テンプレートを使用してマニュアルを作成するメリットとデメリット

現役エンジニアで製造業系ライターをしている一之瀬です。

『技術は人に伝えられる形にして初めて技術と呼べる』をモットーにエンジニアの業務では、先行開発から量産開発まで幅広く関わりながらその技術を残す活動をしています。この連載では、どうすれば使われ続けるマニュアルや作業手順書を効率的に作れるのかを、私の経験を元に紹介していきます。

今回は「マニュアルのテンプレート・フォーマット」について紹介します。

マニュアル作成にテンプレートは必要か

マニュアルを作成するために、テンプレートやフォーマットは必要でしょうか?テンプレートを使用するメリット・デメリットを確認しましょう。

テンプレートを使用するメリット

まず初めに、テンプレートを使用するメリットを紹介します。

記載すべき項目の抜け漏れが発生しない

マニュアルや作業手順書には、書いておくべき項目があります。これらの項目は、マニュアルを作成する人にとっては当たり前になっていることが多いです。その場合、記載が漏れてしまうことがあります。マニュアルをテンプレートに沿って作成することで、重要だけど抜けがちな項目に関してもきちんと記載されるため、使えるマニュアルになります。

作成にかかる時間を短縮できる

テンプレートがない場合、どのようなレイアウトでどんな項目を記載すべきか検討する時間が必要です。もしレビューのタイミングでレイアウトを見直すことになると、作り直しの時間も必要です。事前にレビューを完了しているテンプレートを使用することで、レイアウトを見直さないといけない可能性を大幅に減らせます。また、記載する項目の検討にも時間をかける必要がないため、作成にかかる時間を短縮できます。
マニュアル作成時にテンプレートを利用することで、項目の抜け漏れや作成時間の観点で大きなメリットがあります。

テンプレートを使用するデメリット

一方で、テンプレートを使用してマニュアル作成をすることには、デメリットもあります。

テンプレートにマッチしない場合がある

作成したいマニュアルが、テンプレートにマッチしない場合があります。具体的には、テンプレートにある項目が不要であったり、書きにくいレイアウトになっていたりといった課題があります。すべてのマニュアルを一つのテンプレートで作成するのは難しいので、作成したいものに応じていくつかのパターンを準備しておくとよいでしょう。

  • 日報・週報などの報告書
  • 工程などの作業手順書
  • 技術解説資料
  • 報告会・発表会用資料

作成する頻度が多いものとしてこれらの項目が挙げられますが、これらはテンプレートを分けておくのが良いでしょう。

必要な項目が漏れる可能性がある

マニュアルに記載すべき項目は、常に一定ではありません。テンプレートに記載されていない項目を記載すべき場合もありますが、テンプレートを信用しすぎることで必要な項目が漏れてしまう可能性があります。マニュアルを作成する前の段階で、テンプレートを見ながら記載すべき項目の抜け漏れがないかを関係者と確認しましょう。作成後に気付いた場合、作り直すのに時間がかかってしまうため、必ず作成前に行う必要があります。

テンプレートを作成する方法

マニュアルのテンプレートは、何かのマニュアルを初めて作成する際に、あわせて作りこんでいきましょう。マニュアルを作成、使用する関係者と何度かレビューを繰り返しながら、必要な項目の抜け漏れやレイアウトを調整します。また、複数のテンプレートを作成すると、大元がどこにあるのか分からなくなってしまう場合があります。Microsoft officeを使用してテンプレートを作成する場合には、作成したファイルをテンプレート形式で保存することで、管理の手間が省けます。

テンプレートとして保存したいファイルを作成したら、「名前を付けて保存」から、テンプレート形式で保存しましょう。次回、新規作成からテンプレートを指定することで、作成したテンプレートでマニュアルの作成を開始できます。Word、Excel、PowerPointそれぞれで使用できますので、普段作成するマニュアルや作業手順書は網羅できるでしょう。

マニュアルのテンプレートは状況に応じて使い分ける

マニュアルを作成する際には、テンプレートを使用することで、作成時間短縮や必要な項目の漏れ防止といったメリットがあります。一方で、すべてのマニュアルを一つのテンプレートで作成することはできません。普段作成する機会の多い資料をいくつかのパターンに分け、それぞれに応じたテンプレートを作成するのがおすすめです。

状況に応じてテンプレートを使い分け、マニュアル作成の時間を短縮して他のことに使う時間を捻出しましょう。

特許出願を共同する際に気を付けて欲しいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。2020年10月をもって、7年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、特許相談でよく受ける内容をご紹介したいと思います。

新しいビジネスモデルを思いついた!

社長:アフターコロナに向けて新しいビジネスを考えたのですが、始めてしまうと他社に簡単に真似されそうな内容です。このため、事業開始前に、特許出願を済まして、この事業を守っておきたいと思っています。

かめやま:なるほど。どのようなビジネスを行うのですか?

社長:実は、知り合いのA社の社長に話したところ、意気投合して、一緒にやろうということになりました。一方で、特許に関する費用は可能な限り抑えたく。このため、費用をA社と折半し、特許出願も共同で進めたいと思っています。

かめやま:え?!特許出願を共同で行うのですか?

社長:え?だめですか?

かめやま:ダメではないのですが、ちょっと面倒なケースがありまして・・・

特許出願を共同で行うことのデメリット その1

かめやま:特許権が共同となっている場合、共有者それぞれがその発明の実施ができてしまいます。

社長:うーん。それのどこがデメリットなのでしょうか?

かめやま:今回のA社とはどのような役割分担を行うのですか?

社長:A社は、弊社に材料供給をします。弊社はそれを使って新しい製品Xを製造販売します。

かめやま:今回の特許出願したい内容は、新しい製品Xなのですよね?

社長:はい。

かめやま:そうであれば、特許出願は、御社の単独名義でよいのでは?

社長:それだと特許取得費用や維持費用が掛かってしまいます。共同名義にすれば、費用も折半にできるので良い考えと思ったのですが・・・

かめやま:しかし、A社と共同名義にしてしまうと、A社も製品Xを製造販売できてしまいますよ。

社長:いえいえ。A社は、製品Xの製造設備を持っていませんので、実質的に無理です。

かめやま:しかし、A社が下請けのB社に製品Xを製造を委託して全品を買い取れば、ライセンスの対象とならず、A社の自己実施となり得ます。そうすると、A社も製品Xの製造販売が可能となりますが・・・

社長:それは困ります!

かめやま:どうしても共同名義を行うなら、共同出願の契約の中で、A社が製品Xを製造販売しない取り決めを交わしておく必要がありますが、こちらの案がA社にとって魅力的なものでなければ合意にも至らないように思えます。

特許出願を共同で行うことのデメリット その2

かめやま:もう1つのデメリットがあります。それは、御社がこのX製品の事業を他社に売却したくても、共同名義の特許権が障壁となる場合がてでくる点です。

社長:すみません、あまりピンときていないです。

かめやま:今は、A社との関係が良いのでよいのですが、お互いの経営状況が悪くなったり、経営者が交代すると、その辺りの問題が顕在化してきます。

社長:どういうことですか?

かめやま:他社が製品Xの事業を行うためにはこの特許権又はその実施権が必要になります。しかし、売却先に特許権の持ち分を譲渡しようとする場合にもA社の同意が必要となります。同様に、御社が売却先にライセンスを行おうとする場合にもA社の同意が必要となります。したがって、共同名義の特許権の存在が、御社の意思決定の足かせになります。

社長:うーん。目先の特許の費用軽減を目的として共同名義を思いついたのですが、デメリットもあるのですね。

かめやま:そうですね。ここは、ルームシェアの悩ましさに似ていると思います。

社長:確かに。具体的には、どのようにすればよいですか?

かめやま:もちろん、共同出願自体を否定はしないですが、メリット・デメリットの比較考量をしたほうがよいです。

特許権の共有について

特許権の共有について、特許法では、以下のように定められています。

  1. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡し、又はその持分を目的として質権を設定することができない。
  2. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定をした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。
  3. 特許権が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その特許権について専用実施権を設定し、又は他人に通常実施権を許諾することができない。

そして、これを修正するためには、共有者との事前の取り決め(契約書)をしておく必要がありますが、契約の相手方との利害一致ができなければ、合意に至ることができません。とはいえ、何もしないままに特許権の共有を行ってしまうと、折角費用と時間をかけて取得した特許も、御社にとって実効性の薄いものになってしまう場合も出てきます。

まとめ

(1)特許出願は、単独でも共同でも可能。

(2)特許権の共有について特許法では次の定めがある。

  • 他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡等できない(特許法73条1項)。
  • 他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる(特許法73条2項)。
  • 他の共有者の同意を得なければ、その特許権についてライセンスことができない(特許法73条3項)。

(3)上記(2)の制約を変更したい場合には、相手方との別途契約が必要となる。

(4)別途契約が難しいようであれば、単独名義で進める。

単独名義と共同発明のどちらが良いか否かは、発明の内容、事業内容や事業の寿命によって異なりますし、そして御社におけるその事業の位置づけによって異なってくる場合もあります。その結果、共同出願が良さそうとなれば、その契約の中で、A社との取り決めを交わしておく必要がありますし、そこが難しいようであれば単独名義で出願しておくことが良いと思います。このように、特許相談においては、出願する発明の内容だけではなく、その事業内容を含めて、お近くの専門家にご相談ください。

オンライン時代の同業会社に埋もれない「選ばれる」ブランディング

こんにちは。企業の「技術」と「想い」を伝えるブランディングC-OILING代表の大後 裕子(だいご ひろこ)です。

先日、製造業の2代目社長さんからこんな相談が来ました。

「今までメインだった取引先からの受注が減って商品が売れないので、新規顧客の獲得をしたいんです。でも展示会などのイベントもなくなってしまって顧客接点が持てないので、取り急ぎホームページを新しくしたりInstagramも始めたんですよ。社員も楽しんで取り組んでいたのですが、結局お問い合わせが来なくて以前のように商品が売れずに参ってるんです。」

このような「商品が売れない」という悩みは地球上で商売が始まって以降続いている、古今東西過去から現在まで多くの会社にとっての最も大きな問題です。しかしこの「商品が売れない」理由、実は単純に「わかりにくいから」というケースが少なくありません。「わかりにくいという=顧客とうまくコミュニケーションが取れていない」という状態なのです。

特に技術を商品としている企業の場合、専門的になればなるほど相手にとってわかりにくいものです。それはまるで膨大な知識のある大学教授がランドセルを背負い始めた小学生と話をするようなものです。例えばその商品がどのような知識や作業、また想いの蓄積を経て出来上がっているかは、ボタンひとつでマシンが動いて、ピカピカに磨かれた製品が手元に届くだけではわからないのです。

では同業他社に埋もれることなく、新規営業をスムーズに進めるためにはどのようなことをしたら良いでしょう?

答えは、この2つです。

  1. 伝えるべき内容を見直す
  2. 伝えるべき場所を見直す

なぜこの2つを見直す必要があるのかというと、現代人が1日にスマホやパソコンから受け取る情報量は「江戸時代のヒトの1年分」に匹敵すると言われているほど、情報が溢れかえっているからです。その中で新規顧客はどの企業に頼めばいいのか判断基準を探しています。

だからこそ伝わりにくい技術を持った会社こそ、わかりやすく選ばれる会社になることで、この溢れ返る情報の中でも同業他社に埋もれない新規営業をスムーズにしていきましょう。

「わかりやすい」選ばれる会社のチェックリスト

新規顧客があなたの会社に対して「わかりやすい」と感じられるかどうか、簡単なチエックリストを用意しました。

【A】

  • 経営者が自社の強みが一言で言える
  • 今の取引先があなたの会社の強みを一言で言える
  • 経営者が自社の専門分野について小学生にも伝えることができる
  • 社員が自社の専門分野について小学生にも伝えることができる

【B】

  • 発信する内容のおおよその年間スケジュールを決めている
  • 閲覧者が順調に増えている
  • ホームページやSNSの更新が頻繁にされている
  • オンライン上でお問い合わせが来ている

いかがでしたか?

AとB両方に全てのチェックが入った会社はオンラインでのブランディングが問題なく進められていることでしょう。Aのチェックが少なかった場合はまず伝えるべき内容を見直すことから始めましょう。Aのチェックが多い場合は、次のステップである伝えるべき場所を見直しましょう。

伝えるべき内容を見直す

ブランディングにおいて伝える内容とはなんでしょう?新規顧客の知りたいことは大きく分けて2つあります。1つ目はあなたの会社の得意とする技術、2つ目はその技術によってどんな問題を解決してくれるのかです。この2点が新規顧客の視点で語れるように見直しましょう。

伝えるべき場所を見直す

伝えるべき場所はリアルからオンラインにどんどん移行しています。だからと言って闇雲にFacebookやInstagramを更新するのではありません。するべきことは、あなたの会社の伝えるべ技術や想いを、媒体の先にいる新規顧客が受け取りやすいコミュニケーションの発信をすることです。

伝わりにくい技術を持った会社こそ、コミュニケーションの取れる会社になることで、一時の付き合いだけではない新規顧客とつながることができます。

企業の技術と想いを伝えるブランディング
C-OILING 大後 裕子 (シーオイリング だいごひろこ)

技術を蓄積するマニュアル作成2.使われ続けるマニュアル作り

現役エンジニアで製造業系ライターをしている一之瀬です。『技術は人に伝えられる形にして初めて技術と呼べる』をモットーにエンジニアの業務では、先行開発から量産開発まで幅広く関わりながらその技術を残す活動をしています。

この連載では、どうすれば使われ続けるマニュアルや作業手順書を効率的に作れるのかを、私の経験を元に紹介していきます。今回は「マニュアルが使われない理由とその対策」について実例を元に紹介します。

マニュアルが使われない理由と対策

せっかく時間をかけてマニュアルを作成しても、使ってもらえなければ作った意味がありません。マニュアルが使われなくなる理由としては、次のような点が挙げられます。

  • マニュアルの情報が古い
  • 記載されている手順がやりにくい
  • マニュアルが行方不明

これらの課題に対して、私が自分の仕事を通して試した施策の中で効果的だったものを紹介します。

マニュアルの情報が古い

定期的にマニュアルが更新されていない場合、マニュアルに記載されている情報が古い場合があります。「最初はマニュアルを使っていたとしても、マニュアル通りにやっているはずなのに上手くいかないことがあり、原因を調べてみるとマニュアルが古かった」このような経験がある人も多いでしょう。

マニュアルに書いてあることは改めて確認し直さないため、マニュアル自体がミスを生み出すことになり、使われなくなっていきます。対策としては、マニュアルを更新する担当者と更新の時期を明確にすることが有効です。担当が明確になっていれば、マニュアルに関する修正情報が集約され、決められたタイミングで最新化されます。

随時更新でも良いですが、忙しくて更新されない場合もあるでしょう。マニュアルの内容によってタイミングは調整が必要ですが、更新が必要なタイミングを四半期ごと、半期ごとで設定しマニュアルを更新しましょう。

記載されている手順がやりにくい

同じ仕事であっても、人によってやり方が違うことがあります。マニュアルがあり、最初はマニュアルを見ながらやっていたはずなのに、自己流になってしまうのはなぜでしょうか?

マニュアルに記載されている手順通りにやった結果、手順を面倒に感じたり、簡単にこなせる方法を思いついたりすると、自己流のやり方で業務を進めます。

最初に作成する際にマニュアルのみでレビューするのではなく、マニュアルを見ながら実際に問題なくできるか作業をしてもらうのがおすすめです。実際に作業をする中で出た課題を作成中のマニュアルに反映しておけば、業務に支障が出るレベルで使いにくいことはないでしょう。さらにレベルアップするためには、担当者の元に情報が集まるようにマニュアル改善リストを作っておくことをおすすめします。

  • マニュアルの修正ポイント
  • 誰が記載したか(内容の詳細を確認するため)
  • マニュアルに反映したかどうか

最低限、これらの項目が管理できれば十分なため書くのが面倒にならないように、簡単なフォーマットにするのがポイントです。

マニュアルが行方不明

特に、頻度が高くない業務を行うときのために作ったマニュアルで多い課題が、マニュアルを作ったはずなのに行方不明になってしまうことです。久々にこなす業務をマニュアル無しで、時間をかけて進めることになります。対策はシンプルで、すべてのマニュアルの置く場所を決めておくことです。できれば管理No.を付けて検索性をよくしたり、業務分野別にフォルダ分けをしておくと分かりやすいでしょう。

シンプルな施策ですが、確認する頻度が高いマニュアルと同じ置き場にあれば、マニュアルを探す際にまずそこを確認する癖がつきますのでおすすめです。

すべての対策を実践するのが難しい場合

ここまでマニュアルが使われ続けるための対策を紹介しました。実際には仕事が忙しく、すぐにすべての施策を取り入れることはできないかもしれません。

優先順位をつけて取り組む必要がある場合には、最初に「マニュアル改善リスト」を作成するのがおすすめです。すべてのマニュアルに関する改善要望を集約することで、個々のマニュアルとそのリストを確認すればすべて完結します。

後の施策は時間に余裕ができたときに取り組んでいけばよいでしょう。

使い続けられるマニュアルは更新されている

マニュアルが使われなくなる理由と、その対策について紹介しました。置き場がわかって情報が更新されていれば、マニュアルは使われ続けます。マニュアル改善リストは、マニュアル自体をきれいに直すものではありませんが、現状のマニュアルに対する改善点を確認できるので、セットで使えば更新されたマニュアルと同等の効果を発揮できます。

業務を効率よく進め、時間を生み出し、レベルアップしていくためのマニュアルが逆効果にならないように取り組んでいきましょう。

次回はマニュアルのテンプレート・フォーマットについて紹介します。

技術を蓄積するマニュアル作成2.使われ続けるマニュアル作り

現役エンジニアで製造業系ライターをしている一之瀬です。『技術は人に伝えられる形にして初めて技術と呼べる』をモットーにエンジニアの業務では、先行開発から量産開発まで幅広く関わりながらその技術を残す活動をしています。

この連載では、どうすれば使われ続けるマニュアルや作業手順書を効率的に作れるのかを、私の経験を元に紹介していきます。今回は「マニュアルが使われない理由とその対策」について実例を元に紹介します。

マニュアルが使われない理由と対策

せっかく時間をかけてマニュアルを作成しても、使ってもらえなければ作った意味がありません。マニュアルが使われなくなる理由としては、次のような点が挙げられます。

  • マニュアルの情報が古い
  • 記載されている手順がやりにくい
  • マニュアルが行方不明

これらの課題に対して、私が自分の仕事を通して試した施策の中で効果的だったものを紹介します。

マニュアルの情報が古い

定期的にマニュアルが更新されていない場合、マニュアルに記載されている情報が古い場合があります。「最初はマニュアルを使っていたとしても、マニュアル通りにやっているはずなのに上手くいかないことがあり、原因を調べてみるとマニュアルが古かった」このような経験がある人も多いでしょう。

マニュアルに書いてあることは改めて確認し直さないため、マニュアル自体がミスを生み出すことになり、使われなくなっていきます。対策としては、マニュアルを更新する担当者と更新の時期を明確にすることが有効です。担当が明確になっていれば、マニュアルに関する修正情報が集約され、決められたタイミングで最新化されます。

随時更新でも良いですが、忙しくて更新されない場合もあるでしょう。マニュアルの内容によってタイミングは調整が必要ですが、更新が必要なタイミングを四半期ごと、半期ごとで設定しマニュアルを更新しましょう。

記載されている手順がやりにくい

同じ仕事であっても、人によってやり方が違うことがあります。マニュアルがあり、最初はマニュアルを見ながらやっていたはずなのに、自己流になってしまうのはなぜでしょうか?

マニュアルに記載されている手順通りにやった結果、手順を面倒に感じたり、簡単にこなせる方法を思いついたりすると、自己流のやり方で業務を進めます。

最初に作成する際にマニュアルのみでレビューするのではなく、マニュアルを見ながら実際に問題なくできるか作業をしてもらうのがおすすめです。実際に作業をする中で出た課題を作成中のマニュアルに反映しておけば、業務に支障が出るレベルで使いにくいことはないでしょう。さらにレベルアップするためには、担当者の元に情報が集まるようにマニュアル改善リストを作っておくことをおすすめします。

  • マニュアルの修正ポイント
  • 誰が記載したか(内容の詳細を確認するため)
  • マニュアルに反映したかどうか

最低限、これらの項目が管理できれば十分なため書くのが面倒にならないように、簡単なフォーマットにするのがポイントです。

マニュアルが行方不明

特に、頻度が高くない業務を行うときのために作ったマニュアルで多い課題が、マニュアルを作ったはずなのに行方不明になってしまうことです。久々にこなす業務をマニュアル無しで、時間をかけて進めることになります。対策はシンプルで、すべてのマニュアルの置く場所を決めておくことです。できれば管理No.を付けて検索性をよくしたり、業務分野別にフォルダ分けをしておくと分かりやすいでしょう。

シンプルな施策ですが、確認する頻度が高いマニュアルと同じ置き場にあれば、マニュアルを探す際にまずそこを確認する癖がつきますのでおすすめです。

すべての対策を実践するのが難しい場合

ここまでマニュアルが使われ続けるための対策を紹介しました。実際には仕事が忙しく、すぐにすべての施策を取り入れることはできないかもしれません。

優先順位をつけて取り組む必要がある場合には、最初に「マニュアル改善リスト」を作成するのがおすすめです。すべてのマニュアルに関する改善要望を集約することで、個々のマニュアルとそのリストを確認すればすべて完結します。

後の施策は時間に余裕ができたときに取り組んでいけばよいでしょう。

使い続けられるマニュアルは更新されている

マニュアルが使われなくなる理由と、その対策について紹介しました。置き場がわかって情報が更新されていれば、マニュアルは使われ続けます。マニュアル改善リストは、マニュアル自体をきれいに直すものではありませんが、現状のマニュアルに対する改善点を確認できるので、セットで使えば更新されたマニュアルと同等の効果を発揮できます。

業務を効率よく進め、時間を生み出し、レベルアップしていくためのマニュアルが逆効果にならないように取り組んでいきましょう。

次回はマニュアルのテンプレート・フォーマットについて紹介します。

ものづくり補助金対象経費10項目

ものづくり系取材ライターの羽田野です。

前回は「ものづくり補助金の採択されやすい申請書の書き方ポイント3選」について紹介させていただきました。ものづくり補助金の理解を深めると、挑戦してみようという気持ちになりますが「どのような項目が対象経費に当たるのか」ということが疑問に上がります。今回はその「ものづくり補助金」がどのような企業に当てはまり、どのような項目が補助金対象であるかを紹介したいと思います。

ものづくり補助金の対象となる事業者

「ものづくり補助金」を受けるためにまずは自分の企業が対象であるかを把握する必要があります。ものづくり補助金の対象は、以下の2つの条件を満たしている事業者です。

①日本国内に本社、事業所がある会社

「ものづくり補助金」の補助対象者は、日本国内に本社、事業所がある会社が対象です。

②中小企業(小規模事業者)

業種によって、中小企業か小規模事業者なのかという定義は異なりますが、業種、資本金、常勤する従業員数、製造業、建設業、運輸業等の決まりが存在します。

業種 資本金 従業員数(常勤)
製造業、建設業、運輸業 3億円 300人
卸売業 1億円 100人
サービス業
(ソフトウェア業、情報処理サービス業、旅館業を除く)
5000万 100人
小売業 5000万 50人
ゴム製品製造業
(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く
3億円 900人
ソフトウェア業又は情報処理サービス業 3億円 300人
旅館業 5000万 200人
その他の業種(上記以外) 3億円 300人

ものづくり補助事業公式ホームページ参照

 

「ものづくり補助金」の対象経費とは?

実は、「モノづくり補助金対象経費」は10項目に分かれています。代表的な例を挙げると「機械装置の導入」により生産性を上げるという方法。これは、誰しもが知っている補助金対象経費ですが、他にはどのような方法があるのか紹介したいと思います。

1.機械装置・システム構築費

ものづくり補助金に応募する企業のほとんどが「機械装置の購入」「システム導入」を目的としています。補助事業のために使用される機械・装置、工具・器具(測定工具・検査工具、電子計算機、デジタル複合機等)の購入、製作、借用に概要する経費が対象となります。

システム構築費に関しては、補助事業のために使用される専用ソフトウェア・情報システムの購入・構築、借用に要する経費が対象となります。また、両内容同時に進めていく場合も対象です。よく問題に上がるのが、自社で機械装置を製作する場合や中古設備を購入する場合です。こちらも対象にはなりますが、中古品の場合は3社以上の相見積もりが必要になるなどの条件も存在します。機械装置・システム構築費以外の経費の補助上限額は500万円です。

2.技術導入費

知的財産権の導入に要する経費です。補助対象経費の3分の1が上限となり、技術導入費を支出した相手方に、「専門家経費」「外注費」を支払うことはできないので注意が必要です。

3.専門家経費

事業を行うために依頼した専⾨家に⽀払われる経費が補助されます。謝金単価や旅費については金額ルールがあり、大学教授、弁護士、弁理士、公認会計士、医師の場合は1日5万円以下。大学准教授、技術士、中小企業診断士、ITコーディネーターは1日4万円以下。価格の妥当性を示すため複数の見積書を取り、上限額が1日5万円となっています。旅費のルールとしては、全国中小企業団体中央会が定める「旅費支給に関する基準」に従う必要があります。対象経費総額の2分の1が補助対象となります。

4.運搬費

運搬料、宅配、郵送料等に関する経費です。

5.クラウドサービス利用費

クラウドサービス利用に関する経費が対象となります。補助対象期間中のクラウドサービス利用に関係する、月額利用料、ルータ使用料、プロバイダ契約料、通信料は補助対象となりますが、ホームページ制作費、サーバー購入費・サーバー自体のレンタル費や、パソコン、タブレット端末、スマートフォンなどの本体費用は対象外です。

6.原材料費

試作品の開発に必要な原材料や資材の購⼊経費が対象となります。基本的に補助事業終了までに使い切るのが原則となり、購入は必要最小限のみです。補助事業終了時点で使用できていないものは補助対象外となります。受払い簿での管理が必須であり、原材料の受払いを明確にしておきます。加工に失敗したものは保管することが決まりとなっており、保管が困難な物については写真撮影による代用も可能です。

7.外注費

新製品・サービスの開発に必要な加⼯やデザイン、検査等の⼀部を外注(請負、委託等)する場合の経費が対象です。しかし、外注先が機械装置を購入する場合はや、外注先との書面契約が必要となります。外注費を計上した相手方に「技術導入費・専門家経費」を支払うことはできないなど、細かなルールがありますので注意が必要です。対象経費総額の2分の1が補助対象となります。

8.知的財産権等関連経費

特許権等の知的財産権等の取得に必要な弁理⼠の⼿続代⾏費⽤等、特許出願に係る費用が補助対象になります。補助対象経費総額の3分の1が上限です。

9.広告宣伝・販売促進費

コロナ対応の特別枠でのみ使用できる経費になります。補助事業で開発する製品・サービスにかかる広告経費です。主な内容としてはパンフレットの作成や媒体への掲載、展示会出展、セミナー開催などです。補助事業期間内に広告が使用、掲載され、展示会が開催されることが条件です。また、出張旅費、交際費は対象外となります。

10.感染防止対策費

補助事業実施のために必要な業種別ガイドラインに基づいた感染拡大予防のための経費です。上限は50万円で消毒液、マスク、フェースシールドといった物が対象となります。

以上がものづくり補助金の対象経費です。

この中でも、「機械装置・システム構築費」で申請する企業は多いですが、あまり活用されていない対象経費も存在します。どの項目で申請を掛けるか決定する前に、どの項目でよく申請され、事例が多く存在しているかを把握しておくと参考にしやすいと思います。

モノづくり補助金総合サイト

注意が必要な「ものづくり補助金対象外経費」4選

対象になる経費を把握すると同時に、対象にならない経費があることを知る必要があります。「項目以外のこと」という認識でも間違いではありませんが、申請後に対象外だと気づき予算オーバーという問題になるケースも考えられるので注意が必要です。その中でも対象外経費として必ず理解しておく4つを紹介します。

「消費税や地方消費税」

消費税や地方消費税額は補助対象外となります。高額な設備を投資することで税金もかかります。

【例】¥10,000,000×税=¥11,000,000 税分¥1,000,000

補助率とは別に税金がかかりますので税分の¥1,000,000はそのまま上乗せされます。その為、¥5,000,000の補助が出た場合自社負担¥5,000,000+¥1,000,000(税分)=¥6,000,000が自社負担になります。

「設備設置に対する整備工事、基礎工事」

設備を設置する為に、設置場所の基礎工事が必要になる場合があると思います。また、設備を設置する為に、場所を広げたり、屋根を設置したり、整備する為の工事費用は補助の対象外となります。

「パソコン、スマートフォン、タブレットなど」

パソコンやスマートフォン、タブレットは原則補助の対象外となります。汎用性が高く補助事業以外にも使用できるという点が補助対象外の理由となります。しかし、設置した設備の管理や、運転に使用するだけのものや、設備と組み合わさっている物の場合は補助対象となる可能性があるので「原則対象外」となっています。

「自動車や不動産」

不動産の購入費は対象外です。また自動車も基本的に対象外になりますが、公道を走ることを目的としていないものであれば対象になることもあります。使用する為の修理費や車検費用は補助対象外となります。

ものづくり補助金は、原則「後払い」になります。対象経費に目が行きがちですが、規模の大きい設備を導入する際は、それに伴うランニングコストや税金が大きく発生しますので、対象外経費をしっかり把握し申請することが必要です。

以上が「ものづくり補助金」の対象事業者、対象経費と対象外経費の紹介です。新しい設備やサービス、販売方法を取り入れることで会社が大きく飛躍することが想像できます。しかし、補助金を申請する労力含め、補助金対象外経費にも目を向ける大切さがあります。審査は原則として書面のみで行われます。ちょっとした漏れが不採択や企業を苦しめてしまう原因にも繋がりますので、公募要領をしっかり読み込み、補助金を有効に活用することをおすすめします。

リーンスタートアップから考える、中小製造業の製品開発

テクノポートの井上です。最近は受託加工を主とする製造業の会社が製品開発を行い、自社製品を販売することも増えてきました。製品開発はしたいけどなかなか良いアイディアが浮かばない、アイディアはあるけどどう製品開発を進めればよいかわからない等、途中で止まってしまうケースも多いのではないでしょうか。今回は製品開発の手法として「リーンスタートアップ」について、製造業の具体的な製品開発の方向性も踏まえ紹介いたします。

リーンスタートアップとは

リーンスタートアップとは、コストをかけずに最低限のサービス・機能を持った試作品を短期間で作成し、顧客の反応を製品開発の中に取り入れ、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法です。リーンスタートアップは、通常の仮説検証型やPDCAサイクルと同じように見えますが、他との違いは、顧客の声を早い段階で製品開発に反映させることで「顧客不在」のリスクを防ぐことに重視しているという点です。必要最低限のものでまずは市場に投入し、その反応から正確な顧客のニーズを確認、そこから製品開発につなげるという考え方です。じっくり時間をかけて市場調査を行い、満を持してローンチをするよりも、短期間で検証することでコストと顧客不在のリスクを抑えた、スタートアップ向けの手法と言えます。

おおまかな流れは以下のとおりです。

構築

顧客が欲しいものの仮説を立て、製品やサービスのアイデアを形にします。「MVP(minimum viable product)」と呼ばれる必要最低限の機能やデザインを備えた試作品を作成します。

計測

開発した試作品を実際のユーザー、特に新たな製品やサービスを早い段階で受け入れ、他の消費層へ影響を与える「アーリーアダプター」と呼ばれる層へ提供します。

計測ポイント

  • 「ユーザーの抱える課題を解決できているか」
  • 「提供すべき機能が実現できているのか」
  • 「本当にほしいと思える製品か」
  • 「いくらなら欲しいと思うか」

などを検証していきます。

学習

計測されたデータやユーザーの反応から、

  • 「改良すべき点は何か?」
  • 「このまま開発を続けるべきか?」
  • 「方向転換を行うべきか?」

を見極め、顧客に受け入れられるものにしていきます。

この3つを短期間で繰り返し、ユーザーに受け入れられる製品・サービスへと展開させていきます。

リーンスタートアップのメリット

  • MVPにより、余分なコストを削減できる
  • リリースまでの期間を短縮できる
  • フィードバックを早く次に繋げられる(需要次第で市場の変更や撤退も含め検討できる)

リーンスタートアップのデメリット

情報拡散のスピードが近年圧倒的に早まっていることがデメリットになりえます。

例えば、一般消費者の関心が強い商品やサービスの場合、初期段階で消費者の評判が一気に拡散してしまい、その不評を引き継いだままのイメージが確立され、その後の改良した製品においても悪いイメージを払拭できない場合があります。

リーンスタートアップをもとに製品開発の相性を考える

リーンスタートアップは製品開発のプロセスの中に顧客のニーズを組み込むことで、早い段階で需要を見定め生かすことに重きを置いています。昨今では、SNSの台頭や、クラウドファンディングなど、より早くユーザーのニーズをキャッチできる世の中になりました。ものづくり企業が積極的にユーザーの声を聞き、迅速に製品開発を行うチャンスがあるのではと考えています。製品開発ができそうないくつかの可能性について紹介します。

規格製品からのカスタムオーダー化(ニーズの多様化に応えるサービス化)

市場のニーズが多様化する中で、そのニーズを正確に捉えることは困難な時代です。そのため大量生産された既製品では、満足できないケースが増加、セミオーダーでの自分に合った化粧品製作や、テーラーメイド医療と呼ばれるような個人個人に合わせた医療も間近と言われています。オーダーメイドと言っても「金属の金物をオーダーでなんでも作ります」ではなく、より具体的な製品まで照準を絞った形でのオーダー対応が考えられます。

  1. 自分の手の形状に完全に合ったボールペン。
    (金型保管により、何個でも追加オーダー可能なサービス)
  2. 無くしても大丈夫。結婚指輪の型取り保管サービス など

産業用分野のオーダー製品からの規格化(自分がユーザー系1)

製造業では工場の生産効率を上げるために、自動機、専用機、治具等を、内製もしくは外注にて製造することが多いと思います。最終ユーザーが、自社やそれに近い業種のため、ユーザーのニーズを汲み取りやすい領域と言えます。需要の増えそうなものや、良く出る系統を分析し、ニーズの高いものを規格化することで製品化へつなげられる可能性があると考えられます。需要は少ないかも知れませんが、他の業種から参入されるケースは少ないため、競合が少ないのも良い点です。わざわざ大手が入るほどではない市場が眠っているかも知れません。

趣味業界での製品化(自分がユーザー系2)

趣味はオススメです。欲しい人はいくら高くても欲しい、強烈なニーズがあります。個人的な意見ですが、出来れば避けたいのは生活必需品、日用品系です。競合が非常に多く、製品化しても売れる製品はすぐに類似品が出てきます。皆さん使うので、アイディアは集まりますが、製品化となると厳しいのではと思います。

製品開発のきっかけについてですが、社員の皆さんに趣味を深堀りするのはいかがでしょうか?趣味への愛情の深い人がいれば、その人が抱えている困り事やあったらいいなに耳を傾けてみると良いと思います。ユーザーの意見を反映させやすくなります。

  1. 間接キスは過去のモノ!だれが吹いても安心のチタン製抗菌ホイッスル
  2. 金属アレルギーを克服!金管楽器のチタンマウスピース

いかがでしたか?今回はリーンスタートアップと、その考えをもとに製品開発ができそうな方向性について紹介しました。この業界に携わっている人なら一度は自社製品を作りたいと考えている人は多いはずです。参考になれば幸いです。

せっかくの秘密保持契約(NDA)が水の泡となるケース

中小企業専門の弁理士の亀山です。2020年10月をもって、7年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回の記事(自社技術を提案する際に気を付けたいこと)では、自社の技術を提案する際、提案前の特許出願や秘密保持契約を検討して欲しい点についてお話しました。今回は、秘密保持契約書において、中小企業において「ありがちな失敗例」をご紹介したいと思います。

上場企業から問い合わせが来た!

技術部長:凄いことが起きました。上場企業I社からの問い合わせが入ったんです!まさか、うちのような企業が大企業から声がかかるだなんて・・・

かめやま:おお~!それはチャンスですね!問い合わせの内容はどのようなものですか?

技術部長:現在検討している新規プロジェクトで、とある問題が起きているらしく。で、うちのホームページを見たところ、オリジナル商品の素性から、うちの技術力が使えそうなので、相談したい!とのことです。

かめやま:なるほど。どの商品ですか?

技術部長:商品Eです。たぶん、この製造技術に関心があると思います。

かめやま:こちらは、構造について特許出願を済ませておりましたが、製造技術については、ブラックボックス化するために、特許出願を出さなかった案件ですね。

技術部長:はい。

かめやま:I社との打ち合わせはこれからですか?

技術部長:はい。

かめやま:では、次のようにして、打ち合わせを進めてください。

  • アドバイス1:相手方の要求やその背景を把握する。
  • アドバイス2:製造技術の開示は、いつごろ必要になるか?の目途を立てる。
  • アドバイス3:(相手からどんなに急がれても)製造技術の開示の前に秘密保持契約を締結してほしい。

そして、その結果、K社の秘密保持契約書(ひな形)を使って、秘密保持契約を締結しました。

秘密保持契約の締結後

秘密保持契約の締結後、K社の技術部長より、うれしい報告を受けました。

技術部長:2回目のアポイントがとれました!1回目の打ち合わせでは、I社の部長の反応が良かったため、期待が持てそうです。

かめやま:それは、よかったですね。2回目の打ち合わせでは、サンプルや技術資料等を見せる予定ですか?

技術部長:はい! 現在の商品と、その製造方法に関する技術資料です。

かめやま:(技術資料等を見ながら)現在の商品はすでに販売しているので、秘密情報ではありませんね。しかし、この技術資料は、製造方法について少し触れている部分があるため秘密情報になりますよね。

技術部長:はい。

かめやま:この部分を削ることができますか?

技術部長:いいえ。ここを開示しないと、先方も理解できないと思います。

かめやま:そうなると、この技術資料は開示が必須となりますよね。

ここまでは良かったのですが・・・

かめやま:ところで、この技術資料に「社外秘」という表示が付いていないですが、このまま開示する予定ですか?

技術部長:ええ。問題ありますか?

かめやま:技術資料に、「社外秘」が表示されていないですよ。

技術部長:え? それって、何か意味あります?

かめやま:このままだと、先日締結した秘密保持契約による保護を受けられません。

技術部長:あれれ?おかしいな~。「製造技術=秘密情報」ではないのですか?

かめやま:では、秘密保持契約書を一緒に見てみませんか?

技術部長:はい。ええと「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」と書いてあります。

かめやま:そうですよね。今回の秘密保持契約における「秘密情報」としては、次の3つの条件をすべて満たす必要があります。

  • 条件1:K社が開示した情報
  • 条件2:書面等の有体物として開示した情報
  • 条件3:秘密情報として明示した情報

技術部長:あぁ。なるほど。このままだと、条件3を満足しないのですね。これだと、秘密情報として守ってもらえないし・・・だから、自由に利用されてしまう。

かめやま:そうです。

技術部長:危なかったです。事前に相談しておいてよかったです。

かめやま:ほかの資料やサンプルを開示する場合も、製造技術に関わるものは「社外秘」を付けるようにしてください。もちろん、開示する情報は、I社の採用検討に最低限の範囲でお願いします!もし、心配であれば、事前に見せてくださいね。

技術部長:そうします!

秘密保持契約でチェックしたい事項

今回、秘密保持契約において最低限チェックしたい事項は次の3点です。

  1. 文言「秘密情報の第三者開示を禁止する」が入っているか否か
  2. 文言「秘密情報の目的外使用を禁止する」が入っているか否か
  3. 契約書上の秘密情報について

それぞれについてみてきましょう。

文言「秘密情報の第三者開示を禁止する」が入っているか否か

「開示した情報を、第三者に無断開示することを禁止する」というものです。K社の技術情報を秘密情報として守ってほしいため、当然といえば当然ですね。

文言「秘密情報の目的外使用を禁止する」が入っているか否か

今回の秘密保持契約の目的は、「I社がK社保有の技術を採用するか否かの判断のために情報開示する」と書いてありますよね?。これにより、I社は、K社から開示された情報を「自社採用するか否かの判断材料として利用できる」ものの、「自社の課題解決のための利用することはできなくなります」。

※もちろん、I社に対し情報開示する範囲も、製造技術の「採用の判断」に必要なものに止めることが前提になります。

契約書上の秘密情報について

「秘密情報の第三者開示を禁止する」文言も入っているし、「秘密情報の目的外使用を禁止する」文言も入っている。これなら安心!といきたいところですが、もう1つ。大切なチェックポイントがあります。それが、秘密情報の定義です。

秘密情報の定義

通常、秘密保持契約書には、秘密情報の定義がされています。秘密情報の定義として、よくあるパターンは次の通りです。

  • パターン1 開示した情報の全て
  • パターン2 開示した情報のうち、秘密情報と明示したものに限る
  • パターン3 開示した情報のうち、秘密情報として書面等の有体物に明示したものに限る

秘密情報の定義は、情報管理の実現可能性から検討する

秘密情報の定義として、いずれのパターンが良いかはケースバイケースです。例えば、情報を開示する側からすれば、「開示したものは全て守ってほしい」ということで、パターン1を選びたくなります。一方、情報を受領する側からすれば、「開示された全ての情報を秘密情報として管理することは、手間もかかるので、事実上不可能」ということで、パターン2や3のように、秘密情報の範囲を限定するケースが多いです。

このように、「情報を出す側と」「情報を受け取る側」の情報管理のリソースを考慮し、実現可能なレベルを設定する必要があります。

※決して、実現できないレベルで締結しないでください。

「秘密保持契約が水の泡」とならないようにするために気を付けたいこと

I社に情報開示の際、「I社との秘密保持契約にて定義された”秘密情報”ってどんなものだったけ?」と思いながら、心配な場合には、「秘密保持契約」を見ながら、開示する書類やサンプルの用意をしてください。

今回の秘密保持契約では、お互いに、秘密情報を受け渡しすることから、「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」としました。この場合には、開示する書類やサンプル等について、3つの条件を満足しているか否かを1つひとつチェックする必要があります。

  • 条件1:K社が開示した情報
  • 条件2:書面等の有体物として開示した情報
  • 条件3:秘密情報として明示した情報

そして、この3つの条件のうち、1つでも満足しないまま情報開示を行ってしまうと、冒頭で述べた事例のように、折角の秘密保持契約が水の泡となりかねません。

まとめ

(1)秘密保持契約でチェックすべき事項

  1. 「秘密情報の第三者開示を禁止」が入っているか
  2. 「秘密情報の目的外使用を禁止」が入っているか
  3. 「秘密情報」は、どのように定義されているか?

(2)ありがちな失敗例は、秘密保持契約書にて定義された「秘密情報」から外れてしまった情報の開示行為

例えば、「秘密情報は、開示した情報のうち、書面等の有体物に対し秘密情報と明示したものに限定される」にもかかわらず、

  • 開示文書に秘密情報を明示していなかった(「秘密情報の明示」という条件を満足していなかった)。
  • 口頭のみで秘密情報を明示してしまった(「書面等の有体物による開示」という条件を満足していなかった)。

といったことが良く起こります。

(3)情報開示する際、開示する情報の範囲は、契約の目的を考慮して必要最低限にとどめること。

(4)開示する情報を守るべく、秘密保持契約書上の”秘密情報”の定義を理解すること。

(5)開示する情報のうち「相手方に守ってほしい情報」については、秘密保持契約書上の”秘密情報”に該当するようチェックすること。

秘密情報は、相手方に一度開示してしまったあとでは取り返しがつきません。自社技術を提案する際には、事前に、お近くの専門家にご相談ください。

技術を蓄積するマニュアル作成1.マニュアル作成のための時間確保

現役エンジニアで製造業系ライターをしている一之瀬です。『技術は人に伝えられる形にして初めて技術と呼べる』をモットーに、エンジニアの業務では先行開発から量産開発まで幅広く関わりながらその技術を残す活動をしています。

技術を扱う企業が成長していくためには、生み出された技術が引き継がれていく必要があり、マニュアルや作業手順書は技術を伝達する手段として有効です。一方で、マニュアルを作る時間がなかったり、使われるマニュアルの作り方が分からなかったりで、多くの企業で口頭のみで伝わっている技術があるでしょう。この連載では、どうすれば使われ続けるマニュアルや作業手順書を効率的に作れるのかを、私の経験を元に紹介していきます。

マニュアル作成の時間を確保する

マニュアル作成において大きな課題になるのが、マニュアルを作成するための時間を確保することです。

  • 同じ作業をこなせる人材を増やすため
  • 作業者によるばらつきをなくし、品質を高めるため
  • 作業を見える化し改善するため

マニュアルが必要な理由は十分に理解していても、マニュアルを作成する時間が確保できずにそのままの状態で仕事をしてしまっている人は多いでしょう。マニュアルを作成する時間を確保するために、次の2点を試してみてはいかがでしょうか?

  1. マニュアル作成によるうれしさを数値化する
  2. マニュアルの作成を教わる側に任せる

それぞれ解説します。

マニュアル作成のうれしさを数値化

担当者はマニュアルの必要性を理解していても上司が理解しておらず、マニュアル作成の時間を確保できない場合があります。そのような場合には、マニュアル作成による効果を数値化する必要があります。私が働く会社では各部に対して、業務効率をどれだけ改善できたか数値で示す必要があります。マニュアルを作成することで業務効率を改善できる場合には数値で示すことで、マニュアル作成のための時間や予算を確保できます。

数値化をする際には、例えば次のように「時間」もしくは「金額」で表現するのがポイントです。

  • 10時間で作成できるマニュアルで、教育時間が1人当たり5時間、10人で50時間削減できる。
  • 20時間(時間単価をかけると約10万円)で作成する作業手順書で、不良発生率が10%下がり年間で200万円程度費用を抑えられる。

このように数値化すれば、そのマニュアルが有効であることは明らかです。大体作成に何時間(何円)かかり、それを作ると何時間(何円)削減できるのかを明確に表現すると良いでしょう。

マニュアル作成を教わる側に任せる

マニュアル作成のうれしさを数値化できたとしても、仕事が忙しすぎてどうしても時間を確保できない場合があります。その場合には、マニュアルを作成する人は、教えられる人に限定する必要はありません。

私の職場では、特定の人に対して専門性の高い業務が集中する傾向があり、他の人がその仕事をできるようになる必要があります。しかし、集中している業務をこなすのに忙しく、マニュアルを作成する時間がありません。このような場合には、マニュアルを作成できる知識や経験がある人が業務を引き継ぐ人に一度教え、その人が教育の一環として作るのも良いでしょう。マニュアル作成を通して引き継ぐ人の理解も深まり、教える人の時間をそれほどかけずにマニュアルを完成させられます。

集中していた負荷を分散させることに加え、他の人の目が入ることでより効率の良い業務の進め方をマニュアルにできる可能性もあります。

マニュアル作成の第一歩は時間確保

作業を効率化したり、負荷分散をしたりするためにマニュアルを作成しようとしても、そもそも時間を確保できないという課題があります。その解決方法として、今回は次の2点を紹介しました。

  1. マニュアル作成によるうれしさを数値化する
  2. マニュアルの作成を教わる側に任せる

次回は、せっかく作ったマニュアルが使い続けられるように、常に最新版にアップデートされるような仕組みづくりについて紹介します。

技術を蓄積するマニュアル作成1.マニュアル作成のための時間確保

現役エンジニアで製造業系ライターをしている一之瀬です。『技術は人に伝えられる形にして初めて技術と呼べる』をモットーに、エンジニアの業務では先行開発から量産開発まで幅広く関わりながらその技術を残す活動をしています。

技術を扱う企業が成長していくためには、生み出された技術が引き継がれていく必要があり、マニュアルや作業手順書は技術を伝達する手段として有効です。一方で、マニュアルを作る時間がなかったり、使われるマニュアルの作り方が分からなかったりで、多くの企業で口頭のみで伝わっている技術があるでしょう。この連載では、どうすれば使われ続けるマニュアルや作業手順書を効率的に作れるのかを、私の経験を元に紹介していきます。

マニュアル作成の時間を確保する

マニュアル作成において大きな課題になるのが、マニュアルを作成するための時間を確保することです。

  • 同じ作業をこなせる人材を増やすため
  • 作業者によるばらつきをなくし、品質を高めるため
  • 作業を見える化し改善するため

マニュアルが必要な理由は十分に理解していても、マニュアルを作成する時間が確保できずにそのままの状態で仕事をしてしまっている人は多いでしょう。マニュアルを作成する時間を確保するために、次の2点を試してみてはいかがでしょうか?

  1. マニュアル作成によるうれしさを数値化する
  2. マニュアルの作成を教わる側に任せる

それぞれ解説します。

マニュアル作成のうれしさを数値化

担当者はマニュアルの必要性を理解していても上司が理解しておらず、マニュアル作成の時間を確保できない場合があります。そのような場合には、マニュアル作成による効果を数値化する必要があります。私が働く会社では各部に対して、業務効率をどれだけ改善できたか数値で示す必要があります。マニュアルを作成することで業務効率を改善できる場合には数値で示すことで、マニュアル作成のための時間や予算を確保できます。

数値化をする際には、例えば次のように「時間」もしくは「金額」で表現するのがポイントです。

  • 10時間で作成できるマニュアルで、教育時間が1人当たり5時間、10人で50時間削減できる。
  • 20時間(時間単価をかけると約10万円)で作成する作業手順書で、不良発生率が10%下がり年間で200万円程度費用を抑えられる。

このように数値化すれば、そのマニュアルが有効であることは明らかです。大体作成に何時間(何円)かかり、それを作ると何時間(何円)削減できるのかを明確に表現すると良いでしょう。

マニュアル作成を教わる側に任せる

マニュアル作成のうれしさを数値化できたとしても、仕事が忙しすぎてどうしても時間を確保できない場合があります。その場合には、マニュアルを作成する人は、教えられる人に限定する必要はありません。

私の職場では、特定の人に対して専門性の高い業務が集中する傾向があり、他の人がその仕事をできるようになる必要があります。しかし、集中している業務をこなすのに忙しく、マニュアルを作成する時間がありません。このような場合には、マニュアルを作成できる知識や経験がある人が業務を引き継ぐ人に一度教え、その人が教育の一環として作るのも良いでしょう。マニュアル作成を通して引き継ぐ人の理解も深まり、教える人の時間をそれほどかけずにマニュアルを完成させられます。

集中していた負荷を分散させることに加え、他の人の目が入ることでより効率の良い業務の進め方をマニュアルにできる可能性もあります。

マニュアル作成の第一歩は時間確保

作業を効率化したり、負荷分散をしたりするためにマニュアルを作成しようとしても、そもそも時間を確保できないという課題があります。その解決方法として、今回は次の2点を紹介しました。

  1. マニュアル作成によるうれしさを数値化する
  2. マニュアルの作成を教わる側に任せる

次回は、せっかく作ったマニュアルが使い続けられるように、常に最新版にアップデートされるような仕組みづくりについて紹介します。

ものづくり補助金の採択されやすい申請書の書き方ポイント3選

ものづくり系取材ライターの羽田野です。

コロナ禍による被害拡大を防止するために、さまざまな経済対策が打ち出されました。助成金や補助金もその経済対策の1つとして行われています。資金に余裕のない中小企業にとっては非常にありがたい存在の補助金や助成金ですが、積極的に活用しようとする企業はまだまだ少ないようです。

なぜ、活用しないのか?

理由として上げられるのが

  • 「申請書類の手続きが複雑なイメージ」
  • 「返済義務があると聞いたことがある」
  • 「どんな項目に当てはまるのかが分からない」

といった反応を返す方が多くいるようです。それらのことを踏まえ、今回は「ものづくり補助金の採択されやすい申請書の書き方」について解説したいと思います。

申請書類記載の3つのポイント

① 審査項目の内容を盛り込む

審査項目は補助金、助成金ごとに記載項目が指定されています。企業としてふさわしい行いをしているか、その課題は実現可能なのか、数年後には売上が上昇するのか。それらの内容を確認し、点数を付けていきます。いくらよい内容で記載されていても、審査項目に対し回答できていなければ点数が付かないことを把握する必要があります。

② 内容の実現を客観的に見ることができているのか。

この設備の投資に意味があるのか、数年後には売上が上昇する理由などを確認します。実行したい内容に対し、理論付けし、信用性を高めます。

③ 審査員に分かりすいように記載する必要がある。

審査員は中小企業診断士、税理士、企業コンサルに携わる経営を中心とした考えを持つ人物であると予測されます。自社の技術的な専門用語は基本的にNG。審査員はその分野の専門家ではありません。審査員に理解できる内容、言葉に言い換えて記載することが重要です。また、審査員は多くの企業の申請書類に目を通しています。心理的に、文字よりも図、表、グラフ、写真を多く使用する事で分かりやすさを心がける必要があります。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

2009年にスタートした制度で、生産性向上を目的とした革新的な取り組みに対し、最高1億円の補助金が交付される項目もあります。以下、中小企業において有効的に活用できる補助金ということもあり、申請書作成ポイントを押さえつつ紹介したいと思います。

「ものづくり補助金とは」

経営革新と生産性向上がテーマとなっている補助金です。経営革新とは新商品や新サービスの開発、生産プロセスの開発がメインとなり、生産性の大幅向上に対する取り組みに支援するものです。補助上限額は最大1億円となっており、公募要項が3つに分かれています。

① 「一般型」ものづくり補助金

新しい製品・サービスの開発など、生産方法やサービス提供方法の改善につながる設備・システム導入が補助対象とされます。
補助金額上限1,000万円

② 「グローバル展開型」ものづくり補助金

海外事業の拡大・強化のための設備導入が補助の対象となります。
補助金額上限3,000万円

③ 「ビジネスモデル構築型」ものづくり補助金

中小企業を支援する、大企業対象ものづくり補助金。
補助金額上限1億円

補助率は原則1/2。補助対象経費の1/2が補助され、一般型・グローバル展開型応募の小規模事業者は2/3になっています。「ものづくり補助金」の対象経費は決まっており、基本的に設備投資(機械装置費用)費用です。人件費や販促費などは対象にならないので注意が必要です。「ものづくり補助金」は、純粋な製造業だけでなく、「革新的なサービス開発」も補助対象として含まれています。新規事業(WEBシステム開発)についての申し込みなど幅広く対応しており、多くの企業にチャンスがある補助金と言えます。

詳しくは「ものづくり補助金総合サイト」を参照ください。

「ものづくり補助金」の注意点、採択される申請書の記載方法

ものづくり補助金は電子申請になります。Webフォームに事業計画書を入力し、需要部分(審査対象となる事業計画書)はPDF添付が必須です。採択されるポイントは電子申請のWebフォームに、必要事項を確実に記載することです。審査項目を読み込み、審査員に納得感を持たせる必要があります。また、公募要領を読むと、ルール(10枚まで等)が記載されているのでミス・記載漏れがないように書くことが採択への条件となります。

「ものづくり補助金」審査のポイント

技術面、事業化面、政策面の3項目に分かれています。

  • 「技術面」  取り組んでいる内容の技術的な課題や解決方法を説明します。
  • 「事業化面」 どのように販売促進の方向性を説明します。
  • 「政策面」  申請企業の取り組みが、国の政策と合致していることを説明します。

この項目が大枠となり各項目から枝分かれし、計12点(1点はコロナウィルス特別枠)の審査ポイントがあります。

審査項目で重要な「革新性」

その中でも技術面の中にある審査項目「革新性」が重要視されています。革新性とは「自社になく、他社でも一般的ではないもの」という点。(参考:ミラサポPlus

他社でも、一般的ではないものと聞くとハードルが上がりますが、最先端技術や、日本初といった内容である必要はありません。既存の技術を活用しつつ、製品や生産プロセスに変化を求めています。中小企業庁の目的として掲げられていることは「経営革新支援」です。「ものづくり補助金」という制度を利用し、「中小企業の経営革新を促進したい」という思いが、行政の意図であることを組み取る必要があります。「売上が低いため設備を新しく」という内容では採択される可能性は限りなく低くなるでしょう。

「ものづくり補助金」加点項目・減点項目

「ものづくり補助金」では、審査項目(基礎項目)以外にも「加点項目」というものが存在します。ものづくり補助金のように、全員が受け取ることができない補助金は競争に勝ち抜き、他社よりよい評価を得る必要があるため、基礎項目だけでなく加点項目に注目することで採択率を高めることができます。

「ものづくり補助金」の加点項目

成長性加点

成長性として、経営革新計画の承認(申請中を含む)を得ていると加点されます。経営革新計画は、中小企業が「新事業活動」に取り組み、「経営の相当程度の向上」を図ることを目的に策定する中期的な経営計画書のこといい、国や都道府県に計画が承認されると様々な支援策の対象となります。ものづくり補助金でも中期的な経営計画を作成するので、経営革新計画の承認を得ていない事業者は、経営革新計画の申請を同時に行うことをおすすめします。

政策加点

小規模事業者や創業・第二創業後間もない企業(5年以内)は加点されます。中小企業という括りで、会社の規模は様々です。大手の中小企業だけでなく、小規模事業者や事業を行って期間の短い企業にも「ものづくり補助金」を活用してもらえるよう、政策加点として加えられている項目です。

災害加点

新型コロナウィルスや台風等で各地は大きな被害受けました。そうした被害を受けた企業が「ものづくり補助金」を活用して、事業を立て直し発展させていくために、

  • 「新型コロナウイルスの影響を受けて、サプライチェーンの毀損等に対応するための設備投資等に取り組む事業者」
  • 「令和元年度房総半島台風(台風15号)等及び令和 元年度東日本台風(台風19号)の被災事業者(激甚災害指定地域に所在する者に限る)
  • 「有効な期間の事業継続力強化計画の認定を取得した(取得予定の)事業者」

のいずれかが適用されることを証明すれば加点されます。また、今後起こりうる大規模災害が発生した際に、事業を継続し地域経済への影響を最小限に食い止め、事業継続力強化計画の認定(申請中を含む)を取得した企業へも加点があります。事業継続力強化計画とは、中小企業が自社のリスクを認識し災害発生時の防災・減災についてあらかじめ策定した計画です。

賃上げ加点等

企業の利益が増えていくだけではなく、従業員の給料が増え、消費が増加していくことを国は重要視しています。加点対象となる賃上げとは、事業計画期間において、給与支給総額を年率平均2%、又は3%以上増加させる計画があることを、従業員に表明していることが必要条件となります。また、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+60円、又は+90円以上の水準にする計画があり、こちらも従業員に表明していることで加点となります。賃金の引上げ幅に応じて段階的に加点され、大きく賃上げを計画した方が加点も大きくなります。

「ものづくり補助金」の減点項目

公募要領には、「過去3年間に、類似の補助金の交付決定を受けていた場合、交付決定の回数に応じて減点」と記載されています。この減点措置が、採択結果に大きな影響を与えてはいないようです。あくまでも減点であり、採択される申請書の内容が重要であるようです。

国が見据える「製造業への期待度」

2020年実施の「ものづくり補助金」では、例年と異なり、通年で公募が行われ、5次締切(令和3年2月頃)まで行われることが決定しています。その点を踏まえると、国から製造業への期待度が感じ取れます。多くの企業が当てはまる項目となる一般型は、最高1000万円の補助金が交付される魅力的な補助金です。しかし、機械装置などの設備投資には費用やリスクが発生します。そんな事業者にとっては、補助金をうまく活用すれば大きなメリットが生み出しますが、投資リスクをゼロにすることはできません。リスクを認識し、ものづくり補助金を得るメリットと申込書類準備にかかる負担や採択後の事務負担を考え判断し、申請することをおすすめします。

いかがでしょうか。

ものづくり補助金というものが、どのようなものであるかをご理解いただけましたでしょうか。今回はものづくり補助金にフォーカスし紹介しましたが、国、都道府県、市町村、さまざまなところで補助金の情報が発信されています。まずはウェブサイトでキーワード検索を繰り返し、情報収集することで自分に適したものを選び出すことから始まります。また、補助金を利用したことのある人に相談し、自分にあった補助金を見つける方法もおすすめです。地道な作業にはありますが、補助金を活用することで、自社の経営をより円滑に行うことができるようお役立ていただければ幸いです。

自社技術を提案する際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、自社の技術を提案する際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

自社の技術を提案する際のリスク

自社の技術を提案する際、どのようなリスクが考えられるでしょうか?それは、相手企業が自社技術を理解してしまうことです。

自社技術が部品の構造であれば、部品の構造を相手企業に見せてしまうと、相手企業はその構造に関わる技術を理解してしまいます。また、自社技術が製造技術であれば、製造現場や製造装置を相手企業に見せてしまうと、相手企業はその構造に関わる技術を理解してしまいます。そして、部品の構造や製造装置や製造現場を相手企業に見せてしまうと、理解を通して、相手企業も自社と同じような技術を、あるいはそれに近しい技術を持つこととなってしまいます。

その結果、相手がその技術を利用して、自社と同じような商品やサービスが再現できてしまうと、自社の技術的優位性がなくなってしまう場合も多いです。したがって、自社の技術を提案する際のリスクとして、「相手企業が、理解した技術を利用して、自社と同じ商品やサービスを模倣(再現)する」というリスクがあります。技術で収益を立てているモノづくり企業にとっては無視できないリスクですね。

模倣防止リスク対策は非常に悩ましい

「相手企業が再現できる程度に自社の技術を理解してしまうこと」を回避するためにはどうすればよいでしょうか?そのためには、自社の技術を見せないことです。簡単ですね?しかし、これも問題があります。「自社の技術に興味のある相手企業」に対して、自社の技術を全部見せないまでも、全く見せないままでは、商談が進みません。商談は進めたい。しかし、商談を進めるために、技術を開示すると、自社の技術を模倣リスクが生まれてしまう。

商談を優先したいが、模倣リスクは回避したい。どうすればよいでしょうか?「えーい!面倒くさいから、とりあえず、商談を進めて、模倣リスクが危なくなったら、対策を講る?」としましょうか?いえいえ。技術を理解してしまった相手企業に対し「あの技術のことは、忘れてください!」な~んて言えません。

自社技術の開示には、「技術を一度開示してしまうと、開示前(知らない状態)に戻すことができない」という悩ましさが、常に付きまといます。

リスク対策

技術の模倣リスクに関してよく知られている対策としては、2つがあります。

対策1

解決策の1つ目は、「相手企業に自社技術を開示する前に特許出願を済ます」です。これにより、特許権の取得の際には、特許発明の模倣を防止することができますし、出願を済ましておけば、権利化後に模倣行為を取り締まることができるため、相手企業側から見れば「後で取り締まりの対象になるかもしれない」と、一定の牽制効果(保護効果)を得ることができます。

対策2

解決策の2つ目は、「相手企業に自社技術を開示する前に秘密保持契約を締結する」です。これにより、秘密保持契約の締結によって、「秘密情報(自社の技術)の漏洩禁止」及び「秘密情報(自社の技術)の目的外使用禁止」を課すことができます。

2つの対策のメリットとデメリット

(1)特許出願

模倣防止のためには、特許権取得が前提になりますが、特許権取得のためには、少なくとも、①新規性、②進歩性の2つのハードルが課されます。また、特許権取得にかかる期間は、通常は4~5年、最短でも半年はかかります(参考記事)が、出願による牽制効果(保護効果)も得られます。特許出願までの費用は、30~40万円(目安)、特許権取得までのトータル費用は、約60~100万円程度で収まる場合が多いです。手続面でいえば、同じ技術内容であっても、相手が変わる都度、出願をせずに済みます。

保護の終了条件に関してですが、特許権は、特許料納付により特許権の延命が可能なものの、延命は特許権の存続期間出願日から20年が限度です。この延命については、相手の同意も不要です。また、出願後に、自ら、自社技術を公開しても、保護を受けることができます(ここは、とても重要です)。

(2)秘密保持契約(NDA)

模倣防止のためには、秘密情報である必要があります。つまり、①新規性が必要です。契約に要する時間は、契約書の提示から署名まで、通常1~2か月で済む場合が多いです。契約書作成の費用は、約3~5万円のところが多いですし、相手との交渉が含まれる場合には、トータルで約5~15万円となるケースが多いです。

手続面でいえば、相手が変わる都度、同じ技術内容であっても、相手が変わるたびに、契約をする必要があります。

また、保護の終了条件に関してですが、契約は、更新を続けることで延命が永続的に可能ですが、更新には相手の同意が必要です。しかし、秘密保持契約締結後であっても、自ら、自社技術を公開・販売してしまう場合や、第三者が同じ技術を公開してしまう場合は、秘密情報ではなくなるため、契約上の保護を受けることができません(ここは、とても重要です)。

保護を受けられる技術の条件 保護が開始するとき 費用 保護が終わるとき
特許出願 ①新規性

②進歩性

の2つが必要。

権利取得まで4~5年。最短でも半年。

※権利化前でも、出願後は、牽制効果あり

出願まで30~40万円

権利取得まで60~100万円

(目安)

出願から20年が限度。※相手の同意:不要

出願後に、自ら、自社技術を公開(販売)しても保護される。

第三者が、同様の技術を公開(販売)しても保護される。

秘密保持契約 ①新規性が必要。

※②進歩性は不要

契約書の署名まで。約1~2か月。 3~15万円

(目安)

契約の更新について相手の同意が得られれば永続的に可能。※相手の同意:必要

契約後に、自ら、自社技術を公開(販売)してしまうと、保護が終了する(契約上の秘密情報ではなくなるため)。

第三者が、同様の技術を公開(販売)した場合も保護が終了する(契約上の秘密情報ではなくなるため)。

2つの対策をどう使い分けたらいいの?

特許出願のメリットは、「①出願後、自ら自社技術を公開(販売)しても保護が継続される」点、「②出願後、第三者が同一の技術を公開(販売)しても保護が継続される」点にありますが、デメリットとして、開示技術には、進歩性が必要なこと、費用が掛かること等があります。

秘密保持契約のメリットは手続きが簡単なところにありますが、デメリットは、「①契約後、自ら自社技術を公開(販売)してしまうと保護が終わる点」、「②契約後、第三者が同一の技術を公開(販売)した場合に保護が終わる点」にあります。

つまり、特許出願は、保護を受けるための条件が難しいですが、保護の安定性が高いといえますし、秘密保持契約は、保護を受けるための条件が簡単ですが、保護の安定性が低いといえます。

特許出願と秘密保持契約。これら2つの対策をどう使い分けたらよいの?という点は、守りたい技術の内容や技術の使い方によっても変わってくるため、なかなか一言では言えない部分があります。実務上、不特定多数の公開・販売をしない間は秘密保持契約とし、不特定の公開・販売をせざるを得なくなる場合には、前もって特許出願とするケースが多いですし、「商談の序盤はで、秘密保持契約を結んで、特定企業のみに技術開示を行い、収益が見込めるようになった場合には、公開(販売)までに特許出願を行う」というハイブリットケースも多いです。

※特許の新規性と秘密保持契約の関係:「秘密保持契約を結ばない状態での情報開示」は新規性が否定されますが、「秘密保持契約下による情報開示」は新規性が確保されます。

まとめ

  1. 自社の技術を提案する際のリスクは、「自社技術の模倣リスク」である。
  2. 自社技術を一旦開示してしまうと、元に戻すことができない。
  3. 模倣リスクの回避策としては、特許出願、秘密保持契約の2つがある。
  4. 特許出願は「不特定の公開・販売をせいざる得なくなる場合」に行う場合が多い。
  5. 秘密保持契約は「不特定多数の公開・販売をしない場合」に行う場合が多い。

このように、自社技術を一度開示してしまったあとでは取り返しがつきません。自社技術を提案する際には、事前に、お近くの専門家にご相談ください。

第四次産業革命で生き残る「中小企業のカスタマージャーニー」_ものづくりブランディングBtoB

こんにちは。企業の「技術」と「想い」を伝えるブランディングC-OILING代表の大後 裕子(だいご ひろこ)です。

大手神話がなくなる「第四次産業革命」とは?

大手神話がなくなる理由として第四次産業革命が本格的に始まったことが挙げられます。

第4次産業革命で顧客に求められるのは「目的実現によりスムーズにたどり着き、次のステップに進み続けられる体験」です。そこには顧客にとって会社の規模に関係なく、中小企業そして零細企業と言われるものづくり企業も、今まで市場を席巻していた大手企業と肩を並べることが可能な時代になりました。

ここで少し産業革命について振り返っておきたいと思います。

まず第一次産業革命。ヨーロッパとアメリカで18世紀から19世紀に渡って、蒸気機関の発展とともに栄えた鉄と繊維工業の時代を指します。この時代に今まで職人がひとつずつ手作りしていた一点物の時代から安定した大量生産の時代に突入します。そして次に起きる第二次産業革命では、第一次世界大戦直前の1914年までの間に起きた電気エネルギーの発展します。既存の産業の成長に加え、電話や電球、蓄音機などの電気エネルギーを使用する現在の通信に欠かせないインフラの基盤が完成しました。

そして第三次産業革命では1980年代から現在も続く、コンピュータの普及によるデジタル技術への進歩を指します。今までは不可能であった個人向けのパーソナルコンピュータやインターネットの普及によって、自己実現の拡大を体感してきました。さらにノートパソコン、スマートフォンなどの携帯可能な情報機器の一般化に伴って、私たち人間の知的作業は大幅に効率化しました。

これは一説によると現在私たちが1日にインターネットを通して得ている知識量は、江戸時代の人の一生分の知識量であるとも言われています。

そし、今私たちが真っ只中にいる第四次産業革命ではどのような変化が起きているのかというと、顧客の行動データを活用することによって実現するカスタマージャーニーの最大化です。

「What」から「WhyとHow」の時代へ

それでは第四次産業革命の中で、顧客は何を求めているのでしょうか。

今までは、いかに現時点で抱えている問題を解決するかという、「What」に企業価値があるとされてきました。例えばイメージアップのために行う大手企業のネームバリューを生かしたコラボレーションによる広告戦略や、資本を基盤とした大量で安価な製品の生産などです。

大手企業でこれからの中小企業が顧客が小規模だからこそ可能な顧客に与えられるカスタマージャーニーの価値の違いを考察します。

大手企業から得られる体感

  • 顧客リスト
  • 資本を基にした商品企画、展開
  • ネームバリューによる安心感

第四次産業革命の中小企業から得られる体感

  • 特殊な分野における専門性
  • 特殊な分野におけるスピード感のある開発
  • 柔軟性と親身な対応

両者を比べると、一長一短という印象を感じるかもしれません。

しかしこれからは、「WhyとHow」の時代に移行します。顧客にとっての現時点での問題だけではなく、その先の進みたい未来の問題を叶え続けられるかがポイントです。つまり顧客に寄り添った商品やサービスから生まれる「体験」が提供できるかが第四次産業革命を生き残るかどうかの分かれ道になってくるのです。

専門性に優れた「ニッチトップ」としてブランディング

それでは実際に顧客にとってカスタマージャーニーを体験できる企業として認知されるために、どのような活動を行えばいいのかというと、「ニッチトップ」としてのブランディングを行うことです。

例えば一種類の部品を購入したい顧客に対して、ネームバリューによる安心感より、その分野における絶大的な専門性「ニッチトップ」の企業から購入できることは顧客にとって現状の問題、そしてその後の発展を見込んだ心地よいカスタマージャーニーの波に乗ることができるのです。

例えば一つの部品をとっても、顧客からのフィードバックを収集して細やかで柔軟性のある改善や、より専門性の高いオーダーメイド開発によって可能になる問題の促進は、今までの大手企業にはなかった高い価値として顧客に選ばれるべき理由となります。

そのため第四次産業革命では、いかに自社の専門性を見極め、認知される企業ブランディングを行うかが、長く愛され無理なく生き残る、これからの企業のあり方なのです。

企業の技術と想いを伝えるブランディング
C-OILING 大後 裕子 (シーオイリング だいごひろこ)
【ご相談はこちらから】

第四次産業革命で生き残る「中小企業のカスタマージャーニー」_ものづくりブランディングBtoB

こんにちは。企業の「技術」と「想い」を伝えるブランディングC-OILING代表の大後 裕子(だいご ひろこ)です。

大手神話がなくなる「第四次産業革命」とは?

大手神話がなくなる理由として第四次産業革命が本格的に始まったことが挙げられます。

第4次産業革命で顧客に求められるのは「目的実現によりスムーズにたどり着き、次のステップに進み続けられる体験」です。そこには顧客にとって会社の規模に関係なく、中小企業そして零細企業と言われるものづくり企業も、今まで市場を席巻していた大手企業と肩を並べることが可能な時代になりました。

ここで少し産業革命について振り返っておきたいと思います。

まず第一次産業革命。ヨーロッパとアメリカで18世紀から19世紀に渡って、蒸気機関の発展とともに栄えた鉄と繊維工業の時代を指します。この時代に今まで職人がひとつずつ手作りしていた一点物の時代から安定した大量生産の時代に突入します。そして次に起きる第二次産業革命では、第一次世界大戦直前の1914年までの間に起きた電気エネルギーの発展します。既存の産業の成長に加え、電話や電球、蓄音機などの電気エネルギーを使用する現在の通信に欠かせないインフラの基盤が完成しました。

そして第三次産業革命では1980年代から現在も続く、コンピュータの普及によるデジタル技術への進歩を指します。今までは不可能であった個人向けのパーソナルコンピュータやインターネットの普及によって、自己実現の拡大を体感してきました。さらにノートパソコン、スマートフォンなどの携帯可能な情報機器の一般化に伴って、私たち人間の知的作業は大幅に効率化しました。

これは一説によると現在私たちが1日にインターネットを通して得ている知識量は、江戸時代の人の一生分の知識量であるとも言われています。

そし、今私たちが真っ只中にいる第四次産業革命ではどのような変化が起きているのかというと、顧客の行動データを活用することによって実現するカスタマージャーニーの最大化です。

「What」から「WhyとHow」の時代へ

それでは第四次産業革命の中で、顧客は何を求めているのでしょうか。

今までは、いかに現時点で抱えている問題を解決するかという、「What」に企業価値があるとされてきました。例えばイメージアップのために行う大手企業のネームバリューを生かしたコラボレーションによる広告戦略や、資本を基盤とした大量で安価な製品の生産などです。

大手企業でこれからの中小企業が顧客が小規模だからこそ可能な顧客に与えられるカスタマージャーニーの価値の違いを考察します。

大手企業から得られる体感

  • 顧客リスト
  • 資本を基にした商品企画、展開
  • ネームバリューによる安心感

第四次産業革命の中小企業から得られる体感

  • 特殊な分野における専門性
  • 特殊な分野におけるスピード感のある開発
  • 柔軟性と親身な対応

両者を比べると、一長一短という印象を感じるかもしれません。

しかしこれからは、「WhyとHow」の時代に移行します。顧客にとっての現時点での問題だけではなく、その先の進みたい未来の問題を叶え続けられるかがポイントです。つまり顧客に寄り添った商品やサービスから生まれる「体験」が提供できるかが第四次産業革命を生き残るかどうかの分かれ道になってくるのです。

専門性に優れた「ニッチトップ」としてブランディング

それでは実際に顧客にとってカスタマージャーニーを体験できる企業として認知されるために、どのような活動を行えばいいのかというと、「ニッチトップ」としてのブランディングを行うことです。

例えば一種類の部品を購入したい顧客に対して、ネームバリューによる安心感より、その分野における絶大的な専門性「ニッチトップ」の企業から購入できることは顧客にとって現状の問題、そしてその後の発展を見込んだ心地よいカスタマージャーニーの波に乗ることができるのです。

例えば一つの部品をとっても、顧客からのフィードバックを収集して細やかで柔軟性のある改善や、より専門性の高いオーダーメイド開発によって可能になる問題の促進は、今までの大手企業にはなかった高い価値として顧客に選ばれるべき理由となります。

そのため第四次産業革命では、いかに自社の専門性を見極め、認知される企業ブランディングを行うかが、長く愛され無理なく生き残る、これからの企業のあり方なのです。

企業の技術と想いを伝えるブランディング
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試作から量産へ!量産移行時に考慮すべき4つのポイント(スタートアップ向け)

テクノポートの井上です。前回に続き、スタートアップ、ベンチャー、個人の方など、ものづくり未経験者の方に読んで頂きたい記事となります。最近、新製品のアイディアをもとに試作モデルを作り、量産化の資金集めにクラウドファンディングの利用を検討している人が増えてきました。今回は、試作から量産へ移行する段階でよく起こる問題と注意点について紹介します。

試作から量産段階に入る際の問題

製品の試作モデルができれば、製品開発の一つのヤマは超えたのかも知れません。しかし、量産工程に進む段階で新たな試練が待っています。この段階では下記のような様々な問題で頓挫する可能性があります。

  • 市場に出したい価格と原価が合わなかった
  • 部品点数が多く、金型の費用が予想より高かった
  • 量産ができない形状だった

量産段階で問題が起きる原因は?

問題を大きく分けると、コストと加工の実現可能性に分けられます。

コストの実現可能性ついて

皆さんが日頃目にする市場に出回っている製品は、非常に安価な原価で作られているものがほとんどです。規模の経済により、安くたくさん作る仕組みがあるためです。100円均一ショップを製造業の方が見ると、「よくこの値段で、この部品点数の製品を作れるな」と驚愕する製品がたくさんあります。

数を多く作れば、製品単体の原価が占めるイニシャルコストの割合は低く済み、また、仕入れる材料費自体も安くなります。そのため、市場に出回っている安価な製品と比較しても価格では勝てないことがほとんどです。スタートアップではユーザーを特定し、ある程度の高単価製品として売り出さなければ、市場で勝負することは難しいと言えます。

加工の実現可能性について

ほとんどの場合で、試作と量産で加工方法が違うということを認識する必要があります。量産の場合、同じものを安く安定して作るために金型を利用した加工方法に切り替わります。

その場合に試作では加工できていても、量産では加工できなかったり、仕様変更が生じる可能性があります。できる限り問題が起きないよう、試作から量産に移行する際の考えるべきポイントをまとめました。

試作から量産に移行する際に考える4つのポイント

1.そもそも量産の必要があるのか?

規模の経済について少しお話しましたが、もちろんたくさん作れば原価は安くなります。ただ、原価は高くなってしまっても価格競争に巻き込まれない、高付加価値製品を少量作るということも選択肢としてはあるはずです。

しかし、リスクもあります。その優位性を継続できるかが問題となります。模倣されて、規模の経済で安い類似品が市場に出回り、製品が負けてしまうようであれば意味がありません。

また、当たり前のことですが、最も利益が出るのは原価を抑えて、高単価かつ大量に売れているときです。新製品投入した初期段階では、新規性と競合の少なさから付加価値が高まり、高単価で売れる可能性があります。しかし、大量に販売するためには、ある程度のイニシャルコストをかけて量産体制を作るというリスクを取る必要がでてきます。リスクをできる限り小さくするためには、生産数と原価の関係性も理解し、本当に量産が必要かどうかを十分検討することが大切になります。

2.生産数と原価の関係性を理解する

では、金型を作るメリットが生まれる最小のボリュームはどれぐらいからでしょうか?作る工法、金型の種類によっても異なりますが、基本的には数千個以上と想定しておくと良いと思います。

まだ、市場で売れるかわからないものを数千個作るというのはリスクが高いため、数百単位で生産を検討するケースがあります。ただ、それではイニシャルとして金型費を償却しようとすると原価が大幅に上がってしまい、販売価格と合わなくなってしまいます。そのため、初回生産ロットが少なくても、金型に関してはそれ以降の量産計画を踏まえた減価償却を考える必要があります。

また、製造業者側の事情もあります。金型を維持管理することを想定すると、初回ロットだけではあまり仕事としての旨味がありません。販売年数を想定しての生産予定数を提示したほうが協力的になって頂けます。

3.最適な加工方法の選定する

製品を量産するための工法は一つではありません。どのような加工方法が量産に適しているか、そのボリューム、形状、材質によっても異なります。広い視点で工法を模索する必要があります。

また、量産の場合は、金型、プレス、射出成形、切削、表面仕上げ、組み立てなど、検討項目がかなり増えて複雑になるため、設計者だけでは検討できないことがほとんどです。製品開発の全体を把握し、コントロールするプロダクトマネジメントと呼ばれる仕事領域が必要になります。

4.量産試作を早い段階で作る

量産段階においても試作が必要となり、初期の試作モデルとの違いは下記の通りです。

試作モデル(デザイン、機能性モデル)
→作りたい製品がまずは形になるかを検討するためのモデル

量産モデル
→原価低減、品質の安定化を目的とし量産を検討するためのモデル

加工方法が異なることが多いため、現状の形状で量産が可能なのか?より量産しやすい形状に変更可能か?量産しやすくするための補助具(治具等)は必要か?など、量産に関しての実現可能性及びそれにかかる費用をじっくり検討する必要があります。

この検討はクラウドファンディングなど資金調達をする前に必ず必要となります。かっこ良いデザインの試作ができたからといって、量産の実現可能性が無ければ資金を集めても失敗となってしまいます。

いかがでしたでしょうか?今回は試作から量産へ移行する段階で、よく起こる問題と注意点について紹介しました。製品開発の際の参考にして頂けたら幸いです。

また、弊社では製品開発支援のための無料工場探索・紹介窓口「モノマド」を運営しています。製品開発でお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。

工場探索

輸入販売を行う際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、輸入販売を行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

輸入品販売を行う際に気を付けたいこと

外国の商品を日本に輸入販売する際、気を付けなければならない点は何でしょうか?まず、「日本に輸入しようとする商品が、日本の法律に適合しないか否か?」は気になるところですよね。

日本に輸入できない商品って何?

日本の法律に触れそうな商品として、詳しくは、税関「輸出入禁止・規制品目」の「3.輸入が禁止されているもの」に掲載されております。ここでは、主要なものを以下に記載します。

  1. 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚せい剤、あへん吸煙具
  2. 指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
  3. けん銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及びけん銃部品
  4. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第20項に規定する一種病原体等及び同条第21項に規定する二種病原体等
  5. 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品及び偽造カード(生カードを含む)
  6. 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
  7. 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

輸入販売についてよく相談を受ける内容

輸入販売をしようとする方から良く相談を受ける内容としては、「輸入しようとする商品の商標権」に関するものが多いです。商標権は、前項の「輸入が禁止されているもの」の「7.特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」に関連するものですね。

さて、よく相談を受ける内容としては、以下のようなものが多いです。

  1. パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?
  2. パートナー企業に黙って日本において商標登録を済ませても大丈夫?

パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?

大丈夫ではありません。商標権は、国単位で権利が認められます(これを属地主義と呼びます)。例えば、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」がパートナー企業の国(例えば、アメリカ)において商標登録を済ませていたとしても、日本において当然に保護されるわけではありません。したがって、日本において保護を受けるためには、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」について日本の商標登録を済ませる必要があります。

パートナー企業の商標登録を勝手に行ってもよいの?

さて、外国において商標登録を受けている商標が、日本において、当然に保護されないことは前項で述べました。このように、日本において、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」の商標登録を済ませていない場合はどうすればよいでしょうか?

(1)パートナ企業に商標登録を済ませてもらったほうがよいでしょうか?

それとも、

(2)自社で商標登録を済ませておいた方が良いのでしょうか?

いずれを選ぶかは、パートナー企業との間で取り決めをした方が良いでしょう。もし、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、パートナー企業の請求によって商標登録が取り消される可能性があります。万が一、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、今後の対応について、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際、忘れがちな内容

輸入販売する際、商標権は重要なチェック項目の1つです。しかしながら、その本質は、商標権ではありません。その本質は、パートナー企業との取り決めにあります。つまり、「あなたの会社と第三者(日本のライバル企業)との関係」も大切ですが、それ以上に「あなたの会社とパートナー企業との関係」は、それ以上に大切になるということです。

「あなたの会社とパートナー企業との関係」について大切なことは、

(1)あなたの会社は、日本で販売し利益を上げるために、とある商品を輸入すること

(2)パートナー企業は、あなたの会社に対し、所定の数量の商品を所定の場所に納品し、あなたの会社から売上を立てること。

といった「輸入販売スキームそのもの」の取り決めです。これに付随して、「支払い時期は納品から何か月後にするか?」や「支払いが遅れた場合の利息はどれくらいにするか?」等があります。

商標権に関するテーマとしては、「輸入した商品を日本で販売する際、商品名を変更してもよいか否か?」という点もあります。パートナー企業が指定した商標の使用義務がある場合には、その商標の使用権原の確保(商標登録の手続きや費用負担等)は、パートナー企業が行うことが通常でしょう。反対に、パートナー企業が指定した商標の使用義務がない場合には、あなたの会社が好きな商品名(商標)を選び、その使用権原の確保はあなたの会社自身が行うことが通常でしょう。

また、パートナー企業が日本において商標登録を済ませていた場合、あなたの会社は、その商標登録を無償で使用できるのでしょうか?という点も大切なポイントです。実務では、使用量に応じたライセンス料を支払うケースが多いです。

さらに、日本において第三者による商標権侵害の取り締まりを誰が行うか?という点も大切なポイントです。ここは、パートナー企業ではなく、日本で取引を行うあなたの会社が行うことが多いです。

このように、商標登録の手続き、侵害者の管理、それぞれの費用負担といったものを、あなたの会社とパートナー企業との一方が一手に担うことは難しいです。つまり、あなたの会社とパートナー企業との間で、役割分担や責任分担をあらかじめ決めておくことが必要になります。

輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容

前項では、輸入販売する際、パートナー企業との取り決め(契約)を明確にしておきましょうと述べました。ここでは、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、商標権について、必ずチェックしてほしい事項について述べます。商標権について、必ずチェックしてほしい事項は、「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」です。

「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」が大切な理由

商標権は、原則、先に使用していても、先に出願していなければ保護を受けません(ここは、特許権や意匠権等と異なるところです)。したがって、あなたの会社またはパートナー企業がその商標権を取得していない場合、あなたの商品を見たライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することも可能です。こうなると、あなたの会社が先に使用していたとしてもあなたの会社が侵害者となってしまいます。

商標権侵害による致命的なインパクト

さらに、商標権侵害の場合、商標権者から差止め(名称使用の停止)や損害賠償(簡単に言うと、「侵害行為によって権利者が失った利益相当額」の支払い)があります。いずれも大きなインパクトがありますが、輸入販売で特に気を付けなければならないのは、差し止め(名称使用の停止)による影響です。差し止めがなされると、日本国内にある在庫の販売は不可能になります。そして、在庫商品を活かすためには、商品から商標を剥がす必要があります。

「商品から商標を剥がす」って何?

侵害を構成する商標がシール等で商品に貼り付けられている場合には、そのシールを剥がせばよいでしょう。しかし、商標がパッケージに印刷されていれば、商品を剥がすことができないため、パッケージの廃棄になります。また、商標が商品に刻印されている場合にはその商品を破棄しなければなりません。そして、在庫商品のパッケージや、商品全体が廃棄となってしまった場合、その損害額は計り知れないものとなります。

差し止めの影響はパートナ企業にも及ぶ?

差し止めの対象は、日本にある在庫だけではありません。権利者の手続きにより、海外から輸入される侵害品は、税関で止められます。そして、税関で止められた商品は、侵害品であると認定されると、廃棄される場合が多いです。パートナー企業が輸出した商品が税関により廃棄されてしまった場合、この商品の代金や輸送代は、誰が負担するのでしょうか?パートナ企業でしょうか?それとも、あなたの会社でしょうか?こうなってしまっては、輸入販売のために意気投合したパートナ企業との関係もこじれてきます。

商標権侵害による致命的なインパクトを避けるためには?

このような事態を封じるには、どうすればよいでしょうか?そのためには、ライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することを封じ込めることが必要です。そして、ライバル企業の商標権取得を封じるためには、パートナ企業とあなたの会社のいずれか一方が商標権を取得するしか方法がありません。

輸入販売を行う際、最低限チェックしてほしい内容(商標関係)

前項では、「輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容」として、「商標権の確保」について述べましたが、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、チェックしてほしい事項は「商標権の確保」以外にもあります。その主なものは以下の通りです。

  1. 日本において、他の代理店を認めるか否か
  2. パートナー企業からの指定された商品名(以下、商標)の使用義務の有無
  3. パートナー企業が商標権を持っている場合には、商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものであるか否か
  4. パートナー企業が商標権を持っている場合には、ライセンス料の支払い義務や支払い方法等
  5. パートナー企業の商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものではなかった場合の取り決め
  6. パートナー企業から登録商標の使用許諾をもらう場合には、サブライセンスを認めるか否か
  7. パートナー企業が商標権を持っていない場合には、商標登録の手続き、費用、登録後の管理等についての役割分担及び責任分担
  8. 商標権が消滅したときのペナルティの有無
  9. 契約を打ち切る際、在庫処分の方法(打ち切り後一定期間の販売を認めるか否か 等)

以上の項目は、あくまでも最低限の部分にすぎません。このため、取引の形態によっては、他の事項も重要になる場合もあります。どの項目が必要になるかは、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 輸入販売をしようとする際に大切なことは、パートナー企業との役割分担と責任分担の取り決め(契約)である。
  2. 取り決め(契約)の中には、「輸入販売のスキーム」の他、輸入禁止となる商品に該当しないか否かの観点が必要となる。
  3. 「輸入禁止となる商品に該当しないか否か」の中に、「知的財産に関する条項」があり、その中でも、商標のリスクは、どの企業も避けられない。
  4. 商標権は、国ごとに設定されるため、パートナー企業の国で商標権が存続していても、日本において当然に保護されない。日本において保護を受けるためには日本の商標権が必要となる。
  5. 商標権の取得手続き、管理手続、費用負担等の役割分担を明確にしておく。

このように、輸入販売を行う際には、商標権をはじめ、特許権、意匠権等のリーガルチェックも欠かせません。輸入販売のリーガルチェックは、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際に気を付けたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、輸入販売を行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

輸入品販売を行う際に気を付けたいこと

外国の商品を日本に輸入販売する際、気を付けなければならない点は何でしょうか?まず、「日本に輸入しようとする商品が、日本の法律に適合しないか否か?」は気になるところですよね。

日本に輸入できない商品って何?

日本の法律に触れそうな商品として、詳しくは、税関「輸出入禁止・規制品目」の「3.輸入が禁止されているもの」に掲載されております。ここでは、主要なものを以下に記載します。

  1. 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚せい剤、あへん吸煙具
  2. 指定薬物(医療等の用途に供するために輸入するものを除く。)
  3. けん銃、小銃、機関銃、砲、これらの銃砲弾及びけん銃部品
  4. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第6条第20項に規定する一種病原体等及び同条第21項に規定する二種病原体等
  5. 貨幣、紙幣、銀行券、印紙、郵便切手又は有価証券の偽造品、変造品、模造品及び偽造カード(生カードを含む)
  6. 公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品
  7. 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

輸入販売についてよく相談を受ける内容

輸入販売をしようとする方から良く相談を受ける内容としては、「輸入しようとする商品の商標権」に関するものが多いです。商標権は、前項の「輸入が禁止されているもの」の「7.特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品」に関連するものですね。

さて、よく相談を受ける内容としては、以下のようなものが多いです。

  1. パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?
  2. パートナー企業に黙って日本において商標登録を済ませても大丈夫?

パートナー企業の国で商標登録を済ませているから大丈夫?

大丈夫ではありません。商標権は、国単位で権利が認められます(これを属地主義と呼びます)。例えば、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」がパートナー企業の国(例えば、アメリカ)において商標登録を済ませていたとしても、日本において当然に保護されるわけではありません。したがって、日本において保護を受けるためには、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」について日本の商標登録を済ませる必要があります。

パートナー企業の商標登録を勝手に行ってもよいの?

さて、外国において商標登録を受けている商標が、日本において、当然に保護されないことは前項で述べました。このように、日本において、商品「スポーツシューズ」の商標「ABC」の商標登録を済ませていない場合はどうすればよいでしょうか?

(1)パートナ企業に商標登録を済ませてもらったほうがよいでしょうか?

それとも、

(2)自社で商標登録を済ませておいた方が良いのでしょうか?

いずれを選ぶかは、パートナー企業との間で取り決めをした方が良いでしょう。もし、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、パートナー企業の請求によって商標登録が取り消される可能性があります。万が一、パートナー企業に対し無断で商標登録を行ってしまった場合には、今後の対応について、お近くの専門家にご相談ください。

輸入販売を行う際、忘れがちな内容

輸入販売する際、商標権は重要なチェック項目の1つです。しかしながら、その本質は、商標権ではありません。その本質は、パートナー企業との取り決めにあります。つまり、「あなたの会社と第三者(日本のライバル企業)との関係」も大切ですが、それ以上に「あなたの会社とパートナー企業との関係」は、それ以上に大切になるということです。

「あなたの会社とパートナー企業との関係」について大切なことは、

(1)あなたの会社は、日本で販売し利益を上げるために、とある商品を輸入すること

(2)パートナー企業は、あなたの会社に対し、所定の数量の商品を所定の場所に納品し、あなたの会社から売上を立てること。

といった「輸入販売スキームそのもの」の取り決めです。これに付随して、「支払い時期は納品から何か月後にするか?」や「支払いが遅れた場合の利息はどれくらいにするか?」等があります。

商標権に関するテーマとしては、「輸入した商品を日本で販売する際、商品名を変更してもよいか否か?」という点もあります。パートナー企業が指定した商標の使用義務がある場合には、その商標の使用権原の確保(商標登録の手続きや費用負担等)は、パートナー企業が行うことが通常でしょう。反対に、パートナー企業が指定した商標の使用義務がない場合には、あなたの会社が好きな商品名(商標)を選び、その使用権原の確保はあなたの会社自身が行うことが通常でしょう。

また、パートナー企業が日本において商標登録を済ませていた場合、あなたの会社は、その商標登録を無償で使用できるのでしょうか?という点も大切なポイントです。実務では、使用量に応じたライセンス料を支払うケースが多いです。

さらに、日本において第三者による商標権侵害の取り締まりを誰が行うか?という点も大切なポイントです。ここは、パートナー企業ではなく、日本で取引を行うあなたの会社が行うことが多いです。

このように、商標登録の手続き、侵害者の管理、それぞれの費用負担といったものを、あなたの会社とパートナー企業との一方が一手に担うことは難しいです。つまり、あなたの会社とパートナー企業との間で、役割分担や責任分担をあらかじめ決めておくことが必要になります。

輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容

前項では、輸入販売する際、パートナー企業との取り決め(契約)を明確にしておきましょうと述べました。ここでは、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、商標権について、必ずチェックしてほしい事項について述べます。商標権について、必ずチェックしてほしい事項は、「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」です。

「使用予定の商標が、日本において合法的に使用可能である状態を確保すること」が大切な理由

商標権は、原則、先に使用していても、先に出願していなければ保護を受けません(ここは、特許権や意匠権等と異なるところです)。したがって、あなたの会社またはパートナー企業がその商標権を取得していない場合、あなたの商品を見たライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することも可能です。こうなると、あなたの会社が先に使用していたとしてもあなたの会社が侵害者となってしまいます。

商標権侵害による致命的なインパクト

さらに、商標権侵害の場合、商標権者から差止め(名称使用の停止)や損害賠償(簡単に言うと、「侵害行為によって権利者が失った利益相当額」の支払い)があります。いずれも大きなインパクトがありますが、輸入販売で特に気を付けなければならないのは、差し止め(名称使用の停止)による影響です。差し止めがなされると、日本国内にある在庫の販売は不可能になります。そして、在庫商品を活かすためには、商品から商標を剥がす必要があります。

「商品から商標を剥がす」って何?

侵害を構成する商標がシール等で商品に貼り付けられている場合には、そのシールを剥がせばよいでしょう。しかし、商標がパッケージに印刷されていれば、商品を剥がすことができないため、パッケージの廃棄になります。また、商標が商品に刻印されている場合にはその商品を破棄しなければなりません。そして、在庫商品のパッケージや、商品全体が廃棄となってしまった場合、その損害額は計り知れないものとなります。

差し止めの影響はパートナ企業にも及ぶ?

差し止めの対象は、日本にある在庫だけではありません。権利者の手続きにより、海外から輸入される侵害品は、税関で止められます。そして、税関で止められた商品は、侵害品であると認定されると、廃棄される場合が多いです。パートナー企業が輸出した商品が税関により廃棄されてしまった場合、この商品の代金や輸送代は、誰が負担するのでしょうか?パートナ企業でしょうか?それとも、あなたの会社でしょうか?こうなってしまっては、輸入販売のために意気投合したパートナ企業との関係もこじれてきます。

商標権侵害による致命的なインパクトを避けるためには?

このような事態を封じるには、どうすればよいでしょうか?そのためには、ライバル企業が同一又は似た商品名の商標権を後から取得することを封じ込めることが必要です。そして、ライバル企業の商標権取得を封じるためには、パートナ企業とあなたの会社のいずれか一方が商標権を取得するしか方法がありません。

輸入販売を行う際、最低限チェックしてほしい内容(商標関係)

前項では、「輸入販売を行う際、必ずチェックしてほしい内容」として、「商標権の確保」について述べましたが、輸入販売する際の取り決め(契約)の中で、チェックしてほしい事項は「商標権の確保」以外にもあります。その主なものは以下の通りです。

  1. 日本において、他の代理店を認めるか否か
  2. パートナー企業からの指定された商品名(以下、商標)の使用義務の有無
  3. パートナー企業が商標権を持っている場合には、商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものであるか否か
  4. パートナー企業が商標権を持っている場合には、ライセンス料の支払い義務や支払い方法等
  5. パートナー企業の商標権の内容が「輸入販売スキームそのもの」に十分なものではなかった場合の取り決め
  6. パートナー企業から登録商標の使用許諾をもらう場合には、サブライセンスを認めるか否か
  7. パートナー企業が商標権を持っていない場合には、商標登録の手続き、費用、登録後の管理等についての役割分担及び責任分担
  8. 商標権が消滅したときのペナルティの有無
  9. 契約を打ち切る際、在庫処分の方法(打ち切り後一定期間の販売を認めるか否か 等)

以上の項目は、あくまでも最低限の部分にすぎません。このため、取引の形態によっては、他の事項も重要になる場合もあります。どの項目が必要になるかは、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 輸入販売をしようとする際に大切なことは、パートナー企業との役割分担と責任分担の取り決め(契約)である。
  2. 取り決め(契約)の中には、「輸入販売のスキーム」の他、輸入禁止となる商品に該当しないか否かの観点が必要となる。
  3. 「輸入禁止となる商品に該当しないか否か」の中に、「知的財産に関する条項」があり、その中でも、商標のリスクは、どの企業も避けられない。
  4. 商標権は、国ごとに設定されるため、パートナー企業の国で商標権が存続していても、日本において当然に保護されない。日本において保護を受けるためには日本の商標権が必要となる。
  5. 商標権の取得手続き、管理手続、費用負担等の役割分担を明確にしておく。

このように、輸入販売を行う際には、商標権をはじめ、特許権、意匠権等のリーガルチェックも欠かせません。輸入販売のリーガルチェックは、お近くの専門家にご相談ください。

折角の商標登録が消滅してしまう場合

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、中小企業の方が忘れがちな「商標登録の消滅」についてお話したいと思います。

商標登録が消滅してしまう理由

商標登録が消滅してしまう理由としては、以下の4つがあります。

  1. 異議申し立て
  2. 無効審判
  3. 取消審判
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)

異議申し立てについて

制度概要

特許庁の審査結果(商標登録のみ)について、第三者チェックの機会を与えるために制定されています。申し立てできる期間は、商標公報(*)の発行後から2か月以内に限られます。(*商標公報:商標権設定登録後に発行されます。)

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 417
  • 請求(一部成立含む)成立 35
  • 請求不成立・却下 236
  • 取下放棄 58

となります。

申立数417件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.34%と結構レアです。また、申立人側の勝率は、8.3%(417件中35件)といったところです。

無効審判について

制度概要

異議申し立てと似ている制度です。こちらも、私益的・公益的の両面からのチェックする制度ですが、設定登録の日から5年を経過すると、無効理由は公益的なものに限定されます。無効審判の請求は、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 98
  • 請求(一部成立含む)成立 26
  • 請求不成立・却下 35
  • 取下放棄 15

となります。

請求数98件について、2018年の登録査定件数(119,610件)に対する割合は、0.08%ということで、かなりレアです。また、請求人側の勝率は、26%(98件中26件)といったところです。

取消審判について

取消審判としては、不使用取消審判、不正使用取消審判、国内代理店等による不正な商標登録に対する取消審判がありますが、取消審判のほとんどは不使用取消審判ですので、不使用取消審判について説明します。

制度概要

日本の商標法では、登録主義(使用していなくても、登録されていれば商標法の保護を認める考え方)を採用していますが、登録主義にも次のような問題があります。

  • 問題1:不使用のままの登録商標が増えてしまうと、第三者が使用したいのにも関わらず、先登録の事実のみによって、登録も使用できなくなってしまう(これは不合理だ)。
  • 問題2:使用していない登録商標なんて、そもそも信用が化体しない(≒のりうつらない)ので、商標法で保護する必要もないよね。

このような問題の是正のために、不使用取消審判が設けられています。不使用取消審判の請求は、登録後から3年経過後の商標権であれば、いつでもできます。

発生頻度

「特許行政年次報告書2019年度版」によれば、2018年の発生頻度は、以下の通りです。

  • 請求数 1045
  • 請求(一部成立含む)成立 858
  • 請求不成立・却下 80
  • 取下放棄 88

となります。

請求数1045件について、2018年の登録査定件数(119610件)に対する割合は、0.87%ということで、レアです。また、請求人側の勝率は、82%(1045件中858件)といったところです。発生頻度はレアですが、異議申立や無効審判に請求されると負ける確率が高いところが特徴です。なお、弊所の実務レベルでいうと、年に3~4回、このような相談を受けます。

存続期間満了(更新手続き忘れ)について

制度概要

日本の商標法では、10年ごとの更新手続きによって半永久的に商標権を維持することができます。ここは、特許権・実用新案権・意匠権とは異なる部分です。

発生頻度

統計データがないのですが、弊所の問い合わせレベルでいうと、年に1~2回、このような相談を受けます。10年という長期の期限管理が必要になるため、途中で忘れてしまう人が多いようです。

注意すべきこと

異議申し立て・無効審判

権利者側から見れば、これは避けられません。公報発行後、二か月の辛抱です。ただし、逆の見方をすれば、公報の定期的チェックにより、自社ブランドと紛らわしい商標登録をいち早く発見し、異議申し立てによって、紛らわしい商標登録を取り消すことも可能です。費用的には、無効審判よりも異議申し立ての方が安価に済むことが多いので、まずは、異議申し立てを選ぶ方が多いでしょう。

不使用取消審判

特に、商標権者やライセンシーが、継続して3年間、登録商標を使用していないときは、取消の対象になります。このため、登録商標を指定商品について使用してください。特に、設定登録直後は問題ありませんが、3年が経過すると不使用取消審判の対象になるため、注意が必要です。また、「現在の登録商標の使用方法が、商標法上の使用になっているか否か」について自信がない場合には、お近くの特許事務所にご相談ください。

存続期間満了(更新手続き忘れ)

10年ごとの期限管理に自信があれば、ご自身で行っても良いと思います。しかしながら、期限管理に自身のない方は、特許事務所の専門サービスを利用された方が良いと思います。

万が一、消滅してしまった場合にはどうすれば?

残念ですが再出願するか名称変更するかしかありません。どちらが良いかはケースバイケースですのでお近くの専門家にご相談下さい。

まとめ

  1. 商標登録の消滅事由は意外と多い。
  2. 特に気を付けるべきことは、不使用取消審判と存続期間満了(更新手続き忘れ)。
  3. 不使用取消審判対策は、登録商標を指定商品について使用すること。「商標法上の使用」に自信がなければ、特許事務所に相談する。
  4. 存続期間満了(更新手続き忘れ)対策は、期限管理を行うこと。期限管理に自信がなければ、特許事務所に依頼する。

ものづくり未経験者から製造業者へ、製品開発の相談をする際の心得

テクノポートの井上です。今回はいつもと趣旨を変えて、スタートアップ、ベンチャー、個人の方など、ものづくり未経験者の方向けに読んで頂きたい記事となります。

「製品のアイディアを思いつき、製品化を考えているけれど、製造業者に問い合わせてもなかなか取り合ってくれない」そのような声を聞くことがあります。相談を受ける製造業者側がどのような考えを持っているのか?また、商談をスムーズに進めるために気をつけるポイントについて紹介します。

製造業者の対応・反応が悪い6つの理由

新製品開発の相談をしても、相談を受ける製造業者側の反応がイマイチな場合が多いのはなぜでしょうか?様々な製造業者にお話を伺い、実際にどのようなことを思っているのかを紹介します。

金額の折り合いがつかないことが多い

試作や金型にかかる費用を知らず、費用の高さに驚いて終了してしまうことがあります。費用の認識の違いから取引に結びつかないことが多いようです。(試作や金型については後ほど詳しく説明します。)

内容がまとまっておらず手間で面倒

図面が無い状態から打ち合わせをし、図面を描き、すり合わせを行うという作業は時間と労力がかかります。いくら相談や打ち合わせは無料と言っても、見えない費用が製造業者側にはかかります。製造業者が通常受けているような図面ありきの案件であれば、見積もり回答を行い、発注書が届けば即スタートとなるため、どちらが仕事しやすいかは一目瞭然かと思います。

製品開発案件に対応していない

会社によっては製品開発案件を受けていない会社もあります。例えば、主に量産向けの設備を保有している会社では、量産用の金型ありきの仕事が主のため、試作開発案件を受けたことが無かったり、対応していない場合があります。

既存の取引企業と比べて信用力が低い

新規で取引をする際には、仕事内容だけでなく相手先の信用力を評価し、取引を行います。個人やスタートアップ企業の場合、ホームページが無い場合も多くどのような相手か知ることができません。そのため、素性の知れない依頼先との取引に消極的になる会社があります。

ビジネスの実現性が低い

取引をするからには、その仕事が将来的に良い仕事になるかどうか実現可能性を見ています。ここで言うビジネスの実現可能性というのは製品が発売され、それが一定期間コンスタントに売れる状態です。依頼者としても、ある程度のボリュームが売れなければ成功とは言えず、作り手としても量産がスタートしてもすぐに生産停止してしまっては意味がありません。

製品開発において、途中で依頼者側が断念するケースも多くあり、また製品化されたとしても、それが売れるかどうかは別問題です。もちろん、製造業者は試作、設計等でも費用を頂きながら行いますが、量産にならなければ利益を確保できないというのが本音です。(※ただし、試作を専門とする会社であれば、試作のみでもビジネスとして成り立ちます)

取引開始まで時間がかかる

図面がある状態と比べると、最初の発注までにかなりの時間を要します。既存のお客様で忙しい場合に、そこにかける時間を避けたいと思っている会社もあります。上記のように、依頼側と製造業者側には温度差があります。仕事を頼もうとしているのになぜ?と思うかも知れませんが、どちらが悪いというわけではなく、お互いの認識のズレの問題です。

相手の事情や考えを把握した上で、どうすればスムーズに商談が進められるか?次に具体的な解決策について紹介します。

相談内容の準備

まずは何を相談したいか?相談する内容についてです。相談する内容によって相手の対応も異なりますので、協力して頂きやすいように出来る限りわかりやすく内容をまとめます。

図面・イラストの準備

モノを作る側としては、文章だけではイメージしづらいものです。手書きでも良いので概要が把握できるものを準備してください。

  • サイズ感
  • 形状
  • 材質

など

製品開発の背景、企画書の準備

「このような製品を作りたい」よりも「このような背景から製品開発を思い立ち、このようなニーズに応える製品を作りたい、将来的にはこのようなことをしたい、どれぐらいの数を作りたい」というように、製作背景や想いが伝わる内容が入っている方が、信用や共感を得られ、製造業者に協力して頂きやすくなります。会社やご自身がどのような人物かも、ある程度わかる説明があるとなお良いです。

依頼、相談したい段階を提示

具体的にどの段階から相談したいのかを提示します。仕様設計、材料選定、加工方法の選定、図面作成など、自分でできないところや、何を相談したいかを提示することが大切です。相談を受ける側として、どう返答してよいか、何をすれば良いかわからない相談もよくあります。

適切な製造業者を探す

相談する内容が決まったら、個人やスタートアップ企業の製品開発案件に対応している、適切な製造業者を探す必要があります。設備、技術的に対応できそうか?開発案件を受ける体制があるか?この2つの視点で探します。流れとしては以下のとおりです。

  1. 自分の頼みたいと考える領域(材質、加工方法など)を決める
  2. 上記の加工領域のキーワードに加え、下記のようなフレーズを加え、複合キーワードにてネットで検索
    試作・1個から・図面無し対応・設計開発・製品開発 など
    検索例:板金加工 図面なし対応
  3. 該当ホームページの内容を確認
    設備紹介を見てもわからないと思うので、製品サンプルや、取り組み事例、強み紹介などを見て、自分の頼みたいものが実現できそうか確認

商談にのぞむ際に覚えておくこと

次に、製造業者と商談をする段階で、事前に認識して頂きたいことが2点あります。

それは試作と金型費用についてです。この2点の認識の違いで、商談が進まなくなることが頻繁に起こります。この2点がどのようなものか、事前に理解した上で商談に望むことが重要です。

試作の重要性について

よくある話が、単価をこれぐらいに抑えたこのような製品をある程度の量、作りたいという要望があります。しかし、どのような製品でも、いきなり量産できるというわけではなく、まずは試作品を作成し、製造上の課題をすべて洗い直した上で、改良を加え、量産工程になります。そのため、概算の価格なら想定はできますが、値段ありきでこのコストに収めて開発、進めるということは出来ません。

試作を作り、量産時の加工方法を決め、初めて量産時の初期費用と1個あたりの製造単価を割り出すことができるからです。また、製品の実現可能性を判断するためにも試作が必要です。量産に入ってしまっては後戻りができないため、試作段階であらゆるリスクへの対応を検討し、量産に踏み切るか否かも検討します。そのため、製品開発において試作がとても重要だということ、そして、そこに十分な費用と時間をかける必要があるということを認識する必要があります。例えば、量産時に@1,000円という話でも、試作1個作るには数十万かかるということもあります。また、様々な段階で試作が必要になります。下記は試作の一例です。

  • 原理試作:既製品なども利用し、機能性面を検討
  • デザイン試作:形状、外観などのデザイン面を検討
  • 量産試作:製品としての仕様や要素を全て備えたモデルで製品同様の材質で製作。量産時の加工しやすさ、組み立てやすさ等を検討

金型費用について

量産段階になると加工方法によっては製造単価を下げるための金型を作る必要があります。金型を作ることによって同じ形の製品を安くたくさん作ることができるようになります。

しかし、金型は形状や、部品点数によって数十万〜数百万というイニシャルコストがかかります。この量産時の金型費用について認識をしておらず、「そんなにかかるとは思わなかった」と開発を断念するケースも多くあります。

いかがでしたでしょうか?

今回はものづくり未経験者から製造業者へ、製品開発の相談をする際の心得について紹介しました。良いビジネスパートナーとしての関係を作るためには相手を知ることが大切です。製品開発の際の参考にして頂けたら幸いです。

また、弊社では製品開発支援のための無料工場探索・紹介窓口「モノマド」を運営しています。製品開発でお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。

工場探索

社長の想いの伝え方 社員と”チーム”になる会社づくり

こんにちは。

企業の「技術」と「想い」を伝えるブランディングC-OILING代表の大後 裕子(だいご ひろこ)です。

今回は経営者が会社のブランド力を高めたい時に必ず行うべき、社長の思いの伝え方についてお話ししたいと思います。

経営のシフトチェンジ

ポストコロナの大きな時代の変革を迎えた今、社長にとって取引先の見直しや新規事業への取り組みなどの経営のシフトチェンジが急務となっています。従来の一社依存ではなく、収益源の多様化に向けて社内外へのアクションが目前の課題と言えるでしょう。

実際にものづくり企業の社長からは、自分の会社を自分で守るための施策として下記のような悩みを多く聞きます。

  • 新しい取引先を見つけたい
  • 新しい事業にチャレンジしたい
  • BtoBだけでなくBtoCにもチャレンジしたい
  • 会社のブランド力を上げたい

多くの経営者が企業の従来の強みを生かし、新しいビジネスモデルを構築するイノベーションが必要であることを身をもって感じています。しかしその反面、イノベーションを起こすにあたって、実務を行う社員たちへこのような悩みを抱えています。

  • 社員のモチベーションを保ちたい
  • 社員に自主的に動いてほしい
  • 社員に嫌われたくない
  • 社員に会社を好きになってほしい

このように多くの経営者が現場社員から「社長がなんか言ってら」と言われてしまうことが頭をよぎってしまい、社員との距離が生まれてしまう状況になることを恐れてシフトチェンジが起こせずにいます。ではどうすればイノベーションを起こしやすい社内環境を、ブランディングできるかお話しします。

自分たちの強みを共有する

今までの自社の仕事を客観的に数値化して、強みを明文化していますか?日々仕事をしていると、自分たちの知識や技術が”当たり前”のものとして認識してしまいがちです。そのせいで自らの仕事に新しさを見出すことができずにモチベーションが上げる音ができない組織が多く存在します。同じ業務でも社員一人一人が自分たちの実績を理解した上で行うことで仕事がただの作業ではなく、自分たちだからこそできる自らモチベーションを持つことができるようになります。

自分たちの顧客を共有する

経営者がこれから取引をしたいと思っている企業のタイプを明確にして社員に共有することです。業種・企業規模・企業ビジョンを明文化し、営業担当だけではなく現場の製造社員にも同じく共有します。それによって自分たちがどのような顧客に対してどのようなレベルの仕事をするべきかを自ら考える文化を築くことができます。

自分たちの仕事がどんな影響を与えているか共有する

自分たちの顧客を共有しその顧客のための仕事レベルを自ら改善する企業文化を作るができたなら、次はその顧客の事業や生活に自分たちの仕事がどのような影響を与えているかを想像する企業文化を作りましょう。社員がそれぞれ自分たちの仕事が社会に対してどのような影響を与えているのかを想像することができれば、自社そして自分たちの存在価値と使命を考えることができるようになります。

社長がビジョンを明確に伝えることで企業はブランド化する

これからの経営者が社員とともに成長する企業文化を作るためには、ポストコロナ時代に自社が向かう方向性を指し示し、従来の”トップダウン経営”から”ビジョン×ボトムアップ経営”にいこうしていくことです。

企業のブランド化は一朝一夕でできるものではありません。上記で挙げた共有すべき3つの項目は、経営者が企業のこれからの方向性を示す企業の”ビジョン”として、会社全体の行動指針の元となります。企業の文化として考え方から実際の商品づくりまで技術と想いを浸透させていくことで、社内・社外への企業のブランド力を同時に高めていくことができるのです。

企業の技術と想いを伝えるブランディング C-OILING 大後 裕子

課題別IoTツール・サービス事例集2:通信環境の構築がわからない・見直したい

こんにちは、盛岡在住IT系ライターの宮田文机です。

5月は『課題別IoTツール・サービス事例集1:センサの選び方・使い方がわからない』と題し、データ取得にかかせないセンサを工場に導入するにあたって使えるサービス・ツールをご紹介しました。

センサの選定・設置ができたら早速データを見える化……といきたいところですが、その前に確認したいのが“セキュアで安定的な通信環境を構築できているか”という点です。

通信ネットワークの問題が数億円規模の損失につながりうる製造現場。万全の通信インフラを構築することは必ず満たすべき条件といえるでしょう。

本記事では、工場の通信インフラに求められる3要素とそのために役立つツール・サービスをご紹介します。

工場の通信インフラに求められる3要素

産業用の通信インフラで押さえておきたいのが以下の3ポイントです。

  • 安定性
  • セキュリティ
  • 耐久性

工場運営において絶対に避けたいのが「ライン停止」のリスク。IoT化に向けて新たなネットワークを導入した結果、人的ミスやサイバー攻撃、通信環境の複雑化などが原因でラインが止まり大きな損失につながる……といった事態を避けるために安定性は必ず押さえておきたいところです。また、マルウェア・不正アクセスなどのセキュリティ問題にもしっかりと目を配る必要があります。サーバや生産設備にウイルスが侵入しライン停止や機密情報の漏えいにつながっては目も当てられません。

さらに高温・高湿・氷点下など通常とは異なる環境となりうる生産現場では、過酷な状況にも耐えられるネットワーク機器を選定することも求められます。

事例1:産業用ネットワークのグランドデザインがサポートされる「工場IoTネットワーク・セキュリティ」

富士通株式会社が提供するのが工場ネットワークの診断からグランドデザイン、その後の運用支援までネットワーク構築をサポートする「工場IoTネットワーク・セキュリティ」サービスです。

例えば、工場のIoT化においてしばしば発生するIT(情報系システム)とOT(制御系システム)の接続問題。そもそも連携することが想定されていないそれらをいかにつなげ、セキュアかつ安定的なシステムを構築できるかという難問への対処でもこのサービスは利用されています。

【活用事例】

セキュリティパッチやウイルス対策ソフトの導入によりOT機器が停止するリスクを避けつつ、セキュリティ対策を行う手段をともに策定。すべてのネットワークを構成する機器・設備を洗い出し、既存のネットワークを乱さずOT・IT機器を接続できるネットワーク基盤を構築した。

事例2:通信ネットワーク構築をさまざまな形で支援する「SORACOM」

株式会社ソラコムはIoTにおける通信環境構築を助けるさまざまなサービスを展開しています。契約回線数100万を超えた「SORACOM Air for セルラー」はLTE/3G通信が可能な従量課金制のSIMを販売するサービス。必要に応じて自由にデータ通信を導入、休止できる点が便利なサービスです。また「SORACOM Beam」はクラウドを介してIoTデバイスの通信の暗号化や接続先の管理を肩代わりしてくれます。インターネットを介さずクラウドとデバイスの間でデータを送受信できる「SORACOM Canal」も機密性の高い情報を扱う際には有用です。

【活用事例】

切削加工機の稼働状況を遠隔監視するシステムの構築に「SORACOM Air」を活用。手間をかけず、急を要する作業がある場合など必要なときだけ機器を監視できるように。また機密情報が載せられた設計書は「SORACOM Canal」でやり取りすることで安全性を担保できるようになった。

事例3:あらゆる観点から情報通信基盤の構築を支える「NETFORWARD」

日立システムズ株式会社の「NETFORWARD」は、セキュリティ対策、ネットワーク機器の選定・提供、ネットワーク監視・運用・障害対応、クラウド環境構築、ネットワーク運用・構築とあらゆる観点から情報通信基盤を支えるサービスを提供するパッケージです。大手ベンダーならではのノウハウの豊富さ、支援体制の手厚さがポイントといえるでしょう。

【活用事例】

事務所、倉庫に無線LANシステムを導入するとともに、在庫管理にPOS、PDAを用いることに。安全かつ利便性の高い接続が可能になったとともに業務効率向上にもつながった。

事例4:IoT機器のセキュリティリスクを常時管理する「Trend Micro IoT Security」

トレンドマイクロ社の「Trend Micro IoT Security」は管理対象の機器・設備にエージェントを組み込み、クラウドベースのシステムと組み合わせることでセキュリティリスクの常時管理を可能にするサービスです。ネットワークセキュリティに特化した企業だからこそ、徹底したリスク管理が期待されます。

【活用事例】

コネクテッドカーに対するハッキング・サイバー攻撃に対する対策として「Trend Micro IoT Security」を実装。製品に対する安全性を担保する一助となった。

まとめ

スマート工場がつつがなく稼働するための前提となる通信環境の構築を助けるソリューションをご紹介してきました。通信環境に求められる3要素は「安定性」「セキュリティ」「耐久性」です。この機に、それらの条件を自社のネットワーク機器は満たせているのか、今一度確認されてみてはいかがでしょうか。

商標権侵害を特に注意しなければならない業界

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回の記事「プレスリリースを検討する際に気を付けて欲しいこと」では、これから売り出そうとする自社商品・サービスの名前等が、他社の商標権等を侵害していないかのチェックを、プレスリリースの前に行いましょうね。と述べました。今回はその続きです。

商標権侵害により逮捕された例

高級ブランド「ウブロ」の偽腕時計販売 容疑で会社員逮捕

埼玉県警浦和西署は8日、高級ブランド「ウブロ」の偽物の腕時計を販売したとして、詐欺と商標法違反の疑いで、さいたま市浦和区常盤、会社員(23)を逮捕した。容疑を認めている。逮捕容疑は平成30年11月、商品の売買ができるインターネット掲示板にウブロに似たロゴマークを付けた腕時計を出品し、埼玉県戸田市の自営業の男性(45)から、代金として現金10万円をだまし取ったとしている。「YAHOO ニュース 2020/6/8 17:33配信より引用」

偽シャネルのヘアゴムをSNSで販売‥埼玉県の27歳女を逮捕 岐阜県警

偽のブランド品をSNSで販売していた女を逮捕です。商標法違反の疑いで逮捕された、埼玉県川口市の容疑者(27)は去年12月、SNSを利用して偽の「シャネル」のヘアゴム10点を2000円で販売した疑いがもたれています。 岐阜県警が、サイバーパトロールで偽ブランド品がフリーマーケットアプリで販売されているのを発見し、容疑者の犯行が明るみに出ました。容疑者は容疑を認めています。警察は、偽のブランドのネックレスやイヤリングなど約2000点を押収していて、入手経路などを調べています。「YAHOO ニュース 2020/6/4 19:25配信より引用」

それは「売っても大丈夫だと思っていた」人気ブランドSupremeの偽造品を販売目的で所持…男に求刑【長崎】

偽のブランド品を販売するため所持していた罪に問われている男の初公判が2日、長崎地裁で開かれました。商標法違反の罪に問われているのは長崎市新小が倉1丁目の会社員(46)です。起訴状によりますと被告は、去年11月、長崎市出島町で自分が経営していた雑貨店で人気ブランド「Supreme」の偽のウエストポーチなど124点を販売目的で所持していたとされています。長崎地裁で開かれた初公判で被告は、「注意で済むと思った」と起訴内容を認めました。検察側が懲役1年6カ月、罰金100万円を求刑したのに対し、弁護側は「利益はごくわずかで反省の態度を示している」として執行猶予つきの判決を求めました。「YAHOO ニュース 2020/6/2 18:14配信より引用」

このように、インターネットで検索してみると、商標権侵害によって逮捕されてしまった例というのは珍しくないようです。

商標権侵害事犯の数

では、商標権侵害事犯数は、どれくらいあるのでしょうか?

統計(※1)によれば、商標権侵害事犯は、平29年302件、平成30年 309件です。こうしてみると、1日1件くらい起きているケースになります。なお、証拠不十分等によって、上の数値にカウントされない場合もありますので、実際にはもっと多くの侵害行為が起きていそうだと考えた方が良いでしょう。

商標権侵害で摘発されやすい業種・業態

商標権侵害で摘発されやすい業種・業態としてはどのようなものがあるでしょうか?

商標権侵害事犯(平成30年 309件)のうち、インターネット利用は、265件(85%)となっています(※1)。したがって、インターネット経由の商取引(具体的には、ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション)は、商標権侵害を根拠に検挙されやすいといえそうです。

また、平成30年における侵害品数(129,328個)のうち、4.5%は国内製造品、海外の仕出国においては、中国(37%)、韓国(6.8%)となっており、その後に、フィリピン、台湾、タイ(いずれも1%未満)が続きます(※1)。出元不明のものが49%(※1)もあることを鑑みると、もう少し多い可能性がありますが、いずれにしても、侵害品のほとんどが国外から輸入品であり、そのほとんどが中国・韓国からの輸入品であるといえそうです。

(※1)平成30年における生活経済事犯の検挙状況等について(警察庁生活安全局)

このように、インターネット経由の取引においては、商標権者から発見されやすいこともあり、摘発されやすいといえます。また、侵害品数の内訳から見てみると、中国等の海外から輸入品に多く見られます。

前回の記事で述べた通り、新しい事業を始める場合や新商品・サービスを開始する際、商標権侵害をはじめ、他社の知的財産権利の侵害について注意をした方が良いと思います。その中でも、ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション等の「インターネット経由の取引」や「輸入品の販売」を行う場合には、特に、商標権侵害について注意をした方がよさそうです。

 

商標権侵害にならないようにするためにはどうすれば?

商標権の侵害行為によって、刑事罰を受けてしまうと、あなたの会社に対して、金銭的ダメージのみならず、社会的ダメージが大きくのしかかってきます。それでは、他人の商標権を侵害しないためには、何をすればよいのでしょうか?

そのためには、他者の商標を調べる必要があります。この調査は、事業の企画段階、商品の仕入れ段階において行う必要があります。このような商標権の調査(クリアランス調査といいます)は、専門的知識が必要ですので、調査の際には、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. 商標権侵害による逮捕は意外と多い。
  2. 商標権侵害について特に注意したい業種・業態は、「インターネット取引(ネット販売(SNSを含む)や、インターネットオークション)」や「輸入品販売」である。
  3. このようなリスクを回避するためには、事前のクリアランス調査が必要。

ブランディング研究室 デザインを外注するときの3つのポイント

みなさんこんにちは、ブランディングコンサルタントの大後 裕子(ダイゴ ヒロコ)です。

今日は、ご質問の多いブランディングを見直すときに必要となってくるデザインの外注方法についてお話ししたいと思います。

ブランディングにおいて、顧客に対してあなたの商品やサービスを伝える際に、分かりやすさは何より重要です。その分かりやすさを後押しするのがデザインの力です。しかし社内にデザイナーを抱えている会社ばかりではないと思います。そこで自社にしかない技術や、細やかな気配りをどうしたら顧客にわかりやすく伝えられるか、ブランディングにおけるデザインの重要性を交えながらお伝えします。

デザイナーには2種類いる

デザイナーには大きく分けて2種類のタイプがいるのを知っていましたか?

1つはディレクター型デザイナー、2つ目は職人型デザイナーです。デザイナーに頼めばある程度のクオリティのデザインが上がってきますが、もしあなたがブランディングを見直すためにデザインを一新したいならこの2つのタイプを理解して効率的に仕事を依頼していきましょう。

ディレクター型デザイナーに依頼するメリット

職人型デザイナーに依頼するメリットもしあなたが何か変えなければいけないんだけれど何をどう変えたらいいのかわからない状態で、デザイン変更後のイメージが固まっていない場合は、ディレクター型デザイナーに仕事を依頼することをお勧めします。

職人型デザイナーに依頼するメリット

職人型デザイナーはとにかくクオリティを突き詰めます。このタイプのデザイナーは、あなたの会社が伝えたいメッセージ、ターゲット像、出来上がりイメージが明確な場合、より質の高いデザイン制作で会社の魅力を伝える強い見方となってくれています。

この2つのデザイナータイプを理解して、ブランディングの状況に応じて依頼先を調整することをおすすめします。

経営者の趣味でデザインを決めていないか?

あなたの会社ではデザイン案件の決定において、誰が最終ジャッジをしていますか?もし経営者による独断であった場合は要注意です。その理由は、デザインのテイストを顧客目線ではなく、経営者自身の趣味思考でジャッジしている可能性があるからです。

もちろん会社のブランドの核となる理念は経営者から発せられるものですが、その理念を顧客と共有するには、顧客目線でのデザイン制作が欠かせません。

顧客の生活様式が時代とともに変化するように、デザインの流行も時代とともに変化します。だからこそ経営者の思い入れのある時代のデザインテイストに偏っていてはいけません。これから先の未来を顧客と歩むためのデザイン発信を心がけましょう。

専門用語を使いすぎていないか?

この事象を私は「専門家問題」と呼んでいます。それはレベルの高い仕事ができる会社であればあるほど、チラシやホームページに載っている内容が専門的で難しく、顧客が商品の良さを読み解けずに離脱してしまうケースです。

つまりあなたは、その分野の言わば専門家です。その為、あなたにとっては当たり前のように使用している業界用語も、お客さんにとってはその用語を理解するところからスタートするので、理解に至るまでにわからなくなってしまいます。技術が専門的になればなるほど、詳しく説明してあげたくなってしまうものですが、顧客が最初に知りたいことは、自分のあなたが悩みの解決や希望を叶えてくれるか否かです。

例えば「〇〇を解決する〇〇」「〇〇が〇〇に変わる〇〇」と言うように、顧客目線でのメッセージを、デザインの力でわかりやすく伝えていくことが重要です。

イメージアップだけで終わらないブランディング戦略を

日本の中小企業の技術と想いは多くの可能性を秘めています。もし今顧客への伝わらなさに悩んでいるのなら、一度デザインを通したブランディング戦略を立て直すタイミングかもしれません。

企業の技術と想いを伝えるブランディング C-OILING 大後 裕子

ものづくりの課題を解決する3つの型

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

皆さんは毎日様々な課題に直面されてものづくりに励んでいることと思われます。ところで皆さんは日々のものづくりに関する課題をどのように解決していますか?試行錯誤の繰り返しでしょうか?それとも手順を踏んで問題を解決しているのでしょうか。これまでも何度かこの場をお借りして、リーンシックスシグマについて触れてきましたが、ここで改めてものづくりの課題を解決するフレームワークとして取り上げたいと思います。

ものづくりには課題を解決する最適な型

ものづくりには課題を解決する最適な型があります。型は“手順”と言っても良いかもしれません。また型は武道における流儀のようなものです。そしてどのような場合にどの型を使うかは、対戦相手次第です。ものづくりの対戦相手とその対策手法には次の3つの型があります。

図1 ものづくりの3つの型(フレームワーク)

型1: 対戦相手とその対策手法: 既存製品や既存プロセスの問題解決で使うシックスシグマのDMAIC

  • Define
  • Measure
  • Analyze
  • Improve
  • Control

型2: 対戦相手とその対策手法: 新規製品開発や新規プロセス開発で使うDFSS:Design for Six Sigma のDMADOV

  • Define
  • Measure
  • Analyze
  • Design
  • Optimize
  • Verify

型3: 対戦相手とその対策手法: 既存プロセスの問題解決で使うリーンのPDCA

  • Plan
  • Do
  • Check
  • Act

図2: 問題解決のための3つのフレームワーク

型1: シックスシグマ

シックスシグマの誕生は今から30年ほど前1980年台のアメリカまで遡ります。当時のアメリカは製品の品質面などで日本に大きく後れをとっていました。そこで日本に追いつくために日本のものづくりを調べました。

しかし、日本のものづくりの現場で普通に行われていたようなことが、文化や言葉の違いからか、当時のアメリカ人にはなかなか理解することができませんでした。そこでアメリカ人は日本のものづくりを徹底的に研究し、科学的思考と組み合わせながら誰でも理解できるような形で「ものづくりの手法(考え方や手順)」を型として体系化していきました。そこで誕生したものがシックスシグマという型です。

シックスシグマは問題解決を一つのプロジェクトとしてとらえて、(Define)問題の定義から始め、(Measure)それを測定し、(Analyze)分析し、(Improve)改善策を施し、(Control)改善が定着したかどうかを管理するという5つのフェーズ(DMAIC)を取ります。

型2: DFSS(Design for Six Sigma)

シックスシグマは既存の製品の問題を解決する場合やその製造プロセスの改善にはある程度有効でしたが、既存の製品やプロセスに改善を加えるため、その成果には限度がありました。その限度を打ち破るためには新しい製品や新しいプロセスを設計する必要があります。

新しい製品やプロセスには狙った目標(ターゲット)があります。その新しい目標を達成するための開発のために使われる手法(型)がDFSS(Design for Six Sigma)という型でした。シックスシグマのDMAICと同様に、DFSSは(Define)問題の定義から始め、(Measure)それを測定し、(Analyze)分析し、(Design)新しいプロセスや製品を設計し、(Optimize)新しい設計を最適化し、最後に(Verify)新しい設計を確認するという6つのフェーズDMADOVを取ります

型3: リーン

1980年代にアメリカ・マサチューセッツ工科大学で日本の自動差産業の生産方式が研究されました。特に徹底的に生産過程の無駄を省いたトヨタ生産方式が研究され、この徹底的に無駄を省いたトヨタ生産方式(型)のことをリーン方式と呼びました。

そしてジャストインタイム方式(JIS)やカンバン方式など、リーン生産方式は工業的な生産活動に関連する改善・改革に関するモデルとなりました。

図3: Six SigmやDFSS、Lean を使う企業

既存のプロセスの改善で用いられるリーンは(Plan)計画(Do)実行(check)チェック(Act)実施というフェーズをプロジェクトごとに行います。シックスシグマやDFSS、リーンは、問題(ものづくり)を一つのプロジェクトとしてとらえて、一つずつ解決していくフレームワーク(型)として現在では多くの企業で使われています。

問題解決のフレームワークを使うメリット

最適でかつ定型的なツール類をDMAICやDMADOV、またはPDCAの各フェーズごとに使うことで、問題解決の精度が上ります。また一つの問題対策を一つのプロジェクトとして捉えるため、プロジェクトの完了数が即ち問題を解決した数と考えることができるだけでなく、問題解決に掛かった費用や日数などの管理もできるようになります。

リーンシックスシグマやDFSS、リーンには様々な問題解決の方法やツール類、統計処理方法などが予め用意されているので、それに当てはめて使うことで、比較的簡単に問題解決の精度があがり期待した結果が得られるだけでなく、企業経営にプラスの面をもたらします。

問題解決のフレームワークを使うデメリット

解決策がおおよそ分かっている状態で、上記のような問題解決のフレームワークを使うと、余計に時間がかかってしまうという問題があります。分かりきった結果を求めるために、余計なツール類を使って余計なデータを取得し、それを分析することは時間や手間の浪費になります。そのような場合は “Just Do It”というように対策をさっさと施してしまう方が早いでしょう。

またリーンシックスシグマやDFSS、リーンを使う場合、ブラックベルトやグリーンベルトなど専門のスタッフが企業内にいることが望ましいため、専門スタッフの教育が必要になります。そのような人員の確保や教育が企業にとっては難しかったり、または負担となったりする場合があります。

専門スタッフの確保が難しかったり、フレームワークの教育が悪かったりする場合は、費用と時間ばかりかかって肝心の問題が解決されないという問題があります。これらを解決するためには企業が経営戦略の一環としてとして、専門スタッフの教育を含め問題解決のフレームワークを本気になって導入する必要があります。

スピードが決め手に

経営環境が目まぐるしく変化する現在では、問題を解決するスピードが重要です。シックスシグマやDFSS、リーンを使って他社よりも早く各フェーズを回し、問題を解決することが企業存続のためにますます重要になるでしょう。

コロナ禍における中小製造業が受けられる支援まとめ

テクノポートの井上です。コロナ禍の影響が製造業でも少なからず出てきています。この現状を乗り越えるために、受けられる支援は積極的に活用しようと考える経営者の方は多いと思います。今回は、中小製造業が活用できる支援内容をまとめましたので参考にして頂けたらと思います。

給付金

給付金とは、要件さえ満たせば受給できる支援策です。

持続化給付金

持続化給付金は、対象要件さえ満たせば簡単な手続きで現金がもらえる制度です。感染症拡大により、大きな影響を受けた事業者に対して、事業の継続を下支えし、再起の糧として頂くため、事業全般に広く使える給付金が支給されます。

  • 給付対象要件
    新型コロナウイルス感染症の影響により、ひと月の売上が前年同月比で50%以上減少している事業者。
    2019年以前から事業による事業収入(売上)を得ており、今後も事業を継続する意思がある事業者。
    法人の場合は、
    ①資本金の額又は出資の総額が10億円未満、又は、
    ②上記の定めがない場合、常時使用する従業員の数が2,000人以下である事業者。
    ※2019年に創業した方や売上が一定期間に偏在している方などには特例があります。
  • 給付額
    中小法人等は200万円、個人事業者等は100万円
    ※ただし、昨年1年間の売上からの減少分を上限
    ■売上減少分の計算方法
    前年の総売上(事業収入) – (前年同月比▲50%月の売上×12ヶ月)

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助成金関連

助成金は一定の条件を満たすことで必ず支給されるもので、返済の必要がないお金です。

雇用調整助成金

新型コロナウイルス感染症の影響で、企業が支払う休業手当に対して支給される雇用調整助成金の特例措置が拡充されています。

  • 特例措置対象期間:4月1日〜6月30日
  • 対象事業主:新型コロナウイルス感染症の影響で、最近1か月の売上などが前年同月に比べて5%以上減少している企業
  • 助成率:中小企業では4/5、大企業では2/3(解雇を行わなかった場合、中小企業では9/10、大企業では3/4)(ただし、助成額は1日1人あたり8,330円が上限)
    さらに、労働者の休業に対して100%の休業手当を支払っている中小企業などに対しては、10/10(つまり全額)を助成

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働き方改革推進支援助成金

従来の「働き方改革推進支援助成金」の中に、コロナ対策として、テレワークを推進するための助成金が新たに創設されました。

  • 対象事業主:新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークを新規(※)で導入する中小企業事業主
    ※試行的に導入している事業主も対象
  • 助成対象の取組
    ・テレワーク用通信機器(※)の導入・運用
    ・就業規則・労使協定等の作成・変更
    ・労務管理担当者に対する研修
    ・労働者に対する研修、周知・啓発
    ・外部専門家(社会保険労務士など)によるコンサルティング 等
  • 主な要件
    ・事業実施期間中に助成対象の取組を行うこと
    ・テレワークを実施した労働者が1人以上いること
    ※少なくとも1人は直接雇用する労働者であることが必要です
  • 助成の対象となる事業の実施期間:令和2年2月17日~5月31日
    支給額:

(厚生労働省HPからの画像引用)

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中小企業人材オンラインスキルアップ支援事業

都内中小企業等が従業員に対して行う、eラーニングを利用した職業訓練(職務や業務に必要な知識や技能の習得と向上、又は資格等に関する訓練)に係る経費を助成されます。こちらは東京都の取り組みのため、東京都内に本社又は主たる事業所があることが条件です。

  • 助成対象となる訓練の要件
    ・中小企業が従業員に対して行う訓練、又は団体がその構成員の従業員に対して、教育機関等が提供するeラーニングを利用して実施するもの
    ・受講者の職業・職務に必要となる知識・技能の習得と向上を目的とする訓練、又は資格の取得を目的とする訓練であること
    ・中小企業又は団体が受講者の受講履歴等を確認できる訓練であること
    教育機関の受講案内と受講に係る経費(受講料等)が一般に公開されていること
  • 助成対象受講者
    ・中小企業が雇用する従業員
    ・団体の場合は、団体を構成する企業のうち都内に本社又は主たる事業所がある中小企業の従業員
    ・常時勤務する事業所の所在地が都内である者
    ※在宅勤務中や自宅待機の場合は、在宅場所を問いません。
  • 助成額:助成対象経費の5分の4
  • 助成限度額:中小企業又は団体が交付申請できる金額は32万円が上限です。
    ※ただし、申請は1回に限ります。

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補助金関連

補助金は期間内に応募し、採択された場合に支給されるものです。助成金と同様に返済義務がありません。以下の3つの補助金は、従来予定されていたものに加え、コロナ対策の特別枠が新たに組み直されたものです。コロナ特別枠として変更となった項目のみ紹介します。

IT導入補助金 特別枠「C類型」

中小企業等が感染症の影響を乗り越えるための、ハードウエア(PC、タブレット端末等)のレンタル等も含めた、ITツールの導入が支援されます。

  • 補助率:2分の1⇒3分の2
  • 対象経費:ハードも対象

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小規模事業者持続化補助金<コロナ特別対応型>

小規模事業者等が感染症の影響を乗り越えるために、経営計画を策定して取り組む販路開拓の取り組み等が支援されます。

  • 補助上限額:50万円⇒100万円

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ものづくり補助金

中小企業等が感染症の影響を乗り越えるための、新製品・サービス・生産プロセスの改善に必要な設備投資が支援されます。

  • 補助率:2分の1⇒3分の2

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その他

コロナ特別貸付等の資金繰り支援

新型コロナウイルス感染症特別貸付は、特別利子補給制度を併用することで実質的な無利子化を実現。さらに、都道府県等による制度融資を活用して、民間金融機関にも実質無利子の融資が拡大されました。

税・社会保険料の納付が猶予/減免

基本的にすべての税・社会保険料を対象に、無担保かつ延滞税なしで1年間納付を猶予。さらに公共料金関係の支払いについても猶予。また、既存の事業用家屋・償却資産への固定資産税も減免されます。

 

以上、コロナ禍において中小製造業が活用できる支援内容をご紹介しました。国だけでなく地方自治体でも独自の支援策を行われていることがありますので、別途各地方自治体の役所にご確認頂くと良いと思います。

弊社テクノポートでは小規模事業者持続化補助金において、HPを活用した販路開拓による申請を行う企業の申請サポートを行っております。リモートワークが進む中で、HPをはじめとしたITツールを活用し、オンラインで顧客接点の獲得や打ち合わせを行う、非接触型の営業活動の需要が高まっております。ご興味持って頂ける方いらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせください。

新型コロナウイルスの世界的な蔓延の1日も早い終息を願うばかりです。

プレスリリースを検討する際に気を付けて欲しいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、プレスリリースを行う際、気を付けて欲しい点についてお話したいと思います。

あなたのプレスリリースを見る人

プレスリリースを見る人は、どのような人でしょうか?

  • 既存のお客様
  • まだ見ぬ新規のお客様
  • ・・・

これだけでしょうか?これ以外にもあります。

それは、あなたのライバル企業や、ライバル企業の取引先です。

ライバル企業がみていること

プレスリリースされた新しい商品やサービスについて、ライバル企業は何を見ているでしょうか?あなたの商材について、機能や品質の優劣や、価格の競争力も比較しています。さらに、以下のようなものを見ています。

それは、うちの知的財産権を侵害しているか?という点です。

知的財産権の侵害について

さて、知的財産権には、特許権・実用新案権(技術の権利)、意匠権(プロダクトデザインの権利)、著作権(大雑把にいうとアートの権利)や、商標権(商品名やサービス名の権利)等があります。ライバル企業からみれば、「せっかく知的財産権を取得したのだから、模倣犯がいれば取り締まりたい。」と思うでしょう。

このため、ライバル企業は、

  • プレスリリースされた商材の機能は、わが社の特許発明を使っていないかな?
  • プレスリリースされた商材のプロダクトデザイン、わが社の登録意匠を使っていないかな?
  • プレスリリースされた商材の名称は、わが社の登録商標に似ていないかな?
  • プレスリリースに掲載された写真は、自社サイトの写真を流用していないかな?

と、様々な角度から、目を皿のようにしてチェックしています。実際に、そのような侵害発見を依頼されるときもあります。そして、何かしらの権利を侵害している可能性が高い場合には、特許権侵害等を根拠とする警告書が、内容証明郵便にてあなたの会社へ郵送されてくることになります。

法的手段を取られたときのインパクト

警告書で要求される主なものは、差止請求と損害賠償請求の2つがあります。今回は、プレスリリースの場合ですので、差止請求についてのみ述べます。

さて、相手が要求が差止請求の内容に正当である場合、あなたの会社はどうなるでしょうか?

特許権侵害や意匠権侵害の場合

特許発明や登録意匠を使わないような設計変更をしなければなりません。すでに仕掛品や在庫を持っている場合には、廃棄せざるを得ない場合も多いでしょう。また、設計変更や仕掛品等の廃棄を受け入れられない場合には、相当のライセンス料を支払う必要が出てきます。

そして、これらを受け入れられなければ、新しい商材のリリースを中止せざるを得ません。

商標権侵害の場合

プレスリリースされた商材の名称は、継続して使用できません。特許権等のようなライセンスも可能ですが、商標権の場合には、権利者側のブランドイメージの棄損につながるため、ライセンスを許可する場合は少ないです。したがって、名称変更をせざるを得ない場合がほとんどです。結果としては、チラシ制作やパッケージ制作は0からやりなおしになります。また、プレスリリースや宣伝広告も0からやり直しになります。

このように、ライバル企業の知的財産権の侵害行為によって、新しい商材によるビジネスが困難になるばかりか、これまでに投じた時間やコストの回収ができなくなってしまいます。すなわち、他社の知的財産権の侵害行為は、あなたの会社の存続に直結します。

警告書を無視したらどうなる?

相手方の主張が正しいにも関わらず、警告書を無視して侵害行為を継続した場合には、刑事罰の対象となります。特許権、意匠権や商標権侵害の場合における刑事罰は、以下の通りです。

  • 個人の場合:10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(両方が科される場合もあります。)
  • 法人の場合:法人に対して3億円の罰金。代表者等には、個人と同じペナルティが課されます。

よって、専門家に相談せずに、警告書の無視することは、とてもお勧めできません。

ライバル企業の権利を侵害しないためにはどうすれば?

前項では、ライバル企業の知的財産権を侵害してしまうと、あなたの会社の存続が危うくなることについて述べました。それでは、ライバル企業の知的財産権を侵害しないためには、何をすればよいのでしょうか?

そのためには、ライバル企業の権利を調べる必要があります。この調査は、プレスリリースよりも前に行う必要があります。より詳しく言えば、他社の特許権や意匠権の調査の場合には、万が一の設計変更やデザイン変更を考慮して、試作のテストに目途がついた段階に行うことが望ましいでしょう。他社の商標権の調査の場合には、万が一の名称変更を考慮して、名称の案がある程度絞り込まれた段階で行うことが望ましいです。

このような特許権、意匠権、商標権の権利の調査(クリアランス調査といいます)は、専門的知識が必要です。調査の際には、お近くの専門家にご相談ください。

まとめ

  1. わが社のプレスリリースは、お客様だけでなく、ライバル企業も見ている。
  2. ライバル企業は「プレスリリースの商材が、自社の知的財産権を侵害しているか?」を見ている。
  3. ライバル企業が知的財産権の侵害を発見した場合には、差止請求により、プレスリリースの商材の販売は停止し、在庫処分となるため、経済的損失は大きい。
  4. このような経済的損失を回避するためには、「プレスリリースの商材が他社の知的財産権を侵害していないか」のチェックが必要。
  5. チェックのタイミングは、プレスリリースの前に行うこと。

今すぐ始めたい失敗しない「自社商品づくり」

新型コロナウイルスの影響で、今までBtoBビジネスだけをやってきた中小企業も、大手企業からの受注が減少しています。その中で、今まで「日々の業務でいっぱいで考える時間がない」と後回しになっていた自社商品づくりに本腰を入れる企業も多いようです。

この流れが起きている理由としてはこれら3つの点が挙げられます。

  • 受注案件に左右されない収入の柱を作れるから

今まで大手の受注に頼ってきた収入では、今回ようなの世界情勢乗せ変化によって経営が左右されてしまう振り幅が大きいものです。しかし自社商品を継続的に販売することができれば、揺るがない新しい収益の柱を作ることができます。

  • 新しい企業との取り組みができるから

今までは下請けとしての取り組みではいて企業と1対1の関係が多くなりがちです。しかし自社商品を開発・販売することになると、自社を起点として商品の販売先やデザイナーなど今まで取り組んだことない新しいカテゴリーの企業との関係を展開することができます。

  • 社員の自主性が上がるから

BtoB向け企業だど、多くが半製品を作り納品するケールが多いかと思います。そのため、多くの社員にとっては自分たちの仕事ぶりの完成形をなかなか近くに感じることができずにいます。そんな自らの「仕事」を「作業」として感じている社員に対して、を自社商品の開発では自分たちが求めるクオリティの限界を自分たちで決めることが重要です。それによって、自分たちで完成させたもの大きな可能性を感じすことができます。

自社商品づくりのつまづきポイント

まさに「自社商品づくり」は自社を成長させる可能性に溢れたものですが、今まで多くのBtoB向け中小企業がチャレンジしては断念している、つまづきの共通項があります。

商品づくりでのつまづき

  • たくさんの人に買ってもらえるデザインを仕上げるのが難しい
  • BtoCで流通させるためのパッケージデザインができない

販売でのつまづき

  • 作ることはできるけれど、どこでどう売っていいのかわからない
  • 地域のイベント止まりになってしまう
  • 知り合いへの告知で終わってしまう
  • たくさんの人に知ってもらいたいけれど、どうしたら認知度が高まるかわからない

これらのつまづきが重なって、多くの企業が自社商品の開発を「また今度考えよう」とずっと後回しにしてきています。

ではなぜこれらのつまずきが生まれるのかというと、今までやったことのない分野まで自分たちでやってしまおうとすることが起因しています。今ままで長くものづくりをしてきたBtoB向け企業にとって品質の良いものづくりは当たり前のようにできますが、多くのBtoB向け企業が自社商品でつまずく2つの共通項があります。

BtoC向け商品づくりの全体の工程は次の章でご説明しますが、1つ目は、コンセプト設定(生産背景/ペルソナ設定)、市場調査、プロダクトデザイン、パッケージデザインという市場に流通させるときの顧客ウケする商品づくりという視点。

そして2つ目は販売場所の確保(リアル/オンライン)、PR施策(プレスリリース/WEBサイト/SNS)の認知活動という視点です。

もしあなたの会社が「自社商品づくり」でつまづいているのなら、この2つの視点を今から急いで養おうとせず、まずはデザイナーやブランディングの専門家と手を組んで、大きくそして素早く飛躍できる手段を取ることがオススメします。

自社商品づくりの大きなステップ

BtoC向け商品づくりの工程にはこのようなステップが必要です。

  1. コンセプト設定(生産背景/ペルソナ設定)
  2. 市場調査
  3. プロダクトデザイン
  4. パッケージデザイン
  5. 生産背景確保
  6. コスト試算
  7. 流通経路確保
  8. 販売場所の確保(リアル/オンライン)
  9. PR施策(プレスリリース/WEBサイト/SNS)
  10. 継続施策(WEBサイト/SNS/シリーズ品開発/口コミ回収etc…)

今だから始められるあなたの会社が成長する「自社商品づくり」

今回お伝えさせていただいた通り、BtoB向けの新規開拓が難しく受注も減少している今だからこそ、自社の収入面でも人材面でも根底を強化する「自社商品づくり」のタイミングだと言えます。

働き方や人とのつながりがより重要になるこれからの時代に向けて、自分たちの仕事に改めて誇りが持てる「自社商品づくり」をしましょう。

IoT導入事例ファイル7:IoTを新ビジネスにつなげた5社の事例

こんにちは、AI・IoTに注目する盛岡在住ライターの宮田文机です。本連載では、データ活用情報・ノウハウの共有・継承品質保証(QA)/品質管理(QC)などIoTが既存の生産活動にもたらすさまざまなメリットを紹介してきました。

しかし、IoTがものづくり企業にもたらしうる恩恵はそれだけではありません。IoTの導入により自社の価値を高めるだけでなく、新たなビジネスの機会を生み出すことができた企業は多く存在します。今回はそのなかからそれぞれに独自性のある5社の事例を取り上げます。

事例1:「オンライン・メンテナンス」の開始で売上は3倍に! 三浦工業株式会社

愛媛県松山市でボイラーの生産から保守までを行う三浦工業株式会社。国内ボイラー市場のシェア40%以上を占めるトップ企業です。

同社は1989年からIoTを活用して他社にない強みを発揮し、売上を拡大してきました。その要ともいえる事業が「オンライン・メンテナンス」(商標登録)。ボイラーに埋め込んだセンサーから温度や水圧などのデータを取得し、異常が感知されれば故障・停止前にメンテナンスを行います。

他社に先駆けた取り組みにより大きくその売上は拡大し、2017年までの29年間で約3倍に。保守契約による安定的な利益が生まれただけでなく、データ活用による品質の向上や突発的なメンテナンスの減少による離職率の低下など多くのメリットが得られたといいます。

事例2:「ダイレクト切削加工サービス」で付加価値を創出! Apex株式会社

東京都八王子市松木にて自動車部品の開発・製造・販売や3D技術を用いたサービスを提供するApex株式会社。

自動車後付け部品の市場が縮小する中で新サービス創出の必要性を感じていた同社が目を付けたのが、3D技術を用いたリバースエンジニアリング/リバースモデリングでした。そうして生み出されたのが部品データの測定から施策までを一気通貫で行う「ダイレクト切削加工サービス」です。

3Dデータの測定により試作品の精度が大幅に高まり、大幅な短納期の実現が可能になった同社。独自の強みを得られるようになり、また属人的なものづくりから解放されました。自動車部品から郷土品まで、その技術活用の幅は非常に広くなっています。

事例3:リモート監視ソリューション「Wi-VIS」で強みを倍増! 京西テクノス株式会社

東京都多摩市で下請け中心に電子部品製造業を営んでいた京西テクノス株式会社。下請け脱却を目指し、IoTを活用した新サービスの開発に取り組みました。そうして生まれたのがリモート監視ソリューション「Wi-VIS(Wireless Visual Solution)」です。

グローバル化が加速するものづくり業界において、海外工場をリモート監視するシステムが普及していくだろうと予測した京西テクノス。そこで自社開発を行ったのが、国内・海外を問わず機器のデータを取得・クラウドに保存し、故障予測や故障個所特定、リモート修理を行えるシステムでした。

センサーを取り付けるだけでさまざまな環境やメーカーの機器からデータを取得・管理できる同システム。他社にない強みとして同社の価値を大きく高め、監視代行などオプションとして新たなビジネス展開を生み出すことにも成功しました。

事例4:クラウド見積もりサービス「TerminalQ」を生み出した! 月井精密株式会社

東京都八王子市で精密機械部品の加工に取り組んでいた月井精密株式会社。IoTの導入により売上を伸ばしてきたところでリーマンショックが発生。値段交渉を各取引先から申し込まれるなかで、それまで「どんぶり勘定」で行ってきた見積もり方法を見直す必要に駆られました。

そうして大学との連携や補助金の活用を経て開発されたのがクラウド見積もりソフト「Terminal(ターミナル)Q」です。製品の図面をもとに材料や作業者などの情報を入力していけば、あらかじめ登録しておいた情報をもとに自動で見積書を作成させることができます。

企業間SNSや経営分析データ分析など幅広い活用方法の考えられる同サービス。現在は専門に開発を行うために設立されたグループ企業により運営され、登録企業を増やし続けています。

■月井精密株式会社についてより詳しくは……

事例5:センサー内蔵の「ピエゾボルト」でビジネスの可能性を広げた! 株式会社ヤマナカゴーキン

大阪府東大阪市に本社を持つ株式会社ヤマナカゴーキン。主に鋳造金型を取り扱っており、IoT/AIシステムの独自開発・販売に積極に取り組む先進企業です。

同社が2016年に販売開始した「ピエゾボルト」は、ドイツの大学発ベンチャー企業コンセンシス社が開発した“センサー内蔵ボルト”です。標準規格のボルトと置き換えることができ、軸力の変化を計測することで異常や不具合の事前検知を可能にしてくれます。

同社が強みとする冷間鍛造や解析ソリューションと組み合わせることで、サービスの高度化を測れるピエゾボルト。得られたデータをもとにした保守サービスなどヤマナカゴーキンの打ち手は大きく広がったといえるでしょう。

国際会議での出会いからパートナー関係が始まったというヤマナカゴーキンとコンセンシス社。技術革新への取り組みを通じた他社との連携により、ビジネスの可能性が大きく広がった事例といえるでしょう。

まとめ

IoTサービスの開発・導入により新ビジネスを生み出したものづくり企業5社の事例をご紹介しました。IoTの導入によって得られたメリットは、すなわち自社の強みとなります。そして、他社に提供できるサービスへと昇華できる可能性も大きく広がっているのです。

税理士さんも勘違いしてしまう?商号と商標の違い

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。

今回は、どの企業であってもチェックすべき知的財産権についてお話したいと思います。

どの企業でもチェックすべき知的財産権

どの企業であってもチェックすべき知的財産権とは、何だと思いますか?答えをお伝えする前に、質問をしたいと思います。

「今行っている事業(これから始めようとする事業)は、合法的に行うことができるのでしょうか?」

これを、もう少しわかりやすく言うと、

「今検討されている事業は、他社の特許権や商標権等の知的財産権を侵害しませんか?」

となります。

「うちは特許なんて関係ないよ~」

と思われる方も多いかもしれません。確かに特許権は、技術を守る権利。技術要素が低い事業であれば、あまり関係がないかもしれません。しかし、商標権は、商品やサービスの目印となる名前やマーク(商標)を守る権利。つまり、商売を行う人は必ず商標は使用しているといえるわけですから。商標権は、特許権とは違い、どの事業でも関わりの深い権利といえます。

商標のタイプ

商標権がどの業種においても関わりの深い権利であることは述べました。ここでは、商標権が守る商標について簡単に説明したいと思います。これから開こうとする「お店の名前」は商標です。カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が経営する「TUSTAYA」、株式会社モンテローザが経営する「白木屋」「魚民」等があります。また、これから作ろうとしている法人の名称(正確に言うと、法人の名称の略称)も、商標となるケースが多いです。

株式会社ソニーであれば「SONY」、トヨタ自動車株式会社であれば「TOYOTA」がここに相当します。また、これから製造販売しようとする「商品の名前」も商標です。「SONY」の「ウォークマン」や「TOYOTA」の「プリウス」等があります。

このような名前を競業他社に勝手に使用されたらどうなるでしょう?売上の減少はもちろんのこと、名前にくっついていた信用が傷つき、ひいては、これまでに築いてきたブランドが崩壊します。したがって、自社の商標は他社に使わせたくないと思うのが、事業主の心情。そうしますと、商標は、事業において誰もが使用すると言えますし、商標権は、事業を行う人であれば取得していて何ら不思議はないといえます。

実際にあった勘違い

このような商標権であるよく勘違い。それは、「商号上問題ないから、商標権も問題ないのでは?」というものです。

商号の保護と商標の保護は、法律上異なり、取り扱いが全く異なるのですが、税理士さんのような専門家の方でも間違えてしまいやすい問題なのです。さて、今回は、実際にあった相談事例をご紹介します。

Aさんは、レストランを開業しようと思い、とある税理士さんに相談しました。レストランの店名について、法人の商号調査の必要性を確認したらしいのですが、その税理士さんからは、

「法人ではなく、個人事業主なので調査不要です」

とコメントをもらったようです。Aさんは安心してレストランを開業したのですが、開業して3か月たったところ、他社から商標権侵害をいわれ、店名を泣く泣く変えることになってしまいました。結果、新しい名前を考え、新しい看板をつくり、看板ができるまで、営業ができなくなってしまいました。

商号と商標の違い

前述の事案の敗因は、「商号と商標を混同してしまった点にあった」といって良いでしょう。今回のように、税理士さんの中でもその違いを説明できない人がまだまだ多いようです。そこで、今回は、商号と商標の違いについて簡単にご紹介したいと思います。

<商号>

  1. 商号とは何? 法人の名前。人でいうところの氏名みたいなもの。法人の名前なので、個人事業主には関係ない。
  2. 届出 法人設立時に登記が必須。届け出先は法務局。代理には、司法書士。
  3. 調査の要否 法人登記に必須。
  4. 競業他社との商号との関係 商号調査(法人登記)時に問題となる。問題となるのは、同一の所在地&同一名称。登録後から他人から文句を言われることはない。

<商標>

  1. 商標とは何? 商売上の目印となる名前やマーク等。法人・個人に関係なく商売をするのであれば必要。
  2. 届出 必要な方はご自由にどうぞ。届け出先は特許庁。代理人は弁理士。
  3. 調査の要否 必要な方はご自由にどうぞ。
  4. 競業他社の商標との関係 問題となるのは、同一の所在地ではなく日本全国&登録商標に同一な名称に限らず、類似の名称使用(開業)している限り、商標権者(競業他社)から文句「商標権侵害だから名前変えろ」と言われる可能性がある。

商標リスクの要因

商号にはない商標のリスクの要因は3つあります。

1つ目は、商標の場合、商号と異なり、調査や登録せずとも、使用できてしまう点にあります。

2つ目は、商標の場合、商号と異なり、使用(開業)している限り、商標権者(競業他社)から文句「商標権侵害だから名前変えろ」と言われる可能性がある点にあります。

そして、3つ目は商標のリスクマネジメントは自己責任という点にあります。すなわち、商標の調査を行っていないと、自社の事業活動において、他人の商標権を侵害してしまいますし、また、商標登録を済ましていないと、自社の事業活動開始後に、他人の商標権が発生したため、事後的に他人の商標権を侵害してしまう可能性があります。このような商標のリスクは、商標の調査や商標登録によって取り払うことができますが、上述の通り「必要な方はご自由にどうぞ」となっています。このため、商標リスクについて、ただし知識を持っていないと、上述のようなケースに陥ってしまいます。「自社の使用していた名称が他人の登録商標だったとは知らなかった」では済まされません。

したがって、事業の責任者は、商標リスクについて「知らなかった」ではなく、チェックすべき事項であるといえます。

まとめ

商号とは違う商標リスク。これから新しく事業を始めようとする人も、すでに事業を始めようとする人も、商標権のリスクはしっかり管理しましょう。

  1. 商標の場合、使用自体は自由にできてしまう。
  2. 商標権者(他社)からが登録商標の使用を停止される可能性がある。
  3. 商標リスクのマネジメント(商標調査や商標登録)は「必要な方はご自由にどうぞ」。
  4. 真剣に事業をしたい方ならば、商標リスクのマネジメントは必須。

パンデミックと企業のブランディング

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中に拡散するなかで、企業は1〜2日の営業縮小で止まることなく、緊急でテレワークへの切り替えや取引先との打ち合わせ延期、出張の自粛などの対策に慌ただしく対応している企業が多いことでしょう。自社社員の安全確保に加えて、サプライチェーンの見直しが必要となる等、企業の事業活動にも大きな影響を及ぼし始めています。

そんな中、買い占めや転売に始まり、海外渡航の規制など日々状況が変化しています。いつまで続くかわからない不安な情報が渦巻く中で、人や会社の「本質」が見えるような事象が多く起こっています。それは個人や企業が何を選択し、どう行動して、どんな言葉を発信していくのか世間のアンテナの感度が高くなっているからなのです。

そこで今回は、この非常事態だからこそ見直したい、企業のこれからの行動や印象を大きく左右するブランディングについて、社員・お客さま・サプライヤーに対象を分けて実施していくべき項目を、ポイントをまとめました。

社員とのリレーション

社員は最新の動向について当然のように心配し、経営層からの正確かつ信頼できる情報提供を期待しています。社員が、パンデミックへの意識向上を社内での通常業務内のコミュニケーションに組み込むことが重要です。お客様、サプライヤーの状況の共有をしながら自社としてどのようなスタンスで業務に当たっていくべきか、情報共有だけではなくマインドセットも合わせて行うことで、社員の不安の解消、モチベーション維持が可能になります。

当局から発表された情報や解説画像を共有し、講じるべき措置や注意すべき症状について出張者を指導し、さまざまな部門やチームによるパンデミック対策の取決めの見直しを促す役割を担っています。

お客様とのリレーション

自社の内部整理で慌ただしい今だからこそ、お客さまとのリレーションを止めてはいけません。お客様はパンデミックの中で、自分たちを安心させてくれる情報が欲しいと思っています。

たとえば野球のリーグ戦では無観客で試合が行われている2020年3月現在、埼玉西武ライオンズをはじめとする野球チームではファンのメッセージを球場の巨大スクリーンに映し出していくという試みををこなっています。Twitterで「共熱」というハッシュタグをつけてつぶやくことで、球場の選手を応援できるシステムを導入し、チームとファンの絆を強めていっています。この取り組みはパンデミックが終わった後、今まで以上に球場に足を運びたいと思うファンの感情を育てることができるのです。

サプライヤーとのリレーション

通常業務の遂行を滞りなく行うために、連絡が取りにくくなっているかもしれまん。しかしこのイレギュラーなタイミングだからこそ自社の重要サプライヤーのパンデミック対策を把握する連絡を必ず取り合いましょう。相互の考え方を共有し、現状をスムーズに進めるだけでなく今後この脅威がさらに重症化した場合には、どのように経済活動を行うか継続的な話し合いを推進しなければなりません。また、現時点でパンデミックを共に乗り越えることによって今後のビジネスもより円滑な関係を築くことができます。

ピンチこそブランディングを見直す時

ピンチの時にこそその企業の本質が見えてきます。だからこそ、今ブランディングを見直す時です。自社としてこのパンデミックに立ち向かうマインドと事業方向を、経営陣が改めて見直し、そして方向性をステークホルダーへ今まで以上に伝えていくことによって、より親密な関係性を築くことができ、今後のビジネスのさらなる発展していくことができます。

技術系ライターが行う書き分け

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。今回は技術系ライターが行う書き分けについてです。

技術系ライターだからできること

前回の記事で技術系ライターが受けるライティング案件の例を幾つか挙げました。

前回の記事はこちら:「製造業における文書化によるアピールの大切さ

この記事の中で「ターゲットとなる層がその製品を実際に使う技術者なのか、技術はそれほど詳しくはないが購入を決める決定権者層なのか、または全くの一般の人かなどにより、書く技術の深さや表現を変えて書く」と説明しました。製造業における技術や製品の文書化において、技術系ライターの必要性はこの部分にあります。

技術を説明するには、その技術を理解している必要があります。工業の基本的な知識、製造業における経験がなければ、その技術を理解するのに多くの時間が必要になります。技術系ライターは、もともとその技術や製品を利用していたり、知っていたりする場合が多く、速やかに理解できます。また、専門外であっても、基本的な工業的な知識を持っているので、理解に時間がかかりません。問題なく説明がおこなえます。

技術をかみ砕いて伝える

技術や製品を伝えたい相手は様々です。技術者なのか、技術はそれほど詳しくない決定権者なのか。技術的なことがわからない文系の学生かもしれません。また、子供向けのコンテンツという場合もあります。技術系ライターは、技術を理解した上で、それぞれの人に合わせて説明する深さを変えて書き分けることができます。

例えば、金属加工をおこなっている会社があったとします。技術者にアピールするために書くのならば、加工できる素材やサイズ。対応できる表面処理や加工方法の他、加工実績や価格感、納期など。具体的に技術者が欲しいと思う情報を書きます。専門用語もそのまま使い、必要な情報を過不足なく入れていきます。

これが、技術がわからない就職活動中の文系の学生だと大きく変わります。企業情報を研究しているはずなので、金属を加工して何らかの部品や装置を作っている会社ということは理解しています。しかし、どのように加工しているのか。どのぐらい精密な加工ができて、それがどれほど凄いことなのかを理解しているかとなると難しくなります。専門用語を書いても全く伝わらないので、簡単に説明する必要があります。

例えば、「プレス金型」といえば、技術者ならそれで何をするのか、どのように使われて、どうやって作られているか、説明しなくても理解できます。これが学生向きならば「つくりたい形に金属を曲げたり、打ち抜いたりする道具」のように別の言葉で書き換えます。さらに子供向きならば「金属は強い力をかけると曲がって元にもどらなくなる」という、金属の特性あたりから説明することになります。金属加工を理解した上で、金属加工について対象にあわせて深さを変えて書き分ける。製造業向けのコンテンツにおいて、これが速やかにできるのが技術系ライターと通常のライターの違う点です。

製造業の現場経験を持つライターや、工業的知識を十分に持つライターは、自社の技術や製品をアピールするために大いに役立ちます。近く、製造業向けのライティングを専門に受ける窓口ができる予定です。

書くことによって製造業を盛り上げていきますので、詳細が決まりましたら、またご連絡させて頂きます。

IoT導入事例ファイル6:品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例

こんにちは、AI/IoTに注目する盛岡在住ライターの宮田文机です。本連載では、毎回ものづくり企業におけるさまざまなAI/IoTの活用事例をまとめています。今回は、品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例をご紹介します。

紙と人に頼った手法がQA・QCのボトルネックになっている

企業が信頼性を確保し顧客満足を高めるため、品質保証(QA:Quality Assurance)や品質管理(QC:Quality Control)は非常に重要です。しかし、従来の紙と人による品質保証・管理手法は限界を迎えつつあります。長年TQM(Total Quality Management)活動に取り組み、世界中で高い評価を得てきた日本製品の競争力に陰りがみられる原因のひとつは品質保証・品質管理におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の遅れではないでしょうか?

ここからは、故障の予知やリアルタイムのデータ取得で品質保証・品質管理を行う5社の先進事例をご紹介します。

事例1:故障の「予知」で理想的な保守を実現した株式会社前川製作所

産業用冷凍機並びに各種ガスコンプレッサー、冷凍・冷蔵倉庫冷却設備などを製造・販売・施工する株式会社前川製作所。

万が一機械が故障、停止した場合にはユーザーに対して大きな損害を与えてしまうため、故障を予防し品質保証を徹底することが最重要課題となっていました。従来は早期の消耗品交換等によって対応していた前川製作所ですが、交換にあたって人的コストや消耗品コストが発生するため頭を悩ませていました。

そこで導入されたのが冷凍機に設置したセンサーから稼働データを収集し、故障の予兆や推定される異常個所をメール配信してくれるシステムです。機械学習により装置ごとの差異や周辺環境も考慮してくれる同システム。

導入後は予知に従いベストなタイミングで保守交換を行うことが可能になった上、異常個所が高い精度で特定されるため品質保証の制度も高まったといいます。

事例2:3Dデータの測定で鋳造の精密さ・自由度を高めた株式会社木村鋳造所

静岡県で自動車用プレス金型用鋳物や工作機械・産業機械用鋳物の製造・販売を行う株式会社木村鋳造所。発泡スチロール模型を製造することで早く安価に少量多品種生産を実現できるフルモールド鋳造法を強みとしています。

そこで品質管理に導入されたのが非接触型の自動測定・検査機「ATOS」。完成品の3Dデータをレーザーで測定することで模型とのズレを見抜けます。

模型の3Dデータを取得することにはほかの利点もあり、例えば耐圧・耐熱などのシミュレーションを行うことも可能に。その結果、手間やコストを抑えつつより自由度の高いものづくりに取り組めるようになりました。

蓄積された3Dデータはいつでも呼び出すことができるため、類似品を製造する際に参考とすることができるのも大きな利点といえるでしょう。

事例3:リアルタイムに生コンの品質を把握できるシステムを開発した株式会社東伸コーポレーション

神奈川県横浜市で生コンクリートを製造・販売する株式会社東伸コーポレーション。

製造直後から化学変化が始まる生コンクリートの品質保持は熟練者の経験と勘が必要であり、特にミキサー車に積み込んだ製品の品質保持の負担の大きさが問題とされていました。

その状況をがらりと変えたのが生コンクリートの性状変化データをリアルタイムで確認できる管理システム「Smart Agitator®」です。海外ベンチャーと東伸コーポレーションを含む数社で設立されたGNNMJ社が開発した同システムは走行中のミキサー車からでも正確なデータを取得できるよう設計されています。

Smart Agitator®の導入後は誰でも品質を把握し管理できるようになっただけでなく、生コンの品質が劣化する状況についてデータをもとに分析できる状況も整いました。

事例4:可食性プリンタを遠隔・リアルタイムで保守点検する株式会社ニューマインド

平成24年に設立された比較的若い企業である株式会社ニューマインド。

特殊プリンタ事業に特化した同社ではケーキやせんべいなどの食品にフルカラー印刷が行える可食性プリンタ機器を取り扱っています。同商品は通常顧客である食品メーカーの製造ラインに組み込まれて稼働するため、故障の原因特定が困難という問題を抱えていました。

衛生面など手厚いケアが必要な可食性プリンタの保守を遠隔・リアルタイムで行えるようニューマインドが導入したのが顧客企業のWi-Fiや有線ネットワークを利用してプリンタの稼働状況や温度・湿度といった環境データを取得するシステムです。

プリンタの保守点検にIoTによるデータ取得を活用するシステムは、キヤノンやリコーといった大手企業でも用いられています。
遠隔・リアルタイムで品質保証が行える点、データを製品の開発や顧客サービスの充実に生かせる点に多くの企業が注目しているようです。

事例5:生産管理システムをカスタマイズしTQMを進めた株式会社笠原成形所

最後に紹介するのは新潟県南魚沼市でプラスチック成形業に従事する株式会社笠原成形所です。TQMを重視する同社では生産に関わるデータを各従業員がスムーズに呼び出し活用できる仕組みの構築を目指していました。

そこで導入されたのが生産管理システム「MICS」です。開発企業とカスタマイズを重ね、複数のメーカーの成形機の稼働状況を一覧で把握する、成形機から金型のショット信号を取得するなど自社に適した機能を盛り込んだ同システム。従業員に一人一台支給したタブレット端末から生産データや機械使用時の注意点を把握できるようになったことで紙で情報を管理していた以前に比べ、大きく全社的な品質管理が前に進んだそうです。

DXに対する意識の高さに加え、元からある機能や使用感で妥協せず工夫を重ねたことで理想の環境を実現できた例といえるでしょう。

まとめ

品質保証(QA)・品質管理(QC)にIoTを活用する5社の事例を見てきました。日本企業の強みである品質を世界基準で維持し続けるには、AI/IoTの活用が不可欠といっても過言ではありません。現在紙と人だけで品質管理に取り組んでいるならば、問題や不便がないか、それはDXにより解決できないかと検討してみることをおすすめします。

IoT導入事例ファイル6:品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例

こんにちは、AI/IoTに注目する盛岡在住ライターの宮田文机です。本連載では、毎回ものづくり企業におけるさまざまなAI/IoTの活用事例をまとめています。今回は、品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例をご紹介します。

紙と人に頼った手法がQA・QCのボトルネックになっている

企業が信頼性を確保し顧客満足を高めるため、品質保証(QA:Quality Assurance)や品質管理(QC:Quality Control)は非常に重要です。しかし、従来の紙と人による品質保証・管理手法は限界を迎えつつあります。長年TQM(Total Quality Management)活動に取り組み、世界中で高い評価を得てきた日本製品の競争力に陰りがみられる原因のひとつは品質保証・品質管理におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の遅れではないでしょうか?

ここからは、故障の予知やリアルタイムのデータ取得で品質保証・品質管理を行う5社の先進事例をご紹介します。

事例1:故障の「予知」で理想的な保守を実現した株式会社前川製作所

産業用冷凍機並びに各種ガスコンプレッサー、冷凍・冷蔵倉庫冷却設備などを製造・販売・施工する株式会社前川製作所。

万が一機械が故障、停止した場合にはユーザーに対して大きな損害を与えてしまうため、故障を予防し品質保証を徹底することが最重要課題となっていました。従来は早期の消耗品交換等によって対応していた前川製作所ですが、交換にあたって人的コストや消耗品コストが発生するため頭を悩ませていました。

そこで導入されたのが冷凍機に設置したセンサーから稼働データを収集し、故障の予兆や推定される異常個所をメール配信してくれるシステムです。機械学習により装置ごとの差異や周辺環境も考慮してくれる同システム。

導入後は予知に従いベストなタイミングで保守交換を行うことが可能になった上、異常個所が高い精度で特定されるため品質保証の制度も高まったといいます。

事例2:3Dデータの測定で鋳造の精密さ・自由度を高めた株式会社木村鋳造所

静岡県で自動車用プレス金型用鋳物や工作機械・産業機械用鋳物の製造・販売を行う株式会社木村鋳造所。発泡スチロール模型を製造することで早く安価に少量多品種生産を実現できるフルモールド鋳造法を強みとしています。

そこで品質管理に導入されたのが非接触型の自動測定・検査機「ATOS」。完成品の3Dデータをレーザーで測定することで模型とのズレを見抜けます。

模型の3Dデータを取得することにはほかの利点もあり、例えば耐圧・耐熱などのシミュレーションを行うことも可能に。その結果、手間やコストを抑えつつより自由度の高いものづくりに取り組めるようになりました。

蓄積された3Dデータはいつでも呼び出すことができるため、類似品を製造する際に参考とすることができるのも大きな利点といえるでしょう。

事例3:リアルタイムに生コンの品質を把握できるシステムを開発した株式会社東伸コーポレーション

神奈川県横浜市で生コンクリートを製造・販売する株式会社東伸コーポレーション。

製造直後から化学変化が始まる生コンクリートの品質保持は熟練者の経験と勘が必要であり、特にミキサー車に積み込んだ製品の品質保持の負担の大きさが問題とされていました。

その状況をがらりと変えたのが生コンクリートの性状変化データをリアルタイムで確認できる管理システム「Smart Agitator®」です。海外ベンチャーと東伸コーポレーションを含む数社で設立されたGNNMJ社が開発した同システムは走行中のミキサー車からでも正確なデータを取得できるよう設計されています。

Smart Agitator®の導入後は誰でも品質を把握し管理できるようになっただけでなく、生コンの品質が劣化する状況についてデータをもとに分析できる状況も整いました。

事例4:可食性プリンタを遠隔・リアルタイムで保守点検する株式会社ニューマインド

平成24年に設立された比較的若い企業である株式会社ニューマインド。

特殊プリンタ事業に特化した同社ではケーキやせんべいなどの食品にフルカラー印刷が行える可食性プリンタ機器を取り扱っています。同商品は通常顧客である食品メーカーの製造ラインに組み込まれて稼働するため、故障の原因特定が困難という問題を抱えていました。

衛生面など手厚いケアが必要な可食性プリンタの保守を遠隔・リアルタイムで行えるようニューマインドが導入したのが顧客企業のWi-Fiや有線ネットワークを利用してプリンタの稼働状況や温度・湿度といった環境データを取得するシステムです。

プリンタの保守点検にIoTによるデータ取得を活用するシステムは、キヤノンやリコーといった大手企業でも用いられています。
遠隔・リアルタイムで品質保証が行える点、データを製品の開発や顧客サービスの充実に生かせる点に多くの企業が注目しているようです。

事例5:生産管理システムをカスタマイズしTQMを進めた株式会社笠原成形所

最後に紹介するのは新潟県南魚沼市でプラスチック成形業に従事する株式会社笠原成形所です。TQMを重視する同社では生産に関わるデータを各従業員がスムーズに呼び出し活用できる仕組みの構築を目指していました。

そこで導入されたのが生産管理システム「MICS」です。開発企業とカスタマイズを重ね、複数のメーカーの成形機の稼働状況を一覧で把握する、成形機から金型のショット信号を取得するなど自社に適した機能を盛り込んだ同システム。従業員に一人一台支給したタブレット端末から生産データや機械使用時の注意点を把握できるようになったことで紙で情報を管理していた以前に比べ、大きく全社的な品質管理が前に進んだそうです。

DXに対する意識の高さに加え、元からある機能や使用感で妥協せず工夫を重ねたことで理想の環境を実現できた例といえるでしょう。

まとめ

品質保証(QA)・品質管理(QC)にIoTを活用する5社の事例を見てきました。日本企業の強みである品質を世界基準で維持し続けるには、AI/IoTの活用が不可欠といっても過言ではありません。現在紙と人だけで品質管理に取り組んでいるならば、問題や不便がないか、それはDXにより解決できないかと検討してみることをおすすめします。

建築・内装・WEBデザイン業界も無視できない!?「意匠法改正」をざっくりと説明

中小企業専門の弁理士の亀山です。今回は、令和2年4月1日より施行される令和元年改正意匠法について、意匠法に不慣れな方のために、改正内容をざっくりとご紹介します。

令和元年意匠法改正の概要

久しぶりの大改正(平成18年の関連意匠導入以来?)ということで、知財業界では意匠法が盛り上がっていました。中小企業の方々の中には、「今まで、わが社は、意匠法と関係がなかった。だから、今回の改正も、わが社とは関係ないのでは?」こう思われる方も多いと思います。しかし、いままで意匠法と縁が薄かった業界も、今回の改正意匠法によって、意匠法を無視することができなくなってしまうケースがあります。今回は、その辺について、ザックリと説明したいと思います。

まずは、改正されるテーマは以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

これだけでは、何のことかサッパリなので、もう少しかみ砕いて説明します。

各テーマについてザックリと説明

1、関連意匠

  • 従来:本意匠に類似する関連意匠までが保護範囲だった(保護範囲は親子関係まで)
  • 改正後:関連意匠に類似する意匠まで保護範囲だった(保護範囲は親子のみならず孫以降にも及ぶ

2、建築物の意匠

  • 従来:建築物は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:建築物も、意匠法の保護対象となった

3、内装の意匠

  • 従来:内装は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:内装も、意匠法の保護対象となった

4、画像の意匠

  • 従来:意匠法で保護される画像は、物品に表示される操作用画像または表示画像に限られていた。
  • 改正後:意匠法で保護される画像として、物品を含まない画像のみ意匠も保護対象となった

組物の意匠

上記の2~4による保護範囲の拡充に伴って保護範囲が拡充された。つまり、細かいことはひとまず置いておいて、意匠法改正のキーワードは、「意匠権として保護される範囲が広がった」ということです。

これまで意匠法に馴染みのない方が気を付けたいところ

さて、「意匠権として保護される範囲が広がった」これをどうとらえてばよいのでしょうか?デザインを創作する側からみると、自分が創作したデザインに関し、いままでは著作物に限り著作権で保護されていた。(裏を返せば、著作物でないデザインは保護されなかった)これからは、著作物であるか否かにかかわらず、意匠権でも保護が可能となる。つまり、「デザインをたくさん制作して、意匠権を利用してたくさん保護を受けるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

一方、デザインを利用する側から見ると、自分が利用したいデザインに関し、いままでは著作物に限り、著作権の処理(契約)をすればよかったものの、これからは、著作権で保護されないものも、意匠権で保護されてしまう。つまり、「著作物でないデザインも簡単には利用できなくなるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

このように、デザインを創作する側と、デザインを利用する側とでは、法改正の捉え方が異なりますが、その原因は、「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」にあります。例えば、お仕事を今まで通り行っていると、改正によって自分(自社)のデザインが保護されたはずなのに、保護の機会を失ってしまう場合もあるでしょう。また、今までは自由に使えた他人(他社)のデザインが、今回の改正によって意匠権で保護される結果、今までのように他人のデザインを自由に使えなくなってしまう場合もあるでしょうし、無断で使用した結果、「意匠権侵害だ!」と相手方から文句をいわれる場合もあるでしょう。

つまり、今回の改正によって、意匠権の効力が及ぶようになった業界において、令和2年4月1日以降、今まで通りお仕事を行っていると、大怪我をしてしまうこともあるわけです。これは、デザインを創作する側も利用する側にも当てはまることです。

大怪我をしたくない人が最低限知っておきたい部分

仕事で大怪我をしたい人なんていませんよね。今回は、そういう人のために、冒頭で掲げた改正テーマのうち、大怪我につながりやすい部分、すなわち「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」部分について説明したいと思います。

さて、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになったデザインは、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」になります。「画像の意匠」は改正前から一部の画像について保護対象になっていましたが、今回の改正で大幅に広がったため、説明に加えました。関連意匠と組物の意匠に関する説明は、長くなるので割愛しました。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

1、建築物の意匠

保護される建築物の例として、以下のようなものがあります。

住宅、寮、校舎、体育館、オフィス、研究所、工場、倉庫、ホテル、保養所、百貨店、量販店、飲食店、病院、保健所、公衆浴場、公衆便所、博物館、美術館、図書館、劇場、映画館、競技場、駅舎、車庫、神社、橋梁、トンネル、鉄塔、ガスタンク など・・・たくさんあります。

個人的には、倉庫のデザインやトンネルのデザインも保護されるのだなぁと思いました(もちろん、これまでに知られていたデザインは、新規性がないため、保護を受けません)。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

2、内装の意匠

保護される内装としては、「複数の物品からなり内装全体として統一的な美観(※)をおこさせるもの」になります。内装を構成する物品の例としては、以下のようなものがあります。

  • 机、椅子、ベッド、衝立などの家具類
  • 陳列棚などの什器類(販売商品等が含まれていても可)
  • 照明器具など

(※)「統一的な美観」の説明は、長くなるので割愛します。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

3、画像の意匠

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

意匠法により保護される画像として、従来の「物品等の部分に画像を含む意匠」(上図の(2))に加え、「画像意匠」(上図の(1)」が加わりました。意匠法で保護される画像のカテゴリーは2つあります。1つめは、操作用画像(機器の操作の用に供される画像)であり、2つめは、表示用画像(機能を発揮した結果として表示される画像)です。

操作用画像の例として、具体的には、オンラインショップにおける商品購入用の画像デザインや、スマホのアイコン用画像、コピーの操作パネルの画像等があります(上図(1)(2)における左側)。表示用画像の例として、具体的には、(測定装置)における測定結果表示画像、壁に投影された時計画像や、針が電子表示で動く電子メトロノーム画像等があります(上図(1)(2)における右側)。

このように、今回の改正によって、すべての画像が意匠法で保護されるわけではありません。意匠法保護される画像として、前述の操作用画像・表示用画像になります。こちらが覚えにくければ、「もともとはハードウェアだった部品(操作ボタンや時計の針)が、デジタル表示として置き換わった画像」として理解してもらってもよいです。

※なお、コンテンツ画像は、改正にかかわらず、意匠法の保護対象とはなっておりませんが、こちらは著作物なので、著作権で保護されます。

今回の改正に影響が大きな業界

今回の意匠法改正によって、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」が、保護対象として追加されました。このため、当該分野においてデザインを創作する方と、そのデザインを利用する方は、お仕事をする中で、それぞれ留意する必要があるでしょう。「建築物の意匠」であれば、建築デザイン業界が関わりが深いでしょうし、「内装の意匠」であれば、内装デザイン業界が関わりが深いでしょう。

また、「画像の意匠」にかかわりが深いところは、ユーザインタフェース(UI)をデザインする業界やウェブデザイン業界になるでしょう。デザイン制作を外部に発注する場合、それを受注して制作する場合には、その制作物の意匠権(正確には、意匠登録を受ける権利)が、発注者側に帰属するのか、受注者側に帰属するか等を、あらかじめ契約書などで定めておくとよいでしょう。

もっと詳しく知りたい方へ

知的財産権制度説明会 -知的財産権について学べます(参加費・テキスト無料)-(特許庁)のページにある「知的財産権制度説明会テキスト」をご参照ください。

まとめ

令和元年意匠法改正の概要は以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

ですが、意匠法に馴染みのない方は、こちらで理解してください。

  1. 意匠権の保護範囲として、建築物・内装が、新たに加わり、画像が結構広がった。
  2. 意匠権を気を付けなければならない業界としては、建築デザイン業界、内装デザイン業界、UIデザイン・WEBデザイン業界がある。
  3. デザイン制作する側は、デザインが権利で保護できることを理解しておく。
  4. デザインを利用する側は、デザインに権利があることに気をつける。
  5. 制作する側と利用する側との間の権利の調整は、発注時に契約書にて定めておくことがベター。

何かの参考になれば幸いです。

建築・内装・WEBデザイン業界も無視できない!?「意匠法改正」をざっくりと説明

中小企業専門の弁理士の亀山です。今回は、令和2年4月1日より施行される令和元年改正意匠法について、意匠法に不慣れな方のために、改正内容をざっくりとご紹介します。

令和元年意匠法改正の概要

久しぶりの大改正(平成18年の関連意匠導入以来?)ということで、知財業界では意匠法が盛り上がっていました。中小企業の方々の中には、「今まで、わが社は、意匠法と関係がなかった。だから、今回の改正も、わが社とは関係ないのでは?」こう思われる方も多いと思います。しかし、いままで意匠法と縁が薄かった業界も、今回の改正意匠法によって、意匠法を無視することができなくなってしまうケースがあります。今回は、その辺について、ザックリと説明したいと思います。

まずは、改正されるテーマは以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

これだけでは、何のことかサッパリなので、もう少しかみ砕いて説明します。

各テーマについてザックリと説明

1、関連意匠

  • 従来:本意匠に類似する関連意匠までが保護範囲だった(保護範囲は親子関係まで)
  • 改正後:関連意匠に類似する意匠まで保護範囲だった(保護範囲は親子のみならず孫以降にも及ぶ

2、建築物の意匠

  • 従来:建築物は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:建築物も、意匠法の保護対象となった

3、内装の意匠

  • 従来:内装は、意匠法の保護対象ではなかった。
  • 改正後:内装も、意匠法の保護対象となった

4、画像の意匠

  • 従来:意匠法で保護される画像は、物品に表示される操作用画像または表示画像に限られていた。
  • 改正後:意匠法で保護される画像として、物品を含まない画像のみ意匠も保護対象となった

組物の意匠

上記の2~4による保護範囲の拡充に伴って保護範囲が拡充された。つまり、細かいことはひとまず置いておいて、意匠法改正のキーワードは、「意匠権として保護される範囲が広がった」ということです。

これまで意匠法に馴染みのない方が気を付けたいところ

さて、「意匠権として保護される範囲が広がった」これをどうとらえてばよいのでしょうか?デザインを創作する側からみると、自分が創作したデザインに関し、いままでは著作物に限り著作権で保護されていた。(裏を返せば、著作物でないデザインは保護されなかった)これからは、著作物であるか否かにかかわらず、意匠権でも保護が可能となる。つまり、「デザインをたくさん制作して、意匠権を利用してたくさん保護を受けるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

一方、デザインを利用する側から見ると、自分が利用したいデザインに関し、いままでは著作物に限り、著作権の処理(契約)をすればよかったものの、これからは、著作権で保護されないものも、意匠権で保護されてしまう。つまり、「著作物でないデザインも簡単には利用できなくなるぞ~」と思われる方も多くなるでしょう。

このように、デザインを創作する側と、デザインを利用する側とでは、法改正の捉え方が異なりますが、その原因は、「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」にあります。例えば、お仕事を今まで通り行っていると、改正によって自分(自社)のデザインが保護されたはずなのに、保護の機会を失ってしまう場合もあるでしょう。また、今までは自由に使えた他人(他社)のデザインが、今回の改正によって意匠権で保護される結果、今までのように他人のデザインを自由に使えなくなってしまう場合もあるでしょうし、無断で使用した結果、「意匠権侵害だ!」と相手方から文句をいわれる場合もあるでしょう。

つまり、今回の改正によって、意匠権の効力が及ぶようになった業界において、令和2年4月1日以降、今まで通りお仕事を行っていると、大怪我をしてしまうこともあるわけです。これは、デザインを創作する側も利用する側にも当てはまることです。

大怪我をしたくない人が最低限知っておきたい部分

仕事で大怪我をしたい人なんていませんよね。今回は、そういう人のために、冒頭で掲げた改正テーマのうち、大怪我につながりやすい部分、すなわち「今まで意匠法で保護されていなかったデザインが、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになった」部分について説明したいと思います。

さて、令和2年4月1日より、意匠法で保護されるようになったデザインは、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」になります。「画像の意匠」は改正前から一部の画像について保護対象になっていましたが、今回の改正で大幅に広がったため、説明に加えました。関連意匠と組物の意匠に関する説明は、長くなるので割愛しました。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

1、建築物の意匠

保護される建築物の例として、以下のようなものがあります。

住宅、寮、校舎、体育館、オフィス、研究所、工場、倉庫、ホテル、保養所、百貨店、量販店、飲食店、病院、保健所、公衆浴場、公衆便所、博物館、美術館、図書館、劇場、映画館、競技場、駅舎、車庫、神社、橋梁、トンネル、鉄塔、ガスタンク など・・・たくさんあります。

個人的には、倉庫のデザインやトンネルのデザインも保護されるのだなぁと思いました(もちろん、これまでに知られていたデザインは、新規性がないため、保護を受けません)。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

2、内装の意匠

保護される内装としては、「複数の物品からなり内装全体として統一的な美観(※)をおこさせるもの」になります。内装を構成する物品の例としては、以下のようなものがあります。

  • 机、椅子、ベッド、衝立などの家具類
  • 陳列棚などの什器類(販売商品等が含まれていても可)
  • 照明器具など

(※)「統一的な美観」の説明は、長くなるので割愛します。興味のある方は特許庁の説明資料(本記事の末尾参照)をご覧下さい。

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

3、画像の意匠

= 出典:意匠の審査基準及び審査の運用 ~令和元年意匠法改正対応~ (特許庁) =

意匠法により保護される画像として、従来の「物品等の部分に画像を含む意匠」(上図の(2))に加え、「画像意匠」(上図の(1)」が加わりました。意匠法で保護される画像のカテゴリーは2つあります。1つめは、操作用画像(機器の操作の用に供される画像)であり、2つめは、表示用画像(機能を発揮した結果として表示される画像)です。

操作用画像の例として、具体的には、オンラインショップにおける商品購入用の画像デザインや、スマホのアイコン用画像、コピーの操作パネルの画像等があります(上図(1)(2)における左側)。表示用画像の例として、具体的には、(測定装置)における測定結果表示画像、壁に投影された時計画像や、針が電子表示で動く電子メトロノーム画像等があります(上図(1)(2)における右側)。

このように、今回の改正によって、すべての画像が意匠法で保護されるわけではありません。意匠法保護される画像として、前述の操作用画像・表示用画像になります。こちらが覚えにくければ、「もともとはハードウェアだった部品(操作ボタンや時計の針)が、デジタル表示として置き換わった画像」として理解してもらってもよいです。

※なお、コンテンツ画像は、改正にかかわらず、意匠法の保護対象とはなっておりませんが、こちらは著作物なので、著作権で保護されます。

今回の改正に影響が大きな業界

今回の意匠法改正によって、「建築物の意匠」「内装の意匠」「画像の意匠」が、保護対象として追加されました。このため、当該分野においてデザインを創作する方と、そのデザインを利用する方は、お仕事をする中で、それぞれ留意する必要があるでしょう。「建築物の意匠」であれば、建築デザイン業界が関わりが深いでしょうし、「内装の意匠」であれば、内装デザイン業界が関わりが深いでしょう。

また、「画像の意匠」にかかわりが深いところは、ユーザインタフェース(UI)をデザインする業界やウェブデザイン業界になるでしょう。デザイン制作を外部に発注する場合、それを受注して制作する場合には、その制作物の意匠権(正確には、意匠登録を受ける権利)が、発注者側に帰属するのか、受注者側に帰属するか等を、あらかじめ契約書などで定めておくとよいでしょう。

もっと詳しく知りたい方へ

知的財産権制度説明会 -知的財産権について学べます(参加費・テキスト無料)-(特許庁)のページにある「知的財産権制度説明会テキスト」をご参照ください。

まとめ

令和元年意匠法改正の概要は以下の通りです。

  1. 関連意匠
  2. 建築物の意匠
  3. 内装の意匠
  4. 画像の意匠
  5. 組物の意匠

ですが、意匠法に馴染みのない方は、こちらで理解してください。

  1. 意匠権の保護範囲として、建築物・内装が、新たに加わり、画像が結構広がった。
  2. 意匠権を気を付けなければならない業界としては、建築デザイン業界、内装デザイン業界、UIデザイン・WEBデザイン業界がある。
  3. デザイン制作する側は、デザインが権利で保護できることを理解しておく。
  4. デザインを利用する側は、デザインに権利があることに気をつける。
  5. 制作する側と利用する側との間の権利の調整は、発注時に契約書にて定めておくことがベター。

何かの参考になれば幸いです。

製造業向け「伝わる文章の書き方講座(4/4)」

元エンジニア。工業系エンジニアライターの石川です。製造業に強いライターとして、社長挨拶の代筆から、技術紹介、助成金の申請書などなど、さまざまな文章を書いてきました。その経験を元に、製造業に特化した「伝わる文章の書き方」を全4回にわたってご紹介します。

第4回目は「目的別、文章の型の紹介 Part2」です。前回までは、文章を書くための準備や文章を書くテクニックをはじめ、紹介記事と活動報告、2つの目的に使える文章の型をお伝えしてきました。最終回の今回も、その他の目的に合わせた文章の型をご紹介します。

1.知識共有記事は最初にテーマを明らかにせよ(製品の選び方、技術の基礎知識)

企業が提供する製品やサービスの選び方、製品やその周辺技術の基礎知識を伝えたいときには、次の型が使えます。

  1. テーマ(何についての文章なのか)
  2. 理由、知識の詳細
  3. 結論
  4. 締めの一言

大切なのは、最初に「何について伝えたいか」を述べることです。この記事でも、冒頭で「文章の書き方」のなかでも「目的に合わせた文章の型」について伝えると述べています。近年では学校の授業でも、単元の目的を明らかにしてから授業を進めるところもあるようです。先に目的を述べておくことで、そのあとの文章が頭に入りやすい効果があるといわれています。

1つの文章にたくさんの知識を詰め込もうとすると文章が長く、分かりにくくなりますので、1つの文章には多くても3つの項目が入る程度にまとめましょう。3の結論までで終わっても大丈夫ですが「製品選びの際にはこの内容を参考にしてみてください」など、締めの一言があると、教科書的でない温かみが出てくるので、Web上の記事などではよく使われています。

2.主張から書く(ブログ・コラム等)

会社の情報を外に発信するためのブログやコラムに使える文章の型は次のようになります。

  1. 主張
  2. 理由
  3. 具体例の提示
  4. 結論(主張を再度繰り返す)

短めのコラムなどは1と2だけでも大丈夫です。一方でオウンドメディアなど、ある程度の文章量が必要な場合には4までを書くといいでしょう。ポイントは先に主張を述べることです。ブログやコラムは内容も自由度が高い分、書き方に迷うケースも多いかもしれません。しかし、この型を基本に自分に合った展開を見つけてしまえば、考えたことを文章に落とし込むフローが作りやすくなります。

オウンドメディアなどで固定の読者を獲得したい場合には、口調や締めの言葉、テーマの切り口などに特色を出してみるのも一つの手です。第2回でもお伝えした通り、不正解がない当たり障りのない表現に逃げず、一歩踏み込んだ表現をすることで、読み物としての質が格段に向上するでしょう。

3.結論と理由のみを端的に述べよ(申請書類等)

助成金や補助金などの申請書類で必要な文章の型はこれだけです。

  1. 結論
  2. 理由

申請書類で大切なのは、さらっと流し読みをしても内容が理解できることです。そのため、結論と理由のみのシンプルな構成にするといいでしょう。多くの場合、審査を行う人は短期間に大量の申請書を読む必要に迫られていますので、結論や理由が見えにくい文章は不利になります。文章として当たり前ではありますが、主語を明確にし、正しく伝わる文章を書きましょう。

また申請書類を書く際には、会社の沿革や同業他社との比較など、自社や組織の紹介も必要になるケースがあります。その際には、前回にお伝えした紹介記事の型を参考にしてみてください。

製造業向け、文章の書き方講座はこれで最後になります。文章が必要になる様々なシーンで、この講座を参考にしてみてください。

これからを生き抜く中小企業が持つべき4つの視点とは

世間ではテレワークやリモートワークの促進が騒がれて、大企業から小さな会社まで働き改革が進められていますね。そんな中で企業が抱える問題は山積みです。新規開拓をしたくても人手不足で実行に移せない、かと言って社員に残業はお願いできない。原価高騰で頭を悩ませているのに、取引先から値下げの要請をされる。

こういうことで頭を悩ませている経営者や、リーダーの方に是非実践してもらいたいことがあります。それは「ブランディング」です。「ブランデイング」と聞くとどんなことを想像しますか?HPをリニューアルしたり、商品のパッケージを変えたりすることでしょうか。それもブランディングの1つですが、それより前にやるべきことがあります。

  • 社員、お客様があなたの会社に対してどんなイメージを抱いて欲しいか
  • どんな価値を期待しているのか

などの企業のブランドコンセプト=ブランド・アイデンティティを持っているかを明確に言語化することです。

ブランディングは、2段階構造でできています。1段目は、社員がこの会社の目指すことを理解して、競合他社との差別化ができ、能動的に商品やサービスを開発・改善ができる仕組みづくり。そして2段目は、お客様から「〇〇が欲しい時はA社の商品を買おう」「〇〇にこだわる時はB社のサービスにしよう!」と思われて、お客様に支持されて長期的なおつきあいから売り上げ確保などが見込める仕組みづくりのことです。

ブランディングがしっかりしていないと、価格競争に巻き込まれる

では逆にブランディングを怠り、ブランドイメージが社員やお客様に定着していないと、どういったデメリットがあるのでしょうか?

それは「価格競争に巻き込まれる」ことです。
実はブランドによって十分な差別化ができていない企業が、最も簡単にお客様が離れていくだけでなく、社員も離れていってしまう負のスパイラルが生まれてしまうのです。

こうして、価格競争に巻き込まれた企業には必ず利益率低下によるコスト削減せざるを得ない状況になります。そうした時に一番最初に削られるのが、効果が目に見えて分かりにくいブランディングなどの「プロモーション予算」です。ここから未来を描けなくなった社員の能動性が失われ、新規顧客を獲得する力を失ってしまった企業は、次第に市場シェアが下がっていきます。さらなる価格競争も加わってしまい、企業の力がどんどん弱まっていくのです。

「分析する力」と「表現する力」

そうはいっても、課題が大きすぎて何から手をつけていいのかわからない!という状態に陥っている時もありますよね。そんな時は今抱えている問題を、「分析する力」と「表現する力」で分けて考えてください。

会社の目指す目的のために問題を4つの視点に分けましょう。

ブランディン部に必要な4つの視点

  1. 社内の現状はどうなっているのか分析の実施
  2. お客様や市場の動向はどうか分析の実施
  3. 社員に会社の目的を伝える表現の実施
  4. お客様に会社や商品の価値を伝えるための表現の実施

この4つの視点を持ってそれぞれの問題に取り組むことで、点と点が結びつくように、社内の能動力が上がり、社外への質の高いアウトプットができ、会社のシェアを向上させることができるのです。

4つの視点の企業ブランディングで 会社の未来が決まる

ブランディングをする際、シェアの向上のために、つい社外向けのHPやチラシなどのデザインの修正から手をつけがちですが、まずどのステークホルダーに対しての施策が最優先なのかを見極めましょう。

ブランディングの評価は複雑で難しいですが、ブランディングを正しくおこなうことで、社員やお客様をはじめとしてステークホルダーの市場シェア拡大、経営に必要な要素の調達力が磨かれ、利益の上がる長く愛される企業へと進化していくことが可能です。ぜひ目先の売上だけを追うのではなく、長期的な戦略に基づいて投資をおこなっていきましょう。

製造業に特化した技術系ライターが依頼される仕事

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。今回は文書化による技術系ライターが受けるライティング案件についてです。

工業製造業系ライターとは

前回の記事で「どんなに良いものでも、アピールしなければ選ばれることはなく、存在すら気づかれない。」ということで、製造業では技術や製品の文書化が必要であることを書きました。

製造業における文書化によるアピールの大切さ

私はかつて光ファイバーや半導体関係の装置の設計、機械系の特許に関わる仕事をやっていました。その時の知識と経験を活かし、工業製造業系ライターを名乗ってライター活動をしています。

技術や製品の文書化が必要とわかっていても、やはり実際に書くとなると簡単にはいきません。時間もかかるし、それを行う人もいない。小さな会社になればその傾向は強まります。そんな訳で、私のところには大小様々な製造業の会社からライティングの依頼が入ります。その内容も多岐に渡ります。幾つか紹介していきます。

書くことで製造業を盛り上げる

自社の特徴、自社製品、技術の紹介、解説

この依頼は一番多いかもしれません。自社の強みや歴史、持っている技術、他社との違いなどを特設ページで紹介したい。製品の開発経緯や技術的に困難だった点、他との優位性を紹介する、またはそれをエンジニアが語るような記事を作りたい。客先導入事例をインタビュー形式で紹介したい。製品の特長や性能を紹介するホワイトペーパーを作りたい。展示会で配布するパンフレット、掲示するパネル用の文章。そんな感じのコンテンツのライティングです。

ターゲットとなる層がその製品を実際に使う技術者なのか、技術はそれほど詳しくはないが購入を決める決定権者層なのか、または全くの一般の人かなどにより、書く技術の深さや表現を変えて書くことになります。技術全体を理解して書くことはもちろん、それをより簡潔にわかりやすく書くことも求められます。

就職活動の学生に向けた自社紹介

最近結構多いのがこの依頼。学生に向けた自社の製品や技術、取り組みなどを紹介するコンテンツです。ネットだけでなく、会社説明会の際に配布するパンフレット用というのもあります。理系の学生ならば専門的な用語も大丈夫なのですが、技術系の業務以外の採用では文系の学生に自社を説明する必要があります。BtoBの会社だと、就職活動をするまで名前すら知らなかったなんてこともあり、多くの場合、業務内容を広く、文系の学生でもわかるように書くことが求められます。

専門誌への寄稿文

各業界には専門誌があります。その編集部から、自社の製品、技術の特長を紹介する記事の執筆依頼が入ることがあります。担当技術者は忙しいし、記事を書いたこともないのでできない。広報もニュースリリースならいいが、雑誌に載る記事となると難しい。では外注でとなるのですが、通常のライターだと技術的なところが全く分からないし、理解するのにも時間がかかる。技術系の記事を書いているライターに依頼がきます。

オウンドメディアに掲載する記事の執筆

自社の業界動向の紹介や、基礎的な技術解説などの記事の執筆依頼です。エンジニア向けの専門的なものから、学生や子供向けまで内容は様々です。最近はやや減少傾向にあります。

その他

この他、社長挨拶の代筆、助成金の申請書用に使う自社製品の説明文執筆なんて依頼もあります。製造業に関わる様々なライティング案件の依頼がきます。もちろん、工業やテクノロジー系のメディアに掲載される、ライター名が記載される記事も定期的に書いています。しかし、上記のような、企業から発信されるライター名の出ない記事の数が圧倒的に多いです。

製造業は書くことに困っています。そんなライティングの困りごとを、製造業の現場経験を持つライターや、工業的知識を十分に持つライターが、まとめて引き受ける窓口を近いうちに作れればと考えています。書くことによって製造業を盛り上げていきます。

製造業に特化した技術系ライターが依頼される仕事

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。今回は文書化による技術系ライターが受けるライティング案件についてです。

工業製造業系ライターとは

前回の記事で「どんなに良いものでも、アピールしなければ選ばれることはなく、存在すら気づかれない。」ということで、製造業では技術や製品の文書化が必要であることを書きました。

製造業における文書化によるアピールの大切さ

私はかつて光ファイバーや半導体関係の装置の設計、機械系の特許に関わる仕事をやっていました。その時の知識と経験を活かし、工業製造業系ライターを名乗ってライター活動をしています。

技術や製品の文書化が必要とわかっていても、やはり実際に書くとなると簡単にはいきません。時間もかかるし、それを行う人もいない。小さな会社になればその傾向は強まります。そんな訳で、私のところには大小様々な製造業の会社からライティングの依頼が入ります。その内容も多岐に渡ります。幾つか紹介していきます。

書くことで製造業を盛り上げる

自社の特徴、自社製品、技術の紹介、解説

この依頼は一番多いかもしれません。自社の強みや歴史、持っている技術、他社との違いなどを特設ページで紹介したい。製品の開発経緯や技術的に困難だった点、他との優位性を紹介する、またはそれをエンジニアが語るような記事を作りたい。客先導入事例をインタビュー形式で紹介したい。製品の特長や性能を紹介するホワイトペーパーを作りたい。展示会で配布するパンフレット、掲示するパネル用の文章。そんな感じのコンテンツのライティングです。

ターゲットとなる層がその製品を実際に使う技術者なのか、技術はそれほど詳しくはないが購入を決める決定権者層なのか、または全くの一般の人かなどにより、書く技術の深さや表現を変えて書くことになります。技術全体を理解して書くことはもちろん、それをより簡潔にわかりやすく書くことも求められます。

就職活動の学生に向けた自社紹介

最近結構多いのがこの依頼。学生に向けた自社の製品や技術、取り組みなどを紹介するコンテンツです。ネットだけでなく、会社説明会の際に配布するパンフレット用というのもあります。理系の学生ならば専門的な用語も大丈夫なのですが、技術系の業務以外の採用では文系の学生に自社を説明する必要があります。BtoBの会社だと、就職活動をするまで名前すら知らなかったなんてこともあり、多くの場合、業務内容を広く、文系の学生でもわかるように書くことが求められます。

専門誌への寄稿文

各業界には専門誌があります。その編集部から、自社の製品、技術の特長を紹介する記事の執筆依頼が入ることがあります。担当技術者は忙しいし、記事を書いたこともないのでできない。広報もニュースリリースならいいが、雑誌に載る記事となると難しい。では外注でとなるのですが、通常のライターだと技術的なところが全く分からないし、理解するのにも時間がかかる。技術系の記事を書いているライターに依頼がきます。

オウンドメディアに掲載する記事の執筆

自社の業界動向の紹介や、基礎的な技術解説などの記事の執筆依頼です。エンジニア向けの専門的なものから、学生や子供向けまで内容は様々です。最近はやや減少傾向にあります。

その他

この他、社長挨拶の代筆、助成金の申請書用に使う自社製品の説明文執筆なんて依頼もあります。製造業に関わる様々なライティング案件の依頼がきます。もちろん、工業やテクノロジー系のメディアに掲載される、ライター名が記載される記事も定期的に書いています。しかし、上記のような、企業から発信されるライター名の出ない記事の数が圧倒的に多いです。

製造業は書くことに困っています。そんなライティングの困りごとを、製造業の現場経験を持つライターや、工業的知識を十分に持つライターが、まとめて引き受ける窓口を近いうちに作れればと考えています。書くことによって製造業を盛り上げていきます。

盗まれた発明

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、とあるお客様との特許相談についてご紹介いたします。

事件発覚

新規のお客様は、特許出願をしたいという方。そこで、発明の内容を伺うと結構、複雑な発明。なので、「どこかで特許とれそうですね~」と思いながら、先行技術調査を行いました。

後日、先行技術調査の結果を報告したところ、お客様が驚かれる。

お客様:あれ?この特許文献にある技術。これウチが、昔、企業Xに納めたやつじゃない?

かめやま:え?こちらの出願人は・・・本当だ、企業Xです。発明者はご存知ですか?

お客様:そこまでは覚えていないです。

かめやま:納品したのはいつですか?

お客様:〇年〇月〇日。

かめやま:出願日は・・・、その3か月後か。

お客様:うちの発明をそのまま出願したということですか??こんなこと、法律上アリなんですか?

かめやま:アリかナシかといえば、ナシですが・・・ときどき起こります。

お客様:本当にそっくりですよ。この図面も、うちのものをそのまま描いたんじゃないのかな?

かめやま:仮に、当時の商品そのままの内容だとしたら、新規性もないので、特許は取れません。今回の場合、審査請求をしないまま請求期限を過ぎていますので、心配はいらないと思います。

お客様:油断も隙もないですね~。

かめやま:まぁ、今回の発明のポイントとは違うので・・・気を取り直して、今回の発明について作戦を立てましょう!ちなみに、今回の商品は、まだ納品前ですよね?

お客様:もちろんです。

情報開示の悩ましさ

提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品。これらの行為は、取引上、避けて通ることができません。しかし、提案書、図面、試作品、商品には技術情報がたくさん詰まっています。そして、これらを相手方に開示し、その技術情報を相手方に理解されてしまうと、その情報は相手の頭の中に入ってしまいます。相手の頭の中の情報に対しては、「無断で使わないで!」といった制御は不可能です。

したがって、提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品といった行為を、無策のまま行ってしまうと、その技術情報は相手に盗まれる一方・・・ともいえます。とはいえ、技術情報を非開示しようとすると、商売に発展しません。「商売のために開示するか」それとも「保護のために非開示するか」。ここは、悩ましいポイントです。

もちろん、相手を信用するというケースもあるでしょう。しかしながら、上述のケースのように、勝手に特許出願を出す企業(技術者)もいます。少し古い記事になりますが、昔からよくある事例なのでご紹介します。

記事「名ばかり共同研究」で知財搾取726件、公取委 オープンイノベのわな」 (日経XTECH 2019/06/19)

公正取引委員会は、共同研究先や取引先の知的財産権などを搾取する事例を調査し、結果を明らかにした。多くのメーカーが「オープンイノベーション」を掲げる中、かけ声とは裏腹な「名ばかり共同研究」のあくどい事例が多く見つかった。知財の獲得は技術開発の根幹で、搾取を放置すればその進展を妨げる。1万6000社弱が公取委に書面で回答し、知財やノウハウの開示を強要される事例などが726件あった。公取委にはかねて、「優越的地位にある事業者が取引先の製造業者からノウハウや知財を不当に吸い上げている」といった複数の指摘があった。その指摘を裏付けた形である。

記事より抜粋

もちろん、「盗まれた!」と証明できれば良いですが、相手は相手で、「自分で作りました」と言い張るでしょうし、こちらの主張を証明する作業も結構メンドクサイです。そして、こちらの主張が認められるか否かわからないようなメンドクサイことに手間をかけるほど、中小企業も暇ではありません。

技術情報の開示の防衛策

「商売のために情報を開示するか」それとも「保護のために情報を非開示にするか」。この悩ましさを解決する方法としては、次のようなものが良く利用されます。

  1.  納品前・開示前のNDA(秘密保持契約)  
  2.  納品前・開示前の特許出願

それぞれのメリットデメリットは以下の通りです。

  1. 納品前・開示前のNDA(秘密保持契約)
    保護される情報:秘密情報
    効力の発生:相手の合意が必要
    効力の範囲:合意した相手のみ
  2. 納品前・開示前の特許出願 ※1
    保護される情報:進歩性のあるもののみ(秘密情報より狭い)※2
    効力の発生:特許出願が必要。相手の合意は不要
    効力の範囲:日本における行為であれば誰でも。

※1、開示後の場合には、最初の開示から1年以内であれば、「新規性喪失の例外」を利用した特許出願も可能です。
※2、どの辺まで保護されるかは、個別の技術及びその技術分野ごとに変ります。

まとめ

提案書の開示、試作図面の開示、試作品の開示、展示会への出展、商品の納品の際に気を付けたいポイント。

  • 開示前のNDA(秘密保持契約)
  • 開示前の特許出願
  • 開示後の特許出願(新規性喪失の例外あり)

お金がかかると、人の態度は変わります。企業の態度は変わります。明日の飯を食べていくために、そのビジネスチャンスを狙っています。ビジネスにおいて、油断はできないのです。

何かの参考になれば幸いです。

製造業向け「伝わる文章の書き方講座(3/4)」

元エンジニア。工業系エンジニアライターの石川です。製造業に強いライターとして、社長挨拶の代筆から、技術紹介、助成金の申請書などなど、さまざまな文章を書いてきました。その経験を元に、製造業に特化した「伝わる文章の書き方」を全4回にわたってご紹介します。

目的別、文章の型の紹介

第3回目は「目的別、文章の型の紹介」です。前回までは文章を書くための準備や、ちょっとしたテクニックについてお伝えしてきました。その中で、文章には目的ごとに型があり、目的に合わせた型に沿って書くと文章が書きやすいことに触れました。そこで今回は、目的ごとの文章の型をご紹介します。

1、紹介記事は事実と特徴を手短に述べよ(ホワイトペーパー・製品紹介等)

ホワイトペーパーや製品紹介など、企業がもつ技術について伝えたい文章の型は次のようになります。

  1. それは何か(何の会社か)
  2. 何に使うのか(何ができる会社か)
  3. (他社や旧製品に比べて)どこが、どう素晴らしいのか
  4. 3によって何が可能になるのか

ポイントは事実を淡々と伝えることと、特徴を端的に伝えることです。このときに注意しなければならないのは「新たな価値観を創造する」や「最先端の技術が拓く未来」のような、カッコいいけれど実体のない言葉に逃げないこと。第2回でもお伝えしましたが、このような言葉からは何の事実も分かりません。

機密などの問題もあり、表現が難しい場合もあるとは思いますが、自社の良さを伝えるためにも、一歩踏み込んだ内容を盛り込みましょう。また、他社や旧製品との比較も大切です。よほど唯一無二のサービスであれば問題はありませんが、多くの企業では競合他社との競争に勝たなくてはなりません。類似サービスや製品、旧製品との比較を入れ、自社の優位性を伝えましょう。

またこのときに言葉に頼りすぎると、文章だけが長くなる可能性があります。図や表、写真も併用しながら、分かりやすく表現しましょう。

2、活動報告は5W1Hを意識せよ(導入事例や展示会レポート)

タブレット

技術や機械、システムの導入事例や、展示会への出展の様子を伝えるときには、次のような型が使えます。

  1. いつ、どこで、行ったか
  2. 何のために行ったか
  3. 何をやったのか
  4. どんな結果が出たのか

当たり前のように思えますが、どこかが抜けると伝わらなくなるのが活動報告の特徴です。伝え漏れが出ないよう、型にそって情報を整理しましょう。また意外と失念しがちなのが、1の、いつ、どこで行ったかを書くことです。特に実施した年(年号)は抜けがちです。

Web上の記事であっても、印刷される記事であっても、何かの拍子に数年前のものが見返される可能性は少なくありません。記事内で紹介されている活動報告が新しいものなのか、古いものなのか、すぐに判別できるようにするためにも、実施日の表記は年からスタートさせるといいでしょう。特に展示会の場合、同じ名前の展示会が数年おきに同じ都市で開催されるケースも多いですから、年号の表記は大切になります。

また実施された(する予定の)場所を伝える際には、必ず都道府県から記載しましょう。仮に県庁所在地であったとしても、市町村の場所は遠方の人には分からないものです。また「丸の内」のように、国内に複数の同じ名前の地名がある場合もあります。正確さを求めるためにも、都道府県を書き忘れないようにしましょう。

次回はライティング技術シリーズの最終回。製品の選び方やコラム、申請書などの文章の型をお伝えします。

自社の技術を使った用途開発を見つける方法について

テクノポートの永井です。技術マーケティングでは「技術の用途開発」が大きなテーマとなります。既存技術の転用先や偶然できた新技術の利用先など「自社の技術がどの分野の何で活用されるのか?」について課題を抱えている企業は多いかと思います。このテーマについて過去に弊社の徳山が「自社技術の用途開発をWebマーケティングにより実現する」という記事を書いています。

今回は自社の技術を別業界(分野)へ積極的に展開し、別の用途として使ってもらう「用途開発」の方法について具体的な進め方を紹介したいと思います。

そもそも技術はなぜ必要とされるのでしょうか?

用途開発の方法を紹介する前に、前提とされる「技術の必要性」について述べたいと思います。基本的に技術は「課題を解決するための手段」として使われ、それだけで価値を生むものではありません。製品やサービスと結合することで、初めて技術に価値が生まれるものが技術になります。その技術が必要とされる一般的なケースとして、製品を改良するときがあげられます。

既存の製品は

  • 機能が低い(掃除機で例えると、吸引力が低いなど)
  • 機能が足りない(スマホで例えると、電子マネー対応していない)
  • 寿命が短い(電球で例えると、切れやすい)
  • デザイン性が悪い

など様々な課題を抱えています。この課題を解決するときに「技術が必要」となります。例えば、新しい技術を加えることで

  • 機能の向上(掃除機で例えると、吸引力が高い)
  • 機能の追加(スマホで例えると、電子マネー対応)
  • 寿命が長い(電球で例えると、LED対応)
  • デザイン性が高い(羽根のない扇風機)

など、製品に新たな価値を付けることができます。このように製品を改良したい場合に技術は必要とされることから、用途開発を考える場合も「技術と製品」をつなげて考える必要があります。

まずは自社の技術の棚卸しを行う

技術の用途開発をする前に、自社が持つ技術を棚卸し、どの業界で使われているか、機能はどのようなものか、どのような技術課題を解決できるかといったことを洗い出します。

手順としては下記のように行うと見つけやすいと思います。

1、自社の技術もしくは類似技術が使われている製品を見つける

はじめに自社の技術や類似する技術が使われている製品を見つけましょう。今の技術が使われている製品は必ずあります。そこを手がかりとして「技術が使われている理由」を見つけていきます。使用先がわからない場合は、取引先に確認するのも一つの手です。また、同じ技術が使われていれば取引のない企業の製品でもかまいません。

2.その技術が製品に使われている理由を知る

次に技術がその製品に使われている理由を知りましょう。他の技術ではなく、その技術が必要とされる理由があるはずです。例えば、

  • 製品の軽量化が可能
  • 高回転にしてもぶれない
  • 反応が早くなる
  • 耐久性を向上させられる
  • 小型化できる
  • 安く製造できる

など、様々な理由があげられます。なかなか検討がつかない場合は、取引先に確認するとスムーズかもしれません。以上により、用途開発の方向性が見えてきます。

用途開発の方法について

それでは本題の用途開発の方法を紹介します。用途開発の方法は大きく「自分で見つける場合」と「他者に見つけてもらう場合」の2つがあります。自分で見つける場合は「技術を活かせる製品を見つけること」、他者に見つけてもらう場合は「自社の技術の詳細を紹介」することがポイントになります。

用途を自分で見つける場合

自ら用途開発を行う場合は「製品の課題を見つけて、製品をレベルアップできるような技術を提案する」ことが求められます。そのため、製品の課題を見つけることが最大の目標になります。

1.同じ課題をもった別の製品を調査する

自社の技術の理由が把握できたら、同じ課題を持った別の製品を探して見ましょう。これが用途開発のきっかけになります。自社の技術が今の製品の課題を解決しているのでれば、別の製品の同様の課題を解決できる可能性は非常に高くなります。

ただ、別の製品を見つけることは容易ではありません。製品の構造や機能を知っていなければならないため、普段から情報のアンテナを伸ばし、製品ついての知識を溜め込んでいかなければなりません。

2.自社の技術が新しい製品に転用可能か調査する

最後に自社の技術がその製品の課題を解決できるかを検討します。同じ課題を抱えていても、その製品の技術レベルのほうが高い可能性もあります。例えば、自動車業界の製品を作っていて、医療製品へ転用できそうだと思っても、医療製品のほうが精度などが高い可能性があります。これでは、製品の課題を解決できないので、別の製品を調査する必要があります。

上記の手順の簡単な例を紹介します。

  1. 現在、自動車のエンジンのピストンを作っている。
  2. 技術が使われている理由は真円度と円筒度の精度が高く、摩擦抵抗を小さくできるため。
  3. 真円度と円筒度の精度が必要となる別の製品として高速回転の軸がある。
  4. もしかしたらうちの技術は高速回転の軸に使えるかもしれないので、軸の現状について調査してみよう。
  5. 材質や精度について、ほぼ同程度の技術があれば自社の加工技術が高速回転の軸の製造にも応用できることがわかった。
  6. 提案資料などを作って、高速回転設備を作っている企業に自社技術の売り込みをする。

という風に、自社の技術が使われている製品からその理由を見つけることで、用途開発ができるようになります。

用途を他者に見つけてもらう場合

他者に用途開発を行ってもらう場合は「技術をオープンにして、相手に自社技術の利用価値を見出してもらう」ことが必要になります。技術をオープンにすると、不特定多数の技術者に自社の技術を知って貰えます。すると、相手が技術の使い道を想像し、利用価値を見出してくれます。

そのためには、多くの人に技術を知ってもらい、技術の使い方を想像してもらう工夫が必要になります。

1.自社の技術の説明資料を作る

まずは自社の技術を説明するための資料を作ります。技術がどのように呼ばれているか(業界によって違う場合があるので)、どのような機能を持ち、どのような技術課題を解決できるのかを分かりやすく、他の業界の人でもわかるようにイラスト、図、グラフ、画像、活用事例などを使って技術の見える化を行ってください。

大切なことは「この技術だったらうちの製品の改良に使えるかもしれない」と相手に想像してもらえるような資料を作ることです。

2.技術を公開する

資料ができたらそれを公開しましょう。これにより多くの人に技術を見てもらうことができます。例えば、

  • ホームページに公開
  • 展示会に参加
  • 学会で発表
  • オープンイノベーションなどのポータルサイトへ登録
  • 営業時に手渡し

など、あらゆる手段を使って技術の告知を行ってください。

3.データを分析し、探索者が求めている情報を追加していく

2まで行うとかなりの確率で新しい用途の問合せが増えます。その中で探索者がどのような課題を抱えていて、なぜ自社の技術で課題を解決できそうと思ったのかを情報として集めています。ホームページの場合はアクセスデータから探索者が求める情報を拾うことができたり、展示会であれば直接話を聞くことができます。

集めた情報をもとに発信する情報の更新を行うことで、探索者の想像力が更に高まり、新しい用途に関する問合せに繋がります。

用途開発事例

用途開発を積極的に行っている企業を紹介します。

自社で用途を見つけている由紀ホールディングス様の事例です。弊社のセミナーで講演していただいたときの懇親会で、大坪社長が取り組んでいる用途開発の方法についても教えていただきましたので、その時の内容をご紹介します。セミナーレポートはこちら

大坪社長は技術の用途を見つけるために、最新の情報を集められるだけ集めているそうです。論文の調査から学会への参加、研究者との交流、大学訪問などを行い、これからの時代に必要とされる製品に自社の技術が活用できる場面を探し続けています。その結果、ワイヤー技術からは超電導ワイヤーや宇宙用ハーネスなどへの応用、超精密加工から超小型スラスタや世界最速ピストンの開発など様々な用途を見つけ、新しい分野にチャレンジされています。

次に、他者に見つけてもらう場合としてNISSHA様の事例を紹介します。NISSHA様の用途開発専用ページは弊社で制作しました。サイトはこちら

NISSHA様はフィルムディバイスに関する様々な技術をお持ちですが、製品の応用力が高すぎて、ターゲットを絞れずにいました。そこで、持っている技術情報を公開し、お客様に用途を見つけてもらう専用のWebサイトを作成しました。

ターゲットを絞らず、技術の使い方について説明やこれまでの製品事例、グラフや画像を使って既存技術の違いの説明などを行うことで、新しい業界からの問合せが増え、これまで社内で想定すら難しかった用途の開発に成功した事例です。

まとめ

技術の用途開発をすることは簡単ではありません。しかし、自社の技術を知り、用途を想像したり、技術を公開することで新しい用途を見つけることができます。用途開発をする際は、自社で用途を見つける努力をしながらも、他の方に見つけて貰えるように技術を公開することが大切だと思います。

テクノポートでは技術の用途開発のサポートも行っていますので、お気軽にご相談ください。

お金がかかる商品名

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、とあるお客様から受けた質問についてご紹介いたします。

最初の特許相談

とある中小企業が研磨技術を確立しました。この技術を用いた研磨装置によれば、今まで、手作業だった研磨の自動化が実現できます。結果、大量の研磨も夜中に行うことができます。これにより、研磨のコストダウンも可能となります。

このような研磨装置はきっと売れるだろう!

ということで、特許の相談にきました。特許については、調査をした結果、特許の可能性もあったので、特許を出願し、ひと段落となりました。

研磨装置の販促物制作

お客様:HP掲載用の研磨装置のデザインができたのですが、ここに特許出願中と表示してもいいですか?

かめやま:まだ特許取得していないので、特許を取得したような表現はだめですが、特許出願中のような書き方であれば大丈夫ですよ。

お客様:わっかりました!

その後、どうも嫌な予感がしたので、特許出願中の表示を確認したいので、修正カタログをみせてもらえませんか?とお願いしておきました。

修正デザインを見て驚く

修正デザインを見て驚いたのは、「特許出願中」のほうではなく、商品名。商品名は、てっきり「研磨装置」と思っていたのですが、今回の商品名は、「晴れ晴れ研磨君」。この名前は、商標登録が可能な名前。そうだとすると、先に誰かが商標権を持っている可能性もある。ということで、「晴れ晴れ研磨君」についての商標調査と商標登録について検討するようお願いをしました。

商標登録?お金がかかる

お客様:商標登録?新しい加工装置のたびに商標登録をしていたら、おカネばっかりかかってしまいますよ。

かめやま:そうであれば、商標登録できない名前にしてはどうですか?

お客様:どういうことですか?

かめやま:誰もが商標登録できい名前、つまり、普通名称や記述的商標のような名前にしてみてはどうですか?

お客様:普通名称って何です?

かめやま:例えば、商品「りんご」であれば、商品名「りんご」です。

お客様:あ、なるほど。商品そのままの名前ですね。

かめやま:そうです。

お客様:では、記述的商標は何です?

かめやま:例えば、商品「りんご」であれば、商品名「赤いりんご」や「おいしいリンゴ」です。

お客様:あ~なるほど。あまり特徴がなさそうな名前ですね。雰囲気はわかりました。

かめやま:そうなんです。ありふれているような特徴がない名前は、商標としての機能が発揮されないので、商標登録出願しても、審査で撥ねられます。

お客様:今回の加工装置は、「晴れ晴れ研磨君」。あちゃー、特徴がありすぎますね。

かめやま:お金をケチるなら、「研磨装置」でよいと思いますよ。

お客様:今回の商品については、名前で惹かせる作戦を考えていないので、「研磨装置」にしたいと思います。

商標登録を考慮した商品名の決め方

普通の名前にするか?変わった名前にするか?今回のお客様の例で言えば、「研磨装置」にするか?「晴れ晴れ研磨君」にするか?です。

前者であれば、誰もが商標登録ができないので、自社で商標登録をしなくても、そのまま販売できます。後者であれば、商標登録ができる名前なので、早く出願したもの勝ち。自社が出さなかった場合、研磨装置「晴れ晴れ研磨君」がリリース後、別の誰かが「晴れ晴れ研磨君」という商標登録を受け、研磨装置を販売してしまう恐れもあります。「晴れ晴れ研磨君」の商標登録を他人に先を越されてしまうと、こちら側が商標権侵害者となってしまいます。
※先使用権という救済策もありますが周知性の要件が厳しいため、中小企業では、なかなか認められません。

商標権侵害者となってしまうと、権利者側へのお金の支払いの他、在庫の対応(商標が付されたパッケージの廃棄など)、カタログの再制作等、後々、お金が発生してしまいます。したがって、後発的に、商標権侵害者とならないよう、こちら側が、商標登録を先に済ませておく必要があります。

まとめ

  1. 普通名称や記述的商標のような特徴の名前は、誰もが商標登録できない
  2. 目立つ名前で売り出したいのであれば、誰もが商標登録ができてしまう。このため、商標登録を先に越されない様にすべく、こちら側が先に済ませる。
  3. 目立つ名前で売り出す必要性がないのであれば、誰もが商標登録ができない普通の名前にする。

何かの参考になれば幸いです。

製造業向け「伝わる文章の書き方講座(2/4)」

元エンジニア。工業系エンジニアライターの石川です。製造業に強いライターとして、社長挨拶の代筆から、技術紹介、助成金の申請書などなど、さまざまな文章を書いてきました。その経験を元に、製造業に特化した「伝わる文章の書き方」を全4回にわたってご紹介します。

第2回目は「今すぐ使える、文章を書くためのテクニック」です。前回、文章を書くための準備についてでは、事前にターゲットを絞ることや、伝えたい情報を整理しておく必要性を述べました。準備が済んだらいよいよ文章を書くわけですが、今回は書く前に知っておくといい、ちょっとしたテクニックをお伝えします。

1、不正解がない言葉に逃げず、踏み込んで表現せよ

製造業でありがちな表現に「新たな価値観を創造する」や「最先端の技術が拓く未来」のようなものがあります。カッコイイですし、何かすごそうな気がします。しかしこれらの言葉から何が分かりますか?

正直に言いましょう、何も分かりません。

必要なのは「何をどうするか」が分かることです。この場合ならば、新たな価値観や最先端の技術が生み出す未来はどういうものなのか。例えば「車の長距離運転は疲れるという常識を、自動運転システムで打ち破る」とか「まるでその場にいるように、クリアな音声が聞こえるWeb会議」など、どんな技術で何ができるのか、具体的な例も交えて実のある情報を伝えましょう。

このような言葉が出てくる原因は、情報の削りすぎです。第1回でお伝えした情報の整理が不十分で、伝えたい内容が明確になっていないため、何となく耳ざわりがよく何も間違っていない表現に落ち着いてしまうのです。例えばテレビのCMのように、とにかく短時間で社名を印象づけたいときには有効かもしれませんが、Webサイトやパンフレットなど伝えるための時間が十分にある場所では、実情に踏み込んだ言葉で伝えましょう。

2、少しだけ見栄を張れ

文章を書くときに言葉が思い浮かばない原因は、思いつく言葉の数の少なさです。文章を書くためには語彙力を伸ばせといわれがちですが、普通に生活し、普通に仕事をしている大人であれば、一般的な語句はすでに習得しているはずです。古風な時代小説を書こうとしているわけではありませんから、無理に知っている単語を増やす必要はありません。しかし、外に向けた文章を書くときは日常会話に比べ、たくさんの単語や言葉を使う必要があります。つまり文字としてアウトプットする習慣がついてしまえば、言葉はいくらでも思い浮かぶようになるのです。

とはいえ今から訓練し、習慣をつける時間はありません。そこでおすすめなのが、少しだけ見栄を張る方法です。例えば「鍛造用加熱炉」よりは「大きな鍛造用加熱炉」の方が伝わりますし「1,000tを超える鋼の塊を加熱する鍛造用加熱炉」と書いたほうが迫力が伝わります。どれくらいすごいのか、どれくらい売れているのか、少しだけ見栄を張るつもりで書いてみると、様子を表す言葉が思いつきやすくなります。

3、1回で伝えるテーマは少なくせよ

文章が書けない悩みの1つが「伝えたいことが上手くまとまらない」です。これは1つの文章にいくつもテーマを盛り込もうとするから起こります。例えば「昨日の出来事」で文章を書こうとすると悩みますが「昨日の夕食のメニューの内容と感想」であれば書きやすいと感じませんか?昨日の出来事と考えると、食べたものの話や人と会った話など様々なテーマが出てきて、頭の中がまとまらなくなってしまうからです。テーマが絞れていればいるほど、文章は書きやすくなります。第1回でもお伝えした通りまずはきちんと情報を整理し、テーマがいくつもある場合には、段落や章、ページを分けるなど、1つの文章の中に無理に押し込まないようにしましょう。慣れないうちは1つの文章には1つのテーマだと考えていいでしょう。

今回は文章を書くテクニックについてお伝えしましたが、こうしてみると第1回でお伝えした文章を書く準備がいかに大切かが分かりやすいのではないでしょうか。テクニックや型はあれど、文章は準備が9割。しっかりとターゲットを分析し、情報を整理しましょう。

次回は目的ごとの型についてお伝えします。

電子化による効率化以外の効果

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。今回は手続きの電子化と事業継続計画についてです。

電子化の大きな波

ここ数年で色々なものの電子化が進んでいます。身近なところだと、2019年10月1日からの消費税増税におけるキャッシュレス消費者還元事業。開始直後は、駆け込み登録申請で手続きが遅れ、開始までに機械が届かないとか、登録が間に合わないなんて事が多発していました。最近は、小さい店でも対象店舗であるポスターを店頭に貼っているところが増えてきて、ようやく広まってきたと言う感じがします。

店側が負担するカードなどのキャッシュレス決済手数料は海外と比べるとかなり割高なので、こんな少額で使うのはお店に悪いかなと思いつつも、やはり釣銭のやりとりなどなく便利。しかも、もともとのカード支払い時のポイントの他に、さらに5%返ってくるとなると結構大きい。最近は、外出しても現金を出すことが週に1回あるかないかという状況です。他にも、身近なところの話として、「デジタル手続き法案」が令和元年5月31日公布されています。

デジタル手続法

正式名称は「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律」と、やたらに長い名前のこの法律。

いずれは、役所にマイナンバーカードなどを持って行けば、あっちの窓口に行ってこの書類をもらってきて、向こうの窓口でこの書類を提出してといった、よくある手続きの煩雑さが無くなるとか。色々書いて提出したのにもかかわらず、しばらく経ったらまた同じことを書いた書類を出すことになるといった事も無くなります。そして、いずれかは、引っ越しの時などに役所で住民票を変更したら、電気やガス、電話、ネットといったインフラ関係の手続きも全部行われているようになるかもしれないというものです。

日本は遅れていると言われていますが、徐々に電子化、デジタル化が進んでいるようです。

企業に求められる電子化

先の2つの話は個人に係る話ですが、法人でも電子化の波がかなり大きくきています。例えば、2020年4月から一定の法人が行う法人税などの申告の電子申告が義務化されます。社会保険、労働保険関係も4月から電子申請が義務化されます。

大法人の電子申告の義務化の概要について – e-Tax – 国税庁

厚生労働省 2020年4月から特定の法人について電子申請が義務化されます

制度の詳細は国税庁、厚生労働省のサイトに掲載されてますのでそちらをご覧ください。一定の法人とは、資本金額が1億円を超えるとありますが、いずれかは全ての法人にまで広がる事も無いとは言い切れません。

パソコン導入によるペーパーレス化の弊害

製造業に限った話ではないですが、事務処理の電子化は早急に進めるべき案件といえます。ただ、一昔前、OA化によるペーパーレスといってパソコン導入を進めた時代がありました。結果、ペーパーレスどころか、逆に必要のない書類までプリントアウトして紙の書類を増やし、保管に困るという事態が起きています。もちろん、帳簿の情報など、法令上紙で残さないといけないものもあります。しかし、事務処理の電子化と共に、その書類は本当に紙として出力する必要があるのか、その書類自体を作成する必要があるのか考えることも重要になっています。

帳簿の電子化

ちなみに、申請や所定のソフトを使う事などで帳簿も電子化できます。保管場所に困るとか、そういった経費を削減したいという製造業の方は、電子帳簿化が有効だと思います。法令ができても、まだ申請する会社は多くないようです。

電子帳簿保存法関係|国税庁

近年自然災害が増えているので、紙情報の電子化はBCP(事業継続計画)的にも考えた方がいいかもしれません。帳簿、図面、技術データ類が電子化してあれば、何かあった時も復旧が早くなります。また、電子化の際にはバックアップも忘れずに。できればクラウドにもバックアップするといいです。災害とハードディスクのクラッシュは忘れた頃にやってくる。対策大事です。

技術開発時に検討していただきたいこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、顧問企業における技術開発を通した特許支援の概要についてご紹介いたします。

最初の特許相談

とある中小企業は、本業の売り上げがしぼむ中、これを補えるような新規事業を模索していました。地道なマーケティングの結果、既存顧客の困りごとに対する新しい「加工装置」の開発に成功しました。

そこで、既存のお客様から頂いたサンプルに対し、「加工装置」を用いた新しい加工を施し、お客様の指定する検査を社内で行いました。その後、そのサンプルの試験結果及びサンプルの写真を送ったところ、「合格!」。お客様は、すぐにでも、その「加工装置」を購入したい!のことでした。

そのような中、私が呼ばれました。

どうやら、新しい「加工装置」について特許を取得したいようです。ヒアリングの結果、特許を取りたいところは、「加工装置」の肝となる機能であり、具体的には、ワークのチャック構造であることがわかりました。

新技術の市場価値は?

すぐに、「ワークのチャック構造」について特許を取る準備をしてもよいのですが、気になることがありました。それは、

  1. 加工装置の売値
  2. 加工装置の原価
  3. 加工装置の販売数はどれくらい見込めるか

です。

つまり、この加工装置のビジネスによって、トータルでどれくらいの利益を獲得できるか?ということが気になりました。

※加工装置ビジネスによって得られる利益(粗利)は、(1-2)×(3)で表されます。

上記についてヒアリングしたところ、加工装置の売値と原価を聞いて驚きました。原価率が悪すぎます。これだと、加工装置が売れてもビジネスとして成り立ちにくいです。

新商品の利益構造を見直してみる

新商品の利益構造をよいものとするために、「原価が高額となっている部品はどこですか?」ときいたところ、「チャック機構」であることがわかりました。そこで、「チャック機構」のコストダウンとして以下を提案しました。

  • Xプラン 「チャック機構」の機能を維持して、コストダウンが可能か?
  • Yプラン 「チャック機構」の機能を少し落としてのコストダウンが可能か?

また、チャック機構に関し、α部品と、β部品のコストが高いので、この2点のコストダウンとなる改良の方向性を伝え、その検討をお願いしました。

2週間後、お客様より連絡が入ります。前回のチャック機構から、改良したチャック機構が完成しました。この改良により、チャック機能は維持しつつ、原価率が15%改善される!とのことです。どうやら、Xプランが成功したようです。

チャック機構の改良が成功したことにより、まとまった利益が獲得できる目途が立ちました。結果、「まとまった利益」を得る機会を守るべく、その利益の源泉となる「改良版のチャック機構」について特許を取りましょう!となりました。

最初のチャック機能で特許を取った場合

もし、チャック機構で特許を取ってしまった場合、どうなったでしょうか?次の問題点があります。

  1. 自社で特許は取れますが、肝心のビジネスがうまくいかない可能性が高いです。
  2. ライバル会社が、チャック機能の改良版を発明し、特許を取ってしまう場合があります。

1の場合は仕方がないですが、2の場合には、折角の発明の種がしっかりと保護できないだけでなく、競合により良い製品の独占の機会を与えてしまうこととなります。

技術開発時に検討していただきたいこと

市場のニーズにこたえられる新商品であっても、採算が合わなければ、収益が期待できません。したがって、その新商品の事業を保護する価値も下がってしまいます。言い換えれば、市場のニーズにこたえられる新商品であって、採算が合うような事業であれば、収益が期待できます。したがって、その新商品を保護する価値が高まってきます。

このように特許を取る場合には、模倣防止対策はもちろんですが、その前に、ビジネスとしての採算が合うか、そして、収益が得られるかといった商品の企画を検討した方が良いと思います。

このため、技術開発時に検討していただきたいことは、以下の3つになります。

  1. 市場のニーズにこたえられる新商品であるか否か
  2. まとまった利益が取れるか否か
  3. 利益の源泉を特許権や意匠権等で守ることができそうか

何かの参考になれば幸いです。

製造業向け「伝わる文章の書き方講座(1/4)」

元エンジニア。工業系エンジニアライターの石川です。製造業に強いライターとして、社長挨拶の代筆から、技術紹介、助成金の申請書などなど、さまざまな文章を書いてきました。その経験を元に、製造業に特化した「伝わる文章の書き方」を全4回にわたってご紹介します。

第1回目:「文章を書くための準備」

何かを書こうと思って、いきなり冒頭からスラスラと書ける人はいません。プロのライターでも、多くの時間を事前準備に費やします。何の準備もなく書きはじめ、まるで話すように書き続けているとすれば、それは頭の中で十分に「ネタ」が練れているときです。準備を抜きに文章を書くのは、まず不可能と思っていいでしょう。「文章を書くための準備」は次の3つです。

1、ターゲットを絞り、分析せよ

以前のシリーズでもお伝えしましたが、まずターゲット、つまり読む人がどんな人かを絞らなければ文章は書けません。例えば同じ分野の専門家に向けた文章ならば「VF20の精密加工が可能」と書けば伝わります。しかし一般の人や、違う分野の人には伝わりません。「とても固い金属に非常に細かい加工をすることができます。」と書かなければ、何を言いたいのか分からないでしょう。しかし逆にその表現では、専門家にとっては、どれくらい硬いどんな素材を、どれくらいの精度で加工できるのかが伝わりません。ターゲットが変われば、表現の仕方も伝えたいことも変わります。誰に何のために何を伝えるのか、そしてそのターゲットにはどうすれば伝わるのかを考えましょう。

2.情報を整理せよ

ターゲットが絞れたら、次は情報の取捨選択です。次から次へと伝えたいことが出てきてしまう人もいれば、何を伝えたらいいか全く思いつかない人もいます。情報が多すぎる場合には削り、少なすぎる場合には増やさなければいけません。しかし考え方は同じです。それは「ターゲットにとって必要な情報」という目線です。

例えば、新製品の紹介でも、従来機種とは異なる新機能について知りたいのか、製品の使い方や用途が知りたいのかは、ターゲットによって変わります。新規購入希望の人に新機能ばかりアピールしても伝わりませんし、機種のアップグレードを望んでいる人に用途を説明してもあまり意味がないからです。書こうとしている文章で何を伝えたいのかをしっかりと整理すれば、文章の流れもおのずと決まってくるのではないでしょうか。

3.目的ごとの「型」を知ろう

学生時代の国語の学習では、文章の基本は起承転結だと教わります。起承転結というのは文章の「型」です。型に沿って文章を書くと、伝わりやすく読みやすい文章になるのです。とはいえ、すべての文章が起承転結で書かれている訳ではありません。実は文章の「型」にはたくさんの種類があるのです。製造業のホームページ活用などで多く出てくる文章には、下記のようなものがあります。

  • 紹介記事(ホワイトぺーパーや製品紹介)
  • 活動報告(導入事例や展示会レポート)
  • 知識伝授記事(製品の選び方や関連技術の基礎知識)
  • 一般向けPR(ブログやコラム)

また少し雰囲気は変わりますが

  • 申請書類(助成金や補助金などの会社PRや設備の説明)

も多いのではないでしょうか。

書こうとしている文章が、これらのうちどれに該当するかを考えてみましょう。もし合致する項目がなくても、おおよその方向性で決めてみてください。該当する、あるいは近い型に沿って書くことで、慣れない人でも簡単に伝わる文章が書けるようになります。

次回は今すぐ使える、文章を書くためのテクニックをお伝えします。

なぜIoTに注目が集まっているのか?

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

時々リコールといった製品の不具合に関するニュースがテレビや新聞に流れますが、ものづくりを日頃行っている皆さんは製品の不良品質とどのように付き合っていますか?不良品質に伴うコストをどのように考えていますか?今回は不良品質に伴うコストとそれを防ぐためのコストについて考えてみたいと思います。

不良品質に伴うコスト(Cost of Poor Quality: COPQ)

一概に不良品質に伴うコストと言っても、実際には様々なコストに分類することができます。

防止コスト:製造プロセスの管理や、そこでの製品検査や点検に伴うコストです。そのための社員教育やトレーニング費用も含みます。統計的手法を用いた分析や設計レビューに使われる時間なども防止コストに含まれます。

評価コスト:サプライヤーから送られてきた材料の受入検査、または外部機関に依頼した製品の評価費用(検査や点検)、そしてISO-9001のような外部監査費用などが評価コストに含まれます。

測定器等のコスト:品質対策に使われる機材や測定器等のコストが含まれます(製品の製造目的以外に使われるもの)。

内部エラーコスト:スクラップ品の原材料費、手直しに伴う人件費などが含まれます。また悪い歩留まりを見越した余分な在庫も内部エラーコストに含まれます。

外部エラーコスト:不良品の返品や値引き、品質契約違反に伴う罰金や罰則に伴うコスト、苦情処理に伴う人件費、補償に伴う交換部品や人件費などが含まれます。

顧客が蒙るコスト:不良品が原因で顧客の工場が稼働停止になったり、顧客の設備にダメージを与えた場合の補償費用です。また稼働停止期間中の代替製品や代替サービスの費用も顧客が蒙る(顧客に補償する)コストに含まれます。

顧客の不満足に伴うコスト:不良品が原因で顧客が不満を持てば、その声は市場に広まります。結果的にその製品の売上や市場シェアの低下を招きます。

評判を失うことに伴うコスト:不良品質が企業の評判を落とすことになれば、一つの製品だけに留まらず、他の製品の売上や市場シェアの低下をも招きます。上場企業であれば株価にも悪影響を与え、株主集団訴訟に発展することもあるでしょう。

不良品質に伴うコストの影響

「制御可能な不良品質コスト(防止コスト、評価コスト、測定器等のコスト)」を1とすると、「不良品質の結果に伴うコスト(内部エラーコスト、外部エラーコスト)」は10、そして「間接不良品質コスト(顧客が蒙るコスト、不満足に伴うコスト、評判を失うコスト)」は100になると一般的に言われています。

逆に言えば、不良品質を防ぐためにたった1のコストを支払うことで、100の「間接不良品質コスト」が防げる計算になります。

この不良品質に伴うコストの影響度合いは、私たちの感覚とも一致するのではないでしょうか。

例えば最近あったS自動車会社のリコール費用は800億円以上に上ると言われています。リコールの原因は測定データの改ざんでした(人員不足と教育体制の機能不全のため)。品質管理費用を少しばかり惜しんだために、その100倍以上のリコール費用を払うことになった良い例です。

シックスシグマやIoTを導入する理由

不良品質を改善するシックスシグマでは統計的工程管理を行うため、シックスシグマを導入する際は社員教育や統計処理ソフトウェアが必要になります。これは不良品質の「防止コスト」に当たります。

しかし「防止コスト」は「不良品質の結果に伴うコスト」や「間接不良品質コスト」に比べれば遥かに安くすみます。つまり企業がシックスシグマ等の改善プロジェクトを推し進める理由は、「防止コスト」の相対的安さにあります。

同じ理由から、「測定器等のコスト」に当たるIoT(Internet of Things)の導入も進んでいます。IoTの導入は決して安くはありませんが、やはり「不良品質の結果に伴うコスト」や「間接不良品質コスト」に比べれば遥かに安くすむため、今IoTに注目が集まっているようです。

機会があれば皆さんの職場でも、不良品質に伴うコストを計算してみては如何でしょうか。きっとそれを防ぐための対策費用の方が遥かに安いはずです。

特許相談のときに、思わず心配になってしまうこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回は、特許相談のときに、思わず心配になってしまうことについてご紹介します。

特許相談において心配になること

特許取得を希望されるお客様と話していて、ときどき気になることがあります。確かに、お客様が新商品やそこに採用する新技術に頭が行きがちなことはわかります。しかしながら、

  • 肝心の新商品を、どこに、どうやって提供するか?
  • その新商品を使って、どのようなビジネスを行うのか?

の検討が足りていないのでは?というケースです。

特許取得!の前に検討してほしいこと

そのようなお客様には、特許の説明をする前に、

  • お客様のビジネスモデルはどうなっていますか?
  • そして、今回の特許は、ビジネスモデルのどこに貢献するものですか?

と聞きます。ここでいうビジネスモデルについて、簡単に言うと以下のようになります。

利益 =( 売値 - 原価 ) × 販売数

例1:ある新製品を考えているお客様

  • 新技術を採用することで、売値をどれくらい高くできますか?
  • 言い換えると、付加価値が提供できますか?
  • そのような付加価値を理解する人たちはどのような人たちですか?
  • そして、どのようにして、彼らに販売をしようとしてますか?
  • そのためにどのようなPRを行いますか?

例2 生産技術を確立したお客様の場合

  • 新技術を採用することで、原価をどれくらい安くできますか?
  • 結果、売上の何%増がみこめますか?

等です。

特許取得を希望されるお客様の本心

特許取得を希望されるお客様の本心は、特許取得ではなく、「特許の活用により自社ビジネスをより強固にする」ということのはずです。しかし、こちらがお客様のビジネスモデルを理解していなければ、お客様のビジネスに活用できる特許はつくれませんし、お客様もご自身のビジネスモデルを理解していなければ、やはり難しいと思います。

※このような傾向は、下請けから脱却のような、請負から企画へ移行しようとする企業に多いように思えます。

折角、弊所へ特許相談していただくお客様に対しては、特許の前に新商品や新技術に関して、自社のビジネスモデルをデザインしていくか?という検討をお願いすることもありますし、その検討を一緒に行うこともあります。

このような検討は、1回や2回行ってすぐに身につくものではありません。しかしながら、検討の繰り返した経験がモノを言います。

新商品や新技術に関して、特許取得も大切ですが、新商品や新技術に関して、自社のビジネスモデルってどういうものか?という観点も併せて検討していかれるとよいと思います。

お知らせ

12/4に日本弁理士会において、知的財産セミナーを行います。

タイトル:中小企業の経営者必見!!60分でまるわかり「売れる商品の仕組み」

内容は、ビジネスモデルと、特許や登録商標の関係を整理するインプットの時間と、参加者がグループになって実際に商品企画をしてもらうというものです。もちろん、単なる商品企画でなく、販売の仕組みまで検討してもらいます。

ビジネスモデルの検討が苦手だなぁというかたは、この機会に参加してみてはいかがでしょうか?

ご興味のある方はこちらまでよろしくお願いします。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)は進んでいますか?

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

ものづくりの現場にはデジタル機器がすっかり浸透し、今ではデジタル的なものづくりが普通になりました。みなさんの現場でもアナログ的なものづくりからデジタル的なものづくりへの移行、つまりDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進んでいますか?今回はあるものづくりの現場で行ったDXの試みと、その利点について説明してみたいと思います。

現場からの依頼

事の始まりは、ある検査プロセスからの依頼でした。依頼内容は「製品の検査プロセスで不合格品が時々発生するので、製品が悪いのか、それとも検査プロセスが悪いのか、一度調べて欲しい」というものでした。

製品は兎も角として、なぜ検査プロセスまで調べなくてはいけないのか、その理由を改めて聞いてみると、「製品が一品一品異なるオーダーメイドなので、検査プロセスの設定や手順をその都度製品に合わせて変更しているから」とのことでした。

アナログ的な検査プロセス

そこでまず、現場のオペレータにこれまでの検査履歴を見せてもらいました。しかしオペレータが持ってきたものは、製品シリアルナンバーのリストが印刷された紙に、製品それぞれの合否結果が手書きで記入されたものでした。これだけでは何も分析ができないので、オペレータに「パラメータの設定値や測定結果など、他のデータは記録していないのか?」と尋ねると、「検査手順書通りにパラメータを設定しているので、特に他には記録はしていない」との返事でした。

仕方がないので、ここから検査プロセスのDXを始めてみました。

アナログデータの取得からデジタルデータへの変換

まずDXへの手始めとして、検査プロセスのデータをすべて記録してもらうようにオペレータに依頼しました。製品の測定データ、電圧や電流などのパラメータ設定データなど、検査の合否に影響があると考えられるすべてのデータです。もちろん検査結果の合否だけではなく、検査測定値も記録してもらいました。

この段階ではまだオペレータが手で測定し、取得したデータを手でパソコンに打ち込むというアナログ/デジタル変換ですが、検査が進むうちに分析に必要な十分な量のデジタル・データセットが揃ってきました。

デジタルデータの分析

データセットに記録されたレコードには検査プロセスで得たすべてのデータが製品シリアルナンバーごとに記録されています。このデータセットとソフトウェアを使って、まずは回帰分析を行いました。

回帰分析を行うことで、検査結果に影響を与えている主因子を見つけ出すことができました。また回帰分析で導き出した数値モデルを使って、検査プロセスの最適化を行ったり、検査測定値のバラツキを検討したりすることもできました(モンテカルロ・シミュレーション)。

結果とし、検査プロセスの不具合を発見したり、改善(最適化)したりすることが簡単に行えました。

DX: デジタル・トランスフォーメーション

当初の依頼の目的はすでに達成しましたが、さすがにオペレータが検査のたびに今後もいちいち手でデータを収集していては大変です(また人的エラーも発生します)。そこで検査プロセスから自動的にデータを収集する簡単なプログラムをPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)を使って作りました。

自動収集したデータは社内ネットワークを通してデータセットに記録されるようになり、どこからでもデータセットにアクセスできるようになりました。ここまで来ると簡単なIoTシステムと言っても差し支えないと思います。

機械学習への応用

検査のたびに大きくなるデータセットを使って、機械学習も行ってみました。機械学習によって検査結果を事前に予測することで、複雑な検査プロセスを簡略化し、コストダウンとリードタイムの短縮が図れるかもしれないと考えたからです。実際にその手応えを掴みつつあります。

DXの効果

PLCとネットワーク、データ解析用のソフトウェアを組み合わせるだけで、簡単に検査プロセスのDXが図れました。それだけではなく、様々な分析も行えるようになり、検査プロセスの改善やコストダウンが行るようになりました。

機会があれば、皆さんの現場でもぜひDXをお試し下さい。きっと良い結果が得られると思います。

特許相談でよくある「取り返しのつかないこと」

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して6年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許相談でよくある「取り返しのつかないこと」

お客様:スミマセン、この新商品で特許を取りたいのですが…取れるでしょうか?

かめやま:ハサミの発明ですね。

お客様:そうです。こちらで特許が取れるでしょうか?

かめやま:なるほど。特許取得のためには、3つのハードルを越える必要があります。

  • 条件1、法上の”発明”であること
  • 条件2、新規性があること(新規性)
  • 条件3、進歩性があること(進歩性)

まず、「法上の”発明”であること」についてですが、今回の発明品が、ハサミなので、ここはクリアできます。あとは、「新規性」及び「 進歩性」を超えることができか否かポイントになりますね。

お客様:なるほど。

かめやま:ところで、この新商品のウリはどこですか?

お客様:柄の形状になります。

かめやま:ここの形状ですね?どのようなメリットがありますか?

お客様:操作性が良くて、長時間握っていても疲れない!と、多くのお客様から評判を頂いております。

かめやま:えぇ!!もう、販売済みですか?

お客様:はい。結構、好評なんです!!

かめやま:最初の販売はいつになりますか?

お客様:えーと…半年前?いや3ヶ月前です。

かめやま:あらら、ちょっと危ないですね~。

お客様:危ないですか?

かめやま:えぇ。ハサミの出願前に、ハサミを公開してしまったわけですよね?

お客様:ええ。

かめやま:「新規性」や「進歩性」の基準は、出願時に、その発明の内容と同一の物が公開されていないか否かとなります。仮に、ハサミの発明を今日出願したとした場合、今日までに公開された全てのハサミが、審査の対象となります。しかし、今回の場合、出願しようとするハサミと同じものが、3か月前に販売(公開)されていますよね?

お客様:でも。私が販売したハサミですが。

かめやま:お客様が販売したハサミであったとしても、特許の世界では、出願の前に、同じものが販売(公開)されているので、新しくない(新規性なし)と判断されてしまいます。

お客様:私が販売したハサミなのに?

かめやま:そうです。結果、「新規性をクリアーできず、特許を取得できない」となってしまいます。

お客様:ちょっと、解せないです。非現実的じゃないですか?売れるかどうかわからないのに、その都度、特許を出願しなければならないのですか?

かめやま:そうなんですが・・・特許法の基本スタンスは、こういう立場です。ところが、特許法では、こういうお客様の事情を考慮して、新規性喪失の例外という救済規定が用意されています。その条件は、以下の2つです。

  • 条件1、最初の公開から1年以内に出願すること
  • 条件2、出願時に、自分の公開事実を特許庁に申し出すること

お客様:今回は、公開から3か月しか経っていないので・・・?

かめやま:そうです。新規性喪失の例外を利用すれば、自分の販売行為で「新規性」がNGになることはありません。あとは、他社の類似商品との戦いになります。

お客様:よかった!でも、条件1についてですが、あと8か月ありますね。もう半年、出願を先送りできますか?

かめやま:可能です。しかし、デメリットもあります。半年間販売をし続ける間に、同業者から類似品を販売する場合がありますよね?

お客様:確かに・・・それはあり得ます。

かめやま:同業者から類似品の販売事実が、お客様の特許出願よりも前に行われてしまうと、その販売事実によって新規性がなしとなってしまいます。また、新規性喪失の例外の適用もまず難しいです。

お客様:そうすると、模倣行為が取り締まれない・・・

かめやま:そうなってしまします。

お客様:うーん・・・結局、可能な限り早めに出さなければならないということですね。

かめやま:そうです。A.S.A.P(As soon as possible)という心構えが基本になります。今回は、新規性喪失の例外を受けられそうですので、まずは先行技術調査を進めていかがでしょうか?調査の中で、他社の類似技術と比較し、特許性がありそうであれば、出願すればよいですし、厳しければ別の方法を考える・・・という流れでどうでしょうか?

お客様:わかりました。お願いします。

2、「特許取得」に立ちはだかる3つのハードル

1、法上の”発明”であること 大雑把にいえば、物(ハードウェア)であるか否かです。その後の法改正により、物にプログラムが追加されました。よって、有体物(ハードウェア)であれば、発明となります。

2、新規性があること 出願時点において、特許を取得しようとしている発明の内容が公開されていないこと。公開行為としては、販売行為、展示会での出展や、インターネット上の販売や宣伝等があります。

3、進歩性 詳しい説明は、次回以降にしたいと思いますが、大雑把にいえば、組み合わせの妙(1+1=3になるようなもの)であるか否かです。

4、「販売が先か?それとも、特許出願が先か?」というジレンマ

新製品が完成すれば、市場の反応は早くつかみたいし、反応がよければ早く販売したいと思います。また、大きな利益が出そうであればこの利益を守るために特許を出しておきたい!と考えるのが企業側の本音です。ところが、特許法における「新規性」は、「販売前に出願してくださいね!」のように、企業側の想いとは真逆の立場を取ります。

特許出願の意思決定には、「販売が先か?出願が先か?」といったジレンマが起こります。

5、新規性喪失の例外

こうしたジレンマを解消すべく、新規性喪失の例外が用意されています。新規性喪失の例外の適用を受けるためには、以下の条件1~2をクリアーする必要があります。

  • 条件1、最初の公開から1年以内に出願すること
  • 条件2、出願時に、自分の公開事実を特許庁に申し出すること

中でも、条件1を満たすか否かが大きな問題となります。「時計の針は戻せない」ですから。

6、新規性喪失の例外の限界

便利な「新規性喪失の例外」にも限界があります。1つ目は時期の問題です。最初の公開から時間が経ってから出願をすると、他社の類似品が市場に出てしまいます。他社の類似品の販売行為は、「新規性喪失の例外」の適用を受けることができません。

2つ目は、国の問題です。「新規性喪失の例外」のような制度は国ごとによって異なります。アメリカは、日本と同じような制度を持っていますが、中国やヨーロッパは、厳格な制度を持っており、「新規性喪失の例外」をほとんどで起用することができません。このため、海外(特に、中国やヨーロッパ等)で特許を取得したい場合には、「公開前に出願する」という形をとらざるを得ません。「すでに販売していしまったよ~」という場合には、「新規性喪失の例外」の制度を持つ国でしか特許を取得することができません。

7、まとめ

  1. 特許取得には、「発明であること」「新規性があること」「進歩性があること」の3つのハードルがある。
  2. 「市場の反応」に基づき出願の意思決定したい場合、「新規性」が厄介になる
  3. 強い味方の「新規性喪失の例外」
  4. 便利な新規性喪失の例外にも限界がある。
  5. 特許出願は、可及的速やかに。外国出願を検討している場合には尚更。

限界その1:出願を遅らせることは、自社の出願前に「第三者からの類似品販売」のリスクが高まる。結果、救済規定「新規性喪失の例外」を受けられないリスクが高まる。

限界その2:海外には、「新規性喪失の例外」がそもそも厳しい国もある。

便利なツール「進化的調整方法」

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

先週末、久しぶりに日曜大工をしました。植木鉢を載せるテーブルを作るために木材を切り揃え、組み立て、さらにニスを塗って仕上げました。使った電動工具は丸ノコ盤、卓上丸ノコ、電動ドリル、そしてサンダーの4種類。電動工具を使わなければ、とても一日では終わらなかったことでしょう。ツールの威力は生産性が劇的に高まることだけではありません。ツールを使うことで素人でもそれなりの物に仕上げることができます。それは大工仕事だけに限ったことではなく、普段の仕事でも同じことが言えます。

そこで今回は普段の仕事で気軽に使える便利なツール「最適化のための進化的調整方法」をご紹介したいと思います。

陸王の「こはぜ屋」でも使えるツール

足袋工場「こはぜ屋」が陸王というランニングシューズを作るテレビドラマを皆さんもご覧になったことと思います。

あのドラマの中で、「シルクレイ製造装置を再稼働させて最初のサンプルが作れるようになるまで数か月は必要だ」と飯山専務は言い、事実、飯山専務と一緒に仕事をしていた大地の二人は、2週間以上も深夜まで毎日働き、試行錯誤を繰り返しながら設備の再調整をしていました。

もし彼らが「最適化のための進化的調整方法」を使っていたら、恐らく3日もあれば再調整は終わっていたでしょう。

陸王 (引用 TBS)

「最適化のための進化的調整方法」ってナニ?

最適化と聞くと、数学や統計学の知識が必要な難しいものと思われがちですが、この最適化手法は数学も統計学も全く必要ありません。足し算と割り算ができれば十分です。

下の図は「最適化のための進化的調整方法」のイメージを表しています。

  1. 最初に3つの調整点(三角形の頂点1、頂点2、頂点3)を任意に決めて、それぞれの調整点から結果を取得します
  2. それぞれの結果と目標値を比較して次の調整点(頂点4)を計算し、頂点4の調整値から結果を取得します
  3. 新しい三角形(頂点2、頂点3、頂点4)の結果と目標値を比較して次の調整点(頂点5)を計算し、頂点5の調整値から結果を取得します
  4. 新しい三角形(頂点2、頂点4、頂点5)の結果と目標値を比較して次の調整点(頂点6)を計算し、頂点6の調整値から結果を取得します
  5. 新しい三角形(頂点4、頂点5、頂点6)の結果と目標値を比較して次の調整点(頂点7)を計算し、頂点7の調整値から結果を取得します

この手順を何度か繰り返しているうちに、結果が目標値に次第に近づいていき、最終的には最適値が得られる調整値に収束していきます。試行錯誤を繰り返しながら闇雲に調整するよりも、はるかに早く生産的で確実な調整ができます。

次の調整点(頂点)の計算方法はとても簡単ですが、ここでは十分に説明しきれないので、ご興味のある方はぜひ私のブログを参照して下さい。

最適化のための進化的調整方法

どんな仕事に使えるのか

調整パラメータの数が2つ以上であれば「最適化のための進化的調整方法」が使えます。例えば、

  • 生産システムのパラメータ調整
  • 在庫量の調整
  • プロセスラインの調整
  • 製造装置の調整
  • サプライチェーンの調整

など。調整パラメータの数が4つ以上になるとグラフでは表現できなくなりますが(4次元グラフになってしまうため)、最適化のための手順はまったく同じです。

進化的調整方法の応用範囲

「最適化のための進化的調整方法」のメリット

最後に「最適化のための進化的調整方法」を使う利点をいくつか挙げておきます。

  • 通常業務中に仕事(生産)を継続しながら調整ができます。
  • 一般的な最適化手法のように特別な準備や環境を用意したり、通常業務を停止して試験を行う必要がありません。
  • 難しい数学や統計の知識はまったく必要ありません。足し算と割り算だけで計算ができます。またエクセルを使える知識があれば十分です。
  • 一般的な最適化手法に比べて調整回数が少なくて済み、その分早く調整作業が終わります。
  • 完全な最適値ではないかもしれませんが、十分満足できる最適値を得ることができます。
  • 通常業務を継続しながら調整(最適化)できるので、調整中に作った製品も販売することができます。

計算方法など更に詳細な内容についてご興味のある方は、ぜひ私のブログを参照してください。

この特許出願や特許権。まだ活きているの?それとも、死んでいるの?

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、前回に引き続き、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は過去の記事を参照ください。

2、特許出願や特許権が死んでしまうケース

特許出願が死んでしまうケースとして主なケースは、以下の3つです。

  • ケース1:出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。
  • ケース2:審査において拒絶査定が確定した。
  • ケース3:特許料の不納により消滅した。

※レアケースを含めると、ケース1~3以外のケースもありますが、説明が複雑になるため割愛します。

前述の6つのイベントとケース1~3の関係は、次のようになります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求 ⇒ ケース1(出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過)に該当すると死んでしまう。
  4. 審査対応   ⇒ ケース2(審査において拒絶査定が確定)に該当すると死んでしまう。
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持 ⇒ ケース3(特許料の不納)に該当すると死んでしまう。

3、ケース1の判別方法

(1)ケース1(出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。)の判別方法は次のように行います。

(2)まず、J-Platpatにおいて、出願番号や、公開番号などから、知りたい特許公開公報を検索します。

※検索方法は、過去の記事をご参照ください。

(3)特許公開公報を選ぶと、下のような画面が表示されます。ここで、「経過情報」を見るためには、赤枠で囲まれた「経過情報」のボタンを押します。

(4)「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース1の場合、「未審査請求によるみなし取下」と表示されます(赤枠部分)。

4、ケース2、3の判別方法

(1)ケース2(審査において拒絶査定が確定した)の判別方法も同様です。「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース2の場合には、「拒絶査定」と表示されます(赤枠部分)。

(1)ケース3(特許料の不納により消滅した。)の判別方法も同様です。「経過情報」のボタンを押すと、次のような画面が表示されます。ケース3の場合には、「年金不納による抹消」と表示されます(赤枠部分)。

(2)ちなみに、特許権が継続している場合には、「本権利は抹消されていない」と表示されます(赤枠部分)

5、まとめ

  1. 特許出願が死んでしまうケースは、3つある。
    ケース1:出願審査請求をしないまま、特許出願の日から3年が経過した。ケース2:審査において拒絶査定が確定した。
    ケース3:特許料の未納により消滅した。
  2. どのケースに該当するかは、「経過情報」を見ればわかる。
  3. 「経過情報」は、J-Platpatを見ればわかる。

何かの参考になれば幸いです。

海外のものづくりの現場で使われているリーンシックスシグマとは?

どのようにすれば早く、安く、確実に、楽に、そして質の高いものづくりができるのか。試行錯誤しているうちに、たどり着いた手法、それが「リーンシックスシグマ」でした。企業の大小を問わず世界の製造業では一般的なリーンシックスシグマですが、不思議なことに日本ではほとんど普及していません。

申し遅れました。私、津吉 政広と申します。リーンシックスシグマのマスターブラックベルトとして製品開発はもとより、製造プロセスやビジネス・プロセスの改善などに携わっています。日頃ものづくりに携わっておられる日本の製造業の皆様にもリーンシックスシグマを少しでも知ってもらいたいと思い、筆を執りました。

リーンシックスシグマってなに?

世界中のものづくりの現場では次から次へと現れる課題や問題と格闘しています。日々の課題を解決するために、日本が生み出したものづくりの知恵やアイデアは、日本だけではなく世界中の多くのものづくりの現場で使われています。実はその日本が生み出したものづくりの知恵やアイデアがたくさん詰まっているものが、リーンシックスシグマなのです。

リーンシックスシグマの誕生は今から30年ほど前のアメリカまで遡ります。当時のアメリカは製品の品質面などで日本に大きく後れをとっていました。そこで日本に追いつくために日本のものづくりを調べました。

しかし日本のものづくりの現場で普通に行われていたようなことが、文化や言葉の違いからか、当時のアメリカ人にはなかなか理解することができませんでした。そこでアメリカ人は日本のものづくりを徹底的に研究し、科学的思考と組み合わせながら誰でも理解できるような形で「ものづくりの手法(考え方や手順)」を体系化していきました。そこで誕生したものがリーンシックスシグマなのです。

国や文化にとらわれずに体系化されたものづくりの手法「リーンシックスシグマ」は、グローバル化の時代には品質や生産性を上げる手法として最適でした。そのためアメリカ企業が南米や中国、韓国、欧州、インドなどに進出するに伴い、リーンシックスシグマも世界中に広がっていきました。

本当に日本の知恵やアイデアが詰まっているの?

先日久しぶりにある製造業で働く友人と会って話をしたとき、友人に自分の仕事を説明しようと思って「リーンシックスシグマって、知っている?」と尋ねてみました。友人曰く「何それ?」。

そこで続けて「ブラックベルトとか、グリーンベルトとか、聞いたことない?」と尋ねてみると、友人曰く「武道の話をしているの?仕事の話をしているのかと思っていた」との返事。

さらに「それじゃ、QFD(品質機能展開)とか、狩野モデルとか、田口メソッドとか、特性要因図とか、5Sとか、知っている?」と尋ねると、友人は「ああ、それなら知っている。うちでも色々な部署が使っているよ」とのこと。

この友人のように、日本のものづくりの現場ではまるで空気のように知らず知らずのうちに偉大な先人達が残した知恵やアイデアを使っています。リーンシックスシグマはそのような日本で発明された馴染み深いツール類を利用しやすいようにまとめたものなので、日本のものづくりの現場でも自然と活かせるはずです。

リーンシックスシグマって外国の、しかも大企業のものでしょ。日本の中小企業には関係がないのでは?

私は町工場を扱ったテレビドラマや小説が好きです。特に「陸王」が大好きです。しかしハラハラドキドキする展開を楽しむ一方、「こはぜ屋さんがもしリーンシックスシグマを使っていれば、こんな苦労はしなくても済んだのに」と何度も思いました。実は日本の中小企業だからこそ日本の知恵やアイデアが活きているリーンシックスシグマを効果的に使う場面がたくさんあるのです。

ものづくりを行う中小企業がどのようにリーンシックスシグマを使って生産性や品質を高めていくのか、できれば「陸王」などの話を織り交ぜながら今後話をすることができたらと思っています。今後ともよろしくお願いします。

顧客に届く「自社技術の凄さ」

元エンジニア。工業系エンジニアライターの石川です。ホームページやパンフレット製作のため、製造業を中心とした様々な企業で取材を行ってきました。それらの経験を元に、顧客に「自社技術の凄さ」を伝えるための、より効果的なアピール方法をお伝えします。

効率的なアピールとは、顧客が知りたい情報を提供すること

どれだけ素晴らしい技術があっても、ニーズのあるところに響かなければ効果的なアピールにはなりません。たとえば素晴らしい曲芸を目にしても、拍手を送って終わりになってしまうことがほとんどです。もちろんアーティストの路上ライブのように、知名度を上げてることで素晴らしさに気づいてもらう方法もあります。しかし製造業の場合、この方法で成功できるのはBtoCが主流であるなど、限られた条件がそろっているときだけです。興味や関心がない層よりは、すでにニーズのある層をターゲットにアピールしていくほうが効果的といえるでしょう。すでにニーズがある層が目にするものとして考えられるのが、ホームページやパンフレットです。自社技術の凄さを伝えるためには、それらを見ている顧客が知りたい情報を確実に提供することが大切です。

そして顧客が知りたいことは大きく分けて次の2つになります。

  1. どんな問題が解決できるのか
  2. 他社との差

それぞれの場合について詳しく解説していきましょう。

 

「どんな問題が解決できるのか」を伝える

「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という有名な言葉があります。この考え方が適用されるのが顧客が1の「どんな問題が解決できるのか」を知りたがっている場合です。例えば顧客がライン上で不良品を正確に見つける方法や、騒音、衝撃などの問題に直面し、それを解決できる製品を欲しがっているとき、欲しいのは「製品」ではなく、「問題が解決されたという結果」であるということです。

つまりこのとき顧客が欲しがっているものは、その製品を使えば問題が解決できるだろうという確信です。ですから、どんな問題が、どのように解決できるのかという情報を提供することが大切になります。具体的には、活用事例や実績、導入ストーリーなどを分かりやすく伝えるといいでしょう。

 

「他社との差」を伝える

上記の「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」の反論として「ドリルを買う人が欲しいのはかっこいいドリルだ」という冗談があります。あくまで冗談として扱われる言葉ではありますが、実は意外と的を射ている言葉でもあります。穴が欲しいのは確かだが、様々な手段の中からドリルを使うのが適していると既に知っており、ドリルを扱うことに難しさを感じないのであれば「かっこいいドリルが欲しい」と考えることもできます。つまり、問題解決の手段をすでに熟知しており、その中から最良の手段を選びたいと考えている場合です。

このときに顧客が欲しがっている情報は、他社との差や他の類似商品との差です。どんな部分がどのように違うのか、図や数など値を交えて、具体的に伝えるといいでしょう。このときに大切なのは、自社をアピールしたいという部分だけに注目しすぎないことです。視点を広く持ち、他社や他の類似品に比べてどうであるかを、客観的に見つめなおしてみてください。

まとめ

情報を発信する場合に大切なのは「情報の受け手から見てどう見えるか」ということです。ここに書いたことは決してむずかしいことではなく、当然だと思われるかもしれません。しかし「凄さを伝えよう」と前のめりになればなるほど、忘れがちになってしまう部分でもあります。自分が伝えたいことを少しわきによけ、顧客がどんな情報を求めているかに目を向けてみることが、効果的なアピールの第一歩になるでしょう。

よくあるお客様の勘違い【特許公報と特許公開公報】

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。今回も、前回に引き続き、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許発明の公開

特許権が成立すると、その特許発明の製造販売は、特許権者だけが独占的に可能となります。言い換えれば、他人がその特許発明の製造販売を無断で行うと、特許権侵害となるため、他人は、その特許発明の製造販売を自由に行うことができません。しかしながら、特許権が発生した場合、その権利の内容が非公開のままでは、どうなるでしょうか?自社の商品は、誰かの特許権を侵害しているかもしれない?突然、誰かから特許権侵害だ!と訴えられるのかもしれない?

といったような不安がよぎるため、他の人は安心して事業活動ができません。そこで、特許権が成立した場合には、特許公報を発行して、他人に権利の内容をお知らせしているのです。

3、特許公報だけが公報ではない

これが、お客様が良く勘違いする点です。実は、特許に関する公報として、主なものは2種類あります。1つは、特許公報。

もう1つは、特許公開公報。特許公報との見分け方は、「公開」の文字が入っているか否かになります。

(1)特許公報について

こちらは、特許出願について特許権が成立した場合に公開されます。

(2)特許公開公報について

こちらは、特許出願の日から1年半が経過すると、特許出願の内容が公開されます、つまり、特許権が成立していなくても、公開されます。

このため、

特許に関する公報に記載の発明だから、誰かが独占している発明なんだ!

なーんて早合点しないでください(ここが勘違いされるポイントです)。公報の種類が、特許公報なのか特許公開方向なのかを調べた上で、

  • 特許公開公報である場合には、出願日から1年半が経過した発明なんだな!
  • 特許公報である場合には、特許を取得した発明なんだな!

と思ってください。

4、特許公報を見てみよう

実際の特許公報を見てみましょう。こちらが特許公報の1ページ目の全体です。

下が、特許公報の1ページ目の上半分の拡大図になります。

主要部(赤線部)を説明しますと、一番上の中央部に大きく「特許公報」と書いてあります。その右下に、特許番号と登録日が書いてあります。その下の2本の二重線を飛び越して左側には出願番号(特許庁が付与した番号)

  • 出願日(特許庁が出願書類を受け付けた日)
  • 右側には、
  • 特許権者
  • 代理人
  • 発明者

等々いろいろなことが書いてあります。※こちらは弊所のお客様の特許公報です(本人の許可をもらっています)。

 

5、肝心の特許権の内容はどこに?

特許権の内容、つまり、特許発明の内容は、【特許請求の範囲】に書いてあります。下は、特許公報の1ページ目の下半分の拡大図になります。

請求項1のところに、発明の内容が書いてあります。平たく言うと、「ペット用の被服で、保冷剤やカイロを入れるポッケの口を、被服の縁に持ってきました!」という発明です。文章だけだとわかりにくいのですが、図を見れば一目瞭然です。

6、特許公報はどこでもらえる?

特許公報は、J-platpatで検索することができます。

番号が分かっている場合は、特許番号で検索します(上図の①から入ります)。出願人が分かっている場合は、出願人名で検索します(上図の②から入ります)。

7、まとめ

  1. 特許発明は、特許公報に記載されている。
  2. 特許公報と、特許公開公報は別物なので注意しよう。
  3. 特許発明を知りたければ、特許公報の【特許請求の範囲】を読もう。
  4. 特許発明の理解には、図面を合わせて読もう。
  5. 特許公報は、J-platpatで検索して入手することができる。

「特許表示」 一歩間違えると刑事罰対象に!?

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。前回は、「特許の権利化までの手続きがわかりくい!」という声に応え、「特許の権利化までの手続き」できるだけわかりやすくご紹介したました。今回は、特許相談のときに、よく見受けられるお客様の勘違いについてご紹介します。

1、特許出願を済ませばOK?

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

特許を取るためには、特許出願をする必要がありますが、特許出願をしても、すぐに特許権取得になりません。その理由は、前述の通りですが、わからない方は前回の記事を参照ください。

2、特許表示の罠

「特許出願を済ませた」=「特許取得」と勘違いする方は多いようです。通常、特許出願した後に、発明品の販売を行うのですが、その発明品のチラシに、「特許製品」「特許技術」や、「オリジナル特許」と表示されるケースを時々見かけます。ところが、「特許製品」「特許技術」「オリジナル特許」という表示に問題があります。

3、特許法によると・・・

特許法第百八十八条(虚偽表示の禁止)には次のようなことが記載されております。

何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

  • 一 特許に係る物以外の物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為
  • 二 特許に係る物以外の物であつて、その物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付したものの譲渡等又は譲渡等のための展示をする行為
  • 三 特許に係る物以外の物の生産若しくは使用をさせるため、又は譲渡等をするため、広告にその物の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為
  • 四 方法の特許発明におけるその方法以外の方法を使用させるため、又は譲渡し若しくは貸し渡すため、広告にその方法の発明が特許に係る旨を表示し、又はこれと紛らわしい表示をする行為

すなわち、特許を取っていないのにもかかわらず、あたかも特許権を取得しているような紛らわしい表示をした場合には、虚偽表示に該当します。さらに、特許法第百九十八条には次のようなことが記載されております。

第百八十八条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

また、特許法第二百一条(両罰規定)には、には次のようなことが記載されております。

1 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

  • 一 第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項 三億円以下の罰金刑
  • 二 第百九十七条又は第百九十八条 一億円以下の罰金刑

2 前項の場合において、当該行為者に対してした前条第二項の告訴は、その法人又は人に対しても効力を生じ、その法人又は人に対してした告訴は、当該行為者に対しても効力を生ずるものとする。

3 第一項の規定により第百九十六条、第百九十六条の二又は前条第一項の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。

つまり、特許を取っていないのにもかかわらず、あたかも特許権を取得しているような紛らわしい表示をした場合には、刑事罰の対象となり、懲役3年以下、300万円以下の罰金に科されますし、法人の場合には、1億円以下の罰金の対象となります。

発明品のチラシを作って販売する時点で、ほとんどが法人である可能性が高いと思いますので、行為者には、懲役3年以下、300万円以下の罰金に科され、その勤め先の企業には、1億円以下の罰金が科されます。無視することのできない大きな問題です。

4、ではどう表示すればよいの?

特許出願後、特許取得前においては、「特許製品」等ではなく、「特許出願中」「特許出願済」と表示します。一方、特許取得後は、「特許製品」「特許技術」等と堂々と表示することができます。

5、まとめ

  1. 特許表示を一歩間違えると刑事罰になる
  2. 特許出願後、特許権取得前 → 「特許出願中」「特許出願済み」と表示
  3. 特許権取得後       → 「特許製品」「特許技術」と表示

特許権取得までの道のりをわかりやすく説明してみると・・・

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。お客様より、「特許の権利化までの手続きがわかりくい!」という声をよくいただきます。今回は、「特許の権利化までの手続き」について、できるだけわかりやすくご紹介したいと思います。

1、特許権取得までの道のり

特許権取得までの道のりとして、以下の6つのイベントがあります。

  1. 先行技術調査
  2. 特許出願
  3. 出願審査請求
  4. 審査対応
  5. 特許査定
  6. 特許権の維持

2、各イベントの詳細

1)先行技術調査

  • 今回の新技術(新製品)について、どの範囲で特許権が取れそうか、
  • どの範囲まで権利主張できそうか・・・

出願前に調べます。特許の芽がない場合には、特許出願は見送り!となります。

※受験に例えると「希望校の合格判定を知るために模試を受ける行為」になります。

2)特許出願

先行技術調査によって、特許の芽がある場合には、その内容を書類に記載して、特許庁へ提出します。この出願行為は、郵送でも可能ですが、特許事務所の場合はオンラインで手続する場合がほとんどです。

※受験に例えると「希望校に願書を出す行為」になります。

3)出願審査請求

出願しても、特許庁は自動で審査をしてくれません。そのため、出願人が特許庁に対し審査の開始を行う必要があります。なお、出願審査請求の期間は、出願から3年間。出願審査請求をしないまま3年が過ぎると、その出願は復活できない・・・となります。

※受験に例えると「当日試験会場にて問題を解く行為」に・・・そうなんです。試験日に休んではイケナイのです。

4)審査対応

特許庁の審査官は、出願した発明を読み込み、従来技術を調べ、特許を取りたい発明について、「ここは許可します。ここは許可しません。」といった判断をします。いわゆる「拒絶理由通知」です。しかし、この時点での判断は最終決定ではありません。審査官の判断が合っている場合は、許可しない部分を削除します。また、審査官の判断が間違っている場合は、反論をすることも可能です。

最初、審査官が

といっていた内容も、代理人の説明によって、

と変わるケースも珍しくありませんですし、「欲しい範囲を残しつつ、如何にして”YES”を勝ち取るか?」が弁理士の腕の見せ所でもあります。

※受験に例えると「試験の採点結果(1次結果)をみて、意見を言う行為」になります(少々無理があります)。

5)特許査定

「許可されない部分を反論で覆す」か、「許可されない部分を削除する」を行うことにより、特許がおります。その場合は、特許庁から特許査定が届きます。特許査定から30日以内に特許料(1~3年分)を納付すると、約1か月くらいで、権利が発生し、特許証が届きます。

※受験に例えると「試験に合格して、入学金を支払う行為」になります。

6)特許権の維持

4年目以降は、維持費を納付期限内に納付することにより維持できます。特許料を支払えば、出願から20年まで維持させることができますが、特許料は、「1~3年目」「4~6年目」「7~9年目」「10年目~」に約3倍ずつ増えていきます。例えば、請求項数が1の場合、「1~3年目」の特許料は、年間2,300円ですが、「10年目~」の特許料は、年間110,000円と高額になってしまいます。

※受験に例えると「「留年して、学費を支払う行為・・・」でしょうか?(-_-;)

3.特許権取得までの道のりを受験に例えると・・・

  1. 先行技術調査 → 「希望校の合格判定を知るために模試を受ける行為」
  2. 特許出願   → 「希望校に願書を出す行為」
  3. 出願審査請求 → 「当日試験会場にて問題を解く行為」
  4. 審査対応   → 「試験の採点結果(1次結果)をみて、意見を言う行為」
  5. 特許査定   → 「試験に合格して、入学金を支払う行為」
  6. 特許権の維持 → 「留年して、学費を支払う行為」(笑)

こうしてみると、特許権の取得までのイベントは、受験によく似ていると思います。何かの参考になれば幸いです。

求職者に響く「自社の良さ」のアピール方法

元エンジニア。工業系エンジニアライターの石川です。大手の求人サイトや、各企業の採用ページの制作のため製造業を中心に様々な企業で取材を行っています。今回はその経験を元に、求職者に響く「自社の良さ」のアピール方法をご紹介します。

1.求職者が本当に知りたいこと

求職者が知りたいことは、その仕事に就いた後の生活です。求職者へのアピールというと、まず最初に仕事のやりがいを思い浮かべる人も多いと思います。確かにやりがいのある仕事は、労働へのモチベーションにつながりますので、やりがいは大切です。ですが、やりがいや情熱だけで働き続けるのはとても難しいことです。さらに昨今では「ブラック企業」や「やりがい搾取」などの言葉もあります。精神論ばかりを先行させ、過酷な労働を強いる企業が少なからず存在するため、求職者は安心して働ける企業を求めているのです。働くことは生きることですから、これも当然といえば当然です。

このような事情から、求職者が知りたい大事なポイントは、応募しようとしている企業で働いている人がどのように生活しているのかになっているのです。

2.仕事に就いた後の生活とは

では求職者が知りたがる、その仕事に就いた後の生活とは一体どういうものなのでしょうか。簡単に言うとキャリアプランです。キャリアプランには大きく分けて次の3つのフェーズが存在します。

  • 仕事を覚える過程
  • 自力で仕事を進めていく過程
  • 昇進プラン

このフェーズを意識しながら伝えることで、仕事に就いた後の生活を求職者が年単位で想像することができるようになります。

続いて各フェーズで伝えるといい内容を紹介していきましょう。

仕事を覚える過程では、研修の有無や期間、業務を進めながら覚えていくのであれば指導係の有無などを具体的に伝えることが必要です。例えば「人事部での3日間の座学研修のあと、配属先で先輩と一緒に業務を進めながら必要な知識を覚えていきます」や「詳細なマニュアルが用意されているので、それに従って仕事をしながら覚えていきます」などのように表現するといいでしょう。

自力で仕事を進めていく過程では、仕事の流れや数年先の先輩の生活の様子を伝えます。例えば仕事の受注から完了までの流れや一日の仕事の流れ、先輩の仕事の内容や一日のタイムスケジュールを紹介するといいでしょう。

昇進プランも重要です。リーダーなどへの昇格や出張、赴任などの有無、給与などの具体的な数値は、就業後の生活をイメージする大切なポイントになります。業種によっては独立開業への道の有無なども明記するといいでしょう。

3.仕事のやりがいをアピールする方法

求職者が知りたいのポイントとして仕事に就いた後の生活を挙げましたが、仕事のやりがいをアピールすることも、もちろん大切です。仕事に興味を持ってもらったり、熱意のある人に来てもらうためには、やりがいのアピールを欠かすことができません。しかし仕事のやりがいは、他社との差別化がとても難しいという特徴があります。なぜなら、どの会社も力を入れてアピールしてくるからです。また、例えば「有名自動車メーカーにおさめる部品を作っている」や「お客様に感謝される」など、似たような業種が数多くあるケースもあります。そのような中で、自社の仕事のやりがいをアピールするために必要なのは、マクロとミクロの2つの視点です。

マクロの視点とは、その仕事を通じて社会にどのように貢献するかです。「人々の安全を守る」とか「世界中に部品が届く」など、目を引くフレーズが出やすい部分でもあります。例えば自社製品の使われ方やシェア率などを示し、なぜそう言えるのか具体的な根拠を伝えることで、より明確な強みになります。

続いてミクロの視点です。ミクロの視点を一言で表現するのであれば自己効力感という言葉になります。会社としてではなく、その会社に属する個人として何ができるのかを伝えます。残念なことにミクロ視点でのやりがいをアピールできている企業はあまり多くありません。つまりミクロ視点でのやりがいアピールは、他社との差別化が図れる部分であるともいえます。例えば「機材の運搬方法をこのように工夫して予算を何万円から何万円に抑えた」や「こんな機械を扱えることでお客様からこんな感謝をされた」など、具体的な体験を交えてアピールしてみてください。

まとめ

近年は「個の時代」が到来しているといわれています。かつてのように「お国のために」「社会のために」という滅私奉公的な意識は薄れ「社会の中の個人として、いかに生きるか」が注目されている時代です。新卒をはじめとする若い層にも、このような個人としての意識が浸透しつつあります。ですから自社の良さをアピールする際にも、会社としてどうであるかに加え、そこに所属する個人はどうであるかにフォーカスすることが大切になります。社内のメンバーをよく観察し、個人としてどうであるかを見ていくことで、求職者の心にひびく言葉を見つけることができるでしょう。

ずっと働きたいと思える職場「8つの理由」

昨今の人手不足の影響で採用に力を入れている会社が多いですが、採用したは良いけれどなかなか定着しないという話もよく聞きます。その際に「定着させるためには?」「離職率を下げるには?」という話が出てきます。ただ、それを課題にすると、「辞めさせないためにはどうすればよいか」という考えになりがちです。雇用側の立場ではなく、働く側の立場で考えると何か見えてくるものがあるのではないでしょうか?働く側の心理を理解するために、「長く働きたいと思う職場は何か?」に対して、働く側の目線で課題設定し、実際にどのような会社が長く働きたいと思えるかを考えてみました。

ずっと働きたいと思う職場 8つの理由

①仕事にやりがいを感じる

だれかに感謝されたり、社会貢献性のある仕事だったり、ものづくり自体が好きだったり、やりがいというのは人それぞれだと思います。「それは自分が本当にやりたい仕事ですか?」と言われて「はい、そうです」と答えられる人は少ないと思います。ただ、与えられた環境の中で最大限のパフォーマンスを見せることでやりがいを感じる方も少なくないと思います。このやりがいを働く原動力としている人も多いはずです。

②給料が高い

単純な理由ですが、人が生活するためにはとても重要なことです。多いのに越したことはありません。そのため、「他社と比べて多くもらえているから」という理由だけでずっと働きたいと思う人もいらっしゃると思います。

③適正な評価制度と給与体系がある

皆さんご存知の通り、人には承認欲求があります。社長や上司に自分の仕事が適正に評価され、それに見合った給料を得られれば人は満足感を得られ、モチベーションの持続につながると思います。、しかし、その評価が社長や上司の感覚で評価され、給料が上がったりするような基準だったらどうでしょう?人が主観で行う評価というのは数値化できない感覚値が大きいため、基準がないのと同じです。好き嫌いが入ってしまう可能性もあります。また、働く側も上司が見ているところでは頑張って、見えないところではサボるかも知れません。適正な評価制度と給与体系を設け、両者でそれを共有することで常に公正な姿勢を見せることが必要だと思います。

④キャリアプランが明確に見える

③とも繋がりますが、自分が5年後、10年後にどうなっているか?どうなっていたいか?をイメージできるかどうかがとても大事だと思います。手に職をつけていきたいのか、それとも管理職として仕事の幅を広げていきたいのか?そのためには何をしなければいけないのか?ゴールまでのステップアップの道筋がイメージできるかどうかです。逆に、これがイメージできなければ、現状に満足していたとしても離職する原因になります。面談の際には、現状についてだけでなく、将来のキャリアアップについての設計を一緒に策定し共有することが重要です。

⑤会社の方針や方向性がはっきりとしていて、それに共感できる

自分たちがどこに向かっていて、そのために自分は何をやっているのかが分からなければ、会社としての連帯感は生まれず、自分が何のためにこの仕事をしているのかも見えなくなってきます。会社の方向性が分かり、それに共感できたならば、自然とそこには連帯感や責任感が生まれ、モチベーションを持続させる原動力になると思います。大手と比べ、中小製造業ではこの一体感を感じやすいのではないでしょうか?

⑥円滑なコミュニケーションが取れる

仕事をするにあたり、技術職でもなんでもコミュニケーションは必須です。それがうまくとれない職場では、次第に不協和が生まれ、仕事にも影響を及ぼすと思います。また、相談できる仲間や上司がいるかどうかも大事です。

⑦働きやすい労働環境

残業が無く基本定時できっちり帰れたり、フレキシブルな勤務形態が増えてきたりしている中、自分のライフスタイルに合った働き方を重視する人も増えてきています。

⑧福利厚生が充実している

最近では育児・介護・健康・自己啓発など様々な項目での福利厚生があります。長く働く理由の主がこれということはあまり無いと思いますが、一つの指標として考えられます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?いろいろな項目がありましたが、中小製造業で今後重要になるのは、上記の③、④だと個人的に思います。なぜなら、その分野にあまり手をつけておらず、大手と比べ評価制度や給与体系、キャリアプランが不明瞭な会社が多いためです。人材についてそこまで困っていなかったため、必要無かったというのが理由かと思います。ただ、そこを整備していかないことには人を定着させ一緒にがんばる仲間を増やしていくことは難しくなってきています。給与、福利厚生、職場環境などで大手と競うことは難しいですが、この領域は改善できるが可能性が高いと思います。そうは言っても適正な評価制度を作るというのは簡単そうで非常に難しいので、まずは自社の評価基準、給与体系等がどうなのか?第3者に客観的な意見を聞いてみるのも良いかも知れません。

今後、中小企業に合った具体的な人事評価制度や事例がありましたらご紹介します。

弊所のお客様の成功事例のご紹介 ~技術系の中小企業の成長パターン~

中小企業専門の弁理士の亀山です。お陰様で、開業して5年目になります。開業して約300社の中小企業様・個人事業主様のご相談を受けてまいりました。ここ数年、お客様の中の数社が、良い業績を出しつつあります。その例について、ご紹介したいと思います。

1.技術開発に成功したので、特許を取りたい!

最初の出会いは、今から約3年前、特許相談でした。

とある技術的なアイデアを保護したいんです!以前は、特許を取らなかったがために、オリジナル技術が他社に使われてしまった。今回はそうなりたくないので、特許が欲しい!

というものでした。そこで、新商品リリースの前に、特許出願を行いました。

2.「新商品リリース」の前にすべきこと!

特許出願後、その技術を利用した新商品をリリースすることになりました。商品名も決まりました(ここでは、仮に、「ABC」とします)。

お客様:新商品リリースの前に、特許出願を済ませたので、もう大丈夫でしょうか?

かめやま:インターネット経由のPRを行うのですよね?そうすると、皆がこの商品名を知ることになります。良い方に転べば、売り上げにつながりますが、悪い方に転ぶと、第三者による名称の模倣や、商標登録の抜け駆け出願のリスクがあります。このため、商品名の商標登録を取得を勧めました。

3.新商品の商標登録だけじゃ「モッタイナイ」

そこで、次のような提案をしました。単に、名称「ABC」の商標登録をするだけではもったいないです。折角のオリジナル技術なので、「その技術のブランド化のための商標登録」を併せて勧めました。より詳しく言うと、その技術のブランド化に寄与しそうな名称「ABX」に微調整し、名称「ABX」を、新商品及び新技術サービスの共通名称としました。

4.営業活動 兼 ブランディング活動

その後、お客様の努力の甲斐もあって新商品が市場に次第に浸透していきました。と同時に、新商品の商品名「ABX」が市場に浸透していきました。これに伴って、商品名「ABX」と同じ名前の技術サービスが市場に浸透し、お客様の技術がオリジナル技術として認知されるようになりました。すなわち、商品名「ABX」の宣伝を通して、お客様の技術がブランドとして成長していったわけです。

5.新しい商談が舞い込む

とある展示会にて、新商品及び技術サービスを展示しました。そこでは、沢山の企業から声をかけられました。これまでであれば、「こちらから声をかけても相手にしなさそうな企業」ばかりでした。商談の内容は、お客様の技術及び技術ブランド「ABXを利用したコラボ商品の提案でした。そこで、商標権を利用したライセンス契約による名称使用料という収入源構築を目論見ながら、コラボ商品のための技術開発を進めることとなりました。

その結果、

  1. 新しい技術が生まれたので、この技術を採用したい・・・。
  2. この技術について特許を出しておけば、コラボ先から浮気されることもなくなる。
  3. 結果、継続的な収入を確保できる。

という良い流れになります。

6.技術系の中小企業の成長パターン

この企業の成長フローは以下のように表せます。

  1. 技術開発に成功
  2. 技術の保護(特許、契約か秘匿)
  3. 商品企画
    名称決め(単なる名前ではなく、信用・ブランドの器となる名前決め)
    その名称の商標登録
  4. 営業開始
    商標を利用した自社商品のPR活動
  5. 新商品が浸透し、新しい商談が舞い込む(売上UP+α)
    新商品のブランド化
    そのブランドを通して、技術に興味を持つ企業も現れる
    オリジナル技術のブランド化
  6. その技術を利用した新しい開発案件が舞い込む
  7. 技術開発の成功
  8. 技術の保護(特許、契約か秘匿)・・・(2に戻って繰り返し)

これが、技術系の中小企業の成長パターンの1つだと思います。実際のところ、弊所のお客様の中でも、数社がこのパターンに乗っかっていますし、数社はこのパターンに乗っかろうとしています。しかも、いずれの技術内容もローテクに属するもの。市場に受け入れられるものであれば、技術レベルは関係ありません。

弊所のお客様の中から、このような会社が1社でも多くなるような活動を継続していきたいと思います。

改正された入管法、これで中小製造業の人材不足も解決か?

こんにちは、テクノポートの渡部です。超大型のGWも終わり、通常業務の感覚が戻りつつありますでしょうか?

GWが始まる少し前、2019年4月から入管法が改正され、受け入れ拡大が始まった外国人労働者の雇用ですが、5月6日付の日刊工業新聞の記事よると「すでに採用もしくは採用を決定」「検討中」を足すと6割以上が外国人の採用に前向きな姿勢を見せています。日本の労働力不足を背景に改正されたこの入管法ですが、慢性的な人材不足に悩む日本の中小製造業の解決にはつながるのでしょうか?

新設された「特定技能ビザ」とは?

具体的に何が変わったのかということですが、簡単に言うと「特定技能ビザ」が新設され、日本における就労ビザの種類が増えることで、外国人が日本で働くためのハードルが下がったということです。この特定技能ビザの中の1号が許可される業種は下記14業種です。

  • 介護
  • ビルクリーニング
  • 素形材産業
  • 産業機械製造
  • 電気、電子機器関連産業
  • 建設
  • 造船、舶用工業
  • 自動車整備
  • 航空(空港グランドハンドリング、航空機整備)
  • 宿泊
  • 農業
  • 漁業
  • 飲食料品製造(水産加工業含む)
  • 外食

皆様の会社でも当てはまっている業種があるのではないでしょうか?この14業種に関しては、これまでよりもシンプルなスキームの中で外国人が働くことができるようになります。

特定技能ビザ1号と2号

上記の14業種のうち「建設」「造船、舶用工業」の2業種に関しては特定技能ビザ2号に移行することができ、1号の通算5年という期間の制限がなくなると共に、家族の帯同も認められるようになります。逆に言うと1号は家族の帯同が認められておらず、いわゆる外国からの出稼ぎ労働者としての労働力を受け入れる形になります。

これまでとの違い

従来の外国人を雇用する方法として

  • 技能実習ビザ(3年、1時帰国後+2年)
  • 就労ビザ(定期更新により長期就労可能)

の2つがあり「技能実習ビザ」は国際貢献を目的としていることもあって期間も限られており、就労ビザの場合は通常と比べて条件が厳しいという難点がありました。今回、追加された特定技能ビザは、人材不足解消が目的ということもあってスキームもシンプルで取得しやすく、受け入れ国に制限のある技能実習ビザと違い、どの国からでも受け入れが可能となっています。

また、この特定技能ビザは、上記の技能実習ビザから移行ができる場合もあるので、最大で10年の日本滞在が可能になります。これにより数年で帰国されるのであればと、外国人の採用に消極的だった方の考え方も変わってくるのではないかと思います。

注意点

入管法の改正によって様々な職種で外国人の雇用が始まることが考えられますが、注意点がいくつかあります。

受け入れ体制の整備

特定技能ビザの取得の要件として最低限の日本語の能力は保証されていますが、「日本にいる」外国人ではなく、「外国にいる」外国人を採用することになるので、文化的な違いへの理解や、それらに対する日本企業側の受け入れ体制が必要不可欠になります。

期間の制限

現状では2号に移行できる職種が「建設」「造船、舶用工業」の2つしかないことを考えると、基本的には「期間の制限がある」制度です。10年、20年先まで視野に入れた慢性的な人材不足の解消に繋がるかは疑問が残りますが、現在の人手不足の解消にはつながる可能性が高いです。

これから

人材不足とは言っていますが、それは後継者不足という問題も同時に抱えている日本の中小製造業ではあるので、日本に永住できるような就労ビザを持つ外国人の雇用を進めていかないと、根本的な解決には繋がらないかもしれません。ただ、今回の入管法改正によって外国人の雇用はしやすくなり、通算最大10年の雇用が可能になるため、管理者的な立場での育成も視野に入れられるようになると思います。今後の外国人受け入れとの第一歩としてトライしてみてはいかがでしょうか?

伝わる「自社の強み」「自社技術のすごさ」

元エンジニア。工業系エンジニアライターの石川です。製造業を中心に企業のHP制作や、採用ページ制作に携わっていると自社の魅力をアピールする方法に悩む声をよく聞きます。そこで今回は、実際の取材の経験などを元に「自社の強み」や「自社技術のすごさ」を伝える方法をご紹介します。

ステップ1【ターゲットは誰か?】

当たり前のように思われるかもしれません。しかし「誰に伝えたいか?」によって、強みの切り口や表現方法は大きく変わります。伝えたい相手がぼやけてしまうと、伝えたいことが伝わらなくなってしまう恐れがあります。ですので、伝えたい相手を、目的・ターゲットの属性、ターゲットの知識などでおよそ8通りに分類します。

まず最初の分類は目的です。自社の強みや技術をアピールする場合、顧客の獲得か人材の獲得が目的であることがほとんどです。しかし、どちらが目的かでアピールの方法が大きく変わります。目的がはっきりしたら、次はターゲットの属性で分類していきます。そして最後がターゲットに専門知識があるかどうかです。これを図にすると次のようになります。

①には製品開発のために部品を探しているようなエンジニアなどが該当します。②は製造業向けの製品を購入する購買担当者などです。③と④は、実際に製品を使用する人が該当します。⑤は機械科や電気科などの特定の学科を卒業した学生の採用を行う場合が該当します。

ステップ2【ターゲットごとの切り口】

ターゲットが決まったら、より強く訴えかける切り口を探します。ステップ1での分類に従って、どのような切り口から自社の魅力にアプローチするかを考えます。

①顧客獲得→BtoB→専門家の場合

十分に知識を持っている人がターゲットですから、具体的な根拠を示すことがアピールになります。販売実績や対応事例、製品のスペックなど、具体的で分かりやすい数値を交えてアピールしましょう。

②顧客獲得→BtoB→非専門家の場合

基本的なアピールは①のときと同様になりますが、サポート充実や品質保証制度など、ソフト面の強みもアピールしていくことで、より効果的なアピールになるでしょう。

③顧客獲得→BtoC→リピーターの場合

既に自社製品を知っている人がターゲットですので、他社の類似商品との差異や、便利なサポート、併用して使うと便利な商品の紹介などに重点をおくといいでしょう。

④顧客獲得→BtoC→新規顧客の場合

自社の製品やサービスによって、どんな問題が解決できるか、何ができるかを具体的に表現するといいでしょう。原理などの難しい部分よりも、成果や事例を分かりやすくアピールすると、より効果的です。

⑤人材採用→新卒採用→特定の学科卒の場合

新卒採用の場合、働くことに対するイメージがまだ薄いこともあります。自社では何をしているのか、どうやってやっているのかを具体的に表現することが大切です。その仕事を通してどのように社会に貢献しているかや、将来的な展望などもぜひ伝えておきたいポイントです。

⑥人材採用→新卒採用→卒業学科は問わないの場合

基本的には⑤と同様になりますが、どのようにして業務の知識を身につけていくかなど、キャリアプランを具体的に提示することで、安心して働ける環境をアピールすることができるでしょう。

⑦人材採用→中途採用→同業種からの転職の場合

同業他社と比較して自社の優れている点などをアピールすると効果的です。特に待遇面やキャリアプランなどの面で、具体例を示しながらアピールすることで説得力が増すでしょう。

⑧人材採用→中途採用→異業種からの転職の場合

⑦の場合と似ていますが、⑥のときと同様、業務の知識を身につけていくための教育プランなどを具体的に説明するといいでしょう。

ステップ3【強みの伝え方】

自社の強みをアピールするためには、自社の技術や自社のサービスを第三者目線から見直すことが大切です。その際に最も重要になるのは、その優れた技術によって何ができるようになるかを具体的に伝えることです。すばらしい技術があっても、数値的なスペックのみを並べただけで伝わる相手は、多くはいません。ほとんどの場合、相手が求めているのは「優れた技術・強みによって何が可能になるか」という情報です。「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という有名な言葉が示す通り、情報を求めている人が欲しているのは「どう優れているか」の情報ではなく「それによって何ができるか」であることを意識してみると、第三者目線をイメージしやすくなると思います。

ターゲットごとに分類したアピール方法を参考に、何を提供できるのかを具体的に考えてみることで「自社の強み」や「自社技術のすごさ」がターゲットに刺さるものになるでしょう。

採用市場の変化と中小企業の採用活動について

こんにちは、テクノポートの永井です。

売り手市場といわれている昨今の採用活動において、求職者の行動パターンにも変化が起こっています。また、採用サイトも多様化し、リクナビやマイナビなどの巨大Webポータルサイトを利用するだけでは効果が得られなくなってきています。今回は変化する採用市場とそれに合わせてどのように対応していけば良いかをまとめました。

変化する採用市場

会社内部の情報が筒抜けに?

採用市場においても、食べログや価格.comのような企業のクチコミサイトが活発化してきました。このクチコミサイトでは、会社の評価、社内の雰囲気、人事制度、年収などあらゆる内容について、社員や元社員が評価を行います。

求職者はこのクチコミ評価を見て、転職先にふさわしいかどうかを判断するようになり、採用のフローが下記のように変化してきました。

  • 従来:検索 → 採用情報ページ → エントリー
  • 今後:検索 → 採用情報ページ → クチコミサイト → エントリー

クチコミサイトの評価は社員の満足度に等しいため、現社員の会社への評価が直接採用に関わってくるようになります。

短期インターンから長期インターンへ!

クチコミによる第三者の意見ではなく、直接会社を知ってもらうために「長期インターン」を始める企業が増えてきます。(一部の大企業ではすでに始まっています。)

最近は1日インターンなどが流行っていますが、将来的には1〜2年の長期インターンが主流となってきます。なぜなら自分にあった会社かどうか判断するためにはある程度の日数が必要になるからです。企業側としても長期間働いてもらわないと、その人物を採用すべきかどうかの判断をつけることができません。長期インターンによりお互いを深く知ることができるため、採用のミスマッチを減らすことができます。

採用方法の多様化によりマーケティングが必要に

リクナビ、マイナビなどの巨大Webポータルサイトに登録しさえすればある程度の採用人数が見込めました。しかし、就活支援サービスの多様化により、求職者が使うサービスも一つではなくなってきました。

そのため、採用する企業側も様々なサービスを利用しなければなりません。会社が就活支援サービスを使う最大の理由は「求人を募集していることを多くの人に知ってもらう」ことです。

求人情報の閲覧数 × 0.5〜2.0% = 応募

と言われるなかで、どの媒体に、どれだけの予算で、どのようなコンテンツを出すのかをPDCAを回しながら独自の方法を見つけていかなければなりません。つまり、採用に特化したマーケティング、ブランディングが今後必要になってきます。

就活支援サービスの紹介

紙媒体

TOWN WORKなどの雑誌。閲覧数はそこまで多くありませんが、ネットを使わない人には効果的。
求人フリーペーパーの比較と選び方:https://jinjibu.jp/article/detl/service/75/

Webポータルサイト

リクナビ、マイナビなどの大手Webポータルサイト。多くの人に見てもらえる可能性は高く、これまでの主流。ただし、大手Webポータルサイトに登録していない人も増えてきている。

ダイレクトリクルーティング

ビスリーチやオファーボックスなどのような求職者に直接メッセージを送れるサイト。自社を知らなかった人に直接アプローチできるのは大きなメリット。人材紹介よりも安く抑えられるが、求職者を口説くことが必要なため手間がかかる。

ソーシャル採用

Wantedlyなどのサービス。条件面以外の魅力を知ってもらうには有効。相手の普段の姿を知った上で採用できるため、ミスマッチは起こりにくい。採用数が保証できないことと、見せ方にノウハウが必要になるため、中小よりもベンチャー系の利用が多い。

リファラル採用

社員からの紹介。昔から一般的にある手法で、効果は高い。社員の満足度が高いことが条件かつ不採用にした場合の人間関係が複雑になる。安価であるためやらない理由はない。

検索エンジンへの広告

Indeedやgoogleなどの検索エンジンへの広告、ワンクリックでいくらというリスティングが主体。費用次第で閲覧数は増やせるので、ワンクリックの単価が低ければ積極的に利用したい。条件面での比較になるケースが多い。

これからの中小企業の採用活動で行うべきこと

社員満足度を高めることでクチコミ評価を上げる

今後、求職者はより信憑性の高い情報をもとに良い会社かどうかを判断するようになります。しかし、口コミ評価を良く書いてもらうために社員満足度を上げようという考えでは短絡的です。まずは会社として社員満足度の向上についてどのように考え、それに取り組む姿勢を見せることが重要です。その結果がクチコミ評価につながると考えます。

また、クチコミサイトは採用条件で大手に劣る中小企業が仕事内容や人間関係など大手にない独自の魅力を伝えられるツールとしても使えます。

クチコミサイトの例:カイシャの評判

短期インターンやアルバイトを募集する

中小企業が長期インターンを行うのは難しいかと思います。ただ、1〜2週間の短期的なインターンやアルバイトを取り入れることで、隠し事をしていないことをアピールすることが大切になります。もちろんインターンを行うとそれなりに時間は取られますし、アルバイトではできる範囲は狭いかと思います。それでも求職者との直接的な接点を持つ努力が今後必要になってきます。

採用マーケティングにより効率の良い告知を行う

これまではリクナビ、マイナビなどの大手採用Webポータルサイトを使いさえすれば採用ができましたが、求職者や採用媒体が多様化により、1媒体で得られる効果は少なくなっています。そのため、どれか一つではなく、あらゆる手段を使った採用が必要になります。

限られた予算の中で、最適な費用配分を求めるにはマーケティング、特にWebマーケティングの知識が必要となってくるため、企業+Webマーケット企業がコラボした採用活動が必要になります。

まとめ

2020年からの通年採用も始まり、採用の市場はここ数年でがらりと変わってきます。中小企業の採用手法に変化が見えてくるのはもっと先の話かもしれませんが、状況が変わることは確かです。ただし、「社員満足度を上げて、求人の告知を増やす」というやるべきことはわかっています。中小企業は人数が少ないため、大企業に比べれば制度や社風を変えることはやりやすいはずです。社員の満足度を上げるために、一度自社を振り返ってみてください。

また、求人の告知にはマーケティングの知識が必要になります。弊社がお手伝いできるとこもあると思いますので、一度ご相談いただければと思います。

工場見学って意味あるの?工場見学を行うものづくり企業側の意義

近年、周辺地域の住民、地域の小中学校など向けに自社を知ってもらったり、地域貢献の為に行う工場見学を開催するものづくり企業が非常に増えています。しかし、「時間も手間もかかり、仕事に結びつく訳でもないのになぜ行うのか?」と思うのが大半の人の率直な意見ではないでしょうか?そんな私も懐疑的な思いを持っていました。なぜ開催する企業が増えているのでしょうか?その要因について考察しました。

工場見学を開く意義とは

ものづくり企業側の意図とはなんでしょうか?メリットやデメリットを踏まえ開催しているはずですので、考えられるものを挙げてみます。

工場見学を行うメリット

地域交流、関係性の向上

住宅と工場が混在する地域もあり、騒音問題等のトラブルを避けるためにも、住民の方の理解を得ることが重要になってきています。

社員のプレゼン力向上

工場見学者に対しての説明をするということは、加工の知識が無い子供でもわかる説明が必要です。「見ればわかるだろ!」というような教え方では通じません。新人教育をする際の先輩社員の教え方、伝え方を練習する場としても最適かも知れません。

社員のモチベーションアップ

社員のご家族を連れてくる方もいるので、なかなか見せられないお父さんの仕事がどんなものかを知ってもらえます。また、工場見学者は普段見たことの無いものを見るため、キラキラした目で、素直に感動してくれる人も多いです。いつも行っている仕事に目新しさがなくなってきている方も多いかも知れませんが、自分の仕事に自信ややりがいを再認識するきっかけにもなるはずです。

長い目で見れば人材採用につながる

地域住民の理解が得られ、関係性を築くことによって、パート・アルバイト、その先には社員の採用につながる可能性があります。様々な働き方や選ぶ基準がある中で、近場である程度時間の融通が効き、昔から知っている会社ということであれば、候補の一つになる可能性もあるはずです。また、小さい時から「ものづくり」という仕事があることを知ってもらうということも重要です。私は、大学を卒業し社会人になるまで、この業界のことを知らず、こういう仕事に就きたいという候補に挙がることすらありませんでした。

新たな顧客の創出・製品開発の可能性

様々な人に知ってもらい、多種多様な相談を受けることで、仕事や自社の製品開発につながる可能性があります。今まではどちらかというと工場は閉鎖的で、いかに技術を流出させないためにクローズするか、という考え方だったと思います。しかし、今ではより多くの人に自社の技術を知ってもらい、アイディアや相談を呼び込む方が、大きなメリットを生む時代なのだと思います。

工場見学を行うデメリット

安全性の確保のための準備

来場者がどのような行動をし、どこに危険が潜んでいるかわかりません。ある程度の行動の導線を用意し、その中で想定される危険を出来る限り排除し、万全の体制で望む必要があります。

開催時間と説明人員の確保

一番のネックはここではないでしょうか?土日開催するとなると、人員確保が大変ですし、平日だと通常業務との兼ね合いがありますし、見学者が集まりにくいというデメリットもあります。

情報流出

情報流出ももちろん気をつけねばならない点です。どこまでを見せて、どこからが見せてはいけないかを社内で決めた上でオープンにする必要があります。

メリット・デメリットを踏まえて考察

以上のようにデメリットを中心に見ると手間はかかるとは思います。しかし、それよりも繋がりを作ることで得られるメリットが以前よりも大きくなってきているのではないでしょうか?自社だけでどこの手助けも借りずに売上を上げ、独走し続けるというのは難しい時代です。地域の方の理解や周りの企業との連携を得ながら、社会に貢献し、利益を上げ、それを地域に還元するような共存するスタイルの会社が好まれるのではないでしょうか?そのような会社には人も集まります。工場見学は、積極的に交流を広げ、自社の認知度や理解を深めてもらうことで、上記のような様々な恩恵をもたらすものです。その一つの結果として口コミ、紹介等が広がり中長期的には仕事も集まりやすくなるのだと思います。

開催方法の種類

では工場見学を自社もやってみようと思った際に、単独開催というのはハードルが高いです。というのも、見学の受け皿を用意してもそこに人が集まらなければ意味がありません。告知、集客までを単独企業で行うのには限界があります。そんな時は、地域のイベントにまずは参加してみるのも良いでしょう。最近では地域で共同イベントが積極的に開催されていますので、近くでも定期的に開催しているかも知れません。

事例紹介

地域イベント例

東京都内の工場見学可能な会社紹介

自社も単独開催したいということであれば、既に単独で開催している工場を覗いてみてはいかがでしょうか?

Garage Sumida(株式会社浜野製作所)(墨田区)

言わずと知れた浜野製作所さんです。3Dプリンターやレーザーカッター、CNC加工機といった最新のデジタル工作機器を見ることができます。

富士精器株式会社(目黒区)

15年ほど前からは、区内の小学校から工場見学の受け入れを行っている工場見学の先駆け的な会社です。金属の切削加工について見学することができます。

株式会社富士産業(葛飾区)

真鍮・銅といったデザイン心をくすぐる素材を1個から仕上げるアトリエを持っています。行くだけでワクワクするものが見られます。(まだ正式には見学ツアーは無いですが、個別には対応してくれると思います。)

大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。4月になりました。新しい期の始まりです。新しい期に入ったことで、これから開発系の助成金の募集も始まると思います。開発系の助成金を取って、大学と共同研究して、その技術成果を利用して次のご商売につなげたい!と考えている方も多いと思います。

先日も、地元のものづくり企業の社長さん達に対し、共同開発契約書のレクチャー行いました。そこで改めて思ったことは、大学との共同研究が初めての方や、まだまだ経験の少ない中小企業の社長さんも多いということでした。大学との共同研究では何が起こるのでしょうか?

  • 途中でもめてしまい、最終的には破談となったり・・・
  • 成果が出たものの、当初の企業側の希望とは全く異なるものになってしまったり・・・

上手に進めていかないと、最終的に損をするのは、大学ではなく企業側となります。そこで今回は「大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと」について述べたいと思います。

弊所でも共同研究の契約書のチェックや交渉(またはその立ち合い)を行う場合がありますが、知的財産の関係では、

  • 研究成果の帰属
  • 共同出願の取り扱い
  • 秘密保持(成果物の発表含め)

が特に重要になります。

※実際には、他条項へ影響が及ぶ場合もあるため、全体的なチェックが必要になります。

1、研究成果の帰属

共同研究を通してできた知的財産(アイデア、技術等)は、

  • 大学のもの?
  • 企業のもの?
  • 両社の共有物?

といった取り決めを行います。

この取り決めを、成果物ができた後に行う場合、成果物利用する側(つまり企業側)の交渉力が下がってしまいます。

※その理由は「ルパン三世と不二子ちゃん」の関係です。ピンとこない方は、弊社の過去のブログ記事「特許出願に関する誤解」 をご参照ください。

したがいまして、「こちら側に交渉力があるときに契約をまとめてしまう!」これが交渉のセオリーです。

大学との交渉の場合には、大学の研究費は企業負担となるため、「大学側が研究費が欲しいなぁと思う時」つまり、申し込み時に行うのがセオリーです。

2、共同出願の取り扱い

成果物に関する特許出願。成果物が大学との共有物の場合、大学との共同出願となるケースが多いのですが、出願に関する費用は企業持ち・・・となるケースが多いです。費用が企業持ちなら、出願の持ち分は企業単独がイーブンでは?という考えもありますがが・・・

ここは、

  • 大学の協力なしには、成果物はできなかった
  • 大学の名前を実績として使いたい!

等、別の理由もありますので、最終的には、事業戦略上のトレードオフとなります。

3、秘密保持(成果物の発表含め)

成果物の中には、

  • (企業側として)ブラックボックスにしたく特許出願をしない!

というものもあります。一方、

  • 大学としては成果を論文発表したい!

ここで利害が対立します。秘密保持(成果物の発表含め)という条項は、この利害調整の役割を果たします。要点としては、

  • 発表前の事前承諾
  • 発表内容の時期・内容・方法などの協議の機会の確保

となります。

4、他には?

気を付けたいポイントとして実は、もう2つあります。それは、

  • 大学(組織として)のスタンスと
  • 教授のスタンス

肝は

  • 信頼関係が構築できる相手なのか?

前者は組織なので、ポリシーの確認でよいと思いますが、後者は個人。ポリシーとキャラクターが混在するため、そのジャッジが難しいところ・・・です。

5、まとめ「大学との共同研究で気を付けたいこと」

1、研究成果の分担

アイデアはだれのもの?

2、共同出願の取り扱い

費用負担は誰が? 権利保有は誰が? 両者のバランスは?

3、秘密保持(成果物の発表含め)

時期・内容・方法の協議の機会は事前にもらう。

4、大学のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーの面からジャッジ可能。

5、教授のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーとキャラクターの混在につき、ジャッジが難しいケースも有り。

何かのご参考になれば幸いです。

大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと

中小企業専門の弁理士の亀山です。4月になりました。新しい期の始まりです。新しい期に入ったことで、これから開発系の助成金の募集も始まると思います。開発系の助成金を取って、大学と共同研究して、その技術成果を利用して次のご商売につなげたい!と考えている方も多いと思います。

先日も、地元のものづくり企業の社長さん達に対し、共同開発契約書のレクチャー行いました。そこで改めて思ったことは、大学との共同研究が初めての方や、まだまだ経験の少ない中小企業の社長さんも多いということでした。大学との共同研究では何が起こるのでしょうか?

  • 途中でもめてしまい、最終的には破談となったり・・・
  • 成果が出たものの、当初の企業側の希望とは全く異なるものになってしまったり・・・

上手に進めていかないと、最終的に損をするのは、大学ではなく企業側となります。そこで今回は「大学との共同研究で気を付けたい”5つ”のこと」について述べたいと思います。

弊所でも共同研究の契約書のチェックや交渉(またはその立ち合い)を行う場合がありますが、知的財産の関係では、

  • 研究成果の帰属
  • 共同出願の取り扱い
  • 秘密保持(成果物の発表含め)

が特に重要になります。

※実際には、他条項へ影響が及ぶ場合もあるため、全体的なチェックが必要になります。

1、研究成果の帰属

共同研究を通してできた知的財産(アイデア、技術等)は、

  • 大学のもの?
  • 企業のもの?
  • 両社の共有物?

といった取り決めを行います。

この取り決めを、成果物ができた後に行う場合、成果物利用する側(つまり企業側)の交渉力が下がってしまいます。

※その理由は「ルパン三世と不二子ちゃん」の関係です。ピンとこない方は、弊社の過去のブログ記事「特許出願に関する誤解」 をご参照ください。

したがいまして、「こちら側に交渉力があるときに契約をまとめてしまう!」これが交渉のセオリーです。

大学との交渉の場合には、大学の研究費は企業負担となるため、「大学側が研究費が欲しいなぁと思う時」つまり、申し込み時に行うのがセオリーです。

2、共同出願の取り扱い

成果物に関する特許出願。成果物が大学との共有物の場合、大学との共同出願となるケースが多いのですが、出願に関する費用は企業持ち・・・となるケースが多いです。費用が企業持ちなら、出願の持ち分は企業単独がイーブンでは?という考えもありますがが・・・

ここは、

  • 大学の協力なしには、成果物はできなかった
  • 大学の名前を実績として使いたい!

等、別の理由もありますので、最終的には、事業戦略上のトレードオフとなります。

3、秘密保持(成果物の発表含め)

成果物の中には、

  • (企業側として)ブラックボックスにしたく特許出願をしない!

というものもあります。一方、

  • 大学としては成果を論文発表したい!

ここで利害が対立します。秘密保持(成果物の発表含め)という条項は、この利害調整の役割を果たします。要点としては、

  • 発表前の事前承諾
  • 発表内容の時期・内容・方法などの協議の機会の確保

となります。

4、他には?

気を付けたいポイントとして実は、もう2つあります。それは、

  • 大学(組織として)のスタンスと
  • 教授のスタンス

肝は

  • 信頼関係が構築できる相手なのか?

前者は組織なので、ポリシーの確認でよいと思いますが、後者は個人。ポリシーとキャラクターが混在するため、そのジャッジが難しいところ・・・です。

5、まとめ「大学との共同研究で気を付けたいこと」

1、研究成果の分担

アイデアはだれのもの?

2、共同出願の取り扱い

費用負担は誰が? 権利保有は誰が? 両者のバランスは?

3、秘密保持(成果物の発表含め)

時期・内容・方法の協議の機会は事前にもらう。

4、大学のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーの面からジャッジ可能。

5、教授のスタンス

信頼関係が構築できる相手なのか?ポリシーとキャラクターの混在につき、ジャッジが難しいケースも有り。

何かのご参考になれば幸いです。

Googleで求人情報だけを検索可能に|Googleしごと検索

こんにはテクノポートの永井です。

企業の採用活動が難しくなる中、ついにGoogleが求人検索サービスを日本でリリースしました。リクナビやマイナビなどの求人サイトへの登録や求人検索エンジンであるindeedなどに加えて、Googleも求人業界に参加です。

もちろんGoogleで求人が検索できるようになったからといって、これまでの方法が廃れるわけではありませんが、新しい情報としてGoogleしごと検索についての情報を共有します。

1.Googleしごと検索(Google for jobs)とは

Googleしごと検索(Google for jobs)はGoogleを使って求人情報のみを検索するサービスです。Googleの画像検索、動画検索、ニュース検索と同列のイメージです。アメリカでは2017年から導入されていたサービスで、2019年1月に満を持して日本にリリースされました。

求職者はGoogleで検索する際に、希望条件にプラスして「求人」を入れることで、検索画面の下に求人情報が出てくるようになります。求人以外にも、バイト、パート、正社員などの雇用形態も対象になります。また、Googleしごと検索専用のページに移動すると、住んでいるところからの距離やその他の条件での検索も可能です。

検索結果として表示されるのは文字情報だけで、画像は出てこないため採用条件を比較しやすくなっています。

2.Googleしごと検索に掲載するには?

では、どのようにすれば掲載されるのでしょうか。基本的にはホームページや画像検索と同じで、「Googleが自動で読み取って、勝手に掲載される」ことになります。ただし、Googleの基準に合わせることで検索されやすくすることは可能です。

例えば、ホームページであればサイトマップを送信したり、画像であればaltタグに名前を入れるのと同様に、しごと検索では「構造化データ」を作ります。構造化データはサイトには表示されない情報で、Googleが読み取るためのメタタグの一種で、下記の情報を設定できます。

実際には、

“hiringOrganization”: {
“@type”: “Organization”,
“name”: “MagsRUs Wheel Company”,
“sameAs”: “http://www.magsruswheelcompany.com”
}

のような記述が必要になりますが、Googleが提供している「構造化データ マークアップ支援ツール」を使うことで比較的簡単に作ることができます。

さらに、「Indexing API」という支援ツールを使えば求人情報をすぐにGoogleしごと検索に表示させたり、削除することも可能です。

手順としては

  1. 採用ページを作る
  2. 構造化データ マークアップ支援ツールで構造化データを作り、htmlに入れる。
  3. Indexing APIを使いGoogleに知らせる

になります。

【参考】

3.求職者はどのように応募してくるのか

Googleしごと検索はindeedとは違い直接応募をすることはできず、情報が掲載されているサイトにリンクをしています。そのため、応募する方法は従来と同じで、

  1. 自社のホームページや採用ページから応募してくる。
  2. 求人情報を検索しているサイト(リクナビ、マイナビ、dodaなど)から応募してくる。

のどちらかになります。大手求人サイトはGoogleしごと検索に対応しているようなので、求人サイトに掲載していれば問題はありません。

4.Googleしごと検索は中小製造業にとって有利に働くのか?

Googleしごと検索がリリースされたことで、求人情報を多くの人に見てもらえる可能性が高くなったことは確かです。

しかし、Googleしごと検索で探しやすくなった情報は、職種、地域、採用条件など他社と比較されやすい条件の情報であるため、独自の良さを知ってもらうという点については難しいと言えます。

例えば、リクナビやマイナビなどの求人サイトは採用条件以外に、画像を使うことで企業の雰囲気や仕事内容など自社の強みを伝えることができますが、Googleしごと検索ではそれができません。この点は仕事のやりがいなどを強みとしている企業にとっては使いづらいかもしれません。

まとめ

Googleしごと検索が使えるようになったことで、自社の採用情報がより多くの人に見てもらえるようになりました。ただし、機能は限定的で文字情報だけです。求職者にとっては求める職種を条件で比較しやすくなることは良いことかもしれませんが、Googleしごと検索では給与や年間休日以外の企業の良さを伝えることは難しい状況です。

今回の変化によって採用しやすくなるわけではありませんが、自社の採用を告知するための無料の手段が一つ増えたことは歓迎すべき点です。せっかく使えるようになったわけですから、文字情報だけで自社をPRできるようにGoogleしごと検索対策をしていきましょう。

進化していくインクジェット技術。布、食品、電池も印刷可能に。

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。

今回は進化していくインクジェット技術についてです。

好きな形に充電池が作れるようになるインクジェット技術

イタリア人のボルタが、銅と亜鉛を電解液に浸けて電気を発生させる「ボルタ電池」を発明したのが1800年。フランス人のプランテにより鉛蓄電池が発明されたのが1859年。それから160年ほど経った現代では、インクジェット方式により、印刷するような感覚で自由な形に蓄電池が製造できるようになってきました。

株式会社リコー ニュースリリース
世界初、インクジェット技術による二次電池の新たな製造技術を開発
~IoTデバイスやウェアラブルデバイス向けに、自由な形状で電池を製造することが可能に~

この技術では、リチウムイオン二次電池を構成する電極、セパレーターの材料となる、カーボン、セラミック、絶縁材などをインク化。これをインクジェットヘッドから吐出することで、紙に印刷するように自由な形でリチュウムイオン電池が製造できます。

電気で動く物には、当然何らかの電力供給源が必要となります。電池を使う場合、既製品ではサイズや容量も決まっているので、製品もそれに合わせて設計することになります。より小型化、薄型化したいとなると、電池も専用の物を設計しなくてはなりません。例えば、最近ではスマートフォンで写真を撮影するようになったので、小型のデジタルカメラが減ってきましたが、以前はカメラを買い替える度にバッテリーも専用の物に買い替えなくてはいけないということがよくありました。その結果、新しい機種では使うことができない、似たような形の専用バッテリーが増えていくということが起こります。小型、薄型装置の設計において、電源は大きな問題の1つです。

IoTやウェアラブルデバイスが増えている今、このインクジェット方式による二次電池の製造技術があれば、電池に装置を合わせるのではなく、装置に電池を合わせて作る事がより簡単になります。しかも、デジタル印刷なので、何か小さな変更があっても直ぐに対応可能。複雑な形状も容易にできるので、設計の自由度が上がります。実用化については、配線なども含めた全体を印刷できるようにするなど、課題がまだあるようですが、今後注目の技術といえます。

この技術が実用化され、いつの日か個人でも使えるレベルまでになったとしたら、3Dプリンターと合わせて使うことで、バッテリー内蔵型の小型デバイスが家庭でも1個から作れるようになります。家庭でとまでいかなくても、プリントサービスで利用可能になれば、中小製造業、ハードウェアのスタートアップ企業にとっては、チャレンジできる領域が広がるのは間違いありません。早い実用化と普及が望まれます。

布や食品にもインクジェットでプリントができるように

インクジェット方式のプリンターは、オフセット印刷のような版下を使わずに印刷ができて、レーザープリンターなどと比べて構造が単純です。90年代頃から安価な普及タイプのインクジェットプリンターが多く出回り、今ではコピー機能も搭載したインクジェットプリンターが一般家庭でも使用されています。

紙に印刷するだけだったインクジェット印刷も、インクやヘッドが年々改良され、今では色々な方面で使用されています。例えばこちらのTシャツなどの衣類に直接印刷できるプリンター。

株式会社リコー ガーメントプリンター

布へ何かを印刷すると言う場合、印刷したい形状に穴が開けられた版を布に当ててインクをつけるといった方法が、従来は行われていました。年配の方なら、年賀状を家庭で大量に印刷する時に使っていたプリント機をご存じかと思いますが、あれと同じ方法です。版を作る必要があるので、一文字変えるだけでも新しく版を作りなおす必要があり、フルカラーでの印刷というのもできませんでした。このプリンターがあれば、絵でも写真でも簡単に布へ印刷ができます。少量多品種への対応も簡単です。 近年では、粘性の高いUVインクを用いた製品ラベルの印刷にも、インクジェット方式のプリンターが使用されるようになってきました。オリジナルTシャツ、オリジナルラベルといった需要に、即座に対応できるようになっています。

さらに、最近では可食インクを使う事で、食べ物に直接プリントすることもできます。

株式会社サンリュウ フードプリンタ

食べ物にプリントする場合は、単純にインクを食べられる物に変えるだけでなく、インクジェットヘッドも食品に使用できるものに変える必要があります。医薬品にも使用できるレベルのものも出てきているので、錠剤やカプセルに直接識別用のナンバーなどを印刷することもできます。

インクジェット方式は3Dプリンターにも活用されています。マテリアルジェッティング、バインダージェッティングといった3Dプリント技術で、フルカラーの造形も可能です。インクジェット方式は、数ピコリットルといった非常に高い精度で吐出量の制御が可能です。人間の骨や臓器といったもののプリントも研究が進んでいるそうです。いずれは、色々なものが印刷するように自由に作れるようになるかもしれません。

個人的には、食べ物に絵を書くだけでなく、色々な調味料を吹き付けて絵を書いてくれるようなフードプリンタがあったら面白いのではと思っています。絵かと思って食べると味がある。そして場所によって絶妙に味が違う。とりあえず、ケチャップで絵がかけるインクジェットプリンターが実用化されたら、オムライスにケチャップで絵を書くような特別なカフェで需要があるかもしれません。でも、あれは手で書くからいいのか。

中小製造業の事業承継の新しいカタチ

テクノポートの徳山です。数年前から新聞やTVなどのメディアが日本の事業承継問題について取り上げる機会が増えてきました。今後、後継者不足により廃業に追い込まれる中小企業がますます増えると言われています。そんな中、この問題の解決につながるかもしれない新しいカタチの事業承継も増えているようです。今回は「中小製造業の事業承継の新しいカタチ」について考えてみました。

事業承継問題を抱える日本製造業

後継者不在により廃業に追い込まれる中小製造業

中小企業白書の「中小企業の経営者年齢の分布」によると、2015年の時点で経営者の年齢で最も多いのが66歳となっており、これからも高齢化が進んでいくことが書かれています。後継者が見つからず、そのまま廃業に追い込まれる件数も年々上昇している状況です。

また、事業承継を希望している企業のうち、既に候補者が決まっている企業は44.0%と言われており(中小企業庁調べ)、多くの中小企業で後継者が不足していることが分かっています。このままでは更に廃業の件数が増える見込みで、日本経済にとって大きな懸念材料となっています。

なぜ日本の中小製造業は後継者不足なのか?

日本の後継者不足には少子化など様々な要因があると考えられます。跡取りとなるはずの子供が跡を継がず別の道を歩むというケースもありますが、現経営者である親が子供に苦労をさせたくない、という想いから事業承継に消極的になり、敢えて廃業を選択する、というケースも少なくないようです。

好景気から不景気を経験されている現経営者にとって(下手したら不景気しか経験していない)、自分がしてきた苦労を同族に生まれてきたからという理由だけで、我が子に背負わせることに躊躇してしまう気持ちも分からないでもありません。

また、不景気で会社が儲かっていないから、製造業自体の人気が若者に低いから、ということも積極的な事業承継につながらない理由として挙げられます。どんなに苦労しても会社が儲かっていたり、人気のある職業であれば後継者も積極的に後継の道を選ぶでしょうから。

そんな中、従来の承継方法(血縁関係のある同族内で後継者を探す)にとらわれない、事業承継問題を解決するための様々な解決方法が見出されています。

様々な事業承継のカタチ

中小製造業のブランドグループをつくる由紀ホールディングス

航空宇宙関連の精密部品加工を中心に事業展開している株式会社由紀精密の持株会社となる由紀ホールディングス株式会社は、後継難に陥っている技術力の高い中小製造業を買収し、ホールディングスの傘下に収める形式で事業承継問題解決の一翼を担うことを目指しています。

最近買収した企業は、3DCADを活用した複雑な形状の金型の試作や製造が得意な「昭和金型製作所」や、航空宇宙関連部品の加工を行っている「仙北谷」などがあります。

由紀ホールディングスは「ルイヴィトンなどのブランドを保有するLVMHグループのような中小製造業のブランドグループを作りたい」と考えており、新しい事業承継の在り方として注目されています。

個人的には、中小企業による中小企業のM&Aが増えることは、後継者問題のみならず人材不足解消の一手にもなるので良いことだと考えています。ものづくり補助金で設備を増やす企業は多いですが、M&Aを行う中小企業はほとんどいません。国内での生産量が増える見込みが無い中で、設備を増やすよりも今国内に存在する資産を最適化する方がより意義深いのではないでしょうか。

脱サラし3,000万円でアルミ加工会社を個人で買収

元メーカーのサラリーマンだった溝口勇樹氏(当時25歳)は、脱サラし京都でアルミ加工を行う有限会社美山精機を個人で買収した、というニュースが先日世間を騒がせました。なんでも溝口氏は、株式会社日本創生投資の三戸社長が出版した書籍「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」に影響されて行動を移したとか。

美山精機は地元金融機関が、この会社を潰したらもったいないと考えていた優良企業だそうで、溝口氏が会社を引き継ぐ際に1800万円の融資をし、その資金を元手に新たなスタートを切ったとのことです。

同様の動きが全国で広まっており、山口フィナンシャルグループでは、2019年1月に後継者不足に悩む中小企業と、経営者を目指す若者を結びつける新しい仕組みの事業承継ファンド新設したそうです。

ちなみに、現在弊社で進行中の自作ホームページPJに参画中の杉田社長(株式会社関東精密)も個人で会社を買収されたそうです。会社を引き継いだ後は、メタルDIYというワーキングスペース事業を立ち上げるなど、積極的な事業展開をされています。

後継者が積極的に新事業を生み出すベンチャー型事業承継

ベンチャー型事業承継とは、若手後継者が、家業が持つ有形無形の経営資源を最大限に活用し、新たなビジネスを創出する中で事業を承継していくベンチャー型事業承継が広まっています(引用元:株式会社千年治商店HP)。

ベンチャー型事業承継は、上述した2つの例とは違い、同族内での承継が基本ではありますが、古い業態を後継者が新しい業態に変革することで、後継者不足の理由の一つだった「業界的に人気がない」という問題に対し「自力で人気の高い業態へ変革することもできるんだ」という考え方を示すことで、後継者の意識を変える良い取り組みであると言えます。

実際にベンチャー型事業承継を実施した有名な企業は下記の企業が挙げられます。

西村プレシジョン(老眼鏡「ペーパーグラス」の開発)

福井県鯖江市にて金属加工業を行っていた株式会社西村金属の後継者西村氏が、地場産業であるメガネ製造技術をもとに、紙のように軽くオシャレな老眼鏡「ペーパーグラス」を開発し、製造業から眼鏡メーカーへの転身を果たしました。

愛知ドビー(ホーロー鍋「バーミキュラ」の開発)

愛知県名古屋市で創業された老舗鋳造メーカーである愛知ドビー株式会社は、後継者である土方兄弟が力を合わせ「町工場から世界最高の製品を作りたい」という思いからメイド・イン・ジャパンの鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を開発しました。今では、炊飯器を製造するなど家電事業にも進出しています。

中小製造業の貴重な技術を絶やさないことが重要

様々な事業承継のカタチを紹介しましたが、事業承継がうまくいかないことにより「中小製造業の貴重な技術が絶えてしまう」という大きな問題点をクリアする、という視点が重要ではないかと私は考えています。

製造業の経営者は日本の技術力を保持していくためにも、後継者が同族の人間であるかどうかに限らず、積極的に企業(技術)を存続させる努力をするべきではないでしょうか。

外部の人間が経営権を引き継ぐことに対し、ネガティブに捉える人もいるかも知れませんが、同族企業内では生まれなかったイノベーションが生まれる可能性があるというメリットがあると思います。

逆に気をつけたい点としては、株式の承継などをしっかり行い、新後継者が意思決定を阻害されるような経営権の承継を行ってはならない、という点です。お家騒動に新後継者を巻き込むようなことがあっては絶対になりません。

また、その企業が持つ技術の価値を理解できる人が経営権を引き継がないと、貴重な技術が経営権の承継とともに絶えてしますおそれがあるので人選は慎重に行うべきです。

事業承継問題にお困りの方がいらっしゃったら、私が所属している日本ファミリービジネスアドバイザー協会でお力になれるかもしれません。お気軽にお問合せいただければ幸いです。

商標登録って、自分でもできるんでしょ?

弁理士の亀山夏樹です。今回は、中小企業200社以上の相談実績を通し、知的財産の相談における「あるある」についてお話したいと思います。

今回は、商標登録についてです。

「商標登録って ネットでちょちょいと調べられるんでしょ?」時々、知り合いの経営者からこんなことを聞かれます。結論から言うと・・・「いいえ」です。専門家でも悩むときがありますので。その理由は次の通りです。

1.商標調査の目的

商標調査の目的は大きく2つあります。

  • A.使用予定の商標が、本当に(合法に)使用できるかを調べる
  • B.使用予定の商標が、商標登録を受けることができるかを調べる

調査の観点はいろいろありますが、上記2つに共通するものとして、先行登録商標(商標権が発生している商標)の有無があります。先行登録商標の有無は、J-Planatでも調査可能です。

2.先行登録商標の有無

先行登録商標の調べ方は、以下のようにして行います。

  1. お客様の希望する商標権の範囲の特定
  2. お客様が希望する商標を使用した場合に、それは、「ウチの商標権侵害じゃない?」と文句をいわれそうな商標権の抽出
  3. 抽出した商標の権利範囲を特定
  4. 商標権侵害の成立の判断

1)と3)の両者がオーバラップしているか否かを判断し、「オーバラップしている ⇒ 侵害成立 ⇒ 使えない」「オーバラップしていない ⇒ 侵害非成立 ⇒ 使える」といった判断をします。

ここで、慎重にジャッジしたいのは1)~3)、すなわち、権利範囲に絡む部分です。そもそも、商標権の侵害は、商標と商標・役務(サービス)のいずれかが非類似であれば、不成立となります。縦軸に商標、横軸に商品・役務(サービス)をとって表に表すと、このように表されます。

商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 侵害 侵害 非侵害
類似 侵害 侵害 非侵害
非類似 非侵害 非侵害 非侵害

侵害成立するか否かについては、侵害成立の境界線、つまり、

  • 商標が類似か非類似か?
  • 商品・役務が類似か、非類似か?

がポイントになることがわかります。しかも、類似・非類似の判断には、画一的にゆかないところがあるので本当に気を使います。とてもとても、ちょちょい とはいきません。しかし、難しいのは商標・商品の類否だけではありません。

3.商品・役務の選び方

ここで問題です。

指定商品「コーヒー豆」と指定商品「コーヒー」。この2つの違いはどこにあると思いますか?

特許庁の見解では・・・

  • 商品「コーヒー豆」  ⇒  焙煎前のコーヒー豆
  • 指定商品「コーヒー」 ⇒  焙煎後のコーヒー豆、 液体のコーヒー

となります(ざっくりいえば、前者は、BtoB、後者はBtoCとなります)。

なので、「焙煎後のコーヒー豆」を販売しているかたは、指定商品「コーヒー豆」と表記したくなっても、指定商品「コーヒー」と表記しなければならない。手間隙かけて、指定商品「コーヒー豆」で権利をとっても、実際の事業で使用している肝心の商標はノーガード・・・と、なってしまいます。

これは、笑えません。

商標権を取得するにあたり、特許庁の方言をかみしめながら、「法律上、自社ビジネスは、どのように表現されるのか?」をよくよく吟味する必要があります。コーヒー豆(焙煎後)を売ってるからといって、

「指定商品「コーヒー豆」で商標登録を受けよう!」

ということは危険なんです。

4.まとめ

1 商標調査の目的

使用可能性の調査と登録可能性の調査の2つがあります。

2 先行登録商標との関係

自社商標の使用行為が、相手の商標権を侵害するか否かは、「商標」と「商品・役務」の2つの観点から検討します。

商品・役務
同一 類似 非類似
商標 同一 侵害 侵害 非侵害
類似 侵害 侵害 非侵害
非類似 非侵害 非侵害 非侵害

3 同一か否かの判断あれば素人でもできますが・・・

類否判断は専門家でも悩む場合もあります。なお、一次調査として、同一の調査はご自身で行い、そこをクリアーしたものについて、類似の範囲における判断を専門家に依頼する、とすることもよいと思います。

4 商品・役務の指定は意外と難しい

いわゆる「コーヒー豆」であっても、特許庁の方式によれば、焙煎前では「コーヒー豆」の表記となって、焙煎後では「コーヒー」の表記となります。このように、商品の表現の仕方は、特許庁の方言を考慮しないとならないため、よくよく検討されることが必要です。

最後までお読みいただきありがとうございました!

何かの参考になれば幸いです。

売れる製品を企画するなら品質表を使おう

ものづくりドットコムの熊坂です。

ものづくりドットコムの累計利用者数が先週3百万人を超えました。正確には7年前に公開した当時のサービス名称が「ものづくり革新ナビ」でしたから、4年前の名称変更を挟んで通算での実績になります。あっという間のようにも思うし、長かったような気もします。これを通過点として、ますますものづくり関係者に役立つ情報と機能を提供していきますから、バシバシ活用して下さいね。

さてものづくり革新のキーワードを毎回ひとつずつ紹介しており、今回は「QFD」と「品質表」についてお話します。

QFDと品質表ってなんだ?

終戦後の日本製品の品質が最低レベルだったことは以前にも書きました。その後米国から統計的品質管理(SQC)が日本に導入されて、急速に製造品質が向上したわけですが、その次のステップとして設計で品質を保証する仕組みとして1960年代から70年代にかけて、当時山梨大学教授だった赤尾洋二氏らによって考案されたのが品質機能展開(QFD: Quality Function Deployment)です。

我々技術者が製品を企画すると、ついつい技術やスペック先行で考えてしまいます。「最近開発したこの技術を使おう」、「従来にない機能を追加したら売れるに違いない」といった具合です。でもそれって、本当にユーザーが欲しい製品でしょうか?

QFDはお客様の要求を丹念に整理し、製品品質を保証する仕組みであり、その第1工程としてユーザーの要求(VOC:Voice of Customer)から製品仕様の導出に使われる二元表が「品質表」です。ということで品質表はQFDの一部を切り出したものですが、これだけ作成してQFDと呼ぶ人も多数います。分かっていながら、私も敢えてそう呼ぶ場合もあります。

言葉で説明するより、下図の品質表実施例を見ると、構造と機能が大よそ理解できると思います。

図1.品質表の1例(物置)

品質表の作成手順

  1. 初めに左側の「要求品質展開表」(A)部分を作ります。まず思いつくまま製品に対する要望を一つずつ付箋紙に記入したのちにKJ法で整理し、その後で図のようなテンプレートに記入した方が良いでしょう。図では2次までに統合していますが、要求が複雑な商品の場合は3次まで構造化することもあります。
  2. 次に製品の特性や機能を「品質要素」(B)として上部に整理します。まずは思いつくまま挙げて、こちらも2次あるいは3次までに構造化します。典型的にはカタログの「仕様」に相当するものですが、カタログに載っていない品質要素もたくさんあります。
  3. ここまでできたら、左の要求品質項目と上の品質要素の交点となるセルに、両者の関連性を示す記号を記入します(C)。ここでは強い関係性がある場合に◎、中程度の関係性に〇、弱い関係性に△を使っています。左の要求品質項目毎に関連する品質要素が最低でも1つは必要です。横一列すべて空欄の行があるようなら、その要求品質に対応する何らかの品質要素を追加します。
  4. 次に要求品質ごとの「重要度」(D)を設定します。重みづけと言い換えても良いでしょう。本来であれば、ユーザーが評価し、一対比較法で数値化すると精度が高まりますが、かなり煩雑になるため、ここで停滞するくらいであれば、企画担当者がエイヤっと書き込んでも構いません。ただし5段階評価程度では実態に合わないため、最大/最小が20倍以上になるまで差をつけましょう。
  5. さらに競合製品との比較から「企画品質」(E)を検討し、販売時にアピールしたい項目を「セールスポイント」(F)で強調し、これらを掛け合わせて「絶対ウェイト」を計算します。このままでも良いのですが、全ウェイト中の割合を知りたい場合は、各絶対ウェイトを合計ウェイトで割って、「要求品質ウェイト」(G)を計算します。
  6. 次に◎=5、〇=3、△=1として、品質要素列ごとに記号のついたセルとそれに対応する要求品質ウェイトの積を加算してゆくことで、要求品質の重要度(H)を算出します。品質要素ごとに全体との割合を知りたい場合は、各重要度を合計重要度で割って、「品質要素ウェイト」を計算します。

以上の一連作業によって、要求品質の重要度を品質要素重要度に変換し、重要度の高い品質要素を優先して設計する品質(I)を決定することで、ユーザーの要求に合った製品を企画することが可能となります。

品質表の効果

品質表を使うことにより、次のような効果が期待できます。

  • 顧客要求と製品コンセプトと技術特性の関連が明確になる
  • 仕様の決定過程が明確になる
  • 製品仕様に対する関係者の認識が統一される

特に3番目は大切で、会議で決めたはずの仕様が実は納得していないメンバーがいたり、時間経過であやふやとなり、クレームや思い付き、鶴の一声で突然変更されるといった問題を未然に防ぎます。

初回の作業は相当に手間取るものですが、2回目以降は前回との変更点を修正・追加するだけですから圧倒的に時間/労力が減り、状況(要求)変化への素早い対応が可能となります。是非試してみて下さい。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムの登録専門家では、國枝麿さんがこの分野がお得意です。不明の点やご相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

法人設立時の会社の名前決めの際にチェックしたいところ

弁理士の亀山夏樹です。1年くらい前の弊所の話になりますが、雇用準備の関係もあり、法人設立の準備をしておりました。法人設立にあたり、本店の所在地、資本金や役員の数など決めごとをしなければなりません。この辺の決め事は、リクツでなんとかなるのですが。リクツで決めにくいモノは、悩ましく・・・

それが、法人の名前決め。

自分にとって非常に悩ましいのです。ここでは、知的財産の観点から、法人の名前決めについて考えたいと思います。

1.名前選びの基準

名前決めに当たっては、通常

  • A 経営理念
  • B 商号
  • C 商標
  • D 商売の内容を示唆する名前

あたりを検討すると思うのですが、今回は、商品名ではなく、法人名(企業名)。ということなので、Dの優先度を下げ、A~Cの3点で検討したいなと思っていました。A~Cを分解すると、

  • A1 経営理念に沿っているか
  • A2 お客様に理念が伝わるか
  • A3 社員に理念が伝わるか
  • A4 協力会社に理念が伝わるか
  • B1 名前を会社名として使用できるか(商号の問題)
  • C1 名前を商標として使用できるか(商標の問題)
  • C2 同じ商標を先行使用されている企業があるか?ある場合は、そのイメージ(特に悪い方)を引きづらないか?

この中で一番難しいのは、経営理念に関するA1~A4。経営理念に沿った言葉・・・千葉県中小企業家同友会での学びのおかげで経営理念は一応あるのですが、経営理念に沿った言葉って何?正直、自分探しみたいなもので、正解がみつからないところ。ほどよい着地点がみつかればよいなぁ、と思っていました。

一方、会社の名前として・・・

ありふれた名前では個性がないだろうし、覚えてもらいにくい。とはいえ、狙いすぎた結果、これまでの自分と整合性のない名前もイマイチ・・・昨年の流行語大賞にあやかって

株式会社そだねー

・・・イマイチですよね。

2.名前探しの旅

と、いうことで。理念に沿った言葉探し。なぜ、今の仕事をしているのか?なぜ、開業したのか?いわば、自分探しの旅。自分の言葉を振り返るべく、過去のブログを読みあさっていました。(ブログをやっていて良かったです。)旅を終え、名前の候補が3つくらいみつかる。

1つ目は、開業前に考えた名前。2つ目・3つ目は、ブログから引っ張って来た名前。これらを、A 理念の観点でチェックしてみると・・・。

1つ目はイマイチ。なんか、「らしさ」というか、自分の手垢感がない。さすがは開業前の言葉。一方、2つ目・3つ目は、「らしさ」がある。さすが、開業後の言葉です。

3.商標・商号のチェック

どんなに良い名前でも、適法に使用できなければな意味がありません。ここでチェックしたいのは、B 商号と C 商標。

まずは、C 商標についてチェックしてみる。2つ目は、役務違いですが、登録数が多い。使用数も多い。したがって、目立ちにくいし、憶えてもらえにくい。3つ目は、登録数・使用数がほとんどない。よって、目立ちやすいし、憶えてもらいやすい。

ここから、3つ目の社名が第1候補となります。次に、B 商号に戻って、3つ目の社名候補について商号のチェック。現在、敏腕司法書士に調査してもらっています。

4.良い名前のリスク

良い名前。良い名前であればあるほど、自分だけが使いたいと思うはずですし、他人に使ってほしくないと思う方も多いです。そのため、自分が良いと思った名前も、他人にとっても良い名前であり、結果、多くの他人が使用していることも珍しくありません。

そういった名前には、良くも悪くも、他人の手垢がついており・・・それ以上に、自社ブランドイメージの毀損、商標権侵害の問題につながっりやすく・・・一方、そこから離れた名前は誰も使っていないことが多く・・・自社ブランドイメージの毀損、商標権侵害の問題から遠ざかる。結果、自社ブランドイメージをつくりやすくなる。

他人の手垢(土俵ともいうのでしょうか?)から離れたところで、自社の経営理念との整合性を取る・・・名前決めは、難しい部分も多いですが、

  • 一度使い始めたらそうそう代えられない物が名前。
  • その事業(その人)の信用がくっつくのも名前。
  • ブランドの器となるのが名前。

なので、会社の名前は、慎重に考えたいところです

5.まとめ

法人設立時の会社の名前決めの際にチェックしたいところ

A 経営理念

  • 経営理念に沿った名前か
  • 名前を通してお客様に理念が伝わるか
  • 名前を通して社員に理念が伝わるか
  • 名前を通して協力会社に理念が伝わるか

B 商号

  • 名前を会社名として使用できるか?(登記前の調査)

C 商標

  • 名前を商標として使用できるか(商標調査)

何かの参考になれば幸いです。

ものづくりにイノベーションは必要か?

ものづくりドットコムの熊坂です。

私は周囲から暇そうに見えるらしく、あちこちの学会、研究会、同窓会などの幹事や役員を頼まれているうちに、10個くらい引き受けてしまっています。先週大学同窓会の県支部役員会で、来年度の活動計画を議論したのですが、懇親会以外のアイデアがなかなか出ません。東京本部は年に数回豪華な講師を集めて講演会を開きますが、地方都市に来てもらうのは大変で、しかも集客に苦労するのが目に見えています。ふと、本部の講演会を地方支部にネット配信する案を思いつきました。全国の地方支部に呼びかければ一支部あたりの費用負担は少なく、数人しか集まらなくても講師に気遣いは不要です。何より、知的刺激機会の少ない地方に最先端の情報を持ち込めます。

山梨が全国の先駆けとなり、このトレンドを生むという妄想が膨らんでいます。

さてものづくり革新のキーワードを毎回ひとつずつ紹介しており、今回は「イノベーション」についてお話します。

イノベーションってなんだ?

私の会社「産業革新研究所」は英文表記がIndustrial Innovation Institute Inc.であり、Inが4つ並んでいい感じなのですが、イノベーションを含んでいるため、必然的に意識が高まります。イノベーションは「新しくする」を意味するラテン語のInnovareを語源とし、経済学者であるシュンペーターが約100年前に使い始めました。彼はイノベーションは何もないところから突然現れるのではなく、既存事項同士を新たに組み合わせることで生まれ、またこれこそが経済発展の原動力と考えました。

例えば近年自動運転技術が急速に進歩しています。それを構成する要素技術は、ミリ波レーダー、高解像度カメラと画像処理、高速CPUなど既存技術の組み合わせであり、全く新たな技術はありませんが、十分にイノベーティブと言って良いでしょう。旧来イノベーションの日本語訳とされる「技術革新」は、新たな技術が必要と誤解されやすいことから、その表現を見直す機運が高まっています。

イノベーションしなくても何とかなる?

今から60年前にドラッカーは、「マーケティングとイノベーションだけが企業の基本的機能」であり、「イノベーションによってより経済的な財やサービスを作る」ことができると主張しました。現状を変えることは億劫であり、今のままで明日、来月、来年突然立ち行かなくなることもないでしょう。そのままずっと何とかなれば楽チンなのですが、競争の現代で現状にとどまることは、進歩してゆく社会の中で相対的に後退していくこととなり、イノベーションしないことが最大のリスクとなるでしょう。

イノベーションは難しいのか?

地道な改善活動が簡単とは言いません。非常に重要ですが、イノベーション=革新活動にはさらに難しい問題があります。製品やプロセスを革新するには人、資金や時間などの資源投入が必要であり、革新的であるほど成功の可能性が低く、場合によっては実現しても成果が不確かである点です。革新的な商品、サービスは従来と大きく異なっているために、経営者や顧客、市場が簡単に受け入れるとは限りません。顧客からの要求を愚直に実現しようとするほど、破壊的なイノベーションを実現できないと、クリステンセン教授は多くの事例を挙げながら説明しています。有名な「イノベーションのジレンマ」です。

特に大企業では担当部門長が大きなリスクを取ってイノベーションに成功したとしてもその見返りは限定的であり、一方革新的であるほど事業化は高い確率で失敗すると想定され、その時はキャリアを大きく傷つけてしまいますから、それくらいなら、小さいながらも確実に成果が出る業務を担当したいでしょう。また、たとえ担当部門長が革新的事業を進めようとしても、優秀な経営者ほど信憑性のある調査データを要求し、不確実なテーマは排除されるため、成功のイメージが持ちやすい過去に成功した類似製品を手掛けてしまいます。

その点で言えば中小企業の方が、資金や人材の目途が付くならば、経営者のトップダウンで革新的なプロジェクトを迅速に進めやすいかもしれません。

こんなことに気を付けてみよう

ドラッカーは、次のような機会でイノベーションが起こると考えました。

  1. 想定外の出来事
  2. 現実と理想の不一致
  3. 改善のニーズ
  4. 産業や市場の構造変化
  5. 人口構造の変化
  6. ものの見方、感じ方、考え方の変化
  7. 新しい知識の出現

このような場に遭遇した時に、それを機会として認識できるように感度を高めておくことが重要です。またクリステンセン教授は、イノベーションを実現させるには「顧客に頼らない」ことと、「コストをかけずに素早く柔軟に進出して試行錯誤する」ことを提案しています。先に書いたように革新的であるほど顧客は理解できません。提案側が信念を持って開発するしかないのですが、その不明確なアイデアに大きな資源を一気に投入することは危険です。簡易なサンプル(MVP:Minimum Viable Product)を作って顧客の反応を確かめ、小規模な販売で売れ行きを確認し、事業化の確信を得たところで本格的な投資に移るべきでしょう。

米国の3MやGoogleのように、自分の好きなテーマに業務時間のある割合を使うと明文化したり、定期的にイノベーションを議論する委員会やワークショップを開催するなど、持続的で定型的な仕組みが効果的です。事業化にあたっては、既存の事業の一部ではなく小さく柔軟な独立組織の方が迅速に立ち上げられるでしょう。それでも大企業内で事業化まで育てるのは容易ではありません。大きなイノベーションは、ベンチャーや中小企業に開発を任せて、事業化が見えてきた段階で大企業と提携するプロセスも注目されています。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムの登録専門家では、中村大介さんがこの分野をお得意です。不明の点やご相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

集客に寄与する店舗名・商品名の考え方

中小企業・個人事業主を支援する弁理士の亀山夏樹です。今回は、「集客に寄与する店舗名・商品名の考え方」についてお話したいと思います。

1.ある日の商標相談

お客様は、新商品の商品名について商標登録をされたい方。

お客様 :事務所ホームページの記事を見てきたのですが・・・

かめやま:ありがとうございます。

お客様 :商標登録の活用についてどのように考えればよいのですか?

かめやま:商標は、ご商売の目印。いわば看板です。

お客様 :えぇ。そうですよね。

かめやま:魚屋さんを例にとってみると・・・同じ魚屋さんでも、みな持ち味が違う。気に入るお店もあれば、そうでないお店もある。気に入ったお店には、次回も来たくなる。当然、他の友達にも伝えたくなる。お友達は、何を目印にお店に向かえばよいですか?その目印をどう伝えますか?

お客様 :場所とかですか?

かめやま:そうですね。角の銀行の向かいにあるお店・・・というのもあります。でも、それだけではないですよね?

お客様 :看板とか。

かめやま:そうです。店名とか、サービス名とか。例えば、店名「魚屋さくらや」。これが表に出ていれば、始めていく人も、「記憶にあるあの店」と「目の前にある店」がつながる。

お客様 :なるほど。

かめやま:「記憶にあるあの店」が「目の前にある”隣の店”」では困りますよね。

お客様 :お客様がよそへ流れていってしまう。

かめやま:だから、その目印となる商標は大事。なぜならば、商標は集客動線を構成するので。したがって、「集客に寄与する商標であれば自社で独占したい!」となりますよね。

お客様 :店名以外にも商標登録しておいたほうが良いものはありますか?

かめやま:例えば、キャッチコピー的なものですね。カメラのさくらやではないですが、「鮮度爆発」みたいなものです。そのお魚屋さんの差別化要素が、お客様の心をフックする言葉がよいですよね。

お客様 :たしかにそうですね。

2.商標登録の際に検討したい3つのポイント

かめやま:商標登録の際に検討したいのは、次の3つです。

  1. 自社の差別化要素の把握
  2. 差別化要素を利用した集客の動線づくり
  3. 自社水路の確保

お客様 :なるほど。

かめやま1の「自社の差別化要素」が「鮮度」であれば。2の「集客の動線づくり」として、店名「魚屋さくらや」もよいですが、「鮮度爆発」のようなキャッチコピー的な要素があるとよいですよね。

お客様 :となると、守るべきは、「魚屋さくらや」だったり「鮮度爆発」になるのですね。

かめやま:そうです。中でも、自社が使い続けたいものや、自社だけが使いたいものを優先して守りたいですよね。

お客様 :それが、3の「自社水路の確保」につながるのですね。

かめやま:そうです。その目印を商標登録することによって、動線となりえる目印を他社が使えなくなる。結果、自社水路の確保が達成される。

お客様 :なるほど。よくわかりました。商標登録って、営業とか販売促進の考え方に近いものがありますね。

かめやま:そうなんです。営業戦略に基づいて商標登録を活用する方法もあるんです。

3.まとめ

商標登録の際に考えたい3つのこと。

1、自社の差別化

例 魚屋であれば「鮮度」

2、差別化を利用した集客の動線づくり

例 「鮮度爆発」によって、差別化要素「鮮度」を際立たせる

3、自社水路の確保(動線となりえる目印を他社に使わせない)

  • ア 「動線となる目印」の商標登録を済ませておく。
  • イ アにより、他社が「動線となる目印」を無断使用する行為は、商標権侵害となる。
  • ウ イにより、他社は「動線となる目印」を自由に使えなくなる結果、自社水路の確保が達成される。

お客様のご商売繁盛の参考になれば幸いです。

品質問題を未然防止するタグチメソッドの適用事例

ものづくりドットコムの熊坂です。今年初回の投稿で、通算ではもう35回目になります。全く時の経過が早すぎて、ぼーっと生きてるんじゃねえとチコちゃんに怒られそうです。

個人的な話題で恐縮ですが、12月末に9年乗ったプリウスを、マツダのCX-8に乗り換えました。子供、孫たちが集まった時に1台でなるべくたくさん乗れることと、近年進化の目覚ましい安全機能の充実が目的です。

あまり喧伝していませんがマツダは、今回のテーマであるタグチメソッドに自動車メーカーで最も積極的な企業であり、スカイアクティブエンジンの開発にもふんだんに使っていると発表しています。それがすべてではないでしょうが、良い手法を使って開発に成功した好事例と言えるでしょう。

タグチメソッドはその仕組み以前にコンセプトが理解しにくい

以前3回にわたって「考え方」「機能性評価」「直交表」についてお話しました。タグチメソッドは広い技術分野に適用可能な強力ツールなのですが、上記の「考え方」が、一対比較に近い通常の方法と全く異なるために、この方法の入口で挫折して母屋に入れない技術者が多いのです。タグチメソッドのパラメータ設計はあらゆる技術テーマを下図1のフローで処理できるため、一旦使い慣れてしまえばどんな問題が起ころうと平然と効率的に対処できるのですが、そこに至るまでには相応の訓練が必要な点がネックです。

図1.パラメータ設計の標準フロー

そこで。今回は以前投稿した「タグチメソッド」の事例を1件紹介しますので、考え方理解の助けとしてください。

伊奈製陶のタイル焼成事例

これは1953年に当時の伊奈製陶、現在のリナックスがヨーロッパから輸入したタイル生産装置の不具合を解決した事例で、タグチメソッドの考えを形成する大きなきっかけになったと言われます。

この装置はタイルの材料をカートに載せて、80mのトンネルの中をゆっくり通過しながら焼成する連続炉で、生産性は高いものの使ってみると出来上がったタイルの100%がそり不良でした。炉内の温度が不均一であることと、ヒーターによる熱の受け方が表と裏で違うためで、カート上のタイル位置によってその反り具合もばらばらです。普通であれば、原因である温度分布を改善するために、送風ファンを追加する、ヒーター位置を移動する、出力を時間的に変化させるなどと装置側に改造を施して対策するところですが、膨大な実験時間と費用がかかってしまいます。

そこで田口はこの原因には手を打たず、図1の手順1として温度差があっても反らないタイル生産条件を見つけ出すこととしました。手順2の評価特性は寸法、反り、外観などです。今であれば、タテヨコナナメ厚みなどの寸法を取って、規格値との直線関係を評価するところですが、66年前(!)ですので、まだそのやり方は確立されていませんでした。

手順3の制御因子は27回の実験で3水準因子を13個評価できるL27という直交表に、材料組成7因子、焼成条件を2因子それぞれ3水準で割り付け、誤差因子としてはカートの上にタイル材料を載せる位置を7点設定しました。これによって、どの位置に置いても寸法や外観がばらつかない制御因子の組み合わせを見つけるという実験になるわけです。

手順4、5で実験を実施し、27回×7=189個のデータを手順6で解析します。当時はPCなどありませんので手計算です。四則演算+二乗だけですから、難しくはないのですが、思いっきり面倒です。エキスパートになろうとするのでなければ、巷に出回っているエクセルワークシートに特性値を入力して、出てきた要因効果図を判断に使いましょう。

手順7として、上記で手に入れた要因効果図から7つの材料組成のうち、ある添加物を入れることで、温度が変わっても寸法差が小さいことを見つけることができ、手順8として少量の量産試作を実施しました。

一連の実験によって、不良の原因だった高価な焼成炉に追加投資することなく、材料組成を変更するだけで、不良を大幅に減少させることができました。炉内温度のばらつきはヒーター位置だけでなく、電圧変動や外気温など様々な要因でも変化する可能性があります。温度に対して安定な生産条件は、あらゆる温度変化に対して有効ですから、ヒーターという不良原因を取り除くよりも良い対策なのです。

この事例には後日談があります。あまりにも特性が良くなり、従来低級品として安く販売していたグレードが不足してしまったのです。そこで伊奈製陶はカートの移動スピードを上げて、低級品が希望の比率で生産されるように寸法のばらつきを増やしたそうです。これによって時間当たりの生産性を上げることができました。品質をコストで換算するという田口のアイデアは、このあたりから芽生えていたようです。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムには、タグチメソッドの専門家である長谷部光雄さんも登録しています。不明の点やご相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

新商品リリース時における「落とし穴」

弁理士の亀山夏樹です。今回は、中小企業200社以上の相談実績を通し、新商品リリース時における「ありがちな落とし穴」についてお話したいと思います。

1.ある日の特許相談

相談者は、とあるアイデアを思いついた中小企業の社長。このアイデアをベースにした新商品の工具を試作してみたところ、社内の反応では、どうやら売れそうだとの感触を得ました。そこで、新商品について特許をとれるかどうか、弊所へ相談に来られました。

2.特許取得も大事ですけども・・・

かめやま:なるほど、この工具のグリップが三角形になっているところがポイントなんですね。

お客様:そうなんです。特許は取れそうでしょうか?

かめやま:類似品は他社から販売されてないのですか?

お客様:どこからも販売されていません。もちろん、ウチもまだ販売していないですよ。特許を出してから販売ですよね?

かめやま:公開前・販売前の特許出願、良い習慣ですね。しかし、製品が出ていなくとも、特許出願だけ出されているケースもありますし・・・そこは特許文献の調査をしてみましょう。

お客様:お願いします。

かめやま:ところで、この商品は、どのように販売するのですか?自社販売ですか?それとも、営業代行会社を使いますか?それとも、Amazonのようなネットショップでの販売になりますか?

お客様:HP(ホームページ)を使った販売になりますが、自社でやろうか、他社に頼むかは検討中です。

かめやま HP上の販売なのですね。ところで、商品名はどうされますか?

お客様:この「三角形」をイメージした「おにぎり君」でいいかな?と思っています。

3.たかが商品名。されど商品名

かめやま:「おにぎり君」、可愛い名前ですね。ところで、この「おにぎり君」は、商品名として使えるのですか?

お客様:え?どういう意味です?

かめやま:工具の商品名「おにぎり君」について他人の商標権が存在した場合、お客様は、工具について、商品名「おにぎり君」を使えなくなります。正確に言うと、工具の商品名「おにぎり君」を使用することによって、その他人の商標権侵害となってしまいます。

お客様:商標権侵害になるとどうなるのですか?

かめやま名称使用の差し止め(名称の使用停止)と、損害賠償請求の対象になります。また、悪質な行為は、刑事罰にもなります。

お客様:犯罪にもなるんですね。

かめやま:そうです。現実的によく発生するペナルティは、名称使用の差し止め(名称の使用停止)、そして、これに伴う副作用です。

お客様:副作用というと?

かめやま:まず、商品の出荷停止・在庫処分が余儀なくされます。次に、HPの変更作業が発生します。そして、古い商品名のパッケージの廃棄と、新しい商品名のパッケージの制作も必要になります。そして、新しい商品名でのPRのやりなおし・・・このように、金銭的な損失だけでなく、時間的なロス(機会損失)にもつながります。

お客様:たかが名前なのに、そんなに重いのですか?

かめやま:たかが名前・・・ではないですよ。特に、ネット販売の場合、調べ物をするとき、キーワード検索をしますよね。調べものと同じように、話題となっている商品名や、気になる商品名もまた、キーワード検索をする人が多いと思います。キーワード検索するためには、どんな名前が良いでしょう?

お客様:えぇ。どんな名前???

かめやま:覚えやすい名前です。覚えてもらわなければ、検索してもらえませんよね。

お客様:確かにそうですね。

かめやま:さらに、検索結果では、自社が先頭(少なくとも1ページ目)に出てこないとなりません。したがって、ネット販売する場合の商品名としては、「記憶しやすい名前」、「検索のしやすい名前」、「検索結果で一番前に出てくる名前」がよいですね。

お客様:なるほど。「検索結果で一番前に出てくる名前」というのは、SEOみたいなことをするのですか?

かめやま:それもありますが、それだけではありません。自社商品と同じ同じ商品名を、多数の同業他社が使用していたら、お客様は、同業他社のHPに流れてしまう。

お客様:それは困りますね。自社商品と同じ同じ商品名を、多数の同業他社に使用させては・・・あ!ここで商標権を使うのですね。そうすると、ウチの商品名(登録商標)を同業他社が使用できなくなる。その結果、商品名を記憶したお客様を確実に自社HPへ集まることとなる。

かめやま:PRを一生懸命し、お客様に商品名を記憶してもらっても、同業他社に流れてしまう。これでは、穴の開いたバケツみたいなものですよね。そうならないためにも、自社の商品名を覚えてくださったお客様を、自社HPへ確実に誘導する仕組みをつくる。この仕組みづくりのために、商標権を利用するケースも多いです。特に、ネット販売系では、そのような目的で商標権を取得される企業様は多いです。しかも、キーワード検索によって商標権侵害を見つけやすい。

お客様:使用する側から見れば、商標権者から侵害行為が見つかりやすい。

かめやま:なので、他人の商標権の侵害行為となるような名称使用は避けたほうが良いです。

お客様:そして、集めた見込み客を漏らさず自社HPへ誘導するためにも、自社の商標登録は確保したほうがよい、というですね。

かめやま:そうです。しかし、まずは、他人の商標権に抵触するか否かの調査を行い、その後に、商標登録の手続きを進めることが良いと思います。

お客様:特許だけではなく、登録商標(商品名)の活用も大切なんですね。

4.まとめ

(1)商品名は、大切な集客ツール

(2)良い商品名

  • A 記憶しやすさ
  • B 検索のしやすさ
  • C 合法的に使用できる名前(他人の商標権侵害にならない名前)
  • D 合法的に独占できる名前(商標登録のしやすい名前)

何かの参考になれば幸いです。

知財(商標・特許)のDIY出願、登録のお話

ものづくりドットコムの熊坂です。

早いもので今年も残り一か月を切りました。やり残したことを少しでも片づけたいものです。

ものづくりドットコムのセミナー案内コーナーは、自分に最もあったセミナーを1,000件以上の中から選択できると大好評ですが、先週から利用可能となったスマートサーチ機能は、入力された単語に関連するセミナーが関係性の高い順番に表示されますので、これまで以上に要望に沿ったセミナー選択が可能となります。

今年のうちに新たな知識を仕入れておきましょう。

さて毎回一つずつ紹介している、ものづくり革新の知恵の今回は、「商標・特許のDIY出願」についてお話します。

自分でやっちゃっていいの?

ご存知のように特許や商標の登録出願業務を代行できるのは、弁理士もしくは弁護士資格を持っている人だけです。しかし自分が創案した特許や自社が使おうとしている商標を自分で登録出願することは全く問題ありません。むしろ本来はそれが原則ながら、慣れないことを自分でやっていては時間がかかったり、手続きを間違えたり、あるいは出願できても効果の小さい内容になったりするために、弁理士さんに手伝ってもらうというのが本筋の考え方です。

出願に関する最小限のことは学習し、弁理士をリードしないと本当に有効な知的財産権は獲得できません。ゆめゆめ事務所に丸投げしないようにしたいものです。

私は去年から今年にかけて、商標と特許を自分で出願してみましたので、その経験から手順と注意点についてお伝えします。決してDIYをお勧めするわけではありません。目的と状況次第で判断してください。

商標出願のDIY

当社で運営するWebサービス「ものづくりドットコム」は2012年3月にスタートした時は「ものづくり革新ナビ」という名前でした。当時からURLは「www.monodukuri.com」でしたので、サービスの認知度向上には、URLとサービス名が一致した方が良いだろうということで、2014年からサービス名変更の検討を、次のような手順で開始しました。右図2を参考にしてください。

図2 商標登録の手順

  1. 調査:特許庁の特許情報プラットフォーム「J-Plat Pat」にて検索窓にキーワードを入れれば、登録された類似商標を比較的簡単に見つけることができます。ただし、完全同一商標はすぐ見つかるものの、紛らわしい呼び名や図形を見つけるには経験とセンスが必要です。おそらくここが素人の一番弱いところです。
  2. 出願願書作成:指定のフォーマットはありません。特許庁のホームページなどに「商標登録願」のひな形が載っていますので、それに準じてA4用紙で作成します。最も悩ましいのは【指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分】という項目でしょう。ここにはまず45種類に分かれた商品または役務(サービス)の区分から、登録しようとするものが属する区分を選んで記入する必要があります。さらに商品あるいはサービスの内容詳細を記述します。他は迷うところもなく記入作成ができるでしょう。
  3. 出願する:出願には郵送と電子出願がありますが、電子出願は個人認証などの仕組みが非常に複雑、煩雑であり、DIYで1~2回使うだけなら紙に印刷して出願する方が圧倒的に簡単です。この時作成した書類に印紙を貼る必要があります。その金額が3400円+[区分数]×8600円ですから、最少の1区分の場合の出願費用は12,000円ということになります。これが費用の全てです。この費用の少なさがDIY最大の魅力でしょう。
  4. 拒絶理由通知書に応える:出願の内容がすべて条件に適合すれば登録査定となりますが、不備があると拒絶理由通知書が届きます。実際ものづくりドットコムの場合も、出4か月後にこれを受け取りました。ただしご丁寧に「こうすれば登録できますよ」という例文付きでしたので、その通りに補正書を作成して郵送したところ1カ月ほどで登録証が届きました。
  5. 登録料の納付:登録査定が届いたら登録料を納付することで、商標権が登録されます。特許庁のホームページなどから「商標登録料納付書」の書式をダウンロードして、商標登録料に相当する印紙を貼って特許庁に郵送します。登録料は10年分で[区分数]×28200円ですが、分納してまずは前期5年分の[区分数]×16400円だけを支払う手もあります。
    これで届いた登録証が右図3です。

図3 商標登録証

DIY登録の留意点

商標登録の最終目的は権利を得ることではなく、自社の事業を有利に進めることです。上記の手順を見る限り、自分でもできそうだと思う方も多いでしょう。弁理士さんに頼むと調査から登録までの一連の作業で数万円から十数万円の費用が発生しますので、主力製品ではないが、一応登録しておく程度であれば、DIYはありだと思います。しかしどの区分にいくつ登録するのか、どのような名称、形態で登録するのが後々有利なのか、多角的な検討が必要な場合もあり、特に主力製品、サービスで大きな事業を計画している場合は、その微妙な判断が大きな問題を作る危険性があります。

そんな時は専門家と共に登録作業を進めた方が無難でしょう。

特許のDIYも書こうと思いましたが、字数が過ぎてしまいましたので、別稿にあらためたいと思います。

いかがでしょう?私は、知的財産管理技能士2級という(微妙な)資格を所有しており、多少は知識があるのですが、本格的な知財戦略は鶴見隆さんが御専門です。不明の点はQ&Aや問い合わせフォームで質問してください。

匠の製品や仕事は単純志向

ものづくりに軸足を置いたジャーナリストの伊藤公一と申します。文字通り、製造業に関わる業界や企業、経営者などを対象とする取材活動をしています。業界記者歴三十余年の活動を通して感じたことや気づかされたことなどを自然体で取り上げていく考えです。

良い機械は修理がしやすい

「訪問したユーザーの工場で1日中寝ていたことがあります」――。厚生労働大臣が表彰する「卓越した技能者」(現代の名工)に選ばれた、ある大手工作機械メーカーのベテラン技術者から聞いた話です。もちろん、サボって寝転んでいたのではありません。納めた新型マシニングセンタの不具合を直すため、仰向け状態で終日、機械の下に潜り込んでいたというのです。

社内で「匠」と称されるこの技術者は、腕の立つ組立工としての自負から「良い機械の条件は誰にでも修理がしやすいこと」と断言します。修理を要請された機種は採用した新機構や外観が評判となり、発表当時、話題を集めました。その分、部品配置や配線などがしわ寄せを受け、ひとたび故障すると、非常に修理のしにくい代物となりました。

話に耳を傾けながら、SF作家、筒井康隆の初期作品『横車の大八』の一節を思い出しました。

頑丈なくせに簡単に壊せる

写真:高野山・慈尊院にある多宝塔の屋根で解体修理にあたる匠たち

スペースの関係で粗筋の紹介は省きますが、作者は大工の八五郎という登場人物の口を借りて、江戸時代の日本建築の神髄をいくつか披露します。曰く「名のある大工が建てた家は、とてつもなく頑丈なくせに、壊すときには簡単に壊せた」。あるいは「(壊しやすい家を建てるという伝統が)良心的な一部の大工の間には作法やしきたりとしてあった」。

圧巻は「建物には必ず、ここを押せば家全体が壊れるというヘソ(柱や束)がある」という逸話です。「出来の良い家はヘソが1つだが、悪い家は分散しているので壊しにくい。だから、新築時にも、いかに良いヘソをつくるかに心を砕く」。

冒頭のベテラン技術者が気に留める「修理」と、八五郎が執心する「取り壊し」とは仕事の目的も中身も異なりますが、努めて「単純であること」に重きを置いている点で考え方は同じだと思います。

「環境」に対する関心が高まるようになったころから、OA機器業界や家電製品業界が率先して推し進めてきた「製造しやすく分解しやすい設計の追求」や「折り紙の仕組みを取り入れた紙製パッケージの積極的な活用」なども、その延長線上にある取り組みといえるでしょう。

段取り八分、仕事二分

現代の八五郎たちの集まりともいうべき「日本伝統建築技術保存会」というNPO法人があります。寺社を中心とする文化財の修復を手がける一方、後継者の育成にも力を注いでいる組織です。

数多くの歴史的建造物を修復した宮大工でもある会長の西澤政男さんは、職人としての心得を「段取り八分、仕事二分」と言い切ります。「いい加減に始めた仕事は時間ばかりかかるくせに、出来が悪い」というわけです。八分の段取りは、単純な手順を要領よく重ねることで自ずと成り立ちます。

匠と呼ばれる人は異口同音に、簡潔であることの潔さを説きます。入り組んだ考え方や行いを好みません。ちなみに、今年の『日本国際工作機械見本市(JIMTOF)』では「自動化」に狙いを定めた実演が盛んでした。それは匠の知恵を生かし、機械や装置類を単純かつ段取りよく整えることで引き出される成果を訴える試みであったようにも思えました。

デザインから入ってはダメ!利用用途から企画するパンフレット

ものづくり経革広場の井上です。今回はHPと同様、販促ツールとして重要なパンフレットの作成手順についてです。展示会では必須のアイテムで、その出来栄えによって会社に対する印象が大きく変わります。そのパンフレットについて、どのような手順で作り込んでいけばよいか?その手順を紹介いたします。

デザインやページ数から入ってはダメ

最初にいきなりデザインやページ数を決める方が多くいらっしゃいますが、それでは目的がずれてしまいます。デザインや、ページ数を先に決めてしまうと、どうしてもそれに合わせた内容や、中身のボリュームを考えなければならず、「この枠にこれは入れられない」「ここにはこれを入れたらキレイだ」など見栄えが中心となってしまい、中身が伝わらない可能性があります。それよりもパンフレットを使って何をしたいかを考えることが先決です。

具体的な作成手順

①用途・目的を考える

リクルート用、営業用など、利用用途によって内容は大きく異なります。営業用であれば、ターゲットを絞ったものなのか、会社の事業内容全体を網羅したものが良いかなど、利用方法によっても載せる内容、見せ方は変わってきます。まずはどのような利用シーン・用途で、主に誰に見てもらうためのものかを考えることからスタートします。

②必要なコンテンツを決める

例えば営業用であれば、お客様先へ訪問した際や、展示会での説明の利用シーンが想定できます。自分が営業で説明する時に、どのようなものが必要かを考え、項目をリストアップします。

③コンテンツを載せる順序を考える

営業では、お客様の興味を持っていただく順番は何かを考え、それに沿った順番で説明するかと思います。パンフレットでも同じ順番で掲載することで、営業が説明せずともパンフレットを順番に見ていただくことで、ある程度の内容を把握していただくことができるようになります。

④コンテンツごとの詳細を決める

載せるコンテンツ・順序が決まってしまえば、あとはコンテンツの中身となる写真・イラスト・文章を考えます。事業内容を載せるだけでなく、特に伝えたいものは何かを考えます。

⑤デザイン・ページ数を決める

上記の流れで考えると、全体のコンテンツボリュームが自然に決まりますので、それを加味してどれぐらいのページ数が必要となるかが決まります。そして、最後がデザインです。もちろん、会社全体としてのテーマカラーや与えたい印象等があると思いますので、それを踏まえデザインコンセプトを決めます。 ここまでがパンフレットの構成部分です。

⑥デザイン制作〜印刷まで

その後のデザイン制作〜印刷までの流れですが、制作会社に構成をもとにデザイン依頼をするか、もしくは自社でデザインをしてネット印刷をすることが可能です。ただ、自社で制作するといっても画像編集ソフト(イラストレーター等)を利用しないと難しいです。そして印刷は失敗してもHPと違い修正ができないため、不安な方は専門業者にお願いしたほうが無難です。

最後に

HPにしっかり情報を載せていればパンフレットはいらないと思う方がいらっしゃるかも知れません。ですが、例えば他部署への回覧でパンフレットが回ったり、他のヒトへ紹介する際にパンフレットを手渡しすることもあります。そのパンフレットを見た後にHPを見る方もいらっしゃいます。そのように手に取れるモノとして残ったほうがきっかけを生み出すこともあるため、HPだけでなく複合的な販促体制をつくることが重要です。また、最近では印刷料金がだいぶ安くなってきていますので、印刷部数を少ない単位で発注し、定期的に中身を編集して再印刷することも低コストで可能となっています。ぜひ、HPだけでなく、パンフレットの見直しも定期的に行ってみてはいかがでしょうか?

コスパのよい特許出願 その2

弁理士の亀山夏樹です。小職は、中小企業200社以上の相談実績があります。今回はコストパフォーマンスのよい特許出願について、これまでのお客様の相談内容を振り返りながら考えていきたいと思います。

1.とある日の特許相談

大昔に、別の弁理士さんに依頼して特許出願を出したことのあるお客様(その1の記事とは別のお客様です)。第1回目の面談では、特許取得がテーマでした。面談では、発明の概要を伺うのですが、弊所では、それ以外のことも把握します。その理由は、無駄な特許をなくすためです。言い換えれば、特許のコストパフォーマンスを向上させるためです。

そこで、弊所の面談では、発明に至った背景はもちろんのこと、これまでのマーケティング活動についてもヒアリングします。そのお客様は、マーケティング活動をしっかりとされている方でしたので、お客様のお話を聞いているかぎり、その発明は市場に受け入れられる可能性が十分にありそうだ、と思いました。さらに、そのお客様の規模からすると、大化けする可能性もあるようです。

2.ところで、ビジネスモデルは?

お客様:だから、このアイデアを特許で防衛したいのです!

かめやま:ところで、このアイデアを使って、どのようなビジネスモデルを考えていますか?

お客様:え・・・!?

かめやま:「誰にどのような形でアイデアを提供し、誰から売り上げを立てるか?といった仕組み」です。一緒に検討しましょうか?

お客様: お願いします。

(数10分後)

かめやま:考えられるパターンは、A~Bの2つの案。ビジネスモデルAであれば、アイデアの要素アが肝になります。ビジネスモデルBであれば、要素イが肝になります。2つをミックスすると、最初にモデルAで回した後、モデルBで回す・・・ということも可能です。

お客様: 驚きました。モデルAのようなものは、取引先からもチラっと言われましたが、モデルBや、2つのモデルのミックスもありえるのですね。

かめやま:そうなんです。大切なことは、ビジネスモデルの肝となる要素を特許でガードするということです。ビジネスモデルAでいくなら、アの特許権をとることが必要なりますし、ビジネスモデルBでいくなら、イの特許権をとることが必要になります。さらに、両にらみで行くのであれば、ア・イの両方を抑える必要があります。逆に言えば、ビジネスモデルAでいくなら、イの特許権をとる必要はありませんよね。

お客様:確かにこれなら、無駄な特許権は減らすことをできますね。

かめやま:特許は投資です。ビジネスモデルを考えながら、肝となる部分(ガードすべき優先度の高い部分)から特許で抑えていく、という観点が重要です。

お客様:これなら無駄な特許は減りますね。

その後・・・

結果的に、ビジネスモデルA・Bの統合案でいくことになったため、それぞれビジネスモデルの肝となる発明ア・イについて特許出願を済ませました。そのお客様は、いくつもの商談が前に進むこととなりましたが、その1つの商談相手は、お客様よりも大きな規模の企業。ですが、先方が欲しがっている商品は、要素アのアイデア。こちらは、すでに特許出願済です。特許出願済の交渉力により、お客様の立場を維持したまま商談に臨めそうです。

3.まとめ

1、特許権や商標権で抑えたいところはどこ?

特許権や商標権で抑えたいところの1つは、ビジネスモデルの収益源。

2、収益源はどこ?

収益源が何になるかはビジネスモデルによっても変わる。

市場浸透の速度もビジネスモデルによっても変わる。

3、自社にとって実現可能なモデルは?

営業活動を通して、どのビジネスモデルが自社にとって望ましいかを検討する。

4、当初の目論見は外れた場合の準備をする

営業活動を通して、出願前の目論見が外れる場合もある。このため、弁理士と適宜情報交換が必要。

5、必要に応じて次の手を打つ。

当てが外れれば、補強のための追加出願をすることも・・・。そうでなくとも、次の一手(アライアンスなど)のための契約やその交渉準備・・・。場合によっては、こちらの交渉力を上げるために別の出願を行うことも。

何かの参考になれば幸いです。

事業価値を創造する技術戦略

ものづくりドットコムの熊坂です。

先月の某イベントで元サムスン専務である吉川良三氏の講演「日本の産業に未来はあるのか」を聴講しました。興味深い内容がてんこ盛りで、充実した時間でしたが、最後のまとめは「適者生存、柔軟な考え方で潮目の変化に対応」でした。当たり前と言えばそれまでなのですが、この当たり前のことがなかなかできないものです。常にアンテナを高く掲げ、流れの変化に遅れないように(しかし早とちりせず)、適切に対処していきたいものです。

さて、ものづくり革新のキーワードを毎回ひとつずつ紹介しており、今回は「技術戦略」についてお話します。

中小製造業における技術戦略とは

以前企業理念のお話をした時に、企業の方針展開構造を図1で示しました。この中で技術戦略は下から2段目に位置する機能戦略のひとつと言えます。他の機能としては、生産、製品企画、人材育成、購買、知財管理、経理などがありますが、どんな技術を選び、磨くかという技術戦略は、どこでどう作るかという生産戦略と並んで、ものづくり企業における中核事項であることに疑う余地がありません。

図1.方針展開のピラミッド

戦略策定の方向として、競合との関係性を中心に考える競争戦略と、社内の人材やノウハウ、想い入れを中心に考える資源戦略の二つの視点があります。もちろん両方とも重要であり、配慮する必要はありますが、どちらに比重を置くかは、図1において戦略の上位にある「ビジョン」から判断することとなります。

技術戦略策定の手順

図2.戦略策定の手順

つい最近JETI(Japan Engineering & Technology Intelligence)誌11月号に投稿した記事で、戦略策定の手順を図2で示しました。中小規模の企業でここまでしっかり作業しきることは難しいかもしれませんが、これに準じた手順を踏むことで、手戻りのない戦略が獲得できます。

技術戦略策定にあたっては、この中で外部環境の分析特にPEST分析の「T=Technology」である技術動向の調査が重要とはいえ、先端技術ほど不確定要素が多く、また公開されないために、完璧な調査は極めて困難です。さらに他社、競合を分析しすぎると、身動きが取れなくなる危険性もあります。自分たちがやりたいこと、ありたい姿に向かって戦略を決めていく姿勢も時には必要でしょう。

中小企業の技術戦略成功事例

私が知っている高収益中小製造業の技術戦略事例をいくつか紹介します。これらは私が山梨学院大学で担当している「技術経営論」の講義中で、ケーススタディとして取り上げている企業です。

(1)エーワン精密

山梨県韮崎市に工場のある旋盤加工機用コレットチャックを主力製品とする製造業です。工場全体を「短納期」に最適化することで、全国の加工業から全幅の信頼を得て、直販体制を確立し、経常利益率30%以上という驚異的な業績を長期的に継続しています。

(2)東海ばね

大量生産に決別し、1個から20個程度の特殊ばねに特化して受注し、技術力と体制を整えた結果、全受注を自社の決定価格で成約し、高収益を継続しています。職人の働く環境にも細かく配慮しているため、従業員数100人以下でありながら、有名大学卒を含む多くの入社希望者が集まります。

(3)未来工業

スイッチボックスを主力製品とする岐阜県本社の製造業で、最終ユーザーである建設職人の隠れたニーズを次々に実現して、シェア80%を確保。短時間勤務、高報酬などで社員のモチベーションが高く、自律的な改善活動によって多品種にもかかわらず低価格、短納期で販売しています。

(4)池内タオル

大手発注元の倒産により連鎖倒産したことを機に、自社ブランド生産へ全面的に切り替え、オーガニックコットン+風力発電エネルギー+高度な排水処理設備という環境に配慮した製品を訴求し、高価格ながら環境意識の高い消費者の絶大な支持を受けています。

各社各様、いずれも独自のコアコンピタンスを持ち、それを磨いていることが分かります。参考にはなるものの、今から彼らの戦略を真似して成功するとは思えません。自分たちで図2の手順を踏んで真摯に考え抜くことで、簡単ではありませんが、なにかしらの戦略が見えてくるものです。

また、当初考えた戦略がズバリ当たって大成功ということは少なく、やってみることで新たな事実が判明し、それに基づいて戦略を修正しながら、少しずつ成果に近づいていくことがほとんどです。大企業と異なり、柔軟かつスピーディーな戦略設定、修正ができることが、小規模企業の持ち味でもあります。まずは一歩目を踏み出しましょう。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、川崎響子さんが技術戦略分野の専門家です。不明の点やご相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

採用ルール廃止が及ぼす中小企業への影響!

こんにちは、ものづくり経革広場の永井です。2018年10月9日に経団連の中西宏明会長が「採用ルール(就活ルール)」の廃止を発表しました。これの影響で企業の採用方法や大学生の就活への意識も変わり、新卒採用のあり方が変わっていくと考えられます。

さらにこの変化は中途採用にも影響を与えると言われており、大企業に限らず、中小企業の採用はより一層厳しくなる可能性があります。今回は「採用ルール(就活ルール)」の廃止に伴う懸念点と今後の採用のあり方について記事にしました。

1.「採用ルール(就活ルール)」とは

まずはこれまでの「採用ルール」について振り返ります。

【経団連が決めている採用ルール】

広報活動 : 卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
選考活動 : 卒業・修了年度の6月1日以降
(掲載元:http://www.keidanren.or.jp/policy/2018/015.html

このように新卒採用に対しての活動を企業間で統一することで公平性を持たせています。実は採用ルールには歴史があり、一度廃止されたこともありました。

歴史を簡単に追うと、

  • 1952年頃 大卒者が急増し、混乱を防ぐため企業と大学が採用ルールを結ぶ。その後、好景気による人材不足から、ルール無視の青田刈りが始まり、好景気ではルール無視、不景気ではルールを守るサイクルが繰り返される。
  • 1978年頃 守れない企業に「注意」「勧告」「社名公表」という制裁措置を取るが結局守られない。
  • 1997年頃 守れないなら不要ということで、採用ルールを廃止
  • 2013年頃 就活の早期化による学業軽視の点から、現在に近い採用ルールができるが、外資系や中小企業はルールを無視する
  • 2018年頃 採用ルールの廃止を検討

(掲載元:2018年10月27日発売の東洋経済「採用クライシス」)

という流れになり、結局、どれだけ公平性を検討しても守らない企業が多くいるため、経団連として採用ルールを明言しないことになりました。

2.「採用ルール(就活ルール)」廃止に伴う懸念点

採用ルールが廃止されると過去と同様「青田刈り」、つまり大学1〜3年生に内定を出す企業が現れ、早期に採用活動を行わなければ自社が採用活動をするときには優秀な学生がいない可能性がでてきます。

そのため、優秀な学生を採用するためには大企業はもとより、中小企業も早期に採用活動をスタートしなければなりません。その結果、

  • いつ?どのように?採用活動を始めればいいのか。
  • 大学2年生に内定を出して、果たして卒業後に本当にきてくれるのか。
  • 内定承諾後に、別の企業からオファーがあったらなびいてしまわないのか。

などの不安要素がでてきます。

これまでは採用ルールがあったからこそ、目標の採用人数を獲得するためには3月以降で何人に内定を出したら良いかを予測できたのですが、採用ルール撤廃により予測が立たなくなりなりました。この「採用の不安定性」こそが企業にとっての最大の懸念点になります。

特に中小企業の場合は、長期間学生をキープするための時間やコストを使うことは難しく、内定承諾を得た学生が別の企業に興味を持ってしまう可能性もあります。採用人数が少ない中、内定承諾を断られるのは死活問題となり、採用の時期から再考しなければなりません。

3.大学生を採用するベストな時期について

大学生の学習ステップは、1~3年生までは教養や専門知識を学び、4年生はその知識を軸に考える力を磨いていきます。理系の場合は研究に、文系はゼミに入り、あるテーマを基に考える力を学び、この過程において急激に成長します。もちろんサボることもできるため、4年生で差がつきます。個人的な考えとしては、大学生の質を見極めるベストなポイントは「4年生の12月以降」になりますが、そこまで待っていては優秀な学生がいなくなるのも事実であるため、現状は3年生の12月頃が良い時期になります。

採用ルールの撤廃により、この時期がさらに早まる可能性もありますが、学生が成長する前に、今後の成長を予想して採用しなければならないため、4年生前の採用については一種の賭けに近い状態になってしまう問題があります。ただ、優秀な学生は少なくなりますが、そこそこの学生は残る可能性も十分あります。

従業員規模別の求人倍率は(掲載元:2018年10月27日発売の東洋経済「採用クライシス」)

従業員規模 求人倍率
(2019卒、倍)
300人未満 9.91
300〜999人 1.43
1000〜4999人 1.04
5000人以上 0.37

となっています。300人未満の従業員の企業の9.91倍は非常に厳しい数値ですが、反対に大企業の0.37倍という極めて低い数値も興味深い点です。この表から、大企業を志望する学生は多いけれども、その分大企業に落ちる学生も多いということがわかります。労働条件や仕事の規模において大企業に勝てない中小企業はターゲットを「大企業落ちの学生」に絞ることも一つの選択肢としてありかと思います。

4.学生の質を見極め、安定した採用をするために

採用に失敗しないように学生の質を見極めて、安定した採用をするための方法は確立されていませんが、重要なことは「この会社で働きたい」と思える企業文化を作っていくことだと思います。

そのためには、独自の採用スタイルを確立していくことや、情報の発信をし続けるなど、これまでとは違った工夫が必要になります。例えば、

  • 採用に時間と手間をかけるとことん採用
  • 個性を見るためのBBQ採用
  • 自社知ってもらうためのインターンシップ採用
  • 他社とも連携した共同採用

などをユニークな採用活動をやって成功している企業もあります。もちろん採用にはコストも時間もかかりますが、企業の未来を作っていくのは人材です。ぜひ独自の採用方法を見つけてみてください。

まとめ

労働人口が減り、採用ルールが撤廃され、これからは企業の個性が求められる時代になると思います。採用活動自体は利益を生まないため、中小企業は限られた活動しかできないかもしれません。ただ、そのような中でもしっかりとコストをかけ採用に成功してる企業もあります。

2018年11月22日(木)に弊社主催のセミナーにて、新卒採用に成功している京都のヒルトップ様をお招きし、採用や人材育成についてのセミナーを行います。ヒルトップ様は社員数5名の鉄工所から今では150名になるまで成長し、新卒採用では数名の枠に対して、毎年約1000人のエントリーがあるほどの人気企業です。ぜひこの機会にセミナーへお越し下さい。

セミナー詳細:https://tp-tn-3.peatix.com/

経営者に求められる「人間性」とは

私の連載は本日で一旦終了となります。最後に「弁護活動」を通して感じることを書きたいと思います。

社員目線から経営を考える

この連載は、株式会社吉原精工の改革にスポットを当ててきました。「社員目線から経営を考える」という吉原会長の試みを、法的に分析するという取組みをして来ました。弁護士として活動している中で、よく遭遇する①退職の場面の問題、②賃金にまつわるトラブルをメインに取り上げ、法的なアプローチの一端を解説しました。

しかし、語弊を恐れずに言えば、私が一番伝えたかった点は「法律のテクニック」ではありません。

「法律」を使うのは人間です。どのような立派なテクニックを使っても、土台となる経営者の「人間性」がぶれていれば長続きはしません。この考え方に賛否両論はあると思いますが、私は経営者の「人間性」こそが一番大切だと思います。ここでいう人間性とは、経営者は聖人君子であれということではなく、多角的な視点をもって考え、「脳に汗をかく」ことができる知性のことです。

このような考え方に至った理由は、私の弁護活動に起因している点が大きいと思います。

企業側の弁護士をしていると、

  • 「一円も残業代を支払いたくないから、賃金規程をうまく作って欲しい」
  • 「経営者が絶対なので、歯向かう人間はすぐにクビにできて当然だ」
  • 「有給を平気な顔で取得する従業員がいると、士気が低下するからどうにかして欲しい」

といったような、一方的に過ぎる要望を伝えてくるクライアントがいます。

しかし、このような経営者に従業員はついてこないのが現実です。ついてきていると思っているのだとすれば,それは恐怖政治を敷いた結果、「裸の王様」になっているだけであり、土台が足元から崩れている危険性を認識できていない非常に危ない状態だと言えるでしょう。

働き方改革

私が吉原会長に出会い、直接お話をして書籍も拝読したとき、一貫していたのは「人間に対する洞察力の深さ」でした。逆の立場だったらどう思うのか、自分が従業員だったら働きたいと思うか、という点にストイックに向き合い、企業の舵取りをしておられました。その「多様な視点で物事を考え抜く」という知的労働が習慣化しているため、気がつけば「働き方改革を体現している会社」として多くのマスコミに取り上げられることになったのだと思います。

「働き方改革」という言葉が独り歩きしている感はありますが、すべて「人」の所業です。

私も一経営者として、「多角的な視点からストイックに考え抜く」ということを習慣化し、一緒に働く人が幸せになる組織を作りたいと思います。それ以外に、「良い組織」は作ることはできないと思います。

「法律」はその上でこそ活きるものだと信じて疑いません。

本連載を最後までお読み頂いた読者の皆様、お付き合い頂き本当にありがとうございました。またどこかでお会いしましょう!

コスパのよい特許出願 その1

弁理士の亀山夏樹です。小職は、中小企業200社以上の相談実績があります。今回はコストパフォーマンスのよい特許出願について、これまでのお客様の相談内容を振り返りながら考えていきたいと思います。

1.とある日の特許相談

先日お会いしたお客様。数年前に特許を出し、それから10か月が経過したころ。

優先権の利用を確認すべく、発明品に関する事業の現状を伺うも、「諸々の事情により、事業化は難しく・・・今回の発明は、権利化を見送ろうかなぁ」とのことでした。

2.相談から1年後

ひょんな出会いをきっかけに、その発明品についての商談が入る。しかも、スポットではなく、それなりの規模のようでした。

かめやま:お~!それは、良かったじゃないですか!

お客様 :そうなんですよー。発明品を見たいといわれたのですが、まだまだ改良も必要だし。

かめやま:そうであれば、○○○(発明のポイントその1)に対する周りの関心について探ったほうがよいですよね

お客様 :なるほど。しかし、その流れで、こちらが非公開情報までしゃべってしまいそうで・・・

かめやま:◇◇な観点で切り分けて、こっちならしゃべってOK。そうでなければお口チャック、とすればよいのでは?

お客様 :・・・うーん

かめやま:どうされました?

お客様 :やっぱり。かめちゃん、一緒に来てくれない?

かめやま:・・・ その商談にですか?

お客様 :一人だと、余計なことまでしゃべってしまいそうで・・・

かめやま:わかりました。

3.特許出願の後のすべきこと

出願から3年間は、無条件で”出願中”を維持できる。出願中にすべきことは、出願した発明品の内容を公表して営業活動。その営業活動により

  • 市場が反応するか否か
  • 商談が舞い込むか否か

リターンの見込みがあれば

  • 本当に権利取得したい形が見えてくる
  • 経済的価値のある部分が見えてくる

これが一つの権利化のタイミング・・・

もし、出願した内容が、市場の反応がずれていた場合は、

  1. ずれを補充するような別の特許出願を行う・・・(補強の発明については、お口チャックで)
  2. 特許出願が難しければ、意匠・契約など別の観点で、自社のポジションを守る手立てを行う。
  3. 諦めて別の事業を検討する

このように動かないと、権利化のための無駄なコスト・手間が生まれてしまいます。結果、特許出願のコストパフォーマンスは、中々向上しません。

特許出願は投資活動。事業の進捗と連動させなければ、コストパフォーマンスは悪くなるばかりです。言い換えれば、事業の進捗と連動させることができれば、コストパフォーマンスを向上させることができます。

本当は市場の反応を見てから出願したいところ・・・・。ところが、特許(実用新案登録・意匠登録も同じ)の世界では権利化のために新規性が要求されます。このため、発表前の出願が原則。もちろん、救済措置として、新規性喪失の例外がありますが、そこも完全な救済ではないため、場合によっては、使えない場合も。ということで、どうしても、不確実性が残ってしまう。

この不確実性をどう担保するかといったマネジメントが肝なのですが・・・。このマネジメントが甘いと、結果として、使えない箱モノをドンドンつくっちゃう某自治体のようになってしまいます。

※もちろん、出願してすぐに権利化に動くこともありますが、条件が揃わないと見切り発車の要素が大きくなり・・・

4.まとめ

特許出願の後にすべきこと

  1. 出願が活きている間(通常は3年間)に出願内容について営業活動を通し、その経済的価値を判定する
  2. 出願した内容に経済的価値が見込めれば、権利化へ。そうでなければ、補強を考える。
  3. 補強策の関係で、1.においては済ました特許出願に書いていない非公開情報(補強策に関係あること)はお口チャック

特許出願は投資活動。リターンが見込めそうな領域の権利化が望ましく・・・。リターンが見込めない特許権なんて不要ですよね。

何かの参考になれば幸いです。

数字ではない情報を整理するN7

ものづくりドットコムの熊坂です。

会社で仕事をしているうちに少しずつ守備範囲が変わっていくことはよくあります。自分の場合学部生の専攻は応用物理でしたが、50歳で技術士を取る時は経営工学(生産マネジメント)で受験し、53歳で社会人入学した大学院は技術経営専攻でした。ものづくりドットコムで扱うテーマも製造業全般ながら、経営工学/技術経営分野にやや偏っているのは、私の専門分野だからです。

そんな中、知人の編集者から声がかかり、ものづくり・産業技術専門誌である月刊JETIの10月号から1年間、「開発/設計者のための技術経営」というテーマで連載することとなりました。ここ、ものづくり経革広場の記事と重複するところもあり、できるだけ現場で役立つMOTを目指して、自分なりの視点を打ち出していきたいと思っています。

さて毎回ひとつずつ紹介しているものづくりキーワードですが、今回は「N7(新QC7つ道具)」を取り上げてみます。

N7?

N7とは”New QC 7 tools”つまり「新QC7つ道具」の略称で、QC7つ道具の略称Q7に対比してこう呼ばれます。しかしそもそも新QC7つ道具自体がQC7つ道具に比べて認知度が低く、その略称であるN7と聞いて即座に回答ボタンを押せる人は、品質管理関係者だけでしょう。

N7の起源ですが、まず製造業におけるQC活動の高まりとともに高度成長期の’60年代末頃から「QC7つ道具」が主に生産現場改善で数値統計に使われていました。それに加えて定性/言語情報の分析に対するニーズが高まったため、日科技連主導の元で’72年から新しいツールの検討が始まり、管理者・スタッフのために’77年に発表されたのがN7です。

その中身は、親和図法、連関図法、系統図法、マトリックス図法、アローダイアグラム、PDPC法、マトリックスデータ解析法の七つであり、主に品質改善、業務改善の計画用途で使用されます。以下簡単に説明します。

(1)親和図法

あいまいな事柄を理解するにあたり、複数のメンバーで意見、事実等をカードに記述し、集めた中から親和性の高いグループを探し、そこに新たな名前を付けていく事で、構造を明らかにし、事象を整理してゆく方法です。考案者の川喜多二郎氏のイニシャルからKJ法とも呼ばれます。

(2)連関図法

複雑な事象に関して「原因→結果」という矢印を付してゆく整理法です。事象が複雑に絡み合う問題では、多くの要因を検討する必要があります。全ての項目、要因を原因→結果の関係で整理する事で、真の原因に手を打ち、効果的に対処することが可能になるほか、作成する過程で気づかなかった要因を発見する契機ともなります。

(3)系統図法

ものごとを考える過程で、ある項目と因果関係のある複数の項目を順次ツリー状に結び付けてゆくことで系統的に整理する方法です。目的を実現する方策・手段を展開してゆく「方策展開型」と、組織図などのように業務や機能の構成要素を系統的に整理する「構成要素展開型」に大別でき、いずれも思考を構造化して整理する方法です。

(4)マトリックス図法

マトリックスとは縦横すなわち行と列からなる構造ですから、この図法は、ある事象を表現する2つの特性を縦横の表形式に配置することで問題点を多面的に把握し、その解決に役立てる方法です。2つの項目の関連度合いを◎○△などと記入してゆく事で、問題の分布状況や全体像が理解しやすくなります。 項目の選び方が重要ですので、連関図や系統図などを利用して重要項目を選択します。

(5)アローダイアグラム

プロジェクトの計画に際して、作業と作業を矢印(アロー)で結び、そこに所要時間を配置することで、最短時間やCP(クリティカルパス)を見つける方法です。タスクをバー状に表現するスケジュール管理のガントチャートに似ていますが、この場合タスク数が増えてしかも相互の関係性が複雑になると管理が難しくなるため、PERTの価値が出てきます。

(6)PDPC法

Process Decision Program Chart(過程決定計画図)の略称で、何らかの計画を策定する時に開始からの過程を、いろいろと予測される全ての事態に対してあらかじめ対策を準備して、矢線でつないだ図を作っておく方法です。もともと1968年の東大紛争の際に、当時教授だった近藤次郎氏が、予測困難な紛争の進展とその分岐ごとに異なる対応を計画したことから創り出したものであり、未確定、未知な事項に対して迅速に行動する必要がある場合に有効です。

(7)マトリックスデータ解析法

多数の数値を整理するにあたり、説明変数同士の相関をもとに、できるだけ少数の指標で記述し、それを平面上に表す手法で、多変量解析分野では主成分分析と呼ばれます。手順としては説明変数間の相関行列を作り、説明変数と同数の主成分を定義し、それぞれの寄与率を評価する事で、各主成分の意味を考えます。特徴的な2つの主成分軸で各サンプルを評価すると、当初の説明変数で比較するよりもそれぞれの特徴を一層際立たせることが可能になります。

QCサークルや問題対策会議などで、たくさんの意見が出た時に、そこから有効な考えを導きだすことが重要となります。ひとつの意見も無駄にせず、しかも明快な結論を出すことは容易でありません。ここで挙げた方法を試して、課題解決に役立ててください。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、浅田潔さんがN7の専門家です。不明の点や相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

短期間で人を採ることができた会社から見えてきた5つの共通点

こんにちは、ものづくり経革広場の永井です。最近、ハローワークで募集をかけても応募すらないなど、採用に困っている話をよく聞きます。求職者と求人数の関係を示す有効求人倍率は全国平均で1.63、東京だけでいうと2.16となっています。(有効求人倍率=求人数/求職者で定義され、高いほど採用しづらく、小さいほど採用しやすい。)

しかし、そのような状況でも短期間で人材を採用できている企業はあります。採用条件が特に良いわけでもなく、企業規模が大きいわけでもないにもかかわらず、短期間で2〜3名の人材を採用していました。今回はそのような企業の共通点についてまとめました。(具体的な企業名は書きませんので、気になる方はお問い合せください。)

【私が感じた採用を成功させている企業の共通点】

  • 共通点1.ビジョンを持っている。
  • 共通点2.社長自らが求職者に接触する努力をしている。
  • 共通点3.社長が求職者を直接口説いている。
  • 共通点4.会社として期待している内容を面接時に伝えている。
  • 共通点5.新しいことに挑戦する姿勢を持っている。

共通点1.ビジョンを持っている。

ビジョンと書くと仰々しい感じになりますが、要は「企業としての夢」を持っていることです。この会社を将来どのようにしていきたいのか、そのために会社としてどのような方向性を示していくのか、社員をどう成長させるべきなのかなどの夢を持っていました。

もちろん、曖昧な部分も多いのですが、実際に求職者に話を聞くと、

  • 「会社の成長に役立てることが楽しい」
  • 「自分たちで会社を大きくできることにやりがいを感じる」
  • 「目標がはっきりとするので、足りない知識などが明確にわかる」

という前向きな意見が多く、そこに惹かれて会社に決めたという方もいました。

共通点2.社長自らが求職者に接触する努力をしている。

知り合い、社員の紹介、無料サイトへの掲載、有料サイトへの掲載、合同企業説明会、直接メールなど、あらゆる手段を使って、求職者に接触する機会を作っていました。採用の第一歩は求職者への接触です。ここがうまくいかないと採用は成功しません。社長自身が合同企業説明会に出席したり、直接メールを送ることで、求職者の反応も良くなってきます。

共通点3.社長自らが求職者を直接口説いている。

私の知っている企業では、社長が直接求職者と話して、工場見学や食事など、半ば無理やり話す時間を作って何度も口説いてました。社長が口説けば本気具合も伝わりますし、何より心に響きます。まさに、三顧の礼の通りで、社長の情熱が求職者の心を動かしていました。

共通点4.会社として期待している内容を伝えている。

口説くときに大切なことは「期待していることを伝える」ということです。ある社長は掲げているビジョンに対して、どのような役割を担って欲しいのかを丁寧に伝え、「本当に君に入ってほしい」と直接話していました。

求職者、特に転職者は「自分は会社から期待されていない」、「会社では自分の居場所はない」など、会社から求められていない感を感じています。そのため、求められている感を感じることで、「ここで働いてみたい」という期待がでてきます。

共通点5.新しいことに挑戦する姿勢を持っている。

これまでの事業とは違う、新しいことに挑戦していました。下請けメーカーではなく、自社ブランドを立ち上げたり、BtoBからBtoCにも手を伸ばしたりと積極的に動かれています。もちろんそれが成功するかどうかはこれからですが、バイタリティあふれる企業は求職者にも魅力的に映るのだと思います。

まとめ

採用の厳しい時代ですが、採用の姿勢や採用のやり方を変えることで、人は採れます。もちろん費用がかかることもありますが、その分早く人を入れられることは会社にとってプラスではないでしょうか。まずは採用を成功している企業の模倣からはいるのも良いかと思いますので、参考にしてみてください。

有給休暇制度の有効活用で働き方改革を実現しよう!

1.吉原精工の有給休暇制度の考え方

「従業員目線で経営を考える」という吉原会長。

実践した改革のひとつに「社員全員が、年に3回10連休をとれる」というものがあります。長期間の休暇を取得することで従業員は家族と過ごすことができたり、心身ともにリフレッシュができ、仕事の効率がさらに上がると吉原会長は言います。

吉原精工では、入社1年目から年間20日の有給休暇を設けています。その上で、会社側で14日分の有給をゴールデンウイーク、お盆、年末年始に割り振り、それぞれ10連休を作っています。法律では、最低5日間を従業員が取得できるようにしておけば何ら問題ありません。

ちなみに、法律では、入社後最初の有給休暇がもらえるには、

  1. 入社から半年間継続して働いた
  2. その間の全労働日の8割以上出勤した

という2つの要件を満たした者に、19日間付与されます。そうすると、吉原精工では法律以上に優遇した運用をしているということになります。

2.計画年休の実施

この「会社が有給を割り振る」というやり方を専門的に解説すると、「計画年休」という制度を取り入れているということになります。計画年休とは、有給休暇のうち5日を超える部分について、会社が有給休暇を強制的に付与できる制度です(労基法39条6項)。この制度は、年休取得率の向上のために導入された制度です。「誰も有給の取得なんてしていないのに自分だけ有給を下さいなんて言いにくい」と思っている従業員は全国に非常に多くいるはずです。

特に製造業や美容業界は、有給休暇を取得することはまだまだ当たり前になっていません。有給休暇の取得率がいまだに低い会社は、是非とも計画年休を検討して欲しいと思います。なお、計画年休の導入に当たっては、労働者の過半数で組織する労働組合、そのような労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表する者と書面による協定で、有給休暇の時季を定めることが必要です。

3.労基法改正~使用者に義務付け

さて、有給休暇に関して、新たなルールが追加されることになりました。

平成30年6月29日に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「改正法」といいます)で、年次有給休暇の時季指定義務というものが新設されることになりました。改正法は、労基法に基づき会社が与えなければならない有給休暇の日数が10日以上である者にについて、その有給休暇のうち5日間について、取得する時期を労働者ごとに会社が決めなさいと規定しています(改正労基法39条7項)。しかも、これは罰則付きの規定なので、会社としては対応が必須となります(労基法120条1号)。この制度の新設がなされた理由は、有給休暇取得率を向上させるという点にあります。

「会社が必ず5日間は有給を取得させなければならない」と聞いて、衝撃を受ける経営者の方は多いのですが、筆者としてはそこまで心配する必要はないのではないかと思います。その理由は、従業員から有給休暇の申請があり、実際に5日間取得させた場合や、先に述べた計画年休の実施により5日以上有給休暇を取得させている場合については、年次有給休暇の時季指定義務は会社にはないと定められているからです(改正労基法39条8項)。

以上、有給休暇制度をうまく活用して働き方改革を進めていきましょう。

特許出願の際に検討したい3つのこと ~差別化戦略の実行のために~

弊所は、中小企業200社以上の相談実績があります。これまでのお客様の相談内容を振り返りながら、特許出願の際に検討したいことについて述べたいと思います。

1.ある日の特許相談

先日の特許相談。

特許出願を検討されているお客様。特許出願を検討している背景として

  1. 研究成果による差別化
  2. 差別化の維持

があり、「差別化要素を保護するために特許を取りたいです!」とのことでした。

ここまでは、いつもの特許相談とほぼ同じなのですが、どこかスッキリしいない違和感を覚えていました。翌々考えてみると「なぜ、お客様が守りたいと言っている部分は、本当にお客様のビジネスにとって大切なものなのか?」という疑問が払拭できずにいたためです。そこを深堀りすべく、相談時間をいつもより長くとり、いろいろな質問を投げかけました。

すると、でてきました!

特許取得の背景の3番目(事情により非公開です)

その背景は、お客様の業界構造の特性等によるものです。条件が揃えば、こういう特許の使い方もあるのだと、感心します。

2.特許出願の目的は何?

特許出願を検討されている背景として

  1. 研究成果による差別化
  2. 差別化の維持

が相場です。

その背景には、事業における特許の活用が特許出願の前提であるのです。そうであるならば、単なる特許取得ではなく、

  1. その企業にとって事業基盤を保護できる特許
  2. その企業にとって事業に活用できる特許

が重要です。

そのために特許事務所としては「技術内容の把握」はもちろんなのですが、それだけでは足りません。どちらかというと、お客様の業界構造やビジネスモデルを把握した上で、「他社から守るべきはどこ?」を検討する必要があります。

しかし、そこは特許事務所だけが検討することはできず、弁理士とお客様が一緒になって検討することが重要なのだろう、と再認識しました。

3.特許活用のために、検討すべきこと

つまり、事業における特許の活用のためには

  1. 事業環境とビジネスモデル
  2. 保護すべき技術
  3. 法律

の検討が必要です。しかしながら、実際のところ、特許相談に来られるお客様のほとんどは、

  1. 保護すべき技術 を説明し、
  2. 法律 の見解を求める

といったケースが多いです。

しかし、特許の活用を考えると、

  1. 保護すべき技術

も当然ですが、

  1. 事業環境とビジネスモデル

も伺った上で、

  1. 法律の活用

についてコメントしなければ、折角取得した特許も、ビジネス上の実効性が乏しい特許に、つまり、活用しにくい特許になってしまう・・・

これでは、お客様と弁理士との双方にとって、アンハッピーな結果になってしまいます。折角の特許なのですから、自社の利益に結び付くような活用をしたいですよね。

4.まとめ ~特許出願の際に考えたい3つのこと~

1.事業環境とビジネスモデル

  • どのようなビジネスモデルを考えていますか?
  • なぜそのようなビジネスモデルを検討しているのでしょうか?

このプロセスを経て初めて、活用できる特許の道が開けます。冒頭のお客様のように、特有の事業環境が鍵を握っている場合もあります。

2.弱みとなる部分の検討

  • このビジネスモデルの強みはどこにありますか?
  • その強みは、模倣されやすいでしょうか?

模倣されやすい強みは、弱みになりやすいためです。

3.法律の活用

模倣による弱みを補うために法律を活用します。弱みの種類によっては特許でカバーできない場合もあります。そのため、当初の相談は、特許の内容であっても、意匠登録、商標登録や契約で対応することも珍しくありません。

皆様のご商売の参考になれば幸いです。

工場の熱中症対策2018

こんにちは、ものづくり経革広場の井上です。最近では温度調節ができている工場が増えてきましたが、暑い工場で働いている方もいらっしゃると思います。熱中症対策に使えそうなアイテムを調べましたのでご紹介します。(2015年に掲載したものから最新の物を追加しました。)

そもそも熱中症とは…

高温多湿な環境下で、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温調整機能がうまく働かないことにより、体内に熱がたまり、筋肉痛や大量の発汗、さらには吐き気や倦怠感などの症状が現れ、重症になると意識障害などが起こる症状のことです。就寝中など室内など炎天下でなくても発症します。

熱中症予防のポイント

  • 暑さを避けることが大事
  • 適度な水分(ミネラル)補給
  • 十分な睡眠
  • 丈夫なからだづくり

ハイテク技術を使った熱中症対策

この1~2年で急激に増えてきたのが空調服です。

「空調服」とは服に付いた小型ファンで、服の中に外気を取り入れ、体の表面に大量の風を流すことにより、汗を気化させて、涼しく快適に過ごすことができる製品です。小さい頃に風呂上がりに服の中に扇風機の風を入れて涼んだ人も多いと思いますがそのイメージです。

原理的には昔からあったものですが、技術進化によりより軽く、安価に、長時間の利用ができるようになってきています。工場現場などでの利用がメインですが、最近ではおしゃれなデザインや、スリム化されたものが増えてきているため、レジャー関連にも利用者が増えているようです。将来的には酷暑が続く中、温度管理に加えて紫外線対策にもなる為、全身を空調服で覆った状態で出歩くのが普通になるかもしれませんね。近未来のSF映画にあるような世界です。

IoT関連の熱中症対策

社員の健康管理も含めたサービスが近年増えつつあります。

心拍数を計る衣料品(クラボウ)

建設・運送作業者の健康状態を把握し、熱中症にかかるリスクを推定するサービスとして提供しています。専用シャツ「スマートフィット」には電気を通す繊維が使われており、心拍数をシャツに取りつけた小型の通信端末に伝えます。測定した温度などとともにクラウドへ集め、熱中症にかかるリスクを自動解析してくれるというものです。

リストバンドによるバイタルチェックサービス(KDDI)

「+バイタルセンシング」は、作業員が装着するリストバンドによって周囲の温湿度や作業員の脈拍などを測定し、作業員ごとに熱中症の危険度を推定します。危険と判断した場合は、作業員本人や現場作業責任者、作業管理者にアラートを通知します。「+転倒検知」は、作業員が装着するベルトによって加速度などを測定する。作業員が作業中に転倒・転落した場合は、アラートを通知します。

リストバンドによるバイタルチェックサービス(NTTPCコミュニケーションズ)

IoTデバイスのリストバンド型バイタルセンサーを利用し、装着した作業員の脈拍数と現在地の情報をスマートフォン経由でクラウドに送信します。管理者はこの情報を参照することで、各作業員の健康状態などをリアルタイムに把握することができるようになります。

その他 手軽にできる熱中症対策 4アイテム

①クール速乾タオル

100%冷感繊維材質というハイテク技術を用いたクールタオルで、ひんやり感が長時間持続します。

②ネッククーラー

2

価格:1000円未満

水を含ますだけで冷感が長時間持続するネッククーラー。繰り返し使えるのでエコで経済的!ちなみに、首の付け根には太い血管が通っていて、首筋周りを冷やすと効果的に体温を冷やすことが出来ます。

③携帯型(首かけ)扇風機 マイファンモバイル

1

価格:1000円未満

友人が持っているのを実際使ってみました。涼しいのでおすすめです。ただ、動く仕事だと、ひもがくるくるまわったりしたりして、ちょっと使いづらい印象です。じっとしてる仕事なら良いと思います。

④冷感ヘルメットインナー

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価格:2500円前後

上の2つに比べると少し値は張りますが、ヘルメットや帽子をかぶる必要のある現場が多い工場にはもってこいではないでしょうか?ちなみに、ゴルフの時に帽子の中に入れて使っている方もいらっしゃるようです。

水分(ミネラル)補給について

1.経口補水液

熱中症対策の基本中の基本となるのは、こまめな水分、塩分補給です。麦茶や冷水より、スポーツドリンクなら塩分・糖分を同時に摂取することができます。さらに効果的な水分の摂取方は、経口補水液です。脱水症状の際に水分だけではなく、電解質も多く失われてしまいます。これまでは点滴などで補給をしていましたが、経口補水液なら簡単に水分と電解質を補給することが可能です。どうやら売り切れの店舗が多いようです。

2.塩飴

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価格:200円前後

言わずと知れた塩飴です。効果のほどは検証できないのでわかりませんが、熱中症の原理的には塩分補給は重要と言われてます。ちなみに、塩飴を袋全部(2~3g)食べてもカップラーメン1個の塩分(5g程度)より少ないので安心してください。ただ、高血圧症の方はご注意下さい。また、食べ過ぎは糖分のとりすぎ、虫歯にご注意が必要です。

熱中症対策・健康管理は会社として

健康管理は個人に任せてしまうと、お金をかけるのを嫌ったり、自分は大丈夫と過信する社員さんが出てくる可能性があります。貴重な人材の急な欠員は仕事にも大きな影響を及ぼします。高齢化も進んでいく中、仕事中の健康管理も非常に重要なテーマになってきていると思います。皆様の会社での暑さ対策、オススメがあればぜひぜひ共有して頂けたらと思います。

それでは夏の後半戦

張り切っていきましょう!!

補足資料

一日の食塩摂取量について
★健康な成人の場合の一日の食塩摂取量:
男性 : 8.0g未満  女性 : 7.0g未満
(2015年4月からの厚生労働省推奨食塩摂取量の目標量)
★高血圧の治療を要する人:
6g以下  (高血圧治療ガイドライン2014年版より)

「退職勧奨」について

前回は「解雇」について取り上げました。

「A君は、同じミスを繰り返し、改善しようとしない。反省の態度も全く無く、不貞腐れて他の従業員にも迷惑がかかっている。」という社長が、A君に対して「解雇」という選択をした場合の問題点を指摘しました。

1、前回のまとめ

簡単に前回のポイントをまとめると、

  1. 解雇は裁判で争われた場合、会社が敗訴するケースの方が多いこと
  2. これとこれを行えば解雇は有効になるというようなチェックリストは存在しないこと
  3. 解雇を選択することで、「お金で解決できない」事態に陥る可能性があること
  4. 解雇を選択する場合は、事前に必ず労働法に詳しい弁護士に相談すること

の4つです。

しかし、そもそもこのようなリスクの高い「解雇」という選択肢は安易に選ばないことが賢明だと言えるでしょう。では、どのような手段が好ましいのでしょうか?結論から申し上げますと、「対話」を重視して下さい。コミュニケーションを尽くした上で、「合意による退職」を勧めることが穏当な手段です。前回と同様の下記の図の「合意退職」というゾーンです。これは、会社から一方的に通告する「解雇」とは異なるものです。詳しく見ていきましょう。

2、「退職勧奨」について

(1)退職勧奨の具体的な場面

退職勧奨とは、文字通り、使用者から従業員に対して「会社を辞めたらどうだ?」と退職を勧めることです。その際、使用者から従業員に対して、具体的にどのような点が問題であると思っているのかを説明することが必要です。おそらく、どの会社でもいきなり退職を勧めることはしないでしょう。今まで何度も注意指導してきたけれども、一向に改善されず、また改善する努力の形跡も見えないような場合に、最終手段として「退職してくれないか?」と勧めると思います。

なお、この「何度も注意指導してきた」というプロセスを証拠として残しておくことは非常に重要です。具体的には、注意指導書という書面という形で残す、もしくは、注意指導したことをメールで送信しておくといった方法です。(補足ですが、メールで注意指導を行う場合に、他の従業員にもCCで送信すると、場合によってはパワハラ等に該当するリスクがあるので控えましょう。)

退職を勧める、という行為は、あくまで使用者から従業員に対する「申入れ」に過ぎません。従業員の言い分も聞いた上で、最終的に従業員が納得するのであれば、合意退職が成立します。何度も書きますが、「合意退職」と「解雇」とは異なるものです。合意退職が成立する場合は、「退職合意書」という題名で、双方の合意により退職した証拠を残しておきましょう。この証拠を残していないことで、後日、解雇された、と争われることもあるからです。サンプルの書式を以下に掲載しますので、是非ご参考して下さい。

退職合意書書式.pdf

(2)退職勧奨

最後に、退職勧奨も無制限にできる訳ではないということも押さえておきましょう。具体的には、労働者が自発的な退職意思を形成するために、社会通念上相当と認められる程度をこえて、当該労働者に対して不当な心理的威迫を加えたりその名誉感情を不当に害する言辞を用いたりする退職勧奨は不法行為になります(日本アイ・ビー・エム事件―東京地判平成23年12月28日労経速2133号3頁)。

まとめ

退職勧奨の際に気を付けるべきポイントをまとめると、

  1. 労働者が明確に退職する意思の無いことを表明した場合には、新たな退職条件を提示するなどの事情がない限り、一旦退職勧奨を中断すること
  2. ことさら長期間あるいは多数回にわたる退職勧奨は避けること
  3. 労働者の名誉感情を害したり、対象者に精神的苦痛を与えるような行為・発言を差し控えること

の3点に注意して下さい(下関商業高校事件:最判昭和55年7月10日参照)。

中小企業にとって特許出願が必要な場合

弊所は、中小企業200社以上の相談実績があります。これまでのお客様の相談内容を振り返りながら、中小企業にとって特許出願が必要な場合について述べたいと思います。

1.他社による模倣防止

特許出願が必要な場合。すぐに思いつくのは、自社商品の模倣を防止したい場合です。売れる自社商品は、他社も関心をもっています。特に、その商品の利益率が高い場合は、なおのことです。このため、「売れそうだな」「売れる」と思った場合には、販売前に特許出願をする場合が多いです。特に、インターネットにて販売する場合には、その商品を多くの人が見るため、模倣されるリスクも高くなります。

しかし、特許出願が必要な場合はこれだけではありません。弊所のお客様の例を挙げて説明したいと思います。

2.協力会社からの要請

よくあるケースは、自社商品の販売(の一部)を他社に委託する場合です。委託先からみれば、「売れそうだな」と思った商品であれば、自社だけが独占して販売したいはずです。つまり、模倣品が出ては困るのです。そこで、委託先は、委託元(製造元)に特許を取るように打診します。仮に、委託元(製造元)が特許を出すことを渋った場合には、「特許を受ける権利」を製造元から譲り受けた上で委託先が単独で特許出願を出す場合もあります。

弊所のお客様の場合、販売委託先から「この商品については、貴社が特許を出さないのであれば、ぜひ、わが社で特許を出させてくれ」という打診がありました。しかし、「このまま、相手方に特許を出させてしまうと、この商品が売れた場の利益はあまり得られないだろう・・・」ということで、お客様の方で出願されました。

実は、このお客様。過去にも似た経験がありましたが、当時は、「そんなに売れそうにないだろう」ということで、相手の特許出願を無料で許可してしまいました(※)。その後、予想に反して、その商品が売れてしまい、事業のチャンスを逃してしまいました。

※なお、「相手方に特許出願を無料で認める」くらいあれば、「有料で売る」または「譲渡の代わりに、自社の実施権(ライセンス)を確保する」という交渉カードを出しても良いと思います。

別のお客様の例としては、海外進出の際、現地のパートナー企業から「現地で、特許を取ってほしい」「現地で、商標登録を取ってほしい」と要請されたことを受けて、特許権や商標権を取得したこともありました。

3.技術ブランドの向上

どんなに素晴らしい技術であっても、その技術が小さな企業や無名な企業のものの場合、その技術に対する信用はなかなか得られない場合も多いです。ところが、その技術について特許を取得しているとなると、その会社の技術の独自性について国が認めたということになります。このように、国の力を利用して、自社の技術ブランドを高めることもできます。

さらに、その発明品が他社との共同開発の場合には、共同開発の相手方の技術ブランドを利用して、自社の技術ブランドの向上を図ることもできます。共同開発の相手先としては、大学や大手企業が考えられますが、中小企業の場合には、大学の方が多いです。

4.中抜き(浮気)防止

取引先から試作の開発依頼が入り、納品しました。試作納品の後の、量産依頼を期待したものの、その発注は来なかった。しらべてみると、取引先が、別の会社に量産依頼を出してしまった、という話もよくききます。

このような行為を防ぐために、すなわち、レッドカードを出せるようにするためにどのようにすればよいでしょうか?

それは、自社の試作開発で得た技術に関し、予め特許出願を済ませておくことです。この特許出願に基づいて特許権が成立した場合には、取引先がその開発品を製造販売する行為は、特許権侵害となります。特許権侵害のペナルティとしては、製造や販売差し止めや、損害賠償といった民事上のものもあれば、刑事上のものもあります。また、「特許出願中」という表示により、権利が成立した場合のペナルティを利用して、取引先に対し牽制をかけることもできます。このようにして、取引先は、無断で、開発品の製造販売をしにくくなります。なお、開発の契約内容によっては、開発した技術について特許出願を自由にできない場合がありますので、専門家にご相談されたほうが良いと思います。

まとめ

中小企業にとって特許出願が必要な場合としては、以下の4点があることをお伝えしました。

  1. 他社による模倣防止
  2. 協力会社からの要請
  3. 技術ブランドの向上
  4. 中抜き防止

特許出願の目的として、典型的な模倣防止以外にも3点あることを覚えていただければと思います。皆様のご商売の参考になれば幸いです。

経営にも品質がある

ものづくりドットコムの熊坂です。

毎日強烈な暑さの中、先月の西日本豪雨で被災した製造業関係者は、復旧に全力を挙げていることと思います。当社からのささやかな支援として、通常有料で提供している非公開質問機能「ClosedQ&A」を、被災した製造業の方々に12月まで無料で提供しています。被災企業をご存知の方は是非この件を紹介して、早期復旧に活用してもらってください。

https://www.monodukuri.com/information/detail/145

さて毎回ひとつずつ紹介しているものづくりキーワード、今回は「経営の品質」を取り上げてみます。

経営の品質とは

経営の品質って何でしょう。良い経営と悪い経営があるのは何となく分かりますよね。利益をたくさん出すのが良い経営でしょうか?たとえ儲かっていても、倫理的問題で周りから非難を浴びている企業が、良い経営をしているとは言えません。

そもそも「品質」って何でしょう?品質管理用語を扱うJISのZ8101では、「品物またはサービスが、使用目的を満たしているかどうかを決定するための評価の対象となる固有の性質・性能の全体」と定義されています。ここでは「経営」は対象外です。しかし日本品質管理学会の定義は「製品・サービス・プロセス・システム・経営・組織風土など、関心の対象となるものが明示されたまたは暗黙のニーズを満たす程度」であり、経営にも品質があると明示されています。でも経営に関する「明示または暗黙のニーズ」は何なんでしょうか。利益?顧客満足?従業員満足?生産性?たくさんの要素がありそうです。

それら経営品質の要素を体系化したもののひとつが「日本経営品質賞」です。これは米国の「マルコムボルドリッジ賞」という経営品質の国家賞を参考に、財団法人社会経済生産性本部が1995年に創設したもので、図1のような理念を基盤としています。

図1.日本経営品質賞の基本理念

経営品質の評価指標

日本経営品質賞では、前述した経営品質の多面性を図2のようなフレームワークで定量評価します。すなわち仕組み系の6カテゴリーと結果系の1カテゴリーで、それぞれ重要度に応じて40点から400点が配点され、合計1000点満点になります。

図2.日本経営品質賞のフレームワーク

この配点に対して理想への充足度を審査員がパーセンテージで評価し、カテゴリーごとの優劣と合計点で経営の充実度を見るわけです。配点自体には色々な意見があるでしょうが、経営品質がこれら8カテゴリーの要素で構成されるという点は納得できると思います。

必ずしも外部からの審査員が良いわけではなく、社員グループで審査することが推奨されており、客観的に自社を見ることができるメリットがあります。また例えば採点が530点だったとして、その点数自体に一喜一憂するのではなく、どのカテゴリーが相対的に強み、弱みであり、効果的に理想に近づくために集中して強化すべき項目を検討するデータとするのが、本来の活用方法です。

歴代の受賞企業

当然ながら大企業はあらゆるリソースが豊富で、経営の仕組みも整っている場合が多く、中小企業が同じ基準で受賞するのは難しいと考えられます。そこで選定に際しては、大規模部門と中小規模部門とを分離しています。

過去の大規模部門では、NEC半導体事業部、アサヒビール、リコー、日本IBM、セイコーエプソン、カルソニックハリソン、富士ゼロックスなど、日本を代表する製造企業が受賞しており、2002年には私が在席していたパイオニアのモバイル部門も受賞しました。部門が違っていたため、受審活動に直接は関与していなかったものの、全社活動ではセルアセッサーとして活動して、確かな手ごたえを感じていました。

一方の中小規模部門の受賞企業は、ゴルフ場、飲食業、販社などのサービス系が多く、ものづくり系では吉田カバン(現:イビザ)など4社に留まっています。図1の基本理念が示すように、お客様第一の経営が重視されるため、必然的に接客業務が主体のサービス業が、受審に向けて全社で活動する例が多いようです。

そんな中では、徳島県でナットなどのファインパーツを冷間鍛造で製造する西精工が2013年に受賞しており、製造業界で際立つ存在になっています。同社の経営品質報告書は見たことがありませんが、ホームページを見てみると、若い社長を中心に顧客満足、社員満足、そして社会貢献と、日本経営品質賞の7カテゴリー全般に力強く取り組む姿勢が見えます。

実はこの賞の元になったマルコムボルドリッジ賞は、1980年代に日本製造業に惨敗した米国が、その原因を徹底的に調査した結果、日本の経営様式を参考にして図2のようなフレームワークとガイドラインを設計したものなのです。さらに時代を遡ると、日本が全組織的な経営を始めた起源の一端は、1950年代に来日して全国を回って丁寧に品質経営の重要性を説いたデミング博士にあります。米国人が日本に指導し、その結果を米国が参考として作った仕組みを日本が倣うという、非常に興味深い流れがここにあります。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、武田哲男さんが顧客満足経営の専門家です。不明の点や相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

石油に頼らない!タンパク質素材の時代が近づいている

ものづくり経革広場の井上です。今回は、個人的にとても気になっている「クモの糸」について紹介します。鋼鉄よりも強靭でナイロン以上の柔軟さを兼ね備えている夢の繊維「クモの糸」は世界中が注目しています。山形のベンチャー企業が世界で初めてクモ糸の量産化に成功したという発表があったのが5年前ですが、実用化に向けた取り組みが着々と進んでいるようです。「クモの糸」がどのようなもので、また、どのような活躍が期待されているか調べました。

何がすごい「クモの糸」

「クモの糸」を一言で表すなら、世界で最もタフな繊維です。軽さはF1などに利用されるカーボンファイバーの4割軽く、強度は鋼鉄の4倍、伸縮性はナイロンを上回り、耐熱性は300度を超えます。例えば直径1cmのクモの巣を張れば、飛んでいるジャンボジェットを捕獲できるぐらいの強度だそうです。あらゆる産業に応用可能な素材であり、革新性を挙げればキリがありません。しかし、「クモの糸」を実用化するには課題がありました。

量産・実用化への長年の課題

クモの糸の過程

クモ糸の人工合成は、遺伝子情報の解読が始まった1990年頃から、世界中で研究が進められたそうです。米軍が軍事用に実用化の研究に取り組んだのを始めに、ドイツ、イスラエル、スウェーデン、ロシア、中国、韓国などでも研究が進められたそうですが、2013年頃まで量産化も実用化もできていませんでした。それには2つの問題がありました。

生産コストの問題

クモは縄張り争いや共食いが激しく、蚕のように人工飼育できません。世界の研究者は、遺伝子工学を駆使し、宿主となる生物にクモ糸のタンパク質を作る遺伝子を組み込み、大量に生産させる方法を模索しました。これまで色々な生物でテストが行われたそうですが、いずれの方法も生産コストが高すぎ、生産効率も悪く実用化できていませんでした。 色々な生物の中で微生物を使うことが最も効率的だと考えられていましたが、ここにも大きな問題がありました。クモ糸のように、巨大で複雑な分子構造をもつタンパク質を、微生物に効率よく作らせることは非常に困難だったのです。微量のタンパク質を確保するにも、何億という単位のコストがかかると言われていました。

安全性の問題

繊維を作るためには、微生物から分離・精製したタンパク質を一度溶かし、紡糸する必要があります。しかし、クモの糸のタンパク質は、非常に溶けにくいという問題がありました。唯一溶かせて加工できると言われていたのが、フッ素系の溶媒のHFIPや、HFAcでしたが、人体や自然環境に対して非常に強い毒性をもち、しかもコストが高いため量産には向いていませんでした。

イノベーションにより量産技術を確立

微生物による量産技術の確立

クモの糸でできたドレス
http://www.japanfashion.or.jp/creation/wp-content/uploads/sites/7/2016/04/Spiber.pdf

そのような課題を乗り越えて世界で初めて人工クモ糸繊維の量産基盤技術を確立したのが日本のベンチャー企業 Spiber株式会社(山形県鶴岡市)です。 単純な微生物にもクモ糸のたんぱく質が作れるよう、合成した遺伝子をバクテリアに組み込んで培養し、たんぱく質を生成しています。また、課題であった安全性に関してもクリアした紡績技術を確立し、合成クモ糸の量産を可能にしました。この技術は5年ほど前には確立され、今では他国でも技術が確立され、クモの糸の実用化競争がスタートしています。調べた限りでは下記の2社がありました。

①カリフォルニアのベンチャー企業ボルト・スレッズ
2015年頃 発表し最近までで2億ドルほどの資金調達に成功しています。
https://www.wwdjapan.com/528756

②米国のクレイグ・バイオクラフト
2016年にクモ糸繊維の生産をベトナムで開始したと発表しています。
https://www.digima-news.com/20160318_4216

さらに超える技術

その他にも去年、理化学研究所で、「化学的手法でクモの糸を創る」という発表がありました。クモ糸タンパク質の構造を模倣したポリペプチドの合成する手法で、微生物法よりもより効率的に量産が可能と発表しています。
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170119_1/

今後の可能性

投入されている金額の大きさからも、クモの糸は様々な利用用途が期待される、未来の素材ということがわかります。 個人的に2つの可能性に注目しています。

①「現代の石油由来の素材時代から、タンパク質素材の時代に変化する可能性」

微生物に異物のタンパク質を作らせる技術は、クモの糸に限らず転用できる可能性があるのだと思います。今は、クモの糸という代替できない超高性能素材のため優先して生産されていますが、微生物による量産技術がさらに発展すればコスト低減により従来の材料の代替品としての利用が期待できると思います。例えば、シロアリの顎はタンパク質と金属の複合素材のようなものでできていて、チタン合金と同じくらいの硬度があるそうです。天然資源に頼っている以上、限りあるものであり、また、供給元との力関係により値段が大きく変動します。もし、将来、無限に安定供給できる資源を確保することができれば、産業構造は大きく変わると思います。材料自体を自社工場(微生物培養)で作ることも可能になるかも知れません。

②「ぶつかっても人が怪我をしないクルマ」

トヨタ Kinetic Seat Concept
https://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/13490539

2012年からSpiderとトヨタ自動車の協力企業で樹脂部品などを製造する自動車部品メーカーの小島プレス工業が共同で研究開発しているテーマです。「クモの糸は」本来は相反する特徴の「強さ」と「伸び」を併せ持つ素材のため、クルマの構造部材にに利用すれば「ぶつかっても怪我をしない車」ができるのではというアイディアです。これが本当に実現すれば事故で悲しむ人を減らせるようになる素晴らしい技術だと思います。

まとめ

クモの糸というと、現代の工業製品には関係ないと思うかも知れませんが、GFRPやガラス入り樹脂等の高機能樹脂の需要が高まっていることを考えれば、それに代わる材料として、タンパク質由来の材料が台頭してくる可能性は充分あると思います。自動車部品としての代替の研究も進んでいることから、近い将来、クモの糸配合の材料を加工する日が来るかも知れません。今後も注目し、動向を追っていきたいと思います。

超人材不足時代を乗り切る!無料で掲載できる採用媒体特集

時代は超人材不足時代へ突入

ものづくり経革広場の徳山です。先日、国会で「働き方改革法案」が成立しました。人口が減少している日本にとって、人材不足は一時的な問題でなくこの先永遠に続いていく問題であると行政も考えており、労働生産性の向上が喫緊の課題だと認識しています。

いま中小製造業にとって死活問題となりつつあるこの超人材不足問題ですが、現況が改善されることを待つのではなく、打てる手は早い段階で打っていきたいものです。そこで、今回は打てる手の一つとして、無料で掲載可能な採用媒体のご紹介をさせていただきます。

大手人材会社が続々と無料掲載可能なサイトを開設

「リクナビダイレクト」というサイトをご存知でしょうか?「リクナビ」を知っていても、こちらのサイトは知らない方が多いと思います。中小規模の求人サイトで無料掲載が可能なものはいくつもありましたが、最近はリクルートと同様にエン・ジャパンやビズリーチといった大手人材会社も無料サイトの運営を始めています。この超人材不足時代で採用コストにお金をかけられない中小企業にとって活用しない手はないのではないでしょうか。

大手人材会社が無料サイトを運営する理由

しかし、リクルートはリクナビという確立された有料人材サイトが有りながら、なぜ無料サイトに手を出すのでしょうか?理由はいくつか考えられます。

新しい時代のビジネスモデルに備えて

インターネットビジネスはアクセスさえ集められれば、広告収益や有料オプションによる収益を稼ぐことができます。あらゆる分野のWebサービスが無料化に向かっており、当然無料である方が多くのユーザ獲得に繋がります。大手人材会社も現在は稼ぎ頭となっている掲載料獲得型のビジネスから、新時代のビジネスモデルの可能性を模索していると考えられます。

見込み顧客の開拓

有料掲載型のモデルでは獲得が難しかった中小企業の顧客を、中小企業向けブランドであることを全面に押し出しさらに無料にすることで獲得し、将来的に有料掲載してもらうための見込み顧客として開拓したいと考えています(もしくは別商材のアップセル)。また、最初は完全無料にすることで沢山のユーザを集め、将来的に有料化する可能性も考えられます。

無料で掲載が可能な採用媒体のご紹介

前置きが長くなってしまいましたが、無料で掲載可能な採用媒体(大手人材会社が運営するものに限定)をご紹介したいと思います。

Indeed

最近TVCMでお馴染みですよね。Indeedは求人サイトというよりは求人情報をまとめて集めてくれる求人特化型の検索エンジンです。自社サイトの求人ページを作成してIndeedに読み込ませるか、Indeed内に直接求人情報を作成すれば掲載が可能となります。

リクナビダイレクト(リクルート)

人材不足に苦しむ中小企業のために「中小企業と若者の出会いの機会」をもっと増やしたい、という名目で運営しているようです。主に新卒をターゲットにした求人サイトのようなので、ベテランでなく若者を確保したい中小企業は活用できそうです。

エンゲージ(エン・ジャパン)

こちらは転職者をターゲットにした求人サイトです。無料で求人掲載だけでなくスカウトや応募メッセージまでできるようです。画一的な情報ページと違い、しっかりとした採用サイトが作り込めることが特徴のようです。

スタンバイ(ビズリーチ)

大手人材会社で初めて無料の求人サイトを始めたのがビズリーチだったと記憶しております。均衡を破り無料モデルの潮流を作った会社ではないでしょうか。各自治体や、信用金庫と提携して特集をよくやっているので、特集の中に入れ込んでもらえることも多そうです。

待っていてもしょうがないのでとにかく網を張りまくるしかない

有料の求人サイトに掲載しても人材が採れないと言われている中で、ご紹介したような無料サイトに掲載して効果があるのか?とお考えの方もいるかも知れませんが、無料ですしまずは試してみてはいかがでしょうか。

私のお客様であらゆる無料サイトを利用して網を張りまくった結果、人材採用につなげた方もいらっしゃいます。会社も都心から離れかなり地理的には不利なお客様でしたが、全国から応募があったようで、その効果に驚いていらっしゃいました。今は待っていても何も始まらない時代なので、ダメ元で利用してみてはいかがでしょうか。

「労働契約の終了」について

1、「労働契約の終了」には種類があることをご存じですか?

前回の連載では、固定残業制の誤用例を学びました。今回のテーマは「労働契約の終了」です。なぜこの場面を取り扱うのか、と言うと、労働トラブルに発展することが多いからです。毎度おなじみ『町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由』(ポプラ社)の中でも、原会長が古参の従業員に会社を辞めてもらう際、苦悩したシーンが描かれています。

会社の理念に合致しない従業員がいた場合、「他の従業員の士気を下げる人には会社を辞めて欲しい」と考える経営者は数多くいます。しかし、誤った対応をしてしまい、辞めた(辞めさせた)従業員から訴えられ、多額の損失を被る会社が多くあります。今回の連載では、「労働契約の終了」という場面に関する基本的知識をお伝えします。

簡単に労働契約の終了の場面をまとめました。

労働契約の終了には、大きく分けて「解雇」と「退職」の2種類があります。

【図:労働契約の終了】

2、「解雇」とは何か?

「A君は、同じミスを繰り返し、改善しようとしない。反省の態度も全く無く、不貞腐れて他の従業員にも迷惑がかかっている。A君に『君は明日から会社に来なくても良い。』と告げた。」このように、会社側から一方的に労働契約の解約を告げることを「解雇」と言います。この「解雇」ですが、後日その有効性を従業員から争われると、多くの会社は敗訴します。

その理由は、「解雇権濫用法理」(労働契約法第16条)にあります。

つまり、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして解雇は無効になるのです。裁判では、①と②に当てはまる事実について会社側が主張立証する責任を負っており、これが大変な作業になります。

3、「解雇」が無効と判断されるリスク~「お金で解決できないことがある」~

最大のリスクは、辞めさせた従業員が会社に戻ってくる、ということです。そんな馬鹿な、と思われるかもしれませんが、裁判において解雇無効を争ってくる場合、従業員の訴えは「従業員としての地位が会社にあることの確認」という形を取ります。

要するに、会社が敗訴した場合、解雇した時点から、ずっと従業員はその会社に在籍していたということになるのです。

例えば、Bさん(月額30万円の給料)が平成30年8月1日に会社から解雇されたとします。その後、Bさんは会社を訴え、平成31年7月31日に解雇は不当だという判決が出ました。そうすると、会社は、平成30年8月1日から平成31年7月31日までの12か月分の給料合計360万円を支払うことに加えて、Bさんを再び元の職場で働かせなければならないのです。

現在、日本の法制度では、解雇について金銭的に解決する制度はまだ存在しません。

「お金を払ってでもこの従業員を辞めさせたい」と思っていても、解雇という方法を取った場合、「お金で解決できない」事態に陥る危険性があるのです。

4、それでも「解雇」を選択するのであれば・・

それでも「解雇」とい手段を選択するのであれば、「解雇」に至るプロセスを重んじる必要があります。ポイントは、会社が従業員に対して、いかなる注意指導を積み重ねてきたのか、という記録です。そして、「解雇」という最終手段を取るまでの間、会社がその従業員の能力に応じた仕事を与える努力をしたのか、という点もポイントになります。

これとこれをすれば「解雇」は有効になる、といったチェックリストは存在しません。

「解雇」を選択するのであれば、その前に必ず、「労働法に詳しい弁護士」に相談するようにして下さい。

製造業向け補助金などの整理と申請

ものづくりドットコムの熊坂です。

ものづくり助成金の採択結果が6月29日に発表されました。例年の採択率は4割程度で推移してきましたが今回は予算が潤沢だったことと、最大金額が1000万円で割り増しが少なかったことから、採択率55%と比較的緩やかな結果となりました。また近日中に今年度分の募集が始まるようですので、新製品、新技術の開発を予定している企業は、今のうちから準備しておくと良いでしょう。

さて毎回ひとつずつ紹介しているものづくりキーワード、今回はその「補助金」を取り上げてみます。

製造業が対象となる補助金

製造業は設備が必要であるため、情報産業に比べると参入障壁が高いと言えます。言葉を代えると、競争力を維持するためには一定の設備投資を継続する必要があります。平時の生産活動の中で投資資金を積み上げるのが本来ではありますが、場合によっては内部留保以上の投資が必要になる場合があります。

そんな時に補助金はありがたいものです。ものづくり補助金以外にも製造業が対象となる補助金は複数あり、所轄省庁がそれぞれ独自に実施するため、全貌を把握するのが容易ではありません。私が知る限り製造業が対象となりそうなものを表1にまとめてみました。

表1.補助金一覧

ものづくり補助金の特徴と活用

補助金は大企業向け、中小向け、研究寄り、現場寄り、採択率の高低や、応募の条件など様々ですから、自社の状況に照らし合わせて、詳細を調べた上で、応募に臨む必要があります。

表1の各種補助金の中で、ものづくり補助金には次のような特徴があります。

1.設備投資に適度な補助金額1,000万円

中小製造業が購入する設備は数百万円から2~3,000万円のものが多いようです。3分の2補助で1000万円の補助は、多くのプロジェクトに使いやすいでしょう。,

2.予算総額1,000億円、採択率約50%

約10,000社が採択されるということですから、補助金額と併せて考えると手間をかける意義があると考えられます。

3.単年度実施

年度内に設備を検収する必要がありますが、このところの生産設備、部品のひっ迫で納期が間に合わないことが懸念され、その場合は補助金が支払われないと言われています。

4.実施時の修正が煩わしい

不正を防ぐために仕方がないのですが、採択時に計画した設備を変更するのは大分手間取るようです。綿密に計画しましょう。

補助金申請書作成の留意点

折角申請するなら一発で採択されたいものです。条件さえ整えば必ずもらえる厚労省管轄の助成金と違い、各種補助金は申請者全てが採択されるわけではなく、予算によって採択数は決まっています。一方で申請する全社が採択されたいと思っており、どこかは不採用になりますから、申請全体の上位半分ほどに入る必要があり、そのためにはひとえに申請書に何をどう書くかにかかってきます。留意点をいくつか挙げてみます。

1.提出書類の完備

書類が1点でも不足すると審査してもらえません。書類不備という連絡すらない場合がほとんどです。くれぐれも全書類が揃っていることを確認して提出しましょう。

2.要件への適合

補助金は政府の方針を実現する為に実行されます。ということはその方針実現に役立つ申請が採択されると考えられます。たとえば先月採択が発表されたものづくり補助金の場合は「生産性向上に資する設備投資などを支援する」とあり、「3~5年で付加価値額年率3%および経常利益年率1%の向上を達成できる計画」であることが求められていますから、単なる設備更新ではなく、これらの実現が十分に期待できる内容にする必要があります。

3.加点への考慮

申請要綱にはこうすればポイントが加算されますよ、という項目が明示されています。前回のものづくり補助金でいえば以下の5点です。

  1. 先端設備等導入計画の認定企業
  2. 経営革新計画などの承認取得企業
  3. 総賃金の1%賃上げ等に取り組む企業
  4. 小規模企業
  5. 九州北部豪雨の被災企業

4,5は努力のしようがありませんが、他の3件はやればできる内容です。2は申請中でも加点対象ですから、補助金申請と同時に申請しましょう。

4.必要かつ十分な情報量

審査員は1件当たり15分程度で点数を決めるといわれます。要件に合っていることを短時間に判断してもらうためには、その分野の素人である審査員が容易に分かる文章で、十分な情報を提供する必要があります。かといってページ数が多すぎては読み切れません。適度な内容と分量に心がける必要があります。

初回は事業計画やら書類の整備が大変ですが、不採用になった場合の再挑戦や、別の制度に応募する時は初回の書類が利用できるため、何度もやっていると楽になってきます。補助金如何に寄らず、事業計画は健全な経営活動に有効なので、こういった外力を利用して設計するのも良いかもしれません。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、秋元英郎さんが樹脂成形分野を中心に補助金申請支援がお得意です。不明の点や相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。

【製造業】ブランド力が売上に直結する理由

今回はUSJを復活させたマーケター(森岡氏)の著書である「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」を参考しにして、製造業のブランド力向上について考えてみました。BtoBもBtoCも根本的な考えは同じだと思いますので、参考にしてみてください。

1.製造業がブランド力を上げる最大のメリット

ブランド力を上げる最大のメリットは「利益」の増加にあります。ブランド力を上げていくことで、

  1. ほしい仕事の問い合わせが来るようになる。
  2. 問い合わせが増加し、利益率の良い仕事を選べるようになる。
  3. 結果として、利益が増加する。

という流れができてくるようになります。これは感覚的な話ではなく、統計的に算出することがほぼ可能であると森岡氏は断言しています。森岡氏曰く、企業の利益はの3つのパラメーター、

  1. 認知率:どれだけ知られているか
  2. 配荷率:どれだけ手に入れやすいか
  3. プレファレンス:ブランド価値、製品パフォーマンス、価格の3つで決まるブランドに対する相対的な好意度

で支配されています。

特に大切なパラメーター「プレファレンス」であり、プレファレンスこそがブランド力になります。ちなみに、ブランド価値はブランドがすでに持っている価値であり、ブランド力を構成する一つの要素になります。

プレファレンスを伸ばすことで消費者から選ばれる確率が高まり、利益が向上します。

2.プレファレンスが重要な理由は?

消費者は商品を購入の際に、頭の中にある購入候補の中から商品を選択する傾向が強くなります。この候補のことをマーケティング用語で「エボークト・セット」といいます。つまり、購入されるためには消費者のエボークト・セットに入る必要があるのです。エボークト・セットは3〜5個あり、その中でも好みの差により、選ばれる確率が変わってきます。

その確率を決める大要素が「プレファレンス」になります。

プレファレンスを上げることで、エボークト・セットに入ることができ、さらにその中でも上位の位置を獲得することで購入回数が増えます。これをBtoBに置き換えると、発注側が図面を見て、それ加工できる企業を何社か思い浮かべ、その中から発注先を決める流れになります。要は、プレファレンスを上げることに経営資源を注力していけば、自ずと問い合わせが増えていくというわけです。

3.プレファレンスを増加させるためできること

では、実際にプレファレンスを上げる方法についてです。プレファレンスは消費者のブランドに対する相対的な好意度で、簡単に言えば好きか嫌いかです。BtoCでは

  • ブランド価値
  • 製品パフォーマンス
  • 価格

で決まります。ただし、製造業のようなBtoBでは、発注側の指定した製品を作ることは当たり前ですので、プレファレンスは

  • ブランド価値
  • 企業パフォーマンス
  • 価格

に置き換えられます。では、それぞれについて確認していきます。

・ブランド価値

ブランド価値はプレファレンスを高める上で重要な指標ですが、そもそもブランド価値を持っている企業は少ないため、あまり気にする必要はありません。

・企業パフォーマンス

企業パフォーマンスはプレファレンスを上げるために、自社で努力できる内容として最も重要な要素になります。図面通りのものを作ることが当たり前の世界ですので、他社と差別化するためには企業パフォーマンスを高めるしかありません。例えば、短納期、安心できる品質管理、不具合発生時の迅速な対応などです。BtoBでも、結局は人対人になるため、人情味のある対応は発注者側の心に残るわけです。

・価格

価格を下げればプレファレンスは上がります。だた単に価格を下げると利益も減ってしまうため、価格を下げると同時に効率良く加工できる体制づくりが必要になります。価格を決めるのは発注側なので、価格を上げられるだけの企業パフォーマンスを実感してもらうことも大切です。

4.認知率と配荷率について

これまでプレファレンスの説明をしてきましたが、それ以外にも認知率、配荷率を上げることも大切です。認知は展示会、web広告、雑誌掲載、セミナー、FAX、メールなど、費用をかけることで制御可能です。配荷は送料、輸送時間などの問題もあり、自社のみで制御することは難しい要素になります。

まとめ

利益を上げるためには、プレファレンスを上げるための努力をすることが一番大切です。その中でも企業パフォーマンスを上げること、加工時間の短縮で価格を下げることが、利益を出すための近道です。さらに興味のある方はぜひ森岡氏の「確率思考の戦略論」を読んで見てください。

意外と多い固定残業制の誤用

3回目の連載では、固定残業制についての説明をしました。

その使い方を一歩間違えてしまうと、①残業代を1時間分も支払っていないこととなるばかりか、②残業代計算の基礎となる時給単価が極端に跳ね上がるというダブルパンチを喰らうことになるとの警笛も鳴らしています。

では、具体的にどのような使い方が正しいのでしょうか。

結論から申し上げます。固定残業制に関する最高裁判例の概要は以下のとおりです。

「基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意され、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合のみ、その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部又は全部とすることができるものと解すべき」(最判昭和63年7月14日労判523号6頁)

一読では理解が難しいと思いますので噛み砕いて説明します。要するに、固定残業制として有効だと認められるためには、

  1. 明確区分性
  2. 清算の合意

の2つが要件として必要だということです。

具体例で紹介しましょう。

第3回目の連載で取り上げたAさんの給与体系を元に説明します。

Aさん
月給:30万円(月の所定労働時間173.8時間)
残業:毎月50時間程度
固定残業制導入前 基本給30万円業代10万8375円=40万8375円

これが通常の給与体系に基づいた給与計算方法です。

経営者が「こんなにも長時間労働が生じている状態は良くない。労働時間を短くして、なおかつ賃金が変わらないようにしよう。」と決意し、残業時間が仮にゼロになったとしても給料総額を変えない規定にしました。その規定が以下のとおりです。

Aさんの月給を41万円とする。
ただし、この給料の中に残業代は含まれているものとする。

仮に固定残業制を導入している経営者がこの記事を読まれていて、「うちの会社も同じような規定になっているな」と感じられたら要注意です。これがまさにダブルパンチを喰らう典型例です。私は過去に何度もこのような「粗い」規定を目の当たりにしました。

この規定は、Aさんからすると、自分の基本給が一体いくらなのか、残業代として支払われている金額は一体いくらなのか、が全く理解できない規定になっています。要するに、先ほどの判例の1.明確区分性を満たしていません。したがって、固定残業制として有効なものとは認められません。

その結果、どのようなことが起きるのか。

仮に、この規定を導入後、残業ゼロに移行するまでの間、1年間、平均して毎月30時間の残業が発生していたとしましょう。固定残業制が認められない結果、何と、残業代の計算としては、Aさんの基本給は総額41万円を基準として計算することになるのです。

<固定残業制が認められない結果>

Aさんの月給は41万円とみなされ、基礎時給金額=41万円÷173.8=2359円となる。

<1年分の残業代はどうなるか>

時給2359円×1.25×月当たりの残業時間30時間×12か月=106万1550円

以上のとおり、何と、1年分の残業代として106万1550円が未払いとして扱われてしまうという結果になります。実際にこのような計算方法により会社が何百万円という残業代を請求されるケースが後を絶ちません。

少なくとも規定としては、以下のようにすべきです。

Aさんの月給を30万円とし、固定残業代として11万円支給する。11万円は50時間の残業時間に相当する。
Aさんが50時間を超えて労働した場合は、50時間を超えた分の残業代を別途支給する

固定残業制を導入している企業は今一度自社の規定を見直しましょう。

「企業理念」そりゃああった方がいいよ

ものづくりドットコムの熊坂です。

5月25日に名古屋で開催された日本経営工学会春季大会で、学会特別賞(経営工学実践賞)をいただきました。

一応学会員なのですが、さして華々しい活躍をしているわけでもないので大変驚きましたが、よくよく考えてみれば、ものづくりドットコムや経革広場などで、こうやって経営工学的な話題を発信することで、結果的に学会の認知を高めており、ありがたくいただくことにしました。

さて毎回ひとつずつ紹介しているものづくりキーワード、今回は「企業理念」を取り上げます。

企業理念の重要性

製造業に限定するわけではありませんが、組織が大きくなるに従い、社員の意思を統一することが難しくなってきます。単に生活の為に給料をもらえば良いという人、将来の夢に向かってキャリアを積もうとする人、企業内で実績を積んで組織を引っ張ろうとする人など、また企業に貢献するとしても、売り上げ重視、顧客重視、技術重視など、どれが間違いというわけでもありませんが、バラバラの考えでは、企業全体の能力は最大に発揮できません。

理想的には図1に示すように、企業理念が頂にあり、それを少し具体化(Visualize)したビジョンがあり、それを実行するために社員が取るべき行動指針があり、ビジョンを実現するための中期的な戦略があって、初めて日々の実務計画が設定されるべきです。

図1.方針展開のピラミッド

大きな企業であれば企業の中に複数の事業がありますから、事業ごとの戦略を設定したり、技術部、生産部、知財部といった機能毎の戦略を策定する場合もあるでしょう。

個人毎の考えに違いがあるにしても、こうやって設定された実行計画に沿って日々の仕事を遂行していれば、大枠では社員全員が同じ方向に進んでいくこととなり、大きな力を発揮することができるわけです。

企業理念の要件

J.コリンズの「ビジョナリーカンパニー」には、調査した長寿命優良企業は、設立当初からしっかりした理念があったという記述があります。企業理念に含まれるべき要件を図2に示します。

図2.企業理念の要件

第1は「自社の存在意義」です。会社を設立する時には、組織での活動内容をある程度イメージしているはずで、それを社会に対する視点で記述します。企業の維持、成長には外部と従業員の協力が不可欠です。社会に対する立場を明確にすることで、協力者が現れ、従業員の気持ちをまとめることができます。

第2は「自社の経営方針」です。第1項で宣言した意義を提供する方法とも言えます。大事にすべき考え、想いを端的に記述します。

第3は「社員の行動規範」です。日常の業務を遂行するにあたり、すべきこと、避けるべきこと、その考え方を規定します。

以上3つが必ず含まれるとは限りませんが、これらを意識して真に有効な理念を設定しましょう。

企業ミッションの設定

前項の「当社の存在意義」は。まさに企業価値の根幹です。これを考える3つの観点を図3に示します。

図3.企業ミッションの設定要件

一つ目はA:経営者と従業員が「情熱を持って取り組める」ものです。どんなに利益が得られようとも、嫌いな事業には限界があります。ましてや事業は想定外な障害の連続です。大きな困難が現れた時に、好きなことであれば頑張れますが、そうでなければ力が出ません。長く続けるには情熱が要るのです。

二つ目はB:「世界一になれる」ものです。事業には必ず競合がいます。いくら好きであっても、競合の方が自社より上手い場合は、なかなか思うような経営ができません。地域限定、製品のサブカテゴリ―など何でも良いので一番になれる領域で勝負することが重要です。

三つ目はC:「経済的原動力」になれるものです。いくらA好きでB得意であっても、それによって収益が得られなければ、それは趣味であって仕事とは言えません。事業費用に見合う収益を獲得できる目途が必要です。

事業を永続するためには、以上3つの条件を満たすところに企業価値を設定する必要がありますが、中でも重要なのはAではないでしょうか。「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、自ら情熱を持って取り組めば、上達も早く、そうなれば協力者や、その価値にお金を払ってくれる人も現れるというものです。

企業理念は、会社を設立する時に必ず初めに用意すべきものでしょうか?それに越したことはないのですが、必ずしもそうはいかない場合もあるでしょう。また、運営しているうちに修正が必要になる場合もあるでしょう。頻繁に換えるのはいけませんが、時代の要請で本当に変更が必要な場合、数十年に一度変わることはあって良いように思います。是非これを機会に、皆さんの企業理念を再認識してみて下さい。

どうでしょう、参考になりましたか?ものづくりドットコムでは、平本靖夫さんが理念経営分野の専門家です。不明の点や相談はQ&Aコーナーや問い合わせフォームで質問してください。