家の個性をつくる三つのセオリー

家の中の細部まで自分たちのこだわりを反映できるのはリフォームの魅力の一つ。今回は、住まい手の個性を表す家をつくるための三つのセオリーを紹介。
壁や床、建具やパーツを選ぶときの参考にしてみよう。

空間の雰囲気を決めるのは「素材」「仕上げ」「パーツ」の三つ!

空間を構成しているアイテムは、家具やファブリックなどのほかに、床、壁、天井、建具が含まれる。家具などのインテリアアイテムは賃貸住宅でも手軽に変えられるが、壁や床、建具、パーツは、リフォームでないと交換することが難しい空間要素だ。
中でも、面積の大きい壁や床、建具にこだわることは個性の演出により効果的で、パーツなどの細部にまで厳選することで、より自分好みの空間を完成できる。例えば、同じ床材でも仕上げによって表情を変えられ、パーツの組み合わせ方でインテリアスタイルを強調することもできる。今回は、家の個性をつくる空間要素のうち、素材、仕上げ、パーツの三つについて選ぶときのポイントを解説しよう。

THEORY1:「素材」~それぞれの特徴を理解する~(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

壁や床、天井など室内空間に用いる素材には、むく材や珪藻土、タイル、石などの自然素材と、ステンレスや鉄、プラスチック、ガラスなどの人工素材がある。素材によって、やわらかみやあたたかさ、硬さや冷たさなど、見た目の印象や手触りに特徴がある。色や柄にこだわることも大事だが、素材がもつ特徴を把握した上で、希望するイメージに合うものを選びたい。

THEORY2:「仕上げ」~素材の活かし方を知る~(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

仕上げとは、床や壁などの素材の表面に施す塗装や装飾のこと。同じ床材でも、仕上げ方法により色や質感は変わる。例えば、同じ種類のむく材を床に使った場合、色みを活かす無塗装か好みの色でペイントするかにより空間に与えるイメージは全く異なる。また、壁に珪藻土などを使う場合、コテの使い方により洋風にも和風にもなる。素材を選ぶ際には、仕上げ方法も併せて検討しよう。

THEORY3:「パーツ」~空間のバランスを考える~(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

パーツにこだわることで、より統一感のある空間コーディネートに仕上がる。ドアノブやスイッチプレート、造作収納の取っ手やフックなどは、用いられている素材と、曲線や直線などのフォルムでテイストが決まる。  
パーツの色は、壁や天井、ドアの色になじませる方法と、空間のアクセントとなる色にする方法がある。どちらにするかは、家具やファブリックとのバランスで決めよう。

家の個性をつくりだすための三つのポイントを見てきた。それぞれのセオリーを踏まえた上で、「素材」「仕上げ」「パーツ」全ての細部にまでこだわりきると、家の中にも自分らしさを表現することができる。

構成・文/山南アオ

自宅をオフィスに! テレワークで取り入れたい「家なかオフィス化」アイデア5つ

場所や時間にとらわれない柔軟な働き方“テレワーク(リモートワーク)“。その普及によって、働く場所も多様化している。今回は、自宅の一部にワークスペースを設ける「家なかオフィス化」のヒントが詰まったアイデアの数々を、リノベーション事例などを通して紹介したい。
【ヒント1】リビング内にワークスペースを設ける

自宅の中にワークスペースを設ける際、家の中のどこにスペースを確保するかは大問題。その選択肢のひとつがリビングだ。リビングなら、家族の様子を見ながら、あるいは家族の気配を感じながら仕事ができる。ただその一方で、仕事に集中しにくいというデメリットもあるようだ。その解消法も併せて紹介しよう。

【G-FLAT/兵庫県神戸市垂水区Fさん】
室内窓に面して2つのデスクが並ぶワークスペースは、夫婦が同時に作業することもできる。デスクは複数のモニターを置いてもスペースに余裕がある(写真提供/G-FLAT)

室内窓に面して2つのデスクが並ぶワークスペースは、夫婦が同時に作業することもできる。デスクは複数のモニターを置いてもスペースに余裕がある(写真提供/G-FLAT)

ワークスペースの背中側。可動棚のある本棚やプリンターも手が届く距離にあり、効率的に仕事が進められる(写真提供/G-FLAT)

ワークスペースの背中側。可動棚のある本棚やプリンターも手が届く距離にあり、効率的に仕事が進められる(写真提供/G-FLAT)

一戸建ての1階に、リビングとつながるワークスペースを設けた例。リビングとワークスペースとの間は大きな窓のある間仕切り壁で隔てている。2つのデスクを窓に向けて置くことで、窓を通して家族の気配を感じ取り、リビングの様子を確認できるワークスペースが実現した。

このような間取りにしたのは、妻が在宅のイラストレーターであり、夫も自宅でデザイン系の作業をすることがあるから。子どもが2歳と幼く、子どもが寝ている間や機嫌の良いときにしか仕事ができない妻にとって、ふと顔を上げればリビングに居る子どもの様子が確認できるのは理想的。以前の賃貸マンションでは、一室をワークスペースとしていたため、集中こそできるものの、他の部屋の様子は分からなかった。なお、集中したいときは、小窓のロールスクリーンを下ろしてワークスペースに“こもる”ことも可能だ。

【リビタ/東京都武蔵野市Oさん】
67.20平米・2LDKのマンションのリビングの玄関側を小部屋に仕立ててワークスペースに。フリーランスで働く妻にとって自宅内のワークスペースはかねてからの念願だった(写真提供/リビタ)

67.20平米・2LDKのマンションのリビングの玄関側を小部屋に仕立ててワークスペースに。フリーランスで働く妻にとって自宅内のワークスペースはかねてからの念願だった(写真提供/リビタ)

リビング越しに窓の外の景色が見えるほどに開放的な点には大満足。ガラス窓を開けるとリビングにいる家族と会話も可能。集中したいときには窓とカーテンを閉めれば完全な個室にすることもできる(写真提供/リビタ)

リビング越しに窓の外の景色が見えるほどに開放的な点には大満足。ガラス窓を開けるとリビングにいる家族と会話も可能。集中したいときには窓とカーテンを閉めれば完全な個室にすることもできる(写真提供/リビタ)

リビングの一角にガラス張りの小部屋を設けてワークスペースとした例。フリーランスで活動している妻のワークスペースをつくる際、当時5歳と2歳だった子どもたちのリビングでの様子を視界に入れながら仕事ができるようにと、ガラス張りにした。夫のテレワーク時にも利用するなど、夫婦でともに活用しつつ、子どもが小学生になったときに子ども部屋に転用することも想定している。

オフィスやカフェなどよりも落ち着く上、周囲に気を遣わずに電話ができるし、ガラス部分のカーテンを閉めれば、ダイニングテーブルやコーナー机などよりも集中できるテレワーク環境となる。

【リビタ/東京都杉並区Tさん】
96.55平米の3LDKのマンションを、「小学校のような家」というコンセプトのもとにリノベーション。このワークスペースは「図工室」という位置づけだ(写真提供/リビタ)

96.55平米の3LDKのマンションを、「小学校のような家」というコンセプトのもとにリノベーション。このワークスペースは「図工室」という位置づけだ(写真提供/リビタ)

LDKや廊下との間を腰高のパーテーションでゆるやかに区切ったワークスペースの例。定期的にテレワークのある夫、アクセサリー製作の仕事をする妻、大学生の長女と中学生の長男(ともにリノベーション当時)の4人がそれぞれに必要なスペースを確保しようとしたとき、完全に区切ると1人分のスペースが非常に狭くなることから、LDの一部をゆるやかに隔てることで夫婦のワークスペースを確保した。

夫は月に2回ほどのテレワーク時、妻は週2日ほどアトリエに出勤する以外の時間、このワークスペースで仕事をしているが、リノベーション計画当初に意図した通りに、広々とした開放感を味わっているという。その副産物として家族のコミュニケーションも増え、そういった意味でも“風通し”が良くなっているのだとか。

【ヒント2】仕事スペースと生活スペースを分けてメリハリを

オン・オフを明確に切り替えたいという人には、ワークスペースを生活空間から完全に分離するのが効果的。いわゆる“SOHO”(Small Office/Home Office)だ。仕事中はそこに“こもる”ことで、仕事や作業に没頭できるようになる。

【ブルースタジオ/東京都練馬区Nさん】
80.30平米・2LDKの一室をワークスペースとライブラリーに分割。コンパクトなワークスペースなだけに、仕事に必要な機器や資料はすべて手に届く範囲にある(撮影/Sayaka Terada[ZODIAC])

80.30平米・2LDKの一室をワークスペースとライブラリーに分割。コンパクトなワークスペースなだけに、仕事に必要な機器や資料はすべて手に届く範囲にある(撮影/Sayaka Terada[ZODIAC])

LDKからワークスペースへとつながる廊下の壁面を若草色に。ブルー基調のリビングからこの”森”を通って移動することで、アタマが仕事モードになる(撮影/Sayaka Terada[ZODIAC])

LDKからワークスペースへとつながる廊下の壁面を若草色に。ブルー基調のリビングからこの”森”を通って移動することで、アタマが仕事モードになる(撮影/Sayaka Terada[ZODIAC])

マンションの2LDKの洋室の片方を蔵書のライブラリーとワークスペースに分割して使っている例。それぞれのスペースは狭いが、その分、機能を集中させることができ、ワークスペースと生活空間がきっちり分離されている。そのため、フリーランスのデザイナーとして自宅で仕事をするNさんにとっても、オン・オフのメリハリの利いたワークスタイルが可能になっているが、その一方で、両スペースを行き来する際の切り替えという課題も。そこで、生活空間のテーマカラーをブルーとし、ワークスペースへと続く壁の色を自社のテーマカラーである若草色に彩ることで、ワークスペースに向かう際は、常に若草色の“森”を抜ける気分になるのだとか。色彩的な効果を利用して気分を変えているのだ。

趣味と仕事がほぼ連動しているNさんにとって、この部屋での暮らしは至って快適なのだそう。リビングから “森”を通ってワークスペースに向かい、思う存分“こもる”ことができるのは、SOHOスタイルならではの楽しみなのかもしれない。

【ヒント3】狭いスペースを利用してワークスペースを確保

限られた空間のなかでワークスペースを確保するためには、デッドスペースやちょっとした隙間を利用することもある。特にマンションでは、空間の有効活用は切実な問題だ。

【リノベる。/神奈川県鎌倉市T さん】
夜、リビングで夫婦の片方がくつろいでいるときに、もうひとりがワークスペースにこもったりして交互に使っている(写真提供/リノベる。)

夜、リビングで夫婦の片方がくつろいでいるときに、もうひとりがワークスペースにこもったりして交互に使っている(写真提供/リノベる。)

80.19平米・2LDKのマンションの玄関と寝室の間のスペースを利用。LD側の窓とバルコニー側の窓を開けると家中に風が通り、家全体が気持ちの良い空間となる(画像提供/リノベる。)

80.19平米・2LDKのマンションの玄関と寝室の間のスペースを利用。LD側の窓とバルコニー側の窓を開けると家中に風が通り、家全体が気持ちの良い空間となる(画像提供/リノベる。)

リビングから寝室へ向かう廊下の脇に秘密基地のような書斎を設けてワークスペースとしている例。限られた広さを有効に使って夫婦それぞれが持っていた蔵書を収納しながら集中できるスペースをつくるために、玄関と寝室の間の小さな空間を利用した。このアイデアは、「採光が良く風通しが良い家なので、気分に合わせて家の中のいろいろなところで過ごせるようにしたい」というそもそもの家づくりのコンセプトにも合致していた。

会社員の夫は在宅での作業やオンラインミーティングなどのときに、同じく会社員の妻は個人的なスタディースペースとしてこの書斎を利用。壁の色のトーンを落としたことで、集中できる空間になっている上、本やPC類がちょうど手の届く範囲に収まっているため、使い勝手も良いのだとか。入り口に扉を付けて個室にするようなことはせず、こもりながらも家族の雰囲気を感じ取れるようにしている。リビングやダイニングで仕事をすることもあり、「仕事は必ずここで」と限定していないところもT家流だ。

【ヒント4】事業者が提案するワークスペースも

UR賃貸住宅やハウスメーカーなども、自宅内にワークスペースを設けるプランを提案している。

【MUJI×UR/団地リノベーションプロジェクト】
玄関(左)から土間を介して右の多目的スペースに上がれる。玄関脇には可動棚のある収納スペースも(写真提供/MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト)

玄関(左)から土間を介して右の多目的スペースに上がれる。玄関脇には可動棚のある収納スペースも(写真提供/MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト)

玄関からもキッチンからも入れる2way方式なので、動線も効率的だ(画像提供/MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト)

玄関からもキッチンからも入れる2way方式なので、動線も効率的だ(画像提供/MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト)

株式会社MUJI HOUSEとUR都市機構が愛知県名古屋市の相生山団地で提案しているプラン。玄関土間から直接、多目的スペースに上がれるようになっている。納戸や趣味スペースとしても利用可能だ。

【セキスイハイム/パパママ個室】
夫婦それぞれに個別のスペースが設けられているので、夫婦が同じ時間に作業する場合でも、自分だけの空間が確保できる(写真提供/積水化学工業)

夫婦それぞれに個別のスペースが設けられているので、夫婦が同じ時間に作業する場合でも、自分だけの空間が確保できる(写真提供/積水化学工業)

主寝室との間にウォークインクローゼットを挟んでいることで、より一層、作業に集中できる空間に(画像提供/積水化学工業)

主寝室との間にウォークインクローゼットを挟んでいることで、より一層、作業に集中できる空間に(画像提供/積水化学工業)

セキスイハイムが提案している注文住宅のプランの一つ。主寝室のウォークインクローゼットの奥に書斎と洗面台付きのメイクアップコーナーが設けてある。夫婦それぞれに自分専用の空間があることで、自宅で作業をする時間が重なった際や、忙しい朝の身支度の際にも、お互いに気を遣わずに済む上、動線上にあるウォークインクローゼットに物がしまえるので、すっきりとした空間での作業が可能だ。

【ヒント5】お手軽なDIYでもワークスペースがつくれる

これまでに紹介した大掛かりなリノベーションなどをしなくても、自宅の中にワークスペースを設けることは可能だ。

例えば、広いリビングをパーテーションで仕切れば、仕切りの中をワークスペースとすることができる。パーテーション越しに家族の気配を感じ取りつつ、作業や仕事に集中できそうだ。

パーテーションは1万5000円くらいから入手可能だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

パーテーションは1万5000円くらいから入手可能だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、リビングの一角にデッドスペースがあれば、そのスペースちょうどのサイズにテーブル天板をカットし、伸縮式の脚をつけてスペースにはめ込むことで、作業コーナーが出来上がる。

必要な費用は8000円程度。テーブル天板や伸縮式の脚などは、ホームセンターなどで入手可能だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

必要な費用は8000円程度。テーブル天板や伸縮式の脚などは、ホームセンターなどで入手可能だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

フリーランスなどの在宅ワーカーや会社員がテレワークに際して導入し、大いに役立っている「家なかオフィス」。DIYなどの手段も含めれば、「家なかオフィス」実現への道は決して遠くない。まずはDIYでできる範囲で着手しつつ、近い将来のリノベーション、注文建築なども視野に入れながら、今から快適なワークスペースの計画を練ってはいかがだろうか?

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連載:「職住融合」テレワークが変えた暮らし

空き家になった岡山の元呉服店の奥座敷を鎌倉に。時代や空間を越えて繋がる古民家移築物語

移築した古民家の新オーナーは歴史が刻まれた家屋を譲り受け、元オーナーは愛着ある建物を壊すことなく引き継ぐ。「私たちは、まさにWin-Winの関係です」と口をそろえるのは、鎌倉に移築された岡山の元呉服店の蔵付き古民家の新旧オーナー。前回は、見事によみがえった古民家の建物やインテリアの詳細を紹介した(URL入れる)。古民家移築再生は、時代や空間を越えて家が繋ぐご縁。今回はそんな蔵付き古民家を移築した鎌倉の小泉邸が完成するまでの過程や、工夫の数々をご紹介しよう。
立地、建物どちらかが気に入らず難航した家探しが、土地購入+古民家移築、で解決!

鎌倉に移築した古民家の施主である小泉成紘さんが住まい探しを始めたのは、いまから6~7年前の2012年ごろのこと。鎌倉の谷戸(丘陵地が浸食されて形成された谷状の地形で鎌倉に多い)の雰囲気が好きで、そんな静かな場所にある趣ある家を求め、鎌倉から湘南エリアのさまざまな中古物件を見学した。しかし、いくら探しても立地と建物両方が理想的な物件に巡り合うことはなく、見学物件数は増える一方で難航。

イメージしたのは、学生時代に全国の旧道を自転車で廻った際に御世話になった山の中の古民家。自然豊かな環境の中での伝統的日本家屋のライフスタイルに憧れ、いつかそんな家に住みたいと思っていた。古民家やアンティークが好きで、10年以上前から日本民家再生協会(JMRA)のイベントなどにも参加していた。

中古一戸建ての住まい探しでは、思い通りの物件に出会えなかった小泉さん。そこで方向転換して、土地と建物は別々に探すことに。すると、ほどなく鎌倉の駅にも近い谷戸の大きなお屋敷の敷地が5分割され、売り出されるとの情報が。日本民家再生協会(JMRA)の事業登録者で鎌倉での古民家移築実績も多い建築家の大沢匠さん(O設計室)に相談し、土地はここに決定。建物は、「民家バンク」に登録された、空き家となって次の引き取り手を待っている古民家情報の中からイメージに合うものを求めて全国へ視野を広げた。実際に4~5軒見学した中で一目惚れしたのが、今回の岡山県の元呉服屋の蔵付き古民家だった。

Before:かつて岡山の旧道沿いで呉服店「和泉屋」を営んでいたという移築前の蔵付き古民家。平屋と蔵の西側には母屋があり、法事の際などは親戚が大勢集まりにぎわっていたが、この家の主亡きあとは空き家になっていた(写真提供:元オーナー・米本弘子さん)

Before:かつて岡山の旧道沿いで呉服店「和泉屋」を営んでいたという移築前の蔵付き古民家。平屋と蔵の西側には母屋があり、法事の際などは親戚が大勢集まりにぎわっていたが、この家の主亡きあとは空き家になっていた(写真提供:元オーナー・米本弘子さん)

After:敷地の関係で母屋は岡山に残し、平屋と蔵をそのままの配置で鎌倉に移築再生した小泉邸。「建物完成後は庭に着手、植栽が育つのが楽しみです。家は着々と進化中」(写真提供:新オーナー・小泉成紘さん)

After:敷地の関係で母屋は岡山に残し、平屋と蔵をそのままの配置で鎌倉に移築再生した小泉邸。「建物完成後は庭に着手、植栽が育つのが楽しみです。家は着々と進化中」(写真提供:新オーナー・小泉成紘さん)

縁側に並ぶ木製建具の美しさに一目惚れ、丁寧に手仕事で解体し、運ばれ、鎌倉で復元

「縁側にピシッと並んだ一本レールの木製建具の繊細な美しさが決め手でした。平屋部分は建物に敬意を払って、そのままの姿を復元することにこだわりました」という小泉さん。岡山の元呉服店で奥座敷の離れとして使われていた平屋は、明治時代の建築。それを手仕事で丁寧に解体し、鎌倉に運び、また元の通りに復元する。「古民家移築の工程の中で移築設計や現場監理が大変なのはもちろんですが、実は最も気を遣うのが解体です。古い建物だけに壊れてしまうと替えはありませんし、再生するときのことも考えながら、細かく番付けして設計図に反映していきます。解体には慎重さはもちろん技術が必要で、今ではこれができる職人も少なくなりました」と建築家の大沢さん。

明治時代の平屋と蔵をL字に配置して完成した小泉邸。縁側には波打つレトロなガラスの木製建具が正面7枚、左手に4枚、計11枚一本のレールに並ぶ繊細さ。平屋部分の木の風合いと蔵部分の漆喰の白と焼杉の黒のモノトーンのコントラストが印象的(写真撮影/高木 真)

明治時代の平屋と蔵をL字に配置して完成した小泉邸。縁側には波打つレトロなガラスの木製建具が正面7枚、左手に4枚、計11枚一本のレールに並ぶ繊細さ。平屋部分の木の風合いと蔵部分の漆喰の白と焼杉の黒のモノトーンのコントラストが印象的(写真撮影/高木 真)

(撮影/高木 真)

一本レールに木製建具が並ぶ繊細さに一目惚れしたため、引き違い用のレールを増やすことなく、あえて元の姿のままに再生。そのため、風雨をよけるため雨戸にしたり、通風のため網戸にする際は、ガラス戸を一枚ずつ外して入れ替えていくという手間も力仕事も伴う。不便さあっての美しさ、そして日本家屋での暮らしはひと昔前までこれが当たり前だった(撮影/高木 真)

一本レールに木製建具が並ぶ繊細さに一目惚れしたため、引き違い用のレールを増やすことなく、あえて元の姿のままに再生。そのため、風雨をよけるため雨戸にしたり、通風のため網戸にする際は、ガラス戸を一枚ずつ外して入れ替えていくという手間も力仕事も伴う。不便さあっての美しさ、そして日本家屋での暮らしはひと昔前までこれが当たり前だった(撮影/高木 真)

屋根の鬼瓦や棟瓦にあたる部分は、岡山の井原地域独自だという珍しい波模様の粋な形状。瓦の一部は劣化して耐久性に問題ありと診断されたため、足りない瓦は全く同じ形に複製して元の姿に復元された。一方、岡山では総瓦屋根だったが、それでは鎌倉では重厚過ぎると判断。上部を瓦、下部を銅板葺きに変更して街並みとの調和を図っている(写真撮影/高木 真)

屋根の鬼瓦や棟瓦にあたる部分は、岡山の井原地域独自だという珍しい波模様の粋な形状。瓦の一部は劣化して耐久性に問題ありと診断されたため、足りない瓦は全く同じ形に複製して元の姿に復元された。一方、岡山では総瓦屋根だったが、それでは鎌倉では重厚過ぎると判断。上部を瓦、下部を銅板葺きに変更して街並みとの調和を図っている(写真撮影/高木 真)

そのままの姿に復元、オリジナルの工夫を盛り込んで設計変更、古民家移築は自由自在

岡山にあった「母屋」「離れ」「蔵」の3つの建物からなる古民家のうち、敷地の関係で「離れ」の平屋と「蔵」の2つが移築された小泉邸。平屋は外観・内観共に元の姿に忠実に復元され、おもてなしスペースに。一方蔵は、生活空間として元の構造を活かしつつ、全面的に設計変更。それぞれに、現代ならではの新たな工夫やチャレンジがみられることも興味深い。

(写真撮影/高木 真)

おもてなしスペースとして、元の姿に忠実に復元された二間続きの和室。ところが床の間の上の小さな引き戸を開けると、なんと奥のキッチンと繋がる設計上のアイデアが盛り込まれている。「開放すると想像以上に気持ちいい風が通り抜けて驚きました」と小泉さん(写真撮影/高木 真)

おもてなしスペースとして、元の姿に忠実に復元された二間続きの和室。ところが床の間の上の小さな引き戸を開けると、なんと奥のキッチンと繋がる設計上のアイデアが盛り込まれている。「開放すると想像以上に気持ちいい風が通り抜けて驚きました」と小泉さん(写真撮影/高木 真)

(写真撮影/高木 真)

小泉邸の蔵の2階は構造材を全てそのまま見せるデザインの勾配天井にして、更に中央の白い漆喰壁を大画面としてプロジェクター投影ができる大空間。「元々の蔵は倉庫のため、窓も少なく天井も低めのつくり。蔵を快適な生活空間にするため、元の構造材に60センチ分足して天井を高くしたり窓も増やすなどの設計上の工夫をしています」と建築家の大沢さん(写真撮影/高木 真)

小泉邸の蔵の2階は構造材を全てそのまま見せるデザインの勾配天井にして、更に中央の白い漆喰壁を大画面としてプロジェクター投影ができる大空間。「元々の蔵は倉庫のため、窓も少なく天井も低めのつくり。蔵を快適な生活空間にするため、元の構造材に60センチ分足して天井を高くしたり窓も増やすなどの設計上の工夫をしています」と建築家の大沢さん(写真撮影/高木 真)

(写真撮影/高木 真)

キッチンは造作で、古民家だけに天板はあえてステンレスや人造大理石でなく木に挑戦。使用したのはもちろん古材、群馬の養蚕農家の梁を入手して加工した、厚みがある松らしき一枚板(写真撮影/高木 真)

キッチンは造作で、古民家だけに天板はあえてステンレスや人造大理石でなく木に挑戦。使用したのはもちろん古材、群馬の養蚕農家の梁を入手して加工した、厚みがある松らしき一枚板(写真撮影/高木 真)

(写真撮影/高木 真)

椹(さわら)の浴槽に大正時代のアンティークのステンドグラスが映える浴室。壁はなんと漆喰塗り。湿気の多い鎌倉でこれを実現するためには、湿気がこもらないように、浴室部分の基礎コンクリートを土台から立ち上げ、スノコ下はそのまま排水と通気ができるよう工夫されている(写真撮影/高木 真)

椹(さわら)の浴槽に大正時代のアンティークのステンドグラスが映える浴室。壁はなんと漆喰塗り。湿気の多い鎌倉でこれを実現するためには、湿気がこもらないように、浴室部分の基礎コンクリートを土台から立ち上げ、スノコ下はそのまま排水と通気ができるよう工夫されている(写真撮影/高木 真)

昔ながらのヒューズを使った配電盤も特注品。これをつくれる職人さんを探すのも一苦労だったという(写真撮影/高木 真)

昔ながらのヒューズを使った配電盤も特注品。これをつくれる職人さんを探すのも一苦労だったという(写真撮影/高木 真)

歴史ある家を新たな場所で再生する「古民家移築」は、日本の伝統的木造建築ならではの技

移築前には現在の持ち主で古民家移築の施主である小泉さんが岡山に訪れ、移築後は元オーナー一族が鎌倉に逆訪問。取材時も、元オーナーの米本さん親子が遊びに来ていた。「岡山にあったころから空き家になってしまい、自宅も離れているため定期的に掃除に行くのも負担になっていました。処分には解体費用も掛かるし、なんといっても思い出が詰まった家です。民家バンクに登録したときは、バラバラに解体され木材になってしまうと覚悟していただけに、家がそのまま残って感激しています」、と感慨深げ。いまや岡山を離れ全国バラバラに住む親戚たちも、鎌倉の小泉邸を見学に来て、思い出話に花が咲いたという。まさに家が繋ぐ縁、そのものだ。

明治時代に2間続きの和室で行われた結婚式(写真左:提供元オーナー・米本弘子さん)と、現在の小泉邸に元オーナーである米本さん親子が訪ねてきた際の写真(写真右:撮影/長井純子)。全く同じ造りの和室で、岡山にいると錯覚するほどだという

明治時代に2間続きの和室で行われた結婚式(写真左:提供元オーナー・米本弘子さん)と、現在の小泉邸に元オーナーである米本さん親子が訪ねてきた際の写真(写真右:撮影/長井純子)。全く同じ造りの和室で、岡山にいると錯覚するほどだという

気になるのは、古民家移築のコスト面。「古民家移築の建築コストの目安は一般的な新築の2~3割増しでしょうか」と建築家の大沢さん。空き家となった古民家は無償で譲り受けることができるので、これらの材料費は基本不要、成約時に日本民家再生協会(JMRA)への紹介料のみ。ただし、特に繊細な作業と技術を要する解体費と移送費が新築にない費用としてプラスされる。やりようによっては安くもなるし、こだわるとキリがなく、コストは千差万別だという。小泉邸の場合、元の形に復元することにこだわったため解体費を含めて4250万、坪単価は約145万。確かに割高になるものの、この本物ならではの魅力と歴史の重みには変えがたい。

「築100年の家を再生したら、少なくともあと100年、築200年なら200年は持ちます」と大沢さん。「敷地の関係で岡山に残した母屋も素晴らしい建物、活用されることを願っています」と小泉さん。日本各地に数多く残る古民家を一棟でも多く残したい、という思いは、小泉邸の移築再生に関わった人全員共通だ。

秋田の酒蔵を鎌倉に移築し2002年完成した「結の蔵」も建築家・大沢さんの設計によるもの。古いものを大切にする鎌倉の象徴的撮影スポットのひとつで、大沢さんのO設計室もこの一室に入居している(写真撮影/高木 真)

秋田の酒蔵を鎌倉に移築し2002年完成した「結の蔵」も建築家・大沢さんの設計によるもの。古いものを大切にする鎌倉の象徴的撮影スポットのひとつで、大沢さんのO設計室もこの一室に入居している(写真撮影/高木 真)

1997年に設立された日本民家再生協会(JMRA)は、日本の伝統文化である民家を蘇らせ次代に引き継ぐため、情報誌や書籍の発行、各種イベントを定期開催。民家を譲りたい人と譲り受けたい人を取り持つ「民家バンク」もあり、情報誌「民家」には登録された民家の情報が掲載されている(写真撮影/長井純子)

1997年に設立された日本民家再生協会(JMRA)は、日本の伝統文化である民家を蘇らせ次代に引き継ぐため、情報誌や書籍の発行、各種イベントを定期開催。民家を譲りたい人と譲り受けたい人を取り持つ「民家バンク」もあり、情報誌「民家」には登録された民家の情報が掲載されている(写真撮影/長井純子)

築百年を超える家も、移築して再生されることで建築法上は「新築」扱い。そして、百年の年月を経て強度も増した木材は、更に百年は持つという。時代や空間を越えてご縁を繋ぎ、次世代に繋がる家。取材を通じて、出会った施主である現オーナー、元オーナー、建築家を始めとする工事関係者、そして何より家自体が喜んでいるのを感じる。空き家は増加する一方、日本全国に残る古民家が一つでも多く壊されることなく次世代に繋がることを心より祈る古民家在住ライターであった。

●取材協力
NPO法人 日本民家再生協会(JMRA)
O設計室

築100年超の蔵付き古民家を鎌倉に移築再生、妥協無しで理想を追求したこだわりの家

鎌倉の静かな住宅街に、岡山の蔵付き古民家を移築再生した小泉さんの住まい。2019年2月に行われた完成披露のオープンハウスには、大正時代の蔵と明治時代の平屋を組み合わせたその存在感ある建物を一目見ようと、一日で130名を超える見学者が訪れた。『渡辺篤史の建もの探訪』取材時に渡辺さんをも「感動しました」と唸らせた、妥協無しの本物ならではのこだわりがつまった小泉邸をご紹介しよう。
岡山の呉服屋だったお屋敷の明治時代の蔵と平屋が、鎌倉で蘇る

この移築古民家の施主である小泉成紘さんが、鎌倉・逗子・葉山のエリア限定で、趣のある日本家屋を探し始めたのは今から6~7年前。しかし多くの中古物件を見学したものの、立地と建物、どちらも気に入るものはなく、住まい探しは難航した。どちらも譲れない小泉さんが最終的に選択したのは、理想の土地を新規で購入し、そこに別の場所で空き家となった古民家を移築するという古民家移築再生だった。

選んだ土地は、鎌倉駅にも近くて山を背負った谷戸の趣も残る静かな住宅地。建物は日本民家再生協会(JMRA)を通じて出会った、かつて呉服屋だった岡山県のお屋敷の大正生まれの平屋と明治生まれの蔵。縁側にガラス戸が綺麗に並んだ古民家の写真に惹かれ現地を見学、実際に築100年を超す建物の本物ならではの風格や味わいに惹かれ、この建物を忠実に鎌倉で再現したいと思ったという。

離れの座敷として使用されていた平屋と、2階建ての土蔵。敷地の関係で西隣にあった母屋を除き、職人の手仕事で丁寧に解体されたあと移送し、そのまま鎌倉で蘇った(写真撮影/高木 真)

離れの座敷として使用されていた平屋と、2階建ての土蔵。敷地の関係で西隣にあった母屋を除き、職人の手仕事で丁寧に解体されたあと移送し、そのまま鎌倉で蘇った(写真撮影/高木 真)

明治時代のお座敷は、時代と空間を越えて忠実に元の姿に蘇り、次世代へと引き継がれる

それでは、こだわりのつまった小泉邸を、写真を中心にご紹介していこう。平屋部分は明治時代に呉服屋の奥座敷として使われていた二間続きの和室と縁側からなる日本の伝統的木造建築の粋を集めたつくり。ここは忠実に元の姿に復元し、来客時やイベントなどに使うおもてなしスペースにすることに。「元々この建物に惹かれたので、建材や建具などの部材ひとつたりとも変えたくなくて。瓦など劣化していると判断されたものもありましたが、現代では手に入らないものは特注でつくってもらいました」というほどのこだわりよう。

その甲斐あって、元のオーナーが訪れた際「岡山の家にいるよう」と感嘆するほどに、忠実に復元・再生されて蘇っている。

一目惚れした縁側は、一本レールに波打つレトロなガラスの木製建具11枚が並ぶ繊細なつくりをそのままに再現。庭の脇には薪ストーブ用の薪を収納する薪小屋を新設。薪小屋の屋根は今では希少な天然スレート瓦。「薪小屋には贅沢なようですが、室内からも外からも目につく場所なので」と小泉さん(写真撮影/高木 真)

一目惚れした縁側は、一本レールに波打つレトロなガラスの木製建具11枚が並ぶ繊細なつくりをそのままに再現。庭の脇には薪ストーブ用の薪を収納する薪小屋を新設。薪小屋の屋根は今では希少な天然スレート瓦。「薪小屋には贅沢なようですが、室内からも外からも目につく場所なので」と小泉さん(写真撮影/高木 真)

呉服屋の奥座敷として使われていた離れのニ間続きの和室。できるだけ忠実に元の空間を再現することにこだわり、間取りや建具などの部材がそのまま。さらに、元の古民家から円卓や箪笥などの家具も譲ってもらったため、まさに岡山の家そのものの空間が出来上がった(写真撮影/高木 真)

呉服屋の奥座敷として使われていた離れのニ間続きの和室。できるだけ忠実に元の空間を再現することにこだわり、間取りや建具などの部材がそのまま。さらに、元の古民家から円卓や箪笥などの家具も譲ってもらったため、まさに岡山の家そのものの空間が出来上がった(写真撮影/高木 真)

明治時代につくられたとは思えない、斬新なデザインの欄間(らんま)。職人さんの手仕事で丁寧に解体、壊れないよう岡山から鎌倉まで運ばれ、再び組み立てられ、時代と空間を越えて再生された(写真撮影/高木 真)

明治時代につくられたとは思えない、斬新なデザインの欄間(らんま)。職人さんの手仕事で丁寧に解体、壊れないよう岡山から鎌倉まで運ばれ、再び組み立てられ、時代と空間を越えて再生された(写真撮影/高木 真)

和室には珍しい洋風の重厚な上げ下げ窓が印象的で、当時はかなり斬新なデザインだったと推測される。二間続きの和室は、来客時やイベントの際のおもてなしスペースに(写真撮影/高木 真)

和室には珍しい洋風の重厚な上げ下げ窓が印象的で、当時はかなり斬新なデザインだったと推測される。二間続きの和室は、来客時やイベントの際のおもてなしスペースに(写真撮影/高木 真)

生活の場となる2階建ての蔵は、世界各国のアンティークを取り入れ和洋折衷のレトロ空間に

忠実に元の姿に復元された平屋に対して、2階建ての蔵は普段の生活スペースとして、建物の構造は活かしつつゼロベースで自由にプランニング。土蔵だった建物の構造は活かしつつ、趣味の空間や仕掛けがふんだんに組み込まれている。インテリアは元々好きだった世界各国のアンティークを取り入れて、和洋折衷なレトロ感あふれる個性的な仕上がりに。「イメージに合うアンティークものを一つひとつ自分でそろえて行きました。何でもできるので、かえって形にするのが大変で手間も時間もかかりましたね」と小泉さん。

蔵部分に設けられた玄関の扉は1920-30代イギリスのアンティーク。漆喰の白壁とのコントラストが美しい黒の外壁は焼き杉で、伝統を重んじつつ個性を演出(写真撮影/高木 真)

蔵部分に設けられた玄関の扉は1920-30代イギリスのアンティーク。漆喰の白壁とのコントラストが美しい黒の外壁は焼き杉で、伝統を重んじつつ個性を演出(写真撮影/高木 真)

玄関を入ると、1960年代ノルウエーの薪ストーブがある広い土間スペース。薪ストーブは土壁と相性の良い輻射熱式の全館暖房をと考え導入、2階の寝室まで吹抜けになっていて、生活空間である蔵スペース全体がこれひとつで温まる仕組みだ(写真撮影/高木 真)

玄関を入ると、1960年代ノルウエーの薪ストーブがある広い土間スペース。薪ストーブは土壁と相性の良い輻射熱式の全館暖房をと考え導入、2階の寝室まで吹抜けになっていて、生活空間である蔵スペース全体がこれひとつで温まる仕組みだ(写真撮影/高木 真)

蔵の1階は水まわりなどの生活スペース。イギリスやフランスの片田舎を思わせるキッチン、インテリアのポイントはブルーの勝手口ドア。これもフランスのアンティークで、実はこの家で一番高価だったという(約30万円)。キッチンはこのドアありきで設計が決まったそう(写真撮影/高木 真)

蔵の1階は水まわりなどの生活スペース。イギリスやフランスの片田舎を思わせるキッチン、インテリアのポイントはブルーの勝手口ドア。これもフランスのアンティークで、実はこの家で一番高価だったという(約30万円)。キッチンはこのドアありきで設計が決まったそう(写真撮影/高木 真)

造作キッチンの天板は群馬の養蚕農家の梁だった古材を加工したもの。「イギリス・ショーズ社のスロップ型シンクと水栓、ベルギーのスライス煉瓦、窓はアメリカのアンダーセンなど、パーツ一つひとつを厳選しました」と小泉さん(写真撮影/高木 真)

造作キッチンの天板は群馬の養蚕農家の梁だった古材を加工したもの。「イギリス・ショーズ社のスロップ型シンクと水栓、ベルギーのスライス煉瓦、窓はアメリカのアンダーセンなど、パーツ一つひとつを厳選しました」と小泉さん(写真撮影/高木 真)

玄関ホールからキッチンに通じる廊下も兼ねたスペースは、両側の防音仕様の扉を閉めると、ピアノ演奏のための防音室になる構造。壁紙はオランダのデザイナーもの、床タイルは市松模様にして機能性を追求する中にも遊び心が(写真撮影/高木 真)

玄関ホールからキッチンに通じる廊下も兼ねたスペースは、両側の防音仕様の扉を閉めると、ピアノ演奏のための防音室になる構造。壁紙はオランダのデザイナーもの、床タイルは市松模様にして機能性を追求する中にも遊び心が(写真撮影/高木 真)

なんともレトロな雰囲気のお風呂。椹(さわら)の浴槽に大正時代のアンティークのステンドグラス、壁はなんと漆喰塗り。水栓金具はテイストが合うものを求めて、フランスの現代ものエルボ社に(写真撮影/高木 真)

なんともレトロな雰囲気のお風呂。椹(さわら)の浴槽に大正時代のアンティークのステンドグラス、壁はなんと漆喰塗り。水栓金具はテイストが合うものを求めて、フランスの現代ものエルボ社に(写真撮影/高木 真)

(写真撮影/高木 真)

トイレの床タイルも市松模様、便器はアメリカのコーラー社、手洗いにはフランスの陶器のガーデン用シンクを選んでレトロな雰囲気に。ポイントはアンティ-クのステンドグラスで、1920-30年代イギリスのロンデルガラス入り。トイレ側、玄関側、内外どちらから見ても美しい(写真撮影/高木 真)

トイレの床タイルも市松模様、便器はアメリカのコーラー社、手洗いにはフランスの陶器のガーデン用シンクを選んでレトロな雰囲気に。ポイントはアンティ-クのステンドグラスで、1920-30年代イギリスのロンデルガラス入り。トイレ側、玄関側、内外どちらから見ても美しい(写真撮影/高木 真)

2階へ階段で上がると、構造材を全てそのまま見せるデザインのダイナミックな寝室兼リビングの多目的空間。壁は土壁の中塗り仕上げ、中央は白い漆喰塗りにして、趣味の写真や映画、テレビもプロジェクター投影して大画面で見る仕掛け(写真撮影/高木 真)

2階へ階段で上がると、構造材を全てそのまま見せるデザインのダイナミックな寝室兼リビングの多目的空間。壁は土壁の中塗り仕上げ、中央は白い漆喰塗りにして、趣味の写真や映画、テレビもプロジェクター投影して大画面で見る仕掛け(写真撮影/高木 真)

白い漆喰壁の裏には、趣味のフイルム写真現像用の暗室スペースも(写真撮影/高木 真)

白い漆喰壁の裏には、趣味のフイルム写真現像用の暗室スペースも(写真撮影/高木 真)

勾配天井を活かした2階の大空間。築100年以上の木材がダイナミックに組み合わされた姿は眺めていて見飽きない。1階にある薪ストーブの配管が吹抜けになって、2階のこの大空間も温まる仕掛けだ(写真撮影/高木 真)

勾配天井を活かした2階の大空間。築100年以上の木材がダイナミックに組み合わされた姿は眺めていて見飽きない。1階にある薪ストーブの配管が吹抜けになって、2階のこの大空間も温まる仕掛けだ(写真撮影/高木 真)

(写真撮影/高木 真)

(写真撮影/高木 真)

インテリアのポイントとなる照明器具や時計などはもちろん、スイッチプレートやドアノブなどの小さな設備機器に至るまで、全て歴史ある古民家のテイストに合うものをと、小泉さん自らアンティークショップやインターネットなどで一つひとつ集めた。「真鍮のスイッチプレートを家一軒分の数そろえるのも結構大変でした」。この細部まで手抜きなしのこだわりが、本物の重厚感を生む(写真撮影/高木 真)

インテリアのポイントとなる照明器具や時計などはもちろん、スイッチプレートやドアノブなどの小さな設備機器に至るまで、全て歴史ある古民家のテイストに合うものをと、小泉さん自らアンティークショップやインターネットなどで一つひとつ集めた。「真鍮のスイッチプレートを家一軒分の数そろえるのも結構大変でした」。この細部まで手抜きなしのこだわりが、本物の重厚感を生む(写真撮影/高木 真)

緑豊かで静かな立地に、歴史が刻まれた古民家とそれにあう世界各国のインテリアを一つひとつ厳選して移築再生された小泉邸。その妥協無しの世界観は、実にお見事の一言。本物ならではの風格漂う古民家再生、実は古民家の部材などは基本無償だという。次回は、部材だけでなくその歴史ごと受け継ぐことができメリットの多い、「古民家移築」の仕組みや流れを中心に紹介しよう。

●取材協力
NPO法人 日本民家再生協会(JMRA)
O設計室

縫製工場をリノベした自宅兼アトリエは、アートを楽しむ人たちで本日も大にぎわい

山形県西村山郡河北町。その街中に建つ1軒の建物は、外から見ると一戸建てだが、実は縫製工場をアトリエ付き住宅にリノベーションしたもの。1階部分のアトリエは、オーナーである佐藤潤さん(51歳)が自身の創作活動や、陶芸教室、切り絵教室などに使っている。“空き家”ならぬ“空き工場”が地域のコミュニティスペースとしてにぎわいを見せるまでを佐藤さんに聞いた。
縫製工場だった築28年の空き家のリノベーションを決断

佐藤さん夫妻が家を探し始めたのは2017年の秋ごろ。陶芸作品をつくる“焼きもの屋”の佐藤さんが、福島県から山形県に移住するために家を新築するつもりで土地を探していたところ、株式会社結設計工房(一級建築士事務所)の完成内覧会のチラシを偶然目にすることに。その雰囲気がすっかり気に入り、足を運んだ内覧会で見学した一戸建てに “こだわり”を感じた佐藤さんは、結設計工房に設計を依頼することにした。

それから、土地探しに本格的に取り組んだ佐藤さん夫妻。ところが、希望の広さや立地条件を満たそうとすると、どうしても予算内に収まらない。そんな中、結設計工房の代表である結城利彦さんから、「中古物件を購入し、リノベーションしてみては?」との提案があり、引き渡し済みの実際にリノベーションした中古戸建てを見学しに行った。

「『あれ? いいじゃない?』というのが第一印象でした。土地はたくさん見学しましたが、最終的には、築28年の中古の建物をリノベーションすることに決めました」(佐藤さん)

「一戸建て」ではなく、「建物」としたのには理由がある。それは、この建物が、住宅ではなく、ニット製品を製造する縫製工場だったから。倒産による廃業で競売にかけられた結果、不動産会社が所有。10年ほど前から”空き家”ならぬ”空き工場”となっていたのだ。

「鉄骨造なので1階部分に柱がほとんどなかったことが決め手に。『ここだったら広いアトリエがつくれるぞ!』と決断しました」(佐藤さん)

リノベーションする前(上)と、リノベーション後(下)。凍結融解により剥落していた外壁を、金属系のサイディングに変更。メルヘンチックな外観を、「和」を意識したつや消しの黒を基調とするデザインにすることで、陶芸のイメージに近づけた(写真提供/結設計工房)

リノベーションする前(上)と、リノベーション後(下)。凍結融解により剥落していた外壁を、金属系のサイディングに変更。メルヘンチックな外観を、「和」を意識したつや消しの黒を基調とするデザインにすることで、陶芸のイメージに近づけた(写真提供/結設計工房)

リノベーション前(上)とリノベーション後(下)の1階部分。鉄骨造のため、柱がなく広々とした空間を確保。天井も一般の住宅より高く、その分、さらに開放感のあるアトリエとなった(写真提供/結設計工房)

リノベーション前(上)とリノベーション後(下)の1階部分。鉄骨造のため、柱がなく広々とした空間を確保。天井も一般の住宅より高く、その分、さらに開放感のあるアトリエとなった(写真提供/結設計工房)

リノベーション後の階段部分。「元工場だった名残で、廊下が広く、階段が緩やかなのがうれしい」(佐藤さん)(写真提供/結設計工房)

リノベーション後の階段部分。「元工場だった名残で、廊下が広く、階段が緩やかなのがうれしい」(佐藤さん)(写真提供/結設計工房)

工場時代の照明や自然素材を使い、コストを抑えながら雰囲気のある空間に

リノベーションは、「使い込むほどに風合いを増すように、自然素材をなるべく多く使う」という方針のもとに行った。また、コストを抑えるために、建物の形やサッシの位置などはできるだけ変更せず、1階のアトリエ部分でも、工場で使っていた照明器具や天井の電源をそのまま活かす形で残した。

一方、アトリエを陶芸教室としても使う予定だったので、通りを歩く人に認知してもらえるように、「和」を意識したスタイリッシュな外観に一新。中の様子が少し見えるようにと、スリットのある格子戸を採用した。また、施主である佐藤さん夫妻の意見を反映しながら進められるよう、大工は1人のみ。対話を通して細部を詰めつつ、約半年間かけて、じっくりと建てた。

加えて、1階をアトリエと作業スペース、来客用の和室といったパブリックスペースとし、2階をリビングや寝室などのプライベートゾーンとして分離。2階のリビングは、通りを行き交う人の目を気にせずに、ゆっくりリラックスできるくつろぎの空間となった。

佐藤さん自身の作品も飾っているリビング。窓はLow-Eペアガラスに交換、床は無垢フローリングを採用し、あたたかみのある空間に仕上げた(撮影/筒井岳彦)

佐藤さん自身の作品も飾っているリビング。窓はLow-Eペアガラスに交換、床は無垢フローリングを採用し、あたたかみのある空間に仕上げた(撮影/筒井岳彦)

2階のパウダールーム。塗り壁や大工と建具職人がつくった特注の家具や建具など、自然素材の内装材の効果で、あたたかい雰囲気の明るい空間となっている(撮影/筒井岳彦)

2階のパウダールーム。塗り壁や大工と建具職人がつくった特注の家具や建具など、自然素材の内装材の効果で、あたたかい雰囲気の明るい空間となっている(撮影/筒井岳彦)

1階玄関から奥につながる廊下にピクチャーレールを設け、自分の作品をギャラリー風に展示(撮影/筒井岳彦)

1階玄関から奥につながる廊下にピクチャーレールを設け、自分の作品をギャラリー風に展示(撮影/筒井岳彦)

小学生から92歳まで。陶芸・切り絵の教室が地域の人が集まる憩いの場に

建物が完成したときには、内覧会を開催。地域の人に陶芸を体験してもらうイベントも行った。近所に住む内藤さんも、結設計工房に家を設計してもらった縁で、この内覧会を訪れて陶芸を体験。その後、この教室に通うことになった。

「子どもの絵画教室を探していたところ、ここで図画工作を教えてもらえることになって。子どもに習わせるつもりだったのですが、付き添っていたら、母親である私まで楽しくなって通うことになりました。絵画だけでなく、切り絵や迷路づくり、陶芸なども習っていて、干支の置物や、8連発の割り箸鉄砲などのおもちゃもつくるんですよ。佐藤さんは、子どもが興味を持ったものを察知して、『じゃ、これやってみようか』とトライさせるやり方。子どもの可能性を引き出す教え方に感謝しています」(内藤さん)

結設計工房の代表夫妻も、教室がオープンした当初から通い始めた生徒のうちの一人。1年半が経ち、今ではダンボール1箱もの作品がある。

「好きなようにやらせてくれる上に、好きなようにやったことを褒めて伸ばしてくれるんです。だから続けられるのかも。月2回のペースで通って、毎回3~4時間はここで作品をつくっています」(結城可奈子さん)

生徒の中には、20時に来て夜中の2時まで教室にいる人も。中には92歳という高齢の人もいて、子どもからお年寄りまで、実にバラエティ豊かな年齢層の人たちがここに集まっていることになる。そして、陶芸や切り絵、図画工作など、思い思いの創作に取り組んでいるのだ。

こうしたアットホームな居心地の良さには、教室のつくりも一役買っている。通りに面した部分に格子戸を採用したことが内外の絶妙な距離感を保っている上、洗練され過ぎないようにラフな感じを残した仕上げにしたことで、気を使わずに利用できる親しみのある空間になったからだ。居心地の良いアトリエだからこそ、生徒の滞在時間が長くなり、自然に世代を超えた生徒同士のコミュニケーションも生まれた。

「陶芸はコミュニケーションの手段の一つであり、こちらが押し付けるのはおかしいと思っています。むしろ、相手の願いや思いを叶えてあげるのが、コミュニケーションの本来のあり方。だからこの教室では、受講時間やテーマは特に決めずに、その都度、相手に応じたテーマを考えるんです」(佐藤さん)

陶芸に使う窯は、火をたくタイプのものだと、近隣の目が気になるが、電気窯やガス窯であれば、街中でも問題なく使える。通りに面した今の場所なら、さらに気兼ねなく陶芸ができるし、人も集まってきやすい。そういう意味でも、ここに教室を開いて良かったのだと佐藤さんはいう。

「この場にいろいろな人たちが集まってくれることで、自分の制作時間は減ってしまいますが、それでも人とのかかわりができたことは、自分の人生にとってはとても良いこと。土地を探しはじめた当初は、人里離れた地に窯を構えることを考えていたのですが、街の中のアトリエにして正解でした」(佐藤さん)

題材であるりんごを前に、絵手紙を制作。教室では、子どもも大人も一緒に制作に取り組む(撮影/筒井岳彦)

題材であるりんごを前に、絵手紙を制作。教室では、子どもも大人も一緒に制作に取り組む(撮影/筒井岳彦)

ろくろに向かうと、ついつい熱中して時間が経つのを忘れるという結城可奈子さん。制作に集中できる環境も手伝い、いつも3~4時間は教室に滞在する(撮影/筒井岳彦)

ろくろに向かうと、ついつい熱中して時間が経つのを忘れるという結城可奈子さん。制作に集中できる環境も手伝い、いつも3~4時間は教室に滞在する(撮影/筒井岳彦)

奥にあるのが窯。手前の棚には、成形された作品が、窯で焼かれるのを待っている(撮影/筒井岳彦)

奥にあるのが窯。手前の棚には、成形された作品が、窯で焼かれるのを待っている(撮影/筒井岳彦)

原則として、自身の制作(陶芸と切り絵)は、毎日行う佐藤さん。その合間に、陶芸教室や切り絵の個人レッスン、子ども向けの図画工作教室を開いている(撮影/筒井岳彦)

原則として、自身の制作(陶芸と切り絵)は、毎日行う佐藤さん。その合間に、陶芸教室や切り絵の個人レッスン、子ども向けの図画工作教室を開いている(撮影/筒井岳彦)

右のドアがプライベートゾーン用の玄関。左が、アトリエの玄関と、入口を分けている(写真提供/結設計工房)

右のドアがプライベートゾーン用の玄関。左が、アトリエの玄関と、入口を分けている(写真提供/結設計工房)

縫製工場がアトリエ付き住宅として再生され、地域の人々が集うコミュニケーションの場となったこの建物は、第36回住まいのリフォームコンクール<コンバージョン部門>で「公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター理事長賞」に輝いた。「スーパーの横の黒い建物」として認知され、地域の若者が仲間を連れてぐい呑をつくりに来たりするというこのアトリエ。老後は、アトリエ部分をリビング・ダイニングに改装して、1階部分だけで暮らせるようにすることも考えているというから、今後もゆるやかに形と機能を変容させていく可能性を残しているということになる。まさにこの時代の「コンバージョン」のあり方を示す好例なのではないだろうか。

●参考
アトリエたる
株式会社結設計工房

「リノベ・オブ・ザ・イヤー2019」に見るリノベーション最新事情。“断熱性能”など4つのキーワード

「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」の授賞式が2019年12月12日に開催され、1年を代表するリノベーション作品が決定しました。7回目となる今回も、住宅から地域再生までさまざまなジャンルの作品が注目され、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれました。受賞作品から最新傾向を探ってみましょう。
【注目point1】性能向上リノベーションの時代が到来

今回の「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2019」では、エントリー279作品からグランプリ1、部門別最優秀賞4、特別賞13、計18作品が選ばれました。顕著な傾向として一番に挙げられるのは「性能向上リノベ」。住宅性能を高めるリノベーションに大きな注目が集まりました。

グランプリをはじめ、部門別最優秀賞、特別賞(性能向上リノベーション賞)を含めると性能向上リノベは5作品が受賞しています。選考委員によると、一次審査を通過した60ノミネート作品を対象とする最終審査会では、性能向上リノベが全部門で最優秀賞を争ったほどの充実ぶりだったそうです。

2019年は、地球温暖化、プラスチックゴミ問題といった環境保護・エコ意識の高まりが世界的に顕著となった年でした。また、日本では気候変動によるとみられる災害が多発し、住まいの安全について改めて考えさせられる年でもありました。耐震性や断熱性という住宅性能を向上させることは、暮らしの快適性を高め、化石燃料の使用を削減するだけでなく、地震や猛暑等から命を守る重要なことだと認識させられます。

そうした潮流はリノベーション業界でも形となって現れています。選考委員からは、「日本のリノベーションに性能向上の時代が到来した」「性能向上リノベは以前からあったが、質と量が飛躍的に向上した」との評もあり、転換の年となったことを感じました。なかでも、注目されたプロジェクト2つを紹介します。

総合グランプリ
『鹿児島断熱賃貸~エコリノベ実証実験プロジェクト』株式会社大城

長年空き家だった約35平米・2DKの賃貸の集合住宅を、断熱性能が高い広いワンルームに改修(株式会社大城)

長年空き家だった約35平米・2DKの賃貸の集合住宅を、断熱性能が高い広いワンルームに改修(株式会社大城)

もともとは無断熱で夏暑く、冬はタイル張りの浴室とトイレが冷蔵庫の中のように冷え切ってしまうほど寒いという悪条件の賃貸住宅でした。増え続ける空き家問題を解決する糸口となるよう、「賃貸だから性能が劣っても仕方がない」と思われがちだった温熱環境の悪さを改善し、快適な住空間を提供することで長く住み続けてもらいたいという意図のもと計画されたプロジェクトです。

断熱改修によってHEAT20・G2グレード(冬の体感温度が概ね13℃を下回らない)という高い断熱性能を達成。400万円という低予算でも省エネ性能がここまで高められるという見本になっています。

鹿児島大学の協力で改修前後の室温と電気使用量を計測し、そのデータを専門知識がなくても分かるように入居者募集時に表示するなど、不動産市場での物件情報提供のあり方も提示。入居者がすぐ見つかったとのことで、「エコリノベ」が空室対策の有効な手段となっていることも分かります。

住宅エネルギー性能を不動産広告に表示する義務があるEUのように、日本でも今後、光熱費や性能を可視化する制度が期待されますが、それを先取りした先進的な取り組みだという点も評価されました。

地元のガス会社が物件オーナーでありながら、事業と相反する省エネを実現させている点も、年々高まっている省エネ志向の社会世相を反映していると思われます。

無差別級部門・最優秀賞
『古くなった建物に、新築以上の価値を。~戸建性能向上リノベ実証PJ』YKK AP株式会社

全国各地に建ついずれも築35~100年という、5軒の木造2階建てを高性能リノベーション(YKK AP株式会社)

全国各地に立ついずれも築36~100年という、5軒の木造2階建てを高性能リノベーション(YKK AP株式会社)

この作品も、空き家問題、居住性能の低いストック住宅問題を解決すべく立ち上げられた性能向上プロジェクトです。断熱性(HEAT20 G2グレード)、耐震性(震度6に耐え得る耐震等級3相当)を同時に実現。

窓・建材メーカーのYKK APが、全国5カ所で各地の企業とコラボ。完成した家の見学会をリノベーション企業向けに開催してノウハウを共有し、性能向上リノベの活性化に取り組むといった、全国規模の企業だからできる先駆的な試みだと感じます。

【注目point2】「再販リノベ物件」の可能性の広がり

「再販物件」とは、不動産会社やリノベーション会社が中古物件を購入し、リノベーションを施した上で販売する物件のこと。一般的には、売却しやすくするため万人受けするデザインや間取りが求められがちですが、近年、再販物件はどんどん多様化しています。

なかには、万人受けはしないものの、「こんな暮らしがしたい」という人への訴求力のあるもの、また、性能やコストに工夫のあるものなど、「中古住宅を綺麗に改修して快適な家に変えて売る」という再販物件の概念を大きく逸脱する秀作に注目しました。

1000万円未満部門・最優秀賞
『my dot.-東京の中心で風呂に住む-』株式会社リビタ

浴室をバルコニー側に、ガラス張りの洗面室をリビング兼寝室に面して配置した大胆な間取り(株式会社リビタ)

浴室をバルコニー側に、ガラス張りの洗面室をリビング兼寝室に面して配置した大胆な間取り(株式会社リビタ)

2DK・約47平米のマンションを、リラックス=バスタイムととらえ、部屋全体をお風呂空間に見立てるというコンセプトで設計。コンパクトな住戸では珍しい1616サイズの広めのユニットバスをバルコニー側に移動して、新宿の夜景を望むビューバスを実現しています。洗面室も広めにとり、ガラス引き戸で開放的に。

こうしたバスタイムに特化した物件が売れると判断した背景には、それだけ住み手のニーズが多様化・細分化していること、不動産市場が成熟してきていることが挙げられるのではないでしょうか。

特別賞・和室リノベーション賞
『SHOGUN Castle』有限会社ひまわり

何の変哲もないマンションの一室を、絢爛たる和の空間に(有限会社ひまわり)

何の変哲もないマンションの一室を、絢爛たる和の空間に(有限会社ひまわり)

6畳の和室を囲む3面の壁と天井用に、日本画家に原画の書き下ろしを依頼。原画を特殊スキャンして壁面に転写した、世界にひとつだけの空間に仕上がっています。和の美を極限的に追求し、空間の存在価値を高めていることに、遊び心と個性を感じさせます。再販物件でここまでこだわるのかと感じた作品です。

特別賞・性能向上リノベーション賞
『最小限の予算で★耐震適合★2世帯住宅』株式会社まごころ本舗

築40年超とは思えない、スタイリッシュで新しい内装(株式会社まごころ本舗)

築40年超とは思えない、スタイリッシュで新しい内装(株式会社まごころ本舗)

耐震・断熱改修に予算を多く割くため、「仕入れ、設計、施工、販売」を全て自社で行い、設備や内装材は価格比較サイトや楽天を活用して最安値を入手するなど、徹底して費用を抑えた物件です。そのため、2世帯プランへの間取り変更も合わせて1000万円以下という低コストで実現しています。

マンションに比べ、戸建て住宅はどうしても性能改善にコストがかさみます。ワンストップ販売とコスト配分の取捨選択によって改善した点で、再販物件事業の可能性を示した良い見本となっています。

【注目point3】新たな空間を生み出す秀逸アイデア

リノベーションは、「こんな暮らしがしたい」「こんな場所をつくりたい」という熱い思いを具体的な形に変えてくれる、究極のオーダーメード。時には、「こんな空間見たことない」というユニークなプランや、逆転の発想を形にした特徴ある家が目立っていました。

施主のライフスタイルによってリノベーションはどんどん多様化・細分化されているのを感じます。

500万円未満部門・最優秀賞
『我が家の遊び場、地下に根ざす』株式会社ブルースタジオ

ジメジメしてあまり活用されていなかった地下の物置を、ライブラリーとシアタースペースにチェンジ。秘密基地のようなワクワク空間です(株式会社ブルースタジオ)

ジメジメしてあまり活用されていなかった地下の物置を、ライブラリーとシアタースペースにチェンジ。秘密基地のようなワクワク空間です(株式会社ブルースタジオ)

特別賞・R1ペット共生リノベーション賞
『イヌはイエ。ヒトはケージ。』株式会社ニューユニークス

施主の食事中、元気いっぱいな愛犬と家族がストレスなく過ごせるよう、DKをケージですっぽり囲んでしまったという逆転の発想(株式会社ニューユニークス)

施主の食事中、元気いっぱいな愛犬と家族がストレスなく過ごせるよう、DKをケージですっぽり囲んでしまったという逆転の発想(株式会社ニューユニークス)

特別賞・ベストデザイン賞
『浮かぶガラスの茶室がある大阪長屋』9株式会社

築79年という長屋を再生。コンクリートをはね出してつくったガラスの茶室など、新たなしつらえが目を引きます(9株式会社)

築79年という長屋を再生。コンクリートをはね出してつくったガラスの茶室など、新たなしつらえが目を引きます(9株式会社)

【注目point4】古き良き時代を継承する

古来より、住まいは手を入れながらずっと住み継いでいくものでした。いつの間にかスクラップ&ビルドの時代となり、古民家などはどんどん建て替えられることに。しかし、国が200年住宅を推奨する現在、住まいを継承することは再び当たり前の時代となってきました。古いものが持つ味わいや温かみ。それらが再生により蘇った家は心まで温めてくれます。そうした作品も要注目です。

1000万円以上部門・最優秀賞
『5世代に渡り受け継がれる、築100年の古民家』株式会社アトリエいろは一級建築士事務所

家族5世代が暮らす築100年超の古民家。子世帯の同居を機に再生。煤(すす)で真っ黒になった大黒柱や縦横にかかる大梁など、この家の魅力が輝きを取り戻しました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

家族5世代が暮らす築100年超の古民家。子世帯の同居を機に再生。煤(すす)で真っ黒になった大黒柱や縦横にかかる大梁など、この家の魅力が輝きを取り戻しました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)


特別賞・事業継承リノベーション賞
『郊外大家さんは農と緑でバトンタッチ』株式会社ブルースタジオ

祖父、父、息子と3世代に渡って賃貸物件の大家業を継承。劣化した建物をリノベし、地域に開かれた庭をつくり、本業の農業をベースにしたグリーンショップを開くことで見事な再生を果たしています(株式会社ブルースタジオ)

祖父、父、息子と3世代に渡って賃貸物件の大家業を継承。劣化した建物をリノベし、地域に開かれた庭をつくり、本業の農業をベースにしたグリーンショップを開くことで見事な再生を果たしています(株式会社ブルースタジオ)

特別賞・エリアリノベーション賞
『継なぐまちの記憶「アメリカヤ横丁」』(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

取り壊される予定だった昭和の趣が色濃い長屋を賃貸住宅と店舗として再生。昭和のころのような活気や人々の繋がりが取り戻されました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

取り壊される予定だった昭和の趣が色濃い長屋を賃貸住宅と店舗として再生。昭和のころのような活気や人々の繋がりが取り戻されました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

特別賞・地域風景デザイン賞
『二軒長屋のブロック造の家』株式会社スロウル

北海道で多く建てられた二軒長屋。今では徐々に姿を消しつつありますが、性能を高めて内装を変え、快適な家に変化させたことで、昔ながらの町の風景を留めています(株式会社スロウル)

北海道で多く建てられた二軒長屋。今では徐々に姿を消しつつありますが、性能を高めて内装を変え、快適な家に変化させたことで、昔ながらの町の風景を留めています(株式会社スロウル)

「こんな暮らしがしたい!」に特化したリノベーションが目立つように

かつてリノベーションといえば、空間全体で「優れたデザイン」「おしゃれな住空間」という物件が数多く見られました。しかし近年は、「こんな暮らしがしたい!」という気持ちに重点を置いたリノベーション事例が多くなってきたと感じます。

例えば、上で紹介した『my dot.-東京の中心で風呂に住む-』のように入浴しながら夜景が見える浴室をプランの要にしてしまった家や、『イヌはイエ。ヒトはケージ。』のように愛犬ではなく人間を囲む家、『我が家の遊び場、地下に根ざす』みたいな秘密基地をつくってしまった家と、「したい暮らし」がかなり具体的。

それは、リノベーションが施主のライフスタイルや世の中が求めているものを、より鮮明に具体化できるからなのでしょう。今年一番注目された、「性能向上リノベ」然り、リノベーションの可能性は時代とともにどんどん変化し、広がっていくものなのだと感じました。

赤絨毯に正装が決まっている受賞者のみなさん。2020年も素敵な作品を期待しています(写真提供/リノベーション協議会)

赤絨毯に正装が決まっている受賞者のみなさん。2020年も素敵な作品を期待しています(写真提供/リノベーション協議会)

●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」

デュアルライフ・二拠点生活[22] 東京と長野県松本市。温泉街の一軒家を家族でセルフリノベ

向井さんは、平日は東京で仕事をし、週末は妻と息子が住む長野県松本市にある浅間温泉で築50年の家をリノベしながら過ごすという、二拠点生活を送っている。その暮らしぶり、二拠点生活を始めた経緯や、始めてからの変化を聞いた。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、さまざまな世代がデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点居住者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。「古い家を改装したい」という夢を実現

JR新宿駅から特急あずさで2時間半。長野県のほぼ中央に位置する松本市は、旧城下町らしい歴史的建造物が残る街並みが特徴だ。夏は過ごしやすいものの、冬は氷点下まで下がる厳しい気候だが、古くから温泉街も多く、とりわけ「浅間温泉」は1000年も続く歴史ある温泉街だ。

1000年の歴史を感じさせる浅間温泉の街並み(写真撮影/高木真)

1000年の歴史を感じさせる浅間温泉の街並み(写真撮影/高木真)

向井家の庭先には、干し柿や玉ねぎを保存。生活を大切にしている様子がうかがえる(写真撮影/高木真)

向井家の庭先には、干し柿や玉ねぎを保存。生活を大切にしている様子がうかがえる(写真撮影/高木真)

今から6年前、3年間の中国・大連での駐在生活を終え、日本に帰国した向井さん一家。帰国後に改めて拠点を考えたとき、もともとアウトドアが大好きな家族にとって「東京」は、それほど魅力的に映らなかったのだという。

「住みたい場所に住めばいい」と考え、スキーやキャンプで何度も訪れたことのある信州・松本が自然と候補に挙がったのだという。

信州は、温泉あり、山あり、観光地としても人気のあるエリアなので、東京に住む家族や友人たちが、喜んで足を運んでくれる。またネットショッピングを使えば、買い物にも不便を感じることはない。最近ではおしゃれなカフェやベーカリーも多くできているのだとか。さらに関西出身の向井さんと、東京に実家がある妻・Sさんにとっても、信州は便のよい場所だった。

2年ほど賃貸で生活した後、定住を考えたときに出合ったのが、この築50年の一軒家だった。「ワクワク感を、この家を見たときに感じた」とはSさんの言葉だ。

街角には、温泉水を飲めるスポットが存在する(写真撮影/高木真)

街角には、温泉水を飲めるスポットが存在する(写真撮影/高木真)

広い軒先は、庭と家のつなぎ役として、とても重宝しているそう(写真撮影/高木真)

広い軒先は、庭と家のつなぎ役として、とても重宝しているそう(写真撮影/高木真)

浅間温泉は、松本駅から約4km、車で20分ほどと便がよく、向井さんの家は100坪の土地に40坪ほどの大きさの家が建っている。家も、広すぎず狭すぎずちょうどいい大きさだった。こうして、立地ありきで中古物件を手に入れることになった。

大工だった祖父と、建築関係の仕事をしていた父をもつSさんにとって、古い家を改装して住むというのは昔からの夢だった。その夢を実現するチャンスを、この家を見たときに感じたのだそうだ。なお当時2年近く売りに出されていたにもかかわらず、買い手が付かなかったこの家は、向井さん一家が購入しなければ、2週間後に取り壊しになる運命だったとか。

この家の中心的存在である広いリビングダイニング(写真撮影/高木真)

この家の中心的存在である広いリビングダイニング(写真撮影/高木真)

閃きを実現するセルフリノベ

こうして、実際に購入した家をDIYでセルフリノベーションして住むことにした向井さん一家。夫妻と、当時小学2年生だった息子の3人に加え、Sさんの父に助けを借り、一気にリノベーションを始めたのが今から4年ほど前。

「こんな風にしたいけれど、どうしたらいいだろうか、と考えているうちに、パッとひらめくのです」と話すSさん。向井さんは週末しか松本にいない。そのため、平日はSさんが1人でできる作業だけ進め、週末に家族で大きな作業を行うサイクルが出来上がっていった。

「家づくりのプロが“普通に”考えたらやらないようなことに挑戦してきた」と話す一家。例えば息子の“砦”となっている2階のロフトは、あえて天井を壊し、客間の天井を20cm下げてつくり出したスペース。また、信州らしさが感じられる「漆喰」を取り入れるため、夜な夜なネットで研究した妻は、あちこちから必要な材料を集め、実際に漆喰の壁を見事につくりあげてしまった。

2階の中央の部屋は、押入れをなくして、息子の秘密基地につながる階段を設置(写真撮影/高木真)

2階の中央の部屋は、押入れをなくして、息子の秘密基地につながる階段を設置(写真撮影/高木真)

息子の砦となっているロフト部分は、8畳の客間と同じ広さのスペース(写真撮影/高木真)

息子の砦となっているロフト部分は、8畳の客間と同じ広さのスペース(写真撮影/高木真)

毎日がアウトドア

ところで向井家にはエアコンも暖房もない。あるのは薪ストーブと、客間に用意のある電気ストーブ1つ。冬の寒さには、この家の顔といってもいいこの「薪ストーブ」が活躍する。この薪ストーブのある生活が、一軒家を購入するきっかけになった最大の理由でもある。

この家の顔といえる信州発エイトノットの薪ストーブ(写真撮影/高木真)

この家の顔といえる信州発エイトノットの薪ストーブ(写真撮影/高木真)

薪ストーブのオーブンを利用してつくるメニューの定番はピザ(写真提供/向井さん)

薪ストーブのオーブンを利用してつくるメニューの定番はピザ(写真提供/向井さん)

まるで釜で焼いたような美味しさとのこと(写真提供/向井さん)

まるで釜で焼いたような美味しさとのこと(写真提供/向井さん)

「薪ストーブの生活は、すごく労働が求められる。毎年2~11月の間に、薪となる木材を求めてりんご園などへ出かけています。手伝いをした対価として、いらなくなった木をもらってくるんです」と話す向井さん。こうして集めた木材を、切断して庭の棚で乾燥させておき、冬の間、薪としてストーブに使うという。

すっかり薪割りの名人(写真撮影/高木真)

すっかり薪割りの名人(写真撮影/高木真)

2月から11月の間に、薪ストーブ用の薪を調達し冬に備える向井一家。これだけの薪が、ひと冬でなくなってしまうのだそう(写真撮影/高木真)

2月から11月の間に、薪ストーブ用の薪を調達し冬に備える向井一家。これだけの薪が、ひと冬でなくなってしまうのだそう(写真撮影/高木真)

またリビングの天井の角に通気口を開けたことで、2階にも薪ストーブの暖が伝わる仕組みになっている。これで寒い冬も薪ストーブの柔らかい暖かさが、家中に伝わる。「それでも密閉度が低いので、寒いときは寒いです」と笑う。そんなときは、暖かい温泉に浸かりに行けばいい。

1階の暖かいな空気は、この通気口を通して2階に渡る(写真撮影/高木真)

1階の暖かいな空気は、この通気口を通して2階に渡る(写真撮影/高木真)

「薪の火つけや火加減は息子の仕事」と話す向井さん。リノベ作業でも大活躍した息子は、家づくりから、日々の家のメンテナンスまで、積極的に自分の住む家とかかわっている。

今や薪ストーブの名人となった息子(写真撮影/高木真)

今や薪ストーブの名人となった息子(写真撮影/高木真)

「毎日がアウトドアみたいな生活なので、むしろアウトドアに出かける機会は減りました」とのこと。その代わり、引越しをしてから近所に住むアルピニストや山小屋のオーナーなどの登山にかかわる人と多く知り合い、家族で「登山」を楽しむようになったのだとか。

「入居したころは、周りの家の家主は、80代のおじいちゃんやおばあちゃんばかりでした。でも代替わりしてきて、東京から長野へ戻ってきた家族がいたり、市内から移り住んだ家族がいたり、息子の同級生も増えてきた。いろいろな世代が混ざっているこの街の雰囲気はとてもいいです」と向井さん。

ご近所付き合いも親密で、庭先で一緒にバーベキューを楽しんだり、息子は、近くのお寺でサッカーや野球、バドミントンなどをするようになったのだとか。最近では、近くに借りた小さな田んぼでもち米をつくり、年末には地域の人たちと餅つきを楽しむこともあるという。

家の近くに借りた畑では、もち米を育てている(写真提供/向井さん)

家の近くに借りた畑では、もち米を育てている(写真提供/向井さん)

中古物件の良さは、自由度が高いこと

「中古の家なので、気兼ねなく手を入れて変えられる」と話すSさん。大人3人と子ども1人だけで、梁を付け替え、壁を壊し、床を張り替えるといった作業を全てこなした向井さん家族にとって、引越してきた当初から2年間は、週末のほとんどをDIYに費やしたのだそうだ。プロの手は最低限しか借りず、家族だけで取り組んだプロジェクトゆえに、今ではすっかり愛着ある家が出来上がったという。

客間の上には息子の秘密基地が。天井を20cmほど下げてロフトスペースをつくった(写真撮影/高木真)

客間の上には息子の秘密基地が。天井を20cmほど下げてロフトスペースをつくった(写真撮影/高木真)

「まだ完成まで7割ほど」という向井邸。今は屋根瓦を塗り替えているところだという。今後は、中学生になる息子のための小屋を、庭先につくるつもりなのだとか。「どんな部屋にするか、今家族で相談しているところ」と向井さんはうれしそうに話す。

「日々の生活を大事にして生きているので、正直先のことを考えてはいません。松本の生活は、“別荘”で生活しているみたいな感覚なので、将来東京に戻りたくなったら東京に戻ればいいし、子どもの学校などで移動することになったら移動したらいい、そんな風に考えています」とはSさんの言葉だ。

住みたいところに住む「マルチハビテーション」を体現している向井家からは、日々の生活を大切にしながら、住む家のために、自分たちで考え、手を動かし、守っていることが伝わってくる。家族にとって心地いい場所が何なのか、探りながら行うリノベ作業が、家族の形をつくる上で、とても大切な時と場所なのだ。「“くたボロ”まで作業しても、かけ流しの温泉に入れるだけで生き返る」と話す向井さん。毎週末は温泉で英気を養い、平日は東京での仕事に精を出す二拠点生活は続く。

浅間温泉の街並みが見渡せるサンルームは、ゆったりとした時が流れる(写真撮影/高木真)

浅間温泉の街並みが見渡せるサンルームは、ゆったりとした時が流れる(写真撮影/高木真)

DIYセルフリノベについて書いたSさんのブログ

奄美大島の空き家をみんなでDIY。街のみんなの夢をかなえる場になるまで

あるときはアロマ教室、またあるときは居酒屋や人狼ゲーム会場……。奄美大島の集落にある一軒の古民家が、世代を超えて地域の人々をつなげる場を提供している。今回は、この『HUB a nice d!』を訪問。自己実現の場を求めていた山本美帆さんが、周囲を巻き込みながら、いつしか彼らの自己実現の場にもなる地域のHUB拠点を立ち上げたプロセスを取材した。
夫の転勤でキャリアを閉ざされたママたちの声が空き家探しのきっかけに

そもそもの発端は、6年前、山本美帆さん(34歳)が夫の転勤で奄美大島のほぼ南端、瀬戸内町の阿木名集落に引越してきて、個人事業主としてベビーマッサージの講師を務める傍ら、「赤ちゃん先生」という世代間交流の事業に携わっていたころまで遡る。地域のママたちが同じ悩みを抱えていることに気づいたのだ。

「みなさん、自分のキャリアややりたいことがあるのに、夫の転勤など、自分の意思ではない要因でキャリアを閉ざされてしまっていたり、夢が実現できずにいたんです。あるいは、やりたいことに向けて勉強したり資格を取ったりしても、それを活かす場がないと。アロマ教室やハンドメイド教室などを開きたくても、公民館のようなスペースは行政が管理しているため、利益が出るような活動には使えなくて」(山本さん)

自分自身、そうした“場”を求めていたこともあり、それなら自分でつくってしまおうと、空き家や空きスペースを探し始めたのが3年前。都市部と違って、不動産会社にも空き家物件の情報はない。区長にも協力してもらいながら、内装を自分で自由に変えられる賃貸住宅を1年ほど探したが、借りられる空き家は見つからなかった。そこで、あまりに古くて候補から除外していた物件を再検討し、ようやく最終的に決断に至ったのが、昭和33年(1958年)築の古民家。空き家歴5年になる物件だった。

大工、建築家を加えた3人チームでリノベーションを開始

空き家を改装するにあたって、大工の中村栄太さん(34歳)の協力を仰いだ山本さん。少しでもコストを抑えたいこともあり、柱など使えるものはなるべく残そうと考えていたが、シロアリの被害がひどいことが判明。かなり手を入れなければならないことが分かり、「プロの目で見てもらわないと」と考え、中村さんの中学・高校通して部活の先輩だった建築家の森帆嵩さん(35歳)にもチームに入ってもらうことになった。

「奄美は同級生、同窓生のつながりが強いんです」(森さん)

こうして、同世代の3人チームが結成されたのが2年前の2017年6月。賃貸契約を結んで、8月には地域の人たちにも手伝ってもらいながら解体し、この年の11月から建築を始めた。プロでなければできない部分は大工の中村さんが担当。DIYできる部分は、山本さんはじめ地域の人たちにも手伝ってもらった。

「SNSで呼びかけて集まってもらいました。多いときで30~40人が参加してくれたのではないでしょうか」(山本さん)

「奄美は人手が少ないので、なんでも自分たちでやるんです。引越しも業者に頼まずにみんなでやるし、建物の上棟などもそう。女性たちは炊き出しをしてくれたり」(森さん)

工事やDIYと並行して、地域の人たちにも加わってもらいながら「場の使われ方」を話し合った。コンセプトは「地域のコミュニティ」「みんなで集える空間」。当初は、子育て世代にフォーカスしたサロンのようなものをイメージしていたが、やがて軌道修正をすることになる。

「2018年2月に半分出来上がったところで、資金がショートして、工事が止まってしまったんです」(山本さん)

鹿児島県の起業家スタートアップ支援金と自己資金とを併せて資金を用意していたが、それでは足りなくなってしまったのだ。

改修前の状態。昭和33年(1958年)築だったため、試行錯誤の末、建築当時の状態に回復させることで強度を確保するという考え方に落ち着いた森さん。先輩の建築家に相談したり、自身でも伝統再築士の資格を取得したりした(画像提供/HUB a nice d!)

改修前の状態。昭和33年(1958年)築だったため、試行錯誤の末、建築当時の状態に回復させることで強度を確保するという考え方に落ち着いた森さん。先輩の建築家に相談したり、自身でも伝統再築士の資格を取得したりした(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

リフォーム工事の様子。DIYしたのは、(1)床材の加工(2)漆喰壁などクロス以外の塗装(3)土間打ちのコンクリートの運搬(4)外壁や屋根の塗装など。子どもたちも遊び感覚で楽しみながら手伝ってくれた(画像提供/HUB a nice d!)

リフォーム工事の様子。DIYしたのは、(1)床材の加工(2)漆喰壁などクロス以外の塗装(3)土間打ちのコンクリートの運搬(4)外壁や屋根の塗装など。子どもたちも遊び感覚で楽しみながら手伝ってくれた(画像提供/HUB a nice d!)

集落の人たちが求めていたのは世代間をつなげる“食”の場だった

資金不足で計画が立ち行かなくなってしまった山本さんに、鹿児島県の出先機関の女性所長がアドバイスをくれた。

「集落として取り組むのであれば、国の交付金が受けられるよと教えてくださったんです。そこで、集落のミーティングに出席して、どんな使い方をしたいかと聞いてみたら、『おじいちゃんおばあちゃんから子どもまで一緒に食事ができる地域食堂があるといい』といった声があがりました」(山本さん)

飲食できる場が求められていることが分かり、山本さんたちは軌道修正を決めた。業務用のキッチンを入れるなど設計図を大幅に変更。工事を再開できるだけの資金も調達できたことから、第二期の工事を開始した。

「子どもたちにはキッズスペースを、正座がつらいお年寄りには掘りごたつ形式のカウンターをつくりました。段差を設けているので、完全バリアフリーではありませんが、いろいろな世代がちょっとずつ我慢しながら一緒に使えるような設計です」(森さん)

こうして『HUB a nice d!』は、2018年10月29日に完成した。

左から、中村栄太さん、山本美帆さん、森帆嵩さん。34歳、34歳、35歳と、奇しくもほぼ同い年の3人がそろった。建築当時の強度に復元したこの建物は、2018年9月の台風で島内が多くの被害に見舞われたときも、被害がなかったという(画像提供/HUB a nice d!)

左から、中村栄太さん、山本美帆さん、森帆嵩さん。34歳、34歳、35歳と、奇しくもほぼ同い年の3人がそろった。建築当時の強度に復元したこの建物は、2018年9月の台風で島内が多くの被害に見舞われたときも、被害がなかったという(画像提供/HUB a nice d!)

土間から上がる伝統的なつくり。「おじいちゃんの家みたいな懐かしさは失くしたくありませんでした」(森さん)(画像提供/HUB a nice d!)

土間から上がる伝統的なつくり。「おじいちゃんの家みたいな懐かしさは失くしたくありませんでした」(森さん)(画像提供/HUB a nice d!)

カウンターは掘りごたつ形式でラクに座れるようになっている(画像提供/HUB a nice d!)

カウンターは掘りごたつ形式でラクに座れるようになっている(画像提供/HUB a nice d!)

大工の中村さんのこだわりが詰まっている天井(画像提供/HUB a nice d!)

大工の中村さんのこだわりが詰まっている天井(画像提供/HUB a nice d!)

地元になかった「週末居酒屋」が中高年男性陣に大好評

完成から約1年。現在、『HUB a nice d!』は、アロマ教室やベビーマッサージ教室、スキンケア講座や子育てサロンに加えて、平日昼のカフェ、土曜の昼のカレー店、金土の夜の居酒屋と、曜日や時間帯ごとに、いろいろな使われ方をしてきた。特に居酒屋は、店主である納裕一さん(35歳)が2018年12月に始めて以来、週末ごとに大盛況なのだという。

「本業は看護師ですが、以前から居酒屋をやってみたかったんですよね。やってみて分かったのは、この場がいろいろな人をつなげているということ。島内と島外の人をつなげるだけでなく、同じ集落に住む若い世代と上の世代もつなげてくれて。そういう機会が意外となかったので、焼酎を飲みながらいい感じにゆるくつながりができるのは、とてもうれしいです」(納さん)

地元に居酒屋がなかったことから、今までは隣町に飲むに行くしかなかった一人暮らしの高齢お年寄りの男性陣から絶大な支持を集めている「週末居酒屋」。一方、近所に住む高齢の女性はというと、「ずっと空き家だった家に、こんなふうに人が集まって来るようになったことで、町が明るくなった」と、こちらも大いに喜んでいるのだとか。

夫の転勤で熊本県から引越してきて以来、月に2回ほど通っている女性は、「仕事をしていないこともあり、地域とのつながりがなかったので、集落の人たちと仲良くなれる場があることはとてもありがたい」と語る。『HUB a nice d!』が、島外と島内、集落内の世代間をつなぐ役割を果たしていることが分かる。

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

この日のオススメは豚のアゴ肉鉄板焼とシビユッケ。納さんは豚バラ大根も得意料理だ(画像提供/HUB a nice d!)

この日のオススメは豚のアゴ肉鉄板焼とシビユッケ。納さんは豚バラ大根も得意料理だ(画像提供/HUB a nice d!)

地域食堂では家庭料理を提供。大人300円、小学生~高校生100円、未就学児は無料だ(画像提供/HUB a nice d!)

地域食堂では家庭料理を提供。大人300円、小学生~高校生100円、未就学児は無料だ(画像提供/HUB a nice d!)

カメラマンを迎えてのカメラ講座では、子どもたちをのびのび遊ばせながら参加できる。ママたちは学びに集中し、チビッコたちは遊びに熱中(画像提供/HUB a nice d!)

カメラマンを迎えてのカメラ講座では、子どもたちをのびのび遊ばせながら参加できる。ママたちは学びに集中し、チビッコたちは遊びに熱中(画像提供/HUB a nice d!)

HUB a nice d! を造る過程でアドバイスや協力をくれた阿木名まちづくり委員会のみなさん(画像提供/HUB a nice d!)

HUB a nice d! を造る過程でアドバイスや協力をくれた阿木名まちづくり委員会のみなさん(画像提供/HUB a nice d!)

地域の社会人有志が自主的に実行委員会を起ち上げた「瀬戸内町近未来会議」というイベントの事前勉強会の様子。大人に混ざって高校生たちも参加(画像提供/HUB a nice d!)

地域の社会人有志が自主的に実行委員会を起ち上げた「瀬戸内町近未来会議」というイベントの事前勉強会の様子。大人に混ざって高校生たちも参加(画像提供/HUB a nice d!)

心理ゲーム「人狼」の会場になることも。まさにやりたい人がやりたいことをする“場”となっている(画像提供/HUB a nice d!)

心理ゲーム「人狼」の会場になることも。まさにやりたい人がやりたいことをする“場”となっている(画像提供/HUB a nice d!)

完成から1年。さまざまな人にさまざまな使われ方をすることで、地域にしっかりと根づいた『HUB a nice d!』は、第36回「住まいのリフォームコンクール<コンバージョン部門>」で優秀賞を獲得した。そのタイトルは「多世代で繋がり人や情報が集まる夢の芽が花開く地域のHUB拠点」というもの。事実、『HUB a nice d!』は今も、「実験と挑戦の場」として、人々のチャレンジショップの役割を果たしていると山本さんは語る。また、DIYは、コスト削減や、参加者がその後も愛着を持ってかかわってくれることというメリットがあるが、森さんによると「自分たちで修復できるので、長期間のメンテナンスコストも抑えることができる」とのこと。事業自体のサステナビリティを高めるというメリットも再発見することとなった。

山本さん自身の自己実現が発端となり、それが周りのママたちへ、やがて地域のみんなの自己実現へと連鎖して広がったこの挑戦。その過程には、コミュニティ活動を持続させるという重要課題へのヒントがありそうだ。

●参考
HUB a nice d!

賢く抑えるコスト調整のポイント

さまざまなリフォーム実例を見るうちに、かなえたいプランが見えてきたり、中には、希望が膨らみ、思ったより費用がかかるかも?と心配になる人もいるのでは。リフォームはメリハリを利かせて賢く抑えると仕上がりの満足度もグッと上がる。コスト調整のポイントをリフォーム会社のJSリフォーム(日本総合住生活) 北田晃彦さんと、LOHAS studio 澤田亮さんに教えてもらった。ポイントを抑えて、大満足のリフォームを実現しよう。
不満・要望を本音で話し、現場調査で伝え切ることが賢いコスト調整の近道!

やりたいリフォームを賢く実現するためには、リフォーム会社と初めて顔を合わせる「初回打ち合わせ」をいかに有意義に過ごせるかがカギとなる。なぜなら初回打ち合わせは自宅での現場調査を兼ねるケースが多く、この現場調査でのヒアリングと見た内容が土台となって、リフォームプランと見積もりがつくられていくからだ。そのため、不具合を感じている箇所はもちろん、家全体の状態などをまとめてプロの目で見てもらうことが大切だ。

同時に、現場調査は要望を伝える場でもある。現地で具体的な話ができる機会を活かすため、下記の三つは事前に整理した上で臨みたい。
 ⑴解消したい不具合
 ⑵かなえたい住み心地
 ⑶それを実現するために用意できる大体の予算

「初回の打ち合わせには、住む人みんなで参加して、暮らし方を伝えましょう。見栄を張らずに本音で話すことで、プランの変更を防げるので、後のコスト変動を減らすことができます」(北田さん)

その上で、プランや見積もりの調整を考えるには、選択肢が多く、費用の削減に効果的なものを知っておくと進めやすい。
例えば、マンションを全面リフォームする場合、一番インパクトがあるのは設備費と間取り変更や床など木工の大工工事費で、全体の約6割を占める。自分で選びやすく調整をしやすいのは、やはり設備だ。特に面材や設備のグレードやデザインのバリエーションが豊富なキッチンは、価格の幅が広く、大きなコスト削減につながりやすい。また、間取り変更は、電気の配線工事など床や天井を含む広範囲な大工工事につながることが多いため、費用が大きく変動することも。

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

コスト調整のための5つのポイント

■ポイント1.要望整理/「不満」と「希望」は分けて家族内で出し切るべし

検討が進むにつれてやりたいことが増え、費用は上がることも。そこで、家族で話し合う段階で解消したい不具合とかなえたい希望を分け、十分に出し切ってリフォーム会社に伝えれば、プランの練り直しや追加費用の発生が避けやすくなる。「特に一戸建ての場合、優先するプランや費用に影響するので、今後の居住年数を必ずお聞きしています」(澤田さん)

■ポイント2.現場調査/家の状態をしっかり把握。「予想外の出費」を防ごう

現場調査は、プランと見積もりの礎となる重要な場。そのため、プロの目でしっかりと調査してもらうことが予想外の出費抑制につながる。「特に一戸建ては、耐震性や断熱性など躯体にかかわる部分や雨漏りの有無などの確認が大切です」(澤田さん)。修繕はプランやコストへの影響が大きいので、最初に判断してもらうことで大きな追加費用を防げる。

■ポイント3.プラン・見積もりを比較検討/割合が高い「設備」と「間取り」を重点チェック

各社から現場調査に基づいたプランと見積もりが提案されたら、初めて概算費用がわかる。設備の品番までを確認すると、細かく比較できる。また、間取り変更はコストへの影響が大きいので、範囲を絞って再検討するのも手だ。

■ポイント4.契約/金額だけで選ばずにプランの納得度で決めよう

契約先は見積もりの安さだけで選ばず、各社の金額の根拠をしっかり聞いた上で、総合的なバランスで判断しよう。

■ポイント5.プランの詳細を詰める/コストの最終調整は「設備・建材」で行う

選択肢が豊富な設備や建材は、費用を調整しやすい部分。ショールームでさまざまなグレードを比較し、予算に合った商品を選ぼう。

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

リフォーム費用コストダウンのワザ

要望を全てかなえようとすると、予算はオーバーしがち。でも、リフォームプランの工夫や選択次第で、得られる効果は変えずにコストダウンできることも。具体的なコスト調整の方法を見ていこう。

■造作を減らし、既製品を上手に活用
収納家具などの造作は、素材やデザインにこだわれるのが醍醐味。統一感のあるインテリアや、地震での倒壊リスクがないなどメリットは多い。だが、特別な職人の技術を要するので、既製品より割高になることも。テレビまわりの壁面収納やキッチン収納は面材の選択肢が豊富でコストを調整しやすいので、既製品を活用するのも手。

例)キッチンの背面収納は造作せず、既製品にする場合
背面収納を造作する 約96万円

既製品を選ぶ 約42万円
※見積もりは目安。諸経費、消費税などは別途

内容:【造作】木工費、取り付け費 【既製品】トクラス・ベリー(扉:リファインホワイト)、取り付け費 (算出、写真協力 JSリフォーム(日本総合住生活))

内容:【造作】木工費、取り付け費 【既製品】トクラス・ベリー(扉:リファインホワイト)、取り付け費 (算出、写真協力 JSリフォーム(日本総合住生活))

■ドアや建具を省き、つくりをシンプルにする
ドアや建具は材料費や設置の手間がかかるので、極力減らすとコスト削減になる。居室ごとのドアはもちろん、特にプライベート空間の収納で工夫しやすい。クロゼットの中をシンプルなつくりにするのも○だ。玄関の収納をオープンな棚板だけにしたり、必要に応じて目隠しできるロールスクリーンを設置するのも手だ。

例)扉ナシのオープンな収納で洗面化粧台を造作する場合
扉アリで造作する相場 約50万円

扉ナシで造作する相場 約35万円
※見積もりは目安。諸経費、消費税などは別途

内容:幅 900mm、奥行き 600mmを想定。同サイズで同素材を使って洗面化粧台を造作する場合の目安。写真はイメージ(算出、写真協力 LOHAS studio)

内容:幅 900mm、奥行き 600mmを想定。同サイズで同素材を使って洗面化粧台を造作する場合の目安。写真はイメージ(算出、写真協力 LOHAS studio)

賢くコスト調整をするためのポイントを見てきた。さらに具体的な調整については、契約後にリフォーム会社と詳細プランを詰める中で一つひとつ取捨選択をしていく。かなえたい暮らしに合わせ、丁寧に詰めていこう。

構成・取材・文/竹入はるな

●取材協力
JSリフォーム(日本総合住生活) 北田晃彦さん
LOHAS studio 澤田亮さん

パリの暮らしとインテリア[3]スタイリスト家族と犬が暮らす、花やオブジェに囲まれたアパルトマン

私はフランスのパリに暮らすフォトグラファーです。パリのお宅を撮影するたびに、スタイルを持った独自のインテリアにいつも驚かされています。
今回は数年前に花と一輪挿しに目覚めたスタイリスト&コーディネーターのまさえさんと旅や散歩で拾い集めたものをアレンジするのが得意なアートディレクターのドメさん家族のアパルトマンを訪問しました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
フランス・パリで暮らす写真家が、パリの素敵なお宅を撮影。インテリアの取り入れ方から日常の暮らしまで、現地の空気感そのままにお伝えします。二人で見て回った物件は50軒! そのなかで条件が明確に

まさえさんとドメさんが子どもと犬と一緒に暮らすアパルトマンは、地図でいうと右岸の右上の19区にあります。サン・マルタン運河、サン・ドニ運河、ウルク運河、ラ・ヴィレット貯水池、と、水場の多いのが特徴です。パリ中心部にほど近い10区のアパルトマンから2009年に引越してきたときには、少し治安が心配なエリアでしたが、ここ数年運河の周りや公園が整備され、家族で安心して楽しめる週末の人気エリアに変わりました。

ちょうど10年前、10区のアパルトマンから引越しを決意したきっかけはドメさんの病気でした。「階段の上り下りは体に負担がかかる。エレーベーター付きのアパルトマンを購入しようと思ったのです」(まさえさん)
そのころちょうどパリのアパルトマンが高騰し始めたばかり、中心部に近い人気の10区11区は無理でも19区20区あたりまで対象を広げれば希望のアパルトマンを買える価格だったそう。

今のお住まいを見つけるまで50軒以上の物件を見て回った二人。物件は良くてもアクセスが悪かったり、間取りは良くてもアパルトマンの天井が低かったり、となかなか希望どおりの物件は見つかりませんでした。
「50軒といっても、部屋を全て見たわけではありません。最寄りのメトロを出た途端に雰囲気がしっくりこなくてその場で見学をキャンセルすることもありました。メトロは私たちの足となる大切なものだから、その周りの街並みはとっても重要だと思います」(ドメさん)
物件を見て回っていて、図面や頭の中で想像しているものと実際は大きく違う、その都度自分たちがどんなアパルトマンを求めているか、条件がどんどん明確になっていくのが興味深い体験だったといいます。

そんなお二人の物件探しの条件は、パリ右岸、犬のナナの散歩が気持ちよくできる、子どもを授かったときのために公園が近い場所、エレーベーターがある、窓が大きく見晴らしが良い、できればバルコニーに小さなテーブルを置いて食事がしたい。というささやかなもの。その条件を満たしたのが今のアパルトマンだったのです。

バルコニーはもうひとつの大切な部屋、という考え方天気の良い日は13歳のフレンチブルドッグのナナともお茶をバルコニーで。まさえさんはイギリスのTony Woodの黒猫ティーポットに一目惚れ、ドメさんからのプレゼントとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天気の良い日は13歳のフレンチブルドッグのナナともお茶をバルコニーで。まさえさんはイギリスのTony Woodの黒猫ティーポットに一目惚れ、ドメさんからのプレゼントとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アパルトマンのバルコニー側は大通りのため、向かいの建物と距離があり空が広く見える。この景色をまさえさんは「大きな絵画のよう」と話す(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アパルトマンのバルコニー側は大通りのため、向かいの建物と距離があり空が広く見える。この景色をまさえさんは「大きな絵画のよう」と話す(写真撮影/Manabu Matsunaga)

大きな窓が購入の決め手となったこのアパルトマンは1970年代にできたもの。床は毛足の長いオレンジの絨毯、壁はピンクのジャガードの生地が貼られていたそう。6カ月をかけてドメさんとまさえさんで改修工事をしました。古い絨毯、古い壁紙を剥がし、 62平米の間取りはサロン、キッチン、子ども部屋、寝室と細かく区切られていたため、大きな窓のあるバルコニー側にあたるサロンとキッチンの仕切りを取り払い、広々とした明るい空間をつくり上げました。

お二人が外の部屋と呼ぶだけあって、素敵に飾られているドメさんコーナー。拾ってきたものをまずはここでストックします(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お二人が外の部屋と呼ぶだけあって、素敵に飾られているドメさんコーナー。拾ってきたものをまずはここでストックします(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「バルコニーは家の続きで、僕たちはもう一部屋が外にあるって思っています。ここで植物を育て、ここで食事をし、ここで景色を眺める、とても重要な場所なんです。そして、ここは僕が主導権を握る場所なんですよ」(ドメさん)
おふたりの生活をお聞きしていると、確かにバルコニーで過ごす時間が多い。ドメさんはヴァカンスで行った海岸で流木や貝殻、森では松ぼっくりや石ころ、パリの街では愛犬ナナの散歩のときに捨てられた枯れた植物、色々なものを拾い集めて飾っている。

海岸近くで見つけた多肉植物は水の分量が難しく、世話もドメさん担当。それを楽しそうに見守るまさえさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

海岸近くで見つけた多肉植物は水の分量が難しく、世話もドメさん担当。それを楽しそうに見守るまさえさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

旅をしていても、パリでも、蚤の市散策はお二人の共通の趣味。マリア像はパリの蚤の市で購入し植物たちの陰にそっと。海岸で拾った穴あきの石は植木鉢にデコレーション。オリジナルなセンスのバルコニーはこうやってつくられていく(写真撮影/Manabu Matsunaga)

旅をしていても、パリでも、蚤の市散策はお二人の共通の趣味。マリア像はパリの蚤の市で購入し植物たちの陰にそっと。海岸で拾った穴あきの石は植木鉢にデコレーション。オリジナルなセンスのバルコニーはこうやってつくられていく(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「これが松ぼっくりの中にある種です。差し上げるので土に植えてみてください。私も発芽させましたよ、割ると松の実が入っているので食べても美味しいですよ」とお土産をいただきました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「これが松ぼっくりの中にある種です。差し上げるので土に植えてみてください。私も発芽させましたよ、割ると松の実が入っているので食べても美味しいですよ」とお土産をいただきました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

蚤の市で買い集めた額がシークレット・ガーデンの主役

お二人が出会ったころ、ドメさんは音楽系のアートディレクター、まさえさんはイラストレーターの仕事をしていました。もうすでにそれぞれの世界観が出来上がっていたため、インテリアの趣味が微妙に違っていたそうです。そこで、ベランダはドメさん、まさえさんはトイレを担当しました。「購入後の大工事が終わって、唯一私の趣味を表現していいと許可が出たのがトイレだったのです。夫と出会う前から蚤の市で少しずつ買い集めた額に入った花や鳥モチーフの刺繍は、いつか飾りたいと思って大切にとってありました。やっと出番がきました。テーマは<シークレット・ガーデン>です」とまさえさんは笑います。

トイレの壁は<シークレット・ガーデン>の名にふさわしくナチュラルな木目に額の中の刺繍が映えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

トイレの壁は<シークレット・ガーデン>の名にふさわしくナチュラルな木目に額の中の刺繍が映えます(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そして、サロンや寝室はお二人の趣味がうまく調和していて、そこに長男ショーン君も加わります。ドメさんが探してきたものを今度はまさえさんが棚に飾ったり、ショーン君が拾った貝殻とまさえさんの集めている一輪挿しが一緒に置かれていたり、いろいろなコーナーを家族でつくり上げています。パリという都会に住みながら、アパルトマン全体が自然の中を旅しているような気分にさせてくれる空間になっているのです。

田舎から持ち帰ってドライにした野草はブロカント市で見つけたGustave Reynaud作の一輪挿しに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

田舎から持ち帰ってドライにした野草はブロカント市で見つけたGustave Reynaud作の一輪挿しに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの棚は家族の好きなものを飾り、ティーポットや小さな花瓶も花が生けられてなくてもしまわないで並べるのがお二人のルール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

サロンの棚は家族の好きなものを飾り、ティーポットや小さな花瓶も花が生けられてなくてもしまわないで並べるのがお二人のルール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「買ったものがほとんどない窓辺!」(まさえさん)。 「デレク・ジャーマンみたいでしょ?」(ドメさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「買ったものがほとんどない窓辺!」(まさえさん)。 「デレク・ジャーマンみたいでしょ?」(ドメさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

花好きに拍車をかけ、一輪挿しに目覚めるきっかけになった出会いとは?北向きの寝室の壁一面だけ自分たちで配合したペンキでブルーに。「花瓶を置いた途端に棚が喜んでいるように見えるでしょう」(まさえさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

北向きの寝室の壁一面だけ自分たちで配合したペンキでブルーに。「花瓶を置いた途端に棚が喜んでいるように見えるでしょう」(まさえさん)(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お二人のアパルトマンは、シークレット・ガーデン(トイレ)、サロン、寝室、いたるところに花瓶が置かれていました。まさえさんはコーディネーターという職業柄、街をたくさん歩きます、5年前に通りかかった9区の<Debealieu>という花屋さんはフラワー・アーティストのピエールさんが開いたばかりのお店でした。「見たことのない花々や、当時珍しいドライフラワーが飾ってあって他のお店と明らかに違い、私は言うなれば一目惚れしてしまったのです。それ以来頻繁にお店に通ってピエールさんとよくお話しするようになりました。彼は花屋を始める前は別の仕事をしていたのですが、手を使った仕事がしたくて半年間のフラワー・アレンジメントの研修を受けてお店を構えたんです」

そんなある日、ピエールさんの一輪挿しを使ったディスプレーを見て、この世界観が好きだ!とその日から一輪挿しに花を飾るようになり、それと同時にブーケというものを買わなくなったという感銘ぶりでした。今では、まさえさんにとってピエールさんにしかできないアレンジや珍しい花、特別に見せてもらった一輪挿しのコレクション、彼との会話がエネルギー源になっているといいます。

ピガールから坂を下ってピエールさんに会いに。店の近くには歴史的な建造物、有名な映画監督ジャン・ルノアールが住んでいた屋敷もある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピガールから坂を下ってピエールさんに会いに。店の近くには歴史的な建造物、有名な映画監督ジャン・ルノアールが住んでいた屋敷もある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんのお店<Debealieu>の一画(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんのお店<Debealieu>の一画(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「まさえのために今日は特別に好きそうなものを出してきたからディスプレーしてみるよ。写真的にもいいか一緒に確認して」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「まさえのために今日は特別に好きそうなものを出してきたからディスプレーしてみるよ。写真的にもいいか一緒に確認して」とピエールさん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

一輪挿しのコレクションを使ったまさえさんのためのコーナーをディスプレ―完成(写真撮影/Manabu Matsunaga)

一輪挿しのコレクションを使ったまさえさんのためのコーナーをディスプレ―完成(写真撮影/Manabu Matsunaga)

和気あいあいと花や花瓶の魅力について語るお二人(写真撮影/Manabu Matsunaga)

和気あいあいと花や花瓶の魅力について語るお二人(写真撮影/Manabu Matsunaga)

週末になるとマルシェで花を買い、街を歩いて気になるフラワー・ショップを見つけると必ずチェックしてしまうというまさえさん。花瓶のコレクションも増え、日々の生活には花があふれています。

ガラスの花瓶も好きで、1920-1960年代の薄いピンクのものがお気に入り。季節のダリアを黄色い球根用の瓶に(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ガラスの花瓶も好きで、1920-1960年代の薄いピンクのものがお気に入り。季節のダリアを黄色い球根用の瓶に(写真撮影/Manabu Matsunaga)

陶器で有名な南仏のヴァロリス村のものは個性があって夢もある。顔付きの花瓶も活ける花によって表情が変わる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

陶器で有名な南仏のヴァロリス村のものは個性があって夢もある。顔付きの花瓶も活ける花によって表情が変わる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんの影響でまさえさんも花瓶をコレクション。この春にノルマンディの小さい町の骨董市で見つけた花瓶はオブジェとして飾っても素敵ですが、花を活けると花瓶が生き生きとしてうれしそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピエールさんの影響でまさえさんも花瓶をコレクション。この春にノルマンディの小さい町の骨董市で見つけた花瓶はオブジェとして飾っても素敵ですが、花を活けると花瓶が生き生きとしてうれしそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

もう一つのエネルギー源は春から夏にかけてノルマンディーにある田舎の家で週末を過ごすこと。
「主に草刈りや家の修復などに時間がかかってしまっていますが、近くには小川が流れていて可愛い野草が
生えているのです。パリに戻るときは散歩がてら摘みに行って、少しいただいて来ます。もちろんそれを花瓶と相談しながら活けるのが楽しみで、また新しい一週間を頑張れる気がします」

旅やパリで色々なものを集めるという作業は、全てに思い出があり、家族の記録になっていると考えるドメさん。自然には何かを気付かせる力があり、ものには必ずストーリーが伴う。
「花には花瓶が必要で、その二つのハーモニーが組み合わせによって変わる楽しがあります。家の空気まで変わるんです」(まさえさん)
そう、花を飾るだけではなく、家の全てを飾る、それは人生をも飾るということなのでしょう。そんな彼ら家族だけの大切な宝物が詰まったアパルトマンでした。

(文/松永麻衣子)

「住まいのリフォームコンクール(2019年度)」受賞作に見る最新リフォーム事情

「第36回住まいのリフォームコンクール(2019年度)」の審査結果が発表され、2019年10月24日に表彰式が開催される予定だ。審査では、画期的な断熱改修から、高齢者(バリアフリー)対応、縫製工場を住宅兼アトリエとして再生した例まで、バラエティ豊かな5つのリフォーム例が特別賞を受賞。今回は、この5つの事例から、リフォームの最前線とこれからを探ってみた。
全室床暖房と可変性の両方を実現したマンションが国土交通大臣賞を受賞

昭和60年(1985年)度に始まり、第36回を迎えた「住まいのリフォームコンクール」(公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター主催)。今年度は、住宅リフォーム部門に397件、コンバージョン部門に33件、総数430件の応募があり、「第36回住まいのリフォームコンクール審査委員会(委員長 真鍋恒博 東京理科大学名誉教授)」による審査の結果、特別賞5賞をはじめとする27件の入賞作品が選定された。

特別賞のうち、「国土交通大臣賞」に選ばれた[住宅リフォーム部門]「浦和の家~全室床暖房のある可変する終の棲家」(株式会社マスタープラン一級建築士事務所)は、マンションの住戸をまるごと冷暖房することで、これまで冷暖房機の移動がネックとなっていた将来の間取り変更にも対応できるようにした点が画期的だ。

廊下の天井裏に5kwダクト形エアコンを取り付けて、天井裏側と床下側に弁を設置。弁を開閉することで、夏は天井裏に冷気を、冬は床下に暖気を送る。窓側の床面に暖気を吹き出すガラリを、各部屋の天井付近に冷気を送り出す吹出口を設け、1台のエアコンで家中の空気を快適に保つことができるようにした。

<Before>
「浦和の家」のBefore

<After>
「浦和の家」のAfter

<Before>
「浦和の家」のBefore

<After>
「浦和の家」のAfter

写真上:「浦和の家」のBeforeとAfter。リビングをテレビ台でゆるく仕切り、片側を畳スペースに。仕切りをテレビ台にしたことで、将来の間取り変更も容易だ/写真下:対面式だったキッチンをフルフラットキッチンに(写真提供/株式会社マスタープラン一級建築士事務所)

窓側の床に設けたガラリ

天井裏のダクトエアコンから冷気と暖気が家中に届く仕組み

写真上:窓側の床に設けたガラリ。冬には暖気がここから吹き出る/中央:天井裏のダクトエアコンから冷気と暖気が家中に届く仕組み/下:壁4面と天井に断熱材(硬質発泡ウレタン)を吹き付けた(写真は別物件)(写真・画像提供/株式会社マスタープラン一級建築士事務所)

写真上:窓側の床に設けたガラリ。冬には暖気がここから吹き出る/中央:天井裏のダクトエアコンから冷気と暖気が家中に届く仕組み/下:壁4面と天井に断熱材(硬質発泡ウレタン)を吹き付けた(写真は別物件)(写真・画像提供/株式会社マスタープラン一級建築士事務所)

断熱改修には温熱環境の改善やカビ・結露の防止、光熱費軽減などの効果が

「浦和の家」を手掛けた株式会社マスタープラン一級建築士事務所代表取締役の小谷和也さんは、受賞の意義をこのように語っている。

「マンション専有部の改修は、できることが限られ、一戸建ての改修に比べてコンセプトが弱くなりがちです。『浦和の家』は、初採用した全室空調をはじめとして、基本性能の向上、家具での可変性や住まい手の暮らしぶりなどを現地審査でも評価いただけたということが、何よりうれしいです」

これからリフォームを考えている人にも参考にできるポイントなどはあるだろうか。

「この『浦和の家』のように、開口部に内窓や障子を設け、 壁や天井に断熱材を追加することで断熱性能を高めることはどんなマンションでも可能です。そもそも、マンションが一戸建てよりも暖かいのは、気密性が高いから。同時に蓄熱性も高いので、夏の日射熱、冬の夜間の冷熱も蓄えてしまい、最上階や角部屋の猛烈な暑さ、1階住戸の底冷えする寒さ、カビや結露の原因にもなっています。断熱改修をすれば、これらの問題は一挙に解決。アレルギーなどの予防も期待でき、結果的に光熱費も下がるので、マンションのリフォームを考えている皆さんにはぜひ検討してほしいですね。また、乾式二重床は、床の軽量衝撃音を和らげ遮音性を確保する上でも重要なので、リフォーム時の床仕上げは乾式二重床をお薦めします」(小谷さん)

<Before>
間取りBefore

<After>
間取りAfter

家具を利用した間仕切りによって可変性の高い間取りとなった「浦和の家」(画像提供/株式会社マスタープラン一級建築士事務所)

性能向上によって施主の不満を解消し居住性を高めた特別賞受賞作

続いて、ほかの特別賞を受賞した4例も紹介しよう。

【独立行政法人住宅金融支援機構理事長賞】
[住宅リフォーム部門]「耳が遠くなった母の為の『QOL向上リフォーム』」(株式会社育暮家ハイホームス)

築46年という一戸建てのLDKや寝室、浴室など生活の中心ゾーンを断熱し、ゾーン内の温度差をなくして高齢者夫婦をヒートショックなどの健康リスクから守るリフォーム。LDKを明るく暖かい南側に移し、寝室とトイレの距離も近くして、動線を短縮した。動きやすくなった上、冬が暖かく暮らせるようになり、夜もよく眠れるという。断熱区画を区切ることで主な生活空間内の温度差をなくすというやり方は、コストを抑えたリフォームにも活かせそうだ。

寝室はLDKの隣。お互いの気配を感じることで安心して過ごせる(写真提供/株式会社育暮家ハイホームス)

寝室はLDKの隣。お互いの気配を感じることで安心して過ごせる(写真提供/株式会社育暮家ハイホームス)

【公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター理事長賞】
[コンバージョン部門]「アトリエのある家[河北町]-ストックの再生が地域を変えていく-」(株式会社結設計工房)

空き家のままになっていた築30年弱の縫製工場を、陶芸教室のためのアトリエを備えた住宅へと再生させた“コンバージョン”の事例。陶芸教室が地域のコミュニティスペースとなり、地域の活性化につながったそう。老後は陶芸教室部分をリビングダイニングに改修することで、1階部分だけで生活できるように計画しており、老後を見据えたリフォームとしても参考になりそう。

陶芸教室を開いているアトリエ。縫製工場だったときの照明器具をそのまま利用しているが、蛍光管は LED に換えている(写真提供/株式会社結設計工房)

陶芸教室を開いているアトリエ。縫製工場だったときの照明器具をそのまま利用しているが、蛍光管は LED に換えている(写真提供/株式会社結設計工房)

【一般社団法人住宅リフォーム推進協議会会長賞】
[住宅リフォーム部門]「自然をコントロールする家」(喜多ハウジング株式会社)

吹抜けのおかげで夏は風が通るものの、冬には暖気が上に流れて寒かった一戸建てを、吹抜けに開閉可能な建具を設けることで寒さ解消につなげた。暗くて開放感がなかったキッチンを対面式にして改善し、断熱材やインナーサッシで断熱性能も向上させながら、総工費は900万円弱。床と平行に建具を施工して吹抜けに蓋をするアイデアは、吹抜けのある一戸建ての寒さ解消策として、大いに参考になるのでは?

写真左:夏は建具を開けるので、上下に空気が通り、涼しく過ごせる/写真右:冬は建具を閉じることで、1階の暖気を2階に逃がさずに済み、暖かく過ごせるようになった(写真提供/喜多ハウジング株式会社)

写真左:夏は建具を開けるので、上下に空気が通り、涼しく過ごせる/写真右:冬は建具を閉じることで、1階の暖気を2階に逃がさずに済み、暖かく過ごせるようになった(写真提供/喜多ハウジング株式会社)

【一般社団法人住宅瑕疵担保責任保険協会会長賞】
[住宅リフォーム部門]「若い僕らも老後は心配-性能向上リノベーションしました!-」(株式会社アルティザン建築工房)

超高性能リノベーションのモデルハウスをつくるという設計者の計画に共鳴した施主による性能向上リフォームの例。リフォーム版のLCCM住宅(建設時、居住時、廃棄までのライフサイクルトータルでCO2の収支をマイナスにするライフサイクルカーボンマイナス住宅)を目指したことで、札幌でも壁からの冷輻射が感じられないほどの暖かい家になった。開口部耐震商品を使うことで、窓を減らさずに耐震補強ができた点は、耐震リフォームを考えている人の参考になるだろう。

天板にクオーツストーンを使ったこだわりのキッチン。屋根に設置した太陽光発電システム(10.8kw)のおかげで、使用電力はすべてまかなえている(写真提供/株式会社アルティザン建築工房)

天板にクオーツストーンを使ったこだわりのキッチン。屋根に設置した太陽光発電システム(10.8kw)のおかげで、使用電力はすべてまかなえている(写真提供/株式会社アルティザン建築工房)

特別賞を受賞した5事例に共通しているのは、リフォームによって施主の悩みや不満を解消し、暮らしの質を改善していること。特に、断熱性能の向上が温熱環境を改善し、快適な暮らしを可能にしていることが、どの事例からも伝わってきた。それには、施主の意向を汲み、いろいろな制約のなかで工夫を施す設計者たちの努力が不可欠なのだろう。今後もこのコンクールに多くの力作が寄せられ、日本のリフォーム、ひいては日本の住宅と住まい手の暮らしの質を一層高めることを期待したい。

●参考
・第36回住まいのリフォームコンクール審査結果

失敗しない中古の選び方

中古リノベに興味はあるけど、「複数の物件を見ても違いがよくわからない……。何に注意してチェックするべき?」などと不安で踏み出せずにいる人も多いのでは? 今回は、物件選びのチェックポイントをご紹介します。
物件選びのポイント1.立地や周辺環境など、いくら資金や熱意があっても変えられない要素を確認

物件の下見に行くと、その住まいでどのように暮らせるのかをイメージしたくなるため、ついつい内装デザインや間取りなどに注意が向いてしまうもの。しかし、気を取られがちな部分の大半は、基本的にリノベで自分の好みに合わせて変更できる。物件選定時にまず見るべきは、立地や日当たりなど、購入後に変えようと思っても変えられない要素。ここをしっかり見定めるためにも、希望するライフスタイルを明確にしておこう。

また、契約電気容量の変更や追いだき機能付き給湯器への交換など、購入後のリノベ工事に含められると思い込んでいたら、実は不可能だったと判明するケースもある。下で紹介する項目を参考に住まいに何を求めるのかを整理して、一つひとつ確認しながら物件を見比べてみよう。

■立地(マンション・一戸建て)
物件の立地条件や周辺環境は、購入した後から変えるわけにいかない要素の代表格。資産価値を大きく左右する要素でもある。まずは、どの鉄道路線・駅の近くなのか、最寄駅までのアクセス手段や所要時間がどうなっているかなど、交通面での条件を確認。また、商業施設や医療機関、学校などとの位置関係、治安や防災レベルなどもチェックしよう。

■日当たり・眺望(マンション・一戸建て)
近隣の建物などで日照や視界が極端に遮られることなく、許容範囲になっているかを確認。また、隣接地がコインパーキングなどの場合、将来的に高い建物ができる可能性もあるので注意。候補が絞られてきたら、役所の都市計画図などで、周辺がどのように変わりそうなのかをチェックしよう。また、時間帯によってどう変化するかも確認しておきたい。

■共用部(マンション)
マンションの場合は、玄関扉やサッシ、バルコニーは「普段は入居者が専用的に使える共用部」という位置付けになる。このため、物件を購入しても自分の好みに合わせて変えることはできないので注意しよう。また、ジムやシアタールームといった共用施設の数や種類は、多くなるほど管理費や修繕積立金の負担が増えるということも覚えておきたい。

■契約電気容量(マンション)
購入後に変えられると思ってしまいがちな要素の一つだが、築年が古いマンションなどでは思うようにいかないこともある。マンション全体の容量が決まっていて、すでに各住戸の契約容量合計が上限ギリギリになっていると増やせないことがあるのだ。現在の契約容量がどうなっているのかと、後から増やせるのかは売主や仲介会社に確認しよう。

■給湯器(マンション)
給湯器が古いと追いだき機能がついていないことがあるが、交換するには、外壁に新たに配管用の穴を開けなくてはならないこともある。しかし、管理規約で外壁に穴を開けることが禁じられているマンションも少なくないため、希望する給湯器に変えられないこともあるのだ。給湯器の機能や、どのような機種に交換できるのかは購入前にチェックしたい。

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

物件選びのポイント2.希望のリノベを実現できるかと、想定外の工事やコストが発生する可能性をチェック

物件を選ぶ上では、希望するリノベを実現できるかどうかという視点も欠かせない。ただし、この点を確認するには、専門の知見を要する。間取り変更などを伴う大掛かりなリノベはもちろんだが、床材の張り替え程度でも、思わぬ制約で希望どおりにいかなかったり、思った以上のコストが必要になることがあるからだ。

また、一戸建ての場合は「柱や筋交いなどに補強工事が必要」「壁や天井に断熱材を入れるべき」など、想定外の工事を要することもある。そこで、リノベ会社には物件探しの段階から相談をもちかけておきたい。アドバイスを受けながら理想の住まい像をある程度詰めておき、気になる物件の見学には同行してもらおう。下で紹介する、要望が多いリノベ内容と物件のチェックポイントも参考にしてほしい。

■間取り変更でLDKを広くしたい(マンション・一戸建て)
例えば、リビングと隣接した居室の仕切りを取り払ってゆとりあるLDKにするなど、複数の部屋を一つの広い空間にしたいという要望は多い。ただし、一戸建ての場合、構造を支える役割を果たしている壁もあり、このような壁は撤去できない。また、壁式構造のマンションにも同じことがいえる。設計図書などを基に専門家に判断してもらおう。

■水まわりスペースを移動させたい(マンション・一戸建て)
キッチンや浴室、トイレなどの水まわり設備は、排水がスムーズに流れるよう、配管に傾斜をつける必要がある。このため、既存の場所から大きく移動させるには、排水管に傾斜をつけられるよう、水まわり部分の床面を高くする必要が出てくることも。当然、その分コストがかさむので、専門家の意見を聞きながら現実的な落としどころを確認したい。

■床材を張り替えたい(マンション)
床材によっては、直下階の住戸に音が響きやすくなってしまう。入居者間のトラブルを防ぐため、管理規約で床材の材質や遮音性に関して規定・制限を設けているマンションも少なくない。「カーペット材のみ使用可」「材質によっては遮音シート併用」など、ルールはさまざま。住戸だけでなく、管理規約の内容も確認する必要があると覚えておこう。

そもそも、住まいに求める条件が固まっていなければ、物件選びの際も軸が定まらず、場合によっては購入後の後悔につながることもある。住まい探しを始める前に、新居でどのようなライフスタイルを実現させたいのか、そのためにはどのようなリノベを施すべきなのかを、リノベ会社に相談しながら整理しておこう。候補物件を絞ったらリノベ会社にも現地に出向いてもらい、求めるリノベを施せるのかという視点でチェックしてもらうといい。その上で、理想の住まいを手に入れよう。

構成・文/竹内太郎

リフォーム前に考えておきたい上手な要望整理の方法

リフォームでやりたいこと──「トイレを直したい」、「壁紙を変えたい」など、目に見えることは比較的挙げやすいが、中にはリフォームと一見無関係に見え、自分ではなかなか気付きにくい要望もある。そこで今回は、「家の不満」、「暮らしの不満」、「理想の暮らし」の三つの観点で、よくある要望とそれらをリフォームで解決するヒントを紹介。自分の中で漠然としているやりたいこと、隠れた要望に気付けると、その先のリフォーム会社とのやりとりもスムーズだ。
三つの視点でリフォームの要望を洗い出そう

POINT1.家の不満
家の老朽化による不具合やそれに伴う不安、家の中が寒い、暗いなど顕在化している不満を考えよう。まずは家の中で「変えたい」と思う場所を洗い出してみよう。

POINT2.暮らしの不満
漠然と感じる暮らしにくさを挙げよう。片付かない、家事に追われているなど、一見、暮らし方の問題と思えることも、家のリフォームで解消できる可能性も。

POINT3.理想の暮らし
「贅沢を言っていいならこんなことしたい」という理想も考えておこう。どんな空間があるとうれしいか、いつ、誰と使う空間かイメージして要望を膨らませよう。

ここからは、よくある悩みや要望をリフォームでどう解決するかのヒントを紹介

家の不満とリフォームのヒント

●家の不満1
夏暑い&冬寒い 空調の効率が悪い
西日の当たる夏の午後は部屋の中が蒸し風呂状態。真冬は寒くて床から冷気が!キッチンや洗面室が寒くて小型ストーブが欠かせない。

●こんなリフォームで解決
窓の断熱性を上げ、壁や天井の性能もアップ
一戸建ての場合はサッシの交換や内窓の取り付け、壁や床、屋根裏などに断熱材を充填(じゅうてん)する。外付けブラインドやオーニング、庇などで熱を遮る方法も有効。マンションの場合は内窓の設置が一般的。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

●家の不満2
日当たりが悪い&暗い
リビングは壁に囲まれ、唯一光の入る窓ははるか遠く。自然光が届かず、一日中電気をつけっ放し。天井が低くて圧迫感も感じる。

●こんなリフォームで解決
壁や天井材を撤去したり、内装の色を変える
間仕切り壁を撤去して窓からの光を呼び込むほか、室内窓やガラスブロックなど光を通す建材を取り入れるのもオススメ。壁や床の色を白っぽい色に変えるだけでも外からの光が反射して明るく感じられる。

●家の不満3
物が出しっ放し 見るからに収納不足
収納に入りきらない物が床やテーブルに出しっ放し。押入れは物がギュウギュウで、取り出すのも、元に戻すのもひと苦労。

●こんなリフォームで解決
造作収納を取り入れ、空間を無駄なく使う
壁面や小上がり、ロフト、階段裏など、リフォームならデッドスペースを活かした収納の造作もお手の物。いつも出しっ放しになりがちな物は何か、どの部屋に収納があれば使いやすいか考えてみよう。

暮らしの不満とリフォームのヒント

●暮らしの不満1
洗濯物を干したり畳んだりが面倒
洗濯機置場から干し場までが遠く、ぬれた洗濯物を運ぶのが苦痛。取り込んだ洗濯物の置き場所に困り、リビングが見苦しい。

●こんなリフォームで解決
室内干しスペースで、洗う~しまうまでをスムーズに
洗濯が大変なのは洗濯機と干す場所が遠いせいかも。洗い終えた衣類をすぐに仮干しできる室内干し空間や、取り込んだ洗濯物を畳む→アイロンをかける→しまう空間があるとストレスが減らせる。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

●暮らしの不満2
子どもの様子に目が届かない
学校であったことを聞いたり、宿題の相談に乗ったり、子どもの様子に目を配りたいけれど、キッチンから子どもの様子がわからない。

●こんなリフォームで解決
子どもの居場所をLDKや隣室に設ける
リビングの一角や隣の部屋に子ども用の空間を設けると、家事の間も様子や気配を確認しやすい。リビング隣の部屋は引き戸で開放できるようにしたり、室内窓をつけると中の様子が見え安心できる。

●暮らしの不満3
食事の支度に時間がかかる
キッチンの作業スペースが狭く、調理に集中できない。下ごしらえや盛り付けも、作業する場所を空けるのに手間取り時間がかかる。

●こんなリフォームで解決
カウンターやつり収納で、広いワークスペースを確保
キッチンの作業がしにくいのは、調味料ストッカーやまな板などが場所を占領し作業スペースが少ないせいかも。つり戸棚や背面カウンターなど物の置き場を確保すれば広くて使いやすいキッチンに。

理想の暮らしとリフォームのヒント

●理想の暮らし1
疲れを癒やせる家にしたい
入浴タイムは仕事の疲れを癒やす、一日のうちで最もリラックスできる時間。リゾートホテルのようなお風呂で非日常感を味わいたい。

●こんなリフォームで解決
浴室をサイズアップ 眺めや機能もポイント
浴室を眺めのいい場所に移動させたり、サウナやジャグジー機能などを追加してバスタイムを贅沢にしよう。洗面や脱衣室と一体でリフォームすれば、既存よりもひと回り大きな浴室にできる場合も。

●理想の暮らし2
自然を感じられる暮らしがしたい
庭先に木や花を植えたり、料理に使うハーブを育てたり、家の周りを植物でいっぱいにして、緑や風、光が感じられる家にしたい。

●こんなリフォームで解決
サンルームを増設するなど、室内で植物を楽しむ仕掛けを
一戸建てで建ぺい率・容積率に余裕があるならサンルームの増築も可能。マンションならバルコニーに面した部屋の床を一部タイル張りや土間敷きにして、鉢植えなどを並べるコンサバトリー風にしても楽しめる。

●理想の暮らし3
気軽に人を呼べる家にしたい
ママ友や趣味の仲間、ご近所さんや親族など、気兼ねなく人を誘える家。ホームパーティーなどもかっこよく開ける家にしたい。

●こんなリフォームで解決
リビングにつなげて広く使える汎用空間を
畳スペースやデッキスペースなど、リビングにつけ足して使える空間があると大勢が集まったときに便利。来客と会話をしながら料理ができる対面型のオープンキッチンも使いやすい。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

ここに挙げたヒントはあくまで一例で、リフォームは家の状態・条件でできることは異なる。また家族構成やこれから先の暮らし方などでも、解決方法や優先すべきことは異なる。自分だけで結論を出してしまわず、まずは、予算などの条件をいったん横に置いて、不満や不安、かなえたい暮らしの理想を全て洗い出し、その上でどんな解決策が取れるか、プロに相談してみよう。

構成・文/木村寿賀子

デュアルライフ・二拠点生活[14] 11年目のリアル「子どもの入園を機に、ほぼ完全移住しました」

二拠点生活(デュアルライフ)は楽しそう。でもずっと続けると、どんなことが起きるのか。今回は、二拠点生活11年目、週末だけの田舎暮らしから、ほぼ移住生活となった先輩デュアラ―の暮らしを紹介。きっかけや当初の目的はもちろん、子どもの教育、働き方の変化、親の介護、コミュニティなど、これまでのデュアルライフをインタビューしました。

今回、インタビューを受けてくださったのは、建築家の高木俊さん。2008年から、東京都江東区の住まいと千葉県館山市で二拠点生活を始め、現在は、妻と2人のお子さんとともにほぼ完全移住をしています。

連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、さまざまな世代がデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点居住者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきますどこかハワイを思わせる丘の一軒家を週末の家に高木俊さん(写真撮影/片山貴博)

高木俊さん(写真撮影/片山貴博)

――二拠点生活を選んだきっかけは?

当初は妻の母が古民家暮らしをしてみたいと、都内から車で行ける古民家を探していたんです。また、私たち夫妻にも、娘が生まれ、自然豊かな環境でも子育てしたいと思うように。本格的に探し始めたところ出合ったのが、現在の館山の住まいでした。急勾配の坂道を上った丘の上に位置しているので、周囲に建物がなく、開放的。温暖な気候、海が近い、丘の上。どこか妻の好きなハワイに似ているなぁと。そこで、思い切って購入したんです。自分たちの手でどんどんリフォームしていくつもりでしたので「借りる」選択肢はありませんでした。

室内は壁をぶちぬき、リビング、ダイニング、ワークスペースを兼ねた、ひとつの大空間に(写真撮影/片山貴博)

室内は壁をぶちぬき、リビング、ダイニング、ワークスペースを兼ねた、ひとつの大空間に(写真撮影/片山貴博)

――当初は、こちらの館山の住まいは、週末の家だったんですよね。

そうです。月に一度、家族全員と犬と猫と一緒に大移動していました。草むしりをしたり、家の中をDIYしたり、のんびり過ごすはずが、意外とすることはいっぱいありました。また、妻の父が若くして病に倒れ、介護が必要になったことも、二拠点生活を選んだもうひとつの理由でした。たまには田舎でのんびり過ごさせてあげたかったんです。そのうち、訪れる頻度こそ変わりませんでしたが、滞在日数が長くなり、仕事が許す限り、1週間程度こちらにいましたね。家屋の改修をまとまってやることができました。

子育て重視で移住へ。仕事環境も少しずつ変化

――その後、2012年に家族で移住するわけですが、何故でしょうか。

息子が生まれ、娘が幼稚園に入園する前のタイミングのときに、妻と“東京でずっと子育てするイメージがわかない”という話になり、定住を決めました。当時の東京都内の住まいは賃貸で身軽でしたし。
東京はいろいろ恵まれていますが、どうしても閉塞感がある。雄大な自然の前では、人間が決めたルールなんてふき飛んでしまう。そんな自然の力を子どもたちと共に肌で感じたいと思ったんです。
移住を決める前に、地元の運動会をのぞいてみたりして、ここでの子育てをイメージしてみました。散歩していると、道行く子どもたちが「こんにちは」とあいさつしてくれるのもいいなぁと思いました。ここは1学年20人ほどの1クラス。小・中とずっと一緒なので、結束力も強い。保護者みんなが子どもたち一人ひとりを知っているので、社会全体で子どもたちを育てる姿を目の当たりにしています。

周囲に建物がなく、森の中に急に現れたような趣の住まい。敷地は1000坪以上で、まだ手付かずの場所も(写真撮影/片山貴博)

周囲に建物がなく、森の中に急に現れたような趣の住まい。敷地は1000坪以上で、まだ手付かずの場所も(写真撮影/片山貴博)

庭にはハーブや果実を収穫できる植物が生育。今日は、サラダの彩りに、食べられる花、エディブルフラワーを摘む贅沢さ(写真撮影/片山貴博)

庭にはハーブや果実を収穫できる植物が生育。今日は、サラダの彩りに、食べられる花、エディブルフラワーを摘む贅沢さ(写真撮影/片山貴博)

取材時には、大豆ミート、ドライベジタブルなどを使ったランチをご馳走してもらった(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

取材時には、大豆ミート、ドライベジタブルなどを使ったランチをご馳走してもらった(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――現在、高木さんの仕事はどうされているのでしょうか。

現在、本業の設計の仕事とは別に、東京理科大学で1スタジオの授業を持っているので、週に一度、僕だけ東京に戻っています。オフィスも一応都内に残していて、夜は妻の実家に泊まっています。都内に設計の仕事があれば、頻繁に現場に行くなど、フレキシブルに働いています。
実はここに拠点を移して3年経ったころから、少しずつ地元(千葉)の仕事を増やしている最中なんです。田舎では「建築家に設計を頼む」という文化はあまりないので、今までどおりとはいきませんが、だんだん地元の友人が増え、仕事につながるケースも少なくありません。地元の青年団、小学校のPTAなどには、必ず地元の大工さん、職人さんがいて、顔を出しているうちに自然と人脈ができるんです。

――コミュニティが仕事につながるんですね。

狭い社会ですし、僕は臆せず飛び込んでいける性格なんです。
確かに東京をベースにしたほうが、仕事も多く、収入面ではメリットが大きいかもしれません。でもここでなら、自給自足をしたり、物々交換をしたり、都会とは別の価値観で十分暮らせて行けるんではないかなと思っています。暮らしの延長が仕事になっていると実感しています。
都会は都会で刺激がたくさんあり、都会暮らしを決して否定はしません。でも、たくさん働いてたくさん稼ぐ働き方でなくてもいいなと思っているんです。とはいえ、何があるのか分からないので、都内のオフィスはそのまま残していますけど(笑)。最近は、後輩の建築家とシェアオフィスにするなど、コストは削減していますし、こちらで得た知見を都会で広める野望もあります。

もとからあったビニールハウスは修繕を加えて洗濯物干し場兼DIYの作業場に(写真撮影/片山貴博)

もとからあったビニールハウスは修繕を加えて洗濯物干し場兼DIYの作業場に(写真撮影/片山貴博)

家の裏手には大きなテントを張れるスペースも。学生たちが寝泊まりした(写真撮影/片山貴博)

家の裏手には大きなテントを張れるスペースも。学生たちが寝泊まりした(写真撮影/片山貴博)

子育てを通してコミュニティに馴染む。義父の看取りも経験

――ほぼ定住することで、暮らしはどう変わりましたか?

地元のコミュニティに深く関わるようになったことが大きいですね。今は、小学校のPTA会長をやっています。実は僕の大学のスタジオのテーマは「二地域居住」。この前は、学生たちが30人ぐらいやってきて、ウチに宿泊していきました。地元のみなさんの協力を得て、農作業など貴重な経験をさせてもらいました。家庭菜園もバージョンアップして、妻はパーマカルチャーを学ぶなど、僕よりずっとこの暮らしを謳歌しています。

1匹の犬と6匹の猫たちとも同居生活。猫たちは自分なりの居心地のいい場所を見つけるのが得意(写真撮影/片山貴博)

1匹の犬と6匹の猫たちとも同居生活。猫たちは自分なりの居心地のいい場所を見つけるのが得意(写真撮影/片山貴博)

独立した広いキッチンにはたくさんの食器や調理器具が並べられている。最大30人分の食事を用意したこともあったそう(写真撮影/片山貴博)

独立した広いキッチンにはたくさんの食器や調理器具が並べられている。最大30人分の食事を用意したこともあったそう(写真撮影/片山貴博)

――4年前からは、義理のお父さまと同居されたんですよね。

はい。近くの白浜にとてもいい介護施設があり、利用できるのは地域住民であることが前提だったことから、2015年より同居を始めました。週に5日、デイサービスに通い、月に一度は一週間の宿泊をお願いしました。その間、介護をしていた義母は東京で骨休めでき、よかったと思います。
残念ながら、2年前に義父は亡くなりました。お葬式はこの自宅で、近くの神社の宮司さんが取り仕切ってくれるなど、とてもアットホームな式になりました。この家で、義父を看取ることができたことは大変良かったと思っています。しばらくして、義母が古民家を求めた意図に気付くことができました。今では義母が週末に田舎を楽しんでいます。

――最後に、二拠点生活をしたい方たちにアドバイスをお願いします。

私たちの場合、子育てと田舎生活をほぼ同時に開始したので、慣れないことが多く、大変かなと思っていました。でも、できないことはできないと開き直れました。田舎生活の初心者だからこそ、周囲に素直に「助けて」とお願いできます。都会ではカッコつけていた、ってことなんでしょうね。都会にいたら、情報がいろいろ集まってくる分、自分の子育てを比較したり、焦ったりしていたでしょう。
特に子どものいる世代での二拠点生活は、学校の問題などハードルはありますが、子どもがいるほうが、地元のコミュニティに溶け込みやすいという利点は大きいと思います。

週末だけの二拠点生活から、ほぼ移住生活に移行した高木さんファミリー。とはいえ、将来子どもたちが東京の学校に進学したいと希望したら、妻の実家から通うこともできるとフレキシブルに考えているそう。仕事も子育ても決めすぎず、軽やかに拠点を変えるライフスタイルは、まさに新しい暮らし方といえるでしょう。

館山の住まいは丘の上に建つ、平屋の一戸建て。特に出かけなくても、自然を身近に感じる子育てができる(写真撮影/長谷井涼子)

館山の住まいは丘の上に建つ、平屋の一戸建て。特に出かけなくても、自然を身近に感じる子育てができる(写真撮影/長谷井涼子)

JR東日本の社宅と寮をリノベーション。“まちのホーム”「リエットガーデン三鷹」

日本では木造であっても、コンクリート造であっても、築30年~40年で建物が取り壊され、建て替えられることが少なくありません。そんななかで、リノベやコンバージョン(用途変更)などで、建物を活かしつつ、再活用する動きが年々、増えてきています。そんなケースのひとつ「リエットガーデン三鷹」をご紹介しましょう。
ファミリー向け賃貸住宅、シェア畑、シェア型賃貸住宅からなる複合施設

「リエットガーデン三鷹」があるのは、東京を背骨のようにまっすぐ走る中央線の「三鷹駅」と「武蔵境駅」から徒歩圏内の住宅街です。目の前にJR東日本の三鷹車両センターがある敷地で、もともとはJR東日本の独身寮と社宅として使われていました。それらの建物と敷地をリノベーションしてできたのが「リエットガーデン三鷹」です。

「リエットガーデン三鷹」のすぐ目の前にあるJR東日本の三鷹車両センター(写真撮影/嘉屋恭子)

「リエットガーデン三鷹」のすぐ目の前にあるJR東日本の三鷹車両センター(写真撮影/嘉屋恭子)

今年3月にファミリー向け賃貸住宅の「アールリエット三鷹」が、7月にシェア型賃貸住宅の「シェアプレイス三鷹」、サポート付きの貸し農園「シェア畑」が完成、過日、内覧会が行われました。

「リエットガーデン三鷹」の一番の特徴は、7200平米の広々とした敷地に2つの建物が建っている点です。駐輪場やバイク置き場など充実した共用施設のほかに、「森の広場」や「食の広場」などがあり、住民が自由に使えるようになっています。ファミリー向け賃貸住宅の「アールリエット三鷹」では、こうした敷地の「ゆとり」を魅力にあげる人が多く満室となっております。

「現在、住宅を開発しようとしたら、ここまでゆとりのある設計ではできないと思います。建物は1981年築ですが、リノベーションしてあって古さを感じさせません。視界に緑がたくさん入り、のびのび過ごしたいというカップル・ファミリーに大変好評で、現在満室稼働中です(取材時点)」と教えてくれたのは、ジェイアール東日本都市開発のオフィス住宅事業部・大竹涼土氏さん。

土地売却ではなくなぜリノベ? その狙いは?

通常、社宅や寮を活用する場合、一度更地にして、敷地面積を最大限活かした賃貸または新築マンションになるのが一般的です。では、なぜ今回はリノベーションという手法だったのでしょうか。

リノベーション前の建物。味わいはあるものの、経年を感じさせるつくり(写真提供/リビタ)

リノベーション前の建物。味わいはあるものの、経年を感じさせるつくり(写真提供/リビタ)

前出の大竹涼土氏によると、「弊社では沿線活性化を目的として、賃貸物件を2026年までに3000戸まで増やしたいと考えています。今回は、敷地や周辺地域との調和を考え、リノベーションだけでなく、独身寮も100戸超のシェアハウスとして活用するのがもっとも最適だと考え、シェアハウスの企画、運営に実績のあるリビタさんと協力し、開発することとなりました」と背景を教えてくれました。

また、企画・デザイン監修を担当したリビタの資産活用事業本部地域連携事業部事業企画第一グループ鈴木佑平さんは、「改修前に敷地を見学したときは草木がうっそうとしていましたが、武蔵野の自然と既存の建物の風合いを活かして、多様な人が多様な過ごし方のできる“まちのホーム”にしていきたいなと思いました」といいます。

かつて独身寮だった建物は1975年築、家族向けの社宅だった建物は1981年築なので、耐震診断および必要な補強をし、建物が持つ独特の味わいを活かしたプランニングを考え、複合施設として蘇ったというわけです。

今回、完成したシェアプレイス三鷹は、112部屋あり、家賃6万4000円~7万5000円(別途共益費1万5000円/水道光熱費・ネット利用料込み)で利用できます。居室の広さは13.5平米ほどで、トイレやシャワーといった水まわり設備は共有のスペースに集約されております。

シェアプレイス三鷹の居室の例。床のフローリングやサッシは既存のものを活用したが、古さを感じさせない(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアプレイス三鷹の居室の例。床のフローリングやサッシは既存のものを活用したが、古さを感じさせない(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアプレイス三鷹のキッチンとダイニング。調理器具や家電も充実しているほか、カウンター席を設けるなど、“食”をきっかけに住民の交流が生まれる工夫がされている(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアプレイス三鷹のキッチンとダイニング。調理器具や家電も充実しているほか、カウンター席を設けるなど、“食”をきっかけに住民の交流が生まれる工夫がされている(写真撮影/嘉屋恭子)

1階には広いシェアラウンジがあり、キッチン、ダイニング、ライブラリー、リラックススペースがあります。その他にもシアタールーム、パントリー、トランクルーム、サイクルガレージなど、充実した施設が魅力です。キッチンには食器や調理道具・家電などもそろっています。また、コイン式のランドリーもあるので洗濯機を用意する必要もなく、見学した人の反響も上々だそう。

リラックススペース(写真撮影/嘉屋恭子)

リラックススペース(写真撮影/嘉屋恭子)

ライブラリースペース。勉強をしたりくつろいだりと、思い思いの過ごし方ができる(写真提供/リビタ)

ライブラリースペース。勉強をしたりくつろいだりと、思い思いの過ごし方ができる(写真提供/リビタ)

シェア畑や広場があることで、地域住民にもひらかれた空間に

「リエットガーデン三鷹」のもう一つの狙いが地域交流です。

「以前は企業の社宅・寮ということもあり、地域に対して閉じられた場所でしたが、今回はシェア畑や食の広場、森の広場を設け、地域に開かれた場所といたしました。」とリビタの鈴木さん。
(株)アグリメディアが運営するサポート付き農園の貸出は現在、3割ほど。今後、シェアプレイスの住民が増え、認知が広がることで、じょじょに利用者も増えていくことでしょう。

敷地の中央にあるサポート付き農園(写真提供/リビタ)

敷地の中央にあるサポート付き農園(写真提供/リビタ)

土をいじることでリエットガーデン三鷹だけでなく、周辺住民との交流が生まれるはず(写真提供/リビタ)

土をいじることでリエットガーデン三鷹だけでなく、周辺住民との交流が生まれるはず(写真提供/リビタ)

また、畑をのぞむようなかたちで「食の広場」があり、緑を眺めながら食事をしたり、おしゃべりをすることができます。こうした共有場所があれば、シェア型賃貸住宅・ファミリー向け賃貸住宅と、普段は別々の棟で暮らしていても、住民同士の自然な交流が生まれ、心地よく過ごせるに違いありません。

シェアプレイス三鷹のダイニングスペースの窓越しに広がる「食の広場」。晴れた日にはキッチンで調理した料理を屋外でも楽しむことができる(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアプレイス三鷹のダイニングスペースの窓越しに広がる「食の広場」。晴れた日にはキッチンで調理した料理を屋外でも楽しむことができる(写真撮影/嘉屋恭子)

鈴木さんは「リエットガーデン三鷹を多様なアクティビティの受け皿にしたいですね。広場でマルシェやアコースティックライブ、ヨガなどもできますし、住民や地域の方々とともに、新たな文化・新たな価値を生み出していきたいです」と話します。

既存建物を有効活用して時代に合うカタチとしてリ・デザインし、新しく住む人と今まで地域で暮らしていた人がゆるく、自然に交流できるように工夫する。今後、これまで以上に建物のストックが増えていくなか、これからのまちづくりはこうした「リノベ型」「シェア型」「地域交流」が主流になっていくことでしょう。

●取材協力
リエットガーデン三鷹
シェアプレイス三鷹

深呼吸したくなる場所──リゾートホテルに見る自然を感じる居場所づくり

澄み渡る空。光と風。そして、生命のように明るい緑。自然の下は気持ちいい。何度体験しても、その感動は新鮮だ。思わず深呼吸したくなるこの気分を、日常で味わえたらどれほど心地いいだろう。自然を感じる居場所づくりの解を、リゾートホテルに求めたい。
戸外の自然と呼吸し合うような室内空間

重なり合った木々の梢から覗くホテルは、それ自体が地に根を張った大木のよう。福島県・裏磐梯の五色沼近く、美しい自然に恵まれた国立公園のすぐそばに、「ホテリ・アアルト」は立っている。
建物は、築40年になる企業の保養施設をリゾートホテルに改修したものだ。既存の骨格をそのまま活かし、柱もできるだけ動かさずに空間をホテルとして読み変えていった結果、13 の客室はそれぞれ間取りもしつらえも異なるものに仕上がった。

緑に囲まれて佇む「ホテリ・アアルト」(写真撮影/牛尾幹太)

緑に囲まれて佇む「ホテリ・アアルト」(写真撮影/牛尾幹太)

プロジェクトを率いた建築家、益子義弘氏は「豊かな自然環境全体を感じられる居場所づくり」を目指したという。すなわち、光や風、緑など「戸外の自然と呼吸し合うような室内空間」であり、「美しい景色をごちそうとして活かすような部屋づくり」だ。
「本物の自然を満喫したいなら、戸外に椅子を置いてしばらく過ごすのが一番でしょう。でも、そこに滞在することはできません。建築で少し保護された場所に身を置くと、結果として、外の自然もより印象深く感じられるものです」

ホテルのラウンジ。視線の高さを計算して設けた横長窓を緑が埋め尽くし、外の自然と一体感を味わえる(写真撮影/牛尾幹太)

ホテルのラウンジ。視線の高さを計算して設けた横長窓を緑が埋め尽くし、外の自然と一体感を味わえる(写真撮影/牛尾幹太)

特に重要なのが、開口部のつくりかただ。窓は大きければいいというものでもない、というのが氏の考え方で、景色と連携する窓の大きさや形、部屋の広さとのバランスを考慮して計画したとか。
 また、室内外の明暗が強いとまぶしくて、外の緑が美しく見えない。氏はピクチャーウインドーの両脇に細かな格子を施した通風窓を設けて、光も風も緑も穏やかに呼び込む工夫をした。
ここでは内と外との境界が、それぞれを隔てるものとしてではなく、適度な階調でつなぐものとして存在している。

北欧家具でしつらえた部屋。磐梯山を遠望する見事な眺めを絵のように切り取るフィックス窓の両脇に、細格子が繊細な通風窓がある(写真撮影/牛尾幹太)

北欧家具でしつらえた部屋。磐梯山を遠望する見事な眺めを絵のように切り取るフィックス窓の両脇に、細格子が繊細な通風窓がある(写真撮影/牛尾幹太)

デザインを際立たせず、自然素材で心地よさを

強すぎる印象を避けるのはデザインも同様だ。形を頑張りすぎると、それ自身が際立って見えてしまう。「物やデザインが迫ってこない、むしろ後から、部屋のしつらえは覚えていないけれど何だか気持ち良かった、と思い返してもらえればいい」のだそうだ。
内装には、共用部も客室も主として自然素材が使われている。「室内で自然観をどんなふうにつくれるか考えたとき、自ずと柔らかな天然の素材を選択する」という。例えば断熱性に優れたペアガラスのアルミサッシも、室内側に木製の窓枠を施すことで優しい印象に仕上げた。都会の密集地でも、内装や家具などインテリアの構成の中で自然素材を使うことは可能だ。

自然素材には、見て、触れて、心やすらぐぬくもりがある(写真撮影/牛尾幹太)

自然素材には、見て、触れて、心やすらぐぬくもりがある(写真撮影/牛尾幹太)

床はキリやカラマツのむく材(写真撮影/牛尾幹太)

床はキリやカラマツのむく材(写真撮影/牛尾幹太)

明解なロジックも手の込んだ仕事も、完成すれば空間に溶け込んで消えていく。あるいは、空気となって残る。そこでは人も物もはしゃいだりしない。そっと身を置いて静かに楽しめるような「居場所」があるだけだ。

構成・取材・文/今井 早智

●取材協力
HOTELLI aalto(ホテリ・アアルト)

築30年の住まい リフォームのベストタイミングとは?

そろそろわが家も築30年。まだ不具合が出ているわけじゃないし、建て替えるには早いような気もする……思い悩むあなたに「お金」「健康」「安心」「利便性」の4つの観点からリフォームのベストタイミングを伝授! 
住まいの劣化は見えないところから。早めのチェックが吉!

慣れ親しんだわが家も築30年に。まだ大きな不具合もないし、しばらくはこのまま住めるだろうか……。このように考える人も多いことだろう。しかし、建築家の小宮歩さんは「家の劣化に気づいていないだけ」と注意する。

「床下や壁内、小屋裏など住まい手の目に見えないところでも劣化が進行していることがあるのです」(小宮さん、以下同)。シロアリや雨漏り、結露などによるダメージに気がつかないまま、構造の老朽化が進行すると住まいの安全性も損なわれてしまう。

また、家とともに住まい手の体力も年々低下していく。だから元気なうちに動線や収納、間取りなども見直しておきたい。同時に最新の建材・設備を取り入れることで、住環境はより快適なものになりうる。

早めに手を打つことで先々の家の維持費用も抑えられる。築20年を経過したらプロに点検・チェックをしてもらうべきだ。「早い段階で適切に対処できれば家の寿命はぐっと延びます。ただの修繕ではなく、今の暮らしを見直すいいきっかけにできるといいですね」

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

経験者が語る4つの後悔とその対処法

リフォームのタイミングが遅れるとどんな後悔が生まれるのだろう。経験者の声とその対処法を紹介しよう。

【後悔1.お金】

「知らないうちに雨漏りで柱がぼろぼろ。思った以上の大改修で予算オーバー」(Sさん70代女性 築39年の一戸建て)

特に大きな支障もなかったので20年以上、点検も補修もしていなかったら、一昨年、キッチン交換の際に土台が湿気やシロアリでぼろぼろなのが発覚。200万円くらいで済ませるつもりだったのに、補修も含めて800万円の大出費に。もっと早く手当てしておけばよかった……。

●プロのアドバイス
「外装や水まわりは20年目までに一度点検を。早めの手入れで出費を抑えましょう」

「腐朽や劣化が進行する前に手を入れたほうがメンテナンスコストは抑えられます」と小宮さん。建物内部の構造が雨漏りや結露などで傷むと工事範囲が大きくなるからだ。特に屋根や外壁、水まわりは築20年までに点検、補修を行うこと。後回しにするほど工事費の負担は大きくなる。

【後悔2.健康】

「断熱性が低いせいか冬は底冷え。毎年、寒くなると体調不良に」(Tさん 50代男性 築49年の一戸建て)

家の断熱性が低いせいか、冬の底冷えが厳しいため、断熱リフォームを実施。施工後は格段に暖かくなり、以前のように冬場に寝込むことがなくなった。早くやっておけばあんなに苦しまずに済んだのになあ。

●プロのアドバイス
「断熱性の低い家は身体に負担。窓まわりの改善だけでも効果的です」

断熱性の低い家では、夏は熱中症、冬には低気温による心身の不調など、健康上のリスクが伴う。ベストな対処は、床・壁・屋根・天井に断熱材を入れ、外気の影響を小さくすること。「最も熱が出入りする窓まわりを改善するだけでも効果的です」

【後悔3.安心】

「地震のたびに大きく揺れるわが家。耐震性が不安で落ち着かない毎日」(Kさん 60代男性 築53年の一戸建て)

築40年以上のわが家は、2011年の東日本大震災の後は、ちょっとした地震でも大きく揺れるようになり、不安に……。昨年ようやく耐震改修を実施。それまでは「わが家は大丈夫だろうか」とずっと落ち着かない日々が続いていました。

●プロのアドバイス
「築37年以上の家の多くは耐震補強が必要。木造住宅はそれ以下でも耐震診断を」

国の耐震基準が大きく変わったのは1981年6月。それ以前(旧耐震基準)の建物の多くは、地震に対して構造を支える耐力壁の量が少ないので、耐震改修が必要だ。「なるべく早く耐震診断を実施して対処を検討しましょう」

【後悔4.利便性】

「古いキッチンは狭くて雑然としていて食事の支度が苦痛でした……」(Aさん 60代女性 築30年の一戸建て)

新築時にはリビングを優先したため、キッチンは狭苦しくて食事の支度に立つのが苦痛でした。そこで子どもの独立をきっかけに新しいキッチンにリフォーム。子どもたちがいたころが一番家事が大変だったので、そのときにリフォームしたかった……。

●プロのアドバイス
最新の設備・建材には暮らしやすさがグッと向上する進化がいっぱい

住宅設備の進化は目覚ましく、省エネ性や清掃性、収納力などは特に大きく向上しているため、新しいものと交換するだけで暮らしやすさや快適性がぐっと高まる。「使い勝手や家事動線も考慮して選ぶといいでしょう」

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

リフォームを成功させるには3つの鉄則がある

以上のような後悔を生まないためには、リフォームの際、どのようなことに気をつければよいのか。小宮さんは下記のような3つの鉄則を挙げる。

「工事はなるべくまとめる」
リフォームは何度かに分けて行うより、複数の工事をまとめることができれば、工期の面でもコストの面でも効果的。例えば、床や壁、天井の撤去を行う内装や水まわり設備の更新、もしくは足場を組む必要のある屋根と外壁の工事などは同じタイミングで実施したい。

「10年後の暮らしまで考慮する」
リフォームでは目の前の不具合に目が向きがち。だが10年後の家族や暮らしの変化も考慮しておきたい。子どもの成長を見越して収納を大きめに確保したり、老後に備えてバリアフリー化したりと、先々の用意もできるとベスト。

「要望には優先順位をつける」
「あれもしたい」「これもしたい」と要望は膨らむもの。しかし予算には限りがあるので、優先順位をつけて割り振ること。特に健康や生命にもかかわる断熱、耐震は最優先。設備だけでなく性能にもしっかり予算をかけよう。

リフォームはそのタイミング次第で、成果や満足度に大きな差が生まれる。気になることがあったら、なるべく早い段階でプロに相談することが重要だ。

構成・取材・文/渡辺圭彦

●取材協力
TAU設計工房一級建築士事務所 代表
小宮歩さん
一級建築士。東京理科大学工学研究科建築学専攻修士課程修了。2003年、TAU設計工房入社。2013年、同社代表に就任。新築、リフォームなど住宅事例を多数手がける。

“賃貸住宅でDIY”これで安心。注意点や知識まとめた「賃貸DIYガイドライン」が必読

賃貸住宅に住んでいる人は、「原状回復できる範囲でのDIY」を楽しんでいるケースが多いと思いますが、知らぬ間に同居している家族や他の入居者の安全を脅かしている可能性があることをご存じでしたか? また、最近少しずつ増えてきた「DIY可」と記載がある賃貸住宅でも、火災予防の観点からやりたいDIYが出来ない場合もあることや、退去時にどんなトラブルが予測されるのかもまだあまり知られていないと思います。
「そんな情報どこで教えてくれるの?」という方には、2019年5月20日に公開された「賃貸DIYガイドラインver.1.1」がおすすめです。その内容から、賃貸住宅でDIYする場合に知っておきたい情報をご紹介します。
「原状回復できるDIY」での注意点とは?

インテリアやDIY好きな人たちが実例画像を共有するサイトRoomClipを見てみると、「原状回復(現状回復)」というタグで3600枚以上の写真が投稿されています。賃貸住宅でDIYをやりたい人にとって「退去時に余計なお金がかからないように原状回復できること」が大きな関心ごとであることが分かります。
DIY材料店や100円ショップのDIYコーナーでは、「賃貸でも貼って剥がせる壁紙用の糊」や「きれいに剥がせてデザイン性の高い幅広マスキングテープ」などが売られ、インターネット上では「原状回復できるDIY」に関する情報がたくさん公開されています。

DIYの強い味方、マスキングテープ(写真は、ニトムズ「decolfa(R)(デコルファ)」)

DIYの強い味方、マスキングテープ(写真は、ニトムズ「decolfa(R)(デコルファ)」)

しかし、賃貸住宅の管理会社の立場から見ると、その中には心配なDIYも混じっていると感じます。かわいいから、便利だからと、ガスコンロのまわりに100円ショップで買った木製のすのこを貼ったり、燃えやすい粘着シートを貼ったりすれば、火災の危険が増してしまうのです。アパートやマンションなどの共同住宅で万一火災になれば、大家さんの財産である建物に被害を及ぼすだけでなく、人命にも関わります。火災保険に入っているから大丈夫、というレベルの話ではありません。

DIYする人が知っておくべき「内装制限」

賃貸住宅で火災が発生した場合の危険度は、構造や規模、場所によって違います。
例えば、木造のアパートと鉄筋コンクリートのマンションでは火の燃え広がる範囲やスピードが違いますし、1世帯しか住んでいない戸建て貸家と10世帯が暮らす共同住宅では火災発生のリスクが異なります。同じ1つの住戸の中でも、キッチンのある部屋のほうが浴室やトイレよりも火の用心が必要です。

そのような事情を加味し、火災が発生した場合の危険度が高い場所では、万一のときに避難する時間を稼ぐために内装に使う材料を燃えにくいものにするというルールがあります。「内装制限」と呼ばれるそのルールは建築基準法や消防法、都道府県の火災予防条例で規定されており、不燃材料、準不燃材料、難燃材料などの防火性能の高い内装材を危険度に応じて使用することとされています。
ちなみに、内装制限があるのは壁と天井だけで床材には制限はありません。火は上に燃え広がる性質があるからです。同じ理由で、例えば同じ2階建アパートの中の住戸でも、101号室には制限があるのに201号室にはない場合があります。101で火災が起きた場合は201にも早々に被害が及びますが、201で火災が起きた場合は上階に住戸がないのですぐには被害が広がらないと見られているからです。
賃貸住宅でDIYしたい場合は、ご自分の住んでいるお部屋の内装制限を知り、それに合わせたDIYをする必要があります。

内装制限をどうやって調べたらよいか

内装制限を調べる行為は、新築や増改築の建築設計の際に一級建築士などの専門家が行っています。「賃貸住宅でのDIY文化をつkうっていくためには、建築の知識がない人でもこれを簡単に調べられるようにする必要がある」と立ち上がったのが、一般社団法人HEAD研究会でした。現場の第一線で活躍する一級建築士や、DIYを促進したい不動産管理会社、メディア関係者などの有志が集まり、2年の歳月をかけて「賃貸DIYガイドラインver.1.1」を完成させたのです。

(「賃貸DIYガイドラインver.1.1」より)

(「賃貸DIYガイドラインver.1.1」より)

賃貸DIYガイドラインではフローチャート形式を採用し、その住戸にかかる内装制限を簡単に調べられるようにしています。「延べ面積」などの専門用語は、その用語の意味や調べ方が書いてあります。大家さんや管理会社に聞く必要があるもの、専門的な判断が必要で「建築士にご相談ください」というゴールになっているものもありますが、このガイドラインを使うことで多くの人が自分の住んでいる住戸の内装制限が分かるはずです。
調べた結果、「内装制限があります」となった場合でも、例えば棚や突っ張り棒など内装制限にかからないものを使用してDIYする方法もあります。しかし、その際の安全の判断は個人個人に委ねられますので、くれぐれもガスコンロのまわりなどに可燃物を置かないように気を付けましょう。

消防法について(「賃貸DIYガイドラインver.1.1」より)

消防法について(「賃貸DIYガイドラインver.1.1」より)

DIY可能、原状回復不要の賃貸住宅も増えている

賃貸住宅でいろいろなDIYをやりたい人は、内装制限がない物件を探して原状回復できるDIYをするのも一つの手ですが、DIY可能で原状回復不要の物件があればもっと自由なDIYが出来ます。最近ではDIY可能な賃貸物件も少しずつ増えており、それを探せるお部屋探しサイトも出てきました。SUUMOでも「DIY可」で物件検索できるようになっています。
DIY可能な物件でも内装制限を守る必要がありますが、賃貸DIYガイドラインには「内装制限がある場合のDIYの実例」も掲載されており、例えば準不燃材料の壁紙の探し方や施工上の注意点などが記載されています。

内装制限とは 内装制限ある場合の事例(「賃貸DIYガイドラインver.1.1」より)

内装制限とは 内装制限ある場合の事例(「賃貸DIYガイドラインver.1.1」より)

DIY可能な物件は原状回復義務が免除されている場合も多いので、多くの人がやりたくても諦めていた「壁に穴をあけて棚やフックを付ける」ことも可能です。しかし、原状回復義務がなければどこにでも穴をあけて良いかというとそうではなく、防火や防音、断熱の観点から穴をあけてはいけない壁があるので注意してください。

ビス打ちが不可能な範囲(「賃貸DIYガイドラインver.1.1」より)

ビス打ちが不可能な範囲(「賃貸DIYガイドラインver.1.1」より)

穴をあけてはいけない壁に棚を付けたい場合は、天井と床に突っ張って柱をつくるDIYパーツが活躍します。有孔ボードを取り付けてフックを使い、見せる収納をつくるなど、このパーツを使用したDIY事例はインターネット上にたくさん公開されているのでとても参考になります。原状回復できる範囲でDIYを楽しんでいる人にも大人気で、間仕切りなどにも利用されています。

天井と床に突っ張って柱をつくるDIYパーツ「ラブリコ」使用の棚(写真提供/平安伸銅工業株式会社)

天井と床に突っ張って柱をつくるDIYパーツ「ラブリコ」使用の棚(写真提供/平安伸銅工業株式会社)

「ラブリコ」は賃貸でDIYしたい人にとっては神パーツ(写真提供/平安伸銅工業株式会社)

「ラブリコ」は賃貸でDIYしたい人にとっては神パーツ(写真提供/平安伸銅工業株式会社)

DIY可能な賃貸住宅で揉めないための注意点4つ

DIY可能な物件に入居したのに、退去時にトラブルになったら困りますよね。トラブルになりがちなポイントを知っておき、必要があればDIYを行う前に取り決めをしておくと良いでしょう。
一番重要だと思われるのは、実施したDIYに原状回復義務があるかどうかを確認することです。DIY可能な物件で時々見かけるのが「DIYして良いが退去時に原状回復が必要」というものです。そもそもこういう物件をDIY可能と言って良いのかどうかは微妙ですが、DIY可能という貸し方がまだ一般的ではないため、貸す側も管理する側も混乱しているのが現状です。退去時に困らないよう必ず確認するようにしてください。

二番目は、DIYした部分を退去時に残置するのか撤去するのかを決めておくことです。棚など取り外しできるものは、退去時に残置するのか撤去するのかを決めておいたほうが良いでしょう。

三番目は、残置する場合に不具合があった場合のことを考えておくことです。例えば設置した棚の取り付け方が悪く、棚板がひび割れたりぐらついたりしている場合、そのまま残されても次の入居者が使えないので、補修か撤去をする必要が出てくると思います。

四番目は、撤去する場合の原状回復をどうするか決めておくことです。例えば棚を取り付けるためにあけた穴などを原状回復する必要があるか、必要ならばどのくらいの費用が掛かるのかを確認しておいたほうが良いでしょう。
賃貸DIYガイドラインには、DIY可能な物件の契約書式の例も入っていますので、取り決めた事項をどうやって書面にしたら良いかの参考にしてください。

貸すほうも借りるほうも安心できることが肝心

DIY可能な物件は差別化となるため、空室に困っている大家さんや管理会社にもメリットがありそうですが、大家さんや管理会社が不安に思っていると増えていかないと思います。「次の入居者募集に支障があるようなDIYをされてしまったらどうしよう」「DIYの申請や承諾で業務が煩雑になり、対応しきれないかもしれない」「建築に詳しくないので法的にどんなDIYが可能なのか判断できない」などという不安があるのです。
DIY可能な物件を増やそうとしている管理会社は、この不安を払拭するためにさまざまな取り組みをしています。DIY可能壁をつくり、その部分だけは申請なしに自由にDIY出来て原状回復義務もなしにする、DIYショップに住まい手のDIY相談をアウトソーシングする、物件に出向いてDIY作業をサポートしてくれる人と提携するなどの取り組みが各地で少しずつ始まっています。
そんな中で、今回公表された「賃貸DIYガイドラインver.1.1」は、大家さんや管理会社の法的な不安を取り除く役割を担っているのです。

下地が板張りのDIY可能壁なら穴あけも簡単(写真提供/株式会社ハウスメイトパートナーズ)

下地が板張りのDIY可能壁なら穴あけも簡単(写真提供/株式会社ハウスメイトパートナーズ)

近年のDIYブームによって、自分の住まいを好みの空間にする楽しみに多くの人が目覚めています。この動きは日本の住生活を豊かにし、暮らしの文化の充実と発展につながっていくでしょう。しかし、その暮らしを守るためには建物自体の安全が大前提であり、大家さんや管理会社などの関係者の安心感も重要です。
「賃貸DIYガイドラインver.1.1」は、その住戸で「何ができて、何ができないのか」を明確にし、「住まい手にとっての自由」と「大家さん、管理会社にとっての安心」を両立させ、日本の賃貸住宅のDIY文化を発展させるために制作されました。賃貸住宅に住んでいる人もこれらの知識を得ることで、自分で自分の暮らしの安全を守ることが出来るようになります。
「賃貸DIYガイドラインver.1.1」が広まることで、自由で豊かに暮らせる賃貸住宅が増えることを期待しています。

●取材協力
>平安伸銅工業株式会社●参考
>HEAD研究会
>賃貸DIYガイドラインダウンロードページ

次世代住宅ポイント制度の発行申請がスタート!ところで、どんなポイントだっけ?

国土交通省によると、2019年6月3日から「次世代住宅ポイント制度」のポイント発行申請の受付を開始したという。この制度は、消費税率10%への引き上げ後の住宅購入などを支援するためのものなのだが、まだ消費税率は上がっていない。ポイント発行申請の受付とはどういったことか、そもそもどういった制度か、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
次世代住宅ポイント制度のポイント発行申請を受付開始/国土交通省消費税率10%のマイホームの新築やリフォームに与えられるポイント

住宅の新築やリフォームの費用は、消費する商品の中でも高額なものだ。消費税率が8%から10%へ引き上げられる影響も大きい。住宅の購入などの需要が落ちないように、政府はさまざまな優遇策を用意している。

そのひとつが「次世代住宅ポイント制度」で、一定の性能を満たす住宅の新築やリフォームに対して、商品と交換できるポイント(1ポイント=1円相当)を与えるもの。対象となるのは、消費税率10%が適用されるマイホームの新築(注文住宅の新築、新築分譲住宅の購入)とリフォームだ。

新築の場合は、一定の省エネ性、耐久性、耐震性、バリアフリー性能を満たす住宅に対して30万ポイントが与えられ、さらに性能を引き上げるなどの条件を満たせば最大35万ポイントまで引き上げられる。

一方、リフォームの場合は、断熱改修、エコ設備の設置、耐震改修、バリアフリー改修に加え、家事負担を軽減する設備の設置やインスペクションの実施などについて、それぞれ決められたポイントが設定され、該当する工事の内容ごとに加算され、上限で1戸当たり30万ポイントまでが与えられる。さらに、若者・子育て世帯がリフォームを行う場合などの条件を満たせば、ポイントの上限が引き上げられる特例が適用され、最大で45万または60万ポイントが与えられる可能性がある。

工事完了前ポイント発行申請とポイント予約申請の受付を開始

消費税率10%が適用されるということは、予定どおり10月1日から増税されれば、新築した住宅やリフォームの工事が終わって「10月1日以降に引き渡される」ことが基本的な条件だ。したがって、6月3日時点では、まだ工事が完了していないことになる(ただし、完成済みの新築分譲住宅の購入の場合を除く)。

実は、ポイントを申請するタイミングは、「工事完了後」、「工事完了前」、「分譲予約」がある。工事が完了して引き渡しを受け、入居してから申請する「工事完了後」だけでなく、工事請負契約や売買契約の締結後に申請する「工事完了前」のタイミングでも可能だ。ただし、リフォームの場合は、工事金額が1000万円を超える工事に限り「工事完了前」の申請ができる。

また、分譲住宅の場合はまとまった戸数が対象になるので、デベロッパーなどの分譲事業者が建築事業者と工事請負契約を締結した後にポイント発行申請の予約をする「分譲予約」を行うことも可能にしている。この場合は、住宅の購入者と売買契約を締結した後に各戸のポイントの発行申請を行うことができる。

つまり、6月3日から受付を開始したのは、「工事完了前」及び「分譲予約」の場合についてだけなのだ。

省エネ家電、健康家電、キッチン家電、子ども用品などの商品と交換可能

さて、気になるのは、与えられたポイントでどんな商品と交換できるかだろう。
6月3日から、交換できる商品の検索もできるようになった。

現時点で検索してみると、パソコンやテレビなどの省エネ家電、扇風機や空気清浄機などの健康家電、家事負担を軽減するキッチン・掃除・洗濯家電、ランドセルや子ども用自転車などの子育て商品、地域の食料品、防災用品など多岐にわたる。交換対象商品は今後も追加される予定だが、参考に検索してみるのもいいだろう。

ポイント制度の詳細や交換商品の検索については、「次世代住宅ポイント事務局」のサイトを参照してほしい。
<次世代住宅ポイント事務局HP>

せっかくの住宅購入などの支援策だが、次世代住宅ポイント制度の認知度はあまり広がっていないように感じる。でも、まだ消費税率が10%に上がっていないので、イメージがしづらいということもあるのだろう。とはいえ、ポイント発行の申請などが始まっている。例えばリフォームでは、工事前後や工事中の写真を提出する必要があるなど、実際にポイントが発行されるには細かい条件もある。知らなかったのでポイントがもらえなかったということのないよう、情報だけは事前に集めておくとよいだろう。

台湾の家と暮らし[2] 植物好きクリエイター男子が住む、広々テラスの贅沢屋上ワンルーム in台北

私、暮らしや旅について書いているエッセイスト・柳沢小実が台湾の人の家を訪れる本連載。2軒目でおじゃましたのは、ブランドデザインや空間デザインなどを手掛けるクリエイターで、カフェ「好氏研究室」オーナー兼ディレクターでもある陳易鶴(Van)さんの台北市内にあるご自宅です。植物と暮らす部屋づくりや、日本とはかなり違う台湾の賃貸住宅の収納事情について、お話を伺いました。連載名:台湾の家と暮らし
雑誌や書籍、新聞などで連載を持つ暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんは、年4回は台湾に通い、台湾についての書籍も手掛けています。そんな柳沢さんは、「台湾の人の暮らしは、日本人と似ているようでかなり違って面白い」と言います。柳沢さんと台北へ飛んで、自分らしく暮らす3軒の住まいへお邪魔してきました。贅沢屋上物件に潜入

陳易鶴さんの住まいは、台北・松山空港の北側エリア。近隣にはデザイン系の大学や軍事基地があり、車道も歩道もゆったりしていて、空が広い。人や店、情報が凝縮されている台北中心部からほんの数駅離れただけで、街の雰囲気が大きく変わります。

右は大学、左は軍事基地(写真提供/KRIS KANG)

右は大学、左は軍事基地(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

42歳、賃貸物件、一人暮らし。
陳さんが住んでいるのは、台北ではごく一般的な築35年の5階建てマンション。こういった建物にはエレベーターがないことが多く、建物のつくりは日本の団地とよく似ています。
息を切らしながら階段を上がった先に、彼の住居である屋上物件がありました。部屋の三方は真っ白く塗られたテラスで、サボテンの鉢が置かれています。眩しい白と強い日差しに、ハレーションを起こしそう。ここは一体どこだろう。

建物は、ごく普通の集合住宅(写真提供/KRIS KANG)

建物は、ごく普通の集合住宅(写真提供/KRIS KANG)

最上階に、別世界が広がっていました(写真提供/KRIS KANG)

最上階に、別世界が広がっていました(写真提供/KRIS KANG)

台北には屋上物件が数多くありますが、大抵は簡易的なつくりで壁も薄く、暑さが厳しいのだとか。ですが、ここは壁がコンクリート。取材日は気温が27度ありましたが、窓が大きいため風通しも良く、室内はクーラーなしでも涼しい。そういう物件は珍しいそうです。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

1軒目にお邪魔したアトリエで活動するイラストレーターRosy さんが描いた間取り(イラスト提供/Rosy Chang)

1軒目にお邪魔したアトリエで活動するイラストレーターRosy さんが描いた間取り(イラスト提供/Rosy Chang)

陳さんがこの部屋と出合ったのは、ご自身のお姉さんを介してでした。お姉さんの友人が自分でデザインして20年ほど住んでいた物件で、「あなたに合うんじゃない?」と紹介されたそうです。家主が自分のためにしつらえた部屋だからか、ドイツの老舗であるGAGGENAU社のコンロが入っていたり、バスルームが全面タイル張りで浴槽もついていたりと、水まわりの設備も充実しています。ちなみに、GAGGENAU社は、料理研究家の有元葉子先生のアトリエでも使われている高級メーカーです。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

インテリアを入れ替え、変わっていく空間

陳さんの部屋は、“Calm(穏やかさ、静けさ)”がテーマです。中央にベッドが配されている、リラックスするための場所。〇〇系とカテゴライズできない、陳さんの現在の感性が具現化した空間です。

「インテリアは専門じゃない」と謙遜しますが、自身のショップなどでスタイリングもしていることもあって、空間づくりはお手のもの。植物を天井から吊るしたりして、空間を立体的に見せています。サボテンやコウモリランなど植物が多いから、とびきりおしゃれですが有機的で居心地が良い。長居したくなる部屋です。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

空間に置くインテリアアイテムは自分の足で探す派で、何年も常に探し歩いています。「アンティークショップやフリマは高い」から、台湾各地のリサイクルショップで安く買ったり、拾ってきたりもする。値段やブランドからではなく、自分に合うものを見つけられる人だから、玉石混交の中から探すのが楽しいのかもしれません。

引越してきたときに持っていた家具は本棚だけ。ガラスケース入りのペンギンも台南で見つけて、抱えて新幹線で持ち帰った(写真提供/KRIS KANG)

引越してきたときに持っていた家具は本棚だけ。ガラスケース入りのペンギンも台南で見つけて、抱えて新幹線で持ち帰った(写真提供/KRIS KANG)

家具や置物はデコラティブなものが多いが、ほぼ台湾製だそう(写真提供/KRIS KANG)

家具や置物はデコラティブなものが多いが、ほぼ台湾製だそう(写真提供/KRIS KANG)

日当たりのいいテラスの反対側は、直射日光を嫌う植物のための自作のサンルーム。台湾やタイなどが原産のサボテンや蘭などがのびのびと育っています。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

驚くことに、こんなに完成された空間にもかかわらず、陳さんはインテリアも洋服も4カ月くらいで丸々変えてしまいます。「変わるのが好き」で「ずっと同じは嫌」だから、その時々でたくさん買って、ごっそり入れ替える。ちなみに、以前のテーマは“ジャングル”で、鹿の頭や大きな樹などがあったそうです。

B&Oのスピーカーからはクラシック音楽が流れ、洗面所にはAēsopやavedaなどのグルーミングアイテムが無造作に置かれている。本棚には、たくさんのヨーロッパ製の香水。黒いサンゴやうさぎの頭の骨は、インテリアが変わっても持ちつづけているもの。
私は常々、ディテールにその人の本質があらわれると考えています。このインテリアは今の彼自身で、次に訪れたときはきっと変わっているでしょう。でも、端々に見え隠れする上質さと心地よさを好む彼の価値観は、変わらないのかもしれません。

インテリアと調和しているB&Oのスピーカー(写真提供/KRIS KANG)

インテリアと調和しているB&Oのスピーカー(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

台湾の人の収納事情とは

ところで、この部屋には造り付けの収納は皆無で、もちろんクローゼットもついていません。台湾の一人暮らし向け物件は、収納なしも珍しくなくて、ほかの友人によると、台北の20・30代が住む賃貸の部屋は、収納ありとなしが半々くらい。ファミリータイプは収納がある場合が多いけれど、それも必ずではありません。
台湾の人のほうが持ち物は多い印象だけど、一般的には「収納」や「隠す」という概念が日本ほどは育っていないよう。近年は、日本の影響で、収納に凝る人もぽつぽつ出てきています。

そのため、もともと入口だった幅80 cm×奥行80cm×高さ230 cmのくぼみにカーテンをつけてクローゼットにし、ほかの洋服は棚に入れています。実はベッドの下部も収納になっていて、そこにも持ち物を収めています。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

心の豊かさを追求した、新しい暮らし方

陳さんの一日の過ごし方は、朝5時に起きて、ゆっくり1時間ジョギング。朝ごはんはクロワッサンと鶏のエキス。午後13、14時ごろに出社し、退社は18時半。夜に瞑想を30分~1時間して、22時には寝る。週末は片づけをしたり、友達を招いたりしています。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

一見華やかに見えますが、朝型の規則正しい生活をしています。外食は口に合わないし不健康だからと、自炊もする。オーガニック食材を買ってきて、簡単な麺や野菜料理をつくっています。外食やテイクアウトが浸透している台北では、彼のような人はごく少数派です。

本棚にはインドや京都、瞑想についての本や、海外のインテリア雑誌、日本の雑誌『POPEYE(ポパイ)』などが(写真提供/KRIS KANG)

本棚にはインドや京都、瞑想についての本や、海外のインテリア雑誌、日本の雑誌『POPEYE(ポパイ)』などが(写真提供/KRIS KANG)

陳さんの自宅周辺は、デザイン系の大学があって夜は静か。川があって、星も見えます。
この連載の第1回でも書いたように、台湾では中心部かつ駅から近い場所が好まれる傾向があります。仕事で成功していて中心部に十分住めるはずなのに、便利さやにぎやかさから離れて、あえて静かな場所を選び、仕事とプライベートを切り離す。それは新たな価値観であり、新たな住まい方。クオリティ・オブ・ライフの指針を示しています。
今後、台湾では彼のような人たちが先駆となり、暮らしもさらに多様化していくのではないでしょうか。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

>好氏研究室

切り絵作家YUYAさんとパン・お菓子研究家スパロウ圭子さんの狭さを活かした一軒家 その道のプロ、こだわりの住まい[6]

東京、中野にある三角屋根の一軒家。切り絵作家でありイラストレーターのYUYAさんと、パン・お菓子研究家のスパロウ圭子さん夫婦の自宅兼アトリエだ。生活する場であるのはもちろん、教室を開いたり、月に一度はオープンアトリエとして開放して作品を販売したり。棚には二人が好きだという民芸の器や郷土玩具が並び、夫婦で楽しみながら暮らしていることが伝わってくる。決して広いとは言えないが、自分たちの好きなものを詰め込み、やりたいことを実現し続けている空間なのだ。コンパクトなスペースをどう使いこなしているのか、コツを教えてもらった。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。コンパクトな空間を、多機能に使う1階はダイニングキッチンであり、教室や作品展示スペースとしても利用する「店舗」でもある。棚はオープンにして出し入れしやすくしている。「使ったらすぐにしまえるし、気が付いたときにパッと掃除もできます」と圭子さん(写真撮影/嶋崎征弘)

1階はダイニングキッチンであり、教室や作品展示スペースとしても利用する「店舗」でもある。棚はオープンにして出し入れしやすくしている。「使ったらすぐにしまえるし、気が付いたときにパッと掃除もできます」と圭子さん(写真撮影/嶋崎征弘)

玄関の扉を開けると、すぐ目の前にダイニングがあり、両脇の棚には切り絵や郷土玩具が飾られている。切り絵は、この家の住人である切り絵作家でありイラストレーターのYUYAさんの作品。そして、奥に見えるキッチンは、妻でパン・お菓子研究家のスパロウ圭子さんの仕事場でもある。
二人がこの一軒家を手に入れたのは2015年。リフォームをしてから翌年に引越してきた。それまで住んでいたのはマンションで、この家よりも広い空間だったという。なぜ、あえて狭い一軒家に住むことにしたのだろうか。

一軒家のリフォーム前と後の間取り

一軒家のリフォーム前と後の間取り

YUYAさんの切り絵作品やイラスト、さらにそれらをプリントしたポストカードや手ぬぐいなどが並ぶ。作品の色が映えるよう、壁は白くしている(写真撮影/嶋崎征弘)

YUYAさんの切り絵作品やイラスト、さらにそれらをプリントしたポストカードや手ぬぐいなどが並ぶ。作品の色が映えるよう、壁は白くしている(写真撮影/嶋崎征弘)

「自宅でパンやお菓子の教室をやりたかったのと、夫の作品を販売するスペースがほしいという気持ちがあったからです。それを可能にする家を探し回りました」と話す圭子さんに、YUYAさんが続ける。「以前、建築の仕事をしていたので、内見したときに『この家ならなんとかなる』と判断できました。リフォームすれば生活の場としても、仕事場としてもうまく使えるだろう、と想像できたんです」

取材時に圭子さんがつくってくださったパンとお菓子。粉やフルーツなど素材の味を大切にしていて、素朴な手仕事の器との相性の良さは抜群だ(写真撮影/嶋崎征弘)

取材時に圭子さんがつくってくださったパンとお菓子。粉やフルーツなど素材の味を大切にしていて、素朴な手仕事の器との相性の良さは抜群だ(写真撮影/嶋崎征弘)

リフォームが完了してから、それぞれ勤めていた会社を辞めて独立をし、念願の仕事に専念するようになった。
圭子さんは1階のダイニングキッチンでパンとお菓子を教えている。YUYAさんは2階の仕事場で作品をつくっている。
「月に一度オープンアトリエとして、1階を開放しているんです。そこでパンやお菓子、作品を販売していて。その日はみなさんが靴を脱ぐのが面倒かもしれないと思って、土足でOKにしているんですよ」とYUYAさんが教えてくれた。だから、この家には、いわゆる玄関のたたきスペースがない。扉を開ければすぐにダイニングというつくりになっているのだ。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

使いたいものにすぐ手が届くキッチン

奥のキッチンはコンパクトなスペースながらも、大きなオーブンが組み込まれ、必要なものに手が届くような配置になっている。
「道具も器もたくさんあるので、『隙あらば棚』みたいになっています」と圭子さんは笑う。器は二人で民芸店や地方で活動する作家に会いに行って手に入れたものがずらりと並んでいる。

キッチンの棚には民芸の器がぎっしり詰まっている。「好きなものこそ、毎日大切に使いたいし、愛でるようにしたい」(圭子さん)(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチンの棚には民芸の器がぎっしり詰まっている。「好きなものこそ、毎日大切に使いたいし、愛でるようにしたい」(圭子さん)(写真撮影/嶋崎征弘)

大きな器はダイニング側の棚に収納。民芸の器とYUYAさんの切り絵は手仕事ならではの素朴な良さがあり、並んでいる姿にホッとさせられる(写真撮影/嶋崎征弘)

大きな器はダイニング側の棚に収納。民芸の器とYUYAさんの切り絵は手仕事ならではの素朴な良さがあり、並んでいる姿にホッとさせられる(写真撮影/嶋崎征弘)

「民芸品にこだわっているわけではないのですが、二人とも好きなのが民芸の器が多くて。作り手さんの気持ちが伝わってくるものに出合うと、使いたくなるんです」と圭子さん。器は普段の食事でも教室でも分け隔てなく使っているので、生活の楽しみとして大切な存在でもあるのだろう。
狭い空間で開け閉めするのは不便だからと、食器棚には扉がついていない。教室に限らず、オープンアトリエの際にも、訪れた人の目に入り、楽しませてくれている。

上部に収納を固めて、狭さを感じさせない空間に2階の仕事スペース。左がYUYAさん、右が圭子さんの机。右奥の扉付き収納に布団をしまっている。「慣れてしまえば毎日の上げ下ろしも苦になりません」と二人(写真撮影/嶋崎征弘)

2階の仕事スペース。左がYUYAさん、右が圭子さんの机。右奥の扉付き収納に布団をしまっている。「慣れてしまえば毎日の上げ下ろしも苦になりません」と二人(写真撮影/嶋崎征弘)

2階はプライベートな空間として使っている。リビング兼寝室と、それぞれの机が置かれた仕事部屋がひと続きになっていて、それほど狭さを感じさせない。その理由の一つは、本棚などの収納スペースを上部に設置したことにある。

YUYAさんの仕事机。正面の壁には制作途中の切り絵の下書きなどが貼ってあり、それすらもアートの一部のように感じられる(写真撮影/嶋崎征弘)

YUYAさんの仕事机。正面の壁には制作途中の切り絵の下書きなどが貼ってあり、それすらもアートの一部のように感じられる(写真撮影/嶋崎征弘)

整理整頓が得意というだけあり、YUYAさんは机の上はすっきりしている。制作途中に出た小さな紙片も大切に収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

整理整頓が得意というだけあり、YUYAさんは机の上はすっきりしている。制作途中に出た小さな紙片も大切に収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事スペースの対面にあるリビング。上部に棚を配したおかげでソファを置くことができた。棚や壁には民芸品が飾られていて、二人が日常的に楽しんでいることが分かる(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事スペースの対面にあるリビング。上部に棚を配したおかげでソファを置くことができた。棚や壁には民芸品が飾られていて、二人が日常的に楽しんでいることが分かる(写真撮影/嶋崎征弘)

「できるだけ床の面を広くして有効に活用しようと考えました。天井を抜いたことも効果があったと思います」とYUYAさん。収納の機能を目線より上の位置に集約したことで、圧迫感を減らしながら、机やソファを置くスペースも確保できた。

並べ方に規則はなく、好きなものを好きなように置いているコーナー。YUYAさん曰く「買った時の店主さんとのやりとりや、旅した時の風景を思い出したりします」(写真撮影/嶋崎征弘)

並べ方に規則はなく、好きなものを好きなように置いているコーナー。YUYAさん曰く「買った時の店主さんとのやりとりや、旅した時の風景を思い出したりします」(写真撮影/嶋崎征弘)

そして、壁面には1階と同じく郷土玩具が飾られている。これらも、器と同じく二人で買い集めてきたもの。日本に限らず、世界各国の民芸品と呼べるものだ。
「国ごとに分けて飾ることもないし、買うときにもどこのものかを特別に意識はしていません。どれも愛嬌のある感じが好きで、見ていると楽しくなってくるんです」と二人は言う。なんとも言えないとぼけた表情や、素朴な色使いと質感は、夫婦にとって何ものにも代えがたい魅力だ。

壁だけでなく、棚の上にもディスプレイ。違う国のものでも不思議となじんでまとまりが出るのが民芸品の良さなのだろう(写真撮影/嶋崎征弘)

壁だけでなく、棚の上にもディスプレイ。違う国のものでも不思議となじんでまとまりが出るのが民芸品の良さなのだろう(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

屋根裏は、好きなものを集めて気分転換できる部屋に

じつは、郷土玩具は1階と2階だけにとどまらない。上階にある屋根裏部屋には、さらにたくさんのものが並んで愛嬌を振りまいている。
「郷土玩具のほかに二人の本もたくさん収納していて、ここは完全に趣味の部屋です」とYUYAさん。右の壁面には郷土玩具がずらりと並び、左には民芸やアート、お菓子に関する本がぎっしり詰め込まれた棚がある。

三角屋根の一軒家ということが分かる屋根裏部屋。左の本棚はYUYAさんがサイズに合わせて自作したもの。キャスター付きなので奥のものも取り出しやすい(写真撮影/嶋崎征弘)

三角屋根の一軒家ということが分かる屋根裏部屋。左の本棚はYUYAさんがサイズに合わせて自作したもの。キャスター付きなので奥のものも取り出しやすい(写真撮影/嶋崎征弘)

「仕事に煮詰まったり、気分転換したいときはここで過ごすんです。生活と仕事が同じ空間だからこそ必要なスペースかもしれません」と圭子さん。ランチを食べたり、お茶を飲んだり、ちょっと贅沢な空間にうらやましくなってくる。

民芸館のような棚。「郷土玩具も民芸品も器も、好きだからどんどん増えてしまう。どこにどう飾ろうか、どう使おうか、考えてから選ぶようにしています」と圭子さん(写真撮影/嶋崎征弘)

民芸館のような棚。「郷土玩具も民芸品も器も、好きだからどんどん増えてしまう。どこにどう飾ろうか、どう使おうか、考えてから選ぶようにしています」と圭子さん(写真撮影/嶋崎征弘)

好きなもの、やりたいことを詰め込んだ暮らし

二人は好きなものや嫌だなと感じることが同じだと言う。だからこそ、飾っているものも使っている器も、それを収納する家の内装にもブレがなく、統一感がある。やみくもに好きなものを集めているのではなく、狭いからこそ選び抜いているということもあるだろう。
そして何よりも、二人は生活と仕事において、何をしたいかがはっきりしている。好きな民芸品を使いたい。パンとお菓子の教室をしたい。作品をつくりたい。そして、それを喜んでもらえる人に届けたい、と。この一軒家は、その想いを叶える場所なのだ。

2階の本棚にも郷土玩具が並び、なんとも愛らしいスペースになっている。「どんな場所でどんな人がつくっているのか、知りたくなっちゃうんです」と二人はうれしそうに話してくれた(写真撮影/嶋崎征弘)

2階の本棚にも郷土玩具が並び、なんとも愛らしいスペースになっている。「どんな場所でどんな人がつくっているのか、知りたくなっちゃうんです」と二人はうれしそうに話してくれた(写真撮影/嶋崎征弘)

●取材協力
YUYA / スパロウ圭子
YUYAさんは、切り絵作家、イラストレーターとして、広告・カタログ・ロゴデザイン等で活躍中。個展も開催している。スパロウ圭子さんは、パン・お菓子研究家として「食のアトリエ・スパロウ」を主宰。二人で「アトリエ・フォーク」として活動し、月に一度オープンアトリエで切り絵作品や天然酵母パン、ジャムなどを販売している。
>HP

賃貸団地をDIY工房に! 世代や地区を超え、DIYが住民をつなぐ!?

この春、大阪府堺市の大規模賃貸住宅団地「茶山台団地」の一角がDIY工房「DIYのいえ」として生まれ変わった。賃貸住戸をあえて工房に転換させた狙いとは?
団地の空き住戸がDIY工房に変身した!

大阪府堺市・泉北ニュータウンにある総戸数930戸の賃貸住宅団地「茶山台団地」、その一角の空き住戸を使い、「賃貸住宅でも行えるDIY」の普及拠点として2019年2月に誕生したのがDIY工房「DIYのいえ」だ。工房スペースがあり、工具の貸し出し、ワークショップや相談室が随時行われるほか、関連書籍やDIY作品見本の展示、団地サイズに合わせたDIYパーツの販売も行われている。

ワークスペースには電動ノコギリや各種ツールも完備(写真撮影:井村幸治)

ワークスペースには電動ノコギリや各種ツールも完備(写真撮影:井村幸治)

団地の1階、2住戸を利用して「DIYのいえ」がつくられている(写真撮影:井村幸治)

団地の1階、2住戸を利用して「DIYのいえ」がつくられている(写真撮影:井村幸治)

大阪府住宅供給公社の小原旭登氏も「公社ではDIYを施した部分の原状回復義務を緩和する『団地カスタマイズ』制度があり、入居者にはDIYをある程度残したままでも退去可能なので気兼ねなくチャレンジいただけます。2017年1月の開始から約2年間で225件の申し込みがありました」と注目度の高さを語る。
「DIYのいえ」は周辺住民や入居検討中の人など、団地住民以外の利用も可能なので、地域コミュニティを活性化させる拠点になることも期待されているようだ。
実際に2月16日のオープニングには電動ノコ体験や子ども向けのワークショップも行われ、多くの人でにぎわった。

2月16日オープン時には女性も電動ノコギリに挑戦、子どもたちはフォトフレームづくりに参加(写真提供:大阪府住宅供給公社)

2月16日オープン時には女性も電動ノコギリに挑戦、子どもたちはフォトフレームづくりに参加(写真提供:大阪府住宅供給公社)

畳スペースにはおもちゃも用意されている(写真提供:大阪府住宅供給公社)

畳スペースにはおもちゃも用意されている(写真提供:大阪府住宅供給公社)

団地外からも参加者が! 早くもコミュニティ誕生の兆し

3月16日には「内窓フレームづくり体験」のワークショップが開催された。内窓フレームとは、既存窓の内側に簡易的な窓を追加することによって空気層をつくり、結露対策や断熱性のアップ、防音効果を高めようというもの。

戸車付きの内窓フレームキット「I・W・F」を使い、ワーク用に用意されたミニサイズの窓枠に合わせて製作を進める。手順は
1)メジャーでサイズを測り、プラスチックとアルミ製のフレームを金ノコなどで切断していく。
2)バリ(切断面の出っ張り)をやすりで削って組み立て、フレームの枠をつくる。
3)プラ板(中空ポリカーボネート)をカットし、両面テープでフレームに貼り付けていく。
4)戸車を付けて内窓フレームに設置…という流れだ。

作業自体は難しくないが、金ノコでアルミを切断する作業は女性陣が少し苦戦していた(写真撮影:井村幸治)

作業自体は難しくないが、金ノコでアルミを切断する作業は女性陣が少し苦戦していた(写真撮影:井村幸治)

子ども連れで参加された団地の住人Aさんに感想をお聞きした。
「DIYはほとんど経験がなく、アルミを切るのは大変だったけど、もっとやってみたいと思いました。子どもが小さくても遊べるスペースがあるので助かります! 団地の友人たちも参加したいって言っていますし、次回もテーマと時間が合えばぜひ参加したいです!」とのこと。

フレームの下に戸車を付けるときにはピッタリとはまって「おおーっ!」という歓声が♪(写真撮影:井村幸治)

フレームの下に戸車を付けるときにはピッタリとはまって「おおーっ!」という歓声が♪(写真撮影:井村幸治)

もうひと組の参加者、団地外から参加されたというBさんご夫妻は十数年間のアメリカ在住経験があるそう。「アメリカでは DIY が当たり前でした。現在は近くの一戸建て住宅に住んでいるのですが、賃貸なのであまり大きくDIYができません。ワークショップがあることを Facebook で知って参加したのですが、こんな内窓のキットがあるなんて知らなかった! 今後もいろいろやってみたいと思います」とのこと。

金ノコなど工具の扱いも手慣れたご様子(写真撮影:井村幸治)

金ノコなど工具の扱いも手慣れたご様子(写真撮影:井村幸治)

ワークは約1時間で終了し、無事に内窓が完成!
その後Bさんは「内窓フレームにはプラ板ではなくて網を貼って網戸にしてもいいかも。すりガラスタイプにすれば間仕切りにもできるし、シェルフの目隠しにもなりそう!」と、思いついたアイデアを相談されていた。 

素晴らしい!  

DIYは決められたやり方にこだわる必要はない。自分でどんどんアイデアを加えてオリジナリティーを出していけばいい、それが DIYの魅力だ 。今後はさらにコミュニティが広がり、より個性あふれる作品が誕生するのではないだろうか。みなさん、頑張って!

DIYの普及とともに、シニア層の活躍の場づくりを目指す

今回取材を行った茶山台団地は大阪府住宅供給公社が管理する全28棟の大規模賃貸住宅団地だ。1971年に入居が開始され、約800戸の入居世帯のうち契約名義人65歳以上の世帯が46%を占めるなど(2019年1月時点)入居者の高齢化が進んでいる。団地の一室を利用した惣菜屋さん「やまわけキッチン」、野菜などの移動販売「ちゃやマルシェ」、集会所を利用した「茶山台としょかん」、DIYリノベーションスクールの開催やDIYリノベーション住戸の賃貸募集、2住戸を合体させた「ニコイチ」の募集など、さまざまな「団地再生プロジェクト」が実施されているモデル団地でもある。

一方で、大阪府住宅供給公社の小原旭登氏は今後の課題を以下のように述べた。「ただ、利用者は40代までの若年層が中心で、団地居住者の半数以上を占める60代以上のシニア世代には浸透していないのが現状です。だからこそ、「DIYのいえ」を拠点とした世代間の交流を促し、将来的には団地居住のシニア層にこの施設のスタッフとして活躍してもらうことで、生きがいづくりにもつなげていければと考えています」

DIYで仕上げた突っ張りタイプのツールを使ったデスク&テレビ台の組み立て見本が展示されている(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げた突っ張りタイプのツールを使ったデスク&テレビ台の組み立て見本が展示されている(写真撮影:井村幸治)

団地押入れサイズにDIYで仕上げた収納用カート(写真撮影:井村幸治)

団地押入れサイズにDIYで仕上げた収納用カート(写真撮影:井村幸治)

トイレの壁面を利用した収納スペースなどDIYのヒントもたくさん(写真撮影:井村幸治)

トイレの壁面を利用した収納スペースなどDIYのヒントもたくさん(写真撮影:井村幸治)

団地のキーマンにも参加してもらい、技術を継承していきたい

「DIYのいえ」の運営を担当しているカザールホーム代表の中島久仁氏も、
「もっともっとDIY が浸透してほしいと思い、試行錯誤しながら活動しています。ここではツールのレンタルもおこなっていますが、団地内の DIY だけを考えるサンダーや丸ノコといった本格的な工作ツールは必要なく、もっとシンプルなツールだけでもいいのかもしれません。そこも含めて試行錯誤中です」と展望を語る。

「団地に暮らすシニアには、現役のときにさまざまな分野でプロ&職人として活躍された方もいらっしゃいます。そうした人たちの技を、若い人たちに伝えていけるような場になればいいと思っています。団地内の惣菜屋さん「やまわけキッチン」のDIY改装をサポートさせていただいた際には団地住民のリーダー的な方がいらっしゃいました。そんなキーマンとなる方と一緒に活動していきたいと考えています」(中島氏)

「DIYのいえ」はひとまず8月までの期間限定での活動だ。今回のワークショップにも高齢者の女性の方が見学に訪れていたが、DIYがちょっと気になっているけど、きっかけがない……という人もいるだろう。そんな人たちが気軽に参加してくれるようになれば、地域のDIYコミュニティも拡大し新たな活動へとつながっていきそうだ。

若い人からシニア世代まで、それぞれの人の暮らしをもっとより良いものに変えていきたいとおっしゃる中島氏(写真撮影:井村幸治)

若い人からシニア世代まで、それぞれの人の暮らしをもっとより良いものに変えていきたいとおっしゃる中島氏(写真撮影:井村幸治)

北側の部屋には養生用のビニールシートも用意されており、塗装やペンキ塗りの作業にも活用できる(写真撮影:井村幸治)

北側の部屋には養生用のビニールシートも用意されており、塗装やペンキ塗りの作業にも活用できる(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げたボックス(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げたボックス(写真撮影:井村幸治)

世代やライフスタイルを超えたDIYのつながりで、暮らしを豊かに

この先、「DIYのいえ」では襖張りやペンキ塗り、壁塗りのワークショップも予定されている。日程が合えば工房としても利用でき、工房前の駐車場も利用可能。大きな材料を持ち込んだりまた運び出したりということもできるそうだ。

ワークショップの参加者には友人を誘いたいという人もいれば、アメリカのDIY文化に触れたことがある人もいた。DIYに興味をもつ若年層だけでなく、豊富な人生経験や匠の技をもつ団地住民、周辺に暮らすさまざまなライフスタイルの地域住民が「DIYのいえ」を通じてつながっていくことできれば素敵なことだと思う。それぞれの暮らしが豊かに変わっていく拠点、コミュニティの中心となる場所。そんな役割を「DIYのいえ」が担ってくれることに期待したい。

●店舗情報
「DIYのいえ」
堺市南区茶山台2丁1番 茶山台団地16号棟1階101・102号室
運営時間やワークショップについてはこちら
https://www.facebook.com/diynoie/
TEL:0120-45-8540●内窓フレームに関してのお問い合わせ
和気産業株式会社 EC事業部(直通)
TEL:06-6723-5060(平日9:30~17:00)

台湾の家と暮らし[1] 若手アーティスト夫婦のインダストリアルなDIY賃貸アトリエ in台北

私、柳沢小実は、暮らしや旅について書いているエッセイストです。旅歴はかれこれ30年以上で、一人旅歴は18年。ヨーロッパや北欧への旅を経て、いつしか年に何回も台湾を旅するようになりました。1年のうち1カ月以上は台湾という生活を何年も続けるうちに、現地の友達ができて、家や暮らし方を垣間見る機会が増えました。彼らは好奇心旺盛で前向きで、行動力もある。DIYもいとわず、インテリアは足し算が上手です。
今回は、台湾で素敵な暮らしを送る3軒におじゃましてきました。1軒目は、ブランディングデザイナーのピーター(28)と、イラストレーターのロージー(31)夫妻が台北中心部に借りているアトリエへ。収納が少なくてもまとまりのある部屋づくり、日本との文化の違い、外で買ってくる朝ごはんのこと、自分たちらしい結婚式写真などについて、お話を伺いました。連載名:台湾の家と暮らし
雑誌や書籍、新聞などで連載を持つ暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんは、年2回は台湾に通い、台湾についての書籍も手掛けています。そんな柳沢さんは、「台湾の人の暮らしは、日本人と似ているようでかなり違って面白い」と言います。柳沢さんと台北へ飛んで、自分らしく暮らす3軒の住まいへお邪魔してきました。ピーター&ロージー夫妻と、朝ごはんを買いにいく(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

朝10時。ブランディングデザイナーのピーターと、イラストレーターのロージー夫妻と、朝ごはん屋さんで待ち合わせ。台湾の朝ごはんは、豆漿・鹹豆漿(豆乳)や蛋餅(卵を挟んだクレープ)、飯糰(具だくさんのおにぎり)などが伝統的なメニューですが、近年は三明治(サンドイッチ)も人気です。若い人たちは朝から外で食べたり買ったりすることも多く、二人もそう。
だから、台北市内で最も都会的なこのエリアでさえ、一本裏道に入ると、昔ながらの朝ご飯屋さんや食堂が軒を連ねています。なんだか、ホッとする。人が働き、住み、食べる場所がすべて混ぜこぜだから、都会でも無機質にならず、程よい雑多さがあります。

「内用? 外帯?(店で食べる? 持ち帰る?)」
「外帯!(持ち帰ります)」
さあ、朝ごはんを持ち帰って、アトリエで食べながら話を聞きましょう。

ピーターとロージーのアトリエへお邪魔します!パートナーを大切にする台湾男子は、かいがいしく働く。ピーターも料理上手(写真提供/KRIS KANG)

パートナーを大切にする台湾男子は、かいがいしく働く。ピーターも料理上手(写真提供/KRIS KANG)

台湾の伝統的な朝ごはん(写真提供/KRIS KANG)

台湾の伝統的な朝ごはん(写真提供/KRIS KANG)

台湾製の古いグラス(写真提供/KRIS KANG)

台湾製の古いグラス(写真提供/KRIS KANG)

休日のひだまりのような、ほのぼのした雰囲気の二人は、昨年入籍したばかりの新婚夫婦。彼らは2015年から、友人と3人でこのアトリエを持っています。場所は台北市内の中心地で、駅前の大通りに面したオフィスビルの一角。もうひとりのメンバーのお父様が不動産屋さんで、その元オフィスを借りています。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

台湾の首都、台北市の広さは東京都23区の40%くらい。人口は2018年の時点で267.4万人ですが、台湾の人は職場のすぐそばなど便利なところに住みたがる傾向があるためか、中心部に一極集中。よって、台北市内の住宅はほぼマンションです。一般的にはエレベーターのない5階建てくらいの建物が多く、近年は高級な高層マンションも増えています。
台北ではマンションの価格が大幅に高騰しており、データではここ5年は減少傾向も見られるものの、15年前の3倍ほどになっていると聞きました(※)。そのため、20~40代の友人・知人の多くは、賃貸マンションや実家住まいです。ピーターとロージーも、普段は台北市の隣の新北市にあるそれぞれの実家で暮らしています。

台北の家賃の目安は、一人暮らしは12000元(約43000円)、二人暮らしだと20000元(約72000円)ほど。沖縄と似た気候の台湾では、入浴はシャワーが主で、バスタブは付いていたりいなかったり。また、外食文化が定着していて日本ほど自炊をしないため、学生が住む小さな部屋などにはキッチンが付いていないこともあります。

アトリエの間取り(イラスト提供/Rosy Chang)

アトリエの間取り(イラスト提供/Rosy Chang)

台湾では賃貸物件でもDIYできることは日本よりも一般的。賃貸物件の改装の可否は、貸主との話し合い次第だそう(一般的に原状回復は不要だけれど、貸主によっては必要な場合も)ですが、彼らは改装の許可をもらって、壁を取り払い、天井を抜き、キッチンはピーターがデザインして大工さんに施工を依頼。また、オフィス物件でお風呂がなかったため、シャワーも付けました。窓際の長テーブルや本棚、作業テーブルなどの家具は、美大時代の友人につくってもらったものです。

料理をするピーターが設計したキッチン。手前に作業台があるので、調理しやすい(写真提供/KRIS KANG)

料理をするピーターが設計したキッチン。手前に作業台があるので、調理しやすい(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

この部屋は収納のないワンルーム。アトリエということもあってほぼ見せる収納になっていますが、物が多くても乱雑に見えないのはアーティストである彼ららしいバランス感覚と色づかいゆえ。例えば調理家電と鍋の色をベージュでそろえていたりと、色数を絞って似たトーンでまとめているのでうるさくない。さし色はオレンジと時々ブルー。見せる収納のヒントが満載です。

窓際に置いてあるセサミストリートの照明器具は、閉園する幼稚園からもらってきた(写真提供/KRIS KANG)

窓際に置いてあるセサミストリートの照明器具は、閉園する幼稚園からもらってきた(写真提供/KRIS KANG)

この扇風機、欲しい!(写真提供/KRIS KANG)

この扇風機、欲しい!(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

台湾の人を見ていてすごいなと感じるのは、柔軟な発想と行動力。面白そうなら、とりあえずすぐにやってみる。だから、部屋づくりに関しても自由で、想像力が豊か。さまざまな要素をミックスした足し算と、お金をかけずに楽しむのも上手で、ピーターとロージーも、DIYやアンティークショップ、オークションサイト、蚤の市など、ありとあらゆる方法で、自分たちの空間に合うものを探しています。

さりげなくコラージュした紙類も、素敵なインテリアに(写真提供/KRIS KANG)

さりげなくコラージュした紙類も、素敵なインテリアに(写真提供/KRIS KANG)

本棚には日本の雑誌がずらっと並んでいる(写真提供/KRIS KANG)

本棚には日本の雑誌がずらっと並んでいる(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

彼らの行動力は結婚写真などにも表れていて、お仕着せのウェディング写真ではなくて、自分たちが好きな服とシチュエーションでカメラマンさんに撮ってもらったそう。まるで写真集のような、一生の宝物になる美しい本です。
「みんながそうしているから」「これが普通だから」にとらわれず、台湾の人らしい行動力とアーティストならではのセンスで、「やればできる」「やってみよう」と行動に移すっていいなと、強く感じました。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

今はそれぞれ実家暮らしをしながらアトリエを持っている二人ですが、結婚を機に一緒に暮らせる部屋を探しています。取材後も一軒内覧しに行くのだと、うれしそうに話していました。今後、彼らの暮らしがどう変わっていくのか、とても楽しみです。

※参考資料:日本不動産研究所「第 11 回「国際不動産価格賃料指数」(2018 年 10 月現在)の調査結果」

●取材協力
Peter
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Rosy Chang
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料理家のキッチンと朝ごはん[3]後編 ワタナベマキさんの収納と、新生活におすすめの道具5選

前回、流れるような動きで手際よく朝ごはんをつくってくださった、人気料理家のワタナベマキさん。今回は、その美しくも素早く、ムダのない動きを支えるキッチン収納のヒミツについて伺います。これから新生活をスタートする方に向けて、ワタナベさんおすすめの調理道具もご紹介いただきました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。自分と家族の「今」に合わせて、少しずつ形を変える暮らし方

10年前の入居時に加えて、ワタナベさんは4年前にもご自宅をリノベーションされています。

「もともとリビングの奥に和室がありました。子どもが小さいうちは和室があるほうが快適かなと考えて、当時はそのまま残したんです」とワタナベさん。実際、お子さんが小さかったころは本当によく和室を使ったそうです。けれども、お子さんが大きくなると和室を使う機会がぐんと減りました。そこで改めてリノベーションを検討し、和室をなくしてリビングを広げることにしたのだとか。

2度目のリノベーションで張り替えた、むく材のヘリンボーン床。経年で少しずつ変化した色合いが素敵。約1カ月の工期は夏休みにあわせ、家族や仕事への影響が少なくなるよう配慮したそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

2度目のリノベーションで張り替えた、むく材のヘリンボーン床。経年で少しずつ変化した色合いが素敵。約1カ月の工期は夏休みにあわせ、家族や仕事への影響が少なくなるよう配慮したそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

その際、入居時のまま使ってきたキッチンの天板も交換しました。「見た目はきれいだけれど扱いに気を使う、白い人造大理石の天板だったんです。しばらく使ってみて、プライベートと仕事の両方で、長時間キッチンに立つ私には向いていないことが分かり、水、熱、汚れにも強いステンレスの天板に入れ替えました」

将来の暮らしを先取りしすぎず、今の自分、今の家族に合わせて、段階的に住まいを整えていくことが、そのときどきの快適な暮らしを実現する秘訣なのかもしれませんね。

オープンキッチンの向かいがダイニング、手前側がリビングスペースです。ダイニング、リビングともに南向きのベランダに面しているため、とても明るく風通しのよいお住まいでした(写真撮影/嶋崎征弘)

オープンキッチンの向かいがダイニング、手前側がリビングスペースです。ダイニング、リビングともに南向きのベランダに面しているため、とても明るく風通しのよいお住まいでした(写真撮影/嶋崎征弘)

暮らしながら少しずつ形を変えてきたワタナベさんのキッチンには、どんな「使いやすさ」「美しさ」のヒントが隠されているのでしょうか。

ワタナベさんの手際のよさを支える、動線に合わせた収納計画

キッチン背面の収納スペースには、最小限の動きで必要な道具がさっと出し入れできるよう、計画的にものが配置されています。

オープン棚には、実用的で見た目も端正な鍋やカゴ、蒸篭(せいろ)といった調理道具を収納。陶器の器や木製のまな板、ガラスのケトルなどは、素材ごとにまとめることで、見た目もすっきり整います。「最下段のカウンターは手前にものを置かないようにして、作業スペースとしても使っています」というワタナベさん。

壁面の余白が多く見えるため、ものによる圧迫感がありません。トースター代わりに焼き網、炊飯器代わりに土鍋、電気ケトル代わりに鉄瓶を使うなどして、生活感の出やすいキッチン家電を持たないことも美しさの一因(写真撮影/嶋崎征弘)

壁面の余白が多く見えるため、ものによる圧迫感がありません。トースター代わりに焼き網、炊飯器代わりに土鍋、電気ケトル代わりに鉄瓶を使うなどして、生活感の出やすいキッチン家電を持たないことも美しさの一因(写真撮影/嶋崎征弘)

オープン棚の下には、左、中央、右に、それぞれ両開きの扉が付いた収納スペースがありました。左の棚には、おもにバットやボウル、ザルなどを収納。シンクに近いため、水まわりでさっと使うことができる配置です。中央の棚には、主に保存容器をまとめて収納。シンクとガスコンロの間にある作業スペースの真後ろなので、調理中、振り向くだけで容器を取り出すことができます。

腰より低い位置にある収納棚は「高さ」によってゾーニングされています。手の届きやすい上段には使用頻度の高いものを、手の届きづらい下段には使用頻度の低いものが収められていました(写真撮影/嶋崎征弘)

腰より低い位置にある収納棚は「高さ」によってゾーニングされています。手の届きやすい上段には使用頻度の高いものを、手の届きづらい下段には使用頻度の低いものが収められていました(写真撮影/嶋崎征弘)

ガスコンロに最も近い右の棚には、液体調味料をまとめています。火にかけた鍋の様子を見ながら、手早く油やしょうゆを取り出せる場所です。

最下段には使用頻度の低い調理家電を収納。右下は山本電気の精米機。「お米は玄米で買って、3日分くらいずつ精米しています。精米したてのお米はとっても美味しいんですよ」と聞いて、わが家でも同じ精米機を購入(写真撮影/嶋崎征弘)

最下段には使用頻度の低い調理家電を収納。右下は山本電気の精米機。「お米は玄米で買って、3日分くらいずつ精米しています。精米したてのお米はとっても美味しいんですよ」と聞いて、わが家でも同じ精米機を購入(写真撮影/嶋崎征弘)

奥行きが深い、もと・冷蔵庫置き場に造作された収納スペースは、上部が扉付きの棚になっています。スライドレールを使った引き出しを取り付けることで、奥のものにラクに手が届くよう工夫されていました。最も出し入れしやすい引き出しには、普段使いしている業務用の食器が収納されています。

収納スペースの下部には扉をつけず、ゴミ箱置き場に。凹みにゴミ箱を置くと目立たないうえ、調理中の動きの邪魔になりません。キッチンの床が掃除しやすくなるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

収納スペースの下部には扉をつけず、ゴミ箱置き場に。凹みにゴミ箱を置くと目立たないうえ、調理中の動きの邪魔になりません。キッチンの床が掃除しやすくなるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

「朝ごはんのときや、自宅での撮影などで大勢のスタッフに食事を出したりするときは、ここに収納している業務用のサタルニアやアラビアの食器を使います。丈夫だから気兼ねなく扱えるし、食洗機にもかけられるから、忙しいときに便利です」

一方で、作家による器のコレクションは、リビングスペースに置いた腰高の収納棚にまとめているといいます。「職業柄、器の量が多いため、分けて管理しています。夜ごはんのときや、友人とのんびり食事をするときなどは、ここからゆっくりお気に入りの器を選びます」。器というだけで、すべてキッチンの同じ場所に収納する必要はないんですね。

「最近いいなと思っているのは、伊藤聡信さんと伊藤環さんの器。どちらも丈夫で使いやすいところが気に入っています」。隣のガラス棚には、グラス類をまとめて収納。棚の上にスパイラル状に重ねられた本がかわいい(写真撮影/嶋崎征弘)

「最近いいなと思っているのは、伊藤聡信さんと伊藤環さんの器。どちらも丈夫で使いやすいところが気に入っています」。隣のガラス棚には、グラス類をまとめて収納。棚の上にスパイラル状に重ねられた本がかわいい(写真撮影/嶋崎征弘)

少しずつそろえていきたい。美しく実用性の高いキッチン道具5選

料理家として、さまざまな調理道具を使ってきたワタナベさん。最後に、これから新生活をスタートする人におすすめの道具を5つ教えていただきました。

1つめは、ビアレッティの「モカエキスプレス」。細挽きのコーヒー豆をポットに入れて直火にかけるだけで、本格的なエスプレッソが淹れられます。本体価格が数千円~とリーズナブルなうえ、小さなキッチンでも邪魔にならないコンパクトサイズなのがうれしいところ。「カフェに行かなくても、自宅で手軽に美味しいコーヒーが楽しめますよ」

高いデザイン性と実用性を評価され、ニューヨーク近代美術館「MoMA」に永久収蔵されているモカエキスプレス。ワタナベさんの夫は「自宅で淹れるコーヒーはモカエキスプレスで」と決めているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

高いデザイン性と実用性を評価され、ニューヨーク近代美術館「MoMA」に永久収蔵されているモカエキスプレス。ワタナベさんの夫は「自宅で淹れるコーヒーはモカエキスプレスで」と決めているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

2つめは、ワタナベさんが「これから新生活を始める人にプレゼントすることも多い」という、プジョーの電動式ペッパーミル「ゼフィア」。「コショウは挽き立ての香りが一番いいので、ぜひミルを使ってみてください。電動ミルは、料理中でも片手で挽けるのでとっても便利です」

フランスの自動車メーカーでもあるプジョーの切削加工技術を活かしてつくられた電動ミル。挽いたときにスパイスの香りが引き立つ刃(グラインダー)の構造が採用されているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

フランスの自動車メーカーでもあるプジョーの切削加工技術を活かしてつくられた電動ミル。挽いたときにスパイスの香りが引き立つ刃(グラインダー)の構造が採用されているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

3つめのおすすめはル・クルーゼの「ココット・エブリィ 18」。日本人のために開発された鋳物ホーロー鍋で、ごはんがとっても美味しく炊けるそうです。「専用の内蓋を使えば、炊飯時の吹きこぼれを最小限に抑えられます。小さく見えても、3合までのお米が炊けるんですよ。もちろん、炊飯だけでなく煮物にも使えます」

2Lの容量を備えながら、径を小さくして深さをもたせることで収納スペースを圧迫しないデザイン。鍋底の角を丸くすることで、熱がうまく対流するように設計されています(写真撮影/嶋崎征弘)

2Lの容量を備えながら、径を小さくして深さをもたせることで収納スペースを圧迫しないデザイン。鍋底の角を丸くすることで、熱がうまく対流するように設計されています(写真撮影/嶋崎征弘)

4つめは、前回もご紹介したタークの「クラシックフライパン」。つなぎ目のない一体型の鉄製フライパンです。「蓄熱性が高いため、食材に均一に火が通り、美味しく焼き上げられます。テーブルウェアとして使えるほど、シンプルで素敵な見た目も魅力です」

鉄の塊を高温で加熱して叩いて伸ばしていく鍛造製法でつくられるため、強度と密度が高く、耐久性が高いタークのフライパン。適切に扱えば、半永久的に使えるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

鉄の塊を高温で加熱して叩いて伸ばしていく鍛造製法でつくられるため、強度と密度が高く、耐久性が高いタークのフライパン。適切に扱えば、半永久的に使えるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

5つめは、ステンレス加工で有名な新潟県燕市生まれのブランド、conteによる「まかないシリーズ」のボウル、丸バット、平ザルです。「ボウルは適度な重さがあるため、食材を入れて和えたり混ぜたりしても安定しています。丸バットは単品でバットとして使ったり、ボウルと組み合わせてフタにしたり。平ザルは茹でた野菜を冷ましたり、揚げ物の油を切ったり。何通りにも使い回せますよ」

「まかないシリーズ」とは、「賄い」であると同時に「巻かない」でもあるそうです。ステンレスボウルにつきものの巻き込んだフチがないため、汚れがたまらず、清潔に使えます(写真撮影/嶋崎征弘)

「まかないシリーズ」とは、「賄い」であると同時に「巻かない」でもあるそうです。ステンレスボウルにつきものの巻き込んだフチがないため、汚れがたまらず、清潔に使えます(写真撮影/嶋崎征弘)

気持ちよく使える道具を、使い勝手よく、美しく収めたキッチン

気持ちよく使える道具を厳選し、使い勝手と見た目のバランスをとりながら配置する。……これが細部まで行き届いているのが、ワタナベさんのキッチンなのだと思います。

(左)経年変化によって魅力が増す天然素材の道具が並ぶキッチン。(右)大人シックなインテリアのところどころに、お子さんが描いた油絵の作品が飾られていました(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)経年変化によって魅力が増す天然素材の道具が並ぶキッチン。(右)大人シックなインテリアのところどころに、お子さんが描いた油絵の作品が飾られていました(写真撮影/嶋崎征弘)

ひとことで言うと簡単に聞こえるけれど、これがとってもむずかしいことなのです。日々忙しく過ごしていると、「間に合わせ」で手に入れたものを「後で片づけよう」とあちこちに置いてしまい、気づけば扱いづらいキッチンになってしまう……。

新生活が始まる今こそ! ほかの誰でもない自分自身が気持ちよく、そして長く使える道具との出会いを大切に。そして選んだ道具をいつでも心地よく使えるよう、片づけや収納を後回しにしない。そんな習慣を身につけるのに最適なタイミングなのかもしれません。

>料理家のキッチンと朝ごはん[3]前編 ワタナベマキさんの10分でできるカリッふわっトーストと目玉焼き

●取材協力
ワタナベマキさん
神奈川県生まれ。グラフィックデザイナーを経て料理家に。2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ、本・雑誌・広告などで体にやさしい料理や季節を感じる料理の提案、ワークショップ、ケータリングなどを行っている。夫、4月から中学生になる息子との3人暮らし。著書に『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)、『何も作りたくない日はご飯と汁だけあればいい』(KADOKAWA)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[3]前編 ワタナベマキさんの10分でできるカリッふわっトーストと目玉焼き

体にやさしく、おいしく、アートのように美しいひと皿をつくり出す料理家、ワタナベマキさん。料理だけでなく、インテリアやファッション、ライフスタイル全般に及ぶ、洗練されたデザインセンスにファンが多いワタナベさんに、キッチンの工夫や朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。キッチンの全壁面をリノベーションして、大容量の収納スペースに

ワタナベさんは現在お住まいのマンションへの入居時、キッチン背面に収納棚を造作したそうです。本来、冷蔵庫を置くために奥まっていたスペースもあわせ、全壁面をリノベーションすることで、大容量の収納スペースを実現しました。

ワタナベさんが愛用している冷蔵庫は、アメリカの「GE(ゼネラル・エレクトリック)」のもの。本体だけでなく、ドアハンドルまで真っ白で余計な装飾がないところが、いかにも“プロ仕様”っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさんが愛用している冷蔵庫は、アメリカの「GE(ゼネラル・エレクトリック)」のもの。本体だけでなく、ドアハンドルまで真っ白で余計な装飾がないところが、いかにも“プロ仕様”っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

収納を増やすために「あえて」そのように造作したのかと思いきや、「愛用している業務用の冷蔵庫が、家庭用の冷蔵庫に合わせてつくられた既存のスペースに収まらなかったんです(笑)。それで、冷蔵庫はダイニングスペースに置き、キッチン背面はすべて収納スペースとして活用することにしました」

そう話しながら、冷蔵庫から食材を取り出して、シンク横のカウンターに置いていきます。

冷蔵庫を開けても、ダイニングテーブル側からは中が見えない配置。ワタナベさんは右利きなので、冷蔵庫を右手で開け→左手で中のものを取り出し→その手で作業スペースに置く、という一連の流れもスムーズ(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫を開けても、ダイニングテーブル側からは中が見えない配置。ワタナベさんは右利きなので、冷蔵庫を右手で開け→左手で中のものを取り出し→その手で作業スペースに置く、という一連の流れもスムーズ(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチン側に移動したら、今度は背面カウンターに置かれたカゴからパンをさっと取り出しました。……え? もしや、もうすでに本日の朝ごはんづくりはスタートしている? ワタナベさんの流れるように自然な動きに、取材スタッフ一同、油断しました。

通気性のよいカゴは、食材の一時置きスペースに最適。編み目の大きな六つ目のカゴでも、ほどよく中に入れたものを隠す効果があります(写真撮影/嶋崎征弘)

通気性のよいカゴは、食材の一時置きスペースに最適。編み目の大きな六つ目のカゴでも、ほどよく中に入れたものを隠す効果があります(写真撮影/嶋崎征弘)

今回、ワタナベさんが教えてくださるのは、忙しい朝でも10分でできる「カリッふわっトーストと目玉焼き」。朝食に必要だと言われる3つの栄養素「炭水化物(パン)」「タンパク質(卵、ヨーグルト)」「ビタミン・ミネラル類(野菜と果物)」をバランスよく組み合わせた、健康的な朝ごはんです。

忙しい朝でも10分でできる! カリッふわっトーストと目玉焼き

用意するもの(1人分)
・食パン 1枚
・卵1個
・プチトマト 2~3個(お好みで)
・ブラウンマッシュルーム 2~3個(お好みで)
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 ひとつまみ
・コショウ 少々
・オレンジ 1個
・ヨーグルト 1/2カップ(お好みで)

ワタナベさん宅では木次乳業のプレーンヨーグルトが定番。ヨーグルトに合わせるフルーツはオレンジのほか、そのとき手に入りやすい旬のものを使っても(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさん宅では木次乳業のプレーンヨーグルトが定番。ヨーグルトに合わせるフルーツはオレンジのほか、そのとき手に入りやすい旬のものを使っても(写真撮影/嶋崎征弘)

材料をひと通り準備したら、ワタナベさんは背面カウンターからまな板を取り出しました。シンクとガスコンロの間にある作業スペース真後ろなので、振り向くだけで手にとれます。

木目が美しいまな板は、出しっぱなしでもインテリアに馴染みます。左手のカゴには先ほどのパンのほか、キッチンペーパーも収納。無漂白タイプを選べば、カゴからちらりと見えても悪目立ちしません(写真撮影/嶋崎征弘)

木目が美しいまな板は、出しっぱなしでもインテリアに馴染みます。左手のカゴには先ほどのパンのほか、キッチンペーパーも収納。無漂白タイプを選べば、カゴからちらりと見えても悪目立ちしません(写真撮影/嶋崎征弘)

作業スペース側に体の向きを戻したら、シンク下から焼き網を取り出し、ガスコンロにセット。「外はカリッと中はふわっと食パンを焼き上げるコツは、直火を使うこと。今回は焼き網を使ってトーストしますが、ガスコンロのグリルでも美味しく焼けますよ」

「焼き網はトーストだけでなく、お餅や野菜も美味しく焼けます」。キッチンにトースターを置かなければ、広々とした作業スペースを確保できるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

「焼き網はトーストだけでなく、お餅や野菜も美味しく焼けます」。キッチンにトースターを置かなければ、広々とした作業スペースを確保できるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)

弱火にしたら、焼き網にパンをのせます。続いて、ガスコンロ下の収納スペースからフライパンを取り出し、隣のコンロにかけて熱し始めます。

ワタナベさん愛用の焼き網は、辻和金網の「足付焼網」。目の細かい「焼網受」が直火を和らげ、食材に熱をまんべんなく伝えて焼き上げます。足は折りたたみ式なので、使わないときはたたんでコンパクトに収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさん愛用の焼き網は、辻和金網の「足付焼網」。目の細かい「焼網受」が直火を和らげ、食材に熱をまんべんなく伝えて焼き上げます。足は折りたたみ式なので、使わないときはたたんでコンパクトに収納(写真撮影/嶋崎征弘)

再び作業スペースに戻り、シンク下の扉を開けて包丁を取り出し、ミニトマトを半分に、ブラウンマッシュルームは1/4にカット。

直径25cmくらいの丸いまな板は、食材をちょこっと切るのに便利。大きいまな板より洗いやすいから、忙しい朝でも扱いやすそう。ワタナベさんがミニトマトを切っているのは、GLOBALのペティーナイフ(写真撮影/嶋崎征弘)

直径25cmくらいの丸いまな板は、食材をちょこっと切るのに便利。大きいまな板より洗いやすいから、忙しい朝でも扱いやすそう。ワタナベさんがミニトマトを切っているのは、GLOBALのペティーナイフ(写真撮影/嶋崎征弘)

フライパンが十分温まったら、ガスコンロ後ろの収納スペースからオリーブオイルを取り出して、フライパンに注ぎます。「鉄のフライパンをよく熱してから卵を入れると、白身のフチはカリッと黄身はふわっとした美味しい目玉焼きができます。卵は常温に戻しておくといいですよ」

「鉄フライパンを使いこなすポイントはよく熱することと、フッ素樹脂加工のフライパンを使うときより少し多めに油を入れること」。それだけで食材への火の通りがよくなり、こびり付きも防げるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「鉄フライパンを使いこなすポイントはよく熱することと、フッ素樹脂加工のフライパンを使うときより少し多めに油を入れること」。それだけで食材への火の通りがよくなり、こびり付きも防げるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

油が熱くなったら、フライパンの端のほうに卵を割り入れ、空いたスペースにカットしたプチトマトとブラウンマッシュルームを加えます。

よく熱した鉄のフライパンに卵を落とすと、ジュジュジューーーッ!とよい音が。ワタナベさん愛用のフライパンはタークの「クラシックフライパン」。18cmサイズは、1人分の朝食づくりにちょうどよい大きさ(写真撮影/嶋崎征弘)

よく熱した鉄のフライパンに卵を落とすと、ジュジュジューーーッ!とよい音が。ワタナベさん愛用のフライパンはタークの「クラシックフライパン」。18cmサイズは、1人分の朝食づくりにちょうどよい大きさ(写真撮影/嶋崎征弘)

プチトマトとブラウンマッシュルームは火が通ると水分が抜けてひと回り小さくなるので、「え、こんなに?」と驚くほど高い密度で入れてOK! 焼き上がったときに隙間がないほうが美味しそうに見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

プチトマトとブラウンマッシュルームは火が通ると水分が抜けてひと回り小さくなるので、「え、こんなに?」と驚くほど高い密度で入れてOK! 焼き上がったときに隙間がないほうが美味しそうに見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

背面カウンターに並べた塩壺を手に取り、フライパンの卵と野菜に塩をひとつまみ回しかけます。

厳選された道具だけが並ぶ、ギャラリーのように美しい背面カウンター。インテリアに馴染む美しい塩壺のほか、自家製の梅干し、ガラスの容器に入れた煮干しなど、美味しそうな食材も並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

厳選された道具だけが並ぶ、ギャラリーのように美しい背面カウンター。インテリアに馴染む美しい塩壺のほか、自家製の梅干し、ガラスの容器に入れた煮干しなど、美味しそうな食材も並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

ガスコンロ前に並べたキッチンツール・スタンドから菜箸を取って、プチトマトとブラウンマッシュルームを軽く炒めます。弱火にして蓋をしめ、中まで火を通します。途中、焼き具合を見ながら、食パンをひょいっと裏返しに。

ヨーグルトに入れるオレンジは、包丁で両サイドを切り落としたら、丸みに沿って皮をそぎ落とします。果肉は一口大にカット。ヨーグルトをグラスによそい、オレンジをトッピングします。

朝は食洗機にかけられる、白い磁器の食器を使うことが多いというワタナベさん。けれども、すべて磁器の器でそろえず、ヨーグルトの盛り付けに透明なグラスを使うことで、食卓が軽やかで明るい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

朝は食洗機にかけられる、白い磁器の食器を使うことが多いというワタナベさん。けれども、すべて磁器の器でそろえず、ヨーグルトの盛り付けに透明なグラスを使うことで、食卓が軽やかで明るい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

フライパンの蓋を外して目玉焼きと野菜に火が通ったことを確認したら、最後に電動のペッパーミルでコショウをひと回しして、完成です!

一枚の鉄板から打ち出されたタークのフライパンには継ぎ目がなく、シンプルで美しいたたずまい。そのまま食卓に出しても違和感がありません。蓄熱性が高く冷めにくいので、アツアツのままいただけます(写真撮影/嶋崎征弘)

一枚の鉄板から打ち出されたタークのフライパンには継ぎ目がなく、シンプルで美しいたたずまい。そのまま食卓に出しても違和感がありません。蓄熱性が高く冷めにくいので、アツアツのままいただけます(写真撮影/嶋崎征弘)

美味しい料理は「時間をかける」も「特別な食材」も必須じゃない

冷蔵庫から食材を出し、調理してダイニングテーブルに運ぶまで、かかった時間は約10分。途中、撮影のために手を止めたり、つくり方や収納に関する質問に答えたりしていただいたにも関わらず、本当にあっという間に出来上がりました。

「忙しい朝に時間をかけたり、特別な食材をそろえたりしなくても大丈夫。よい道具とよい調味料を使って、シンプルに調理するだけで、美味しい朝ごはんはできますよ」

とくに、塩、油、酢、しょうゆ、みりん、酒などの基本的な調味料は「昔ながらの製法でつくられたものがおすすめ。同じものをつくっても、調味料を変えるだけで別ものの美味しさが味わえますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

とくに、塩、油、酢、しょうゆ、みりん、酒などの基本的な調味料は「昔ながらの製法でつくられたものがおすすめ。同じものをつくっても、調味料を変えるだけで別ものの美味しさが味わえますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

ワタナベさんご自身も、この春から中学生になるお子さんをおもちのワーキングマザーです。朝、食欲のない子どもが何であれば食べられるか、仕事が立て込んでいる日でもぱぱっと準備できるものは何か、考え続けてきたからこそできる、10分でつくれて美味しい、健康的な朝ごはん。わが家にも今年小学1年生になる、食べムラのある息子がいるので、さっそくつくってみたいと思います。

次回は、効率よく動けるヒミツがつまったワタナベさんのキッチン収納の工夫と、これから新生活を始める人におすすめの調理道具をご紹介いただきます!

■料理家 ワタナベマキさんのキッチン

●取材協力
ワタナベマキさん
神奈川県生まれ。グラフィックデザイナーを経て料理家に。2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ、本・雑誌・広告などで体にやさしい料理や季節を感じる料理の提案、ワークショップ、ケータリングなどを行っている。夫、4月から中学生になる息子との3人暮らし。著書に『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)、『何も作りたくない日はご飯と汁だけあればいい』(KADOKAWA)など多数。

グラフィックデザイナー葉田いづみさんの余白を活かした美しい空間 その道のプロ、こだわりの住まい[5]

極端に物量が少ないわけではないのに、そのミニマムな印象に驚かされる。グラフィックデザイナーの葉田いづみさんの住まいは、壁や床に面が広く、余白と収納部分とのメリハリがはっきりしているのだ。詰め込みすぎず、かといって、必要なものはきちんとそろっている。モノトーンで統一しながら、木の風合いも適度に取り入れて冷たくなりすぎないように。それは自身が手がけるデザインとどこか似ているように感じられる。グラフィックデザイナーならではの絶妙なバランス感覚の秘密を教えてもらった。葉田さんがデザインを手掛けた『アトリエナルセの服』(成瀬文子著/文化出版局刊)(画像提供/葉田さん)

葉田さんがデザインを手掛けた『アトリエナルセの服』(成瀬文子著/文化出版局刊)(画像提供/葉田さん)

【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。色も物も氾濫させず、きりっとシャープにダイニングでは、壁付けの棚だけを収納スペースに。夫婦それぞれが大切に長く持ち続けたい本を厳選している。右側の壁は何も飾らずにスッキリしていて広さを感じさせる(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングでは、壁付けの棚だけを収納スペースに。夫婦それぞれが大切に長く持ち続けたい本を厳選している。右側の壁は何も飾らずにスッキリしていて広さを感じさせる(写真撮影/嶋崎征弘)

空間に足を踏み入れると、自然と背筋がしゃんとのびる感じがする。凛と美しく整えられたこの部屋は、グラフィックデザイナーの葉田いづみさん、木工作家である夫ともうすぐ小学生になる長男との3人の住まいだ。

3年前にリフォームしたマンションは、構造上間取りを変えることはせず、壁や床などの内装に手を加え、モノトーンを基調にした空間に仕上げている。壁や床は白とグレーを中心に、キッチンは業務用をイメージしてステンレスを多く使うように。テレビ台や椅子、棚などには夫が手がけたものもある。

「たくさんの色があると、どうまとめたらいいのか分からなくなってしまうので、色数は増やさないようにしています」

家具も雑貨も白や黒、グレー、ステンレスを選ぶようにすれば目にうるさくない。色が氾濫せず、すっきりとまとまって見えるというわけだ。

テレビ台は木工作家である夫の西本良太さんが手がけたもの。床置きにせず配線もきれいに隠しているさまはさすが。「広い壁に何か飾るのって難しい。あえてこのままにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

テレビ台は木工作家である夫の西本良太さんが手がけたもの。床置きにせず配線もきれいに隠しているさまはさすが。「広い壁に何か飾るのって難しい。あえてこのままにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

「面」をキープして、広く見せる

リビング・ダイニングでは棚もテレビも壁付けのため、床はすっきりしている。大きな壁も特別に飾ったりはしていない。広い「面」があるおかげで、すっきりと清潔感のある雰囲気になっている。

「広い壁にものを飾るのが苦手なんです。バランスが難しくて悩んでしまう。だったら何もなくていいかな、と。ヌケ感というか余白があったほうが好きということもあります」

棚は一定の高さにそろえ、その上は開けるように。収納する本は棚に入るだけと決めているし、子どものおもちゃはケースに入るだけの分量をリビングに持ち込んでよし、としている。

「子どもはおもちゃを広げるし、夫は仕事柄いろいろな材料を収集しているし、散らかることもあります。でも、元に戻す場所が決まっているので、この片付いた状態にするのは苦にならないのかもしれません」

ケースに入りきらないおもちゃは寝室の収納スペースに。夫は自身の部屋にあれこれ入れていて、葉田さんはほとんどノータッチだという。持ち込む物量を意識し、余白を活かすことで、家族共有のスペースであるリビング・ダイニングのすっきり感が保たれている。

ソファ脇に積んでいるボックスが長男のおもちゃ入れ。放り込めばいいだけなので、自分できちんと片付けができる。ここからはみ出るものは、隣の寝室にあるベッド下のおもちゃスペースに(写真撮影/嶋崎征弘)

ソファ脇に積んでいるボックスが長男のおもちゃ入れ。放り込めばいいだけなので、自分できちんと片付けができる。ここからはみ出るものは、隣の寝室にあるベッド下のおもちゃスペースに(写真撮影/嶋崎征弘)

よく使うものは素材と色を厳選して出しっぱなしに

キッチンも床の面が広い。見渡すと、一般的な家のほとんどにある食器棚が存在していないことに気が付く。

「調理台の下の引き出しに全部入っているので必要ないかな、と。奥行きも幅もあるので収納力たっぷりで、調理道具やキッチン用品などはほとんどしまっておける。よく使う道具だけ出しっぱなしにしています」

「業務用のキッチンが好きなのですが、オープンすぎると掃除が大変だから引き出しタイプにしました」という調理台。収納力たっぷりなので必要なものはすべて収まってしまう。色を抑えた空間だからこそ、窓辺のチューリップが映える(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用のキッチンが好きなのですが、オープンすぎると掃除が大変だから引き出しタイプにしました」という調理台。収納力たっぷりなので必要なものはすべて収まってしまう。色を抑えた空間だからこそ、窓辺のチューリップが映える(写真撮影/嶋崎征弘)

調理台上や壁付けの棚に置いている道具も、ステンレスや白、黒と色数を抑えて。リビング・ダイニングでのルールと同じだ。
食器棚しかり、一般的にはそろえてしまいがちな収納家具や雑貨でも、葉田さんは取り入れる際に必要かどうかじっくり吟味しているという。

「引き出しの中にケースがあったら便利だろうな、と思ってもすぐには買いません。紙袋でサイズを確かめて、やっぱり必要だと実感したら探すようにしています」

よく手にする道具は、使い勝手はもちろん、厳選しているため出しっぱなしのままでもすっきり。正面の壁はリフォーム時に薄いグレーのタイルを貼ってクールな印象に(写真撮影/嶋崎征弘)

よく手にする道具は、使い勝手はもちろん、厳選しているため出しっぱなしのままでもすっきり。正面の壁はリフォーム時に薄いグレーのタイルを貼ってクールな印象に(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事部屋でも子どもの絵やアート作品を飾ってほっと一息

一方、仕事部屋は葉田さんにとっていちばん悩ましい場所なのかもしれない。自身が手がけた本はもちろん、好きな小説や仕事の資料などは、どうしても増えてしまうから。

「ダイニングと同じように、本棚に入るぶんだけと気を付けて、増えたら誰かに譲ったり処分したりして減らしています」

ボックスを積み重ねて本棚にし、一定の高さを保つようにしている。

窓からのやわらかい光が差し込む葉田さんの仕事部屋。グラフィックデザイナーという仕事柄、書籍や雑誌が多い(写真撮影/嶋崎征弘)

窓からのやわらかい光が差し込む葉田さんの仕事部屋。グラフィックデザイナーという仕事柄、書籍や雑誌が多い(写真撮影/嶋崎征弘)

また、デスクの背面の壁にはほとんど物がなく、アート作品を床置きしているだけで一面が広く空いている。夫の商品や仕事道具も置いているが、白いボックスにまとめて重ね置きすることで、色数を増やさないように。見事に、自身が仕事に集中できる空気を生み出している。

壁に貼っているのは長男の絵。スタイリッシュな空間のなかで、ほっと心を緩ませてくれるかわいらしい作品(写真撮影/嶋崎征弘)

壁に貼っているのは長男の絵。スタイリッシュな空間のなかで、ほっと心を緩ませてくれるかわいらしい作品(写真撮影/嶋崎征弘)

アート作品を飾るためのスペースを設ける

必要なものしかないのかと思うと、決してそうではない。棚には子どもの絵が飾られていたり、夫の作品を収納小物として使っていたり、本棚の隙間にデザインが好きで捨てられない紙箱が積んであったりする。その塩梅が絶妙で、好きなもの、必要なものを厳選しているということが伝わってくる。

さまざまなアーティストの作品が並んでいる玄関。夫婦で好きなものを集めていて、ちょっとしたギャラリーのよう(写真撮影/嶋崎征弘)

さまざまなアーティストの作品が並んでいる玄関。夫婦で好きなものを集めていて、ちょっとしたギャラリーのよう(写真撮影/嶋崎征弘)

「玄関の靴箱の上は、飾るためだけのスペースです。結構幅が広いので、いろいろ置いてしまうし、気が付くと夫が拾ってきた小石とかが無造作に並んでいることもあります。でもそれもおもしろい。ちょっと増えすぎだなと思ったときだけ整理しながら、ここは家族で好きに飾って楽しんでいます」

ドアを開けるとすぐ目に入る場所に、好きなアーティストや夫の作品、花などが並んでいる。ガラスや木の素材、さらに色も白と黒が多い。好きなものを並べても色が増えないということは、好みの基準をブラさずにもっているということなのだろう。

「私も夫も、雑貨やアートが好きなので、つい増えてしまいます。飾るスペースはここだけとしながらも、欲しいという気持ちもあって、いつもせめぎ合いなんです。悩ましい」と笑う。

収納と装飾、余白のバランスを大切に(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

ふとテーブルの上を見ると、天板は薄いグレーで木の椅子、入れてくれたお茶セットもトレーはグレーで器は白と、この家のルールが凝縮した世界になっていた。色であふれるのも、物が増えるのも、苦手だからやっていないだけと話すが、その確固たる基準があってこの空間が保たれている。気が付くと、しゃんと伸びた背筋がふんわり緩み、すっかりくつろいでいた。余白を活かしたキリッとした空間でありながら、子どもの絵やアート作品を要所に飾って楽しむ。モノトーンの内装でありながら、木製の家具や雑貨を少し取り入れて温かみを感じさせる。このメリハリは、デザイナーである葉田さんのバランス感覚が成せる技だ。

ダイニングの天井にさりげなく飾られている蛍光灯を模したオブジェは夫である西本さんの作品(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングの天井にさりげなく飾られている蛍光灯を模したオブジェは夫である西本さんの作品(写真撮影/嶋崎征弘)

「仕事部屋の本が増えてきちゃったので、また整理しないとなと思っています。あと、夫の部屋もカオスだったので年末に整理したのですが、きっとまたいろいろ持ち込んでいるだろうから、今どうなっているかは分からないです」と、悩みながらも楽しそうに笑う。この家での生活がとても居心地のいいものなのだとしっかり伝わってくる、そんな笑顔だった。

リビング・ダイニングでは、本のほかに、CDもこの棚に収まるだけにしているそう。上部には絵を一枚かけているが、そのほかの壁に何も飾っていない。収納と装飾、そして余白のバランスを取っていることがよく分かる。「これくらい限られたスペースの壁なら、何か飾ってもバランスが取りやすい気がします」(写真撮影/嶋崎征弘)

リビング・ダイニングでは、本のほかに、CDもこの棚に収まるだけにしているそう。上部には絵を一枚かけているが、そのほかの壁に何も飾っていない。収納と装飾、そして余白のバランスを取っていることがよく分かる。「これくらい限られたスペースの壁なら、何か飾ってもバランスが取りやすい気がします」(写真撮影/嶋崎征弘)

●取材協力
葉田いづみ
静岡県出身、東京都在住。木工作家である夫の西本良太さんと息子の3人暮らし。デザイン事務所勤務を経て、2005年に独立。書籍を中心に活躍し、すっきりとシャープでありつつ、柔らかも感じさせるデザインに定評がある。
>HP

料理家のキッチンと朝ごはん[2]後編 オープン収納をセンスよく見せるポイント5つ

世界各地を旅する料理家、口尾麻美さんに、前回はトルコ風の朝ごはんのつくり方を教えていただきました。イスタンブールのバザールのような、パリのアパルトマンのような、ひと言で「●●風」と言いきれない、多国籍なムードが素敵な口尾家で、今回はご自宅のインテリアについて伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。さまざまなものがセンスよくディスプレイされた多国籍インテリア

旅先で気に入ったものをあれこれ持ち帰っているうちに、多国籍ミックスのインテリアにたどり着いたという口尾さん。たくさんのものが目につく場所に並べられているのに、不思議と統一感があるのは、口尾さんの審美眼を通して厳選されたものだけが、研ぎ澄まされたセンスでコーディネートされているから。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

「最初はパリのインテリアを参考にしていたのですが、あちこち旅していろんなものを持ち帰っているうちに、ひと言で●●風と言いきれないミックス・スタイルにたどり着きました」と笑う口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「最初はパリのインテリアを参考にしていたのですが、あちこち旅していろんなものを持ち帰っているうちに、ひと言で●●風と言いきれないミックス・スタイルにたどり着きました」と笑う口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

正直なところ、口尾家のように「さまざまなものを見せながら、統一感を出す」「多くのものを持ちながら、センスよく見せる」のは、インテリア的にかなり難易度が高いです。誰もが気軽に再現できるものではないけれど、やっぱりオープン収納っておしゃれ。ミックス・スタイルってかわいい。ちょっとでも自宅に取り入れてみたい。

……ということで今回は、インテリア初心者さんでも真似できそうな口尾スタイルを、ピンポイントでお教えいただきました。

ポイント1、トレーやカゴに、同じ種類のものをまとめてみる

数が多くて小さなものを出しっぱなしにすると、「単に雑多」な雰囲気になってしまいますよね。そんなときは、トレーやカゴに同じ種類のものをまとめると、ひとつの大きなもののように見せられるため、細々した印象を払拭できます。口尾家でも、たくさんのトレーやカゴが使われていましたよ。

モロッコで買い集めたという小さなミントティーグラスは、色も形も少しずつ違います。口尾さんは、大きなハンドル付きトレーにグラスをまとめて、窓辺のベンチに置いていました。日が当たるとキラキラ光ってきれい(写真撮影/嶋崎征弘)

モロッコで買い集めたという小さなミントティーグラスは、色も形も少しずつ違います。口尾さんは、大きなハンドル付きトレーにグラスをまとめて、窓辺のベンチに置いていました。日が当たるとキラキラ光ってきれい(写真撮影/嶋崎征弘)

ご自宅で開催する料理教室の生徒さんが使うグラスは、トレーにまとめてリビングのシェルフに(写真撮影/嶋崎征弘)

ご自宅で開催する料理教室の生徒さんが使うグラスは、トレーにまとめてリビングのシェルフに(写真撮影/嶋崎征弘)

常温保存の食材もカゴや器にまとめると、お店のディスプレイのように素敵に。よく見ると卵のカゴに親鳥プレートが!(写真撮影/嶋崎征弘)

常温保存の食材もカゴや器にまとめると、お店のディスプレイのように素敵に。よく見ると卵のカゴに親鳥プレートが!(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント2、よく似た色や素材のものを、1カ所に集めてみる

異なる素材や形のものをあちこちに点在させると、やっぱり「単に雑多」なイメージになってしまいます。けれども、よく似た素材や形のものを1カ所に集めてみると、自然と統一感が生まれるから不思議です。重ねる、立てる、並べるなど、口尾家ではさまざまな方法でよく似たものがまとめられていました。

自然素材のカゴや盆ざる、トレーなどはトースターの上に重ねて収納(写真撮影/嶋崎征弘)

自然素材のカゴやざる盆、トレーなどはトースターの上に重ねて収納(写真撮影/嶋崎征弘)

もともとあった窓と、リフォームで取り付けた内窓の間を収納スペースに見立て、普段使っていないガラス製の保存容器やグラスをディスプレイしながら保管(写真撮影/嶋崎征弘)

もともとあった窓と、リフォームで取り付けた内窓の間を収納スペースに見立て、普段使っていないガラス製の保存容器やグラスをディスプレイしながら保管(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント3、フックにかけてみる。カゴに入れて吊るしてみる

片づけに関する本や雑誌で「かける収納」「吊るす収納」を、よく見かけます。浮かせておけば、その下の掃除がラクだし、しまい込まないから出し入れしやすい一方で、何でもかんでもぶら下げると生活感が溢れ出てしまうのが難点。これをおしゃれに見せる高度なテクニックが、口尾家では駆使されていました。

複数のアイテムをかけるときは「ポイント2、よく似た素材や形のものを、1カ所に集めてみる」と、見た目がうるさくなりません。中が透けて見えるメッシュバッグに収めるものも、素材や形をそろえるとすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

複数のアイテムをかけるときは「ポイント2、よく似た素材や形のものを、1カ所に集めてみる」と、見た目がうるさくなりません。中が透けて見えるメッシュバッグに収めるものも、素材や形をそろえるとすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)ポットラックには、小鍋やキッチンバサミ、ストレーナーなどを収納。かけるものの高さをそろえているので、雑多な感じが抑えられています。(右)マグカップツリーには、マグだけでなくミルクピッチャーやコースターも(写真撮影/嶋崎征弘)

(左)ポットラックには、小鍋やキッチンバサミ、ストレーナーなどを収納。かけるものの高さをそろえているので、雑多な感じが抑えられています。(右)マグカップツリーには、マグだけでなくミルクピッチャーやコースターも(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント4、オープンシェルフはグルーピングを意識してみる

ものをディスプレイしながら収納できるオープンシェルフ……ですが、気づけばものと一緒に生活感まで陳列してしまっていること、ありませんか(わたしはあります)。ポイントは、ものをひとつずつ個別に見るのではなく、グループにして見ることのようです。

キッチンのシンク上に取り付けられた棚には、普段よく使う「Atelier 16-27」の食器を収納。色とりどりの器でも、つくり手が同じものだけを厳選して並べれば、ショップのように美しくディスプレイできます(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチンのシンク上に取り付けられた棚には、普段よく使う「Atelier 16-27」の食器を収納。色とりどりの器でも、つくり手が同じものだけを厳選して並べれば、ショップのように美しくディスプレイできます(写真撮影/嶋崎征弘)

カトラリーは素材と高さをそろえ、グラスに立てて収納。雑多に見えてしまうときは、大きめのアイテムを近くに置けば目線を外らすことができます。口尾さんはデザインのかわいい鍋敷きをアイキャッチにしていました(写真撮影/嶋崎征弘)

カトラリーは素材と高さをそろえ、グラスに立てて収納。雑多に見えてしまうときは、大きめのアイテムを近くに置けば目線を外らすことができます。口尾さんはデザインのかわいい鍋敷きをアイキャッチにしていました(写真撮影/嶋崎征弘)

収めるものの素材やデザイン、色などをグルーピングしたうえで絶妙のバランスで配置した、口尾ワールド全開のシェルフ。「壁面に固定したシェルフは、地震による揺れが少ないのも利点です。以前、大きな地震があったときも、何も落下しませんでしたよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

収めるものの素材やデザイン、色などをグルーピングしたうえで絶妙のバランスで配置した、口尾ワールド全開のシェルフ。「壁面に固定したシェルフは、地震による揺れが少ないのも利点です。以前、大きな地震があったときも、何も落下しませんでしたよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

ポイント5、手づくりしたものをちょっとだけ飾ってみる

最後にご紹介するのは、ぶきっちょさんでも簡単に真似できる手づくりのアイデアです。口尾さんによると、「やりすぎるとクドくなるので、あまり前面に出さず、ちょっと控えめにディスプレイするのが大人っぽいインテリアにする秘訣」なのだとか。

コリアンダーやシナモンスティックといったスパイス類は、透明のガラスジャーに保存。かわいい紙片にスパイス名をスタンプして一緒に入れておけば、ラベリング代わりになるうえインテリアとしても素敵(写真撮影/嶋崎征弘)

コリアンダーやシナモンスティックといったスパイス類は、透明のガラスジャーに保存。かわいい紙片にスパイス名をスタンプして一緒に入れておけば、ラベリング代わりになるうえインテリアとしても素敵(写真撮影/嶋崎征弘)

赤レンズ豆を保存しているジャーには、スパイス名の紙片ではなく子豚のフィギュアを入れていた口尾さん。「ぱっと見ただけでは分からないけれど、よく見るといる……くらいの、さりげなさがポイントです(笑)」(写真撮影/嶋崎征弘)

赤レンズ豆を保存しているジャーには、スパイス名の紙片ではなく子豚のフィギュアを入れていた口尾さん。「ぱっと見ただけでは分からないけれど、よく見るといる……くらいの、さりげなさがポイントです(笑)」(写真撮影/嶋崎征弘)

ニットで編まれたスイートチョリソーと赤いネットのリヨナーソーセージのオブジェは、フランスのブランド「MAISON CISSON」のもの。「これを見て、自分でもつくれるかなと思ったんです」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

ニットで編まれたスイートチョリソーと赤いネットのリヨナーソーセージのオブジェは、フランスのブランド「MAISON CISSON」のもの。「これを見て、自分でもつくれるかなと思ったんです」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「MAISON CISSON」からインスピレーションを受けた口尾さんによる作品。「リネンのクロスやカットしたソックスに詰め物をして、麻ヒモや調理ネットで結んだだけ」とのことですが、とってもかわいかった!(写真撮影/嶋崎征弘)

「MAISON CISSON」からインスピレーションを受けた口尾さんによる作品。「リネンのクロスやカットしたソックスに詰め物をして、麻ヒモや調理ネットで結んだだけ」とのことですが、とってもかわいかった!(写真撮影/嶋崎征弘)

カットしたモミの木をカゴにのせて吊るせば、部屋中がよい香りでいっぱいに。リースやスワッグをつくるより手軽にドライフラワーが楽しめます。ユーカリやラベンダー、ミモザなどを飾っても(写真撮影/嶋崎征弘)

カットしたモミの木をカゴにのせて吊るせば、部屋中がよい香りでいっぱいに。リースやスワッグをつくるより手軽にドライフラワーが楽しめます。ユーカリやラベンダー、ミモザなどを飾っても(写真撮影/嶋崎征弘)

今回、5つのポイントをご紹介しましたが、改めて「さまざまのものを見せながら、統一感を出す」「多くのものを持ちながら、センスよく見せる」のってむずかしい!と感じました。

食・住だけでなく、衣(ファッション)もすてきな口尾さん。ショートカットに映えるパープルのイヤリングは「Alexandre de Paris」のもの。「料理中はシンプルなスタイルのことが多いので、大振りのイヤリングで変化を楽しんでいます」(写真撮影/嶋崎征弘)

食・住だけでなく、衣(ファッション)もすてきな口尾さん。ショートカットに映えるパープルのイヤリングは「Alexandre de Paris」のもの。「料理中はシンプルなスタイルのことが多いので、大振りのイヤリングで変化を楽しんでいます」(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾家のインテリアは、筋の通ったもの選びや、スタイリングのセンス、住まい全体を俯瞰するバランス力が備わっている口尾さんだからこそ実現できる世界観なのだと思います。なかなか自宅で再現できそうな気がしないのだけれど……再現できないからこそ憧れてしまう、大人のおもちゃ箱のように素敵な口尾家のインテリアなのでした。

>前編はこちら

●取材協力
口尾麻美さん HP
北海道生まれ。アパレル会社勤務後、イタリア料理店を経て料理研究家に。旅で出会った料理、食材、スパイス、道具、雑貨、ライフスタイルからインスピレーションを受けたレシピを提案。著書に『おはよう! アジアの朝ごはん: 台湾・ベトナム・韓国・香港の朝食事情と再現レシピ 』(誠文堂新光社)、『はじめまして 電鍋レシピ 台湾からきた万能電気釜でつくる おいしい料理と旅の話。』(グラフィック社)など多数。

料理家のキッチンと朝ごはん[2]前編 旅する気分で料理する。口尾麻美さんのトルコ風朝ごはん

トルコやリトアニア、ウズベキスタンなど、旅先でヒントを得たレシピを、書籍や雑誌、料理教室で提案する料理家、口尾麻美さん。訪れた国で少しずつ買い集めた色とりどりの雑貨が楽しげに並ぶキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。旅する料理家、口尾さんに教わるトルコの朝の定番メニュー

東京都内のヴィンテージマンションにお住まいの口尾さん。17年前にフルリノベーションしたキッチンスタジオ兼ご自宅は、全面的に扉のないオープン収納が採用されています。

「料理しているときに扉を開け閉めするのって手間がかかりますよね。扉を汚さないよう、その都度、手を洗うのも大変。中に収納したものを覚えておくのも難しいですから、あえて扉を付けないことにしたんです」という口尾さん。

異国情緒あふれる小さなもの、かわいいもの、不思議なもの、カラフルなものが家中のあちこちにたくさん、けれども美しく、センスが溢れている口尾家(写真撮影/嶋崎征弘)

異国情緒あふれる小さなもの、かわいいもの、不思議なもの、カラフルなものが家中のあちこちにたくさん、けれども美しく、センスが溢れている口尾家(写真撮影/嶋崎征弘)

フルリノベーションする前とした後の間取り

フルリノベーションする前とした後の間取り

今回、口尾さんに教えていただくのは、赤レンズ豆のスープ「メルジメッキ・チョルバス」と、卵料理の「メネメン」です。「メルジメッキ・チョルバスはトルコの伝統的なスープのひとつ、メネメンはトルコ風のスクランブルエッグ。どちらもトルコの朝ごはんの定番メニューで、日本でいう味噌汁と卵焼きのようなイメージです」

ほんのり甘い赤レンズ豆のスープ「メルジメッキ・チョルバス」

用意するもの(3~4人分)
・赤レンズ豆 150g
・玉ねぎ 1/2個分
・サルチャ(トマトペースト。トルコの調味料) 大さじ1
・水 900ml~1L
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 小さじ1~2

【仕上げ用】
・バター 大さじ1
・プルビベル(赤唐辛子フレーク。トルコの調味料) 小さじ1
・ドライミント 小さじ1
・レモン くし形切り2~3かけ

「ほのかな甘みがあってクセのないトルコの赤レンズ豆は、火の通りがよいから水で戻す必要はありません。手軽に使えるうえ栄養価も高いので、トルコでは庶民の味方なんですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「ほのかな甘みがあってクセのないトルコの赤レンズ豆は、火の通りがよいから水で戻す必要はありません。手軽に使えるうえ栄養価も高いので、トルコでは庶民の味方なんですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

サルチャやプルビベルは、輸入食品を扱うスーパーやカルディなどで見つけられるそうです。「サルチャはトマトケチャップ、プルビベルはカイエンペッパーで代用できます。でも、できたら一度は本物を使ってみてほしい。異国の味が楽しめますから」

そう話しながら口尾さんは、壁面に取り付けたマグネット式ナイフラックから包丁をぱっと取り出しました。キッチンカウンターに置いている小さなまな板を引き寄せ、玉ねぎをみじん切りに。

口尾家のキッチンはL型。シンク上の造作棚には、スパイスや豆などの食材が入ったガラスの保存瓶が並べられています。シンク下のオープン棚には食器や液体調味料などが収納されていました(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾家のキッチンはL型。シンク上の造作棚には、スパイスや豆などの食材が入ったガラスの保存瓶が並べられています。シンク下のオープン棚には食器や液体調味料などが収納されていました(写真撮影/嶋崎征弘)

L型キッチンの左手にぱっと移動してガスコンロに鍋をのせ、口尾さんはオリーブオイルの瓶を手にとりました。鍋にオリーブオイルを熱し、サルチャと玉ねぎを加えて炒めます。赤レンズ豆をさっと水で洗って鍋に入れ、全体を混ぜたら水を加え、蓋をして弱火で15分。その間に、メネメンをつくります!

トマトの酸味とチーズの塩気がクセになる卵料理「メネメン」

用意するもの(2~3人分)
・卵 3個
・トマト 1個
・玉ねぎ 1/3個
・ししとう 2本
・フェタチーズ 50g
・塩 お好みで
・オリーブオイル 大さじ2

「牛挽肉を入れることも多いのですが、今回は軽めの朝食にするため省きました。その分、今回のレシピではフェタチーズを多めにしています。苦手なら、ししとうはなくても大丈夫ですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「牛挽肉を入れることも多いのですが、今回は軽めの朝食にするため省きました。その分、今回のレシピではフェタチーズを多めにしています。苦手なら、ししとうはなくても大丈夫ですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

メネメンをつくりはじめる際、L型キッチンからダイニングテーブルに作業スペースを移した口尾さん。「カセットコンロがあれば、家中どこででも料理できます。料理する場所をあちこち変えてみると、気分が変わって楽しいですよ」と話しながら、トマトは角切りに、玉ねぎはみじん切りに、ししとうは輪切りにカット。

最近は小さめのまな板が好きだという口尾さん。「以前は大きなまな板がブームだったのですが、今は小さめのまな板が使いやすいと感じます」。好みが変われば、調理道具もフレキシブルに変更(写真撮影/嶋崎征弘)

最近は小さめのまな板が好きだという口尾さん。「以前は大きなまな板がブームだったのですが、今は小さめのまな板が使いやすいと感じます」。好みが変われば、調理道具もフレキシブルに変更(写真撮影/嶋崎征弘)

トルコのメネメンは、小さなアルミ鍋でつくるのが一般的だそうです。「ガスコンロにかけたときに不安定なら、五徳に網を乗せるといいですよ」と話しながら、口尾さんは四角い焼き網を取り出しました。決してものが少なくない口尾家ですが、必要なときに必要なものがひょいっ!と出てくるのはさすがです。

「小さなフライパンでもいいけれど、こんな小さな鍋でつくるとままごとみたいでかわいいでしょう? 週末の朝ごはんにしたら、キャンプみたいで楽しいですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「小さなフライパンでもいいけれど、こんな小さな鍋でつくるとままごとみたいでかわいいでしょう? 週末の朝ごはんにしたら、キャンプみたいで楽しいですよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

鍋にオリーブオイルを熱し、カットした玉ねぎを入れて炒めます。玉ねぎがしんなりしたら、ししとうとトマトも入れて炒めます。トマトに火が通ったら、溶いた卵、ほぐしたフェタチーズの順にアルミ鍋へ。

口尾さんは、ダイニングテーブル脇に置いたカトラリースタンドからさっとスプーンを取り出して混ぜていました。小さな鍋なら、大きなヘラやスパチュラよりスプーンのほうが混ぜやすそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾さんは、ダイニングテーブル脇に置いたカトラリースタンドからさっとスプーンを取り出して混ぜていました。小さな鍋なら、大きなヘラやスパチュラよりスプーンのほうが混ぜやすそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

軽くかき混ぜたら蓋をして火を止め、あとは余熱で火を通します。その間にメルジメッキ・チョルバスの仕上げです!

耐熱容器でつくるなら、鍋ごとトースターに入れてもOK。卵が半熟になるまで、様子を見ながら15分から20分くらい加熱すればよいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

耐熱容器でつくるなら、鍋ごとトースターに入れてもOK。卵が半熟になるまで、様子を見ながら15分から20分くらい加熱すればよいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

スープの仕上げは、香りバターとレモン汁をお好みで

煮込んでいた鍋の蓋を開けると、赤レンズ豆がホロリと煮くずれておいしそう。「豆や野菜の形が少し残ったままでもいいけれど、今回はハンディブレンダーでなめらかにします」

「メルジメッキ・チョルバスのつくり方は、家庭によってさまざまなんです。トルコの人はみなさん、自分にとっての“お袋の味”といえるメルジメッキ・チョルバスがあるようです」。そんなところも日本の味噌汁っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

「メルジメッキ・チョルバスのつくり方は、家庭によってさまざまなんです。トルコの人はみなさん、自分にとっての“お袋の味”といえるメルジメッキ・チョルバスがあるようです」。そんなところも日本の味噌汁っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)

最後に、仕上げ用の香りバターをつくります。フライパンを熱してバターを溶かし、プルビベルとドライミントを加え、香りが立ったら火を止めます。

溶かしたバターにスパイスとハーブを加えると、ぶくぶくっと泡立ちます。「ドライミントはなければ使わなくてもいいのですが、入れると一気にトルコの本場の味に近づきますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

溶かしたバターにスパイスとハーブを加えると、ぶくぶくっと泡立ちます。「ドライミントはなければ使わなくてもいいのですが、入れると一気にトルコの本場の味に近づきますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

煮込んだ赤レンズ豆の鍋に香りバターを入れたら、メルジメッキ・チョルバスの完成です!

香りバターは、鍋に直接入れて味を整えてから器に注いでもいいし、スープを器に注いだ後で各自お好みで入れてもいいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

香りバターは、鍋に直接入れて味を整えてから器に注いでもいいし、スープを器に注いだ後で各自お好みで入れてもいいそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「メルジメッキ・チョルバスもメネメンも、どんな食材や調味料を使うかで、味がかなり変わります。料理の途中でも何度か味見をしながら、好みの味に仕上げてくださいね」

「はじめての食材に挑戦するときは、レシピを参考しつつ、ご自身の味覚で確かめながら微調整するのが、おいしく仕上げる秘訣です」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「はじめての食材に挑戦するときは、レシピを参考しつつ、ご自身の味覚で確かめながら微調整するのが、おいしく仕上げる秘訣です」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

日本にいながら旅する気分が味わえるのが、異国料理の醍醐味

食卓には、ふっくらと火の通ったメネメンと、レモンを添えたメルジメッキ・チョルバス、トルコのごまパン「シミット」も並べて、「いただきまーす」

1日の食事のなかでも、特に朝ごはんを大事にするというトルコ人。カフェやレストランには必ずと言っていいほど「朝食」のメニューがあるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

1日の食事のなかでも、特に朝ごはんを大事にするというトルコ人。カフェやレストランには必ずと言っていいほど「朝食」のメニューがあるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「海外への旅行となると、なかなか気軽に行けません。けれども、異国のレシピを学んで料理するのは、それよりずっと手軽ですよね。本場の食材でつくった料理を食べれば、日本にいながら旅する気分が味わえます。新しい食材をいろいろ試してみると、楽しみが広がりますよ」

「シミットは食べる直前に軽くトーストすると、ごまの風味がこうばしくなって、よりおいしくいただけます。メネメンをのせたり、メルジメッキ・チョルバスにつけたりしながら食べるのがおすすめ」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

「シミットは食べる直前に軽くトーストすると、ごまの風味がこうばしくなって、よりおいしくいただけます。メネメンをのせたり、メルジメッキ・チョルバスにつけたりしながら食べるのがおすすめ」と口尾さん(写真撮影/嶋崎征弘)

口尾さんのお話のなかで、繰り返し登場した「楽しい」という言葉。ヨーロッパや北アフリカ、中東、アジアなど、世界各地を旅しながら集めた色とりどりの雑貨が楽しげにあふれるキッチンで、楽しげに料理をする口尾さんにぴったりの言葉なのが印象的でした。

次回は、口尾さん流の住まいのしつらえ方についてお聞きします!

■料理研究家 口尾麻美さんのキッチン

●取材協力
口尾麻美さん HP
北海道生まれ。アパレル会社勤務後、イタリア料理店を経て料理研究家に。旅で出会った料理、食材、スパイス、道具、雑貨、ライフスタイルからインスピレーションを受けたレシピを提案。著書に『おはよう! アジアの朝ごはん: 台湾・ベトナム・韓国・香港の朝食事情と再現レシピ 』(誠文堂新光社)、『はじめまして 電鍋レシピ 台湾からきた万能電気釜でつくる おいしい料理と旅の話。』(グラフィック社)など多数。

満足度に差がつく 間取りオーダー方法

自分たちらしくて、暮らしやすい間取りにしたいけれど、考えがまとまらない、どう伝えればいいのかよくわからない、という人は少なくない。そこで今回は、間取りをオーダーする上で大切なポイントを、Sデザインファーム 一級建築士の鹿内健さん、スタイル工房 チーフプランナーの渡辺ノリエさんに伺った。プロはどんな情報から間取りをつくり上げるのか参考にしてみよう。
わが家のベスト間取りを手に入れるために伝えること

1. 今どんなふうに暮らしているか
これからリフォームする予定の家で暮らす家族について、年齢や仕事、趣味、子育ての方針など、日ごろどんな暮らし方をしているかを伝えよう

2. リフォームしたい理由&理想の暮らし方
リフォームしたい理由、現状の不満や解決したい問題点、その空間を誰とどんなシチュエーションで使いたいか、リフォーム後の理想の暮らしを伝えよう

3. これから何年住むつもりか
建物の種別や築年数、修繕履歴などの情報を伝える。その際、今後何年その家に暮らすか、家族の変化なども意識し、必要なリフォームを考えよう

4. 予算+やりたいこと
工事や完成の希望時期と予算を伝える。見積もりが高くなることを恐れて、極端に予算を抑えて伝えると、期待したプランにならないこともあるので注意

「なぜそうしたいか」の理由や背景を伝えよう

例えば「広いリビングが欲しい」というオーダーの場合、プランナーが最も注目するのは、部屋数や畳数ではなく「なぜそうしたいのか」というリフォームの理由や目的だ。
「一口に“広い”といっても、人によって感じ方は違います。なぜ広さが必要なのか、そこでどう過ごしたいのか、理想の暮らしや重視することがプランニングの手掛かりになります」(鹿内さん)

理由や理想を言葉にするのが難しいなら、現状どう暮らしているかを詳しく伝えるのも有効。
「生活パターンや家族の習慣などを話してもらえると、部屋の使い方や家族の距離感がわかり、その家族に合った解決策を提案しやすくなります」(渡辺さん)。例えば、リビングは朝、昼、晩と、誰がどう過ごしているのかを伝えることで、テレビを見る、仕事をする、子どもが遊ぶなど、明確な役割をもった「使いやすい空間」を提案してもらえる。

ただし、部屋の使い方や家族の距離感はライフステージで変化する。リフォームでは今だけでなく、5年後など少し先の暮らし方も意識して考えたい。
プロの力を引き出す間取りオーダーのポイントを2組のケースを例に見ていこう。

2人暮らしを満喫したい夫婦は……
→趣味やこだわりのアイテムなど、オフタイムをどう過ごしたいか伝えようAさん夫妻(写真はイメージです)

Aさん夫妻(写真はイメージです)

■Aさん夫妻の場合(夫35歳・妻34歳)
<夫の希望&暮らし方>
「この中古マンションは緑の多い周辺環境や窓からの眺望が気に入って買いました【1】。共働きで平日はお互い忙しいので、家事は土日に協力してやります。妻は掃除や洗濯は好きみたいですが、料理は僕のほうがレパートリーは多いので一緒につくることも【2】。凝り性なので、調理道具やスパイス類も多いほうです」

<妻の希望&暮らし方>
「以前住んでいた部屋は壁で細かく仕切られていて暗い印象だったので、今度は明るくて開放的なリビングにしたい【1】です。洋服と靴が多いので、家のあちこちに分けて収納していましたが、それが使いにくくて……。寝室は狭くていい【3】ので、夫婦別々の収納が欲しいです。洗面室は●▲ホテルみたいな雰囲気【4】が好みです」

【1】リビング
◎家の好きなところを伝えて、良さをもっと引き出してもらう
間取りというと、家の中だけで考えがちだが、窓から見える周辺の景色やバルコニーなどのスペースも含めて考えると、プランの引き出しはさらに増える。「使いにくいところや不満でもいいですが、その家の何が気に入っているか、周辺環境や眺望など、一見間取りとは関係ないように思えることも話してもらえると、その良さを活かせる提案がしやすくなります」(鹿内さん)

【2】キッチン
◎誰が使うか、料理の頻度やよくつくる料理の情報も伝える
食事の取れるダイニングカウンターをつけたり、夫婦で一緒にキッチンに立つことが多ければ通路を広く取ったり、二列にレイアウトして作業スペースを分けたり……キッチンは主に誰がどんなシチュエーションで使うのかがポイントになる。「よくつくる料理や、持っている調理器具、食器類を教えてもらえると、キッチンに必要な収納のサイズ、配置を考える参考になります」(渡辺さん)

【3】ベッドルーム
◎眠る以外の用途を伝え、適切な広さと機能を備えよう
眠る空間、着替えや化粧をする空間、読書など趣味を楽しむ空間――自分にとって寝室はどんな用途の空間なのかを伝えると、必要な広さやレイアウトを提案してもらえる。「例えば、夫婦の就寝時間がずれている場合や、外出前・帰宅後の身支度の動線によっては、寝室はコンパクトにし、別の空間にクロゼットや趣味に打ち込める書斎などを提案するケースもあります」(鹿内さん)

【4】サニタリー
◎ホテルやレストランを例に、好きなイメージを共有する
洗面室やトイレなどのサニタリー空間はプライベート性の高い空間であるため、比較的間取りやインテリアでも冒険がしやすい。ホテルのようにサニタリーと一体化した間取りや、大理石などインパクトのある素材を取り入れることも可能。好きなテイストを伝えるときは「例えば、気に入っているホテルや、ネットの画像検索などでイメージを共有するとわかりやすいですね」(鹿内さん)

子育て中のファミリーは……
→家族みんなの生活リズム、夫婦、親子の距離感を伝えよう
Bさんファミリー(写真はイメージです)

Bさんファミリー(写真はイメージです)

■Bさんファミリーの場合(夫43歳・妻41歳・長女14歳・長男11歳)
<夫の希望&暮らし方>
「夜はリビングで読書をします【1】。買い物は週に1回、休日に車で出掛け、まとめ買いをします【2】。リビングは多少小さくなってもいいので、子どもたちにそれぞれ個室を与えたい【3】です。子どもが独立したら、そこは僕の書斎【3】にできたらいいなという思いも。最近は子どもの部活動が忙しく家族一緒の外出は減りました」

<妻の希望&暮らし方>
「共働きなので、平日の料理は手早く簡単に【2】できる炒め物などが多いですね。時間のある休日は家族で一緒に料理するので、広い作業台があったらいいな【2】と思います。最近子どもたちの体が大きくなったためか、リビングも洗面室も一緒に使うのは狭く感じます【1】。特に洗面室は狭いので朝はとても混雑【4】します」

【1】リビング
◎一緒にすること&別々にすること、「居場所」を複数用意しよう
子どもが成長すると、親子の距離感は変わる。「リビングは家族で一緒に何かするよりも、同じ空間を共有しながら、自分のことに没頭できる空間づくりが必要になります」(鹿内さん)。リビングの一角にライブラリーを設けるなど、人が集まりやすい仕掛けをつくるのも良い。収納や壁で緩く区切るなど、死角やこもり感をつくるのもリビングの居心地を良くするポイントだ。

【2】キッチン
◎使う頻度の高い家電や食器など、家事の流れを軸にレイアウトを考える
「忙しい共働き家庭のキッチンは、機能的で簡単に掃除・片付けができることが求められます。普段の家事の流れを考え、使う頻度の高い家電、調理器具、食器などを軸にすると、どこに作業スペースや収納を取れば効率が良いかレイアウトがイメージしやすくなります」(渡辺さん)。食べ盛りの子どもがいて、食材のストックが多い家庭なら、パントリーを設けるのも一案だ。

【3】子ども部屋
◎いつまで必要か、10年後の使い道も考える
「子ども部屋はいつまで必要か、数年後その空間をどう使うか想像してみましょう」(渡辺さん)。子どもと過ごす期間は長い人生の中でみるとほんの一時。子どもが巣立った後は、リビングとつなげて使いたい、主寝室のクロゼットにしたいなど、少し先の暮らし方をイメージすると、それぞれの部屋の広さや、どの部屋の隣に配置するか、扉や照明の位置なども決めやすくなる。

【4】サニタリー
◎洗面室の小物をチェックし、家族が使う時間、使い方を伝える
洗面、洗濯、浴室の脱衣スペースを兼ねる場合も多く、時間帯によっては混雑して使いにくいことも。不満の内容によってはスペースを広げ、2ボウルシンクにするほか、洗面室と洗濯室を分けたり、洗面室を廊下などオープンな場所にする方法がある。「まずは家族の生活パターンや洗面室に置いている小物類から、日ごろ洗面室がどう使われているか振り返ってみましょう」(渡辺さん)

自分たちの暮らしに合った間取りにすることで、使い勝手が良く、居心地の良い空間になる。上記の例を参考にして、自分たちにぴったりの間取りをオーダーしてみよう。

●取材協力
・Sデザインファーム 一級建築士 鹿内健さん
・スタイル工房 チーフプランナー 渡辺ノリエさんSUUMOリフォーム実例&会社が見つかる本 首都圏版 SPRING.2019●SUUMOリフォーム実例&会社が見つかる本 首都圏版 SPRING.2019
今号の特集は
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・満足度に差がつく間取りオーダー方法
・これ、いただき!個性派アイデア
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薄れる中古住宅への抵抗感! でも“認知度が低い”中古住宅キーワードとは?

全宅連・全宅保証協会では、毎年9月23日を「不動産の日」と定め、消費者向けに不動産に関する意識調査を実施している。2018年の調査結果を見ると、中古住宅への抵抗感が薄れている傾向が見られたという。その一方、中古住宅流通のカギを握るキーワードについての認知度は低かった。具体的に見ていこう。【今週の住活トピック】
「2018年『不動産の日』アンケート結果」公表/全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)・全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証協会)中古住宅に対する抵抗感が薄れている!

まず「既存住宅(中古住宅)に抵抗はあるか」を聞いた結果では、「まったく抵抗がない」と「どんな状態であろうと抵抗がある」という真逆の選択肢の回答が、同率の13.5%だった。また、最も多い回答は「きれいであれば抵抗はない」の39.8%で、次いで「売買金額と状態のバランスを見て判断する」の33.2%となった。

Q.既存住宅(中古住宅)に抵抗はあるか(出典:全宅連・全宅保証協会「2018年『不動産の日』アンケート結果」より転載)

Q.既存住宅(中古住宅)に抵抗はあるか(出典:全宅連・全宅保証協会「2018年『不動産の日』アンケート結果」より転載)

「中古住宅である」というだけで抵抗を感じる人が13.5%いる反面、「中古でもきれいであれば」「売買金額が見合えば」といった条件をクリアすれば抵抗を感じない人が7割超いることになる。加えて、「中古住宅にまったく抵抗がない」人も13.5%いるなど、筆者が思っていたよりも中古住宅への抵抗感が薄れていることが分かった。

近年、特にマンション市場では、新築の価格が上昇して一般消費者には手が届きにくい価格帯になっている。この市場を受けて、中古マンションの取引が活発になり、2016年からは売買される件数が新築と中古で同程度の規模になっている。

また、1990年後半~2000年前半までの新築マンションブームで大量供給されたものが、近年の中古マンション市場に出回ることで、「新築に近くて価格が手ごろなもの」から「築年がかなり古くて低価格のもの」まで、幅広い中古マンションから選択できるということも、抵抗感を薄める要因になっているのだろう。

「安心R住宅」「瑕疵保険(かしほけん)」「インスペクション」の認知度は低い

中古住宅への抵抗感が薄れているにもかかわらず、中古住宅の品質を見極めるカギとなる重要な仕組みについては、あまり知られていないことも分かった。

この調査では、「安心R住宅」「瑕疵保険」「インスペクション」を知っているか聞いているが、それぞれの認知度(=「知っている」)は「安心R住宅」6.4%、「瑕疵保険」16.3%、「インスペクション」7.7%とかなり低かった。

「安心R住宅」「瑕疵保険」「インスペクション」の認知度(出典:全宅連・全宅保証協会「2018年『不動産の日』アンケート結果」より転載)

「安心R住宅」「瑕疵保険」「インスペクション」の認知度(出典:全宅連・全宅保証協会「2018年『不動産の日』アンケート結果」より転載)

この中でも特に、「インスペクション」の認知度が低いことに驚いた。
インスペクションとは、建築士などの専門家が住宅の劣化や不具合の状況について調査を行い、報告をするもので、「建物検査」や「建物状況調査」などとも呼ばれている。

2009年にNPO法人日本ホームインスペクターズ協会が誕生し、ホームインスペクションの普及やインスペクターの育成に努めてきた。政府も宅地建物取引業法(宅建業法)を改正して、2018年4月からは中古住宅の売買の際にその住宅のインスペクション(「建物状況調査」という名称を使っている)を行うかなどの確認をするように仕組みを整えている。

具体的には、住宅を仲介する不動産会社に中古住宅の売買を依頼するときに「媒介契約」を結ぶ際には、契約書にインスペクション事業者のあっせんを望むかどうか確認して記載したり、中古住宅を購入する際に「重要事項説明」として、インスペクションの実施の有無などを書面に記載し、実施している場合は報告結果の概要を説明するといったことだ。

「瑕疵保険」は、この中では最も認知度が高い。
中古住宅の瑕疵保険は、正しくは「既存住宅売買瑕疵保険」といい、個人が保険に加入するには、検査機関に対して「住宅の構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分など」の検査と保証を依頼するもので、これら重要な構造部分の欠陥が見つかった場合には補修費用などについて保険金が支払われる仕組みだ。

また、「安心R住宅」は、国が定めた品質基準を満たす中古住宅について、物件を広告するときに「安心R住宅」のマークを表示できる制度だ。安心R住宅の基準を満たすためには、インスペクションを実施した結果、構造上の不具合や雨漏りが認められず、「既存住宅売買瑕疵保険」に加入できる用意がなされているなどの条件がある。

ただし、不動産会社を束ねる事業者団体がそれぞれで「安心R住宅」のマークを使用する際のルールなどを決めて徹底させる必要があり、この団体の登録に時間がかかっているという状況もあって、実際にマークを目にする機会はまだそれほど多くはない。

とはいえ、いずれも中古住宅の品質を専門家が客観的に調査をして、その結果を明らかにしたり、保証をしたりするものだ。一般消費者にはわかりにくい品質のチェックのためには、積極的に活用してほしい仕組みなだけに、もっと認知度を高めてほしいところだ。

もっともこの調査の対象は、住宅を探している人に限定しておらず、7割近くがすでに持ち家に住んでいるということから考えると、現実的に住まいを探している人ではもっと認知度が高いのだろうと期待している。

中古住宅への抵抗感が薄れていることは喜ばしいことだ。新築ばかりが本当に住む人にとって最適な住宅とは限らない。ただし、中古住宅は玉石混交の市場なので、品質の高いものを選んだり、購入後にリフォームをしたりすることが欠かせない。どういった仕組みがあるのか、しっかりと把握してほしいものだ。

●関連サイト
「2018年『不動産の日』アンケート結果」詳細

ZEH(ゼッチ)を子どもと体験してきた! 無料宿泊体験も期間限定で可能

ZEH、つまりNet Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、近ごろ、住まいの購入を検討している人であれば、耳にしたことはあるかもしれません。ざっくりいうと家で使う一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の年間収支をプラスマイナス「ゼロ」にする住まいのことですが、実際にはイメージがわかない、という人も多いことでしょう。今回、なんと、このZEHに無料宿泊体験できるというので、現地に子どもとともに訪問。その一部始終をご紹介します。
外気温9度でも室温は16度。冬でも薄着ですごせる快適さ!

ZEHは断熱性気密性を高めるとともに、太陽光発電などでエネルギーをつくり出し、一次消費エネルギー消費をプラスマイナスゼロにする家のことです。電気やガスのエネルギーを購入するのはいわば当たり前ですから、「特別な家なのでは……」と思う人も多いことでしょう。使用エネルギーがプラスマイナスゼロになるので、光熱費も安く、環境への負担は軽くなりますが、「そうはいってもお高いんでしょ?」「住むとなったら実際、どんなメリットがあるわけ?」と疑問を抱く人は多いはず。

そうした素朴な疑問を解消できるのが、このZEHの無料宿泊体験です。日本各地にあるZEHハウスに事前予約をとり、宿泊してその良さを知ってもらおうという取り組みです。論より証拠、説明より体感ということですね。この環境省の「COOL CHOICE ZEH体験宿泊事業」は2018年12月にはじまり、2019年2月末までの期間限定で行われています。開始して間もないですが、週末は次々と予約が入るほどの人気ぶりだとか。今回、筆者は2人の子どもと訪問し、実際に家族で過ごしてきました。

ちなみに、訪問したのは積水ハウスが設計施工した「RAFFINE石蔵」という亀有駅から歩いてすぐの物件です。ZEHでは一戸建てが多いのですが、ここは珍しいことに集合住宅。しかもすでにほかの部屋は賃貸として入居している人もいます。

訪れた日の気温9度と寒い日でしたが、室内はほんのり暖かく感じる程度の16度。暖房をつけていないのにこの温度にはまず驚きます。床もひんやりとせず、娘はそうそうに上着・靴下を脱いで遊び始めてしまいました。

普段は場所見知りもするのですが、暖かさといつものおもちゃに安心したのか、すぐに遊び始める娘。なじみすぎ(撮影/嘉屋恭子)

普段は場所見知りもするのですが、暖かさといつものおもちゃに安心したのか、すぐに遊び始める娘。なじみすぎ(撮影/嘉屋恭子)

宿泊前に、設備や仕様についてかんたんに説明してもらえるので、最新の設備(例えばIHクッキングヒーター、エネファームなど)についても実際に使い、お試しすることができます。デジタルネイティブの子どもたちはHEMS(※Home Energy Management System/ホーム エネルギー マネジメント システムの略語。使用エネルギーなどがグラフで見えるほか、管理することもできる)に興味しんしん。使用エネルギー、現在の発電量が見える化できるのは、子どもにとってもおもしろいようです。

リビングのデスクコーナーに置かれたHEMS。キャラクターが気になるのか「コレはなに?」と聞かれて説明。子どもの環境教育にも役立ちます(撮影/嘉屋恭子)

リビングのデスクコーナーに置かれたHEMS。キャラクターが気になるのか「コレはなに?」と聞かれて説明。子どもの環境教育にも役立ちます(撮影/嘉屋恭子)

エアコンは22度ですぐに暖かく。線路のそばとは思えないほど静か

ZEHの特徴は、まず暖かいこと。いわゆる高断熱高気密の住宅です。エアコンを切った状態では室温は16度でしたが、エアコンを22度の温度に設定し、スイッチをいれるとすぐに暖かくなります。また窓辺は日差しで暖かく、「すきま風が入る」や「ひんやりとする感じ」はありません。

すぐに窓辺が暖かくなったのは、サーモグラフィカメラで見ても一目瞭然(撮影/嘉屋恭子)

すぐに窓辺が暖かくなったのは、サーモグラフィカメラで見ても一目瞭然(撮影/嘉屋恭子)

このポイントは窓にあり、この物件では高断熱アルミサッシ(アルミの枠の中に熱を伝えにくくする樹脂を採用)、複層ガラスを使っているといいます。ただ、特別な商品ではなく、近年の高断熱・高気密をうたう物件では、採用しているところが増えています。窓の性能がよくなると必然的に遮音性も高くなり、窓から電車が見えるものの、締め切ってしまえば鉄道の存在にまったく気づかないほどに静か。防犯合わせガラスにもなっています。

子どもは「安心できる」「くつろげる」と感じたのか、自分の家のように自由に遊んでいます。やっぱり暖かい家はよいですね。

日差しは春めいて見えますが、外は9度。すぐに室温は24度となり、心地よい暖かさ。音は静かな状態といわれる40~50デシベル。いちばんうるさいのは母ちゃん(筆者)の声でした(撮影/嘉屋恭子)

日差しは春めいて見えますが、外は9度。すぐに室温は24度となり、心地よい暖かさ。音は静かな状態といわれる40~50デシベル。いちばんうるさいのは母ちゃん(筆者)の声でした(撮影/嘉屋恭子)

暖かいのは窓辺だけではありません。エアコンをいれていない、寝室や洗面所もじょじょに暖かくなるので、部屋ごとの温度ムラができにくくなっているのです。ヒートショックは、部屋間の温度差があることで発生すると言われていますが、それが起きにくい状態です。

洗面所と洋室はつながっていて、回遊性のある間取り(撮影/嘉屋恭子)

洗面所と洋室はつながっていて、回遊性のある間取り(撮影/嘉屋恭子)

子どもたちは探検&走りまわってエンジョイしている(撮影/嘉屋恭子)

子どもたちは探検&走りまわってエンジョイしている(撮影/嘉屋恭子)

もちろん、エアコンはつけていないので、洗面所・寝室も16度程度で、けして暖かいわけではありませんが、身体に負荷がかかり、不快になるような温度差(一般的に10度以上の差)ではありません。また、このときは発電量>使用量でしたので、余った電力を売っていた状態でした(!)。少しのエネルギーで、冬は暖かく、夏は涼しく過ごせる。省エネルギーは人間にとって快適でもあり、経済的でもあるのです。

リビングの続きにある寝室。こちらもエアコンなしでも15度程度。遊んでいる娘だけでなく、息子もいちばん気に入ったのはこの寝室だったとか。この日差しのなかでひたすら昼寝がしたい(撮影/嘉屋恭子)

リビングの続きにある寝室。こちらもエアコンなしでも15度程度。遊んでいる娘だけでなく、息子もいちばん気に入ったのはこの寝室だったとか。この日差しのなかでひたすら昼寝がしたい(撮影/嘉屋恭子)

ZEHは特別ではなく、「当たり前」の住まいに

ZEHのもう1つのメリットは、やはりランニングコストで経済的という点でしょう。もちろん、ZEHに必要な太陽光発電やエネファームといった設備には初期コストが必要になりますが、ランニングとなる光熱費がほぼゼロとなるわけですから、トータルコストで比較した場合には収支面でのメリットも大きいのです。また、自治体や国などでは、省エネルギー設備の導入時に補助金制度を設けていることも多いので、賢く利用したいところです。

今回の「RAFFINE石蔵」ですが、床・壁・天井の断熱に配慮し、窓を少しだけグレードアップ、太陽光発電の発電量に少しだけ余裕をもたせたものの、「ZEHとしての特別な仕様」という設計ではないといいます。言い換えればZEHのような高断熱住宅プラス創エネ住宅は、「当たり前」になっていくのだと感じました。

環境への負荷を減らしつつ、自分たちの経済面でも、また快適で健康面でもメリットの大きいZEH。住まいを建てようかなという人、リフォームしようと考える人だけでなく、今、家にまったく興味のない人でも「暖かい家」「エネルギーを創る家」の良さを体感すると、きっと新たな発見と驚きがあると思います。

●取材協力
COOL CHOICE ZEH 体験宿泊事業

赤ちゃんのいる家庭は、災害時の備えにどんなものを用意している?

阪神・淡路⼤震災から24年。被災を知らない世代も増えているが、ベビーカレンダーが「災害・防災」に関する意識調査の結果をリリースした。非常用食品や飲料水を備蓄している家庭が多いものの、赤ちゃんのいる家庭では、災害時の備えも異なるようだ。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「『災害・防災』に関する意識調査」を実施/ベビーカレンダー災害への備え、命を守る住まいの対策を重視しよう

この調査結果を見ると、災害に対する意識が高まったきっかけで多いのは、大規模地震などの甚大な被災だ。1番多いのが「東日本大震災」の69.2%で、3番の「西日本豪雨」(41.8%)や5番の「大阪府北部地震」(26.0%)などが続く。

そんな中で、2番目に多かったのが「妊娠や出産」の51.5%だ。子どもの誕生によって守るべき命を授かることが、災害への意識が高まるきっかけになるという点は興味深い。

災害への備えや対策をしているかどうかでは、「備えている」が58.9%と約6割。逆に言うと、「備えていない」家庭が4割もいることになる。

「備えている」という6割が実践している備えや対策としては、「⾮常⽤⾷品・飲料⽔を備蓄している」(82.8%)、「非常用に携帯ラジオ・懐中電灯・医薬品などを準備している」(61.9%)、「非常用持ち出しバッグを準備している」(53.6%)がTOP3となった。

災害に備えた対策(出典:ベビーカレンダー「『災害・防災』に関する意識調査」より転載)

災害に備えた対策(出典:ベビーカレンダー「『災害・防災』に関する意識調査」より転載)

しかし、よく考えてほしい。避難生活で必要なものも大切ではあるが、地震によって命が助かってこそ必要になってくるものだ。命を守るためには、「耐震性のある住居に住んでいる」(35.5%)や「家具・家電などを固定し、転落・落下を防⽌している」(27.7%)が大切なので、もっと実施率を上げてほしいと思う。

また、甚大な災害の場合は生活を再建するのも大変だ。「地震保険に加入している」(38.5%)もまだ低いことも気になる。自分の住む住宅が損壊する可能性は高くはないが、遭遇した場合の被害は極めて大きい。そのための備えは、お金をかけてでもしておきたいものだ。

赤ちゃんのいる家庭が特に備えるべきこととは?

さて、赤ちゃんのいる家庭は、特別な備えが必要なのだろうか?

もちろん、ベビーベッドなど赤ちゃんがいるところに、物が倒れたり落ちてきたりしないような場所を選んだり、倒壊・落下防止策を取ったりすることが重要だ。赤ちゃんの場合は、ちょっとした物の倒壊・落下が命取りになる。

合わせて、避難生活で赤ちゃんのためのライフラインを確保することも大切だろう。
災害時の持ち出し用として特別に準備しているものとしては、「紙おむつ/パンツ」(58.1%)、「おしりふき」(54.1%)、「粉ミルク」(30.6%)が上位に上がった。一方、「特に用意していない」も33.3%と多いが、上位に挙がったものは普段から持ち歩くものなので、常にセットしているという背景もあるようだ。

赤ちゃんのために災害に持ち出し用として特別に準備しているもの(出典:ベビーカレンダー「『災害・防災』に関する意識調査」より転載)

赤ちゃんのために災害に持ち出し用として特別に準備しているもの(出典:ベビーカレンダー「『災害・防災』に関する意識調査」より転載)

妊娠・育児中に被災した経験のあるママ・パパに「災害時にあって良かったもの、あったら良かったもの」を聞いたところ、基本的な食料や飲料の備蓄のほかに、「カセットコンロ」「自家発電機」「赤ちゃん用の水」「液体ミルク」などが挙がったという。

被災した場合、電気やガス、水道などのライフラインが途絶えることが問題になる。水を沸騰させて湯冷ましにすることができないので、赤ちゃんのライフラインと言える授乳が難しいという背景があるのだろう。

筆者は「液体ミルク」というものがあることを初めて知ったが、常温で保存ができ、哺乳瓶に入れてそのまま飲ませることができるのだという。

ベビーカレンダーでは「ママたちの乳児用液体ミルクに関する意識調査」も実施しているが、液体ミルクを使ったことがあるのは、まだわずか4%。液体ミルクを使ってみたいのは、「災害用の備蓄、避難グッズとして」が58.8%と最多だったということだ。

甚大な災害が起きる確率が高まっている。必ずしも自分の家が被害に遭うとは限らないが、被害に遭ってしまった場合は命や財産を奪われる危険性がある。後悔することのないように、日ごろから備えを怠らないでいてほしい。

リフォーム会社、どこがいい? ベストな1社に出会える方法

リフォーム成功のカギは依頼先選びにあり。たくさんのリフォーム会社からベストパートナーを選ぶには、会社ごとの違いを見極めることが第一歩だ。選ぶポイントを知って、ぴったりの会社を見つけよう。
リフォーム会社の違いを見極めるポイントは五つ

リフォーム会社は規模もデザインテイストもさまざま。その中からベストな1社を探すためには、自分の条件と嗜好に合う会社を見極めなければならない。そこで、次の五つのポイントに注目しよう。

【1】対応可能な建物
リフォーム予定の建物の工法に技術的に対応できるのかどうか。「建物の工法・構造」が特殊な場合に対応できないことがあるので確認が必要だ。

【2】得意な価格帯
やりたいリフォームの「規模・価格帯」を得意としているか。小規模から対応している場合とそうでない場合がある。

【3】デザインテイスト
各社はそれぞれアピールしているデザインが異なる場合が多い。その「デザインテイスト」が自分の好みに合っているか。

【4】営業・プランナーの対応
自分が希望しているリフォームに対して「営業・プランナー」の対応力が高い会社かどうか。信頼して任せることができそうか、人の見極めも大事。

【5】アフターサービス
アフターサービスがきちんとしているか。ずっと付き合える会社なのかも確認。

個々のポイントを詳しく解説していこう。

【見極めポイント1 対応可能な建物】
一戸建ては工法により対応できる会社が違う

一戸建ての建て方は、木造軸組工法、2×4(ツーバイフォー)、大手住宅メーカーの独自工法などがある。木造軸組には多くのリフォーム会社が対応できるが、他の工法は対応できる会社が限られるので、自分の家がどう建てられたのかを知っておくべき。
また、築年数が50年を超える場合、引き受けない会社もあるので確認が必要だ。
マンションは構造に違いがあまりなく対応できる会社が多い。しかし水まわりの移動や床の遮音性などに制約があるので、実績豊富な会社に依頼すると安心。

【見極めポイント2 得意な価格帯】
「部分」か「大規模」か、得意分野は価格帯に表れる

普段請けている工事が設備交換や内装など一部のリフォームが中心なのか、間取り変更を含む大規模なものを中心としているのかが会社によって違う。家全体をリフォームするような大規模工事は、1000万円を超える金額帯のリフォームを得意としている会社に依頼するほうが、スムーズに進むだろう。その逆もしかり。
まずは、キッチンなど水まわりのみにするか、家全体を行うのかなど、今回のリフォームの規模を考える。その上で規模にふさわしい会社を選ぼう。

【見極めポイント3 デザインテイスト】
素材や間取り、設備にもテイストの違いが出る

リフォーム会社のデザインテイストは、ナチュラル、ホテルライク、カフェ風、シンプルモダンなどさまざま。テイストを左右する内装の素材に何を使いたいのか、設備や収納は造作を中心に個性的にしつらえたいのか、既製品で整った感じにしたいのかなど、好みの仕上がりをイメージしておきたい。
オープンな間取りを好むか、適度に仕切られた空間を好むかでも傾向が分かれる。雑誌などで施工例を見てテイストを絞り込み、完成見学会も見るなどして、好みに合う会社を探そう。

【見極めポイント4 営業・プランナーの対応】
的確なアドバイス、秀逸な提案があるか

リフォームは一つひとつのプランを最初からつくっていく。そこで、担当者と相性が良くコミュニケーションを取りやすいかどうかが、進める上で大事な要素となる。また、担当者のヒアリング力やプランの提案力が、出来上がってからの満足度を大きく左右する。
実際に担当者と会って、質問をしたりできるのが、家に来てもらう現場調査。また、提案力を見極められるのが、プラン・見積もり提案時。それぞれの機会に相手のことをよく見て、自分に合うかどうか判断しよう。

【見極めポイント5 アフターサービス】
保証期間やその対象、定期点検の回数が違う

完成後に不具合があったとき、無償で修理をしてくれる期間を示すのが保証期間。2年程度から長ければ10年もある。長期保証は構造部、短期保証は設備や建具というケースが多い。対象部位と期間もよく見ておこう。
定期的に訪問してくれて不具合などのチェックをしてくれるのが定期点検サービス。最近では24時間相談に乗ってくれるサービスも。サービスがシステム化されていない地域密着型の会社でも、何かあったらすぐに駆け付けてくれて、細やかに面倒を見てくれるケースもある。

家や設備の老朽化、家族構成の変化など、リフォームをするきっかけは人それぞれ。また、ベストな会社も価値観によって異なるもの。あなたのベストパートナーと出会って、満足なリフォームを実現しよう。

●取材協力
スーモカウンターリフォーム

近代建築の巨匠ミースに師事した父とその娘、職住近接+αによって生まれた新たな幸福  あの人のお宅拝見[12]

15年ほど前、ある研究会でご一緒したのが渡邊朗子教授との出会い。建築・住空間の研究者である朗子先生、かねて知人から「渡邊邸はミースのファンズワース邸のよう」と聞き、そのご実家『ガラスの家』にも興味をもっていた私。
先日久しぶりにお会いし、ご自宅取材を依頼。「実は『ガラスの家』からは引越して、人に貸してしまっているの!」と言いながらも、快く取材を受けてくださいました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。実家と“スープの冷めない距離”を実現

朗子先生と再会したのは、パナソニックホームズの子育て提案住宅『KODOMOTTO [こどもっと]』の記者発表会。

子どもの知性を育てる環境づくりについて話される渡邊朗子東洋大学教授(写真撮影/藤井繁子)

子どもの知性を育てる環境づくりについて話される渡邊朗子東洋大学教授(写真撮影/藤井繁子)

私が知る朗子先生は、昨今の『スマートホーム』以前から『空間知能化デザイン』を提唱し、ロボティクス・IT(今ではAI)と空間の融合を研究されてきた聡明なキャリア女性。

そのご自宅は東京・恵比寿駅近くの超都心、「子どものころから恵比寿育ちなので、地元民です」(朗子さん)。
今回、プライベートを取材させていただくにあたって
「夫婦二人のわが家はお見せするような物もないので、両親宅にもご案内しますよ」と、記事構成にまで気を使ってくださる対応!

なんと、ご自宅(後ろのマンション)から道路を渡って、お向かいがご両親のマンション(写真撮影/片山貴博)

なんと、ご自宅(後ろのマンション)から道路を渡って、お向かいがご両親のマンション(写真撮影/片山貴博)

「実家とまさしく、スープの冷めない距離ですよね。上の階の窓から、両親が外をのぞいているのが見えたりするんです(笑)」
実は朗子先生が結婚し新居を探していたら、運よく向かいのマンションに空室が出たそうです。

さて、お会いするのも楽しみだった父上、渡邊明次さん(関東学院大学名誉教授)宅である、ご実家へ訪問。
築51年のヴィンテージ・マンション。3LDKを2LDKに7カ月かけてリフォームされたようです。
20坪ほどある大きなルーフバルコニー付きの角部屋で、3方向から採光のある明るいお宅。

赤レンガ色の壁が、空間に活力をもたらしている。80代ご夫婦のお宅としては大胆なデザイン(写真撮影/片山貴博)

赤レンガ色の壁が、空間に活力をもたらしている。80代ご夫婦のお宅としては大胆なデザイン(写真撮影/片山貴博)

北欧デザインのルイスポールセン社ペンダントも赤! マリリン・モンローの口紅とも重なって素敵。
(このモンロー、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーン。父上が米国時代の若かりしころ、手にした設計料で購入したとか)

建築家デザインの照明がダイニング、リビングと2つ空間のアクセントに。ダイニングにポール・ヘニングセン(デンマーク)の赤いペンダント(写真撮影/片山貴博)

建築家デザインの照明がダイニング、リビングと2つ空間のアクセントに。ダイニングにポール・ヘニングセン(デンマーク)の赤いペンダント(写真撮影/片山貴博)

リビングにはマリオ・ボッタ(スイス)デザインのスタンド(写真撮影/片山貴博)

リビングにはマリオ・ボッタ(スイス)デザインのスタンド(写真撮影/片山貴博)

ミース・ファン・デル・ローエに学び、実践した『ガラスの家』

少し、父上・渡邊明次さんについて紹介しておくと……
1960年代に米国シカゴ(イリノイ工科大学大学院建築学科卒業)にあるミース・ファン・デル・ローエ事務所で働いた経歴をおもちで、日本では『霞が関ビル』の設計にも参加された建築家。御歳83歳。

「帰国後20代で若かったから、日本での処女作は自邸。ミースに習って鉄とガラスの建築に挑戦したのが『ガラスの家』」(明次さん)(写真撮影/片山貴博)

「帰国後20代で若かったから、日本での処女作は自邸。ミースに習って鉄とガラスの建築に挑戦したのが『ガラスの家』」(明次さん)(写真撮影/片山貴博)

ミースと言えば、ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライトと共に近代建築の三大巨匠と称される建築家。
建築だけでなく名作バルセロナチェアや、「God is in the detail(神は細部に宿る)」などの名言も知られています。
そのミース代表作の一つが、『ファンズワース邸』(1950年 アメリカ・イリノイ州)。それを彷彿させる渡邊邸『ガラスの家』は、川崎市多摩区に造成されたニュータウン開発の高台に建てられました。

『ガラスの家』が竣工した1965年につくられた、ご夫妻のクリスマスカード(写真提供/渡邊家)

『ガラスの家』が竣工した1965年につくられた、ご夫妻のクリスマスカード(写真提供/渡邊家)

居室は2階のみ、25坪のワンルーム。中心にキッチンやバスルームの水まわりが集約され、回遊できるレイアウトになっています。
「住まいは狭くても回遊性があれば、奥行きや広がりを感じるからね。日本の昔の家も、そうだったでしょ」と明次さん。
今回のマンションリフォームでも、寝室と書斎は廊下と回遊できるレイアウトに設計されています。

ただ、“建築家の家は住み難い”と言う話をよく聞きますが、『ガラスの家』にもあったようで……お住まいだったころの苦労話を、母上の康子さんが聞かせてくれました。
「壁が全面ガラスで『金魚鉢に住んでいるみたいね』と友達に言われましたのよ(笑)」

大きな台風が襲来したときは「ガラスが内側にふくらむのを割れないよう、二人で中から押さえましたのよ!」(康子さん)。結局『ガラスの家』は無傷で、ご近所の木造家屋は屋根が吹っ飛んだらしい(写真撮影/片山貴博)

大きな台風が襲来したときは「ガラスが内側にふくらむのを割れないよう、二人で中から押さえましたのよ!」(康子さん)。結局『ガラスの家』は無傷で、ご近所の木造家屋は屋根が吹っ飛んだらしい(写真撮影/片山貴博)

その後、父上が米国へ転勤することとなり、母娘は日本に残って通学にも便利な恵比寿へ転居したのだそう。
「でもね、都会暮らしをしていますと子どもの朗子が描く絵は、空がグレーだったのね……」と母上。
父上が帰国後には、「朗子が虫を怖がるようになっていて、これは良くないと土のある郊外の生活『ガラスの家』に戻ることにしました」

子どもの成長に合わせ、1階に居室を増築。また、日本の気候にも合わせて大きな庇(ひさし)の屋根を付けるなど大改造を施し、建築家の家も住み心地の良いものとなったそうです。

改築後の『ガラスの家』内観。全面ガラスの壁には障子を入れ、床暖房なども整備して快適に(写真提供/渡邊家)

改築後の『ガラスの家』内観。全面ガラスの壁には障子を入れ、床暖房なども整備して快適に(写真提供/渡邊家)

古い資料を見せていただきながらのお話に、私は驚くばかり。『ガラスの家』の変遷を、朗子先生は近著『生命に学ぶ建築』の中で、建築の“成長”として紹介(写真撮影/片山貴博)

古い資料を見せていただきながらのお話に、私は驚くばかり。『ガラスの家』の変遷を、朗子先生は近著『生命に学ぶ建築』の中で、建築の“成長”として紹介(写真撮影/片山貴博)

ご夫妻は50年近く住まわれた『ガラスの家』から、3年前に恵比寿のマンションへ転居を決意。
「80歳にもなると、車無しでも生活に困らない都会のほうが安心。朗子が住んでいたマンションに売り物件が出たので購入しました」
シニアの郊外戸建から都心マンションへの転居は理想的な住まい方。しかし、お二人は80代にして実行できる体力気力の充実ぶりが超人的!
「マンションには戸建の1/10しか物を持って行けないと知人から聞き、食器・衣類・書籍と毎日ゴミ出しに励みましたのよ」と母上。それでも100箱のダンボールと共に引越してきた。
その直後に、朗子先生が結婚することに……。渡邊家の生活は一変!

渡邊家に挨拶にきたときの朗子夫妻ツーショット。ご両親は「息子ができ、頼りになるしすごく有難い」と微笑む(写真撮影/片山貴博)

渡邊家に挨拶にきたときの朗子夫妻ツーショット。ご両親は「息子ができ、頼りになるしすごく有難い」と微笑む(写真撮影/片山貴博)

そして、こちらが同じく若かりしご両親、米国時代のツーショット。

お二人の出会いはシカゴ時代。何と母上はセクレタリー(秘書)学校に留学され、ロータリーインターナショナルで秘書のお仕事をされていたリアル“MOGA (Modern Girl) ”!(写真提供/渡邊家)

お二人の出会いはシカゴ時代。何と母上はセクレタリー(秘書)学校に留学され、ロータリーインターナショナルで秘書のお仕事をされていたリアル“MOGA (Modern Girl) ”!(写真提供/渡邊家)

半世紀を経て今も知的で好奇心旺盛なご両親のように、朗子さんも素敵な夫婦関係をこれから築かれてゆくのでしょう。

「“遊び”と“仕事”のバランスを取りながら」職住近接+αのライフスタイル

ご両親宅を後にして、同じマンションにある朗子先生の仕事場へ。
独身時代にお住まいだったメゾネットの住戸を残して、オフィスとして活用されています。

「ほとんど書庫みたいになっちゃってますけどね」(朗子さん)。大きなダイニングテーブルがワーキングデスクに(写真撮影/片山貴博)

「ほとんど書庫みたいになっちゃってますけどね」(朗子さん)。大きなダイニングテーブルがワーキングデスクに(写真撮影/片山貴博)

その後、お向かいの朗子先生夫婦の自宅マンションへ移動。
仕事でレクチャーをしている姿は見慣れていますが、キッチンでコーヒーを入れる姿はとても新鮮!

「外食も好きですが、週に4~5日は家で料理して食べたいほうです」(写真撮影/片山貴博)

「外食も好きですが、週に4~5日は家で料理して食べたいほうです」(写真撮影/片山貴博)

「生活のなかで食事を豊かにできるか?って、大切だと思いますね。もちろん、晩酌も!」
料理は仕事と違うアクティビティなので、ストレス発散にもなると言う朗子先生。

お料理を楽しむべく、バルコニーには“Akiko’sアジアン・ガーデン”(写真撮影/渡邊朗子さん)

お料理を楽しむべく、バルコニーには“Akiko’sアジアン・ガーデン”(写真撮影/渡邊朗子さん)

ハーブ類のほか、オリーブの実は塩漬けにしているそう(写真撮影/渡邊朗子さん)

ハーブ類のほか、オリーブの実は塩漬けにしているそう(写真撮影/渡邊朗子さん)

日常生活では、遊びと仕事のバランスを大事にしたいと「わが家のコンセプトは、“お酒&音楽”なの(笑)」(朗子さん)

リビングのスピーカーは、夫の学生時代からのJBLスタジオモニター。ダイニングの奥には結婚祝いの記念に購入した朗子さんお気に入りキャビネット(写真撮影/片山貴博)

リビングのスピーカーは、夫の学生時代からのJBLスタジオモニター。ダイニングの奥には結婚祝いの記念に購入した朗子さんお気に入りキャビネット(写真撮影/片山貴博)

ジャズから歌謡曲、フォーク、ディスコなど幅広いジャンル。「私たちが小学生から高校生くらいに聞いた、70~80年代の曲が特に盛り上がります!」(写真撮影/片山貴博)

ジャズから歌謡曲、フォーク、ディスコなど幅広いジャンル。「私たちが小学生から高校生くらいに聞いた、70~80年代の曲が特に盛り上がります!」(写真撮影/片山貴博)

そして、お気に入りのイタリア製キャビネット(メデア社)には、大好きなお酒が並ぶ!

「お酒が楽しく飲める人でないと結婚してなかったけど(笑)。共通点が多くて良かったです」(写真撮影/片山貴博)

「お酒が楽しく飲める人でないと結婚してなかったけど(笑)。共通点が多くて良かったです」(写真撮影/片山貴博)

「私はアール・ヌーボーとか猫脚とか、装飾系デザインが結構好きなんですよね」(朗子さん)
これは、ミースの建築思想『Less is more.(より少ないことは、より豊かなこと)』に師事した父上の元で育ってきた反動?

ウォールナット材キャビネットに施されたアール・ヌーボーの花模様(写真撮影/片山貴博)

ウォールナット材キャビネットに施されたアール・ヌーボーの花模様(写真撮影/片山貴博)

「今は仕事中心の私たち夫婦にとって都心の住まいがベスト。でも空気の良い自然とのかかわりがあるとリフレッシュできますからね」 
ということもあって、渡邊家は山中湖の別荘で夏の休暇などを過ごすようです。

「2012年に私の設計で木造の別荘を建てました」(朗子さん)(写真提供/渡邊家)

「2012年に私の設計で木造の別荘を建てました」(朗子さん)(写真提供/渡邊家)

緑深い敷地にバンビが訪れる!(写真撮影/渡邊朗子さん)

緑深い敷地にバンビが訪れる!(写真撮影/渡邊朗子さん)

“アラ50(フィフ)”で生活が激変した朗子先生。ご両親も含めたダブル転居などの急展開に、渡邊家の人々はくたびれる風でもなく超ポジティブに笑って過ごされていた。
父上が「スーパーでバッタリ朗子に会ったりする日常が、すごくうれしいよ」と、母上は「お米が無かったの~、ってウチに駆け込んで来たりね」と、近居の小さな喜びを日々感じているご様子。

「今は両親も元気ですけど、これから介護のことも考えると近くに住むっていうのはお互いにとって安心ですよね」(写真撮影/片山貴博)

「今は両親も元気ですけど、これから介護のことも考えると近くに住むっていうのはお互いにとって安心ですよね」(写真撮影/片山貴博)

職住近接に加えた、職住“親”近接によって、キャリアだけでなく心の豊かさに磨きがかかった朗子先生の笑顔を見ることができました。

【プロフィール】
渡邊朗子
東洋大学 情報連携学部教授・一級建築士
東京都生まれ。日本女子大学家政学部住居学科卒業後、93年コロンビア大学大学院建築都市計画学科修了、99年日本女子大学大学院人間生活学研究博士課程修了。コロンビア大学客員講師、慶応義塾大学特別研究准教授などを経て、2018年より現職。また、2015年より夫の経営する株式会社市川レジデンス取締役。
建築家として住居やオフィス、学習空間を対象に建築から家具・情報システムまでの実施設計に携わる。
主な著書に「頭のよい子が育つ家」(共著・日経BP社)、「長く暮らすためのマンションの選び方・育て方」(共著・彰国社)など。近著「生命に学ぶ建築」(共著・建築資料研究社)
株式会社市川レジデンス

雑貨店店主と建築家の夫婦がつくる「変わり続ける家」 その道のプロ、こだわりの住まい[4]

JR国立駅と谷保駅の間に位置する、国立ダイヤ街商店街。精肉店や鮮魚店、青果店が軒を連ね、昔から地元の人たちに愛され続けている場所だ。その一角にあるのが日用雑貨を扱う「musubi」。ここは、店主の坂本眞紀さんと夫で建築家の寺林省二さん、一人娘の吟ちゃん、愛猫のトトが暮らす自宅でもある。道具を扱うプロと、家づくりのプロの生活を見せてもらった。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。昔ながらの商店を彷彿とさせる仕事場兼自宅坂本さん(左)は元インテリアショップのバイヤーで、独立して自身の店を構えた。寺林さん(右)は「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」として、住宅を中心に設計をしている。坂本さんの膝の上にいるのが、看板猫のトト(写真撮影/嶋崎征弘)

坂本さん(左)は元インテリアショップのバイヤーで、独立して自身の店を構えた。寺林さん(右)は「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」として、住宅を中心に設計をしている。坂本さんの膝の上にいるのが、看板猫のトト(写真撮影/嶋崎征弘)

日用雑貨が並ぶ店内の奥に目を向けると、一段高くなった場所にダイニングキッチンが見える。昔ながらの商店を彷彿とさせるつくりの雑貨店「musubi」。約8年前、自分たちの仕事場と自宅を兼ねた場所として、夫の寺林さん自ら設計した。

間取り(画像提供/寺林省二さん)

間取り(画像提供/寺林省二さん)

器やクロス、掃除道具やかごなど、さまざまな日用雑貨が並ぶ店内。どれも坂本さん自ら選び、使って、確かめたものばかり。箒づくりや刺繍などのワークショップを行うこともある(写真撮影/嶋崎征弘)

器やクロス、掃除道具やかごなど、さまざまな日用雑貨が並ぶ店内。どれも坂本さん自ら選び、使って、確かめたものばかり。箒づくりや刺繍などのワークショップを行うこともある(写真撮影/嶋崎征弘)

「以前はここでお昼ご飯を食べているときにお客様がいらして、扉を開けっ放しにしていて丸見えだったっていうこともあります(笑)。でも、周りの商店街はどのお店も奥に暮らしの気配があるから、それはそれでいいかと思って」と坂本さんはこのつくりを気に入っている様子。「この場所には、もともとクリーニング店があったんです。リフォームして使いたいほど気に入っていたんですが、難しい状態だったので、結局、ほぼ同じ間取りで建て替えました。だから、昔ながらの商店の感じが残っているのかもしれません」

シンクとガス台だけ取り付けた状態で生活を始めたという。カゴやゴミ箱、ツールをかけたバーなどは、生活しながら必要なものを見極め、後から設置した(写真撮影/嶋崎征弘)

シンクとガス台だけ取り付けた状態で生活を始めたという。カゴやゴミ箱、ツールをかけたバーなどは、生活しながら必要なものを見極め、後から設置した(写真撮影/嶋崎征弘)

箱のような状態からスタートした家

「家具も収納もきちんと決めていなくて、ただの箱のような状態だったんです。住みながら少しずつつくってきた感じ」と坂本さんは振り返る。約14坪弱の敷地に建てた自宅は、家、事務所、店という3つの要素を一つの場所に共存させるために、見極めるべきことが多かった。だからこそ、最初に細部まで決めすぎず、住んでみてから自分たちに必要なことを見極めていったという。「暮らしているうちに、ここに棚板があったら便利だな、ここに収納をつくればいいな、と考えていきました」と寺林さんも続ける。

料理に使うバットを引き出し代わりに。カトラリーや箸置きなどの細かいものを収納している。子どもでも手の届く高さなので、吟ちゃんがお手伝いで並べることも(写真撮影/嶋崎征弘)

料理に使うバットを引き出し代わりに。カトラリーや箸置きなどの細かいものを収納している。子どもでも手の届く高さなので、吟ちゃんがお手伝いで並べることも(写真撮影/嶋崎征弘)

例えばキッチン。シンクやガス台の下には、食材を入れたカゴやカトラリーを入れたバット、ゴミ箱などがきちんと収まっている。「ここも最初は何もない空間だったんです。引越してきてからは、紙袋や空き箱をいろいろ使ってみて、どんな大きさの収納道具が必要か考えていきました」。食材はどんなものをどれくらいストックするか、必要なゴミ箱の大きさと数はどれくらいか、よく使う調理道具はどこに置けば便利か、全てを暮らしながら見極めていったのだ。そうして坂本さんが自らスケッチを描き、必要な棚やキャスター付きの箱などを寺林さんにお願いしたという。全てをしまい込まず、頻繁に手にする調理道具は、使う場所の壁面にバーを設置してつるすようにもしている。出し入れしやすいということは、つまりは片付けやすくすっきりした状態を保てるということにつながっているのだろう。

食器棚は大きめの鉢のサイズに合わせて奥行きを設定。店で扱う器や銅なべ、せいろなどもあり、使い込まれた様子を見せてもらうことができる(写真撮影/嶋崎征弘)

食器棚は大きめの鉢のサイズに合わせて奥行きを設定。店で扱う器や銅なべ、せいろなどもあり、使い込まれた様子を見せてもらうことができる(写真撮影/嶋崎征弘)

家具は最初にそろえず、暮らしながら必要なものだけをつくる

食器棚も本棚も、そこにしまう食器や雑誌、文庫本のサイズに合わせてあつらえている。決して広いとは言えない空間だからこそ、きちんとものが収まるように工夫されている。「最初は、クローゼットも布団を入れる場所もなくて。奥行きがどれくらい必要か、どの高さなら届きやすいか、どこにあったら便利か考えて、この形になったんです」と坂本さんは話す。自分たちの洋服の量をきちんと把握し、奥行きや幅を考えてクローゼットをつくった。布団も上げ下ろしがしやすい高さに棚板を設置して、使いやすい収納になっている。

夫婦のクローゼットは、この奥にある吟ちゃんの部屋との間仕切りの役目も担う。洋服と下のケースのサイズに合わせて奥行きを設定したそう。扉はつけず、カーテンで目隠し(写真撮影/嶋崎征弘)

夫婦のクローゼットは、この奥にある吟ちゃんの部屋との間仕切りの役目も担う。洋服と下のケースのサイズに合わせて奥行きを設定したそう。扉はつけず、カーテンで目隠し(写真撮影/嶋崎征弘)

また、随所に棚板を取り付けているのも、ものを収めるのにとても役立っている。キッチンでは食器棚の上、シンクの上にそれぞれ1枚あり、鍋やカゴなどの道具類が置かれている。シンク前の窓にはすのこ状の棚板があり、洗った器や道具などを置いて乾かすのに最適な場所になっている。さらに、トイレ兼洗面所にも奥行きの浅い棚板が1枚あり、洗面道具などの細かなものが並び、隣の洗濯機の上にはタオルがきちんと収まる棚板が2枚取り付けられている。「どれも、奥行きはそこに置くものにサイズを合わせて取り付けています」と寺林さん。使う場所の近くに収納場所を設置することで、出し入れがしやすいというメリットが生まれているのだ。

トイレ兼洗面所。奥行きの浅い棚が一枚あるだけで、歯ブラシやハンドクリームなどの洗面道具の定位置ができる。右にお風呂があるので、タオルは洗濯機の上に収納。手を伸ばせばすぐ使える状態(写真撮影/嶋崎征弘)

トイレ兼洗面所。奥行きの浅い棚が一枚あるだけで、歯ブラシやハンドクリームなどの洗面道具の定位置ができる。右にお風呂があるので、タオルは洗濯機の上に収納。手を伸ばせばすぐ使える状態(写真撮影/嶋崎征弘)

さらに、階段下も見逃さず、坂本さんの事務スペースとして活用している。「収納にするかどうしようか迷っていたんですが、ここに机を置いてみたらいいんじゃないかということでやってみたんです。最初はふさごうと思っていたので、階段の裏まできちんと仕上げができていないんですけど、これはこれでいいかなと思って」と寺林さんは教えてくれる。坂本さんにとっては、料理などの家事をしながら、事務仕事や店番もできて、とても便利なスペースになっている。

階段の下に天板を置き、坂本さんの事務スペースに。店からは目に入りにくい場所なので、多少ものが多くても気にならない。階段裏には吟ちゃんが描いた絵などを貼って楽しい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

階段の下に天板を置き、坂本さんの事務スペースに。店からは目に入りにくい場所なので、多少ものが多くても気にならない。階段裏には吟ちゃんが描いた絵などを貼って楽しい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

また、2階では、本棚やクローゼットが壁としての役割も果たしているのもこの家の特徴だ。もともとは、がらんとしたひとつながりの空間だった。そこに本棚とクローゼットを設置することで間仕切りになってスペースが生まれている。今は一人娘である吟ちゃんの部屋になっているが、ここはもと寺林さんの事務所だった場所だ。

2階の廊下。右の本棚が廊下と吟ちゃんの部屋の間仕切りとして機能している。そのほかはカーテンで仕切っているので、ほどよく気配が伝わる空間(写真撮影/嶋崎征弘)

2階の廊下。右の本棚が廊下と吟ちゃんの部屋の間仕切りとして機能している。そのほかはカーテンで仕切っているので、ほどよく気配が伝わる空間(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングは夫婦の寝室も兼ねている。大きな家具は置かず、臨機応変に使えるスペースになっている(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングは夫婦の寝室も兼ねている。大きな家具は置かず、臨機応変に使えるスペースになっている(写真撮影/嶋崎征弘)

さかのぼれば、建てた当初は、事務所は1階の雑貨店のスペースに併設していた。店で扱う品が増えてきたことから、2階の一角に事務所を移動。「1階で使っていた本棚を2階で間仕切りのように使うことで事務所スペースにしたんです」と寺林さん。吟ちゃんはというと、リビングの壁面に学習机と収納を設置して使っていた。成長とともに自分だけの空間が欲しいということになり、寺林さんは別の場所に事務所を借りて、吟ちゃんは無事に自分のお城を手に入れたというわけだ。

寺林さんの事務所スペースだった場所を吟ちゃんの部屋に。机とベッドを設置して、プライベートな空間をつくった。吟ちゃんは、好きな生地でカーテンをつくったり、壁に絵を貼ったりと、自分だけのスペースを楽しんでいる様子(写真撮影/嶋崎征弘)

寺林さんの事務所スペースだった場所を吟ちゃんの部屋に。机とベッドを設置して、プライベートな空間をつくった。吟ちゃんは、好きな生地でカーテンをつくったり、壁に絵を貼ったりと、自分だけのスペースを楽しんでいる様子(写真撮影/嶋崎征弘)

好きなものは我慢せず、でも、分量は決めて管理する

ものに合わせた収納だからこそ、きちんと収まってはいるものの、やはりどうしても好きな食器や本は増えてしまうという。「狭いからこそ、棚に収まる分だけと決めています。ここからあふれそうになったら、家族みんなで『ガサ入れ』して、不要なものがないか探すんです。使わないものは誰かに譲ったり、売ったりしています」と坂本さん。一人娘の吟ちゃんもその習慣がしっかり身についていて、読まなくなった絵本や使わなくなったおもちゃなどをダンボールにまとめて『ご自由にどうぞ』と自ら書き、お店がお休みの日に家の前に置いていることもあるのだという。

坂本さんの収納術を日常的に目にしているせいか、吟ちゃんが自分で管理する引き出しの中は見事にすっきり。引き出しごとに分類し、きれいに収めている様子はさすが。ここはマスキングテープなどの文具の段(写真撮影/嶋崎征弘)

坂本さんの収納術を日常的に目にしているせいか、吟ちゃんが自分で管理する引き出しの中は見事にすっきり。引き出しごとに分類し、きれいに収めている様子はさすが。ここはマスキングテープなどの文具の段(写真撮影/嶋崎征弘)

商品の使い心地を、自身のキッチンから伝える

「musubi」では、扱っている商品のほとんどを坂本さんが自身で使っている。「使い込んだらどんな状態に変化するか、知りたいお客様も多いんです。そういうときは、ダイニングキッチンから持ってくることもあるし、実際に使い心地を試してもらうこともあります」と坂本さん。また、寺林さん自身の作品として自宅をオープンハウスにすることもある。どこにどんな家具や収納が欲しいか、この家を見ながら打ち合わせることもできるというわけだ。

テーブルの下やクローゼットの中にトト専用のかごがあり、さりげなくしっかりと居場所をキープしている(写真撮影/嶋崎征弘)

テーブルの下やクローゼットの中にトト専用のかごがあり、さりげなくしっかりと居場所をキープしている(写真撮影/嶋崎征弘)

最初に決めず、生活とともに家をつくればいい

坂本さんも寺林さんも、自分たちの暮らしをよく観察し、それに合わせた家をつくり続けてきた。最初から家具を一式そろえたり、システムキッチンを組み込んだりという考えはなかったという。「小さい家だから、どこに何が必要かしっかり見極めたかったんです」と二人は話す。結果、店の形態の変化とともに、事務所が移動し、娘の成長に合わせて子ども部屋が生まれることになった。
最初から決めつけなくてもいいのだ。暮らし方も好みも変わっていくものだから、家も一緒に変化していけばいい。少しずつ、自由に、生活に合わせてしつらえていけばいい。
寺林家は、これからもきっとどこか変わっていくのだろう。「子ども部屋の棚も新しくしたいし、リビングに合うソファもつくろうかと思っているんです」。寺林さんはそう楽しそうに教えてくれた。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

●店舗情報
musubi
東京都国立市富士見台1-8-37
12:00~18:00
日、月曜定休
>HP●設計事務所
>テラバヤシセッケイジムショ●取材協力
坂本眞紀
1974年岩手県生まれ。商社、インテリアショップのバイヤーとして勤務後、東京・国立市に自身の店をオープン。使い心地がよく、実用性の高い道具を選ぶ目に定評がある。建築家である夫の寺林省二さんと娘、猫の3人と1匹暮らし。

キッズデザイン賞受賞! 建設反対の声を乗り越え、地域との共生を考えて設計された保育園

待機児童解消の問題と並行して、保育施設増設反対の住民運動についての賛否が話題となっています。ここ最近では、港区白金台の白金台保育室、南青山の(仮称)港区子ども家庭総合支援センターへの住民反対運動などが頻繁にメディアで報道されているので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

そんな中、建設反対の声がありながらそれを乗り越えて、2018年4月に開園した保育園があります。8月にはキッズデザイン賞を受賞した、世田谷区の代沢ききょう保育園です。どんな点が評価されて受賞にいたったのか、また、開園に至るまでの軌跡は――?

保育園を運営する福祉法人桔梗(以下、桔梗)の理事長、山田静子(やまだ・しずこ)さんと、保育園を設計した住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所の井上恵子(いのうえ・けいこ)さんに、地域との共生を実現するまでの工夫やプロセスについてお話を聞きました。
世田谷区にある代沢ききょう保育園は2018年キッズデザイン賞を受賞。「高級住宅地にふさわしいデザインに」と地域からの要望を受け設計された外観は、オリジナルデザインの門扉、薩摩中霧島塗りの壁、木レンガの歩道など、建築物としてのこだわりも満載(写真撮影/片山貴博)

世田谷区にある代沢ききょう保育園は2018年キッズデザイン賞を受賞。「高級住宅地にふさわしいデザインに」と地域からの要望を受け設計された外観は、オリジナルデザインの門扉、薩摩中霧島塗りの壁、木レンガの歩道など、建築物としてのこだわりも満載(写真撮影/片山貴博)

保育園増設に反対の声!? 反対の理由って?

代沢ききょう保育園の整備計画が決定したのは2014年5月、現在、運営を行なっている社会福祉法人桔梗が事業者として認定されたのが2016年3月のことでした。既にこの段階で、世田谷区主催での住民説明会が8回開催されていたそうです。2016年3月に開かれた9回目の住民説明会に初めて参加した山田さんが、その時の状況を振り返ります。

「初めて地域のみなさんを前にして、『良好な保育環境の充実を目指して、子どもの声が響く、地域に開かれた保育園を目指したい』と挨拶をしました。ところが『“子どもの声が響く“なんて。騒音が問題だとこれまでの説明会で訴えてきたことを理解していないのではないか』とのお声が。そこから、地域の方々との調整がスタートしたのです」(山田さん)

世田谷区の代沢ききょう保育園を運営する社会福祉法人桔梗の理事長、山田静子さん(写真撮影/片山貴博)

世田谷区の代沢ききょう保育園を運営する社会福祉法人桔梗の理事長、山田静子さん(写真撮影/片山貴博)

その後も重ねられた近隣説明会の中、で山田さんたちが受け取った要望はなんと141項目に及びます。指摘されたのは大きく3つで「施設の配置」「保育園の運営」「騒音」についての問題でした。

代沢ききょう保育園建設にあたり、近隣説明会で出された地域の要望は141項目(井上さん提供)

代沢ききょう保育園建設にあたり、近隣説明会で出された地域の要望は141項目(井上さん提供)

地域との対話を10回以上重ねてできた保育園

山田理事長と井上さんはそれらの近隣からの意見を受け入れ、保育園の設計に一つひとつ反映させていきます。

「当初、総敷地面積2000平米という豊かな立地を活かして、南側に500平米程の広い園庭を有したL字形の園舎を建築したいとプランを提出しました。けれども、騒音を懸念するご意見をいただいたので、その点に配慮するために建築プランを大きく変更することにしました。

代沢ききょう保育園を設計した建築士の井上恵子さん(写真撮影/片山貴博)

代沢ききょう保育園を設計した建築士の井上恵子さん(写真撮影/片山貴博)

まず、園庭の音を建物で遮断するため園舎の形をL字型からロの字型に変更しました。そして保育棟部分を中心に防音性能の高いサッシを採用することで、子どもたちが思い切り声を出して遊んでも、周辺住宅地には音が漏れない園舎を実現しています」(井上さん)

当初の建築プランは、南側に広い園庭を確保したL字型の園舎(井上さん提供の図をもとに作成)

当初の建築プランは、南側に広い園庭を確保したL字型の園舎(井上さん提供の図をもとに作成)

地域の要望を受け、園庭をぐるりと園舎で囲む形のロの字型配置で遮音性を確保(井上さん提供の図をもとに作成)

地域の要望を受け、園庭をぐるりと園舎で囲む形のロの字型配置で遮音性を確保(井上さん提供の図をもとに作成)

「建物で園庭を囲うことで園庭の音の問題は解決しても、園庭の日当たり条件が悪くなってしまいます。そこで北側と南側とで園舎の高さを変え、園庭になるべく多く日が入るように設計しています。隣地と園舎が近い南側には遮音壁も設置しましたが、近隣の景観を損ねないよう木製のものにしました」(井上さん)

左側の保育棟と右側の施設等は近隣の建物にあわせて高さを変え、可能な限り採光がとれ、風が通る設計になっている。左手前の柵の中は、現在はオフシーズンのため蓋をしている園児用プール(写真撮影/片山貴博)

左側の保育棟と右側の施設等は近隣の建物にあわせて高さを変え、可能な限り採光がとれ、風が通る設計になっている。左手前の柵の中は、現在はオフシーズンのため蓋をしている園児用プール(写真撮影/片山貴博)

園庭を中央に配し、周囲に園舎を設けることで園庭の音がカットされる設計(井上さん提供)

園庭を中央に配し、周囲に園舎を設けることで園庭の音がカットされる設計(井上さん提供)

敷地の南側(一部)には、天然木と黒に塗られた鉄のコントラストが洗練された雰囲気の木製遮音壁を配置(写真撮影/片山貴博)

敷地の南側(一部)には、天然木と黒に塗られた鉄のコントラストが洗練された雰囲気の木製遮音壁を配置(写真撮影/片山貴博)

もちろん、子どもたちが健やかに過ごせるよう保育環境にも配慮されています。

「都市部では珍しい木造在来(真壁)工法を採用し、木の柱・梁を現すことで、木の雰囲気を感じられる温かみのある園舎にしました。木造建築物は火災を懸念されますが、燃え代(もえしろ)設計(想定される火事で消失する木材の部分を想定して部材の断面寸法を考えること。木材が火災にあっても、燃え代を想定しておけば、直ちに建物が倒壊することはない)を行い、準耐火建築物として認定されています。

また、開口部に使用している木製のサッシは、遮音性はもちろん、断熱性にも優れ、施設内で子どもたちが夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるようになっています」(井上さん)

保育棟の廊下。左側の開口部には遮音性の高い木製サッシが使われている。屋根の形を生かした勾配天井は空間を広く見せる効果も(写真撮影/片山貴博)

保育棟の廊下。左側の開口部には遮音性の高い木製サッシが使われている。屋根の形を生かした勾配天井は空間を広く見せる効果も(写真撮影/片山貴博)

これだけの充実した設備や、いたるところに配慮の及ぶ設計に筆者はびっくりしましたが、設計や建設にはかなりお金がかかったのでは……?

「ここは高さ10メートルの建物が建てられる地域ですが、7メートル以下に抑えて欲しい、また園舎の面積も最低限にして欲しいという要望がありました。そこで当初2階建てのプランを平屋に変更し、天井を高く取って空間を広く見せようと考えました。高い天井に木の梁がダイナミックに出ているため、費用がかかっているように見えるかもしれません。今回採用した真壁工法は、施工がたいへん難しく手間ひまがかかりますが、設計・建設費は保育園の建設に通常かかる平均的な予算の中に納まっています。施工会社さんの頑張りもあってできた建物なんです」(井上さん)

運営・コミュニケーション面でも、近隣に配慮した運営方法を採用

近隣説明会では、園児が園庭に出る時間や送り迎え時の運用、自転車置き場やゴミ置き場など「運営」についても住民の方からの要望がありました。

「送迎の主な時間帯である7:15~9:15と16:30~18:30は門扉を開放し、交通誘導員を入口に配置して、ベビーカーや自転車に乗った状態で門を入って園内でお子さんに乗り降りしてもらい、交通の安全を確保しました。園庭に出て遊ぶ時間も午前中の9:00~11:30と午後の15:30~17:30に限定することで、住民の方の了承を得ています。

ゴミ置き場は近隣への影響を減らすため道路沿いではなく敷地奥に設置し、カラス等の被害を防ぐためコンクリートブロック造の建物を設けました。ゴミ置き場の前の通路の先、道路ぎわに、ゴミ収集車や食材や必要資材などの搬入・搬出をする車が駐車できるスペースを設けています。

保育園の裏手にある搬入・搬出用の通路とコンクリートブロック造のゴミ置き場(通路左)(写真撮影/片山貴博)

保育園の裏手にある搬入・搬出用の通路とコンクリートブロック造のゴミ置き場(通路左)(写真撮影/片山貴博)

イベント時の騒音は特に気になる問題だったので、運動会も園庭内では行わず、近隣の広い公園で開催します。『げんき広場』として地域の皆さんにも開放した形の運動会にしています」(山田さん)

これらの数々の工夫によって、地域に受け入れられてきたのですね。

子どもも、大人も、地域と一緒に育ち、育む環境を

とはいえ、山田理事長の本来の思いは冒頭の住民説明会の挨拶にもあるように、子どもたちが周囲と完全に遮断された環境ではなく「地域に開かれ、地域と共に育つ保育園」にあります。

「私自身も、母として保育園に子どもたちを預けながら商社に勤務する身でした。当時の保育園の園長先生や保育士の先生方をはじめ、多くの方に助けていただきましたし、子どもが育つ環境には未来があります。実際に保育施設の運営を始めて40数年が経ちますが、当時保育園に通っていた子たちが、今、父・母という立場になって自分の子どもを先生に見てもらいたい、と通ってくれます。子どもたちがあっと言う間に社会を背負う大人となって成長していくわけです。

一時保育室として設けられた保育スペースも勾配天井とむき出しになった木の梁が温かく印象的(写真撮影/片山貴博)

一時保育室として設けられた保育スペースも勾配天井とむき出しになった木の梁が温かく印象的(写真撮影/片山貴博)

運動会を公園で開き、げんき広場として地域の方が参加しやすい場にしていく工夫もそうですが、この園舎のエントランスがある事務棟には、地域の方々にも使っていただける開放スペースも用意しました。
地域の方々にも子どもがいる風景を身近に感じていただき、少しずつ対話を重ね、子どもたちが地域の中で育ち、私たち大人も一緒に育つ環境を提供できれば、と考えています」(山田さん)

エントランスを入って目の前にある「つどいのひろば」という部屋は、地域の人々がサークル活動などに使用できるように設けられた(写真撮影/片山貴博)

エントランスを入って目の前にある「つどいのひろば」という部屋は、地域の人々がサークル活動などに使用できるように設けられた(写真撮影/片山貴博)

キッズデザイン賞の審査員のコメントには「保育園新設に対する近隣との対立は社会問題化している。対話を通じて挙がってきた課題や要望を、デザインを通じて解決し、結果として保育環境の向上につながったプロセスは特筆すべきものである」とあります。この、近隣にも園内の保育環境にも配慮して設計された保育園は、見学希望者が後を絶たないそうです。
代沢ききょう保育園の取り組みを自治体や運営事業者の工夫例として参考にしていくことはもちろん、一方で、住民側として、子育て中の親として、筆者も主体的に地域福祉に尽力・協力する、という共助的な環境づくりに貢献できれば、と想いを強くした取材でした。

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●取材協力
社会福祉法人桔梗
代沢ききょう保育園
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所

「リノベ・オブ・ザ・イヤー 2018」に見る最新リノベーション事情

今年で6回目を迎える「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2018」の授賞式が2018年12月13日に開催され、「この1年を代表するリノベーション作品」が決定しました。住宅から商業施設までさまざまな施工作品はどれも、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれます。最新傾向を探ってみました。
エントリー数1.5倍増。ここ一年でリノベがより広く認知される

今回の「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2018」は、エントリー作品246件のなかからグランプリ1作品、部門別最優秀賞4作品、特別賞13作品が選ばれました。特別賞の受賞数が例年になく13件と多いのは、昨年と比べて1.5倍、過去最多のエントリー数があったからだそう。

2018年を振り返ると、報道番組や経済番組でさかんにリノベーションやリノベ会社が特集され、リノベーションが社会的に広く認知されるようになった1年だったと感じます。エントリー数が増えたのは、「リノベで自分らしい家を手に入れたい」というユーザーが増え、「中古を購入してリノベ」が、住宅を取得する際の選択肢の一つとして当たり前のように意識されるようになったのが一因だと考えられます。今回のエントリー作品一般投票の「いいね!」数が前回の3倍ほどに増えているのも、そうした背景があるからではないでしょうか。

リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、住宅メディア関係者を中心に編成された選考委員によって「今一番話題性がある事例・世相を反映している事例は何か」という視点で選考されるため、年によって受賞作品の傾向がさまざまに変化します。
例えば、2017年は「施主の思いを叶えるオーダーメード」「魅力度を増す再販リノベ物件」、2016年は「空き家リノベが街を活性化」「多様化するDIYリノベ」「インバウンド向けのお宿づくり」「住宅性能を格段に高める」、2015年は「地域再生につながる団地リノベ」「古いものをそのまま活かす」など、リノベトレンドを表した作品が目立っていました。

今回は「作品のクオリティの高さが相当にレベルアップしている」「どれがグランプリに選ばれてもおかしくなかった」と講評されたように、選考は難しく、激戦だったそうです。その戦いを制したグランプリをはじめ、全18受賞作の中から、注目した作品とポイントを見ていきましょう。

【注目point1】「この建物だからこそ」という強い思いが、リデザインを導く

[総合グランプリ]
黒川紀章への手紙(タムタムデザイン+ひまわり) 株式会社タムタムデザイン

空間の仕切りにガラスを多用する大胆なアイデアで、室内のどこからでも海へと視線が伸びます。朝焼けや夕焼けに染まる関門海峡を望む、魅力あるロケーションを最大限活かした作品(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

空間の仕切りにガラスを多用する大胆なアイデアで、室内のどこからでも海へと視線が伸びます。朝焼けや夕焼けに染まる関門海峡を望む、魅力あるロケーションを最大限活かした作品(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

空間をつなげて、玄関にも明るさと開放感を。施工面積69.08平米で、費用は700万円(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

空間をつなげて、玄関にも明るさと開放感を。施工面積69.08平米で、費用は700万円(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

Beforeの写真。このように以前のマンションではよく見られる間取りと内装でした(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

Beforeの写真。このように以前のマンションではよく見られる間取りと内装でした(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

1999年に建築界の巨匠・黒川紀章氏が設計したマンション「門司港レトロハイマート」の一住戸。レトロな街並みに溶け込む外観に比べて無個性だった室内空間を、海と山に囲まれた立地の魅力を最大限引き出すように工夫。リビングからしか絶景を望めなかった間取りを変え、開口部に向かって空間を縦に仕切り、間仕切り壁全体や壁上部をガラスとすることで、室内のどこからも絶景に視線を誘う仕掛けに。

この作品は、リノベ会社が中古物件を購入し、リノベを施した上で販売する「再販リノベ物件」。万人受けするデザインが求められがちな再販物件ですが、設計士は黒川紀章氏の設計思考を読み解き、この土地に本来あるべきだと考えられる住戸の姿を見出して、あえて大胆にリデザインすることで、質の高い一点モノの個性をもたせています。
「このマンションならではという説得力がある」と選考委員を唸らせていました。

【注目point2】すべての人の居場所となる多目的空間が熱い

[無差別級部門・最優秀賞]
ここで何しようって考えるとワクワクして眠れない!~「喫茶ランドリー」 株式会社ブルースタジオ

元工場の高い天井を活かし、居心地の良さを追求。奥にはランドリーマシンが鎮座する不思議な空間に(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

元工場の高い天井を活かし、居心地の良さを追求。奥にはランドリーマシンが鎮座する不思議な空間に(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

オープンから半年ほどでミシンワーク、クラフトワーク、パンづくり、トークショーなど、オーナーや顧客主催の100を超える催しが行われたそう(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

オープンから半年ほどでミシンワーク、クラフトワーク、パンづくり、トークショーなど、オーナーや顧客主催の100を超える催しが行われたそう(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

手袋工場の梱包作業場だった空間を、企業のオフィス兼喫茶イベントスペース「喫茶ランドリー」にコンバージョン。オーナーは「私設の公民館」を目指し、あらゆる人の居場所として設計したそうです。洗濯機やミシン、アイロンなどが置かれ、家事のワークショップやコンサートなども開催。空間の用途を決めず、多目的に誰でも使える場に。オーナーだけでなく、喫茶ランドリーのお客さんがイベントを主催しています。

リノベーションは建物のデザイン性だけでなく、「地域性」も注目される一大要素となっています。地域性とは、そのリノベ物件が新たに街に加わることで、人の流れや暮らしを心豊かに変えてくれるというものです。

空き家となった店舗やオフィス空間などの遊休不動産を、コミュニティスペースや宿泊施設といった人が集う場所にコンバージョンする作品が多く見られますが、使われ方はその作品ごとに多彩です。この「喫茶ランドリー」は使われ方の自由度が“カオス”的に高く、さまざまな交流や出来事を生み出す場所となっている点が高く評価されました。

このほかにも次のような、地域の人々が集う心地よい居場所・複合施設として再生された物件が多いのも近年のトレンド。日本各地で空き物件が生まれ変わっています。

[世代継承コミュニティー賞]
再び光が灯った地域のシンボル『アメリカヤ』 株式会社アトリエいろは一級建築士事務所

商店街のランドマークとして住人に愛された商業ビル。フォトジェニックな雰囲気に新たなファンを呼んでいるとか(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

商店街のランドマークとして住人に愛された商業ビル。フォトジェニックな雰囲気に新たなファンを呼んでいるとか(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

半世紀前に建てられたという古びたたたずまいをそのまま活かし、9つのテナント、コミュニティスペースの入る建物として復活しました(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

半世紀前に建てられたという古びたたたずまいをそのまま活かし、9つのテナント、コミュニティスペースの入る建物として復活しました(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

【注目point3】無個性な新築を一変。「新築リノベ」が市場ニーズを拓く

[1000万円未満部門・最優秀賞]
『MANISH』新しさを壊す 株式会社ブルースタジオ

既存のプランの無駄を削ぎ落としてシンプルに。カラーリングや曲線で個性を表現した物件(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

既存のプランの無駄を削ぎ落としてシンプルに。カラーリングや曲線で個性を表現した物件(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

新築の分譲一戸建てをリノベーションした作品が部門別最優秀賞となりました。一般に、ローコストを売りにしている分譲一戸建ては、コストを抑え、販売しやすいよう汎用的なデザインにするので、画一的で無個性な建物であることが多く見られます。そんな新築で購入した家を、数百万円かけてリノベーションする事例がここ数年で見られるようになりました。セルフリノベーションやDIYする人も年々増えていると感じます。これらは、「より個性的な住まいに」「より自分たちに合う住まいに」というニーズが生んだ現象です。

一般に「リノベーションの意義とは既存建物の再生」であることから、選考会でも受賞対象としてどうかという議論もあったそうです。しかし、新築であっても購入者のニーズを満たさない家に、間取りやデザイン、性能を向上するよう手を加えることで新たな価値をもたらすことは、リノベーションの意義を感じさせます。賢い選択となりうるという点で評価を受けました。
画一的な分譲住宅のあり方にも一石を投じた「新築リノベ」は、時代のニーズを捉え新たな広がりも感じさせています。

【注目point4】デザイン訴求が突き抜けている

[1000万円以上部門・最優秀賞]
家具美術館な家 株式会社grooveagent

「4年暮らしたデンマークで集めたお気に入り家具をゆったり置けること」がデザインテーマ(画像提供/株式会社水雅)

「4年暮らしたデンマークで集めたお気に入り家具をゆったり置けること」がデザインテーマ(画像提供/株式会社水雅)

好きなものが常に目に入るような間取りと壁や床の色に仕上げています(画像提供/株式会社水雅)

好きなものが常に目に入るような間取りと壁や床の色に仕上げています(画像提供/株式会社水雅)

「家具美術館」という作品名が表すように、数々のデンマーク家具・照明の名作を見せることに特化したミニマル空間に仕立てました。北欧家具を置く家はどちらかというとほっこりしたカフェ的空間となりがちですが、家具の有機的なフォルムやファブリックの色合いを引き立てるよう、美術館のようなホワイトキューブ的空間にして床壁天井を白基調に。家具のデザインが際立つ空間となりました。

住宅デザインでは建築そのものを主役と捉え、家具は二の次という扱いが多いのですが、それが入れ替わった空間づくりとなっています。

このほかにも下記作品のように、施主のデザインへの追求が「半端ないって!」という作品も目立っていました。

[特別賞・こだわりデザインR1賞]
もっと黒くしたい 株式会社ニューユニークス

「全てを黒くしたい」という施主の強烈な思いが形になった家。どんな黒をどう用いるのが理想的なのか話し合いを重ね、つや消しの黒でグラデーション的に仕上げた空間です(画像提供/株式会社ニューユニークス)

「全てを黒くしたい」という施主の強烈な思いが形になった家。どんな黒をどう用いるのが理想的なのか話し合いを重ね、つや消しの黒でグラデーション的に仕上げた空間です(画像提供/株式会社ニューユニークス)

[500万円未満部門・最優秀賞]
groundwork 株式会社水雅

ヴィンテージ感漂う作品。予算に縛りがあるなかでどこに力点を置くか、施主と設計士の知恵とこだわりが活かされています。本当に500万円未満なの?という作品が増えている中で、特にチャレンジ性のあるこの作品が受賞(画像提供/株式会社水雅)

ヴィンテージ感漂う作品。予算に縛りがあるなかでどこに力点を置くか、施主と設計士の知恵とこだわりが活かされています。本当に500万円未満なの?という作品が増えている中で、特にチャレンジ性のあるこの作品が受賞(画像提供/株式会社水雅)

【注目point5】温故知新・古さの心地よさを知る

再生によって、古いものが持つ味わいや温かみが蘇った事例は、そこを訪れる人々の心まで温めてくれます。役割を終えて朽ちていくだけの建物、見捨てられた住宅が新たな役目を持ち、人々に愛される存在となるからです。そうした作品も注目を集めていました。

[デスティネーションデザイン賞]
国境離島と記憶の再生(タムタムデザイン+コナデザイン) 株式会社タムタムデザイン

20年前から空き家となり、廃墟寸前だった築90年の元旅館と蔵。壱岐島という小さな離島の全住人がこの建物の再生を希望したそうで、新たに島外の人をも魅了する旅館と飲食店として蘇りました。90年分の人々の記憶を未来へ引き継ぎます(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

20年前から空き家となり、廃墟寸前だった築90年の元旅館と蔵。壱岐島という小さな離島の全住人がこの建物の再生を希望したそうで、新たに島外の人をも魅了する旅館と飲食店として蘇りました。90年分の人々の記憶を未来へ引き継ぎます(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

[ヘリテイジリノベーション賞]
築187年、執念のお色直し 株式会社連空間デザイン研究所

1831年に建てられた古民家を昔の面影をそのまま活かし、店舗・レストランにリノベーション。竣工後、引き渡し直前に熊本地震で柱が傾き、瓦が落ち、土壁は剥がれるという大きな被害を受け、さらに再建に1年を要したそうです(画像提供/株式会社連空間デザイン研究所)

1831年に建てられた古民家を昔の面影をそのまま活かし、店舗・レストランにリノベーション。竣工後、引き渡し直前に熊本地震で柱が傾き、瓦が落ち、土壁は剥がれるという大きな被害を受け、さらに再建に1年を要したそうです(画像提供/株式会社連空間デザイン研究所)

リノベは一点モノのオーダーメードだから、多様化がより深化

これまでのリノベーション・オブ・ザ・イヤーでは、その年ならではのトレンドや社会性というものをはっきり見て取ることができました。しかし今回は、作品数が多いこともあってか、傾向というよりは内容の多彩さとカテゴリーの幅広さが注目されました。

リノベーションは、「こんな暮らしがしたい」「こんな場所をつくりたい」という熱い思いを具体的な形に変えてくれる、住人やオーナー一人一人にとっての一点モノ、究極のオーダーメードでもあるので、事例が多彩なのは当然のことなのだと実感する年となりました。
前章で紹介した作品以外にも、次のようにバリエーションの幅が広く、個性の際立った作品が多々ありました。

●「リビ充(リビング充実)」をテーマにおしゃれに。心豊かに暮らせる築45年の団地(下写真参照)
●6000万円をかけた再販リノベ物件。資産価値を格段に高めた築130年の京町家(下写真参照)
●商店街の中心にある商業ビルを温もりある雰囲気の保育園にコンバージョン(下写真参照)
●ファッションブランドというニュープレイヤーが提案する、コーデも収納もしやすいプラン(下写真参照)
●新宿駅南口駅前の築39年のオフィスビルに、住機能を併せ持ったオフィス空間を提案
●家の中心に箱型階段室を設け、明るさや風通しなど暮らしの快適性能をアップさせた一戸建て
●劣化した屋根や天井床壁、サッシの断熱化、太陽光発電器の搭載などで低燃費に暮らす

コストパフォーマンスデザイン賞「リビ充団地」。団地が低コストでおしゃれに(写真提供/タムタムデザイン)

コストパフォーマンスデザイン賞「リビ充団地」。団地が低コストでおしゃれに(写真提供/タムタムデザイン)

ベストバリューアップ賞「OMOTENASHI HOUSE」。風致地区の高台という立地の良さも活かされています(写真提供/株式会社八清)

ベストバリューアップ賞「OMOTENASHI HOUSE」。風致地区の高台という立地の良さも活かされています(写真提供/株式会社八清)

共感リノベーション賞「そらのまちほいくえん」。鹿児島天文館の商業ビルを子どもが集う場所に(写真提供/内村建設株式会社)

共感リノベーション賞「そらのまちほいくえん」。鹿児島天文館の商業ビルを子どもが集う場所に(写真提供/内村建設株式会社)

ベストマーケティング賞「WEAR I LIVE」。試着室のようなクローゼットでコーデが楽に(写真提供/フージャースコーポレーション)

ベストマーケティング賞「WEAR I LIVE」。試着室のようなクローゼットでコーデが楽に(写真提供/フージャースコーポレーション)

今回のバリエーション豊富な作品群を拝見し、さまざまな制約のもと自由な発想で施されたリノベーション作品それぞれに、新たな役割をもった建物の「再生の物語」を数多く垣間見ることができました。既存の建物にまったく異なる価値をもたらすのがリノベの一番の醍醐味。今後も一人一人の熱い思いを形にした多彩な作品の完成を期待しています。

赤絨毯にタキシードが決まっている受賞者のみなさん。受賞作品数は過去最多となりました(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

赤絨毯にタキシードが決まっている受賞者のみなさん。受賞作品数は過去最多となりました(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2018」

1日で正月を迎えられる状態に! 時短大掃除のポイントをプロが伝授

暮れも押し迫ってくると、気になりだすのは大掃除のこと。家を整えて気持ちよく正月を迎えたいと思う一方で、年末は仕事も山盛り、忘年会の予定も目白押しで忙しいですよね。そこで忙しい人に向けて1日で大掃除を終えるポイントとコツをプロにきいてきました。
年末の大掃除。時間がないときの“簡単に家の中をスッキリさせるワザ”

「新しい年を迎えるために、大掃除をしてきちんと家を整えたい」。そんな気持ちがありつつも、忙しい年末には大掃除まで手が回らないもの。それに、なんといっても寒くて掃除が辛いですよね。住まい方アドバイザーの近藤典子(こんどう・のりこ)さんによれば、気候的には冬は大掃除に適した季節ではないそう。

「暖かい季節なら、窓を開け放ってお掃除をしても辛くありませんよね。夏場は水気もよく乾きますし、軽装で体を動かせる。それに日も長いので、お掃除のしやすさでいったら、年末のような真冬よりも夏に軍配が上がります」(近藤さん)

とはいえひとつの区切りとして、年が改まる前にお掃除をしておきたい。そんな時に、おさえるべきポイントがあると近藤さんはいいます。

「お掃除は時間をかけて極めようと思えば、とても年末の1日では足りません。でも、忙しくて寒い年末に、全てを完璧にやろうとして消耗しなくてよいのです。年末には日々使う部分ではなく、ついつい後回しにして汚れを溜め込んでしまいがちなお掃除を簡単に効率よく片付けておきましょう。そこで時短でできて、格段に部屋がキレイに見えるポイントをお掃除すると、お正月を気持ちよく過ごせますよ」(近藤さん)

年末にやるべき掃除と、時短でキレイに見える掃除とは? さっそくその方法を教えてもらいましょう。

近藤典子さん 画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

近藤典子さん 画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

来年に持ち越してはいけないアノ汚れを、一気に取り払おう

大掃除というと、換気扇を外して洗ったり、バスルームのカビを徹底的に落としたりといった水回りの掃除に目がいきがちな人も多いのでは? ところが近藤さんによれば、重視するべきポイントは他にあるとのことです。

「水回りの掃除って、別に大掃除じゃなくてもいいと思うんです。料理は日々するものだし、お風呂も入りますよね。だから日常のなかの汚れが気になった頃合いに、休日を使って掃除してもよい。それよりも汚れのなかで一番の強敵は埃(ホコリ)です。埃落としは大掃除の機会にしっかりしておきたいですね」(近藤さん)

大掃除は1年の汚れを落とすだけではなく、来年も気持ちよく暮らしたいという願いを込めて行うもの。ならば知らない間に降り積もり、後々やっかいな汚れに変化してしまう“埃汚れ”こそ落とすべきだと、近藤さんはいいます。

「最初に埃が溜まりだした時は、吹いたら飛んでいくくらい軽いものです。ところがこれに湿気や生活汚れ、油汚れなどがつくと、張り付き現象が起こって、汚れのミルフィーユが形成されます。こうなるとこびりついてなかなか落ちないやっかいな存在に。たとえば油汚れも、油だけならすぐに落ちるんですよ。それに埃が張り付くから落ちにくい汚れになってしまうのです」(近藤さん)

床に溜まった埃は普段の掃除の際に取り去っている人も多いかもしれませんが、上部にも埃は溜まります。天井や棚の上など、家の上方は普段掃除しにくい箇所なので、大掃除でしっかり掃除しましょう。

埃を一掃する大掃除の手順は?

まず埃を落とす前に部屋にあるものをざっと片付けます。ここで気をつけるべきは「片付けることに一生懸命になりすぎない」こと。掃除と片付けは別物と心得ましょう。

「捨てられるものは捨てて、判断に迷うものは大きな袋に入れて自分の部屋に一時置き、年が明けてから徐々に片付ければよいのです。しまい込んでしまうと忘れるので、少し邪魔に思うくらいの目立つ場所に置いてくださいね。また埃を落とす前に窓や網戸を開けて風通しを良くしたら、レースのカーテンを外してソファや机、パソコンなどの埃がついて欲しくないものに掛けて置きます。埃落としが終わったら、そのレースのカーテンを外で叩いて埃だけ落とし、すぐに洗濯。脱水したレースのカーテンならそのままカーテンレールに掛けておけばすぐに乾き、一石二鳥ですよ」(近藤さん)

天井と壁は紙のモップで一気に埃を落とします。家具の表面も紙モップ。照明の電球部分の裏側は化学繊維のモップを使いましょう。
「10畳までぐらいのお部屋なら、ものの5~6分で埃落としが終わりますよ。そうしたら床も埃を集めて取り去ります。順番は上から下に行うこと。埃を取り去った後で拭き掃除をすれば、汚れが絡まらずに楽々と拭けるはずです」(近藤さん)

まず紙のモップと化学繊維のモップで埃をしっかりと落として取り去れば、その後の拭き掃除も楽になる(画像提供/PIXTA)

まず紙のモップと化学繊維のモップで埃をしっかりと落として取り去れば、その後の拭き掃除も楽になる(画像提供/PIXTA)

ココを磨けば、格段に部屋が輝いて見える! その箇所は?

部屋に降り積もった埃をリセットした後は、分かりやすく「部屋がキレイになった」実感を得られる場所を掃除しましょう。その場所とは、ズバリ“窓”なのです。

「窓掃除を難しく考えている人が多いのですが、とても簡単な方法があります。窓がキレイになると部屋が明るくなって、輝いて見えるのでお正月も気持ちよく過ごせますよ。しかも、一手間かけるだけで1年はキレイが長持ちする隠し技もあるんです!」(近藤さん)

近藤さんが窓掃除のために用意するのがストッキング。伝線したり使い古しでOKです。こちらの片足を切って袋をつくりストッキングの残りの部分をそのなかに詰めます。最後に切り口を縛れば、「ストッキングたわし」の出来上がりです。これが、窓を傷つけずに汚れを落とすのに、最適なのだそう。

道具は、このストッキングたわし、スクイージー、雑巾、バケツです。
手順は次のとおり。

1)ストッキングたわしで窓のガラスを円を描くようにこすり、静電気で表面の埃や汚れを取り除く
2)熱めのお湯で雑巾をゆるく絞り窓全体を洗うように拭く
3)窓の水滴をスクイージーで取り除く
※汚れが強い場合は1)と2)の間にストッキングたわしに住居用洗剤かクリームクレンザーをつけてこする

これでお掃除は終わり。とっても簡単なのに思いの外の出来栄えに、気分もアップしますよ。そして最後の仕上げに大切なのが「車の撥水剤を塗る」こと。

「塗るタイプの撥水剤を、窓ガラスの外側にだけ塗っておきます。撥水剤は水を弾いてくれるものですが、実は埃もつかなくなるのです。これで、1年は窓がキレイな状態が続きますよ。一年経ったらまたクリームクレンザーでコーティングを落としてお掃除し、撥水剤を塗りなおしましょう」(近藤さん)

また、網戸の掃除は大きな歯ブラシにも似た「洗車ブラシ」が役に立ちます。窓を閉めた状態で、網戸の目に沿って洗車ブラシでなぞるだけで、目の間に詰まった埃もキレイに取れてしまいます。

「車のボディ用の柔らかい洗車ブラシは毛足が長く、目に入り込んだ埃も簡単に取り除けます。またサッシの溝は掃除機のすき間ノズルに、ストローを貼り付けて一気に吸い取ってしまいましょう」(近藤さん)

憂鬱だった窓掃除が、この方法なら楽にできそうです。しかも、来年一年間、大掃除直後のキレイな状態が続くなら、ぜひ試してみたいですよね。

ストッキングたわしで窓を傷つけずに汚れを落とす(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

ストッキングたわしで窓を傷つけずに汚れを落とす(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

したたる状態の雑巾で洗い拭き(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

したたる状態の雑巾で洗い拭き(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

スクイージーは水や洗剤を切る際に便利(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

スクイージーは水や洗剤を切る際に便利(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

網戸は洗車ブラシでブラッシングするだけ!(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

網戸は洗車ブラシでブラッシングするだけ!(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

サッシはストローをつけたすき間ノズルで(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

サッシはストローをつけたすき間ノズルで(画像提供/近藤典子Home&Life研究所)

大変な労力をかけて大掃除をし、家中をピカピカにしたはよいけれど、そこで忙しい年末の限られた時間や気力を使い果たしてお正月……というのは、よくあるパターン。そんなことを繰り返さないためにも、今年は余力を残しつつ来年のお掃除のやる気を上げられる、“モチベーションアップ系”の時短大掃除にしてみませんか?

●取材協力
近藤典子Home&Life研究所

知られざる「危険ヒートショック」とは? 香川、兵庫、滋賀がワースト3

死者は年間1万9000人にものぼるというのに、アンケートをとると「よく知らない」と答える人が約半数――。身近なのにあまり知られていない危険が「ヒートショック」です。今回はそんな「ヒートショック」が起きる原因ともいえる「室内温度差」を体験できる施設を訪問。その対策を探ってきました。
冬は家でも寒いのが当たり前? それが命取りになるかも!

そもそも、「ヒートショック」という言葉そのものはニュースなどで耳にしたことがある人も多いことでしょう。お風呂やトイレなど、家の中の急激な温度差より、血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象をいいます。ただ、アンケート調査によるとこのヒートショックを「よく知らない」という人は約半数、危険だと思わない人は約8割にものぼります(※1)。つまり、なんとなく知っているけど、「ひとごと」だと思われているのです。

実はこのヒートショックによる浴室での死亡事故は年々増加傾向にあり、昨年は1万9000人もの方が亡くなっています。また、発生している県でいうと、香川、兵庫、滋賀がワースト3になり、ついで東京、和歌山という結果もあります(※2)。一方で、寒い北海道は沖縄についで死者数が少ないという結果に。

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「北海道では、住まいの断熱性能が高く全館暖房が普及しており、バス・トイレも含めてどの部屋も均一にあたたまるようにしています。一方で、関東、近畿エリアでは、夏暑く、冬寒い。こうした過酷な気候条件のわりには住まいの断熱性能が高くないため、浴槽内でのヒートショック現象が比較的多く起きるのではないか、と考えられています」と話すのはLIXIL LHT営業本部 営業推進部の古溝洋明さん(以下同)。
 
「ただ単に、『ヒートショックが起きています』『断熱性や部屋間の温度差が大事なんです』と言葉で言っても、なかなか伝わらないんです。そこで、われわれは実際に『部屋の温度差』を体感していただける『住まいStudio』というショールームをつくり、多くの人に体験してもらっているのです」と言います。確かに論より証拠です、さっそく体験しに行ってみましょう。

エアコン設定温度、部屋の広さなどは同一条件なのに、室温には大きな差が

ショールームに設置されているのは、昔の家(昭和55年省エネ基準)と今の家(平成28年省エネ基準)、これからの家(HEAT20 G2グレード※)、の3タイプ。広さや間取り、エアコンの設定温度、外気温はすべて同じという条件で、室温がどう違うのかを体感します。
※HEAT20=「2020年を見据えた住宅の高断熱技術開発委員会」

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

「まず、体感してもらうのが、昔の家です。日本にある家のうち、約75%がこの基準以下だと言われています。エアコンの設定温度は20度で、部屋中心部は20度ですが、床の温度は16度です」。確かに寒く、足先が冷えるのがよく分かります。また、何より窓際がひんやり。寒いのが苦手な筆者は窓に近寄りたくありません。

さらに、扉で仕切られた隣の部屋(脱衣所とトイレの設定)はなおのこと冷えがきつく、「この寒さ、知っている。アレだ、実家だ……!」と思い出します。温度計は9度で、これだけで10度近い温度差に。そういえば、こうした寒さを活用し、「ビールを冷やす」「みかんやりんごを置いておく」「ケーキを置いておく」など天然の冷蔵庫としている家庭も多いことでしょう。

この寒さで、昔は「しもやけ」になっている子どももいましたよね(ご存じでしょうか……)。何より寒いので動くのがおっくうになりますし、エアコンの暖房で頭のまわりはむわむわしているのに、足元は冷え冷えとしているのも不快です。

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

「次に体感していただくのが、今の家です。床の温度は17.9度。だいぶ暖房が効いているのを実感できるのではないでしょうか。サーモカメラでも、だいぶ緑の部分が見えてきたと思います」。確かに、窓際も先ほどの部屋ほどは寒くは感じません。それでも、足先は冷えるので「満足か」と聞かれると「う~ん、でもちょっと寒いよね」というのが正直な感想です。ましてや隣室の脱衣所・トイレの寒さは、昔の家よりもちょいマシという程度で、「うーさぶい。トイレ行くの、めんどくさいな~」と生活している様子が目に浮かびます。

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

「最後がこれからの家です。これくらいの断熱性能を目指したいよね、という住まいです。ここでやっと床の温度が20度になり、冷えを感じにくくなるのではないでしょうか。また隣室の暖房をしていないトイレや脱衣場との温度差も5度以内におさまり、人が『不快』と感じにくくなくなります」

確かにスリッパなしでも歩けるようになるし、温かくて心地よくなります。また、試算(※3)では、昔の家では約2万8000円の光熱費がかかるのに対し、今の家では約1万3000円、これからの家では約7000円と約1/4になるのも驚きです。省エネになるので、地球環境にもやさしくなります。

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

室温が健康に与える影響は大きい。体験すると印象は大きく変わる

この「住まいStudio」は誕生してから約1年超が経過しますが、月間約1000人が訪れ、体感すると大きな変化があるといいます。

「正直なところ、はじめはみなさん、あまり期待されていらっしゃらないようなのですが、『体験するうちにこれが快適な温度なんだな』と納得されていますね。特に女性は、当初はキッチンや間取りに注目されているのですが、体感後は『家は断熱! 温度差はないほうがいい!』という方が多いですね」といいますが、まったく同感です。

実は筆者、40代に入り高血圧と診断され、寒いと血圧が上がるようになりました。いわばヒートショックになりやすい「予備軍」なので、ひとごとではありません。では、今からできる対策はどのようなものがあるのでしょうか。

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

「部屋間の温度差をなくすには、建物そのものの気密・断熱性を高める必要があります。ただ、こうした性能は、住んでから改修するのは難しいもの。これから住まいを建てる方に関しては、こうした気密・断熱性能に注目し、検討してほしいですね」

ただ、日本にある家の多くは「昔の家」と同じ水準かそれ以下の断熱性能になります。

「今ある住まいに関しては、開口部、つまり窓の断熱性能を高めるリフォームで対策できます。内窓を追加する、今ある窓をハイブリッド窓にするといったリフォームでも、断熱性は大きく向上します。また、脱衣所や浴室の断熱性を高めるリフォームも比較的かんたんな工事で行えます」

今回、部屋内の温度差を体験してみて、もしかしたら温度差は想像以上に私たちの健康を害しているのかもしれないな、と思いました。「冬は寒いのは当たり前」「がまんすれば大丈夫」と思い込む前に、今一度、住まいの温度についても考えてみてほしいと思います。

●取材協力
LIXIL 快適暮らし体験 住まいStudio
※1 STOP!ヒートショック 東京ガス都市生活研究所 
※2 東京都健康長寿医療センター研究所
※3 試算=studio各部屋を12/1~3/31の暖房期間にエアコン暖房した場合の電気代

知られざる危険「ヒートショック」とは? 香川、兵庫、滋賀がワースト3

死者は年間1万9000人にものぼるというのに、アンケートをとると「よく知らない」と答える人が約半数――。身近なのにあまり知られていない危険が「ヒートショック」です。今回はそんな「ヒートショック」が起きる原因ともいえる「室内温度差」を体験できる施設を訪問。その対策を探ってきました。
冬は家でも寒いのが当たり前? それが命取りになるかも!

そもそも、「ヒートショック」という言葉そのものはニュースなどで耳にしたことがある人も多いことでしょう。お風呂やトイレなど、家の中の急激な温度差より、血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象をいいます。ただ、アンケート調査によるとこのヒートショックを「よく知らない」という人は約半数、危険だと思わない人は約8割にものぼります(※1)。つまり、なんとなく知っているけど、「ひとごと」だと思われているのです。

実はこのヒートショックによる浴室での死亡事故は年々増加傾向にあり、昨年は1万9000人もの方が亡くなっています。また、発生している県でいうと、香川、兵庫、滋賀がワースト3になり、ついで東京、和歌山という結果もあります(※2)。一方で、寒い北海道は沖縄についで死者数が少ないという結果に。

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「北海道では、住まいの断熱性能が高く全館暖房が普及しており、バス・トイレも含めてどの部屋も均一にあたたまるようにしています。一方で、関東、近畿エリアでは、夏暑く、冬寒い。こうした過酷な気候条件のわりには住まいの断熱性能が高くないため、浴槽内でのヒートショック現象が比較的多く起きるのではないか、と考えられています」と話すのはLIXIL LHT営業本部 営業推進部の古溝洋明さん(以下同)。
 
「ただ単に、『ヒートショックが起きています』『断熱性や部屋間の温度差が大事なんです』と言葉で言っても、なかなか伝わらないんです。そこで、われわれは実際に『部屋の温度差』を体感していただける『住まいStudio』というショールームをつくり、多くの人に体験してもらっているのです」と言います。確かに論より証拠です、さっそく体験しに行ってみましょう。

エアコン設定温度、部屋の広さなどは同一条件なのに、室温には大きな差が

ショールームに設置されているのは、昔の家(昭和55年省エネ基準)と今の家(平成28年省エネ基準)、これからの家(HEAT20 G2グレード※)、の3タイプ。広さや間取り、エアコンの設定温度、外気温はすべて同じという条件で、室温がどう違うのかを体感します。
※HEAT20=「2020年を見据えた住宅の高断熱技術開発委員会」

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

「まず、体感してもらうのが、昔の家です。日本にある家のうち、約75%がこの基準以下だと言われています。エアコンの設定温度は20度で、部屋中心部は20度ですが、床の温度は16度です」。確かに寒く、足先が冷えるのがよく分かります。また、何より窓際がひんやり。寒いのが苦手な筆者は窓に近寄りたくありません。

さらに、扉で仕切られた隣の部屋(脱衣所とトイレの設定)はなおのこと冷えがきつく、「この寒さ、知っている。アレだ、実家だ……!」と思い出します。温度計は9度で、これだけで10度近い温度差に。そういえば、こうした寒さを活用し、「ビールを冷やす」「みかんやりんごを置いておく」「ケーキを置いておく」など天然の冷蔵庫としている家庭も多いことでしょう。

この寒さで、昔は「しもやけ」になっている子どももいましたよね(ご存じでしょうか……)。何より寒いので動くのがおっくうになりますし、エアコンの暖房で頭のまわりはむわむわしているのに、足元は冷え冷えとしているのも不快です。

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

「次に体感していただくのが、今の家です。床の温度は17.9度。だいぶ暖房が効いているのを実感できるのではないでしょうか。サーモカメラでも、だいぶ緑の部分が見えてきたと思います」。確かに、窓際も先ほどの部屋ほどは寒くは感じません。それでも、足先は冷えるので「満足か」と聞かれると「う~ん、でもちょっと寒いよね」というのが正直な感想です。ましてや隣室の脱衣所・トイレの寒さは、昔の家よりもちょいマシという程度で、「うーさぶい。トイレ行くの、めんどくさいな~」と生活している様子が目に浮かびます。

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

「最後がこれからの家です。これくらいの断熱性能を目指したいよね、という住まいです。ここでやっと床の温度が20度になり、冷えを感じにくくなるのではないでしょうか。また隣室の暖房をしていないトイレや脱衣場との温度差も5度以内におさまり、人が『不快』と感じにくくなくなります」

確かにスリッパなしでも歩けるようになるし、温かくて心地よくなります。また、試算(※3)では、昔の家では約2万8000円の光熱費がかかるのに対し、今の家では約1万3000円、これからの家では約7000円と約1/4になるのも驚きです。省エネになるので、地球環境にもやさしくなります。

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

室温が健康に与える影響は大きい。体験すると印象は大きく変わる

この「住まいStudio」は誕生してから約1年超が経過しますが、月間約1000人が訪れ、体感すると大きな変化があるといいます。

「正直なところ、はじめはみなさん、あまり期待されていらっしゃらないようなのですが、『体験するうちにこれが快適な温度なんだな』と納得されていますね。特に女性は、当初はキッチンや間取りに注目されているのですが、体感後は『家は断熱! 温度差はないほうがいい!』という方が多いですね」といいますが、まったく同感です。

実は筆者、40代に入り高血圧と診断され、寒いと血圧が上がるようになりました。いわばヒートショックになりやすい「予備軍」なので、ひとごとではありません。では、今からできる対策はどのようなものがあるのでしょうか。

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

「部屋間の温度差をなくすには、建物そのものの気密・断熱性を高める必要があります。ただ、こうした性能は、住んでから改修するのは難しいもの。これから住まいを建てる方に関しては、こうした気密・断熱性能に注目し、検討してほしいですね」

ただ、日本にある家の多くは「昔の家」と同じ水準かそれ以下の断熱性能になります。

「今ある住まいに関しては、開口部、つまり窓の断熱性能を高めるリフォームで対策できます。内窓を追加する、今ある窓をハイブリッド窓にするといったリフォームでも、断熱性は大きく向上します。また、脱衣所や浴室の断熱性を高めるリフォームも比較的かんたんな工事で行えます」

今回、部屋内の温度差を体験してみて、もしかしたら温度差は想像以上に私たちの健康を害しているのかもしれないな、と思いました。「冬は寒いのは当たり前」「がまんすれば大丈夫」と思い込む前に、今一度、住まいの温度についても考えてみてほしいと思います。

●取材協力
LIXIL 快適暮らし体験 住まいStudio
※1 STOP!ヒートショック 東京ガス都市生活研究所 
※2 東京都健康長寿医療センター研究所
※3 試算=studio各部屋を12/1~3/31の暖房期間にエアコン暖房した場合の電気代

知られざる危険「ヒートショック」とは? 香川、兵庫、滋賀がワースト3

死者は年間1万9000人にものぼるというのに、アンケートをとると「よく知らない」と答える人が約半数――。身近なのにあまり知られていない危険が「ヒートショック」です。今回はそんな「ヒートショック」が起きる原因ともいえる「室内温度差」を体験できる施設を訪問。その対策を探ってきました。
冬は家でも寒いのが当たり前? それが命取りになるかも!

そもそも、「ヒートショック」という言葉そのものはニュースなどで耳にしたことがある人も多いことでしょう。お風呂やトイレなど、家の中の急激な温度差より、血圧が大きく変動し、失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす現象をいいます。ただ、アンケート調査によるとこのヒートショックを「よく知らない」という人は約半数、危険だと思わない人は約8割にものぼります(※1)。つまり、なんとなく知っているけど、「ひとごと」だと思われているのです。

実はこのヒートショックによる浴室での死亡事故は年々増加傾向にあり、昨年は1万9000人もの方が亡くなっています。また、発生している県でいうと、香川、兵庫、滋賀がワースト3になり、ついで東京、和歌山という結果もあります(※2)。一方で、寒い北海道は沖縄についで死者数が少ないという結果に。

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター」報道発表資料より。高齢者1万人あたりCPA(入浴中心肺停止状態)の件数

「北海道では、住まいの断熱性能が高く全館暖房が普及しており、バス・トイレも含めてどの部屋も均一にあたたまるようにしています。一方で、関東、近畿エリアでは、夏暑く、冬寒い。こうした過酷な気候条件のわりには住まいの断熱性能が高くないため、浴槽内でのヒートショック現象が比較的多く起きるのではないか、と考えられています」と話すのはLIXIL LHT営業本部 営業推進部の古溝洋明さん(以下同)。
 
「ただ単に、『ヒートショックが起きています』『断熱性や部屋間の温度差が大事なんです』と言葉で言っても、なかなか伝わらないんです。そこで、われわれは実際に『部屋の温度差』を体感していただける『住まいStudio』というショールームをつくり、多くの人に体験してもらっているのです」と言います。確かに論より証拠です、さっそく体験しに行ってみましょう。

エアコン設定温度、部屋の広さなどは同一条件なのに、室温には大きな差が

ショールームに設置されているのは、昔の家(昭和55年省エネ基準)と今の家(平成28年省エネ基準)、これからの家(HEAT20 G2グレード※)、の3タイプ。広さや間取り、エアコンの設定温度、外気温はすべて同じという条件で、室温がどう違うのかを体感します。
※HEAT20=「2020年を見据えた住宅の高断熱技術開発委員会」

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋のサーモカメラ映像を比較すると、暖かさの違いが一目りょう然。暖かい部屋だと心地よく、行動も活発になるそう(写真撮影/嘉屋恭子)

「まず、体感してもらうのが、昔の家です。日本にある家のうち、約75%がこの基準以下だと言われています。エアコンの設定温度は20度で、部屋中心部は20度ですが、床の温度は16度です」。確かに寒く、足先が冷えるのがよく分かります。また、何より窓際がひんやり。寒いのが苦手な筆者は窓に近寄りたくありません。

さらに、扉で仕切られた隣の部屋(脱衣所とトイレの設定)はなおのこと冷えがきつく、「この寒さ、知っている。アレだ、実家だ……!」と思い出します。温度計は9度で、これだけで10度近い温度差に。そういえば、こうした寒さを活用し、「ビールを冷やす」「みかんやりんごを置いておく」「ケーキを置いておく」など天然の冷蔵庫としている家庭も多いことでしょう。

この寒さで、昔は「しもやけ」になっている子どももいましたよね(ご存じでしょうか……)。何より寒いので動くのがおっくうになりますし、エアコンの暖房で頭のまわりはむわむわしているのに、足元は冷え冷えとしているのも不快です。

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家。青い部分が多く、見るからに寒々しい。暖房がフル稼働していても、頭と足元で温度差がある(写真撮影/嘉屋恭子)

「次に体感していただくのが、今の家です。床の温度は17.9度。だいぶ暖房が効いているのを実感できるのではないでしょうか。サーモカメラでも、だいぶ緑の部分が見えてきたと思います」。確かに、窓際も先ほどの部屋ほどは寒くは感じません。それでも、足先は冷えるので「満足か」と聞かれると「う~ん、でもちょっと寒いよね」というのが正直な感想です。ましてや隣室の脱衣所・トイレの寒さは、昔の家よりもちょいマシという程度で、「うーさぶい。トイレ行くの、めんどくさいな~」と生活している様子が目に浮かびます。

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

今の家。床温度は18度弱。まだまだ十分、暖かいとは言い難い(写真撮影/嘉屋恭子)

「最後がこれからの家です。これくらいの断熱性能を目指したいよね、という住まいです。ここでやっと床の温度が20度になり、冷えを感じにくくなるのではないでしょうか。また隣室の暖房をしていないトイレや脱衣場との温度差も5度以内におさまり、人が『不快』と感じにくくなくなります」

確かにスリッパなしでも歩けるようになるし、温かくて心地よくなります。また、試算(※3)では、昔の家では約2万8000円の光熱費がかかるのに対し、今の家では約1万3000円、これからの家では約7000円と約1/4になるのも驚きです。省エネになるので、地球環境にもやさしくなります。

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

これからの家。サーモカメラでも黄色が増えてきて、だいぶ過ごしやすく感じる。室内の頭部と床に温度ムラがないので心地よい(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

3部屋の温度データを比較。人は部屋間の温度差が5度を超えると「不快」と感じるそう。これからの家には、熱交換換気システムを搭載し、しっかり換気しながら熱を逃さない工夫をしている(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

冬の寒さだけでなく、夏の日差しを体験できる部屋もある。南向きの窓、西向きの窓から入る日差しの違い、遮り方の工夫を紹介してくれた(写真撮影/嘉屋恭子)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

自宅の温度を計ってもらおうと、LIXILのショールームでは、窓製品の見積もりをとった人に温度計を配布している(写真提供/LIXIL)

室温が健康に与える影響は大きい。体験すると印象は大きく変わる

この「住まいStudio」は誕生してから約1年超が経過しますが、月間約1000人が訪れ、体感すると大きな変化があるといいます。

「正直なところ、はじめはみなさん、あまり期待されていらっしゃらないようなのですが、『体験するうちにこれが快適な温度なんだな』と納得されていますね。特に女性は、当初はキッチンや間取りに注目されているのですが、体感後は『家は断熱! 温度差はないほうがいい!』という方が多いですね」といいますが、まったく同感です。

実は筆者、40代に入り高血圧と診断され、寒いと血圧が上がるようになりました。いわばヒートショックになりやすい「予備軍」なので、ひとごとではありません。では、今からできる対策はどのようなものがあるのでしょうか。

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

昔の家、今の家、これからの家の断面模型。これからの家は断熱材がしっかりと入り、窓の断熱性・気密性が高く、熱が逃げにくくなっている(写真撮影/嘉屋恭子)

「部屋間の温度差をなくすには、建物そのものの気密・断熱性を高める必要があります。ただ、こうした性能は、住んでから改修するのは難しいもの。これから住まいを建てる方に関しては、こうした気密・断熱性能に注目し、検討してほしいですね」

ただ、日本にある家の多くは「昔の家」と同じ水準かそれ以下の断熱性能になります。

「今ある住まいに関しては、開口部、つまり窓の断熱性能を高めるリフォームで対策できます。内窓を追加する、今ある窓をハイブリッド窓にするといったリフォームでも、断熱性は大きく向上します。また、脱衣所や浴室の断熱性を高めるリフォームも比較的かんたんな工事で行えます」

今回、部屋内の温度差を体験してみて、もしかしたら温度差は想像以上に私たちの健康を害しているのかもしれないな、と思いました。「冬は寒いのは当たり前」「がまんすれば大丈夫」と思い込む前に、今一度、住まいの温度についても考えてみてほしいと思います。

●取材協力
LIXIL 快適暮らし体験 住まいStudio
※1 STOP!ヒートショック 東京ガス都市生活研究所 
※2 東京都健康長寿医療センター研究所
※3 試算=studio各部屋を12/1~3/31の暖房期間にエアコン暖房した場合の電気代

DIY可の賃貸物件の先駆け「ジョンソンタウン」レポート。埼玉にある米国の暮らしとは?

白い木壁の家が垣根なく立ち並び、足元には緑の芝生が広がる……。埼玉なのに、まるで米国のようなたたずまいで人気を集めているジョンソンタウン。住まいの合間にはショップも点在し、週末には多くの人が訪れ、今や入間の「名所」にもなっています。現在は約80棟があり、約200人が暮らしていますが、実際の暮らしぶりはどのようなものなのでしょうか。
街並みと建物に一目ぼれ。都内のマンションから入間へ引越し

ジョンソンタウンは西武池袋線・入間市駅から徒歩18分、池袋駅まで電車で40分弱かかり、通勤に便利とは言い難い立地の賃貸物件。それでも「ウェイティングリスト」ができ、ほぼ空室がないほどの人気ぶりです。かつて米軍基地のアメリカ兵とその家族のためにつくられた米軍住居地域跡地にあるジョンソンタウンは、DIYが盛んなアメリカ本国と同様に建物内部はDIYが可能で、どうやらそれも人気の理由になっているよう。

米国のような街並みを形成しているジョンソンタウン。その取り組みは2017年に日本建築学会賞(業績)で表彰された(撮影/嶋崎征弘)

米国のような街並みを形成しているジョンソンタウン。その取り組みは2017年に日本建築学会賞(業績)で表彰された(撮影/嶋崎征弘)

そこで、今回、ジョンソンタウンに引越してきてDIYをするようになったという岩下潤さんにお話を伺いました。職業はブルースギターを奏でるギタリスト。単独ライブも行うほか、週6日、都内のスクールでギターを教えています。現在は平屋づくりやゆったりした間取りなどが特徴の米軍ハウス(アメリカン古民家)に妻と2匹の猫ちゃんとお住まいです。

「引越しのきっかけは、都内にある前の住まいが古くなったから。以前、座間の米軍ハウスでライブをしたことがあって、一度、住んでみたいという憧れがあって、ネットで調べてジョンソンタウンを知り、実際に街並みを見たら一目ぼれでしたね」と振り返ります。

ダイニングでお話をする岩下さん。DIYだけでなく、トークも上手!(撮影/嶋崎征弘)

ダイニングでお話をする岩下さん。DIYだけでなく、トークも上手!(撮影/嶋崎征弘)

リビングでギターを弾く岩下さん。床材はこの建物が完成した1954年当時のもの。数々のキズも岩下さんのお気に入り(撮影/嶋崎征弘)

リビングでギターを弾く岩下さん。床材はこの建物が完成した1954年当時のもの。数々のキズも岩下さんのお気に入り(撮影/嶋崎征弘)

4棟を見学し、なかでも本来であれば店舗のための場所にある家が気に入ったそう。引越し先は都市部を希望していた妻も現地を見て納得、見学したその日のうちに申し込み、トントン拍子に話が進んだといいます。

「家賃が決して安くないのは分かっています(笑)。ただ、都内まで1本で行けるので不便は感じていないですね」と話します。

人との関係、DIYでの建物への愛着。すべてがちょうどいい

暮らしはじめて大きく変わったのは、玄人はだしの「DIY」と隣人の関係です。

「引越した当初、DIYはやらないつもりだったんです。職業柄、指をけがしたら仕事にならないので。それでも、2~3カ月たったあたりから、庭をいじりはじめたんです。ほぼ砂利だった庭を芝にしたいって思って。ジョンソンタウンのオーナーに相談したら、『どうぞ、やってください』と言われて」

根が凝り性の岩下さん。砂利と土を手作業で選り分け、土壌を改良して、芝の品種も研究。今では自宅だけでなく周囲のお宅の敷地にも芝を植え、手入れするまでに。

「当時ジョンソンタウンに住んでいた人で、DIYの師匠がいてね。はじめ、物干しスペースのところをなんとかしたいって考えていたら、必要な道具を貸してくれただけでなく、『何か問題あったら俺が教えるから』って言ってくれて。その男気がかっこよかった」と振り返ります。今までの人生になかった、隣人との出会い、コミュニティが心地よく、アレもできるかな?これはどうだろう?と研究するうちにDIYにはまっていったそう。現在は防音室やDIYの作業部屋も自作してしまうなど、「もはや素人ではないのでは……」という腕前です。

こちらはリビングの脇につくってしまったDIYの工房。奥の扉を開けると庭へ出られる(撮影/嶋崎征弘)

こちらはリビングの脇につくってしまったDIYの工房。奥の扉を開けると庭へ出られる(撮影/嶋崎征弘)

木に熱を加えて曲げる機械を購入し、使い方をマスター。来年にはついに本業にもかかわるギター制作もしたいそう。本当に意欲的(撮影/嶋崎征弘)

木に熱を加えて曲げる機械を購入し、使い方をマスター。来年にはついに本業にもかかわるギター制作もしたいそう。本当に意欲的(撮影/嶋崎征弘)

「賃貸だから隣人ともほどよい距離の、心地よいお付き合いができる。で、一方でDIYしてきたから住まいにも愛着がある。本当にちょうどいいんだよね」

今でも一日に1つ新しいことを学ぶ、知る、身につける、買うなどをして、「日々、成長している」という思いがあるとか。朝、早起きして庭いじりやDIYをし、その後出勤、帰宅は深夜、というライフスタイルですが、充実感でいっぱいのようです。

DIYで自作した防音室(右手奥)がある仕事部屋。大人の理想がつまっている(撮影/嶋崎征弘)

DIYで自作した防音室(右手奥)がある仕事部屋。大人の理想がつまっている(撮影/嶋崎征弘)

防音室内部。防音室を見た人から問い合わせがあり「6台売れて、その人たちの家までつくりに行ったんだよ」と岩下さん。すごすぎる!(撮影/嶋崎征弘)

防音室内部。防音室を見た人から問い合わせがあり「6台売れて、その人たちの家までつくりに行ったんだよ」と岩下さん。すごすぎる!(撮影/嶋崎征弘)

「人に喜んでもらえる趣味ってほんとにいい。隣人から『アレつくって、こんなことできるかな?』って相談されて、できるよ~って言って。喜んでもらう。こんなに楽しいことはないよね」と言います。

岩下さん宅。玄関から入ってすぐがダイニング。猫が外に出ないようにしつらえた内扉(写真奥)ももちろん、DIYで自作!(撮影/嶋崎征弘)

岩下さん宅。玄関から入ってすぐがダイニング。猫が外に出ないようにしつらえた内扉(写真奥)ももちろん、DIYで自作!(撮影/嶋崎征弘)

猫2匹の名前は「たら」と「ふく」。あわせて「たらふく」。写真は「たら」ちゃん(撮影/嶋崎征弘)

猫2匹の名前は「たら」と「ふく」。あわせて「たらふく」。写真は「たら」ちゃん(撮影/嶋崎征弘)

「お前の手を見せてくれ」。米国のライブで言われたうれしい言葉

土いじり、DIYをするようになり、仕事である音楽面でもいい影響を感じるとか。

「演奏から“土の匂い”がするようになったと感じる。そりゃそうだ。だって、毎日、土いじりしているんだもん(笑)。でも、そもそもブルースって、米国ではキツイ野良仕事の後に演奏していた音楽なんだよ。実はこの前、米国でライブしたときにね、現地の人から『お前の手を見せてくれ』って言われたんだけど、あれは本当にうれしかったなあ」と感慨深い様子。

もともとベランダガーデニングをしていた妻も、建物の表通りは赤で統一、裏庭は青と白というコンセプトで、ガーデニングを満喫しています。

ジョンソンタウンの室内はDIY可だが、外観は基本的に改装不可。街並みを守るための工夫だ(撮影/嶋崎征弘)

ジョンソンタウンの室内はDIY可だが、外観は基本的に改装不可。街並みを守るための工夫だ(撮影/嶋崎征弘)

カエルもギターを持っているなど、庭の小物にも随所に遊び心が(撮影/嶋崎征弘)

カエルもギターを持っているなど、庭の小物にも随所に遊び心が(撮影/嶋崎征弘)

「ここならガーデニングだってやり放題だもん(笑)。日本にいながらにして、米国のライフスタイルができるんだから、本当に理想形だよね。アレもやりたい、コレもできるって、理想をかなえていける」といい、夫婦で日々の暮らしを満喫しています。

また、ジョンソンタウンには、個人店が約50店舗ほどあり、そこも好きなところなのだとか。
「街歩きだって、フラフラしているだけで楽しいし、ちょっとお土産がいるなって思ったら、即、買い物だってできるし、外食もできる。住んでいる人もおもしろい人が多いしね、交流の温度感などもちょうどいい。本当に心地いいんだよ」

写真左/さながらアメリカのようなEAST CONTENTS CAFE。気軽に食事とお酒が楽しめる、岩下さんの行きつけ 写真右/コイガクボのもっちりとした食感が楽しい米粉パンは岩下さんのお気に入り(撮影/嶋崎征弘)

写真左/さながらアメリカのようなEAST CONTENTS CAFE。気軽に食事とお酒が楽しめる、岩下さんの行きつけ 写真右/コイガクボのもっちりとした食感が楽しい米粉パンは岩下さんのお気に入り(撮影/嶋崎征弘)

写真左/花やリースを扱うブルーメンヒュッテ。庭づくりの相談も可。オーナーは岩下さんのお友達 写真右/イギリスから直輸入した雑貨が並ぶコッツウォルズ。岩下さんはちょっとした手土産をココで買うとか。商品は一点物も多く、見ていて飽きない(撮影/嶋崎征弘)

写真左/花やリースを扱うブルーメンヒュッテ。庭づくりの相談も可。オーナーは岩下さんのお友達 写真右/イギリスから直輸入した雑貨が並ぶコッツウォルズ。岩下さんはちょっとした手土産をココで買うとか。商品は一点物も多く、見ていて飽きない(撮影/嶋崎征弘)

ガーデニング、DIY、そして人との交流と、以前では考えられなかった暮らしを楽しむ岩下さん。引越しがもたらした「思いがけない出会い」が、人生を豊かにしてくれたようです。

●取材協力
ジョンソンタウン
Blumen Hutte
米粉パン専門店 コイガクボ
EAST CONTENTS CAFE
COTSWOLDS●取材協力
岩下潤さん 
日本屈指のブルースギタリスト。ライブだけでなく、ブルースギターに関する著作も多数執筆するほか、講師としても活躍。観客を引き込むブルース演奏に加えて、楽しいMCはさながらお笑いライブのよう。ライブ予定や高田馬場にあるギター教室への問い合わせは以下から。
>ジャグ・サウンズ・ギター・スクール 

閉店する喫茶店の家具と想いを次の使い手へと届ける「村田商會」の挑戦

赤いベルベットの椅子、カーブを描いた脚のテーブル、レトロなロゴ入りのグラスやあめ色に変わったコーヒーミル。村田商會が販売する古い家具や喫茶道具は、すべてが閉店するという喫茶店から引き取ってきたもの。この仕事を始めた経緯や想いを、2018年12月8日にオープンしたばかりの実店舗で話を聞いた。
ウェブショップから実店舗へ

西荻窪駅から歩いて5分ほど、喫茶店「POT」があった場所。ここが、それまでネット販売で営業していた村田商會の実店舗となる。オープンに向けて準備中だという店内は、以前の喫茶店の雰囲気を残しながらも、客席だったところには椅子やテーブルが所狭しと積まれている。
「これらが商品なんです。もともと喫茶店で使われていた家具や道具、雑貨などを引き取り、手入れをしてから販売しています」と話すのは村田商會の店主である村田龍一さんだ。

喫茶店としても営業するべく、準備中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

喫茶店としても営業するべく、準備中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大好きな喫茶店の家具や想いを受け継ぐ

村田さんが自身の店を立ち上げたのは2015年。それまで勤めていた会社を辞めてのことだった。
「学生のころから純喫茶が好きで、よくいろいろなお店に行っていました。古いお店の内装、雰囲気、マスターやママさんと話す時間が好きで喫茶店巡りをするようになって。社会人になってからも続いていたんですが、それまで何度か足を運んでいた喫茶店に閉店のお知らせの紙が貼ってあったんです。マスターに話を聞いているうちに、家具を捨ててしまうという話が出て、もったいないなと思って1セットくださいとお願いしたんです。そのテーブルと椅子は、今でもうちで使っています」

自身が好きだった喫茶店のテーブルと椅子を自宅で使用している。譲ってもらってから10年以上たった今も現役。「この家具があることで、今でもお店のことを思い出したりして、愛着も増しています」(写真提供/村田龍一さん)

自身が好きだった喫茶店のテーブルと椅子を自宅で使用している。譲ってもらってから10年以上たった今も現役。「この家具があることで、今でもお店のことを思い出したりして、愛着も増しています」(写真提供/村田龍一さん)

そこで、村田さんは自分と同じように純喫茶が好きで、そこで使われている家具を欲しいと思う人がほかにもいるのではないかと考える。お店もしかり。閉店してしまうが、家具を捨てるのはもったいないと思う人もいるのではないか、と。
「純喫茶の家具って、欲しいと思って探してもなかなか見つからないんです。アンティークとも、中古家具とも違う。使い込まれてきた風合いがあって、さらにお店の雰囲気をもっているものだから。閉店するお店そのものは残せなくても、家具なら残せるし、仕事にしてみよう、と始めました」

現在はネットだけでなく、イベントにも出店し、家具だけでなく、喫茶小物や道具なども販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在はネットだけでなく、イベントにも出店し、家具だけでなく、喫茶小物や道具なども販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

閉店を望んでいるわけではないからこその葛藤

かくして村田商會がスタートする。閉店する喫茶店の情報は、実際に自分の足で探すこともあれば、周りから教えてもらったり、ネットで仕入れたりすることもある。村田さんは必ずお店へ出向き、話をするという。閉店することを決めた店主に話をするのは、かなり気使うことなのではないだろうか?
「それまで自分が通っていたお店だったら、話はしやすいんです。でも、行ったことのないお店だと確かに難しい。混んでいない時間帯に行って、コーヒーを飲んだり、ご飯を食べたりして、お店の雰囲気を伺って、話すタイミングを見計らって、やっと切り出す感じです」
閉店を決めた店主の気持ちがどのようなものか想像し、お客さんとの関係もきちんと汲み取ったうえで買い取りの話をもちかける。友人の紹介があれば信用してもらえるが、よく分からない営業だと思われたこともあったという。
「そりゃ怪しいですよ、僕が逆の立場だったら、なんだ?って思います(笑)。信用してもらえても、高い金額で買い取ることができないので、折り合わないこともあるし、すべてがうまくいくわけではないんです」。それに、とちょっと顔を曇らせて続ける。
「ものすごいジレンマがあって。僕は閉店を望んでいるわけではないんです。喫茶店は一軒でも多く残ってほしいし、続けられるなら続けてほしいから。矛盾というか葛藤というか、複雑な気持ちはいつもあります。

喫茶店ならではのおもしろい雑貨も。これは「かうひい異名熟字一覧」で、さまざまな文献に掲載されたコーヒーの別名を紹介している。非売品。小岩にあった喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

喫茶店ならではのおもしろい雑貨も。これは「かうひい異名熟字一覧」で、さまざまな文献に掲載されたコーヒーの別名を紹介している。非売品。小岩にあった喫茶店「らむぷ」で使われていたもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「瓦版」の文字がくりぬかれた板も喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。当時はお店からの案内を貼るためのものだったのだろうか。村田商會の実店舗で使う予定だそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「瓦版」の文字がくりぬかれた板も喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。当時はお店からの案内を貼るためのものだったのだろうか。村田商會の実店舗で使う予定だそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

家具を残すことで、お店の雰囲気を少しでも受け継ぎたい。なくなってしまう喫茶店のことが好きで、家具だけでも欲しいというお客さんもいます。僕自身がそうであったように、喫茶店を好きだという人が、自宅でも楽しめたらいいなと思ってのことなんです」

家庭でも使いやすいよう、丁寧にリペア

仕事は村田さんが一人ですべて行っている。喫茶店店主とのやりとり、買い取る家具の査定、運び出して倉庫に入れ、一つ一つ状態をチェックし、修理をして、写真を撮ってネットに掲載して販売し、発送する。書き出すだけでも膨大な仕事量だ。力仕事なのはいうまでもない。
「買い取る前にチェックはするんですが、照明の暗いお店だったりすると、外に運び出すときに初めて『あれ?』と気付くこともあるんです。ちょっと破れていたり、さびがひどかったり、いろいろです。喫煙可能なお店が多いので、ニオイも気になりますし、ヤニが付いているものもあります。それをすべてリペアしてから販売するので、手間も時間もかかるんです」

東大宮にあった喫茶店「ひまつぶし」の椅子。スポンジがすり減り、生地が擦り切れていた(左)。きれいに張り替え、きちんと使える状態に生まれ変わった(右)。手が触れる場所だからと裏地もしっかり張り替えている(写真提供/村田龍一さん)

東大宮にあった喫茶店「ひまつぶし」の椅子。スポンジがすり減り、生地が擦り切れていた(左)。きれいに張り替え、きちんと使える状態に生まれ変わった(右)。手が触れる場所だからと裏地もしっかり張り替えている(写真提供/村田龍一さん)

リペアの技術は知り合いに教えてもらったり、調べたりして身につけた。自宅でも問題なく使えるように、さび止め加工をしてペイントすることもあれば、生地の貼り直しやぐらつきの修正などもある。家具以外のものも加われば、細かな調理道具などの整理も必要だ。

ただ売るだけじゃなく、喫茶店の空気感も伝えたい

「以前、キャバレーの家具を買い取ったことがあるんです。やっぱりタバコの匂いやお酒のシミも残っていてリペアは必要でした。買ってくれたお客さんのなかに、お父様がそのキャバレーに通っていたから、サプライズでプレゼントしたいという方がいて。その話を聞いたときはうれしかったですね」
自分たちで喫茶店を始めたいと家具や小物を買っていくお客さんもいるという。

ただ単に売っているだけではない。村田商會のホームページには、その家具を使っていたお店について伝えるページがある。どんな歴史があり、どんな雰囲気でどんなお客さんが来ていたのか。閉店前のお店の写真まで掲載している。
「家具を売るだけじゃなく、お店のことをきちんと伝えていきたいと思って。受け継ぐ気持ちでやっています」

今年の夏に閉店した喫茶店「POT」。村田さんが内装や家具もそのまま引き継いで残している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今年の夏に閉店した喫茶店「POT」。村田さんが内装や家具もそのまま引き継いで残している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2018年8月営業当時のPOTの店内。記事トップの写真にある赤いポットは、もともとの喫茶店「POT」の象徴的なアイテムで、こちらも商品になる(家具(椅子・テーブル)は販売対象外)(写真提供/村田龍一さん)

2018年8月営業当時のPOTの店内。記事トップの写真にある赤いポットは、もともとの喫茶店「POT」の象徴的なアイテムで、こちらも商品になる(家具(椅子・テーブル)は販売対象外)(写真提供/村田龍一さん)

そうして、ネット販売を続け、実店舗のオープンにつながった。
「『POT』も好きなお店で、ちょこちょこ来ていたんです。閉店すると聞いてご主人と話をするうちに、家具を買い取るのではなく、この場所を受け継ごうと決心しました。ちょうどお店を持ちたと思い始めた時期でもあったので、ありがたかったです」

実店舗なら、たくさんの喫茶店で使われてきた家具を販売しながら、それぞれのお店のことをお客さんに直接話をして伝えていくことができる。
「今はまだ準備中ですが、ゆくゆくはここも喫茶店としてオープンする予定です。もともとの『POT』さんで使われていた家具や道具は残してあるのでそれをきちんと戻して、昔から通っていたお客さんにも楽しんでもらえるように」

形を変えても残るものがある。楽しめるものがある。喫茶店を営む人、楽しむお客さんへ向けた、村田さんの愛情はここからさらに広がっていくだろう。

12月8日にオープンし、家具や雑貨を販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

12月8日にオープンし、家具や雑貨を販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●店舗情報
村田商會 西荻窪店
東京都杉並区西荻北3-22-17
2018年12月8日オープン(喫茶店の営業は2019年から予定)
12月中の営業時間 12:00~18:00【不定休】

テーマのある暮らし[6] 設計に参加してリノベーション! 三角形のキッチンで流れる空間の家

一児の母であり、都内の会社に勤務するTさんは、かつて仕事をしながら設計の勉強をしていました。その経験を生かして、自分の家を自分の手でリノベーション。そのチャンスが訪れたのは、なんと産休・育休期間だったのでした。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。「自分たちの家だから、自分の手で何かしたい」という強い思い

都内の最寄駅から徒歩10分、にぎやかなメイン通りから一歩入るといくつものマンションが立ち並ぶ静かで落ち着いた雰囲気。にぎわいと静けさが程よい距離感のあるエリアに、Tさんが夫と2歳の長女と暮らしているマンションがあります。

ナチュラルな素材が生み出すぬくもりのなかに、斜めに走ったキッチンの天井の紺色がアクセントになり、まるでカフェのようにおしゃれで落ち着いた空間に(写真撮影/内海明啓)

ナチュラルな素材が生み出すぬくもりのなかに、斜めに走ったキッチンの天井の紺色がアクセントになり、まるでカフェのようにおしゃれで落ち着いた空間に(写真撮影/内海明啓)

「物件は以前から探していたのですが、本格的に探しはじめたのは産休・育休のとき。今しかない! と思いました(笑)。設計の勉強をしていたときから、自分の家は自分の手で何かできたらいいな、と思っていたので、物件を探しながらリノベーション会社にも数社相談に行きました」
しかし、Tさんの希望を叶えてくれる会社は見つからなかったそう。

「どこも『一緒に作っていきましょう』とおっしゃるのですが、一緒の“度合い“が見えなくて……。例えば、私は設計の段階から参加して作りたかったのですが、ある程度パターン化されたものから選ぶのでは、自由にできる幅が限られてしまいます。また、解体しなくては状態がわからないリノベーションだからこそ、施工中も、実際に現場を見たうえで壁のクロスが必要なのか? とか、天井をどうしようか? とか、その都度臨機応変に対応できる柔軟性を求めていました。意見を言うタイミングが限られていたり、意見する内容が用意された選択肢の中からパーツを決めるなど、参加範囲が限られてしまうのは、自分たちがやりたい家づくりとは違うなと感じていたんです」

今しかない! 妊娠8カ月からスタートした物件探しとリノベ計画

ある日の夜、Tさんの脳裏によぎったのが、通っていた設計学校で当時、講師をしていて今は夫婦で設計事務所を開いている松尾さん夫妻のこと。
「きっとあのふたりにお願いしたら、楽しく一緒につくり上げてくれるに違いない」。すぐにでも会いに行きたい気持ちを抑えて、松尾さんに相談の電話をしたのが妊娠8カ月の時。この時点では、まだ物件も決まっていなかったそうです。

物件を決める前から「こんな雰囲気が好き」「ステキだな」と思ったものを切り抜いていたスクラップのごく一部。イメージを膨らませながら理想を現実にしていきました(写真撮影/内海明啓)

物件を決める前から「こんな雰囲気が好き」「ステキだな」と思ったものを切り抜いていたスクラップのごく一部。イメージを膨らませながら理想を現実にしていきました(写真撮影/内海明啓)

物件が決まったのは、長女が生後2カ月を迎えたころ。その間も、住まいに対する考えやイメージが見つかると、松尾さんに相談していたそうです。一般的にいえば産前産後という大変な時期ですが、出産という大きなミッションを境に、Tさんにとっての家づくりが本格的にスタートするのです。

「家っていうと一般的に一生の買い物とか長く住む…というイメージですよね。でも、私たちのスタンスは、これから先の5~10年を過ごす場所。今、どんな暮らしがしたいか? を優先して物件を探しました」(画像提供/TAIMATSU)

「家っていうと一般的に一生の買い物とか長く住む…というイメージですよね。でも、私たちのスタンスは、これから先の5~10年を過ごす場所。今、どんな暮らしがしたいか? を優先して物件を探しました」(画像提供/TAIMATSU)

「このマンションは築50年。玄関を入るとすぐ階段で、そこを上がってから居住スペースにつながります。使いやすいかどうかでいったら、多分不便なのでしょうけど(笑)、階段によって空間が切り替わって楽しいな、と感じました。あとは、お客さんをお招きしたかったので、リビングを大きくとるのは最初から決めていて、個室にわかれている部屋をひとつにしたら広く使えるだろう、と思っていました」とTさん。

家の片隅にあったキッチンを中央に配置し、かつてのキッチンは寝室に。部屋や収納の区切りも取り払って、可能な限りスペースを確保。設計図はTさんが描ける範囲を描いて、松尾さんにフォローしていただいたそうです。

こんなの見たことない! 三角形のキッチンカウンター誕生

実は、当初の予定では、中央のキッチンカウンターは一般的な四角いタイプのものを設置する予定だったとか。しかし、ここで松尾さんから設計学校の講師ならではの一言が……。

「私たちが授業を行うとき、生徒さんに必ず聞くことがあります。それは、『この設計やリノベーションプランで、本当にあなたのやりたいことが満たされますか? 』ということ。彼女にも投げかけてみました」

「部屋に入ってすぐ目の前に四角いキッチンカウンターがどん! とあると、どうしても圧迫感が。それに、リビングに流れる導線としても今ひとつ。もうひとひねりしたくなって、それはもう松尾さんと一緒に、これはどう? 配置を変えたらどうだろう? と時間をかけてひたすら悩みました」と、Tさんは当時描き込んだ何枚もの設計図を見せてくださいました。

そして、ついに生まれたアイデアが、斜めのキッチンカウンターとそれに合わせた斜めの天井。
「誰も見たことないけど、だからこそ面白いかも!? 斜めってアリでしょ」
どんどん盛り上がっていく妻を温かく見守っていたのは、Tさんの夫。…といっても、斜めのキッチンカウンターの話を聞いたときは、どう思ったのでしょう。

「最初は、それって大丈夫なの? と思いました(笑)。斜めのカウンターと聞いてもどんな空間になるのかイメージがつかなかったです。実際できあがってみると、使いやすいですし、良かったなって思うんですけどね(笑)」

キッチンカウンターと天井を同じ角度で斜めに取ったことで、キッチンからダイニング、リビングへと自然に視線が流れるように。各スペースがつながり、より広々とした空間に(写真撮影/内海明啓)

キッチンカウンターと天井を同じ角度で斜めに取ったことで、キッチンからダイニング、リビングへと自然に視線が流れるように。各スペースがつながり、より広々とした空間に(写真撮影/内海明啓)

実際キッチンに立ってみると、十分なスペースが確保できるうえに、手の伸ばせる範囲で作業でき、見た目以上の機能性。対面は座ることも可能で、お客さんとの距離もぐんっと近く、その場に応じてフレキシブルな使い方ができるのもポイントです。

キッチンカウンターの天板は、Tさん自ら探してきた素材を使用。「強度やひび割れの心配は? と聞けばちゃんと調べてきてくれるし、本当に手のかからない教え子です(笑)」と松尾さん(写真撮影/内海明啓)

キッチンカウンターの天板は、Tさん自ら探してきた素材を使用。「強度やひび割れの心配は? と聞けばちゃんと調べてきてくれるし、本当に手のかからない教え子です(笑)」と松尾さん(写真撮影/内海明啓)

「平日の昼間は私がいろいろ動けるので、現場へ行ったり、参考になりそうなものを探したりして、夫が帰ってきたら報告と私がやりたいことのプレゼンタイムです(笑)夫も基本は『普通じゃ、ちょっとつまらない』というタイプなので、そこは私と感覚が似ていて良かったです。平日の夜もそうですが、休日には素材探しなども一緒に見て回ってくれて、助かりました」

家全体の統一感と限られたスペースを生かすための工夫

以前の家から持ってきた家具はひとつだけ。あとは、作りつけの製作家具にしたというTさん。
「全体に統一感を持たせたかったのと、限られたスペースを広く使うためには作りつけがベストだと思いました。それに、斜めに対応する既製品はないですしね(笑)」

使いたいカゴを選んでから、ぴったり収まるように棚の高さを調整。「ウチは物が多いので、収納スペースは大事なんです」とおっしゃいますが、そのように見えないスッキリ感はさすが! 計算し尽くされています(写真撮影/内海明啓)

使いたいカゴを選んでから、ぴったり収まるように棚の高さを調整。「ウチは物が多いので、収納スペースは大事なんです」とおっしゃいますが、そのように見えないスッキリ感はさすが! 計算し尽くされています(写真撮影/内海明啓)

陽当たり抜群の窓際にはハンモック。大人も乗れるそうですが、お嬢さんをはじめ遊びに来た子どもたちもお気に入りなのだそう。取材のときも、乗ってみせてくれました(写真撮影/内海明啓)

陽当たり抜群の窓際にはハンモック。大人も乗れるそうですが、お嬢さんをはじめ遊びに来た子どもたちもお気に入りなのだそう。取材のときも、乗ってみせてくれました(写真撮影/内海明啓)

統一感といえば、壁や天井も大事なポイントで、ちょっとしたさじ加減でニュアンスも変わります。
「リノベーションの場合、壁や天井をはがしてみないとわからないことが多いんですよね。そこはある程度覚悟していたのですが、実際に見てからその都度判断してきました。壁の色は、職人さんが塗ってくださった途中工程の状態を見て、『これ、このままがいい!』と気に入ってそれ以上手を加えない、とか(笑)」

大人が寝られるくらいの大きなソファもオーダーメイド。クローゼットは扉をはずして、お気に入りの壁色になじみやすいカラーのカーテンを用いました(写真撮影/内海明啓)

大人が寝られるくらいの大きなソファもオーダーメイド。クローゼットは扉をはずして、お気に入りの壁色になじみやすいカラーのカーテンを用いました(写真撮影/内海明啓)

このような判断ができたのも、Tさん自らが頻繁に現場へ足を運んで実際を見ていたからこそ。
「現場には娘と一緒に通っていたのですけど、職人の皆さんに良くしてもらい、娘も可愛がっていただきました」愛らしいお嬢さんの笑顔は、職人さんたちにとって癒しのひとときだったのかもしれませんね。

細かい部分も吟味しながら、自分らしさと使いやすさを追求

約半年以上の月日をかけて行ったリノベーションは、「宿題の連続だった」とTさんは語ります。
「学生時代を思い出しましたが、学校の課題と大きく違うのは責任を伴う、ということ。それから、予算ですね。課題のときは、予算のことは一切考えませんでしたから(笑)」

「父が石やタイルの職人なのですが、多くのリノベ会社ではすでに職人さんが決まっているため入れないんですよね。でも、そこも考えていただけて、父にも協力してもらえたのはうれしかったです」とTさんの夫(写真撮影/内海明啓)

「父が石やタイルの職人なのですが、多くのリノベ会社ではすでに職人さんが決まっているため入れないんですよね。でも、そこも考えていただけて、父にも協力してもらえたのはうれしかったです」とTさんの夫(写真撮影/内海明啓)

「カタログを見ていいなぁ、と思っても、大きさやフィット感は実際に触れてみないとわからないんですよ」というTさん。ドアノブひとつも妥協せず、吟味を重ねました(写真撮影/内海明啓)

「カタログを見ていいなぁ、と思っても、大きさやフィット感は実際に触れてみないとわからないんですよ」というTさん。ドアノブひとつも妥協せず、吟味を重ねました(写真撮影/内海明啓)

おしゃれな空間のなかに、保育園に通うお嬢さんの作品スペースがあってほっこり。その上をよ~く見ると、何か突起物が。実はこれ、ドアストッパーなのだそう。何気ない箇所にもTさんのこだわりが表現されています(写真撮影/内海明啓)

おしゃれな空間のなかに、保育園に通うお嬢さんの作品スペースがあってほっこり。その上をよ~く見ると、何か突起物が。実はこれ、ドアストッパーなのだそう。何気ない箇所にもTさんのこだわりが表現されています(写真撮影/内海明啓)

「妻はやると決めたことは絶対にやるタイプなのですが、出産直後ということもあって正直心配もありました。…といっても妻と松尾さんの信頼関係があるので、最悪のときは松尾さんにすべてお願いしちゃおうと(笑)それに、賃貸だとどんなに気に入った物件でも、住んでみると『ここがちょっと…』という不満って出てきますよね。でも、この家は住んで1年ちょっとですけど、そういう不満がないんです。たくさん話し合って、納得しながらつくったものは違うなぁ、と感じます」とTさんの夫。自宅でゆっくり、家族でくつろいで過ごす時間も増えたそうです。

2歳のお嬢さんが懐いているほど、家族ぐるみのお付き合いをしているTさん一家と松尾さん夫妻。リノベーションを通じて、さらに信頼関係が深まりました(写真撮影/内海明啓)

2歳のお嬢さんが懐いているほど、家族ぐるみのお付き合いをしているTさん一家と松尾さん夫妻。リノベーションを通じて、さらに信頼関係が深まりました(写真撮影/内海明啓)

穏やかな口調からは想像できないほど、芯がしっかりしていてバイタリティーあふれるTさん。理想を現実のものにできたのも、あくなき探求心とブレない軸があるからこそ。大人数でも座れて居心地のいいリビングは憩いの場で、家族の楽しくにぎやかな声が印象に残る取材となりました。

●取材協力
・TAIMATSU一級建築士設計事務所

「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」レポート。家具店・ホームセンターと本屋が融合!?

2018年12月7日(金)、家具専門店・ホームセンター「島忠」「HOME’S」を展開する島忠とTSUTAYAがコラボレーションし、「ホームズ新山下店」がライフスタイル提案型の店舗へと生まれ変わった。「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ新山下店」店内では、商品の家具が「寛ぐ」「整える」などテーマに沿った12個の小部屋でスタリングがされており、本やコーヒーを楽しみながら使用感を試すことができる。その内容とは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

あなたはどんな暮らしがしてみたい? テーマに沿ってライフスタイルを提案

従来の「島忠」「HOME’S」といえば、商品が広大なフロアにズラリと並ぶ様子が思い浮かぶ人が多いはず。今回のリニューアルでは、商品ではなくライフスタイル提案型へとシフト。「寛ぐ」「眠る」「整える」「育む」「食べる」「癒し」「彩る」「作る」「贈る」のテーマに沿って“12のルームスタイル”を新設。それぞれのテーマごとに家具・本・雑貨を融合させた空間をつくり、理想のライフスタイルを体験しながら買い物を楽しめるようになった。

「魅せる、収納。」(テーマ:整える)のスペース。家具はすべて、もともと島忠で扱っていたものでコーディネート(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「魅せる、収納。」(テーマ:整える)のスペース。家具はすべて、もともと島忠で扱っていたものでコーディネート(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

収納にまつわる書籍をあわせて展開(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

収納にまつわる書籍をあわせて展開(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

例えば、「魅せる、収納。」(テーマ:整える)では、あえて美しく飾ることができる棚などとともに、収納グッズ、収納の実用書を組み合わせて提案する。「学び舎は、リビング。」(テーマ:育む)は、子どものリビング学習をテーマにしたローソファやコンパクトソファと組み合わせた空間。リビングで家族が楽しくコミュニケーションを取れる雑貨や、地図本や工作の本、図鑑などもあわせて展開している。ほかにも、「シアタールームを作ろう。」(テーマ:寛ぐ)、「ペットと暮らす。」(テーマ:寛ぐ)などバラエティ豊かなラインナップ。
それぞれのスペースでは、各テーマにあわせたワークショップやイベントが行われる予定とのこと。

「ヨコハマブルー。」(テーマ:寛ぐ)のスペースでは海とデニムのブルーをイメージし、外国の情緒にあふれる横浜にどっぷり浸れる、デニム生地を活かした棚やラグなどを展開(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ヨコハマブルー。」(テーマ:寛ぐ)のスペースでは海とデニムのブルーをイメージし、外国の情緒にあふれる横浜にどっぷり浸れる、デニム生地を活かした棚やラグなどを展開(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「インテリアで遊ぶ。」(テーマ:作る)には手軽にできるDIYアイテムがそろう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「インテリアで遊ぶ。」(テーマ:作る)には手軽にできるDIYアイテムがそろう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

マスキングテープの無料サンプルも充実しており、自由に工作をして試せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

マスキングテープの無料サンプルも充実しており、自由に工作をして試せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

本やコーヒーを楽しみながら家具をお試し

また、同店舗内にはBOOK & CAFE「WIRED KITCHEN with フタバフルーツパーラー」も併設されており、テイクアウトしたコーヒーなどのドリンクや食事を、家具売り場で商品を試しながら楽しむことができる。本やコーヒーを気になる家具で心ゆくまで楽しむのもよし、「作る」のスペースで創作意欲が湧いたら1階の資材売り場でDIYのための材料を調達するのもよし。思い思いのお店の使い方をしてみたい。

「WIRED KITCHEN with フタバフルーツパーラー」で使用しているチェアも購入可(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「WIRED KITCHEN with フタバフルーツパーラー」で使用しているチェアも購入可(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「グリーンがある暮らし。」(テーマ:癒し)のスペース。12のルームスタイルで食事やドリンクを楽しめば、理想の暮らしをよりリアルに疑似体験できる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「グリーンがある暮らし。」(テーマ:癒し)のスペース。12のルームスタイルで食事やドリンクを楽しめば、理想の暮らしをよりリアルに疑似体験できる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、広々としたキッズスペースを設けているほか、専用カートを使用すればペットと一緒にショッピングを満喫することができる(カフェスペースのみ同伴不可)。買い物をするだけでなく、家族みんなで休日を楽しめる憩いの場となりそうだ。

店内にある本20万冊。児童書は3万冊で、横浜エリア最大級の品ぞろえ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

店内にある本20万冊。児童書は3万冊で、横浜エリア最大級の品ぞろえ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

広々としたキッズスペース。ボーネルンドの商品や知育玩具を試せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

広々としたキッズスペース。ボーネルンドの商品や知育玩具を試せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

■店舗情報
「ホームズ新山下店」
神奈川県横浜市中区新山下 2-12-34
営業時間:10時~21時、資材館9時~21時、ハニーフラワー10時~19時
>HP

「TSUTAYA BOOKSTORE ホームズ 新山下店」
神奈川県横浜市中区新山下 2-12-34
営業時間:10時~21時(定休日は施設休館日に準ずる)

スター猫のお宅訪問![2] フォロワー6万人!インスタで人気の「Niko&Poko」の暮らし

神奈川県の閑静な住宅街に暮らすスター猫は、インスタグラムをはじめ、写真集やカレンダーも出版するなど“ねむかわいい”ことで人気の、エキゾチックショートヘアのNikoちゃん(メス・5歳)とPokoちゃん(オス・3歳)。飼い主であるMakiさん夫婦とともに暮らしている。【連載】スター猫のお宅訪問!
インスタグラムで人気のキーワードといえば「猫」。多くのフォロワーを魅了するスター猫たちは、どんな暮らしを送っているのだろう。暮らしの工夫を聞いてみた。Instagramより(写真提供/Makiさん)

Instagramより(写真提供/Makiさん)

中古一戸建てを1階はリノベーション、2階はDIY

白い外観に、春にはバラが咲き乱れるという広く美しい庭。まるで写真集から出てきたかのような家。Makiさん夫妻は2011年に築5年の中古一戸建ての物件を購入後、リノベーションをしたのだとか。

Makiさんの家の間取り

Makiさんの家の間取り

「リノベーションをしたのは1階だけ。もともとは上がり框(かまち)の和室があったのですが取っ払って、トイレやキッチンの位置も変えました。リノベーションをお願いしたのは、恵比寿にあるインテリアショップ『PACIFIC FURNITURE SERVICE』のリノベーションサービス。昔からここのアメリカンで無骨な家具が好きだったので、デザイン重視で依頼しました。一番気に入っているのは、トイレ・洗面などの水まわり。壁をペンキ塗りで、床はグレーと白の格子模様にしたいとお願いしました。色みが『PACIFIC FURNITURE SERVICE』ならではのカラーなので、自分ではなかなかできないですよね」

1階のリノベーションはPACIFIC FURNITURE SERVICEに依頼。春にはウッドデッキがバラに包まれる(写真撮影/片山貴博)

1階のリノベーションはPACIFIC FURNITURE SERVICEに依頼。春にはウッドデッキがバラに包まれる(写真撮影/片山貴博)

リノベーションのイメージはMakiさんによるもの。

「お金のことは夫が担当で、テイストについては何も言われることはなかったんです(笑)。もちろんやれなかったこともあります。部屋の壁のペンキ塗りはお金がかかるのでやめました。ただ、今となってはそれでよかったかなと思います。猫を飼っているので壁が汚れてしまうこともあるのですが、ペンキ塗りだと拭くとはげてきてしまって、手入れが大変なので。2階の間取りは変えずに、ドアにペンキを塗ったり取手を取り替えたり、自分たちでDIYしました」

Nikoちゃん・Pokoちゃんの部屋の壁はニュアンスにこだわったブルー系に塗り、韓国のMYZOO「LUNA キャットステップ」でデコレーション。Pokoちゃんはカーテンの隙間から外を眺めるのが好きだそう(写真撮影/片山貴博)

Nikoちゃん・Pokoちゃんの部屋の壁はニュアンスにこだわったブルー系に塗り、台湾のMYZOO「LUNA キャットステップ」でデコレーション。Pokoちゃんはカーテンの隙間から外を眺めるのが好きだそう(写真撮影/片山貴博)

猫も人も心地いい暮らしを

ソファ以外は「手持ちの家具があったのであまり買い替えていない」というこだわりのインテリアに囲まれた、ヴィンテージ感の漂う落ち着いた空間は、NikoちゃんとPokoちゃんにとっても居心地がよさそう。最初の猫・NikoちゃんはMakiさんたちがこの家に引越してから2年目にやってきた。

Nikoちゃんは猫用ベッドの中からお出迎え(写真撮影/片山貴博)

Nikoちゃんは猫用ベッドの中からお出迎え(写真撮影/片山貴博)

「ちょっと顔が潰れたような犬や猫が好きで。以前はフレンチブルドッグを飼いたいと思っていたんです。たまたまエキゾチックショートヘアを飼っている人が載っている本を見て、その瞬間にビビッときて。そこからずっと飼いたいと思いつつもペットショップで見かけなかったので、そのうちブリーダーさんを通して買いたいなと思っていたんですね。ただ、命を預かることが怖く、なかなか勇気が出なくて、それで2年ほどかかってしまったんです。命を守れるかとか、もしも亡くなったとき耐えられるのかとか考えてしまって。それがある日、ペットショップでNikoと出会って、『うちの子だ!』と覚悟を決めたんです」

触ると嫌がるけど姿が見えないとニャーニャー鳴くというツンデレのNikoちゃん(写真撮影/片山貴博)

触ると嫌がるけど姿が見えないとニャーニャー鳴くというツンデレのNikoちゃん(写真撮影/片山貴博)

運命的な出会いによって家族がひとり増えたMakiさん一家。「今までいなかったのが信じられないくらい」という猫との暮らしにもう一匹が加わったのはその2年後だ。

専用の部屋にはベッドも(写真撮影/片山貴博)

専用の部屋にはベッドも(写真撮影/片山貴博)

「Nikoは典型的なツンデレで、普段はプイッとしているのですが、私がちょっと庭に出たりしているだけで寂しくてニャーニャー鳴くんですよね。2匹いたら寂しくないのかなと思ったのがもう1匹飼おうと思ったきっかけです。Pokoが来た最初のころ、Nikoはどうしていいのか分からないという感じでした。Pokoは小さくて力加減が分からないからNikoに馬乗りになったり噛んだりして、それをNikoは嫌がっていたんですけど、いまでは猫パンチをくらわせて威嚇するなど強くなりました(笑)」

リビングには、木製の宇宙船ベッドやダンボールハウス、ハンモックなどがたくさん。いただきものも多く、どんどん増えてきてしまったのだとか。2階には2匹専用の部屋もあり、毎日2匹はそれぞれ好きな場所で心地よさそうに過ごしている。そこには、猫と心地よく暮らすためのちょっとした工夫も。

窓に取り付けられるタイプのハンモックは、外を眺めたり、日差しを浴びながら寝るのが気持ちいいらしく2匹とも大好きだそう。猫のためのダンボール製インテリアはタイのペット雑貨の会社・KAFBOのオリジナル、木製の宇宙船ベッドは韓国のペットグッズデザイン会社MYZOOのもの。どちらも日本で購入可(写真撮影/片山貴博)

窓に取り付けられるタイプのハンモックは、外を眺めたり、日差しを浴びながら寝るのが気持ちいいらしく2匹とも大好きだそう。猫のためのダンボール製インテリアはタイのペット雑貨の会社・KAFBOのオリジナル、木製の宇宙船ベッドは台湾のペットグッズデザイン会社MYZOOのもの。どちらも日本で購入可(写真撮影/片山貴博)

最初はあまり高いところには登れなかったPokoちゃん。KAFBOのダンボール製インテリアに登っているうちに筋力が付いて椅子の上にも乗れるようになったとか(写真撮影/片山貴博)

最初はあまり高いところには登れなかったPokoちゃん。KAFBOのダンボール製インテリアに登っているうちに筋力が付いて椅子の上にも乗れるようになったとか(写真撮影/片山貴博)

窓際のハンモックでくつろぐのが大好きな2匹。ハンモックはAmazonで購入したものにカバーをつけて(写真撮影/片山貴博)

窓際のハンモックでくつろぐのが大好きな2匹。ハンモックはAmazonで購入したものにカバーをつけて(写真撮影/片山貴博)

「Nikoは家具で爪研ぎなどはしないのですが、Pokoは一時期2階の壁をガリガリしていたので、爪研ぎをしないように爪研ぎ防止のビニールを貼ったりもしていました。うちの子はどちらも高いところに登れないので、キャビネットの上などは荒らされなくて済むので助かります(笑)。よくお花が咲く時期には生花を飾っているのですが、NikoもPokoもあまり興味がないようで食べたりしないんですよね。机の上にあっても、よけるものだと認識しているようでよけて歩くんですよ。ラグは敷いていると毛がついて掃除が大変なので、使うときだけ敷くようにしています。水飲み場は、水がたくさんこぼれるとむく材の床が腐ってしまうと思って、まわりに珪藻土のマットを敷いて水はね予防をしています」

2階の洋室にある猫用トイレには珪藻土を塗ったカバーをつけて目隠し。においもそれほど気にならなくなったそう(写真撮影/片山貴博)

2階の洋室にある猫用トイレには珪藻土を塗ったカバーをつけて目隠し。においもそれほど気にならなくなったそう(写真撮影/片山貴博)

日常がより豊かになる猫との暮らし

猫と人がお互いに心地よい関係性で暮らしているMakiさん一家。猫との生活で一番変わったことは、「旅行に行かなくなった」ことだとか。

「Pokoが来てから旅行に行くこともなかったのですが、昨年ひさしぶりに夫婦で一泊旅行に行きました。一泊だったのでお留守番してもらったのですが、もう心配で心配で(笑)。家にはカメラを3台設置しているので、まめにチェックしていました。ごはんのとき以外はほとんど寝ていましたね(笑)。

普段はiPhoneで撮影をすることが多いというMakiさん。カメラを使用することもあるとか(写真撮影/片山貴博)

普段はiPhoneで撮影をすることが多いというMakiさん。カメラを使用することもあるとか(写真撮影/片山貴博)

玄関横にあるNikoちゃんそっくりの人形。愛犬・愛猫のオーダーメイドぬいぐるみをつくる「PECO Hug」がモデル例として作ってくれたものだとか。思わずNikoちゃんと間違えてしまうことも(写真撮影/片山貴博)

玄関横にあるNikoちゃんそっくりの人形。愛犬・愛猫のオーダーメイドぬいぐるみをつくる「PECO Hug」がモデル例としてつくってくれたものだとか。思わずNikoちゃんと間違えてしまうことも(写真撮影/片山貴博)

今まで動物と暮らしたことがなかったので、動物を飼っているみなさんがよく言う『家族の一員だから』という言葉にあまりピンときていなかったんです。けれど、今はすごくよく分かります。性格的にも、手のかかり方も、5歳と3歳の子どもと暮らしている感じ。Nikoはおませな5歳の女の子で、Pokoは甘えん坊で手がかかる3歳の男の子。どちらもかわいいですね。旅行に行けなくなったことを悲観しているわけではなく、日常はより楽しくなりました。今はただただ長生きしてほしい。NikoとPokoが元気で、幸せだなと思ってほしいですね」

庭を散歩するのが大好きだという2匹が外をより見られるように、いつかウッドデッキをサンルームにしたいという夢をふくらませるMakiさん。2人と2匹の暮らしは、これからもさらに快適にアップデートされていきそうだ。

リードをつけて庭を散歩するのが大好きだというNikoちゃんとPokoちゃん。庭に出るとぐるぐると何周も回るそう(写真提供/Makiさん)

リードをつけて庭を散歩するのが大好きだというNikoちゃんとPokoちゃん。庭に出るとぐるぐると何周も回るそう(写真提供/Makiさん)

KAFBOのダンボール製ハウスですやすや寝ていたNikoちゃんとPokoちゃん(写真撮影/片山貴博)

KAFBOのダンボール製ハウスですやすや寝ていたNikoちゃんとPokoちゃん(写真撮影/片山貴博)

冬服の収納方法をプロに聞いた! 見せる収納&隠す収納でおしゃれに

冬は重ね着が楽しい季節。でも、厚手の洋服は収納場所に困りますよね。かさばりがちな冬の衣類をスッキリ、おしゃれにクローゼットなどに収納する方法を、整理収納アドバイザーの村上直子さんに伺いました。
冬の衣類は、見せる収納と隠す収納のメリハリが大切

厚手のコートやマフラー、肌寒いときに部屋で羽織るカーディガン……冬の衣類はかさばるうえに、体温調節のために着脱する回数も多いもの。ちょっと気を抜くと、玄関やリビングにあふれてしまい、部屋がゴチャゴチャしてきませんか? 整理収納アドバイザーの村上直子(むらかみ・なおこ)さんにその原因を聞くと、第一には、「生活スタイルや動線、使用頻度を考えず、収納場所を決めているから」なのだそうです。

「例えば全ての衣類を、その都度クローゼットにしまうことができれば、スッキリするかもしれません。でも実際には面倒だったり、ニオイや湿気が残って、すぐにクローゼットに入れる気にはならなかったりすることもありますよね。それが散らかる原因。それなら、さっと置くだけの“見せる収納”と、しっかりクローゼットの中にしまって“隠す収納”に分けて、手間を減らすほうが現実的です」(村上さん)

確かに、クローゼットにいちいちしまうのは、面倒くさくてできないことも多いですよね。ではどのように見せる収納と隠す収納を使い分けたらよいのでしょう。今回は実際に村上さんが実践しているアイデアをご紹介します。

整理収納アドバイザーの村上直子さん(写真撮影/蜂谷智子)

整理収納アドバイザーの村上直子さん(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納家具は、インテリアのポイントとしてふさわしいものを

見せる収納としてまず村上さんが見せてくれたのは、おしゃれなカゴ。こちらに部屋で羽織るカーディガンを入れています。見せるための収納には、適当な家具はNG。何も入れていなくてもインテリアとして部屋に置きたいと思うものを、活用するのがポイントだそう。

「見せる収納を部屋のアクセントにしたいなら、いくつかの用途が思い浮かぶような、お気に入りの入れ物を入手しましょう。『部屋着を入れるだけだから』と、ランドリーボックスのような柔らかな収納箱をリビングに置く人がいますが、たくさん入る分、膨らんでだらしない印象になってしまうことも。収納力よりもインテリアとしての価値を重視したほうが、かえって節度のある使い方ができるものです」(村上さん)

さっと脱いだカーディガンや膝掛けを、このカゴへ(写真撮影/蜂谷智子)

さっと脱いだカーディガンや膝掛けを、このカゴへ(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納は部屋のインテリアのポイントにもなる高品質な家具を(写真撮影/蜂谷智子)

見せる収納は部屋のインテリアのポイントにもなる高品質な家具を(写真撮影/蜂谷智子)

外に出しておく衣類は、期間や用途を限定して置きっぱなしを防ぐ

また玄関脇のラックも、雰囲気のあるものを選びましょう。村上さんは、玄関のラックにはお子さんが帰ってきてから学校に行くまでの間、制服を掛けているそう。

「制服以外は、この場所には掛けません。子どもにとって2階の部屋に制服を片付けるのは手間ですし、制服は思いのほか、ホコリや汗がついています。ですから、玄関のラックは干したり消臭スプレーをかけたりして衣類を休ませる場所にしているんです。子どもが学校に行っている間はラックが空になるので、昼間に来客があっても、玄関がスッキリ。ラックは来客にコートを掛けてもらうスペースとして活用します」(村上さん)

玄関にラックを置くと、つい家族の上着類全てを掛けてしまい、こんもりと見苦しくなるもの。使う頻度の高いものだけにするなど、用途を限定することが大切なようです。

また、裏技として、扉の裏を利用した収納方法もおすすめだそう。着たばかりでクローゼットに入れるのはためらわれるコート類は、扉の裏側にフックをセットしてつるしておくと、邪魔になりません。ここにつるすのも、当日着たものに限定し、衣類を休ませたらクローゼットへ。

透かし模様が美しいラックは玄関のイメージを格上げ。衣類を掛けすぎないのがポイント(写真撮影/蜂谷智子)

透かし模様が美しいラックは玄関のイメージを格上げ。衣類を掛けすぎないのがポイント(写真撮影/蜂谷智子)

消臭スプレーなどをセットしておくと、家族が自発的に衣類のケアもするように(写真撮影/蜂谷智子)

消臭スプレーなどをセットしておくと、家族が自発的に衣類のケアもするように(写真撮影/蜂谷智子)

扉の裏を活用した収納は、すぐにでも真似できるアイデア(写真撮影/蜂谷智子)

扉の裏を活用した収納は、すぐにでも真似できるアイデア(写真撮影/蜂谷智子)

クローゼットは、収納用引き出しの容量を最大限に活用する

クローゼットの中が整理できず、いざというときに着たい服が見つからない。服を掘り当てたときにはクローゼットの中がメチャクチャに……整理が苦手な人にはよくあることですが、そういう人は収納用の引き出しの使い方やサイズの選び方を見直す必要がありそうです。

「大前提として、収納ボックスに入れる衣類は、縦に並べて収納しましょう。上に積み重ねて行くと下の服を取り出すたびに引き出しの中を掻き回すことになってしまいますよね」(村上さん)

また、村上さんが特に伝えたいのが、収納用の引き出しのサイズ選びです。

「収納用の引き出しを用途よりも深いものを選ぶ人が多いのですが、上に隙間ができてもったいないですよ。洋服を縦に並べて入れたときにピッタリとおさまる高さを選びましょう」(村上さん)

引き出しの中にデッドスペースができないように、例えば厚めのセーターや夫のボトムスやシーツなどのかさばるものなら36cm、靴下や下着ならば18cmなど、アイテムによって高さを変えることが必要だとのこと。引き出しの中にピッタリと服が入れば、整った印象になり洋服も選びやすいですね。

「収納ケースの選び方のポイントは収納ケースの高さと奥行きの使い方。押入れなどの奥行きがある場合は、収納ケースを前後で使うことをお勧めします。手前がシーズンのよく着る物、後ろを季節外のものにして前後で衣替えをしましょう」(村上さん)

畳んだ衣類を縦に入れてしまえば、洋服が一覧できて服選びが簡単に。高さが引き出しの高さに合っていて、デッドスペースができていないことにも注目(写真撮影/蜂谷智子)

畳んだ衣類を縦に入れてしまえば、洋服が一覧できて服選びが簡単に。高さが引き出しの高さに合っていて、デッドスペースができていないことにも注目(写真撮影/蜂谷智子)

ストール、マフラー類をしまう、ボックスのニ段活用術

冬になって増えてくるのが、ストール・マフラーなどの“巻物”類。ファッションに変化をつけるのに重宝しますが、案外使いたいときに見当たらないことが多いのではないでしょうか。そんな巻物を分かりやすく収納するのが、ボックス使い。シーズンオフのときはクローゼットの上の棚にしまって、出番が来たら箱ごと下に下ろし、出し入れする側を前に倒せば取り出しやすくなります。

「ソフトな箱型収納は、箱自体を折り畳んでしまえる優れもの。使わないときは小さく畳んでおきましょう。輸入家具店などで3つ1500円ぐらいで手に入ります」(村上さん)

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収納ボックスは軽くて取っ手つきで、厚い底がある。まとめやすく高い場所への上げ下ろしもしやすい(写真撮影/蜂谷智子)

収納ボックスは軽くて取っ手つきで、厚い底がある。まとめやすく高い場所への上げ下ろしもしやすい(写真撮影/蜂谷智子)

ニット類はシワにならず、型崩れしないハンガー使いがおすすめ

ニットはシワになりやすく、厚手のものはかさばってしまい、引き出しにしまいにくいもの。着用頻度の高いものはハンガーに掛けることも多いと思いますが、掛け方を間違うと伸びたり、跡がついたりしてしまいます。そこで村上さんが実践しているハンガーの使い方を教えていただきました。

「ハンガーは滑らないタイプのハンガーを使って、畳みながら掛けると跡がつきにくいですよ。ニットを毎回洗うのは手間ですが、着たものを引き出しにしまうのは抵抗があるものです。ハンガーに掛けておけば通気性もよく、お気に入りが見当たらなくなってしまうこともありません」(村上さん)

ニットは畳んでからハンガーに掛ければ肩が伸びることもない(写真撮影/蜂谷智子)

ニットは畳んでからハンガーに掛ければ肩が伸びることもない(写真撮影/蜂谷智子)

衣類を出し入れするのは毎日のことですから、できるだけ無理なく効率よく片付けしたいですね。村上さん流の収納術なら、生活動線や衣類のケアのことも考えられているので、スッキリと部屋が片付くだけでなく、毎日のおしゃれも楽しくなりそうです。厚着になっていく時期に備え、衣類の収納を見直してみませんか?

●取材協力
・kiki*uchi-reset  

料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた

スタイリングもこなす料理研究家として、雑誌や書籍でさまざまなお菓子のレシピを提案している桑原奈津子さん。前回は、定番の朝ごはんとそのつくり方についてお聞きしました。今回は、桑原家のキッチンと、愛用している調理道具や器について、お話を伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、美味しいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。築55年の戸建をリノベーション。月日を経て味わいを増すキッチン

「工場や学校っぽい雰囲気が好き」だという桑原さん。キッチンツールや家具なども、無駄な装飾を省いた業務用のものが好みだそうです。けれども、桑原さん宅のキッチンは「業務用」という言葉からイメージされる無骨さとは無縁の、あたたかみのある雰囲気。

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

12年前にリノベーションした築55年の一戸建ての窓枠や柱などを、当時のまま残していることが、ぬくもりを感じさせる一因のようです。そこに、てらいのないスタイリングを得意とする桑原さんの手が加わることで、甘すぎないけれども穏やかでほっとする、独自の世界観が築き上げられていました。

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)(写真撮影/嶋崎征弘)

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の家具やキッチンツールの大半は、素材がステンレスもしくは木、色は白でそろえられています。すべてのものを同じタイミングで集めたわけではないのに、素材感や色が統一されているから、ものを出しっぱなしにした「オープン収納」を取り入れていても、キッチン全体がすっきりと、まとまって見えます。

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

「調理台にも背面カウンターにも引き出しが少ないので、新たに引き出し付きのワゴンを買い足しました。仕事場っぽい雰囲気にしたかったので、家具より工具入れが合うのではないかと思って、ネットで探しました。キッチンまわりの細々としたものを整理するのにとても便利ですよ」

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

最初にリノベーションを行ったのは12年前ですが、その後も少しずつ手を加え続けている桑原家。「収納スペースの中に取り付ける予定だった固定式の棚板は、あえて2年ほど設置しなかったんです。実際に使ってみて、ここだと確信できてから取り付けを依頼しました」。3年前には、本格的な修繕工事も実施。当時予算の都合などもあり、建築家と相談のうえ後回しにしていた外壁や屋根などに手を加えたそうです。

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

気に入ったものを長く大切に使うことで、自然と生まれた”統一感”

前回、桑原さんが朝ごはんをつくる際に使用したキッチンツール一式はこちら。「気に入ったものは長く使うほうです。ゆで卵をつぶすのに使ったザル、野菜の水切りに使ったサラダスピナーは、わたしの実家で使っていたものを譲り受けました。20~30年以上前のものなので、残念ながらメーカーや商品名は分かりません……」

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる水出しコーヒーは多めにつくって、冷蔵庫にストックしているとのことでしたが、「紅茶も多めに淹れて、冷蔵庫にストックしています。水出しコーヒーと同じように、アイスで飲みたいときはそのまま、ホットで飲みたいときは電子レンジで温めればいいだけなので手軽ですよ」。

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

水出しコーヒーは「iwaki」のウォータードリップサーバーで抽出しています。「サーバーの大きさが400mlちょっとなので、1本のジャグに2回分入れています。1回の抽出に4時間、2回だと8時間。時間はかかりますが、放っておくだけでできるので手間はかかりません」

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用」のキッチンツールのなかにも、桑原さんのお気に入りアイテムがあるそうです。例えば、あちこちで少しずつ集めたステンレスのメジャーカップは「計量するだけでなく、水分の多いものをすくったり、小さなボウル代わりに使ったり。多用途に使えるので便利です。無駄のないデザインで、見た目がシンプルなところも気に入っています」

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

工場や学校っぽい雰囲気が好きだとは言っても、「実用的なもの」ばかりではない桑原さんのキッチン。トースターの上に置かれた木製トングは、「はさみ型なのでトーストしたパンをはさみやすいんですよ。トングでトースターから取り出したパンは、木製トレーの上に置くと、溝にパンくずが落ちて散らからない仕組みなんです。かわいらしくて、いいでしょう(笑)」と、おちゃめに語ってくれました。

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

大好きな器を大事に収めるために設計した、天井まである大型収納

料理研究家という職業柄、桑原さんはたくさんの食器やグラス、スタイリング小物などをお持ちです。にもかかわらず、そういったものが出しっぱなしになっていないのは、シンク横に造り付けた大型タワー収納のおかげ。よく使う食器や調理道具はシンクのすぐ横の棚にまとめ、あまり使わない雑貨類は上の棚に保管しているそうです。

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫のサイズに合わせて造り付けているため、収納スペースの奥行きは約70cmと深めです。奥行きが深いと食器棚としては扱いづらいものなのですが、桑原さんは手前に使用頻度の高いもの、奥側に使用頻度の低いものを収めることで、使い勝手をよくしていました。収めるものの高さに合わせて、棚板の幅が微調整されていることも、ものの探しやすさ、出し入れしやすさに直結しています。

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

「収納スペースがいっぱいなので、以前ほど食器を買わなくなりました。最近はお気に入りのショップに出かけても、見るだけのことが多いです。今使っているものが割れたり、欠けたりしたら、その分は買っていいことにしているんですが、食器って意外と丈夫で長持ちするんですよね(笑)。うちにあるものは、気がつくとどれも長いこと使っているものばかり。使い込むうちに愛着が増すように感じます」

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

よいものを長く大切に使いたいという想いが深い桑原さん。お母様から譲り受けたもの、大学生のころに買ったもの、アンティークショップで出合ったもの。桑原さんのキッチンには、時間をかけて集めたお気に入りがあふれていました。そのアプローチは、何年にもわたって手をかけ続ける家づくり、キッチンづくりにも表れています。

桑原さんのキッチンや愛用品を拝見し、そのお話を聞くにつれ、改めて「家づくりは急がなくていい」「いきなりゴールを目指さなくていい」のだと感じました。少しずつ積み重ねながら、時とともに味わいを増していく桑原家。ここから紡ぎ出される、素朴ながらも研ぎ澄まされたおいしいお菓子のレシピを、これからも楽しみにしています。

●前編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
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料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた

スタイリングもこなす料理研究家として、雑誌や書籍でさまざまなお菓子のレシピを提案している桑原奈津子さん。前回は、定番の朝ごはんとそのつくり方についてお聞きしました。今回は、桑原家のキッチンと、愛用している調理道具や器について、お話を伺います。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、美味しいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。築55年の戸建をリノベーション。月日を経て味わいを増すキッチン

「工場や学校っぽい雰囲気が好き」だという桑原さん。キッチンツールや家具なども、無駄な装飾を省いた業務用のものが好みだそうです。けれども、桑原さん宅のキッチンは「業務用」という言葉からイメージされる無骨さとは無縁の、あたたかみのある雰囲気。

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

窓枠には、自家製の梅干しやフルーツのシロップ、空き瓶や保存容器などをディスプレイするように並べて収納。インテリアとしてキッチンになじんでいます(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

あたたかな日が差し込むダイニングスペースには、雑種のキップル(左)、ハチワレ猫の小鉄(右)、黒猫のクロ(出演拒否)のふかふかベッドが仲良く並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)

12年前にリノベーションした築55年の一戸建ての窓枠や柱などを、当時のまま残していることが、ぬくもりを感じさせる一因のようです。そこに、てらいのないスタイリングを得意とする桑原さんの手が加わることで、甘すぎないけれども穏やかでほっとする、独自の世界観が築き上げられていました。

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)(写真撮影/嶋崎征弘)

「クリナップ」の調理実習台。大勢で使うことを前提でデザインされたシンクは、手前からでも横からでも洗い物ができる仕様。作業台下の収納スペース奥側にはボウルなどの調理道具、手前には「無印良品」の密閉ボックスを並べ、小麦粉や砂糖のストックを収納(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の家具やキッチンツールの大半は、素材がステンレスもしくは木、色は白でそろえられています。すべてのものを同じタイミングで集めたわけではないのに、素材感や色が統一されているから、ものを出しっぱなしにした「オープン収納」を取り入れていても、キッチン全体がすっきりと、まとまって見えます。

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製キッチンと調和する、淡いグレーの背面カウンターは「校庭にあった水飲み場のイメージ。小石を混ぜて固めたセメントを、職人さんが手作業で研ぎ上げてくれました」。使い込むほど味の出る素材です(写真撮影/嶋崎征弘)

「調理台にも背面カウンターにも引き出しが少ないので、新たに引き出し付きのワゴンを買い足しました。仕事場っぽい雰囲気にしたかったので、家具より工具入れが合うのではないかと思って、ネットで探しました。キッチンまわりの細々としたものを整理するのにとても便利ですよ」

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

「トラスコ」の「エースワゴン」にスパイスやカトラリー、トングなどを収納。同行のカメラマンさんいわく、「フォトスタジオでもよく使われているスチールワゴンです。ぼくもほしい」そうです(写真撮影/嶋崎征弘)

最初にリノベーションを行ったのは12年前ですが、その後も少しずつ手を加え続けている桑原家。「収納スペースの中に取り付ける予定だった固定式の棚板は、あえて2年ほど設置しなかったんです。実際に使ってみて、ここだと確信できてから取り付けを依頼しました」。3年前には、本格的な修繕工事も実施。当時予算の都合などもあり、建築家と相談のうえ後回しにしていた外壁や屋根などに手を加えたそうです。

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ウォールナットのダイニングテーブルは190 x 100cm。テーブルに合わせた6脚のチェアはすべてデザイン違い。アメリカの工場用の照明は、アンティークショップで見つけたもの(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングテーブル背面に置いた白い飾り棚は、桑原さんが大学生のときに買ったもの。「薬棚のようなたたずまいが気に入っています」。前面がガラス扉なので、美しいコーヒーカップやティーポットなどを飾りながら収納(写真撮影/嶋崎征弘)

気に入ったものを長く大切に使うことで、自然と生まれた”統一感”

前回、桑原さんが朝ごはんをつくる際に使用したキッチンツール一式はこちら。「気に入ったものは長く使うほうです。ゆで卵をつぶすのに使ったザル、野菜の水切りに使ったサラダスピナーは、わたしの実家で使っていたものを譲り受けました。20~30年以上前のものなので、残念ながらメーカーや商品名は分かりません……」

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

画像の上、2本は「ウェンガー」のブレッドナイフとスナックナイフ。右のゴムベラは、継ぎ目のない一体型を愛用。中央の小さなボウルは調味料や食材をちょこっと入れるのに便利なので、たくさん持っているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる水出しコーヒーは多めにつくって、冷蔵庫にストックしているとのことでしたが、「紅茶も多めに淹れて、冷蔵庫にストックしています。水出しコーヒーと同じように、アイスで飲みたいときはそのまま、ホットで飲みたいときは電子レンジで温めればいいだけなので手軽ですよ」。

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

コーヒーは「KINTO」のジャグに、紅茶は「HARIO」のティーサーバーにストック。コーヒーはストックを切らさないようジャグを2本使い、「1本がなくなりそうになったら、もう1本つくるようにしています」(写真撮影/嶋崎征弘)

水出しコーヒーは「iwaki」のウォータードリップサーバーで抽出しています。「サーバーの大きさが400mlちょっとなので、1本のジャグに2回分入れています。1回の抽出に4時間、2回だと8時間。時間はかかりますが、放っておくだけでできるので手間はかかりません」

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

お取り寄せしているコーヒー豆を、その都度「Bodum」のグラインダーで挽いて水出ししているそうです。時間をかけて抽出するため、苦みやエグみの少ない、さっぱりとまろやかなコーヒーが淹れられます(写真撮影/嶋崎征弘)

「業務用」のキッチンツールのなかにも、桑原さんのお気に入りアイテムがあるそうです。例えば、あちこちで少しずつ集めたステンレスのメジャーカップは「計量するだけでなく、水分の多いものをすくったり、小さなボウル代わりに使ったり。多用途に使えるので便利です。無駄のないデザインで、見た目がシンプルなところも気に入っています」

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのメジャーカップの奥にあるスケールも業務用。「感度が高いので計量スピードが早く、精度も高いんですよ。業務用なので丈夫で、とても古いものですがまだまだ現役。壊れる気配はありません」(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

砂糖・塩を入れている容器も業務用です。ステンレスふたの内側にある凸部分を本体ケースにひっかけると、ふたを開けたままにできるというスグレモノ(写真撮影/嶋崎征弘)

工場や学校っぽい雰囲気が好きだとは言っても、「実用的なもの」ばかりではない桑原さんのキッチン。トースターの上に置かれた木製トングは、「はさみ型なのでトーストしたパンをはさみやすいんですよ。トングでトースターから取り出したパンは、木製トレーの上に置くと、溝にパンくずが落ちて散らからない仕組みなんです。かわいらしくて、いいでしょう(笑)」と、おちゃめに語ってくれました。

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

トーストだけでなく、お菓子やサラダをはさむのにも使いやすいという木製トング。よくあるステンレス製のトングよりあたたかみがあるので、テーブルにそのまま出してもスタイリングの邪魔になりません(写真撮影/嶋崎征弘)

大好きな器を大事に収めるために設計した、天井まである大型収納

料理研究家という職業柄、桑原さんはたくさんの食器やグラス、スタイリング小物などをお持ちです。にもかかわらず、そういったものが出しっぱなしになっていないのは、シンク横に造り付けた大型タワー収納のおかげ。よく使う食器や調理道具はシンクのすぐ横の棚にまとめ、あまり使わない雑貨類は上の棚に保管しているそうです。

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

使用頻度の低いお菓子の型や木製トレーなどは、左側の棚に。スタイリング用に保管しておきたい小物のほか、あまり使わないホットプレートやたこ焼き機などは上段に収納。明確にゾーニングされていました(写真撮影/嶋崎征弘)

冷蔵庫のサイズに合わせて造り付けているため、収納スペースの奥行きは約70cmと深めです。奥行きが深いと食器棚としては扱いづらいものなのですが、桑原さんは手前に使用頻度の高いもの、奥側に使用頻度の低いものを収めることで、使い勝手をよくしていました。収めるものの高さに合わせて、棚板の幅が微調整されていることも、ものの探しやすさ、出し入れしやすさに直結しています。

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

グラス、マグ、平皿、小鉢、汁椀など、ジャンルごとにざっくり分類。お皿は似たサイズごとに重ねて収納しています。ココットや小さいグラスなど、こまごましたものはプラスチックのかごにまとめて取り出しやすく(写真撮影/嶋崎征弘) 

「収納スペースがいっぱいなので、以前ほど食器を買わなくなりました。最近はお気に入りのショップに出かけても、見るだけのことが多いです。今使っているものが割れたり、欠けたりしたら、その分は買っていいことにしているんですが、食器って意外と丈夫で長持ちするんですよね(笑)。うちにあるものは、気がつくとどれも長いこと使っているものばかり。使い込むうちに愛着が増すように感じます」

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

「食器はまとめてそろえず、一枚ずつ集めてもいい」という桑原さん。おすすめは、「お皿なら、白い陶器のもの。磁器よりもあたたかみがあり、使うほどに味がでます。パスタでもカレーでも、おでんでも煮物でも、フルーツでも合いますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

グラスのおすすめは、「うすはりほど薄くないシンプルなタンブラーや、背の低いロックグラスのようなタイプが使いやすいと思います。ビールでもワインでも、お茶でもジュースでも、違和感なく使えます」(写真撮影/嶋崎征弘)

よいものを長く大切に使いたいという想いが深い桑原さん。お母様から譲り受けたもの、大学生のころに買ったもの、アンティークショップで出合ったもの。桑原さんのキッチンには、時間をかけて集めたお気に入りがあふれていました。そのアプローチは、何年にもわたって手をかけ続ける家づくり、キッチンづくりにも表れています。

桑原さんのキッチンや愛用品を拝見し、そのお話を聞くにつれ、改めて「家づくりは急がなくていい」「いきなりゴールを目指さなくていい」のだと感じました。少しずつ積み重ねながら、時とともに味わいを増していく桑原家。ここから紡ぎ出される、素朴ながらも研ぎ澄まされたおいしいお菓子のレシピを、これからも楽しみにしています。

●前編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
>HP >Twitter >Instagram

料理家のキッチンと朝ごはん[1]前編 オープン収納で取り出しやすく。桑原奈津子さんのサンドイッチレシピ

パンケーキやショートブレッド、ビスケットなど、さまざまな”粉”を使ったお菓子のレシピを提案する料理研究家、桑原奈津子さん。デザイナーの夫と、雑種のキップル、黒猫のクロ、ハチワレ猫の小鉄と暮らす桑原さんのキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。平日の朝はおかず系とおやつ系、2種類のサンドイッチを定番に

レシピの提案だけでなく、スタイリングも自らこなす料理研究家として、雑誌や書籍で活躍する桑原さん。12年前、築55年の一戸建てをリノベーションした自宅兼スタジオにお邪魔した私たちを、桑原さんと共に迎えてくれたのは、雑種のキップルでした。

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の平日の朝ごはんは、サンドイッチが定番だそうです。「野菜をたっぷり使ったおかず系サンドイッチと、ジャムやバターを使った甘いおやつ系サンドイッチ。2種類つくることが多いです。おかず系とおやつ系、両方あると、飽きずに楽しめますよ」と桑原さん。

今回は、おかず系として「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」、おやつ系として「ピーナツバター・ジャムサンド」のつくり方を教えていただきました。

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さん家のピーナツバターサンドは組み合わせを楽しむ

「ピーナツバター・ジャムサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
・食パン 2枚
・ピーナツバター
・マーマレード

まずは「ピーナツバター・ジャムサンド」からスタート。つくり方はとっても簡単。食パン一枚にピーナツバターを、もう一枚にマーマレードをぬって重ねるだけ。「マーマレード以外のジャムでもおいしいですよ。今の季節なら、わたしは栗のジャムとローストくるみをあわせるのも好きです」

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家では、朝ごはん用の食パンはホームベーカリーで焼いているそうです。「ふたり家族なので、一斤で2日分の朝ごはんになります」。小麦粉、塩、砂糖、バター、牛乳、ドライイーストでつくるシンプルなパンだそうですが、粉の配合にはこだわりが。「国産小麦の『春よ恋』だけではボリューム不足だと感じるので、外国産の『カメリア』と半々くらいにブレンドしています」

桑原さん家の卵チーズサンドは具材モリモリがポイント!

「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
・食パン 2枚
・スライスチーズ 2枚(桑原さんは、白カビチーズ「トランシュ・ドゥブリー」を使用)
・ブロッコリースプラウト 25g
・バジルの葉 10枚
・ゆで卵 2個
・ピクルス 1本
・粒マスタード 小さじ1
・マヨネーズ 20~30g
・バター
・胡椒

もうひとつは、「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」。まず、食パンに、室温でやわらかくしたバターをぬります。

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

次に、ゆで卵をつぶします。「エッグスライサーを使ってみじん切りにすることもありますが、今回は粗めのザルでこします。同じ食材でも、食感が違うと味の印象も変わるんですよ」。そう話しながら、作業台下のオープン棚から、ひょい!とボウルを取り出す桑原さん。

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

ボウルに目の粗いザルを引っ掛け、ゴムベラでゆで卵を押しつけるようにしてこしたら、さっと振り向き、背面のカウンターに出しっぱなしにしている業務用クッキングスケールに、ゆで卵の入ったボウルをのせる桑原さん。計量しながら、マヨネーズをボウルに直接絞り出します。

硬くて荒い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

硬くて粗い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

続いて、瓶入りマスタードをすくうためのスプーンを取り出したのは、水切りかご。「頻繁に使うものは、洗ったあと水切りかごに入れっぱなしです(笑)」という桑原さんの発言に、なぜだか親近感を感じてしまう……。

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

先ほどバターをぬった食パンに粒マスターをのばしてスライスチーズをのせ、その上にマヨネーズを加えて混ぜたゆで卵ペーストをのせます。

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

作業台からまた振り向いて、背面カウンター上のナイフスタンドからナイフを、その横のツールスタンドから菜ばしを取ります。菜ばしでピクルスを瓶から取り出してまな板に置き、ナイフで半分にカット。

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

卵ペーストの上にカットしたピクルスを並べたら、洗ってサラダスピナーでしっかり水切りしたブロッコリースプラウトをのせます。その上に、お好みでマヨネーズをしぼって、バジルをのせます。もちろんバジルも、洗ってしっかり水切りするのが、水っぽくならない秘訣。「サラダスピナーは朝も晩もよく使う道具なので、あえてしまいこまず、たいてい作業台の上に出しっぱなしにしています」

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

最後に、もう一枚の食パンをのせ、上から優しくぎゅっと抑えたら、「ブロッコリースプラウトとバジルの卵チーズサンド」の出来上がりです。

夫婦の食べる時間に合わせ、半分は朝ごはん、もう半分は昼ごはんに

完成した二種類のサンドイッチは、夫婦二人分。桑原さんの朝ごはんと、夫の昼ごはんになるそうです。「夫は朝、あまり食欲がないので、コーヒーと果物といった軽いものを別に用意しています。夫用のサンドイッチはラップで包んで保冷バッグに入れ、お弁当にしています」。そう話しながら桑原さんは、作業台横にある電子レンジ台の下から、するっとラップを取り出しました。

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ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

半分にカットしたおかず系サイドイッチとおやつ系サンドイッチをそれぞれラップで包んだら、夫のお弁当が完成。ご自身のサンドイッチは、お皿にのせて食卓へ。

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる定番の飲み物は、水出しコーヒー。「夫とわたしで、それぞれコーヒーを飲むタイミングが違うので、一度に800mlくらいを水出しして、常に冷蔵庫にストックしています」。暑い季節なら冷蔵庫からそのまま取り出してアイスコーヒーとして、寒い季節は電子レンジで温めてホットコーヒーとして飲むそうです。

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんづくりに悩む時間が減らせる、メニューの柔軟なルール化

桑原さんが食卓に座り、「いただきまーす」の瞬間、どこからともなく近づいてきたのは、もちろんキップル。「パンが大好きなので、朝ごはんの準備ができると、自然と近くにやってきます」。書籍やツイッターで紹介されているとおりのキップルと桑原さんの朝ごはんの風景は、見ているだけでほのぼのと癒やされるものでした。

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

「朝ごはん」というと、毎朝、違うものを用意しなくては!と意気込んでしまい、キッチンに立つのが憂うつになることも。桑原さんのように、「平日はサンドイッチが定番。そのときどきで、具材を変える」と、あらかじめ柔軟なルールを決めておけば、「朝、なにをつくろうか?」と悩む時間を減らせそうです。

また、よく使うものは出しっぱなしにしたり、扉のないオープン棚を活用したりといった桑原家のキッチン収納のスタイルは、料理が苦手、片づけが面倒なわたしのようなタイプは積極的に見習いたい考え方です。いちいちものを取り出す手間、収める手間がかからないだけでも、料理がうんとラクになる可能性があります。

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

今回は、気分よくぱぱっとつくって、おいしく食べるための桑原さんの朝ごはんとキッチンの工夫をご紹介しました。次回は、桑原さん愛用のキッチンツールや器などについて、お話を伺います!

●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
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「旧耐震」のマンション、買ったらだめですか? 住まいのホンネQ&A(9)

新築マンションの価格が高騰している昨今、注目を集めているのが中古マンション。しかし、いくら価格が安くても「耐震性」は気になる人が多いのではないでしょうか。
1981年以前に建てられた「旧耐震」のマンションも市場に多く出回っています。果たしてその安全性は? 選び方は? さくら事務所の長嶋修会長に解説いただきました。
地震大国日本「安全なマンション」の見分け方

2013年以降、新築マンションの価格は大幅上昇。17年の東京都区部における新築マンション平均発売価格は7000万円を超え、庶民には手の届きにくい水準に。一方で中古マンションは4000万円台と、相対的にリーズナブルであることから「中古マンションを買ってリフォーム・リノベーション」を検討する人が増えています。

一般には、価格下落が緩やかになる築15~20年の物件にお買い得感があり、また最近は築30年以上の取引のウエイトも高まっています。というのも、マンションが数多く造られた70年代の物件が市場に出始めているからです。

そうはいっても気になるのは、中古マンションの「耐震性」。いつどこで大きな地震が起きても不思議ではない地震大国日本で、マンションの耐震性についてどう考えたらいいでしょうか。

大きな目安となるのはいわゆる「新耐震基準」を満たしているかどうか。新耐震基準の建物は阪神淡路大震災の際に全壊が少なかったのに対し、旧耐震建物の中には大破・倒壊した建物も多数見られました(国土交通省「住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題」より)。

現行のいわゆる「新耐震基準」は、78年の宮城県沖地震における被害を受け、81年に建築基準法が改正されたもの。この基準をかんたんにいうと「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」というものです。地震被害が心配な人は81年以降のマンションを選ぶのが基本ですが、いくつか注意点があります。

ここでいう81年とは正確に言えば「81年6月1日以降に建築確認申請が受理されているかどうか」。ところが中古マンションの物件広告には築確認申請受理日の記載はなく、建物の完成(竣工)年月が分かるだけです。なので新耐震基準を満たしているかどうか見極めるには、建築工事期間を考慮に入れる必要があります。マンションは工期が長く、規模にもよるものの、着工から完成までに1~2年近くかかるのが一般的。もし、物件の完成年月が83年もしくは84年以降であれば、新耐震基準で建てられていると考えてよいでしょう。具体的に建築確認申請受理日を知りたければ、不動産仲介会社に調べてもらうか、自治体の担当部署に赴いて尋ねてみましょう。

「旧耐震」でも安全な建物はある

もちろん、新耐震基準以前に建築されたいわゆる「旧耐震」のマンションでも、新耐震基準と同等の耐震設計をしているものは数多くあり、構造面、管理面などを含めて個別にチェックすることが大切。心配ならホームインスペクター(住宅診断士)や建築士など建物の専門家に相談してみましょう。

81年以前の旧耐震の建物なら、耐震診断を受けて、その結果に応じ必要な耐震改修をしているかどうかが評価の一つの目安。

ただし現実には「建物の竣工図面がない」「耐震改修費用がない」「所有者間の合意が得られない」など多くの課題があり、国や自治体も耐震診断や改修に助成措置を講じているものの、耐震診断を受けているマンションはそれほど多くなく、中には耐震診断を受けても改修までは行っていないマンションも多いものです。

地盤のチェックも欠かさずに

もう一つ大事な視点があります。それは「地盤」です。マンションは一般的に地盤の支持層まで、地盤改良を施すため、大きな地震が来てもその影響は限定的であるように設計されていますが、それでも軟らかい地盤の上では建物はより揺れやすくなります。逆に、固い地盤の上に建っていれば、地震の影響は相対的に軽微です。

地盤を調べるのは、国土地理院の「土地条件図」が便利です。住所を入力し「情報」-「ベクトルタイル提供実験」-「地形分類」(自然地形・人口地形)で地盤の傾向を見ることができます。建物の揺れや液状化被害などが心配なら「台地」など相対的に土地が高い位置にあり、浸水や液状化の懸念がなく、地盤の固いところを選びましょう。

国土地理院の「土地条件図」

国土地理院の「土地条件図」

地盤の固いところでも、地面をかさ上げする「盛土」をしていればその限りではありませんので注意が必要です。また、この地盤情報は250メートル基準で作成されており、厳密には個別に地盤調査を行わないとわからないところがありますので、あくまで地盤の傾向がわかるものだということを理解しておきましょう。

よりお得に、安全な中古マンションを購入したい場合、こうした「目利き」のポイントを外さないことが大切です。実際に購入を検討している方は、参考にしてみて下さい。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

あなたは「ヒートショック予備軍」? 予防する方法は?

リンナイが、入浴習慣の実態について調べるために、「ヒートショック危険度チェックシート」を用意した。このチェックシートで、自分はヒートショック予備軍かどうかが分かるという。あなたは危険度の高い“予備軍”に当てはまらないだろうか?【今週の住活トピック】
「入浴」に関する意識調査を公表/リンナイ危険度を判定!あなたはヒートショックを起こしやすい?

まずは、次のチェックシートに挑戦して、あなたのヒートショック危険度を判定してみよう。

ヒートショック危険度 簡易チェックシート
□ メタボ、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症、心臓・肺や気管が悪い等と言われた事がある
□ 自宅の浴室に暖房設備がない
□ 自宅の脱衣室に暖房設備がない
□ 一番風呂に入ることが多いほうだ
□ 42度以上の熱い風呂が大好きだ
□ 飲酒後に入浴することがある
□ 浴槽に入る前のかけ湯をしない、または簡単にすませる
□ シャワーやかけ湯は肩や体の中心からかける
□ 入浴前に水やお茶など水分をとらない
□ 1人暮らしである、または家族に何も言わずにお風呂に入る
リンナイが公開した、入浴科学者・早坂先生監修 ヒートショック危険度チェックシート(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

チェック数が5個以上ある方はヒートショックになる可能性が高い『ヒートショック予備軍』だという。
筆者はチェック数が3つだったが、1つでも当てはまればヒートショックの可能性はあるのだそうだ。油断大敵ということか。

ちなみに、全国の2350人のチェック結果は以下のようなものだった。脱衣室や浴室に暖房設備のない家庭がとても多いことが分かる。

危険度チェックシートの回答結果(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

危険度チェックシートの回答結果(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

ヒートショック対策で、どんなことをすればいい?

この調査で「ヒートショック対策について何か習慣化していることがあるか」を聞いたところ、習慣化している人は18.3%と2割に満たなかった。

また、習慣化していると回答した人の具体的な対策としては、次のような結果になった。
入浴前に脱衣所や浴室を暖かくしておくほかに、入浴前後に水分をとったり、湯船につかる前にかけ湯などで体を温めたり、ぬるめのお湯にして長湯を避けたりといった予防対策が取られている。

ヒートショック対策の回答(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

ヒートショック対策の回答(出典/リンナイ「入浴」に関する意識調査のリリースより転載)

ちなみに、筆者の家の浴室には「浴室乾燥機」がある。「乾燥」「換気」「暖房」「涼風」の機能があるので、浴室内を冬には暖房機能で暖めたり、夏には涼風機能で涼しくしたり、入浴後は換気機能で湿気を排出したりといったことができるので重宝している。

浴室乾燥機がない場合でも、入浴前にシャワーで温水を浴室の壁にかけるなどして、浴室を暖めておくという方法もある。脱衣所に小型のヒーターなどを設置して暖めたり、脱衣所の扉を開けておいて近くのエアコンを使って居室間の室温差を無くしておいたりなどの方法も有効だろう。

また、リンナイのリリースには、ヒートショックを予防する「入浴前準備呼吸」を紹介しているので、試してみるのも良いだろう。 

なお、全国健康保険協会によると、国土交通省はヒートショックを防ぐための住宅環境として、部屋の温度は15℃以上28℃以下、洗面所・浴室・トイレの温度は冬季で20℃以上といった温度条件を紹介しているという。

入浴中だけでなく、住まいの中で急激な温度差にさらされることで起きる可能性もあるのがヒートショックだ。起きて布団から出たときや寒い廊下に出たときにもリスクはつきまとう。住まい全体の暖房器具を上手に活用したり、断熱対策グッズを利用したり、住まいの断熱改修を実施したりといった、住まいの工夫でヒートショック対策を取ることも大切だ。

普段の何気ない生活行動で急激な温度差を感じ、それが命を脅かすヒートショックを生み出すこともあるのだから。

年末に大掃除をやりますか? 気持ちよく新年を迎えたいVS年末は忙しい

花王とダスキンが、年末の大掃除についての調査結果を相次いで発表した。2017年の年末に大掃除をした割合は、それぞれ55.7%/57%と似たような割合だった。つまり、半数近くが年末に大掃除をしなかったわけだが、大掃除をした派・しなかった派で、どういった違いがあるのだろうか?【今週の住活トピック】
「年末大掃除の実施」に関する調査結果を公表/花王
「14回 大掃除に関する意識・実態調査」を公表/ダスキン半数近くが年末に大掃除を実施しなかった!?

昨年の年末に大掃除をしただろうか? それぞれの調査結果は、次のように類似した比率になった。

○花王:年末大掃除実施率57%(2011年調査の66%から大幅ダウン)
○ダスキン:年末の大掃除実施率は55.7%(2005年の調査開始以来2番目に低い比率)

大掃除の実施頻度についてダスキンの調査結果を見ると、「大掃除をほとんどしない」(22.1%)という人もいれば、「2年に1回」(14.9%)、「3年~5年に1回」(5.6%)という人もいて、たまたま2017年には実施しなかったという人もいるようだ。

大掃除の実施頻度(出典/ダスキン「14回 大掃除に関する意識・実態調査」)

大掃除の実施頻度(出典/ダスキン「14回 大掃除に関する意識・実態調査」)

大掃除は普段やらないところまで掃除するチャンス?

ダスキンは「20歳以上の男女」を対象に調査しているのだが、「大掃除をした理由」を聞いたところ、「気持ちよく新年を迎えたいから」という回答が最多の39.4%だった。一方で、専業主婦に限定してみると「普段の掃除で行き届かないところをキレイにしたいから」が44.1%で最多となった。

「普段やらない場所まで掃除したい」という思いは、「20代~60代の既婚女性」に調査した花王の結果も同じで、79%(そう思う36%・ややそう思う43%)の既婚女性がそう思うと回答している。大掃除という建前があるからこそ、普段やらないところまで掃除をしようと思うようだ。

年末大掃除は「普段やらない場所まで掃除したい」と思う割合(出典/花王「年末大掃除の実施」に関する調査結果)

年末大掃除は「普段やらない場所まで掃除したい」と思う割合(出典/花王「年末大掃除の実施」に関する調査結果)

普段からこまめに掃除をしていれば年末に大掃除をする必要はない?

では、「大掃除をしなかった理由」は何だろう?

花王の調査結果によると、「普段からこまめに掃除している」(33%)、「年末は忙しくて時間がとれない」(32%)というものだった。ダスキンの調査でも、「普段こまめに掃除をしているから」が大掃除をしなかった理由の最多ということなので、時間的な問題もあるものの普段の掃除で十分と考えている人も多いことが分かった。

季節に合わせて掃除をするのもおススメ?

ちなみに筆者は、毎年年末に大掃除をしている。やはり「家をきれいにして新年を迎えたい」と思うからだ。といっても最近では、普段おろそかにしている天井や壁、家具のすき間、照明のカバーなどの掃除を加える程度にしている。

その代わりに、季節ごとにしっかり掃除する場所を決めるようにしている。例えば、
・エアコンの掃除は、花粉シーズンが終わり(花粉症なので)冷房を入れる時期が来る前にする。
・窓を開けたままにできる初夏に、カーテンの洗濯や床のワックスがけをする。
・水洗いが苦にならず、油汚れが落としやすい、暖かい時期にキッチンを掃除する。
・豪雨の後、ガラスが濡れているときにガラスを拭く。
あとは、浴室のカビが気になったらそのときというように、気になったときにその場所を掃除するようにしている。

加えて、自分では汚れを落としきれないと思う換気扇(レンジフード)や浴室などは、クリーニング専門業者に依頼している。ただし、スケジュールが調整しづらく高額な年末は外すようにしている。

筆者はこういった掃除を実践しているのだが、一体いつ大掃除をしていると言えばよいのだろうか?

さて、年末が近づいて、そろそろ今年の大掃除が気になるタイミングになってきた。お宅では今年の年末、大掃除で普段やらないところまで掃除するのだろうか、それともこまめに掃除をしているので普段通りの掃除で済ませるのだろうか?どちらにせよ、気持ちよく新年を迎えたいものだ。

中古リノベを選ぶ独身女性が増加中! リノベ女子の暮らしとは

東京をはじめ首都圏で、中古マンションをリノベーションする一人暮らしの女性が増えている。住まいに合わせて暮らすのではなく、住まいを自分らしく変えられるリノベーション。今回は、中古マンションを購入してリノベーションし、理想の暮らしをかなえた「中古リノベ」の実例とともに、選択する人が増えている背景やメリット・デメリットを紹介する。
賃貸・新築購入に並び「中古リノベ」も次の住まいの選択肢に

「実は中古マンションを買って、リノベーションしたんだ」という知り合いが周りにチラホラ現れ、「中古リノベ」が賃貸への引越しや新築マンションの購入と同じような感覚で、次の住まいを考える際に選択肢のひとつになってきていることを実感している人も多いだろう。
ある程度カスタマイズできる賃貸や新築も増えているが、なぜ中古物件を買ってリノベーションをする「中古リノベ」を選ぶ人、特に単身の女性が増えてきているのか。リノベーションのメリット・デメリットと照らし合わせながら、その理由を探っていこう。

「中古リノベ」は住まいに感性を反映できる点が大きなメリット

10年ほど前までは、住まいに手を加える場合、“リフォーム”と呼ぶことが多かったが、現在は“リノベーション”と呼ぶ場合がほとんどだ。両者の違いを一般社団法人 リノベーション協議会では、壊れたトイレの交換や破れた壁紙を張り替えるなどの“原状回復”がリフォームであるのに対し、使える箇所があれば残しつつ暮らしに合わせた家全体の改修をリノベーションと定義している。従来はパーツの組み合わせが中心の「修繕」という概念から、最近は空間全体をオーダーメイドする人が増え、その自由度も格段に大きくなっていると言える。

画像提供/リノベーション協議会

画像提供/リノベーション協議会

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同協議会の樽宏彰さんによると、リノベーションをする人が増えてきた理由は「住宅ローンを組むことが可能になった」点が最も大きいという。20年くらい前までは、リノベーション費用を住宅ローンで一本化して組むことができず、現金で支払うか、別途金利の高いリフォームローン等で手当てするしかなかった。「リノベーション済み物件」が登場し、中古相場で「リノベーション」の価値が認知されるようになり、追いかけるようにここ10年で「中古物件+リノベーション」の一本で住宅ローンを組めるようになった。

「中古リノベ」を選ぶ人のなかでも単身の人は、「賃貸で保証人などで苦労しなくて済むように所有しておく『将来の住まいに対する備え』、新築ほど高価な資産は必要ないが自分らしい暮らしがしたい『経済合理性を求めつつ資産形成』の視点をもっている方が多いように思います」と樽さん。

特に女性には、インテリア好きや料理などの趣味をもつ人も多い傾向があり、実現したい暮らしをイメージすること、つまり感覚的な部分から、マンションの購入を検討しはじめるという。

賃貸とは違い、自分のものになること。未完成の新築物件とは違い、現状を確認して購入し自由に設計できること。そして何より、“新築にはない味わい”があることが、感覚的な部分からスタートしている彼女たちにとって、大きく響くのだろう。

リノベーションの認知度・関心度に関する調査「『住宅購入・建築検討者』調査(2016年度)」(リクルート住まいカンパニー※詳細は記事末にて) リノベーションの認知度は96.9%、関心度は52.1%で、2016年時点で2012年の約1.8倍に。世帯別では、男女ともにシングル層の認知度が高いことが分かる

「『住宅購入・建築検討者』調査(2016年度)」(リクルート住まいカンパニー※詳細は記事末にて)
リノベーションの認知度は96.9%、関心度は52.1%で、2016年時点で2012年の約1.8倍に。世帯別では、男女ともにシングル層の認知度が高いことが分かる

「中古リノベ」のデメリットを理解した資金計画が重要

ただし、「中古リノベ」にはメリットばかりでなくデメリットもあるので注意が必要だ。マンションの面積や築年数、耐震性などの条件によって、住宅ローン減税制度(ローンの一部に相当する金額が所得税や住民税から控除される制度)が使えない場合や、住宅ローンが組めるようになったとはいえ、物件価格+リノベ工事費のフルローンを組むことが難しい場合がある。

特に単身の場合は、一人で完済できるかを問われるため、無理のない資金計画が重要となる。中古マンションの購入に当たっては、年収や勤続年数などで借りられる金額に差が出るが、自己資金が必要な場合があり、早い段階で不動産会社経由でローンの相談をしておくといいだろう。一般的に「年収の5倍、年間の所得に対して25%のローンの支払い」の範囲に収めるのが理想的とされるので、参考にしよう。

“理想の暮らし”を形にした実例を紹介

身を置きたい空間のイメージがふくらみ、資金を用意できたら、準備万全! 「中古リノベ」を実現させるには、どんなステップを踏むのか。東京都豊島区の中古マンションを購入し、リノベーションを行ったKさん(40代・女性・独身)の実例を紹介しながら、その流れを追っていこう。

天井や配管がむき出しになった躯体現しの内装。それでも優しい質感の白い壁や木のフローリングに温もりを感じられ、Kさんが買い集めた古家具やアンティークの照明が良く合う(写真撮影/masa(PHOEBE))

天井や配管がむき出しになった躯体現しの内装。それでも優しい質感の白い壁や木のフローリングに温もりを感じられ、Kさんが買い集めた古家具やアンティークの照明が良く合う(写真撮影/masa(PHOEBE))

以前は家族所有のマンションで暮らしていたKさん。駐車場の隅で偶然出会った生まれたばかりの野良猫、現在は一緒に暮らす「わさび」(取材時3歳・メス)との出会いが「中古リノベ」への背中を押した。

「管理規定でペットが飼えないマンションだったのですが、そのまま見捨てることもできず、里親を探したり、友人に預けたりしていました。しかし、引き取り手が見つからず、安心して飼える環境が必要だと感じました」とKさん。また、蚤の市やアンティークショップなどを巡り、掘り出し物を探すのが好きなKさんは、「自分の暮らしの理想形があったのと、40代という年齢は、ローンを組むならそろそろリミットかなと思って」と、このタイミングでマンション購入に踏み切った理由を振り返る。

内覧した際に気になったという梁の出っ張りは、躯体現しで活かした。左側に写る対面式キッチンのカウンターは、この雰囲気に合う質感をもち、水に強いモールテックス仕上げに(写真撮影/masa(PHOEBE))

内覧した際に気になったという梁の出っ張りは、躯体現しで活かした。左側に写る対面式キッチンのカウンターは、この雰囲気に合う質感をもち、水に強いモールテックス仕上げに(写真撮影/masa(PHOEBE))

窓の外には視界を遮る物がなく、カーテンが不要なほど。カーテンレールは今や、植物をつるすために機能している(写真撮影/masa(PHOEBE))

窓の外には視界を遮る物がなく、カーテンが不要なほど。カーテンレールは今や、植物をつるすために機能している(写真撮影/masa(PHOEBE))

物件探しへと動き出し、当初は新築やリノベ済み物件を探した。しかし、イメージする暮らしと間取りが合わず、中古マンションを買って、自分好みに変えようと思うようになったという。条件はまずペット可であること。そして以前の住まいより広い50平米以上、通勤に便利な場所、駅徒歩数分以内であることなどを優先項目に挙げ、ピックアップした物件を不動産屋さんと約2カ月半、毎週2、3件、計10件ほど内覧した。

LDKには、わさびが運動できるようにキャットウォークを設けた。登りやすさはもちろん、年を取ってわさびが遊ばなくなったら棚として使えるようにも考慮されている(写真撮影/masa(PHOEBE))

LDKには、わさびが運動できるようにキャットウォークを設けた。登りやすさはもちろん、年を取ってわさびが遊ばなくなったら棚として使えるようにも考慮されている(写真撮影/masa(PHOEBE))

LDKにはキャットトンネルがあり、キャットトイレがある洗面脱衣室につながっている(写真撮影/masa(PHOEBE))

LDKにはキャットトンネルがあり、キャットトイレがある洗面脱衣室につながっている(写真撮影/masa(PHOEBE))

その際、「SUUMOジャーナルに掲載されていた『中古マンション見学のポイント』を参考に、部屋以外にもマンションのゴミ置き場、駐輪場が整理整頓されているかなど管理状態もチェックしました」とKさん。築年数がたっているが、管理体制がしっかりしていることもあって気持ち良く過ごせているという。

現在住む物件は、候補のなかで当初の条件に合う順位としては下位のほうだったというが、「当時現在のLDK部分を仕切っていたアコーディオンカーテンを開けたとき、視界が開けたのが気持ち良く、見晴らしが気に入って購入を決めました」

部屋が細かく分かれていた約71平米の2LDKを、ドアがなく緩やかに区切られた1LDKに変更。さらに玄関土間を広げ、オープンな収納にしたことで、よりのびやかな空間に生まれ変わった(画像提供/インテリックス空間設計)

部屋が細かく分かれていた約71平米の2LDKを、ドアがなく緩やかに区切られた1LDKに変更。さらに玄関土間を広げ、オープンな収納にしたことで、よりのびやかな空間に生まれ変わった(画像提供/インテリックス空間設計)

フィーリングが合う会社や担当者との出会いも重要

物件探しの段階からリノベーション会社に依頼すれば、物件探しからリノベーション工事まで、ワンンストップで行ってくれる。その場合は、どの壁が壊せて、どの部分が変えられないなど、アドバイスを受けながら物件を探すことができるので、効率が良いと言えるだろう。

しかしKさんの場合は自分で物件を探し購入したため、希望を実現できるリノベーション会社を別途探す必要があった。Kさんは雑誌などを見て気に入る事例ページをブックマークして、その数が多い3社ほどに連絡。好きなインテリアショップなどの話が合った会社に依頼することにした。

LDK入口のアンティークの扉。プランが決まる前にKさんが一目ぼれし購入したもので、補修して使用している。リノベーション会社によって、部材の持ち込みは不可の場合があり注意が必要(写真撮影/masa(PHOEBE))

LDK入口のアンティークの扉。プランが決まる前にKさんが一目ぼれし購入したもので、補修して使用している。リノベーション会社によって、部材の持ち込みは不可の場合があり注意が必要(写真撮影/masa(PHOEBE))

洗面台のレトロな鏡は、引越し祝いに友人からプレゼントしてもらったもの。こだわりがなかったという水まわりの機能はシンプルに。その分居室に予算を回し、費用面でメリハリをつけた(写真撮影/masa(PHOEBE))

洗面台のレトロな鏡は、引越し祝いに友人からプレゼントしてもらったもの。こだわりがなかったという水まわりの機能はシンプルに。その分居室に予算を回し、費用面でメリハリをつけた(写真撮影/masa(PHOEBE))

設計担当者とは、1カ月半で5回ほど打ち合わせを行い、3パターンほど提案があったという。「担当者とはひたすら意見交換し、一緒に1カ月半の間、ひたすら部屋のことを考えていました。自分の好みを突き詰める、いい時間だったと思います。大変な面もありましたが、その分、図面、そして部屋が完成したときは感動しました」

リノベーション会社の担当者のアドバイスに沿って近隣住民への挨拶を行い、購入契約後から工事を開始。入居はその4カ月後になった。

お気に入りだけに囲まれた自分仕様の住まい

現在の住まいでKさんは、休日にはインナーテラスで本を読んだり、ソファに腰掛けてDVDを観たりと、目的なしにゆっくり過ごしているそう。

寝室に設けたインナーテラスは、主に南向きで2面採光のため、日当たり・風通しともに良好。梁の出っ張りと床タイルでの切り替えが、寝室とインナーテラスとを視覚的に区切る(写真撮影/masa(PHOEBE))

寝室に設けたインナーテラスは、主に南向きで2面採光のため、日当たり・風通しともに良好。梁の出っ張りと床タイルでの切り替えが、寝室とインナーテラスとを視覚的に区切る(写真撮影/masa(PHOEBE))

模様の入ったすりガラスが味わい深い棚も、Kさんが以前の住まいから使っていた古家具のひとつ。以前は食器棚としての役割を果たしていたが、現在の住まいでは本棚に(写真撮影/masa(PHOEBE))

模様の入ったすりガラスが味わい深い棚も、Kさんが以前の住まいから使っていた古家具のひとつ。以前は食器棚としての役割を果たしていたが、現在の住まいでは本棚に(写真撮影/masa(PHOEBE))

「以前から気になってはいたものの、中古マンションを買ってさらにリノベーション工事と、ゼロからやるのは難しいと最初は思っていました。でもちょっとした理由から実際に動いてみて、振り返ると意外と思い通りに部屋全体を自分仕様にできたので、『中古リノベ』がブームとなっている理由が分かる気がします」

都心にもかかわらず、日当たり・風通しがよく開放的で心地よい空間。古くから建つため、恵まれた立地条件であることが多いのも中古マンションならではのメリットだ。わさびもこの部屋にお気に入りの場所をたくさん見つけ、のびのび暮らしている。

インナーテラスで日向ぼっこをするわさび。風通しを良くするために開けられたウィークインクローゼットの上やインナーテラスのカウンターなど、お気に入りの場所を教えてくれた(写真撮影/masa(PHOEBE))

インナーテラスで日向ぼっこをするわさび。風通しを良くするために開けられたウィークインクローゼットの上やインナーテラスのカウンターなど、お気に入りの場所を教えてくれた(写真撮影/masa(PHOEBE))

部屋が完成した後も少しずつ手を加えながら、自分らしい暮らしを満喫しているKさん。「家に居る時間が増えたのと、余計なものを買わなくなりました。本当に気に入ったものしかこの空間に置きたくないので」と、部屋全体を愛おしそうに眺める様子が印象に残った。

窓が多くドアが少ない開放的なKさんの住まい。好みの内装写真を通して建築士とイメージを共有。特に取り入れたかった室内窓にはこだわり、色とサイズを入念に確認して造作した(写真撮影/masa(PHOEBE))

窓が多くドアが少ない開放的なKさんの住まい。好みの内装写真を通して建築士とイメージを共有。特に取り入れたかった室内窓にはこだわり、色とサイズを入念に確認して造作した(写真撮影/masa(PHOEBE))

●取材協力
リノベーション協議会●実例の設計・施工
インテリックス空間設計●調査概要
「『住宅購入・建築検討者』調査(2016年度)」(リクルート住まいカンパニー)

スター猫のお宅訪問![1]インスタ・ブログで人気の「どんこ」と写真家・井上佐由紀さん、外山輝信さんの暮らし

コーヒーショップやインテリアショップが並ぶ渋谷の住宅街。その一角にある築54年のマンションに暮らすのは、写真家の井上佐由紀さんとマネージャーの外山輝信さん。そして、インスタグラムやブログ、雑誌などで人気のスター猫・どんこちゃん(オス、10歳、スコティッシュフォールドのミックス)だ。その暮らしぶりを拝見した。【連載】スター猫のお宅訪問!
インスタグラムで人気のキーワードといえば「猫」。多くのフォロワーを魅了するスター猫たちは、どんな暮らしを送っているのだろう。暮らしの工夫や写真の撮影のコツなどを聞いてみた。どんこちゃんが、グレーが美しいモルタル仕立てのリビングへご案内井上さん撮影のどんこちゃん(画像提供/井上佐由紀さん)

井上さん撮影のどんこちゃん(画像提供/井上佐由紀さん)

取材スタッフがお邪魔すると、井上さん・外山さんとともに玄関でお出迎えをしてくれたどんこちゃん。人見知りはせず「お客さんが大好き」というどんこちゃんが案内してくれたのは、モルタル仕立てのグレーが美しいリビングだ。

「最初はここまでモルタルにするつもりはなかったんです。床はモルタルにしたくて、壁はほかの素材も検討していたのですが、雰囲気も統一できるので結局全部モルタルにしました。ただ、最初の1~2週間は筋肉痛になりましたけど(笑)」(外山さん)
「モルタルの床ってすごく足が疲れるんですよ。もう慣れましたけどね(笑)。フローリングも硬いと思いつつも、やはり木の弾力性ってあるんだなと思いますね」(井上さん)

アートを集めるのも好きだという井上さんと外山さん。壁面収納にはお気に入りのアートをディスプレイ(写真撮影/片山貴博)

アートを集めるのも好きだという井上さんと外山さん。壁面収納にはお気に入りのアートをディスプレイ(写真撮影/片山貴博)

二人が中古マンションを購入・リノベーションしたのは2011年。購入の際は、物件探しからリノベーションまでをトータルでお願いできる会社に依頼をしたそう。物件を探す際に、まずポイントとしたのが立地。

「仕事柄、遠くに住んでいても都心に来ないといけないことが多いなかで、私は出かけるギリギリまで寝ていたいタイプなので(笑)、移動時間が少ないとなると都心かなと」(井上さん)
「建物の価値ってすぐ下がってしまいますけど、土地の値段ってそこまで急には下がらないから、とりあえず立地で選んだほうがいいですよとお願いしたその会社の方に言われて。広さは、それは広いに越したことはないですけど予算の範囲内で。二人だけの生活だし、それほど広さが必要でもないですしね。あと20平米くらい広ければいいなとは思いますけど、多分もう少し広くてもあと20平米くらいあればと思うだろうし、結局きりがないんですよね。あと、狭いほうが掃除が楽ですしね」(外山さん)

井上さん、外山さん宅の間取り

井上さん、外山さん宅の間取り

立地とともにこだわったもうひとつのポイントが、猫と暮らせることだ。ペット可物件を購入し、時を同じくして出会ったのが、どんこちゃんだった。

「以前からたまに、友達が旅行に行くときなどに猫を預かったりしていたんです。その子も愛想がよくて、膝の上に乗ってくるのを見ると猫と暮らすのもいいなと思って。その子も保護猫で、そういうシステムがあることを知って、インターネットの譲渡サイトで探しているときにどんこを見つけて。『こいつだ!』と思ったんです。けれど、外山さんや友人に見せたら、『なんでこいつなの?』と言われて(笑)」(井上さん)
「里親さんがガラケーのカメラ機能で撮った写真だったので、画質もすごく悪いしピンとこなかったんですよね(笑)。でも、井上が飼いたいという気持ちがあるならいいかなと思って」(外山さん)
「私が『こいつがいい!』って引かなかったんですよね。会いにいったら、ほかの子が隠れたりシャーシャーって声を出しているなかで、どんこはのんきにウロウロしていて、私のほうに近づいてきて。それはもう運命だと思っちゃいますよね」(井上さん)

井上さんが大好きなどんこちゃん。膝の上もお気に入り(写真撮影/片山貴博)

井上さんが大好きなどんこちゃん。膝の上もお気に入り(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのお気に入りのおもちゃは、フェルトでできたボール(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのお気に入りのおもちゃは、フェルトでできたボール(写真撮影/片山貴博)

部屋は猫も人も心地よく、すっきりと

猫を飼うのははじめてだったという井上さんと外山さん。運命的な出会いを経て、どんこちゃんは晴れて家族の一員となった。どの家でも自分の居場所のようにくつろげるというどんこちゃんは新居にもすぐ慣れたという。取材中も部屋を歩いたり机の上に寝転んでインタビューを聞いていたりとマイペースに過ごしていた。

取材中、お腹がすいてお昼ごはんを。ごはんは一気に食べる派(写真撮影/片山貴博)

取材中、お腹がすいてお昼ごはんを。ごはんは一気に食べる派(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのドライフードは瓶に入れて保存(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのドライフードは瓶に入れて保存(写真撮影/片山貴博)

「お客さんのことが好きで、来客中もずっとウロウロしているんですよね。はじめて飼う猫なのであまり猫のことを分かっていなかったんですけど、よその子を預かったりすると、どんこは動きがどんくさいなって思います(笑)」(井上さん)

ものが少なくすっきりとした部屋は、猫にとっても過ごしやすそう。外山さんはあまりものを置きたくない派なのだとか。

キッチンは、モルタル仕立ての空間とよく合うステンレス製(写真撮影/片山貴博)

キッチンは、モルタル仕立ての空間とよく合うステンレス製(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

「引越す前からものが少ないとは言われていたんですけど、引越し後もさらに減らしていきました。外山さんはもともと本を集めるのが趣味でレアな本や写真集が並んでいたんですけど、全部売ってしまったんです」(井上さん)
「なるべくものを増やしたくないので、本も読んだら捨てる。たくさん並べていても自慢しているだけになってしまうというか。結局出して見ないし、それだったら意味ないなと思って。音楽もCDでは一切買わずデータです。あと、掃除に時間をかけるのが無駄だなと思ったんです」(外山さん)

スッキリとした空間には、ちょっとした猫への配慮も壊れてしまうものは壁面収納の中段に。口から煙が出るという猫のお香立ては「H.P.FRANCE」で購入(写真撮影/片山貴博)

壊れてしまうものは壁面収納の中段に。口から煙が出るという猫のお香立ては「H.P.FRANCE」で購入(写真撮影/片山貴博)

「棚の上にガラス製のものを置いていたときはよく落とされていたので、全部中段に入れたんですよ。どんくさいせいか、中段に入ることはできないみたいで、割られることはなくなりましたね。割れるものや小さいものは買わなくなりました」(井上さん)
「一人掛けのソファはもともとファブリックだったんですけど、友達の猫を預かったときに爪とぎをしてしまうので革に張り替えたんですよ。床の円形クッションはなぜ中途半端なところに置いているかというと、どんこが机から飛び降りたときに足が痛くないようにと思って置いたんです。けれど、実際は人間が気遣いをしてもそうではないところに降りるから意味ないんですけどね(笑)。あと、どんこはティッシュを食べてしまうので、友達がつくってくれたふたつきのティッシュケースを使っています」(外山さん)

モルタル仕立てのスタイリッシュな空間。ダイニングチェアはフリッツ・ハンセンの「セブンチェア」、パッチワークのソファは中目黒「HIKE」でオーダー(写真撮影/片山貴博)

モルタル仕立てのスタイリッシュな空間。ダイニングチェアはフリッツ・ハンセンの「セブンチェア」、パッチワークのソファは中目黒「HIKE」でオーダー(写真撮影/片山貴博)

「特に、猫のために何かをやっているわけではない」という部屋は、時とともに自然と、人間も猫も居心地がいい空間になっていっているようだ。どんこちゃんと暮らして7年。いまや雑誌のカバーを飾り、カレンダーも発売されるなどスター猫となったどんこちゃん。「どんこちゃんに会いたい!」と家を訪ねてくれる人も増えたのだとか。スター猫の飼い主と聞くとさぞ猫好きだろうと思いきや……。

「僕たちすごく猫好きに思われるんですけど、特別に動物が好きなわけじゃないんですよね(笑)。ほかの猫にわざわざ会いに行くこともないし」(外山さん)
「そうなんです。どんこが好きなだけなんです(笑)」(井上さん)

本当に必要なものと暮らす、無駄のないシンプルでコンパクトな暮らし。それはとても豊かな空間と暮らしだった。

リビングの窓際でくつろぐどんこちゃん(写真撮影/片山貴博)

リビングの窓際でくつろぐどんこちゃん(写真撮影/片山貴博)

アメリカ発の「小さな家」 タイニーハウスで実現する“シンプルで豊かな暮らし”

ここ数年で注目を集めつつある「小さな家」、タイニーハウス。移動ができるタイプであれば、トレーラーハウスのように“移動する暮らし”を実現できる利点もあります。アメリカでは、サブプライム住宅ローンの破綻やハリケーンによる被害などをきっかけに、「大きな家が豊かさの象徴」という価値観は揺らぎ、「シンプルに豊かに暮らしたい」というタイニーハウス・ムーブメントが起こっています。こうした動きは今後、日本で広まっていくのでしょうか。YADOKARI株式会社が運営するタイニーハウスの宿泊施設で、同社プロデューサーの相馬由季(そうま・ゆき)さんにお話を聞きました。
低コスト、居住空間の移動を可能にする“小さな家”の魅力とは

YADOKARI株式会社はタイニーハウスに関するメディア運営やイベント企画を行い、相馬さんはプロデューサーとして携わっています。

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――まずはタイニーハウスの定義を教えていただけますか。

明確な定義はありませんが、弊社では基本的に「約20平米前後の大きさで、1000万円以内で購入できる家」と設定しています。ホイールの上に設置された、自動車で牽引する移動式のタイプもあります。

1000万円以内を目安にしているのは、人によってはローンを組まずに支払える金額ですし、組む場合でも数年間の短いローンで返済可能な場合が多いからです。つまり、長年ローンを返すためだけに働く必要がなくなります。そうすると、働く時間を減らしたり、収入にこだわらず本当にやりたい仕事をしたりと、充実した人生を送ることができるというわけです。

――タイニーハウスは日本でどのようにして注目されるようになってきたのでしょうか。

大きなきっかけとなったのが東日本大震災です。未曽有の大災害がきっかけで、徐々に暮らしの価値観に変化がもたらされてきたように感じます。所有するモノを減らしてシンプルに生きよう、働き方や、大事な人との暮らし方を見直してみようといった価値観を持つ人が増え、その結果、タイニーハウスにも目が向けられるようになってきたのではないでしょうか。

タイニーハウスをつくり始めたり、タイニーハウスと本宅との二拠点居住の生活をしたりするなど、行動を起こす人も少しずつ現れてきました。最近は住宅関連のメディアなどでも、この用語が取り上げられるようになったと感じています。

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――タイニーハウスの課題はどんなところでしょうか。

一番は土地の問題ですね。小さな家なので大きい土地は必要ないものの、土地を購入してそこに電気やガス、水道を引く必要がある場合は結局費用がかさんでしまいます。

次に、いざ購入しようと思っても手間がかかるという点です。まだ日本では扱っているハウスメーカーが少ないですし、セルフビルドしようとしても設計の依頼や建築材料の調達など、問題が山積みです。

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ (画像提供 YADOKARI株式会社)

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ(画像提供 YADOKARI株式会社)

――タイニーハウスに興味を持つのはどのような人が多いですか?

1年ほど前、2017年秋に実施した初回の参加者は50~60代の男性がメインでした。定年後のセカンドライフで、別荘のように使うことを検討している人が多かった印象です。

それが徐々に変化し、最近では男女問わず30~40代の方がメインになりました。みなさんバリバリ働かれている方ばかりです。これはアメリカでも同じような傾向があったのですが、「モノを持つだけ持って、大きな家に住んでみたけど、その先に自分の幸せはなかった」「お金はあるけども、仕事が忙しく家族との時間がとれない生活は望んでいない」といった、今までの自分の生き方や暮らし方に疑問を感じたときに、タイニーハウスに興味を持つ傾向があるようです。

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

また、最近地方自治体からは移住を前提とした多くの相談を受けています。遊休地の活用や人口減の対策としても、タイニーハウスは期待できると考えています。

ただし、小さな家で暮らすことそのものを目的としてしまうと、結果的に不幸になってしまうケースもあるんです。アメリカでブームになったときは、タイニーハウスに住めば幸せになれると期待して住みはじめたものの、「狭すぎる」と売ってしまう人もいたそうです。日本でも単にブームだというだけで購入してしまうと、後悔しかねませんので注意が必要です。

タイニーハウスが働き方、生き方を見直すきっかけに

タイニーハウスの全体像が見えてきたところで、実際に住んでいる方にもお話を聞いてみました。タイニーハウスに住んで4年になるNPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央(すずき・なお)さんです。

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

――なぜタイニーハウスに住むようになったのでしょうか。

以前は、賃料12万円の150平米の2階建て賃貸住宅に住んでいましたが、一時期体調を悪くして仕事も行き詰まり、夫婦関係も良好ではないなど心身ともにボロボロの状態になりました。そこで生活を見つめ直し、「自分はどんな家でどんな暮らしをしたいんだろう」と考えていたときに、タイニーハウスに出合ったことがきっかけで住むことになったのです。
必要最低限のエコな暮らしに興味があったし、月々の賃料の支出を減らすことで少ない稼ぎでも生活は維持できる。そうすれば夜中まで仕事をしなくていいし、家族の時間も増える―――。このように総合的に判断して、とても合理的な生活ができると思いました。

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

――住んでみて分かったタイニーハウスのメリットとデメリットを教えてください。

狭いので片づけが楽、同じ部屋にいることが多くなり家族の距離が縮まるなどメリットはいろいろあります。しかし一番は、月々の賃料を支払う金銭的な不安から解放され精神的に自由になれたことです。このタイニーハウス自体は中古物件で4年ローンの480万円で購入し、最近支払いが終わりました。たった4年で住宅ローンが完済するなんて通常では考えられませんよね。また、光熱費も以前の半分ほどになり、賃料の負担が減った分とあわせて、家族で海外旅行をする費用などに回して楽しんでいます。

広さは、ロフト部分を含め約50平米。1階はリビング兼ダイニング、廊下兼キッチン、寝室、トイレです。ロフト部分は、天井が低い高さ140cmの子ども部屋と高さ110cmの荷物置きスペースという間取りになっています。

デメリットは、強いてあげれば、トレーラーでけん引して移動するので、家が多少傷んでしまう点が挙げられます。10トンの中古物件を購入したこともあって、トレーラーで運んだときの揺れで壁に亀裂が入ったり、水まわりが少し弱くなったりと一部損傷が発生しました。

また、正直「部屋が狭い」と感じることがあります。2人の子どもが大きくなってきていることも理由の一つです。その反面、家具をコンパクトにしたり、その他にも物を厳選して増やさないようにしたりと、生活を工夫できる楽しさがあります。それはそれで良い暮らしだと思っています。

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

――どんな人がタイニーハウスの暮らしに向いていると思いますか?

暮らすためにはいろんな工夫が必要になるので、日々冒険する感覚でデメリットも楽しめる人ですね。パッケージで、完成したものが欲しいという人には不向きといえるでしょう。

例えば、私の場合は部屋が狭いので、部屋と同じくらいのサイズのウッドデッキを造りました。ちょっとしたことなら外のデッキで作業ができたり、天気のいい日には食事をしたり、洗濯物を干したりできるようになりました。

このウッドデッキの増設により居住空間の移動は難しくなったものの、当面は移動せず、広くなった生活スペースで快適に過ごしたいそう。
働き方や生き方の多様化が進む昨今。シンプルで、状況に応じて移動も可能なタイニーハウスは、これからの住まい選びの選択肢の一つになっていくかもしれませんね。

●取材協力
・YADOKARI株式会社
・NPO法人グリーンズ

家事が億劫になるのは、怠け癖ではなく「住まいの温熱性能」が理由だった!?

旭化成建材・快適空間研究所と旭リサーチセンターが「住まいの温熱環境の実態と満足度」の第4回調査結果を公表した。筆者はこの結果を見て、「寒くて掃除する気にならない」と思うのは、私だけではないことに安心したり、自ら住宅内に温度ムラをつくっていたことが分かって反省したり、いろいろと気づくことが多かった。皆さんはどうだろうか?【今週の住活トピック】
「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査」を公表/旭化成建材・旭リサーチセンター温熱性能が高い住まいほど、家事行動が“億劫でない”傾向に

まず、この結果(画像1)を見てほしい。

【画像1】冬季の家事行動について(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像1】冬季の家事行動について(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

筆者は、猛暑日の昼間や真冬の夕方などに「掃除するのが面倒だなあ」と思いながら、だらだらと掃除をすることが何度もあった。我が家はマンションながら角住戸なので窓が多く、室内にいて暑さや寒さを感じることが多い。料理や洗濯よりも、住宅内の部屋を移動しながら掃除をするのが、特に億劫に感じる。

この結果を見て、筆者は激しく同意したのだが、皆さんはどうだろう?

温熱性能が高い住まいに暮らす人ほど、生活にムリ・ムダがない?

さて、「住まいの温熱環境の実態と満足度」の調査は、過去3回の調査で、「室温が高いと冬の防寒行動が少ない」、「温熱性能が高い住宅では、夏熟睡できる」など、住宅の温熱環境で生活行動に違いがあることを明らかにしてきた。第4回(2018年3月実施)では、冬季の生活行動・暮らしの関係などをより具体的に調査している。

調査対象は、一戸建ての持ち家に2人以上で住む既婚世帯。住宅の温熱性能を低・中・高の3つに分類して、意識や行動について比較している。温熱性能は、窓ガラスの種類への回答によって次のように分類しているが、これまでの調査によって、住宅全体の断熱性能と高い相関があることが確認されているという。
・温熱性能「低」:シングルガラス(N値:450)
・温熱性能「中」:複層ガラス(N値:484)
・温熱性能「高」:Low-Eペアガラス/トリプルガラス(N値:72)

今回の調査結果を分析した快適空間研究所では、生活行動に明確な違いがあった5つを「生活価値」として提示し、温熱性能が高いほど、「ムリ・ムダのない合理的な暮らしをしていることが推測される」とまとめている。

○温熱性能が高い住まいの5つの生活価値
(1)家事行動が「億劫でない」傾向に
(2)入浴時と睡眠・起床時に「不快でない」傾向に
(3)室内での「着衣と布団が少ない」傾向に
(4)寒さを解消するための「手間が少ない」傾向に
(5)空間利用の「無駄がない」傾向に

筆者が特に気になったのは、(1)と(5)だ。(1)はすでに紹介したので、次は(5)について見ていこう。

温度ムラ(住宅内の温度差)は部屋を閉ざすことでつくられる?

まず、冬に「家の中で寒くて使いたくない部屋やスペースがあるか」を聞いたところ、「ある」と答えたのは温熱性能「低」で35.7%、温熱性能「中」で30.9%、温熱性能「高」で27.4%で、温熱性能による差が見られた。

次に、「居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活しているか」を聞いたところ、以下のグラフの結果となった。住まいの温熱性能の高さによって、大きな差が生じている。

【画像2】居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活している(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像2】居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活している(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

今回の調査では、別に訪問調査も行っている。温熱環境に満足していると回答した7軒のお宅に訪問して、暮らし方を調査するだけでなく、サーモカメラを使って室内ごとの温度も測っている。訪問調査の結果では、温熱環境が悪いと思われがちな階段下に机を置いて勉強スペースとするなど有効活用をしている事例や、1階の各部屋の室内ドアを敢えて無くして開放的な間取りにした事例などがあったという。

また実際に各部屋の室温を測ってみると、室内ドアを開けたままのお宅のほうが「温度ムラ」がないということも明らかになった(画像3)。

【画像3】訪問調査の結果を一部抜粋(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像3】訪問調査の結果を一部抜粋(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

実は筆者は、光熱費を削減しようと、一人でいるときはその部屋だけ冷暖房を入れるようにしている。そうすると、部屋を移動するとムッとする暑さやヒヤッとする寒さを感じたりする。掃除が億劫になるのは、室温だけでなく、温度ムラも原因になっていたのだと思う。今はまだいいが、年齢を重ねていくと温度ムラが体にこたえるようにもなるだろう。

そういえば、来客時に室内ドアをすべて開けて2台のエアコンで冷房をかけたときは、住宅内の温度ムラがなかったなあと思い出し、これからは開放的に暮らそうと思った次第だ。

ほかにも調査結果では、住宅検討時に「住まいの温熱性能」について調べるなどの情報収集や勉強をした人ほど、温度ムラのない住まいに満足する傾向が見られた。

住宅供給側の説明を聞くだけでなく、自ら住まいの性能について知識を得た人ほど、満足度が高い家を手に入れることができ、ムリ・ムダのない生活を過ごせるということなので、皆さんも住まい選びでは気になることは自らしっかり調べることをお勧めしたい。

家事が億劫になるのは、怠け癖ではなく「住まいの温熱性能」が理由だった!?

旭化成建材・快適空間研究所と旭リサーチセンターが「住まいの温熱環境の実態と満足度」の第4回調査結果を公表した。筆者はこの結果を見て、「寒くて掃除する気にならない」と思うのは、私だけではないことに安心したり、自ら住宅内に温度ムラをつくっていたことが分かって反省したり、いろいろと気づくことが多かった。皆さんはどうだろうか?【今週の住活トピック】
「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査」を公表/旭化成建材・旭リサーチセンター温熱性能が高い住まいほど、家事行動が“億劫でない”傾向に

まず、この結果(画像1)を見てほしい。

【画像1】冬季の家事行動について(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像1】冬季の家事行動について(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

筆者は、猛暑日の昼間や真冬の夕方などに「掃除するのが面倒だなあ」と思いながら、だらだらと掃除をすることが何度もあった。我が家はマンションながら角住戸なので窓が多く、室内にいて暑さや寒さを感じることが多い。料理や洗濯よりも、住宅内の部屋を移動しながら掃除をするのが、特に億劫に感じる。

この結果を見て、筆者は激しく同意したのだが、皆さんはどうだろう?

温熱性能が高い住まいに暮らす人ほど、生活にムリ・ムダがない?

さて、「住まいの温熱環境の実態と満足度」の調査は、過去3回の調査で、「室温が高いと冬の防寒行動が少ない」、「温熱性能が高い住宅では、夏熟睡できる」など、住宅の温熱環境で生活行動に違いがあることを明らかにしてきた。第4回(2018年3月実施)では、冬季の生活行動・暮らしの関係などをより具体的に調査している。

調査対象は、一戸建ての持ち家に2人以上で住む既婚世帯。住宅の温熱性能を低・中・高の3つに分類して、意識や行動について比較している。温熱性能は、窓ガラスの種類への回答によって次のように分類しているが、これまでの調査によって、住宅全体の断熱性能と高い相関があることが確認されているという。
・温熱性能「低」:シングルガラス(N値:450)
・温熱性能「中」:複層ガラス(N値:484)
・温熱性能「高」:Low-Eペアガラス/トリプルガラス(N値:72)

今回の調査結果を分析した快適空間研究所では、生活行動に明確な違いがあった5つを「生活価値」として提示し、温熱性能が高いほど、「ムリ・ムダのない合理的な暮らしをしていることが推測される」とまとめている。

○温熱性能が高い住まいの5つの生活価値
(1)家事行動が「億劫でない」傾向に
(2)入浴時と睡眠・起床時に「不快でない」傾向に
(3)室内での「着衣と布団が少ない」傾向に
(4)寒さを解消するための「手間が少ない」傾向に
(5)空間利用の「無駄がない」傾向に

筆者が特に気になったのは、(1)と(5)だ。(1)はすでに紹介したので、次は(5)について見ていこう。

温度ムラ(住宅内の温度差)は部屋を閉ざすことでつくられる?

まず、冬に「家の中で寒くて使いたくない部屋やスペースがあるか」を聞いたところ、「ある」と答えたのは温熱性能「低」で35.7%、温熱性能「中」で30.9%、温熱性能「高」で27.4%で、温熱性能による差が見られた。

次に、「居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活しているか」を聞いたところ、以下のグラフの結果となった。住まいの温熱性能の高さによって、大きな差が生じている。

【画像2】居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活している(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像2】居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活している(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

今回の調査では、別に訪問調査も行っている。温熱環境に満足していると回答した7軒のお宅に訪問して、暮らし方を調査するだけでなく、サーモカメラを使って室内ごとの温度も測っている。訪問調査の結果では、温熱環境が悪いと思われがちな階段下に机を置いて勉強スペースとするなど有効活用をしている事例や、1階の各部屋の室内ドアを敢えて無くして開放的な間取りにした事例などがあったという。

また実際に各部屋の室温を測ってみると、室内ドアを開けたままのお宅のほうが「温度ムラ」がないということも明らかになった(画像3)。

【画像3】訪問調査の結果を一部抜粋(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像3】訪問調査の結果を一部抜粋(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

実は筆者は、光熱費を削減しようと、一人でいるときはその部屋だけ冷暖房を入れるようにしている。そうすると、部屋を移動するとムッとする暑さやヒヤッとする寒さを感じたりする。掃除が億劫になるのは、室温だけでなく、温度ムラも原因になっていたのだと思う。今はまだいいが、年齢を重ねていくと温度ムラが体にこたえるようにもなるだろう。

そういえば、来客時に室内ドアをすべて開けて2台のエアコンで冷房をかけたときは、住宅内の温度ムラがなかったなあと思い出し、これからは開放的に暮らそうと思った次第だ。

ほかにも調査結果では、住宅検討時に「住まいの温熱性能」について調べるなどの情報収集や勉強をした人ほど、温度ムラのない住まいに満足する傾向が見られた。

住宅供給側の説明を聞くだけでなく、自ら住まいの性能について知識を得た人ほど、満足度が高い家を手に入れることができ、ムリ・ムダのない生活を過ごせるということなので、皆さんも住まい選びでは気になることは自らしっかり調べることをお勧めしたい。

リノベパーツを駆使した「toolbox」な暮らし その道のプロ、こだわりの住まい[1]

「ここなら楽しんで家づくりができそう」と、築48年の中古マンションを夫と購入して、昨年の5月にリノベーションした「toolbox」スタッフの小尾絵里奈さん。仕事仲間と壁を塗り替えたり、同店の床材や引き戸、レンジフードなどを取り入れたり。「すごく楽しんでできました」と当時の様子を教えてもらった。

【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
コーヒーショップやインテリアショップのスタッフ、旅人、料理家……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。コンセプトと好きなパーツを決めて、自分たち好みの空間にリノベした部屋

内装建材や家具、住宅設備やパーツを扱うオンラインストア「toolbox」。シンプルでミニマルなデザインものや、木や鉄の素材感を活かしたものがそろい、リノベーションやDIYで好みの空間をつくりたい人の強い味方だ。そこで働く小尾さんは、言わずもがな、設備やパーツを熟知。彼女が使いたいと思った好みのパーツを詰め込んだというマンションは、黒杉材を使用した裸足で歩くのが気持ちのいい床に、室内窓がアクセントになった落ち着く空間。実際にどのように家づくりを進めて仕上げていったのだろうか。

10代のころからの付き合いという小尾さん夫妻。リノベは妻主導で、電化製品などのセレクトは夫が担当した。グリーンが置かれ、ゆったりしたリビング。正面の壁のペイントは、あえて少しムラのある仕上がりにし、天井の照明はデザイン選びも含め職人に任せたものだそう(写真撮影/masa(PHOEBE))

10代のころからの付き合いという小尾さん夫妻。リノベは妻主導で、電化製品などのセレクトは夫が担当した。グリーンが置かれ、ゆったりしたリビング。正面の壁のペイントは、あえて少しムラのある仕上がりにし、天井の照明はデザイン選びも含め職人に任せたものだそう(写真撮影/masa(PHOEBE))

ざらりとした肌触りの床に、薄いグレーの壁と天井。小尾さんのお宅は、ひと目でこだわったであろう様子が分かる。それを伝えると、小尾さんは「でも、そこまで強いこだわりとか、細かい要望があったわけではないんです」と笑顔で答えてくれた。空間づくりを楽しむということを大切に、無理せず、考えすぎず、進めていったという。「弊社が運営する『東京R不動産』でたまたま目にした物件で、ここなら楽しい家づくりができるんじゃないかと思って。もともとの内装も好きでしたし、共用部分もプールまでついていて、価格が予算内だったので衝動買いみたいな勢いでした」。大きな間取りの変更はせず、活かすところは残しつつ、内装に手を加えていった。

自分でこだわるところ、職人にまかせるところをきちんと分けて

「まずは、『落ち着く空間にしたい』というコンセプトを決めて。あとは、好きなパーツを集めて、平面図にいろいろ写真を貼ってイメージを固めて、職人さんにも伝えていきました。ただ、細かいところまですべて自分たちで決めるとなると大変なので、プロにまかせるところはお願いして。キッチンの壁は使いたいタイルだけを伝えてどう施工するかは委ねました」

屋外に面した窓のないダイニングキッチンだが、室内窓を設けたおかげで、隣の寝室からの光が程よく差し込む(写真撮影/masa(PHOEBE))

屋外に面した窓のないダイニングキッチンだが、室内窓を設けたおかげで、隣の寝室からの光が程よく差し込む(写真撮影/masa(PHOEBE))

小尾さんの言う「好きなパーツ」とは、床材や室内窓、引き戸といった大きなものから、照明や棚受け、水栓金具などの小さなものまで幅広いもの。どこに何を使いたいか、好きなものを集めて施工する職人に伝えていった。これらは小尾さんが勤めている「toolbox」で扱うものから選んでいる。
「各メーカーのカタログは、幅広いテイストがそろっていて見ごたえはあります。でも、そこから好みのものを探すとなると、時間も手間もかかってしまう。自分が好きで勤めている店だから、それほど悩むこともなかったんです」

玄関はあまり手を加えずに、照明を好みのものに。「toolbox」で扱っている「白熱サンマ球」タイプ。漁船で使用されている電球を一般家庭用にアレンジしたもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

玄関はあまり手を加えずに、照明を好みのものに。「toolbox」で扱っている「白熱サンマ球」タイプ。漁船で使用されている電球を一般家庭用にアレンジしたもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

「toolbox」は、“自分らしい空間をつくるための「手立て」を詰め込んだ道具箱”として、リノベやDIYでの空間づくりに役立つ内装建材や家具、住宅設備やパーツなどを取りそろえている。各メーカーからセレクトした商品のほか、オリジナルも製作していて、それらを使った施工例も充実。小尾さんは受発注業務を担っていて、商品のラインナップを熟知している。「リノベ前の内装も好きだったので、スイッチプレートなど活かせるものは残しつつ、タオルバーやタイルなど、好きな素材を取り入れていきました」。もちろん、小尾さんのような専門的な商品知識がなくとも、好きなパーツをいくつかセレクトして、部屋全体のイメージをつくっていくことは誰でも可能なのだ。

タイルやレンジフード、棚受けやタオルバーなどは「toolbox」で選んだもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

タイルやレンジフード、棚受けやタオルバーなどは「toolbox」で選んだもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

コンセプトを固めておけば、職人や仕事仲間との意思疎通もスムーズ

「『落ち着ける空間』というコンセプトは大事にしていました。休日はアクティブに動き回るタイプなので、家はゆっくりくつろぐ場所にしたかったんです。だから壁は落ち着いたトーンの薄いグレーにしました」
壁の下地処理はプロに任せ、最後のペイントだけを仕事仲間とともに自分たちでやったそう。「かっちり均一な仕上がりになるのは嫌だったので、あえて『適当に塗って』って伝えました。ちょっとムラが出て落ち着ける雰囲気になったと思っています。今見ると、どこを誰が塗ったかって分かるんです(笑)。楽しかったですね」。小尾さんの「空間づくりを楽しみたい」という気持ちが、皆さんに伝わっていたことが分かる。

築48年の中古マンションで、2LDK。広さは約60平米。物件の価格は1980万円で、リノベ費用は約500万円だったとのこと。

築48年の中古マンションで、2LDK。広さは約60平米。物件の価格は1980万円で、リノベ費用は約500万円だったとのこと。

壁や天井と同じく、広い面積を担うものとして、床材にもこだわっている。「裸足で歩いて気持ちよくて、木の素材感を感じられるものにしています」。選んだのは杉材を使った足場板。なめらかな仕上がりのフローリングではなく、木の質感をそのままを活かした床材だ。

家の中でいちばん明るい部屋が寝室(写真撮影/masa(PHOEBE))

家の中でいちばん明るい部屋が寝室(写真撮影/masa(PHOEBE))

一方、寝室は「ふかふかしてて、明るい感じにしたくて、壁は白、床はカーペットにしています」。二面に窓があり、とても爽やかで清潔感のある空間に仕上がっている。さらに壁一面にポールを取り付けてクローゼット代わりにしているので、収納力も十分ある。

趣味部屋の床もリビングとひとつながりに。元々左手にあった収納を右手に配置換え。本を読んだり、仕事をしたりと自由に使っている空間(写真撮影/masa(PHOEBE))

趣味部屋の床もリビングとひとつながりに。元々左手にあった収納を右手に配置換え。本を読んだり、仕事をしたりと自由に使っている空間(写真撮影/masa(PHOEBE))

洋服以外のものは、すべて趣味部屋に収納をまとめた。壁の上部をすべて本棚にして、下はデスクに。対面には広いクローゼットがあり、夫妻で休日に楽しむというキャンプ道具や夫の仕事道具などを収めている。「この部屋は元々の収納スペースの場所が逆だったんです。でも目に入る壁面がクローゼットだと圧迫感があるので、デスクと本棚にしました」。この部屋があるおかげで、リビングダイニングにはほとんど収納がなくてもスッキリしているのだ。

なんとなく左右で夫婦のスペースを分けているそう。本棚にはすべて詰め込まず、飾るスペースを設けているので、圧迫感がない(写真撮影/masa(PHOEBE))

なんとなく左右で夫婦のスペースを分けているそう。本棚にはすべて詰め込まず、飾るスペースを設けているので、圧迫感がない(写真撮影/masa(PHOEBE))

奥行きのある広い収納スペース。壁には有孔ボードを貼り、引っ掛け収納に。引き戸はつりタイプで床に区切りがなく、広がりを感じる(写真撮影/masa(PHOEBE))

奥行きのある広い収納スペース。壁には有孔ボードを貼り、引っ掛け収納に。引き戸はつりタイプで床に区切りがなく、広がりを感じる(写真撮影/masa(PHOEBE))

失敗したらやり直せばいい。おおらかな気持ちでリノベする

家という広い空間をつくりあげることを考えると、どこから手をつけていいか分からなくなりがちだろう。でも、スイッチプレートのような小さなパーツからでもいいので、まずは好きなものを集めてみる。そしてそこから、全体のイメージを固めるという手もある。
「私たちの場合、失敗したらやり直せばいいというくらいの気持ちだったのが良かったのかもしれません。ペンキは塗りなおせばいいし、パーツ選びもちょっと違うと思ったら取り替えればいいと思っているくらいの感じなんです」と、小尾さんはおおらかだ。実際、リノベ中にキッチンの食洗機が古くて使えないことが分かり、取り外すことになったときも、それはそれで引き出しを組み込めばいいと前向きに方向転換したという。

リビングとつながるダイニングキッチン。もともと隣室の収納部分だったスペースの壁を取り払い、冷蔵庫置き場に。システムキッチンは既存のものをそのまま使っている(写真撮影/masa(PHOEBE))

リビングとつながるダイニングキッチン。もともと隣室の収納部分だったスペースの壁を取り払い、冷蔵庫置き場に。システムキッチンは既存のものをそのまま使っている(写真撮影/masa(PHOEBE))

「DIYも職人の手も自分で選んで、編集者として家づくりをしました。楽しい作業でしたし、今も楽しく生活できています。やってみて良かったです」とうれしそう。趣味部屋の壁の色を変えたいなど、まだやりたいことはあるという。最初に細かいところまですべて決める必要はない。家づくりは好きなパーツから少しずつスタートしてもいい。さまざまな設備やパーツを扱う小尾さんだからこそ、たどり着いた考え方だ。リノベーションに対するハードルは低く、気楽に暮らす様子にこちらまで楽しい気持ちが伝わってきた。

大人の段ボールハウス&家具をつくる!「部屋に小屋」を30分で

無印良品やスノーピークなどの人気ブランドも販売している「小屋」が話題だ。まさに大人の秘密基地。ワクワクする。とはいえ、これらはお金も場所もそれなりに必要だ。小屋をもっと手軽に楽しみたい。そうだ、童心に返って段ボール箱で工作するのはどうか。ただし大人クオリティで。
家具からアートまで! 段ボールの驚くべきポテンシャル

段ボールといえば、日常生活のなかで手に入りやすい素材の一つだが、そのポテンシャルはいかに? 改めて段ボールの最新事情や段ボールハウスのつくり方を知るべく、段ボールニュースを紹介しているWebメディア「段ペディア」管理人の小寺誠さんに話を聞いた。

――段ボールの魅力はどんなところですか?

段ボールはとても完成された素材です。低価格でどこでも手軽に入手可能、それでいて軽くて丈夫! また加工も簡単で、ハサミやカッターでのカット作業や、木工用の接着剤での貼り付け作業が簡単にできる点も魅力です。

小寺さんがつくった段ボール銃(ちゃんとゴムが飛ぶ仕組み!)(画像提供/段ペディア)

小寺さんが作った段ボール銃(ちゃんとゴムが飛ぶ仕組み!)(画像提供/段ペディア)

小寺さんがつくった段ボール機関車(ちゃんと走る!)(画像提供/段ペディア)

小寺さんが作った段ボール機関車(ちゃんと走る!)(画像提供/段ペディア)

――段ボールの最新事情を教えてください。

段ボールは今、2つの流れでとても注目されています。
1つ目は、家具や遊具、防災用品など向けの需要です。避難所にいる人の整理タンスとして段ボールが使われていたのをテレビなどで目にしたことがある方もいるかもしれません。素材自体のポテンシャルも高く、設計次第で車が乗っても大丈夫なぐらいの強度があるので、大変使い勝手がいいんです。
2つ目は、アートとしてです。あの段ボールにこんな使い道が!? なんて作品がたくさん出てきています。最近では、段ボールアーティストのオドンガー大佐さんの作品がとても話題になっています。尾長鶏、龍神などは段ボールの表現の限界に挑戦されているように感じます。

「尾長鶏」(画像提供/オドンガー大佐さん)

「尾長鶏」(画像提供/オドンガー大佐さん)

「龍神」(画像提供/オドンガー大佐さん)

「龍神」(画像提供/オドンガー大佐さん)

――家具としての需要があるとのことですが、具体的にはどのような?

整理タンスや子ども用の机、シューズラックや収納ボックス、本棚など、なんでもありますよ! 同じサイズのものを複数集めてブロックのように積み上げるだけでも、仕切りや間仕切り、壁のように使うことができ、ちょっとした個室スペースもつくれます。

――メンテナンス方法は?

破損箇所はテープやボンドで補強! ボロボロになったら廃棄してしまっていいと思います。廃棄してもまた新しい段ボールに生まれ変わるので、資源の無駄使いにもならず、地球にも優しいんです。

段ボールで個室を簡単に。段ボールブロック壁のつくり方

段ボールの魅力を知ったところで、実際に段ボールでの個室のつくり方を教えてもらった。「ベッドを隠せる安眠空間をつくります」と小寺さん。段ボールは、スーパーマーケットやホームセンターなどで無料で集められる。ポイントは同じサイズ(特に高さ)のものを集めることで、小寺さんのオススメは2L飲料水用のもの。強度もあり、同じようなサイズの箱も集めやすいとのこと。無地の段ボール箱を使いたい場合は、段ボール箱の通販会社から購入することも可能。

小寺さんと段ボール個室(画像提供/段ペディア)

小寺さんと段ボール個室(画像提供/段ペディア)

<つくるもの>
段ボールブロック壁

<所要時間>
30分

<用意するもの>
・段ボール箱(必要に応じて増減。今回は29箱)
・クラフトテープ、OPPテープ
・木工用の接着剤
・水入り2Lペットボトル(必要に応じて)

今回使用するのは、材質:Aフルート(厚さ5mm)、サイズ:幅32cm×奥行19cm×高さ33cmの段ボール(画像提供/段ペディア)

今回使用するのは、材質:Aフルート(厚さ5mm)、サイズ:幅32cm×奥行19cm×高さ33cmの段ボール(画像提供/段ペディア)

<つくり方>
(1)「用意した箱を図のように重ねていきます。今回はベッドを隠すようにつくるため、段ボール箱を29個使用しました。壁が倒れやすい場合は、一番下の段の段ボールに、水を入れた2Lペットボトルなどの重りになるようなものを入れておくと安定感が増します」

基本的には積み上げるだけ。仕上がりをきれいにするために使用することもあるが、ハサミやカッターも不要

基本的には積み上げるだけ。仕上がりをきれいにするために使用することもあるが、ハサミやカッターも不要

(2)「重ねるだけでは転倒するので、接着剤やテープなどを使用して固定しましょう。今回はクラフトテープと透明なOPPテープを使用しています」

(画像提供/段ペディア)

(画像提供/段ペディア)

(3)「完成! 難しいポイントは特にありません。箱の表面をカッターやハサミなどでデコレーションすると、よりイイ感じになります。好みに合わせてレイアウトをアレンジしてもいいですし、自由な発想で楽しんでつくりあげてみてください」

組み合わせ次第で可能性が広がる! あなたは何をつくってみる?

「段ボール箱の組み合わせ方を変えると、こんな感じの机もできちゃいます。軽いノートパソコンぐらいなら十分置いて作業できますので、部屋に机が用意できていないときなどは試してみてください」

アレンジすれば机もつくれる! 天板は段ボールを解体して板状にしたものを2枚重ねているそう。(画像提供/段ペディア)

アレンジすれば机も作れる! 天板はダンボールを解体して板状にしたものを2枚重ねているそう(画像提供/段ペディア)

段ボール工作=箱を解体して使うもの、というイメージがあったが、箱を積み上げるだけとは盲点! 刃物がなくてもつくれてしまう点は、小さい子どもと一緒に楽しむのにも良さそうだ。アレンジ次第で可能性が広がる点もワクワクする。童心とクリエイティビティをかなえてくれる段ボール、ますます目が離せない存在だ。

●取材協力
小寺誠さん
兵庫県西宮市で約300種類以上の商品を取り扱う段ボールのクラフト雑貨店「クラフトマンエッセンス」を経営しながら、段ボールの魅力を伝えるべくWebニュースサイト「段ペディア」を運営。段ボール工作イベントなども主催する。
段ペディア
オドンガー大佐さんのHP●撮影協力
住める・泊まれる・遊べるシェア古民家「里山ベース ハナビ」

フランス製3万円の“高級キャットハウス”が日本で支持される理由

ペットとして人気がある犬と猫。飼育数でいえば、いま猫のほうが多いことはご存じでしょうか。平成29年全国犬猫飼育実態調査(一般社団法人ペットフード協会)によると、犬の飼育頭数は約892万匹だったのに対し、猫の飼育頭数は約 953万匹。10年前の同調査では猫よりも犬の飼育頭数のほうが200万匹以上多かったことと比べると、近年「猫」の人気が高まってきていると言えそうです。

こうした犬と猫を含めた、ペット関連市場は拡大傾向にあります。矢野経済研究所の調査によれば、「2017年度ペット関連総市場規模」は昨年比101.0%、1兆5135億円(見込)と徐々に拡大中。そんな中、猫については、3~4万円の高級キャットハウス(猫ハウス)も販売されるようになりました。通常、キャットハウスの価格はだいたい5000円~1万円程度。実に倍以上のお値段です。なぜそのような高級キャットハウスが誕生したのか――その点を探るべく取材してきました。
フランスも日本も共通項は“猫人気”

この高級キャットハウスブランドのブランド名は『MEYOU(ミーユー)』。日本語に訳すと、猫の鳴き声を表す「ニャア」を意味します。MEYOUは、機能的でエレガントなペット製品をつくることを目的に2014年、フランス・パリで設立。2017年1月から日本でMEYOUの輸入・販売を手掛ける株式会社モダニティのゼネラルマネージャー沼野井真一(ぬまのい・しんいち)さんにお話を伺いました。

株式会社モダニティのゼネラルマネージャー沼野井真一さん(写真撮影 ツマミ具依)

株式会社モダニティのゼネラルマネージャー沼野井真一さん(写真撮影 ツマミ具依)

――なぜ高級キャットハウスブランド『MEYOU』のキャットハウスを日本で販売しようと考えたのでしょうか。
弊社は世界中のデザインと技術・機能が優れたモダンな商品を発掘し、日本へ輸入・販売しています。

『MEYOU』は2014年に立ち上がったブランドです。2015年に、米クラウドファンディングサイトの「キックスターター」で資金を募って製品化されました。クラウドファンディングでは、8万ユーロ以上(日本円で1000万円以上)が集まり、世界中から注目されていたようです。
私たちが『MEYOU』と出合ったとき、フランスでも猫の飼育者が増加していると聞きました。しかし、日本もフランスも“猫人気”という共通項があるのに、日本の猫関連の製品はデザイン性の優れたものが少ないのではないかと感じました。「この高級キャットハウスならば、日本でも受け入れられるのではないか」と考え、取り扱いを決めました。

余談ですが、弊社代表のレジィス・ヴェランもフランス人。彼も猫を飼っているのですが、デザイン性の高いキャットハウスが欲しいと思っても、日本国内ではなかなか見つからず悩んでいたそうです。そのことも『MEYOU』を取り扱う後押しになりました。

キャットハウス「BALL」(左)と「CUBE」(右)(写真撮影:ツマミ具依)

キャットハウス「THE BALL」(左)と「THE CUBE」(右)(写真撮影:ツマミ具依)

――「MEYOU」ブランドのキャットハウスの特徴を教えてください。
種類は4種類あります。まず「THE BALL」(税込3万5640円)と「THE CUBE」(税込3万1320円)は、コクーンと呼ばれる丸い繭のような形状が特徴です。和洋どちらのインテリアにも馴染む球型形で、店頭で猫の模型がないと、一見、照明器具か何かに見えるかもしれません。

BALLとCUBEの違いはフレームです。
BALLは脚の部分にウッドを使用、フローリングとの相性もいいです。CUBEは安定性があるので、購入された方の中には入口・出口の部分の穴を上に向けて、猫がジャンプして入っていくような置き方をしている人もいます。

コクーン内で眠る猫の様子(画像提供 株式会社モダニティ)

コクーン内で眠る猫の様子(画像提供 株式会社モダニティ)

コクーンの丸い部屋は堅くしっかりした作りですが、ほどよく弾力があります。身をすっぽり隠しながら周りを観察できるので、猫にとって安心感があるようです。

コクーンで爪とぎする様子(画像提供 株式会社モダニティ)

コクーンで爪とぎする様子(画像提供 株式会社モダニティ)

コクーンは素材にも工夫がされていて、猫が爪とぎしたくなるような特殊なポリエステルでできています。毛羽立っても水拭きすれば毛羽立ちが収まるので、お手入れも簡単です。

BED(税込4万2120円)は、高さのあるスタイルになっていて飛び乗るような使い方になります。傘の部分がウール100%のフェルトになっていて、入り口に針金が通っているので型がしっかりしています。

キャットハウス「BED」。全体の高さは64cmある(写真撮影:ツマミ具依)

キャットハウス「BED」。全体の高さは64cmある(写真撮影:ツマミ具依)

キャットハウス「NEST」。ゆったり寝っ転がれる(画像提供 株式会社モダニティ)

キャットハウス「NEST」。ゆったり寝っ転がれる(画像提供 株式会社モダニティ)

NEST(税込1万9440円)は置き型で低いタイプなんですが、お昼寝場所をイメージしたような商品で、小型犬にも使える作りになっています。縁はロープのような質感の素材でできており、爪とぎして楽しめるのが特徴です。また、軽量なので持ち運びも簡単で、バスケットとクッションは水洗いでき、清潔に使えます。

――それぞれの特徴からどんな猫にオススメなのでしょうか

形状からみると、BALLとCUBEとBEDは、どちらかというとアクティブな猫に向いていますね。NESTはゆったりしているのでどっしりしたあまり動かないタイプの猫がハマるかと思います。各製品の、サイズや形状が大きく異なるので、ペットのキャラクターによって選んでいただければと思います。

価格は家具並、それでも日本で受け入れられたのは…

――実際の猫や購入者からの反応はいかがでしょうか。
ケースバイケースではありますが、ペット関連用品の展示会で設置した際、猫を入れたら全然出てこなくなってしまったというエピソードがあります。その猫はとても居心地がよかったようです。製品自体は入り口を猫が入りやすいであろうサイズで設計しているので、通常のキャットハウスよりも好んで入ってくれることが多いと自負しております。

利用者からの反応は、『インテリアの主役として見せたくなる』や、『他のインテリアともよく馴染む』といった声がありました。従来のキャットハウスにはないデザイン性が支持されているようです。

――発売後の販売店からの反応はいかがでしょうか?
ペット専門店では発売当初から珍しい商品だったためか『是非取り扱ってみましょう』と反応は上々でした。その後は、高島屋などの百貨店や高級インテリアを扱う「ザ・コンランショップ」など、取り扱い店舗の幅が広がっています。

1日の大半をキャットハウス内で過ごす猫も(画像提供 株式会社モダニティ)

1日の大半をキャットハウス内で過ごす猫も(画像提供 株式会社モダニティ)

――購入者はどのような方が多いですか?
販売店からは、都市部に住む女性が多いと聞いています。都心のコンパクトな住まいであっても、インテリアとも合わせやすいという点が支持されているのだと思います。

決して安くないお値段ではありますが、所得に限らず、猫により良い暮らしをしてほしいという強い愛情を持ち、インテリア性も重視する、という方が購入してくださっているようです。

――『MEYOU』の今後の展開について教えてください。
今はキャットハウスのみですが、今後はキャットタワーや爪とぎなど、デザイン性を発揮できる製品があれば取扱いを増やしていきたいと考えています。弊社としては猫も飼い主も快適で、かつインテリアとしても洗練されたデザインの製品を紹介していきたいと思っています。

3万円もキャットハウスに!? と感じていた筆者。しかし、従来のペット製品の中には、デザイン性に欠け、他のインテリアや家具となじみにくいものが多いのもまた確か。MEYOUを通じて、猫も人も快適な理想の共同生活を送れるならば、決して高い金額ではないかもしれません。

●取材協力
・株式会社モダニティ

トッププランナーに聞いた! 知っておきたいリフォームの新定番12

住まいに求める基本的な思いは、今も昔も変わらない普遍的なものかもしれない。しかし、リフォーム技術の向上、素材の進化やプランナーの多彩なアイデア、住まい手の意識向上により、新たな定番が現場では次々と生まれている。今回は「素材」と「デザイン」二つの視点から、リフォームの現場をよく知るトッププランナー8人に、リフォームの新定番を教えてもらった
【1】引き締め素材を取り入れて空間のポイントにする

アイアンや真鍮(しんちゅう)など硬質感をもつ素材を、柔らかい雰囲気の木と組み合わせて使うのが最近の人気だ。ナチュラルな空間やモダンな空間にもなじみやすく、引き締め素材として使うと効果的。強度が高く、太さの変化によって、重厚にも繊細にも見せ方を変えられる。

既存の柱や梁を残したナチュラルな空間に、コンクリートブロックやアイアンの階段手すりなどハードな素材を組み合わせた。「黒のアイアンだとグッと引き締まり、白にするとなじむ感じにできます。どんなデザインテイストでも取り入れやすいのが魅力です」(画像提供/LIV(リヴ))

既存の柱や梁を残したナチュラルな空間に、コンクリートブロックやアイアンの階段手すりなどハードな素材を組み合わせた。「黒のアイアンだとグッと引き締まり、白にするとなじむ感じにできます。どんなデザインテイストでも取り入れやすいのが魅力です」(画像提供/LIV(リヴ))

【2】室内にはあまり使われない建築素材でラフ感を出す

ラワン合板(ベニヤ板)や足場板など従来は隠れて見えなくなる構造用建材や、古材、レンガなど外壁に使われる建築素材を、あえてインテリアに取り入れることで程よくラフな雰囲気に。ここ数年人気のインダストリアルな空間でよく見られる手法だ。

「キッチンの腰壁にラワン合板を使ってむく材とは違う質感のキリッとした塩系インテリアに」。大柄の木目が特徴的で、塗装の有無で上品系、素朴系と表情を変えられる(画像提供/ハコリノベ(サンリフォーム))

「キッチンの腰壁にラワン合板を使ってむく材とは違う質感のキリッとした塩系インテリアに」。大柄の木目が特徴的で、塗装の有無で上品系、素朴系と表情を変えられる(画像提供/ハコリノベ(サンリフォーム))

【3】イメージだけで選ばずに場所に合った素材の使い方をする

劣化が目立ちやすい水まわりなどに使う素材は、メンテナンスに手がかかってもこだわりたいのか、ラクに手入れができる方がいいのか、用途とライフスタイルに合った素材選びが暮らしやすさを左右する。長く使えるよう特性を見極め賢い素材選びをする人が増加中。

薄塗りができてクラックが入りにくいモルタルに似た質感の左官材をダイニングテーブルの天板(てんばん)や床全体に使用。「『ペットがいるので水拭きできる床に』との要望に応え、メンテナンス性とデザイン性を両立させました」(画像提供/ハコリノベ(サンリフォーム))

薄塗りができてクラックが入りにくいモルタルに似た質感の左官材をダイニングテーブルの天板(てんばん)や床全体に使用。「『ペットがいるので水拭きできる床に』との要望に応え、メンテナンス性とデザイン性を両立させました」(画像提供/ハコリノベ(サンリフォーム))

【4】再利用で新旧素材を違和感なく融合させる

全てを新しくしてしまうと、きれいにはなるが味気ない空間になってしまいがち。しかし、新旧素材をバランスよく組み合わせることで、住み慣れた家のようなこなれた空間が生まれる。古いものを以前とは違う雰囲気、違う場所で再利用するアイデアを楽しみたい。

玄関の式台に使われていた立派な木をリビングのカウンターに再利用。「捨ててしまうにはもったいない部材を活用すれば、古さを活かしたデザインの融合が楽しめます」(画像提供/LIV(リヴ))

玄関の式台に使われていた立派な木をリビングのカウンターに再利用。「捨ててしまうにはもったいない部材を活用すれば、古さを活かしたデザインの融合が楽しめます」(画像提供/LIV(リヴ))

【5】ずっと長く使える本物素材を取り入れる

質の良い本物の自然素材は、心地よさを与えてくれ、手入れ次第で長く使い続けられるのが魅力。新建材なら傷になってしまうものも、自然素材なら味になる。全面的に取り入れなくても床材やカウンターなど、足や手がよく触れる部分に絞って取り入れる人が増えている。

美しい色合いと高級感が魅力の御影石。「傷がつきにくく、水や熱に強いのが特徴で、最近は料理好きの方から天然石をキッチンカウンターに使いたいという要望が増えています」(画像提供/Kraft(クラフト))

美しい色合いと高級感が魅力の御影石。「傷がつきにくく、水や熱に強いのが特徴で、最近は料理好きの方から天然石をキッチンカウンターに使いたいという要望が増えています」(画像提供/Kraft(クラフト))

【6】塗装範囲や素材使いのバランスで印象を変える

「男前インテリア」などと呼ばれ、ここ数年人気のインダストリアルな空間。ダクトや配管がむき出しになったスケルトン天井が特徴だが、塗装や素材の組み合わせバランスで少し柔らかさをプラスすれば、ナチュラルテイストの家具にも合わせやすくなる。

スラブむき出しの天井にホワイト塗装の壁、木製サッシの室内窓を合わせ、どんなテイストにも似合う空間に。「気分に合わせて家具を入れ替えたい人や、家族の成長とともに内装を変えたい人に取り入れやすいデザインです」(画像提供/シンプルハウス)

スラブむき出しの天井にホワイト塗装の壁、木製サッシの室内窓を合わせ、どんなテイストにも似合う空間に。「気分に合わせて家具を入れ替えたい人や、家族の成長とともに内装を変えたい人に取り入れやすいデザインです」(画像提供/シンプルハウス)

【7】これまで以上に性能が高くフラットな土台づくり

2020年以降の新築では、断熱性能のレベルアップが義務化の予定。これまで体験したことのないような災害が各地で起こる中、長く安心して住み続けられるよう、家の土台となる耐震、断熱、構造面を当たり前レベル以上に引き上げるリフォームが再認識されている。

「できる限り補助金制度が使える、より高い性能を備えた家が、これからの時代に即したスタンダードになっていくはず。築古物件や増改築された物件でも、建築当時の設計図書が残っていれば一度フラットに戻し、そこから性能を高める作業が行えます」(画像提供/ATTRACT(アトラクト設計工務))

「できる限り補助金制度が使える、より高い性能を備えた家が、これからの時代に即したスタンダードになっていくはず。築古物件や増改築された物件でも、建築当時の設計図書が残っていれば一度フラットに戻し、そこから性能を高める作業が行えます」(画像提供/ATTRACT(アトラクト設計工務))

【8】室内開口を取り入れて時間と空間を家族で共有

室内開口は単に光と風の通り道としてだけでなく、デザイン性と機能性も兼ね備えている。最近ではプライバシーよりも家族とのつながりを重視する傾向が強いため、個室の扉をなくしたり、家族の気配を感じられる室内開口を設けるケースが増えている。

6人家族が集まる広いリビング。「遊び心のあるデザイン扉で子どもたちがワクワクするような空間を演出し、ガラス窓で家族の気配をいつも感じられるよう配慮しました」(画像提供/SCHOOL BUS)

6人家族が集まる広いリビング。「遊び心のあるデザイン扉で子どもたちがワクワクするような空間を演出し、ガラス窓で家族の気配をいつも感じられるよう配慮しました」(画像提供/SCHOOL BUS)

【9】ディテールまでこだわり、雰囲気ある空間をつくり出す

自分好みの空間をつくるため、モールディングやタイルの張り方、造作家具などのディテールまでこだわる人が増えている。使用する部材の太さや細さ、厚みや幅といった細やかなつくり込みのほか、素材の扱い方など一つひとつが、印象を変えるカギになる。

オリーブカラーのキッチンの腰壁に施されたモールディング。「凹凸をつけ過ぎてヨーロピアン調にならないよう、mm単位までこだわってシンプルな溝を施し、本場のアメリカンスタイルを再現」(画像提供/SCHOOL BUS)

オリーブカラーのキッチンの腰壁に施されたモールディング。「凹凸をつけ過ぎてヨーロピアン調にならないよう、mm単位までこだわってシンプルな溝を施し、本場のアメリカンスタイルを再現」(画像提供/SCHOOL BUS)

【10】照明器具や光量の調整で空間をスタイリングする

ダウンライトやダクトレールをとりあえず設置するだけの照明計画から、最近は家具とのバランスを考えた配置や照明自体のデザイン性を活かした提案へと進化。シーンによって調光できるシステムの採用など、スタイリングアイテムとして取り入れる照明計画が主流になってきた。

「古いビルを改装した空間には、カチッと計算されたデザイナーズ照明よりも、厚みのあるガラスやスチールなどラフな雰囲気のものを複数混ぜて組み合わせる方がうまくまとまります」(画像提供/アンメゾンワールド)

「古いビルを改装した空間には、カチッと計算されたデザイナーズ照明よりも、厚みのあるガラスやスチールなどラフな雰囲気のものを複数混ぜて組み合わせる方がうまくまとまります」(画像提供/アンメゾンワールド)

【11】構造上抜けない部分をあえて目立たせてアクセントにする

構造上抜けない壁や柱、梁などは、間取りをデザインする上でデメリットに思われがち。あえて特徴をもたせてデザイン化することで、その空間のポイントとして昇華させることもできる。さらに、異素材と組み合わせて新鮮なインパクトをもたせてみると、面白い空間が完成する。

LDKの中央に通る丸太柱は構造上抜くことができなかったため、磨きをかけて残し、印象的に。「美しい木目の柱はリビングの雰囲気によくなじみ、邪魔な雰囲気を感じさせません」(画像提供/ATTRACT(アトラクト設計工務))

LDKの中央に通る丸太柱は構造上抜くことができなかったため、磨きをかけて残し、印象的に。「美しい木目の柱はリビングの雰囲気によくなじみ、邪魔な雰囲気を感じさせません」(画像提供/ATTRACT(アトラクト設計工務))

【12】くすみ系アースカラーで大人上品に仕上げる

飽きのこないシンプルでナチュラルな空間は根強い人気だが、シンプル過ぎない上品で大人な雰囲気に仕上げたいという人が増えている。差し色として紺や緑、茶といった落ち着けるアースカラーを使えば上品にまとまり、どんなインテリアにも合わせやすい空間に仕上げられる。

アースカラーとは空や緑、大地の色。自然素材との相性もよく、どんなテイストにも合わせやすい。「SNSの影響か色の感覚はここ最近、多様になっているように感じますが、やはり落ち着ける色合いは昔から変わりません。人になじみの深いアースカラーが使いやすいでしょう。壁一面だけ使ったり、キッチンの造作扉だけに使うなど、アクセントカラーとして取り入れることが多いです」(画像提供/北条工務店一級建築士事務所)

アースカラーとは空や緑、大地の色。自然素材との相性もよく、どんなテイストにも合わせやすい。「SNSの影響か色の感覚はここ最近、多様になっているように感じますが、やはり落ち着ける色合いは昔から変わりません。人になじみの深いアースカラーが使いやすいでしょう。壁一面だけ使ったり、キッチンの造作扉だけに使うなど、アクセントカラーとして取り入れることが多いです」(画像提供/北条工務店一級建築士事務所)

住む人の個性やライフスタイルに合わせ、オリジナル性の高い空間づくりができるのがリフォームの醍醐味。気になる新定番をぜひプランに取り入れて、より自分らしく暮らせるリフォーム空間を実現させよう。

●取材協力
・ATTRACT(アトラクト設計工務) 林 光一さん/アンメゾンワールド 芝本貴行さん/Kraft(クラフト) 前田浅人さん/シンプルハウス 田口和也さん/SCHOOL BUS 古谷勇祐さん/ハコリノベ(サンリフォーム) 財津友里さん/北条工務店一級建築士事務所 影山絢香さん/LIV(リヴ) 藤関悦子さん

「片付いた家」どう作る? リフォームならではの解決法を紹介!

すっきり暮らしたいと思い、ノウハウ本を片手に収納術を実践しても何だかイマイチ……。雑誌で見るような「片付いた家」にするために見直したいポイントと、リフォームならではの解決法を解説しよう
【リビング】大小のモノが集まる空間は片付いていない印象に

リビングには、ソファやTVボードのような大型家具だけでなく、クッションや飾り物など小さなモノまで、さまざまなモノが集まる空間。モノが多い分、一生懸命に片付けても“片付いていない”印象になりがち。

「リビングは、壁面収納のように空間を邪魔しない収納の方が部屋はすっきりと見え、飾り物もより映えます。ただし飾るスペースは1カ所にしてテーマを決めておかないと、ごちゃごちゃとした印象になるので注意しましょう」(すはらさん、以下同)

見直したいポイント1.置き家具に統一感がない 2.ファブリックの色柄が多い 3.飾り物に統一感がない 4.背の高い家具で圧迫感が 5.家具が窓をふさいでいる6.室内に凹凸が多い(イラスト/越井隆)

見直したいポイント1.置き家具に統一感がない 2.ファブリックの色柄が多い 3.飾り物に統一感がない 4.背の高い家具で圧迫感が 5.家具が窓をふさいでいる 6.室内に凹凸が多い(イラスト/越井隆)

【キッチン】調味料や調理器具など収納量と収納が合わない

作業場といえるキッチンは、調味料や調理器具などこまごまとしていて、統一感のないモノが多い空間だ。

「リビングやダイニングから見えるところに出したままにするなら、調理器具はステンレス、調理家電は白か黒色など、素材や色を統一するとよいでしょう。また、キッチン周辺にパントリーを設けて、買い置き品や分別用ゴミ箱などを収納できるとよいですね。パントリーは広さが半畳程度でも、かなりの量が収納できて便利です」

見直したいポイント1.調理器具が丸見えに 2.統一感のない調理家電 3.ゴミ箱や買い置き品が床の上に 4.コードが表に出ている(イラスト/越井隆)

見直したいポイント1.調理器具が丸見えに 2.統一感のない調理家電 3.ゴミ箱や買い置き品が床の上に 4.コードが表に出ている(イラスト/越井隆)

「間取りを変更するリフォーム計画があるなら、居室空間を削って収納スペースを増やした方がよいケースは多いです」とすはらさんは話す。「収納家具を居室空間に置かずに済むと、リビングならソファやテレビ、寝室ならベッドと大型家具だけになり空間がすっきり見えます。その際に、柱や梁の凹凸を減らすことも意識するとよいでしょう」。

そして、収納スペースをつくる場合、長く過ごす場所の近くや動線上に配することが重要だ。「出し入れしやすい位置に収納をつくるだけで“出しっ放し”は大幅に減ります」。

リフォームは飾り物や持ち物をチェックするよい機会だ。「前述したように、飾り物はスペースとテーマを決めることが大事。奥様一人で頑張らず、ご主人やお子様も巻き込み、家族全員で持ち物を見直しましょう」

●取材協力
すはらひろこ(整理収納アドバイザー2級・1級認定講師、一級建築士、インテリアコーディネーター)

山野草からサボテン……さまざまな緑と暮らす、こだわり夫婦の家

インドアグリーンは住まいに自然の彩りを与え、不思議と心を落ち着かせてくれます。そこで、緑と上手に暮らしているご夫婦を取材。すぐに取り入れたくなる、こだわりのポイントを聞いてみました。
和を感じる山野草を中心にセレクト

訪れたのは、世田谷区にお住まいのHさんご夫婦の自宅。夫のDさんはIT企業勤務、妻のKさんはライターというクリエイターのお二人です。2016年に購入した100平米3階建ての戸建てには、緑をアクセントとして上手に取り入れています。

植物をセレクトしているのは、基本的に妻。部屋やベランダの随所に、多種多様な緑や花が配置されています。

「種類はバラバラなのですが、山野草が好きなので比較的多いかもしれません。食器やインテリアもですが、和テイストに惹かれるんです。それで自然と山野草に手が伸びるのかも。ただ、山野草ばかりに偏るのではなく、ハーブなども取り入れてバランスよく調和させることも意識していますね」(Kさん)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

ベランダに置いている山野草はイワシャジンやキイジョウロウホトトギスなど。冬に枯れ、春になると蘇ったかのように芽吹き、葉をつけるところにも魅力を感じているのだそう(撮影/末吉陽子)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

こちらが秋口のイワシャジン。キキョウ科で関東地方南西部や中部地方南東部の山地の岩場に生息しているとか。淡くて優しい紫に癒される(写真/PIXTA)

「山野草が芽吹くと春だな~ってしみじみします。静寂さを醸し出しているところがすごく好きなんです」(Kさん)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

窓辺には一目惚れしたという観葉植物が二鉢(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

葉の形状がユーモラスなこちらは、「ソフォラ・ミクロフィラ(リトルベイビー)」、通称“メルヘンの木”。カクカクした繊細な枝がおしゃれ(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

隣の鉢は「グリーンドラム」。まるっとした葉の表情がとてもチャーミング。並べるだけで窓際の個性を演出できる(撮影/小野洋平)

ニュートラルカラーやアースカラーの器に惹かれるというKさん。土っぽさや温かみがある焼物の鉢を好んで購入しているとか。さまざまな種類の観葉植物も、鉢のトーンを統一させるだけで、まとまりがうまれ、おしゃれ度がアップするのかもしれません。

空間のシンボルになっているのは、柱サボテン。見た目もサイズもひときわ存在感を放っています。他の観葉植物とはがらっとテイストが異なりますが……?

「素敵な住宅の写真を見ている中で目に留まり、懇意にしているエンジョイボタニカルライフ推進室の氏井さんに相談して仕入れていただきました」(Kさん)

ちなみに、エンジョイボタニカルライフ推進室では、室内緑化やお手入れの相談サポートの他、ワークショップなどを通して緑と暮らす楽しさを伝える活動も展開しているそう。Kさんもイベントを通じて知り、さまざまなアドバイスをもらっているそう。専門家の意見を取り入れるのも、上手に緑と暮らすコツなのかも。

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

最近仲間入りした柱サボテン。高さもあってインパクト抜群(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

グレージュな焼物に、幾何学的なカバーを組み合わせた鉢。主張し過ぎず、かつスパイシーなアクセントに(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

真鍮製の器に植えられたガジュマル。ミニマルサイズなので本棚やちょっとしたスペースにも飾れそう(撮影/小野洋平)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

こちらはIKEAで入手したという吊るせる鉢植え。ベランダの竿受けのようなデッドスペースも緑で埋めることができる(撮影/末吉陽子)

住まいのテイスト→鉢→植物の順に考えるとインテリア性が高まるかも!

緑を暮らしに取り入れるうえで意識しているポイントについて、Kさんは次のように語ります。

「私はスモーキーやグレイッシュのような灰色がかったトーンのグリーンが好きなので、なるべく統一させるようにしています。ところどころ違う色が入ってもいいと思いますが、同じ系統の色味だと落ち着いた感じにまとまるんじゃないかと思います」

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

さりげなくグリーンを置いているKさん。「植物=生き物。部屋の中に植物を置くと空気が変わるような気がします」(撮影/末吉陽子)

また、植物のインテリア性についても独自のこだわりが。

「植物はもとより、鉢は家に合うようなものを選んでいます。もし植物選びに迷ったら、内装の色味やデザインを踏まえたうえで、まずは鉢から選んでそこに植物を合わせるのもおすすめです。むしろ、その方がインテリア性が高まるような気がします」

時折、『Pen』『BRUTUS』といった雑誌にも目を通し、緑の取り入れ方の参考にしているそう。

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

こちらは引越し時に購入した思い出深いシーグレープ。大きな観葉植物が欲しいとチョイス。まるっこい葉が気に入ったそう(撮影/小野洋平)

また、お二人の友人で植物に関するアドバイザーでもある、エンジョイボタニカルライフ推進室の氏井暁さんは、緑のある暮らしについて次のように話します。

「Kさんは、ウッドパネルやフラワースタンド、壁掛けラックなど、資材を活用して上手にレイアウトしていますよね。住まいとのコーディネートも含め”緑のある暮らし”を楽しんでいらっしゃる感じがとても良いと思います」

もし、「どんな植物を選んでいいか分からない」という人も、眺めているだけで自然と好みが分かるようになるそうです。また、植物も生き物とあって、上手に共存するには植物が生まれ育った環境を知り、住まいとのギャップ(日照・気温・湿度など)をなるべく軽減してあげることも大切とのこと。

「植物からイメージを演出したい場合、植物の原産地や生息環境でセレクトしても面白いかもしれません。例えば一目惚れした植物が『シーグレープ』だったとすると、ネットで調べると原産地はフロリダ南部・西インド諸島・南米であることが容易にわかります。原産地のイメージから鉢植えを揃えてインテリアと一致させても良いでしょうし、器でがらっとイメージを変えてみるのもいいかもしれません。Kさんのように器ベースでコーディネートしてみてもいいと思います」(氏井さん)

住まいと緑を上手にコーディネートしているH家。テイストでまとめてレイアウトしたり、器の色味や素材感で統一感や住まいとの調和を演出したりすることが上手に緑を暮らしに溶け込ませるためのポイントになりそうです。

●取材協力
・エンジョイボタニカルライフ推進室

“保存食の達人”料理家・黒田民子さん、亡き夫に導かれたキャリアと手づくりの豊かな日常 あの人のお宅拝見[10]

家庭料理の専門家として生活情報サイト「All About (オールアバウト)」ホームメイドクッキングのガイドをする黒田民子さん。保存食や薫製を、家庭で簡単につくれるレシピを紹介した本は翻訳され海外でも好評。私は黒田さんの夫、キッチンデザイン研究家の黒田秀雄さんと懇意にしていただいていたが、4年前にご病気で他界。その遺志を継ぐように、民子さんはお料理のお仕事のほかにも精力的に活動されています。東京都調布市のご自宅に伺って、いろんなお話を聞かせていただきました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。38年前にスケルトン・インフィルで購入したマンション

タイル張りの重厚なマンション、築年はたっているものの管理が行き届いた建物の1階が黒田邸。中へご案内いただき廊下を抜けてドアを開けると、手前にキッチン&ダイニング、奥にリビングが広がっていました。

料理研究家のご自宅らしく、キッチンと大きなテーブルのあるダイニングが中心の住まい(写真撮影/片山貴博)

料理研究家のご自宅らしく、キッチンと大きなテーブルのあるダイニングが中心の住まい(写真撮影/片山貴博)

そのダイニングテーブルで、黒田秀雄さんと出会ったころのお話を。
黒田ご夫妻は、関西出身。民子さんが松下電器産業(現在のパナソニック)にお勤めだったときに、同社で住宅設備のデザインをしていた黒田秀雄さんと出会い、ご結婚。
「24歳で結婚後、仕事を辞めて、2人の息子を育てる普通の主婦でした。54歳で『All About』のガイドを始めるまでは……」

背が高くて奇麗な民子さん、麗しの71歳!(若いころは、さぞかしモテたに違いない…)(写真撮影/片山貴博)

背が高くて奇麗な民子さん、麗しの71歳!(若いころは、さぞかしモテたに違いない…)(写真撮影/片山貴博)

秀雄さんが独立し、東京で起業した1975年ごろは杉並にお住まいでしたが、
「秀雄さんが仕事で、このマンション開発にかかわっていたので、スケルトンで購入し、内装を一から彼が設計したの」
マンションの自由設計であるスケルトン・インフィル形式を、何と38年前に実践していた黒田邸! 特に、キッチンデザイナーとしても草分け的な存在であった秀雄さん、こだわりのキッチンは今も健在です。

「色を多く使いたくなかった」ので、白黒モノトーンのキッチンに。赤いエスプレッソマシーンがアクセントカラーになっている(写真撮影/片山貴博)

「色を多く使いたくなかった」ので、白黒モノトーンのキッチンに。赤いエスプレッソマシーンがアクセントカラーになっている(写真撮影/片山貴博)

家電類は、デザインの良いものが最小限置かれているだけ。モノトーンのキッチンにあつらえたような『バーミキュラ』のライスポットと『クイジナート』のミキサー。

オール電化住宅なのでコンロはIHクッキングヒーター。鉄瓶でお湯を沸かすところが、流石!黒のタイルは清掃性もデザイン性もある賢明なデザイン(写真撮影/片山貴博)

オール電化住宅なのでコンロはIHクッキングヒーター。鉄瓶でお湯を沸かすところが、流石!黒のタイルは清掃性もデザイン性もある賢明なデザイン(写真撮影/片山貴博)

「『バーミキュラ』のライスポットは、ポットヒーター(IH調理器)の中に鋳物ホーロー鍋が入っていて、ご飯がしっかり炊けておいしいのよ」
ご自身で使いこなされた『バーミキュラ』鍋のレシピ本も出されています。

キッチンはオーダーキッチンで人気の『クッチーナ』による、初期のシステムキッチンだそう。
「このシンクは、秀雄さんが開発にかかわっていた伊奈製陶(現在のINAX)時代のものです」

グースネックの水栓(左から『BRITA(ブリタ)』『TOTO』『GROHE(グローエ)』製)などは新しくなっているが、陶器のシンクは38年前のまま。大切に使われてきたのが分かる(写真撮影/片山貴博)

グースネックの水栓(左から『BRITA(ブリタ)』『TOTO』『GROHE(グローエ)』製)などは新しくなっているが、陶器のシンクは38年前のまま。大切に使われてきたのが分かる(写真撮影/片山貴博)

コミュニケーションを生むキッチン、子育て時代から今も実践

黒田秀雄さんはJIDA(日本インダストリアルデザイナー協会)主催「エコデザイン展」に、2003年から「エコキッチン」を作品出展されてきました。

2003年に環境負荷を抑えたゼロエネルギー・キッチンや、自己完結型フリースタンディング方式のキッチンなど先駆的なデザインを発表して注目を集めた(写真撮影/片山貴博)

2003年に環境負荷を抑えたゼロエネルギー・キッチンや、自己完結型フリースタンディング方式のキッチンなど先駆的なデザインを発表して注目を集めた(写真撮影/片山貴博)

2004に発表されたエコキッチン「LOHAS KITCHEN」(上記写真の資料右側)は、「今も“山の家”に置いてあります」
“山の家”とは、長野県にある黒田ファミリーの別荘のこと。
「息子たちが小学校のころ、もう35年くらい前に買った“山の家”ですが、秀雄さんが火の起こし方から厳しく仕込むので子どもは行くのを嫌がっていたことも(笑)。今となっては自然志向の息子たち、父親に感謝していると思いますよ」

秀雄さんは調布の自宅でも息子さんたちに、後片付けを手伝うようしつけられていたそう。
「30年以上前ですから、食洗機は普及していませんでしたしね。今は、共働きや子育て中に食洗機は必需品ですよ!」と、力説する民子さん。

のちに導入された食洗機はスウェーデンの『ASKO(アスコ)』製、「60cm幅の大型で、お鍋も入るところが助かるんです」(写真撮影/片山貴博)

のちに導入された食洗機はスウェーデンの『ASKO(アスコ)』製、「60cm幅の大型で、お鍋も入るところが助かるんです」(写真撮影/片山貴博)

「食洗機に洗い物を任せれば、子どもや家族とのコミュニケーションが増えるし、主婦がゆっくりくつろげる時間が持てると家族も幸せになるはず」とオススメ。

「私たち夫婦だけのときは、1日分をまとめて夜に洗っていました」
秀雄さんがご健在のころは、毎日の食器洗いの実態を写真付きでブログにアップされていました。(2011年から亡くなる前月の2014年11月まで、すごい実証実験!ジャーナリスト魂に敬服)

子育てしているころ、「息子たちはこのダイニングテーブルで宿題などをしていましたね。私は後ろを向いて、お料理しながらも『もう一度、朗読して!』と言ったりしてね」
キッチンをオープンにデザインしたことで、家族のコミュニケーションは自然に取れていたようです。

「息子の朗読のお話に、料理しながら泣けてきたりもしたわ!」って、とてもかわいいママ(写真撮影/片山貴博)

「息子の朗読のお話に、料理しながら泣けてきたりもしたわ!」って、とてもかわいいママ(写真撮影/片山貴博)

ご自宅にはご夫婦の仲間が20人ほど集まることもあって、「大きなダイニングテーブルと食洗機は大活躍でしたね」

幻のリフォーム計画?スケルトンならではの間仕切り収納家具

「秀雄さんはいろんなものを残してくれていましてね……。これは、【我が家のリフォーム計画】」

元々スケルトンでの購入なので構造梁以外、自由に間取り変更できる。秀雄さんらしい、精巧で分かりやすい図面(写真撮影/片山貴博)

元々スケルトンでの購入なので構造梁以外、自由に間取り変更できる。秀雄さんらしい、精巧で分かりやすい図面(写真撮影/片山貴博)

ダイニングキッチンの収納は、隣の部屋との仕切りを兼ねたもの。壁は無いので、動かしてレイアウト変更ができる可変性のある収納なのです。秀雄さんの計画では、この間仕切り収納を移動させ、キッチン空間をより広くするレイアウトになっていました。

天井高までの間仕切り収納に、ステンレス扉の冷蔵庫(『ASKO』製)もスッキリ納まっている(写真撮影/片山貴博)

天井高までの間仕切り収納に、ステンレス扉の冷蔵庫(『ASKO』製)もスッキリ納まっている(写真撮影/片山貴博)

【我が家のリフォーム計画】に描かれたリフォームは実施されませんでしたが
「私一人になりましたからね。でも、バス&サニタリーはリフォームしましたので見ていただいて結構ですよ」

ホテルライクなトイレ・洗面・バスがワンルームになった空間。背が高い民子さんが選んだのは、米国「KOHLER(コーラー)」のペデスタル型洗面(写真撮影/片山貴博)

ホテルライクなトイレ・洗面・バスがワンルームになった空間。背が高い民子さんが選んだのは、米国「KOHLER(コーラー」のペデスタル型洗面(写真撮影/片山貴博)

「できれば、ダイニングテーブルをむくの大きなものにしたいとは思ってるの」
【我が家のリフォーム計画 by 民子さん】も楽しみです。

「保存食をやればいい」夫が後押ししたテーマ

普通の主婦生活を送っていた民子さんを、「ALL About」のガイドに推薦したのは、キッチン専門家としてガイドをしていた秀雄さん。その後、さまざまな仕事が舞い込んでくるたびに、尻込みする民子さんを秀雄さんは「すっごく応援してくれたの!」。セミナー講師の仕事がきたときには「会場に来るって言って聞かないから、恥ずかしかったのよ」。

家庭料理研究家の民子さんではありますが
「おふくろの味や、お菓子・パンづくりなんかも、たくさん専門家がいらっしゃるでしょ。そんなときに、秀雄さんが『君の得意な保存食がいいんじゃないか?』とテーマを与えてくれました」
梅干しやみそづくり、果実酒や薫製も得意な民子さんを“保存食の達人”として世に送り出してくれたようです。

取材日にも、「ベーコンの薫製をつくったから、食べてみてちょうだい」と出してくださった。

生の豚バラ肉を香辛料などと共に冷蔵庫で1週間ほど脱水し、フライパンを使って40分~1時間ほど薫製したもの。冷蔵庫から出してスライス(写真撮影/片山貴博)

生の豚バラ肉を香辛料などと共に冷蔵庫で1週間ほど脱水し、フライパンを使って40分~1時間ほど薫製したもの。冷蔵庫から出してスライス(写真撮影/片山貴博)

少しいただいた途端、スモークされた芳醇な香りが口から鼻へと広がってビックリ!

今回は薫製用チップを使ったものでしたが「ほうじ茶の葉を使ってもおいしいですよ」と教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

今回は薫製用チップを使ったものでしたが「ほうじ茶の葉を使ってもおいしいですよ」と教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

「魚の干物やチーズなど薫製は楽しみ方もいろいろで、保存も1週間くらいはききますからチャレンジしてみて!」
薫製のほかに、果実酒づくりもご夫妻で楽しまれていたようで、すてきな瓶に保存された果実酒の数々を並べてくださった。

果物のほかにキンモクセイやコーヒー、山椒というのもある!?ラベルは秀雄さんが書いたもの。「いいでしょ!」。デザイナーの文字ってホントすてき(写真撮影/片山貴博)

果物のほかにキンモクセイやコーヒー、山椒というのもある!?ラベルは秀雄さんが書いたもの。「いいでしょ!」。デザイナーの文字ってホントすてき(写真撮影/片山貴博)

知人から頂いた青唐辛子を使って「薬味味噌」をつくったと、味見させてくださいました。

ご飯のお供に抜群! やっぱりビールかな?(写真撮影/片山貴博)

ご飯のお供に抜群! やっぱりビールかな?(写真撮影/片山貴博)

「家に人を呼ぶのが好きなので、保存食があれば重宝しますよ。薫製も簡単にできるので、つくり方の話がおしゃべりのキッカケにもなってね」
おいしいだけでなく、コミュニケーションを高めるネタにしてしまうところが“達人”たるゆえんです。

感謝と共に、日々前へ進む努力家

最近は料理以外にも、そのスタイルを活かし読者モデルもされている民子さん。
「体力維持に水泳は続けています、週に3日ほど。週に2km以上は泳ぐようにしているの」

マンション1階でお庭が広く、草木の手入れも日課。「ハーブやもみじは、良くお料理にも使います」(写真撮影/片山貴博)

マンション1階でお庭が広く、草木の手入れも日課。「ハーブやもみじは、良くお料理にも使います」(写真撮影/片山貴博)

ちょっと驚いたのは……お履きになっていたスリッパが、左右反対!?
「これ、ボケてる訳じゃないのよ(笑)。O脚を治すのに良いって聞いてやってるの」
いくら年を重ねても、向上心がある人は進化し続けるといういいお手本です。

他人にも自分にも関心をもち、新しいことにチャレンジする姿。これが憧れの70代!(写真撮影/片山貴博)

他人にも自分にも関心をもち、新しいことにチャレンジする姿。これが憧れの70代!(写真撮影/片山貴博)

リビングの棚には秀雄さんの思い出の品々と共に、まだお骨も。民子さんを見守っていた(写真撮影/片山貴博)

リビングの棚には秀雄さんの思い出の品々と共に、まだお骨も。民子さんを見守っていた(写真撮影/片山貴博)

「これは、私が50半ばのころかしら。友人のカメラマンが撮ってくださったの」

今の私と同じ年ごろ。私はこれからの20年、民子さんのように素敵に生きられるだろうか?(写真撮影/片山貴博)

今の私と同じ年ごろ。私はこれからの20年、民子さんのように素敵に生きられるだろうか?(写真撮影/片山貴博)

秀雄さんの最期のノートを拝見すると、民子さんへのメッセージに「どうかいっぱい生きてください」と書いてありました。
「ただただ、感謝しかありません」と、民子さんは少し涙ぐまれましたが、私には、今輝いている彼女の姿に「たみちゃん、やるねぇ!」と笑っている秀雄さんが見えました。
飾らずシンプルに、でも時間をかけた丁寧な、ご自宅での暮らしを垣間見ることができました。「あんな風に年をとりたいな」と、素直に思える取材でした。

黒田民子
家庭料理研究家。All About[ホームメイドクッキング]ガイド。1947年大阪府生まれ。子育てや主婦業の経験を活かし、旬の食材を使って簡単につくれるレシピを多数発表している。料理教室の講師や調理器具のアドバイザーとしても活躍。
著書『やさしい保存食と自家製レシピ』(主婦の友社)、『いちばん簡単な 手作り燻製レシピ』(河出書房新社)、『家族の命をつなぐ 安心!保存食マニュアル』(ブックマン社)、『自宅で手軽に♪燻製生活のススメ(監修)』(メディアファクトリー)、『バーミキュラだから野菜がおいしい簡単レシピ』(三才ブックス)など。
All About ホームメイドクッキング
いきいきライフ
日々の食器洗い機日記

蔦屋書店に聞く! 本棚のおしゃれなレイアウト&収納アイデア

賃貸(1K・一人暮らし)でも書店のような本棚をつくりたいならDIYがオススメ、と「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平(さんじょう・ようへい)さんは言う。三條さんの自宅を参考に、おしゃれな本棚のつくり方のポイントを、書店員としての経験をもとに解説してもらった。「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平さん

「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュの三條陽平さん

三條さんが勤める「代官山 蔦屋書店」は、各ジャンルに精通したコンシェルジュのカラーが売り場に反映されていて、自身の知識とクリエイティビティを広げてくれる思いがけない本と出合うことができるのが魅力だ。数万冊もの本が並び、ただ身を置くだけでワクワクする “書店のような空間を自宅でも再現できたら”と思う方は多いはず。オリジナリティがあり大容量の本棚の作り方と、美しくおしゃれに収納するためのポイントをおさえて、その願いを実現しよう。

おしゃれな本棚にしたいならDIYがおすすめ

三條さんが現在の住まいに引越してきたのは約4年前。いわゆる“普通の賃貸1K”だが、本・雑誌だけで段ボール30箱ほど、約1200冊が約7畳の洋室に収まっている。

三條さん宅の間取り。約7畳の洋室に、幅60×奥行き30×高さ230cmの本棚が4つ、以前の住まいから本棚として使用しているキューブボックス6つが並ぶ

三條さん宅の間取り。約7畳の洋室に、幅60×奥行き30×高さ230cmの本棚が4つ、以前の住まいから本棚として使用しているキューブボックス6つが並ぶ

「通勤アクセスを第一に、なじみのあった学芸大学~武蔵小山辺りで部屋を探しました。物件選びの際に、本の収納は意識していなかったです」と三條さんは物件探しを振り返る。それでもおしゃれな本棚を見ると、質問攻めしたくなる。まずは、本棚についてのこだわりを尋ねた。

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既製品ではサイズがさまざまな本に対して可変性がないのとコストの面から、おしゃれな本棚のための第一のポイントは「自分でつくる、これに限ります!」と教えてくれた。「三田修平さんが運転手兼店主を務める移動式書店『BOOK TRUCK(ブックトラック)』の前身で『BOOK APART』という小さな本屋さんが昔ありました。そこの本棚がDIYでつくられているのを見て、いいな、と思ったんです」と三條さん。
以前の住まいではキューブボックスを本棚として使っていたが、際限なく増やせてしまうため止めたという。

以前の家には、このキューブボックスがもっとたくさんあった

以前の家には、このキューブボックスがもっとたくさんあった

ディアウォールやピラーブラケット等、DIYツールを使った本棚のつくり方

本棚の図面は、大学で建築学を学んだ三條さん自らが引いた。「本棚をDIYすれば低コストですし、つくり直すこともできます。つくり方は意外と簡単。一人で組み立てましたが、1棚あたり30分ほどでつくることができました」

図面を引くにあたり、まずは三條さん所有の本のなかで一番背が高い本に合わせ、1段の高さは40cmに設定。出版されている本の背は高くても40cmが上限だそうで、どんな本を並べるか決まっていない場合や、どんな本でも収納できる本棚をつくりたいという場合は、高さを40cmに設定するのがいいのだそう。そして棚の奥行きも同様に、一番奥行きがある本に合わせて30cmとし、パーツを使って両サイドの木材に取り付けた。棚の幅は60cm、棚を支える両サイドの木材の高さは、天井高よりやや低い2m30cmに。上端にブラケットパーツを取り付け、床と天井を使って突っ張らせることにより木材を柱として固定した。

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ちなみに三條さん宅の本棚は、ホームセンターで図面に合わせてカットしてもらった2×4材(ツーバイフォー材)と、東京・恵比寿の「P.F.S PARTS CENTER(ピーエフエス パーツ センター)」で購入したブラケットパーツ「PILLAR BRACKET(ピラーブラケット)」と「SHELVING STAY」で制作。棚を支えるパーツやブラケットパーツは、ホームセンターなどでも購入可能だ。

美しく本を並べるポイントは奥行き・高さ・陳列方法

三條さんの本棚に並ぶ本は、建築・デザイン関連をメインに、文庫や漫画、ビジネス書など幅広い。そして装丁や判型もバラバラなのに、書店のように落ち着きがあり、まとまりを感じられるのはなぜだろうか。続いては、おしゃれに見せるための本の収納方法を伺っていこう。

まずは本棚の奥行きの活用方法について尋ねると「店頭では、すべての本の背表紙を本棚の手前端に合わせることで面をつくり、きれいに見せています」という答えが返ってきた。しかし三條さんの本棚はその逆で、奥の壁に本を付けて並べている。そして手前にできたスペースを飾り棚として活用し、収納している本に関連したポストカードや小物を置いて、インテリアのアクセントにしているのだ。

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また「展覧会の図録の場合は、チケットの半券やフライヤーも一緒に挟んで収納しています」と三條さん。物として残してあると展覧会の記憶を留めておけるのだそう。本棚が本だけでなく、思い出の収納場所としても活用されている。

続いては本の高さについて。「店頭では、より多くの本を手に取ってもらうため、関連する本を判型に関係なく並べますが、自宅の本棚をきれいに見せるには、判型の似たもの、背の高さや本のサイズが合っている本を集めて収納するとまとまって見えます」と三條さん。とはいえ、特に背の高さは合わせづらいもの。そこでおすすめなのが、棚1段の両端に背が高い本を置き、中央にかけて低くする並べ方。こうするとアーチ状になりきれいに見えるという。

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最後は、本の陳列方法について。大きく分けて、背表紙を見せる「背ざし」、表紙を見せる「面出し」、表紙を上にして重ねる「平積み」の3パターンがある。三條さんの場合、“見せる”よりも読書歴のインデックスとして本棚を機能させているため、「背ざし」での収納がほとんどだが、書店のようにおしゃれに見せたい場合は「面出し」「平積み」のテクニックを使うと有効的だ。

「個人的には、自宅の本棚は自分に向けてつくる方が良いと思います。たまに来客の際にアピールしたい本を『面出し』してカッコつけるくらいでいいのではないでしょうか(笑)」。そう三條さんが言って持ってきてくれたのが、「BIBLIOPHILIC(ビブリオフィリック)」のブックスタンド。本棚の空いたスペースにこちらを使って表紙がかっこいい本を「面出し」して見せてくれたが、雰囲気がぐっと増す。

ブックスタンドを使って、面出し

ブックスタンドを使って、面出し

また本を「平積み」してブックエンドの代わりにするのも、本棚にリズムが生まれるのでおすすめだ。三條さんの場合は、棚の積載量に耐えられなさそうな厚い本を床に「平積み」して、“見せる”と実用性の合わせ使いをしている。

左が平積み、右が背ざし

左が平積み、右が背ざし

そして三條さんが気をつけているのが本の保存方法。「本棚の位置に気をつけ、日中はカーテンをするなど、直射日光には当てないようにしています」と、本好きならではの心遣いだ。お陰でどの本も新書のような状態を保っていて、それが本棚全体の美しさにもつながっている。

また本好きにとって、本が増えてしまうのが悩みどころ。この問題に対し、三條さんはどのように対処しているのか伺うと「本棚からはみ出したり、本棚全体との違和感が出てきたりしたら、その都度手放すようにしています」と潔い答えが返ってきた。本棚の美しさを保つためには、本の中身を見極めて整理していくことが必要不可欠だ。

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中身重視の並べ方でも“自分の軸”でまとまりが生まれる

“ジャケ買い”のように装丁が目を引く本をインテリア用に買うことはあるのか尋ねると、「飾ろうと思って購入した本はなく、好きなものを買っています」と三條さん。それでも本棚全体がまとまって見えるのは、並ぶ本に“自分の軸”があるからかも、という。

「作家・写真家・デザイナー別やカバーの色別に並べている方もいらっしゃいますが、私の場合は本の中身を重視して並べています。例えば、新しく買った本と本棚に収納してあった昔の本の内容がリンクしたら隣に、というように」と三條さん。本棚は読書歴の整理の場であり、“記憶の外部装置”。インテリアとしてではなく、“個人図書館”としてつくってみるのもいいですよ、と話す。
取材を通して改めて自身の本棚を見渡し、「長年買い集めては取捨選択しているので、改めて全体を見渡すといい本があるなと自画自賛ですね」と笑う。収納テクニックを使って美しく見せながら、月日を掛けて本を入れ替えていく中で、自分らしさや感性が反映され、本棚が熟成していくのだろう。

部屋の壁にもさり気なくフリーペーパーが飾られていた

部屋の壁にもさり気なくフリーペーパーが飾られていた

●取材協力
「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュ 三條陽平さん
TSUTAYA TOKYO ROPPONGIで建築・デザインの担当をした後、2012年から「代官山 蔦屋書店」のコンシェルジュに。月に一度、建築物を見るために地方へ出かけることをライフワークとしている。最近最も感銘を受けた建築は「太田市美術館・図書館」。
代官山 蔦屋書店

ファミリー世帯の多い街で、安心して子育て。都内ベイエリアの新築マンション【理想をかなえたマイホーム実例#04】

マイホーム購入を通じて、理想をかなえた方々のお宅に伺い、レポートする連載企画。
今回は「東京ならではの生活を楽しみつつ、安心して子どもを育てたい」と考え、江東区で新築マンションを購入したOさんのご自宅にお邪魔します!【連載】理想をかなえた!マイホーム実例
「いつかは家を買って、○○したい」――そう考えて、住宅購入に夢をふくらませている方も多いのではないでしょうか。実際に「こんな暮らしがしたかった」という理想の暮らしを実現したご家庭にお邪魔し、マイホームを購入するまで、してからのお話をあれこれ伺います。家族の幸せな笑顔が生活空間を彩る、かわいいディスプレイスペース

江東区、東京ベイエリアの新築マンションが立ち並ぶ一角。インターフォンでオートロックを解除してもらい、エレベーターで2階に上がった一番奥の角住戸が、今回のOさんファミリーの住まいです。夫婦と9歳の女の子、3歳の男の子の4人で住んでいます。

「かわいい~!」
玄関を開けると真っ先に目に入る靴箱の上のディスプレイスペースに、私たち取材陣がそろって声を上げました。たくさんの家族写真が飾られ、すてきにディスプレイされた玄関は、Oさんファミリーの幸せで充実した毎日を感じさせます。

ガーランドなどお星さまのモチーフで統一され、たくさんの家族写真が置かれた玄関のディスプレイスペース(写真撮影/片山貴博)

ガーランドなどお星さまのモチーフで統一され、たくさんの家族写真が置かれた玄関のディスプレイスペース(写真撮影/片山貴博)

玄関を上がってすぐ左手にあるのが、小学3年生になる長女の部屋。白とピンクを基調としたカラーリングが女の子の部屋らしい雰囲気です。大好きな小物たちがたくさんディスプレイされ、上手に描けた絵や家族の写真がたくさん飾られた空間は、さながらお姉ちゃんの宝箱のよう。いきいきと学校生活を楽しむ子どもの毎日の時間と、健やかな成長を願うOさん夫婦の気持ちが詰まっているのでしょう。

長女の子ども部屋には色とりどりの小物たちや絵、写真が飾られているが、白とピンクを基調としたカラーリングですてきな統一感がある(写真撮影/片山貴博)

長女の子ども部屋には色とりどりの小物たちや絵、写真が飾られているが、白とピンクを基調としたカラーリングですてきな統一感がある(写真撮影/片山貴博)

廊下を進むと、壁にもたくさんの写真と2人の子どもたちが着色したTシャツが飾られていました。シックなグレーの壁に写真や手描きの明るい色彩がよく映えています。

たくさんの写真が飾られたキャンパス地のアートボードと、子どもたちが絵を描いたTシャツが飾られている廊下の壁は、まるでギャラリーの一角のよう(写真撮影/片山貴博)

たくさんの写真が飾られたキャンパス地のアートボードと、子どもたちが絵を描いたTシャツが飾られている廊下の壁は、まるでギャラリーの一角のよう(写真撮影/片山貴博)

階の高さよりも広さを重視、内装をカスタマイズしてシックな空間に

――日々の生活の楽しさが、訪れるゲストにも存分に伝わるお住まいですね。いつごろからこちらに住んでらっしゃるんですか?

「2014年ごろに購入してマンション完成後の2015年に引越したので、住んで3年ほどです。以前は江戸川区にある賃貸マンションに住んでいたのですが、50平米の2LDKで、手狭に感じて引越しを考えていたときに2人目を妊娠しました。夫婦でこれはもう買うタイミングだろう、と話しまして」(Oさん、以下同)

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――新築マンションに絞って検討されたんですか?

「はい。特に夫は自分たちが初めての住人になる新築がいい、という考えなので、中古マンションは選択肢にありませんでした。このマンションは内覧して2つ目の物件だったのですが、モデルルームを見た瞬間、ここがいい、と。価格帯が低い2階という低層階にするかわりに、壁などはちょっとお金をかけて好きな仕様にしました。たとえば先ほどの廊下の壁や、畳を黒系の色みにカスタマイズしてシックな印象にしています」

ダイニングの壁もグレーに変更した。モノトーンを基調としたシンプルでシックな空間に、木目が映えるインテリア。スツールや家電類も白で統一されているので空間全体がスッキリと見える(写真撮影/片山貴博)

ダイニングの壁もグレーに変更した。モノトーンを基調としたシンプルでシックな空間に、木目が映えるインテリア。スツールや家電類も白で統一されているので空間全体がスッキリと見える(写真撮影/片山貴博)

――キッチンカウンターのステッカーなど、インテリアにもご夫婦のこだわりを感じます。

「ステッカーは夫が貼ったんですよ。あ、リビングの飾り棚のディスプレイも夫作です」

「夫がつくったんです」というリビングの飾り棚。ボードには「LIVE SIMPLY,LAUGH OFTEN,LOVE DEEPLY(シンプルに暮らし、よく笑い、深く愛そう)」の文字が(写真撮影/片山貴博)

「夫がつくったんです」というリビングの飾り棚。ボードには「LIVE SIMPLY,LAUGH OFTEN,LOVE DEEPLY(シンプルに暮らし、よく笑い、深く愛そう)」の文字が(写真撮影/片山貴博)

――お仕事が住まい選びにも影響した点などもありますか?

「夫は外資系のメーカーで働いていて車通勤なので、エリアの選択という点で、アクセスのいいところ、高速道路にも乗りやすく、東京都内でも道路が混雑しやすい西側は避けて……と考えました。江東区のなかでもやや南に位置するこのエリアは、そういった点を満たしていました」

――子育て環境についてはいかがですか?

「江東区は子育て支援制度も充実しているし、23区内なのに緑も水もあって自然豊か、子どもたちがのびのびと遊べる広い公園もたくさんあって気に入りました。同じベイエリアでも芝浦や豊洲などに比べると、都心から少し離れるこのエリアは物件の価格帯も割安ですしね(笑)」

――ベイエリアは車があれば、特に便利ですもんね。

「はい、友達や親戚が遊びに来たときにもお台場や葛西臨海公園、東京ディズニーランド、千葉方面など、いろいろなところに連れて行くことができます。でも、車がなく電車移動の場合でも、昼間は割と席が空いていて楽なんですよ」

お出かけや買い物は車移動が多い。夫の営業車は近くの契約駐車場に、マイカーはマンション内の駐車場に置いてあるので、妻と子どもたちもいつでも車で出かけられる(写真撮影/片山貴博)

お出かけや買い物は車移動が多い。夫の営業車は近くの契約駐車場に、マイカーはマンション内の駐車場に置いてあるので、妻と子どもたちもいつでも車で出かけられる(写真撮影/片山貴博)

――たしかに! 今日の取材に伺うときにも、電車で座って来ることができました!

「でしょう? 私はミーハーなので、東京の生活を満喫したいんですが、交通網の混雑や人混みは苦手なので、割とゆったり暮らせて『東京だけど、東京っぽくない』このエリアが本当に気に入っています。夫は東京都内に実家があるのですが、彼も都内でこんなに安くていいところはない、とよく言っています(笑)」

同世代のファミリーとのつながり、助け合いが子育ての味方

――「子育て」という側面において、ほかにも感じてらっしゃる利点はありますか?

「同世代の子育てファミリーが多いところです。新築マンションが同時期に建ったこともあって、うちと同じような子育て世帯がたくさん住んでいます。娘の小学校の同級生もすぐ近くのマンションに住んでいて、ママ同士で連絡を取り合って『集合!』をかければすぐに集まって遊べます。また、何かトラブルがあって帰りが遅くなるときなどは、ママ友たちに子どもを預かってもらったり、お互いに助け合えている状態がとても心強いんです」

取材当日もOさんがLINEで一声かけると、近くに住む長女のお友達やママ友がすぐに集まってくれた。すぐ近くの運河に沿う遊歩道も子どもたちの遊び場(写真撮影/片山貴博)

取材当日もOさんがLINEで一声かけると、近くに住む長女のお友達やママ友がすぐに集まってくれた。すぐ近くの運河に沿う遊歩道も子どもたちの遊び場(写真撮影/片山貴博)

――引越していらしたのが3年前ということなので、もともと幼稚園からのお友達、というわけではないんですよね?

「はい、知り合いが全くいないところに引越してきたので、正直、最初はかなり不安でした。ところが、引越してみると周りも同じように引越してきたファミリーばかり。小学校もこぢんまりしていて一学年が40人強、学年みんなの顔が分かって、子どもたちが表に出ていると誰かが見てくれている環境です。
近くの古い団地に住むおじいちゃんおばあちゃんもよく声をかけてくれ、こんなに助けてもらえる人がいるとは思いませんでした。震災の経験など、助け合えるコミュニティが必要だと思っていたときにこの環境に出合えて、本当によかったと思っています」

普段は利便性を享受しながら安心して生活ができること、そして休日に少し足を延ばせば首都圏ならではのレジャーを満喫できること。子どもの成長を見守りながら夫婦も存分に楽しむ、Oさんファミリーの温かく充実した生活をのぞかせてもらいました!
江東区というエリア、新築マンションで低層階を選び、広さをとって自分仕様のカスタマイズをする、という質実な選択をして実現した豊かな暮らし、ぜひ住まい選びの参考にしてください。

新築では手が出なかった物件を購入できる「リノベ済物件」の魅力【リノベという選択肢】

住宅購入の選択肢として最近注目されているのが、中古物件をリノベーションした「リノベ物件」。中古物件を購入して自分たちでリノベーションプランを考える人もいますが、クオリティの高いリノベ済みの物件を購入することもできるようになりました。しかし、言葉では知っていても、リノベ物件の魅力がいまいち分からないという方も多いはず。今回は、実際にリノベ物件に住んでいる人に、気になる「リノベ物件のあれこれ」をうかがいます。
新築と同レベルの内装だったことから興味をもったリノベ済物件

今回お話をうかがったのは、江東区にお住まいのSさん夫婦(30代)。東京メトロ東西線「東陽町」駅からほど近いマンションの4階にあるリノベ済み物件にお住まいです。新婚でもあるSさん夫婦は、約3カ月前に購入したこの家で新しい生活を始めたばかり。実際に住んでいるからこそ見えてくる、リノベ済物件の魅力や物件選びのことについてお話をうかがいました。

最初に見に行った物件がたまたまリノベ済物件だったというSさん夫婦。実際に内覧に行った物件は、不動産会社が既存住宅を買い取ってからリノベーションしている、いわゆる「買取再販」と言われる物件でした。内装が新築と比べても遜色がないほどきれいだったため、リノベ済物件に興味をもったのだそうです。

駅近の3LDKで60平米という二人の希望を満たすご自宅。購入金額は、ほぼ予算通りの4000万円弱(写真撮影/土田凌)

駅近の3LDKで60平米という二人の希望を満たすご自宅。購入金額は、ほぼ予算通りの4000万円弱(写真撮影/土田凌)

「新築の物件も見たのですが、二人が求める部屋のスペックだけでなく、お互いの勤務地に30分以内などの立地条件を考慮すると、都内の新築物件ではどうしても予算を超えてしまうと思っていました」(Sさん夫婦)

共働き前提の新婚夫婦だったからこそ、駅近や区役所の近さ、保育に関する安心感といった生活環境の良さは外せない条件でした。いまのご自宅は、そういった条件を満たしながら、フルリノベーションされており、施工のクオリティが高かったため、購入を決意したと言います。

「リビングと仕切られている方が、湯気や臭いがリビングにたちこめる心配がないので、キッチンが独立している物件を選んだ」と語るSさん夫婦。写真中央は奥さまお気に入りの食洗器(写真撮影/土田凌)

「リビングと仕切られている方が、湯気や臭いがリビングにたちこめる心配がないので、キッチンが独立している物件を選んだ」と語るSさん夫婦。写真中央は奥さまお気に入りの食洗器(写真撮影/土田凌)

「古き良き」を感じながら暮らせるもリノベ済物件の魅力

リノベ済物件の魅力は「新築だったら買えない物件が買えること」と、Sさん夫婦は口をそろえます。

「リノベ済物件は外側が古いだけで、内側に関しては新築と同クオリティです。新築は高額で手が届かなかったとしても、リノベ済物件なら手が届く範囲で購入できるというのが、何よりもメリットだと思います」(Sさん夫婦)

また、新築物件とは異なり、建物の元からある構造を活かし、アップデートしているのもリノベ済物件の特徴です。だからこそ、建物自体が古いということは「必ずしもデメリットではない」とSさんご夫婦は言います。

バルコニー側から見たはめ殺しの大型の窓(写真撮影/土田凌)

バルコニー側から見たはめ殺しの大型の窓(写真撮影/土田凌)

「例えば、このバルコニー。バブル期に建てられた物件にはこういう出っ張った窓が多かったそうなのですが、いまはこういう形の窓のある物件は少ないんです。内装はきれいなのに、ベランダはちょっとレトロっていうこの空間が好きですね」(夫)

取材当日はあいにくのお天気でしたが、明るさは充分。ご夫婦いわく「サンルームとしても活用できそう」とのこと。もともとの構造を活かしたリノベ済み物件だからこそ、新築ではなかなかお目にかかれない「はめ殺しの大型の窓」を手に入れることができたと言えるかもしれません。

物件探しを通じて、自分たちの住まいへのこだわりを見つける

現在の住まいにたどり着くまで、リノベ済みの中古物件、リノベなしの中古物件、新築物件とさまざまな物件を見てきたというSさんご夫婦。だからこそ、リノベ済み物件を選ぶ際には「住んだあとにリフォームが発生するかどうかを確認したほうがいい」と言います。

つまり、リノベ済物件だからといって、部屋のすべてがリノベーションされているとは限らないということ。内装のみのリノベーションで、水まわりや配管工事までは行っていないという場合もあるため、部屋のどこまでがリノベーションされているのかは、きちんと確認する必要がありそうです。

「私たちが見た物件のなかで、内装はきれいだけど、お風呂のドアが前のままという物件がありました。でも、私たちはそれが妥協できなかった。だからこそ、水まわりや配管まで含めたスケルトンリノベーション(骨組みだけを残し、内装や設備を一新すること)にこだわることにしたんです。

ほかの物件を見て、比較対象となる物件を並べていくと、『実は自分はこんなところを気にしていたんだ』といままで顕在化されていなかったニーズが見えてきます。いくつか見比べて選択していくことが必要なのかなと思いますね」(妻)

営業担当との関係性も理想の住まい選びには欠かせない

さまざまな物件を見て、結果的に満足のいく住まいを購入できたというSさん夫婦。しかし、最初から「こういう住まいがほしい」という強いイメージがあったわけではなかったそう。そんなご夫婦が理想の住まいを手に入れることができたのは、ご夫婦の物件選びをサポートしたグローバルベイスの販売担当、後藤さんの存在が大きかったそうです。

取材中、息の合った掛け合いを見せたSさん夫婦と後藤さん。まさしくパートナーという言葉がふさわしい関係性でした(写真撮影/土田凌)

取材中、息の合った掛け合いを見せたSさん夫婦と後藤さん。まさしくパートナーという言葉がふさわしい関係性でした(写真撮影/土田凌)

「私たちはそもそも購入予算の設定からして甘かったんです。住宅の購入にすべての金額を注ぎ込むのではなく、『遊びや旅行など自分たちが人生を楽しむことにもお金を使えるような、生活の余白を残したい』と漠然とは考えていました。しかし、そのためにいくらのローンを組めばいいのかといった、具体的な資金計画すら分かっていませんでした。後藤さんに相談するうちに自分たちの予算が次第にクリアになり、それに見合った物件探しを進めることができたんです。

後藤さんは、親身に相談に乗ってくれるパートナーのような存在。パートナーから教えてもらう知識やアドバイスによって私たちの考えもまとまっていくので、住宅の購入はパートナーとの共同作業だなと思いました」(Sさん夫婦)

新築と比べて少ない予算で手に入れることができるとはいえ、ただ希望の条件を並べていくだけでは満足度の高い物件購入は難しいかもしれません。具体的な物件のイメージを持っていなかったSさん夫婦の場合は、「比較対象となる物件を複数見た」「営業担当の力も借りて、資金計画などから細かく詰め直した」という2つのポイントが、満足のいく物件購入に繋がりました。
自分たちが住まいに何を求めているのか、またその資金計画によっても、選び方は変わってきます。リノベ済み物件ならではの特徴や検討ポイントを理解した上で、後悔のない物件選びをしましょう。

●取材協力
・グローバルベイス株式会社

「リフォームやリノベーションで詐欺に遭わないためには?」 住まいのホンネQ&A(8)

中古マンションを購入してリフォームやリノベーションをしたら、思い通りの住まいを手に入れられるかも――。そう考えるとうっとりしてしまう人もいるかもしれませんが、近年は悪質な詐欺行為をはたらく業者も少なくないようです。
住宅という大きな買い物で、被害に遭わないためにはどうしたらよいのでしょうか。さくら事務所会長の長嶋修氏が語ります。

リノベーションで最も深刻なのは「配管問題」

「割安な中古住宅を買って、思い通りにリフォーム・リノベーション」といったセールストークが展開されるようになって久しいのですが、このところ各所でトラブルが頻発しているようです。

特にこうした事業への新規参入組は、さしたる知識や経験の積み上げがないため、リフォーム・リノベーションにありがちな雑な工事や「言った言わない」のトラブルを耳にします。

まずリノベーションに関しては、とりわけ隠れて見えない上下水道の配管や電気配線について、リノベーション前の状態をどのように判断し、取り換え工事をしたのかしなかったのか、必ず確認したいところです。

中でも、「雨漏り」「水漏れ」などの「水問題」は、後に大きな問題となる可能性があります。最も深刻な「配管問題」について説明します。

例えば築30年以上の古いマンションでは、金属製の給水管が使われていることがあります。本来ならそろそろ給水管の交換を検討するところ、それを行わず、配管は古いまま表面だけきれいにして、「リノベーション済」として販売されているケースも多いのが実情です。こうしたマンションは、リノベーション事業者が相場の8割程度で買取り、リノベーションを施して再販売する、いわゆる「買取再販物件」に多いのです。

どうしてそのようなことになってしまうのでしょうか。

買取再販を行う事業者は常に、ライバルとの猛烈なマンション買取り(仕入れ)競争にさらされています。このとき、上下水道の配管交換工事まで勘案してしまうと買取価格を下げざるを得ず、他社との競争に負けてしまうといったジレンマがあるのです。

そのため、表向きは「全面リフォーム済み」「リノベーション済み」とうたっておきながらも、目に見えないこうした部分はそのままにしてしまうわけです。

「瑕疵保険付き物件なら安心」はウソ

「事業者が売主なら補償がついているから安心」とはとてもいえません。なぜなら、こうしたマンションに一般につけられている2年程度の「瑕疵保険」は、現在の配管の状態を補償する訳ではありません。保険の適用期間が切れる3年目や4年目以降に故障する可能性があっても付帯できるからです。つまり現在、配管が古く交換時期に差しかかっていても、その時点ですでに水漏れしていなければ、交換せずに保険だけかけておくケースが多いのです。

仮に2年以内に水漏れが発覚して保険を適用する場合でも、修復するには全面的に建物を取り壊す必要があり、入居者はいったん引越し、数カ月後にまた戻ってこなければなりません。この期間中の「調査費用」や「転居・仮住まい費用」「引越し代 」は補償対象ですが、「時間的損失」「精神的な損害」などは保証されません。

最低2回、有資格者による確認を

冒頭で言ったとおり、昨今はリノベーション事業に新規参入する事業者が増加しています。事業者によってはトラブル可能性を排除できるだけの能力や経験がないことも多く、また工事管理体制の甘い事業者は定期的に欠陥や不具合を生み出しているのが実情です。

こうしたことを防ぐには「工事管理体制」を確認するとよいでしょう。どんな資格を持った人が、工事現場を何回確認するのか。建築士や施工管理技士などの有資格者による、最低限「解体後設備配管終了時」「完成時」の2回は確認が必要です。

リフォームトラブルは手口が多様化

リフォームトラブルについて国民生活センターに寄せられる苦情の中で最も多いのがいわゆる「訪問販売」。不要不急の住宅リフォーム工事の訪問販売を行う事案が多く発生しているとして、「突然の訪問に注意」「安価な金額でもすぐ契約しない」「『近所で工事をやっている』と言われても安心しない」「必ず複数社から見積もりをとること」「契約後8日間以内ならクーリングオフが可能」といった注意点や対処法を呼びかけています。

とはいえ、一見好青年風のセールスマンがやってきたり、最初は少額工事で安心させておいて、後から次々と工事を提案したりするなど、手口はますます巧妙化。最近は営業マンや上司風の人が次々とやってきては工事を勧める「劇場型」も登場しているようですので、気を抜けません。

リフォーム業者、3つのチェックポイント

自宅をリフォームするなら、きちんとした業者に頼みたいというのは、だれもが願うこと。では、良い業者とそうでない業者の見分け方とはどういったものでしょうか。

1.一式見積もりに注意

工事内容に関し「一式」とだけ書かれている見積書は意外と多いもの。それが、「解体工事」「クリーニング」「残材処分」「現場管理」のような、本体工事ではないところなら、問題はありません。しかし「造作工事」や「電気・水道工事」(内装・塗装工事)のような本体工事について、「一式」とだけしか書かれていない場合は要注意です。特に、リフォームしたい箇所だけを聞いて、「それは○○万円でできます」などと話す業者には注意。「水まわり一式30万円」などのパック料金型も同様です。

竣工図を見ない見積もりは、金額が大雑把になりがち。床や壁を解体したときに骨組みの状態や内部の傷み具合が不明で、別途工事が必要になったり、想定外に工期が延びたりしたときのために、一定程度の額を上乗せして見積もりを算出することがあるためです。

たとえ見積もりが安くても、業者が工事開始後に採算がとれないことに気づくケースもあります。その時点で料金を上げるわけにもいかず、気づかないところで手を抜くといったことになりがちです。

2.契約から完成まで、必要な書類があるか

契約前、建築中、契約(完成)後、工事の段階に応じた必要書類があります。契約前には、金額の大小にかかわらず、必ず「請負契約書」を取り交わしましょう。同時に、お互いの約束事を書面に記した「請負契約約款」もそろえておく必要があります。いずれも基本的には業者が用意するものですが、発注者もよく内容を確認しなければなりません。「約款」については、クーリングオフについて定めてあるものがベスト。

建築中に必要になるのは「工事内容変更合意書」です。当初の仕様や金額などの契約内容が途中で変更になったら、必ず取り交わします。

最後に「工事完了確認書」。リフォーム後のアフターサービスがある場合には、この書類に記載された日付が開始日となります。これらの書類は最低限必要なものですが、大切なのは、それぞれが適切なタイミングで用意されることです。

リフォームの際にありがちな「言った、言わない」のトラブルを避けるには、業者との打ち合わせの内容を記録しておくことをおすすめします。打ち合わせで決まったことをメモしておくとともに、工事前の状態、工事計画を記した図やスケッチなどを残しておけば、後で確認するときに便利です。業者によっては、専用の「打ち合わせシート」を用意してくれるところもありますので、打ち合わせの前に聞いてみてはいかがでしょうか。

簡単な工事ならまだしも、一定規模以上のリフォームや修復の場合、あなたが希望している内容の工事ができるかどうかは本来、建物が最初にできたときの状態を記した「竣工図」を確認しなければわからず、まともな見積もりも出せません。

竣工図とは、建物を新築するときに発生した設計変更などを元の設計図に反映させた図面のことです。配管や配線などは工事中に変更されることも珍しくありません。修繕やリフォームの際には、原状を把握するために、設計図ではなく竣工図が必要になってくるのです。

3.管理規約を閲覧していること(マンションの場合)

マンションの管理規約には、例えば、音にまつわるトラブルを防ぐため、フローリングの等級が規定されていたり、工事を実施する前に管理組合に対して行う必要がある手続きやリフォームが可能な曜日などが定められていたりします。

工事可能なリフォームの範囲や工程を割り出すには管理規約の確認が不可欠。仮に管理規約を業者に預ける場合には「預り証」を交付してもらいましょう。

高齢の両親が騙されるケースも

国民生活センターに寄せられた相談の中には、高齢の両親がリフォームの契約したことを息子や娘が不審に思い、不要なリフォームが発覚したケースもあったようです。離れた実家に住む親とは日ごろからよくコミュニケーションをとっておくことも大切でしょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

コンパクトな建物に好きなものをぎゅっと詰め込んだ、遊び心満点の家 テーマのある暮らし[5]

建設会社に勤務後、建築士として独立。新築からリフォーム、家具やインテリアなどの設計を手掛ける一方で、写真家としての顔をもつ木暮洋治(こぐれ ようじ)さん。コンパクトでありながらも、大人も子どもも楽しめる“遊び心”あふれる住まいを都内につくりあげました。建築士ならではのこだわりや工夫の数々とは?【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。光、音、空気が通り抜ける開放的な家づくり

茗荷谷駅から徒歩10分、毎年春には桜の名所としてにぎわう緑豊かな場所に、木暮さんのオフィス兼住まいがあります。木暮さんは、妻、小学6年生の長女と間もなく5歳になる次女の4人家族。そして、とても人懐こい愛猫レンくんと一緒に暮らしています。

間口は5メートルで、奥行きのある建物。白色にまとめられたスタイリッシュな外観で、正面から見ると、1階はガレージと玄関です。プライバシーもしっかり確保された3階建てになっています(写真撮影/内海明啓)

間口は5メートルで、奥行きのある建物。白色にまとめられたスタイリッシュな外観で、正面から見ると、1階はガレージと玄関です。プライバシーもしっかり確保された3階建てになっています(写真撮影/内海明啓)

「土地をいろいろと探していたときに、偶然にもここだけが空いていたんです。土地の広さは18.6坪とコンパクトなのですが、私も妻もこの桜並木を見渡せるロケーションがとても気に入って、迷うことなく『ここにしよう』と即決しました」

玄関を入ってすぐの1階には、トイレやバスルームといった水まわり関係のお部屋が、集まっていました(写真撮影/内海明啓)

玄関を入ってすぐの1階には、トイレやバスルームといった水まわり関係のお部屋が、集まっていました(写真撮影/内海明啓)

玄関の扉を開けると、シンプルな外観とは裏腹にぬくもりある明るいポーチと廊下。その先には、ダイニングキッチンに直接つながる階段と、オープンな空間が広がります。

「奥行きが長いので、この空間をどうやって有効活用しようか……そこからスタート。自分の家を自分で設計する、ということもあって、やりたいことはどんどん取り入れよう! とチャレンジ魂に火がつきました。そのやりたいことのひとつがスキップフロアです。吹抜けを設けることで、光も風も通り抜ける開放的な空間をつくりたかったんです」と木暮さん。

20分の1の模型は、木暮さん渾身の作品。「私の母から『狭いんじゃないの?』と言われて、『そんなことないよ』と手直ししながらつくりました。ここまで細かく模型をつくったのは初めてです(笑)」(写真撮影/内海明啓)

20分の1の模型は、木暮さん渾身の作品。「私の母から『狭いんじゃないの?』と言われて、『そんなことないよ』と手直ししながらつくりました。ここまで細かく模型をつくったのは初めてです(笑)」(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、取材したのは35度の猛暑日で、同行メンバー全員汗だく。これだけ暑いと、冷房を効かせてもなかなか玄関まで冷たい空気が行き渡らないものですが、玄関に一歩入ると冷んやりした空気に。思わず「あぁ、生き返る~」と声が出てしまったほどです。壁や扉で区切られている構造では、こうはいきません。家の隅々まで一定の温度を保てるのも、開放的な空間だからこそ得られるメリットです。

たくさんの友達が来ても大丈夫! 広々と明るいリビング

キッチンからの階段を上ると、そこは明るいリビング。お子さんのピアノや勉強机、ソファを置いてもまだ十分余裕のある広々としたリビングは、吹抜け部分と通常よりやや低くした天井部分で変化を付けています。

「家を建てるときに、一番重視したのがリビングです。私も妻も以前から、友達やお客様をたくさん呼べるリビングが欲しいね、と話していて、できるだけ広いスペースを確保するように設計しました。また、天井って低すぎても高すぎても落ち着かないんです。天井の高さを変えたのは遊び心もありますが、開放的になれる場所と落ち着ける場所、その両方を味わえる狙いもあります」

木暮さん夫婦がこだわったリビングを上から見ると、その広さは一目瞭然。白いビニル床タイルには、床暖房を設置しています(写真撮影/内海明啓)

木暮さん夫婦がこだわったリビングを上から見ると、その広さは一目瞭然。白いビニル床タイルには、床暖房を設置しています(写真撮影/内海明啓)

「我が家に子ども部屋はありません。長女の机はありますが、そのときの気分でリビングやダイニングキッチンのテーブルに移動して勉強するなど、好きな場所で勉強しています。最近、長女は私の仕事部屋が気に入っているようですが(笑)」

リビングを中心に、ダイニングキッチン、木暮さんの仕事場などが、すべてオープンになって見渡せる仕掛け。どこにいてもコミュニケーションをとれる環境(写真撮影/内海明啓)

リビングを中心に、ダイニングキッチン、木暮さんの仕事場などが、すべてオープンになって見渡せる仕掛け。どこにいてもコミュニケーションをとれる環境(写真撮影/内海明啓)

リビングにブランコ!?  アートとの融合で大人も子どもも楽しめるリビング

リビングで注目したいのは、天井のフック。ここにブランコを取り付ければ、子どもたちが遊べるスペースに早変わり。天井裏には、頑丈な鉄板を使っているので、大人が乗ってもOK! サンドバッグをかけても大丈夫なくらいの強度があるそうです。

壁は、松の合板に自然塗料であるオスモカラーを塗って、うっすら木目を残した風合いに。明るさとぬくもりのある空間で、レンくんもすっかりリラックス(写真撮影/内海明啓)

壁は、松の合板に自然塗料であるオスモカラーを塗って、うっすら木目を残した風合いに。明るさとぬくもりのある空間で、レンくんもすっかりリラックス(写真撮影/内海明啓)

また、リビングの壁はアートスペース。アート好きの木暮さん夫婦が飾るお気に入りの作品と並んで、子どもたちがつくった作品がバランス良く飾られています。なかには、お子さんが貼ったと思われる可愛いシールもちらほら……。

「子どもたちは、シールが大好き。あちこちにペタペタ貼っても、基本何も言わずに好きにさせています。部屋の雰囲気にあっていればそのままにしておきますが、これはちょっと……というものは、子どもが飽きたころを見計らって、こっそりはがすのが私の役目です(笑)」

イギリス出身のアーティスト、ギャリー=ファビアン・ミラーの作品をはじめ、お嬢さんの趣味である三線もアートのように飾られている(写真撮影/内海明啓)

イギリス出身のアーティスト、ギャリー=ファビアン・ミラーの作品をはじめ、お嬢さんの趣味である三線もアートのように飾られている(写真撮影/内海明啓)

「私の祖父も父も絵が好きで、この絵は祖父が絵を習っていた先生の作品です。妻が馬を好きなこともあって、この家を建てたときに実家からもってきました」(写真撮影/内海明啓)

「私の祖父も父も絵が好きで、この絵は祖父が絵を習っていた先生の作品です。妻が馬を好きなこともあって、この家を建てたときに実家からもってきました」(写真撮影/内海明啓)

設計のアイデアを生み出している“男のロマン”あふれるアトリエ

木暮さんのアトリエは、まさに“男のロマン”があふれる秘密基地。建築関係の専門書から資料、カタログ……とデッドスペースがないくらい。棚をフル活用して、ぎっしり隙間なく詰め込まれています。

「これでも、まだ収納スペースが足りないくらいなんです(笑)建築技術の月刊誌などは、ちょっと油断するとどんどん溜まっていっちゃうので、必要なページはPDF化してiPadに入れるように心がけています」

趣味で革細工もやっているという木暮さん。「ここだけは、荷物が増えても家族から文句を言われないですからね(笑)好きなものに囲まれながら、アイデアと発想を広げています」(写真撮影/内海明啓)

趣味で革細工もやっているという木暮さん。「ここだけは、荷物が増えても家族から文句を言われないですからね(笑)好きなものに囲まれながら、アイデアと発想を広げています」(写真撮影/内海明啓)

人気のデジタル一眼レフカメラ「ニコンDf」をはじめ、初期のポラロイドカメラやクラシカルなカメラなど、木暮さんのカメラコレクションの一部(写真撮影/内海明啓)

人気のデジタル一眼レフカメラ「ニコンDf」をはじめ、初期のポラロイドカメラやクラシカルなカメラなど、木暮さんのカメラコレクションの一部(写真撮影/内海明啓)

日本文化のわびさびを現代風にデザインした茶室

リビングから寝室を経て3階に上っていくと、これまでとガラッと雰囲気が異なる和室がお目見えします。

「妻がやっている茶道を楽しむための空間として茶室をつくりました。中央にはお湯を沸かす炉(ろ)を設け、花や掛物を飾る床の間、和室の反対側にはお茶の準備をする水屋として使えるシンクも設け、伝統的な茶室の要素を現代風にアレンジしました」

落ち着いた雰囲気の和室。壁紙には伝統工芸品である「土佐和紙」を使用している。「茶室以外にも客間として使える、応用の利く空間です」(写真撮影/内海明啓)

落ち着いた雰囲気の和室。壁紙には伝統工芸品である「土佐和紙」を使用している。「茶室以外にも客間として使える、応用の利く空間です」(写真撮影/内海明啓)

こちらは茶室の特徴のひとつ、お客様の出入り口となる「躙口(にじりぐち)」。レンくんの出入り口ではありませんからね(笑)(写真撮影/内海明啓)

こちらは茶室の特徴のひとつ、お客様の出入り口となる「躙口(にじりぐち)」。レンくんの出入り口ではありませんからね(笑)(写真撮影/内海明啓)

「屋根の上に寝転びたい」がきっかけでできた屋上テラス

茶室の障子を開けると、傾斜のある芝生が広がり、屋上ウッドデッキテラスへと続きます。住宅密集地とは思えない開放感は、贅沢そのもの。子どもたちと一緒に花や野菜を育てたり、日向ぼっこをしたり、自然を楽しめる空間になっています。

「きっかけは、屋根の上に寝転がりたい、という妻の希望でした。さすがに屋根は熱いだろうと思い傾斜の高低差に合わせて2種類の芝生を植えることにしました。このテラスから見渡せる桜の景色は、最高です。この土地の決め手となった桜並木の景観を独り占めしたような気分になれます(笑)」

「屋上は保水力が弱いため、ちょっと暑い日になると芝生が全滅してしまうんです。一度ダメにしてしまったので、それ以来1日2回の自動散水をしています」。スクスク育った芝生の上でゴロンとする木暮さん(写真撮影/内海明啓)

「屋上は保水力が弱いため、ちょっと暑い日になると芝生が全滅してしまうんです。一度ダメにしてしまったので、それ以来1日2回の自動散水をしています」。スクスク育った芝生の上でゴロンとする木暮さん(写真撮影/内海明啓)

周りに高い建物がないため、テラスからの眺めは格別。外から見ると特徴的な四角い建物ですが、屋上は緑豊かな環境が広がっていました(写真撮影/内海明啓)

周りに高い建物がないため、テラスからの眺めは格別。外から見ると特徴的な四角い建物ですが、屋上は緑豊かな環境が広がっていました(写真撮影/内海明啓)

限られた面積、限られた予算のなかでも、楽しむ心を忘れない……家族それぞれの好きなものを全部つめ込んだお宅は、おもちゃ箱を開けたようなワクワク感にあふれています。いつもそこに子どもたちの笑顔があって、にぎやかな声が聞こえる暮らしは、木暮さん夫婦のパワーの源かもしれません。「もしかして人間が入っているのでは!?」と思えるくらい、とてもフレンドリーに接してくれたレンくんの姿は、仲良し家族の象徴そのもののような気がしました。

●取材協力
・一級建築士事務所 木暮建築設計室

BEAMS流インテリア[5] ないものは創る!賃貸1Kの部屋を自分らしく住みこなすDIY女子

原宿の勤務先まで乗り換えなしで通勤できる賃貸に住むBEAMS BOYの島田華衣(しまだ・けい)さん。25平米の1Kという限られた空間ながら「欲しいものが手に入らなければ自分で創る」というDIY精神を発揮して、仕事柄多い洋服や靴、スケボーなど趣味のものなどもしっかり収納。賃貸でもOKなDIYやオリジナルな工夫あふれる部屋を紹介しよう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。15軒内見して選んだのは人気沿線で便利な立地の和風レトロな25平米の1K

島田さんのお仕事はBEAMS BOYのVMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)として店舗の陳列や空間づくりをすること。勤務先が町田から原宿になったのをきっかけに、通勤の利便性を考えて今の部屋に引越したというので、まずは部屋選びのこだわりポイントを聞いてみた。

「以前住んでいたのは横浜の5.3万円の部屋だったので、都内とはいえせめて家賃は6万円台に抑えたい。沿線は以前住んでいたので馴染みもあり、しかも通勤が一本ですむ東急東横線が希望でした。女性の一人暮らしなので防犯上2階以上でベランダ付き、料理もするのでワンルームでなくキッチンが分かれた間取り、収納もなるべく多く、と欲張りました」と島田さん。

人気沿線での部屋探しだったこともあり、内見した部屋は不動産会社3社で合計15軒。最終的に島田さんが選んだのは、昔ながらのレトロな玄関ドアに惹かれたという築36年(当時)のこの物件だった。新しい物件も見たけれど、どれも似ていて個性がなくてつまらないと感じたという。

家賃はギリギリ6万円台に収まり、東急東横線学芸大学から徒歩7分で2階、ベランダ付き、と希望通り。室内も押入れや廻り縁(まわりぶち ※天井と壁の境目に取り付ける縁のような部材のこと)など昔ながらの和室の面影を残しながら、床はフローリングになっていたのも決め手のポイントだった。「床に座る和風の暮らしにしたかったので和室でもよかったのですが、畳は重い物を置くと跡が付いて修繕が大変そう」と退去後のことまで考えるあたり、さすが上京して10年、引越しも3回目のベテランだ。

島田さんが一目で気に入ったという、典型的昭和レトロな玄関ドアとタイルの浴室がある1K(写真撮影/飯田照明)

島田さんが一目で気に入ったという、典型的昭和レトロな玄関ドアとタイルの浴室がある1K(写真撮影/飯田照明)

昭和レトロな間取りを活かし、DIYと見せる収納で空間活用

それでは昭和レトロな1Kを、お仕事洋服や靴、趣味も多い島田さんがどのように住みこなしているのか具体的にご紹介していこう。まずは玄関を入ってすぐの靴の収納棚はDIYで作成したもの。造り付けの靴箱はあったが全く収納量が足りず、元々持っていた棚を置くと玄関をふさいで通りにくくなってしまう。そこで靴が置ける最小限の奥行きでDIYでオリジナルの棚をつくり、靴の収納と玄関への出入りのしやすさ、両方を手に入れることに成功。7~8年続けている趣味のスケートボードも、よく使うものは玄関先に置いている。

左手の造り付けの靴箱には12足しかはいらないため、通路の邪魔にならない奥行きの浅いオリジナルの靴用の棚をDIYして40足以上をたっぷり収納(写真撮影/飯田照明)

左手の造り付けの靴箱には12足しかはいらないため、通路の邪魔にならない奥行きの浅いオリジナルの靴用の棚をDIYして40足以上をたっぷり収納(写真撮影/飯田照明)

棚の奥行きを靴のサイズより小さくすることで、収納量をキープしつつ通路の邪魔にならないよう動線にも配慮。以前使っていた収納棚の枠を利用して、棚板を新しくしたDIYだ(写真撮影/飯田照明)

棚の奥行きを靴のサイズより小さくすることで、収納量をキープしつつ通路の邪魔にならないよう動線にも配慮。以前使っていた収納棚の枠を利用して、棚板を新しくしたDIYだ(写真撮影/飯田照明)

島田さんのお部屋は典型的な1Kの間取り。元々収納は玄関入って左手の靴箱と押入れひとつのみ。これをDIYで収納たっぷりの部屋に。玄関入ってすぐのDIYの靴棚も通常の奥行きの棚では通路がふさがれてしまう(提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

島田さんのお部屋は典型的な1Kの間取り。元々収納は玄関入って左手の靴箱と押入れひとつのみ。これをDIYで収納たっぷりの部屋に。玄関入ってすぐのDIYの靴棚も通常の奥行きの棚では通路がふさがれてしまう(提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

多趣味なうえに、収集癖もあるという島田さん。現在の趣味はスケートボード、エレキギター、コーヒー、好きなアーティストの作品集コレクションなど幅広い。ちなみに23歳から始めたというスケートボードは歴代のものも合わせて7枚もあるという。「一度しまい込むとそのままになってしまう」という理由から、基本的に全て見せて収納する主義。「いつも見せるようにしていれば忘れないし、湿気もこもりませんよ」。

靴棚と並んで設置されたキッチン用品の棚と化粧品やバス用品を収納したワゴン。こちらも使いやすさ重視の見せる収納だ(写真撮影/飯田照明)

靴棚と並んで設置されたキッチン用品の棚と化粧品やバス用品を収納したワゴン。こちらも使いやすさ重視の見せる収納だ(写真撮影/飯田照明)

キッチン用品の棚には趣味のコーヒー豆やコーヒーミル。パスタなどの食材も見せて収納されている(写真撮影/飯田照明)

キッチン用品の棚には趣味のコーヒー豆やコーヒーミル。パスタなどの食材も見せて収納されている(写真撮影/飯田照明)

ギャラリーのような、このスペースはなんとトイレ! 歴代のお気に入りのスケボーが飾られ、収納を超えてオブジェ的存在に(写真撮影/飯田照明)

ギャラリーのような、このスペースはなんとトイレ! 歴代のお気に入りのスケボーが飾られ、収納を超えてオブジェ的存在に(写真撮影/飯田照明)

収納スペースの面でも、洋風のクローゼットより和風の押入れのほうが奥行きもあり物がたっぷり入る。この部屋を選んだ理由のひとつである押入れならではの奥行きをフルに活用して、衣類は全てこちらに引き出し式に収納している。ただしプラスティックケースなどふたつきでしまい込むと忘れるし、湿気がこもって服が傷んだ経験もあるので基本オープンに。押入れの戸も普段は開け放して使っている。

押入れスペースは一間分。上部は左右どちらもハンガーポールに上着を吊るし、下部は奥行きを利用した引き出す収納に。左下部にはパンツ類やトレーナーなどかさばる物を色別に、右はTシャツ類など軽い物を中心に(写真撮影/飯田照明)

押入れスペースは一間分。上部は左右どちらもハンガーポールに上着を吊るし、下部は奥行きを利用した引き出す収納に。左下部にはパンツ類やトレーナーなどかさばる物を色別に、右はTシャツ類など軽い物を中心に(写真撮影/飯田照明)

重量感がある衣類もたっぷり収納して楽々引き出せるワゴンは、押入れの奥行きぴったりのものをインターネットで探して購入(写真撮影/飯田照明)

重量感がある衣類もたっぷり収納して楽々引き出せるワゴンは、押入れの奥行きぴったりのものをインターネットで探して購入(写真撮影/飯田照明)

引越しても家具は買わない! 落ち着く和と好きなアメカジをミックスしてDIYサバイバル生活

島田さんが部屋で過ごす際は、インテリアのポイントになっている自作のテーブルを前に、床に座るかベッドをソファ代わりにするか。実はこの自作のテーブル、冬にはこたつにもなるという優れものでDIYに目覚めるきっかけとなった作品。

元々実家にもこたつがあって、椅子にテーブルというより床に座る生活がしたく、冬にはこたつが必須だった。ところがおしゃれなデザインのこたつはなく、友人からもらったこたつも手放せないし、狭い部屋なのでいくつもテーブルは置けない。イメージ通りのものを探してもなければ、おしゃれな天板をつくって通年使用しようと思ったのだという。

島田さんのインテリアのポイントとなるこたつ兼用のテーブルと壁収納はともにDIY作品。テーブルは大好きなコーヒーが似合うテーブルをと映画「コーヒー&シガレッツ」に出てくるチェッカーフラッグのテーブルのイメージからのオリジナルデザイン。壁収納はまだまだ進化中(写真撮影/飯田照明)

島田さんのインテリアのポイントとなるこたつ兼用のテーブルと壁収納はともにDIY作品。テーブルは大好きなコーヒーが似合うテーブルをと映画「コーヒー&シガレッツ」に出てくるチェッカーフラッグのテーブルのイメージからのオリジナルデザイン。壁収納はまだまだ進化中(写真撮影/飯田照明)

4年前の初DIY作品だというこたつテーブルの天板。チェッカーフラッグを少なめに市松模様風にして、周辺を木材で囲んで和テイストをミックスしたオリジナルデザインだ。冬にはこたつになるとは思えない、インテリアの中心。しかも制作日数は半日を3回程度、材料費約6000円だというから驚きだ(写真撮影/飯田照明)

4年前の初DIY作品だというこたつテーブルの天板。チェッカーフラッグを少なめに市松模様風にして、周辺を木材で囲んで和テイストをミックスしたオリジナルデザインだ。冬にはこたつになるとは思えない、インテリアの中心。しかも制作日数は半日を3回程度、材料費約6000円だというから驚きだ(写真撮影/飯田照明)

4年前にテーブルをつくってから、すっかりDIYに夢中に。「自分の部屋はスペースも限られているため、友人に頼まれたものでDIY修行しました(笑)」。マガジンラック、テーブル、靴箱、額など作品も多彩で「インスタグラムで #島田工務店 、として作品をアップしています」というから本格的だ。

今回の引越しの際も、新たな家具は購入せず、ないものはDIY でつくるという「DIYサバイバル生活」だという。壁の収納棚は見事な見せる収納で、収納量の確保とインテリアを兼ねている。

見せる収納のポイントになる自作の収納棚はテレビ台も兼ねた優れもの。材料費5000~6000円、制作日数は色塗りから始めて、トータル2日間だという(写真撮影/飯田照明)

見せる収納のポイントになる自作の収納棚はテレビ台も兼ねた優れもの。材料費5000~6000円、制作日数は色塗りから始めて、トータル2日間だという(写真撮影/飯田照明)

壁収納は、賃貸なので傷をつけず原状復帰できるように気を付けてDIY。支柱となる角材5本を高さ調整できる突っ張り金具のパーツで固定し、角材に一枚の板を箱状にした収納棚を付けてつくる(写真撮影/飯田照明)

壁収納は、賃貸なので傷をつけず原状復帰できるように気を付けてDIY。支柱となる角材5本を高さ調整できる突っ張り金具のパーツで固定し、角材に一枚の板を箱状にした収納棚を付けてつくる(写真撮影/飯田照明)

カーテンはIKEAのクリップで切った布を挟んで吊るしただけのシンプルなもの、ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに馴染むよう着色して台にして、マットレスを乗せただけの簡単なDIY。確かに全てDIYで新しく買ったものはないにもかかわらず、この部屋にぴったりで島田さんの個性あふれる部屋に仕上がっている。

ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに合うよう着色した土台の上にマットレスを置いただけのシンプルなもの。「通気性もあり、低めでちょうど使いやすいです」(写真撮影/飯田照明)

ベッドは工場などで使うパレットをインテリアに合うよう着色した土台の上にマットレスを置いただけのシンプルなもの。「通気性もあり、低めでちょうど使いやすいです」(写真撮影/飯田照明)

自分の部屋のインテリアだけでなく、いまでは友人からのDIY依頼物も多くて、製作待ちリストがあるという島田さん。この部屋もこれから洗濯機上にランドリースペースをつくるなど、収納を増やしていく予定とのこと。お気に入りのインテリアショップに行っても「高い家具はなかなか買えないので、インスピレーションだけもらってDIYのパーツを買って帰ります」という徹底したDIY女子。賃貸1Kをこれだけ自分らしく住みこなせるのは、DIYの腕とセンスと工夫あってこそ、ですね。

●取材協力
・BEAMS

BEAMS流インテリア[4] 新しいのに懐かしい、ビンテージ好きが選んだ経年変化を楽しむ古民家暮らし

渋谷のBEAMS MEN SHIBUYAでショップマネージャーとして働く近藤洋司(こんどう・ひろし)さん。ファッションだけでなくインテリアもビンテージ好きで、住まいは築50年の平屋を全面リノベーションしたという徹底ぶり。鎌倉の高台に建つ、自然と古き良きものに囲まれた、ちょっと懐かしい感じがする古民家のお宅にお邪魔した。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。経年変化で味わいが増し、価値が落ちないのがビンテージの魅力

鎌倉の築50年の平屋を一年がかりで探し、さらに約半年かけてリノベーションしたという近藤さん。ガーデニング関連の仕事をする妻と2人で住む新居だ。「神奈川出身なので、家を持つならなじみが深く自然豊かなエリアがいいと思い、鎌倉、逗子、葉山で古民家を探し始めました」

近藤さんは、住まいだけでなくファッションもインテリアのコレクションなども一貫して、大のビンテージ好き。ビンテージとの出合いは、中学生のころ。当時サッカーの中田選手や前園選手がビンテージ物の服を着こなしているのに影響を受け、古着に凝り始めたのだという。今でも古着好きで、仕事にもつながる筋金入りだ。

寝室のクローゼットコーナー3列のうち右側2列が近藤さん分。洋服の半分は新品、半分は40年代から70年代ものだという古着好き(写真撮影/片山貴博)

寝室のクローゼットコーナー3列のうち右側2列が近藤さん分。洋服の半分は新品、半分は40年代から70年代ものだという古着好き(写真撮影/片山貴博)

古着の次は、働き始めてから食器に凝り始めた。「いい食器があるとモテるかな、と思って(笑)」とビンテージの北欧食器、ARABIA(アラビア)の絵皿を約8000円で単品購入。そうするとシリーズでそろえたくなって、海外駐在していた姉に頼んだり、インターネットなどさまざまなルートで集めたという。

キッチンのオープンな収納棚には、シリーズごとにRORSTRAND(ロールストランド)やARABIAなどのビンテージ北欧食器がずらり(写真撮影/片山貴博)

キッチンのオープンな収納棚には、シリーズごとにRORSTRAND(ロールストランド)やARABIAなどのビンテージ北欧食器がずらり(写真撮影/片山貴博)

さらにビンテージのコレクションは家具、雑貨、インテリア小物などと、広がっていく。「新しい物より、古い物の方が好きです。ストーリーがあるし、何より本物だから」という近藤さん。「本当にいい物で新しい物は高くて手が出なかったり、数が限られていて手に入らなかったり。さらに新品は中古になった瞬間に価値が下がるけれど、ビンテージ物は価値が下がりにくいのも魅力です」。

古い日本家屋にインダストリアルなテイストを組み合わせた独自空間

新居を探す際、住まいも価値が下がらないビンテージをと考えた。ところが、中古住宅を見学しても、築20年や30年ではただ古いだけで、味わいがあるちょうど良い古さの家はなかった。物件探しを始めて約一年、ようやく鎌倉の高台に建つ築50年の平屋に出合う。古いうえに小部屋が多くて室内は暗く、空き家になって長いため、庭にはススキや雑草が生い茂っていた。それでも「おばあちゃんが住んでいそうな懐かしい感じ。縁側があって、木の建具やレトロなガラスなど、求めていたイメージにピッタリでした」。

早速、雑誌などで作品を見て設計依頼したいと思っていた宮田一彦アトリエさんと現地へ。海が近く湿気が多い鎌倉だが、高台なので古くても基礎や土台は傷んでいないとプロからのお墨付きをもらい、購入して暗く使いにくい間取りは全面的にリノベーションをすることにした。

昔ながらのレトロな木製建具が残る平屋に一目惚れして、これを活かしてリノベーションすることに。高台にあるので遠くの山並みも見えて眺めも良い(写真撮影/片山貴博)

昔ながらのレトロな木製建具が残る平屋に一目惚れして、これを活かしてリノベーションすることに。高台にあるので遠くの山並みも見えて眺めも良い(写真撮影/片山貴博)

リノベーションにあたって近藤さんからオーダーしたのは3つ。アイランドキッチンにすること、フローリングを山形杉の柿渋塗装(柿渋からつくった液による古くからある日本の塗装方法。時間経過によって味わい深い色へと変化していくのが魅力)にすること、物が多いので最大限の収納スペースをつくること。「作品例を見てテイストは気に入っていたので、基本的に間取りはお任せしました」。

近藤さんの住まいのビフォーアフター。4畳半を中心に細かく仕切られ暗かった約60平米を、仕切りを全て取り払い、LDK・寝室・水まわりのシンプルでオープンな空間に(近藤さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

近藤さんの住まいのビフォーアフター。4畳半を中心に細かく仕切られ暗かった約60平米を、仕切りを全て取り払い、LDK・寝室・水まわりのシンプルでオープンな空間に(近藤さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

そして出来上がったのは、大きなLDKと寝室と水まわりに分かれたオープンな空間。天井は全て構造材をむき出しにして、ギリギリまで天井の高さを利用してロフトをつくり、物を置けるようにして収納の悩みを解決した大胆なリノベーションだ。

LDKの中央にはステンレスのアイランドキッチン。照明はむき出しの蛍光灯と2つの50年代フランスの工業用照明がインテリアのポイントに(写真撮影/片山貴博)

LDKの中央にはステンレスのアイランドキッチン。照明はむき出しの蛍光灯と2つの50年代フランスの工業用照明がインテリアのポイントに(写真撮影/片山貴博)

LDKと寝室を仕切るのは大正末期の「蔵戸」といわれる重厚な引き戸。アンティーク家具ショップをはしごしてイメージに合うものを近藤さん自身が探した(写真撮影/片山貴博)

LDKと寝室を仕切るのは大正末期の「蔵戸」といわれる重厚な引き戸。アンティーク家具ショップをはしごしてイメージに合うものを近藤さん自身が探した(写真撮影/片山貴博)

寝室の奥には広くオープンなクローゼットスペース。「クローゼットの中は隠したいものではないし、使い勝手の面でも湿気対策面でも扉を付ける必要を感じません」(写真撮影/片山貴博)

寝室の奥には広くオープンなクローゼットスペース。「クローゼットの中は隠したいものではないし、使い勝手の面でも湿気対策面でも扉を付ける必要を感じません」(写真撮影/片山貴博)

収納は縦空間を利用、古い日本家屋にインダストリアルでレトロなインテリア

近藤さんの収納のポイントは、何といっても縦空間の活用。平屋の天井高をフル活用して、ロフトを収納スペースにしていることだ。「季節外の衣類や趣味のキャンプ用品など、かなりの量を収納できて助かっています」。

基本的に全て見せる収納。物はかなり多いほうだというが、これをきれいに見せる秘訣は「きれいに畳むことと、同じものを集めてメリハリをつけること」。なるほど、物をたくさん置くコーナーと、何も置かず、置く場合も間隔を空けてスッキリ見せるコーナーと、メリハリをつけているのだという。

玄関の上など天井裏は全て収納スペースに。かさばるシュラフは天井から吊るして見せて収納。まるでアウトドアショップの展示のようなこのコーナーには物を雑然と、間隔も狭くたくさん置いている(写真撮影/片山貴博)

玄関の上など天井裏は全て収納スペースに。かさばるシュラフは天井から吊るして見せて収納。まるでアウトドアショップの展示のようなこのコーナーには物を雑然と、間隔も狭くたくさん置いている(写真撮影/片山貴博)

洋服は色別・柄別にまとめてきれいに畳むのが見せる収納のコツ。床から天井まで、ハンガーポールの上部も靴などがびっしり(写真撮影/片山貴博)

洋服は色別・柄別にまとめてきれいに畳むのが見せる収納のコツ。床から天井まで、ハンガーポールの上部も靴などがびっしり(写真撮影/片山貴博)

季節外の衣類はアーミー風のトランクにまとめて収納。そのまま寝室のインテリアにもなっている(写真撮影/片山貴博)

季節外の衣類はアーミー風のトランクにまとめて収納。そのまま寝室のインテリアにもなっている(写真撮影/片山貴博)

ビンテージの北欧食器コレクションをディスプレイするため、天井から吊って食器棚をあらかじめ造り付けた。天井までの空いたスペースも季節外の衣類などの収納に(写真撮影/片山貴博)

ビンテージの北欧食器コレクションをディスプレイするため、天井から吊って食器棚をあらかじめ造り付けた。天井までの空いたスペースも季節外の衣類などの収納に(写真撮影/片山貴博)

インテリアも「好きな物を集めただけ」というが、全て徹底したレトロ。日本の古い物はもちろん、北欧、フランス、アフリカ、など国はバラバラだが、共通するのは古き良き懐かしいテイスト。「古い日本家屋にインダストリアルなテイストを組み合わせた」という狙いどおりの仕上がりになっている。

昭和の建具、50年代のフランスの照明、フィンランドの50年代のダイニングテーブルと椅子、これらが見事に調和している(写真撮影/片山貴博)

昭和の建具、50年代のフランスの照明、フィンランドの50年代のダイニングテーブルと椅子、これらが見事に調和している(写真撮影/片山貴博)

レトロな模様のガラス入りの建具や障子は、この家の雰囲気に合わせて近藤さんがアンティークショップ巡りをしてサイズが合うものを探し出した(写真撮影/片山貴博)

レトロな模様のガラス入りの建具や障子は、この家の雰囲気に合わせて近藤さんがアンティークショップ巡りをしてサイズが合うものを探し出した(写真撮影/片山貴博)

少し無理をしてでも本物を買う、という近藤さん。「模倣されたデザインの物が次々に生まれても、その原点である本物を知っていることは仕事の現場でも役に立ちます」。新品は買った時が一番新しく徐々に古くなっていくが、ビンテージ物は経年変化が味になって価値が落ちにくい。新品では手に入らない物でも、時間が経つと手に入りやすいというメリットもあり、自分の元に来るまでのストーリーごと楽しんでいるという。徹底したアンティーク好きのお洒落な古民家、初めて訪れたのに懐かしい気持ちになり和みました。

●取材協力
・BEAMS

「中古マンション購入+リフォーム」で将来貸しやすく、快適に暮らせる部屋に【理想をかなえたマイホーム実例#03】

マイホーム購入を通じて、理想をかなえた方々のお宅に伺い、レポートする連載企画。
今回は「忙しい毎日のなかでも子どもとの時間を大切にしたかった」「将来的に売ったり貸したりできる資産性も重視した」というMさんの住宅購入ストーリーを伺いました! 多忙な毎日を過ごされているMさんはどうやって理想の暮らしを実現されたのでしょうか!?【連載】理想をかなえた!マイホーム実例
「いつかは家を買って、○○したい」――そう考えて、住宅購入に夢を膨らませている方も多いのではないでしょうか。実際に「こんな暮らしがしたかった」という理想の暮らしを実現したご家庭にお邪魔し、マイホームを購入するまで、してからのお話をあれこれ伺います。夫の転勤で札幌へ……! いつかは東京に戻る前提で資産性を重視

テレビ電話ごしの取材となった、札幌在住のMさん。取材のために事前に何度もメッセンジャーでやり取りをしながらも、本当に日々お忙しそうなご様子が伝わってきます。もともとは東京に住んでいたというMさんファミリーは、夫と小学3年生の男の子との3人暮らし。まずは札幌に移住することになった経緯から伺います。

――はじめまして! 本日は画面ごしですが、よろしくお願いします!
Mさんはもともと東京にお住まいだったと聞きましたが……?

「はい。私も夫も営業系の仕事なのですが、5年ほど前に夫が札幌に転勤することになり、家族全員で移住しました。子どもはまだそのころ幼稚園でしたし、私も夫も夜遅くまで仕事をしているので、単身赴任で物理的な距離が離れると、家族で過ごす時間が確保しづらくなってしまうと思ったんです。そのため、私は前の仕事を辞め、札幌で同じ業種の会社に転職をしました」(Mさん、以下同)

Mさんが住むのは有名な時計台やテレビ塔もある札幌市中央区。写真左は札幌駅、右は札幌の街並み(写真/PIXTA)

Mさんが住むのは有名な時計台やテレビ塔もある札幌市中央区。写真左は札幌駅、右は札幌の街並み(写真/PIXTA)

――そうすると、今後は札幌にお住まいになる予定なのでしょうか?

「いえ、転勤の多い職種なので、また東京に戻るか、他の地域に異動になる可能性も高くて……。実際に夫も札幌に転勤後、さらに帯広に転勤になり、結局、いまは単身赴任という形になりました。札幌に来てから2年間は夫の会社の住宅補助を受けて近くの賃貸マンションに住んでいたんですが、このエリアは賃貸相場もそれなりに高く、補助から足が出る状況で。夫といい物件があれば買った方がいいかも、という話を常々していたんです。ただ、もし買うなら、今後また転居することになったときにも売ったり貸したりできるよう、資産性の高い物件を選ぼうと」

――資産性の高い物件というと、具体的には?

「いま住んでいる地域は文教エリアで人気が高く、新築マンションがどんどん建っています。私たちのような転勤族も多いので、駅からの利便性が高く、大手デベロッパーの建てた物件であれば、多少築年数があっても買いたい人はたくさんいるだろうと感じていました。新築よりも中古マンションの方が割安に手に入りますし、きちんと管理され、ブランド力のあるマンションは、リフォームをすれば快適に住めて売りやすいはずだと。それで私たちが買おうかなと探していたときに、ちょうど駅から徒歩2分のこの物件が出ているのを知ったんです。近所の人であれば、マンション名と外観を見れば『ああ、ここか』とすぐ分かるような物件ですよ」

住まいとしての快適性と、資産価値UPを目的にリフォーム

――立地以外に「資産性」という面で重視されたポイントはありますか?

「この物件はもともと3LDKで、リビングの横に和室があったのですが、内覧したときにリビングとつなげれば広くできるな、と思いました。もともと所有されていた方も結構きれいにお住まいになっていたんですが、築20年くらいだったので、自分たちが快適に住むためにも、また今後、売却する可能性を考えてもリフォームが必要だなと」

【リフォーム前の間取図】もともとはリビングの横に和室がある形の3LDKの間取だった(Mさんに提供いただいた間取図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成) 【リフォーム後の間取図】リビング横の和室をつなげる形にして広いリビング・ダイニングの2LDKに変更(Mさんに提供いただいた間取図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

【リフォーム前の間取図】もともとはリビングの横に和室がある形の3LDKの間取だった(Mさんに提供いただいた間取図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成)
【リフォーム後の間取図】リビング横の和室をつなげる形にして広いリビング・ダイニングの2LDKに変更(Mさんに提供いただいた間取図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

――リフォームされたんですね! 他にも変更されたところはあるんでしょうか?

「間取りの変更という意味では、押入れだったところをウォークインクローゼットにしたり、お風呂が狭かったのを広くしたり……というくらいですが、設備や仕様はほぼ全て手を入れました。床とクロスを張り替え、キッチンやバスなどの設備も新しいものにしました。札幌市は窓を二重サッシに変えると補助金がでる制度(※)があるので、窓も全て取り替えたんですよ(笑)」

※札幌市住宅エコリフォーム補助制度:許可を受けた事業者が施工する省エネ改修やバリアフリー改修を行った場合に、改修費用の一部を補助する制度

札幌の冬は寒いが、補助金が出ることが分かり、二重サッシも全て新しいものに取り替えた(写真提供/Mさん)

札幌の冬は寒いが、補助金が出ることが分かり、二重サッシも全て新しいものに取り替えた(写真提供/Mさん)

和室についていた押入れは、隣りにあった物入れと一体化してウォークインクローゼットに(写真提供/Mさん)

和室についていた押入れは、隣りにあった物入れと一体化してウォークインクローゼットに(写真提供/Mさん)

――それだけ全体的にリフォームをしようと思うと、リフォーム会社選びも慎重になったのではないですか?

「それが実は、リフォーム会社はこのマンションを建てた大手不動産グループの会社にそのままお願いしました。検討に時間をかけたのはどこにお願いするかではなく、仕様をどのレベルに維持するか、です。いずれは引越すことが前提で一生住む家ではないので、コストは抑えたいんです。でも、あまりグレードの低い仕様・設備だと自分たちが住むのに日々、ストレスになりますし、いざ売ろうとしたときにも低く評価されては困ります。『中の上』くらいの仕様を意識して、すべてのものを選ぶようにしました。『本当はこっちがいいけど、ここまでお金かける必要ないな……」とそれなりの質は確保しつつ、コストも重視するという。見積もりを出してもらって、やりすぎかなと感じる部分は削って、を繰り返しました」

バスやキッチンなどの設備も新しいものに交換。「中の上」のグレードを意識しながら、使い勝手がよく、万人受けするシンプルな仕様に(写真提供/Mさん)

バスやキッチンなどの設備も新しいものに交換。「中の上」のグレードを意識しながら、使い勝手がよく、万人受けするシンプルな仕様に(写真提供/Mさん)

床やクロス、建具なども変更。空間を広く見せるために白を基調としたものをセレクト(写真提供/Mさん)

床やクロス、建具なども変更。空間を広く見せるために白を基調としたものをセレクト(写真提供/Mさん)

忙しく働くママが小学生の息子と時間・空間を共有するための工夫

――毎日本当にお忙しそうなので、リフォームの検討も大変でしたよね。普段はどのような形でお仕事されているんでしょうか?

「平日は朝7時半過ぎに家を出て、帰ってくるのはほとんど21時から22時くらいになります。早ければ週に1回程度、19時半くらいに帰れるときがあるかどうか……。なので、息子の生活は普段、ベビーシッターさんにお願いしています」

――わあ……本当にご多忙ですね。そうすると、帰宅されたときにはお子さんはもう寝ている感じですか?

「寝ちゃってますね……(涙)。その分、早く帰れたときや休日など、家にいられる時間は少しでも一緒に過ごしたいと考えまして。リフォームによって広くなったリビングの真ん中には、子どものデスクを置いています。子ども部屋もありますが、基本リビング学習です(笑)。早く帰れたときに、息子が宿題をしている姿が食卓からも見えます。お互いが何をしているかがパッと視界に入るんです」

リビングの中央には子どもの学習デスクが。Mさんがダイニングやキッチンにいるときも、一緒の時間・空間を共有できる(写真提供/Mさん)

リビングの中央には子どもの学習デスクが。Mさんがダイニングやキッチンにいるときも、一緒の時間・空間を共有できる(写真提供/Mさん)

――たしかに、息子さんのデスクが主役のリビングですね!

「でも息子は実際にはデスクだけじゃなくて、キッチンのカウンターで勉強することも多いんです。カフェっぽいカウンターにしたところは私のこだわりなんですが、ここで一緒にご飯を食べたり、私が料理しているときに息子が勉強したりしています。あと、夜の時間は私が一杯飲むためのバーカウンターに(笑)」

子どもが寝た後は、カウンターでゆっくりお酒をたしなみながら一息をつく時間も確保(写真提供/Mさん)

子どもが寝た後は、カウンターでゆっくりお酒をたしなみながら一息をつく時間も確保(写真提供/Mさん)

豊かな暮らしを実現するために、購入予算とローンの組み方も考慮

――素敵ですね。資産性も重視されたということなので、きっと購入予算についてもいろいろ考えられたんでしょう?

「購入予算については、それまでの家賃の負担額と同じくらいになるように予算を決めたうえで物件を検討しました。もともと賃貸で住んでいたときに15万円くらいの家賃を負担していたので、共益費や修繕積立金を入れて月々の支払額が同じくらいになるように計算して」

――人気があるエリアとのこと、地方都市の中古マンションとはいえ、高かったのではないですか?

「マンションを約2000万円で買って、リフォームに500万円ほどかけた形です。現金で買えない額ではなかったのですが、銀行や不動産会社の方が『現金で買えるとしても、ある程度は手元資金として置いておいた方がいい』とアドバイスをしてくれてローンを組みました。今は金利も低いですしね」

――引越し前提、売却も視野に入れているとのことなので、また次の新しい住まいを購入される可能性もありそうですもんね

「はい、今後のことも考えて、ローンは20年で組んでいます。無理のない範囲で、時々の状況にあわせた住まい選びができればと!」

そう魅力的にほほ笑むMさんの表情からは、バリバリとお仕事をしながら子どもとの時間も大切にして、充実した生活を送っていることが垣間見えます。一方、人気の高いエリアでブランド力のある中古マンションを買ってリフォームをすること、低金利の今、あえて手元資金を残しながら住宅ローンを組む選択をされたことも、今後の将来を見据えた賢明なプランですよね。
Mさんファミリーの選択からは、理想の暮らしを実現しながら、先を見据えた堅実な資金計画も両立する、そんな賢い住まい選びを学びました。

BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで

ご夫婦ともにスーパーバイザーの村口良(むらぐち・りょう)さんと恭子(きょうこ)さん。40歳前後のお2人、そろそろ脱賃貸をとマイホームに選んだのは、立地も建物もどちらも妥協しない注文住宅。古都・鎌倉駅に近い土地を選び、建物もデザインや素材ひとつひとつにこだわり、しかも予算内に収めたアイデアいっぱいの新居を紹介しよう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。ファッションだけでなくライフスタイルもおしゃれに。予算内で土地も建物も妥協なしバルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

バルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

ともにファッション好きで、BEAMSは憧れの職場だったという村口夫妻。若いころは洋服ばかりたくさん買って、後は飲み代に消えていたというが、会社の先輩の家に遊びに行き、そのライフスタイルに刺激を受け、考え方が変わったという。「ファッションだけでなくライフスタイルや生き方そのものをお洒落にしようと、目で盗んでインテリアセンスを磨きました」と村口さん。

「予算に限りがあるものの、土地・建物どちらも妥協したくなかった」というお2人がマイホームに選んだのは、土地探しから始める注文住宅。立地は通勤に便利な都内か、自然豊かな古都・鎌倉。運よく探し始めてすぐに、鎌倉駅から徒歩圏の、自然にも文化にも恵まれたイメージ通りの土地に巡り合い購入した。

知人でセンスも信頼できるデザイナーに依頼して、家のデザインイメージや間取りも決まった。そこまではとんとん拍子だったが、デザイナーは関西在住。地元でイメージ通りの家を建ててくれる工務店探しをすることになり、これが難航した。別プランを提案されたり、大幅に予算オーバーになったりを繰り返し、施工会社が決まるまでに20社近くとやり取りをする結果となった。

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村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

古い街並みになじむモダンな家に。イメージに合う建具を自ら探し出し、特注も

新居のコンセプトは古都・鎌倉のモダンな家。古い街並みの中に、コンクリートやモルタルに真鍮(しんちゅう)や鉄などの金属を組み合わせた、モダンなイメージにこだわった。階段やバルコニーの手すりや寝室ドアはオーダーの鉄製。鉄の素材にこだわっていたものの、工務店に提案されたものがコスト的に合わず、自分で新潟県燕三条の会社を探し出して特注したという。

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

キッチンもイメージに合う既製品が高かったので、コンロなどのパーツはデザイン性の高い物を選び、モルタルとステンレスの組み合わせで造作して予算内に収めた。家づくりの過程ひとつひとつに手間をかけ、毎晩のようにインターネットで情報収集し、毎週末工務店と打ち合わせを繰り返したという努力の甲斐あって、イメージ通りの建物がなんと2000万円以内という予算内で出来上がった。

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

とはいえ、「少し無理してでも、妥協せずその時に最大限にいい物を選ぶべき」とアドバイスする村口さん。実はコストダウンのため玄関の照明に安い物を選んだものの、毎日見るたびに気になり、結局入居後早々に変更したという。「最初からいいほうを選んでいたら工事代もかからなかったのに(笑)」。

徹底的な「見せる収納」、絵になる秘訣は妥協しないモノ選びと統一感

村口家の収納の特徴は徹底した「見せる収納」。ウォークインクローゼットもキッチンの収納棚も全てオープンで、トイレットぺーパーのストックさえも見せて収納しているという。

「見せる収納の秘訣は、置きっぱなしになっていても絵になる、見せていい物を選ぶこと」という村口さん。「手鏡は北欧の木の置物のようなデザインのものに、ハンドクリームは国産でなくデザインが洒落た海外の缶入りに変えてリビングに置いています」と恭子さん。

細かなものが集まりがちなキッチンも全てオープン。整然として見えるのは、調理器具のメーカーがBALMUDAで統一されていたり、並んだ調味料ラベルを包装紙でくるんでいたり、細かい物は籠や箱や壺などの入れ物にまとめて入れるなどの工夫をしているから。使いやすく、きれいに見えるちょっとした工夫を積み重ねているのだ。

服も見せる収納。「畳むのは2人ともお手のもの。20年やっているプロですから(笑)」と恭子さん。「色や素材別にまとめるときれいに見えます」と村口さん。仕事柄服も増える一方だが、定期的に人にプレゼントしたり切ってふきんとして使ったりして総量をセーブするように心がけている。

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

引越しをきっかけに仕事中心だったライフスタイルが激変したという村口夫妻。庭づくりや周辺散策などやりたいことが沢たくさんあり、休日が待ち遠しいという。「仕事の張り合いにもなって、住まいって大事だなとしみじみ」と恭子さん。ベランダに照明をつけ、お気に入りの郵便受けを設置し、庭をモダンな金属製フェンスで囲み、ベランダに置く植物を選ぶ……まだまだこだわりの住まいは進化を続けています。

●取材協力
・BEAMS

「良い中古マンションの見分け方を教えてください」 住まいのホンネQ&A(7)

新築マンションの価格が高騰する昨今、中古マンションも住宅購入の選択肢に入れたいもの。少しでも条件のよい中古マンションを手に入れるためには――?
目利きのポイントを、さくら事務所会長の長嶋修氏に聞いてみました。
室内に入る前に、まずチェックすべきはあの場所

中古マンションを見学する際には、いきなり室内(専有部)には入らず、まずは外壁やエントランスまわり、廊下や階段などの「共用部」をじっと見つめてください。

まず外壁。昨今、マンションの外壁はタイル張りが主流ですが、ざっと見渡してみたときに、タイルがはがれおちているところ、もしくは浮いているようなところはありませんか? 

タイルがはがれたり浮いたりする原因は「経年劣化」「不良工事」「地震の影響」などさまざまですが、万一落下すればたちまち凶器となり危険です。その上、タイルはコンクリートを劣化から守る役割もありますので、そのままにしておくとコンクリートの躯体(くたい)、そのものが長持ちしません。

もしタイル落下、浮きなどの症状が見つかったら、次はマンション管理組合がその状況を把握しているか、またそれについてなんらかの対処を行う予定があるかを確認しましょう。これは、不動産仲介担当を通じてマンション住民で構成する管理組合に確認してもらってもいいですし、管理員さんがいらっしゃれば尋ねてみてもいいでしょう。

次に廊下や階段などの共用部。築年数の経過で少しずつ劣化していくのは建物の宿命ですが、一定の幅や深さがある「ひび割れ」や、一定量以上の白い粉状カルシウム成分が浮き出てくる「エフロレッセンス」(白華現象)、「雨漏りや水漏れ」など、コンクリート内部の鉄筋から茶色い錆び汁がしみだしている現象などを放置しておくと、着実に建物の寿命を縮めていくことになります。また、時間が経過するほど、その修繕コストは膨大に。このコストは住民で構成する管理組合の負担です。早く発見するに越したことはないのです。

ちなみに、今年4月からホームインスペクションの説明が義務化されましたが、この診断で分かるのはあくまで個別の室内、つまりは「専有部」についてですので注意が必要です。

外壁タイルが浮いているマンション(さくら事務所提供)

外壁タイルが浮いているマンション(さくら事務所提供)

廊下・階段などに大きなひび割れはないか(さくら事務所提供)

廊下・階段などに大きなひび割れはないか(さくら事務所提供)

清掃状態に透ける管理組合の運営姿勢

エントランスや集合ポスト、ゴミ置き場や駐車場・駐輪場などの清掃状態・整理整頓具合はどうでしょうか。こうしたところが雑然としているのは、管理員の仕事が行き届いていないからに他なりませんが、背後にはそういった状態を容認している管理組合の存在があるわけで、マンション管理についてその程度の関心しかないということです。

掲示板に数カ月も前の古い情報が貼られたまま、貼ったものが破れているなどの事象も組合運営の姿勢を推し量れます。

購入の検討に入る前には「総会や管理組合の議事録」「長期修繕計画」などの閲覧を求めましょう。こうした議事録には、そのマンションで繰り広げられているさまざまな課題が満載。例えばどの程度の管理費・修繕積立金滞納があり、それに対してどのような対応をしているか、駐車場や駐輪場、ごみ置き場、廊下、そして先述の外壁など共用部の使い方やコンディションに何か課題があるか、今後の修繕計画はどのようになっているかなど、マンションのさまざまな事情が記載されているはずです。

修繕積立金滞納のないマンションはむしろ少数派ですし、多くの人が住んでいる以上、共用部の使い方に課題が全くないマンションも少数です。要はこうした、マンションの宿命ともいえる各種の課題について、所有者で構成するマンション管理組合がどのような姿勢で、具体的にどんな取り組みをしているのか、それを知ることが大事なのです。

また「長期修繕計画」を見れば、今後の建物修繕予定が分かるのはもちろんのこと、今後の積立金負担の趨勢も分かります。多くのマンションでは、新築時に売主が策定した長期修繕計画をそのまま変更せずに使用しているケースが多く、たいていの場合、新築当初から当面の間は修繕積立金を低額に設定、5年目・10年目・15年目などに一気に数倍になったり、多額の一時金を徴収する計画となっています。規模などにもよりますが、適正な修繕積立金額は平米あたり200円程度で、70平米のマンションなら月額1万4000円程度。これより少ない場合はその分、あとで積立金の値上げか、一時金の徴収があると思ってください。

分からないことがあれば不動産仲介会社を通じて管理組合に尋ねるか、判断に迷うことがあれば第三者の専門家に見解を聞くのもいいでしょう。ただしこのような内部書類については、マンション購入者などの第三者に閲覧させることは義務ではないため、あくまで任意で閲覧をお願いすることになります。言い換えると、閲覧に応じるマンションはその情報開示姿勢だけで好感が持てるということです。自らのマンション管理運営に自信があるとか、情報開示の重要性を理解しているといった組合員が多いからこその情報開示です。

居室はつい遠慮しがち インスペクターを活用しよう

室内(専有部)については、キッチンやユニットバス・洗面化粧台などの水まわりに水漏れがないか、換気扇が正常に稼働するか、建具に傾きがないか、正常に稼働するかなど、くまなくチェックしたいもの。

しかし現実には、多くのケースで売主さんが居住中であることから、どうしても遠慮がちになり、きちんとチェックするのをためらってしまうケースが多いはずです。そんな時はホームインスペクター(住宅診断士)に依頼して、室内を一通りチェックしてもらうのがおすすめ。インスペクターによりますが、50~100項目に及ぶ調査で入居後に発生するトラブルを防ぐことができますし、リフォームや修繕に「いつごろ」「どこに」「いくらくらいのお金がかかるのか」が分かります。この際には、中古マンションに詳しいホームインスペクターを選ぶようにしてください。

瑕疵保険はあくまで「保険」にすぎない

最後に、「瑕疵保険」の考え方についても説明しておきます。

中古マンションの中には期間1年・2年・5年などの「瑕疵(かし)保険」がついているものがありますが、だからといって建物に問題がなく安心だというわけではありません。例えば築30年以上のマンションなら、そのコンディションや材質によってはそろそろ上下水道の配管や電気配線などの交換時期ですが、瑕疵保険は、たった今水漏れさえしていなければ加入できるもの。「入ってさえいれば安心」という訳ではありません。あくまでも念のため、万が一の時のためのものであると理解しておきましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

BEAMS流インテリア[2] 世界各国のアンティーク家具・民芸品がつくりだす極上おもてなし空間

一生ものの家具に出会うまでは妥協なし。捨てるのが嫌なので、気に入ったものに巡り合うまではたとえ不自由でも間に合わせは買わない、と断言するスタイリングディレクターの和田健二郎(わだ・けんじろう)さん。お眼鏡にかなった世界各国の民芸品、家具、ファブリックなどが創り出す独自なミックステイストは、BEAMSスタッフ間でも羨望の的。とびきりのセンスと、居心地の良さの秘訣を探ってみましょう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。オープンなLDK空間とプライベート空間を分けた最上階のメゾネット

和田さんが住むのは、世田谷の住宅街を見渡す低層マンションの最上階メゾネット。購入してリノベーションしたのは約8年前。結婚して借りた下北沢の1LDKのメゾネットにも8年住んでいた。「上下階で空間を分ける暮らしが気に入っていたので、中古マンションを探す際もメゾネットにこだわりました」(和田さん・以下同)。

元々住んでいた下北沢の近くで探し始めたものの、人気の沿線、かつメゾネットは数が少ないため、物件探しは長期戦に。半年過ぎて諦めて別の中古マンションに決めかけていたころ、東南角部屋の100平米を超す広さのこの部屋に巡り合った。「最上階で窓も多く、視界のヌケ感や空の広さが理想通り」と即決。当時築30年だったマンションを、同じ鹿児島出身のLAND SCAPE PRODUCTSさんに依頼してリノベーションすることにした。

コンセプトは「人が集まりやすい家」。玄関を入ったフロアはLDKメインのオープンな空間にするため、2つの部屋をひと続きにして広々と。LDKの一部に小上がりをつくって変化をつける、キッチンコーナーもオープンに、壁は漆喰(しっくい)、など妻と相談しながら空間イメージや素材もスケッチにして具体的に提示した。

和田さんのお住まいはマンションの最上階、4階と5階のメゾネット。人が集まりやすいよう玄関を入ったフロアをパブリックスペースに、階段をあがった上階を寝室や子ども部屋などのプライベートスペースに(和田さん提供資料を基にSUUMOジャーナルにて作成、上階省略)

和田さんのお住まいはマンションの最上階、4階と5階のメゾネット。人が集まりやすいよう玄関を入ったフロアをパブリックスペースに、階段をあがった上階を寝室や子ども部屋などのプライベートスペースに(和田さん提供資料を基にSUUMOジャーナルにて作成、上階省略)

「全ての希望はかない、壁の一部に大谷石を使うなど面白い提案ももらい、仕上がりの満足度は120%です」

玄関を入ると20畳以上の明るく広々したLDK。ウェグナーのダイニングテーブル(デンマーク)、革製ロバのスツール(スペイン)、パーシヴァル・レイファーの黒革ソファ(ブラジル)、100年以上前の食器棚(イギリス)など世界各国のこだわりのインテリアが並ぶ(写真撮影/飯田照明)

玄関を入ると20畳以上の明るく広々したLDK。ウェグナーのダイニングテーブル(デンマーク)、革製ロバのスツール(スペイン)、パーシヴァル・レイファーの黒革ソファ(ブラジル)、100年以上前の食器棚(イギリス)など世界各国のこだわりのインテリアが並ぶ(写真撮影/飯田照明)

リビングの一角にはお気に入りのスツールや小物をディスプレーする小上がり空間。冬にはここがこたつコーナーになるという。LDKの壁は漆喰、棚の奥は大谷石で空間のアクセントに(写真撮影/飯田照明)

リビングの一角にはお気に入りのスツールや小物をディスプレーする小上がり空間。冬にはここがこたつコーナーになるという。LDKの壁は漆喰、棚の奥は大谷石で空間のアクセントに(写真撮影/飯田照明)

小上がりの下は、段差を利用して引き出し式の大きな収納スペースに。3つある引き出しには季節外のラグやこたつなど模様替え用のファブリック中心。かさばるものも重いものも入って便利(写真撮影/飯田照明)

小上がりの下は、段差を利用して引き出し式の大きな収納スペースに。3つある引き出しには季節外のラグやこたつなど模様替え用のファブリック中心。かさばるものも重いものも入って便利(写真撮影/飯田照明)

世界各国の椅子が20脚以上! 妥協しないインテリア選びの秘訣

リビングの小上がりは、いま和田さんが気になっているものをディスプレーする舞台のようなコーナー。インテリア小物、美術書などの絵になる本、スツール類が無造作に並ぶ。現在、棚にはテイスト別に民族ものやビンテージものなどお気に入りの服がお店のように並び、こまめに模様替えも楽しんでいるという。

ここにある柳宗理(やなぎ・そうり)デザインのバタフライスツール3脚は、20年前に出会って和田さんがインテリアに関心をもつキッカケとなったもの。

棚上段に中国やアフガニスタンの民族ものの衣服、2段目にアメカジやボーダー、3段目にデニム、チノパン、ミリタリー、ビンテージものを分類。その下には3脚のバタフライスツール、手前には部族によってデザインが違うアフリカのスツール類を集めて植物を置いている(写真撮影/飯田照明)

棚上段に中国やアフガニスタンの民族ものの衣服、2段目にアメカジやボーダー、3段目にデニム、チノパン、ミリタリー、ビンテージものを分類。その下には3脚のバタフライスツール、手前には部族によってデザインが違うアフリカのスツール類を集めて植物を置いている(写真撮影/飯田照明)

「曲線的なフォルムの美しさに惹かれて。日本製とは思えないデザインと技術力に驚き、売り場の商品だったので説明できるよう、インテリアの勉強を始めました」

臨時収入があると飲み代に消えていたお金で、このバタフライスツールを買った。そこからスツールに凝り始め、「すっかり椅子フェチ、いまではスツールだけで20脚以上あります(笑)」
※スツールとは背もたれなしの椅子のこと

スツールのなかでも貴重なのが、アフリカ民芸もの。一本の太い木をくり抜いてつくられる接ぎ木のないもので、部族ごとにデザインも違う、木材・技術ともに今やつくることが難しい一点物のアンティーク。そのほか、フィンランドのサウナスツール、スペインの革製ロバなど、国も素材も年代も多様。「好きなモノをイメージして探し続ければいつか出会える」という。

実際、海外のフリーマーケットや近所のアンティークショップまでさまざまなところで出会いがあり、「海外から大荷物を背負って帰ることもしばしば」とのこと。

家具や小物だけでなく、中東、アジア、アフリカなどの民族着やファブリックもコレクションに。「年代を経た手の込んだ一点物を見るとつい買ってしまいます」。ラグは、季節ごとに模様替えを楽しんでいるという。

「家具は捨てるとき大きなゴミになるから買い替えが嫌。買うときは一生ものだと思って慎重に選び、間に合わせで妥協はしない」という和田さん。結婚当初、欲しいローテーブルが2~3年待ちと言われ、納品まで不便でもローテーブル無しで過ごした。当時から人が集まる家にしたいという思いがあり、ダイニングテーブルも2人暮らしには大きい6人掛けサイズを選んだ。その甲斐あって、家族が増え住まいが変わったいまも全て大活躍中だ。

フローリングは全てオーク材、壁は漆喰など大規模なリノベーションだったが、工事中の廃材もなるべく出さないように気遣った。「天井や床も、全て元の素材の上から張ってもらいました。ゴミも出ないし、断熱や防音も兼ねられるので一石二鳥です」。

奥のキッチンは、タイルの色までこだわって妻がデザイン画を作成してイメージを伝えた。左の食器棚はイギリスの100年超えのアンティーク、右は大正末期の水屋箪笥というミックス感。手前のローテーブルが2年待ち、フィンランドのタピオ・ヴィルカラ(写真撮影/飯田照明)

奥のキッチンは、タイルの色までこだわって妻がデザイン画を作成してイメージを伝えた。左の食器棚はイギリスの100年超えのアンティーク、右は大正末期の水屋箪笥というミックス感。手前のローテーブルが2年待ち、フィンランドのタピオ・ヴィルカラ(写真撮影/飯田照明)

既成概念にとらわれず、収納も自由な発想でアレンジ

素敵な一点物を買ってきて置いているだけでは生まれない、異なるインテリアテイストのミックス感が生みだす独自のハーモニーもある。もちろんそれぞれが和田さんのお眼鏡にかなったという前提はあるものの、国も年代もテイストも素材もバラバラなものを組み合わせる秘訣は何だろうか。

「ものをありのままでとらえるのではなく、自由な発想でアレンジして組み合わせを楽しんでいます」。手に入れたものはそのまま使うだけでなく、色を塗ったり、用途を変えたり、パーツを変えたり、ちょっとした手間や工夫で見違えるような変化があるというのだ。

リビングのイギリスのアンティークの食器棚は、背が高く圧迫感があるためひとつのものを上下別々に2カ所で使用。玄関の昭和な下駄箱とリビングに続くアンティークの扉は、形も素材も異なるテイストを合わせるため色を塗る、などDIYのひと手間をかけた。小物を飾る際も、ひとつの下駄箱の上は日本の作家のものでまとめる、一方はアフリカの仮面など、同じテイストのものを固めるのもテクニックのひとつだ。

玄関ドアを開けると、マンションの玄関とは思えない広々した空間にパタパタ扉付きの昭和レトロな下駄箱が2つ。収納としての機能だけでなく、家具の存在そのものが絵になる(写真撮影/飯田照明)

玄関ドアを開けると、マンションの玄関とは思えない広々した空間にパタパタ扉付きの昭和レトロな下駄箱が2つ。収納としての機能だけでなく、家具の存在そのものが絵になる(写真撮影/飯田照明)

苦労して運び込んだという下駄箱の上は、日本の作家ものの陶器をディスプレー。昔の小学校の雰囲気そのままで使うのではなく、黒のペンキを塗り、取っ手を真ちゅうのボタン型に変えることで、波型ガラスが映える雰囲気あるインテリアに早変わり(写真撮影/飯田照明)

苦労して運び込んだという下駄箱の上は、日本の作家ものの陶器をディスプレー。昔の小学校の雰囲気そのままで使うのではなく、黒のペンキを塗り、取っ手を真ちゅうのボタン型に変えることで、波型ガラスが映える雰囲気あるインテリアに早変わり(写真撮影/飯田照明)

「あまり得意ではない」と謙遜しながら、さらにDIYで収納量アップの工夫も。下駄箱は箱内も板で仕切り、収納出来る靴の数を2倍3倍に。この2つに入りきらない靴類は、クロークの壁にDIYで棚を付けて大量に収納している。

出番待ちの靴や衣類を大量に収納するクローク。靴の高さに合わせてIKEAで購入したパーツと板でDIY、木製のネクタイ掛けはBROOKS BROTHERSのショップで使われていたものをDIYした(写真撮影/飯田照明)

出番待ちの靴や衣類を大量に収納するクローク。靴の高さに合わせてIKEAで購入したパーツと板でDIY、木製のネクタイ掛けはBROOKS BROTHERSのショップで使われていたものをDIYした(写真撮影/飯田照明)

上階寝室の窓際には、DIYで天井から帽子掛けを吊るして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

上階寝室の窓際には、DIYで天井から帽子掛けを吊るして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

マンションとは思えない玄関のしつらえ、風が吹き抜ける眺めのいい広々したLDK。世界各国の民芸とミッドセンチュリーが融合したインテリア。「妥協しないから失敗はしない」「いい物を選ぶと収納も楽しくなる」という言葉に納得の美術館のようでいて居心地もいいお住まい。ほぼ毎週末来客があり、年末には20人を超すゲストと忘年会を開いているというのも納得の、居心地の良さを兼ね備えた極上空間でした。

●取材協力
・BEAMS

むくの木と手仕事にこだわる家具職人・松岡茂樹さんが語る「むく」の魅力

自然素材が好きで、家や暮らしに取り入れている人は多くいる。では、自然素材を扱う人は、その魅力をどう捉えているのだろう。むくの木と手仕事にこだわる家具職人、松岡茂樹さんに話を聞いた。
むくの木に、同じものは一つとしてない

工芸品のような美しさとオリジナリティーをもちながら、しかし、作品ではなく、プロダクト。職人集団KOMAによるむくの木の家具は、親方の松岡茂樹さんがプロトタイプをつくり、弟子たちによって製品化されていく。
「道具をつくる職人として“本物の家具”を追求した結果です」
本物の家具づくりに妥協は許さない。そんな松岡さんが素材として選んだのが、むくの木だ。
「天然の素材ですから、同じものは一つとしてない。同じウォールナットの板でも堅さや木目の入り組み方など一つひとつ全て違って、その板にはそのときしか出合えません。一期一会なんですよ」

それにどう刃を当てて、板も自分も喜ぶような家具に仕上げていくのか。
「生来の飽き性の僕が夢中になってこの仕事を続けているのも、そこが面白いからでしょうね。意外かもしれませんが、僕は樹種にも無頓着。どの樹種かより、目の前の板がどんなものかが大事。常に一対一なんです」
中には、職人魂を刺激されるような飛び切りの木目をもつ板も。
「自然がつくるものには作為がない。だから美しい。その無作為の造形美を、なんとかして製品に落とし込みたいと思うんですよ」

カンナや刀などの道具は各自が専用のものをそろえ、メンテナンスしながら使いやすいよう慣らしていく。松岡さんは「自分の道具は人に指1本触れさせない」とか(写真撮影/菊田香太郎)

カンナや刀などの道具は各自が専用のものをそろえ、メンテナンスしながら使いやすいよう慣らしていく。松岡さんは「自分の道具は人に指1本触れさせない」とか(写真撮影/菊田香太郎)

月日とともにキズも含めて熟成していく

KOMAの家具がむく材でなければならない理由はもう一つ、時間の作用だ。年月とともに劣化する素材は使いたくないという。
「例えば合板などのキズは、月日がたってもキズのまま。しかし、むくの木ならキズも含めて熟すように古くなる。大きな差です」 
古さがむしろ味になる。いうなれば、経年劣化ではなく経年美化。目指すのは、「長く、愛着をもって使ってもらえる家具づくり」だ。
「木の家具をずっと使っていると、いつも触る場所に艶が出てきたりしますよね。その人の暮らしのクセみたいなものを映し出すようになって初めて、一つのプロダクトとして完成するんじゃないかと」

特に椅子には思い入れがある。
「人がその体を預ける家具で、最小単位の生活空間といってもいい。座るのに決まった姿勢があるわけではなく、斜めだったり、もたれたり、足を組んだり。どう座っても心地いい形に削り出すことをいつも考えているけれど、終わりがないですね」
座り心地と同じくらい、触り心地にも気遣っている。肌に直接触れたとき、気持ちいいと感じるかどうか。ウレタン塗装では得られない本物の木の手触りを、自ら確かめながら削っていくのだ。
「相棒として共に暮らすように使い込んでもらいたい。やっぱり、むくの木以外にないんです」

木の匂いと木粉が立ち込めるKOMAの工房には制作途中の家具が並ぶ(写真撮影/菊田香太郎)

木の匂いと木粉が立ち込めるKOMAの工房には制作途中の家具が並ぶ(写真撮影/菊田香太郎)

KOMAの家具づくりは、作業のほとんどを人の手で行う。刀を使って削り出した木の風合いは、機械では到底たどり着けないものだと考えるからだ。いよいよ汚れがひどくなっても、むく材なら表面を削ればきれいになる。子や孫の代でも使えるだろう。世代を超えて愛されるのが本物の家具であり、自然素材だ。

●取材協力
家具職人/親方(KOMA代表取締役)。
1977年東京都生まれ。幼いころから絵を描いたり、ものをつくったりすることが大好きで、美術学校に進学。卒業後は家具製造会社に入社し職人修行を開始。2003年に独立し、「KOMA」を設立。2013年に直営店を開設した。家具製作を中心にさまざまなプロジェクトにも参加し、国内外の賞を受賞。趣味はバイク、スケボー、スノボー、サーフィンと幅広い。

現代の“モダンガール”と“モダンボーイ”が建てた、大正末期~昭和初期の薫り漂う文化住宅 テーマのある暮らし[4]

「日本モダンガール協會」を立ち上げ、自らモダンガール(=モガ)を追いかける淺井カヨ(あさい・かよ)さんと、音楽史研究家の郡修彦(こおり・はるひこ)さん。大正末期から昭和初期にかけての文化やライフスタイルに惚れ込んだご夫婦がつくり上げた「新文化住宅」とは? 完成に至るまでの苦労話、個性的な暮らしぶり、そのすべてをご紹介します。【連載】
ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。1920~30年代に流行した「文化住宅」をゼロから建てる、という挑戦

細い通りが入り組み、時折子どもたちの元気な声が響く東京都小平市の住宅街。一般的な住宅が立ち並ぶ中、和風の木造建築に青緑色の三角屋根の洋館が付いた一戸建てが異彩を放っています。表札は「小平新文化住宅」。淺井カヨさんと郡修彦さんが、2016年の秋に建てたご自宅です。古い建築物への造詣が深い2人が熱望したのは、1920年代から30年代にかけて流行した和洋折衷の「文化住宅」でした。現在は、当時の文化を伝えるため、随時見学会を開催していらっしゃいます。

レトロな自転車とともに自宅の前に立つ淺井さん。このドレスは1920年代のアメリカのドレスを再現したもの。「ドレスは、古着を見本として仕立屋さんに持ち込んで、同じものをつくってもらうことが多いですね」(写真撮影/内海明啓)

レトロな自転車とともに自宅の前に立つ淺井さん。このドレスは1920年代のアメリカのドレスを再現したもの。「ドレスは、古着を見本として仕立屋さんに持ち込んで、同じものをつくってもらうことが多いですね」(写真撮影/内海明啓)

この家を建てるにあたって一番苦労したのは、工務店を見つけることだったそう。
現在の住宅とは資材も工法もまったく違うため、引き受けられる工務店が都内では見つからなかったのです。

半年間あちこちで断られ続け、最終的にはハウスメーカーや工務店とユーザーのマッチングサービスを提供しているザ・ハウスを通して、あきる野市の来住野(きしの)工務店と奇跡的な出会いを果たすことができました。

「妥協は絶対にしたくありませんでした。希望通りの家ができないのなら何もいらない、という気持ちでしたからね」淺井さんは、そう振り返ります。

工務店探しに奔走していた時期、設計図を見せてもなかなか理解してもらえないことに困った郡さんがつくった1/40の模型。「計画は細部まで決まっていたので、あとは実現してくれる工務店を見つけるのみでした」と郡さん(写真撮影/内海明啓)

工務店探しに奔走していた時期、設計図を見せてもなかなか理解してもらえないことに困った郡さんがつくった1/40の模型。「計画は細部まで決まっていたので、あとは実現してくれる工務店を見つけるのみでした」と郡さん(写真撮影/内海明啓)

伝統的な素材と工法にこだわり尽くしたエクステリア

壁面に板を少しずつ重ねて取り付ける工法は「下見板張り」といって、昭和初期の木造建築では一般的なものだったそう。こうした古い工法で仕上げるためには、工務店と何度も打ち合わせを重ねなければなりませんでした。

玄関の引き戸の格子は「横に5本、縦に9本」という、当時からある形のひとつを参考にしたもの。寸法もすべて細かくオーダーしたそうです。

2階の面積を小さくしたり、屋根瓦の代わりに金属製のスレートを使用したりしているのは地震対策。かつての文化住宅に最新の耐震技術を盛り込むことも、テーマのひとつでした(写真撮影/内海明啓)

2階の面積を小さくしたり、屋根瓦の代わりに金属製のスレートを使用したりしているのは地震対策。かつての文化住宅に最新の耐震技術を盛り込むことも、テーマのひとつでした(写真撮影/内海明啓)

表札を固定する2本のマイナスねじは、よく見ると縦方向に止められています。これは、雨が降ったときに水がたまらないので、さびを防げるという昔ながらの知恵なのだとか(写真撮影/内海明啓)

表札を固定する2本のマイナスねじは、よく見ると縦方向に止められています。これは、雨が降ったときに水がたまらないので、さびを防げるという昔ながらの知恵なのだとか(写真撮影/内海明啓)

小さくかわいらしい庭には、立派な3本の和棕櫚(わじゅろ)が植えられています。「昔の洋館には棕櫚(しゅろ)が付きものだから、絶対に欲しかったんですよ」と淺井さん。クレーンでつり、前もって掘っておいた穴に植え付けてもらったのだそうです(写真撮影/内海明啓)

小さくかわいらしい庭には、立派な3本の和棕櫚(わじゅろ)が植えられています。「昔の洋館には棕櫚(しゅろ)が付きものだから、絶対に欲しかったんですよ」と淺井さん。クレーンでつり、前もって掘っておいた穴に植え付けてもらったのだそうです(写真撮影/内海明啓)

庭の片隅には、パクチー、パセリ、バジルなどが青々と葉を茂らせていました。「今は雑草防止のために庭全体に小石を敷いているのですが、いずれは取り除いて畑にする予定です。できる限り食べるものをいろいろつくって、生活道具は自然素材のものにしたいですね」

玄関脇には、ピンク色の可憐なバラが咲いていました。モダンガールが帽子をかぶっている様子に似ていることから、品種名は「モガ」。「この家の完成と同じ、2016年の新種なんです」と淺井さん(写真撮影/内海明啓)

玄関脇には、ピンク色の可憐なバラが咲いていました。モダンガールが帽子をかぶっている様子に似ていることから、品種名は「モガ」。「この家の完成と同じ、2016年の新種なんです」と淺井さん(写真撮影/内海明啓)

居間、台所、お風呂も、当時のライフスタイルを取り入れて

では、家の中にお邪魔しましょう。まず目につくのは、現役で使っているという黒電話。以前は昭和38(1963)年製のものを使っていましたが、その後、昭和8(1933)年製という、より古いものに“機種変更”したそうです。

「見学に来る若い人のなかには、黒電話のダイヤルの回し方が分からない人もいますよ」という淺井さん。ちなみに携帯電話は持っていません(写真撮影/内海明啓)

「見学に来る若い人のなかには、黒電話のダイヤルの回し方が分からない人もいますよ」という淺井さん。ちなみに携帯電話は持っていません(写真撮影/内海明啓)

四畳半の居間では、2人の祖父母の家財道具が日常的に使われています。淺井さんの実家からやって来たのは、立派なちゃぶ台と柱時計。柱時計は裏に「昭和四年」と記されています。長い間眠っていたのですが、つい最近時計修理の職人さんに見せたところ、動くように直してくれたのだそうです。

郡さんの実家に眠っていたのは、火鉢。祖父母の結婚記念品だったという1930年代の桐たんすは、削り直したというだけあってとてもきれいです。

障子にはめ込まれた、付け書院(明かり取りの装飾は)古い木造建築が解体されるときに譲ってもらったもの。「襖(ふすま)を切り抜いてこの装飾を入れてあるので、夜は奥の部屋から漏れる光でほんのりと明るいんです」(写真撮影/内海明啓)

障子にはめ込まれた、付け書院(明かり取りの装飾は)古い木造建築が解体されるときに譲ってもらったもの。「襖(ふすま)を切り抜いてこの装飾を入れてあるので、夜は奥の部屋から漏れる光でほんのりと明るいんです」(写真撮影/内海明啓)

火鉢は大正時代のもの。四畳半くらいだと、これですぐに暖まるのだそうです(写真撮影/内海明啓)

火鉢は大正時代のもの。四畳半くらいだと、これですぐに暖まるのだそうです(写真撮影/内海明啓)

鏡台と衣紋掛け(着物を掛ける用具)も、あるお屋敷が解体されたときに譲ってもらったそう。「だんだんと人とのつながりができてきて、いろいろなものをお譲りいただけたことはうれしいですね」と笑う淺井さん(写真撮影/内海明啓)

鏡台と衣紋掛け(着物を掛ける用具)も、あるお屋敷が解体されたときに譲ってもらったそう。「だんだんと人とのつながりができてきて、いろいろなものをお譲りいただけたことはうれしいですね」と笑う淺井さん(写真撮影/内海明啓)

キッチンには、昔ながらの形をしたガス七輪が。本当はかまどを使いたかったのですが、住宅が密接しているので煙を出すことができず、断念したのだそう。

「冬は火鉢のために炭をおこさなければならないのですが、自動消火機能が付いたコンロだと、途中で消えてしまうんですよ。そこで昔ながらの鋳物(いもの)コンロを使っています」と淺井さん。昔のものと今のもの、それぞれの短所と長所を理解した上で、ライフスタイルに合うものをていねいに選んでいます。

シンクは、職人さんが手作業でつくり上げた「人造研ぎ出し」。種石(天然石を細かく砕いたもの)とセメントを塗りつけて、固まったところを研磨するという昔ながらの技法です。これを手がける職人さんも、もう少ないのだそう。

炊飯器や電子レンジはありません。「現代の料理本はそういった調理器具がある前提で書かれていることが多いです。大正~昭和初期の献立で昔ながらの調理器具を使って料理をしています」

炊飯器や電子レンジはありません。「現代の料理本はそういった調理器具がある前提で書かれていることが多いです。大正~昭和初期の献立で昔ながらの調理器具を使って料理をしています」

冷蔵庫は電動ではなく、大きな板氷で冷やす氷冷式です。「新居に合わせて特注でつくってもらいました。近所に氷屋さんがあるので、時々、買いに行きます。氷を自転車で運ぶのは大変です」と淺井さん。

しかし、決して無理をして昔風の暮らしをしているのではなく、この生活が一番自分たちにしっくりくるのだそうです。「何でも使い捨てにするような慣習も、だんだん見直されつつありますね? 昔の生活を見直すきっかけになれたらと思っています」と2人は言います。

生ものは買ってくるとすぐに調理、果物などは外に出して水につけておく……など、電気冷蔵庫に頼らない暮らしを楽しむ2人。「冷凍保存もできないから、あるもので料理をするようになります。無駄がなくていいですよ」と郡さん(写真撮影/内海明啓)

生ものは買ってくるとすぐに調理、果物などは外に出して水につけておく……など、電気冷蔵庫に頼らない暮らしを楽しむ2人。「冷凍保存もできないから、あるもので料理をするようになります。無駄がなくていいですよ」と郡さん(写真撮影/内海明啓)

光沢のあるタイル張りの浴室も、文化住宅を再現したもの。現在の建築業界では、滑るので危険だという理由から、原則として浴室の床に光沢のあるタイルは張らない決まりになっているのだそう。「何かあったら自己責任で、ということで、なんとか張ってもらえたんです」と淺井さん。

当時の文化住宅では、浴室の木枠を白く塗るのが一般的でした。明るく見えることと、水気を弾いて湿気を防ぐことがその理由だったそう(写真撮影/内海明啓)

当時の文化住宅では、浴室の木枠を白く塗るのが一般的でした。明るく見えることと、水気を弾いて湿気を防ぐことがその理由だったそう(写真撮影/内海明啓)

洋風建築の魅力を最大限に活かした応接室と2階

こちらは、こだわりの応接室です。漆喰(しっくい)の壁、高い天井、出窓の木枠。どれもこれも、大正末期から昭和初期の洋館がもっていた特徴です。「窓枠は特注なんです。ひとつひとつの寸法を細かく指定して、職人さんにつくってもらいました」と淺井さん。細部へのこだわりが、統一感を生み出しています。

後ろに積んである箱には、郡さんのレコードが詰まっています。郡さんは古いレコードなどの音源をCDに復刻するお仕事をされているのです。「この部屋には約2000枚、博物館に寄託したものは約5000枚あります。内容は、ほとんどが昭和の流行歌とクラシックですね」(写真撮影/内海明啓)

後ろに積んである箱には、郡さんのレコードが詰まっています。郡さんは古いレコードなどの音源をCDに復刻するお仕事をされているのです。「この部屋には約2000枚、博物館に寄託したものは約5000枚あります。内容は、ほとんどが昭和の流行歌とクラシックですね」(写真撮影/内海明啓)

郡さんの祖父母が、昭和5(1930)年に結婚記念として購入した蓄音機「ビクトローラ4-40」。昭和4(1929)年にアメリカで製造されたもので、電気ではなく、ぜんまいの力でターンテーブルを回します(写真撮影/内海明啓)

郡さんの祖父母が、昭和5(1930)年に結婚記念として購入した蓄音機「ビクトローラ4-40」。昭和4(1929)年にアメリカで製造されたもので、電気ではなく、ぜんまいの力でターンテーブルを回します(写真撮影/内海明啓)

洋風の応接室にぴったりのシャンデリアは、1920年代のフランスのもの。骨董屋さんで見つけたそうです(写真撮影/内海明啓)

洋風の応接室にぴったりのシャンデリアは、1920年代のフランスのもの。骨董屋さんで見つけたそうです(写真撮影/内海明啓)

最後に2階を見せていただきましょう。思わず歓声をあげたくなるようなこの部屋は、淺井さんの私室。「和洋折衷」というのが大正末期から昭和初期の文化住宅の特色ですが、2階はまさに洋風です。所狭しと並ぶコレクションは、淺井さんが子どものころから集めてきたもの。

貴重な資料が並ぶ本棚は一見の価値あり。『主婦之友』シリーズや、昨年復刻された『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)の初版本なども並んでいました(写真撮影/内海明啓)

貴重な資料が並ぶ本棚は一見の価値あり。『主婦之友』シリーズや、昨年復刻された『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)の初版本なども並んでいました(写真撮影/内海明啓)

この部屋の主役は、旧高田義一郎邸が解体されるときに譲ってもらったという、昭和初期の窓だそう。木枠の塗料をはがして塗り直し、割れていたガラスのみ新品に入れ換えました。「この窓をどうしても使いたかったので、2階は窓に合わせて設計したんです」と淺井さん。新しく再現したものと、実際に当時使われていたものがあちこちでミックスされているデザインからも、2人らしさが伝わってきました。

窓の持ち主だった高田義一郎さんは医学博士であり、文筆家でもあった方。以前から著書の『らく我記』を愛読していた淺井さんにとって、窓との出会いは思わぬ幸運でした(写真撮影/内海明啓)

窓の持ち主だった高田義一郎さんは医学博士であり、文筆家でもあった方。以前から著書の『らく我記』を愛読していた淺井さんにとって、窓との出会いは思わぬ幸運でした(写真撮影/内海明啓)

「1920年代~30年代の普遍的なかっこよさも、ものを無駄にせず、自然を大切にする生活も、もっともっと発信していきたいですね。ここは生きた博物館のようにしたいと思っています」と語る2人は、当時の文化に憧れるだけなく、実際に生活に取り入れて楽しんでいます。「一生遊べる家が出来上がりましたね。2人だったからできたことです」と語る淺井さんの晴れ晴れとした笑顔が印象的でした。

淺井さんの著書『モダンガールのスヽメ』(2016年/原書房)。大正末期から昭和初期の文化に興味をもった理由から、当時のライフスタイルについての歴史的考察に至るまで、読み応え満点の1冊です(写真撮影/内海明啓)

淺井さんの著書『モダンガールのスヽメ』(2016年/原書房)。大正末期から昭和初期の文化に興味をもった理由から、当時のライフスタイルについての歴史的考察に至るまで、読み応え満点の1冊です(写真撮影/内海明啓)

●取材協力
・淺井カヨさん
昭和51(1976)年名古屋生まれ。平成19(2007)年に、大正末期から昭和初期とモダンガールを愛好する「日本モダンガール協會」を設立。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)、共著に『東京府のマボロシ』(社会評論社)など。

・郡修彦さん
東京生まれ。作曲家・音楽評論家の故・森一也先生に師事。SPレコード時代の音楽史を、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表している。「山田耕筰の遺産」「古賀政男大全集」「古賀政男黄金時代の集大成」「復刻盤軍歌・愛国歌撰集」等を手がけ、企画・構成・復刻の「SP音源復刻盤信時潔作品集成」は平成20年度(第63回)文化庁芸術祭大賞を受賞。元・昭和館音響専門委員、平成15(2003)年5月から翌年4月まで月1回、NHK「ラジオ深夜便」に出演し、選曲・録音・解説を担当。平成19(2007)年11月よりライブハウスにてSP盤鑑賞会を定期開催中。

収納家具なし! 見せ方・隠し方に技アリのオープン大空間【BEAMS流インテリア(1)】

同期入社で結婚4年目、というプレスの安武俊宏(やすたけ・としひろ)さんとディレクターで現在は産休中の恵理子(えりこ)さん。初めての出産を控えたご夫妻の住まいは、コンクリートむきだしの大空間をガラスの建具で緩やかに区切る、大胆にリノベーションされたマンション。照明や椅子など、インテリアひとつひとつにストーリーがあるものを選び抜いた、アイデアいっぱいの空間を拝見します。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のディレクター、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。自分たちらしい空間を求めて中古マンションをモダンにリノベーション

プレスとディレクターという、華やかなお仕事についている安武ご夫妻。ファッションが好きで入社したお2人ですが、洋服はその時々に好きなものを買い、かつ仕事で毎日関わっているので、オフのときは逆にインテリアやライフスタイルを大切にするようになったとのこと。2人の共通の趣味も、インテリアショップや雑貨店巡りと旅行だという。

安武さんは、プレスとして『BEAMS AT HOME』等の書籍制作も担当。この仕事を通して、ますますインテリア熱も高まったという。現在4冊発行されているシリーズの1冊目に、結婚前に2人で住んでいた部屋が掲載され、恵理子さんの名字をプレス権限で「安武」に変えて発行するというサプライズがプロポーズだったというから、公私ともに住まいと縁が深い。

1冊目発行後の2015年1月に結婚、さらに自分たちらしい空間を求めて、2016年1月から家探しを開始。2人とも仕事が忙しいので都心へのアクセス最優先で渋谷区・目黒区・港区に限定し、リノベーション前提なので築年数関係なく、50平米後半の中古マンションを探した。

SUUMOで物件検索して、これはというものがあれば週末ごとに内見へでかけたものの、なかなかピンと来る物件はなかった。さらに条件を新宿区まで広げたところ、神楽坂駅に近く通勤30分、当時築37年60平米のこの物件に巡り合う。既に20件以上見学していたので即決し、それからは5月末契約、仕事仲間に紹介されたデザイナーにリノベーション依頼、8月に完成・入居と、とんとん拍子だった。

リノベーション後の安武さん宅の間取り。玄関を入って廊下正面がLDK空間。寝室にはLDKからも、玄関から直接納戸経由でも出入りすることができる(安武さん提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

リノベーション後の安武さん宅の間取り。玄関を入って廊下正面がLDK空間。寝室にはLDKからも、玄関から直接納戸経由でも出入りすることができる(安武さん提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

玄関を入って廊下右手に水まわり、左手に寝室、正面の扉奥がLDK。廊下左の壁一面は収納になっている(写真撮影/飯田照明)

玄関を入って廊下右手に水まわり、左手に寝室、正面の扉奥がLDK。廊下左の壁一面は収納になっている(写真撮影/飯田照明)

趣味のインテリアショップ巡りで磨いたセンスで長く使える良いものを選ぶ

リノベーションで元々あった壁や天井、内装などを一度すべて壊してスケルトン状態から出来上がったのは、コンクリートや配管がむき出しのLDKを中心に、書斎兼収納、寝室、玄関・水まわりの3つの空間を黒のガラス入り建具で緩やかに仕切った大空間。約60平米というが、ガラス越しに視線がつながって一体感があるため広く感じる。

インテリアのテイストは、好みの写真などをデザイナーと共有しながら、相談してつくり上げていったという。
休日はお気に入りのインテリアショップ巡りをしているというお2人だけあって、センスも抜群。色味を抑えたモノトーンのモダンなテイストでまとめている。

「インテリアで最初に決めていたのはダイニングの照明。フランスの名作照明でずっと欲しかったけれど工事が必要なので賃貸時代は我慢していたので」という安武さん。「私は毎日使う水まわりにこだわりました。キッチンは造作にしてLDKの中心に、バスルームもホテルライクにしました」という恵理子さん。

多少優先順位は違うものの、美しい物へのこだわりやセンスは一致している。例えば、LDKにある2脚の名作椅子。入居前、新居のインテリアに合うリラックスチェアを探していたところ、繊細で美しいフォルムのポール・ケアホルムPK22に巡り合う。高価なため中古品も探したが条件に合うものがなく、ちょうど発売になった限定モデルが色も素材もぴったりで一脚約50万円を即決したという。ペンダントライトも作家の一点もの。

「2つ欲しかったけど、ひとつでいいじゃないとは言われました(笑)」と安武さん。目線より高い位置にものを置かないことで空間を広く見せ、ぶら下がった照明でメリハリをつけているという。

線が細いフォルムのポール・ケアホルムPK22の60周年記念モデル・グレーのヌバック素材が優しくインテリアに溶け込む。クッションと絨毯(じゅうたん)はモロッコ旅行の際に2人で選んだもの(写真撮影/飯田照明)

線が細いフォルムのポール・ケアホルムPK22の60周年記念モデル・グレーのヌバック素材が優しくインテリアに溶け込む。クッションと絨毯(じゅうたん)はモロッコ旅行の際に2人で選んだもの(写真撮影/飯田照明)

オープンな大空間は収納家具に頼らず、隠すべきものは隠し方にもこだわって

リビングからは、ガラスの建具越しに部屋全体が見渡せる。仕事柄洋服や小物なども多いはずだが、いったいどこに収納しているのか。空間を広く見せるために、大きな収納家具は置かない主義。確かに食器棚も洋服ダンスも見当たらない。

玄関の廊下には、それぞれの靴とバッグ専用の壁面収納を造り付けた。2人合わせて実に靴150足はあるというが、扉を閉めればスッキリ。扉で隠す造作収納は玄関収納のほか、家の中心にあるキッチン収納だ。いわゆる食器棚は置かず、吊戸棚もなく、アイランド型キッチンの下に食器類も全て収納している。

写真左:玄関の壁面上部にロードバイク、反対側は一面4カ所の壁面収納、扉を閉めればスッキリ。写真右:壁面収納はちょうど靴が入る奥行きで、夫婦それぞれの靴やバッグ用。靴だけで安武さん100足、恵理子さん50足は超える(写真撮影/飯田照明)

写真左:玄関の壁面上部にロードバイク、反対側は一面4カ所の壁面収納、扉を閉めればスッキリ。写真右:壁面収納はちょうど靴が入る奥行きで、夫婦それぞれの靴やバッグ用。靴だけで安武さん100足、恵理子さん50足は超える(写真撮影/飯田照明)

食器棚も置かず、アイランドキッチンの下に食器類も収納。「キッチンは造作で細かな仕切りや棚がなかったので、引き出せる棚を通販で探しました」(写真撮影/飯田照明)

食器棚も置かず、アイランドキッチンの下に食器類も収納。「キッチンは造作で細かな仕切りや棚がなかったので、引き出せる棚を通販で探しました」(写真撮影/飯田照明)

衣装持ちのはずだが、衣類はどうしているのか。まずは玄関からも直接出入りできる、便利な寝室のウォークインクローゼット。ここは頻繁に着るシーズンものを中心に、ハンガーパイプに吊るした、オープンで使いやすい収納だ。しかし収納量には限りがある。

LDKとガラスの建具で仕切られた寝室(写真撮影/飯田照明)

LDKとガラスの建具で仕切られた寝室(写真撮影/飯田照明)

寝室奥のウォークインクローゼットはシーズンものの洋服を手前に、奥には頻度低めのスーツやコートがかけられるようになっている(写真撮影/飯田照明)

寝室奥のウォークインクローゼットはシーズンものの洋服を手前に、奥には頻度低めのスーツやコートがかけられるようになっている(写真撮影/飯田照明)

ベッド奥の出窓を利用して本などを見せて収納(写真撮影/飯田照明)

ベッド奥の出窓を利用して本などを見せて収納(写真撮影/飯田照明)

シーズン外の物は書斎兼ウォークインクローゼットにあるというが、一切目に入らない。不思議に思って尋ねると、インテリアにもなる洒落た丸箱には布団が、アンティークの旅行鞄などに季節外の洋服やバッグ類を入れているのだという。クローゼットでさえも生活感なくセンスがいいのは、収納家具に頼らず、さらに収納する入れ物自体もデザインにこだわって選んでいたからだった。ガラス越しに見渡せるひと続きの大空間は、見せ方も隠し方も技ありだった。

机の上にハンガーポールや棚が造り付けられた書斎兼ウォークインクローゼット。一見ただの書斎にしか見えないほど整然としているが、アルミ製のキャンプ用品の収納ケース(机の上部、棚の最上段)やインテリアショップで見つけたデザイン性の高い丸箱(写真右)、アンティークの大型旅行鞄やコンテナ(写真左)に季節外の物を全て収納(写真撮影/飯田照明)

机の上にハンガーポールや棚が造り付けられた書斎兼ウォークインクローゼット。一見ただの書斎にしか見えないほど整然としているが、アルミ製のキャンプ用品の収納ケース(机の上部、棚の最上段)やインテリアショップで見つけたデザイン性の高い丸箱(写真右)、アンティークの大型旅行鞄やコンテナ(写真左)に季節外の物を全て収納(写真撮影/飯田照明)

スノーピークのキャンプ用品の収納ケースは、積み重ねも可能で多目的に使える。現在は季節外の衣類を入れて収納ケースとして棚の最上段で使用(写真撮影/飯田照明)

スノーピークのキャンプ用品の収納ケースは、積み重ねも可能で多目的に使える。現在は季節外の衣類を入れて収納ケースとして棚の最上段で使用(写真撮影/飯田照明)

「長く使えるいいものを」と、2人のアンテナにかかるものをひとつひとつ選んでいった安武夫妻。家にあるもの全てに「インテリアショップで一目惚れした照明」「新婚旅行で訪れたモロッコで気に入った絨毯や写真」「ずっと欲しくて運命的に限定モデルが手に入ったチェア」など、素敵なストーリーがある。隠すものは上手に隠し、好きなモノだけを見渡せる大空間。もうすぐ家族3人になる安武家。お子さんが生まれてからの、お2人のセンスを活かした住まいの変化も楽しみです。

●取材協力
・BEAMS

「リフォーム」理由に変化の兆し?「長持ちさせるため」「よい住宅にする」が上昇

国土交通省の平成29年度の「住宅市場動向調査」によると、住宅をリフォームする動機として、「家を長持ちさせるため」が長期的に見て増加傾向にあることが分かった。リフォームへの取り組みが変わっていくのだろうか、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「平成29年度住宅市場動向調査」を発表/国土交通省リフォームの動機は「住宅の老朽化」。ただし、「長持ちさせるため」が長期的に上昇

調査は、平成28年度中(平成28年4月~29年3月)に住み替えや建て替え、リフォームを行った世帯を対象に行ったもの。今回は、リフォームに関する調査結果に注目したい。

三大都市圏でリフォームを行った世帯に、リフォームの動機を複数回答で聞いたところ、「住宅がいたんだり汚れたりしていた」が46.5%と断トツ1位となった。これは過去の調査でも同様だった。

一方で、2位になったのは「家を長持ちさせるため」(29.8%)で、平成27年度まで2位につけていた「台所・浴室・給湯器などの設備が不十分だった」(27.3%)を平成28年度に引き続いて上回った。また、「不満はなかったがよい住宅にしたかった」は14.4%となり、前年度までと比べて大きく伸びる結果となった。

リフォームの動機(主なもの)(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」よりSUUMOジャーナル編集部にて作成)

リフォームの動機(主なもの)(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」よりSUUMOジャーナル編集部にて作成)

では、具体的にどんなところをリフォームしたのだろうか。

まず「住宅内設備」を見ると、「台所・便所・浴室等の設備を改善した」が85.2%と抜きん出て多い。大半が水まわりの交換などを行っているようだ。次に「住宅の構造」を見ると、「断熱工事・結露防止工事等を行った」が67.7%で、次いで「基礎・構造の補強を行った」の45.2%となった。いずれも住宅を長持ちさせるには欠かせない工事といえるだろう。

住宅内設備の改善・変更の内容(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」)

住宅内設備の改善・変更の内容(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」)

住宅構造の改善・変更の内容(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」)

住宅構造の改善・変更の内容(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」)

リフォームの目的は「不満の解消」から「積極的な改良」へと変わる!?

さて、筆者は住宅に関する多くの調査結果に目を通しているが、リフォームをする理由として「住宅や設備の老朽化」などを挙げる調査結果は多い。

住宅リフォーム推進協議会の「平成29年度住宅リフォーム実例調査」を見ても、リフォーム工事の目的には、「住宅、設備の老朽化や壊れたため」(60.9%)が「使い勝手の改善、自分の好みに変更するため」(64.2%)と並んで、6割を超える多さとなっている。つまり、古くなったり不具合が起きたりして、生活に支障が出るという理由からリフォームに至ることが多いのが実態だ。

しかし、徐々にではあるが、「家を長持ちさせるため」や「不満はなかったがよい住宅にしたかった」が増加傾向にあることから、リフォームの目的が「不満を解消する」から「積極的に改良を図る」というものへ広がっていく兆しと見てもよいだろう。

特に若い世代では、中古住宅を購入してリフォームすることで、「自分好み」の家にしたい、「快適に暮らせる」家にしたいという発想が広がっている。限られた資金を自分たちなりに効果的に使って、住まいの満足度を上げるという流れだ。

一方で、子どもが独立した年配の夫婦が、快適なセカンドライフのために住み替えをしたり、リフォームをしたりする「積極的」な住まいへの投資も見られるようになってきた。人生100年と言われる時代だからこそ、住まいの果たす役割は大きいものになる。

これからのリフォームは、「新築として提供された家を手直ししながら住む」という旧来型の考え方ではなく、「手をかけて自分らしく快適に暮らせる家にしていく」という考え方がスタンダードになっていくのだろう。

弾かないけど捨てられない! 使わなくなった“物置ピアノ”、よみがえらせるには?

お子さまに「習わせたい」と、思いきって購入したピアノ。ずっと弾き続けられればよいのですが、成長や独立などにともない、弾かれなくなることもしばしばあります。思い出がつまっているものだし売りたくない、しかし誰も弾かないのでピアノの上に荷物が積まれている……。そんな状況に陥っているご家庭もあるのではないでしょうか? 忘れそうなピアノを生き返らせるインテリア配置、そしてピアノの色を塗り替えたり、装飾を施したりしてインテリアとして生き返らせる「デザインピアノ」についてお伝えします。
弾かれない実家のピアノ 気がついたらピアノが物置になっていた!

使わなくなったピアノ、どうしますか? 「ピアノ 使わない」などのワードでウェブを検索すると「中古ピアノ買い取り」の会社がずらずらとヒットします。筆者の実家にも今はだれも弾いていないグランドピアノがあるので、母に売らないのかどうかを聞いてみたのですが、思い入れがあるようで、「決して手放さない」と一蹴されました。そんなことはつゆともしらず、のんきな妹(三女)がピアノの上にも下にも物をたくさん置いて、まるで便利な収納スペースに。部屋もピアノ部屋というよりは物置部屋といった様相で、見るも無残です。

大掛かりなリフォームができない場合や、使わないピアノを処分せず、暮らしやすい部屋をつくりたい場合、いったいどうすればよいのでしょうか。インテリアの工夫などについて専門家の方に聞きました。

「ピアノ・どーん!」でもストレスフリーに見せる家具の配置を考える

グランドピアノを購入された方の相談を受け、お部屋づくりに携わった経験をお持ちのインテリア・コーディネーター、水田恵子(みずた・けいこ)さんに、ピアノ部屋のインテリアについてお伺いしました。

新しく迎え入れるときには大きさが頼もしく感じられるピアノですが、弾かなくなったピアノは大きくて重い真っ黒なオブジェのようなもの。「ピアノを部屋に置く場合、黒くて大きなものが部屋のかなりのスペースを占めることになるので、まずバランスを考えねばなりません。特に、部屋の隅に置けるアップライトピアノとは異なり、グランドピアノはその部屋の主役です。残った空間に、他の家具はどれだけ置けるのか、その結果として日常生活をどのように成り立たせていくのか、こうしたことをよく考える必要があります」と水田さん。

カーテンは色味としてはシックで、光沢感のない無地の生地を使用し、ピアノに合ったシンプルなものを選択、ピアノの上のシャンデリアも、シャープでスッキリしたデザインのものに(画像提供/水田恵子さん)

カーテンは色味としてはシックで、光沢感のない無地の生地を使用し、ピアノに合ったシンプルなものを選択、ピアノの上のシャンデリアも、シャープでスッキリしたデザインのものに(画像提供/水田恵子さん)

グランドピアノとアップライトピアノでは、インテリアも変わるのでしょうか。「グランドピアノとアップライトピアノの違いに、インテリアの派手・地味は関係ないと思います。グランドピアノの場合はピアノが部屋の真ん中に来るので、ピアノ中心のインテリアになり、どうしても派手になりやすいでしょう。一方で、アップライトだと壁に寄せておくことが大半だと思いますので、グランドピアノに比べれば、ピアノを意識せずにインテリアをつくりやすいと思います」(水田さん)

「使わないピアノなら、色を塗り直すなどのリメイクをしたりして、現在の生活で有効に使うことも一案」と水田さん。「ピアノが弾けなくならないよう気をつけつつ、インテリア小物などをディスプレイする場所にするのも一つの方法です」とも教えてくださいました。

そこで、次にピアノをリメイクを実際に行っているかたのお話を伺うことにしました。

ピアノそのものをリメイクして新しいインテリアに 「デザインピアノ」

ピアノメーカーが集中し、生産がさかんな静岡県。湖西市にあるデザインピアノ工房は、依頼を受けたピアノ自体にデザインを施し、「魅せる」ピアノをつくっています。店長の荻野光彦(おぎの・みつひこ)さんに、ピアノのリメイクについてお話ししていただきました。

「ピアノは大きく存在感のあるものなので、お客様のインテリアの趣味や志向に合わせて選べたら、もっと素敵な空間をつくれます。部屋の隅でほこりをかぶっているピアノをよく見かけますが、そのピアノもご家族などからプレゼントされ、それぞれに思い出が詰まっているケースがほとんど。だから古くなっても今のインテリアに合うデザインにリノベーションして残したい人が多いものです」(荻野さん)。そんな思いから、デザインピアノのお仕事を始められたとのこと。現在までに、アップライトピアノを450台、グランドピアノ30台のリメイクを手掛けたそうです。

人気があるのは「白いピアノ」「猫脚のピアノ」など、幼いころ絵本で見て憧れたようなデザイン。真っ黒なピアノであっても真っ白に塗り替えることが可能だというので驚きです。ピアノには何重にも塗膜を重ねて塗装するため、色ムラがでることはないとのこと。また、椅子も脚をピアノと同色に塗装したり、座面をホワイトに張替えたりするリメイクが可能なため、ほとんどの方がピアノと椅子をセットでリメイクされるそうです。

デザインはお客様のお部屋を見て、相談しながら決めます。費用も塗り直し19万8000円~、飾り金具一つ8000円~などを組み合わせた結果、ピアノによってさまざまです。「ピアノは箱に入れてしまっておくことが出来る楽器ではありません。今後も楽器として使える『奏でるインテリア』としてお客様に提案しています」(荻野さん)

人気のある白いピアノ。左の古い真っ黒なピアノが右のように白く生まれ変わる(画像提供/デザインピアノ工房) 

人気のある白いピアノ。左の古い真っ黒なピアノが右のように白く生まれ変わる(画像提供/デザインピアノ工房) 

荻野さんのこれまでのお仕事で印象に残っているのは、「亡くなった母の好きだったひまわりの絵を描いてもらいたい」という依頼だそうです。「スペースの問題など、各家庭にそれぞれの事情があると思いますが、リメイクすることで、新たなピアノライフの始まりになるとよいですね」(荻野さん)

思い出のひまわりを描いたピアノ(画像提供/デザインピアノ工房) 

思い出のひまわりを描いたピアノ(画像提供/デザインピアノ工房) 

ピアノをリメイクしてその時代に合ったデザインにしていけば、次の世代に受け渡すことが可能だと言う荻野さん。ピアノリメイクの意義は「物を大切にする気持ちを尊重し、思い出を守り、想いをつないでいくこと」だと語ってくださいました。

物置部屋と化す前に、ピアノがある暮らしを考え直そう

以上のように、インテリアの工夫、ピアノそのもののリメイクなど、ピアノの延命策やピアノ部屋の改装には、いくつかの方法があることが分かりました。そのうえで水田さんは「お客様のお話をよく聞いたうえで、もし処分するほうのメリットが大きければ、処分するようにアドバイスをすることもありえるでしょう」と言います。たしかに、処分したピアノが誰かの手に渡ってまた弾かれるのであれば、それもまたピアノがつなぐ縁だといえます。

筆者の実家、ほぼ物置部屋と化したピアノ部屋。こうならないために早めの対策を(写真撮影/近藤智子)

筆者の実家、ほぼ物置部屋と化したピアノ部屋。こうならないために早めの対策を(写真撮影/近藤智子)

例えば筆者の実家のピアノ部屋はリビングの横にあり、以前は亡くなった祖父の部屋でした。妹(次女)が専門的に音楽に取り組むことになったため、畳の和室はフローリングの洋室へとリフォームされ、それまでのピアノが処分され、新しいピアノがやってきました。が、その妹も大学入学と同時に実家を出て、それ以来、鍵盤はほとんど叩かれることがありません。

それでも家族の思い出の詰まったピアノ。これからまた誰かが弾き始めないとも限りません。カーテンを開けて光を入れ、部屋を片付けて、そのうえで、どんなふうにピアノ部屋をつくり直し、ピアノと付き合うのが我が家にふさわしいのかを、一度考えてみたいと思います。

●取材協力
・デザインピアノ工房
・水田恵子(Office SPIRAL)

60歳からの家は自分たちで創ることにした

「老後資金には1億円が必要」とか「年金に期待するな」とか、最近の日本は年をとるのもたいへんだ。今まで一生懸命に働いてきたのに、リタイア後も頭が痛くなるような話題ばかり。もっと楽しく、自分たちの身の丈に合った暮らしはできないのか。そんなとき、長年の友人が700万円以下で首都圏に一戸建てを手に入れ、自分たちでリノベーションをすると聞いた。ワクワクするようなニュースだ。早速遊びに行った。
現金で払える予算で自分たちの終の棲家を探す

中原夫妻は私と同じで60歳。妻は私がコピーライターとして新人だった時代の少し先輩だ。お互い還暦を迎え、そろそろリタイア後の生活に真剣に取り組む必要がある。「まだまだ元気で仕事も現役だが、ほんとうに体力がなくなる前に自分たちの終の棲家は確保しておきたい」と家探しを始めたのは2015年だった。

そんな2人が手に入れたのは、千葉県千葉市の土気駅から歩ける場所にある築35年超の一戸建てだ。
「町田で賃貸住宅に住んでいましたが、そろそろ自分たちの老後を考えたときに、いつまでも家賃を払い続けるのも不安で、この際家を買おうということに。これからのことを考えたら、自分たちが用意できる現金の範囲で探そうということになりました」と夫。

予算は最大800万円まで。最初は東京より西側の神奈川で探していたが、坂の上で階段がある物件が多い。予算内だと再建築不可(※)といった物件もあった。夫妻ともに海の近くで育っているので、山よりも海の近くが暮らしやすい。そのため今度は千葉県にも足を延ばして探すことにした。

※建て替えや増改築ができない状態。市街化調整区域の土地、建築基準法の接道義務に違反している(4m以上の道路に間口2m以上接していない)土地、あるいは法律の施行以前に建てられた「既存不適格建築物」などが該当する。

「古い団地も見に行きましたが、階段の上り下りがいずれたいへんになりそうで……。やはり庭仕事が好きな私たちには一戸建てが向いていると考えはじめました」と妻。そこで出会ったのが今の住まいだった。予算内に収まる価格と駅からのアプローチがフラットだったのもポイントだった。

「中古の一戸建てを自分たちの手で直しながら住むのもいいかと。古いけれど角地に建っていて開放感があるのと庭があるのも気に入りました」と妻。「供給公社がしっかり建てた物件で、床下も屋根裏も見てみましたがきれいなものでした。途中で白アリ防除もしたということで購入を決めました」と夫。

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした (写真撮影/片山貴博)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした(写真撮影/片山貴博)

購入後に雨漏りを発見、修理をしてくれた大工さんと仲良くなる

2人はまず手描きで図面を起こし、1階部分の和室を洋室に変え、リビングと棚でつなげるようなプランを考えた。当初は1階リビングを完成させて引越したら、住みながら手を入れていく予定だった。

最初につくった手描きのリノベーションの設計図 (写真提供/中原健二氏)

最初につくった手描きのリノベーションの設計図(写真提供/中原健二氏)

ところが契約時に決めていた瑕疵担保責任の期間ぎりぎりの時期に、2階のベランダのジョイント部分から雨が入り込み、柱が1本腐っていたのを発見することになった。交渉した結果、売主が地元の大工さんに工事を頼んで修復してくれることになった。この修復工事が終わらないと、自分たちの工事もできない。

「この大工さんがいい人で、親しくなって、ついでにあれこれと見てくれました。その時、動かしていい柱を教えてもらったので、後の仕事がスムースになりました」。災い転じて福となすとは、まさにこのことだ。

しかも修復工事で壁を開けてみたら、やはり古い戸建てだけに断熱が完璧ではないことに気付いてしまった。夫はがぜん断熱にこだわりはじめ、床下や天井にも断熱材を張り巡らせることになった。

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた (写真提供/中原氏)

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた(写真提供/中原氏)

「モノと一緒にやさしさもいただく」。お金をかけずに材料を入手

リノベーションに必要な材料も実は費用がほとんどかかっていない。妻の口癖である「宝くじ以外は何でも引き寄せる法則」が随所で役に立った。

「ある日、いつもと違う道を歩いていたら、リフォーム会社のお持ち帰りボックスに壁紙がドーンと置いてあるのを発見。さっそく貰って帰りました」。さらに壁紙は友人からも貰うことができた。

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

またリビングのフローリングを無垢板にしたかったけれど、高いのでどうしようかと考えていたら、材木屋が廃棄しようとしていた板を少しずつ分けてもらうことができた。「無垢のフローリング材は、それぞれ規格が違い、サネと呼ばれるジョイント部の高さが違うのでカンナ掛けの加工が必要でした。1本ずつ夫が削って合わせて貼りました。でも色合わせが楽しかったです」

「玄関、廊下、1階の和室の竹のフローリングは、ホームセンターで見切り品になっていたのを買い占めました。お店でちゃんとお金を出して買ったレアケースです」と妻。

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

「某所では昭和20年代の室内ドアと、アメリカンクレイという壁塗り用の土を手に入れました。次はタイルが必要と言っていたら廃業するタイル屋さんとつながりました」とさらに妻の才能は開花する。

驚いたのはジモティの使いこなし術だ。「バスタブも展示品だけど新品を3000円でゲット。さらにレンジフードも新しいのを買っちゃおうかなと考えはじめていたところ、施工業者から新品未使用のものを7000円で手に入れました」。メインの写真で二人がくつろいでいる赤いソファ は4000円。ワイン箱の出物を6個1000円で手に入れ、奥行きを詰めて底と側面の板にフェルトを貼り棚の引き出しに利用したそうだ。手間をかけることをいとわなければ、こだわりのあるインテリアはお金をかけずにそろえることができるという好例だろう。
リビングと洋室の間のパーテーションにした棚は、イケアのものを2個はタダで、1個は1000円ほどでもらい受け、表面にサンダーをかけ荒らしてペイントし、3個1で組み込んだ。
「現場での解体が大変そうだと思っていましたが、受け取先の場所に伺うと、先に解体しておいてくれたうえに、組み立てるために便利なように完璧な合番まで振ってくれていました。ジモティでは庭の植栽も含めて10数件ほどやりとりをしましたがどの方も気持ちのいい方ばかり。モノだけではなくやさしさも一緒にもらいました」と妻。

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

夫が棟梁、妻はディレクター、それぞれが得意分野を活かす

夫は電気工事士の資格を持っているうえ、とにかく手先が器用だ。細かいところまでこだわり、なんでもつくってしまう。妻は以前グラフィックデザインの仕事をしていただけに、色やデザインにこだわりがある。妻が大まかなプランやデザインを考えるディレクターのような役割だ。夫がそれを実現していく。

例えばリビングの仕上げは壁紙を貼るのではなく、壁のボードをはがした上で構造材を張り直し、構造材にペイントした。「ペンキなどでテストしてみたら、プライマーと呼ばれる下塗り塗料をスポンジで載せていったものが、味わいがありしっくりきたのでそれをいかすことに」と妻。このほか、廊下からのリビングの入り口の壁には、お手製の猫ドアや古い建具を扱っている道具屋で見つけ出した昭和のガラスが入った飾り窓をはめ込むなど、次々にアイデアをかたちにしていったという。

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

キッチンとリビングの間の棚は、妻がデザインして夫がきっちりカタチにしていく。配線も壁や天井を造作する前に、ベストポジションにスイッチやコンセントをつくりたいという要望に、夫が天井に顔を突っ込んだり、 床に這いつくばったりして、コード類を裏から通して大健闘した。

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

「完成はいつごろの予定?」と聞いたら、「たぶん一生どこかを直し続けそう」との答えが返ってきた。このリノベーションの過程で、妻はもちろん私たちまで、中原氏を「棟梁」と呼んでしまうようになった。物件購入後2年をかけて、毎週末に町田から千葉市までリノベーションに通うというハードな日々を過ごした棟梁からは「リタイア後の住処は、なるべく体力と気力のある早いうちからアクションを起こすことをおすすめします。時間をかけてでも、その工程を楽しんでリノベーションに挑戦してください」と、アドバイスがあった。

実は中原夫妻は再婚同士だ。私がはじめて棟梁を紹介されたのは、1年ほど前に2階の和室の壁塗りを手伝いに来た時だ。年齢を経て知り合うカップルの理想的な姿のような気がした。自分たちならではの住まいをつくる過程で、あうんの呼吸がさらにぴったり合ってきている気がする。これからも少しずつ自分たちの生活に合わせて、住まいをバージョンアップしていくはずだ。理想的な年齢の重ね方ではないだろうか。

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

今は庭にウッドデッキを作成中だそうだ。完成するころには、またお邪魔してデッキでビールを飲ませてもらいたい。

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

予算800万円以内! 60歳からの住まいは2人でリノベーション

「老後資金には1億円が必要」とか「年金に期待するな」とか、最近の日本は年をとるのもたいへんだ。今まで一生懸命に働いてきたのに、リタイア後も頭が痛くなるような話題ばかり。もっと楽しく、自分たちの身の丈に合った暮らしはできないのか。そんなとき、長年の友人が700万円以下で首都圏に一戸建てを手に入れ、自分たちでリノベーションをすると聞いた。ワクワクするようなニュースだ。早速遊びに行った。
現金で払える予算で自分たちの終の棲家を探す

中原夫妻は私と同じで60歳。妻は私がコピーライターとして新人だった時代の少し先輩だ。お互い還暦を迎え、そろそろリタイア後の生活に真剣に取り組む必要がある。「まだまだ元気で仕事も現役だが、ほんとうに体力がなくなる前に自分たちの終の棲家は確保しておきたい」と家探しを始めたのは2015年だった。

そんな2人が手に入れたのは、千葉県千葉市の土気駅から歩ける場所にある築35年超の一戸建てだ。
「町田で賃貸住宅に住んでいましたが、そろそろ自分たちの老後を考えたときに、いつまでも家賃を払い続けるのも不安で、この際家を買おうということに。これからのことを考えたら、自分たちが用意できる現金の範囲で探そうということになりました」と夫。

予算は最大800万円まで。最初は東京より西側の神奈川で探していたが、坂の上で階段がある物件が多い。予算内だと再建築不可(※)といった物件もあった。夫妻ともに海の近くで育っているので、山よりも海の近くが暮らしやすい。そのため今度は千葉県にも足を延ばして探すことにした。

※建て替えや増改築ができない状態。市街化調整区域の土地、建築基準法の接道義務に違反している(4m以上の道路に間口2m以上接していない)土地、あるいは法律の施行以前に建てられた「既存不適格建築物」などが該当する。

「古い団地も見に行きましたが、階段の上り下りがいずれたいへんになりそうで……。やはり庭仕事が好きな私たちには一戸建てが向いていると考えはじめました」と妻。そこで出会ったのが今の住まいだった。予算内に収まる価格と駅からのアプローチがフラットだったのもポイントだった。

「中古の一戸建てを自分たちの手で直しながら住むのもいいかと。古いけれど角地に建っていて開放感があるのと庭があるのも気に入りました」と妻。「供給公社がしっかり建てた物件で、床下も屋根裏も見てみましたがきれいなものでした。途中で白アリ防除もしたということで購入を決めました」と夫。

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした (写真撮影/片山貴博)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした(写真撮影/片山貴博)

購入後に雨漏りを発見、修理をしてくれた大工さんと仲良くなる

2人はまず手描きで図面を起こし、1階部分の和室を洋室に変え、リビングと棚でつなげるようなプランを考えた。当初は1階リビングを完成させて引越したら、住みながら手を入れていく予定だった。

最初につくった手描きのリノベーションの設計図 (写真提供/中原健二氏)

最初につくった手描きのリノベーションの設計図(写真提供/中原健二氏)

ところが契約時に決めていた瑕疵担保責任の期間ぎりぎりの時期に、2階のベランダのジョイント部分から雨が入り込み、柱が1本腐っていたのを発見することになった。交渉した結果、売主が地元の大工さんに工事を頼んで修復してくれることになった。この修復工事が終わらないと、自分たちの工事もできない。

「この大工さんがいい人で、親しくなって、ついでにあれこれと見てくれました。その時、動かしていい柱を教えてもらったので、後の仕事がスムースになりました」。災い転じて福となすとは、まさにこのことだ。

しかも修復工事で壁を開けてみたら、やはり古い戸建てだけに断熱が完璧ではないことに気付いてしまった。夫はがぜん断熱にこだわりはじめ、床下や天井にも断熱材を張り巡らせることになった。

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた (写真提供/中原氏)

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた(写真提供/中原氏)

「モノと一緒にやさしさもいただく」。お金をかけずに材料を入手

リノベーションに必要な材料も実は費用がほとんどかかっていない。妻の口癖である「宝くじ以外は何でも引き寄せる法則」が随所で役に立った。

「ある日、いつもと違う道を歩いていたら、リフォーム会社のお持ち帰りボックスに壁紙がドーンと置いてあるのを発見。さっそく貰って帰りました」。さらに壁紙は友人からも貰うことができた。

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

またリビングのフローリングを無垢板にしたかったけれど、高いのでどうしようかと考えていたら、材木屋が廃棄しようとしていた板を少しずつ分けてもらうことができた。「無垢のフローリング材は、それぞれ規格が違い、サネと呼ばれるジョイント部の高さが違うのでカンナ掛けの加工が必要でした。1本ずつ夫が削って合わせて貼りました。でも色合わせが楽しかったです」

「玄関、廊下、1階の和室の竹のフローリングは、ホームセンターで見切り品になっていたのを買い占めました。お店でちゃんとお金を出して買ったレアケースです」と妻。

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

「某所では昭和20年代の室内ドアと、アメリカンクレイという壁塗り用の土を手に入れました。次はタイルが必要と言っていたら廃業するタイル屋さんとつながりました」とさらに妻の才能は開花する。

驚いたのはジモティの使いこなし術だ。「バスタブも展示品だけど新品を3000円でゲット。さらにレンジフードも新しいのを買っちゃおうかなと考えはじめていたところ、施工業者から新品未使用のものを7000円で手に入れました」。メインの写真で二人がくつろいでいる赤いソファ は4000円。ワイン箱の出物を6個1000円で手に入れ、奥行きを詰めて底と側面の板にフェルトを貼り棚の引き出しに利用したそうだ。手間をかけることをいとわなければ、こだわりのあるインテリアはお金をかけずにそろえることができるという好例だろう。
リビングと洋室の間のパーテーションにした棚は、イケアのものを2個はタダで、1個は1000円ほどでもらい受け、表面にサンダーをかけ荒らしてペイントし、3個1で組み込んだ。
「現場での解体が大変そうだと思っていましたが、受け取先の場所に伺うと、先に解体しておいてくれたうえに、組み立てるために便利なように完璧な合番まで振ってくれていました。ジモティでは庭の植栽も含めて10数件ほどやりとりをしましたがどの方も気持ちのいい方ばかり。モノだけではなくやさしさも一緒にもらいました」と妻。

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

夫が棟梁、妻はディレクター、それぞれが得意分野を活かす

夫は電気工事士の資格を持っているうえ、とにかく手先が器用だ。細かいところまでこだわり、なんでもつくってしまう。妻は以前グラフィックデザインの仕事をしていただけに、色やデザインにこだわりがある。妻が大まかなプランやデザインを考えるディレクターのような役割だ。夫がそれを実現していく。

例えばリビングの仕上げは壁紙を貼るのではなく、壁のボードをはがした上で構造材を張り直し、構造材にペイントした。「ペンキなどでテストしてみたら、プライマーと呼ばれる下塗り塗料をスポンジで載せていったものが、味わいがありしっくりきたのでそれをいかすことに」と妻。このほか、廊下からのリビングの入り口の壁には、お手製の猫ドアや古い建具を扱っている道具屋で見つけ出した昭和のガラスが入った飾り窓をはめ込むなど、次々にアイデアをかたちにしていったという。

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

キッチンとリビングの間の棚は、妻がデザインして夫がきっちりカタチにしていく。配線も壁や天井を造作する前に、ベストポジションにスイッチやコンセントをつくりたいという要望に、夫が天井に顔を突っ込んだり、 床に這いつくばったりして、コード類を裏から通して大健闘した。

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

「完成はいつごろの予定?」と聞いたら、「たぶん一生どこかを直し続けそう」との答えが返ってきた。このリノベーションの過程で、妻はもちろん私たちまで、中原氏を「棟梁」と呼んでしまうようになった。物件購入後2年をかけて、毎週末に町田から千葉市までリノベーションに通うというハードな日々を過ごした棟梁からは「リタイア後の住処は、なるべく体力と気力のある早いうちからアクションを起こすことをおすすめします。時間をかけてでも、その工程を楽しんでリノベーションに挑戦してください」と、アドバイスがあった。

実は中原夫妻は再婚同士だ。私がはじめて棟梁を紹介されたのは、1年ほど前に2階の和室の壁塗りを手伝いに来た時だ。年齢を経て知り合うカップルの理想的な姿のような気がした。自分たちならではの住まいをつくる過程で、あうんの呼吸がさらにぴったり合ってきている気がする。これからも少しずつ自分たちの生活に合わせて、住まいをバージョンアップしていくはずだ。理想的な年齢の重ね方ではないだろうか。

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

今は庭にウッドデッキを作成中だそうだ。完成するころには、またお邪魔してデッキでビールを飲ませてもらいたい。

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

逗子にたたずむ「和モダン」な住まい 季節を楽しむ演出とは?

住宅取材を長年続けてきた筆者が、心底憧れる住まい。それはご近所にある、お庭も素晴らしい入母屋造りの家。愛犬と暮らすSさんの、日常を大切にするライフスタイルにも惹かれています。建物ハードと住まい方ソフトの両面で、和と洋が融合した情緒ある和モダンのお住まいを紹介します。
緑青の銅屋根が美しい、和紙とガラス工芸が彩る住まい

神奈川県逗子市の里山に囲まれた谷戸で、ひときわ目を引く白壁の門構え。
緑青屋根のグリーンと木の濃い茶色が、白壁とのコントラストで美しく映える外観です。

茶色はガレージの折戸、今は閉じて中をギャラリーにリモデル。植栽のドウダンツツジは秋に紅葉して右写真のように鮮やかになる(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

茶色はガレージの折戸、今は閉じて中をギャラリーにリモデル。植栽のドウダンツツジは秋に紅葉して右写真のように鮮やかになる(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

玄関門扉の素晴らしさが、この家への関心を高めます。
よく見る豪邸の威圧的な門でなく、板引戸の渋さが“わびさび”感すら醸し出し、里山の自然に囲まれた街並みに調和しています。

庭の桜を背景にたたずむ門扉。正面の飾りや手前の鉢植えは季節毎に替わり、道ゆく人を楽しませてくれる(写真撮影/片山貴博)

庭の桜を背景にたたずむ門扉。正面の飾りや手前の鉢植えは季節毎に替わり、道ゆく人を楽しませてくれる(写真撮影/片山貴博)

玄関灯は、Sさんが大好きなガラス工芸の蝉(写真撮影/片山貴博)

玄関灯は、Sさんが大好きなガラス工芸の蝉(写真撮影/片山貴博)

取材時は陶器の時計が飾られていたが、お正月飾り(右)やクリスマスリースだけでなく天使の羽などバリエーション豊富(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

取材時は陶器の時計が飾られていたが、お正月飾り(右)やクリスマスリースだけでなく天使の羽などバリエーション豊富(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

門をくぐり、庭石のアプローチを進むと玄関。
こちらも合理的でシンプルで美しい、和のたたずまいには必須、引戸の玄関。

庭の花を愛でながら、自然石のアプローチを進む。木の造作が施されたガラス引戸(写真撮影/片山貴博)

庭の花を愛でながら、自然石のアプローチを進む。木の造作が施されたガラス引戸(写真撮影/片山貴博)

「どうぞ、お上がりください」と、Sさん。廊下の両側は、はめ込みガラスで庭を眺めながら入っていくと
「この扉、素敵でしょ。奈良の古い知人宅を取り壊すときに、もったいないからいただいたのよ」

見事な鶴が描かれた板戸、かなりな年代物のよう。高さや取手をリメイクして、この家で生きのびた幸せな鶴(写真撮影/片山貴博)

見事な鶴が描かれた板戸、かなりな年代物のよう。高さや取手をリメイクして、この家で生きのびた幸せな鶴(写真撮影/片山貴博)

「この貝殻、逗子海岸に犬と散歩に行く度に拾っていたら、こんなたくさんになっちゃった(笑)」
ゴミ拾いのボランティアをしていた所、砂浜で貝が“拾って!”ってSさんに向かって光っているのだそう……。

自分がきれいだと思うものを、好きなガラスの器に飾る。好きなものに囲まれて生活する心地よさを教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

自分がきれいだと思うものを、好きなガラスの器に飾る。好きなものに囲まれて生活する心地よさを教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

今回、顔出しNGのSさんですが、知人が描いたパステル画肖像でご紹介。何と、50歳から始めたフラメンコを踊る姿。
「フラメンコを見たとき、それまでの私は“自分”を生きていなかったことに気づいたの」と、フラメンコダンサーがりりしい眼差しで見栄を切る姿に魅了され習い始めたそうです。

この肖像は筆者(50歳代)と同じ歳のころのSさん。「フラメンコのおかげで足腰が鍛えられました」実は、20歳上の大先輩!(写真撮影/片山貴博)

この肖像は筆者(50歳代)と同じ歳のころのSさん。「フラメンコのおかげで足腰が鍛えられました」実は、20歳上の大先輩!(写真撮影/片山貴博)

廊下から居間へ入ると、庭に面した広縁のある畳10畳の和室が広がっています。
古材を利用した表しの梁は、年季の入った焦茶色。同色の造り付け家具と共に、落ち着いた古民家のような大空間です。

漆喰の壁に、和紙の創作照明が柔らかな光を映す(写真撮影/片山貴博)

漆喰の壁に、和紙の創作照明が柔らかな光を映す(写真撮影/片山貴博)

畳敷にテーブル&チェア、こんな風に和洋折衷のライフスタイルでくつろぐアイデアが満載のお住まいです。

居間の引戸の引手は、「安土桃山時代の形に七宝焼きでつくっていただいたの」(写真撮影/片山貴博)

居間の引戸の引手は、「安土桃山時代の形に七宝焼きでつくっていただいたの」(写真撮影/片山貴博)

こんな細部に伝統工芸のアイデア、宝探しのように見つけるとうれしくなります。

日本的な曖昧さが豊かさをもたらす、広縁のある暮らし

Sさんのお住まいは、約25年前に建てた木造2階建て。

「建てるときに注文したのは、屋根。迎賓館などで見る緑青の銅板屋根にしたかったの。私、色もねグリーンが好きなのよ」

屋根にこだわるなんて、素人考えではなかなか出てこない。Sさんの感性には、いつも驚かされている筆者。
旅先や雑誌などで見たもの感動したことを、自分でやって見るのだそう。

2層になった入母屋屋根の下、すだれは日除けと共に外観デザインのアクセントにもなっている(写真撮影/片山貴博)

2層になった入母屋屋根の下、すだれは日除けと共に外観デザインのアクセントにもなっている(写真撮影/片山貴博)

すだれは外部からの視界を遮る役目も。ちょうど、お向かい2階からの視線を遮ることができます。高い塀を立てずに、緩やかにプライバシーを守る技に脱帽。

外側はガラスサッシ戸、和室側は障子によって囲われた板張りの広縁(ひろえん)。室内との緩衝エリアとなっている広縁は、季節ごとに寒さを遮ったり、涼を運んだり。

Sさんは、その広縁にお気に入りのものを飾っていました。

この日は、珍しいガラス細工が施されたアンティークの噴水(ムラーノ島ヴェネチアングラス)。百合が活けられている花瓶も、やっぱり好きな緑色(写真撮影/片山貴博)

この日は、珍しいガラス細工が施されたアンティークの噴水(ムラーノ島ヴェネチアングラス)。百合が活けられている花瓶も、やっぱり好きな緑色(写真撮影/片山貴博)

こちら側の広縁は、愛犬Doriちゃんの特等席です!

Doriちゃんは、Sさんが保護団体から譲り受けた2代目の愛犬。Sさん宅にもらわれた犬は皆、元気に生まれ変わる(写真撮影/片山貴博)

Doriちゃんは、Sさんが保護団体から譲り受けた2代目の愛犬。Sさん宅にもらわれた犬は皆、元気に生まれ変わる(写真撮影/片山貴博)

庭と居間の間にある広縁は、その面積以上に生活を豊かにしてくれるもののようです。

6月はインテリアも衣替え、季節を感じる住まい方

玄関と広縁からも出られるお庭は、あまりつくり込まずに自然な趣にされています。

奥のほうには近所の子どもが遊べるよう、ブランコと鉄棒も(写真撮影/片山貴博)

奥のほうには近所の子どもが遊べるよう、ブランコと鉄棒も(写真撮影/片山貴博)

取材時、桜やお花の時期とズレてしまったのでSさんの写真をお借りしました。

かれんな“立てば”芍薬、“座れば”牡丹。Sさんのよう! (写真撮影/Sさん)

かれんな“立てば”芍薬、“座れば”牡丹。Sさんのよう! (写真撮影/Sさん)

お庭の花を花器に飾って、二度楽しむ。枝垂れ桜が和の住まいと調和する(写真撮影/Sさん)

お庭の花を花器に飾って、二度楽しむ。枝垂れ桜が和の住まいと調和する(写真撮影/Sさん)

キッチンからは裏庭が望めるよう、大きなフィックス窓。キッチンキャビネットは、やはりグリーン!(写真撮影/片山貴博)

キッチンからは裏庭が望めるよう、大きなフィックス窓。キッチンキャビネットは、やはりグリーン!(写真撮影/片山貴博)

お庭の四季を楽しむと共に、日本住宅の季節感ある伝統的な機能も見せて下さいました。
秋から冬、6月までは内側に障子戸を入れて寒さを防ぎながら、和紙の柔らかい空間で過ごす居間。

「障子の桟(さん)を少なくしたデザインをお願いしたの」、桟の入れ方次第で障子の表情も大きく変わるものだ(写真撮影/片山貴博)

「障子の桟(さん)を少なくしたデザインをお願いしたの」、桟の入れ方次第で障子の表情も大きく変わるものだ(写真撮影/片山貴博)

そして6月になったら、夏障子とも呼ばれる簾戸(すど)に替えるのです(わざわざ替えていただきました!)

Sさん邸の簾戸には萩が使われている。夏は風通し良く、日差しを遮る日本の伝統建具(写真撮影/片山貴博)

Sさん邸の簾戸には萩が使われている。夏は風通し良く、日差しを遮る日本の伝統建具(写真撮影/片山貴博)

そしてもう一つ、すてきなアイデアを拝見。和紙でつくられた四枚仕立ての屏風ですが、両面異なるデザインになっており、季節によって使い分けることができるようになっています。

クローバーが描かれた、淡いブラウン系の片面(写真撮影/片山貴博)

クローバーが描かれた、淡いブラウン系の片面(写真撮影/片山貴博)

もう一面は、アイビーが描かれた水色の屏風。「季節やイベントに合わせて使い分けるの」とSさん(写真撮影/片山貴博)

もう一面は、アイビーが描かれた水色の屏風。「季節やイベントに合わせて使い分けるの」とSさん(写真撮影/片山貴博)

ほかにも、キッチンのドアを暖簾(のれん)に替えるなど、インテリア小物でも季節を楽しむ住まい方を教えてくれました。

“天使が舞い降りる” 好きなものに囲まれると、家がパワースポットに

2階のプライベートゾーンにもご案内いただきました。
「天使がたくさん、居るわよ」と、早速、階段に天女のような絵がお出迎え。

ご友人の画家が描かれた絵、天女はSさんのイメージと重なる(写真撮影/片山貴博)

ご友人の画家が描かれた絵、天女はSさんのイメージと重なる(写真撮影/片山貴博)

「なんだか、天使が集まってくるのよね(笑)」と寝室にも、羽の生えた天使たちの絵が……

折り上げ天井で、空間に豊かさが増す寝室(写真撮影/片山貴博)

折り上げ天井で、空間に豊かさが増す寝室(写真撮影/片山貴博)

その天井には、ヴェネチアンガラスのシャンデリア。やはり!緑色があしらわれたもの(写真撮影/片山貴博)

その天井には、ヴェネチアンガラスのシャンデリア。やはり!緑色があしらわれたもの(写真撮影/片山貴博)

Sさんお気に入りのスペース・デザインは、この暖炉の一角。
「昔、スペインのホテル リッツのロビーで見たとき“これはすてき!”と思ったの」、そのアイデアを取り入れたそう。

部屋の角、三角に暖炉を取り、その上に直角にミラーを天井まで貼ることで、万華鏡のように部屋が映りこみ、ズーと奥まで部屋が広がって見える(写真撮影/片山貴博)

部屋の角、三角に暖炉を取り、その上に直角にミラーを天井まで貼ることで、万華鏡のように部屋が映りこみ、ズーと奥まで部屋が広がって見える(写真撮影/片山貴博)

2階の寝室は、1階の古民家風とは打って変わって洋館の雰囲気になっています。
部屋のドアとバスルームへのドアも、木製の開き戸。

左がバスルームへのドア、右が部屋のドア。対の小窓にも、天使!(写真撮影/片山貴博)

左がバスルームへのドア、右が部屋のドア。対の小窓にも、天使!(写真撮影/片山貴博)

天使とガラスが大好きなSさんがオーダーした、趣のある色彩がすてきなエッチングガラス(写真撮影/片山貴博)

天使とガラスが大好きなSさんがオーダーした、趣のある色彩がすてきなエッチングガラス(写真撮影/片山貴博)

バスルームには、洗面との壁にはめ込まれた大きなエッチングガラス(彫刻ガラス)の作品が!

エッチングガラスのデザインも空飛ぶ天使。洗面室の壁には寝室のシャンデリアと同じヴェネチアンガラスの、ブラケット照明(写真撮影/片山貴博)

エッチングガラスのデザインも空飛ぶ天使。洗面室の壁には寝室のシャンデリアと同じヴェネチアンガラスの、ブラケット照明(写真撮影/片山貴博)

天使が舞う魅惑の寝室空間でお話を聞いていると、何だか時空が歪むような感覚になってしまいました。
「天使にほほ笑まれて、ついつい欲しくなってしまってね(笑)」、好きなものに囲まれたSさんにとってはパワースポットのような家。

ふと、窓から外を見下ろすと……

2階寝室の眼下には、入母屋造りの緑青屋根が重なり、マンサクのピンクの花が広がっていた(写真撮影/片山貴博)

2階寝室の眼下には、入母屋造りの緑青屋根が重なり、マンサクのピンクの花が広がっていた(写真撮影/片山貴博)

この居間で、よく、お友達やご近所さんを招いてホームパーティーをしてくださるSさん邸。
「ボケ防止に、ここでマージャンをしたりね!」と、住生活の楽しみはますます広がっている様子。

テーブルは囲炉裏(いろり)も備え付けられ、冬に使う鉄瓶をつるしてみてくださった(写真撮影/片山貴博)

テーブルは囲炉裏(いろり)も備え付けられ、冬に使う鉄瓶をつるしてみてくださった(写真撮影/片山貴博)

今回じっくりお話を伺って、今まで気づかなかった家の細部に改めて魅了されました。
Sさんの趣味や旅、人との出会いで築いてこられた感性が、この家に集約されていて、住まいは人の鏡なのだと実感する取材でした。

古民家が欲しいと思ったら? 覚えておきたいノウハウを紹介 古民家購入マニュアル(前編)

「古民家を購入して住みたい」と思っても、どこに相談したらよいか分からないという人は少なくないはず。税金、断熱と耐震、補助金なども、新築住宅を購入するときとはちょっと異なる制度・注意点などもありそうです。古民家購入前に知っておきたいノウハウや、実際購入した人の声を前後編でお届けします。前編の今回は、古民家購入のために覚えておきたい基礎知識について、「千葉房総ねっと」代表の武田新さんにお話をうかがいました。
そもそも古民家物件はどうやって探せばいい?

古民家には、明確な定義はありませんが、一般的に伝統的な木造建築工法で昭和初期までに建てられている日本家屋を指すそうです。当然築年数が相当に古く、普通の不動産会社ではなかなか取り扱っていません。

「専門誌を参考にしたり、古民家専門の不動産会社を探すことなどから始めましょう」と武田さんは言います。古民家専門の不動産会社は、インターネットで「古民家 物件」「古民家 購入」といったキーワードで検索すると比較的簡単に見つかりますし、「NPO法人 日本民家再生協会」(http://www.minka.or.jp/index.html)や「(一社)全国古民家再生協会」(http://www.g-cpc.org/)といった団体のホームページから探すのもおすすめだそうです。「建物の構造チェックや古民家建築に詳しい建築士情報など、扱う情報は団体ごとに特徴があるので、さまざまなウェブサイトをチェックするといいでしょう」(武田さん、以下同じ)

ここ数年、のんびり田舎暮らしがしたいというニーズに、インバウンドを狙った需要も高まり、古民家人気が高まっていると話す武田さん。「売買がすぐ決まることも多いので、気に入った物件はすぐに問い合わせましょう」(写真撮影/山口俊介)

ここ数年、のんびり田舎暮らしがしたいというニーズに、インバウンドを狙った需要も高まり、古民家人気が高まっていると話す武田さん。「売買がすぐ決まることも多いので、気に入った物件はすぐに問い合わせましょう」(写真撮影/山口俊介)

それ以外では、移住促進に力を入れている自治体などで広がっている、古民家を含めた空家物件の紹介事業や「空家バンク」などもあります。古民家情報を紹介するイベントなどを行っている自治体もあるので、住みたいエリアの自治体に問い合わせてみるのもひとつの手かもしれません。

「千葉房総ねっと」では、サイト利用者も参加できる「田舎暮らし交流会」を開催。古民家暮らしの先輩たちから直接話を聞くことで、地域の特徴や古民家暮らしを具体的にイメージできる(写真提供/田舎暮らし!千葉房総ねっと)

「千葉房総ねっと」では、サイト利用者も参加できる「田舎暮らし交流会」を開催。古民家暮らしの先輩たちから直接話を聞くことで、地域の特徴や古民家暮らしを具体的にイメージできる(写真提供/田舎暮らし!千葉房総ねっと)

古民家購入は、補助や税金メリットがあるって本当?

住みたいと思えるような古民家物件を見つけたら、次に気になるのが購入にかかるコスト。購入の流れは基本的に中古物件を購入する際と同じですが、実は古民家ならではの税金上のメリットがあります。

「古民家には築70年や100年という物件もざらにあるので、建物自体の価値が低く見積もられ、固定資産税が安いんです。そのほか、不動産取得税も少なくなりやすい。もちろん、物件によりますが、諸費用を抑えて購入できると考えてよいでしょう」

それだけでなく、前述の通り、移住促進事業などで補助金を出している自治体もあるため、購入コストだけでなく、住み始めてからの生活コストも抑えることもできるかもしれません。

ただし、古民家を購入する際には注意しておきたい点がいくつかある、と武田さんは言います。

「古民家は購入後そのまま住めるわけではなく、ほとんどの方が古民家を購入して、リフォーム、リノベーションを行います。その工事費用を見積もっておかなくてはいけません。特に古民家の修繕は熟練職人の力が必要な場合や、同じ部材がなく調達コストが思いのほかかかることもあるので、そうした手間なども考えておきましょう」

また、新築住宅購入の際に利用できる住宅ローン減税については、中古住宅購入と同じ減税制度を受けることができます。ただ、古民家の多くが1981年以前の旧耐震物件のため、制度の条件から外れる物件が多く、「ローン控除はないと考えたほうがよいでしょう」とのことです。

さらに、古民家ならではといえる特徴として「農地付き物件」の取得条件があるのだとか。「農地付き物件とは、文字通り、農地を所有する物件のこと。農地付き物件を取得するには、各自治体が発行する『農家資格」が必要です。就農しない場合は仮登記を行い、権利を保全する必要があります」

【古民家のなかには「農地付き物件」も。農地付き物件を取得するには農家資格が必要になる(写真/PIXTA)

【古民家のなかには「農地付き物件」も。農地付き物件を取得するには農家資格が必要になる(写真/PIXTA)

古民家の「断熱性」「耐震性」は大丈夫?

古い家であればあるほど機能や構造面も気になるところ。特に断熱性や耐震性は、快適で安心・安全な暮らしを送るために知っておきたいポイントですね。

「実は古民家暮らしで一番相談されるのが『寒さ』なんです。古民家暮らしをしている人たちも、集まれば『冬は寒いね~』が合言葉になるほど、正直冬は寒いです。複層ガラスのサッシや床下、天井に断熱材を入れることで断熱性能を上げることはできますが、基本的に古民家は田の字型間取りですべての空間がつながっていることが多く、風通しに優れているのが特徴です。天井まで吹抜けた家も多いので、古民家ならではの空間を活かすなら、断熱材を取り入れられる箇所が少ないんですよね。

そのため、冬は囲炉裏を囲み、かいまきを着て暖を取る人が多いですよ。ただ、庇(ひさし)が大きい分、直射日光をさえぎることができ、土壁など調湿性の高い素材を使っているので、夏は涼しいです。四季を感じながら暮らすのも古民家の魅力なので、せっかく古民家に暮らすなら、そのくらいの割り切りが必要だと思います」

「冬は背中の寒さを少し我慢しながら、囲炉裏を囲んで暖をとりながら団らんするなど、せっかく古民家暮らしなら、その醍醐味を味わってほしいですね」(武田さん)(写真/PIXTA)

「冬は背中の寒さを少し我慢しながら、囲炉裏を囲んで暖をとりながら団らんするなど、せっかく古民家暮らしなら、その醍醐味を味わってほしいですね」(武田さん)(写真/PIXTA)

東北や上越といった豪雪地帯の古民家であれば、防寒力が高いのでは?と聞いてみたところ、「雪が積もりにくい傾斜の屋根を持つなどは見受けられますが、基本的な構造は同じなのであまり差はありませんね」とのこと。寒さを感じながら暮らすのも一興ということです。

しかし、寒さは我慢できても、家が傾いては困ります。耐震性についてはどうでしょうか?

「考え方が真っ二つに分かれるところです。古民家の多くは1981年以前に建てられたいわゆる『旧耐震基準』の物件になります。耐震性担保の目安のひとつとして挙げられる新耐震基準ではありません。ただ、一方で80年も100年もずっと倒壊せず建ってきたという実績もあるんです。日本古来の建築の家は『揺れを逃がす』という特徴があります。ひとたび地震が来ると、自ら揺れることで倒壊せず耐えるものです。

どちらがよいかは専門家でも判断が分かれるところですが、古民家だから耐震性が低いと断じるのは早計だと思います。どうしても不安な場合は、インスペクター(診断士)など専門家に見てもらうのも手ですね」

もちろん金物を使って補強することもできますが、木組みの良さを損なうこともあるので、リノベーションの際に相談してみましょう。

武田さんに教えていただいたとおり、古民家を購入する際は、新築物件を購入するときとは違うポイントがあります。ただ、古民家が欲しいと思ったときに一番重要なことは「住んでから家に手をかけることを楽しめるかどうか」だと武田さんは話します。壁や床がはがれたり、建具の建てつけが悪くなるなど、新築以上に修繕が発生します。自分たちで、生活も家も紡ぎながら暮らす。それが古民家暮らしの醍醐味なんですね。

●取材協力
・田舎暮らし!千葉房総ねっと

「疲れないリビング」とは? リフォームコンクール受賞デザイナーと新進気鋭の建築家に聞いてみた

家の中でみんなが一番長く過ごす場所、LDK。どんな空間をつくったらくつろげる場所になるのか。リフォームをする際の間取りの考え方や光の取り入れ方などを、今注目の2人の専門家、スタイル工房のチーフプランナー鈴木ゆり子さんと、ハンディハウスプロジェクトの中田裕一さんに語ってもらった。
くつろげるLDKにするには、変化に対応できる余白が必要

鈴木 くつろぎの定義は人によって違いますよね。例えば、ソファの上でゴロゴロするのが好きな人もいれば、床に座ってソファに寄りかかる方が落ち着く人もいます。
中田 その意味でも、家を設計するときに、今どんなふうに暮らしているかを理解することは、すごく大切ですね。
鈴木 ご自宅に伺った際に、ご家族の好きなくつろぎスタイルとか、持っている物の量とかいろいろな情報を受け取っています。ただ、くつろぎ方は時間とともに変わっていく部分もあるので、私はリフォームで100%つくり込まなくていいと思っています。全部を決め込むと暮らしが窮屈になるので、余白を残して暮らす人に季節や時代で変えてもらえたらいいですよね。
中田 そうですね。例えば夫婦2人の間は、家族が一番長く過ごすLDKを最大限にして、子どもの成長や家族構成の変化に合わせて、1LDKや2LDKに仕切っていくこともありですよね。安らげる場所があれば、そこがその人にとってのリビングになるのだと思います。

鈴木さんが手掛けた事例。光を入れるためにLDKを2階に移動。間仕切り壁を全て外し、ダイニングは勾配天井にして縦横に広がる空間にした。断熱施工をして家全体の居心地の良さもアップ(画像提供/スタイル工房)

鈴木さんが手掛けた事例。光を入れるためにLDKを2階に移動。間仕切り壁を全て外し、ダイニングは勾配天井にして縦横に広がる空間にした。断熱施工をして家全体の居心地の良さもアップ(画像提供/スタイル工房)

収納のつくり方と配置で他者の目線を気にせず憩える空間に

中田 居心地よく暮らすためには、目線への配慮も大切ですね。LDKにも収納や物を隠せるスペースはあった方が、見た目がうるさくならないからホッとできます。
鈴木 特にキッチンは物が多く煩雑に見えがちですものね。
中田 僕はパントリーをつくるときに、リビングから見えない場所に配置できないかを考えるようにしています。
鈴木 私も大型家電などはリビングの視線から外すようにしています。余計な物を視界に入れないこともくつろぎ空間の要件の一つです。
中田 そういう普遍的な部分は、プロとしてきちんと考え、伝えていきたいですね。

中田さんが手掛けた事例。オープンなダイニングキッチンはコンロを背面に配置。リビングから見えない位置にパントリーや冷蔵庫を配置することで、視界がスッキリとして、くつろぎの邪魔をしない(画像提供/ハンディハウスプロジェクト)

中田さんが手掛けた事例。オープンなダイニングキッチンはコンロを背面に配置。リビングから見えない位置にパントリーや冷蔵庫を配置することで、視界がスッキリとして、くつろぎの邪魔をしない(画像提供/ハンディハウスプロジェクト)

自分たちの好みを反映した内装で落ち着く場をつくる

鈴木 仕上げ(内装)は完成形を想像しやすいですし、お施主様の好みを活かすことで、自分らしくいられる空間になりますよね。
中田 素材もテイストもさまざまな物があるので、自分たちの好きな物を選んでほしいですね。その方が住まいへの愛着も増して、和める空間になる。以前の住まいの古材を使って、歴史を継承できることもリフォームの魅力です。
鈴木 古い物の良さと、新しい部材や設備の性能の良さの両方が共存できますからね。
中田 性能という点では、僕は断熱リフォームをきちんとすることをお薦めしています。家の中でゆったり過ごすために、断熱性は重要なファクターですから。
鈴木 心地のいい明るさも大切です。ガラスを間仕切り壁に入れたり、ガラスブロックを使ったりすることで、奥の部屋や廊下にも光や風を取り入れることができます。
中田 くつろぎ空間には採光や通風、断熱性などのハード面と、自分たちらしく過ごせる間取りや人の目線を気にしなくていい収納などのソフト面があるということですね。

リフォームでくつろぎ空間をつくるには「余白」「目線への配慮」「好みの内装」を重視すると良いことが分かりました。みなさんもこれを参考に、くつろぎ空間を手にいれてくださいね。

文/中城邦子

●取材協力
・鈴木ゆり子 
スタイル工房チーフプランナー。大学卒業後、設計事務所勤務などを経て現職。施主と一緒に楽しみながらつくることを信条とし、リフォームコンクールで多くの受賞歴をもつ
・中田裕一 
ハンディハウスプロジェクト主宰。大学卒業後、設計・施工会社に勤務。中田製作所を設立し、2011年より施主にも参加してもらうことで愛着のある家づくりを進める同プロジェクトを始動

ミラノサローネ2018リポート!キッチンもインスタレーションも“JAPANESE”が注目の的

今年で57回目を迎える【ミラノサローネ国際家具見本市/Salone del Mobile.Milano (以下、ミラノサローネ) 】は1841社の企業が出展し、4月17日―22日に開催。6日間で188カ国以上から43万4509人と、過去最高の来場者数を記録した(前年比 26%増。隔年開催のキッチン・バス見本市2016年比17 %増)。同時開催される街中イベント(【Fuorisalone(フォーリサローネ)】1372イベント)は、基本無料の公開なので子どもから大人までさらに多くの参加者でにぎわった。
例年以上に暑い日が続いたミラノの現地取材。人山をかき分けながら撮った筆者の写真を交え、隔年開催のキッチン見本市などをレポートします!
前夜祭から圧倒!街全体がインテリア・デザインに染まる

史上最高の来場者数となったミラノサローネ。同イベントのプレジデント、クラウディオ・ルーティ氏は
「産業と行政が協力し合い、文化と企業がイタリアを牽引し、唯一無二のイベントを生み出している」と、イタリア家具業界と、ミラノ市など自治体行政との友好な関係性を成功の秘訣に挙げた。

ミラノ市長ジュゼッペ・サラ氏(左から4番目)とミラノサローネ社長クラウディオ・ルーティ氏(同5番目)。市内中心地の王宮前に建てられた特別企画展示『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』のオープニング・テープカットの様子(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長ジュゼッペ・サラ氏(左から4番目)とミラノサローネ社長クラウディオ・ルーティ氏(同5番目)。市内中心地の王宮前に建てられた特別企画展示『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』のオープニング・テープカットの様子(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』展は、建築家のカルロ・ラッティによる500平米のガーデンパビリオン。春・夏・秋・冬4つのゾーンに分けて、その気候を再現。夏の日差しや冬の寒さを、太陽光発電エネルギーによって生成し、ゾーン間で熱交換を制御した。「クリーンエネルギーによって、どのように自然を都市に戻すことができるか」に挑戦する企画展示だ。

春のゾーンには桜が咲き、冬のゾーンではヒマラヤ杉に雪が積もる。秋は「霧のミラノ」の情景だったが……うまく写真を撮れなかった!23種類の樹木や植物をイタリア家具と共に展示(写真撮影/藤井繁子)

春のゾーンには桜が咲き、冬のゾーンではヒマラヤ杉に雪が積もる。秋は「霧のミラノ」の情景だったが……うまく写真を撮れなかった!23種類の樹木や植物をイタリア家具と共に展示(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』パビリオンがあるのは、大聖堂ドゥオモと右の王宮の間の広場(写真撮影/藤井繁子)

『リビングネイチャー/ La natura dell’abitare』パビリオンがあるのは、大聖堂ドゥオモと右の王宮の間の広場(写真撮影/藤井繁子)

その後、ミラノ王宮で行われたミラノサローネ前夜祭ガラ・ディナーに筆者も出席。

素晴らしいクラッシックな大広間の天井に繰り広げられたのは、四季をテーマにしたプロジェクションマッピング。「Spettacolo(スペクタクル)!」(写真撮影/藤井繁子)

素晴らしいクラッシックな大広間の天井に繰り広げられたのは、四季をテーマにしたプロジェクションマッピング。「Spettacolo(スペクタクル)!」(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネのプレス、国際担当のヴェントゥーラ女史(左)と日本担当の山本幸さん(右)と共に。右写真の椅子はKartell(カルテル)社の『マスターズ』(フィリップ・スタルク)(写真撮影/筆者友人)

ミラノサローネのプレス、国際担当のヴェントゥーラ女史(左)と日本担当の山本幸さん(右)と共に。右写真の椅子はKartell(カルテル)社の『マスターズ』(フィリップ・スタルク)(写真撮影/筆者友人)

こんな風に前夜祭パーティーから、インテリアの祭典らしく完璧な演出!翌日からの見本市会場オープンへ、期待が高まっていく。

キッチン見本市【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】ガラス・ショーケースが印象的

ミラノサローネではメインの家具に加え、キッチン・バスと照明・オフィスの見本市が隔年で開催される。今年はキッチン・バス見本市の年、来場者数は照明の年より多くなるのが常だ。

【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】には世界から111社が出展。【FTK】と呼ばれる設備機器メーカー47社の見本市も併催(写真撮影/藤井繁子)

【EuroCucina(ユーロクッチーナ)】には世界から111社が出展。【FTK】と呼ばれる設備機器メーカー47社の見本市も併催(写真撮影/藤井繁子)

キッチンパビリオンは朝からどこも大にぎわい。直ぐに行列ができて入場制限するブースも。
Scavolini(スカヴォリーニ)社は、ファッションブランド『Diesel(ディーゼル)』とコラボしたキッチンや日本の『nendo(ネンド)』がデザインしたキッチンなど話題が多いキッチン&バス・メーカー。
今年はイタリア人ミシュランスターシェフのCarlo Cracco(カルロ・クラッコ)がデザインしたキッチン『MIA』を発表。

プロフェッショナル志向のユーザーが好むステンレス仕上げ。シンプルデザインのなかにクラッコ・シェフが提案する気の利いた機能が、アイランド本体だけでなく、壁面のオープンシェルフや収納にも盛り込まれていた(写真撮影/藤井繁子)

プロフェッショナル志向のユーザーが好むステンレス仕上げ。シンプルデザインのなかにクラッコ・シェフが提案する気の利いた機能が、アイランド本体だけでなく、壁面のオープンシェルフや収納にも盛り込まれていた(写真撮影/藤井繁子)

例えば、こちらは収納を引き出すと、ちょっとしたものがカットできるまな板がビルトイン。横から包丁収納が引き出せ、カットした野菜ゴミなどがサッと捨てられる穴があいている(下がゴミ箱収納)。

確かに、生ゴミを捨てる穴は便利!でも、引き出しでなくカウンターに付いているほうが有難いかな……(写真撮影/藤井繁子)

確かに、生ゴミを捨てる穴は便利!でも、引き出しでなくカウンターに付いているほうが有難いかな……(写真撮影/藤井繁子)

今年、キッチンを見て回ったなかで印象的だったのが、ガラス・キャビネット。
キッチンにこだわる人は、食器だけでなくキッチン家電などもデザインの良いものを選ぶので
見せる収納として扉をガラスにするキッチンキャビネットが増えていた。
単にオープンシェルフ化するより、収納しながらもライティングでショーケースのように美しく飾る。

Scavolini社クラッコ・シェフの提案は、一部をガラス・ショーケースにして魅せる。収納の中には電源も(写真撮影/藤井繁子)

Scavolini社クラッコ・シェフの提案は、一部をガラス・ショーケースにして魅せる。収納の中には電源も(写真撮影/藤井繁子)

Dada(ダーダ)社は家具ブランドMolteni&C(モルテーニ)社のグループ、洗練されたデザインのガラスキャビネットはモルテーニ社の得意な分野。

Molteni&C社との家具パビリオンで展示されたDada社のキッチン。両者のアートディレクターであるVincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥィセン)がブース全体を家として構成し美しくまとめ上げた(写真撮影/藤井繁子)

Molteni&C社との家具パビリオンで展示されたDada社のキッチン。両者のアートディレクターであるVincent Van Duysen(ヴィンセント・ヴァン・ドゥィセン)がブース全体を家として構成し美しくまとめ上げた(写真撮影/藤井繁子)

【EuroCucina】会場でもDada社のキッチンは複数展示されていたが、やはり魅力的だったのはガラス使い。
レンジフードも、ゴールドメタルを挟んだガラスで囲んだデザイン。遠目に見るとメタルなのに、レースのような質感がきれいだった。

Dada社デザインの新作ガラス・キャビネット。ファッションブランド『アルマーニ』のキッチンもDada社製だが、今回新作は無かった(写真撮影/藤井繁子)

Dada社デザインの新作ガラス・キャビネット。ファッションブランド『アルマーニ』のキッチンもDada社製だが、今回新作は無かった(写真撮影/藤井繁子)

設備メーカーからも、ショーケース的に見せる収納を発見。
「ワインセラーの中に、コレクションで一番見せたいボトルを飾るラックをつくりました。スポットライトのような照明で演出します」(GAGGENAU(ガゲナウ)社)

ドイツGAGGENAU社の新製品、ビルトイン冷蔵庫やオーブンと並びで構成されるシステム。吸い込まれるようにフォーカスされる2本の高級シャンパン(写真撮影/藤井繁子)

ドイツGAGGENAU社の新製品、ビルトイン冷蔵庫やオーブンと並びで構成されるシステム。吸い込まれるようにフォーカスされる2本の高級シャンパン(写真撮影/藤井繁子)

世界の中で注目を浴びたのは、日本企業のキッチン展示!

今年サローネ開催前から話題に上がっていたのは、イタリアのキッチン&バス・デザインをリードするBoffi(ボッフィ)社の27年ぶりの出展だった。傘下の家具ブランド、De Padova(デ・パドバ)社・ MA/U Studio社と合同で家具パビリオンに登場。

Boffi社の新作『COMBINE(コンビン)』(Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)デザイン)(写真撮影/藤井繁子)

Boffi社の新作『COMBINE(コンビン)』(Piero Lissoni(ピエロ・リッソーニ)デザイン)(写真撮影/藤井繁子)

『COMBINE』その名のとおり、“組み合わせる”ことが自由にできるシステム。
単体ではコンパクトキッチンに、2つ並べるとI型キッチン、こんな風にZ型に組み合わせて可動式のテーブルも合わせるなど、スペースに合わせてデザインできる。
カウンタートップの高さがそれぞれ違うので、組み合わせるとリズム感のあるデザインに。

キッチン扉材は石・木など形状・素材バリエーションを豊富に用意、テーブルなど組み合わせアイテムもそろう(写真では正方形テーブルを、少し動かして離してみてくれた)(写真撮影/藤井繁子)

キッチン扉材は石・木など形状・素材バリエーションを豊富に用意、テーブルなど組み合わせアイテムもそろう(写真では正方形テーブルを、少し動かして離してみてくれた)(写真撮影/藤井繁子)

キッチンで最後に紹介したいのが、【ミラノサローネ・アワード/Salone del Mobile.Milano Award】を受賞した日本のサンワカンパニー社。
この賞は展示商品だけでなく、その展示空間・コンセプトなどを総合的に審査し、最も優れた出展社を表彰するもの。今年は見本市会場に出展した1841社のなかから、サンワカンパニーとCC-tapis(CC-タピス)、Magis(マジス)の3社が選出された。

角地で目立つロケーション、ひときわシンプルで“間”が取られた空間は“ZEN(禅)”を彷彿とさせ、いかにも日本的な美しさの展示だった(広さ320平米)。審査員からは「混雑する会場の中で、オアシスのような場を提供」「空間が製品を引き立たせ、ストーリー性をもっている」と評価された(写真撮影/藤井繁子)

角地で目立つロケーション、ひときわシンプルで“間”が取られた空間は“ZEN(禅)”を彷彿とさせ、いかにも日本的な美しさの展示だった(広さ320平米)。審査員からは「混雑する会場の中で、オアシスのような場を提供」「空間が製品を引き立たせ、ストーリー性をもっている」と評価された(写真撮影/藤井繁子)

サンワカンパニーは前回に続き2度目の出展。前回評価が高かったコンパクトキッチンに絞って、サンワカンパニーのデザインコンセプトである『ミニマリズム』を8種の新作で体現した。

『PATTINA COMPACT』キッチンを演出するのは、イタリア・Davide Groppi(ダビデ・グロッピ)の照明(写真撮影/藤井繁子)

『PATTINA COMPACT』キッチンを演出するのは、イタリア・Davide Groppi(ダビデ・グロッピ)の照明(写真撮影/藤井繁子)

今年、イタリアデザインの巨匠であるAlessandro Mendini(アレッサンドロ・メンディーニ)事務所によるキッチン『AM01』も発表したサンワカンパニー。そのメンディーニ氏も審査にかかわったコンテスト【サンワカンパニーデザインアワード2016】最優秀賞のデザインも製品化して展示した。

『AC01』受賞者のデザイン事務所YutoRieの伊藤優理恵さん。「テーブルにもなるキッチンカウンターは高さが調節でき、車椅子でも利用できるデザインです」(写真撮影/藤井繁子)

『AC01』受賞者のデザイン事務所YutoRieの伊藤優理恵さん。「テーブルにもなるキッチンカウンターは高さが調節でき、車椅子でも利用できるデザインです」(写真撮影/藤井繁子)

このように日本的なシンプルで、気配りのあるデザインがミラノサローネ・アワードの受賞につながったようだ。

昨年からのパステル・ナチュラル系に、プリントがアクセントなカラートレンド

広大な見本市会場の中、モダン・デザインの人気パビリオンを回って今年目についたのは、植物系などのプリントデザイン。

クッションに一つ、アクセント使い。これは刺繍も入って素敵@Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)(写真撮影/藤井繁子)

クッションに一つ、アクセント使い。これは刺繍も入って素敵@Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)(写真撮影/藤井繁子)

ファッションブランドの家具では、プリント柄がより大胆に!
今年、Kartell(カルテル)では、J.J.マーティンが手がけるミラネーゼに人気のファッション『La Double J(ラ・ダブル・ジェイ)』とのスペシャル・コラボレーションが誕生した。『La Double J』のヴィンテージ・プリントで彩られたKartellのプロダクトが新鮮。
Moroso(モローゾ)から出ている『Diesel』(ディーゼル)の家具は、アパレルのイメージ同様アバンギャルドなデザイン。ここでも珍しく、緑のプリント柄がソファに使われていた。

(左) @『La Double J』by Kartell  (右)@『Diesel』by Moroso(写真撮影/藤井繁子)

(左) @『La Double J』by Kartell (右)@『Diesel』by Moroso(写真撮影/藤井繁子)

キッチン見本市開催年なので、家具パビリオンでもダイニングテーブルに注目して回っていたら……
無垢木を扱わせたら世界一のRiva1920(リーヴァ)で、こんな面白いテーブルに遭遇!

テーブルの脚が、バレリーナの足!? Fabio Novembre(ファビオ・ノベンブレ)デザイン@Riva1920(写真撮影/藤井繁子)

テーブルの脚が、バレリーナの足!? Fabio Novembre(ファビオ・ノベンブレ)デザイン@Riva1920(写真撮影/藤井繁子)

家具ブランドで今年は、何と言ってもMinotti(ミノッティ)の70周年に合わせた新デザイナーの起用が話題をさらった。
新しく迎えたデザイナー3人のうちの1人がなんと、日本のデザインオフィス、佐藤オオキのnendo(ネンド)。意外な抜擢に、業界関係者もプロダクトを見るのを楽しみにしていた。

nendoによる『TAPE』(ソファ&チェアのシリーズ、写真右のようにテープで止めたようなデザイン。皮テープのバージョンもある)『RING』『WAVES』(テーブルのシリーズ)(写真撮影/藤井繁子)

nendoによる『TAPE』(ソファ&チェアのシリーズ、写真右のようにテープで止めたようなデザイン。皮テープのバージョンもある)『RING』『WAVES』(テーブルのシリーズ)(写真撮影/藤井繁子)

期待を裏切らないデザインで新境地を開拓したnendo。市内トルトナ地区では、日本企業7社とコラボした個展「forms of movement」を行うなど今年も精力的なnendoのミラノサローネだ。

このほか、街中イベント【Fuorisalone】1372イベントのなかから表彰される【Milano Design Award 2018】(5部門賞)にも、「Best Playfulness Award」にSONYの “Hidden Senses” 、「Best Technology Award」にPanasonicの “Transitions” が選出されるなど、Milan Design Week全体でのJapanese Designの存在感が目立った年だった。

歩き回って疲労困憊(こんぱい)の筆者。ジェラートで一服……太陽の日差しと街中人の熱気で、ジェラートも溶けそう!

歩き回って疲労困憊(こんぱい)の筆者。ジェラートで一服……太陽の日差しと街中人の熱気で、ジェラートも溶けそう!

次回ミラノサローネは、隔年開催の照明見本市EuroLuce(ユーロルーチェ)とWorkplace 3.0(オフィス家具)と共に2019 年4月9日(火)~14日(日) 開催予定。インテリア好きの皆様、刺激と感動を求めてミラノサローネへ来年出かけてみてはいかがでしょう!

●参考
・ミラノサローネ国際家具見本市日本公式サイト

トーヨーキッチンスタイル会長のセカンド・リビングがここに!? あの人のお宅拝見[8]番外編

今回お訪ねしたのは、デザイン・コンシャスな人に人気のブランド、トーヨーキッチンスタイルの渡辺会長。名古屋のご自宅ではなく番外編、「THE HOUSE」と呼ばれる名古屋ショールームのプライベートゾーン「THE ROOM」をご案内いただくことになった。その独自の世界観に彩られた空間で、驚きの“私物”コレクションも拝見しながら、渡辺さんのキッチン・デザインへの想いを伺った。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「天空のショールーム THE HOUSE」にある秘密の扉

名古屋市名東区一社にあるトーヨーキッチンスタイルの本社ショールームは、2014年創立80周年に合わせて増築されたもので既にランドマーク的な建築となっている。

何と取材2日前に、社長交代&会長就任の発表を行った渡辺さん。前日も東京での発表会、お疲れにもかかわらずお出迎えいただいた。

右の白い建物が増築部分。空に突き出すキューブが印象的な建築デザインは、本連載で自邸を取材した橋本夕紀夫氏(写真撮影/糠澤武敏)

右の白い建物が増築部分。空に突き出すキューブが印象的な建築デザインは、本連載で自邸を取材した橋本夕紀夫氏(写真撮影/糠澤武敏)

「いらっしゃい、どうぞ」。お宅では無いものの、渡辺さんにとっては自邸のようなものだ(写真撮影/糠澤武敏)

「いらっしゃい、どうぞ」。お宅では無いものの、渡辺さんにとっては自邸のようなものだ(写真撮影/糠澤武敏)

ちなみに、私は社長交代に驚いたのだが……「70歳、区切りも良い。社内では前から話しているから」と、発表直後にもかかわらずサラっとしている。

元気なうちに確実に継承するという、創業家オーナーだからこその潔い決断。やはり、サラリーマン社長との違いを感じる。

ショールームに入ると、いきなり『FREDERIQUE MORREL(フレデリック・モレル/フランス)』の実物大お馬さんに驚かされ、背後にはパワーストーンのシャンデリア。「あのシャンデリアの下に行くと浄化されるらしいよ(笑)」(写真撮影/糠澤武敏)

ショールームに入ると、いきなり『FREDERIQUE MORREL(フレデリック・モレル/フランス)』の実物大お馬さんに驚かされ、背後にはパワーストーンのシャンデリア。「あのシャンデリアの下に行くと浄化されるらしいよ(笑)」(写真撮影/糠澤武敏)

そしてエレベーターで5階に上がり、『Moooi(モーイ/オランダ)』のファニチャー&照明が展示されてある奥の壁へ……。

壁かと思ったら、「開け、ゴマ」!? 大きな自動ドアがスライドし……渡辺さんがプライベートゾーンに案内してくれた(写真撮影/糠澤武敏)

壁かと思ったら、「開け、ゴマ」!? 大きな自動ドアがスライドし……渡辺さんがプライベートゾーンに案内してくれた(写真撮影/糠澤武敏)

暗い扉の向こうは、眩い白の空間へと一転。この演出に「うわー!」と声を上げてしまうほどハマった私。ここが、招待されたお客様だけが入れる特別な部屋「THE ROOM」。

壁床一面を『SICIS(シチス/イタリア)』のモザイクタイルで覆い、『edra(エドラ/イタリア)』のチェアもスワロフスキー・バージョンで光り輝く。後ろのサボテンは『Gufram(グフラム/イタリア)』のコートハンガー(写真撮影/糠澤武敏)

壁床一面を『SICIS(シチス/イタリア)』のモザイクタイルで覆い、『edra(エドラ/イタリア)』のチェアもスワロフスキー・バージョンで光り輝く。後ろのサボテンは『Gufram(グフラム/イタリア)』のコートハンガー(写真撮影/糠澤武敏)

外観から見えた突き出したキューブに、お気に入りのコレクションが飾られている(写真撮影/糠澤武敏)

外観から見えた突き出したキューブに、お気に入りのコレクションが飾られている(写真撮影/糠澤武敏)

「THE ROOM」の中心に置かれた、大きなガラステーブルでお話を伺うことにした。

ガラステーブルと後ろにあるキッチンカウンター、壁のミラーと共に楕円の有機的なデザインが、未来的な空間に柔らかさを添える(写真撮影/糠澤武敏)

ガラステーブルと後ろにあるキッチンカウンター、壁のミラーと共に楕円の有機的なデザインが、未来的な空間に柔らかさを添える(写真撮影/糠澤武敏)

「キッチンに住む」から「『住む』をエンターテインメント」へ、時代を読む感性

「ここをつくるときも、皆をビックリさせたかった。昔から、あんまり常識的なことはしたく無いんだ」と、先代のお父様から27年前に会社を継がれ、ドラスティックに新事業を推進して来られた渡辺さんの集大成のような場所。

こちらが先代の渡辺三郎社長、「銅像にするより、モザイクタイル画のほうがオシャレでしょ」。SICISのモザイクタイルで写真から製作する商品@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

こちらが先代の渡辺三郎社長、「銅像にするより、モザイクタイル画のほうがオシャレでしょ」。SICISのモザイクタイルで写真から製作する商品@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

「30年前の日本では、キッチンなんてどこも同じようなものしか無かった。建材・設備は問屋などの流通ありきのビジネスで、エンドユーザーから遠かったからね」

後に青山というオシャレ感度の高いファッションの街にショールームを出した、初のキッチン・インテリア会社となる。エンドユーザーに直接評価されたいという想いからだ。

「20代で会社に入ったころ、まだ先先代からの番頭さんたちも居て自分の居場所は無かった」と、当時を振り返る(写真撮影/糠澤武敏)

「20代で会社に入ったころ、まだ先先代からの番頭さんたちも居て自分の居場所は無かった」と、当時を振り返る(写真撮影/糠澤武敏)

「それを良いことに、ヨーロッパをプラプラ放浪していたんだけど、北欧からフランス、イタリアとキッチンや暮らしを見て回った経験が今につながってる」

特に、イタリアで見たキッチン・デザインや、家族が一緒に料理をして楽しんでいるそのライフスタイルに共感を覚えたそう。ミラノ事務所をつくって、イタリアキッチンや暮らしの研究が始まった。

10年以上前に打ち出された「キッチンに住む」というコンセプトも、家族の暮らしの中心がキッチンであるべきというライフスタイルの提案。それを実現するのが、日本で初の”アイランドキッチン”という形だった。

アイランドキッチンの挑戦。2004年にはイタリアの展示会アビターレ・イル・テンポで、オールハンドメイドによるステンレスキッチン「ISOLA.S」(伊藤節氏・伊藤志信氏デザイン)を発表@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

アイランドキッチンの挑戦。2004年にはイタリアの展示会アビターレ・イル・テンポで、オールハンドメイドによるステンレスキッチン「ISOLA.S」(伊藤節氏・伊藤志信氏デザイン)を発表@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

このキッチン「ISOLA.S」が世界の注目を浴びたことによって、ドイツの世界的デザイン賞iFデザイン賞の審査員を務めることにもなったのだそう!

キッチン・デザインをリードしてきた創立80周年の2014年には、「『住む』をエンターテインメント」という新たなコンセプトを打ち出した。

料理という作業を友達や家族と一緒に楽しみながら行い、食事や生活を愉しむというライフスタイル。「住空間、暮らし自体をエンターテインメントにしたい」――昔渡辺さんが見た、イタリアの豊かな生活が日本にも広がりつつあるようだ。

提案をキッチンからリビング、バス・サニタリーまで空間を広げ、『Kartell(カルテル/イタリア)』『moooi(モーイ/オランダ)』という有名家具ブランドの日本代理店として家具を本格的に販売。トータルコーディネートできる体制を整えた。
トーヨーキッチンスタイルと、社名に”スタイル”を入れた想いが社員やお客さんにも伝わってゆく。

「THE ROOM」の椅子、よく見るとトーヨーキッチンスタイルの会社ロゴがモチーフになっている!(写真撮影/糠澤武敏)

「THE ROOM」の椅子、よく見るとトーヨーキッチンスタイルの会社ロゴがモチーフになっている!(写真撮影/糠澤武敏)

お宝が続々! 世界を回って集めたインテリア・コレクション拝見

この「THE ROOM」には、渡辺さんお気に入りのコレクションの数々が収蔵、キューブのショーケースに飾られている。
残念ながら、著作権に触れそうなキャラクターの写真はお見せできませんが……。

1階の馬と同じブランド『FREDERIQUE MORREL』の希少な特注アームチェアが、特等席に鎮座。

ニードルポイント刺繍のフランス人アーティスト、フレデリックさんが家具はつくらないと言うところを「頼み込んでやっとつくってもらったんだ、彼女の家にも行ったよ」ファンが聞いたら卒倒しそうな話(写真撮影/糠澤武敏)

ニードルポイント刺繍のフランス人アーティスト、フレデリックさんが家具はつくらないと言うところを「頼み込んでやっとつくってもらったんだ、彼女の家にも行ったよ」ファンが聞いたら卒倒しそうな話(写真撮影/糠澤武敏)

こちらは、オランダのStudio Job(スタジオ・ヨブ)がデザインしたキャビネット(moooi社)。

『GLOBE』(世界限定50台)という作品名のとおり、真ん中は地球儀(写真は太平洋しか写って無いけど)。“世界を旅する人がお土産を収納するために”とデザインされた作品。渡辺さんにピッタリ(写真撮影/糠澤武敏)

『GLOBE』(世界限定50台)という作品名のとおり、真ん中は地球儀(写真は太平洋しか写って無いけど)。“世界を旅する人がお土産を収納するために”とデザインされた作品。渡辺さんにピッタリ(写真撮影/糠澤武敏)

そして驚かされたのは、その中に入っていたお品……。
世界的建築家フランク・ゲーリーがデザインしたルイ・ヴィトンのバッグが出てきた!

パリのルイ・ヴィトン財団美術館を設計したフランク・ゲーリー、バッグまでデザインしたんだ!? 超驚き。「使わないけど、面白くって欲しくなるんだよね」建築つながりなので、その気持ち分かります(写真撮影/糠澤武敏)

パリのルイ・ヴィトン財団美術館を設計したフランク・ゲーリー、バッグまでデザインしたんだ!? 超驚き。「使わないけど、面白くって欲しくなるんだよね」建築つながりなので、その気持ち分かります(写真撮影/糠澤武敏)

そして圧巻は、チェコのボヘミアンクリスタルブランド『BOREK SIPEK(ボジェック・シーペック)』のベンチ。日本の天皇陛下にも作品が献上された、チェコを代表する工芸品。

「座ってみてよ」と、渡辺さんに勧められ……

ボヘミアンクリスタルガラスの椅子、これも当然一点物。価値の分からない私ですが、なんだかお尻が緊張!(写真撮影/糠澤武敏)

ボヘミアンクリスタルガラスの椅子、これも当然一点物。価値の分からない私ですが、なんだかお尻が緊張!(写真撮影/糠澤武敏)

このほか、誰でも入れるショールームのギャラリーにも必見のコレクションが並ぶ。

『MEMPHIS (メンフィス)』エットーレ・ソットサス作品のオリジナル@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

『MEMPHIS (メンフィス)』エットーレ・ソットサス作品のオリジナル@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

芸術家たちがデザインした椅子も。サルバドール・ダリ(左)とアントニ・ガウディ(右)の椅子@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

芸術家たちがデザインした椅子も。サルバドール・ダリ(左)とアントニ・ガウディ(右)の椅子@ショールーム(写真撮影/糠澤武敏)

アートとプロダクトの間に存在するものが集められ、次の100年に向けた渡辺会長の構想が詰まったショールームになっています。

天空に、秘密の花園が出現?

渡辺さんの秘蔵コレクションに圧倒されたところで
「じゃ、ちょっと上にも行ってみようよ」と、エレベーターで「THE HOUSE」の最上階へ。
降りた床にモザイクタイルで書かれた「JARDIN SECRET(ジャルダン・スクレ)」、フランス語で“秘密の花園”。

「JARDIN SECRET(ジャルダン・スクレ)」命名したのは、フランス語も堪能な渡辺会長のお嬢様(トーヨーキッチンスタイル取締役)(写真撮影/糠澤武敏)

「JARDIN SECRET(ジャルダン・スクレ)」命名したのは、フランス語も堪能な渡辺会長のお嬢様(トーヨーキッチンスタイル取締役)(写真撮影/糠澤武敏)

そこは、屋上庭園。ガラスウォールで囲まれた気持ちの良いアウトドア空間になっていた。

床はSICIS社の大理石のモザイクが敷きつめられ、冬場暖をとるヒーターも完備。BBQをして愉しんだりもするそう(写真撮影/糠澤武敏)

床はSICIS社の大理石のモザイクが敷きつめられ、冬場暖をとるヒーターも完備。BBQをして愉しんだりもするそう(写真撮影/糠澤武敏)

庭の中央には井戸。植栽や鉢の選定は渡辺夫人がご担当。フルーツ系・ハーブ系のゾーンに分かれている(写真撮影/糠澤武敏)

庭の中央には井戸。植栽や鉢の選定は渡辺夫人がご担当。フルーツ系・ハーブ系のゾーンに分かれている(写真撮影/糠澤武敏)

「この木は花の一つひとつがLED照明になっていて、夜に光の花がたくさん咲くよ」、『花鳥風月』という名のトーヨーキッチンスタイルの照明商品(写真撮影/糠澤武敏)

「この木は花の一つひとつがLED照明になっていて、夜に光の花がたくさん咲くよ」、『花鳥風月』という名のトーヨーキッチンスタイルの照明商品(写真撮影/糠澤武敏)

ここでも、驚きの渡辺コレクション発見!

イタリアデザイン界の巨匠、Gio Ponti(ジオ・ポンティ)作の噴水。顔が描かれ、青い部分が口で噴水になっている(写真撮影/糠澤武敏)

イタリアデザイン界の巨匠、Gio Ponti(ジオ・ポンティ)作の噴水。顔が描かれ、青い部分が口で噴水になっている(写真撮影/糠澤武敏)

「とにかく、たくさん見ること」経験がセンスを研ぎ澄ます

渡辺さんのデザイン・センスや本物を見つける目利きには、いつも驚かされる。その極意は?

「若いうちから、インテリアなら家具のショールームや住宅のモデルハウス、知人宅なんかもたくさん見ることだね。すると『何でこうなっているんだろう?』とか疑問をもつようにもなるし、自分でもやってみようという感性が育つと思うよ」

ご自身も大学時代、アメリカ留学をしたころに見た成功者たちの豪邸が、記憶に強く刻まれていると。「テレビドラマの『サンセット77』を見て、アメリカのライフスタイルに憧れたりもしたね」(写真撮影/糠澤武敏)

ご自身も大学時代、アメリカ留学をしたころに見た成功者たちの豪邸が、記憶に強く刻まれていると。「テレビドラマの『サンセット77』を見て、アメリカのライフスタイルに憧れたりもしたね」(写真撮影/糠澤武敏)

ところで、ご自宅は10数年前に建築されたが「趣味は引越し」というくらい、お住まいは結構変わってきたのだそう。

「元々、放浪癖があるんだよ。実は、3歳の時に一人で三輪車こいでいなくなったらしい(笑)。それ以来だね」

“おいしい”と噂を聞けば、世界中を駆け回る渡辺さん。

「でも食は日本が一番、味覚の感性が違うよ」だからこそ、キッチンへのこだわりも、日本人が世界一であるべきと感じておられる。

「THE ROOM」のキッチン背面には壁一面のワインセラー。ワイン350本は収容できる、まるでお店のよう。

「ワイン収集を始めたのはここ10年、後発なので皆があまりそろえていないアメリカものを集めたりしてる」(写真撮影/糠澤武敏)

「ワイン収集を始めたのはここ10年、後発なので皆があまりそろえていないアメリカものを集めたりしてる」(写真撮影/糠澤武敏)

と言いながら、私が好きなシャンパンを仕事終わりに開けてくださった。

70歳とは思えないスタイリッシュないでたちで、知識欲と活動はとどまるところを知らず(写真撮影/糠澤武敏)

70歳とは思えないスタイリッシュないでたちで、知識欲と活動はとどまるところを知らず(写真撮影/糠澤武敏)

今年のミラノ・サローネは何に注目しているかと尋ねたら、
「インテリアとトップファッションのコラボレーションに注目しています。今年はカルテルがJJマーティンとコラボをするようなので楽しみですね」
とのこと(取材はミラノサローネ開催前)。

会長となって今後は自由な時間もできるとすれば、まだ見ぬ世界への探究心は衰えるどころか、放浪癖がまた出てきそうなお話ぶりだった。

●取材協力
渡辺 孝雄
株式会社トーヨーキッチンスタイル代表取締役会長。1948年生まれ、米ウィッテンバーグ大学卒業。祖父が1934年岐阜県関市に金属洋食器メーカーを創業、トーヨー工業2代目の父に継ぐ3代目として1991年トーヨーキッチン(現トーヨーキッチンスタイル)社長に就任。「キッチンに住む」を提唱するなどキッチンの概念を変えるプロダクトを発表し続け、インテリアやファッションにも事業を拡大。世界のアート&グルメに精通、独自の美的センスでライフスタイルを提案する目利き。今年2018年3月、会長に就任。
・トーヨーキッチンスタイル ホームページ

貼るだけ・塗るだけでOK! 人気インスタグラマーの素敵DIYアイデア5

DIYやリノベーションで、住まいを自分好みにカスタマイズして素敵空間を手に入れる。そうした人が増えている一方で、自分もやってみたいけれど大掛かりになりそうで……と躊躇(ちゅうちょ)している人も多いのではないでしょうか。でも、大きな道具がなくても大丈夫。手づくりで部屋を変身させている人気インスタグラマーのDIYアイデアを紹介します。
まっさらな新築空間をDIYで自分色にカスタマイズ

木材パッチワークウォールの圧倒的な存在感。この壁面をつくったのは千葉県で暮らす田中さやかさん。DIYライフやお子さんの日常を撮影した写真が人気のインスタグラマーです。

シャビーなテクスチャー感のあるインテリアが好きな田中さんは、7年半前に新築で購入したマンションを、暮らしながらコツコツと手を入れて好みの空間に変えてきました。「新築のピカピカな新しさよりも、表情のある空間が好き」と、壁やドアをペイントし、クッションフロアを張り、雑貨や植物を飾って楽しんでいます。

田中さんのDIYポイントは大掛かりな道具を使わず、いかに簡単にやるかを考えることだそう。
「工具は普通の家にあるようなドライバーや塗装用のハケ、あとは最近マルチツール(※)を購入したくらいです」
「自分の家だから失敗してもいいと思い切って、DIYをしています」と語る田中さんに、家中のDIYアイデアについて聞いてみました。

※1台で木材の「切断」「研磨」「穴あけ」や「ネジ締め」などいろんな機能が使える電動工具

壁を塗った塗料とパッチワークウォールの木材に塗ったワックス。右は最近購入したマルチツール(写真提供/田中さやかさん)

壁を塗った塗料とパッチワークウォールの木材に塗ったワックス。右は最近購入したマルチツール(写真提供/田中さやかさん)

【DIYアイデア1】何でも受け入れる「包容力」のあるパッチワークウォール無垢材の家具の木質感と、木材パッチワークの壁の質感がそろっていて、不思議な統一感を見せています(写真撮影/山出高士)

無垢材の家具の木質感と、木材パッチワークの壁の質感がそろっていて、不思議な統一感を見せています(写真撮影/山出高士)

――ここをパッチワークウォールにしようと考えたきっかけは何ですか?
「白い壁の前にある黒いテレビの存在感が大きくてインテリアに馴染まないなあと感じていて、思いついたのがこの木材パッチワークです。ネットで見た外国のインテリア写真から思いつきました」(田中さん・以下同様)

――壁一面のDIYは大変ではなかったですか?
「ホームセンターで買った1袋100円の端材に、ブライワックスという自然素材のワックスを塗り、それを白い壁紙の表面に、端から順に強力接着材で貼り付けただけなんです。苦労した点は端材の並べ方。サイズがバラバラなので、モザイク状に貼っていくと隙間ができてしまうのですが、隙間が小さくなるように組み合わせました。それでもどうしても隙間が空きますが、フェイクのモス(苔)やタイルを埋めています。壁紙の表面に貼っただけなので、木材の重量に耐えられるかどうか不安でしたが、今のところ大丈夫です。剥がれてしまっても自己責任です(笑)」

――費用はどのくらいかかったのですか?
「使った端材は30袋未満だったので、低コストで済みましたが、接着材に費用がかかりました。1本1000円程度のものを10本くらい使ったので」

――雑貨がたくさん飾られていて、一つ一つをじっくり見入ってしまいます(笑)
「お菓子の空き箱やガラクタのようなものなど、何を置いてもサマになります。とっても包容力のある壁です(笑)。以前は雑貨を飾る場所が少なかったのですが、一面が飾り棚になりました」

サイズの異なる端材をうまく利用した、いろんな雑貨をちょこっと飾れる”ミニ棚”がたくさん。「計算して組み合わせているのではなく、何となくの感覚で木材を配置しました」と田中さん(写真撮影/山出高士)

サイズの異なる端材をうまく利用した、いろんな雑貨をちょこっと飾れる”ミニ棚”がたくさん。「計算して組み合わせているのではなく、何となくの感覚で木材を配置しました」と田中さん(写真撮影/山出高士)

製作途中のパッチワークウォール。小さな隙間があるのが分かります。壁全面もいいですが、部分的にパッチワークになっているのも素敵(写真提供/田中さやかさん)

製作途中のパッチワークウォール。小さな隙間があるのが分かります。壁全面もいいですが、部分的にパッチワークになっているのも素敵(写真提供/田中さやかさん)

【DIYアイデア2】シャビーなニュアンスカラーで雰囲気のある空間づくりを奥の壁と窓側の壁を、濃淡の異なるグリーンにペイント。「白い壁も、壁紙のままより、白く塗装した壁の方が自然の風合いを感じます」。床は薄い杉板を敷き詰めています(写真撮影/山出高士)

奥の壁と窓側の壁を、濃淡の異なるグリーンにペイント。「白い壁も、壁紙のままより、白く塗装した壁の方が自然の風合いを感じます」。床は薄い杉板を敷き詰めています(写真撮影/山出高士)

――ダイニングスペースの壁は色合いが独特ですね。
「壁紙に直接、塗料をペイントしました。ニュアンスのある色合いにこだわって、ポーターズペイントという塗料を使っています。この塗料は自然素材に馴染む発色で、空間に趣のある表情をもたらしてくれます。塗装は初めてなので、ワークショップでペイントレクチャーを受けてからDIYに臨みました」

――ダイニングはリビングと床材が違いますね。
「もともと全面フローリングでしたが、ピカピカの床ではなくて、シャビー感のある無垢の床にしようと思いました。床を張り替えるとなると大ごとですが、これは、建築現場で使われていたオールド足場板をスライスした板材を、フローリングの上に敷き詰めただけなんですよ。足場板の加工品を数多く取り扱っている、広島市のウッドプロというお店のネットショップでサイズオーダーできます。この床にしたら家具が以前より良いものに見えます(笑)。いずれはリビング側もこの床にしようと思っています」

――右側のカーテンの奥には何があるんですか?
「クローゼットがあるのですが、扉の表面に艶があって部屋の雰囲気に合わないので、カーテンで隠しています。自然な風合いのカーテンが部屋の雰囲気に合っていて、奥行きも感じさせてくれます」

――お子さん・こまちゃんをよくここで撮影されていますね。
「娘の成長記録としてよく写真を撮っています。最近、世間では写真スタジオで撮影するのが流行っていますが、自宅でも写真スタジオのような雰囲気で撮影できるので、お金がかかりません(笑)」

とてもフォトジェニックな長女・こまちゃん。塗りムラのあるグリーンカラーの壁が自然光を受けて独特の表情を浮かべています(写真提供/田中さやかさん)

とてもフォトジェニックな長女・こまちゃん。塗りムラのあるグリーンカラーの壁が自然光を受けて独特の表情を浮かべています(写真提供/田中さやかさん)

思い切り飾り付けても映えるので、イベント時にもこの空間が活躍します(写真提供/田中さやかさん)

思い切り飾り付けても映えるので、イベント時にもこの空間が活躍します(写真提供/田中さやかさん)

【DIYアイデア3】写真を思い通りの位置に配置できるマグネットウォール寝室の壁には田中さんが撮影したこまちゃんの写真がたくさん(写真撮影/山出高士)

寝室の壁には田中さんが撮影したこまちゃんの写真がたくさん(写真撮影/山出高士)

――壁一面に写真を飾るのって素敵ですね。
「このフォトフレーム、磁力で壁にペタッとくっついているんです。壁は、ニチレイマグネットという会社の製品で鉄製の『アイパネル』。キッチンボード用接着剤と両面テープで壁に貼ってあります。細長いパネル2枚を上下に貼る際には夫と2人で苦心しました。これはグレイジュという色ですが、木目調などほかの色もあります。パネルを貼った余白の壁はフォトフレームに合わせてグリーンに塗装しました」

――壁にフックをいくつもつけなくてよいわけですね。
「フォトフレームのうち6つはニチレイマグネット『HEYADECO』シリーズの『フレームデコ』というもので、磁石付き。他は、市販のフォトフレームの裏にマグネットシートを貼りました。マグネットのフレームだと着脱が簡単。飾る位置を決めるとき、微調整がとっても楽にできました」

ペタッと壁にくっつくので、フォトフレームの数が多い家にはオススメ。HEYADECOシリーズはフォトフレームのほか、棚、フック、ウォールデコレーション用品があります(写真撮影/山出高士)

ペタッと壁にくっつくので、フォトフレームの数が多い家にはオススメ。HEYADECOシリーズはフォトフレームのほか、棚、フック、ウォールデコレーション用品があります(写真撮影/山出高士)

【DIYアイデア4】スイッチも、コンセントのごちゃごちゃも隠してスッキリ写真左/水を使うキッチンの照明のスイッチパネルは、レザーを挟んだフォトフレームにイン。写真右/トイレの照明スイッチは額装したポストカードの裏側にあります。単なるスイッチではなくアート作品の展示になっていて素敵(写真撮影/山出高士)

写真左/水を使うキッチンの照明のスイッチパネルは、レザーを挟んだフォトフレームにイン。写真右/トイレの照明スイッチは額装したポストカードの裏側にあります。単なるスイッチではなくアート作品の展示になっていて素敵(写真撮影/山出高士)

――スイッチやインターホンが、何だか楽しく変身していますね。
「スイッチ類は毎日使うものなので、素材感やディテールが気になります。ある日ふと、見た目が気になるものはフォトフレームや扉を付けて隠してしまおうって思いつきました(笑)。照明スイッチは、額に入れたレザーやポストカードの上からスイッチをカチッと押して切り替えます。額装できないインターホンは塗装しました」

――コンセントも隠していますね。
「コンセントや操作パネルのプラスチックは黄色く変色してしまうタイプが多いので、フォトフレームとボックスを組み合わせたものでスッキリ隠しています(下写真参照)。差し込み部分や配線のごちゃごちゃも気にならないですよ」

左のインターホンはベニヤ板で囲い、表面をアイアン塗料で黒くして、上部にミニチュアを飾っています。「1」「2」と書かれた横の丸い押しボタンはレザー貼り。左側にある床暖房の操作パネルは黒い蓋を付けました。(写真撮影/山出高士)

左のインターホンはベニヤ板で囲い、表面をアイアン塗料で黒くして、上部にミニチュアを飾っています。「1」「2」と書かれた横の丸い押しボタンはレザー貼り。左側にある床暖房の操作パネルは黒い蓋を付けました。(写真撮影/山出高士)

コンセントの両脇にL字フックを取り付けて、アートフレームを貼ったボックスを引っ掛けるだけ。ボックスの下側はコードが出るように空けてあります(写真撮影/山出高士)

コンセントの両脇にL字フックを取り付けて、アートフレームを貼ったボックスを引っ掛けるだけ。ボックスの下側はコードが出るように空けてあります(写真撮影/山出高士)

この額もコンセントカバー。照明の配線用にボックス上部にも穴をあけてあります(写真提供/田中さやかさん)

この額もコンセントカバー。照明の配線用にボックス上部にも穴をあけてあります(写真提供/田中さやかさん)

お子さんの似顔絵を飾ったコーナー。照明の電源コードを邪魔しないよう、アートフレームの両脇に角材をつけて奥行きをとりました(写真撮影/山出高士)

お子さんの似顔絵を飾ったコーナー。照明の電源コードを邪魔しないよう、アートフレームの両脇に角材をつけて奥行きをとりました(写真撮影/山出高士)

【DIYアイデア5】濃色と淡色を使い分けた塗装が空間にメリハリを生むキッチン側はグレイジュカラーに塗装し、左側はドアを含めて黒く塗装。個性的な雰囲気に仕上がっています。中央のドアは壁や天井に合わせて白く塗りました(写真撮影/山出高士)

キッチン側はグレイジュカラーに塗装し、左側はドアを含めて黒く塗装。個性的な雰囲気に仕上がっています。中央のドアは壁や天井に合わせて白く塗りました(写真撮影/山出高士)

――壁の塗装は大胆な色使いですが、落ち着いた色合いなので独特の雰囲気を生んでいますね。
「場所ごとに濃淡に塗り分けると、空間にメリハリが生じます。全体が白い空間に雑貨をたくさん置くとごちゃごちゃした印象になりがちですが、色によってメリハリがあると、雑多な雰囲気を飲み込んでまとまりが出ると考えました」

――サッシやドアノブも黒くしたのですか?(下写真参照)
「塗るだけでざらっとした鉄っぽい質感になるアイアン塗料を塗りました。窓枠が黒いのも、空間にメリハリや雰囲気が出ますね」

――壁の色を選んだ決め手は何ですか。
「最初は何色にするかさんざん迷いました。でもとりあえずコレと思った色を塗ってみようと思って。塗装だけではありませんが、『自分の家だから、失敗してもいいや』って考えました。思い切りがいいんですね。考え込んでしまうより、まずやってみるということで進めています」

写真左/ダイニング側のサッシの室内側をアイアン塗料で黒く塗装。ガラスには半透明のフィルムを貼りました。「向かい側に大きな倉庫があるので目隠しです」。黒い鳥のシールが効いています。写真右/ドアノブも黒く(左写真撮影/山出高士、右写真提供/田中さやかさん)

写真左/ダイニング側のサッシの室内側をアイアン塗料で黒く塗装。ガラスには半透明のフィルムを貼りました。「向かい側に大きな倉庫があるので目隠しです」。黒い鳥のシールが効いています。写真右/ドアノブも黒く(左写真撮影/山出高士、右写真提供/田中さやかさん)

カウンター小窓の枠はゴールドの樹脂塗料で仕上げました。「この塗料は臭いがきつくてすぐ固まってしまうので、塗るのにとても苦労しました」。キッチン雑貨をたくさん置いても、ごちゃつきなく収まっています(写真撮影/山出高士)

カウンター小窓の枠はゴールドの樹脂塗料で仕上げました。「この塗料は臭いがきつくてすぐ固まってしまうので、塗るのにとても苦労しました」。キッチン雑貨をたくさん置いても、ごちゃつきなく収まっています(写真撮影/山出高士)

窓側の壁は深みのあるグリーンに塗装。エアコンのダクトカバーも壁に合わせて下半分を塗装しています。「この塗り分けは気に入っています」。無印良品のチェストは脚を黒く塗装し、引き出しに数字シールを貼ってカスタマイズしました(写真撮影/山出高士)

窓側の壁は深みのあるグリーンに塗装。エアコンのダクトカバーも壁に合わせて下半分を塗装しています。「この塗り分けは気に入っています」。無印良品のチェストは脚を黒く塗装し、引き出しに数字シールを貼ってカスタマイズしました(写真撮影/山出高士)

【DIYアイデア色々】“ちょっとここを変えたいな”という気持ちを大切に

――DIYを始めたきっかけは何ですか。
「夫の希望で新築マンションを購入しました。購入当初は普通の内装だったのですが、『ちょっとここを変えたいな』という気持ちが芽生えていきました。面白いものが好き、雑貨が好き、小さいころから工作好きということもあって、やってみようと。何かに心が突き動かされました(笑)」

――塗装やパッチワークウォールづくり、クッションフロアやタイル貼りなど、時間も手間も気力もかかりそうですね。
「娘がもっと幼い時期、家にいる時間が長かったので、家事の合間に壁を少しずつ塗ったりしていました。始めると集中するので、ストレス発散になってよかったです」

田中さんは愛猫2匹と暮らしています。パッチワークウォールの一角には、猫のトイレブースも設置しました(写真撮影/山出高士)

田中さんは愛猫2匹と暮らしています。パッチワークウォールの一角には、猫のトイレブースも設置しました(写真撮影/山出高士)

こまちゃんの部屋は女の子らしさ全開。壁をピンクに塗装し、床はクッションフロアを敷き詰めました(写真撮影/山出高士)

こまちゃんの部屋は女の子らしさ全開。壁をピンクに塗装し、床はクッションフロアを敷き詰めました(写真撮影/山出高士)

もともと大理石だった玄関土間は、上から好みのタイルを貼りました。照明はダウンライトでしたが、アタッチメントを付けてペンダントライトにチェンジ(写真撮影/山出高士)

もともと大理石だった玄関土間は、上から好みのタイルを貼りました。照明はダウンライトでしたが、アタッチメントを付けてペンダントライトにチェンジ(写真撮影/山出高士)

写真左/木とアイアンの組み合わせが素敵なフックは、板にフックをネジ留めして壁に接着剤で設置。「木ネジが打てない壁でも、重い鞄を安心して掛けられます」。写真右/キッチンツール掛けも木板に設置して、タイル壁に取り付けました(写真撮影/山出高士)

写真左/木とアイアンの組み合わせが素敵なフックは、板にフックをネジ留めして壁に接着剤で設置。「木ネジが打てない壁でも、重い鞄を安心して掛けられます」。写真右/キッチンツール掛けも木板に設置して、タイル壁に取り付けました(写真撮影/山出高士)

吊り戸棚にずらっと並べて掛けたカップ収納のカゴは、IKEAの製品。DIYではありませんが、このアイデアは訪ねて来るお友達に大好評だそう(写真撮影/山出高士)

吊り戸棚にずらっと並べて掛けたカップ収納のカゴは、IKEAの製品。DIYではありませんが、このアイデアは訪ねて来るお友達に大好評だそう(写真撮影/山出高士)

食器棚のガラスにレトロな模様入りフィルムを貼って、中身を隠しています(写真提供/田中さやかさん)

食器棚のガラスにレトロな模様入りフィルムを貼って、中身を隠しています(写真提供/田中さやかさん)

洗面室の壁に洗剤ボトルをかけられるよう、扉の取っ手をフックとして取り付けました。パッと手に取れて便利。普段はカーテンを閉めてスッキリ隠しています(写真撮影/山出高士)

洗面室の壁に洗剤ボトルをかけられるよう、扉の取っ手をフックとして取り付けました。パッと手に取れて便利。普段はカーテンを閉めてスッキリ隠しています(写真撮影/山出高士)

陶器の猫の横にさりげなく飾られた田中さんファミリーの木彫り人形。よく見ると胸に愛猫2匹も描かれています(写真撮影/山出高士)

陶器の猫の横にさりげなく飾られた田中さんファミリーの木彫り人形。よく見ると胸に愛猫2匹も描かれています(写真撮影/山出高士)

田中さんのDIYは、壁や建具を塗装する、フックを設置する、接着剤で貼り付けるなど、持ち家だからできることが多いですが、賃貸住宅でも、壁に刺した穴が目立たないフックや両面テープ、剥がせる壁紙、敷くだけの床材などを用いれば、応用できそうなアイデアもたくさん。

「ここがこうなったら毎日いい感じかも」「気になるものは見えなくする」……そうした、ちょっとした思いつきを形にして、家を素敵に変身させてきた田中さん。ここまで手を入れられて凄いですねと話す私に、田中さんは「マメな性格ではなく、ちょっと器用っていうだけなんですよ」と微笑みます。

「徐々に変わって行く我が家の様を見て、夫はいつも褒めてくれます。ここまでやるとは思っていなかったみたいです(笑)。好きなことを楽しみながら、思う存分できて幸せですね」とDIYライフを振り返る田中さん。素敵なお住まいを見て、「わが家もカスタマイズしたい!」ととても影響を受けた1日となりました。

●取材協力
・田中さやかさん

春のお出かけに! 持って便利、部屋に置いても様になるオシャレなアウトドアグッズ

アウトドアグッズはバーベキューやキャンプ、登山をするときに使うモノ、と思っていませんか? 機能性はもちろん、インテリアとしても大活躍するオシャレなものが多い、今どきのアウトドアグッズ。お部屋のインテリアにもなって外出も楽しくなる、そんなアウトドアグッズを上手な取り入れ方とともに紹介します!
アウトドアグッズを「部屋で使う」!

「グランピング」という言葉をご存じでしょうか? 最近ネットや雑誌でたびたび話題となっている、ぜいたくで豪華なキャンプのことを指しますが、そのスタイルをインテリアに取り込む人がジワジワと増えています。「グランピングをインテリアに取り入れる」と言うと、「やってみたいけど、なんだか難しそう……」と身構えてしまう人も多いかもしれませんね。

でも「実はちょっとしたポイントを押さえるだけで、グランピングスタイルは簡単に楽しめるんです」と話すのはインテリアコーディネーターとして活躍する小島真子(こじま・まこ)さんです。

インテリアコーディネーター・小島真子さん(写真撮影/竹治昭宏・スパルタデザイン)

インテリアコーディネーター・小島真子さん(写真撮影/竹治昭宏・スパルタデザイン)

「グランピングスタイルを取り入れたインテリアは、アウトドアのワクワク感をお部屋で楽しめるのが何よりも魅力です。また、実用面でもメリットがあります。インテリアに取り入れる際に欠かせないのが、アウトドア感のあるテーブルウェアやキッチンアイテムです。丈夫で無骨でありながら、レトロさやスタイリッシュさが感じられるデザインに人気が集まっています。素材ではステンレス、アルミ、チタン、ホーロー、鉄(アイアン)等が人気ですね」(小島さん・以下同)

特にアウトドアチェアやテーブルなどは、キャンプに持って行くだけでなく、普段のインテリアとしても使いやすいとか。

「アウトドア向けのチェアやテーブルは、デザインはもちろん、簡単に折り畳んでしまうことができるのも魅力です。通常、テーブルや椅子を動かすとなると、女性や子どもには重労働です。ところがアウトドア製品は持ち運びしやすいように軽くて丈夫につくられているので、使うときだけ出して使わないときは畳んで収納することが可能です。また『部屋が狭いから、いつもテーブルを出しておくのはちょっと……』という一人暮らしの収納問題に悩む人にもうれしいポイントだと思います」

確かに、アウトドア用の折り畳みテーブルやチェアなら子どもでも運びやすいですし、アウトドア用の食器は壊れにくいという利点もあります。落としても破損しにくいのは、小さな子どもがいる家庭にとっては大きなメリットです。

アルミニウム製の飯ごうをフラワーベースがわりにコーディネート。木製のカトラリーや丸太のコースターなど自然素材と一緒にすると和らぐ(画像提供/小島真子さん)

アルミニウム製の飯ごうをフラワーベースがわりにコーディネート。木製のカトラリーや丸太のコースターなど自然素材と一緒にすると和らぐ(画像提供/小島真子さん)

アウトドアグッズをオシャレに取り入れるコツとは!?

では、インテリアへ実際に取り入れるためにはどのような点に注意すると、オシャレに見えるのでしょうか。

「アウトドア感のあるインテリアをオシャレに決めるには、空間に柔らかさをプラスすることが大切です。具体的には植物、照明、ファブリックの3点です。部屋全体のインテリアを統一しようと考えると荷が重いですが、小物なら気軽にアウトドア感を演出できます。
例えばお部屋やバルコニーに植物を置くと、ぐっとグランピング気分が高まると思いますし、スチール椅子に北欧柄やネイティブ柄のブランケットをかけるだけでも、雰囲気が柔らかくなってオシャレな空間になります。まずは身近なラグやクッションなどの小物から取り入れてみてはいかがでしょうか?」

たしかに、初心者にはインテリア全体をアウトドアスタイルに統一するのではなく、アウトドアグッズをプラスアルファで取り入れるのが良さそうです。またキッチンや玄関などのように、スペースを決めてアウトドアの要素をつくってみるのもオススメとか。

「自然を感じさせるスタイルを目指せば、初心者でもフォーカルポイント(インテリで目を引く部分・スペース)をつくりやすいと思います。例えばリネンやコットン、木製のものなど『自然素材』をいくつか使ってみるといいでしょう」

ワイヤーバスケットを用いてアウトドアの世界を演出。ウッドと植物、アイアンの組み合わせが、アウトドアらしさとモダンさを巧みに共存させている(画像提供/小島真子さん)

ワイヤーバスケットを用いてアウトドアの世界を演出。ウッドと植物、アイアンの組み合わせが、アウトドアらしさとモダンさを巧みに共存させている(画像提供/小島真子さん)

また「あまり色を増やさないのもポイント」と小島さんは言います。

「色を考えるときには、自然を感じさせるようなアースカラー(主には茶系の色にカーキやオリーブを含めた色)を取り入れるといいでしょう。例えば空や海のような青、紅葉のような赤、森のようなグリーン……といった具合ですね。
注意点としては、ラグとクッションカバーで全然違う色や模様、原色はできるかぎり避けてほしいですね。色数を少なくするのは、どんなインテリアにおいてもオシャレに決める最低限のコツです。コーナーごとにテーマ色を決めても面白いかもしれませんね」

せっかくオシャレなインテリアを目指しても、カラフルになりすぎてチープに見えてしまったら全てが台無し。アウトドアの落ち着きのあるテイストを大切にしたいものですね。

家でアウトドアムードを味わえるオススメグッズ

ポイントを押さえれば誰でも簡単というアウトドアテイストを取り入れたインテリア。すぐにアウトドアムードを味わえるオススメグッズにはどんなものがあるでしょうか。

「大きめのものとしては、折り畳みができるタイプのディレクターズチェアはオススメ。椅子として座ることはもちろん、ちょっとした物置きにもなりますし、ほかの用途でスペースを使いたいときにはさっとしまえるので便利です。アウトドア、インドアの両方に対応したラウンジチェアの『アカプルコチェア』も空間をオシャレに演出してくれます。

屋内でも屋外でも使用できるアカプルコチェアは1つあれば、その存在感で空間がぐっとオシャレに見える(画像提供/小島真子さん)

屋内でも屋外でも使用できるアカプルコチェアは1つあれば、その存在感で空間がぐっとオシャレに見える(画像提供/小島真子さん)

そのほかに、収納ボックスや折り畳み式のコンテナボックス、ワイヤーバスケットなど、少しだけメンズライクなものを取り入れてあげると空間にメリハリが生まれます。コンテナボックスはリビングに置いて子どものおもちゃを収納したり、突然の来客に見せたくないものを隠したりすることができ、外ではクーラーボックスとしても活躍しますよ(笑)」

このようにアウトドア仕様のものを普段の生活に取り入れると、まるで自然の中へ出かけたような新鮮な気分を味わうことができますね。発想や目線を少し変えるだけで、シンプルなインテリアもたちまちアウトドアの雰囲気に演出できそうです。

「またLEDランタンはアウトドアで使うアイテムの一つですが、ディスプレイとして飾るのはもちろん、お家での実用性も備えていて非常灯として活躍するでしょう。私自身も、ブリキランタンやLEDのキャンドルライトなどをお部屋のインテリアに取り入れて楽しんでいます。キャンドルライトは高さの異なるものをいくつか並べてもすてきです」

キャンプのワンシーンを思わせる、ウッド&ランタンのディスプレイ。グランピングを体験しているかのようなムードが漂う(画像提供/小島真子さん)

キャンプのワンシーンを思わせる、ウッド&ランタンのディスプレイ。グランピングを体験しているかのようなムードが漂う(画像提供/小島真子さん)

手軽に楽しめるアウトドアは、今後ますます認知度も人気も高まっていく予感。まずは照明やラグなど小物から試して部屋にオリジナリティを出していくのがよさそうです。アウトドアに興味を持ち始めたけど、実際のキャンプはハードルが高い……そんな人はお家の中にアウトドアグッズを取り入れて、心地よい時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

●取材協力
・インテリアコーディネーター小島真子(株式会社Laugh style)

「2018住みたい街ランキング関西版」、「住みたい部屋に収納がない……!」【3月人気記事まとめ】

新年度が始まり、街では初々しい新社会人の姿を目にします。気候はすっかり暖かくなり、日中は汗ばむ日も増えてきました。さて、SUUMOジャーナルで3月に公開した記事では、恒例の「住みたい街ランキング」のほか、リフォームやリノベーションなどの記事が人気でした。TOP10の記事を、詳しく紹介します。
3月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

TOP10はこちらの記事となりました!

第1位:2018年「住みたい街ランキング」関西版発表!上位にランクインした街の特徴は?
第2位:住みたい部屋に収納がない……!  それでも快適に暮らす方法はある?
第3位:【検証】自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか?
第4位:「『勝ち組不動産』の条件を教えてください」 住まいのホンネQ&A(2)
第5位:不動産エンターテーメント サイト「物件ファン」に聞く 思わず驚いたユニーク物件5選
第6位:“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは
第7位:築50年の家をリフォーム、猫3匹とくつろぐ ”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]
第8位:地方出身者へ贈る 内見前に知っておきたい「東京」の賃貸事情
第9位:MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト 、仕掛け人に聞く”これからの住まい方”
第10位:好立地にあるビルを住居に 「ビル1棟リノベ」の魅力とは

※対象記事:2018年3月1日~2018年3月31日までに公開された記事
※集計期間:2018年3月1日~2018年3月31日のPV数の多い順

「住みたい街」「勝ち組不動産」人気の物件はどこにある?

第1位:2018年「住みたい街ランキング」関西版発表!上位にランクインした街の特徴は?

2018年「住みたい街ランキング」関西版発表!上位にランクインした街の特徴は?

(写真/PIXTA)

1位は、交通の便や商業施設の豊富さといった安定の使いやすさと洗練されたイメージで、根強い人気の“ニシキタ”こと「西宮北口」。2位の「梅田」は、再開発により繁華街としてだけでなく居住地の一つとして認識されつつあり、今後は緑地も拡大される予定。また、京阪エリアのベッドタウンとして人気の滋賀県からは、「草津」が京都を抑えてベスト10入りを果たしている。

第2位:住みたい部屋に収納がない……!  それでも快適に暮らす方法はある?

住みたい部屋に収納がない…! それでも快適に暮らす方法はある?

(写真/PIXTA)

クローゼットがないことを理由にとりあえず収納グッズを買ってしまうのはNG。「収納グッズ」というモノを増やすことになってしまいます。「本当に必要な収納グッズ」を見極めて狭くても快適に暮らせるコツを、都内で収納なし・14平米のワンルーム物件に居住経験のある、整理収納アドバイザーのkomugiさんに伺いました。

第3位:【検証】自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか?

自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか? 検証してみた

(写真撮影/大嶺 建)

とある室内。くつろいでピザを食べるアイドルと、ママチャリを必死にこぎ続ける筆者。
遊んでいるのではない、仕事である。
「自転車発電と太陽光発電のどっちが勝つのか比べたらおもしろそうですよね(笑)!」
1カ月前、ママチャリで日本一周した経験がある筆者が、初対面のスーモ編集長に遊び半分で口走った一言が企画になってしまい、引くに引けなくなったのである。辛い……帰りたい……。

第4位:「『勝ち組不動産』の条件を教えてください」 住まいのホンネQ&A(2)

「『勝ち組不動産』の条件を教えてください」 住まいのホンネQ&A(2)

(写真/PIXTA)

不動産の価値は「売れる・貸せる」といった「市場流動性」で決まります。『勝ち組』になれるかどうかを左右するポイントは「駅徒歩8分以内」「子育て環境」など、多岐にわたります。将来的には、修繕対応など管理組合の運営状況も大きな要素と成り得るため、同条件のマンションであっても、数千万円の開きが出ることも予想されます。

第5位:不動産エンターテーメント サイト「物件ファン」に聞く 思わず驚いたユニーク物件5選

不動産エンターテーメントサイト「物件ファン」さんに聞く 思わず驚いたユニーク物件5選

(画像提供/物件ファン)

引越先検索目的だけではない、読者が楽しめる不動産エンターテーメントサイトである「物件ファン」。「変わった物件に興味がある」という人たちの間で話題となり、SNSなどから徐々に認知度が上がり、2018年1月には月間270万ページビューを超えるメディアへと成長。そんな「物件ファン」のなかでも、特筆すべき個性をもった5件をピックアップしました!

「リフォーム」「リノベ」新築にはない多彩なメリットは見逃せない

第6位:“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

(画像提供/お部屋改造計画)

片付いていなかったり汚れていたりする“おブス部屋”に住んでいては、気分が冴えないばかりか、気軽に人を呼べませんよね?個人宅のインテリアコーディネートや模様替え、小さな店舗のトータルプロデュースなど、お部屋改造を1000件以上手がけた有限会社お部屋改造計画にお話を伺うと、おブス部屋脱却のカギは「収納の動線」でした。

第7位:築50年の家をリフォーム、猫3匹とくつろぐ ”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]

テーマのある暮らし[1]本好き夫婦が暮らす”おウチライブラリー”がある家(前編)

(写真撮影/内海明啓)

神楽坂駅から徒歩10分。祖父母が住んでいた築50年の母屋にアパートが付いた建物を、新聞紙に包まれて押入れに保管されていた文芸集とともに受け継いではみたが、古くて使い勝手が悪い。出版社に勤める夫が所有する大量の本も収納できて、夫婦と3匹の愛猫が気持ちよく過ごせる、昭和のレトロ風情を残した快適空間にリフォームしました。

第8位:地方出身者へ贈る 内見前に知っておきたい「東京」の賃貸事情

地方出身者へ贈る 内見前に知っておきたい「東京」の賃貸事情

(写真/PIXTA)

進学や就職で春から東京生活!という方も多いはず。しかし、東京での部屋探しは家賃の高さはもちろん、「相互直通運転」の存在など、路線図だけでは分からないこともたくさんあるのではないでしょうか?そこで今回は、離島出身の筆者が自ら学んだ経験から、東京の家賃相場や部屋探しのコツを伝授します!

第9位:MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト 、仕掛け人に聞く”これからの住まい方”

MUJI×UR団地5周年。プロジェクト仕掛け人に聞く、これからの「住まい方」

(画像提供/MUJI HOUSE)

プロジェクト開始から丸5年を経過した現在も高い人気を誇る、無印良品とUR賃貸住宅のコラボレーション。新築にはない魅力は、20~30代にとってはヴィンテージ的にも感じられるようです。仕掛け人であり設計担当者の豊田輝人(とよだ・てるひと)さんに、団地の古さを活かしながら現代に沿う、『暮らしを彩る』設計についてお話を伺いました。

第10位:好立地にあるビルを住居に 「ビル1棟リノベ」の魅力とは

好立地にあるビルをリノベーションして住居に。「ビルリノベ」の魅力とは

(画像提供/株式会社クラフト)

ビルリノベーション(ビルリノベ)の注目度が上がっています!住居用に整備するため水まわりのコストなども発生しますが、立地の良さや高い耐久性は見逃せません。また、柱がないため大きな空間をつくることも可能なので、一戸建てではかなわないおしゃれなデザインや意外な利便性も実現できます。

3月は「リノベ」や「リフォーム」に関する記事が3つと「部屋改造」「収納」に関する記事が2つランクインしました。また、5位に入った「物件ファン」についても半数がリノベ物件を取り上げており、既存物件にいかにして心地よく住まうかという関心が高いことがうかがえます。新築への転居をしなくとも快適な住環境を手に入れるためのアイデアは、新築派の方にも必見の内容となっています。

子育て世帯の騒音問題! 賃貸でストレスなく暮らせる防音対策グッズは?

騒音に気をつかう集合住宅。なかでも子育て世帯であれば、赤ちゃんの泣き声や子どもの足音などが周りに迷惑にならないか気になることも多いのではないでしょうか。防音対策が十分でない物件は、ちょっとした音でも思っている以上に隣近所へ響いてしまい、迷惑をかけてしまう可能性も。そうした事態を避けるため、今回は、賃貸でも手軽に取り入れられる部屋の防音対策グッズをおすすめします。
苦情が出る前に、階下へ響く子どもの足音をどうにかしたい!

「子どもの足音が気になったときに、まず対策としてホームセンターなどで販売されている安価なジョイント式のマット(塩ビ発泡剤)やコルクマットを導入される方が多いですね」。そう話すのは、防音の悩みに関するグッズの販売を手がけるピアリビングの梶原栄二(かじわら・えいじ)さんです。

「床にジョイントマット等を敷くのは手軽にできる方法です。ただし、集合住宅における上下階の騒音問題は少し複雑です。例えば物を落としたり、椅子を引く音などの軽量床衝撃音は、カーペットや畳などの柔らかい床仕上げで対応できます。しかし足音などの重量床衝撃音に対しては、床の施工を工夫して衝撃が躯体に到達しないような、構造的な改善が必要となります」(梶原さん、以下同)

「そこで、まず簡単にできる対策として、防音カーペット『静床ライト』を敷くことをおすすめしています。静床ライトは、通常の防音カーペットと違い、バッキン層(振動を吸収する部分)が立体になっているので、しっかり振動を吸収してくれます。施工はタイル状の物を置いていくだけ、家具があっても動かさずに床部分に敷くこともできるので簡単です」

足音を完全に消し去ることはできませんが、ジョイントマットの上に防音カーペットを敷くという合わせ技で、かなり音を軽減できそうです。

ピアノや足音の防音に効果的! 防音カーペット『静床ライト』(画像提供/株式会社ピアリビング)

ピアノや足音の防音に効果的! 防音カーペット『静床ライト』(画像提供/株式会社ピアリビング)

壁を傷つけない防音壁で赤ちゃんがいても安心!

床の次に多いのが、壁からの音漏れ問題です。

「壁の防音は『吸音材』と『遮音材』の組み合わせが基本対策です。壁の薄さによる音漏れが気になったら、遮音シートや吸音材などを使ってみることをおすすめします。大型の家具を壁際に配置すれば遮音効果がありますが、転倒の恐れがある家具は、小さなお子さんがいるご家庭には安全とは言えないかもしれませんね」

壁に遮音シートを貼ると聞くと、大がかりな防音工事になるのでは? と思いがちですが、面倒な工事の必要がなく、簡単に自分の手で取り付けることができる『ワンタッチ防音壁』という商品がおすすめです。

「ワンタッチ防音壁の取り付けに使用するのは、ジョイナーと両面テープだけ。壁に穴を開けず使用できるので、賃貸住宅に住んでいて部屋を傷つけたくない方にもおすすめです。その他の固定方法も色々あり、突っ張りポール、ディアウォールなどでワンタッチ防音壁を支えれば、インテリアに合わせた防音がかないます。部屋の壁全体ではなくても、気になる部分に合わせて一部に取り付けるだけでも、多少の効果を期待できますよ」

この防音壁の前に家具や本棚を配置すれば、さらなる効果も期待できそうです。

大がかりな防音工事は一切不要。遮音・吸音が1つでできる『ワンタッチ防音壁』(画像提供/株式会社ピアリビング)

大がかりな防音工事は一切不要。遮音・吸音が1つでできる『ワンタッチ防音壁』(画像提供/株式会社ピアリビング)

外からの音を遮断! 二重窓にするより手軽な防音カーテン

外からの騒音を防ぐ、という観点ではどうでしょう。クルマや電車などの乗り物の走行音や路上のおしゃべり、別の部屋のピアノの音や赤ちゃんの泣き声など、気になったことがある方も多いのでは? そんなときは防音カーテンを検討してみてはいかがでしょうか。

厚手の特殊な生地で織られ、生地の構造を3層にした防音カーテンは、音を軽減する効果があります。不快だった騒音が軽減され、効果を感じられるでしょう。

「そもそも、窓の防音は難しいものです。窓は壁に比べると薄いので音の出入りが大きくなります。窓の前に障害物を何層かつくることで音の出入りを軽減することができるんです。これを1枚で実現したのが、弊社で一番人気の『防音カーテン コーズ』です。コーズの表面に施したワッフル構造が音を吸収し、アクリル樹脂コーティングをした裏地が音を防いでくれます」

「また、今使っているお気に入りのカーテンに手軽に防音機能をプラスしたい方には、コーズの裏地を活かした『かんたん防音カーテンライナー』もおすすめです。お手持ちのカーテンに引っ掛けるだけで防音機能をプラスできます」

カーテンを買い替えることなく組み合わせて使える点がうれしいですね。

さらに、『防音レースカーテン トル』を使用して窓の前の障害物の層を増やすことで、より防音効果がアップします。

12~18デシベルの音を吸収、3重構造で音の大きさを半減する『防音カーテン コーズ』(画像提供/株式会社ピアリビング)

12~18デシベルの音を吸収、3重構造で音の大きさを半減する『防音カーテン コーズ』(画像提供/株式会社ピアリビング)

部屋を締め切ることなく太陽の光を取り入れながら防音。『防音レースカーテン トル』(画像提供/株式会社ピアリビング)

部屋を締め切ることなく太陽の光を取り入れながら防音。『防音レースカーテン トル』(画像提供/株式会社ピアリビング)

防音グッズを利用することによって、賃貸でも簡単に防音対策をすることが可能です。屋内外かかわらず騒音を気にされる方はぜひ試してみてはいかがでしょうか。

故意の騒音は別として、近隣の住宅から音が聞こえるのは仕方がない面もあり”お互いさま”でもあるでしょう。騒音と感じるかどうかは人それぞれですが、お互いが周囲に配慮することが大切です。子どものいるご家庭もそうでないお家も、心地よく快適に暮らせるよう、最低限のマナーをもちたいものですね。

●取材協力
・株式会社ピアリビング

職人未満・素人以上のセミプロが活躍!KILTAが育てるセルフリノベインストラクターとは

自分で自宅をDIYでリノベーションする「セルフリノベ」に興味を持つ人が増え、体験施設も急増しています。しかし、セルフリノベのインストラクター認定までおこなっている施設はありません。そこで、今回はセルフリノベのインストラクターを育てる施設「KILTA(キルタ)」を運営する一般財団法人KILTA代表理事であり、KUMIKI PROJECT株式会社代表取締役の桑原憂貴(くわはら・ゆうき)さんに、KILTAをつくった背景と目的、今後目指している方向性についてうかがいました。
KUMIKI PROJECTが掲げる「DIT」とは?

「KUMIKI PROJECT」は、2013年に奇跡の一本松で知られる岩手県陸前高田市でスタートしました。国産杉のブロックキットを使って、地元の人たちと21坪の集会所をつくろうというプロジェクトから始まった会社です。

2017年には事業エリアを首都圏にも拡大すべく、本社を神奈川県二宮町に移転。現在は、東北を中心とした国産材を素材に、小規模のお店やオフィスをサポートしようと、セルフリノベーションによるお店づくりやオフィスづくり、ワークショップまで手がけています。

そんなKUMIKI PROJECTが掲げるコンセプトはDoing It Togetherを意味する「DIT」です。「『ともにつくる』を楽しもう、ということを大事にしたくて使っている言葉なんです」と桑原さんは言います。

岩手県陸前高田市での集会所セルフビルドの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

岩手県陸前高田市での集会所セルフビルドの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

「僕自身、5年前までDIYはやったこともありませんでした。実は、被災地で集会所をセルフビルドしたのがはじめてのDIYだったんです。ともにつくることで、みんながつながっていく。その光景はとても印象的で、KUMIKI PROJECTの原点になっています。だからといって、みんなにつながりこそ何より大事だと、無理強いするつもりはないんです。つながりは強くなりすぎるとしがらみになってしまう可能性もある。むしろ、今のライフスタイルにあったつながり『方』を増やしていきたい」(桑原さん、以下同)

無理につながろうとする、というわけではありません。あくまでつながりたい人が、つながることができる機会をつくるのが大事、それがKUMIKI PROJECTの思いでもあります。

KUMIKI PROJECTの活動の中で生まれた「KILTA」

KUMIKI PROJECTは活動当初、国産の杉材でつくる家具キットを開発し、販売していました。でも、売上を伸ばすのは大変だったそう。国産材でつくるから、大きな家具量販店が製造する量産品に比べると、価格がどうしても高くなってしまう。家具キットの製造販売という方法だけでなく、どうすれば被災地の国産材をより多く使ってもらえるのかを改めて考えた結果、たどり着いたのが「キットをツールとして使い、オフィスづくりやお店づくりのセルフリノベーションをお手伝いすること」だったのだそうです。

「例えば、100万円ほどの予算でお店づくりを行うとします。これまでのように建築事務所や工務店などの専門業者に相談して進める場合、この予算ではできることがかなり限られてしまうのが現実です。でも、僕らの場合、職人さんではなく、お店をはじめる人と一般の人々が一緒に手を動かし、ワークショップ形式で空間づくりを進めるため、『コストは抑えながらも、愛着はいっぱいなお店づくり』が可能になるんです。これまでつくってきた国産材の家具や内装キットを使うため、DIY初心者でもクオリティを守った空間づくりができています。

お店をはじめる人からすると、最初の負担を下げることができるだけでなく、手間をかけることで愛着が生まれます。そして、ともにつくった人たちは自分のお店の大切な応援団になっていく。そんなお店づくりで、僕らの価値が発揮できるようになりました」

空き家を地域住民とともに全5日間のワークショップでセルフリノベーションしたカフェスペース。壁解体、床はり、漆喰塗り、家具キットの組み立てなどを実施 (画像提供/KUMIKI RPOJCET 写真撮影/八幡 宏)

空き家を地域住民とともに全5日間のワークショップでセルフリノベーションしたカフェスペース。壁解体、床はり、漆喰塗り、家具キットの組み立てなどを実施 (画像提供/KUMIKI RPOJECT 写真撮影/八幡 宏)

しかし、そこで持ちあがった課題が、こうしたワークショップでセルフリノベを教える「先生」の不足。素人だけでは分からない空間の構造や、工具の使い方や材料の加工方法について現場でサポートしてくれる先生、インストラクターが必要でした。

「家具や内装はキット化しているため、職人さんじゃなくてもできるようになっています。だからこそ、例えば、地域の子育て中のお母さんが、お子さんが学校に行っている間に、インストラクターをやるというのでもいい。地域の人たちがインストラクターになり、地域の材を家具や内装キットにし、地域で空間づくりをはじめる人を支える。そんな循環ができるといいと思っています。

そのためには、セルフリノベーションに関する知識と技術を伝え、インストラクターになりたい人を育てる拠点が必要でした。例えば、床の張り方、壁の塗り方や張り方、家具の造作の仕方などを学んでもらうプログラムをやるためにつくったのがKILTAなんです」

KILTAのインストラクターは「職人未満・素人以上」

KILTAのインストラクターは「ものづくりやインテリアが好きだから仕事に活かしたい。でも、職人として技術を極めて仕事をしたいわけじゃない人」なのだと桑原さんは言います。

DITインストラクター認定講座(モニタークラス)受講生の現場実習。床ハリクラスと壁ヌリクラスを2018年3月に試験開講。プログラムを改良し、5月ごろから本格実施予定 (画像提供/ KUMIKI PROJECT)

DITインストラクター認定講座(モニタークラス)受講生の現場実習。床ハリクラスと壁ヌリクラスを2018年3月に試験開講。プログラムを改良し、5月頃から本格実施予定 (画像提供/ KUMIKI PROJECT)

「みんなで楽しみながらつくるために必要な知識や技術は、空間を施工する職人の技術とはかなり違います。例えば、ワークショップに参加したけれど、不安で手が出せない人や、何をやれば良いのかわからなくて手が空いてしまった人などに、楽しんでつくってもらうためのコミュニケーションの取り方や、時間内に終わらせるスケジュール管理、散らばった工具につまずいて転んだりしないように注意するといったリスク管理などができることが求められます。そのうえで、職人まではいかなくていいけど、空間づくりに最低限必要な知識と技術があって楽しくワークショップを進められるっていうことがインストラクターとして大事なことなんです」

昨今のDIYブームもあってか、インストラクターをやりたいという人は多く、昨年末から行った説明会は軒並み盛況だそうです。

「暮らしをつくれる人を増やしたい」全国にKILTAを

KILTAはもともと横浜にあるリフォーム会社とKUMIKI PROJECTの共同事業として始まりましたが、職人不足や高齢化などの課題を抱える建築業界をはじめ、DIY市場の拡大を進めたい建材メーカー、インテリアやDIY情報の発信を行うメディア、多様な働き方を増やしたい地域団体などからこうした動きへの賛同を得られたことから、今年1月に一般財団法人KILTAを設立。同法人で本格的にインストラクター育成事業に取り組むことになりました。拠点も横浜だけではなく、京都や春日部、神戸にも開設準備中であり、全国各地で暮らしをつくれる人材育成に注力していきたいのだそう。

一方でネックになるのが工具の問題。本格的な機械工具や手道具を、インストラクターになった人がすべて用意するのは負担が大きすぎるため、現場で使用する工具類はKILTAがすべて用意する形で考えているそうです。

「壁塗りや床張りなどのワークショップで使う工具一式を詰め込んだ『ツールボックス』と僕らが呼んでいる工具箱を、現場に直送できるようにテスト運用をはじめています。インストラクターになった人は、手ぶらで現場にいき、ワークショップを実施。終了後は、手ぶらで帰っていける形にしようと思っています。ですから、KILTAという拠点は、実は倉庫機能も兼ね備えた存在でもあり、全国にこうした拠点を増やしていきたいと思っています。

いま、全国には公立図書館がおよそ3000カ所あります。図書館が暮らしの知恵を学ぶ場だとしたら、KILTAは暮らしの技術を学べる場所として、同じくらい全国各地のインフラとして増やしていければとよく話しています。

広い工房がなくても、例えばマンションの一室をKILTAという拠点にする。そこには工具を集約し、マンションの修繕をマンションに住んでいる人がインストラクターになって支えるようになるという形もあるのではと思っています」

京都で開催したセルフリノベーションによるシェアスペースづくりの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

京都で開催したセルフリノベーションによるシェアスペースづくりの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

一方で、インストラクターとなった人たちが、きちんと報酬を得て活躍できるような舞台をつくることも大切。現在は、リフォーム会社などにも働きかけている最中なのだそうです。

「例えば、 建築現場というのは、個人宅の新築やリノベーション、お店やオフィスづくり、公共施設の修繕など、本当に多種多様です。多種多様であるということは、求められるスキルや難易度も本来はバラバラだということです。
にもかかわらず、どんな現場でも、すべて職人さんが仕事として受けているというのが、これまでの当たり前でした。でも、この難易度や必要なスキルをきちんと現場ごとに分析し、分類できれば、素晴らしい技術を持った職人ではなくても対応できる現場が実はたくさんあるのではないでしょうか。
業界全体で建築現場を分類する指標をつくり、必要なスキルを持った人に適切にマッチングすることで、職人未満だけど、素人以上のセミプロであるインストラクターの人々でも十分に対応できる舞台ができると考えています。そうすることで、地域にたくさんの小さな仕事が放出され、一方で技術を持った職人さんは価値ある仕事に集中できる、そんなみんながハッピーな世界をともにつくれたらうれしいです」

セルフリノベーションを通じて「地域に住む人たちが自分の暮らしに『つくる時間』を取り戻していく流れができたら」と考えていたという桑原さん。地域の人たちがKILTAで学び、インストラクターとして活躍できる場が増えれば、ライフスタイルや働き方も変わっていくかもしれませんね。

●取材協力
・KUMIKI PROJECT
・KILTA

すぐ枯らしていない? お部屋の環境に合った観葉植物の選び方を教えて!

お部屋に観葉植物がある生活、憧れますよね。インテリアとして観葉植物を飾るだけでお部屋が華やかになります。
でも、日当たりが悪かったり西日が強かったりすると、植物はうまく育つことができません。最悪の場合、枯れてしまうことも……。せっかく観葉植物を置くのであれば、上手に育ててあげたいですよね。そこでお部屋の環境にぴったりな植物や上手な育て方を、観葉植物の専門店であるグリーンインテリアの真下悦洋(ましも・よしひろ)さんに教えてもらいました。

初心者でも安心して観葉植物を育てるために、そろえておくべきグッズは?

まずは、観葉植物を育てたことのない方がそろえておきたいグッズと上手な使い方についてうかがいました。

観葉植物専門店グリーンインテリア バイヤー 真下悦洋さん(写真撮影/近藤宏美)

観葉植物専門店グリーンインテリア バイヤー 真下悦洋さん(写真撮影/近藤宏美)

「最初に準備したほうがいいものは、じょうろ・霧吹き・栄養剤の3点ですね。じょうろは鉢の中の土が乾いていたときの水やりに使います。お水をあげないと枯れてしまいますが、実はあげすぎるのもよくないんです。土の状態をチェックして最適な量をあげることが長持ちのコツ。表面の土が乾いていても、中が湿っていたら水やりをする必要はありませんので、指や割り箸などで中の土の状態を確認してからお水をあげてください」(真下さん、以下同)

観葉植物に水やりをする親子(写真/pixta)

観葉植物に水やりをする親子(写真/pixta)

じょうろだけなく、霧吹きも必要なのはなぜでしょうか。

「霧吹きは葉っぱにお水をかけるときに使うんです。空気が乾燥しているとハダニが発生しやすいので、葉っぱに適度な潤いを与えてハダニ予防をしたいですね。春先以降に育てる場合は栄養剤を使用すれば、より元気に育ってくれます。栄養剤には即効性のある液体のものと、緩効性の固形タイプのものがあります。栄養剤はあげすぎてしまうと逆に弱ってしまうので、用量を守って使用してくださいね」

観葉植物が成長してきたら、植え替えるための大きな鉢や、虫が発生したときには専用の薬剤を用意することも必要になります。

初心者でも育てやすい「おすすめの観葉植物」は?

じょうろや霧吹き、栄養剤をちゃんとそろえて観葉植物を育て始めたとしても、お世話を忘れてしまったり、忙しくてなかなか手がかけられなかったりして、うっかり枯らしてしまった……なんてことにならないようにしたいもの。観葉植物初心者でも育てやすい、生命力の強い観葉植物を真下さんに教えていただきました。

●サンスベリア
サンスベリア・レディチャーム(写真撮影/近藤宏美)

サンスベリア・レディチャーム(写真撮影/近藤宏美)

「『サンスベリア』は、観葉植物初心者でも育てやすい植物のひとつです。水やりは月に1回程度でもOKですし、気温が10度以下になる12月から2月までの冬の間は生長がストップして休眠に近い状態になるので、断水でも大丈夫なほど。光があまり入らない暗い場所でも頑張って生きていくことができる植物なんです」

●ポトス
ポトス・エンジョイ(写真撮影/近藤宏美)

ポトス・エンジョイ(写真撮影/近藤宏美)

「『ポトス』も強い植物のひとつです。頻繁にお水をあげる必要はなく、土が乾いていたらあげる程度で大丈夫。暗い場所で育てることもできます」

●ソテツキリン
ソテツキリン(写真撮影/近藤宏美)

ソテツキリン(写真撮影/近藤宏美)

「乾燥にも寒さにも強く、暗い場所でも育つ植物です。パイナップルのような可愛らしい形なので女性に人気です」

寒さに強い観葉植物は?

いくら育てやすいと言われる観葉植物であっても、お部屋の環境や気候のせいでうっかり枯らしてしまう可能性もあります。そこで、真下さんに、寒さや暑さ、日差しの強さや日陰や湿気など、それぞれの環境に強い観葉植物についても教えていただきました。

まずは、寒さに強い観葉植物について。真下さんいわく、寒さに強い観葉植物は比較的葉っぱが細長いものが多いのだそうです。

ユッカ(写真撮影/近藤宏美)

ユッカ(写真撮影/近藤宏美)

シェフレラ(写真撮影/近藤宏美)

シェフレラ(写真撮影/近藤宏美)

「『ユッカ』や『シェフレラ』などは比較的寒さに強いですね。ユッカは中南米などの乾燥地帯原産で、シェフレラは熱帯アジアが原産です。主な産地である八丈島では、防風林に使われることもあるくらい寒さには強いですよ。

日当たりの良くない部屋や外出が多くて暖房がついていない時間の短い部屋でも、上手に育てることができます。もちろん光合成をしますので、なるべく窓際やベランダの近くに置いてあげるのが良いのですが、寒さに強い観葉植物は比較的暗い場所にも強いです」

暑さに強い観葉植物は?

基本的に観葉植物は暑い場所で育っているので、どの品種も暑さに強いものが多いのだとか。なかでも「ガジュマル」や「ベンジャミン」「エバーフレッシュ」などは、特に暑さに強いと真下さんは言います。

ガジュマル(写真撮影/近藤宏美)

ガジュマル(写真撮影/近藤宏美)

ベンジャミン(写真撮影/近藤宏美)

ベンジャミン(写真撮影/近藤宏美)

エバーフレッシュ(写真撮影/近藤宏美)

エバーフレッシュ(写真撮影/近藤宏美)

ただし、暑さに強いからといって、日差しに強いわけではないので注意が必要なのだそう。

「外に出したり直射日光を浴びせたりすると、葉っぱが焼けて黒く色が変わってしまいます。日焼けしたとしても、観葉植物の命に影響を与えるようなものではないのですが、できれば急に外には出さずに室内に置いておくのがよいでしょう。西日が強く当たる間取りや全面窓でも室内に置いて窓越しに光が当たる程度であれば問題ありません」

暑さに強い観葉植物はお水が大好きなので、乾燥しないように気を付けることが大事。また、換気も必要だと真下さんは言います。

「閉め切って空気が流れていない場所に長時間置いておくと、弱ってしまうことがあります。朝と夜に換気をしていれば昼間は多少空気がこもっていても問題ありません。

旅行や帰省などで、数日間家にいないような場合は要注意。24時間換気の設備がついている家ならスイッチをつけておいてはいかがでしょうか。サーキュレーターや扇風機などで風を送るのも良いと思います。ただ、直接風を当てないように気を付けてください。換気孔が備わっている住宅では開けてから外出するとか、防犯的に問題がないようなら網戸にしておくなど、風が通る工夫をしておくとよいでしょう」

観葉植物のことを「ペットのように世話をしてあげてほしい」と語る真下さん(写真撮影/近藤宏美)

観葉植物のことを「ペットのように世話をしてあげてほしい」と語る真下さん(写真撮影/近藤宏美)

日差しに強い観葉植物は?

全面ガラス窓のリビングに置いても問題ない日差しに強い観葉植物や、ベランダや玄関の外に置けるような植物はあるのでしょうか。しかし、どの観葉植物でも基本的には直射日光は苦手だと真下さんは言います。

「直射日光を当て続けると、葉っぱが焼けて黒いシミになってしまうんです。でも、植物は与えられた環境に適応しようとする力が強いので、日焼けした葉っぱが落ちても、次に生えてくる新芽からは日差しが当たっても大丈夫になることもあるんです」

「オリーブ」や「シマトネリコ」といった外で育てられる観葉植物は、日焼けなどの心配がないのだそうです。

オリーブ(写真撮影/近藤宏美)

オリーブ(写真撮影/近藤宏美)

シマトネリコ(写真撮影/近藤宏美)

シマトネリコ(写真撮影/近藤宏美)

日陰や湿気に強いグリーンは?

日当たりのあまり良くない部屋や、水まわりなどの湿気の多いところなら、シダ系の植物がおすすめと真下さんは言います。

アスプレニウム・クリーシー(写真撮影/近藤宏美)

アスプレニウム・クリーシー(写真撮影/近藤宏美)

アジアンタム・ぺルビアナム(写真撮影/近藤宏美)

アジアンタム・ぺルビアナム(写真撮影/近藤宏美)

ネフロレピス・ドラゴンテール(写真撮影/近藤宏美)

ネフロレピス・ドラゴンテール(写真撮影/近藤宏美)

「シダ系の植物は、幹がなくペタっとしていて葉っぱが多いのが特徴です。高めの空中湿度が好きなので、こまめに霧吹きをしてあげると元気に育ちますよ。逆に乾燥には弱い植物が多いので、窓の近くよりは少し暗い場所に置くのがおすすめですね。洗面所やキッチンに置くのも良いと思います。リビングであれば窓から離れた暗い場所に置けるので、レイアウトの幅が広がっていいのではないでしょうか」

さまざまなお部屋の環境にあわせて、ベランダや窓の近くには暑さに強い植物、キッチンや洗面所には湿気に強い植物を置くことを意識するだけで、ぐっと育てやすくなるのではないでしょうか。

ちなみに、観葉植物からはリラックス効果のある成分が分泌されているのだとか。日々の仕事や家事などで疲れているときでも、観葉植物の鮮やかなグリーンを目にするだけで、穏やかな気持ちになれるでしょう。
これまで観葉植物を育てたことがないという方も、以前観葉植物を育てて失敗したという方も、お部屋に飾る生活を始めてみませんか?

●取材協力
・観葉植物専門店グリーンインテリア

RoomClip編集部に聞く「100均DIY」の驚くべき進化

100円ショップのアイテムを使って気軽にチャレンジできることから、近年主婦の間で人気の「100均DIY」。なぜここまで浸透し、どのような変化をしてきたのでしょうか。月間270万人が利用する、部屋のインテリア実例共有サイト「RoomClip」運営チームの竹野さんにお話をうかがいました。
メディアの発信で浸透した「100均DIY」文化

「日曜大工」という言葉もあるように、DIYには男性のイメージが定着しています。そんななかで登場した「100均DIY」という言葉は瞬く間に主婦たちの間に広まり、今や主婦にとって代表的な趣味として知られるようになりました。

「100均DIYがはやり始めたのは、2015年ごろだったと記憶しています。RoomClipでも『100均』と『DIY』のタグをつけた投稿が増えてきました」(竹野さん、以下同)

100均DIYが浸透していったのは、どのような背景があったのでしょうか。

「2015年に100均アイテムを使ったDIYを紹介するムック本が相次いで発売されました。書籍やテレビ、ウェブメディアなどが目をつけ、積極的に発信したことが大きなきっかけだったと考えられます」

また2015年といえばInstagramが国内のアクティブユーザー数を大きく伸ばした年。「自分でつくった作品の写真をネットに投稿する」というアクションが定着したことも、100均DIYの発展に一役買ったようです。

材料5つ、計500円余りでつくれるという消臭ビーズ入れ。写真ではフックと瓶のワイヤー部分を塗料で白く塗り、インテリアに溶け込ませる工夫も(画像提供/miyuさん)

材料5つ、計500円余りでつくれるという消臭ビーズ入れ。写真ではフックと瓶のワイヤー部分を塗料で白く塗り、インテリアに溶け込ませる工夫も(画像提供/miyuさん)

クローゼット内の収納を3段に増やす便利ワザ。子どもの服を畳む手間を削減し、衣替えもスムーズに(画像提供/taitaiさん)

クローゼット内の収納を3段に増やす便利ワザ。子どもの服を畳む手間を削減し、衣替えもスムーズに(画像提供/taitaiさん)

100均DIYの醍醐味は「自分で家をカスタマイズできる楽しさ」

「100均DIYにチャレンジする動機として最も多いのは、『100円なら失敗しても怖くない』という理由。『いきなりホームセンターで本格的な道具と材料を買うのはハードルが高い』という方も、100均ならチャレンジしやすかったと言います」

100均DIYで慣れた方が、やがて本格的なDIYへとスキルアップしていくこともあるのだとか。

突っ張り棒1本でトイレットペーパーの収納を実現。カフェ風のカーテンはダイソーで購入(画像提供/tentenさん)

突っ張り棒1本でトイレットペーパーの収納を実現。カフェ風のカーテンはダイソーで購入(画像提供/tentenさん)

壁収納は100均DIYの基本技とも言える。こちらは黒ワイヤーを結束バンドで固定するだけの手軽な壁収納DIY(画像提供/ayakaさん)

壁収納は100均DIYの基本技とも言える。こちらは黒ワイヤーを結束バンドで固定するだけの手軽な壁収納DIY(画像提供/ayakaさん)

安価だからこその安心感、手軽さから、初心者もチャレンジしやすいという100均DIY。その楽しさはどこにあるのでしょうか。

「やっぱり、オリジナリティを出せるところだと思います。自分の手でつくったものに囲まれ、使ううちに、より一層自分の家に愛着をもてるようになることが100均DIYの醍醐味です」(竹野さん)

自作のフラワーインテリア。ペンキを塗ったメイソンジャーに、グルーガンで造花とプリザーブドフラワーを接着(画像提供/Disneyさん)

自作のフラワーインテリア。ペンキを塗ったメイソンジャーに、グルーガンで造花とプリザーブドフラワーを接着(画像提供/Disneyさん)

100均の材料にお子さんたちが拾ってきたドングリや石を活用し、インテリアを自作(画像提供/crowさん)

100均の材料にお子さんたちが拾ってきたドングリや石を活用し、インテリアを自作(画像提供/crowさん)

一方で、憧れの生活を手に入れるために100均DIYに取り組む人もいると言います。

「個別の作品をつくって終わりではなく、家全体を1つのコンセプトに向けてカスタマイズしていく人が増えていますね」(竹野さん)

あちこちに100均DIYの工夫がなされた部屋。意識しているのは「フレンチナチュラル」と「フレンチカントリー」(画像提供/Disneyさん)

あちこちに100均DIYの工夫がなされた部屋。意識しているのは「フレンチナチュラル」と「フレンチカントリー」(画像提供/Disneyさん)

最新の100均DIYトレンドは「創造性を加えた“自分だけのインテリア”」

ここで最新の100均DIYのトレンドについても教えていただきました。

「RoomClipでは、アイテムそのものを生活に取り入れるのではなく、自分の創造性を加えて、『自分だけのもの』につくり変えようとする投稿が増えています。例えば先日は、お皿とカップを貼り合わせてオリジナルのケーキスタンドをつくった投稿がありました。私たちでも思いつかないようなアイデアが、日々投稿されています」(竹野さん)

短期的なトレンドで言えば、今は新生活が始まる時期。普段のメインユーザー層は主婦ですが、この時期は一人暮らしの人の投稿が増えるのだそうです。

靴収納に便利な自作ラック。すのことアイアンバーを組み合わせて作成。新生活にもおすすめ(画像提供/yunakoさん)

靴収納に便利な自作ラック。すのことアイアンバーを組み合わせて作成。新生活にもおすすめ(画像提供/yunakoさん)

新生活を機に100均DIYを始めたいという人には「まずは簡単なものからチャレンジしてほしい」と竹野さんは言います。
「100均の材料を使って簡単な木箱などをつくるところから始めて、慣れていく。その後段々と『色を塗りたいからハケを使ってみよう』『ディアウォールやラブリコを使った壁面収納のDIYにチャレンジしてみよう』とやりたいことに挑戦する、その繰り返しでみなさんスキルを上げてこられたようですね」

もはや100均DIYは、理想の住環境を気軽に手に入れるための手段のひとつとなっているようです。既製品だけに囲まれた暮らしではなく、自分が手がけたものに囲まれて暮らす生活を求める人が増えているのかもしれません。

●取材協力
・RoomClip
●画像提供
・ayakaさん(RoomNo.874680)
・crowさん(RoomNo.1211179)
・Disneyさん(RoomNo.810832)
・miyuさん(RoomNo.535462)
・taitaiさん(RoomNo.610489)
・tentenさん(RoomNo.2937148)
・yunakoさん(RoomNo.974057)
※ローマ字順

マンションなのに「土間」がある? 静かなブームになりつつあるそのワケは

最近、マンションで「土間」が静かなブームになっているって、知っていますか?  土間といえば、昔の日本家屋のイメージが強いけれど、実用的かつオシャレな空間として、いま見直されているようです。早速、その実態を取材しに出かけました。
なぜ、マンションに土間? 住まい選びの変化も関係していた

「土間ブームは急にやってきたわけでなく、以前からニーズがありました。自分たちらしいライフスタイルを実現したいと考えている人たちにとって、土間という空間は生活にゆとりをもたらすものとして、選択肢の一つによくあがります」
そう話すのは一戸建てからマンション、ホテルまで多彩なリノベーション事業を手掛ける株式会社リビタの山田笑子(やまだ・えみこ)さん。

その背景には住まい選びの変化も関係しているようです。
「都心部を中心に新築マンション価格が上がったこともあり、中古マンションを購入してリノベーションする選択肢が定着しています。むしろ、そうやってカスタマイズされた住まいにこそ価値を見出す、そんな人たちが増えていることを実感しますね」(同)

日々たくさんのリノベーションをサポートする山田さん(写真撮影/ブリーズ)

日々たくさんのリノベーションをサポートする山田さん(写真撮影/ブリーズ)

なるほど、あえて新築ではなく、中古マンションをリノベーションして自己実現する。その中の魅力的な空間のひとつとして、土間が注目されているということですね。そこで、実際に土間のあるマンションに暮らすMさん(練馬区)を訪ねました。

趣味のアウトドアを感じられ、実用性も高い土間にこだわり

Mさん宅の玄関を入ると、おー、土間があります。そこには趣味の自転車やベビーカーなどが並び、土間から続くフリースペースと合わせて、ゆったりした広がりが感じられる空間です。築25年ほどの中古マンション(約76平米/3LDK)を購入し、株式会社リビタに依頼してフルリノベーションしたそうです。

Mさん宅の玄関ドアを入ると土間+フリースペースが広がっていた(写真撮影/ブリーズ)

Mさん宅の玄関ドアを入ると土間+フリースペースが広がっていた(写真撮影/ブリーズ)

「子どもの誕生に合わせて家探しをしました。注文住宅や建売住宅から新築&中古マンションまで、幅広く情報を集め見学しましたが、なかなかピンとくる物件に出合えませんでした。そんなときフルリノベーションするという手法を知り、同時に土間のある住まいがアウトドア派の私たちにピッタリと確信しました」(Mさん)

玄関に土間があることで、汚れがちなテントなどのキャンプ道具を管理しやすく、雨の日は濡れた衣類や荷物なども土間で手入れすれば、居室内を汚さずに済むといいます。近い将来、ちょっとした子どもの遊び場にもなりそう。土間はとても実用的で便利な空間なんですね。

「土間とフリースペースをはじめ部屋のレイアウトを大きく変更、まるで注文住宅のようなこだわりを詰め込むことができました」とMさん。築年数からして、共用設備などの若干の古さは目につくものの、管理はしっかりしていて、ここ10年で大きく値崩れしていることもなかったそう。それでも新築マンションに比べれば、リノベーション費用を加味しても安く済んだと満足の様子です。

左/リノベーション前につくってもらった模型。左上が土間 右/リノベーション前の写真を見せてくださったMさん(写真撮影/ブリーズ)

左/リノベーション前につくってもらった模型。左上が土間 右/リノベーション前の写真を見せてくださったMさん(写真撮影/ブリーズ)

古くて新しい空間、それが土間 活用法は広がっている

昔の日本の家にあった土間はどんなイメージでしょうか。土のついた野菜があったり、飲料水をためてあったり、炊事場だったり……。まあ、何か作業をする場所で、床はコンクリートやタイル、漆喰を塗り固めた素材でできていました。その性格上、防水性に優れている必要があったわけですね。

そうした土間は、いまでは狭い玄関に集約されるようになったと考えられます。そしていま、趣味と実益を兼ねた空間として、あえて設置されるケースが増えているというわけです。

では、実際にはどのように活用されているのでしょうか。「玄関の延長でいえば土間収納も人気です。また水まわりを土間にすることで掃除やお手入れが楽ですし、インナーテラスのように土間をつくれば癒やしの空間にもなります。さらに、コンクリートやタイル敷きにしないでも、あえて段差を付けることで土間風なメリハリをつける空間づくりもありますね」(山田さん、以下同)

土間は家の中なのに土足OKの空間。役割としては、家の外でも中でもない中間領域です。「住まいの中に、あえてきちんとしていない空間があることが貴重なのかもしれませんね。そのことで暮らしの中にゆとりが生まれる。それが土間が支持されるひとつの理由だと思います」

左/コンパクトでも土間をつくることで共用部からの視線を気にせず明るい空間に 右/広い面積の土間をつくることで自由な領域が増える一戸建て事例(写真提供/株式会社リビタ)

左/コンパクトでも土間をつくることで共用部からの視線を気にせず明るい空間に 右/広い面積の土間をつくることで自由な領域が増える一戸建て事例(写真提供/株式会社リビタ)

今回見てきたリノベーションマンションだけでなく、最近は賃貸のワンルームでも土間のあるマンションが少しずつ増えているようです。限られた広さの中でもメリハリがきいた空間の演出が人気の理由でしょう。土間ブームはこの先も根強く続きそうですね。

●取材協力
・株式会社リビタ

「優しく・おいしく・楽しく」がモットー、“本気キッチン”がある家(後編) テーマのある暮らし[3]

2児の母であり、栄養士・フードコーディネーターとして活躍している落合貴子さん。これまで多くの料理家のアシスタントを務めた経験から、さまざまなキッチンを見つめてきました。後編では、プロならでの視点が随所に散りばめられたこだわりを紹介します。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。あえて“見せる収納”にした理由とは……?

フライパンやなべを収納している棚は、かつてリビングだった場所。柱と柱の間には大きな窓がありました。

「最初は、この窓を壁でふさいでしまうのもありかな、と思ったんです。でも、『すりガラスだから気にならないよ』とパパ友の建築士にアドバイスしてもらって、窓に棚をつけてもらいました。明かりも入りますし、へんな出っ張りもないのできれいに見えます」

「私は、“捨てられないタイプ”なので持ち物が多いんです。このリフォームをしたとき、あれ? 私ってこんなのも持ってたんだ、という懐かしいモノもたくさん出てきて……(笑)。だから、全部出していつも見える場所に置かないとダメなんです」という落合さん。

「初めて料理教室に来た人も、後片付けのときに何をどこにしまうか、ひと目で分かります。生徒の皆さんが戸惑わないことも、メリットのひとつです」(写真撮影/内海明啓)

「初めて料理教室に来た人も、後片付けのときに何をどこにしまうか、ひと目で分かります。生徒の皆さんが戸惑わないことも、メリットのひとつです」(写真撮影/内海明啓)

注目したいのは、窓の下部分をはじめ、シンク下もあえてオープンにしている点。これには、どんな秘密があるのでしょうか?

「実は、下にもぐると棚でふさがっている窓を開けることができます。肉を焼いたり、スモーク料理をして換気が追い付かないときに便利ですね。扉で隠してすっきり見えるシステムキッチンも良いのですが、オープンにすることで、汚れに気付いたときにすぐに掃除できるというメリットもありますね」

「私のように持ち物が多い人や忘れっぽい人は、“隠さない収納“でひと目で分かりやすくしておくことも対策のひとつです」(写真撮影/内海明啓)

「私のように持ち物が多い人や忘れっぽい人は、“隠さない収納“でひと目で分かりやすくしておくことも対策のひとつです」(写真撮影/内海明啓)

落合さん絶賛! トレイ付きワゴン。「美容室でロッドなどを入れているこのワゴンが欲しくて、買っちゃいました。お値段はしますけど、頑丈でとても使いやすいのでお気に入り」(写真撮影/内海明啓)

落合さん絶賛! トレイ付きワゴン。「美容室でロッドなどを入れているこのワゴンが欲しくて、買っちゃいました。お値段はしますけど、頑丈でとても使いやすいのでお気に入り」(写真撮影/内海明啓)

5口のガスコンロを備えながら必要なスペースもしっかり確保

料理は、火加減が命です。ガスコンロは家庭用のなかで最も火力の強いタイプを含めて、全部で5口備えています。

「最初は、3口のコンロを2セット置く予定でした。でも、そうすると調理台のスペースが狭くなって困るので、3口コンロに一人暮らし用のマンションに使われる2口タイプのコンロをプラス。プラスした2口コンロは、縦に並んでいるのでそんなに場所を取りません。それでも足りないときは、卓上のIHコンロの出番です」

コンロまわりも掃除しやすいステンレス仕様で統一。汚れが気になったらすぐ拭けるよう、専用のクリーナーも見える場所でスタンバイしています(写真撮影/内海明啓)

コンロまわりも掃除しやすいステンレス仕様で統一。汚れが気になったらすぐ拭けるよう、専用のクリーナーも見える場所でスタンバイしています(写真撮影/内海明啓)

レンジフードは業務用を使用。大きいので掃除の大変さはあるものの、家庭用に比べて外す部品が少なくシンプルなつくりで、何といってもパワフル(写真撮影/内海明啓)

レンジフードは業務用を使用。大きいので掃除の大変さはあるものの、家庭用に比べて外す部品が少なくシンプルなつくりで、何といってもパワフル(写真撮影/内海明啓)

欧米のキッチンでよく見かける憧れのダブルシンク

そのほかにも、二人並んでも余裕で使えるダブルシンクをはじめ、家電製品の置き場所や選び方にも落合さんらしさがいっぱい。効率面、利便性、費用対効果など、さまざまな視点で考えられています。

ボリュームの多い仕事のときは、なべやフライパンを洗うことと野菜洗いが同時進行することも。洗いものの強い味方になってくれるダブルシンク(写真撮影/内海明啓)

ボリュームの多い仕事のときは、なべやフライパンを洗うことと野菜洗いが同時進行することも。洗いものの強い味方になってくれるダブルシンク(写真撮影/内海明啓)

奥行と幅のある収納スペースに電子レンジや炊飯器、電気ポットをセットイン。使用時にトレイを引けば、湯気で収納家具を傷めることはありません(写真撮影/内海明啓)

奥行と幅のある収納スペースに電子レンジや炊飯器、電気ポットをセットイン。使用時にトレイを引けば、湯気で収納家具を傷めることはありません(写真撮影/内海明啓)

リフォーム前、1台しか置けなかった冷蔵庫は2台に。修理やメンテナンスの費用も考えて、業務用ではなく家庭用冷蔵庫を使用しています(写真撮影/内海明啓)

リフォーム前、1台しか置けなかった冷蔵庫は2台に。修理やメンテナンスの費用も考えて、業務用ではなく家庭用冷蔵庫を使用しています(写真撮影/内海明啓)

料理や用途に応じて調理グッズも使い分け

落合さんが提供しているレシピは、「優しく・おいしく・楽しく」がモットー。それはキッチンだけでなく、使っている調理グッズにもあらわれています。

スパイスを挽くグッズも、ピリッとしたスパイシーさや粒感が欲しいときにはオリーブの木でできたすりこぎを使用するとか。香りを重視したいときは細かく挽ける陶器のすりこぎを使うなど、用途に応じて使い分けているそうです。

ずっしりした重みのある天然オリーブの木でつくられたすりこぎ(左)と、益子焼展で一目惚れして買った青森在住の作家による陶器のすりこぎ(右)(写真撮影/内海明啓)

ずっしりした重みのある天然オリーブの木でつくられたすりこぎ(左)と、益子焼展で一目惚れして買った青森在住の作家による陶器のすりこぎ(右)(写真撮影/内海明啓)

“本気キッチン”で生み出された、落合さん考案のレシピ集(写真撮影/内海明啓)

“本気キッチン”で生み出された、落合さん考案のレシピ集(写真撮影/内海明啓)

明るくて気さくな落合さん。翌日に大きな仕事を控えていたにもかかわらず、快く取材を受けてくださいました。落合さんのこだわりのひとつ「素材本来がもっている風合いや味」は、ステンレスや床板に限らず、ひとつひとつの食材に対しても同じ想いなのでしょう。時間や手間を惜しまず、丁寧に素材の良さを引き出す落合さんの料理マジックを、教えていただきたくなりました。

●取材協力
・落合貴子さん
自然食品メーカーにてカウンセリングなどの実務経験を経て、フードコーディネーターに転身。多数の料理家アシスタントを務め、料理家として独立。現在2児の母親であり、テレビや雑誌などで「優しく・おいしく・楽しく」を心がけたレシピを提案している。
・一級建築士事務所 木暮建築設計室

自宅をキッチンスタジオに改造!“本気キッチン”がある家(前編) テーマのある暮らし[3]

栄養士の資格を取得した後、現在はフードコーディネーターとして雑誌やテレビで活躍している落合貴子(おちあい・たかこ)さん。仕事柄、たくさんの料理をつくる機会が多いうえに、自身で料理教室を開催していることもあり、住んでいた自宅をキッチンスタジオにつくりかえてしまいました。まずは、その前編からスタートです。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。対面式のカウンターキッチンを仕事専用のキッチンに

春日通りと白山通りに挟まれ、歴史と文学の香りが漂う街、文京区小石川エリア。落合さんのキッチンスタジオは、大通りから一歩奥まった静かな住宅街にたたずむマンションの一室にあります。

「こちらはファミリータイプのマンションで、最初は私たち夫婦と子どもの3人で住んでいました。当時からフードコーディネーターの仕事をしていたのですけれど、ふたり目の子どもが生まれたときに、この場所で生活と仕事を両立させるのは難しいと感じたため、住まいを引越してここを仕事場にすることにしました」

当時は、対面式のカウンターキッチンがあるリビングダイニングだったそう。しばらくは、そのままの状態で使っていたそうですが、仕事のボリュームが増えていくにつれて問題が生じてきました。

食材から調味料、調理器具など、ただでさえモノがあふれやすいキッチン。「家族4人の暮らしと仕事場を分けることで、問題を解決しようと考えていました」(写真撮影/内海明啓)

食材から調味料、調理器具など、ただでさえモノがあふれやすいキッチン。「家族4人の暮らしと仕事場を分けることで、問題を解決しようと考えていました」(写真撮影/内海明啓)

デッドスペースをなくして動きやすく、間取りもとにかくフレキシブル

「家庭用のキッチンは、手の届く範囲でいろいろ動けて便利なのですが、仕事で使う場合は圧倒的に狭いんです。私ひとりならまだしも、ボリュームの多い仕事はアシスタントさんにお願いすることもあります。そうすると、窮屈だし、スムーズに動けません。それでも、なるべくデッドスペースを減らそうと、ワゴンをつくるなど自分なりにDIYをやってみたのですけど、やっぱり限界でしたね」と落合さん。

そんな落合さんが相談したのは、子どものつながりで知り合ったパパ友の建築士。「年齢的にも近いし、住宅を手掛けるために独立したことも伺っていたので、ちょっと聞いてみようかな、と(笑)。それが、リフォームのきっかけでした」

シンクやコンロを壁側に寄せて、“見せる収納”にこだわったキッチン。ブルーのタイルがステンレスの風合いとマッチして、清潔感のある雰囲気を醸し出しています(写真撮影/内海明啓)

シンクやコンロを壁側に寄せて、“見せる収納”にこだわったキッチン。ブルーのタイルがステンレスの風合いとマッチして、清潔感のある雰囲気を醸し出しています(写真撮影/内海明啓)

落合さんがこだわったのは、可能な限りデッドスペースをなくして、広くて動きやすいキッチンにすることと、使えるものをそのまま使って予算の範囲内におさめる、という点でした。

「シンクまわりはシステムキッチンのほうが安いのですが、サイズが決まっているためどうしてもデッドスペースができやすいんです。なので、ここはステンレス製のオーダーメイドでバッチリ予算をかけました」

スパイスや調味料、調理器具がびっしり入っている調理台は、女性でも簡単に動かせます。「コンロが足りないときは、カセットコンロを置く場所にもなるんですよ」(写真撮影/内海明啓)

スパイスや調味料、調理器具がびっしり入っている調理台は、女性でも簡単に動かせます。「コンロが足りないときは、カセットコンロを置く場所にもなるんですよ」(写真撮影/内海明啓)

また、落合さんのキッチンは料理の撮影だけでなく、タレントさんが来てスタジオスペースとして貸す機会もあるのだそう。

「L字型やコの字型とかでキッチンをがっちりつくってしまうと自由に動けず、できることが限られてしまうんですよね。そこで、調理台にキャスターをつけて、移動できるようにしました。撮影内容に応じて、自由に間取りを変えられるようにしています」

床暖房をあきらめて無垢の床材にこだわった理由

リフォームを行ううえで、落合さんが最も悩んだのが床材。このリビングダイニングにはもともと床暖房が付いていましたが、それを活かそうとすると素材が限られてしまいます。

「私は、使えば使うほど味が出てくる素材が好きなんです。キッチンまわりにステンレスを使ったのも、ついた傷がいい味わいになるから。そこで、床材もユーズド感のある古木のような素材を使いたかったんです。だから、床暖房はあきらめて取ってしまいました(笑)」と落合さん。

いろいろなサンプルのなかから、落合さんが一目惚れしたのはこのカラフルな床材。
「海外の学校で使われていた床材を輸入して、アンティーク加工したもの。でも、いざ見積もりを見たら、想像をはるかに超えたお値段で、泣く泣くあきらめることに……。その床材をワンポイントとして、壁に貼ってもらうことにしました」

「かわいい色合いの床材が貼られたこのスペースは、撮影のバックで使われるくらい大活躍しているんですよ」と落合さん(写真撮影/内海明啓)

「かわいい色合いの床材が貼られたこのスペースは、撮影のバックで使われるくらい大活躍しているんですよ」と落合さん(写真撮影/内海明啓)

そして、次の候補となった無垢の床材を選ぶことになったそうです。「学校施設の建築に携わっていた建築士の方が、体育館で使われている床材を見つけてくれました。傷も目立ちにくいし、自然なツヤも出て、結構雑に使ってもいい風合いを出してくれています」

「取材撮影する方々が気を使って養生シートを持ってきてくださることもありますが、私自身はそのままでも気にしません。むしろ私のほうが傷付けちゃうくらいで、この床材にしてよかったと思っています」(写真撮影/内海明啓)

「取材撮影する方々が気を使って養生シートを持ってきてくださることもありますが、私自身はそのままでも気にしません。むしろ私のほうが傷付けちゃうくらいで、この床材にしてよかったと思っています」(写真撮影/内海明啓)

2部屋を遮っていた壁を抜いて、明るく広々としたスペースに

実は、リビングダイニングの隣にはもうひとつ部屋があったそうで、今回のリフォームで壁を抜いてゆとりあるスペースを確保しました。

「もともと隣の部屋は日当たりがよかったのですけど、1枚壁を取ったことでキッチンのほうまで明るくなりました。こちらの場所は、打ち合わせや料理教室、ケータリングのときなどに使うことが多いです。西日がスゴイですけどね(笑)。でも、エアコンや照明などの電気系統は、一切変えずにそのまま使えています」

友人たちとワイワイ飲み会をする機会も多い、という落合さん。自家製の梅干しの下には、大好きなお酒もずらっと並んでいます(写真撮影/内海明啓)

友人たちとワイワイ飲み会をする機会も多い、という落合さん。自家製の梅干しの下には、大好きなお酒もずらっと並んでいます(写真撮影/内海明啓)

部屋の隅は、お菓子づくりの道具や撮影のためのスタイリング用品、使用頻度の低い食器類を収納するスペースに。ここは、かつてクローゼットだったそう。扉をはずして棚をつけてもらい、こまごました道具もカテゴリ別に缶やカゴにまとめられ、すっきり収納されています。

「お菓子の抜き型って、意外とスペースを取るんですよ。しかも、つくる料理によって大きさや形でニュアンスが変わるので、どんどん増える一方です」(写真撮影/内海明啓)

「お菓子の抜き型って、意外とスペースを取るんですよ。しかも、つくる料理によって大きさや形でニュアンスが変わるので、どんどん増える一方です」(写真撮影/内海明啓)

さて、本気キッチンがある家【前編】はここまでです。【後編】では、プロならではの視点で考えられたシンクやコンロまわり、“見える収納”にこだわった理由などをご紹介します。【後編】も、ぜひお楽しみくださいね。

●取材協力
・落合貴子さん
自然食品メーカーにてカウンセリングなどの実務経験を経て、フードコーディネーターに転身。多数の料理家アシスタントを務め、料理家として独立。現在2児の母親であり、テレビや雑誌などで「優しく・おいしく・楽しく」を心がけたレシピを提案している。

・一級建築士事務所 木暮建築設計室

旅行の思い出をインテリアに! プロが教える5つのテクニック

いつもの生活から離れて、非日常感を味わうことができる旅行。旅行中に、ホテルのインテリアや街並み、アイテムから新しいアイデアやインスピレーションを得ることも少なくありません。
世界最大のオンライン宿泊予約サイト「Booking.com」の日本法人であるブッキング・ドットコムジャパンが、およそ19,000人の世界中の旅行者に対して行った「旅行とインスピレーションに関するアンケート」によると、56%の旅行者は「旅行先のインテリアに影響を受けて自宅のインテリアを変える」と回答しています。特に、ミレニアル世代とよばれる10代からアラサー世代では、この割合は67%にまで上昇します。
また、旅行者の44%は、「ホテルだけでなく、旅行先特有のデザインもインテリアの参考になる」と答えています。では、実際にどのような都市のデザインがよく参考にされているのでしょうか。ブッキング・ドットコムのユーザーが「デザイン」のカテゴリで高い評価をつけている5都市を見てみましょう。
デザイン都市としては依然として北欧が人気画像提供/ブッキング・ドットコム

画像提供/ブッキング・ドットコム

北欧はフィンランドとデンマークと2都市もランキングに入っています。さすがデザイン大国ですね。その他もヨーロッパの国が人気があるようです。

では、デザイン感度の高い旅行者はどの国の人々なのでしょうか? 特にアジア圏の旅行者は旅行先でのインテリアデザインを重要視する傾向があるようです。

画像提供/ブッキング・ドットコム

画像提供/ブッキング・ドットコム

デザインのインスピレーションを得るために、ホテルタイプ以外の宿泊先を選ぶと答えた旅行者も47%と半数近くを占めています。「コテージ」などの「バケーションレンタル」スタイルは、旅行先のインテリアやデザインを重要視するタイ人旅行者やインド人旅行者の間でも人気が高いようです。

ブッキング・ドットコムが行ったこのアンケートでは、57%の旅行者が「物理的にも精神的にも日常から離れることで、休暇をより満喫できる」と答えていますが、いつもの環境にはないインテリアやデザインも日常から離れるきっかけになるものです。旅行を満喫するために旅先のインテリアやデザインを積極的に楽しみたいですね。

旅先のインテリアの楽しみ方は……?

しかし一方で、ブッキング・ドットコムの担当者によると、「旅行先でのインテリアデザインを重要視している」と答えた日本人は少ないそう。なんと16%ほどにとどまっているとか。また「ホテルのインテリアが気に入って、予定していた時間よりも長くホテルに滞在した」という人は、インド人旅行者では60%、中国人旅行者では56%となっているのに対し、日本人旅行者はわずか14%という結果に。

新しいアイデアやインスピレーションを得られるせっかくのチャンスなのに、少しもったいない気がしますね。次の旅行では、旅行先のインテリアやデザインに注目して宿泊先を選ぶことにチャレンジしてみてはいかがでしょう。

一方で、旅行で得たアイデアやインスピレーションを自宅のインテリアに活かすといっても、意外と難しいのも現実。インテリアのプロはどのようにして旅の雰囲気をインテリアに取り入れているのでしょうか。ブッキング・ドットコムが話を聞いた、インテリア・スタイリスト兼ライフスタイルエキスパートのウィル・テイラー氏によると、旅行先のアイデアやインスピレーションを自宅のインテリアに取り入れるテクニックは5つあるそう。さっそく、プロのテクニックを紹介していきます。

【テクニック1】旅行先にちなんだアイテムをアクセントとして活用
旅行先から持ち帰ったアイテムがあれば、インテリアのアクセントとして活用できないか考えてみましょう。例えば、お土産のバスケットはダイニングテーブルの照明にかぶせるだけで、今までのダイニングの雰囲気を一新することができます。また、寝室の印象を変えてみたいのであれば、伝統工芸のラグをベッドのヘッドボードにかけるのもオススメ。簡単にできるのに、部屋の印象をガラリと変えることができます。

【テクニック2】インスピレーションを受けた色彩は写真やお土産で再チェック
旅行したときに「素敵だな」と感じた色彩を自宅に取り入れる場合は、ポストカードや写真、お土産の服やアクセサリーなどといった現地のものを振り返ってみましょう。インスピレーションを感じた色彩を改めて確認できたら、その色合いを再現できるアイテムを見つけに行くとよいでしょう。

【テクニック3】旅先でしか出会えないデザインのものを持ち帰る
旅先の雰囲気を強く出したいなら、旅先でしか出会えないデザインのものをお土産として選ぶのもよいですね。例えば、シンプルなソファーが自宅にある場合、モロッコで買ったキリム柄のクッションをソファーに置くだけで一気にエキゾチックで温かい雰囲気の部屋にすることができます。このように、旅行先の国や地域独自のデザインのものを上手に選びましょう。

【テクニック4】旅先の香りを再現
部屋の雰囲気を変えるのは、色やアイテムだけではありません。旅行先で得た感覚を思い出したいときは、ホテルで使われていた香りや街中で感じた雰囲気を思い起こさせる香りを、アロマキャンドルやお香で再現してみるとよいでしょう。暖炉のある北欧のアパートメントに泊まった体験を再現したいのであれば、雪の降る日に薪の香りがするキャンドルを灯してみるのもよいですね。

【テクニック5】旅行の思い出や旅行先で見た景色を色で表現
色はデザインにおいて感情的な要素です。上手に使って、旅の思い出やお気に入りの景色を色で再現してみましょう!例えば、「地中海の美しさに感動した」という思い出を大切にインテリアに取り入れたいのであれば、きれいな青色のペンキで廊下や部屋の壁を塗るのもおすすめです。お気に入りの色に囲まれた環境を自宅につくると、自宅がさらに居心地のよい空間になります。

旅行先の街並みや自然をインテリアに取り入れるというのはなかなか難しいものですが、ホテルのインテリアから受けたアイデアやインスピレーションは比較的再現しやすそうですね。

国内でもインテリア鑑賞を目当てにしたショートトリップができる!

海外旅行だけではなく、国内旅行でもホテルのインテリアからインスピレーションを受けることもできるはず。

ブッキング・ドットコムによると、「モクシー東京錦糸町 by マリオット」「TRUNK (HOTEL)」など、東京都内にも個性的でデザイン性の高いホテルがあるとのこと。国内・海外問わず、旅行する際にはいつもの環境にはないインテリアやデザインを楽しむことを目的にしてもよいかもしれません。

MOXY Tokyo Kinshicho by Marriott Hotel(画像提供/ブッキング・ドットコム) 

MOXY Tokyo Kinshicho by Marriott Hotel(画像提供/ブッキング・ドットコム) 

TRUNK (HOTEL) (画像提供/ブッキング・ドットコム)

TRUNK (HOTEL) (画像提供/ブッキング・ドットコム)

●参照
・PR TIMES

「空き家購入、メリットとデメリットを知りたいです」 住まいのホンネQ&A(3)

誰もが知りたい住宅に関するさまざまな疑問について、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく本連載。第3回の質問は「空き家購入、メリットとデメリットを知りたいです」です。
新築マンション価格が高騰している一方、国内の空き家は増加の一途をたどり、社会問題になりつつあります。最近は、空き家のマッチングサイトなどがよくメディアに取り上げられるようになり、一般消費者が購入可能な手段も増えてきました。新築マンションが高騰しているいま、安く空き家を買えたら言うことなしのようにも思えますが、果たしてどんなメリットやデメリットがあるのか……? 注意すべき点や税制控除などについてもお話しいただきました。
社会問題化する「空き家」、高騰する新築マンション

総務省によれば日本の空き家は2013年時点でおよそ820万戸。2018年の現時点ではおそらく1000万戸を超える空き家があります。さらに日本はこれから本格的な人口減少と少子化・高齢化に見舞われるため、2033年には空き家が2000万戸、空き家率は30%を超えるとのシンクタンク試算もあります。エリアによっては「お隣りは空き家」といった時代が到来しそうです。

一方で新築マンションを中心とした住宅価格は高止まり。不動産経済研究所によれば、2018年2月の首都圏新築マンション価格平均は6128万円。東京都区部に至っては平均7223万円と、普通のサラリーマンが買える水準をはるかに超えている状態です。

こうしたなか「空き家をうまく活用しよう」といった動きも出始めています。全国の自治体が管理する空き家・空き地情報を集約した『LIFULL HOME’S 空き家バンク』(運営:株式会社LIFULL )や、空き家の売り手と買い手が直接交渉でき、物件価格0円の空き家なども紹介されている『家いちば』(運営:株式会社エアリーフロー)など。とはいえ、こうした取り組みもまだ端緒についたばかり。『家いちば』は2015年の開設から成約は20件程度と、まだまだ認知度も低くユーザーも少ないのが実情です。

空き家活用が進まない3つの理由

空き家活用がなかなか進まない理由にはさまざまなことが考えられますが、第一に「立地」の問題があります。自分がほしい場所にたまたま空き家があり、売りに出ていれば検討の余地がありますが、エリアをある程度限定すると、売りに出ている空き家はまだまだ少数です。「売ることも貸すこともせず、ただ放置されている空き家がたくさんある」というのが昨今の空き家問題の特徴なのです。

第二に「建物のコンディション」。家というものは、人が住まなくなってから時間が経過するほど傷んでいきます。その理由には大きく2つあり、一つは「換気」が行われないことで通風性が失われ、カビや結露を発生させてしまうこと。次に「雨漏り」や「水漏れ」など建物の不具合が発生しても、誰も気づかず放置され事態が悪化してしまうことです。

また空き家の多くには、庭や室内に、前居住者の「残置物」が残っていたりします。残置物とは、庭の物置きや植栽、室内の家具や生活道具一式などです。こうしたものは原則として買い手か売り手のどちらかの負担で処分するしかありませんが、それにも当然コストがかかります。

このように空き家活用は一般に、普通に新築や中古を買うより少しリスクが高く、手間がかかり面倒なのです。それでも、よりリーズナブルに家を手に入れたいという人にとっては、いい買い物になる可能性もあります。割安感のある空き家を買って、自分の思いどおりにリフォーム・リノベーションして暮らすことができればいいですね。

住宅ローン控除やフラット35の適用にはコストがかかる!?

では次に、購入者する側に立った際に使える控除などについて見ていきましょう。

まず住宅ローンを組む場合、新築から築20年以内の建物(マンションは25年以内)であれば「住宅ローン控除」が使えます。住宅ローン控除とは、ローン残高(年末時点)の1%分の所得税が10年間、戻ってくるものです。

空き家の場合、これよりも築年数が古いことが往々にしてあるでしょう。その場合に住宅ローン控除を利用する方法は2つあり、一つは「既存住宅売買瑕疵保険」に加入すること。保険期間は1年ないしは5年、支払い限度額は500万円ないしは1,000万円というのが一般的ですが、保険加入のためには一定の建物補修が必要など、コストがかかる要件があります。

もう一つは「耐震基準適合証明書」を取得する方法。こちらも、耐震診断やその結果に応じた耐震改修をする必要があるので一定のコストがかかります。

留意したいのが、中古住宅で『フラット35』や不動産取得税の減税制度などを利用したい場合です。フラット35については、『フラット35の適合証明書』が必要で、1981年5月31日以前に建築確認を取得した旧耐震の物件で制度を利用するには、『耐震基準適合証明書』の取得が必須。それに伴って、やはり耐震診断や改修コストは必要です。築20年以上の一戸建て・25年以上のマンションで不動産取得税の減免を受けるには先述の『耐震基準適合証明書』が必要です。

リフォームやリノベーションには補助金がもらえることも

一方でリフォームやリノベーションを行う場合には、国や自治体からさまざまな補助金が出ることもあります。例えば東京都豊島区では修繕工事に10万円、リフォーム工事に20万円を限度として補助金がもらえます(※適用にはいくつかの要件あり)。使えるものはうまく使っておきたいところ。こうした税制や補助金等に詳しいリフォーム・リノベーション事業者とお付き合いすることがお得に空き家を活用するコツとも言えるかもしれません。

いずれにせよ、購入前に建物のコンディションはよく調べておきたいもの。2018年4月からは住宅売買時に「インスペクション説明義務化」がスタートします。これは簡単に言うと、住宅の売主・買主に、建物の状況を調べるインスペクション事業者のあっせんの有無やその内容について説明するという制度です。

中古住宅取引時に、欧米では当たり前のように行われているホームインスペクション(住宅診断)を日本でも常識化し、中古住宅流通を促進させたいといった国の意志の表れですが、未来の日本では、中古住宅や空き家をうまく活用するというのは当たり前のことになっているでしょう。とはいえ日本ではまだこうした施策はまだ始まったばかり。制度をよく知った上で、インスペクションを依頼するホームインスペクターやリフォーム事業者をうまく見極めつつ、空き家活用にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

初めての宅録 部屋づくりも楽しい

歌ったり楽器を演奏したりすることを趣味にしている人なら、一度くらいは「録音してみたい」と思ったことがあるのではないのでしょうか。録音作業を自宅で行う「宅録」。意外に知られていないその実態と、注意点を紹介します。
宅録機材にはどんなものがある? 楽器店で聞いてきた

以前は自宅で演奏を録音する「宅録」といえば高価な機材が必要でしたが、最近はPC作業だけで完結する「DTM(デスクトップミュージック)」がさかんです。DTMは20年以上も前から存在していましたが、いまは以前とは様変わりし、PCのソフト上でカラオケ伴奏を「打ち込」んで演奏させたり、それを聴きながらマイクや楽器をつないで録音したりすることも手軽にできるようになったといいます。

そんな宅録機材の現状を知るため、新宿東口にある山野楽器 ロックイン新宿 デジタル&エフェクター館に伺いました。営業中の店内で、フロアリーダーの高橋俊明(たかはし・としあき)さんと松森大修(まつもり・だいすけ)さんが機材一つひとつについて教えてくださいました。

自分で演奏した音を録音するのに必要なのは、PCと「オーディオインターフェース」。PCは特別なものではなく、普段使っているものでかまいません。音楽用のソフトをインストールしておく必要がありますが、フリーソフトでもよいとのこと。オーディオインターフェースにはソフトが付属していることが多いので、オーディオインターフェースと、音をモニターする(聴く)ためのイヤフォンもしくはヘッドフォンを用意すれば、すぐに宅録を始めることができます。

オーディオインターフェースは、マイクや楽器をつなぐことでPCにつながり、録音を可能にする機材。PCとはUSBで接続します。つなげるスピーカーや楽器の数、スペックによってさまざまな種類がありますが、安いものはいまでは1万円を切っているそうです。

「マイクだけをつなげて歌うだけならこれで十分。『歌ってみた』動画をアップする人などに人気です。この10年ほどで、録音用機材は利用者が増えてずいぶん値下がりし、入手しやすくなりました」(松森さん)

オーディオインターフェース売り場。大小さまざまな種類のものがある(写真撮影/近藤智子)

オーディオインターフェース売り場。大小さまざまな種類のものがある(写真撮影/近藤智子)

マイクは「ダイナミックマイク」あるいは「コンデンサーマイク」と呼ばれるものを使います。特に「コンデンサーマイク」は繊細でキレイな音で収音できるので、より録音向けに特化されています。これをつなぐときに使用するケーブルによっても音の質は変わってくるそうです。

レッツ・トライ! 目指す音楽があれば宅録はうまくいく

松森さんによれば、宅録で必要なのは「どんな音楽を録音したいのか」という理想をはっきりもつこと。それによって必要なものも変わってきますし、お店のほうでも何をすすめるべきか判断しやすいそうです。

コンデンサーマイクもさまざま(写真撮影/近藤智子)

コンデンサーマイクもさまざま(写真撮影/近藤智子)

「だいたい10万円くらいあればひと通りの器具はそろいます。マイクやヘッドフォンも高ければよい、というわけではありませんし、すべてを同じメーカーでそろえる必要もありません。最初は低価格のもので試してみてください」

お話を聞いている間も、何人ものお客さんが来店。それぞれ年代や見ている商品が異なり、「宅録」をする人たちの層の厚さが感じられました。いまはデータのやり取りもメールででき、バンドメンバーがそれぞれ自分のパートを録音して送れば、集まらなくても楽曲が完成します。宅録は今後もさらに進化していきそうです。

「ただし、集合住宅などで宅録をすると、時間によっては近所迷惑になってしまいますので、その点には気をつけてください」(松森さん)

宅録をしている人はどんな人?

実際に宅録をしている人のお話を聞くために向かったのは、神奈川県の海に近い街。36歳の会社員Mさんは高校時代からギターを始め、大学生のときには軽音楽部に所属、社会人になってからもバンドを継続していたという音楽好きの男性です。現在は一戸建てに妻と2人で暮らしています。Mさんがいちばん音楽に情熱を捧げていた時期は25歳から30歳ごろまで。主にインストゥルメンタルを演奏するバンドを中心に活動していたそうです。

宅録を始めたのは社会人になったころ。「エフェクターを買ったらおまけで簡易宅録ソフトがついてきたので試しに使ってみたところ、自分のPCではうまくいかなかったのです。それで、2万円くらいの初心者用をつい購入してしまいました」(Mさん)。これをきっかけにMさんの宅録生活はどんどん深まっていきますが、特にCDを制作したり、ネット配信をしたりといったことには関心がなかったそうです。

Mさん所有の宅録機材。左:楽器とスピーカー。右:コンデンサーマイク(画像提供/Mさん) 

Mさん所有の宅録機材。左:楽器とスピーカー。右:コンデンサーマイク(画像提供/Mさん) 

「打ち込みをしたり、フリー素材でサンプリング音源を組み合わせて楽しんだりして、それだけで満足していました。自分1人でできますし、録音すること自体が楽しかったので。作った曲は内輪向けの『分析戦隊アナライザー』とか(笑)それを友人たちに聞かせる程度で十分でした」(Mさん)

「あまり高価な機材は購入したことがありません。ソフトはサンプリング用のシリーズの物を買い、そのほかに『Pro Tools』というソフトのフリー版を使っていました。PCも、アーティストはMacのPCを使っているイメージが強いかもしれましたが、普段と同じWindowsを使っていました」(Mさん)

宅録は「宅録部屋」をつくるのも楽しい

Mさんは、一戸建て住宅の6畳の部屋を録音用にしていて、窓のガラスに100円ショップで買ってきたフィルムを貼っています。防音用ではなく防寒用のものですが、これがなかなか役に立つとのこと。もちろん防音室には到底及びませんが、数百円でもできる工夫があることにおどろきました。しかも、このシートはキンキンした高音を吸収してくれるのだそうです。

「最近はダンボールの防音室が販売されているようで気になっています。でも、100均のシートもよく役に立ってくれていて便利です。機材も安くなっていますし、宅録は本当に身近になったと思います」(Mさん)

Mさんは「宅録に興味がある人には、とりあえず始めてみてほしいです」と言います。ソフトがあれば音のずれなどを修正してくれるため、生音が完ぺきでなくてもそれなりに仕上がる気軽さがあって、録音は楽しいと教えてくださいました。

機材を並べた宅録部屋。うしろにシートが貼られている(画像提供/Mさん)

機材を並べた宅録部屋。うしろにシートが貼られている(画像提供/Mさん)


「100均のシートではなく、段ボールに卵パックを貼り付けたものを窓に貼ることでも防音できますよ。宅録の趣味は、部屋づくりの楽しさもありますから、気軽に挑戦してみてください」(Mさん)

Mさんに教わったダンボール製の防音室について後日調べたところ、たしかに防音室としては低価格の8万円台から販売されていました。もっとも、Mさんのように一戸建てに住んでいて、100均のシートで防音できるなら、特別な防音室を購入する必要はないように感じます。しかし手軽にできる宅録の防音は完ぺきではない場合もありますので、ご近所との関係には厳重な注意が必要です。

Mさんにいままで宅録に費やした総額を伺ってみたところ、「コンデンサーマイクやケーブル、ミキサーなど、楽器以外で30万円くらいでしょうか」と教えてくださいました。凝りすぎなければ、宅録は安価で楽しむことができそう。「結婚しましたし、仕事も忙しくなったのでいまは宅録から少し離れていますが、落ち着いたらまた始めたいですね」(Mさん)

「DTM」といえばかつてはオール打ち込み型のイメージで、自宅で歌って演奏して録音まで行うのは困難でした。けれども、現在ではPCを使った宅録事情は進化しており、YouTuberの出現もあり、着実に変わり、敷居も下がってきているようです。

音楽好きな人は試しに一度録音にチャレンジして、自分の表現を発表してみてはいかがでしょうか。ただしその際は、しっかりと防音の工夫をして、近所迷惑にならないようにくれぐれも気をつけてください。

●取材協力
・山野楽器 ロックイン新宿 デジタル&エフェクター館

キラキラでは落ち着かない、プライベートスペースはクラシカルに(後編) テーマのある暮らし[2]

築25年の邸宅で、ポーセラーツ・ポーセレンペイント、着物の着付けレッスンのサロン「ラ・フィユ鎌倉」を開いている赤見かおり子さん。パーティションを使わず、インテリアのテーマを変えることで、サロンスペースとプライベートスペースを分ける手腕が光っています。後編では、1年半前にリフォームを終えたプライベートスペースをご紹介します。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。家族のお客さまをもてなすクラシカルなメインダイニング

玄関から見て一番手前の部屋は、医師である夫のお客さまなどをもてなすメインダイニング。来客には年配男性も多いため、サロンのようなキラキラとしたインテリアでは落ち着かないのではないかと思い、クラシカルな雰囲気に仕上げたのだそう。
自分の希望よりも訪れる方の居心地を大切にする姿勢に、かおり子さんのお人柄が滲み出ています。

壁にかけられたノイシュヴァンシュタイン城の絵は、かおり子さんのお父様が描かれたもの。部屋のインテリアに合わせて、かおり子さんが絵の具の色まで指定したのだそうです(写真撮影/内海明啓)

壁にかけられたノイシュヴァンシュタイン城の絵は、かおり子さんのお父様が描かれたもの。部屋のインテリアに合わせて、かおり子さんが絵の具の色まで指定したのだそうです(写真撮影/内海明啓)

30年以上前から使っているキャビネットは、国産家具メーカー「カリモク」で購入したもの。引越し好き、リフォーム好きを自称するかおり子さんですが、何でも新しく買うわけではなく、愛着のあるものは何10年でも使い続けているそうです。

お気に入りの作品は、キャビネットにディスプレイしながら収納。フリーハンドで絵を描く作品はポーセレンペイント、転写紙を切って貼る作品はポーセラーツと呼ばれます。ポーセレンペイントの方が難易度は高いのだそう(写真撮影/内海明啓)

お気に入りの作品は、キャビネットにディスプレイしながら収納。フリーハンドで絵を描く作品はポーセレンペイント、転写紙を切って貼る作品はポーセラーツと呼ばれます。ポーセレンペイントの方が難易度は高いのだそう(写真撮影/内海明啓)

メインダイニングのテーブルセッティングは、自作の食器を中心にクラシカルな雰囲気でまとめています。
「私にとって“上質なもの”とは、愛情を注げるもの、お金では買えないもの。食器だって、デパートに行けば何百万円もするようなものが並んでいますが、私は愛情を込めて自分でつくった食器でおもてなしをしたいんです」とかおり子さん。

手描きの食器はアンティークとの相性が良いので、燭台はフランス、カトラリーはイギリスのアンティークをセレクト。アンティークをうまく使ったクラシカルなテーブルセッティングもかおり子さんの得意とするところです(写真撮影/内海明啓)

手描きの食器はアンティークとの相性が良いので、燭台はフランス、カトラリーはイギリスのアンティークをセレクト。アンティークをうまく使ったクラシカルなテーブルセッティングもかおり子さんの得意とするところです(写真撮影/内海明啓)

生活感を徹底的に排した驚きのキッチン

キッチンまわりは、モダンな雰囲気でまとめられています。ここに足を踏み入れた誰もが口にするのは、「生活感がない!」というひと言。どこをどう見ても、調味料ひとつ置いてありません。
「よく、本当に料理してるの?と聞かれるんですよ」そう言って笑いながら開けてくれたシンク下の扉の奥には、使い込んだフライパンがいくつも並んでいました。

キッチンにある「ウエストハウスギャラリー」の椅子には、「キファソ」の生地が張られています。今回のリフォームの際にオーダーしたとのこと、モダンな雰囲気にぴったりです(写真撮影/内海明啓)

キッチンにある「ウエストハウスギャラリー」の椅子には、「キファソ」の生地が張られています。今回のリフォームの際にオーダーしたとのこと、モダンな雰囲気にぴったりです(写真撮影/内海明啓)

連日、全国から通う生徒さんのレッスンをこなす多忙なかおり子さんにとって、家の中を美しく保つのはさぞ大変だろうと思いましたが「“出したら戻す”ということを徹底しているだけなんです。そうすると、そもそも散らからないので、キープするだけでいいんですよ」とのこと。
すべてのモノの収納場所を決めておくことが、この状態をキープするカギなのだそう。

キッチンの隣には、白いグランドピアノがディスプレイされています。ここはもともと中庭でしたが、7年前にこのピアノを置くために増築したのだそう。

音大時代にピアノを学んだかおり子さん。白とライトグレー2台のグランドピアノが2階の防音室にあったのですが、防音室を着物部屋にリフォームしたためライトグレーの1台は処分。こちらをディスプレイ用として、1階に下ろしました。

スモーキーなピンク色が甘すぎずスタイリッシュな雰囲気を醸し出すカーテンは、今回のリフォームの際に壁の色と合わせて選んだもの。パーティションのエレガントなラインは、リビングの螺旋階段とリンクしています(写真撮影/内海明啓)

スモーキーなピンク色が甘すぎずスタイリッシュな雰囲気を醸し出すカーテンは、今回のリフォームの際に壁の色と合わせて選んだもの。パーティションのエレガントなラインは、リビングの螺旋階段とリンクしています(写真撮影/内海明啓)

リビングルームは、エレガントな螺旋階段がアクセント

一番奥に位置しているのは、家族がくつろぐリビングルーム。南東に面している上に2面採光なので、いつも光があふれています。今回のリフォームでは、壁のクロスを無地からダマスク柄に変えるなど、少し思い切ったそう。

多忙を極める夫、成人している2人の娘さん……と、すれ違いがちな生活になりそうですが、実は「みんな、ここでくつろぐことが大好き」なのだそう。常に感謝の言葉を忘れず、細やかな気づかいを欠かさないかおり子さんが、ご家族を包み込んでいる様子が伝わってきます。

存在感のある白いソファは、10年以上使っているもの。「白だから汚れやすいけれど、うちは家族みんなが掃除好き。夫も娘たちも、休みの日には一生懸命拭いてくれるんですよ」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

存在感のある白いソファは、10年以上使っているもの。「白だから汚れやすいけれど、うちは家族みんなが掃除好き。夫も娘たちも、休みの日には一生懸命拭いてくれるんですよ」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

このリビングで誰もが目を奪われるのは、螺旋階段です。新築当初、手すりのラインは縦の直線のみで、色も白でした。今回のリフォームで、装飾が付いたデコラティブなラインのパーツを溶接し、ブラックに塗装しなおしたことで、見事にリビングのアクセントになっています。

赤見邸は建物が2つに分かれているため、リビングの2階に上がるにはこの螺旋階段が不可欠なのだそう。2階はかおり子さんの“着物部屋”になっているため、かおり子さんは一日に何度もこの螺旋階段を往復するそうです(写真撮影/内海明啓)

赤見邸は建物が2つに分かれているため、リビングの2階に上がるにはこの螺旋階段が不可欠なのだそう。2階はかおり子さんの“着物部屋”になっているため、かおり子さんは一日に何度もこの螺旋階段を往復するそうです(写真撮影/内海明啓)

白をベースにしながら年代を感じさせる家具を配したエレガントなスタイルは、レイチェル・アシュウェルが提唱した“シャビ−シック(味がありながらも優雅なさま)”を彷彿とさせますが、かおり子さんの好みは少し違う様子。
「シャビーだと言われることもあるのですが、個人的にはもっとキラキラしたものや、透明感のあるものを取り入れるスタイルが好きですね」

リフォームもショッピングも、感性と出会いを大切に

25年の間に数え切れないほどのリフォームを繰り返した赤見邸ですが、インテリアデザイナーに相談したのは、なんと直近のリフォームがはじめて。
それまでは、クロスやカーテンなどの素材選びから、工務店とのやりとりまで、すべてかおり子さんが1人で手がけてきたのだそうです。

「こんな素材見たことないよ、なんて言われながらも、こうしたい、ああしたいって伝えて。業者泣かせですよね(笑)。工務店の方とは、いまでは信頼関係で結ばれていますよ」

壁と天井の境目の廻り縁も、すべてかおり子さんが自分で選んだもの。1本ではなく数本重ねて、よりエレガントに見えるように工夫するなど、工務店と話し合いながらリフォームを進めたそうです(写真撮影/内海明啓)

壁と天井の境目の廻り縁も、すべてかおり子さんが自分で選んだもの。1本ではなく数本重ねて、よりエレガントに見えるように工夫するなど、工務店と話し合いながらリフォームを進めたそうです(写真撮影/内海明啓)

完成度の高いインテリアを手がけるかおり子さんですが、インテリアデザインやテーブルコーディネートの専門的な勉強をしたことはないのだそう。
「自分の住まいですから、自分の好きなようにやっていきたいと思うんです。だから、参考にするインテリア雑誌や、ブランドショップなどもとくに決めていません。なにかを選ぶときには、出会いと感性を大切にしています」

ティーポットはカナダで、トレイはニュージーランドで購入した銀器。贔屓のブランドを決め込まず、旅先で出会ったものを思い出と一緒に持ち帰るのが、かおり子さんらしいショッピング(写真撮影/内海明啓)

ティーポットはカナダで、トレイはニュージーランドで購入した銀器。贔屓のブランドを決め込まず、旅先で出会ったものを思い出と一緒に持ち帰るのが、かおり子さんらしいショッピング(写真撮影/内海明啓)

サロンの生徒さんやプライベートでのお客さま、そしてご家族ひとりひとりのためにインテリアに手をかけるかおり子さん。お話を伺えば伺うほど、その温かな人柄に引き込まれます。
「私にとって“家”は幸せの象徴。生徒さんのためでもあり、自分の趣味でもあるリフォームはまだまだ続けていきます。ゴールはないんですよ(笑)」と語る笑顔からは、幸せなオーラがあふれていました。

●取材協力
・赤見かおり子さん
Instagram (kaoriko_no_salon)
きもの着付けアーティスト、ポーセレンアーティスト。大人のためのお稽古サロン「ラ・フィユ鎌倉」主宰。サロンでは-10歳に見せるきもの着付けレッスン、ポーセラーツ・ポーセレンペイントレッスンを開催中。

9回の引越しで実現、夢を詰め込んだサロンスペース(前編) テーマのある暮らし[2]

築25年の邸宅で、ポーセラーツ・ポーセレンペイント、きもの着付けレッスンのサロン「ラ・フィユ鎌倉」を主宰する赤見かおり子(あかみ・かおりこ)さん。サロンスペースとプライベートスペースをきっちりと分けながらも、美しく融合させたエレガントなインテリアは、すべて赤見さんのセンスによるもの。前編では、女性の夢ともいえそうなインテリアを詰め込んだ、サロンスペースをご紹介します。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。 引越しは9回目、リフォームは毎年!

湘南モノレールの西鎌倉駅から約7分。閑静な住宅街の一角にたたずむ瀟洒(しょうしゃ)な邸宅で、かおり子さんは家族4人で暮らしながら、サロン「ラ・フィユ鎌倉」を主宰しています。
結婚35年目を迎えるご夫妻にとって、25年前に建てたこの邸宅はなんと9軒目の住まい。鎌倉の街に惹かれ、最後の引越しにするつもりで選んだそうです。

サロン「ラ・フィユ鎌倉」を主宰する赤見かおり子さん。「ラ・フィユ」はフランス語で1枚の葉っぱを意味します。「初めての絵付けでは、皆さん1枚の葉っぱの絵から挑戦します。サロンも1枚の葉っぱから枝葉が伸びるように広がるといいなと思って」(写真撮影/内海明啓)

サロン「ラ・フィユ鎌倉」を主宰する赤見かおり子さん。「ラ・フィユ」はフランス語で1枚の葉っぱを意味します。「初めての絵付けでは、皆さん1枚の葉っぱの絵から挑戦します。サロンも1枚の葉っぱから枝葉が伸びるように広がるといいなと思って」(写真撮影/内海明啓)

かおり子さんは、子どものころから暇さえあれば方眼紙に家の間取図を描いていたというほど“家”が大好きでした。9回もの引越しをすることになったのは、引越し先のインテリアが完成すると「もっと違うインテリアにも挑戦してみたい」という気持ちがわき上がった結果なのだそう。

建てた当時は約79坪、今は増築して約85坪というこの邸宅を、かおり子さんは毎年のようにリフォームしながら暮らしています。

1年半ほど前にリフォームを終わらせたリビングルーム。黒を印象的に用いた螺旋階段がアクセントになっています。今回のリフォームで、初めてインテリアデザイナーに協力を依頼したそう。こちらのお部屋の詳細は後編にて(写真撮影/内海明啓)

1年半ほど前にリフォームを終わらせたリビングルーム。黒を印象的に用いた螺旋階段がアクセントになっています。今回のリフォームで、初めてインテリアデザイナーに協力を依頼したそう。こちらのお部屋の詳細は後編にて(写真撮影/内海明啓)

「お花を替えるような気持ちで、壁のクロスも替えるんですよ」と語るかおり子さんはとても楽しそう。方眼紙に間取図を描いていたころのわくわく感が、いまも息づいていることが伝わってきます。
かおり子さんの家へのこだわりは、どこにあるのでしょうか?
さあ、おじゃましてみましょう。

インテリアで分けられたサロンとプライベートスペース

家の中に一歩入ると、きらきらと煌めく夢のような世界が広がっていました。この光景には、誰もが思わず歓声を上げてしまうことでしょう。

最初に気付くのは、玄関から見て手前と奥のスペースでは雰囲気がまったく異なること。手前は、クラシカルな雰囲気のなかに煌めきをたたえた格調高いインテリア。奥には、床も壁も白で統一された、明るく軽やかな空間が広がっています。

玄関から見て手前の部屋は、美しい木目の床が印象的なメインダイニング。主に夫のお客さまをもてなすときに使うそう。奥に見える白で統一されたスペースが、かおり子さんのサロンです(写真撮影/内海明啓)

玄関から見て手前の部屋は、美しい木目の床が印象的なメインダイニング。主に夫のお客さまをもてなすときに使うそう。奥に見える白で統一されたスペースが、かおり子さんのサロンです(写真撮影/内海明啓)

パーティションなどは一切使っていないにもかかわらず、一目見ただけで2つの部屋がまったく別の目的でしつらえられていることが感じ取れるのは、床の色がはっきりと分かれているからでしょうか。
とはいえ、ちぐはぐな印象がまったくなく、自然と統一感がとれているところはかおり子さんの手腕なのでしょう。

白でまとめられた奥のスペースは、かおり子さんのサロンです。徹底してフェミニンでエレガントな雰囲気にまとめられたこのスペースには、サロンに対するかおり子さんの思いが、存分に込められていました。

和室を改築して、使いやすいサロンスペースに

新築当初、サロンスペースは床の間のある和室に縁側、そして小さな庭だったのだそう。そもそも、サロンを始める予定などまったくなかったというかおり子さん。1人の友人から絵付けを教えてほしいと頼まれ、教えているうちに口コミで広がって生徒さんが増え、今から12年ほど前に思い切ってこのスペースをサロン専用に改築したのだそうです。

天井、床、壁、すべて白で統一されたサロンスペース。白で統一するインテリアは難易度が高いと言われますが、かおり子さんは単調にならないように壁のクロスに柄の入ったものを選ぶなどの工夫をしています(写真撮影/内海明啓)

天井、床、壁、すべて白で統一されたサロンスペース。白で統一するインテリアは難易度が高いと言われますが、かおり子さんは単調にならないように壁のクロスに柄の入ったものを選ぶなどの工夫をしています(写真撮影/内海明啓)

入って左手のテーブルは作業スペース、右手はティールームです。白を基調にしたのは、絵付けに色とりどりの彩色を施すので、インテリアがその邪魔にならないようにするためなのだそう。作業スペースのライティングには、スポットライトを使わなくても細かな作業ができるよう、明るいものをセレクトしました。

着付けレッスンの際は、スペースを広くとれるように伸張式のテーブルを縮めて使います。片側の壁が全面的に鏡になっているのも、着付けサロンならでは(写真撮影/内海明啓)

着付けレッスンの際は、スペースを広くとれるように伸張式のテーブルを縮めて使います。片側の壁が全面的に鏡になっているのも、着付けサロンならでは(写真撮影/内海明啓)

窓に面した明るいティールームは、元々は庭だったということもあり、テラスのような雰囲気を味わえるのが特徴です。「我が家のキャッチフレーズは“鎌倉山を一望できる家”なんですよ」とかおり子さん。たしかに、窓の外には鎌倉山が広がっています。桜が満開の時期も真冬の雪景色も、ここから眺めればどれほど美しいことでしょう。

2面採光の明るいティールーム。「以前に住んでいた300坪の家は庭の草取りだけでも大変だったので、今度は自分で草取りをしなくてもいい眺望の美しい家にしよう、と思ったんです(笑)」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

2面採光の明るいティールーム。「以前に住んでいた300坪の家は庭の草取りだけでも大変だったので、今度は自分で草取りをしなくてもいい眺望の美しい家にしよう、と思ったんです(笑)」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

サロンは女性が非現実を愉しみ、夢を見るための空間

サロンのインテリアをフェミニンな雰囲気にまとめてある理由について、かおり子さんは明快に語ってくださいました。
「家庭のある女性って、ご自宅に自分のための空間を持つのは難しい場合もありますよね。だから、ここに来たら非日常を味わって、心から満たされてほしいんです。ほら、シャンデリアもかなり大ぶりでキラキラしているでしょう? このサロンは、女性の皆さんが夢を買いに来る場所でもあるんです」

壁のクロス、デコラティブな柱などもすべてかおり子さんのセレクト。以前にフラワーアレンジメントを教えていたこともあり、生花やアーティフィシャルフラワーが美しいアレンジメントでディスプレイされています(写真撮影/内海明啓)

壁のクロス、デコラティブな柱などもすべてかおり子さんのセレクト。以前にフラワーアレンジメントを教えていたこともあり、生花やアーティフィシャルフラワーが美しいアレンジメントでディスプレイされています(写真撮影/内海明啓)

サロンのテーブルセッティングは、毎月必ず変えるそうです。
「通い始めてもう15年になる方もいらっしゃるほど、長いお付き合いの生徒さんが多いんです。来るたびに同じような雰囲気だと、飽きてしまうでしょう? だから、季節感を生かしながら頻繁に変えています。季節のものは1カ月先取りしますね。そうすると、ここでいいなと思ったものをご自宅で真似できると思うので」

取材に訪れたのはひな祭りの数日前でしたが、インテリアはすでにひな祭り仕様を終え、初夏を感じさせるグリーンに整えられていました。お気に入りのテーブルクロスは鎌倉のハンドメイドショップ「鎌倉スワニー」のもの。絵付け前の白磁が美しく映えます(写真撮影/内海明啓)

取材に訪れたのはひな祭りの数日前でしたが、インテリアはすでにひな祭り仕様を終え、初夏を感じさせるグリーンに整えられていました。お気に入りのテーブルクロスは鎌倉のハンドメイドショップ「鎌倉スワニー」のもの。絵付け前の白磁が美しく映えます(写真撮影/内海明啓)

インテリアもテーブルコーディネートも、すべて“生徒さんが心地良く過ごせるように”という観点から考えているかおり子さん。そのプロ意識は、ちらりとのぞかせていただいたパウダールームで最も強く感じられました。

とりわけ居心地よく過ごせるように工夫してあるというパウダールーム。便器からは音楽が流れるようになっています。「一曲聴いてきちゃったわ、となかなか出てこない方もいらっしゃるんですよ」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

とりわけ居心地よく過ごせるように工夫してあるというパウダールーム。便器からは音楽が流れるようになっています。「一曲聴いてきちゃったわ、となかなか出てこない方もいらっしゃるんですよ」とかおり子さん(写真撮影/内海明啓)

「サロンを主宰するマダムがつくり上げる、上質を極めた空間」、前編では女性の夢を詰めこんだサロンスペースをご紹介しました。後編ではプライベートスペースを見せていただきましょう。

●取材協力
・赤見かおり子さん
Instagram (kaoriko_no_salon)
きもの着付けアーティスト、ポーセレンアーティスト。大人のためのお稽古サロン「ラ・フィユ鎌倉」主宰。サロンでは-10歳に見せるきもの着付けレッスン、ポーセラーツ・ポーセレンペイントレッスンを開催中。

心安らぐ空間の演出方法とは? ライフステージに合わせた住まい

東京・吉祥寺で人気のギャラリーとパン屋を経営し、すてきなライフスタイルで注目を集める引田ターセンさんと、かおりさんご夫妻。築20年のコンクリート造の一戸建てをリノベーションしたお住まいを訪ね、シンプルで心安らぐ空間のつくり方についてお聞きしました。
家族の成長に合わせて、快適な住まいは変わっていい

引田さん夫妻のリノベーションしたお住まいは、珪藻土の壁に、床はリネンウールのカーペット、天井やドアまで全て国産のナラ材を使った1LDK。まさに大人の洗練された空間ですが、子育て中のころの家はおもちゃの滑り台があったり、子どもの作品を飾っていたそうです。
「食器も変遷しています。ジノリやロイヤルドルトンなどヨーロッパの絵付け食器の時代もあったし、染付けの時代もあった。それぞれの時代があったんです。子どもがいてにぎやかなときにはヨーロッパの絵付けなど柄物が良かったけれど、夫婦2人の暮らしになると、食事の好みにも合わなくなってくる。ギャラリーを始めてからは、作家物がふえました」(ターセンさん)
「ただ、私たちは子どもが小さいころから洋服でも家具でも、「いずれ大きくなるからちょっと大きめを選ぶ」ことはしませんでした。今の暮らしにジャストであることを、大事な基準にしていたのです」(かおりさん)

玄関ホールを入ると、トップライトからの光が差し込むリビング。壁や天井には国産ナラ材を使い、床はリネンウールのカーペットを敷き詰めたナチュラルな空間(写真撮影/菊田香太郎)

玄関ホールを入ると、トップライトからの光が差し込むリビング。壁や天井には国産ナラ材を使い、床はリネンウールのカーペットを敷き詰めたナチュラルな空間(写真撮影/菊田香太郎)

中央にある暖炉と段差が、リビングとダイニングスペースを緩やかに分けている。左奥のデスクカウンターは、持っていたテーブルに質感も高さも合わせて造作してもらった(写真撮影/菊田香太郎)

中央にある暖炉と段差が、リビングとダイニングスペースを緩やかに分けている。左奥のデスクカウンターは、持っていたテーブルに質感も高さも合わせて造作してもらった(写真撮影/菊田香太郎)

シンプルを実現するコツは、なければどうかな?と考えてみること

シンプルに暮らすために、引田さん夫妻が心掛けているのは、決め付けないこと、変化を恐れないことだと言います。
「こうだと決め付けず、なければどうかなとか、変えたらどうだろうとか考えてみることで、違ってきます。例えばバスマットは必要と思い込んでいますが、なくても困らないんです。お風呂上がりに体も足も拭いて、そのタオルを洗濯したらいいのですから」(かおりさん)
「バスマットがないだけで洗面室の印象は違いますよね。わが家はタオルも、彼女が気に入ったホテルのものを取り寄せて、その一種類一色に統一しているから、収納したときも自然とそろって見えます」(ターセンさん)
「キッチンもかつては、調理器具を見えるようにつるしてありました。でも料理している時間は、一日のうちでも1時間くらい。「しまってみようかな」とふと思って。フライ返しや菜箸を、しまっても何の問題もなかった。逆に何も出ていないほうが、拭き掃除がしやすくなりました」(かおりさん)

ペーパーホルダーやキャビネットの取っ手なども同色、同じ質感でそろえた。バスマットもなく、余計な物を一切置いていないため、洗面室と浴室がいっそう広く感じられる(写真撮影/菊田香太郎)

ペーパーホルダーやキャビネットの取っ手なども同色、同じ質感でそろえた。バスマットもなく、余計な物を一切置いていないため、洗面室と浴室がいっそう広く感じられる(写真撮影/菊田香太郎)

シンクと配膳台の間は幅108cm。吊戸棚はつけずに視界もすっきり。一部を仕切り壁にして調理中の煩雑さは見せないようにした(写真撮影/菊田香太郎)

シンクと配膳台の間は幅108cm。吊戸棚はつけずに視界もすっきり。一部を仕切り壁にして調理中の煩雑さは見せないようにした(写真撮影/菊田香太郎)

「ギャラリー経営でたくさんの人や物に会うことが仕事になって、家にまでモノがあふれていたら疲れが取れないと思うようになり、どんどんシンプルになりました」というターセンさん・かおりさん。
仕事柄、気になる物があったら、実際に買って使ってみることを大事にしているが、手にして納得したら、人に差し上げることも多いのだそう。「本も感動したら周りの人に薦めて渡すほうが好き。食器も洋服も、自分たちが気持ちいいと感じる量しか持たないようにしています」(かおりさん)
「家は四角い箱。中に入れるモノのためではなく、自分たちに合わせて暮らしたほうが楽しいですよね」(ターセンさん)と語ってくれました。

文/中城邦子

●取材協力
・引田ターセンさん・かおりさん
ギャラリーフェブ
ダンディゾン

朝晩ちょっと寒い……そんな季節に床暖房! 後付できる?選び方のヒントを教えます

朝晩は肌寒い、かといってエアコンやストーブをつけるには暑すぎるこの時期に、ぴったりな設備が床暖房。エアコンやファンヒーターなどと違い、空気を攪拌(かくはん)しないのでホコリが舞いにくく、じわっと足元から温めてくれるので、頭は熱くても足元が冷えてしまうということもありません。新築マンションや一戸建てには設置されていることが多いのですが、実はリフォームでも取り付けられるんです。でも、リフォーム時の注意点は? 電気、温水式はじめ、意外と種類が多く、選び方も難しそう……。そこで特徴やコストパフォーマンス、使い方やトレンドなどを紹介します。
タイプは大きく分けて電気式と温水式の2つ。コスパは使い方次第

「床暖房は冬場はもちろん、朝晩限定などを含めれば、大体10月から3月下旬くらいまでと意外と長く使う設備です。ガスや灯油を燃料としないので、小さい子どもやお年寄りがいても安心して使えるという魅力もありますね」と話すのは、新築、リフォームなど多彩な住宅の設計を手掛けるアキ設計の矢島理紗さん。

その床暖房は大きく分けて「温水式」と「電気式」の2タイプがあるとのこと。

「熱源がガスの場合やヒートポンプという空気を集めてエネルギーをつくるタイプ、温水を電気で温めるなどさまざまあるので、どのタイプが良いのか選ぶのが難しいかもしれませんが、基本的にこの2タイプに分かれます」。
違いはどういう点でしょうか。
「どちらも床下に専用のパネルを敷き詰めて床を温めるものです。簡単に言うと、電気式は電気をエネルギーとして温める方式で、温水式は熱源機で温めたお湯をパイプに循環させる方式です」

コストや設置条件に関してはリフォームする家の構造や設備状況から、使用する商品、床素材、ニーズによってさまざまで「一概には言えないです」とのこと。

「温水式は熱源機の新設やパイプの配管工事、リモコンの電気配線工事など、多業種に渡る工事が必要です。そのため設備費用自体は抑えられても、人件費などの経費を考えると工事費は高くなりがちです。しかし、広い面積に床暖を入れる場合や、床暖房のほかに、例えば浴室などのリフォームなど給湯配管に関わる工事と合わせて行う場合は、まとめて配管工事ができます。また、温水式はスイッチを切っても温水が冷めるまでゆっくりと温度が下がるため保温力も高いので、長時間家で過ごす方がいるお宅に向いているでしょう。

「電気式は設備としては電気工事だけなので、温水パイプの配管が難しい場合や、個室一部屋だけなどの小規模な床暖リフォームに向いています。また電気式は立ち上がりの温まりが早いのが特徴なので、日中外出しがちで、朝や夜だけなど短時間使用のお宅におすすめです。ただ、電気式はある程度の電気容量が必要です。住宅によってはアンペアの容量増設や、電気料金の契約内容の見直しが必要になることもあります」

あくまで目安のひとつ。「施工面積や素材、商品で違いがあるのと、施工する物件の構造や断熱性能でも効率がだいぶ変わりますので、施工会社や建築士などの専門家に相談してみましょう」(矢島さん)とのこと(画像作成/SUUMOジャーナル編集部)

あくまで目安のひとつ。「施工面積や素材、商品で違いがあるのと、施工する物件の構造や断熱性能でも効率がだいぶ変わりますので、施工会社や建築士などの専門家に相談してみましょう」(矢島さん)とのこと(画像作成/SUUMOジャーナル編集部)

どんな住宅でも取り付けできる?

床を工事するだけに、床暖房の後付(リフォーム)と聞くと、なんだか大変そうと思いがちですが、基本的に木造の戸建て、鉄筋コンクリートのマンションなど住宅の種類はもちろん、1階か2階かに関わらず床暖房リフォームは可能といいます。ただ気を付けたいのは「前述した温水式を取り入れる場合、例えばオール電化のマンションだと、当たり前ですがガスの熱源機を導入できません。

また熱源機からの配管を屋内に取り込む際に、外壁に新たに穴をあける工事が必要になることがありますが、マンションの場合はコンクリート造なので壁に穴をあけることができません。お住まいがどんな住まいで、何が追加で必要なのか、どの方式が最適なのかを専門業者に見てもらい、判断したほうがいいと思います」(矢島さん)

とはいえ、さらに最近では電気式、温水式にもさまざまな種類の床暖房システムが登場しているので、きっと最適な床暖房があるはず、といいます。特に今回見せてもらって驚いたのが電気式床暖房で使うパネル。コンパクトのため、施工箇所を例えばキッチンだけ、寝室だけなど部分的にも導入しやすく、極薄なので床のかさ上げも最小限で済みます。

また、部屋の印象の大部分を左右する床。それだけに床材もこだわりたいところですが、一昔前は経年や湿度などで変化する自然素材の床は使いにくいといわれていました。当時は泣く泣く気に入らないデザインを選ぶことになった人もいましたが、今は床暖房対応の仕様が多種多彩。

「足触りのいい無垢材仕様の床はもちろん、竹や畳、カーペット、コルクなどさまざまな床材が選べます。温かさだけでなく、見た目や足触りも暮らしの重大要素。選べる範囲が広がっているのはいいことですよね」。

アキ設計で使われた床暖房パネルのひとつを拝見。極薄で紙のようなこのパネルで床を温める。軽量で施工がしやすいタイプも増えている(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

アキ設計で使われた床暖房パネルのひとつを拝見。極薄で紙のようなこのパネルで床を温める。軽量で施工がしやすいタイプも増えている(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

アキ設計で使われた床暖房対応の「無垢チーク材」の床。自然素材は足触りがよく、経年変化も楽しめるのが特徴。アレルギーやシックハウスなどが気になる人にとっても朗報だ(写真提供/アキ設計)

アキ設計で使われた床暖房対応の「無垢チーク材」の床。自然素材は足触りがよく、経年変化も楽しめるのが特徴。アレルギーやシックハウスなどが気になる人にとっても朗報だ(写真提供/アキ設計)

リフォーム時の注意点やかかる日数は?

もうひとつ気になるのが、床となると「大規模すぎて工事に時間がかかるんじゃないの?」という懸念です。特に床だけに仮住まいを1カ月くらい借りなくちゃいけない?施工中は狭い洋室で長期間過ごすの?なんて考える人もいるかもしれませんが……。

「施工面積によりますが、リビングの床を床暖房にするのには、最短で電気式であれば1日から2日、温水式でも2日から3日ほどで工事することができます」といいます。

「もちろん前述のとおり、周辺機器の工事が必要の場合はその分日数はかかりますが、床暖房だけなら1週間くらいでリフォームできると思っていただければ大丈夫です」

案外手軽にできるようです。

しかし、どんなタイプの床暖房であれ共通する注意点があるそうです。
「それは家自体の断熱性です。せっかく床暖房を導入しても、温かさが逃げていくばかりでは光熱費がかさんでしまいます。ですので、できれば床暖房リフォームをきっかけに、床下や外壁、サッシなどの断熱性をチェックし、家全体の断熱性=快適性に目を向けてもらえれば、長く快適に暮らせる住まいになると思います」(矢島さん)

「床を温めるだけでなく、家全体が温かくなるような、快適な住まいを見直すきっかけにしてほしいですね」と床暖房リフォームについて語ってくれたアキ設計の矢島さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

「床を温めるだけでなく、家全体が温かくなるような、快適な住まいを見直すきっかけにしてほしいですね」と床暖房リフォームについて語ってくれたアキ設計の矢島さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

床暖房は足元から住む人を温めてくれるもの。最近は電力会社やガス会社などから光熱費について各種割引プランが多く出ているので、懐も温めつつ導入しやすくなっています。施工期間も短期間で済むので、来年に向けて一度検討してみてはいかがでしょう。

●取材協力
・一級建築士事務所 アキ設計