AI・IoT事業者のためのWebマーケティング戦略

テクノポートの徳山です。当社は製造業専門のWebマーケティング会社ですが、製造業のことをよく理解しているという理由から、製造業向けのAIやIoTサービスを提供している事業者のマーケティング支援にも携わることがあります。

そこで今回はAIやIoT事業者がWebマーケティングを推進する際の成功ポイントを解説していきます。

AI・IoT事業者のWebマーケティングの特徴

製造業と同じように、AIやIoTにおいてもWebマーケティングを推進するうえで欠かすことのできない特徴があります。まずはその特徴について解説していきます。

見込顧客の購買フローが比較的長い

AIやIoTサービスは高額かつ初めて導入する場合が多いため、顧客はしっかりと情報収集したうえで導入するサービスの選定を行う傾向があります。その影響で、情報収集〜購買に至るまでのプロセスが多く長いのが特徴です。

そのため、ターゲット顧客のカスタマージャーニーを描いたうえで、Webマーケティング施策を講じていく必要性があります。

サービス提供者と見込顧客との知識差が大きい

前述したとおり、AIやIoTは最近広まったサービスということもあり、初めて導入する場合が多いです。導入経験に乏しく専門知識を有していないことも影響し、問い合わせを行うのに慎重になるケースが多いでしょう。

そのため、サービス事業者としては知識差を埋めるための努力を行う必要があります。ターゲット顧客の心理的ハードルを下げるために、Webサイトに掲載するコンテンツなども工夫する必要があります。

用途開発につながることが大きなメリット

AI・IoTの分野においてはローンチされたばかりのサービスも多く、中にはテストマーケティング段階の場合も多いのではないでしょうか。そのようなサービスにおいては、明確にターゲットが決まっていないことも多いですが、Webマーケティングによってさまざまな分野の顧客から問い合わせを獲得することで、自社サービスの用途開発につながることがあります。

Webマーケティング成功のポイント

次に、AI・IoT事業者がWebマーケティングに取り組む際の成功ポイントについて解説していきます。

購買フロー後半のユーザーを狙う

短期間で成果を出したい場合は、購買フロー後半に属するユーザーを狙うのが成功の近道です。これを実施するためには、まずターゲット顧客のカスタマージャーニーを描く必要があります。

カスタマージャーニーとは、顧客が製品・サービスを認知してから購入/利用するまでの一連のプロセスのことです。これを描くことにより、顧客の状態にあった最適なアプローチができるようになります。

AI・IoT事業者のカスタマージャーニー例

AI・IoT事業者のカスタマージャーニー例

カスタマージャーニーに関しては以下の記事をご覧ください。

AIやIoT事業者がターゲットとする顧客の多くは購買フローが長いため、購買フロー前半の情報収集段階ユーザーへばかりリーチしていても、リード獲得につながりません。仮にリード獲得できたとしても、購買まで育成する期間が長く、短期的な成果には結びつきづらいです。

そのため、短期間で成果を出すためには購買フロー後半のユーザーを中心にリーチすることが重要です。購買フロー後半のユーザーと接点を持つための最適なタッチメディアは何か、どのような検索キーワードで情報収集を行うか、といったことを突き詰めていきましょう。

知識差を埋めるためのWebコンテンツを準備する

AIやIoTのサービスの導入経験がない顧客は、その分野における専門的な知識を有していない場合が多いため、サービス提供者はその知識差を埋める努力を行う必要があります。

知識差を埋めるためには、Webサイト上で専門分野における知識を分かりやすく提供するとともに、初めての導入でも安心感を与えられるよう導入事例を多く掲載するとよいでしょう。また、これは問い合わせ後の営業対応の話となりますが、営業担当は見込顧客への親切丁寧なコミュニケーションを心がける必要があります。

効果的な導入事例の作り方について知りたい方は以下の記事をご覧ください。

あらかじめ用途仮説を立てたうえで情報発信する

AIやIoT事業者などの技術系企業にとってWebマーケティングにより用途開発を実現することは大きなメリットとなります。特に提供中のサービスがテストマーケティング段階であれば、将来主要なターゲットとなる分野を見つけ出すことにつながるかもしれません。

用途開発を実現していくためには、MFTフレームワークなどのフレームワークを使い用途仮説を立てるとよいでしょう。用途仮説で設定したうえでターゲットが使いそうな検索キーワードを中心にSEO対策やリスティング広告を実施することで、仮説立案したターゲットからの問い合わせを引き寄せることができます。

MFTフレームワークの活用方法については以下の記事をご覧ください。

AI・IoT事業者のWebマーケティングの活用事例

最後に、弊社で支援しWebマーケティングにより大きな成果を挙げた事例をいくつかご紹介します。

【コンテンツマーケティング】
対策キーワードの種類を方向転換し多くのリード獲得に結びつける

IoTで製造業や物流業の生産性向上サービスを提供するA社は、もともとコンテンツマーケティングに注力しており、オウンドメディアから多くのお役立ち情報を発信していました。

しかし、アクセスキーワード分析を行った結果、流入獲得できているキーワードのほとんどが情報収集系のキーワードだったため、アクセス数の割に問い合わせが少ない状況でした。

そこで、過去の事例や用途仮説から対策キーワードを検討し、情報収集系のキーワードから「IoT バッテリー」「IoT モーター」といった用途系のキーワードや、「IoT 予知保全」「IoT 在庫管理」といった機能系のキーワードに方向転換した結果、多くのリード獲得に結びつくようになりました。

【リスティング広告+SEO対策】
集客施策を見直すことで顧客獲得単価が大きく減少

AI×ロボティクスのソリューションを提供するB社は、もともとリスティング広告に注力していました。しかし、競合企業が増え広告のクリック単価が上昇し、顧客獲得単価が右肩上がりに増えていってしまいました。

そこで、リスティング広告からSEO対策に徐々に方向転換し、少しずつ顧客獲得単価を減少させることに成功しました。SEO対策による流入が増えてきた時点で、リスティング広告に関しては購買フロー後半のユーザーが使いそうな検索キーワードに絞り込んで運用。こうすることでコンバージョンレート(問い合わせ率)が改善され、少ない広告費用で大きな成果を得られるようになりました。

【用途開発マーケティング】
Webマーケティングを契機に自社サービスの新たな可能性を切り拓く

異常検知AIを開発・提供しているC社は、自社サービスをローンチしたばかりだったため、まだどのような業界にニーズがあるのかが分からない状況からマーケティング活動をスタートさせました。ターゲットがはっきりとしない段階だったため、広告を打ってもなかなか効果が挙がりませんでした。

そこで、まずは仮説ベースでもよいのでターゲット顧客を設定すべく、MFTフレームワークを使い技術を棚卸しました。用途仮説とターゲット顧客を見定めたうえでWebマーケティングを再開したことにより、ターゲット顧客からの問い合わせ増に加え、想定していなかった分野からの問い合わせを多く獲得しました。

そこで獲得した見込顧客の情報から、その後のサービスの技術開発の方向性を見出したり、サービスのブラッシュアップにも役立て、今では特定の業界に根差したソリューションとしてサービスを展開するに至っています。

以上、AIやIoT事業者がWebマーケティングを推進する際の成功ポイントを解説しました。弊社では製造業だけでなく、製造業をターゲットとした商材のマーケティング支援も積極的に行っております。ぜひお気軽にご相談ください。

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ビジネスマンなら知っておきたい、AIの基礎とよくある間違い

はじめまして。「切削工具の情報サイト タクミセンパイ」を運営し、切削工具および製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)・AIの情報を発信している服部です。

私の経歴について、簡単に紹介させていただきます。

バリ取りを自動化する工具を開発・製造・販売するメーカーにおいて、営業を5年、マーケティングを4年経験しました。製造業での経験を活かし、現在はAIスタートアップで営業として製造業のDXに取り組んでいます。

現場で見聞きした、製造業におけるDX・AIの最新情報をお伝えできればと思っております。

はじめに

2021年現在、AIに関するニュースを毎日目にするほど、AIが当たり前の世の中になりました。コロナの影響もあり、国がDXを推進したり、ソーシャルディスタンス対策としてのAI活用が注目されています。

製造業においても画像解析技術を使った検品など、AIに関するニュースを見ることが増えてきました。AIスタートアップに勤務する私も、製造業のお客様からの問い合わせが増えていることを肌で感じております。

AIに関するプレスリリースを打てば多くの媒体に掲載され、反響が非常に大きいことから、マーケティングの視点においても見逃せないテーマとなっています。そこで、製造業×AIをテーマに記事を書いていきたいと思います。

今回は、「AIの基礎」と「AIのよくある間違い」についてご紹介します。

AIの基礎

AIの基礎といっても、ビジネスマンとして知っておくべきことを中心に説明します。

AIは「Artificial Intelligence」の略称で、1960年ごろから研究が進み、2021年現在は第三次AIブームに位置します。2000年代初頭のディープラーニング(深層学習)の登場により、第三次AIブームに突入しました。

ただ、ディープラーニングはブームのキッカケに過ぎず、AIが実用的なものになったのは、データが容易に集められるようになったことと(IoTでビッグデータ収集など)、データの処理能力が向上したからです。

JCER(日本経済研究センター)が2019年3月に実施した「日本企業のAI・IoTの導入状況」調査より、製造業のAI導入率は11.2%となっております。2020年以降はコロナの影響もあり、AIの導入が進んで15~20%くらいになっているのではないかと予想しますが、まだ全体の1/5程度です。

AIと関連性の高いキーワードとしてIoT・データサイエンス・DXがあり、こちらについても簡単に説明します。

IoT

IoT(Internet of Things)は、モノのインターネットとも呼ばれています。インターネットに接続されていなかったモノが、サーバーやクラウドサービスに接続し、相互に情報を交換できるような仕組みのことです。この仕組みによってビックデータの取得が可能になり、集まったデータを活用するという流れで、第三次AIブームが起こりました

DX

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、コロナ以降よく目にするようになりましたが、媒体によって定義が少し異なっています。2018年に経済産業省がまとめた「DX推進ガイドライン」を定義としている媒体が多いので、そちらを紹介します。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
引用:経済産業省 DX推進ガイドライン

データサイエンス

データサイエンス(DSと略すこともあります)とは、データを軸として統計などの手法を用いて、ビジネスにおける新たな価値を発見する学問および学術分野のことです。1970年ごろから使われていた言葉ですが、ビックデータやAIの登場によって注目されました。データサイエンスに携わる人をデータサイエンティストといい、AIのテーマではこちらの方がキーワードとしてよく登場します。

IoT・DX・DS・AIの関係

IoT、DX、データサイエンス、AIの関係がわかるように、図で表してみました。

DXの手段としてIoT・データサイエンス・AIがあり、IoTによって集めたビックデータの活用としてデータサイエンスやAIがあります。

AIをビジネスで利用する際によくある5つの間違い

私自身も遭遇した、AIをビジネスで利用する際のよくある5つの間違いを紹介します。

  • 現在のAIは全てディープラーニングである
  • AIは人より精度の高いことができる
  • AIは人が出せない答えを出せる
  • AIは人の仕事を奪う
  • AIは自動で学習して精度が上がる

現在のAIは全てディープラーニングである

第三次AIブームのキッカケとなったのは、ディープラーニングです。しかし、ディープラーニングは画像や音声、テキストを認識することができる技術であり、これらのデータを対象としたケースにおいては、今までのAIシステム以上の精度を出すことができます。しかし、すべてのデータにおいて万能というわけではありません。

ディープラーニング以外のマシンラーニング(機械学習)には、決定木、ランダムフォレスト、回帰分析など様々な手法があるのですが、現在もこれらの手法は現役で採用されています。AI、マシンラーニング(機械学習)、ディープラーニング(深層学習)の関係を下図にまとめてみました。

ちなみに、AIでどうにかしたいと相談受けた内容が、AIがなくても実現できるケースもあります。2021年現在、AIで課題を解決する手法は、ディープラーニングが全てではないことを知っていただければと思います。

AIは人より精度の高いことができる

AIを魔法のようなものと勘違いされている方が結構います。

機械学習は、大量のデータから高次元・複雑な法則を読み取ることが可能であり、人が今までやっていたことを自動化できます。魔法のようだとも言えますが、人より精度が高い結果を出せることはほとんどありません。

AIには学習というフェーズがあるのですが、例えば100点の学習データを使っても、90点くらいの結果が出るといった感じです。結果を出すまでの時間(スピード)に関しては、AIの方が優れているケースはあります。

AIは人を超えた万能なシステムにはなれないことを、知っていただければと思います。

AIは人が出せない答えを出せる

AIの出せる結果は、学習に用いたデータのあくまで延長となります。つまりは、学習データにない結果を出すことはほとんどの場合できません。あくまでAIは人とセットで成立する仕組みであり、AIがわからないことは人がサポートしなければなりません。

AIは人の仕事を奪う

こちらはAIが注目された初期によくメディアなどで取り上げられた間違いです。AIのシステムを構築する上で、どのような結果を出すべきかを指示し、その結果を評価できるのは人です。つまり、AIシステムを構築し、そのシステムを維持・向上させるのに、必ず人が必要になるのです。

また、AIは完璧なものを作り出すことはできないので、AIと人が共同する仕組みをつくることが理想的といえます。AIによって人が全く不要になることはなく、AIができる範囲の仕事を自動化し、人がAIの結果をチェックするような体制になることを知っていただければと思います。

AIは自動で学習して精度が上がる

AIは勝手に学習して賢くなるものだと思われている方が多いのですが、技術的に自動学習は可能ではありますが、実用性は低いです。その理由は、インプットされたデータが全て学習すべき質の高いデータであるとは限らないため、人がデータを選別した上で学習させないと、精度が落ちる可能性があるからです。そのため、AIシステムの運用が始まったあとも、しっかりAIのアウトプットを人が確認し、何を学習させるべきか都度判断してアップデートする必要があります

まとめ

  • 反響の大きさから、AIはマーケティングにおいても重要なテーマである
  • ディープラーニングはブームのキッカケに過ぎず、AIが実用可能なものになった理由は、データが容易に集められるようになり、データの処理能力が向上したから
  • 2019年3月時点で、製造業のAI導入率は11.2%
  • DXの手段としてIoT・データサイエンス・AIがある
  • ディープラーニング以外の手法も現役で利用されている
  • 多くの場合、AIは人より高い精度を出すことができず、万能ではない
  • AIはあくまで学習したデータの延長上の答えしか出せない
  • AIが人の仕事を奪うことはなく、AIと人が共同する仕組みをつくることが理想形である
  • AIは自動で学習することが可能であるが、実用的なレベルには達成していない

ビジネスマンなら知っておきたい、AIの基礎とよくある間違い

はじめまして。「切削工具の情報サイト タクミセンパイ」を運営し、切削工具および製造業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)・AIの情報を発信している服部です。

私の経歴について、簡単に紹介させていただきます。

バリ取りを自動化する工具を開発・製造・販売するメーカーにおいて、営業を5年、マーケティングを4年経験しました。製造業での経験を活かし、現在はAIスタートアップで営業として製造業のDXに取り組んでいます。

現場で見聞きした、製造業におけるDX・AIの最新情報をお伝えできればと思っております。

はじめに

2021年現在、AIに関するニュースを毎日目にするほど、AIが当たり前の世の中になりました。コロナの影響もあり、国がDXを推進したり、ソーシャルディスタンス対策としてのAI活用が注目されています。

製造業においても画像解析技術を使った検品など、AIに関するニュースを見ることが増えてきました。AIスタートアップに勤務する私も、製造業のお客様からの問い合わせが増えていることを肌で感じております。

AIに関するプレスリリースを打てば多くの媒体に掲載され、反響が非常に大きいことから、マーケティングの視点においても見逃せないテーマとなっています。そこで、製造業×AIをテーマに記事を書いていきたいと思います。

今回は、「AIの基礎」と「AIのよくある間違い」についてご紹介します。

AIの基礎

AIの基礎といっても、ビジネスマンとして知っておくべきことを中心に説明します。

AIは「Artificial Intelligence」の略称で、1960年ごろから研究が進み、2021年現在は第三次AIブームに位置します。2000年代初頭のディープラーニング(深層学習)の登場により、第三次AIブームに突入しました。

ただ、ディープラーニングはブームのキッカケに過ぎず、AIが実用的なものになったのは、データが容易に集められるようになったことと(IoTでビッグデータ収集など)、データの処理能力が向上したからです。

JCER(日本経済研究センター)が2019年3月に実施した「日本企業のAI・IoTの導入状況」調査より、製造業のAI導入率は11.2%となっております。2020年以降はコロナの影響もあり、AIの導入が進んで15~20%くらいになっているのではないかと予想しますが、まだ全体の1/5程度です。

AIと関連性の高いキーワードとしてIoT・データサイエンス・DXがあり、こちらについても簡単に説明します。

IoT

IoT(Internet of Things)は、モノのインターネットとも呼ばれています。インターネットに接続されていなかったモノが、サーバーやクラウドサービスに接続し、相互に情報を交換できるような仕組みのことです。この仕組みによってビックデータの取得が可能になり、集まったデータを活用するという流れで、第三次AIブームが起こりました

DX

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、コロナ以降よく目にするようになりましたが、媒体によって定義が少し異なっています。2018年に経済産業省がまとめた「DX推進ガイドライン」を定義としている媒体が多いので、そちらを紹介します。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
引用:経済産業省 DX推進ガイドライン

データサイエンス

データサイエンス(DSと略すこともあります)とは、データを軸として統計などの手法を用いて、ビジネスにおける新たな価値を発見する学問および学術分野のことです。1970年ごろから使われていた言葉ですが、ビックデータやAIの登場によって注目されました。データサイエンスに携わる人をデータサイエンティストといい、AIのテーマではこちらの方がキーワードとしてよく登場します。

IoT・DX・DS・AIの関係

IoT、DX、データサイエンス、AIの関係がわかるように、図で表してみました。

DXの手段としてIoT・データサイエンス・AIがあり、IoTによって集めたビックデータの活用としてデータサイエンスやAIがあります。

AIをビジネスで利用する際によくある5つの間違い

私自身も遭遇した、AIをビジネスで利用する際のよくある5つの間違いを紹介します。

  • 現在のAIは全てディープラーニングである
  • AIは人より精度の高いことができる
  • AIは人が出せない答えを出せる
  • AIは人の仕事を奪う
  • AIは自動で学習して精度が上がる

現在のAIは全てディープラーニングである

第三次AIブームのキッカケとなったのは、ディープラーニングです。しかし、ディープラーニングは画像や音声、テキストを認識することができる技術であり、これらのデータを対象としたケースにおいては、今までのAIシステム以上の精度を出すことができます。しかし、すべてのデータにおいて万能というわけではありません。

ディープラーニング以外のマシンラーニング(機械学習)には、決定木、ランダムフォレスト、回帰分析など様々な手法があるのですが、現在もこれらの手法は現役で採用されています。AI、マシンラーニング(機械学習)、ディープラーニング(深層学習)の関係を下図にまとめてみました。

ちなみに、AIでどうにかしたいと相談受けた内容が、AIがなくても実現できるケースもあります。2021年現在、AIで課題を解決する手法は、ディープラーニングが全てではないことを知っていただければと思います。

AIは人より精度の高いことができる

AIを魔法のようなものと勘違いされている方が結構います。

機械学習は、大量のデータから高次元・複雑な法則を読み取ることが可能であり、人が今までやっていたことを自動化できます。魔法のようだとも言えますが、人より精度が高い結果を出せることはほとんどありません。

AIには学習というフェーズがあるのですが、例えば100点の学習データを使っても、90点くらいの結果が出るといった感じです。結果を出すまでの時間(スピード)に関しては、AIの方が優れているケースはあります。

AIは人を超えた万能なシステムにはなれないことを、知っていただければと思います。

AIは人が出せない答えを出せる

AIの出せる結果は、学習に用いたデータのあくまで延長となります。つまりは、学習データにない結果を出すことはほとんどの場合できません。あくまでAIは人とセットで成立する仕組みであり、AIがわからないことは人がサポートしなければなりません。

AIは人の仕事を奪う

こちらはAIが注目された初期によくメディアなどで取り上げられた間違いです。AIのシステムを構築する上で、どのような結果を出すべきかを指示し、その結果を評価できるのは人です。つまり、AIシステムを構築し、そのシステムを維持・向上させるのに、必ず人が必要になるのです。

また、AIは完璧なものを作り出すことはできないので、AIと人が共同する仕組みをつくることが理想的といえます。AIによって人が全く不要になることはなく、AIができる範囲の仕事を自動化し、人がAIの結果をチェックするような体制になることを知っていただければと思います。

AIは自動で学習して精度が上がる

AIは勝手に学習して賢くなるものだと思われている方が多いのですが、技術的に自動学習は可能ではありますが、実用性は低いです。その理由は、インプットされたデータが全て学習すべき質の高いデータであるとは限らないため、人がデータを選別した上で学習させないと、精度が落ちる可能性があるからです。そのため、AIシステムの運用が始まったあとも、しっかりAIのアウトプットを人が確認し、何を学習させるべきか都度判断してアップデートする必要があります

まとめ

  • 反響の大きさから、AIはマーケティングにおいても重要なテーマである
  • ディープラーニングはブームのキッカケに過ぎず、AIが実用可能なものになった理由は、データが容易に集められるようになり、データの処理能力が向上したから
  • 2019年3月時点で、製造業のAI導入率は11.2%
  • DXの手段としてIoT・データサイエンス・AIがある
  • ディープラーニング以外の手法も現役で利用されている
  • 多くの場合、AIは人より高い精度を出すことができず、万能ではない
  • AIはあくまで学習したデータの延長上の答えしか出せない
  • AIが人の仕事を奪うことはなく、AIと人が共同する仕組みをつくることが理想形である
  • AIは自動で学習することが可能であるが、実用的なレベルには達成していない

課題別IoTツール・サービス事例集4:取得したデータを活用したい

こんにちは、製造業のDXに注目する岩手在住IT系ライターの宮田文机です。

工場のIoT化に役立つツール・サービスを事例付きで紹介してきた本連載も今回でいったん最終回。第1回「センサの選定・設置」、第2回「通信環境の構築」、第3回「低コストなIoTの実現」につづいて、いよいよ”データを生かす”フェーズで役立つツール・サービスをご紹介します。

データは「加工」しなければ使えない

IoTの目的は工場から収集したデータを生産性向上や異常検出、育成などに生かすことにあります。そのため、収集したデータは使える形に加工しなければなりません。生データを目的に合わせて分類・整理・抽出することで、本当に有用な情報が見えてきます。また、センサから得たデータを勤怠データや基幹システムから得たデータとかけ合わせて分析することで見えてくる事実も少なくありません。そこで役立つのがいわゆるBI(Business Intelligence)ツールです。

BIツールは“企業の膨大なデータを集約・分析し、わかりやすく表示するツール”と定義されます。データ集計・分析ツールとしてもっともポピュラーなのはMicrosoft Excelですが、BIツールはより大量のデータを多様な形式で表示・出力することが可能です。

例えばERPに集約された受注データや勤怠データと、IoTによって取得した工場の稼働データをダッシュボード上で一覧することで、幅広い視点から生産計画の最適化に取り組めるようになります。

ただし、もちろんランプやアラートでワークの状態や機器の故障を知らせるような現場ですぐに使えるシステムも立派なIoTによる見える化ではあります。大事なのは、“何を見える化するか”ということなのです。

それでは、データの集計・加工に使えるツールを事例とともに見ていきましょう。

事例1:世界的に有名で使いやすい、Tableau

おそらく世界的に最も有名なBIツールで、データの取り込み・加工からOLAP分析、サーバーやオンラインでの共有など基本的な機能をすべて揃えています。一般的に、ITシステムに不慣れな方でも使いやすい使用感を持っており、比較的誰でもすぐに使えるようになるといわれています。

画面はシンプルに構成されており、ドラッグ&ドロップで基本的な操作は進められます。一度無料トライアル版を使ってみるとその使用感が伝わるかもしれません。

【活用事例】

それまでデータ活用文化のなかったタイヤメーカーに導入。データ活用推進チームを組織し、Tableauに取り込んだデータに日々触れることでExcel入力や会議にかかっていた工数を大幅に削減できるように。

事例2:表現の多様さに定評のある、MotionBoard

生産ラインの稼働状況をリアルタイムで反映できる純国産のBIダッシュボードツールです。「ダッシュボード」はBIツールにおいて“様々なデータをひとまとめにして表示する管理画面”のことを意味します。

各種データベースやExcel、CSVのデータまで取り込むことができ、グラフや地図、サンキーダイヤグラムなど多様な形式で表現してくれます。表現の多様さに定評のあるBIツールであり、プログラミング知識はないが多角的な視点からデータ分析に取り組みたいという方は重宝するでしょう。

【活用事例】

多品種少量生産が基本の工作機械メーカーにおいて、工場内の部材の位置や数量、滞留時間を見える化。ビジュアルで直観的に状況を把握できるダッシュボードを開発することで生産のボトルネックを解明した。

事例3:機能の豊富なWebベースBI、Yellowfin

2003年に誕生したクラウド型BIダッシュボードツールで、iPhone・Android用のモバイルアプリもリリースされています。アクションボタンによるワークフローの作成やAIによる分析など、痒いところに手が届く機能がその特徴といえるでしょう。

その代わり、レポートやダッシュボードの表現力は他の製品に比べてやや制限されていると言われています。ほかにもプレゼン作成を助けるストーリーボード機能や、分析内容を見ながら施策に投票する採択機能などがあります。

【活用事例】

工場の見取り図を画像としてYellowfinに取り込み、設備の震動データと連携させることで故障の予兆発生をビジュアル化。ブロードキャスト機能で自動アラートを設定し、予知保全の効率化を進めた。

事例4:製造業に特化したIoTプラットフォーム、Orizuru

データ収集のためのゲートウェイからデータの一元管理、ダッシュボード機能まで備えたIoTプラットフォームです。製造業に特化しており、CNCやPLC、ロボットやセンサーから取得したデータをダッシュボードに収集して一覧できるのがそのポイントといえるでしょう。

工場での利用が前提となっているため、早期導入を助けるテンプレートや3DCADデータの表示といった機能が搭載されています。

【活用事例】

NCデータとセンサから得られた温度・振動などのデータをOrizuruで統合。AIによるデータ解析を実施することで穴あけ加工時の位置ずれといった問題の予測精度を高めた。

まとめ

データを使う、という視点で役立つ情報・ツールについてご紹介しました。本連載のこれまでの記事も合わせて参照すれば、それぞれで扱われている悩みの解決法だけでなく、IoT導入の流れ・注意点についても把握できるはずです。

自社のIoT導入の目的と照らし合わせつつ、ぜひご一読ください!

課題別IoTツール・サービス事例集3:IoT導入にかかるコストを抑えたい

こんにちは、製造業のDXに注目する岩手在住IT系ライターの宮田文机です。

IoT導入にあたって気になるのがどのくらいの導入コストがかかるのか。平成28年に行われた総務省の調査によると従業員100名以上の製造業に従事する企業がIoTに支出したコストは前年度売上高比で3%未満がもっとも多く、3%~5%未満がその後に続きます。

自社のIoT化に当たってコストを抑えるために意識すべきこと、そしてそのために役立つかもしれない4つのツール・サービスをご紹介します。

IoT導入にかかるコストとは? 抑える手段は?

IoTの導入・運用で必要となるコストとしては以下のようなものが挙げられます。

  • センサー・アクチュエータといった機器の購入コスト
  • 通信回線にかかるコスト
  • クラウド・サーバーにかかるコスト
  • 開発・運用にかかる人的コスト
  • システムの構築・運用・保守などにかかる外注コスト

デバイスや通信料金の発達・低価格化により徐々に導入のハードルは下がってきていますが、それでも数百~数億円の費用が提示されることは珍しくありません。中小規模の工場ではとても負担しきれないことも少なくないでしょう。

そこでIoT化に取り組むために覚えておいていただきたいのが「助成金・補助金の活用」と「身の丈IoT」です。まずはIT導入補助金など国、自治体、非営利法人が運用する助成金・補助金の中で利用できるものはないか探しましょう。実際の導入の段階で知っておくべきなのが「身の丈に合った範囲でも十分IoT化は始められる」ということ。ITや通信の知識がなくても今は情報が充実していますし、ベンダーに相談するだけなら多くの場合費用はかかりません。

ここからは低コストで身の丈IoTを実現するために役立つかもしれないツールをご紹介していきます。

事例1:IoT自作の基本ツール、Raspberry Pi・Arduino

IoTをDIYで実現する事例で最もポピュラーなのが、イギリスのラズベリー財団がコンピューター教育用に販売した小型コンピューターRaspberry Pi(ラズパイ)やイタリアで開発されたマイコンボードArduinoを活用したものです。いずれも数千円代と安価ながらセンサーとの接続や機器の制御などIoTで実現したいことが一通り実現可能。プログラミングの知識は必要になりますが、書籍やWeb記事、動画など資料が充実してきているためゼロからでも始められる環境は整っています。

【活用事例】

自動車部品における製造ラインの稼働状況をスマートフォンやPCから確認できるシステムを市販のセンサーとRaspberry Piで確立。生産性の向上や発展させた同システムの事業化に成功した。

事例2:IoT導入の基本システムが一気に手に入る、10万円IoTキット

ものづくりとIoTの融合を目指すIVI(Industrial Value Chain Initiative))が提案するIoTの実験用デモ機が「10万円IoTキット」です。前述のRaspberry PiやmicroSDカード、ICカードリーダ、ICカード、電流センサー、環境&モーションセンサーなどがまとめて提供され、その名の通り10万円弱でIoTシステムを構築することができます。IVIのサイトでその構成は公開されているため確認しつつ自分で取り揃えることも可能ですし、地域セミナーなどでデモを見たうえで提供を受けることもできます。

【活用事例】

交代制による24時間稼働を強みとするプラスチック製品工場の夜間の稼働状況を可視化。稼働率が低くなる原因特定に貢献し、結果として生産性向上を実現した。

事例3:初期費用0円、現場の声が反映されたIoT GO

自社工場のIoT化に成功した久野金属工業株式会社(詳しくは「IoT導入事例ファイル1: 中小企業5社のスマホを使ったIoT」)が株式会社マイクロリンクと開発したIoTクラウドサービス「IoT GO」です。初期費用0円、月額料金も1設備一日300円程度(工事費別)と安価に設定されているのがポイント。現場への浸透がIoT化の成功のカギといっても過言ではないため、自社工場で実際に導入した経験が反映されているというのは信頼のおけるポイントです。

【活用事例】

自動車のプレス加工部品を主力製品とする久野金属工業の装置のオン・オフ/サイクルタイムを計測。最大52%の生産性向上と売上に対する使用電力量の14.5%削減に貢献した。

事例4:IoT導入~クラウドとの連携までがまとめられたDegu IoTエントリーパック

誰でも簡単に簡単にIoTセンシングを行いクラウドと連携させられる世界の実現を目指すオープンソースプロジェクトDegu(デグー)の初心者向けパッケージです。

その内容はセンシングデータを送信するためのマイコンボード、データ通信を中継するゲートウェイ、照度センサー・加速度センサー・温湿度センサーなど6種類のセンサーセットの3つ。定価41,500円(税別)で、データのセンシング~クラウドへの集積までを簡単にスタートできるパッケージとなっています。ある程度道具が用意された状態から自作IoTに着手したい方には非常に魅力的に映るでしょう。

【活用事例】

果物を栽培するビニルハウスの湿度・温度・土壌の水分状況などをセンシング。機械学習でベストな水分量を把握し、適切な散水を行える状況を整えた。

まとめ

IoTの導入コストを抑えたいという方に向けて4種類のツールをご紹介しました。

前述の通り、まずは身の丈から始めることで安価にIoTを始めることは可能です。そこで理解を深めたうえで工場全体のDXに着手すれば、結果として目標達成につなげられる可能性も高まるはず。「ITは苦手だから……」と尻込みせず、まずはできそうなことから着手してみてください。

課題別IoTツール・サービス事例集2:通信環境の構築がわからない・見直したい

こんにちは、盛岡在住IT系ライターの宮田文机です。

5月は『課題別IoTツール・サービス事例集1:センサの選び方・使い方がわからない』と題し、データ取得にかかせないセンサを工場に導入するにあたって使えるサービス・ツールをご紹介しました。

センサの選定・設置ができたら早速データを見える化……といきたいところですが、その前に確認したいのが“セキュアで安定的な通信環境を構築できているか”という点です。

通信ネットワークの問題が数億円規模の損失につながりうる製造現場。万全の通信インフラを構築することは必ず満たすべき条件といえるでしょう。

本記事では、工場の通信インフラに求められる3要素とそのために役立つツール・サービスをご紹介します。

工場の通信インフラに求められる3要素

産業用の通信インフラで押さえておきたいのが以下の3ポイントです。

  • 安定性
  • セキュリティ
  • 耐久性

工場運営において絶対に避けたいのが「ライン停止」のリスク。IoT化に向けて新たなネットワークを導入した結果、人的ミスやサイバー攻撃、通信環境の複雑化などが原因でラインが止まり大きな損失につながる……といった事態を避けるために安定性は必ず押さえておきたいところです。また、マルウェア・不正アクセスなどのセキュリティ問題にもしっかりと目を配る必要があります。サーバや生産設備にウイルスが侵入しライン停止や機密情報の漏えいにつながっては目も当てられません。

さらに高温・高湿・氷点下など通常とは異なる環境となりうる生産現場では、過酷な状況にも耐えられるネットワーク機器を選定することも求められます。

事例1:産業用ネットワークのグランドデザインがサポートされる「工場IoTネットワーク・セキュリティ」

富士通株式会社が提供するのが工場ネットワークの診断からグランドデザイン、その後の運用支援までネットワーク構築をサポートする「工場IoTネットワーク・セキュリティ」サービスです。

例えば、工場のIoT化においてしばしば発生するIT(情報系システム)とOT(制御系システム)の接続問題。そもそも連携することが想定されていないそれらをいかにつなげ、セキュアかつ安定的なシステムを構築できるかという難問への対処でもこのサービスは利用されています。

【活用事例】

セキュリティパッチやウイルス対策ソフトの導入によりOT機器が停止するリスクを避けつつ、セキュリティ対策を行う手段をともに策定。すべてのネットワークを構成する機器・設備を洗い出し、既存のネットワークを乱さずOT・IT機器を接続できるネットワーク基盤を構築した。

事例2:通信ネットワーク構築をさまざまな形で支援する「SORACOM」

株式会社ソラコムはIoTにおける通信環境構築を助けるさまざまなサービスを展開しています。契約回線数100万を超えた「SORACOM Air for セルラー」はLTE/3G通信が可能な従量課金制のSIMを販売するサービス。必要に応じて自由にデータ通信を導入、休止できる点が便利なサービスです。また「SORACOM Beam」はクラウドを介してIoTデバイスの通信の暗号化や接続先の管理を肩代わりしてくれます。インターネットを介さずクラウドとデバイスの間でデータを送受信できる「SORACOM Canal」も機密性の高い情報を扱う際には有用です。

【活用事例】

切削加工機の稼働状況を遠隔監視するシステムの構築に「SORACOM Air」を活用。手間をかけず、急を要する作業がある場合など必要なときだけ機器を監視できるように。また機密情報が載せられた設計書は「SORACOM Canal」でやり取りすることで安全性を担保できるようになった。

事例3:あらゆる観点から情報通信基盤の構築を支える「NETFORWARD」

日立システムズ株式会社の「NETFORWARD」は、セキュリティ対策、ネットワーク機器の選定・提供、ネットワーク監視・運用・障害対応、クラウド環境構築、ネットワーク運用・構築とあらゆる観点から情報通信基盤を支えるサービスを提供するパッケージです。大手ベンダーならではのノウハウの豊富さ、支援体制の手厚さがポイントといえるでしょう。

【活用事例】

事務所、倉庫に無線LANシステムを導入するとともに、在庫管理にPOS、PDAを用いることに。安全かつ利便性の高い接続が可能になったとともに業務効率向上にもつながった。

事例4:IoT機器のセキュリティリスクを常時管理する「Trend Micro IoT Security」

トレンドマイクロ社の「Trend Micro IoT Security」は管理対象の機器・設備にエージェントを組み込み、クラウドベースのシステムと組み合わせることでセキュリティリスクの常時管理を可能にするサービスです。ネットワークセキュリティに特化した企業だからこそ、徹底したリスク管理が期待されます。

【活用事例】

コネクテッドカーに対するハッキング・サイバー攻撃に対する対策として「Trend Micro IoT Security」を実装。製品に対する安全性を担保する一助となった。

まとめ

スマート工場がつつがなく稼働するための前提となる通信環境の構築を助けるソリューションをご紹介してきました。通信環境に求められる3要素は「安定性」「セキュリティ」「耐久性」です。この機に、それらの条件を自社のネットワーク機器は満たせているのか、今一度確認されてみてはいかがでしょうか。

課題別IoTツール・サービス事例集1:センサの選び方・使い方がわからない

こんにちは、盛岡在住IT系ライターの宮田文机です。2020年4月まで『IoT導入事例ファイル』と題し、スマホ・ビーコン・ロボットなど活用ツールもしくはデータ活用・ノウハウ共有・品質管理・新ビジネス創出など目的別に、参考にしたいIoT/AI導入事例をご紹介してきました。

IoT導入に着手しようというとき、まず立ちはだかるのが“自社にノウハウがない”という壁です。データの取得、見える化、制御、AIによる自動化といったスマートファクトリー化の各フェーズに、自社に合った機器の選定やシステム構築といったハードルが存在します。そこで本シリーズでは、IoT化の各段階でよくある課題にあったツール・サービスをフラットな目線からまとめて解説いたします。

初回のテーマは「センサの選び方・使い方がわからない」。機器からのデータ収集に欠かせないセンサの導入・活用をサポートしてくれるツール・サービスをご紹介します。

センサの選び方・使い方はセンサ万別?

IoTのスタート地点は工場からのデータ収集です。

データを取得するには人間でいう五感の役割を果たすセンサを設置しなければなりません。しかし、センサの選別はなかなか骨が折れる作業。そもそも温度センサ、振動センサ、光センサ、画像センサ、加速度センサなどセンサ自体にさまざまな種類が存在し、そのなかでも価格や仕様、機能に差異があるからです。

またセンサから得たデータを活用するには、情報を集約するためのシステムを構築する必要も生じます。

そこでベンダー・サービスの力を借りる機会が訪れます。各ベンダーがパッケージソリューションやコンサルティングを提供していますが、そのなかでも「センサの選定・設置・情報収集」のフェーズで役立つ例を見ていきましょう。

事例1:センシングに長けたIoTプラットフォーム「FASTIO」

エコモット株式会社のFASTIOは、IoTデータの収集・管理に強みを持つIoTプラットフォームです。IoTへの注目の高まりとともに多くのベンダーがIoTプラットフォームを提供し始めました。そのなかでも「FASTIO」はセンシング(センサによる情報の計測・数値化)に長けており、2,000種類以上のラインナップから最適なセンサを選び、シームレスにデータの収集を始めることができます。

【活用事例】

機器に設置した振動センサーからデータを収集し、モバイルネットワークを通してクラウドサーバー上に保存。機械の劣化診断やメンテナンスに生かすことを可能にした。

事例2:さまざまな機器・センサをつなげられる汎用型情報収集装置「Σ軍師」

株式会社KMCのΣ軍師は、さまざまな機器・センサからデータを収集することができる汎用型の情報収集装置です。古い機械やメーカーの異なる設備、後付けの振動センサー・過負荷センサーなどからも情報を収集し、工場内すべての加工機をネットワーク化できるのがその大きな特徴。同メーカーの情報管理ツール「電子カルテ」と連携させればよりデータ活用は捗ることになるといいます。

【活用事例】

金型プレス加工を主とする工場において生産設備の稼働状況データを機器の種類を問わずに取得。生産管理システムで用いるデータの収集を容易にした。

事例3:センサの選定フェーズからサポートが受けられる「予知保全導入支援サービス」

株式会社マクニカはIoTサポートと定常的に設備の異常状態を把握し、メンテナンスを行う「予知保全導入支援サービス」を合わせたソリューションを展開しています。同サービスは機器に適したセンサの選定サポートに始まり、その後の稼働状況の監視やデータ分析、AIアルゴリズムの構築まで一気通貫で行います。

【活用事例】

油圧ポンプの故障を事前に予測するシステムを構築したい、という要望を受けて最適なセンサの選定からシステム構築までサポート。突発故障の予防による生産性向上に寄与した。

事例4:データの可視化環境がそのまま提供される「NEC IoT センサデータ可視化サービス」

NECソリューションイノベータが提供する「NEC IoT センサデータ可視化サービス」は、温度・湿度・気圧・UV・加速度・照度・地磁気の7種類のデータを取得できるマルチセンサーと電流センサーを用いて、作業場内の環境・稼働状況を見える化できるサービスです。ハードウェア・ソフトウェアから回線までまとめて提供される手軽さがポイントです。

【活用事例】

なし(2020年4月1日開始のサービスのため)

まとめ

IoTのスタート段階であるセンサの選定・設置フェーズで悩んでいる方に向けて、4つのツール・サービスをご紹介しました。センサの選定・設置はIoTの初めの一歩です。試行錯誤はつきものですが、各種サポートを活用することでスムーズに導入を進められるかもしれません。今回紹介したもの以外にも自社に適したものはないか、壁にぶつかった際はぜひ探してみてください。

IoT導入事例ファイル7:IoTを新ビジネスにつなげた5社の事例

こんにちは、AI・IoTに注目する盛岡在住ライターの宮田文机です。本連載では、データ活用情報・ノウハウの共有・継承品質保証(QA)/品質管理(QC)などIoTが既存の生産活動にもたらすさまざまなメリットを紹介してきました。

しかし、IoTがものづくり企業にもたらしうる恩恵はそれだけではありません。IoTの導入により自社の価値を高めるだけでなく、新たなビジネスの機会を生み出すことができた企業は多く存在します。今回はそのなかからそれぞれに独自性のある5社の事例を取り上げます。

事例1:「オンライン・メンテナンス」の開始で売上は3倍に! 三浦工業株式会社

愛媛県松山市でボイラーの生産から保守までを行う三浦工業株式会社。国内ボイラー市場のシェア40%以上を占めるトップ企業です。

同社は1989年からIoTを活用して他社にない強みを発揮し、売上を拡大してきました。その要ともいえる事業が「オンライン・メンテナンス」(商標登録)。ボイラーに埋め込んだセンサーから温度や水圧などのデータを取得し、異常が感知されれば故障・停止前にメンテナンスを行います。

他社に先駆けた取り組みにより大きくその売上は拡大し、2017年までの29年間で約3倍に。保守契約による安定的な利益が生まれただけでなく、データ活用による品質の向上や突発的なメンテナンスの減少による離職率の低下など多くのメリットが得られたといいます。

事例2:「ダイレクト切削加工サービス」で付加価値を創出! Apex株式会社

東京都八王子市松木にて自動車部品の開発・製造・販売や3D技術を用いたサービスを提供するApex株式会社。

自動車後付け部品の市場が縮小する中で新サービス創出の必要性を感じていた同社が目を付けたのが、3D技術を用いたリバースエンジニアリング/リバースモデリングでした。そうして生み出されたのが部品データの測定から施策までを一気通貫で行う「ダイレクト切削加工サービス」です。

3Dデータの測定により試作品の精度が大幅に高まり、大幅な短納期の実現が可能になった同社。独自の強みを得られるようになり、また属人的なものづくりから解放されました。自動車部品から郷土品まで、その技術活用の幅は非常に広くなっています。

事例3:リモート監視ソリューション「Wi-VIS」で強みを倍増! 京西テクノス株式会社

東京都多摩市で下請け中心に電子部品製造業を営んでいた京西テクノス株式会社。下請け脱却を目指し、IoTを活用した新サービスの開発に取り組みました。そうして生まれたのがリモート監視ソリューション「Wi-VIS(Wireless Visual Solution)」です。

グローバル化が加速するものづくり業界において、海外工場をリモート監視するシステムが普及していくだろうと予測した京西テクノス。そこで自社開発を行ったのが、国内・海外を問わず機器のデータを取得・クラウドに保存し、故障予測や故障個所特定、リモート修理を行えるシステムでした。

センサーを取り付けるだけでさまざまな環境やメーカーの機器からデータを取得・管理できる同システム。他社にない強みとして同社の価値を大きく高め、監視代行などオプションとして新たなビジネス展開を生み出すことにも成功しました。

事例4:クラウド見積もりサービス「TerminalQ」を生み出した! 月井精密株式会社

東京都八王子市で精密機械部品の加工に取り組んでいた月井精密株式会社。IoTの導入により売上を伸ばしてきたところでリーマンショックが発生。値段交渉を各取引先から申し込まれるなかで、それまで「どんぶり勘定」で行ってきた見積もり方法を見直す必要に駆られました。

そうして大学との連携や補助金の活用を経て開発されたのがクラウド見積もりソフト「Terminal(ターミナル)Q」です。製品の図面をもとに材料や作業者などの情報を入力していけば、あらかじめ登録しておいた情報をもとに自動で見積書を作成させることができます。

企業間SNSや経営分析データ分析など幅広い活用方法の考えられる同サービス。現在は専門に開発を行うために設立されたグループ企業により運営され、登録企業を増やし続けています。

■月井精密株式会社についてより詳しくは……

事例5:センサー内蔵の「ピエゾボルト」でビジネスの可能性を広げた! 株式会社ヤマナカゴーキン

大阪府東大阪市に本社を持つ株式会社ヤマナカゴーキン。主に鋳造金型を取り扱っており、IoT/AIシステムの独自開発・販売に積極に取り組む先進企業です。

同社が2016年に販売開始した「ピエゾボルト」は、ドイツの大学発ベンチャー企業コンセンシス社が開発した“センサー内蔵ボルト”です。標準規格のボルトと置き換えることができ、軸力の変化を計測することで異常や不具合の事前検知を可能にしてくれます。

同社が強みとする冷間鍛造や解析ソリューションと組み合わせることで、サービスの高度化を測れるピエゾボルト。得られたデータをもとにした保守サービスなどヤマナカゴーキンの打ち手は大きく広がったといえるでしょう。

国際会議での出会いからパートナー関係が始まったというヤマナカゴーキンとコンセンシス社。技術革新への取り組みを通じた他社との連携により、ビジネスの可能性が大きく広がった事例といえるでしょう。

まとめ

IoTサービスの開発・導入により新ビジネスを生み出したものづくり企業5社の事例をご紹介しました。IoTの導入によって得られたメリットは、すなわち自社の強みとなります。そして、他社に提供できるサービスへと昇華できる可能性も大きく広がっているのです。

IoT導入事例ファイル6:品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例

こんにちは、AI/IoTに注目する盛岡在住ライターの宮田文机です。本連載では、毎回ものづくり企業におけるさまざまなAI/IoTの活用事例をまとめています。今回は、品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例をご紹介します。

紙と人に頼った手法がQA・QCのボトルネックになっている

企業が信頼性を確保し顧客満足を高めるため、品質保証(QA:Quality Assurance)や品質管理(QC:Quality Control)は非常に重要です。しかし、従来の紙と人による品質保証・管理手法は限界を迎えつつあります。長年TQM(Total Quality Management)活動に取り組み、世界中で高い評価を得てきた日本製品の競争力に陰りがみられる原因のひとつは品質保証・品質管理におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の遅れではないでしょうか?

ここからは、故障の予知やリアルタイムのデータ取得で品質保証・品質管理を行う5社の先進事例をご紹介します。

事例1:故障の「予知」で理想的な保守を実現した株式会社前川製作所

産業用冷凍機並びに各種ガスコンプレッサー、冷凍・冷蔵倉庫冷却設備などを製造・販売・施工する株式会社前川製作所。

万が一機械が故障、停止した場合にはユーザーに対して大きな損害を与えてしまうため、故障を予防し品質保証を徹底することが最重要課題となっていました。従来は早期の消耗品交換等によって対応していた前川製作所ですが、交換にあたって人的コストや消耗品コストが発生するため頭を悩ませていました。

そこで導入されたのが冷凍機に設置したセンサーから稼働データを収集し、故障の予兆や推定される異常個所をメール配信してくれるシステムです。機械学習により装置ごとの差異や周辺環境も考慮してくれる同システム。

導入後は予知に従いベストなタイミングで保守交換を行うことが可能になった上、異常個所が高い精度で特定されるため品質保証の制度も高まったといいます。

事例2:3Dデータの測定で鋳造の精密さ・自由度を高めた株式会社木村鋳造所

静岡県で自動車用プレス金型用鋳物や工作機械・産業機械用鋳物の製造・販売を行う株式会社木村鋳造所。発泡スチロール模型を製造することで早く安価に少量多品種生産を実現できるフルモールド鋳造法を強みとしています。

そこで品質管理に導入されたのが非接触型の自動測定・検査機「ATOS」。完成品の3Dデータをレーザーで測定することで模型とのズレを見抜けます。

模型の3Dデータを取得することにはほかの利点もあり、例えば耐圧・耐熱などのシミュレーションを行うことも可能に。その結果、手間やコストを抑えつつより自由度の高いものづくりに取り組めるようになりました。

蓄積された3Dデータはいつでも呼び出すことができるため、類似品を製造する際に参考とすることができるのも大きな利点といえるでしょう。

事例3:リアルタイムに生コンの品質を把握できるシステムを開発した株式会社東伸コーポレーション

神奈川県横浜市で生コンクリートを製造・販売する株式会社東伸コーポレーション。

製造直後から化学変化が始まる生コンクリートの品質保持は熟練者の経験と勘が必要であり、特にミキサー車に積み込んだ製品の品質保持の負担の大きさが問題とされていました。

その状況をがらりと変えたのが生コンクリートの性状変化データをリアルタイムで確認できる管理システム「Smart Agitator®」です。海外ベンチャーと東伸コーポレーションを含む数社で設立されたGNNMJ社が開発した同システムは走行中のミキサー車からでも正確なデータを取得できるよう設計されています。

Smart Agitator®の導入後は誰でも品質を把握し管理できるようになっただけでなく、生コンの品質が劣化する状況についてデータをもとに分析できる状況も整いました。

事例4:可食性プリンタを遠隔・リアルタイムで保守点検する株式会社ニューマインド

平成24年に設立された比較的若い企業である株式会社ニューマインド。

特殊プリンタ事業に特化した同社ではケーキやせんべいなどの食品にフルカラー印刷が行える可食性プリンタ機器を取り扱っています。同商品は通常顧客である食品メーカーの製造ラインに組み込まれて稼働するため、故障の原因特定が困難という問題を抱えていました。

衛生面など手厚いケアが必要な可食性プリンタの保守を遠隔・リアルタイムで行えるようニューマインドが導入したのが顧客企業のWi-Fiや有線ネットワークを利用してプリンタの稼働状況や温度・湿度といった環境データを取得するシステムです。

プリンタの保守点検にIoTによるデータ取得を活用するシステムは、キヤノンやリコーといった大手企業でも用いられています。
遠隔・リアルタイムで品質保証が行える点、データを製品の開発や顧客サービスの充実に生かせる点に多くの企業が注目しているようです。

事例5:生産管理システムをカスタマイズしTQMを進めた株式会社笠原成形所

最後に紹介するのは新潟県南魚沼市でプラスチック成形業に従事する株式会社笠原成形所です。TQMを重視する同社では生産に関わるデータを各従業員がスムーズに呼び出し活用できる仕組みの構築を目指していました。

そこで導入されたのが生産管理システム「MICS」です。開発企業とカスタマイズを重ね、複数のメーカーの成形機の稼働状況を一覧で把握する、成形機から金型のショット信号を取得するなど自社に適した機能を盛り込んだ同システム。従業員に一人一台支給したタブレット端末から生産データや機械使用時の注意点を把握できるようになったことで紙で情報を管理していた以前に比べ、大きく全社的な品質管理が前に進んだそうです。

DXに対する意識の高さに加え、元からある機能や使用感で妥協せず工夫を重ねたことで理想の環境を実現できた例といえるでしょう。

まとめ

品質保証(QA)・品質管理(QC)にIoTを活用する5社の事例を見てきました。日本企業の強みである品質を世界基準で維持し続けるには、AI/IoTの活用が不可欠といっても過言ではありません。現在紙と人だけで品質管理に取り組んでいるならば、問題や不便がないか、それはDXにより解決できないかと検討してみることをおすすめします。

IoT導入事例ファイル6:品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例

こんにちは、AI/IoTに注目する盛岡在住ライターの宮田文机です。本連載では、毎回ものづくり企業におけるさまざまなAI/IoTの活用事例をまとめています。今回は、品質保証・品質管理にIoTを活用する5社の事例をご紹介します。

紙と人に頼った手法がQA・QCのボトルネックになっている

企業が信頼性を確保し顧客満足を高めるため、品質保証(QA:Quality Assurance)や品質管理(QC:Quality Control)は非常に重要です。しかし、従来の紙と人による品質保証・管理手法は限界を迎えつつあります。長年TQM(Total Quality Management)活動に取り組み、世界中で高い評価を得てきた日本製品の競争力に陰りがみられる原因のひとつは品質保証・品質管理におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の遅れではないでしょうか?

ここからは、故障の予知やリアルタイムのデータ取得で品質保証・品質管理を行う5社の先進事例をご紹介します。

事例1:故障の「予知」で理想的な保守を実現した株式会社前川製作所

産業用冷凍機並びに各種ガスコンプレッサー、冷凍・冷蔵倉庫冷却設備などを製造・販売・施工する株式会社前川製作所。

万が一機械が故障、停止した場合にはユーザーに対して大きな損害を与えてしまうため、故障を予防し品質保証を徹底することが最重要課題となっていました。従来は早期の消耗品交換等によって対応していた前川製作所ですが、交換にあたって人的コストや消耗品コストが発生するため頭を悩ませていました。

そこで導入されたのが冷凍機に設置したセンサーから稼働データを収集し、故障の予兆や推定される異常個所をメール配信してくれるシステムです。機械学習により装置ごとの差異や周辺環境も考慮してくれる同システム。

導入後は予知に従いベストなタイミングで保守交換を行うことが可能になった上、異常個所が高い精度で特定されるため品質保証の制度も高まったといいます。

事例2:3Dデータの測定で鋳造の精密さ・自由度を高めた株式会社木村鋳造所

静岡県で自動車用プレス金型用鋳物や工作機械・産業機械用鋳物の製造・販売を行う株式会社木村鋳造所。発泡スチロール模型を製造することで早く安価に少量多品種生産を実現できるフルモールド鋳造法を強みとしています。

そこで品質管理に導入されたのが非接触型の自動測定・検査機「ATOS」。完成品の3Dデータをレーザーで測定することで模型とのズレを見抜けます。

模型の3Dデータを取得することにはほかの利点もあり、例えば耐圧・耐熱などのシミュレーションを行うことも可能に。その結果、手間やコストを抑えつつより自由度の高いものづくりに取り組めるようになりました。

蓄積された3Dデータはいつでも呼び出すことができるため、類似品を製造する際に参考とすることができるのも大きな利点といえるでしょう。

事例3:リアルタイムに生コンの品質を把握できるシステムを開発した株式会社東伸コーポレーション

神奈川県横浜市で生コンクリートを製造・販売する株式会社東伸コーポレーション。

製造直後から化学変化が始まる生コンクリートの品質保持は熟練者の経験と勘が必要であり、特にミキサー車に積み込んだ製品の品質保持の負担の大きさが問題とされていました。

その状況をがらりと変えたのが生コンクリートの性状変化データをリアルタイムで確認できる管理システム「Smart Agitator®」です。海外ベンチャーと東伸コーポレーションを含む数社で設立されたGNNMJ社が開発した同システムは走行中のミキサー車からでも正確なデータを取得できるよう設計されています。

Smart Agitator®の導入後は誰でも品質を把握し管理できるようになっただけでなく、生コンの品質が劣化する状況についてデータをもとに分析できる状況も整いました。

事例4:可食性プリンタを遠隔・リアルタイムで保守点検する株式会社ニューマインド

平成24年に設立された比較的若い企業である株式会社ニューマインド。

特殊プリンタ事業に特化した同社ではケーキやせんべいなどの食品にフルカラー印刷が行える可食性プリンタ機器を取り扱っています。同商品は通常顧客である食品メーカーの製造ラインに組み込まれて稼働するため、故障の原因特定が困難という問題を抱えていました。

衛生面など手厚いケアが必要な可食性プリンタの保守を遠隔・リアルタイムで行えるようニューマインドが導入したのが顧客企業のWi-Fiや有線ネットワークを利用してプリンタの稼働状況や温度・湿度といった環境データを取得するシステムです。

プリンタの保守点検にIoTによるデータ取得を活用するシステムは、キヤノンやリコーといった大手企業でも用いられています。
遠隔・リアルタイムで品質保証が行える点、データを製品の開発や顧客サービスの充実に生かせる点に多くの企業が注目しているようです。

事例5:生産管理システムをカスタマイズしTQMを進めた株式会社笠原成形所

最後に紹介するのは新潟県南魚沼市でプラスチック成形業に従事する株式会社笠原成形所です。TQMを重視する同社では生産に関わるデータを各従業員がスムーズに呼び出し活用できる仕組みの構築を目指していました。

そこで導入されたのが生産管理システム「MICS」です。開発企業とカスタマイズを重ね、複数のメーカーの成形機の稼働状況を一覧で把握する、成形機から金型のショット信号を取得するなど自社に適した機能を盛り込んだ同システム。従業員に一人一台支給したタブレット端末から生産データや機械使用時の注意点を把握できるようになったことで紙で情報を管理していた以前に比べ、大きく全社的な品質管理が前に進んだそうです。

DXに対する意識の高さに加え、元からある機能や使用感で妥協せず工夫を重ねたことで理想の環境を実現できた例といえるでしょう。

まとめ

品質保証(QA)・品質管理(QC)にIoTを活用する5社の事例を見てきました。日本企業の強みである品質を世界基準で維持し続けるには、AI/IoTの活用が不可欠といっても過言ではありません。現在紙と人だけで品質管理に取り組んでいるならば、問題や不便がないか、それはDXにより解決できないかと検討してみることをおすすめします。

IoT導入事例ファイル5:情報やノウハウの共有・継承にIoTが貢献する4社の事例

こんにちは、AI・IoTに注目する盛岡在住ライターの宮田文机です。

製造業界の目下の課題として挙げられるのが人材不足ではないでしょうか? 経済産業省によると国内における製造業の従業員数は1997年から2017年までの20年で約20%も減少しています(「2019年度版ものづくり白書」経済産業省)。特に従業員数が300人以下のいわゆる中小企業における人手不足は長期化しているとのこと。

さらに団塊の世代の引退がその傾向に追い打ちをかけます。熟練技能者・技術者の雇用延長によってなんとか現場が成り立っているものの、その状況は長くは続かないだろうと焦りを覚える方も少なくないのではないでしょうか?

IoTを導入し、情報共有をスムーズにしたり、熟練技能者の持つ技能を形式知化したりすることでそういった状況に歯止めをかけることが出来るかもしれません。

本記事ではIoTを情報・ノウハウの共有に活用する方法を具体的な例を用いて解説いたします。

事例1:ベテランの見積もり作成ノウハウを形式知化した株式会社IBUKI

株式会社IBUKIは山形県西村山郡にて射出成型用の金型の設計・製造やプラスチック成型品の施策・量産に従事する60名規模の中小企業です。個別受注にて毎回違った形状の製品を製造することが多い金型製造。そのため見積もりには長年の経験と知識が必要であり、2016年時点で工場長一人しか対応できず業務の偏りが生じていました。

そこでノウハウを工場長だけが持つ「暗黙知」から、誰もが参照できる「形式知」にする取り組みが開始されたのです。その際導入されたのが、熟練者のノウハウを学習し見積もりを自動作成してくれるAI。形状や納期などのキーワードで検索すればAIが指定キーワードに関連する過去の見積もり資料を提示してくれ、さらに細かく製品仕様や金型仕様といった情報を入力することで、10年近く現場経験を積んだベテラン技能者と同等の精度で見積もりを出してくれます。

結果として以前は半日以上かかっていた見積もりに伴う実績収集の時間は30分程度に短縮され、若手社員や営業社員でも見積もりを作成できるようになるなど大きなメリットが得られました。

事例2:高難度な塗装技術をロボットに再現させる株式会社ヒバラコーポレーション

茨城県那珂郡東海村で原子力・火力・水力発電関連機器や鉄道車両関連機器などの塗装に従事するヒバラコーポレーション。40名規模ながら遠隔地における塗装業務のコンサルティングサービスを展開し、地域未来牽引企業に認定されるなど大きな存在感を発揮しています。

その活躍を支えるのが自社開発の生産管理システム「HYPAX(ハイパックス)」。93年に代表取締役に就任した小田倉久視(おだくら・ひさみ)社長は元SEであり、ITの活用に積極的な姿勢を持っていました。そこでまず取り組んだのが紙の資料のデジタル化。社内にIT活用の気風が浸透したところでいよいよ熟練工の技術をデータ化、ロボットに再現させる「HYPAX」を導入し、同時にセンサーを用いて工場を遠隔監視するシステム開発に着手しました。

その結果、わずかな気温や湿度の差に左右され、習得に時間がかかる高度な塗装技術を、ロボットに再現させることが可能になり、生産性は30%近く増加したそうです。さらに再現した技術を他社に提供する新たなビジネスの機会の創出にもつながりました。

事例3:どこでも見れる映像で教育を効率化した株式会社小林製作所

小林製作所は石川県白山市にて100名近くの規模で板金加工・塗装・組立てなどを行う企業です。人件費が抑えられるアジアに発注が向く傾向のある板金加工。そのため多品種大量生産や短納期対応など技術力で独自性を発揮することが不可欠となっています。しかし、高度なノウハウはなかなか言葉では伝わりませんし、教えるたびに熟練者の時間が割かれるのは非効率です。

そこで同社が導入したのがIoTで技術を伝承するシステムでした。まずは事務所や工場などに約200台のウェブカメラを設置、製造に関する映像や画像をすべて保存し、検索できるようにします。その内容は部品に貼りつけられたバーコードに紐づけられており、その内容を読み込むことで製造過程の映像や画像を見ることができるのです。早送りやスロー再生も自在なうえ、ポイントについてコメントを書き込むことも可能な同システム。ノウハウを簡単に引き出せることで作業時間は約15%短縮できたということです。

同社が取得する作業内容や品目などについてのデータは作業工程を適切に振り分け、製造を効率化することにも役立っています。

事例4:他社と連携し情報の管理体制を見直した株式会社エー・アイ・エス

株式会社エー・アイ・エスは東京都江戸川区で精密板金加工を行う中小企業。従業員は16名程度と今回紹介する中でも最も人数の少ない工場となっています。規模が足りずIT投資をしたくてもなかなかできないという状況の同社でしたが、異なる町工場が3社連携する「つながる町工場プロジェクト」に参加したことで、工場のIoT化が進展していったといいます。

そこで取り組んだ課題のひとつが情報の一元管理による共有。以前同社では案件情報の管理ツールが統一されておらず、Excel・Accessなど登録場所がバラバラになってしまい二重登録が発生するなど非効率の温床となっていました。そこで導入したのが情報連携ツール「Contexer(コンテキサー)」。製品の着手・完了情報や写真などをスマホやタブレットといった手持ちの端末から登録することで一元管理できる同システムは情報の整理を仕組化し、案件ごとの情報の呼び出しを容易にしました。

さらに3Dモデルと結びつけることで、新人工員が組立て順序を確認しながらものづくりに取り組む際にも役立っているそうです。

まとめ

AI・IoTによりスマートファクトリー化を推し進めることでノウハウ継承や情報共有を容易にした4社の事例をご紹介しました。
人手不足や後継者問題が叫ばれて久しい製造業界ですが、現在もGDPの2割弱を占める日本の基幹産業であり、発展し続けることが求められています。

そのために情報の共有を促進するIoTは大いに活用できるはずです。

IoT導入事例ファイル4:ロボットとの組み合わせで効果を発揮する5社のIoT事例

こんにちは。2020年も製造業におけるIoTの可能性に注目する岩手在住ライターの宮田文机です。

今、世界の製造業でロボット導入がどんどん進んでいます。国際ロボット連盟(IFR)によると、2021年まで年平均14%の割合で世界の産業用ロボット販売台数は増加するとのこと。日本も例外ではありません。2015年2月に政府が「ロボット新戦略」を打ち出すなど、積極的なロボットとの協働が推奨され続けています。

生産性向上や働き方改革につながるユニークなIoT導入事例を紹介する本連載。第4回ではロボット×IoTで成果を生んでいる企業の事例を5つご紹介します。

ロボットとIoTの組み合わせがもたらすものとは?

まずはロボットとIoTそれぞれの役割についておさらいしたうえで、組み合わせのメリットを押さえておきましょう。

ロボットは人間の作業を部分的に代行してくれる存在。ものづくりの現場では垂直多関節・双腕・装着型といったタイプのロボットがピッキングや組立て、検査などの工程で利用されています。2013年12月に日本の導入規制が緩和され、人間と同じ空間で作業することが可能になったこともあり、普及は進み続けています。

一方、IoTはInternet of Things(モノのインターネット)の略であり、工場やライン、機械といったさまざまなモノをインターネットにつなぐことで人間にメリットをもたらします。現在人間と全く同じように考え行動できるロボットは存在しません。そのため、ロボットに作業を代行させるためには適切なデータを与える必要があります。その際、機械や製品からデータを取得できるIoTが力を発揮するのです。

事例1:ロボットをIoTでモニタリングする株式会社大日製作所

兵庫県高砂市の工場で航空機・ロボット部品の製造を行う株式会社大日製作所。60名規模の中小企業であり、積極的にロボット・IoTの活用に取り組んでいます。

同社の取り組みのひとつがロボットによる製造の自動化。多関節ロボットがワークを工作機械に脱着する仕組みを整えました。そこで通常ネックとなるのが機械の異常や誤作動。しかし、Raspberry Piによる設備稼働データの取得により機械をモニタリングすることで、無人下においてロボットを稼働させながら、異常の察知のみならずデータ解析による仕組みの改善を行うことを可能にしました。

ロボットには人間のような対応力や思考力がないため、異常への対応や改善活動を行うことは難しいのではないかと懸念している方は多いのではないでしょうか。その弱点の補強にIoTは大きな威力を発揮してくれます。

事例2:ロボットと画像認識をかけあわせた株式会社北斗

群馬県伊勢崎市で精密金属プレス加工や金型設計製作を行う株式会社北斗。60名規模ながら経済産業省から地域未来牽引企業に選定されるなど先進的な取り組みが認められています。

同社は事務製品に用いられる薄型金属部品のプレスラインにおける検査・搬送工程にロボットを導入しました。そこで用いられたIoT技術がカメラによる加工対象商品の形状スキャンです。ロボットは画像認識により起動し、その画像を処理することで良品・不良品の判定も行います。産官学で技術検討を行い必要な機能に絞ってロボットを導入することでコストが大幅に抑えられ、同工程の労働生産性は16倍に高まったといいます。

また、検査工程をロボットに置き換えることでヒューマンエラーを排除でき、流出不良の抑制にもつながりました。ロボットの得意な作業を検討して導入を進めることで、効果とコストの両面でメリットが得られます。

事例3:IoTにより職場巡回ロボットを生み出した兵庫ベンダ工業株式会社

兵庫県を拠点に鉄鋼・非鉄金属製品の製造・加工や土木・機械・電子回路の設計を行う兵庫ベンダ工業株式会社。姫路市に5つの工場を抱えつつ、東京在住の技術者とのテレワークや離島の若者受け入れといった地域にとらわれない活動を行っています。

同社がロボットに代行させるのは、職場環境の見回り・安全衛生パトロール。ROS(Robot Operating System:ロボット開発で広く用いられるオープンソースソフトウェア)を使って制御を行い、センサーやカメラといったIoT機器で精密な自立移動を実現しています。開発されたロボットは自社の職場管理だけでなく、他業種での応用も進められているとのこと。

同ロボットは神奈川大学と協働で須磨海浜水族園で行われたコミュニケーション誘発実験にて、導入前に機能検証がなされたそうです。職場のコミュニケーション促進にも意外にロボットは効果を発揮する場面があるということでしょう。

事例4:IoTでロボットの精密動作を実現するカワノ株式会社

神戸で婦人靴の製造販売に携わる280名規模のカワノ株式会社。ハンドメイドならではの履き心地の良い靴の製造にまい進する企業です。

同社は革靴の製造工程のうち甲革と中底の接着において大量の有機溶剤を用いるため、職人の健康面に負担がかかるという課題にロボットを用いて対処しました。靴のデザイン・サイズの多様さに加え天然皮革由来の個体差もあり、困難とされていた接着の自動化。そこで威力を発揮したのが3Dカメラによる甲革の形状データ計測です。手に入れたデータを元にロボットが動作するシステムが構築されました。

従来は難しかった精密な作業もIoTの力を用いることで再現可能になることがあります。IoT×ロボットで伝統技能のデータ化・継承が試みられる場合もあるようです。

事例5:ロボットのフル活用をIoTで支援するオークマ株式会社

最後に取り上げる愛知県丹羽郡に本社工場を構えNC装置やFA製品を製造するオークマ株式会社の事例です。数千人規模の大企業ですが、IoTを用いて人間とロボットの協働を実現する好例と言えるため、本記事でご紹介いたします。

同社はロボットをフル活用し、素材の投入や加工後の部品の取り出し、切削液の補給や加工時の切りくずの回収までを代行させています。ロボットの稼働状況はIoTによる「見える化」システムで把握。エラーの発生状況や工程の進捗、素材・完成品の場所などが工場内の大型モニターでいつでも把握でき、人間はロボットをよりうまく働かせる方法をデータを元に考えることができます。

同システムにより1日24時間・週7日間の工場のフル稼働が可能になり、大きく生産性が高められているということです。IoTを用いることでロボットのフル活用を実現できている例といえるでしょう。

まとめ

ロボット×IoTの事例についてご紹介しました。ロボットに作業を代行させることで生産性が何倍にもアップした例は枚挙にいとまがありません。

その可能性を広げる技術としてIoTは、他にはない威力を発揮してくれます。

IoTの4つ発展段階「可視」、「検出・診断」、「予測」、「 対策」

明けましておめでとうございます、マスターブラックベルトの津吉です。今年も宜しくお願いいたします。

冬本番を迎え、私が住む北国では下の写真のように川がすっかり凍ってしまいました。今回は凍った川の“譬え話”を混ぜながら、IIoT(Industrial Internet of Things)やスマートファクトリーについて考えてみたいと思います。

凍った川を渡れますか?

ところで、もし「凍った川の上を歩いて渡れ」と言われたら、皆さんはどうしますか?平均水深は50センチです。川を渡れるかどうかは、この街に長く住んでいれば“経験と勘”だけで判断できるでしょう。経験がなくても、平均水深がたったの50センチなら思い切って川を渡ってみるかもしれません。(データを扱わない“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

しかし用心深い皆さんは川のデータを求めるはずです。そこで「1月の最大水深は5メートル、平均は50センチ、平均的な氷の厚さは10センチ」という情報を得ました。川を渡ってみますか?(過去のデータだけに頼る“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

更に用心深い皆さんは、過去のデータではなく、今の氷の状態を聞くでしょう。そこで「今日の氷の厚さは平均12センチ。12センチもあるのできっと大丈夫」という情報を得ました。川を渡ってみますか?(平均値だけでものごとを判断する“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

氷が割れて冷たい川に落ちる確率(リスク)を5%以下にしたい皆さんは、川全体の平均値ではなく、今現在立っているこの場所の氷の厚さを、歩を進めるごとに知りたいはずです。そこで

  • 氷厚センサー
  • 水深センサー
  • 水温センサー
  • 水流センサー

を手に入れました。川を渡ってみますか?(経常利益を少なくとも5%確保したい“ものづくり”の現場が、IIoT機器を手に入れたところを想像してみて下さい)

スマートファクトリーの発展段階

“ものづくり”の現場は、経験や勘、過去のデータや平均値という束縛から離れて、リアルタイムデータを手にするところからスマートファクトリーが始まります。しかしスマートファクトリーはリアルタイムデータだけではありません。スマートファクトリーには4つの要素と4つの発展段階があります。

スマートファクトリーの4つの要素

  1. 人の意思
  2. スマートファクトリー・システム
  3. 人の知恵や知識、経験
  4. 人の改善努力

スマートファクトリーの4つの発展段階:

  1. 可視(何が起こっているのか)
  2. 検出・診断(何故起こったのか)
  3. 予測(何が起こるのか)
  4. 対策(何をすれば良いのか)

スマートファクトリーの発展段階がAIと共に進むにつれて、人の知恵や知識、経験を使って「ものを見る」ことが少なくなっていきます。しかし一方で、

  • 目標と計画を立てる「人の意思」
  • 取得した情報を使った「行動への意思決定」
  • “ものづくり”を改善しようとする「人の改善努力」

は変わらないどころか、ますます重要になっていきます。「スマートファクトリーやAIが導入されると仕事がなくなる」とよく言われますが、実際はこれまでとは異なる「意思決定と行動」という、機械では置き換えることができない人の能力に重心が移るだけです。

IIoTを導入した場合の川を渡る判断

凍った川の例に戻れば、「川を渡る」という目標を設定したものの、各種センサーを手に入れただけではまだ第1段階の「可視」に過ぎません。センサーから得た情報を(AIではなく)自分の頭で分析しながら、一歩一歩進まなければなりません。

そこで、危険の検出と診断を行ってくれる機能をシステムに追加しました(第2段階)。しかし警報を聞いた時はすでに遅く、避難を始めた瞬間に氷のヒビが一斉に広がり、冷たい川に転落してしまうかもしれません。

そこで、氷が割れる危険な状態を前もって予測する機能をシステムに追加しました(第3段階)。しかし危険な状態を予測してから、一体どちらの方向にどのくらいの速さで避難すれば良いのでしょうか。まだ経験と勘が頼りです。

そこで、「どちらの方向にどのくらいの速さで今歩けば良いのか」、最適な行動(対策)を教えてくれる機能をシステムに追加しました(第4段階)。ここまで改善すれば、凍った川に転落する確率を最小限に抑えることができます。

IIoTとスマートファクトリーの導入

凍った川を安全に渡るだけでもこれだけ改善努力が必要になりますが、その価値は十分あります。これは不良品質を改善しながら(前回の記事を参照のこと)数パーセントの利益を確保しようと努力する“ものづくり”も同様です。

もし皆さんがIIoTやスマートファクトリーの導入をお考えでしたら、新年を迎えた今、その計画を実行に移してみませんか?

IoTの4つ発展段階「可視」、「検出・診断」、「予測」、「 対策」

明けましておめでとうございます、マスターブラックベルトの津吉です。今年も宜しくお願いいたします。

冬本番を迎え、私が住む北国では下の写真のように川がすっかり凍ってしまいました。今回は凍った川の“譬え話”を混ぜながら、IIoT(Industrial Internet of Things)やスマートファクトリーについて考えてみたいと思います。

凍った川を渡れますか?

ところで、もし「凍った川の上を歩いて渡れ」と言われたら、皆さんはどうしますか?平均水深は50センチです。川を渡れるかどうかは、この街に長く住んでいれば“経験と勘”だけで判断できるでしょう。経験がなくても、平均水深がたったの50センチなら思い切って川を渡ってみるかもしれません。(データを扱わない“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

しかし用心深い皆さんは川のデータを求めるはずです。そこで「1月の最大水深は5メートル、平均は50センチ、平均的な氷の厚さは10センチ」という情報を得ました。川を渡ってみますか?(過去のデータだけに頼る“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

更に用心深い皆さんは、過去のデータではなく、今の氷の状態を聞くでしょう。そこで「今日の氷の厚さは平均12センチ。12センチもあるのできっと大丈夫」という情報を得ました。川を渡ってみますか?(平均値だけでものごとを判断する“ものづくり”の現場を想像してみて下さい)

氷が割れて冷たい川に落ちる確率(リスク)を5%以下にしたい皆さんは、川全体の平均値ではなく、今現在立っているこの場所の氷の厚さを、歩を進めるごとに知りたいはずです。そこで

  • 氷厚センサー
  • 水深センサー
  • 水温センサー
  • 水流センサー

を手に入れました。川を渡ってみますか?(経常利益を少なくとも5%確保したい“ものづくり”の現場が、IIoT機器を手に入れたところを想像してみて下さい)

スマートファクトリーの発展段階

“ものづくり”の現場は、経験や勘、過去のデータや平均値という束縛から離れて、リアルタイムデータを手にするところからスマートファクトリーが始まります。しかしスマートファクトリーはリアルタイムデータだけではありません。スマートファクトリーには4つの要素と4つの発展段階があります。

スマートファクトリーの4つの要素

  1. 人の意思
  2. スマートファクトリー・システム
  3. 人の知恵や知識、経験
  4. 人の改善努力

スマートファクトリーの4つの発展段階:

  1. 可視(何が起こっているのか)
  2. 検出・診断(何故起こったのか)
  3. 予測(何が起こるのか)
  4. 対策(何をすれば良いのか)

スマートファクトリーの発展段階がAIと共に進むにつれて、人の知恵や知識、経験を使って「ものを見る」ことが少なくなっていきます。しかし一方で、

  • 目標と計画を立てる「人の意思」
  • 取得した情報を使った「行動への意思決定」
  • “ものづくり”を改善しようとする「人の改善努力」

は変わらないどころか、ますます重要になっていきます。「スマートファクトリーやAIが導入されると仕事がなくなる」とよく言われますが、実際はこれまでとは異なる「意思決定と行動」という、機械では置き換えることができない人の能力に重心が移るだけです。

IIoTを導入した場合の川を渡る判断

凍った川の例に戻れば、「川を渡る」という目標を設定したものの、各種センサーを手に入れただけではまだ第1段階の「可視」に過ぎません。センサーから得た情報を(AIではなく)自分の頭で分析しながら、一歩一歩進まなければなりません。

そこで、危険の検出と診断を行ってくれる機能をシステムに追加しました(第2段階)。しかし警報を聞いた時はすでに遅く、避難を始めた瞬間に氷のヒビが一斉に広がり、冷たい川に転落してしまうかもしれません。

そこで、氷が割れる危険な状態を前もって予測する機能をシステムに追加しました(第3段階)。しかし危険な状態を予測してから、一体どちらの方向にどのくらいの速さで避難すれば良いのでしょうか。まだ経験と勘が頼りです。

そこで、「どちらの方向にどのくらいの速さで今歩けば良いのか」、最適な行動(対策)を教えてくれる機能をシステムに追加しました(第4段階)。ここまで改善すれば、凍った川に転落する確率を最小限に抑えることができます。

IIoTとスマートファクトリーの導入

凍った川を安全に渡るだけでもこれだけ改善努力が必要になりますが、その価値は十分あります。これは不良品質を改善しながら(前回の記事を参照のこと)数パーセントの利益を確保しようと努力する“ものづくり”も同様です。

もし皆さんがIIoTやスマートファクトリーの導入をお考えでしたら、新年を迎えた今、その計画を実行に移してみませんか?

IoT導入事例ファイル3: 安価にIoT化を実現できるビーコンと4社の事例

こんにちは、AI・IoTの活用事例を集めている盛岡在住ライターの宮田文机です。2019年ももう終わりですね。今年は、AI・IoT元年といわれた2017年から2年経ち、本格的に導入を検討する企業が大きく増加した年といえるでしょう。他社に乗り遅れないため工場のIoT化を推し進めたいという需要もどんどん高まっているのではないでしょうか?

中小企業に役立つAI・IoTの導入事例を紹介するこの連載。第三回となる今回は「ビーコン(Beacon)」を使った工場のIoT化事例をご紹介します。

誰もが知るツールとはいえないため、まずはその基礎知識をご説明しましょう。

ビーコン(Beacon)とは?

ビーコン(Beacon)は“Bluetoothの無線通信技術を利用した位置特定・情報通信技術”です。消費電力が非常に小さいBLE(Bluetooth Low Energy)が開発され、2013年にApple社が独自のBLEであるiBeaconがリリースされてから大きく注目を集めました。ビーコン発信機と受信機が通信することで、発信機の位置を特定したり情報を送信したりすることが可能です。しかも数百円~数千円と非常に安価に手に入れることができ、ほとんどの場合BLEが用いられているため少ない電力で使えます。

位置情報を特定する技術としてGPSを思い浮かべる方もいるでしょう。GPSは通信に人工衛星を用いますが、ビーコンは手のひらサイズの機械で位置情報をやりとりします。そのため情報通信が出来る範囲は数メートルから数百メートルと狭くなりますが、その分省電力・安価で正確に位置情報を把握することが出来ます。さらに発信機と受信機のやり取りで完結するため地下や屋内でもスムーズに通信を行わせることが可能です。

ビーコンは商業施設でのキャンペーン通知や雪崩時の捜索などさまざまな用途で用いられています。そして、製造業の現場でも生産性向上やムダの削減に大きく貢献しています。

実際の事例を見てみましょう。

事例1:台車の位置情報を把握しムダを削減した株式会社三松

建築部品や精密加工機械部品など幅広い機械装置の組立てを行う九州の株式会社三松。同社が課題として抱えていたのが、“台車の紛失問題”。顧客企業に組み立てた製品を納品する際に用いた台車が返ってこない事態が多数起こっていたのです。また見つからない台車を探す時間も生産性を下げる要因となっていました。

そこで導入したのが「ビーコンで各台車の位置情報を把握するシステム」。台車にビーコンを取り付けることで工場内マップ上で各台車の位置を一覧することを可能にしました。台車の紛失問題が解決されただけでなく、探す時間が不要になったことで業務効率が改善され、年間約3%の工数削減につながったといいます。

事例2:織機の稼働状況を可視化した丸井織物株式会社

石川県能登町の繊維メーカー丸井織物は積極的なIoT活用により、コストを押さえつつ幅広いニーズに応えることを可能にしています。丸井織物が活用するのが前述のiBeacon。織機にセンサーを取り付けることで、職員がiPod touchを近づけた際に稼働情報を読み取れるようにしました。その結果、不具合が起きても簡単に原因を特定し記録をすることができるようになったということです。

センサーは後付けでメーターや動きから情報を取得できるため、旧式の機械にも対応可能。メンテナンスの精度向上や生産性アップにつながっているということです。

事例3:位置情報で進捗や工数把握を実現したケーアイ工業

静岡県富士市にて金属加工に携わる60名規模のケーアイ工業株式会社。同社はビーコンで作業指示書の位置情報を得ることで工場の進捗や正確な工数まで把握できるようにしました。

その仕組みは製品・部品とともに作業指示書が工場内を移動することで成り立っています。作業指示書の位置が移動するということは、その前の工作機械による作業が完了したということです。すなわち、移動したということは作業が進んだということであり、各移動の間の時間を計測すれば正確な工数も把握することができます。結果としてデータを基にカイゼンの議論が行えるようになり、作業者の意識も高まったそうです。

事例4:出荷の効率をビーコンタグで高めたネスレ日本

最後はネスカフェやキットカットで知られるネスレ日本の事例です。ここでビーコンは製品の積み込みを行うトラックの位置情報・ステータスを可視化し、出荷の効率を高める役割を発揮しました。

ドライバーがトラックの待機場に到達した段階で行き先、車体ナンバーやドライバーの連絡先といった情報がビーコンタグに登録されドライバーに手渡されます。ビーコンタグを使えば、それらの情報とともに位置がわかるため「どこ行きのトラックがいつどこにいるか」工場側で簡単に把握できるように。次に来るトラックの行き先に合わせて出荷準備を行い、ベストなタイミングでドライバーを呼び出す仕組みが整いました。

同社の計測によると、システム導入以前/以後でトラックドライバーの拘束時間に約30%の違いが生じたそうです。

まとめ

製造現場のIoT化を安価に実現できるビーコンの概要と活用事例についてご紹介しました。

モノの位置情報を把握できる機能だけでも多様な活用法があり、記事中で紹介したように進捗把握や効率アップにつなげることができます。これまであまり目を向けてこなかった方も、ビーコンを使ってムダや非効率を改善できないか一度考えてみてください。

なぜIoTに注目が集まっているのか?

こんにちは、マスターブラックベルトの津吉です。

時々リコールといった製品の不具合に関するニュースがテレビや新聞に流れますが、ものづくりを日頃行っている皆さんは製品の不良品質とどのように付き合っていますか?不良品質に伴うコストをどのように考えていますか?今回は不良品質に伴うコストとそれを防ぐためのコストについて考えてみたいと思います。

不良品質に伴うコスト(Cost of Poor Quality: COPQ)

一概に不良品質に伴うコストと言っても、実際には様々なコストに分類することができます。

防止コスト:製造プロセスの管理や、そこでの製品検査や点検に伴うコストです。そのための社員教育やトレーニング費用も含みます。統計的手法を用いた分析や設計レビューに使われる時間なども防止コストに含まれます。

評価コスト:サプライヤーから送られてきた材料の受入検査、または外部機関に依頼した製品の評価費用(検査や点検)、そしてISO-9001のような外部監査費用などが評価コストに含まれます。

測定器等のコスト:品質対策に使われる機材や測定器等のコストが含まれます(製品の製造目的以外に使われるもの)。

内部エラーコスト:スクラップ品の原材料費、手直しに伴う人件費などが含まれます。また悪い歩留まりを見越した余分な在庫も内部エラーコストに含まれます。

外部エラーコスト:不良品の返品や値引き、品質契約違反に伴う罰金や罰則に伴うコスト、苦情処理に伴う人件費、補償に伴う交換部品や人件費などが含まれます。

顧客が蒙るコスト:不良品が原因で顧客の工場が稼働停止になったり、顧客の設備にダメージを与えた場合の補償費用です。また稼働停止期間中の代替製品や代替サービスの費用も顧客が蒙る(顧客に補償する)コストに含まれます。

顧客の不満足に伴うコスト:不良品が原因で顧客が不満を持てば、その声は市場に広まります。結果的にその製品の売上や市場シェアの低下を招きます。

評判を失うことに伴うコスト:不良品質が企業の評判を落とすことになれば、一つの製品だけに留まらず、他の製品の売上や市場シェアの低下をも招きます。上場企業であれば株価にも悪影響を与え、株主集団訴訟に発展することもあるでしょう。

不良品質に伴うコストの影響

「制御可能な不良品質コスト(防止コスト、評価コスト、測定器等のコスト)」を1とすると、「不良品質の結果に伴うコスト(内部エラーコスト、外部エラーコスト)」は10、そして「間接不良品質コスト(顧客が蒙るコスト、不満足に伴うコスト、評判を失うコスト)」は100になると一般的に言われています。

逆に言えば、不良品質を防ぐためにたった1のコストを支払うことで、100の「間接不良品質コスト」が防げる計算になります。

この不良品質に伴うコストの影響度合いは、私たちの感覚とも一致するのではないでしょうか。

例えば最近あったS自動車会社のリコール費用は800億円以上に上ると言われています。リコールの原因は測定データの改ざんでした(人員不足と教育体制の機能不全のため)。品質管理費用を少しばかり惜しんだために、その100倍以上のリコール費用を払うことになった良い例です。

シックスシグマやIoTを導入する理由

不良品質を改善するシックスシグマでは統計的工程管理を行うため、シックスシグマを導入する際は社員教育や統計処理ソフトウェアが必要になります。これは不良品質の「防止コスト」に当たります。

しかし「防止コスト」は「不良品質の結果に伴うコスト」や「間接不良品質コスト」に比べれば遥かに安くすみます。つまり企業がシックスシグマ等の改善プロジェクトを推し進める理由は、「防止コスト」の相対的安さにあります。

同じ理由から、「測定器等のコスト」に当たるIoT(Internet of Things)の導入も進んでいます。IoTの導入は決して安くはありませんが、やはり「不良品質の結果に伴うコスト」や「間接不良品質コスト」に比べれば遥かに安くすむため、今IoTに注目が集まっているようです。

機会があれば皆さんの職場でも、不良品質に伴うコストを計算してみては如何でしょうか。きっとそれを防ぐための対策費用の方が遥かに安いはずです。

今すぐやれる製造業の小さなデジタル化

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。今回は製造業のデジタル化についてです。

製造業のデジタル化への動き

人手不足、働き方改革といった問題の解決策として、各業界でデジタル技術の活用が注目されています。もちろん製造業においても、デジタル改革というのは近年大きな話題となっています。

  • IoTで見えていなかったものを見える化する。
  • AIを使ってより最適な加工条件を導き出したり、熟練技術者の技術を学習させたりする。
  • 3D CADと3Dプリンターで試作や解析まで容易におこなえるようになり、製品の質をあげていく。
  • PLMを導入して、各個人が持つ技術情報が部門を超えて一元管理される。
  • 協働ロボットを導入して作業効率のアップする。

など。人手不足、働き方改革にとどまらず、技術継承やコストダウン、安全対策など、製造業ではデジタル化により解決できる問題が数多くあります。

製造業のデジタル化に関しては、国も様々な取り組みを行っています。経済産業省が毎年発行している「ものづくり白書」では、第4次産業革命がここ数年の大きなテーマです。2019年度版では、我が国の製造業が世界に対して競争力を強化する4つの方策を上げています。

  1. データの活用による新たなビジネスモデルの構築
  2. 強みを活かした世界市場の開拓
  3. 製造×AI・IoTスキル人材の育成と活躍できる現場作り
  4. 技能のデジタル化と徹底的な省力化

2011年にドイツから始まった、製造業のデジタル技術を中心とした革新、「インダストリー4.0(第4次産業革命)」の波は、確実に日本にも影響を与えています。革新が進みつつあるものの、それを進めていく人材不足も問題となっていることが白書からわかります。

2019年版ものづくり白書

もう少し具体的な例として、国と民間が協力して行っているこんな研究もあります。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と産業技術総合研究所、大阪大学、中部大学が共同して、製造現場で自律的な作業を実現するロボットのAI技術の開発です。

製造現場でのロボットの自律的な作業を実現するAI技術を開発

製造、組み立てラインでのロボットの使用は以前から行われていました。単一作業を行うには、人間より高速かつ正確。長時間の作業でも問題ない点は、今まで製造業で大いに役に立ってきました。しかし、多品種少量生産となると、変更の度に動作を新たに教えるか、ロボットそのものを変えないといけません。このロボットAI技術によって多品種少量生産でもロボットが使えるようになります。こういう形でも製造業のデジタル化は進みつつあるのです。

小さな町工場でもできるデジタル化

製造業のデジタル化は、今後もさらに加速して進んでいくのは確実と思われます。避けて通れない事案であり、やらなければ取り残されて、やがて消えていくことになるかもしれません。

とはいえ、総務省・経済産業省の経済センサス―活動調査によれば、日本には約22万もの工場があり、その99%以上が従業員数300人以下の中小企業。IoT、AIだなどと言われても、費用もなければ、それをやれる人もいない。納期の管理なんて、今どきのAIなんかより遥かに優秀な社長の頭で、柔軟にサバをよみつつ管理ができるよ。機械の不調なんて音を聞いていればわかるさ。情報共有なんてパソコンでしなくても、話していれば勝手に共有できている。別にデジタル化なんて必要ない。なんて思うところも多いのではないでしょうか。確かに、人数が10人もいないような小さな工場で、これからはデジタル化だ!と言われても、何のことだかわからないというのも当然あると思います。

IoTでスマートファクトリーとか、設計情報をシステムで一元管理とか、協働ロボット入れて省力化とか。何もそんな大がかりなところからデジタル化をしなくても、現状の製造業ではかなり効果があると思われる、ほんのわずかなデジタル化があります。その1つが、受発注でFAXをやめることです。

私が以前、ある小さな工場の社長から聞いた話です。その工場は、何台もの機械を社長一人で操作して部品をつくる加工工場。材料の調達も、加工も、発送も全て社長1人でおこなっています。以前はFAXを使って図面、発注書などを受け、見積もり書の送付も行っていました。パソコンで作った書類をプリンターで打ち出し、それをまた送る。送られてきた書類が山積みになっていく。事務作業が増えるばかりで、一番重要な加工作業にあてられる時間を圧迫していました。

では、事務作業を減らすにはどうしたらいいか。その結果おこなったのがFAXの廃止です。

注文などは全てメールで行うようにしました。その結果、事務作業は大幅に減り、管理も楽になる。作業効率が大幅に上がったそうです。最初は、それでは注文ができないと苦情を言う業者もあったそうですが、廃止は特に問題はありませんでした。今ではインターネット経由の注文も増えているそうです。

今もFAXでやり取りしている製造業の方は結構いるのではないでしょうか?電話しか連絡手段のない時代には大変便利なものでした。しかし、今はもっと便利なメールがあります。導入には、それほど手間も時間もお金もかかりません。そのぐらいのところからまず、デジタル化してはどうでしょうか。今ではメールも煩わしいということで、ビジネス向けのチャットツールも活躍するようになりました。それも比較的簡単に導入ができます。日本の製造業のデジタル化は、全体で見るとまだかなり遅れているといえます。変えられるところから小さくデジタル化していく。小さなところからコツコツと。日本の製造業が得意とするところです。

IoT導入事例ファイル2: データ活用が工場や人、品質に効果をもたらした6社の事例

こんにちは、製造業のデジタル化を応援するライターの宮田文机です。

近年のデジタル化のキーワードの一つとして挙げられるのが「データ活用」。プロセス改善やトレーサビリティ(追跡可能性)の確保に生かすべく、ものづくりの現場におけるデータ活用推進は年々進められています。

IoT導入事例ファイル第二回では、データ活用を実地した企業6社の例をご紹介。

一口にデータ活用といってもその内容は生産性向上、品質向上、在庫状況の把握など多種多様です。

温度データを品質管理に活用する東京鋳造所

群馬県高崎市でアルミの金型鋳造に従事する30~40名規模の東京鋳造所。1929年創業と長い歴史を誇る同社は2020年の東京オリンピックを目標に工場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める「VISION2020」を掲げ、その一環としてデータ計測による品質管理を開始しました。

まずは鋳造に用いる金型に8本の熱電対を設置して温度をリアルタイムで測定。最も安定して高品質な製品を生産できる温度バランスを探ったそうです。そうして導き出したベストな管理データを活用することでロボットに自動で品質管理を行わせることが可能に。さらに、同社の海外進出の際、日本で得られたデータを共有することで、スムーズに同品質の製品を生み出せる環境が整ったといいます。

データを生産管理の効率化とコスト削減につなげた長島鋳物

長島鋳物は埼玉県川口市にてマンホール蓋枠製造に携わるものづくり企業です。近年特に多様化が進んでいるマンホール。必然的に多品種少量生産となり、管理コストが高まっていました。そこで同社が着手したのが鋳造工程のIoT化。

製品ごとに異なる材料の量や冷却に必要な時間、鋳造の進み具合などのデータを電気炉と注湯機に新設したセンサーから取得し、タブレットなどでリアルタイム把握できる環境を構築。さらに適切な炉内温度を測定することで10%の電気代削減にもつなげることができたそうです。

なお、同社工場のIoT化にかかったコストは一般社団法人環境共創イニシアチブが運営する「地域工場・中小企業等の省エネルギー設備導入補助金」によって賄われました。こうした公的補助は中小企業のIoT化の大きな味方です。

「人」のデータを生かして適材適所を実現する今橋製作所

茨城県日立市で発電機部品、自動車部品、医療機器部品、宇宙機器部品、半導体製造装置部品などの切削加工に取り組んでいる今橋製作所。緻密かつ高度な加工が求められる部品の製造を行うものづくり企業であり、その分工員の熟練や適性が重視されます。

そんな同社が実施しているのは“データ活用で従業員を適切に配置し活躍を後押しすること”。工員の思考力やストレス耐性、機器の使いこなしといった個人特性をコンサルティング会社と協力してデータ化。適切な配置やメンタルケア、離職防止に生かしています。

採用市場における人手不足は今後も続くことが予測されます。機器や設備だけでなく「人」のデータも生かすことで生産性向上や働き方改革といった大目標につなげられるでしょう。

クラウド経由で在庫データを把握する山田木管工業所

続いての先進企業は、岐阜県山県市の山田木管工業所。

手ぬぐい額などのオリジナル額縁やモダン神棚、四方框扉(しほうかまちとびら)といった木造りの温かみのある製品を生み出す企業です。同社では、在庫状況の把握をデータによって効率化しました。

具体的には、商品バーコードをスマホで読み取ることで、クラウドサービスを通して在庫数や最低在庫切れ、製造の優先順位などを把握できるシステムを構築。それまで完成品置き場まで移動して在庫状況を確認していた手間がなくなり、業務効率が非常に高まったといいます。

同社の取り組みは経済産業省が後押しする「スマートものづくり応援隊」の協力を受けて実施されました。

情報管理の手間を減らし短納期で他社に差をつける山口製作所

自動車関連部品やPCヒンジ関連部品のプレス加工・組立を行う新潟県小千谷市の山口製作所。同社は工場のIT化にいち早く取り組み、他社と比較して7~8割の短納期生産を可能にしています。そのスピードを支えているのはマイクロソフト社のAccessをベースに独自開発した生産管理システムと、中小企業庁の「ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金」を利用して導入したデータ収集型機械制御システム。

製品データを一つのシステムに統合することで情報を呼び出す手間を削減でき、さらに工場の稼働状況を顧客に開示することでトレーサビリティにも寄与しました。同工場のデジタル化は生産性を約3倍向上させたというデータも出ているそうです。

データの共有で「人」をつなげる今野製作所

最後はIoTで設備と人をつないだ工場の事例をみてみましょう。東京都足立区に本社を構え、油圧機器・板金加工・エンジニアリング&サービス・福祉機器の4事業を展開する今野製作所です。

同社はリーマンショックによる業績低下を契機に、業務フローの改善に着手。引き合い・受注・生産・在庫状況にまつわるデータをほぼリアルタイムで全社的に共有できるシステムを構築し、従業員全員が一丸となって目標達成に取り組める環境を整えました。結果としてある製品の受注売り上げは約5倍になるといった成果が得られたそうです。

今野製作所はこの成功体験を生かし、自社内だけでなく他社との協業もIoTで実現することに取り組みました。西川精機製作所とエー・アイ・エスの2社と共同で運営する「東京町工場 ものづくりのワ」での情報共有やノウハウ蓄積にも同社が構築したシステムが生かされています。

まとめ

品質管理、コスト削減、人材配置、情報管理、トレーサビリティ確保、情報共有……、ものづくりに「データ活用」の考え方を取り入れることで生かされるポイントは枚挙にいとまがありません。

実際近年データ活用に対する意識は製造業全体で高まっており、2015年から2016年で「生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っている」と経済産業省に回答した企業は大企業で20%、中小企業で26%増加しました。

多くの企業が次に進むべきは、データ収集からデータ活用のフェーズです。そのために本記事の事例をぜひ参考にしてください。

IoT導入事例ファイル1: 中小企業5社のスマホを使ったIoT

初めまして、製造業のデジタル化を応援するライターの宮田文机です。IT・HR・ビジネス戦略などを専門に、盛岡と東京の二拠点で活動しています。

政府の後押しや技術の普及を背景に工場へのIoT 導入が進んでいます。しかし社内にIT人材がいない、古い設備を交換する余裕がないなどの理由で着手できていないという経営者・担当者の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?そこでこの連載ではIoT化を職場改善につなげた企業の例を紹介、明日から役立つIoT化知識をお届けします。

第一回のテーマは、今や生活必需品ともいえる「スマホを使ったIoT化」です。

炉の遠隔監視・操作を可能にした岡谷熱処理工業株式会社

金型や工具の熱処理事業を行う岡谷熱処理工業株式会社。深夜無人状態で「焼き入れ」「焼き戻し」の作業を行っており、落雷などトラブル要因が発生するたびに社員が現場に駆け付けなければならないという問題がありました。

そこで熱処理炉・コーティング炉の炉内温度や使用電力量、冷却水温度などのデータをスマホで監視し、遠隔操作できるシステムを構築。働き方改革につながっただけでなく早急な問題の把握と立て直しに役立ったそうです。さらに製品の受注表の作成といった事務作業もスマホで登録できるようにすることで効率化・迅速化、さらにスムーズなデータ集積にもつながりました。

データの取得が容易になるIoTにおいて“いつでもどこでも状況把握ができる”という効果は代表的なものです。

独自開発のシンプルなシステムを活用する久野金属工業株式会社

愛知県の金属加工メーカー、久野金属工業株式会社はプレス加工を行うライン自体にセンサーを装着。社員がスマホで、1日の機械の稼働時間やサイクルタイム(一つの製品を生み出すまでに費やされる時間)などを把握できる環境を整えました。このIoTシステムは久野金属工業株式会社が関連企業と共同開発したもので「IoT GO」と名付けられています。

このようにIoTシステムを独自に開発、それ自体をビジネスとする製造会社も存在します。実は同システムが計測する対象は機械のオン/オフだけ。それだけで稼働時間や停止時間、サイクルタイムなどの重要指標は計測することができます。

そのようなシンプルなシステムから導入することが工場のIoT化で失敗しないコツのひとつです。ぜひ参考にしてください。

問題の原因特定を一目で可能にした株式会社土屋合成

文房具、自動車部品、時計など幅広い製品のプラスチック射出成型業を営む株式会社土屋合成。同社が実現したのはスマホとネットワークカメラを掛け合わせた生産状況監視システムです。

まず同社はメーカーの混在する成型機49台の稼働状況を取得し、正常稼働は青色で表示、停止中は赤色で警告など、一目で把握できるシステムを構築しました。そのうえで工場・事務所の全体にネットワークでつながったカメラを設置し、映像で問題発生時の様子を確認できるようにしました。

そうすることで原因特定が速やかに行えるようになりかつ問題解決に割かれる人員を減らすことで生産性向上にもつながったということです。

タブレット

クラウドサービスを上手に活用する株式会社幸田商店

食品製造業の現場でもIoTとスマホの活用による改革が始まっています。株式会社幸田商店は茨城県ひたちなか市に位置し、ほしいも、きな粉などの製造販売を行う企業。以前は生産管理なども手書きで行われていた幸田商店ですが、効率化を狙ってIoTを導入。原料と商品の出入庫情報をバーコード読み取りで入力できる体制を整え、リアルタイムでの在庫管理を可能にしました。

文章だけでなく画像や動画でも記録できるため情報量やわかりやすさが高まるという、データの質に対する成果もあったそうです。同社のシステムはkintoneやOneDriveといったクラウドサービスを用いることでコストが抑えられています。

導入スピードや運用の容易さにおいてもクラウドサービスには利点があります。

ノウハウ継承にIoTを生かす大鉄精工株式会社

医療機器や潜水艦など高い精度の求められる精密機械の切削加工を行うのが大鉄精工株式会社。同社はその貴重なノウハウの蓄積に「Teachme Biz」というクラウドベースのマニュアル作成ツールを導入。実際の作業現場で写真を撮影しその場でマニュアルの作成ができる環境を整えました。

紙の場合難しかったマニュアルの更新や差し替えも容易になり、指導の幅も広がったということです。

実はマニュアル作成もデジタル化によって得られるメリットの大きい作業です。

まとめ

スマホとIoTを掛け合わせ社員の負担軽減や生産性向上、ノウハウ継承につなげた中小企業5社の事例をご紹介しました。スマホは、最も普及したIoT機器ともいえます。うまく活用すれば安価かつ高速の導入・定着化も望めるでしょう。自社に重なる事例はないかぜひ振り返ってみてください。

120kg運送可能、IoTでネットに接続。ハードもソフトも進化する自転車事情

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。

今回は進化する最近の自転車事情についてです。

120kgの荷物が運べて小回りも効く電動アシストサイクル

佐川急便が、3輪電動アシスト自転車の開発製造販売を行う豊田TRIKEと、業務用電動アシスト自転車「TRIKE CARGO」を共同開発しました。

豊田TRIKEと佐川急便が共同で業務用電動アシスト自転車「TRIKE CARGO」を開発

TRIKE CARGOは荷台を牽引する構造になっていて、最大で従来の4倍となる120kgまで荷物を搭載することが可能です。2つの前輪が傾きに合わせて上下に連動して動く「シンクロシステム」は、11か国で特許取得済み。このシステムにより、段差や傾斜でも車体が垂直に保たれ、安定した走行ができます。ペダルは電動アシスト式で、サドルよりもペダルがやや前方に取り付けられたセミリカンベント型。快適な走行が可能です。荷台部分に荷物を載せた台車を直接積載し、ワンタッチでロックおよび解除が可能で積み替え作業の軽減もされているそうです。

2006年の道交法改正で、民間委託による駐車違反取り締まりが開始されて以降、一時駐車する宅配業者の車両の取り締まりが厳しくなりました。そのころから、リヤカーを付けた自転車で荷物を運ぶ宅配業者をよく見かけるようになった気がします。初めてリヤカー付き自転車で配送しているのを見たときは、電動アシストではない自転車で配送していたと思います。荷物も相当重いだろうし、配達員の人はかなりの脚力と持久力のある人じゃないと務まらないなと見ていた記憶があります。近年では業務用のリヤカー付電動アシスト自転車が各種販売されています。2017年には荷物運搬用のリヤカーをつけた専用の三輪電動アシスト自転車は、補助比率が通常の電動アシスト自転車より大きくすることが可能になり、いわゆる物流のラストマイルといわれる部分は自転車の比率が上がってくると予想されています。

豊田TRIKEのホームページを見ると、荷物の運搬や配送に限らず、病院や介護施設の送迎用車両として、ゴルフ場のカート、観光地でのサイクリング、災害時の物資の運搬など様々な利用シーンを想定しています。

豊田TRIKE

最近、高齢者の運転する自動車による事故が問題となっていますが、生活インフラとして自動車がなくてはならない地域もあり、簡単には解決できないところがあります。それほど遠くない未来には自動運転が実用化され、問題が解決されるかもしれません。しかし、それまでの間は、こういった自転車が、多少なりとも問題解決の助けになると思います。電動アシストで坂の上り下りも楽。三輪なので乗り降りの際も安定しています。かなりの量の荷物の運搬もできるので、短い距離での買い物や移動手段としては最適ではないでしょうか。あとは、屋根がついているとありがたい。傘を持って片手で自転車に乗ってはいけないし、雨合羽は暑がりの私にはサウナスーツ着ているようなもの。着ていても着ていなくても服がビショビショになります。暑がりは、自転車に乗ったら風を感じたい生き物なのです。

自転車もIoT、シェアの時代

自転車は電動アシストや車輪の運動機構などの機械的な性能向上だけでなく、デジタル技術を活用したソフト面での発展も進んでいます。パナソニックでは、スマートロックを搭載したIoT電動アシスト自転車を開発しています。

IoT電動アシスト自転車を開発、実証実験開始

開発された自転車は、通信機能を備え、インターネットに接続することでスマートフォンから電子錠を開錠したり、利用料の決済ができます。GPSにより距離やルートなどの走行データを取得。追尾もできるので防犯性も高まります。電池残量などの自転車のメンテナンスにかかわる情報も取得可能です。

最近は、都内だとコンビニ前や駐車場、ちょっとした空きスペースにシェア自転車置き場があって、スマホで簡単に利用できます。中国ではシェアサイクル事業が爆発的に普及し、放置や廃棄された自転車が問題になっているなんてニュースが少し前に出ていました。日本もようやくシェア自転車が普及してきた感じがします。都内で利用している人を見かけることも多くなりました。観光地でレンタルサイクル屋があれば利用するので、都内だけでなく全国的に普及してくれるとありがたいです。

ところで、自転車の性能向上の話とは違うのですが、自転車というと、同じく都内でUber Eatsの配達をしている人を見かける機会が増えました。蛍光の緑や黒い四角い専用のザックを背負って自転車で走っています。配達先までのルートはスマホで確認できるので、道に不慣れな人でも配達員ができます。

1999年に公開された草彅剛、飯島直子などが出演する「メッセンジャー」という映画の中で、こんなシーンがありました。草彅剛が演じる鈴木宏法が経営する自転車便の会社が、色々あって今までにない大量の配達を請け負うことになります。社員総動員で何度も行き来して配達を行うが手が回らない。そこで、加山雄三が演じる元警察官の島野真が司令塔となり、無線で各自の現在位置を確認しながら最適ルートや、仕事の配分を指示。最高の業績を叩き出します。20年の時を経て、それがスマホとAIで誰でも簡単に利用できるようになりました。便利な時代になったものです。

実際に動くガンダムを作ろうという注目のプロジェクト

元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場です。製造業に関連する気になるニュース、製品、技術などを取り上げていきます。今回は実際に動くガンダムを作ろうという注目のプロジェクトと、ロボット技術の発展についてです。

こいつ、動くぞ!子供の頃の夢が実現に近づく。

TVアニメ「機動戦士ガンダム」の最初のシリーズが放送されたのが1979年。40周年を迎える今年は、コラボ企画など、様々な記念イベントが行われています。その様な中、気になるプロジェクトがありました。実物大のガンダムを作って動かしてみようというものです。

ガンダム GLOBAL CHALLENGE。究極の夢、18mの実物大ガンダムを、動かすことに挑戦!

今さら説明するまでもないとは思いますが、機動戦士ガンダムは宇宙を舞台にしたロボットアニメ。モビルスーツと呼ばれるロボット兵器に人が乗り込み、宇宙や地球を舞台に戦います。それまでのロボットアニメでは、正義のヒーローロボットが、悪の侵略者のロボットや怪獣と戦い倒していくというのが当たり前でした。ガンダムでは、どちらが悪とも言えない戦争が軸になっています。兵器であって、量産の消耗品として扱われるロボットや、巻き込まれて戦争に参加しなくてはならなくなった少年、少女の心の葛藤や成長も描き、後に「リアルロボットもの」と呼ばれるようになった作品です。

最初の放送ではあまり人気が出なかったものの、放送終了後に発売されたプラモデルが爆発的に人気となり、何度も再放送され、映画化もされています。1972年生まれの私は正にそのブームに乗っかった世代。子供の頃、模型屋に並んで「ガンプラ」を買い、専用の塗料で色を塗って遊んだものです。10年前の2009年、お台場に実物大の高さ18mの立像が出来た時は、アニメ第1話のタイトル「ガンダム大地に立つ!」が実現したかと感慨深いものがありました。それがいよいよ実際に動く形になるとは。

現在は、夢を実現させるためにプロジェクトチームを結成し、世界中から幅広くアイデアやプランを募集しています。2020年夏には横浜で実際に動く実物大のガンダムが披露される予定だそうです。実現が楽しみです。恐らく、動いた姿を見たガンダムファンは、「こいつ、動くぞ!」と第1話で主人公のアムロ・レイが初めてガンダムのコクピットに入った時に言ったセリフを言うのでしょう。多分、私も言います。

当時のスーパーコンピューターも、今やスマートフォンサイズ

さて、私の年代ぐらいだと、子供の頃に見たガンダムに憧れ、「あんなロボットを自分で作りたい!」なんて思って工学部に進んだ学生はそれなりにいました。そして学んでいくにつれ、あのサイズのロボットは、90年代前半頃の技術では、人のように歩くことは無理。自分で立ち上がる事さえ困難。今は実現不可能ということを知ることになります。

しかし、ホンダが人の形をした自立型の二足歩行ロボットP2を1996年に発表します。歩行速度は時速2km程度でしたが、人のように足を動かして歩く姿に驚愕しました。その後、2000年代に入りASIMOが出てくると、中に人が入っているのかと言われるほど滑らかに歩くようになります。最近では、アメリカのBoston Dynamics社のロボット「Atlas」が歩くだけに留まらず、走ったり、バク転をしたり、障害物を軽々と飛び越えていく映像が公開されています。

Boston Dynamics「Atlas」

蓄電池、関節を動かすサーボ、物を立体的に撮影するステレオカメラ、画像解析、軽く強固な新しい素材、高精度のセンサー。様々な技術が90年と比べ飛躍的に向上しました。なによりも、ロボット全体を制御するコンピューターの性能は当時とは比べ物になりません。スマートフォンの計算能力は、部屋を埋め尽くすような大きさの、当時のスーパーコンピューターの計算能力と同じぐらいあります。リアルなガンダムは、まだかなり遠い先の話かとは思いますが、災害救助や危険な場所での作業を行う2足、4足歩行のロボットというのは、実用化が進みつつあります。

人手不足、技術継承が問題となっている製造業でも、ロボットは救世主になるでしょう。製造業においては、組み立てや溶接、ピッキングを行うアーム型ロボットが数多く導入されています。もう何年かしたら、AIにより自律的に動く2足歩行ロボットが、人間と同じように工場内を歩きまわり、作業をするようになっているかもしれません。そのうち、メモリーに図面を入れておけば、加工機を自分で操作して削り、組み立て、検査までやってくれる。しかも、IoT技術などを使ってデジタル化された熟練工の技術がそのロボットに入力されていて、全く同じように加工が行えるなんてことも、できるようになるかもしれません。

そうなれば、人手不足から人要らずになることも考えられます。ロボットやAIの技術が進歩すれば、消えていく仕事というのは当然出てくると思います。産業革命、IT革命など、テクノロジーが進化すると必ず何らかの仕事が消えます。逆に新しい仕事も発生します。人間もテクノロジーに合わせて仕事の内容や、やり方など、進化・改革していかないといけないでしょう。ガンダムの最初のアニメで、次回予告の最後に言われていたセリフです。君は生き延びることができるか?

中小製造業のための「今さら聞けないIoTって何?」

テクノポートの徳山です。IoTという言葉が世の中に浸透しつつありますが、中には実はあまり理解できていない、、という方もいらっしゃると思います。そんな方のために、IoTについての基礎的な説明から具体事例までご紹介していきます。

IoT(Internet of Things)とは

そもそも言葉の意味が分からないという方もいらっしゃると思うので、概要だけ触れてみたいと思います。

IoTは「モノのインターネット化」と表現され、今まではパソコンやスマートフォンといった機器がインターネットに繋がっていましたが、これからは様々な「モノ」がインターネットに繋がっていくことを意味します。

家電、自動車、工作機械など様々な「モノ」がインターネットと繋がっていくことによって、多くの「便利なこと」が生まれてきます。外から遠隔でエアコンを操作したり、自動車に乗っている時にオススメのレストランをカーナビが教えてくれたり、建設機械が自動的に燃料の残量を教えてくれたり…といった具体です。

しかし、世間で流れているIoT関連のニュースを聞いていても、一般消費者が利用するIoT製品やサービスの話ばかりで、製造業が自社の業務効率改善にどのように結びつければよいかのか分かりづらいと思います。製造業がIoTを活用するためには、まずIoTの基本的な流れを知る必要がありますので、まずはそちらをご説明します。

IoT活用の基本的な流れ

IoTを活用する際の基本的な流れは、下記の通りとなります。

  1. データを取得する(主にセンサ技術)
  2. 収集したデータをクラウドサーバにデータを蓄積する
  3. 蓄積したデータを分析する
  4. 分析したデータをフィードバックする
  5. フィードバックしたデータをもとに次のアクションを起こす

大切なのは問題解決意識を持った上でIoT活用に取り組むことです。データ収集を優先させ意味のないデータを集めたところで問題解決にはつながりません。あくまで、解決したい問題に対し、どのようなデータを収集すればよいかを考えるべきです。

そして、いちばん大事なのは最終的に次のアクションを起こすことです。逆に次のアクションにつながらなければ、データだけ取得しての自己満足となってしまいます(もっと言えば、アクションを起こせても何らかの効果がなければ意味がありません)。

目的と手段を履き違えないように注意しながらIoT活用の構想を練ってみてください。

なぜ近年騒がれるようになってきたのか

少し話は脱線しますが、なぜ近年IoTが騒がれるようになったかというと、上述した「IoT活用の基本的な流れ」を補完する技術が出揃い、普及段階に入ったためです。具体的には下記のような技術が進歩したからと言われています。

  • データを収集するツール(センサ技術など)の発展
  • インターネットやクラウド技術の発展
  • AIなどデータを分析するツールの進化
  • データを収集したり受け取ったりするデバイスが普及(スマホ、タブレットなど)

一昔前だと、IoTを活用するためには莫大なコストが掛かりましたが、技術発展のおかげで安価に導入できるようになりました。そんな背景もあり、最近では行政が中小製造業への支援を積極的に行っており、具体的な活用事例が増えてきました。

中小製造業での活用例

中小製造業への支援が加速

製造業界で大きな問題となっている人材不足問題。その問題解決の一手となるということで、数年前からIoT活用を行政が強く推しています。下記に経済産業省の支援策がまとまっているのでご参照ください。

第四次産業革命に挑戦する中堅・中小製造企業への支援施策

支援施策によると、全国29箇所にスマートものづくり応援隊というものを設置しているので(2018年10月時点)、IoT導入を検討している方は相談してみてはいかがでしょうか。また、IoT活用に関して使える補助金も幅広く「ものづくり補助金」「省エネ補助金」「IT導入補助金」などがあります。

具体的な活用事例

内田染工場 色のデータを蓄積し技術継承へ

職人が暗黙知で行っていた染色作業をデータ化し、社内共有できるようにすることで、作業効率アップにつなげた事例です。

ものづくり補助金を活用し、コンピューターで色を識別して色を自動生成するコンピューターカラーマッチングシステムという機械を導入することで、収集したデータを分析、フィードバック、次のアクションへとつなげることに成功しています。職人でなくても染色作業ができるようになるとういことで、技術伝承にもつながった事例です。職人技をデジタル化するためにIoTを活用するのは非常に意義深い取り組みですね。

オムロン草津事業所 IoTで工具寿命の改善

大手メーカーであるオムロンの事例ですが、中小製造業でも活用できる事例だと思ったの取り上げました。

マシニングセンタでワークを固定する加工用治具に振動センサーを取り付け、そこから取得できる振動データの特徴量を分析し、工具摩耗の予兆をや最適な加工条件を導き出すことに成功した事例です。これにより、工具の摩耗量は20%減で寿命は2倍に、加工時間は40%削減したそうです。データの特徴量を分析することろが難易度が高いところですが、振動センサーなど手に入る道具を組み合わせることで、社内から取得できる情報は色々とありそうです。

日進精機 機械のトラブルを事前に検知

プレス機に音センサーを取り付けて、センサーにプレス音を集音させることで、過去の音とクラウド上で比較することで異常予兆を検知できるという事例です。

約1年間に渡り音を聞き分けるためのデータを取得し続けて、集音の精度を高めたそうです。これにより概ねプレス金型の使用回数を5~10%上げることにつながったとのことです。ちなみにこちらの事例では、制御コンピュータとしてラズベリーパイというツールを使っています。ラズベリーパイは安価で、公開されているソースコードや電子部品などを利用することで簡単にIoTツールを作り出すことができる便利な製品です。詳しくは下記をご覧ください。

Raspberry Pi(ラズベリーパイ)とは?IoT開発ができるラズパイの使い方

自社での活用ノウハウを販売する企業も

自社での活用ノウハウをサービス化し、新規事業として提供を始める中小製造業も増えています。IoT市場は製造業界とIT業界からの新規参入、または両者の共同参入が相次いでおり、その境界がなくなり始めています。

武州工業 自社で開発したシステムを他社へ販売

東京都青梅市でパイプ加工を行っている武州工業は、2016年の早い段階からIoTへの対応を開始しました。受発注や在庫管理のほか、市販の電子機器などを使って工作機械の動作情報などを収集する統合情報管理システムを自社開発し、生産性を約20%向上させました。

2018年5月から、このシステムを「生産性見え太くん」という名称で販売をはじめました。製造業がIT業へ転身した面白い事例として各地のセミナーで紹介されています。

旭鉄工 培ったノウハウを活かし新会社を設立

愛知県碧南市で熱間鍛造などを行っている旭鉄工では、部品生産にかかる時間などをリアルタイムで把握するための新たな仕組みを、光センサーを活用することで構築しました。部品の生産にかかる時間やラインの停止時間といった情報がスマホで分かるようにし、どこに課題があるのかを“見える化”したことで平均でおよそ30%も生産性を向上させ、残業時間も減少しました。

ついには、そのノウハウを活かし「i Smart Technologies株式会社」というIoT製品の販売やコンサルティングを行う会社を立ち上げました。

IT導入補助金でIoT導入を検討してみては

様々な事例をご紹介しましたが、自社での活用法は見出せましたでしょうか?IoT活用のためのツール導入には、IT導入補助金の利用がおすすめです。もうすぐ2019年の受付が開始されますので、挑戦してみてはいかがでしょうか。

昨年より予算は減ってしまいましたが、2019年は補助金の上限額が最大450万円までアップし(補助率1/2)、前回よりも規模感のある投資が可能となりました。当補助金の特長は「申請作業が簡単である」ことです。他の補助金と違い、オンライン上で申請が完了しますし、IT導入支援事業者が手続きを支援してくれます。

IT導入補助金2019に関する詳細は下記Webサイトをご覧ください。情報は随時アップデートされますのでお見逃しなく。

IT導入補助金 2019

行政が推している分野ということもあり、補助金が通る可能性は高いと思います。IT導入支援事業者に認定されている弊社でも相談に乗ることができますので、お気軽にご連絡ください。

3つの切り口から中小製造業のIoTの活用を考える

今回は、中小製造業の間でも、当たり前のように話題に出る「IoT」についてです。弊社でも「IoTを導入した何かをしたい」という相談を受けたりします。ただ、「我が社でもIoTを使った何かをしよう」となったとしても、漠然としすぎてそこで思考が止まってしまう方も多いのではないでしょうか?そこで、経済産業省が去年の3月に出した「IoTに関する製造業の取り組み」を見て、こんな切り口からテーマを決めていけば良いんじゃないかと思ったことを3つご紹介します。IoTがどのようなものかは、以前掲載した記事をご確認頂けたらと思います。

「IoTの波が中小製造業に与える影響とは」

①⽣産性向上

こちらは一番考えやすいものですが、解決したい課題を決めて取り掛からないとただのデータ集めになってしまいます。細分化すると下記のようなテーマにあたります。

現場改善

人の動き・設備の稼働状況からムダの改善や、人による作業時間のばらつきをなくすような取り組み

工程管理

膨大な製品点数の管理、紙媒体での管理、製造拠点の分散による管理など、管理の難しさが課題となるものを解決する取り組み

品質確保

トレーサビリティの強化や、品質検査のミス予防の取り組み

事務作業効率化

見積もり作業の負荷軽減、現場情報の入力時間の短縮

経営改善

適切な材料在庫の確保、リアルタイムの生産状況の把握 、計画的な設備投資の指標、より精度の高い需要予測をするなどの取り組み

生産性向上という切り口は、工場にある様々な情報をデジタル化し、その情報をもとに業務支援につなげる流れです。ある程度の規模の工場になると管理業務が複雑化していくため、IoTを活用することで生産性向上に繋げられる可能性があります。逆に小規模だとそこまで課題となっていない場合があります。また、この分野に関しては様々なIoT商品が提供されていますので、末尾に掲載する経済産業省の資料を参考にしていただけたらと思います。

②新サービス(新しい価値)の創出

今いちピンと来ませんが、アメリカのあるビジネスレビュー調査によると、欧米では「IoTは何に寄与するか」という問いに対して「新たな収益源」と答えた経営者が約6割に対して、日本では「オペレーションの向上」と答えた経営者が6割だったそうです。IoTを活用する一つの切り口として考えてみる価値はありそうです。ただ、こうすれば良いという正解が見つけづらく、何をすればよいか模索中なところです。

民タク(民泊のタクシー版のようなもの)事業の「Uber」はGPSを活用したIoTによってリアルタイムで需要と供給をマッチングさせることにより、機会損失を減らし利用者のニーズを満たすことに成功しています。製造業に置き換えると、工場すべての設備の稼働状況や、今後の稼働予定をリアルタイムで監視します。そうすることで、顧客の発注を捉えやすくする取り組みです。

他にはハーレーダビットソンがIoTを駆使し、カスタム改造部品を提供するためにスマート工場化した取り組みがあります。顧客のカスタム品の要望と、それに対しどの工程が必要になるかの紐づけをリアルタイムで行い、最短で提供できる仕組みを作りあげました。

もしかしたら、自社は量産ラインを組んでいる会社だから、小ロットものは対応できないと考えている会社の中には、IoTを活用することで、試作・少ロット対応が可能な新しい事業ができる可能性が眠っているかも知れません。

ちなみに新しいサービス自体を作った事例としては旭鉄工という自動車部品を製造するメーカーがあります。自社工場でのIoT化により3億円以上の設備投資削減と、1億円以上の労務費低減を実現し、そのノウハウをサービス化して外部に展開するために「i Smart Technologies株式会社」という会社を作り、サービスを提供しています。

他にも自社内のIoT化ではなく、顧客側のニーズを探るためのIoTの仕組みを作ることができれば、顧客のニーズ調査、需要などリアルタイムでわかったりするかも知れないですね。今後はそのようなサービスも出てくるのではないでしょうか?

③技術継承・人材教育

昨今の人手不足や後継者不足を解決するという目的です。失われていく技術をいかに形として残すか、暗黙知から形式知化する取り組みは今後一層重要度が増すと思います。また、人手不足を解消するためにデジタル化したデータを活用しそれをロボットが代用できるようにする流れも必要になってきています。以前であれば、「技術は見て盗むものだ」という概念のもと、口で教わることなく、見るだけで覚えるという流れがありました。ただ、今はそれでは伝わらず、「動画を見せる」「口で説明」「マニュアルを作る」など様々な手法が存在しています。技術を伝えるというのは非常に難しく、一つ一つの動作にその動作を行う理由が存在します。本質的には、ただ見て同じようにすれば良いというわけではなく、その動作の理由まで理解した上で真似る必要があります。そのためにマニュアルが存在するわけですが、マニュアルを作るのも非常に労力がかかり、やっとの思いで作っても、いつの間にか見なくなっているケースは多いと思います。解決する手段としてはIoTというよりクラウドサービスなどが課題解決には適しているようです。

クラウド型のサービスを二つ紹介いたします。

動画で簡単マニュアル作成 ティーチミー (熟練者のノウハウを形式化)

クラウド見積ソフト TerminalQ  (経営・営業のノウハウを形式化)

まとめ

いかがでしたでしょうか?再度、自社の今後の課題や取り組みたいテーマをしっかり見定め、解決もしくは達成するために何をすればよいか?その手段が結果としてIoTだったという流れが本来の流れだと思います。IoT活用といっても、正確にはIoTではなくクラウドサービスだったり、システムだったりする場合も非常に多いと思います。目的が達成できるならばばIoTでなくても良いと思いますので、まずは今後の課題や自社の取り組むべきテーマから考えてみるのはいかがでしょうか?

具体的な事例は経済産業省が発行している「中小ものづくり企業IoT等活用事例集」を参照して下さい。

また、来週4月18日(水)~20日(金)の予定で「TECHNO-FRONTIER 2018」が幕張メッセで開催されます。話題のAI・IoTをはじめとした次世代技術から、ものづくりの要となる要素技術、開発設計支援技術まで、最新の情報に触れることができる展示会です。詳細はこちらから