デュアルライフ・二拠点生活[1] 南房総に飛び込んで生まれた、新しい人間関係や価値観

今までにない、デュアルライフ(二拠点生活)で、人生を充実させている人が増えています。その一人が、川鍋宏一郎さん(34)。東京に本社のある外資系IT企業に勤務し、横浜市内の自宅で四人家族で生活していますが、2年ほど前から、毎週末は、千葉県南房総のもう一つの拠点に通っています。
その動機や経緯、意識の変化などについて、南房総でうかがいました。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
デュアルライフ(二拠点生活)にはこれまで、別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイア組が楽しむものだというイメージがありました。しかし最近は、空き家やシェアハウス、賃貸住宅などさまざまな形態をうまく活用してデュアルライフを楽しむ若い世代も増えてきたようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。田舎の不動産探しをきっかけにシェアハウスを知る

「もともとキャンプや自然が好き。しかし住んでいるのは綱島(横浜)の住宅地。あるとき、東京近郊でも少し田舎に行けば、空き家物件が300万円くらいと驚くような低価格で買えることを知って、探し始めたのがきっかけです。同じころ、建築ライターの馬場未織さんの書かれた書籍『週末は田舎暮らし』にも影響を受けました」と川鍋さん。

川鍋宏一郎さん。東京に本社のある外資系IT企業に勤務。キャンプ好きが昂じて南房総と綱島のデュアルライフをするようになった(写真撮影/内海明啓)

川鍋宏一郎さん。東京に本社のある外資系IT企業に勤務。キャンプ好きが高じて南房総と綱島のデュアルライフをするようになった(写真撮影/内海明啓)

手に入れた住宅を改修して週末に過ごすことを想定、まずはDIYのスキルを身につけようと、ワークショップを探すうち、見つけたのが、ヤマナハウスのウェブサイトでした。「関心のある人が月一回集まって、古民家の改修に取り組もうとしていました。これだ!と思って、参加したんです」

千葉県南房総市三芳にあるヤマナハウスは、シェアオフィス運営を手がけるHAPON新宿の創設者の一人、永森昌志さんが主宰しメンバーと共同運営しています。約2500坪もの里山にある古民家を改造したので『シェア里山』と呼び、年齢も職業もさまざまな人たちが週末に集まっては、田舎暮らしを楽しんでいます。

千葉県南房総の広大な里山にある古民家を改修してできたヤマナハウス(写真撮影/内海明啓)

千葉県南房総の広大な里山にある古民家を改修してできたヤマナハウス(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウス室内。川鍋さんら、このハウスのメンバーがリフォーム。週末に集まって野良仕事などした後は、ここで食事を(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウス室内。川鍋さんら、このハウスのメンバーがリフォーム。週末に集まって野良仕事などした後は、ここで食事を(写真撮影/内海明啓)

大工仕事の腕も上がった川鍋さんは現在、ほぼ毎週末をヤマナハウスで過ごしています。「綱島から車で約1時間20分ほど。金曜の夜にヤマナハウスに着き、日曜日の朝に戻るというパターンです」。交通費は高速を使って1回に5000円~6000円程度です。
現地では、ここの仲間のほかに、移住してきた人たちも加わり、野良仕事やバーベキュー、飲み会などを楽しんでいます。古民家の改修・改造は今も続いています。取材中も、多くの人が集まり、にぎやかに新たな物置を建設中でした。

綱島の自宅付近も緑の多い住宅地ですが、南房総とは比べものになりません。「人工的な自然ですし、落ち葉を集めての焚き火もできません。キャンプにも親しんできましたが、キャンプ場は管理されていて、薪のための木一本切ることもできません。しかしここでは自由にいろいろなことができます」

ヤマナハウスは2015年の春にスタート。古民家改修、畑仕事、裏山の整備・手入れなどを行い、それが都市ではできない“遊び”にもなっている(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウスは2015年の春にスタート。古民家改修、畑仕事、裏山の整備・手入れなどを行い、それが都市ではできない“遊び”にもなっている(写真撮影/内海明啓)

取材の日は、ヤマナハウスの前に物置小屋を建築中で川鍋さんもお手伝い(写真撮影/内海明啓)

取材の日は、ヤマナハウスの前に物置小屋を建築中で川鍋さんもお手伝い(写真撮影/内海明啓)

5歳、7歳になる二人の娘さんを連れて行くと、自然のなかでキックボードをしたり、川や砂浜で貝殼を拾ったり、虫やカエルをつかまえたりと、都会ではできない生活を楽しんでいるそうです。
「妻は福島の自然の豊かなところの出身ですから、最初は、今さらなぜ田舎に?と感じたようですが、協力してくれました。たくさんの人が集まっているので、代わる代わる誰かが子どもの相手をしてくれるのもうれしいところ。このヤマナハウスには、疑似(大)家族的な側面がありますね」

左)川鍋さんの娘さんたち。自然のなかで遊び、生きものに触れる機会が増えた。右)農作業のお手伝いも貴重な経験(画像提供/川鍋宏一郎)

左)川鍋さんの娘さんたち。自然のなかで遊び、生きものに触れる機会が増えた。右)農作業のお手伝いも貴重な経験(画像提供/川鍋宏一郎)

新しい人間関係が生まれ、都会での価値観が変わる

こうしたデュアラー(二拠点生活者)としての生活は、川鍋さんの意識にも変化をもたらしました。
「それまでの生活では絶対知り合えなかったはずの、年齢、職業などが多種多様な友人ができました。それぞれが得意なことが違うので、教え合い、手分けする“タスク分散”もできます。僕は酒が好きなので、果実酒のつくり方を伝えたりしています」

川鍋さんは、東京都品川・戸越銀座の育ちです。祭りのときは御輿(みこし)担ぎに駆り出されるなど、人間関係は今もしっかり残っていて、いわゆる“都市生活者の孤独”とは無縁です。「でもそれは、上下のある縦の人間関係なんです。一方、シェアハウスでの人間関係はフラットで平等。これも心地よさの理由かもしれません」

モノはお金を払って買う、という発想も揺らぎました。必要なモノはつくる、誰かと交換する、壊れたら自らの手で直す、そうした発想になりました。「すぐ近くに移住して養鶏をしている人がいるので、そこに酒を持って行き、卵を分けてもらうといったこともあります」

都心のIT企業に長く勤務し、千葉県君津市に移住して、毎月ヤマナハウスに足を運んでいる高橋新志さん(52)も、「犬の散歩に一周歩いたら、いただいた野菜で両手がいっぱい、といったことが起こります。ここは物々交換経済がまだかなり機能しているんですね。だから東京の基準で考えたら低い収入だとしても、豊かな暮らしがしていけるんです」

ヤマナハウスの土間部分に設けられたキッチン。床部分のコンクリートも職人さんに教わりながらメンバーが手伝って敷いた。(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウスの土間部分に設けられたキッチン。床部分のコンクリートも職人さんに教わりながらメンバーが手伝って敷いた(写真撮影/内海明啓)

スタディツアーでやってきた都内の大学生との交流会。ヤマナハウスメンバー以外にも地元の方も加わり、多様な世代、多様なライフスタイルの人達と関わりが持てる場になっている(写真提供/ヤマナハウス)

スタディーツアーでやってきた都内の大学生との交流会。ヤマナハウスメンバー以外にも地元の方も加わり、多様な世代、多様なライフスタイルの人たちとかかわりがもてる場になっている(写真提供/ヤマナハウス)

ヤマナハウスには女性の参加者もいます。東京のSI企業に勤務している女性SEは、「東京では体を動かして何かをするという実感が得られず、自然に引かれて参加しました。月に1、2回ですが、こちらに来ると元気になりますね」。
前述の高橋新志さんは、東日本大震災以降、自給自足的な生活拠点を持つことへの関心が高まってきたことを感じるそうです。「川鍋さんはキャンプという下地があったので、田舎の生活になじみやすかったように思えます。ご家族の協力があることも大きいですね」(高橋新志さん)

田舎の生活に人間関係は大切、と語るのは、高橋保雄さん(54)。千葉県船橋市に住み、都会の企業に勤務し、ヤマナハウスには月に2度くらい来ています。「川鍋さんが若いときから、こういう生活を試せるのはうらやましいですね。僕が若いころはそうした機会を得られず、粛々と会社人間を続けました。実はそれで精神的に参ったことが、デュアルライフに切り替えたきっかけになったんです」(高橋保雄さん)

ヤマナハウスのメンバーのほか、南房総が気に入って移住してきた人たちも加わっての作業。田舎で、職業や背景の異なる仲間と出会うのも楽しみだ。得意な人、慣れた人が教えて、みんなで学んでいく関係になっている(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウスのメンバーのほか、南房総が気に入って移住してきた人たちも加わっての作業。田舎で、職業や背景の異なる仲間と出会うのも楽しみだ。得意な人、慣れた人が教えて、みんなで学んでいく関係になっている(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウス室内。築250~300年ほどの古民家を再生・改修したもの。古い窓枠や廊下の木材はそのまま利用している(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウス室内。築250~300年ほどの古民家を再生・改修したもの。古い窓枠や廊下の木材はそのまま利用している(写真撮影/内海明啓)

個人としても家と土地を借りる

川鍋さんは、移住を考えたところから始まって、デュアラーとなりましたが、移住を諦めたわけではありません。移住も視野に入れ、家を借りることもしています。 
「このヤマナハウスの大家さんのご紹介で、私個人が半年ほど前から近くに家を借りました。家と言っても1500~2000坪の敷地も込みで、東京で言えば駐車場代程度。将来はここにキャンプ場をつくりたいと考えているんです」

川鍋さんがこのような紹介で、土地と家を借りることができたのも、ヤマナハウスが地元に定着し、そこで活動していることで、地元の人たちの信頼を得るようになったからと言えそうです。
「ヤマナハウスのみんなで、地域で年に1回行われる草刈りに参加したり、祭りでは御輿を担いだりしています。地元の青年部の方々には喜んでいただけていますね。そこからまた知り合いを紹介されるなど、人の輪が広がることもあります」

ヤマナハウスとは別に、すぐ近くに川鍋さんが借りた家。小屋や車を何台も停められる広いスペースも。これに手を加え、将来は仲間とのキャンプの拠点にしたいと考えている(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウスとは別に、すぐ近くに川鍋さんが借りた家。小屋や車を何台も停められる広いスペースも。これに手を加え、将来は仲間とのキャンプの拠点にしたいと考えている(写真撮影/内海明啓)

裏山で長年放置されて広がってしまった竹をみんなで刈って整備。新しい農法に挑戦したりなど新しい取り組みにも挑戦している(写真提供/ヤマナハウス)

裏山で長年放置されて広がってしまった竹をみんなで刈って整備。新しい農法に挑戦したりなど新しい取り組みにも挑戦している(写真提供/ヤマナハウス)

将来の移住のためのトライアルとしても有効なデュアルライフ

川鍋さんのお話からは、デュアルライフに必要なヒントがいくつも見出せます。自ら工夫する力、お金ではない価値を大切にすること、家族の協力、地元の方々との良い人間関係などです。
またデュアルライフは、都会の仕事をやめずに実現できるので、特別な富裕層でなくても可能です。また将来の移住を考えている人にとっては、トライアルとしても有効な手段と言えるでしょう。

南房総の里山の自然は豊か。季節の変化を感じる生活が、都会の変化だけでは得られない変化を与えてくれ、翌週の活力につながっている(写真撮影/内海明啓)

南房総の里山の自然は豊か。季節の変化を感じる生活が、都会の変化だけでは得られない変化を与えてくれ、翌週の活力につながっている(写真撮影/内海明啓)

●取材協力
HAPON新宿

スター猫のお宅訪問![2] フォロワー6万人!インスタで人気の「Niko&Poko」の暮らし

神奈川県の閑静な住宅街に暮らすスター猫は、インスタグラムをはじめ、写真集やカレンダーも出版するなど“ねむかわいい”ことで人気の、エキゾチックショートヘアのNikoちゃん(メス・5歳)とPokoちゃん(オス・3歳)。飼い主であるMakiさん夫婦とともに暮らしている。【連載】スター猫のお宅訪問!
インスタグラムで人気のキーワードといえば「猫」。多くのフォロワーを魅了するスター猫たちは、どんな暮らしを送っているのだろう。暮らしの工夫を聞いてみた。Instagramより(写真提供/Makiさん)

Instagramより(写真提供/Makiさん)

中古一戸建てを1階はリノベーション、2階はDIY

白い外観に、春にはバラが咲き乱れるという広く美しい庭。まるで写真集から出てきたかのような家。Makiさん夫妻は2011年に築5年の中古一戸建ての物件を購入後、リノベーションをしたのだとか。

Makiさんの家の間取り

Makiさんの家の間取り

「リノベーションをしたのは1階だけ。もともとは上がり框(かまち)の和室があったのですが取っ払って、トイレやキッチンの位置も変えました。リノベーションをお願いしたのは、恵比寿にあるインテリアショップ『PACIFIC FURNITURE SERVICE』のリノベーションサービス。昔からここのアメリカンで無骨な家具が好きだったので、デザイン重視で依頼しました。一番気に入っているのは、トイレ・洗面などの水まわり。壁をペンキ塗りで、床はグレーと白の格子模様にしたいとお願いしました。色みが『PACIFIC FURNITURE SERVICE』ならではのカラーなので、自分ではなかなかできないですよね」

1階のリノベーションはPACIFIC FURNITURE SERVICEに依頼。春にはウッドデッキがバラに包まれる(写真撮影/片山貴博)

1階のリノベーションはPACIFIC FURNITURE SERVICEに依頼。春にはウッドデッキがバラに包まれる(写真撮影/片山貴博)

リノベーションのイメージはMakiさんによるもの。

「お金のことは夫が担当で、テイストについては何も言われることはなかったんです(笑)。もちろんやれなかったこともあります。部屋の壁のペンキ塗りはお金がかかるのでやめました。ただ、今となってはそれでよかったかなと思います。猫を飼っているので壁が汚れてしまうこともあるのですが、ペンキ塗りだと拭くとはげてきてしまって、手入れが大変なので。2階の間取りは変えずに、ドアにペンキを塗ったり取手を取り替えたり、自分たちでDIYしました」

Nikoちゃん・Pokoちゃんの部屋の壁はニュアンスにこだわったブルー系に塗り、韓国のMYZOO「LUNA キャットステップ」でデコレーション。Pokoちゃんはカーテンの隙間から外を眺めるのが好きだそう(写真撮影/片山貴博)

Nikoちゃん・Pokoちゃんの部屋の壁はニュアンスにこだわったブルー系に塗り、台湾のMYZOO「LUNA キャットステップ」でデコレーション。Pokoちゃんはカーテンの隙間から外を眺めるのが好きだそう(写真撮影/片山貴博)

猫も人も心地いい暮らしを

ソファ以外は「手持ちの家具があったのであまり買い替えていない」というこだわりのインテリアに囲まれた、ヴィンテージ感の漂う落ち着いた空間は、NikoちゃんとPokoちゃんにとっても居心地がよさそう。最初の猫・NikoちゃんはMakiさんたちがこの家に引越してから2年目にやってきた。

Nikoちゃんは猫用ベッドの中からお出迎え(写真撮影/片山貴博)

Nikoちゃんは猫用ベッドの中からお出迎え(写真撮影/片山貴博)

「ちょっと顔が潰れたような犬や猫が好きで。以前はフレンチブルドッグを飼いたいと思っていたんです。たまたまエキゾチックショートヘアを飼っている人が載っている本を見て、その瞬間にビビッときて。そこからずっと飼いたいと思いつつもペットショップで見かけなかったので、そのうちブリーダーさんを通して買いたいなと思っていたんですね。ただ、命を預かることが怖く、なかなか勇気が出なくて、それで2年ほどかかってしまったんです。命を守れるかとか、もしも亡くなったとき耐えられるのかとか考えてしまって。それがある日、ペットショップでNikoと出会って、『うちの子だ!』と覚悟を決めたんです」

触ると嫌がるけど姿が見えないとニャーニャー鳴くというツンデレのNikoちゃん(写真撮影/片山貴博)

触ると嫌がるけど姿が見えないとニャーニャー鳴くというツンデレのNikoちゃん(写真撮影/片山貴博)

運命的な出会いによって家族がひとり増えたMakiさん一家。「今までいなかったのが信じられないくらい」という猫との暮らしにもう一匹が加わったのはその2年後だ。

専用の部屋にはベッドも(写真撮影/片山貴博)

専用の部屋にはベッドも(写真撮影/片山貴博)

「Nikoは典型的なツンデレで、普段はプイッとしているのですが、私がちょっと庭に出たりしているだけで寂しくてニャーニャー鳴くんですよね。2匹いたら寂しくないのかなと思ったのがもう1匹飼おうと思ったきっかけです。Pokoが来た最初のころ、Nikoはどうしていいのか分からないという感じでした。Pokoは小さくて力加減が分からないからNikoに馬乗りになったり噛んだりして、それをNikoは嫌がっていたんですけど、いまでは猫パンチをくらわせて威嚇するなど強くなりました(笑)」

リビングには、木製の宇宙船ベッドやダンボールハウス、ハンモックなどがたくさん。いただきものも多く、どんどん増えてきてしまったのだとか。2階には2匹専用の部屋もあり、毎日2匹はそれぞれ好きな場所で心地よさそうに過ごしている。そこには、猫と心地よく暮らすためのちょっとした工夫も。

窓に取り付けられるタイプのハンモックは、外を眺めたり、日差しを浴びながら寝るのが気持ちいいらしく2匹とも大好きだそう。猫のためのダンボール製インテリアはタイのペット雑貨の会社・KAFBOのオリジナル、木製の宇宙船ベッドは韓国のペットグッズデザイン会社MYZOOのもの。どちらも日本で購入可(写真撮影/片山貴博)

窓に取り付けられるタイプのハンモックは、外を眺めたり、日差しを浴びながら寝るのが気持ちいいらしく2匹とも大好きだそう。猫のためのダンボール製インテリアはタイのペット雑貨の会社・KAFBOのオリジナル、木製の宇宙船ベッドは台湾のペットグッズデザイン会社MYZOOのもの。どちらも日本で購入可(写真撮影/片山貴博)

最初はあまり高いところには登れなかったPokoちゃん。KAFBOのダンボール製インテリアに登っているうちに筋力が付いて椅子の上にも乗れるようになったとか(写真撮影/片山貴博)

最初はあまり高いところには登れなかったPokoちゃん。KAFBOのダンボール製インテリアに登っているうちに筋力が付いて椅子の上にも乗れるようになったとか(写真撮影/片山貴博)

窓際のハンモックでくつろぐのが大好きな2匹。ハンモックはAmazonで購入したものにカバーをつけて(写真撮影/片山貴博)

窓際のハンモックでくつろぐのが大好きな2匹。ハンモックはAmazonで購入したものにカバーをつけて(写真撮影/片山貴博)

「Nikoは家具で爪研ぎなどはしないのですが、Pokoは一時期2階の壁をガリガリしていたので、爪研ぎをしないように爪研ぎ防止のビニールを貼ったりもしていました。うちの子はどちらも高いところに登れないので、キャビネットの上などは荒らされなくて済むので助かります(笑)。よくお花が咲く時期には生花を飾っているのですが、NikoもPokoもあまり興味がないようで食べたりしないんですよね。机の上にあっても、よけるものだと認識しているようでよけて歩くんですよ。ラグは敷いていると毛がついて掃除が大変なので、使うときだけ敷くようにしています。水飲み場は、水がたくさんこぼれるとむく材の床が腐ってしまうと思って、まわりに珪藻土のマットを敷いて水はね予防をしています」

2階の洋室にある猫用トイレには珪藻土を塗ったカバーをつけて目隠し。においもそれほど気にならなくなったそう(写真撮影/片山貴博)

2階の洋室にある猫用トイレには珪藻土を塗ったカバーをつけて目隠し。においもそれほど気にならなくなったそう(写真撮影/片山貴博)

日常がより豊かになる猫との暮らし

猫と人がお互いに心地よい関係性で暮らしているMakiさん一家。猫との生活で一番変わったことは、「旅行に行かなくなった」ことだとか。

「Pokoが来てから旅行に行くこともなかったのですが、昨年ひさしぶりに夫婦で一泊旅行に行きました。一泊だったのでお留守番してもらったのですが、もう心配で心配で(笑)。家にはカメラを3台設置しているので、まめにチェックしていました。ごはんのとき以外はほとんど寝ていましたね(笑)。

普段はiPhoneで撮影をすることが多いというMakiさん。カメラを使用することもあるとか(写真撮影/片山貴博)

普段はiPhoneで撮影をすることが多いというMakiさん。カメラを使用することもあるとか(写真撮影/片山貴博)

玄関横にあるNikoちゃんそっくりの人形。愛犬・愛猫のオーダーメイドぬいぐるみをつくる「PECO Hug」がモデル例として作ってくれたものだとか。思わずNikoちゃんと間違えてしまうことも(写真撮影/片山貴博)

玄関横にあるNikoちゃんそっくりの人形。愛犬・愛猫のオーダーメイドぬいぐるみをつくる「PECO Hug」がモデル例としてつくってくれたものだとか。思わずNikoちゃんと間違えてしまうことも(写真撮影/片山貴博)

今まで動物と暮らしたことがなかったので、動物を飼っているみなさんがよく言う『家族の一員だから』という言葉にあまりピンときていなかったんです。けれど、今はすごくよく分かります。性格的にも、手のかかり方も、5歳と3歳の子どもと暮らしている感じ。Nikoはおませな5歳の女の子で、Pokoは甘えん坊で手がかかる3歳の男の子。どちらもかわいいですね。旅行に行けなくなったことを悲観しているわけではなく、日常はより楽しくなりました。今はただただ長生きしてほしい。NikoとPokoが元気で、幸せだなと思ってほしいですね」

庭を散歩するのが大好きだという2匹が外をより見られるように、いつかウッドデッキをサンルームにしたいという夢をふくらませるMakiさん。2人と2匹の暮らしは、これからもさらに快適にアップデートされていきそうだ。

リードをつけて庭を散歩するのが大好きだというNikoちゃんとPokoちゃん。庭に出るとぐるぐると何周も回るそう(写真提供/Makiさん)

リードをつけて庭を散歩するのが大好きだというNikoちゃんとPokoちゃん。庭に出るとぐるぐると何周も回るそう(写真提供/Makiさん)

KAFBOのダンボール製ハウスですやすや寝ていたNikoちゃんとPokoちゃん(写真撮影/片山貴博)

KAFBOのダンボール製ハウスですやすや寝ていたNikoちゃんとPokoちゃん(写真撮影/片山貴博)

暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんの美しい収納と家づくり その道のプロ、こだわりの住まい[2]

初めての家づくりについてまとめた『考えない 探さない ラクして整う住まい考』(KADOKAWA)を2018年9月に上梓したばかりの暮らしのエッセイスト&整理収納アドバイザーの柳沢小実さん。それまでの賃貸の暮らしとこれからの生活を考えて出した答えは、物量は少しだけ少なく、一目で分かる収納に、ということだという。旅好きでもあり、身軽に暮らしたいという思いが詰まったご自宅に伺って、家づくりや暮らしについて話を聞いた。【連載】
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……etc. 何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。キッチンは、左右からアクセスできるよう、アイランド型に。シンク下の収納はダイニング側に食器を、キッチン側に調理道具などを収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチンは、左右からアクセスできるよう、アイランド型に。シンク下の収納はダイニング側に食器を、キッチン側に調理道具などを収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

東京都内にある柳沢さん宅は一戸建て。玄関から階段を上がった先には、広々と明るいLDKが広がる。取材陣が伺うと、柳沢さんは、さっとキッチンへ向かってお湯を沸かし、茶器を選んで、茶葉を出して、お茶を入れてくれた。その一連の動きはとてもスムーズだ。アイランド型のキッチンで、ダイニングとの境もないので、左右からアプローチしやすい。さらに、ダイニングとリビングもひとつながりなので、とても開放感がある。あえて壁をつくらなかったという理由が、一瞬にして伝わってきた。
運んできてくれたお茶は、かわいらしい花模様が入った茶器。ここ数年通っている台湾で購入したものだという。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

「すっきり暮らしたいという思いもありますが、こういう食器は我慢できなくて、つい買ってしまうんです。物欲って抑えられないときもありますよね」と笑いながら話す。物欲があるとはいえ、このすっきりした空間はどうやって生まれ、どのようにキープしているのだろう?

ハウスメーカーで実現した「白い箱」のような家

家を建てるに当たって、建築家や工務店などの選択肢があるなかで、柳沢さんはハウスメーカーを選んだ。理由は、蓄積されたノウハウがあることや、長く住むことを考えてアフターケアがきちんとなされることだったという。
「家具はそれまで使っていたものを活用するので、『機能的な白い箱』のようなシンプルな家にしてもらいました」
すっきりと広く感じる理由は、この「シンプルさ」にもあるのかもしれない。造作家具などを必要以上につくらず、壁や床の面が大きく見えているから、開放感を感じられるのだろう。

物の量は「少ない」ではなく「少なめ」に

また、整理収納アドバイザーの資格をもつだけあり、出し入れしやすい収納にも心を配っている。
「この家に引越すに当たって極端に減らしたわけではありません。私はミニマリストではないので、物量が少ないわけじゃないし、物は好きなんです。意識しているのは、『少ない』じゃなく『少なめ』にするということ」と言う。
ほんのちょっと少なめにするだけで、積み重なったり、奥に入り込んだりということがなくなり、探し物をする手間が減るというわけだ。余白が生まれれば、出し入れしやすくなる。だから、お茶を入れるという作業も、スムーズに流れるようにできていたのだ。
物を少なめにキープしつつ、それらを分かりやすく収納しているのも、スムーズな動きの理由のひとつ。例えば、キッチンの引き出しは、どこを開けても、ひと目でどこに何があるかがすぐ分かる。フタ付きの収納グッズなどは使わず、中に入っているものが見渡せるようにしている。

引き出し内は無印良品のケースで仕切っている。カトラリー、木製のスプーン類、小さなもの、レンゲなどと大まかに分類。「奥には使用頻度の低いカトラリーを入れています。すぐには捨てられなくて」(写真撮影/嶋崎征弘)

引き出し内は無印良品のケースで仕切っている。カトラリー、木製のスプーン類、小さなもの、レンゲなどと大まかに分類。「奥には使用頻度の低いカトラリーを入れています。すぐには捨てられなくて」(写真撮影/嶋崎征弘)

旅先で購入したという器は、食器棚の中できちんと並んでいるし、キッチンカウンターの上に置きっぱなしにしていても絵になっている。好きだからといってぎゅうぎゅうに詰め込んだりせず、出し入れしやすい状態にしているのはさすがだ。
「仕事も家事もしなくちゃいけない。忙しいからこそ、簡略化してラクに暮らせるようにと思っています。おおざっぱでめんどうくさがりだからこそ、散らからない工夫をしているんです(笑)」

その考え方はキッチンに限らず、クローゼットや洗面所などのスペースでもしかり。
「好きだから、つい増えてしまう」という洋服は、クローゼットを開ければそのほとんどが目に入るように掛けて収納している。
「物量を把握できるし、畳みジワが嫌だということもあります。それに、洗濯物を畳みたくないという理由もあるんです(笑)。めんどうな家事はできるだけ省きたい。忙しくてもきちんと収納できている状態をキープするためには、効率よく家事をこなさないといけないですから」

洋服だけでなく、バッグ類もS字フックで掛けて見やすく、取り出しやすく。クローゼットは壁一面を3つに仕切り、左が柳沢さん、中央がご主人、右は裁縫道具や梱包材などの日用品を収納(写真撮影/嶋崎征弘)

洋服だけでなく、バッグ類もS字フックでかけて見やすく、取り出しやすく。クローゼットは壁一面を3つに仕切り、左が柳沢さん、中央が夫、右は裁縫道具や梱包材などの日用品を収納(写真撮影/嶋崎征弘)

洗濯物を干すにも、クローゼットに収めるにも同じハンガーを使っているので、洗って乾いた状態のまましまえる。伸びやすいニット類はくるくる丸めてかごの中へ入れているが、それ以外はほぼ掛けているので、こちらも扉を開ければ一目瞭然。家事は自分のライフスタイルに合わせて変えていけばいいのだ。

寝室のキャビネットの上にはアクセサリー類を並べている。その日のコーディネートに合わせ、さっと手に取れて便利(写真撮影/嶋崎征弘)

寝室のキャビネットの上にはアクセサリー類を並べている。その日のコーディネートに合わせ、さっと手に取れて便利(写真撮影/嶋崎征弘)

必要以上の収納スペースはつくらない

扉付きの食器棚は、上部はガラス製なので好きな食器を眺めることができ、下部は木製の扉で料理本を詰め込んでいても圧迫感がない。賃貸時代にデザインやサイズを吟味してやっと見つけた家具で、大切に使われていることがよく分かる。

2つ目のこの食器棚は以前から持っていたほうの奥行きと合うサイズと色、さらに掃除のしやすい脚付きのデザイン、ガラス扉でほどよく物が隠せる、など条件を決めて見つけた(写真撮影/嶋崎征弘)

2つ目のこの食器棚は以前から持っていた方の奥行きと合うサイズと色、さらに掃除のしやすい脚付きのデザイン、ガラス扉でほどよく物が隠せる、など条件を決めて見つけた(写真撮影/嶋崎征弘)

扉を開けると料理本やレシピファイルが並ぶ。扉を締めればすっきり。使う場所の近くにしまうというのも収納の鉄則だ(写真撮影/嶋崎征弘)

扉を開けると料理本やレシピファイルが並ぶ。扉を締めればすっきり。使う場所の近くにしまうというのも収納の鉄則だ(写真撮影/嶋崎征弘)

「料理本はダイニングで読むことが多いので、置き場所は食卓の近くに。大切に使ってきた家具はそのまま新しい家でも活躍しています。家を建てるからといって、必要以上に収納スペースをつくるのは避けました。例えば、階段上の空間を利用すれば、パントリーを設置することもできたんです。でも、果たしてそのスペースを活用するほど物を持つか、きちんと管理できるかを考えたら、私には必要ないという結論になりました」

つり戸棚をつけない代わりに、奥行きの狭い棚板を壁に設置。茶葉などを見せて収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

吊り戸棚をつけない代わりに、奥行きの狭い棚板を壁に設置。茶葉などを見せて収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事をしながら家事もこなす柳沢さんにとって大切なのは、パッと見て物量を把握でき、出し入れしやすいこと。過剰な収納は必要ないのだ。同じ理由で、キッチンのつり戸棚も設置せず、クローゼットはウォークインタイプはやめてシンプルなつくりにした。そのぶん、キッチンは上部に開放感があって広々と感じるし、寝室もシングルベッドを並べておいても余裕が持てている。

夫婦それぞれの場所をキープして、共有場所はすっきりとリビングテーブルは置かず、床を見せることで広さを感じられるリビングに。「家具を買うときは本当に必要か吟味してから。夫と相談して、なるべく一生使えるものを、と思っています」。ソファはハンス・J・ウェグナーのもの(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングテーブルは置かず、床を見せることで広さを感じられるリビングに。「家具を買うときは本当に必要か吟味してから。夫と相談して、なるべく一生使えるものを、と思っています」。ソファはハンス・J・ウェグナーのもの(写真撮影/嶋崎征弘)

一人ではなく、夫と暮らしているからこその工夫も随所にある。「お互いに個人的に持っている物もありますよね。私の場合は家で仕事をするので仕事関係のものや書籍や雑誌など。夫は趣味の山登りの道具類がたくさんあるんです」。柳沢さんのものは仕事部屋があり、夫には寝室の横に通称「山部屋」があるので、それぞれで物量を管理するようにしている。リビングやダイニングに置きっぱなしにしない。そして、お互いにその部屋に関しては干渉しないと決めているので、共有のスペースであるLDKをすっきりさせることができている。

柳沢さんの仕事部屋には好きな書籍や雑誌、勉強中だという中国語のテキストなどが並んでいる。この4畳半ほどのスペースがあるおかげでリビングダイニングには物が置きっぱなしにならずにすむ(写真撮影/嶋崎征弘)

柳沢さんの仕事部屋には好きな書籍や雑誌、勉強中だという中国語のテキストなどが並んでいる。この4畳半ほどのスペースがあるおかげでリビングダイニングには物が置きっぱなしにならずにすむ(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

無理せず、我慢せず、できることを

話を聞いていると、暮らしやすいということは、好きなものを大切にし、無理をしないということが伝わってくる。
「仕事も家事もしているので、いかに気持ちよくラクに暮らせるかが大切。めんどうくさがりだから(笑)、それでもすっきりできる方法を考えてこの状態になったんだと思っています」

ダイニングの食器棚の横にある椅子。ここが夫の仕事かばんなどの定位置。日中は、コード類を収納したバッグを置いている(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングの食器棚の横にある椅子。ここがご主人の仕事かばんなどの定位置。日中は、コード類を収納したバッグを置いている(写真撮影/嶋崎征弘)

柳沢さんがずっと試行錯誤して実践し続けてきた収納法や家事に対する考え方は、家を建てずとも真似できる工夫がたくさんある。
「プライベートでも仕事でも、海外に行くことが多いので、身軽でいたいというのもあります。パッと準備して出かけたいし、帰ってきたときに片付いている状態のほうが気持ちいいですよね」
物量は少なめにし、物の場所をきちんと決めておくことで、それを実現させている。

シンク下には、好きで集めているという茶器やフルーツ柄のグラスなどを並べている。旅や仕事で行った台湾などで購入したもの。「決してミニマリストではない」という言葉にもうなずける。我慢はせず、暮らしを楽しむことも大切(写真撮影/嶋崎征弘)

シンク下には、好きで集めているという茶器やフルーツ柄のグラスなどを並べている。旅や仕事で行った台湾などで購入したもの。「決してミニマリストではない」という言葉にもうなずける。我慢はせず、暮らしを楽しむことも大切(写真撮影/嶋崎征弘)

物も収納スペースも、自分たちに必要なものを選べばいい。一般的な「こうあるべき」という概念に縛られず、それまでの自分たちの暮らし方をきちんと把握して考えた家だからこそ、今の柳沢さんの暮らしにとてもフィットしているのだろう。
「年内に2回台湾に行くんです」とうれしそうに笑う。きっと旅の準備はてきぱきとスムーズで、楽しんで帰ってきたときには、すっきりとして明るい家が迎えるに違いないのだ。

●取材協力
柳沢小実(やなぎさわ・このみ)
エッセイスト。1975年、東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。整理収納アドバイザーの資格をもち、雑誌や書籍、新聞などで軽やかな暮らしを提案。現在、読売新聞(水曜夕刊隔週)での連載のほか、セミナーなども積極的に行っている。
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ロマン実現!? 賃貸ガレージハウスに潜入

住居を、生活の場というだけでなく、より趣味や嗜好を楽しむ場としてとらえる人が増えています。そうした層に応えるべく出てきた考え方が「コンセプト賃貸」。基本的な居住空間に、好みの生き方や趣味を楽しめる空間を合体させた賃貸住宅です。
この考え方に基づき、木下工務店レジデンスが開発したのが、住居にガレージを組み込んだガレージハウス。 その実態を探ってみましょう。

住居とガレージを一体化したコンセプト賃貸

木下工務店レジデンスはこれまで、施主(土地所有者)の要望に沿って数々の賃貸住宅を開発・供給していますが、数年前から、社長の中村秀雄(なかむら・ひでお)さんの指揮のもと、「コンセプト賃貸」に乗り出しました。

背景には、生き方や趣味を重視して住宅選びをする人が増えてきたことがあります。ニーズが細分化されている今日、標準的な賃貸住宅だけでは限界があります。また駅から遠いなど、賃貸住宅に不利な土地にはそれを解消するだけの魅力が必要になります。

「コンセプト賃貸の皮切りとして立案したのが、ガレージを賃貸住宅に取り入れたガレージハウスです」と、株式会社木下工務店レジデンス建築部設計課の八木橋毅(やぎはし・つよし)さんは語ります。

通常、ガレージといえば戸建住宅のもの。賃貸住宅では、ガレージを借りるとしても住居から離れた場所になってしまうことがほとんどです。「ならば、住居とガレージをパッケージ化して賃貸で提供すれば、クルマの愛好者に喜んでいただけると考えました」(八木橋さん)

ガレージは多目的に使えるため、居住者には四輪車の愛好者だけでなく、バイク、自転車、カヤック、陶芸など、さまざまな趣味の愛好者を想定しました。

「実は5、6年前、ある施主様のご要望で、車庫付き賃貸を開発したことがあります。この経験で、間口が大きく、柱のない大空間の構造強度を高める方法など、設計ノウハウは蓄積されていました」と、同社の建築部 設計課・課長の向原良幸(むこはら・よしゆき)さんは振り返ります。

設計課では、新たなガレージハウスを企画するに当たって、社内の意見を集め、いくつもの案を提出しては検討を重ねました。さらに女性設計者の意見を取り入れるなど、従来のガレージハウスのイメージを超える商品をめざしました。

その結果、生まれたガレージハウスが「Espace」(エスパース)。大きな空間を、ガレージにとどまらず、幅広い用途に利用できることから、商品名には、フランス語の「空間」を意味する言葉を選びました。

夜のエスパース外観(実際には夜間にガレージを開けることはほとんどないが、開けていただいた)。シックな外観やガレージの広さがよくわかる(写真撮影/織田孝一)

夜のエスパース外観(実際には夜間にガレージを開けることはほとんどないが、開けていただいた)。シックな外観やガレージの広さがよくわかる(写真撮影/織田孝一)

ガレージを使う人の気持ちに沿った、心憎い設計

エスパースの特色は次の点です。

1階のガレージ空間は6m×6.6m、自動車を横に2台並べて駐車できる広さがあります(現在は1台置くタイプも提供しています)。「大きな空間を確保する一方、そのために家賃があまり高くならないようにすることも必要で、そのバランスに苦労しました」(向原さん)

最も大変だったのは、居住空間とは違って、車庫(ガレージ)空間は都道府県条例によって規制されるため、それに合わせたサイズなどの調整が必要なことでした。「そのため、基本構造は同じでも仕上げを微妙に変えなくてはなりません」(向原さん)

ガレージには、入口に電動シャッター、大切なクルマやバイクを盗難などから守る防犯カメラ、居住空間に排気ガスや臭気がおよばないようにする換気扇、クルマの手入れなどのとき便利な大型の手洗いなどを装備しました。また、壁には有孔のペグボードを装着、フックで道具などを掛けられるようになっています。居住者に使いやすくするとともに、賃貸なので、壁に穴を開けないですむようにするねらいです。

ガレージの上の居住空間は、広く感じられるように、続き間のようなシンプルなプランとし、視線が遠くまで届くようにしました。居住空間とガレージは内部階段でつながっているので、行き来するときにいちいち外に出る必要はありません。

外観は従来のガレージハウスにあった倉庫的なイメージをなくし、風格を持たせることをめざしました。

「エスパースの顔でもある正面の電動シャッターには、高級感のある木目調の面材を使用し、2階にはガラス調パネルを用いたバルコニーを設けました」(八木橋さん)。落ち着いた外観色には3つのパターンを用意し、周辺環境に応じて提供できるようになっています。

(写真撮影/織田孝一)

(写真撮影/織田孝一)

ガレージと2階の住居部分は内部の階段でつながっているので、移動のときに外に出る手間は不要だ(写真撮影/織田孝一)

ガレージと2階の住居部分は内部の階段でつながっているので、移動のときに外に出る手間は不要だ(写真撮影/織田孝一)

新築物件を探し歩くなかで、エスパースに出合う

実際にエスパースに入居している方に話を聞いてみました。

大手自動車メーカーの技術者であるT・Nさん(37)は、東京・武蔵村山市にあるエスパースに、2018年9月に入居しました。

「以前は賃貸1DKに住んでいましたが、そろそろ家を建てようと思ったのがきっかけです。クルマ通勤を想定し、土地を探しているとき、たまたま武蔵村山市で建築中のエスパースが目に留まりました」(Nさん)

早速ネットで調べ、間取りなどを確認してみると、趣味のクルマを楽しむ生活ができることが分かり、すぐに問い合わせ、契約に至りました。
「前の住まいではクルマは青空駐車していたので、新築するならガレージ付きと考えていました。しかし新築は長期的に考えなければならない事項が多く、やり直しもむずかしく、迷いました。そんなときにこのガレージハウスに出合って、ゆくゆくは物件を購入するにしても、ここに賃貸で住みたいと思いました。ほぼ即決でしたね」(Nさん)

電動シャッターのあるガレージ入口。上の黒い部分に扉が巻き取られるため、開けたときに照明が隠れるようなことがない。奥に見える作り付けの棚は非常に便利(写真撮影/織田孝一)

電動シャッターのあるガレージ入口。上の黒い部分に扉が巻き取られるため、開けたときに照明が隠れるようなことがない。奥に見える作り付けの棚は非常に便利(写真撮影/織田孝一)

壁に取り付けられた有孔のペグポードは「これから利用するのが楽しみ。使い方を思案中」(Nさん)とのこと(写真撮影/織田孝一)

壁に取り付けられた有孔のペグポードは「これから利用するのが楽しみ。使い方を思案中」(Nさん))とのこと(写真撮影/織田孝一)

水栓二つを持つ大型の手洗いも使いやすい(写真撮影/織田孝一)

水栓二つを持つ大型の手洗いも使いやすい(写真撮影/織田孝一)

2階のリビングルーム。隣接して手前にキッチン、バス、トイレがある(写真撮影/織田孝一)

2階のリビングルーム。隣接して手前にキッチン、バス、トイレがある(写真撮影/織田孝一)

ガレージハウスが変えた週末の生活

Nさんは設備にも満足しています。「電動シャッターは扉を回転させて巻き取るタイプなのが気に入っています。オーバースライダータイプだと、扉の開放時に照明が使えないからです。また換気扇に強弱の二つのモードがあること、二つの水栓と大きめの受けボウルがある手洗いも便利。つくり付けの棚も非常に役立っています」。

Nさんの愛車はキャデラックCTS-V。キャデラックの中でも最もパワフルなエンジンを持つ高級スポーツセダンです。このほか、スバル・レヴォーグを所有しています。

「この家に住むようになってから、週末が楽しみになりました。ガレージで音楽をかけたり、クルマの手入れをしたりと、週末をゆっくり過ごすことが増えました」(Nさん)

部屋の位置にもよりますが、Nさんの選んだ部屋は棟の端に位置し、ガレージ前にかなり広いスペースがあるため、ガレージからクルマを出して動かしやすく、クルマで来る友人を呼ぶときに便利であることにも満足しています。

木下工務店レジデンスではエスパースを、東京、埼玉、千葉、神奈川のほか、大阪、兵庫、名古屋でも展開しています。働き方改革が潮流となり、日本人の個人の時間の充実に注目が集まっています。そうした中で、エスパースからは賃貸住宅の新しい可能性が見えてくるようです。

ガレージに置かれたチェアもお気に入り。週末ここに座り、音楽を聴いたり、クルマの手入れをするのが至福のとき(写真撮影/織田孝一)

ガレージに置かれたチェアもお気に入り。週末ここに座り、音楽を聴いたり、クルマの手入れをするのが至福の時(写真撮影/織田孝一)

チェアから愛車キャデラックCTS-Vを眺める(写真撮影/織田孝一)

チェアから愛車キャデラックCTS-Vを眺める(写真撮影/織田孝一)

「子どもは自立」「今よりコンパクトな住まい」を支持する、イマドキの中高年

住環境研究所が既婚の50代以上の中高年に調査したところ、家族と常に一緒にいるより、それぞれの自立を期待する声の方が大きいことが分かった。夫婦や子どもとの関係はどうありたいと見ているのか、どんな住まいがよいと思っているのか、イマドキの中高年の意識を詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「中高年の生活・住まいに関する意識調査」を発表/住環境研究所イマドキの中高年は家族のまとまりより“個々を尊重”する傾向に

既婚で50代以上というと、夫婦だけの生活がこれから長く続くことが想定される。夫婦の関係について聞いたところ、【A】「夫婦といえども一人の時間がほしい、それでこそ仲良く暮らせる」のほうが、【B】「会話があってこそ分かり合える、共有の時間を多く持ちたい」より多く支持されたことが分かった。

この傾向は、年代別では定年前後の「55~59歳」と「60~64歳」、性別では「女性」に顕著に見られたという。仕事中心の夫が定年後に自宅に長くいるようになると、生活スタイルが変わってしまうことから、互いの自立を望む声が多くなるのだろう。特に女性にその傾向が強いわけだ。

自立を期待する人が多いことは、夫婦にとどまらず、子どもとの関係にも影響する。【A】「子どもは社会人になったら自立すべきだ(家を出るべきだ)」と【B】「子どもが結婚してもできればいっしょに(近くで)暮らしたい」のどちらかを聞くと、やはり子どもの自立を望む声が多かった。

子どもに関する意識(出典:住環境研究所「中高年の生活・住まいに関する意識調査」より転載)

子どもに関する意識(出典:住環境研究所「中高年の生活・住まいに関する意識調査」より転載)

ちなみに、筆者の知人の事例だが、同居している社会人の娘に自立をするようにと、一定期間の家賃補助を条件に促したところ、その期間が過ぎて家賃補助を打ち切ったら自宅に帰ってきてしまったという。なんということか!

モノへのこだわりは減少、シンプル・コンパクトな住まいに

夫婦でも親子でも自立を望む声が多数の中高年は、まだまだ働きたい、生きがいをつくったり体力をつけたりしたいという人が多く、元気そのもののようだ。そんな中高年の暮らしや住まい感については、どうだろう?

まず、モノについては【A】「すっきりシンプルに生活したい、不必要なものはどんどん処分する」が【B】「将来使う可能性のあるものは、スペースの許す限り処分せずとっておく」を上回っている。特に【B】は、2000年の58%(ほとんどB40%+Bに近い18%)から2018年の22%(同19%+3%)へと大きく下がっている。モノや過去の思い出へのこだわりが減っているということだろう。

その結果、住まいの広さについても、【A】「今の家は大きすぎる、もっとコンパクトな家に住みたい」と【B】「今の家は狭すぎる、もっと広い家に住みたい」では、わずかに【A】のほうが多く選択された。住居形態別で若干の違いがあり、持ち家一戸建てでは【A】が、賃貸では【B】が多い傾向があったという。

上:モノに関する意識、下:住まいの広さ(出典:住環境研究所「中高年の生活・住まいに関する意識調査」より転載)

上:モノに関する意識、下:住まいの広さ(出典:住環境研究所「中高年の生活・住まいに関する意識調査」より転載)

住まいの広さについては、「どちらともいえない」人が大半で、必ずしも中高年がコンパクトな住まいを好むとは言えないだろう。かつて取材したあるシニア層は、一戸建てからマンションに住み替えたのだが、狭くて困ると言っていた。そのマンションの専有面積は80平米台だったのだが……。“今より”コンパクトな住まいというのが、実際にどの程度の広さを指しているのかは、それぞれで異なるのだろう。

とはいえ、筆者はシニア層の方にはコンパクトな暮らしを勧めている。子どもが泊まるかもしれない部屋は不要だし、過去の思い出の品も断捨離して、掃除などの家事負担を減らして、体力が落ちても快適に暮らせるような住まいを選ぶほうが良いと思うからだ。はたして、皆さんはどうお考えだろうか?

冬服の収納方法をプロに聞いた! 見せる収納&隠す収納でおしゃれに

冬は重ね着が楽しい季節。でも、厚手の洋服は収納場所に困りますよね。かさばりがちな冬の衣類をスッキリ、おしゃれにクローゼットなどに収納する方法を、整理収納アドバイザーの村上直子さんに伺いました。
冬の衣類は、見せる収納と隠す収納のメリハリが大切

厚手のコートやマフラー、肌寒いときに部屋で羽織るカーディガン……冬の衣類はかさばるうえに、体温調節のために着脱する回数も多いもの。ちょっと気を抜くと、玄関やリビングにあふれてしまい、部屋がゴチャゴチャしてきませんか? 整理収納アドバイザーの村上直子(むらかみ・なおこ)さんにその原因を聞くと、第一には、「生活スタイルや動線、使用頻度を考えず、収納場所を決めているから」なのだそうです。

「例えば全ての衣類を、その都度クローゼットにしまうことができれば、スッキリするかもしれません。でも実際には面倒だったり、ニオイや湿気が残って、すぐにクローゼットに入れる気にはならなかったりすることもありますよね。それが散らかる原因。それなら、さっと置くだけの“見せる収納”と、しっかりクローゼットの中にしまって“隠す収納”に分けて、手間を減らすほうが現実的です」(村上さん)

確かに、クローゼットにいちいちしまうのは、面倒くさくてできないことも多いですよね。ではどのように見せる収納と隠す収納を使い分けたらよいのでしょう。今回は実際に村上さんが実践しているアイデアをご紹介します。

整理収納アドバイザーの村上直子さん(写真撮影/蜂谷智子)

整理収納アドバイザーの村上直子さん(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納家具は、インテリアのポイントとしてふさわしいものを

見せる収納としてまず村上さんが見せてくれたのは、おしゃれなカゴ。こちらに部屋で羽織るカーディガンを入れています。見せるための収納には、適当な家具はNG。何も入れていなくてもインテリアとして部屋に置きたいと思うものを、活用するのがポイントだそう。

「見せる収納を部屋のアクセントにしたいなら、いくつかの用途が思い浮かぶような、お気に入りの入れ物を入手しましょう。『部屋着を入れるだけだから』と、ランドリーボックスのような柔らかな収納箱をリビングに置く人がいますが、たくさん入る分、膨らんでだらしない印象になってしまうことも。収納力よりもインテリアとしての価値を重視したほうが、かえって節度のある使い方ができるものです」(村上さん)

さっと脱いだカーディガンや膝掛けを、このカゴへ(写真撮影/蜂谷智子)

さっと脱いだカーディガンや膝掛けを、このカゴへ(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納は部屋のインテリアのポイントにもなる高品質な家具を(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納は部屋のインテリアのポイントにもなる高品質な家具を(写真撮影/蜂谷智子)

外に出しておく衣類は、期間や用途を限定して置きっぱなしを防ぐ

また玄関脇のラックも、雰囲気のあるものを選びましょう。村上さんは、玄関のラックにはお子さんが帰ってきてから学校に行くまでの間、制服を掛けているそう。

「制服以外は、この場所には掛けません。子どもにとって2階の部屋に制服を片付けるのは手間ですし、制服は思いのほか、ホコリや汗がついています。ですから、玄関のラックは干したり消臭スプレーをかけたりして衣類を休ませる場所にしているんです。子どもが学校に行っている間はラックが空になるので、昼間に来客があっても、玄関がスッキリ。ラックは来客にコートを掛けてもらうスペースとして活用します」(村上さん)

玄関にラックを置くと、つい家族の上着類全てを掛けてしまい、こんもりと見苦しくなるもの。使う頻度の高いものだけにするなど、用途を限定することが大切なようです。

また、裏技として、扉の裏を利用した収納方法もおすすめだそう。着たばかりでクローゼットに入れるのはためらわれるコート類は、扉の裏側にフックをセットしてつるしておくと、邪魔になりません。ここにつるすのも、当日着たものに限定し、衣類を休ませたらクローゼットへ。

透かし模様が美しいラックは玄関のイメージを格上げ。衣類を掛けすぎないのがポイント(写真撮影/蜂谷智子)

透かし模様が美しいラックは玄関のイメージを格上げ。衣類を掛けすぎないのがポイント(写真撮影/蜂谷智子)

消臭スプレーなどをセットしておくと、家族が自発的に衣類のケアもするように(写真撮影/蜂谷智子)

消臭スプレーなどをセットしておくと、家族が自発的に衣類のケアもするように(写真撮影/蜂谷智子)

扉の裏を活用した収納は、すぐにでも真似できるアイデア(写真撮影/蜂谷智子)

扉の裏を活用した収納は、すぐにでも真似できるアイデア(写真撮影/蜂谷智子)

クローゼットは、収納用引き出しの容量を最大限に活用する

クローゼットの中が整理できず、いざというときに着たい服が見つからない。服を掘り当てたときにはクローゼットの中がメチャクチャに……整理が苦手な人にはよくあることですが、そういう人は収納用の引き出しの使い方やサイズの選び方を見直す必要がありそうです。

「大前提として、収納ボックスに入れる衣類は、縦に並べて収納しましょう。上に積み重ねて行くと下の服を取り出すたびに引き出しの中を掻き回すことになってしまいますよね」(村上さん)

また、村上さんが特に伝えたいのが、収納用の引き出しのサイズ選びです。

「収納用の引き出しを用途よりも深いものを選ぶ人が多いのですが、上に隙間ができてもったいないですよ。洋服を縦に並べて入れたときにピッタリとおさまる高さを選びましょう」(村上さん)

引き出しの中にデッドスペースができないように、例えば厚めのセーターや夫のボトムスやシーツなどのかさばるものなら36cm、靴下や下着ならば18cmなど、アイテムによって高さを変えることが必要だとのこと。引き出しの中にピッタリと服が入れば、整った印象になり洋服も選びやすいですね。

「収納ケースの選び方のポイントは収納ケースの高さと奥行きの使い方。押入れなどの奥行きがある場合は、収納ケースを前後で使うことをお勧めします。手前がシーズンのよく着る物、後ろを季節外のものにして前後で衣替えをしましょう」(村上さん)

畳んだ衣類を縦に入れてしまえば、洋服が一覧できて服選びが簡単に。高さが引き出しの高さに合っていて、デッドスペースができていないことにも注目(写真撮影/蜂谷智子)

畳んだ衣類を縦に入れてしまえば、洋服が一覧できて服選びが簡単に。高さが引き出しの高さに合っていて、デッドスペースができていないことにも注目(写真撮影/蜂谷智子)

ストール、マフラー類をしまう、ボックスのニ段活用術

冬になって増えてくるのが、ストール・マフラーなどの“巻物”類。ファッションに変化をつけるのに重宝しますが、案外使いたいときに見当たらないことが多いのではないでしょうか。そんな巻物を分かりやすく収納するのが、ボックス使い。シーズンオフのときはクローゼットの上の棚にしまって、出番が来たら箱ごと下に下ろし、出し入れする側を前に倒せば取り出しやすくなります。

「ソフトな箱型収納は、箱自体を折り畳んでしまえる優れもの。使わないときは小さく畳んでおきましょう。輸入家具店などで3つ1500円ぐらいで手に入ります」(村上さん)

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収納ボックスは軽くて取っ手つきで、厚い底がある。まとめやすく高い場所への上げ下ろしもしやすい(写真撮影/蜂谷智子)

収納ボックスは軽くて取っ手つきで、厚い底がある。まとめやすく高い場所への上げ下ろしもしやすい(写真撮影/蜂谷智子)

ニット類はシワにならず、型崩れしないハンガー使いがおすすめ

ニットはシワになりやすく、厚手のものはかさばってしまい、引き出しにしまいにくいもの。着用頻度の高いものはハンガーに掛けることも多いと思いますが、掛け方を間違うと伸びたり、跡がついたりしてしまいます。そこで村上さんが実践しているハンガーの使い方を教えていただきました。

「ハンガーは滑らないタイプのハンガーを使って、畳みながら掛けると跡がつきにくいですよ。ニットを毎回洗うのは手間ですが、着たものを引き出しにしまうのは抵抗があるものです。ハンガーに掛けておけば通気性もよく、お気に入りが見当たらなくなってしまうこともありません」(村上さん)

ニットは畳んでからハンガーに掛ければ肩が伸びることもない(写真撮影/蜂谷智子)

ニットは畳んでからハンガーに掛ければ肩が伸びることもない(写真撮影/蜂谷智子)

衣類を出し入れするのは毎日のことですから、できるだけ無理なく効率よく片付けしたいですね。村上さん流の収納術なら、生活動線や衣類のケアのことも考えられているので、スッキリと部屋が片付くだけでなく、毎日のおしゃれも楽しくなりそうです。厚着になっていく時期に備え、衣類の収納を見直してみませんか?

●取材協力
・kiki*uchi-reset  

料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた

スタイリングもこなす料理研究家として、雑誌や書籍でさまざまなお菓子のレシピを提案している桑原奈津子さん。前回は、定番の朝ごはんとそのつくり方についてお聞きしました。今回は、桑原家のキッチンと、愛用している調理道具や器について、お話を伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、美味しいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。築55年の戸建をリノベーション。月日を経て味わいを増すキッチン

「工場や学校っぽい雰囲気が好き」だという桑原さん。キッチンツールや家具なども、無駄な装飾を省いた業務用のものが好みだそうです。けれども、桑原さん宅のキッチンは「業務用」という言葉からイメージされる無骨さとは無縁の、あたたかみのある雰囲気。

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

12年前にリノベーションした築55年の一戸建ての窓枠や柱などを、当時のまま残していることが、ぬくもりを感じさせる一因のようです。そこに、てらいのないスタイリングを得意とする桑原さんの手が加わることで、甘すぎないけれども穏やかでほっとする、独自の世界観が築き上げられていました。

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)(写真撮影/嶋崎征弘)

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の家具やキッチンツールの大半は、素材がステンレスもしくは木、色は白でそろえられています。すべてのものを同じタイミングで集めたわけではないのに、素材感や色が統一されているから、ものを出しっぱなしにした「オープン収納」を取り入れていても、キッチン全体がすっきりと、まとまって見えます。

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

「調理台にも背面カウンターにも引き出しが少ないので、新たに引き出し付きのワゴンを買い足しました。仕事場っぽい雰囲気にしたかったので、家具より工具入れが合うのではないかと思って、ネットで探しました。キッチンまわりの細々としたものを整理するのにとても便利ですよ」

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

最初にリノベーションを行ったのは12年前ですが、その後も少しずつ手を加え続けている桑原家。「収納スペースの中に取り付ける予定だった固定式の棚板は、あえて2年ほど設置しなかったんです。実際に使ってみて、ここだと確信できてから取り付けを依頼しました」。3年前には、本格的な修繕工事も実施。当時予算の都合などもあり、建築家と相談のうえ後回しにしていた外壁や屋根などに手を加えたそうです。

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

気に入ったものを長く大切に使うことで、自然と生まれた”統一感”

前回、桑原さんが朝ごはんをつくる際に使用したキッチンツール一式はこちら。「気に入ったものは長く使うほうです。ゆで卵をつぶすのに使ったザル、野菜の水切りに使ったサラダスピナーは、わたしの実家で使っていたものを譲り受けました。20~30年以上前のものなので、残念ながらメーカーや商品名は分かりません……」

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる水出しコーヒーは多めにつくって、冷蔵庫にストックしているとのことでしたが、「紅茶も多めに淹れて、冷蔵庫にストックしています。水出しコーヒーと同じように、アイスで飲みたいときはそのまま、ホットで飲みたいときは電子レンジで温めればいいだけなので手軽ですよ」。

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

水出しコーヒーは「iwaki」のウォータードリップサーバーで抽出しています。「サーバーの大きさが400mlちょっとなので、1本のジャグに2回分入れています。1回の抽出に4時間、2回だと8時間。時間はかかりますが、放っておくだけでできるので手間はかかりません」

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用」のキッチンツールのなかにも、桑原さんのお気に入りアイテムがあるそうです。例えば、あちこちで少しずつ集めたステンレスのメジャーカップは「計量するだけでなく、水分の多いものをすくったり、小さなボウル代わりに使ったり。多用途に使えるので便利です。無駄のないデザインで、見た目がシンプルなところも気に入っています」

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

工場や学校っぽい雰囲気が好きだとは言っても、「実用的なもの」ばかりではない桑原さんのキッチン。トースターの上に置かれた木製トングは、「はさみ型なのでトーストしたパンをはさみやすいんですよ。トングでトースターから取り出したパンは、木製トレーの上に置くと、溝にパンくずが落ちて散らからない仕組みなんです。かわいらしくて、いいでしょう(笑)」と、おちゃめに語ってくれました。

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

大好きな器を大事に収めるために設計した、天井まである大型収納

料理研究家という職業柄、桑原さんはたくさんの食器やグラス、スタイリング小物などをお持ちです。にもかかわらず、そういったものが出しっぱなしになっていないのは、シンク横に造り付けた大型タワー収納のおかげ。よく使う食器や調理道具はシンクのすぐ横の棚にまとめ、あまり使わない雑貨類は上の棚に保管しているそうです。

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫のサイズに合わせて造り付けているため、収納スペースの奥行きは約70cmと深めです。奥行きが深いと食器棚としては扱いづらいものなのですが、桑原さんは手前に使用頻度の高いもの、奥側に使用頻度の低いものを収めることで、使い勝手をよくしていました。収めるものの高さに合わせて、棚板の幅が微調整されていることも、ものの探しやすさ、出し入れしやすさに直結しています。

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

「収納スペースがいっぱいなので、以前ほど食器を買わなくなりました。最近はお気に入りのショップに出かけても、見るだけのことが多いです。今使っているものが割れたり、欠けたりしたら、その分は買っていいことにしているんですが、食器って意外と丈夫で長持ちするんですよね(笑)。うちにあるものは、気がつくとどれも長いこと使っているものばかり。使い込むうちに愛着が増すように感じます」

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

よいものを長く大切に使いたいという想いが深い桑原さん。お母様から譲り受けたもの、大学生のころに買ったもの、アンティークショップで出合ったもの。桑原さんのキッチンには、時間をかけて集めたお気に入りがあふれていました。そのアプローチは、何年にもわたって手をかけ続ける家づくり、キッチンづくりにも表れています。

桑原さんのキッチンや愛用品を拝見し、そのお話を聞くにつれ、改めて「家づくりは急がなくていい」「いきなりゴールを目指さなくていい」のだと感じました。少しずつ積み重ねながら、時とともに味わいを増していく桑原家。ここから紡ぎ出される、素朴ながらも研ぎ澄まされたおいしいお菓子のレシピを、これからも楽しみにしています。

●前編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
>HP >Twitter >Instagram

料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた

スタイリングもこなす料理研究家として、雑誌や書籍でさまざまなお菓子のレシピを提案している桑原奈津子さん。前回は、定番の朝ごはんとそのつくり方についてお聞きしました。今回は、桑原家のキッチンと、愛用している調理道具や器について、お話を伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、美味しいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。築55年の戸建をリノベーション。月日を経て味わいを増すキッチン

「工場や学校っぽい雰囲気が好き」だという桑原さん。キッチンツールや家具なども、無駄な装飾を省いた業務用のものが好みだそうです。けれども、桑原さん宅のキッチンは「業務用」という言葉からイメージされる無骨さとは無縁の、あたたかみのある雰囲気。

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

12年前にリノベーションした築55年の一戸建ての窓枠や柱などを、当時のまま残していることが、ぬくもりを感じさせる一因のようです。そこに、てらいのないスタイリングを得意とする桑原さんの手が加わることで、甘すぎないけれども穏やかでほっとする、独自の世界観が築き上げられていました。

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)(写真撮影/嶋崎征弘)

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の家具やキッチンツールの大半は、素材がステンレスもしくは木、色は白でそろえられています。すべてのものを同じタイミングで集めたわけではないのに、素材感や色が統一されているから、ものを出しっぱなしにした「オープン収納」を取り入れていても、キッチン全体がすっきりと、まとまって見えます。

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

「調理台にも背面カウンターにも引き出しが少ないので、新たに引き出し付きのワゴンを買い足しました。仕事場っぽい雰囲気にしたかったので、家具より工具入れが合うのではないかと思って、ネットで探しました。キッチンまわりの細々としたものを整理するのにとても便利ですよ」

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

最初にリノベーションを行ったのは12年前ですが、その後も少しずつ手を加え続けている桑原家。「収納スペースの中に取り付ける予定だった固定式の棚板は、あえて2年ほど設置しなかったんです。実際に使ってみて、ここだと確信できてから取り付けを依頼しました」。3年前には、本格的な修繕工事も実施。当時予算の都合などもあり、建築家と相談のうえ後回しにしていた外壁や屋根などに手を加えたそうです。

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

気に入ったものを長く大切に使うことで、自然と生まれた”統一感”

前回、桑原さんが朝ごはんをつくる際に使用したキッチンツール一式はこちら。「気に入ったものは長く使うほうです。ゆで卵をつぶすのに使ったザル、野菜の水切りに使ったサラダスピナーは、わたしの実家で使っていたものを譲り受けました。20~30年以上前のものなので、残念ながらメーカーや商品名は分かりません……」

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる水出しコーヒーは多めにつくって、冷蔵庫にストックしているとのことでしたが、「紅茶も多めに淹れて、冷蔵庫にストックしています。水出しコーヒーと同じように、アイスで飲みたいときはそのまま、ホットで飲みたいときは電子レンジで温めればいいだけなので手軽ですよ」。

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

水出しコーヒーは「iwaki」のウォータードリップサーバーで抽出しています。「サーバーの大きさが400mlちょっとなので、1本のジャグに2回分入れています。1回の抽出に4時間、2回だと8時間。時間はかかりますが、放っておくだけでできるので手間はかかりません」

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用」のキッチンツールのなかにも、桑原さんのお気に入りアイテムがあるそうです。例えば、あちこちで少しずつ集めたステンレスのメジャーカップは「計量するだけでなく、水分の多いものをすくったり、小さなボウル代わりに使ったり。多用途に使えるので便利です。無駄のないデザインで、見た目がシンプルなところも気に入っています」

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

工場や学校っぽい雰囲気が好きだとは言っても、「実用的なもの」ばかりではない桑原さんのキッチン。トースターの上に置かれた木製トングは、「はさみ型なのでトーストしたパンをはさみやすいんですよ。トングでトースターから取り出したパンは、木製トレーの上に置くと、溝にパンくずが落ちて散らからない仕組みなんです。かわいらしくて、いいでしょう(笑)」と、おちゃめに語ってくれました。

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

大好きな器を大事に収めるために設計した、天井まである大型収納

料理研究家という職業柄、桑原さんはたくさんの食器やグラス、スタイリング小物などをお持ちです。にもかかわらず、そういったものが出しっぱなしになっていないのは、シンク横に造り付けた大型タワー収納のおかげ。よく使う食器や調理道具はシンクのすぐ横の棚にまとめ、あまり使わない雑貨類は上の棚に保管しているそうです。

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫のサイズに合わせて造り付けているため、収納スペースの奥行きは約70cmと深めです。奥行きが深いと食器棚としては扱いづらいものなのですが、桑原さんは手前に使用頻度の高いもの、奥側に使用頻度の低いものを収めることで、使い勝手をよくしていました。収めるものの高さに合わせて、棚板の幅が微調整されていることも、ものの探しやすさ、出し入れしやすさに直結しています。

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

「収納スペースがいっぱいなので、以前ほど食器を買わなくなりました。最近はお気に入りのショップに出かけても、見るだけのことが多いです。今使っているものが割れたり、欠けたりしたら、その分は買っていいことにしているんですが、食器って意外と丈夫で長持ちするんですよね(笑)。うちにあるものは、気がつくとどれも長いこと使っているものばかり。使い込むうちに愛着が増すように感じます」

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

よいものを長く大切に使いたいという想いが深い桑原さん。お母様から譲り受けたもの、大学生のころに買ったもの、アンティークショップで出合ったもの。桑原さんのキッチンには、時間をかけて集めたお気に入りがあふれていました。そのアプローチは、何年にもわたって手をかけ続ける家づくり、キッチンづくりにも表れています。

桑原さんのキッチンや愛用品を拝見し、そのお話を聞くにつれ、改めて「家づくりは急がなくていい」「いきなりゴールを目指さなくていい」のだと感じました。少しずつ積み重ねながら、時とともに味わいを増していく桑原家。ここから紡ぎ出される、素朴ながらも研ぎ澄まされたおいしいお菓子のレシピを、これからも楽しみにしています。

●前編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
>HP >Twitter >Instagram

料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ

パンケーキやショートブレッド、ビスケットなど、さまざまな”粉”を使ったお菓子のレシピを提案する料理研究家、桑原奈津子さん。デザイナーの夫と、雑種のキップル、黒猫のクロ、ハチワレ猫の小鉄と暮らす桑原さんのキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。平日の朝はおかず系とおやつ系、2種類のサンドイッチを定番に

レシピの提案だけでなく、スタイリングも自らこなす料理研究家として、雑誌や書籍で活躍する桑原さん。12年前、築55年の一戸建てをリノベーションした自宅兼スタジオにお邪魔した私たちを、桑原さんと共に迎えてくれたのは、雑種のキップルでした。

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の平日の朝ごはんは、サンドイッチが定番だそうです。「野菜をたっぷり使ったおかず系サンドイッチと、ジャムやバターを使った甘いおやつ系サンドイッチ。2種類つくることが多いです。おかず系とおやつ系、両方あると、飽きずに楽しめますよ」と桑原さん。

今回は、おかず系として「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」、おやつ系として「ピーナツバター・ジャムサンド」のつくり方を教えていただきました。

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さん家のピーナツバターサンドは組み合わせを楽しむ

「ピーナツバター・ジャムサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
・食パン 2枚
・ピーナツバター
・マーマレード

まずは「ピーナツバター・ジャムサンド」からスタート。つくり方はとっても簡単。食パン一枚にピーナツバターを、もう一枚にマーマレードをぬって重ねるだけ。「マーマレード以外のジャムでもおいしいですよ。今の季節なら、わたしは栗のジャムとローストくるみをあわせるのも好きです」

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家では、朝ごはん用の食パンはホームベーカリーで焼いているそうです。「ふたり家族なので、一斤で2日分の朝ごはんになります」。小麦粉、塩、砂糖、バター、牛乳、ドライイーストでつくるシンプルなパンだそうですが、粉の配合にはこだわりが。「国産小麦の『春よ恋』だけではボリューム不足だと感じるので、外国産の『カメリア』と半々くらいにブレンドしています」

桑原さん家の卵チーズサンドは具材モリモリがポイント!

「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
・食パン 2枚
・スライスチーズ 2枚(桑原さんは、白カビチーズ「トランシュ・ドゥブリー」を使用)
・ブロッコリースプラウト 25g
・バジルの葉 10枚
・ゆで卵 2個
・ピクルス 1本
・粒マスタード 小さじ1
・マヨネーズ 20~30g
・バター
・胡椒

もうひとつは、「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」。まず、食パンに、室温でやわらかくしたバターをぬります。

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

次に、ゆで卵をつぶします。「エッグスライサーを使ってみじん切りにすることもありますが、今回は粗めのザルでこします。同じ食材でも、食感が違うと味の印象も変わるんですよ」。そう話しながら、作業台下のオープン棚から、ひょい!とボウルを取り出す桑原さん。

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

ボウルに目の粗いザルを引っ掛け、ゴムベラでゆで卵を押しつけるようにしてこしたら、さっと振り向き、背面のカウンターに出しっぱなしにしている業務用クッキングスケールに、ゆで卵の入ったボウルをのせる桑原さん。計量しながら、マヨネーズをボウルに直接絞り出します。

硬くて荒い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

硬くて粗い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

続いて、瓶入りマスタードをすくうためのスプーンを取り出したのは、水切りかご。「頻繁に使うものは、洗ったあと水切りかごに入れっぱなしです(笑)」という桑原さんの発言に、なぜだか親近感を感じてしまう……。

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

先ほどバターをぬった食パンに粒マスターをのばしてスライスチーズをのせ、その上にマヨネーズを加えて混ぜたゆで卵ペーストをのせます。

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

作業台からまた振り向いて、背面カウンター上のナイフスタンドからナイフを、その横のツールスタンドから菜ばしを取ります。菜ばしでピクルスを瓶から取り出してまな板に置き、ナイフで半分にカット。

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

卵ペーストの上にカットしたピクルスを並べたら、洗ってサラダスピナーでしっかり水切りしたブロッコリースプラウトをのせます。その上に、お好みでマヨネーズをしぼって、バジルをのせます。もちろんバジルも、洗ってしっかり水切りするのが、水っぽくならない秘訣。「サラダスピナーは朝も晩もよく使う道具なので、あえてしまいこまず、たいてい作業台の上に出しっぱなしにしています」

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

最後に、もう一枚の食パンをのせ、上から優しくぎゅっと抑えたら、「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」の出来上がりです。

夫婦の食べる時間に合わせ、半分は朝ごはん、もう半分は昼ごはんに

完成した二種類のサンドイッチは、夫婦二人分。桑原さんの朝ごはんと、夫の昼ごはんになるそうです。「夫は朝、あまり食欲がないので、コーヒーと果物といった軽いものを別に用意しています。夫用のサンドイッチはラップで包んで保冷バッグに入れ、お弁当にしています」。そう話しながら桑原さんは、作業台横にある電子レンジ台の下から、するっとラップを取り出しました。

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ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

半分にカットしたおかず系サイドイッチとおやつ系サンドイッチをそれぞれラップで包んだら、夫のお弁当が完成。ご自身のサンドイッチは、お皿にのせて食卓へ。

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる定番の飲み物は、水出しコーヒー。「夫とわたしで、それぞれコーヒーを飲むタイミングが違うので、一度に800mlくらいを水出しして、常に冷蔵庫にストックしています」。暑い季節なら冷蔵庫からそのまま取り出してアイスコーヒーとして、寒い季節は電子レンジで温めてホットコーヒーとして飲むそうです。

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんづくりに悩む時間が減らせる、メニューの柔軟なルール化

桑原さんが食卓に座り、「いただきまーす」の瞬間、どこからともなく近づいてきたのは、もちろんキップル。「パンが大好きなので、朝ごはんの準備ができると、自然と近くにやってきます」。書籍やツイッターで紹介されているとおりのキップルと桑原さんの朝ごはんの風景は、見ているだけでほのぼのと癒やされるものでした。

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

「朝ごはん」というと、毎朝、違うものを用意しなくては!と意気込んでしまい、キッチンに立つのが憂うつになることも。桑原さんのように、「平日はサンドイッチが定番。そのときどきで、具材を変える」と、あらかじめ柔軟なルールを決めておけば、「朝、なにをつくろうか?」と悩む時間を減らせそうです。

また、よく使うものは出しっぱなしにしたり、扉のないオープン棚を活用したりといった桑原家のキッチン収納のスタイルは、料理が苦手、片づけが面倒なわたしのようなタイプは積極的に見習いたい考え方です。いちいちものを取り出す手間、収める手間がかからないだけでも、料理がうんとラクになる可能性があります。

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

今回は、気分よくぱぱっとつくって、おいしく食べるための桑原さんの朝ごはんとキッチンの工夫をご紹介しました。次回は、桑原さん愛用のキッチンツールや器などについて、お話を伺います!

●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
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東京五輪の選手村が巨大タウン「HARUMI FLAG」に【速報】

「東京 2020 オリンピック・パラリンピック」の後、東京・晴海に建設中の選手村がマンションや商業施設などで構成される巨大な街「HARUMI FLAG」になる。2018年10月31日(水)、「晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業」発表会にて開発コンセプト・ビジョン・名称が明らかになった。
5632戸を分譲住宅・賃貸住宅に

アツいドラマが繰り広げられる裏で、主役たる選手たちのオアシスとなる選手村。そんな舞台が、なんと開催後にマンションとして住めるようになる! しかも技術の粋を尽くした巨大な街になるという。その名も「HARUMI FLAG」。

約13ヘクタールの広大な土地に5つの街区で構成され、5632戸の分譲住宅・賃貸住宅と商業施設の合計で24棟が建築されるほか、保育施設、介護住宅などを整備。人口約12000人になる予定とのこと。その内容は?

「HARUMI FLAG」4つのテーマ

この新しい街が掲げるテーマは以下の4つ。

●ゆとりと変化を街に生み出す

5街区・6街区・7街区・小中学校に囲まれたCENTER CORE 完成予想 CG

5街区・6街区・7街区・小中学校に囲まれたCENTER CORE 完成予想 CG


駐車場は地下に設け、地上スペースを有効に活用。6街区:FLAG CORE 前の辻広場完成予想 CG

駐車場は地下に設け、地上スペースを有効に活用。6街区:FLAG CORE 前の辻広場完成予想 CG

広大な敷地には、直径約100mのCENTER CORE(中心広場)をはじめ、辻広場、中庭などのオープンスペースがそこかしこに。住居は2階以上に設け、各棟の1階は店舗や共用室にすることで、住人同士の交流が生まれるように工夫してある。

●本物の自然に包まれて暮らす

緑道公園と4街区の海からの風景完成予想CG

緑道公園と4街区の海からの風景完成予想CG


5街区:DOTS PLAZA 完成予想 CG

5街区:DOTS PLAZA 完成予想 CG

三方を海に囲まれたロケーションを活かし、開放的な海の眺めなどを満喫できる設計になっている。レインボーブリッジや東京タワーなどの東京ならではの景観を生活空間で楽しめるなんてぜいたく! 街中には約3900本、約100種の樹木が植えられ、四季の移ろいも感じられる。

●日本らしさが息づく

まちづくりには、日本の建築シーンをリードする気鋭のデザイナー25人が参加。統一感を大切にしつつも、それぞれの個性を活かしたデザインを実現した。

街路からエントランスに至るまで光の使い方を細かく設定したり、スカイラインに建築物の左右対称性をあえて崩す日本の伝統的手法「ダイナミックシンメトリー」を採用するなど、街の景観にもこだわる。

また「細部への気遣いとおもてなし」もポイントのひとつ。マンションでは、共用廊下を1.5m(通常のマンションでは1.2m)と広くし、車いすと人がすれ違えるゆとりをもたせている。17人乗りの大型エレベーターやバリアフリー法で定められた基準よりもゆるやかな 1/20(5%)以下の勾配スロープを設けるなど、街全体が誰もが快適に暮らせる空間となる。

●ご近所でつながる、分け合う

6街区:SORA TERRACE完成予想CG

6街区:SORA TERRACE完成予想CG


05街区:SPORTS BAR 完成予想 CG

5街区:SPORTS BAR 完成予想 CG


08_6街区:KODOMO PLAZA完成予想CG_result

6街区:KODOMO PLAZA 完成予想 CG


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7街区:商業施設完成予想 CG

タワー棟を除く分譲住宅では、2LDK~4LDKの1009通りの間取りを用意。分譲街区にはブックラウンジ、スポーツバー、キッズルーム、「CRAFT ROOM」など51の共用室が設置され、区の住民であれば街区を超えて利用可能。カーシェアリング、シェアサイクルなどシェアサービスも利用できるので、あわせて利用するのも楽しそう。

賃貸街区にも、シェアハウスやシニア住宅、介護住宅が設置される。スーパーマーケットや生活支援施設などの商業施設などのほか、小中学校、保育施設も設置される予定。

また、街のイベントや災害時のお知らせなどの街の情報が掲載される「タウンポータル」、地域のエネルギー状況を共有・管理する「エネルギーマネジメント」、街全体を監視する「セキュリティ」など、街全体をネットワークで繋いだサービスも提供される。

模型。次世代のエネルギーを供給する「水素ステーション」が設置されるなど、環境にも配慮した街になる

模型。次世代のエネルギーを供給する「水素ステーション」が設置されるなど、環境にも配慮した街になる

都心直結の新交通システム「BRT」を導入

「HARUMI FLAG」は、銀座へ約2.5km、東京へ約3.3kmと都心部へも好アクセスなだけでなく、豊洲まで約2.1km、国際展示場まで1.4km、台場まで約2.8kmと、湾岸エリアにも行きやすい場所に誕生する。交通には新たにBRT(バス高速輸送システム)が導入され、「HARUMI FLAG」と新橋駅・虎ノ門を結ぶ。新橋駅発5時台~24時台の運行が検討されており、朝のピーク時には1時間あたり12本の便が走るとのこと。朝のピーク時でも都心へのスムーズな移動が可能になる予定だそう。

選手村に住める、というだけでもワクワクするのに、さらにこんな未来な暮らしが待っているなんて……。価格はまだ発表されていないが、今から待ちきれない!

発表会時の様子

発表会時の様子

●今後のスケジュール
2019年 春 モデルルーム事前案内会開始
5月下旬 販売開始予定
2022年 秋 住宅棟(板状)竣工予定
2024年 3月 住宅棟(タワー)竣工予定

スター猫のお宅訪問![1]インスタ・ブログで人気の「どんこ」と写真家・井上佐由紀さん、外山輝信さんの暮らし

コーヒーショップやインテリアショップが並ぶ渋谷の住宅街。その一角にある築54年のマンションに暮らすのは、写真家の井上佐由紀さんとマネージャーの外山輝信さん。そして、インスタグラムやブログ、雑誌などで人気のスター猫・どんこちゃん(オス、10歳、スコティッシュフォールドのミックス)だ。その暮らしぶりを拝見した。【連載】スター猫のお宅訪問!
インスタグラムで人気のキーワードといえば「猫」。多くのフォロワーを魅了するスター猫たちは、どんな暮らしを送っているのだろう。暮らしの工夫や写真の撮影のコツなどを聞いてみた。どんこちゃんが、グレーが美しいモルタル仕立てのリビングへご案内井上さん撮影のどんこちゃん(画像提供/井上佐由紀さん)

井上さん撮影のどんこちゃん(画像提供/井上佐由紀さん)

取材スタッフがお邪魔すると、井上さん・外山さんとともに玄関でお出迎えをしてくれたどんこちゃん。人見知りはせず「お客さんが大好き」というどんこちゃんが案内してくれたのは、モルタル仕立てのグレーが美しいリビングだ。

「最初はここまでモルタルにするつもりはなかったんです。床はモルタルにしたくて、壁はほかの素材も検討していたのですが、雰囲気も統一できるので結局全部モルタルにしました。ただ、最初の1~2週間は筋肉痛になりましたけど(笑)」(外山さん)
「モルタルの床ってすごく足が疲れるんですよ。もう慣れましたけどね(笑)。フローリングも硬いと思いつつも、やはり木の弾力性ってあるんだなと思いますね」(井上さん)

アートを集めるのも好きだという井上さんと外山さん。壁面収納にはお気に入りのアートをディスプレイ(写真撮影/片山貴博)

アートを集めるのも好きだという井上さんと外山さん。壁面収納にはお気に入りのアートをディスプレイ(写真撮影/片山貴博)

二人が中古マンションを購入・リノベーションしたのは2011年。購入の際は、物件探しからリノベーションまでをトータルでお願いできる会社に依頼をしたそう。物件を探す際に、まずポイントとしたのが立地。

「仕事柄、遠くに住んでいても都心に来ないといけないことが多いなかで、私は出かけるギリギリまで寝ていたいタイプなので(笑)、移動時間が少ないとなると都心かなと」(井上さん)
「建物の価値ってすぐ下がってしまいますけど、土地の値段ってそこまで急には下がらないから、とりあえず立地で選んだほうがいいですよとお願いしたその会社の方に言われて。広さは、それは広いに越したことはないですけど予算の範囲内で。二人だけの生活だし、それほど広さが必要でもないですしね。あと20平米くらい広ければいいなとは思いますけど、多分もう少し広くてもあと20平米くらいあればと思うだろうし、結局きりがないんですよね。あと、狭いほうが掃除が楽ですしね」(外山さん)

井上さん、外山さん宅の間取り

井上さん、外山さん宅の間取り

立地とともにこだわったもうひとつのポイントが、猫と暮らせることだ。ペット可物件を購入し、時を同じくして出会ったのが、どんこちゃんだった。

「以前からたまに、友達が旅行に行くときなどに猫を預かったりしていたんです。その子も愛想がよくて、膝の上に乗ってくるのを見ると猫と暮らすのもいいなと思って。その子も保護猫で、そういうシステムがあることを知って、インターネットの譲渡サイトで探しているときにどんこを見つけて。『こいつだ!』と思ったんです。けれど、外山さんや友人に見せたら、『なんでこいつなの?』と言われて(笑)」(井上さん)
「里親さんがガラケーのカメラ機能で撮った写真だったので、画質もすごく悪いしピンとこなかったんですよね(笑)。でも、井上が飼いたいという気持ちがあるならいいかなと思って」(外山さん)
「私が『こいつがいい!』って引かなかったんですよね。会いにいったら、ほかの子が隠れたりシャーシャーって声を出しているなかで、どんこはのんきにウロウロしていて、私のほうに近づいてきて。それはもう運命だと思っちゃいますよね」(井上さん)

井上さんが大好きなどんこちゃん。膝の上もお気に入り(写真撮影/片山貴博)

井上さんが大好きなどんこちゃん。膝の上もお気に入り(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのお気に入りのおもちゃは、フェルトでできたボール(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのお気に入りのおもちゃは、フェルトでできたボール(写真撮影/片山貴博)

部屋は猫も人も心地よく、すっきりと

猫を飼うのははじめてだったという井上さんと外山さん。運命的な出会いを経て、どんこちゃんは晴れて家族の一員となった。どの家でも自分の居場所のようにくつろげるというどんこちゃんは新居にもすぐ慣れたという。取材中も部屋を歩いたり机の上に寝転んでインタビューを聞いていたりとマイペースに過ごしていた。

取材中、お腹がすいてお昼ごはんを。ごはんは一気に食べる派(写真撮影/片山貴博)

取材中、お腹がすいてお昼ごはんを。ごはんは一気に食べる派(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのドライフードは瓶に入れて保存(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのドライフードは瓶に入れて保存(写真撮影/片山貴博)

「お客さんのことが好きで、来客中もずっとウロウロしているんですよね。はじめて飼う猫なのであまり猫のことを分かっていなかったんですけど、よその子を預かったりすると、どんこは動きがどんくさいなって思います(笑)」(井上さん)

ものが少なくすっきりとした部屋は、猫にとっても過ごしやすそう。外山さんはあまりものを置きたくない派なのだとか。

キッチンは、モルタル仕立ての空間とよく合うステンレス製(写真撮影/片山貴博)

キッチンは、モルタル仕立ての空間とよく合うステンレス製(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

「引越す前からものが少ないとは言われていたんですけど、引越し後もさらに減らしていきました。外山さんはもともと本を集めるのが趣味でレアな本や写真集が並んでいたんですけど、全部売ってしまったんです」(井上さん)
「なるべくものを増やしたくないので、本も読んだら捨てる。たくさん並べていても自慢しているだけになってしまうというか。結局出して見ないし、それだったら意味ないなと思って。音楽もCDでは一切買わずデータです。あと、掃除に時間をかけるのが無駄だなと思ったんです」(外山さん)

スッキリとした空間には、ちょっとした猫への配慮も壊れてしまうものは壁面収納の中段に。口から煙が出るという猫のお香立ては「H.P.FRANCE」で購入(写真撮影/片山貴博)

壊れてしまうものは壁面収納の中段に。口から煙が出るという猫のお香立ては「H.P.FRANCE」で購入(写真撮影/片山貴博)

「棚の上にガラス製のものを置いていたときはよく落とされていたので、全部中段に入れたんですよ。どんくさいせいか、中段に入ることはできないみたいで、割られることはなくなりましたね。割れるものや小さいものは買わなくなりました」(井上さん)
「一人掛けのソファはもともとファブリックだったんですけど、友達の猫を預かったときに爪とぎをしてしまうので革に張り替えたんですよ。床の円形クッションはなぜ中途半端なところに置いているかというと、どんこが机から飛び降りたときに足が痛くないようにと思って置いたんです。けれど、実際は人間が気遣いをしてもそうではないところに降りるから意味ないんですけどね(笑)。あと、どんこはティッシュを食べてしまうので、友達がつくってくれたふたつきのティッシュケースを使っています」(外山さん)

モルタル仕立てのスタイリッシュな空間。ダイニングチェアはフリッツ・ハンセンの「セブンチェア」、パッチワークのソファは中目黒「HIKE」でオーダー(写真撮影/片山貴博)

モルタル仕立てのスタイリッシュな空間。ダイニングチェアはフリッツ・ハンセンの「セブンチェア」、パッチワークのソファは中目黒「HIKE」でオーダー(写真撮影/片山貴博)

「特に、猫のために何かをやっているわけではない」という部屋は、時とともに自然と、人間も猫も居心地がいい空間になっていっているようだ。どんこちゃんと暮らして7年。いまや雑誌のカバーを飾り、カレンダーも発売されるなどスター猫となったどんこちゃん。「どんこちゃんに会いたい!」と家を訪ねてくれる人も増えたのだとか。スター猫の飼い主と聞くとさぞ猫好きだろうと思いきや……。

「僕たちすごく猫好きに思われるんですけど、特別に動物が好きなわけじゃないんですよね(笑)。ほかの猫にわざわざ会いに行くこともないし」(外山さん)
「そうなんです。どんこが好きなだけなんです(笑)」(井上さん)

本当に必要なものと暮らす、無駄のないシンプルでコンパクトな暮らし。それはとても豊かな空間と暮らしだった。

リビングの窓際でくつろぐどんこちゃん(写真撮影/片山貴博)

リビングの窓際でくつろぐどんこちゃん(写真撮影/片山貴博)

アメリカ発の「小さな家」 タイニーハウスで実現する“シンプルで豊かな暮らし”

ここ数年で注目を集めつつある「小さな家」、タイニーハウス。移動ができるタイプであれば、トレーラーハウスのように“移動する暮らし”を実現できる利点もあります。アメリカでは、サブプライム住宅ローンの破綻やハリケーンによる被害などをきっかけに、「大きな家が豊かさの象徴」という価値観は揺らぎ、「シンプルに豊かに暮らしたい」というタイニーハウス・ムーブメントが起こっています。こうした動きは今後、日本で広まっていくのでしょうか。YADOKARI株式会社が運営するタイニーハウスの宿泊施設で、同社プロデューサーの相馬由季(そうま・ゆき)さんにお話を聞きました。
低コスト、居住空間の移動を可能にする“小さな家”の魅力とは

YADOKARI株式会社はタイニーハウスに関するメディア運営やイベント企画を行い、相馬さんはプロデューサーとして携わっています。

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――まずはタイニーハウスの定義を教えていただけますか。

明確な定義はありませんが、弊社では基本的に「約20平米前後の大きさで、1000万円以内で購入できる家」と設定しています。ホイールの上に設置された、自動車で牽引する移動式のタイプもあります。

1000万円以内を目安にしているのは、人によってはローンを組まずに支払える金額ですし、組む場合でも数年間の短いローンで返済可能な場合が多いからです。つまり、長年ローンを返すためだけに働く必要がなくなります。そうすると、働く時間を減らしたり、収入にこだわらず本当にやりたい仕事をしたりと、充実した人生を送ることができるというわけです。

――タイニーハウスは日本でどのようにして注目されるようになってきたのでしょうか。

大きなきっかけとなったのが東日本大震災です。未曽有の大災害がきっかけで、徐々に暮らしの価値観に変化がもたらされてきたように感じます。所有するモノを減らしてシンプルに生きよう、働き方や、大事な人との暮らし方を見直してみようといった価値観を持つ人が増え、その結果、タイニーハウスにも目が向けられるようになってきたのではないでしょうか。

タイニーハウスをつくり始めたり、タイニーハウスと本宅との二拠点居住の生活をしたりするなど、行動を起こす人も少しずつ現れてきました。最近は住宅関連のメディアなどでも、この用語が取り上げられるようになったと感じています。

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――タイニーハウスの課題はどんなところでしょうか。

一番は土地の問題ですね。小さな家なので大きい土地は必要ないものの、土地を購入してそこに電気やガス、水道を引く必要がある場合は結局費用がかさんでしまいます。

次に、いざ購入しようと思っても手間がかかるという点です。まだ日本では扱っているハウスメーカーが少ないですし、セルフビルドしようとしても設計の依頼や建築材料の調達など、問題が山積みです。

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ (画像提供 YADOKARI株式会社)

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ(画像提供 YADOKARI株式会社)

――タイニーハウスに興味を持つのはどのような人が多いですか?

1年ほど前、2017年秋に実施した初回の参加者は50~60代の男性がメインでした。定年後のセカンドライフで、別荘のように使うことを検討している人が多かった印象です。

それが徐々に変化し、最近では男女問わず30~40代の方がメインになりました。みなさんバリバリ働かれている方ばかりです。これはアメリカでも同じような傾向があったのですが、「モノを持つだけ持って、大きな家に住んでみたけど、その先に自分の幸せはなかった」「お金はあるけども、仕事が忙しく家族との時間がとれない生活は望んでいない」といった、今までの自分の生き方や暮らし方に疑問を感じたときに、タイニーハウスに興味を持つ傾向があるようです。

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

また、最近地方自治体からは移住を前提とした多くの相談を受けています。遊休地の活用や人口減の対策としても、タイニーハウスは期待できると考えています。

ただし、小さな家で暮らすことそのものを目的としてしまうと、結果的に不幸になってしまうケースもあるんです。アメリカでブームになったときは、タイニーハウスに住めば幸せになれると期待して住みはじめたものの、「狭すぎる」と売ってしまう人もいたそうです。日本でも単にブームだというだけで購入してしまうと、後悔しかねませんので注意が必要です。

タイニーハウスが働き方、生き方を見直すきっかけに

タイニーハウスの全体像が見えてきたところで、実際に住んでいる方にもお話を聞いてみました。タイニーハウスに住んで4年になるNPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央(すずき・なお)さんです。

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

――なぜタイニーハウスに住むようになったのでしょうか。

以前は、賃料12万円の150平米の2階建て賃貸住宅に住んでいましたが、一時期体調を悪くして仕事も行き詰まり、夫婦関係も良好ではないなど心身ともにボロボロの状態になりました。そこで生活を見つめ直し、「自分はどんな家でどんな暮らしをしたいんだろう」と考えていたときに、タイニーハウスに出合ったことがきっかけで住むことになったのです。
必要最低限のエコな暮らしに興味があったし、月々の賃料の支出を減らすことで少ない稼ぎでも生活は維持できる。そうすれば夜中まで仕事をしなくていいし、家族の時間も増える―――。このように総合的に判断して、とても合理的な生活ができると思いました。

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

――住んでみて分かったタイニーハウスのメリットとデメリットを教えてください。

狭いので片づけが楽、同じ部屋にいることが多くなり家族の距離が縮まるなどメリットはいろいろあります。しかし一番は、月々の賃料を支払う金銭的な不安から解放され精神的に自由になれたことです。このタイニーハウス自体は中古物件で4年ローンの480万円で購入し、最近支払いが終わりました。たった4年で住宅ローンが完済するなんて通常では考えられませんよね。また、光熱費も以前の半分ほどになり、賃料の負担が減った分とあわせて、家族で海外旅行をする費用などに回して楽しんでいます。

広さは、ロフト部分を含め約50平米。1階はリビング兼ダイニング、廊下兼キッチン、寝室、トイレです。ロフト部分は、天井が低い高さ140cmの子ども部屋と高さ110cmの荷物置きスペースという間取りになっています。

デメリットは、強いてあげれば、トレーラーでけん引して移動するので、家が多少傷んでしまう点が挙げられます。10トンの中古物件を購入したこともあって、トレーラーで運んだときの揺れで壁に亀裂が入ったり、水まわりが少し弱くなったりと一部損傷が発生しました。

また、正直「部屋が狭い」と感じることがあります。2人の子どもが大きくなってきていることも理由の一つです。その反面、家具をコンパクトにしたり、その他にも物を厳選して増やさないようにしたりと、生活を工夫できる楽しさがあります。それはそれで良い暮らしだと思っています。

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

――どんな人がタイニーハウスの暮らしに向いていると思いますか?

暮らすためにはいろんな工夫が必要になるので、日々冒険する感覚でデメリットも楽しめる人ですね。パッケージで、完成したものが欲しいという人には不向きといえるでしょう。

例えば、私の場合は部屋が狭いので、部屋と同じくらいのサイズのウッドデッキを造りました。ちょっとしたことなら外のデッキで作業ができたり、天気のいい日には食事をしたり、洗濯物を干したりできるようになりました。

このウッドデッキの増設により居住空間の移動は難しくなったものの、当面は移動せず、広くなった生活スペースで快適に過ごしたいそう。
働き方や生き方の多様化が進む昨今。シンプルで、状況に応じて移動も可能なタイニーハウスは、これからの住まい選びの選択肢の一つになっていくかもしれませんね。

●取材協力
・YADOKARI株式会社
・NPO法人グリーンズ

リノベパーツを駆使した「toolbox」な暮らし その道のプロ、こだわりの住まい[1]

「ここなら楽しんで家づくりができそう」と、築48年の中古マンションを夫と購入して、昨年の5月にリノベーションした「toolbox」スタッフの小尾絵里奈さん。仕事仲間と壁を塗り替えたり、同店の床材や引き戸、レンジフードなどを取り入れたり。「すごく楽しんでできました」と当時の様子を教えてもらった。

【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
コーヒーショップやインテリアショップのスタッフ、旅人、料理家……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。コンセプトと好きなパーツを決めて、自分たち好みの空間にリノベした部屋

内装建材や家具、住宅設備やパーツを扱うオンラインストア「toolbox」。シンプルでミニマルなデザインものや、木や鉄の素材感を活かしたものがそろい、リノベーションやDIYで好みの空間をつくりたい人の強い味方だ。そこで働く小尾さんは、言わずもがな、設備やパーツを熟知。彼女が使いたいと思った好みのパーツを詰め込んだというマンションは、黒杉材を使用した裸足で歩くのが気持ちのいい床に、室内窓がアクセントになった落ち着く空間。実際にどのように家づくりを進めて仕上げていったのだろうか。

10代のころからの付き合いという小尾さん夫妻。リノベは妻主導で、電化製品などのセレクトは夫が担当した。グリーンが置かれ、ゆったりしたリビング。正面の壁のペイントは、あえて少しムラのある仕上がりにし、天井の照明はデザイン選びも含め職人に任せたものだそう(写真撮影/masa(PHOEBE))

10代のころからの付き合いという小尾さん夫妻。リノベは妻主導で、電化製品などのセレクトは夫が担当した。グリーンが置かれ、ゆったりしたリビング。正面の壁のペイントは、あえて少しムラのある仕上がりにし、天井の照明はデザイン選びも含め職人に任せたものだそう(写真撮影/masa(PHOEBE))

ざらりとした肌触りの床に、薄いグレーの壁と天井。小尾さんのお宅は、ひと目でこだわったであろう様子が分かる。それを伝えると、小尾さんは「でも、そこまで強いこだわりとか、細かい要望があったわけではないんです」と笑顔で答えてくれた。空間づくりを楽しむということを大切に、無理せず、考えすぎず、進めていったという。「弊社が運営する『東京R不動産』でたまたま目にした物件で、ここなら楽しい家づくりができるんじゃないかと思って。もともとの内装も好きでしたし、共用部分もプールまでついていて、価格が予算内だったので衝動買いみたいな勢いでした」。大きな間取りの変更はせず、活かすところは残しつつ、内装に手を加えていった。

自分でこだわるところ、職人にまかせるところをきちんと分けて

「まずは、『落ち着く空間にしたい』というコンセプトを決めて。あとは、好きなパーツを集めて、平面図にいろいろ写真を貼ってイメージを固めて、職人さんにも伝えていきました。ただ、細かいところまですべて自分たちで決めるとなると大変なので、プロにまかせるところはお願いして。キッチンの壁は使いたいタイルだけを伝えてどう施工するかは委ねました」

屋外に面した窓のないダイニングキッチンだが、室内窓を設けたおかげで、隣の寝室からの光が程よく差し込む(写真撮影/masa(PHOEBE))

屋外に面した窓のないダイニングキッチンだが、室内窓を設けたおかげで、隣の寝室からの光が程よく差し込む(写真撮影/masa(PHOEBE))

小尾さんの言う「好きなパーツ」とは、床材や室内窓、引き戸といった大きなものから、照明や棚受け、水栓金具などの小さなものまで幅広いもの。どこに何を使いたいか、好きなものを集めて施工する職人に伝えていった。これらは小尾さんが勤めている「toolbox」で扱うものから選んでいる。
「各メーカーのカタログは、幅広いテイストがそろっていて見ごたえはあります。でも、そこから好みのものを探すとなると、時間も手間もかかってしまう。自分が好きで勤めている店だから、それほど悩むこともなかったんです」

玄関はあまり手を加えずに、照明を好みのものに。「toolbox」で扱っている「白熱サンマ球」タイプ。漁船で使用されている電球を一般家庭用にアレンジしたもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

玄関はあまり手を加えずに、照明を好みのものに。「toolbox」で扱っている「白熱サンマ球」タイプ。漁船で使用されている電球を一般家庭用にアレンジしたもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

「toolbox」は、“自分らしい空間をつくるための「手立て」を詰め込んだ道具箱”として、リノベやDIYでの空間づくりに役立つ内装建材や家具、住宅設備やパーツなどを取りそろえている。各メーカーからセレクトした商品のほか、オリジナルも製作していて、それらを使った施工例も充実。小尾さんは受発注業務を担っていて、商品のラインナップを熟知している。「リノベ前の内装も好きだったので、スイッチプレートなど活かせるものは残しつつ、タオルバーやタイルなど、好きな素材を取り入れていきました」。もちろん、小尾さんのような専門的な商品知識がなくとも、好きなパーツをいくつかセレクトして、部屋全体のイメージをつくっていくことは誰でも可能なのだ。

タイルやレンジフード、棚受けやタオルバーなどは「toolbox」で選んだもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

タイルやレンジフード、棚受けやタオルバーなどは「toolbox」で選んだもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

コンセプトを固めておけば、職人や仕事仲間との意思疎通もスムーズ

「『落ち着ける空間』というコンセプトは大事にしていました。休日はアクティブに動き回るタイプなので、家はゆっくりくつろぐ場所にしたかったんです。だから壁は落ち着いたトーンの薄いグレーにしました」
壁の下地処理はプロに任せ、最後のペイントだけを仕事仲間とともに自分たちでやったそう。「かっちり均一な仕上がりになるのは嫌だったので、あえて『適当に塗って』って伝えました。ちょっとムラが出て落ち着ける雰囲気になったと思っています。今見ると、どこを誰が塗ったかって分かるんです(笑)。楽しかったですね」。小尾さんの「空間づくりを楽しみたい」という気持ちが、皆さんに伝わっていたことが分かる。

築48年の中古マンションで、2LDK。広さは約60平米。物件の価格は1980万円で、リノベ費用は約500万円だったとのこと。

築48年の中古マンションで、2LDK。広さは約60平米。物件の価格は1980万円で、リノベ費用は約500万円だったとのこと。

壁や天井と同じく、広い面積を担うものとして、床材にもこだわっている。「裸足で歩いて気持ちよくて、木の素材感を感じられるものにしています」。選んだのは杉材を使った足場板。なめらかな仕上がりのフローリングではなく、木の質感をそのままを活かした床材だ。

家の中でいちばん明るい部屋が寝室(写真撮影/masa(PHOEBE))

家の中でいちばん明るい部屋が寝室(写真撮影/masa(PHOEBE))

一方、寝室は「ふかふかしてて、明るい感じにしたくて、壁は白、床はカーペットにしています」。二面に窓があり、とても爽やかで清潔感のある空間に仕上がっている。さらに壁一面にポールを取り付けてクローゼット代わりにしているので、収納力も十分ある。

趣味部屋の床もリビングとひとつながりに。元々左手にあった収納を右手に配置換え。本を読んだり、仕事をしたりと自由に使っている空間(写真撮影/masa(PHOEBE))

趣味部屋の床もリビングとひとつながりに。元々左手にあった収納を右手に配置換え。本を読んだり、仕事をしたりと自由に使っている空間(写真撮影/masa(PHOEBE))

洋服以外のものは、すべて趣味部屋に収納をまとめた。壁の上部をすべて本棚にして、下はデスクに。対面には広いクローゼットがあり、夫妻で休日に楽しむというキャンプ道具や夫の仕事道具などを収めている。「この部屋は元々の収納スペースの場所が逆だったんです。でも目に入る壁面がクローゼットだと圧迫感があるので、デスクと本棚にしました」。この部屋があるおかげで、リビングダイニングにはほとんど収納がなくてもスッキリしているのだ。

なんとなく左右で夫婦のスペースを分けているそう。本棚にはすべて詰め込まず、飾るスペースを設けているので、圧迫感がない(写真撮影/masa(PHOEBE))

なんとなく左右で夫婦のスペースを分けているそう。本棚にはすべて詰め込まず、飾るスペースを設けているので、圧迫感がない(写真撮影/masa(PHOEBE))

奥行きのある広い収納スペース。壁には有孔ボードを貼り、引っ掛け収納に。引き戸はつりタイプで床に区切りがなく、広がりを感じる(写真撮影/masa(PHOEBE))

奥行きのある広い収納スペース。壁には有孔ボードを貼り、引っ掛け収納に。引き戸はつりタイプで床に区切りがなく、広がりを感じる(写真撮影/masa(PHOEBE))

失敗したらやり直せばいい。おおらかな気持ちでリノベする

家という広い空間をつくりあげることを考えると、どこから手をつけていいか分からなくなりがちだろう。でも、スイッチプレートのような小さなパーツからでもいいので、まずは好きなものを集めてみる。そしてそこから、全体のイメージを固めるという手もある。
「私たちの場合、失敗したらやり直せばいいというくらいの気持ちだったのが良かったのかもしれません。ペンキは塗りなおせばいいし、パーツ選びもちょっと違うと思ったら取り替えればいいと思っているくらいの感じなんです」と、小尾さんはおおらかだ。実際、リノベ中にキッチンの食洗機が古くて使えないことが分かり、取り外すことになったときも、それはそれで引き出しを組み込めばいいと前向きに方向転換したという。

リビングとつながるダイニングキッチン。もともと隣室の収納部分だったスペースの壁を取り払い、冷蔵庫置き場に。システムキッチンは既存のものをそのまま使っている(写真撮影/masa(PHOEBE))

リビングとつながるダイニングキッチン。もともと隣室の収納部分だったスペースの壁を取り払い、冷蔵庫置き場に。システムキッチンは既存のものをそのまま使っている(写真撮影/masa(PHOEBE))

「DIYも職人の手も自分で選んで、編集者として家づくりをしました。楽しい作業でしたし、今も楽しく生活できています。やってみて良かったです」とうれしそう。趣味部屋の壁の色を変えたいなど、まだやりたいことはあるという。最初に細かいところまですべて決める必要はない。家づくりは好きなパーツから少しずつスタートしてもいい。さまざまな設備やパーツを扱う小尾さんだからこそ、たどり着いた考え方だ。リノベーションに対するハードルは低く、気楽に暮らす様子にこちらまで楽しい気持ちが伝わってきた。

LGBTの住まい探し、不動産オーナーの理解はまだまだ 実態は ?

LGBTという用語が世の中に浸透しつつあるが、いまだマイノリティゆえの偏見や行動への制約を受けることもあるだろう。リクルート住まいカンパニーは、LGBTの当事者にその実態を調査するとともに、不動産オーナーに対してLGBTへの意識調査を実施した。実態を紹介しよう 。【今週の住活トピック】
リクルート住まいカンパニー/
「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」
「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」LGBT当事者のほぼ3割が、住まい探しで困難や居心地の悪さを経験

「LGBT」とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称で、セクシャルマイノリティを表すひとつとされる。

本調査でLGBT当事者に「学校、会社など集団生活の中で、偏見や差別的な言動を受けたことや、差別的な言動に不快感を持ったことはあるか?」を聞いたところ、全体で41.2%が「ある」と回答した。中でも、ゲイの55.1%が最も高かった 。

さらに「住まい探し」について困難や居心地の悪さを経験したことがあるかを、住まい探しを経験した人に聞いたところ、「賃貸住宅探し」で28.7%、「住宅購入」で31.1%が「ある」と回答した。

ちなみに、「現在の住まい」については、「賃貸アパート・マンション」が36.7%で最も多く、持ち家の比率は31.2%(一戸建て22.1%+マンション9.1%)だった。

現在のお住まい(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」)

現在のお住まい(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」)

LGBTに向けた自治体の施策や住宅ローン商品も出始めた

LGBTが住まい探しで困難になる理由はいくつかある。

「賃貸住宅」では、貸主と賃貸借契約を結ぶ際にあらかじめ同居人を認めてもらう必要があるが、家族として同性パートナーが認められるケースは少ない。認められる賃貸住宅を探すか、ルームシェア可の物件を探すか、といったことになってしまう。

また、「住宅購入」に関しては、異性のパートナーであれば、二人の収入を合わせて一緒に住宅ローンを組むか、二人それぞれでローンを組む「ペアローン」が可能だ。しかし同性パートナー同士で住宅を購入しようとした場合には、いずれの組み方も認められないケースが多いのが現状。かといって1人でローンを組んでしまうと「万が一のときに残されたパートナーが住み続けられるのか」といった不安もつきまとう。

こうした不平等を無くしていこうと、同性カップルのパートナーシップを証明する自治体も現れた。
筆者は2015年4月8日のSUUMOジャーナルの記事で「渋谷区の同性カップル条例が成立。なぜ賃貸住宅が借りづらい?」を執筆した。渋谷区の「同性カップル条例」が成立し、手続きを取ればいわゆる「パートナーシップ証明」が発行されるようになり、賃貸住宅を探す際に、同性カップルの同居を認めやすくなると注目されたからだ。

これ以降も、世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、札幌市などの自治体で「パートナーシップ証明書」や「パートナーシップ宣誓書受領証」などを発行するようになった。こうして、一部の自治体でセクシャルマイノリティへの不平等を無くしていこうと動き出している。

また、三井住友信託銀行や住信SBIネット銀行、ソニー銀行などの銀行で、住宅ローンでペアローンや収入合算(同居親族の収入を借入者の収入と合算すること)、担保提供などができる “配偶者”の定義に、同性パートナーを加えるなどの商品改定を行った。銀行によって細かい条件などが異なるので、詳細は個別に確認をしてほしい。

LGBT当事者にこうした状況の認知度を聞いたところ、「同性カップルのパートナーシップ登録や証明書発行を行う自治体があること」の認知度が53.6%と過半数を超えたが、「同性カップルが共同で組める住宅ローン商品があること」への認知度は26.8%だった。

LGBTを応援したいという不動産オーナーは4割弱

このように、一部の自治体や金融機関では多様なパートナーシップのあり方を認めていこうという動きがあるものの、不動産の現場ではどこまで浸透しているのだろうか。

賃貸住宅の貸主である、不動産オーナーにLGBTへの意識について調査した結果を見ていこう。
同性カップルの入居を断った経験があるかどうか(入居希望を受けたことがあるオーナーが対象)については、「男性同士の同性カップル」の場合で8.3%、「女性同士の同性カップル」の場合で5.7%だった。なお、入居を断った割合が高かったのは、「ルームシェア(男性同士)」の8.2%、「同性愛者(女性)」の7.8%など。同性カップルに限らず、賃貸住宅の入居に困難が伴う実態を浮き彫りにしている。

これまでの入居希望者への対応(入居希望を受けたことがある人を対象・単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

これまでの入居希望者への対応(入居希望を受けたことがある人を対象・単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

また、不動産オーナー全員に今後の入居希望者の対応意向を聞いたところ、「男性同士」の同性カップルの入居希望に対して「特に気にせず入居を許可する」という回答は36.7%、「女性同士」の同性カップルの入居希望に対して「特に気にせず入居を許可する」という回答は39.3%などと、厳しい結果となった。

今後の入居希望者への対応意向(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

今後の入居希望者への対応意向(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

調査結果を見ていくと、生活の拠点となる大切な住まい選びにおいて、LGBTへの偏見や差別的な行動がまだ多いことが分かる。とはいえ、不動産オーナーの中でも30代など若い世代ほど「応援したい」と回答するなど、認識が変わっていく状況も見られた。まずは、LGBTに対して適切な認識を持つことが重要だ。

今の社会の中で、LGBTであるとカミングアウトすることは勇気のいることだろう。カミングアウトした当事者をフレンドリーに受け入れる社会であってほしいと望む。

フランス製3万円の“高級キャットハウス”が日本で支持される理由

ペットとして人気がある犬と猫。飼育数でいえば、いま猫のほうが多いことはご存じでしょうか。平成29年全国犬猫飼育実態調査(一般社団法人ペットフード協会)によると、犬の飼育頭数は約892万匹だったのに対し、猫の飼育頭数は約 953万匹。10年前の同調査では猫よりも犬の飼育頭数のほうが200万匹以上多かったことと比べると、近年「猫」の人気が高まってきていると言えそうです。

こうした犬と猫を含めた、ペット関連市場は拡大傾向にあります。矢野経済研究所の調査によれば、「2017年度ペット関連総市場規模」は昨年比101.0%、1兆5135億円(見込)と徐々に拡大中。そんな中、猫については、3~4万円の高級キャットハウス(猫ハウス)も販売されるようになりました。通常、キャットハウスの価格はだいたい5000円~1万円程度。実に倍以上のお値段です。なぜそのような高級キャットハウスが誕生したのか――その点を探るべく取材してきました。
フランスも日本も共通項は“猫人気”

この高級キャットハウスブランドのブランド名は『MEYOU(ミーユー)』。日本語に訳すと、猫の鳴き声を表す「ニャア」を意味します。MEYOUは、機能的でエレガントなペット製品をつくることを目的に2014年、フランス・パリで設立。2017年1月から日本でMEYOUの輸入・販売を手掛ける株式会社モダニティのゼネラルマネージャー沼野井真一(ぬまのい・しんいち)さんにお話を伺いました。

株式会社モダニティのゼネラルマネージャー沼野井真一さん(写真撮影 ツマミ具依)

株式会社モダニティのゼネラルマネージャー沼野井真一さん(写真撮影 ツマミ具依)

――なぜ高級キャットハウスブランド『MEYOU』のキャットハウスを日本で販売しようと考えたのでしょうか。
弊社は世界中のデザインと技術・機能が優れたモダンな商品を発掘し、日本へ輸入・販売しています。

『MEYOU』は2014年に立ち上がったブランドです。2015年に、米クラウドファンディングサイトの「キックスターター」で資金を募って製品化されました。クラウドファンディングでは、8万ユーロ以上(日本円で1000万円以上)が集まり、世界中から注目されていたようです。
私たちが『MEYOU』と出合ったとき、フランスでも猫の飼育者が増加していると聞きました。しかし、日本もフランスも“猫人気”という共通項があるのに、日本の猫関連の製品はデザイン性の優れたものが少ないのではないかと感じました。「この高級キャットハウスならば、日本でも受け入れられるのではないか」と考え、取り扱いを決めました。

余談ですが、弊社代表のレジィス・ヴェランもフランス人。彼も猫を飼っているのですが、デザイン性の高いキャットハウスが欲しいと思っても、日本国内ではなかなか見つからず悩んでいたそうです。そのことも『MEYOU』を取り扱う後押しになりました。

キャットハウス「BALL」(左)と「CUBE」(右)(写真撮影:ツマミ具依)

キャットハウス「THE BALL」(左)と「THE CUBE」(右)(写真撮影:ツマミ具依)

――「MEYOU」ブランドのキャットハウスの特徴を教えてください。
種類は4種類あります。まず「THE BALL」(税込3万5640円)と「THE CUBE」(税込3万1320円)は、コクーンと呼ばれる丸い繭のような形状が特徴です。和洋どちらのインテリアにも馴染む球型形で、店頭で猫の模型がないと、一見、照明器具か何かに見えるかもしれません。

BALLとCUBEの違いはフレームです。
BALLは脚の部分にウッドを使用、フローリングとの相性もいいです。CUBEは安定性があるので、購入された方の中には入口・出口の部分の穴を上に向けて、猫がジャンプして入っていくような置き方をしている人もいます。

コクーン内で眠る猫の様子(画像提供 株式会社モダニティ)

コクーン内で眠る猫の様子(画像提供 株式会社モダニティ)

コクーンの丸い部屋は堅くしっかりした作りですが、ほどよく弾力があります。身をすっぽり隠しながら周りを観察できるので、猫にとって安心感があるようです。

コクーンで爪とぎする様子(画像提供 株式会社モダニティ)

コクーンで爪とぎする様子(画像提供 株式会社モダニティ)

コクーンは素材にも工夫がされていて、猫が爪とぎしたくなるような特殊なポリエステルでできています。毛羽立っても水拭きすれば毛羽立ちが収まるので、お手入れも簡単です。

BED(税込4万2120円)は、高さのあるスタイルになっていて飛び乗るような使い方になります。傘の部分がウール100%のフェルトになっていて、入り口に針金が通っているので型がしっかりしています。

キャットハウス「BED」。全体の高さは64cmある(写真撮影:ツマミ具依)

キャットハウス「BED」。全体の高さは64cmある(写真撮影:ツマミ具依)

キャットハウス「NEST」。ゆったり寝っ転がれる(画像提供 株式会社モダニティ)

キャットハウス「NEST」。ゆったり寝っ転がれる(画像提供 株式会社モダニティ)

NEST(税込1万9440円)は置き型で低いタイプなんですが、お昼寝場所をイメージしたような商品で、小型犬にも使える作りになっています。縁はロープのような質感の素材でできており、爪とぎして楽しめるのが特徴です。また、軽量なので持ち運びも簡単で、バスケットとクッションは水洗いでき、清潔に使えます。

――それぞれの特徴からどんな猫にオススメなのでしょうか

形状からみると、BALLとCUBEとBEDは、どちらかというとアクティブな猫に向いていますね。NESTはゆったりしているのでどっしりしたあまり動かないタイプの猫がハマるかと思います。各製品の、サイズや形状が大きく異なるので、ペットのキャラクターによって選んでいただければと思います。

価格は家具並、それでも日本で受け入れられたのは…

――実際の猫や購入者からの反応はいかがでしょうか。
ケースバイケースではありますが、ペット関連用品の展示会で設置した際、猫を入れたら全然出てこなくなってしまったというエピソードがあります。その猫はとても居心地がよかったようです。製品自体は入り口を猫が入りやすいであろうサイズで設計しているので、通常のキャットハウスよりも好んで入ってくれることが多いと自負しております。

利用者からの反応は、『インテリアの主役として見せたくなる』や、『他のインテリアともよく馴染む』といった声がありました。従来のキャットハウスにはないデザイン性が支持されているようです。

――発売後の販売店からの反応はいかがでしょうか?
ペット専門店では発売当初から珍しい商品だったためか『是非取り扱ってみましょう』と反応は上々でした。その後は、高島屋などの百貨店や高級インテリアを扱う「ザ・コンランショップ」など、取り扱い店舗の幅が広がっています。

1日の大半をキャットハウス内で過ごす猫も(画像提供 株式会社モダニティ)

1日の大半をキャットハウス内で過ごす猫も(画像提供 株式会社モダニティ)

――購入者はどのような方が多いですか?
販売店からは、都市部に住む女性が多いと聞いています。都心のコンパクトな住まいであっても、インテリアとも合わせやすいという点が支持されているのだと思います。

決して安くないお値段ではありますが、所得に限らず、猫により良い暮らしをしてほしいという強い愛情を持ち、インテリア性も重視する、という方が購入してくださっているようです。

――『MEYOU』の今後の展開について教えてください。
今はキャットハウスのみですが、今後はキャットタワーや爪とぎなど、デザイン性を発揮できる製品があれば取扱いを増やしていきたいと考えています。弊社としては猫も飼い主も快適で、かつインテリアとしても洗練されたデザインの製品を紹介していきたいと思っています。

3万円もキャットハウスに!? と感じていた筆者。しかし、従来のペット製品の中には、デザイン性に欠け、他のインテリアや家具となじみにくいものが多いのもまた確か。MEYOUを通じて、猫も人も快適な理想の共同生活を送れるならば、決して高い金額ではないかもしれません。

●取材協力
・株式会社モダニティ

山野草からサボテン……さまざまな緑と暮らす、こだわり夫婦の家

インドアグリーンは住まいに自然の彩りを与え、不思議と心を落ち着かせてくれます。そこで、緑と上手に暮らしているご夫婦を取材。すぐに取り入れたくなる、こだわりのポイントを聞いてみました。
和を感じる山野草を中心にセレクト

訪れたのは、世田谷区にお住まいのHさんご夫婦の自宅。夫のDさんはIT企業勤務、妻のKさんはライターというクリエイターのお二人です。2016年に購入した100平米3階建ての戸建てには、緑をアクセントとして上手に取り入れています。

植物をセレクトしているのは、基本的に妻。部屋やベランダの随所に、多種多様な緑や花が配置されています。

「種類はバラバラなのですが、山野草が好きなので比較的多いかもしれません。食器やインテリアもですが、和テイストに惹かれるんです。それで自然と山野草に手が伸びるのかも。ただ、山野草ばかりに偏るのではなく、ハーブなども取り入れてバランスよく調和させることも意識していますね」(Kさん)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

「山野草が芽吹くと春だな~ってしみじみします。静寂さを醸し出しているところがすごく好きなんです」(Kさん)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

ニュートラルカラーやアースカラーの器に惹かれるというKさん。土っぽさや温かみがある焼物の鉢を好んで購入しているとか。さまざまな種類の観葉植物も、鉢のトーンを統一させるだけで、まとまりがうまれ、おしゃれ度がアップするのかもしれません。

空間のシンボルになっているのは、柱サボテン。見た目もサイズもひときわ存在感を放っています。他の観葉植物とはがらっとテイストが異なりますが……?

「素敵な住宅の写真を見ている中で目に留まり、懇意にしているエンジョイボタニカルライフ推進室の氏井さんに相談して仕入れていただきました」(Kさん)

ちなみに、エンジョイボタニカルライフ推進室では、室内緑化やお手入れの相談サポートの他、ワークショップなどを通して緑と暮らす楽しさを伝える活動も展開しているそう。Kさんもイベントを通じて知り、さまざまなアドバイスをもらっているそう。専門家の意見を取り入れるのも、上手に緑と暮らすコツなのかも。

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

住まいのテイスト→鉢→植物の順に考えるとインテリア性が高まるかも!

緑を暮らしに取り入れるうえで意識しているポイントについて、Kさんは次のように語ります。

「私はスモーキーやグレイッシュのような灰色がかったトーンのグリーンが好きなので、なるべく統一させるようにしています。ところどころ違う色が入ってもいいと思いますが、同じ系統の色味だと落ち着いた感じにまとまるんじゃないかと思います」

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

また、植物のインテリア性についても独自のこだわりが。

「植物はもとより、鉢は家に合うようなものを選んでいます。もし植物選びに迷ったら、内装の色味やデザインを踏まえたうえで、まずは鉢から選んでそこに植物を合わせるのもおすすめです。むしろ、その方がインテリア性が高まるような気がします」

時折、『Pen』『BRUTUS』といった雑誌にも目を通し、緑の取り入れ方の参考にしているそう。

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

また、お二人の友人で植物に関するアドバイザーでもある、エンジョイボタニカルライフ推進室の氏井暁さんは、緑のある暮らしについて次のように話します。

「Kさんは、ウッドパネルやフラワースタンド、壁掛けラックなど、資材を活用して上手にレイアウトしていますよね。住まいとのコーディネートも含め”緑のある暮らし”を楽しんでいらっしゃる感じがとても良いと思います」

もし、「どんな植物を選んでいいか分からない」という人も、眺めているだけで自然と好みが分かるようになるそうです。また、植物も生き物とあって、上手に共存するには植物が生まれ育った環境を知り、住まいとのギャップ(日照・気温・湿度など)をなるべく軽減してあげることも大切とのこと。

「植物からイメージを演出したい場合、植物の原産地や生息環境でセレクトしても面白いかもしれません。例えば一目惚れした植物が『シーグレープ』だったとすると、ネットで調べると原産地はフロリダ南部・西インド諸島・南米であることが容易にわかります。原産地のイメージから鉢植えを揃えてインテリアと一致させても良いでしょうし、器でがらっとイメージを変えてみるのもいいかもしれません。Kさんのように器ベースでコーディネートしてみてもいいと思います」(氏井さん)

住まいと緑を上手にコーディネートしているH家。テイストでまとめてレイアウトしたり、器の色味や素材感で統一感や住まいとの調和を演出したりすることが上手に緑を暮らしに溶け込ませるためのポイントになりそうです。

●取材協力
・エンジョイボタニカルライフ推進室

ZEH-M(ゼッチ・マンション)が続々登場! ZEHって何?なぜ増えている?

平成30年度になってから、「ZEH(ゼッチ)マンション」なるものが続々と登場している。ZEHとは?ZEHマンションとは?について、経済産業省の事業に認定されたマンションを事例に見ていくことにしよう。【今週の住活トピック】
経済産業省「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」
「Brillia 弦巻」が東京都内初の事業として採択決定/東京建物
大京グループ 10 事業が採択決定/大京グループ
当社の分譲マンション「(仮称)プレミスト稲川三丁目」が採択されました/大和ハウスZEH(ゼッチ)とはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスのこと

まず、ZEH(ゼッチ)とは何かについて、説明しよう。
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方だ。住宅で消費するエネルギーをゼロにしようというものだが、全くエネルギーを使わないわけにはいかない。住宅の断熱性・省エネ性能を上げることに加え、太陽光発電などによってエネルギーを創り、年間の「1次エネルギー消費量」をプラスマイナスでおおむねゼロ以下にしようというもの。

なお、1次エネルギー消費量の対象となるのは、「暖冷房・換気・給湯・照明」で、テレビや冷蔵庫などの家電製品は対象外だ。

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の仕組み(出典:経済産業省の資料より転載)

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の仕組み(出典:経済産業省の資料より転載)

補助金で高層のZEHマンションを後押しする仕組み

住宅のエネルギー消費量を削減したい政府は、ZEHを普及させようとしているが、ZEHでは、住宅に太陽光発電設備などを備えつけてエネルギーを創り出す必要がある。マンションは戸数が多いわりに、太陽光発電設備を設置できる屋上の面積が広くないなどの制約がある。

そこで、政府はZEH普及の2030年までのロードマップを作成し、まずは注文住宅での普及に力を入れてきが、次第に分譲の新築一戸建て、賃貸・分譲のマンションへと普及対象を拡大してきている。

マンションについては、あいまいだったZEHマンションの定義を明確にし、補助金を交付する事業によって普及を加速させようというのが、経済産業省の「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」だ。

この事業は、住宅部分が6階以上のZEHの集合住宅が対象となる。住宅部分が5階以下のZEHマンションについては、別途「低・中層ZEH-M支援事業」がある。

では、国が定めたZEH-M(ゼッチ・マンション)の定義を確認しよう。
図にあるように、『ZEH-M』、Nearly ZEH-M、ZEH-M Ready、ZEH-M Orientedの4タイプがある。マンションの制約上、太陽光発電設備などによる再生エネルギーを期待しづらいことから、階数が高くなるほど再生エネルギーによる削減の基準を緩めている。

また、マンションのばあいは、従来から共用部分を含む住棟と購入対象となる住戸のそれぞれで、省エネ性能を評価してきた経緯もあり、住棟単位(専有部及び共用部の両方を考慮)と住戸単位(各々の専有部のみを考慮)の両方について、ZEH の評価方法を定めている点も特徴だ。

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」公募要項より筆者が作成

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」公募要項より筆者が作成

平成30年度は、15の事業(分譲マンション14・賃貸マンション1)で補助金の交付が決定している。「ZEH-M Oriented」という定義の導入と補助金が、ZEHマンションを後押しする仕組みとなったわけだ。

で、ZEH-M(ゼッチ・マンション)って、どんなマンション?

今回の国の定義によると、年間の1次エネルギー消費量がプラスマイナスゼロになるのは「ZEH-M」のみだ。「ZEH-M Oriented」の基準を満たすZEHマンションの場合では、地域ごとに設定された外皮基準をクリアし、年間の1次エネルギー消費量を20%以上削減すればよいわけだ。

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」に採択された事業を見ると、おおむね次のようなマンションになる。

・住棟の外壁や屋根、住戸の床や天井の断熱性能を従来より引き上げる
・サッシのフレームに熱を伝えにくい樹脂材(従来はアルミ)を入れ 、省エネ性の高い複層ガラスを入れる。または二重サッシにして、内窓に樹脂サッシと複層ガラスを入れる
・給湯器にエネルギー消費効率の良いエコジョーズやエコキュート、エネファーム(燃料電池)を採用する
・床暖房やエネルギー消費効率の良いエアコンを採用する

大京グループのプレスリリースより転載

大京グループのプレスリリースより転載

ZEHマンションは、室内にいるときに夏の猛暑や冬の寒さといった外気の変化の影響を受けにくくなり、室内空間の快適性がアップする。さらに、室内の温度調節については、エアコンをガンガン使うことも抑えられ、光熱費も削減できる。エアコン嫌いの筆者にとっては、なかなか魅力的だ。

一方、ZEHマンションは、省エネ性能を引き上げるので、その分の建築コストは上がる。マンションの購入者が何を重視するか、どんな生活をしたいかによって、ZEHの価値も変わってくるのだろう。

コンパクトな建物に好きなものをぎゅっと詰め込んだ、遊び心満点の家 テーマのある暮らし[5]

建設会社に勤務後、建築士として独立。新築からリフォーム、家具やインテリアなどの設計を手掛ける一方で、写真家としての顔をもつ木暮洋治(こぐれ ようじ)さん。コンパクトでありながらも、大人も子どもも楽しめる“遊び心”あふれる住まいを都内につくりあげました。建築士ならではのこだわりや工夫の数々とは?【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。光、音、空気が通り抜ける開放的な家づくり

茗荷谷駅から徒歩10分、毎年春には桜の名所としてにぎわう緑豊かな場所に、木暮さんのオフィス兼住まいがあります。木暮さんは、妻、小学6年生の長女と間もなく5歳になる次女の4人家族。そして、とても人懐こい愛猫レンくんと一緒に暮らしています。

間口は5メートルで、奥行きのある建物。白色にまとめられたスタイリッシュな外観で、正面から見ると、1階はガレージと玄関です。プライバシーもしっかり確保された3階建てになっています(写真撮影/内海明啓)

間口は5メートルで、奥行きのある建物。白色にまとめられたスタイリッシュな外観で、正面から見ると、1階はガレージと玄関です。プライバシーもしっかり確保された3階建てになっています(写真撮影/内海明啓)

「土地をいろいろと探していたときに、偶然にもここだけが空いていたんです。土地の広さは18.6坪とコンパクトなのですが、私も妻もこの桜並木を見渡せるロケーションがとても気に入って、迷うことなく『ここにしよう』と即決しました」

玄関を入ってすぐの1階には、トイレやバスルームといった水まわり関係のお部屋が、集まっていました(写真撮影/内海明啓)

玄関を入ってすぐの1階には、トイレやバスルームといった水まわり関係のお部屋が、集まっていました(写真撮影/内海明啓)

玄関の扉を開けると、シンプルな外観とは裏腹にぬくもりある明るいポーチと廊下。その先には、ダイニングキッチンに直接つながる階段と、オープンな空間が広がります。

「奥行きが長いので、この空間をどうやって有効活用しようか……そこからスタート。自分の家を自分で設計する、ということもあって、やりたいことはどんどん取り入れよう! とチャレンジ魂に火がつきました。そのやりたいことのひとつがスキップフロアです。吹抜けを設けることで、光も風も通り抜ける開放的な空間をつくりたかったんです」と木暮さん。

20分の1の模型は、木暮さん渾身の作品。「私の母から『狭いんじゃないの?』と言われて、『そんなことないよ』と手直ししながらつくりました。ここまで細かく模型をつくったのは初めてです(笑)」(写真撮影/内海明啓)

20分の1の模型は、木暮さん渾身の作品。「私の母から『狭いんじゃないの?』と言われて、『そんなことないよ』と手直ししながらつくりました。ここまで細かく模型をつくったのは初めてです(笑)」(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、取材したのは35度の猛暑日で、同行メンバー全員汗だく。これだけ暑いと、冷房を効かせてもなかなか玄関まで冷たい空気が行き渡らないものですが、玄関に一歩入ると冷んやりした空気に。思わず「あぁ、生き返る~」と声が出てしまったほどです。壁や扉で区切られている構造では、こうはいきません。家の隅々まで一定の温度を保てるのも、開放的な空間だからこそ得られるメリットです。

たくさんの友達が来ても大丈夫! 広々と明るいリビング

キッチンからの階段を上ると、そこは明るいリビング。お子さんのピアノや勉強机、ソファを置いてもまだ十分余裕のある広々としたリビングは、吹抜け部分と通常よりやや低くした天井部分で変化を付けています。

「家を建てるときに、一番重視したのがリビングです。私も妻も以前から、友達やお客様をたくさん呼べるリビングが欲しいね、と話していて、できるだけ広いスペースを確保するように設計しました。また、天井って低すぎても高すぎても落ち着かないんです。天井の高さを変えたのは遊び心もありますが、開放的になれる場所と落ち着ける場所、その両方を味わえる狙いもあります」

木暮さん夫婦がこだわったリビングを上から見ると、その広さは一目瞭然。白いビニル床タイルには、床暖房を設置しています(写真撮影/内海明啓)

木暮さん夫婦がこだわったリビングを上から見ると、その広さは一目瞭然。白いビニル床タイルには、床暖房を設置しています(写真撮影/内海明啓)

「我が家に子ども部屋はありません。長女の机はありますが、そのときの気分でリビングやダイニングキッチンのテーブルに移動して勉強するなど、好きな場所で勉強しています。最近、長女は私の仕事部屋が気に入っているようですが(笑)」

リビングを中心に、ダイニングキッチン、木暮さんの仕事場などが、すべてオープンになって見渡せる仕掛け。どこにいてもコミュニケーションをとれる環境(写真撮影/内海明啓)

リビングを中心に、ダイニングキッチン、木暮さんの仕事場などが、すべてオープンになって見渡せる仕掛け。どこにいてもコミュニケーションをとれる環境(写真撮影/内海明啓)

リビングにブランコ!?  アートとの融合で大人も子どもも楽しめるリビング

リビングで注目したいのは、天井のフック。ここにブランコを取り付ければ、子どもたちが遊べるスペースに早変わり。天井裏には、頑丈な鉄板を使っているので、大人が乗ってもOK! サンドバッグをかけても大丈夫なくらいの強度があるそうです。

壁は、松の合板に自然塗料であるオスモカラーを塗って、うっすら木目を残した風合いに。明るさとぬくもりのある空間で、レンくんもすっかりリラックス(写真撮影/内海明啓)

壁は、松の合板に自然塗料であるオスモカラーを塗って、うっすら木目を残した風合いに。明るさとぬくもりのある空間で、レンくんもすっかりリラックス(写真撮影/内海明啓)

また、リビングの壁はアートスペース。アート好きの木暮さん夫婦が飾るお気に入りの作品と並んで、子どもたちがつくった作品がバランス良く飾られています。なかには、お子さんが貼ったと思われる可愛いシールもちらほら……。

「子どもたちは、シールが大好き。あちこちにペタペタ貼っても、基本何も言わずに好きにさせています。部屋の雰囲気にあっていればそのままにしておきますが、これはちょっと……というものは、子どもが飽きたころを見計らって、こっそりはがすのが私の役目です(笑)」

イギリス出身のアーティスト、ギャリー=ファビアン・ミラーの作品をはじめ、お嬢さんの趣味である三線もアートのように飾られている(写真撮影/内海明啓)

イギリス出身のアーティスト、ギャリー=ファビアン・ミラーの作品をはじめ、お嬢さんの趣味である三線もアートのように飾られている(写真撮影/内海明啓)

「私の祖父も父も絵が好きで、この絵は祖父が絵を習っていた先生の作品です。妻が馬を好きなこともあって、この家を建てたときに実家からもってきました」(写真撮影/内海明啓)

「私の祖父も父も絵が好きで、この絵は祖父が絵を習っていた先生の作品です。妻が馬を好きなこともあって、この家を建てたときに実家からもってきました」(写真撮影/内海明啓)

設計のアイデアを生み出している“男のロマン”あふれるアトリエ

木暮さんのアトリエは、まさに“男のロマン”があふれる秘密基地。建築関係の専門書から資料、カタログ……とデッドスペースがないくらい。棚をフル活用して、ぎっしり隙間なく詰め込まれています。

「これでも、まだ収納スペースが足りないくらいなんです(笑)建築技術の月刊誌などは、ちょっと油断するとどんどん溜まっていっちゃうので、必要なページはPDF化してiPadに入れるように心がけています」

趣味で革細工もやっているという木暮さん。「ここだけは、荷物が増えても家族から文句を言われないですからね(笑)好きなものに囲まれながら、アイデアと発想を広げています」(写真撮影/内海明啓)

趣味で革細工もやっているという木暮さん。「ここだけは、荷物が増えても家族から文句を言われないですからね(笑)好きなものに囲まれながら、アイデアと発想を広げています」(写真撮影/内海明啓)

人気のデジタル一眼レフカメラ「ニコンDf」をはじめ、初期のポラロイドカメラやクラシカルなカメラなど、木暮さんのカメラコレクションの一部(写真撮影/内海明啓)

人気のデジタル一眼レフカメラ「ニコンDf」をはじめ、初期のポラロイドカメラやクラシカルなカメラなど、木暮さんのカメラコレクションの一部(写真撮影/内海明啓)

日本文化のわびさびを現代風にデザインした茶室

リビングから寝室を経て3階に上っていくと、これまでとガラッと雰囲気が異なる和室がお目見えします。

「妻がやっている茶道を楽しむための空間として茶室をつくりました。中央にはお湯を沸かす炉(ろ)を設け、花や掛物を飾る床の間、和室の反対側にはお茶の準備をする水屋として使えるシンクも設け、伝統的な茶室の要素を現代風にアレンジしました」

落ち着いた雰囲気の和室。壁紙には伝統工芸品である「土佐和紙」を使用している。「茶室以外にも客間として使える、応用の利く空間です」(写真撮影/内海明啓)

落ち着いた雰囲気の和室。壁紙には伝統工芸品である「土佐和紙」を使用している。「茶室以外にも客間として使える、応用の利く空間です」(写真撮影/内海明啓)

こちらは茶室の特徴のひとつ、お客様の出入り口となる「躙口(にじりぐち)」。レンくんの出入り口ではありませんからね(笑)(写真撮影/内海明啓)

こちらは茶室の特徴のひとつ、お客様の出入り口となる「躙口(にじりぐち)」。レンくんの出入り口ではありませんからね(笑)(写真撮影/内海明啓)

「屋根の上に寝転びたい」がきっかけでできた屋上テラス

茶室の障子を開けると、傾斜のある芝生が広がり、屋上ウッドデッキテラスへと続きます。住宅密集地とは思えない開放感は、贅沢そのもの。子どもたちと一緒に花や野菜を育てたり、日向ぼっこをしたり、自然を楽しめる空間になっています。

「きっかけは、屋根の上に寝転がりたい、という妻の希望でした。さすがに屋根は熱いだろうと思い傾斜の高低差に合わせて2種類の芝生を植えることにしました。このテラスから見渡せる桜の景色は、最高です。この土地の決め手となった桜並木の景観を独り占めしたような気分になれます(笑)」

「屋上は保水力が弱いため、ちょっと暑い日になると芝生が全滅してしまうんです。一度ダメにしてしまったので、それ以来1日2回の自動散水をしています」。スクスク育った芝生の上でゴロンとする木暮さん(写真撮影/内海明啓)

「屋上は保水力が弱いため、ちょっと暑い日になると芝生が全滅してしまうんです。一度ダメにしてしまったので、それ以来1日2回の自動散水をしています」。スクスク育った芝生の上でゴロンとする木暮さん(写真撮影/内海明啓)

周りに高い建物がないため、テラスからの眺めは格別。外から見ると特徴的な四角い建物ですが、屋上は緑豊かな環境が広がっていました(写真撮影/内海明啓)

周りに高い建物がないため、テラスからの眺めは格別。外から見ると特徴的な四角い建物ですが、屋上は緑豊かな環境が広がっていました(写真撮影/内海明啓)

限られた面積、限られた予算のなかでも、楽しむ心を忘れない……家族それぞれの好きなものを全部つめ込んだお宅は、おもちゃ箱を開けたようなワクワク感にあふれています。いつもそこに子どもたちの笑顔があって、にぎやかな声が聞こえる暮らしは、木暮さん夫婦のパワーの源かもしれません。「もしかして人間が入っているのでは!?」と思えるくらい、とてもフレンドリーに接してくれたレンくんの姿は、仲良し家族の象徴そのもののような気がしました。

●取材協力
・一級建築士事務所 木暮建築設計室

「小学生で身につける片づけ力」「中古マンションの見分け方」「BEAMS流インテリア」【7月人気記事まとめ】

7月から記録的な猛暑が続いているうえに、台風も到来。気が抜けないシーズンです。さてSUUMOジャーナルで7月に公開した記事では、「2018年の路線価発表」や「良い中古マンションの見分け方」「家探しあるある」など、お金や家探しのコツやエピソードなどについての記事が人気でした。TOP10の記事を詳しくご紹介します。
7月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

第1位:【速報】2018年の路線価が発表。全国平均で3年連続上昇。その要因は?
第2位:「東京駅」まで30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版
第3位:【2018年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング! 最安は5万円台
第4位:夏休みがチャンス! 「小学生のうちに“片づけ力”を身につける」ススメ
第5位:BEAMS流インテリア[2] 世界各国のアンティーク家具・民芸品がつくりだす極上おもてなし空間
第6位:「良い中古マンションの見分け方を教えてください」 住まいのホンネQ&A(7)
第7位:家探しあるあるに笑って感動。漫画『わが家は今日も建築中!』がおもしろい
第8位:BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで
第9位:YKK吉田前会長、71歳男のロマン! 地方創生、パッシブタウンからヤギ牧場まで あの人のお宅拝見[9]
第10位:上野や浅草が徒歩圏内! 地元カフェオーナーと台東区「入谷」の魅力を探索してみた
※対象記事:2018年7月1日~2018年7月31日までに公開された記事
※集計期間:2018年7月1日~2018年7月31日のPV数の多い順

「路線価発表」「家賃相場が安い駅ランキング」など、お金関連の記事が人気

第1位:【速報】2018年の路線価が発表。全国平均で3年連続上昇。その要因は?

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

2017年の路線価が国税庁から発表されました。地価は上がったのでしょうか、それとも下がったのでしょうか。32年連続日本一の東京のあの場所は記録更新となったのか、上昇率の全国トップは……? 今年の注目ポイントをプロが解説します。

第2位:「東京駅」まで30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

上位の半数が千葉県の駅に。特急や快速が運行するJR総武線やJR京葉線の影響が大きいようです。その他、ディープな魅力にあふれた下町、深夜まで営業しているスーパーなど施設が充実した駅、小児科が複数ある駅など、さまざまな駅がランクインしています。詳細は記事をご覧ください!

第3位:【2018年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング! 最安は5万円台

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

家賃が高いことで知られている東京23区ですが、探せば穴場や掘り出し物の地域はあります! ランキング内の約半数を占めたのは足立区の駅。実は足立区は、北千住駅が「SUUMO住みたい街ランキング2018」の穴場だと思う街で1位に選ばれるなど、家賃相場だけではない魅力も。お得に暮らせる駅はどこか? ぜひチェックしてみましょう!

第4位:夏休みがチャンス! 「小学生のうちに“片づけ力”を身につける」ススメ

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

うちの子は何度言っても片づけができない……とお嘆きのみなさん。もしかしたら子どもは片づけができないのではなく、片づけ方が分からないのかもしれません。片づけができないと、時間やお金を無駄にしてしまうこともあります。そうならないためには子どものうちに「片づけ力」を身につけることが大切。夏休みの自由研究のテーマとして「片づけ」を学ぶ方法をご紹介します。

第5位:BEAMS流インテリア[2] 世界各国のアンティーク家具・民芸品がつくりだす極上おもてなし空間

(写真撮影/飯田照明)

(写真撮影/飯田照明)

センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)スタッフのご自宅に訪問する連載です。第2回は、「気に入ったものに巡り合うまではたとえ不自由でも間に合わせは買わない」と断言するスタイリングディレクターが住む、メゾネットタイプのリノベーションマンション。異なるインテリアテイストを組み合わせる秘訣、DIYで収納力アップする工夫など、居心地のいい住まいのコツを探ってみました。

「中古マンションの見分け方」「家探しあるある」など、家探しについての記事がランクイン

第6位:「良い中古マンションの見分け方を教えてください」 住まいのホンネQ&A(7)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

新築マンションの価格高騰によって、注目を集めている中古マンション。中古マンションを見学する際のチェックすべき場所、気を付けるポイントなどをご紹介。自分でチェックすることが難しい場合はホームインスペクターに依頼することも考えましょう。少しでも条件のよい中古マンションを手に入れるための参考にしてみてください。

第7位:家探しあるあるに笑って感動。漫画『わが家は今日も建築中!』がおもしろい

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

家を買いたいという気持ちは一致しているのに、実際にマイホーム探しをはじめると夫婦ゲンカばかり……。そんなエピソードに共感する人も多いのでは? そんなマイホーム探しのあるあるネタ満載の漫画の作者である尚桜子さんにインタビューしてみました。

第8位:BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで

(写真撮影/飯田照明)

(写真撮影/飯田照明)

BEAMS(ビームス)スタッフのご自宅に訪問する連載第3回は、ファッション好きで、ご夫婦ともにスーパーバイザーのお二人が住む古都・鎌倉のモダンな注文住宅。ご夫婦の新居は、こだわりを予算内で実現するための工夫、見せる収納の秘訣などが盛りだくさんの、まだまだ進化を続ける住まいでした。

第9位:YKK吉田前会長、71歳男のロマン! 地方創生、パッシブタウンからヤギ牧場まで あの人のお宅拝見[9]

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

YKKの吉田前会長は現在富山県黒部市にある「パッシブタウン(PASSIVETOWN)」に住みながら、エネルギー消費の少ない街・住まいを実現する実証実験を研究中です。もともとは社員寮や社宅として計画が始まりましたが、今は一般の方も入居する人気の賃貸住宅となっています。エネルギー消費を抑える住まい方に挑戦しようと思ったきっかけ、会長職の引退後にヤギ牧場でのチーズづくりという事業を起業したわけなどをインタビューしました。生き生きと輝いている吉田さん、次の事業も考えているそうで……!

第10位:上野や浅草が徒歩圏内! 地元カフェオーナーと台東区「入谷」の魅力を探索してみた

(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

観光客でにぎわう浅草や上野に隣接するエリアでありながら、ややマイナーな印象の入谷とは、どんな街なのでしょうか? 地元在住のカフェオーナーの案内で浅草方面、上野方面に歩いてみると、古民家カフェや寺社など、さまざまな魅力的スポットが! 歩けば歩くほど新しい発見のある入谷、ぜひ足を運んでみては。

7月は好評の連載「BEAMS流インテリア」が2本ランクインしたほか、路線価のポイント解説記事や、東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキング、東京23区の家賃相場が安い駅ランキングなど、お金に関する記事が3本ランクインしました。引越しを考える際の参考にしてみてはいかがでしょうか。

建物内保育園の入園を保証! 子育て施設が大充実の、賃貸マンションに行ってみた

つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅近くに、建物内保育園の入園保証(※)がついた賃貸マンションが誕生した。近年は職場と住まいが近い“職住近接”の重要性が認知されてきたが、共働き家庭の住まい選びにおいては、保育園などの育児施設が近い“育住近接”の視点も注目を集めつつある。マンション建物内保育園という、究極の育住近接を実現できる物件は、賃貸ではめずらしい。詳しく取材した。
※入園には条件があり、保育園の運営事業者・株式会社マザープラネットの入園審査により入園できない場合もあり。別途株式会社マザープラネットとの入園手続きが必要
保育園の距離が10分を超えると、送迎負担が深刻に

共働き家庭にとって、子どもがどの保育園に入れるかは死活問題。家から遠い保育園だと送迎の負担が大きいので、なるべくなら近場の保育園に入れたいのが本音というものだ。筆者が周囲の父母10人ほどに聞いてみたところ、特に保育園までの距離が10分を超える親は、送迎に大きな負担を感じているようだった。

子どもは大人のようには歩けないので、一緒に歩くとなれば徒歩10分の道のりが15分や20分以上になる覚悟が必要。特に雨の日は自転車も使えず、道路の危険も増すので神経がすり減るという声も。また保育園の広さや保育の内容は少し劣ると感じるものの、送迎時間短縮のために、家の近くの保育園に転園した家庭もあった。ただでさえ疲れる通勤に送迎の負担が重なると、仕事や家事を始める以前に疲れ切ってしまうことにもなりかねない。近隣保育園への転園は、現実的な選択だろう。

そんな背景もあって、近年敷地内に保育園を擁するマンションが注目されている。昨年2017年には保育園付き分譲マンションが1都3県で約20棟販売されるなど、供給数も増加している(リクルート住まい領域「2018年トレンド予想」より)。

賃貸マンションに入居すると、建物内保育園の入園保証がついてくる!

しかし保育園を併設している点に惹かれて分譲マンションを購入しても、必ずしも敷地内保育園に入園できるとは限らない。その保育園が国から補助金が出る“認可保育園”であれば、入園の可否の決定権は自治体にある。自治体の基準に照らし合わせた結果、同じ敷地内のマンションに暮らしながらも入園できないことがあるのだ。また認可園でない場合でも、同じ敷地のマンションに住む子どもの数が保育園のキャパシティーを超えた場合、入園できない可能性がある。

この点、2018年2月に新たに誕生した「パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト」では、そのような懸念が払拭されている。というのも、このマンションでは、入居者の入園を保証する認可外保育園が建物内に併設されているからだ。また、このマンションは全戸賃貸住宅となっているため、子育て期間中のみここで暮らすといった、柔軟な住まい方が可能となっている。

柏の葉キャンパス駅から徒歩3分の491戸の大型マンションだ(写真撮影/蜂谷智子)

柏の葉キャンパス駅から徒歩3分の491戸の大型マンションだ(写真撮影/蜂谷智子)

ホテルのような雰囲気がただようエントランス(写真撮影/蜂谷智子)

ホテルのような雰囲気がただようエントランス(写真撮影/蜂谷智子)

保育施設・温泉・ジム等の充実した共用部

『パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト』を訪れてみると、保育園などの子育て施設のみならず、温泉やジムも併設するなど、その共用施設の充実ぶりに驚く。このマンションに入居したら、どんな暮らしが待っているのか? 三井不動産柏の葉まちづくり推進部事業グループ担当者に案内してもらった。

子育て施設「チコル」があるのが、マンションの3階。隣接するショッピングセンター「ららぽーと柏の葉」直結の出入り口と居住者専用ゾーンからの出入り口がある。「チコル」は保育園・学童・シェアキッチン・総菜屋・遊具を備えた屋内遊び場・屋内遊び場を見ながら仕事ができる保護者用のワークスペース等。保育園はマンション入居者専用だが、その他の施設は入居者以外も利用が可能だ。

入居者と入居者以外が混在するフロアがマンション内にあることに、不安を感じる人もいるかもしれないが、その点は心配無用だと担当者は言う。「マンションのセキュリティはカードキーの有無だけでなく、フラッパーゲートも採用しているため、居住者がマンションに入る際に第三者がすり抜けて入ってしまう心配もありません」。

保育園は駅前の「ららぽーと柏の葉」から直結している(写真撮影/蜂谷智子)

保育園は駅前の「ららぽーと柏の葉」から直結している(写真撮影/蜂谷智子)

保育園・学童・屋内遊び場――ワンフロアがまるごと、子育て施設に

大きな特徴である、入居者専用保育園は0歳児から入園でき、延長保育は22時まで。子どもが病気になったときは、同マンション1階にある365日対応の小児科医院や、保育園と同じ企業が運営する病児・病後児保育を利用できる。学童保育は保育園とひとつながりの部屋の一角にあり、小学校の1年生から6年生までをあずかる。

シェアキッチンと惣菜店は、昼夜の給食時には保育園や学童に通う子どもたちに食事を提供する場に。惣菜を予約すればテイクアウトが可能。夕食をつくる時間がないときには、ここで食事を購入すればよい。さらに大きな滑り台が特徴的な屋内遊び場は、中2階のワークスペースから見守りができて、子どもを遊ばせながら仕事をしたいという、働く親のニーズにも対応している。

保育園は横長のワンフロアで、保育者の目が届きやすい(写真撮影/蜂谷智子)

保育園は横長のワンフロアで、保育者の目が届きやすい(写真撮影/蜂谷智子)

1階には小児科と病児・病後児保育施設も(写真撮影/蜂谷智子)

1階には小児科と病児・病後児保育施設も(写真撮影/蜂谷智子)

柏の葉スマートシティにフィットする、課題解決型の住まいを目指す

なぜこういったマンションがつくられたのか? 担当者に話しを聞いた。

「柏の葉キャンパスは“環境共生・健康長寿・新産業創造”という3つのまちづくりテーマを設定し、現代社会の課題解決型の街づくりを進めるスマートシティです。三井不動産は民間企業として、2001年7月から街のプラットフォームづくりに携わってきました。柏の葉キャンパスには、すでにいくつもの分譲マンションを開発・運営していますが、今回『パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト』を子育て施設の充実した賃貸物件にした理由は、この街にふさわしい“課題解決型のマンション”を目指したからです」(担当者)

『パークシティ柏の葉キャンパス ザ・ゲートタワー ウエスト』は、共働き家庭がぶつかる4つの課題を解決することを目指したそうだ。4つの課題とは“待機児童・37.5度の壁(子どもが熱を出すと保育園に預けられないこと)・小1小4の壁(小学生の放課後の預かり先がないこと)・女性の産後復帰”。

建物内保育園の入園保証、敷地内の病児・病後児保育、そして働きながら子どもを遊ばせられる屋内遊び場など、充実した子育て施設は、働く親の困りごとを解決するためのもの。マンションの側からここまで積極的な課題解決を提案している物件は稀ではなかろうか。

子どもの給食がつくられる惣菜店では、家庭用にテイクアウトもできる(写真撮影/蜂谷智子)

子どもの給食がつくられる惣菜店では、家庭用にテイクアウトもできる(写真撮影/蜂谷智子)

保育園の子どもたちは、シェアキッチンで並んで給食を食べる(写真撮影/蜂谷智子)

保育園の子どもたちは、シェアキッチンで並んで給食を食べる(写真撮影/蜂谷智子)

屋内遊び場は、大きな滑り台が特徴的、保護者は中二階から見守りながら仕事もできる(写真撮影/蜂谷智子)

屋内遊び場は、大きな滑り台が特徴的、保護者は中二階から見守りながら仕事もできる(写真撮影/蜂谷智子)

柏の葉キャンパスは、公・民・学が一体的に開発に取り組む将来性のある街

「柏の葉キャンパスを住まいに選んだお客さまが、度々おっしゃるのが『この街には将来性がある』ということ。すでに公・民・学が一体となったさまざまな試みが動いていますし。三井不動産は今後もこの街の開発に積極的に取り組む予定です。そういった地域を選ぶ方は、住まいにもより具体的なコンセプトを求めていらっしゃるのではないかと考えて、ターゲットに合ったソリューションを打ち出しています」(担当者)

柏の葉キャンパスは、東京大学や千葉大学がキャンパスを置く学園都市の一面を持つ。公・民・学によって構成される「柏の葉アーバンデザインセンター」を中心に子ども向けのイベントを開催するなど、先進的な試みが多くなされている。

教育意識の高い家庭にピッタリの土地柄が背景にあり、マンションのターゲットの志向性にも一致する。

地域の子ども向けイベントの様子(写真提供/三井不動産)

地域の子ども向けイベントの様子(写真提供/三井不動産)

地域の子ども向けイベントの様子(写真提供/三井不動産)

地域の子ども向けイベントの様子(写真提供/三井不動産)

先進的な周辺環境と充実した共用施設を賃貸で得るなら、そのお値段は?

柏の葉キャンパスは、教育施設だけでなくショッピングやレジャーの施設も充実。駅前に大型ショッピングモールの「ららぽーと」があり、また駅から徒歩7分の場所に蔦屋書店を中心とした「柏の葉 T-SITE 」がある。東京大学に隣接した広大な柏の葉公園をはじめ、自然も豊か。マンションの共用施設も子育て向けにとどまらず、大人向けのスタディルームやパーティールーム、ジムや天然温泉まで併設されているのだ。

帰り道に買い物を済ませ、マンションの敷地内の保育園で子どもをピックアップ、夜は大浴場の温泉に浸かる。休日は公園で遊んだり、子どもを地域のアクティビティに連れ出したり……。快適な暮らしをイメージできる恵まれた環境だ。柏の葉キャンパス駅は東京駅まで34分、銀座駅まで36分と、東京方面に通勤するのに便利な点も見逃せない。

このマンションのおおよその月々の賃料は、1Kが9万円代から、2LDKが17万円代から3LDKが21万円代からだという。

夫婦と小さな子どものいる家庭を想定した2LDK(写真撮影/蜂谷朋子)

夫婦と小さな子どものいる家庭を想定した2LDK(写真撮影/蜂谷朋子)

近年は待機児童の問題のみならず、病児保育施設の不足や、片親が育児を一身に担う“ワンオペ育児”の大変さなどが問題視されている。夫婦共働きが一般化したことで育児の課題があらわになり、解決方法を社会全体で模索している時代だといえるだろう。そんななか、育児の課題解決のためのソリューションを備えた賃貸マンションができたというのは新しい選択肢として心強い。

賃貸ならではの強みという点では、豪華な共用施設の将来的な維持管理費を考えなくて済むということがあげられる。「購入した住まいに生涯住み、不都合があっても我慢する」のではなく、「自分が今抱えている課題を解決する物件を住み替えていく」というライフスタイルは、先々の見通しが立ちにくい現代にフィットしているのかもしれない。

●取材協力
・三井不動産株式会社

半数は掃除嫌い!掃除のしにくさに不満大! 今どきの住まいはどうなっている?

マーシュが自宅の掃除を主に行っている男性250人、女性500人に「住環境と掃除に関するアンケート調査」を実施したところ、掃除が面倒などの理由で掃除嫌いの人が多いことが分かった。とはいえ、掃除のしやすさを改善する方法はあるのだろうか。【今週の住活トピック】
「住環境と掃除に関するアンケート調査」結果を発表/マーシュ半数が掃除嫌い。面倒、時間がかかる、疲れるなどがその理由

調査結果によると、「掃除の好き嫌い」を聞いたところ、「掃除が好き」と回答した人が27.2%であるのに対して、「掃除が嫌い」と回答した人は50.0%に至った。また、「現状の掃除後の仕上がり」については、満足:24.3%・不満:39.9%であるのに対して、「現在の掃除のしやすさ」については、満足:19.7%・不満:45.6%となり、圧倒的に掃除のしやすさへの不満が強いことが分かった。

Q.各項目について、あてはまるものをお選びください。(単一回答)(出典/マーシュ「住環境と掃除に関するアンケート調査」)

Q.各項目について、あてはまるものをお選びください。(単一回答)(出典/マーシュ「住環境と掃除に関するアンケート調査」)

いったい「掃除嫌い」の理由はなんだろう?
掃除嫌いと回答したうち、半数以上の人が次の理由を挙げた。

・面倒だから(66.9%)
・疲れるから(61.3%)
・キレイにしてもすぐに汚れるから(61.3%)
・時間がかかるから(59.2%)

どうやら、掃除がしやすくないことが、「面倒」に感じ、「時間がかかる」ので「疲れ」てしまい、またすぐ「汚れる」ことが不満につながるという構図になっているようだ。

リビングとキッチンが、ゴミが溜まって掃除が大変な2大スポット

では、掃除に不満を感じる場所は、家の中のどこだろう?
調査結果によると、「ゴミがよく溜まる場所」も「最も掃除が大変な場所」も、「リビング」、「キッチン」、「家具と壁のすき間」の順に多かった。特に、リビングとキッチンは、半数以上がゴミがよく溜まると回答するなど、掃除のしやすさに不満を感じる2大スポットと考えてよいだろう。

Q.ゴミがよく溜まっていると感じる場所を全て選択してください。(複数回答)また、最も掃除が大変と感じている場所を選択してください。(単一回答)(出典/マーシュ「住環境と掃除に関するアンケート調査」)

Q.ゴミがよく溜まっていると感じる場所を全て選択してください。(複数回答)また、最も掃除が大変と感じている場所を選択してください。(単一回答)(出典/マーシュ「住環境と掃除に関するアンケート調査」)

掃除道具と住まいの仕様・設備が、「掃除のしやすさ」の不満を解消

そうはいっても、大半の人が週に1日以上は、床に掃除機をかけたり、キッチンのシンクやコンロまわりを掃除したりしていて、たまには換気扇の掃除もしている。不満を解消する方法はあるのだろうか?

床の掃除については、「壁際のゴミが掃除機で吸い込みにくい」、「家具や家電と壁とすき間に掃除機のヘッドが入らない」、「使用可能時間の長いコードレス掃除がない」などの不満が挙がっていることから、掃除機などの掃除道具の機能が向上すれば、不満が解消される点も多いと考えられる。

ちなみに、筆者は掃除機だけは比較的高額なものを買うようにしている。性能が高いので、ヘッドの動きがスムーズでゴミも絡みにくいなど、ストレスが少なくて済むからだ。「リビング」の不満は掃除道具の機能向上がカギになるのではないか。

一方、キッチンについては最新のシステムキッチンを選ぶということになるだろう。
新築マンションのモデルルームの事例で説明すると、レンジフード、キッチンパネル、コンロの掃除がしやすくなっている。

最新のシステムキッチンならここまで掃除がラクになる(写真提供/三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス 相模大野」モデルルームのシステムキッチン)

最新のシステムキッチンならここまで掃除がラクになる(写真提供/三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス 相模大野」モデルルームのシステムキッチン)

「フィルターレスレンジフード」とは、油がこびりついて掃除が面倒だったフィルターをなくし、整流板で油煙を吸引して、油煙を自動で空気と油に分離して、油をオイルトレーに回収するもの。フードや整流板を拭き掃除したり、オイルトレーの油を拭き取って洗ったりする必要があるが、掃除はかなりラクになる。ベタベタ汚れがなかなか落ちないという絶望感も解消されるだろう。

ガスコンロの主流になっている、天板が強化ガラスの「ガラストップコンロ」も汚れがつきにくく、掃除がしやすい住宅設備のひとつだ。一方、最近増えているのが、壁の汚れが水拭きで落とせるキッチンパネルだ。なかでも、ホーローパネルは掃除のしやすさに加え、マグネットが付くので使い勝手がよいと言われている。

ほかにも、汚れが付きにくいシンクなど掃除がラクになる商品が開発されているので、キッチンの掃除のしやすさは、最新機器でかなり改善されるようになったと言えるだろう。

かく言う筆者も掃除嫌いだ。その大きな理由は、普段から新聞やダイレクトメール、送ってもらった資料類などを散らかして、整理整頓を怠っているからだ。仕分けてからしまうべき場所に置くなどの作業に時間がかかり、掃除を始める前にすでに疲れてしまう。こればっかりは、掃除道具や住宅設備などでは、解消されそうにない。

YKK吉田前会長、71歳男のロマン! 地方創生、パッシブタウンからヤギ牧場まで あの人のお宅拝見[9]

私が住宅雑誌の編集長時代から、多くの経営者にお話を伺ってきたなかで最も“人”として関心を引かれたのがYKKとYKK AP前会長(現両社取締役)の吉田忠裕さん(「吉」は、正しくは下が長いつちよし)。YKK AP社は窓などの建材メーカーであるが、本体YKK社はファスナーの世界的メーカー。早くからインターナショナルな視点をもち、ファッション業界の荒波にも揉まれた経験が、日本の住宅業界では異質な輝きを放っていた。

6月に会長職を退かれた吉田さん。そのバックグラウンドと最近の暮らしぶりを探るべく、YKK総本山の富山県黒部市に伺った。

連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。グローバル企業のリーダーを引退、富山県黒部での新生活

東京が本社のYKKですが、製造・開発など“技術の総本山”と位置付けられているのが富山県黒部市。創業者・吉田忠雄氏の生まれ故郷・魚津市の隣町というご縁。

東京から北陸新幹線に乗って約2時間半、黒部宇奈月温泉駅に到着。お宅訪問の前に、YKKセンターパークへ伺った。

一般の方も無料で見学できる、YKKのテーマパーク的な施設。右が一号館、左が二号館(写真撮影/片山貴博)

一般の方も無料で見学できる、YKKのテーマパーク的な施設。右が一号館、左が二号館(写真撮影/片山貴博)

富山県や黒部の紹介映像が上映されるシアターは迫力満点(実はテーマソングを歌っている歌手は、吉田さんのご息女!)展示ゾーンでは、ファスナーの仕組みや窓の機能など、子どもでも楽しく学べるようになっています。

NASAの宇宙服にもYKKファスナーが採用されているなんて知りませんでした!(写真撮影/片山貴博)

NASAの宇宙服にもYKKファスナーが採用されているなんて知りませんでした!(写真撮影/片山貴博)

そんな中でも私が一番感動したのは、「創業者 吉田忠雄ホール」。忠雄氏の生い立ちや起業の歴史、その功績を映像や肉声で知ることができます。
『善の巡環』(自社の利益だけを考えることなく、お客様/社会・取引先とともに繁栄してゆく)を唱えた忠雄氏。この時代の創業者の人生に触れると頭が下がり、「私も頑張ろう!」という気持ちにさせてくれます。

自然の力を利用して暮らす『パッシブタウン』、理想の街づくりに挑戦中

さて、その創業者の志を継ぐ吉田忠裕前会長のお宅がある、『パッシブタウン(PASSIVETOWN)』へと向かいます。

2016年に第1期街区(36戸)が竣工し、現在第3期街区まで入居済み。2025年までには約250戸が完成予定のプロジェクト。これを構想し、推進しているのが吉田さんご自身なのです。

日本海沿岸で沖から吹く夏のそよ風『あいの風』や、立山連峰からの豊富な地下水など富山の自然を利用したパッシブエネルギーで、エネルギー消費の少ない街・住まいを実現する実証実験を、吉田さんご自身で住まいながら研究されています。

『あいの風』を取り込む建築レイアウト。雪国なので駐車場は地下に、その分地上は緑が豊か。ランドスケープの設計は宮城俊作氏(写真撮影/片山貴博)

『あいの風』を取り込む建築レイアウト。雪国なので駐車場は地下に、その分地上は緑が豊か。ランドスケープの設計は宮城俊作氏(写真撮影/片山貴博)

東京から黒部への本社機能一部移転に伴い社員寮や社宅の整備も必要であったことから、その跡地で計画が始まったようですが、今は一般の方も入居する人気の賃貸住宅となっています。

第1期街区の設計は、パッシブハウスの研究者・小玉祐一郎氏。木質バイオマスボイラーや太陽熱、地下水による冷暖房システムによって光熱費を抑える計画(写真撮影/片山貴博)

第1期街区の設計は、パッシブハウスの研究者・小玉祐一郎氏。木質バイオマスボイラーや太陽熱、地下水による冷暖房システムによって光熱費を抑える計画(写真撮影/片山貴博)

第3期街区J棟とK棟(設計:森みわ氏)は、既存の社宅をリノベーションしたもの。資材削減のストック活用であり、減築によって屋上庭園を設けるなどの工夫が評価され、日本で初めてLEED※ Homes Awards 2017の最高位を受賞しました。
※LEED(Leadership in Energy & Environmental Design) 米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発・運用する環境配慮建築やエリア開発の認証システム

吉田さんは、第1期ー3期街区すべての住戸を住み渡り、現在は第2期街区にお住まいです。最近は神奈川のご家族との本宅と、こちらを半々程度の生活の様子。単身、どんなお宅になっているのでしょう。

第2期街区は、吉田さんが旧知の槇文彦氏による設計。建築界の大御所が手がけたパッシブ賃貸住宅!(写真撮影/片山貴博)

第2期街区は、吉田さんが旧知の槇文彦氏による設計。建築界の大御所が手がけたパッシブ賃貸住宅!(写真撮影/片山貴博)

1階のインターホンで呼び出すと、吉田さんが降りてきてお出迎えくださいました。

地上4階・地下1階(駐車場)建てマンション(写真撮影/片山貴博)

地上4階・地下1階(駐車場)建てマンション(写真撮影/片山貴博)

ご案内いただいたお住まいは、70平米ほどの1LDK。開口部がふんだんに取られた明るいリビングルームでお話を伺いました。

雪国では珍しい、窓・ドアが天井高まで大きく取られたマンション。YKK APの高断熱樹脂窓が実現する気持ちの良い空間(写真撮影/片山貴博)

雪国では珍しい、窓・ドアが天井高まで大きく取られたマンション。YKK APの高断熱樹脂窓が実現する気持ちの良い空間(写真撮影/片山貴博)

『パッシブタウン』は建築後にエネルギー削減目標が実現できているか、住人の住み心地はどうかなどを第三者の専門家が調査する『パッシブタウン性能評価プロジェクト』を実施しているそうです。取材当日も、評価プロジェクト委員会の専門家たちが東京から訪れて、住人と意見交換をしていたようです。

「私は事業主であり、住人であるという両方の立場ですが、いつも委員会に参加して双方の貴重な意見を伺っています」と、吉田さん。

立山連峰を眺めながら、企業として個人として何ができるか考える

『パッシブタウン』のプロジェクトを構想された経緯をお話してくださいました。

「創業当時からYKKの本社は東京でしたが、工場や研究開発を黒部に集約してきました。海外では本社を中心地に置かず、流通面や住環境の良い街を選んできたので、日本の東京一極集中をいろんな意味から回避したいと考えていました」

国が“地方創生”を唱える前から、黒部への本社機能一部移転や街づくりを進めていた吉田さん (写真撮影/片山貴博)

国が“地方創生”を唱える前から、黒部への本社機能一部移転や街づくりを進めていた吉田さん
(写真撮影/片山貴博)

「黒部へ東京から社員が異動して問題だったのは、大きな戸建てはあっても住み慣れた大きさのマンションが無いことだったんですよ。
そんな最中の2011年に東日本大震災が起こり、エネルギー問題に直面したのも当プロジェクトのキッカケ。富山の自然を活用したパッシブデザインにより、エネルギー消費量を抑える住まい方に挑戦しようと思ったのです」

「ここに座って、立山連峰を眺めてるんだ」と、お気に入りの窓際に座らせてくれた(写真撮影/片山貴博)

「ここに座って、立山連峰を眺めてるんだ」と、お気に入りの窓際に座らせてくれた(写真撮影/片山貴博)

バルコニーからも、雄大な山並みが望め、空気も抜群! 手前の3階建がリノベーションの第3期街区K棟、屋上庭園の緑が見える(写真撮影/片山貴博)

バルコニーからも、雄大な山並みが望め、空気も抜群! 手前の3階建がリノベーションの第3期街区K棟、屋上庭園の緑が見える(写真撮影/片山貴博)

それぞれ街区ごとに違う建築家を採用しながら、その知恵を出し合うプロジェクト運営をされていますが、全戸で外断熱システムなどの構造とともに効果を上げるのが、YKK APの樹脂窓『APW』シリーズの高断熱窓。

Low-E複層ガラスに加え、樹脂フレームはアルミ製と比べて断熱性能が高く、冬の結露も心配ない(筆者宅も樹脂フレーム採用!)(写真撮影/片山貴博)

Low-E複層ガラスに加え、樹脂フレームはアルミ製と比べて断熱性能が高く、冬の結露も心配ない(筆者宅も樹脂フレーム採用!)(写真撮影/片山貴博)

高効率全熱交換器の採用など省エネ設備を駆使した電力削減状況が、端末で見ることができると利用者の節電意識も高まる(写真撮影/片山貴博)

高効率全熱交換器の採用など省エネ設備を駆使した電力削減状況が、端末で見ることができると利用者の節電意識も高まる(写真撮影/片山貴博)

「机や椅子、鞄も好きなんだよ」黒部宅ではパーソナルデスクが“男の書斎”

今回は特別に寝室にある、お気に入りデスクまで見せてくださった。

米国人デザイナー、ジョージ・ネルソンのライティング・デスク&チェアー『Swag Leg シリーズ』(ハーマンミラー社)。スーツ&シャツはイタリア製しか着ないのに、アメリカ家具を選ぶところが吉田さんらしい!

「この椅子は、そんなに好きでも無いんだけど。一応、セットだからね」モダンデザインの名作に座り、機能的なパーソナルデスクがコンパクトな書斎(写真撮影/片山貴博)

「この椅子は、そんなに好きでも無いんだけど。一応、セットだからね」モダンデザインの名作に座り、機能的なパーソナルデスクがコンパクトな書斎(写真撮影/片山貴博)

デザイナーやプロダクトのヒストリーが記された『George Nelson』の書籍も(写真撮影/片山貴博)

デザイナーやプロダクトのヒストリーが記された『George Nelson』の書籍も(写真撮影/片山貴博)

デスクのデザイン設計図とともに飾られていた写真は、経済誌の写真展のものと、今年のお正月ご自身で撮られたご夫婦ツーショット。「着物はワイフからのプレゼント」だそう(写真撮影/片山貴博)

デスクのデザイン設計図とともに飾られていた写真は、経済誌の写真展のものと、今年のお正月ご自身で撮られたご夫婦ツーショット。「着物はワイフからのプレゼント」だそう(写真撮影/片山貴博)

金属製の脚を成型する技術“Swag(スウェージ)”が名前の由来。珍しい黒色のデスクが、白い椅子とともに寝室のモノトーンに収まっていた(写真撮影/片山貴博)

金属製の脚を成型する技術“Swag(スウェージ)”が名前の由来。珍しい黒色のデスクが、白い椅子とともに寝室のモノトーンに収まっていた(写真撮影/片山貴博)

『パッシブタウン』での吉田さんの暮らしを垣間見ることができましたが、実は黒部生活の本題はここから!
「黒部でヤギ牧場をやっている」と以前から伺っていて、遂に、その現場へご案内いただくことになりました。

“Think globally, Act locally”を、ここ黒部で実践

「引退しても、何か没頭できる仕事が欲しいと考えていた」ところに、黒部牧場を再生する機会に遭遇したそう。

「富山湾は魚の宝庫、なので山側にも何か観光レジャーになるものがあっても良いと思ってね。チーズが好きなのでヤギ牧場を始めて、黒部で世界に誇れる六次産業をやってみようと思ったわけ」

早速、吉田さんの運転で助手席に乗せていただき牧場へ向かいます。

愛車スバル[フォレスター]雪道もガッツリ走ります!(写真撮影/片山貴博)

愛車スバル[フォレスター]雪道もガッツリ走ります!(写真撮影/片山貴博)

ちなみに、吉田さんは社長・会長時代も役員車を使わずに、東京本社へ神奈川の自宅から1時間半かけて電車通勤。「電車のほうが早いし効率が良い」と。その上、お酒を飲まない吉田さんは「社員に、僕が送るから飲んで良いよって言うんだ」と話します。黒部では本当に社員を送ったりもするそうです。
創業社長の跡取りに育ちながら、分け隔てなく合理的に物事を考える、この姿勢には驚かされます。

20分ほど山に向かって走り、『くろべ牧場 まきばの風』に到着。

富山湾を見下ろす山の斜面に広がる牧場、「向こうが能登半島だよ」(写真撮影/片山貴博)

富山湾を見下ろす山の斜面に広がる牧場、「向こうが能登半島だよ」(写真撮影/片山貴博)

YKKとは全く関係なく、ファミリービジネスとして牧場を一から始めるって……凄い発想。吉田さんは、やっぱりアメリカ的。米国人サラリーマンの夢は、牧場をもつことって良く聞きますから。
「ブラジルの農園は……スイスのバスや鉄道は……ドイツの再生可能エネルギー政策は……」と次々出てくる世界の話は、吉田さんの実体験による生きた知恵。
それを、黒部で活かす。これこそ真の“Think globally, Act locally”

吉田さん直筆の“ゆるい”MAPが微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

吉田さん直筆の“ゆるい”MAPが微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

ヤギ飼育舎の手前にはラベンダーが咲き誇り、いわゆる牧歌的な美しい風景(写真撮影/片山貴博)

ヤギ飼育舎の手前にはラベンダーが咲き誇り、いわゆる牧歌的な美しい風景(写真撮影/片山貴博)

われわれ取材班も長靴に履き替えて、ヤギ牧場見学へ。吉田さんは、赤いMyキャップを被って牧場主に変身!

赤いキャップ、ちょっとトランプ大統領風?(写真撮影/片山貴博)

赤いキャップ、ちょっとトランプ大統領風?(写真撮影/片山貴博)

米国大統領といえば、故ジミー・カーター大統領とは州知事時代からのお付き合い。何と1977年大統領就任式に吉田さんのお父様とお母様は特等席で臨席されたというお話でした。

ヤギは100頭から200頭。生まれては育て、ほかへ譲ったりもしながら徐々に増やしてきたそうです。

ヤギは好奇心旺盛で直ぐに寄ってくる。筆者の指を吸う、子ヤギ。カワイイ!(写真撮影/片山貴博)

ヤギは好奇心旺盛で直ぐに寄ってくる。筆者の指を吸う、子ヤギ。カワイイ!(写真撮影/片山貴博)

富山湾から吹くミネラルたっぷりの風を受けた草を食べ、黒部の美味しい水を飲み健康に育つ子ヤギたち(写真撮影/片山貴博)

富山湾から吹くミネラルたっぷりの風を受けた草を食べ、黒部の美味しい水を飲み健康に育つ子ヤギたち(写真撮影/片山貴博)

「失敗しても成功せよ」『善の巡環』がここにも

ヤギ牧場に似つかわしくないモダンな建物、これは吉田さんと旧知であるイタリア・建築デザイン界の巨匠、マンジャロッティ事務所が設計したレセプションハウス。

レセプションハウス「La Capra」。マンジャロッティ氏は約30年前に東京事務所を設立、2012年に死去(写真提供/マンジャロッティ事務所)

レセプションハウス「La Capra」。マンジャロッティ氏は約30年前に東京事務所を設立、2012年に死去(写真提供/マンジャロッティ事務所)

ヴェネチアンガラスのモダンなシャンデリア「ジョガリ」、テーブル・棚「カヴァレット」と椅子「トレトレ」も全てマンジャロッティによるデザイン(写真撮影/片山貴博)

ヴェネチアンガラスのモダンなシャンデリア「ジョガリ」、テーブル・棚「カヴァレット」と椅子「トレトレ」も全てマンジャロッティによるデザイン(写真撮影/片山貴博)

レセプションハウスの中には、イタリアのチーズ・コンテストで受賞した証明書なども飾られています。

「チーズづくりは試行錯誤、イタリアのチーズ職人の師匠を得てからも5年間ほど格闘しました」(写真撮影/片山貴博)

「チーズづくりは試行錯誤、イタリアのチーズ職人の師匠を得てからも5年間ほど格闘しました」(写真撮影/片山貴博)

『失敗しても成功せよ』と言うYKK創業者である父上、吉田忠雄氏の言葉。
やってみて、失敗しないと成功への道は開けない。そして、やるからには成功させるのだという意志が、このヤギ牧場やチーズづくりにもつながっていると感じました。

“マーケティングの父”と称される、コトラー教授の愛弟子でもある吉田さん。チーズづくりや牧場経営にも、その手腕が発揮されている!?(写真撮影/片山貴博)

“マーケティングの父”と称される、コトラー教授の愛弟子でもある吉田さん。チーズづくりや牧場経営にも、その手腕が発揮されている!?(写真撮影/片山貴博)

富山湾の深層水から採った塩が熟成させた、素晴らしいチーズをいただきました。リコッタ(写真:右上)が、絶品!『カプリーノ』のしょうゆ味(写真:右下)は日本酒にも合いそう(写真撮影/片山貴博)

富山湾の深層水から採った塩が熟成させた、素晴らしいチーズをいただきました。リコッタ(写真:右上)が、絶品!『カプリーノ』のしょうゆ味(写真:右下)は日本酒にも合いそう(写真撮影/片山貴博)

会長引退後の吉田さんは、新たにベンチャー企業の事業家として生き生きと輝いていました。

「あいの風」を感じながら、黒部から地方創生の夢を語ってくださる吉田さん。日本海・富山湾を背景に、牧場のベンチにて(写真撮影/片山貴博)

「あいの風」を感じながら、黒部から地方創生の夢を語ってくださる吉田さん。日本海・富山湾を背景に、牧場のベンチにて(写真撮影/片山貴博)

「シンプルに、『ここに住んでみたい!』と思う魅力的な街にする事が、地方創生なのだと思ってる。仕事があれば、若い人も富山に住みたいと思うはず。だから、次の事業ももう考えているよ!」と、悪巧みをするように微笑む吉田さん。

自分が熱中できる事業を富山に起業し、人を呼び、地域を元気にする『善の巡環』を率先する姿は、日本の経営者たちも憧れる70代の姿ではないでしょうか。

吉田忠裕
YKK/YKK AP取締役(前会長CEO)。1947年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、米国のノースウエスタン大学経営大学院(ケロッグ)修了、“マーケティングの父”と称されるF・コトラー教授に学ぶ(後に、大学院のアドバイザリーボードのメンバーに)。1972年父、吉田忠雄創業のYKK入社(旧吉田興業)。1990年YKK AP/1993年YKK社長、2011年両社会長CEO歴任後、2018年6月退任。
2017年、永年にわたる企業活動を通じての建築文化への貢献により日本建築学会文化賞を受賞。
【YKK】ホームページ
【YKK AP】ホームページ
【PASSIVETOWN】ホームページ
【ヤギチーズ専門「Y&Co」】ホームページ

最近よく耳にする「リースバック」って、どんな仕組み?どんなメリットがある?

住んでいる家を活用して現金を得る手段として、最近よく耳にするのが「リースバック」だ。「ハウス・リースバック」というサービスを展開している(株)ハウスドゥでは、9000件を超えるほど年間の問い合わせが増加したという。いったいどんな仕組みなのだろうか?【今週の住活トピック】
「ハウス・リースバック 年間問い合わせ件数9,000件突破!」 /(株)ハウスドゥリースバックってどんなもの?

一般的に「リースバック」とは、正式には“sale and leaseback”、つまり賃貸借契約付き売却のことをいう。
ここでいうリースバックとは、自宅などの所有不動産を第三者(投資家や不動産会社など)に売却し、売却先と賃貸借契約を結んで、元の所有者がそのまま住み続けるという仕組みだ。

この仕組みが実現する前提となるのは、購入した新たな所有者となる売却先と、元の所有者がお互いを信頼したうえで契約を交わすことだ。そうでないと、新たな所有者が立ち退きを求めたために住み続けられないとか、新たな所有者が別の第三者に転売してしまうということも起こり得るからだ。

こうしたリースバックサービスを(株)ハウスドゥでは2013年10月から開始しているが、リースバックへの年間(いずれも前年7月~6月の一年間)問い合わせ件数は、2016年の3384件、2017年の6907件と増加し続け、2018年には9000件を超えたという。

同社のサービスは、同社自身が不動産を購入して、大家となってあらかじめ決めた期間で元の所有者に賃貸(リース)するという仕組みだ。後から元の所有者が再度購入することも可能にしていて、契約の際にも再購入時の買い取り額をあらかじめ明示しているという。

「ハウス・リースバック」の仕組み(株ハウスドゥ提供)

「ハウス・リースバック」の仕組み(株ハウスドゥ提供)

リースバックのメリット・デメリットは?

一般的な「リースバック」のメリットとデメリットについて考えてみよう。
〇メリット
・売却によって、まとまった現金を手にできる。
・売却後も慣れ親しんだ自宅にそのまま住み続けられる。
・広く販売活動をすることがないので、売却したことを近隣に知られない。
〇デメリット
・所有ではなく賃貸となるので、賃料を払うなどルールを守る必要がある。
・終身住み続けたり、必ず買い戻せることが保証されているわけではない。

もちろん、契約で合意した期間中ずっと賃料を払い続けられる安定した収入があること、住宅ローンが残っている場合は金融機関の抵当権がはずせるように売却代金がローンの残高を上回ることなど、利用するには一定の条件が求められる。

また、リースバックで重要な役割を果たすのが、新たな所有者だ。当然ながら新たな所有者に利益が生じないと、この仕組みは成立しない。投資額(購入額)に対して、それを超える賃料が入ったり、賃貸借契約終了後に転売して利益が出たりすることが求められる。

そのため、リースバックの場合は、「普通に売るよりは売却額は低い」とか、「普通に借りるよりは賃料は高い」とか、「買い戻し額は売却額より高い」といった可能性もある。

したがって、「だれもが簡単に住みながら現金を手にできる」方法とは思わないほうがよいだろう。

リバースモーゲージとはどう違う?どんな人に向いている?

住みながらまとまった現金を手にできる方法として「リバースモーゲージ」という手法もある。

リバースモーゲージについては筆者も何度か記事にしているが、こちらは自宅を担保にお金を借りることで現金を手にする仕組みだ。したがって、「所有権を持ち続ける」、「借りたお金を返済していく」という点が根本的に異なる。

→リバースモーゲージについては筆者の記事「住みながら自宅を現金にする方法がある!?“リバースモーゲージ”の利用件数が増加」「住み続けながら家を現金化できる“リバースモーゲージ”。老後の資産活用の選択肢になる?」を参照

またリバースモーゲージは、死亡などによって契約が終了した時に相続人が売却するなどでローンを一括返済する仕組みなので、60歳以上などシニア層に限定して自宅を現金化するために利用されることが多い。

一方、リースバックのほうは、売却してしまうので自分のものではなくなるが、再度購入することで買い戻せる可能性はある。年齢制限なども特にないことから、例えば、次のような人に向いていると考えられる。

・学区の関係など一定期間自宅に住み続ける理由はあるが、今まとまった現金が必要な人(定めた期間を過ぎたら住み替える)
・一定期間後に確実にまとまった現金が手に入るが、今は必要な現金が手元にない人(まとまった現金が入った段階で買い戻す)

覚えておいてほしいことは、住み続けられると言っても「定期借家」による賃貸借契約になるので、定めた期間が来たら賃貸借契約は終了するのが原則だ。契約終了時に定期借家を再契約することは可能なので、希望する期間だけ再契約を繰り返すことで住み続けられる場合もあるが、どこかの段階で転居する計画でいたほうがよいだろう。

自宅に住み続けながら、「売却によって現金化」するリースバックも、「担保にしてお金を借りて現金化」するリバースモーゲージも、取り扱う機関もまだ少ない。サービスの内容もそれぞれで異なるため、利用する際には契約条件などを細かく調べる必要がある。

自宅を活用して現金化する必要がある場合には、その方法を幅広く検討してほしいが、選択肢の一つとしてこうしたサービスがあることも覚えておくとよいだろう。

〇SUUMOジャーナル関連サイト
住みながら自宅を現金にする方法がある!? 「リバースモーゲージ」の利用件数が増加
住み続けながら家を現金化できる“リバースモーゲージ”。老後の資産活用の選択肢になる?

「ドラマ『花のち晴れ』の部屋づくり」「BEAMS流インテリア」【6月人気記事まとめ】

梅雨が明け、ギラギラと日差しが照りつく毎日。いよいよ夏が到来しましたね。さて、SUUMOジャーナルで6月に公開した記事では、「ドラマ『花のち晴れ』の部屋づくり」や「レトロな文化住宅」「BEAMS流インテリア」など、スタイルが確立された暮らしにかかわる記事がランクインしました。TOP10記事を詳しくご紹介します。
6月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

第1位:人気ドラマ『花のち晴れ』美術担当に聞く!「セレブ」と「庶民」の部屋はココが違う
第2位:現代の“モダンガール”と“モダンボーイ”が建てた、大正末期~昭和初期の薫り漂う文化住宅 テーマのある暮らし[4]
第3位:収納家具なし! 見せ方・隠し方に技アリのオープン大空間【BEAMS流インテリア(1)】
第4位:【ファミリー編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング
第5位:関西住みたい沿線3位の「JR東海道本線」、家賃相場が安い駅トップ20を発表!【沿線調査 関西版】
第6位:「リフォーム」理由に変化の兆し?「長持ちさせるため」「よい住宅にする」が上昇
第7位:「結局、住宅ローンは年収の何倍まで組めますか?」 住まいのホンネQ&A(6)
第8位:弾かないけど捨てられない! 使わなくなった“物置ピアノ”、よみがえらせるには?
第9位:【漫画】第1回「理事長って何するの…?」入居1年目でマンション管理組合の理事長になってしまった件
第10位:赤羽VS川口、葛西VS浦安 川を越えると家賃は下がる? 東京の端VSとなり街を調査してみた
※対象記事:2018年6月1日~2018年6月30日までに公開された記事
※集計期間:2018年6月1日~2018年6月30日のPV数の多い順

「『花のち晴れ』美術スタッフインタビュー」「文化住宅レポート」などがランクイン

第1位:人気ドラマ『花のち晴れ』美術担当に聞く!「セレブ」と「庶民」の部屋はココが違う

(画像提供/TBS)

(画像提供/TBS)

放送後はSNSのトレンド入りをするなど話題をさらったTBSドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』。セレブな高校生たちの恋模様は多くの視聴者を胸キュンさせました。物語を盛り上げた舞台のひとつが、主人公・音(おと)と晴(ハルト)の部屋。彼女たちの心の変化を散りばめたという部屋づくりのこだわりとは?

第2位:現代の“モダンガール”と“モダンボーイ”が建てた、大正末期~昭和初期の薫り漂う文化住宅 テーマのある暮らし[4]

(写真撮影/内海明啓)

(写真撮影/内海明啓)

1920~30年代に流行した「文化住宅」を建てたご夫婦のお宅にお邪魔しました。伝統的な素材と工法にこだわり尽くしたエクステリアから内部まで、いたるところに当時のライフスタイルを取り入れた、個性的な暮らしぶりをご紹介します。

第3位:収納家具なし! 見せ方・隠し方に技アリのオープン大空間【BEAMS流インテリア(1)】

(写真撮影/飯田照明)

(写真撮影/飯田照明)

センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)スタッフのご自宅に訪問する連載です。第1回は、はじめての出産を控えたご夫婦が住む、コンクリートむきだしの大空間を活かしてリノベーションされたマンション。照明や椅子など、インテリアひとつひとつにストーリーがあるものを選び抜いた、アイデアいっぱいの空間でした。

第4位:【ファミリー編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

立地は住まい選びの重要なポイントのひとつ。そこで、新宿駅までのアクセスが良い駅で、実際の相場を調査。シングル編、DINKS編に続き、今回はファミリー向けの中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介します。

第5位:関西住みたい沿線3位の「JR東海道本線」、家賃相場が安い駅トップ20を発表!【沿線調査 関西版】

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」で住みたい沿線ランキングで3位に選ばれたのは、JR東海道本線。その理由は、子育てにも最適な自然豊かな環境と都市圏へのアクセスの良さ。駅別の特徴も細かくご紹介します。あなたはどの駅に魅力を感じますか?

「リフォーム最新事情」「住宅ローンの目安」などの記事が人気

第6位:「リフォーム」理由に変化の兆し?「長持ちさせるため」「よい住宅にする」が上昇

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

住宅をリフォームする理由に新しい兆しがあるようです。リノベーションやDIYなど、住宅のあり方の選択肢が増えてきた今ならではの素敵な考えですね。

第7位:「結局、住宅ローンは年収の何倍まで組めますか?」 住まいのホンネQ&A(6)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

誰もが知りたい住宅に関するさまざまなQ&Aについて、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答してもらう「住まいのホンネQ&A」の第6回がランクイン。住宅購入には必ずついてまわる住宅ローン。住宅ローンはいったい年収の何倍まで組めるのか? 頭金は? ……etc. 悩みは尽きない住宅ローンについてお答えします。いったい、どんな考え方をしたらよいのでしょうか。

第8位:弾かないけど捨てられない! 使わなくなった“物置ピアノ”、よみがえらせるには?

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

ピアノはいつの時代も人気の習い事のひとつ。思い切って購入したものの、置きっぱなし……という状況に陥っているご家庭も少なくないのでは。そんなピアノを活かすインテリア配置や、ピアノに色を塗ったりしてインテリアとして生き返らせる「デザインピアノ」という考え方をご紹介します。

第9位:【漫画】第1回「理事長って何するの…?」入居1年目でマンション管理組合の理事長になってしまった件

(画像提供/アトリエブックス岡本圭一郎)

(画像提供/アトリエブックス岡本圭一郎)

街中にある無数のマンションひとつひとつに、こんなドラマがあるかもしれない……。将来のマンションの資産価値を左右する要因のひとつ「管理」は、どんな風に行われているのでしょうか? 新築で入居したマンションの管理組合の理事長になってしまった白川丈馬の奮闘記を4回シリーズのマンガでお届けする第1回目の記事です。

第10位:赤羽VS川口、葛西VS浦安 川を越えると家賃は下がる? 東京の端VSとなり街を調査してみた

(画像/やじろべえ[写真:photoAC])

(画像/やじろべえ[写真:photoAC])

人気ゆえ家賃が高い、東京。しかしその“となり街”は? 都心の利便性を享受しつつ、県境を一歩越えるだけでどのくらい家賃が安くなるのでしょうか。東京の端っこに位置する街とそのとなり街を実際に歩き、両街の「生活環境」を比較してみました。

定番人気の沿線・駅の家賃相場比較の記事のほか、「ドラマ『花のち晴れ』の部屋」や「文化住宅」「BEAMS流インテリア」など、6月は「スタイルが確立された暮らし」の記事が多くランクインしました。立地や環境も重要ですが、自分らしく、好きなものに囲まれて暮らすことも住まいの醍醐味(だいごみ)ですよね。
暑い日は家のなかで過ごすことも増えそうです。素敵な暮らしを、充実したインドアライフの参考にしてみてはいかがでしょうか。

「ワークライフバランスを支える住まい」が、今後の住宅のキーワードになる!?

公表された「平成29年度国土交通白書」によると、20~30代の子育て世代を中心に「ワークライフバランス」を支える住まいに対するニーズが高いことが分かった。今後の住まい選びのキーワードになりそうな「ワークライフバランスを支える住まい」とは、どういったものだろうか、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「平成29年度国土交通白書」を公表/国土交通省ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和?

「ワークライフバランス」とは何か?

これは政府の働き方改革の中で使われるようになった言葉で、直訳すると「仕事と生活の調和」ということになる。

そこで筆者は、内閣府の「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を見てみたが、正直言って概念的すぎてよく分からなかった。

「仕事と、子育てや介護といった生活との両立が難しい」「安定した仕事に就けない、一方で、長時間労働を強いられる」といった現実があり、多様な働き方や生き方が可能な社会にする必要がある。ということが語られているが、労働環境についてが主で、住まいや地域に関する具体的な言及はなかった。

職育近接、職住近接、三世代同居などがキーワード

そこで、白書ではどういった調査結果を基に、「ワークライフバランスを支える住まい」というキーワードを導き出したのか、見ていくことにしたい。

まず、ワークライフバランスについて、白書の第2章「第1節働き方に対する意識と求められるすがた」を見ていこう。
「働く上で重視すること」を聞いた調査結果(図表2-1-5)によると、20代~70代までの年代によりバラツキはあるものの「給与・賃金」や「仕事のやりがい」が多数を占める。ただし、20代・30代に注目すると「ワークライフバランス(子育て・介護などとの両立)」の重視度が高くなる。

「働けるうちはできるだけ働きたい」というニーズが高いこともあって、20代・30代には、長く仕事を続けながらも、家事・育児などのための時間を確保できる「ワークライフバランス」の実現へのニーズがある。このことから、白書では「在宅勤務」などの勤務場所の多様化や、「フレックスタイム制」などの労働時間の多様化といった、場所や時間に制約の少ない働き方に対する取り組みが求められていると指摘している。

働く上で重視すること(年代別)(出典/「平成29年度国土交通白書」)

働く上で重視すること(年代別)(出典/「平成29年度国土交通白書」)

次に、白書の第2章「第3節住まい方に対する意識と求められるすがた」を見ると、各世代に「今後求められる住まい方」を聞いた調査結果(図表2-3-4)がある。最も多い回答は、全世代で「介護が必要になっても年金の範囲内で安心して暮らし続けられる住まいの整備」で、次いで年代を問わず「親世帯、子ども世帯との同居や近居の推進」が多いという結果だった。

一方で、20代・30代の若年層に注目してみると、「職場内や近隣への子育て支援施設整備による職育近接の推進」という回答がともに多く、20代では「田舎暮らしなど地方移住の推進」も多いという結果だった。

今後求められる住まい方(年代別)(出典/「平成29年度国土交通白書」)

今後求められる住まい方(年代別)(出典/「平成29年度国土交通白書」)

こうした結果を受けて、国土交通省では、「職育近接、職住近接、三世代同居の推進等、ワークライフバランスを支える住まい方の支援が求められる」と見ているわけだ。

働き方が変われば住まい選びの基準も変わる?

図表2-1-5の「働く上で重視すること」の調査結果を見ると、「勤務地・勤務場所までの距離」の重視度は必ずしも高いわけではない。一方、図表2-3-4の「今後求められる住まい方」の結果では、20代・30代が「職場内や近隣への子育て支援施設整備による職育近接」を重視している。

つまり、自宅と職場の距離の近さよりも、例えば企業内保育所や駅前保育所のような通勤上で立ち寄れる、あるいは自宅に近いといった子育て支援施設を求めていることが分かる。

また、「親世帯との同居や近居」を望むのは、20代・30代は子育てのサポートを親世帯に期待して、50代・60代では親の介護を視野に、70代では自身の介護を考えているからだろう。

となると、子育ての時間が欲しい20代・30代、仕事の責任が重くなる40代、親の介護が視野に入る50代以降などではワークライフバランスの考え方も変わってくるわけで、「状況に応じて住み替えしやすい住宅市場」ということも求められているのだろう。

白書では「新たな兆し」の一例として「ワーケーション」を挙げている。国内外のリゾート地や帰省先など休暇中の旅先で仕事をする“テレワーク”のことだという。

今後働き方改革が進み、子どものお迎えの前後に自宅で在宅勤務をしたり、旅先の田舎などでも勤務できるようになると、住まい選びの基準もどんどん変わっていくことだろう。

4人家族で50平米台? ワールドカップ開催地ロシアの住宅事情

サッカーのワールドカップ開催で盛り上がるロシア。テレビでも連日報道されていますね。街中のインタビューをみると、街並みがきれいだなとか、ロシアの住まいってどんな感じなんだろう? 広いのかな? 共産圏だったから何か違うのかな? などいろいろ気になりますよね。というわけで、ロシアの住宅事情を調べてみました。
ロシアの家は4人家族で50平米台。なぜ狭い?

まずロシアといえば「広い」という印象ですよね。そう、世界で一番広い国は、ロシアです。 面積は1710万平方km、日本の約45倍の広さがあります。これだけ国土が広かったら家も広いのだろう、軽井沢みたいな広大な敷地の木立の隙間から一軒家が見える、そんなイメージかと想像していました。ところが、そんなことはないようです。都市部は基本的に集合住宅、そして面積は家族4人の住まいで50平米台が主流だとか。意外に狭いのです。

どうしてなのでしょうか?

話は旧ソ連時代にさかのぼります。当時は国が無償で国民に住居を提供していました。共産圏の国だったので「公平性」を重んじます。また「効率性」も重んじます。その結果、効率よく暮らせる集合住宅で、最低限の生活ができる広さということでこの形になったのだとか。

また暖房とお湯も関係しています。ロシアの冬はとても寒いので、各住戸にお湯や暖房をひく必要があります。このときに広大な敷地の一戸建てにそれぞれお湯やガスの配管を回すのは非効率です。日本でも空き家が増えてこのインフラの維持が問題になっています。だからロシアでの原則は「都市部に集まって暮らす」という形になっているようです。

百聞は一見に如かず――ということでさっそく家庭訪問してみました。訪問した街は、サッカーワールドカップ日本代表のキャンプ地、カザンです。

1970年代~1980年代の日本の団地を彷彿(ほうふつ)とさせる。どの集合住宅も戸数が多い(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

1970年代~1980年代の日本の団地を彷彿(ほうふつ)とさせる。どの集合住宅も戸数が多い(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さて、到着してまず感じたのは、規模の大きさ。正確な戸数は聞きそびれてしまいましたが、イメージはURの高島平団地です(東京都板橋区にあるUR団地、総戸数は約8000戸)。さっそく部屋に案内してもらいます。あれ? 玄関ドアが2枚ある? さすが寒い国ロシア、玄関ドアは2枚仕立てが多いようです。そしてバルコニーも日本とは趣が異なります。サンルーム仕様になって窓が付いているのです。日本でも日本海側の家にはこのサンルームが多いと聞きます。

写真左:2枚ある玄関ドア 写真右:窓付きのバルコニー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

写真左:2枚ある玄関ドア 写真右:窓付きのバルコニー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして室内に。通されたのはダイニング・キッチン。決して広くはないのですが、日本よりも暖かい感じがします。なぜそう感じるのかといえばそれは壁紙とファブリックでした。他の居室もそうですが、白い壁がひとつもありません。部屋ごとに好みの壁紙が張られ、テーブルにはクロスが掛けられています。

キレイな柄に包まれたダイニング・キッチン(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

キレイな柄に包まれたダイニング・キッチン(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

この壁紙はこの家の妻が張ったそうです。ロシアでは壁紙は自分で張るのがフツーだそうです。ある意味料理をつくるのと同じ感覚だとか。平均月収が7万円(ホワイトカラーエリートでその倍)で家賃と光熱費で3万円くらい。支出に占める住居費比率は高い。だから内装などは自分たちでやるというのもありそうです。キッチンは入居時に自分で設置することも多いそう。天井や床や壁も未仕上げが普通。天井壁床で40万円くらい払うと仕上げてくれますが自分でやる人も多いのだとか。

これは別の部屋を訪問したときの写真ですが、全部自分でつくったのよと誇らしげに教えてくれました。ちなみにこの部屋の住人はシングル女性です。すごい。

シングル女性が造作したバスルーム。日本の銭湯のようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

シングル女性が造作したバスルーム。日本の銭湯のようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「こっちも見て! 狭いから天井吊りの収納つくったのよ」「次は貯めたお金で古くなった窓を断熱性の高いものに変えるのよ」と次から次へとやりたいことがあるそう(日本の集合住宅と違い窓も玄関ドアも個人の判断で変えてOK)。日本でもDIYが流行っていますが、ここはレベルが違います。住んでから少しずつ暮らしをよくしていくことは、ここロシアでは当たり前のようです。

次の2枚の写真は少し郊外にある一戸建ての子ども部屋。どちらの部屋も個性的な壁紙が張られ、ファブリックも装飾品もかわいい。日本のマンションモデルルームのようです。

カザン市郊外にある一戸建ての子ども部屋。モデルルームではありません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

カザン市郊外にある一戸建ての子ども部屋。モデルルームではありません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ロシアの一戸建て事情はどうなっているの?

ロシアは市内中心部が都市計画上、ほぼ集合住宅しか建てられません。しかも広さは40~60平米と狭い。やはりこの生活にストレスを感じる人もいるようです。またカザンのようにやや裕福な層が出始めている都市では、郊外の戸建住宅を買い始める動きも出てきています。そう、公団住宅が羨望のまなざしだった時代から、郊外の一戸建てへあこがれがシフトした日本の30~40年前と似たような状況です。

そんなロシアでの一戸建てはどんなものかというと……写真(下)のようなレンガの家です。子どものころに読んだ『3匹の子ぶた』にに出てくるあのレンガの家です。

ロシアの一戸建てはレンガブロックを積んだものが多い(写真撮影/IIDA SANGYO RUS)

ロシアの一戸建てはレンガブロックを積んだものが多い(写真撮影/IIDA SANGYO RUS)

ロシアの一戸建てにはいくつか課題があるそうです。おもなものを4つほど挙げます。
ひとつは施工精度。未仕上げで引き渡す文化があることも影響してか、大工さんの仕上げの精度が日本と全然違うそうです。大げさな比喩になりますが、日本はミリ単位の仕上げ水準ですが、ロシアはセンチ単位くらいの差があるとか。

もうひとつはその構造と断熱。レンガ造りが標準で、これだけ寒いのに断熱材が使われていません! 推定50cm以上ある分厚いレンガが断熱材になってます。見た目は頑丈ですが壁の断熱は課題があります。

そして3つ目は引き渡しの水準。キッチン、バス、トイレ、内装仕上げは含みません。内装はホームセンターで買ってきて自分で取り付ける、あるいはそれをプロに別で依頼する方法が一般的。ただ、ロシアでも日本でいうパワーカップル(共働き夫婦で二人とも高収入)が登場してきており、この若い世代からすると、ある程度内装仕上げもお任せしたいというニーズも出てきているとか。

4つ目として品質保証がないこと。日本では住宅品質確保促進法(品確法)というのがあって、第三者の専門機関が住宅の性能を評価し、購入者に分かりやすく表示したり、、引き渡し後10年以内に瑕疵が見つかった場合は、売主が無償補修などをしなくてはならないという制度がありますが、それがロシアにはありません。

ロシアに一戸建て住宅の日本代表が進出!?

さて、そのロシアに、日本の住宅会社、飯田グル―プホールディングスが進出します。日本の分譲一戸建ての3割のシェアをもつ一戸建て業界の日本代表です。

先に書いたように(1)レンガ造り (2)造りがやや雑 (3)未仕上げ引き渡し (4)品質保証がない というロシアの一戸建ての課題に対し、(1)日本の木質在来工法 (2)日本品質 (3)内装仕上げ済み  (4)第三者評価をつける というチャレンジです。その最初の家、モデルハウスが完成し、事業の正式なオープニングセレモニーが開催されました。

写真左:当日のレセプションでは日本式で鏡割りが行われた  写真右:第一号物件を購入されたミハイルさん(写真/IIDA SANGYO RUS)

写真左:当日のレセプションでは日本式で鏡割りが行われた  写真右:第一号物件を購入されたミハイルさん(写真/IIDA SANGYO RUS)

本来はモデルルームとして使いたかったのに、「ぜひ売ってほしい」という方が現れて、既に契約もしたとのこと。この住宅は構造材のみシベリア鉄道で運び、残りの資材は現地調達(将来は現地での建材生産も見込む)。日本の大工がロシア大工を指導しながらつくった家。第三者の専門機関による住宅の性能評価も付いてます。

第一号物件の外観と内装。見た目は日本のものと似ているが、トリプルガラスのサッシなど完全に現地仕様(写真提供/IIDA SANGYO RUS)

第一号物件の外観と内装。見た目は日本のものと似ているが、トリプルガラスのサッシなど完全に現地仕様(写真提供/IIDA SANGYO RUS)

感銘を受けたのは「MADE WITH JAPAN」という思想。これは“MADE IN JAPAN=日本製”とは少しニュアンスが違います。木造在来工法や建築の仕上げ精度、建物に第三者評価を付けるなどは日本のものを導入するのですが、あくまでも仕組みや技術をもっていくだけ。WITHとは一緒にやっていきましょう、現地の資材を使って、現地の大工さん、現地の販売員のみなさんと一緒にいうことなんです。なんだかすてきではありませんか。

もう少し細かくみてみましょう。木材は、森林大国であるロシアの地域木材を活用します。その木材を精度高く施工するために日本のプレカット技術を導入します。プレカットとは、設計図に基づいて建材を工場でカットしてから現地に運び大工は現場では組み立てるだけにする仕組みのことで、これにより工期を短縮し、現場での施工の精度向上もできるというものです。同社が長年磨き続けてきた技術・ノウハウを惜しみなく現地のプレカット工場、マシンに注ぎ込んでいます。

さらに飯田産業のエース大工である上杉学氏をロシアに駐在させ、日本並みの施工精度を実現する現場施工技術をロシアの大工に教えています。日本の木造建築技術・ジャパンウッド・テクノロジーを駆使して、ロシアの一戸建て品質を上げ、日本と同じくローコストで提供します。そしてなるべくそのお金がロシア内部に落ちるように現地生産・現地雇用にもこだわっているのです。

写真左:ロシアの大工に技術を教える上杉氏 写真右:ロシアのプレカット工場。日本式に細かくチューニング・教育を行った(写真提供:IIDA SANGYO RUS)

写真左:ロシアの大工に技術を教える上杉氏 写真右:ロシアのプレカット工場。日本式に細かくチューニング・教育を行った(写真提供:IIDA SANGYO RUS)

「MADA WITH JAPAN」は売り方にも反映。ロシア事業の実行責任者である大河龍也氏は「ご案内の仕方、接客の仕方もおもてなしの心で日本流にこだわりたい」と、接客も日本水準にしようと現地の従業員に発破をかけています。

「誰もが当たり前に一戸建てが買える社会にしたい」を掲げる同社、そのビジョン実現に向けて挑む壮大なチャレンジがFIFAワールドカップの日本のキャンプ地カザンで始まったことに、なんだか奇遇で運命的なものを感じます。

●取材協力
飯田グループホールディングス

宅配物の増加と再配達問題に対応。タワーマンション内に「物流センター」を導入

トイレットペーパーのような日用品や食品まで、ネットショッピングで購入するのが珍しくなくなった昨今、宅配物の増加とそれに伴う再配達が社会問題として知られるようになりました。特に多くの世帯が暮らすタワーマンションでは、大規模マンションならではの課題があるようです。そこで、現在の課題を宅配事業者に取材。さらに一部のマンション内に「宅配スタッフが常駐する物流センター」をつくる取り組みや今後の動きについて、三井不動産レジデンシャル 開発室の大熊さんに話を伺いました。
宅配物の増加が住民や宅配事業者、管理面の負担に

このところ関心を集めている宅配物の増加とそれに伴う再配達問題ですが、大規模マンション、特に住民が多いタワーマンションなどでは、以下のようなストレスがあるといわれています。

(1)インターホンが鳴ってから住戸に届くまでに時間がかかる
(2)宅配ボックスが埋まっていて受け取れないことがある
(3)宅配ボックスから自宅まで荷物を持ち運ぶのがおっくう

特に(1)の住戸に届くまでに時間がかかる、については配達先の住戸数が多いと宅配事業者がエントランスのインターホンから各住戸に連絡をしてから、実際に配送されるまで数十分かかることもあり、その間に住民が外出してしまい、再配達になるというケースもあるといいます。

従来のインターホンの呼び出しから荷物が配達されるまで(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

従来のインターホンの呼び出しから荷物が配達されるまで(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

また、宅配事業者で現場スタッフとして働く方に大規模マンションでの配達の宅配事業者としての悩みを聞いてみたところ、複数の宅配事業者同士で宅配タイミングが重なると、トラックの駐車場所を確保するのが難しいほか、運ぶ荷物の個数が多く、午前・午後・夕方・夜間と一日のうちに何度も訪問する必要性から、スタッフを重点的に配置しているとあかしてくれました。

さらに、宅配事業者が駐車場や、エレベーター、エントランスのインターホンを長時間使用することは共用部の清掃などを担う管理会社の業務に影響する懸念がありそうです。

住民、宅配事業者、管理側から見た「宅配物増加と再配達問題のストレス」。大規模物件ならではの悩みだ(住民、宅配事業者の取材をもとに筆者作成)

住民、宅配事業者、管理側から見た「宅配物増加と再配達問題のストレス」。大規模物件ならではの悩みだ(住民、宅配事業者の取材をもとに筆者作成)

とはいえ、共働き世帯が増え、在宅時間が減るなかで宅配ニーズは高まるばかり。そこで、これらの問題を解決すべく、いっそのこと「物流センター」をマンション内につくってしまおう、という動きがでてきたのです。

今回、マンション内に物流センターを設ける予定となっているのは、現在建設中で2020年に竣工予定のタワーマンション「ザ・タワー横浜北仲」です。では、なぜここまで注力するのでしょうか。

「三井不動産レジデンシャルではこれまでも武蔵小杉等のタワーマンション内にも物流センターを設けて、宅配物をよりスムーズに受け取れるよう、取り組んできました。これはネットショッピングの普及などにより宅配物が増加していることを考慮してのことです。

今回、物流センターに加えて、宅配スタッフの携帯電話から各住戸内インターホンに連絡できるシステムなどを導入し、より配達効率を上げようという試みを始めました」と話すのは、三井不動産レジデンシャル横浜支店開発室の大熊麻祐子さん。

物流センターには宅配スタッフが常駐。インターホンと宅配ボックスも改良

では、具体的にはどのようなシステムになるのでしょうか。

「3つの施策を考えております。まず1つ目はマンションの共有部に物流センターを設け、そこに宅配スタッフが常駐します。複数の宅配事業者から荷物をいったん預かり、まとめて各住戸に配達します」(同)

住民からみると、宅配事業者に関係なく、複数の荷物が一度に受け取れるのはうれしいところでしょう。いつも同じスタッフが届けてくれるので安心感もあり、エレベーターの混雑緩和にもつながるはずです。一方で宅配事業者からみれば、マンション内の物流センターに荷物を届けるだけでよいので、住戸ごとに配達する必要がなくなり、大幅に効率化ができます。

物流センターと配達までのイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

物流センターと配達までのイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

今のところ常駐の宅配スタッフは、日中に配置され、およそ2~4名程度で運用する予定だといいます。

2つ目の施策は、マンション内物流センターに常駐している宅配スタッフの携帯電話から直接住戸内のインターホンに連絡ができるシステムを構築したこと。携帯電話から直接、在宅確認ができるようになるので、「インターホンを鳴らしてから自宅到着までタイムラグがある」「宅配事業者がエントランスのインターホンを長時間使い続けている」ということもなくなりそうです。

インターホンシステム改良後のイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

インターホンシステム改良後のイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

3つ目は、同じ届け先であれば同一の宅配ボックスに、追加で荷物を預け入れられるようにしました。これにより「一つの住戸が複数の宅配ボックスを占有する」「宅配ボックスが足りなくなる」ということも少なくなり、宅配ボックスに余裕が生まれるため、それだけ多くの住民が荷物を受け取りやすくなります。

宅配ボックス追加預け入れのイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

宅配ボックス追加預け入れのイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

物流センターの運営費は一部を管理費から捻出。他の大規模物件での展開も

気になる物流センターの場所は地下1階にあり、倉庫と事務所の機能を備えた空間になるといいます。また、費用ですが、一部を管理費からまかない、運営するといいます。

今回の物流センターは、1200戸弱の大規模なタワーマンションだからこそできたともいえます。今後の展開はどうなるのでしょうか。
「今後も、大規模物件に、物流センターを設ける可能性は出てくると思います。またインターホンシステム・宅配ボックスは、物流センターとは別に物件ごとに採用できるので徐々に増えていくかもしれません」とのこと。

ネットショッピングの拡大によって、課題となっていた宅配物の増加と再配達問題。これを宅配事業者の問題と見るのではなく、デベロッパーはもちろん宅配ボックスメーカーなど複数社が現在のシステムを見直すことで、住民と宅配事業者、管理会社、みなが助かる仕組みに変えていけるのだなと思いました。こうした地道な取り組みや改善こそが、実は「住み心地」に直結するのかもしれません。

●取材協力
・三井不動産レジデンシャル

進む空き家対策―「自分が空き家を相続」「近所に空き家が…」そんなときどうすればいい?

「空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)」が施行されて3年。国土交通省は市区町村の取り組み状況について調査した結果を公表した。徐々にではあるが、進展している空き家対策。自分が空き家の所有者になったら、近所に問題となりそうな空き家があったら、どうしたらいいのか考えてみよう。【今週の住活トピック】
「空き家対策に取り組む市区町村の状況について」を公表/国土交通省徐々に進む地方自治体の空き家対策への取り組み

まず、「空家法」についておさらいしておこう。
近隣トラブルになるほどの空き家が増え始め、所有者が分からないなどの問題も表面化したため、個人の資産である住宅について、行政が踏み込んだ対応を取れるように法整備をしたものだ。

まず、自治体が「空き家であることを確認」したり「所有者を特定」したりしやすくしたうえで、所有者に適切な管理をするように求めるためのルールを定めている。また、すでに地域で問題となっている空き家を「特定空家」に指定したうえで、立木伐採や住宅の除却などの助言・指導・勧告・命令をしたり、行政代執行(強制執行)できるようにした。

具体的には、各自治体で「空家等対策計画」を策定して、自治体独自のやり方で空き家を減らしていくことが求められている。その対策計画の策定状況を見ると、2017年3月末時点では全市区町村の約21%だったものが、2018年3月末時点では約45%となり、2019年3月末時点には6割超に達する予定だ。

この計画に基づいて2018年3月末までに、自治体が空き家に対して「助言」・「指導」を行ったのは1万676件。助言・指導に従わない場合は、より強い「勧告」(552件)や「命令」(70件)に至り、それでも従わない場合は行政が立木の伐採や空き家の解体・撤去を行う、「代執行」(23件)の措置を取る場合もある。また、所有者不明による「略式代執行」は75件あった。

近所に迷惑な空き家があったら、自治体に連絡

立木が道路にはみ出していたり、ブロック塀が壊れかかっていたり、建物が崩れ落ちそうだったり、ゴミの放置場所になっていたりなど、明らかに迷惑な空き家と思われるものが近所にあった場合、どうしたらよいのだろう?

空き家の所有者を知っている場合は、直接所有者に対処を求めたり、自治会などに相談する方法がある。だが、所有者とトラブルになる可能性があったり、所有者が分からないといった場合などは、空き家のある自治体に連絡しよう。その自治体が、空家等対策計画を策定している場合は、その手順に従った対応が取られるので、スピーディーに進むことが期待できる。策定されていなくても、空家法の指針に沿って対応方法を検討してくれるだろう。

ただし、自治体が空き家の状況を改善するわけではなく、所有者を探して適切に維持管理をするように求めるのが原則だ。所有者に関する情報があれば、併せて提供するとよいだろう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

まずは登記、そのうえで適切な処分や維持管理を

一方、これから空き家を相続するなどで所有者になる場合は、どうしたらよいのだろう。

相続後に空き家の売却や建て替えなどの活用を考えている場合、権利関係を明確にしておくことが大切だ。まずは不動産登記の内容を確認しておこう。

登記しないまま相続を繰り返すなどで、権利関係があいまいになっている場合、きちんと登記するために法定相続人をさかのぼって探すといった事態にもなりかねない。きちんと登記しないと相続の手続きや空き家の売却などの妨げになる。

また、隣地との境界があいまいな場合、境界を確定させる必要があり、登記手続きに時間がかかるといったこともある。祖父母や親が亡くなった後に、相続や隣地関係などの経緯を調べるのは大変なので、存命中に話を聞いておくのも手だろう。

そのうえで、将来は空き家に誰かが住むのか、売却するのか、などの利用方法を検討しておきたい。誰も住み手がいないし、売ってもわずかな額でしか売れないといった場合でも、空き家の活用を促進している地方自治体は増えているので、放置しないで自治体に相談してほしい。

空き家は今後もさらに増加すると予測されている。住宅は人が住まなくなると急速に老朽化が進むので、とりあえず放置しているうちに老朽化が進み、利活用の選択肢が狭まるということも起こり得る。空き家を管理するサービスも増えているし、空き家の活用を提案するコーディネーターや起業家なども登場している。「空き家を所有したら放置しない」という心構えで、いろいろな窓口に相談しよう。

東京都では、平成30年度から「起業家による空き家活用モデル事業」を開始した。起業家が具体的に空き家を利活用する事業プランを提案し、優れた事業プランには補助金(起業家に最大300万円、空き家所有者に固定資産税等の額)を出して支援するという事業だ。

また政府は、空き家問題の原因にもなっている「所有者不明の土地」対策として、現在は任意となっている相続登記を義務づける法改正などを検討している。

空き家対策については今後もいろいろな手が打たれていくので、不動産を“負動産”にしないためにきちんと対応したいものだ。

「民泊新法」が6月15日に施行、これからの民泊はどう変わる?

2018年6月15日に住宅宿泊事業法(いわゆる「民泊新法」)が施行され、住宅宿泊事業者は届け出をすれば、民泊を行えるようになった。民泊新法が施行されて、民泊は今後どうなるのだろう?【今週の住活トピック】
「住宅宿泊事業届出住宅のための外国人観光旅客向け多言語文例集」を作成/東京都民泊新法で義務付けた「多言語による利用者向けの説明」の手引きに

民泊新法では、施設の利用案内や生活環境を守るためのルールを外国語で適切に案内することを義務付けていることから、東京都では、民泊利用の外国人観光客向けの文例集を作成して、後押しをしている。東京都が作成した、多言語文例集の内容を見てみよう。

●多言語文例集の一部
多言語文例集の一部(出典:東京都「住宅宿泊事業届出住宅のための外国人観光旅客向け多言語文例集」より)

多言語文例集の一部(出典:東京都「住宅宿泊事業届出住宅のための外国人観光旅客向け多言語文例集」より)

このように具体的な文例が日本語、英語、中国語、韓国語で紹介されている。なお、「繁体字」は台湾、香港、マカオで、「簡体字」は中国やシンガポール、マレーシアで使われている言語のようだ。

文例の内容は多岐にわたり、次のような事項に分けて文例が紹介されている。
•届出住宅の設備の使用方法に関する案内
•最寄り駅等の利便施設への経路と利用可能な交通機関に関する情報
•騒音の防止のために配慮すべき事項
•ごみの処理に関し配慮すべき事項
•火災防止のために配慮すべき事項
•避難経路
•火災、地震その他の災害が発生した場合における通報連絡先に関する案内

民泊新法のルールは?どんな規制がある?

2020年の東京五輪で観光客の宿泊施設不足の対策として、国や東京都では民泊を促進したいと考えている。

政府は以前から民泊促進のために、旅館業法の規制緩和や国家戦略特区の活用などを行ってきた。しかし、旅館業法(簡易宿所)では住宅地での営業ができない、特区民泊では原則1室25平方メートル以上が必要などのほか、衛生面や安全確保面での厳しい条件などもあり、ハードルが高いとして違法な民泊運営が後を絶たなかった。

違法民泊が騒音やゴミ出しなどの近隣トラブルにつながるとして、健全な民泊を促進するために施行されたのが民泊新法だ。民泊新法の特徴は、民泊に関わる3つの事業者(「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊仲介業者」「住宅宿泊管理業者」)に対してそれぞれ届け出や登録を義務付けて、監督できるようにしていることだ。特にトラブルの多い「家主不在型」の住宅宿泊事業者には、住宅の管理を住宅宿泊管理業者に委託することを義務付けることで、仲介業者と管理業者の双方からもチェックできるようにしている。

民泊新法の対象となる事業者(出典:国土交通省「民泊制度ポータルサイト」より転載)

民泊新法の対象となる事業者(出典:国土交通省「民泊制度ポータルサイト」より転載)

民泊新法では、旅館業法(簡易宿所)や特区民泊に比べると条件が緩くなっていて、特に宿泊室の面積が小さい「家主同居型」の場合は、過度な条件を付けないようにしている。それでも、住宅宿泊事業(民泊)の届け出を行っていることがわかる標識を掲げること、本人確認や宿泊者名簿を管理すること、周辺住民からの苦情などに常時対応すること、2カ月ごとに届け出先に定期報告をすることなどの必要がある。

写真/PIXTA

写真/PIXTA

一方で、旅館業界や賃貸住宅業界では事業を圧迫するとして、民泊新法には一定の規制を求めてきた。その結果、民泊として提供できる日数を180日以内とするなどのルールも設けられた。ただし、地方自治体が独自の条例を制定することで、ルールを変えることができるとしている。

地方自治体のほうでは、地域トラブルを避けるために、規制緩和ではなく規制強化に乗り出す動きが目立った。複数の自治体では住宅地での民泊営業を禁止したり、180日以内の制限をさらに短縮したりなどの条例を制定した。また、分譲マンションの場合は、それぞれの管理規約に民泊禁止を盛り込む動きも加速している。

民泊の普及にはまだ時間がかかる?

民泊新法の施行に合わせて、次のような民泊に関する調査も実施されている。

リビン・テクノロジーズの調査によると、民泊の制度には63.0%が賛成するも、57.8%は「民泊を利用したいと思っていない」という結果だった。

クレアスライフの調査によると、不動産投資オーナーで「所有物件を民泊にしたいとは思わない」人は77%だった。

楽天コミュニケーションズの調査によると、民泊運営事業者に「今後も運営物件を増やしたいか」について聞いたところ、大幅に増やすが11.3%、増やすが36.0%、現状維持が35.7%、減らすが7.0%、大幅に減らすが3.0%、やめるが7.0%だった。

民泊自体は一定の評価を得ているものの、民泊に消極的な人の理由を見ると、総じて近隣や他の居住者などとのトラブルや住宅の劣化が進むことなどを懸念していることがうかがえる。また、賃貸経営をする不動産投資オーナーと民泊運営事業者では、民泊に対する考え方が大きく異なる点も注目したい。

すでに民泊を運営したり利用したりする一定の層については民泊に積極的であるが、すそ野が広がるにはまだ時間がかかると考えてよいのだろう。

民泊新法の施行で、健全な民泊は増える?

さて、民泊新法による届け出は順調に進んでいるのだろうか?
2018年3月15日から届け出の受付が始まったが、届け出は伸び悩んでいる。6月になって駆け込みの届け出もあったようだが、さまざまな規制にハードルの高さを感じたり、煩雑な届け出の手続きを嫌って、届け出を断念した民泊オーナーも多いようだ。

他方で、観光庁は民泊物件をインターネットなどに掲載する仲介業者に対して、無許可民泊物件を掲載しないように求めている。民泊仲介大手のエアビーアンドビーが、無許可や届け出予定のない民泊物件の掲載をやめたために掲載数が大幅に減少したり、6月15日以降の予約のキャンセルを直前で行ったことで利用者が混乱したりといった報道が話題にもなった。

このように、施行直後の現状は、民泊新法による民泊の届け出が低調なうえ、民泊仲介サイトの掲載物件も減少している。健全な民泊の促進が目的だから規制が厳しいということだろうが、健全な民泊として運営しやすい工夫やサポートを充実させていくことも求められる。

とはいえ、民泊に注目した新たなサービスも増加している。民泊事業者向けのセキュリティサービスや保険の提供がも始まった。さらに、チェックインや鍵の受け渡しの負担軽減のために、ホテルのフロントで代行したり、コンビニに専用機器を設置したりといったサービスも始まった。

健全な民泊の普及には、個人が運営事業者となる場合の負担軽減のサポートや、ホテルや賃貸住宅とは異なる付加価値の提供なども必要で、まだ課題も多いようだ。民泊はまだ新しい宿泊サービスなので、ルールの見直しやバックアップ体制の強化などを図りつつ、日本らしい成熟したサービスへと育ってほしい。

●参考:民泊に関する情報提供サイト
・国土交通省「民泊制度ポータルサイト」
・東京都産業労働局「住宅宿泊事業(民泊)」サイト

住みながら自宅を現金にする方法がある!? 「リバースモーゲージ」の利用件数が増加

「リバースモーゲージ」というワード、「聞いたことはあるけど、詳しいことはよく分からない」という人も多いのではないか。持ち家を担保にしてローンを借り、死亡時に清算する方法で、高齢者の持ち家活用に効果的と言われている。
このたび、住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用したリバースモーゲージである、【リ・バース60】の利用実績が公表された。どういう制度で、誰がどういった目的で利用しているのだろうか?【今週の住活トピック】
「【リ・バース60】の利用実績等の公表について」/住宅金融支援機構リバースモーゲージってどんなもの?どんなメリットがある?

リバースモーゲージを直訳すると、「逆抵当融資」となる。持ち家を担保にお金を借り、長期間にわたって元金と利息を返し続けて完済に至るのが、一般の住宅ローンだ。これに対し、持ち家を担保にお金を借りる点は同じだが、お金を一括して受け取って利息だけを返し続けたり、お金を年金のように分割して受け取ったりして(利息は元本に加算)、最終的には死亡時に持ち家を売却して完済するのが、リバースモーゲージだ。

リバースモーゲージを取り扱っている金融機関はまだ少ないが、商品設計、つまり担保の条件や借りたお金の受け取り方、返し方などはそれぞれで異なる。融資限度額は、おおむね土地の評価額の50%~70%程度とする事例が多く、利用するには相続人の同意なども必要となる。

リバースモーゲージの最大のメリットは、持ち家を所有し続けることができる点だ。年金暮らしで収入は限られるが、貯蓄を使ってしまうのは不安なので、持ち家を活用したいと考える人も多い。持ち家を相続で残すことはできないが、住み続けながらまとまった現金を手にできるというメリットがある。

【リ・バース60】とは、どんなリバースモーゲージ?

【リ・バース60】は、60歳以上を対象として、住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用したリバースモーゲージで、提携している一部の金融機関で取り扱っているもの。毎月の返済は利息のみで、元金は死亡時に住宅や土地の売却代金などで一括返済する。

【リ・バース60】と一般的な住宅ローンの違い(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】と一般的な住宅ローンの違い(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】の仕組み(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】の仕組み(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

特徴は、住宅のリフォーム費用や本人または子ども世帯が居住する住宅の購入資金、住宅ローンの借り換え資金、サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金など、住宅に関する融資に限定されていること。融資限度額は、担保評価額の50%または60%までで、購入資金や建設資金の場合は5000万円、リフォーム資金や入居一時金の場合は1500万円などとなっている。

【リ・バース60】はどんな利用をされている?

さて、住宅金融支援機構が公表した【リ・バース60】の平成29年度の利用実績だが、金融機関から住宅金融支援機構に住宅融資保険を付保するために申請があったのは174戸、付保されて融資が実行されたのは68戸で、いずれも対前年度で400%を超える伸びを見せている。取扱金融機関は38機関で、実行された融資額は8.5億円にのぼる。

利用申込者の属性を見ると、平均年齢は72歳、平均年収は330万円、60%が年金受給者で、神奈川県(16%)・千葉県(12%)・東京都(8%)が上位を占めるなど首都圏での利用が圧倒的に多い。

筆者が注目している「資金の使い道」を見ると、想定していたのは、長く住むための建て替えやリフォームだったのだが、結果は次のようなものだった。
・新築マンション購入(40%)
・新築一戸建て建設(31%)
・一戸建てリフォーム(13%)
・借り換え(8%)
・その他(8%)

「新築マンション」を自分が住むために購入したものなのか、子ども世帯の購入を支援したものなのかは不明だが、利便性のよい新築のマンションを買って一戸建てから住み替えるという人は多いのだろう。その場合、担保となる持ち家の方は貸すのだろうか、なども気になるところだ。

「一戸建ての建設」は、建て替えが多いと見てよいだろう。老朽化してきた一戸建てを建て替えたり、リフォームをしたりという使い方をした人も、やはり相当数いたようだ。

購入や建設などに必要な額は3391万円、借りた額は1691万円、毎月返済額は3.5万円というのが、利用者の平均像だった。

また、【リ・バース60】のもう一つの特徴が、「ノンリコース型」を用意していることだ。

リバースモーゲージのリスクとして、「金利上昇」や「不動産価格の下落」のほか、「長生き」のリスクがある。これらによって、死亡時に売却した代金よりローンの残債のほうが多くなる可能性が生じる。この場合に、相続人が残債を一括返済する「リコース型」と、売却代金で清算されて相続人に請求が生じない「ノンリコース型」がある。

【リ・バース60】では、住宅金融支援機構の住宅融資保険を利用することで、金融機関が残債を回収できない事態を回避することができるために、「ノンリコース型」の用意ができるようになる。利用実績では、ノンリコース型が61%、リコース型が39%となっていた。

高齢化が進み、親世帯が老後資金を十分に用意する必要がある一方で、相続時にはすでに子ども世帯がマイホームを構えていることが多くなる。そうだとしたら、持ち家は自分のために利用すると割り切って、リバースモーゲージの活用を検討してもよいだろう。

最近では「リースバック」と呼ばれる商品も登場している。リースバックとは、持ち家を売却して買主とリース契約を結び、買主に賃料を払いながら自宅に住み続ける方法だ。

いずれの場合も持ち家に住みながら現金を手にできる方法だが、どんな家でも利用できるわけではない。取り扱い先が限られるうえ、思っているよりも条件は厳しいと考えたほうがよいだろう。人生100歳の時代を迎える今こそ、持ち家の価値を見直して、老後の資産設計を考えてほしいと思う。

住みながら自宅を現金にする方法がある!? 「リバースモーゲージ」の利用件数が増加

「リバースモーゲージ」というワード、「聞いたことはあるけど、詳しいことはよく分からない」という人も多いのではないか。持ち家を担保にしてローンを借り、死亡時に清算する方法で、高齢者の持ち家活用に効果的と言われている。
このたび、住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用したリバースモーゲージである、【リ・バース60】の利用実績が公表された。どういう制度で、誰がどういった目的で利用しているのだろうか?【今週の住活トピック】
「【リ・バース60】の利用実績等の公表について」/住宅金融支援機構リバースモーゲージってどんなもの?どんなメリットがある?

リバースモーゲージを直訳すると、「逆抵当融資」となる。持ち家を担保にお金を借り、長期間にわたって元金と利息を返し続けて完済に至るのが、一般の住宅ローンだ。これに対し、持ち家を担保にお金を借りる点は同じだが、お金を一括して受け取って利息だけを返し続けたり、お金を年金のように分割して受け取ったりして(利息は元本に加算)、最終的には死亡時に持ち家を売却して完済するのが、リバースモーゲージだ。

リバースモーゲージを取り扱っている金融機関はまだ少ないが、商品設計、つまり担保の条件や借りたお金の受け取り方、返し方などはそれぞれで異なる。融資限度額は、おおむね土地の評価額の50%~70%程度とする事例が多く、利用するには相続人の同意なども必要となる。

リバースモーゲージの最大のメリットは、持ち家を所有し続けることができる点だ。年金暮らしで収入は限られるが、貯蓄を使ってしまうのは不安なので、持ち家を活用したいと考える人も多い。持ち家を相続で残すことはできないが、住み続けながらまとまった現金を手にできるというメリットがある。

【リ・バース60】とは、どんなリバースモーゲージ?

【リ・バース60】は、60歳以上を対象として、住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用したリバースモーゲージで、提携している一部の金融機関で取り扱っているもの。毎月の返済は利息のみで、元金は死亡時に住宅や土地の売却代金などで一括返済する。

【リ・バース60】と一般的な住宅ローンの違い(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】と一般的な住宅ローンの違い(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】の仕組み(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】の仕組み(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

特徴は、住宅のリフォーム費用や本人または子ども世帯が居住する住宅の購入資金、住宅ローンの借り換え資金、サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金など、住宅に関する融資に限定されていること。融資限度額は、担保評価額の50%または60%までで、購入資金や建設資金の場合は5000万円、リフォーム資金や入居一時金の場合は1500万円などとなっている。

【リ・バース60】はどんな利用をされている?

さて、住宅金融支援機構が公表した【リ・バース60】の平成29年度の利用実績だが、金融機関から住宅金融支援機構に住宅融資保険を付保するために申請があったのは174戸、付保されて融資が実行されたのは68戸で、いずれも対前年度で400%を超える伸びを見せている。取扱金融機関は38機関で、実行された融資額は8.5億円にのぼる。

利用申込者の属性を見ると、平均年齢は72歳、平均年収は330万円、60%が年金受給者で、神奈川県(16%)・千葉県(12%)・東京都(8%)が上位を占めるなど首都圏での利用が圧倒的に多い。

筆者が注目している「資金の使い道」を見ると、想定していたのは、長く住むための建て替えやリフォームだったのだが、結果は次のようなものだった。
・新築マンション購入(40%)
・新築一戸建て建設(31%)
・一戸建てリフォーム(13%)
・借り換え(8%)
・その他(8%)

「新築マンション」を自分が住むために購入したものなのか、子ども世帯の購入を支援したものなのかは不明だが、利便性のよい新築のマンションを買って一戸建てから住み替えるという人は多いのだろう。その場合、担保となる持ち家の方は貸すのだろうか、なども気になるところだ。

「一戸建ての建設」は、建て替えが多いと見てよいだろう。老朽化してきた一戸建てを建て替えたり、リフォームをしたりという使い方をした人も、やはり相当数いたようだ。

購入や建設などに必要な額は3391万円、借りた額は1691万円、毎月返済額は3.5万円というのが、利用者の平均像だった。

また、【リ・バース60】のもう一つの特徴が、「ノンリコース型」を用意していることだ。

リバースモーゲージのリスクとして、「金利上昇」や「不動産価格の下落」のほか、「長生き」のリスクがある。これらによって、死亡時に売却した代金よりローンの残債のほうが多くなる可能性が生じる。この場合に、相続人が残債を一括返済する「リコース型」と、売却代金で清算されて相続人に請求が生じない「ノンリコース型」がある。

【リ・バース60】では、住宅金融支援機構の住宅融資保険を利用することで、金融機関が残債を回収できない事態を回避することができるために、「ノンリコース型」の用意ができるようになる。利用実績では、ノンリコース型が61%、リコース型が39%となっていた。

高齢化が進み、親世帯が老後資金を十分に用意する必要がある一方で、相続時にはすでに子ども世帯がマイホームを構えていることが多くなる。そうだとしたら、持ち家は自分のために利用すると割り切って、リバースモーゲージの活用を検討してもよいだろう。

最近では「リースバック」と呼ばれる商品も登場している。リースバックとは、持ち家を売却して買主とリース契約を結び、買主に賃料を払いながら自宅に住み続ける方法だ。

いずれの場合も持ち家に住みながら現金を手にできる方法だが、どんな家でも利用できるわけではない。取り扱い先が限られるうえ、思っているよりも条件は厳しいと考えたほうがよいだろう。人生100歳の時代を迎える今こそ、持ち家の価値を見直して、老後の資産設計を考えてほしいと思う。

猫3匹までOK! 猫を飼うことが条件の「ねこのいえ」は人と暮らすための工夫がいっぱいだった

賃貸で猫と一緒に暮らせる物件はあまり多くはありません。「ペット相談可」なのに「猫はダメ」と言われるケースもあるといいます。そんな中、今回ご紹介するのは「猫と暮らすことが入居条件」という異色の賃貸住宅「ねこのいえ」シリーズ。お部屋の改装を自ら手がけた一級建築士でペットシッターのいしまるあきこさんに、猫と人間が一緒の空間で快適に暮らすための工夫をお聞きしました。
猫が映える色合いの壁が迎えてくれる築60年の長屋

いしまるさんの住まい兼仕事場「平井ねこのいえ」と隣接する猫向け賃貸の最寄駅となる江戸川区の平井駅(JR総武線)までは、新宿から電車で約30分。近くには荒川も流れ、川沿いのいい風が吹いています。

いしまるさんの住まい兼仕事場「平井ねこのいえ」と、その奥にある「平井ねこのいえ・奥のみぎ」。外壁の下見板張りやトタンなどを残すことで、古いたたずまいをそのまま活かしているそうです(写真撮影/片山貴博)

いしまるさんの住まい兼仕事場「平井ねこのいえ」と、その奥にある「平井ねこのいえ・奥のみぎ」。外壁の下見板張りやトタンなどを残すことで、古いたたずまいをそのまま活かしているそうです(写真撮影/片山貴博)

「ねこくつだな」「ねこだな」「上部に梁」など気になる箇所がたくさんある間取図(画像提供/いしまるあきこ)

「ねこくつだな」「ねこだな」「上部に梁」など気になる箇所がたくさんある間取図(画像提供/いしまるあきこ)

まずは現在入居者を募集している築60年の長屋を改装したお部屋「平井ねこのいえ・奥のみぎ」へ。こちらのお部屋は猫を3匹まで飼うことができます。玄関のカラフルな壁は写真を撮ったときに猫たちが映えるようにと、猫にはない色味をセレクトされたとのこと。いしまるさんの愛猫のくろちゃんとしろちゃんの毛色がとても映えます。棚板に猫が通れる穴が開けられている青い「ねこくつだな」を、黒猫のくろちゃんがさっそく登っています。

「平井ねこのいえ・奥のみぎ」には猫と人間が一緒に楽しく暮らすことができる仕掛けがたくさん。玄関の戸はすりガラスですが、くろちゃんが登った先にある戸のガラスの一部は、猫が外をのぞけるように透明になっています(写真撮影/片山貴博)

「平井ねこのいえ・奥のみぎ」には猫と人間が一緒に楽しく暮らすことができる仕掛けがたくさん。玄関の戸はすりガラスですが、くろちゃんが登った先にある戸のガラスの一部は、猫が外をのぞけるように透明になっています(写真撮影/片山貴博)

人間にもうれしい広い玄関は猫用のトイレを置くのにぴったり。「猫トイレの嫌な臭いは下にたまりやすいので、段差があると部屋に臭いがやってきにくいのです」といしまるさんが教えてくれました。

玄関の引き戸の下にあいた排水口から水を流せるため、粗相があってもお掃除が簡単(写真撮影/片山貴博)

玄関の引き戸の下にあいた排水口から水を流せるため、粗相があってもお掃除が簡単(写真撮影/片山貴博)

玄関を上がった先の3畳間では、床置き式ユニットバスの先駆け「ほくさんバスオール」がお出迎え。すでに生産は終了しているものですが、根気よく探すとまだまだ状態の良い現役のものが見つかるそう。もともと浴室がなかったというこの部屋のために、いしまるさんが探してきた逸品です。

設置されたバスオールはとてもそんな昔につくられたとは思えないほどきれいな状態です。ゆるやかなカーブのフォルムがモダンです(写真撮影/片山貴博)

設置されたバスオールはとてもそんな昔につくられたとは思えないほどきれいな状態です。ゆるやかなカーブのフォルムがモダンです(写真撮影/片山貴博)

猫の安全のために台所を仕切るドアを設置、床はコルクに

バスオールの向かいの壁に備え付けられた「ねこだな」は、猫だけではなく、人間も一緒に使用できるというこの部屋にあわせて造り付けられた棚。「家具を人と猫が共用で使えるようにしています」といしまるさん。なお、3畳間の床材には、猫が高いところから万が一落ちても衝撃をやわらげるコルクが使われています。

お話を伺っている最中もしろちゃんとくろちゃんが盛んに上り下りしていた「ねこだな」(写真撮影/片山貴博)

お話を伺っている最中もしろちゃんとくろちゃんが盛んに上り下りしていた「ねこだな」(写真撮影/片山貴博)

「ねこだな」の横にある台所に続くコンパクトなドアにもこだわりがありました。台所はコンロや包丁など、猫にとっても危険が多い場所です。

「猫たちは台所にも入りたがりますが、コンロの火でやけどをしたり、猫がコンロの点火ボタンを押して火事が起きることもあります。また、猫が口にしてはいけない食材を食べてしまわないように、台所へは勝手に出入りできないようにしたほうが安全です」

そういった配慮からいしまるさんがちょうど合うサイズで猫が開けにくい取っ手を引いて開けるドアを探し、後から設置したそうです。

よく日の当たる台所と3畳間を仕切るドア(写真撮影/片山貴博)

よく日の当たる台所と3畳間を仕切るドア(写真撮影/片山貴博)

猫を見上げる新体験。インテリアも家にあわせてセレクト

居住スペースとなる和室は開放感のある吹抜けの空間。白さが印象的な壁の漆喰(しっくい)は、猫が爪を研ぎにくいだけでなく、消臭効果や調湿効果もあり身体に優しいそうです。また、天井を吹抜けにしたことで現れた梁の上を伝って猫たちが部屋の上部を自由に行き来できるようにしています。

梁からこちらを見下ろすしろちゃん(写真撮影/片山貴博)

梁からこちらを見下ろすしろちゃん(写真撮影/片山貴博)

「ねこだな」を伝って梁から下りてくるくろちゃん(写真撮影/片山貴博)

「ねこだな」を伝って梁から下りてくるくろちゃん(写真撮影/片山貴博)

ふと顔を見上げると目に入った赤色がかわいらしい装置。こちらは、いしまるさんが自ら探してきたというレトロなサーキュレーター。

エアコンかなと思ったらサーキュレーターでした(写真撮影/片山貴博)

エアコンかなと思ったらサーキュレーターでした(写真撮影/片山貴博)

暖かい空気は上にたまる性質があり、吹抜け上部にたまる部屋の暖かい空気をこのサーキュレーターで床まで届けます。レトロな照明もこの部屋に合うようにいしまるさんがセレクトしたアイテムです。猫がいたずらしにくい場所に配置するなども配慮されています。なお、2階はありませんが、梁を伝って行ける猫専用のロフトが設けられています。人間はハシゴを使って登ります。

どこか昔懐かしい照明。こういったインテリア雑貨をどこで入手しているのか聞いてみたところ、「オークションサイトやリサイクルショップなどもチェックしています」とのこと(写真撮影/片山貴博)

どこか昔懐かしい照明。こういったインテリア雑貨をどこで入手しているのか聞いてみたところ、「オークションサイトやリサイクルショップなどもチェックしています」とのこと(写真撮影/片山貴博)

黄色く塗られた和やかな床の間と、大容量の押入れ(写真撮影/片山貴博)

黄色く塗られた和やかな床の間と、大容量の押入れ(写真撮影/片山貴博)

貸主にとっては猫を飼っている入居者は長く住んでくれるというメリットも

猫と人間がともに暮らしやすい工夫がされている「ねこのいえ・奥のみぎ」は家賃6万8000円(共益費込み)。また入居条件には「猫を飼っている方、またはこれから猫を飼う方限定」という条件があります。さらに詳しくその条件の理由について聞いてみました。

――入居条件が「猫を飼うこと」ですが、物件が気に入っても猫を飼っていないと入居できないのでしょうか?

「はい、猫と一緒の方しか入居できません。私自身、5匹の猫と暮らせるいまの家を苦労して探した経験から、猫向け賃貸が必要だと感じて始めました。猫を3匹まで飼っていいと許可をしている賃貸は本当に数が少ないので、猫と暮らす方に入居してほしいので、こちらの条件にしています。飼い主さんが長期間の留守のときの餌やり代行もペットシッターでもある私が対応できますし、猫との暮らしについてもできる範囲でサポートやアドバイスもします。この住まいを猫たちと一緒に楽しんでもらえる方に住んでほしいと思っています」

――こんな猫に住んでほしいという希望はありますか?

「『平井ねこのいえ・奥のみぎ』は猫が快適なロフトに上がることが多いと思いますので、これから猫を飼うという人より、猫を呼んでちゃんと降りてきてもらえるように、すでに猫と信頼関係を築いている方のほうがいいですね。高さもあるので足腰の丈夫な若めの猫たちが向いています。先日、シニア猫をお連れの方から内見のお申し込みがありましたが、安全面からお断りしました」

――猫を飼っている人に入居してもらうことで、貸主にメリットはあるのでしょうか?

「猫は柱で爪を研いだり、住宅に傷をつける可能性がありますが、例えば、その柱の近くに、より研ぎ心地が好みの爪とぎを用意すれば解決することもあります。部屋の中での粗相も、原因はトイレが小さいことや数が足りていないことでトイレが猫にとって不快な場所になっているという場合もあります。トイレを広くしたり、清潔に保って適切な場所に置いたりすれば減る可能性が高いです。

猫は変化を嫌がる動物ですから、猫と暮らす方は引越しをしたがりません。一度お部屋を気に入ってもらえれば長く住んでくれる方が多いので、貸主にとってもメリットがあると思います」

「家の中が快適であれば脱走したがらない」といしまるさん。まさに快適スポットになっている電気毛布に集まる猫たち。玄関に近い部分ですが、家を出たがらないそうです。入居した猫に合わせて脱走防止の格子なども後から付けているとか(写真撮影/片山貴博)

「家の中が快適であれば脱走したがらない」といしまるさん。まさに快適スポットになっている電気毛布に集まる猫たち。玄関に近い部分ですが、家を出たがらないそうです。入居した猫に合わせて脱走防止の格子なども後から付けているとか(写真撮影/片山貴博)

ベッド下収納のプラケースを転用した大きなトイレが置かれた玄関(写真撮影/片山貴博)

ベッド下収納のプラケースを転用した大きなトイレが置かれた玄関(写真撮影/片山貴博)

いしまるさんのお宅は床面に接する物が少なくてとてもシンプル。掃除がしやすいよう意識的に行っているそうです(写真撮影/片山貴博)

いしまるさんのお宅は床面に接する物が少なくてとてもシンプル。掃除がしやすいよう意識的に行っているそうです(写真撮影/片山貴博)

いしまるさんの住まい兼仕事場スペース。こちらも「ねこだな」を伝って梁の上に猫が登れる仕組み(写真撮影/片山貴博)

いしまるさんの住まい兼仕事場スペース。こちらも「ねこだな」を伝って梁の上に猫が登れる仕組み(写真撮影/片山貴博)

「3匹まで」OKにしている理由は、猫のことを考えた結果

――「平井ねこのいえ・奥のみぎ」で一緒に暮らせる猫を最大3匹までにしているのはどうしてですか?

「猫は4匹以上になると、猫同士の仲がなかなかうまくいかないと言われています。仲間はずれのような猫がでてきやすくなるのです。もし、4匹以上の場合でも猫同士が仲良しでしたら、入居のご相談にのります」

いしまるさんのお宅にある窓の格子のスキマは幅3cm。3.5cmの幅では小柄な成猫が間を抜けて脱走することがあるそう。猫と家に詳しい、いしまるさんならではの工夫です(写真撮影/片山貴博)

いしまるさんのお宅にある窓の格子のスキマは幅3cm。3.5cmの幅では小柄な成猫が間を抜けて脱走することがあるそう。猫と家に詳しい、いしまるさんならではの工夫です(写真撮影/片山貴博)

古い家は住み方に工夫は必要だが、楽しんで住める人にはおすすめ

古い建築が好きで、ご自分でもその活用方法を実践してきているいしまるさん。続いて、築60年という古い家ならではの魅力についても聞いてみました。

――大家さんから借りた古い長屋をDIYして貸し出しているんですよね。

「大家さんに許可をいただき、自分たちで改装しています。住まい兼仕事場の『平井ねこのいえ』もDIYです。漆喰やペンキを塗るだけでなく、天井をあげる際には寒さ暑さ対策として屋根面に断熱材も入れています。DIY前と印象はかなり変わりました」

――いしまるさんが感じる、古い家の魅力とはなんでしょうか。

「落ち着きますよね。和の住まいは窮屈な感じもないですし、猫たちと目線が近くて仲良くなりやすいのも魅力の一つです。畳でごろ寝すると、必ず猫たちがお腹に乗ってきますよ。この家は築60年になりますが、古い家は放っておくと失われてしまいます。自ら住むことで、まず活かしています。昔ながらの木製建具や下見板張りなどは、私にとってはかけがえのないものです。いま、これを建てようと思っても簡単ではありません。温度の調節など、古い家は住む側に少し適応能力が必要ですが、その点を楽しめる方にはおすすめしたいです」

いしまるあきこさん。「ねこのいえ」シリーズのほかにも、「中銀カプセルタワービル」でシェアオフィスを企画・運営するなど、古い建築を活かす活動に取り組まれています(写真撮影/片山貴博)

いしまるあきこさん。「ねこのいえ」シリーズのほかにも、「中銀カプセルタワービル」でシェアオフィスを企画・運営するなど、古い建築を活かす活動に取り組まれています(写真撮影/片山貴博)

いしまるさんは5匹の猫と暮らしています。取材時にも近くにきてくれるほど人懐こく、とてもリラックスしていました(写真撮影/片山貴博)

いしまるさんは5匹の猫と暮らしています。取材時にも近くにきてくれるほど人懐こく、とてもリラックスしていました(写真撮影/片山貴博)

筆者も賃貸住宅で猫と暮らしていますが、猫と人が快適に長い時間を共に暮らすには、互いにストレスのない環境づくりと工夫がかかせません。自ら野良猫の保護活動に取り組むなど、多くの猫たちと触れ合い、暮らすいしまるさんのお話は、猫が好きというだけでなく、猫のことを知り、どうしたらお互いが快適に暮らせるかを気づかせてくれるものでした。

●取材協力
・いしまるあきこ
・猫と楽しく暮らせる賃貸住宅「ねこのいえ」

「一生賃貸?35年ローンで住宅購入?どちらも不安です…」 住まいのホンネQ&A(5)

家族を持ったら家を買う。住宅は一生で一番高い買い物。昨今はそんな常識が変わりつつあり、一生賃貸で過ごす人も増えているといいます。しかし、どちらを選ぶにしても不安はつきもの。高齢になっても賃貸を借りられるのか。はたまた、35年ローンを組んで購入しても、70歳近くまで返済しきれるものなのか……。
住まいに関するさまざまな質問について、ホンネでお答えする本連載。第5回の質問は「一生賃貸?35年ローンで住宅購入?どちらも不安です…」です。誰もが知りたいこの悩み、果たして専門家の回答は如何に。

賃貸でも、購入でも、心配は杞憂に終わるかもしれない

確かに、日本社会の不確実性は高まる一方です。「年功序列」「終身雇用」といった旧来の働き方が崩壊しつつあり、さらに政府主導の「働き方改革」が進むなかで、人間の仕事の多くがAIやロボットに代替される可能性がある――。長期の住宅ローンを組んでマイホームを購入するのは「リスク」だと考えるのは、当然とも言えるでしょう。最長35年もの期間、ずっとローンを払っていけるのか、保証はどこにもありませんからね。

では一生賃貸でいいのかといえば、それはそれで心配になるでしょう。住宅ローンはいつか終わりますが、高齢になっても生きている限り、家賃の支払いはずっと続くわけですから。さくら事務所には「歳をとったら賃貸住宅を借りられなくなるから」といった購入動機をお持ちの方が多く来訪されます。ここで、「だからこそ低金利の今のうちに、終の棲家を確保しておこう」という流れがおこるわけです。

では、はたして現在の住宅購入層である30代が高齢者になったときにも、「歳をとったら賃貸住宅を借りられなくなる」という現在の常識が、はたして本当に成立するのでしょうか。結論を言えば、このような心配は杞憂に終わるでしょう。

高齢者に好まれなければ、賃貸経営者として失格に!?

かつては確かに、「高齢者は賃貸を借りにくい」いう風潮がありましたし、今後も完全になくなることはないかもしれません。しかし遠くない将来、状況が一変することになるはずです。なぜなら、日本はこれから、「少子化」「高齢化」を伴った本格的な「人口・世帯数減少時代」を迎えます。国立社会保障・人口問題研究所の平成29年版の推計によれば、2036年には3人に1人が高齢者になるとされています。

こういった世の中で、もし高齢者に対して積極的に賃貸住宅を貸そうとしなければ、賃貸住宅経営などとうてい成り立たなくなるでしょう。むしろ、高齢者に対して積極的にアプローチする物件、高齢者に好まれる物件でなければ、賃貸経営者として失格という世の中がやってくるはずです。

賃貸住宅だけではありません。日本の資本主義経済における高齢者とは、非常に大きなマーケット。街も高齢者向けにアレンジされ、市場で提供される商品やサービスも高齢者向けのものが現在より格段に多くなるのではないでしょうか。

3人に1人が高齢者の世の中では、電車やバスの優先席などは、全席の33%確保しなければならない計算です。もっとも、平均寿命は年々伸びていることや医療の発達などから、そのころの高齢者はおそらくとても元気で、趣味志向もおそらくかつての高齢者層とは大きく異なった「新世代高齢者」とでもいえるような状況になっていることが、想像に難くありません。“高齢者”という言葉からイメージする像は、現在をベースには考えられなくなることでしょう。

数十年先の住宅事情は大きく様変わりしている

未来の住宅事情も大きく様変わりするはず。新築は土地などの関係からもうあまりつくられず、中古住宅と賃貸住宅が、現在では想像もできないほど充実しているはずです。そうなると一生賃貸暮らしという選択も全く珍しくなくなっているでしょう。また賃貸であれ購入であれ、ライフスタイルやライフサイクルの変化に合わせて、住宅をリズミカルに住み替えることができる市場が出来上がっていることでしょう。すでに日本以外の先進国ではこうした市場が出来上がっており、住み替え頻度も日本よりかなり頻繁です。

つまり将来の日本の住宅事情は、より多様化し、どの世代にとっても楽しく面白く、より安全で安心感のあるものになっているはずです。すでに国は、中古住宅市場やリフォーム市場の活性化策や空き家活用による賃貸住宅増加策など住宅市場の多様化へ政策の舵を方向転換しているのです。未来に対して漠然とした不安を根拠に何かを決断するのではなく、その数十年先には日本の住宅事情が大きく様変わりしているということを踏まえておく必要があります。

まずは、住まいに関する現在の常識ははずしてしまいましょう。そしてそのうえで、自身や家族のライフスタイルやライフサイクルを考え、自由な住まい選びを楽しみましょう。賃貸でも購入でも、新築でも中古でも、世の中の常識や既成概念に自分をあてはめず、自由に発想して決めることができれば、それがあなたにとってのベストな選択になるのです。

買いたいときが“買い時”

ではそのうえで、マイホーム購入が肯定できるのはどんなときでしょうか。

「マイホーム、いつが買い時?」みたいな話は、私も不動産コンサルタントとして、聞かれればアレコレと理屈をこねくり回して答えるものの、現実には多くの人が「金利」や「価格水準」などの市場動向、つまり「外部要因」に合わせて生活しているわけではありません。子どもの学校とか家族のライフイベント、つまりは「内部要因」に合わせて動くケースがほとんどなのです。

つまりは、購入可否判断のための物差しを持つために、市場や金利の動向、税金などについて一定の知識を習得した上で
・売ったり貸したりと、将来の流動性が確保できそう
・支払いに無理がなさそう
かつ
・その物件を気に入っている
ならば、思い切って購入してしまえばよいのではないでしょうか。

ちなみに将来の流動性を確保しやすい物件については、第4回の「資産価値が落ちない家ってどんな家?」の内容を参考にしてください。資産価値が落ちにくい物件=流動性を確保しやすい物件です。無理のない支払い条件については、次回のコラムで触れますのでお楽しみに。

そうはいっても、マイホームを購入したあとに、例えば転勤やリストラ、長期にわたる疾病などに備えるにはどうしたらよいだろうかといった懸念は残ります。これを担保するにも、なるべく「価値が落ちない、落ちにくい住宅」を選べばいいでしょう。

仮に3000万円で買ったマンションが10年後に2000万になってしまった場合を考えてみましょう。よほど頭金を入れていないと、売却価格をローン残債が上回り、その分を現金で補填しないと売ることもできません。一方、10年後も3000万円で売れるなら、これはもう家賃はドブに捨てるようなものだといい切っていいでしょう。低金利の今なら10年間の支払い金利よりも賃料のほうがはるかに大きいはずです。

いつか住宅ローンを組むなら、それは一日でも早いほうがいいのです。理由はかんたんで「その分、支払いも早く終わるから」。35年の住宅ローンを組む場合、30歳なら65歳でローンが終わりますが、40歳だと75歳まで支払いは続きます。

株式売買とは異なり、不動産は一対一の相対取引で、契約条件もそれぞれ異なります。2012年の民主党から自民党への政権交代以降、不動産価格はほぼ一貫して上昇を続け、当時から見ればずいぶんと高くなりました。しかしこの期間中の価格上昇の多くの部分は「金利低下」で説明できる事が多いですし、そもそも安い時に買っている人もその多くは「たまたま」買えたというだけだったりするのです。

市場動向や金利やらの「外部要因」は「思い立ったときにたまたま条件良かったらうれしいよね」という程度に捉えておけば、後悔しないのではないでしょうか。

60歳からの家は自分たちで創ることにした

「老後資金には1億円が必要」とか「年金に期待するな」とか、最近の日本は年をとるのもたいへんだ。今まで一生懸命に働いてきたのに、リタイア後も頭が痛くなるような話題ばかり。もっと楽しく、自分たちの身の丈に合った暮らしはできないのか。そんなとき、長年の友人が700万円以下で首都圏に一戸建てを手に入れ、自分たちでリノベーションをすると聞いた。ワクワクするようなニュースだ。早速遊びに行った。
現金で払える予算で自分たちの終の棲家を探す

中原夫妻は私と同じで60歳。妻は私がコピーライターとして新人だった時代の少し先輩だ。お互い還暦を迎え、そろそろリタイア後の生活に真剣に取り組む必要がある。「まだまだ元気で仕事も現役だが、ほんとうに体力がなくなる前に自分たちの終の棲家は確保しておきたい」と家探しを始めたのは2015年だった。

そんな2人が手に入れたのは、千葉県千葉市の土気駅から歩ける場所にある築35年超の一戸建てだ。
「町田で賃貸住宅に住んでいましたが、そろそろ自分たちの老後を考えたときに、いつまでも家賃を払い続けるのも不安で、この際家を買おうということに。これからのことを考えたら、自分たちが用意できる現金の範囲で探そうということになりました」と夫。

予算は最大800万円まで。最初は東京より西側の神奈川で探していたが、坂の上で階段がある物件が多い。予算内だと再建築不可(※)といった物件もあった。夫妻ともに海の近くで育っているので、山よりも海の近くが暮らしやすい。そのため今度は千葉県にも足を延ばして探すことにした。

※建て替えや増改築ができない状態。市街化調整区域の土地、建築基準法の接道義務に違反している(4m以上の道路に間口2m以上接していない)土地、あるいは法律の施行以前に建てられた「既存不適格建築物」などが該当する。

「古い団地も見に行きましたが、階段の上り下りがいずれたいへんになりそうで……。やはり庭仕事が好きな私たちには一戸建てが向いていると考えはじめました」と妻。そこで出会ったのが今の住まいだった。予算内に収まる価格と駅からのアプローチがフラットだったのもポイントだった。

「中古の一戸建てを自分たちの手で直しながら住むのもいいかと。古いけれど角地に建っていて開放感があるのと庭があるのも気に入りました」と妻。「供給公社がしっかり建てた物件で、床下も屋根裏も見てみましたがきれいなものでした。途中で白アリ防除もしたということで購入を決めました」と夫。

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした (写真撮影/片山貴博)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした(写真撮影/片山貴博)

購入後に雨漏りを発見、修理をしてくれた大工さんと仲良くなる

2人はまず手描きで図面を起こし、1階部分の和室を洋室に変え、リビングと棚でつなげるようなプランを考えた。当初は1階リビングを完成させて引越したら、住みながら手を入れていく予定だった。

最初につくった手描きのリノベーションの設計図 (写真提供/中原健二氏)

最初につくった手描きのリノベーションの設計図(写真提供/中原健二氏)

ところが契約時に決めていた瑕疵担保責任の期間ぎりぎりの時期に、2階のベランダのジョイント部分から雨が入り込み、柱が1本腐っていたのを発見することになった。交渉した結果、売主が地元の大工さんに工事を頼んで修復してくれることになった。この修復工事が終わらないと、自分たちの工事もできない。

「この大工さんがいい人で、親しくなって、ついでにあれこれと見てくれました。その時、動かしていい柱を教えてもらったので、後の仕事がスムースになりました」。災い転じて福となすとは、まさにこのことだ。

しかも修復工事で壁を開けてみたら、やはり古い戸建てだけに断熱が完璧ではないことに気付いてしまった。夫はがぜん断熱にこだわりはじめ、床下や天井にも断熱材を張り巡らせることになった。

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた (写真提供/中原氏)

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた(写真提供/中原氏)

「モノと一緒にやさしさもいただく」。お金をかけずに材料を入手

リノベーションに必要な材料も実は費用がほとんどかかっていない。妻の口癖である「宝くじ以外は何でも引き寄せる法則」が随所で役に立った。

「ある日、いつもと違う道を歩いていたら、リフォーム会社のお持ち帰りボックスに壁紙がドーンと置いてあるのを発見。さっそく貰って帰りました」。さらに壁紙は友人からも貰うことができた。

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

またリビングのフローリングを無垢板にしたかったけれど、高いのでどうしようかと考えていたら、材木屋が廃棄しようとしていた板を少しずつ分けてもらうことができた。「無垢のフローリング材は、それぞれ規格が違い、サネと呼ばれるジョイント部の高さが違うのでカンナ掛けの加工が必要でした。1本ずつ夫が削って合わせて貼りました。でも色合わせが楽しかったです」

「玄関、廊下、1階の和室の竹のフローリングは、ホームセンターで見切り品になっていたのを買い占めました。お店でちゃんとお金を出して買ったレアケースです」と妻。

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

「某所では昭和20年代の室内ドアと、アメリカンクレイという壁塗り用の土を手に入れました。次はタイルが必要と言っていたら廃業するタイル屋さんとつながりました」とさらに妻の才能は開花する。

驚いたのはジモティの使いこなし術だ。「バスタブも展示品だけど新品を3000円でゲット。さらにレンジフードも新しいのを買っちゃおうかなと考えはじめていたところ、施工業者から新品未使用のものを7000円で手に入れました」。メインの写真で二人がくつろいでいる赤いソファ は4000円。ワイン箱の出物を6個1000円で手に入れ、奥行きを詰めて底と側面の板にフェルトを貼り棚の引き出しに利用したそうだ。手間をかけることをいとわなければ、こだわりのあるインテリアはお金をかけずにそろえることができるという好例だろう。
リビングと洋室の間のパーテーションにした棚は、イケアのものを2個はタダで、1個は1000円ほどでもらい受け、表面にサンダーをかけ荒らしてペイントし、3個1で組み込んだ。
「現場での解体が大変そうだと思っていましたが、受け取先の場所に伺うと、先に解体しておいてくれたうえに、組み立てるために便利なように完璧な合番まで振ってくれていました。ジモティでは庭の植栽も含めて10数件ほどやりとりをしましたがどの方も気持ちのいい方ばかり。モノだけではなくやさしさも一緒にもらいました」と妻。

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

夫が棟梁、妻はディレクター、それぞれが得意分野を活かす

夫は電気工事士の資格を持っているうえ、とにかく手先が器用だ。細かいところまでこだわり、なんでもつくってしまう。妻は以前グラフィックデザインの仕事をしていただけに、色やデザインにこだわりがある。妻が大まかなプランやデザインを考えるディレクターのような役割だ。夫がそれを実現していく。

例えばリビングの仕上げは壁紙を貼るのではなく、壁のボードをはがした上で構造材を張り直し、構造材にペイントした。「ペンキなどでテストしてみたら、プライマーと呼ばれる下塗り塗料をスポンジで載せていったものが、味わいがありしっくりきたのでそれをいかすことに」と妻。このほか、廊下からのリビングの入り口の壁には、お手製の猫ドアや古い建具を扱っている道具屋で見つけ出した昭和のガラスが入った飾り窓をはめ込むなど、次々にアイデアをかたちにしていったという。

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

キッチンとリビングの間の棚は、妻がデザインして夫がきっちりカタチにしていく。配線も壁や天井を造作する前に、ベストポジションにスイッチやコンセントをつくりたいという要望に、夫が天井に顔を突っ込んだり、 床に這いつくばったりして、コード類を裏から通して大健闘した。

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

「完成はいつごろの予定?」と聞いたら、「たぶん一生どこかを直し続けそう」との答えが返ってきた。このリノベーションの過程で、妻はもちろん私たちまで、中原氏を「棟梁」と呼んでしまうようになった。物件購入後2年をかけて、毎週末に町田から千葉市までリノベーションに通うというハードな日々を過ごした棟梁からは「リタイア後の住処は、なるべく体力と気力のある早いうちからアクションを起こすことをおすすめします。時間をかけてでも、その工程を楽しんでリノベーションに挑戦してください」と、アドバイスがあった。

実は中原夫妻は再婚同士だ。私がはじめて棟梁を紹介されたのは、1年ほど前に2階の和室の壁塗りを手伝いに来た時だ。年齢を経て知り合うカップルの理想的な姿のような気がした。自分たちならではの住まいをつくる過程で、あうんの呼吸がさらにぴったり合ってきている気がする。これからも少しずつ自分たちの生活に合わせて、住まいをバージョンアップしていくはずだ。理想的な年齢の重ね方ではないだろうか。

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

今は庭にウッドデッキを作成中だそうだ。完成するころには、またお邪魔してデッキでビールを飲ませてもらいたい。

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

予算800万円以内! 60歳からの住まいは2人でリノベーション

「老後資金には1億円が必要」とか「年金に期待するな」とか、最近の日本は年をとるのもたいへんだ。今まで一生懸命に働いてきたのに、リタイア後も頭が痛くなるような話題ばかり。もっと楽しく、自分たちの身の丈に合った暮らしはできないのか。そんなとき、長年の友人が700万円以下で首都圏に一戸建てを手に入れ、自分たちでリノベーションをすると聞いた。ワクワクするようなニュースだ。早速遊びに行った。
現金で払える予算で自分たちの終の棲家を探す

中原夫妻は私と同じで60歳。妻は私がコピーライターとして新人だった時代の少し先輩だ。お互い還暦を迎え、そろそろリタイア後の生活に真剣に取り組む必要がある。「まだまだ元気で仕事も現役だが、ほんとうに体力がなくなる前に自分たちの終の棲家は確保しておきたい」と家探しを始めたのは2015年だった。

そんな2人が手に入れたのは、千葉県千葉市の土気駅から歩ける場所にある築35年超の一戸建てだ。
「町田で賃貸住宅に住んでいましたが、そろそろ自分たちの老後を考えたときに、いつまでも家賃を払い続けるのも不安で、この際家を買おうということに。これからのことを考えたら、自分たちが用意できる現金の範囲で探そうということになりました」と夫。

予算は最大800万円まで。最初は東京より西側の神奈川で探していたが、坂の上で階段がある物件が多い。予算内だと再建築不可(※)といった物件もあった。夫妻ともに海の近くで育っているので、山よりも海の近くが暮らしやすい。そのため今度は千葉県にも足を延ばして探すことにした。

※建て替えや増改築ができない状態。市街化調整区域の土地、建築基準法の接道義務に違反している(4m以上の道路に間口2m以上接していない)土地、あるいは法律の施行以前に建てられた「既存不適格建築物」などが該当する。

「古い団地も見に行きましたが、階段の上り下りがいずれたいへんになりそうで……。やはり庭仕事が好きな私たちには一戸建てが向いていると考えはじめました」と妻。そこで出会ったのが今の住まいだった。予算内に収まる価格と駅からのアプローチがフラットだったのもポイントだった。

「中古の一戸建てを自分たちの手で直しながら住むのもいいかと。古いけれど角地に建っていて開放感があるのと庭があるのも気に入りました」と妻。「供給公社がしっかり建てた物件で、床下も屋根裏も見てみましたがきれいなものでした。途中で白アリ防除もしたということで購入を決めました」と夫。

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした (写真撮影/片山貴博)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした(写真撮影/片山貴博)

購入後に雨漏りを発見、修理をしてくれた大工さんと仲良くなる

2人はまず手描きで図面を起こし、1階部分の和室を洋室に変え、リビングと棚でつなげるようなプランを考えた。当初は1階リビングを完成させて引越したら、住みながら手を入れていく予定だった。

最初につくった手描きのリノベーションの設計図 (写真提供/中原健二氏)

最初につくった手描きのリノベーションの設計図(写真提供/中原健二氏)

ところが契約時に決めていた瑕疵担保責任の期間ぎりぎりの時期に、2階のベランダのジョイント部分から雨が入り込み、柱が1本腐っていたのを発見することになった。交渉した結果、売主が地元の大工さんに工事を頼んで修復してくれることになった。この修復工事が終わらないと、自分たちの工事もできない。

「この大工さんがいい人で、親しくなって、ついでにあれこれと見てくれました。その時、動かしていい柱を教えてもらったので、後の仕事がスムースになりました」。災い転じて福となすとは、まさにこのことだ。

しかも修復工事で壁を開けてみたら、やはり古い戸建てだけに断熱が完璧ではないことに気付いてしまった。夫はがぜん断熱にこだわりはじめ、床下や天井にも断熱材を張り巡らせることになった。

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた (写真提供/中原氏)

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた(写真提供/中原氏)

「モノと一緒にやさしさもいただく」。お金をかけずに材料を入手

リノベーションに必要な材料も実は費用がほとんどかかっていない。妻の口癖である「宝くじ以外は何でも引き寄せる法則」が随所で役に立った。

「ある日、いつもと違う道を歩いていたら、リフォーム会社のお持ち帰りボックスに壁紙がドーンと置いてあるのを発見。さっそく貰って帰りました」。さらに壁紙は友人からも貰うことができた。

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

またリビングのフローリングを無垢板にしたかったけれど、高いのでどうしようかと考えていたら、材木屋が廃棄しようとしていた板を少しずつ分けてもらうことができた。「無垢のフローリング材は、それぞれ規格が違い、サネと呼ばれるジョイント部の高さが違うのでカンナ掛けの加工が必要でした。1本ずつ夫が削って合わせて貼りました。でも色合わせが楽しかったです」

「玄関、廊下、1階の和室の竹のフローリングは、ホームセンターで見切り品になっていたのを買い占めました。お店でちゃんとお金を出して買ったレアケースです」と妻。

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

「某所では昭和20年代の室内ドアと、アメリカンクレイという壁塗り用の土を手に入れました。次はタイルが必要と言っていたら廃業するタイル屋さんとつながりました」とさらに妻の才能は開花する。

驚いたのはジモティの使いこなし術だ。「バスタブも展示品だけど新品を3000円でゲット。さらにレンジフードも新しいのを買っちゃおうかなと考えはじめていたところ、施工業者から新品未使用のものを7000円で手に入れました」。メインの写真で二人がくつろいでいる赤いソファ は4000円。ワイン箱の出物を6個1000円で手に入れ、奥行きを詰めて底と側面の板にフェルトを貼り棚の引き出しに利用したそうだ。手間をかけることをいとわなければ、こだわりのあるインテリアはお金をかけずにそろえることができるという好例だろう。
リビングと洋室の間のパーテーションにした棚は、イケアのものを2個はタダで、1個は1000円ほどでもらい受け、表面にサンダーをかけ荒らしてペイントし、3個1で組み込んだ。
「現場での解体が大変そうだと思っていましたが、受け取先の場所に伺うと、先に解体しておいてくれたうえに、組み立てるために便利なように完璧な合番まで振ってくれていました。ジモティでは庭の植栽も含めて10数件ほどやりとりをしましたがどの方も気持ちのいい方ばかり。モノだけではなくやさしさも一緒にもらいました」と妻。

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

夫が棟梁、妻はディレクター、それぞれが得意分野を活かす

夫は電気工事士の資格を持っているうえ、とにかく手先が器用だ。細かいところまでこだわり、なんでもつくってしまう。妻は以前グラフィックデザインの仕事をしていただけに、色やデザインにこだわりがある。妻が大まかなプランやデザインを考えるディレクターのような役割だ。夫がそれを実現していく。

例えばリビングの仕上げは壁紙を貼るのではなく、壁のボードをはがした上で構造材を張り直し、構造材にペイントした。「ペンキなどでテストしてみたら、プライマーと呼ばれる下塗り塗料をスポンジで載せていったものが、味わいがありしっくりきたのでそれをいかすことに」と妻。このほか、廊下からのリビングの入り口の壁には、お手製の猫ドアや古い建具を扱っている道具屋で見つけ出した昭和のガラスが入った飾り窓をはめ込むなど、次々にアイデアをかたちにしていったという。

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

キッチンとリビングの間の棚は、妻がデザインして夫がきっちりカタチにしていく。配線も壁や天井を造作する前に、ベストポジションにスイッチやコンセントをつくりたいという要望に、夫が天井に顔を突っ込んだり、 床に這いつくばったりして、コード類を裏から通して大健闘した。

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

「完成はいつごろの予定?」と聞いたら、「たぶん一生どこかを直し続けそう」との答えが返ってきた。このリノベーションの過程で、妻はもちろん私たちまで、中原氏を「棟梁」と呼んでしまうようになった。物件購入後2年をかけて、毎週末に町田から千葉市までリノベーションに通うというハードな日々を過ごした棟梁からは「リタイア後の住処は、なるべく体力と気力のある早いうちからアクションを起こすことをおすすめします。時間をかけてでも、その工程を楽しんでリノベーションに挑戦してください」と、アドバイスがあった。

実は中原夫妻は再婚同士だ。私がはじめて棟梁を紹介されたのは、1年ほど前に2階の和室の壁塗りを手伝いに来た時だ。年齢を経て知り合うカップルの理想的な姿のような気がした。自分たちならではの住まいをつくる過程で、あうんの呼吸がさらにぴったり合ってきている気がする。これからも少しずつ自分たちの生活に合わせて、住まいをバージョンアップしていくはずだ。理想的な年齢の重ね方ではないだろうか。

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

今は庭にウッドデッキを作成中だそうだ。完成するころには、またお邪魔してデッキでビールを飲ませてもらいたい。

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

古民家暮らしの魅力や注意点は? 実際の購入者に話を聞いた 古民家購入マニュアル(後編)

「憧れの古民家暮らしがしたい」。前編では、購入に関するノウハウをお伝えしましたが、後編の今回は、実際に古民家を購入し、新しい暮らしを手に入れた方々にお話をうかがいました。古民家暮らしの魅力や購入前のアドバイスなど、実際に購入した人たちの暮らしから探っていきましょう。
古民家を購入してカフェをオープン!DIYで心地よい空間を(30代夫婦)

まずお話を聞いたのは、「古民家で暮らしながらカフェをやりたい」と、東京都内から千葉県茂原市に転居。2015年に古民家を改装して「コーヒーくろねこ舎」をオープンしたKさん夫妻(30代)です。
古民家暮らしをしようと思った理由は、もともと夫が山形育ちとのことで、のびやかな環境で自分たちのペースで暮らしたいと考えていたから。「私は東京生まれ東京育ちですが、ゆったり暮らしたいっていうのは誰しも考えることですし、いつか自分でカフェを開きたいと思っていたので、住む場所は都会に限定しなくても」と古民家探しをはじめたそうです。

「数えきれないほど(笑)」物件を見学したKさん夫妻。じっくり探した結果、住む家とカフェが別々で設けられる2棟建て、敷地内に畑が設けられ、お客さんが駐車できる広い敷地など、希望を叶えた現在の場所を見つけました。

そこからはカフェオープンに向けてこつこつDIYで店舗づくり。「電動工具などそれまで触ったこともなかったのですが、いざやってみると大変だけど楽しかったですね」。サンダーで削ったり、床板をくぎ打ちしたり、少しずつ自分たちの色が広げていきました。「古民家ははじめて訪れてもどこか懐かしい空間が魅力だと思います。もともと好きだった古道具店めぐりや雑貨収集などもより楽しくなりました。テーブルや椅子も古道具を使っていくつか自作しているのですが、ちょっと曲がっていたりしても、この空間だから味になるというか」。そんな魅力を発見しながら、つい長居したくなる古民家カフェができました。

壁の漆喰塗から床の張り替え&自然塗料による塗装、近隣の古道具店などから手に入れたテーブルや椅子をカスタマイズ。Kさん夫妻が営む古民家カフェ「コーヒーくろねこ舎」の内装はすべてDIYでこつこつつくり上げられたもの。のんびりした風景と調和する優しい空間だ(写真撮影/山口俊介)

壁の漆喰塗から床の張り替え&自然塗料による塗装、近隣の古道具店などから手に入れたテーブルや椅子をカスタマイズ。Kさん夫妻が営む古民家カフェ「コーヒーくろねこ舎」の内装はすべてDIYでこつこつつくり上げられたもの。のんびりした風景と調和する優しい空間だ(写真撮影/山口俊介)

「貯蓄」と「地域共生」 古民家暮らし満喫のための大切な要素

そんなKさん夫妻のように、古民家カフェや古民家パン屋など、古民家暮らしと古民家を活かした事業を両立したいという人が若い人の中で増えています。ですが、Kさんは古民家暮らしには「夢や理想だけでは厳しい部分もあると思います」といいます。

「当たり前だと思いますが、購入前に貯蓄は必要だと思います。もし貯蓄が無かったら、当然生活のためにしたくない仕事をしなくてはいけなくなります。それではせっかくのびやかに自分たちのペースで暮らしたいという理想がかなえられませんよね。だから私たちは目標として、2年はお客さまが入らなくて、赤字になっても暮らしていける額を設定して、貯蓄してから購入しました」。もちろん新築に比べて固定資産税などがかからない特徴はありますが、自分たちの手で維持していくにもお金がかかるもの。住んですぐ引越さなくてはいけなくなるのは避けたいものです。特に事業を行うならなおさら注意が必要です。

もうひとつは近隣の方々とのお付き合い。古民家が立地する多くのエリアは、昔から代々住んでいる人が多く、また、土地ごとに風習、文化が色濃く残っていることも多いのが都会と異なる点です。

「ご近所付き合いは大切にしたほうが良いと思いますね。私はどちらかというと苦手なのですが、夫は得意な性分で、地元の消防団に入ったり、お祭りに参加したり、積極的にコミュニケーションをとって地域に参加しています。人との繋がりが広がっていくといろいろ発見がありますし、自分たちのペースで繋がる感じがすごく心地よいです」といいます。だからこそ「事前に住む地域がどんな文化的背景があるかや、地域の行事が充実しているかなどをしっかりリサーチしておくと良いかなと。そういう文化に積極的に触れられるのも、田舎の古民家暮らしならではだと思います」

「お客様はみなさんのんびり、ゆっくり過ごしていただいています」(Kさん)。古民家独特のどこか懐かしくて、落ち着きを感じる空間はリピーターも多いという(写真撮影/山口俊介)

「お客様はみなさんのんびり、ゆっくり過ごしていただいています」(Kさん)。古民家独特のどこか懐かしくて、落ち着きを感じる空間はリピーターも多いという(写真撮影/山口俊介)

アメリカの雄大な自然環境に触れ、古民家暮らしを決意

お次は千葉県長南町の古民家で暮らすトモ長谷川さん(50代夫婦と子ども)。実は日本を代表する銃器や刃物の写真家であり、大学時代は夫婦ともに建築学科で日本家屋を専攻していたというマルチな方です。

そんなトモ長谷川さんの古民家暮らしへの憧れは大学生時代。「東京に住んでいたのですが、競技射撃選手だったので、演習などでアメリカ・カリフォルニア州のヨセミテの近くの広大な原野で生活することも多かったんです」。そんな自然の中での暮らしに何度も触れたことから、「日本の都会に戻ってくると、周囲に配慮しすぎたり、自然に触れられない環境に徐々に息が詰まるようになって。また、日本国内で旅をすることも多かったのですが、なぜかひきつけられるように『古民家』の宿を泊まり歩いていて。いつしか古民家で生活したい!と思ったんです」。

自然あふれる田舎暮らしにあこがれて古民家暮らしを決意したトモ長谷川さん。時間を見つけてはさまざまな物件を見学し、現在の立派な長屋門が付いた由緒ある古民家を見つけて購入しました。古民家を購入する前と購入後でどんな変化があったのでしょう?

「私にとってはとても価値ある暮らしができていると実感しています。「自然がリビング」といえる環境を感じながらの暮らしは、都会ではなかなか味わえない。また、良さがどんどんわかってくるのも古民家ならではだと思います。使われている部材はもちろん天然素材で、アカマツなど今では希少な木材ばかり。それが長い年月を経たことにより、風合いやたたずまいに時が刻まれることで、自然がつくった彫刻品に住んでいるような気さえします」

森を背に広大な敷地に建つトモ長谷川邸。こつこつDIYで住まいを改装しながら暮らしている(写真提供/トモ長谷川さん)

森を背に広大な敷地に建つトモ長谷川邸。こつこつDIYで住まいを改装しながら暮らしている(写真提供/トモ長谷川さん)

(左)周囲に自生する山菜なども満喫。季節や自然を感じながらの食事は格別だそう(右)屋根裏部屋にDIYで子ども部屋を制作した。歴史を感じる梁や柱に囲まれての生活は、新築では味わえないという(写真提供/トモ長谷川さん)

(左)周囲に自生する山菜なども満喫。季節や自然を感じながらの食事は格別だそう(右)屋根裏部屋にDIYで子ども部屋を制作した。歴史を感じる梁や柱に囲まれての生活は、新築では味わえないという(写真提供/トモ長谷川さん)

掃除をすれば感動する!最初の印象にだまされないで

そんなトモ長谷川さんに、古民家暮らしを希望する人に向けたアドバイスも聞いてみました。
「実際の古民家探しで絶対に驚くのは最初の見学。古民家は雑然として、思わず「汚い」「ここに住めるの?」ってびっくりすると思いますよ。だから『まずは掃除から』と言いたいですね。自分が真っ黒になるまでぴかぴかにすると、ホコリや汚れの下に、年月を経たからこそ深まった古民家の良さを見つけられると思います。また、よく言われるのですが、最初から大きな改修は考えなくていいと思います。暮らしながら手をかけていく。それも古民家暮らしの醍醐味のひとつですから」

また、トモ長谷川さんが住む千葉県長南町のように、移住促進の補助金制度がある自治体も数多くあるといいます。

【例】長南町若者定住促進事業
・45歳以下の夫婦世帯に対して奨励金(上限200万円)を交付
・リフォーム補助

「自治体サポートのほか、私が古民家探しで相談した千葉房総ねっとさんの「田舎暮らし交流会」のような、先輩移住者からお話を聞けたり、実際の暮らしを見学できる集まりもあります。臆せずまずは飛び込んで、古民家、田舎暮らしの魅力に触れてみてほしいですね」

そんなトモ長谷川さんは、自身の経験を生かして「ウルトラ“古民家”防衛軍」という、古民家を通じた暮らし提案の活動も行っています。木工ワークショップや古民家リノベ見学会など多彩なイベントを行っているので、気になる人はホームページを覗いてみてはどうでしょう。

古民家、田舎で暮らすことで、コミュニティーつくりにも熱心に。「手をかけながら暮らす」という古民家暮らしの醍醐味を、木工ワークショップなどさまざまなイベントを主催して広めている(写真提供/トモ長谷川さん)

古民家、田舎で暮らすことで、コミュニティーつくりにも熱心に。「手をかけながら暮らす」という古民家暮らしの醍醐味を、木工ワークショップなどさまざまなイベントを主催して広めている(写真提供/トモ長谷川さん)

トモ長谷川さんが中心となって活動する「ウルトラ“古民家”防衛軍」。古民家を改修することで価値を付与し、有効活用する活動などを行っている(写真提供/トモ長谷川さん)

トモ長谷川さんが中心となって活動する「ウルトラ“古民家”防衛軍」。古民家を改修することで価値を付与し、有効活用する活動などを行っている(写真提供/トモ長谷川さん)

古民家暮らしの良さは、古民家だからこそ持っている歴史や年月、環境を感じながら暮らせること。そして自分で手をかけて暮らすことへの楽しさのようです。古民家だからこそ体感できる豊かな暮らしは、ますますこれからの家選びの大きな選択肢になっていくかもしれません。

●前編
・古民家が欲しいと思ったら? 覚えておきたいノウハウを紹介 古民家購入マニュアル(前編)●参考
・長南町若者定住促進事業 / リフォーム補助●取材協力
・コーヒーくろねこ舎
・ウルトラ“古民家”防衛軍

古民家が欲しいと思ったら? 覚えておきたいノウハウを紹介 古民家購入マニュアル(前編)

「古民家を購入して住みたい」と思っても、どこに相談したらよいか分からないという人は少なくないはず。税金、断熱と耐震、補助金なども、新築住宅を購入するときとはちょっと異なる制度・注意点などもありそうです。古民家購入前に知っておきたいノウハウや、実際購入した人の声を前後編でお届けします。前編の今回は、古民家購入のために覚えておきたい基礎知識について、「千葉房総ねっと」代表の武田新さんにお話をうかがいました。
そもそも古民家物件はどうやって探せばいい?

古民家には、明確な定義はありませんが、一般的に伝統的な木造建築工法で昭和初期までに建てられている日本家屋を指すそうです。当然築年数が相当に古く、普通の不動産会社ではなかなか取り扱っていません。

「専門誌を参考にしたり、古民家専門の不動産会社を探すことなどから始めましょう」と武田さんは言います。古民家専門の不動産会社は、インターネットで「古民家 物件」「古民家 購入」といったキーワードで検索すると比較的簡単に見つかりますし、「NPO法人 日本民家再生協会」(http://www.minka.or.jp/index.html)や「(一社)全国古民家再生協会」(http://www.g-cpc.org/)といった団体のホームページから探すのもおすすめだそうです。「建物の構造チェックや古民家建築に詳しい建築士情報など、扱う情報は団体ごとに特徴があるので、さまざまなウェブサイトをチェックするといいでしょう」(武田さん、以下同じ)

ここ数年、のんびり田舎暮らしがしたいというニーズに、インバウンドを狙った需要も高まり、古民家人気が高まっていると話す武田さん。「売買がすぐ決まることも多いので、気に入った物件はすぐに問い合わせましょう」(写真撮影/山口俊介)

ここ数年、のんびり田舎暮らしがしたいというニーズに、インバウンドを狙った需要も高まり、古民家人気が高まっていると話す武田さん。「売買がすぐ決まることも多いので、気に入った物件はすぐに問い合わせましょう」(写真撮影/山口俊介)

それ以外では、移住促進に力を入れている自治体などで広がっている、古民家を含めた空家物件の紹介事業や「空家バンク」などもあります。古民家情報を紹介するイベントなどを行っている自治体もあるので、住みたいエリアの自治体に問い合わせてみるのもひとつの手かもしれません。

「千葉房総ねっと」では、サイト利用者も参加できる「田舎暮らし交流会」を開催。古民家暮らしの先輩たちから直接話を聞くことで、地域の特徴や古民家暮らしを具体的にイメージできる(写真提供/田舎暮らし!千葉房総ねっと)

「千葉房総ねっと」では、サイト利用者も参加できる「田舎暮らし交流会」を開催。古民家暮らしの先輩たちから直接話を聞くことで、地域の特徴や古民家暮らしを具体的にイメージできる(写真提供/田舎暮らし!千葉房総ねっと)

古民家購入は、補助や税金メリットがあるって本当?

住みたいと思えるような古民家物件を見つけたら、次に気になるのが購入にかかるコスト。購入の流れは基本的に中古物件を購入する際と同じですが、実は古民家ならではの税金上のメリットがあります。

「古民家には築70年や100年という物件もざらにあるので、建物自体の価値が低く見積もられ、固定資産税が安いんです。そのほか、不動産取得税も少なくなりやすい。もちろん、物件によりますが、諸費用を抑えて購入できると考えてよいでしょう」

それだけでなく、前述の通り、移住促進事業などで補助金を出している自治体もあるため、購入コストだけでなく、住み始めてからの生活コストも抑えることもできるかもしれません。

ただし、古民家を購入する際には注意しておきたい点がいくつかある、と武田さんは言います。

「古民家は購入後そのまま住めるわけではなく、ほとんどの方が古民家を購入して、リフォーム、リノベーションを行います。その工事費用を見積もっておかなくてはいけません。特に古民家の修繕は熟練職人の力が必要な場合や、同じ部材がなく調達コストが思いのほかかかることもあるので、そうした手間なども考えておきましょう」

また、新築住宅購入の際に利用できる住宅ローン減税については、中古住宅購入と同じ減税制度を受けることができます。ただ、古民家の多くが1981年以前の旧耐震物件のため、制度の条件から外れる物件が多く、「ローン控除はないと考えたほうがよいでしょう」とのことです。

さらに、古民家ならではといえる特徴として「農地付き物件」の取得条件があるのだとか。「農地付き物件とは、文字通り、農地を所有する物件のこと。農地付き物件を取得するには、各自治体が発行する『農家資格」が必要です。就農しない場合は仮登記を行い、権利を保全する必要があります」

【古民家のなかには「農地付き物件」も。農地付き物件を取得するには農家資格が必要になる(写真/PIXTA)

【古民家のなかには「農地付き物件」も。農地付き物件を取得するには農家資格が必要になる(写真/PIXTA)

古民家の「断熱性」「耐震性」は大丈夫?

古い家であればあるほど機能や構造面も気になるところ。特に断熱性や耐震性は、快適で安心・安全な暮らしを送るために知っておきたいポイントですね。

「実は古民家暮らしで一番相談されるのが『寒さ』なんです。古民家暮らしをしている人たちも、集まれば『冬は寒いね~』が合言葉になるほど、正直冬は寒いです。複層ガラスのサッシや床下、天井に断熱材を入れることで断熱性能を上げることはできますが、基本的に古民家は田の字型間取りですべての空間がつながっていることが多く、風通しに優れているのが特徴です。天井まで吹抜けた家も多いので、古民家ならではの空間を活かすなら、断熱材を取り入れられる箇所が少ないんですよね。

そのため、冬は囲炉裏を囲み、かいまきを着て暖を取る人が多いですよ。ただ、庇(ひさし)が大きい分、直射日光をさえぎることができ、土壁など調湿性の高い素材を使っているので、夏は涼しいです。四季を感じながら暮らすのも古民家の魅力なので、せっかく古民家に暮らすなら、そのくらいの割り切りが必要だと思います」

「冬は背中の寒さを少し我慢しながら、囲炉裏を囲んで暖をとりながら団らんするなど、せっかく古民家暮らしなら、その醍醐味を味わってほしいですね」(武田さん)(写真/PIXTA)

「冬は背中の寒さを少し我慢しながら、囲炉裏を囲んで暖をとりながら団らんするなど、せっかく古民家暮らしなら、その醍醐味を味わってほしいですね」(武田さん)(写真/PIXTA)

東北や上越といった豪雪地帯の古民家であれば、防寒力が高いのでは?と聞いてみたところ、「雪が積もりにくい傾斜の屋根を持つなどは見受けられますが、基本的な構造は同じなのであまり差はありませんね」とのこと。寒さを感じながら暮らすのも一興ということです。

しかし、寒さは我慢できても、家が傾いては困ります。耐震性についてはどうでしょうか?

「考え方が真っ二つに分かれるところです。古民家の多くは1981年以前に建てられたいわゆる『旧耐震基準』の物件になります。耐震性担保の目安のひとつとして挙げられる新耐震基準ではありません。ただ、一方で80年も100年もずっと倒壊せず建ってきたという実績もあるんです。日本古来の建築の家は『揺れを逃がす』という特徴があります。ひとたび地震が来ると、自ら揺れることで倒壊せず耐えるものです。

どちらがよいかは専門家でも判断が分かれるところですが、古民家だから耐震性が低いと断じるのは早計だと思います。どうしても不安な場合は、インスペクター(診断士)など専門家に見てもらうのも手ですね」

もちろん金物を使って補強することもできますが、木組みの良さを損なうこともあるので、リノベーションの際に相談してみましょう。

武田さんに教えていただいたとおり、古民家を購入する際は、新築物件を購入するときとは違うポイントがあります。ただ、古民家が欲しいと思ったときに一番重要なことは「住んでから家に手をかけることを楽しめるかどうか」だと武田さんは話します。壁や床がはがれたり、建具の建てつけが悪くなるなど、新築以上に修繕が発生します。自分たちで、生活も家も紡ぎながら暮らす。それが古民家暮らしの醍醐味なんですね。

●取材協力
・田舎暮らし!千葉房総ねっと

「疲れないリビング」とは? リフォームコンクール受賞デザイナーと新進気鋭の建築家に聞いてみた

家の中でみんなが一番長く過ごす場所、LDK。どんな空間をつくったらくつろげる場所になるのか。リフォームをする際の間取りの考え方や光の取り入れ方などを、今注目の2人の専門家、スタイル工房のチーフプランナー鈴木ゆり子さんと、ハンディハウスプロジェクトの中田裕一さんに語ってもらった。
くつろげるLDKにするには、変化に対応できる余白が必要

鈴木 くつろぎの定義は人によって違いますよね。例えば、ソファの上でゴロゴロするのが好きな人もいれば、床に座ってソファに寄りかかる方が落ち着く人もいます。
中田 その意味でも、家を設計するときに、今どんなふうに暮らしているかを理解することは、すごく大切ですね。
鈴木 ご自宅に伺った際に、ご家族の好きなくつろぎスタイルとか、持っている物の量とかいろいろな情報を受け取っています。ただ、くつろぎ方は時間とともに変わっていく部分もあるので、私はリフォームで100%つくり込まなくていいと思っています。全部を決め込むと暮らしが窮屈になるので、余白を残して暮らす人に季節や時代で変えてもらえたらいいですよね。
中田 そうですね。例えば夫婦2人の間は、家族が一番長く過ごすLDKを最大限にして、子どもの成長や家族構成の変化に合わせて、1LDKや2LDKに仕切っていくこともありですよね。安らげる場所があれば、そこがその人にとってのリビングになるのだと思います。

鈴木さんが手掛けた事例。光を入れるためにLDKを2階に移動。間仕切り壁を全て外し、ダイニングは勾配天井にして縦横に広がる空間にした。断熱施工をして家全体の居心地の良さもアップ(画像提供/スタイル工房)

鈴木さんが手掛けた事例。光を入れるためにLDKを2階に移動。間仕切り壁を全て外し、ダイニングは勾配天井にして縦横に広がる空間にした。断熱施工をして家全体の居心地の良さもアップ(画像提供/スタイル工房)

収納のつくり方と配置で他者の目線を気にせず憩える空間に

中田 居心地よく暮らすためには、目線への配慮も大切ですね。LDKにも収納や物を隠せるスペースはあった方が、見た目がうるさくならないからホッとできます。
鈴木 特にキッチンは物が多く煩雑に見えがちですものね。
中田 僕はパントリーをつくるときに、リビングから見えない場所に配置できないかを考えるようにしています。
鈴木 私も大型家電などはリビングの視線から外すようにしています。余計な物を視界に入れないこともくつろぎ空間の要件の一つです。
中田 そういう普遍的な部分は、プロとしてきちんと考え、伝えていきたいですね。

中田さんが手掛けた事例。オープンなダイニングキッチンはコンロを背面に配置。リビングから見えない位置にパントリーや冷蔵庫を配置することで、視界がスッキリとして、くつろぎの邪魔をしない(画像提供/ハンディハウスプロジェクト)

中田さんが手掛けた事例。オープンなダイニングキッチンはコンロを背面に配置。リビングから見えない位置にパントリーや冷蔵庫を配置することで、視界がスッキリとして、くつろぎの邪魔をしない(画像提供/ハンディハウスプロジェクト)

自分たちの好みを反映した内装で落ち着く場をつくる

鈴木 仕上げ(内装)は完成形を想像しやすいですし、お施主様の好みを活かすことで、自分らしくいられる空間になりますよね。
中田 素材もテイストもさまざまな物があるので、自分たちの好きな物を選んでほしいですね。その方が住まいへの愛着も増して、和める空間になる。以前の住まいの古材を使って、歴史を継承できることもリフォームの魅力です。
鈴木 古い物の良さと、新しい部材や設備の性能の良さの両方が共存できますからね。
中田 性能という点では、僕は断熱リフォームをきちんとすることをお薦めしています。家の中でゆったり過ごすために、断熱性は重要なファクターですから。
鈴木 心地のいい明るさも大切です。ガラスを間仕切り壁に入れたり、ガラスブロックを使ったりすることで、奥の部屋や廊下にも光や風を取り入れることができます。
中田 くつろぎ空間には採光や通風、断熱性などのハード面と、自分たちらしく過ごせる間取りや人の目線を気にしなくていい収納などのソフト面があるということですね。

リフォームでくつろぎ空間をつくるには「余白」「目線への配慮」「好みの内装」を重視すると良いことが分かりました。みなさんもこれを参考に、くつろぎ空間を手にいれてくださいね。

文/中城邦子

●取材協力
・鈴木ゆり子 
スタイル工房チーフプランナー。大学卒業後、設計事務所勤務などを経て現職。施主と一緒に楽しみながらつくることを信条とし、リフォームコンクールで多くの受賞歴をもつ
・中田裕一 
ハンディハウスプロジェクト主宰。大学卒業後、設計・施工会社に勤務。中田製作所を設立し、2011年より施主にも参加してもらうことで愛着のある家づくりを進める同プロジェクトを始動

ミラノサローネ2018リポート!キッチンもインスタレーションも“JAPANESE”が注目の的

今年で57回目を迎える【ミラノサローネ国際家具見本市/Salone del Mobile.Milano (以下、ミラノサローネ) 】は1841社の企業が出展し、4月17日―22日に開催。6日間で188カ国以上から43万4509人と、過去最高の来場者数を記録した(前年比 26%増。隔年開催のキッチン・バス見本市2016年比17 %増)。同時開催される街中イベント(【Fuorisalone(フォーリサローネ)】1372イベント)は、基本無料の公開なので子どもから大人までさらに多くの参加者でにぎわった。
例年以上に暑い日が続いたミラノの現地取材。人山をかき分けながら撮った筆者の写真を交え、隔年開催のキッチン見本市などをレポートします!
前夜祭から圧倒!街全体がインテリア・デザインに染まる

史上最高の来場者数となったミラノサローネ。同イベントのプレジデント、クラウディオ・ルーティ氏は
「産業と行政が協力し合い、文化と企業がイタリアを牽引し、唯一無二のイベントを生み出している」と、イタリア家具業界と、ミラノ市など自治体行政との友好な関係性を成功の秘訣に挙げた。

ミラノ市長ジュゼッペ・サラ氏(左から4番目)とミラノサローネ社長クラウディオ・ルーティ氏(同5番目)。市内中心地の王宮前に建てられた特別企画展示『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』のオープニング・テープカットの様子(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長ジュゼッペ・サラ氏(左から4番目)とミラノサローネ社長クラウディオ・ルーティ氏(同5番目)。市内中心地の王宮前に建てられた特別企画展示『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』のオープニング・テープカットの様子(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』展は、建築家のカルロ・ラッティによる500平米のガーデンパビリオン。春・夏・秋・冬4つのゾーンに分けて、その気候を再現。夏の日差しや冬の寒さを、太陽光発電エネルギーによって生成し、ゾーン間で熱交換を制御した。「クリーンエネルギーによって、どのように自然を都市に戻すことができるか」に挑戦する企画展示だ。

春のゾーンには桜が咲き、冬のゾーンではヒマラヤ杉に雪が積もる。秋は「霧のミラノ」の情景だったが……うまく写真を撮れなかった!23種類の樹木や植物をイタリア家具と共に展示(写真撮影/藤井繁子)

春のゾーンには桜が咲き、冬のゾーンではヒマラヤ杉に雪が積もる。秋は「霧のミラノ」の情景だったが……うまく写真を撮れなかった!23種類の樹木や植物をイタリア家具と共に展示(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』パビリオンがあるのは、大聖堂ドゥオモと右の王宮の間の広場(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』パビリオンがあるのは、大聖堂ドゥオモと右の王宮の間の広場(写真撮影/藤井繁子)

その後、ミラノ王宮で行われたミラノサローネ前夜祭ガラ・ディナーに筆者も出席。

素晴らしいクラッシックな大広間の天井に繰り広げられたのは、四季をテーマにしたプロジェクションマッピング。「Spettacolo(スペクタクル)!」(写真撮影/藤井繁子)

素晴らしいクラッシックな大広間の天井に繰り広げられたのは、四季をテーマにしたプロジェクションマッピング。「Spettacolo(スペクタクル)!」(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネのプレス、国際担当のヴェントゥーラ女史(左)と日本担当の山本幸さん(右)と共に。右写真の椅子はKartell(カルテル)社の『マスターズ』(フィリップ・スタルク)(写真撮影/筆者友人)

ミラノサローネのプレス、国際担当のヴェントゥーラ女史(左)と日本担当の山本幸さん(右)と共に。右写真の椅子はKartell(カルテル)社の『マスターズ』(フィリップ・スタルク)(写真撮影/筆者友人)

こんな風に前夜祭パーティーから、インテリアの祭典らしく完璧な演出!翌日からの見本市会場オープンへ、期待が高まっていく。

キッチン見本市【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】ガラス・ショーケースが印象的

ミラノサローネではメインの家具に加え、キッチン・バスと照明・オフィスの見本市が隔年で開催される。今年はキッチン・バス見本市の年、来場者数は照明の年より多くなるのが常だ。

【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】には世界から111社が出展。【FTK】と呼ばれる設備機器メーカー47社の見本市も併催(写真撮影/藤井繁子)

【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】には世界から111社が出展。【FTK】と呼ばれる設備機器メーカー47社の見本市も併催(写真撮影/藤井繁子)

キッチンパビリオンは朝からどこも大にぎわい。直ぐに行列ができて入場制限するブースも。
Scavolini(スカヴォリーニ)社は、ファッションブランド『Diesel(ディーゼル)』とコラボしたキッチンや日本の『nendo(ネンド)』がデザインしたキッチンなど話題が多いキッチン&バス・メーカー。
今年はイタリア人ミシュランスターシェフのCarlo Cracco(カルロ・クラッコ)がデザインしたキッチン『MIA』を発表。

プロフェッショナル志向のユーザーが好むステンレス仕上げ。シンプルデザインのなかにクラッコ・シェフが提案する気の利いた機能が、アイランド本体だけでなく、壁面のオープンシェルフや収納にも盛り込まれていた(写真撮影/藤井繁子)

プロフェッショナル志向のユーザーが好むステンレス仕上げ。シンプルデザインのなかにクラッコ・シェフが提案する気の利いた機能が、アイランド本体だけでなく、壁面のオープンシェルフや収納にも盛り込まれていた(写真撮影/藤井繁子)

例えば、こちらは収納を引き出すと、ちょっとしたものがカットできるまな板がビルトイン。横から包丁収納が引き出せ、カットした野菜ゴミなどがサッと捨てられる穴があいている(下がゴミ箱収納)。

確かに、生ゴミを捨てる穴は便利!でも、引き出しでなくカウンターに付いているほうが有難いかな……(写真撮影/藤井繁子)

確かに、生ゴミを捨てる穴は便利!でも、引き出しでなくカウンターに付いているほうが有難いかな……(写真撮影/藤井繁子)

今年、キッチンを見て回ったなかで印象的だったのが、ガラス・キャビネット。
キッチンにこだわる人は、食器だけでなくキッチン家電などもデザインの良いものを選ぶので
見せる収納として扉をガラスにするキッチンキャビネットが増えていた。
単にオープンシェルフ化するより、収納しながらもライティングでショーケースのように美しく飾る。

Scavolini社クラッコ・シェフの提案は、一部をガラス・ショーケースにして魅せる。収納の中には電源も(写真撮影/藤井繁子)

Scavolini社クラッコ・シェフの提案は、一部をガラス・ショーケースにして魅せる。収納の中には電源も(写真撮影/藤井繁子)

Dada(ダーダ)社は家具ブランドMolteni&C(モルテーニ)社のグループ、洗練されたデザインのガラスキャビネットはモルテーニ社の得意な分野。

Molteni&C社との家具パビリオンで展示されたDada社のキッチン。両者のアートディレクターであるVincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥィセン)がブース全体を家として構成し美しくまとめ上げた(写真撮影/藤井繁子)

Molteni&C社との家具パビリオンで展示されたDada社のキッチン。両者のアートディレクターであるVincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥィセン)がブース全体を家として構成し美しくまとめ上げた(写真撮影/藤井繁子)

【EuroCucina】会場でもDada社のキッチンは複数展示されていたが、やはり魅力的だったのはガラス使い。
レンジフードも、ゴールドメタルを挟んだガラスで囲んだデザイン。遠目に見るとメタルなのに、レースのような質感がきれいだった。

Dada社デザインの新作ガラス・キャビネット。ファッションブランド『アルマーニ』のキッチンもDada社製だが、今回新作は無かった(写真撮影/藤井繁子)

Dada社デザインの新作ガラス・キャビネット。ファッションブランド『アルマーニ』のキッチンもDada社製だが、今回新作は無かった(写真撮影/藤井繁子)

設備メーカーからも、ショーケース的に見せる収納を発見。
「ワインセラーの中に、コレクションで一番見せたいボトルを飾るラックをつくりました。スポットライトのような照明で演出します」(GAGGENAU(ガゲナウ)社)

ドイツGAGGENAU社の新製品、ビルトイン冷蔵庫やオーブンと並びで構成されるシステム。吸い込まれるようにフォーカスされる2本の高級シャンパン(写真撮影/藤井繁子)

ドイツGAGGENAU社の新製品、ビルトイン冷蔵庫やオーブンと並びで構成されるシステム。吸い込まれるようにフォーカスされる2本の高級シャンパン(写真撮影/藤井繁子)

世界の中で注目を浴びたのは、日本企業のキッチン展示!

今年サローネ開催前から話題に上がっていたのは、イタリアのキッチン&バス・デザインをリードするBoffi(ボッフィ)社の27年ぶりの出展だった。傘下の家具ブランド、De Padova(デ・パドバ)社・ MA/U Studio社と合同で家具パビリオンに登場。

Boffi社の新作『COMBINE(コンビン)』(Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)デザイン)(写真撮影/藤井繁子)

Boffi社の新作『COMBINE(コンビン)』(Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)デザイン)(写真撮影/藤井繁子)

『COMBINE』その名のとおり、“組み合わせる”ことが自由にできるシステム。
単体ではコンパクトキッチンに、2つ並べるとI型キッチン、こんな風にZ型に組み合わせて可動式のテーブルも合わせるなど、スペースに合わせてデザインできる。
カウンタートップの高さがそれぞれ違うので、組み合わせるとリズム感のあるデザインに。

キッチン扉材は石・木など形状・素材バリエーションを豊富に用意、テーブルなど組み合わせアイテムもそろう(写真では正方形テーブルを、少し動かして離してみてくれた)(写真撮影/藤井繁子)

キッチン扉材は石・木など形状・素材バリエーションを豊富に用意、テーブルなど組み合わせアイテムもそろう(写真では正方形テーブルを、少し動かして離してみてくれた)(写真撮影/藤井繁子)

キッチンで最後に紹介したいのが、【ミラノサローネ・アワード/Salone del Mobile.Milano Award】を受賞した日本のサンワカンパニー社。
この賞は展示商品だけでなく、その展示空間・コンセプトなどを総合的に審査し、最も優れた出展社を表彰するもの。今年は見本市会場に出展した1841社のなかから、サンワカンパニーとCC-tapis(CC-タピス)、Magis(マジス)の3社が選出された。

角地で目立つロケーション、ひときわシンプルで“間”が取られた空間は“ZEN(禅)”を彷彿とさせ、いかにも日本的な美しさの展示だった(広さ320平米)。審査員からは「混雑する会場の中で、オアシスのような場を提供」「空間が製品を引き立たせ、ストーリー性をもっている」と評価された(写真撮影/藤井繁子)

角地で目立つロケーション、ひときわシンプルで“間”が取られた空間は“ZEN(禅)”を彷彿とさせ、いかにも日本的な美しさの展示だった(広さ320平米)。審査員からは「混雑する会場の中で、オアシスのような場を提供」「空間が製品を引き立たせ、ストーリー性をもっている」と評価された(写真撮影/藤井繁子)

サンワカンパニーは前回に続き2度目の出展。前回評価が高かったコンパクトキッチンに絞って、サンワカンパニーのデザインコンセプトである『ミニマリズム』を8種の新作で体現した。

『PATTINA COMPACT』キッチンを演出するのは、イタリア・Davide Groppi(ダビデ・グロッピ)の照明(写真撮影/藤井繁子)

『PATTINA COMPACT』キッチンを演出するのは、イタリア・Davide Groppi(ダビデ・グロッピ)の照明(写真撮影/藤井繁子)

今年、イタリアデザインの巨匠であるAlessandro Mendini(アレッサンドロ・メンディーニ)事務所によるキッチン『AM01』も発表したサンワカンパニー。そのメンディーニ氏も審査にかかわったコンテスト【サンワカンパニーデザインアワード2016】最優秀賞のデザインも製品化して展示した。

『AC01』受賞者のデザイン事務所YutoRieの伊藤優理恵さん。「テーブルにもなるキッチンカウンターは高さが調節でき、車椅子でも利用できるデザインです」(写真撮影/藤井繁子)

『AC01』受賞者のデザイン事務所YutoRieの伊藤優理恵さん。「テーブルにもなるキッチンカウンターは高さが調節でき、車椅子でも利用できるデザインです」(写真撮影/藤井繁子)

このように日本的なシンプルで、気配りのあるデザインがミラノサローネ・アワードの受賞につながったようだ。

昨年からのパステル・ナチュラル系に、プリントがアクセントなカラートレンド

広大な見本市会場の中、モダン・デザインの人気パビリオンを回って今年目についたのは、植物系などのプリントデザイン。

クッションに一つ、アクセント使い。これは刺繍も入って素敵@Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)(写真撮影/藤井繁子)

クッションに一つ、アクセント使い。これは刺繍も入って素敵@Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)(写真撮影/藤井繁子)

ファッションブランドの家具では、プリント柄がより大胆に!
今年、Kartell(カルテル)では、J.J.マーティンが手がけるミラネーゼに人気のファッション『La Double J(ラ・ダブル・ジェイ)』とのスペシャル・コラボレーションが誕生した。『La Double J』のヴィンテージ・プリントで彩られたKartellのプロダクトが新鮮。
Moroso(モローゾ)から出ている『Diesel』(ディーゼル)の家具は、アパレルのイメージ同様アバンギャルドなデザイン。ここでも珍しく、緑のプリント柄がソファに使われていた。

(左) @『La Double J』by Kartell  (右)@『Diesel』by Moroso(写真撮影/藤井繁子)

(左) @『La Double J』by Kartell (右)@『Diesel』by Moroso(写真撮影/藤井繁子)

キッチン見本市開催年なので、家具パビリオンでもダイニングテーブルに注目して回っていたら……
無垢木を扱わせたら世界一のRiva1920(リーヴァ)で、こんな面白いテーブルに遭遇!

テーブルの脚が、バレリーナの足!? Fabio Novembre(ファビオ・ノベンブレ)デザイン@Riva1920(写真撮影/藤井繁子)

テーブルの脚が、バレリーナの足!? Fabio Novembre(ファビオ・ノベンブレ)デザイン@Riva1920(写真撮影/藤井繁子)

家具ブランドで今年は、何と言ってもMinotti(ミノッティ)の70周年に合わせた新デザイナーの起用が話題をさらった。
新しく迎えたデザイナー3人のうちの1人がなんと、日本のデザインオフィス、佐藤オオキのnendo(ネンド)。意外な抜擢に、業界関係者もプロダクトを見るのを楽しみにしていた。

nendoによる『TAPE』(ソファ&チェアのシリーズ、写真右のようにテープで止めたようなデザイン。皮テープのバージョンもある)『RING』『WAVES』(テーブルのシリーズ)(写真撮影/藤井繁子)

nendoによる『TAPE』(ソファ&チェアのシリーズ、写真右のようにテープで止めたようなデザイン。皮テープのバージョンもある)『RING』『WAVES』(テーブルのシリーズ)(写真撮影/藤井繁子)

期待を裏切らないデザインで新境地を開拓したnendo。市内トルトナ地区では、日本企業7社とコラボした個展「forms of movement」を行うなど今年も精力的なnendoのミラノサローネだ。

このほか、街中イベント【Fuorisalone】1372イベントのなかから表彰される【Milano Design Award 2018】(5部門賞)にも、「Best Playfulness Award」にSONYの “Hidden Senses” 、「Best Technology Award」にPanasonicの “Transitions” が選出されるなど、Milan Design Week全体でのJapanese Designの存在感が目立った年だった。

歩き回って疲労困憊(こんぱい)の筆者。ジェラートで一服……太陽の日差しと街中人の熱気で、ジェラートも溶けそう!

歩き回って疲労困憊(こんぱい)の筆者。ジェラートで一服……太陽の日差しと街中人の熱気で、ジェラートも溶けそう!

次回ミラノサローネは、隔年開催の照明見本市EuroLuce(ユーロルーチェ)とWorkplace 3.0(オフィス家具)と共に2019 年4月9日(火)~14日(日) 開催予定。インテリア好きの皆様、刺激と感動を求めてミラノサローネへ来年出かけてみてはいかがでしょう!

●参考
・ミラノサローネ国際家具見本市日本公式サイト

対策していますか? 新入学を迎える約8割のお母さんは事件・事故が心配

この4月から、小学生になるお子さんをもつ方もいらっしゃるのでは? 新生活に向けてドキドキわくわく、期待に胸がふくらみますね! その一方で、生活が変わることで、子どもの環境にどんな変化が訪れるのか不安だというのも正直な親心ではないでしょうか。
IoTを活用した見守りサービス『おうちの安心プラン』を提供する東京電力エナジーパートナー株式会社(以下東京電力エナジーパートナー)は、30歳~49歳の300人の男女に「新入学に関するアンケート調査」を実施しました。それによると、多くの保護者が小学校入学に関して、なんらかの心配を抱えているようです。一体、新1年生の保護者はどのようなことに不安を感じているのでしょうか。
約8割の保護者は小学校入学に不安を感じている

アンケートによると、「お子さまが小学校に入学することに対して、不安を感じること(感じていたこと)はありますか?」という問いに対して、全体の77%が「あてはまる」もしくは「どちらかといえばあてはまる」と回答しています。約8割の保護者は小学校入学に対して、なんらかの不安な気持ちをもっているようです。

(画像提供/東京電力エナジーパートナー株式会社)

(画像提供/東京電力エナジーパートナー株式会社)

不安の具体的な内容としては、女性の回答の1位は「友達と仲良くできるかということ(86.5%)」、2位が「通学時に事故・事件に巻き込まれること(77.7%)」、男性では1位が「通学時に事故・事件に巻き込まれること(77.7%)」、2位が「友達と仲良くできるかということ(75.2%)」だったそうです。お子さまの入学後の交友関係、通学路での事故や通学中に事件に巻き込まれることへの不安は両親ともに大きいのですね。

働き続けたいけど、子どもが1人で過ごす時間が心配

近年は共働き家庭の間で、「小1の壁」という言葉がよく知られるようになってきました。保育園時代は、延長保育などのオプションのお陰で、ある程度遅い時間まで子どもを預かってもらえた家庭が直面する問題です。小学校になると親よりも子どもが早く帰ってくることも多く、保育園時代よりも子どもが家で1人になってしまいがちです。
仕事と安全な子育ての両立の前に立ちふさがる「小1の壁」ですが、それでも約94%の母親が「子どもが小学校に入学しても、今まで通りの働き方を続けたい」と希望しているそうです。子どもの生活も不安ですが、仕事もしっかり続けていきたい意向が垣間見られます。

9割超のお母さんが「子どもの入学に際して不安はいっぱいだが、今まで通り働き続けたい!」と思っている一方で、「お子さまが小学校に入学することへの不安に対して、何か対策をしていますか」という質問に、「対策をしている」と答えたのはわずか20%程度。一番多かった回答は「必要だと思うが、対策はしていない」の45.7%でした。新入学に際しての対策の必要性は感じていても、ついつい先延ばしにしているようです。どのような対策を打てばいいのか分からないのかもしれませんね。

回答数=300(画像提供/東京電力エナジーパートナー株式会社)

回答数=300(画像提供/東京電力エナジーパートナー株式会社)

このアンケートを実施した東京電力エナジーパートナーの担当者にとっても、この結果は意外だったよう。

「お子さまの新入学にあたって、多くの方が不安に思っていることがあるだろうというのは想定していました。しかしその対策をしている方が約20%だったのは予想外でした。新入学期では準備しなければならないことが多く、漠然とした不安だけではどうしても対策が後手にまわってしまうということでしょうか」(東京電力エナジーパートナー)

近年は高齢者や幼児の見守りに、IoTを活用する動きが盛んです。例えば、高齢者の見守りを目的にしたセコムのサービスや、福岡市が九州工業大学や保育園と協力して始めた保育園児見守りの実証実験など。今回調査を実施した東京電力エナジーパートナーのIoT見守りサービス『おうちの安心プラン』は、自宅に規定のレンタル機器を設置することにより、子どもの外出・帰宅などをスマートフォンに知らせる仕組み。スマートタグを身に着けた子どもが外出・帰宅すると、その通知が保護者のスマートフォンに届くようになっています。
何かが起こる前に、それぞれのご家庭に合った見守り方法を導入できたらいいですね。特に最近はIoT機器の普及がぐっと進んでいますから、この機会にいろいろと調べてみてはいかがでしょうか。

やっぱり便利な宅配ボックス! 京都の宅配ボックス実験プロジェクトの結果がすごかった

ネット通販の普及で、私たちの生活はますます便利になってきています。けれど、そんな中で悩ましいのが、荷物の受け取り。多くの人は平日には仕事や学校などで不在がちですし、週末も外出の予定があると、配送業者とすれ違いが続いてしまうことに。そんな再配達問題を憂慮したのが、日本一学生が集中する(※1)京都。そんな京都市とパナソニック株式会社(以下、パナソニック)、京都産業大学等が実施した宅配ボックスに関する実証実験の結果が発表されました。その驚きの結果をご紹介したいと思います。

※1 平成29年(2017年)度学校基本調査(速報値)(文部科学省)より、対人口比、短大生を含む

アパートでの再配達率が43%から15%に減少

この産学公が連携した宅配ボックスに関するプロジェクト名は、「京(みやこ)の再配達を減らそうプロジェクト」。京都市が主催し、パナソニックと京都産業大学及び宅配事業者が協力して実施したものです。

実証実験では、パナソニック製のアパート用宅配ボックス『COMBO-Maison(コンボ-メゾン)』合計39台を京都市内5カ所のアパート(合計106世帯)に設置。

アパート用宅配ボックス(画像提供/パナソニック株式会社)

アパート用宅配ボックス(画像提供/パナソニック株式会社)

その結果、アパートでの再配達率が43%からなんと15%(※2)に減少したのだそう!

※2 アパート3棟(66世帯)7日間/月×3カ月=21日間の累計での出口調査の結果より算出。再配達率=再配達荷物を受け取り荷物総数で割算。実証実験前の数値は、宅配ボックスでの受け取り個数を再配達と換算して比較

この数字に関してパナソニックの担当者は、「過去に行っていた福井県の実証実験で、48%から8%の結果が出ていたので、それに近い数字になる事を想定していました」と取材に答えてくれました。かつて同社は福井県あわら市で一戸建住宅、主に共働き世帯を対象とした実証実験も実施されていたので、ある程度の予測はついていたそうです。それでもやはり、この減少率はすごいですね!

ちなみにやむを得ず再配達になってしまったケースのなかには、「箱が大きすぎて、宅配ボックスに入らなかった」という理由がありました。そういった声にも対応するため、同社では2018年4月より「COMBO-Maison(コンボ-メゾン)」大型タイプ(ミドルタイプ)といったバリエーションもそろえていくことになっています。

さらに京都産業大学キャンパス内にも公共用の宅配ボックスを設置し、モニタリングを実施。

公共用の宅配ボックス(画像提供/パナソニック株式会社)

公共用の宅配ボックス(画像提供/パナソニック株式会社)

アンケートなどにより、自宅ではなくキャンパス内で荷物を受け取るニーズがあることが実証されました。

「宅配ボックスを、郵便受けのように当たり前の存在に」

この結果を受け、パナソニックの担当者は宅配ボックスの有用性に自信をのぞかせます。

「宅配ボックスは、単身世帯向けのアパートなどには必要不可欠な位置づけの製品ですが、まだまだ普及していません。物件検索で宅配ボックスありのものをお選びいただくことも可能です。メーカーとしては、今後ポストのように当たり前の製品となるように提案していきます」(パナソニック)

再配達が減ることで配送会社の負担も減りますし、それはひいては交通量の低下による環境改善にもつながります。また女性の一人暮らしの場合は夜間の配送の際にもドアを開ける必要がないので、安全かつストレスフリーで荷受けができそうです。

次回の物件探しの際は、宅配ボックスの有無もチェック項目に加えてみてはどうでしょうか。

●参照記事
・PR TIMES
●取材協力
・Panasonic

「自宅の一室で民泊」ってどうなの? ゲストとシェア生活を楽しむスーパーホストに聞いてみた

東京五輪・パラリンピックの開催とも相まって何かと話題になる民泊。認知度が高まる一方で、ポジティブなニュースばかりではないのが実情です。そんななか、新築分譲マンションでひとり暮らしをしながら、自宅の一室をうまくホームステイの場として活用していた女性を発見。楽しいことも苦労していることも全部ひっくるめて、ホームステイ型民泊に対する思いを聞いてきました。
家主が住んでいても、いなくても同じ民泊?その定義に異議あり!

東京23区内、JR山手線のとある駅から歩いて4分ほどの分譲マンションでひとり暮らしをするAさん。民泊専門でホストとゲストのマッチングを手掛けるポータルサイトのレビューにおいて、全項目満点の評価を受けたスーパーホストのひとりです。

民泊新法がいよいよ施行されるという段になって、民泊のゲストが大勢で騒いだり、ごみを散らかしたりするなど、トラブルの話題が増えている印象を受けますが……。

「問題になっているのは家主(ホスト)不在型といわれる部屋をまるごと貸し切るタイプの民泊が多いと感じています。私が行っていたスタイルは、家主が生活している住宅の一室を貸し出す、ルームシェアやホームステイ型なので、やり方がだいぶ違います」

Aさんが指摘するとおり、家主(ホスト)不在型とホームステイ型が同じ民泊という括りで報道されることに違和感を感じ、異議を唱える向きもあるようです。しかしホームステイ型だと家主(ホスト)とゲストの間でトラブルにならないか不安な気もします。

「ゲストたちもトラブルを起こしたくてやっているわけではなく、知らない国に来て、やっていいこと・悪いことを認識していないだけなのです。私は、ゲストに対面でハウスルールや日本でのモラルをきちんと教えることで、未然に近隣トラブルを防いでいました。ゲストも近隣住民も家主もみんなが嫌な思いをせずWin-Winな関係でいられるように働きかけるのもホストの仕事だと思っているので、同じ民泊でも、家主居住型と家主不在型民泊は明確に区別すべきと考えています」

とはいえ、女性のひとり暮らしで、自宅の一室を民泊として見ず知らずの人に提供することに不安や抵抗はないのでしょうか。

「不安はもちろんあります!なので私の場合は、宿泊者を女性に限定するなど、いくつか条件を設けています。自分が納得したゲストだけに宿泊してもらっていたので、大きなトラブルは一度も起きませんでした」

家主(ホスト)不在型の民泊では、どんな家や部屋でも、簡単に収益を上げられるイメージがあります。そうした手軽さが、民泊のトラブルを生み出す一因になっているのでしょうか。

「手軽に収益の上がる商売として手を付けて、オーナーや管理会社がきちんと管理していない……こういった民泊物件はごく一部ですが存在します。そこにメディア報道も追い風となって『民泊』とはこういうものだと認識されてしまっている気がします。家主(ホスト)不在型でも、オーナーがきちんとお出迎えをしたり、手厚くケアしているところはたくさんあるんです。ホストのホスピタリティはゲストのレビューで簡単に判断できますが、悪いレビューが続く物件は、マッチングサイトから登録抹消するなどの規定をつくってほしいと思いますね」

民泊利用者の立場からすると、家主(ホスト)不在型は気軽に利用できる半面ホスピタリティに不安が、ホームステイ型では家主(ホスト)との相性に左右される。どちらも一長一短ですね。

「Airbnbがなぜこんなにブレイクしたかというと、個人のレビューがしっかり書いてあって、どんな部屋かということが事前に分かるからなんです。きれいな部屋とか設備や立地環境ということではなく、どんな人が部屋を提供しているかが、実際に利用した人たちの声から見えてきます。この人の家なら安心して泊まれるということが、民泊では重要な要素ですよね。元々ホームステイ型民泊もカウチサーフィン(※1)のようなノリで始まっています。相互扶助の精神に則って、ホストもゲストも互いに尊重し合う関係性を築けば、そうそうトラブルにはならないと思っています」
※1. 旅行者が世界中の旅先で、現地の人の家に無料で泊まることのできるウェブサービス

シンプルながらゲストが快適に過ごすためのレイアウトが考えられている※写真はイメージです(写真/PIXTA)

シンプルながらゲストが快適に過ごすためのレイアウトが考えられている※写真はイメージです(写真/PIXTA)

「海外なら民泊は当たり前」スーパーホストAさん誕生のルーツ

民泊運営当時は、宿泊者から常に満点レビューを贈られていたスーパーホストのAさん。民泊という言葉が浸透して日が浅い日本で、どのようにしてゲストの満足を引き出す民泊の運営手腕を身に付けたのでしょうか。

「かれこれ20年近く、自分が泊まらせてもらう立場が長かったんです。海外生活をしていた学生時代がシェアデビュー。その国では、シェアメイトと暮らすというのは、新聞にシェアメイト募集広告欄があるほど当たり前のことでした。日本に帰国後もシェアハウスに住んだり、旅行でも他の旅行者と部屋を共有するゲストハウスばかり泊まっています。だからゲスト(宿泊者)が必要とする要素を実体験として理解しているんだと思います」

海外では休暇中など家を長期で不在にする間、他者に貸し出すなど、住宅のシェアは一般的であるとよく耳にします。国内外で、早くからそうした文化に触れてきたことにより、Aさんご自身が民泊を運営するための素地が既に出来上がっていたんですね。

「最初にこの家(新築マンション)を買ったときは、それまでシェアハウスで一緒だった子とルームシェアをしていました。ところが半年くらいで、その子が関西へ転勤になってしまって。新しいシェアメイトを募集するのが億劫(おっくう)だなぁと思ったのが、民泊を始めたきっかけですね」

ルームシェアであれば日本でも広く認知され、民泊と比べればポータルとなるマッチングサイトも多い印象を受けます。そのままシェアメイトを募集して、ルームシェアを続けるだけでは問題があったのでしょうか。

「それはルームシェアに求める条件の違いですね。日本では家賃が安いからとか家財道具がないからとか、金銭的なメリットを重視してルームシェアをする傾向がまだまだ強いと感じます」

先ほど述べられていたように、人と人のつながりを重視するAさんが求めるシェアのあり方とは、根本から食い違ってしまっているんですね。

「一緒に住むことで、お互いの趣味とか知見を共有しながら、相互に高め合えるような実りある生活をできることがシェアのメリットだと思っています。しかし、似た思いを抱いている相手を、一般的なルームシェア募集サイトから探すのは困難でした。そのため、日本でもサービスを始めていたAirbnbに登録しました。お金のためだけではなく、旅行者を受け入れるホームステイのような感覚で民泊を始めたんです。ただ、民泊新法の施行に伴い、マンションの管理規約で民泊が禁止となったため、現在は民泊をやめています」

ゆっくりくつろいだり、時にはゲストとの語らいの場になるリビング※写真はイメージです(写真撮影/宮崎 林太郎)

ゆっくりくつろいだり、時にはゲストとの語らいの場になるリビング※写真はイメージです(写真撮影/宮崎 林太郎)

トラブル経験ゼロ!信頼できるゲストを見極めるコツ

民泊を通じて、いろいろな経験をもつゲストとの交流を育んできたAさん。宿泊者との不和は一度もなく、それまで名前も顔も知らなかった人たちが帰るころには友だちになり、その多くが今でも連絡を取り合っているといいます(リピーターになってくれたゲストも多いそうですよ!)。宿泊の申し込みに対して、どのようにしてゲストを見極めていたのでしょうか。

「ホストは民泊として提供する住宅の情報を、マッチングサイトに掲載します。物件の写真はもちろん、女性限定であるとか、駅からの所要時間、設備仕様、注意事項など、必要な情報はしっかりと掲載しています。そうした物件の詳細をちゃんと読んでいるかどうかが選定基準のひとつです。にもかかわらず、駅からの所要時間を聞いてきたり、チェックイン時間の変更を強いるなど、そこに書いてあることを無視するような質問や提案をする人については宿泊をお断りしていました」

駅からの所要時間などは非常に目立つように掲載されていますし、設備やアメニティグッズ、部屋の広さや快適に過ごすための人数までしっかり書かれています。これを読んでいないと思わせる質問、あるいはルールをねじ曲げるような要求は、端からルールを守る気はないと捉えられても仕方ないかもしれませんね。

「もうひとつ、民泊の申し込みはメールで来るのですが、その文面が自己紹介から始まっているかどうかも判断基準のひとつです。思いのこもったメッセージをくれる人の旅はきっと良いものになると思うんです。そんな人がたくさんある宿泊施設からわが家を選んでくれたんですから、東京で良い思い出をつくって帰ってもらいたいと思うじゃないですか。お互いの経験してきたことを語り合うのもすごく楽しいですよ」

ゲストの心をつかむおもてなしの陰には、ゲスト自身のホストに対する気配りが隠れているんですね。良きにしろ悪しきにしろ、行いの結果は自身に返ってくる。因果応報とはよく言ったものです。宿泊の問い合わせをしてくる人のなかで、宿泊OKとNGの割合はどちらが多かったのでしょうか。

「ほとんどOKでしたね。一般的なバックパッカー専用の宿などと比べると値段設定を高めにしているので、それでも泊まりたいという人は、その辺りのマナーがしっかりしている人が多いのだと思います」

宿泊条件を設定するところから、ゲストとのトラブルを未然に回避するための予防線を張り巡らせているんですね。実際にゲストが宿泊するときに、意識していることはありますか?

「電車内で電話はNG、静かな場所で大きな声を出すとトラブルの原因になるなど、日本のモラルも教えますし、マンションの共同ゴミ捨て場はゲストに使用させないことを徹底。室内の共用部(キッチンやトイレ、お風呂など)の利用ルールなども一通り説明しています」

さすが、配慮が行き届いています。細かいようですが、言葉を尽くすというのは大事なポイントですね。私はつい「言わなくても分かるでしょ」と考えがちなので、ちょっと反省しました。

「日本に旅行に来る外国人は、日本の文化をリスペクトしている人が多いので、きちんと説明すれば理解し、順応してくれます。ゲストに対しておもてなしをするのは当然ですが、ゲストに対する説明や要求もホストの責任だと思います」

ゲストが持参したお土産の数々。そのひとつひとつに思い出が詰まっている(写真撮影/宮崎 林太郎)

ゲストが持参したお土産の数々。そのひとつひとつに思い出が詰まっている(写真撮影/宮崎 林太郎)

自身の経験をもとに民泊のホストとして、多くのゲストを迎え、充足した東京ライフを提供してきたAさん。トラブルが増えると、今後も民泊を禁止するマンションが増える可能性があります。Aさんは、彼女のようにゲストとの交流を楽しんでいるホームステイ型のホストが、民泊から撤退を余儀なくされてしまうことが残念だといいます。民泊への理解が深まり、ホームステイ型の民泊が日本にも広まることで、さまざまなトラブルや問題が解決していくのではないでしょうか。

職人未満・素人以上のセミプロが活躍!KILTAが育てるセルフリノベインストラクターとは

自分で自宅をDIYでリノベーションする「セルフリノベ」に興味を持つ人が増え、体験施設も急増しています。しかし、セルフリノベのインストラクター認定までおこなっている施設はありません。そこで、今回はセルフリノベのインストラクターを育てる施設「KILTA(キルタ)」を運営する一般財団法人KILTA代表理事であり、KUMIKI PROJECT株式会社代表取締役の桑原憂貴(くわはら・ゆうき)さんに、KILTAをつくった背景と目的、今後目指している方向性についてうかがいました。
KUMIKI PROJECTが掲げる「DIT」とは?

「KUMIKI PROJECT」は、2013年に奇跡の一本松で知られる岩手県陸前高田市でスタートしました。国産杉のブロックキットを使って、地元の人たちと21坪の集会所をつくろうというプロジェクトから始まった会社です。

2017年には事業エリアを首都圏にも拡大すべく、本社を神奈川県二宮町に移転。現在は、東北を中心とした国産材を素材に、小規模のお店やオフィスをサポートしようと、セルフリノベーションによるお店づくりやオフィスづくり、ワークショップまで手がけています。

そんなKUMIKI PROJECTが掲げるコンセプトはDoing It Togetherを意味する「DIT」です。「『ともにつくる』を楽しもう、ということを大事にしたくて使っている言葉なんです」と桑原さんは言います。

岩手県陸前高田市での集会所セルフビルドの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

岩手県陸前高田市での集会所セルフビルドの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

「僕自身、5年前までDIYはやったこともありませんでした。実は、被災地で集会所をセルフビルドしたのがはじめてのDIYだったんです。ともにつくることで、みんながつながっていく。その光景はとても印象的で、KUMIKI PROJECTの原点になっています。だからといって、みんなにつながりこそ何より大事だと、無理強いするつもりはないんです。つながりは強くなりすぎるとしがらみになってしまう可能性もある。むしろ、今のライフスタイルにあったつながり『方』を増やしていきたい」(桑原さん、以下同)

無理につながろうとする、というわけではありません。あくまでつながりたい人が、つながることができる機会をつくるのが大事、それがKUMIKI PROJECTの思いでもあります。

KUMIKI PROJECTの活動の中で生まれた「KILTA」

KUMIKI PROJECTは活動当初、国産の杉材でつくる家具キットを開発し、販売していました。でも、売上を伸ばすのは大変だったそう。国産材でつくるから、大きな家具量販店が製造する量産品に比べると、価格がどうしても高くなってしまう。家具キットの製造販売という方法だけでなく、どうすれば被災地の国産材をより多く使ってもらえるのかを改めて考えた結果、たどり着いたのが「キットをツールとして使い、オフィスづくりやお店づくりのセルフリノベーションをお手伝いすること」だったのだそうです。

「例えば、100万円ほどの予算でお店づくりを行うとします。これまでのように建築事務所や工務店などの専門業者に相談して進める場合、この予算ではできることがかなり限られてしまうのが現実です。でも、僕らの場合、職人さんではなく、お店をはじめる人と一般の人々が一緒に手を動かし、ワークショップ形式で空間づくりを進めるため、『コストは抑えながらも、愛着はいっぱいなお店づくり』が可能になるんです。これまでつくってきた国産材の家具や内装キットを使うため、DIY初心者でもクオリティを守った空間づくりができています。

お店をはじめる人からすると、最初の負担を下げることができるだけでなく、手間をかけることで愛着が生まれます。そして、ともにつくった人たちは自分のお店の大切な応援団になっていく。そんなお店づくりで、僕らの価値が発揮できるようになりました」

空き家を地域住民とともに全5日間のワークショップでセルフリノベーションしたカフェスペース。壁解体、床はり、漆喰塗り、家具キットの組み立てなどを実施 (画像提供/KUMIKI RPOJCET 写真撮影/八幡 宏)

空き家を地域住民とともに全5日間のワークショップでセルフリノベーションしたカフェスペース。壁解体、床はり、漆喰塗り、家具キットの組み立てなどを実施 (画像提供/KUMIKI RPOJECT 写真撮影/八幡 宏)

しかし、そこで持ちあがった課題が、こうしたワークショップでセルフリノベを教える「先生」の不足。素人だけでは分からない空間の構造や、工具の使い方や材料の加工方法について現場でサポートしてくれる先生、インストラクターが必要でした。

「家具や内装はキット化しているため、職人さんじゃなくてもできるようになっています。だからこそ、例えば、地域の子育て中のお母さんが、お子さんが学校に行っている間に、インストラクターをやるというのでもいい。地域の人たちがインストラクターになり、地域の材を家具や内装キットにし、地域で空間づくりをはじめる人を支える。そんな循環ができるといいと思っています。

そのためには、セルフリノベーションに関する知識と技術を伝え、インストラクターになりたい人を育てる拠点が必要でした。例えば、床の張り方、壁の塗り方や張り方、家具の造作の仕方などを学んでもらうプログラムをやるためにつくったのがKILTAなんです」

KILTAのインストラクターは「職人未満・素人以上」

KILTAのインストラクターは「ものづくりやインテリアが好きだから仕事に活かしたい。でも、職人として技術を極めて仕事をしたいわけじゃない人」なのだと桑原さんは言います。

DITインストラクター認定講座(モニタークラス)受講生の現場実習。床ハリクラスと壁ヌリクラスを2018年3月に試験開講。プログラムを改良し、5月ごろから本格実施予定 (画像提供/ KUMIKI PROJECT)

DITインストラクター認定講座(モニタークラス)受講生の現場実習。床ハリクラスと壁ヌリクラスを2018年3月に試験開講。プログラムを改良し、5月頃から本格実施予定 (画像提供/ KUMIKI PROJECT)

「みんなで楽しみながらつくるために必要な知識や技術は、空間を施工する職人の技術とはかなり違います。例えば、ワークショップに参加したけれど、不安で手が出せない人や、何をやれば良いのかわからなくて手が空いてしまった人などに、楽しんでつくってもらうためのコミュニケーションの取り方や、時間内に終わらせるスケジュール管理、散らばった工具につまずいて転んだりしないように注意するといったリスク管理などができることが求められます。そのうえで、職人まではいかなくていいけど、空間づくりに最低限必要な知識と技術があって楽しくワークショップを進められるっていうことがインストラクターとして大事なことなんです」

昨今のDIYブームもあってか、インストラクターをやりたいという人は多く、昨年末から行った説明会は軒並み盛況だそうです。

「暮らしをつくれる人を増やしたい」全国にKILTAを

KILTAはもともと横浜にあるリフォーム会社とKUMIKI PROJECTの共同事業として始まりましたが、職人不足や高齢化などの課題を抱える建築業界をはじめ、DIY市場の拡大を進めたい建材メーカー、インテリアやDIY情報の発信を行うメディア、多様な働き方を増やしたい地域団体などからこうした動きへの賛同を得られたことから、今年1月に一般財団法人KILTAを設立。同法人で本格的にインストラクター育成事業に取り組むことになりました。拠点も横浜だけではなく、京都や春日部、神戸にも開設準備中であり、全国各地で暮らしをつくれる人材育成に注力していきたいのだそう。

一方でネックになるのが工具の問題。本格的な機械工具や手道具を、インストラクターになった人がすべて用意するのは負担が大きすぎるため、現場で使用する工具類はKILTAがすべて用意する形で考えているそうです。

「壁塗りや床張りなどのワークショップで使う工具一式を詰め込んだ『ツールボックス』と僕らが呼んでいる工具箱を、現場に直送できるようにテスト運用をはじめています。インストラクターになった人は、手ぶらで現場にいき、ワークショップを実施。終了後は、手ぶらで帰っていける形にしようと思っています。ですから、KILTAという拠点は、実は倉庫機能も兼ね備えた存在でもあり、全国にこうした拠点を増やしていきたいと思っています。

いま、全国には公立図書館がおよそ3000カ所あります。図書館が暮らしの知恵を学ぶ場だとしたら、KILTAは暮らしの技術を学べる場所として、同じくらい全国各地のインフラとして増やしていければとよく話しています。

広い工房がなくても、例えばマンションの一室をKILTAという拠点にする。そこには工具を集約し、マンションの修繕をマンションに住んでいる人がインストラクターになって支えるようになるという形もあるのではと思っています」

京都で開催したセルフリノベーションによるシェアスペースづくりの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

京都で開催したセルフリノベーションによるシェアスペースづくりの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

一方で、インストラクターとなった人たちが、きちんと報酬を得て活躍できるような舞台をつくることも大切。現在は、リフォーム会社などにも働きかけている最中なのだそうです。

「例えば、 建築現場というのは、個人宅の新築やリノベーション、お店やオフィスづくり、公共施設の修繕など、本当に多種多様です。多種多様であるということは、求められるスキルや難易度も本来はバラバラだということです。
にもかかわらず、どんな現場でも、すべて職人さんが仕事として受けているというのが、これまでの当たり前でした。でも、この難易度や必要なスキルをきちんと現場ごとに分析し、分類できれば、素晴らしい技術を持った職人ではなくても対応できる現場が実はたくさんあるのではないでしょうか。
業界全体で建築現場を分類する指標をつくり、必要なスキルを持った人に適切にマッチングすることで、職人未満だけど、素人以上のセミプロであるインストラクターの人々でも十分に対応できる舞台ができると考えています。そうすることで、地域にたくさんの小さな仕事が放出され、一方で技術を持った職人さんは価値ある仕事に集中できる、そんなみんながハッピーな世界をともにつくれたらうれしいです」

セルフリノベーションを通じて「地域に住む人たちが自分の暮らしに『つくる時間』を取り戻していく流れができたら」と考えていたという桑原さん。地域の人たちがKILTAで学び、インストラクターとして活躍できる場が増えれば、ライフスタイルや働き方も変わっていくかもしれませんね。

●取材協力
・KUMIKI PROJECT
・KILTA

働く女性のホンネ、3人に1人は 「結婚後に夫が専業主夫になってもいい」!?

NPO法人日本FP協会は、全国の20代~50代の働く女性を対象に、ホンネや暮らしとマネープランについて調査を実施した。調査結果を見ると、働く女性の3人に1人が「結婚後に夫が専業主夫になってもいい」と回答するなど、そのホンネが見え隠れする状況が浮かび上がった。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「働く女性のくらしとお金に関する調査2018」を公表/日本FP協会20代の働く女性は、意外にも「家庭に注力したい」が過半数!?

まず、働く女性の意識について、「【P】外に出て働いていたい」と「【Q】家庭のことに注力していたい」のどちらが近いかを聞いたところ、「【P】に近い」が 60.0%、「【Q】に近い」が 40.0%となった。

【画像1】働くことについての意識として、「【P】外に出て働いていたい」と「【Q】家庭のことに注力していたい」のどちらにあてはまるか (単一回答)(出典/日本FP協会「働く女性のくらしとお金に関する調査2018」)

【画像1】働くことについての意識として、「【P】外に出て働いていたい」と「【Q】家庭のことに注力していたい」のどちらにあてはまるか (単一回答)(出典/日本FP協会「働く女性のくらしとお金に関する調査2018」)

「【Q】家庭のことに注力したい」は、年代が若くなるにしたがって増加し、20代では半数を上回る52.3%に達するなど、興味深い結果となった。一方、子どもの有無でみると、子どものいる女性のほうが「【P】外に出て働いていたい」が 66.8%と高くなり、子どもの教育費などを自分の収入で補おうとする背景もうかがえる。

また、仕事と子育ての両立について、「現在の仕事を続けていると、子育てとの両立は無理だと思うか」どうか聞いたところ、「そう思う」が54.7%(「非常にそう思う」18.3%+「ややそう思う」36.4%)と過半数となり、両立の難しさを感じている女性が多いことが分かった。

ほかにも、「(将来)夫が転勤になったら、今の職場を退職すると思う」(67.4%)、「(将来)出産するときは、今の職場を退職すると思う」(49.0%)など、働く女性が仕事を続けるうえでハードルになることが多いことも分かった。

働く女性の3人に1人が、夫の「専業主夫化」に肯定的

では、働く女性は、家庭における夫の存在についてどう思っているのだろうか?

「結婚後に(夫が望むなら)夫が専業主夫になってもいいと思うか」どうかを聞いたところ、なんと「そう思う」が32.2%、つまり3人に1人は夫が家事に専念する専業主夫化を肯定する結果となった。

さらに、専業主夫肯定派に、その理由を聞いたところ、「いろいろな家庭があってもいいと思うから」(54.7%)、「家事・育児も立派な仕事だと思うから」(28.0%)、「夫は仕事・妻は家庭という時代ではないと思うから」(27.7%)が上位に挙がった。働く女性は、家庭内の役割分担についても柔軟に考えているようだ。

さすがに「専業主夫」とまではいかなくても、夫にもっと家庭で頑張ってほしいと思う働く女性も多いだろう。

既婚の働く女性に「夫にもっと家庭で頑張って欲しいと思うこと」を聞いたところ、上位は「食事の片づけ(流しに運ぶ・洗う・しまう)」(35.8%)、「整理整頓(小物の片づけ・服や物をちらかさないなど)」(31.5%)、「お風呂の準備(お風呂掃除・お湯張り)」(30.9%)、「ゴミ出し(収集・分別・ゴミ捨て)」(30.1%)の順となった。

【画像2】夫にもっと家庭で頑張って欲しいと思うこと(既婚者対象、複数回答)(出典/日本FP協会「働く女性のくらしとお金に関する調査2018」)

【画像2】夫にもっと家庭で頑張って欲しいと思うこと(既婚者対象、複数回答)(出典/日本FP協会「働く女性のくらしとお金に関する調査2018」)

家事の王道である料理や掃除、洗濯も頑張ってほしいけど、せめて後片づけや準備などはもっと頑張ってほしいと思う女性が多いということだろう。

夫もだけど、住まいや設備にも頑張ってもらおう

働く女性は、仕事に家事にと大忙しだ。
家事負担を軽減するには、
・住まいや設備で負担を軽減する
・家族が家事参加しやすいように工夫する
などが必要だ。

例えばわが家は、キッチン脇に洗濯機があり、廊下をはさんで洗面・浴室があって、一直線の動線で行き来できる。台所仕事をしながら洗濯の進捗状況を確認できるうえ、今のような花粉のシーズンには、身につける洗濯物を浴室に運んで干して浴室乾燥機で乾かしているが、その動線も短くて済む。動線の短さは繰り返す作業が多いほど効いてくる。浴室乾燥機のほかにも、キッチンには食器洗い機がビルトインされている。

このように、住まいの工夫で家事負担を軽減することも考えたい。今後「IoT(Internet of Things)」住宅が普及して、家電や住宅設備がインターネットにつながるようになったら、さらに家事効率を手助けできるようになるだろう。負担が少ないほど、家事参加もしやすくなるという効果もある。

また、キッチンが狭かったり、作業スペースが小さく高さも合わなかったりすると、家事参加したくてもしづらいということになる。分別できる機能的な収納がないと、整理整頓もしづらくなる。住まい選びの際に「家事参加のしやすさ」なども考慮しておくのがベストだろう。

「#うちのインティライミ」というハッシュタグをご存じだろうか?夫の家事参加に対する不満をぶちまけるSNS投稿に、このハッシュタグをつけるのだ。それは、テレビドラマ「コウノドリ」でナオト・インティライミさんが演じる夫が、本来夫婦で主体的に取り組むはずの子育てを「手伝う」と言ったり、仕事を優先してしまったりするシーンがあったからで、「うちの夫も」という投稿が盛んになったのだとか。

漠然と「家事や育児をやるよ」という話し合いだけでなく、具体的に事前にすり合わせるコミュニケーションも重要だろう。そういう意味では、住まい選びのときこそ、具体的にどの家事は誰がどのようにやるのかをきちんと話し合っておき、そのうえで住まいを選ぶことで、住まいにも夫にも満足度が上がるのではないかと思う。

子どもたちのサードプレイスに 民間の学童保育「キッズベースキャンプ」の取り組み【育住近接(4)】

共働きの夫婦にとって、小学校入学後に放課後どう過ごさせるかは悩みのタネだ。公立の学童保育だけでなく、最近では民間の学童保育施設も多くみられるようになった。東急グループの「キッズベースキャンプ」はそのひとつ。多種多様なプログラムを通じて、子どもたちに学びを提供している。「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」を例に、その活動内容を紹介しよう。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。民間ならでは 22時まで預けられる学童保育

「ウォーター・フロント」として開発が始まった湾岸エリアの豊洲や東雲は、タワーマンションが林立していることで知られている。

豊洲駅と東雲駅の真ん中あたりに位置する「東雲キャナルコートCODAN」の敷地内には、塾や医療関係の施設など、生活に便利なショップなどが立ち並んでいる。今回訪ねたのは、その中にある「キッズベースキャンプ豊洲・東雲」。東急グループの株式会社キッズベースキャンプが運営する、民間の学童保育施設だ。同社の三沢敦子(みさわ・あつこ)さんに、施設の概要や学童保育のあり方について伺った。

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「田植え」イベントの様子(画像提供/キッズベースキャンプ)

「キッズベースキャンプ」の始まりは2008年。公設の学童保育施設では預かり時間が遅くても19時までというところがほとんどだが、ここでは、22時まで預けられるようになっている。残業が発生しても、子どもを安全に預かってもらえるのはうれしい点だ。また、スタッフが指定の小学校から施設までの送迎を行ってくれるのもありがたい。子どもだけで移動しなくてよいのは、保護者としてとても安心だろう。

キッズコーチは、7~10人に1人の割合で配置される。子どもに対してキッズコーチがこれだけいれば、それぞれの子どもの特徴を理解してコミュニケーションをとることもできるし、なにより子どもたちに目が届きやすいだろう。ちなみに、キッズコーチは20代が多い。正社員の採用倍率約30倍の難関を突破し、しっかりと研修を受けたプロフェッショナルがそろっている。

施設内には、木製のテーブルが並んでいる。「学校から帰ってきたらまず宿題の時間を設けています。勉強を習慣づけさせるのがねらいです。その後、おやつタイム、イベントもしくは自由時間というのがだいたいの流れです。おやつや食事はもちろん子どものアレルギーに対応することができます」と三沢さん。

その言葉どおり、部屋の隅っこでは、市販のお菓子の成分表示を見ながら仕訳をしているスタッフがいた。これだけでも頭が下がるが、念には念を入れ、ダブルチェック、あるいはトリプルチェックを行っているという。

また、施設が用意する夕食「キッズミール」をオプションで利用することもできるので、忙しいときには安心だ。

キッズベースキャンプといえば、「豊富なイベント」が特徴!

施設の特徴は何と言ってもイベントが充実していること。

「イベントは子どもへの投資になると思っており、遠足やお泊まりなどにもでかけます。スキーなど、保護者だけでは連れて行くのが難しい場所も訪れています」(三沢さん)

イベントは、週1回くらいの頻度で開催している。参加するかどうかは、子どもと保護者が話し合って決めることができる。イベントは実にさまざまで、料理や工作、スポーツや社会科見学など、子どもたちの知的好奇心をくすぐるものばかり。

「普段は入れないところに行ける、動物園や劇場のバックヤードツアーは特に人気です」(三沢さん)

また、夏休みや冬休み、春休みなど、長期休みだけ施設を利用することも可能。日曜日に登校した次の日の「代休」などは、朝から対応しているそうだ。

「利用者は1、2年生が多いですね。それ以上になると塾などに通い始め、だんだん通う日数が減ってきます。ですから、通う日数に応じた料金プランを設定しています」(三沢さん)

このように、キッズベースキャンプは、保護者や子どもの役に立ちたいという一心で活動をしてきたそうだ。

「10年続けてきたことで、理解を得られるようになったと感じています。時代の流れもありますし、続けてきたことで信頼度が高まったのだと思います」(三沢さん)

 全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

全員でゲーム(画像提供/キッズベースキャンプ)

「ただいま!」 サードプレイスでの体験が子どもを成長させる

取材をはじめて数十分、お話を聞いていると、子どもたちがスタッフに連れられて帰ってきた。「こんにちは」ではなく「ただいま!」と元気な声で、施設に次々とやってくる。そのまま思い思いの席につき、ランドセルから取り出した宿題を始めた。

その日勤務していたキッズコーチに、保護者たちの反応を聞いてみた。

「保護者のみなさんからは、日々感謝の言葉をいただきます。特に印象的だったのは、子どものトラブルを仲介して、仲直りさせたとき。子ども同士のトラブルは、親が介入しにくいこともあるので、とても喜んでいただけました。そのほかにも、乱暴な言葉づかいなどをしている子どもには注意するのですが、親以外の大人から指摘されたほうが効果的な場合もあるようで、感謝されたことがあります」(キッズコーチ)

「キッズベースキャンプは、保護者が働き続けるための役割はもちろんですが、子どもの居場所にもなることもあるのです。事情があって学校に行けなくなってしまってもキッズベースキャンプには来てくれるなど、子どもたちの受け皿になってあげられると考えています」(三沢さん)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

アート工作イベント(画像提供/キッズベースキャンプ)

ただ、施設の需要は増えつづけ、現在はキャンセル待ちが多くなってきたようだ。そのため、「プレキッズクラブ」という未就学児登録制度をはじめたという。この制度は、子どもが小学校に入学する前から学童保育へ入会できる権利を確保できるというもの。この制度は有料だが、「どこの学童も満員で入れない」という事態を防げるため、将来の安心材料として保護者たちは申し込みをするのだという。

この施設に限ったことではないが、「小1の壁」の問題は、なんとかならないものかと考えさせられた。

子どもたちの「やりたい!」を取り入れ、保護者たちの「体験させてほしい!」をかなえるキッズベースキャンプ。今後も独自のプログラムを通じて子どもたちを成長させ、保護者に安心を提供しつづけていくだろう。

●取材協力
・キッズベースキャンプ

音楽好きなら見逃せない! 24時間演奏可能な賃貸マンション「ミュージション」の魅力【名物賃貸におじゃまします(2)】

マンションはどうして似たようなデザイン、構造のものが多いんだろう。そう考えている人は案外多いのではないでしょうか。しかし、よく探してみれば、日本にもそんな先入観を吹き飛ばす個性的な集合住宅が見つかります。

今回は、音楽愛好者のための賃貸マンション、「ミュージション」を訪ねました。

【連載】名物賃貸におじゃまします
斬新なデザインや仕掛けをしている賃貸住宅=名物賃貸を紹介する連載です。失敗を糧に技術を向上、収益の柱へと成長

歌を歌う人、楽器を演奏する人、オーディオ愛好家、音響エンジニア……。音楽を楽しみ、あるいは仕事としている人たちにとって防音は大きな課題です。一戸建てならまだしも、集合住宅となれば、気を使うことも多くなります。

そうしたなか、注目されているのが「ミュージション」。徹底して遮音性能を高め、すべての部屋を24時間演奏可能にした賃貸マンションです。現在、東京、埼玉、神奈川に現在13棟があり、どれも人気を集めています。

「実はミュージションは大失敗したところから始まったんです」と語るのは、株式会社リブランマインドのミュージション事業部で賃貸セクションの部長を務める山下大輔(やました・だいすけ)さん。

「30年ほど前、当社は東京・板橋区にマンションを建設、住居スペースのほかに半地下のスタジオを設置しました。しかし、防音を徹底したつもりが、いざ使ってみると、音が住居スペースに響き、結局スタジオは使えなくなりました。調べてみると下水管を通じて音が伝わっていたことが分かりました」(山下さん)

この反省をもとに技術レベルを高め、2000年に建設したのが、「ミュージション川越」です。全63 戸すべてを遮音仕様にし、24時間楽器演奏できるマンションにしたところ、予想以上の好評を得ました。これに励まされて2005年には「ミュージション志木」を建設。この2つの物件はデザイン面でも高く評価され、いずれもグッドデザイン賞を受賞しています。

やがてミュージションの魅力に気づいた地主から、土地を提供されての建設が増えていきます。なぜならミュージションの場合、音楽の環境に引かれて入居者が集まるため、土地の条件にあまり左右されない強みがあるからです。

例えば「ミュージション登戸」は、地主から北向きの建物しかつくれない土地の活用を相談され、建設に至りました。こうして次々にミュージションは数を増やし、現在、同社の収益の柱の一つにまで育ちました。

新築されたばかりの「ミュージション門前仲町」。初期のミュージションは1Kタイプの部屋だけだったが、新しい物件では1LDKも増やしている(写真撮影/織田孝一)

新築されたばかりの「ミュージション門前仲町」。初期のミュージションは1Kタイプの部屋だけだったが、新しい物件では1LDKも増やしている(写真撮影/織田孝一)

徹底的に音が漏れない工夫を重ねる

ミュージションの遮音性能は、特定の技術によるものではなく、さまざまな工夫を積み重ねた成果です。

「まずコンクリートの躯体自体を厚くしています。また部屋で出した音がコンクリートに伝わらないように、部屋の外周部分に10数センチの空気層を設けました。またサッシは二重、ドアはゴムで隙間をなくして音が漏れないようにしています」(山下さん)

ただ、遮音を徹底したため、非常ベルを普通のマンションのように共用廊下に設置すると聞こえません。そこで行ったのが「一部屋ごとに非常ベルを配置すること」だそう。

「また部屋が密閉されて空気が流れにくいため、各部屋に換気口を設け、換気口の空気が流れる先には消音器を付けました」(山下さん)

このほかにも小さな工夫が数多くあり、建設会社が使うミュージション仕様にするためのチェック項目は数百におよぶそうです。従って建設コストは一般の同規模のマンションに比べ、1割くらいは高くなります。それに伴い、家賃もやや高めに設定されるそう。

山下さんが指差す先には非常ベル。共用スペースではなく、各部屋に取り付けられている。山下さんはロックバンドのドラマーだった経験をもつ(写真撮影/織田孝一)

山下さんが指差す先には非常ベル。共用スペースではなく、各部屋に取り付けられている。山下さんはロックバンドのドラマーだった経験をもつ(写真撮影/織田孝一)

サッシは二重で音漏れを減らしている(写真撮影/織田孝一)

サッシは二重で音漏れを減らしている(写真撮影/織田孝一)

ドアの隙間もゴムの目張りを施し、防音性を高めている(写真撮影/織田孝一)

ドアの隙間もゴムの目張りを施し、防音性を高めている(写真撮影/織田孝一)

クローゼットの天井に見える換気口。密閉度の高い部屋であるため、換気口で空気の循環をつくっている (写真撮影/織田孝一)

クローゼットの天井に見える換気口。密閉度の高い部屋であるため、換気口で空気の循環をつくっている (写真撮影/織田孝一)

ミュージションに住み、人生が変わった人も

では、ミュージションの入居者はどんな人たちなのでしょうか。筆者は、音大生が多いのでは、と予想していたのですが、学生は学校で演奏や練習ができるからか、むしろ少ないとのことです。

「入居者層の中心は20代から30代の社会人層です。ピアノやブラスバンドの経験のある人、ロックバンドを組んでいた人、歌を歌っていた人などで、社会人で活動を続ける人はたくさんいます。また社会人になってから音楽を始める人も少なくない。

その人たちが趣味で音楽を楽しもうとしても、練習の場がない、仕事で帰宅が遅く、自宅で音を出せないといったことはよくあります。そこで、24時間演奏可能なミュージションに注目が集まったのでしょう」(山下さん)

珍しい例としては年配の男性で、妻に先立たれ、昔からやりたかったピアノをやろうと、自宅を人に貸してミュージションに引越してきた人がいるそうです。

パソコンなどで作曲、音楽制作をする人も増えています。また、PA(ライブなどで音の調整)、レコーディングなどの音響エンジニア、音楽教室の運営者、オーディオや映像の愛好家などもいます。

「100万円かけて自宅の部屋をホームシアター化したものの、木造家屋なので音量を上げられない、とミュージションに移られた方もいました」(山下さん)

また、ミュージションが、入居者の心に影響を与えた例もあったそう。

「『ミュージションに住んで人生が変わった』と言ったお客様がいました。歌うのが好きな方ですが、音楽以外の仕事をもち、好きなことにもう一歩踏み出せずにいたとのこと。それがミュージションに住み、好きな時間に歌を歌えるようになり、ボーカルレッスンにも通い始め、自信がもてるようになったというのです」

ミュージションに住んでいた方が、引越すことになり、転居した先が別のミュージションというケースも。「『ミュージション以外には住めない』、というんです。その方も歌を歌う方でしたが、一日の仕事が終わり、今晩は何を歌おう、と考えながら帰宅するのが楽しい、と」

仕事を求めて東京へ。それを機にミュージションに入居

実際の居住者に話を聞いてみました。音響エンジニアの久保浩巳(くぼ・ひろみ)さんは、現在「ミュージション東日本橋」に住んでいます。

長く実家のある大阪で仕事をしていましたが、圧倒的に市場の大きい東京で仕事をすることを決心し、2017年4月に東京に移りました。

久保さんはフリーランスなので、自宅での作業が多く、音を出しても問題のない住居が必要です。大阪では実家にいて、音を出すことについての問題はありませんでしたが、東京でもそれが可能な環境を獲得しなくてはなりませんでした。

「実はかなり前からミュージションの存在はネットで知っていました。それで東京で住むならミュージションと考えていました」(久保さん)

株式会社リブランマインドの須永輝毅(すなが・てるき)さんが久保さんの担当となり、2017年3月に竣工したばかりの「ミュージション東日本橋」に入居しました。「駅から近く、都心なので久保さんの仕事に関係する拠点に近いのも利点です」と須永さんは話します。

趣味のギターを手に、音響エンジニアの久保浩巳さん。自動車整備士だったが音楽好きが高じて音響エンジニアに転じた(写真撮影/織田孝一)

趣味のギターを手に、音響エンジニアの久保浩巳さん。自動車整備士だったが音楽好きが高じて音響エンジニアに転じた(写真撮影/織田孝一)

久保さんは実際の物件を見て、防音性能は間違いないと確信できたそうです。

「仕事の上では200ボルトの電源もうれしいですね。海外の機器では100ボルトでは足りない場合もありますから」(久保さん)

久保さんは今、アマチュアから一流の人気ミュージシャンまで、幅広いアーティストのレコーディングやミキシングをここで行い、順調に仕事量を増やしています。

室内に設置された久保さんの仕事用機材。スピーカー、D/Aコンバーター、レコーダーなど。ヘッドフォンでは低音が聞こえにくいなど、違って聞こえるので、ある程度大きな音を出さないとこの仕事はできないそうだ (写真撮影/織田孝一)

室内に設置された久保さんの仕事用機材。スピーカー、D/Aコンバーター、レコーダーなど。ヘッドフォンでは低音が聞こえにくいなど、違って聞こえるので、ある程度大きな音を出さないとこの仕事はできないそうだ (写真撮影/織田孝一)

久保さんの入居する「ミュージション東日本橋」のエントランスにて須永輝毅さん。須永さんも趣味でバンド活動の経験がある。このようにミュージション事業では社員の多くに音楽の経験があるのも強みになっている。(写真撮影/織田孝一)

久保さんの入居する「ミュージション東日本橋」のエントランスにて須永輝毅さん。須永さんも趣味でバンド活動の経験がある。このようにミュージション事業では社員の多くに音楽の経験があるのも強みになっている。(写真撮影/織田孝一)

ミュージションはコミュニティづくりにも熱心なのが大きな特徴です。「『ミュージションズクラブ』という組織をつくり、居住している方々を中心に親睦、交流をはかっています。カラオケ大会やセッションイベントを行い、毎年10月には上野野外音楽堂を貸し切って、『東京ヒマつぶし音楽祭』というイベントをしています。このほかフットサル大会や登山など、音楽とは異なる企画も開催しています」(山下さん)

家でも音楽を楽しみたいという需要に特化し、ハード面の強化によって実現したミュージション。それは今、人的交流や創造活動の促進といったソフト面の充実にもつながりつつあります。今後の集合住宅の一つの可能性を示しているようです。

●取材協力
・株式会社リブランマインド

心安らぐ空間の演出方法とは? ライフステージに合わせた住まい

東京・吉祥寺で人気のギャラリーとパン屋を経営し、すてきなライフスタイルで注目を集める引田ターセンさんと、かおりさんご夫妻。築20年のコンクリート造の一戸建てをリノベーションしたお住まいを訪ね、シンプルで心安らぐ空間のつくり方についてお聞きしました。
家族の成長に合わせて、快適な住まいは変わっていい

引田さん夫妻のリノベーションしたお住まいは、珪藻土の壁に、床はリネンウールのカーペット、天井やドアまで全て国産のナラ材を使った1LDK。まさに大人の洗練された空間ですが、子育て中のころの家はおもちゃの滑り台があったり、子どもの作品を飾っていたそうです。
「食器も変遷しています。ジノリやロイヤルドルトンなどヨーロッパの絵付け食器の時代もあったし、染付けの時代もあった。それぞれの時代があったんです。子どもがいてにぎやかなときにはヨーロッパの絵付けなど柄物が良かったけれど、夫婦2人の暮らしになると、食事の好みにも合わなくなってくる。ギャラリーを始めてからは、作家物がふえました」(ターセンさん)
「ただ、私たちは子どもが小さいころから洋服でも家具でも、「いずれ大きくなるからちょっと大きめを選ぶ」ことはしませんでした。今の暮らしにジャストであることを、大事な基準にしていたのです」(かおりさん)

玄関ホールを入ると、トップライトからの光が差し込むリビング。壁や天井には国産ナラ材を使い、床はリネンウールのカーペットを敷き詰めたナチュラルな空間(写真撮影/菊田香太郎)

玄関ホールを入ると、トップライトからの光が差し込むリビング。壁や天井には国産ナラ材を使い、床はリネンウールのカーペットを敷き詰めたナチュラルな空間(写真撮影/菊田香太郎)

中央にある暖炉と段差が、リビングとダイニングスペースを緩やかに分けている。左奥のデスクカウンターは、持っていたテーブルに質感も高さも合わせて造作してもらった(写真撮影/菊田香太郎)

中央にある暖炉と段差が、リビングとダイニングスペースを緩やかに分けている。左奥のデスクカウンターは、持っていたテーブルに質感も高さも合わせて造作してもらった(写真撮影/菊田香太郎)

シンプルを実現するコツは、なければどうかな?と考えてみること

シンプルに暮らすために、引田さん夫妻が心掛けているのは、決め付けないこと、変化を恐れないことだと言います。
「こうだと決め付けず、なければどうかなとか、変えたらどうだろうとか考えてみることで、違ってきます。例えばバスマットは必要と思い込んでいますが、なくても困らないんです。お風呂上がりに体も足も拭いて、そのタオルを洗濯したらいいのですから」(かおりさん)
「バスマットがないだけで洗面室の印象は違いますよね。わが家はタオルも、彼女が気に入ったホテルのものを取り寄せて、その一種類一色に統一しているから、収納したときも自然とそろって見えます」(ターセンさん)
「キッチンもかつては、調理器具を見えるようにつるしてありました。でも料理している時間は、一日のうちでも1時間くらい。「しまってみようかな」とふと思って。フライ返しや菜箸を、しまっても何の問題もなかった。逆に何も出ていないほうが、拭き掃除がしやすくなりました」(かおりさん)

ペーパーホルダーやキャビネットの取っ手なども同色、同じ質感でそろえた。バスマットもなく、余計な物を一切置いていないため、洗面室と浴室がいっそう広く感じられる(写真撮影/菊田香太郎)

ペーパーホルダーやキャビネットの取っ手なども同色、同じ質感でそろえた。バスマットもなく、余計な物を一切置いていないため、洗面室と浴室がいっそう広く感じられる(写真撮影/菊田香太郎)

シンクと配膳台の間は幅108cm。吊戸棚はつけずに視界もすっきり。一部を仕切り壁にして調理中の煩雑さは見せないようにした(写真撮影/菊田香太郎)

シンクと配膳台の間は幅108cm。吊戸棚はつけずに視界もすっきり。一部を仕切り壁にして調理中の煩雑さは見せないようにした(写真撮影/菊田香太郎)

「ギャラリー経営でたくさんの人や物に会うことが仕事になって、家にまでモノがあふれていたら疲れが取れないと思うようになり、どんどんシンプルになりました」というターセンさん・かおりさん。
仕事柄、気になる物があったら、実際に買って使ってみることを大事にしているが、手にして納得したら、人に差し上げることも多いのだそう。「本も感動したら周りの人に薦めて渡すほうが好き。食器も洋服も、自分たちが気持ちいいと感じる量しか持たないようにしています」(かおりさん)
「家は四角い箱。中に入れるモノのためではなく、自分たちに合わせて暮らしたほうが楽しいですよね」(ターセンさん)と語ってくれました。

文/中城邦子

●取材協力
・引田ターセンさん・かおりさん
ギャラリーフェブ
ダンディゾン

なぜ売れる? 空き家専門マッチングサイト「家いちば」のノウハウとは

空き家の売り手と買い手をつなぐマッチングサイト、「家いちば」が話題を集めている。なぜなら、不動産会社が「売れる見込みがない」と取り扱いを渋るような、古い空き家が売れるというからだ。どうしてここでは売れるのか? 「家いちば」を運営する藤木哲也(ふじき・てつや)さんに話を聞いた。
掲載物件は住宅や飲食店、ホテル、郵便局までと幅広く

新聞やテレビで次々と取り上げられ、注目を集めている空き家のマッチングサイト、「家いちば」。2015年の立ち上げ以来、成約件数は徐々に伸び、17年10月からは月平均5,6件ペースだという。18年2月は9件だった。

一般的な不動産売買のポータルサイトのように、“中古だけど、それ以外の条件は◎”というたぐいの物件ばかりではない。それどころか、相当の築年数がたっていたり、長年放置され荒れていたり、周囲には交通機関らしきものが見当たらない不便な地域にたっていたりするものもある。

住宅が大半だが、ホテルなどの宿泊施設や郵便局などの施設、敷地や山林まで混じっているのも印象的だ。販売価格は、「タダでもいいからもらってほしい」といった0円のものから、1億円までと幅がある。

「空き家は売れないと言われますが、ニーズはあるんです。これまで成立した契約には、『自分には不要でも、他の人には魅力的な条件がそろっていた』というケースが多い。そんな幸福なマッチングがあって、空き家は売れていきます」と、サイトの運営者で不動産コンサルタントの藤木さんは話す。

掲載物件の一例、郵便局。約80組の購入希望者から問い合わせがあり、売却が決まった(画像提供/家いちば)

掲載物件の一例、郵便局。約80組の購入希望者から問い合わせがあり、売却が決まった(画像提供/家いちば)

掲載物件の一例。二世帯で暮らしていた母屋と離れを、引越しを機に売却希望。場所は福島県郡山市(画像提供/家いちば)

掲載物件の一例。二世帯で暮らしていた母屋と離れを、引越しを機に売却希望。場所は福島県郡山市(画像提供/家いちば)

売れるポイントは、“売り手自身が物件を紹介すること”にある

売買の仕組みはこうだ。空き家や空き地の売り手が、掲示板に物件の情報を投稿する。掲載は無料だ。買いたい人がサイトを通じて連絡した後、藤木さんらのサポートを受けながら、当事者同士で交渉を始める。交渉が成立したときは、宅地建物取引業の免許をもつ「家いちば」の運営会社、エアリーフローが、重要事項説明や契約書の作成をするなど、売買の手続きを行う。成約した場合のみ、物件価格の1.5~5%の仲介手数料をもらい受けている。

千差万別の物件がそろうなか、どうやってニーズの合う売り手と買い手が出会い、交渉成立に至るのだろうか。藤木さんによれば、そのポイントは、仕組みのなかの「売り手自身が、物件の紹介記事をつくることにある」という。売り手は、キャッチコピーの売り文句や物件の説明を書き、写真を提供している。運営者は、ほとんど手を加えない。

「当サイトでは、契約前には、売り手と買い手が直接交渉をします。それに備えて、ほとんどの売り手は、その物件の再建築不可などのネガティブな条件まで包み隠さずに書くんです。また、空き家と言っても思い出が詰まっている場合も多く、丁寧に使ってほしいという思いで、これまでの歴史などもしっかり書く。このように、一般的なポータルサイトなどと比べ建物の情報が多岐にわたることから、安心して交渉できるのではないでしょうか」と藤木さん。

「家いちば」のトップページ。売却物件の情報がずらりと並ぶ。※画像にある物件は撮影時の物件になるため、詳細は確認が必要

「家いちば」のトップページ。売却物件の情報がずらりと並ぶ。※画像にある物件は撮影時の物件になるため、詳細は確認が必要

サイトを通じて全国各地の売り手、買い手が結び付く

ここで、契約が成立した2つの例を紹介しよう。

まずひとつは、石川県の海沿いにある、築75年の古民家の例だ。25年以上空き家だったが、相続を機に売り手Aさんは売却を考え始めた。売れなければ解体する心づもりだった。

そんなときに見つけたのが「家いちば」だ。サイトを活用した理由についてAさんは、「掲載物件の所在地が限定されていなかったことと、所有者側の事情や希望を自分の言葉で語れるサイトだったこと。地方で、思い入れのある家を手放す人に合っていると思います」と話す。

その結果、現地を見に来て、由緒ある建物のつくりと、周囲の街並みにほれ込んだという買い手Bさんが現れた。契約は無事成立。ちなみに、買い手Bさんは今後、この建物だけでなく、街並みの維持にも貢献したいと考えているそうだ。

契約が決まった、石川県の築75年の古民家。重厚な能登瓦、外壁の下見板張りなど古民家の魅力があふれる(画像提供/家いちば)

契約が決まった、石川県の築75年の古民家。重厚な能登瓦、外壁の下見板張りなど古民家の魅力があふれる(画像提供/家いちば)

上記の古民家のあるまちの様子。連続する能登瓦と下見板張りの壁が風情を生む(画像提供/佐藤正樹)

上記の古民家のあるまちの様子。連続する能登瓦と下見板張りの壁が風情を生む(画像提供/佐藤正樹)

もうひとつは、鹿児島県の築40年の元花屋の店舗だ。売り手Cさんは4年前に身内が営業をやめてから売却を考えていたものの、リフォームにも解体にもコストがかかるなどの理由から、不動産会社経由では売れなかった。

「『家いちば』は、そういった不利な条件でも掲載できるので、利用してみることにしました」とCさん。情報の掲載から約1週間のうちに問い合わせが来て、契約に至った。買い手Dさんは東京都に住んでいるが、「家いちば」でこの物件を見て、付近に親戚がいるこのエリアと建物に興味をもち購入を決めたのだという。若者が集う場として再生したいと、今、計画を練っているところだ。

契約が決まった、鹿児島県の元花屋の店舗。以前は料亭だったため、天井の細部にその名残がある(画像提供/家いちば)

契約が決まった、鹿児島県の元花屋の店舗。以前は料亭だったため、天井の細部にその名残がある(画像提供/家いちば)

「その建物と、地域を大切にしたい」という気持ちを忘れずに

最後に、藤木さんに、空き家を購入するときの心構えやマナーを尋ねた。

「単に、タダだから譲り受けよう、安いから買ってみようなどとは、思わないでほしいんです。空き家の売り主のなかには、先祖代々の土地と建物を売ることに抵抗感がある人も多い。それを乗り越えられずにいるから、空き家になっているという事情もあるんですね。

『先祖代々の建物と土地を預かる』『近隣との昔ながらの付き合いを大切にする』という気持ちを忘れずに、また、その気持ちを売り手にきちんと伝えつつ、購入の交渉に臨んでいただきたいと思います」

今後、引越し先などで住まいや店舗を探すとき、こういったマッチングサイトや口コミを通じて、空き家活用を選択肢に加える手もありそうだ。空き家は流通にのっていないケースが多いので、契約時には宅地建物取引士など不動産のプロに、快適に住めるかどうか、リフォームが必要かなどは建築士など住まいのプロにアドバイスをあおぎたい。

そして、藤木さんの言うように、売り手の建物への思いや昔ながらの付き合いを継承するといった配慮を、念頭に置いてほしいと思う。

(構成・文/介川亜紀)

●取材協力
・家いちば

なかなか増えない保育園併設マンション、その理由を探ってみた

保育園に入りたいけれども、入れない「待機児童問題」。その解決策のひとつとして、2017年秋、国土交通省・厚生労働省が「大規模マンション建設における保育施設の設置を促進します」を発表しました。では、「保育園併設マンション」がなかなか増えない理由とはどこにあるのでしょうか。行政とデベロッパーに取材してきました。
保育園併設マンション、メリットが薄い購入者も?

保育園の待機児童の問題が話題になると、「大規模マンションに保育園を併設すれば、待機児童も解消できるしマンションも売りやすいんじゃないの?」そう考えたことがある人が、いるのではないでしょうか。

筆者が記憶する限り、大規模マンションが多数登場した2000年代前半には認証/認可保育園併設のマンションが登場していたように思います。しかし、「保育園併設のマンション」の供給戸数やエリア、ニーズなどを網羅したデータはなく、まだまだ一般的になったとは言い難い状況です。

写真/PIXTA

写真/PIXTA

最も大きなポイントとなるのは、認可保育園の場合、マンションの購入者・住人だからといって、優先的に入れるわけではないところでしょう。認可外や認証であればマンション住人優先枠を設けているところもあるようですが、人気が高く、多くの親が利用したいと考えている認可保育園の場合であれば、地域住民と同じように審査されるわけで、マンションに住んでいるのに「落ちた……」という可能性は十分にあるのです。

また、マンションの規模が大きければ大きいほど、シニアカップルやDINKS、シングルなど、多彩な世帯が購入します。子育て世帯向けに利用が限られていて、しかも入れるどうかが不透明というのであれば、「保育園併設マンション」のデメリットに目が向いてしまうのも、ムリはないかもしれません。

保育園の運営会社に携わる、デベロッパー側の思いとは?

一方で、デベロッパーはどんな思いを抱いているのでしょうか。大手デベロッパーの東京建物は、2016年、保育園開設 ・運営を行う「東京建物キッズ」を立ち上げました。デベロッパー側から見て、保育園併設マンションを建設するうえで課題はあるのでしょうか。

「マンション企画・開発と保育園の企画・開発などは似ているところが多く、建物をつくるところまではほぼ一緒です」と話すのは、マンション開発の経験をもちながら、保育事業部でエリアマネージャーを務める猪俣章信さん。建築法規などを順守しつつ、行政との協議を行い、建物やコミュニティつくっていくのは、デベロッパーの得意とするところだといいます。

つまり、保育園のための「ハコ」や「建物」そのものをつくるのは、あまり難しいことではないというのです。ただ、肝心の保育園はその性質上、運営に関しての参入障壁が高いのだといいます。

「乳幼児を預かるわけですし、行政からの補助金で運営するので、保育園運営はどこの誰でもOKというわけにはいきません。参入障壁があるのは当たり前ではないでしょうか」と、解説してくれたのは、事業企画部部長の田所照代さん。そのため、保育園開設に際しての審査も多く、その度に確認、調整、書類作成が必要になるといいます。

また、デベロッパー側からみれば、保育園が不足する都市部の土地は、マンション・商業施設・ホテルなどとの争奪戦で仕入れた土地です。一住戸でも販売住戸を増やして利益を出したいという「事業性」の観点からみても厳しい側面があるそうです。

「デベロッパーは用地買収の際に、事業計画を立案し、どの程度の収益を見込むかを勘案しています。ですから、用地買収後に自治体から保育園を要望されても難しいのも事実です。一企業の使命感やCSRというだけではなかなか増えないでしょう。どの企業が土地を購入するとしても、フェアな競争になるよう、自治体側で要綱・条例が整備されることによって、状況は変わるのではないでしょうか」と田所さんは解説します。

写真/PIXTA

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保育施設促進の通知を出した国交省の考えは?

では、2017年秋に「大規模マンション建設における保育施設の設置を促進します」という通知を出した、国土交通省はどう考えているのでしょうか。あらためて通知を出した背景について聞いてみました。

「ご存じのとおり、待機児童問題の解消は喫緊の課題です。ただ、保育園の開園は行政だけの力では難しく、民間事業者に広く呼びかける必要があり、通知にいたりました。しかし、今回の通知だけで、待機児童の問題が解消されるとは考えていません」と担当者は話します。

今までタテ割りだった行政(マンション建設担当部署・保育担当部署)の情報共有が活発になることや、「保育園併設マンション」の成功事例が周知されることが、待機児童問題解消の一助になると考えているようです。

また、保育園併設マンションがなかなか増えない要因としては、次の2つをあげてくれました。
「保育園併設マンションについては、(1)保育園は商業施設などと比べた場合、事業性が低いこと(2)将来的に住人のニーズがなくなってしまう などの懸念があると聞いています。そのため、今回の通知では将来の用途変更についても配慮した内容となっています」

ちなみに、すべての大規模マンションに保育園開設を義務づけることは、デベロッパーの財産権の侵害になる可能性があり、難しいといいます。そのため、今後も地域の保育需要にもとづき、行政とデベロッパーの話し合いで建設が協議されていくことになる、と教えてくれました。

写真/PIXTA

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ここまでまとめると、マンション購入者にとっても、デベロッパーにとっても「直接的なメリットが薄い」、行政にとっては「デベロッパーと協議し、お願いしていくしかない」というのが保育園併設マンションの実情のようです。

働く母親でもある筆者は、今回、子どもの預け先がなく5カ月の娘とともに取材にのぞみました。幸い、春からの保育園入園が決まっていますが、多くのママたちが今まさに「保育園に入りたい!」と叫んでいるのをみると、第一子のときの保育園落選を思い出し、心が痛くなります。課題はあるかもしれませんが、保育園併設マンションは待機児童問題の解決策のひとつになると思うのです。

現状でも「開設当初は認可外保育施設(例:企業型保育所など)で立ち上げ、マンション住人に優先権を付与し、10年後に認可保育園に移行させてもらう」といった条件で建設するなど、保育園併設マンションを増やす工夫の余地があるといいます。

地道ではありますが、みんなで「保育園併設マンションがもっと増えてほしい!」という声をあげていくことが大切だと思っています。

●取材協力
・東京建物キッズ
・国土交通省

職人が足りないなら育てよう リノベ会社がはじめた「マルチリノベーター(多能工)」育成

今や一般にも広く認知されているリノベーション。しかし、拡大するリノベ業界には深刻な職人不足という大きな課題があり、それを解消するための人材育成の動きが活発化しつつあります。リノベ業界を牽引する企業、
インテリックス空間設計が取り組んでいる「リノベーションカレッジ」もその一つ。どんな育成方法なのか、リノベ業界にはどんな課題があるのか、聞きました。

深刻化する職人不足にともない、「多能工」育成が活発化

住宅を購入して自分らしい住まいにカスタマイズしたい、個性的な住宅に暮らしたい……そんなリノベーションのニーズが高まっている現状にもかかわらず、少子高齢化に伴う労働人口の減少などで、建設現場は高齢化が進行しています。さらに現在、震災復興事業、景気回復やオリンピックに向けた建設ラッシュの影響などで人手不足はより深刻化しつつあります。リノベ工事を依頼して設計が決まっても、職人不足ですぐに着工できず、困った状態になるといったことも考えられます。そうした背景から、リノベーションやリフォームなどの住宅業界では職人を独自に育成する必要性に迫られています。

実は日本の建設業は、他国に比べて分業化が進みすぎていると言われています。大工職人、左官職人など職種が細分化されていると、職人が現場に入るのは工事の進行に応じて半日だけという状況や、待ち時間が長い状況など、非効率的な事態になることも少なからずあるといいます。

人手不足解消に加え、作業の集約化を図るために求められているのが、複数の職種に携われる能力をもつ「多能工」です。「多能工」の職人を育成し活用することで、非効率的な現場から、生産性の高い現場へ変えていくことが可能となるため、積極的に自社で育成に取り組む企業が増えつつあります。

入社後の研修をOJTとし、大工工事、水道工事、電気工事の三職種を一貫して行えるよう技術習得のサポートを行い、自社育成を進めているリフォーム企業もあれば、自社研修にパワーを割けない企業向けに研修施設を開設したという設備商社、多能工養成コースがある専門学校など、取り組みはさまざま。自治体でも職業訓練校で多能工育成のコースを設けたり、国土交通省も多能工(マルチクラフター)育成の必要性を説いたりしています。

リノベ業界で活躍する人材を増やすためには職の効率化が必要

そのなかで、昨年、新たな取り組みをスタートさせたのは、リノベ業界のリーディングカンパニーのひとつであるインテリックスの設計・施工部門「インテリックス空間設計」。3カ月という短期間で「マルチリノベーター(多能工)」を育成する「リノベーションカレッジ」を2017年4月に開校しました。

インテリックスが提唱するマルチリノベーターとは、大工、水道、電気などの専門技術とリノベ全般の知識を備えた施工・管理をトータルに行う専門家。カレッジを、リノベの基礎知識から大工作業、設備工事、プランニング、施工管理まで、座学と現場研修を通じて実践的に習得できる場としています。大工技術等の習得には修行期間を含めて長い期間が必要とされていますが、自社の施工ノウハウをマニュアル化することで、初心者でも技術が習得しやすいカリキュラムとしているそうです。

インテリックス空間設計副社長でカレッジ長を務める藤木賀子さんに、カレッジを立ち上げた経緯についてお話を伺いました。

「職人不足の背景には、若手でなり手がいないという状況があります。なぜ若い世代が職人になりたがらないかと言うと、いわゆる『技術は盗んで覚えろ』という昔ながらの職人文化についていけないためです。職人自身も教えてもらった経験がないから、教え方が分からない。また、教えようと思っても会社規模が小さいところが多いために、限られた施工期間のなかでは、実現場で基礎教育に充てる時間の確保が難しいようです。それなら、事前にリノベの基礎や実践的なスキルを研修してから現場に出る仕組みがあれば、教える側・学ぶ側双方にとって効率が上がり、現場での成長スピードも早まると考えました」

次回は2018年4月開講の予定(開講日4月9日、願書受付3月17日まで、募集人数10名以上)。3カ月で習得することは多岐にわたります(資料提供/インテックス空間設計)

次回は2018年4月開講の予定(開講日4月9日、願書受付3月17日まで、募集人数10名以上)。3カ月で習得することは多岐にわたります(資料提供/インテックス空間設計)

カレッジの座学や実習は月曜日から金曜日の9時半~17時まで。講師は自社社員・協力会社の担当が行います(資料提供/インテックス空間設計)

カレッジの座学や実習は月曜日から金曜日の9時半~17時まで。講師は自社社員・協力会社の担当が行います(資料提供/インテックス空間設計)

設計から施工、積算、現場監督まで。全体を学ぶから生産性の高い人材に

「当カレッジの強みは、リノベーション現場での実習を行わない職業訓練校や専門学校と異なり、当社が手がけている施工現場が常に100件以上あること。実際の現場での研修や見学があり、より理解が深まり実践力を身につけることができます」(藤木さん・以下同)

「職人として独立しても、生産性が低く安定した収入につながらないケースもあり、そうした場合、夢がもてず、老後も安心できません。職人としてだけでなく、現地調査・設計・積算・現場監督・検査方法などリノベーションの入口から出口までを一通り学べるので、生産性の高いマルチリノベーターとして活躍できる人材を送り出す場としたいですね。また、その後のキャリア選択の幅も広げてもらえたら」と藤木さんは語ります。

「マンションリノベーションでは、工事で発生する音やほこり、通路の養生などに対する近隣住人からの要望への対応に時間を取られ、工事がストップしてしまうことも少なからずあるので、施工管理を行う現場監督の役割が重要だと考えています。カレッジでは近隣への接客マナーやコミュニケーション方法も身につけてもらうことになります」

設備交換などのシンプルなリフォームに比べて施工期間が1カ月、2カ月と長期になるリノベーション。マンションという住戸が密接した建物ということもあり、同社でも現場で近隣住人からの要望やクレームが施工中に入ることもあるそうです。監督が常駐していない現場の場合、大工職人が近隣住人に対面することになるのですが、管轄外のことであり、きちんと対応できるかどうかはその人次第となってしまいます。

工事全体を把握し、近隣に対応する折衝スキルをもつ人が現場にいることで、工事を滞らせることなく進めることができるのです。

ご近所対応をうまく行うことで、物件に入居する住人にとっても、気持ちよく入居していただくことにつながるといいます。「生産者を紹介している野菜直売所のように、物件オーナーにとってもご近所の方々にとっても、『リノベ担当者の見える安心な現場』になれればと考えています」と藤木さん。

リノベーションカレッジの授業の様子。現場でも多くの実践的な内容を学べます(資料提供/インテックス空間設計)

リノベーションカレッジの授業の様子。現場でも多くの実践的な内容を学べます(資料提供/インテックス空間設計)

「設計も職人も監督もできるのが魅力」「まずは現場から」という希望者が集う

「2017年4月の1期生は定員の10人が集まりました。不動産会社勤務でリノベをやりたい方、未経験だけれど現場監督になりたい方、解体業者さんなど、20代~60代まで年齢もさまざまで、うち4人が女性の方です。基礎コースの3カ月で45万円(入学金5万円と受講料40万円)の受講料を頂きましたが、それだけに意気込みのある方ばかりでした。専門学校2年間で学ぶような高密度の内容を3カ月という短期間で行うことになりますが、集中したほうが身につきやすいと考えています」

修了後は、希望者には契約社員として現場で理解を深めていく期間があり、試験や面談にパスすれば社員登用の道もあります。1期生で社員となったのは2人。

「当社では社員となった場合、OJTで学び、いずれは現場監督兼大工職人として現場に出ることになります。それ以外の工事は専門の職人が担当します。将来的には、給排水工事、電気設備工事、左官工事などの専門職を兼ねる者が出てくるかもしれません。それは当人次第ですね。いずれそうしたマルチスキルをもった者が独立した場合、協力関係を築けたらと思います」

「カレッジとは別に、昨年末に中途採用でマルチリノベーターの募集をかけたところ、予想外に多くの方から応募がありました。未経験の方も多く、入社後にはリノベーションカレッジで基礎を身につけてもらいます。なかには建築学科卒業の方も多く、『設計をやりたいけれど、現場を知ることから始めたい』『職人にもプランナーにも監督にもなれるから職能的に魅力』という声が多かったですね。現場で学ぶことで実践力が身につく、そうした点に大きな魅力を感じていただいているようです」

大学や専門学校の建築学科では現場施工を学ぶ機会は意外と少なく、リノベーションの全体を把握できないそうで、同社のようにマルチに活躍できる職場を求めている人は想像以上に多いと藤木さんは感じたそうです。

受講者のなかには賃貸アパートオーナーもいました。「大家さんがリノベーションのマルチスキルをもっていると、とても役立つと思います。自分で施工することも可能ですし、業者に依頼する際にも工事内容を把握しているので、依頼内容が的確で追加工事が生じなかったり、見積もりが適正か判断できるためです」

3カ月の短期間にぎゅっと詰まったカリキュラムをやり遂げたことで、皆さん格段に成長したそうです(写真提供/インテリックス空間設計)

3カ月の短期間にぎゅっと詰まったカリキュラムをやり遂げたことで、皆さん格段に成長したそうです(写真提供/インテリックス空間設計)

リノベーションを考えている人にとって、昨今の職人不足はひとごとではありません。安心して任せられる職人兼現場監督が常に現場にいれば、リノベの依頼者・近隣住人にとっても気持ちよく、予定通りに工事を進めることにつながります。

「カレッジの運営は収支だけで考えると赤字ですが、より多くの人がマルチリノベーターとして活躍できるようにするために使命感をもって臨んでいます。『この人なら安心して任せられる』と感じていただける、“顔の見えるリノベ現場”でありたいですね」と、最後に力強く語る藤木さん。お話を伺って、より多くの人材の活躍を期待したいと感じました。

●取材協力
・株式会社インテリックス空間設計「リノベーションカレッジ」

インスタ映えも最高! 世界中でブーム、「タイニーハウス」に宿泊できる高架下ホステルが登場

2008年ごろにアメリカから始まった「タイニーハウス」のブームをご存じですか? リーマンショックをきっかけとした経済危機から、住まい方や働き方を見直そうという動きが始まりました。

そしてシンプルに生きる手段の一つとして、「少ないモノだけを所有する」「住まいもコンパクト(タイニー)に」というライフスタイルがアメリカやヨーロッパで人気を呼んでいるのです。

そんな「タイニーハウス」滞在を体験できる宿泊施設が、日本でも2018年春にオープン予定です。しかも、なんとも意外な場所にできるのだそう。一体どこだと思いますか?

「タイニーハウス」ホステル、答えは横浜!

答えは神奈川県横浜市、桜の名所でもある大岡川に面した日ノ出町・黄金町エリア。桜の名所に建つ宿泊施設なんて素敵ですね。けれど、本当の驚きは桜ではないのです。実はその宿は、京急線の高架下に建つのだそう。

画像提供/YADOKARI株式会社

画像提供/YADOKARI株式会社

画像提供/YADOKARI株式会社

画像提供/YADOKARI株式会社

世界中のタイニーハウスやモバイルハウスに関するメディア運営や、地域活性化プロジェクトの企画開発を行うYADOKARI株式会社(東京都中央区、以下YADOKARI)が、鉄道などの交通事業等を展開する京浜急行電鉄株式会社(東京都港区)と共に「日ノ出町・黄金町エリアの沿線高架下の活性化」の一環としてこのホステルをプロデュースしたのだとか。 タイニーハウスも珍しいですが、場所も意外ですね。

「タイニーハウス」ホステルについて気になる点を質問!

今回は「高架下タイニーハウスホステル」をプロデュースした YADOKARIのスタッフに、ホステルの気になる点を質問してみました。

――タイニーハウスということですが、広さはどれくらいなのですか?
「客室の大きさは約15平米です。宿泊できるタイニーハウスひとつにつき4床あります。各客室にはシャワー、トイレ等の水まわりが設置されていて、タイニーハウスの暮らしを体験できる仕様となっています。1棟貸し切り、ドミトリーからお選びいただけます」(YADOKARI)

――全部で何棟建つのでしょう?
「ホステル3棟(4床×3棟の計12床)、カフェバー1棟、水上アクティビティステーション1棟になります。
イベントスペースは、住まいや働き方、食、地域などをテーマにしたさまざまなイベントを開催予定です。これまで未利用地だった高架下を街に開かれたパブリックなコミュニティスペースとして開放し、イベント、マルシェ、ワークショップなど、地元住民や自治体と連携しながら界隈性の生まれる場所を目指します」( YADOKARI)

――高架下ということですが、騒音は気になりませんか?
「正直に申し上げると、音に敏感な方の宿泊はおすすめしません(笑)。けれど日ノ出町の高架下の音は意外と、コトンコトンといった心地よいものです。寝台列車に乗っているような気持ちで、あえてそれを楽しんでご宿泊いただければと思います。また、夜は敷地内のリビングハブ(カフェバー&イベントスペース)でさまざまなイベントを行っております。そちらにご参加いただいたり、ホステルから徒歩5分の野毛まで飲みにいくなど、ホステルのみでなく周辺エリアも一緒に楽しんでいただければと思います」(YADOKARI)

この「高架下タイニーハウスホステル」は、日ノ出町・黄金町や周辺エリアを24時間楽しむことができる施設のようです。更にYADOKARIの担当者によると、今後は「住まい方や働き方、地域、食、水上アクティビティなどをテーマにしたイベントとセットにした宿泊プラン」も検討していくのだとか。

タイニーハウスの外観は、非常にフォトジェニック。外壁は全て木質なのに、外壁の貼り方やカラーリングがすべて異なるので単調にならず、建物にリズムが感じられます。最高にインスタ映えしそうです。

タイニーハウス・ファンのみならず、ミニマルライフや地域とのコミュニティ形成に興味のある方のアンテナにも響きそうなこの「高架下タイニーハウスホステル」は2018年春にオープン予定です!

お部屋がまるで公園に! グリーンも設計するリノベーションプランとは?

植物に囲まれた暮らしに憧れるけれど「都会のマンション住まいでは無理」と諦めていませんか? そんな固定観念を覆すべく発表されたのが、「GREEN DAYS(グリーンデイズ)」というリノベーションプランです。「植物と人間が心豊かな時間を過ごせる住空間」をコンセプトに、植物がそこに住む人とともに成長し、生きる環境づくりを目標にしているそう。

このサービスはリノベーション事業を行うグローバルベイス株式会社の「マイリノ事業部」と、青山フラワーマーケットの姉妹ブランドで空間デザイン事業を行う「parkERs by Aoyama Flower Market(パーカーズ バイ アオヤマフラワーマーケット)」が事業提携して展開。今年2月から提供が始まっています。

「GREEN DAYS」の空間を体験!

 

さっそく展示会場である渋谷の2LDKマンションを訪れてみると、そこには部屋のなかに公園があるかのような、癒やしの空間が広がっていました。

キッチンまわりの水耕栽培では、ハーブを育てるのもおすすめ(画像提供/グローバルベイス株式会社)

キッチンまわりの水耕栽培では、ハーブを育てるのもおすすめ(画像提供/グローバルベイス株式会社)

インナーバルコニーの一角は、読書や考え事をするのにもぴったり(画像提供/グローバルベイス株式会社)

インナーバルコニーの一角は、読書や考え事をするのにもぴったり(画像提供/グローバルベイス株式会社)

「GREEN DAYS」のポイントはふたつあります。

ひとつめは、プランターや水耕栽培システムのみならず、キッチンやソファー、照明などもオリジナルでデザインされており、植物が映える住空間が演出されていること。

ふたつめに、植物の選び方や手入れなどを植物の専門家がしっかりとサポートしてくれることです。入居した後も初年度4回の無料フォローがついており、専門家がお家を訪問してアフターケア等についてアドバイスをくれるそう。

しかし植物選びが完璧でも、部屋全体に配置するとなると日当たりや水やりの加減なども気になるもの。これだけの量のグリーンがあると、逆に枯れてしまったら悲惨なことになるのではないかと不安になるのですが……。

グローバルベイス株式会社広報企画室の植田有紀(うえだ・ゆき)さんによれば、リノベーションの段階からグリーンを設計することが、そんな不安を解消するカギになるといいます。

グローバルベイス株式会社広報企画室 植田有紀さん(写真撮影/蜂谷智子)

グローバルベイス株式会社広報企画室 植田有紀さん(写真撮影/蜂谷智子)

「物件の日当たりと植物を置く位置なども考慮して、オリジナル家具を設計します。植物のある生活を前提にしたリノベーションを行っているからこそ、機能的な栽培ができるんですよ。例えば水やり回数が少なくて済むプランターは、保水性のある構造になっているので重量がありますが、その分床の強度を上げて対応しています。またキッチンまわりは水耕栽培ができるようになっていて、ハーブなどを育てることが可能。それもキッチンから直接水やりができるような構造になっています。植物に適した環境をつくることと、育てる手間を減らし、負担に感じないよう設計の段階から意識しています」(植田さん)

水やりは週一回 忙しい人でもグリーンに囲まれた生活が可能に

「GREEN DAYS」で使用する土はココヤシピートやコーヒーのカスを使用し、虫も含まれていません。これは環境に負荷をかけないエコで地球に優しい「parkERs soil(パーカーズソイル)」といって、地球環境に配慮した園芸資材を製造しているプロトリーフ社とパーカーズが共同開発したオリジナルの土だそうです。

「特殊な土とプランターによって、水やりは週に1度で問題ありません。またパーカーズは植物の専門家集団なので、育て方で迷ったときは的確なアドバイスをしてくれます。季節ごとの植え替えなどもご提案できますので、マンションでも季節を感じる暮らしを楽しんでいただけますよ」(植田さん)

なお同プランでフルリノベーションする場合に限って、リビングだけ、インナーバルコニーだけなど、一部分に特化した植栽設計も可能とのこと。また初年度4回が無料の植物専門家のアドバイスは、2年目以降も有料で申し込むことができます。
※費用はアドバイス内容に応じて変動

住まいの好みが細分化しており、住宅の資産としての価値だけでなく「そこでどんな暮らしができるのか」が重視される昨今。間取りや立地などの物件の魅力だけでなく、ライフスタイルも込みで提案するビジネスが増えそうです。

●取材協力
グローバルベイス

「時短」で子育てをサポート コンパクトシティがかなえる育児環境とは【育住近接(3)】

共働きの夫婦が増えた今、子育てと仕事の両立の難しさに直面している人は多いだろう。野村不動産は、そんな子育て世帯向けにマンションを建設、昨年の3月から入居が始まった。その物件「プラウドシティ大田六郷」は、どのように育児をサポートするのだろうか。入居者の声を交えながら紹介したい。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。子育てに必要な施設がそろう「コンパクトシティ」

政府が取り組む「少子化対策」と「女性活躍」。産休、育休を取得しやすくする企業が増えてきたが、保育園不足による「待機児童」問題など、子育て環境はまだまだ整ってはいないのが現状だろう。そんななか供給されたのが、野村不動産が手がける「プラウドシティ大田六郷」。一体どんな特徴があるのだろうか。

物件は、京急本線・雑色駅から徒歩約10分の場所に位置する。多摩川緑地にほど近く、品川や川崎方面にも通勤が便利な場所で、昔から町工場が多いエリアだ。

【画像1】スカイデッキからは多摩川が望め、自然環境もよい(画像提供/野村不動産)

【画像1】スカイデッキからは多摩川が望め、自然環境もよい(画像提供/野村不動産)

マンションの敷地内には、保育施設、学童、医療、ショップなどの子育て世帯にうれしい施設を内包している。また、大型コインランドリーやカーシェア、宅配レンタカーなど、便利な設備は実に豊富だ。

物件の周辺は、徒歩7分圏内に幼稚園、小学校、中学校、児童館がそろい、家の近くで子どもが成長することができる。公園や自然、病院もあるのも魅力的で、「コンパクトシティ」という呼び名にふさわしい場所であることがうかがえる。

野村不動産の高橋和也(たかはし・かずや ※「高」は正式には「はしごだか」)さんによると、このマンションの開発の背景には「時短を図り、子育て世帯をサポートしたい」という思いがあったという。というのも、働きながら子育てをする際に問題になるのは、「とにかく時間が足りない」ということだからだ。遠くの保育園に連れて行ってからの出勤、遠くの保育園に寄ってからの帰宅。あるいは日々の買い物をするためのスーパーが遠いこと……。

そうしたことが原因で発生する時間のロスを解決するのが、マンション内に設置された施設と街の利便性だと考えたそう。

この記事の作成にあたって行った居住者アンケートで寄せられた、「すべての生活動線が1つにつながっている」(Hさん)という意見に、このマンションの特徴「時短」が集約されているように感じられる。

「昨年3月より入居を開始したばかり。入居者には子育て世代が多く、6歳未満の未就学児のいる家庭が多いですね」と高橋さん。購入者層も20代~30代と比較的若い。また、共働き世帯が多く、「通勤しやすいので選んだ」という声が多く見受けられた。同じように多かった意見が「子どもが生まれ、子育てをしやすい環境を求めていました」(Kさん)といった声。

つくり手の思いは、たしかに入居者に届いているようだ。

キッズラウンジで育つのは、子どもだけでなく、大人たちのコミュニティ【画像2】敷地内にはひろびろとした場所があり、外遊びもできる(画像提供/野村不動産株式会社)

【画像2】敷地内にはひろびろとした場所があり、外遊びもできる(画像提供/野村不動産株式会社)

これまで生活の利便性について述べてきたが、敷地内の共用施設にも注目したい。

子ども向けの共用施設として、よく利用されているのが「キッズラウンジ」。キッズラウンジは、絵本や遊具が豊富にそろった子ども向けの遊び場で、世界の優れたあそび道具を販売する玩具メーカー、ボーネルンドがプロデュース。その存在感はラウンジというよりもむしろ屋内型の公園のようだ。雨が降っても家の外に出て遊ぶことができるのは大きな魅力といえるだろう。

【画像3】カラフルで色彩豊かなキッズラウンジ(画像提供/野村不動産株式会社)

【画像3】カラフルで色彩豊かなキッズラウンジ(画像提供/野村不動産株式会社)

高橋さんによれば、だいたいいつも6~7組の親子が遊んでいる姿を目にするという。アンケートでも「キッズラウンジや中庭など、マンション敷地内で遊ぶスペースがあることはよいと思う」(Tさん)など、キッズラウンジに好感をもつ声が目立った。一人っ子だとしても、同じマンション内に同世代の子どもがいることで、「きょうだい感覚」を得ることができるかもしれない。

また、キッズラウンジには父親の姿も見かけるそう。「父親がスムーズに入り込める感じで、休日の育児が楽しくなりました」(Iさん)や、「子育て世帯が多くいて、話がしやすい」(Hさん)といった声があがった。こういう交流の積み重ねが、マンションコミュニティを形成していくのだろう。

施設内の子育て施設 利用状況はいかほど?

敷地内にある学童施設「ポピンズアフタースクール西六郷」は、放課後や長期休暇に小学生を預けることができる。小学校入学後、保護者が勤務から帰宅する夜間の時間に起こる「小一の壁」問題に対応することが目的のようだ。未就学児童が多いこともあり、まだマンション住人の利用は少ないそうだが、機能を発揮する日も遠くないだろう。

また、開設準備中の医療施設も、子どもたちの「かかりつけ医」として活躍しそう。そして、4月にはいよいよ認可保育園が開園予定。マンションを購入したからといって優先的に入れるわけではないのだが、実際に入居者の多くが入園を希望している。

どの施設もまだまだマンション入居者の利用は少ないが、今後の発展に期待したい。

コンパクトシティに建てられた「プラウドシティ大田六郷」。共働き夫婦が、育児と子育てを両立するための環境が十分に整っていることが分かった。入居が始まったばかりだが、今後「育住近接」のお手本となってくれそうだ。

●取材協力
・プラウドシティ大田六郷(野村不動産株式会社)

コワーキングスペース付き保育園ってどう? 共働きのパパライターが訪問してみた

働き方改革が叫ばれている昨今。さまざまな企業で就業の形態が変わってきていますが、テレワークや在宅、起業などでフリーランスとして働く親にとって、「じゃあ子どもはどうするの?」という問題が出てきます。なぜなら、特に待機児童が多い都心などでは、そうした働き方をしている家庭は認可の保育園に入りにくいからです。でも子どもを見ながら仕事は現実的ではない……。もうすぐ2歳になる子どもがいるフリーランスライターの私にとっても他人事ではありません。そんななか、働きながら子育てもしやすい『子育て施設付きのコワーキングオフィス』が増えているという話を聞き、子持ち&共働きでフリーランスの筆者が実際に施設を訪れてみました。
罪悪感なく仕事も子育ても楽しめる それが暮らしを充実させる

まず訪れたのが東京都立川市、立川駅から徒歩5分ほどの場所にあるコワーキングスペース「Cs TACHIKAWA(シーズ立川)」。ワーキングスペースと企業主導型保育園「みらいのたね保育園」が併設されています。企業主導型保育園とは、簡単に言うと国から補助を受けた「民間」の保育園です。こうした施設は多摩地区初とのことです。

外観からはそれほど大きく見えないビルの2階にあるので、狭い託児所レベルかなと思いきや、保育室は約60m2と広々。「初めて訪れた人も、思ったよりとても広いと驚いてくれます」(スタッフ)。もちろん保育園として届け出されているので、スタッフ数など環境は整っています。また食事もメニューから食材までママスタッフが工夫を凝らして考えたものを提供しているそう。

そしてコワーキングオフィスは保育園の入り口から廊下を隔ててすぐ。Wi-Fi、コピー機、ロッカーなど設備が整ったオフィス内は、子どもの声もほとんど聞こえず、仕事に集中できる環境です。もちろん気軽に子どもの様子を見られたり、急な発熱などの事態が起きても5秒で到着。特に乳幼児がいる親にとって保育園からの連絡に気をもむことがなく、安心して働けそうです。

利用者からも
「以前は夜中に寝かしつけた後、深夜しか仕事ができなかったのですが、ここでは子どもの近くにいながら仕事に集中できるのでとても助かっています」(30代女性)

「子どもの様子をみながら仕事をするタイミングをうかがう毎日でした。仕事先に迷惑をかけたり、自分もこれでいいのかと悩んだり、ついそれが子どもの前で態度に出たり。でも今は、子どもにも、自分にも、そして仕事先にも罪悪感なく仕事ができます」(30代女性)
という声が聞かれます。

【画像1】外観からは想像できないほど広い保育園スペース。訪れた日は保育士兼シーズプレイスの社員でもあるスタッフが流ちょうな発音で英語のレッスンをしていました(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像1】外観からは想像できないほど広い保育園スペース。訪れた日は保育士兼シーズプレイスの社員でもあるスタッフが流ちょうな発音で英語のレッスンをしていました(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】クラウドファンディングも活用してそろえたという園内の設備。特にフルオーダーメイドの机やおもちゃは木の温かみが感じられて心地よさそうです(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】クラウドファンディングも活用してそろえたという園内の設備。特にフルオーダーメイドの机やおもちゃは木の温かみが感じられて心地よさそうです(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像3】コワーキングスペース。レンガ調で彩られた壁やインダストリアルなロッカーなどおしゃれ!フリーアドレス席20席を中心に個室も。もちろんWi-Fiやプリンターなども完備。会議にも使えるレンタルルームも(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像3】コワーキングスペース。レンガ調で彩られた壁やインダストリアルなロッカーなどおしゃれ!フリーアドレス席20席を中心に個室も。もちろんWi-Fiやプリンターなども完備。会議にも使えるレンタルルームも(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像4】仕切りを設けた個室。もちろんコンセントなども備えられており、集中して働きたい人に利用されています。住所登記もできるので、起業する人も多いとのこと(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像4】仕切りを設けた個室。もちろんコンセントなども備えられており、集中して働きたい人に利用されています。住所登記もできるので、起業する人も多いとのこと(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

頑張りすぎなくても大丈夫。ゼロ百ではない働き方を

施設を運営しているシーズプレイス代表の森林さんにお話を伺いました。

「私自身が子育てをしながら働いていたこともあり、仕事と子育ての両立の大変さ、働くママたちが諦めて仕事を辞めることで社会から取り残されていく悲しさを身をもって経験してきました。そうした人を減らしたいと立ち上げた、『働くママが本気でつくった保育園』であり、『コワーキングオフィス』です。50人近くいるスタッフはほとんどがママ。保育士資格を持つスタッフが子どもたちを交代で保育し、さらに会社の仕事もしています。だから、働くことも、子育ても、どちらも精一杯楽しみたいというママさんたちに寄り添いやすいと思います」

そんなシーズプレイスの「Cs TACHIKAWA(シーズ立川)」。当初はセキュリティを考えて女性限定のコワーキングオフィス&保育園だったのですが、男性も利用できるようになったとのこと。

「実際に利用されている女性たちからの要望です。いろいろな人と一緒に働くことで新しい発見や刺激があるし、ネットワークをつくって事業を始めるなどにもつながるということで。ドロップイン(一時利用)はパパさんも含めて男性が多いので、社会的にこうした施設のニーズは高いんだと実感しています。また、会議室も設けているのですが、例えばスイーツ店など飲食店やコスメ関連などで起業する際に、プレイベントを行えるようフレキシブルにしています。こちらも利用者が多いですね」

森林さんはこれからの時代の働き方、生き方の意識を変える場として、この施設を考えているといいます。

「朝9時に出社して生産性がないのに定時まで働いたり、時短制度利用することで周りを気に病みながら働いて、毎日子育てにも追われて、心も体もすり減っていくという社会はよくないと誰もが思っています。でも、なかなか現実を変えるのは難しい。だから何かを諦める。……ではなく、私たちを使ってほしいと思っています。さらに、東日本大震災の際に実感しましたが、立川はじめ多摩地区から都心通勤している人たちは、たちまち帰宅困難者になってしまいました。万一の際のリスクもこれからは考えていかなくてはいけません。愛する我が子と<安心>して<楽しく>生きていくには、よくいわれる職住近接はもちろん、『職育近接』の暮らし方が必要だと思います。仕事か子どもか、ゼロか百かの選択肢ではない生き方をこの場所から発信していきたいと考えています」

そんな「Cs TACHIKAWA(シーズ立川)」は、商業施設や大規模公園など、生活施設が充実する立川駅近くという立地も人気の理由だといいます。

「ちょっと早めに仕事を終えられれば、子どもと一緒にさまざまな施設を楽しめるし、たまにはひとりで一息つくこともできます。より前向きに仕事に集中できるというかモチベーションにつながると思います。またイベントなど地域と触れ合う機会もご提案しているので、刺激や住む街に愛着も持てる。夕方バタバタと保育園に迎えに来て、ただ保育園、職場と家の往復だけでウイークデーを過ごすとなかなかできない暮らし方もできる。きっと生き生き暮らせるのではと思います。そんな姿を親が見せていれば、子どもにもきっといい影響があると思います」

【画像5】シーズプレイス代表の森林育代さん。フルタイムからパート、契約社員などさまざまな仕事を子育てしながらこなしてきた経験から起業。多様な働き方、子育て、生き方ができる社会をつくっていきたいと話します((写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像5】シーズプレイス代表の森林育代さん。フルタイムからパート、契約社員などさまざまな仕事を子育てしながらこなしてきた経験から起業。多様な働き方、子育て、生き方ができる社会をつくっていきたいと話します((写真撮影/山口俊介(BREEZE))

多様なサービスを持つ子育て施設付きワーキングスペースも増加中

コワーキングスペース&保育園or託児施設はニーズの高まりから都内はじめ各地に増加中です。くわえてシーズプレイス同様、単なる「保育施設」+「ワークスペース」に限らない多様なアイデアをもつ施設も登場しています。次に訪れたのが、JR山手線大塚駅そばにある「RYOZAN PARK」。ビルの5階から7階が運営施設で、7階が「子育てヴィレッジ」という子育て施設とワークスペースが共存する空間です。ワークスペースはフリーアドレスで、カウンターでは働きながらガラスサッシ越しに保育士と遊ぶ子どもの様子を見ることもできます。

もちろん集中して働きたいなら6階のワーキングスペース専用のフロアや5階の個室オフィスを使うことも可能です。またシーズプレイス同様、一日だけの利用もできますし、打ち合わせ用の会議室も完備。オフィス登記もできます。

施設を運営する代表の竹沢さんは「それぞれの生活や仕事の空間だけでなく、お互いのアイデアや文化、言語や友情までもがシェアされる場所」としてつくったそうです。

「子どものそばで働ける場所ではあるのですが、待機児童解消や働き方改革など崇高な理念を持っているわけではないんです。もっとみんながハッピーになれる生き方、暮らし方がしたい。そんな仲間がつくれる、集う場所として活用してもらえたらと。だからよく言われる『働くママ』だけでなく、『パパ』もいらっしゃいますし、もちろん独身、DINKSもいらっしゃいます。年齢も経歴も国籍すら異なる多様な人たちが、情報交換したり、切磋琢磨したり、コミュニティをつくったり。生き方の可能性を広げられる空間でありたい」と語ります。

また、こうした子どもと一緒のコワーキングスペースだからこその可能性もあるといいます。

「さまざまな起業家の方も施設を活用されているのですが、最初は子どもの声が気になるという人もいたと思うんです。でもたとえ自分の子どもではなくても、声を聞いたり、成長していく様子を見ていたら「この子どもたちが未来を描ける社会をつくらないといけないのではないか」などと発想してくれるんじゃないかと。そうするとビジネス創出の仕方や方向性に新しいアイデアが生まれるのではないかと考えています」

訪れた日も子連れで仕事をしているパパ、ママが見受けられました。サッシ越しに働く親の姿を見ながら過ごす子どもたち。「親の背中を見て育つ」という言葉を実感します。ちなみにRYOZAN PARKの子育てヴィレッジでは、この春から「イングリッシュプリスクール」を開校するとのこと。英語を遊びながら学べる施設で、託児だけでない付加価値も提案するとのことです。

【画像6】7階の子育てヴィレッジ。3歳までの子どもたちが保育士とともに過ごします(画像提供/RYOZAN PARK)

【画像6】7階の子育てヴィレッジ。3歳までの子どもたちが保育士とともに過ごします(画像提供/RYOZAN PARK)

【画像7】子どもスペースとワーキングスペースが隣接。カウンターのサッシ越しに子どもの様子をみながら働くこともできます(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像7】子どもスペースとワーキングスペースが隣接。カウンターのサッシ越しに子どもの様子をみながら働くこともできます(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像8】5階にあるフリーアドレスのコワーキングスペース。カフェのような空間には年齢も国籍も多様な方々が利用しています。奥にはごろ寝スペース、ビル屋上にはバーベキューラウンジがあり、リラックス空間が多いのも特徴的(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像8】5階にあるフリーアドレスのコワーキングスペース。カフェのような空間には年齢も国籍も多様な方々が利用しています。奥にはごろ寝スペース、ビル屋上にはバーベキューラウンジがあり、リラックス空間が多いのも特徴的(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

「コワーキングオフィス&子育て施設」は、訪れるまで保育園の代替で「子育てしながら働ける施設」、「子どもの近くで働ける施設」というイメージでしたが、多様な働き方でライフスタイルの可能性を広げてくれる場所だと実感しました。ちなみに、今年2月には、世田谷区が保育機能付きシェアオフィスの支援事業を行うと発表。行政と民間双方で生き方、働き方を広げてくれる環境整備に期待したいですね。

●取材協力
・みらいのたね保育園
・RYOZAN PARK大塚

【検証】自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか?

きつい、辛い、帰りたい。

なぜ僕は部屋の中で自転車を漕いでいるのだろうか。なぜ一生懸命に走っているのだろうか?
【画像1】(写真撮影/大嶺 建)

【画像1】(写真撮影/大嶺 建)

今、僕は部屋で必死に自転車発電を行っている。そして僕の横では女の子がくつろいでピザを食べている。ふざけているわけではない。これはれっきとした闘いなのだ。己の魂をかけた挑戦なのである。

こんなカオスな空間が生まれたのには理由がある。きっかけは1カ月前に遡る。

遡ること約1カ月前【画像2】リクルート住まいカンパニーの社屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】リクルート住まいカンパニーの社屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

とある日、SUUMOジャーナル編集部に打ち合わせに行く用があった。そのときにたまたまSUUMO編集長である池本さんにお会いした。

SUUMO編集長はとても気さくだった。初対面の僕に向かって「君の顔めちゃくちゃ長いね!」と言って緊張をほぐしてくれるような人だ。あくまで緊張をほぐすために言ってくれたことであり、バカにされたわけではないと、僕は池本編集長を信じている。信じている。

【画像3】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

池本編集長「最近注目の集まっているエコな住宅関係で記事をつくりたいと思っているので、おもしろいネタがあったらぜひ一緒にやりましょう」

そんな声をかけてもらったので、僕はとっさに

「自転車発電と太陽光発電のどっちが勝つのか比べたらおもしろそうですよね(笑)!」

と冗談半分で提案した。僕は過去にママチャリで日本一周した経験があり、それをやっているときにふと思った疑問をここで出してみたのである。

そしたらそのネタに池本編集長が予想外に食いついてくれ、大盛り上がりしてネタがどんどんと膨らんでいった。

【画像4】(写真撮影/大嶺 建)

【画像4】(写真撮影/大嶺 建)

そして気づいたらこうなっていた。

もちろん自転車を借りて、部屋を借りて……と段取りを踏んでやっているので、いきなり拉致されて企画に巻き込まれたという意味で言っているわけではない。

冗談で言った企画が、編集部から連絡が来て、ガッチリとした企画になり、まさか家を借りて行うほどの大掛かりなものになるとは思っていなかったのだ。あれよあれよと気づいたらあとに引き下がれない状況になっていたのだ。

大人になると「言葉に責任をもたなきゃいけない」というのは本当のことであったと学んだ。

ただし、やるからには負けたくない。過去にママチャリで日本一周した経験は本当であるし、勝つ気でやらないとものごとはまったくおもしろくない。記事もおもしろくならない。

かくして「自転車発電 vs 太陽光発電」の火ぶたが切って落とされた。

自転車発電 vs 太陽光発電自転車発電 vs 太陽光発電の対戦ルール
・ママチャリを使用して発電を行う
・宿泊して2日にわけて行う
・制限時間は最大10時間(借りている部屋の使用時間が決まっているため)
・Wh(電力量)で対決する ※1時間でどのくらいの電力が稼げるかの値

今回の企画を簡単に言うと「自転車発電で太陽光発電に勝てるのか?」という検証である。

【画像5】(写真撮影/大嶺 建)

【画像5】(写真撮影/大嶺 建)

【画像6】(写真撮影/大嶺 建)

【画像6】(写真撮影/大嶺 建)

自転車発電と太陽光発電を比べるために、今回は積水ハウスの賃貸住宅をお借りすることができた。亀有駅から徒歩5分という好立地な部屋だ。

ここまできれいな部屋を用意されていたら、僕の言った「あとに引けない状況になっている」という言葉の意味がよく分かると思う。やるしかないのだ。

【画像7】(写真撮影/大嶺 建)

【画像7】(写真撮影/大嶺 建)

実はこの家は太陽光発電ができるだけでなく、なんとその日に発電した電力量がどのくらいかを見ることができる「HEMS」という端末までついているのだ。

こんなに今回の企画に適した家もなかなかないだろう。

【画像8】(写真撮影/大嶺 建)

【画像8】(写真撮影/大嶺 建)

今回の企画では「vs 太陽光発電」という形をとるために、仮想対戦相手を用意した。仮想対戦相手には太陽光発電ができる家で一日過ごしてもらう。

つまり「自転車で一生懸命漕ぐ人(自転車発電)」vs「家でダラダラ過ごす人(太陽光発電)」という、図式にして分かりやすくした。

仮想対戦相手として選んだのはアイドルのカワシマユカさんだ。彼女はアイドルグループを自ら運営して立ち上げている途中であり、現在はアイドルニートを自称している。そのため一日中家の中ですごしてもらう今回の企画に合っていると思ったからだ。

あと「企画的に写真が地味になりそうだから女の子を呼んだ」という大人の事情もある。むしろこっちの理由がメインかもしれない。

【画像9】(写真撮影/大嶺 建)

【画像9】(写真撮影/大嶺 建)

ちなみにカワシマユカさんには、仮想敵なので「なるべく僕がムカつくようなことをやってほしい」とお願いしてある(お願いしなきゃよかったと後悔した)。

どうでも良いけど灰色のパーカが被っていて、親戚のぎこちない記念撮影みたいになった。

自転車の準備に時間がかかる/部屋の説明を受ける【画像10】(写真撮影/大嶺 建)

【画像10】(写真撮影/大嶺 建)

ということで対戦は始まったのだけれど、まずは下記のように自転車発電の準備をしなければならない。

自転車を家の中に運び込む

発電機を組み立てる

発電機に自転車をセットする

自転車発電のセットは有限会社ひのでやエコライフ研究所でお借りした。これが予想以上に組み立てるのに時間がかかる重労働であった。というか僕はイケアの家具すら組み立てるのを挫折したことがある男だ(結局そのときは兄を呼んでことなきを得た)。

【画像11】(写真撮影/大嶺 建)

【画像11】(写真撮影/大嶺 建)

このときもなかなか上手く組み立てられず、写真撮影をしてくれているカメラマンに手伝ってもらいながら2時間くらいかかってようやく準備をし終えた。この組み立て段階が今回一番だったと言ってもいいくらい大変だった……。

【画像12】説明をしてくれているのはZEH体験宿泊のPR担当をしている向井さん(写真撮影/大嶺 建)

【画像12】説明をしてくれているのはZEH体験宿泊のPR担当をしている向井さん(写真撮影/大嶺 建)

そのころカワシマユカさんはこの家の設備の説明を受けていた。

この家はZEH(ゼッチ)の基準を満たした家である。ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称で、断熱や省エネ、そして太陽光発電などで電力を売り、年間の一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の電気代をゼロにするという住宅である。

【画像13】ソーラーパネルが最初から設置されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像13】ソーラーパネルが最初から設置されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像14】お風呂も大気の熱を利用してお湯を沸かすエコキュートが採用されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像14】お風呂も大気の熱を利用してお湯を沸かすエコキュートが採用されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像15】窓はなんとガラスが二重になっており、外の冷気が入りづらくなっている。外側にガラスがあるため、内側の窓には水滴ができずカビの心配もない(写真撮影/大嶺 建)

【画像15】窓はなんとガラスが二重になっており、外の冷気が入りづらくなっている。外側にガラスがあるため、内側の窓には水滴ができずカビの心配もない(写真撮影/大嶺 建)

今回借りた部屋も、高断熱材を使用した壁、2枚のガラス板でつくられた複合ガラスの窓など、熱を逃がさないようなエコなつくりになっている。そして太陽光発電ができるので家で電力を生み出し、それを自動で売ってくれる。

家の工夫によって熱を外に逃さずにエコな過ごし方ができ、さらに自分の家の電気代を太陽光で生まれた電気でまかない、実質的に電気代が概ねゼロ以下になるようになっているのだ。

【画像16】太陽光発電などでどのくらい電気が売れたのかは、HEMSという端末ですぐに確認することができる(写真撮影/大嶺 建)

【画像16】太陽光発電などでどのくらい電気が売れたのかは、HEMSという端末ですぐに確認することができる(写真撮影/大嶺 建)

ZEHの家に無料で宿泊体験ができるキャンペーンがあり、今回はその中の一つを借りているという形だ。

【画像17】(写真撮影/大嶺 建)

【画像17】(写真撮影/大嶺 建)

発電機の準備をしながら横で僕も聞いていたんだけど、「ZEHってどういう意味か知っている?」という質問に対して、カワシマユカさんは

「ゼッチって漢字でどう書くんですか?」

と聞くほどだったので本当に何も知らないようであった。それにしても漢字という発想はなかった。「絶地」と書くと思ったのだろうか? 漢字で書くと『るろうに剣心』とかに出てくる必殺技っぽくなる。

【画像18】(写真撮影/大嶺 建)

【画像18】(写真撮影/大嶺 建)

カワシマユカさんが説明を受けている間に着々と準備を進めて、いよいよ自転車は組み上がった。あとはひたすら漕ぐだけだ。

自転車発電の計算方法【画像19】(写真撮影/大嶺 建)

【画像19】(写真撮影/大嶺 建)

ということで僕の勝負がいよいよ始まった。時刻はだいたい16時ごろ。22時までは漕げるので、6時間は漕げる計算になる。あとはとにかく必死に漕ぐだけである。

それにしても異質な空間である。女の子がいる部屋で僕はひたすら自転車を漕いでいる。なんだろうこの空間。新しいフェチ動画として世に発信したほうが良かったかもしれない。

【画像20】自転車発電の仕組み(画像作成/megaya)

【画像20】自転車発電の仕組み(画像作成/megaya)

自転車発電といっても、漕げば漕ぐだけ電力が溜まっていくという仕組みではない。(蓄電ができれば話は別であるが、)どれくらいの電力を消費するか、が計算される。

分かりやすくいうと、例えば自転車に繋いでスマホを充電する場合はMAXで5W(ワット)までしか発電できない。つまりずっと5W分のスピードを出して漕げば充電されるわけだ。

しかし例えばドライヤーの場合は約1000Wほどあるので、その分の力を常に出してないといけない。自転車を一生懸命漕いでもそのW数にいかない場合は、ドライヤーが動くことはないのだ。ほぼ全力でずっと漕いでいないといけないので、自転車発電でドライヤーを動かすのはかなりの労力がいる。

つまりW数が高いもので発電すれば大変だけど稼げる電力は大きくなり、W数が低いもので発電すれば楽だけど稼げる電力が小さくなるのだ。

【画像21】(写真撮影/大嶺 建)

【画像21】(写真撮影/大嶺 建)

今回はWh(ワットアワー)という単位で勝負を行う。Whとは1時間でどのくらいのWを発電しているかを表す単位だ。100Wを1時間使ったら単純に100Whだ。

ざっくりと言ってしまえば1時間の平均の値で勝負することになる。つまりは継続ができなければまるで意味がないのである。

なので僕はとにかく継続して電力を稼ぐことを目的として、体力的に負担が低いスマホを自転車に繋いで、常に5Wの発電をするようにした。

【画像22】スマホのメーターで発電量を確認できる(写真撮影/大嶺 建)

【画像22】スマホのメーターで発電量を確認できる(写真撮影/大嶺 建)

【画像23】(写真撮影/大嶺 建)

【画像23】(写真撮影/大嶺 建)

とにかく止まることが悪なので、ひたすら漕ぐ。ママチャリ日本一周した経験が蘇ってくるものの、やったのはもうすでに7年も前の話だ。体力的には今とかなり違う。普段運動しないので開始10分でかなり体力が奪われた。足が早くも笑っている。

【開始1時間】暑さとの闘いだと気づく【画像24】(写真撮影/大嶺 建)

【画像24】(写真撮影/大嶺 建)

【画像25】(写真撮影/大嶺 建)

【画像25】(写真撮影/大嶺 建)

それにしても暑い。ZEHの家では高断熱材を使用しているので、部屋がとてもあたたかい。普段なら快適で過ごしやすい家なのかもしれないが、自転車を漕いでる今はそれが仇になっている。

とりあえず着ていたパーカを脱いだ。あと脱水症状が怖いので、水分は多めにとるようにした。

【開始から2時間】着替えてテンションをあげる【画像26】(写真撮影/大嶺 建)

【画像26】(写真撮影/大嶺 建)

走り始めて1時間経ったころに、膝がガクガクしていることに気づいた。運動不足がここに来て響いている。早くも辛くなってきた。

しかしこちらも太陽光発電に勝つために準備はしっかりとしているのだ。テンションをあげるために着替えよう。

【画像27】(写真撮影/大嶺 建)

【画像27】(写真撮影/大嶺 建)

【画像28】(写真撮影/大嶺 建)

【画像28】(写真撮影/大嶺 建)

【画像29】(写真撮影/大嶺 建)

【画像29】(写真撮影/大嶺 建)

【画像30】(写真撮影/大嶺 建)

【画像30】(写真撮影/大嶺 建)

ということでサイクルウェアに着替えた。初めて着たけど異常にカッコイイ……!

なぜこれを着たのかというと『弱虫ペダル』という自転車漫画が僕は好きで、ロードバイクに憧れがあるのだ。なのでサイクルウェアを着ただけで自然と笑みがこぼれてくる。やる気も出てくるのだ。

日本一周のときに学んだことの一つに「体力よりも精神を安定させた方が漕ぐ力が湧いてくる」という僕の中での学びがある。なのでこのサイクルウェアにも大きな働きがあるのだ。断じてただコスプレがしたかったわけではない。

【画像31】(写真撮影/大嶺 建)

【画像31】(写真撮影/大嶺 建)

僕が必死に漕いでる横でカワシマユカさんは『魔法少女まどか☆マギカ』というアニメのSNSゲームをずっとやっており、開始30分くらいでこの体勢になっていた。もはや実家のようである。

僕のことはまるで空気のように意に介していなかった。思っていたよりも図太い子なのかもしれない。

【開始から3時間】夜ご飯【画像32】(写真撮影/大嶺 建)

【画像32】(写真撮影/大嶺 建)

この日の制限時間は22時までなので(念のために騒音の心配も考慮して)、まだまだ先は長い。倒れないように食料と水は定期的にとるようにする。この「自転車に乗りながら携行食を食べる」というのも『弱虫ペダル』の憧れのシーンなのである。箱根の直線鬼と呼ばれる新開隼人がやっていて、それが真似できたのでひそかにテンションが爆上がりしていた。

ただこのくらいの時間が一番つらいのだ。まだまだ終わりは見えないし、漕ぎ続けないといけない。

必死に自転車を漕いでいるとインターホンが鳴った。「誰だろうか?」と疑問に思っているとカワシマユカさんが玄関に向かっていった。誰かがやってきたようだ。

【画像33】(写真撮影/大嶺 建)

【画像33】(写真撮影/大嶺 建)

【画像34】(写真撮影/大嶺 建)

【画像34】(写真撮影/大嶺 建)

【画像35】(写真撮影/大嶺 建)

【画像35】(写真撮影/大嶺 建)

……

携行食を食べている僕を尻目にカワシマユカさんの夜飯がこれみよがしに到着した。ピザと寿司とコーラである。「欧米か!!」という懐かしいフレーズで全力でツッコミたくなる夜ご飯である。

【画像36】(写真撮影/大嶺 建)

【画像36】(写真撮影/大嶺 建)

実においしそうに食べるカワシマユカさんを横目に足を動かす。僕は初めに「闘いなのでムカつくことをやってください」とお願いしているため、彼女は何も間違ったことはしていない。正しい働きなのだ。彼女をキャスティングしてよかった。ムカつくけど。

それから一つ言っておきたいのは、僕はピザや寿司は食べていない。お腹いっぱいで自転車に乗ると辛くなるのは経験則で分かっているし、何事も真剣にやったほうがおもしろくなると思っているからだ。

【開始から4時間】体にガタが来る【画像37】(写真撮影/大嶺 建)

【画像37】(写真撮影/大嶺 建)

だんだんと体力の限界に近づいてくる。足のガクガクが尋常じゃなくなってくるし、飲み物の消費量がかなり多くなってくる。もうすでに2リットルを消費している。

【画像38】(写真撮影/大嶺 建)

【画像38】(写真撮影/大嶺 建)

その一方でカワシマユカさんはポテチを食べながらゴロゴロしていた。まさにアイドルニートに恥じない動きである。

【開始から5時間】昔を思い出す【画像39】(写真撮影/大嶺 建)

【画像39】(写真撮影/大嶺 建)

【画像40】(写真撮影/大嶺 建)

【画像40】(写真撮影/大嶺 建)

体力は消耗しているものの、だんだんとどのくらいのペースで漕げば良いのか掴んできたので、スマホをいじりながらでも走れる余裕が出てきた。

またも自転車日本一周したときの知識が活きてきた。「中途半端に休んだり走ったりしてはいけない」ということを思い出したのだ。自転車で長い距離を走るためには常に一定のペースで走るのが大切だ。マラソンと同じだ。常に漕ぎ続けろ……!!

【画像41】(写真撮影/大嶺 建)

【画像41】(写真撮影/大嶺 建)

僕の心の中で熱い思いがほとばしっているとき、カワシマユカさんはスマホで『弱虫ペダル』のアニメの最新話を見ていた。

いやいやいや、真横で一人でママチャリで必死に走っているんだからこっち見てくれ。スマホに写った『弱虫ペダル』じゃなくて、現実のママチャリ男をせめて応援してくれ。

【開始から6時間】今日のラストラン【画像42】(写真撮影/大嶺 建)

【画像42】(写真撮影/大嶺 建)

途中で足をつりながらも、いよいよラストスパート。とにかく必死に漕いで漕ぐしかない。何も考えず、ただただ走り抜くだけである。ここまで来ると体力ではなく精神の問題である。

大丈夫だ。おれは最後までやれる。走れる。頑張れる。やれる。頑張れ。最後まで……!!

【画像43】(写真撮影/大嶺 建)

【画像43】(写真撮影/大嶺 建)

ちらりと横を見るとアイスを食べながら彼女はこっちを見ていた。

クソ野郎……!!

就寝【画像44】(写真撮影/大嶺 建)

【画像44】(写真撮影/大嶺 建)

6時間走り切ったので、いよいよ就寝である。しかしさすがにアイドルと同じ部屋で寝ることはできないので、池本編集長の紹介で近くにある知り合いの家に移動した。

泊まらせてもらう家は、築95年の木造建築の長屋なので、先ほどのZEHの家と比べてかなり寒い。

【画像45】ZEHの部屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像45】ZEHの部屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像46】築95年の長屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像46】築95年の長屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

ついこの前Amazonで「壁の温度が測れる機械」があったので衝動買いした(なんで買ったのか覚えていない)。

試しにZEHと長屋でどのくらい違うのかやってみたら一目瞭然であった。壁の温度が8度も違うのだ。やっぱり高断熱材を使用している効果がハッキリと出ている。数値を見たら余計に寒く感じてきた。壁の温度なんて測らなければよかったと後悔した。

【画像47】(写真撮影/大嶺 建)

【画像47】(写真撮影/大嶺 建)

【画像48】(写真撮影/大嶺 建)

【画像48】(写真撮影/大嶺 建)

あまりに寒かったので寝袋を借りて就寝。まさか家の中で寝袋を使うことになるとは思わなかった。あとこの企画が思ったより過酷で辛い。

こうやって写真で見ると寝るときの差がえげつない……。

ラスト2時間【画像49】(写真撮影/大嶺 建)

【画像49】(写真撮影/大嶺 建)

朝6時前に起きた。前日が過酷で「もうやりたくない……」となるかと思ったが、意外にも気持ちはやる気で満ち溢れていた。

早めにZEHの家に戻り、朝の7時から再び漕ぎ始めた。いよいよ残り2時間である。これで勝負が決まる。

コツコツやっている人が勝つ世の中であって欲しい。そう願いながら必死に漕ぐ。

【画像50】(写真撮影/大嶺 建)

【画像50】(写真撮影/大嶺 建)

思えば21のときに家出をしてママチャリ日本一周をしてから、もう7年も経っていた。あのときはとにかく毎日必死に生きていて、明日のことなどこれっぽっちも考えていなかった。

毎日とにかく必死にペダルを漕いで、毎日必死に限界に挑んだ。

今はどうだろうか?
毎日を必死に生きているだろうか?
一つ一つを大切に生きているだろうか?

どうですか?僕?

あのころを思い出して今はペダルを漕いでいる。久しぶりに全力で生きている。今はそれがただただ誇らしい。

【画像51】(写真撮影/大嶺 建)

【画像51】(写真撮影/大嶺 建)

完走……!!!

今日僕はここで大切なことを思い出し、大切なものを手にいれた。

カワシマユカさんもこの僕の姿にきっと感動しているはずだ……!!

【画像52】(写真撮影/大嶺 建)

【画像52】(写真撮影/大嶺 建)

化粧してました。

結果発表

5Wでずっとやり続けてきた僕の結果は約35Whという結果になった。僕は電力などには詳しくないが、これはそこそこの結果なんじゃないだろうか? 距離もサイクルメーターで測っていて約70kmを走破したことになる。

ということで、運命の結果発表……

【画像53】(写真撮影/大嶺 建)

【画像53】(写真撮影/大嶺 建)

【画像54】(写真撮影/大嶺 建)

【画像54】(写真撮影/大嶺 建)

なんと太陽光発電!!

しかも差が圧倒的だと言う。嘘だ。地道に努力して努力して、必死に漕いだあの時間はなんだったんだろうか。いやいや確認間違いの可能性もある。

それなりに頑張ったがさすがに最新鋭の機械には勝てないかもしれない。しかし「太陽光発電とどのくらい良い勝負ができたか?」ということだ。端末にてその結果を確認する。

【画像55】(写真撮影/megaya)

【画像55】(写真撮影/megaya)

昨日の発電量のデータを確認したのだが、昨日の発電量は1Whや2Whが多く、僕よりかなり低い数値を叩きだしていた。

「あれ? これ結果発表間違っていたんじゃないか?」

と思いもう一度確認したみたところ「単位の読み間違えしていませんか?」と指摘された。ん? 単位?

【画像56】(写真撮影/megaya)

【画像56】(写真撮影/megaya)

 【画像57】(写真撮影/megaya)

【画像57】(写真撮影/megaya)

単位が「kWh」だ。つまり僕が一生懸命に稼いでいた「Wh」の1000倍である。ZEHの家では1時間で最大3kWhも発電していた。太陽光発電に今の同じペースで追いつくためには、僕があと685人はいないとダメということだ。

僕は今まで家庭の電力はWh計算だと勝手に勘違いしていた。だからスマホの5Whを走り抜ければ勝てると思っていた。その勘違いをしたままだったので、つまりはこの企画がスタートした時点で負けが確定していたということだ。自分の無知さが憎い。

さらに僕の漕いだ電力を円に換算(1kWh=24円)すると約0.8円らしい。1円にすら満たない。どんなに頑張っても日本円にはならないのだ。つらすぎる。

真っ白に燃え尽きたよ。

発電は圧倒的に太陽光発電

1日当たりの電気使用量平均は18.5kWhくらいで、この家(ZEH)の発電量は、だいたい20kWh近くはいくらしい。ほぼ発電だけで電力をまかなえていることになる。

自転車だと1日分の電力稼ぐだけでも何年かかるか分からない。自転車発電ってもっと効率の良いものだと思ってた。よくよく考えたら効率がもしよかったら色んな家庭で流行るはずだもんなぁ……。

【画像58】(写真撮影/大嶺 建)

【画像58】(写真撮影/大嶺 建)

【画像59】(写真撮影/大嶺 建)

【画像59】(写真撮影/大嶺 建)

というか必死にやっている感じずっと出してたけど、実はアイス食べたり、カワシマユカさんがつくった動画見てたりしてだいぶ休んでいた。

8時間漕いで70kmしか走ってないのを考えると、思っていたよりサボっていたというのが自分でも分かる。

【画像60】(写真撮影/大嶺 建)

【画像60】(写真撮影/大嶺 建)

最後にカワシマユカさんに「今回、ZEHの宿泊体験でどこが一番よかった?」という話を聞いてみたら、

「シャワーが上下に動くのが一番良かったです!」

と元気よく教えてくれた。いやそれZEH全然関係ないから……!!

地熱発電の利用拡大はできるのか? 別府市の取り組みを取材してみた

環境に配慮した自給自足のエネルギーとして再生可能エネルギーの重要性が年々高まっている。太陽光、風力、水力と発電方法はさまざまだが、そのなかでも天候に左右されないエネルギーとして注目されているのが「地熱エネルギー」だ。そこで国内で初めて地熱発電に成功した大分県・別府市にて現状と今後について伺った。
地熱発電の導入数でトップ

温泉大国・別府市は源泉数2217件、毎分83058Lの湧出量を誇る。これは日本でもずば抜けて多い源泉数と湧出量で、至るところで湯けむりがたなびいている景色は、国内外問わず観光客に支持されている。そして同市はその豊かな源泉を活かして日本で初めて地熱発電を成功させた。

1919年、別府の鶴見噴気孔付近で掘削した後、1925年に東京電灯(東京電力の前身)の太刀川平治博士が深度約24mの井戸から出た噴気を利用して電灯10個分ほど(1.12kW)の発電に成功したことがきっかけで、地熱発電が全国へと広まった。その後、東日本大震災をきっかけに再生可能エネルギーの導入が進んでいるが、なんと2017年3月末時点で全国29カ所のうち17カ所が別府市と、日本の地熱発電所の約6割が同市に集まっている。

【画像1】資料は資源エネルギー庁の集計のもの。発電所数に関して別府市は全国でもトップ。認定=国から売電の許可を得た発電所。導入=そのうち売電を始めた発電所(提供/別府市)

【画像1】資料は資源エネルギー庁の集計のもの。発電所数に関して別府市は全国でもトップ。認定=国から売電の許可を得た発電所。導入=そのうち売電を始めた発電所(提供/別府市)

【画像2】海側から眺めた別府市(写真提供/別府市観光協会)

【画像2】海側から眺めた別府市(写真提供/別府市観光協会)

別府市の地形は扇型で、二つの断層が市街地を挟むように山から海に向かって伸びており、その断層をつたって温泉が湧き出ている。山側・中側・海側と断層を掘る位置によって違った泉質の温泉が楽しめるのが特徴だが、地熱発電に関して言えば山側の断層付近では高深度の掘削を行わなくても高温の温泉や蒸気を確保することが可能であり、それによって地熱バイナリー発電の導入が進んでいる。

【画像3】別府市では「別府市地域エネルギービジョン」を掲げ、地熱・太陽光・風力・バイオマスなど各種再生可能エネルギーの導入に関して具体的な目標数値を設定。温泉発電の導入ペースはこのまま維持する計画だ(出典/別府市「別府市地域エネルギービジョン」より転載)

【画像3】別府市では「別府市地域エネルギービジョン」を掲げ、地熱・太陽光・風力・バイオマスなど各種再生可能エネルギーの導入に関して具体的な目標数値を設定。温泉発電の導入ペースはこのまま維持する計画だ(出典/別府市「別府市地域エネルギービジョン」より転載)

固定価格買取制度(FIT制度)に関する地熱発電の買取価格は40円/1kwと太陽光に比べても高く、また天気に左右されず24時間安定供給ができるクリーンエネルギーであることから地産地消のエネルギーとして拡大が期待されている。しかし実際のところを伺うと、開発費用や設置費用、メンテナンス費用など経費が高く事業として成り立たない恐れや、メイン産業である温泉に「これ以上、掘削を続けると影響があるのではないか」という懸念の声が一部で出ていることが分かった。別府市の産業の9割はサービス業なので、温泉の湯量や温度への影響は死活問題でもあるのだ。

災害などの非常事態にも備えた取り組みは、まちのシンボルに

一方、地熱発電の先駆けとして走っているのが「杉乃井ホテル」だ。このホテルでは1980年に日本のホテル業界では初めて本格的な地熱発電所として運転を開始し、当時は3000kWの発電に成功した。現在は1900kWの設備容量により、ホテル館内の約46%の電力を賄っている。

【画像4】杉乃井地熱発電所。24時間体制で電力を送電でき、非常時にも対応できるのが魅力。施設は日本工業技術庁が地熱発電試験を行った跡地を利用(写真撮影/フルカワカイ)

【画像4】杉乃井地熱発電所。24時間体制で電力を送電でき、非常時にも対応できるのが魅力。施設は日本工業技術庁が地熱発電試験を行った跡地を利用(写真撮影/フルカワカイ)

「温泉はスケールと呼ばれる『湯垢』がつくので、温泉を通る管やタンクなどのメンテナンスには費用がかかります。それでも熊本地震のときには非常電力として稼働し、ホテルなので非常食やベッドなどの提供もできる態勢が整っていたので、災害時に感謝の声をいただきました。私たちとしても続けてよかったなと思っているところです」と語る広報の東さん。

事実「震災に見舞われて一時的だが観光客が減ったときも杉乃井ホテルの明かりがついていたことは市民のこころの支えになった」という地元の声もあった。また通常時でも夏には温水プール、冬にはイルミネーションと電力を観光客の楽しめるエンタテインメントに替え、地域の魅力を発信している。

【画像5】杉乃井ホテルの外観(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像5】杉乃井ホテルの外観(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像6】330万球のイルミネーション。おもてなしの精神を光で表現している(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像6】330万球のイルミネーション。おもてなしの精神を光で表現している(写真提供/杉乃井ホテル)

古き良き温泉熱利用でうまれた温泉たまご

乱掘が懸念されてはいるが、多くの温泉が湧き出るなかでそのまま利用しないのはもったいないというのも事実である。鉄輪温泉にある「双葉荘」は、源泉から出た蒸気をさまざまな形で利用して観光客向けのサービスを提供している旅館だ。「地獄蒸し」と呼ばれる、蒸気でつくる温泉たまごは温泉独自の硫黄の香りがさらに味わいを増し、6時間以上たってもあたたかい。また蒸し湯やオンドルもじんわりと体を温めてくれるので長湯ができない人にも人気だ。古くから行われている温泉の二次利用の代表例であり、それが観光資源となるなど、最先端の有効活用法でもある。

【画像7】写真左:宿泊客のリピート率が90%という旅館「双葉荘」で人気の地獄蒸し。写真右:宿泊客は自由に野菜やたまご、海鮮類を持ち込んでは蒸し料理を楽しんでいる。旅館内にはオンドルも(写真撮影/フルカワカイ)

【画像7】写真左:宿泊客のリピート率が90%という旅館「双葉荘」で人気の地獄蒸し。写真右:宿泊客は自由に野菜やたまご、海鮮類を持ち込んでは蒸し料理を楽しんでいる。旅館内にはオンドルも(写真撮影/フルカワカイ)

【画像8】 別府市では規定により発電に関する堀削の場所や穴の深さ・横幅を定めている。「すでに湧出している温泉や蒸気の熱エネルギーの有効活用を図るという意味での、温泉発電の導入促進が進んでいるのが現状です」と別府市環境課の津川さん(写真撮影/フルカワカイ)

【画像8】 別府市では規定により発電に関する堀削の場所や穴の深さ・横幅を定めている。「すでに湧出している温泉や蒸気の熱エネルギーの有効活用を図るという意味での、温泉発電の導入促進が進んでいるのが現状です」と別府市環境課の津川さん(写真撮影/フルカワカイ)

再生可能エネルギーの自給率を上げるにはまず、個人の意識を高めることが必要

このように、地熱エネルギーの取り組みは国内でも進んではいるものの、現状の施設への配慮を優先とし、使用用途などを慎重に考慮しながら進めているのが事実として見えてきた。環境にも優しく、非常事態でも使えるエネルギーは市外の人間にとってはメリットしか見えないが、温泉を生業にする人には持続可能な温泉資源の利活用が重要な課題として上がってくる。「まずは現状湧き出ている温泉の蒸気の二次利用など、現状の状態でできることから始めていき、だんだんと理解を深めていくのが必要なことかもしれません」と環境課の津川さんは語る。ある地域に依存する、ということではなく、再生可能エネルギーを私たち個人がどう生み出すか。次世代に向けてエネルギーのあり方をひとりひとりが考えていくことが大切なのかもしれない。

●取材協力
・別府市
・杉乃井ホテル
・鉄輪温泉「双葉荘」●参考
・再生可能エネルギーを知る・学ぶには

「Maggie’s東京」がん支援の新しい形、秋山正子センター長に聞く[後編]

前編「英国発『マギーズ・センター』に世界が注目」で紹介したように、マギーズは一人の英国人がん患者女性の思いから生まれました。その日本第一号が2016年に東京で誕生したのも、一人の日本人女性の積年の思いが実現したものでした。

筆者も両親をがんで亡くした当事者として「マギーズ東京」を訪問し、その役割を体験。後編では、その内容を紹介します。

予約無しに立ち寄れ、無料で時間を気にせず相談

東京・豊洲、築地市場の移転先と目と鼻の先に、がん支援センター「マギーズ東京」が2016年10月にオープン。高いビルも無い埋め立て地の一角、海を背景に緑の植栽に囲まれた平屋の建物がたたずんでいました。

【画像1】ナチュラルなガーデン・アプローチと開放感のあるデッキが、人を招き入れる(写真提供/マギーズ東京)

【画像1】ナチュラルなガーデン・アプローチと開放感のあるデッキが、人を招き入れる(写真提供/マギーズ東京)

ドアを開けてくれたボランティアの男性が、「よくカフェと間違って、入って来られるんですよ」。実際、近所のイベント会場から女性たちがふらっと入って来ては、がん支援センターと知り帰っていくのが何度か見えました。庭と建物のランドスケープが醸し出すWelcomeな雰囲気が人を惹きつける、前編で紹介した”空間の力“がここにもあるようです。

【画像2】木製デッキ沿いから入口まで大きなガラスドアが続き、歩きながら中の雰囲気を感じることができた(写真撮影/藤井繁子)

【画像2】木製デッキ沿いから入口まで大きなガラスドアが続き、歩きながら中の雰囲気を感じることができた(写真撮影/藤井繁子)

ドアを開け一歩入ると、むくの床から建具、天井まで木がふんだんに使われた明るく柔らかな空間になっています。

【画像3】日当たりの良いオープンなダイニングとキッチン(右手の奥)。折り上げ天井で空間に変化と豊かさを創り出し、アフリカンチェリーの大きな一枚板のテーブルや柳宗理デザインの和紙の照明などが空間のクオリティを高めている(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像3】日当たりの良いオープンなダイニングとキッチン(右手の奥)。折り上げ天井で空間に変化と豊かさを創り出し、アフリカンチェリーの大きな一枚板のテーブルや柳宗理デザインの和紙の照明などが空間のクオリティを高めている(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

丁度お昼時で、お弁当を広げている方やお茶を飲んでくつろぐ方、利用者は看護師などの専門家・ボランティアの方と思い思いに過ごされている様子。

【画像4】木製の建具や家具が利用者の体と心を優しく包む。病院や施設とは違う、柔らかな空気感(写真撮影/藤井繁子)

【画像4】木製の建具や家具が利用者の体と心を優しく包む。病院や施設とは違う、柔らかな空気感(写真撮影/藤井繁子)

「マギーズ東京」センター長の秋山正子さんに、お話を伺うことができました。「医療の発達とともに今、がんは何年も付き合っていくような病気に変わっています」と、訪問看護で長年、がん患者にも接してきた秋山さん。

「病院と自宅、それぞれでできることがあり、またできないこともあります。通院中の患者さんが、日常の中で何か頼れる人や場が自宅以外にあればと考えていたところ、2008年に英国マギーズ・センターの活動を知り日本でも実現したいと思ったのです」

【画像5】長年、医療現場や看護教育などに携ってきた秋山さんも、40代の姉をがんで亡くされた経験者。訪問看護を最前線で推進しながら、がん患者支援のあり方を模索されてきた(“市谷のマザーテレサ”の異名を持つ、秋田生まれの67歳)(写真撮影/藤井繁子)

【画像5】長年、医療現場や看護教育などに携ってきた秋山さんも、40代の姉をがんで亡くされた経験者。訪問看護を最前線で推進しながら、がん患者支援のあり方を模索されてきた(“市谷のマザーテレサ”の異名を持つ、秋田生まれの67歳)(写真撮影/藤井繁子)

「マギーズ・センターをモデルに、無料で気軽に医療や生活相談をできる『暮らしの保健室』を立ち上げて活動をしてきました。5年がたったころに出会った、鈴木美穂さん(24歳でがんを経験したテレビ局報道記者)たちの若い力を得て『マギーズ東京』実現に向けて大きく動き出しました」

英国のようなセンターをつくるには、まず用地や建築資金が必要。利用者は無料なので運営資金も継続的に必要です。

「英国のようにチャリティー文化が根付いていない日本で、資金集めのハードルは高く、皆様の知恵とご支援によって何とか船出をしたところです」

設立に向けては、クラウドファンディングも活用して資金を集めるなど、さまざまなチャレンジによって夢を実現されたようです。

ここ豊洲の建築地は2020年までの借地ということでパイロット・プロジェクトの形になりますが、2016年10月オープン後1年間の利用者6000人超は「英国本部からも初年度としては多いとの感想でした」(秋山さん)。現在も日に25人前後、多い日には40人くらいが利用。マギーズの支援活動を必要とする人々が、まだまだいるようです。

英国のコンセプトを実現しながら、低予算でも日本らしい住空間に

秋山さんにお話を伺ったのは、中庭に面したリビングルーム。マギーの提案した10の建築要件(前編で紹介)どおりの空間。でも、必須アイテムの「暖炉」と「水槽」が無い?

「暖炉は英国人がHome(家)を感じるものなので英国には必要ですが、日本人としては障子なんかが日本の家を感じるものとして、ここでは使いました。それと水槽は無いのですが、この豊洲の埋め立て地は静かな海の水辺なので、天然の水槽?ということで(笑)」

【画像6】障子ドアの向こうは、仕切れば個室になる。この日も看護師さんと利用者が対話中(写真撮影/藤井繁子)

【画像6】障子ドアの向こうは、仕切れば個室になる。この日も看護師さんと利用者が対話中(写真撮影/藤井繁子)

英国のマギーズとは違って低予算の事業、このように快適な空間はどうやって実現したのでしょう?

総合プロデュースを佐藤由巳子さん(建築・アートコーディネーター)、総合監修を阿部勤さん(建築家)が担当。平屋2棟を中庭で廊下を渡してつなぐ配置の工夫や、その1つのアネックス棟(設計:日建設計)は建築関連のイベントで活用したものを移築し再利用するなど、関係者の涙ぐましい努力によってローコストでハイクオリティな空間が実現しています。

【画像7】本館は予算の関係で軽量鉄骨プレハブ構造だが、内外装に木製建具を活用し木造建築のよう(設計施工:コスモスモア)(写真撮影/藤井繁子)

【画像7】本館は予算の関係で軽量鉄骨プレハブ構造だが、内外装に木製建具を活用し木造建築のよう(設計施工:コスモスモア)(写真撮影/藤井繁子)

【画像8】木製サッシにする予算が足りず、追加でファンドを立ち上げたというこだわり!断熱性だけでなく、空間の質感も高まった(写真撮影/藤井繁子)

【画像8】木製サッシにする予算が足りず、追加でファンドを立ち上げたというこだわり!断熱性だけでなく、空間の質感も高まった(写真撮影/藤井繁子)

「すてきな場所で迎え入れられると、人は”認められた”という気持ちになるでしょ。受け入れられ心が落ち着くと、自分から話をしたくなるもの」(秋山さん)

“空間の力”によって対話が生まれることを教えてくれました。

患者も家族も「自分の力を取り戻せるよう」支援

利用者の気持ちを受け止めてくれるケアリングのプロたち。看護師や心理士、ソーシャルワーカーなど専門家が、個々の悩みや問題を解決するために一緒に考えてくれます。個別相談以外に、1時間程度で参加できるセッションも企画されています。「食事のお話」や「体・脳のリラクセーション」など、日常的に役立つテーマ。訪問当日は、【心のリラクセーション】が企画されていたので筆者も参加してみました。

【画像9】アネックス棟は三角屋根のオープン空間に合わせてデザインしてつくられたソファでもつくろげる。リラクセーションのセッション時には家具を移動させ、椅子を並べマットが敷かれてあった(写真撮影/藤井繁子)

【画像9】アネックス棟は三角屋根のオープン空間に合わせてデザインしてつくられたソファでもくつろげる。リラクセーションのセッション時には家具を移動させ、椅子を並べマットが敷かれてあった(写真撮影/藤井繁子)

【画像10】心理療法士の方が、心を体で調整する方法をレクチャー。「深く息を吐くことから」と呼吸の大切さを教えてくれた(写真撮影/藤井繁子)

【画像10】心理療法士の方が、心を体で調整する方法をレクチャー。「深く息を吐くことから」と呼吸の大切さを教えてくれた(写真撮影/藤井繁子)

マギーの遺志を継いだイギリス本国のローラ・リー(故マギーの担当看護師)マギーズ・センターCEOからは
「『マギーズ東京』の運営を継続していくために、資金集めを行っていく必要があります。私たちは必要としているすべての人が、マギーズの支援を受けられるようにしたいと強く願っています。一度ぜひ『マギーズ東京』にお立ち寄りいただき、私たちのやっていることを皆さんの目で見てください」と、運営の後押しを願うメッセージ。

秋山センター長も「直接的ではなくても、さまざまな方向から大きな渦のように支援の輪が広がり、マギーズの活動が世の中に役立てばと願っています」

同じような境遇の人たちと出会うだけでも、患者の心は和み勇気が湧いてくるかも知れません。ここへ来れば、自分の置かれた状況にどう向き合って行けば良いのかを考える、手助けをしてもらえるのです。患者を抱える家族や友人も、患者に対してどう接するべきなのか……。悩む気持ちを打ち明ければ、何か解消するきっかけが見つかりそうです。

今回マギーズという場があることを知り、私にも次にやって来るその時のあり方が、両親の時とは違ってくるだろうと感じることができた取材でした。

●取材協力
・マギーズ東京(特定非営利活動法人maggie’s tokyo)
 【ご寄付について(認定NPO法人の控除有り)】

がん患者を“空間の力”で癒やす、英国発「マギーズ・センター」に世界が注目[前編]

日本人の死因トップである“がん”。2016年の調査によると、全死因に占める割合は28.5%と2位の心疾患15.1%を大きく上回ります(※1)。がん患者の家族・友人を含めると、がんに関係の無い人を見つけるほうが難しいくらい身近な病気。そんながんに関係する人々を無償で支援する場が、英国で1996年に誕生した「マギーズ・キャンサーケアリング・センター」。以来20年余り、英国内外で20カ所以上の『マギーズ・センター』が開設し運営されています。
(※1)「性別にみた死因順位(第10位まで)別 死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合」(厚生労働省)

前編ではその成り立ちを、後編では一昨年日本にオープンした『マギーズ東京』での体験をレポートします。
一人の英国人女性Maggieの思いが形に、「自分を取り戻す」ための場所

1988年47歳の時に乳がんを患った、マギー・K・ジェンクス(Maggie Keswick Jencks)。5年後に再発したがんによって死を覚悟せざるを得なかった時、治療の方向性や家族のことなどさまざまな悩みと不安を抱えて病と戦っている最中に「自分を取り戻せる空間とサポートが必要」と実感。入院中の病院敷地内に、後の「マギーズ・センター」のモデルとなる“誰でもがいつでも立ち寄れる”「第二の我が家」をつくったことが始まりです。

【画像1】センターの庭に立つマギーの像。1941年スコットランド生まれ、1995年「マギーズ・センター」オープンの前年に54歳で旅立った。センターの前身である病院内の小屋の前で、春の日を浴び「私たち、ラッキーよね?」と言葉を残して(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像1】センターの庭に立つマギーの像。1941年スコットランド生まれ、1995年「マギーズ・センター」オープンの前年に54歳で旅立った。センターの前身である病院内の小屋の前で、春の日を浴び「私たち、ラッキーよね?」と言葉を残して(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

マギーが医者からがんの再発で余命数ヶ月と告げられた時「心は打ちのめされているのに、次の患者のために診察室にとどまることはできませんでした」(マギー・K・ジェンクス著)という言葉をのこしています。

病院の診察時間に制限があるのは、日本でも同じ。待ち時間の長さに対して、自分の診察時間の短さに困惑した人は少なくないでしょう。それが、がん告知の現場であることを想像すると……。

医療現場で多くの患者と接してきた、担当のがん専門看護師ローラ・リー(現マギーズ・キャンサーケアリングセンターCEO)を話し相手に、マギーは立ち上がりました。「がん患者や家族、医療者などがんにかかわる人たちが、がんの種類やステージ、治療に関係なく、予約も必要なくいつでも、無料で利用することができる癒やしの『空間』をつくりたい」と。

設立者マギーは造園家、その夫は建築評論家。“空間の力”を知る人によるプロジェクト

マギーズ・センターでは、カウンセリングや栄養指導、医療制度などさまざまな専門的支援を無料で受けることができます。のんびりお茶を飲んだり、本を読んだりするなど自分の好きなように過ごしていて良いのです。訪れるだけで癒やされる、“第二の我が家”のような場所にしたいとマギーは考えました。

「美術館のように魅力的であり、教会のようにじっくり考えることができ、病院のように安心でき、家のように帰ってきたいと思える場所」

それを実現するために、マギーは「建築概要」の中に以下のような建築要件を提案しています。

・自然光が入って明るい     ・安全な(中)庭がある
・空間はオープンである     ・執務場所からすべて見える
・オープンキッチンがある    ・セラピー用の個室がある
・暖炉がある、水槽がある    ・ゆったりとしたトイレがある
・建築面積280m2程度      ・建築デザインは自由

そして、1996年英国エジンバラにオープンしたマギーズ・センター第一号[Maggie’s Edinburgh]。

【画像2】[Maggie’s Edinburgh](Richard Murphy設計)。赤いスチール、ガラスブロック、石、木とさまざまな素材の調和を試みた個性的な建築(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像2】[Maggie’s Edinburgh](Richard Murphy設計)。赤いスチール、ガラスブロック、石、木とさまざまな素材の調和を試みた個性的な建築(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像3】窓を大きくとった明るい室内、インテリアは暖色系のカラフルなファブリックが、宝石のように散りばめられている(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像3】窓を大きくとった明るい室内、インテリアは暖色系のカラフルなファブリックが、宝石のように散りばめられている(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

マギーの夫チャールズ(建築評論家)は「マギーズ・センターには二つの要素を求めました。リラックスできる癒やしの要素と、患者が病と闘えるような要素を支援すること。それを病院とは違う雰囲気の環境の中で提供したいのです」と、語っています。

マギーズでは“対話”が最も大切な支援の方法。病を抱える人にとって、心の悩みや不安を口に出して伝えるのは簡単ではありません。まずは、すてきな建物や庭という空間が訪問者を優しく迎えることで、その心を和ませ、おのずと“対話”が生まれる環境をつくるのです。それが“空間の力”であり、ジェンクス夫妻はそのことを熟知した空間づくりの専門家であったことが、マギーズ成功の一つの理由と言えます。

マギーの闘病を支え、話し相手になってきた看護師のローラ・リーCEOは「長年、薄暗いモノクロ色の病院で働いてきた私にとっても新鮮でした。環境や空間の力が人の心を動かし、自分の中にある力を引き出すことをマギーは教えてくれたのです」

著名な建築家が設計、建物の求心力と発信力がマギーズを世界に広げる

建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞している、フランク・ゲーリーやザハ・ハディドなどがマギーズ・センターの設計に参加しています。マギーの建築要件を尊重しながらも建築家の英知によって「見てみたい、入ってみたい」気持ちにさせるパワースポットのような建物になっています。

【画像4】Zaha Hadid設計の[Maggie’s Fife] 2006年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像4】Zaha Hadid設計の[Maggie’s Fife] 2006年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

炭鉱の町だったことからひらめいたという、ザハらしい彫刻のように真っ黒な外観に対して、室内は曲線を使った真っ白で明るいインテリア。「環境が個人の幸福を高めるのに、どれほど有意義に役立つかをマギーズによって理解しました」と、生前のザハは語っています。

【画像5】三角窓からの光が印象的な室内。違ったタイプの椅子や家具、その日の気分や健康状態でくつろぎ方も変えることができる(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像5】三角窓からの光が印象的な室内。違ったタイプの椅子や家具、その日の気分や健康状態でくつろぎ方も変えることができる(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

マギーズ・センターの建築は英国内外の建築賞を数々受賞していて、マギーズの活動を世界が知る機会にもなっています。

日本からも建築家・黒川紀章がプロジェクトに参加しているのを知り驚きました。黒川氏が若かりしころ、夫チャールズの本を翻訳した経緯もあったようです。黒川氏は完成前の2007年に亡くなりましたが、その志が形になった素晴らしい建築を見ることができ、日本人として誇らしく感じました。

【画像6】黒川紀章設計の[Maggie’s Swansea] 2011年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像6】黒川紀章設計の[Maggie’s Swansea] 2011年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像7】オープンキッチンはマギーズの中核。大きな窓から庭が望める開放的な空間(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像7】オープンキッチンはマギーズの中核。大きな窓から庭が望める開放的な空間(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

マギーズの利用者が「病院とは違って、温かくて緑や自然が近くにあって“サンクチュアリ”のようよ」と、サンクチュアリ=鳥獣の保護区に例えるように、マギーズは安心して羽を下ろして過ごせる場になっているのです。「いつでも泣きたくなれば、泣くことができる個室もあるしね」とも。

英国に留まらず、海外でのマギーズ第一号が2013年香港に誕生。香港はマギーが幼少期に過ごしたゆかりの地です。

【画像8】Frank Gehry設計の[Maggie’s Hong Kong] 2013年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像8】Frank Gehry設計の[Maggie’s Hong Kong] 2013年開設(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像9】広いリビング&ダイニングスペースからは、中国様式の庭と池が眺められる(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

【画像9】広いリビング&ダイニングスペースからは、中国様式の庭と池が眺められる(写真提供/藤井浩司(ナカサアンドパートナーズ))

「死への恐怖で、生きる喜びを失うべきでない」と、強い意志で活動したマギー。利用者が快適な空間で過ごしながら、対話によって、自分の中にある力を見いだし、自分を取り戻すことがマギーズの目指す支援。

その活動が、東京でも一昨年からスタートしました。後編では『マギーズ東京』を訪問し、その支援を体験させていただいた内容を紹介します。

●取材協力
・マギーズ東京(特定非営利活動法人maggie’s tokyo)
【ご寄付について(認定NPO法人の控除有り)】

地域の不動産業者を”街の大家”に 宅建協会がタウンマネジメント・スクールを開催

現在、日本の人口は減少の一途。そんななか、地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための取り組みである「タウンマネジメント」が注目されている。その担い手として期待されるのが、宅建業者、いわゆる不動産仲介に携わる人たちである。彼らが本業である“土地や物件の取引”の枠を超える役割を果たすことで、「事業者自身」「街に暮らす人」「街の持続的な発展」、それぞれに寄与できるともいわれている。

果たして、これからの不動産業者はどうあるべきなのか? そのヒントを探るべく、今年1月30日と31日の2日間にわたり、埼玉県宅地建物取引業協会が全宅連不動産総合研究所と共同で開催した「不動産業者のためのタウンマネジメント・スクール」を取材した。

若手からシニアまで、地場の不動産業者がまちづくり・地域の魅力向上について真剣議論

テーマを「空き家対策とまちを活性化し地域価値を高める」に据えて開催された2日間のスクールには、埼玉県宅地建物取引業協会の県内16支部に所属し、不動産仲介業や管理業などに携わる人を中心に70人ほどの受講者が参加した。30代40代の若手が中心だったが、70代オーバーの方々も多数見受けられた。

各日8時間にわたる講座では、さまざまな切り口の内容を用意した。不動産学の第一人者で、国の不動産行政の審議会委員なども務める清水千弘(しみず・ちひろ)氏を迎えた基調講演「不動産業のこれから進むべき方向について」、八王子市で賃貸空き室を解消するべく就活セミナーや商店街とのタイアップを企画。学生が街に残りたくなる地域を目指す不動産仲介業者・杉本浩司(すぎもと・こうじ)氏による「地域貢献を通じて空き家・空き室を解消する」など、業界の未来を俯瞰した内容から先進的な街づくりの事例紹介まで、多彩な講師が熱弁をふるった。

【画像1】マサチューセッツ工科大学不動産研究センターの研究員も務める清水千弘氏。不動産市場分析の第一人者からの講義は、地場で不動産業を営む面々にとっては大きな刺激だったようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】マサチューセッツ工科大学不動産研究センターの研究員も務める清水千弘氏。不動産市場分析の第一人者からの講義は、地場で不動産業を営む面々にとっては大きな刺激だったようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、タウンマネジメントの取り組みを肌で感じてもらおうと、現地見学会も実施。リノベーションによる街づくりを行う草加市の宅建業者や、入間市ジョンソンタウンの歴史を継承したエリアのリノベーション、商店街の空き家を改修し、若い事業家に賃貸する千駄木の事例など、いくつかの班に分かれ3カ所に足を運んだ。

その後は、今後の目指すべき姿について思考を深めるべく、全員参加のチームディスカッションへ。発表では、次のような声が聞かれた。

「街の不動産会社は、オーナーや地元の人たちとの付き合いが深く、人脈も豊富です。その強みを活かして、負の資産と考えられがちな物件に価値付けをし、大手が行き届かないところをケアして行けたら」(浦和支部所属)

「10年後の不動産業界では、空き家や高齢者の増加などで、オーナーに対してその解決策を示していくようなコンサル力が必要とされるのではないかと思いました。不動産会社がそこまでやるか、というくらいお客様と地域をつなぐ役割を担っていく必要がある。何もしなければ、時代とともに消滅してしまうでしょう。

お客様に頼られる不動産会社というのが大事だと思いました。あと、横のつながりもより大切になってくる。地域コミュニティや行政との連携強化、他の地域で同じ悩みを抱える同業者との情報交換も一層求められると思います」(川口支部所属)

「これからは市場が縮小して家の借り方や買い方が変わってくる。差別化して闘っていくしかない。例えば、地域を絞ってオーナーまわりをしようという意見が出ました。不動産事業者自らが地域コミュニティをつくる起点になったり、防災ステーションの運営をしたり、とにかく何かを始めていかなければならない」(戸田支部所属)

【画像2】付せんを使い、不動産業の未来について整理しながらディスカッションを重ねた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】付せんを使い、不動産業の未来について整理しながらディスカッションを重ねた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】チームごとに導き出した結果を発表(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】チームごとに導き出した結果を発表(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

個人経営型の不動産仲介業者が持続して発展していくには、地域活性への積極的なかかわりが必要だという意見が多く聞かれた。ディスカッションの内容について、清水千弘氏は次のように総括する。

「皆さん自身が、社会的な介在価値や存在意義を問うたディスカッションでした。受け身ではなく、攻めの姿勢が未来をつくり、生き残っていけるのかなと思います。地域活性と不動産業のかかわり方には、教科書となるビジネスモデルがあるわけではありませんが、一人でもスターが誕生すると地域が元気になっていくんですね。

そういう意味では、今回の参加者のなかから、ヒットを積み重ね、ホームランを打てるような方が誕生するのではないかと思います。宅建士は、社会とともにあり、地域の発展がなければ自分も儲からない。そんな気づきの声が聞けたことがうれしいです」(清水氏)

不動産業者が学ぶことで10年後の街を変えることができる

2日間のスクールを終えた参加者に感想を聞いてみた。

「カリスマ性のある人や発信力がある人であれば可能かもしれませんが、小規模業者が単体で頑張っても、地域活性にダイレクトにつなげることは難しいのかなと思うところもあります。ただ、木造賃貸アパートを再生している『モクチン企画』のビジネスモデルは取り入れたいと思いました。地域への貢献度が高いだけではなく、材料の仕入れを工夫してコスト削減すれば、儲かる事業に育ちそうな気がしています」(戸田支部所属)

「私は西川口の不動産屋の三代目なのですが、以前は大手不動産会社に所属していました。今回、地場の不動産業者の話を聞いて、違いを感じました。大手だと担当者が割と頻繁に変わりますが、地場だとずっとつながりを持つことができる。それは強みだと思います。ただし、持っている畑を耕さないとダメで、身銭をきって種を蒔くところをどれだけできるか、種を育てられるかどうかだなと。そのうえでも、これまで同業者との交流があまりなかったので、こうしたスクールを通してつながりを持てることで、畑の耕し方の情報共有にもつながると思います。

あと、地場の不動産業者って店舗に入りにくいんですよね。さらに、不動産会社って部屋探しする以外、足を運ばないですよね。それを、お茶のみできるような、入りやすい店づくりをすることで、ちょっと雑談しに立ち寄れる場として活用していただけると、地域コミュニティのハブになっていけるのかなと思います」(川口支部)

本業を軸に、どうやって地域の活性化にかかわっていくか。成功パターンがないからこそ、自分たちの目指すべき方向を模索する参加者たち。しかし、感想を語る表情は極めて明るく、今後の事業の可能性に胸を躍らせているようにも感じられた。

タウンマネジメント・スクールを主宰した埼玉県宅地建物取引業協会の内山俊夫会長は、同イベントの意義を次のように語った。

「開催の趣意は、埼玉県宅地建物取引業協会のグループビジョンでもある『行政と生活者の中心となる』こと。子どもを先生と親だけではなく地域が育てるのと同じように、地域コミュニケーションを高めるうえで“街の大家”である不動産会社の介在価値は高いだろうという発想に端を発しています。
ただ、目先の仕事だけするのではなく、10年後の発展を考えて仕事をする、そうした気づきが大事だと思いました。“負動産”を“富動産”に変えられるのが、地域の不動産業者なのではないでしょうか」(内山氏)

【画像4】「これまでの宅建士は、仲介の仕事がメインだった。これからはそれだけでは淘汰(とうた)されてしまう」と危機感を募らせる内山会長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】「これまでの宅建士は、仲介の仕事がメインだった。これからはそれだけでは淘汰(とうた)されてしまう」と危機感を募らせる内山会長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

いくらやる気があっても、学びがないと先には進めない。そこで、スクールと題して協会員に学びの機会を提供したかったという。なぜタウンマネジメントに宅建業者なのかといえば、法律関係に詳しく大家さんとの結びつきが深いからだとか。

「単なる仲介ではなく、今ある資産をどう再生させていくか、意識付けがどれくらい深まるか。今回のスクールが、地域のためになりビジネスとしてもつながる、ボランティアではないアプローチを宅建士たちから発信していくきっかけになればと思います」(内山氏)

不動産業のはじまりにあたる江戸時代、大家を中心とした地域のコミュニティが形成された頃から数百年あまり。住まいにまつわるビジネスは、システマチックに進化を遂げてきた。しかし、地域コミュニティが街の活性につながるキーワードとして取り上げられる昨今。スモールビジネスを営む宅建の有資格者たちが、ミクロな地域で社会貢献につながる取り組みが、不動産業界を持続的に発展させる新たなビジネスの種になるのかもしれない。

●取材協力
・公益社団法人 埼玉県宅地建物取引業協会
・公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会不動産総合研究所

ママさんリモートワーカー3人に聞く、“生産性を高める自宅環境”のコツ

ここ数年、「リモートワーク」が世間で注目を集めている。働く側にとってはネット環境があれば始められる手軽さと、ライフスタイルにあわせて働きやすい環境を作れる点が魅力。また企業にとっては、新たな人材採用の選択肢が広がるだけでなく、結婚や出産などを機に失いがちだった優秀な人材の流出阻止にも繋がるなど、社内リソースの有効な活用手段としても期待されている。今後も増加傾向にあるといわれているこのリモートワーク、上手に活用するにはコツが必要なようだ。特に、お子さんがいるママさんリモートワーカーは、どのような工夫をしているのだろうか。実際のリモートワーカーのお宅を訪ね、そのコツを聞いてみることにした。
9割がリモートワーカー、そもそもどんな会社?

今回取材したのは大阪のとある広告制作会社。リモートワークを標準的な働き方にしてからは既に3年目に突入したという。主にデザイナーやライターなど、クリエイティブな職種の人たちが数多く在籍。そのほとんどが自宅をリモートワークの拠点としているので、社内のビデオチャット会議ではリビングを背にしたスタッフたちの顔が、PCモニターにずらりと並ぶのだそうだ。

これだけ自宅で働く人が多い企業の従業員なら、きっと「リモート環境を整えるコツ」なり、ヒントなりを持っているはず。いったいどんな自宅環境で仕事をしているのか、そもそもリモートワークをしようと思ったきっかけは何なのか? 3人のリモートワークの“リアル”をご紹介しよう。

快適な自宅リモートの共通点は?

家族と一緒に過ごせるリビングで働いています
(ディレクター:ふじもと えり 大阪府在住、一軒家)

【画像1】広告制作ディレクターのふじもとさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像1】広告制作ディレクターのふじもとさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――リモートワークを始めたきっかけは?
夫が自営業で、自宅でそのお手伝いをしていて。そこにプラスで何か、前職の広告営業経験を活かしながら仕事ができたらいいなと考えるようになったんです。そうするとリモートワークがピッタリかなと思って。今行っている広告制作のディレクター業務は、自宅にいながらできるので、とても助かっています。

【画像2】リビングのダイニングテーブルが仕事場(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像2】リビングのダイニングテーブルが仕事場(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――自宅のどこで仕事をされているんですか?
リビングのダイニングテーブルで仕事をしています。子どもたちが園や小学校から帰ってきた後に、同じ空間にいる状態にしたかったので、必然的にこの場所に落ち着きました。9:30~17:00で仕事をしていて、午前中は一人で集中して取り組み、午後からは子どもの宿題を見ながら横で仕事をするというスタイル。場所を変えずに仕事ができるので、途中で中断することもなく、スムーズに仕事ができています。

【画像3】必要な資料や書類はすぐに分かるようにラベリング(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像3】必要な資料や書類はすぐに分かるようにラベリング(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――自宅で仕事を効率的に行う秘けつは何ですか?
リビングでの仕事なので、普段の生活スペースにまであふれないよう、モノを増やさないようにすることですね。必要な資料や書類はまとめて、どこにあるかすぐ分かるようにラベリングしています。

それから「30分単位で仕事をする」という、独自の時間管理術も心がけています。同時にいくつかのことがこなせる環境だと、色んなことが気になって、バラバラと手を付けてしまいがちになるんです。後々「タスクが全然進まなかった……」なんて愕然とすることも。

そんな事態を防ぐために、私はキッチンタイマーを活用しています。一つのことに集中できるし、何をどれくらいの時間で処理できるかも分かります。結果的に自分のスキル把握にも役に立ちます。

PCを置ける場所はどこでも仕事スペースです
(デザイナー:やまうち かずみ 大阪府在住、一軒家)

【画像4】リモートワークデザイナーのやまうちさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像4】リモートワークデザイナーのやまうちさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――リモートワークを始めたきっかけは?
デザインの仕事をずっと続けたくて、出産後もデザインの仕事を探していたんです。ただ、小さな子どもがいると、残業の多い制作事務所で働くことはどうしても難しかった…。そんな厳しい現実を目の当たりにして一度は「外で働く」こと、つまりデザインの仕事をあきらめかけていたんです。

でもたまたま、家にパソコンやインターネットなどの制作環境が整っていたこともあり、「リモートワークできる会社なら、デザインを続けられるかもしれない」と、在宅ワークで職を探したのがいまから3年前のこと。いまの仕事に出合って以来、ずっとリモートワークデザイナーとして働いています。

【画像5】家のどこでも仕事場(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像5】家のどこでも仕事場(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――仕事は自宅のどこでされているんですか?
ノートパソコンを持ち歩けるので、家のどこでも仕事場として使っています。基本はリビングテーブルで行っていますが、ソファの上、仕事用デスクなど、気分を変えたいときにはいつもと別の場所で仕事をするという感じですね。

―――家で仕事を効率的に行う秘けつは何ですか?
仕事スペースの周りや部屋をキレイにしておくことですね。部屋がちらかっていると、気になって集中できないので。仕事の効率を上げるためにも整理整頓は欠かせません。仕事が終わった後は、音楽を聞いてリフレッシュしながら、不要になったプリントや資料を処分したり、後片付けしたりしています。

子どもがいる時間といない時間で、働く場所を変えています
(ライター:わたなべ みやこ 愛知県在住、マンション)

【画像6】ライターのわたなべさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像6】ライターのわたなべさん(写真撮影/株式会社JAM STORE)

―――リモートワークを始めたきっかけは?
昔からデータ入力などのいわゆる「内職」をやっていて、自宅で働く、という働き方にはなじみがありました。本格的にリモートワークをしようと決めたのは、結婚して出産した後ですね。当時、子連れで出社できるところはほとんどなかったし、0歳の子を預けてまで外に働きにでようとは思わなくて。ライター業なのでパソコンさえあれば仕事ができるので、リモートワークするにはピッタリでした。

【画像7】子どもが寝付いた後など、落ち着いて仕事ができるときには、別室にある自分の作業机で(写真撮影/株式会社JAM STORE)

【画像7】子どもが寝付いた後など、落ち着いて仕事ができるときには、別室にある自分の作業机で(写真撮影/株式会社JAM STORE)

――仕事は自宅のどこでされているんですか?
日中は、常に1歳の子どもと一緒にリビングで仕事をしています。仕事机はダイニングテーブルではなく、ローテーブルをチョイス。ダイニングテーブルだと、足にまとわりついてくるんですがローテーブルだと、私との距離が近くて安心なのか、あまり邪魔をされないんです。

子どもが寝付いた後など、落ち着いて仕事ができるときには、別室にある自分の作業机で。やっぱりリビングより、必要なモノが全部近くにある自分の机で仕事するのが楽ですね。

―――家で仕事を効率的に行う秘けつは何ですか?
誘惑に負けないこと……でしょうか。自宅で仕事をしていると、テレビや食べ物、本など、目移りするものが多くて、つい「ながら仕事」になりがちに。集中して仕事を終わらせるためにも、作業机には仕事のモノ以外は置かないようにしています。

家族との”共有空間”であることを忘れずに

3人に伺った話の共通点、それは「集中できる環境を整えること」だ。注意散漫にならないよう、不必要なモノは増やさない。業務効率UPのためにも、常に整理整頓をする。この2点を徹底して実行されているように感じられた。

もうひとつひしひしと感じたのは、「自宅」という家族との共有空間を仕事場にしている、その事実を忘れていないということ。いうなれば家庭と仕事、この2つをうまく共存させようとしていたことだ。自宅は大切な家族も集い、やすらげる場所。そんな大切な場所を仕事場にしているのだから、家のどこで仕事をするにしても、余計なものを置かない・増やさないのは家族の一員として、1人の大人としてのマナーである。

自分が集中できる環境を整えるだけでなく、家族との空間もきちんと大切にできること。それこそが自宅で、上手にリモートワークを続けていく上での「コツ」なのかもしれない。

●取材協力
株式会社JAM STORE
9割の従業員がリモートワーカー。東京・大阪・兵庫・京都・奈良・愛知・広島・島根在住のスタッフが在籍。

敷地内に認可保育園 子育てしやすい住まいをつくる【育住近接(2)】

昨今の保育所探しの大変さに、自治体もさまざまな取り組みを始めている。板橋区大山で建設中のマンション“Brillia大山 Park Front”でも敷地内に認可保育園が計画されている。しかもこのマンションには、働く女性が提案する住まいの共創プロジェクト “Bloomoi(ブルーモワ)”が参画していると聞いた。今回は自身が働くママでもあるメンバーに話を聞いて、仕事と子育てを両立する住まいについて考えてみた。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。駅からの距離より、自宅~保育所~駅への動線が大事

夫婦共働きはとにかく忙しい。特に小さな子どもがいると保育園探しが大変だ。できればマンション内に保育園があればベストだろう。最近では自治体の取り組みも積極的で、大規模なマンションが建設される場合は保育園をつくってほしいと要請することも多いようだ。

“Brillia大山 Park Front”は、敷地内に小規模認可保育園が開園予定されている。もちろん住人がそのまま入園できるわけではないが、もし入園できたら「育住近接」として、ほぼ理想的。保育園を併設するマンションということで、より子育て世代が集まりやすいようだ。

自分自身が1歳と2歳の子どもを育てている鈴木さんはBloomoiメンバーの1人。「駅の近くに保育園があるよりも自宅の近くにあるほうがずっと便利です。大人と違って子どもは歩くのに時間がかかるので、とにかく自宅の近くにあってほしい。雨の日は特にそう思います」

また6歳と7歳の2人の子育て中の稲富さんは「子どもにはいくつかの習い事をさせていますが、送り迎えや一人で通えることなどを考慮して家の近くに通わせています。何を習わせるかを考えると同時に家からの通いやすさもかなり重視しますね」

話を聞いてみると、自宅から保育園(習い事)、そして駅への動線が大切なようだ。自宅が駅から多少遠くなっても、この動線がスムーズであれば毎朝の負担が少なくなる。自分たち自身が産休を取った後に仕事復帰しただけに、説得力のある意見だ。

【画像1】Brillia大山 Park Front外観完成予想図(写真提供/東京建物株式会社)

【画像1】Brillia大山 Park Front外観完成予想図(写真提供/東京建物株式会社)

共創をテーマに2012年から活動しているプロジェクト

Bloomoiは、働く女性が提案する住まいの共創プロジェクトがテーマだ。2012年から東京建物株式会社の中で、女性社員による住まいづくりを提案していこうと始動した。「Bloomoi」は、「Bloom(咲く)」と「moi(私)」からなる造語で、働く女性の笑顔や才能が咲き誇るという意味が込められている。それぞれが暮らしの“幸せ密度を高めること”を目指している。

「『つくり手側の思い込みで住まいを提供しているのではないか?』という疑問に立ち戻って考えることからスタートしました。そのためにアンケートなどのデータはもちろん、働く女性一人ひとりのホンネを知ることから始めました」とスタート時からプロジェクトのプロモーション担当として参加している岩谷さん。

まず自分たちの1週間の行動をさらけ出して実際のリアルな生活を探ってみたり、グループワークやSNSなどで対話を積み重ねたりしてきた。加え他の企業で働くさまざまな女性たちとのミーティングも続けている。

「ライフスタイルが多様になり、女性の価値観が決してワンパターンではなくなっている今だからこそ、 常にホンネに耳をかたむけることが大切だと実感しています」と岩谷さん。そこで出会った意見から、次々に商品化を続けている。

Bloomoiスペースと名付けた空間は、『季節家電や水などのストック品をたっぷり収納する』という目的や『海外のテレビドラマのような服や靴を飾りながら収納できるクロゼット』という目的が選べるようになっている。またキッチンも対面式が人気だと思っていたが、働く女性のなかには片付けに手が抜ける・料理に集中できる独立型を好む人も多いことに気付いた。

さらに朝は洗面室が家族の順番待ちで困っているという声に、洗面ボウルを片寄せにして2人並んで使えるよう工夫したプランも用意。2015年には一般公募により選ばれた女性10人と一緒に、“理想のリビングダイニング”をつくり上げるプロジェクトを実施。Bloomoiライブラリーと名付けた空間は、家事の合間にちょっとした作業をしたいという声から、キッチンのそばにワークスペースを開発している。

【画像2】Brillia大山ザ・レジデンス Bloomoiスペース(スタイルクロゼット) (写真提供/東京建物株式会社)

【画像2】Brillia大山ザ・レジデンス Bloomoiスペース(スタイルクロゼット) (写真提供/東京建物株式会社)

【画像3】Brillia文京江戸川橋 コダワリキッチン(写真提供/東京建物株式会社)

【画像3】Brillia文京江戸川橋 コダワリキッチン(写真提供/東京建物株式会社)

プロジェクトに参加することで仕事へのスタンスが変わった

このプロジェクトは部署横断でメンバーが集まっており、自分の担当業務とは別のプロジェクトチームとして活動している。活動を続けて6年、メンバー自身もさまざまなライフステージの変化を体験しているそうだ。

「私は去年の10月から参加しています。実は子どもを産んで仕事を続けるのは周りに迷惑をかける存在になるのではないかと悩んだこともあります。復職してBloomoiに参加し、同じような立場のメンバーのなかで、迷惑をかけることを気にするのではなく、どう成果を出して貢献するかを大事にしようと自分の目線が変わりました」と鈴木さん。

「私は約10年間、販売現場で働いていました。出産を経て今は別の部署に所属していますが、自分自身のライフスタイルの変化に応じた視点と共に販売現場で培った販売センターに来訪されるお客様の声を商品企画で活かせることなどもやりがいになっています」と稲富さん。

「実際は試行錯誤を続けながら6年続けてきました。まず東京建物の中でも、Bloomoiの活動を理解してもらうのに時間がかかりました。最近では実績に納得してもらい、参画できることが多くなりました」と岩谷さん。着々と新たなメンバーが加わり、プロジェクトの活動はさらに広がっている。

建物というハード面に加えてソフトについても考えていきたい

マンションという建物を整えても、住む人たちがどんな暮らしを続けていけるかというソフト面での目配りも大切なことだ。

「私たち親がどうしても無理なときに、近所のおじいちゃんが子どもの送迎してくれたり、遊ばせながら私の帰りを待っていてくれることがあります。保育園でお知り合いになった方なのですが、その方も子どもたちとかかわることを生きがいに感じてくださっているようです。そんな見守りのシステムがマンション内でできたらいいなと思うことがあります」と稲富さん。

「働いているとマンション内のコミュニティに参加しづらい面もあります。入居前の交流会など、自然に参加できるシステムを考えていきたいと思っています」と鈴木さん。

自分たちが悩んだこと、立ち止まったことを、等身大で解決していくという姿勢は、働く女性たちの共感を呼ぶだろう。

世界144カ国を対象にした男女の差を数値化した「ジェンダーギャップ指数」ランキング(世界経済フォーラム2017年)で、日本は114位という状態だ。働く女性たちの置かれている状況はまだまだ厳しい。こういった民間企業の活動と行政の積極的な取組に、今後も期待したいところだ。

●取材協力 
・東京建物株式会社 Brillia Bloomoiプロジェクト 

AIスピーカーで暮らしが便利に 住宅展示場で試してみた

Google HomeやAmazon EchoなどAIスピーカーが最近話題になっている。テレビCMを見ると、言葉だけで家電が作動するなど暮らしが楽しくなりそうだが、実際AIスピーカーで住まいはどう変わるのか? 2018年1月からGoogle Homeを使った「コネクテッドホーム」の提案を開始した大和ハウス工業の住宅展示場で体験してみた。
共働き世帯や高齢者世帯の暮らしを家が助けてくれる!?

東京・渋谷区にある大和ハウス工業の住宅展示場のリビング。「OK Google、家を出る準備をお願い」と言うと、AIスピーカーのGoogle Homeが「はい、行ってらっしゃい。お気をつけて」と応え、同時にカーテンが閉まり、照明が消え、エアコンが止まり、お掃除ロボットが動き出した。

【動画1】「朝の準備をお願い」と言えばカーテンが開き、照明が点灯し、エアコンが作動する(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

何かとバタつく朝の出勤前にすべてのカーテンを閉めて、照明を消して、エアコンのリモコンを探してオフにして、お掃除ロボットのスイッチを入れる……という作業が、たったひと言発声するだけで完了する。「共働きで忙しい方はもちろん、ご高齢で動くことが大変という方にも便利です」と大和ハウス工業の事業戦略グループ主任の古賀英晃さん。

このほかにも主寝室では「シアターモードにして」と言えばカーテンが閉じて天井から映写用スクリーンが下り、プロジェクターが動き出す。またインターネットで動画を楽しむ際、「○○の第5話を再生して」と言えば、スクリーンに希望のドラマが写し出される。

大和ハウス工業は “さまざまな住宅設備や家電をつなげて、利便性の高い豊かな暮らしの提供を目指す”プロジェクトである「Daiwa Connect(ダイワコネクト)」に取り組んでいる。2018年の1月からその第1弾として、AIスピーカーのGoogle Homeと、東急グループのイッツ・コミュニケーションズの「インテリジェントホーム(※)」を活用した「コネクテッドホーム」の提案を全国で開始した。

※インターネットに接続されたホームコントローラーを介し、設置したセンサーの信号を検知して指定のアドレスに通知したり、さまざまな機器を外出先からコントロールできるサービス

「ご来場いただいた方からはおおむね便利だという声をいただいています」(古賀さん、以下同)。とはいえ私もそうだったが、お父さん世代は「OK、 Google~」と人前で言うことが照れくさくて、少し抵抗感を示すという。しかし、子どもたちはむしろ面白がってAIスピーカーにいろんなことを話しかけるそうだ。

なにしろパソコンのキーボードを打つよりもスマートフォンを指先で操作するのが当たり前の彼らだ。彼らが建てる家は、いずれ声ですべての家電や設備を操作できるようになるのだろう。

こう言うと、最近話題のAIスピーカーについ注目が集まりがちだが、重要なのはそのAIスピーカーとさまざまな住宅設備や家電がつながることで、複数の動作を同時に機械が行ってくれることにある。

これは住宅内の家電などがIoT化(モノのインターネット化、モノがインターネットを通じて相互に接続され、自動制御などが可能になること)するからこそ実現する。冒頭はそんな暮らしのほんの一例に過ぎず、例えばスマートフォンのGPS機能を利用して帰宅前に自動で家のエアコンを作動させたり、住宅の躯体内のセンサーを通じてメンテナンス時期を把握できたり、トイレの排せつ物から健康状態を分析したり……など、IoT住宅はまさに無数の可能性を秘めている。

大和ハウスがプロジェクトをいち早く開始した理由とは

もちろん「IoT住宅はまだまだ過渡期です」。それでも、電機メーカーでもない大和ハウス工業が「Daiwa Connect(ダイワコネクト)」プロジェクトをいち早く開始した理由はどこにあるのか。

もともとIoTという言葉が生まれる前、1996年から住まいにおけるITの活用について研究してきた同社。「暮らしの困り事をIoTで解決する可能性を探り、いち早くお客様に提供するためです。AIスピーカーだけでなく、今後もさまざまな新しいデバイスがでてくるでしょう。そのときにお客様がニーズに合わせて好きなデバイスを組み合わせて使うことのできる環境(コネクト環境)を、従来お付き合いのなかったさまざまな業種の企業と、連携しながら整備していく必要があります」

現時点ではインターネットと直接つながる家電や住宅設備が少ないため、Google HomeをはじめとしたAIスピーカーが直接動かせるものは多くない。そのため家電や設備を動かす専用のコントローラーが室内に必要なのだが、家電や設備が直接インターネットとつながれば、専用コントローラーがなくても作動させられるし、さまざまな動作がより簡単に、同時にしやすくなる。

こうした環境整備のためには企業間の連携だけでなく、例えば冒頭の例のように、出かける前はどんな家電や設備が連動するといいのかなど、ユーザーの声も重要だ。日ごろからユーザーと接している同社がいち早く参入したことで環境整備が進み、結果的に他社に先駆けて商品の価値を高めるチャンスにもなる。さらにインターネットにつながることによる情報漏洩リスクなど、あらゆるリスクへの対策にも取り組んでいくという。

「そもそも『コネクテッドホーム』のご提案は、家事をラクにする家事動線のご提案と基本は同じです。暮らしに対する顧客の不満点やご要望に対して、従来は間取りや住設機器でのご提案が主流でしたが、これに加えてIoTという手段を使って、課題解決を図るということが重要になってきます。決してIoTありきではありません」

【画像1】複数のIoT機器がつながり、AIを活用することで得られるデータから、さらに新しいサービスが生まれる可能性もある(写真提供/大和ハウス工業)

【画像1】複数のIoT機器がつながり、AIを活用することで得られるデータから、さらに新しいサービスが生まれる可能性もある(写真提供/大和ハウス工業)

社会的な課題や変化に対応する住宅づくりが始まった

「共働き世帯の家事を効率化する住宅や、今後増加する高齢者世帯が安心・快適に暮らせる住宅はもちろん、在宅介護が楽になる住宅、通勤しなくても自宅で仕事がスムーズにできる住宅……IoTやAIの活用によって、これからの社会の変化にも対応した多彩な住宅をご提案できたらいいなと思います」。

「Daiwa Connect(ダイワコネクト)」のニュースリリースのタイトルには「プロジェクト始動」とある。つまり現状のAIスピーカーやIoT機器との組み合わせがゴールではなく、今まさに始まったばかり。今後登場するさまざまなデバイスによって、私たちの暮らしはさらに豊かなものへと変わっていくはずだ。

●取材協力
・大和ハウス工業

羽田新ルート、住民説明会で聞いてみた 「都心上空を低空飛行、本当に大丈夫?」

2020年オリンピック開催に向けて、国際線の需要拡大のため羽田空港への着陸ルートが見直されようとしています。うちは空港近くじゃないから……と思っている人が多いかもしれませんが、実は新ルートでは、豊島区、練馬区、中野区、北区、板橋区……と都内の幅広い範囲の上空を飛行予定。そこで、飛行高度や騒音、落下物など気になる問題を探るべく、国土交通省が行っている「住民説明会」に潜入してみました。過去の経緯はこちら:都心上空を旅客機が飛ぶ!? 羽田空港の離着陸新ルート計画とは練馬区の住民説明会に潜入!どんな説明がされるの?

広大な敷地で開放的な練馬区光が丘公園。今回潜入したのは住民の憩いの場に隣接した「光が丘IMA光の広場」。商業施設内のオープンなホールです。休日とはいえ寒さが厳しいなか、説明会には多くの来場者が見受けられました。住民説明会は今回で第4回目(第4フェーズ)。これまで新飛行ルートが通る自治体で開催され、累計1万3000人超が参加している(国土交通省担当者)とのことです。

ちなみにこの羽田空港国際線の新ルートに関係するのは、埼玉県と東京都が中心です。埼⽟県内ではいずれも約1800mから900mと⽐較的⾼い⾼度を保つとのこと。ところが羽田空港に向かっていく東京都内に⼊ると、東側ルートでは、豊島区や練⾺区⽅⾯から新宿、表参道、⽩⾦⾼輪、品川と都⼼上空を南下し、それぞれの⾼度は、新宿駅が約915m、広尾駅が約600m、品川駅が約450mと空港に近づくほど低下します。

もう一つ設定される⻄側ルートは、練⾺区⽅⾯から中野、渋⾕、代官⼭、⽬⿊、五反⽥、⼤井町を南下。渋⾕、恵比寿駅近辺が約610m、五反田駅近辺が約455m、そして最も低くなるとされている⼤井町では約300mになります。これは東京タワーより低い⾼度です。

説明会は、こうした高度やそれに伴う騒音、飛行機の見え方、さらに落下物への対策など、関係する自治体の住民が気になる情報を中心にパネルが展示され、適時国土交通省の職員が参加者に対して説明を行ったり、質問に答えるという形式でした。また職員によると、説明会を開始した当初は自治体が所有する施設の会議室などで行っていたのですが、現在は、誰しもが参加して質問がしやすいよう、商業施設のホールや駅前広場などオープンな場所でも積極的に行うようにしているとのことです。

騒音がイメージできる体感ブースもあり、実際に体験してみましたが、個人的な感想としては、音に関しては最も音量が大きい場所でもそこまで気になる音量ではありませんでした。ただ、大井町周辺の高度約300mと同等の高度を飛行する映像は、かなりの圧迫感を感じました。

【画像1】会場には騒音を体感できるブースも。高度や騒音レベルなどを、今回のルートに近い大阪の環境を収録し、映像と音から体感できる。羽田空港内にも常設されているとのこと(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像1】会場には騒音を体感できるブースも。高度や騒音レベルなどを、今回のルートに近い大阪の環境を収録し、映像と音から体感できる。羽田空港内にも常設されているとのこと(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】飛行経路やよく寄せられる疑問への回答を、パネルで分かりやすく展示。国土交通省の職員が案内したり、デスクで質問に答えている。商業施設内で誰でも入れるため気軽に訪れやすい印象(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】飛行経路やよく寄せられる疑問への回答を、パネルで分かりやすく展示。国土交通省の職員が案内したり、デスクで質問に答えている。商業施設内で誰でも入れるため気軽に訪れやすい印象(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

「騒音、事故…」説明会参加者の住民に、不安に思うことを聞いてみた

実際に説明会に訪れていた参加者の何人かにお話を伺ってみました。最も不安に思うことはやはり「騒音」「事故、落下物への対策」でした。

「気になるのはやっぱり音。車輪を出したときと出さないときの騒音は違うと聞いたことがあり、住んでいる場所ではどういう状況で飛行するのかを聞きにきました」(60代 男性/練馬区在住)

「大阪の方で航空機からパネルが落下したニュースを見たのでちょっと心配で。落ちて来たら防ぎようがないのでやっぱり少し不安です。対策はしっかりすると言われてもいまいちピンと来なくて……」(50代 女性/練馬区在住女性)
こうした不安の声が多く聞かれました。

その一方で、
「国際線が増えて、訪日外国人が増えれば、インバウンドで経済が良くなるメリットがあるし、そうしたポジティブな説明も聞けました」(40代 男性/板橋区在住)
「成田空港より羽田空港の方が都心からのアクセスがいいので、旅行好きの人にはいいかもしれませんね」(40代 男性/豊島区在住)
という声も。

パネルや職員の説明では「ここ10年墜落事故は起きていない」、「落下物に関しても、羽田空港周辺はゼロです」と安全性の説明が多く聞かれました。

【画像3】商業施設内のオープンな説明会会場のため、多くの通行人が足を止めてパネル展示などを眺めていた(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像3】商業施設内のオープンな説明会会場のため、多くの通行人が足を止めてパネル展示などを眺めていた(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

危険度、騒音レベル、不動産価値etc. 住民説明会で直撃してみた

とはいえ安全性、騒音問題、さらには不動産価値下落などの不安要素もあることから、会場で説明中の国土交通省の鈴木さんに直撃してみました。「参加者の皆さまの多くが関心をもっているのも、まさにご指摘の点についてですね。確かに落下物事故は過去10年間(平成19年度~平成28年度)の発生件数は、成田空港周辺で19(部品13件、氷塊6件)ありましたが、羽田空港周辺では0件となっています。ただ2017年9月に、成田空港に到着した航空機からパネル(重さ約3kg)が脱落した事案や、関西空港発の航空機から重さ約4.3kgの胴体のパネルが脱落し、大阪市内を走行中の車両に衝突した事案等が発生したこともあり、さらなる落下物対策に取り組んでいます。3月末をめどに世界でも類をみない落下物対策への新たな基準案を策定する予定です」

また騒音に関しては、「防音対策では現状で対象となる施設はない想定ですが、一定基準以上の騒音が発生する場所の施設、建物に対して防音工事の助成があります。また、空港の国際線着陸料について、航空機の重量と騒音の要素を組み合わせた料金体系に見直し、航空会社に対して低騒音機の使用を促進し、現行経路を含めた経路での全体の音の低減を図ります」といいます。

さらに都心の一部の住民から不安の声が上がっているのが「不動産価値」の下落。騒音や事故のリスクからマンションなど住宅の価値が下がるのではという懸念だ。実際に住宅専門家でも意見の分かれるところで、下がるという人もいれば、影響は飛んでみないと分からないという声も。国土交通省では「一般的な不動産の価値は騒音などの環境面、立地などによる地域要因に、人口の増減や需給バランス、音に関していえば個人差もあります。複合的な要因があるので、飛行経路と不動産価値の変動に直接的な因果関係を表すのは難しいと考えています」とのこと。

打開策のひとつとして、実際の運用前に試験飛行ができるかという質問をしたところ、「現在の羽田空港には着陸⽤の誘導装置がないことや、空港の運⽤を⼀時⽌めなければならないことなどから現状では対応は難しい」らしく、試験飛行の実現は望み薄だそう。

その上で鈴木さんは「私たちとしては、今後も住民の皆さまに説明会を含めて情報を積極的に発信し、ご不安やご懸念を解消していきたいと考えています」と話してくれました。

【画像4】お話を伺った国土交通省航空局航空ネットワーク部の鈴木さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像4】お話を伺った国土交通省航空局航空ネットワーク部の鈴木さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像5】会場となった光が丘IMA周辺。この青空の下で安心して暮らしたい。そう思えるほど澄み切った青空だった(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像5】会場となった光が丘IMA周辺。この青空の下で安心して暮らしたい。そう思えるほど澄み切った青空だった(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

羽田空港国際線の新飛行ルートについては、2020年までに運用を開始したいということです。ただ今回の光が丘周辺で、新ルートについて知っているか道行く家族連れや公園利用者に訪ねたところ、知らないと答える人のほうが多く、まだまだ認知度が低いのが現状のよう。国土交通省や関係自治体のホームページでは、住民説明会の今後の日程や開催場所などが分かるので、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょう。

●取材協力
・国土交通省航空局

大切なのはハート 集合住宅「母力」が仕掛ける”つながる育児”【育住近接(1)】

育児中は体力も神経も使うもの。核家族化が進んだ現代、全てをお母さんが抱え込み、つらくなってしまうケースもあるようです。そこで最近注目されているのが、育児を支える仕組みを備えた住まい。今回は子育て世代の”つながり”をつくることをコンセプトにしたへーベルメゾン「母力」をご紹介します。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。お母さんが本当に求めているのは、ハートで育児ができる住まい

核家族化や共働き世代の増加を背景に、育児環境の孤立が問題になっています。両親が忙しく、子どもと過ごす時間が少ないうえに、祖父母が遠方に住んでいたり仕事をしていたりして、頼れない。そんな問題を解決する育児環境を備えたマンションが注目されているのです。

今回は子育て世代の”つながり”をつくることをコンセプトにし、2012年10月に1棟目が完成したへーベルメゾン「母力」。現在は各地に10棟の規模に拡大している同ブランドのマンションを、企画開発する旭化成ホームズの玉光祥子(たまみつ しょうこ)さんにお話を伺いました。

「ファミリー賃貸というコンセプトの住宅を企画する際に、私たちは子育て中のお母さんたちから、しっかりとヒアリングをしました。ハウスメーカー主導で企画すると、一般的には子育てに適した間取りや設備など、スペックを整えることを先に考えてしまいがちです。でも生の声に耳を傾けると、実は皆さんが一様に求めていらしたのはハートの部分、つまり人と人との関係性だということが分かったのです」(玉光さん)

例えば子どもの足音や夜泣きを気にしたり、また知っている人が誰もいない環境で子育てすることに不安を感じたり。そんなストレスや孤立感を解消するには、スペックを整えるだけでは不十分と考え、旭化成はお母さんが自ら発信し、学び合うコミュニティ「お母さん大学」とコラボレーションすることになりました。

「『お母さん大学』とのコラボレーションから生まれた企画として、母力には母力サポーターという気軽に相談できる先輩お母さん的な立ち位置のスタッフがいます。入居しているお母さん方のお話を伺ったりアドバイスを伝えたりして、不安を軽減してもらうサポートを行っています」(玉光さん)

その他にも、入居の際に近所付き合いがある前提を承諾してもらう、先に入居している住人への紹介を行うなどの、コミュニケーションのきっかけづくりをしているそう。

【画像1】お母さんたちとのディスカッション風景(写真提供/旭化成ホームズ)

【画像1】お母さんたちとのディスカッション風景(写真提供/旭化成ホームズ)

始動から5年たち、入居者主導の暮らしづくりが進行中

1棟目の物件である「母力むさしの」が完成してから5年、入居者同士のコミュニティはどのように育ってきているのでしょうか。

「思った以上に入居者さんが住まいの管理やコミュニティづくりに自主的にかかわってくれています。実は当初は私たち主導で年に何回かイベントを開催するなどの働きかけをすることを考えていたのですが、フタを開けてみると入居者のコミュニティは顔合わせのきっかけがあれば、自然にできあがってくることが分かりました。ですから私たちは入居者さん同士の自立したコミュニティを見守りサポートするスタンスに変わってきています」(玉光さん)

実際に入居者の方に話を聞いてみると、5歳と3歳のお子さんがいるKさんは「庭で子どもたちが遊んでいるときに『ちょっと夕食の準備をしたいので』といって、他のママに子どもたちを見てもらい、その間に夕食の準備をすることがあります」とのこと。

また、4歳と2歳のお子さんをもつHさんは、夫の転勤で大阪から東京に引越してきたそう。母力に入居する前は、知り合いがいなくて孤独を感じることがあり、仕事で疲れて帰ってきた夫に当たったり、話を聞いてほしくてしゃべり倒したりすることもあったそうです。「今は日中、いろんなママさんと話ができているので夫に当たることも、しゃべりかけ攻撃もしなくなりました」と話してくれました。

さらに、住宅内のイベントや、建物の管理なども入居者からの提案が増えてきたそうです。「母力」の場合、共有部分のちょっとした掃除をしたり、また近所づきあいをすることが前提であったりと、一般の賃貸住宅に比べて手間や気遣いが必要なシーンがあるといいます。それにもかかわらず入居希望者が引きも切らず、場所ではなく「母力」を指名で問い合わせをする人もいるそうです。

「入居者にはいろいろな方がいらっしゃいますが、共働きのご家庭や、転勤で遠方から転居されてきたご家庭などが典型的ですね。つながりをつくりやすいコミュニティが醸成されていることが評価されています。また『母力』という名前から、お母さん主体と思われがちですが、お父さん方も子育てへの意識が高いですよ」(玉光さん)

「母力」のような住宅を選ぶ家族は、父母ともにそのコンセプトに共感しているわけですから、お父さんも子育てに協力的な場合が多いのです。入居者が皆子育てに関心があるという点で、共感が得られやすく、協力して育児がしやすい環境をつくる自治が生まれるのかもしれません。

「『母力』ブランドは物件オーナーさんの満足度も高いのです。社会に貢献している実感があり、やりがいがもてるとの声をいただいております。私どものこれからの課題は、永続的なコミュニティづくり。賃貸は入居者が入れ替わるのが特徴なので、いまの『母力』コミュニティが時を経てトーンダウンすることがないように、サポートをしていきたいと思っています」(玉光さん)

【画像2】母力のイベント風景(写真提供/旭化成ホームズ)

【画像2】母力のイベント風景(写真提供/旭化成ホームズ)

現代は相手のプライバシーを尊重する気持ちが働き、なかなか人と人との距離を詰められないこともしばしば。その点、入居者が皆つながりをつくることに肯定的だとすれば、声がかけやすいメリットがありそうです。「子育ては孤独に行うよりも、助け合いながら行うほうが楽しい」。そう考える方には、子育てを通じてつながる「母力」のような住まいがフィットするかもしれません。

●取材協力
・ヘーベルメゾン母力(BORIKI)

新幹線通勤って実際どうなの?熊谷~都内に通う「新幹線補助」利用者に本音を聞いてみた

一戸建ての購入を検討するとき、予算や通勤の利便性は優先順位が高いという人が多いのではないでしょうか。そんなとき、「できるだけ安く家を購入×できるだけ快適な通勤を」と考えてみると、東京23区内で条件に見合う物件を探すのは至難の業。しかし最近は、新幹線で通勤できる郊外で住宅購入した人を対象に新幹線通勤補助を行う自治体が増え始め、にわかに注目を集めています。そこで今回は「郊外で家を買って新幹線通勤」は本当におトクなのか、検証してみました。
そもそも新幹線通勤補助って何?熊谷市役所へ突撃リポート

新幹線通勤補助とは、自治体が通勤に新幹線を利用している住民に補助金を支給する制度のこと。長野県の佐久市や新潟県の湯沢町など、近年、この制度を導入する自治体が増えているのです。埼玉県の熊谷市もそのひとつ。そこで今回は熊谷市役所を訪ね、企画課の松本さん、市原さんに新幹線通勤補助について聞いてきました。

【画像1】写真左:熊谷市役所。写真右:熊谷市総合政策部 企画課の松本里実さん(左)、市原倫子さん(右)(写真撮影/宮崎林太郎)

【画像1】写真左:熊谷市役所。写真右:熊谷市総合政策部 企画課の松本里実さん(左)、市原倫子さん(右)(写真撮影/宮崎林太郎)

――熊谷市では新幹線通勤にどれくらいの補助が出るのでしょうか?

松本さん 当市では、移住促進の一環として住宅購入に対するさまざまな助成を行っています。新幹線通勤補助もそのひとつで、2016年4月1日から2019年3月31日までに、当市内に住宅を購入および転入し、新幹線を使って通勤する方を対象に、定期券の有効期間の初日から2年間、月額最大2万円までの補助金を支給しています。

市原さん 新幹線通勤補助を受ける条件に5年以上居住する意思があることと定めているので、2年間という期間は短いと思われるかもしれませんが、これは当市に移住された方が新しい生活に慣れるまでの期間と捉えています。新幹線通勤で長距離移動の負担を軽減することで、少しでも当市での暮らしになじんでいただく助けになるとうれしいですね。補助がある間は新幹線通勤をして、生活スタイルに応じて在来線に切り替えるという選択肢もアリですよ。

【画像2】熊谷市の新幹線通勤補助概要

【画像2】熊谷市の新幹線通勤補助概要

――新幹線通勤補助制度への反響はどうですか?

松本さん イベントやホームページなどで制度を周知していますが、それに加えて、いろいろなメディアで取り上げていただく機会も増え、多くのお問い合わせをいただいています。残念ながら条件に合わないという方もいらっしゃいますが、たくさんの方に興味をもっていただけていると実感しています。現在、熊谷市内から東京に通勤されている方が7000人くらい(※1)いて、そのうち2000人ほど(※2)が新幹線を利用しているというデータもあります。交通費を余分に払っても、通勤時間をゆったり快適に過ごしたいという希望をもつ人は、意外と多いのかもしれませんね。

市原さん 熊谷市だけでなく、埼玉県北部全体で人口減少や少子高齢化が進んでいます。その対応として7市町(熊谷市・本庄市・深谷市・美里町・神川町・上里町・寄居町)共同で埼玉県北部地域地方創生推進協議会を立ち上げ、「埼北移住」という移住促進のプロモーションなどを行っています。埼玉県北部というのは東京からは遠くて不便という印象をお持ちの方も多いと思います。しかし熊谷から東京まで新幹線なら40分ほどですから、実際に通ってみると思ったよりラクだったという声もいただいています。興味をもたれた方はぜひ一度、熊谷まで足を運んでみてください。

※1.総務省「平成27年度国勢調査」より
※2.JR東日本「新幹線駅別乗車人員(2015年度)」より

【画像3】写真左:企画課では住民目線で熊谷の暮らしを紹介する情報誌「熊谷で暮らす」を発行するなど、積極的に情報発信を行っている。写真右:定住促進パンフレット「熊谷で暮らす」vol.1、vol.2 (写真撮影/宮崎林太郎)

【画像3】写真左:企画課では住民目線で熊谷の暮らしを紹介する情報誌「熊谷で暮らす」を発行するなど、積極的に情報発信を行っている。写真右:定住促進パンフレット「熊谷で暮らす」vol.1、vol.2 (写真撮影/宮崎林太郎)

通勤時間はフリータイム?実践者に聞く新幹線通勤のホンネ

満員電車で延々揺られるより新幹線通勤が快適なのは何となく想像がつきますよね。でも自腹で毎月数万円と言われたら、ちょっと腰が引ける気もします。そこで熊谷で家を買って東京まで通勤しているSさんに、新幹線通勤のほんとのところを聞いてみました。

【画像4】熊谷市在住のSさん(37歳)。家族構成:夫婦+長男+次男、通勤区間:熊谷駅‐品川駅、住居形態:新築一戸建て(注文住宅)(写真撮影/宮崎林太郎)

【画像4】熊谷市在住のSさん(37歳)。家族構成:夫婦+長男+次男、通勤区間:熊谷駅‐品川駅、住居形態:新築一戸建て(注文住宅)(写真撮影/宮崎林太郎)

――新幹線通勤ってそんなに快適なんですか?

快適ですね。自由席が少なくなる休日の出勤を除けば、これまで通勤で座れなかったことはないですし、シートがゆったりしているので全然疲れません。私は本を読むことが多いですが、パソコンで作業をしたり、食事をする人もいます。仕事が忙しくて疲れているときなどは寝て過ごすこともあります。行きは終点の東京までなので、寝過ごす心配もないですしね。新幹線に乗っている間はいわばフリータイムです。

それに天候が悪くてもほとんどダイヤが乱れないんです。雪の多い地域を通過する北陸新幹線を利用しているからかもしれませんが、とにかく悪天候に強い印象ですね。これを経験してしまうと、私はもう在来線通勤には戻れないです。

――とはいえ不満だってありますよね?

本音を言うと、一番はお金ですね。新幹線の定期代と、在来線の定期代の差額が4万円弱。私の場合は会社が差額の半分まで支給してくれるので、新幹線通勤補助を加えると自己負担額は毎月1万円程度で済んでいます。これがもし、市からの補助がなくなる3年目以降が2万円ではなく4万円の自己負担だったとしたら、おそらく妻を説得できなくて在来線通勤になっていたと思います。

実は勤務先が品川なので、東京駅から山手線に乗り換えなければなりません。5駅程度なので、乗ってしまえばそれほど苦痛ではありませんが、品川駅のホームの大混雑を抜けるのは苦手ですね。

それから仕事が終わってから飲みに行く機会も減りました。新幹線の最終は23時ですし、在来線もあるので熊谷までなら意外と遅くでも帰れますが、それでもうっかり終電を逃したら目も当てられませんから。楽しいとついつい長居してしまいがちなので、飲みに行くときは「明日も仕事だから早めに解散」という流れになりやすい、火曜や水曜を選んでいます。

あともうひとつ、帰りは終着駅じゃないので、うっかり寝過ごすと、折り返せたとしても乗車料金がかかりますし、終電だったりしたら始発を待たないと帰れなくなるので寝られません。だから眠いときには座席に座らず、デッキで過ごすようにしています。それでもいざというときにはドアの脇に格納されている補助いすに座れるので、満員電車に揺られるよりはマシだと思っています。

――熊谷で家を買うことに不安はなかったですか?

私は実家が熊谷なので、通勤の問題さえクリアできれば不安はなかったですね。実際に通勤時間はドアドアで1時間少々なので、以前住んでいた川崎と大差はないんです。むしろひどいときは足が浮くくらい超満員で、遅延も少なくない在来線通勤だったころに比べたら、格段に快適と言えますね。

それに妻の実家も川越なので、もともと埼玉県内で東京に通勤しやすいエリアに絞って家を探していたんです。実際に浦和や大宮などの家も検討したのですが、やっぱり高いんですよね。わが家は子どもが男の子ふたりということもあり、予算を考えるとどうしても手狭感が否めませんでした。それならいっそと熊谷で土地を買って家を建てることにしたんです。

熊谷はのびのび子育てしたい人には向いていると思いますよ。保育園も比較的多いので、特定の保育園にこだわったりしなければ入れないということはまずないと思います。ただ、子どもが小学校に上がったら働きに出たいママさんたちは注意が必要かもしれません。私の妻も仕事に復帰する際、学童保育に申し込んだのですが入れませんでした。幸い私の実家が近くなので、放課後は両親に預かってもらえますが、地縁のない人は困るかもしれませんね。

新幹線通勤を始めてから帰宅時間が早くなったこともあり、夜ランニングをするようになったんです。荒川の河川敷は対岸にゴルフ施設等の明かりなどが灯っていて、夜でも真っ暗にはなりませんし、散歩をしている人も多いんですよ。もともとジムに通ったりしていなかったのですが、心地よい自然環境が身近にあると、体を動かしたくなりますよね。

東京のほうが交通手段も、商業施設や娯楽施設も圧倒的に豊富で便利です。とはいえ何でも買える分、ついついお金を使ってしまう気もするので、浪費癖がある人なら新幹線代を払っても郊外に住むほうが、案外お財布には優しいかもしれませんね。

【画像5】新幹線で帰っていくSさん (写真撮影/宮崎林太郎)

【画像5】新幹線で帰っていくSさん (写真撮影/宮崎林太郎)

仕事の後にもかかわらず、終始にこやかに質問に答えてくださったSさん。この日も新幹線で熊谷へと帰るべく、さっそうと改札をくぐっていきました。

東京と郊外エリア。家を買うならどっちがお得?【画像6】試算・監修/ファイナンシャル・プランナー(CFP) 菱田雅生氏

【画像6】試算・監修/ファイナンシャル・プランナー(CFP) 菱田雅生氏

※1.新築分譲一戸建ての平均価格を基に算出。住宅ローン金利は1.36%(25年固定)、ボーナス払いなし、自己資金は物件価格の10%とする
※2熊谷市の通勤定期券の自己負担額は、1カ月の新幹線定期の額を69,960円(東京-熊谷間の新幹線定期券の額)、勤務先などから支給される通勤手当の額を30,610円(東京-熊谷間の在来線のみの定期券の額)として算出

新築分譲一戸建ての平均価格を比較すると、東京23区は熊谷市の2倍以上。これなら新幹線通勤費用を加えても東京23区で家を買うよりお得な気がします。しかし郊外で家を買い、東京に通勤する対価として、お金には表れないリスクも考えなければなりません。

「都心は移動や通勤が便利だけど、住宅も物価も高い。郊外は移動や通勤が大変だけど、住宅も物価も安い。仕事を重視すると都心で、子育てや休日を重視すると郊外、といった考え方もありますが、価値観は人それぞれ。老後の生活をどこでどのように送りたいかも考えて、住まいの地域を決めることも重要です。お金では計れない精神的な満足度の高さなども考慮しましょう」と、ファイナンシャル・プランナーの菱田氏も語るように、損得を考える前に、まずは自身のライフスタイルと向き合うことが大切ということですね。

家が安い、通勤が快適という価値の大きさは個々人の性格やライフスタイルによって変わるものですから、何に時間を使いたいのか、そのためにどれくらいの労力や費用負担なら許容できるのかということをしっかりと考える必要があります。その上で通勤電車が快適になるならリスクに目をつむってもOKという人であれば、新幹線通勤が可能な郊外で家を買うという選択にも検討の余地はあるでしょう。例えば気になるエリアでひと月部屋を借りて、新幹線通勤ライフを試してみるのもアリかもしれませんね。

●取材協力
・埼玉県熊谷市

高感度な大人に愛されるシェアハウス。セカンドキャリアで挑戦する大家さんの思いとは

近ごろ40代以上の大人世代にも、シェアハウスの人気が広まっています。それを受けて新しいタイプのシェアハウスを運営する、個性的な大家さんも増加中。今回はそれぞれ神奈川と調布でシェアハウスを運営する、新米大家さんふたりをご紹介します。元・外資系IT企業の営業職の大家さんに、元・ラジオディレクターの大家さん。セカンドキャリアで大家さん業に挑戦する彼らは、どんな思いをもっているのでしょうか。
成熟した大人のシェアハウスを運営する、セカンドキャリア大家さん

シェアハウスは若い世代のもの、というのは既に過去の話。“集まって住まう”ことが浸透した昨今、成熟した大人がシェアハウスを選ぶケースも増えています。長いキャリアがあり、スキルや社交性が磨かれた大人世代だからこそ、シェアハウスでの暮らしが豊かになるメリットもあるようです。

そんな毎日を充実させるキーパーソンは、仕掛人である大家さん。今回は、大人世代が多く住む高感度シェアハウスを運営する大家さんふたりに取材しました。共通するのは、それぞれ別のキャリアを経て大家さんになっていること。彼らが運営するシェアハウスは、どちらも昨年オープンしたばかり。シェアハウスの新しいスタイルを模索しながら精力的に活動中です。

代々受け継ぐ不動産を“負動産”にしない! 大手企業から覚悟の転身

京浜急行本線神奈川駅から徒歩5分、東急東横線反町駅から徒歩6分、JR東海道本線横浜駅から徒歩11分。標高40mの丘の上に立つ「しぇあひるず ヨコハマ」は、築60年の鉄筋コンクリート住宅をフルリノベーションした2棟のシェアハウスです。大家さんの荒井聖輝(あらい・きよてる)さんは昨年に親族が1953年から住んでいた土地の共同住宅を引き継ぎ、大家さんになりました。以前の荒井さんのキャリアは外資系IT企業の営業職。しかし大手企業で働き充実した生活を送るなかでも、いつか親から物件を引き継ぐことは、常に意識していたといいます。

「元々のアパートは、ずっと母や親族が運営していました。親族が建物を所有している以上、売るにしても引き継ぐにしても手間もお金もかかります。同じ大変なことならば引き継いで、自分らしく発展させていこうと思ったのです。大家さん業を継いだというと、楽をしていると誤解されることもありますが、今や不動産を継ぐことが必ずしも利益になるとはいえない時代。空き家が目立つ地域ではむしろ相続した建物が重荷になり、売ることもできずに放置されるケースもあるそうです」(荒井さん)

荒井さんは老朽化した建物に大金をかけて設備や耐震性をアップしました。それだけの覚悟をもって、アパートを引き継いでいくのは、代々受け継いだ土地に対する愛着とポテンシャルを感じていたからです。

【画像1】「しぇあひるず ヨコハマ」の大家さん、荒井聖輝さん。モノトーンの外観に、デザインされたロゴが映える建物。しっかりと耐震補強している故に壁が厚くなっているそう(写真撮影/蜂谷智子)

【画像1】「しぇあひるず ヨコハマ」の大家さん、荒井聖輝さん。モノトーンの外観に、デザインされたロゴが映える建物。しっかりと耐震補強している故に壁が厚くなっているそう(写真撮影/蜂谷智子)

【画像2】840m2と広大な敷地。実は公道に接していないので建物の再建築ができないなど、シェアハウスを始めるうえでクリアすべき課題もあった(写真撮影/蜂谷智子)

【画像2】840m2と広大な敷地。実は公道に接していないので建物の再建築ができないなど、シェアハウスを始めるうえでクリアすべき課題もあった(写真撮影/蜂谷智子)

大家業を、土地を活性化するソーシャルビジネスの軸に

「『しぇあひるず ヨコハマ』がある神奈川という土地は、江戸時代に横浜に先駆けていち早く海外に開かれた国際都市でした。ところが今となっては、最寄りの神奈川駅は京浜急行本線で乗降者数が最下位になるなど、当時の面影はありません。大家を継ぐにあたって勉強するうち、社会的な課題をビジネスで解決するソーシャルビジネスという概念を知りました。そこで大家業を、物件を軸に地域を活性化するビジネスに成長させたいと考えるようになったのです」(荒井さん)

そんな想いを込めて運営するシェアハウスは、鉄の外階段がアクセントとなったモノトーンの外観や、船室をイメージした共有ラウンジなどが、まるでおしゃれなゲストハウスのよう。広い敷地には庭があり、畑もあります。また丘の上にあるが故にその眺望の良さもポイントに。360度遮るもののない屋上からの眺めは抜群で、ベイブリッジや富士山を望むことができます。

「海や山、都市の姿が一望できる高台は、かつてアメリカ領事館などの重要な拠点が置かれた好立地です。この土地の建物をもっとアクティブな場にするには、まちに開かれたシェアハウスにするのがよいだろうと思いました」(荒井さん)

【画像3】ぐるりと周囲を見渡せる眺望。夏はここからベイブリッジ方面に上がる花火を見る会を開いている(写真撮影/蜂谷智子)

【画像3】ぐるりと周囲を見渡せる眺望。夏はここからベイブリッジ方面に上がる花火を見る会を開いている(写真撮影/蜂谷智子)

ターゲットは所ジョージ世代⁉︎ シェアハウスを地域に開く住人とは

「しぇあひるず ヨコハマ」では、横浜の花火大会のビューイングをしたり、住人主導の音楽会やバーがあったりと、数々のイベントを開催。住人だけでなく、地域の人も巻き込んだ交流の場となっています。時には海外のミュージシャンにホームステイの場を提供することも。これだけの活動ができるのは、荒井さんのアイデアや機動力に加えて、住人たちの力によるところも大きいとのこと。そういった住人が集まったのは、偶然ではないそうです。

「このシェアハウスの住人は40歳以上の方が多いのですが、それは当初から狙っていました。イメージしていたのは、成熟した大人で、仕事以外にも没頭している世界がある人。例えば所ジョージさんのようなイメージです。そういった人を呼び込むために、インテリアも大人の遊び心を感じさせるものにしました」(荒井)

最初に集まった住人は、プロのミュージシャンや環境問題のNPOの代表、女性起業家など、自立しつつ多彩な引き出しのある大人たち。そんな住人が自らの人脈を地域とつなげることで、場が活性化していったのは、荒井さんのもくろみどおりでした。また、社交的でありながら落ち着いた世代の住人がいる安心感からか、ファミリー世帯の入居希望者が増える相乗効果も生まれているといいます。

「今は入居希望者に部屋数が追いつかないので、周囲の空き家と連携する計画を進めています。提携した家に住んでいる人には、一定の共益費を払ってもらえば、クラブのメンバーのように『しぇあひるず ヨコハマ』の共有スペースを使えるようにしたいのです。最終的には幅広いの世代が交流できる開かれた地域づくりに発展させたいですね」(荒井さん)

歴史ある地域を活性化したい大家さんと、その思いに呼応するように集まった大人世代の住人たち。オープンして間もないながら、既に土地のもつポテンシャルを引き出しつつあるようです。

【画像4】船室をイメージしたラウンジ。各部屋に水まわりを完備しているが、ラウンジには共有の風呂やシャワー室も(写真撮影/蜂谷智子)

【画像4】船室をイメージしたラウンジ。各部屋に水まわりを完備しているが、ラウンジには共有の風呂やシャワー室も(写真撮影/蜂谷智子)

主婦の経験から地域のつながりの大切さを感じ、大家さんに

京王線調布駅から徒歩16分の「MDL Apartment」は、まるで外国に迷い込んだようなファンタジックな外観が特徴的なシェアハウス。建物の外部に面している共有ラウンジはカフェのようにおしゃれで、幼稚園へお子さんを送りに行った後にママ同士が交流するなど、住人が自由にくつろげる空間となっています。また、朝10時から夕方17時までは地域の方々にも開放されていて、お買い物や犬の散歩の途中に立ち寄って一息つけるような場所としても使われています。大家さんの豊田亜古(とよだ・あこ)さんがいるときは、住人以外の人ともおしゃべりを楽しむことにしているそう。

【画像5】「MDL Apartment」の大家さん、豊田亜古さん。MDLはメゾン・デュ・ラパン(兎の館)の略(写真撮影/蜂谷智子)

【画像5】「MDL Apartment」の大家さん、豊田亜古さん。MDLはメゾン・デュ・ラパン(兎の館)の略(写真撮影/蜂谷智子)

地域に開かれた共有ラウンジをつくったのは、豊田さんがこのシェアハウスのコンセプトをつくったきっかけに関係があります。

「この土地には私の夫の実家が代々暮らし、倉庫業を営んでいました。私も結婚してからはこの地に住み主婦として子育てに奮闘していたのですが、そのなかでも年に一回クリスマスマーケットを企画し、軒先で小商いを行っていたのです。毎年クリスマスマーケットを開いていると、地域の人の顔が見えて来ます。自分が手づくりした作品を持ち込むアマチュアアーティスト、マーケットを楽しみにしてくれる子どもたち、毎日やって来てはひとつひとつお気に入りを買っていくお婆さん……。地域には、こういったつながりがもっと必要だと感じました」(豊田さん)

【画像6】「MDL Apartment」での、初めてのクリスマスマーケット。初めてライブやフードマルシェを行った(写真提供/豊田亜古さん)

【画像6】「MDL Apartment」での、初めてのクリスマスマーケット。初めてライブやフードマルシェを行った(写真提供/豊田亜古さん)

家族が倉庫業を廃業し土地の新たな活用を考える際に、豊田さんはクリスマスマーケットで感じた地域への想いを形にするために、シェアハウスを運営することにしました。外に開かれた共有ラウンジは、いわば軒先マーケットの進化版。普段から住人以外の地域の人も排除せず、もちろんクリスマスの時期にはマーケットも行います。

【画像7】真新しくハイセンスなアパートは、ひと際目を引く。各部屋には水まわりを完備しており、プライバシーも守られている(写真撮影/蜂谷智子)

【画像7】真新しくハイセンスなアパートは、ひと際目を引く。各部屋には水まわりを完備しており、プライバシーも守られている(写真撮影/蜂谷智子)

演奏家用の防音室や、料理家向けハーブ園も。プロ仕様の個性的な部屋

実は豊田さんは、以前FMラジオ番組のディレクターをしていました。さまざまな才能が集まる番組をディレクションした経験が活きているのか、マンションの部屋づくりもユニークです。

「共用部には、このラウンジのほかにも音楽家用の防音室があります。1階の部屋は中庭に開かれていて、例えば絵を描く人がギャラリーとして使いお客さんを迎えたり、マッサージなどのスキルがある人がサロンを開いたりできるようにしました。さらに、キッチンスタジオを想定したお部屋もあるんですよ。ハーブやちょっとしたお野菜を育てるシェアガーデンつきで、そこでお客さんをもてなすこともできます」(豊田さん)

住む人の個性を活かす部屋づくりにひき付けられ、音楽家やイラストレーターなどの個性的な住人が集まっています。時には演奏家同士がセッションを行い、即興の演奏会が開かれることもあるそう。まるでドラマのような場面が日常的に展開されているようです。

【画像8】お料理教室なども行える充実したキッチンスペースのある部屋にはハーブなどが育てられる菜園が。一般的な部屋のほかに料理家向け、アーティスト向けなどの特別な部屋がある(写真撮影/蜂谷智子)

【画像8】お料理教室なども行える充実したキッチンスペースのある部屋にはハーブなどが育てられる菜園が。一般的な部屋のほかに料理家向け、アーティスト向けなどの特別な部屋がある(写真撮影/蜂谷智子)

ママとお子さんにも人気。優しい“ばあば”の存在が安心感に

もうひとつ豊田さんも想定外だったのが、子どもを持つ人が多く住んでいること。ファミリータイプの部屋がないのにもかかわらず、ママとお子さんの母子家族の入居希望者が多く、今は数組が暮らしているとのことです。

「私の子どもたちは未婚ですが、一足早く“ばぁば(おばあちゃん)”になった気分を味わっています。私がこのラウンジに居ると、保育園から帰った子どもがママとひと休み。おやつを食べながら今日の出来事をお話ししてくれるんです。ある日の夕方、ラウンジを閉めようとしていると外で泣き声が聞こえました。ドアの外で入居しているお子さんが泣いているんですよ。ママのお迎えが少し遅くなって、私がラウンジに居る時間に間に合わなかったのが、悲しかったみたい。それからは、帰ってくる子どもたちを迎えるまで、心配でラウンジを閉められなくなってしまいました(笑)」(豊田さん)

シングルマザーでなくても、子育て中は何かと孤独に頑張ってしまいがちです。子育て経験豊富な優しい大家さんが日々子どもたちと接してくれれば、親も子も安心感をもてるでしょう。

【画像9】共有ラウンジ。平日夕方5時まで、用事がなければ大家さんが居ることにしているそう。また住人は毎日夜の10時まで自由に利用することができる(写真撮影/蜂谷智子)

【画像9】共有ラウンジ。平日夕方5時まで、用事がなければ大家さんが居ることにしているそう。また住人は毎日夜の10時まで自由に利用することができる(写真撮影/蜂谷智子)

【画像10】絵本が並ぶ廊下のデスクコーナー。子どもたちはここから読みたい本を選び、借りていく(写真撮影/蜂谷智子)

【画像10】絵本が並ぶ廊下のデスクコーナー。子どもたちはここから読みたい本を選び、借りていく(写真撮影/蜂谷智子)

若者世代にとってシェアする暮らしの一番のメリットは、家賃が安く済むこと。一方で成熟した大人世代がシェアハウスを選ぶのは、家賃の安さよりも、自身がもっているスキルや人脈を分け与える存在、あるいは抱え込んでいる人生の重みを少しだけ支えてくれる存在を、求めているからなのかもしれません。そういったニーズに着目し、個性的なシェアハウスを運営する大家さんは今後も増えていきそうです。

●取材協力
・しぇあひるず ヨコハマ
・MDL Apartment

旧社宅を“留学生支援”のシェアハウスに  JR東日本がリノベーションプロジェクト

2020年までに日本への留学生を30万人に増やすことを目標に掲げる「留学生30万人計画」。計画発表当時の2008年は14万人だった留学生は、2017年時点で約24万人にまで増加している(日本学生支援機構調べ)。今後も留学生の増加が見込まれることから、JR東日本グループは旧社宅建物を用途変更してリノベーション、留学生等をターゲットとしたシェアハウスとして活用する。計画地は周辺に大学が多数立地している中央線沿線の東小金井。仮称を東小金井シェアハウスとして、2017年12月11日より、2018年春からの入居者の募集が始まっている。

同社はこれまでも旧社宅の機能及び価値の再生を図るリノベーション賃貸住宅等を展開しているが、今後は「提案型賃貸住宅」として、よりターゲットを絞った新しいタイプの賃貸住宅も展開していく。留学生支援をコンセプトとした今回のシェアハウスのほか「子育て支援」や「多世代交流」をコンセプトとした提案型賃貸住宅2物件も、入居者募集を開始している。

【画像1】東小金井シェアハウスの完成予定図(画像提供/JR東日本 生活サービス事業PR事務局)

【画像1】東小金井シェアハウスの完成予定図(画像提供/JR東日本 生活サービス事業PR事務局)

【画像2】東小金井シェアハウスの室内イメージ(画像提供/JR東日本 生活サービス事業PR事務局)

【画像2】東小金井シェアハウスの室内イメージ(画像提供/JR東日本 生活サービス事業PR事務局)

東小金井シェアハウスでは、1階に入居者の留学生及び日本人学生がパーティー等を通じて交流できるよう、キッチンやソファーを併設した「管理共用室」を設置する。各戸内の共有スペースとは別に大人数で集まれる場があることで、学生同士の交流を促す間取りとなっている。

JR東日本 生活サービス事業PR事務局によると「街や周辺地域にどのようなニーズがあるかを分析し、ターゲットとなる住人属性を想定して住人を絞り込むことにより、より住人のニーズにフィットした良質な賃貸住宅を提供できる」という考えが同社の提案型賃貸住宅展開のベースになっているとのこと。

同社は今後も居住者のニーズ分析の精度を上げ2026年度までに管理戸数3,000戸をめざしていくそうだ。

東京都内においても人口減少が続く今後、賃貸住宅には“選ばれる個性”が必要になってくる。沿線の住人属性を熟知しているJR東日本グループだからこそ可能な、街と人、そして住まいがリンクする提案型賃貸住宅に注目だ。

留学生向け 「東小金井シェアハウス(仮称)」詳細
[1]所在地:東京都小金井市梶野町一丁目1-32
[2]交通:JR中央線東小金井駅 徒歩8分
[3]敷地面積:約1,643m2
[4]延床面積:約1,078m2
[5]建物規模:鉄筋コンクリート造 3階建て
[6]戸数:シェアハウス70室
[7]事業主体:(株)ジェイアール東日本都市開発(運営:(株)ジェイ・エス・ビー)
[8]募集開始:2017年12月11日より(2018年春入居開始予定)子育て支援賃貸住宅 「びゅうリエット三鷹」詳細
[1]所在地:東京都三鷹市下連雀三丁目45-16
[2]交通:JR中央線三鷹駅 徒歩3分
[3]敷地面積:約793m2
[4]延床面積:約2,819m2
[5]建物規模:鉄筋コンクリート造 地下1階、地上9階建
[6]間取り・戸数:2LDK・18戸
[7]子育て支援施設:東京都認証保育園、病児保育室、児童発達支援デイサービス、一時保育室、親子広場
[8]事業主体:(株)ジェイアール東日本都市開発(子育て支援施設運営:(株)スリーホークス、(医)千実会)
[9]募集開始:2017年12月11日より子育て世帯優先受付開始(2018年春入居開始予定)多世代交流賃貸住宅 「びゅうリエット新川崎」
[1]所在地:神奈川県川崎市幸区北加瀬二丁目11-2
[2]交通:JR横須賀線新川崎駅 徒歩10分
[3]敷地面積:約11,600m2(全体)
[4]延床面積:約3,900m2
[5]建物規模:鉄筋コンクリート造 5階建
[6]間取り・戸数:1LDK~3LDK・60戸
[7]事業主体:(株)ジェイアール東日本都市開発
[8]募集開始:2017年12月11日より(2018年春入居開始予定)

「リノベ・オブ・ザ・イヤー2017」 13の受賞作品から見えた4つのトレンド

今年で5回目を迎える「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2017」の授賞式が2017年12月14日に開催され、「この1年を代表するリノベーション作品」が決定しました。住宅から商業施設までさまざまな作品はどれも、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれます。その最新傾向を探ってみました。
価値ある建物を残すこと。それがリノベの王道

リノベーション・オブ・ザ・イヤーとは、「リノベーションの楽しさ、魅力、可能性」を感じさせる事例作品を表彰する、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会主催のコンテスト。リノベーションとは、建物の性能を向上させたり、本来よりも価値を高めたりすることですが、「中古住宅を購入してリノベで自分らしい家に変えたい!」「魅力的なリノベ済み住宅が欲しい!」という施主の希望は年々高まり、多くのリノベーション住宅が登場しています。

今年はエントリー作品155のなかから、グランプリ1作品、部門別最優秀作品賞4作品、特別賞8作品が選ばれました。まず、グランプリと部門別最優秀作品賞の特徴を紹介します。「どれがグランプリに選ばれてもおかしくなかった」という審査委員評が上がったように、いずれもクオリティの高い作品が選ばれています。

●総合グランプリ
『扇状のモダニズム建築、桜川のランドマークへ』 株式会社アートアンドクラフト

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【画像1】阪神高速道の湾曲したフォルムに沿うように扇状にデザインされた外観が目を引くモダニズム建築。1、2階は店舗、3、4階はクリエイター向けのアトリエ兼住居に(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)

【画像1】阪神高速道の湾曲したフォルムに沿うように扇状にデザインされた外観が目を引くモダニズム建築。1、2階は店舗、3、4階はクリエイター向けのアトリエ兼住居に(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)

国が推奨する優良住宅として1958年に建築された「併存住宅」。長年、桜川のランドマーク的な建物として親しまれてきました。老朽化のため建て替えを検討されていましたが、プランナーの「長年、街の風景の一部となってきた建物は壊さず残したい」というあつい想いによってリノベーションで生まれ変わることに。

「建物への愛情やリスペクトを感じる事例」「価値あるものを残すことこそリノベーションの王道。それを卓越したリノベーションスキルで叶えている。老朽化した設備をよみがえらせる技術力、過剰にならないよう慎重に練られたデザイン力、個性的なテナントを選ぶマーケティング力などで、高いハードルをクリアした」と高評価。
◎エリア:大阪府、築年数:59年、延床面積:1128.57m2、費用:1億2550万円(税込)、対象物件:店舗・事務所・共同住宅

●部門別最優秀作品賞〈1000万円以上部門〉
『光、空気、気配、景色。すべてが一つにつながる − 代沢の家(YKK AP×HOWS Renovation×納谷建築設計事務所)』 YKKAP株式会社

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【画像2】隣地の緑を暮らしに取り込むように窓を配置。1、2階がつながり、風や光、家族の気配を伝えています。断熱性能を高めた家だから実現した広がりのある空間です(画像提供/YKKAP株式会社)

【画像2】隣地の緑を暮らしに取り込むように窓を配置。1、2階がつながり、風や光、家族の気配を伝えています。断熱性能を高めた家だから実現した広がりのある空間です(画像提供/YKKAP株式会社)

築30年でありながら、2020年に義務化される次世代省エネルギー基準を上回る断熱性を実現した家です。窓メーカーのYKK APがリビタのリノベーション事業「HOWS Renovation」とコラボレーション。高性能樹脂窓、高断熱材への入れ替えなどによって高い断熱性を確保し、省エネ設備や太陽光発電の設置によってゼロエネルギーハウス化も達成。開口部耐震フレームの採用や耐力壁の増加によって耐震性も高めています。

築年数のたった家でも工夫次第で新築以上の性能を得られることを実証しています。広い開口部は、日の光が入って明るく、開放的なので魅力がある反面、断熱性と耐震性にとってウィークポイントになりがちですが、開口部を残したまま性能を格段に高めている点で「リノベでここまでできる」と改めて気づかされます。

今後、中古住宅の性能面での向上のために、リノベーションが目指すべき指針的な作品とも言えるでしょう。
◎エリア:東京都、築年数:30年、施工面積:144.38m2、費用:3300万円(税込)、対象物件:一戸建て

●部門別最優秀作品賞〈1000万円未満部門〉
「マンションでスキップフロアを実現 ~上下階を利用したヴィンテージハウス~」 株式会社オクタ

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【画像3】スキップフロアはワークスペースと収納の2層構造。濃淡のあるウォールナットの床、白く塗ったアンティークブリックの壁など、施主の要望に応え切ったこだわりの内装です(画像提供/株式会社オクタ)

【画像3】スキップフロアはワークスペースと収納の2層構造。濃淡のあるウォールナットの床、白く塗ったアンティークブリックの壁など、施主の要望に応え切ったこだわりの内装です(画像提供/株式会社オクタ)

完成度の高いラフで無骨な内装に加えて、マンションではなかなか見ることのないスキップフロアの間取りに、「楽しくなる住まい。暮らしを楽しく変えるのはリノベの目的の一つで、リノベの使命を改めて感じさせる作品だった」と高い評価を受けました。

縦の広がりを活かしたプランは、広さの限られたマンションでの空間活用術として、今後広がっていくのではないかと思います。
◎エリア:東京都、築年数:41年、施工面積:36.31m2、費用:500万円(税込)、対象物件:マンション

●部門別最優秀作品賞〈500万円未満部門〉
「ツカズハナレズ」 株式会社シンプルハウス

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【画像4】上/子ども部屋の壁は天井下に隙間を設けて抜け感をつくり、圧迫感を排除。下/ヴィンテージ風塗装のパイン床と針葉樹の壁に、コンクリート表しにした天井で、無骨で個性ある空間に仕上がっています(画像提供/株式会社シンプルハウス)

【画像4】上/子ども部屋の壁は天井下に隙間を設けて抜け感をつくり、圧迫感を排除。下/ヴィンテージ風塗装のパイン床と針葉樹の壁に、コンクリート表しにした天井で、無骨で個性ある空間に仕上がっています(画像提供/株式会社シンプルハウス)

「子ども部屋をオープンにかつ間仕切りたい」という相反する要望に応え、リビングに隣接した2つの空間に扉を設けず、いつも家族がつながる間取りにしています。

リノベーションというと、リビングや水まわりがメインテーマになりがちですが、子ども部屋を中心に考えている点、家族の関係性がリノベーションで表現されている点が注目されました。また、約60m2のマンション全体を498万円で仕上げるのは難易度が高いと思われますが、そうした点も評価のポイントとなりました。
◎エリア:兵庫県、築年数:19年、施工面積:65.80m2、費用:498万円(税込)、対象物件:マンション

●部門別最優秀作品賞〈無差別級部門〉
「流通リノベとシニア団地」 株式会社タムタムデザイン

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【画像5】上/団地の1階とは思えない、おしゃれな内装のデイサービス。無垢材をふんだんに用いたぬくもりある施設に、利用者の方々は心和むのではないでしょうか。下/イートインできる惣菜店ではオーナーが健康相談も行っています(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

【画像5】上/団地の1階とは思えない、おしゃれな内装のデイサービス。無垢材をふんだんに用いたぬくもりある施設に、利用者の方々は心和むのではないでしょうか。下/イートインできる惣菜店ではオーナーが健康相談も行っています(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

UR団地の1階に入るデイサービス施設と惣菜店。元作業療法士であるオーナーがケアマネージャーとして立ち上げた施設と店舗です。惣菜店にはイートインと健康器具コーナーを併設し、健康相談やデイサービスへの入所案内も行っているそうで、地域住人が集う新たなコミュニティの場となっています。

さらに、このリノベーションに当たっては、商品として流通できない「林地残材」を施主が直接購入してリノベに活用するという、新たな木材の流通経路を開拓しています。

リノベーションを通じて、高齢化しつつある地域社会だけでなく、林業という地元産業をも元気にしていく取り組みがなされ、社会的課題の解決手法の有効な方法として大きな可能性を示しています。
◎エリア:福岡県、築年数:42年、施工面積:216.19m2、費用:3200万円(税込)、対象物件:店舗と福祉施設

リノベが毎日の満足度だけでなく、生き方をも変える

リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、住宅メディア関係者を中心に編成された選考委員によって「今一番話題性がある事例・世相を反映している事例は何か」という視点で選考されるため、年によって受賞作品の傾向がさまざまに変化します。昨年や一昨年は、「空き店舗を住宅として再生」「インバウンド向けの宿として活用」「DIYリノベ」「団地再生」「住宅の基本性能を格段に高めるリノベ」などが特に目立っていましたが、今年はどんな傾向があったのでしょうか。

グランプリ、部門別最優秀作品賞4作品のほかに、8作品が特別賞を受賞しています。今年の審査員特別賞には「超高性能エコリノベ賞」「公共空間活用リノベ賞」「グッドコンバージョン賞」などがあり、個々の受賞作品や部門名からも分かるとおり、リノベーションの領域は広く、果たす役割は多様であることを示しています。今年は特に次の4つのトレンドに注目しました。

(1)施主の「こんな暮らしがしたい!」というあつい想いに応える

「リノベーションを選ぶお施主さんは感度の高い人が多く、要望のレベルが年々高くなっている」という審査委員評があったように、今年は「こんな暮らしがしたい」といった、コンセプトが明確な施主が多かったように思います。つくり手は、施主の要望に正面から向き合い、形にしていく手腕が求められますが、見事に応えた作品が目立ちました。

【画像6】素敵ライフスタイル賞『てとてと食堂、はじめます。』(画像提供/株式会社リビタ)

【画像6】素敵ライフスタイル賞『てとてと食堂、はじめます。』(画像提供/株式会社リビタ)

『てとてと食堂、はじめます。』は、自宅マンションで料理教室や食事会を開催したいという施主の思いを叶えるべく、キッチンを中心にした住まいに。リノベーションが働き方まで変えてくれることを証明したような事例です。

【画像7】こだわり実現賞『アパレル夫妻の23年分の想い』(画像提供/株式会社ニューユニークス)

【画像7】こだわり実現賞『アパレル夫妻の23年分の想い』(画像提供/株式会社ニューユニークス)

『アパレル夫妻の23年分の想い』は、多趣味なご夫妻の「思い出の品や好きな物はいつも見ていたい」という想いを壁一面の棚で叶えました。色使いを含む高いデザイン力が発揮されています。

【画像8】グッドコンバージョン賞『銀行を住まいに コンバージョン』(画像提供/株式会社オレンジハウス)

【画像8】グッドコンバージョン賞『銀行を住まいに コンバージョン』(画像提供/株式会社オレンジハウス)

『銀行を住まいに コンバージョン』では、「合宿所のような家が欲しい、将来カフェを開きたい」という希望を叶えるべく、施主が選んだのは、銀行として使われた建物を転用すること。施主の自由な発想にきちんと向き合い、水まわりの配置を工夫するなど、オフィスビルを快適な住まいに変えるためのプランが練られました。

【画像9】コピーライティング賞『吾輩は猫のエドワードである。』(画像提供/株式会社スタイル工房)

【画像9】コピーライティング賞『吾輩は猫のエドワードである。』(画像提供/株式会社スタイル工房)

『吾輩は猫のエドワードである。』は、中古住宅を友人3人と猫5匹でシェアする家に改変。防音性能を高め、インテリアに溶け込むようなキャットウォーク、キャットタワーを設けるなど、人も猫も快適に暮らせる工夫が随所にあります。

(2)デザイン、性能…魅力度を増す「再販リノベ物件」

リノベーション物件には、建物の所有者(住人)の希望に応じて行うものだけでなく、「再販物件」というものがあります。リノベーション会社や不動産会社などが購入した中古住宅をリノベーションし、家の価値を高めて販売することです。そうした作品は住人の希望などの前提条件がないため、設計者の想いがこもった作品性の高い物件が見られました。

【画像10】ベストデザイン賞『100+∞(無限)』(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

【画像10】ベストデザイン賞『100+∞(無限)』(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

『100+∞(無限)』は、こんな住宅デザインが可能なんだと思わせる事例。アーチ型の袖壁が連続する美しいギャラリー的に使える場所は住む人の感性を豊かにしてくれそうです。

【画像11】優秀R5住宅(※)賞『サバービアンブームの夜明け』(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

【画像11】優秀R5住宅(※)賞『サバービアンブームの夜明け』(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

『サバービアンブームの夜明け』は、旗竿地、階段40段のアプローチなど制約の多い立地に対して、眺望を活かした約30畳の2階リビングなど魅力的なコンテンツをプラスしています。

※「R5住宅」とはリノベーション住宅推進協議会が定める品質基準に適合したリノベーション済み戸建住宅のことで、再販物件を安心して購入するための一つの指針となるもの

(3)住宅性能を高めることはリノベの使命

日本の家は冬寒いのが当たり前だった時代から大きく変わり、2020年に次世代省エネ基準が整備されるなど「家の中すべての空間が寒くない」という高い断熱性が求められています。家の中に寒い空間があるとヒートショックなど健康に悪影響を及ぼし、さらに暖房の熱源が多く必要なので地球温暖化の一因に。

そんな背景から、昨年に続き今年も性能エコリノベ事例『代沢の家』(前章参照)が部門別最優秀賞を受賞するなど、省エネ性能や断熱性能など居住性能を高めたリノベに注目が集まっています。ノミネート作品の性能レベルが年々アップしていると感じるとともに、築古の住宅でも快適に変えることが期待できると思いました。

【画像12】超高性能エコリノベ賞『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』(画像提供/YKK不動産株式会社)

【画像12】超高性能エコリノベ賞『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』(画像提供/YKK不動産株式会社)

『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』では、長年、社宅として使われた建物を減築し、断熱強化によって、世界で一番厳しいと言われる省エネ基準を実現させました。解体・新築の道を選ばず既存建物を残すこと自体もエコだと感じさせてくれます。

(4)人が集まる場所、人と人をつなぐ場所を生むのもリノベの力

ここ数年、空き家や空き店舗など、住みにくい・使いにくいとされてきた物件をリノベーションすることで、新たな価値を生んでいる事例が目立って増えてきたように思います。立地に合ったコンセプトの住宅に変えることで、街ににぎわいが増していくなど、地域社会にも多大な影響を及ぼしているのです。

今回、部門別最優秀賞を受賞した『流通リノベとシニア団地』(前章参照)でも取り上げましたが、空き店舗に団地住人のメイン世代である高齢者が必要とする施設、デイサービスやイートインの惣菜店を設けることで、団地に暮らす人々が自然と集う場所となりました。そうした人の流れを生み出していくのも、リノベーションの持つ力の一つです。

【画像13】公共空間活用リノベ賞『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』(画像提供/株式会社リビタ)

【画像13】公共空間活用リノベ賞『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』(画像提供/株式会社リビタ)

『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』は、隅田川畔に立つオフィスビルをホテルに転用した事例。水辺の活性化を目的とした東京都の「かわてらす」事業に採用され、河川敷地を誰でも使えるテラスとして整備。屋内にとどまらず、街との融合も図る仕組みが注目されました。

数々の事例を見ていくことが、リノベ実現のハードルを低くする

今年は初ノミネートや初受賞という会社が数社あり、リノベーションの広がりを感じました。受賞作品、ノミネート作品を見ていくと、多くのリノベーション会社が、施主の希望を叶えるプランニング力・デザイン力、住宅性能を改善する高い技術力を発揮していることが分かります。それは、住む人の暮らしをすてきに快適に変えてくれる力であり、社会の問題をうまく解決する力でもあります。そうした力は活かしてこそ。

今、「リノベーションをしたいと思っているけれど、どうしていいのか分からない」という人は意外と多いかもしれません。そんな場合は、気になる事例をじっくり見てみてください。具体的にどうしたいのか、どんな会社に依頼をすればよいのかがだんだん分かってくるのではないでしょうか。高い提案力をもつリノベ会社なら、漠然とした思いも具体化させてくれるはず。

リノベーション住宅推進協議会は「リノベーションEXPO」を毎年9月ごろから全国で開催しています(2017年は16会場で開催)。特に大阪会場では2日間で1万人を集めるほどの人気だったそう。ワークショップやセミナーなどもあり、気軽にリノベの知識を学べる場ともなっています。自分に合った依頼先が見つかるかもしれません。

【画像14】2018年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション住宅推進協議会)

【画像14】2018年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション住宅推進協議会)

毎年、授賞式を見てきましたが、今回一番感じたことは「人と人とのつながりが素晴らしいものを生む」ということ。リノベーションを依頼する側と提案する側、そうした人と人の出会いが「こんな暮らしがしたい」という思いを具体的な形に変えていく。どんな住まいにリノベするのかは機械的にポンと決められるものではない、住み手とつくり手の思いがこもった究極のオーダーメイドなのだとも感じました。

既存の建物や暮らしにまったく異なる価値をもたらすのがリノベーションの一番の醍醐味(だいごみ)。今回も、さまざまな制約のもと、自由な発想でリノベされた多彩な作品それぞれに、人を幸せにする「再生の物語」を垣間見ることができました。

●取材協力
・リノベーション住宅推進協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2017」

ユナイテッドアローズ、フルオーダーのマンションリノベーション事業に進出

リノベーションマンションは、オリジナリティの高いインテリアや間取りを好む人々からの人気が高い。ファッションの一環として自分らしい住まいを求めるトレンドを受けて、不動産業界とアパレル業界が本格的にコラボレーションした、フルオーダーのリノベーションサービス「Re : Apartment UNITED APROWS LTD.(リ アパートメント ユナイテッド アローズ ) 」誕生。2018年1月6日よりサービスがスタートする。リノベーション事業や不動産仲介・売買事業を手がけるグローバルベイス株式会社と、アパレルブランドを展開する株式会社ユナイテッドアローズがタッグを組んだ。グローバルベイスの担当者は、今回の取り組みは両業界にとって革新的だと言う。「これまで、アパレル企業の家具部門とリノベーション会社が協業して、リノベ-ション済み物件に家具を設置したりすることはありましたが、今回は住空間の一部ではなく、空間作りの全てのプロセスにユナイテッドアローズが参加した事例となり、この点が業界初となります。内装やオリジナル家具の制作等、ユナイテッドアローズのブランドの世界観が、スタイリッシュかつ快適に住空間に落とし込まれています」とのこと。

具体的には都心の優良中古マンションの調達と施工をグローバルベイスのリノベーションワンストップ事業「マイリノ」が行い、内装デザインから家具製作に至るまでのプロデュースをユナイテッドアローズが行う。オーダーの流れは、モデルルームを見ながら顧客のライフスタイルや趣向をヒアリングし、間取りや設備等をアレンジした物件プランを提供するもの。

注文までの詳しい手順は下記のとおり。
(1)グローバルベイスまで問い合わせ
(2)希望の住まいや予算などのヒアリングを実施
(3)物件選びから資金計画を行う
(4)リノベーションの段取りを提案
(5)リノベーションの施行(定期報告など諸事項あり)
(6)物件の引き取り

モデルルームの第一弾は東京都武蔵野市のビンテージマンションの一室。インテリアの詳細も公開されている。

【リビング】
ユナイテッドアローズのオリジナル家具を設置。ガラスとアイアンを組み合わせた扉や、部屋ごとに設置している演出照明、壁と同様のモルタルを使用したリビングテーブル、壁にユナイテッドアローズのセレクト塗装を施すなど、こだわりがつまった空間。

【画像1】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像1】画像提供/グローバルベイス株式会社

【書斎】
リビングの一角にガラス張りの書斎スペースを設置。ガラス材とアイアンをパーティションに使用したオリジナル建具を使用。

【画像2】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像2】画像提供/グローバルベイス株式会社

【キッチン・ダイニング】
アイランド型のオリジナルキッチンには、オープン・シェルフが備え付けられ、グラスなどをディスプレイ収納が可能。また、キッチンとダイニングテーブルの天板は同じ大理石素材で制作したものを使用し統一感を演出。壁面は、天然の石の六角モザイクタイル。一つ一つ風合いが異なるオリジナルタイルを使用。

【画像3】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像3】画像提供/グローバルベイス株式会社

【洗面室】
壁面タイルはキッチンスペースと同じ天然石六角モザイクタイルを、また洗面台はキッチン・ダイニングと同じ大理石の天板を採用。

【画像4】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像4】画像提供/グローバルベイス株式会社

【寝室】
ユナイテッドアローズならではのオリジナルの見せるウォークインクローゼット。ガラスとアイアンで造作し広々とした収納スペースに。

【画像5】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像5】画像提供/グローバルベイス株式会社

今後の展開として、2018年の2月と4月にApartment UNITED ARROWS LTD.モデルルームの第2弾と第3弾が完成する予定とのこと。アパレル業界とリノベーション業界がコラボレーションする個性的な住まいが、どのように広がっていくのかが注目される。

日当たりも体感!? 建てる前に家具配置できる、バーチャルモデルルームが登場

VR(仮想現実)と聞くと、とっさにゲーム関係のものだと想像してしまいがち。けれど、 アメリカのコンサルティング会社「IDC」の分析(※参照リンク)によると、VRとAR(拡張現実)の世界市場規模が2020年には1443億ドル(2017年12月現在、約16兆1507億円)に達する予測されている。これは実に、2015年から2020年の間で年平均198.0%の成長率なのだ。そんなVRはゲーム業界にとどまらず、既に様々な分野に進出してきている。日本の建築や住宅デザイン業界にも、VRを利用した新たなサービスがスタートしている。今回新たに販売されたのは、ゲーム開発会社の株式会社ヒストリア(東京都目黒区)が開発した、住宅やオフィスの販売促進用ソフトウェア バーチャルモデルルーム「Solid Vision」だ。

【画像1】画像提供/株式会社ヒストリア

【画像1】画像提供/株式会社ヒストリア

近年、建築のビジュアライズでもリアルタイムCGの技術が使用されるようになってきていたことに着目した株式会社ヒストリアは、長年ゲーム開発を行ってきたスタッフと建築業界出身のスタッフがタッグを組み、建築ビジュアライゼーションソフトウェア「Solid Vision」を開発。マンション・戸建て・オフィスなど、あらゆるタイプの物件の「完成後の姿」をコンピューター上でシミュレーションすることができるようになった。壁材、床材などのイメージを瞬時に交換できるだけではなく、家具を配置したレイアウト案も確認できる。

【画像2】画像提供/株式会社ヒストリア

【画像2】画像提供/株式会社ヒストリア

ヒストリアの担当者によると、新築マンションのモデルルームでの活用では、階数ごとに景観を変える等の眺望のシミュレーションに対応したり、日照シミュレーション機能を活用しバルコニーの日当たりも見せられるという。オフィス版では、40人想定のレイアウトや60人想定のレイアウト等、ニーズに応じたプランのシミュレーションも可能だ。

【画像3】画像提供/株式会社ヒストリア

【画像3】画像提供/株式会社ヒストリア

また、「Solid Vision」は、専用の機器を使用することで「Solid Vision VR」を体験することができる。ウォークスルー機能を使って、実際にその家やオフィスの動線確認や、実際にどういう見え方をするのか確認できるのだ。VR上でも壁材や床材のイメージを変更できるので、素早く様々な内装イメージを体験できるというメリットも。

しかも姿勢を低くすると、VR上の視界もその高さに変わるという機能が。ヒストリアの担当者は「しゃがんだ際には、子供の目線での高さの確認が可能です」と語っている。更に「家具を配置した時の生活導線や、実際の目線の高さで感じる圧迫感などを事前に体感することが出来ます」とのこと。

既に「Solid Vision」を導入している住宅販売会社は、販売中の分譲住宅や注文住宅のプレゼンテーションの際に活用しているという。その住宅販売会社から「今までは模型と予想図でしか伝えられなかった完成形を、バーチャルで体感できることで、成約のスピードを早められる」と好反応を得ている。

VRの市場成長とともに、これからは「建てる前にVRで確認」という時代になるかもしれない。

住人のニーズに寄りそう「団地特化型コンビニ」は普通の店舗とどう違う?

団地の活性化や住人の利便性向上のため、UR賃貸住宅を運営する都市再生機構が、2016年7月にコンビニ大手3社と、さらに2017年4月にもう1社と提携して、「団地特化型コンビニ」を展開する計画が発表されました。それを踏まえて今年4月、1号店「セブンイレブンJS美住(みすみ)一番街店」が東村山市に開店。新たなコンビニの登場によって住人の方々の暮らしに変化はあったのか、一般店舗とどう違うのか、オープンから半年たった現地を訪れて調べてみました。
団地内コンビニは “近くて便利”。特に高齢者の利便性がアップ

東京都東村山市にある西武新宿線・久米川駅から10分ほど西へ歩いたところに見えてくる、総戸数945戸のUR賃貸住宅「グリーンタウン美住一番街」。その棟内に「セブンイレブンJS美住一番街店」があります。

店舗面積は約132m2とやや小さめなサイズ。外観は一般的なセブンイレブンと変わりませんが、店内配置や品ぞろえを見ていくと、団地住人の方々に寄り添うような店舗づくりの特徴が見られます。どんな違いがあるのか、店長の金子興人(かねこ・きよと)さんに案内していただき、さらに、自治会会長の横山恭子(よこやま・きょうこ)さんに店舗利用についての思いを伺いました。

【画像1】左/外観からは一般的なコンビニとの違いはうかがえません。右/桜並木や植栽に彩られた「グリーンタウン美住一番街」。閑静な敷地内には西武鉄道の古い車両を再利用した「くめがわ電車図書館」も(写真撮影/金井直子)

【画像1】左/外観からは一般的なコンビニとの違いはうかがえません。右/桜並木や植栽に彩られた「グリーンタウン美住一番街」。閑静な敷地内には西武鉄道の古い車両を再利用した「くめがわ電車図書館」も(写真撮影/金井直子)

【画像2】「セブンイレブンJS美住一番街店」店長の金子興人さん(左)と「グリーンタウン美住一番街」自治会会長の横山恭子さん(右)。JS美住一番街店は自治会や住人の皆さんとのお付き合いを大切にしています(写真撮影/金井直子)

【画像2】「セブンイレブンJS美住一番街店」店長の金子興人さん(左)と「グリーンタウン美住一番街」自治会会長の横山恭子さん(右)。JS美住一番街店は自治会や住人の皆さんとのお付き合いを大切にしています(写真撮影/金井直子)

「まず店づくりに当たって約200世帯の住人の皆さんに、アンケートにご協力いただきました。どんな商品を置いてほしいのかという質問に対して、野菜や果物、日用品を充実させてほしいというご要望が特に多かったですね」と店長の金子さん。

下の写真にあるように食品など充実した品ぞろえで、離れた店舗へ出向くことが難しい高齢の方々や子育て中の世帯にとって、日々の買い物がしやすい環境となっています。まさに「近くて便利」というセブンイレブンのキャッチフレーズのとおり。

【画像3】野菜と果物は多いときで20種ほど並ぶことも。お惣菜、生鮮食品は一般のコンビニよりも充実しています。オリジナルブランドのセブンプレミアム商品も多種(写真提供/日本総合住生活)

【画像3】野菜と果物は多いときで20種ほど並ぶことも。お惣菜、生鮮食品は一般のコンビニよりも充実しています。オリジナルブランドのセブンプレミアム商品も多種(写真提供/日本総合住生活)

【画像4】他店では雑誌が置かれている入口近くには日用品がずらり。12ロールのトイレットペーパーや各種洗剤など、小さなスーパーマーケット並みの品ぞろえ。お米売り場も充実しています(写真撮影/金井直子)

【画像4】他店では雑誌が置かれている入口近くには日用品がずらり。12ロールのトイレットペーパーや各種洗剤など、小さなスーパーマーケット並みの品ぞろえ。お米売り場も充実しています(写真撮影/金井直子)

近年、団地住人の高齢化や“買い物難民化”というニュースを見聞きするようになりました。2015年の国勢調査によると、全国の65歳以上の割合は26.6%であるのに対して、UR賃貸住宅の住人では34.8%(2015年のUR賃貸住宅居住者定期調査)と、団地の高齢化が顕著となっています。

グリーンタウン美住一番街でも高齢化は例外ではなく、徒歩圏内にスーパーマーケットがあるとはいえ、重い荷物を歩いて持ち帰るのに苦労していた高齢の方も多かったそうです。そうした事情を配慮した結果が現在の品ぞろえにつながります。

自治会の横山恭子さんにお話を伺いました。
「お惣菜や食品は少量のものが多くて、私のようなシルバー世代にとって買いやすいですし、何よりおいしいですね。近いからすぐに来られてコンビニは冷蔵庫代わり。自宅に大量に買い置きしておかなくてもよくなった点が気に入っています。コンビニエンスストアって若い人向けのお店だと思っていて入りづらかったのですが、逆に、高齢者も利用しやすいお店だということを今では実感しています」

【画像5】車椅子でも通りやすいよう通路幅を広めに。ドリンク売り場は扉のないショーケースにして、車椅子の方や扉を開けるのが大変な高齢の方が、商品を手に取りやすいようにしています(写真撮影/金井直子)

【画像5】車椅子でも通りやすいよう通路幅を広めに。ドリンク売り場は扉のないショーケースにして、車椅子の方や扉を開けるのが大変な高齢の方が、商品を手に取りやすいようにしています(写真撮影/金井直子)

【画像6】車椅子でも入れるように段差がなく、手すりもついた広々トイレ(写真撮影/金井直子)

【画像6】車椅子でも入れるように段差がなく、手すりもついた広々トイレ(写真撮影/金井直子)

500円以上の注文なら家まで届けてくれる宅配サービスも

セブンイレブンには、お店に出向くことが難しい方にとってうれしいサービスがあります。宅配サービス「セブンミール」です。お弁当1個だけでも送料無料で自宅まで届けてくれるので、特に、足腰が弱った方や乳幼児を育児中の方、食の細い方、毎日の食事の準備が負担と感じている方などには利用価値が高いのではないでしょうか。

宅配の対象となるのは、栄養バランスを考慮した日替わりのお弁当・おかずセットをはじめ、セブンイレブンで販売している多くの食品や一部の日用品など。税込500円以上の注文で送料無料となります。配達時間は昼便と夜便のいずれかを選べて、1回だけなど単発の注文が可能です。

これは、「団地特化型コンビ二」独自のサービスというわけではなく、全国のセブンイレブンで提供されています(※注:一部地域は料金が異なります)。ネットスーパーや食材宅配のように、例えば「5000円以下の注文では送料350円がかかるからまとめ買いをする」といったような買い方ではなく、必要度や暮らしに合わせて、少量からフレキシブルに買える点が便利。筆者も、実家に暮らす親にお弁当や食品を届けるため、時々便利に利用しています。

店長の金子さんによると、現在の利用者数はそれほど多くはないとのこと。「団地以外も含めて7軒ほどのお宅にご利用いただいています。栄養バランスの良い夕食を取りたいという方が日替わりのお弁当をご注文されたり、お米やミネラルウォーターなどの重いもの、トイレットペーパーなどかさ張るものなどのご注文もよくいただきます」。便利なので、今後利用者がもっと増えるのではないかと感じました。

24時間営業だから便利。コンビニが団地の管理サービス窓口に

団地特化型コンビニが一般のコンビニと異なる最大の点は、団地内にある管理サービス事務所の仕事を一部代行していることです。

UR賃貸住宅には敷地内に管理サービス事務所があり、入退去の手続きや各種届出、修繕依頼の受付など、さまざまな入居者サービスを提供していますが、「セブンイレブンJS美住一番街店」はそのサービスの一部を受け持っています。

「URの管理サービス事務所は営業時間が団地の規模によって異なっていて、グリーンタウン美住一番街では、午前のみの営業となっています。そのため手続きに訪れる時間が限定されてしまうなど不便な面があります。特に集会場や来客用駐車場の使用時には、午後の遅い時間に使う場合でも、鍵の受け渡しのためだけに午前に事務所へ立ち寄る必要がありました。しかし現在は当店でも鍵を管理することになったので、ご都合の良い時間に鍵をお渡しできます」と金子さん。

「セブンイレブンJS美住一番街店」を運営しているのは、この団地の管理業務を受注している会社「日本総合住生活(JS)」。店名についている「JS」はその社名の略称です。団地の管理業務を行う会社がコンビニをフランチャイズ運営しているため、管理サービス事務所と連携が図りやすく、入居者サービスの向上が期待されます。

さらに、日本総合住生活(JS)が提供する生活サポートサービス「JSリリーフ」の入会・利用案内も行っています。入会金・年会費は無料で、ハウスクリーニング、家事代行、介助、防災・防犯サービス、小修理駆けつけサービスやリフォームサービス(UR賃貸住宅で可能な工事)、暮らしサポートなど、暮らし全般にかかわるサービスを会員価格で提供。サービスの実施はコンビニスタッフではなく、JSリリーフの専門スタッフが行います。何回でも無料の「終活電話相談」、年3回まで無料の「健康・医療」「法律」「相続」「パソコン操作」「年金・税金」「介護」「マタニティ・育児」「心の悩み」などの各種電話相談サービスもあり、暮らしを支える体制があります。

住人の横山さんは「電球交換、粗大ゴミ出しなど、自分で行うとなると危険なので、おまかせできると助かります。この団地は建て替えてから20年ほどになるので、今ちょうどあちこちにガタがきている状態です。電気設備の不具合や鍵の紛失など、1人で対処しきれない急な事態でも小修理駆けつけサービスがあったり、相談先が決まっていると安心ですね」

いつも身近で安心。地域活性化・防犯のよりどころとして

「団地特化型コンビニ」1号店のオープン前と後で、住人の皆さんの意識はどう変わったのでしょうか。

「団地の建て替え前、団地内には商店街(スーパー、鮮魚店、そば店、生花店など)があって、今よりもにぎやかだったんですよ。商店街では住人同士が自然と交流を持てるので、皆さん顔なじみばかり。暮らしに安心感がありました」と横山さん。

団地の建て替え後はコンビニ、青果店、薬局があったそうですが、商店経営者の高齢化などの影響で、青果店、薬局は相次いで閉店。頑張っていたコンビニは3年ほど前に閉店してしまい、クリーニング店を残して、団地内では買い物できる場所がなくなりました。

「夜までともっていたコンビニの明かりが消えて、寂しい場所になってしまいました。以前近くで強盗事件が発生したこともあって、夜歩くのは怖かったですよ。だからセブンイレブンのオープンは皆で大喜びしました。24時間開いていてくれるのはとても安心で便利です」(横山さん)

いつでも明かりがついて、必要なものを買いたいときや困ったときにいつでも駆けこめる場所があるのは、ここに暮らす方々にとっては大きな安心感につながります。

「気を使わずふらっと来られますし、誰かしら知った顔がお買い物をしています。子どもからお年寄りまで幅広い年齢層の人たちが利用していますね。お店のスタッフにはここに住んでいる人もいます。それに店長さんがとてもいい人で皆から人気がありますね」(横山さん)

「団地では自治会主催で7月の夏祭り、10月の団地祭りなど年に数回イベントを開催していますが、店長さんたちには、チラシの配布や模擬店の出店などにご協力いただいています。年々イベントを運営する人が減ってきていたのでとてもありがたいですね。近隣の子どもたちもたくさん集まってにぎやかでしたよ」(横山さん)

【画像7】住人の要望を受けて設けたテラス席。朝は散歩帰りの人、午前中はママ友グループ、昼はお仕事中の人がお弁当ランチ、夕方には小学生たちがゲームに熱中し、夏の夜には夕涼みなど、1日中さまざまな世代の人たちが利用しているそうです(写真撮影/金井直子)

【画像7】住人の要望を受けて設けたテラス席。朝は散歩帰りの人、午前中はママ友グループ、昼はお仕事中の人がお弁当ランチ、夕方には小学生たちがゲームに熱中し、夏の夜には夕涼みなど、1日中さまざまな世代の人たちが利用しているそうです(写真撮影/金井直子)

【画像8】「皆さんの暮らしの助けになるコンビニでありたい」と話す金子さん。右のお二人は1号店オープンに尽力された日本総合住生活(JS)の中村加津人さんと中原哲夫さん(写真撮影/金井直子)

【画像8】「皆さんの暮らしの助けになるコンビニでありたい」と話す金子さん。右のお二人は1号店オープンに尽力された日本総合住生活(JS)の中村加津人さんと中原哲夫さん(写真撮影/金井直子)

「グリーンタウン美住一番街」の建て替え前のように、高度経済成長期に建てられた団地には商店街が併設されているところがあり、かつてはにぎわいある場所でした。しかし現在は、大規模スーパーの出店による購買環境の変化や、商店経営者の高齢化などで徐々にその数を減らしているところが多いようです。そうした場所の再活用の一つとして、この「団地特化型コンビニ」には高い存在価値や期待感を感じます。

UR都市機構では今後、100団地ほどで団地特化型コンビニの展開を目指すとのこと。現在、セブンイレブンのほか、ローソン、ファミリーマート、ミニストップと提携しているので、団地ごとに特色の異なる店舗が誕生するかもしれません。

全国どこのお店も同じという画一的なイメージがあるコンビニですが、今後、近隣住人のニーズを把握し、利用者に寄り添った店づくりがより広まっていくのではないかと感じました。

●取材協力
・日本総合住生活株式会社
・UR都市機構(独立行政法人 都市再生機構)

駅より保育園・学童保育を重視!? リクルート2018年の住まいトレンドは「育住近接」

リクルートホールディングスが、恒例の「2018年のトレンド予測」を発表した。これは、「住まい・美容・人材派遣・飲食など8領域の新たな兆し」として、2018年のトレンド予測をキーワードで発表するもの。筆者専門の住まい領域のトレンド予測は、『職住』ならぬ「『育住』近接」。うーん、それほど新味がないかなと思ったのだが、どうやら単なる距離の問題ではないようだ。【今週の住活トピック】
「2018年のトレンド予測」を発表/リクルートホールディングス駅からの距離より、保育園や学童を重視する傾向が増えていく

マンションを購入する層で共働き世帯が増えているので、「駅からの距離」を重視する傾向はますます強まっている。リクルート住まいカンパニーの2016年の調査結果では、「駅からの距離」を重視する割合が過去最高だったという(画像1)。

一方で、「教育環境」を重視する傾向も強まっていて、こちらの割合も2016年で過去最高に達した。
以前取材した子育て世帯は、子どもが私立の小学校に合格したので、その小学校の近くで家を探したと言っていた。小学校への道のりの安全性も気になるようで、できるだけ短くしたいと考えたという。子育て世帯ならではの発想だ。

また、最近の待機児童問題は、保育園から学童保育へと広がっている。働くママにとって、子どもを預けることができる場所の確保は大きな問題だ。リクルート住まいカンパニーが子育て世帯に調査したところ、「保育園や学童保育が設置されているマンション」なら、駅からの距離は許容できるという回答は約35%あったという。

「通勤より子どもを預けられる場所のほうを優先」という子育て世帯が増えて、「育住近接」重視へということは、当然の流れだろう。ここまでの話なら、特に新しい兆しということでもないように思えたのだが、面白い事例が増えているというのだ。

【画像1】「2018年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

【画像1】「2018年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

近くにあるだけではなく、ハード+ソフトの両輪で子育て支援

そこで、新しい兆しが感じられるとして紹介された、いくつかの事例を見ていこう。

まず、「子育てママの助け合い」を促す賃貸の共同住宅の事例(へーベルメゾン母力)。中庭に子どもが遊べる場とそれを見守るママが集える「お母さんステーション」を設置し、各住戸から中庭に出入りしやすいように設計されている。入居には、住民憲章「子育てクレド」への賛同が前提で、先輩ママが定期訪問して相談にも応じてくれる仕組みを整えた。互いに助け合いができるハードとソフトを備えた、江戸時代の長屋のような住宅だ。

次に、分譲マンション内に施設として民間学童を誘致する事例(ザ・パークハウス国分寺四季の森)。預かるだけでなく、英語や音楽、芸術など豊富なプログラムで充実した学び・体験ができるようにしたもの。同じような事例として、UR賃貸の団地の敷地内に、多彩な学び・体験ができる民間学童を誘致したもの(東雲キャナルコートCODAN)もある。

顔見知り同士で子どもの送迎や託児の頼り合いができるネットの仕組み「子育てシェア」(有料、謝礼1時間当たり500円~700円)を導入した事例(イニシア大井町)もある。交流イベントなども開催し、顔見知りを増やす工夫もしている。こうした手法なら、既存の規模の小さいマンションでも実現可能だ。

いずれも、単に居住空間に子育て施設があるという利便性だけでなく、ママたちの精神的・時間的な負担も軽減し、豊かな子育てができるソフトを提供することが大きな特徴だ。

【画像2】「子育てママの助け合い」を促す賃貸の共同住宅の事例(写真提供/旭化成ホームズ株式会社)

【画像2】「子育てママの助け合い」を促す賃貸の共同住宅の事例(写真提供/旭化成ホームズ株式会社)

保育園不足が指摘されるなか、国土交通省と厚生労働省は、保育園不足が見込まれるエリアに大規模マンションを新築する場合は、保育施設などの設置をするように要請する通達を出した。今後は、マンションや団地内に子育て施設が併設される事例が増えると見込まれている。

ただし、子育て施設をつくるというだけでなく、子育て支援でどういった付加価値を備えていくか、ソフトの工夫も同時に求められる。

在宅勤務やテレワークの推進、高齢者の子育て参加など、社会は大きく変わりつつある。居住する人たちのライフスタイルやニーズに応じた、それぞれ独自の「育住近接」が実現されることに期待したい。

その他の領域については、次の通り。いずれも、「人生100年時代」「働き方改革」「役割と価値観の多面化」といった社会のメガトレンドを受けているといえるようだ。

【2018年のトレンド予測キーワード】
 ●「来るスマ美容師」(美容領域)
 ●「年功助力」(アルバイト・パート領域)
 ●「熟戦力」(人材派遣領域)
 ●「まなミドル」(社会人学習領域)
 ●「ボス充」(人材マネジメント領域)
 ●「ピット飲食」(飲食領域)
 ●「お見せ合い婚」(婚活領域)

郊外団地の手狭な間取りが大変身!? 2つの住戸をつなげるリノベプラン「ニコイチ」とは

郊外の古い団地をリノベーションで再生し、若い世代を呼び込もうとする動きがある。そんななか、大阪府堺市茶山台(ちゃやまだい)団地でユニークな団地が登場した。2戸をつなぎ合わせて1戸の住居にリノベーションした賃貸「ニコイチ」。デザイナーズマンションのような90m2の住戸が家賃約8万円とあって、昨年行われた募集ではなんと平均で定員の7倍の申込者があったという。
玄関やリビングがふたつある、斬新な住空間

茶山台団地は昭和40年代に建てられた総戸数941戸の団地だが、その中に「ニコイチ」住戸が誕生し、大人気を博している。
「ニコイチ」は単に専有面積が2倍に広がるだけでなく、間取りやデザインもこれまでの団地とは全く違う、斬新な住空間に変身させているのが特徴だ。
例えば2016年度の事例では、従来の45m2から2倍の90m2に広がった空間を大胆にV字に間仕切りしたり、土間風リビングを設けたり。何よりもともと2戸の住戸だった特徴を活かして、玄関やリビングがふたつある斬新な住空間を実現しているのが「ニコイチ」ならでは。いずれもこれまでの団地のイメージを一新する住まいだ。

この取り組みを手がけた大阪府住宅供給公社の川原光憲(かわはら・みつのり)さんは「少子高齢化により、茶山台団地のある泉北ニュータウンでも人口減が進み空き家問題が深刻化しています。そこで大阪府や堺市と連携し、泉北ニュータウン全体の再生を目指すなかで、外部から若いカップルやファミリーに移り住んでもらうのが重要だと考えました。しかし若い子育て世代にとって、茶山台団地の45m2の住戸はやはり手狭です。そこで2つの住戸をつなぎ合わせて大きな住戸にしようというアイデアが浮かび上がったんです」という。

V字型間仕切りや土間風リビングなど建築家が腕をふるった4プラン

“魅力的で新しい団地”を実現するために、リノベーションプラン(設計・施工)を外部へ求める方法を採用した。

「ふたつの隣り合う住戸をつなぎ合わせるため、二戸の間に共用の階段部分があり壁の一部が抜けないなど、どうしても間取りに制限がかかります。かえってそのことで建築家の方たちが腕をふるってくださり、非常に面白い発想が生まれました。入居者募集では若い世代を中心に応募が殺到し、昨年は平均の募集倍率7倍を記録する人気を得ました」(川原さん)
昨年は6住戸、4プランを募集した。その4プランを紹介しよう。

プラン1:バーチカルブラインドのある家

広げたり畳んだりできるバーチカルブラインド(※)で空間を仕切ったプラン。メインリビングとセカンドリビングがあるので、アイデア次第でさまざまな使い方ができる。
※縦に細長い帯状の布を並べてひもでつなぎ、窓の内側などに上からつるして日よけや目隠しにするブラインド

【画像1】バーチカルブラインドのある家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

【画像1】バーチカルブラインドのある家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

プラン2:ふたつのリビングを持つ贅沢な家

V字型の間仕切りが独創的な間取りで、土間空間のようなふたつのリビングを配置。

【画像2】ふたつのリビングを持つ贅沢な家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

【画像2】ふたつのリビングを持つ贅沢な家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

プラン3:ウッドバルコニーと機能的なキッチンスペースのある開放的な家

2戸をウッドバルコニーでつないでいる。土間空間にパントリーのあるキッチンも特徴。

【画像3】ウッドバルコニーと機能的なキッチンスペースのある開放的な家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

【画像3】ウッドバルコニーと機能的なキッチンスペースのある開放的な家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

プラン4:来客者も招きやすいおもてなし空間のある家

広々としたキッチンスペース、小上がりの和室などを配し、床は上質な吉野スギの無垢のフローリングを使用。階段室とホールをつなぐフリースペースがあり、ゲストを招きやすい。

【画像4】来客者も招きやすいおもてなし空間のある家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

【画像4】来客者も招きやすいおもてなし空間のある家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

半分は生活スペースに、半分はゆとりの空間に

今年、プラン1に入居した、ご夫婦ふたり暮らしのKさんに話を聞いた。

――応募の動機は何でしたか?

「団地に興味があり応募しました。以前、兵庫県の団地に住んでいたことがあったのですが、子どもから高齢者までさまざまな世代の人が仲良く、マンションより住民同士の距離が近い感じがしたので、そこが魅力でした」

――ニコイチの住み心地はどうですか?

「90m2と専有面積が広いのでとても快適です。一般的なマンションでは8万円の家賃でこんなに広い部屋は無理。郊外の団地なので駅から徒歩15分かかりますが、その点は特に気になりません」

――ふたつのリビングをどう利用していますか?

「半分を生活スペースに、半分はゆとりの部屋と考えています。今後、子どもができたら子ども部屋にしてもいいですし、趣味の部屋にしてもいい。使い方はこれから生活していくなかで決まっていくと思います」

――団地のコミュニティーが好きということでしたが、茶山台団地はどうですか?

「毎月住民が集まって団地について話し合う機会があり、若い人たちも参加しているのに驚きました。イベントもいろいろあるようなので楽しみです。やはりマンションよりも住民同士がつながりを大事にしている気がします」

来年1月に9プランの募集を開始。縁側付き、サンルーム付きなど遊び心いっぱい

少子高齢化や空き家問題など社会の課題にアプローチする視点から生まれたニコイチは、その取り組みが評価され、「2017年度グッドデザイン賞」を受賞した。
大阪府住宅供給公社では、今年度は茶山台団地(大阪府堺市)と香里三井C団地(大阪府寝屋川市)の2団地で、合わせて10住戸、9プランの入居者を2018年1月から募集する。
「サンルームがある家」「通り庭がある家」「ガレージがある家」など、それぞれ特徴が異なり、遊び心あふれるプランだ。

【画像5】サンルームがある家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

【画像5】サンルームがある家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

【画像6】ガレージがある家(画像提供/大阪府住宅供給公社)

【画像6】ガレージがある家(画像提供/大阪府住宅供給公社)


外観は昭和の面影が残る団地だが、中に入ればまるでデザイナーズマンションのような住空間。ほかでは出合うことができない個性的な間取りやデザインは、ふたつの住戸をつなぎ合わせたからこそ生まれたものだ。ふたつのリビングをどう使おうか、V字にカットされた空間にはどんなインテリアがいいか、などと考えるだけでわくわくする。それが家賃8万円なのだから、賃貸を考えるときの新しい選択肢になりそうだ。

●取材協力
・大阪府住宅供給公社 ニコイチ

エンジニアとライターの二足のわらじで働く自分が、ギークハウスを選んで良かったこと

人によってさまざまな形のある「暮らし方」。どうしてその暮らし方を選択したのか、実際満足できているのか?今回は、平日は都内の会社でエンジニアとして働きながら、副業で人気サイト「デイリーポータル Z」などでライターをされているmegayaさんに、最近引越して、暮らしているというシェアハウス「ギークハウス」での生活について語っていただきました。
日々の生活に刺激が欲しかったから「ギークハウス」へ引越した

本業でエンジニアとして働きながら、副業でライターをしているmegayaと申します。
仕事柄、パソコンさえあればどこでも仕事ができるので一人でいる時間が多く、一人でいるのは好き(特に漫画喫茶の狭い個室で自堕落に一人で過ごすのが大好き)なのですが、2カ月前に一人暮らしをしていた下赤塚から離れ、「ギークハウス」というシェアハウスに引越しました。

一人でいるのが好きなのに、なぜわざわざ他人と一緒に住むシェアハウスに引越したのかと言うと、20代後半になって生活に刺激がなくなり、毎日を無駄に過ごしているように感じたからです。神奈川県から都内に引越してきて4年近くがたち、徐々に何事にも「まあいいか」「しかたないか」と思うことが多くなっているように感じていました。今日頑張らなくてもいいか、疲れているから明日でもいいか、と毎日やるべきことを先延ばしにしていて、自分自身の中で何かを毎日あきらめて捨てているような感覚でした。

仕事もこなしているはいるものの、なんとなくやっているだけで、家でもあまり集中して作業ができず、だらだらと無駄に長い時間をかけて徹夜で作業をし、時間をただただ無駄に……。

そんな日々を変えたいという思いがあり、自分の生活習慣を変えざるを得ない状況を無理やりつくりだそうと思いました。そして、いろいろと調べて、考えた結果として、「ギークハウス」へ引越すことに決めました。一人でいるのは好きであるけれど、その時間を減らして他人と一緒に住む環境に自分の身を置けば、なんとなく過ごしている日々からも脱却できるのではないか、と考えたのです。

そもそも「ギークハウス」とは?

「ギークハウス」というものを全く知らない人も多いと思うので、簡単に紹介すると「エンジニアやクリエイターといった技術系の人たちのための住居」をコンセプトとして運営しているシェアハウスです。

【画像1】「ギークハウス」は、ネットやパソコンが好きなギークたちが集まるシェアハウス。画像はギークハウス入居者募集情報サイトのスクリーンショットより

【画像1】「ギークハウス」は、ネットやパソコンが好きなギークたちが集まるシェアハウス。画像はギークハウス入居者募集情報サイトのスクリーンショットより

僕が今いるギークハウスは「下宿方式」というもので、それぞれに個室の部屋があります。部屋を出た廊下には共有の冷蔵庫や洗濯機が置いてあり、トイレや風呂は共有。各部屋にはベッドや収納、作業ができるパソコン台が備え付けられているため、自分の家具は何も持っていなくても生活することができました。

【画像2】冷蔵庫や洗濯機は共有のものが備え付けられている(撮影/megaya)

【画像2】冷蔵庫や洗濯機は共有のものが備え付けられている(撮影/megaya)

ただ、自分の部屋があると言っても、もちろん壁を隔てた両隣には誰かがいて、当然多少の生活音は聞こえてくることがあります。そういった音は気になるのでは? と思う人もいると思いますが、ギークハウスにはエンジニアやクリエイターといった技術系の人たちが比較的多く住んでいて、黙々と作業する人が多いのか、意外と静かでした。隣の部屋に誰かがいるはずなのに気配がまったくしないので「本当に生きているのか?」と心配になるくらいです。

全国にさまざまなギークハウスがあり、それぞれが自由に運営しています。家賃は主要駅から近いにもかかわらず安い場合が多く、都心の主要駅まで徒歩10分以内でも、だいたい4万~10万円ほど。さらにインターネット環境がしっかりしており、家賃にそれらの料金も含まれているというのもうれしい点。僕が住んでいる場所も駅から徒歩5分以内で家賃は5万円。あと、ささいなことですが、家に誰かがいるのでAmazonなどのネット通販で頼んだものをほぼ必ず受け取ってもらえるという点も、個人的にはうれしいところです。

【画像3】大体家に誰かがいるので、荷物を代わりに受け取ってもらえるのがうれしい(撮影/megaya)

【画像3】大体家に誰かがいるので、荷物を代わりに受け取ってもらえるのがうれしい(撮影/megaya)

その他にも、ギークハウスでは作業をする人のために「作業部屋」が用意されていたり、他のギークハウスの人たちと交流するイベントがあったりするので、エンジニアなどのITにかかわる職種の人間にとっては住むメリットが多いのでは、と思っています。

引越した最大のメリットは「身軽に行動できる」ようになったこと

引越して良かった点としては、まず、家での作業に集中できるようになったのがかなり大きいと思います。

個人的に仕事をするときには、人がいる場所のほうが集中できるので、カフェなどに行くことが多いのですが(心理学でも「社会的促進」という言葉があり「他人がいることで課題などの成績が高まる」とされているそうです)、ギークハウスは人の気配を感じられるので、一人暮らししていたときよりも集中できる環境だと思っています。

もちろん、他人と住んでいるので冷蔵庫や洗濯機など共同で使わなければいけないものがあり、すべて自由に使うことができないというデメリットはあります。お風呂が入りたい時間に入れなかったり、タイミングによっては洗濯機がなかなか使えない場合もあったり……。ただ、これには個人的に良い面もあって、例えば、一人暮らしのときに「後でやろう」と思っていた雑事を、ギークハウスに住むうちに「やれるうちにやろう」というように考えるようになりました。僕は問題を後回しにしてしまう悪い癖があるのですが、そんな癖も生活環境の変化によって改善してきているように感じます。

ここまで聞くと「シェアハウスとそれほど変わらないのではないか?」と思う人もいるかもしれませんが、シェアハウスとの一番の違いは住む「テーマ」が決まっている部分だと思います。

通常のシェアハウスであると多種多様な人間が住んでいるかと思いますが、ギークハウスは、エンジニアやクリエイターといった技術系の人たちのための住居という軸があり、そのため住んでいる人間同士の最低限の安心感と信頼感がある気がします。「他人と一緒に住む」という環境の中で、同業種の人間が住んでいるという安心感はかなり大きいのではないでしょうか。

そして、住んでみて分かった自分にとっての最大のメリットは、身軽に生活ができるという点。
冒頭で書いたように僕はエンジニアという仕事のほかにライターもしており、土日はどこかに取材などに行くことが多く、家にいる時間は必然的に短くなります。だから、部屋は最小限で良いし、ものもほとんどいらない。そうなると今いるギークハウスは、洗濯機や風呂などの共同スペースの掃除も管理人がしてくれるし、家賃も安く、家具も常備されているのでかなり身軽なんです。
ギークハウスという家に住んでいるというより、ギークハウスという東京の拠点地があるようなイメージのほうが近いのかもしれないと思います。

身軽に暮らしたいエンジニアの方におすすめしたい

エンジニアがギークハウスに住むメリットはかなりあるのでは、と思います。似通った目的意識がある人同士が住んでいるので、安心感と信頼感はあり、また、他人がいる環境というのは、自分が怠けないように追い込む場所としても最適かもしれないと暮らしてみて思いました。僕はエンジニアとしてもライターとしてもまだまだなので、ギークハウスに住んで自分を追い込み、これらの仕事を両立させつつ、生活するサイクルをしばらく続けたいと思っています。

他人と一緒に住むのは向き不向きはあるので、もちろん万人におすすめというわけには行かないですが、黙々と作業するのが好きな人や、身軽なので出張などが多い人にも向いているかもしれません。

リノベや畑、餅つきも! 注目の若手大家さんが活躍する賃貸物件 マンション編

自分の住んでいる賃貸の大家さんの顔って知っていますか? 管理には別の会社が入っていることが多いので、なかなか大家さん本人と知り合う機会は少ないですよね。でも実は、全国各地に“思い”をもって大家業をやっている方々がいるのです。今回は若い世代の大家さんが中心になって管理する、すてきな賃貸マンションをご紹介します。
ユニークな賃貸物件をプロデュース 若者大家さんのニューウェーブ

賃貸の部屋を借りるということは、マンションというコミュニティの一員になることでもあります。そして大家さんこそ、その建物の持ち主であり、住人たちのつながりの中心にいる存在なのです。管理会社に委託するか、自身で管理するかは大家さんによって違いますが、住人が心地よく暮らせるように、日々メンテナンスに気を配ってくれています。

一般的にはそんな“縁の下の力持ち”的な存在の大家さんですが、近ごろは住環境を整える以上のユニークな活動を行い、新しいセンスで大家業を営む人が増えています。そんな“大家さんのニューウェーブ”として、今回は千葉の「あかぎハイツ」、そして神奈川の「パークハイム渋谷」の大家さんを取材しました。

千葉県の稔台にある、レトロかわいいマンションの大家さん一家

千葉県松戸市にある「あかぎハイツ」の大家さんは、一家で大家業を営まれています。物件は新京成電鉄みのり台駅から徒歩5分。築43年、茶色と白のツートンカラーがレトロかわいいマンションです。その外観に似合うように整えられたエントランスの植栽など、端々にセンスの良さを感じさせます。

社長の博信さんは先代が「あかぎハイツ」を建てたときから、このマンションに住んでいます。3代目にあたる千鶴さん芳博さんは、ここで生まれ育っているのだそう。現在は、お父さんが社長業と修理やお掃除、お姉さんは事務、弟さんがリノベーション、お嫁さんは広報と、役割分担しながら、一家全員住み込みで管理をしています。

【画像1】昔は1階でお父さんの博信さんがスーパーを経営していたそう。今はおしゃれな本屋さんや、アンティークショップ、レトロなスナックがテナントとして入っています(写真撮影/蜂谷智子)

【画像1】昔は1階でお父さんの博信さんがスーパーを経営していたそう。今はおしゃれな本屋さんや、アンティークショップ、レトロなスナックがテナントとして入っています(写真撮影/蜂谷智子)

【画像2】左からお姉さんの千鶴さん、お父さんの博信さん、弟の芳博さん、お嫁さんの真樹子さん。一家で大家業を営んでいます(写真撮影/蜂谷智子)

【画像2】左からお姉さんの千鶴さん、お父さんの博信さん、弟の芳博さん、お嫁さんの真樹子さん。一家で大家業を営んでいます(写真撮影/蜂谷智子)

大家の息子が勝手に始めた⁉︎ セルフリノベーションが、物件の魅力に

なかでも長男の芳博さんはDIYの達人で、自らリノベーションした部屋が評判を呼んでいます。

「以前から空室を自分でリノベーションしてみたいと思っていたのですが、施工の経験がありませんでした。そこでまずは始めてみようと、オーナーである父には内緒で、自室のリノベーションをしてしまったのです。やってみたらうまくできて、空室だったほかの部屋もリノベーションすることにしました」(芳博さん)

お父さんの博信さんは、初めは自室を勝手にセルフリノベーションしたことに対して「何ということをしてくれたんだ!」と、怒り心頭だったそう。ところが芳博さんがリノベーションを手がけた空き部屋に、すぐに入居者が決まったことで考えを改めたといいます。

しかも芳博さんがリノベーションした部屋は、入居者の満足度が高いのも特徴。「大家さん自らリノベーションしてくれた部屋が、自分好みでうれしい!」(30代・夫婦)「住み手の意見をとり入れながら手直ししてくれるので、心地よく暮らせる」(40代・女性)など、評判は上々です。

「大家が自分でリノベーションすれば、入居者のニーズに柔軟に対応できますし、費用も抑えられます。それは賃料にも反映されるので、手ごろな価格で心地よく住めるようになり、賃貸で入居する人にもプラスだと分かったのです。結果的にフリーランスのデザイナーやアーティストなど、今までにない層の人が入居してくれるようになりました」(博信さん)

【画像3】芳博さんが最初にリノベーションした自室。カフェのような内装がすてき。デザインのアドバイスは妻の真樹子さん(写真撮影/蜂谷智子)

【画像3】芳博さんが最初にリノベーションした自室。カフェのような内装がすてき。デザインのアドバイスは妻の真樹子さん(写真撮影/蜂谷智子)

リノベのネクストステップは、ほっこりとした地域コミュニティづくり

リノベーションした部屋がいくつかの媒体で取り上げられるようになり、有名な賃貸物件になった「あかぎハイツ」。ところがすでに芳博さんは「リノベーションでアピールするフェーズは終わった」と考えているそう。これから大家さん一家が取り組んでいきたいのは、住人が長く住みたくなるような“つながりづくり”だと言います。

「毎年マーケットや花火見物、そして餅つきなどをやっています。またエントランスに季節感を出すようなアレンジも、工夫しています。基本は日々を大切にして、たまに自分たちが好きなことを、無理のない範囲でイベントにする。それを住人の方や地域の方が楽しんでくれたらよいですね」(赤城家のみなさん)

「あかぎハイツ」は大家さん家族が醸し出すハーモニーが、そのまま物件の魅力となっています。まるで大きなサザエさんの家のようで、エントランスに入った瞬間にホッとしそうなマンションです。

【画像4】お父さんの博信さんがお餅好きなこともあって、毎年開かれる餅つき大会。「人はおいしい食べ物があればつながれる」と博信さん。1階でスーパーを経営していたときからのポリシーかもしれません(画像提供/赤城真樹子さん)

【画像4】お父さんの博信さんがお餅好きなこともあって、毎年開かれる餅つき大会。「人はおいしい食べ物があればつながれる」と博信さん。1階でスーパーを経営していたときからのポリシーかもしれません(画像提供/赤城真樹子さん)

【画像5】1階にテナントに入っている、smokebooksは清澄白河にもお店があるおしゃれな本屋さん(画像提供/赤城真樹子さん)

【画像5】1階にテナントに入っている、smokebooksは清澄白河にもお店があるおしゃれな本屋さん(画像提供/赤城真樹子さん)

きっかけは東日本大震災――脱サラで2代目大家さんになった兄弟

神奈川県相模大野駅から徒歩2分の「パークハイム渋谷」は、児童公園の脇にあります。築23年、駅近の近代的なマンションといった風情です。ここに、ユニークな兄弟大家さんが住んでいます。それが渋谷洋平さん・純平さん兄弟。お父さんの仕事を継いで大家さんになる前は、ふたりとも会社勤めをしていました。

「大きな転機は東日本大震災です。当時は印刷会社の会社員だったのですが、震災当日に家に帰れなかったのです。家族が不安なときに一緒にいてあげられないことに疑問を感じて、働き方を変えようと思いました。そこで家業の大家を継ぐことに心を決めたのです。賃貸物件を暮らしのより良い舞台とするために開催されている『大家の学校』の存在を知り、その主催者の青木純さんに出会ったことから、“大家業”に新鮮な可能性を感じたことも理由のひとつです。このマンションを起点に新しい暮らし方や働き方を提案してみたいと思いました」(洋平さん)

大家業を継ぐにあたって、洋平さんは弟の純平さんを誘いました。飲食業界で働き、かねてから自然と共存する暮らしや地域活動に興味があった純平さんは、心強いパートナーになると考えたのです。こうして兄弟大家さんが誕生しました。

【画像6】商業施設が充実した相模大野駅から徒歩2分。隣に児童公園がある、立地に恵まれたマンションです(写真撮影/蜂谷智子)

【画像6】商業施設が充実した相模大野駅から徒歩2分。隣に児童公園がある、立地に恵まれたマンションです(写真撮影/蜂谷智子)

【画像7】左から渋谷純平さん(弟)渋谷洋平さん(兄)。4歳違いの兄弟で協力して大家業を営んでいます(写真撮影/蜂谷智子)

【画像7】左から渋谷純平さん(弟)渋谷洋平さん(兄)。4歳違いの兄弟で協力して大家業を営んでいます(写真撮影/蜂谷智子)

“顔が見える大家さん”がいることが、住人の安心感に

兄弟それぞれに家庭を持ち、自分たちが管理する「パークハイム渋谷」に住んでいます。大家業を継ぐなら、そこに住んだほうがよいとアドバイスしたのは、お父さんの三吉(さんきち)さん。洋平さん純平さん兄弟の所属する有限会社ミフミの社長です。

「掃除をするときなど、住人の方に出会ったらなるべく顔を見て挨拶するようにしています。また日ごろのメンテナンスの活動とは別に、リノベーションのワークショップを行うなど、新しい試みもしています」(純平さん)

リノベーションのワークショップは床貼りをテーマに、「大家さんと一緒につくろう。住まいを楽しむはじめの一歩」と銘打って、「パークハイム渋谷」の空室で行われました。住人だけでなく一般からも参加者を募り、ワークショップは盛況。でも洋平さんいわく、当初はふたりとも「大家として顔が知られることが、批判やクレームにつながるのではないか」という怖さもあったそう。

しかし、兄弟の心配は杞憂(きゆう)でした。住人のコメントを聞くと、「インターホンの調子が悪いとき、速やかに対応してくださいました」(19歳・女性)「近からず、遠からず笑顔で接してくださる大家さんです」(70代・女性)「同じマンションに大家さんが住んでいるので、食べ物のおすそ分けをするなど、交流があります。大規模マンションと違って、大家さんの顔が見えるのがうれしいです」(60代・男性)など、大家さんとつながりがあることが、安心感になっているのです。

【画像8】KUMIKI PROJECT株式会社とコラボレーションして行ったワークショップの風景(画像提供/渋谷純平さん)

【画像8】KUMIKI PROJECT株式会社とコラボレーションして行ったワークショップの風景(画像提供/渋谷純平さん)

都会と郊外の良さをミックスした、相模大野らしい暮らしを提案

渋谷さん兄弟は今、新しい暮らし方を提案するための、新たなプロジェクトを計画しています。それが、畑の活用。「パークハイム渋谷」の近くにある実家所有の畑を、地域の人やマンションの住人との交流の場にしようとしているのです。

取材時には、相模女子大学で教鞭(きょうべん)を取る依田真美(よだ まみ)さんや、ポートランドで農と食のガイドをしている篠原杏子(しのはら きょうこ)さんも視察に来ていました。依田さんによれば、渋谷さんの畑のような“都会のなかの田舎”的な場所には、日常に豊かさを生み出す可能性があるとのこと。指導をする学生たちとこの畑を耕し「手を使ってつくる」経験をシェアすることを、考えているそうです。

「僕たちは都会の要素もありながら、豊かな自然が残っている相模大野が大好きなのです。依田先生にもご協力いただきながら、この畑を利用して地域の良さを残す活動をしたいと考えています。それが地域一帯の価値につながり、ひいてはマンションの価値にもつながっていけばうれしいですね」(純平さん)

渋谷さんたちの新しい活動に関しては、まずは地域の大学などと連携して行う予定。住人には活動をお知らせしつつ、気が向いたときに参加してもらうスタンスです。程よい距離を保ちながら心地よい暮らしを提案していくのが、渋谷兄弟のスタイルのようです。

【画像9】渋谷さんの実家所有の畑にて、渋谷さん一家と、相模女子大学准教授の依田真美さん(右から2人目)、農と食のガイドである篠原杏子さん(左から1人目)(写真撮影/蜂谷智子)

【画像9】渋谷さんの実家所有の畑にて、渋谷さん一家と、相模女子大学准教授の依田真美さん(右から2人目)、農と食のガイドである篠原杏子さん(左から1人目)(写真撮影/蜂谷智子)

【画像10】なんと実家ではヤギも飼っている。雑草を食べてくれるヤギのイチロウは大人しい性格(写真撮影/蜂谷智子)

【画像10】なんと実家ではヤギも飼っている。雑草を食べてくれるヤギのイチロウは大人しい性格(写真撮影/蜂谷智子)

今回紹介した物件は、どちらも大家さんが同じマンションに居住していました。だからこそ、自分自身の暮らしをつくることの延長線上で、さまざまなアイデアが湧いてくるのでしょう。

個性的な大家さんと同じ屋根の下に住まう物件なら、マンションに帰ったときに大家族の一員のような感覚になれそうです。これから賃貸で部屋を探すときは、部屋のスペックだけでなく大家さんの個性にも、注目してみてはどうでしょうか。もしかしたら、新しいライフスタイルを得られるような、楽しい賃貸物件に出合えるかもしれません。

●取材協力
・あかぎハイツ
・パークハイム渋谷

部屋の間取りや家具にも変化が起こる!? 専門家に聞いた“テレワーク”の可能性

情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間を有効活用できる柔軟な働き方「テレワーク」への関心が高まっています。2020年の東京オリンピック開会式の日にちなみ、今年7月24日には在宅勤務やモバイルワークなどの「テレワーク」を推奨する「テレワーク・デイ」が実施され、全国の922の企業や自治体がテレワークに取り組みました。なぜ今改めてテレワークが注目されているのか、今回はテレワークの専門家として、講演や講義も数多く行う株式会社テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利さんにお話を伺いました。
もはや“特例”ではない! テレワークが広がる理由とは……

経済産業省や総務省、厚生労働省、国土交通省、内閣官房、内閣府が主体となり、今年から始まった「テレワーク・デイ」。IT・情報通信業だけでなく、サービス、製造などさまざまな企業や団体が参加しました。労働力人口の減少でどの企業も慢性的な人手不足に悩むなか、在宅でも仕事ができるテレワークへの関心が高まっているようです。

「今後さらに高齢化が加速し、親の介護で出社が難しくなる人もますます増えていくでしょう。テレワークというと、育児中のママやパパのための制度と考える人もいるかと思いますが、“期間限定”である育児に対して介護はいつまで続くか分かりません。誰にとってもひとごとではないと思います。
また、育児や介護に関係なく、テレワークによって出社にかかる時間のロスがなくなれば、できた時間を有効に活用することもできます。昨今終身雇用制度が揺らぐなか、個人のスキルアップのために勉強したり、副業をしたりするための時間を確保したいと考える人にとってもメリットは大きいのではないでしょうか。テレワークは何か特別な事情がある人のためのものではなく、みんなが自分の働き方を考える上で大切な制度なのではないかと思います」(田澤さん、以下同)

住まいから家の間取りまで!? テレワークで変わるのは働き方だけではない

また、テレワークが多くの人に浸透すれば “働き方”だけではなく、“住まい”にも大きな変化をもたらす可能性があるといいます。

「これまでの家探しは、通勤の利便性が重要な条件の一つでしたが、毎日会社に通う必要がなくなれば、住む場所の選択肢も広がります。『地方に住む』という発想も出てくると、都心に集中している人口も分散し、地方創生や待機児童解消にもつながります。パートナーの転勤によってどちらかが仕事を辞めざるを得ない状況になったり、単身赴任で家族がバラバラになったり……という状況も変わってくるかもしれません」

さらに、細かいところでは「部屋の間取り」や「家具の選び方」などにも影響があるのでは、と田澤さん。

「例えば、家族がいると自分だけの書斎を持つことはなかなか難しいと思いますが、テレワークが普及すれば狭くても仕事部屋として簡易的な書斎を家に設ける人が増えてくるかもしれません。また、リビングで作業する人に向けて、リビングに置いても違和感のないオフィスチェアなど、新しい家具が生まれる可能性だってある。椅子一つから住む場所まで、テレワークによってさまざまな変化が起きることが考えられます」

ICT技術の活用によって、テレワークならではの課題も解決

自身も20年近くテレワークをしてきたという田澤さん。代表を務める株式会社テレワークマネジメントでは、社員がオンラインチャットやテレビ会議などのICTツールを活用し、自分のライフスタイルに合わせたテレワークを実践しています。

【画像1】東京のオフィスにあるテレビ会議で、北海道のオフィスや奈良のテレワークセンターの様子を確認する田澤さん(左) (撮影/周東淑子)

【画像1】東京のオフィスにあるテレビ会議で、北海道のオフィスや奈良のテレワークセンターの様子を確認する田澤さん(左) (撮影/周東淑子)

今回のテレワーク・デイ参加者からは「職場とのコミュニケーションが難しい」「自宅での業務効率が落ちた」などの声も一部寄せられましたが、これらの課題に対して同社ではICTツールを活用し、解決を図っているそうです。

【画像2】色が付いた〇は“着席中”の社員を表し、実際は別の場所にいても、すぐにチャットや音声で連絡がとれる(テレワークマネジメント提供)

【画像2】色が付いた〇は“着席中”の社員を表し、実際は別の場所にいても、すぐにチャットや音声で連絡がとれる(テレワークマネジメント提供)

「例えば、うちでは職場でのコミュニケーションを円滑にするため、ウェブ上に“バーチャルなオフィス”を設けています。これで在宅勤務している人、各地のオフィスで働いている人の状況が一目で分かる。出勤している人をクリックすればチャットや音声で話しかけられるので、実際の職場にいるのと変わらず、コミュニケーションを取ることができます」

【画像3】タイムカードは「出勤/退勤」ではなく、「着席/退席」で管理。着席中はPCの作業画面が記録されるため「『着席』を押すと気持ちがピシッとします」との声も(テレワークマネジメント提供)

【画像3】タイムカードは「出勤/退勤」ではなく、「着席/退席」で管理。着席中はPCの作業画面が記録されるため「『着席』を押すと気持ちがピシッとします」との声も(テレワークマネジメント提供)

また、勤務状況はタイムカードで管理。席について作業を始める際に『着席』ボタン、仕事を中断するときや終業時に『退席』ボタンを押すことで、実質労働時間が分かるといいます。ちなみに、『着席』中は、PCの画面のキャプチャがランダムに記録されるため、作業の内容を把握することもできるといいます。

「われわれは『働いた時間はきちんと計りましょう』というスタンスで、所定労働時間はしっかり働いてもらうことを目標としています。『出社/退社』ではなく、『出席/退席』にすれば、少しお昼寝をしたいときや、子どものお迎えがあるときは『退席』を押すことで時間を管理できる。もし定時になって時間が足りなければ『子どもが寝てから1時間やります』ということも可能です。きちんと時間を管理すれば、みんな時間を意識した働き方ができるようになり、生産性も上がります」

今後ICTツールがさらに進化することにより、導入があまり進んでいない業界などにもテレワークが普及する可能性は十分にある、と田澤さん。

「人材不足は全ての業界に通じる問題ですので、企業には『今できない』ではなくて、『将来できるようにしよう』というビジョンが求められていくのだと思います」

働く人の暮らし方や生き方だけではなく、企業の人材不足や効率化などの課題を解決することにもなりうるテレワーク。東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年には、テレワークによって住まいや職場の様相はがらりと変わっているのかもしれません。

●取材協力
テレワークマネジメント

「街の達人」地理人に聞いた! 引越し先に悩むSUUMO編集部員が住む街は?

空想だけで一つの都市をつくり上げ、それを超リアルな地図に落とし込む人がいる。“地理人(ちりじん)”こと今和泉隆行(いまいずみ・たかゆき)さんだ。実際にはどこにも存在しない、でも、どこかにありそうな空想都市「中村市(なごむるし)」。その極めて精巧な地図をつくり上げることに情熱を注いでいる。
ベースには、全国津々浦々の土地を自らの足で歩き通し、実際に見聞きしてきた「街」についての膨大な知見がある。そのため、引越し先についてアドバイスを求められることも多いそうだ。
そこで、街選びに悩むSUUMO編集部員が今和泉さんを直撃。ズバリ、「どこに住めばいいか」聞いてみた。

落書きの延長から始まった、超リアルな空想地図

まずは、今和泉さんの空想都市「中村市」の地図をご覧いただこう。

【画像1】そこに暮らす人々の生活の匂いが感じられるような、中村市の地図。現在も街は成長過程にあるという(画像提供/地理人)

【画像1】そこに暮らす人々の生活の匂いが感じられるような、中村市の地図。現在も街は成長過程にあるという(画像提供/地理人)

【画像2】自宅には壁一面を覆い尽くすほどの紙の地図もあった。手前の掃除機と比較すると、その巨大さがよく分かる(撮影/榎並紀行)

【画像2】自宅には壁一面を覆い尽くすほどの紙の地図もあった。手前の掃除機と比較すると、その巨大さがよくわかる(撮影/榎並紀行)

今和泉さんが、空想地図を描きはじめたのは7歳のころ。当初は「落書きの延長だった」と振り返るが、現在まで25年余の歳月をかけ制作しているその地図は、本物の都市と見紛うばかりだ。現在は、ドラマや番組の小道具として架空の地図を制作するほか、国内最大手の地図情報会社ゼンリンのアドバイザーをしていたこともある。

【画像3】地理人こと今和泉さん(撮影/榎並紀行)

【画像3】地理人こと今和泉さん(撮影/榎並紀行)

今和泉さんが描く空想地図の凄さは、地図の元になる空想土地の歴史やバックグラウンドまでしっかり想像して創られているところ。例えば、中村市の場合は

今和泉さん「中村市は、(空想都市における)首都『西京』の南30kmほどに位置する、人口156万人の都市です。もともと街道の分岐点だったこともあって、人が集まる土地でした。100年以上前には、城が建てられてにぎわいをみせました。川沿いで肥沃な土があり、農業従事者の割合も多かったのですが、首都近郊では珍しい平地が広がっていたころから製造業の工場が進出。それにともない1970年代ごろからニュータウンがつくられ、人口と住宅が増えていきました。製造業で栄えた街ですが、最近は企業の伸び悩みから税収もダウン。産業誘致を頑張っていますが、税収的にはかなりひっ迫していますね」

……という具合。思わず「ありそう!」と声を上げてしまいたくなるほど、緻密に設計されている。都市の規模としては「さいたま市の大宮(埼玉県)とか千葉市(千葉県)っぽい感じ」。

【画像4】空想は留まることを知らず、中村市の不動産チラシまで作成。書体やレイアウトなど、よくある不動産チラシのデザインを踏襲している(撮影/榎並紀行)

【画像4】空想は留まることを知らず、中村市の不動産チラシまで作成。書体やレイアウトなど、伝統的な不動産チラシのデザインを踏襲している(撮影/榎並紀行)

都市計画の知識はもちろん、経済学、社会学、地形、歴史、さまざまな分野をかじり、細部まで練られた「街づくり」が行われているようだ。今和泉さんは「中村市は決して理想の街ではなく、自分が住みたい街というわけでもない」という。「あくまで平均的な大都市です」という中村市に対する冷静な距離感が、絶妙なリアリティを生んでいるのだろう。

今和泉さん「ただの草むらだったところでも、たまたま人の往来が多いところが道になり、その先に重要な目的地があれば街道になり、街ができることもある。土地を開発したほうが嬉しい、あるいは利する人々と、開発しないほうが良い人々といる。色んな思惑が絡み合った結果、絶妙な現実ができあがるんですよ」

【画像5】こちらは中村市の家賃相場。中心部の中村駅周辺でも6.2万円と、相場感も何となく大宮っぽい(撮影/榎並紀行)

【画像5】こちらは中村市の家賃相場。中心部の中村駅周辺でも6.2万円と、相場感も何となく大宮っぽい(撮影/榎並紀行)

なお、現在は中村市を拡張させつつ、首都である「西京」の地図づくりにも着手しているそうだ。

【画像6】空想都市の都心部にあたる西京市。まだ下書き段階だが、今和泉さんの脳内では着々と街づくりが進んでいる(撮影/榎並紀行)

【画像6】空想都市の都心部にあたる西京市。まだ下書き段階だが、今和泉さんの脳内では着々と街づくりが進んでいる(撮影/榎並紀行)

SUUMO編集部員はどこに住むべき? 地理人の街選びアドバイス

今和泉さんはこれまで日本各地のさまざまな街を訪れ、細部に至るまでその特色をインプットし、空気感を肌で感じ、地図づくりに活かしてきた。そのため、各地の長所・短所、どんな人にとって住みやすいかといった分析力・考察力はプロ顔負けだ。

今和泉さん「引越し先についての相談を受けることもあるのですが、その度に感じるのは街の選択肢を狭めている方が多いなあと。人気であるとか、今まで住んだことがある沿線とか、職場の人にすすめられたとか、そこで出てきた二、三の街から選んでしまうのはもったいないですよね」

そこで、今まさに引越しを検討しているSUUMO編集部2名が現実世界でどのような場所に住むべきか、今和泉さんに導き出してもらった。

まずは、編集O(男性)。SUUMOの編集部員でありながら引越し経験がないという26歳だ。現在は実家の板橋区暮らし。練馬区のニュータウンで育った彼女とは高校時代からのお付き合いで、婚約したのを機に新居探しを始めた。希望エリアは東京23区内、2人の職場である東京駅周辺へのアクセスが良い街で検討しているという。

まず、今和泉さんが着目したのはOと彼女が今も実家住まいであること、そして、高校時代から長続きしているカップルであることだ。

今和泉さん「互いに地元から出たことがないという、ある意味保守的な性格に加え、長期交際を貫き通した点を鑑みると、Oさんたちは『安定した暮らし』に対するプライオリティが高いのではないかと思います。このタイプの方は実家の近く、沿線から動きたがらない。となると、実家にアクセスしやすい東京メトロ有楽町沿線や西武池袋線沿線、中央線あたりを選びそうな気もしますが…」

そう今和泉さんがカマをかけると、Oはややドキリとした様子。まさに今、西武池袋線や有楽町線沿線を軸に探している最中だったようだ。

編集O「特に彼女が実家近辺を望んでいるんですよね。東京の城北エリアからあまり動きたがらないんです。でも、中央線は彼女がイヤだと言っています」

今和泉さん「西武線沿線特有の居心地の良さってありますよね。中央線と違って外からあまり人がこないから、空も広いし、窮屈さがないので、彼女さんにとっては落ち着くのだと思います。逆に、中央線沿線のサブカル臭みたいなものは少し苦手なのかもしれませんね」編集O「まさにその通りです! 音楽や映画など文化的なものは好きだけど、いらんサブカル臭は鼻につくっていうタイプですね」

【画像7】今和泉さんの鋭い分析により、内面をズバズバ言い当てられる編集O。でも、なんだかうれしそうだ(撮影/榎並紀行)

【画像7】今和泉さんの鋭い分析により、内面をズバズバ言い当てられる編集O。でも、なんだかうれしそうだ(撮影/榎並紀行)

そうした彼女の意向を踏まえながら、もう少し刺激もほしいというO。「いつもの定食屋の安心感がありつつ、変わったメニューも味わえる街がいい」と、よく分からないことを言う彼に対し、今和泉さんが導き出したのは……

「西武池袋線沿線の『桜台』なんていいと思います。互いの実家にほどよく近く、練馬、江古田というにぎやかな街に挟まれていますが、桜台は小さな商店街が伸びている程度で、駅のすぐそばに静かな住宅街があります。また、職場の最寄りの東京駅へは、池袋で丸ノ内線に1回の乗り換えで行くことができます」

しかし、せっかくの提案にもあまりピンと来ていない様子のO。そんなOに対し、今和泉さんは思考実験として「空想都市」に置き換えて説明してくれた。

「ちなみに中村市でいうと、『出ノ町』のあたりがいいと思いますね。日本で言うJRのようなものと私鉄のようなもの、2つの路線が通っていて都心まで30分程度。市の中心である中村駅にも2駅で行けます。集合住宅とスーパー、緑がそれなりにあって、彼女の実家がある(と仮定)那田沢ニュータウンにも帰りやすい。もちろん、いらんサブカル臭も全くありません(笑)」

編集O「そこならありかも! 日ごろから馴染みのある『桜台』と言われると、自分の先入観で街のイメージをつくってしまいますが、空想都市に置き換えてみると偏見なしに街の良さを考えられますね。おもしろい!」

続いて、自称“引越し魔”という、30歳の編集K(女性)の相談。山梨県甲府市郊外の街から10年前に上京。Oと同じく職場は東京駅周辺だが、渋谷が好きで、会社よりも渋谷に行きやすいことを優先するフシがある(会社にも近ければなおよし)。しかし混雑が苦手で、電車には極力乗りたくない。なお、日常の足は自転車を愛用しており、体力には自信があるという。

この、若干わがままな要望に対しても、今和泉さんはすぐさま回答。

「渋谷が好きだけど、混雑は嫌い……、でしたら『中目黒』あたりは選択肢の一つかもしれません。渋谷まで高低差が少ないルートもあるため、自転車で行きやすい。会社へのアクセスも考慮するなら半蔵門沿線がいいと思います。体力があり、上り坂を気にしないのであれば、『青山一丁目』や同エリアの『外苑前』なんていいと思います。青山通りを真っすぐ進めば渋谷ですし、職場に近い大手町駅へも電車一本でアクセスできます。住宅街としても閑静ですし、意外に掘り出し物の物件も見つかるエリアです」

こちらのご提案に、Kもドキリ。実は中目黒は数カ月前まで住んでいた大好きな街だったという。一流の占い師かなにかのように、ずばずばと言い当てていく今和泉さんに、編集部両名ともたじたじだった。

最後に、住む場所を探すときのワンポイントアドバイスを今和泉さんが授けてくれた。
平日の出勤時間帯や帰宅時間帯、休日の昼下がりなど、そこでの生活をよりイメージしやすい時間帯・シチュエーションをチョイスして歩いてみるといいそうだ。また、日ごろから注意深く街を観察するクセをつけておくと、自分にフィットするか否かが分かるようになってくるという。

【画像08】その街並みが生まれた背景などを想像しながら歩くのが趣味だという(撮影/榎並紀行)

【画像8】その街並みが生まれた背景などを想像しながら歩くのが趣味だという(撮影/榎並紀行)

今回、妄想の世界を飛び出し、現実に存在するエリアとのマッチングを試みてくれた今和泉さん。暮らしの充実を目指すなら、まずは土地を知ること。そんな当たり前のことに改めて気づかせてくれたのだった。

●取材協力
空想都市へ行こう!

なぜ空き家は増えるのか?そのヒントが、人気アニメの間取りに隠されていた

わが国の空き家数はもうすぐ1000万戸に迫ろうとしている。7軒に1軒は空き家だ。しかし、日本では欧米に比べて、中古住宅の取引は低い水準にある(2013年国土交通省「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」)。その理由は、親世代の家の間取りに理由があるという。埼玉県で、行政の立場から空き家問題に取り組むお二人にお話を聞いた。

時代を代表する4つのアニメ、その間取りから浮かび上がるのは……?

親世代の生活や住宅スタイル、ひいては「間取り」がその子世代の暮らし方にはマッチしない!? そんな問題提起をしたのは、埼玉県鴻巣市 都市整備部副部長の高橋英樹さんと、埼玉県庁 都市整備部 建築安全課企画担当主幹の小松克枝さんだ。日本人の生活スタイルと住宅の間取りについて、人気アニメに登場する住宅、磯野家(サザエさん)とさくら家(ちびまる子ちゃん)、野原家(クレヨンしんちゃん)、天野家(妖怪ウォッチ)の4つを比較し、その変遷を分析している。

着目したキーワードは次の2つだ。

◎家族構成(多世代同居・核家族)
◎家族のコミュニケーション空間の割合(居間・リビング)

いったいどういうことなのか。さっそく4つのアニメの間取りを見てみよう。

[1]サザエさん:磯野家の間取り
原作の4コマ漫画は、昭和20年代に新聞連載としてスタートしている。磯野家の家族構成等の設定は戦前のモノであったが、1969年(昭和44年)のアニメ化の際に時代設定等がいったん整理された。このため「昭和40年代」の設定と言える。

特徴
設定:昭和40年代
■3世代の同居
■それぞれの世代に個別の部屋を確保
■家族の団らんは主に居間(和室・8畳)
■家族のコミュニケーション空間は限定的【画像1】サザエさん:磯野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

【画像1】サザエさん:磯野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[2]ちびまる子ちゃん:さくら家の間取り
作者の子ども時代の設定で、昭和40年代後半から50年代前半をベースにしている。

特徴
設定:昭和40~50年代
■3世代の同居
■それぞれの世代に個別の部屋を確保
■家族の団らんは主に居間(和室・8畳)
■家族のコミュニケーション空間は限定的【画像2】ちびまる子ちゃん:さくら家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

【画像2】ちびまる子ちゃん:さくら家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[3]クレヨンしんちゃん:野原家の間取り(1階)
漫画の連載は1990年(平成2年)で、1992年(平成4年)にアニメ化されている。

特徴
設定:平成初期
■両親と子どもの核家族
■家族の団らんの場は、リビング・ダイニング&キッチン
■1階の大部分が家族のコミュニケーション空間【画像3】クレヨンしんちゃん:野原家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

【画像3】クレヨンしんちゃん:野原家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[4]妖怪ウォッチ:天野ケータくんの家
2012年(平成24年)に漫画での連載がスタートし、2014年(平成26年)にテレビアニメがスタート。平成20年代を代表する大ヒットアニメ。

特徴
設定:平成20年代
■両親と子どもの核家族
■家族の団らんの場は、リビング・ダイニング&キッチン
■1階の大部分が家族のコミュニケーション空間【画像4】妖怪ウォッチ:天野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

【画像4】妖怪ウォッチ:天野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

ここまで、日本を代表する4つのテレビアニメから間取りの変遷を見てもらった。
高橋さんは「ここから読み取れるのは、核家族化の進展と生活スタイルの欧米化です」と分析する。
「平成に入ったころから祖父母世代用の部屋と来客用の空間がなくなりました。平成20年代になると和室も消え、1階空間のほぼ全てが家族のコミュニケーション空間になりました」(同)

確かに、筆者が最近目にする新築住宅の広告でも、システムキッチンや床暖房はすでに定番アイテムとなり、10年ほど前には目新しかった「リビングイン階段」や「メザニン(中2階)」なども一般的になった。和室はノスタルジー空間となり、来客用の空間は親子間を含む家族間のコミュニケーションのための空間に吸収されていった。

高橋さんはその結果として、リビング空間が広がり、現在の住宅では家族のコミュニケーション、とりわけ「親と子がどうかかわるか」が、家の間取りにも影響しているのではないかと考えている。

”今どきの間取り”の中古住宅も増える?

高橋さん自身、10年前に熊谷市の実家を受け継ぐ際に、すでに築40年ほどたっていた親の家を取り壊して新築した。

当時、妻と子ども1人(現在は2人)と暮らしていた高橋さんは
「ユニットバス、システムキッチン、床暖房、これら3つの要素が僕らの世代が家に求めるものだと思います。
設備が古いうえに、親が建てた家は“ちびまる子ちゃん”の家のような中廊下型で、自分の家族の暮らしには向かないと感じました。実家では、家族5人が6畳の居間で窮屈にテレビを見たり食事をしたりしていましたが、廊下をはさんだ二間続きの和室はほとんど使われていませんでした(笑)」
と打ち明ける。

一方、小松さんは「私は、10年ほど前、実家の近くに中古住宅を買ってリフォームして暮らしています」と言う。

「私の家族は夫と子ども2人ですが、1990年代後半に建てられた住宅で“クレヨンしんちゃん”の家のような、リビング・ダイニング&キッチンで家族団らんできるタイプだったことと、耐震性が高かったことが理由として大きいでしょう。
同規模の新築物件より安価なこともお得感がありました。私は仕事柄、スクラップ&ビルドではなく、躯体さえしっかりしていれば既存の建物を再活用したいという思いもありました。実は、高橋さんの言う住宅に求める3つの要素(ユニットバス、システムキッチン、床暖房)は無かったのですが、おいおいリフォームしていこうと思っていたので気になりませんでした。入居前に内装を、入居後に洗面・ユニットバス、外構と、数年ごとにじっくり、自分好みにリフォームして楽しんでいます」

そんな小松さんに対し高橋さんは
「抵抗感がなくリフォームを選択できる人って、まだあまり多くないのではないでしょうか。私の実家のように築40年以上の住宅の場合、リフォーム後の姿をイメージすることは難しい。みんながみんな建築の知識をもっているわけではありません。10年前の私もそれができませんでした。今から考えると少し残念な気もします」
と話す。

高橋さん、小松さんともに、埼玉県におけるこれからの住宅のあり方、そして空き家問題に行政の立場から対策に取り組んでいく立場にある。
小松さんは「自治体が目指す方向性や、住まい手の住宅の選び方はいまだ新築志向という現実と、空き家の数を抑えたいという目標とのギャップに戸惑うこともあります」と打ち明けてくれた。

埼玉県は、1970年から2010年までの40年間で、人口は約2倍に増加した。しかし、日本全体の少子高齢化は埼玉県でも例外ではなく、これから人口減少が始まると予想されている。

小松さんは「これからは、平成以降に建てられた、リビング・ダイニング&キッチンが一体となった今どきの家族にも通用する間取りの中古住宅が多くでてきます。今の生活スタイルに適したこうした中古住宅を購入する人も増えてくるでしょう」として

「中古住宅を次の利用者に受け継いでいくためには、その地域で活躍する建築士さんや不動産屋さんの役割が非常に大きいと感じています。多くの人が『買いたい、住みたい』と思えるすてきな住まい方を提案してもらいたい。そのことが、誰も住まない空き家を少なくすることにもつながります」と、その思いを語ってくれた。

●取材協力
・埼玉県都市整備部建築安全課

お城のワーキングスペース付き! シェアハウスで始める田舎暮らし入門

地方へのIターンを検討している人にとって、その街が自分に合っているのか、どんな住まいを構えるべきか、仕事は見つけられるのかなど、不安要素はたくさんあります。思い切って引越したものの、「こんなはずじゃなかった!」とならないために用意された、移住希望者を対象とした田舎暮らし入門用シェアハウス(お城のワークスペース付き!)を見学してきました。
鳥取県大山町にある、移住希望者向けの田舎暮らし入門シェアハウス

本格的な移住の前に、田舎暮らしの生活体験ができるのは、海と山に恵まれた鳥取県大山町(だいせんちょう)にある「のまど間」というシェアハウス。1984年に建てられ、空き家になっていた民家を利用したそうです。中は7つの住居スペースと、お風呂やキッチンなどの共有スペースが用意されており、体一つで田舎暮らしを始めることができます。

【画像1】この地域に多い瓦屋根の立派な民家を利用したシェアハウス「のまど間」(写真撮影/玉置豊)

【画像1】この地域に多い瓦屋根の立派な民家を利用したシェアハウス「のまど間」(写真撮影/玉置豊)

【画像2】移住希望者向けの土間があるシェアハウスということで、「ノマド」+「土間」=「のまど間」(写真撮影/玉置豊)

【画像2】移住希望者向けの土間があるシェアハウスということで、「ノマド」+「土間」=「のまど間」(写真撮影/玉置豊)

このシェアハウスを管理するのは、兵庫県から「地域おこし協力隊」という制度を利用して移住してきた薮田佳奈さん。ご自身の移住経験から、本格的な引越しの前に、お試しで気軽に住める場所の必要性を痛感したそうです。

「田舎暮らしはイメージと違うところも多く、実際に住んでみないと分からないことだらけです。例えばこの大山町のなかでも、集落によって雰囲気や習慣が違ったり、生活の利便性が違ったりすることもあります。逆に住んでみることで不安が払しょくされたり、条件の良い住まいを地元の方から紹介してもらえたりすることも。

また、住んでみた結果、ここじゃなかったと確認できることも大切です。いきなり腹をくくって移住というよりも、移住する前にまずは滞在していただき、『本当にこの町に住みたい!』と思った上で住まい探しができるような場所が必要だと実感しました。

そこで、地域おこし協力隊の仲間や町役場、町の大工さん、地域の人たちなど、いろんな方にご協力いただき、『のまど間』を立ち上げました。そして地域おこし協力隊の任期を終えた今も、ここの運営をさせてもらっています。『のまど間』は地域と移住希望者を結ぶ交流の場でもあり、地元の人がふらっと来ることも多いので、たとえ知り合いがいなくてもつながりがすぐにできますよ!」

【画像3】「のまど間」を管理する薮田佳奈さん(写真撮影/玉置豊)

【画像3】「のまど間」を管理する薮田佳奈さん(写真撮影/玉置豊)

【画像4】キッチンには近所の方から差し入れされた野菜がたくさんありました(写真撮影/玉置豊)

【画像4】キッチンには近所の方から差し入れされた野菜がたくさんありました(写真撮影/玉置豊)

冷蔵庫や洗濯機など、生活に必要な家電も用意されているシェアハウスなら、例えば今住んでいる住居をそのままにしておき、身一つで気軽に大山町へ来ることも可能です。そしてこの町が気に入ったら本格的に家探しをすればいいので、「こんなはずじゃなかった……」という失敗は少なくなりそうですね。

【画像5】家賃は2万円~3.5万円+共益費1.5万円でインターネットや駐車場も利用可能(写真撮影/玉置豊)

【画像5】家賃は2万円~3.5万円+共益費1.5万円でインターネットや駐車場も利用可能(写真撮影/玉置豊)

まるでお城のような共用ワーキングスペースも完備!

「のまど間」の魅力はこれだけではありません。なんと住居のすぐ隣に、まるでお城のような共用ワーキングスペースが完備されていて、住人は無料で使うことができるのです。ここにパソコンを持参すれば、快適な環境で集中して仕事をすることができるため、家だと遊んでしまって仕事ができないという人にはうれしいですね。Wi-Fi環境がととのっているほか、オプションとなりますが印刷機やプロジェクター、コーヒーマシンなども利用できます。2階にはミーティングルームもあるので、地域の人たちを巻き込んだ大規模プロジェクトもスムーズに進められそうです。

【画像6】だいせん城とも呼ばれているワーキングスペース(写真撮影/玉置豊)

【画像6】だいせん城とも呼ばれているワーキングスペース(写真撮影/玉置豊)

【画像7】「のまど間」の住人なら無料で利用可能(写真撮影/玉置豊)

【画像7】「のまど間」の住人なら無料で利用可能(写真撮影/玉置豊)

【画像8】天守閣にあるミーティングルーム(写真撮影/玉置豊)

【画像8】天守閣にあるミーティングルーム(写真撮影/玉置豊)

この建物は、「のまど間」にかつて住んでいたお城好きの大工さんが、自分の城として趣味で建てたもの。2005年に建設された築浅のお城です。内装などはオフィスとして利用しやすいようにリフォームされており、遊び心たっぷりで刺激を受けまくります。

このワーキングスペースは住人以外も1回800円(初回は500円)で利用可能となっており、「のまど間」を経て大山に移り住んだ人が、集中して仕事をしたいときにくることもあるとか。私もここでちょっと原稿を書いてみたのですが、お城のパワーなのかいつも以上にはかどった気がします。

【画像9】ここで仕事をしていれば、天下が獲れるかもしれません(写真撮影/玉置豊)

【画像9】ここで仕事をしていれば、天下が獲れるかもしれません(写真撮影/玉置豊)

【画像10】地下には隠れ家のような多目的ルームも。スクリーンが常設されているのでイベントやプレゼンなどの利用に便利(写真撮影/玉置豊)

【画像10】地下には隠れ家のような多目的ルームも。スクリーンが常設されているのでイベントやプレゼンなどの利用に便利(写真撮影/玉置豊)

大自然に囲まれた大山町にある、お城みたいなワーキングスペース付きのシェアハウス。どこか田舎への移住を考えている方で、ちょっと変わった生活をしてみたいという人には、まさにうってつけの場所なのではないでしょうか。

●取材協力
・のまど間

「移動できる家」のレンタルプランで、夢の暮らしもかなっちゃう?

エコロジー建築にこだわる北海道の住宅メーカー・アーキビジョン21が2016年に発表した「スマートモデューロ」。木造建築の“ 粋 ”をコンテナサイズにぎゅっと詰め込み、従来のトレーラーハウスとはひと味違った新しい住まいの形として注目を集めています。このほど、購入という方法以外に、レンタルプランが本格化。この今までにない「移動できる家」×「レンタル」というスタイルには、一体どんな可能性があるのでしょうか。
夏は北海道、冬は沖縄……なんてことも可能に!?

簡単に移動可能なトレーラーハウスがレンタルできるとなれば、暮らし方の可能性は無限に広がりそうです。でもトレーラーハウスのレンタルなんて、なかなか想像がつきませんよね。「スマートモデューロ」がどんな住まいで、どんな使い方ができるのか、最初にちょっとシミュレーションをしてみましょう。アーキビジョン21の担当者に、詳しいお話を伺いました。

――まずはスマートモデューロとはなにか、基本的な説明をお願いします。

「長さ12m、幅2.5mのコンテナサイズにあわせた、世界中どこにでも移動可能なミニマムムービングハウスです。設置、撤去、移動が容易にできるのが特徴です。移動可能といってもプレハブのような簡易的な住宅ではありません。外断熱工法による、断熱性、気密性の高い木造建築で、フレーム部分は100年の耐久年数を誇ります」

【画像1】北海道の寒さが鍛えた、温かさと温もりある木造建築(写真提供/アーキビジョン21)

【画像1】北海道の寒さが鍛えた、温かさと温もりある木造建築(写真提供/アーキビジョン21)

【画像2】キッチンやトイレ、洗面化粧台、シャワー室も完備。写真右は寝室(写真提供/アーキビジョン21)

【画像2】キッチンやトイレ、洗面化粧台、シャワー室も完備。写真右は寝室(写真提供/アーキビジョン21)

【画像3】1~2人での生活を想定した間取図の例。延べ床面積は28.80m2(8.88坪)(写真提供/アーキビジョン21)

【画像3】1~2人での生活を想定した間取図の例。延べ床面積は28.80m2(8.88坪)(写真提供/アーキビジョン21)

【画像4】室内のレイアウトは自由自在。写真のようにオフィスとしての使用も可能(写真提供/アーキビジョン21)

【画像4】室内のレイアウトは自由自在。写真のようにオフィスとしての使用も可能(写真提供/アーキビジョン21)

――早速ですが、スマートモデューロのレンタルプランを利用して、転勤の多い会社員が、土地だけ引越しながら暮らすというのは可能ですか?

【画像5】イラスト/伊藤美樹

【画像5】イラスト/伊藤美樹

「はい。可能です。家ごと引越しをするため、新しい家に荷物を移しかえる手間が不要で、転居作業もスムーズだと思いますよ。レンタルなので、もし家族が増えて家をかえる必要が出た場合は、返却いただければ大丈夫です」

「土地を移ることになりますので、スマートモデューロが搬入・設置できる土地を探す必要はあります。ちなみに、引越す先での土地探しもお手伝いしています」

――ということは、北海道と沖縄に土地を持ち、春夏は北海道、秋冬は沖縄という二拠点生活もできちゃったりします?

【画像6】イラスト/伊藤美樹

【画像6】イラスト/伊藤美樹

「笑。おもしろいですね。世界統一規格のコンテナサイズなので、原理的には可能です。一応、離島にも輸送対応はできます。ただ、もし実際に北海道・沖縄生活をやろうとすると、陸送に加えて船便での輸送となり、船の輸送費がかかります。あと、輸送中はスマートモデューロの中に住むことはできないので、ほかの住まいを確保する必要がありますね」

間取り変更や棚の取りつけなど、自由にDIYしてOK!

アーキビジョン21さんと話していて、建物の内部を自由に変更できるスマートモデューロは、DIY好きの人にとっても魅力的な物件であるということが分かりました。

「建物の中に柱や壁はなく、ビスで止めるタイプのボードで仕切っているので、DIYで間取りの変更も可能です。腕に覚えがあれば、フレームだけの状態でレンタルいただき、ご自身で内装を全部やるというのも楽しいでしょうね。間取り変更ほどの大掛かりなDIYではなくとも、どんどんいじって暮らしを楽しんでほしいですね。レンタルの場合でも、退去時にこちらで戻すことが容易なので、どんどんやっていただいて大丈夫です」

【画像7】スマートモデューロを利用したDIY教室も開催しているそう(写真提供/アーキビジョン21)

【画像7】スマートモデューロを利用したDIY教室も開催しているそう(写真提供/アーキビジョン21)

――自宅の横に子ども部屋としてレンタルし、子どもと一緒にDIYをするのも楽しそうですね。子どもが成長したらスマートモデューロを返却するというのはアリですか?

「アリです、アリです! お子さまが独立して不要になれば返却できますし、間取りを変えて別の用途で利用いただいたり、別の場所に移動させてご利用いただいたりすることも可能です」

レンタルなら月額7.5万円~設置可能!

家ごと住む土地を移動するという暮らし方や、好きなだけDIYも楽しめるスマートモデューロ。購入より気軽なレンタルの仕組みを活用すれば、アイデア次第で実験的な暮らし方も楽しめそうです。ところで気になるお値段は?

――標準的な価格を教えてください。

「購入される場合は、本体価格750万円(税別)に加えて、運搬費、設置工事等の付帯工事が約150万円になります。同じものをレンタルする場合、月々の支払いは本体価格の100分の1で7.5万円。レンタル期間は3年~10年で、10年後に買い取ることも可能です。レンタルの場合は、最初に保証金として本体価格の2割の150万円が必要となります」

――スマートモデューロを運ぶ場合のコストと時間はどれくらいですか?

「スマートモデューロを専用の移送車に乗せて移動させるのですが、例えば北海道内で、札幌からニセコまでの約100kmなど、インフラの整った場所への引越しであれば、費用は50万~100万円程度です。期間は1週間もかかりません。海を渡ると運賃がプラスされますが、本州はもちろん、離島への移動もできます。国際的なコンテナサイズなので、船で海外へと運ぶことも可能です。さすがにまだ実績はありませんが(笑)」

――スマートモデューロはコンテナ1個分の広さとのことですが、長期間住むには狭くないですか?

「縦長という寝台列車のようなスペースなので、住むにはどうなのかなという不安がある方も多いですね。でも実際に暮らしてみたら、意外と使い勝手がいいと評判です。もちろん広さに制約があるので、トイレやシャワールームが狭かったり、収納スペースが限られたりというのはありますが、暮らし方に合わせ約40種類以上もの間取りプランを用意しています」

「また2つ、3つと連結して使用することも可能なので、ご家族で住んだり、職場として利用したりすることもできます。ただし、山奥で道が狭かったり、逆に住宅密集地だったり、トレーラーが入れない場所には設置ができません。その場合は、長さを自由に短くできる “ モデューロ ” というユニットをご紹介させていただいています。長さを短くできるので移動の制約が少なく、設置可能なエリアが広がります」

最初は利用シーンがイメージできなかったスマートモデューロですが、アーキビジョン21さんの話を聞いているうちに、もし自分の生活スタイルに合うのであれば、こんなにドキドキできる物件はなかなかないのではという気がしてきました。縦長の、独特の狭さは、物をなるべくもたないミニマリストにとっても、堪らない物件かもしれません。

●取材協力
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