「労働契約の終了」について

1、「労働契約の終了」には種類があることをご存じですか?

前回の連載では、固定残業制の誤用例を学びました。今回のテーマは「労働契約の終了」です。なぜこの場面を取り扱うのか、と言うと、労働トラブルに発展することが多いからです。毎度おなじみ『町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由』(ポプラ社)の中でも、原会長が古参の従業員に会社を辞めてもらう際、苦悩したシーンが描かれています。

会社の理念に合致しない従業員がいた場合、「他の従業員の士気を下げる人には会社を辞めて欲しい」と考える経営者は数多くいます。しかし、誤った対応をしてしまい、辞めた(辞めさせた)従業員から訴えられ、多額の損失を被る会社が多くあります。今回の連載では、「労働契約の終了」という場面に関する基本的知識をお伝えします。

簡単に労働契約の終了の場面をまとめました。

労働契約の終了には、大きく分けて「解雇」と「退職」の2種類があります。

【図:労働契約の終了】

2、「解雇」とは何か?

「A君は、同じミスを繰り返し、改善しようとしない。反省の態度も全く無く、不貞腐れて他の従業員にも迷惑がかかっている。A君に『君は明日から会社に来なくても良い。』と告げた。」このように、会社側から一方的に労働契約の解約を告げることを「解雇」と言います。この「解雇」ですが、後日その有効性を従業員から争われると、多くの会社は敗訴します。

その理由は、「解雇権濫用法理」(労働契約法第16条)にあります。

つまり、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして解雇は無効になるのです。裁判では、①と②に当てはまる事実について会社側が主張立証する責任を負っており、これが大変な作業になります。

3、「解雇」が無効と判断されるリスク~「お金で解決できないことがある」~

最大のリスクは、辞めさせた従業員が会社に戻ってくる、ということです。そんな馬鹿な、と思われるかもしれませんが、裁判において解雇無効を争ってくる場合、従業員の訴えは「従業員としての地位が会社にあることの確認」という形を取ります。

要するに、会社が敗訴した場合、解雇した時点から、ずっと従業員はその会社に在籍していたということになるのです。

例えば、Bさん(月額30万円の給料)が平成30年8月1日に会社から解雇されたとします。その後、Bさんは会社を訴え、平成31年7月31日に解雇は不当だという判決が出ました。そうすると、会社は、平成30年8月1日から平成31年7月31日までの12か月分の給料合計360万円を支払うことに加えて、Bさんを再び元の職場で働かせなければならないのです。

現在、日本の法制度では、解雇について金銭的に解決する制度はまだ存在しません。

「お金を払ってでもこの従業員を辞めさせたい」と思っていても、解雇という方法を取った場合、「お金で解決できない」事態に陥る危険性があるのです。

4、それでも「解雇」を選択するのであれば・・

それでも「解雇」とい手段を選択するのであれば、「解雇」に至るプロセスを重んじる必要があります。ポイントは、会社が従業員に対して、いかなる注意指導を積み重ねてきたのか、という記録です。そして、「解雇」という最終手段を取るまでの間、会社がその従業員の能力に応じた仕事を与える努力をしたのか、という点もポイントになります。

これとこれをすれば「解雇」は有効になる、といったチェックリストは存在しません。

「解雇」を選択するのであれば、その前に必ず、「労働法に詳しい弁護士」に相談するようにして下さい。