戦略のもと、使い分けていく必要があります。この2つの手段をどのように使い分けていけばよいのかについてお伝えします。

「特許」により技術を守る

特許を取得することで、その技術の独占権を獲得でき、法的に技術を守ることができます。しかし、特許を取るためにはその技術に関する情報を開示する必要があるため、その技術自体は盗まれないとしても、類似した技術開発のヒントを与えることもあります。そのため、技術をどのように開示し、どの部分を守っていくのかは技術マーケティング全体の戦略の中で決めていく必要があります。

ちなみに特許情報を開示していたとしても、その情報まで入念に調査する人は意外と少ないのが実情です。Webマーケティングで情報発信する際に、特許情報として情報開示している情報だからと言って、Webコンテンツとしてどんどん情報発信していくことは控えたほうがよいでしょう。

なお、大企業の場合は、取得する特許と事業の数が多いため、どの特許をどの事業で使用するのかを類推しにくく、その背景を十分に知られないようにするための防衛策(特許群による防衛)があります。中小企業の場合、特許と事業を紐付けるのが容易なため、権利取得のための開示と技術情報漏洩のバランスは特に注意が必要です。バランスのとり方については、特許のみならず技術マーケティングの知識のある弁理士や弁護士などの専門家と相談しながら決めていった方が良いです。

「契約」により技術を守る

技術情報を漏洩させないために、敢えて特許を取得しないという選択肢を取る場合は、契約によって技術を守っていく必要があります(特許を取得している場合でも、もちろん契約は大切なのでご了承を)。具体的には、商談の段階に応じた契約を都度結んでいく方法を取ることが望ましいです。

フリーの話し合いには何の法的拘束力を持たないため、まず話し合いを行うための軽めの秘密保持契約(NDA)を結んだうえで商談を始めましょう。NDAでは、技術情報漏洩防止だけでなく、目的外使用禁止の2点を盛り込むのが必須です。軽めのNDAとは、スコープが広くて義務の重さが軽いイメージです。契約期間は半年〜1年程度とし、契約終了時の条件としてプラス2~5年とする形がよいでしょう。

技術情報を話さなければ、商談がこれ以上前に進まなくなるという段階で、スコープを狭めて、厳し目の条項を盛り込んだNDAを締結します。この段階では商談が途切れてしまう可能性も高いので、契約期間を長期(3年ぐらい)にしておいたほうがいいでしょう。

そして、商談が進み技術の提供方法が確定した段階で、共同開発契約、販売店契約契約、ライセンス契約、業務委託契約などのケースに応じた適切な契約を結びます。各契約の中において、NDAの条項が通常入ることが多いため、締結する契約に応じた内容を記載する必要があるでしょう。

なお、技術情報を盗む目的で近づいてくる企業は、軽めの秘密保持契約(NDA)などを嫌がることが多いため、そのような企業をあぶり出すフィルタ的な効果も期待できます。

また、情報漏洩の観点から言えば、秘密保持契約書やNDA条項が含まれる契約書については、自社のひな型を用意しておいたほうが良いでしょうし、契約書を(ざっとでもよいので)理解できる人材を育てることも同時に行いたいところです。そのような人材がいない場合には、外部の専門家に業務を委託したり、社員教育を依頼することもよいでしょう。

まとめ

Webでの技術情報発信を行う場合は、MFTフレームワークなどを活用し、MとFの情報を中心に情報発信を行いましょう。Tの情報は、技術探索者に刺さる内容を詳細に書きすぎることなく表現する必要があります。

常にリスクは存在することを前提に、技術情報をプロテクトする手段である「特許」と「契約」を使い分けることで、交渉力を維持しながら自社技術を守りましょう。使い分けは技術マーケティング戦略に基づき行っていくことを忘れないようにしてください。

また、短期的な利益に惑わされず、技術から得られる中長期的な利益にしっかりと目を向け、自社技術を守り抜く姿勢が最終的には重要です。特に知財部門がない中小企業の経営者は肝に命じていただければと思います。

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【商標登録】取得も大切ですが、取得後の3年以降は「もっと大切」

中小企業専門の弁理士の亀山です。よくある相談事例の1つに、「自社が取得した商標登録が取消されてしまう」があります。どんな場合に、商標登録が取り消されてしまうのでしょうか?

商標登録が取り消されてしまう理由

商標登録が消滅してしまう理由として、主なものは以下の4つです。

  1. 異議申し立て
  2. 無効審判
  3. 取消審判
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)

この中で、頻度が高いものが、3.取消審判の中の「不使用取消審判」です。弊所でも、年に1~2回は相談を受けます。

※その他の理由の詳細は、過去の記事「折角の商標登録が消滅してしまう場合」をお読みください。

不使用取消審判はなぜおこる?

不使用取消審判はどのような時に起こるのでしょうか?例えば、このような場合です。

ある会社が新商品のために商品名を考案します。登録商標をしようと思い、弁理士さんに先行調査を依頼したところ、「他社商標権の存在により、その商品名が登録商標を受けることができない」旨を弁理士さんから知らされます。

このようなケースでは、

  • 名称変更
  • 当該登録商標の取り消し

を検討しますが、ほとんどの場合には前者となります。

しかし、「どうしてもこの名前でなければ困る!」という場合には、後者を検討し、使用調査の結果「相手は商標を使用していなさそうだ(取り消しの可能性が高そうだ)」との結論が出た場合には、不使用取消審判を請求される場合が多いです。

どんなときに取り消されるの?

簡単に言うと、以下の1~3がすべて満たされた場合に、対象となる指定商品(指定役務)の範囲において取消となります。

  1.  商標権者やライセンシーが、登録商標を使用していない
  2.  登録商標を使用していない時期は、直近3年の間である
  3.  登録商標の使用は、指定商品(指定役務)についてのものではない

取消を受けないためには、どうすればよい?

不使用取消審判により登録商標の取り消しから免れるためには以下が必要です。

  1.  登録商標した商標と、実際に使用している商標との関係
  2.  指定商品・指定役務と、実際に使用している商品・役務との関係
  3.  上記1.~2.について使用した日付を立証できる記録

3.の記録の例としては、

  1. 商品・役務についてのチラシ・HP・カタログ
  2. i.が配布された日付

等の組み合わせが多いですが、過去の取り消し例を見てみると、「ii. i.が配布された日付」の証明で苦労されているケースが多いです。つまり、日頃からの取引書類の整理・日付の記録が必要となります。

さらに、不使用取消審判を請求されないためには、自社では、継続して、登録商標を使用しています!という事実をインターネット上で掲載しておくことが良いです。使用事実をインターネット上で掲載しておけば、不使用取消審判の前に行う使用調査において、不使用取消審判を請求しても認められる可能性は低いだろう、と相手側の弁理士さんが考えるためです。

まとめ

  1. 折角の商標登録も取り消される可能性がある。
  2. 商標の取消理由で多いのは不使用取消審判である。
  3. 不使用取消審判の対策(その1)自社の商標登録の使用は、インターネット上で公開しておく。
  4. 不使用取消審判の対策(その2)商標権の内容を把握したうえで普段の取引書類の整理・記録が必要。

【特許・商標登録】手遅れとなるDIY出願にご注意!

中小企業専門の弁理士の亀山です。お客様からのご相談の内容・タイミングによっては、「もはや手の打ちようがない」「もう少し早く来てくれれば、手の打ちようがあったのに」となってしまう場合があります。

それは、お客様がご自身で出願を済ませた後、新商品を販売し・・・しばらくたった後に、「やっぱり専門家にお願いしよう」と方向転換した場合です。

そして、その出願が特許や意匠の場合、手遅れになる可能性が高いです。

手遅れになるケース

新規性が問われない商標登録の場合、DIY出願と再出願の間に、第三者の出願が割り込まれなけばそれほど問題になりません。しかし、特許、意匠のように新規性が問われるものは、再出願の際に、既に新規性が確保できません。よって、気づいたときには、出し直しの出願ができず「手遅れ」となります。

具体的には、以下のどちらかに該当すると出し直しの出願はできません。

  • 出願公開(出願から1.5年)後
  • 自社が公開してから1年経過後

こうなると、別の発明(改良発明)で出願するしかありません。

まだ間に合うケース

過去の例として、DIY出願(出願公開済み)に、十分に開示されていない発明があったので、「開示漏れの発明のかけら」をきっかけに再出願を検討したこともあります。

「なんでもいいから特許を取りたい!」であれば、話は別ですが、「ビジネスに活用できる特許を取りたい!」となると、ちょっと厳しいです。

こうなると、「ビジネスモデルからを見つめ直して、改めて権利化する部分を考えましょう」のほうがよいかもしれません。

DIY出願した後、「あ、やっぱり心配になってきたゾ・・・」と思われた場合は、お早目にご相談ください。

相談期限の目安としては、以下の3つがギリギリになるでしょう。

  • DIY出願から10か月程度まで(国内優先が利用できる余地あり)
  • 自社による公開行為(宣伝、販売)から10か月程度(新規性喪失の例外が利用できる余地あり)
  • DIY出願から1年3か月くらい後まで(出願公開前)

もちろん、上記を過ぎたしまった場合でも、「開示漏れ」による検討もゼロではないので、ソコは諦めないで欲しいです。

特許・商標登録のDIY。趣味なら良いですが、ビジネスであれば、やり直しのリスクはもちろんのこと、やり直しがきかないリスクの大きさを知ってもらいたいです。

なぜならば、ビジネスは、趣味と違って、競合が存在し、そことの競争の要素があるためです。・・・ということで、DIY出願しちゃったけど、ちょっと気になるな~という場合は、お早目に専門家にご相談ください。

クラウドファンディングを行う際に気を付けてほしいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、クラウドファンディングを行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

とある特許相談にて

お客様:今回の便利グッズ「財布」は、特許が取れるでしょうか?

かめやま:便利グッズ「財布」のポイントは、こことここですね。まずは、この2点について、先行技術調査とクリアランス調査を済ませておきましょう。

お客様:ああ、そういえば、前回の発明品のときもやりましたね。今回も調査をお願いします。

かめやま:かしこまりました。調査の結果が出るまでしばらくお待ちください。

かめやま:ところで、前回の発明品「万能キッチンハサミ」の販売計画はどうなっていますか?特許出願を済ませて半年くらい経つと思うのですが・・・

お客様:あれですね! まずは、クラウドファンディングをやろうと思っています!

かめやま:なるほど。今回のアイデアは消費者向け商品。クラウドファンディングは、マーケティングリサーチの側面もあるので良い方法ですね。ところで、いつ頃申し込むのですか?

お客様:もう申し込みは完了しています!!1か月後には掲載される予定ですので、現在、ページのデザイン制作をしているところなんですよ~

かめやま:あらら・・・

お客様:え?? 何かまずかったですか?前回の発明は、調査を済ませているので、他人の特許権は問題なかったはずですよね?

かめやま:それはそうなのですが・・・クラウドファンディングをする際には、特許権以外にもチェックポイントがあるんです。

特許権以外にチェックすべき点(1) 商品名

お客様:特許権以外に何をチェックする必要があるのですか?

かめやま:まずは、クラウドファンディングの規約を見せてください。ほら、ここに「第三者の商標権、著作権、特許権などの知的財産権等を侵害する行為をおこなってならないこと」と書いてありますよね?

お客様:本当だ。特許権の他に、商標権や著作権もあるのですね。

かめやま:まずは、商標権ですね。現在の原稿をみると、この商品名は○○ですね。この商品名○○は、もう確定ですか?

お客様:はい。クラウドファンディングの運営にも届けています。

かめやま:おぉぅ・・・万が一、届け出た商品名を変更するとどうなります?

お客様:うぅ。変更届を出さないとマズいですね。最悪、一から原稿を作り直しになるので。掲載が1か月遅れてしまいます。

かめやま:確かに1か月の遅れは痛いです。しかし、この商品名の使用が、他人の商標権を侵害していたら、この商品名を使用できなくなるので、それこそ問題です。まずは、この商品名を使用してよいかの調査をしましょう。万が一、侵害している場合は、名称変更、そして、掲載が1か月遅れることを覚悟してください。

お客様:それでは困ります!ここまで準備していたのが水の泡になってしまいます!

かめやま:しかし、仮に、権利者がこちらのサイトを見つけたらどうしますか?商標権侵害による差し止め請求によって、この商品名が使用停止となってしまいますから、どのみち、やり直しになると思います。今、商標調査を先送りして、日に日に大きくなる「やり直しの爆弾」を抱えて進むくらいなら、やり直しの範囲を「本日まで」としておいたほうが良いのではないでしょうか?

お客様:それもそうですね。あれ?ということは、クラウドファンディングを申し込む前に、商品名の相談も先生に済ませておいた方が良かったのですか?

かめやま:それがベストでした。私も、前回の発明品「万能キッチンハサミ」の先行技術調査のご依頼のときに、販売計画のところまで確認しておけばよかったですね。

お客様:いえいえ。あのときは、まだクラウドファンディングのアイデアもなかったときなので・・・まずは、商品名の調査を進めて下さい。

特許権以外にチェックすべき点(2) イラストや写真等

お客様:商標権のチェックはOKとして、著作権はどうすればよいのですか?

かめやま:現在の原稿をみると、ここのイラストや写真は、貴社のオリジナルですか?それとも誰かに制作依頼をしたものですか?

お客様:このイラストはA社のフリー素材です。こっちの写真はB社のフリー素材です。

かめやま:A社の利用規約をみると、クラウドファンディングにおける使用はOKそうですね。B社の方は、・・・くわしく書いていないですね。ちょっと怖いので、B社に問い合わせするか、A社の素材に差し替えた方が良いかもしれません。

お客様:この写真は、結構、気に入っているんですよね。こだわって選び抜いたものですし・・・

かめやま:お気持ちはわかります。しかし、著作権侵害となった場合には、商標権同様、結局やり直しになることを覚悟しないとなりません。後々のリスクを負ってまでその写真を使いたいですか?

お客様:わかりました。B社に問い合わせして、許可をもらいます。もしも、NGの場合には、A社のものに差し替えます。

クラウドファンディングを行う際に気を付けてほしいこと

その商品名は合法的に使用できますか?

商品名は、ほぼ間違いなく商標権の対象となります。そして、あなたが使用しようとしている商品名も、見知らぬ他人が商標権を持っている場合もあります。商標権侵害の場合には、権利者側のブランドイメージの棄損につながるため、ライセンスを許可する場合は少ないです。したがって、名称変更をせざるを得ない場合がほとんどです。そして、このような名称変更によるリスクを減らすためには、クラウドファンディングを申し込む前に、専門家に相談した方が良いでしょう。

その著作物は合法的に使用できますか?

イラストや写真も、ほぼ間違いなく著作権の対象となります。あなたが使用しようとしているイラストや写真にも、第三者の著作権の効力が及ぶ場合があります。著作権侵害の場合、差し替えとなる場合も多いですが、権利者の意向によっては、相当のライセンス料の支払い等の条件を前提に使用を許可してくれる場合もあります。このような著作権侵害のリスクを小さくするためには、デザイン制作会社へ依頼した場合には、業務委託契約書の中で著作権の処理が必要になりますし、フリー素材を使用する場合には、フリー素材の利用規約をよく読み、用途に合ったものを選ぶようにしましょう。

出品する商品の技術的アイデアやプロダクトデザインは合法的に使用できますか?

出品する商品の技術的アイデアやプロダクトデザインは、特許権や意匠権の対象となります。そして、特許権侵害や意匠権侵害の場合には、著作権侵害同様、クラウドファンディングの出品の中止、または、相当のライセンス料の支払い等の条件に出品を許可してくれる場合もあります。上述の「万能キッチンハサミ」のケースのように、事前にクリアランス調査を済ませていた場合はよいですが、クリアランス調査が未実施の場合には、他社の特許権侵害のリスクを把握する意味でも事前に進めた方が良いです。また、万が一、特許権侵害のリスクが高い場合には、特許権侵害のリスクが低くなるよう「どのような設計変更が望ましいか」を専門家と検討したほうがよいでしょう。

クラウドファンディングの規約を守っていますか?

どのクラウドファンディングでも利用規約があります。そして、その規約の中に、第三者の知的財産権を侵害しない旨を規定しています。かりに、あなたの商品や商品名等が他社の侵害品であることが判明すると、規約違反により、ページの削除などの対応を迫られる場合もあります。もちろん、クラウドファンディングの利用規約には、知的財産権以外についても触れられています。このため、クラウドファンディングを行う際には、後から規約違反といわれないように、申し込み時に利用規約をしっかりと理解しておきましょう。利用規約を読み込むのが大変な場合には、お近くの専門家に問い合わせして下さい。

専門家にはいつ相談すればよいのですか?

他社の商標権や著作権等の存在によって、商品名変更、設計変更やイラストの差し替えが発生するかもしれません。また、他社の特許権等によって商品の設計変更が必要になるかもしれません。名称変更や設計変更等によるやり直しを防ぐためには、クラウドファンディングに申し込む前に、お近くの専門家にご相談ください。万が一、申し込んでしまった場合には、できるだけ早く、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

クラウドファンディングを行う際に気を付けてほしいこと

  1. 商品名は合法的に使用できますか?(商標権侵害のチェック)
  2. ページに利用されるイラストや写真は合法的に使用できますか?(著作権侵害のチェック)
  3. その技術的アイデアやプロダクトデザインは合法的に使用できますか?(特許権侵害や意匠権侵害のチェック)
  4. クラウドファンディングの利用規約のチェック(利用規約違反とならないため)
  5. ご相談タイミングは、クラウドファンディングの申し込み前が望ましい(やり直し量を最小限に抑えるため)

特許出願を共同する際に気を付けて欲しいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。2020年10月をもって、7年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、特許相談でよく受ける内容をご紹介したいと思います。

新しいビジネスモデルを思いついた!

社長:アフターコロナに向けて新しいビジネスを考えたのですが、始めてしまうと他社に簡単に真似されそうな内容です。このため、事業開始前に、特許出願を済まして、この事業を守っておきたいと思っています。

かめやま:なるほど。どのようなビジネスを行うのですか?

社長:実は、知り合いのA社の社長に話したところ、意気投合して、一緒にやろうということになりました。一方で、特許に関する費用は可能な限り抑えたく。このため、費用をA社と折半し、特許出願も共同で進めたいと思っています。

かめやま:え?!特許出願を共同で行うのですか?

社長:え?だめですか?

かめやま:ダメではないのですが、ちょっと面倒なケースがありまして・・・

特許出願を共同で行うことのデメリット その1

かめやま:特許権が共同となっている場合、共有者それぞれがその発明の実施ができてしまいます。

社長:うーん。それのどこがデメリットなのでしょうか?

かめやま:今回のA社とはどのような役割分担を行うのですか?

社長:A社は、弊社に材料供給をします。弊社はそれを使って新しい製品Xを製造販売します。

かめやま:今回の特許出願したい内容は、新しい製品Xなのですよね?

社長:はい。

かめやま:そうであれば、特許出願は、御社の単独名義でよいのでは?

社長:それだと特許取得費用や維持費用が掛かってしまいます。共同名義にすれば、費用も折半にできるので良い考えと思ったのですが・・・

かめやま:しかし、A社と共同名義にしてしまうと、A社も製品Xを製造販売できてしまいますよ。

社長:いえいえ。A社は、製品Xの製造設備を持っていませんので、実質的に無理です。

かめやま:しかし、A社が下請けのB社に製品Xを製造を委託して全品を買い取れば、ライセンスの対象とならず、A社の自己実施となり得ます。そうすると、A社も製品Xの製造販売が可能となりますが・・・

社長:それは困ります!

かめやま:どうしても共同名義を行うなら、共同出願の契約の中で、A社が製品Xを製造販売しない取り決めを交わしておく必要がありますが、こちらの案がA社にとって魅力的なものでなければ合意にも至らないように思えます。

特許出願を共同で行うことのデメリット その2

かめやま:もう1つのデメリットがあります。それは、御社がこのX製品の事業を他社に売却したくても、共同名義の特許権が障壁となる場合がてでくる点です。

社長:すみません、あまりピンときていないです。

かめやま:今は、A社との関係が良いのでよいのですが、お互いの経営状況が悪くなったり、経営者が交代すると、その辺りの問題が顕在化してきます。

社長:どういうことですか?

かめやま:他社が製品Xの事業を行うためにはこの特許権又はその実施権が必要になります。しかし、売却先に特許権の持ち分を譲渡しようとする場合にもA社の同意が必要となります。同様に、御社が売却先にライセンスを行おうとする場合にもA社の同意が必要となります。したがって、共同名義の特許権の存在が、御社の意思決定の足かせになります。

社長:うーん。目先の特許の費用軽減を目的として共同名義を思いついたのですが、デメリットもあるのですね。

かめやま:そうですね。ここは、ルームシェアの悩ましさに似ていると思います。

社長:確かに。具体的には、どのようにすればよいですか?

かめやま:もちろん、共同出願自体を否定はしないですが、メリット・デメリットの比較考量をしたほうがよいです。

特許権の共有について

特許権の共有について、特許法では、以下のように定められています。

  1. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
  2. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
  3. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

そして、これを修正するためには、共有者との事前の取り決め(契約書)をしておく必要がありますが、契約の相手方との利害一致ができなければ、合意に至ることができません。とはいえ、何もしないままに特許権の共有を行ってしまうと、折角費用と時間をかけて取得した特許も、御社にとって実効性の薄いものになってしまう場合も出てきます。

まとめ

(1)特許出願は、単独でも共同でも可能。

(2)特許権の共有について特許法では次の定めがある。

  • 他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡等できない(特許法73条1項)。
  • 他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる(特許法73条2項)。
  • 他の共有者の同意を得なければ、その特許権についてライセンスことができない(特許法73条3項)。

(3)上記(2)の制約を変更したい場合には、相手方との別途契約が必要となる。

(4)別途契約が難しいようであれば、単独名義で進める。

単独名義と共同発明のどちらが良いか否かは、発明の内容、事業内容や事業の寿命によって異なりますし、そして御社におけるその事業の位置づけによって異なってくる場合もあります。その結果、共同出願が良さそうとなれば、その契約の中で、A社との取り決めを交わしておく必要がありますし、そこが難しいようであれば単独名義で出願しておくことが良いと思います。このように、特許相談においては、出願する発明の内容だけではなく、その事業内容を含めて、お近くの専門家にご相談ください。

自社技術を提案する際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、自社の技術を提案する際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

自社の技術を提案する際のリスク

自社の技術を提案する際、どのようなリスクが考えられるでしょうか?それは、相手企業が自社技術を理解してしまうことです。

自社技術が部品の構造であれば、部品の構造を相手企業に見せてしまうと、相手企業はその構造に関わる技術を理解してしまいます。また、自社技術が製造技術であれば、製造現場や製造装置を相手企業に見せてしまうと、相手企業はその構造に関わる技術を理解してしまいます。そして、部品の構造や製造装置や製造現場を相手企業に見せてしまうと、理解を通して、相手企業も自社と同じような技術を、あるいはそれに近しい技術を持つこととなってしまいます。

その結果、相手がその技術を利用して、自社と同じような商品やサービスが再現できてしまうと、自社の技術的優位性がなくなってしまう場合も多いです。したがって、自社の技術を提案する際のリスクとして、「相手企業が、理解した技術を利用して、自社と同じ商品やサービスを模倣(再現)する」というリスクがあります。技術で収益を立てているモノづくり企業にとっては無視できないリスクですね。

模倣防止リスク対策は非常に悩ましい

「相手企業が再現できる程度に自社の技術を理解してしまうこと」を回避するためにはどうすればよいでしょうか?そのためには、自社の技術を見せないことです。簡単ですね?しかし、これも問題があります。「自社の技術に興味のある相手企業」に対して、自社の技術を全部見せないまでも、全く見せないままでは、商談が進みません。商談は進めたい。しかし、商談を進めるために、技術を開示すると、自社の技術を模倣リスクが生まれてしまう。

商談を優先したいが、模倣リスクは回避したい。どうすればよいでしょうか?「えーい!面倒くさいから、とりあえず、商談を進めて、模倣リスクが危なくなったら、対策を講る?」としましょうか?いえいえ。技術を理解してしまった相手企業に対し「あの技術のことは、忘れてください!」な~んて言えません。

自社技術の開示には、「技術を一度開示してしまうと、開示前(知らない状態)に戻すことができない」という悩ましさが、常に付きまといます。

リスク対策

技術の模倣リスクに関してよく知られている対策としては、2つがあります。

対策1

解決策の1つ目は、「相手企業に自社技術を開示する前に特許出願を済ます」です。これにより、特許権の取得の際には、特許発明の模倣を防止することができますし、出願を済ましておけば、権利化後に模倣行為を取り締まることができるため、相手企業側から見れば「後で取り締まりの対象になるかもしれない」と、一定の牽制効果(保護効果)を得ることができます。

対策2

解決策の2つ目は、「相手企業に自社技術を開示する前に秘密保持契約を締結する」です。これにより、秘密保持契約の締結によって、「秘密情報(自社の技術)の漏洩禁止」及び「秘密情報(自社の技術)の目的外使用禁止」を課すことができます。

2つの対策のメリットとデメリット

(1)特許出願

模倣防止のためには、特許権取得が前提になりますが、特許権取得のためには、少なくとも、①新規性、②進歩性の2つのハードルが課されます。また、特許権取得にかかる期間は、通常は4~5年、最短でも半年はかかります(参考記事)が、出願による牽制効果(保護効果)も得られます。特許出願までの費用は、30~40万円(目安)、特許権取得までのトータル費用は、約60~100万円程度で収まる場合が多いです。手続面でいえば、同じ技術内容であっても、相手が変わる都度、出願をせずに済みます。

保護の終了条件に関してですが、特許権は、特許料納付により特許権の延命が可能なものの、延命は特許権の存続期間出願日から20年が限度です。この延命については、相手の同意も不要です。また、出願後に、自ら、自社技術を公開しても、保護を受けることができます(ここは、とても重要です)。

(2)秘密保持契約(NDA)

模倣防止のためには、秘密情報である必要があります。つまり、①新規性が必要です。契約に要する時間は、契約書の提示から署名まで、通常1~2か月で済む場合が多いです。契約書作成の費用は、約3~5万円のところが多いですし、相手との交渉が含まれる場合には、トータルで約5~15万円となるケースが多いです。

手続面でいえば、相手が変わる都度、同じ技術内容であっても、相手が変わるたびに、契約をする必要があります。

また、保護の終了条件に関してですが、契約は、更新を続けることで延命が永続的に可能ですが、更新には相手の同意が必要です。しかし、秘密保持契約締結後であっても、自ら、自社技術を公開・販売してしまう場合や、第三者が同じ技術を公開してしまう場合は、秘密情報ではなくなるため、契約上の保護を受けることができません(ここは、とても重要です)。

保護を受けられる技術の条件 保護が開始するとき 費用 保護が終わるとき
特許出願 ①新規性

②進歩性

の2つが必要。

権利取得まで4~5年。最短でも半年。

※権利化前でも、出願後は、牽制効果あり

出願まで30~40万円

権利取得まで60~100万円

(目安)

出願から20年が限度。※相手の同意:不要

出願後に、自ら、自社技術を公開(販売)しても保護される。

第三者が、同様の技術を公開(販売)しても保護される。

秘密保持契約 ①新規性が必要。

※②進歩性は不要

契約書の署名まで。約1~2か月。 3~15万円

(目安)

契約の更新について相手の同意が得られれば永続的に可能。※相手の同意:必要

契約後に、自ら、自社技術を公開(販売)してしまうと、保護が終了する(契約上の秘密情報ではなくなるため)。

第三者が、同様の技術を公開(販売)した場合も保護が終了する(契約上の秘密情報ではなくなるため)。

2つの対策をどう使い分けたらいいの?

特許出願のメリットは、「①出願後、自ら自社技術を公開(販売)しても保護が継続される」点、「②出願後、第三者が同一の技術を公開(販売)しても保護が継続される」点にありますが、デメリットとして、開示技術には、進歩性が必要なこと、費用が掛かること等があります。

秘密保持契約のメリットは手続きが簡単なところにありますが、デメリットは、「①契約後、自ら自社技術を公開(販売)してしまうと保護が終わる点」、「②契約後、第三者が同一の技術を公開(販売)した場合に保護が終わる点」にあります。

つまり、特許出願は、保護を受けるための条件が難しいですが、保護の安定性が高いといえますし、秘密保持契約は、保護を受けるための条件が簡単ですが、保護の安定性が低いといえます。

特許出願と秘密保持契約。これら2つの対策をどう使い分けたらよいの?という点は、守りたい技術の内容や技術の使い方によっても変わってくるため、なかなか一言では言えない部分があります。実務上、不特定多数の公開・販売をしない間は秘密保持契約とし、不特定の公開・販売をせざるを得なくなる場合には、前もって特許出願とするケースが多いですし、「商談の序盤はで、秘密保持契約を結んで、特定企業のみに技術開示を行い、収益が見込めるようになった場合には、公開(販売)までに特許出願を行う」というハイブリットケースも多いです。

※特許の新規性と秘密保持契約の関係:「秘密保持契約を結ばない状態での情報開示」は新規性が否定されますが、「秘密保持契約下による情報開示」は新規性が確保されます。

まとめ

  1. 自社の技術を提案する際のリスクは、「自社技術の模倣リスク」である。
  2. 自社技術を一旦開示してしまうと、元に戻すことができない。
  3. 模倣リスクの回避策としては、特許出願、秘密保持契約の2つがある。
  4. 特許出願は「不特定の公開・販売をせいざる得なくなる場合」に行う場合が多い。
  5. 秘密保持契約は「不特定多数の公開・販売をしない場合」に行う場合が多い。

このように、自社技術を一度開示してしまったあとでは取り返しがつきません。自社技術を提案する際には、事前に、お近くの専門家にご相談ください。

折角の商標登録が消滅してしまう場合

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、中小企業の方が忘れがちな「商標登録の消滅」についてお話したいと思います。

商標登録が消滅してしまう理由

商標登録が消滅してしまう理由としては、以下の4つがあります。

  1. 異議申し立て
  2. 無効審判
  3. 取消審判
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)

異議申し立てについて

制度概要

特許庁の審査結果(商標登録のみ)について、第三者チェックの機会を与えるために制定されています。申し立てできる期間は、商標公報(*)の発行後から2か月以内に限られます。(*商標公報:商標権設定登録後に発行されます。)

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 417
  • 請求(一部成立含む)成立 35
  • 請求不成立・却下 236
  • 取下放棄 58

となります。

申立数417件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.34%と結構レアです。また、申立人側の勝率は、8.3%(417件中35件)といったところです。

無効審判について

制度概要

異議申し立てと似ている制度です。こちらも、私益的・公益的の両面からのチェックする制度ですが、設定登録の日から5年を経過すると、無効理由は公益的なものに限定されます。無効審判の請求は、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 98
  • 請求(一部成立含む)成立 26
  • 請求不成立・却下 35
  • 取下放棄 15

となります。

請求数98件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.08%ということで、かなりレアです。また、請求人側の勝率は、26%(98件中26件)といったところです。

取消審判について

取消審判としては、不使用取消審判、不正使用取消審判、国内代理店等による不正な商標登録に対する取消審判がありますが、取消審判のほとんどは不使用取消審判ですので、不使用取消審判について説明します。

制度概要

日本の商標法では、登録主義(使用していなくても、登録されていれば商標法の保護を認める考え方)を採用していますが、登録主義にも次のような問題があります。

  • 問題1:不使用のままの登録商標が増えてしまうと、第三者が使用したいのにも関わらず、先登録の事実のみによって、登録も使用できなくなってしまう(これは不合理だ)。
  • 問題2:使用していない登録商標なんて、そもそも信用が化体しない(≒のりうつらない)ので、商標法で保護する必要もないよね。

このような問題の是正のために、不使用取消審判が設けられています。不使用取消審判の請求は、登録後から3年経過後の商標権であれば、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 1045
  • 請求(一部成立含む)成立 858
  • 請求不成立・却下 80
  • 取下放棄 88

となります。

請求数1045件について、2018年の登録査定件数(119610件)に対する割合は、0.87%ということで、レアです。また、請求人側の勝率は、82%(1045件中858件)といったところです。発生頻度はレアですが、異議申立や無効審判に請求されると負ける確率が高いところが特徴です。なお、弊所の実務レベルでいうと、年に3~4回、このような相談を受けます。

存続期間満了(更新手続き忘れ)について

制度概要

日本の商標法では、10年ごとの更新手続きによって半永久的に商標権を維持することができます。ここは、特許権・実用新案権・意匠権とは異なる部分です。

発生頻度

統計データがないのですが、弊所の問い合わせレベルでいうと、年に1~2回、このような相談を受けます。10年という長期の期限管理が必要になるため、途中で忘れてしまう人が多いようです。

注意すべきこと

異議申し立て・無効審判

権利者側から見れば、これは避けられません。公報発行後、二か月の辛抱です。ただし、逆の見方をすれば、公報の定期的チェックにより、自社ブランドと紛らわしい商標登録をいち早く発見し、異議申し立てによって、紛らわしい商標登録を取り消すことも可能です。費用的には、無効審判よりも異議申し立ての方が安価に済むことが多いので、まずは、異議申し立てを選ぶ方が多いでしょう。

不使用取消審判

特に、商標権者やライセンシーが、継続して3年間、登録商標を使用していないときは、取消の対象になります。このため、登録商標を指定商品について使用してください。特に、設定登録直後は問題ありませんが、3年が経過すると不使用取消審判の対象になるため、注意が必要です。また、「現在の登録商標の使用方法が、商標法上の使用になっているか否か」について自信がない場合には、お近くの特許事務所にご相談ください。

存続期間満了(更新手続き忘れ)

10年ごとの期限管理に自信があれば、ご自身で行っても良いと思います。しかしながら、期限管理に自身のない方は、特許事務所の専門サービスを利用された方が良いと思います。

万が一、消滅してしまった場合にはどうすれば?

残念ですが再出願するか名称変更するかしかありません。どちらが良いかはケースバイケースですのでお近くの専門家にご相談下さい。

まとめ

  1. 商標登録の消滅事由は意外と多い。
  2. 特に気を付けるべきことは、不使用取消審判と存続期間満了(更新手続き忘れ)。
  3. 不使用取消審判対策は、登録商標を指定商品について使用すること。「商標法上の使用」に自信がなければ、特許事務所に相談する。
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)対策は、期限管理を行うこと。期限管理に自信がなければ、特許事務所に依頼する。

プレスリリースを検討する際に気を付けて欲しいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、プレスリリースを行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

あなたのプレスリリースを見る人

プレスリリースを見る人は、どのような人でしょうか?

  • 既存のお客様
  • まだ見ぬ新規のお客様
  • ・・・

これだけでしょうか?これ以外にもあります。

それは、あなたのライバル企業や、ライバル企業の取引先です。

ライバル企業がみていること

プレスリリースされた新しい商品やサービスについて、ライバル企業は何を見ているでしょうか?あなたの商材について、機能や品質の優劣や、価格の競争力も比較しています。さらに、以下のようなものを見ています。

それは、うちの知的財産権を侵害しているか?という点です。

知的財産権の侵害について

さて、知的財産権には、特許権・実用新案権(技術の権利)、意匠権(プロダクトデザインの権利)、著作権(大雑把にいうとアートの権利)や、商標権(商品名やサービス名の権利)等があります。ライバル企業からみれば、「せっかく知的財産権を取得したのだから、模倣犯がいれば取り締まりたい。」と思うでしょう。

このため、ライバル企業は、

  • プレスリリースされた商材の機能は、わが社の特許発明を使っていないかな?
  • プレスリリースされた商材のプロダクトデザイン、わが社の登録意匠を使っていないかな?
  • プレスリリースされた商材の名称は、わが社の登録商標に似ていないかな?
  • プレスリリースに掲載された写真は、自社サイトの写真を流用していないかな?

と、様々な角度から、目を皿のようにしてチェックしています。実際に、そのような侵害発見を依頼されるときもあります。そして、何かしらの権利を侵害している可能性が高い場合には、特許権侵害等を根拠とする警告書が、内容証明郵便にてあなたの会社へ郵送されてくることになります。

法的手段を取られたときのインパクト

警告書で要求される主なものは、差止請求と損害賠償請求の2つがあります。今回は、プレスリリースの場合ですので、差止請求についてのみ述べます。

さて、相手が要求が差止請求の内容に正当である場合、あなたの会社はどうなるでしょうか?

特許権侵害や意匠権侵害の場合

特許発明や登録意匠を使わないような設計変更をしなければなりません。すでに仕掛品や在庫を持っている場合には、廃棄せざるを得ない場合も多いでしょう。また、設計変更や仕掛品等の廃棄を受け入れられない場合には、相当のライセンス料を支払う必要が出てきます。

そして、これらを受け入れられなければ、新しい商材のリリースを中止せざるを得ません。

商標権侵害の場合

プレスリリースされた商材の名称は、継続して使用できません。特許権等のようなライセンスも可能ですが、商標権の場合には、権利者側のブランドイメージの棄損につながるため、ライセンスを許可する場合は少ないです。したがって、名称変更をせざるを得ない場合がほとんどです。結果としては、チラシ制作やパッケージ制作は0からやりなおしになります。また、プレスリリースや宣伝広告も0からやり直しになります。

このように、ライバル企業の知的財産権の侵害行為によって、新しい商材によるビジネスが困難になるばかりか、これまでに投じた時間やコストの回収ができなくなってしまいます。すなわち、他社の知的財産権の侵害行為は、あなたの会社の存続に直結します。

警告書を無視したらどうなる?

相手方の主張が正しいにも関わらず、警告書を無視して侵害行為を継続した場合には、刑事罰の対象となります。特許権、意匠権や商標権侵害の場合における刑事罰は、以下の通りです。

  • 個人の場合:10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(両方が科される場合もあります。)
  • 法人の場合:法人に対して3億円の罰金。代表者等には、個人と同じペナルティが課されます。

よって、専門家に相談せずに、警告書の無視することは、とてもお勧めできません。

ライバル企業の権利を侵害しないためにはどうすれば?

前項では、ライバル企業の知的財産権を侵害してしまうと、あなたの会社の存続が危うくなることについて述べました。それでは、ライバル企業の知的財産権を侵害しないためには、何をすればよいのでしょうか?

そのためには、ライバル企業の権利を調べる必要があります。この調査は、プレスリリースよりも前に行う必要があります。より詳しく言えば、他社の特許権や意匠権の調査の場合には、万が一の設計変更やデザイン変更を考慮して、試作のテストに目途がついた段階に行うことが望ましいでしょう。他社の商標権の調査の場合には、万が一の名称変更を考慮して、名称の案がある程度絞り込まれた段階で行うことが望ましいです。

このような特許権、意匠権、商標権の権利の調査(クリアランス調査といいます)は、専門的知識が必要です。調査の際には、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. わが社のプレスリリースは、お客様だけでなく、ライバル企業も見ている。
  2. ライバル企業は「プレスリリースの商材が、自社の知的財産権を侵害しているか?」を見ている。
  3. ライバル企業が知的財産権の侵害を発見した場合には、差止請求により、プレスリリースの商材の販売は停止し、在庫処分となるため、経済的損失は大きい。
  4. このような経済的損失を回避するためには、「プレスリリースの商材が他社の知的財産権を侵害していないか」のチェックが必要。
  5. チェックのタイミングは、プレスリリースの前に行うこと。

建築・内装・WEBデザイン業界も無視できない!?「意匠法改正」をざっくりと説明

中小企業専門の弁理士の亀山です。今回は、令和2年4月1日より施行される令和元年改正意匠法について、意匠法に不慣れな方のために、改正内容をざっくりとご紹介します。

令和元年意匠法改正の概要

久しぶりの大改正(平成18年の関連意匠導入以来?)ということで、知財業界では意匠法が盛り上がっていました。中小企業の方々の中には、「今まで、わが社は、意匠法と関係がなかった。だから、今回の改正も、わが社とは関係ないのでは?」こう思われる方も多いと思います。しかし、いままで意匠法と縁が薄かった業界も、今回の改正意匠法によって、意匠法を無視することができなくなってしまうケースがあります。今回は、その辺について、ザックリと説明したいと思います。

まずは、改正されるテーマは以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

これだけでは、何のことかサッパリなので、もう少しかみ砕いて説明します。

各テーマについてザックリと説明

1、関連意匠

  • 従来:本意匠に類似する関連意匠までが保護範囲だった(保護範囲は親子関係まで)
  • 改正後:関連意匠に類似する意匠まで保護範囲だった(保護範囲は親子のみならず孫以降にも及ぶ

2、建築物の意匠

  • 従来:建築物は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:建築物も、意匠法の保護対象となった

3、内装の意匠

  • 従来:内装は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:内装も、意匠法の保護対象となった

4、画像の意匠

  • 従来:意匠法で保護される画像は、物品に表示される操作用画像または表示画像に限られていた。
  • 改正後:意匠法で保護される画像として、物品を含まない画像のみ意匠も保護対象となった

組物の意匠

上記の2~4による保護範囲の拡充に伴って保護範囲が拡充された。つまり、細かいことはひとまず置いておいて、意匠法改正のキーワードは、「意匠権として保護される範囲が広がった」ということです。

これまで意匠法に馴染みのない方が気を付けたいところ

さて、「意匠権として保護される範囲が広がった」これをどうとらえてばよいのでしょうか?デザインを創作する側からみると、自分が創作したデザインに関し、いままでは著作物に限り著作権で保護されていた。(裏を返せば、著作物でないデザインは保護されなかった)これからは、著作物であるか否かにかかわらず、意匠権でも保護が可能となる。つまり、「デザインをたくさん制作して、意匠権を利用してたくさん保護を受けるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

一方、デザインを利用する側から見ると、自分が利用したいデザインに関し、いままでは著作物に限り、著作権の処理(契約)をすればよかったものの、これからは、著作権で保護されないものも、意匠権で保護されてしまう。つまり、「著作物でないデザインも簡単には利用できなくなるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

このように、デザインを創作する側と、デザインを利用する側とでは、法改正の捉え方が異なりますが、その原因は、「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」にあります。例えば、お仕事を今まで通り行っていると、改正によって自分(自社)のデザインが保護されたはずなのに、保護の機会を失ってしまう場合もあるでしょう。また、今までは自由に使えた他人(他社)のデザインが、今回の改正によって意匠権で保護される結果、今までのように他人のデザインを自由に使えなくなってしまう場合もあるでしょうし、無断で使用した結果、「意匠権侵害だ!」と相手方から文句をいわれる場合もあるでしょう。

つまり、今回の改正によって、意匠権の効力が及ぶようになった業界において、令和2年4月1日以降、今まで通りお仕事を行っていると、大怪我をしてしまうこともあるわけです。これは、デザインを創作する側も利用する側にも当てはまることです。

大怪我をしたくない人が最低限知っておきたい部分

仕事で大怪我をしたい人なんていませんよね。今回は、そういう人のために、冒頭で掲げた改正テーマのうち、大怪我につながりやすい部分、すなわち「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」部分について説明したいと思います。

さて、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになったデザインは、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」になります。「画像の意匠」は改正前から一部の画像について保護対象になっていましたが、今回の改正で大幅に広がったため、説明に加えました。関連意匠と組物の意匠に関する説明は、長くなるので割愛しました。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

1、建築物の意匠

保護される建築物の例として、以下のようなものがあります。

住宅、寮、校舎、体育館、オフィス、研究所、工場、倉庫、ホテル、保養所、百貨店、量販店、飲食店、病院、保健所、公衆浴場、公衆便所、博物館、美術館、図書館、劇場、映画館、競技場、駅舎、車庫、神社、橋梁、トンネル、鉄塔、ガスタンク など・・・たくさんあります。

個人的には、倉庫のデザインやトンネルのデザインも保護されるのだなぁと思いました(もちろん、これまでに知られていたデザインは、新規性がないため、保護を受けません)。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

2、内装の意匠

保護される内装としては、「複数の物品からなり内装全体として統一的な美観(※)をおこさせるもの」になります。内装を構成する物品の例としては、以下のようなものがあります。

  • 机、椅子、ベッド、衝立などの家具類
  • 陳列棚などの什器類(販売商品等が含まれていても可)
  • 照明器具など

(※)「統一的な美観」の説明は、長くなるので割愛します。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

3、画像の意匠

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

意匠法により保護される画像として、従来の「物品等の部分に画像を含む意匠」(上図の(2))に加え、「画像意匠」(上図の(1)」が加わりました。意匠法で保護される画像のカテゴリーは2つあります。1つめは、操作用画像(機器の操作の用に供される画像)であり、2つめは、表示用画像(機能を発揮した結果として表示される画像)です。

操作用画像の例として、具体的には、オンラインショップにおける商品購入用の画像デザインや、スマホのアイコン用画像、コピーの操作パネルの画像等があります(上図(1)(2)における左側)。表示用画像の例として、具体的には、(測定装置)における測定結果表示画像、壁に投影された時計画像や、針が電子表示で動く電子メトロノーム画像等があります(上図(1)(2)における右側)。

このように、今回の改正によって、すべての画像が意匠法で保護されるわけではありません。意匠法保護される画像として、前述の操作用画像・表示用画像になります。こちらが覚えにくければ、「もともとはハードウェアだった部品(操作ボタンや時計の針)が、デジタル表示として置き換わった画像」として理解してもらってもよいです。

※なお、コンテンツ画像は、改正にかかわらず、意匠法の保護対象とはなっておりませんが、こちらは著作物なので、著作権で保護されます。

今回の改正に影響が大きな業界

今回の意匠法改正によって、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」が、保護対象として追加されました。このため、当該分野においてデザインを創作する方と、そのデザインを利用する方は、お仕事をする中で、それぞれ留意する必要があるでしょう。「建築物の意匠」であれば、建築デザイン業界が関わりが深いでしょうし、「内装の意匠」であれば、内装デザイン業界が関わりが深いでしょう。

また、「画像の意匠」にかかわりが深いところは、ユーザインタフェース(UI)をデザインする業界やウェブデザイン業界になるでしょう。デザイン制作を外部に発注する場合、それを受注して制作する場合には、その制作物の意匠権(正確には、意匠登録を受ける権利)が、発注者側に帰属するのか、受注者側に帰属するか等を、あらかじめ契約書などで定めておくとよいでしょう。

もっと詳しく知りたい方へ

知的財産権制度説明会 -知的財産権について学べます(参加費・テキスト無料)-(特許庁)のページにある「知的財産権制度説明会テキスト」をご参照ください。

まとめ

令和元年意匠法改正の概要は以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

ですが、意匠法に馴染みのない方は、こちらで理解してください。

  1. 意匠権の保護範囲として、建築物・内装が、新たに加わり、画像が結構広がった。
  2. 意匠権を気を付けなければならない業界としては、建築デザイン業界、内装デザイン業界、UIデザイン・WEBデザイン業界がある。
  3. デザイン制作する側は、デザインが権利で保護できることを理解しておく。
  4. デザインを利用する側は、デザインに権利があることに気をつける。
  5. 制作する側と利用する側との間の権利の調整は、発注時に契約書にて定めておくことがベター。

何かの参考になれば幸いです。

建築・内装・WEBデザイン業界も無視できない!?「意匠法改正」をざっくりと説明

中小企業専門の弁理士の亀山です。今回は、令和2年4月1日より施行される令和元年改正意匠法について、意匠法に不慣れな方のために、改正内容をざっくりとご紹介します。

令和元年意匠法改正の概要

久しぶりの大改正(平成18年の関連意匠導入以来?)ということで、知財業界では意匠法が盛り上がっていました。中小企業の方々の中には、「今まで、わが社は、意匠法と関係がなかった。だから、今回の改正も、わが社とは関係ないのでは?」こう思われる方も多いと思います。しかし、いままで意匠法と縁が薄かった業界も、今回の改正意匠法によって、意匠法を無視することができなくなってしまうケースがあります。今回は、その辺について、ザックリと説明したいと思います。

まずは、改正されるテーマは以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

これだけでは、何のことかサッパリなので、もう少しかみ砕いて説明します。

各テーマについてザックリと説明

1、関連意匠

  • 従来:本意匠に類似する関連意匠までが保護範囲だった(保護範囲は親子関係まで)
  • 改正後:関連意匠に類似する意匠まで保護範囲だった(保護範囲は親子のみならず孫以降にも及ぶ

2、建築物の意匠

  • 従来:建築物は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:建築物も、意匠法の保護対象となった

3、内装の意匠

  • 従来:内装は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:内装も、意匠法の保護対象となった

4、画像の意匠

  • 従来:意匠法で保護される画像は、物品に表示される操作用画像または表示画像に限られていた。
  • 改正後:意匠法で保護される画像として、物品を含まない画像のみ意匠も保護対象となった

組物の意匠

上記の2~4による保護範囲の拡充に伴って保護範囲が拡充された。つまり、細かいことはひとまず置いておいて、意匠法改正のキーワードは、「意匠権として保護される範囲が広がった」ということです。

これまで意匠法に馴染みのない方が気を付けたいところ

さて、「意匠権として保護される範囲が広がった」これをどうとらえてばよいのでしょうか?デザインを創作する側からみると、自分が創作したデザインに関し、いままでは著作物に限り著作権で保護されていた。(裏を返せば、著作物でないデザインは保護されなかった)これからは、著作物であるか否かにかかわらず、意匠権でも保護が可能となる。つまり、「デザインをたくさん制作して、意匠権を利用してたくさん保護を受けるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

一方、デザインを利用する側から見ると、自分が利用したいデザインに関し、いままでは著作物に限り、著作権の処理(契約)をすればよかったものの、これからは、著作権で保護されないものも、意匠権で保護されてしまう。つまり、「著作物でないデザインも簡単には利用できなくなるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

このように、デザインを創作する側と、デザインを利用する側とでは、法改正の捉え方が異なりますが、その原因は、「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」にあります。例えば、お仕事を今まで通り行っていると、改正によって自分(自社)のデザインが保護されたはずなのに、保護の機会を失ってしまう場合もあるでしょう。また、今までは自由に使えた他人(他社)のデザインが、今回の改正によって意匠権で保護される結果、今までのように他人のデザインを自由に使えなくなってしまう場合もあるでしょうし、無断で使用した結果、「意匠権侵害だ!」と相手方から文句をいわれる場合もあるでしょう。

つまり、今回の改正によって、意匠権の効力が及ぶようになった業界において、令和2年4月1日以降、今まで通りお仕事を行っていると、大怪我をしてしまうこともあるわけです。これは、デザインを創作する側も利用する側にも当てはまることです。

大怪我をしたくない人が最低限知っておきたい部分

仕事で大怪我をしたい人なんていませんよね。今回は、そういう人のために、冒頭で掲げた改正テーマのうち、大怪我につながりやすい部分、すなわち「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」部分について説明したいと思います。

さて、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになったデザインは、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」になります。「画像の意匠」は改正前から一部の画像について保護対象になっていましたが、今回の改正で大幅に広がったため、説明に加えました。関連意匠と組物の意匠に関する説明は、長くなるので割愛しました。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

1、建築物の意匠

保護される建築物の例として、以下のようなものがあります。

住宅、寮、校舎、体育館、オフィス、研究所、工場、倉庫、ホテル、保養所、百貨店、量販店、飲食店、病院、保健所、公衆浴場、公衆便所、博物館、美術館、図書館、劇場、映画館、競技場、駅舎、車庫、神社、橋梁、トンネル、鉄塔、ガスタンク など・・・たくさんあります。

個人的には、倉庫のデザインやトンネルのデザインも保護されるのだなぁと思いました(もちろん、これまでに知られていたデザインは、新規性がないため、保護を受けません)。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

2、内装の意匠

保護される内装としては、「複数の物品からなり内装全体として統一的な美観(※)をおこさせるもの」になります。内装を構成する物品の例としては、以下のようなものがあります。

  • 机、椅子、ベッド、衝立などの家具類
  • 陳列棚などの什器類(販売商品等が含まれていても可)
  • 照明器具など

(※)「統一的な美観」の説明は、長くなるので割愛します。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

3、画像の意匠

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

意匠法により保護される画像として、従来の「物品等の部分に画像を含む意匠」(上図の(2))に加え、「画像意匠」(上図の(1)」が加わりました。意匠法で保護される画像のカテゴリーは2つあります。1つめは、操作用画像(機器の操作の用に供される画像)であり、2つめは、表示用画像(機能を発揮した結果として表示される画像)です。

操作用画像の例として、具体的には、オンラインショップにおける商品購入用の画像デザインや、スマホのアイコン用画像、コピーの操作パネルの画像等があります(上図(1)(2)における左側)。表示用画像の例として、具体的には、(測定装置)における測定結果表示画像、壁に投影された時計画像や、針が電子表示で動く電子メトロノーム画像等があります(上図(1)(2)における右側)。

このように、今回の改正によって、すべての画像が意匠法で保護されるわけではありません。意匠法保護される画像として、前述の操作用画像・表示用画像になります。こちらが覚えにくければ、「もともとはハードウェアだった部品(操作ボタンや時計の針)が、デジタル表示として置き換わった画像」として理解してもらってもよいです。

※なお、コンテンツ画像は、改正にかかわらず、意匠法の保護対象とはなっておりませんが、こちらは著作物なので、著作権で保護されます。

今回の改正に影響が大きな業界

今回の意匠法改正によって、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」が、保護対象として追加されました。このため、当該分野においてデザインを創作する方と、そのデザインを利用する方は、お仕事をする中で、それぞれ留意する必要があるでしょう。「建築物の意匠」であれば、建築デザイン業界が関わりが深いでしょうし、「内装の意匠」であれば、内装デザイン業界が関わりが深いでしょう。

また、「画像の意匠」にかかわりが深いところは、ユーザインタフェース(UI)をデザインする業界やウェブデザイン業界になるでしょう。デザイン制作を外部に発注する場合、それを受注して制作する場合には、その制作物の意匠権(正確には、意匠登録を受ける権利)が、発注者側に帰属するのか、受注者側に帰属するか等を、あらかじめ契約書などで定めておくとよいでしょう。

もっと詳しく知りたい方へ

知的財産権制度説明会 -知的財産権について学べます(参加費・テキスト無料)-(特許庁)のページにある「知的財産権制度説明会テキスト」をご参照ください。

まとめ

令和元年意匠法改正の概要は以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

ですが、意匠法に馴染みのない方は、こちらで理解してください。

  1. 意匠権の保護範囲として、建築物・内装が、新たに加わり、画像が結構広がった。
  2. 意匠権を気を付けなければならない業界としては、建築デザイン業界、内装デザイン業界、UIデザイン・WEBデザイン業界がある。
  3. デザイン制作する側は、デザインが権利で保護できることを理解しておく。
  4. デザインを利用する側は、デザインに権利があることに気をつける。
  5. 制作する側と利用する側との間の権利の調整は、発注時に契約書にて定めておくことがベター。

何かの参考になれば幸いです。

盗まれた発明

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、とあるお客様との特許相談についてご紹介いたします。

事件発覚

新規のお客様は、特許出願をしたいという方。そこで、発明の内容を伺うと結構、複雑な発明。なので、「どこかで特許とれそうですね~」と思いながら、先行技術調査を行いました。

後日、先行技術調査の結果を報告したところ、お客様が驚かれる。

お客様:あれ?この特許文献にある技術。これウチが、昔、企業Xに納めたやつじゃない?

かめやま:え?こちらの出願人は・・・本当だ、企業Xです。発明者はご存知ですか?

お客様:そこまでは覚えていないです。

かめやま:納品したのはいつですか?

お客様:〇年〇月〇日。

かめやま:出願日は・・・、その3か月後か。

お客様:うちの発明をそのまま出願したということですか??こんなこと、法律上アリなんですか?

かめやま:アリかナシかといえば、ナシですが・・・ときどき起こります。

お客様:本当にそっくりですよ。この図面も、うちのものをそのまま描いたんじゃないのかな?

かめやま:仮に、当時の商品そのままの内容だとしたら、新規性もないので、特許は取れません。今回の場合、審査請求をしないまま請求期限を過ぎていますので、心配はいらないと思います。

お客様:油断も隙もないですね~。

かめやま:まぁ、今回の発明のポイントとは違うので・・・気を取り直して、今回の発明について作戦を立てましょう!ちなみに、今回の商品は、まだ納品前ですよね?

お客様:もちろんです。

情報開示の悩ましさ

提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品。これらの行為は、取引上、避けて通ることができません。しかし、提案書、図面、試作品、商品には技術情報がたくさん詰まっています。そして、これらを相手方に開示し、その技術情報を相手方に理解されてしまうと、その情報は相手の頭の中に入ってしまいます。相手の頭の中の情報に対しては、「無断で使わないで!」といった制御は不可能です。

したがって、提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品といった行為を、無策のまま行ってしまうと、その技術情報は相手に盗まれる一方・・・ともいえます。とはいえ、技術情報を非開示しようとすると、商売に発展しません。「商売のために開示するか」それとも「保護のために非開示するか」。ここは、悩ましいポイントです。

もちろん、相手を信用するというケースもあるでしょう。しかしながら、上述のケースのように、勝手に特許出願を出す企業(技術者)もいます。少し古い記事になりますが、昔からよくある事例なのでご紹介します。

記事「名ばかり共同研究」で知財搾取726件、公取委 オープンイノベのわな」 (日経XTECH 2019/06/19)

公正取引委員会は、共同研究先や取引先の知的財産権などを搾取する事例を調査し、結果を明らかにした。多くのメーカーが「オープンイノベーション」を掲げる中、かけ声とは裏腹な「名ばかり共同研究」のあくどい事例が多く見つかった。知財の獲得は技術開発の根幹で、搾取を放置すればその進展を妨げる。1万6000社弱が公取委に書面で回答し、知財やノウハウの開示を強要される事例などが726件あった。公取委にはかねて、「優越的地位にある事業者が取引先の製造業者からノウハウや知財を不当に吸い上げている」といった複数の指摘があった。その指摘を裏付けた形である。

記事より抜粋

もちろん、「盗まれた!」と証明できれば良いですが、相手は相手で、「自分で作りました」と言い張るでしょうし、こちらの主張を証明する作業も結構メンドクサイです。そして、こちらの主張が認められるか否かわからないようなメンドクサイことに手間をかけるほど、中小企業も暇ではありません。

技術情報の開示の防衛策

「商売のために情報を開示するか」それとも「保護のために情報を非開示にするか」。この悩ましさを解決する方法としては、次のようなものが良く利用されます。

  1.  納品前・開示前のNDA(秘密保持契約)  
  2.  納品前・開示前の特許出願

それぞれのメリットデメリットは以下の通りです。

  1. 納品前・開示前のNDA(秘密保持契約)
    保護される情報:秘密情報
    効力の発生:相手の合意が必要
    効力の範囲:合意した相手のみ
  2. 納品前・開示前の特許出願 ※1
    保護される情報:進歩性のあるもののみ(秘密情報より狭い)※2
    効力の発生:特許出願が必要。相手の合意は不要
    効力の範囲:日本における行為であれば誰でも。

※1、開示後の場合には、最初の開示から1年以内であれば、「新規性喪失の例外」を利用した特許出願も可能です。
※2、どの辺まで保護されるかは、個別の技術及びその技術分野ごとに変ります。

まとめ

提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品の際に気を付けたいポイント。

  • 開示前のNDA(秘密保持契約)
  • 開示前の特許出願
  • 開示後の特許出願(新規性喪失の例外あり)

お金がかかると、人の態度は変わります。企業の態度は変わります。明日の飯を食べていくために、そのビジネスチャンスを狙っています。ビジネスにおいて、油断はできないのです。

何かの参考になれば幸いです。

お金がかかる商品名

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、とあるお客様から受けた質問についてご紹介いたします。

最初の特許相談

とある中小企業が研磨技術を確立しました。この技術を用いた研磨装置によれば、今まで、手作業だった研磨の自動化が実現できます。結果、大量の研磨も夜中に行うことができます。これにより、研磨のコストダウンも可能となります。

このような研磨装置はきっと売れるだろう!

ということで、特許の相談にきました。特許については、調査をした結果、特許の可能性もあったので、特許を出願し、ひと段落となりました。

研磨装置の販促物制作

お客様:HP掲載用の研磨装置のデザインができたのですが、ここに特許出願中と表示してもいいですか?

かめやま:まだ特許取得していないので、特許を取得したような表現はだめですが、特許出願中のような書き方であれば大丈夫ですよ。

お客様:わっかりました!

その後、どうも嫌な予感がしたので、特許出願中の表示を確認したいので、修正カタログをみせてもらえませんか?とお願いしておきました。

修正デザインを見て驚く

修正デザインを見て驚いたのは、「特許出願中」のほうではなく、商品名。商品名は、てっきり「研磨装置」と思っていたのですが、今回の商品名は、「晴れ晴れ研磨君」。この名前は、商標登録が可能な名前。そうだとすると、先に誰かが商標権を持っている可能性もある。ということで、「晴れ晴れ研磨君」についての商標調査と商標登録について検討するようお願いをしました。

商標登録?お金がかかる

お客様:商標登録?新しい加工装置のたびに商標登録をしていたら、おカネばっかりかかってしまいますよ。

かめやま:そうであれば、商標登録できない名前にしてはどうですか?

お客様:どういうことですか?

かめやま:誰もが商標登録できい名前、つまり、普通名称や記述的商標のような名前にしてみてはどうですか?

お客様:普通名称って何です?

かめやま:例えば、商品「りんご」であれば、商品名「りんご」です。

お客様:あ、なるほど。商品そのままの名前ですね。

かめやま:そうです。

お客様:では、記述的商標は何です?

かめやま:例えば、商品「りんご」であれば、商品名「赤いりんご」や「おいしいリンゴ」です。

お客様:あ~なるほど。あまり特徴がなさそうな名前ですね。雰囲気はわかりました。

かめやま:そうなんです。ありふれているような特徴がない名前は、商標としての機能が発揮されないので、商標登録出願しても、審査で撥ねられます。

お客様:今回の加工装置は、「晴れ晴れ研磨君」。あちゃー、特徴がありすぎますね。

かめやま:お金をケチるなら、「研磨装置」でよいと思いますよ。

お客様:今回の商品については、名前で惹かせる作戦を考えていないので、「研磨装置」にしたいと思います。

商標登録を考慮した商品名の決め方

普通の名前にするか?変わった名前にするか?今回のお客様の例で言えば、「研磨装置」にするか?「晴れ晴れ研磨君」にするか?です。

前者であれば、誰もが商標登録ができないので、自社で商標登録をしなくても、そのまま販売できます。後者であれば、商標登録ができる名前なので、早く出願したもの勝ち。自社が出さなかった場合、研磨装置「晴れ晴れ研磨君」がリリース後、別の誰かが「晴れ晴れ研磨君」という商標登録を受け、研磨装置を販売してしまう恐れもあります。「晴れ晴れ研磨君」の商標登録を他人に先を越されてしまうと、こちら側が商標権侵害者となってしまいます。
※先使用権という救済策もありますが周知性の要件が厳しいため、中小企業では、なかなか認められません。

商標権侵害者となってしまうと、権利者側へのお金の支払いの他、在庫の対応(商標が付されたパッケージの廃棄など)、カタログの再制作等、後々、お金が発生してしまいます。したがって、後発的に、商標権侵害者とならないよう、こちら側が、商標登録を先に済ませておく必要があります。

まとめ

  1. 普通名称や記述的商標のような特徴の名前は、誰もが商標登録できない
  2. 目立つ名前で売り出したいのであれば、誰もが商標登録ができてしまう。このため、商標登録を先に越されない様にすべく、こちら側が先に済ませる。
  3. 目立つ名前で売り出す必要性がないのであれば、誰もが商標登録ができない普通の名前にする。

何かの参考になれば幸いです。

技術開発時に検討していただきたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、顧問企業における技術開発を通した特許支援の概要についてご紹介いたします。

最初の特許相談

とある中小企業は、本業の売り上げがしぼむ中、これを補えるような新規事業を模索していました。地道なマーケティングの結果、既存顧客の困りごとに対する新しい「加工装置」の開発に成功しました。

そこで、既存のお客様から頂いたサンプルに対し、「加工装置」を用いた新しい加工を施し、お客様の指定する検査を社内で行いました。その後、そのサンプルの試験結果及びサンプルの写真を送ったところ、「合格!」。お客様は、すぐにでも、その「加工装置」を購入したい!のことでした。

そのような中、私が呼ばれました。

どうやら、新しい「加工装置」について特許を取得したいようです。ヒアリングの結果、特許を取りたいところは、「加工装置」の肝となる機能であり、具体的には、ワークのチャック構造であることがわかりました。

新技術の市場価値は?

すぐに、「ワークのチャック構造」について特許を取る準備をしてもよいのですが、気になることがありました。それは、

  1. 加工装置の売値
  2. 加工装置の原価
  3. 加工装置の販売数はどれくらい見込めるか

です。

つまり、この加工装置のビジネスによって、トータルでどれくらいの利益を獲得できるか?ということが気になりました。

※加工装置ビジネスによって得られる利益(粗利)は、(1-2)×(3)で表されます。

上記についてヒアリングしたところ、加工装置の売値と原価を聞いて驚きました。原価率が悪すぎます。これだと、加工装置が売れてもビジネスとして成り立ちにくいです。

新商品の利益構造を見直してみる

新商品の利益構造をよいものとするために、「原価が高額となっている部品はどこですか?」ときいたところ、「チャック機構」であることがわかりました。そこで、「チャック機構」のコストダウンとして以下を提案しました。

  • Xプラン 「チャック機構」の機能を維持して、コストダウンが可能か?
  • Yプラン 「チャック機構」の機能を少し落としてのコストダウンが可能か?

また、チャック機構に関し、α部品と、β部品のコストが高いので、この2点のコストダウンとなる改良の方向性を伝え、その検討をお願いしました。

2週間後、お客様より連絡が入ります。前回のチャック機構から、改良したチャック機構が完成しました。この改良により、チャック機能は維持しつつ、原価率が15%改善される!とのことです。どうやら、Xプランが成功したようです。

チャック機構の改良が成功したことにより、まとまった利益が獲得できる目途が立ちました。結果、「まとまった利益」を得る機会を守るべく、その利益の源泉となる「改良版のチャック機構」について特許を取りましょう!となりました。

最初のチャック機能で特許を取った場合

もし、チャック機構で特許を取ってしまった場合、どうなったでしょうか?次の問題点があります。

  1. 自社で特許は取れますが、肝心のビジネスがうまくいかない可能性が高いです。
  2. ライバル会社が、チャック機能の改良版を発明し、特許を取ってしまう場合があります。

1の場合は仕方がないですが、2の場合には、折角の発明の種がしっかりと保護できないだけでなく、競合により良い製品の独占の機会を与えてしまうこととなります。

技術開発時に検討していただきたいこと

市場のニーズにこたえられる新商品であっても、採算が合わなければ、収益が期待できません。したがって、その新商品の事業を保護する価値も下がってしまいます。言い換えれば、市場のニーズにこたえられる新商品であって、採算が合うような事業であれば、収益が期待できます。したがって、その新商品を保護する価値が高まってきます。

このように特許を取る場合には、模倣防止対策はもちろんですが、その前に、ビジネスとしての採算が合うか、そして、収益が得られるかといった商品の企画を検討した方が良いと思います。

このため、技術開発時に検討していただきたいことは、以下の3つになります。

  1. 市場のニーズにこたえられる新商品であるか否か
  2. まとまった利益が取れるか否か
  3. 利益の源泉を特許権や意匠権等で守ることができそうか

何かの参考になれば幸いです。

特許相談のときに、思わず心配になってしまうこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、特許相談のときに、思わず心配になってしまうことについてご紹介します。

特許相談において心配になること

特許取得を希望されるお客様と話していて、ときどき気になることがあります。確かに、お客様が新商品やそこに採用する新技術に頭が行きがちなことはわかります。しかしながら、

  • 肝心の新商品を、どこに、どうやって提供するか?
  • その新商品を使って、どのようなビジネスを行うのか?

の検討が足りていないのでは?というケースです。

特許取得!の前に検討してほしいこと

そのようなお客様には、特許の説明をする前に、

  • お客様のビジネスモデルはどうなっていますか?
  • そして、今回の特許は、ビジネスモデルのどこに貢献するものですか?

と聞きます。ここでいうビジネスモデルについて、簡単に言うと以下のようになります。

利益 =( 売値 - 原価 ) × 販売数

例1:ある新製品を考えているお客様

  • 新技術を採用することで、売値をどれくらい高くできますか?
  • 言い換えると、付加価値が提供できますか?
  • そのような付加価値を理解する人たちはどのような人たちですか?
  • そして、どのようにして、彼らに販売をしようとしてますか?
  • そのためにどのようなPRを行いますか?

例2 生産技術を確立したお客様の場合

  • 新技術を採用することで、原価をどれくらい安くできますか?
  • 結果、売上の何%増がみこめますか?

等です。

特許取得を希望されるお客様の本心

特許取得を希望されるお客様の本心は、特許取得ではなく、「特許の活用により自社ビジネスをより強固にする」ということのはずです。しかし、こちらがお客様のビジネスモデルを理解していなければ、お客様のビジネスに活用できる特許はつくれませんし、お客様もご自身のビジネスモデルを理解していなければ、やはり難しいと思います。

※このような傾向は、下請けから脱却のような、請負から企画へ移行しようとする企業に多いように思えます。

折角、弊所へ特許相談していただくお客様に対しては、特許の前に新商品や新技術に関して、自社のビジネスモデルをデザインしていくか?という検討をお願いすることもありますし、その検討を一緒に行うこともあります。

このような検討は、1回や2回行ってすぐに身につくものではありません。しかしながら、検討の繰り返した経験がモノを言います。

新商品や新技術に関して、特許取得も大切ですが、新商品や新技術に関して、自社のビジネスモデルってどういうものか?という観点も併せて検討していかれるとよいと思います。

お知らせ

12/4に日本弁理士会において、知的財産セミナーを行います。

タイトル:中小企業の経営者必見!!60分でまるわかり「売れる商品の仕組み」

内容は、ビジネスモデルと、特許や登録商標の関係を整理するインプットの時間と、参加者がグループになって実際に商品企画をしてもらうというものです。もちろん、単なる商品企画でなく、販売の仕組みまで検討してもらいます。

ビジネスモデルの検討が苦手だなぁというかたは、この機会に参加してみてはいかがでしょうか?

ご興味のある方はこちらまでよろしくお願いします。

特許相談でよくある「取り返しのつかないこと」

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許相談でよくある「取り返しのつかないこと」

お客様:スミマセン、この新商品で特許を取りたいのですが…取れるでしょうか?

かめやま:ハサミの発明ですね。

お客様:そうです。こちらで特許が取れるでしょうか?

かめやま:なるほど。特許取得のためには、3つのハードルを越える必要があります。

  • 条件1、法上の”発明”であること
  • 条件2、新規性があること(新規性)
  • 条件3、進歩性があること(進歩性)

まず、「法上の”発明”であること」についてですが、今回の発明品が、ハサミなので、ここはクリアできます。あとは、「新規性」及び「 進歩性」を超えることができか否かポイントになりますね。

お客様:なるほど。

かめやま:ところで、この新商品のウリはどこですか?

お客様:柄の形状になります。

かめやま:ここの形状ですね?どのようなメリットがありますか?

お客様:操作性が良くて、長時間握っていても疲れない!と、多くのお客様から評判を頂いております。

かめやま:えぇ!!もう、販売済みですか?

お客様:はい。結構、好評なんです!!

かめやま:最初の販売はいつになりますか?

お客様:えーと…半年前?いや3ヶ月前です。

かめやま:あらら、ちょっと危ないですね~。

お客様:危ないですか?

かめやま:えぇ。ハサミの出願前に、ハサミを公開してしまったわけですよね?

お客様:ええ。

かめやま:「新規性」や「進歩性」の基準は、出願時に、その発明の内容と同一の物が公開されていないか否かとなります。仮に、ハサミの発明を今日出願したとした場合、今日までに公開された全てのハサミが、審査の対象となります。しかし、今回の場合、出願しようとするハサミと同じものが、3か月前に販売(公開)されていますよね?

お客様:でも。私が販売したハサミですが。

かめやま:お客様が販売したハサミであったとしても、特許の世界では、出願の前に、同じものが販売(公開)されているので、新しくない(新規性なし)と判断されてしまいます。

お客様:私が販売したハサミなのに?

かめやま:そうです。結果、「新規性をクリアーできず、特許を取得できない」となってしまいます。

お客様:ちょっと、解せないです。非現実的じゃないですか?売れるかどうかわからないのに、その都度、特許を出願しなければならないのですか?

かめやま:そうなんですが・・・特許法の基本スタンスは、こういう立場です。ところが、特許法では、こういうお客様の事情を考慮して、新規性喪失の例外という救済規定が用意されています。その条件は、以下の2つです。

  • 条件1、最初の公開から1年以内に出願すること
  • 条件2、出願時に、自分の公開事実を特許庁に申し出すること

お客様:今回は、公開から3か月しか経っていないので・・・?

かめやま:そうです。新規性喪失の例外を利用すれば、自分の販売行為で「新規性」がNGになることはありません。あとは、他社の類似商品との戦いになります。

お客様:よかった!でも、条件1についてですが、あと8か月ありますね。もう半年、出願を先送りできますか?

かめやま:可能です。しかし、デメリットもあります。半年間販売をし続ける間に、同業者から類似品を販売する場合がありますよね?

お客様:確かに・・・それはあり得ます。

かめやま:同業者から類似品の販売事実が、お客様の特許出願よりも前に行われてしまうと、その販売事実によって新規性がなしとなってしまいます。また、新規性喪失の例外の適用もまず難しいです。

お客様:そうすると、模倣行為が取り締まれない・・・

かめやま:そうなってしまします。

お客様:うーん・・・結局、可能な限り早めに出さなければならないということですね。

かめやま:そうです。A.S.A.P(As soon as possible)という心構えが基本になります。今回は、新規性喪失の例外を受けられそうですので、まずは先行技術調査を進めていかがでしょうか?調査の中で、他社の類似技術と比較し、特許性がありそうであれば、出願すればよいですし、厳しければ別の方法を考える・・・という流れでどうでしょうか?

お客様:わかりました。お願いします。

2、「特許取得」に立ちはだかる3つのハードル

1、法上の”発明”であること 大雑把にいえば、物(ハードウェア)であるか否かです。その後の法改正により、物にプログラムが追加されました。よって、有体物(ハードウェア)であれば、発明となります。

2、新規性があること 出願時点において、特許を取得しようとしている発明の内容が公開されていないこと。公開行為としては、販売行為、展示会での出展や、インターネット上の販売や宣伝等があります。

3、進歩性 詳しい説明は、次回以降にしたいと思いますが、大雑把にいえば、組み合わせの妙(1+1=3になるようなもの)であるか否かです。

4、「販売が先か?それとも、特許出願が先か?」というジレンマ

新製品が完成すれば、市場の反応は早くつかみたいし、反応がよければ早く販売したいと思います。また、大きな利益が出そうであればこの利益を守るために特許を出しておきたい!と考えるのが企業側の本音です。ところが、特許法における「新規性」は、「販売前に出願してくださいね!」のように、企業側の想いとは真逆の立場を取ります。

特許出願の意思決定には、「販売が先か?出願が先か?」といったジレンマが起こります。

5、新規性喪失の例外

こうしたジレンマを解消すべく、新規性喪失の例外が用意されています。新規性喪失の例外の適用を受けるためには、以下の条件1~2をクリアーする必要があります。

  • 条件1、最初の公開から1年以内に出願すること
  • 条件2、出願時に、自分の公開事実を特許庁に申し出すること

中でも、条件1を満たすか否かが大きな問題となります。「時計の針は戻せない」ですから。

6、新規性喪失の例外の限界

便利な「新規性喪失の例外」にも限界があります。1つ目は時期の問題です。最初の公開から時間が経ってから出願をすると、他社の類似品が市場に出てしまいます。他社の類似品の販売行為は、「新規性喪失の例外」の適用を受けることができません。

2つ目は、国の問題です。「新規性喪失の例外」のような制度は国ごとによって異なります。アメリカは、日本と同じような制度を持っていますが、中国やヨーロッパは、厳格な制度を持っており、「新規性喪失の例外」をほとんどで起用することができません。このため、海外(特に、中国やヨーロッパ等)で特許を取得したい場合には、「公開前に出願する」という形をとらざるを得ません。「すでに販売していしまったよ~」という場合には、「新規性喪失の例外」の制度を持つ国でしか特許を取得することができません。

7、まとめ

  1. 特許取得には、「発明であること」「新規性があること」「進歩性があること」の3つのハードルがある。
  2. 「市場の反応」に基づき出願の意思決定したい場合、「新規性」が厄介になる
  3. 強い味方の「新規性喪失の例外」
  4. 便利な新規性喪失の例外にも限界がある。
  5. 特許出願は、可及的速やかに。外国出願を検討している場合には尚更。

限界その1:出願を遅らせることは、自社の出願前に「第三者からの類似品販売」のリスクが高まる。結果、救済規定「新規性喪失の例外」を受けられないリスクが高まる。

限界その2:海外には、「新規性喪失の例外」がそもそも厳しい国もある。

この特許出願や特許権。まだ活きているの?それとも、死んでいるの?

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、前回に引き続き、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は過去の記事を参照ください。

2、特許出願や特許権が死んでしまうケース

特許出願が死んでしまうケースとして主なケースは、以下の3つです。

  • ケース1:出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。
  • ケース2:審査において拒絶査定が確定した。
  • ケース3:特許料の不納により消滅した。

※レアケースを含めると、ケース1~3以外のケースもありますが、説明が複雑になるため割愛します。

前述の6つのイベントとケース1~3の関係は、次のようになります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求 ⇒ ケース1(出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過)に該当すると死んでしまう。
  4. 審査対応   ⇒ ケース2(審査において拒絶査定が確定)に該当すると死んでしまう。
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持 ⇒ ケース3(特許料の不納)に該当すると死んでしまう。

3、ケース1の判別方法

(1)ケース1(出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。)の判別方法は次のように行います。

(2)まず、J-Platpatにおいて、出願番号や、公開番号などから、知りたい特許公開公報を検索します。

※検索方法は、過去の記事をご参照ください。

(3)特許公開公報を選ぶと、下のような画面が表示されます。ここで、「経過情報」を見るためには、赤枠で囲まれた「経過情報」のボタンを押します。

(4)「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース1の場合、「未審査請求によるみなし取下」と表示されます(赤枠部分)。

4、ケース2、3の判別方法

(1)ケース2(審査において拒絶査定が確定した)の判別方法も同様です。「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース2の場合には、「拒絶査定」と表示されます(赤枠部分)。

(1)ケース3(特許料の不納により消滅した。)の判別方法も同様です。「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース3の場合には、「年金不納による抹消」と表示されます(赤枠部分)。

(2)ちなみに、特許権が継続している場合には、「本権利は抹消されていない」と表示されます(赤枠部分)

5、まとめ

  1. 特許出願が死んでしまうケースは、3つある。
    ケース1:出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。ケース2:審査において拒絶査定が確定した。
    ケース3:特許料の未納により消滅した。
  2. どのケースに該当するかは、「経過情報」を見ればわかる。
  3. 「経過情報」は、J-Platpatを見ればわかる。

何かの参考になれば幸いです。

よくあるお客様の勘違い【特許公報と特許公開公報】

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、前回に引き続き、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許発明の公開

特許権が成立すると、その特許発明の製造販売は、特許権者だけが独占的に可能となります。言い換えれば、他人がその特許発明の製造販売を無断で行うと、特許権侵害となるため、他人は、その特許発明の製造販売を自由に行うことができません。しかしながら、特許権が発生した場合、その権利の内容が非公開のままでは、どうなるでしょうか?自社の商品は、誰かの特許権を侵害しているかもしれない?突然、誰かから特許権侵害だ!と訴えられるのかもしれない?

といったような不安がよぎるため、他の人は安心して事業活動ができません。そこで、特許権が成立した場合には、特許公報を発行して、他人に権利の内容をお知らせしているのです。

3、特許公報だけが公報ではない

これが、お客様が良く勘違いする点です。実は、特許に関する公報として、主なものは2種類あります。1つは、特許公報。

もう1つは、特許公開公報。特許公報との見分け方は、「公開」の文字が入っているか否かになります。

(1)特許公報について

こちらは、特許出願について特許権が成立した場合に公開されます。

(2)特許公開公報について

こちらは、特許出願の日から1年半が経過すると、特許出願の内容が公開されます、つまり、特許権が成立していなくても、公開されます。

このため、

特許に関する公報に記載の発明だから、誰かが独占している発明なんだ!

なーんて早合点しないでください(ここが勘違いされるポイントです)。公報の種類が、特許公報なのか特許公開方向なのかを調べた上で、

  • 特許公開公報である場合には、出願日から1年半が経過した発明なんだな!
  • 特許公報である場合には、特許を取得した発明なんだな!

と思ってください。

4、特許公報を見てみよう

実際の特許公報を見てみましょう。こちらが特許公報の1ページ目の全体です。

下が、特許公報の1ページ目の上半分の拡大図になります。

主要部(赤線部)を説明しますと、一番上の中央部に大きく「特許公報」と書いてあります。その右下に、特許番号と登録日が書いてあります。その下の2本の二重線を飛び越して左側には出願番号(特許庁が付与した番号)

  • 出願日(特許庁が出願書類を受け付けた日)
  • 右側には、
  • 特許権者
  • 代理人
  • 発明者

等々いろいろなことが書いてあります。※こちらは弊所のお客様の特許公報です(本人の許可をもらっています)。

 

5、肝心の特許権の内容はどこに?

特許権の内容、つまり、特許発明の内容は、【特許請求の範囲】に書いてあります。下は、特許公報の1ページ目の下半分の拡大図になります。

請求項1のところに、発明の内容が書いてあります。平たく言うと、「ペット用の被服で、保冷剤やカイロを入れるポッケの口を、被服の縁に持ってきました!」という発明です。文章だけだとわかりにくいのですが、図を見れば一目瞭然です。

6、特許公報はどこでもらえる?

特許公報は、J-platpatで検索することができます。

番号が分かっている場合は、特許番号で検索します(上図の①から入ります)。出願人が分かっている場合は、出願人名で検索します(上図の②から入ります)。

7、まとめ

  1. 特許発明は、特許公報に記載されている。
  2. 特許公報と、特許公開公報は別物なので注意しよう。
  3. 特許発明を知りたければ、特許公報の【特許請求の範囲】を読もう。
  4. 特許発明の理解には、図面を合わせて読もう。
  5. 特許公報は、J-platpatで検索して入手することができる。

「特許表示」 一歩間違えると刑事罰対象に!?

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回は、「特許の権利化までの手続きがわかりくい!」という声に応え、「特許の権利化までの手続き」できるだけわかりやすくご紹介したました。今回は、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許出願を済ませばOK?

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許表示の罠

「特許出願を済ませた」=「特許取得」と勘違いする方は多いようです。通常、特許出願した後に、発明品の販売を行うのですが、その発明品のチラシに、「特許製品」「特許技術」や、「オリジナル特許」と表示されるケースを時々見かけます。ところが、「特許製品」「特許技術」「オリジナル特許」という表示に問題があります。

3、特許法によると・・・

特許法第百八十八条(虚偽表示の禁止)には次のようなことが記載されております。

何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

  • 一 特許に係る物以外の物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
  • 二 特許に係る物以外の物であつて、その物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付したものの譲渡等又は譲渡等のための展示をする行為
  • 三 特許に係る物以外の物の生産若しくは使用をさせるため、又は譲渡等をするため、広告にその物の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為
  • 四 方法の特許発明におけるその方法以外の方法を使用させるため、又は譲渡し若しくは貸し渡すため、広告にその方法の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為

すなわち、特許を取っていないのにもかかわらず、あたかも特許権を取得しているような紛らわしい表示をした場合には、虚偽表示に該当します。さらに、特許法第百九十八条には次のようなことが記載されております。

第百八十八条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

また、特許法第二百一条(両罰規定)には、には次のようなことが記載されております。

1 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

  • 一 第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑
  • 二 第百九十七条又は第百九十八条 一億円以下の罰金刑

2 前項の場合において、当該行為者に対してした前条第二項の告訴は、その法人又は人に対しても効力を生じ、その法人又は人に対してした告訴は、当該行為者に対しても効力を生ずるものとする。

3 第一項の規定により第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。

つまり、特許を取っていないのにもかかわらず、あたかも特許権を取得しているような紛らわしい表示をした場合には、刑事罰の対象となり、懲役3年以下、300万円以下の罰金に科されますし、法人の場合には、1億円以下の罰金の対象となります。

発明品のチラシを作って販売する時点で、ほとんどが法人である可能性が高いと思いますので、行為者には、懲役3年以下、300万円以下の罰金に科され、その勤め先の企業には、1億円以下の罰金が科されます。無視することのできない大きな問題です。

4、ではどう表示すればよいの?

特許出願後、特許取得前においては、「特許製品」等ではなく、「特許出願中」「特許出願済」と表示します。一方、特許取得後は、「特許製品」「特許技術」等と堂々と表示することができます。

5、まとめ

  1. 特許表示を一歩間違えると刑事罰になる
  2. 特許出願後、特許権取得前 → 「特許出願中」「特許出願済み」と表示
  3. 特許権取得後       → 「特許製品」「特許技術」と表示

特許権取得までの道のりをわかりやすく説明してみると・・・

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。お客様より、「特許の権利化までの手続きがわかりくい!」という声をよくいただきます。今回は、「特許の権利化までの手続き」について、できるだけわかりやすくご紹介したいと思います。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

2、各イベントの詳細

1)先行技術調査

  • 今回の新技術(新製品)について、どの範囲で特許権が取れそうか、
  • どの範囲まで権利主張できそうか・・・

出願前に調べます。特許の芽がない場合には、特許出願は見送り!となります。

※受験に例えると「希望校の合格判定を知るために模試を受ける行為」になります。

2)特許出願

先行技術調査によって、特許の芽がある場合には、その内容を書類に記載して、特許庁へ提出します。この出願行為は、郵送でも可能ですが、特許事務所の場合はオンラインで手続する場合がほとんどです。

※受験に例えると「希望校に願書を出す行為」になります。

3)出願審査請求

出願しても、特許庁は自動で審査をしてくれません。そのため、出願人が特許庁に対し審査の開始を行う必要があります。なお、出願審査請求の期間は、出願から3年間。出願審査請求をしないまま3年が過ぎると、その出願は復活できない・・・となります。

※受験に例えると「当日試験会場にて問題を解く行為」に・・・そうなんです。試験日に休んではイケナイのです。

4)審査対応

特許庁の審査官は、出願した発明を読み込み、従来技術を調べ、特許を取りたい発明について、「ここは許可します。ここは許可しません。」といった判断をします。いわゆる「拒絶理由通知」です。しかし、この時点での判断は最終決定ではありません。審査官の判断が合っている場合は、許可しない部分を削除します。また、審査官の判断が間違っている場合は、反論をすることも可能です。

最初、審査官が

といっていた内容も、代理人の説明によって、

と変わるケースも珍しくありませんですし、「欲しい範囲を残しつつ、如何にして”YES”を勝ち取るか?」が弁理士の腕の見せ所でもあります。

※受験に例えると「試験の採点結果(1次結果)をみて、意見を言う行為」になります(少々無理があります)。

5)特許査定

「許可されない部分を反論で覆す」か、「許可されない部分を削除する」を行うことにより、特許がおります。その場合は、特許庁から特許査定が届きます。特許査定から30日以内に特許料(1~3年分)を納付すると、約1か月くらいで、権利が発生し、特許証が届きます。

※受験に例えると「試験に合格して、入学金を支払う行為」になります。

6)特許権の維持

4年目以降は、維持費を納付期限内に納付することにより維持できます。特許料を支払えば、出願から20年まで維持させることができますが、特許料は、「1~3年目」「4~6年目」「7~9年目」「10年目~」に約3倍ずつ増えていきます。例えば、請求項数が1の場合、「1~3年目」の特許料は、年間2,300円ですが、「10年目~」の特許料は、年間110,000円と高額になってしまいます。

※受験に例えると「「留年して、学費を支払う行為・・・」でしょうか?(-_-;)

3.特許権取得までの道のりを受験に例えると・・・

  1. 先行技術調査 → 「希望校の合格判定を知るために模試を受ける行為」
  2. 特許出願   → 「希望校に願書を出す行為」
  3. 出願審査請求 → 「当日試験会場にて問題を解く行為」
  4. 審査対応   → 「試験の採点結果(1次結果)をみて、意見を言う行為」
  5. 特許査定   → 「試験に合格して、入学金を支払う行為」
  6. 特許権の維持 → 「留年して、学費を支払う行為」(笑)

こうしてみると、特許権の取得までのイベントは、受験によく似ていると思います。何かの参考になれば幸いです。

弊所のお客様の成功事例のご紹介 ~技術系の中小企業の成長パターン~

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。ここ数年、お客様の中の数社が、良い業績を出しつつあります。その例について、ご紹介したいと思います。

1.技術開発に成功したので、特許を取りたい!

最初の出会いは、今から約3年前、特許相談でした。

とある技術的なアイデアを保護したいんです!以前は、特許を取らなかったがために、オリジナル技術が他社に使われてしまった。今回はそうなりたくないので、特許が欲しい!

というものでした。そこで、新商品リリースの前に、特許出願を行いました。

2.「新商品リリース」の前にすべきこと!

特許出願後、その技術を利用した新商品をリリースすることになりました。商品名も決まりました(ここでは、仮に、「ABC」とします)。

お客様:新商品リリースの前に、特許出願を済ませたので、もう大丈夫でしょうか?

かめやま:インターネット経由のPRを行うのですよね?そうすると、皆がこの商品名を知ることになります。良い方に転べば、売り上げにつながりますが、悪い方に転ぶと、第三者による名称の模倣や、商標登録の抜け駆け出願のリスクがあります。このため、商品名の商標登録を取得を勧めました。

3.新商品の商標登録だけじゃ「モッタイナイ」

そこで、次のような提案をしました。単に、名称「ABC」の商標登録をするだけではもったいないです。折角のオリジナル技術なので、「その技術のブランド化のための商標登録」を併せて勧めました。より詳しく言うと、その技術のブランド化に寄与しそうな名称「ABX」に微調整し、名称「ABX」を、新商品及び新技術サービスの共通名称としました。

4.営業活動 兼 ブランディング活動

その後、お客様の努力の甲斐もあって新商品が市場に次第に浸透していきました。と同時に、新商品の商品名「ABX」が市場に浸透していきました。これに伴って、商品名「ABX」と同じ名前の技術サービスが市場に浸透し、お客様の技術がオリジナル技術として認知されるようになりました。すなわち、商品名「ABX」の宣伝を通して、お客様の技術がブランドとして成長していったわけです。

5.新しい商談が舞い込む

とある展示会にて、新商品及び技術サービスを展示しました。そこでは、沢山の企業から声をかけられました。これまでであれば、「こちらから声をかけても相手にしなさそうな企業」ばかりでした。商談の内容は、お客様の技術及び技術ブランド「ABXを利用したコラボ商品の提案でした。そこで、商標権を利用したライセンス契約による名称使用料という収入源構築を目論見ながら、コラボ商品のための技術開発を進めることとなりました。

その結果、

  1. 新しい技術が生まれたので、この技術を採用したい・・・。
  2. この技術について特許を出しておけば、コラボ先から浮気されることもなくなる。
  3. 結果、継続的な収入を確保できる。

という良い流れになります。

6.技術系の中小企業の成長パターン

この企業の成長フローは以下のように表せます。

  1. 技術開発に成功
  2. 技術の保護(特許、契約か秘匿)
  3. 商品企画
    名称決め(単なる名前ではなく、信用・ブランドの器となる名前決め)
    その名称の商標登録
  4. 営業開始
    商標を利用した自社商品のPR活動
  5. 新商品が浸透し、新しい商談が舞い込む(売上UP+α)
    新商品のブランド化
    そのブランドを通して、技術に興味を持つ企業も現れる
    オリジナル技術のブランド化
  6. その技術を利用した新しい開発案件が舞い込む
  7. 技術開発の成功
  8. 技術の保護(特許、契約か秘匿)・・・(2に戻って繰り返し)

これが、技術系の中小企業の成長パターンの1つだと思います。実際のところ、弊所のお客様の中でも、数社がこのパターンに乗っかっていますし、数社はこのパターンに乗っかろうとしています。しかも、いずれの技術内容もローテクに属するもの。市場に受け入れられるものであれば、技術レベルは関係ありません。

弊所のお客様の中から、このような会社が1社でも多くなるような活動を継続していきたいと思います。

大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。4月になりました。新しい期の始まりです。新しい期に入ったことで、これから開発系の助成金の募集も始まると思います。開発系の助成金を取って、大学と共同研究して、その技術成果を利用して次のご商売につなげたい!と考えている方も多いと思います。

先日も、地元のものづくり企業の社長さん達に対し、共同開発契約書のレクチャー行いました。そこで改めて思ったことは、大学との共同研究が初めての方や、まだまだ経験の少ない中小企業の社長さんも多いということでした。大学との共同研究では何が起こるのでしょうか?

  • 途中でもめてしまい、最終的には破談となったり・・・
  • 成果が出たものの、当初の企業側の希望とは全く異なるものになってしまったり・・・

上手に進めていかないと、最終的に損をするのは、大学ではなく企業側となります。そこで今回は「大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと」について述べたいと思います。

弊所でも共同研究の契約書のチェックや交渉(またはその立ち合い)を行う場合がありますが、知的財産の関係では、

  • 研究成果の帰属
  • 共同出願の取り扱い
  • 秘密保持(成果物の発表含め)

が特に重要になります。

※実際には、他条項へ影響が及ぶ場合もあるため、全体的なチェックが必要になります。

1、研究成果の帰属

共同研究を通してできた知的財産(アイデア、技術等)は、

  • 大学のもの?
  • 企業のもの?
  • 両社の共有物?

といった取り決めを行います。

この取り決めを、成果物ができた後に行う場合、成果物利用する側(つまり企業側)の交渉力が下がってしまいます。

※その理由は「ルパン三世と不二子ちゃん」の関係です。ピンとこない方は、弊社の過去のブログ記事「特許出願に関する誤解」 をご参照ください。

したがいまして、「こちら側に交渉力があるときに契約をまとめてしまう!」これが交渉のセオリーです。

大学との交渉の場合には、大学の研究費は企業負担となるため、「大学側が研究費が欲しいなぁと思う時」つまり、申し込み時に行うのがセオリーです。

2、共同出願の取り扱い

成果物に関する特許出願。成果物が大学との共有物の場合、大学との共同出願となるケースが多いのですが、出願に関する費用は企業持ち・・・となるケースが多いです。費用が企業持ちなら、出願の持ち分は企業単独がイーブンでは?という考えもありますがが・・・

ここは、

  • 大学の協力なしには、成果物はできなかった
  • 大学の名前を実績として使いたい!

等、別の理由もありますので、最終的には、事業戦略上のトレードオフとなります。

3、秘密保持(成果物の発表含め)

成果物の中には、

  • (企業側として)ブラックボックスにしたく特許出願をしない!

というものもあります。一方、

  • 大学としては成果を論文発表したい!

ここで利害が対立します。秘密保持(成果物の発表含め)という条項は、この利害調整の役割を果たします。要点としては、

  • 発表前の事前承諾
  • 発表内容の時期・内容・方法などの協議の機会の確保

となります。

4、他には?

気を付けたいポイントとして実は、もう2つあります。それは、

  • 大学(組織として)のスタンスと
  • 教授のスタンス

肝は

  • 信頼関係が構築できる相手なのか?

前者は組織なので、ポリシーの確認でよいと思いますが、後者は個人。ポリシーとキャラクターが混在するため、そのジャッジが難しいところ・・・です。

5、まとめ「大学との共同研究で気を付けたいこと」

1、研究成果の分担

アイデアはだれのもの?

2、共同出願の取り扱い

費用負担は誰が? 権利保有は誰が? 両者のバランスは?

3、秘密保持(成果物の発表含め)

時期・内容・方法の協議の機会は事前にもらう。

4、大学のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーの面からジャッジ可能。

5、教授のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーとキャラクターの混在につき、ジャッジが難しいケースも有り。

何かのご参考になれば幸いです。

大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。4月になりました。新しい期の始まりです。新しい期に入ったことで、これから開発系の助成金の募集も始まると思います。開発系の助成金を取って、大学と共同研究して、その技術成果を利用して次のご商売につなげたい!と考えている方も多いと思います。

先日も、地元のものづくり企業の社長さん達に対し、共同開発契約書のレクチャー行いました。そこで改めて思ったことは、大学との共同研究が初めての方や、まだまだ経験の少ない中小企業の社長さんも多いということでした。大学との共同研究では何が起こるのでしょうか?

  • 途中でもめてしまい、最終的には破談となったり・・・
  • 成果が出たものの、当初の企業側の希望とは全く異なるものになってしまったり・・・

上手に進めていかないと、最終的に損をするのは、大学ではなく企業側となります。そこで今回は「大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと」について述べたいと思います。

弊所でも共同研究の契約書のチェックや交渉(またはその立ち合い)を行う場合がありますが、知的財産の関係では、

  • 研究成果の帰属
  • 共同出願の取り扱い
  • 秘密保持(成果物の発表含め)

が特に重要になります。

※実際には、他条項へ影響が及ぶ場合もあるため、全体的なチェックが必要になります。

1、研究成果の帰属

共同研究を通してできた知的財産(アイデア、技術等)は、

  • 大学のもの?
  • 企業のもの?
  • 両社の共有物?

といった取り決めを行います。

この取り決めを、成果物ができた後に行う場合、成果物利用する側(つまり企業側)の交渉力が下がってしまいます。

※その理由は「ルパン三世と不二子ちゃん」の関係です。ピンとこない方は、弊社の過去のブログ記事「特許出願に関する誤解」 をご参照ください。

したがいまして、「こちら側に交渉力があるときに契約をまとめてしまう!」これが交渉のセオリーです。

大学との交渉の場合には、大学の研究費は企業負担となるため、「大学側が研究費が欲しいなぁと思う時」つまり、申し込み時に行うのがセオリーです。

2、共同出願の取り扱い

成果物に関する特許出願。成果物が大学との共有物の場合、大学との共同出願となるケースが多いのですが、出願に関する費用は企業持ち・・・となるケースが多いです。費用が企業持ちなら、出願の持ち分は企業単独がイーブンでは?という考えもありますがが・・・

ここは、

  • 大学の協力なしには、成果物はできなかった
  • 大学の名前を実績として使いたい!

等、別の理由もありますので、最終的には、事業戦略上のトレードオフとなります。

3、秘密保持(成果物の発表含め)

成果物の中には、

  • (企業側として)ブラックボックスにしたく特許出願をしない!

というものもあります。一方、

  • 大学としては成果を論文発表したい!

ここで利害が対立します。秘密保持(成果物の発表含め)という条項は、この利害調整の役割を果たします。要点としては、

  • 発表前の事前承諾
  • 発表内容の時期・内容・方法などの協議の機会の確保

となります。

4、他には?

気を付けたいポイントとして実は、もう2つあります。それは、

  • 大学(組織として)のスタンスと
  • 教授のスタンス

肝は

  • 信頼関係が構築できる相手なのか?

前者は組織なので、ポリシーの確認でよいと思いますが、後者は個人。ポリシーとキャラクターが混在するため、そのジャッジが難しいところ・・・です。

5、まとめ「大学との共同研究で気を付けたいこと」

1、研究成果の分担

アイデアはだれのもの?

2、共同出願の取り扱い

費用負担は誰が? 権利保有は誰が? 両者のバランスは?

3、秘密保持(成果物の発表含め)

時期・内容・方法の協議の機会は事前にもらう。

4、大学のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーの面からジャッジ可能。

5、教授のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーとキャラクターの混在につき、ジャッジが難しいケースも有り。

何かのご参考になれば幸いです。

商標登録って、自分でもできるんでしょ?

弁理士の亀山夏樹です。今回は、中小企業200社以上の相談実績を通し、知的財産の相談における「あるある」についてお話したいと思います。

今回は、商標登録についてです。

「商標登録って ネットでちょちょいと調べられるんでしょ?」時々、知り合いの経営者からこんなことを聞かれます。結論から言うと・・・「いいえ」です。専門家でも悩むときがありますので。その理由は次の通りです。

1.商標調査の目的

商標調査の目的は大きく2つあります。

  • A.使用予定の商標が、本当に(合法に)使用できるかを調べる
  • B.使用予定の商標が、商標登録を受けることができるかを調べる

調査の観点はいろいろありますが、上記2つに共通するものとして、先行登録商標(商標権が発生している商標)の有無があります。先行登録商標の有無は、J-Planatでも調査可能です。

2.先行登録商標の有無

先行登録商標の調べ方は、以下のようにして行います。

  1. お客様の希望する商標権の範囲の特定
  2. お客様が希望する商標を使用した場合に、それは、「ウチの商標権侵害じゃない?」と文句をいわれそうな商標権の抽出
  3. 抽出した商標の権利範囲を特定
  4. 商標権侵害の成立の判断

1)と3)の両者がオーバラップしているか否かを判断し、「オーバラップしている ⇒ 侵害成立 ⇒ 使えない」「オーバラップしていない ⇒ 侵害非成立 ⇒ 使える」といった判断をします。

ここで、慎重にジャッジしたいのは1)~3)、すなわち、権利範囲に絡む部分です。そもそも、商標権の侵害は、商標と商標・役務(サービス)のいずれかが非類似であれば、不成立となります。縦軸に商標、横軸に商品・役務(サービス)をとって表に表すと、このように表されます。

商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 侵害 侵害 非侵害
類似 侵害 侵害 非侵害
非類似 非侵害 非侵害 非侵害

侵害成立するか否かについては、侵害成立の境界線、つまり、

  • 商標が類似か非類似か?
  • 商品・役務が類似か、非類似か?

がポイントになることがわかります。しかも、類似・非類似の判断には、画一的にゆかないところがあるので本当に気を使います。とてもとても、ちょちょい とはいきません。しかし、難しいのは商標・商品の類否だけではありません。

3.商品・役務の選び方

ここで問題です。

指定商品「コーヒー豆」と指定商品「コーヒー」。この2つの違いはどこにあると思いますか?

特許庁の見解では・・・

  • 商品「コーヒー豆」  ⇒  焙煎前のコーヒー豆
  • 指定商品「コーヒー」 ⇒  焙煎後のコーヒー豆、 液体のコーヒー

となります(ざっくりいえば、前者は、BtoB、後者はBtoCとなります)。

なので、「焙煎後のコーヒー豆」を販売しているかたは、指定商品「コーヒー豆」と表記したくなっても、指定商品「コーヒー」と表記しなければならない。手間隙かけて、指定商品「コーヒー豆」で権利をとっても、実際の事業で使用している肝心の商標はノーガード・・・と、なってしまいます。

これは、笑えません。

商標権を取得するにあたり、特許庁の方言をかみしめながら、「法律上、自社ビジネスは、どのように表現されるのか?」をよくよく吟味する必要があります。コーヒー豆(焙煎後)を売ってるからといって、

「指定商品「コーヒー豆」で商標登録を受けよう!」

ということは危険なんです。

4.まとめ

1 商標調査の目的

使用可能性の調査と登録可能性の調査の2つがあります。

2 先行登録商標との関係

自社商標の使用行為が、相手の商標権を侵害するか否かは、「商標」と「商品・役務」の2つの観点から検討します。

商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 侵害 侵害 非侵害
類似 侵害 侵害 非侵害
非類似 非侵害 非侵害 非侵害

3 同一か否かの判断あれば素人でもできますが・・・

類否判断は専門家でも悩む場合もあります。なお、一次調査として、同一の調査はご自身で行い、そこをクリアーしたものについて、類似の範囲における判断を専門家に依頼する、とすることもよいと思います。

4 商品・役務の指定は意外と難しい

いわゆる「コーヒー豆」であっても、特許庁の方式によれば、焙煎前では「コーヒー豆」の表記となって、焙煎後では「コーヒー」の表記となります。このように、商品の表現の仕方は、特許庁の方言を考慮しないとならないため、よくよく検討されることが必要です。

最後までお読みいただきありがとうございました!

何かの参考になれば幸いです。

知財(商標・特許)のDIY出願、登録のお話

ものづくりドットコムの熊坂です。

早いもので今年も残り一か月を切りました。やり残したことを少しでも片づけたいものです。

ものづくりドットコムのセミナー案内コーナーは、自分に最もあったセミナーを1,000件以上の中から選択できると大好評ですが、先週から利用可能となったスマートサーチ機能は、入力された単語に関連するセミナーが関係性の高い順番に表示されますので、これまで以上に要望に沿ったセミナー選択が可能となります。

今年のうちに新たな知識を仕入れておきましょう。

さて毎回一つずつ紹介している、ものづくり革新の知恵の今回は、「商標・特許のDIY出願」についてお話します。

自分でやっちゃっていいの?

ご存知のように特許や商標の登録出願業務を代行できるのは、弁理士もしくは弁護士資格を持っている人だけです。しかし自分が創案した特許や自社が使おうとしている商標を自分で登録出願することは全く問題ありません。むしろ本来はそれが原則ながら、慣れないことを自分でやっていては時間がかかったり、手続きを間違えたり、あるいは出願できても効果の小さい内容になったりするために、弁理士さんに手伝ってもらうというのが本筋の考え方です。

出願に関する最小限のことは学習し、弁理士をリードしないと本当に有効な知的財産権は獲得できません。ゆめゆめ事務所に丸投げしないようにしたいものです。

私は去年から今年にかけて、商標と特許を自分で出願してみましたので、その経験から手順と注意点についてお伝えします。決してDIYをお勧めするわけではありません。目的と状況次第で判断してください。

商標出願のDIY

当社で運営するWebサービス「ものづくりドットコム」は2012年3月にスタートした時は「ものづくり革新ナビ」という名前でした。当時からURLは「www.monodukuri.com」でしたので、サービスの認知度向上には、URLとサービス名が一致した方が良いだろうということで、2014年からサービス名変更の検討を、次のような手順で開始しました。右図2を参考にしてください。

図2 商標登録の手順

  1. 調査:特許庁の特許情報プラットフォーム「J-Plat Pat」にて検索窓にキーワードを入れれば、登録された類似商標を比較的簡単に見つけることができます。ただし、完全同一商標はすぐ見つかるものの、紛らわしい呼び名や図形を見つけるには経験とセンスが必要です。おそらくここが素人の一番弱いところです。
  2. 出願願書作成:指定のフォーマットはありません。特許庁のホームページなどに「商標登録願」のひな形が載っていますので、それに準じてA4用紙で作成します。最も悩ましいのは【指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分】という項目でしょう。ここにはまず45種類に分かれた商品または役務(サービス)の区分から、登録しようとするものが属する区分を選んで記入する必要があります。さらに商品あるいはサービスの内容詳細を記述します。他は迷うところもなく記入作成ができるでしょう。
  3. 出願する:出願には郵送と電子出願がありますが、電子出願は個人認証などの仕組みが非常に複雑、煩雑であり、DIYで1~2回使うだけなら紙に印刷して出願する方が圧倒的に簡単です。この時作成した書類に印紙を貼る必要があります。その金額が3400円+[区分数]×8600円ですから、最少の1区分の場合の出願費用は12,000円ということになります。これが費用の全てです。この費用の少なさがDIY最大の魅力でしょう。
  4. 拒絶理由通知書に応える:出願の内容がすべて条件に適合すれば登録査定となりますが、不備があると拒絶理由通知書が届きます。実際ものづくりドットコムの場合も、出4か月後にこれを受け取りました。ただしご丁寧に「こうすれば登録できますよ」という例文付きでしたので、その通りに補正書を作成して郵送したところ1カ月ほどで登録証が届きました。
  5. 登録料の納付:登録査定が届いたら登録料を納付することで、商標権が登録されます。特許庁のホームページなどから「商標登録料納付書」の書式をダウンロードして、商標登録料に相当する印紙を貼って特許庁に郵送します。登録料は10年分で[区分数]×28200円ですが、分納してまずは前期5年分の[区分数]×16400円だけを支払う手もあります。
    これで届いた登録証が右図3です。

図3 商標登録証

DIY登録の留意点

商標登録の最終目的は権利を得ることではなく、自社の事業を有利に進めることです。上記の手順を見る限り、自分でもできそうだと思う方も多いでしょう。弁理士さんに頼むと調査から登録までの一連の作業で数万円から十数万円の費用が発生しますので、主力製品ではないが、一応登録しておく程度であれば、DIYはありだと思います。しかしどの区分にいくつ登録するのか、どのような名称、形態で登録するのが後々有利なのか、多角的な検討が必要な場合もあり、特に主力製品、サービスで大きな事業を計画している場合は、その微妙な判断が大きな問題を作る危険性があります。

そんな時は専門家と共に登録作業を進めた方が無難でしょう。

特許のDIYも書こうと思いましたが、字数が過ぎてしまいましたので、別稿にあらためたいと思います。

いかがでしょう?私は、知的財産管理技能士2級という(微妙な)資格を所有しており、多少は知識があるのですが、本格的な知財戦略は鶴見隆さんが御専門です。不明の点はQ&Aや問い合わせフォームで質問してください。

コスパのよい特許出願 その2

弁理士の亀山夏樹です。小職は、中小企業200社以上の相談実績があります。今回はコストパフォーマンスのよい特許出願について、これまでのお客様の相談内容を振り返りながら考えていきたいと思います。

1.とある日の特許相談

大昔に、別の弁理士さんに依頼して特許出願を出したことのあるお客様(その1の記事とは別のお客様です)。第1回目の面談では、特許取得がテーマでした。面談では、発明の概要を伺うのですが、弊所では、それ以外のことも把握します。その理由は、無駄な特許をなくすためです。言い換えれば、特許のコストパフォーマンスを向上させるためです。

そこで、弊所の面談では、発明に至った背景はもちろんのこと、これまでのマーケティング活動についてもヒアリングします。そのお客様は、マーケティング活動をしっかりとされている方でしたので、お客様のお話を聞いているかぎり、その発明は市場に受け入れられる可能性が十分にありそうだ、と思いました。さらに、そのお客様の規模からすると、大化けする可能性もあるようです。

2.ところで、ビジネスモデルは?

お客様:だから、このアイデアを特許で防衛したいのです!

かめやま:ところで、このアイデアを使って、どのようなビジネスモデルを考えていますか?

お客様:え・・・!?

かめやま:「誰にどのような形でアイデアを提供し、誰から売り上げを立てるか?といった仕組み」です。一緒に検討しましょうか?

お客様: お願いします。

(数10分後)

かめやま:考えられるパターンは、A~Bの2つの案。ビジネスモデルAであれば、アイデアの要素アが肝になります。ビジネスモデルBであれば、要素イが肝になります。2つをミックスすると、最初にモデルAで回した後、モデルBで回す・・・ということも可能です。

お客様: 驚きました。モデルAのようなものは、取引先からもチラっと言われましたが、モデルBや、2つのモデルのミックスもありえるのですね。

かめやま:そうなんです。大切なことは、ビジネスモデルの肝となる要素を特許でガードするということです。ビジネスモデルAでいくなら、アの特許権をとることが必要なりますし、ビジネスモデルBでいくなら、イの特許権をとることが必要になります。さらに、両にらみで行くのであれば、ア・イの両方を抑える必要があります。逆に言えば、ビジネスモデルAでいくなら、イの特許権をとる必要はありませんよね。

お客様:確かにこれなら、無駄な特許権は減らすことをできますね。

かめやま:特許は投資です。ビジネスモデルを考えながら、肝となる部分(ガードすべき優先度の高い部分)から特許で抑えていく、という観点が重要です。

お客様:これなら無駄な特許は減りますね。

その後・・・

結果的に、ビジネスモデルA・Bの統合案でいくことになったため、それぞれビジネスモデルの肝となる発明ア・イについて特許出願を済ませました。そのお客様は、いくつもの商談が前に進むこととなりましたが、その1つの商談相手は、お客様よりも大きな規模の企業。ですが、先方が欲しがっている商品は、要素アのアイデア。こちらは、すでに特許出願済です。特許出願済の交渉力により、お客様の立場を維持したまま商談に臨めそうです。

3.まとめ

1、特許権や商標権で抑えたいところはどこ?

特許権や商標権で抑えたいところの1つは、ビジネスモデルの収益源。

2、収益源はどこ?

収益源が何になるかはビジネスモデルによっても変わる。

市場浸透の速度もビジネスモデルによっても変わる。

3、自社にとって実現可能なモデルは?

営業活動を通して、どのビジネスモデルが自社にとって望ましいかを検討する。

4、当初の目論見は外れた場合の準備をする

営業活動を通して、出願前の目論見が外れる場合もある。このため、弁理士と適宜情報交換が必要。

5、必要に応じて次の手を打つ。

当てが外れれば、補強のための追加出願をすることも・・・。そうでなくとも、次の一手(アライアンスなど)のための契約やその交渉準備・・・。場合によっては、こちらの交渉力を上げるために別の出願を行うことも。

何かの参考になれば幸いです。

コスパのよい特許出願 その1

弁理士の亀山夏樹です。小職は、中小企業200社以上の相談実績があります。今回はコストパフォーマンスのよい特許出願について、これまでのお客様の相談内容を振り返りながら考えていきたいと思います。

1.とある日の特許相談

先日お会いしたお客様。数年前に特許を出し、それから10か月が経過したころ。

優先権の利用を確認すべく、発明品に関する事業の現状を伺うも、「諸々の事情により、事業化は難しく・・・今回の発明は、権利化を見送ろうかなぁ」とのことでした。

2.相談から1年後

ひょんな出会いをきっかけに、その発明品についての商談が入る。しかも、スポットではなく、それなりの規模のようでした。

かめやま:お~!それは、良かったじゃないですか!

お客様 :そうなんですよー。発明品を見たいといわれたのですが、まだまだ改良も必要だし。

かめやま:そうであれば、○○○(発明のポイントその1)に対する周りの関心について探ったほうがよいですよね

お客様 :なるほど。しかし、その流れで、こちらが非公開情報までしゃべってしまいそうで・・・

かめやま:◇◇な観点で切り分けて、こっちならしゃべってOK。そうでなければお口チャック、とすればよいのでは?

お客様 :・・・うーん

かめやま:どうされました?

お客様 :やっぱり。かめちゃん、一緒に来てくれない?

かめやま:・・・ その商談にですか?

お客様 :一人だと、余計なことまでしゃべってしまいそうで・・・

かめやま:わかりました。

3.特許出願の後のすべきこと

出願から3年間は、無条件で”出願中”を維持できる。出願中にすべきことは、出願した発明品の内容を公表して営業活動。その営業活動により

  • 市場が反応するか否か
  • 商談が舞い込むか否か

リターンの見込みがあれば

  • 本当に権利取得したい形が見えてくる
  • 経済的価値のある部分が見えてくる

これが一つの権利化のタイミング・・・

もし、出願した内容が、市場の反応がずれていた場合は、

  1. ずれを補充するような別の特許出願を行う・・・(補強の発明については、お口チャックで)
  2. 特許出願が難しければ、意匠・契約など別の観点で、自社のポジションを守る手立てを行う。
  3. 諦めて別の事業を検討する

このように動かないと、権利化のための無駄なコスト・手間が生まれてしまいます。結果、特許出願のコストパフォーマンスは、中々向上しません。

特許出願は投資活動。事業の進捗と連動させなければ、コストパフォーマンスは悪くなるばかりです。言い換えれば、事業の進捗と連動させることができれば、コストパフォーマンスを向上させることができます。

本当は市場の反応を見てから出願したいところ・・・・。ところが、特許(実用新案登録・意匠登録も同じ)の世界では権利化のために新規性が要求されます。このため、発表前の出願が原則。もちろん、救済措置として、新規性喪失の例外がありますが、そこも完全な救済ではないため、場合によっては、使えない場合も。ということで、どうしても、不確実性が残ってしまう。

この不確実性をどう担保するかといったマネジメントが肝なのですが・・・。このマネジメントが甘いと、結果として、使えない箱モノをドンドンつくっちゃう某自治体のようになってしまいます。

※もちろん、出願してすぐに権利化に動くこともありますが、条件が揃わないと見切り発車の要素が大きくなり・・・

4.まとめ

特許出願の後にすべきこと

  1. 出願が活きている間(通常は3年間)に出願内容について営業活動を通し、その経済的価値を判定する
  2. 出願した内容に経済的価値が見込めれば、権利化へ。そうでなければ、補強を考える。
  3. 補強策の関係で、1.においては済ました特許出願に書いていない非公開情報(補強策に関係あること)はお口チャック

特許出願は投資活動。リターンが見込めそうな領域の権利化が望ましく・・・。リターンが見込めない特許権なんて不要ですよね。

何かの参考になれば幸いです。

中小企業にとって特許出願が必要な場合

弊所は、中小企業200社以上の相談実績があります。これまでのお客様の相談内容を振り返りながら、中小企業にとって特許出願が必要な場合について述べたいと思います。

1.他社による模倣防止

特許出願が必要な場合。すぐに思いつくのは、自社商品の模倣を防止したい場合です。売れる自社商品は、他社も関心をもっています。特に、その商品の利益率が高い場合は、なおのことです。このため、「売れそうだな」「売れる」と思った場合には、販売前に特許出願をする場合が多いです。特に、インターネットにて販売する場合には、その商品を多くの人が見るため、模倣されるリスクも高くなります。

しかし、特許出願が必要な場合はこれだけではありません。弊所のお客様の例を挙げて説明したいと思います。

2.協力会社からの要請

よくあるケースは、自社商品の販売(の一部)を他社に委託する場合です。委託先からみれば、「売れそうだな」と思った商品であれば、自社だけが独占して販売したいはずです。つまり、模倣品が出ては困るのです。そこで、委託先は、委託元(製造元)に特許を取るように打診します。仮に、委託元(製造元)が特許を出すことを渋った場合には、「特許を受ける権利」を製造元から譲り受けた上で委託先が単独で特許出願を出す場合もあります。

弊所のお客様の場合、販売委託先から「この商品については、貴社が特許を出さないのであれば、ぜひ、わが社で特許を出させてくれ」という打診がありました。しかし、「このまま、相手方に特許を出させてしまうと、この商品が売れた場の利益はあまり得られないだろう・・・」ということで、お客様の方で出願されました。

実は、このお客様。過去にも似た経験がありましたが、当時は、「そんなに売れそうにないだろう」ということで、相手の特許出願を無料で許可してしまいました(※)。その後、予想に反して、その商品が売れてしまい、事業のチャンスを逃してしまいました。

※なお、「相手方に特許出願を無料で認める」くらいあれば、「有料で売る」または「譲渡の代わりに、自社の実施権(ライセンス)を確保する」という交渉カードを出しても良いと思います。

別のお客様の例としては、海外進出の際、現地のパートナー企業から「現地で、特許を取ってほしい」「現地で、商標登録を取ってほしい」と要請されたことを受けて、特許権や商標権を取得したこともありました。

3.技術ブランドの向上

どんなに素晴らしい技術であっても、その技術が小さな企業や無名な企業のものの場合、その技術に対する信用はなかなか得られない場合も多いです。ところが、その技術について特許を取得しているとなると、その会社の技術の独自性について国が認めたということになります。このように、国の力を利用して、自社の技術ブランドを高めることもできます。

さらに、その発明品が他社との共同開発の場合には、共同開発の相手方の技術ブランドを利用して、自社の技術ブランドの向上を図ることもできます。共同開発の相手先としては、大学や大手企業が考えられますが、中小企業の場合には、大学の方が多いです。

4.中抜き(浮気)防止

取引先から試作の開発依頼が入り、納品しました。試作納品の後の、量産依頼を期待したものの、その発注は来なかった。しらべてみると、取引先が、別の会社に量産依頼を出してしまった、という話もよくききます。

このような行為を防ぐために、すなわち、レッドカードを出せるようにするためにどのようにすればよいでしょうか?

それは、自社の試作開発で得た技術に関し、予め特許出願を済ませておくことです。この特許出願に基づいて特許権が成立した場合には、取引先がその開発品を製造販売する行為は、特許権侵害となります。特許権侵害のペナルティとしては、製造や販売差し止めや、損害賠償といった民事上のものもあれば、刑事上のものもあります。また、「特許出願中」という表示により、権利が成立した場合のペナルティを利用して、取引先に対し牽制をかけることもできます。このようにして、取引先は、無断で、開発品の製造販売をしにくくなります。なお、開発の契約内容によっては、開発した技術について特許出願を自由にできない場合がありますので、専門家にご相談されたほうが良いと思います。

まとめ

中小企業にとって特許出願が必要な場合としては、以下の4点があることをお伝えしました。

  1. 他社による模倣防止
  2. 協力会社からの要請
  3. 技術ブランドの向上
  4. 中抜き防止

特許出願の目的として、典型的な模倣防止以外にも3点あることを覚えていただければと思います。皆様のご商売の参考になれば幸いです。