テクノポートの徳山です。弊社では「技術をマーケティングする」を理念に、数多くの製造業の技術マーケティングの支援を行っています。今回はその経験を基に、技術マーケティングに必要と思われる考え方、推進方法(フレームワーク)、事例を紹介いたします。
技術マーケティングとは
技術マーケティングとは、自社の技術をさまざまな分野の技術者へ周知させ、さまざまな反応を得ながら、顧客への提供価値を見直したり新たな利用用途を発見することで、最終的に技術の利用領域を最大化させるための活動のことをいいます。
一般的にマーケティングの目的は「売れる仕組みを作ること」と言われます。しかし、技術マーケティングの目的は「技術を売る」ことだけではなく、技術に対する市場の評価を得ることで「技術の新たな用途を開拓する」ことも大きな目的となります。技術と市場とが常に対話し続ける状況を作り出すことで「技術に対する有益な情報が自動的に入ってくる仕組みを作ること」が技術マーケティングの目的であるとも言い換えられます。
さらには、発見した新たな用途をきっかけに更なる技術や新事業開発につながることを見据え活動することができれば、営業・マーケティング面だけでなく、経営全体に良い影響を与えることができるでしょう。そのためには、技術マーケティングにより入手できる有益な情報を会社全体で活かす体制を構築できるかがカギとなります。
技術マーケティングを推進する意義
同じ技術を同じ市場へ提供し続けると、競合企業の参入が増え、相対的に技術の価値が下がってしまう「技術のコモディティ化」が起こります。そのような技術の価値低下状態から脱するために、技術を改良し技術の価値を上げ続けることは重要な施策ですが、顧客が求める要求以上に機能を高めたとしても、オーバースペックとなり技術の提供価格を上げるのが難しくなります。また、既存市場自体が縮小傾向に陥っている場合はなおさらのことです。
そこで、技術の改良と並行して技術の新たな用途を探索し「技術を高く買ってくれる市場」を探索する必要があります。同じ技術でも、市場が異なるだけで思いも寄らぬ高値で技術を買ってもらえることは珍しくありません(もちろんその市場に合わせた技術改良が必要な場合も多いですが)。
技術マーケティングで実現できること
技術マーケティングを推進することにより期待できる効果として、以下が挙げられます。
顧客に技術の価値が伝わりやすくなる
技術者ほど、相手に技術の内容を伝える際に機能やスペックを中心に伝えてしまいがちです。しかし、それらを顧客側の提供価値に言い換えられないと、技術の優位性を相手に正しく伝えることができません。技術マーケティングを推進する中で、見込顧客と対話の機会を増やすことで以下のようなことを理解できるようになります。
- 相手が抱えている技術課題が何なのか
- それを解決することで具体的にどのような価値が生まれるのか
- 自社技術であればなぜその課題を解決できるのか
上記を理解したうえで相手の立場にたった伝え方ができれば、技術の価値が伝わりやすくなります。技術マーケティングの活動の中で技術に対する市場の声を拾い続けることで、メッセージを言語化することにつながります。
メッセージを言語化する際に気をつけるポイントについては、以下の記事をご覧ください。

さまざまな分野の技術者へ技術を認知してもらうことができる
一般的なマーケティング理論では、ターゲットの設定を前提に活動を行うことがほとんどです。しかし「新たな用途開発」を目的に技術マーケティングを行う場合、現状想定していないターゲットを発掘していくことが目的となります。そのため、一般的なマーケティング理論のもと活動を推進したとしても、技術マーケティングの真骨頂である「技術の新たな用途開発」にはつながりにくいと考えられます。
技術マーケティングでは、満遍なくさまざまな分野の技術者へ技術を認知させていくことが前提の手法となるため、思いも寄らぬ用途の発見につながることが期待できます。
この際に技術情報の漏洩を危惧することが多いですが、Webなどで技術情報を発信する場合においても情報開示の範囲や開示方法に注意すれば、問題なく技術マーケティングを推進することは可能です。
情報漏洩の防止について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

発見した新たな用途をきっかけに更なる技術や新事業開発につながる
技術マーケティングにより発見した用途アイディアを活かし、顧客開拓だけではなく、技術のさらなる開発や新事業開発に活かすことができれば、営業・マーケティング部門におけるメリットに留まらず、会社全体のメリットへと発展させていくことができます。
そのためには、会社全体で技術マーケティングに取り組む姿勢が必要です。技術マーケティングを成功させるには、営業・マーケティング部門だけではなく、研究・開発部門の協力が必要不可欠となります。組織の壁などを作らずに自由にコミュニケーションを取れる風土作りなども重要となります。
技術者がマーケティング活動に参加するメリットについては以下の記事もご覧ください。

MFTフレームワークの活用
技術マーケティングを推進するうえで弊社が活用をおすすめしているフレームワークが、MFTフレームワークです。MFTとは、Market(市場)、Function(機能)、Technology(技術)の略で、市場と技術の間にある機能に着目することで、技術の活用が可能な市場を幅広く検討することを目指すためのフレームワークです。
MFTフレームワーク活用のメリット
MFTフレームワークを活用することの最大のメリットは、製造業が陥りがちなプロダクトアウト思考から脱却することです。プロダクトアウトと対比の考え方としてマーケットインがありますが、両者は「どちらのほうが重要」などと比較するものではなく、どちらかの思考に偏らずバランス感覚を保つことが重要です。市場のニーズがあったとしても、それが自社の持つ技術の優位性と関連付かなければ意味がありませんし、いくら機能やスペックが優れた技術でも、それに対する市場のニーズがなければ意味がありません。
製造業の場合、比較的プロダクトアウト思考に偏っているケースが多いため、MFTフレームワークを活用することで、自然とマーケットイン思考も取り入れることができるようになります。
また、詳細は後述しますが、MFTフレームワークによって技術を要素分解することで、Webなどを活用して情報発信する際の切り口が多様化し、さまざまな分野の技術者へ技術を知ってもらう機会を増やすことができるのも大きなメリットです。
技術者が技術課題を解決するために、インターネットで情報探索する際の切り口はさまざまです。現在使用している技術の類似技術が存在しないかという切り口で情報探索する技術者もいれば、自身が抱えている技術課題を切り口に情報探索する技術者など、技術者が抱えているバックグラウンドによって大きく変わります。MFTフレームワークで技術を要素分解し、さまざまな切り口で情報発信を行うことで、技術者が情報探索する際に技術を認知してもらいやすくなります。
MFTフレームワークの使い方
MFTフレームワークは、Technology(技術)側からでもMarket(市場)側からでも、どちらから情報をまとめても大丈夫です。自社が取り組みやすいほうからまとめていきましょう。
MFTフレームワークの使用例(ガラスコーティング技術の場合)
Technology側からまとめていく場合は、まず技術が持つ機能や効能を考えていきます。技術が持つ機能や特性は複数ある場合が多いと思いますので、なるべく細かく洗い出しましょう。次に、洗い出した機能から想定される市場を考えていきます。市場ごとに求められる機能は異なりますので、着目した機能によって想定される市場は変わってくるでしょうから、機能ごとに想定される市場を考えていきます。
MFTフレームワークをまとめるときには、社内のどのメンバーに参加してもらうかが大事です。特定の事業部だけで考えるのではなく、情報がなるべく偏らないように各部署のメンバーに参加してもらいましょう。営業部であればMarket(市場)寄りの情報を持っていますし、技術部であればTechnology(技術)寄りの情報を持っているものです。
MFTフレームワークについて詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。

Webを活用した技術マーケティングの推進方法
技術マーケティングを推進するにあたり、最も効率的な方法がWeb活用であると弊社は考えています。その理由は、先述した技術マーケティングの目的である「技術に対する有益な情報が自動的に入ってくる仕組みを作ること」を実現するにあたり、最適な手段であると考えているためです。
以下より、具体的な進め方について解説していきます。
①技術の棚卸し(MFTフレームワークなどを活用)
初めに行うことは「MFTフレームワーク」などを使用して、自社の技術を整理することです。技術探索時に使用する検索キーワードは技術者の属性により異なりますが、MFTフレームワークを活用し技術を要素分解したうえで情報発信を行うことで、さまざまな分野の技術者に見てもらえる可能性が高まります。
②Webコンテンツを企画する
次に、MFTで分解した各要素をWebコンテンツとして情報発信できるよう企画を考えていきます。その際にキーワードプランナーなどの検索需要を調査できるツールを使い、各キーワードの検索需要を調査したうえで企画を進めていくと、より効率的です。情報発信するWebコンテンツごとに、どのような検索キーワードで対策するかを決めておきましょう。
検索キーワードの選定方法については以下の記事をご参照ください。

③Webコンテンツを制作する
コンテンツ制作時の最大のポイントは「異業界(分野)の技術者へわかりやすく技術を伝えること」です。技術を知ってもらった技術者へ技術課題解決や新たな製品開発のアイデアへと結びつけてもらうことで、新たな用途提案がしてもらえるようになります。また、技術者が検索した際にWebページが検索上位表示していないと、見てもらえる機会を失ってしまうため、SEO対策を考慮してWebコンテンツを制作していきましょう。
SEO対策に強いWebコンテンツの作り方については以下の記事をご覧ください。

④アクセス・問い合わせ分析
Webサイトからの情報発信を続けていると、さまざまな情報(アクセスデータや問い合わせ)が入ってくるようになります。これらの情報を活かし、新たなトピックを見つけたり、Webコンテンツのさらなる拡充を行います。アクセス・問い合わせ分析はマーケティング担当だけで行うのではなく、問い合わせの対応を行っている営業担当とも連携して行いましょう。商談を行った見込顧客がどのような技術課題を抱え、どのようなニーズを持っているのかを聞き出すことができれば、技術マーケティングの活動に非常に役立ちます。
具体的なアクセス分析の方法については以下の記事をご覧ください。

技術マーケティングの実践事例
技術マーケティングを実践し、技術の新たな用途開拓に成功した2社の事例をご紹介します。
事例1.NISSHA(摩擦・せん断力センサー)
NISSHA株式会社が開発した摩擦・せん断力センサーは、3軸方向にかかる力を測ることができる力覚センサーです。技術開発時は摩擦分布の測定機能に着目し、滑りにくい自動車タイヤの開発を想定し開発されましたが、それ以外で市場性のある用途を見い出せずにいました。
そんな状況下で当センサーの新たな用途を見出すべく、Webを活用した技術マーケティングを開始しました。摩擦・せん断力センサーを技術面、機能面、用途面と、あらゆる角度からコンテンツ化して掲載したところ、「ワーク間の滑りを見える化」できる機能に対し、さまざまな分野の企業から引き合いを獲得することができました。
引き合いの中でも、ロボット分野でロボットアームの把持制御に活用できるのではないかという引き合いに注目し、市場性が高いロボット分野での技術開発を本格化させる方針を立てることになりました。さらに問い合わせ内容を分析した結果、ロボット分野では「摩擦・せん断力センサー」を「触覚センサー」と呼ぶことが分かったため、この言葉を使った技術コラムを執筆することで、さらなる問い合わせ獲得につなげることができました。
事例2.リソー技研(超音波はんだ技術)
株式会社リソー技研が開発した超音波はんだ技術は、接合時に超音波技術を活用することで通常のはんだ付けでは難しい異素材同士の接合や、簡単かつ強力に接合ができるといった機能を持つ技術です。
Webを活用した技術マーケティングを開始した直後は、マーケティング開始時点では「ガラスと金属といった異素材を接合できる機能」と「誰でも簡単に強力接合できる機能」に着目しスタートしました。
しかし、アクセス分析を行っていくと、「アルミ」に関するランディングキーワードが多いことに気付きました。調査を行ったところ、融点の低いアルミを溶接やろう付けなどで接合しようとすると母材が溶けてしまうという問題があることが分かりました。
そこで、新たなWebコンテンツとして、アルミの接合技術に危機意識を持っているユーザー向けに制作した課題解決型のコンテンツや、溶接やろう付けの代替手段を探しているユーザー向けに制作した比較型のコンテンツを制作したところ、同じような技術課題を抱えているユーザーからの問い合わせを多く獲得することに成功しました。
技術マーケティングについて、ご理解いただけましたでしょうか?テクノポートでは数多くの技術系企業の技術マーケティングを支援した実績がございます。技術マーケティングでお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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