海外市場調査の方法と5つの分析リスト

テクノポートの稲垣です。海外でビジネスを行う際に必要な行程の一つに、海外市場調査があります。海外市場調査の方法は大きく、国内での情報収集と海外現地への出張調査の2つに分けられます。

今回は海外市場調査の意義からそれぞれの方法のメリット・デメリットと具体的な5つの分析リストを紹介します。

海外市場調査の意義

日本企業が海外進出を行う最大の目的は販路拡大です。そして、販路の拡大を実現するためには、国内同様に市場調査が必要です。海外において市場調査を行う意義は、大きく以下の3つ理由に帰着します。

  • 各国の規格、規制に準じたサービスを提供するため
  • 各国の方針、法規制の変化に迅速に対応するため
  • 事前に損益の度合いをシミュレーションすることで損失リスクを低減させるため

海外市場調査の方法

海外市場調査の方法は大きく以下の2つの方法に分類されます。

  1. 国内での情報収集
  2. 海外現地への出張調査

流れは、1.国内での情報収集を行った上で、2.海外現地への出張調査となります。

国内での情報収集

国内での情報収集はオーソドックスなルートと情報源を使うことが重要になります。以下に国内で取得すべき情報と情報源を表にまとめました。

取得すべき情報 情報源
進出国の基本情報
会計・税務・現地法律問題
  • 会計事務所、法律事務所のHP
  • セミナーに参加
外資規制
進出国マーケット情報
  • 専門家に調査を委託(次項で解説)

国内で情報収集を行う上で重要となるのは、自社でやるべきことと、外部のネットワークを活用するべきことを明確に分けることです。特に自社でやるべきことが明確に決まれば、重点的かつ効率的に調査を進めることができます。

海外現地への出張調査

進出国候補を特定の1国に絞り込んだら、次に現地出張を行います。現地で情報を集める最大の目的は、国内で収集した情報の確認作業となります。つまり、国内での調査がとても重要であることを意味します。現地では現地でしか得られない情報、アポイント先からのヒアリングが中心となります。以下に現地で訪問すべき場所、収集すべき情報を表にまとめました。

訪問すべき場所 収集すべき情報
  • JETRO
  • 最近の日系企業の進出の増加度や業種の傾向
  • 失敗例や撤退
  • 最近の現地政府機関の対応状況
  • 日本企業の進出ロケーション
  • 交通渋滞の状況
  • 日本人居住区とその理由
  • 日本人商工会や日本人会で最近問題になっていること
会計事務所
  • 現地の外資規制、一般的な規則
  • 現地法人設立手続きの概略
  • 関税支払、法人税申告での問題点
  • 移転価格税制の摘発例
  • 個人所得税の申告方法
現地の日本商工会議所
  • 日本企業の意見や改善要望点
  • 日本企業が現地政府に要望している改善事項
  • 現地日本企業の賃上げ交渉状況
工業団地(管理事務所や工場訪問)
  • 電気と水の供給状況
  • 水の供給源(井戸か河川か)
  • 一般工の供給状況
  • 一般工の通勤手段や寮の必要性
  • 諸労務問題(組合の有無、労働争議の実態、当局の対応の様子)
  • 付近の交通渋滞の有無
  • 通関作業の迅速性

進出国の5つの分析リスト

本項では、前項の国内で取得すべき情報(2.1 国内での情報収集)に挙げた進出国マーケット情報について、調査すべき情報を具体的に解説します。進出国マーケット調査で調査すべき項目は以下の5つです。

  • マーケットの規模と成長率
  • 潜在顧客リスト
  • 同業者・競合者調査
  • 仕入先・サプライヤー調査
  • 新規参入障壁

具体的に見ていきましょう。

マーケットの規模と成長率

マーケットの規模と成長率の調査で具体的に取得すべき情報を列挙します。

  • 自社製品が属するマーケットの成長率
  • 自社製品が属するマーケットの現状の市場規模
  • 同じ様な製品の価格帯と売れ行き

マーケット関連の情報は最新の情報を取得することが重要です。なぜなら、マーケットは短期間で大きく変化する可能性があるからです。例えば、アジアのマーケットの変化は思いのほか早く、日本で数年かかった高品質化などが1年ちょっとで進むことも珍しくありません。

潜在顧客リスト

B to Bビジネスの場合は特に、自社の製品を購入してくれる取引先候補のリストを作成しておくことが重要です。日系企業の取引先はもちろん、他国の外資企業や地場企業などもリストアップする必要があります。付加的な情報として、各社が現在どこから部品を調達しているのか、自社部品への切り替えに伴うコストはどうかについてもチェックを行うことが大切です。

同業者・競合者調査

進出先の国の同業者・競合者について具体的に取得すべき情報を列挙します。

  • 自社が進出したい業界の地場有力企業のビジネスの内容
  • 自社が進出したい業界の外資企業や日系企業のビジネスの内容
  • 自社が進出したい業界の特徴
  • 自社が他社に差別化できる要因

個人向け最終財を販売するB to Cビジネスの場合は、現地業界組合について調査しておくことが重要です。なぜなら、自社製品に対するその国特有の基準や観点がある可能性があるためです。例えば、イスラム国におけるハラルなどの宗教的な価値観に起因する禁止事項に触れる可能性があるためです。

仕入先・サプライヤー調査

進出先の国内に自社製品製造のための原材料や部品メーカーの供給があるかどうかは、最も重要な要素の一つです。例えば、原料の供給業者が公社などの政府機関や国営企業である場合には、国の規制や慣行により取り扱いのできる業者が限られる場合があります。

一方で、原材料供給が進出先の国にはなく、輸入となる場合、関税を含めてコストが採算に乗るのかどうかを考慮する必要があります。例えば、賃金が安く、インフラが整い、日本人駐在員の居住環境が良くても、原材料の関税や輸送代金がかさみ、商売が成立しないケースも考えられます。

新規参入障壁

進出先のマーケットに自社が新たに参入する場合、参入障壁は大きく以下の2つが考えられます。

1つ目は、進出先の国内の業界規制です。例えば、外資規制上は会社設立登記が可能でも、業界規制により営業ライセンスが与えられないケースも存在します。この点は専門家等へ調査依頼をする方法もあります。

2つ目は、設備投資に関する条件です。例えば、一定以上の設備投資が必須になるような場合は、進出する際だけではなく、撤退する際の障壁にもなり得ます。

上記2つ以外にも、現地での販売ルートの確立が難しいケースも存在します。解決方法として、既に現地である程度の工場設備と販売ルートを持った現地有力企業との連携や合弁事業が考えられます。しかし、アジアのマーケットで外資企業とタイアップ可能な現地企業の数はそれほど多くありません。したがって、現地の有力企業がすでにタイアップを完了しているような地域では、先発企業がより小さな参入障壁で進出することが予想されます。

まとめ

今回は海外進出に必要となる海外市場調査について解説しました。重要なことは自社で行えることと、外部に任せるべきことを明確にすることです。上記の内容を踏まえたうえで、自社にとって最適な選択を考えていただければ幸いです。