中小製造業にこそデータ活用を|よくある課題と対策、事例を紹介

マーコム・サポーターの椎名です。中小企業や個人事業主のマーケティング活動をサポートする傍ら、ライティング活動も行っています。今回は、中小製造業におけるデータ活用をテーマに取り上げます。そもそもなぜデータ活用が必要なのか、そして中小製造業におけるデータ活用の課題やその対策方法、成功している企業の事例などを解説していきます。

中小製造業のデータ活用はなぜ必要か

中小企業にとってデジタル化(DX)とデータ活用は不可分の関係です。デジタル化によって得られるデータを適切に活用することで、業務効率化と競争力の向上が可能となります。以下では、DXとデータ活用の重要性と具体的なメリットについて解説します。

中小製造業のデジタル化

一般的に、中小製造業はヒト・モノ・カネの観点でデジタル化が難しいというイメージがあります。しかし、実際はそんなことはありません。むしろ、だからこそデジタル化が有効といえます。

中小製造業には予算やリソースに制約がありますが、デジタル化による効率化や他社との差別化は有効です。中小製造業の組織は複雑ではなく、意思決定が迅速に行えるため、むしろ大企業よりもデジタル化の導入や変更がスムーズに進められます。デジタル化によって業務効率化や自動化が実現し、時間とコストの削減が可能となります。さらに、地理的制約から解放されることで、オンライン販売などを通じてグローバルな顧客層にリーチできます。政府も中小企業のデジタル化を支援するための施策を進めており、その波に乗ることでさらなる成長が期待できます。

DXとデータ活用

こうしたデジタル化を進める上で欠かせないのが、データ活用です。デジタルツールやセンサーによって収集されるデータは、貴重な情報源となります。そのデータを適切に分析し、活用することで多くのメリットが得られます。

例えば、生産ラインの情報収集や異常検知により、ラインの稼働率や作業効率を向上させることができます。これにより、生産能力の最適化やコスト削減が実現します。また、製品の品質予測やトレーサビリティの向上により、不良品のリスクが軽減でき、信頼性の向上を図ることが可能になります。

さらに、顧客の購買行動データを活用することで、ニーズや嗜好の把握が可能となります。これにより、顧客に合わせた個別マーケティングや新たな付加価値サービスの提供ができるようになります。顧客満足度の向上や顧客ロイヤルティの獲得につながるでしょう。

デジタル化とデータ活用は、中小製造業にとって大きなチャンスです。データを活用することで、効率化や品質向上、顧客満足度の向上など多くのメリットを享受できます。中小企業だからこそ、積極的にデジタル化とデータ活用を推進し、成長につなげていきたいものです。

中小製造業のデータ活用の課題

コロナ禍を契機に中小企業のデジタル化・データ分析は進展したといえますが、一方でデータ活用の課題も浮き彫りになっています。ここでは、中小製造業が直面するデータ活用の課題を4点ほどあげて説明します。

ITリテラシーが低い

一般に、中小企業は大企業に比べてIT知識や人材が不足しています。情報システム部門などの専門部署もなく、他部門の人間が兼任することが多い傾向です。そのため、担当者は本業務に手いっぱいであり、情報収集が後回しになることがあります。また、大企業と比べてベンダーとのつながりが薄く、最新情報を入手する機会が少ないことも課題です。

リソース/予算が足りない

多くの中小企業はIT予算を十分に割けていません。さらに、社内にIT専門人材が不足しているか、まったくいない場合もあります。ITへのリソースや予算を割く必要性に対する認識が希薄な企業も多く、コロナ禍においてもその状況は改善されていません。

セキュリティ問題

中小企業ではネットやクラウド環境が脆弱な傾向があり、外部からの攻撃や情報漏洩のリスクが懸念されます。個人情報や企業間取引などの機密情報の適切な管理が難しい状況です。

心理的ハードル

デジタル化を考える際、大規模なIoTシステムの導入や紙データを完全に置き換えるといった、大掛かりな取り組みを想像してしまいがちな方もいます。また、お金をかけずにスモールスタートする方法に気づいていない担当者も少なくありません。さらに、「そもそも中小企業には関係のない話だ」と思い込んでしまう企業も存在します。

中小製造業がデータ活用を進めるためには、これらの課題に対処する必要があります。従業員教育、予算配分の見直し、セキュリティ対策の強化、そして心理的ハードルを乗り越えるための啓もう活動や成功事例の共有が必要です。

なお、データ活用のアプローチはひとつではなく、自身の課題やリソースに合わせていくつものやり方を検討できます。外部の専門知識や技術を活用することも有益です。

中小製造業ができるデータ活用の対策

中小製造業がデータ活用に取り組むための対策として、次のようなものがあげられます。

政府や自治体の支援制度を活用する

中小企業向けの助成金や技術支援サービスなどを提供している政府や自治体の支援制度を利用しましょう。例えば、中小企業庁の「ミラサポ」や「中小企業向けAI導入ガイドブック」などの情報を活用できます。

外部企業との連携をはかる

ITベンダーや他の企業が提供しているデータ活用の事例やサービス情報を積極的に収集しましょう。関東経済産業局のサイトなどでベンダーの製品やサービスを検索できます。

社内担当者ができる対策を行う

以下のステップを検討することで、社内の担当者自身がデータ活用に取り組めます。

  • データソースや項目の定義を行い、利用可能なデータ源と必要なデータ項目の把握
  • 定義したデータを定期的に収集する方法の検討、並びに自動化
  • 収集したデータを整理・加工し、可視化や分析
  • 分析結果に基づく改善策や新たなサービスの提案の検討

例えば、分析結果に基づく改善策としては、工程別の歩留まりの分解や装置のメンテナンス状態との相関関係の分析などが考えられます。

データ活用に使えるツール

無料で使えるデータ活用ツールも存在します。例えば、Googleの「スプレッドシート」はExcelと同等の機能を持ち、Web上でデータ管理ができます。Microsoftの「Power BI」はデータ分析や可視化が可能なツールです。また、ZapierMatrixFlowなども異なるアプリケーションやサービスを組み合わせてデータの転送やタスクの自動化ができるツールです。無料版や機能制限付きのプランも提供されています。

これらの対策を講じることで、中小製造業でも手軽にデータ活用に取り組めます。データの力を最大限に活かし、効率化や競争力の強化につなげましょう。

中小製造業のデータ活用事例

ここでは、中小製造業のデータ活用事例を紹介します。

事例1)株式会社今野製作所

今野製作所は油圧機器や板金加工を手掛ける製造業です。同社は、ベテランの熟練技能者の技能をどう継承するかの問題を抱えていました。そこでIoTを活用し、Tig溶接熟練技能をデジタル化する溶接技能訓練支援システムを導入しました。熟練者の模範データを生産現場で活用することで、作業者の技能レベルの客観的な評価が可能となっています。その結果、時間の短縮と作業者間の技量のバラツキの減少が実現しました。

事例2)株式会社山口製作所

山口製作所は金属プレス加工を手掛ける企業です。同社が抱えていた課題は、加工作業のコスト削減や顧客への製品トレーサビリティ、多様な提案への対応をどうするかといったものでした。その対策として、株式会社KMCが提供するIoTツール「Σ軍師」を導入し、生産設備の稼働状況に関するデータを取得しました。これにより、過去の受注情報や製造にかかる情報を探す手間が削減され、工作機械の稼動状況を顧客に開示できるようになり、製品製造のトレーサビリティの観点で他社との差別化が図られました。なお同社では、「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」を活用しています。

事例3)株式会社ヤマナカゴーキン

ヤマナカゴーキンは鍛造金型の製造業で、「冷間鍛造」という技術を持っています。同社の主要顧客は自動車メーカーで、電気自動車(EV)化による業務縮小リスクがありました。そこで、冷間鍛造の用途拡大と付加価値製品の販売を目指し、IoT製品の新規事業立ち上げを検討しました。具体的には、海外ベンチャー企業であるコンセンシス社と提携し、ボルトに接続したケーブルからPC上にデータを蓄積する仕組みを構築しました。これにより、新規事業として新しいIoT製品「ピエゾボルト」を製造・販売することができました。

また、同社では、製品化したピエゾボルトからの測定データを自社金型の製造にも活用しています。将来的には、設備の異常検知や保全などの新しいサービス提供も視野に入れるとのことです。

これらの事例は、中小製造業がデータ活用を通じて課題解決や業績向上に取り組んだ成功例です。データの収集・分析・活用によって、生産性向上や品質管理の向上、新たなビジネスモデルの創出など、さまざまなメリットが得られることがわかります。これらの事例を参考にしながら、自社の課題に合ったデータ活用の取り組みを進めることが重要です。

まとめ

今回は中小製造業とデータ活用をテーマにとりあげました。中小製造業にとってデジタル化とデータ活用は重要です。デジタル化によって業務効率化や競争力の向上が可能となり、データ活用によって生産能力の最適化や顧客ニーズに対応できます。

一方、中小製造業がデータ活用に取り組むにはいくつかの課題を解決する必要があります。本記事では、代表的な4つの課題(ITリテラシーの低さ、リソース・予算、セキュリティ、心理的ハードル)をあげました。これらの課題に対処するためには、政府や外部企業の支援を活用し、従業員教育やセキュリティ対策の強化が求められます。

今は、政府や自治体の支援制度も充実してきているので、最大限に活用して取り組むとよいでしょう。無料で使えるデータ活用ツールも存在するため、まずはスモールスタートで着手してみてはいかがでしょうか?中小企業のデータ活用事例もネット上にたくさん公開されています。本記事でもいくつか紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

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事業承継後の経営をDXにより切り拓いた製造業の事例

製造業のように老舗企業が多い業界では、高齢化が進みIT化が遅れている中小企業が多くなっています。このような業界でDXを活用することは、インパクトの大きい経営革新につながる可能性を秘めています。

しかし、高齢化した企業ではDX推進を担える人材の採用や育成が難しいため、現実的には後継者に事業承継をする際に、後継者がDX推進を担うのがいいきっかけとなります。実際に、経営者の世代交代が第二創業と呼ばれるような経営革新を可能とし、企業を発展させた事例もあります。

DXを推進するためには、先代の経営者は後継者が若い時期に事業承継をするか、承継前でも後継者に対する権限移譲や従業員からの反発が出ないような環境づくりを進めることが重要です。

この記事では、事業承継後の経営をDX(デジタルトランスフォーメーション)によって切り拓いた製造業の事例を紹介します。

DXとは?

DXはデジタルトランスフォーメーションの略称ですが、人によって解釈が異なる場合があります。参考までに、経済産業省のDX推進ガイドラインには、以下のように記載されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

多くの場合、このような定義で使われています。

DXが経営を切り拓くアイテムとなる3つの理由

DXが経営を切り拓くアイテムとなる可能性として、以下の3つが理由として考えられます。

1.従来事業からの転換や新たなビジネスの追加

経済産業省が発行している2021年版のものづくり白書では、さまざまな製造業がDXに取り組んでいることが紹介されています。DXを活用することで、従来から取り組んでいた事業を転換したり、新たなビジネスモデルを追加したりできる可能性があります。

従来から行っている製品の製造だけでなく、そこで収集・蓄積したデータ自体を販売したり、データを用いた新たなサービスを生み出したりできるでしょう。

2.業務効率化・生産性向上

自社工場内の設備やセンサーをネットワークに接続することで、さまざまな情報を得ることができます。このデータを活用することで、不良に気づくまでの時間を削減したり、設備同士を連動させたりすることができ、従業員の負荷軽減や生産性の向上につながるでしょう。

これらの取り組みによって従業員のワークライフバランスが向上すれば、モチベーション向上により自発的なスキルアップにつながることも期待できます。

3.ノウハウ蓄積・教育

製造業では、若い職人への技術・技能伝承が課題の一つとして挙げられます。DXを活用すれば、熟練した職人のノウハウや技術を、センサーを活用することでデータ化し、蓄積できます。

また、web会議システムなどを用いることで、技術の伝承が難しい遠隔地であってもノウハウを伝える機会を作ることができ、若い職人の能力向上が期待できるでしょう。

他にも、ディープラーニングなどのAIを導入することで、数値化・説明が難しかった加工条件を明確にし、再現性を高めたり、よりよい条件を発見したりできる可能性が考えられます。

DXにより経営を切り拓いた製造業とBtoBの事例

ここでは、DXにより経営を切り拓いた製造業とBtoBビジネスを行っている企業を3社紹介します。

旭鉄工株式会社

旭鉄工株式会社は、大手自動車メーカー向けの部品を製造する自動車部品サプライヤーです。

2016年に代表取締役社長に就任した木村社長は、ドイツや国内の中小企業視察を通し、国内では中小企業向けのIoTツールが不足していることに気づきました。

そこで、まずは自社向けに設備投資や人件費、工場スペースの拡張を抑制するためのシンプルな構成のIoTツールを開発しました。これを他社にも提供するために「i Smart Technologies」を新たに立ち上げています。

現在は自動車部品に加えて、他社向けにIoTツールの提供も続けています。

株式会社木幡計器製作所

木幡計器製作所は、圧力計の製作や販売を行う企業として1909年に創業された計測・制御機器の老舗メーカーです。

2013年に現在の社長である木幡巌氏が代表取締役社長に就任しました。当時は主力業界である圧力計市場全体が縮小傾向であったため、社内で募集した意見から、新たな取り組みとしてIoT圧力計を開発に取り組みます。

2017年には「先進的IoTプログラム支援事業」の支援を得て、後付けIoTセンサ・無線通信ユニットを開発。現在では、IoTに関する技術をいかして新たに医療機器事業にも進出しています。

株式会社大都

株式会社大都は1937年創業の総合商社でしたが、実質代表を務めるようになった山田岳人代表取締役社長(2011年~)によって、DIY市場のeコマースを主なビジネスとしています。

eコマースの導入拡大によって煩雑になったFAXなどの業務も、自社開発のツールを取引先にも導入してもらうことで、大幅な効率化を実現し、従業員の満足度を向上しました。

現在では、eコマース市場をより活性化させるために、DIY版のクックパッドのようなアプリを開発しています。DIYで何かを作りたいと考えた場合に、経験がなくてもアプリを参考にすれば作れるようにすることで、eコマースでの売り上げ拡大に貢献しています。

まとめ

中小製造業を取り巻く状況は年々厳しさを増しており、事業承継を考えるタイミングで会社をたたむ選択をする経営者も少なくありません。

しかし、事業承継のタイミングは「第二創業」とも呼ばれるような経営革新を起こす貴重な機会でもあります。経営革新を実現するアイテムとして、DXへの取り組みは重要な選択肢であり、実際にさまざまな企業がDXにより経営を切り拓いています。

さまざまな会社の事例を参考にし、自社の状況を改善する際にDXが使えないか、検討してみるといいでしょう。

製造業におけるAIの導入目的

製造業×AIをテーマとした連載の第5回は、前回の「製造業におけるAIの利用率と課題」に続き、AI白書2020の「企業におけるAI利用動向アンケート調査」から、製造業におけるAIの導入目的などに触れてていきたいと思います。

AI白書2020と注意点

本記事に掲載しているAI白書2020の調査内容について、「製造業におけるAIの利用率と課題」内に記載していますのでご確認ください。

調査結果について気を付けなければないないのが、調査対象期間が2019年であることです。
本のタイトルがAI白書2020であるため、2020年のデータであると勘違いしやすいですが、調査結果はあくまで2019年のものです。

そのため、新型コロナウイルスの影響を受けていないこと、約2年前のデータであることを気を付けなければなりません。AIの利活用は現在進行形で進んでおり、新型コロナウイルスの影響でAI含むDXが急速に進んだことから、現時点はAIはより企業にとって身近になっていると予想できます。

また、もう1つの注意点が、調査対象に小規模企業が含まれておらず、大企業の回答が多いことです。製造業は99%が中小企業であることから、こちらのデータは大企業中心の結果であることに気を付けなければなりません。

企業におけるAIの利用率

調査に回答した525社の、AIの利用率の結果が下記のグラフになります。

調査に回答した525社のうち、4.2%が「既に導入している」、4.8%が「現在実証実験(PoC)を行っている」、1.1%が「過去に検討・導入または実証実験(PoC)を行ったが現在は取り組んでいない」となっています。

AIの導入・検討に取り組んでいる会社は全体の約10%と、調査された2019年時点では低い結果となっています。

AI導入の効果

AIを「既に導入している」企業に、AI導入の効果を尋ねた結果が下記のグラフになります。

回答数が22社と少ないですが、3割程度が「期待通りの効果が出た」と満足されている一方で、9.1%が「どちらともいえない」、4.5%が「期待外れ」と回答されています。

2019年時点でAIを導入している企業の多くは、AIの第3次ブームの初期で導入されていると考えられ、まだまだ世の中にAIをビジネスとして活用するノウハウがない中で導入したことが、満足度が低い理由であると考えられます。また、AIを提供しているベンダー側にもまだまだノウハウが少なく、満足度が高くなかったのではと考えました。

4割以上の方が「導入したばかりのためまだ効果がわらない」と回答されており、こちらの結果がわかるAI白書2022が楽しみですね。

AIの導入目的(導入段階別)

AIを「既に導入している」、「現在実証実験(PoC)を行っている」、「検討/関心あり」と回答した企業に対して、AIの導入目的を尋ねた結果が下記のグラフになります。こちら複数回答ありの内容となっています。

業務効率化による業務負担の軽減」が、すべてのグループで1位となっており、関心が高いことがわかります。AIの活用事例に関するニュースも、業務効率化というキーワードはよく出てきますね。

検討中/関心ありの企業におけるAIの導入目的(製造業)

AI導入について検討中/関心ありと回答した企業の中から、製造業(プロセス製造業および加工組立製造業)のAI導入目的を抜粋した結果が下記のグラフになります。こちら複数回答ありの内容となっています。

製造業においても「業務効率化による業務負担の軽減」は高いですが、業界特有の回答として「ヒューマンエラーの低減・撲滅」と「生産性向上(自動化・機械化の推進」が高いことがわかります

検討したい/関心があるAI技術(製造業)

AI導入について検討中/関心ありと回答した企業の中から、製造業(プロセス製造業および加工組立製造業)の検討したい/関心があるAI技術を抜粋した結果が下記のグラフになります。こちら複数回答ありの内容となっています。

「ディープラーニング(深層学習)」と「データ分析技術」が高いですが、業界特有の回答として「画像認識(静止画処理)」、「画像認識(動画処理)」、「診断技術(異常、故障予知など)」が高いことがわかります

AI検討中/関心ありの企業における将来的な導入時期

AI導入について検討中/関心ありと回答した企業に対して、将来的のAI導入時期を尋ねた結果が下記のグラフになります。

未定と回答した企業が6割と多いため、導入企業数が大きく増加することは、数年は起こらないかもしれませんね。
1年以内(202年中旬頃まで)、2年以内(2021年頃まで)と回答した企業は約2割で、この結果がAI白書2022で確認できますので、今から楽しみですね。

まとめ

2019年時点では、AI導入で「期待通りの効果が出た」と満足されている企業は少ないことがわかりました。
「導入したばかりのためまだ効果がわらない」と回答している企業も多く、AI導入は現在進行形で進んでいるため、AI白書2022では2019年とは違った結果が確認できそうで楽しみです。

製造業(プロセス製造業および加工組立製造業)のAI導入目的としては、「業務効率化による業務負担の軽減」、「ヒューマンエラーの低減・撲滅」、「生産性向上(自動化・機械化の推進」が高いことがわかりました。

製造業(プロセス製造業および加工組立製造業)の検討したい/関心があるAI技術としては、「画像認識(静止画処理)」、「画像認識(動画処理)」、「診断技術(異常、故障予知など)」が高いことがわかりました。

製造業におけるAIの利用率と課題

製造業×AIをテーマとした連載の第4回は、製造業のお客様がAIをどの程度利用しているか、またどのような課題をもっているかまとめてみました。AI白書2020の「企業におけるAI利用動向アンケート調査」から、製造業の現状を把握していきたいと思います。

AI白書2020の調査概要

下記がAI白書2020の調査目的および調査概要です。

調査目的

この調査は、民間企業など(事業者団体などを含む。以下、「企業」という)のAIの活用実態と課題を把握することを目的としている。

調査対象

経済産業省の情報処理実態調査で調査対象になっている68業種の中から7,000事業者を調査対象として、質問表を郵送にて送付した。回答は郵送及びWEB受付を併用(回収率7.7%)

調査対象期間

2019年7月24日~2019年9月9日

調査件数

541件(信頼水準95%としたときにの標本誤差は±4.21%)

留意点

調査対象企業に小規模企業は含まれていない。また、日本の産業統計と比較すると回答企業には大企業が多い。

ライターコメント

調査結果について気を付けなければないないのが、調査対象期間が2019年であることです。本のタイトルがAI白書2020であるため、2020年のデータであると勘違いしやすいですが、調査結果はあくまで2019年のものです。

そのため、新型コロナウイルスの影響を受けていないこと、約2年前のデータであることを気を付けなければなりません。AIの利活用は現在進行形で進んでおり、新型コロナウイルスの影響でAI含むDXが急速に進んだことから、現時点はAIはより企業にとって身近になっていると予想できます

また、もう1つの注意点が、調査対象に小規模企業が含まれておらず、大企業の回答が多いことです。製造業は99%が中小企業であることから、こちらのデータは大企業中心の結果であることに気を付けなければなりません。筆者が運営する「切削工具の情報サイト タクミセンパイ」にて、中小企業のAI戦略を紹介していますので、ご興味がある方はご覧ください。

回答企業の属性

調査に回答した企業の属性を理解することが、データの結果を確認する上で重要であるため、簡単にまとめてみました。

業種

調査に回答した540社の業種の構成は、下記のグラフの割合になっています。

調査に回答した540社のうち、24.1%がプロセス製造業、22%が加工組立製造業で、全体の46.1%が製造業となっています。AI白書における業種について、プロセス製造業は「食品、繊維、印刷、化学など」、加工組立製造業は「金属加工、機械、自動車、コンピュータなど」とされています。

売上高規模

調査に回答した541社の売上の構成は、下記のグラフの割合になっています。

50億円未満の企業が28.5%で他のグループより多いものの、それ以外は比較的まんべんなくデータがとれていることが分かります。

従業員数規模

調査に回答した540社の従業員数の構成は、下記のグラフの割合になっています。

3,000人以下の企業については、比較的まんべんなくデータがとれていることが分かります。

企業におけるAIの利用率

AIの利用率の結果が下記のグラフになります。

どの業界も、「関心はあるがまだ特に予定がない(緑色)」が高いです。

製造業(プロセス製造業+加工組立製造業)のAI利用は、金融業より遅れており、流通業より進んでいることがわかります。プロセス製造業と加工組立製造業では、AI利用の進捗はほとんど違いがありません。

AIを導入/検討する上での課題

企業におけるAIの利用率にて「検討中/関心あり」と回答した企業において、AIを導入検討するに当たっての課題が下記となります。こちら複数回答の結果となっています。

AIのついての理解不足が1位で、経営者や社内関係者の理解が得られないなどの回答もあり、こちらについてはプロジェクトを進める上でのAIリテラシー向上が必要であることがわかります。また、導入効果に対する不安や費用も上位に入っており、期間・費用も大きくなるAIプロジェクトに対して不安を持っている方が多いことがわかります。

まとめ

製造業(プロセス製造業+加工組立製造業)のAI利用率は、他の業界と比較すると、金融業より遅れており、流通業より進んでいることがわかりました。

AI白書2020の調査は2019年時点のものなので、最新のデータでどのように変化しているかが気になります。今のところAI白書2021の出版予定が公開されていないため、おそらくAI白書2022(調査期間は2021年)でわかると思います。

また、AI導入の課題については、AIリテラシーの向上、AIプロジェクトに対する納得と周囲の同意が必要であることがわかりました。これらは、AI技術を提供する会社に求められる要素であり、契約先を決める指標の1つとなります

DX(デジタル・トランスフォーメーション)は進んでいますか?

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

ものづくりの現場にはデジタル機器がすっかり浸透し、今ではデジタル的なものづくりが普通になりました。みなさんの現場でもアナログ的なものづくりからデジタル的なものづくりへの移行、つまりDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進んでいますか?今回はあるものづくりの現場で行ったDXの試みと、その利点について説明してみたいと思います。

現場からの依頼

事の始まりは、ある検査プロセスからの依頼でした。依頼内容は「製品の検査プロセスで不合格品が時々発生するので、製品が悪いのか、それとも検査プロセスが悪いのか、一度調べて欲しい」というものでした。

製品は兎も角として、なぜ検査プロセスまで調べなくてはいけないのか、その理由を改めて聞いてみると、「製品が一品一品異なるオーダーメイドなので、検査プロセスの設定や手順をその都度製品に合わせて変更しているから」とのことでした。

アナログ的な検査プロセス

そこでまず、現場のオペレータにこれまでの検査履歴を見せてもらいました。しかしオペレータが持ってきたものは、製品シリアルナンバーのリストが印刷された紙に、製品それぞれの合否結果が手書きで記入されたものでした。これだけでは何も分析ができないので、オペレータに「パラメータの設定値や測定結果など、他のデータは記録していないのか?」と尋ねると、「検査手順書通りにパラメータを設定しているので、特に他には記録はしていない」との返事でした。

仕方がないので、ここから検査プロセスのDXを始めてみました。

アナログデータの取得からデジタルデータへの変換

まずDXへの手始めとして、検査プロセスのデータをすべて記録してもらうようにオペレータに依頼しました。製品の測定データ、電圧や電流などのパラメータ設定データなど、検査の合否に影響があると考えられるすべてのデータです。もちろん検査結果の合否だけではなく、検査測定値も記録してもらいました。

この段階ではまだオペレータが手で測定し、取得したデータを手でパソコンに打ち込むというアナログ/デジタル変換ですが、検査が進むうちに分析に必要な十分な量のデジタル・データセットが揃ってきました。

デジタルデータの分析

データセットに記録されたレコードには検査プロセスで得たすべてのデータが製品シリアルナンバーごとに記録されています。このデータセットとソフトウェアを使って、まずは回帰分析を行いました。

回帰分析を行うことで、検査結果に影響を与えている主因子を見つけ出すことができました。また回帰分析で導き出した数値モデルを使って、検査プロセスの最適化を行ったり、検査測定値のバラツキを検討したりすることもできました(モンテカルロ・シミュレーション)。

結果とし、検査プロセスの不具合を発見したり、改善(最適化)したりすることが簡単に行えました。

DX: デジタル・トランスフォーメーション

当初の依頼の目的はすでに達成しましたが、さすがにオペレータが検査のたびに今後もいちいち手でデータを収集していては大変です(また人的エラーも発生します)。そこで検査プロセスから自動的にデータを収集する簡単なプログラムをPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)を使って作りました。

自動収集したデータは社内ネットワークを通してデータセットに記録されるようになり、どこからでもデータセットにアクセスできるようになりました。ここまで来ると簡単なIoTシステムと言っても差し支えないと思います。

機械学習への応用

検査のたびに大きくなるデータセットを使って、機械学習も行ってみました。機械学習によって検査結果を事前に予測することで、複雑な検査プロセスを簡略化し、コストダウンとリードタイムの短縮が図れるかもしれないと考えたからです。実際にその手応えを掴みつつあります。

DXの効果

PLCとネットワーク、データ解析用のソフトウェアを組み合わせるだけで、簡単に検査プロセスのDXが図れました。それだけではなく、様々な分析も行えるようになり、検査プロセスの改善やコストダウンが行るようになりました。

機会があれば、皆さんの現場でもぜひDXをお試し下さい。きっと良い結果が得られると思います。