リーンスタートアップから考える、中小製造業の製品開発

テクノポートの井上です。最近は受託加工を主とする製造業の会社が製品開発を行い、自社製品を販売することも増えてきました。製品開発はしたいけどなかなか良いアイディアが浮かばない、アイディアはあるけどどう製品開発を進めればよいかわからない等、途中で止まってしまうケースも多いのではないでしょうか。今回は製品開発の手法として「リーンスタートアップ」について、製造業の具体的な製品開発の方向性も踏まえ紹介いたします。

リーンスタートアップとは

リーンスタートアップとは、コストをかけずに最低限のサービス・機能を持った試作品を短期間で作成し、顧客の反応を製品開発の中に取り入れ、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法です。リーンスタートアップは、通常の仮説検証型やPDCAサイクルと同じように見えますが、他との違いは、顧客の声を早い段階で製品開発に反映させることで「顧客不在」のリスクを防ぐことに重視しているという点です。必要最低限のものでまずは市場に投入し、その反応から正確な顧客のニーズを確認、そこから製品開発につなげるという考え方です。じっくり時間をかけて市場調査を行い、満を持してローンチをするよりも、短期間で検証することでコストと顧客不在のリスクを抑えた、スタートアップ向けの手法と言えます。

おおまかな流れは以下のとおりです。

構築

顧客が欲しいものの仮説を立て、製品やサービスのアイデアを形にします。「MVP(minimum viable product)」と呼ばれる必要最低限の機能やデザインを備えた試作品を作成します。

計測

開発した試作品を実際のユーザー、特に新たな製品やサービスを早い段階で受け入れ、他の消費層へ影響を与える「アーリーアダプター」と呼ばれる層へ提供します。

計測ポイント

  • 「ユーザーの抱える課題を解決できているか」
  • 「提供すべき機能が実現できているのか」
  • 「本当にほしいと思える製品か」
  • 「いくらなら欲しいと思うか」

などを検証していきます。

学習

計測されたデータやユーザーの反応から、

  • 「改良すべき点は何か?」
  • 「このまま開発を続けるべきか?」
  • 「方向転換を行うべきか?」

を見極め、顧客に受け入れられるものにしていきます。

この3つを短期間で繰り返し、ユーザーに受け入れられる製品・サービスへと展開させていきます。

リーンスタートアップのメリット

  • MVPにより、余分なコストを削減できる
  • リリースまでの期間を短縮できる
  • フィードバックを早く次に繋げられる(需要次第で市場の変更や撤退も含め検討できる)

リーンスタートアップのデメリット

情報拡散のスピードが近年圧倒的に早まっていることがデメリットになりえます。

例えば、一般消費者の関心が強い商品やサービスの場合、初期段階で消費者の評判が一気に拡散してしまい、その不評を引き継いだままのイメージが確立され、その後の改良した製品においても悪いイメージを払拭できない場合があります。

リーンスタートアップをもとに製品開発の相性を考える

リーンスタートアップは製品開発のプロセスの中に顧客のニーズを組み込むことで、早い段階で需要を見定め生かすことに重きを置いています。昨今では、SNSの台頭や、クラウドファンディングなど、より早くユーザーのニーズをキャッチできる世の中になりました。ものづくり企業が積極的にユーザーの声を聞き、迅速に製品開発を行うチャンスがあるのではと考えています。製品開発ができそうないくつかの可能性について紹介します。

規格製品からのカスタムオーダー化(ニーズの多様化に応えるサービス化)

市場のニーズが多様化する中で、そのニーズを正確に捉えることは困難な時代です。そのため大量生産された既製品では、満足できないケースが増加、セミオーダーでの自分に合った化粧品製作や、テーラーメイド医療と呼ばれるような個人個人に合わせた医療も間近と言われています。オーダーメイドと言っても「金属の金物をオーダーでなんでも作ります」ではなく、より具体的な製品まで照準を絞った形でのオーダー対応が考えられます。

  1. 自分の手の形状に完全に合ったボールペン。
    (金型保管により、何個でも追加オーダー可能なサービス)
  2. 無くしても大丈夫。結婚指輪の型取り保管サービス など

産業用分野のオーダー製品からの規格化(自分がユーザー系1)

製造業では工場の生産効率を上げるために、自動機、専用機、治具等を、内製もしくは外注にて製造することが多いと思います。最終ユーザーが、自社やそれに近い業種のため、ユーザーのニーズを汲み取りやすい領域と言えます。需要の増えそうなものや、良く出る系統を分析し、ニーズの高いものを規格化することで製品化へつなげられる可能性があると考えられます。需要は少ないかも知れませんが、他の業種から参入されるケースは少ないため、競合が少ないのも良い点です。わざわざ大手が入るほどではない市場が眠っているかも知れません。

趣味業界での製品化(自分がユーザー系2)

趣味はオススメです。欲しい人はいくら高くても欲しい、強烈なニーズがあります。個人的な意見ですが、出来れば避けたいのは生活必需品、日用品系です。競合が非常に多く、製品化しても売れる製品はすぐに類似品が出てきます。皆さん使うので、アイディアは集まりますが、製品化となると厳しいのではと思います。

製品開発のきっかけについてですが、社員の皆さんに趣味を深堀りするのはいかがでしょうか?趣味への愛情の深い人がいれば、その人が抱えている困り事やあったらいいなに耳を傾けてみると良いと思います。ユーザーの意見を反映させやすくなります。

  1. 間接キスは過去のモノ!だれが吹いても安心のチタン製抗菌ホイッスル
  2. 金属アレルギーを克服!金管楽器のチタンマウスピース

いかがでしたか?今回はリーンスタートアップと、その考えをもとに製品開発ができそうな方向性について紹介しました。この業界に携わっている人なら一度は自社製品を作りたいと考えている人は多いはずです。参考になれば幸いです。

3つの切り口から中小製造業のIoTの活用を考える

今回は、中小製造業の間でも、当たり前のように話題に出る「IoT」についてです。弊社でも「IoTを導入した何かをしたい」という相談を受けたりします。ただ、「我が社でもIoTを使った何かをしよう」となったとしても、漠然としすぎてそこで思考が止まってしまう方も多いのではないでしょうか?そこで、経済産業省が去年の3月に出した「IoTに関する製造業の取り組み」を見て、こんな切り口からテーマを決めていけば良いんじゃないかと思ったことを3つご紹介します。IoTがどのようなものかは、以前掲載した記事をご確認頂けたらと思います。

「IoTの波が中小製造業に与える影響とは」

①⽣産性向上

こちらは一番考えやすいものですが、解決したい課題を決めて取り掛からないとただのデータ集めになってしまいます。細分化すると下記のようなテーマにあたります。

現場改善

人の動き・設備の稼働状況からムダの改善や、人による作業時間のばらつきをなくすような取り組み

工程管理

膨大な製品点数の管理、紙媒体での管理、製造拠点の分散による管理など、管理の難しさが課題となるものを解決する取り組み

品質確保

トレーサビリティの強化や、品質検査のミス予防の取り組み

事務作業効率化

見積もり作業の負荷軽減、現場情報の入力時間の短縮

経営改善

適切な材料在庫の確保、リアルタイムの生産状況の把握 、計画的な設備投資の指標、より精度の高い需要予測をするなどの取り組み

生産性向上という切り口は、工場にある様々な情報をデジタル化し、その情報をもとに業務支援につなげる流れです。ある程度の規模の工場になると管理業務が複雑化していくため、IoTを活用することで生産性向上に繋げられる可能性があります。逆に小規模だとそこまで課題となっていない場合があります。また、この分野に関しては様々なIoT商品が提供されていますので、末尾に掲載する経済産業省の資料を参考にしていただけたらと思います。

②新サービス(新しい価値)の創出

今いちピンと来ませんが、アメリカのあるビジネスレビュー調査によると、欧米では「IoTは何に寄与するか」という問いに対して「新たな収益源」と答えた経営者が約6割に対して、日本では「オペレーションの向上」と答えた経営者が6割だったそうです。IoTを活用する一つの切り口として考えてみる価値はありそうです。ただ、こうすれば良いという正解が見つけづらく、何をすればよいか模索中なところです。

民タク(民泊のタクシー版のようなもの)事業の「Uber」はGPSを活用したIoTによってリアルタイムで需要と供給をマッチングさせることにより、機会損失を減らし利用者のニーズを満たすことに成功しています。製造業に置き換えると、工場すべての設備の稼働状況や、今後の稼働予定をリアルタイムで監視します。そうすることで、顧客の発注を捉えやすくする取り組みです。

他にはハーレーダビットソンがIoTを駆使し、カスタム改造部品を提供するためにスマート工場化した取り組みがあります。顧客のカスタム品の要望と、それに対しどの工程が必要になるかの紐づけをリアルタイムで行い、最短で提供できる仕組みを作りあげました。

もしかしたら、自社は量産ラインを組んでいる会社だから、小ロットものは対応できないと考えている会社の中には、IoTを活用することで、試作・少ロット対応が可能な新しい事業ができる可能性が眠っているかも知れません。

ちなみに新しいサービス自体を作った事例としては旭鉄工という自動車部品を製造するメーカーがあります。自社工場でのIoT化により3億円以上の設備投資削減と、1億円以上の労務費低減を実現し、そのノウハウをサービス化して外部に展開するために「i Smart Technologies株式会社」という会社を作り、サービスを提供しています。

他にも自社内のIoT化ではなく、顧客側のニーズを探るためのIoTの仕組みを作ることができれば、顧客のニーズ調査、需要などリアルタイムでわかったりするかも知れないですね。今後はそのようなサービスも出てくるのではないでしょうか?

③技術継承・人材教育

昨今の人手不足や後継者不足を解決するという目的です。失われていく技術をいかに形として残すか、暗黙知から形式知化する取り組みは今後一層重要度が増すと思います。また、人手不足を解消するためにデジタル化したデータを活用しそれをロボットが代用できるようにする流れも必要になってきています。以前であれば、「技術は見て盗むものだ」という概念のもと、口で教わることなく、見るだけで覚えるという流れがありました。ただ、今はそれでは伝わらず、「動画を見せる」「口で説明」「マニュアルを作る」など様々な手法が存在しています。技術を伝えるというのは非常に難しく、一つ一つの動作にその動作を行う理由が存在します。本質的には、ただ見て同じようにすれば良いというわけではなく、その動作の理由まで理解した上で真似る必要があります。そのためにマニュアルが存在するわけですが、マニュアルを作るのも非常に労力がかかり、やっとの思いで作っても、いつの間にか見なくなっているケースは多いと思います。解決する手段としてはIoTというよりクラウドサービスなどが課題解決には適しているようです。

クラウド型のサービスを二つ紹介いたします。

動画で簡単マニュアル作成 ティーチミー (熟練者のノウハウを形式化)

クラウド見積ソフト TerminalQ  (経営・営業のノウハウを形式化)

まとめ

いかがでしたでしょうか?再度、自社の今後の課題や取り組みたいテーマをしっかり見定め、解決もしくは達成するために何をすればよいか?その手段が結果としてIoTだったという流れが本来の流れだと思います。IoT活用といっても、正確にはIoTではなくクラウドサービスだったり、システムだったりする場合も非常に多いと思います。目的が達成できるならばばIoTでなくても良いと思いますので、まずは今後の課題や自社の取り組むべきテーマから考えてみるのはいかがでしょうか?

具体的な事例は経済産業省が発行している「中小ものづくり企業IoT等活用事例集」を参照して下さい。

また、来週4月18日(水)~20日(金)の予定で「TECHNO-FRONTIER 2018」が幕張メッセで開催されます。話題のAI・IoTをはじめとした次世代技術から、ものづくりの要となる要素技術、開発設計支援技術まで、最新の情報に触れることができる展示会です。詳細はこちらから