進化していくインクジェット技術。布、食品、電池も印刷可能に。

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。

今回は進化していくインクジェット技術についてです。

好きな形に充電池が作れるようになるインクジェット技術

イタリア人のボルタが、銅と亜鉛を電解液に浸けて電気を発生させる「ボルタ電池」を発明したのが1800年。フランス人のプランテにより鉛蓄電池が発明されたのが1859年。それから160年ほど経った現代では、インクジェット方式により、印刷するような感覚で自由な形に蓄電池が製造できるようになってきました。

株式会社リコー ニュースリリース
世界初、インクジェット技術による二次電池の新たな製造技術を開発
~IoTデバイスやウェアラブルデバイス向けに、自由な形状で電池を製造することが可能に~

この技術では、リチウムイオン二次電池を構成する電極、セパレーターの材料となる、カーボン、セラミック、絶縁材などをインク化。これをインクジェットヘッドから吐出することで、紙に印刷するように自由な形でリチュウムイオン電池が製造できます。

電気で動く物には、当然何らかの電力供給源が必要となります。電池を使う場合、既製品ではサイズや容量も決まっているので、製品もそれに合わせて設計することになります。より小型化、薄型化したいとなると、電池も専用の物を設計しなくてはなりません。例えば、最近ではスマートフォンで写真を撮影するようになったので、小型のデジタルカメラが減ってきましたが、以前はカメラを買い替える度にバッテリーも専用の物に買い替えなくてはいけないということがよくありました。その結果、新しい機種では使うことができない、似たような形の専用バッテリーが増えていくということが起こります。小型、薄型装置の設計において、電源は大きな問題の1つです。

IoTやウェアラブルデバイスが増えている今、このインクジェット方式による二次電池の製造技術があれば、電池に装置を合わせるのではなく、装置に電池を合わせて作る事がより簡単になります。しかも、デジタル印刷なので、何か小さな変更があっても直ぐに対応可能。複雑な形状も容易にできるので、設計の自由度が上がります。実用化については、配線なども含めた全体を印刷できるようにするなど、課題がまだあるようですが、今後注目の技術といえます。

この技術が実用化され、いつの日か個人でも使えるレベルまでになったとしたら、3Dプリンターと合わせて使うことで、バッテリー内蔵型の小型デバイスが家庭でも1個から作れるようになります。家庭でとまでいかなくても、プリントサービスで利用可能になれば、中小製造業、ハードウェアのスタートアップ企業にとっては、チャレンジできる領域が広がるのは間違いありません。早い実用化と普及が望まれます。

布や食品にもインクジェットでプリントができるように

インクジェット方式のプリンターは、オフセット印刷のような版下を使わずに印刷ができて、レーザープリンターなどと比べて構造が単純です。90年代頃から安価な普及タイプのインクジェットプリンターが多く出回り、今ではコピー機能も搭載したインクジェットプリンターが一般家庭でも使用されています。

紙に印刷するだけだったインクジェット印刷も、インクやヘッドが年々改良され、今では色々な方面で使用されています。例えばこちらのTシャツなどの衣類に直接印刷できるプリンター。

株式会社リコー ガーメントプリンター

布へ何かを印刷すると言う場合、印刷したい形状に穴が開けられた版を布に当ててインクをつけるといった方法が、従来は行われていました。年配の方なら、年賀状を家庭で大量に印刷する時に使っていたプリント機をご存じかと思いますが、あれと同じ方法です。版を作る必要があるので、一文字変えるだけでも新しく版を作りなおす必要があり、フルカラーでの印刷というのもできませんでした。このプリンターがあれば、絵でも写真でも簡単に布へ印刷ができます。少量多品種への対応も簡単です。 近年では、粘性の高いUVインクを用いた製品ラベルの印刷にも、インクジェット方式のプリンターが使用されるようになってきました。オリジナルTシャツ、オリジナルラベルといった需要に、即座に対応できるようになっています。

さらに、最近では可食インクを使う事で、食べ物に直接プリントすることもできます。

株式会社サンリュウ フードプリンタ

食べ物にプリントする場合は、単純にインクを食べられる物に変えるだけでなく、インクジェットヘッドも食品に使用できるものに変える必要があります。医薬品にも使用できるレベルのものも出てきているので、錠剤やカプセルに直接識別用のナンバーなどを印刷することもできます。

インクジェット方式は3Dプリンターにも活用されています。マテリアルジェッティング、バインダージェッティングといった3Dプリント技術で、フルカラーの造形も可能です。インクジェット方式は、数ピコリットルといった非常に高い精度で吐出量の制御が可能です。人間の骨や臓器といったもののプリントも研究が進んでいるそうです。いずれは、色々なものが印刷するように自由に作れるようになるかもしれません。

個人的には、食べ物に絵を書くだけでなく、色々な調味料を吹き付けて絵を書いてくれるようなフードプリンタがあったら面白いのではと思っています。絵かと思って食べると味がある。そして場所によって絶妙に味が違う。とりあえず、ケチャップで絵がかけるインクジェットプリンターが実用化されたら、オムライスにケチャップで絵を書くような特別なカフェで需要があるかもしれません。でも、あれは手で書くからいいのか。