MF-TOKYO 2019(第6回プレス・板金・フォーミング展)レポート(後編)

2019年7月31日(水)から8月3日(土)の日程で、東京国際展示場にてMF-TOKYO 2019が開催されました。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。鍛圧塑性加工技術の専門展示会であるMF-TOKYO(METAL FORMING FAIR TOKYO)。プレスや板金装置、ネジやバネの製造装置はもちろん、その周辺機器、サービス、加工技術なども各種展示されています。後編では、プレスや板金機械に欠かせない周辺技術を中心に、気になった製品を紹介していきます。

振動問題を解決

最初の製品は、プレスや板金の装置から発生する振動を抑える防振装置です。

ドイツで100年以上の歴史がある防振・除振・制振・免震装置のメーカー、ゲルブ社の日本法人の出展ブースに展示されていた製品。回転運動やピストン運動など、各種駆動部分を持つ製造装置からは、様々な振動が発生します。プレスや板金の機械からも、単発の強い大きな振動や、連続する小さい振動、高周波の小刻みな振動など各種発生します。振動は、地面を伝わって感じられたり、空気中を伝わって音として感じられたりします。騒音、振動公害として工場周辺の住民からの苦情がきたり、振動で周囲の装置に悪影響を及ぼしたり、振動対策は製造現場にとって避けては通れない問題です。

写真のゲルブ社のダイレクトスプリングサポートは、スプリングと粘性ダンパの組み合わせからなる防振装置。プレス装置などを直接支持し、周囲に伝わる振動を大幅に低減します。既存の防振システムからの入れ替えも容易におこなえます。展示デモでは、小さなモデルに鉄球を落としてその性能をアピールしていました。

静電塗油で油量を大幅削減

プレスや板金製品の製造時はもちろん、機械そのものにも潤滑や冷却など様々な目的で油が使われます。油を効率よく使用できれば、完成品の品質を向上させたり、機械や金型の寿命を延ばしたり、油の使用量を抑えてコストダウンできたりと、多くのメリットがあります。

こちらは東京都世田谷区にあるルブテック社の静電塗油装置です。油に高電圧をかけてマイナスイオン化。ターゲットとなる金属へ接地することで、ノズルから噴霧される油が電気の力で引き寄せられ、均一な油の塗布が可能となります。

塗油膜の厚みコントロールが自由自在にできるだけでなく、上下、斜めなど塗油方向も自在。狙った場所に飛び散ることなく均一に塗油できるので、油消費量も大幅に削減できます。プレスや板金に限らず、切削などあらゆる機械加工で使える技術だと思います。油の飛散を嫌がる食品の加工装置などでも有効なのではないでしょうか。

板金屋の作るバリ取り機

板にパンチやレーザーで穴を開ける際には、穴の周囲に打ち抜く際に伸びてできたバリや、溶けで飛び出したドロスが発生します。加工条件などで抑えることはできますが、完ぺきにゼロにするのはなかなか難しい。そこでバリ取り機の登場です。

写真はバリ取り機に使用される各種ブラシ。新潟県燕市のエステーリンクの製品です。エステーリンクのバリ取り装置では、このブラシが回転しながら旋回運動することで、多方向からワークを研磨。満遍なくブラシが当たり、バリを綺麗に取り除いていました。金属加工が盛んな新潟の燕市と三条市界隈。装置の宣伝文句が「板金屋が追求した板金屋のためのバリ取り機」。なんだか力強い。

プレス油は塩素フリー

もう一つは、プレス加工の際に使用されるプレス油です。

以前のプレス油では、加工性能を上げるために添加剤として塩素化パラフィンを多量に含んだものが多くありました。欧米では規制が進み、作業環境改善や地球環境保全の観点からも非塩素系の物が今は望まれています。こちらは大阪府和泉市のアクア化学の製品。洗浄不要な高性能乾燥性プレス油の展示もありました。

小さな技術も見て回る

こういった大きな展示会。しかも、プレスや板金といった大型の工作機械が並ぶ展示会では、どうしても大きく動き回る大手メーカーの大型装置に目が行ってしまいます。もちろん、そのような機械を見て最新動向を知ることも大切なのですが、展示会場の外周部にあるような小さな会社をじっくり回ってみると、意外な技術に出会うことがあります。解決できないでいた技術的な困りごとが、それで解決できるかもしれません。会場の外周部は、実は見どころ満載です。

MF-TOKYO 2019(第6回プレス・板金・フォーミング展)レポート(前編)

2019年7月31日(水)から8月3日(土)の日程で、東京国際展示場にてMF-TOKYO 2019が開催されました。元メカエンジニアの工業製造業系ライターの馬場が、展示会の様子や気になる製品などをレポートします。前編ではイベント全体の様子をお伝えします。

鍛圧塑性加工技術の専門展示会

MF-TOKYO(METAL FORMING FAIR TOKYO)は鍛圧塑性加工技術の専門展示会です。プレスや板金装置、ネジやバネの製造装置といった、鍛圧機械とその周辺機器、サービス、加工技術などが一堂に会します。初開催は2009年。2年に一度、JIMTOF(日本国際工作機械見本市)が開催されない奇数年に開催され、今年で6回目。今回の開催では、国内外の254社が出展。1,717小間と、小間数では過去最大規模の開催となり、4日間の開催で、来場者数は3万人を超えています。

プレス機械、板金機械、フォーミングマシンの3つのエリア

会場内は大きく3つのエリアに分かれていました。西1ホールから西2ホールの一部に広がるプレス機械関連のエリア。南1、2ホールの板金機械のエリア。西2ホールに広がる、ネジやバネ、パイプなどを扱うフォーミングマシンエリア。

プレス機械関連のエリアでは、大手から中小のメーカーまで、各社大小のプレス機械が並び、デモ動作が行われていました。その中でも、主要な顧客となる自動車産業に向けてアピールした製品が多くみられます。サーボプレスによる高度な制御により、ハイテン(高張力鋼)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の成形にも対応したものが各社から出品されていたのが特徴的でした。燃費の向上やEV化に向けた自動車の軽量化への対応が急がれています。

板金機械のエリアでは、大手メーカーの大型の装置が数多く並び、動きのある展示が多くみられます。特にレーザーを使った大型の装置が目立ち、少量多品種生産対応や、パンチングプレスから金型不要のレーザーへのシフトを提案する製品も見られました。その他、中国を中心に、海外のメーカーの出展で、精密板金の技術をアピールする会社も各社見られ、日本市場への更なる売込みに力を入れているようでした。

フォーミングマシンエリアでは、ネジの圧造・転造機、スプリングマシン、パイプベンダー、製缶装置など、金属を曲げたり、伸ばしたり、形をつけたりする装置が並びます。全体的に自動化、省スペース、高速化、省力化をうたうものが多くみられました。労働者不足の現状が感じられます。

進む自動省力化とIoT化

サーボプレスやレーザーなど、加工技術についてアピールする企業が多い中、人手不足や技術継承に対応するための自動省力化、スマート工場を目指したIoT化などをアピールする企業も多くみられました。

複数台のサーボプレス機と搬送装置を高度に連携制御させ、材料搬入から成形までを効率よく行うタンデムプレスライン。板金装置とロボットアームを連動させたベンディングロボットシステム。パンチング装置とレーザー加工機が搭載された複合加工機。途中、人の手を介すこと無く最終製品まで製造できる製造装置や、熟練の技術者の動作を覚えるロボットなど、大量生産だけでなく、今後製造業が直面する問題を見越した技術開発が進んでいました。現場の者と共に作業を行う協働ロボットの展示もみられ、この流れは今後どの展示会でも見られるようになると思われます。

また、人手不足や作業効率の向上のための策として、各種装置へのIoT技術導入も進んでいました。装置の稼働状況を一括で見られるだけでなく、油や空気の消費量の変化、金型の温度状況など、装置内の様々な部分を見える化。効率のよい稼働や、金型の寿命なども含めたランニングコストの低減など、IoT技術でより効率的で高度な加工が行えるようになります。また、IoT技術により得られたデータを蓄積することで、熟練技術者の技術をデータとして残すことも考えられます。IoT、AI技術の導入は、今後の製造業にとって重要な課題です。

後編では、プレスや板金機械に欠かせない周辺技術を中心に、気になった製品を紹介していきます。