本好き夫婦が暮らす”おウチライブラリー”がある家(後編) テーマのある暮らし[1]

医療系の出版社にお勤めの加藤泰郎(かとう・やすあき)さん。仕事上、本を購入する機会が多いことに加えて、夫婦そろって無類の活字好き。そんな本好きが高じて、本とともに暮らす家を手にしました。大好きな本に囲まれたライフスタイル、その後編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。

いよいよ「本とともに暮らす家」のメインとなる2階へ

活字が大好きな加藤さんは、本の編集に携わっています。以前は建築関係、現在は医療関係と専門書を読む機会が多く、どんどん本が増えているのだとか。その本のほとんどは、2階のリビング・ダイニングに収められています。

「後になって読み返すか? といったら、その頻度は低いかもしれません。どちらかというと捨てられないタイプなんです。それでも、1年に1回くらい本の整理をして処分しているのですが、これがなかなか追いつかない(笑)。そこで、家のリフォームに合わせて、本を収納できる棚も欲しい、と建築家に相談しました」

では早速、今回のメインとなる2階にお邪魔してみましょう。

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

イメージは樽のタガ、開放的なリビングをぐるっと囲む本棚

2階は、すっきりとした1ルームのリビングダイニングキッチン。元々、増築したアパートの壁があった部屋ですが、当時の柱だけを残し、壁を抜いたことで開放感のある回遊型空間が生まれました。この空間をぐるっと囲むように、5段の棚が壁につくられています。

「イメージしたのは、ウイスキー工場やワイナリーにある樽のタガ。棚で囲むことで建物の強度も増すだろう、という思いもあって、可能な限り隙間なく設置してみました」と話すのは、このリフォームを担当した建築家の荒木さん。この棚が、本はもちろん、いろいろな用途に使える大容量の収納スペースとなるわけです。

「確かに、棚が欲しいということはお話ししました。でも、ここまで多くなるとは想像してなくて、最初はビックリしました(笑)」

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

また、階段の隣には「縦180cm×横90cm」の吹抜けがあり、1階と2階をひとつにさせる一体感も演出。それぞれ1階と2階で離れていても会話ができるくらい、音と風が流れる空間になっています。

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

「出会いは突然に」当時の技と現代の技がコラボ

「現場で天井を壊していたときに、いきなり現れたのがツガ材の梁。ずっと天井裏に隠れていた梁はきれいで、見た目も良かったので、”見せる梁“にしようと遊び心をプラス。場所によって天井の高さを変えたことで同じ部屋のなかでも動きができ、見た目にもメリハリがつきました」

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

柱も梁と同じく、ツガ材でできています。「リフォームは、実際にフタを開けてみないと状態が分からないことが多いんです。幸い柱はシロアリにやられることもなく、全て使えたのでほっとしました」

2階のスペースは基本的に1つの大きな部屋ですが、奥の引き戸を閉めることで、手前をダイニングキッチン、奥の書斎を個室としてそれぞれ使い分けられる柔軟性の高さも魅力的です。限られたスペースだからこそ、部屋のあちこちにさまざまな工夫が施されています。

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

窓の前にも棚!? 幅広いジャンルの本が並ぶ「おウチライブラリー」

よく見ると窓の前にも棚が。そして、2階の窓にはカーテンが一枚もありません。「1階と同じように、2階も今まで使っていたサッシをそのまま活用しています。曇りガラスというのもありますし、ここに長く住んでいるのでご近所さんはみんな顔見知り。だからなのか、あまり気にならないですよ。それよりも、窓の掃除に苦労しています(笑)」

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、棚の一番上は3匹の猫が使うキャットウォークとして空けているのだそう。
「自分の専用スペースと分かっているのでしょうか。本にいたずらすることもなく、いつも棚の上を走り回っています」

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

加藤さん夫妻が大切にしているのは本だけに限らず、家の持ち主だった祖父母への感謝、家族の歴史や記憶、当時の家を建てた職人さんへのリスペクト、そして愛らしい猫たち。「本を捨てられない」という言葉からも、「全てを大切にする心」がベースにあると感じました。ほっこりした温かさにあふれる住空間は、おふたりの人柄そのもので、やさしさのおすそ分けをいただきました。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

憧れの壁一面本棚を楽しむ ”おウチライブラリー”がある家(後編)テーマのある暮らし[1]

医療系の出版社にお勤めの加藤泰朗(かとう・やすあき)さん。仕事上、本を購入する機会が多いことに加えて、夫婦そろって無類の活字好き。そんな本好きが高じて、本とともに暮らす家を手にしました。大好きな本に囲まれたライフスタイル、その後編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。

いよいよ「本とともに暮らす家」のメインとなる2階へ

活字が大好きな加藤さんは、本の編集に携わっています。以前は建築関係、現在は医療関係と専門書を読む機会が多く、どんどん本が増えているのだとか。その本のほとんどは、2階のリビング・ダイニングに収められています。

「後になって読み返すか? といったら、その頻度は低いかもしれません。どちらかというと捨てられないタイプなんです。それでも、1年に1回くらい本の整理をして処分しているのですが、これがなかなか追いつかない(笑)。そこで、家のリフォームに合わせて、本を収納できる棚も欲しい、と建築家に相談しました」

では早速、今回のメインとなる2階にお邪魔してみましょう。

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

イメージは樽のタガ、開放的なリビングをぐるっと囲む本棚

2階は、すっきりとした1ルームのリビングダイニングキッチン。元々、増築したアパートの壁があった部屋ですが、当時の柱だけを残し、壁を抜いたことで開放感のある回遊型空間が生まれました。この空間をぐるっと囲むように、5段の棚が壁につくられています。

「イメージしたのは、ウイスキー工場やワイナリーにある樽のタガ。棚で囲むことで建物の強度も増すだろう、という思いもあって、可能な限り隙間なく設置してみました」と話すのは、このリフォームを担当した建築家の荒木さん。この棚が、本はもちろん、いろいろな用途に使える大容量の収納スペースとなるわけです。

「確かに、棚が欲しいということはお話ししました。でも、ここまで多くなるとは想像してなくて、最初はビックリしました(笑)」

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

また、階段の隣には「縦180cm×横90cm」の吹抜けがあり、1階と2階をひとつにさせる一体感も演出。それぞれ1階と2階で離れていても会話ができるくらい、音と風が流れる空間になっています。

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

「出会いは突然に」当時の技と現代の技がコラボ

「現場で天井を壊していたときに、いきなり現れたのがツガ材の梁。ずっと天井裏に隠れていた梁はきれいで、見た目も良かったので、”見せる梁“にしようと遊び心をプラス。場所によって天井の高さを変えたことで同じ部屋のなかでも動きができ、見た目にもメリハリがつきました」

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

柱も梁と同じく、ツガ材でできています。「リフォームは、実際にフタを開けてみないと状態が分からないことが多いんです。幸い柱はシロアリにやられることもなく、全て使えたのでほっとしました」

2階のスペースは基本的に1つの大きな部屋ですが、奥の引き戸を閉めることで、手前をダイニングキッチン、奥の書斎を個室としてそれぞれ使い分けられる柔軟性の高さも魅力的です。限られたスペースだからこそ、部屋のあちこちにさまざまな工夫が施されています。

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

窓の前にも棚!? 幅広いジャンルの本が並ぶ「おウチライブラリー」

よく見ると窓の前にも棚が。そして、2階の窓にはカーテンが一枚もありません。「1階と同じように、2階も今まで使っていたサッシをそのまま活用しています。曇りガラスというのもありますし、ここに長く住んでいるのでご近所さんはみんな顔見知り。だからなのか、あまり気にならないですよ。それよりも、窓の掃除に苦労しています(笑)」

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、棚の一番上は3匹の猫が使うキャットウォークとして空けているのだそう。
「自分の専用スペースと分かっているのでしょうか。本にいたずらすることもなく、いつも棚の上を走り回っています」

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

加藤さん夫妻が大切にしているのは本だけに限らず、家の持ち主だった祖父母への感謝、家族の歴史や記憶、当時の家を建てた職人さんへのリスペクト、そして愛らしい猫たち。「本を捨てられない」という言葉からも、「全てを大切にする心」がベースにあると感じました。ほっこりした温かさにあふれる住空間は、おふたりの人柄そのもので、やさしさのおすそ分けをいただきました。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト 、仕掛け人に聞く”これからの住まい方”

UR賃貸住宅のなかでも人気の無印良品とのコラボ物件「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」。昨年12月から新プラン「ギャラリーとアトリエのある暮らし」を含む13プランの入居申込受付が始まりました。スタートから丸5年がたった今、改めて同プロジェクトについて、その仕掛け人であり設計担当者の豊田輝人(とよだ・てるひと)さんにお話を聞きました。
団地を”現代のライフスタイル”につくり変える

今回お話を聞いたのは、株式会社MUJI HOUSE所属の一級建築士・豊田さん。MUJI HOUSEでは無印良品の住宅商品「無印良品の家」として住居デザインやリノベーションプランニングを行っています。

「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」は、UR賃貸住宅が所有する団地物件を無印良品が現代のライフスタイルに合う住居へとつくり変えるコラボレーションプロジェクト。平成24年にスタートし、現在は41団地45プラン、全国の物件数は600戸以上を数えます。

写真左:Plan01「LDKをゆるやかに仕切って広々と使う。」は、自由度の高い空間設計。写真右:リノベーション前から残されている柱がアクセントに。「団地」のもつ味わいを残すのが、同プロジェクトの特徴だ(画像提供/MUJI HOUSE)※現在は募集終了

写真左:Plan01「LDKをゆるやかに仕切って広々と使う。」は、自由度の高い空間設計。写真右:リノベーション前から残されている柱がアクセントに。「団地」のもつ味わいを残すのが、同プロジェクトの特徴だ(画像提供/MUJI HOUSE)※現在は募集終了

団地のもつ素朴な魅力はそのままに、住む人が使い方を自由に考えられる空間づくりが人気を集めてきた同プロジェクト。スタートから5年という節目を迎えて、豊田さんは「私たちの考える暮らしの“核”になる部分はある程度支持いただけるようになってきた。そこからさらに、“暮らしを彩る”設計にもチャレンジしたい」といいます。

新たにめざす「暮らしを彩る」を体現するプランも登場

プロジェクトの始動から5年が経ち、団地リノベーションのノウハウはある程度確立できたと語る豊田さんに、2017年12月から全国9団地で募集が始まった新プランについてうかがいました。
※プランの募集状況については、取材時点と状況が変わっている場合があります

【ギャラリーとアトリエのある暮らし。(Plan40)】
こちらはPlan40「ギャラリーとアトリエのある暮らし。」。今回発表された新プランの1つです。

玄関が物件の中心、左右にそれぞれリビングと寝室がある横長の間取り(画像提供/MUJI HOUSE)

玄関が物件の中心、左右にそれぞれリビングと寝室がある横長の間取り(画像提供/MUJI HOUSE)

「廊下が長く、どうしても退屈になりがちな空間をギャラリースペースのように活用できるプラン。壁にくぼみをつくってお気に入りの本やポストカード、お子さんが描いた絵などを飾れるようにして、見た目にもにぎやかな空間になりました」(豊田さん、以下同)

写真左:殺風景な壁を彩ってくれるお気に入りのアート。「壁」というデメリットが物件の魅力に変わった。写真右:主寝室の奥にあるアトリエスペース。趣味や勉強など、一人で落ち着いて過ごせるスペースも確保できる(画像提供/MUJI HOUSE)

写真左:殺風景な壁を彩ってくれるお気に入りのアート。「壁」というデメリットが物件の魅力に変わった。写真右:主寝室の奥にあるアトリエスペース。趣味や勉強など、一人で落ち着いて過ごせるスペースも確保できる(画像提供/MUJI HOUSE)

【空間のつながりを感じるメゾネット。(Plan42)】

集合住宅でありながら「2階がある」という暮らしをかなえるのが「メゾネット」。実は団地にもこのメゾネットタイプの物件があるのだとか。

何でこうなった……? と思わせる、不思議なメゾネットの間取り(画像提供/MUJI HOUSE)※現在は募集終了

何でこうなった……? と思わせる、不思議なメゾネットの間取り(画像提供/MUJI HOUSE)※現在は募集終了

「南側からの光を取り込むために壁を減らしました。階段スペースも壁に囲まれていましたが、全て撤去。スケルトン階段にして、北側の玄関まで光が届くようになりました」

玄関側からの景色。おしゃれに生まれ変わった階段は、この家のシンボルになりそう!(画像提供/MUJI HOUSE)

玄関側からの景色。おしゃれに生まれ変わった階段は、この家のシンボルになりそう!(画像提供/MUJI HOUSE)

写真左:リビングから玄関方向へ。空間を柱や床材で緩やかに区切り、スペースを分けている。写真右:上階のワークスペース。半透明ふすまで豊かな光が差し込む(画像提供/MUJI HOUSE)

写真左:リビングから玄関方向へ。空間を柱や床材で緩やかに区切り、スペースを分けている。写真右:上階のワークスペース。半透明ふすまで豊かな光が差し込む(画像提供/MUJI HOUSE)

【内装の素材にもこだわりを】

壁の撤去などのリノベーションだけでなく、内装に使用する素材もよりよいものへと変更されています。

「例えば畳のスペース。畳はフローリングと比べて遮音性が高く、集合住宅にオススメなんです。ただ、普通の畳だと『和室』的な使い方しかできません。擦れや重さにも強い『麻畳』を独自に開発し、脚つきのソファやベッドなどフローリング向けの家具が置けるようにしました。
Plan40などで使用している半透明ふすま(和室とアトリエスペースの仕切りに使用)も、MUJI×URのプロジェクトで開発された商品です。私たちが大切にしたい『光』を遮ることなく、住む人のプライバシーを守ったり、空間を区切ったりという機能をもたせることができました」

こうしたリノベーションを施すことで、募集時の反応も格段にアップ。
「特にメゾネットタイプは専有面積が大きい分家賃が高めで、コスパ重視の団地検討者からは敬遠されることも多かったのですが、リノベーション後は入居希望者数も増えました。もちろん私たちも壁を取り払ったり、新しい商品を入れたりと『こうすれば絶対によくなる!』と確信をもって設計をしていますが、そうした反響があると改めて『よかった』と安心しますね(笑)」

写真左:3月に募集開始予定の「Re+026 明るいLDKの中心に対面キッチン。」。光をいっぱいにとり入れるLDKスペースが、生活の中心になりそう。写真右:同プランの間取り。仕切りをできるだけ取り払い、開放的な空間に(画像提供/MUJI HOUSE)

写真左:3月に募集開始予定の「Re+026 明るいLDKの中心に対面キッチン。」。光をいっぱいにとり入れるLDKスペースが、生活の中心になりそう。写真右:同プランの間取り。仕切りをできるだけ取り払い、開放的な空間に(画像提供/MUJI HOUSE)

既存のモノを生かし、住みついでいく 暮らしの本質を見つめ続けたい

階段がない、なんとなく古い感じがする、などのイメージから敬遠されることも多い団地を、どのようにリノベーションをされているのでしょうか。

「MUJI×URでは『古さを生かす』リノベーションを行っています。例えば団地の部屋によく見られるのが、空間の真ん中に鎮座する古い『柱』や『欄間(らんま)』。邪魔になるからと撤去してしまうプランニングも多く見られますが、今の20代や30代にとっては新鮮で、ヴィンテージ品のような味わいも魅力的なんですよ。現場でも、職人さんに『あまり新築みたいにしないでください』とよくお願いしているんです(笑)」

「そして、私たちが重視しているのは、常に商品の核=本質を見極めること。住まいの『本質』とは何か? 私たちは、それを『日当たりや風通し、緑や公園などの住環境のよさ』だと考えています。設備の新しさや素材の高級さは実は二次的な要素で、住む人が“心地よく暮らせる”ことが住まいの最も重要な部分。団地には、そうした豊かな住環境がそろっています。それを最大限に生かし、住む人が豊かな心で暮らせるような住宅にしていきたいですね」

プロジェクトとしての今後の目標や、住宅づくりの未来についても聞いてみました。

「新築物件には根強い人気がありますし、団地のリノベーションはまだまだ過渡期。一つひとつの物件に向き合って、MUJI×URの物件数をもっと増やし、住む人が家族の人数やライフスタイルに合わせて自由に選び、住み替えられるくらいのバリエーションを用意したい。あるものを大切につくりなおして、住みついでいく。これが、未来の住宅のスタンダードになると信じています」

団地がもっている魅力を残し、そして新たに引き出す、MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト。単に新しくつくり変えてしまうのではなく、古さや味わいを生かし、「住みつぐ」という考えを大切にされていることが分かりました。

プロジェクトはこれからも継続され、新たな物件も募集が始まっています。住まい選びの選択肢に「団地」を加えてみてはいかがでしょうか。

●取材協力
・無印良品の家(株式会社MUJI HOUSE)

本好き夫婦が暮らす”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]

「きっかけは、老朽化した家を快適な環境にすることでした」と話す加藤泰郎(かとう・やすあき)さん。夫婦そろって本好きという加藤さんは、リフォームを機に今までスペースを取っていた本の”美しい収納“にもこだわりました。大好きな本に囲まれたライフスタイルとは? 今回はその前編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをうかがいます。50年の時を経た祖父母の家をリフォーム

加藤さんの家は、神楽坂駅から徒歩10分。細い路地を入った閑静な住宅街に、夫婦で暮らしています。現在は、医療系の出版社に勤務している加藤さん。実はこの家、もともと加藤さんの祖父母が住んでいたもの。築50年になる母屋にアパートが付いた建物は、親の代を経て3代目の加藤さんが受け継ぐことになりました。

しばらく夫婦で暮らしていましたが、年季の入った家は傷みが進んでいるうえに使い勝手も悪く、断熱材も使われていません。「お風呂場は外のブロック塀とくっついているし、部屋の壁もわずか1枚。冬はもう寒くて仕方ありませんでした」

加藤さん夫婦は3匹の愛猫(11歳になる八兵衛くん、8歳のまめ吉くん、3歳のまん福くん)と一緒に暮らしています。取材がはじまると年長の八兵衛くんがやって来て、スリスリと挨拶をしてくれました。

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

土間が中心の1階は、新しく生まれた庭を楽しむ開放的な空間に

「ここを更地にして家を建てる、という発想はなかったです。せっかく引き継いだ家なので、今あるものを残してリフォームすることを決めていました」

そんな加藤さん宅の1階は、約9畳の土間が中心。土間の中央には2階への階段、その奥は寝室となる和室。その隣には譲り受けた年代モノの桐箪笥(きりだんす)が置かれており、おばあちゃんの家に遊びに来たようなぬくもりが感じられます。

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

また、昔の母屋があった場所を減築(建物の一部を解体)して、あらたに6坪の庭をつくりました。階段下をふさがなかったのも、和室から庭までのつながりを持たせるためで、和室からも庭を楽しめる開放的な空間になっています。ちなみに、階段下は猫たちのトイレスペース。砂が多少とび散っても、下が土間なので掃除をするのもラクになったとか。

「夏になると、うちの子はみんな土間でゴロゴロしていますよ。風もよく通って涼しいですし、土間ならではのひんやり感は、猫たちも気に入ってくれているみたいです(笑)」。建物全体に断熱材を入れ、土間には土間暖房も設置しているため、冬でも寒すぎず快適に過ごせるそうです。

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

1階の本棚も圧倒的な存在感

土間が中心の1階といっても、ここにも本棚はあります。メインの本棚は2階のリビング・ダイニングになりますが、バスルームとトイレを結んでいる1階の廊下やその手前の壁にも棚をつくって、本を置くスペースに。ずらっと並ぶ本の数々が、存在感を放っています。

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

どうやら、加藤さんの本好きはDNAのなせるわざなのかもしれません。というのも、実はこの家とともに受け継いだ本もたくさんあるのだそう。「この1番上と2番目の棚にある本は、新聞紙に包まれて押入れに保管されていた文芸集です。ほかにもありますが、この赤い装丁がとてもきれいなので、日差しを直接受けないこの場所で保管することに決めました」

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

古民家風の風情が落ち着く、障子と昭和レトロな曇りガラス

1階でもうひとつ特徴的なのは、古民家風な雰囲気を醸し出している障子付きのサッシ。掃き出し窓として使われていた当時のものをそのまま活用して、土間との一体感を演出しています。

「日差しが強いときは障子を閉めればいいですし、カーテンやブラインドと違って暗くなり過ぎないのも障子の良さ。外からの目隠しにもなりますしね。ただ、一番下の障子は猫が突き破るので、そのまま空けています(笑)」

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

障子を開けると、サッシの下半分は昭和のレトロ風情が漂う模様付きの曇りガラス。「妻がとても気に入って、これだけは残したい、という想いがありました。それに、今どきこういうガラスは珍しくて、なかなか見つからないです」。多層づくりではないシングルのガラスでも、障子があるため、断熱効果や結露の防止になるのだとか。
「リフォーム前にここに実際に暮らしていたからこそ、残したい部分と変えたい部分が明確になっていました」

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

さて、本と暮らす家【前編】はここまで。【後編】では、いよいよ2階のリビング・ダイニングを紹介。見渡す限り本、本、本……と数えきれないほどの本に囲まれたライフスタイルのメインに迫ります。【後編】も、どうぞお楽しみに。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

築50年の家をリフォーム、猫3匹とくつろぐ ”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]

「きっかけは、老朽化した家を快適な環境にすることでした」と話す加藤泰朗(かとう・やすあき)さん。夫婦そろって本好きという加藤さんは、リフォームを機に今までスペースを取っていた本の”美しい収納“にもこだわりました。大好きな本に囲まれたライフスタイルとは? 今回はその前編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをうかがいます。50年の時を経た祖父母の家をリフォーム

加藤さんの家は、神楽坂駅から徒歩10分。細い路地を入った閑静な住宅街に、夫婦で暮らしています。現在は、医療系の出版社に勤務している加藤さん。実はこの家、もともと加藤さんの祖父母が住んでいたもの。築50年になる母屋にアパートが付いた建物は、親の代を経て3代目の加藤さんが受け継ぐことになりました。

しばらく夫婦で暮らしていましたが、年季の入った家は傷みが進んでいるうえに使い勝手も悪く、断熱材も使われていません。「お風呂場は外のブロック塀とくっついているし、部屋の壁もわずか1枚。冬はもう寒くて仕方ありませんでした」

加藤さん夫婦は3匹の愛猫(11歳になる八兵衛くん、8歳のまめ吉くん、3歳のまん福くん)と一緒に暮らしています。取材がはじまると年長の八兵衛くんがやって来て、スリスリと挨拶をしてくれました。

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

土間が中心の1階は、新しく生まれた庭を楽しむ開放的な空間に

「ここを更地にして家を建てる、という発想はなかったです。せっかく引き継いだ家なので、今あるものを残してリフォームすることを決めていました」

そんな加藤さん宅の1階は、約9畳の土間が中心。土間の中央には2階への階段、その奥は寝室となる和室。その隣には譲り受けた年代モノの桐箪笥(きりだんす)が置かれており、おばあちゃんの家に遊びに来たようなぬくもりが感じられます。

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

また、昔の母屋があった場所を減築(建物の一部を解体)して、あらたに6坪の庭をつくりました。階段下をふさがなかったのも、和室から庭までのつながりを持たせるためで、和室からも庭を楽しめる開放的な空間になっています。ちなみに、階段下は猫たちのトイレスペース。砂が多少とび散っても、下が土間なので掃除をするのもラクになったとか。

「夏になると、うちの子はみんな土間でゴロゴロしていますよ。風もよく通って涼しいですし、土間ならではのひんやり感は、猫たちも気に入ってくれているみたいです(笑)」。建物全体に断熱材を入れ、土間には土間暖房も設置しているため、冬でも寒すぎず快適に過ごせるそうです。

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

1階の本棚も圧倒的な存在感

土間が中心の1階といっても、ここにも本棚はあります。メインの本棚は2階のリビング・ダイニングになりますが、バスルームとトイレを結んでいる1階の廊下やその手前の壁にも棚をつくって、本を置くスペースに。ずらっと並ぶ本の数々が、存在感を放っています。

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

どうやら、加藤さんの本好きはDNAのなせるわざなのかもしれません。というのも、実はこの家とともに受け継いだ本もたくさんあるのだそう。「この1番上と2番目の棚にある本は、新聞紙に包まれて押入れに保管されていた文芸集です。ほかにもありますが、この赤い装丁がとてもきれいなので、日差しを直接受けないこの場所で保管することに決めました」

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

古民家風の風情が落ち着く、障子と昭和レトロな曇りガラス

1階でもうひとつ特徴的なのは、古民家風な雰囲気を醸し出している障子付きのサッシ。掃き出し窓として使われていた当時のものをそのまま活用して、土間との一体感を演出しています。

「日差しが強いときは障子を閉めればいいですし、カーテンやブラインドと違って暗くなり過ぎないのも障子の良さ。外からの目隠しにもなりますしね。ただ、一番下の障子は猫が突き破るので、そのまま空けています(笑)」

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

障子を開けると、サッシの下半分は昭和のレトロ風情が漂う模様付きの曇りガラス。「妻がとても気に入って、これだけは残したい、という想いがありました。それに、今どきこういうガラスは珍しくて、なかなか見つからないです」。多層づくりではないシングルのガラスでも、障子があるため、断熱効果や結露の防止になるのだとか。
「リフォーム前にここに実際に暮らしていたからこそ、残したい部分と変えたい部分が明確になっていました」

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

さて、本と暮らす家【前編】はここまで。【後編】では、いよいよ2階のリビング・ダイニングを紹介。見渡す限り本、本、本……と数えきれないほどの本に囲まれたライフスタイルのメインに迫ります。【後編】も、どうぞお楽しみに。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

職人が足りないなら育てよう リノベ会社がはじめた「マルチリノベーター(多能工)」育成

今や一般にも広く認知されているリノベーション。しかし、拡大するリノベ業界には深刻な職人不足という大きな課題があり、それを解消するための人材育成の動きが活発化しつつあります。リノベ業界を牽引する企業、
インテリックス空間設計が取り組んでいる「リノベーションカレッジ」もその一つ。どんな育成方法なのか、リノベ業界にはどんな課題があるのか、聞きました。

深刻化する職人不足にともない、「多能工」育成が活発化

住宅を購入して自分らしい住まいにカスタマイズしたい、個性的な住宅に暮らしたい……そんなリノベーションのニーズが高まっている現状にもかかわらず、少子高齢化に伴う労働人口の減少などで、建設現場は高齢化が進行しています。さらに現在、震災復興事業、景気回復やオリンピックに向けた建設ラッシュの影響などで人手不足はより深刻化しつつあります。リノベ工事を依頼して設計が決まっても、職人不足ですぐに着工できず、困った状態になるといったことも考えられます。そうした背景から、リノベーションやリフォームなどの住宅業界では職人を独自に育成する必要性に迫られています。

実は日本の建設業は、他国に比べて分業化が進みすぎていると言われています。大工職人、左官職人など職種が細分化されていると、職人が現場に入るのは工事の進行に応じて半日だけという状況や、待ち時間が長い状況など、非効率的な事態になることも少なからずあるといいます。

人手不足解消に加え、作業の集約化を図るために求められているのが、複数の職種に携われる能力をもつ「多能工」です。「多能工」の職人を育成し活用することで、非効率的な現場から、生産性の高い現場へ変えていくことが可能となるため、積極的に自社で育成に取り組む企業が増えつつあります。

入社後の研修をOJTとし、大工工事、水道工事、電気工事の三職種を一貫して行えるよう技術習得のサポートを行い、自社育成を進めているリフォーム企業もあれば、自社研修にパワーを割けない企業向けに研修施設を開設したという設備商社、多能工養成コースがある専門学校など、取り組みはさまざま。自治体でも職業訓練校で多能工育成のコースを設けたり、国土交通省も多能工(マルチクラフター)育成の必要性を説いたりしています。

リノベ業界で活躍する人材を増やすためには職の効率化が必要

そのなかで、昨年、新たな取り組みをスタートさせたのは、リノベ業界のリーディングカンパニーのひとつであるインテリックスの設計・施工部門「インテリックス空間設計」。3カ月という短期間で「マルチリノベーター(多能工)」を育成する「リノベーションカレッジ」を2017年4月に開校しました。

インテリックスが提唱するマルチリノベーターとは、大工、水道、電気などの専門技術とリノベ全般の知識を備えた施工・管理をトータルに行う専門家。カレッジを、リノベの基礎知識から大工作業、設備工事、プランニング、施工管理まで、座学と現場研修を通じて実践的に習得できる場としています。大工技術等の習得には修行期間を含めて長い期間が必要とされていますが、自社の施工ノウハウをマニュアル化することで、初心者でも技術が習得しやすいカリキュラムとしているそうです。

インテリックス空間設計副社長でカレッジ長を務める藤木賀子さんに、カレッジを立ち上げた経緯についてお話を伺いました。

「職人不足の背景には、若手でなり手がいないという状況があります。なぜ若い世代が職人になりたがらないかと言うと、いわゆる『技術は盗んで覚えろ』という昔ながらの職人文化についていけないためです。職人自身も教えてもらった経験がないから、教え方が分からない。また、教えようと思っても会社規模が小さいところが多いために、限られた施工期間のなかでは、実現場で基礎教育に充てる時間の確保が難しいようです。それなら、事前にリノベの基礎や実践的なスキルを研修してから現場に出る仕組みがあれば、教える側・学ぶ側双方にとって効率が上がり、現場での成長スピードも早まると考えました」

次回は2018年4月開講の予定(開講日4月9日、願書受付3月17日まで、募集人数10名以上)。3カ月で習得することは多岐にわたります(資料提供/インテックス空間設計)

次回は2018年4月開講の予定(開講日4月9日、願書受付3月17日まで、募集人数10名以上)。3カ月で習得することは多岐にわたります(資料提供/インテックス空間設計)

カレッジの座学や実習は月曜日から金曜日の9時半~17時まで。講師は自社社員・協力会社の担当が行います(資料提供/インテックス空間設計)

カレッジの座学や実習は月曜日から金曜日の9時半~17時まで。講師は自社社員・協力会社の担当が行います(資料提供/インテックス空間設計)

設計から施工、積算、現場監督まで。全体を学ぶから生産性の高い人材に

「当カレッジの強みは、リノベーション現場での実習を行わない職業訓練校や専門学校と異なり、当社が手がけている施工現場が常に100件以上あること。実際の現場での研修や見学があり、より理解が深まり実践力を身につけることができます」(藤木さん・以下同)

「職人として独立しても、生産性が低く安定した収入につながらないケースもあり、そうした場合、夢がもてず、老後も安心できません。職人としてだけでなく、現地調査・設計・積算・現場監督・検査方法などリノベーションの入口から出口までを一通り学べるので、生産性の高いマルチリノベーターとして活躍できる人材を送り出す場としたいですね。また、その後のキャリア選択の幅も広げてもらえたら」と藤木さんは語ります。

「マンションリノベーションでは、工事で発生する音やほこり、通路の養生などに対する近隣住人からの要望への対応に時間を取られ、工事がストップしてしまうことも少なからずあるので、施工管理を行う現場監督の役割が重要だと考えています。カレッジでは近隣への接客マナーやコミュニケーション方法も身につけてもらうことになります」

設備交換などのシンプルなリフォームに比べて施工期間が1カ月、2カ月と長期になるリノベーション。マンションという住戸が密接した建物ということもあり、同社でも現場で近隣住人からの要望やクレームが施工中に入ることもあるそうです。監督が常駐していない現場の場合、大工職人が近隣住人に対面することになるのですが、管轄外のことであり、きちんと対応できるかどうかはその人次第となってしまいます。

工事全体を把握し、近隣に対応する折衝スキルをもつ人が現場にいることで、工事を滞らせることなく進めることができるのです。

ご近所対応をうまく行うことで、物件に入居する住人にとっても、気持ちよく入居していただくことにつながるといいます。「生産者を紹介している野菜直売所のように、物件オーナーにとってもご近所の方々にとっても、『リノベ担当者の見える安心な現場』になれればと考えています」と藤木さん。

リノベーションカレッジの授業の様子。現場でも多くの実践的な内容を学べます(資料提供/インテックス空間設計)

リノベーションカレッジの授業の様子。現場でも多くの実践的な内容を学べます(資料提供/インテックス空間設計)

「設計も職人も監督もできるのが魅力」「まずは現場から」という希望者が集う

「2017年4月の1期生は定員の10人が集まりました。不動産会社勤務でリノベをやりたい方、未経験だけれど現場監督になりたい方、解体業者さんなど、20代~60代まで年齢もさまざまで、うち4人が女性の方です。基礎コースの3カ月で45万円(入学金5万円と受講料40万円)の受講料を頂きましたが、それだけに意気込みのある方ばかりでした。専門学校2年間で学ぶような高密度の内容を3カ月という短期間で行うことになりますが、集中したほうが身につきやすいと考えています」

修了後は、希望者には契約社員として現場で理解を深めていく期間があり、試験や面談にパスすれば社員登用の道もあります。1期生で社員となったのは2人。

「当社では社員となった場合、OJTで学び、いずれは現場監督兼大工職人として現場に出ることになります。それ以外の工事は専門の職人が担当します。将来的には、給排水工事、電気設備工事、左官工事などの専門職を兼ねる者が出てくるかもしれません。それは当人次第ですね。いずれそうしたマルチスキルをもった者が独立した場合、協力関係を築けたらと思います」

「カレッジとは別に、昨年末に中途採用でマルチリノベーターの募集をかけたところ、予想外に多くの方から応募がありました。未経験の方も多く、入社後にはリノベーションカレッジで基礎を身につけてもらいます。なかには建築学科卒業の方も多く、『設計をやりたいけれど、現場を知ることから始めたい』『職人にもプランナーにも監督にもなれるから職能的に魅力』という声が多かったですね。現場で学ぶことで実践力が身につく、そうした点に大きな魅力を感じていただいているようです」

大学や専門学校の建築学科では現場施工を学ぶ機会は意外と少なく、リノベーションの全体を把握できないそうで、同社のようにマルチに活躍できる職場を求めている人は想像以上に多いと藤木さんは感じたそうです。

受講者のなかには賃貸アパートオーナーもいました。「大家さんがリノベーションのマルチスキルをもっていると、とても役立つと思います。自分で施工することも可能ですし、業者に依頼する際にも工事内容を把握しているので、依頼内容が的確で追加工事が生じなかったり、見積もりが適正か判断できるためです」

3カ月の短期間にぎゅっと詰まったカリキュラムをやり遂げたことで、皆さん格段に成長したそうです(写真提供/インテリックス空間設計)

3カ月の短期間にぎゅっと詰まったカリキュラムをやり遂げたことで、皆さん格段に成長したそうです(写真提供/インテリックス空間設計)

リノベーションを考えている人にとって、昨今の職人不足はひとごとではありません。安心して任せられる職人兼現場監督が常に現場にいれば、リノベの依頼者・近隣住人にとっても気持ちよく、予定通りに工事を進めることにつながります。

「カレッジの運営は収支だけで考えると赤字ですが、より多くの人がマルチリノベーターとして活躍できるようにするために使命感をもって臨んでいます。『この人なら安心して任せられる』と感じていただける、“顔の見えるリノベ現場”でありたいですね」と、最後に力強く語る藤木さん。お話を伺って、より多くの人材の活躍を期待したいと感じました。

●取材協力
・株式会社インテリックス空間設計「リノベーションカレッジ」

“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

「うち近いから寄ってく?」と友人に言いかけて途中で飲み込んだ覚えはありませんか? 部屋が散らかっていたり汚かったりすると、人を呼ぶのをためらってしまいがち。「うちにおいでよ!」と気軽に言えるお部屋にするにはどうしたらよいのでしょうか。人には見せられない“おブス部屋”から卒業するための、ちょっとした工夫をプロに聞きました。
手がけた物件は1000件以上! お部屋改造のプロってどんな人?

今回、散らかり放題のおブス部屋をイケてる部屋にするヒントを聞かせていただくために伺ったのは、有限会社お部屋改造計画。一人暮らしや、ご夫婦の方々の「インテリアコーディネート」や「お部屋模様替え」、カフェやサロン、オフィスなど小さな店舗の「トータルプロデュース」を行っている会社です。今年で設立19年目、手がけた物件は1000件を超えるそう。

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お客様は一人暮らしの方が多く、女性は20代~30代、男性は30~40代が多いとのこと。「しっかりヒアリングをして、その人の生活習慣にマッチした部屋づくりをします。好きなことや嫌いなこと、仕事は何かなど、こだわりや趣味を考え抜いてつくり上げます。ですから、100人100様の部屋ができ上がります」と代表兼ルームスタイリストの柳橋浩さんは話します。

そんなお部屋づくりのプロ・柳橋さんに聞く、おブス部屋から抜け出すコツとは!?

断捨離はする必要なし! 持ち物があってこその生活

ちまたではミニマリストなど、断捨離が流行して普遍になりつつありますが、柳橋さんはそれには賛同しかねると言います。

「思い入れのあるものなど、処分できないものは、リメイクや置く場所等を工夫してお部屋になじませるという方法でクリアできます。なんでもかんでも捨ててしまわなくても、きれいな部屋はつくれますよ」(柳橋さん)

大切なものは捨てられないと思っていた筆者としては、すこし安心しました。

とはいえ、物が多いと片づけの難易度が上がるはず。物を捨てずに片づけるコツはあるのでしょうか? 柳橋さんによると、まずは「収納場所を特定したほうがよい」とのアドバイスが。

「片づけやすい環境づくりをすることで、実際に『片づける』という行動につながります。ただ、収納スペースを多くつくってしまうと、安心感から今度はそこに物がたまってしまうので注意しましょう」(同)

また、収納が面倒くさくなるのは「収納の動線」がつくられていないからだそう。「捨ててもいいものは外に出しやすい、玄関に近いほうに置くようにしましょう。また、急な来客があったときなどのために、『とりあえず入れておくコーナー』を設置しておくのもよいですね」(同)

まずは収納の動線をつくって片づけをしやすい環境にととのえることが、おブス部屋脱却のカギになりそうです。

おブス部屋の原因はどこにある? 実際に聞いてみた

柳橋さんのお話にうなずきながら、おそるおそる筆者の部屋の写真を出して、見ていただきました。インテリア雑誌やテレビの情報番組を見て「隠せ、隠せ」とできるだけシンプルな布を購入して、積み上げたものを隠している部分です。

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

冷や汗をかきながら小声で「汚くてなんだかすみません」と恐縮しまくる筆者に「そんなに汚くないですよ~」と明るく優しく声をかけてくださる柳橋さん。そしてすぐさま直せそうなポイントを指摘してくださいました。

「目隠しの布はよく使われますが、相当に気を使わないと実は難しいもの。適当な布を置いてもバランスが崩れるので、やめたほうが賢明です」(同)

また、家具の並べ方にもポイントがあるそう。

「背の高い家具同士は極力並べるのを避けて、間に少し低い家具を置いたり、余白をつくったりして高低差をつけて、メリハリを出してください。そのほうが圧迫感を感じにくくなります。もし圧迫感のある家具が多い場合には、今の位置と反対側に置くなどして、同一方向の視線から外しましょう」(同)

さらに、新たに家具選びをするときには、こんなコツがあるそうです。

「『食器棚』『テレビ台』など、家具は決まった用途があるかのように名づけられて売られていますが、これに惑わされないでください。見た目とサイズ感から、従来の使い方以外にも用途がいろいろ浮かんでくると思います。そうすれば、自分にぴったりなオリジナルの使い方ができます」(同)

家具の並べ方は、やはりバランス感覚が重要とのこと、安定感や見た目の重視に気をつけるだけで、相当に片づいて見えるようです。これなら少しずつ解決ができそうな気がします。

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋改造は、どんなメリットがある?

最後に柳橋さんに、お部屋を改造することで部屋が片づくこと以外に得られるメリットについて伺いました。

「部屋が変わると、世界観が変わるというお客様が多いですね。『生活が好転しました』『気持ちが明るくなりました』と言ってくださる方が多いです。大掃除の達成感に似ているのかもしれませんが、部屋を変えることでご本人の何かが変わるのではないでしょうか。すぐには引越しできない場合にも、模様替えは可能ですから、ぜひ一度試してみていただきたいです」(同)

今回いただいたアドバイスで、おブス部屋から脱出する糸口が見つかったような気がします。大掛かりなものはプロに任せるという選択肢もアリかな、と感じました。

お部屋の改造は住み続けるための選択肢。人に見せても恥ずかしくない部屋づくりはちょっとしたことから始められます。そして部屋に向き合うことは、自分と向き合うことにもつながっているのかもしれません。

●取材協力
・有限会社お部屋改造計画

「中古住宅の購入に合わせて」リフォームするのは当たり前!?30代以下は自分好み重視

住宅リフォーム推進協議会では、住宅リフォームの実態を把握するために、毎年、リフォーム事業者に対してリフォーム工事が完了した住宅についてアンケートを実施している。平成29年度の特徴を見ると、リフォームの目的や工事の内容は世代間で大きく異なることがうかがえる。ここでは、30代以下のリフォームに注目して、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「平成29年度 第15回 住宅リフォーム実例調査」を報告/(一社)住宅リフォーム推進協議会30代以下のリフォームは「中古住宅購入に合わせて」も多数

リフォームの目的を施主の年代別にみると、「使い勝手の改善、自分の好みに変更するため」(=嗜好対応)が多いのだが、60代と70代以上に限ってみると、「住宅、設備の老朽化や壊れたため」(=老朽化対応)のほうが多くなる。

また、30代以下に限ってみると、「中古住宅の購入に合わせて」が他の年代より多いのが特徴だ。一戸建てで31.9%、マンションになると47.4%にも達する。さらに、一戸建ての場合(画像1)は「世帯人員の変更」や「三世代同居対応」、「相続等による所有者の入れ替え」や「空き家の活用」の割合が高くなるのも大きな特徴だ。

【画像1】施主の年齢別・リフォーム工事の目的(複数回答)一戸建てのみ(出典/住宅リフォーム推進協議会「平成29年度 第15回住宅リフォーム実例調査)」

【画像1】施主の年齢別・リフォーム工事の目的(複数回答)一戸建てのみ(出典/住宅リフォーム推進協議会「平成29年度 第15回住宅リフォーム実例調査」)

30代以下は嗜好性だけでなく、住宅の省エネ性を高めるリフォームにも積極的

次に、30代以下に着目してリフォームした工事内容についてみていこう。

マンションでは、建物の基本構造となる躯体(くたい)部分は共用部分として管理組合で管理することになる。そのため、個人ではリフォームできないので、おのずと内装のリフォームが中心となる。年代別で違いが目立ったのは、30代では「収納スペースの改善」が高いことくらいだ。

これ対して一戸建てでは、外壁や屋根、住宅の基礎部分、窓のサッシなど、一般的にマンションではリフォームできない構造的な部分もリフォームできる。加えて、マンションに比べると一戸建てのほうが、住宅個々の構造や仕様の違いが大きい。そうしたこともあってか、リフォーム工事の内容に年代別でかなり違いがみられる(画像2)。

30代以下では「内装の変更」や「住宅設備の変更」、「収納スペースの改善」、「居室の用途の変更」といった嗜好に対応したリフォームが他の年代より多く、「建具の変更」にまでこだわりが見られる点も興味深い。しかし一方では、「床暖房を含む冷暖房や給湯設備の設置交換」、「床・基礎への断熱材の設置」、「窓ガラス・サッシの改良」といった、省エネ性を高めるリフォームも積極的に行っていることが分かる。

このことは、画像1のリフォームの目的でも「省エネルギー化、冷暖房効率の向上等を図るため」で30代が高かったことと関係性がみられる。

【画像2】施主の年齢別・リフォーム工事の内容(複数回答)一戸建てのみ(出典/住宅リフォーム推進協議会「平成29年度 第15回住宅リフォーム実例調査」)

【画像2】施主の年齢別・リフォーム工事の内容(複数回答)一戸建てのみ(出典/住宅リフォーム推進協議会「平成29年度 第15回住宅リフォーム実例調査」)

30代以下では借入や補助金を活用する度合いも高い

30代以下の一戸建てリフォームでは、リフォーム工事の内容も多様。リフォーム費用についても、他の年代に比べて高額になる傾向がみられた。「1000万円超」で39.6%、「500万円超~1000万円以下」で28.6%と、他の年代より高額の割合が高く、合計すると500万円を超えたケースが68.2%にも達する。

ちなみに、30代以下のマンションリフォームでは、「100万円以下」が26.3%など、むしろ他の年代より安くなる傾向がみられた。

さて、リフォーム費用が高額になるほど、自己資金で払うのが難しくなる。金融機関から借り入れる比率が高くなるのも、30代以下の一戸建てリフォームの特徴だ。借入無しは42.9%と半数を切り、借入額が「1000万円超」(29.7%)、「500万円超~1000万円以下」(16.5%)と多くなっている。

最近は、中古住宅購入費用と合わせてリフォーム費用まで借りられる住宅ローンも増えてきたが、こうしたニーズに対応しているということだろう。

その一方で、30代以下は「住宅ローン減税」※を活用(利用率34.1%)したり、補助金を利用したりして負担を減らそうという行動もみられる。補助金の利用は30代以下が最も多く、一戸建てリフォームでみると補助金の額は「20万円以下」(12.1%)、「50万超~100万円以下」(3.3%)、「100万超~300万円以下」(5.5%)、「300万円超」(3.3%)とかなり高額の人もいることが分かる。

※住宅ローン減税とは、10年以上の住宅ローンを借りた場合、年末のローン残高の1%を10年にわたって控除される減税制度。ただし、利用するには適用要件がある

【画像3】施主の年齢別・補助金の金額 一戸建てのみ(出典/住宅リフォーム推進協議会「平成29年度 第15回住宅リフォーム実例調査」)

【画像3】施主の年齢別・補助金の金額 一戸建てのみ(出典/住宅リフォーム推進協議会「平成29年度 第15回住宅リフォーム実例調査」)

補助金については、地方自治体がそれぞれの課題に応じたさまざまな補助金制度を設けている。特に、耐震改修やバリアフリー化、省エネ化については補助金を設けている自治体も多い。また、国のほうでもZEH(ネットゼロエネルギー)住宅化や長期優良住宅化に対する補助金などを平成30年度も行う予定となっている。

さて、注目してきた30代以下のリフォームでは、中古住宅を購入したり相続したりしたときに行う場合も多く、自分好みや省エネ性にもこだわりが強いことが分かった。リフォーム工事の内容だけでなく、ローンを借りて減税制度を利用したり、補助金をもらったりと幅広く検討していることもうかがえる結果だった。

となると、リフォーム工事の内容はもちろん、ローンや減税、補助金に至るまで、多くの情報を集める必要がある。行おうとしているリフォーム工事が減税や補助金の対象になるかの判断やその手続きなどについても相談できる、頼りになるリフォーム事業者を選ぶことが大切になるだろう。

イタリア仕込みのお料理ママが選んだのは「ドイツ製キッチン」、納得の理由とその使い心地は?

都内に土地を購入し家を建てた40代のHさんは、イタリアに留学経験のある子育て中のママ。注文建築で特にこだわったのは、キッチンのプランニング。イタリア本場でお料理を学んだとあって、数あるイタリア・ブランドのどこのキッチンが入っているのかな? と思いきや……。 新居にはドイツ製のキッチンが美しく収まっていた。その選択のワケを、興味津々で伺ってみた。
仕事も趣味もイタリアを満喫、モダンデザインのベースを学ぶ

都心の駅近なのに閑静な住宅街、希少な立地に3階建ての家を新築されたHさん。その3階、リビングとは完全に独立させた大きなキッチンがこの家の主役。

壁付けでキッチン~トールキャビネットを回して全長12m。中央にシンク付きのアイランドカウンターを備えた11畳の独立したキッチン・ダイニング(写真撮影/片山貴博)

壁付けでキッチン~トールキャビネットを回して全長12m。中央にシンク付きのアイランドカウンターを備えた11畳の独立したキッチン・ダイニング(写真撮影/片山貴博)

Hさんは2人の小学生のお子様がいる専業主婦、「結婚する前はインテリアの会社にも勤めていたので、家のイメージはある程度できていて、コンクリート打ち放しのモダンデザインにしたいと思っていました」とのこと。しかし、”戸建ては庭のある木造”と考えていた夫と意見が正反対⁉︎

「建築会社は信頼できる大手でなければダメだと言う夫に従って、打ち放しコンクリートを諦めました。その代わり、内装やキッチンは私の好きに選ばせてもらいました」

キッチン選びは、国内外メーカーのショールームを見て回ったそう。

「イタリアで暮らしているときにも、ショールームやミラノサローネ国際見本市でキッチンを見ていて大好きなブランドもあるのですが、イタリアのデザインはカッコいいけど適当な気がするんです(笑)。メンテナンスのことも考えて、輸入キッチンでも日本法人がしっかりしているブランドを選びました」

なるほど、イタリアを熟知している人の選択だ。

その御眼鏡(おめがね)にかなったのが、ドイツのポーゲンポール社のキッチン。
「扉材は鏡面仕上げのテカテカしたのが嫌だったの。マットなグレーにしたかったのですが、ポーゲンポールで思い通りのものが見つかりました」

柔らかいグレーなので、壁一面大きなキャビネットに囲まれているが圧迫感なく、家電の黒やお花の色が生きる。クォーツストーン製のカウンター、「このブラウンも私の好きな色」。広いアイランドで朝のお弁当づくりも手際良く(写真撮影/片山貴博)

柔らかいグレーなので、壁一面大きなキャビネットに囲まれているが圧迫感なく、家電の黒やお花の色が生きる。クォーツストーン製のカウンター、「このブラウンも私の好きな色」。広いアイランドで朝のお弁当づくりも手際良く(写真撮影/片山貴博)

ポーゲンポール(Poggenpohl)社は1892年創業のドイツを代表する老舗キッチンブランド。日本では約40年前から代理店により輸入販売されているが、2010年に日本法人も設立。「会社の信用性にうるさい夫も、了解してくれました」とHさん。

イタリアでお料理を学んだHさんは、カウンター高を95cmに要望。
「私の身長では高すぎると、他のキッチンメーカーからは否定されました(笑)。でも私には楽な高さだし、お料理を手伝ってくれる子どもたちも、すぐに背が伸びて私よりは高くなるでしょうから」

モダンデザインが好みのHさんは「シンプルでシャープなハンドル金具も気に入りました」(写真撮影/片山貴博)

モダンデザインが好みのHさんは「シンプルでシャープなハンドル金具も気に入りました」(写真撮影/片山貴博)

「つや消しのヘアライン加工は、マットな扉材との相性がいいでしょ。指紋や汚れも付きにくいし大正解」

ハンドルを引き出すと、さり気なく

ハンドルを引き出すと、さり気なく”poggenpohl”のロゴが現れる(写真撮影/片山貴博)

キッチン設備にもドイツの人気ブランドが並ぶ

シンプルなモダンデザインのキッチンには、よく見るとすてきな設備機器が搭載されている! コンロと換気扇は、ガゲナウ(GAGGENAU)社製。ドイツで1683年創業の歴史をもつ、人気ブランドだ。

換気扇のデザインを優先して選ばれたそう。クリーニングのサインが出たら、フィルターは簡単に取り外して食洗機で洗える(写真撮影/片山貴博)

換気扇のデザインを優先して選ばれたそう。クリーニングのサインが出たら、フィルターは簡単に取り外して食洗機で洗える(写真撮影/片山貴博)

コンロはIHクッキングヒーター、「4口にしたのですが、もう少し大きいものにしたほうが良かったかな……」とHさん。

IHコンロの手前にあるのは、電気の遠赤外線バーベキューグリル(写真撮影/片山貴博)

IHコンロの手前にあるのは、電気の遠赤外線バーベキューグリル(写真撮影/片山貴博)

バーベキューグリルは下に遠赤外線効果のある溶岩石が敷き詰められていて、炭火焼きのようにふっくらと焼き上がる。「お肉や野菜を焼くとおいしいですよ」

「グリルにカバーが付いているのが、ガゲナウ社の良いところです」(写真撮影/片山貴博)

「グリルにカバーが付いているのが、ガゲナウ社の良いところです」(写真撮影/片山貴博)

換気扇のフィルターをそのまま洗える、大型の食洗機もガゲナウ社(写真撮影/片山貴博)

換気扇のフィルターをそのまま洗える、大型の食洗機もガゲナウ社(写真撮影/片山貴博)

そして、壁付けのキャビネットにはドイツを代表するブランド、ミーレ(Miele)社のオーブンレンジがビルトイン。「オートメニューでピザを焼いたりもします」と話してくれた。

タテヨコのラインが美しく収まっている。キッチン全体のデザインにこだわる人が選ぶミーレの機器(写真撮影/片山貴博)

タテヨコのラインが美しく収まっている。キッチン全体のデザインにこだわる人が選ぶミーレの機器(写真撮影/片山貴博)

ドイツブランドがそろったキッチン。ブランドが違っても、根底に流れる質実剛健なドイツデザイン思想が共通であるからか、喧嘩すること無く整然と調和していた。

リビングとキッチン、独立させたレイアウトにある工夫

H邸のキッチンは2階のインナーバルコニーに面していて、都心でも十分な採光を考えられた設計。

大きく空が広がるバルコニーでは天体観測も楽しめる。「夏は大きなプールを広げて、子どもたちが大喜びです」(写真撮影/片山貴博)

大きく空が広がるバルコニーでは天体観測も楽しめる。「夏は大きなプールを広げて、子どもたちが大喜びです」(写真撮影/片山貴博)

そのバルコニーに沿って、キッチンと廊下でつながっているのがリビングルーム(写真の手前側)。

廊下の奥がキッチン、天井までの扉が開いた状態(写真撮影/片山貴博)

廊下の奥がキッチン、天井までの扉が開いた状態(写真撮影/片山貴博)

キッチンの扉を閉めた状態、階段から上がって来た手前がリビングルーム(写真撮影/片山貴博)

キッチンの扉を閉めた状態、階段から上がって来た手前がリビングルーム(写真撮影/片山貴博)

「LDKがオープンになっているプランは、キッチンの油やにおいが部屋に充満するので全く考えませんでした」

リビングとキッチンを廊下&バルコニーで距離をもたせ、個々の役割を明確にしている。そして、リビング側の大引き戸を閉めると、階段・廊下とも完全に独立した一室のリビングルームになる。

ウォールナットのフローリング床と合わせた特注の大引き戸(写真撮影/片山貴博)

ウォールナットのフローリング床と合わせた特注の大引き戸(写真撮影/片山貴博)

夫の選んだDENON社オーディオセットが、システム収納できれいに収まったリビングルーム。

60インチの大型テレビの前に、120インチのスクリーンが下りて来ると大迫力のシアタールームになる(写真撮影/片山貴博)

60インチの大型テレビの前に、120インチのスクリーンが下りて来ると大迫力のシアタールームになる(写真撮影/片山貴博)

「キッチンが私の部屋」だから、好きなものに囲まれていたい

「夫には書斎、子どもにも個室がありますが、1日の大半を過ごす私の部屋はキッチンなのです」

お料理だけでなく、お子様の宿題や事務仕事など。キッチンで過ごす時間が一番長いのがママの日常(写真撮影/片山貴博)

お料理だけでなく、お子様の宿題や事務仕事など。キッチンで過ごす時間が一番長いのがママの日常(写真撮影/片山貴博)

2.1mのトールキャビネットが4連で収納も豊富だが、「2連は子どもの書類やら一杯で、収納は足りないくらい!」

トールキャビネット内は、引き出しとシェルフで使い分け(写真撮影/片山貴博)

トールキャビネット内は、引き出しとシェルフで使い分け(写真撮影/片山貴博)

Hさんにとってはマルチな空間になっているキッチンですが、家族にとってはやはり食事の場。

「食事はできるだけ家族そろって食べるようにしています。テレビは無し! お話ししながら、しっかり食べることを大切にしています」

食事時にテレビを見ないのは、Hさんの育った習慣とのこと。そんなHさんが大切にしている習慣が、もう一つ……。

キッチンの窓辺に飾られた花。「母がいつも花を欠かさない人だったので、私も自然とそうなりました。そして、娘もお花屋さんが好きですね」(写真撮影/片山貴博)

キッチンの窓辺に飾られた花。「母がいつも花を欠かさない人だったので、私も自然とそうなりました。そして、娘もお花屋さんが好きですね」(写真撮影/片山貴博)

キッチンを調理の場としてだけでは無く、お子様とのコミュニケーションやご自身の時間を過ごす場にしているHさん。自分の部屋としてキッチンを心地よくするために、好きなカラーや素材を大切に選ぶことの意味を教えてくれた。

●取材協力
・ポーゲンポール東京(poggenpohl)

住みたい部屋に収納がない……!  それでも快適に暮らす方法はある?

駅近でエリアもよく、部屋の広さもバッチリ! なのに、「収納がないから……」という理由で物件を諦めたことはありませんか? クローゼットや押入れがなくても心地よく過ごせる、お部屋づくりの方法はあるのでしょうか。整理収納アドバイザーのkomugiさんにお話を伺いました。
14m2で収納なし! 快適に暮らす工夫とは?

以前、komugiさんは都内で14m2のワンルーム、収納なしの物件に住んでいたそう。現在はクローゼットのある物件に住んでいますが、それでも18m2で広いとは言えません。

【画像1】今回お話を伺ったkomugiさん。自身の経験を活かし、整理収納アドバイザー1級の資格を取得(写真撮影/浅野智恵美)

【画像1】今回お話を伺ったkomugiさん。自身の経験を活かし、整理収納アドバイザー1級の資格を取得(写真撮影/浅野智恵美)

【画像2】14m2のときのkomugiさん宅の間取図(画像提供/komugiさん)

【画像2】14m2のときのkomugiさん宅の間取図(画像提供/komugiさん)

収納がないことの最大のデメリットは、服や物の置き場がない、特に目に付かないところにしまっておきたいモノを隠すところがない、ということでしょう。
それでもkomugiさんは「収納なし物件ならではの魅力もある」と話します。

「モノが仕舞われずに外に出ていると、いつも目に付くので自分の好みも分かるようになりますし、部屋に置くモノ自体も厳選されます。見せる収納が好きな方にもオススメです。また、やはり収納が必要だと思えば『自分の好きな位置に必要な大きさでつくることができる』というのは意外と大きなメリットなんです」(komugiさん)

その言葉どおり、収納のない部屋に暮らしていたときにKomugiさんが収納とインテリアの両方の視点から活用していたのが「有孔ボード」でした。有孔ボードとは、等間隔で穴が開けられた板で、ホームセンターなどで購入できます。好きな位置に収納をつくることも出来ますし、フックなどでお気に入りのものを吊るせば見せる収納も楽しめます。

【画像3】収納はもちろん、好きなインテリアを飾ることもできる。狭いお部屋にとって壁は貴重なスペース(画像提供/komugiさん)

【画像3】収納はもちろん、好きなインテリアを飾ることもできる。狭いお部屋にとって壁は貴重なスペース(画像提供/komugiさん)

狭くても、自分好みの空間はつくれる!

自由に使えるスペースがなかなか確保できない広さのお部屋でも、何とか快適に暮らせる空間をつくりたいもの。そのポイントは「イメージに合わないモノ、ミスマッチなモノは取り除くこと」とkomugiさんは言います。そうすることで、お気に入りのインテリアも引き立つそうです。

「どんな部屋にしたいのか、イメージが漠然としている人は、まずインターネットなどで『この部屋いいな』と思う画像を探し、ストックしてみてください。自分の好みの傾向やテイストが把握できます。
テイストが決まったら、家具など買い替えが簡単にできないものは、色を変えるだけでも全体のお部屋の雰囲気に馴染ませることができたりします。リメイクシートやマスキングテープをうまく活用するのがオススメです」(komugiさん)

【画像4】現在のkomugiさんのご自宅。扉の印象を変えるために、クローゼットに白いマスキングテープを貼ってある(画像提供/komugiさん)

【画像4】現在のkomugiさんのご自宅。扉の印象を変えるために、クローゼットに白いマスキングテープを貼ってある(画像提供/komugiさん)

また、キッチンが狭いとよくある「冷蔵庫や食器を置く場所がなく、部屋に置かざるを得ない」というケース。そんなときはエリアを決めてあげるといいそう。

「このエリアには冷蔵庫やお皿などキッチン関連のモノを置く、クローゼットの近くにはベッドを置く……といったように、目的別に分けてあげるとスッキリします」

「もしスペースに余裕があれば、細身の収納棚で区切ってもいいですね。背面のないものだと圧迫感も少ないですよ。また、部屋の中に太陽の光が入ると広く見えるので、ベッド周りを区切りたければ、薄い布を活用して天井から吊るすなどもオススメです」(komugiさん)

ひと工夫と毎日の習慣で「ため込まない」お部屋に!

収納のない狭い部屋で快適に暮らすには「モノをため込まない」ことがキーワード。モノに対して思い入れが強い方は、捨てられずにためる傾向にあるのだそう。

「モノを手放すのは罪悪感を覚えやすいものですが、『またどこかで使えるかも』『〇〇すれば使えるかも』と無理矢理シチュエーションを考えてしまうようなら、本当に必要かどうか、モノとの今後の付き合い方を考えてみてください」(komugiさん)

そこでkomugiさんが実践する、モノをためないコツを伝授していただきました。

●ポイント1:あえて目に付く場所に置く
まだスペースがあるし……と、ついモノをためてしまう方は、モノを「目に付く場所」に置くのがポイント。

「時間をおいて、自分が使っているかを都度確認します。また、あえて邪魔だと思う場所に置いてみるのも効果的です。使っていないモノをいちいち避けて通ることになるので、自分にとって必要なモノかどうかを考えるキッカケになります」(komugiさん)

●ポイント2:引き出しの中は常に8割をキープ
引き出しや収納グッズの中はパンパンにモノを入れておくのではなく、あらかじめ余裕を残した状態にしておくと良いのだそう。

「2割の空スペースを『一時置き場』にすれば、そこだけの管理で済みます。疲れているときなどはその一時置き場に仕舞っておいて、後で自分のペースで片付けるのです。
買い物をして帰って来たばかりのタイミングで、それをどこに片付けるかということまで考えて動くのは億劫だったりします。ある程度モノの位置が決まっていると、考えなくても自然と体が動いて片付けが終わりますよ」(komugiさん)

●ポイント3:買いだめに注意
「切れてしまったらイヤだからストックしておきたい」、「特売で安いから」……つい食品や日用品は買いだめしたくなるもの。ところが、余計なストックが増えれば、当然、部屋の中にそれを置けるスペースが必要になります。

「収納にとって一番の敵は『不安』と『お得感』による買い物です。自分の生活に合わせて必要最小限の買い物をするために、自分が何を持っていて、どれくらい使うのかを把握したうえで買い物に出かけてください」(komugiさん)

●ポイント4:モノではなく「自分」を基準に考える
意識していないと「これ買ってきたけど、どこに片付けよう?」「どうやって使おう?」と、モノに振り回されがちになるとkomugiさんは言います。

「自分にとって今これが本当に必要か、ブレない軸を持つとモノは増えづらくなると思います。買う前に、置く場所や飾る場所があるか考える。ビジョンを持つことが大事です」(komugiさん)

●ポイント5:外出から戻ったらバッグの中身を全部取り出す
Komugiさんは外出から帰った際、一度荷物を全て取り出し、不要なモノがないかチェックするそうです。

「例えばレシート1枚でも、外から帰ってくると何かしら増えていると思うんです。それが積み重なって荷物が増えていきます。同じバッグを次の日に使う場合も、一度中身を全部取り出して入れ直すことを習慣にしてみてください」(komugiさん)

●ポイント6:使っていないモノを可視化する
「例えばバッグなら、収納がないときは壁に掛けて、まんべんなく全てのバッグを使いやすいようにします。動いてないバッグは使ってないと一目で分かります。
この方法は、本などにも応用可能です。本棚から取った本は一番右に戻す、と決めて片づけると使用頻度の低いモノは左端にたまっていきます。時間のあるときに左端のものから処分すればいいのです」

もちろん、モノに対する価値観は人それぞれ。使っていなくても、取っておきたいモノもあります。

「大切なモノは無理に捨てる必要はありません。もし厳選できるようなら、その中でも特に大切なモノだけを残し、ほかは写真に収めるなどして手放す、というのも方法の一つです」(komugiさん)

「本当に必要な収納グッズ」を見極める!

クローゼットがないから「収納グッズを買って何とかしよう!」と考えがちですが、そこには落とし穴があります。「収納グッズを買うということは、その分モノが増えるということ」だとkomugiさんは指摘します。

「収納グッズを先に買ってしまう方も多いですが、順番が逆です。まず持っているものを把握し、何を収納するのかを考える。収納グッズを買う前に、置く場所や仕舞うモノのサイズを必ず採寸し、どんなサイズの収納が必要なのかをきちんと把握しましょう」

また、収納に関しては値段が多少高くても「使いやすさ」を重視することがポイント。komugiさんは、めぼしい収納グッズが見当たらなければ、段ボールで一時的な代用品をつくってしまうそうです。

「少し見栄えは悪いですが、自分に必要な収納の大きさや、置く場所のイメージがしやすくなります。私の場合、大きな引き出しなどの収納は大抵段ボールで試作品をつくり、ちょうどいいものが見つかるまではそれで代用します」

例えば、飼い猫のエサなどの収納にはまとめ買い用に商品が入っていた箱をそのまま活用しているそうです。「引き出しの中は自分しか見ませんから。あまり気張りすぎず、見えないところは適度に手を抜くのも、普段から散らからない部屋をつくるポイントです」(komugiさん)

【画像5】箱を活用した収納なら、躊躇なく捨てられるというメリットも(画像提供/komugiさん)

【画像5】箱を活用した収納なら、躊躇なく捨てられるというメリットも(画像提供/komugiさん)

工夫次第では、収納なし物件でも自分らしく快適に暮らせそうですね。もし、気に入った物件に収納が見当たらなくても、諦める前に一度、今回ご紹介したような方法を活用して住んでみることを検討してみてはいかがでしょうか。

●取材協力
整理収納アドバイザー komugiさん

好立地にあるビルを住居に 「ビル1棟リノベ」の魅力とは

ビルリノベーション(ビルリノベ)とは、その名のとおりビルをリノベーションすること。一戸建てやマンションをリノベーションするように、ビル1棟をリノベーションして住居として住む人がじわじわ増えているのだそうです。ビルリノベーションを手がける株式会社クラフトの田代さんに、ビルリノベの魅力についてお話をうかがいました。
「一戸建てではできないこと」がかなう

一戸建てでもなく、マンションでもなく、ビルをリノベーションして住む。その住まい方にはどんな魅力があるのでしょうか。

「一般的なビルの場合、駅近だったり、幹線道路に面していたりするため、通勤・通学に便利な好立地に建っていることが多いんです。また、鉄骨造、鉄筋コンクリート造で耐久性が高く、壁や柱のない構造なので、大空間をつくりやすいのもビルのいいところですね」(田代さん)

【画像1】東京都中央区の賃貸用ビルの1階を駐車場に、2階~4階を居住スペースにリノベ。日本橋や銀座といったエリアへのアクセスが良い立地にあるのが魅力(画像提供/株式会社クラフト)

【画像1】東京都中央区の賃貸用ビルの1階を駐車場に、2階~4階を居住スペースにリノベ。日本橋や銀座といったエリアへのアクセスが良い立地にあるのが魅力(画像提供/株式会社クラフト)

一戸建てやマンションでは実現できないことが、ビルに住むことで叶えられることもあるようです。しかし、住居用としてつくられていないビルの場合、いくつかデメリットもあると言います。

「ほとんどのビルの場合、キッチンやバスルームなどが備わっていないので、リノベーションのコストがかかってしまいます。バルコニーもないことが多いため、洗濯物を外に干すことも難しいんです。繁華街やオフィス街にあるビルの場合、隣のビルと密接していることも少なくないので、日当たりが悪かったり、周辺が騒がしかったりといったデメリットもあるんですよね」(田代さん)

ビルリノベでは、これらのデメリットをどのように解決していくかがカギになるそうです。

採光や水まわり……ビルのデメリットもリノベで解決

住居用ではないビルならではのデメリットを、リノベーションでどのように解決するのでしょうか。

「隣のビルが密接していて採光がむずかしいビルの場合、日当たりがよく、視線が抜けるような場所を探して、窓の光を上手く取り入れる工夫を施します」(田代さん)

【画像2】このお宅の場合、光量が限られていたリビング側の腰窓を全面窓に交換し、食卓を明るくするためにトップライトの下にダイニングを設けた(画像提供/株式会社クラフト)

【画像2】このお宅の場合、光量が限られていたリビング側の腰窓を全面窓に交換し、食卓を明るくするためにトップライトの下にダイニングを設けた(画像提供/株式会社クラフト)

また、バルコニーがないビルの場合は、洗濯物が干せるように日当たりのよい場所にインナーテラスを設置するといった工夫を施すことも。

【画像3】リビングのそばに日が差し込むインナーテラスを設置した事例(画像提供/株式会社クラフト)

【画像3】リビングのそばに日が差し込むインナーテラスを設置した事例(画像提供/株式会社クラフト)

インナーテラスを設置すれば、雨でも洗濯物を干すことができるようになるだけでなく、通行人から洗濯物を見られることもなくなるため、かえって一戸建てやマンションよりもメリットがあるそうです。

また、キッチンやバスルームなど水まわりの設備がないビルには、そういった設備を設けるだけでなく、床や天井ができるだけフラットになるように配管やダクトの経路を配慮します。

築年数が経過している古いビルの場合は、ビル全体の性能を見直すことも欠かせません。ビルの耐久性を高めるために、外壁や屋上の劣化部分を修繕したり、結露を防ぐために窓を二重サッシにしたり、断熱性を高めるために壁に発泡ウレタンを吹き付けたりといったこともおこなうそうです。

気になる費用は?

リノベーションをすることで、ビルでも理想的な間取りや住環境を手に入れることができると分かったところで、やはり気になるのが実際にビルリノベにかかる費用です。

「ビルリノベの費用の考え方は、基本的に一戸建てやマンションと同じです。しかし、鉄骨造やRC造のビルの場合、構造をそのまま活かしやすいので、古い木造一戸建てをリノベーションするよりもかえってコストダウンになることもあるんです」(田代さん)

【画像4】壁に囲まれていた階段ホールをガラス張りに。LDKとの一体感を生み出すことができた(画像提供/株式会社クラフト)

【画像4】壁に囲まれていた階段ホールをガラス張りに。LDKとの一体感を生み出すことができた(画像提供/株式会社クラフト)

ちなみに、同社の場合「20万円/平米」がリノベーション費用の目安だそう。5階建ての鉄骨造ビル(リノベーション面積127平米)の場合、リノベーション費用は約2500万円とみておくとよいでしょう。

「ビルは新築時に45~50万円/平米ほどのコストがかかると言われていますので、既存のビルをリノベーションしたほうが割安です。もちろん、通常の住居のリノベーションと同様で、大幅な間取り変更や大規模な修繕などが必要となれば、その分コストがかかります。予算に合わせて、何をどこまで手を加えるのかを考えるのは、中古の一戸建てやマンションのリノベーションと同じです」(田代さん)

ところで、ビルをリノベーションして暮らしたいと考えているのは、どんな方が多いのでしょうか。
 
「当社にビルリノベのお問い合わせをいただくのは、お子さまがいらっしゃる40代の方が多いですね。親族が所有しているビルを改装して居住する目的でリノベしたいというご要望が大半です。ご親族所有のビルで利便性のある立地にあれば、マンション等を購入するよりも経済的に安く、思いどおりの間取りや空間を手に入れられますからね」(田代さん)

自身や親族が所有しているビルをリノベーションして居住するだけでなく、なかには古いビルを購入して住居に改装してしまうケースも少なくないのだとか。

「都内の好立地にあるビルを購入して、リノベーションされる方もいらっしゃいますね。1棟まるまる住居にする方だけでなく、例えば4階建てのビルを購入して1・2階をテナント用賃貸スペースに、3・4階を住まいにリノベーションする方もいらっしゃいます。好立地にあるビルであれば、テナントが入りやすいので家賃収入も見込めるんです。なかにはすでにテナントが入っているビルを購入して、自分好みにリノベーションされる方もいます」(田代さん)

【画像5】社員寮として使われていた渋谷区の古いビル(右)を購入。1・2階をテナント用賃貸スペースに、3・4階を住まいにリノベーション。その後、隣の土地があいたため、新たにビルを新築し(左)、テナント貸ししている(画像提供/株式会社クラフト)

【画像5】社員寮として使われていた渋谷区の古いビル(右)を購入。1・2階をテナント用賃貸スペースに、3・4階を住まいにリノベーション。その後、隣の土地があいたため、新たにビルを新築し(左)、テナント貸ししている(画像提供/株式会社クラフト)

また、東京都中央区の賃貸用ビルを一棟丸ごと購入してリノベーションした方は、日本橋や銀座といった立地へのアクセスがよくなったのだとか。通勤もラクになり、休日は家族で散歩がてら銀座にショッピングしたり、歩いてランチやディナーを楽しんだりする暮らしを満喫しているそうです。

ちなみに、最近は「ビルリノベすることで屋上やルーフバルコニーをうまく活用したいと考えている人が多い」と言います。

【画像6】ルーフバルコニーとリビングをひと続きにした事例。広いリビング空間を演出できた(画像提供/株式会社クラフト)

【画像6】ルーフバルコニーとリビングをひと続きにした事例。広いリビング空間を演出できた(画像提供/株式会社クラフト)

「最上階のルーフバルコニーをリビングとひと続きにして、開放感を引き出すリノベが人気ですね。屋上でホームパーティーやバーベキューをしたり、花火鑑賞などを楽しんだりと、都心にいながらちょっと贅沢な日常を送ることができるんです」(田代さん)

ビルリノベして暮らすことで、ライフスタイルも自然と変化するようです。逆にライフスタイルをより充実させるために、ビルリノベを選択する人も今後増えるかもしれません。

「立地重視で都心の一戸建てを検討している人は、ぜひビルも選択肢に入れてほしい」と田代さんは言います。住居選びの選択肢が広がるだけでなく、木造の一戸建てよりも自由にリノベーションプランを考えることができるのもビルリノベの魅力。「ビルリノベ」ならあなたの理想の住まい方を実現できるかもしれません。

●取材協力
・株式会社クラフト

一人の空間を楽しむためのインテリアについて考えてみたら、禅問答みたいになった

『「ぼっち」の歩き方』(PHP研究所)などの著書を持ち、一人でいることをこよなく愛する「ぼっちライター」の朝井麻由美さん。そんな彼女に、今回は一人の空間をこの上なく快適にするインテリアについて考えてもらいました。本来、自分の部屋は自由にコーディネートできるものですが、本当に自分の好きなものだけの空間をつくることは案外できていないのではないでしょうか。

以後、朝井さんこだわりの”ぼっち部屋”について、朝井さんの一人称でお届けします。
好きなものを「好き」と言えなかったころのこと

自分の部屋の中は、誰が何と言おうと“自分の城”のはずだ。一人暮らしはもちろん、誰かと暮らしていたとしても、自分の部屋には自分の好きなものだけを敷き詰めていい。けれど、一体どれだけの人が、自分一人だけの、好きなものだけの空間と向き合えているだろうか。私はずいぶん長いこと、それが上手くできなかった。

16歳のころ。私は人生最大級に、自分の好きなものが何なのか、よく分からなくなっていた。高校の教室で女子たちが話していたのは、いつもどこで服を買っているかについて。私は、服はPARCO……じゃなくて、PARCOの脇の細い道を通ったところにある、よく分からない小さな店で買っていた。パーカーが一着だいたい1200円。Tシャツは700円。洗濯するとすぐに、てろてろになる。

うっかり私服の高校に入ってしまったがために、教室内で、毎日のように、ダサい子とおしゃれな子を分けるオーディションが開かれていたようだった。しかし、700円のてろてろTシャツをまとってオーディションに臨む子なんていない。

どうやら、雑誌と似たような服を着ていれば、自信のない自分を晒さなくていいらしいということが分かった。みんなと私は同じです。同じ雑誌を読んで、同じ店で服を買っています。同じだから、おかしなセンスではないです。同じ。同じ。同じ……

誰かが家に来たら恥ずかしいから、無難な部屋になってしまった【画像1】(画像提供/朝井麻由美)

【画像1】(画像提供/朝井麻由美)

【画像2】(写真撮影/朝井麻由美)

【画像2】(写真撮影/朝井麻由美)

「みんなと同じ」重圧は自分の部屋にまで及んだ。好きだった少女マンガのポスターを、部屋の壁からすべて剥がした。本棚に並ぶイラスト集も、マンガ雑誌も、インテリアも、子どもっぽいものは全部捨ててしまった。「誰かが家に来たら恥ずかしい」と、自分の部屋から多くの“好きなもの”が消え、“無難なもの”を買い集めるようになった。結局、誰かが家に来ることなんて一度もなかったのに、無難なインテリア(全然好みじゃない)は増え続けた。

好きなものを好き、と胸の内を明かして、それがもし他の人とズレていたとしたら、みんなの輪に入れなくなってしまう。そもそも、私の好きなものって、何だっけ。

そして、大学に入り、社会人になり、序列をつけられる教室から解放されたことで、徐々に見つけていった「好きなもの」が私にはある。

狂おしいほど好きな家具がある

なぜだか分からないけれど、大人になった私は今、食パンと目玉焼きがものすごく好きなのである。食べ物の食パンではなく、家具のほうの、だ。そんなことを言われても何のことだかさっぱり分からないと思うから、まずはこの写真を見てほしい。

【画像3】食パンと目玉焼きの家具シリーズ(写真撮影/朝井麻由美)

【画像3】食パンと目玉焼きの家具シリーズ(写真撮影/朝井麻由美)

これは神奈川県にある株式会社セルタンがつくっているシリーズで、Amazonや楽天などで食パンの家具を探すと、たいていセルタンのものなのだ。当然であろう。こんな家具をつくろうとするメーカーがそうそうあるわけがない。それも、2~3カ月に1回くらいのペースでどんどん新作が追加されているのだ。このシリーズに、そんなに需要があるのだろうか。

【画像4】食パンと目玉焼きシェアナンバーワン(!?)を誇るセルタン(写真撮影/朝井麻由美)

【画像4】食パンと目玉焼きシェアナンバーワン(!?)を誇るセルタン(写真撮影/朝井麻由美)

一人の空間を楽しむインテリアとは、何か

もう一度おさらいしておくと、今回のこの記事のテーマは、「一人の空間を最大限に楽しむためのインテリア」である。自分だけの空間を楽しむための答えは一つしかない。純度100%で好きなものに囲まれることだ。インテリア雑誌に載っているようなおしゃれ空間が好きならば、そういうインテリアに囲まれればいいし、ロココ調が好きならロココ調家具に囲まれればいい。私は食パンが好きだから、食パンに囲まれるのが最適解となる。

【画像5】食パン家具シリーズの中には、カビた食パンもある(写真撮影/朝井麻由美)

【画像5】食パン家具シリーズの中には、カビた食パンもある(写真撮影/朝井麻由美)

好きなものに囲まれるだなんて一見当たり前のようだが、これは思っている以上に難しい。100%実現できている人なんて、ほとんどいないのではないかと思う。かつての私のように、「来客があったときに恥ずかしいから」という基準でものを選んだり、あるいは、「この狭いアパートには似合わないから」と断念したり。

とりわけ、いくら好みのインテリアが決まっていても、生活との両立は至難の業。私の部屋は見渡せば、ホームセンターでそれしか選択肢がなかったから買ったテーブルに、大きさだけで決めた座椅子、もらいもののデスク、と理想の部屋からは程遠い。どうしたって、生活するためのインテリアが、理想を邪魔するのだ。

今回は、手っ取り早く理想を体験するために、セルタンへ行って「食パン部屋」をつくってもらうことにした。

【画像6】目玉焼きブランケットが意外と暖かい(写真撮影/セルタン)

【画像6】目玉焼きブランケットが意外と暖かい(写真撮影/セルタン)

バズるけど売れない……売り上げは1割にも満たない食パン家具

なんとセルタンでは、たった一人の社員さんが食パンと目玉焼きシリーズの家具をつくり続けているらしい。Twitterアカウント(@cellutane01)を用いた広報の甲斐もあり、「セルタン=食パン家具の会社」と認識されつつあるものの、社内全体から見た食パン商品は1割程度。売り上げに至っては1割を切る。それでも「宣伝になる」、「採用試験を受けに来る学生が増える」という理由でつくり続けている。狂気である。

「食パンにこだわっているのは社内で私くらいなもので……。でも、本当はもっと食パンをつくりたいんです。食パンの家具は定期的にTwitterで拡散されるんですよね。だから、お金にならなくても話題にはなっているから、と社内にアピールをしてどうにか続けています」(同社担当者)

【画像7】食パンのビーズクッションに寝転がってみる(写真撮影/セルタン)

【画像7】食パンのビーズクッションに寝転がってみる(写真撮影/セルタン)

【画像8】すべすべの食パンに埋もれると快適すぎて起き上がれない(写真撮影/セルタン)

【画像8】すべすべの食パンに埋もれると快適すぎて起き上がれない(写真撮影/セルタン)

自分らしいインテリアの難しさ

「インテリアを他人ありきで考えてしまう方は、すごく多いのだと思います。Twitterで見て、いくら食パンをかわいいと思っていただいても、いざ部屋に置くとなると非常にハードルが高い。食パンのソファのツイートが拡散されたときに、売れ行きが伸びるのは食パンではなく(セルタンで扱っている)普通のソファ、なんてこともあります」と担当者は続ける。

【画像9】特大の目玉焼きブランケットは布団代わりになる(写真撮影/セルタン)

【画像9】特大の目玉焼きブランケットは布団代わりになる(写真撮影/セルタン)

好きなものを部屋に置くことも、好きなものを身につけることも、簡単なようで難しい。それを好きである、と多くの人に知られてもいい、これが自分だ、と自信を持てないと、おそらくできない。好きなものに囲まれることは、単にうれしいだけじゃない。きっと、自分という人間を楽しむことでもあるのだ。

【画像10】こんな部屋に住みたい(写真撮影/朝井麻由美)

【画像10】こんな部屋に住みたい(写真撮影/朝井麻由美)

ことセンスを問われるものに関して、いかに純粋な「好き」よりも、「こう見られたい」がモノ選びに影響しているかを改めて実感した。でも、そういう意味では、もしかしたら私は「食パンインテリアが好き」なのではなく、「食パン好きな人に見られたい」と思っている可能性すらあるのではないだろうか。なんてこった!

●取材協力
・セルタン

窓辺の冷え冷え感をなくすハニカムスクリーンって?自宅で効果を試してみた!

寒い日は窓際がひんやりと感じられませんか? そのうえ、室内外の温度差で結露がひどいと、カーテンが水分を吸ってカビてしまうこともあります。けれども賃貸住宅で窓断熱のリフォームはできない、あるいは持ち家だけど予算の都合で難しい方も多いでしょう。そこで、手軽に取り入れられる断熱アイテム「ハニカムスクリーン」を紹介します。
独特の構造で断熱性を確保!「ハニカムスクリーン」とは

ハニカムスクリーンはブラインドメーカー各社から発売されています。なかでも、種類が豊富な株式会社ニチベイの広報担当者に、ハニカムスクリーンの構造などについて伺いました。

ハニカムスクリーンはエコ意識の高まりによって需要が増えているそうで、徐々に取り扱いが増えていると言います。

【画像1】写真左:ニチベイのハニカムスクリーン「レフィーナ45シングルスタイル」を使った部屋。写真右:ハニカムスクリーンの断面(画像提供/株式会社ニチベイ)

【画像1】写真左:ニチベイのハニカムスクリーン「レフィーナ45シングルスタイル」を使った部屋。写真右:ハニカムスクリーンの断面(画像提供/株式会社ニチベイ)

ハニカムスクリーンは断面が六角形のハニカム(蜂の巣)のように広がることが特徴。プリーツ生地がひろがることで二重構造のようになり、立体生地構造の中空層が断熱材のように機能し、暖かさを得られます。ニチベイの「レフィーナ」という製品では、ハニカムが1枚のものと2枚のものがあります。オプションのフレームをスクリーンの左右に取り付けることにより、さらに密閉性を高められるので光漏れも低減できるとのこと。

生地が立体的に広がることで空気層ができるハニカムスクリーン。冬は暖かくても夏は暑いのでは?という疑問もありましたが、夏は外からの暑い日差しを遮るので冷房効率が上がり涼しくなるそうです。

「ハニカムスクリーンなら、冬も夏も室温を安定させて快適に過ごせます。また、昇降コードをハニカム中間層に通す構造のため、スクリーン表面にコードの穴がなく、すっきりとしたデザインです。コード穴からの光漏れもありません」(ニチベイさん)

ただしハニカムスクリーンは窓枠の内側に設置する必要があり、さらにオプションのフレームを取り付けることで最大限の性能を発揮できるそうです。そのため「一般的に壁の穴あけが不可能な賃貸住宅でのDIYによる設置は、難しい場合が多いのでは?」とおっしゃっていました。また、窓の大きさに合わせたサイズ調整が必要なため、既製品ではなくオーダーがおすすめのようです。

自宅でプチ断熱の体験をスタート!

ニチベイのショールームでハニカムスクリーンを手にし、賃貸では難しいということを知りました。ただ、「やはり使ってみなければ」という気持ちがあったため、量販店で販売されている既製品のハニカムスクリーンを購入し、自宅に取り付けることにしました。しかし、わが家の窓枠に合うサイズはなく、1台なら小さい、2台なら余るという計算。迷った結果、とりあえず半分をハニカムスクリーンにすることに。幅90cm×長さ180cmのハニカムスクリーンは4500円程度で購入できました。

「ハニカムスクリーンはありますか?」と聞いて、売り場まで案内してもらったところ、店員さんが「ハニカムスクリーンはブラインドなどとくらべて密閉度合いが高くおすすめです」と話してくれました。これは期待できそうな気がします。

【画像2】カーテンを外し、準備を進める(写真撮影/近藤智子)

【画像2】カーテンを外し、準備を進める(写真撮影/近藤智子)

自宅に帰り、部屋のカーテンを半分外して取り付けます。付属の金具を使って、カーテンレールに取り付けることが可能。簡単に取り付けられるようですが、付属の説明書では十分に理解することができず、ネットで似たような作業をした方のサイトを見て学習。

まず、カーテンを取り除き、そのあとカーテンレールの端にあるキャップをドライバーで外します。そこからフックをかけているランナーを抜きます。スクリーンを設置する金具を取り付けるのに邪魔になるためです。それからカーテンレールにスクリーンを掛けるための金具を止めます。高い位置なのですこし大変でしたが、なんとか取り付けられました。

そして金具にスクリーンの上側をひっかけるようにして設置完了。こうして窓枠の3分の2ほどの面積にハニカムスクリーンが取り付けられました。金具とスクリーンの安定感に不安がありますが、コードをおそるおそる引っ張ると、規則正しい横のラインが特徴的なハニカムスクリーンが目の前に!10分ほどで終わるはずが、思ったより手間がかかってしまいました。ただし、DIYに慣れている人は、もっと簡単に取り付けられるのではないでしょうか。

若干密閉具合が足りないのが気になりますが、これで数日過ごしてみることにしました。

ハニカムスクリーンの窓際はほんのり暖かかった!

実は筆者の部屋には雨戸(シャッター)がついており、結露とはあまり縁がありません。ただ、以前雨戸がない部屋に住んでいたときは、飛び出した部分の窓にキノコが生えてしまったことがあり、「東京の湿度は恐い」と震えたことがあります。そんなことを思い出しながら、しばらく雨戸は使わずに過ごすことを決めました。

【画像3】量販店で購入した格安ハニカムスクリーンをなんとか取り付け完了(写真撮影/近藤智子)

【画像3】量販店で購入した格安ハニカムスクリーンをなんとか取り付け完了(写真撮影/近藤智子)

比較のために、ハニカムスクリーンを設置する前の3日間も雨戸を使用せずカーテンのみの状態で過ごしました。その結果、なんとなくいつもより寒い……ことが判明。それがハニカムスクリーンに変えたことで、ほんのり熱がこもっているような、暖かさが戻ってきたような気がします。スクリーンの独特な質感や色も、暖かさに影響しているような気がします。
前述したように、設置したハニカムスクリーンはわが家の窓枠にはぴったりしたサイズのものではありません。しかし、実はカーテンも前の部屋で使っているものをそのまま使用していて寸足らずのため、比較するにはもってこいでした。

朝と夜には雨戸の開け閉めをするために窓のほうに近寄ります。その際に、普段カーテンのときはなんとなく冷たくなっているのを感じていましたが、ハニカムスクリーンにしてからは冷たさをさほど感じません。高い断熱性が発揮されているようです。ただ、やはりスクリーンの開け閉めの際の不安定さは依然残ったまま。カーテンレールに取り付けること、すなわち賃貸住宅で壁に穴をあけられないことの限界があることがはっきりしました。

残念ながら、結露は雨戸なしでも発生せず、その部分は確認できませんでした。

一人暮らしにハニカムスクリーンは不向き?

ハニカムスクリーンは手ごろに入手できますが、オーダーでない既製品は、サイズの関係で窓枠を密閉できない可能性が高く、不安が残ることが難点です。また、スクリーンは開けると寒くなり、窓も丸出しになってしまうので、日中部屋にいるときには不向きなように感じました。しかし、昼間を過ごさない寝室などには最適なのではないでしょうか。

【画像4】カーテンと違う滑らかな質感もハニカムスクリーンの魅力のひとつ(写真撮影/近藤智子)

【画像4】カーテンと違う滑らかな質感もハニカムスクリーンの魅力のひとつ(写真撮影/近藤智子)

そういえば、ニチベイさんでハニカムスクリーンとカーテンについて「特性と好みによって適材適所があるということを、知識としてもっておいていただけるとよいですね」と伺ったことを思い出しました。おそらく筆者の部屋や暮らしにはカーテンのほうが向いているのですが、ハニカムスクリーンは風合いがとてもよく、ほかにも部屋があればぜひ使いたいと思いました。

ハニカムスクリーンといっても、高価なものから手ごろに入手できるもの、オーダーでつくるものなど、さまざまな種類があります。冬も効果がありますが、夏は遮蔽にも効果がありますので、気になった方は試してみるとよいでしょう。

・株式会社ニチベイ

リノベしやすい中古マンションはどう選ぶ? 物件探しとプランづくりのコツを聞いてみた

「中古マンションを購入してリノベしたい」という声をよく耳にするようになった。しかし思いどおりの部屋をつくるためには物件探しが重要だ。実際は「リノベしやすいマンション」「リノベしにくいマンション」もあるからだ。買った後に「こんなはずじゃなかった!」とならないために、見分けるためのポイントを「中古×リノベーション」を数多く手掛ける株式会社NENGOの林久順(はやし・ひさより)さんと小堀良治(こぼり・よしはる)さんに聞いてみた。
自分が手にしたい「理想の暮らし」に合わせた物件を探す

NENGOではリノベーションしたい人を物件探しの段階からサポートする『おんぼろ不動産マーケット』を運営している。不動産の紹介担当の小堀氏は「マンションを探す段階から、その人の理想の『くらし』が、環境や立地に加えて、リノベーションで実現できるかどうかを一緒に考え、物件を探す必要があると思っています」と言う。確かにはじめてマンションを購入する人たちは、知識も経験も少ないことがある。専門知識をもった人にサポートしてもらえるのは安心だ。

「建物については、構造が大切ですね。竣工図面があれば、それを確認します。例えば壁構造(柱がなく、壁梁や壁により、支えられる構造)の場合は、ラーメン構造(柱と梁により構成されている構造)に比べて、壁を抜いて広い空間にするということができない場合もあります」
ラーメン構造であっても抜ける壁と抜けない壁はある。スケルトンの状態になっていれば確認しやすいが、まだ内装が残っている場合の内見の状態では分かりづらい。「図面がなくても、壁を叩いてみたり、ユニットバスの点検口から確認できることもあります」と林さん。

「床や天井の状態も大切です。古いマンションの場合、上下水道の配管が下の階の住戸の天井の中に埋め込まれている場合があります。そのときは自宅内に配管を通す必要があり、水まわりの場所を大きく変更することができなかったり、室内に段差をつくらざるをえない場合もあります」とのこと。

また建築時の検査済証があるかどうかも大切なポイントだ。「検査済証がないような物件の場合は、銀行に融資してもらえない場合があります」現金でマイホームを買える人なら別だが、住宅ローンを組んで買うケースがほとんどだろう。資金計画の点でも重要になるということだ。

古いマンションであれば耐震性も気になる。「耐震基準適合証明書(※)を取っているかもポイントになりますね。建物への信頼もありますが、住宅ローン減税における築後年数要件の緩和でも必要になります」と小堀さん。買ったあとで確定申告に行ったときに住宅ローン減税の対象ではないことを知る人もいるので気を付けておきたい。

※耐震基準適合証明書:建物の耐震性が基準を満たすことを建築士等が証明する書類。中古住宅の場合、住宅ローン減税が利用できるのは、非耐火構造で築20年未満(耐火構造の場合は築25年未満)の建物に限られるとされているが、「耐震基準適合証明書」付きの物件であれば、築年数が古くても住宅ローン減税の対象となる

【画像1】NENGOが手掛けた、中古リノベーションの事例。写真左:解体後。写真右:リノベーション後(画像提供/株式会社NENGO)

【画像1】NENGOが手掛けた、中古リノベーションの事例。写真左:解体後。写真右:リノベーション後(画像提供/株式会社NENGO)

築年数よりも、管理の行き届いたマンションを選ぶことが大切

内見時にはマンションの管理状態も確認しよう。「マンションの管理状態がいいか悪いかは、内見に行って共用部を見ると分かります。そこを見ないでどうするんだ、くらいの感じですね。管理のいいマンションは清掃がきちんとされていて、スキがない感じがすると思います」と小堀さん。

マンションによっては専有部のリノベーションでも、使う素材が指定されているところもある。「主に遮音性に関係する床の素材の場合が多いです」(同)。例えばむくフローリングの部屋にしたいと思っていても、遮音性の観点で決まりがある場合もあるので、どう解決できるか確認が必要だ。

いずれにしても「理想の住まい」を手に入れるには、マンション全体の管理状況も大きく影響をしてくる。マンションの管理状況を調べる詳細は、以前取材した「中古マンション見学のポイントを、熱血マンション理事長に聞いてみた!」を参考にしてもらいたい。規約や修繕計画などを確認しておくことは、快適なマンション暮らしには欠かせないポイントだ。

住み心地を左右するのは、目に見えない「温熱環境」を重視したリノベーション

ディレクション担当の林さんは「弊社が手掛けたリノベーションは、一見、写真映えがしないかも知れません。それは一番重視しているのが断熱や遮熱といった『性能』の部分だからです。この部分に配慮するのとしないのとでは、住んでからの快適さが違います」と話す。

住み始めて不都合を感じるのは、実は目に見えない「住宅の性能」だ。壁紙やフローリングは後からいくらでも変えることができる。しかし断熱性や気密性能といったものは、最初にきちんと対処しておかないと後から高めることは難しい。

「特に温熱環境は健康という面でも大事だと思います。家の中のヒートショックで亡くなる方は交通事故で亡くなる人より多いそうです」とのこと。加えて2020年からは建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)により住宅にも最低基準が設けられる。

「これからは『耐震』のように、旧省エネ基準・新省エネ基準と区別され、建物の資産価値を左右することになると思いますよ」(同)

【画像2】NENGOのリノベーションでは、断熱材や複層ガラスなど快適な温熱環境を実現できるプランを提案している(画像提供/株式会社NENGO)

【画像2】NENGOのリノベーションでは、断熱材や複層ガラスなど快適な温熱環境を実現できるプランを提案している(画像提供/株式会社NENGO)

「インスタ映え」よりも、ていねいな素材選び

リノベーションを実施するにあたって、NENGOでは見学会を度々開催するそうだ。林さんは「経験した人の話を聞いてもらうのが、一番参考になるようです。弊社でリノベーションをした人は協力的な方が多く、自宅を公開してくれる場合が多いですよ」と言う。なかには何度も足を運び、仲良くなってしまうこともあるそうだ。

林さん自身も、ヒアリングを通して顧客と親しくなることが多い。「ご夫妻の履いている靴が、偶然僕の履いている靴と一緒だったということもありました。趣味が一致するということは暮らし方も一致する可能性がありますね。一見建物とは関係ない会話が、リノベーションプランのヒントになることも多いんですよ」本の趣味や暮らしの趣味を知ることで、より満足してもらえる住まいが提案できる。そのための時間を大切にしているそうだ。

また、むく材の使用など素材をていねいに選ぶということを重視しているそうだ。「弊社のリノベーションは、出来上がったときはそっけないように見えることが多いです。いわゆる『インスタ映え』はしないかも知れません。でも、なんだか居心地がいいな、と感じてもらえる空間をつくっています」(同)。住んでいる人がいずれ自らつくりこんでいく余白を残し、住まいと住み手が一緒に成長していける空間を用意しているそうだ。

【画像3】不動産の紹介担当の小堀さん(左)と、設計ディレクション担当の林さん(右)。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】不動産の紹介担当の小堀さん(左)と、設計ディレクション担当の林さん(右)。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

いろいろハードルが高そうな「中古マンションを購入して自分スタイルにリノベーション」。だが、自分であらかじめ知識を身に付けておくこと、そして必要なときには専門家のサポートを得ることで、実現できるかもしれない。

●取材協力
株式会社NENGO

賃貸でも安心!「突っ張るだけ」で収納や家具がつくれるお手軽DIY

賃貸暮らしでは「自分の欲しい場所に収納棚がない」「デッドスペースができてしまう」「DIYをしたいが壁に穴は開けられない」など、家具の配置やDIYが思ったようにいかないことが多く、悩みがつきません。でも実は、壁に傷をつけずに収納を取り付けられるアイテムがあるのです。おすすめの製品を使用例とともにご紹介します。
自由に組み立てられる「見せる収納」棚って?

若井産業株式会社の「ディアウォール」は、2本の柱を立てて棚をつくることなどが可能なグッズで、突っ張り方式なのでどこも傷つけません。

取り付けも簡単。「木材の長さを正確に測れば、誰でも同じ力で突っ張らせることができます」と、若井産業 広報の柏美帆(かしわ・みほ)さん。

【画像1】ディアウォールの“突っ張り”を利用してつくった棚(画像提供/若井産業株式会社)

【画像1】ディアウォールの“突っ張り”を利用してつくった棚(画像提供/若井産業株式会社)

若井産業は「賃貸住宅で壁に棚を取り付けたり飾ったりしたいけど、壁を傷つけたくない」というユーザーの声を受けてディアウォールを開発。「最近では、賃貸だけではなく持ち家にお住まいの方の利用も増えました」と柏さん。「壁を傷めず、思いどおりにカスタマイズして住みたい」人の増加とマッチして、今後も需要が増えそうです。

インテリアになる突っ張り棒って?

「突っ張り棒」は100円ショップでも買える安くて便利なグッズ。しかし、どうもデザイン性にかけるような気がしてしまうことも。

平安伸銅工業株式会社の「DRAW A LINE(ドローアライン)」は、同社がプロダクトデザインなどを行うユニット・TENTとコラボレーションして立ち上げたブランド。突っ張り棒をこれまでの便利グッズからインテリアの一部へと引き上げるような製品です。

【画像2】ねじやくぎいらず。簡単に設置できるドローアラインの棚(画像提供/平安伸銅工業株式会社)

【画像2】ねじやくぎいらず。簡単に設置できるドローアラインの棚(画像提供/平安伸銅工業株式会社)

「突っ張るだけで固定できるドローアラインは、専用の照明とテーブルをつけて寝室に置いたり、フックをつけて帽子やハンガーを掛けたりできるなど、多様なカスタマイズが可能です」と、広報担当の寺川紗希(てらかわ・さき)さん。

ドローアラインは特許申請済みの「壁面固定方式」を採用して壁面に固定することもできます。また、パイプの長さ固定にスクリューロック方式を採用。簡単に長さを変えられ、真鍮ねじをパイプに貫通させることで確実に固定。パイプのスライド部分のプラスチック形状にもこだわり、すっきりと見せるデザインです。

工夫がいろいろ!インスタグラムで見つけた活用事例

Instagram(インスタグラム)には、ディアウォールやドローアラインを使ったDIY作品の写真がたくさんアップされています。そこで、印象に残る作品をアップしているインスタグラマーさんの事例を紹介します。

Kaoriさんはディアウォールを使って絵本棚に挑戦。賃貸住まいのため、壁を傷つけないことを心がけているそうです。「ディアウォールは天井と床で突っ張るので、ネジやくぎいらずで簡単です」(Kaoriさん)。完成して本を入れながら「選んでよかったなあ!」と思ったとのこと。

【画像3】カウンターの下にディアウォールを立てて絵本棚を。ストッパーに使ったのは100均のアイアンバー(画像提供/Kaoriさん)

【画像3】カウンターの下にディアウォールを立てて絵本棚を。ストッパーに使ったのは100均のアイアンバー(画像提供/Kaoriさん)

ディアウォールでキャットウォークという独創的かつキュートな作品をつくった山本さんも、「壁を傷つけない」ことが重要な賃貸住まいです。昨年の夏にネコを飼うことになった際、「ソファの上にキャットウォークをつくって、寝転びながらネコを眺めたい」ということで自作に踏み切ったそう。

【画像4】ガーランドもかわいい小さなキャットウォーク(画像提供/山本さん)

【画像4】ガーランドもかわいい小さなキャットウォーク(画像提供/山本さん)

キャットウォークは半日もかからず完成。ネコの成長に合わせて棚板の高さを調節できるよう高さ調節のできる棚柱を取り付けたのがポイントです。ハンモックはフックを取り付けて引っ掛けています。
※ただし、このように大きな棚板を前に出す使用方法はメーカー(若井産業)として推奨していないとのことです。ご注意ください。

ドローアラインを使ってお手洗いをモダンに改造したnana to hatiさん。少しお住まいが古いため、見た目をよくする方法を日々考えているそうです。ドローアラインの活用に挑戦したのもその一環。簡単に設置できたのがうれしかったといいます。

【画像5】ドローアラインを使って、お手洗いにモダンなテイストの棚を作成(画像提供/nana to hatiさん)

【画像5】ドローアラインを使って、お手洗いにモダンなテイストの棚を作成(画像提供/nana to hatiさん)

DIY歴18年のベテランhal.さんも「見ためのかっこよさが格別」とドローアラインを愛用。玄関先にシンプルなハンガー掛けをつくりました。「模様替えもするので、固定してしまうよりはいつでも元に戻したりできるほうがいいですね」(hal.さん)

【画像6】玄関先につくったドローアラインのハンガー掛け。すらりとした美しさが際立っています(画像提供/hal.さん)

【画像6】玄関先につくったドローアラインのハンガー掛け。すらりとした美しさが際立っています(画像提供/hal.さん)

しっかりと突っ張るために、設置で気をつけたいこと

ディアウォールもドローアラインも設置が簡単なうえ、機能やデザインが優れていますが、使い方に気をつけなければ棚や柱が倒れてしまいます。では、どのような点に気をつければよいのでしょうか。

「しっかりとした天井や床に設置することが大事です。天井は硬い材質のものか、下地が入っている場所でないとしっかりと突っ張らせることができません。床も畳など柔らかい材質だと沈み込んでしまう場合があります」(柏さん)
「壁や天井が弱いところ、また床が沈み込むような所にはしっかりと突っ張ることができません。コンクリートや梁(はり)、壁や天井の下地のある場所、フローリングの床などを選ぶとしっかり突っ張ることができます」(寺川さん)

その場所が設置にふさわしいかどうか、事前に確かめることが必要だといえます。

【画像7】突っ張りを利用したDIYでは、しっかりした土台に設置することが大切(画像提供/若井産業株式会社)

【画像7】突っ張りを利用したDIYでは、しっかりした土台に設置することが大切(画像提供/若井産業株式会社)

壁を傷つけないDIYは原状回復がしやすいのも魅力です。
「つくって気に入らないところがあれば改良して、簡単なものでも一度つくりあげると大きな自信につながり、DIYの楽しさを実感することができます」(柏さん)
「まずはやってみることが大切。始めてみるといろいろできることやアイデアが増えてきます。突っ張る商品だと原状回復ができるので、賃貸や模様替えにはぴったりです」(寺川さん)

「自分には無理かな」と迷っていた方も、壁を傷つけないDIYを一度試みてはいかがでしょうか。ただしその場合には、設置する場所がふさわしいか、重すぎるものを置いたりぶら下げたりしようとしていないかきちんと考え、使用上の注意をしっかり守ってくださいね。

●取材協力
・ディアウォール(若井産業株式会社)
・DRAW A LINE(ドローアライン)(平安伸銅工業株式会社)

話題ドラマ『隣の家族は青く見える』の舞台、コーポラティブハウスのセットをレポート

2018年1月から放送中のドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ)。深田恭子さんと松山ケンイチさんが演じる妊活に励む夫婦を中心に、集合住宅で暮らす4世帯の家族の成長と葛藤を描いた物語です。舞台となっている集合住宅は、購入希望者が意見を出し合いながら自由設計する「コーポラティブハウス」。戸建ての注文住宅に近い自由度で決められるとあって、近年注目されています。今回のドラマでは、どのようなところにこだわっているのでしょう? 部屋のセットを見学させていただきました。
登場人物の個性が垣間見られる部屋に。4タイプの部屋の特徴とは?

毎週木曜22時から放送中の『隣の家族は青く見える』。深田さんが演じる主人公の五十嵐奈々(いがらし・なな、35歳)は、スキューバダイビングのインストラクターをしている活発な妻、そして松山さんが演じる五十嵐大器(いがらし・だいき、32歳)は、中堅玩具メーカーに勤める心優しいけどちょっと頼りない夫。そんな二人は、“コーポラティブハウス”を購入したことをきっかけに、子づくりをスタートします。ところが、そう簡単には子どもは授からず、不妊治療の専門クリニックに通うように。

五十嵐家だけではなく、コーポラティブハウスでは、川村家(子どもをつくらないカップル)、広瀬家(男性同士のカップル)、小宮山家(幸せを装う夫婦)、それぞれ他人には言えない秘密を抱えながら暮らしていて……。
主人公の夫役・松山ケンイチさんは、番組公式サイト掲載のインタビューに次のようなメッセージを寄せています。

「コーポラティブハウスに住む人たちはそれぞれに悩みを抱えていますが、それぞれ違った形の幸せも抱えていると思うんです。なので、幸せの形がひとつではないということ、いろんな幸せの形があるということをきちんと表現できたらなと思っています」

キャストのリアルな演技もさることながら、それぞれに個性的な住み手のキャラクターを投影したセットも、みどころのひとつです。

ということで、早速コーポラティブハウスを見学していきたいと思います。今回、セットを案内してくれたのは、美術デザインを担当するフジテレビ美術制作局デザイナーの宮川卓也さん。

【画像1】月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『世にも奇妙な物語』他、ドラマからバラエティまで、番組のジャンルを問わず活躍している宮川卓也さん(撮影/末吉陽子)

【画像1】月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『世にも奇妙な物語』他、ドラマからバラエティまで、番組のジャンルを問わず活躍している宮川卓也さん(撮影/末吉陽子)

まずは、各部屋のこだわりについて教えてもらいました。

【五十嵐家】
「夫がおもちゃ会社勤務、妻がダイビングスクールの講師ということで、遊び心を感じられる部屋にしました。マリンっぽさを出したり、滑り台があったりと、楽しそうな空間にしています。色味も、ちょっとかわいらしい感じにして、すごくおしゃれではないけど、お互いの趣味がマッチしている雰囲気を狙っています。あとは、友人からもらった結婚祝いの寄せ書きを飾るなど、皆から好かれている夫婦なんだなということが、小物から伝わるようにしています。また、ベッドルームとかもそのまま抜けて奥が見えるんですけど、不妊がテーマのドラマなので、リビングで会話をしていても、あえて奥のほうでベッドがちらつくようにしています」(宮川さん、以下同)

【画像2】ところどころにアクセントのブルーを散りばめたリビング。子どもがはしゃぎそうな滑り台も(撮影/末吉陽子)

【画像2】ところどころにアクセントのブルーを散りばめたリビング。子どもがはしゃぎそうな滑り台も(撮影/末吉陽子)

【画像3】友人たちからの寄せ書きも飾られているベッドルーム。マリンテイストのアイテムもかわいい(撮影/末吉陽子)

【画像3】友人たちからの寄せ書きも飾られているベッドルーム。マリンテイストのアイテムもかわいい(撮影/末吉陽子)

【川村家】
「スタイリストとネイリストのカップルなので、スタイリッシュでおしゃれなデザインにしました。品が良くて、ちょっとエロティックな感じにしたくて、色味はダークトーンに。どっちかというとバブリーなテイストにしています。結婚もしていないですし、子どももいらないという家庭なので、二人が楽しく住めるような、趣味のもので固めているというイメージです。ただ、これから子どもを引き取るかもしれないということで、この状態で、子どもが来てどうなるのかっていうのがこれからの見どころかなと思いますね。このままじゃ、多分、生活できなくなってしまうので、それをどういう風に工夫して、物語がどのように進んでいくのか、注目してもらいたいです」

【画像4】大人感漂うムーディーな雰囲気がすてきな川村家のリビング(撮影/末吉陽子)

【画像4】大人感漂うムーディーな雰囲気がすてきな川村家のリビング(撮影/末吉陽子)

【画像5】調度品はモノトーンで統一されていておしゃれ。ただし、どこを切り取っても生活感はない(撮影/末吉陽子)

【画像5】調度品はモノトーンで統一されていておしゃれ。ただし、どこを切り取っても生活感はない(撮影/末吉陽子)

【小宮山家】
「ごく一般的な夫婦+子ども二人の4人家族ということで、普通のマンションぽいつくりにしています。ただ、妻がちょっと曲者でして、周囲の家族との間に波風を立てるタイプの人。自己顕示欲が強いところがあるので、普通のマンションをベースにしながらも、ところどころ背伸びしている感じを出しています。あとは、やたら子どもの写真を貼っているなど、全体的に子どもがいてこそ本当の幸せという価値観を表現しています。夫は、尻に敷かれているので、自分専用のスペースはありません。高価なL字キッチンがあって、ダイニングテーブルの隅に夫のスペースがある、というイメージです。インテリアは、ナチュラルベースでバリアフリーにしています」

【画像6】子どもたちの絵や写真が目を惹くリビングダイニング(撮影/末吉陽子)

【画像6】子どもたちの絵や写真が目を惹くリビングダイニング(撮影/末吉陽子)

【画像7】やや物が多い気がするものの、きちんと片付けられている(撮影/末吉陽子)

【画像7】やや物が多い気がするものの、きちんと片付けられている(撮影/末吉陽子)

【広瀬家】
「建築士の仕事をしているとあって、洗練されたおしゃれな空間、というよりは、少しユニークなつくりにしたいと思いました。海外のデザイン本や、アーティスティックな写真を飾るなどして、個性的な空間にしています。おしゃれでありつつ、どのようなバックボーンで生活しているのか、一目で分かるように心がけました。また、川村家との違いを色でみせるため、少し明るめのグレイッシュなトーンでまとめています。あとは、珍しい形状のアイランドキッチンを配置して、建築士ならではの『複雑な空間をおしゃれにまとめました』という雰囲気を出しています」

【画像8】デザイン本や模型などが置かれた棚がスペースの仕切りとしても機能(撮影/末吉陽子)

【画像8】デザイン本や模型などが置かれた棚がスペースの仕切りとしても機能(撮影/末吉陽子)

【画像9】すっきりと片付けられているアイランドキッチン。木工製品のようなディテールがおしゃれな照明にもセンスを感じる(撮影/末吉陽子)

【画像9】すっきりと片付けられているアイランドキッチン。木工製品のようなディテールがおしゃれな照明にもセンスを感じる(撮影/末吉陽子)

美術デザイナーが考える、コーポラティブハウスの魅力

住む人の個性を反映した4タイプの部屋のセット。物語同様、その細部にも注目したいところです。宮川さんに、セットをつくる際のセオリーを聞いてみました。

「どこで切り取られても、“この登場人物の部屋なんだな”と分かることを前提にデザインしています。例えば、壁をバックに演じるシーンでも、ただの真っ白な壁にならないように、その登場人物の個性を感じるポイントが映り込むように心掛けています。それは、おそらく美術デザイナーなら誰しも意識しているセオリーではないでしょうか。あとは、役者さんご自身のバックボーンもあるので、どのような生活をしてきたのか、ときに聞いてみたり想像したりしながら、感情移入しやすい空間づくりを心掛けています」

【画像10】コーポラティブハウスの模型(撮影/末吉陽子)

【画像10】コーポラティブハウスの模型(撮影/末吉陽子)

今回のドラマでは、デザイナーズ家具を取り扱う「リグナ」のアイテムがテイストに合うということで、メインに起用しているとのこと。なんでも、「セットをつくりあげるにあたっては、脚本家さんと話して人物のイメージを固めるまでに、かなりの時間を費やします。『この登場人物はこういう人なんだ』とイメージをつくりあげるのは、ドラマの核になるところですから」とのこと。

ちなみに、宮川さんが住むとしたら? 「僕もデザイナーなので住むとしたら広瀬家ですかね。もっと棚をいっぱいつくってデザイン本を置いて、作業台も使いやすくもう少し大きくしたいと思います」

さて、今回コーポラティブハウスという、新しいタイプの住まいをセットに落とし込むにあたっては、入念なリサーチを重ねたといいます。そこで改めて、コーポラティブハウスの良さを感じたと宮川さん。

【画像11】4世帯が暮らすコーポラティブハウスの共有スペースは、ドラマでも度々登場する場所だ(撮影/末吉陽子)

【画像11】4世帯が暮らすコーポラティブハウスの共有スペースは、ドラマでも度々登場する場所だ(撮影/末吉陽子)

「コーポラティブハウスをメインに設計しているメーカーを演出担当者と一緒に3、4社まわり、実際の建物を見学させてもらいました。自分たちで、構造から空間、部屋、床材から壁の色まで決められるのはメリットだと思います。あと、マンションだと隣に誰が住んでいるか分からないことが多いかもしれませんが、ゼロから建てるため、皆で集まって話し合いをするので、顔を見られる安心感があります。

そうした過程を経て、連帯感ができると聞きました。裏を返せば、ちょっとお付き合いしにくい人がいた場合、もめごとの要因にもなってしまう不安もありますが、メーカーさんいわく、普通のマンションのような距離感を保って住むこともできるそうなので、住む人次第なのかなと思います」

現代社会に生きる家族が抱える悩みを、新しい住まいのかたちを舞台にリアルに描いたドラマ。ぜひ物語と一緒に、お部屋のつくりにも目を向けてみてくださいね。

●取材協力
・フジテレビ木曜ドラマ『隣の家族は青く見える』

大地震で建物倒壊が心配!耐震診断より地震保険でカバーって、それで大丈夫?

内閣府が防災に関する世論調査を実施したところ、建物倒壊への不安が高いものの耐震診断を実施していない人が多いことが分かった。大地震への備えは、地震保険と考える人が多いようなのだが、果たしてそれで大丈夫だろうか?【今週の住活トピック】
「防災に関する世論調査」結果公表/内閣府大地震の備えは、耐震診断より地震保険が多い!?

まず、「災害の被害に遭うことを具体的に想像したことがある自然災害」を聞くと、最多だったのは「地震」で、実に81.0%の高さだった。さらに、「大地震が起こったとしたら、どのようなことが心配か」を聞くと、最多だったのは「建物の倒壊」の72.8%で、次いで「家族の安否確認ができなくなる」の61.3%だった。

これだけ地震被害や大地震による建物倒壊への不安が高い回答ではあるが、「耐震診断を実施しているか」については、「実施している」が28.3%、「実施していない」が51.5%。実施していない人のうちでも、「今後、実施する予定がある」は3.5%いるので、予定を含む耐震診断の実施については3割強ということになるだろう。

ただし、回答者には賃貸住宅に住んでいる人も含まれているので、持ち家のみで見ると、「実施している」は31.2%とわずかに上がる。持ち家の種類は不明確だが、耐震診断の実施主体が管理組合となるマンションの場合と、所有者の判断だけで実施できる一戸建ての場合でも違いはあるかもしれない。

【画像1】耐震診断の状況(出典/内閣「防災に関する世論調査」)

【画像1】耐震診断の状況(出典/内閣「防災に関する世論調査」)

次に、「大地震が起こった場合の備え」を聞くと、「地震保険への加入」が最多の46.1%だった。耐震診断の実施率(3割)より高いものとしては、ほかにも画像2の4項目が挙がった。

【画像2】大地震に備えている対策(出典/内閣「防災に関する世論調査」)

【画像2】大地震に備えている対策(出典/内閣「防災に関する世論調査」)

住宅の倒壊への備えは、どうあるべき?

大地震への住宅の備えを考えると、まずは被災時に「建物が倒壊しない」こと、「家具・家電が落下しない」ことなどが重要だ。最優先は自身や家族の命を守ることだからだ。被災時に生き残ってこその課題が、日常生活への備えや住宅の改修・建て替えなどの対策だ。

そういう点では、「耐震診断の実施(耐震性が不足していれば耐震改修の実施も)」と「家具・家電などの落下防止」については、高い実施率が望まれる。特に、今の耐震基準より低い「旧耐震基準(1981年5月31日以前の建築確認が適用)の住宅」や「2000年基準よりも前(2000年5月31日以前の建築確認が適用)の木造一戸建て」については、耐震診断を実施して住宅の耐震性を確認するべきだろう。

被災時に命を守れた後は、その後の生活の備えが必要だ。被災直後の日常生活が落ち着いたら、住める状態にするために、住宅の補修や建て替え、家財の購入などを検討することになる。しかし、いずれもかなりの支出となる。

貯蓄が十分あって万一に備えられるならよいが、いつ起こるか分からない大地震のための貯蓄はなかなかしづらいもの。こうした「起きる確率は低いけれど、万一発生したら相当額が必要となるリスク」に備えるのが保険だ。実際に、地震保険に加入している人は46.1%だった。

この調査では、地震保険に加入していない人に、「加入していない理由」を聞いているが、最多は「保険料が高い」の25.6%で、次いで「特にない」が18.6%だった。保険に加入しないなら、万一に備えた貯蓄をするようにしてほしい。

といっても、地震保険は、被災者の当面の生活の安定を目的とした保険なので、住宅の建て替え費用まで補償されるものでない。地震保険は火災保険とセットで契約するもので、契約金額は火災保険の30~50%以内といった制限もある。

また、地震で住宅が倒壊しても、原則として住宅ローンは免除されないので、あくまで地震保険は、被災後の生活を立て直す一時金のためと考え、地震に強い住宅にしておくというのが王道だろう。

耐震診断や耐震改修には、各地方自治体で補助金を出している場合が多く、特に大地震の発生する確率の高い自治体ほど手厚くする傾向が見られる。また、一定の耐震改修には減税措置もある。こうしたものを利用して費用を抑えながら、地震に強い住宅にすることを検討してほしい。

3万円で”脱・無難部屋”! インテリアコーディネーターとお部屋改造してみた

一人暮らしをスタートさせ、インテリアにこだわって統一感を出したり、暮らしやすいように家具を好きな配置にしたり、理想の部屋にしたいと思う人も多いのではないでしょうか。しかし、いざ自分でコーディネートしようとすると、お金をかけてインテリアや小物を買ったけれど、無難な仕上がりになり、描いた理想や自分らしい部屋とはほど遠い仕上がりになることも多いよう。そこで今回は、東京で活躍するインテリアコーディネーターの山口恵実さんに協力していただき、低予算でも理想の部屋に近づけるコーディネートのヒミツを探ります!
オシャレにしたいと思う人ほどよく陥りがちな【無難部屋】【画像1】一人暮らし歴7年の萬年(まんねん)さんの部屋。インテリアに興味はあるが、つい白・ベージュ・茶色などの”無難系”に(写真撮影/アウル株式会社)

【画像1】一人暮らし歴7年の萬年(まんねん)さんの部屋。インテリアに興味はあるが、つい白・ベージュ・茶色などの”無難系”に(写真撮影/アウル株式会社)

山口さんと訪れたのは、一人暮らしを始めて7年の萬年(まんねん)さん、29歳・女性の賃貸部屋。萬年さんは部屋に統一感を出したいと考え、白とベージュ・茶色をベースに家具やインテリアをチョイスし配置したと話してくれました。色を絞ってインテリアを選ぶ考えはとてもいい方法なのですが、選んだ色が多くの人が選びやすい白・ベージュ・茶色なので、部屋の個性がない、いわゆる「無難」なコーディネートになってしまっています。また、部屋全体を見たときにアクセントとなるものがなかったので少し寂しい印象を受けました。

萬年さん自身、部屋の印象を変えたいと思いつつも、一見統一されているように見えるこの部屋をどこから変えていいか分からず、悩んでいるそうです。今回のコーディネート予算は3万円。無難部屋からの脱却を図ります。

無難部屋の印象を変えるカギは「アクセント」と「目線」

まずは、山口さんに部屋の中で改善できるポイントを聞いてみました。

―――今回のコーディネートで部屋の改造ポイントとなる部分はどこでしょう?
まず1つは、インテリアのなかに「アクセント」が不足していると感じました。現在、白や茶色がベースとなっているので、メインカラーに萬年さんの好きだと仰っていた「ブルー」を持ってくる。好きな色があると気分が上がるので、自分の部屋がもっと好きになれると思います。

あとは、ベッドやラグの色が濃くて目線が下に行きがちなので、目線を上に向けられるようにインテリアを整えられたらいいのではないでしょうか。大きなものだと、照明器具も印象を変えるのにピッタリです。賃貸だと元からシーリングライトがついている部屋もあって、なかなか気づかない部分なんですが、今回は照明も思い切って変えてみようと思いました。それから、最近賃貸にも増えてきたピクチャーレールですね。フックさえつければ、好きなアートや写真が飾れるので、これは活用したいですね。

予算3万円で購入したコーディネートアイテム紹介

改善ポイントを踏まえたうえで、山口さんが今回のコーディネートアイテムとして選んだものがコチラ。

1.アクセント用のクッション

【画像2】萬年さんの好きな「ブルー」、サブカラーにアイビーを取れ入れたクッション(写真撮影/アウル株式会社)

【画像2】萬年さんの好きな「ブルー」、サブカラーにアイビーを取れ入れたクッション(写真撮影/アウル株式会社)

左:アクセントクッションINアイビー(中身付)/ニトリ 1380円(税抜)
中:FJADRARインナークッション50x50cm/IKEA 500円(税込)&SANELAクッションカバー50x50cm/IKEA 999円(税込)
右:ニトリクッションヌード45x45cm/ニトリ 462円(税抜)&クッションカバー 北欧デザイン 45×45cm Jubilee×Lamoppe コラボデザイン/楽天 Jubilee 2700円(税込)

2.インテリア照明

【画像3】部屋全体を爽やかな印象にするために、あえてリゾート感漂う照明をチョイス(写真撮影/アウル株式会社)

【画像3】部屋全体を爽やかな印象にするために、あえてリゾート感漂う照明をチョイス(写真撮影/アウル株式会社)

照明:SINNERLIGペンダントランプ竹/IKEA 8999円(税込)
電球:LEDARE NN LED電球E26 600ルーメン/IKEA 799円(税込)

3.気分の上がるアート

【画像4】額に入れるだけで、インテリアにアートが加わる(写真撮影/アウル株式会社)

【画像4】額に入れるだけで、インテリアにアートが加わる(写真撮影/アウル株式会社)

ポスター:TVILLINGポスター2点40x50cm 地平線/IKEA 500円(税込)
額縁:RIBB NNフレーム50x70cmホワイト/IKEA 2499円(税込)×2点
フック:HAGHEDハーグヘード ワイヤーループ&調節可/IKEA 499円(税込)×3点 ※1つは予備

4.観葉植物

【画像5】部屋の中に植物があると、空気の流れが良くなり、癒しの効果もあるのだとか(写真撮影/アウル株式会社)

【画像5】部屋の中に植物があると、空気の流れが良くなり、癒しの効果もあるのだとか(写真撮影/アウル株式会社)

植物:HEDERA HELIX鉢植12cm/IKEA 399円(税込)
鉢:FRIDFULL鉢カバー/IKEA 399円(税込)

5.ベッド用品
【画像6】茶色一色だったベッドまわりの印象をガラッと変えるために購入(写真撮影/アウル株式会社)

【画像6】茶色一色だったベッド周りの印象をガラッと変えるために購入(写真撮影/アウル株式会社)

枕カバー:マクラカバーパレット3IV/ニトリ 555円(税抜)
布団カバー:カケカバーNグリップパレット3I/ニトリ 1843円(税抜)
ボックスシーツ:マルチスッポリポシーツ ウィンドウペン IV/ニトリ 2306円(税抜)

以上、大きく5つのコーディネート部分に関するアイテムを購入。商品は全部で15種類、合計で2万8860円(税込)となりました。

低予算のときは、ニトリやIKEAなど、種類豊富なアイテムが低価格で手に入る場所でアイテムを購入するのがオススメ。配送料はかかりますが、家までの配達サービスもあるため、大きな買い物をする際にも便利です。

【無難部屋】から【爽やか美人部屋】への大変身!

購入したアイテムを使い、早速部屋をコーディネートしました。

【画像7】部屋のコンセプトは「爽やか美人部屋」(写真撮影/アウル株式会社)

【画像7】部屋のコンセプトは「爽やか美人部屋」(写真撮影/アウル株式会社)

萬年さんが好きな「ブルー」には気持ちを落ち着ける効果があり、安心と信頼感をかもし出す色でもあります。チョイスしたブルーのクッションやアートなど洗練されたブルーに囲まれ、気分の上がる部屋を目指しました。

また、ブルー一色ではなく、サブカラーとして観葉植物のグリーンを入れることでプラスのアクセントに。観葉植物効果で部屋の空気の流れが清らかになった印象も受けます。思いきって変えた照明も部屋全体を優しい雰囲気で包んでくれています。
今回家具類は一切変えないコーディネートでしたが、コーディネート前と印象がガラリと変わりました。改めて、コーディネートのすごさや重要性を感じました。住人の萬年さんも洗練された出来映えに感動し、「これから気持ちよくすごせそうです!」ととても喜んでいました。

【画像8】小さな緑が加わるだけで部屋のアクセントに(写真撮影/アウル株式会社)

【画像8】小さな緑が加わるだけで部屋のアクセントに(写真撮影/アウル株式会社)

低予算でもオシャレコーディネートは実現できる!

最後に山口さんからコーディネートの工夫点やこれからすぐに役立つアドバイスをいただきました。

【画像9】インテリアコーディネーターの山口恵美さん(写真撮影/アウル株式会社)

【画像9】インテリアコーディネーターの山口恵美さん(写真撮影/アウル株式会社)

―――実際にコーディネートをしてみてどうでしたか?
今回、予算3万円と限られたなかでのコーディネートで、どれだけ印象が変わるか不安でした。しかし元々の部屋の色がシンプルだったので、アクセントとして取り入れたクッションや観葉植物がうまく映えてくれました。空気の流れがキレイに感じられる爽やかな部屋になったのではないでしょうか。

―――改めて、コーディネートの工夫点を教えてください。
カーテンを変えたり、大きな家具を変えるともちろん印象は変わるんですが、そこに頼らず、テーマカラーを決めて、それに合わせたインテリアや小物アイテムをチョイスしていきました。萬年さんの好きな色を取り入れて、住む人の気分が上がるように、部屋で過ごすことが楽しくなるように想いを込めてコーディネートしました。

―――これから部屋の模様替えをしたい、印象を変えたいと思っている人に向けてアドバイスをお願いします。
そうですね、ただなんとなく気に入った家具・インテリアを買うのではなく、購入する際に、キーとなるテーマカラーを決めることがオシャレな部屋への第一歩だと思います。部屋の中に色が多すぎるとごちゃごちゃしてまとまりにくいので、今回のブルー・グリーンのように、2,3種類に絞ってインテリアをチョイスすると部屋に統一感が生まれます。

【画像10】アートやグリーンで部屋に立体感が生まれた(写真撮影/アウル株式会社)

【画像10】アートやグリーンで部屋に立体感が生まれた(写真撮影/アウル株式会社)

また、部屋で過ごすことが楽しくなるよう、壁などにアートや写真を飾ってみてください。壁に模様がついているならいいのですが、白いママだと少し寂しい印象になります。最近ではピクチャーレールがついている賃貸住宅も多くなってきたので、ぜひ備え付けのモノは活用してほしいなと。自分が好きなモノがパッと目につく場所に飾ってあると、住んでいて気持ちがいいものですよ。

予算3万円と限られたなかでの今回のコーディネート。無難な部屋から住む人の好みを取り入れた素敵な部屋へ大変身を遂げました。大きなものを変えなくても、アクセントを取り入れるだけで印象が変わる。目線をあげることで気分が上がる。山口さんから教わったコツはすぐにでも使えることばかりでした。「自分の部屋、無難かも……」そう感じた方はぜひすぐに試してみてはいかがでしょうか。

●インテリアコーディネータープロフィール
山口恵実/Emi Yamaguchi
東京都世田谷区の築40年の賃貸マンションに暮らす。
外資コンサル会社アクセンチュアで6年働いた後フリーランスになり、インテリア、アート、料理&テーブルスタイリングの仕事に携わる。インテリアコーディネーター/整理収納アドバイザー

それってリフォーム詐欺かも…? 悪徳業者の手口と対抗策

心躍るリフォーム。その一方で昨今は、悪徳会社による「リフォーム詐欺」も世の中を騒がせています。 詐欺に巻き込まれないまでも、業者の見極め方やいざというときの解決策を知りたいところ。欠陥住宅問題やトラブル解決に取り組む「NPO法人 建築Gメンの会」理事長の大川さんにポイントを伺いました。
耐震、床下、屋根など次々と契約を迫る。こんな事例があるので注意!

詐欺事例のなかでは、「次々詐欺」といわれる手口が非常に多いという大川さん。いくつかの事例を紹介します。

<ケース1>点検しますという訪問で床下を見て「湿気がすごい」などと言って不安をあおり、本来ならば必要のない工事の契約を勧めてくる。その契約がとれると、次は屋根、外壁、小屋裏を見て、同じ手口で次々と工事の契約を勧めてくる。検査の結果、通常の2~3倍の工事費を支払ってしまった(建設業法による建設業登録不要な500万円未満の工事となるよう、複数回に分けて契約させる手口)

<ケース2>「近所を回っているのですが、床下のシロアリ検査を無料でしますよ」と訪問。「さらに屋根の瓦が傾いているのが気になります」などといって、このままだと雨漏りするので屋根全体を工事したほうがいいと言われ、つい流れで即日契約。

また、工事自体は行っているので一見正当性があるように見えるが、不合理な工事やずさんな工事をされてしまうこともあるという。なかには感情に訴えてくる手法もあるとのことです。

<ケース3>外壁の補修が必要という名目で訪問。塗装も行ったがその後の第三者検査の結果、塗装の質が悪かったり、養生の仕方が雑で、塗料があちこちに飛散。また鍵穴が塗料で埋まっていたり、ドアまで塗装されて開かなくなったり。加えて床下の換気効率を上げなくては腐るといわれたものの、調湿材を敷きこむ工事をされ、逆にその調湿材が湿気をため込んでしまい換気効率がダウン。結局別業者に依頼することに。

<ケース4>複数人で業者が訪問。屋根や外壁などのリフォームを提案し、その場で大まかな見積もりを提示。「高すぎる」と断ったところ、その場で一人が「上の者を説得します」と電話。その間、別の人間が家主に家の思い出などを聞き、いい人をアピール。その後電話をしていた業者が「金額をこれだけ抑えられました!説得できましたよ」と努力をアピール。まあそれならと契約書にサインしてしまい、必要のない工事や相場より高い工事を行う。

【画像1】ひび割れや塗装はげなど外から見て分かるような家は、悪徳業者に口実をつくられやすく狙われやすい(写真/PIXTA)

【画像1】ひび割れや塗装はげなど外から見て分かるような家は、悪徳業者に口実をつくられやすく狙われやすい(写真/PIXTA)

あやしい業者かどうかを見極めるには

もしも悪徳リフォーム業者が接触を図ってきたら……。どんな業者があやしいのか、見極めのポイントを教えてもらいました。

<1>いきなり訪問してくるリフォーム業者
突然訪問が多い。まったく心当たりのない業者の訪問には、話に乗らず、できるだけ家に入れないことが肝心。

<2>その日のうちに見積もり、契約を迫ってくる
悪徳業者は工事の既成事実をつくるために即日契約、次の日に工事開始と急いでくる。話を聞いて建物を見せてしまっても、契約までには検討期間を設けるのが防衛手段に。

<3>その場で「耐震診断を行う」「見積もりを出す」などと言い出したら疑うべし!
もちろんリフォーム業者によるが、本来はその場ですぐにできるものではないので、できる、出すと言ったら悪徳業者の確率が高い。

アポなし訪問の業者の全てが悪徳とは言い切れないが、やはり「いきなり訪問販売をしてくる業者」には注意をしたほうがよさそうです。

また悪徳リフォーム業者に引っかかりやすい人の特徴として大川さんは次のように話します。
「高齢者のみの世帯(特に独居高齢者)がターゲットになることが多いですね。こうした方々は築年数の古い家に住んでいて、自分で自由に使えるお金を持っていることが多い。オレオレ詐欺などもそうですが、やはり高齢者を狙ってくる率が高いです。また子ども世帯が遠方に住んでいて疎遠だと、相談もしにくく、子どもが訪れたところ、詐欺工事がすでに行われていたというケースも多いです。独居が長かったりすると人情にもほだされやすいですね。防衛するためには、家族はもちろん、普段から隣近所とコミュニケーションをとり、誰かに相談できる体制をつくっておくことが大切だと思います」

だまされた!と思ったら、どこに相談すればよい?

「公的な相談機関が第一歩だと思います。例えば公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター、消費生活センターですね。こうした機関は無料相談を受け付けていたり、検査を行える建築士や消費者被害に詳しい弁護士をあっせんしてくれるなどの対応をしてくれます」(大川さん)

またいざ訴訟となる場合、法的な観点から直接弁護士に相談するのも手。クーリングオフ制度も使えるので、適用される内容や期限なども聞いておきたいところです。さらに建築目線で工事が適当かどうかを素人が判断するのは難しいので、信頼できそうなリフォーム業者に相談するのもひとつの手段です。さらに建築Gメンの会のような、専門家の視点で検査や技術的な側面から工事を評価できる建築士も相談に乗ってくれます。

「とにかくあやしい、だまされたかも、と思ったらなるべく早く相談するのが大切です。前述したとおり、悪徳業者は契約から工事までが早いです。工事の既成事実をつくられたり、工事完了して逃げられたりしたら厄介になります」

【画像2】NPO法人建築Gメンの会理事長・棲建築事務所代表取締役 大川照夫さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】NPO法人建築Gメンの会理事長・棲建築事務所代表取締役 大川照夫さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

誰しも思い入れのある住まい。長く快適に暮らすためのリフォームはとても大切。そこに付け込んでくるような悪徳な業者に引っかかって悲しい思いをしないためにも、ぜひ今回上げたポイントを参考に、被害にあわないよう心掛けたいところです。特に高齢者をターゲットにすることが多いということで、自分だけでなく親のことも考えて、注意しておくことが必要になるのではないでしょうか。

●取材協力
・一級建築士/NPO法人建築Gメンの会理事長/棲(すみか)建築事務所代表取締役 大川照夫さん

賃貸なのに!? 築31年のレトロな一軒家をプチリノベ DIY作業に密着してみた

数年間空き家になっていた築31年の2階建て一軒家を借りて、家中の内装を自分好みに“プチリノベ”して暮らす女子がいる。足かけ4カ月、リノベ作業は今も進行中だ。持ち家ではなく賃貸で、プロの手を借りずにどうやって変身させるのか。DIYの工程をのぞかせてもらった。
“昭和感”ただようレトロな一軒家に住むことに

今回取材をしたのは、埼玉県郊外にある一軒家。築31年、3DKの2階建てだ。この家で4カ月前から賃貸暮らしをしているのは、カタオカマナミさん。数年前から仕事の一環として、この近くで地域に根差した農作業に携わっていたつながりで、3年間空き家になっていたこの物件を手ごろな価格で紹介してもらったのが始まりだという。

しかし、3年間人が住んでいなかった空き家は、お世辞にもキレイと言える状態ではなかったそうだ。
「最初に内見をしたときは、思っていた以上に年季が入っていて正直びっくりでしたね。キッチンやお風呂、トイレ、壁紙のクロスなどは、入居前に大家さんの好意でリフォームをしてくれて、住みやすくなりました。それでも築31年となると、家のあちらこちらに“昭和感”が残っていて……。そこで、大家さんには了解を得て、DIYで内装をプチリノベさせてもらうことになりました」(カタオカさん、以下同)

【画像1】賃貸物件のため大掛かりなDIYはNGなので、外観は今も入居時のまま(画像提供/カタオカマナミさん)

【画像1】賃貸物件のため大掛かりなDIYはNGなので、外観は今も入居時のまま(画像提供/カタオカマナミさん)

貼ってはがせる壁紙でイメージチェンジ!

一戸建てということで部屋数も多く(1階はダイニングキッチンと和室1部屋、2階には洋室と和室が1部屋ずつ)、一見難易度が高そうにも思えるが、このレトロな雰囲気をどうやって自分好みに変身させようかと、入居時からワクワクしたそうだ。

これまでDIY経験はなかったというカタオカさん。どのように作業を始めていったのだろう?
「まずはダイニングキッチンの壁や天井の色を変える作業から始めました。市販の壁紙を貼り替えるだけで全然違う印象になるので、モチベーションも上がります。料理も好きなので、自分好みに変身したダイニングキッチンが今は家の中で一番居心地がいいんです」

【画像2】キッチンのコンロ奥には、ぴったりサイズの木製棚を製作。デッドスペースが調理器具置き場に(写真提供/カタオカマナミさん)

【画像2】キッチンのコンロ奥には、ぴったりサイズの木製棚を製作。デッドスペースが調理器具置き場に(写真提供/カタオカマナミさん)

【画像3】ダイニングキッチンの一角。元からある木目調のレトロなドアに合わせて、壁紙はレンガ調と濃いブルーで配色。どちらも原状回復できるよう“貼ってはがせるシートタイプ”を使用している(画像提供/カタオカマナミさん)

【画像3】ダイニングキッチンの一角。元からある木目調のレトロなドアに合わせて、壁紙はレンガ調と濃いブルーで配色。どちらも原状回復できるよう“貼ってはがせるシートタイプ”を使用している(画像提供/カタオカマナミさん)

【画像4】写真左:和室のふすまにはレンガ調のシートを貼っている。写真右:和室ならではの鴨井には、穴をあけずに使用できる100均の鴨井フックを活用(画像提供/カタオカマナミさん)

【画像4】写真左:和室のふすまにはレンガ調のシートを貼っている。写真右:和室ならではの鴨井には、穴をあけずに使用できる100均の鴨井フックを活用(画像提供/カタオカマナミさん)

築古物件ならではのレトロな建具や和室の特徴を活用したDIYをすることで、新しい物件にはないオリジナリティのある内装に仕上がるのが魅力的だと話してくれた。

DIY作業に密着!押入れスペースがおしゃれなパレットベッドに!?

まとまった休みが取れる冬休みに作業を進めるということで、筆者もDIY作業に参加させてもらった。

今回体験したのは、2階にある6畳の洋室のDIY作業。大きな窓があって明るい雰囲気なので、白を基調としたゲストルームにする計画だそう。手つかずの状態だった洋室がどう変身していくのか、レポートしていこう。

1.押入れの扉を外し、木枠を白いペンキで塗る

使用したのは、近所のホームセンターで購入したという艶消しマット仕上げの白いペンキ。水性なのでペンキ特有の「嫌なにおい」もほとんどしなかった。厚塗りにしたくない場合は、水で濃さを調整できるというのも手軽だ。
※賃貸物件に手を加える場合は、原則としてオーナーもしくは管理会社の許可が必要。今回のケースでは大家さんの許可があるので、ペンキを塗装した部分の原状回復をする必要はない

【画像5】写真左:扉を外した押入れの木枠をペンキで塗る作業。写真右:色ムラなく塗るには、刷毛よりも100円ショップで購入したペンキローラーが便利だった(写真撮影/カタオカマナミさん)

【画像5】写真左:扉を外した押入れの木枠をペンキで塗る作業。写真右:色ムラなく塗るには、刷毛よりも100円ショップで購入したペンキローラーが便利だった(写真撮影/カタオカマナミさん)

2.天井と壁を白いペンキで塗る

つづいて、天井と壁の全面を白いペンキで塗装していく。

【画像6】写真左:昭和感がただようレトロな天井の模様。写真右:天井が真っ白になるとクロスのクリーム色が際立ってしまったので、急きょ壁も同じペンキで塗装することに(写真撮影/カタオカマナミさん)

【画像6】写真左:昭和感がただようレトロな天井の模様。写真右:天井が真っ白になるとクロスのクリーム色が際立ってしまったので、急きょ壁も同じペンキで塗装することに(写真撮影/カタオカマナミさん)

3.床材として白いクッションフロアを貼る

床材として使用したのは通販で仕入れた白いクッションフロア。部屋の大きさに応じてカッターで切り、専用の両面テープで簡単に貼ることができる。

4.木製パレットで「パレットベッド」を製作する

倉庫などで荷物を載せる際に使われる木製のパレット。DIY作業向けに1枚単位から購入できる通販サイトもあるそう。今回はこのパレットをベッドフレームに使用し、木製のパレットベッドを製作する。木の表面がささくれているとケガの原因にもなるので、表面を滑らかにするやすりがけ作業が必須だ。

【画像7】写真左:扉を外した押入れスペースを有効活用して、木製パレットを組み、ベッドを製作する。写真右:今回は木目を際立たせるために、表面にオイルステインを塗装する作業を行った(画像提供/カタオカマナミさん)

【画像7】写真左:扉を外した押入れスペースを有効活用して、木製パレットを組み、ベッドを製作する。写真右:今回は木目を際立たせるために、表面にオイルステインを塗装する作業を行った(画像提供/カタオカマナミさん)

5.木材と塩ビパイプで机を製作する

本来は給排水用として使われる「塩ビ管」や「塩ビパイプ」と呼ばれる建築資材。今回はこれを机の「脚」に使い、木材を組み合わせて机を製作した。ホームセンターで誰でも購入することができる。

【画像8】写真左:塩ビパイプは、のこぎりでカットして、「継手」という材料でジョイントして使う。写真右:出来上がった机(写真提供/カタオカマナミさん)

【画像8】写真左:塩ビパイプは、のこぎりでカットして、「継手」という材料でジョイントして使う。写真右:出来上がった机(写真提供/カタオカマナミさん)

完成したパレットベッドがこちら。

【画像9】完成したパレットベッド(画像提供/カタオカマナミさん)

【画像9】完成したパレットベッド(画像提供/カタオカマナミさん)

筆者がこの日体験できたのは、上記の1と2の作業。時間にして2時間ほどだった。
天井などにペンキを塗るのは初めてだったので、塗り始めは「失敗しないだろうか……」と恐る恐るスタートをしたのだが、やってみると実に楽しい!思い切って大胆に塗るほうがムラにもなりにくく、またどこかでチャレンジしてみたいと思う。

ホームセンター、通販、100均を駆使して、豊富な材料を入手

最後に、DIYグッズの購入方法や、今後の計画について聞いてみた。

――そもそも、DIY可能な賃貸築古物件をどうやって見つけたのですか?

「週末にこのあたりの地域で“都会から通える田舎づくり”の活動をしているのですが、特に田植えや稲刈りの時期などは頻繁に通わなくてはいけないため、都内から通うのに限界を感じていたんです。そこで知り合いの農家さんに部屋探しの相談をしていたら、親戚が住んでいた部屋が空いているということで紹介してもらいました」

「話を聞いたときは、1DKぐらいのアパートの一室かなと思っていたんですが、まさかの一戸建てで(笑)。あまり便利な立地ではないので借り手がつかず、3年間空き家のままで大家さんも諦めていたところに、私が立候補しました。DIYをどこまでやっていいかなどは、契約時に『外観の塗装はダメだけど、内装はあまり変な色でなければ大丈夫』と許可をもらいました」

――DIYの参考にする情報は、どうやって見つけているんですか?

「部屋のイメージに悩んだときや、何か新しいものの製作に入るときに参考にするのは、DIYのポータルサイトです。気に入ったイメージ写真を見つけたらクリップしておいて、ゆっくり悩みながら進めています。今作業中の2階の和室も、壁や天井を赤×白の配色にするか、赤×黒の配色にするか構想を練っているところです」

【画像10】まだ作業途中の和室は、大胆な朱色の壁が印象的(画像提供/カタオカマナミさん)

【画像10】まだ作業途中の和室は、大胆な朱色の壁が印象的(画像提供/カタオカマナミさん)

――DIYに使う材料の入手は、どうしているんですか?

「近所にあるホームセンターや通販サイト、100円ショップで買うことが多いですね。木材や塗料などは、初心者のうちはホームセンターで店員さんに聞きながら購入するのがおすすめです。軽トラックの貸し出しサービスをしている店舗も多いので、※ツーバイフォー(2×4)材など大きいものを購入しても安心ですよ」
※ツーバイフォー(2×4)材…ツーバイフォー工法の住宅に使用される木材

「壁紙や床材などは、通販サイトで購入することがほとんどです。色や素材もかなり豊富で、賃貸でも使える “貼ってはがせる”商品のラインナップも多いんです。でも、届いてみたら『思っていた色と違った…!』なんていう失敗もたまにあるので、返品ができるかどうかは確認したほうがいいですね」

――築古物件DIYならではの、難しいポイントなどはありましたか?

「生活面でもDIYの面でも困ったのは、コンセントがちょうどよい場所になく、数も足りないということですね。現代の生活では、充電したいものもたくさんあるので、家中のあちこちにコードが露出してしまうんです。見栄えも悪くなるので、100円ショップで購入した木箱でコンセントカバーを自作しておしゃれに隠したり、コードが見えないような工夫をしたり気をつかっています」

――今後のプチリノベ計画は、どんなイメージで考えていますか?

「今後の計画としては、まずは作業中の和室を完成させること。あとはトイレですね。トイレはリフォームされていてキレイなのですが、ちょっと殺風景なのでおしゃれに変身させたいと思っています。手洗いタンクの部分を木材で隠して、“なんちゃってタンクレストイレ”にできたらよいなと妄想中です」

退去時には元に戻すことを考えると、あまり大金をかけずに始めたい賃貸暮らしのDIY。「できるだけ安く、手軽に」という制約があるからこそ、工夫の余地があって楽しさが増すのかもしれない。今回のケースでは、大家さんの了承があったためペンキ塗りなど大掛かりな作業もできた珍しい事例だったが、初心者でもチャレンジできそうな点もたくさん見られた。賃貸でも、原状回復できる範囲であればDIYは可能。また、大家さんと直接交渉ができる場合は、可能性もさらに広がるはず。賃貸だからと諦めずに、「DIYは未経験!」という人は、ぜひ参考にしてみてはいかがだろう。

●取材協力
・カタオカマナミさん

中古住宅を買ってリフォームした人、それぞれ費用はいくら?どう捻出した?

リクルート住まいカンパニーが「2017年大型リフォーム(リフォーム費用300万円以上)実施者調査」の結果を発表した。中古を買ってリフォームした人の場合、物件購入費用は平均3156万円、リフォーム費用は平均628万円だという。それぞれ費用はどうやって捻出するのだろうか?【今週の住活トピック】
「2017年大型リフォーム実施者調査」を発表/リクルート住まいカンパニー購入した中古住宅を入居前にリフォームした理由に、「自分好み」や「割安」も

この調査は、直近3年以内に、300万円以上のリフォームを実施した人が対象。300万円以上のリフォームということは、キッチンや浴室などの水まわりの交換や複数居室など広範囲なリフォームをしたということだろう。

この中でも、中古住宅を購入してリフォームした人に注目してみたい。

中古で購入した住宅をリフォームした人は、全体の20.2%。この中には、入居後ある程度住んだうえでリフォームした人も含まれるので、純粋に「中古で購入した住宅をリフォームしてから住み始めた」という人を見ると、このうちの55.1%だった。つまり、全体の1割強が中古を買ってリフォームして住んだと見られる。

入居前にリフォームした理由を複数回答で聞くと、「リフォームすることで、自分好みの家にしたかったから(デザイン)」が35.9%、「住みたい物件を見つけたがリフォームが必要だったから」が34.8%、「(新築と比べて)費用を抑えたいと思ったため」が27.2%、「リフォームすることで、自分好みの家にしたかったから(間取り)」が26.1%と上位に挙がった(画像1)。

老朽化などによる「必要性」もさることながら、「自分好み」や「割安」を求めたということが分かる。

【画像1】中古住宅を購入して、入居前にリフォームした理由(複数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年大型リフォーム実施者調査」より一部抜粋して転載)

【画像1】中古住宅を購入して、入居前にリフォームした理由(複数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年大型リフォーム実施者調査」より一部抜粋して転載)

中古を買ってリフォームは、割安?

新築を購入するより中古を購入してリフォームしたほうが、費用が抑えられるのだろうか?
新築の価格が高騰している都心部などでは、総額で抑えられる可能性も高いが、実際には希望する立地や物件によって異なるだろう。

調査結果ではどうなっているのだろう。
中古を購入してリフォームした人の全体の平均額は以下のとおりだ。( )内は首都圏と関西圏の平均額だ。
・物件購入費用 :3156.3万円(首都圏:4014.1万円、関西圏:2280.0万円)
・リフォーム費用:628.1万円(首都圏:513.9万円、関西圏:757.9万円)

もちろん、物件価格に重きを置いた人もいれば、安く買ってリフォームにお金をかけた人もいるだろう。
調査結果の特徴としては、広範囲に分散していることが挙げられる。画像2を見ると、物件購入費用は、「1000万円未満」~「5000万円以上」までそれぞれに分散しているし、リフォーム費用は、「300万~500万円未満」が半数近いものの「500万~700万円未満」~「1000万円以上」までそれぞれ分散している。

また、首都圏では物件購入価格が高くなる代わりにリフォーム費用を抑える傾向が見られ、関西圏ではその逆の傾向が見られるといった特徴もうかがえる。

【画像2】1)中古を買ってリフォームした人の物件購入費用 2)中古を買ってリフォームした人のリフォーム費用(数値自由回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年大型リフォーム実施者調査」より一部抜粋して転載)

【画像2】1)中古を買ってリフォームした人の物件購入費用 2)中古を買ってリフォームした人のリフォーム費用(数値自由回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年大型リフォーム実施者調査」より一部抜粋して転載)

中古+リフォームは、「築年数の古いものを安く買って、大がかりにリフォームをする」のか、「立地や広さなどにこだわる代わりに、リフォーム費用を抑えられる物件を選ぶ」のかなど、戦略的に選択できるという側面もあるわけだ。

購入+リフォーム、それぞれの費用はどうやって捻出する?

調査結果(複数回答)を見ると、物件購入費用は「住宅ローン」が62.0%、「自己資金」が52.2%だが、リフォーム費用は「自己資金」が66.3%、「(物件と合わせて借りる)住宅ローン」が22.8%、「リフォームローン」が9.8%となっている。ほかには、親などからの贈与や融資などがある。

物件購入費用で住宅ローンを使っていない人が4割近くいるということは、物件購入の全額を自己資金や親からの贈与などでまかなったということだろう。物件価格が1000万円未満や1000万円台であれば、それも十分可能だ。

つまり、どのように費用を捻出するかは、「自己資金や贈与などでどれだけの額を充当できるか」でかなり変わってくる。

中古+リフォームの費用については、物件購入費用には主に「住宅ローン」を活用し、リフォーム費用には「自己資金」や「親からの贈与」を活用するのが一般的だ。リフォーム費用は、追加工事が発生するなど変動する可能性が大きいので、柔軟に対応できる自己資金などを利用するほうが使い勝手がよいからだ。調査結果を見ても、リフォーム費用では圧倒的に自己資金が多くなっている。

「住宅ローン」は、住宅購入だけでなく、一定のリフォームでも利用できる。購入した物件を担保にするので、35年などの長期間の返済で、低金利で借りることができる。その分、審査に時間がかかったり、抵当権設定などの諸費用がかかったりする。

最近では、「中古住宅+リフォーム一体型」の住宅ローンも登場し、物件購入にリフォーム費用をプラスした金額を借りることができる事例も増えている。ただし、中古住宅を購入する段階で、リフォーム費用が確定している必要があるなど、購入とリフォームの見積もりを並行して行っていないと利用できないということがある。

一般的に「リフォームローン」なら無担保なので審査期間も短く、購入後にリフォームの見積額が確定してから申し込んでも間に合うなど、柔軟な対応がしやすい。ただし、住宅ローンに比べると借りられる額が少ない、返済期間が短い、金利も高めに設定されているといった違いがある。

こうしたローンの違いを理解したうえで、自己資金や贈与などでいくらまで住宅取得に充てられるのか、その額をどこで使うかというように検討し、それぞれの費用の捻出方法を決めるのがよいだろう。

「中古住宅を購入」して、入居前に「リフォームする」のは、決して簡単なことではない。それぞれ難易度が高いうえ、時間的な制約もあって効率よく進める必要があるからだ。一方で、自分の予算をどう振り分けるかといった選択肢が豊富なので、安く買って思い切ったリフォームをしたり、立地にこだわって手が届くものを探したりといったことも考えられる。それが楽しめるか、難しいと思うかは、人それぞれだろう。

「薪ストーブ」ブーム到来!? 暖かさだけではない、人気の理由を探ってきた

薪(まき)ストーブが“アツい”ようだ。書店をのぞくと入門書だけでなく、ストーブを使ったクッキングガイドや自分でつくるDIYマニュアルまでさまざまな書籍が並んでいる。そんな薪ストーブの魅力を体験してきた。
魅力その1「二次燃焼」と「輻射熱」&「対流」で高効率の暖房機能

薪ストーブの魅力を体験するために訪れたのは大阪府箕面市彩都にある「かぐら」。薪ストーブと関連アイテムのほか、木を素材とするさまざまな雑貨ショップを併設し、実際に薪ストーブ体験ができるお店だ。薪ストーブの炎を前にして代表の福井綱吉(ふくい・つなよし)氏にその魅力についてお聞きしてみた。

【画像1】「かぐら」(KJWORKS)代表の福井氏(写真撮影/井村幸治)

【画像1】「かぐら」(KJWORKS)代表の福井氏(写真撮影/井村幸治)

「かぐら」の店内にはたくさんの薪ストーブが展示されている。ヨーロッパ製ストーブはシンプルでモダンなデザインも多い。アメリカ製のストーブはガッチリとしてデコラティブ、調理も行えるスタイルが多い。

――お話を聞きながら炎のゆらめきを眺めているだけで、身も心も暖かくなってきますね。

福井さん:「薪ストーブは密閉された『火室(かしつ)』を持つことが特徴です。煙などの燃え残ったガスを火室の中で再燃焼させる二次燃焼システムによって効率よく熱を生みだすのです。この仕組みは排出する煙の量を少なくする効果もあり、排気煙量の少なさ・無煙化率を競う商品もたくさん登場しているんですよ」

【画像2】薪ストーブには豊富なバリエーションがある。左:いずれもアメリカ製の「ダッチウエスト」。中:白いカラーが特徴のアメリカ製「クワドラファイア」。右:左側の木製ラックの下はベルギー製の「ドブレ」。ブラウン管テレビのような形状が特徴(写真撮影/井村幸治)

【画像2】薪ストーブには豊富なバリエーションがある。左:いずれもアメリカ製の「ダッチウエスト」。中:白いカラーが特徴のアメリカ製「クワドラファイア」。右:左側の木製ラックの下はベルギー製の「ドブレ」。ブラウン管テレビのような形状が特徴(写真撮影/井村幸治)

―熱の伝わり方にも特徴があるそうですね。

福井さん:「燃焼で生じた熱はストーブ本体を暖め、輻射熱と対流によって部屋の空気を暖めていきます。鋳鉄製品の場合のように、その表面に凹凸をつくることで表面積を増やし、輻射熱を増しているストーブもあります。ストーブのデザインや使用している素材によって炎の強さや、薪の燃焼時間も違います」

「炎」の存在も大きいと感じる。ゆらめく光を見つめているとなぜだか癒やされる。ほっこりして、知らず知らずのうちに無心になってリラックスしている自分がいる。太古の昔、炎を手に入れたときからわれわれ人類のDNAに書き込まれた本能のようなものなのだろうか……。

【画像3】左:天板に置いたポットからの蒸気で室内を加湿。右:こちらは薪ストーブの熱を利用して発電し、モーターを回転させる「エコファン」(写真撮影/井村幸治)

【画像3】左:天板に置いたポットからの蒸気で室内を加湿。右:こちらは薪ストーブの熱を利用して発電し、モーターを回転させる「エコファン」(写真撮影/井村幸治)

魅力その2 薪ストーブで「クッキング」を楽しむ

「かぐら」の店内を見回すと目に入ってくるのがたくさんのクッキングアイテム。火室の中で使用する「ダッチオーブン」や「五徳」、ストーブ天板の上で使用する「ケトル」や「南部鉄瓶」、「エスプレッソマシン」、「鉄鍋」、「たこ焼き鉄板」など多種多様。薪ストーブはその熱を使って煮込む、焼く、揚げる、ゆでる、炒めるなどさまざまな調理に利用できる。

「火室に入れた五徳を利用してピザを焼き、お客様にお出ししたことがあります。『絶品ですね!おいしい!』と喜んでいただけたのですが、『コンビニで買ったピザなんですよ』とお伝えするとみなさんビックリ。薪の炎を見ながら、遠赤外線で焼きあげることでおいしく感じるのでしょうね。

また、サツマイモをぬれ新聞とアルミホイルで二度包みして火室に置くと焼き芋が簡単にできますし、同じようにしてミカンを焼くとマーマレードのようなトロトロの焼きミカンが出来上がります。そのほかシチューやカレー、おでんなどの煮込み料理はもちろん、アイデアと工夫次第でレシピは無限にあると思います。おでんがあまりに美味しくできるので、9月からエアコンをつけながら薪ストーブを使用する方もいるほどです(笑)」

マーマレードのような「焼きミカン」の味! ぜひ、体験してみたいものだ。

【画像4】遊び心をくすぐる、カラフルで機能的なクッキングアイテム(写真撮影/井村幸治)

【画像4】遊び心をくすぐる、カラフルで機能的なクッキングアイテム(写真撮影/井村幸治)

魅力その3 薪割りや交流会を通じて仲間ができる

薪ストーブの燃料となる薪はしっかりと乾燥させた原木を適切な大きさに切りそろえておく必要がある。「かぐら」では一束500円程度で良質な薪の販売もしているそうだが、基本的には薪ストーブユーザー自身で薪を割り調達するライフワークを大切にしているそうだ。

「薪ストーブを設置されたご家族には『薪割り会員』となっていただき、ショップに併設した薪割り専用のスペースとツールをご提供しています。専用マシン「ティンバーウルフ」を使って薪割りを行っていただいています(MY斧は各自持参)。薪割りは斧を力任せに使うのではなく、斧自体の重量を活かして割るのがコツ。男性は力が入りすぎて要領の悪い人が多いのですが、女性のほうが反対に上手に使いこなしていますよ」

ショップにはたくさんの種類の斧や専用のグローブ、エプロンなども用意されている。こうしたグッズをそろえ、薪割りの腕を磨いていくことも楽しみのひとつになりそうだ。

「薪ストーブでつながった仲間ができることは大きな魅力のひとつです。購入前の体験会、設置後の薪割りやオーナー向けイベントを通じて親しくなるケースもたくさんあります。汗を流して薪割りをしていると、自然と仲間意識が芽生えますよね。お客様同士で集まって薪ストーブパーティーを開くことも多いようですよ」

同じ趣味を持つ仲間が増える、それも『薪ストーブのある暮らし』がもたらしてくれる魅力のひとつだろう。

【画像5】左:体験会も仲間ができるきっかけになりそう。右:店内には薪割り用の斧などのツールもたくさんそろっている(写真撮影/井村幸治)

【画像5】左:体験会も仲間ができるきっかけになりそう。右:店内には薪割り用の斧などのツールもたくさんそろっている(写真撮影/井村幸治)

【画像6】左:ストックしてある薪。右:薪割り専用機「ティンバーウルフ」を使用してスタッフの方が薪を割っていた。この機械もレンタル利用ができる(写真撮影/井村幸治)

【画像6】左:ストックしてある薪。右:薪割り専用機「ティンバーウルフ」を使用してスタッフの方が薪を割っていた。この機械もレンタル利用ができる(写真撮影/井村幸治)

薪ストーブを住宅に設置するには 

 
「薪ストーブっていいなぁ」と思ったときに、気になるのは自宅に設置が可能なのかどうか。
薪ストーブのある暮らしを満喫するのなら、新築住宅の建築の際に設置するのがベストだろう。
「これから新築住宅を建てるお考えであれば、当初から薪ストーブを中心にすえたプランニングをお薦めします。気密・断熱性能を高め、太陽の光や自然の風などの自然エネルギーを利用するパッシブデザインを取り入れることで、エコで快適な暮らしを実現させることが可能です。「かぐら」の母体は木の家づくりの工務店『KJ WORKS』ですが、薪ストーブ専用住宅として『E-BOX』という提案型住宅もご提供しています」

では既存の建物には薪ストーブを設置できないのだろうか?
「煙突の設置と炉台や炉壁と呼ばれる本体まわりの工事が行える間取りや構造であれば、古民家や中古住宅にも技術的には設置することは可能です。ただ、気密&断熱性能が良くない建物では暖房効果は薄まります。また、煙が問題となり住宅密集地では設置が難しいケースもあります。実際に建物と周辺の確認を行ったうえでの判断となります。煙の問題をクリアする方法として、おがくずなどを圧縮熱成形した燃料を使用するペレットストーブもあります」と福井氏。

排出する煙を極力減らすための改良が進んでいるとしても、周辺への配慮も必要となるということだろう。

【画像7】「かぐら」には、木のぬくもりと薪ストーブを体験できる『KJ WORKS』のモデルハウスが併設されており、薪ストーブ専用住宅「E-BOX」では宿泊体験も可能(写真撮影/井村幸治)

【画像7】「かぐら」には、木のぬくもりと薪ストーブを体験できる『KJ WORKS』のモデルハウスが併設されており、薪ストーブ専用住宅「E-BOX」では宿泊体験も可能(写真撮影/井村幸治)

【画像8】左:体験会では着火や薪補給を行いながら注意点を解説。右:「灰の掃除は?」「煙突の高さは?」「屋根の勾配は?」など熱心な質問が飛び交う(写真撮影/井村幸治)

【画像8】左:体験会では着火や薪補給を行いながら注意点を解説。右:「灰の掃除は?」「煙突の高さは?」「屋根の勾配は?」など熱心な質問が飛び交う(写真撮影/井村幸治)

最初の取材の後、1月14日に行われた「薪ストーブ体験会」にも参加させていただいた。当日は西宮市でログハウスにお住まいのご家族と、吹田市でこれから新築住宅を建てられるご夫婦の2組が参加され、薪ストーブを前にして熱心なやり取りが行われた。Webや雑誌を通じてかなり勉強をされていたようだが、実際にストーブや薪を前にしての質疑応答はとても参考になった様子。来シーズンはきっと2組とも「薪ストーブライフ」を楽しんでいることだろう!

みなさんも「薪ストーブライフ」に興味を抱かれたなら、まずは体験会などに参加してみることをお勧めする。

●取材協力
・かぐら、KJ WORKS

いつ、何からやる!? 失敗しないリフォーム、基本の流れ15カ条

自宅をリフォームしたいけれど、いつ何をしたらよいのかわからないという人は多いはず。そこで、賢くスムーズに進めるための“キホンの知識”を、リフォームの流れに沿って解説しよう。
【1】要望をまとめるコツは「不満」と「要望」をくっきり分けること

水まわりを一新したい、リビングを広くしたいなどさまざまな要望があると思うが、ランダムに書き出していくと整理がつかなくなりがち。コツは「不満」と「要望」に分けること。ただ、リフォームは構造の都合でできないこともあるので、以下を参考に要望をまとめよう。

【画像1/一戸建て・マンションリフォームで、できること・できないこと】

【画像1/一戸建て・マンションリフォームで、できること・できないこと】

【2】先を見越して「リフォーム資金の計画」を立てよう

年齢を理由にローンを組むのは避けたいと考え、手持ちの現金内でリフォームしようとする人は多い。しかし、予算の都合でバリアフリー化を諦めたものの、数年後にやむなく実施するケースも。二度手間やダブルコストにならないよう、先を見越して計画を立てよう。

【3】リフォームで使えるローンは2種類。違いを知り賢く選ぼう

リフォームで使えるローンは、住宅ローンとリフォームローンの2種類。ローンは気持ち的に避けがちだが、リフォームローンは住宅ローンとの併用も可能。リフォームローンは無担保で借り入れができるなど、それぞれにメリットが(下記参照)。違いを知って賢く使いたい。

リフォームで使えるローンの種類

●住宅ローン
リフォームをする住宅を担保に借りるローン。一般的にリフォームローンより大きな金額を借りられる上、金利が低いケースが多い。
また、35年など返済期間を長期間にできる点もメリット
●リフォームローン
無担保で借りられるケースが多く、現在返済中の住宅ローンがあっても利用できるため、借入額が少ない場合には魅力。
手続きは簡単だが、住宅ローンより金利は高めで、返済期間は5~15年程度と短い【4】国と自治体にはおトクな制度がたくさんある!

リフォーム内容によっては、国や自治体から補助金が出る(下記参照)。また、リフォームローンによる減税や、親や祖父母からのリフォーム費用の贈与が非課税になる制度も。リフォーム内容が該当するかどうか、情報誌やネットで条件や申請時期をチェックしておこう。

リフォーム内容別・おトクな制度

●省エネ
自分が住む家の窓、床、壁、天井の断熱改修工事をすると対象となる
●バリアフリー
手すりの設置や床の段差解消で減税。介護保険による補助金制度もある
●耐震
一定の耐震補強工事で減税。耐震診断や補強工事費を一部補助する自治体も
●同居対応
キッチン、浴室、玄関などのいずれかを増設し、2室以上が複数になると減税
●耐久性向上
省エネ改修などと併せて耐久性向上改修を行い、長期優良住宅の認定で減税【5】予算を組むときは、1割ほど余裕をもたせておく

築年数が古い一戸建てはリフォームに着手しないと状態がわからないケースもあり、着手後に耐震補強や屋根・外壁の補修などの工事が必要になるなど、当初の予算を上回ることも。リフォーム会社に現場調査を入念に行ってもらい、予算は1割ほど余裕をもたせておくと安心。

【6】“自分に合うか”は会社の雰囲気や対応を体感して判断しよう

リフォームは既製品を買うのではなく、一緒につくりあげるもの。依頼先候補のショールームや見学会に行ったとき、設備や施工例だけでなく、会社の雰囲気や担当者の対応、現場監督や工事職人の人柄を肌で感じると、自分に合う会社かどうかを判断しやすい。

【7】相場を知るために、現場調査は2~3社に依頼したい

家によって状況は異なるので、正確な見積作成に「現場調査」は欠かせない。まずは現場調査に来てもらいたい日をピックアップして、気になる会社に調査を依頼しよう。調査自体は数時間程度。プランやコストは適切かを確認するために2~3社には依頼したい。

【8】予算を伝えるときには「金額」と「やりたい」ことに幅をもたせて

現場調査では「キッチンだけのリフォームなら300万円、間取りも変えるなら500万円程度」など、金額とやりたいことに幅をもたせて伝えると複数の提案を受けやすい。伝え忘れがないよう要望をまとめたメモを用意し、今の暮らしを見てもらうために片付け過ぎに注意を。

現場調査で伝えること

●間取りや設備の要望
イメージに近い写真を用意して渡そう
●今の暮らしや家の不満
暑い、寒い、暗いなど思いつくままでOK
●予算
300万円から500万円など幅を持たせて
●工事の希望時期
いつまでに工事を終えたいか具体的に【9】予算オーバーしたら、金額に応じた調整方法を考える

提出された見積もりが予算オーバーしている場合、数十万円程度なら機器のグレード変更やオプションの見直しで調整できる。大幅にオーバーしているなら、リフォームする範囲を狭くすることを検討しよう。または、ローンを借りて予算アップをするのも手。

【10】仮住まいするかどうかは生活の不便さや工事期間で決めよう

工事期間はリフォームの規模や内容で異なる(下記参照)。住みながらのリフォームは音やホコリが気になったり、水や電気が使用できなかったりすることも。仮住まいは費用がかかるが工事を気にせず生活できる。仮住まい先を紹介してくれる会社もあるので相談してみよう。

リフォーム工事期間の目安

・和室を洋室に、押入れをクロゼットに   約3日間
・和式トイレから洋式トイレに交換      約4日間
・システムバスと洗面化粧台を交換      約6日間
・キッチンを壁付けから対面式に       約7日間
・隣接する和室を取り込んで広いLDKに    約2週間
・耐震補強+二世帯住宅に          約3カ月間

(※上記は、商品を用意してからの工事期間)

【11】1社に決めるときは、担当者、技術力、アフターサービスも確認

依頼先を決めるときに、見積もりやプランの比較はとても大事。しかし、先輩たちはそれ以外のポイントも重視して決めている。担当者と会話を重ねる、アフターサービスの内容を聞いておく、施工例を見せてもらうなど、複数の視点で1社に決めたい。

【12】契約時には、後から変えると金額に影響するものを確認しよう

契約時には複数の書類が用意される(下記参照)。契約後、プランや設備・建材を大幅に変更すると工期が延びたり、費用がアップするので確認は念入りに。ただ、壁紙の種類や造作の色の変更は契約後でも影響がないケースも。気になる人は確認しておこう。

契約時の書類とチェックポイント

●契約書
工事内容、工事金額と支払時期、工事期間などが記載されている。打ち合わせ通りの内容かもれなく確認しよう
●設計図面
リフォーム内容により間取図(平面図)、造作棚のつくりがわかる展開図、設備の仕様がわかる設備図などが用意される
●仕上仕様書
内装・外装材など、仕上げに関する材料の名称や型番が書かれた書類。選んだ商品と間違いがないかチェックしよう
●工事日程表
解体工事、木工事、設備工事、内装工事など、工事項目ごとに日程が記載。契約書の工事期間と照合しておきたい
●契約約款
契約書内に記載がある場合も。特に、工事保証の内容、トラブル発生時の解決法は必ず目を通しておこう【13】支払いタイミングを事前に確認して、口座に用意しておこう

リフォーム代金の支払いタイミングは、リフォーム規模や会社によって異なる。数十万円程度の場合は工事完了後に一括で支払うケースが多いが、数百万円と大規模になる場合、複数回に分けて支払うことも。契約時に必ず確認して、銀行口座に用意しておこう。

【14】工事現場に行くのは、設備や棚の設置時と塗装開始時がオススメ

大規模リフォームの場合、設備機器や造作棚の設置時と、塗り壁の場合は塗装開始時に工事現場に足を運ぶのがオススメ。設備機器の品番や色の確認をし、塗り壁は塗装面積によって雰囲気が変わるためイメージと近いかをチェックしたい。

【15】完成検査は丁寧に隅々まで行いトラブルを回避しよう

工事終了後、契約内容通りの仕上がりになっているかをチェックする「完成検査」を行う。引き渡し後に傷や故障に気がついても補修が受けられない場合もあるため、特に住みながらリフォームした場合、慌てて荷物を動かしたりせず、点検してから使い始めよう。

【画像2/完成検査のチェックリスト】

【画像2/完成検査のチェックリスト】

リフォームの流れに沿って“すること”を具体的に把握していくと、バタバタと慌ててしまったり、うっかり忘れてしまったり…ということを防げる。紹介した15項目を参考にして、リフォームをスムーズに進めよう!

文/山南アオ

●取材協力
監修/佐川旭(佐川旭建築研究所)

あの人のお宅拝見[7] ガーデ二ング誌の編集者が家族と造り上げた、庭を愉しむ住まい

住宅業界のプレス発表会には、いつもすてきないでたちでいらした大先輩・横山禎子(ていこ)さん。昨年、71歳でガーデニング誌『BEISE(ビズ)』編集者としての現役を引退されたと聞き、念願のご自宅への訪問がかなった筆者。子育てと仕事を⻑年両立してきた、横山さんの興味深い半生記もお伺いすることができました。連載【あの人のお宅拝見】
『月刊 HOUSING』元編集⻑など住宅業界にかかわって四半世紀以上のジャーナリストVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。庭を愛する人は、家のクオリティにも妥協がない

横山さんのお住まいがあるのは東京都下町田市の緑が残る山の手住宅地。門扉からも階段が続く高台立地。

【画像1】取材当日は秋景色。花が終わっていたので、後日送っていただいた夏の写真が右。アガパンサスの⻘い花が両脇に(写真撮影/(左)片山貴博・(右)横山さん)

【画像1】取材当日は秋景色。花が終わっていたので、後日送っていただいた夏の写真が右。アガパンサスの⻘い花が両脇に(写真撮影/(左)片山貴博・(右)横山さん)

【画像2】タイル張り外壁に上げ下げ窓(米国マービン社製)、瀟洒(しょうしゃ)な外灯、趣のあるテラコッタ製ベンチ……と、期待値が上がるエントランス(写真撮影/片山貴博)

【画像2】タイル張り外壁に上げ下げ窓(米国マービン社製)、瀟洒(しょうしゃ)な外灯、趣のあるテラコッタ製ベンチ……と、期待値が上がるエントランス(写真撮影/片山貴博)

そして、迎えられた玄関の迫力に圧倒された!

昨今、一戸建て住宅なのにマンションのようなシングルドアの玄関が多いことを残念に思う筆者としては、この両開きの扉を見て「流石、横山さん!」と感激。家に想いがある人かどうかは、玄関に表れるもの。

【画像3】オークむく材、両開きのフレンチドアは米国製。開閉時の音に重厚感があるのは高級車と同じ感覚(写真撮影/片山貴博)

【画像3】オークむく材、両開きのフレンチドアは米国製。開閉時の音に重厚感があるのは高級車と同じ感覚(写真撮影/片山貴博)

玄関を入ると、2階への吹抜け階段とステンドグラスのリビングドアから陽が入り、明るいホールになっていました。

【画像4】亡き夫、版画家・横山皓一氏の作品がエントランスホールでお出迎え(写真撮影/片山貴博)

【画像4】亡き夫、版画家・横山皓一氏の作品がエントランスホールでお出迎え(写真撮影/片山貴博)

リビングドアの先に広がっていたのは、構造梁(はり)を見せた木質感たっぷりのリビング&ダイニング。大きな植物が豊かなインドア・ガーデンと、大きな出窓の向こうにはお庭の緑も見えます。

【画像5】ケヤキの大黒柱が中央に。煖炉も備え付けられ、ノスタルジックなインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像5】ケヤキの大黒柱が中央に。煖炉も備え付けられ、ノスタルジックなインテリア(写真撮影/片山貴博)

横山さんのお気に入り、窓辺の庭が眺められる特等席でお話を伺いました。

版画家のご主人がアトリエを拡張したい時期でもあった二十数年前、この家の建築を計画されたそう。「夫は建築が好きだったし、建材・設備選びは洋書などからアイデアを集めてね。庭もほとんど自分たちの手で造り上げたの」

【画像6】「この家は21年前、50歳のころに建てたの。実は29歳のときに最初の家を建ててうまく売れて(笑) 、2度目の家づくりだから、夫と2人で相当こだわりましたよ」(写真撮影/片山貴博)

【画像6】「この家は21年前、50歳のころに建てたの。実は29歳のときに最初の家を建ててうまく売れて(笑) 、2度目の家づくりだから、夫と2人で相当こだわりましたよ」(写真撮影/片山貴博)

【画像7】「大きな植物を育てるために、吹抜けをつくったの」と横山さん。インドア・ガーデンで、ケンチャヤシがすくすくと3m以上に育っている(写真撮影/片山貴博)

【画像7】「大きな植物を育てるために、吹抜けをつくったの」と横山さん。インドア・ガーデンで、ケンチャヤシがすくすくと3m以上に育っている(写真撮影/片山貴博)

植物のために設計するなんて、ガーデニング誌の編集者らしいと思いきや、「ここは『BISES』の編集部に入る前なの。元々、私はファッション誌の編集から始まってね……」と、私の知らなかった横山さんのキャリア話。

50 年近く前、女性の就職先など選べる時代では無かったころ。「私は最初から雑誌の編集がやりたくて、やっとの思いで就職できたのが『服装』というファッション誌の編集部。当時の出版社は徹夜なんて当たり前で、結婚するか仕事するかの選択だったわね」

そんな時代に、「人生、何事も楽しみたいと思って」結婚・出産と仕事を両立してきた横山さん。「でもさすがに、徹夜仕事と子育ては無理なので退職しました」

その子育て中、子どもとの庭いじりで精神的安らぎを得られた経験も次のキャリアにつながったのだそう。「子育てママ向けの『sesame(セサミ)』という雑誌が創刊され、ママの居ない編集部からお声がかかって」5時までの実質契約社員として出版社に復帰、ママとしての読者視点で企画を実現していったそうです。

子育て後にはがんも経験し、ガーデニングの世界へ没頭

お話しの続きは、お庭に出て伺うことにした。

【画像8】花は少ないなか、紅葉が進み始めたお庭。⻩色のオーニング(可動式の日よけ)はオランダ製、夏にはテラス全体を日陰にすることもできる(写真撮影/片山貴博)

【画像8】花は少ないなか、紅葉が進み始めたお庭。⻩色のオーニング(可動式の日よけ)はオランダ製、夏にはテラス全体を日陰にすることもできる(写真撮影/片山貴博)

「この家を建てた50歳のころ、がんが発覚して手術入院したのね。だけど、病院からFAXで原稿のやり取りをしていたわ(笑) 凄いわよね!」とさらりと話され、面食らった筆者……既に20年経過し、完治したそうで何より。

ちょうど、同じ出版社から創刊されて注目していたガーデニング誌『BISSE』。「今だからこそやりたいのは、これだ!」と、横山さんは編集⻑に手紙を書き、以来20年間、編集⻑の片腕として日本のガーデニング文化を担われてきました。

【画像9】ガーデン・ファニチャーを置いてくつろげるお庭は、正にアウトドア・リビング(写真撮影/片山貴博)

【画像9】ガーデン・ファニチャーを置いてくつろげるお庭は、正にアウトドア・リビング(写真撮影/片山貴博)

「雑誌をつくるときは、自分なら何を見たいか?って考えると、次々にやりたいテーマが出てきてね。またそれを家で実践して楽しんでたの」。自分が好きな事だから良い仕事ができて、結果、⻑く続けられるという好例ですね。

「この石畳(【画像10】)も、基礎の砂利から自分たちでやったのよ。夫が指示するように、私と息子が動いてね」

【画像10】素人仕事には見えない石畳。自然に生えたコケが雰囲気ある小径(こみち)、庭の奥へと続く(写真撮影/片山貴博)。右写真は夏、アジサイの一種ノリウツギが咲いている写真(横山さん撮影)

【画像10】素人仕事には見えない石畳。自然に生えたコケが雰囲気ある小径(こみち)、庭の奥へと続く(写真撮影/片山貴博)。右写真は夏、アジサイの一種ノリウツギが咲いている写真(横山さん撮影)

ガーデ二ング取材の経験は、自邸で随所に活かされていて見どころが満載。

【画像11】「庭は外の街並みとの調和も大切なので、できるだけ日本の樹木を植えています」(写真撮影/片山貴博)

【画像11】「庭は外の街並みとの調和も大切なので、できるだけ日本の樹木を植えています」(写真撮影/片山貴博)

【画像12】英国っぽい小物やバードバス、ガーデン愛好家なら「いいね!」したくなるさり気なさ(写真撮影/片山貴博)

【画像12】英国っぽい小物やバードバス、ガーデン愛好家なら「いいね!」したくなるさり気なさ(写真撮影/片山貴博)

【画像13】「夫はお昼から、ここでビールを愉しんだりして……創作活動は室内にこもるから、庭で季節を感じ ることは彼にとって大切だったのね」と、思い出を語ってくれた(写真撮影/片山貴博)

【画像13】「夫はお昼から、ここでビールを愉しんだりして……創作活動は室内にこもるから、庭で季節を感じ ることは彼にとって大切だったのね」と、思い出を語ってくれた(写真撮影/片山貴博)

「田舎風が好きなの」 こだわりのキッチンはフレンチ・カントリー

お庭を見て回り、お部屋に戻ると「こちらで休憩してちょうだい」と、庭に面したダイニングへ案内してくださった。

【画像14】木製家具の温かみあるダイニング&キッチン(写真撮影/片山貴博)

【画像14】木製家具の温かみあるダイニング&キッチン(写真撮影/片山貴博)

カウンターの向こうに見えるのは、コの字型の広いキッチン。「キッチンはタイル張りにしたかったの。大好きなアルハンブラ宮殿からインスピレーションを受けた“ブルー&イエロー”がテーマカラーです」

【画像15】タイル(フランス製)と調理器具や小物も“ブルー&イエロー”でそろえられてすてき!(写真撮影/片山貴博)

【画像15】タイル(フランス製)と調理器具や小物も“ブルー&イエロー”でそろえられてすてき!(写真撮影/片山貴博)

【画像16】水栓はオリュス社(フランス)のクラッシックデザイン。珍しいカラーシンクと共にフレンチ・カントリーなテイスト(写真撮影/片山貴博)

【画像16】水栓はオリュス社(フランス)のクラッシックデザイン。珍しいカラーシンクと共にフレンチ・カントリーなテイスト(写真撮影/片山貴博)

【画像17】洗面サニタリーでは、キッチンと同じタイルを大判のタイルと組み合わせたデザインに(写真撮影/片山貴博)

【画像17】洗面サニタリーでは、キッチンと同じタイルを大判のタイルと組み合わせたデザインに(写真撮影/片山貴博)

子育てと忙しい編集の仕事をもちながら「原稿を家に持ち帰ってでも、夕食は家族と共にしていました」と横山さん。このキッチンを見れば、庭づくりだけでなくお料理も相当お上手なのが分かります。

【画像18】キッチンでコーヒーを入れながら、こだわって選んだキッチンの建材についても興味深いお話が(写真撮影/片山貴博)

【画像18】キッチンでコーヒーを入れながら、こだわって選んだキッチンの建材についても興味深いお話が(写真撮影/片山貴博)

キッチン天板は御影石。「天然石なので食器を落としたら割れるのよ。だから優しく扱わないといけないの、粗雑な私が治っていいのよね」。そういう考え方、筆者は共感するところ! 余りにも簡単で便利で安くなり過ぎると、物の扱いが雑になるんですよね。

しばらく話していると、「私はおやつに甘いケーキより、こんなキッシュのほうが好きなの」と、オリーブを添えて運んでくださった。

【画像19】気候が良いときは、お庭のテーブルで休憩されるそう。お茶でなく、「ホットワインが好きでね」と横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像19】気候が良いときは、お庭のテーブルで休憩されるそう。お茶でなく、「ホットワインが好きでね」と横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像20】温かいホットワインをキッシュと共にいただき、身も心も温まって幸せ満開の筆者!(写真撮影/片山貴博)

【画像20】温かいホットワインをキッシュと共にいただき、身も心も温まって幸せ満開の筆者!(写真撮影/片山貴博)

落ち着いたインテリアの中、バイオリンのクラシック音楽と共に聞こえていたのは、水槽の優しく心地良い水の音。

【画像21】ご家族写真の下にある水槽。「夫が家での時間が⻑いから、何か生き物が居ると良いと思って飼った熱帯魚なの」(写真撮影/片山貴博)

【画像21】ご家族写真の下にある水槽。「夫が家での時間が⻑いから、何か生き物が居ると良いと思って飼った熱帯魚なの」(写真撮影/片山貴博)

お話の随所で亡きご主人との思い出話が出てきて、まだその存在も感じられるお住まいでした。お二人で丹精こめて造り上げた家と庭、文字通り素晴らしい“家庭”を築かれた横山さんのお話に感動しきり。

【画像22】Quality of Life、豊かな住生活を営むお手本の横山さん(写真撮影/片山貴博)

【画像22】Quality of Life、豊かな住生活を営むお手本の横山さん(写真撮影/片山貴博)

20代から50代の好奇心と行動力で走り切った半生と、今70代で新たなステージを歩み始めた横山さんのこれからを、ロールモデルとして私は追いかけて行きたいと思いました。

横山禎子
1946年愛媛生まれ。婦人生活社で『服装』『sesame』など雜誌編集者として第一線で活躍。23歳で結婚。『sesame』では子育てママの実体験を通じた読者視点の企画が好評を博す。50歳でガーデニング誌『BISES』(2017年1月発行号にて休刊)の編集に加わり20年間、庭のあるライフスタイルの魅力を提案し日本のガーデニング市場を牽引してきた。現在は地元で里山の保全やフットパスのNPO活動、山歩きなどを楽しむ。

「リノベ・オブ・ザ・イヤー2017」 13の受賞作品から見えた4つのトレンド

今年で5回目を迎える「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2017」の授賞式が2017年12月14日に開催され、「この1年を代表するリノベーション作品」が決定しました。住宅から商業施設までさまざまな作品はどれも、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれます。その最新傾向を探ってみました。
価値ある建物を残すこと。それがリノベの王道

リノベーション・オブ・ザ・イヤーとは、「リノベーションの楽しさ、魅力、可能性」を感じさせる事例作品を表彰する、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会主催のコンテスト。リノベーションとは、建物の性能を向上させたり、本来よりも価値を高めたりすることですが、「中古住宅を購入してリノベで自分らしい家に変えたい!」「魅力的なリノベ済み住宅が欲しい!」という施主の希望は年々高まり、多くのリノベーション住宅が登場しています。

今年はエントリー作品155のなかから、グランプリ1作品、部門別最優秀作品賞4作品、特別賞8作品が選ばれました。まず、グランプリと部門別最優秀作品賞の特徴を紹介します。「どれがグランプリに選ばれてもおかしくなかった」という審査委員評が上がったように、いずれもクオリティの高い作品が選ばれています。

●総合グランプリ
『扇状のモダニズム建築、桜川のランドマークへ』 株式会社アートアンドクラフト

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【画像1】阪神高速道の湾曲したフォルムに沿うように扇状にデザインされた外観が目を引くモダニズム建築。1、2階は店舗、3、4階はクリエイター向けのアトリエ兼住居に(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)

【画像1】阪神高速道の湾曲したフォルムに沿うように扇状にデザインされた外観が目を引くモダニズム建築。1、2階は店舗、3、4階はクリエイター向けのアトリエ兼住居に(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)

国が推奨する優良住宅として1958年に建築された「併存住宅」。長年、桜川のランドマーク的な建物として親しまれてきました。老朽化のため建て替えを検討されていましたが、プランナーの「長年、街の風景の一部となってきた建物は壊さず残したい」というあつい想いによってリノベーションで生まれ変わることに。

「建物への愛情やリスペクトを感じる事例」「価値あるものを残すことこそリノベーションの王道。それを卓越したリノベーションスキルで叶えている。老朽化した設備をよみがえらせる技術力、過剰にならないよう慎重に練られたデザイン力、個性的なテナントを選ぶマーケティング力などで、高いハードルをクリアした」と高評価。
◎エリア:大阪府、築年数:59年、延床面積:1128.57m2、費用:1億2550万円(税込)、対象物件:店舗・事務所・共同住宅

●部門別最優秀作品賞〈1000万円以上部門〉
『光、空気、気配、景色。すべてが一つにつながる − 代沢の家(YKK AP×HOWS Renovation×納谷建築設計事務所)』 YKKAP株式会社

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【画像2】隣地の緑を暮らしに取り込むように窓を配置。1、2階がつながり、風や光、家族の気配を伝えています。断熱性能を高めた家だから実現した広がりのある空間です(画像提供/YKKAP株式会社)

【画像2】隣地の緑を暮らしに取り込むように窓を配置。1、2階がつながり、風や光、家族の気配を伝えています。断熱性能を高めた家だから実現した広がりのある空間です(画像提供/YKKAP株式会社)

築30年でありながら、2020年に義務化される次世代省エネルギー基準を上回る断熱性を実現した家です。窓メーカーのYKK APがリビタのリノベーション事業「HOWS Renovation」とコラボレーション。高性能樹脂窓、高断熱材への入れ替えなどによって高い断熱性を確保し、省エネ設備や太陽光発電の設置によってゼロエネルギーハウス化も達成。開口部耐震フレームの採用や耐力壁の増加によって耐震性も高めています。

築年数のたった家でも工夫次第で新築以上の性能を得られることを実証しています。広い開口部は、日の光が入って明るく、開放的なので魅力がある反面、断熱性と耐震性にとってウィークポイントになりがちですが、開口部を残したまま性能を格段に高めている点で「リノベでここまでできる」と改めて気づかされます。

今後、中古住宅の性能面での向上のために、リノベーションが目指すべき指針的な作品とも言えるでしょう。
◎エリア:東京都、築年数:30年、施工面積:144.38m2、費用:3300万円(税込)、対象物件:一戸建て

●部門別最優秀作品賞〈1000万円未満部門〉
「マンションでスキップフロアを実現 ~上下階を利用したヴィンテージハウス~」 株式会社オクタ

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【画像3】スキップフロアはワークスペースと収納の2層構造。濃淡のあるウォールナットの床、白く塗ったアンティークブリックの壁など、施主の要望に応え切ったこだわりの内装です(画像提供/株式会社オクタ)

【画像3】スキップフロアはワークスペースと収納の2層構造。濃淡のあるウォールナットの床、白く塗ったアンティークブリックの壁など、施主の要望に応え切ったこだわりの内装です(画像提供/株式会社オクタ)

完成度の高いラフで無骨な内装に加えて、マンションではなかなか見ることのないスキップフロアの間取りに、「楽しくなる住まい。暮らしを楽しく変えるのはリノベの目的の一つで、リノベの使命を改めて感じさせる作品だった」と高い評価を受けました。

縦の広がりを活かしたプランは、広さの限られたマンションでの空間活用術として、今後広がっていくのではないかと思います。
◎エリア:東京都、築年数:41年、施工面積:36.31m2、費用:500万円(税込)、対象物件:マンション

●部門別最優秀作品賞〈500万円未満部門〉
「ツカズハナレズ」 株式会社シンプルハウス

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【画像4】上/子ども部屋の壁は天井下に隙間を設けて抜け感をつくり、圧迫感を排除。下/ヴィンテージ風塗装のパイン床と針葉樹の壁に、コンクリート表しにした天井で、無骨で個性ある空間に仕上がっています(画像提供/株式会社シンプルハウス)

【画像4】上/子ども部屋の壁は天井下に隙間を設けて抜け感をつくり、圧迫感を排除。下/ヴィンテージ風塗装のパイン床と針葉樹の壁に、コンクリート表しにした天井で、無骨で個性ある空間に仕上がっています(画像提供/株式会社シンプルハウス)

「子ども部屋をオープンにかつ間仕切りたい」という相反する要望に応え、リビングに隣接した2つの空間に扉を設けず、いつも家族がつながる間取りにしています。

リノベーションというと、リビングや水まわりがメインテーマになりがちですが、子ども部屋を中心に考えている点、家族の関係性がリノベーションで表現されている点が注目されました。また、約60m2のマンション全体を498万円で仕上げるのは難易度が高いと思われますが、そうした点も評価のポイントとなりました。
◎エリア:兵庫県、築年数:19年、施工面積:65.80m2、費用:498万円(税込)、対象物件:マンション

●部門別最優秀作品賞〈無差別級部門〉
「流通リノベとシニア団地」 株式会社タムタムデザイン

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【画像5】上/団地の1階とは思えない、おしゃれな内装のデイサービス。無垢材をふんだんに用いたぬくもりある施設に、利用者の方々は心和むのではないでしょうか。下/イートインできる惣菜店ではオーナーが健康相談も行っています(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

【画像5】上/団地の1階とは思えない、おしゃれな内装のデイサービス。無垢材をふんだんに用いたぬくもりある施設に、利用者の方々は心和むのではないでしょうか。下/イートインできる惣菜店ではオーナーが健康相談も行っています(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

UR団地の1階に入るデイサービス施設と惣菜店。元作業療法士であるオーナーがケアマネージャーとして立ち上げた施設と店舗です。惣菜店にはイートインと健康器具コーナーを併設し、健康相談やデイサービスへの入所案内も行っているそうで、地域住人が集う新たなコミュニティの場となっています。

さらに、このリノベーションに当たっては、商品として流通できない「林地残材」を施主が直接購入してリノベに活用するという、新たな木材の流通経路を開拓しています。

リノベーションを通じて、高齢化しつつある地域社会だけでなく、林業という地元産業をも元気にしていく取り組みがなされ、社会的課題の解決手法の有効な方法として大きな可能性を示しています。
◎エリア:福岡県、築年数:42年、施工面積:216.19m2、費用:3200万円(税込)、対象物件:店舗と福祉施設

リノベが毎日の満足度だけでなく、生き方をも変える

リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、住宅メディア関係者を中心に編成された選考委員によって「今一番話題性がある事例・世相を反映している事例は何か」という視点で選考されるため、年によって受賞作品の傾向がさまざまに変化します。昨年や一昨年は、「空き店舗を住宅として再生」「インバウンド向けの宿として活用」「DIYリノベ」「団地再生」「住宅の基本性能を格段に高めるリノベ」などが特に目立っていましたが、今年はどんな傾向があったのでしょうか。

グランプリ、部門別最優秀作品賞4作品のほかに、8作品が特別賞を受賞しています。今年の審査員特別賞には「超高性能エコリノベ賞」「公共空間活用リノベ賞」「グッドコンバージョン賞」などがあり、個々の受賞作品や部門名からも分かるとおり、リノベーションの領域は広く、果たす役割は多様であることを示しています。今年は特に次の4つのトレンドに注目しました。

(1)施主の「こんな暮らしがしたい!」というあつい想いに応える

「リノベーションを選ぶお施主さんは感度の高い人が多く、要望のレベルが年々高くなっている」という審査委員評があったように、今年は「こんな暮らしがしたい」といった、コンセプトが明確な施主が多かったように思います。つくり手は、施主の要望に正面から向き合い、形にしていく手腕が求められますが、見事に応えた作品が目立ちました。

【画像6】素敵ライフスタイル賞『てとてと食堂、はじめます。』(画像提供/株式会社リビタ)

【画像6】素敵ライフスタイル賞『てとてと食堂、はじめます。』(画像提供/株式会社リビタ)

『てとてと食堂、はじめます。』は、自宅マンションで料理教室や食事会を開催したいという施主の思いを叶えるべく、キッチンを中心にした住まいに。リノベーションが働き方まで変えてくれることを証明したような事例です。

【画像7】こだわり実現賞『アパレル夫妻の23年分の想い』(画像提供/株式会社ニューユニークス)

【画像7】こだわり実現賞『アパレル夫妻の23年分の想い』(画像提供/株式会社ニューユニークス)

『アパレル夫妻の23年分の想い』は、多趣味なご夫妻の「思い出の品や好きな物はいつも見ていたい」という想いを壁一面の棚で叶えました。色使いを含む高いデザイン力が発揮されています。

【画像8】グッドコンバージョン賞『銀行を住まいに コンバージョン』(画像提供/株式会社オレンジハウス)

【画像8】グッドコンバージョン賞『銀行を住まいに コンバージョン』(画像提供/株式会社オレンジハウス)

『銀行を住まいに コンバージョン』では、「合宿所のような家が欲しい、将来カフェを開きたい」という希望を叶えるべく、施主が選んだのは、銀行として使われた建物を転用すること。施主の自由な発想にきちんと向き合い、水まわりの配置を工夫するなど、オフィスビルを快適な住まいに変えるためのプランが練られました。

【画像9】コピーライティング賞『吾輩は猫のエドワードである。』(画像提供/株式会社スタイル工房)

【画像9】コピーライティング賞『吾輩は猫のエドワードである。』(画像提供/株式会社スタイル工房)

『吾輩は猫のエドワードである。』は、中古住宅を友人3人と猫5匹でシェアする家に改変。防音性能を高め、インテリアに溶け込むようなキャットウォーク、キャットタワーを設けるなど、人も猫も快適に暮らせる工夫が随所にあります。

(2)デザイン、性能…魅力度を増す「再販リノベ物件」

リノベーション物件には、建物の所有者(住人)の希望に応じて行うものだけでなく、「再販物件」というものがあります。リノベーション会社や不動産会社などが購入した中古住宅をリノベーションし、家の価値を高めて販売することです。そうした作品は住人の希望などの前提条件がないため、設計者の想いがこもった作品性の高い物件が見られました。

【画像10】ベストデザイン賞『100+∞(無限)』(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

【画像10】ベストデザイン賞『100+∞(無限)』(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

『100+∞(無限)』は、こんな住宅デザインが可能なんだと思わせる事例。アーチ型の袖壁が連続する美しいギャラリー的に使える場所は住む人の感性を豊かにしてくれそうです。

【画像11】優秀R5住宅(※)賞『サバービアンブームの夜明け』(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

【画像11】優秀R5住宅(※)賞『サバービアンブームの夜明け』(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

『サバービアンブームの夜明け』は、旗竿地、階段40段のアプローチなど制約の多い立地に対して、眺望を活かした約30畳の2階リビングなど魅力的なコンテンツをプラスしています。

※「R5住宅」とはリノベーション住宅推進協議会が定める品質基準に適合したリノベーション済み戸建住宅のことで、再販物件を安心して購入するための一つの指針となるもの

(3)住宅性能を高めることはリノベの使命

日本の家は冬寒いのが当たり前だった時代から大きく変わり、2020年に次世代省エネ基準が整備されるなど「家の中すべての空間が寒くない」という高い断熱性が求められています。家の中に寒い空間があるとヒートショックなど健康に悪影響を及ぼし、さらに暖房の熱源が多く必要なので地球温暖化の一因に。

そんな背景から、昨年に続き今年も性能エコリノベ事例『代沢の家』(前章参照)が部門別最優秀賞を受賞するなど、省エネ性能や断熱性能など居住性能を高めたリノベに注目が集まっています。ノミネート作品の性能レベルが年々アップしていると感じるとともに、築古の住宅でも快適に変えることが期待できると思いました。

【画像12】超高性能エコリノベ賞『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』(画像提供/YKK不動産株式会社)

【画像12】超高性能エコリノベ賞『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』(画像提供/YKK不動産株式会社)

『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』では、長年、社宅として使われた建物を減築し、断熱強化によって、世界で一番厳しいと言われる省エネ基準を実現させました。解体・新築の道を選ばず既存建物を残すこと自体もエコだと感じさせてくれます。

(4)人が集まる場所、人と人をつなぐ場所を生むのもリノベの力

ここ数年、空き家や空き店舗など、住みにくい・使いにくいとされてきた物件をリノベーションすることで、新たな価値を生んでいる事例が目立って増えてきたように思います。立地に合ったコンセプトの住宅に変えることで、街ににぎわいが増していくなど、地域社会にも多大な影響を及ぼしているのです。

今回、部門別最優秀賞を受賞した『流通リノベとシニア団地』(前章参照)でも取り上げましたが、空き店舗に団地住人のメイン世代である高齢者が必要とする施設、デイサービスやイートインの惣菜店を設けることで、団地に暮らす人々が自然と集う場所となりました。そうした人の流れを生み出していくのも、リノベーションの持つ力の一つです。

【画像13】公共空間活用リノベ賞『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』(画像提供/株式会社リビタ)

【画像13】公共空間活用リノベ賞『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』(画像提供/株式会社リビタ)

『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』は、隅田川畔に立つオフィスビルをホテルに転用した事例。水辺の活性化を目的とした東京都の「かわてらす」事業に採用され、河川敷地を誰でも使えるテラスとして整備。屋内にとどまらず、街との融合も図る仕組みが注目されました。

数々の事例を見ていくことが、リノベ実現のハードルを低くする

今年は初ノミネートや初受賞という会社が数社あり、リノベーションの広がりを感じました。受賞作品、ノミネート作品を見ていくと、多くのリノベーション会社が、施主の希望を叶えるプランニング力・デザイン力、住宅性能を改善する高い技術力を発揮していることが分かります。それは、住む人の暮らしをすてきに快適に変えてくれる力であり、社会の問題をうまく解決する力でもあります。そうした力は活かしてこそ。

今、「リノベーションをしたいと思っているけれど、どうしていいのか分からない」という人は意外と多いかもしれません。そんな場合は、気になる事例をじっくり見てみてください。具体的にどうしたいのか、どんな会社に依頼をすればよいのかがだんだん分かってくるのではないでしょうか。高い提案力をもつリノベ会社なら、漠然とした思いも具体化させてくれるはず。

リノベーション住宅推進協議会は「リノベーションEXPO」を毎年9月ごろから全国で開催しています(2017年は16会場で開催)。特に大阪会場では2日間で1万人を集めるほどの人気だったそう。ワークショップやセミナーなどもあり、気軽にリノベの知識を学べる場ともなっています。自分に合った依頼先が見つかるかもしれません。

【画像14】2018年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション住宅推進協議会)

【画像14】2018年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション住宅推進協議会)

毎年、授賞式を見てきましたが、今回一番感じたことは「人と人とのつながりが素晴らしいものを生む」ということ。リノベーションを依頼する側と提案する側、そうした人と人の出会いが「こんな暮らしがしたい」という思いを具体的な形に変えていく。どんな住まいにリノベするのかは機械的にポンと決められるものではない、住み手とつくり手の思いがこもった究極のオーダーメイドなのだとも感じました。

既存の建物や暮らしにまったく異なる価値をもたらすのがリノベーションの一番の醍醐味(だいごみ)。今回も、さまざまな制約のもと、自由な発想でリノベされた多彩な作品それぞれに、人を幸せにする「再生の物語」を垣間見ることができました。

●取材協力
・リノベーション住宅推進協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2017」

ユナイテッドアローズ、フルオーダーのマンションリノベーション事業に進出

リノベーションマンションは、オリジナリティの高いインテリアや間取りを好む人々からの人気が高い。ファッションの一環として自分らしい住まいを求めるトレンドを受けて、不動産業界とアパレル業界が本格的にコラボレーションした、フルオーダーのリノベーションサービス「Re : Apartment UNITED APROWS LTD.(リ アパートメント ユナイテッド アローズ ) 」誕生。2018年1月6日よりサービスがスタートする。リノベーション事業や不動産仲介・売買事業を手がけるグローバルベイス株式会社と、アパレルブランドを展開する株式会社ユナイテッドアローズがタッグを組んだ。グローバルベイスの担当者は、今回の取り組みは両業界にとって革新的だと言う。「これまで、アパレル企業の家具部門とリノベーション会社が協業して、リノベ-ション済み物件に家具を設置したりすることはありましたが、今回は住空間の一部ではなく、空間作りの全てのプロセスにユナイテッドアローズが参加した事例となり、この点が業界初となります。内装やオリジナル家具の制作等、ユナイテッドアローズのブランドの世界観が、スタイリッシュかつ快適に住空間に落とし込まれています」とのこと。

具体的には都心の優良中古マンションの調達と施工をグローバルベイスのリノベーションワンストップ事業「マイリノ」が行い、内装デザインから家具製作に至るまでのプロデュースをユナイテッドアローズが行う。オーダーの流れは、モデルルームを見ながら顧客のライフスタイルや趣向をヒアリングし、間取りや設備等をアレンジした物件プランを提供するもの。

注文までの詳しい手順は下記のとおり。
(1)グローバルベイスまで問い合わせ
(2)希望の住まいや予算などのヒアリングを実施
(3)物件選びから資金計画を行う
(4)リノベーションの段取りを提案
(5)リノベーションの施行(定期報告など諸事項あり)
(6)物件の引き取り

モデルルームの第一弾は東京都武蔵野市のビンテージマンションの一室。インテリアの詳細も公開されている。

【リビング】
ユナイテッドアローズのオリジナル家具を設置。ガラスとアイアンを組み合わせた扉や、部屋ごとに設置している演出照明、壁と同様のモルタルを使用したリビングテーブル、壁にユナイテッドアローズのセレクト塗装を施すなど、こだわりがつまった空間。

【画像1】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像1】画像提供/グローバルベイス株式会社

【書斎】
リビングの一角にガラス張りの書斎スペースを設置。ガラス材とアイアンをパーティションに使用したオリジナル建具を使用。

【画像2】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像2】画像提供/グローバルベイス株式会社

【キッチン・ダイニング】
アイランド型のオリジナルキッチンには、オープン・シェルフが備え付けられ、グラスなどをディスプレイ収納が可能。また、キッチンとダイニングテーブルの天板は同じ大理石素材で制作したものを使用し統一感を演出。壁面は、天然の石の六角モザイクタイル。一つ一つ風合いが異なるオリジナルタイルを使用。

【画像3】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像3】画像提供/グローバルベイス株式会社

【洗面室】
壁面タイルはキッチンスペースと同じ天然石六角モザイクタイルを、また洗面台はキッチン・ダイニングと同じ大理石の天板を採用。

【画像4】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像4】画像提供/グローバルベイス株式会社

【寝室】
ユナイテッドアローズならではのオリジナルの見せるウォークインクローゼット。ガラスとアイアンで造作し広々とした収納スペースに。

【画像5】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像5】画像提供/グローバルベイス株式会社

今後の展開として、2018年の2月と4月にApartment UNITED ARROWS LTD.モデルルームの第2弾と第3弾が完成する予定とのこと。アパレル業界とリノベーション業界がコラボレーションする個性的な住まいが、どのように広がっていくのかが注目される。

「勝ち組・負け組」はっきりと? 2018年の不動産市場を5つのキーワードで予測

明けましておめでとうございます。2017年の不動産市場を振り返ると、一時、新築マンションの発売戸数や契約率が伸び悩んだものの、「供給調整」「価格調整」によって適温状態にまで回復した感があります。

こうした流れを受けて2018年の不動産市場はどうなるでしょうか? 注目すべき5つのキーワードを元に予測してみましょう。

キーワード1「金利動向」:不動産価格を左右も大きくは動かない?写真/PIXTA

写真/PIXTA

まず気になるのは「金利動向」。金利が上がれば不動産価格は下がり、金利が下がれば不動産価格は下がります。例えば月々10万円の住宅ローン支払いで金利1.5パーセントなら3270万円借りられますが、仮に3パーセントに上昇すると、借入額は2600万円と、670万円も減ってしまい、それだけ不動産取得能力が減退してしまうためです。

黒田日銀総裁の任期が18年4月8日に満了するのに伴い「後継は誰か」「再任はあるか」などが話題になっていますが、いずれにしても2017年衆議院選挙で信任を得た安倍政権の路線を、大きく転換するような事態にはならず、このことで金利が大きく動く可能性は考えにくいでしょう。

景気動向を見れば、世界景気の同時回復にも支えられ、上場企業の業績は拡大しており、18年3月期の純利益は前期に続いて過去最高を更新する見通し。18年には世界経済もやや鈍化する可能性があるものの、アメリカは段階的な金利上げ、EUも金融緩和引き締め方向へ動くと見られ、緩和を継続する日本との金利差が拡大すれば円安になり、輸出企業を中心に株価は上がります。

日経平均株価はかつてより随分上昇した感がありますが、それでもPER(株価収益率)は15倍程度と、欧米の20倍程度に比して相対的な割安感があり、現行水準の2万2000~2万3000円のラインを超えるようだと不動産市場には思い切り追い風。一定の株式売却益が不動産市場に流れる可能性があります。

ただ、気になるのは「地政学リスク」。北朝鮮が今後どのような動きに出るか。複数のシナリオのうち、政権維持を条件として北朝鮮が核を手放すことになれば安心感が増しプラスの影響、米軍が先制攻撃を行った場合、多少の動揺はあるものの短期で収束すれば大きな影響はなく、国内の米軍基地が攻撃にさらされるようだと株価にも景気にも大マイナスで先が見通しにくくなる、といったところでしょう。

キーワード2「三極化」:価値が上がり続ける物件も写真/PIXTA

写真/PIXTA

いずれにせよ長期的な不動産市場は「三極化」に向かいます。国内の多くの不動産価格は下がり続け、価値ゼロないしはマイナス価値に向かう物件が出てくる中で、一部の不動産は価格維持、ないしは上昇の余地が残されています。

 その内訳はざっと、
「価値維持あるいは上昇する 10~15%」
「徐々に価値を下げ続ける 70%」
「無価値あるいはマイナス価値に向かう 15~20%」
 といった具合です。

このことは、どのタイミングで、どんな場所に、どのような不動産を買うかで、天地ほどの格差が生まれることを意味します。資産化する「富動産」からマイナス資産となる「負動産」まで、「勝ち組不動産」と「負け組不動産」がはっきりする時代が到来したのです。「不動産は、1にも2にも3にも「立地」です。その地域の人口動態が不動産価値にどのような影響を与えそうか、よく見極めましょう。

キーワード3「立地適正化計画」:「活かす街」と「そうでない街」が決まる写真/PIXTA

写真/PIXTA

不動産価格の「価値維持ないしは上昇」といえば、都心の一等立地をイメージしがちですが、都市郊外や地方にもこうした立地は存在します。

本格的な人口減少社会の到来を踏まえ「活かす街」と「そうでない街」を決める「立地適正化計画」の取り組みが全国357の自治体で行われていますが(2017年7月末時点)、昨年に引き続き、2018年も多くの自治体で続々とこの計画が公表されます。今後、誘導区域の内側か外側かで地価水準が大きく分かれ、地価維持できるのは区域内だけになりそう。不動産業者や金融機関が資産価値を維持しやすい区域への投資を優先するためです。

埼玉県毛呂山町は作成中の立地適正化計画のなかで「20年後に公示地価を10%以上、上昇させる」といった目標を掲げています。町の人口は同期間に18%程度減る見通しですが、居住区域に住宅を誘導して人口密度を保ち、投資を呼び込むことで地価上昇につなげるとしています。こうした自治体の姿勢が長期的には、暮らしやすさはもちろん、不動産価値にも大きな影響を与えるのは必至ですので、自治体のHPなどで確認しましょう。

キーワード4「中古市場活性化策」:インスペクション説明義務化、経験不足のインスペクターに注意

国は2025年までに「中古住宅市場」「リフォーム市場」を倍増させる方策を掲げており、2018年は具体的な活性化策が目白押し。

まずは「インスペクション説明義務化」。もう少し詳しくいえば「媒介契約」「重要事項説明」「売買契約」の各段階で、ホームインスペクション(住宅診断)の存在やその内容について、宅建業者に説明を義務付けるものです。住宅診断そのものが義務付けられたわけではないことにご注意ください。いずれにせよこれで、中古住宅の「よくわからないから不安」といった懸念が一定程度解消され、日本でも爆発的にインスペクション(住宅診断)が普及するものとみられます。

ただし懸念もあります。国は、インスペクションを行う「既存住宅状況調査技術者」を養成し、年度末には2万4600人になる見込みですが、半日程度の講習を受けるだけの比較的簡単なものであるため、経験不足のインスペクターが市場に多数出ることになります。そうなると必然的にトラブルが予想され、ユーザーがインスペクターの「実績」や「経験」、また「不動産業者と癒着がないか」などのフィルターを持つことが重要となるでしょう。

キーワード5「テック元年」:AIやVR、IoTでワクワクの未来写真/PIXTA

写真/PIXTA

昨年あたりから萌芽が見え始めた各種の新技術。AI(人工知能)で物件情報の提供などを行う不動産会社が今後も増加。現在はごく簡単な対応しかできませんが、データの蓄積とディープラーニング(情報の蓄積)によって大きく機能向上を果たすでしょう。「AIに提案されたマンションを買った」という事例も増えるかもしれません。

VR(バーチャルリアリティー)は、ゴーグルなどをかけると内外装のリフォーム後の映像、インテリアコーディネートの例などが見られるというもの。ゴーグル不要の技術などもで始めており、中古活性化には大きく寄与しそうです。

IoT(Internet of Things)は住宅とインテリア・家電などをつなげ、生活を一変させるかもしれません。朝起きれば自動でカーテンが開き、冷暖房は自動調整、コーヒーも勝手に沸かしてくれ、カギの開け閉めはスマホでなんてことはあたりまえに。冷蔵庫の在庫確認やお年寄りの見守り、空き家のセキュリティー対策なども容易になるでしょう。

更なる先に「自動運転」が可能になれば、やはり街のあり方や暮らしは激変。「ブロックチェーン」といった技術は不動産取引を根本的に変える可能性を秘めています。やや専門的になりますが、米国内の複数の州はすでに、不動産取引において仮想通貨の使用を認める法整備を進めています。例えばバーモント州は、ブロックチェーン技術による取引記録が、証拠の観点から許容されるとの前提を認めた法律を制定しました。こうなると不動産業者を介さずとも、より安全に不動産取引を行うことが理論的には可能です。

技術の進展が変える不動産の世界。なんだかワクワクしますね。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

環境省課長と突撃! 大規模マンション元理事長に聞く、断熱・省エネ修繕のメリット

住宅のリフォームが省エネルギーにつながることは分かっていても、なかなか進めづらいもの。自宅はもちろん、特にマンション全体でリフォームを進めようとすると住民間での調整が必要で、単世帯ごとで決められないだけに難易度が高いことがあります。SUUMOジャーナル編集部では今年9月、地球温暖化対策のために省エネ対策を推進する環境省 地球環境局 地球温暖化対策課の松澤課長に、住宅関係の地球温暖化対策について直撃取材。 松澤課長によると、「電球や家電の買い替えに加えて、住宅を改修することで省エネ目標を達成できる」というお話だったのですが、そうは言っても「言うは易く行うは難し」ということわざもあります。

地球温暖化対策の旗振り役である松澤課長宅は、果たして万全の対策をされているのか。編集部員Y(20代男性)がまずは松澤課長宅に押しかけ、家電から窓ガラス、サッシまで厳しくチェック! さらに、個人のリフォーム以上に難易度が高いと言われるマンションの省エネ改修工事はいったいどの程度大変なのか、お役所の方にも知っていただきたい。松澤課長と一緒に、とあるマンション管理組合の元理事長にお話を聞きに行きました。

ご自宅におじゃまします!環境省課長自宅の温暖化対策状況は!?

―― 本当に来てしまいました。本日はよろしくお願いします。

松澤課長「ほ、本当に来られたんですね。よろしくお願いします」

―― 先日の取材では、日本が温暖化対策の目標値(2030年度にマイナス26%削減)を達成するためには、各家庭では「電球をLEDに換える」「冷蔵庫を省エネ対応のものに換える」「エアコンを省エネ対応のものに換える」「窓ガラスをシングルガラスから複層ガラスに換える」の4つのうち、いずれか3つを対応すればよいとのことでした。ということはLED交換や家電の買い替えはもちろん対応ずみ、と(室内を見わたす)。

松澤課長「一応、普段使っているリビングの電球はLEDになっています。他の部屋は夜寝るだけなので使用頻度も低いですし、切れたタイミングで交換する予定です」

【画像1】 LEDに取り替えられているリビングの照明。口金が小さめなサイズを4つ使用している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】 LEDに取り替えられているリビングの照明。口金が小さめなサイズを4つ使用している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

―― なるほど、まずは1つクリアですね。エアコンや冷蔵庫はどうでしょうか。

松澤課長「エアコンは去年の冬に買い替えました。やはり性能が上がっていて、夏場(8月)で電気代が1万5500円から7700円と半分程度に下がっています (室内で犬を飼っているので、夏は日中エアコンが稼動)。年間で2万6000円(約30%)電気代を節約できました。冷蔵庫は10年選手なので、そろそろ買い替えのタイミングかなと考えています」

―― あれ? この窓は、シングルガラスでアルミサッシ。推進する立場なのに、まさか自分では実行されてない、なんてことは……。

松澤課長「なかなか厳しいことをおっしゃいますね。確かにそのとおりです。窓は複層ガラスに交換していないですし、サッシも断熱性が高い樹脂素材ではなく、アルミです。検討はするのですが、マンションなので共用部の窓のリフォームとなると難易度が高くて――。でも冬場が寒いのに加えて、結露が多くて困っています。換気もしているのですが、レースカーテンがかびてしまっていて」

【画像2】課長宅の窓にかかっているレースカーテン。結露のせいか裾の部分がカビで汚れている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】課長宅の窓にかかっているレースカーテン。結露のせいか裾の部分がカビで汚れている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

―― これはひどいですね。個人宅でもこうですから、マンション全体の省エネリフォームはもっと大変そうです。実は、私の知人に玄関や窓のリフォームを大規模マンションで実現した元理事長がいるのですが、その人に話を聞きに行きませんか。課長のお仕事の参考になるかもしれませんよ。

松澤課長「えっ、今からですか……。分かりました」

環境省課長と一緒に突撃! 大規模マンションの省エネ修繕、実態は?

心なしか元気がなくなった課長とやってきたのは、横浜市内の高台に位置する全105戸のとあるマンション。案内いただくのはこのマンションの管理組合で、以前理事長を務められていた岸一正(きし・かずまさ)さんです。

【画像3】松澤課長(左)にマンションを案内している岸さん(右)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】松澤課長(左)にマンションを案内している岸さん(右)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

岸「本日はようこそいらっしゃいました。私が岸です」

―― 岸さんは理事長としてマンション大規模修繕を推進されたんですよね。どんな手順で実施されましたか?

岸「はい。私は当時管理組合の理事長だったのですが、修繕を始める前に、まず理事会内で、1回目の大規模修繕の振り返りから、マイナスをゼロに戻す修繕だけでなく「資産価値の向上」を目指していく、その具体的なあり方として「快適な住み心地」を高めていく、という基本方針を固めました。その上で、住民に対して、どんな修繕をしてほしいか、アンケートを実施し、その結果『窓の結露』『玄関の隙間風』に対する不満が多く寄せられました」

―― アンケートを踏まえ、どのような改修を実施したのでしょうか。

岸「全居室の、ドアや窓などの開口部に対するリフォームですね。玄関ドアの取り替えと、すべての窓に対する内窓の取り付け(内窓が取り付けられない窓は複層ガラスに交換)を実施しました」

―― 正直なところ、住民の追加負担費用は発生しなかったのですか ?

岸「修繕積立金を多めに取っておいたことに加え、足場のいらない工事は翌年以降に繰り延べるなど、資金調達の工夫をしました。また、当時は国からの補助金で、手続きを踏めば工事費の3分の1を負担してもらえるというのもあり、1住戸当たり玄関ドア交換14万円、内窓取り付け35万円の負担でした」

―― そのくらいの金額で実施できるものなんですね。 やってみて効果はどうでしたか。

岸「断熱性が高まったことは実感しました。冬、外気温が5℃ぐらいでも部屋の中は15℃から18℃までの間に保たれています。そのおかげか、マンションの各住戸平均で、電気の使用量が年間11.6%、ガスの使用量は10.3%減少しています。また、住民の不満として多く上げられていた結露も発生しなくなりました。ただし、こまめな換気は必要になります」

―― 窓と玄関を替えるだけでそこまで違うのですね。

岸「意外だったのは、遮音性が上がったことですね。近所に学校があり、以前は室内でもブラスバンド部の音が聞こえていたのですが、今は聞こえません。生活音についても、他の部屋で飼われている犬の声が聞こえなくなったり。音は窓を通じて出入りしていたことが分かりました。掃除機も夜に気にせずかけられるようになりましたね」

【画像4】バルコニーとリビングをつなぐ出入口には内窓が取り付けられ、二重窓になっている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】バルコニーとリビングをつなぐ出入口には内窓が取り付けられ、二重窓になっている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

松澤課長「私も夜にトイレに行くときに気づいたのですが、玄関って意外と隙間風が入るんですよね」

岸「うちも以前は玄関のあたりが非常に寒かったのですが、今はまったく寒くないですね」

―― 二重窓にすると、窓の開け閉めが面倒ではないですか?

岸「おっしゃるとおり、手間は増えます。ただ、すべての窓を頻繁に開け閉めするわけでもないですし、日常的にはメリットのほうが大きいと感じます」

―― マンション全体で大規模改修を進めるにあたり、大変だったことはありますか。

岸「住民の合意形成ですね。管理規約上は2分の1の合意があれば進められますし、たいてい委任される方が多いので、進めようと思えば強引に進めることも可能でした。しかし、事前調査・施工と2回も各住戸に立ち入ることになるため、丁寧なコミュニケーションを心がけました」

―― 改修を進める上で、反対する方はいなかったのですか。

岸「住み慣れた高齢者など、気乗りがしない様子の方もいたことは確かです。私も高齢者と呼ばれる層に片足突っ込んでいるので気持ちは分かるのですが、『年を重ねてしかるべき施設に入るときに、保有している住宅の資産価値が重要になりますよ』というお話もして理解してもらいました」

マンションは社会の最小単位

―― このマンションには高齢の方から子持ち世帯まで、幅広い年齢層の方が住んでいるそうですね。

岸「そうですね。マンションというのはさまざまな人が暮らす“社会”の最小単位であり、管理組合というのはある意味自治体に近いと思っています。そういう意味では、大規模修繕は“公共政策”と言えるかもしれません。そういえば修繕後の変化として、マンションで実施している防災訓練の参加率が上がったというのがありました。自治の意識が高まったように思います」

―― “マンションは社会の最小単位”、ですか。その考え方はおもしろいですね。松澤課長、いかがでしたか。参考になりそうですか。

松澤課長「はい、マンションで生活する一人として、さらに地球温暖化対策の推進役としても、大変参考になりました。いち個人としても、マンション全体の修繕のタイミングで、窓や玄関のドアリフォームを管理組合に働きかけてみます」

―― 本日はありがとうございました。

●取材協力
・環境省
・元マンション管理組合理事長 岸一正さん

2018年度の税制改正、ポイントを解説 住宅購入に関わる減税措置や特例の延長など

自民・公明両党が2018年度の税制改正大綱を決定した。目玉となった所得税改革では、基礎控除の引き上げと給与所得控除の減額により、2020年から年収850万円を超える会社員が増税となる。そのほか、住宅購入などに関係する改正も含まれているので見ていこう。
新築住宅の固定資産税の減額措置を2年間延長

今回の大綱に盛り込まれた住宅関連の税制改正は、既存の特例などの期限延長がほとんどだ。

まず新築住宅向けの固定資産税の減額措置は2年間延長される。この措置は新築住宅の建物分の固定資産税を、一戸建ては3年間、マンションは5年間、2分の1に減額するというもの。国土交通省の試算によると、2000万円の一戸建てを新築した場合の固定資産税が、減額措置によって3年間で約26万円軽減されるという。措置の期限が2018年3月31日までとなっているが、これを2020年3月31日まで延長する。

長期優良住宅に対する特例措置も2年間延長される。長期優良住宅とは、良質な住宅を長期にわたって良好な状態で住み続けるために、耐久性や耐震性、維持管理のしやすさなどの基準を満たす住宅を認定する制度。認定された住宅は購入時の登録免許税や不動産取得税、新築時から一定期間(一戸建ては5年間、マンションは7年間)の固定資産税が軽減される。この特例措置の期限を2020年3月31日まで延長するという内容だ。

土地を購入する場合の不動産取得税については、税額を計算する際の評価額を2分の1にしたり、税率を本則の4%から3%に軽減する特例措置がとられている。この特例の期限を3年間延長し、2021年3月31日までとする。

不動産会社が中古住宅を買い取ってリフォームをした上で販売する「買取再販」について、耐震や省エネ、バリアフリーなど一定のリフォームを行った住宅を買うと建物分の登録免許税が通常の3分の1に軽減される特例措置がある。この特例の期限も、2020年3月31日まで2年間延長される。

マイホームの買い替えなどに関する特例を2年間延長

不動産を売って売却益(譲渡所得)が出た場合、所得税や住民税がかかるが、自宅を買い替えた場合は各種特例が受けられる。売却益がなかったものとして次に買い替えるまで課税を繰り延べられる「買換え特例」や、売却損が出た場合に最長4年間の所得から繰り越して相殺できる「譲渡損失の繰越控除」だ。これらの特例の期限を2019年12月31日まで2年間延長する。

一定の性能向上リフォームを行った場合の固定資産税の特例措置も2年間延長となる。この特例は耐震改修の場合は2分の1が、バリアフリー改修や省エネ改修の場合は3分の1が、長期優良住宅化改修の場合は3分の2が、それぞれ工事の翌年度の固定資産税から減額されるというもの。改正により特例の期限が2020年3月31日まで延長される。

不動産を買うときの売買契約書や、住宅を建てるときの工事請負契約書に貼る印紙税は、特例措置により軽減されている。例えば契約金額が1000万円超5000万円以下の場合の印紙税は本則では2万円だが、現行では1万円だ。この特例の期限を2年間延長し、2020年3月31日までとする。

税制改正大綱はあくまで与党による税制改正“案”だが、ほぼ大綱の内容どおりに改正されるのが通例となっている。今後は2018年1月からの通常国会に関連法案が提出され、3月末までに確定する見通しだ。

●参考
・平成30年度税制改正大綱

あの人のお宅拝見[6] 料理研究家・有元葉子邸、建築家の娘がリノベーションで実現したキッチン・オリエンテッドな住まい

お料理だけでなく、その洗練されたライフスタイルに多くの女性ファンを持つ、料理研究家の有元葉子さん。筆者もその一人だが、実は有元さんの長女・このみさんとは10年前に地元の活動で知り合っていた。当初は有元さんの娘さんとは知らず、建築家・八木このみさんの柔らかな物腰に惹かれ親しくなった。

今回、取材の依頼を快く受けてくださったこのみさん。母上の料理研究家・有元葉子さんはイタリアの家に滞在中でご不在だったが、自身が手掛けられた母上宅のリノベーションを案内いただきながら、ゆっくりお話を伺うことができた。

連載【あの人のお宅拝見】
住宅業界にかかわり四半世紀以上のジャーナリストVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。築30年のマンションをフルリノベーション

5年ほど前に、自分らしい住まいにしたいと新たな家探しを始めた有元葉子さん。建築家である娘のこのみさんと共に選んだのが、こちらのマンション。築30年ほどですが、全室に窓があり、その窓から豊かな緑が臨める環境が決め手だったそう。

玄関ドアを開けると、正面に大きな出窓のあるホールに圧倒された。マンションでここまで広く、明るい玄関ホールは初めて!

【画像1】玄関の床壁、廊下をモルタル仕上げで一体化したシンプルで都会的なデザイン。窓の日差しがあるので、冷たく感じない(写真撮影/片山貴博)

【画像1】玄関の床壁、廊下をモルタル仕上げで一体化したシンプルで都会的なデザイン。窓の日差しがあるので、冷たく感じない(写真撮影/片山貴博)

【画像2】玄関で左右に居室が分かれる間取り、入って右手(写真奥)が寝室などプライベートゾーン。木製フローリングで、扉が無くても視覚的に境界だと分かる。3LDKから1LDK+Nへのリノベーション(写真撮影/片山貴博)

【画像2】玄関で左右に居室が分かれる間取り、入って右手(写真奥)が寝室などプライベートゾーン。木製フローリングで、扉が無くても視覚的に境界だと分かる。3LDKから1LDK+Nへのリノベーション(写真撮影/片山貴博)

【画像3】玄関を入って左手、キッチン・リビングなどのパブリックゾーンに続く床は、玄関と同じモルタル仕上げでシームレスに。鏡を天井高まで貼り奥行きを演出(写真撮影/片山貴博)

【画像3】玄関を入って左手、キッチン・リビングなどのパブリックゾーンに続く床は、玄関と同じモルタル仕上げでシームレスに。鏡を天井高まで貼り奥行きを演出(写真撮影/片山貴博)

このみさんに、施主である母上の要望や住まいへの想いを聞いてみた。

「実は私が母の家を設計するのは、ここが2軒目なの。最初は長野県の別荘、その時は『白黒、モノトーンの家にしたい』という要望でした」

【画像4】15年前に長野県野尻湖の母上の別荘を設計、斬新な形状で海外の本にも紹介。その写真を見せてくれた、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像4】15年前に長野県野尻湖の母上の別荘を設計、斬新な形状で海外の本にも紹介。その写真を見せてくれた、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像5】傾斜地の等高線に沿って建物を設計。外観が山並みに調和すると共に、室内にも木々が自然と入り込む。母・葉子さんの要望通り、モノトーンのシャープな空間(写真撮影/繁田 論)

【画像5】傾斜地の等高線に沿って建物を設計。外観が山並みに調和すると共に、室内にも木々が自然と入り込む。母・葉子さんの要望通り、モノトーンのシャープな空間(写真撮影/繁田 論)

「今回は、日本の素材をできるだけ使ってほしいと言われました。デザイン的には別荘とは違って、自宅として心地よいものに。母は私と違って“甘いモノ”が好きなんですよ」と、“甘い”とはデザイン・テイストのことで、レースなど乙女チックなかわいい系らしい。私も年々、“甘いモノ”好きになってるんだなぁ……。

「心底好きだった」実家の住空間が原風景

有元さんは、娘3姉妹が成長してから料理研究家としてメディアでも有名になった方。子育て中はどんなお母様だったのでしょう?

「小さいころから母は人を家に招いて、お料理を振る舞うのが好きでした。私たち娘には『料理は、しっかり食べて舌で覚えれば良い』という教えで、結婚して必要に迫られるまで母は特に教えようとしたり、手伝わせることもなかったんですよ」

このみさんの学生時代、母上がつくるお弁当は友達から注目の的で、わざわざ教室まで見に来る人たちがいたようです。既に料理研究家の片鱗がうかがえるお話。

「キッチンであれこれ試しながら研究している母の姿は楽しそうで、私たち姉妹も自然と料理好きにはなりました」

【画像6】「食べることは全ての基本。しっかり食べないと、体だけでなく心も育たないですよね」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

【画像6】「食べることは全ての基本。しっかり食べないと、体だけでなく心も育たないですよね」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

そのかわり、厳しく言われていたのは「片付け」だそう。「母は新聞の朝刊を読んだら、すぐに古紙置場へ片付けるような人。物は増やさない、ためないがポリシーです」。なるほど、こちらのお宅はショールームのように片付いていたのですが、それが有元家の日常のようです。

そんな、食べることを大切にして育ったこのみさんが設計する家は、キッチンが中心にあるキッチン・オリエンテッドな家。

「その家の一番良い場所を、キッチンにするプランニングを提案しています」

【画像7】大きな窓に面した明るいキッチン、タイル張りのL字型&木製のアイランド。天井板を取って配管を出した形で天井を高くした(写真撮影/片山貴博)

【画像7】大きな窓に面した明るいキッチン、タイル張りのL字型&木製のアイランド。天井板を取って配管を出した形で天井を高くした(写真撮影/片山貴博)

カスタムメイドのアイランドキッチン(オーク材)は、キャスター付きの可動式。これは、母上の料理教室スタジオで採用し好評だったので同じ機能にしたもの。人が集まるときにはレイアウトを変えられる、便利なモバイルキッチン。

「キッチンのキャビネット収納は、引出し型でなく[扉+内引出し]を私は提案しています」。引出し型より、取り出しやすく収納力もあるからだそう。内引出しはドイツ製の頑丈なステンレス製レール。

【画像8】扉の中はスライド式の可動棚。『ラバーゼ』ブランドで料理道具をデザイン監修している有元さんのキッチンには、当然ボウルから水切りかごまで『ラバーゼ』が勢ぞろい!(写真撮影/片山貴博)

【画像8】扉の中はスライド式の可動棚。『ラバーゼ』ブランドで料理道具をデザイン監修している有元さんのキッチンには、当然ボウルから水切りかごまで『ラバーゼ』が勢ぞろい!(写真撮影/片山貴博)

【画像9】「日本は料理道具が多いので、きっちり片付けられるようプランニングします」(写真撮影/片山貴博)

【画像9】「日本は料理道具が多いので、きっちり片付けられるようプランニングします」(写真撮影/片山貴博)

ドイツの老舗GAGGENAU社のガスコンロ。アイランドにはIHコンロと鉄板焼プレートもビルトイン。

【画像10】プロ仕様のコンロをタイルのカウンタートップに収め、ノスタルジックで懐かしいデザインに仕上げたキッチン。このみさんの言う“甘い”テイスト、私は大好き!(写真撮影/片山貴博)

【画像10】プロ仕様のコンロをタイルのカウンタートップに収め、ノスタルジックで懐かしいデザインに仕上げたキッチン。このみさんの言う“甘い”テイスト、私は大好き!(写真撮影/片山貴博)

「タイル張りのカウンタートップは雰囲気が良いだけでなく、意外と使いやすいですよ。最近のタイル目地は進化していて防汚機能も高くなっています」。有元邸では、L字で窓辺のカウンターまでタイルを張り、一体で質感のあるインテリア空間に仕上げている。

飾るものでなく、実用的なものが好きな母

キッチン上部はオープンシェルフ、籠(かご)のコレクションが印象的。

【画像11】「籠は、その土地ごとの素材でつくられたものが必ずどこにでもあるので、集めるのが好きみたいです」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

【画像11】「籠は、その土地ごとの素材でつくられたものが必ずどこにでもあるので、集めるのが好きみたいです」(このみさん)(写真撮影/片山貴博)

「でもね、これ飾りじゃなくて日常使っているもので。こんな使い方もしていて……」と言って、取り出してくれた籠の中には……「ゴム手袋が入っているの(笑)」

【画像12】布巾とかスポンジなどが籠に収納されている。単なる紐も、こんな風にするとインテリア小物のよう(写真撮影/片山貴博)

【画像12】布巾とかスポンジなどが籠に収納されている。単なる紐も、こんな風にするとインテリア小物のよう(写真撮影/片山貴博)

籠コレクションかと思いきや、片付けの達人らしいなんとも実用的なデコレーション。ぜひ、マネしたいアイデアです。

【画像13】籠は国内も地方によって特徴があるし、海外からでも軽いから持ち帰りやすいお土産。これぞ、暮らしの達人!(写真撮影/片山貴博)

【画像13】籠は国内も地方によって特徴があるし、海外からでも軽いから持ち帰りやすいお土産。これぞ、暮らしの達人!(写真撮影/片山貴博)

キッチンからワンルームでつながるオープンな空間は、ダイニング・リビング的な場所。中央には「母が、いつか欲しいと思っていた」著名な木工作家ジョージ・ナカシマ(米国)のラウンドテーブル。日本では香川県の桜製作所でつくられているもの。

【画像14】モルタル床に分厚いブラックウォールナット製テーブル、藤を編んだような紙パルプ製チェアにガラスのペンダント照明と、マテリアル・ミックスをこなした大人のインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像14】モルタル床に分厚いブラックウォールナット製テーブル、藤を編んだような紙パルプ製チェアにガラスのペンダント照明と、マテリアル・ミックスをこなした大人のインテリア(写真撮影/片山貴博)

【画像15】「この迫力あるテーブルに、パステルカラーのチェアを合わせるところが“甘いモノ”好きな母っぽい。私にはこの組み合わせは思いつきませんね(笑)」と、このみさん(写真撮影/片山貴博)

【画像15】「この迫力あるテーブルに、パステルカラーのチェアを合わせるところが“甘いモノ”好きな母っぽい。私にはこの組み合わせは思いつきませんね(笑)」と、このみさん(写真撮影/片山貴博)

クールなデザインが好きなこのみさんに対し、私を含めた有元ファンは「この女性らしいヌケ感」に惹かれるのであります。

有元家のルール「おせちづくりは、全員集合!」

二児の母でもあるこのみさんは、夫と主宰する建築事務所の建築家であり経営者。自分のことだけで一杯一杯な筆者から見ると、さぞや忙しそうで、寝込んだりしないのかと心配しますが「母こそ今だに、国内外を飛びまわって大丈夫かしらと(笑)私も好きな仕事に没頭するのは、母譲りなんでしょうね」と笑います。

【画像16】「子どものころから母は、『仕事は一生続けなさい』と言っていたの」その言葉通りこのみさんは、子育てをしながら建築の仕事を続けてきた(写真撮影/片山貴博)

【画像16】「子どものころから母は、『仕事は一生続けなさい』と言っていたの」その言葉通りこのみさんは、子育てをしながら建築の仕事を続けてきた(写真撮影/片山貴博)

「母が仕事を始めたころは、どんな仕事も断らず引き受けて頑張っている姿を見てきました。子どものために必死だったと思います。今、自分も子どもを持ち『母は立派だったなぁ』と改めて実感します」

まだまだ現役でご活躍の母・葉子さんは、独立した娘達ファミリーと顔を合わす機会も少なくなりがち。「ここ10年くらい年末のおせちづくりは家族全員、絶対参加という暗黙の厳しいルールがあるんです(笑)」

年末の数日間、家族総出でキッチンに立ち手間暇をかけてつくるおせち料理。

【画像17】出来上がった25品目にも及ぶおせち料理!八木家では、浅めの漆塗りのお重に詰める(写真提供/八木このみさん)

【画像17】出来上がった25品目にも及ぶおせち料理!八木家では、浅めの漆塗りのお重に詰める(写真提供/八木このみさん)

その充実したおせち料理は『有元家のおせち作り』という本にも収められていますが、『おせちづくりには日本料理の基本が全て入っているから、年に一度、皆でつくるのは大事なこと』という母上の想いがあるという。それだけでなく、作業の合間に出されるまかない料理が充実していて、男子の孫たちもそれを楽しみに参加するそう。流石、料理研究家。孫の代まで胃袋つかんでマス。

今回の有元邸を訪問しこのみさんのお話を伺って、母・有元葉子さんが娘たちに伝えたいことが、このおせちづくりの“時と場”に集約されているように思えました。

食を通じて人をつくる素晴らしさを伝える母、それを実現するキッチンを設計するのが娘なんて、出来過ぎなストーリーですね。私も年始をおせちで祝えるよう、年末のラストスパート頑張りたいと思います!

建築家 八木このみ(娘)
1968年東京都生まれ。1993年芝浦工業大学工学部建築工学科卒業、1995年芝浦工業大学大学院修士課程修了。2000~2001年荻津郁夫建築設計事務所勤務を経て、2001年~ 夫・八木正嗣氏と八木建築研究所を主宰。2010年~ 芝浦工業大学非常勤講師。
ホームページ【八木建築研究所】
料理研究家 有元葉子(母)
料理教室やショップ経営の他著書も多数、料理関連以外にも『有元葉子・このみ・くるみ・めぐみ 母から娘へ伝える暮らしの流儀』など、新刊は『有元葉子の料理教室 春夏秋冬レシピ』。
ホームページ【@ da arimoto yoko】

若者がセルフリノベ! 過疎の団地が”海を臨む別宅”に 

過疎化が進む郊外の団地を、自らの手でリノベーションして暮らしを楽しむ若者たちがいる。二宮団地に実際に住んで日々の生活を発信する「暮らし体験ライター」として生活している彼らに、新しい団地暮らしの楽しみ方をきいた。
若者を呼び込み団地を再生!

皆さんは“団地”という言葉に、何を想起するだろうか。懐かしい昭和の香りや、家族やご近所さんとの親しい人間関係、ゆったりとした共用敷地。そんなプラスのイメージを持つ人もいるかもしれない。

一方で近年の団地が抱えているマイナス面に思いを馳せる人もいるだろう。1960年代から1980年代にかけて各地で団地が建設・供給されたが、それから約50年が経ち、建物の老朽化が進んでいる。日本の人口減少を背景に若い世代が入居せず、住人も高齢化している。実際多くの団地が膨大な空室を抱えて過疎化している現実がある。

そんななか、発信力のある若者を暮らし体験ライターとして迎えることで、プラス面を引き出し、マイナス面を乗り越えようとする団地がある。それが、神奈川県中郡二宮町にある「二宮団地」。“さとやまライフ”をキーワードに団地と地域の魅力を再発見・発信する再編プロジェクトを展開しており、暮らし体験ライターはその一環だ。ライターたちは二宮団地での暮らしをブログに綴り、 オンラインで発信している。

団地を再生する新たな取り組みを、二宮団地の事務所にて推進する神奈川県住宅供給公社の鈴木伸一朗さんと、暮らし体験ライターのチョウハシトオルさん、岸田壮史(きしだ・そうし)さん、大井あゆみさんに話をきいた。

【画像1】左上から時計回りに神奈川県住宅供給公社の鈴木伸一朗さんと、暮らし体験ライターのチョウハシトオルさん、大井あゆみさん、岸田壮史さん(写真撮影/蜂谷智子)

【画像1】左上から時計回りに神奈川県住宅供給公社の鈴木伸一朗さんと、暮らし体験ライターのチョウハシトオルさん、大井あゆみさん、岸田壮史さん(写真撮影/蜂谷智子)

【画像2】団地内の商店街にあるコミュナルダイニング。公社が企画するイベントにも使われるが、一般の人もキッチン付レンタルスペースとして使える(要予約、1時間300円~)。月に一度開催される「お食事会議」では、暮らし体験ライター以外にも、団地の人々や地域の若い移住者が集う。内装の設計・施工は主にチョウハシさん(写真撮影/蜂谷智子)

【画像2】団地内の商店街にあるコミュナルダイニング。公社が企画するイベントにも使われるが、一般の人もキッチン付レンタルスペースとして使える(要予約、1時間300円~)。月に一度開催される「お食事会議」では、暮らし体験ライター以外にも、団地の人々や地域の若い移住者が集う。内装の設計・施工は主にチョウハシさん(写真撮影/蜂谷智子)

団地再生のキーワードは、セルフリノベーションと多拠点居住

「神奈川県住宅供給公社は、ふたつの視点から二宮団地の暮らし体験ライターを人選しました。ひとつめは、セルフリノベーションのスキルがある人材。ふたつめには、団地の他にも拠点を持ち、都市部と二宮団地を行き来しながら暮らす人材です。リノベーションと多拠点居住は、今後二宮団地を再生していくカギとなる要素だと考えています。ですからライターが率先して成功事例をつくってくれることに期待しました」(鈴木伸一朗さん)

二宮団地は今年2017年から、築50年の老朽化した建物をリノベーションして賃貸する試みを始めており、徐々に住人が増え始めている。団地で想起される、畳敷きの部屋やバランス釜の風呂といった古い設備を一新し、無垢材を使った清潔感のあるさとやま風の内装や3点給湯など現代の設備仕様にすることで、若い借り手が増えたという。そこから一歩進めて、オリジナルの内装で団地をカスタマイズするモデルケースをつくることで、より個性的な暮らし方を発信する考えだ。

また、“さとやまライフ”を打ち出していることからも伝わるように、二宮団地は自然に恵まれている。しかも東海道本線や湘南新宿ラインを使えば横浜まで39分、品川まで58分、新宿まで72分と、都心の近くに位置している。JR二宮駅からバスで10分前後と通勤にはやや不便な立地だが、高台に位置する団地は見晴らしがよく、気軽に訪れて別荘のようにリフレッシュしたり、在宅ワーカーが集中して仕事をするための拠点にしたりといった用途には最適と考え、定住以外の居住スタイルも模索する。

【画像3】昨年から入居者募集を開始しているリノベーションルームでは県内産の杉を多用したタイプが人気。今年5月には入居者がセルフリノベーションするプランも打ち出した(写真撮影/蜂谷智子)

【画像3】昨年から入居者募集を開始しているリノベーションルームでは県内産の杉を多用したタイプが人気。今年5月には入居者がセルフリノベーションするプランも打ち出した(写真撮影/蜂谷智子)

【画像4】二宮駅から歩いてすぐのところに海がある。山の中腹にある団地の窓からも、海が見える(写真撮影/蜂谷智子)

【画像4】二宮駅から歩いてすぐのところに海がある。山の中腹にある団地の窓からも、海が見える(写真撮影/蜂谷智子)

デザインセンスとリノベーションのスキルで、古いものを輝かせる

募集の背景から、暮らし体験ライターのうち2名はリノベーションスキルのあるチョウハシトオルさん、岸田壮史さんが選ばれた。ふたりとも神奈川を拠点に活動するフリーランスの設計・施工技術者。実際に団地の一室をセルフリノベーションし、建物の古さを逆手に取ったクリエイティブな暮らしを楽しんでいる。

「僕は大学でインテリアデザインを学んでいたころから、古いものにデザインを加えて再生することに興味がありました。古くからあるものは時代とのズレが生じてしまいがちですが、視点を変えることで新たな魅力が見えてくることがあります。団地も部屋の使い方やコミュニティ運営などをリデザインすることで、新しい暮らし方が発見できるのではないでしょうか」(チョウハシトオルさん)

「去年7月に横須賀の工務店を辞めて、今後はフリーランスとして地域に密着したスタイルで建築や内装の仕事をしていきたいと考えています。二宮団地で自分のリノベーション作品を発信し、かつそこに住まうことで、地域とのつながりが増えたらうれしいですね。二宮の記事で僕のことを知ったお客さんから発注をいただくなど、すでに仕事にもプラスになっています」(岸田壮史さん)

若者を中心にセルフリノベーションの人気が定着しているが、都会ではリノベーション可能な物件が少ないのが現状。団地の内部を思い切りリノベーションして新しい暮らし方を発信することに、チョウハシさんも岸田さんも期待感をもって取り組んでいるようだ。

【画像5】セルフリノベーションでつくられたチョウハシさんの部屋は、古いものを巧みに利用した、個性的なインテリアが目をひく(写真撮影/蜂谷智子)

【画像5】セルフリノベーションでつくられたチョウハシさんの部屋は、古いものを巧みに利用した、個性的なインテリアが目をひく(写真撮影/蜂谷智子)

【画像6】セルフリノベーション最中の岸田さんの部屋。水まわりには古い建具をあしらっている。ディテールにこだわったつくりで、完成が楽しみになる(画像提供/岸田壮史さん)

【画像6】セルフリノベーション最中の岸田さんの部屋。水まわりには古い建具をあしらっている。ディテールにこだわったつくりで、完成が楽しみになる(画像提供/岸田壮史さん)

忙しい都会暮らしから距離を置く拠点として、団地を活用

チョウハシさんも岸田さんも、二宮団地に居住するが、フリーランスの編集者、大井あゆみさんは東京の中野の住まいと二宮団地を行き来している2拠点居住者だ。

「佐々木俊尚さんやナガオカケンメイさんなど、多拠点居住を実践する著名人を仕事で取材したことがあり、さまざまな拠点を行き来するライフスタイルに興味を持っていました。また個人的な出来事として、今年はじめに大分の実家を引き払い、両親を東京に呼び寄せた経緯があります。都会は便利ですが、故郷を彷彿とさせるような自然豊かな地域にも愛着があります。今は両親も一緒にふたつの拠点を行き来し、都会と田舎の暮らしを満喫中です」(大井あゆみさん)

政府が“働き方改革”の旗振りを行っていることもあり、在宅勤務を導入する企業も増えている。頻繁に都心に通勤する必要がなければ、住む場所も自由に選べる。大井さんのようなフリーランサーでなくても、週に何日かの田舎暮らしがリアリティを持つ時代になってきた。

「セルフリノベーションした私の部屋の家賃は、36.94m2の2DKで月に3万円ほどです。都心なら駐車場を持つ金額とほぼ同額で、海を望む別宅を持てるのは魅力的だと思いますよ。お試しで住んでみて、こちらの暮らしが性に合えば将来の移住を視野に入れるのもアリかもしれません」(大井さん)

全国的に空き家の増加が問題になっている一方で、東京都中心部の住宅価格は高騰を続けている。今後は東京に働く拠点を維持しながら、手ごろな価格で暮らせる郊外や他府県へと徐々に軸足を移し、“ときどき東京に出稼ぎしつつ、終の住処となる地方の拠点を整える“というライフスタイルを実践する人も増えてくるかもしれない。

【画像7】ウェルカムボードがかわいい大井さんの部屋は、DIYやセルフリノベーションに興味がある人々を募り、ワークショップ形式でリノベーションした。奥のリビングにはハンモックが。ここで揺られながら仕事をすれば、リラックスしてよいアイデアが生まれるのだそう(写真撮影/蜂谷智子)

【画像7】ウェルカムボードがかわいい大井さんの部屋は、DIYやセルフリノベーションに興味がある人々を募り、ワークショップ形式でリノベーションした。奥のリビングにはハンモックが。ここで揺られながら仕事をすれば、リラックスしてよいアイデアが生まれるのだそう(写真撮影/蜂谷智子)

住人の高齢化や空き家問題――昭和の時代に団塊世代向けに一括供給され、同世代人口の比率が高い団地は、日本がこれから直面する問題を先取りしているともいえる。

二宮団地に関していえば、空き家率が40%と既に深刻な状況だが、こういった状況を逆手に取って、暮らしを楽しもうとする若い世代は、着実に増えてきている。また賃貸住宅の所有者・事業者である神奈川県住宅供給公社も、老朽化した建物をメンテナンスしたり、今までの原則を緩和したりといった、受け入れ体制を整えている。二宮団地のチャレンジには、全国の住宅問題を考えるうえでも重要なヒントがありそうだ。

●取材協力
YADOKARI×二宮団地 暮らし方リノベーション
神奈川県住宅供給公社 ~湘南二宮 さとやま@コモン~

家とココロの専門家に聞く「癒し」のリフォーム 4つのコツ

わが家は「ほっと落ち着く空間」であってほしいもの。現状の不満を解消するだけではない、心も体も伸びやかになる住まいへ。暮らしに寄り添う「癒し」がある、本記事ではそんなリフォームをご紹介しよう。
ココロの専門家に聞く 心をほぐす癒しの住まいとは?

住まいが癒しの場になる理由

ストレス社会といわれる現代において、住まいには「癒し」が必要だと語るのは、心理学者の小俣謙二さん。
「ストレスの対処法には、その原因に直接働きかける『直接的対処』と、ストレスを別の形で解消する『間接的対処』があります。買い物やスポーツで気分転換するのは後者に当たりますが、家も同様。癒しを感じられる環境なら、ストレスによって生じた心身のバランスの崩れを回復させることができます」

 そのためにはどのような住まいが良いのだろう。
「まずは、快適温度が保たれていて、外から風が入ってくる住環境を整えること。外からの風は、心地よい刺激になり、脳をリフレッシュさせます。加えてさまざまな研究から森林に癒し効果があることはわかっているので、外の緑を眺められる窓があると効果的です」

「次に間取り。縁側や広縁のような特定の目的をもたない『間(ま)』に、人はゆとりを感じます。物理的な余裕は心理的・行動的にもゆとりを生んで、本を読んだり昼寝をしたり、ただボーッとしてもいい場所となる。ストレス解消に効果を発揮します」

「また、自分だけの空間を得るのも大切なこと。ストレスや心理的問題を抱えたときには1人になって感情の整理や自己内省をする必要があり、個室が緊張解消の場となるのです。使うときに1人になれる空間なら、家族共用のコーナーでも構いません」

ありがちな「癒されない環境」とは?

一方で、癒しを阻害する間取りもあると、小俣さんは注意を促す。
「動線や収納のプランが悪いと、無意識にストレスをため込むことに。リフォームでは暮らしやすい間取りにすることが必要です。家が舞台装置、住まい手が演者、ライフスタイルが脚本だとすると、それらがマッチして初めて癒しを得られる住環境になる。家族構成や子どもの成長、ライフステージに合わせて、都度ライフスタイルを見直し、それを活かせる間取りにしたいですね。家は、住まい手を心理的にも物理的にも支えるベースキャンプですから」

【画像1】(写真撮影/浦田圭子)

【画像1】(写真撮影/浦田圭子)

家の専門家に聞く 住まい手をやさしく包む空間づくり

“人間が大きな気宇(きう)を養うのに、その住まいの大らかさ自由さくらい大きな力を及ぼすものはない”
 19世紀の思想家、ジョン・スチュアート・ミルのこの言葉に感銘を受けたという建築家の田中敏溥さん。住まい手が自然体でいられる安らぎを得て、凛とした気構えを養うことができる……そんな家を数多く手掛けてきた。

「家族構成やライフスタイル、好みといった、変化するものに合わせてしつらえること。隣接している道路や公園などの周辺環境といった、変化しないものを活かして設計すること。そうした気遣いのある家は五感が窮屈になりません。場と人にフィットする家は、ミルが言うように人間の心持ちを支え、癒しを与える力があると考えています」

【画像2】(写真撮影/浦田圭子)

【画像2】(写真撮影/浦田圭子)

<提案1> 安らげるベースを住環境でつくる

癒される家をつくるための提案として、一つ目に田中さんが挙げたのは住環境だ。
「温熱、採光、通気は、身体的なストレスを左右します。それが心地よければ五感が解放されて癒される住まいになります。そこで目指したいのが『夏、蒸し暑くなく、冬、寒くない』家づくり。

木を植える庭がなくて直射日光が入ったり、狭小地や密集地だったりしても、住環境を良くする工夫はできます。冬の寒気が入るのを防ぎつつ、家の中を南風が抜ける工夫や、夏の直射日光を避けて冬の低い日差しが室内の奥まで届く開口計画などを意識しましょう。
冷暖房が必要なのはたいてい冬と夏。春秋の半年はチョウが舞い、トンボが飛ぶそよ風を感じられる家にすれば、そこに居るだけで日々癒されることでしょう」

<提案2> 室内を調える

二つ目の提案は、室内を調えることだと田中さん。

「いい家具があると空間がよく見えるし、家具や建具がバラバラだと落ち着かない気分になりますよね。つまり、住まい手の好みと家屋と家具が互いにフィットするしつらえであれば、リラックスできて、ゆったり過ごせる空間になるのです。リフォームでは既存の柱や梁などを残すこともできますし、家具を造作して自分らしさを織り交ぜることもできます」

 思い出の柱や梁は、ずっと見守られているようなぬくもりを感じさせ、自分の好みを反映した素材や色、デザインは安心感をもたらす。
「また、ゴチャゴチャした空間にならないように、必要な場所に必要な量の収納を設けることも大切。調っている空間は、気持ちもスッキリするはずです」

【画像3】(写真撮影/浦田圭子)

【画像3】(写真撮影/浦田圭子)

<提案3> 自然を取り入れる

設計では、家屋だけでなく、屋外にも気を配るという田中さん。三つ目の提案として、家と自然が良い関係になる家づくりの大切さを訴える。

「庭師の言葉に『庭をつくると家が二倍よく見える』というものがあります。まさにその通りで屋外と家屋は一体で考えなければいけません。敷地が狭くて大きな庭をつくれなければ、窓の近くに木を一本植えるだけでもいい。周辺に公園があるなら、借景を活かして自然を室内に取り込みたい。
間取りや開口、素材などで室内外につながりがあったり、外に視界が抜けたりする家は広がりを感じられ、心も伸びやかになります」

移ろう四季を愛でる窓でしみじみとした平穏を味わい、室内に用いた自然素材の香りや肌触りで五感が満たされる。そんな暮らしを意識してみよう。

<提案4> 自分空間をつくる

四つ目の提案は、個の空間をつくること。「人間は、会いたいときに会えて、会いたくないときには会わずにいられる環境が必要」だと、田中さんは話す。
「人が集うための大きい空間だけでなく、1人きりになれる空間も、実は同じぐらい大切です」

 誰にも気兼ねせず、肩の力を抜いてホッとできるスペースは、心身をリセットするために必要だ。階段ホールを利用して1坪程度の夫の書斎を設けたり、キッチンの近くに家事スペースを兼ねた妻のデスクを置いたり。広さよりも、デッドスペースの活用などで設置場所を賢く工夫したいもの。

 思いのままに過ごせる場所で、いつでも素の自分に戻れる安心感と、ストレスをそぎ落とす開放感を得られるだろう。

【画像4】(写真撮影/浦田圭子)

【画像4】(写真撮影/浦田圭子)

心身のバランスの崩れを回復させ、癒しの場になりうる住まい。そんな家づくりを叶えるために、4つの提案をリフォームプランに取り入れてみよう。

構成・取材・文/樋口由香里

●取材協力
・駿河台大学 教授
小俣謙二さん
博士(心理学)。駿河台大学心理学部並びに同大学院心理学研究科教授。環境心理学と犯罪心理学の観点から社会問題を研究。著書に『住まいとこころの健康-環境心理学から見た住み方の工夫』など

・田中敏溥建築設計事務所 代表
田中敏溥さん
一級建築士。東京芸術大学大学院卒業後、茂木計一郎氏のもとで環境計画及び建築設計活動に従事。1977年、田中敏溥建築設計事務所設立。著書に『建築家の心象風景<2>』、ほか

突然のトイレ故障! 応急処置からリフォーム完了までの1カ月

とある3連休初日の夜10時、トイレが故障するという事態に見舞われた筆者。トイレタンクの上の蛇口(手洗い管)からの水が止まらなくなったのだ。設備会社にとりあえず水を止めてもらったが、さて、この後どうする? 修理か、新品購入か。解決までの約1カ月を報告する。
トイレの水が止まらない! 管理会社に助けを求めるが……

そろそろ寝ようかと、リビングのテレビを消したある夜のこと。トイレのほうからチョロチョロと音がすることに気がついた。見に行くと、トイレタンク上部の蛇口(手洗い管)から水が流れ続けている。

【画像1】水が止まらなくなったわが家のトイレ。便器本体とタンクはマンションが竣工した35年前のもの。温水洗浄便座は7年前に取り付けたものなので本体と便座のメーカーが違う(写真撮影/田方みき)

【画像1】水が止まらなくなったわが家のトイレ。便器本体とタンクはマンションが竣工した35年前のもの。温水洗浄便座は7年前に取り付けたものなので本体と便座のメーカーが違う(写真撮影/田方みき)

水を流すレバーを回してみると、抵抗感なくカランと空回りする。「ああ、またか」と思い、タンクのふたをはずして中をのぞいてみた。以前も何度か同じことがあったのだ。

【画像2】トイレタンクの仕組み(画像提供/DCMホーマック)

【画像2】トイレタンクの仕組み(画像提供/DCMホーマック)

トイレタンクは、レバーを回すとタンクの排水口をふさいでいるゴムフロートが上がって便器に水が流れ、同時にタンク内と手洗い管に給水が始まる構造だ。ゴムフロートの鎖がどこかに引っかかって排水口が開いたままになると、いつまでも水が流れ続けることになる。以前にも同じことが何度かあり、そのたびに排水口が閉じるまで鎖をテキトーに動かして直していた。ところが、今回はなかなか排水口が閉じてくれない。早く水を止めないと、水道代が大変なことになる。もちろんトイレも使えない。

ふと思い出したのは管理会社に24時間サポートの窓口があること。電話をして状況を話すと、管理会社のサポートスタッフが「トイレの止水栓、または水道の元栓を閉めてタンクへの給水を止める応急処置」の方法を説明してくれた。この方法でとりあえず水を止めておけば、翌朝以降に修理業者を派遣してくれるとのことだった。

【画像3】赤いマルで囲んだ部分が止水栓。ここをマイナスドライバーで右に回せば給水管からのタンクに流れ込む水を止められる。ところが、固く締まっていて(おそらくサビている)まったく動かなかった(写真撮影/田方みき)

【画像3】赤いマルで囲んだ部分が止水栓。ここをマイナスドライバーで右に回せば給水管からのタンクに流れ込む水を止められる。ところが、固く締まっていて(おそらくサビている)まったく動かなかった(写真撮影/田方みき)

よし、と止水栓を回そうとしてみるが、サビているのか固くてびくともしない。止水栓はあきらめて、玄関横のパイプシャフト(給排水管やガス管等を通す空間のこと)内の水道の元栓を閉めることにした。流れ続けていたトイレの水は無事に止まり、ほっと一息。

しかし、悠長に構えてはいられない。このままではキッチンも浴室も水は出ないのだ。時刻はこの時点ですでに午前0時近い。戦いは翌日に持ち越しだ。仕方なく、この夜はお風呂も入らずに寝るしかなかった。

水は止まるも再発の危機! 即時交換は20万!?

翌朝、設備会社の人がやってきた。プロ仕様の工具で止水栓をあっさりと閉じる。故障の原因は、トイレタンク内の部品の破損。レバーとゴムフロートをつなぐ棒が折れていた。約35年前から使っているトイレなので、経年劣化だろうとのこと。

そこで、設備会社に、どんな対処方法があるかを聞いた。それをまとめたのが下の表だ。

【画像4】対処方法と費用(※筆者が施工を依頼した設備会社の場合)。それぞれの納期は、設備会社に在庫があれば即日。なければ取り寄せに約1週間。また、内装を変える場合はリフォーム会社とのプランニングの日数も必要となる

【画像4】対処方法と費用(※筆者が施工を依頼した設備会社の場合)。それぞれの納期は、設備会社に在庫があれば即日。なければ取り寄せに約1週間。また、内装を変える場合はリフォーム会社とのプランニングの日数も必要となる

好みや予算によって、さまざまな方法があることがお分かりいただけるだろうか。

私が選んだのは「4」の一式まるごと交換。安上がりな「1」「2」は古い機種のため部品がなかったこともあるが、なにより、せっかくの機会なのでキレイな新品にしたかった。「5」は収納キャビネットや手洗いカウンターがあるといいなとは思うものの、設置費用などすべて含めて20万円以下という予算をオーバーしそうなので涙をのんで断念。

設備会社からは、「好きなメーカーの好きなトイレを選んでくれたら、設置可能かどうかを調べます。当社の場合、費用は設置や撤去費用も含めてメーカー希望小売価格の約7~8割。20万円の機種なら15~16万円程度と考えておいてください」と言われたので、まずは機種選びから始めることに。

【画像5】便器の交換が完了するまでの約1カ月間、バケツに水をくんで流す「手動水洗トイレ」の生活が続いた。忙しいときにはこれが面倒で、トイレに行くのを我慢したことも。体によくない(写真撮影/田方みき)

【画像5】便器の交換が完了するまでの約1カ月間、バケツに水をくんで流す「手動水洗トイレ」の生活が続いた。忙しいときにはこれが面倒で、トイレに行くのを我慢したことも。体によくない(写真撮影/田方みき)

ここまで来たら妥協しない! 最新トイレ見学に、いざショールームへ

どうせ新しいトイレに交換するなら、自動で水が流れたり、掃除がラクだったりする好みの機種にしたい。住宅設備メーカーの最新カタログ3社分を取り寄せて熟読。「汚れの原因になる水あかがつきにくい」というトイレを候補に決めた。

さっそく、パナソニックのショールームに予約を入れた。トイレが壊れてからすでに1週間が経過していたが、ここまできたら実物を見たかったのと、設備会社が出してくれた費用が妥当か知りたかったからだ。

第一候補のトイレは、今年発売になった比較的新しい機種。本体に凹凸が少なく(ホコリがたまりにくく掃除がラクそう!)、便器内の汚れが残りにくいタイプ。価格も約15万円で、これなら予算内におさまりそうだ。

ショールームのスタッフに、交換費用を聞いてみる。すると、住宅設備メーカーと提携しているリフォーム会社に依頼すれば、内装リフォームや収納棚を付けるなどのリフォームにも対応でき、メーカー希望小売価格の範囲内に工事費もおさまることが多いとのこと。トイレの交換のみなら、先日家に来てくれた設備会社にお願いするのがコスト的にはよさそうだ。(※リフォーム会社によって対応が異なるため、依頼の際は確認が必要)

「やっと解決!」と思いきや、決めかけていた機種がマンションの2階以上では、水圧などの条件で設置に向かないことが判明。機種選びは振り出しに戻った。

収納キャビネットがセットになったトイレを発見。そしてリフォーム完了

カタログを再度見直す。そこで見つけたのが収納キャビネットがセットになったトイレ。設備会社に見積もりを出してもらうと約20万円(税込)。予算をオーバーしそうだからとあきらめていた収納キャビネットが付けられる。よし、これに決めた!

その後、トイレとキャビネット一式の発注・納品に約1週間。マンションの管理組合にリフォーム内容と日程を申請し工事当日を迎えた。施工時間は、トイレ交換だけなら3時間程度で済んだのだが、キャビネットの幅を合わせるために現場での調整が必要だったため所要時間は約5時間だった。

トイレが故障してから交換完了まで、ちょうど1カ月かかった計算だ。

【画像6】新しくなったわが家のトイレ。キャビネットの高さが、以前のトイレタンクよりも低かったため、壁の汚れが一部露出してしまった(写真撮影/田方みき)

【画像6】新しくなったわが家のトイレ。キャビネットの高さが、以前のトイレタンクよりも低かったため、壁の汚れが一部露出してしまった(写真撮影/田方みき)

【画像7】汚れていた壁が露出してしまった部分は小物で隠した(写真撮影/田方みき)

【画像7】汚れていた壁が露出してしまった部分は小物で隠した(写真撮影/田方みき)

毎日使う水まわり設備が故障すると、日常生活に大きな支障をきたす。すぐに修繕ができればいいが、急な交換となったときには、リフォームが完了するまで想像以上に不便だ。わが家の場合も、トイレを使うたびにバケツに水をくんで流すのが面倒だった。設備が古く、そろそろ使えなくなるかもと感じている場合は、壊れてから直すのではなく、計画的に交換するほうがストレスがなさそうだ。

部屋の寒さは窓次第!? 進化する「省エネ窓」の断熱効果に注目

寒い冬がやってきた。暖房を効かせた家に居ても、窓際ではダウンを着たくなったり、廊下に出るとブルっと震えたりするのがこの季節。日本人の死亡率が夏よりも冬のほうが高い(※)のも、家の中での寒暖差が血圧の急な上昇や変動を引き起こすヒートショックと無関係ではないだろう。そんな日本の家の寒さの解決のカギを握る断熱効果について、「窓」を手掛ける2つのメーカーに聞いてみた。
※厚生労働省「人口動態調査」(2016年)より

「廊下やトイレでブルルッ」がなくなる?

突然だが、皆さんの住まいは築何年だろうか。古い家は、冬になると寒さを感じることも……? 2017年10月にオープンしたばかりのLIXILの「住まいStudio」では、そんな“昔の家”と“今の家”、“これからの家”の寒さや暖かさの違いを体感できるというので、早速、行ってきた。

LIXILの「住まいStudio」の「冬体験ゾーン」では、外気温0度の巨大な冷蔵庫のような環境を人工的につくり出して、その中に断熱性能が異なる3段階の一戸建てを置き、それぞれの室内の暖かさや寒さを体感できるようにしている。

3種類の一戸建てのスペックは、下の表のとおり。私と編集スタッフのS女史は、このなかの“昔の家”から順に足を踏み入れてみた。

【画像1】LIXILによるシミュレーション図。LIXIL提供のデータのうち、暖房期間(12月1日~3月31日)4カ月間のエアコンの電気代を4で割ったもの。<試算条件:リビングの広さ8畳、東京エリア、室温20度の暖房設定で全日運転>

【画像1】LIXILによるシミュレーション図。LIXIL提供のデータのうち、暖房期間(12月1日~3月31日)4カ月間のエアコンの電気代を4で割ったもの。<試算条件:リビングの広さ8畳、東京エリア、室温20度の暖房設定で全日運転>

“昔の家”は、リビングのエアコンこそ20度に設定されているものの、スリッパを履いた足元がひんやりと冷たい。エアコンがついているリビングはまだましで、エアコンなしの廊下に出てみると「寒っ!」と私とS女史の両方とも思わず悲鳴をあげる始末。「そうそう、おばあちゃんの家がまさにこうで、トイレに行くのがおっくうだったんだよなあ」と思い出したものだった。

「リビングの室温は20度でしたが、廊下は8度。実家がちょうどこんな感じと言うお客様が多いですね。実際、日本の家の約7~8割はこの水準の断熱性能(※) 以下と言われています」(LIXIL ハウジングテクノロジージャパン販売推進部販売推進グループグループリーダー 古溝洋明さん)
※国土交通省による推計(2012年)

次に 断熱性能を高めた“今の家”に移動すると、リビングでは足元のひんやりはなくなり、廊下で感じる寒さのショックも和らいだ。さらに断熱性能の高い“これからの家”に移動したところ、リビングのエアコンはさほど頑張っていないのに実に快適な室温が保たれている。エアコンのない廊下に出たときも同様で、この家の構造が、エアコンの助けをほとんど借りずに、冷蔵庫のような寒さから室内の環境を守っていることが分かった。

同じ条件下でもこれほどまでに室内の環境が違うのは、住まいの断熱性を決定づける要素である壁の構造と窓のつくりがそれぞれ異なるため。特に窓は、壁よりも熱の出入りが多いことから、断熱性能に及ぼす影響がより大きいということになる。

【画像2】写真左:左から“これからの家”“今の家”“昔の家”。壁と窓の違いが分かる。 写真右:サーモカメラで見たリビングの室温。上の“これからの家”はオレンジ色と赤が基調で暖かく、左下の“昔の家”はエアコンの送風口しか赤い部分がない(写真撮影/日笠由紀)

【画像2】写真左:左から“これからの家”“今の家”“昔の家”。壁と窓の違いが分かる。 写真右:サーモカメラで見たリビングの室温。上の“これからの家”はオレンジ色と赤が基調で暖かく、左下の“昔の家”はエアコンの送風口しか赤い部分がない(写真撮影/日笠由紀)

【画像3】冬は室内の熱の58%が開口部から失われており、夏も73%もの熱が屋外から流入している。(画像提供/LIXIL データ出典/一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会)

【画像3】冬は室内の熱の58%が開口部から失われており、夏も73%もの熱が屋外から流入している。(画像提供/LIXIL データ出典/一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会)

家を建てるときは、断熱効果の高い窓を選ぼう

住まいの断熱の上で最も大きな役割を果たす「窓」。では、どんな窓なら、断熱性能が高いのだろうか。

さきほど体験した“昔の家”の窓は、単板、つまりガラスが1枚で、フレームは熱伝導率の高いアルミ。“今の家”に使われていた複層(ペア)ガラスのほうが、2枚のガラスの間に空気層を挟む分、断熱効果が高くなっていた。そして“これからの家”では、複層(ペア)ガラスの間に空気よりも断熱性の高いアルゴンガスが挟まれている分、さらに断熱効果が高まっていた。

また、“これからの家”に使われていた窓は、フレームがアルミと樹脂の組み合わせでできている「ハイブリッド窓」。樹脂の高い断熱性と、経年劣化しにくいアルミの耐久性とを併せ持った「いいとこ取り」の窓なのだ。

さらに、これらの上を行く「トリプルガラス」、つまりガラス3枚の窓もある。ガラスが3層になるとさらに性能や断熱効果が高まるようだ。

「これから家を新築する方なら、こうした断熱性の高い窓を選ぶことをお勧めします。建物面積36坪(約120m2)の一戸建ての場合、 “これからの家”を建てると、太陽光発電システムも含めて2550万円と、“今の家”よりもイニシャルコストは350万円高くなります。しかし35年間の光熱費や断熱性能による金利優遇(省エネルギー性の高い住宅に対して【フラット35】の金利を0.25%引き下げる『【フラット35】S』の適用)による差額が生じるため、トータルのコストは“これからの家”のほうが80万円安く済むことに。その上、暖かくて快適な生活が送れるわけですから、お得です」(古溝さん)

【画像4】建物面積36坪(約120m2)の一戸建ての設定で試算した図(データ提供/LIXIL)

【画像4】建物面積36坪(約120m2)の一戸建ての設定で試算した図(データ提供/LIXIL)

【画像5】冬を想定した温度の外気に面しているアルミ窓、ハイブリッド窓、樹脂窓2種。アルミ窓は結露していた(写真撮影/日笠由紀)

【画像5】冬を想定した温度の外気に面しているアルミ窓、ハイブリッド窓、樹脂窓2種。アルミ窓は結露していた(写真撮影/日笠由紀)

【画像6】冷たい疑似アイスクリームに挿したスプーン。材質は右から、金属、樹脂、金属と樹脂のハイブリッド。ハイブリッドは金属(強度に優れる)と樹脂(冷たさを伝えにくい)のいいとこ取りをしている(写真撮影/日笠由紀)

【画像6】冷たい疑似アイスクリームに挿したスプーン。材質は右から、金属、樹脂、金属と樹脂のハイブリッド。ハイブリッドは金属(強度に優れる)と樹脂(冷たさを伝えにくい)のいいとこ取りをしている(写真撮影/日笠由紀)

リフォームでも断熱性の高い窓に変えられる

では、当面、家を建てる予定がないという人は、足元ひんやり、廊下でブルブルな日々を今後も送り続けなければならないのだろうか? 実はそんなことはない。今住んでいる家の窓だけを、リフォームすることもできるからだ。

窓の断熱リフォームの方法は、主に3つ。
[1]二重窓にする(今ある窓に内窓をつける)
[2]窓交換(カバー工法)
[3]窓のガラスのみを替える

[1]は、今ある窓の内側にもう一枚、新しい窓を付けるやり方。実は筆者宅も家全体のリフォームのときに、この方式で内窓を付けた。既存の窓との間に空気層ができたことで、断熱性も防音性も高まり、結露も減ったが、その分、内側の空間が若干狭くなる点が残念といえば残念かもしれない。料金の目安は掃き出し窓2枚で10万~12万円(商品代+工事費/LIXIL「インプラス」の場合)。作業時間は1窓約1時間。

[2]は、壁を壊さずに今あるサッシの枠の上から新たに枠とサッシを取り付けるというやり方で、断熱性の高いサッシを付けることで、それまでよりも断熱性能が高まるというもの。料金の目安は、掃き出し窓2枚で約17万~23万円(商品代+工事費/LIXIL「リフレム リプラス」の場合)。作業時間は1窓最短1時間半だという。

「カバー工法は、立ち上がりの分、どうしても開口面積が狭くなってしまいますが、以前のカバー工法よりも立ち上がり部分を縮小してガラス面を広げて明るさを確保したこともあり、売り上げは約2倍に増えました」(LIXILハウジングテクノロジージャパンサッシ・ドア事業部サッシ・ドア商品部部付部長 石上桂吾さん)

[3]は、窓のガラス部分のみ断熱性の高いガラスに取り換えるというもの。後述する日本板硝子の真空ガラス「スペーシア」に取り換えた場合、掃き出し窓2枚で約14万~16万円(商品代のみ。工事費別)。作業時間は1窓30分程度。

ここで初めて「真空ガラス」が登場してきた。「真空ガラス」は、これまでに出てきたペアガラスやトリプルガラスとはどう違うのだろうか?

【画像7】既存の「今ある窓」(左)の内側にあらたに内窓(右)を設けた「二重窓」。間に空気層ができることで、断熱性能だけでなく防音性も高まる(画像提供/LIXIL)

【画像7】既存の「今ある窓」(左)の内側にあらたに内窓(右)を設けた「二重窓」。間に空気層ができることで、断熱性能だけでなく防音性も高まる(画像提供/LIXIL)

「窓」は進化を遂げ続けている

さきほど唐突に登場した「真空ガラス」は、日本板硝子が20年前に開発した複層(ペア)ガラス。一般的な複層(ペア)ガラスが、2枚のガラスの間に空気層やアルゴンガス層を設けるのに対して、こちらは特殊技術によって2枚のガラスの間を真空状態にするというものだ。

「断熱性は、空気<アルゴンガス<真空の順で高まるため、空気層やアルゴンガスの複層(ペア)ガラスは、通常18mmほどの厚さなのに対して、当社の真空ガラス『スペーシア』は6.2mmで十分な断熱性能を発揮します。既存の単板ガラスとほぼ同じ厚さなので、今、単板ガラスが入っているサッシにも問題なく入るという点で、実にリフォーム向きの商品です。断熱性能は単板ガラスの約4倍になります」(日本板硝子建築ガラス事業部門アジア事業部日本統括部営業部営業企画グループ担当課長 朝香寛さん)

この「スペーシア」。20年の歴史のなかで、どんどん進化を遂げてきており、つい最近も、一般的なトリプルガラスの半分の厚みで同等の断熱性をもつ新製品「スーパースペーシア」が発売されたばかりだ。厚み10.2mmと既存のサッシには入りにくいので、一戸建ての場合は、これから家を建てる人向きだが、マンションならリフォームでも使えるケースもあるとか。同社の複層(ペア)真空ガラス「スペーシア21」よりも薄く、コストも2割ほど抑えられるという。

【画像8】「スペーシア」の断面イメージ。真空層に加え、特殊金属膜をコーティングして遮熱・断熱効果を高めたLow-Eガラスを使用している(画像提供/日本板硝子)

【画像8】「スペーシア」の断面イメージ。真空層に加え、特殊金属膜をコーティングして遮熱・断熱効果を高めたLow-Eガラスを使用している(画像提供/日本板硝子)

【画像9】熱を伝えるマイクロスペーサーの間隔を広げることで数を半減、断熱性を高めた「スーパースペーシア」(画像提供/日本板硝子)

【画像9】熱を伝えるマイクロスペーサーの間隔を広げることで数を半減、断熱性を高めた「スーパースペーシア」(画像提供/日本板硝子)

取材を通じて、日本の窓は自分が思っていた以上に進化していることが分かった。LIXIL住まいStudioで、冷蔵庫の中にある”これからの家“の窓が結露していなかったこと。日本板硝子のショールームで裏側からコールドスプレーを吹き付けられた真空ガラスに触っても、冷たさを感じなかったこと。数字を並べるよりも、体感、体験することで、イマドキの窓のすごさを実感できたし、築40年の実家の単板ガラス+アルミ枠のサッシを今すぐ全部、高断熱仕様に替えたくなった(100万円近くかかるらしいけれど……)。

なお、断熱性の高い家を建てると、「フラット35S」など金利優遇のあるローンを利用できるなどの特典があるが、今の家の窓を断熱性の高いものに替えるだけでも、東京都をはじめ、多くの自治体が補助金を支給している。税制の優遇等も受けられるので、制度を上手に利用して住まいの断熱化を進めるのも一案。

今から腰を上げれば、1~2月の厳寒期到来前にポカポカなわが家が実現するかも!

●取材協力
・LIXIL快適暮らし体験「住まいStudio」※見学は完全予約制
・日本板硝子 住まいの窓ガラス情報サイト ガラスワンダーランド

日本人は多機能型のバス・トイレが好き? 欧米との違いはどこにある?

Houzz Japanがバスルーム(バス・洗面・トイレ)のリフォームについて、国際比較の調査をした。北米やヨーロッパの各国と比べて、日本の回答が大きく異なる点もいくつか見られた。どんな点が異なるのか?詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「バスルーム リフォーム市場調査 2017年」を公表/Houzz Japan多機能好きの日本。世界各国との違いが鮮明に

調査対象の世界各国とは、北米2(アメリカ、カナダ)、アジア・太平洋地域3(オーストラリア、ニュージーランド、日本)、ヨーロッパ9(フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ロシア、スペイン、デンマーク、スウェーデン、イギリス)の計14カ国※で、それぞれ過去1年から今後3ヶ月の間に「バスルームのリフォーム・リノベーションを行った」または「行う予定がある」人に、Houzzが調査をした。
※デンマークとスウェーデンの数字は合算

リフォームによる「バスルームの広さの変化」を聞くと、ほとんどの国がバスルームを拡張した割合よりシャワースペースを拡張した割合のほうが多かった。一方、バスルームを拡張した割合のほうが多かったのは、14カ国中、日本とロシアの2カ国のみ。日本では、浴槽の外で体を洗って浴槽につかる生活習慣があるからだろう。寒さの厳しいロシアも、バスタブに湯をためて身体を洗う習慣があるようだ。

【画像1】リフォーム・リノベーションによるバスルームの広さの変化(出典:Houzz Japan「バスルーム リフォーム市場調査 2017年」より転載)

【画像1】リフォーム・リノベーションによるバスルームの広さの変化(出典:Houzz Japan「バスルーム リフォーム市場調査 2017年」より転載)

また、日本人の多機能好きも明らかになった。「多機能トイレ」の採用割合は日本が突出して高く93%にも達した。2番目に採用率が高いアメリカとドイツではわずか29%と、その差は圧倒的だ。「多機能浴槽」の採用割合でも、日本が最も高い20%だが、次ぐカナダは15%。「多機能トイレ」の採用率と比べるとその開きは小さくなる。「多機能シャワー」の採用割合になると、イタリアの21%が最も高く、シャワー習慣の歴史が浅い日本はわずか8%で欧米各国より採用割合が低くなっている。

【画像2】リフォーム・リノベーションの内容:多機能設備(出典:Houzz Japan「バスルーム リフォーム市場調査 2017年」より転載)

【画像2】リフォーム・リノベーションの内容:多機能設備(出典:Houzz Japan「バスルーム リフォーム市場調査 2017年」より転載)

ほかの傾向についても簡単に紹介しておこう。

●アルコーブ浴槽(三辺を壁に囲まれた浴槽)の採用割合は、日本(72%)が飛びぬけて高い。
●一方で、2人用のサイズの浴槽の採用割合は、デンマーク、スウェーデン(43%)、ドイツ(41%)が高く、日本(17%)は真ん中あたり。
●大小の水流が選べるトイレの採用割合が高いのはもちろん日本(78%)だが、オーストラリア(70%)も高い。低いのはアメリカ(15%)、フランス(32%)、カナダ(33%)。
●洗面ボウルが2つ並んでいるダブルボウルを採用する割合が高いのは、アメリカ(48%)、フランス(35%)、カナダ(33%)。日本(14%)は下から3番目で、最も低いのはロシア(6%)。

掃除のしやすさは優先するが、照明の良さは気にしない日本

さて、バスルームをリフォームする際の機能的な優先事項を聞くと、「掃除がしやすい」ことを優先する傾向がどの国でも強いことが分かった。掃除のしやすさを優先する回答はニュージーランドの68%からイタリアの44%の間に分布しているが、ニュージーランドの68%、アイルランドの67%に次いで日本は66%と3番目の位置にいる。

これに対して、「照明がよい」を優先するという回答では、ほかの国がロシアの53%からイタリアの29%の間に分布しているのに対し、日本はわずか17%で最も少なかった。日本の照明への関心の低さが際立つ結果だ。

【画像3】バスルームのリフォーム・リノベーションにおける機能的な優先事項(出典:Houzz Japan「バスルーム リフォーム市場調査 2017年」より転載)

【画像3】バスルームのリフォーム・リノベーションにおける機能的な優先事項(出典:Houzz Japan「バスルーム リフォーム市場調査 2017年」より転載)

日本人は住宅の照明への関心度が低いと言われている。しかし最近では日本でも、間接照明やダウンライトなどを上手に利用した室内、光の明るさを段階的に調節できる調光機能付き照明をつけた浴室など、照明への関心も高まっている。海外の事例などを参考にして、照明にこだわったリフォームをするという視点も面白いと思う。

また、筆者が面白いと思った調査結果は、バスルームリフォームの依頼先だ。日本を含め14カ国中9カ国が「最も多く設計の仕事を依頼した専門家カテゴリ」は「建築家」となっているのに対し、アメリカ、カナダ、ドイツ、ロシア、イギリスはバスルームデザイナーやインテリアデザイナーとなっている。バスルーム専門にデザインしたり、インテリアと統一してデザインしたりする専門家が、これらの国では比較的身近な存在だということが分かる。

Houzzは、家づくりを考えている人と住宅の専門家が交流できる国際的なプラットフォームだが、専門家について、建築家やビルダーなどのほか、キッチン&バスデザイナー、インテリアデザイナー&デコレータ、ランドスケープアーキテクト&ランドスケープデザイナーといったカテゴライズをしている。水まわりなどの特定範囲専門のデザイナーに依頼することが、世界標準になっているということだろう。

どのようなリフォームをするかは、各国の生活習慣や住環境への関心度の違いなどが強く影響するものだ。しかし、日本のスタンダードにとらわれずに、思い切って浴槽を大きくしたり、装飾したり、あるいは洗面所を多機能にしたりといった、自分の暮らしに応じたリフォームを考えてみてはいかがだろう。

※なお、記事では国際比較の調査結果を使用しているが、日本についての詳細結果も公開されている。
協力:Houzz Japan