シェアハウス等でシングルマザーや障がい者に伴走する、まちの不動産屋さん。農園や食堂併設で支え合い、雇用創出も 神奈川県伊勢原市・めぐみ不動産コンサルティング

めぐみ不動産コンサルティングは、まちの不動産屋さんでありながら、社会生活が困難な状況にある人の住居・福祉・仕事を包括的にサポートできるようにと、シングルマザー向けシェアハウスの運営や障がい者グループホームの運営をしています。まちの不動産屋さんが、なぜ生活に困難を抱える人たちを支える取り組みをしているのでしょうか。そこには「自身の原体験がある」と話す創業者の竹田恵子さん。これまでの事情や、事業の現在、これから取り組むべきことについて話を聞きました。

シングルマザーにとって、家を探すことが困難だと気づいた

神奈川県伊勢原市。都心から電車で1時間ほど、田畑が目の前に広がるのどかな住宅街です。この街にあるのが「めぐみ不動産コンサルティング」。伊勢原市近郊にて不動産の賃貸や売買を行う会社です。不動産事業以外にも、シングルマザーをサポートするシェアハウスや社会福祉施設の運営サポート、就業支援、農園の運営や食事支援など、「困った人の拠り所」となる取り組みを行っています。

創業者の竹田恵子さんは、「もちろん不動産の賃貸や売買もしますが、半分は人と人をつなげるボランティアのような感じ。人との距離が近くなって家族が増えているように感じるのが嬉しい」と笑います。竹田さんの優しさは、住居や仕事、社会復帰に悩みを抱える人たちにとって、あたたかい布団にくるまったかのような温もりが感じられるのでしょう。

めぐみ不動産コンサルティングが母子シェアハウス事業を始めたのは、2016年のこと。始まりはニュースを見て母子家庭の貧困がこんなにも切実だという事実を知ったことでした。折しも自身もシングルマザーとして、不動産会社を経営しながら必死に子育てをしている最中。

大家族の母のような優しくあたたかな雰囲気の竹田さん(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

大家族の母のような優しくあたたかな雰囲気の竹田さん(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

「困っている人たちが支え合い、少しでも安らぐことができるあたたかな環境をつくりたい」。そう考え、ひらめいたのがシングルマザー向けのシェアハウスでした。しかし当時、市内にはシェアハウスが一つも存在しませんでした。専用物件の購入を検討しても、シェアハウスの運営に対して事業の持続性や、家賃収入をコンスタントに得ることができるのか、というリスクや不安を感じている銀行から融資が下りない日々。

そこで恵子さんは子育てに理解のある幼稚園経営者の知人から一軒家をマスターリース(一括賃貸)し、シェアハウス運営を始めます。

多様なタイプのシェアハウスがそろう

運営するシェアハウスは2種類。女性専用の「めぐみハウス東大竹I」と、男女共に入居可能で、上下階で暮らしが別世帯に分かれた「めぐみハウスたからの地」です。現在子どもを含めて8世帯13人が暮らします。

「めぐみハウス東大竹I」外観。およそシェアハウスとは思えないゆとりのある姿(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

「めぐみハウス東大竹I」外観。およそシェアハウスとは思えないゆとりのある姿(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

各世帯が利用できる収納、キッチン、浴室など一般的なシェアハウスよりもゆとりのある設計ながら、家賃は月額38,000円~46,000円(同居する子どもの家賃費用は人数当たりで別加算)。50,000円のデポジット(保証金・一時預かり金)は必要ですが、保証人は不要です。

「めぐみハウス東大竹I」の間取図。1階・2階合わせて8室に共用スペースが備わる(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

「めぐみハウス東大竹I」の間取図。1階・2階合わせて8室に共用スペースが備わる(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

入居する人たちには、離婚や未婚、独身や独居で誰かと共に暮らしたいなど、さまざまな事情があります。以前は「家賃が割安で住めるから」と選択されることが多かったシェアハウスの価値が、最近では変化をしているそう。特にコロナ禍で、人との関わりが欲しいとあえてシェアハウスに入居を希望している人が増えたそうです。入居希望者の中には、「一人っ子のためにシェアハウスで兄弟体験をさせたい」という人も。

「2016年のシェアハウス開業当時は、伊勢原という土地柄からか、仕組みに対して認知度がなく、『シェアハウスって見知らぬ人との共同生活だし、安全面など大丈夫なの?』と不安に感じるようで。入居してもらうのに苦労しました。ひとり親は収入が低かったり、DVで逃げてきた場合は連帯保証人になってくれる人がいないなど、家賃保証面がクリアできず、借りることができる賃貸住宅の選択肢がなく、仕方がなくシェアハウスに入居したという人も。しかし徐々にシェアハウスの認知も上がり、これまでにシングルマザー20組弱が入居してくれています」(竹田さん、以下同)

「めぐみハウス東大竹I」のエントランス。シューズボックスの収納量にも複数の世帯が生活できる余裕を設けている(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

「めぐみハウス東大竹I」のエントランス。シューズボックスの収納量にも複数の世帯が生活できる余裕を設けている(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

一方で、シェアハウスが合わないといって退去していった人も。共同生活を営むため、それぞれの人に雰囲気や生活スタイルに合う・合わないがあるのはやむを得ないことです。そのため、竹田さんは事前に必ず面談をすると話します。

「入居する前に必ず2時間ほどかけて面談をして、互いの信頼関係をつくっていきます。面談を通してお断りすることも。社会でしっかり自立した生活を営んでいきたい、仕事に復帰したいという人の背中を押したいからです」

こうやって信頼関係をつくることで、家賃は6年間未払いなしだというから驚きです。

「家賃の支払いが遅れるなら事前に言ってね、と声がけをするようにしています。またお仕事をしておらず支払能力を獲得しようと励むお母さんには『お仕事どう?』と声がけして様子をうかがうことも。信頼をしているからこそ、家賃の支払いについてはじっと待つスタンスを保つように心がけています」(竹田さん)

誰もが孤立しない、安心した暮らしとつながり

ある日、神奈川県の行政担当者から竹田さんに連絡がありました。話を聞くと、シェアハウスの取り組みがメディアに取り上げられたことをきっかけに、めぐみ不動産コンサルティングの存在を知ったそう。この出会いからめぐみ不動産コンサルティングは「住宅確保要配慮者の居住支援法人」としての推薦を受けることになりました。

そして、竹田さんは居住支援法人としての活動を通じて「ひとり親だけではなく、高齢者や障がいを抱える人も複合的に住居や暮らしに困っている状況」ということを知るのです。「家だけではなく総合的に支援できる環境をつくれたらいいのでは?」と思い立ったのが、複合的なビジネスを始めるきっかけに。

「『社会に出てみてうまくいかなかったら、またうちに帰ってきたらどう?』そう言える安心の材料や、場所をつくってあげたかったんです」

その後、竹田さんは障がい者支援のため、パートナーと一般社団法人ワンダフルライフを立ち上げ、グループホームを9棟(うち1棟はリフォーム中)と無農薬野菜を栽培する「めぐみ農園」を開設します。さらに今後2023年7月には障がい者の就労継続支援B型作業所「ワンダフルワークス」の開設と子ども食堂「めぐみキッチン」をオープンする予定です。

グループホーム「ワンダフルワークス」外観(写真提供/一般社団法人ワンダフルライフ)

グループホーム「ワンダフルワークス」外観(写真提供/一般社団法人ワンダフルライフ)

めぐみ不動産コンサルティングの事務所前では「めぐみ農園」でつくった季節の野菜を販売している。グループホームの食材としても使用(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

めぐみ不動産コンサルティングの事務所前では「めぐみ農園」でつくった季節の野菜を販売している。グループホームの食材としても使用(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

グループホームで助け合いながら暮らす。そしてそこで仕事をしながら、併設の食堂や畑では就労や食事、交流もできる。暮らす×働く×食べる×交流、というお互いの仕組みが混ざり合い、補完をする循環型の仕組みになりました。
理想的なスタイルである一方、特にシェアハウス事業は、単体では事業収支的にも大きく利益が出るとは言い難い状況です。さらに入居者であるひとり親世帯を継続的に集客し続けることや新たな建物・施設の確保が資金条件的に難しかったり、DV被害や精神疾患などハードな状況で入居するお母さんも多くてサポートしきれない、といった理由で撤退をしていく事業者も。

障がい者グループホーム「ワンダフルライフ」のリビングダイニング。広々とゆとりのある空間です(写真提供/一般社団法人ワンダフルライフ)

障がい者グループホーム「ワンダフルライフ」のリビングダイニング。広々とゆとりのある空間です(写真提供/一般社団法人ワンダフルライフ)

竹田さんも「ある意味、薄利多売な感じ。複数の棟を所持するから成り立っているし、どうしても拡大するまではしばらく経営が苦しいのです。ここを乗り切れなくて事業閉鎖をする人も多いです」と居住支援の現実について話します。

また、オーナーから建物をマスターリース(一括賃貸)する際、シェアハウス利用という点に「大勢の入居者が同居することで室内が荒らされたりしないか、近隣に迷惑がかからないよう生活の統率が取れるのか、と難色を示されがち」と課題を指摘します。それゆえに竹田さんは所持するシェアハウスと、グループホームのほとんどを自社で購入して賃貸しています。

あの時の自分の苦しみがよぎる

それでもなお社会生活に困難を抱える人たちを支援する事業を続けているのはどうしてなのでしょう。不動産事業だけを行うほうが順調なのかもしれません。竹田さんは「困っている人をほっとけなかった。あの時に自分が感じた言いようのない不安が重なってしまい……」と振り返ります。

自身が離婚をしてシングルマザーになった時代。「とにかく自分の子どもを食べさせていくために稼がなきゃ」とがむしゃらに働いていました。市や国の補助やサポート制度などを探す余裕もない状況です。

そんなある日、ちょっとした身体の違和感を感じて病院で検査をします。ことなきを得ましたが、こうした経験を経て「私が死んだら子どもたちはどうなる?」という不安を色濃く感じることに。初めてその時に住まいの確保、家があることの重要性について深く考えることになります。

シェアハウスに居住するメンバーとスタッフで野菜収穫イベントなども行う(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

シェアハウスに居住するメンバーとスタッフで野菜収穫イベントなども行う(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

「もし自分がもっと助けてもらえる手段があると知っていたら。そして手を差し伸べてくれる場所や人とのつながりがあったら、困らなかっただろうな。と今になって思うのです。だからこそ誰かを助けたい。それが私の原動力です」

このような竹田さんの取り組みに助けられ、シェアハウスを卒業して一般賃貸住宅に移り住んでいった人もいます。「安心して寝られて、相談できる相手がいて、自分の将来が描けるようになると、みんなだんだん強くなる」そう。もちろん一般賃貸住宅を探すときも竹田さんが不動産会社として仲介し、相談に乗り続けているので、卒業した後も農園のイベントやお手伝いに卒業したひとり親世帯が遊びに来ることも。

「私にとって、シェアハウスに居住する人たちはみんな子どもや孫のような存在。彼ら彼女らが社会に巣立ち、そして互いに助け合える関係であることが、今望んでいることです」

竹田さん自身も積極的に子どもたちに関わる(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

竹田さん自身も積極的に子どもたちに関わる(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

しかしシェアハウス事業の中でも、特にシングルマザー専用のシェアハウスは、日本の中でも普及の速度が鈍重な印象です。特に竹田さんが開設した2016年当初はほとんど周囲にそうした事例がありませんでした。だからこそ全国の限られたシェアハウス運営事業者は、お互いにつながりを持ち、互いの知見を交換しながら今日まできたそうです。

季節のイベントも事業主や入居者主体で実施。この日は豆まきを行った(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

季節のイベントも事業主や入居者主体で実施。この日は豆まきを行った(写真提供/めぐみ不動産コンサルティング)

「同じことで困っている人たちはちゃんと共感しているし、連携しています。ここ数年は、居住支援協議会やNPOの仲間を通じて、困っていることを事業者からも相談ができるようになったので、志を持って担っている事業者の運営状況が少しずつ明るくなっていくことを願っています」と竹田さんは力強く語りました。

これまで竹田さんが話してくれたように、住まいの確保だけでなく、社会生活に困難を抱えるのは母子だけではありません。立場や年齢によらず、困っている人が存在することは確かな事実でした。

竹田さんは「だからこそ今後、福祉との連携がより必要です」と話します。今後は「シングル」だから「高齢者だから」「障がい者だから」と区切るのではなく、さまざまな社会的困難を抱える人もそうでない人も、みんなが支え合える環境が理想だと感じます。それこそが誰もが生きやすい社会なのでしょう。めぐみ不動産コンサルティングの取り組みはこれからの暮らし方、住まいのあり方として、一つのモデルを見せてくれているようです。

●取材協力
株式会社めぐみ不動産コンサルティング

愛知「住みたい街ランキング2023年版」不動の1位は名古屋! NHK大河ドラマ『どうする家康』影響で三河エリアに熱視線

2023年、リクルートが3年ぶりに「住みたい街ランキング」の愛知県版を発表。再開発や再整備が盛んで、注目の施設の開業など、都市部を中心に変化が著しい愛知。今年はNHK大河ドラマ「どうする家康」の影響もあり、三河エリアへも熱い視線が注がれている。愛知ではどんな街が上位なのか? 人気の理由も探りながら、愛知県春日井市生まれ、名古屋に住み続けて19年目の筆者と共に見ていこう。

2023年「住みたい街(駅)」1位は、暮らしやすい街へ進化中の「名古屋」

愛知県 住みたい街(駅)ランキング

今回の「住みたい街」(自治体・駅)ランキングは、愛知県内の街(自治体・駅)について、愛知県在住の20~49歳の男女2000人に「住みたい街」についてアンケートを実施した結果をランキングしたもの。
県内居住者から見て、住んでみたいと思われている憧れの街がランクインしていると言える。

「住みたい街」(駅)の1位から3位までは、前回2020年に実施した時と同じ結果に。不動の1位は、2018年のランキングから変わらず「名古屋」!

「名古屋」の高い人気は、2027年のリニア開業を見据え、再開発が進んでいることが挙げられる。また近年、名古屋駅前の再整備計画が発表されており、今後は駅東西に広場を整備予定だ。駅西側駅前広場にはイベントなども行われるスペースをつくる再整備計画があり、期待が高まる。

中央コンコースから地下街で「大名古屋ビルヂング」や「ミッドランドスクエア」に繋がる駅東側は、地上ロータリー交差点の改良や、歩行者空間の整備などが予定されている。ロータリーのランドマークになっていたモニュメント「飛翔」は昨年撤去され、広場開設に向けて整備が進行中だ。

ロータリーのモニュメント「飛翔」は昨年撤去され、現在は広場開設に向けて整備が進んでいる(写真/PIXTA)

ロータリーのモニュメント「飛翔」は昨年撤去され、現在は広場開設に向けて整備が進んでいる(写真/PIXTA)

数年前までは商業的な街という印象が強かった「名古屋」だが、近年変化が著しい。2021年には、名鉄百貨店メンズ館地下1階に、高級スーパー「紀ノ国屋」が中部地区初出店し話題に。また同年、駅徒歩約12分のノリタケ工場跡地に、商業施設と住宅、オフィスからなる複合施設「イオンモールNagoya Noritake Garden」が開業して、食品や日用品の買い物の場が充実した。この「イオンモールNagoya Noritake Garden」は、緑豊かな「ノリタケの森」の敷地内に立ち、1階から2階に繋がる大型書店「TSUTAYA BOOKSTORE」と、3階にある「コニカミノルタ プラネタリウム満天NAOGOYA」が話題に。子連れファミリーが訪れやすい街へと進化している。

3位には、名古屋市外から東三河の中心都市「豊橋」がランクイン

それでは、2位以下のランキング上位の街についても見ていこう。

2位「金山」は「名古屋」の隣の街で、交通利便性の良さに高い支持が集まる。金山駅は、JR2路線と名鉄線、地下鉄2路線が乗り入れる総合駅だ。名鉄線は刈谷市や三河方面へも運行し、豊田や岡崎方面にも通勤がしやすいほか、中部国際空港との直行便「ミュースカイ」も発着する。駅前の商業施設「アスナル金山」は2020年にリニューアルし、市内の人気ベーカリーや回転寿司店などが登場。また、駅直結の「ミュープラット金山」にはカフェや雑貨店が入るほか、駅の北側には地下1階、地上3階建の「イオン金山店」があり、食料品や日用品も手に入れやすく便利だ。

金山駅周辺(写真/PIXTA)

金山駅周辺(写真/PIXTA)

名古屋市外からランクインした3位「豊橋」は、愛知県の南東部に位置する東三河の中心都市で、東海道新幹線が停車する。市内の移動には路面電車が活躍していて、夏の「納涼ビール電車」と、名産のちくわも楽しめる冬の「おでんしゃ」は人気企画だ。2021年、駅前に食・健康・学びをテーマにした複合施設「em CAMPUS(エムキャンパス)」が開業。食材マーケットや飲食店、住居、行政窓口を備えるほか、2・3階にはカフェを併設した「豊橋市まちなか図書館」があり、住民の憩いの場となっている。また、市内には「のんほいパーク」の愛称で知られる豊橋総合動植物公園をはじめ、緑豊かな公園が点在。遠州灘に面した伊古部海岸はサーフィンスポットで、アカウミガメの産卵場所でもある。自然に恵まれ、レジャーや山海の幸を気軽に楽しめるという魅力がある。ちなみに「豊橋」は、「穴場だと思う街(駅)ランキング」では1位に選ばれている。

「のんほいパーク」こと豊橋総合動植物公園(写真/PIXTA)

「のんほいパーク」こと豊橋総合動植物公園(写真/PIXTA)

市内では、都会的な雰囲気と利便性を持ち合わせた東山線沿線の街が人気

4~6位の「栄」「覚王山」「星ヶ丘」は、全て地下鉄東山線沿線の街。東山線は、名古屋市で最初に開業した地下鉄路線であり、市内を東西に横断する。「名古屋」にも直通なので人気が高く、「住みたい沿線ランキング」でも2位にランクインしている。

愛知県 住みたい沿線ランキング

4位「栄」は、「住みたい自治体ランキング」1位の名古屋市中区に位置。2020年、栄~久屋大通駅間に公園と商業施設が一体化した「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリ パーク)」がオープンして、一帯がリニューアル。久屋大通公園沿いに、およそ40軒のグルメやファッションの店舗が集まる。エリア内に5つある「ヒロバ」では度々イベントが行われ、トレンドを発信している。

「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリ パーク)」(写真/PIXTA)

「RAYARD Hisaya-odori Park(レイヤード ヒサヤオオドオリ パーク)」(写真/PIXTA)

同時に地下街の「セントラルパーク」も改装され、スーパーなどが集まる食物販ゾーンが誕生。休日にテイクアウトグルメを楽しんだり、平日の仕事帰りに食材などの買い物を済ませたりと、暮らす街としても選択肢が広がった。2022年には、マルエイ跡地に食に関する商業施設「マルエイガレリア」が開業し、関西発のスーパー「パントリー」や、市内最大級の無印良品が開業して話題に。今後も「中日ビル」の建て替えや「(仮称)錦三丁目25番街区計画」といった大規模複合施設建設の計画が控え、ますますにぎわいそうだ。

「マルエイガレリア」(写真/PIXTA)

「マルエイガレリア」(写真/PIXTA)

5位「覚王山」と6位「星ヶ丘」は、共に「住みたい自治体ランキング」で2位となった名古屋市千種区に所在。

愛知県 住みたい自治体ランキング

「覚王山」は、昨年「SUUMO住み続けたい街ランキング愛知2022」で住民から選ばれ、1位に輝いた街。シンボルは覚王山日泰寺で、駅を出るとすぐに400mほどの参道が続き、商店街が広がる。レトロな雰囲気の食堂などのほか、東海発祥のドーナツ店やパティスリー「シェ・シバタ名古屋」といった人気店も軒を連ね、新旧の良さが合わさる街だ。住民も街の魅力として「雰囲気やセンスのいい、飲食店やお店がある」という項目を上位に挙げている。

6位「星ヶ丘」は、駅前にファッションやグルメが楽しめる商業施設「星が丘テラス」や「星ヶ丘三越」があり、買い物環境が抜群。季節ごとの装飾が美しい「星が丘テラス」は、フォトスポットとしても人気に。また、周辺に大学が多い文教地区でもある。周囲は自然にも恵まれ、東山動植物園星が丘門に近く、休日は家族連れでにぎわう。

・関連記事:愛知「住み続けたい街ランキング2022年版」住民評価1位は名古屋市おさえ長久手市!

順位が上がった街から、「交通利便性」と「職住近接」のニーズが見えてくる

7位「刈谷」、8位「大曽根」、9位「岡崎」は、いずれも2020年から順位がアップ!

愛知県 穴場だと思う街(駅)ランキング

特に「大曽根」は2020年の16位から8位へ、大きく順位を上げた。「愛知県穴場だと思う街(駅)」ランキングでも3位になるなど、注目度が高い。「大曽根」は名古屋市東区と北区にまたがる街で、大曽根駅からはJR、名鉄、地下鉄に加え、ガイドウェイバス「ゆとりーとライン」の4路線を利用可能。名古屋都市部だけでなく、瀬戸市や春日井市方面へもアクセスしやすい。さらに、市バスの路線も充実している。2020年、名鉄瀬戸線の駅構内に商業施設「ミュープラット大曽根」が併設され、「からみそラーメンふくろう食堂」など17店舗がオープンして便利に。また、徒歩圏内にスーパーを含む「メッツ大曽根」や、朝市を開催する商店街「オゾンアベニュー」が集まり、1駅隣には「イオンモールナゴヤドーム前」もあるなど、生活利便性の高さは抜群。一方で、駅南口方面には住宅街が広がり、徒歩約10分の距離に公園を併設した庭園「徳川園」があり、四季や自然も身近に感じられる。

7位「刈谷」、9位「岡崎」は、共に愛知県の三河エリアに位置する市。
デンソーやアイシン、豊田自動織機などトヨタ系企業の本社が多く、関連企業に勤める人からの職住近接ニーズも高い「刈谷」。県内屈指のスポーツタウンで、刈谷市をホームタウンとするスポーツチームは、バスケットボール、バレーボール、ソフトボール、ラグビー…など多岐にわたる。刈谷総合運動公園敷地内にある「ウイングアリーナ刈谷」は、男子バスケットボールチーム「シーホース三河」のホームアリーナ。トラックとフィールドからなる陸上競技場「ウェーブスタジアム刈谷」も併設され、各施設は大会などがない日は一般利用も可能。プロ仕様の本格的なエリアで、老若男女がスポーツを楽しむ姿が見られる。また、全国有数の財政力を誇る街でもあり、駅から市内の公園など主要な施設を回る公共施設連絡バス「かりまる」は、なんと無料で乗ることができる。さらに、「刈谷ハイウェイオアシス」や「刈谷市交通児童遊園」といった遊園地さながらの公園があり、乗り物が100円前後と、格安価格で遊べる。

「刈谷ハイウェイオアシス」(写真/PIXTA)

「刈谷ハイウェイオアシス」(写真/PIXTA)

NHK大河ドラマ「どうする家康」で注目が高まる「岡崎」は、徳川家康の生誕地である岡崎城や、八丁味噌の産地として知られる。「名古屋」まで名鉄とJRで30分の距離で、三菱自動車などの自動車関連工場と、関連企業に従事する人が多い。公共施設が充実し、市内中心部にある図書館交流プラザ「Libra」は、「愛知まちなみ建築賞」を受賞した建物内に豊富な蔵書を収容。館内には岡崎出身のジャズ愛好家、内田修氏が寄贈したジャズコレクション展示室があり、貴重な音源を楽しめる。市内には大きな公園も点在し、遊園地のある「南公園」では、100円以下で楽しめる乗り物が多数。また、「東公園」の動物園ではアジアゾウなどが見られるが、入園料は無料!教育にも注力し、愛知県立岡崎高等学校は、難関大学合格者を多数輩出する公立高校として全国的にも注目を集めている。

近年は名鉄「東岡崎」駅周辺で再開発が進み、2019年には駅直結の複合施設「オト リバーサイドテラス」が誕生。また、2023年度中には南口に地上3階建の駅ビルが竣工し、今後は北口にも商業施設やオフィスを備えた地上8階建のビルを建設予定だ。「東岡崎」は街のランキングも前回20位から15位へとアップしている。

今回の「愛知県住みたい街(駅)ランキング」では、名古屋都市部の街に加え、豊かな自然や文化を享受でき、再整備などで利便性が高まった三河エリアの都市もランクインした。「岡崎」と同じく三河の中核都市である「豊田市」も、前回33位から12位にランクアップしている。

特に、ピックアップしたランキング上位の街は、近年暮らしやすさや景観の良さがアップし、トレンド感も加わって、惹かれる魅力がたっぷり。

みんなの声を集めた「住みたい街ランキング」からは、今後の街の進化への期待感と、「忙しい毎日の中、プラスアルファの楽しみがある街で暮らしたい」という現代のニーズが見えてくるようだ。

●関連ページ
・SUUMO住みたい街ランキング2023 愛知県版/名古屋市版

障がい者の部屋探しの苦労を知るからこそ伴走したい、社長・従業員の家族が障がいのある不動産会社。病院付き添いなど入居後もサポート 足立区・メイクホーム

障がいのある人(精神障がいのある人や車椅子の人)が賃貸物件に入居したいと考えたときには、物件探し、入居手続き、そして入居後の生活にも多くの壁があるようです。これらの壁を乗り越えるため、住まい探しから、保証人対応、物件の改修、病院の付き添いまでさまざまなサービスを提供する不動産会社があります。メイクホーム(東京都足立区)の障がいのある人への取り組みについて紹介します。

障がいのある人がぶつかる壁とは

障がいのある人とひと言で言っても、その状態は人によってさまざま。住まい探しには、その人の特徴に合った条件が求められます。視覚障がいのある人であれば、駅から近く、歩いていても事故に遭う心配がないよう歩道があり、道幅の広い道路に面した物件が良いでしょう。また、聴覚障がいのある人であれば、玄関のインターホンの音が聞こえないので、来訪者があることを目で確認できるライトなどの機器を設置する必要があります。

「車椅子でも暮らせるバリアフリーの物件は、場所や条件によりますが、都心であれば最低でも14万円ほどすることが多いです。しかしその家賃が払える人ばかりではありません。障がいのある人で、家族もおらず、生活保護を受けている人は、家賃補助の上限金額である53,700円(東京都一人世帯の場合、また車椅子利用者など特別に部屋探しが困難と認められた場合は69,800円)よりも低い家賃で借りられる物件を探さなくてはならないので、物件は限られます」(メイクホーム石原幸一さん、以下同)

ほかにも内見の際、車椅子を利用する人は一人もしくは二人の介助者が必要だったり、車椅子が物件の床や壁を傷つけないように養生をしなければならなかったりと手間がかかります。障がい者が暮らしていくには、オーナーや近隣に住む人の理解も必要で、一つひとつ状況を説明していくことも欠かせません。
必要とされる対応を知らないことでトラブルに発展する可能性がある上に、仲介手数料や管理費は法や相場から外れた金額にはできないため、対応できる不動産会社が限られているのが現状です。

障がいがある人も、その特徴はさまざま。住まい探しも、その人に合った物件を探す必要がある(画像/PIXTA)

障がいがある人も、その特徴はさまざま。住まい探しも、その人に合った物件を探す必要がある(画像/PIXTA)

社長自身や従業員の家族に障がいがあるからこそ、親身になれる

石原幸一さんが代表を務めるメイクホームは、障がい者や高齢者など、住まい探しが困難な人たちの住まい探しに特化した不動産会社。利用者は約50%が障がいのある人たち、そして残りの50%は高齢者や低所得者など、住宅確保に何かしらの困難を抱えた人たちです。

「不動産会社を始める前から別の事業で障がい者を雇用していたのですが、事業の縮小に伴い、従業員の次の仕事や住まいを探す必要がありました。仕事はすぐに見つかっても、障がいのある従業員が住めるところを見つけるのは大変でした。それがきっかけで障がい者や住宅確保に配慮が必要な人たちの住宅事業に取り組むようになったのです」

石原さん自身も、3年ほど前から視覚障がいがあります。そしてメイクホームで働くスタッフのなかには、石原さんのSNSでの発信や講演会で話を聞いて、集まってきた人も。小さいころから弟に障がいがある人や親戚が発達障がいでなかなかグループホームが見つからない人、また自身ががんを患っていたり、外国人だったりなど、メイクホームに相談に来る人たちと近い立場にいるスタッフが多いそうです。だからこそ、相談者の痛みがわかるのだと、石原さんは言います。

石原さん(左)と盲導犬を連れてメイクホームを訪れた視覚障がいのあるお客さま(右)。自身や家族との体験があるからこそ、抱える痛みや必要なサポートがわかり、相談に来る人たちに寄り添うことができる(写真提供/メイクホーム)

石原さん(左)と盲導犬を連れてメイクホームを訪れた視覚障がいのあるお客さま(右)。自身や家族との体験があるからこそ、抱える痛みや必要なサポートがわかり、相談に来る人たちに寄り添うことができる(写真提供/メイクホーム)

「楽な仕事ではないし、私も従業員に厳しいことも言いますよ。でも辞める人はほとんどいません。障がいによってできることが限られていてもいいんです。人を憎んだり、暴言を吐いたりするような人でないこと。そしてコツコツと努力をする人であれば、仕事はできます」

「壁を乗り越えるには」を追求して広がったサービス

石原さんは「メイクホームの事業の中心は不動産業ではなく、福祉や生活支援」だと言います。自立したいと願う障がい者や、住まい探しに困っている人、一人ひとりに対応していくためにできることをやっていった結果、不動産、リフォーム、引越し、トラブル解決……と、さまざまな事業につながっていったそうです。

居住支援法人でもあるメイクホームは、生活保護を受ける人にも必要なサービスをワンストップで受けられる事業を展開している(画像提供/メイクホーム)

居住支援法人でもあるメイクホームは、生活保護を受ける人にも必要なサービスをワンストップで受けられる事業を展開している(画像提供/メイクホーム)

「私たちが大事にしていることは、何か連絡があったら、断らずに必ず駆けつけるということです」

例えば、DV被害者の人が大阪から東京に逃げてきても、東京に住民票がないので東京都のDV被害センターでは受け入れができません。そこで、石原さんたちが一時的に受け入れをしたこともあったそう。国や地方自治体が法律に縛られてできないことにも支援の手を差し伸べています。

「入居者が倒れて動けなくなったときに備え、室内に赤外線システムを活用した機器を取り付けたり、従業員が1都3県の管理物件を定期的に回ったりするなど、早期発見の策を講じています。家賃保証会社を利用する際に必要になる緊急連絡先のなり手がいない人には、家族などの代わりに連絡を受けて対応する『緊急連絡先協会』も立ち上げました。また、有料で葬儀保険や万一の場合の残置物処理も行っています」

家賃の連帯保証人に代わり、家賃保証会社を利用するケースが増えているが、緊急連絡先が必須となることがほとんど。頼める家族がいない人の入居促進のために、緊急連絡先協会の立ち上げが必要だった(画像提供/メイクホーム)

家賃の連帯保証人に代わり、家賃保証会社を利用するケースが増えているが、緊急連絡先が必須となることがほとんど。頼める家族がいない人の入居促進のために、緊急連絡先協会の立ち上げが必要だった(画像提供/メイクホーム)

そして今後は行政とも協力し、入居者が倒れる前に人感センサーで異常を察知して救出する仕組みをつくろうと準備をしている最中。メイクホームの事業はますます広がりを見せていくようです。

事業として成立させるため、リスク回避のために

数多くのサポートやサービスを整え、必要な居住支援を行うには手間もかかります。会社として事業は成り立つのでしょうか。

「私たちが居住支援を行う不動産会社として事業を継続するために取り入れている特徴的なスキームは『完全管理システム』です。築古などで空室になっているアパートを、投資家から預かった資金でバリアフリーにしたり、手すりを付けたりしてリフォームし、住まいを必要としている人に提供します。

入居者から家賃を回収したり、何かトラブルがあったとしても全ての対応は当社が行い、オーナーさんには入居者がどのような人か、障がいの内容や詳しい事情については一切伝えません。その代わり、確実に家賃としての収入を確保するというものです」

住宅の確保に配慮が必要な人たちは、ひんぱんに引越すことは少なく、一度入居したら長く住み続けることが多いそう。例え空室が出ても、住まいを確保できずに困っている人はたくさんいるので、すぐに次の入居者が見つかるのもオーナーにとってのメリットだと石原さんは言います。

半面、家賃滞納や孤独死、近隣とのトラブルなど、オーナーが不安に思うリスクは全てメイクホームが負います。この方法で、空室率は2%以下を保っているそうです。

「一見、サブリース(不動産会社などが、土地や建物のオーナーから不動産を一括して借り上げて事業展開する形態)のように見えますが、サブリース物件はほとんどありません。事業者が収益をコントロールしやすいサブリース契約よりも管理費のみをいただく管理委託契約のほうが、一般的にはオーナーの収入が増えることが多く、ひいてはより多くの入居者を受け入れることにつながると考えています」

メイクホームの完全管理システム。メイクホームが利用者とオーナーの間に入り、入居者の募集と契約、家賃回収、建物の原状回復やリフォーム、さまざまなトラブルの解決と管理業務の全てを代行する(画像提供/メイクホーム)

メイクホームの完全管理システム。メイクホームが利用者とオーナーの間に入り、入居者の募集と契約、家賃回収、建物の原状回復やリフォーム、さまざまなトラブルの解決と管理業務の全てを代行する(画像提供/メイクホーム)

住宅・不動産業界全体に支援の輪を広げる

メイクホームは、1都3県を対象エリアとして事業を展開していますが、全国のあらゆる地域でこのようなサポートを望む声は多くあります。そこでより多くのエリアに取り組みを広げるため、志を同じくする仲間を募集し、フランチャイズ事業を始めました。研修を行った上で、行政から直接相談を受けられる体制を整え、メイクホームが提供してきたサービスを展開します。石原さんによれば「必要なのは、優しさとお客さまを思いやる気持ち、そして共感する心」だそう。

一方、地方では空室率が30%を超える地域もあり、このままではアパート経営が続けられなくなるかもと不安を抱えるオーナーも増えています。今や3人に1人は高齢者という時代。さらに高齢化は進むと考えられ、高齢者や障がい者など、これまでオーナーが入居を敬遠しがちだった人たちをも受け入れることが必要になっていくでしょう。

「今後、住まいは箱、ハードとしての問題よりも、入居する人たちを支える福祉などのサービス、ソフトの問題が大きくなってくる」と石原さんは考えます。介護・看護や見守りが必要な人たちへのケアと不動産事業が合体したメイクホームのような事業展開が全国規模で必要なのです。

自治体からの要望を受け、オーナー向けの講演を行うことも。石原さんは「これまで培ってきたノウハウを積極的に広めていきたい」と話す(写真提供/メイクホーム)

自治体からの要望を受け、オーナー向けの講演を行うことも。石原さんは「これまで培ってきたノウハウを積極的に広めていきたい」と話す(写真提供/メイクホーム)

そして、石原さんの訴えは、少しずつ社会にも変化をもたらしているようです。

「各メディアから出演依頼が定期的にあり、地方自治体のセミナーの参加者も年々増えています。オーナーさまからもどのようなリフォームをしたら障がい者の受け入れがしやすくなるのか、などの質問が多く寄せられるようになりました。私たちの居住支援の取り組みを知り、自分も取り組もうという意志のある方や活動に共感していただける方が増えてきていると感じます」

これまでにメイクホームに相談して住まいを見つけた人は、精神疾患のある人、聴覚障がい者、視覚障がい者、車椅子生活者など、さまざま。「多くの不動産会社から断られたが、メイクグループに相談をして希望通りの部屋を見つけてもらった」「携帯電話や住民票の手続きをサポートしてくれ、引越しも引き受けてくれた」「車椅子で生活できるよう、段差の少ない物件を探してくれた。内見の際も毎回車椅子を積んで病院まで迎えにきてくれた」など、感謝の声がたくさん寄せられています。

相談した人たちの「寄り添って共に取り組んでくれた。本当に心強い味方だ」という言葉に、メイクホームの居住支援の本質が表れているのでしょう。

メイクホームでは、SUUMOと協力して視覚・聴覚障がい者がネットで内見できる動画を作成するなどして新しい物件紹介の方法を模索したり、スマートウォッチの装着によって入居者に異常があった際に自動通知を行う仕組みづくりを検討したりしています。さらに大手企業や行政とも連携してバリアフリーや点字ブロックの設置を進めるなど、障がい者や高齢者も暮らしやすいコンパクトな街づくりを目指していきたいと考えているそうです。

しかし、住まいの確保には物理的な問題、何かトラブルが起きた際の対応だけでなく、未だ差別や偏見も存在するとのこと。石原さんは、子どものころから、障がいのある人とそうでない人が一緒に学べる、インクルーシブ教育が必要だと言います。人間の多様性を尊重し、障がいがある人もない人も、自然に近くにいることが当たり前だと思える社会をつくることこそが真のバリアフリーな社会につながるのかもしれません。

「広く大勢を助けることは難しくとも、せめて目の前にいる困った人は助けたい」。これが石原さんが常に持ち続ける思いです。私たち一人ひとりがこのような思いを少しずつでも共有できれば、世の中はもっと優しくなれるのではないでしょうか。

●取材協力
メイクホーム株式会社

【横浜駅30分以内】家賃相場が安い駅ランキング2023年。1位は5万円未満! ほかにも穴場駅が多数

神奈川県屈指のターミナル駅と言えば、JR各線をはじめ東急東横線や京急本線など6社が乗り入れている横浜駅。駅周辺にはオフィスビルに加え商業施設も充実し、観光地としてもにぎわっている。2023年9月には横浜駅東口側の臨港エリアに世界最大級の音楽に特化したアリーナ「Kアリーナ横浜」と「ヒルトン横浜」の開業が予定されているなど、駅周辺の大規模再開発も進行中で今後はさらなる発展が見込まれる。そんな横浜駅の30分圏内にある駅の家賃相場を調査! シングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が安い駅ランキングのトップ15を紹介しよう。

横浜中華街(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

横浜駅まで電車で30分以内の家賃相場が安い駅TOP15(16駅)

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/横浜駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 安針塚 4.95万円(京急本線/神奈川県横須賀市/29分/1回)
2位 京急田浦 5.05万円(京急本線/神奈川県横須賀市/26分/1回)
3位 いずみ野 5.5万円(相鉄いずみ野線/神奈川県横浜市泉区/23分/1回)
3位 善行 5.5万円(小田急江ノ島線/神奈川県藤沢市/29分/1回)
3位 桜ケ丘 5.5万円(小田急江ノ島線/神奈川県大和市/28分/1回)
3位 羽沢横浜国大 5.5万円(相鉄新横浜線/神奈川県横浜市神奈川区/12分/1回)
3位 追浜 5.5万円(京急本線/神奈川県横須賀市/24分/0回)
8位 汐入 5.55万円(京急本線/神奈川県横須賀市/30分/0回)
9位 さがみ野 5.6万円(相鉄本線/神奈川県海老名市/28分/2回)
9位 上星川 5.6万円(相鉄本線/神奈川県横浜市保土ケ谷区/10分/1回)
9位 鶴間 5.6万円(小田急江ノ島線/神奈川県大和市/28分/2回)
12位 六浦 5.65万円(京急逗子線/神奈川県横浜市金沢区/22分/0回)
13位 かしわ台 5.7万円(相鉄本線/神奈川県海老名市/30分/2回)
13位 成瀬 5.7万円(JR横浜線/東京都町田市/30分/1回)
13位 横須賀中央 5.7万円(京急本線/神奈川県横須賀市/27分/0回)
13位 湘南深沢 5.7万円(湘南モノレール/神奈川県鎌倉市/24分/1回)
※17位以下は記事末に記載

横浜に加え、渋谷や新宿方面にも乗り換え0回で行ける駅が3位に

横浜駅まで30分以内で行ける、家賃相場が最も安い駅は京急本線・安針塚(あんじんづか)駅。家賃相場はトップ15で唯一の4万円台、4万9500円だった。神奈川県横須賀市に位置し、2020年度調査では京急線全72駅のうち1日の平均乗降人員が最も少ないという穴場の駅。ちなみに横浜駅の家賃相場は8万5000円なので、安針塚駅の相場はそれよりも約3万5000円も低いわけだ。

安針塚駅(写真/PIXTA)

安針塚駅(写真/PIXTA)

安針塚という駅名は、駅から徒歩25分ほどの「塚山公園」にある三浦按針(みうらあんじん=ウイリアム・アダムズ)の供養塔「安針塚」に由来する。園内からは眼下に横須賀港、遠くに横浜や房総半島までを眺められるロケーション。この公園がある高台をはじめ安針塚駅周辺は山に囲まれており、谷間や丘陵地を通る入り組んだ道沿いに住宅が建っている。平地が少ないためか商店も豊富とは言えないが、駅前にスーパーがあるのは便利。京急本線で2駅目の8位・汐入駅まで行くと、駅周辺にショッピングモールや多彩な飲食店、海に面した「ヴェルニー公園」があるので休日に足を延ばすのもいいだろう。

塚山公園からの景色(写真/PIXTA)

塚山公園からの景色(写真/PIXTA)

2位は京急本線・京急田浦駅で家賃相場は5万500円。1位・安針塚駅から横浜方面に1駅目が2位・京急田浦駅で、両駅ともに金沢八景駅で京急本線の快特に乗り換えると横浜駅まで30分以内で行くことができる。JR横須賀線に名前が似た「田浦駅」があるが、京急田浦駅からは徒歩20分少々かかるので混同しないように注意が必要だろう。さて、1位と同じ横須賀市に位置する京急田浦駅の周辺は住宅地で、駅前を通る国道16号沿いには飲食店やコンビニが点在し、警察署も建っている。徒歩3分ほどの商店街にも飲食店やスーパーがあるので、コンパクトな範囲で買い物や食事が済ませられそうだ。

京急田浦駅(写真/PIXTA)

京急田浦駅(写真/PIXTA)

3位には家賃相場が同額5万5000円で5駅がランクイン。そのうち相鉄いずみ野線・いずみ野駅から横浜駅まで最短で向かうには、まず二俣川駅に行き、相鉄本線の通勤急行や快速に乗り換えると約23分で到着する。また、相鉄本線快速直通の相鉄いずみ野線快速に乗れば、乗り換え0回・約24分で横浜駅まで行くことも可能だ。駅は神奈川県横浜市の内陸部に位置し、駅前にはスーパーやドラッグストア、ホームセンターなどを備えたショッピングモールがある。駅前ロータリーを挟んだ向かい側には飲食店も。駅周辺に広がる住宅地の合間には農地も広がり、新鮮な農産物の直売所が点在しているのも嬉しいところだ。

この3位・いずみ野駅は横浜駅まで約23分で行けるだけではなく、渋谷や新宿方面にアクセスしやすい点も魅力。これは2023年3月に開業した相鉄・東急新横浜線のおかげ。開業に合わせていずみ野駅に停車するようになった相鉄いずみ野線の特急と通勤特急が、東急東横線と直通運転されているのだ。いずみ野駅から相鉄いずみ野線の通勤特急に乗ると、相鉄本線~相鉄新横浜線~東急新横浜線~東急東横線といつの間にか路線を変え、乗り換え0回で渋谷駅まで約52分で到着。さらに、渋谷駅から先は東京メトロ副都心線に直通運転されており、新宿三丁目駅までもいずみ野駅から乗り換え0回・約1時間で行くことができる。

このルート途中には、同じく3位の相鉄新横浜線・羽沢横浜国大(はざわよこはまこくだい)駅にも停車。つまり同駅からも乗り換え0回で、渋谷駅まで約35分、新宿三丁目駅まで約43分で到着できる。また、羽沢横浜国大駅にはJR埼京線直通の便も通っているため、そちらを利用すると渋谷駅まで約33分、新宿駅まで約38分で行くことも可能だ。

羽沢横浜国大駅(写真/PIXTA)

羽沢横浜国大駅(写真/PIXTA)

羽沢横浜国大駅から横浜駅までは、1駅隣の西谷駅から相鉄本線の通勤急行に乗り換えて計約12分。西谷駅とは反対方面に1駅進むと新横浜駅があり、そこから東海道新幹線に乗って静岡・名古屋・京都・新大阪方面に向かうこともできる。この羽沢横浜国大駅は相鉄・JR直通線と相鉄・東急直通線の建設にともなって2019年に開業した比較的新しい駅。名前からうかがえる通り横浜国立大学の最寄り駅でもあり、徒歩15分ほどでキャンパスにたどり着く。また、駅前は再開発が行われ、2021年には生鮮食品も扱うドラッグストアとクリニックモールがオープン。2024年春には地上23階建ての商業施設と住居の複合ビルが開業予定だ。

横浜駅から約10分の近さながら、9位は家賃相場が横浜駅より2万9000円もダウン

トップ15のうち横浜駅までの所要時間が最も短かったのは、家賃相場5万6000円で9位に入った横浜市保土ヶ谷区の相鉄本線・上星川駅。2駅先の星川駅で各駅停車から快速に乗り換えると、横浜駅まで約10分。乗り換えずに各駅停車1本でも約12分で行くことができる。駅前にはスーパーやドラッグストア、さまざまなクリニックに加えて飲食店も建ち並んでいる。食事処を備えた日帰り温泉施設も駅前にあり、駅から12分ほど歩くと入浴料500円でありながら温泉を利用した銭湯も。気軽に温泉でリフレッシュできる環境だ。

上星川駅(写真/PIXTA)

上星川駅(写真/PIXTA)

また、9位・上星川駅から横浜駅に向かう途中にある星川駅~天王町駅間は2022年に高架化されており、それにともなって全長1.4kmの高架下に「星天qlay(ホシテンクレイ)」が誕生している。2023年2月に第1期、4月に第2期開業を迎え、飲食店やスーパー、コワーキングスペースなどがオープン。今後はさらに新たなゾーンの開業も控えているので、上星川駅から足を延ばして訪ねるのもいいだろう。

ランキング上位には今回調査の基点にした横浜駅と同じ神奈川県内の駅が並んだが、13位にはトップ15で唯一の東京都内の駅となった成瀬駅が家賃相場5万7000円でランクイン。東京都町田市に位置する成瀬駅からJR横浜線で菊名駅に出て、そこから東急東横線の通勤特急に乗り換えると計約30分で横浜駅へ。また成瀬駅の1駅隣にある長津田駅には東京メトロ半蔵門線直通の東急田園都市線が通っているので、半蔵門線沿線の渋谷駅や表参道駅、永田町駅や大手町駅にも乗り換え1回で行くことができる。

成瀬駅(写真/PIXTA)

成瀬駅(写真/PIXTA)

13位・成瀬駅周辺の様子を見てみると、複数のスーパーやコンビニ、飲食店など日常生活に必要な商店は充実している。さらに成瀬駅から長津田駅とは反対方面に1駅進むと、大型商業施設が建ち並ぶターミナル駅の町田駅に到着。洋服やインテリア用品などのショッピングがしたいとき、気軽に町田に行けるロケーションなのも成瀬駅の魅力の一つだろう。

17~26位

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている横浜駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/4~2023/3
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンションのうち普通借家契約の物件のみ)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年3月27日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

空き家所有者「3年以上放置」が6割以上! 対策がより厳しくなった「改正空家特措法」が成立し、放置空き家改善の兆し生まれるか?

空き家が社会的な問題になって久しいが、(株)AS IT ISが、空き家所有者などを対象に「空き家の実態と活用方法」について調査を行った。その結果を見ると、空き家の所有者はかなり長期間、空き家のままにしていることが分かった。政府も法改正などで、空き家対策を強化している。

【今週の住活トピック】
「空き家の実態と活用方法」の調査結果公表/(株)AS IT IS

空き家所有者の6割以上が空き家になって3年以上経過。8割が「今後も暮らす予定はない」

まず、空き家の所有者に「家が空き家となってどれくらい経つか」聞いたところ、最多は「10年以上」の22.2%、次いで「3年~5年」の21.9%、「1年~3年」の20.5%が続く結果となった。空き家になってから「3年以上経つ」という回答が合わせて63.2%に達した。

次に、「今後、空き家に自身もしくは親族が暮らす予定はあるか」と聞くと、80.9%が「ない」と回答した。では、空き家は今後どうするつもりかというと、「土地と家を売却する」が38.0%と最多だったが、次いで「特にない」が29.5%だった。

空き家になってどれくらい経ちますか?

出典:AS IT IS【空き家の実態と活用方法調査】より転載

空き家対策のための法律を改正してさらなる強化へ

調査結果では、空き家の多くが誰も住むことがないまま、長期間経過していることになる。これらの空き家の中には、適切に管理されているものもあるだろうが、管理が行き届かずに建物が老朽化したり庭の草木が生い茂ったりしているものもあるかもしれない。

適切な管理をしないで空き家が放置されると、景観を乱したり、衛生面や防災面、防犯面などの問題を起こしたりする場合がある。一方で、空き家といえども個人の所有物なので、勝手に入ったり処分したりできないので、問題がある空き家に手をこまねく形となる。

その解決策として、2015年5月に全面施行されたのが、「空家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特措法)」だ。この法律によって、自治体が空き家に立ち入って実態を調べたり、空き家の所有者に適切な管理をするよう指導したり、空き家の跡地の活用を促進できるようになった。さらに、地域で問題となる空き家を自治体が「特定空家」に指定して、立木伐採や住宅の除却などの助言・指導・勧告・命令をしたり、行政代執行(強制執行)もできるようになった。

この空き家対策特措法は、さらに踏み込んだ形で改正され、「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」が2023年6月14日に国会で成立し、公布された。問題のある空き家の除却をさらに促進させること、近隣に悪影響を及ぼす前の段階で有効活用や適切な管理を強化することが目的だ。

適切に管理しないまま放置すると、固定資産税の軽減措置が受けられなくなる?

今回の改正で注目されているのが、「特定空家」の前段階となる「管理不全空家」という区分を設けたことだ。今回の改正により、適切な管理が行われておらず、そのまま放置すれば「特定空家」に該当するおそれのある空き家を「管理不全空家」として、管理指針に即した措置を、自治体が指導・勧告できるようになる。勧告を受けた管理不全空家は、固定資産税の減額措置が解除される。

そもそも誰も住んでいない空き家を放置する背景に、「住宅用地の課税標準の軽減特例」の存在がある。住宅用地と認められた土地で、住宅1戸当たり200平米までの土地は「小規模宅地」として、課税標準=固定資産税評価額が1/6に軽減される。固定資産税の額を抑えたいために、住める状態でなくても家を取り壊さないでおくという事例が多いからだ。

空き家対策特措法では、すでに「特定空家」に対してはこの軽減特例を解除する形になっているが、今回の改正で「管理不全空家」に対しても同様に軽減特例を解除する形となる。解除されると、固定資産税がおおむね4倍になるといわれている。

なお、空き家対策特措法の改正は、公布から6カ月以内に施行されることになっている。早ければ年内にも施行される可能性があるので、空き家を管理せずに放置している場合は、注意が必要だ。

空き家を放置すると、近隣とトラブルになったり、法規制の対象になったりする可能性がある。住む予定がないなら、老朽化が進行する前に売却したり、更地にしたりリフォームしたりして、活用することを検討しよう。相談窓口を設けたり専門家を紹介したりする自治体も多いので、早めに相談するとよいだろう。

●関連サイト
(株)AS IT IS【空き家の実態と活用方法調査】
国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律案」を 閣議決定
政府広報オンライン「空き家にしないためのポイントは?」

【東京駅30分以内】家賃相場が安い駅ランキング2023年。1・2位は驚きの5万円台

この春から東京都内への通勤・通学が始まり、新たな街で生活をスタートさせた人も多いだろう。そして都心近辺で賃貸物件を探した際に、家賃の高さに驚いた人も多いはず。しかし、たとえば東京屈指のターミナル駅である東京駅を基点にしても、そこから電車で30分圏内にまで住まいの候補地を広げれば意外とリーズナブルな物件はあるものだ。そこで今回は東京駅から30分圏内にある、一人暮らし向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が安い駅を紹介したい。ちなみに東京駅の家賃相場は11万5000円。ランクインした駅との価格差を念頭に置きつつ、トップ15を見ていこう。

東京駅まで電車で30分以内にある家賃相場が安い駅TOP15

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 南船橋 5.4万円(JR京葉線/千葉県船橋市/30分/0回)
2位 葛西臨海公園 5.8万円(JR京葉線/東京都江戸川区/13分/0回)
3位 蕨 6.4万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県蕨市/29分/1回)
4位 一之江 6.5万円(都営新宿線/東京都江戸川区/27分/1回)
4位 津田沼 6.5万円(JR総武線快速/千葉県習志野市/30分/0回)
6位 扇大橋 6.55万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/30分/1回)
7位 下総中山 6.6万円(JR総武線/千葉県船橋市/26分/1回)
7位 小岩 6.6万円(JR総武線/東京都江戸川区/19分/1回)
9位 五反野 6.65万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
10位 新子安 6.7万円(JR京浜東北・根岸線/神奈川県横浜市神奈川区/30分/1回)
10位 松戸 6.7万円(JR常磐線/千葉県松戸市/27分/0回)
10位 瑞江 6.7万円(都営新宿線/東京都江戸川区/30分/1回)
13位 小菅 6.8万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/25分/1回)
13位 新浦安 6.8万円(JR京葉線/千葉県浦安市/20分/0回)
13位 梅島 6.8万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1回)
※16位~30位は記事末に記載

昨年のランキング:
「東京駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

トップ3には千葉、東京、埼玉それぞれの駅がランクイン

1位は千葉県船橋市にあるJR京葉線・南船橋駅で家賃相場は5万4000円。東京駅までは乗り換え0回、約30分で到着できる。船橋市のなかでも臨海部の埋め立て地に位置し、駅北側には船橋競馬場やショッピングモールの「ららぽーとTOKYO-BAY」と「ビビット南船橋」、駅南側にはインテリア用品店「IKEA Tokyo-Bay」のほかに2020年に誕生した一年中遊べるアイススケートリンク「三井不動産アイスパーク船橋」も。また、駅の北側と南側両方にUR賃貸住宅と分譲住宅からなる大規模団地があり、首都圏のベッドタウンとして機能しているエリアでもある。

ららぽーとTOKYO-BAY(写真/PIXTA)

ららぽーとTOKYO-BAY(写真/PIXTA)

1位・南船橋駅の南口には2022年8月に駅前広場が誕生したほか、現在は広場周辺の市有地活用に向けた整備が進行中。2023年内にはスーパーや飲食店、クリニックモールなど約40店舗をそろえた商業施設が開業予定で、翌2024年冬の完成を目指してマンションの建設も進められている。また、「ららぽーと」と線路を挟んだ向かい側には大型多目的アリーナ「(仮称)LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)」が2024年春に開業予定であり、今後数年間で街はさらなる発展が見込まれている。

2位には南船橋駅からJR京葉線で東京方面に5駅目の、東京都江戸川区にある葛西臨海公園駅が家賃相場5万8000円でランクイン。東京駅まではJR京葉線で5駅、所要時間はトップ15で最短の約13分だ。東京駅までのアクセスがよいわりに家賃相場は安いけれど、駅周辺に住宅が少ない点はネックだろう。駅南側の臨海部は「葛西臨海公園」が広がり、駅北側には物流倉庫群が建ち並んでいる。物流倉庫の先にも都の中央卸売市場やゴルフ練習場があり、住宅街は駅から徒歩15分以上のエリアがメインなのだ。駅周辺にはコンビニが数軒ある程度でスーパーは駅を基点にすると徒歩15分以上かかるが、住宅街の中にあるので住民にとっての利便性は悪くない立地だ。2021年には駅高架下に複合商業施設「Ff(エフエフ)」がオープンし、駅を出てすぐにバーガー店やラーメン店でサッと食事をすることが可能だ。

葛西臨海公園駅(写真/PIXTA)

葛西臨海公園駅(写真/PIXTA)

葛西臨海公園(写真/PIXTA)

葛西臨海公園(写真/PIXTA)

3位はJR京浜東北・根岸線の蕨(わらび)駅で家賃相場は6万4000円。3駅隣の赤羽駅からJR上野東京ライン直通のJR高崎線に乗ると、計約29分で東京駅にたどり着く。駅がある埼玉県蕨市は全国の「市」のなかで最も面積が狭く、5.11平方kmに7万5000人超が暮らす全国一の人口密度を誇る都市なんだとか。

蕨駅前の様子(写真/PIXTA)

蕨駅前の様子(写真/PIXTA)

「コンパクトシティ蕨」を将来ビジョンに掲げる蕨市では蕨駅周辺を「都市機能の核」と位置づけており、駅西口地区の再開発計画を進めている。西口に先行整備された地上30階建て分譲マンションの隣接地には、地上28階建てのビル2棟が2025年8月に竣工予定だ。同ビルには住宅や商業施設のほか、公共公益施設の図書館と行政センターが入る予定だという。現在も駅前にはスーパーやドラッグストア、コンビニ、多彩な飲食店が集まっており、コンパクトな範囲で日常生活が送れそうな街並み。駅から徒歩20分ほどで「イオンモール川口前川」に行けるのも便利な点だ。

ここまで見てきたトップ3には東京駅の東南方面にある南船橋駅と葛西臨海公園駅、北西方面にある蕨駅がランクイン。四方八方へさまざまな路線が延びる東京駅らしく、30分圏内の駅の立地も多彩であることがわかる結果と言えるだろう。

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大規模再開発で注目の駅や、暮らしに便利な商業施設がそろう駅もトップ15入り

4位以下にもさまざまな街・路線の駅が並んでいる。7位には東京駅の北東方面にあるJR総武線・小岩駅が、家賃相場6万6000円でランクイン。東京都江戸川区にある小岩駅から東京駅に向かう際は、隣の新小岩駅からJR総武線快速に乗り換えると計約19分で到着する。高架駅の下側は地上1階・地下1階のショッピングセンター「シャポー小岩」となっており、改札を挟んで千葉側エリアが2023年3月にリニューアルオープンしたばかり。地下1階には主に食料品関係の店舗、1階には生活雑貨やファッションのお店や書店など、計44店舗が営業中だ。改札を挟んだ東京側エリアは現在、改装のため閉鎖中なので今後どうなるか楽しみだ。

小岩駅(写真/PIXTA)

小岩駅(写真/PIXTA)

小岩駅南側の約800mにわたるアーケード下に200店舗ほどが軒を連ねる「小岩フラワーロード商店街」をはじめ、駅周辺も多彩な商業施設でにぎわっている。そんな小岩駅周辺では、大規模な再開発が計画されている点も注目したい。駅北口側では地上30階・地下1階建ての住宅や商業施設、保育所などの複合ビル建設が着工され、2027年1月の竣工を目指している。さらに駅南側の南小岩六丁目地区には商業棟や商住複合ビルなど3棟が2025年中に完成予定であることに加え、駅北口と南口の駅前広場や道路の整備、駅南側の南小岩七丁目地区での商業・住宅複合ビルの建設も計画。2030年までには大きく街並みが変わっている予定だ。

10位にはトップ15で唯一の神奈川県内の駅である、JR京浜東北・根岸線の新子安駅がランクイン。東京駅の南西方面、横浜市神奈川区に位置しており家賃相場は6万7000円。まず2駅隣の川崎駅に出てからJR東海道本線に乗り換えると計約30分で東京駅へ。川崎とは逆方面に乗車すると、2駅・約6分で横浜駅に行くことができる。また駅前広場の向かい側には京急本線・京急新子安駅があり、2路線を利用することが可能だ。駅北側には住宅・業務・商業の複合施設「オルトヨコハマ」があり、スーパーやドラッグストア、飲食店が利用できる。駅南側にも普段使いしやすい飲食店が点在しているので、自炊が面倒なときに役立ちそうだ。

新子安駅(写真/PIXTA)

新子安駅(写真/PIXTA)

新子安駅と同じ家賃相場で10位には都営新宿線・瑞江駅もランクインした。駅は東京駅の東方面、東京都江戸川区に位置。都営新宿線で馬喰横山駅に出て、そこから歩いて馬喰町駅に行ってJR総武線快速に乗り換えると東京駅までは計約30分だ。瑞江駅前は商店が充実し、駅ビル内の「ライフ」をはじめとする複数のスーパーやドラッグストアにコンビニ、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」や多彩な飲食店などがずらり。駅から北に10分弱も歩くと「ユニクロ」も。瑞江駅から都営新宿線1本で、神保町駅や市ケ谷駅を経由して都内屈指の繁華街を抱える新宿駅まで約35分で行ける点も便利だろう。

今回の基点駅にした東京駅の家賃相場は11万5000円。ランキングのトップ15は東京駅まで20分以上かかる駅がほとんどだったが、家賃相場が4万円以上も下がるなら20分程度の時間なら許容範囲にも思えるかも。ランクインした駅周辺も日常生活を送るには十分な街並みだったり今後の発展が見込まれていたりとそれぞれに魅力があるので、「都心に近い駅は高すぎる」と諦めずに自分に合う街を探してほしい。

16位~30位

16位~30位ランキング

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/4~2023/3
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンションのうち普通借家契約の物件のみ)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年4月24日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

特定技能外国人の受入れ増えるも住まいの提供進まず。11言語・24時間対応で部屋探しと暮らしを支援する不動産会社に理由を聞いてみた 日本エイジェント

外国人居住者も徐々に日本国内に戻りつつあります。一方で、外国人の賃貸住宅への入居はまだまだ困難な状況にあるようです。そのような中、不動産会社として初めて特定技能外国人(特定産業分野に関する専門性・技能を有する外国人)の住宅確保などをサポートする登録支援機関に認定された日本エイジェントは、外国人専用のポータルサイトを立ち上げるなど、外国人の居住問題に取り組んでいます。これまでの取り組みについて、国際事業部ゼネラルマネージャーの草薙匡寛さんに話を聞きました。

コロナ後の日本、外国人居住者の動向は変わった?

高齢化が進み、人口が減少している日本では、労働市場における外国人の受け入れニーズは拡大しています。新型コロナの流行によって、在留外国人数の増加は一時停滞しましたが、ここ数カ月の動向について、草薙さんは「まだ完全回復とまではいきませんが、コロナで帰国したり、日本への来訪を控えていた外国人がかなり戻ってきている」と話します。

在留資格別外国人労働者数の推移

日本における外国人労働者は、ここ10年余りで大幅に増え、今後も増加の見込み(資料引用元/厚生労働白書2022年度(令和4年度))

一方、外国人の入居を受け入れている賃貸住宅は限られているのが現状で、2016年から外国人の入居や生活サポートを行っている日本エイジェントの国際事業部には、ほかの会社で外国人だからという理由で入居を断られて相談に訪れる人も少なくないそうです。

そもそもなぜ、賃貸住宅への外国人の受け入れが進まないのでしょうか。

日本エイジェントが独自でヒアリングを重ねた結果、オーナーと不動産管理会社において外国人入居を敬遠する向きが大きいと分析しています。さらに突き詰めると、実際に無断帰国や原状回復トラブルなどの被害に遭ったことで入居を敬遠するケースと、被害に遭ったことはないけれどもトラブルの話を聞いて外国人の入居に不安を感じているケースの2つに分かれます。

「実際にトラブルは一定数起こりますが、その割合は日本人入居者のそれと大差ありません。外国人入居者のトラブルを未然に防ぐために重要なことは『母国語による事前説明』です。賃貸契約を結ぶときに、日本人が日本語で説明すると、外国人のお客さまは聞いているように見えても、きちんと理解していないことが多いのです。例えば、ゴミの分別問題など、本人に悪気はなくても、理解できていないから母国と違う日本のルールから外れてしまいます」(日本エイジェント 草薙さん、以下同)

生活オリエンテーションの受講歴の有無

調査対象となった在留外国人の約6割が日本で暮らす際の説明を受けていない(資料引用元/在留外国人に対する基礎調査2021年度(令和3年度)調査結果報告書)

対策として日本エイジェントでは多言語の資料をつくり、外国人のスタッフから外国人入居者が理解しやすい言語で母国との生活習慣やルールの違いを説明するそうです。現在6名の外国人スタッフが在籍しており、実店舗では英語・中国語・ベトナム語・ヒンズー語・ロシア語・ウクライナ語に対応しています。

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不動産会社として初めて「登録支援機関」に

国は労働市場の担い手不足を補うため、2019年から「特定技能制度」を新設し、とくに深刻な人手不足が生じている14の業種に新たな在留資格を認めています。日本エイジェントは、不動産会社として初めて特定技能外国人の住宅確保をサポートする「登録支援機関」になりました。

登録支援機関とは、特定の産業分野で経験や知識を有していると認められた特定技能外国人が日本で就労する際に、安定した暮らしを送れるよう支援する機関。就労の受け入れ先である雇い主から依頼を受けて特定技能外国人のサポートを行います。

国の政策で来日する特定技能外国人であっても、その住む場所のサポートまでは施策が十分に追いついておらず、他の外国人同様に言葉や文化の違いから、まだまだ受け入れる賃貸住宅は少ないのが現実。このような登録支援機関の存在は頼りになるはずです。

特定技能1号について

特定技能の在留資格には特定技能1号と2号の2種類がある。登録支援機関は受け入れ先企業の委託を受けて、外国人支援が必須とされる特定技能1号資格(在留期間は通算5年まで)を有する外国人をサポートする(資料提供/日本エイジェント)

「ほかの登録支援機関から、当社の国際事業部に家探しを手伝ってほしいと問い合わせがあったことがきっかけで、登録支援機関の存在を知りました。そこで外国人の居住支援に力を入れていた当社も出入国在留管理庁に申請を行い、登録支援機関に認定されました」

登録支援機関になるには、いくつかの要件がありますが、2016年の国際事業部立ち上げ当初から外国人スタッフが外国人の住まい探しサポートしている日本エイジェントにとって、登録はそれほどハードルの高いものではなかったといいます。

「不動産会社として日本で最初の登録支援機関となったことで、他の登録機関から住まい探しで困っている外国人を直接ご紹介いただき、住まい探しのお手伝いができるようになりました。職探しや職務上の支援をメインに行っている登録支援機関も多く、それまで特定技能制度の中で弱かった『住』の部分で、私たちがお力になれると感じています」

日本で働く外国人を、住まいと暮らしの両面でサポートする

登録支援機関としての日本エイジェントの仕事は、他の登録支援機関からの相談を受け、住まい探しやライフラインの手続きをサポートすることです。

「手続きを円滑に進め、安心して住み続けていただくためには外国人向けのサービスを提供する他社との連携も欠かせません。『外国人専用の家賃保証会社』を活用することで申し込みや契約の手続きを、『引越し』や『家具や家電のレンタル』の事業を行っている会社と連携して入居をスムーズにできるようサービスを整えています。また、入居後に困ったことがあったときには『母国語による24時間コールセンター』で相談を受け付けています」

外国人専門の不動産コールセンター「wagaya call 24」。現在11言語、24時間365日体制で対応している(画像提供/日本エイジェント)

外国人専門の不動産コールセンター「wagaya call 24」。現在11言語、24時間365日体制で対応している(画像提供/日本エイジェント)

また、外国人を受け入れる賃貸物件を増やすためには、オーナーや管理会社に外国人を受け入れることのメリットを伝え、理解を得るための取り組みも欠かせません。オーナーや管理会社向けのセミナーを開催したり、個別に「既存の建物を外国人向け賃貸に改修したい」という相談に乗ったりすることもあるそうです。

「入居者を日本人のみに絞っている場合、繁忙期は新年度が始まる前の1~3月が中心ですが、外国人が入居を検討するのは、日本人の入社・転勤シーズンに近い2~3月と8~9月。さらに留学生が来日する1月、4月、7月、10月と、1年に何回も入居案内の繁忙期があります。オーナーにとってはそれだけ空室を埋めるチャンスが増えるということです」

外国人繁忙期

外国人にも入居の対象を広げることで、日本人の入居繁忙期を逃しても、年間を通して空室を埋めるチャンスができる(画像提供/日本エイジェント)

外国ではバス・トイレが一緒の住まいが多かったり、平屋が多い国があるなど、日本人とは異なったライフスタイルを持っている人が多くいます。そのため、日本人にはあまり人気のないユニットバスの物件や、1階の部屋に抵抗感のない外国人も結構いるそうです。

「利便性より家賃の低さを重視する人も多いので、駅から遠い部屋や築古の物件も外国人を受け入れれば、日本人には敬遠されて空室になっていた物件の入居率が上がる可能性は十分あり得ます」

大規模なリノベーションをせずに家具・家電付きの物件とすることで賃料アップを見込めることも。オーナーにとっても、外国人の受け入れには魅力がたくさんあるのです。

Before 家賃6万円/月(周辺相場並)。最寄駅から徒歩13分、築37年、15平米のワンルームタイプ。バス・トイレ同室の3点ユニットバスタイプ

Before 家賃6万円/月(周辺相場並)。最寄駅から徒歩13分、築37年、15平米のワンルームタイプ。バス・トイレ同室の3点ユニットバスタイプ

After 家賃10万円/月 二段ベッドおよび、家具家電を備え付けにし2人入居可能にしたことで入居者にとっては割安な部屋となりオーナーにとっては賃料アップが見込めるようになった。短期・中期・長期と契約期間に応じたプランを設け、外国人がより入居しやすいような仕組みにしている(画像提供/日本エイジェント)

After 家賃10万円/月 二段ベッドおよび、家具家電を備え付けにし2人入居可能にしたことで入居者にとっては割安な部屋となりオーナーにとっては賃料アップが見込めるようになった。短期・中期・長期と契約期間に応じたプランを設け、外国人がより入居しやすいような仕組みにしている(画像提供/日本エイジェント)

外国人専用の不動産ポータルサイト「wagaya Japan」発足の裏側

ネット上では日本で賃貸物件を借りることの手続きの煩雑さや審査の厳しさなど、いろいろな情報が出回っているので「日本で賃貸物件を借りて住むのはかなり大変そうだ」と尻込みしている外国人も多くいるといいます。

そこで、日本エイジェントでは、日本語を含む5カ国語に翻訳して物件探しができる外国人向けポータルサイト「wagaya Japan」を開設。2018年の立ち上げ当初は、同業他社との差別化を目的としたものでしたが、社内外のいろいろな意見を取り入れてホームページをブラッシュアップしていくうちに、少しずつ社会的な使命感に駆られていったそうです。

外国人向けポータルサイトwagaya japan。日本語のほか、英語・中国語(簡体字・繁体字)・ベトナム語に対応している(画像提供/日本エイジェント)

外国人向けポータルサイトwagaya japan。日本語のほか、英語・中国語(簡体字・繁体字)・ベトナム語に対応している(画像提供/日本エイジェント)

wagaya Japanの読み物「wagaya ジャーナル」では、外国人の入居希望者ができる限りスムーズに日本の暮らしに馴染めるよう、日本で暮らしていく上でのお役立ち情報を、wagaya Japanと同様に5カ国語で提供しています。
日本エイジェントに相談に訪れる外国人からは、「日本での住まい探しはもっと難しく時間がかかるかと思っていたが、情報を得ることもでき、想像以上に早く入居することができた」という声もよく聞かれるそうです。

そしてサイト運営の裏側には、外国人が入居可能な不動産を扱う複数の管理会社との協業があります。

「最初のうちは方向性も定まっておらず、とにかくたくさんの物件情報を載せようと必死でした。しかし、当社が掲げている『日本の住まいをもっとグローバルに』を実践するには、自社の物件だけを掲載していても規模が知れています。私たちの取り組みに興味を持った会社から物件を載せたいとお声がけいただいて、そこから全国の管理会社と協力するようになりました」

サイトの運営にかかる費用は、物件を掲載する管理会社からの掲載料を充てていて、ユーザーは無料で利用できます。最初は掲載する物件数も少なかったのですが、求められるものをつくっていれば利益は後からついてくると信じて走り出したそうです。

あらゆるお客様のニーズに応えていった結果、最初は賃貸物件のみでしたが、売買物件やシェアハウスも扱うよう変化していき、東京都だけでも9000件以上の物件情報が掲載されるようになりました。年間対応実績は約6000件、wagaya japanを訪れる外国人ユーザーは、月15万人以上に上ります。

国籍も文化も異なる外国人が、暮らしたいと思える国にするために

協業の一方で、草薙さんは日本のオーナーや管理会社と接するときに、外国人に対する正しい知識がまだ足りていないと感じていることも指摘します。

「そもそも『外国人』と一括りにすること自体、ちょっと乱暴ではないでしょうか。アジア人といっても日本と中国、ベトナムでは習慣も文化も全然違います。相手の習慣や文化を知りながらお互いを理解すること、そのためには、多言語対応ができる不動産管理会社の数ももっと必要です」

お互いの理解が進めば、外国人の日本での住まい探しはもっとずっと楽でスムーズになるでしょう。そして、外国人の入居を受け入れることは人口減による日本全国の空室・空き家の増加を食い止める鍵となり、オーナーともWIN-WINの関係を築けるはずです。

国際事業部の国際色豊かなメンバーが母国語で対応する(画像提供/日本エイジェント)

国際事業部の国際色豊かなメンバーが母国語で対応する(画像提供/日本エイジェント)

国が特定技能制度で外国人の来日を促すのであれば、その数に見合うだけの住まいがなくてはなりません。そして、ただ家を提供するだけでなく、日本語のわからない人たちが、いかに相談しやすい環境や仕組みを整えるかが大事だと感じました。

日本に住んで働くことを希望する外国人のニーズを真剣に捉え、解決してこうとする日本エイジェントのような考えを持つ不動産会社や、理解を示すオーナーがもっと必要です。不動産会社が登録支援機関に認定を受けることもまた、外国人を積極的に受け入れていく姿勢を示す、一つの方法になるのではないでしょうか。

●取材協力
・wagaya japan
・株式会社日本エイジェント国際事業部専用ページ

テレワークの個室整備、オンライン内見など…コロナ禍から更に変化した住宅市場動向とは

国土交通省は、令和4年度の「住宅市場動向調査」の結果をとりまとめ、それを公表した。毎年実施している大型調査ではあるが、コロナ禍を経て、住宅を取り巻く環境も変わりつつある。その影響がどう表れているか、見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
「令和4年度住宅市場動向調査」の結果を公表/国土交通省

インターネットの活用は情報収集や問い合わせまでしか進んでいない

この調査は、2021年4月~2022年3月に住み替えや建て替え、リフォームを行った世帯を対象に行ったもの。注文住宅と中古住宅は全国を、分譲住宅、民間賃貸住宅、リフォームについては三大都市圏を対象にしている。

さてコロナ禍では、対面を避けるためにオンラインによる接客やオンライン上の内覧などの手法が採り入れられるようになった。そこで、まずはインターネットの活用がどの程度進んでいるかを見てみよう。

今回の調査では、住宅の住み替えや取得の際の工程を次のように分けて、インターネットの活用状況を聞いている。
(1) インターネットを通じた情報収集
(2) インターネットを通じた問い合わせ、説明会・内見等の申し込み
(3) オンライン会議システム(ZOOM、Teams、Skype等)を活用した物件説明・商談
(4) VR(仮想現実)またはAR(拡張現実)ツールを活用した物件内見
(5) オンラインでの住宅ローン審査(※民間賃貸住宅は対象外)
(6) オンラインでの重要事項説明(※民間賃貸住宅は(5))
(7) 電子署名等を活用した電子契約(※民間賃貸住宅は(6))
(8) (1)~(7)の経験はない(※民間賃貸住宅は(7))

インターネットの活用状況

住宅取得等の過程におけるインターネットの活用状況(出典:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要より転載)

いずれの場合も、「インターネットを通じた情報収集」(図の黄色の棒グラフ)が最多でおおむね6割半~8割を占め、特出して多くなっている。次いで、「インターネットを通じた問い合わせや内見等の申し込み」で、最少の賃貸住宅で2割弱、最多の分譲集合住宅(新築マンション)で5割弱といったところだ。

働く場では普及している「オンライン会議システム」の活用だが、図の赤い棒グラフを見る限り、あまり活用が進んでいないようだ。新築マンションの販売センターなどで話を聞く限りでは、多くのデベロッパーがオンライン会議を使った物件説明をしているという話だったので、意外に活用度合いが少ないなというのが正直な感想だ。

売買契約や賃貸借契約の際の電子書面やオンラインの活用はこれから広がるか?

これから普及が進むだろうと見ているのが、インターネットの活用状況の選択肢のうち、(6)のオンラインでの重要事項説明や(7)の電子書面を活用した電子契約である。売買契約や賃貸借契約を交わすときには、必ず重要事項説明を行う(貸主が不動産会社の場合は対象外)ことになっている。かつては必ず対面で行うこととされていたが、オンラインで行うことが可能になった。ただし、国土交通省が定めた細かいルールに準じて行う必要があるため、その環境が整わない不動産会社もあったりして、エンドユーザーが希望しても必ずしも実施できない場合もある。

また、必ず書面で重要事項説明書や契約書を作成することになっていたので、電子書面の交付が可能になった2022年5月以降には、より一層オンラインによる契約の効率化が図れるようになったので、実施状況が上がっていく可能性がある。

社会実験の取り組み

社会実験の取り組み(出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」サイトより転載)

在宅勤務の普及によってそのための個室を確保した?

次に、コロナ禍で普及した在宅勤務の影響を見ていこう。今回の調査では「在宅勤務等のためのスペースの状況」について、次の選択肢を用意して聞いている。
(1)在宅勤務等に専念できる個室がある
(2) 在宅勤務等に専念できる仕切られたスペースがある
(3)仕切られてはいないが在宅勤務等に専念できるスペースがある
(4) 在宅勤務等に専念できる個室やスペースなどはない

在宅勤務等のためのスペースの状況

在宅勤務等のためのスペースの状況(出典:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要より転載)

賃貸住宅に住み替えた世帯では、在宅勤務のためのスペースがない(図の赤い棒グラフ)という回答が最多で、個室がある世帯は3割強にとどまった。しかし、注文住宅や新築一戸建て、新築マンション、中古一戸建て、中古マンションでは、在宅勤務のための個室があるという回答が最も多かった。また、マンションよりも一戸建てのほうが個室を確保する割合が高い傾向がうかがえる。

これは、住宅の広さの影響があるだろう。一般的な賃貸住宅は持ち家よりも面積が狭いので、在宅勤務のための個室を用意することが難しく、持ち家のなかでも一戸建てのほうが部屋数を確保しやすいので、在宅勤務に充てる個室を用意しやすいということだろう。

個室ではないスペースも含めると、在宅勤務のためのスペースというのは、今後の住まい選びでも意識する必要があるだろう。

住宅スゴロクの崩壊?新築マンションは複数回の取得が多い

最後に、筆者が気になった「住宅取得回数」について見ていこう。
調査で住宅取得回数を聞いたところ、すべての住宅の種類でほとんどが「今回が初めて」と回答している。「今回初めて」の割合が最も少ない新築マンションを見ても、72.9%に達している。逆にいうと、新築マンションを買った世帯のなかで17.4%が「2回目」、9.0%が「3回目以上」と回答しており、4世帯に1世帯は今回の新築マンションが複数回目の取得となる。

理由はさまざまあるだろう。高齢化や少人数世帯の増加により、マンションのほうが暮らしやすいと考える世帯が増えたこと、マンションのほうが売りやすいこと、新築マンションの価格が高騰して購入世帯が限定されたことなどが考えられる。

かつて「住宅スゴロク」といわれた、賃貸住宅→マンション→庭付き一戸建てと住み替えるのが理想とされた時代は終わったようだ。

住宅取得の実態は、そのときの経済状況や社会的な変化が反映された結果になる。ITの進化や働き方の変化、住み心地の価値観の変化など、さまざまな要因が調査結果に表れているようだ。

●関連サイト
「令和4年度住宅市場動向調査」の結果を公表/国土交通省
国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要

ひとり親同士が助け合えるシェアハウスにニーズ増。基準新設でサポート機会増えるも、課題は?

ひとり親が住宅を確保することは、低所得であることや家賃滞納リスクなどの懸念から困難を極めることがあります。そんな状況を救うために2021年4月、住宅セーフティネット法に「ひとり親向けシェアハウス」の基準が追加されました。背景には、家事・育児・仕事のすべてをひとりで行わなければならないひとり親世帯の孤立を防ぎ、自立を促す住まい方として、ひとり親同士が支え合って暮らすシェアハウスが注目されてきたことがあります。

新しい基準が追加されて2年、ひとり親世帯の住宅事情はどう変化したのでしょう? 専門家・NPO理事・シェアハウス事業者の3名が座談会でホンネを話し合いました。

写真左から、シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん、追手門学院大学 地域創造学部 准教授 ・葛西リサさん、特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

写真左から、シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん、追手門学院大学 地域創造学部 准教授 ・葛西リサさん、特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

追手門学院大学 地域創造学部 准教授・葛西リサさん
ひとり親、DV被害者、性的マイノリティの住居問題、シェアハウス研究を専門にしている。主な著書に、『母子世帯の居住貧困』(日本経済評論社)、『住まい+ケアを考える~シングルマザー向けシェアハウスの多様なカタチ~』(西山夘三記念 すまい・まちづくり文庫)、『13歳から考える住まいの権利』(かもがわ出版)がある。

特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん 
日本で初めてとなるシングルマザー専用シェアハウス『ぺアレンティングホーム』、シングルマザー向けシェアハウスが集まるサイト『マザーポート』の発起人。

シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん
幼少期の複雑な家庭環境、不動産会社での勤務経験を活かし、2015年に起業。シングルマザー向けシェアハウスを5棟運営中。

法改正で、ひとり親向けシェアハウスを利用しやすくなる?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――はじめに、ひとり親向けシェアハウスとはどのようなものか教えてください。

追手門学院大学 地域創造学部 准教授・葛西リサさん(以下、葛西さん)「ひとり親向けシェアハウスとは、さまざまな事情を抱えたシングルの母子が一同に集まり暮らす賃貸型のシェアハウスのことを指します。主に女性向けが前提とされていますが、これには理由があります」

――どのような理由があるのでしょうか?

葛西さん「母子世帯は年々急増しており、父子世帯と比較して圧倒的に世帯数が多く、2倍近く収入格差があるという統計があります。こうした背景から一般の賃貸住宅に入居したくても入居できないという課題があるのです。また持ち家の多くは夫名義であることが多いため、父子世帯は持ち家率が高いのですが、母子世帯は離婚後にまず住宅の確保を迫られます。この問題を解決するために、シェアハウスは女性向けに提供されています」

――実際、入居している方からはどんな声がありますか?

シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん(以下、山中さん)「私たちが運営する施設に入居するお母さんたちからは、『一時的にサポートを受けることができる場所があるのはありがたい』『低廉な家賃で家を借りることができるのは助かる』という声を多く聞きますね」

――住宅確保要配慮者が入居しやすい賃貸住宅の供給を促進する法律、通称『住宅セーフティネット法』は、住宅確保要配慮者のひとつの属性として「ひとり親」が明記され、2021年4月にひとり親向けシェアハウスの基準が新設されましたね。なぜ見直しされたのですか?

葛西さん「ひとり親世帯の数は年々増えていますが、ひとり親世帯、特に母子世帯は貧困率が高く、不動産会社やオーナーの家賃滞納に対する不安から入居できる住宅が限られている現状がある。つまりひとり親世帯が入居できる住宅のニーズが高まっているのです。またシェアハウスに同じ立場の人と一緒にくらし、育児や家事を分担、サポートする体制があることで、ひとり親の経済的・社会的・精神的な負担が軽減されるというメリットも確認されています」

――基準の新設によるメリットは?

特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん(以下、秋山さん)「シェアハウスを運営するオーナーや事業者は、ひとり親向けシェアハウス基準の追加によって、シェアハウスをセーフティネット住宅として登録することで、改修費や家賃低廉化の補助(※)を受けられる可能性が出てきました。ただしこれらの補助を受けるためには、セーフティネット住宅の中でも住宅確保に配慮が必要な人向けの『専用住宅』として登録する必要があります。
今後こうしたひとり親向け専用シェアハウスの登録が増えていけば、賃貸を希望する母子世帯にとっても、選択肢が広がっていくメリットはありますね」

※家賃低廉化の補助・・・住宅確保要配慮者のうち低額所得者が賃貸物件に入居する際、行政が民間賃貸住宅などのオーナーに対して補助金を交付する制度

住宅セーフティネット法の制定前からひとり親の居住貧困問題の研究、政策提言を続けてきた葛西リサさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

住宅セーフティネット法の制定前からひとり親の居住貧困問題の研究、政策提言を続けてきた葛西リサさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

基準が変わって、ひとり親世帯向けシェアハウスはどうなった?

――シェアハウス基準の追加から2年。ひとり親によるセーフティネット登録住宅の利用状況は変化していますか?

葛西さん「まだまだ変化したとは言いがたい印象です。まず、ひとり親向けの専用住宅として制度を活用できるハウスが少ないのです。その数を増やすために制度面でもっと変化をしてほしいのは、ひとり親向けセーフティネット住宅における『家賃低廉化措置』の制度化ですね。国の基準として追加されたものの、実際に補助制度の設計・運用は各自治体に任せられています。

国土交通省によると補助費用の予算化は、各自治体での判断に委ねているそう。各自治体はどうしてもひとり親世帯の支援よりも、他の支援に予算を優先してしまいがち。つまり枠組みはできたのだけど、それが十分に活用されていないという事態なのです」

秋山さん「実際に日本に1700ほどある自治体の中で、制度化・予算化ができているのは30程度。その中でも運営事業者が制度を利用できている実態が見えるのは横浜市(神奈川県)ぐらいではないでしょうか。横浜市はセーフティネット法の基準新設前から、独自でひとり親向けのシェアハウスの基準を設けてきました。基準新設は、一見するとひとり親向けシェアハウスの運営事業者が補助制度を利用できるようになったように見えるのですが、実際は自治体が制度化していないために、利用できないことが多い状況です」

NPO理事はもちろん、建築士としても社会課題の解決に取り組む秋山 怜史さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

NPO理事はもちろん、建築士としても社会課題の解決に取り組む秋山 怜史さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

葛西さん「横浜市は家賃補助付きセーフティネット住宅制度を設けており、この制度を活用することで、オーナーさんは家賃低廉化や家屋改修費の補助を得ることができます。特に家賃補助は最大で月4万円。補助があれば賃料を下げることができるので、低所得の人たちも家を借りやすくなるのです。ひとり親向けシェアハウスを営む『YOROZUYA』オーナーの小林剛さんは『セーフティネット住宅として登録しただけでも、問い合わせが増えた』と話しています」

横浜市磯子区にあるシェアハウス「YOROZUYA」(画像提供/マザーポート)

横浜市磯子区にあるシェアハウス「YOROZUYA」(画像提供/マザーポート)

ひとり親向けシェアハウスの維持・運営、難しいのが現実

――そもそもセーフティネット登録住宅の件数は増えているのでしょうか。

葛西さん「登録件数自体は増えていますね。ただし『ひとり親世帯などを優先する専用住宅』が増えないのです」

秋山さん「ひとり親向けシェアハウスの事業は、維持・運営が非常に難しいことを痛感しています。当NPOの会員である運営事業者と連絡を取ると『事業をやめました』『これからは募集を停止する予定です』というコメントが時折あり、数年前は全国に30以上いた運営者が今年は20強と徐々に数が減ってきています」

シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん(以下、山中さん)「セーフティネット住宅として登録するためには耐震基準を満たす必要がありますが、家賃を下げるためにそれなりに築年を経た物件で運営することが多いため、旧耐震基準のハウスも多いです。これを現在の耐震基準を満たすように改修するためには、補助金だけでは到底まかなえません。当社のように自社で物件を持たず、マスターリース(一括借上げ)で運営していると、オーナーさんに改修の打診をすることも簡単ではないのです。総じて制度を利用するのにハードルが高いのでセーフティネット住宅としては登録しない、という結論に至ってしまうのです」

シングルマザーのためのシェアハウスを複数経営する山中真奈さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

シングルマザーのためのシェアハウスを複数経営する山中真奈さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

葛西さん「『自治体で家賃低廉化補助制度を設けているか』と『その地域にひとり親向けシェアハウスを運営するオーナーや事業者がいるか』。そのマッチングができれば横浜市のように制度を活用できる事業者や物件が出てきますが、うまくマッチングされないと、ひとり親向けシェアハウスの数は増えないのでしょう」

制度活用をどうするか。注目したいスキームや補助金

――住宅セーフティネット制度以外で、ひとり親やひとり親向け住宅を運営する事業者が活用できる自治体の制度・手段はありますか。

山中さん「スキーム面で新しい事例として挙げられるのは、豊島区で開設したひとり親向けシェアハウスです。これは秋山さんが代表を務めるNPO法人 全国ひとり親居住支援機構と豊島区が協働して『ひとり親向けシェアハウス』開設に向けた新たなスキーム『豊島区モデル』を構築した例です。私たちシングルズキッズは豊島区サイドからの熱いアプローチを受けて、運営事業者として参画。これまでのように物件の借上げはせずに、運営のみを担っています」

秋山さん「運営事業者には、お金周りのことを心配せずに運営に注力してほしいという考えで、物件の借上げ(物件オーナーへの家賃の支払い)を私たちNPOが担うことにしたのです」

ひとり親向けシェアハウス(豊島区モデル)スキームイメージ(画像出典/豊島区ホームページ)

ひとり親向けシェアハウス(豊島区モデル)スキームイメージ(画像出典/豊島区ホームページ)

葛西さん「この事例の良い点は、事業のリスクを1事業者だけが負うのではなく、シェアハウス運営事業者、NPO、行政とそれぞれの強みを活かしながら役割を分担して参画できる仕組みであることです。こうした体制にできると、今後もっとひとり親向けシェアハウスが増えていくように思いますね」

実践者・有識者としてそれぞれの立場から課題について話し合う3人(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

実践者・有識者としてそれぞれの立場から課題について話し合う3人(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

山中さん「ほかに、入居者であるひとり親世帯の立場で活用しやすいと感じる制度は、厚生労働省が設けている『住居確保給付金制度』です。この制度のメリットは、離職や減収、例えばコロナ禍のような不測の事態が起きた際でも、申請すれば市区町村ごとに定める額を上限に原則3カ月分、実際の家賃額を支給してもらえます。さらに延長は2回まで可能、最大9カ月間の利用ができることも。家賃の支払いに苦慮している入居者の方には、私たち事業者からこうした制度の案内をしています。それによって事業者も収入を確保できるからです」

事業者サイドへの啓蒙を継続的に行い、プレイヤーを増やす

――今後、ひとり親世帯へ向けた住宅セーフティネット制度の活用は進むのでしょうか。

山中さん「実際に事業者として、入居者のニーズは拡大していると感じます。問い合わせなども増えていますので」

葛西さん「メディア掲載などにより、ひとり親世帯の住宅確保の問題は目に触れる機会が増えており、認知は上がっているのではないでしょうか。最近はひとり親向けシェアハウスとして、水まわりなどを共用するハウスだけではなく、バス・トイレが1世帯ごとに分かれているアパート型のハウスも出てきました。不動産業界としても、日本全体の人口が減り、空室や空き家が増えるなかで今後は住宅の確保が困難な人たちへ向けて積極的に住宅を提供していくべきという風潮も高まっているようです」

秋山さん「住宅セーフティネット制度は、家を借りる人(入居者)に啓蒙するよりも、私たちNPOが取り組んでいるように、積極的に制度を活用したい事業者に向けてもっとアナウンスをしていったほうが良いと思います。そもそも事業者自体がこの制度を知らないと活用をすることができません。

今後の居住支援を担うプレイヤーをもっと増やしていくことが、行政やわたしたち支援者のやるべきことですね」

――ひとり親にとっては、今後どんな暮らしができる社会になるのでしょう?

秋山さん「『将来に希望を持てる社会が実現されていく』と思います。住宅は生活すべての基盤。住まいに困ることなく、安心安全である暮らしは、その先の未来を考える上で最も大切なことのひとつなのです。ひとり親のための住まいが増えることによって、誰もが安心して未来を見据え、将来に希望が持てるようになっていくと信じています」

葛西さん「自活をスムーズに進めることができる社会になっていくと思います。夫の収入に依存して住まいを得る女性は未だに多く、離婚時には不利に働いています。婚姻中に育児を背景に仕事を辞めたり、パートなどの短時間労働に変更したことで、資金と信用力不足になり、母子世帯は貧困に陥りやすい。ゆえに住宅市場から排除される傾向があるのです。

住宅がなければ就職も子どもの学区も決定できず、新生活のビジョンが描けない。さらには居所が定まらず、親子ともに精神的に追い詰められ、不安定となるケースも少なくないです。しかし本来、子どもの健やかな成長を保障するためにも、自活の第一歩となる住宅の確保は、公的に保障されるべきこと。ひとり親のニーズに合致した住まいサービスが増えることで、居場所を失った親子を減らしていけると願っています」

ひとり親シェアハウスに対する利用者のニーズは年々増加。しかし事業者は運営状況が厳しく撤退し、シェアハウスが年々減少していっているという「ニーズと実態の逆行」の事実に歯がゆく思います。住宅セーフティネット法の基準追加は、ひとり親の居住問題が注目されるきっかけにもなっていますが、これを単なるイベントにせず、より制度が根付くように国や自治体の積極的なバックアップが望まれるのではないでしょうか。今後の動きにますます注目です。

グラレコ作成/SUUMOジャーナル編集部

(グラレコ作成/SUUMOジャーナル編集部)

●取材協力
・追手門学院大学 地域創造学部 准教授 ・葛西リサさん
・特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん 
・シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん
・ひとり親向けシェアハウス『YOROZUYA』(神奈川県横浜市)
・「ひとり親向けシェアハウス」官民協働実現(東京都豊島区のモデルケース)

賃貸住宅の管理業者に初の立入検査、97社うち59社に是正指導。入居する時の注意点は?

国土交通省は、2023年1月~2月に全国97社の賃貸住宅管理業者などに立入検査を実施した。「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の施行後、初めての立入検査となった。検査を実施した背景やその結果などについて見ていこう。

【今週の住活トピック】
賃貸管理業者などへの初の立入検査を実施/国土交通省

「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」とは?

まず、この法律が制定された背景について説明しよう。

賃貸住宅はオーナー(大家)が管理する場合もあるが、近年は管理業者に委託するケースが大半だ。管理業者は、家賃や敷金などの受け取りや賃貸借契約の更新、退去時の立ち会い、敷金の返還などの一連の業務を行うほか、建物の点検や補修、清掃なども行っている。賃貸暮らしにおいては、きわめて重要な役割を担っているのだ。さらに、サブリースと呼ばれる、管理業者がオーナーから借りて、それを管理業者がエンドユーザーに又貸しする形式も増えている。

出典/国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」より転載

出典/国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」より転載

一方で、宅地建物取引業者やマンション管理業者の場合は法規制があり、国土交通省の監督下にあるが、賃貸住宅管理業者には法規制がなかった。そこで、オーナー・入居者と管理業者の間のトラブル防止を目的に、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が制定され、2021年6月に施行された。

その内容は、「賃貸住宅管理業者の登録制度の創設」(管理戸数200戸未満は任意)と、主に次のようなことを義務づけたもの。
・管理受託契約を締結する際に重要事項を説明する
・受託した業務の実施内容を定期的に報告する
・家賃などの財産を自身の財産と分別して管理する
・業務管理者を配置する

賃貸住宅管理業者などへの立入検査の結果は?

登録制度への賃貸住宅管理業者の登録数は、2023年3月末時点で8943社、管理戸数は合計で約790万戸となっている。今回、法律に則り適正に事業が営まれているかどうかについて、全国97社に対して立入検査を実施した。

国土交通省は検査を実施した結果、97社のうち59社に対して是正指導などを行った。かなりの割合だが、気になる指導内容を見てみよう。

指導の対象(重複あり)について、件数が多いものには次のようなものがあった。
・28件「管理受託契約締結時の書面交付義務違反」
→ 書面に記載すべき項目に不備があるなど
・18件「書類の備え置き及び閲覧義務違反」
→ 業務状況調書を作成しない、電子保存のみで書面化していないなど
・17件「管理受託契約締結前の重要事項説明義務違反」
→ 重要事項説明書に記載すべき項目に不備があるなど

国交省「【概要版】賃貸住宅管理業者等への全国一斉立入検査結果(令和4年度)」より転載

出典/国交省「【概要版】賃貸住宅管理業者等への全国一斉立入検査結果(令和4年度)」より転載

国土交通省では、一部の賃貸住宅管理業者などに法律の内容について理解不足が見られたが、指導した結果、59 社すべてで是正がなされたことを確認している、と公表した。

賃貸住宅に入居する場合の注意点

賃貸住宅に入居する場合は、賃貸住宅の管理は誰が行うのかを確認しよう。管理を管理業者が受託している場合は、管理業者が登録制度に登録しているかどうかも確認しておきたい。登録事業者かどうかは、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」の「賃貸住宅管理業者」タブで検索できる。

また、国土交通省では、「貸主が建物の所有者ではない場合」には、次の3点を確認するように入居者に注意を促している。

■「貸主が建物の所有者ではない場合」の注意点
(1)入居する部屋はサブリース住宅かどうか
(2)賃貸借契約書に、貸主が建物のオーナーに変わった場合に住み続けられる旨の記載があるか
(3)サブリース業者から維持保全の内容や連絡先の通知を受けているか
(出典:「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」のサブリース住宅の入居者への注意喚起リーフレットより)

サブリース住宅の場合、オーナー(所有者)はサブリース業者と賃貸借契約を結び、サブリース業者は入居者に又貸しして転貸借契約を結ぶ。この場合の転貸借契約には、オーナーが誰であるかも記載するように、国土交通省では指導している。また、オーナーとサブリース業者の間の賃貸借契約が終了した後も、入居者がそのまま住み続けられることが契約書に記載されていれば、万一のときも安心だ。

また、維持保全とは、賃貸住宅の建物や設備などの清掃や点検、補修などを行うことで、入居者の生活に支障がないように適切に管理されることが望まれる。サブリース住宅の場合はサブリース業者が行うので、具体的にどんなことをするのか、不具合があった場合などにどこに連絡すればいいかが通知されていることが必要だ。

スマホを耳に当て微笑む女性

(写真/PIXTA)

さて、いまの賃貸住宅は、その多くが管理業者によって管理されている。入居者にとっては、家賃の督促や故障・修繕の対応、他の入居者への苦情対応などについて、誰に相談してどう対処してくれるかは、日々の生活に大きく影響する。賃貸住宅に入居する際には、管理についてもしっかりと確認してほしい。

●関連サイト
国土交通省「賃貸住宅管理業者及び特定転貸事業者59社に是正指導~全国一斉立入検査結果(令和4年度)~」
国土交通省の賃貸管理業者検索サイト
●参考サイト
国土交通省の賃貸住宅管理業法ポータルサイト
「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」のサブリース住宅の入居者への注意喚起リーフレット

育休中の夫婦、0歳双子と北海道プチ移住! 手厚い子育て施策、自動運転バスなどデジタル活用も最先端。上士幌町の実力とは?

長期の育児休業中に、移住体験の制度を活用して北海道へのプチ移住を果たした私たち夫婦&0歳双子男子。
約半年間の北海道暮らしでお世話になったのは、十勝エリアにある豊頃町(とよころちょう)、上士幌町(かみしほろちょう)という2つのまち。
実際に暮らしてみると、都会とは全然違うあんなことやこんなこと。田舎暮らしを検討されている方には必見⁉な、実際暮らした目線で、地方の豊かさとリアルな暮らしを実践レポートします! 今回は上士幌町&プチ移住してみてのまとめ編です。

上士幌町は北海道のちょうど真ん中。ふるさと納税と子育て支援が有名

9月上旬から1月末まで滞在した上士幌町は、十勝エリアの北部に位置する人口5,000人ほどの酪農・農業が盛んなまち。面積は東京23区より少し広い696平方km。なんと牛の数は4万頭と人口の8倍も飼育されています。そして、十勝エリアのなかでも何と言っても有名なのが、「ふるさと納税」。ふるさと納税の金額が北海道内でも上位ランクなんです。そのふるさと納税の寄付を子育て施策に充て、0歳~18歳までの子どもの教育・医療に関する費用は基本無料、ということをいち早く導入したまち。子育て層の移住がかなり増えたことで注目を集めています。
町の北側はほとんどが大雪山国立公園内にあり、携帯の電波も届かない国道273号線(通称ぬかびら国道)を北に走ると、三国峠があり、そこからさらに北上すると、有名な層雲峡(上川町)の方に抜けていきます。

上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)

上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)

糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)

糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の暮らし。徒歩圏でなんでもそろうちょうどいい環境

上士幌町は人口5,000人のまちで、中心となる市街地は一つ。この中心地に人口の約8割、4,000人ほどが住んでいるそう。ここにはスーパーがコンビニサイズながら2つ、喫茶店や飲食店もたくさんあります。そして、コインランドリーに温泉に、バスターミナルに……と生活利便施設がきっちりそろっています。中心地から少し離れると、ナイタイテラス、十勝しんむら牧場のカフェ、小学校跡地を活用したハンバーグが絶品のトバチ、ほっこり空間がすっごくステキな豊岡ヴィレッジなどがあり、暮らすには不自由はほぼないと言ってもいいと思います。

そして、なんと、2022年12月から、自動運転の循環バスが本格稼働しているんです! ほかにも、ドローン配送の実験など、先進的な取組みがたくさんなされているまちでもあります。実は上士幌町さんには、デジタル推進課という課があります。ここが中心となって、高齢者にもタブレットを配布・スマホ相談窓口が設置されています。デジタル化に取り残されがちな高齢者へのサポート体制をしっかり取りながら、インターネット技術を十分活用し、まちのインフラ維持、サービス提供を進めていこうという町としての取組みは素直にすごいなと感じました。

カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)

カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)

十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)

十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)

ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)

ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)

我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

誕生会やママのHOTステーションなどさまざまな出会いの場が

上士幌町では、移住された方、体験移住中の方などが集まる「誕生会」と呼ばれる持ち寄りのお食事会が月1回開催されています。毎回さまざまな方が来られるので、移住されている方がすごく多い、というのがよく分かります。移住して25年という方もいらして、移住者・まちの人、両方の視点を持っていらっしゃる先輩からの上士幌暮らしのお話は、すごく参考になることが多かったです。

毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)

毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)

また、上士幌町といえば、我々子育て世代にとって、すごくありがたい取組みが「ママのHOTステーション」。育児の集まりの場合、子どもたちが主役になり、「子育てサロン」として開催されることが多いのですが、この取組みの主役は“ママ”。ママが子どもたちを連れて、ゆっくりしたひと時を過ごすことができる場を元保育士の倉嶋さんを中心に企画・運営されていて、今や全国的にも注目される取組みになっています。

実は、上士幌町で移住体験がしたかった一番の目的は、この「ママのHOTステーション」を妻に体験してもらいたかったこと、倉嶋さんの取組みをしっかり体感したかったことにありました。ほぼ毎週のように参加させていただいた妻は本当に大満足で、ママ同士の交流も楽しんだようです。ここでは、〇〇くんのママではなく、きちんと名前でママたちも呼び合い、リラックスムード満点の雰囲気づくりも素晴らしいなと感じました。妻は、「ママのしんどい気持ちや育児悩みを共有してくれて、アドバイスをくれたりするのがすごくありがたいし、同じような立場のママが集ってゆっくり話せるのは嬉しい。子どもの面倒も見てくれるし、ここには毎週通いたい!」と言っていました。こういった同じ境遇のお友達ができるかどうかは、移住するときの大きなポイントだと感じました。もっといろいろな同世代、子育てファミリーに特化したような集まりがあってくれると、更に安心感が増すんだろうなと思います。

ママのHOTステーションの取組みとして面白いところは、「ベビチア」という制度。高齢者の方が登録されていて、子どもたちの世話のお手伝いをしてくださいます。コロナ禍になり、遠方にいるお孫さん・ひ孫さんと会えず寂しい思いをしている高齢の方々などが登録してくださっていて、週1回の触れ合いを楽しみにしてくださっている方も。「子育て」「小さな子ども」というのをキーワードに、多世代の方がのんびり時間を共有しているのはすごくいいなと感じました。

ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)

ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)

乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)

上士幌町の移住相談窓口は、NPO法人「上士幌コンシェルジュ」さんが担われています。こちらの名物スタッフの川村さん、井田さんを中心に移住体験者のサポートを行ってくださいました。私たちも入居する前から、いろいろと根掘り葉掘りお伺いして、妻の不安を取り除きつつ、入居後もご相談事項は迅速に対応いただきました。

移住体験住宅もたくさん!テレワークなどの働く環境も

私たち家族が暮らした移住体験住宅は、75平米の2LDKで、納屋・駐車スペース4台分付きという広さ。豊頃町の体験住宅に比べるとやや狭いものの、やはり都会では考えられない広さでゆったり暮らせました。住宅の種類としては、現役の教職員住宅(異動の多い学校の先生向けの公務員宿舎)でした。平成築の建物で、冬の寒さも全く問題なく、この住宅の家賃は月額3万6000円で水道・電気代込み。移住体験をさせていただくと考えると破格の条件かもしれません(暖房・給湯などの灯油代は実費負担)。今回お借りできた住宅以外にも、短期~中・長期用まで上士幌町では10戸程度の移住体験住宅が用意されています。ただ、本当に人気のため、夏季などの気候がいい時期については、かなりの倍率になるようです。ただし、豊頃町と同じく、上士幌町でもエアコンがないことは要注意。スポットクーラーはあるものの、夏の暑さはかなりのものなので、小さなお子さんがいらっしゃる場合は、ご注意ください。エアコンはもう北海道でも必須になりつつあるようなので、少し家賃が上がっても、ご準備いただけるといいなぁと思いました。また、ぜいたくな希望になりますが、食器類や家具などの調度品も比較的古くなってきていると思うので、一度全体コーディネートされると、移住体験の印象が大きく変わるのでは、と感じました。

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・育休中の双子パパ、家族で北海道プチ移住してみた! 半年暮らして見えてきた魅力と課題

必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)

必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)

私たちの住まいになった住宅は、まちの中心からは徒歩10~15分ほど。ベビーカーを押して動ける季節には、何度も散歩がてら出かけましたが、ちょうどいい距離感でした。南側は開けた空き地になっていて、日当たりもすごくよくて、冬の寒い日も、晴天率が高いため、日光で室内はいつもぽかぽかになっていました。

一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)

一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)

体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)

また、私たちは育児休業中だったため使うことはなかったのですが、上士幌町さんはテレワークやワーケーションなどの取組みについてもすごく前向きに取り組まれています。
まず、テレワーク施設として「かみしほろシェアオフィス」があります。建設に当たっては、ここで働く都市部からのワーカーの方に向けて眺望がいいところ、ということで場所を選定されたそう。個室などもあり、2階建ての使い勝手の良いオフィスとなっています。

個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)

個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)

さらに2022年にオープンしたのが「にっぽうの家 かみしほろ」。この施設はまちの南側、道の駅のすぐ近くに位置しています。こちらは宿泊施設になりますが、1棟貸しを基本としていて、広々したリビングで交流や打ち合わせ、個室ではプライバシーをしっかり守りつつお仕事に没頭することなどが可能に。また、ワーケーション滞在の方のために、交通費・宿泊費などの助成制度も創設されたとのことで、これからさまざまな企業・団体の活用が期待されます。

にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)

にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)

子育て層にとって、子どもの教育環境というのが移住検討するに当たってはかなり重要な事項となります。上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」として、都市部で生活する児童・生徒が住民票を移動することなく、上士幌町の小・中学校に通うことができる制度が2022年度から始まりました。この制度を使えば、移住体験中や季節限定移住などの場合も、お子さんの教育環境が担保されることとなり、これまでなかなか移住検討までできなかった就学児がいるファミリーも懸念材料の一つがなくなったこととなります。

十勝には質の高いイベントがたくさん! 起業支援なども盛ん

半年ほど暮らしてみてわかったことはたくさんあったのですが、子育てファミリーとしてすごくいいなと思ったのが、「イベントの質が高く、数も多い」にもかかわらず、「どこに行ってもそこまで混まない」こと。子育てファミリーにとって、子どもを遊ばせる場所がそこここにあるというのはものすごく大きいなと感じました。

とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)

とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)

個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)

個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)

ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)

ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)

また、実際に移住して暮らすとなるとお金をどうやって稼ぐかというのもポイントになってくると思います。上士幌町では、「起業支援塾」が年1回開催され、グランプリには支援金も出されるなど、起業サポートも充実しています。また、帯広信用金庫さんが主催され、十勝19市町村が協賛している「TIP(とかち・イノベーション・プログラム)」というものも帯広市内で年1回開催されています。2022年は7月から11月まで。私も育児の隙間を縫って参加させていただきましたが、かなり本気度が高い。野村総研さんがコーディネートをされているのですが、実際5カ月でアイディア出しからチームビルディング、事業計画までを組み上げていきます。ここで起業を実際にするもよし、このTIPには多方面の面白い方々が参加されるため、横の繋がりが生まれたりし、仕事に繋がることもあると思います。

TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)

TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)

また、こちらは直接起業とは関連がありませんが、「とかち熱中小学校」というものもあります。これは、山形県発祥の社会人スクールのようなもので、「もういちど7歳の目で世界を……」というコンセプト。ゴリゴリの社会人スクールというよりは、本当に小学校に近い仲間づくりができるアットホームな雰囲気。とはいえ、テーマは先進的な事例に取り組むトップランナーさんの講義や、地元の産業など。こちらも講師はもちろん、開催地が十勝エリア全般にわたるため、参加者の方もさまざまで、人間関係づくりにはもってこい。こちらには家族全員で参加させていただいていました。

2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)

2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)

農業に興味がある方は、ひとまず農家でアルバイト、というのもあります。どこの農家さんも収穫の時期などは人手が足りないケースが多く、農業の体験を通じて、地元のことを知れるチャンスが生まれると思います。私も1日だけですが、友人が勤める農業法人さんにお願いして、お手伝いさせていただきました。作物によって時給単価が違うそうなのですが、夏前から秋まで色々な野菜などの収穫がずっと続くため、いろんな農家さんに出向いて、農業とのマッチングを考えてみる、というのもありだと思います。

かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)

かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)

今回、長期の育休を取得し、子育てを実践するとともに、自分のこれからの暮らし方を見つめなおせるいい機会が移住体験で得られました。2拠点居住は子どもができると難しいのではとか、地方で仕事はあるのかなどの漠然とした不安を抱えていましたが、「どこに行っても暮らしのバランスはとれる」ということも分かりました。
大阪の暮らしとは明らかに異なりますが、既に暮らされている方々に教えてもらえれば、その土地土地の暮らしのツボが分かってきます。個人的には、地方に行くほど、システムエンジニアやクリエイターさんたちの活躍の場が実はたくさんある気がしています。こういう方々が積極的に暮らせるような仕組みづくりが出来ると、自然発生的に面白いモノコトが生まれてきて、まちがどんどん便利に面白くなっていくのではないかなと感じました。

我々家族としては、今後2拠点居住を考えていくにあたって、我々1歳児双子を育てている立場として重視したいポイントもいくつか判明しました。それは、「近くにあるほっこり喫茶店」「歩いていける利便施設」があることです。双子育児をするに当たって、双子用のベビーカーって重たくて、小柄な妻は車に乗せたり降ろしたりすることはかなり大変。さらに双子もどんどん重たくなっていきます。そう考えると、私たち家族の現状では、ある程度歩いて行ける範囲に最低限の利便施設があったり、近所の人とおしゃべりができる喫茶店があったりするのはポイントが高いなと妻と話していました。

我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)

我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)

今回、長期育休×地方への移住体験という新しい暮らし方にトライしてみて、憧れの北海道に実際暮らすことができました。これまで漠然とした憧れだった北海道暮らしでしたが、憧れから、より具体的なものになりました。また、たくさんの友人・知人や役場の方との繋がりもでき、仕事関係についても可能性を感じられました。
子どもが生まれると、住むまちや家について考えるご家族は多いのではないでしょうか。育休を機会に、子育てしやすく、親たちにとっても心地よいまち・暮らしを探すべく、移住体験をしてみるのは、より楽しく豊かな人生を送るきっかけになると思います。10年後には男性の育休が今より当たり前になり、子育て期間に移住体験、という暮らし方をされる方がどんどん登場すると、地方はより面白くなっていくのではないかなと感じました。
家族みんなの、より心地よい場所、暮らしを移住体験を通じて探してみませんか? いろいろな検討をして、移住体験をすることで、暮らしの可能性は大きく広がると思います。

移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)

移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)

●関連サイト
上士幌町移住促進サイト
上士幌観光協会(糠平湖氷上サイクリング)
上士幌町Two-way留学プロジェクト 
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にっぽうの家 かみしほろ
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タイの賃貸は家具付き、知人紹介が基本! バンコク中心部サトーン地区、移住歴15年の日本人のおしゃれアパートにおじゃまします

個性を大切にした暮らし方や働き方って、どんなものだろう。
その人の核となる小さなこだわりや、やわらかな考え方、暮らしのTipsを知りたくて、これまで4年かけて台湾や東京に住む外国の方々にお話を聞いてきました。

私の中でここ数年はタイのドラマや映画、音楽や雑誌などが沸騰中。国内外の移動ができるようになったタイミングでバンコクに飛び、クリエイターや会社員など3名の方のご自宅へ。センスのいいインテリアと、無理をしない伸びやかな暮らし方、まわりの人を大切にする愛情深さ、仕事に対する考え方などについてたっぷり伺いました。
初回はアートディレクター・グラフィックデザイナーで日系企業の会社員、金野芳美さん(40歳)を訪ねました。

タイの首都、バンコクの住宅事情(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タイの首都、バンコク。面積は1,569 平方kmで、東京都の4分の3ほどでしょうか。タイ全土の約1.5%の広さにもかかわらず、経済規模ではタイ全体の約半分を占めています。交通網の整備が進み、おしゃれなショップやカフェも続々とできて、トレンドに敏感な街として勢いを感じるものの、他の国の首都と比べると地価は上がりすぎておらず、比較的手ごろな印象です。

はじめに、タイの住宅の種類について少しお話させてください。タイの住宅は、マンションのような建物の「アパート」「コンドミニアム」「サービスアパート」と、長屋のように横の家とつながっていて4階程度までの低層な「タウンハウス」、そして日本と同様に「戸建」があります。

タイのアパート(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タイのアパート(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「アパート」「コンドミニアム」「サービスアパート」は、建物のグレードによって呼び名が異なるのではなく、所有形態や付帯サービスが違います。「アパート」は、建物全体を一人のオーナーが所有している賃貸マンション。「コンドミニアム」は、部屋ごとにオーナーが異なる賃貸マンション。「サービスアパート」は、家事サービス付きでホテルのように住めるマンションです。

タウンハウス(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タウンハウス(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タウンハウス(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タウンハウス(写真撮影/Yoko Sakamoto)

また、タイの賃貸物件は家具付きが一般的で、新しめの物件にはおおかた家具がついています。その設備は、一棟全部同じか、部屋のオーナーによってさまざまな場合も。そして、家電がついていることもあります。

それもあってか、わざわざ家具をそろえるのは相当お金に余裕があるか、自分らしく暮らしたいと願うひと握りの人で、その多くはクリエイターや外国人。また、タイブランドの家具は非常に高価なため、若い世代はIKEA率が高いそうです。

日本人女性が住む70平米の1LDKアパート

さて、今回紹介するのは金野芳美さん、40歳。アートディレクター・グラフィックデザイナーで、現在は日系企業の会社員(企画職)です。

金野さんが住んでいるのは、バンコク中心部の大使館などが集まる「サトーン」エリア。オフィス街に近く新しいコンドミニアムが多い、閑静な高級住宅地です。

雰囲気のいい築古のアパート。緑も多い(写真撮影/Yoko Sakamoto)

雰囲気のいい築古のアパート。緑も多い(写真撮影/Yoko Sakamoto)

住まいは築30年のビンテージのアパート。道路に面した手前側の棟には30部屋ほど、奥に位置する低層棟には全6部屋があり、金野さんの部屋は低層棟の1室。70平米のたっぷりゆとりのある1LDKで、さらに部屋の周囲にベランダがついています。金野さんによると、もともと軍などに勤務する西洋人が住んでいたそう。部屋の天井も家具も高さがあって、平米数以上の広さに感じられます。

ひろびろ、ゆったり。天井が高くて窓も大きく開放感があります(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ひろびろ、ゆったり。天井が高くて窓も大きく開放感があります(写真撮影/Yoko Sakamoto)

金野芳美さん。大学卒業後にワーキングホリデーでオーストラリアに1年間住んだあと、バンコクへ移住(写真撮影/Yoko Sakamoto)

金野芳美さん。大学卒業後にワーキングホリデーでオーストラリアに1年間住んだあと、バンコクへ移住(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「タイに来たのは2007年、23歳の時です。タイのフリーペーパー制作会社にグラフィックデザイナーとして入社したんです。ここで3年間勤務したのちに、2年間のフリーランスを経て、29歳でタイ人の友達と一緒にデザイン会社を設立しました。

「お酒を飲んでいるときがいちばん幸せ!」LEOはタイの有名ビールブランド(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「お酒を飲んでいるときがいちばん幸せ!」LEOはタイの有名ビールブランド(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タイに来たばかりの当時は物価も家賃も安くて、アパートで一人暮らしをしていました。タイに根付くつもりはなくて、いつでも次の国に行けるようにスーツケースに入るくらいの荷物しか持っていなかったんです。

会社を立ち上げた当初は軌道に乗せるのが最重要項目で、家にお金をかけたくなかったので、友達の家の一室にシェアハウス的に住んだりもしていました。その後数年間がむしゃらに働いて、会社が安定したので、そろそろ住まいにもこだわって、インテリアや持ち物も増やそうと考えたときに出会ったのがこの部屋です」
ここは金野さんがタイに来て、10軒目に出会った住まいでした。

室内にもグリーンがふんだんに(写真撮影/Yoko Sakamoto)

室内にもグリーンがふんだんに(写真撮影/Yoko Sakamoto)

物件選びは、大家さんへの直接交渉や友人知人の紹介も

70平米の1LDKは家族3人でも住めるくらいの広さで、一人暮らしには十分すぎるほど。どうしてこの物件を選んだのでしょうか。

「このアパートをあえて選んだのは、立地と広さと家賃、部屋の雰囲気の良さ、大家さんとの相性など、すべてが魅力的だったから。特に広さに関しては、当初はここまで広いところに住むつもりはなかったです。
タイでは、賃貸の住まい選びの際に、不動産会社の仲介を入れないケースも多いです。私は建物のエントランスにいるスタッフを通じて大家さんとやりとりしましたし、そこに住んでいる友人知人に紹介してもらうケースも少なくありません。条件面はすべて大家さんとの話し合いが必要になりますが、外国人でも保証人が不要ということもあり、引越しのハードルは低いですね。不動産会社が仲介するのは駐在の方が住むような高級物件くらいです」

エントランスに常駐しているスタッフとも良い関係(写真撮影/Yoko Sakamoto)

エントランスに常駐しているスタッフとも良い関係(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タイ人の多くは築浅でモダンな物件を好むため、このように築古でビンテージ感ある雰囲気の物件は、同エリアの同じ広さの物件と比べてお得に借りられるそう。センスのいい外国人や、タイ人クリエイターなどに人気です。

コロナで家ごもりをしていた間に、ベランダにハンモックを設置(写真撮影/Yoko Sakamoto)

コロナで家ごもりをしていた間に、ベランダにハンモックを設置(写真撮影/Yoko Sakamoto)

ちなみに、年間の最高気温が35℃で最低気温が22℃のタイ(バンコク)では、南向きと西向きの部屋は「暑すぎる」「電気代がかかる」という理由で不人気だとか。この部屋も、開口部が広くて陽光がたっぷり入るものの、南向きではありません。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

さて、気になる家賃は……?
「お給料も物価も、15年前と比べて1.5倍になりました。現在、日本人現地採用の月給目安は60,000~80,000B(23.3万円~31万円)で、そこから保険料などが引かれます。たとえば家賃が15,000B~20,000B(5.8万円~7.7万円)の部屋を借りると、3分の1が住居費で生活がカツカツになるので、家賃は10,000B~15,000B(3.9万円~5.8万円)が理想でしょうか。この部屋は家賃が13,000B(5万円)で、電気代は高くても2,000B(7760円)。とてもコスパがいい物件です」

古いアパートならではの愛らしいディティールがそこかしこに(写真撮影/Yoko Sakamoto)

古いアパートならではの愛らしいディティールがそこかしこに(写真撮影/Yoko Sakamoto)

家賃が手ごろなうえに、このアパートは職場までバイクで15分の立地。バンコク在住の人には珍しい、職住近接な環境です。

交通量の多いバンコク市内。表通りは賑やかで活気があります(写真撮影/Yoko Sakamoto)

交通量の多いバンコク市内。表通りは賑やかで活気があります(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「タイ人は家族と一緒に住みたい人が多いので、バンコクっ子は、たとえ実家がバンコク郊外でも、わざわざ実家から車や電車などで職場に通っています。
また、貯金はしない・投資が好きという傾向があり、少し前までは就職したらすぐローンを組めたことから、若い人も家や車などをバンバン買っていました。
不動産購入の目的は、貸して家賃収入を得られたり、さらには将来へ投資のため。お金持ちはローンを組まずに一括で買い、賃貸に出したり、のちに手放すなどして、利益を得ています。でも、一般の人が後先を考えずにローンで購入して、立ち行かなくなるケースも多々あって。もらったお給料で1カ月やりくりするという概念を持っていない人も、比較的多いように感じます。ちなみに、タイには相続税はありません」

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

現在、バンコクの地価は東京のおよそ4分の1と聞きました。たしかにその価格であれば、若い世代も不動産を手に入れる夢が持てますね。金野さんも、まわりの人からこれだけタイに長くいるのだから不動産を買ったらいいのにとよく言われますが、外国人は土地の所有が認められていなくて、購入できるのはコンドミニアムのみだそうです。

キッチンや水まわりはタイル貼りで清潔な印象(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンや水まわりはタイル貼りで清潔な印象(写真撮影/Yoko Sakamoto)

譲ってもらった家具や旅で出合った小物で部屋を飾る

この部屋の床材は風合いのある木材ですが、タイの物件の床はタイル貼りが主流です。タイでは玄関扉周辺で靴を脱ぎ、室内では靴下やスリッパは履かずに裸足で生活します。タイルは冷たくて気持ち良く、水拭きできるというメリットもあるそう。バンコク以外の地域では、タイル床にゴザを敷いて床生活をしている家が多いのだとか。

キッチンユニットとコンロ、冷蔵庫、カウンターは元々ついていたもの(写真撮影/Yoko Sakamoto)

キッチンユニットとコンロ、冷蔵庫、カウンターは元々ついていたもの(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「一般的な賃貸物件と同様に、この部屋にももともといくつかの家具や家電がついていました。リビングのテーブルとキッチンのカウンター、テレビ台、クイーンサイズのベッド、冷蔵庫などですね。タイの賃貸住宅についているベッドがたいていクイーンかキングサイズなのは、部屋が大きいからベッドも大きいのでは、と思います」

クイーンサイズのベッドもついていた。ベッドは大きいサイズが一般的(写真撮影/Yoko Sakamoto)

クイーンサイズのベッドもついていた。ベッドは大きいサイズが一般的(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「この物件のキッチンにはガスコンロがついていました。新しい物件はIHが主流なので、この点も古い物件ならではです。ちなみに、安い物件にはキッチンがついていないことも少なくありません。タイは屋台文化が発達していて、家で料理をせずに外で食べたり、買ってきたりすることも多いですからね。でも最近は、おしゃれだからとかヘルシーという理由で料理をする若い人も増えてきました」

新しい物件ではほぼ見かけない4口のガスコンロ(写真撮影/Yoko Sakamoto)

新しい物件ではほぼ見かけない4口のガスコンロ(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「そして、お金持ちの家にはメイドさんがいて、料理・掃除・洗濯等の家事をすべてまかせています。このアパートにも掃除してくれるスタッフがいて、普通の会社員も頼める金額でやってもらえますよ。たしか1回あたり400B(1552円)か600B(2328円)くらいです」

タイ人と日本人のアーティストの作品を飾って(写真撮影/Yoko Sakamoto)

タイ人と日本人のアーティストの作品を飾って(写真撮影/Yoko Sakamoto)

家具付きの部屋と聞くと、自分らしさを出しにくいのではと感じますが、とんでもない。譲ってもらった家具をゆったりと置き、壁にタイのアーティストの絵を飾り、ミャンマーなど近隣諸国で買ってきたアジア雑貨を足す。ひとつひとつ見ると個性の強いカラフルな家具や小物も、床が濃い茶色だからか、絶妙なバランスでまとまっています。

イエローのソファも部屋にしっくり馴染んでいる(写真撮影/Yoko Sakamoto)

イエローのソファも部屋にしっくり馴染んでいる(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「家具はタイを離れる友人から譲ってもらったり、本帰国する人のガレージセールで手に入れたり。このソファも、タイを離れた日本人から2000Bで譲ってもらいました。
タイは気温も湿度も高いためラグではなくゴザが普及していますが、ゴザは本来安価なもの。それをおしゃれにリデザインしたのがタイの『PDM』というブランドで、Facebookで見てこれだ!と柄にひと目ぼれ。すごく派手だから、テーブルで一部を覆って派手さを薄めています」

個性の強いゴザは、テーブルを置いて分量を調節(写真撮影/Yoko Sakamoto)

個性の強いゴザは、テーブルを置いて分量を調節(写真撮影/Yoko Sakamoto)

まるで守り神のようなミャンマーの置物(写真撮影/Yoko Sakamoto)

まるで守り神のようなミャンマーの置物(写真撮影/Yoko Sakamoto)

気づいたら在タイ期間も長くなって。「何か月か、住んでみたらいい」

外に出かけるのが好きで、コロナ禍前は外食がほとんどだった金野さん。10人単位の来客もよくありました。でも、コロナ禍で出掛けられなくなって家にいる時間が長くなったときは、空間にこだわって居心地よくしていて良かったと思ったし、家で料理もしていたそう。そして今、ふたたび出かける楽しさを満喫しています。これからの住まい計画はどうでしょうか。

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

「実は、私はタイに住みたくて来たわけではなくて、根付くつもりはなかったのになぜか今に至っていて。面白いもので、バンコクはそういう人のほうが長く居ついているんです。かれこれ15年以上住んでいるので、タイにいる日本人の中では中堅くらいでしょうか。でも、コロナ前には別の国へ赴任する話もあったので、この先もしかすると他の国に移住するかもしれません」

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

(写真撮影/Yoko Sakamoto)

強い意志を持って、よほど勇気を出さないと海外移住はできないという思い込みがありましたが、意外と住んでから考えることもできるのですね。働き方の自由度が上がった今、まわりでも海外移住を検討している人が何人もいて、もちろんタイを目指している人もいます。
「何か月か、住んでみたらいいのよ」(金野さん)という言葉が、こんなにもリアルに響いたのは初めて。ふらっと行って住んでみる、という可能性を教えていただきました。

●取材協力
金野芳美さん
Instagram @kinnokinno

1バーツ=3.88円(2023年4月10日現在)

世田谷区でも高齢者世帯増の波。区と地元の不動産会社が手を組み、安否確認、緊急搬送サービスなど入居後も切れ目ない支援に奔走

住宅確保が難しい人の住まい探しやその後の生活をサポートするため、行政をはじめ、NPO 法人や企業など、さまざまな団体・組織が連携をとりながら支援を行う動きが見えつつあります。問題に対して本質的な解決を行うためには、包括的なサポート、主体的なアプローチ、関係組織との連携は欠かせません。そこで各所で新しい動きが見られる東京都世田谷区の取り組みについて、連携する不動産会社の1社であるハウジングプラザの対応も含めて紹介します。

あらゆる人が気軽に相談できる場を。「住まいのサポートセンター」の開設

「SUUMO住みたい街ランキング首都圏版」(リクルート調査)の住みたい自治体ランキングでは2018年から先日発表された最新の2023年までずっと2位にランクインしていて、東京都23区の中でも人気の高い街の世田谷区。しかし、区内在住の高齢者の割合は、2020年が20.4%なのに対し2042年は24.2%になる見込みで、全国平均よりは低いものの、高齢化が進んでいます。高齢者のみの世帯も増加傾向にあり、ほかにも障がい者やひとり親など、住宅選びの際にサポートを必要としている人も多くいます。

世田谷区が行った2017年の調査によると、区内の高齢者数は増加傾向にあり、高齢者のみの世帯も同様に増える見込み(画像提供/世田谷区)

世田谷区が行った2017年の調査によると、区内の高齢者数は増加傾向にあり、高齢者のみの世帯も同様に増える見込み(画像提供/世田谷区)

一方で、このような住宅確保要配慮者に対し、賃貸物件のオーナーや管理会社が入居を拒むことも少なくありません。近隣住民等とトラブルが起きるのではないか、という不安や万が一の際の残置物処理の負担への懸念があるからです。区では、住宅の確保に配慮が必要な人向けに区営住宅も提供していますが、戸数には限りがあるため、民間の賃貸住宅を活用していくことが必要です。

このような状況を見越して、世田谷区では2007年4月に住まいの確保が困難な人を支援する「住まいのサポートセンター」を開設。民間の組織と協働して住宅の確保や入居を円滑に進めていくことを目指して、高齢者、障がいのある人、ひとり親世帯など住宅の確保に配慮が必要な人たちの支援を行っています。

センターが提供する「お部屋探しサポート」は、区と不動産店団体とが連携協定を結び、区内の民間賃貸住宅の空き室情報を提供する事業です。センターに来訪する人に約1時間、センターの職員と不動産会社の担当者が一緒に相談に乗り、物件探しや内覧の手配など、相談者のサポートにあたります。

住まいのサポートセンターは、企業やNPO法人と連携して、家探しに困っている人を支援する区の窓口。世田谷区在住の高齢者・障がい者・ひとり親世帯・LGBTQ・外国人が利用できる(画像提供/世田谷区)

住まいのサポートセンターは、企業やNPO法人と連携して、家探しに困っている人を支援する区の窓口。世田谷区在住の高齢者・障がい者・ひとり親世帯・LGBTQ・外国人が利用できる(画像提供/世田谷区)

世田谷区によると「相談者は、建物取り壊しのため立ち退きを余儀なくされたものの、高齢を理由に転居先が見つからない人や、体調を崩して働けなくなり、生活保護を受給するにあたって賃料の安い住宅に引越す必要が生じた人など、さまざま」だと言います。多様な背景を抱えながら住まいの確保に困難を感じる人が窓口を訪れ、2021年度は261名の人がお部屋探しサポートを利用したそうです。

関連記事:百人百通りの住まい探し

生活保護を受給する人の住まいの選択肢を広げた、地域の不動産会社ハウジングプラザの取り組み例

住まいサポートセンターで職員と一緒に窓口相談を担当する不動産会社の一つ、ハウジングプラザ 福祉事業部の波形孝治さんと小林慶子さんは、月に1回、3~4人の相談を受けています。区から「生活に困っている人に部屋を紹介してほしい」と相談を受けるようになったのがおよそ7~8年前。以来、ハウジングプラザでは住まい探しに困っている人、特に生活保護を受けている人への支援に注力するようになり、2021年8月に社内に福祉事業部を設置しました。

「当社では『入居を希望する全ての人のお部屋探しをお手伝いする』ことを不動産会社の社会的使命としています。同時に『困っている人のニーズに応える』ことは企業が収益を上げていくための当然の営業活動でもあります。福祉事業部を設置したことで、時間やノルマなどにとらわれず、より積極的な支援活動が可能となりました」(ハウジングプラザ波形さん)

ハウジングプラザ福祉事業部の小林さん(左)と波形さん(右)(画像提供/ハウジングプラザ)

ハウジングプラザ福祉事業部の小林さん(左)と波形さん(右)(画像提供/ハウジングプラザ)

相談に来る人は、これまでの経緯から心を閉ざしたり、メンタル的に疲れてしまったりしている人も多いといいます。

「オーナーさんに安心して入居者を迎え入れていただくためにも、ご相談を受ける際には『どのような事情で支援を必要としているのか』など、いろいろな話を伺いながら、一人ではなく私たちも一緒に住まい探しをしていくことを理解していただき、信頼しあえる関係を築いていくことを大切にしています」(ハウジングプラザ波形さん)

また、2021年12月からは家賃保証会社と業務提携して、生活保護を受けている人を対象とした独自の家賃保証プランを提供しているそうです。

「当社と業務提携をしている家賃保証会社と契約してもらうことで、生活保護を受けている人が入居審査を通る幅は大きく広がりました。区役所からの代理納付ができれば家賃保証会社の審査はほぼ通りますし、その仕組みによって家賃の未払いが発生するリスクをかなり減らすことができます」(ハウジングプラザ小林さん)

それでも、生活保護を受給している人が入居可能な物件はまだまだ少なく、1件ごとに入居を希望する人の背景や家賃保証会社の審査が通っていることを説明して、オーナーに働きかける努力は欠かせません。

問題は「入居困難」だけじゃない!「住んだ後」も必要になるサポート

住まいの確保が困難な人に必要なサポートは、住まい探しだけにとどまらず、入居中や入居後にも及びます。特に高齢者や障がいのある人は、住んだ後の生活においても支援の手が必要となるからです。

「物件が見つかったとしても、それで支援が終わりというわけではありません。その後も住まいサポートセンターの職員が相談された方に連絡し、住まい探しの状況確認や相談に乗るなど、アフターケアをしています」(世田谷区)

また、高齢者や障がいのある人の入居で不安視されるのが、孤立による事故や孤独死です。そこで世田谷区は、誰もが住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、公的なサービスの充実や支えあい活動など、住民や企業と協働した多様な取り組みを積極的に行なっています。

例えば、希望する高齢者や障がい者には、見守りサービスや救急通報システムを、認知症や障がいで福祉サービスの利用が困難な人にはサービスを利用するときの援助や日常的な金銭管理の支援サービスを提供しています。

高齢者の見守りサービスを提供するホームネットとの連携による「見まもっTELプラス」は、入居者の見守りと万が一のときの補償がセットとなったサービス。世田谷区はサービス利用者が要件を満たす場合には初回登録料を補助している(画像提供/世田谷区)

高齢者の見守りサービスを提供するホームネットとの連携による「見まもっTELプラス」は、入居者の見守りと万が一のときの補償がセットとなったサービス。世田谷区はサービス利用者が要件を満たす場合には初回登録料を補助している(画像提供/世田谷区)

これらの包括的なサポート体制は、住居の確保に配慮が必要な人への支援であるとともに、孤独死や死後の残置物処理、近隣住民等とのトラブルなどを懸念するオーナーや管理会社に対する配慮でもあるのだそう。

「入居中・退去後等のサービスを充実させ、居住支援事業を積極的に紹介することで、オーナーさんの不安を和らげ、住宅の確保に配慮が必要な方が入居を拒まれることを減らす一助となれば、と考えています」(世田谷区)

「みんなに安心できる住まいを」各分野のプロが連携しながら地域全体で支える

高齢者などが入居を拒まれない民間の賃貸住宅を増やすため、区では国のセーフティネット制度を活用して一定の条件を満たした住宅を“居住支援住宅”として認証し、オーナーに補助金を出しているそうです。

また、前述した「見守っTELプラス」などの高齢者の見守り・生活支援サービスの提供を行うホームネットとの包括連携協定も民間企業と連携した取り組みの一つ。一定の条件を満たす利用者には区が初期登録費用を全額補助しています。

さらに不動産会社やオーナーへの働きかけも欠かせません。住宅セーフティネット法に基づいて世田谷区が設置した居住支援協議会には2023年度から、都が指定するNPOや民間企業などの居住支援法人のうち、区内に拠点のある5法人と、協定を結んでいる1法人からなる6社が参画するように。専門的知見をもとにした意見をもらったり、居住支援協議会セミナーに登壇してもらったりしています。

「民間の賃貸住宅の活用には、不動産会社、オーナーさんたちの協力と理解をいただくことも欠かせません。居住支援協議会では、不動産団体やオーナーへ向けた情報提供なども積極的におこない、居住支援法人である民間組織の方が具体的にどんな取り組みをおこなっているのかを紹介してもらいました」(世田谷区)

各分野の専門家との連携も不可欠です。区役所内の福祉部門や生活困窮者自立相談支援センター「ぷらっとホーム世田谷」、地域包括支援センター「あんしんすこやかセンター」などの外部機関と連携して、互いの知識の向上のための講習会などを開催しながら包括的な支援を目指しています。

高齢者向けの見守りサービス。高齢福祉課や保健福祉課などの福祉部門をはじめ、さまざまな企業や団体と連携して、包括的な支援を行なっている(画像提供/世田谷区)

高齢者向けの見守りサービス。高齢福祉課や保健福祉課などの福祉部門をはじめ、さまざまな企業や団体と連携して、包括的な支援を行なっている(画像提供/世田谷区)

独自の補助金制度の設計など、事業者とともに「これから」をつくる

世田谷区にこれからの取り組みについて聞いたところ、第四次住宅整備方針の重点施策として上げているのは「居住支援の推進による安定的な住まいと暮らしの確保」だといいます。

その一例として、2013年に区が実施した「ひとり親家庭アンケート調査」で、回答者の約半数が「家計を圧迫している支出」として上げているのは「住居費」でした。

ひとり親世帯の家計を圧迫している費用

2013年に世田谷区が実施した「ひとり親家庭アンケート調査」では、家計を圧迫している費用として、住宅費が育児・教育費に次いで多くなっている(資料提供/世田谷区)

2013年に世田谷区が実施した「ひとり親家庭アンケート調査」では、家計を圧迫している費用として、住宅費が育児・教育費に次いで多くなっている(資料提供/世田谷区)

そこで区は、ひとり親世帯に対して対象となる住宅に転居する場合に、国の住宅セーフティネット制度を活用して家賃の一部を補助する「ひとり親家賃低廉化補助事業」を実施しています。また、対象住宅を増やす策として、制度に協力したオーナーに1戸あたり10万円の世田谷区独自の協力金制度を設けているそう。

家賃補助だけでなく、世田谷区は、ひとり親世帯家賃低廉化事業の対象住宅を増やす方策として、制度に協力した賃貸人に対する協力金制度を独自に設置している(資料提供/世田谷区)

家賃補助だけでなく、世田谷区は、ひとり親世帯家賃低廉化事業の対象住宅を増やす方策として、制度に協力した賃貸人に対する協力金制度を独自に設置している(資料提供/世田谷区)

「支援をさらに押し進めていくには、単独で行うのではなく、居住支援協議会の場で、区・不動産団体・オーナーさんの団体・居住支援法人などの協力を得て進めることが大切です。今後も居住支援法人などが提供するサービスの利用促進や効果的な支援策について連携しながら検討していきたい」と世田谷区はいいます。

住宅セーフティネット法によって、各地方自治体が住宅の確保に配慮が必要な人たちへの支援に試行錯誤する中、世田谷区は、民間との連携がうまくいっている例ではないでしょうか。

居住困難の問題を解決するには、オーナーや不動産会社も安心して取り組める状況をつくり出し、理解と協力を得ることが大事です。しかし民間でできること、行政だけでできることには、それぞれ限界があります。実際に現状に即した施策を進めていくには、行政が、住民からどのような居住支援を必要とされているかを知る努力と、支援を実施するために必要な知識やノウハウを民間と共有することに躊躇しない姿勢が大事だと感じました。

住まいの確保が困難な人への取り組みは、地方自治体によってもかなり違いがあります。自分の住む自治体の制度や取り組みに興味をもち、見直してみることも、これらの取り組みを推進する一つのきっかけになるかもしれません。

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●取材協力
・株式会社ハウジングプラザ福祉事業部
・世田谷区「住まいに関する支援」

サウナ付き賃貸・築100年超は当たり前!? 念願のフィンランドに移住した『北欧こじらせ日記』作者chikaさんが語る異文化住宅事情

「週末北欧部」として、ブログやSNSで北欧への愛を長年発信し続けてきたchikaさん。フィンランドで働くため日本で寿司職人になり、実際に移住するまでの道のりをつづっているコミックエッセイ『北欧こじらせ日記』(世界文化社)は、2022年秋にドラマ化している。

昨年4月、ついに念願のフィンランド生活をスタートしたchikaさんに、フィンランドの居住環境や暮らしについてお聞きした。

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

週末北欧部 chikaさん
フィンランドが好き過ぎて12年以上通い続け、ディープな楽しみ方を味わいつくした自他ともに認めるフィンランドオタク。移住のために会社員生活のかたわら寿司職人の修行を始め、ついに2022年春に移住。モットーは「とりあえずやってみる」。好きなものは水辺、猫、酒、一人旅。著書に『マイフィンランドルーティン100』(ワニブックス)、『北欧こじらせ日記』(世界文化社)、『世界ともだち部』(講談社)など。

自分らしく働くための「寿司職人」という選択肢

北欧やフィンランドへの愛を漫画で描き、インターネットで発信する週末北欧部・chikaさん。これまで北欧の魅力を多くの人に届けてきた。フィンランドとの出合いのきっかけは何だったのだろう。

「私の誕生日がクリスマスであることからずっと憧れていたサンタさんに会うため、20歳のときに一人旅で初めてフィンランドを訪れたんです。そこで『いつかこの国に住みたい!』と強烈な一目惚れをし、以来1年に1回は必ずフィンランドに通うようになりました」

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

大学卒業後は北欧音楽に関連する会社で働き、その後日本で北欧カフェを開くことを目指して、会社員をしながら休日にカフェでアルバイトをしていた。そんな生活を続けるうちに、「どうせ苦労するなら一番好きな場所で苦労しよう」とフィンランドで生活する方法を探し始めた。

見つけたのは、日本人歓迎の寿司職人の求人だった。会社員をしながら寿司学校やお店で約2年間修行したのち、2022年4月、13年越しの思いとともにフィンランドへ移住した。

日本での修行時代にchikaさんが握ったお寿司(画像提供/週末北欧部chika)

日本での修行時代にchikaさんが握ったお寿司(画像提供/週末北欧部chika)

「寿司はフィンランドの人たちにもよく食べられていて、日本人シェフは本場の味を知っていることから重宝されているようです。寿司職人は、私らしさを活かして喜んでもらえる仕事だと思いました。フィンランドのレストランとはビデオ通話で面接を行い、採用されたことで就労ビザが得られることになり移住が決定、フィンランドに渡った3日後あたりには仕事が始まりました」

フィンランドに住むために寿司職人になる。一見奇抜な決断だが、「好きな場所で自分らしく働きたい」と考え続けたchikaさんにとっては必然的な選択だったのだと思えた。そんなchikaさんに、フィンランドの住宅事情や現地での暮らしづくりの過程を話してもらった。

都心でも自然が身近なヘルシンキヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)

ヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)

「私が住んでいるのは首都のヘルシンキで、日本から来た人はここに居住することが多いと思います。フィンランド南部の海に面する都市で、森や湖などの自然も身近にあり心地良い街です。公用語はフィンランド語ですが9割以上の人が英語も話せるので、私も英語を使って生活しています。北部に行くほどフィンランド語しか通じない場面が増えますね」

正規でアパートを借りるには、現地の銀行口座が必要。口座開設に時間がかかるため、最初はAirbnbで小さなワンルームを借りて1カ月ほど過ごしたという。ただ、長期滞在向けの部屋ではないため、家具や光熱費などを含めても1泊7,000円とどうしても割高になってしまう。

「このアパートに居続けることは金額的に難しいと考えていたところ、10年来のフィンランド人の友達がちょうどワーケーションで空けることになった家を3カ月ほど貸してもらえることになりました。かつて年1回のフィンランド通いをしていたころにも滞在したことがあり、フィンランドにある『第二の家』だと思っていたので、すごくありがたいタイミングです。その家で暮らしているときにやっと口座が開設でき、ついに物件探しがスタートしました」

パーソナルサウナや都心部と家賃の関係、一人暮らしの新居に求めた条件とはヘルシンキの水辺。フィンランドには湖が多い(画像提供/週末北欧部chika)

ヘルシンキの水辺。フィンランドには湖が多い(画像提供/週末北欧部chika)

「ヘルシンキの中心部で水辺に近い好きなエリアがあったので、そこに住むことは決めていました。物件は、休日も料理ができるようにキッチンが広いところで、家賃はお給料の30%を目安に。フィンランドではほとんどのアパートに住民共用のサウナが付いているのですが、理想をいえば部屋にパーソナルサウナがあればいいなと思っていました」

そういえばフィンランドはサウナ発祥の地だった。パーソナルサウナがある物件は主に築浅だったり家賃がその分高くなったりと条件は厳しくなるらしいが、それでもアパートにサウナが標準装備されているのはさすが本場だ。

「日本のように一人暮らし用の賃貸物件は多いです。金銭的な理由でルームシェアをする人もいますが、フィンランド人はパーソナルスペースを大切にする人が多いので、独身の場合は一人暮らしが基本ですね。家賃は都心の人気エリアだと10~15万円で、都心から電車で30分ほど離れると半額ぐらいになります。日本だと東京駅から30分離れた程度では家賃が半分になることはないと思いますが、そこで差が出やすいのはヘルシンキの特徴かもしれません」

ヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)

ヘルシンキの街並み(画像提供/週末北欧部chika)

「私が物件を探し始めた秋ごろは、フィンランドでちょうど学校の新年度が始まるシーズンでした。入学を控えた学生たちが部屋を探す時期だから、条件の良い物件はすぐに埋まってしまい……。そんなときに、友達のご家族が代々管理しているアパートに空きが出て、借りられることになったんです。パーソナルサウナがないこと以外は全て私の求める条件が叶っていました」

再び友達を通じた物件との出合いだ。こう聞くとたまたま運に救われているように思えるかもしれないが、chikaさんは日本で生活しながらフィンランドを愛する日々の中で、インターネットを使って幅広い交友関係を築いてきた。「大好きなフィンランドで生活したい」という気持ちがたくさんの人に伝わっていたからこそ、このような出合いが巡ってきたのだろうと感じる。

雪国としての暖房設備やシャワールームの工夫

chikaさんのお部屋の写真とともに、フィンランドの住宅のポイントを教えてもらった。まず注目したいのは、1年を通して気温がマイナス6度~17度という寒冷地ならではの暖房機能だ。

大きい湯たんぽのような「セントラルヒーティング」。料金は家賃に含まれる(画像提供/週末北欧部chika)

大きい湯たんぽのような「セントラルヒーティング」。料金は家賃に含まれる(画像提供/週末北欧部chika)

二重窓と、その間に設置されているブラインド。かつてフィンランドはカーテン文化だったが、今はほとんどの家がブラインドを採用しているという(画像提供/週末北欧部chika)

二重窓と、その間に設置されているブラインド。かつてフィンランドはカーテン文化だったが、今はほとんどの家がブラインドを採用しているという(画像提供/週末北欧部chika)

「セントラルヒーティングという、アパートのボイラーで沸かしたお湯を循環させる設備で部屋を暖めます。触ってもやけどしないくらいの温度で、タオルなどを置いて乾かすこともできるんですよ。シャワー室とトイレは床暖房になっていて、それ以外の暖房設備はこのセントラルヒーティングだけですが、外がマイナス気温だとしても室温は常に20~22度を保てています。断熱性を高めるための二重窓は間にブラインドが入っていて、窓を開けずに操作できます」

内部にお湯が流れているポール。シャワー室は床暖房になっており、使用後はすぐに水気を切れる(画像提供/週末北欧部chika)

内部にお湯が流れているポール。シャワー室は床暖房になっており、使用後はすぐに水気を切れる(画像提供/週末北欧部chika)

「シャワー室にもセントラルヒーティングと同じくお湯が循環しているポールがあって、タオルやシーツを干せます。でもこれに掛けなくても、フィンランドは湿度がとても低いので部屋干しだけでパリパリに乾くんです。アパート共用のサウナは予約制で、申請しておいた時間にプライベートで使えます」

雪国らしい設備の数々。いつでも部屋干しができるのはうらやましいと思っていたら、「冬のフィンランドで外干しをすると凍っちゃいます」とのことだった。それぞれの気候に応じた生活スタイルがある。

築100年以上、リノベーションで長く住まう水切りを兼ねた食器棚。「フィンランドのイノベーションとも称されますが、発祥については諸説あるようです」とchikaさん(画像提供/週末北欧部chika)

水切りを兼ねた食器棚。「フィンランドのイノベーションとも称されますが、発祥については諸説あるようです」とchikaさん(画像提供/週末北欧部chika)

リノベーションされたばかりの広いキッチンには、洗濯機・食洗機・オーブンが並ぶ。フィンランドの住宅はオール電化が一般的(画像提供/週末北欧部chika)

リノベーションされたばかりの広いキッチンには、洗濯機・食洗機・オーブンが並ぶ。フィンランドの住宅はオール電化が一般的(画像提供/週末北欧部chika)

「食器棚は収納と水切りを兼ねる構造になっていて、共働きの多いフィンランドではこのような家事の効率化も文化の一つになっています。また、多くの賃貸では冷蔵庫・オーブン・食洗機・洗濯機が備え付けで、大型家電を運ぶ必要がないので、引越しの際にはレンタカーを借りて家族や友達同士で手伝います」

そんなchikaさんの住むアパートは、築100年を超えているという。

「日本だと築100年はすごいと感じるかもしれませんが、周りはほとんど築100年の家ばかりです。ヨーロッパには『古いものほど価値がある』という考え方があって、取り壊さずに適宜リノベーションしつつ使っていく文化があります。私のアパートも1年前にリノベーションしたばかりなので、キッチンやシャワールームがきれいで、玄関の鍵もカードでタッチすれば開くようなものになっています」

リノベーションされている古い物件でも水道管は動かしづらく、昔の文化の名残で洗濯機が地下室に置かれている場合も多いという。地下にあるタイプの洗濯機は予約制で、「仕事休みの朝6時にしか洗濯機の予約が空いていないこともあって不便」とのこと。室内に洗濯機が備え付けの物件は人気になりやすく、chikaさんも物件選びで重視したポイントだった。

玄関にはマットを敷いて靴を脱ぐためのスペースをつくる(画像提供/週末北欧部chika)

玄関にはマットを敷いて靴を脱ぐためのスペースをつくる(画像提供/週末北欧部chika)

「日本との共通点として、フィンランドでも室内では靴を脱ぎます。ただ、玄関の境はないので、マットを自分で設置して玄関っぽい空間をつくるのが少し違うところですね。郵便物は薄いものしか家に届けられなくて、荷物類は近くの郵便局まで取りに行きます。雪がある季節はソリを使えば楽ですが、雪がない季節は少し大変です」

このほかにも、「各住民に個別の倉庫が用意されている」「古い物件ほど天井が高い(理由は不明)」などの特徴を教えていただいた。古い建物をリノベーションしていくからこそ、住宅としての機能がかなり整備された形になっているのがフィンランドの賃貸物件の特徴なのかもしれないと感じた。

お気に入りポイントは、北欧ならではの大きな窓フィンランド人もお墨付きの明るさをもたらしてくれる窓(画像提供/週末北欧部chika)

フィンランド人もお墨付きの明るさをもたらしてくれる窓(画像提供/週末北欧部chika)

「一番のお気に入りは、明るく光を取り込める窓です。フィンランドは日照時間が短いため日差しの入り具合が重視されていて、遊びに来た友達もみんな『明るいね!』と言ってくれます」

設定した時間に流せるラジオ。コマーシャルの入らない国営放送を聞くことが多いという(画像提供/週末北欧部chika)

設定した時間に流せるラジオ。コマーシャルの入らない国営放送を聞くことが多いという(画像提供/週末北欧部chika)

「大通り沿いは交通量やお店も多くにぎやかですが、私の家は表通りからは少し外れて静かで、都心でありながら自然も近い場所です。朝はコーヒーを淹れて、窓から入る日を浴びながら飲むのがルーティーンになっています。最近は友達の勧めでラジオを買って、目覚まし代わりに流れてくるラジオを聞きながら、しばらくはスマホを見ずに過ごすのがすごく良いんです」

想像するだけでうっとりするような時間の過ごし方である。そんなアパートに住む住民同士での交流などはあるのだろうか。

「交流といえるほどのものはなく、会ったらあいさつをする、という感じですね。フィンランドで暮らす人はシャイなところも日本人と結構似ていて、例えば『同じ階の誰かがエレベーターに乗ろうとしているから、その人がいなくなるまで玄関で待っていよう』とか、『一緒にエレベーターに乗った人が同じ階に降りようとしていると気まずい』みたいな考え方をするんです。もちろん人によっては社交的に生活していて、ご近所同士で仲良くなってホームパーティーをしている友人もいます(笑)」

エレベーターの話は痛いほど共感できる「あるある」で驚いた。あの意味のない時間をフィンランドの人も経験していると思うと、なんだか親近感が湧いてくる。

大好きな場所で暮らすようになっても、サードプレイスは必要だったchikaさんのお気に入りの島。「カフェもあって、夏場は毎週のように通うサードプレイスとなっています。冬は図書館に行くことが多いです」とchikaさん。夏のヘルシンキは23時まで太陽が沈まないため、20時ころまで日向ぼっこできるという。(画像提供/週末北欧部chika)

chikaさんのお気に入りの島。「カフェもあって、夏場は毎週のように通うサードプレイスとなっています。冬は図書館に行くことが多いです」とchikaさん。夏のヘルシンキは23時まで太陽が沈まないため、20時ころまで日向ぼっこできるという。(画像提供/週末北欧部chika)

念願のフィンランド生活を全力で楽しんでいるchikaさんだが、日本からの単身移住生活を成り立たせるのはそう簡単なことではなかったようだ。未知の生活をうまく楽しむための心持ちやコツを聞いてみた。

「気持ちの面では、『準備はネガティブに、やるときはポジティブに』をモットーに、大好きな国に行くけど期待はしないということを大切にしていました。何かが起こったとしても『予想よりは大丈夫だった』と思える意識は忘れないようにしています」

「テクニックとしては、気持ちを切り替えられるサードプレイス(第三の居場所)を持つことが大事です。日本にいたころは職場と家以外のサードプレイスをいくつか持っていて、フィンランドもその一つでしたが、実際に暮らすようになってからは『フィンランドという好きな場所の中でもサードプレイスを持つ必要があるんだ』と気づきました。ヘルシンキは歩ける距離に小さい島が点在していて、その中のお気に入りの島を夏のサードプレイスとしています。休みの日のお昼過ぎに出かけて、屋台でソフトクリームとコーヒーを買い、お気に入りの木陰にピクニックシートを敷いて気が済むまで滞在します。本を読んだり、日記を書いたり、少し寝たり。時間を気にしないで過ごせる場所です」

大好きでも期待しすぎず、暮らしの中の居場所を増やすこと。フィンランド、ひいては海外への移住に限らず、新たな環境で生活するために必要な心構えだと感じた。

憧れの地で探し求める理想の生活入居当時のchikaさん宅(画像提供/週末北欧部chika)

入居当時のchikaさん宅(画像提供/週末北欧部chika)

最後に、今後のフィンランド生活での抱負を聞いてみた。

「今の家も当初は『ここは誰の家なんだろう』という感覚で落ち着けなかったのですが、最近は帰ってきたらほっとできる『自分の家』になってきました。私は『いつかフィンランドに移住する』と思い続けていたので、日本にいるときからずっと仮住まいのような気持ちで、大きな買い物ができなかったり猫を飼いたくても飼えなかったりして。自分が本当に欲しいものも分からなくなっていると感じていました。これからは寿司職人の仕事と描く仕事とのワークライフバランスも含めて暮らしを整えながら、自分がどんな生活をしていきたいのかを見つめていけたらいいなと思っています」

自分の住みたい場所に住む、という目標を叶えるためにじっくりと時間をかけてきたchikaさん。「フィンランドの生活がいつまでも続くとは思わないで、まずは3年間を区切りに頑張ってみるつもりです。がむしゃらに過ごした1年目を踏まえて、2年目、3年目をより濃く過ごせたら」とも話してくれた。

chikaさんにとってのフィンランドのような場所とは、きっとそう簡単に出合えるものではない。だからこそ、「ここに住みたい」という思いが生まれたときには、自分の気持ちを信じて行動する必要があると感じた。

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

週末北欧部chika『北欧こじらせ日記 移住決定編』(世界文化社)より

●取材協力
週末北欧部 chikaさん
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『北欧こじらせ日記』(世界文化社)

Z世代の一人暮らしの特徴って? 重要なのは家賃、インテリアは”映える”韓国風がトレンド

Z世代(1995年以降生まれの若年層)を対象としたシンクタンク組織「Z総研」が、Z世代の女性を対象とした「一人暮らし」に関する意識調査を行った。それによると、Z世代の女性の約8割が一人暮らしをしたいと思っているという。そこで、Z世代の一人暮らしの特徴を見ていくことにしよう。

【今週の住活トピック】
「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」を発表/N.D.Promotion

Z世代の多くが「一人暮らしをしてみたい」、重視するのは「家賃」と回答

Z世代が研究の対象となるのは、彼らが生まれた時からデジタルデバイスやインターネット、SNSといった環境が身近にあった「デジタル・ネイティブ世代」で、これまでの世代とはその特徴が異なるからだ。

さて、Z総研が全国のZ世代の女性301人に「一人暮らしをしてみたいと思うか」と聞いたところ、「現在している」が6.6%、「してみたい」が80.4%で、「してみたくない」の13.0%を大きく上回った。

物件を探す際に重視したい条件としては、「家賃」がダントツの82.4%で、次いで、「最寄り駅からの距離」(32.6%)、「間取り」(28.6%)となった。以前に別の調査で、一人暮らしのZ世代に同様の質問をした結果でも、家賃がダントツで、交通アクセスと間取りが並んだので、やはりなによりも「家賃重視」なのだ。

“映え”を気にするZ世代ならでは!賃貸アプリに内装の写真の多さを求める

一人暮らしの物件を探す際には、賃貸アプリを使うのだろうが、「何を求めるか」にZ世代女子の特徴が表れた。回答結果は次のようなものだ。

賃貸アプリ(サイト)に求めることはなんですか?

(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)

通常は不動産のポータルサイトに、「掲載物件が多い」(62.1%)ことを求める。テレビCMでも掲載数ナンバーワンなどとアナウンスしているのは、そのためだろう。検索サイトなので、もちろん検索のしやすさ、例えば「細かく条件設定できる」(51.5%)ことなども重視される。ところが、それらを上回って最多だったのが「内装の写真の豊富さ」(75.4%)だ。やはり“映え”を気にする世代ならではのことだ。

当サイトで、「コロナ禍でインテリアへの関心が高まる!20代から50代まで幅広い層がインスタを参考に」 という記事を書いたが、20代以下はインテリアへのこだわりが強く、インテリアの参考にするのは圧倒的に「Instagram」で、次いで「YouTube」だった。インテリアのこだわりが、室内の画像情報を重視することにつながっているのだろう。

インテリアにこだわるけど、落ち着いた色合いを好む

さて、この調査で筆者が最も印象に残ったのが、「一人暮らしの理想のインテリアテイスト」を質問した結果だ。筆者の記憶をたどると、インテリアで根強い人気のテイストは、「北欧風」だ。北欧のスウェーデン発祥の家具メーカー「IKEA」の人気が高いのはそのためだ!と思っていた。

ところが、Z世代の回答を見て驚いた。「北欧」はわずか2.0%。「シンプル」(36.5%)と「韓国風」(26.9%)の人気が極めて高いのだ。

一人暮らしの理想のインテリアテイストを教えてください

(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)

Z総研によると、「ホワイト基調のふわふわした女の子みたいな部屋が理想。YouTubeでインフルエンサーのお部屋紹介動画を見るのも好きで、実際に同じインテリアを購入した」(18歳/高校3年生)、「木の素材が好きでウッド調でシンプルなお洒落カフェのようなお部屋にしたい。自分好みにDIYするのも興味がある」(16歳/高校1年生)といったコメントがあったという。

「韓国風」ってどんなテイストなのだ?

ところで、「韓国風」とはどんなテイストなのだろうか? 「中国風」や「アジアンテイスト」などはわかる。が、「韓国風」とはどんなものかよくわからなかったので、SUUMO編集部のZ世代の編集者に聞いてみた。

彼女によると、「韓国風インテリアは、主に白やアイボリー、素材はウッドなどを基調としているため、あまり派手さはないものの、形状などが個性的で女性が好むアイテムが多い印象」だという。

それを聞いて自宅を見回すと、ダークブラウンの家具が多い。仕事用に最近購入した、無印良品の引き出しボックスだけがアイボリーだ。時代に遅れないように、韓国風をもっと意識しようと思う筆者だった。

ちなみに、「一人暮らしする際に買いたい憧れのインテリアブランド」については、「Francfranc」(38.5%)と「IKEA」(34.9%)の人気が高く、次いで「無印良品」(12.0%)や「ニトリ」(7.6%)となった。いずれも、豪華なインテリアではなくナチュラルなインテリアで、リーズナブルなブランドが多く挙がったのが特徴だ。

一人暮らしする際に買いたい憧れのインテリアブランドはありますか?

(出典/N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」より転載)

IKEAといえば、北欧テイストではないのか?と思い、インターネットで「IKEA」×「韓国風」で検索してみると、IKEAの韓国風インテリア事例が出るわ出るわ。ほかの組み合わせでも同様で、どのブランドも韓国風を意識してインテリアの商品開発を行っているようだ。

さて、Z世代はデジタルネイティブで、SNS映えを気にする世代である一方、日本の好景気を知らない堅実な世代でもある。一人暮らしをするにしても、無理のない家賃を意識し、シンプルでリーズナブルなインテリアではありながら、自分の個性が表現できるものを選んで購入するといった像が浮かび上がる。

近年は、コロナ禍の影響で自宅にいる時間も長くなっている。Z世代それぞれにとって居心地の良い住まいを選んで、快適な一人暮らしをしてほしいものだ。

●関連サイト
N.D.Promotion「Z総研トレンド通信Vol.18『一人暮らし編』」

無印良品の小屋ズラリ「シラハマ校舎」に宿泊体験。災害時に強い上下水道・電気独立のオフグリッド型住宅の住みごこちって? 千葉県南房総市

シラハマ校舎は、千葉県南房総市白浜町の小学校跡地を活用してできた複合施設です。無印良品の小屋がずらりと並んだその一角に、2022年、上下水道、電気も既存インフラに頼らない「オフグリッド小屋」が誕生したといいます。省エネが注目される昨今、以前よりも耳にする機会が増えた「オフグリッド小屋」、一体どのように活用されるのでしょうか。可能性を探るため、シラハマ校舎に話を聞きました。

タイニーハウス(小屋)人気は健在。ウェイティングリストは27組も!

2016年、千葉県の房総半島の先に誕生した「シラハマ校舎」は、廃校となった長尾小学校・幼稚園の敷地と建物を用途変更してできた施設です。敷地内には18ある小屋が立つほか、レストラン(完全予約制)、シェアオフィス、コワーキングスペース、宿泊施設で構成されています。ちなみに小屋の1棟の広さは12平米で、バスやキッチン、トイレなどの水回りは共用で使います。運営しているのは、妻がこの町の出身者という多田夫妻。

小屋は発売当初、「どんな人が買うんだろう?」という声もありましたが、現在、ワーケーションやシェアオフィス、2拠点生活の場所として活用されていて、2019年に完売、2023年現在はウェイティングリストに27組もいるという人気物件です。(関連記事:コロナ禍で「小屋で二拠点生活」が人気! 廃校利用のシラハマ校舎に行ってみた 千葉県南房総市)

シラハマ校舎の夜景(写真提供/シラハマ校舎)

シラハマ校舎の夜景(写真提供/シラハマ校舎)

「今、1棟、販売されているんですが、見学にいらっしゃる方も多いですね。人気があるため、中古価格も崩れていません。
ただ、比較的大きな畑付きで、ほぼ毎週末、手入れが必要になるんです。週末くらいはゆっくりしたいというニーズが強いので。となると、当然、人を選んでしまう。やはり小屋でゆったりしたいという人は多いので」と話すのは、シラハマ校舎の企画から管理、運営までをご夫妻で行っている多田朋和さん。

また、コロナ禍で広まったアウトドア人気やキャンプ人気は未だに衰えず、特に房総半島では次々とキャンプ場が誕生しているよう。キャンプのようでもあり、別荘のようでもある、シラハマ校舎の「小屋」は、手堅い需要があるようです。

平時はキャンプ場、非常時は避難場所。小屋を柔軟に活用する

この大人気のシラハマ校舎の敷地の一角がさらに進化して、2022年には「オフグリッド」の小屋ができました。オフグリッドとは、電力などの送電網につながっていない独立型電力システムのこと。このシラハマ校舎では、電力だけでなく、なんと上下水道も既存のインフラに頼らず、自立して運営できる仕組みをつくったそう。一体なぜなのでしょうか。

「きっかけは、2019年の台風です。送電網が停止し、白浜町一帯も停電、陸の孤島となりました。避難場所となったコミュニティセンターの受け入れ可能人員は最大で80人ほど。そのため、150人近い人が避難できない状態になりました」と多田さん。また停電したことで9月の残暑が住民を直撃したほか、浄化槽も稼働できず、衛生状態もよくなかったといいます。

2022年末の取材時も、一角に残されていた井戸。今回のプロジェクトでは、こちらも活用(撮影/ヒロタ ケンジ)

2022年末の取材時も、一角に残されていた井戸。今回のプロジェクトでは、こちらも活用(撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋はそもそもサイズが小さいため、使う電気エネルギーは最小限ですみます。そのため、生活に使う電力は太陽光発電でも十分まかなえるのです。いわば、「小屋の利点」を活かして、平時と非常時の二段階活用を実践したかっこうです。誰もが空想したり、アイデアとしては浮かびますが、民間の試みでさらりと行ってしまうところが、多田さん夫妻のすごいところ。

新しい小屋の内観。こうしてみると普通のホテルですね(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。こうしてみると普通のホテルですね(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。電気なので、キッチンはIHです(写真提供/シラハマ校舎)

新しい小屋の内観。電気なので、キッチンはIHです(写真提供/シラハマ校舎)

「もともと下水道はなく、浄化槽(※)を利用する地域なので、非常時でも電気と水さえあれば機能します。また小学校の敷地内には古い井戸があったので、これを吸い上げて配水に利用することに。太陽光発電と水を確保できることで、いざというときも下水も稼働するんです。電気だけなら、オフグリッドでまかなえる施設はたくさんありますが、上下水が既存インフラから独立して稼働するのは、日本でもシラハマ校舎くらいじゃないかな」と多田さん。

※敷地内に設ける小規模な汚水処理設備で微生物の働きなどを利用して汚水を浄化する古くからある仕組み

万一のことを考え、シラハマ校舎そのものは送電線とはつながっていますが、いざというときは電力を買わなくても稼働するとのこと。

今のところ大きなトラブルはナシ。課題は冬場の発電量。

実際に稼働してみて、課題はないのでしょうか。
「シラハマ校舎は、南向きの土地なので、夏であれば十分に発電できるのですが、問題は冬ですね。日照時間が短いので発電した電気を一日で消費してしまうんです。そのため、オフグリッド小屋に宿泊していただくお客様には、連泊してもらう場合、別の小屋に移動してもらっています(笑)」

小屋の裏側。太陽光発電した電力を蓄えておける蓄電池が設置されている(写真提供/シラハマ校舎)

小屋の裏側。太陽光発電した電力を蓄えておける蓄電池が設置されている(写真提供/シラハマ校舎)

なるほど、運用でカバーできる範囲の課題なんですね。エネルギーの地産地消というか、オフグリッドで建物を運営するのは、もう「リアル」にできることなんだなと実感します。使うエネルギーとつくるエネルギーのプラスマイナスゼロの住まいを「ZEH(ゼッチ)」(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)といいますが、まさに小屋もZEHの時代なんですね。

「今は小屋1棟でお貸ししていますが、2棟つなげて1つにキッチンとお風呂、トイレをつくり、1つをベッドルームにした宿泊棟もつくろうかと思っています。こちらもZEHで、使うエネルギーとつくるエネルギーはプラスマイナスゼロにする予定です」と多田さん。

シラハマ校舎のアップデートはまだまだ止まりそうにありません。
「水でいうと、エアコンから出た排水や汚水などをあわせてフィルターで濾過(ろか)し、真水にして循環利用できる技術もあるのですが、商業施設や複数人が利用することを考えて、導入を見送っています。技術的に問題ないといっても、気分的に嫌悪感を抱く人がいるのは理解できるので」(多田さん)。水の技術にも興味があるほか、海岸沿いに所有する農地に小型風力発電設備を設置する計画も進めています。

白浜町はその土地柄、強い海風が吹いています。これを活用し、小規模事業でも環境に貢献していきたいとのこと。こうした施策に興味を持ち、企業や自治体の視察希望者が次々とやってくるそう。

小学校らしさを残してリノベ。オフィスやレストランなどが入っています(撮影/ヒロタ ケンジ)

小学校らしさを残してリノベ。オフィスやレストランなどが入っています(撮影/ヒロタ ケンジ)

「どこの自治体や企業も環境への取り組みが欠かせません。自社の勝機はどこにあるのか、意識の高まりを感じますね。また、日本国内では廃校が毎年約400~500ほどあるので、どこも地方自治体は活用方法に頭を悩ませています。校舎は廃校して他用途で活用しようとすると、耐震補強工事や用途変更に手間がかかるんです。シラハマ校舎の場合、校舎をワーケーションオフィスとして活用しつつ、小屋を宿泊場所にしています。これは他の自治体でも有効な『パッケージ』として輸出できないかなと考えているんですが、なかなか運用が難しいようで。あとは韓国でも少子化によって同様の問題が起こると予想されているので、『廃校活用パッケージ』として輸出できたらおもしろいですよね」(多田さん)

外観も学校らしさを残している(撮影/ヒロタ ケンジ)

外観も学校らしさを残している(撮影/ヒロタ ケンジ)

キッチンや水回りなどの共用施設がある建物(撮影/ヒロタ ケンジ)

キッチンや水回りなどの共用施設がある建物(撮影/ヒロタ ケンジ)

さらに昨年には農業法人を立ち上げ、ワイナリー+ソーラーシェアリング(太陽をシェアし太陽光発電とパネルの下で農産物を生産する取り組み)も現在計画しているとのこと。これが可能になると、天候関係なく果実ができたり、収穫できたりするようになるのだとか。なんでしょう、房総半島の先にある民間の施設なのに、どこよりも新しい試みをはじめています。

強い風を利用した風力発電も計画中(撮影/ヒロタ ケンジ)

強い風を利用した風力発電も計画中(撮影/ヒロタ ケンジ)

小屋に注目が集まっている昨今ですが、オフグリッドやソーラーシェアリングなどと組み合わせ、どこよりもユニークな挑戦を続けるシラハマ校舎。小屋や環境、これからの暮らしに興味がある人なら、ぜひ一度、訪れてソンはないと思います。

●取材協力
シラハマ校舎

子どもの転落事故、自宅の窓やベランダに潜むリスクとその防止策は?

先日、痛ましい事故のニュースを目にしたところだが、以前から窓やベランダからの子どもの転落事故については、注意喚起がされていた。また、窓やドアの経年劣化なども事故の原因になるという。子どもの安全を守るためにも、窓やベランダなどのリスクについて考えていこう。

【今週の住活トピック】
「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」/政府広報オンライン
「放置しないで!窓・ドアの危険サイン」/製品評価技術基盤機構(NITE)

窓やベランダからの転落事故は1歳と3・4歳の子どもに多い

2023年3月10日に政府広報オンラインが「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」をリリースした。子どもは成長するにつれて活動範囲が広くなり、好奇心から大人の想定を超える行動をすることがある。東京消防庁管内の緊急搬送事例では、1歳と3・4歳で窓やベランダからの転落事故が多いという。

年齢別救急搬送人員

年齢別救急搬送人員(東京消防庁管内で発生した、2017年から2021年までの窓やベランダからの転落事故における年齢別の救急搬送件数(総数=62))(出典 東京消防庁「住宅等の窓・ベランダから子どもが墜落する事故に注意」より転載)

政府広報オンラインに紹介されていた事例としては、次のような行動から転落事故が生じている。
●こどもだけで部屋にいて、網戸に寄りかかる
●ソファなど足場になるものから窓枠まで登る
●ベランダの手すりにつかまっていて、前のめりになって転落
●ベランダの室外機に登り、手すりを越えて転落

事故事例から分かることは、「子どもだけで部屋にいるときに窓が開いている場合」や「窓やベランダの手すりまで足場を使って登れる場合」などでリスクが高くなることだ。

子どもの転落事故を防止するためのポイントは?

子どもの転落事故を防ぐには、窓やベランダの周辺でリスクの高い環境を作らないことが大切だ。具体的には、次のような対策が考えられる。

(1)補助錠を付ける
ポイントは、子どもの手が届かない位置に補助錠を付けること。

(2)ベランダには物を置かない
プランターやイス、段ボールなどが足場になるので、できるだけ物を置かないこと。エアコンの室外機は置かざるを得ないので、室外機を「手すりから60cm以上離す」か、子どもだけでベランダに出ないようにする。

(3)室内の窓の近くに物を置かない
ソファやベッドなどが足場になるので、窓に近い場所に家具を置かないように配置を工夫する。

(4)窓、網戸、ベランダの手すりなどに劣化がないかを定期的に点検する
網戸がはずれやすくなっていないかなど、定期的に点検する。

窓やドアの危険サインを見逃さない

窓などの点検については、事業者の製品安全の取り組みと消費者の安全のための検査や調査などを行っているNITE(ナイト)も注意喚起をしている。2023年3月23日に、「放置しないで!窓・ドアの危険サイン ~事故に遭わないための点検ポイント~」をリリースした。

思いがけない出来事に「ヒヤリ」としたり、事故が起こりそうになって「ハッ」としたりすることが、大きな事故につながることから、見た目に異常がなくても、不具合が起きていないか点検をすることが大切だという。例えば、部品が損傷したことで、窓が落下したりドアが倒れたり、はめ込んであるガラスが割れたりすると、怪我をしたり腕や指が挟まれたりといった事故につながる。

具体的な点検ポイントとしては、次のようなものが挙げられている。

■窓・ドアの点検ポイント
□ がたつきがないか。
□ スムーズに開閉せず、重たくなっていないか。
□ 開閉時に異音がしないか。
□ 破損や変形がないか、さびている箇所はないか。

特に子どもは、リスクを感知することが難しいので、大人がリスクを引き下げる環境を整えることが大切だ。春になると外出の頻度や換気の回数なども増えるので、窓やドア、ベランダの手すりなどに不具合はないか点検し、子どもの転落を防止する対策を取り、悲しい事故が起きないようにしてほしい。

●関連サイト
政府広報オンライン「ご注意ください!窓やベランダからのこどもの転落事故」
製品評価技術基盤機構(NITE)「放置しないで!窓・ドアの危険サイン」
東京消防庁「住宅等の窓・ベランダから子どもが墜落する事故に注意!」

岡山の不動産屋さん母娘、障がい者の住宅確保に奔走! 住まい探しの難しさに挑む責任と覚悟

社会生活に困難を抱える人たちに対し、住まいや暮らしのサポートをする不動産会社として全国的にも注目されている会社があります。創業者である母・阪井ひとみさんと、娘の永松千恵さんが共に運営する、阪井土地開発(岡山県岡山市)です。障がいがある人をはじめ、住宅確保に配慮が必要な人たちの住まい探しの難しさ、住まいにかかわる者が担うべき責任や覚悟について、娘の千恵さんに話を聞きました。

みんなに“住む家”を。困難を抱える人へ住まいを提供してきた母・ひとみ

岡山駅前の中心部からほど近い場所にある、阪井土地開発。母の阪井ひとみさんを代表として、娘の永松千恵さんとともに、少人数で営んでいます。主に市内のマンションやアパート、一戸建ての仲介や管理をする創業32年の不動産会社で、社会的に住宅の確保が難しいとされる人に、住宅のあっせんや賃貸提供をしています。

(画像提供/阪井土地開発)

(画像提供/阪井土地開発)

ひとみさんが住宅困窮者のサポートを始めることになったきっかけは、26年前。管理をしている物件に長く入居していた人がアルコール依存症を患ったことに始まります。その人をサポートする精神科医と接するようになり、社会的に生活が困難な人たちの住宅確保問題を知ったそうです。

「健康で仕事に恵まれた人は稼ぎがあって、連帯保証人の確保ができる。けれども、社会生活に困難を抱える人たちには連帯保証人の確保が難しい人が多い。そうなると住宅を借りること自体が一気に難しくなるということを母は知ったそうです」(千恵さん、以下同)

そこでひとみさんは、自社で管理する賃貸物件をあっせんして、住宅確保に困難を抱える人たちが段階的に自立した生活ができるようにサポートし始めます。しかし入居できる物件を探すなかで、オーナーさんの理解を得ることにハードルの高さを感じ、とうとう自社で1棟のマンションを購入し、貸主となって賃貸する決断をします。

「社会的に困窮している人たちに入居してもらい、自分たちが日々のくらしをサポートすることで、彼らの社会復帰につなげたい。自分らしく人生を生きた末に、自分の布団の上で最後の幕引きができるように、という母の使命感でした」

阪井土地開発が所有する、住まいの確保に困難を抱える人たちが入居するマンション「サクラソウ」(画像提供/阪井土地開発)

阪井土地開発が所有する、住まいの確保に困難を抱える人たちが入居するマンション「サクラソウ」(画像提供/阪井土地開発)

当初は精神障がいのある人のサポートから始まりましたが、現在、入居する人たちの幅は広くなっています。高齢者、避難先を必要としているDV被害者などの入居も受け入れるようになりました。

しかし、ひとみさんたちは不動産会社であるため、できることにも限界があります。例えば、当事者の権利擁護や、お金の工面法などについては弁護士さんや福祉事務所と連携してサポートをしているそう。さまざまな困難を抱える人たちを支えるために、相談支援専門員やケースワーカー、ケアマネジャーなどさまざまな人がかかわり、互いに協業をしているのです。

阪井土地開発をはじめとした、社会的困窮にある当事者の暮らしを支えるネットワーク(画像提供/阪井土地開発)

阪井土地開発をはじめとした、社会的困窮にある当事者の暮らしを支えるネットワーク(画像提供/阪井土地開発)

「その人の抱える課題の背景や程度に応じて、かかわる専門家や支援員が変わってきます。多くの方の支援をしていくなかで “住宅確保要配慮者”とひと言にいっても、それぞれのニーズがあり、一概には括ることができない、と感じました」

住まいに限らない、当事者たちを包括的に支えるネットワークをつくりたい

そのことに気づいたひとみさんは、住まいに直接関係する支援だけではなく、より包括的な支援を行うため、2015年にNPO法人「おかやまUFE(ウーフェ)」を立ち上げました。疾患や障がいがある人びとが安心して暮らせる地域づくりを目指し、障がいなどがある人や家族のためのカフェ「よるカフェうてんて」の運営や、シェルター事業などを始めます。

現在「よるカフェうてんて」は「うてんて」と名を変え、障がいのある人や生活困窮者などがサポーターとともに自ら運営する拠点となった。フードバンク拠点事業や「おかず」配布事業などを行っている(画像提供/NPO法人おかやまUFE)

現在「よるカフェうてんて」は「うてんて」と名を変え、障がいのある人や生活困窮者などがサポーターとともに自ら運営する拠点となった。フードバンク拠点事業や「おかず」配布事業などを行っている(画像提供/NPO法人おかやまUFE)

さらに、2017年には岡山県内にある空き家の活用と、住宅確保要配慮者を支援する機能を担う「住まいと暮らしのサポートセンターおかやま」の運営を始めました。

「社会生活に困難を抱える人たちは住まいを確保するだけではなく、自分らしく生きていくためにも、自立した生活をしていかなければなりません。そのために働く場所、地域の人たちと交流する場所が必要です。NPOではこの場所や機能を提供しています」

「“いいこと”をしているとわかっていても」葛藤する娘の気持ち

ここまで紹介したように、これまでひとみさんが行ってきたことは、社会生活に困難を抱える人たちの人生にかかわることであり、並大抵の想いや覚悟でできることではないでしょう。さらにいえば、ひとみさんが住宅確保要配慮者のサポートを始めた30年近く前の日本は、“普通”から外れた人に社会がもっと厳しかった時代。多様性を謳うここ数年の社会と比較すると、ひとみさんの取り組みはいっそう理解されにくかったことが想像できます。

幼いころからひとみさんの活動を目の当たりにしてきた千恵さんは、当時の日本で“普通”とされてきたことから離れた想いや行動に、娘として葛藤を感じていたといいます。

「知り合いの不動産屋さんに『お前のオカン、大丈夫なんか』って心配されるのです。そのことで、母にとっての当たり前は普通じゃないんだって知りました。不動産屋ならば、いわゆる“普通”のお客さんだけを入居させればいいのに何で?という思いでしたね」(千恵さん)

時には「やりすぎ」と感じた母・ひとみさんの取り組みを今は「やりたいならやればいいよ、と一歩引いて見ながら一緒に活動している」と語る千恵さん(写真撮影/SUUMO編集部)

時には「やりすぎ」と感じた母・ひとみさんの取り組みを今は「やりたいならやればいいよ、と一歩引いて見ながら一緒に活動している」と語る千恵さん(写真撮影/SUUMO編集部)

やがて千恵さんは社会人となり、さまざまな経験と社会の実情を知ることで、なぜ母が熱意を込めて住宅確保に配慮が必要な人たちのサポートをしてきたのか、理解を深めていきます。そして”母の取り組みは社会に必要なことなんだ”と感じて、ひとみさんの手伝いをするようになりました。

「一緒に活動をする弁護士や社会福祉士、行政組織などから『ひとみさんの活動は、さまざまなところで必要なんだよ』と言ってもらえることも多く、社会的に間違ってないんだな、と自信になりました」

“誰か”の突出した取り組みではなく、“誰でも”できるように展開する

今後、ひとみさんの情熱的な思いはどのように受け継がれていくのか。千恵さんはまだ先のことはわからないといいます。ただ一つだけはっきりと話してくれたことがありました。

「私たちの取り組みは、“ひとみさんだからできる”で終わりにしちゃダメなんです。岡山に限らず、全国にはたくさんの社会的困窮者がいて、住まいの確保に悩んでいます。さらに多様な時代になり、高齢化が進むなかで、困難を抱える人の数は増えています。多くの要配慮者への支援を継続していくためには、支援の選択肢を増やすべきであり、私たちの活動をもっと伝えていく必要があると思っています」

こうした思いから、現在千恵さんはこれまでの事例や自社の取り組みをより多くの人たちに知ってもらうため、全国で講演を行っています。また、入居者が家賃を支払えなくなった際に、保証会社が一定の家賃を立て替える「家賃債務保証」。住宅確保要配慮者の契約においても、多くの不動産会社がこの仕組みを導入できるよう保証の“平準化”を期待しながら具体的な活用例を伝えているといいます。

住宅確保要配慮者の入居までに必要な支援において、家賃債務保証の果たす役割は大きい(画像提供/NPO法人おかやまUFE)

住宅確保要配慮者の入居までに必要な支援において、家賃債務保証の果たす役割は大きい(画像提供/NPO法人おかやまUFE)

なにより、居住後の入居者支援やコミュニケーションにおいては「手を出さないで、目をかける」を合言葉に、管理会社として携わることの距離感を探っているそうです。

「のちのち大事にならないよう、入居する人たちのシグナルを初期の段階でキャッチするためのコミュニケーションは大切です。しかしながら、全てに手を出していては当事者の自立を妨げてしまいます。より多くの人・企業にサポートの輪を展開していくためにも、不動産会社が本当にやるべきことのラインを見極め、支援する度合いのベストな位置を探っていくことは大切だと思います」

住宅の確保が困難な人への居住支援を継続していくことは簡単なことではありません。収益や利回りを確保する視点だけでは行えない事業であることは確かです。

「いま、住宅確保要配慮者への支援に乗り出したいと考える会社からお声掛けいただく機会が増えています。私たちが提供できる情報やノウハウを惜しむことなくお伝えします。その人の生活を支える覚悟を持って取り組んでほしいです。住宅供給の担い手である不動産会社は、住まいを求めるすべての人がお客さんであり、すべての人が住まいを確保できるようにサポートしていく必要があると思います」

●取材協力
・阪井土地開発株式会社
・NPO法人おかやまUFE

外国人の賃貸トラブルTOP3「ゴミ出し・騒音・又貸し」、制度や慣習がまるで違う驚きの海外賃貸実情が原因だった!

日本に暮らす外国人は多くいるにもかかわらず、外国人が入居できる賃貸物件が少ないことが問題になっています。文化や生活習慣の違いから、トラブルになることを危惧して、外国人に部屋を貸したがらないオーナーや管理会社の担当者もいるようです。

今回は、外国人への入居サポートを行っている不動産会社イチイ 代表取締役の荻野政男さんと、グローバルトラストネットワークスの外国人住まい事業部 グローバル賃貸部 部長・尾崎幸男(崎は旧字体、以下同)さんに、外国人入居者との間に起こりやすいトラブルとその解決方法ついて話を聞きました。

日本に住む外国人の賃貸住宅事情は?

外国人が日本で家を借りようとするとき、さまざまな困難が存在します。
まずは、物件情報の取得が困難であること。

「ネットで物件を探せるサイトは複数ありますが、多言語で情報提供されているものはほとんどありません。日本語で物件を探そうとすると、日本語が得意でない外国人は得られる情報が限られてしまいます」と家賃保証をはじめとして、15年以上外国人に特化したさまざまな生活支援事業を展開しているグローバルトラストネットワークスの尾崎幸男さんは話します。

また、海外では通常、保証金として家賃1~2カ月分を支払えば契約できることがほとんどですが、日本では入居に際して家賃保証会社との契約が必要で、そのための審査があります。オーナーや管理会社によっては日本の現住所や電話番号がなければ借りられなかったり、緊急連絡先は日本人でなければダメだったり、留学生など仕事を持たない人は断られてしまうケースもあるようです。

「そもそも、海外では入居希望者がオーナーと直接やりとりすることが多く、不動産会社を介して契約を結ぶということ自体が不慣れです」と、韓国・中国・アメリカなどの外国人スタッフとともに外国人の入居サポートを行っていて、日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長も勤める荻野政男さんは説明します。

何ページにも及ぶ契約書の内容を理解するのは、たとえ説明を受けたとしても、外国人が母国語以外の言葉で理解するのは困難でしょう。

さらに日本では敷金・礼金・仲介手数料・保証料などの費用が通常、家賃の5~6カ月分ほどかかります。初期費用があまりに高すぎて、家を借りること諦めざるを得ない人もいるのだとか。海外では電気・ガス・水道やインターネットなどのインフラ使用料は家賃に含まれていることが多いため、それらの契約を自分でやるのは初めてという人も多く、日本の慣れないルールや慣習に戸惑うことが多いのです。

日本での家探しでは、物件情報や日本独特のルールについて、日本語以外の情報が少ない。日本語が得意でない外国人には情報格差が生まれる可能性も(画像/PIXTA)

日本での家探しでは、物件情報や日本独特のルールについて、日本語以外の情報が少ない。日本語が得意でない外国人には情報格差が生まれる可能性も(画像/PIXTA)

外国人入居者に起こりやすいトラブルTOP3

イチイの荻野さんによると、入居後の外国人のトラブルトップ3は、「ゴミ出し」「騒音」「又貸し」だといいます。

「“ゴミ出し”は、日本のように細かくゴミの分別をしている国は意外と少なく、ゴミの分別に慣れていない人が多いです。日本より細かく分別する習慣があるのは、ドイツくらいではないでしょうか」(イチイ荻野さん)

「中国では、2019年から上海市を手始めにゴミを分別するようになりましたが、主にリサイクルゴミ、有害ゴミ、生ゴミ、乾燥ゴミの4種類のみ。ベトナムでも昨年ゴミを分別するルールができたそうですが、まだ馴染みがないようです」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

さらに、分別の仕方や回収日など、ルールが地域によって違う点もわかりづらく、ゴミ出しトラブルになる要素をはらんでいます。

ゴミ出しの仕分けやルールは複雑。自治体では日本語だけでなく、母国語で説明できるような資料の作成や、配布する仕組みが必要かもしれない(写真/PIXTA)

ゴミ出しの仕分けやルールは複雑。自治体では日本語だけでなく、母国語で説明できるような資料の作成や、配布する仕組みが必要かもしれない(写真/PIXTA)

“騒音”については、文化の違いや家のつくりが関係しているようです。日本人は自宅を「ゆっくり静かに過ごす場所」と考えている人が多いようですが、海外では自宅を社交場の一つとして「友人や知人を招いて楽しくおしゃべりする場所」だとする考え方が一般的である国も少なくありません。

「日本の家は外国の家に比べて壁が薄く音が漏れやすいんです。しかし、彼らはそんなことは知りません。これまでと同じようにしゃべっているだけでもトラブルになってしまうのです。また、母国にいる家族と電話で話そうとすると時差があるため、夜遅い時間に電話をして『声がうるさい』とトラブルになったケースがありました」(イチイ荻野さん)

日本の家の壁は薄くて音が漏れやすい。自宅に友人・知人を招いて楽しくおしゃべりのはずが、騒音トラブルになってしまうことも(写真/PIXTA)

日本の家の壁は薄くて音が漏れやすい。自宅に友人・知人を招いて楽しくおしゃべりのはずが、騒音トラブルになってしまうことも(写真/PIXTA)

日本では賃貸する期間を限定する定期借家契約よりも更新や中途解約が可能な普通借家契約が多く、「又貸し(転貸)」は契約で禁止される場合がほとんど。一方、外国では定期借家契約が多いために、移転などの理由で契約期間が残ってしまう場合、知り合いに又貸しすることが当たり前の国や地域もあるので、やってはいけないことだと知らない人も多いそうです。イチイの荻野さんによれば、かつては契約者以外の人がたくさん同居してしまうことなどもありましたが、今は少なくなってきているといいます。

「昔は日本の初期費用や家賃が外国人には高くて部屋を借りにくいという金銭的な問題が大きな背景としてありました。近年は母国の国力が上がってきたため、前ほどお金に困る人が少なくなっていることが理由として考えられます」(イチイ荻野さん)

さらに入居審査があることや、何ページにも及ぶ契約書の締結、日本人の連帯保証人が必要な場合や緊急連絡先の確保など、日本独特の習慣もあり、国内に知り合いのいない外国人にはハードルの高いものなのです。

他にもこんなトラブルが……

トップ3以外にもよくあるトラブルとしてグローバルトラストネットワークスの尾崎さんが挙げるのが「無断解約」です。
日本では、退去のときの「解約予告」や「原状回復」は当たり前のことですが、海外では、借家に家具や家電が備わっていることが多く、処分しなければならないことを知らずに置いたままにして帰ってしまう人もいるのだそう。

また、「家賃の入金確認ができない」トラブルも多いといいます。
尾崎さんによると、外国人が日本の銀行口座を開設しようとすると、入国後、半年間待たなければいけないことが多いそうです。銀行口座を持っていないと、振り込み手続きや送金手続きができず、家族や知り合いの口座から振り込んだりするケースが多いのだとか。

「家賃引き落としの場合でも口座がなければ、都度振り込んでもらうしかありません。その場合でも、他人の口座を借りて振り込みをして、振込名義人の名前が入居者と一致しないなどといったトラブルはよくあることです」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

いずれも金融機関の口座開設の審査が外国人に対して厳しすぎることが大きな原因の一つとなっているようです。

外国人が日本で銀行口座を開こうとすると、日本人よりも時間がかかる。本人名義で口座引き落としや振り込みができず、トラブルになることも(写真/PIXTA)

外国人が日本で銀行口座を開こうとすると、日本人よりも時間がかかる。本人名義で口座引き落としや振り込みができず、トラブルになることも(写真/PIXTA)

外国人の入居トラブルを回避する事前の策は?

このようなトラブルに対して、どのような解決策が検討できるのでしょうか。

「日本と母国の習慣の違いやルールを、事前にしっかりと説明して理解してもらうことに尽きます。日本語では伝わらないこともあるので、母国語の資料を用意しておく必要があるでしょう。加えて、文化や意識の違いを理解している外国人スタッフによる母国語の説明やサポートも大事です」(イチイ荻野さん)

尾崎さんは、家賃滞納や、無断解約などに対してリスクヘッジをするために、母国の家族と連絡を取るようにしているといいます。

「私たちは、審査段階で母国の家族の連絡先を取得し『保証人の代行をする、万が一何かあったときは弊社を頼ってください』と電話連絡をしています。こうすることで何かあってもお客様と連絡を取る手段を残すことができ、さらにご家族にも安心していただけます」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

グローバルトラストネットワークスが運営している外国人向けの不動産情報サイト。日本語や英語だけでなく、外国人が母国語で読める情報や母国語によるサポートを提供することで理解を深めてもらい、トラブルを回避することができる(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

グローバルトラストネットワークスが運営している外国人向けの不動産情報サイト。日本語や英語だけでなく、外国人が母国語で読める情報や母国語によるサポートを提供することで理解を深めてもらい、トラブルを回避することができる(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

また、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会でも、14カ国にわたる「部屋探しのガイドブック」(国土交通省/公益財団法人日本住宅管理協会 あんしん居住研究会 ほか)を作成して住まい探しをする外国人向けに配布しています。オーナー向けにも外国人受け入れのためのガイドブック作成し、利用促進を図っているそうです。

さらに、オーナーや管理会社にとっては、グローバルトラストネットワークスのように外国人専門の家賃保証会社を活用することも有効でしょう。同社では、多言語によるホームページやSNSで物件情報や初期費用などの情報提供や24時間ダイヤルサポート設置など、情報を得られる環境を用意することにも力を入れているそうです。

グローバルトラストネットワークスが提供する外国人に特化した家賃保証サービス。外国人の対応に不慣れな管理会社を多言語でサポートし、入居者、オーナー、管理会社、全てにとって安心できるサービスとなっている(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

グローバルトラストネットワークスが提供する外国人に特化した家賃保証サービス。外国人の対応に不慣れな管理会社を多言語でサポートし、入居者、オーナー、管理会社、全てにとって安心できるサービスとなっている(画像提供/グローバルトラストネットワークス)

誤解と偏見をなくすために必要なことは?

これからの日本社会では、経済においても労働者問題に関しても、外国人の存在なくしては成り立ちません。生活習慣や言葉の違いを解決できれば、外国人に部屋を貸すことはリスキーではないとイチイの荻野さんはいいます。トラブルをなくすために、事前の説明や情報を届けること、生活面のサポートなどが重要です。

「外国人に丁寧に説明しようとすると当然時間がかかります。重要事項説明においても、適当に日本語で済ませてしまう不動産会社も多いのではないでしょうか。しっかり説明をしていないから、入居する外国人が理解できずにトラブルが起こるのです」(イチイ荻野さん)

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が実施した「外国人入居受入れに係る実態調査(2021年)」では、「契約内容について説明してもらっており、かつ内容を理解できた」人は67.3%だったという結果が出ています。

外国人入居者への賃貸借契約内容の説明状況

不動産会社から契約内容を説明してもらったか

契約内容はどのように説明されたか

外国人のうち約1割は、賃貸借契約の内容の説明を受けていないか覚えておらず、説明を受けた人でも1割は契約内容を理解できていない(資料/公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

しかし、その問題の根本には、日本人のなかには外国人への差別意識がある人が少なくないことも否めません。例えば、仲介会社が管理会社に問い合わせをしても、入居者が外国人というだけで断られてしまうこともあるそうです。「そもそも外国籍であることを理由に入居を拒否するのは差別であり、人権に関わる問題だ」と荻野さんはいいます。

「外国人の入居は、空室対策のマーケットとして注力すること以上に、グローバル化に向けて外国人に対しての接し方や受け入れ方をもっと真剣に考えていく必要があると思います」(イチイ荻野さん)

「SDGsが注目されていますが、環境に関することだけでなく『不平等が発生しない』『誰一人取り残さない』という目標も意識して、多様性を理解する環境づくりがあっても良いのではないでしょうか」(グローバルトラストネットワークス尾崎さん)

制度の構築とともに、ルールだけでなく、外国人を理解しようとする環境づくりも大事でしょう。

外国人入居者のトラブルは、情報が届かないことによる「知らない」「わからない」が原因となっているケースが多いということでした。また、管理会社をはじめ、私たちのなかにある、古い時代からアップデートされていない外国人に対するイメージが、根拠のない偏見や誤解を生んでいるようです。

日本の習慣やルールを外国から来た人にわかりやすく伝えるための工夫や、外国人を受け入れやすくするための仕組みや制度を整えることで、トラブルは回避可能です。そして、私たちにはトラブルを外国人のせいにするのではなく、自ら文化や習慣の違いを知って理解しようとする努力が必要とされています。そうすることが、オーナーや管理会社はもちろん、国際社会のなかで私たちが外国人と共存していくことにつながるのではないでしょうか。

●取材協力
・株式会社イチイ
・株式会社グローバルトラストネットワークス

平屋を愛しすぎて東京・福岡で二拠点生活&専門誌を自費出版。賃貸平屋を渾身DIYしたアラタ・クールハンドさんの暮らし

全ての暮らしがコンパクトに収まり、毎日の生活で上下移動が必要のない「平屋」。今、世代を問わず平屋を選ぶ人たちが増えています。そんな平屋を愛しすぎたゆえ、東京と福岡の二拠点生活で異なる平屋暮らしを楽しんでいる人がいます。平屋暮らしの提唱者として知られている、文筆家・イラストレーターのアラタ・クールハンドさんです。二拠点生活×平屋、一体どのような暮らしをしているのでしょうか。お話をうかがいました。

東京の平屋はDIY可賃貸。自分好みにカスタム中

平屋暮らしの魅力を伝えている文筆家・イラストレーターのアラタ・クールハンドさん。
アラタさんは戦後建てられた木造平屋を「FLAT HOUSE」と命名し、自身の審美眼で捉えた全国各地の平屋たちを紹介する活動をしています。2009年以降に出版した『FLAT HOUSE LIFE1+2』、自費出版による一冊一軒の『FLAT HOUSE style』、九州地方のフラットハウスを紹介した『FLAT HOUSE LIFE in KYUSHU』といった本の数々は、多くの平屋ファンの心をくすぐっています。

アラタさんが執筆した著書の数々(写真撮影/桑田瑞穂)

アラタさんが執筆した著書の数々(写真撮影/桑田瑞穂)

そんなアラタさん、2013年から東京と福岡の二拠点生活をしています。

アラタさんが東京の拠点を構える場所は、郊外にある閑静な住宅街。駅から徒歩で15分くらいはある距離でしょうか。一戸建てが建ち並ぶエリアの一角に、こぢんまりとした平屋が見えてきます。

「いらっしゃい~」と近くまで迎えにきてくれたアラタさん。

白壁が可愛らしい、アラタさんが借りている東京の文化住宅。文化住宅とは、大正時代中期以降から流行した、庶民向けの洋風の住宅のこと(写真撮影/桑田瑞穂)

白壁が可愛らしい、アラタさんが借りている東京の文化住宅。文化住宅とは、大正時代中期以降から流行した、庶民向けの洋風の住宅のこと(写真撮影/桑田瑞穂)

真っ白な柱や壁が印象的な平屋。なんとDIY可能な賃貸住宅なのだそう。これまで都内で平屋を転々としてきたアラタさんは、家を探す際に必ずDIY可能な平屋を探していたそうです。もちろん今回の家に引越した際もDIY可能な平屋というのが条件。この家は、知人から紹介してもらい、決めたそうです。

「もちろんDIYは大家の了解があってこそ、というところは気をつけるべきところですね。クオリティの高いDIYをほどこせば自分が退去する際にも次に借り手がつきやすいんです。それは貸し手・借り手双方にとってメリットがありますよね」と、アラタさんは話します。

平屋の中には部屋が3室あり、全体で50~60平米ほどの広さ。1LDKくらいの規模感です。

「僕にとってはどこに何の物があるかがちゃんと分かることや掃除が簡潔にできるというのが結構重要なポイントで。このフラットハウスの気に入っているところは、ひと目で見渡せるコンパクトさですかね。窓辺からは景色もよく見えるし気持ちいいですよ。仮に大金持ちになったとしても、お手伝いさんを雇わないと暮らせない家には住みたくないなあ。自分で自分のことができないサイズの家には興味がないということも、平屋暮らしをしている理由かもしれませんね」(アラタさん)

入居1ヶ月半前に壁と天井を抜き、スケルトン状態にしてから施工を開始。完成後は採光率も上がって窓辺のデスクで手を動かす時間が何よりの至福だそう(写真撮影/桑田瑞穂)

入居1ヶ月半前に壁と天井を抜き、スケルトン状態にしてから施工を開始。完成後は採光率も上がって窓辺のデスクで手を動かす時間が何よりの至福だそう(写真撮影/桑田瑞穂)

写真右部分の窓は壁を抜いて、自身でカスタム。玄関からリビング、キッチン、作業場、寝室まで見渡せるつくり(写真撮影/桑田瑞穂)

写真右部分の窓は壁を抜いて、自身でカスタム。玄関からリビング、キッチン、作業場、寝室まで見渡せるつくり(写真撮影/桑田瑞穂)

明日は何が起きるか分からない。ひとつの場所に留まる息苦しさ

二拠点で、かつそれぞれ一戸建ての平屋暮らしと聞くと、なんだか費用がかさみそうなイメージです。しかし、アラタさんは「二拠点生活に踏み切れたのは、やはり賃貸住まいだったことが大きいでしょうね。もちろん今住むどちらの家も貸家です」と、秘訣を教えてくれました。

元のキッチン設備は激しい老朽化から全撤去。ユニットも採寸して一から再製作しています(写真撮影/桑田瑞穂)

元のキッチン設備は激しい老朽化から全撤去。ユニットも採寸して一から再製作しています(写真撮影/桑田瑞穂)

「古い平屋暮らしは自分で暮らしをカスタマイズすることができるプラットフォームなんです。特に築年数が古い平屋の賃貸は、DIYが可能な物件が多いんです。家賃が低廉なので自費投入しても懐の痛みも少ない。ここも一般の工務店に頼んだら400~500万円はかかるけど、自分で作業をすれば材料費だけ。そういう楽しみがあるところが古い賃貸平屋の魅力ですね」(アラタさん)

窓辺にあるワークスペースでは、執筆作業やイラスト制作をしています。この日は、福岡でのイベントに向けたフライヤーの制作をしていました(写真撮影/桑田瑞穂)

窓辺にあるワークスペースでは、執筆作業やイラスト制作をしています。この日は、福岡でのイベントに向けたフライヤーの制作をしていました(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークスペースからすぐに庭のデッキへと出ることができます。季節の移ろいをすぐに感じることができるのは、コンパクトな平屋の魅力(写真撮影/桑田瑞穂)

ワークスペースからすぐに庭のデッキへと出ることができます。季節の移ろいをすぐに感じることができるのは、コンパクトな平屋の魅力(写真撮影/桑田瑞穂)

海外ネットオークションで購入したオールド・トイ(写真撮影/桑田瑞穂)

海外ネットオークションで購入したオールド・トイ(写真撮影/桑田瑞穂)

2011年に起きた東日本大震災。人々はみな、こんなにも予測不可能なことが起きるのかと、大きな衝撃を受けました。アラタさんもそのひとり。さらに2020年以降コロナ禍になり、人生はますます1年先のことが分からないと思ったそうです。

「両親とも東京出身なので自分にとって、いわゆる“田舎”がなかったんです。そういう拠点と呼ばれる場所に憧れがあった。そういう時に震災が起きまして。家族全員が東京にいると、何かあった時に避難する場所がないということに震災で気付かされました。それを解決するためにも、フリーになったときから憧れていた地方との多拠点生活に挑んでみようと。インフラの拡充など利便性が向上している今なら、そう難しくはない。そんなとき好条件の平屋が東京と福岡同時に見つかって、踏み切りました。九州は以前から一度住んでみたいと思っていたので、迷う理由はありませんでしたね」(アラタさん)

こうして、アラタさんは新たな拠点として福岡に家を借りることを決断します。

「周囲には完全移住したものの、溶け込めずに引き返してくる例も。東京に拠点を残しておけば焦る気持ちも半減するし、仮にうまくいかなかったとしても引き返すことができると思っていました」(アラタさん)

福岡県の新たな拠点 出会いは人の縁だった

南のエリアにもう一つの拠点を設けたいと思っていたアラタさんは、知り合いを通じて福岡県へ訪れることになります。

「13年の春、福岡の不動産業の友人から米軍ハウスが売りに出ていると聞き、九州旅行ついでに物件を見に行ったんです。現地に着いて偶然目にした別の空き家もまた米軍ハウスで、そっちにひと目惚れしてしまいます。首尾よくオーナーと連絡が取れましたが、面接があると聞いてこれは無理だなと諦めたものの、友人の尽力もあってご縁をいただきました。その夏にめでたく入居し、現在に至ります」(アラタさん)

福岡県のある海辺の町。徒歩数分で美しい景色が望めるといいます(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

福岡県のある海辺の町。徒歩数分で美しい景色が望めるといいます(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

こうして福岡にも拠点を見つけ、二拠点暮らしが始まったアラタさん。

「海辺のこぢんまりとした町は、暮らしてみると、とても快適。天神までは船に乗る必要があるけれど、その距離は15分くらい。天神に出てしまえばなんでもそろうし、空港も近いからどこへ行くにも不便がないんですよ。チェーン店が少なく、個人の商店が多くて、自然な賑わいがあるんですよね。スピード感のある東京とは違い、穏やかで豊かな文化圏を築いているように見えます。東京との違いを味わえるところが魅力です」(アラタさん)

福岡県にある自宅。築年数は約70年だそう(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

福岡県にある自宅。築年数は約70年だそう(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

東京と福岡。平屋だからこそ実現できたミニマムな暮らし

現在、1年の3分の1を東京で過ごし、残りは福岡で暮らすアラタさん。

南の方に憧れがあって拠点を設けたものの、もちろん福岡には知り合いが多くいたわけではありませんでした。しかし暮らしていく中で、アラタさんの著書の読者や、近隣に住まう人とコミュニケーションをとるようになり、徐々に知り合いが増えていったといいます。

米軍ハウスに入居の際、アラタさん自身が床を張り替えたそう(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

米軍ハウスに入居の際、アラタさん自身が床を張り替えたそう(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

「こちらで出会った方と、日々の暮らしを通してゆるやかにつながっていったんですよね。観光局の人と地域活性化につながるマーケットや街歩きなど、一緒に面白いことができないかなと、話もしていますよ」(アラタさん)

お気に入りのアンティーク家具や食器、インテリアに囲まれて(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

お気に入りのアンティーク家具や食器、インテリアに囲まれて(画像提供/アラタ・クールハンドさん)

「東京か福岡か。自分の拠点をどちらか一つに絞らないとかなって時々思うことも。とはいえ両方にコミュニティがあるってすごくいいなと思って。自分にとってのサードプレイスなのでしょうね」とアラタさんは話します。

「今、時代が大きく変わっている。10年前と比べると、生き方も暮らし方もずいぶん多様ですよね。いつ暮らし方が変化するか分からないから、身軽に過ごしたいと思う人も多いと思うのです。そういう人に、僕は平屋暮らしはおすすめしたいですね。身の丈に合わせた暮らしに変えてみると、心地よく過ごすことができるんじゃないかな」(アラタさん)

今回紹介したような、「コンパクトな賃貸の平屋で、リーズナブルに暮らす」ということを思い浮かべると、狭そうなイメージが先行して、実際に暮らすイメージが湧かない人もいるかもしれません。しかし、アラタさんのように拠点を複数持ちたい人、さらにDIY可物件であれば暮らしをカスタマイズしてみたい人には、とてもメリットがありそうです。何より持ち物や暮らしのサイズをミニマムにする人が増えている今、「足るを知り、余白を感じる」ことができる毎日は、平屋で実現できそうだと感じますね。

●取材協力
・アラタ・クールハンド
・再評価通信

育休中の双子パパ、家族で北海道プチ移住してみた! 半年暮らして見えてきた魅力と課題

「地方への移住」=田舎暮らしは憧れだけど、仕事環境などなどハードルが高い。
「男性の育児休業」=まだまだ認知されていなくて、取得できる気がしない……。
一見ハードルが高そうで互いに関係がなさそうな、こんな二つのキーワードを組み合わせた暮らしを体験してみると、実はすごく豊かな暮らし方&働き方改革、そして新たな地方創生が実現できるかも?! 1歳双子男子の関西人新米パパが実践レポートします!

男性の長期育休取得→移住体験にいたるまで

2021年の春のこと。「双子やったわ~」妻からの報告に、嬉しかったり、ビックリしたり。以前から抱いていた「育児休業」という言葉が頭の中を飛び回りました。現実問題として、双子の子育てって、一人じゃ到底難しいよなぁ……育休取れるんやろか。でも、0歳の子どもって、日々成長して変わっていくと言いますし、何にも代えがたい経験が出来る気がする。よくあるワンオペ育児もホンマに大変そうやし、妻に頼りっきりで、妻が倒れてしまったら双子育児なんてどうにも立ち行かなくなるし、二人で育児をするために、なんとか育休取らねば。

とはいえ、男の育休が話題になっている今ですが、現実問題としては、突然いなくなるのも周りへの迷惑も気になるのも事実。社外のバリバリ働いている友人たちからは、その後の会社での処遇なども含めて心配もされました。まだまだ世の中の雰囲気は男性育休に対して意見がいろいろあるんやなぁと実感しました。

ただ幸いなことに、先輩女性職員さんをはじめ、社内のほとんどの同僚たちは大賛成してくれ、上長も「双子やしね~」と前向きな反応。その後、3カ月程にわたり会社との相談を重ね、長期育休を取る方向で話を進めていき、2021年10月、無事、双子男子の父となることができました。

無事産まれて、家に来てくれたばかりの双子。今改めて見ると、本当にちっちゃくてカワイイ!(写真撮影/小正茂樹)

無事産まれて、家に来てくれたばかりの双子。今改めて見ると、本当にちっちゃくてカワイイ!(写真撮影/小正茂樹)

単に“イクメン”として子育てするのも良かったものの、ふと、「育休中って会社に通勤せんでもいいし、育児を大好きな北海道で出来るんじゃ?!」と頭によぎりました。子どもたちの育児環境も、都会より、緑が多くて、空気が澄んでいて、のんびりした空間で出来たほうがいいんじゃなかろうか。記憶には残らないまだまだ小さい頃ですが、のんびりした温和な性格に育ってくれないかなぁ。周囲の先輩パパ・ママに聞いてみると、都会で泣き声とかで周囲への迷惑などにビクビクしながら育てるより、のんびりした空間で育てるほうが親にも子どもにもいいと思うなぁとのこと。

会社に確認すると、育休中の居住地は特に問わず、連絡さえつけばどこにいても問題ないとのこと。そこまで確認し、2021年度中はリモートワーク主体になりながらも、仕事をこなしつつ、2022年度には、長期の育休を取得させていただくことで、上司・人事にも仁義を切り、社内調整も完了しました。あとは、北海道で暮らす算段を立てるのみ!!

せっかく行くなら、できるだけ長く、半年くらいは北海道で暮らしてみたい。暮らす手段を考えてみると、やはりコストの問題が出てきます。ウィークリー/マンスリーマンション的なもの。エアビー(Airbnb)的なもの。長期で借りると安くなる可能性はあるとはいえ、やはり結構高額になってしまう。また、本州から北海道までの引越し代って、海を確実に渡るので、すっごい高いと友人からも聞いています……。うーん、難しい。

でも、すごくいい解決方法が見つかりました!「移住体験」という制度です。
地方都市のいろんなところで実施しているこの制度、これなら、「家具・家電付き」で、「家賃」もお値ごろの住宅が多い。そして、市町村が運営しているだけに、町のあれこれも教えていただけたりしそうで一石二鳥。「ちょっと暮らし」という北海道の体験移住WEBサイトも発見! このサイトなどを穴が開くほど見つめて、友人・知人の多く住んでいる北海道十勝エリア、日高エリアを中心に検討することにしました。また、私が住む大阪には、「大阪ふるさと暮らし情報センター」というところもあり、こちらでは、パンフレットをいただいて、より詳細に検討を行いました。

WEBでいろいろと調べるのもいいですが、調べ物はまずは紙派。いただいたパンフやこれまでストックしてあったさまざまな資料をチェックしながら、詳細をWEBで確認して、検討していきました(写真撮影/小正茂樹)

WEBでいろいろと調べるのもいいですが、調べ物はまずは紙派。いただいたパンフやこれまでストックしてあったさまざまな資料をチェックしながら、詳細をWEBで確認して、検討していきました(写真撮影/小正茂樹)

問い合わせてみると、申込条件としては、基本的に、「二拠点居住」「移住」などを検討していることになっています。私としては、以前から北海道が大好きで、仕事の調整が付けば、将来的に「二拠点居住」が出来ると嬉しいなぁと思っていたため、条件はクリア。

妻の説得、幼い子どもを連れて移住体験するために考えておくこととは

北海道に行く。この気持ちはもう揺るがないものになってきてはいるものの、当時の最重要タスクは、0歳児双子の育児&出産間もない妻の心身のケア。コロナ禍まっただ中ということもあり、都会の子育てサロン的なものはほぼすべて中止になり、なかなかママ友などもできない状況でした。「都会にいると息苦しいから、育児は田舎の方でやったほうがいいかなぁ」なんてことを小出しにしながら、妻の意向確認をするべく、18ページにわたる企画提案書を出してみました。この企画提案書では、暮らすことになる移住体験住宅のイメージはもちろん、大阪での育児と比べて、のんびりした育児環境となること、グルメや遊び情報などと合わせて、プチ移住するにあたっての子どもたちの予防接種などの課題などにも触れ、まずは妻の意見をしっかり聞けるように工夫しました。

妻にプレゼンした18ページの育休期間暮らし方提案書(写真撮影/小正茂樹)

妻にプレゼンした18ページの育休期間暮らし方提案書(写真撮影/小正茂樹)

妻からは楽しそう、美味しいものが食べられそう、などというポジティブな意見もあったものの、「医療機関など子育てに不安がない都会から、突然地方へ乳飲み子を抱えて移動するリスク」や、「最寄りの医療機関の情報」「日常の買い物施設の情報」「子連れウェルカムな施設」などの宿題をたくさんもらいました。プレゼン終了後、別資料で「最寄りの医療機関」「日常の買い物施設」については、地図にプロットし、どこに何があるか、口コミ情報なども調べて、しっかり共有しました。また、小さな子連れで過ごせる施設や、子育てサロン的な集まりなども事前に自治体さんに問い合わせするなどして、情報を集めていき、思ったよりいろいろなものがあることも分かり、無事課題クリア。

しかしながら、「乳飲み子を抱えて移動するリスク」については、難しい点がありました。子育てをご経験された方はご存じかと思いますが、産まれて満1歳ころまでは、数多くのワクチン接種などがあり、健診もたくさん。これらをどこで受診するのか、あれこれ考えることが結構ありました。実は、移住体験はあくまで扱いとしては、「体験」であるため、住民票の異動は認められていません。そのため、ワクチン接種や健診の主体はもともと暮らしている自治体で受診するのが原則になっています。ワクチン接種もできるだけもともと通っていた医院で受けたいという妻の意見をくみ取りつつ、健診がいったん落ち着く9カ月健診の終了後、2022年7月、移住体験をスタートできることになりました。

双子にとって初めての飛行機に乗り、帯広空港に到着。友人たちが荷物運びなどのために出迎えてくれました(写真撮影/小正茂樹)

双子にとって初めての飛行機に乗り、帯広空港に到着。友人たちが荷物運びなどのために出迎えてくれました(写真撮影/小正茂樹)

移住体験先の賢い選び方!

移住体験でお借りできる住宅は、家賃・築年・広さ・住宅内の設備や付属している家具・家電などなど、本当に千差万別。教員住宅だったものを利活用している(小中高校の教員さん向けの公務員住宅だが、地方では統廃合などで、教員住宅自体が余ってきている)ケースが多いですが、民間物件や、地元木材を使って新築で建てられた移住体験用住宅をお借りするケースもあります。個人的なおすすめとしては、移住体験用に建てられた住宅。家賃が他のものより高いことが多いですが、設備も新しく、妻を説得する私としては、「せっかく移住体験するなら、きれいなところ」というのは結構重要な点でした(笑)。

豊頃町(とよころちょう)でお世話になった移住体験住宅は、妻へのプレゼン資料で決め手に。築10年ほど経っていますが、地元木材がふんだんに使われ、お庭も広く、吹き抜けの気持ちいい空間が広がります(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町(とよころちょう)でお世話になった移住体験住宅は、妻へのプレゼン資料で決め手に。築10年ほど経っていますが、地元木材がふんだんに使われ、お庭も広く、吹き抜けの気持ちいい空間が広がります(写真撮影/小正茂樹)

また、寝具は別途レンタルとなっていたり、水道光熱費は、灯油代(暖房代)は別途となっていることは多いものの、水道・電気代は込みになっていることが多いです。

■検討する際に忘れてはならない大事なポイント
・借りられる期間(これは市町村さんごとに2週間~1年程度まで、全く異なるので要注意!)
・申し込み締切り日(年に1回、まとめて募集があります。その締切りは概ね年末から2月中旬までが多いです。それ以降も、空きがある場合は、追加募集を行う市町村もあるため、要チェック)
・北海道の場合は、夏場の暑さ!北海道といえど、夏場は30度以上になったりして、暑く感じることもありますが、移住体験住宅はエアコン設備がないところがほとんど。逆に冬はストーブが付けていれば、本州の家とは比べ物にならないくらい暖かいです。移住体験する時期に注意!!

我が家としては、「半年間継続して暮らせる」ことが何より重要でした。乳飲み子を抱えて、ウロウロするのは結構大変。なので、基本的に、半年間を一つの町で暮らせるように考えました。ただ、半年間という長期で申し込める市町村はそこまで多くはなく、申込締切りに間に合い、かつ、楽しい暮らしが実現できそうな「豊頃町」「上士幌町(かみしほろちょう)」の2町に申込することにしました。そして、無事選定いただき、豊頃町で2カ月、上士幌町で4カ月、移住体験をさせていただくこととなりました。

【豊頃町の決め手】
・とにかく移住体験住宅がかっこいい!
・お庭があって、希望者は農作業ができる家庭菜園も。子どもたちに収穫した野菜を食べさせてあげられるかも(今回は2カ月の短期居住で収穫体験が出来るよう、特別に先に植え付けをしてくださっていました)
・農地に隣接していて、のんびり空間を満喫できそう。
・問い合わせした際の町の担当の方がすごく親切だった。
・十勝エリアのなかでも、あまり情報がない町なので、どういう町か暮らしてみたかった。

豊頃町の移住体験住宅からの眺め。都会では到底味わえない抜け感で心身ともにリフレッシュができました(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の移住体験住宅からの眺め。都会では到底味わえない抜け感で心身ともにリフレッシュができました(写真撮影/小正茂樹)

【上士幌町の決め手】
・「ママのHOTステーション」という子育てママが集える空間があった。
・糠平温泉郷や小学校をリノベしたカフェなど、楽しめそうな場所がたくさんあった。
・町がさまざまな斬新な取組みをされているので、肌でそれを感じたかった。
・移住者がすごく多い町という噂なので、移住されている方と仲良くなれるかも。
・移住対応窓口がNPO法人で、いろんな暮らしの情報をもらえそうだった。

「ママのHOTステーション」。実は、一昨年、仕事で上士幌町を視察をしたとき「これや!!」と直感して、上士幌町に移住体験して、妻に通ってほしい!と思ったのです。実際、すごく居心地よく素晴らしいものだったそうです(写真撮影/小正茂樹)

「ママのHOTステーション」。実は、一昨年、仕事で上士幌町を視察をしたとき「これや!!」と直感して、上士幌町に移住体験して、妻に通ってほしい!と思ったのです。実際、すごく居心地よく素晴らしいものだったそうです(写真撮影/小正茂樹)

まだまだ他の町にも! チェックすべき移住体験のオトク情報

移住体験住宅のセレクトで、つい目が行きがちなのが、「家賃」や「築年数」「広さ」など。もちろん、暮らすにあたって、すごく重要なポイントではありますが、実は、個性的な特徴を持っている移住体験住宅もたくさんあります。そんなおすすめポイントを、私が検討した日高・十勝エリアに絞り込んでご紹介します。

1、農園付き住宅!
私が暮らさせていただいた豊頃町の移住体験住宅は、2戸で800平米の敷地。えらい広いなぁと思っていたら、実は、農園付きの住宅でした。自由に植え付けることもできますが、私たちは短期滞在ということもあり、役場のOBのおじいちゃまが育ててくださって、収穫体験させていただく、というようなありがたいサプライズもありました!

また、士幌町には、その名も「もっと暮らし体験『農園付き住宅』」という農園をがっつり楽しみたい方のための1年以上の長期滞在向け体験住宅も用意されていて、本気度が高い方にはこちらもおすすめです。

豊頃町の移住体験住宅のお庭でジャガイモの収穫! 町役場OBのおじいちゃまが手伝ってくださいました。我が家はほとんど収穫体験のみ……。できたて野菜をたくさん双子に食べさせてあげられました(写真撮影/小正美奈)

豊頃町の移住体験住宅のお庭でジャガイモの収穫! 町役場OBのおじいちゃまが手伝ってくださいました。我が家はほとんど収穫体験のみ……。できたて野菜をたくさん双子に食べさせてあげられました(写真撮影/小正美奈)

2、ワーキングステイできる!
ロケット開発や宇宙港開発で有名になりつつある大樹町(たいきちょう)では、移住体験住宅の一つが、専門的な知識やスキルを持つ「クリエイティブ人材」のワーキングステイの場として提供されています。デザインやWEB等の知識がある方、ICTを活用し、都市部の仕事をテレワークで受注する企業や個人事業主の方向けということになっています。実は、このワーキングステイで大樹町にまちづくり提案をした場合、1カ月分の家賃相当の謝礼を受け取ることができます。まちづくりに興味がある方はもちろん、これから宇宙関係で盛り上がっていく大樹町に関われるチャンスが生まれるかもしれません。

大樹町と言えば、実業家の堀江貴文さんが創業し、ロケット開発をベースに宇宙の総合インフラ会社を目指しているインターステラテクノロジズ株式会社。大樹町の宇宙産業開発はこれからも大注目!(写真撮影/小正茂樹)

大樹町と言えば、実業家の堀江貴文さんが創業し、ロケット開発をベースに宇宙の総合インフラ会社を目指しているインターステラテクノロジズ株式会社。大樹町の宇宙産業開発はこれからも大注目!(写真撮影/小正茂樹)

3、オシャレ空間で暮らしたい!
私が暮らしていた豊頃町の移住体験住宅は2棟ともに木材がふんだんに使われていて、土間があったり吹き抜け空間があったりと、妻もオシャレとすごく喜んでいました。また、上士幌町でも、私が滞在した移住体験住宅とは別に、1カ月以内の短期居住向け住宅があり、ややお家賃の割高感はあるものの、新築のオシャレな住宅も用意されています。また、足寄町(あしょろちょう)の移住体験住宅も新築になりますので、快適な暮らしができるのではないでしょうか。

さらに、十勝清水町では、令和5年1月に無印良品さんとコラボし、リノベーション&家具・家電をコーディネートしたすっごいオシャレな住宅が完成しました。一般的な移住体験住宅でちょっと残念なのが、家具・家電のコーディネート力がやや弱いこと。しかしこちらの住宅は、内装に合わせて家具・家電もコーディネートされていました。

豊頃町の体験住宅は、土間・薪ストーブ付き。革小物のハンドメイド作家の妻は、土間で制作作業をしたり、デザインを考えたり。冬ならぜひ、都会の人の憧れ、薪ストーブも使ってみたかったです(写真撮影/小正茂樹)

豊頃町の体験住宅は、土間・薪ストーブ付き。革小物のハンドメイド作家の妻は、土間で制作作業をしたり、デザインを考えたり。冬ならぜひ、都会の人の憧れ、薪ストーブも使ってみたかったです(写真撮影/小正茂樹)

4、馬に囲まれて暮らせる!
また、日高エリアの浦河町では、民間の戸建て物件やホテルなどが移住体験住宅として提供されていますが、そのなかで、「うらかわ優駿ビレッジAERU」の和洋室のお部屋がミニキッチン付きで家族でも十分な広さがあります。ホテル内には大浴場もあり、敷地内にはお馬さんたちがたくさん繫養(けいよう)されていて、のんびりした空間が広がります。北海道発祥のスポーツ「パークゴルフ」や、乗馬も初心者から楽しめるコースも。私も今回の北海道プチ移住では1週間ほど滞在しましたが、ホテルライクにいろいろ体験しながら、のんびり暮らしたい方にはおすすめです。

うらかわ優駿ビレッジAERUの敷地内でのんびり草を食むお馬さん。浦河町は古くからサラブレッドの生産・育成が主な産業。のんびりした牧場空間でサラブレッドが過ごす光景は本当に癒やされます(写真撮影/小正茂樹)

うらかわ優駿ビレッジAERUの敷地内でのんびり草を食むお馬さん。浦河町は古くからサラブレッドの生産・育成が主な産業。のんびりした牧場空間でサラブレッドが過ごす光景は本当に癒やされます(写真撮影/小正茂樹)

長期育児休業×移住体験で新たな暮らし・生き方・住まいを探そう!

現在、日本では、異次元の少子化対策として、さまざまな検討がなされています。私は一足先に、男性ではまだまだ珍しい長期育児休業を取得し、さらに移住体験を通じて、地方で子育てをすることで、すごくポジティブに育児に取り組めました。

■長期育児休業×移住体験のいいところ
・移住先では、子どもをすごく大事にしてくださいました。子どもを抱っこしてくださった地域のおばあちゃまたちの笑顔にすごく癒やされます。
・会社員としての属性は残したまま、自分が気になっているエリアに中・長期で移住体験ができる。
・例えば、祖父母の近くの町などに移住体験できれば、祖父母孝行をしながら、育児ができる。
・中・長期で暮らすことによって、地域の住宅やお仕事情報などが手に入ったり、地元のお祭りに参加出来たり、新しい友人・知人が増え、人生が豊かになる。
・20・30代の方々が長期育休を取り、地方へ移住体験することで、地方の活力がアップしたり、二拠点・多拠点居住など新たな暮らし方を模索するきっかけに。地方の空き家対策などにもつながる可能性。関係人口という地域とのつながり方も注目されています。
・自分の暮らす町で育児をすると、どうしてもマンネリ感と、ストレスを感じがち。移住体験で子育てすることで、日々に変化が生まれ、リフレッシュできる環境で子育てができる。

喫茶店で私たちがランチを食べている間、お店の方とお客さんが双子と遊んでくれているようす。いろんなお店でいろんな方にすごくお世話になりました。おばあちゃまたちの子どもあやすスキルがすごい!(写真撮影/小正茂樹)

喫茶店で私たちがランチを食べている間、お店の方とお客さんが双子と遊んでくれているようす。いろんなお店でいろんな方にすごくお世話になりました。おばあちゃまたちの子どもあやすスキルがすごい!(写真撮影/小正茂樹)

数多くのローカルイベントにも参加でき、町の雰囲気などをいろいろな角度から体感できたのは大きな収穫でした(写真撮影/小正茂樹)

数多くのローカルイベントにも参加でき、町の雰囲気などをいろいろな角度から体感できたのは大きな収穫でした(写真撮影/小正茂樹)

私たちの子どもが双子だということもあるかもしれませんが、どこに出掛けても、いろんな方に声を掛けていただいて、子どもたちをあやしたり、抱っこしてくださったりしました。子どもたちをかまってくださるのは本当に助かりました。町の喫茶店や食堂では、お店の方とお客さんが双子の世話をしてくださり、その間に我々夫婦は食事をとったり、コーヒーを飲んだりも。おかげで、子どもたちは人見知りも、場所見知りもしなくなり、我々夫婦はゆっくり食事ができたりと、良いことずくめでした。そして、すごい副産物やな、と感じたのは、抱っこしてくださったおばあちゃまたちが笑顔で「ありがとう!小さい子に会うのもなかなかないからほんまに癒やされたわ~、また抱っこしたいから遊びに来てね!」と言ってくださったこと。こちらが助けていただいているのに、本当にありがたかったですし、多世代の交流が勝手に生まれていて、すごくほんわか空間ができていました。

また、旅行ではなかなか得られない地域の細かな住宅やお仕事事情、行政サービスのことなどなど、いろんなことを知ることができ、将来的な移住検討もより具体的に考えられるなと感じました。

お孫さんが使っていたというおもちゃを使って、双子とずっと遊んでくださった喫茶店のマスター(写真撮影/小正茂樹)

お孫さんが使っていたというおもちゃを使って、双子とずっと遊んでくださった喫茶店のマスター(写真撮影/小正茂樹)

一方、この新しい暮らし方にも課題があります。

■長期育児休業×移住体験のここに注意! 改善できればいいなというところ
・住民票が動かせないので、行政サービスが受けられないものが多い。
・育児休業中の収入は育児休業給付金のみ(雇用保険料を一定期間納めている方のみいただける制度)になるため、ある程度貯金を取り崩したりするなどしないとダメ。
・保育・幼稚園留学や小・中学校のデュアルスクールなど、教育環境が柔軟なエリアはまだまだ少ないので、兄弟がいる世帯は難しいケースも。

育児休業給付金の制度は、取得から当初180日間は直近6カ月の給料相当額の67%、その後、50%にまで減額されます。社会保険料などは免除されるため、当初180日間を概ね80%まで引き上げることができれば、働いているときとほぼ変わらない収入を確保でき、心配なく育児に専念できます。こうなれば、男性の半年間程度の長期育休は確実に増えると思います。また、私たちのように、地方への移住体験をしながら育児、といった新しい子育てのあり方もどんどん生まれてくるのではないでしょうか。

保育・幼稚園留学や小・中学校のデュアルスクールなどは、まだまだ数は少ないものの、私たちがお世話になった上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」という地方と都市の2つの学校の行き来を容易にし、双方で教育を受けることができる留学制度は既に始まっており、浦河町でもすごくステキなこども園が一時保育などを積極的に受け入れられています。子どもたちの教育環境としても、実は地方のほうが手厚く、都会では経験できないようなさまざまな体験ができるのではないかなと思います。

ぜひ、国や自治体さんには子育ての多様化、ポジティブな子育て環境をつくりだしていただいて、子どもを育てやすい、と思えるような環境整備や制度拡充ができてくればいいな、と思います。

浦河町滞在時に利用した「浦河フレンド森のようちえん」の子育て支援フレンドクラブ。絵本の読み聞かせなどをしてくださり、園舎内も自由に遊ばせてOK。ワーケーションなどで浦河町滞在時の一時預かりなどにも対応されています(写真撮影/小正茂樹)

浦河町滞在時に利用した「浦河フレンド森のようちえん」の子育て支援フレンドクラブ。絵本の読み聞かせなどをしてくださり、園舎内も自由に遊ばせてOK。ワーケーションなどで浦河町滞在時の一時預かりなどにも対応されています(写真撮影/小正茂樹)

妻の双子の妊娠が発覚してから、ぼんやり考えていた育児休業と真剣に向き合い、男性ではまだまだ珍しい長期の育児休業取得へ。さらに、単に育児休業を取って育児をするより、親のリフレッシュも兼ね、いつもと違った環境に移住体験しながら育児ができたことは、すごくいい刺激を受け、よい経験となりました。

今回、お伺いした2町以外にも移住体験住宅はたくさんありますし、都市部では絶対に経験できないような魅力的なコンテンツも盛りだくさん。旅行では味わえない、田舎暮らしを満喫して、育児も!暮らしも!しっかり人生を楽しみながら、育児に取り組む。こんな新しい育児休業はすごく可能性があるなと感じました。 

また、今回の長期育児休業×移住体験を行ったことにより、新しい友人・知人ができ、新しい地方の魅力を体感できました。もちろん、これからも今回伺った地域との関わりは続けていきたいなと思っています。地方創生の新たな仕組みにもなり得るのではないか、そんなことを感じる体験となりました。

2023年1月中旬、中札内村の道の駅内にある無料で遊べるキッズスペースにて。生後9カ月で北海道に来た双子も、1歳3カ月になり、しっかり歩き回り、自己主張も出てきて、のびのび成長してくれています(写真撮影/小正茂樹)

2023年1月中旬、中札内村の道の駅内にある無料で遊べるキッズスペースにて。生後9カ月で北海道に来た双子も、1歳3カ月になり、しっかり歩き回り、自己主張も出てきて、のびのび成長してくれています(写真撮影/小正茂樹)

移住体験ラストは、さよならパーティーを企画。総勢40名を超える方々にお越しいただけて、半年で本当にさまざまな友人・知人が新たに出来て、これからの人生がより豊かになると確信したひとときとなりました(写真提供/森山直人)

移住体験ラストは、さよならパーティーを企画。総勢40名を超える方々にお越しいただけて、半年で本当にさまざまな友人・知人が新たに出来て、これからの人生がより豊かになると確信したひとときとなりました(写真提供/森山直人)

●関連サイト
大阪ふるさと暮らし情報センター
豊頃町移住計画ガイド
上士幌町移住促進サイト
上士幌町Two-way留学プロジェクト

シングルマザーの賃貸入居問題、根深く。母子のためのシェアハウスで「シングルズキッズ」が目指すもの

ひとり親世帯の住まい探しでは、オーナーや不動産会社から収入面に不安を持たれたり、子どもだけで過ごす時間が多く危ないのではないかなど、偏見から入居を断られるケースもあり、容易ではありません。中でも、母子世帯の住まい探しは父子世帯よりも困難だといいます。こうした問題を少しでも軽減して、親子が共に楽しく幸せに暮らすことをミッションにかかげる企業があります。

シングルマザーとその子どものためにシェアハウスを提供する「シングルズキッズ」の代表取締役である山中真奈さんに、母子シェアハウスの仕組みや、事業を立ち上げた背景、現在そしてこれからの取り組みについて話を聞きました。

都道府県を越える引越しも検討。ひとり親が求める住まい

日本でのひとり親世帯は、年々急増しています。内閣府発表の「男女共同参画白書 令和元年版」によると、ひとり親世帯は1993年から2003年までの10年間で、94.7万世帯から139.9万世帯と約1.5倍に増加し、それ以降、同水準で推移しています。
その中でも、母子世帯数は父子世帯と比較して増加傾向にあり1993年はひとり親世帯の約8割だったところ、2016年には8.5割まで増加しています。

(画像出典:内閣府「男女共同参画白書 令和3年版」)

(画像出典:内閣府「男女共同参画白書 令和3年版」)

また所得格差も課題です。厚生労働省が発表した「2021年度(令和3年度)ひとり親世帯等調査結果報告」によると、父子世帯は518万円であることに対し、母子世帯の平均年間収入は272万円と約2倍近く開きがあることから、収入格差もうかがえます。さらに母子世帯の4割以上は非正規雇用であるため、一般の賃貸住宅に入居したくても入居審査が通らないなど、住宅探しは困難を極めます。一方の公的賃貸住宅(公営住宅や地域優良賃貸住宅、URなど)に入りたくても、母子世帯の声として多く挙がるのは「希望の公営住宅に当選しない」というものです。

こうした母子世帯の住まいの問題を解決するために立ち上げられたのが東京都の世田谷区上用賀にある「MANAHOUSE(マナハウス)上用賀」。シングルズキッズが運営する母子シェアハウスの一つです。1軒家の中には、全部で9室あり、ここに入居する人たちはひとり親世帯の母子と単身女性。さまざまな事情を抱えた母子が一同に集まり暮らす賃貸型、地域開放型のシェアハウスです。ここで山中さんは、悩み苦しみながらも立ち上がろうとする母子たちを真摯にサポートしています。

なぜこのような取り組みをしているのでしょうか。そこには自身の苦しい体験がありました。

「複雑な家庭で育ち、親への愛情を求めて苦しみながら青年期を過ごしました。大人になり、友人の子どもたちが離婚によって両親の間でたらい回しになっているところを見て、“親の理不尽な都合で子どもたちが傷つく様子をなんとかしたい”と強く思ったんです」(山中さん、以下同)

シングルズキッズ代表取締役の山中真奈さん。提供したいのは、家というただの箱ではなく「人のつながり」だと話す(画像提供/シングルズキッズ)

シングルズキッズ代表取締役の山中真奈さん。提供したいのは、家というただの箱ではなく「人のつながり」だと話す(画像提供/シングルズキッズ)

さらに、不動産仲介会社に勤務しているとき、シングルマザーが家を借りることがあまりに難しいという場面に何度も直面したことが後押しし、山中さんは“私にできること”として、「シングルズキッズ」を立ち上げたのだそうです。

山中さんによれば、「入居したい、話を聞きたいと問い合わせをくれる人には、世田谷区外の人、地方から上京を検討している人も少なくない」と言います。子育て世帯の多くが子どもの保育園や小学校への通いやすさや友人関係などを考え、現居住地の周辺で住まいを探す傾向があることとは少しギャップがあるようです。

「例えばDV被害者であれば、現居住地の周辺で避難をしても相手や家族から追い続けられるリスクがあります。遠方に引っ越すなどして完全離別ができないと問題の解決に繋がりづらいんですね。こうした事情から、今暮らす場所から離れた拠点を探すひとり親世帯がいます」

全部で9室ある「MANAHOUSE上用賀」の間取図。2階建ての戸建をシェアハウスとして利用している(画像提供/シングルズキッズ)

全部で9室ある「MANAHOUSE上用賀」の間取図。2階建ての戸建をシェアハウスとして利用している(画像提供/シングルズキッズ)

また、仕事を求めて地方から上京を検討する人も少なくありません。母子だけで生活するには、まとまった生活費の確保が必要です。しかし、仕事を探しても、地方では母子で生活するのに十分な給与が得られる仕事の選択肢が少ないことも。そこで首都圏に移転して就職し、給与水準を上げることで母子だけでも暮らしていけるようにしたいと考え、首都圏にあるシングルズキッズのシェアハウスへ転居を希望するのです。

地域に合わせて育つ、シングルズキッズの母子シェアハウス

シングルズキッズが運営する母子シェアハウスは、現在5カ所。同じ賃貸型母子シェアハウスでも、それぞれ個性があります。

「MANAHOUSE上用賀」の共用リビング。入居者や近所に住む人、サポートする人たちが出入りすることもある(画像提供/シングルズキッズ)

「MANAHOUSE上用賀」の共用リビング。入居者や近所に住む人、サポートする人たちが出入りすることもある(画像提供/シングルズキッズ)

例えばMANAHOUSE上用賀は、家賃とセットで共益費4万5000円(入居する子どもの数に応じて追加)を支払うことで保育・家事サービスを受けられます。管理人として70代シニアや主婦の方が勤務しており、食事の提供、保育園のお迎えサポートの他、多様なサポートを行っています。他の4カ所は住まいの提供のみで、お母さんたち同士で共同生活を営んでいます。

シングルズキッズの代表取締役・山中真奈さん(左)と、保育士資格を持つMANAHOUSE上用賀の元管理人・関野紅子さん(右)(画像提供/シングルズキッズ)

シングルズキッズの代表取締役・山中真奈さん(左)と、保育士資格を持つMANAHOUSE上用賀の元管理人・関野紅子さん(右)(画像提供/シングルズキッズ)

山中さんは「困っている人のために提供している場所であるとはいえ、シェアハウスは、合う人・合わない人がいる」と話します。生活を続けるために、入居を希望する者にとって家賃負担が重すぎないかどうかも確認しているそう。

「私たちは母子の金銭面や生活面など、全面支援をするシェルター事業とは異なります。各々が自立して生活をする共同生活支援なのです。そのため、入居の際にメリット・デメリットをきちんと話したうえで、お互いに協力が必要なことなどについても確認をしています」

シェアハウスは共同生活。互いに気持ちよく暮らすために、心得とルールをしっかり守ることが求められます。そして「言った言わない」で揉めないためにも、ルールを目で見てわかる形で示し、相互に確認できるようにしているそうです。

「入居後に困ったときやトラブルが発生しそうなときには、メンタル面でのサポートに力を入れます。ここが一番力を入れたいところであり、難しいところ。オーナーシップが求められると感じています。

お母さんたちはこれまで心身に逃げ場がない状況で生きてきたのです。母子シェアハウスは共同で暮らすメリットがある一方、問題や揉めごとが起きると再び厳しい精神状態に追い詰められてしまうことも。そんなときは私が一家の主(あるじ)として父親のような役割を担います。方針を示しながらみんなの前に立って根気強く向き合って解決すること。住まいを提供する以上に、心の面で寄り添いながらしっかりサポートすることは、お母さんたちが自立して生活するために最も必要としているものです」

「デコ」と「ボコ」がハマる関係を家主と共につくる

シングルズキッズでは母子だけではなく、シニアや学生など多世代の人がシェアハウスの運営に関わる取り組みも進めています。

「世代やお互いの課題、ニーズが異なることによって、お互いにできること・できないこと、得意なこと・苦手なことがある。お互いの凸凹(デコボコ)がうまくハマると、感謝につながり、良いコミュニティになります。だからこそ、同じ課題の人を集めたハウスではなく、多世代型のシェアハウスが求められていると思います」

サポートするシニアの人が母子たちの夕食づくりをする(画像提供/シングルズキッズ)

サポートするシニアの人が母子たちの夕食づくりをする(画像提供/シングルズキッズ)

日々「やったほうがいいけれど、行き届かずにこぼれ落ちてしまう」家事や育児などを、リタイアしたシニア世代が「社会参画」の一つとしてサポートしたり、子どもとの触れ合いに興味がある大学生がボランティアとしてサポートしたり、と互いが支え合っていくのです。

シニアのサポーターは「甘えさせてくれるおじいちゃん・おばあちゃんのような存在」で、子どもたちに大人気。抱きつかれて大喜びする姿が印象的(画像提供/シングルズキッズ)

シニアのサポーターは「甘えさせてくれるおじいちゃん・おばあちゃんのような存在」で、子どもたちに大人気。抱きつかれて大喜びする姿が印象的(画像提供/シングルズキッズ)

ひとり親家庭、特に母子家庭が貧困や孤独に苦しみながら生活している事実は、十分には知られていません。

「日本の母子家庭における母親の就労率は、諸外国よりも高いのに、母子家庭貧困率が非常に高い。子どもの貧困が7人に1人といわれていて、その多くは母子家庭なのです」

こうした事実を知り「自分ごと」と捉え、何かできることはないか、と手を差しのべる人も多いそうです。2023年6月にシングルズキッズが管理・運営をサポートする形で新たに立ち上げる「みたか多世代のいえ」はシニア世代が“最期まで私らしく暮らす“をテーマにした多世代型シェアハウス。オーナーの村野氏はシニア世代の在宅医療(訪問診療)を行っている医師で「シニア世代に子どもや社会と関わり合いながらイキイキと暮らしてほしい。日常的な関わりができるようシングルマザーも住めるようにしたいのでサポートしてほしい」と山中さんに協力依頼をしてくれたのだそうです。

「みたか多世代のいえ」のイメージ。開かれた家で、地域の人たちやシニア、子どもたちとの交流にあふれる家を目指す(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」のイメージ。開かれた家で、地域の人たちやシニア、子どもたちとの交流にあふれる家を目指す(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」には、カフェライブラリや吹き抜けのある遊び場、シニアの部屋も備える(画像提供/シングルズキッズ)

「みたか多世代のいえ」には、カフェライブラリや吹き抜けのある遊び場、シニアの部屋も備える(画像提供/シングルズキッズ)

「お互いさま」の社会で、子どもたちをハッピーに

シングルズキッズが運営する母子シェアハウスでは、自然発生的に起きるコミュニケーションや関係性を大事にし、ルールでがんじがらめにするのではなくできるだけ居住者に運営を任せるようにしています。

「シェアハウス内で共同生活をしている際に“ルールは守りましょう”と話しますが、関わり方は実にそれぞれなんですよね。シェアハウス内で、“小さな子どもが好きだから”と、他の子どもたちのお世話をする中学生もいれば、“1人になりたい”と部屋にこもる子もいる。でも、それで良いのです。関わりたい人が関わり、お互いに助け合う。そういう関係が生まれる環境が、1人で頑張っているお母さんを救ってくれるし、子どもたちもイキイキと暮らすことできると思うのです」

子どもたちも一緒に食事づくり。まわりの大人や子どもと自然に協業していく(画像提供/シングルズキッズ)

子どもたちも一緒に食事づくり。まわりの大人や子どもと自然に協業していく(画像提供/シングルズキッズ)

さらに今後の展望について山中さんは続けます。

「日本の社会課題の一つとして母子家庭も高齢者も“孤立”してしまうことが挙げられると思います。ひとり親に限らず多世代・多コミュニティが互いを支え合う環境になれたら、孤立せずに大人も子どもも楽しくハッピーに過ごせますよね。そのために最も大切なことの一つが暮らす環境を整えること。そして幸せに暮らす多世代の姿をたくさん眺めることが私の夢です」

異なる年齢の子どもたちが、ボランティアの学生と共に遊ぶ(画像提供/シングルズキッズ)

異なる年齢の子どもたちが、ボランティアの学生と共に遊ぶ(画像提供/シングルズキッズ)

山中さんは「私が何か助けてあげている訳ではない。みんなが“お互い様”」「明日は我が身」だと言います。突然身寄りがなくなったり、心身が不自由になったりすることもあれば、離婚してひとり親家庭になったり、暴力やDVを受けたりすることもあるかもしれません。そのようなときに、シングルズキッズの営むシェアハウスのような支え合いの仕組みがあれば、きっと心強く、そして楽しく暮らしていけるのではないでしょうか。

●取材協力
シングルズキッズ株式会社

今も残る「外国人に部屋を貸したくない」。偏見と闘う不動産会社や外国人スタッフに現場のリアルを聞いた

外国人が日本で暮らすには、住居を確保する必要があります。しかし、言葉の問題や文化の違い、偏見などもあり、必ずしも入居までの道のりは容易ではありません。
一方で、そのような外国人の入居希望者に対し、外国人スタッフが自らの体験も含めて賃貸オーナーとの間を取り持つ不動産会社もあります。取り組みや課題について、外国人を雇用する不動産会社2社、イチイ代表取締役の荻野政男さん、ランドハウジングのタイ事業部(海外事業)責任者である橋本大吾さん、そしてランドハウジングで働くタイ人スタッフのカナさんに聞きました。

外国人が日本で入居先を探すときに困っていることは?

外国人が日本で住まいを探すとき、最初にぶつかる壁は、言葉や文化の違いでしょう。日本語がわからなければ、契約書の内容や行政の情報、例えば細かいところでは燃えるゴミを何曜日に出せばいいのかなど、さまざまな情報が得づらく、掲示されていたとしても読んで理解をすることが困難になります。

母国ではここまでゴミを細かく分別する習慣のない場合もある。地域によってもゴミを出す日は異なるので、日本語を読めない外国人は、きちんとした説明がないと、どのゴミをいつ出したら良いか理解するのは難しい(画像/PIXTA)

母国ではここまでゴミを細かく分別する習慣のない場合もある。地域によってもゴミを出す日は異なるので、日本語を読めない外国人は、きちんとした説明がないと、どのゴミをいつ出したら良いか理解するのは難しい(画像/PIXTA)

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が2021年に実施した「外国人入居受入れに係る実態調査」では、「契約内容について説明してもらっており、かつ内容を理解できた」人は67.3%だったという結果が出ています。契約内容は日本語で説明されたと回答した人が半数以上なので、内容を理解できずに契約している外国人が3割以上いることも当然かもしれません。また、契約内容を説明されていないのであれば、それは宅建業法違反になります。

大前提として、賃貸物件を借りようとする外国人は、初めて日本に住む人がほとんどでしょう。

「トラブルが起こるのは『外国人だから』ではなく、『初めて経験することだから』ではないでしょうか。『初めての人か、経験者か』による違いと見る必要があると思います」と、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を始め、現在は韓国・中国・アメリカなどの外国人スタッフとともに外国人の入居サポートを行うイチイ代表取締役の荻野政男さんは話します。

さらにオーナーはじめ、近隣住民や他の入居者など、日本人の接し方にも、問題があるようです。

「『日本人は接してくれない』という話を留学生からよく聞きます。海外では近隣の住人同士、挨拶したり、話しかけたりして相手を知ることが不審者対策になるという考えがありますが、日本では知らない人に声をかけることは稀です」(荻野さん)

どうしても最初に心を開くまでに時間がかかってしまう日本人は少なくありません。せっかく日本に来ても、日本人との交流をなかなかもてず、情報を得にくいのも外国人にとっては戸惑う要因になっているようです。

日本が好きで来日しても、日本人とコミュニケーションを取れず、戸惑ったり、孤独を感じたりする外国人も多い(画像/PIXTA)

日本が好きで来日しても、日本人とコミュニケーションを取れず、戸惑ったり、孤独を感じたりする外国人も多い(画像/PIXTA)

外国人の入居者希望者に対する賃貸オーナーの印象は?

外国人が入居すると、言葉や文化、生活習慣の違いからトラブルになるのでは、と考えるオーナーや管理会社が一定数いるようです。

例えば、「家に上がる際には靴を脱ぐ」「ゴミの分別」などがきちんとできるのか、友人や知人を呼んで大騒ぎをして周辺への「騒音」が問題になるのでは、と考える人もいるとのこと。しかしそれらのほとんどは「先入観にすぎない」とランドハウジングのタイ事業部(海外事業)責任者である橋本大吾さんは言います。ランドハウジングでは外国(タイ)に支社を設置し、現地採用のタイ人スタッフと日本の本社で勤務する日本人・タイ人スタッフが連携して、日本への留学や転勤で移住することになるタイの人たちの住まい探しから入居後の生活をサポートしています。

「これまで接した外国のお客さまは、ルールを知っていれば、きちんと守りたいという人がほとんどです。もちろん、ルールや日本の慣習を知らずにトラブルになることはゼロではありませんが、日本人でもきちんとゴミを分別する人もいれば、そうでない人もいます。『外国人だから』という括りは当てはまりません」(橋本さん)

ランドハウジング では、年間300~400人の外国人に賃貸物件を仲介していますが、そのうち実際にトラブルが起こる割合は1~2%程度。日本人の賃貸トラブルとそう変わらない肌感覚だそうです。

公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が2021年に実施した「外国人入居受入れに係る実態調査」では、実際に「外国人入居者が問題を起こしたことがある」と答えた家主は1.5%でした。実際はトラブルが多いわけではない外国人を受け入れない理由として最も多いのが「コミュニケーションや文化の違いに不安がある」という不安や偏見からなのです。

実際に「入居者が問題を起こしたことがあるため」と回答した家主はわずか1.5%に過ぎない(資料/公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

実際に「入居者が問題を起こしたことがあるため」と回答した家主はわずか1.5%に過ぎない(資料/公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)

外国人がスムーズに入居するための鍵となるのは「外国人スタッフ」

外国人がスムーズに入居できるようにするために今回取材した2社が取り組んでいる対策は、いずれも「しっかりとした事前説明」と「母国語の通じる外国人スタッフ」の存在でした。

「トラブルを起こさないようにするためには、事前に説明することにつきます。トラブルが起こったときも、外国人の立場や考え方を理解しつつ、母国と日本の習慣の違いを説明できる外国人スタッフの存在は大きいですね」(荻野さん)

外国人の入居検討者にとって外国人スタッフは、初めて日本に来た時に同じような苦労をしている「先輩」です。母国語の通じる人がサポートしてくれるのは心強いに違いありません。

外国人スタッフが母国語で日本の生活習慣や文化の違い、煩雑な手続きの方法などをサポートすることが異国での生活の不安を払拭し、トラブル回避につながる(画像提供/ランドハウジング)

外国人スタッフが母国語で日本の生活習慣や文化の違い、煩雑な手続きの方法などをサポートすることが異国での生活の不安を払拭し、トラブル回避につながる(画像提供/ランドハウジング)

ランドハウジングで働いているタイ人スタッフのカナさんは、こう話します。
「日本語が話せない人や日本のことを知らないお客さまへの物件紹介や、日本での暮らしについて説明・アドバイスできることが私のやりがいです。『ありがとう』という言葉をいただくと、私が日本とタイの架け橋になりたいという気持ちが強くなります」

話を聞かせてくれたタイ人スタッフのカナさん(写真1番左)。留学生として日本の大学で学ぶために来日し、帰国・卒業後にランドハウジングのタイ支社に入社。現在は日本の本社で働く(画像提供/ランドハウジング)

話を聞かせてくれたタイ人スタッフのカナさん(写真1番左)。留学生として日本の大学で学ぶために来日し、帰国・卒業後にランドハウジングのタイ支社に入社。現在は日本の本社で働く(画像提供/ランドハウジング)

一方で荻野さんによると、管理会社やオーナーに物件について問い合わせをする際、入居希望者が外国人だと伝えるだけで10件のうち9件は断られてしまい、中には、問い合わせをした外国人スタッフの日本語アクセントが少し違うだけで、詳しい話を聞いてもらえないこともあるそうです。

「このような日本の不動産会社の対応の中で、これまで志のある外国人スタッフが、心折れて辞めていくこともありました」(荻野さん)

私たち日本人が、外国人スタッフの尽力によるチャンスを、差別や偏見で潰してしまっているのかもしれません。さらに、外国人入居者への差別的考え方は日本の賃貸業にとってマイナスになる可能性も。

「日本では今後ますます空室が増えると考えられる中で、空室対策としても外国人入居者の受け入れは重要です。しかし、そのためには不動産会社自体が外国人に対する差別的な考えを改める必要があります」(荻野さん)

母国語の資料作成や、外国人の多岐にわたる要望に応える

外国人にとって、日本の賃貸借契約書や複雑な手続きは、とても難しいものです。役所で説明書などを用意していても、日本語や英語・中国語などの限られた言語のものしかありません。説明には時間も手間もかかりますが、正しく理解してもらうために母国語に翻訳した資料を作成したりもしているそうです。

「入居前に日本の住まい探しの流れについて説明する書面を見せて案内したり、契約する際に母国語のしおりを作成して、入居後のゴミの分別や解約の仕方・解約ルール・違約金などについて説明したりします。さらに契約後も困ったことがあれば、いつでも連絡できるよう連絡先を伝えるようにしています」(カナさん)

タイ人スタッフがつくったタイ語の日本の住まい探しの説明書。タイではオーナーが自ら賃借人を探すのが一般的で、日本のような入居審査や詳細な契約書はない。日本とタイの違いを理解してもらうことも大事(資料提供/ランドハウジング)

タイ人スタッフがつくったタイ語の日本の住まい探しの説明書。タイではオーナーが自ら賃借人を探すのが一般的で、日本のような入居審査や詳細な契約書はない。日本とタイの違いを理解してもらうことも大事(資料提供/ランドハウジング)

公益財団法人日本賃貸住宅管理協会でも、居住支援のガイドラインについてハンドブックをつくって渡す、トラブル回避のために多言語で入居や生活のルールに関する動画をつくり公開する、などの取り組みをしています。ホームページではさまざまな参考資料や多言語に対応したガイドブックのダウンロードが可能です。

また、「3カ月間だけ借りたい」「家具・家電を新たに購入すると大変なので家具・家電付きがいい」という外国人の多様なニーズに応えるため、不動産会社はそれに応じたサービスを提供する必要があります。今回取材した2社も、一般賃貸物件の紹介だけではなく、シェアハウスやマンスリータイプ、留学生寮や留学生会館などを自社で管理したり、所有・運営したりするなどして対応しているそう。

以前は日本人の連帯保証人が必須でしたが、最近は外国人入居者を対象とする家賃保証会社などもあり、連帯保証人を付けなくても家賃保証会社を利用することで契約ができるようになってきています。

外国人の入居問題は改善している?現場の「リアル」を聞いた

外国人の住居問題に携わるようになって20年以上という荻野さんに、問題は改善しているかを率直に聞いてみました。

「私が取り組みを始めた当時と比べると、日本人が外国人と接する機会も増え、オーナーも代が変わって、かなり理解を得られるようになってきていると感じます。とはいえ、外国人を取り巻く現在の環境は、理想とする状態を10とすると半分くらい、まだ道半ばです」(荻野さん)

イチイの荻野さんは、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を開始。近年は日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長として関係する制度の普及や外国人入居者に関する研究などを行ってきた。日本における外国人居住支援のパイオニア的存在(画像提供/イチイ)

イチイの荻野さんは、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を開始。近年は日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長として関係する制度の普及や外国人入居者に関する研究などを行ってきた。日本における外国人居住支援のパイオニア的存在(画像提供/イチイ)

それでもここ10年ほどで、外国人スタッフの雇用によって、トラブルは事前の対応で十分回避が可能であることが、オーナーにも理解されるようになってきたそう。賃貸物件の空室が増えるなどの外的要因も相まって、外国人の入居に前向きなオーナーや管理会社も増えてきました。

例えばランドハウジングの橋本さんは「ランドハウジングでは、管理部門と連携して、取引のある大家さんに対して外国人入居の啓蒙活動を積極的に行った結果、自社の管理物件約1万戸のうち、8割は外国人の入居に理解を得られるようにまでなった」と言います。先ほどの、10件に9件断られる賃貸業界全体の実情と比べるとその差は歴然です。

しかし新たな課題も見えてきました。海外の“当たり前”と、日本の賃貸物件の設備のスタンダードが大きく異なっていることもその一つ。海外では賃貸住宅には家具や家電、インターネット環境が付いていているのが一般的になっています。外国人の入居を増やし、空室を少なくしていくためには、このような設備面を検討していくことも必要でしょう。

外国人の居住支援では、以下の2点が非常に重要なようです。オーナーや管理会社の、外国人への偏見や誤解を解くこと。そして、外国人の入居希望者に対して、母国と日本の違いを理解できるよう説明し、入居後もわからないことや困ったことを相談できる場所をつくること。

外国人入居者の中には、日本人から注意されると、差別されていると感じてしまう人もいるそうです。そのような場合も、同じ国出身のスタッフが話せば、心を開き、よく理解してくれるといいます。外国人スタッフのきめ細かいサポートがオーナーさんや管理会社、そして、外国人の入居者を結びつける鍵となっているようです。

コロナが少しずつ落ち着きを見せる中、外国人の訪日が回復し、住む人も増えることが想像されます。日本に魅力を感じて「住んでみたい」と思ってくれた外国人が入居しやすい環境づくり、もっと言えばカナさんのような橋渡し役を担ってくれている、想いのある外国人スタッフが働きやすい社会にすることが大事です。そのためには、私たち自身の意識改革も必要ではないでしょうか。

●取材協力
・株式会社イチイ
・株式会社ランドハウジング

【2023年】JR山手線、家賃相場が安い駅ランキング。TOP10は北側に集中!

都心の30駅を環状に結んで走るJR山手線。東京駅や新宿駅をはじめ沿線の駅には都心から各方面に延びる路線が多数乗り入れており、都内交通網の要と言える存在だ。そして便利で人気があるゆえに、東京都内でも特に家賃相場が高いことでも知られている。そんなJR山手線のなかでも、家賃相場がリーズナブルな駅を調査! 各駅から徒歩15分圏内にある、一人暮らし向け賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場を安い駅順にランキングした結果をご紹介しよう。

JR山手線の家賃相場が安い駅ランキング

JR山手線の家賃相場が安い駅ランキング

安い駅TOP10は沿線のなかでも北側、日暮里駅~新大久保駅間に集中

JR山手線の30駅のうち最も家賃相場が安かったのは、田端駅で家賃相場は8万6500円。北区にあり、JR山手線の駅では最も北側に位置している。駅北口側に併設された「アトレヴィ田端」にはスーパーやドラッグストア、ベーカリーに飲食店などが入っており、日常的に活用しやすそう。駅周辺にもスーパーやコンビニが点在し、深夜0時まで営業するスーパーもあって便利。駅前のビルにはファストフード店やファミレスがあるほか、駅周辺には気軽に入れる和食や中華の食堂、そば店に居酒屋も点在し、サッと食べて帰ることもできそうだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

2位は田端駅から1駅目、荒川区にある西日暮里駅で家賃相場は8万7000円。JR京浜東北線も停車するほか、赤坂駅や表参道駅と結ばれた東京メトロ千代田線が通っている。JRの駅舎から少し離れた場所には、東京23区北東部へ延びる日暮里・舎人ライナーの駅も。駅の東側にはファストフード店からカフェ、居酒屋に焼き肉店……とさまざまな飲食店が立ち並んでいるので、外食する場所には困らないだろう。駅から徒歩10分圏内にスーパーやドラッグストアも複数。さらに、食べ歩きもできる谷中銀座商店街も駅から歩いて10分ほどなので、休日に訪ねても楽しそう。

3位は豊島区にある目白駅で家賃相場は8万8000円。両隣に位置する5位・高田馬場駅(家賃相場9万1000円)と7位・池袋駅(同9万3000円)ほどには繁華街は広がっておらず、落ち着いた雰囲気の街並みだ。とはいえコンビニやドラッグストアは駅周辺に複数あるので、日常のちょっとした買い物には困らない。駅前には飲食店やスーパーなどが入ったおしゃれな雰囲気のショッピングモール「トラッド目白」も。このショッピングモールが面した目白通り沿いには飲食店も点在しているが、少し裏道に入ると静かな住宅街が広がっている。

1位・田端駅からJR山手線の外回り(時計回り方向)に乗ると2位・西日暮里駅~4位・日暮里駅(家賃相場8万9000円)と続き、逆方向の内回りに乗ると1駅目が10位・駒込駅(同9万4000円)という位置関係。駒込駅~田端駅、田端駅~日暮里駅は、それぞれ歩いても15分少々という近さだ。そして連続するこの4駅はいずれも、さまざまな大学に通いやすい立地でもある。最寄り駅というほど接近はしていないが、たとえば田端駅から自転車で15分圏内に限っても、東京都立大学や女子栄養大学、東洋大学、日本医科大学、東京大学、東京藝術大学などのキャンパスがある。周辺一帯にはこうした大学に通う学生向けの賃貸物件が豊富にそろっていることも、JR山手線沿線にしては家賃相場がリーズナブルな理由の一つかもしれない。

学生が多く利用する駅周辺には若者が日常使いできる価格帯の飲食店も多く、一人暮らししやすい街並みが広がっている。しかし昔はいざ知らず、JR山手線では家賃相場が低めであっても、学生には「安い」とも言えない金額ではある。その点、社会人の一人暮らしならば住む街の候補に入れやすいかもしれない。

また、1位・田端駅がJR山手線で最北の駅であることに加え、トップ10の駅はいずれも北側に集中。さらには、順位が入れ替わりつつも日暮里駅~新大久保駅間の連続する10駅すべてがトップ10入りをしていたのだ。JR山手線沿線でリーズナブルに住みたい場合は、まず「北側にある駅」と覚えておくとよさそうだ。

南側にある駅のうち狙い目は高輪ゲートウェイ駅~目黒駅間の5駅!

2023年「JR山手線」家賃相場が安い駅ランキング

北側にある駅ほうが家賃相場はリーズナブルな傾向にあることは分かったが、「JR山手線のなかでも、JR中央線で南北に分けた場合の南側にある駅のほうが都合がいい。それでもできる限り家賃を抑えたい……」という場合はどの駅がよいだろう。ランキングを見てみると、高輪ゲートウェイ駅(13位・家賃相場10万1000円)~品川駅(14位・同10万3000円)~大崎駅(12位・同10万円)~五反田駅(15位・同10万5000円)~目黒駅(16位・同10万8000円)と連続する5駅がよさそうだ。南側に位置する駅のほとんどは家賃相場が11万円以上だが、この5駅のみ家賃相場が10万円台に収まっている。

JR山手線の南側にある駅のうち家賃相場が最も安いのは、12位・大崎駅。JR各線に加えてりんかい線も乗り入れており、お台場や有明、新木場方面にもアクセスしやすい。駅の北口と南口の改札を結ぶ通路沿いには駅ナカ商業施設「Dila(ディラ)大崎」があり、ユニクロやドラッグストア、飲食店が営業中だ。そして改札を出て駅東側のペデストリアンデッキを進むと、ショッピングモールとオフィスビルからなる「ゲートシティ大崎」や「大崎ニューシティ」へ。駅西側にも同様にオフィス棟と商業棟を備えた「ThinkPark」がある。

大崎駅前(写真/PIXTA)

大崎駅前(写真/PIXTA)

かつては都内有数の工業地帯だった大崎エリアは1980年前後より工場跡地の再開発が進められ、1990年代~2000年代には大規模なオフィスビルや複合ビルが次々と誕生。いまやビジネスと商業の街として発展している。そして今また、大崎はさらなる進化の過程にある。2022年1月には駅から東へ徒歩8分ほどの旧ソニー本社跡地に地上19階建てのオフィスビルが誕生したほか、駅の西口側で再開発事業が進行中。住宅や事務所、店舗、保育所などを備えた地上35階・地下3階建てのビルが2025年度内に竣工予定だ。

また、12位・大崎駅~15位・五反田駅の中間地点でも、再開発ビルの建築が計画されている。目黒川に面した約1.6ha区域に地上20階建てと39階建ての商・住・業務の複合ビル2棟が建ち、周辺には公園も整備される予定。2027年度の竣工を目指しているそうだ。このビルに先立つ2023年12月には、五反田駅から南に徒歩8分ほどの旧ゆうぽうと跡地に地上20階・地下3階建ての複合ビルができる予定。高層階には宿運営で人気の「星野リゾート」が手がけるホテル、その下にはオフィスエリアや飲食エリア、品川区運営の多目的ホールが設置されるという。

五反田駅周辺(写真/PIXTA)

五反田駅周辺(写真/PIXTA)

さらに、15位・五反田駅~16位・目黒駅の間には、新街区「MEGURO MARC」が生まれている。賃貸住宅、分譲住宅、オフィスの3棟からなる「複合型のまちづくり」が進められ、すでに地上13階・地下1階建てのオフィス棟と、地上24階・地下2階建ての賃貸住宅棟は2022年に完成。3棟のうち最も高層ビルとなる地上32階・地下1階建ての分譲住宅棟は、2023年8月竣工予定だ。

今回の調査では、JR山手線の南側としては家賃相場が低めだった高輪ゲートウェイ駅~目黒駅間。上記に挙げた以外の高輪ゲートウェイ駅~品川駅間を含めて続々と再開発が進行しており、このエリアの注目度が高まっていくのは必至だろう。今後は家賃相場が上がることも考えられるので、今のうちに一度住んでみるのもアリかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/1~2022/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

「住みたい街ランキング2023関西版」自治体では明石市・草津市が大躍進。駅は梅田が西宮北口を引き離し断トツ1位に!

リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2023関西版」を発表した。さて今年の順位は?

TOP3は昨年同様1位「梅田」、2位「西宮北口」、3位「神戸三宮」

まず、今年の「2023年の住みたい街(駅)ランキング」の結果を紹介しよう。
TOP3は1位が関西ナンバーワンの都心「梅田」、2位が盤石の人気を誇る阪神間の街「西宮北口」、3位が神戸市の玄関口「神戸三宮」だった。
順位は昨年(2022年)と同じだが、1位と2位の得点差は122点と昨年より広がっており、「梅田」の人気の高まりがより顕著となった。

関西住みたい街(駅)ランキング

20位までに目を向けると、滋賀県の「草津」が7位にランクインし、2018年以降の最高位を獲得した。
「京都河原町」「心斎橋」も過去最高位に。それぞれ京都市、大阪市の中心エリアにあり、商業施設が集積する華やかな街。大都市の利便性を存分に享受できるのが共通した魅力だ。

「梅田」の圧倒的な強さは、資産価値重視の傾向が背景に

2位と得点差を大きく広げて断トツ1位となった「梅田」は、昨年の得点と比べても82点もポイントアップしている。
街の魅力項目では、「働く場として」「街の賑わい」などのほか、「不動産の資産価値が高そう」が上位にあげられた。
別途SUUMOで行った「住まいの価値観に関する調査」では、若い世代ほど住宅の資産性を重視し、そのときに自分に合った選択で住み替えたいと考える傾向がある。現在、梅田周辺は「うめきた2期地区開発プロジェクト」が進み、関空直結のJR「うめきた新駅」が今年3月開業など、資産価値の面で高いポテンシャルを持つ。
本来、ビジネスや商業のイメージが強い梅田だが、JR大阪駅北側「うめきた」エリアの再開発による活性化で住宅供給も増加。直近の5年間でも徒歩15分圏内で3000戸以上の分譲マンションが供給された。
住宅の増加や、資産価値重視の傾向が、住む対象として大きな注目を集める背景となっているのだろう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

得点がジャンプアップした街(駅)ランキング

さらにTOP50の中で大きく得点を上げた街を見てみよう。
神戸三宮(+49点、3位→3位)、十三(+37点、123位→68位)、中津(+36点、48位→32位)など、都心部の注目度の高さがうかがえる。
一方、「嵐山」(+60点、25位→13位)、「伏見桃山」(+29点、146位→81位)、御影(+29点、30位→24位)、箕面(+29点、33位→25位)なども順位を上げた。都心へのアクセスが良い上、緑豊かな自然環境にも恵まれた近郊の街も支持を集める結果となった。

「住みたい自治体ランキング」では明石市が初のトップ3入り

アンケートでは「住みたい街(駅)」とともに「住みたい自治体」についても尋ねた。ランキングに合わせて、昨年から得点がジャンプアップした注目の自治体のトピックスにふれていこう。

関西住みたい自治体ランキング

得点がジャンプアップした自治体ランキング

1位は昨年に引き続き「兵庫県西宮市」、2位が「大阪府大阪市北区」。3位は昨年の6位から大きくランクアップした「兵庫県明石市」だ。得点も昨年から131ポイントアップ。自治体の中で最も得点を伸ばした。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

近年の明石市の人気には目を見張るものがある。
明石市を支持したのは、「夫婦+子ども世帯」「女性総合」「女性30代」が多く、「シングル女性」「シングル男性」でも過去最高位を獲得。
街の魅力を尋ねると、全国的にも有名な「子育てサービスの充実」のほか、「メディアに良く取り上げられて有名」「今後街が発展しそう」などの回答が多かった。行政の独自施策とメディアへの発信力がランクアップに功を奏したとも言えそうだ。(子育て支援の“東西横綱”千葉県流山市と兵庫県明石市、「住みたい街ランキング」大躍進の裏にスゴい取り組み)
明石市への投票は関西出身者では昨年の4位から3位にアップだが、関西圏以外の出身者でみると昨年の17位から5位と、大幅に上昇した。話題をきっかけに関西に地縁の薄い人からも注目を集めるようになってきており、さらなる人口増が期待される結果となった。

また、「子育てに関する自治体サービスが充実している」の項目で明石市に次いで2位となったのが、「住みたい自治体」で24位にランクインした箕面市。昨年からの得点ジャンプアップランキングでも5位に入っている。
18歳以下の子どもの医療費無料(親の所得制限なし)や、通学路や公園の防犯カメラ設置やコミュニティバス「オレンジゆずるバス」の運行など、子育てや防犯、福祉などのサービスが充実した街だ。
一方、街づくりの面でも、大阪大学箕面キャンパスが2023年度開業予定の「箕面船場阪大前駅」に移転し、周辺には図書館や芸術劇場なども誕生予定。「みのおキューズモール」と繋がる「箕面萱野駅」も2023年度に開業予定と、今後の資産価値上昇への期待も膨らみそうだ。

箕面萱野駅(写真/PIXTA)

箕面萱野駅(写真/PIXTA)

若い世代の人気を集めた華やかな街、大阪市天王寺区。働き暮らす街として存在感を高める草津市

大阪市天王寺区は昨年の7位から今年は4位に。年代・ライフステージ別では20代で2位、20代男性では1位と若い世代から人気を集める結果となった。得点ジャンプアップランキングでも明石市に次ぐ2位。主な理由に「文化・娯楽施設の充実」や「街に賑わいがある」などがあげられ、華やかな印象の街として人気を集めていることがわかる。
天王寺区には2014年に「あべのハルカス」がオープンし、翌2015年には天王寺公園にサッカーコートやレストラン、カフェなどの施設を備えた「てんしば」エリアがオープン。その後も「てんしばi:na」など、新しい施設の誕生が相次いだ。“楽しく暮らせる街”の顔が人々の心をつかんだようだ。

てんしばi:na(写真/PIXTA)

てんしばi:na(写真/PIXTA)

「住みたい自治体ランキング」で初のトップ10入りした草津市。「住みたい街ランキング」でも昨年より順位を上げ7位にランクイン、得点ジャンプアップランキングでも前述の箕面市に次ぐ6位に食い込んでいる。
草津市は再開発により大型商業施設を整備。草津駅を核とする発展への期待に加えて、琵琶湖畔の美しい景観や、JRで京都や大阪と直結する交通アクセスの良さなども魅力だ。
街の魅力が広く認知されるととともに、人口増加も顕著に。草津市のある滋賀県は転入超過数が全国で8番目、関西2府4県では1番多く、中でも草津市は大津市に次ぐ転入超過数だ。立命館大学をはじめとする産官学連合による製造業の発展などの成果もあり、働き暮らす街としての存在感を増しているといえるだろう。

派手さはなくても魅力ある街の登場に期待

2023年の「住みたい街ランキング」では、「梅田」が圧倒的人気を集めた。また、「神戸三宮」「十三」「中津」「なんば」なども大きく得点を伸ばし、大都市中心部の人気の高まりが顕著となった印象だ。
一方、大きく躍進した郊外の街もある。子育て施策を中心とするサービスが全国的な話題となり人口増を実現した「明石」、再開発で評価を高めた「草津」などだ。どちらも街の整備や市民目線の施策の充実に取り組み、地道に成長してきた結果と言えそうだ。
大都市やブランド的な街だけでなく、派手さや知名度はなくても魅力のある街がこれからも登場してほしいと感じる。

●関連リンク
「SUUMO住みたい街ランキング2023 関西版」プレスリリース

猫飼いさんの家選び、マンション・戸建て・リノベ、どれがいい?注意したいポイントは”ペットトラブルの防止”

2月22日は「猫の日」だったのニャー。「猫の日」にちなんで、ゼロリノベを運営するgroove agentが、東京都在住の猫を飼っている20~40代の男女1000人を対象に、猫と暮らす家に関してアンケート調査を実施した。それによると、猫と暮らす家にはお悩みがいろいろあるのだという。どんなことだろうか?

【今週の住活トピック】
「猫と暮らす家のお悩みランキング」を公表/groove agent

3位「家具や壁で爪をとぐ」、2位「毛が抜けて敷物や洋服につく」、そして1位は?

筆者はかつて「ペットは犬より猫? 散歩、しつけの手間が犬人気下落の要因か」という記事を書いたが、ペットフード協会の調査によると、飼育されるペットの頭数は、2014年以降ずっと猫が犬を上回っている。それほど、ペットとして猫の人気は高いのだ。

家族同様の愛猫でも、猫と暮らす家についてはお悩みも多いようだ。ゼロリノベの調査によると、お悩みの3位は「家具や壁で爪をとぐ」、2位は「毛が抜けて敷物や洋服につく」、そして1位は「猫飼育可能な物件が少ない」という結果だった。

出典:ゼロリノベ調べ

猫と暮らすうえで、家の中のことは対応方法を自身で工夫できたとしても、住める家自体が見つけにくいことが最大の悩みごとというわけだ。

猫と暮らすために住み替えるなら、新築戸建て?

調査対象者が現在猫を飼っている家は、「賃貸」が51%、「持ち家」が49%とほぼ同じだ。ただ、「猫と暮らす家」として満足しているのは全体の44%で、その内訳は「持ち家」が57%を占めたので、持ち家のほうがやや満足度が高いようだ。賃貸に不満を感じる理由としては、家が狭いことなどが挙がっているという。

では、「猫と暮らすために購入・住み替えするなら」どんな家がよいのだろう。結果は「新築戸建て」が最多の32%だった。「中古戸建て」の14%と合わせると戸建てが46%になり、マンション(新築マンションと中古マンションの合計で39%)より戸建てのほうが猫と暮らしやすいと思っている人が多いようだ。戸建てに住み替えを検討している人のコメントに、「管理組合などの規定に縛られない戸建てに住み変えたい」とあるように、マンションでは「管理規約」などでペット飼育に関する細かい制限があるからだろう。

出典:ゼロリノベ調べ猫の飼育が可能な物件を探す際に注意したいこと

猫の爪とぎ用のボードを壁に張ったり、こまめにブラッシングしたりと、猫を飼ううえでの工夫などはいろいろあるだろうが、ここでは、猫が飼える物件を探すときに注意したいことを説明しよう。

まず、賃貸物件について。はじめから「ペット可」で入居者を募集している物件を選びたい。その場合でも、ほかの入居者とのトラブルを避けるために、ペット飼育のための建物になっていたり、飼育のルールがあったりするほうがよいだろう。賃貸物件の中には、エントランスに足洗い場があったり、室内の壁のクロスを上下に分けて下の部分だけ張り替えできるようになっているものもある。また、一般的には、退去の際にはペットによる臭いや損傷について原状回復が求められるので、室内の仕様設備や契約書の内容などもしっかり確認したい。

次に、新築や中古のマンションの購入について。マンションには「管理規約」などの規則がある。必ず「ペット飼育可能」になっているか確認し、ペット飼育の条件としてどんなルールがあるかを詳しく調べよう。ペットの大きさや頭数に制限がある場合がほとんどなので、自分の希望通りに猫が飼えるか確認したい。ほかにも、ペット委員会などの飼育者の組織があり、予防接種を義務づけるなどの会則が整っているほうがよいだろう。ペット対応型マンションとして、ペット飼育のための共用設備や設計がなされているものもある。

新築か中古かについては、いろいろな考え方があるだろう。先ほどの調査結果では、猫と暮らすために購入・住み替えをするなら新築戸建てに住みたいと回答した人のなかには、「注文住宅にすれば自分たちにも猫にも住みやすい家が設計できるかもしれないから」とコメントした人もいて、分譲の新築物件ではなく注文住宅を建てるイメージをもっている人もいるようだ。同じ理由で、中古住宅を買ってリフォームやリノベーションをしたいと回答した人もいるだろう。

猫の安全や健康を守るには、滑りにくい床材やペットドア・キャットウォークの設置など、通常の住宅にはない仕様や設備を採り入れる必要がある。そういう意味では、中古住宅を買ってすぐに、あるいは一定期間が経ってからペット対応のリフォームをするという選択肢も有効だ。

最後に指摘したいのは、猫を飼っている人との情報交換も大切だということ。戸建てのほうが規制を受けることなく猫を飼える側面もあるが、マンションの場合には飼育仲間と情報交換ができるという側面もある。何を重視するかをよく考えて、詳しく調べたうえで物件を選ぶのがよいだろう。

さて、本連載の筆者の担当編集者は犬派らしいが、SUUMOジャーナルの記事で「猫」のテーマは人気だという。丸まって寝たり猫じゃらしで遊んだりする姿を見れば、癒やされて家事や仕事の疲れも解消されることだろう。室内で飼いやすいこともあって、猫人気は今後も続くと思われる。飼い主にとっても愛猫にとっても、暮らしやすい家が増えることを期待している。

●関連サイト
「猫と暮らす家のお悩みランキング」(ゼロリノベ調べ)

保証人がいなくても賃貸探しに選択肢を。入居困難の壁にぶつかった人同士、互いに見守り、一人にしない「やどかりサポート鹿児島」の取り組み

やどかりサポート鹿児島は、住まい探しのなかで保証人の確保ができないために入居が困難となった人たちに保証を提供しているNPO法人です。さらに2019年からは保証制度の利用者で互いに支え合う仕組みを提案し、居住支援を続けています。これらの支援はどのようにして成り立っているのか、また始めた背景などを、やどかりサポートの理事長である芝田淳さん、社会福祉士の中芝あすかさん、そして実際にこの新しい連帯保証制度を利用する人に話を聞きました。

やどかりサポート鹿児島が取り組む「地域ふくし連帯保証」とは

入居の際に必要な「連帯保証人の確保」は、賃貸借契約に必ず必要なことです。昨今は多くの物件が、「家賃保証会社」を使用することが入居の条件となっていて、入居者は保証会社に一定の料金を支払う代わりに滞納等があった場合は、保証会社が立て替えるという仕組みになっています。

個人で連帯保証人を立てる必要は少なくないのですが、高齢者・外国人・低所得者・障がい者・ひとり親世帯などにおいては、保証会社の審査に通りにくかったり、自身で連帯保証人を立てようにも、頼める親族や知人がいなかったりで、さらに困難な問題に直面することが少なくありません。

「居住支援とは、全ての人がその人らしい生活を営むための拠点となる住居を確保できるよう支援を提供するものです。私たちは、保証人となってくれる親類や知人がいない、審査で保証会社に断られてしまう人たちも入居できるよう、連帯保証を提供しています」(芝田さん)

特徴的なのは、ただ保証を提供するだけでなく、それぞれの利用者に支援者を配置して、生活全般について見守り、何か困ったことがあれば相談に乗る支援を一緒に行っていること。

「連帯保証とともに必要なのは、困っている人たちを社会から孤立させない支援です。そこで、私たちは、保証と同時に地域で福祉に関わっている人たちが『支援者』として制度利用者の日々の生活を継続的に見守る『地域ふくし連帯保証(地域ふくし連携型連帯保証提供事業)』のスキームを考えました」(芝田さん)

やどかりサポート鹿児島は、鹿児島県全域で、支援者の配置と2年間で2万円の利用料を支払うことを条件に、収入や過去を問うことなく連帯保証しています。スタッフ数21名(連帯保証部門11名、相談支援部門10名)の NPO法人ですが、行政や協力機関と連携し、2022年現在、年代も事情もさまざまな約400名の利用者がいるそうです。

ただ保証するだけでなく、支援者が見守り、支援することで利用者が「つながり」のなかで安定した地域生活を送れるようにすることを目指す。滞納などの金銭や法的問題が起こった場合の保証はやどかりサポート鹿児島が担うのが特徴(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

ただ保証するだけでなく、支援者が見守り、支援することで利用者が「つながり」のなかで安定した地域生活を送れるようにすることを目指す。滞納などの金銭や法的問題が起こった場合の保証はやどかりサポート鹿児島が担うのが特徴(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

利用者が互いに助け合う、当事者主体の居住支援

連帯保証するということは、何かあったら債務を負うことでもあります。利用者が孤独死してしまったり、仕事が続かずに家賃を滞納してしまったりするケースもありますが、「支援者による利用者の暮らしの見守りで、事前に防ぐことができる」と芝田さんは言います。

「保証すると同時に支援者による見守りや支援を基本としていますが、どうしても支援者が見つからない場合があります。そこで、利用者が同じような境遇の者同士、支え合っていく『やどかりライフ』というスキームを考えました。これに応える形で、利用者の方々が互助会を作ってくれました」

利用者が企画した交流会をやどかりサポート鹿児島のスタッフがサポートする。利用者が互いを支え合う「やどかりライフ」(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

利用者が企画した交流会をやどかりサポート鹿児島のスタッフがサポートする。利用者が互いを支え合う「やどかりライフ」(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

役所への手続きをサポートしたり、病院の入退院に付き添ったり、足の悪い人の買い物を手伝ったりと、日々の暮らしを、同じ利用者内でできる人が助けます。また、身寄りのない人も多いので、亡くなったときにはほかの利用者が見送りもするそうです。

やどかりサポート鹿児島と互助会のメンバーで行った、亡くなった利用者の初盆の様子(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

やどかりサポート鹿児島と互助会のメンバーで行った、亡くなった利用者の初盆の様子(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

トラブルは当然起こる。それでも同じ目線で見守ることが大事

当事者同士で見守る仕組みはとても画期的なものに思えますが、人と人との付き合いのなかでトラブルが起こることなどはないでしょうか。

「トラブルはたくさん起こります。しかし、トラブルを恐れてつながることができないのなら、トラブル覚悟でつながったほうがいいというのが、私の考えです」(芝田さん)

難しいのは、どこまで関わればよいのか。なかにはプライベートなことにあまり関わってほしくない人もいます。考えの違いから利用者同士で揉めることもあるのだそう。5人程度のグループならコミュニケーションが取れても、10人以上の規模になるとうまくまとまらないことも。「ルールで縛るのではなく、自主性を重んじるほうがうまくいく」というのは、互助会メンバーの感想です。

1日に1回、ラインで発言することで、見守られるだけでなく、見守る役目をそれぞれが担う。一方で人数が多くなると、発言しない人やプライベートに関わられることを嫌がる人もいて、うまくいかないという気付きも得られたそう(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

1日に1回、ラインで発言することで、見守られるだけでなく、見守る役目をそれぞれが担う。一方で人数が多くなると、発言しない人やプライベートに関わられることを嫌がる人もいて、うまくいかないという気付きも得られたそう(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

利用者同士が中心になって支え合うものの、やどかりサポートは困ったことがあればいつでも相談に乗り、バックアップしていく体制を取っています。

支援の考え方について、事務局スタッフの一員でもある社会福祉士の中芝さんは、こう話してくれました。

「社会福祉士としては、トラブルを起こさないために、あらかじめ対策を取るべきなのかもしれません。しかし、やどかりサポート鹿児島は、互助会の人たちと一緒に歩んでいく関係です。トラブルに対して、介入したり指導するのは違うと思うのです。相談されたことに対しては真摯に答えますが、相談を受けない限りはそばで見守るという距離感が大事で、そうすれば自ずと本人同士でトラブルを解決することが多いと感じます」
この言葉に、利用者と同じ目線で関わっていく、やどかりサポートの支援の本質が表れています。

やどかりサポートの連帯保証とやどかりライフがもたらした変化とは

やどかりライフの取り組みは、当事者同士の連帯感が生まれただけでなく、やどかりサポートの運営者と利用者の関係にも変化をもたらしました。利用者に別の利用者へのサポートをお願いすることで、支援する側と受ける側という関係から、共に支え合う対等な立場で向き合えるようになったといいます。

「あくまで私の意見ですが、役割をもち、活躍の場ができることで、前向きに生きる意欲を取り戻し、互助会も盛り上がっていくのだと思います。ですから、何かをしてあげるのではなく、時には、こちらから利用者に対して手伝ってほしいと頼むことも大事なんです」(芝田さん)

引きこもりがちな人や、人の温もりに触れたことがあまりなく尖っていた人も、根気強く接してくれた仲間とのふれあいを通じて心を開き、今では互助会に積極的に参加するまでになったそうです。

「自分は、役割ができたことがすごく嬉しかったです。仕事をしていない人も多いので、家に一人でいることが多くなるのですが、頼み事をされたり、頼られたりするとやる気が湧きました」(利用者)

役割をもつことで責任感が芽生え、利用者同士の連帯感も生まれる(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

役割をもつことで責任感が芽生え、利用者同士の連帯感も生まれる(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

連帯保証事業から賃貸管理へ。広がりを見せることで支援に幅ができる

やどかりサポート鹿児島は21名のスタッフで、さまざまなトラブルや問題にも対処しています。

「連帯保証事業では、過去に何かトラブルが起きた際に物件のオーナーとの連携が密でないと、私たちスタッフは何も動けないという事例が多くありました。解決方法の一つとして、よりオーナーから任される範囲の大きいサブリース型に興味をもったのですが、やどかりサポートはあくまでNPO法人。直接、サブリース業を営むことは難しいと判断しました」(中芝さん)

そこで、芝田さん個人が地元の不動産会社と組んで、賃貸管理業を行う合同会社を設立しました。

マンションの一般の入居者と建物の管理はプロの不動産会社が行い、空き部屋が出た場合のやどかりサポート利用者への貸し出しと、利用者が入居している部屋の管理は合同会社が行います。芝田さんの合同会社は利用者の継続的な見守りや相互の関わりなどをバックアップします。そしてその管理料がやどかりサポートの収入源となります。賃貸管理業ですが、やどかりサポート利用者にとっては「大家さん」みたいな役割です。

「さらに大家さんになることで、入居者との関係を密にすることができ、また、何かあった際には、シェルターとして部屋を提供するなど、支援の幅も広がりました。現在、管理会社として関わっているサブリースが約40件、管理物件は約120件。うち、やどかりサポートの利用者は60名ほどになりました」(芝田さん)

「やどかりライフ」に参加する仲間たちが、一人では手続きが難しい人のために、銀行に同行するなどのサポートも行っている(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

「やどかりライフ」に参加する仲間たちが、一人では手続きが難しい人のために、銀行に同行するなどのサポートも行っている(画像提供/やどかりサポート鹿児島)

金銭的にも、マンパワー的にも、小さなNPO法人が居住支援を継続していくには多くの協力が必要です。支援したくとも、身近に支援者がいない、鹿児島市以外の地域の方は、断腸の思いで断らざるを得ないこともあるのだとか。

それでも、「より多くの入居の連帯保証に困っている人たちを支援するために「やどかりライフ」のような互助の取り組みを鹿児島市以外の地域でも志のある組織が行えるような流れをつくっていきたい」と話す芝田さん。このような取り組みを全国的に広めていくには、行政や公的機関、企業などとの連携も必須だと言います。

「支援をしてあげるのではない、共に考え、行動していくのだ」という芝田さんの言葉は、私たちに多くの気付きを与えてくれるのではないでしょうか。

●取材協力
やどかりサポート鹿児島

「東急東横線」沿線、家賃相場が安い駅ランキング 2023年版

渋谷や中目黒、武蔵小杉など多数の人気エリアが沿線にある東急東横線は、「SUUMO住みたい街ランキング2022 首都圏版」の「住みたい沿線ランキング」でも3位にランクインしている人気路線。東京都渋谷区から神奈川県横浜市まで21駅を結んでおり、駅ごとに特徴もさまざまだ。そんな東急東横線の沿線で、リーズナブルに賃貸物件に住むならどこがいいのか? 駅から徒歩15分圏内にある、シングル向け物件(専有面積10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が安い駅を調査した。全21駅のランキングをご紹介しよう。

東急東横線の家賃相場が安い駅ランキング

順位/駅名/家賃相場/駅の所在地
1位 白楽 5.85万円 神奈川県横浜市神奈川区
2位 妙蓮寺 5.95万円 神奈川県横浜市港北区
3位 東白楽 6.00万円 神奈川県横浜市神奈川区
4位 日吉 6.60万円 神奈川県横浜市港北区
5位 大倉山 6.93万円 神奈川県横浜市港北区
6位 反町 7.00万円 神奈川県横浜市神奈川区
7位 菊名 7.10万円 神奈川県横浜市港北区
8位 元住吉 7.20万円 神奈川県川崎市中原区
9位 綱島 7.50万円 神奈川県横浜市港北区
10位 多摩川 7.90万円 東京都大田区
11位 新丸子 8.00万円 神奈川県川崎市中原区
12位 武蔵小杉 8.20万円 神奈川県川崎市中原区
13位 横浜 8.39万円 神奈川県横浜市西区
14位 田園調布 8.50万円 東京都大田区
15位 自由が丘 8.80万円 東京都目黒区
16位 祐天寺 9.00万円 東京都目黒区
17位 学芸大学 9.20万円 東京都目黒区
18位 都立大学 9.40万円 東京都目黒区
19位 中目黒 11.10万円 東京都目黒区
20位 渋谷 12.50万円 東京都渋谷区
21位 代官山 12.60万円 東京都渋谷区

TOP3は横浜駅まで電車で10分以内の近さで家賃相場6万円以下

全21駅ある東急東横線のうち最も家賃相場が安かった駅は、白楽駅で家賃相場5万8500円。2位は妙蓮寺駅で家賃相場5万9500円、3位は東白楽駅で家賃相場6万円という結果に。ちなみにこの3駅は横浜方面に向かって2位・妙蓮寺駅~1位・白楽駅~3位・東白楽駅と連続しており、東白楽駅から2駅先に横浜駅がある。

1位・白楽駅は2021年春に駅舎が増築され、24時間営業のフィットネスジムと「タリーズコーヒーKU白楽駅店」がオープンしている。このタリーズコーヒーは白楽駅から徒歩約15分の場所に横浜キャンパスがある神奈川大学とのコラボカフェで、大学や地域の情報発信基地としての役割も担っているんだとか。学生が多い街だけあって、駅周辺にはリーズナブルな飲食店も豊富。駅西口側の「六角橋商店街」にはスーパーやドラッグストアはもちろん、食料品や生活用品の個人商店も立ち並びにぎやかな雰囲気だ。

六角橋商店街(写真/PIXTA)

六角橋商店街(写真/PIXTA)

「六角橋商店街」を抜けると県道12号・横浜上麻生道路の六角橋交差点にぶつかる。交差点から神奈川大学の横浜キャンパス方面にかけては「六角橋協栄会」、交差点を左折した横浜上麻生道路沿いには「にしかな商店街」と商店街がさらに続く。そのまま横浜上麻生道路を7分ほど歩くと3位・東白楽駅にたどり着く。

3位・東白楽駅の駅前に商店街はなく、個人商店やコンビニ、ミニスーパーが点在する程度。白楽駅と比べると静かな雰囲気といえる。駅の東側は県立高校、西側は仏教寺院の敷地が広がり、それ以外は住宅地となっている。しかし買い物に不便な環境ということもなく、東白楽駅から南へ8分ほど歩くとショッピングモール「イオンスタイル東神奈川」へ。さらにそこから徒歩約3分でJR東神奈川駅の西口に到着。東神奈川駅は東口側にもショッピングモールがあるなど大いににぎわっており、駅前広場をはさんで京急本線の京急東神奈川駅も。東白楽駅周辺に住むと、東急東横線とJR、そして京急本線の3路線が利用できるというわけだ。

2位・妙蓮寺駅の様子も見てみよう。妙蓮寺駅は1位・白楽駅から北に歩いて15分ほど。駅東側には駅名の由来であるお寺「妙蓮寺」の境内が広がっている。駅西側にはスーパーやドラッグストアなどが立ち並ぶ商店街があり、その先には春のお花見名所としても愛される「菊名池公園」が広がる。商店街にはラーメン店やファストフード店、こぢんまりとしたカフェも。手軽に食事を済ませたい場合や息抜きしたいときにも商店街が役立ちそう。

菊名池公園(写真/PIXTA)

菊名池公園(写真/PIXTA)

トップ3の駅周辺にはいずれも大型の商業施設はないけれど、東急東横線に乗ると2位・妙蓮寺駅から1位・白楽駅と3位・東白楽駅を経由して一大繁華街の横浜駅まで約7分。みなとみらい線直通の東急東横線でそのまま横浜駅の先にある人気エリア、みなとみらい駅や元町・中華街駅に行くこともできる。ちなみに横浜駅は13位にランクインしており、家賃相場は8万3900円。トップ3との価格差が2万3000円以上あると考えると、家賃相場が低い白楽駅などに住んで、用事があるときはサクッと横浜駅に出る……という暮らし方もアリだろう。

都内の駅は軒並み家賃相場が高めだが、割安に思える駅も

トップ3のほかにも注目の駅をいくつかピックアップしたい。まずは家賃相場6万6000円で4位にランクインした日吉駅。通勤特急に乗れば、横浜駅まで2駅・約11分、横浜と反対方面の渋谷駅までは4駅・約20分で行ける。日吉駅には東急目黒線と横浜市営地下鉄グリーンラインも乗り入れているほか、2023年3月にはさらにアクセス性が向上。日吉駅と相鉄本線・西谷駅を結ぶ連絡線となる東急新横浜線が開業を迎えるのだ。日吉駅~西谷駅間には新横浜駅もあるため、同駅に停車する東海道新幹線への乗り換えもグッと楽になる。

日吉駅(写真/PIXTA)

日吉駅(写真/PIXTA)

そんな新線開業に沸く4位・日吉駅は慶應義塾大学のお膝元。東口駅前にイチョウ並木が印象的な日吉キャンパスが広がり、多くの学生に利用されている。駅には「日吉東急アベニュー」が併設され、地下1階から地上3階にかけて食料品やファッション・雑貨、家電まで多彩な店舗がそろっている。西口駅前には学生にも愛用されるリーズナブルな飲食店が多数あり、自炊をあまりしない人も飽きずに毎日いろんなものが味わえるだろう。

さて、東急東横線沿線にせっかく住むなら「交通面でも買い物面でも便利な横浜駅がいい」と考える人もいるかもしれない。しかし家賃相場は専有面積10平米以上~40平米未満で8万3900円と思うと悩ましい。そんなとき狙い目は、6位・反町(たんまち)駅。横浜駅の隣駅であり歩いても15分弱という立地ながら家賃相場は7万円で、横浜駅よりも1万3900円低いのだ。反町駅周辺は住宅街で、暮らす街としてはにぎやかな横浜駅よりもこちらが落ち着くと思う人もいるだろう。精肉店や青果店などの個人商店やドラッグストア、安さがウリのスーパー、ファストフードなどのリーズナブルな飲食店もあるため、日常生活に困らない。のんびり散歩できる「東横フラワー緑道」や「反町公園」といった憩いの場も駅近くにあり、落ち着いた暮らしと横浜駅の便利さをイイトコどりできる環境だ。

ここまで見てきた駅はいずれも神奈川県横浜市内なので、東京都内に位置する駅もチェックしよう。都内の駅は10位・多摩川駅をのぞいて家賃相場が8万5000円以上。渋谷駅に近づくとやはり家賃相場もはね上がるようだ。そうしたなかでも注目は16位・祐天寺駅。渋谷方面の隣駅である中目黒駅は家賃相場11万1000円(19位)、横浜方面の隣駅である学芸大学駅は家賃相場9万2000円(17位)なのに対し、両駅の間にある祐天寺駅は家賃相場が9万円にとどまっている。

祐天寺駅前(写真/PIXTA)

祐天寺駅前(写真/PIXTA)

16位・祐天寺駅は各駅停車しか停まらないためか知名度は低めかもしれないが、渋谷駅までは3駅・約7分の近さ。東急東横線の高架化にともなって2018年に誕生した駅ビル「エトモ祐天寺」が併設され、スーパーやドラッグストア、飲食店などが利用可能だ。駅周辺にはチェーン系から個性派までさまざまな飲食店や、人気の洋菓子店、しゃれた古着店など多彩な店舗が並んでいる。一方で活気あふれる通りを少し外れると静かな住宅地に。のんびりした暮らしと生活に便利な街並み、渋谷までの近さを兼ね備えつつ家賃相場9万円というのは、環境のよさの割には狙い目とも言えるかもしれない。2021年には駅周辺の整備計画が策定され、今後数年間をかけてより住みやすい街へと進化していく点も楽しみだ。

家賃相場ランキング

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東横線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/8~2022/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

懐かしさ感じる”リノベ団地”に広がる人の輪! 保育園&農園付きで3年満室続く「ハラッパ団地・草加」を訪ねた

昭和の高度経済成長期に大量に建設された「団地」を、現代の暮らしに合うようリノベーションし、再評価・再活用する動きが続いています。では、そのリノベ団地は、コロナ禍を経てどうなっているのでしょうか。2019年に紹介した「ハラッパ団地・草加」の今を取材しました。

築51年でも満室! 家賃を維持するなど、人気ぶりは健在

1971年、企業の社員寮として建築された建物をリノベして誕生した「ハラッパ団地・草加」。2018年に建物内外を刷新し、シェア農園や保育園、ドッグランを持つ賃貸住宅として生まれ変わりました。1800坪というゆとりのある敷地に、明るい黄色の2棟の建物があり、1LDK~2DKの全55戸で構成されています。ペット飼育OKで、1階に保育園があるなどの付加価値もあるため、2019年に取材したときも全室満室、ウェイティングリストができるほどの人気ぶりでした。

ハラッパ団地・草加の外観。前回取材時のときよりも、いっそう地域になじんだ印象です(写真撮影/嘉屋恭子)

ハラッパ団地・草加の外観。前回取材時のときよりも、いっそう地域になじんだ印象です(写真撮影/嘉屋恭子)

あれから3年、コロナ禍もあり、ライフスタイルや価値観、住まいに求めるものも変わったように思います。その後、「ハラッパ団地」はどうなっているのでしょうか。

「3年たった今でも全室満室が続いていて、空室がでたら入居したいという希望者がいらっしゃいます。家賃も維持、または一部で上昇しているんですよ」と教えてくれたのは、広報を担当する山本恵美さん。

長らく新築住宅が最良とされてきた日本では、築年数が経過するごとに家賃を値下げするのが当たり前、半世紀も経過すれば建物の価値はほぼなくなるといわれてきました。それが築51年以上たっても家賃が下がるのではなく、上昇するとは……。適切にリノベ、管理運営されていれば、建物は長持ちするだけでなく、賃貸住宅として価値を向上させることができると証明した格好です。

保育園があることから子育て世帯の入居希望が多そうですが、実際にはシングルや夫婦暮らしなど、幅広い世帯や世代が入居しているそう。
「子どもの声が聞こえる、ということが安心感につながっているようで、一人暮らしの人にも人気となっています」。子どもたちの声が、「あたたかさ」「安心感」につながるのは、住む人にとっても、子どもたちにとっても、とても幸せなことですね。

イベントの参加者には子どももいっぱい。親世代も明るい表情です(写真撮影/片山貴博)

イベントの参加者には子どももいっぱい。親世代も明るい表情です(写真撮影/片山貴博)

収穫体験にクッキングイベント。交流を生むコミュニティー運営

ハラッパ団地・草加は、農園やドッグラン、食堂などの「地域にひらく」施設も魅力のひとつでした。ただ、こうしたコミュニティー運営は人とノウハウ、時間、予算が必要になります。ましてやこの3年はコロナ禍。人を集める、人が集まるのが難しくなってきた背景もあります。運営はどのように変化したのでしょうか。

「2020年、緊急事態宣言もあり感染状況を考慮して食堂は閉店、ランドリールームなども検討しましたが、団地の人が集まれる場所をということで、コミュニティールームに変更しました。この場所は団地住民であればオンラインで予約・利用できます。お住まいの方は、テレワークやオンライン会議などの場所として使っているようです」と山本さん。地域住民に、集会所・サロンの開催場所として、貸し出しも行っています。

また、2021年12月よりこのコミュニティールームを使い、「味噌づくり」「ヨガ教室」「ピクルスづくり」などのコミュニティー運営を実施するようになったといいます。
「イベントの実施主体は、ハラッパ団地を管理するハウスコムとアミックスです。コミニティーマネージャーや撮影・運営スタッフなどがいて、団地の方と地域の方が、交流を深めていける試みをしています。イベントや畑の活動は今のところ月1回のペースで行っていて、毎回参加くださる方もいれば、スポットで初めてという人も。毎回、なごやかな雰囲気でできています」(山本さん)

ハラッパ団地のコミュニティー運営に携わっているみなさん。左から細越雄太さん(農業指導)、森永顕光さん(アミックス社員)、町田国大さん(コミニティーマネージャー)山本恵美さん(コミニティーマネージャー)、夏目力さん(ライター・撮影)(写真撮影/片山貴博)

ハラッパ団地のコミュニティー運営に携わっているみなさん。左から細越雄太さん(農業指導)、森永顕光さん(アミックス社員)、町田国大さん(コミニティーマネージャー)山本恵美さん(コミニティーマネージャー)、夏目力さん(ライター・撮影)(写真撮影/片山貴博)

11月は、10月に収穫したさつまいもを使ってのピザ窯での焼きいもとピザづくり、畑に玉ねぎの苗を植えるイベントを実施していました。参加者は筆者が想像していたよりも多く、なんと30人以上! 参加者は多くが未就学児~小学校低学年のお子さんと保護者の方々です。お天気はあまりよいとはいえない状況でしたが、子どもたちは広場や周囲をうきうきと走り回っていました。

11月に行われた焼きいもとピザ焼きの会。まずはみなさんでご挨拶。細越雄太さんが、今日の流れを説明します(写真撮影/片山貴博)

11月に行われた焼きいもとピザ焼きの会。まずはみなさんでご挨拶。細越雄太さんが、今日の流れを説明します(写真撮影/片山貴博)

さつまいもは紅はるかと安納芋、シルクスイートの3種類を用意して、食べ比べる計画。味の違いはわかるかな?(写真撮影/片山貴博)

さつまいもは紅はるかと安納芋、シルクスイートの3種類を用意して、食べ比べる計画。味の違いはわかるかな?(写真撮影/片山貴博)

洗ったさつまいもをアルミホイルで包んで……(写真撮影/片山貴博)

洗ったさつまいもをアルミホイルで包んで……(写真撮影/片山貴博)

ピザ窯のなかにいれます。焼き上がりは1時間程度……ワクワクです!(写真撮影/片山貴博)

ピザ窯のなかにいれます。焼き上がりは1時間程度……ワクワクです!(写真撮影/片山貴博)

セミパブリックだからこそできる! 団地の可能性

今回、イベントに参加された方々は、団地にお住まいという方もいれば、ご近隣にお住まいという方もいらっしゃいました。なかには、「実は先週、団地に引越してきたばかりなんです。イベント案内のチラシを見かけてすぐに応募しました。子どもたちが地域になじむきっかけになれば」という声も聞かれました。その後、焼きいもやピザづくりをしながら「何歳ですか?」「同じ学年だね~」と、お子さんや大人の会話が盛り上がっていました。まさに人と知り合う「きっかけ」、コミュニティーづくりになっています。

次は玉ねぎの苗を植えていきます。農業指導をしている細越雄太さんは、農業や食育に詳しく、自然と大人や子どもたちを引き込んでいきます(写真撮影/片山貴博)

次は玉ねぎの苗を植えていきます。農業指導をしている細越雄太さんは、農業や食育に詳しく、自然と大人や子どもたちを引き込んでいきます(写真撮影/片山貴博)

玉ねぎの苗は、淡路島の農家から譲り受けたもの。はじめはおっかなびっくりだった子どもたちもだんだん慣れていきます(写真撮影/片山貴博)

玉ねぎの苗は、淡路島の農家から譲り受けたもの。はじめはおっかなびっくりだった子どもたちもだんだん慣れていきます(写真撮影/片山貴博)

さすがだなと思ったのは、運営側が作業をするだけでなく、「どんな種類のさつまいもを焼くのか」「玉ねぎはいつできるのか」「ピザで好きな具」などの会話のとっかかりとなる「ネタ」を提供していることです。初めて会った人同士でも、「あるある~」「私は~」と自然と会話ができるようになっています。共同作業、なかでも食があると、人と人との距離はぐっと縮まりますよね。

ズラッと並んだピザの具材(写真撮影/片山貴博)

ズラッと並んだピザの具材(写真撮影/片山貴博)

苗を植えたあとはピザづくり。子どもたちも上手です(写真撮影/片山貴博)

苗を植えたあとはピザづくり。子どもたちも上手です(写真撮影/片山貴博)

準備ができたピザからピザ窯へ。マスク越しにも伝わる、うれしそうな顔!(写真撮影/片山貴博)

準備ができたピザからピザ窯へ。マスク越しにも伝わる、うれしそうな顔!(写真撮影/片山貴博)

焼きたてピザをきりわけてもらい、いただきます!(写真撮影/片山貴博)

焼きたてピザをきりわけてもらい、いただきます!(写真撮影/片山貴博)

大人も子どももにっこにこで幸せそう(写真撮影/片山貴博)

大人も子どももにっこにこで幸せそう(写真撮影/片山貴博)

ほっかほかの焼きいも! 品種によってほんのり色も違います(写真撮影/片山貴博)

ほっかほかの焼きいも! 品種によってほんのり色も違います(写真撮影/片山貴博)

他にも、イベントに参加している人に話を聞きましたが、「1階の保育園に通っていて、せっかくなので参加したいと思って」「近所のお友だちに誘われたので」という方が多いように感じました。

また、コロナ禍で思うように外出や遠出ができず、子どもと何かしたいと思っていたときにこのイベントを知ったという声も。
「自分で畑をやったり、ピザの準備をしたりするのは大変だけれど、近くでこんな体験ができるなんて! すごくありがたいです」というコメントもありました。

「コミュニティー運営に携わって7カ月ですが、交流イベントは今のところ8回開催し、累計100名が参加してくださっています。参加者の満足度も高く、次は何をやるんですか? という声も聞かれます。団地外の方からの参加者も多いですし、まさに交流の場所になっています。声を聞きながら、よりよい場所、よりよいコミュニティー運営を模索していきたいですね 」(山本さん)

細越さんは畑やコミュニティー運営を通して、「セミパブリック」の可能性を感じているといいます。「草むしりや苗植え、収穫など自然を通して、人々が交流し、距離感を保てる。『公』や『行政』でもなければ、完全な『私』でもない。ちょうど良い距離感をつくっていけたら」と言います。

コロナ禍では、地域や人との分断が進んだともいわれています。一方で、近くにある幸せや足元を大切にしたい、近所の人とゆる~くでも顔見知りになりたい、という思いは、静かですが確かにあるように感じます。近所づきあいや人とのかかわりを、軽やかにアップデートするために。令和の団地の挑戦はまだまだ続きそうです。

●取材協力
ハラッパ団地・草加

懐かしさ感じる”リノベ団地”に広がる人の輪! 保育園・農園付きで3年満室続く「ハラッパ団地・草加」を訪ねた

昭和の高度経済成長期に大量に建設された「団地」を、現代の暮らしに合うようリノベーションし、再評価・再活用する動きが続いています。では、そのリノベ団地は、コロナ禍を経てどうなっているのでしょうか。2019年に紹介した「ハラッパ団地・草加」の今を取材しました。

築51年でも満室! 家賃を維持するなど、人気ぶりは健在

1971年、企業の社員寮として建築された建物をリノベして誕生した「ハラッパ団地・草加」。2018年に建物内外を刷新し、シェア農園や保育園、ドッグランを持つ賃貸住宅として生まれ変わりました。1800坪というゆとりのある敷地に、明るい黄色の2棟の建物があり、1LDK~2DKの全55戸で構成されています。ペット飼育OKで、1階に保育園があるなどの付加価値もあるため、2019年に取材したときも全室満室、ウェイティングリストができるほどの人気ぶりでした。

ハラッパ団地・草加の外観。前回取材時のときよりも、いっそう地域になじんだ印象です(写真撮影/嘉屋恭子)

ハラッパ団地・草加の外観。前回取材時のときよりも、いっそう地域になじんだ印象です(写真撮影/嘉屋恭子)

あれから3年、コロナ禍もあり、ライフスタイルや価値観、住まいに求めるものも変わったように思います。その後、「ハラッパ団地」はどうなっているのでしょうか。

「3年たった今でも全室満室が続いていて、空室がでたら入居したいという希望者がいらっしゃいます。家賃も維持、または一部で上昇しているんですよ」と教えてくれたのは、広報を担当する山本恵美さん。

長らく新築住宅が最良とされてきた日本では、築年数が経過するごとに家賃を値下げするのが当たり前、半世紀も経過すれば建物の価値はほぼなくなるといわれてきました。それが築51年以上たっても家賃が下がるのではなく、上昇するとは……。適切にリノベ、管理運営されていれば、建物は長持ちするだけでなく、賃貸住宅として価値を向上させることができると証明した格好です。

保育園があることから子育て世帯の入居希望が多そうですが、実際にはシングルや夫婦暮らしなど、幅広い世帯や世代が入居しているそう。
「子どもの声が聞こえる、ということが安心感につながっているようで、一人暮らしの人にも人気となっています」。子どもたちの声が、「あたたかさ」「安心感」につながるのは、住む人にとっても、子どもたちにとっても、とても幸せなことですね。

イベントの参加者には子どももいっぱい。親世代も明るい表情です(写真撮影/片山貴博)

イベントの参加者には子どももいっぱい。親世代も明るい表情です(写真撮影/片山貴博)

収穫体験にクッキングイベント。交流を生むコミュニティー運営

ハラッパ団地・草加は、農園やドッグラン、食堂などの「地域にひらく」施設も魅力のひとつでした。ただ、こうしたコミュニティー運営は人とノウハウ、時間、予算が必要になります。ましてやこの3年はコロナ禍。人を集める、人が集まるのが難しくなってきた背景もあります。運営はどのように変化したのでしょうか。

「2020年、緊急事態宣言もあり感染状況を考慮して食堂は閉店、ランドリールームなども検討しましたが、団地の人が集まれる場所をということで、コミュニティールームに変更しました。この場所は団地住民であればオンラインで予約・利用できます。お住まいの方は、テレワークやオンライン会議などの場所として使っているようです」と山本さん。地域住民に、集会所・サロンの開催場所として、貸し出しも行っています。

また、2021年12月よりこのコミュニティールームを使い、「味噌づくり」「ヨガ教室」「ピクルスづくり」などのコミュニティー運営を実施するようになったといいます。
「イベントの実施主体は、ハラッパ団地を管理するハウスコムとアミックスです。コミニティーマネージャーや撮影・運営スタッフなどがいて、団地の方と地域の方が、交流を深めていける試みをしています。イベントや畑の活動は今のところ月1回のペースで行っていて、毎回参加くださる方もいれば、スポットで初めてという人も。毎回、なごやかな雰囲気でできています」(山本さん)

ハラッパ団地のコミュニティー運営に携わっているみなさん。左から細越雄太さん(農業指導)、森永顕光さん(アミックス社員)、町田国大さん(コミニティーマネージャー)山本恵美さん(コミニティーマネージャー)、夏目力さん(ライター・撮影)(写真撮影/片山貴博)

ハラッパ団地のコミュニティー運営に携わっているみなさん。左から細越雄太さん(農業指導)、森永顕光さん(アミックス社員)、町田国大さん(コミニティーマネージャー)山本恵美さん(コミニティーマネージャー)、夏目力さん(ライター・撮影)(写真撮影/片山貴博)

11月は、10月に収穫したさつまいもを使ってのピザ窯での焼きいもとピザづくり、畑に玉ねぎの苗を植えるイベントを実施していました。参加者は筆者が想像していたよりも多く、なんと30人以上! 参加者は多くが未就学児~小学校低学年のお子さんと保護者の方々です。お天気はあまりよいとはいえない状況でしたが、子どもたちは広場や周囲をうきうきと走り回っていました。

11月に行われた焼きいもとピザ焼きの会。まずはみなさんでご挨拶。細越雄太さんが、今日の流れを説明します(写真撮影/片山貴博)

11月に行われた焼きいもとピザ焼きの会。まずはみなさんでご挨拶。細越雄太さんが、今日の流れを説明します(写真撮影/片山貴博)

さつまいもは紅はるかと安納芋、シルクスイートの3種類を用意して、食べ比べる計画。味の違いはわかるかな?(写真撮影/片山貴博)

さつまいもは紅はるかと安納芋、シルクスイートの3種類を用意して、食べ比べる計画。味の違いはわかるかな?(写真撮影/片山貴博)

洗ったさつまいもをアルミホイルで包んで……(写真撮影/片山貴博)

洗ったさつまいもをアルミホイルで包んで……(写真撮影/片山貴博)

ピザ窯のなかにいれます。焼き上がりは1時間程度……ワクワクです!(写真撮影/片山貴博)

ピザ窯のなかにいれます。焼き上がりは1時間程度……ワクワクです!(写真撮影/片山貴博)

セミパブリックだからこそできる! 団地の可能性

今回、イベントに参加された方々は、団地にお住まいという方もいれば、ご近隣にお住まいという方もいらっしゃいました。なかには、「実は先週、団地に引越してきたばかりなんです。イベント案内のチラシを見かけてすぐに応募しました。子どもたちが地域になじむきっかけになれば」という声も聞かれました。その後、焼きいもやピザづくりをしながら「何歳ですか?」「同じ学年だね~」と、お子さんや大人の会話が盛り上がっていました。まさに人と知り合う「きっかけ」、コミュニティーづくりになっています。

次は玉ねぎの苗を植えていきます。農業指導をしている細越雄太さんは、農業や食育に詳しく、自然と大人や子どもたちを引き込んでいきます(写真撮影/片山貴博)

次は玉ねぎの苗を植えていきます。農業指導をしている細越雄太さんは、農業や食育に詳しく、自然と大人や子どもたちを引き込んでいきます(写真撮影/片山貴博)

玉ねぎの苗は、淡路島の農家から譲り受けたもの。はじめはおっかなびっくりだった子どもたちもだんだん慣れていきます(写真撮影/片山貴博)

玉ねぎの苗は、淡路島の農家から譲り受けたもの。はじめはおっかなびっくりだった子どもたちもだんだん慣れていきます(写真撮影/片山貴博)

さすがだなと思ったのは、運営側が作業をするだけでなく、「どんな種類のさつまいもを焼くのか」「玉ねぎはいつできるのか」「ピザで好きな具」などの会話のとっかかりとなる「ネタ」を提供していることです。初めて会った人同士でも、「あるある~」「私は~」と自然と会話ができるようになっています。共同作業、なかでも食があると、人と人との距離はぐっと縮まりますよね。

ズラッと並んだピザの具材(写真撮影/片山貴博)

ズラッと並んだピザの具材(写真撮影/片山貴博)

苗を植えたあとはピザづくり。子どもたちも上手です(写真撮影/片山貴博)

苗を植えたあとはピザづくり。子どもたちも上手です(写真撮影/片山貴博)

準備ができたピザからピザ窯へ。マスク越しにも伝わる、うれしそうな顔!(写真撮影/片山貴博)

準備ができたピザからピザ窯へ。マスク越しにも伝わる、うれしそうな顔!(写真撮影/片山貴博)

焼きたてピザをきりわけてもらい、いただきます!(写真撮影/片山貴博)

焼きたてピザをきりわけてもらい、いただきます!(写真撮影/片山貴博)

大人も子どももにっこにこで幸せそう(写真撮影/片山貴博)

大人も子どももにっこにこで幸せそう(写真撮影/片山貴博)

ほっかほかの焼きいも! 品種によってほんのり色も違います(写真撮影/片山貴博)

ほっかほかの焼きいも! 品種によってほんのり色も違います(写真撮影/片山貴博)

他にも、イベントに参加している人に話を聞きましたが、「1階の保育園に通っていて、せっかくなので参加したいと思って」「近所のお友だちに誘われたので」という方が多いように感じました。

また、コロナ禍で思うように外出や遠出ができず、子どもと何かしたいと思っていたときにこのイベントを知ったという声も。
「自分で畑をやったり、ピザの準備をしたりするのは大変だけれど、近くでこんな体験ができるなんて! すごくありがたいです」というコメントもありました。

「コミュニティー運営に携わって7カ月ですが、交流イベントは今のところ8回開催し、累計100名が参加してくださっています。参加者の満足度も高く、次は何をやるんですか? という声も聞かれます。団地外の方からの参加者も多いですし、まさに交流の場所になっています。声を聞きながら、よりよい場所、よりよいコミュニティー運営を模索していきたいですね 」(山本さん)

細越さんは畑やコミュニティー運営を通して、「セミパブリック」の可能性を感じているといいます。「草むしりや苗植え、収穫など自然を通して、人々が交流し、距離感を保てる。『公』や『行政』でもなければ、完全な『私』でもない。ちょうど良い距離感をつくっていけたら」と言います。

コロナ禍では、地域や人との分断が進んだともいわれています。一方で、近くにある幸せや足元を大切にしたい、近所の人とゆる~くでも顔見知りになりたい、という思いは、静かですが確かにあるように感じます。近所づきあいや人とのかかわりを、軽やかにアップデートするために。令和の団地の挑戦はまだまだ続きそうです。

●取材協力
ハラッパ団地・草加

「ゲイは入居不可」という偏見。深刻な居住問題と“LGBTQフレンドリー”に取り組む不動産会社、そして当事者のホンネ

LGBTQと呼ばれるセクシュアル・マイノリティの人たちにとって、同性が二人で入居できる物件が限られたり、セクシュアリティへの偏見から審査で断られてしまったりと、住居探しはかなりハードルが高いこともあるようです。一方でそのような住まい探しの問題に積極的に取り組む不動産会社も存在します。LGBTQの当事者は、自身が抱える住まいの問題や支援の取り組みについてどのように感じているのでしょうか。LGBTQの人たちの居住支援を行うNPO法人カラフルチェンジラボの三浦暢久さんに聞きました。

セクシュアル・マイノリティの人たちが抱える居住問題

LGBTQの人たちの居住問題とは、主に二つあります。一つ目は外見と戸籍上の性の違いや、同性パートナーとの同居など、パーソナルな部分を明かす必要性と、それが理解されるかという不安やストレス。二つ目はそのことに対する偏見やサポート不足から、希望する物件が借りられない・買えないことです。

「通常では気づかないような、些細に思われることが、LGBTQ当事者の住まい探しの壁となることが多々あります。セクシュアル・マイノリティの当事者たちは、常に偏見に晒されてきました。自分たちがどのように見え、どう判断されるかに対して非常にセンシティブなんです。不動産会社に行くこと自体を怖いと感じる人が多く、それをどう解消するかが住まい探しの最初のハードルです」(三浦さん、以下同)

実際に、カラフルチェンジラボが行った「2021年セクシュアル・マイノリティーの居住ニーズに関するアンケート」によれば、多くのLGBTQの人たちが不動産会社に行くこと自体に不安を感じていることがわかります。

不動産会社に行くことに不安を感じたことのある人の割合(n=1,754)

特にL(Lesbian、レズビアン)やFB(Female Bisexual、女性のバイセクシュアル)など、不動産会社に行くことに不安を感じる人が多く、半数以上に上る(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

またパートナーとの同居を希望する当事者にとって、二人の関係を根掘り葉掘り聞かれるのは、決して気持ちの良いものではありませんし、理解不足や偏見によって話が進まないこともあるそう。

「一般的な『二人入居OK』の物件は、夫婦や兄弟姉妹など、家族であることが前提です。同性カップルは家族とは認められず、物件の選択肢が極端に少なくなります。また、収入では特に問題が無いのに、同性カップルを理由に『ゲイの人が住んでいるとは近隣の住民に説明できないから』などといった、とんでもない偏見を理由に審査の段階で断られたというのも、実際にあった話です」

先の調査では、セクシュアル・マイノリティへの理解を得られず、大家さんには同居人がいることを告げず、隠れてパートナーと暮らさざるを得なかったという人の割合が60%以上にもなることが判明しました。これは同居人を申告していないことになるので、本来は契約違反にあたり、それを理由に退去を求められることも起こりえます。そのような不安な状況で生活をしていかざるを得ないのは大きな問題です。

大家に隠れてパートナーと暮らした経験がある人の割合(n=1,754)

パートナーと暮らすことを隠して、一人暮らしとして契約するケースも多いが、もし見つかれば契約違反で退去を求められることも(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

LGBTQ当事者の住まい探しを支援する、カラフルチェンジラボの取り組み

住まいの問題を抱えているLGBTQの人たちに対して、三浦さんが居住支援を始めようと考えた一番のきっかけは「自分自身の住まい探しの経験だった」と語ります。三浦さん自身、セクシュアル・マイノリティの一人であり、男性パートナーと同居を始めるときに困難を感じた当事者でした。

「今のパートナーとは10年前から現在の賃貸物件に一緒に住んでいます。私自身は2015年ごろから『九州レインボープライド』というLGBTQを筆頭に、マイノリティの人たちが自分らしく生きられる社会の実現を目指すイベントを開催してきましたが、パートナーは今も自身がセクシュアル・マイノリティであることを公表していません。実際に住まい探しではとても苦労をしました。多くのLGBTQの人たちと出会い、生活の不安や不満を聞くなかで、最も深刻だと感じたのが住まいの問題だったのです」

カラフルチェンジラボが主催する、九州レインボープライド。たくさんの人や企業、各国の領事館も参加している(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

カラフルチェンジラボが主催する、九州レインボープライド。たくさんの人や企業、各国の領事館も参加している(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

三浦さんの住まいへの課題感を具体的な活動へと変えたのは、福岡市を代表する不動産会社、三好不動産の三好修社長との出会いでした。

「三好社長にこれまでの自分の活動やLGBTQ当事者の住まいの問題について話したところ『営業担当者たちに話をしてほしい』と講演の機会をもらいました。以降、三好不動産の各店舗でLGBTQの人たちへの居住支援の取り組みがスタートし、私たちがそれをサポートさせてもらっています」

三好不動産の各店舗の入り口にはもちろんLGBTQフレンドリーな企業であることを示す「レインボーマーク」が貼られています。また、三浦さんたちの取り組みもあり、レインボーマークを掲示する店舗や会社も少しずつ増えつつある様子です。

LGBTQ当事者が望む居住支援は「フレンドリーとうたっているが、接客は自然体で」

では、実際にLGBTQの人たちは、レインボーマークを掲げる不動産会社やその接客についてどのように感じているのでしょうか。先の調査によれば、当事者が「LGBTQフレンドリーをうたう企業に望むこと」として一番多かった意見は「フレンドリーとうたっているが自然に接してほしい(64.9%)」、次に多いものが「セクシュアリティは確認しないでほしい(42%)」でした。

そして、「レインボーステッカーが入り口に貼ってあると入店しやすい(41%)」「自分のセクシュアリティや二人の関係は自分のタイミングで言いたい(36.2%)」という意見が続きます。

どのような接客が嬉しいか(n=1,754)

LGBTQの人たちが不動産会社に最も求めていることは「フレンドリーとうたっているが接客は至って自然体で行ってほしい(64.9%)」(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

「不動産会社が『LGBTQフレンドリーである』という意思表示をすることは、とても大事です。なぜなら、LGBTQ当事者の中には、自分たちを受け止めてくれる企業なのかどうかがわからないと、相談に訪れることすら躊躇(ちゅうちょ)してしまう人が多いからです。しかし一方で、特別扱いをしてほしいわけではない。これが当事者の最も切実な声です」

さらに、LGBTQの人たちの住まい探しの問題は入居申込みの手続きや審査の際にも生じます。トランスジェンダー(出生時の身体的な性別が、自身が認識している性と異なる人のこと)が本人確認書類を提示すると、外見との違いに驚きを隠さない担当者がいたり、管理会社の偏見によって審査が通らない同性カップルがいたりします。

LGBTQの人たちが本当に必要としている支援は、特別な何かではなく「当たり前に」入居できることです。

LGBTQの人たちへの支援は、まず「自分の偏見」について知ることから

三浦さんはまず、多くの人に「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)」があること、そのために気づかないうちに相手を傷つけてしまう可能性があることを知ってほしい、と警鐘を鳴らします。

「例えばトランスジェンダーの方に『私より全然男(女)らしいですね』といった、良かれと思って発言した何気ない一言も、言った方は褒め言葉のつもりかもしれませんが、言われた本人は、自分はニセモノだと言われているように感じてしまうことがあります。

自然に接客するためには、LGBTQの人たちが置かれている環境や考え方を理解していないと難しいでしょう。不動産会社の担当者であれば、家賃滞納のリスクヘッジのために詳しくプロフィールや本人確認をすることも必要でしょうが、いきなり立ち入ったことまで聞かれるのは誰だって嫌なものです」

三浦さんたちは、LGBTQ当事者に関するイベント開催や「住まいのプロジェクト」実施のほか、不動産会社をはじめとする企業にもコンサルティングを行っています。企業向けの講演ではLGBTQの人たちについて最低限理解してもらうために、ハラスメント問題・法的問題・同性婚について、社会や世界全体の考え方がどのように進んでいるのかを詳しく話すそう。マイノリティの人たちの特徴だけでなく、取り巻く社会環境の両方についてよく知ることが、差別や偏見のない社会につながっていくことを示しています。

カラフルチェンジラボが企業を対象に講演を実施したときの様子。LGBTQフレンドリーな企業を増やしていくには、まずは事実を知ってもらうことが大切というスタンスで続けている(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

カラフルチェンジラボが企業を対象に講演を実施したときの様子。LGBTQフレンドリーな企業を増やしていくには、まずは事実を知ってもらうことが大切というスタンスで続けている(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

これからのLGBTQフレンドリー企業、そして社会に望むこと

三浦さんたちが実施する住まいプロジェクトの協力企業も数社に増えてきましたが、全国にある何万もの不動産会社の中では、まだまだLGBTQの人たちへの理解が広まっているとはいえません。

カラフルチェンジラボがコンサルティングを依頼される不動産会社にヒアリングをすると「LGBTQの人たちへの取り組みを特別に行う必要があるのか」「LGBTQ当事者だと言ってくれれば、配慮して対応するのに」といった回答も多いそうです。しかし、何が問題なのかを正しく理解して能動的に行動しなければ、いつまでも社会は変わらないし、解決しないのです。

「企業が積極的にLGBTQに歩み寄らなければ、偏見に晒されるリスクがあるため、住まい探しの相談もできない人はたくさんいます。そこを理解しなければ、LGBTQの人たちが安心して住める、暮らせる社会は実現しないでしょう。

私は、LGBTQの社会参画によるマーケットへの影響は大きいと思っています。電通ダイバーシティ・ラボの『LGBTQ+調査2020』では、理解が進まないことで機会を損失していたり、当事者が消費に消極的になっている商材・業界の規模は5兆円を超えるともいわれています。また、当事者ではない人においても、約45%がLGBTQフレンドリーな企業の商品やサービスを利用したいと回答しているのです」

さらに三浦さんは「LGBTQの人たちが晒されている問題に取り組むことは、差別や人権の問題に取り組むのと同じこと」だと続けます。

「コンサルをしている企業がLGBTQ当事者への取り組みを行うと、副産物として必ずといっていいほど『サービスの質が向上した』『コミュニケーションが活性化した』という評価をもらいます。自分を知り、他者への配慮を学ぶことはLGBTQの人たちに限らず、障害をもつ人、高齢者など、全ての人がその人らしく生きることが当たり前の社会となるために、必要なことだからです」

来場者数1万人を超えた九州レインボープライド2022のステージ(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

来場者数1万人を超えた九州レインボープライド2022のステージ(画像提供/NPO法人カラフルチェンジラボ)

LGBTQの人たちへの居住支援においては無知や偏見が主な原因となるため、適切な知識を身に付けた上で取り組まなければ、個人や企業の自己満足になりかねません。また、LGBTQフレンドリーを示す店舗や会社があることは、LGBTQ当事者にとって相談しやすい指標となる一方で、それを表明した以上、LGBTQの人たちの気持ちを理解した対応をする責任がともないます。

三浦さんの言葉の通り、自分と他者への理解を深めることで、全ての人が生きやすく、住みやすい社会にしていきたいものですね。

●取材協力
NPO法人カラフルチェンジラボ

【早稲田大学】周辺のオススメ賃貸情報&家賃相場ランキング2023年版! 早稲田キャンパス(一人暮らし向け)

来春から大学に進学し、初めての一人暮らしをスタートさせる人もいるだろう。そんな新入生や、これから入学を目指す人の参考になるように、今回は早稲田大学・早稲田キャンパス(東京都新宿区)の周辺駅にアクセスしやすく、家賃相場が安い駅を調査。さらに不動産会社「ハウスメイトショップ新宿店」店長の林宏さんから、早稲田キャンパスに通う学生が住む街としておすすめの駅を教えてもらった。どんな駅がラインナップされたのか、さっそくご紹介しよう。

早稲田キャンパス最寄駅(高田馬場駅、早稲田駅、西早稲田駅)いずれかまで20分以内の家賃相場が安い駅TOP11

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数/到着駅)
1位 東伏見 6.6万円(西武新宿線/東京都西東京市/18分/0回/高田馬場駅)
2位 上井草 6.75万円(西武新宿線/東京都杉並区/19分/1回/高田馬場駅)
3位 上石神井 6.9万円(西武新宿線/東京都練馬区/14分/0回/高田馬場駅)
4位 井荻 6.98万円(西武新宿線/東京都杉並区/15分/1回/高田馬場駅)
5位 江古田 7.0万円(西武池袋線/東京都練馬区/18分/1回/高田馬場駅)
6位 下井草 7.1万円(西武新宿線/東京都杉並区/14分/1回/高田馬場駅)
6位 小竹向原 7.1万円(東京メトロ副都心線/東京都練馬区/11分/0回/西早稲田駅)
8位 武蔵関 7.2万円(西武新宿線/東京都練馬区/16分/0回/高田馬場駅)
8位 野方 7.2万円(西武新宿線/東京都中野区/13分/0回/高田馬場駅)
10位 新江古田 7.3万円(都営大江戸線/東京都中野区/17分/1回/高田馬場駅)
11位 阿佐ケ谷 7.4万円(JR総武線/東京都杉並区/11分/0回/高田馬場駅)
11位 鷺ノ宮 7.4万円(西武新宿線/東京都中野区/9分/0回/高田馬場駅)
11位 成増 7.4万円(東武東上線/東京都板橋区/19分/1回/高田馬場駅)
11位 都立家政 7.4万円(西武新宿線/東京都中野区/14分/0回/高田馬場駅)
11位 南阿佐ケ谷 7.4万円(東京メトロ丸ノ内線/東京都杉並区/20分/1回/高田馬場駅)
11位 氷川台 7.4万円(東京メトロ有楽町線・副都心線/東京都練馬区/13分/0回/西早稲田駅)
―――
「ハウスメイトショップ新宿店」林さんおすすめの駅
ランク対象外 朝霞台 5.7万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/28分/1回/高田馬場駅)
ランク対象外 朝霞 5.93万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/26分/1回/高田馬場駅)
ランク対象外 和光市 6.6万円(東武東上線/埼玉県和光市/23分/1回/高田馬場駅)

複数の駅に囲まれた早稲田キャンパス周辺は学生が集う街

2022年に創立140周年を迎えた早稲田大学を代表するキャンパスといえば、国の重要文化財に指定された大隈講堂が建つ東京都新宿区の早稲田キャンパス。6つの学部生が通うキャンパスは、JR山手線と西武新宿線、東京メトロ東西線が通る高田馬場駅から東へ歩いて20分ほど。駅から早稲田キャンパスに向かう通りは「早稲田通り」と呼ばれている。数多くの飲食店に加えて古書店も立ち並んでいる点は、さすが大学お膝元の街といった趣だ。またこの一帯には早稲田大学に加えて学習院女子大学もあるほか、高校や専門学校、学習塾も多いので、学生らしき若者の姿もよく見かける。

早稲田通り(写真/PIXTA)

早稲田通り(写真/PIXTA)

早稲田キャンパスのすぐ近くにはサークル活動の拠点である学生会館を備えた戸山キャンパスがあり、高田馬場駅から徒歩15分ほどの場所には西早稲田キャンパスも。各キャンパスの近くには東京メトロ東西線・早稲田駅や東京さくらトラム(都電荒川線)早稲田駅、東京メトロ副都心線・西早稲田駅もあり、そちらを利用する学生も少なくない。

そこで今回は高田馬場駅をはじめ、早稲田駅(東京メトロ・東京さくらトラム(都電荒川線))、西早稲田駅のいずれかの駅から20分圏内にある駅を調査対象とし、それぞれの駅から徒歩15分圏内にある学生向け賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK。以下同)の家賃相場が安い駅を順位付けした。その結果が上記のランキングだ。

ちなみに高田馬場駅の家賃相場は9万1000円。同じくキャンパス最寄駅の東京メトロ東西線・早稲田駅は9万2000円、都電荒川線・早稲田駅は9万円で、西早稲田駅は9万3000円。都心部だけあって学生には手ごろとは言いがたい金額だが、早稲田大学の学生たちは実際、どんな場所に住んでいるのだろう。早稲田大学の学生にも利用されている、「ハウスメイトショップ新宿店」店長の林宏さんにお話を伺った。

「特に早稲田大学の学生さんは、キャンパスまで歩ける範囲で物件を探していらっしゃる方が多い印象です」と話す林さん。「どこに住むとよいかは人それぞれで、例えば学業に専念したいなら移動時間を極力減らすために早稲田駅周辺、大学以外にもアクセスしやすいほうがよければJR山手線も通る高田馬場駅周辺や、高田馬場駅まで2駅のターミナル駅・新宿駅周辺などがよいでしょう」。早稲田駅の周辺は高田馬場駅ほどの繁華街ではないので、落ち着いて暮らせる住環境のよさを求める人にもおすすめだという。

高田馬場駅前(写真/PIXTA)

高田馬場駅前(写真/PIXTA)

通学時間を短く、家賃も抑えたい場合はランキングを活用しよう

通学時間をなるべく短縮するなら、大学の近くに住むのがベストだろう。とはいえ、予算もあるし近さだけを重視して住まいを決めるのは難しいことも。そんな場合は、今回調査した家賃相場が安い駅のランキングを参考にするのもいいだろう。ランキングトップ11の駅は家賃相場が6万円台~7万円台なので、家賃相場が9万円台だった早稲田キャンパスの徒歩圏内と比べるとだいぶ負担を抑えることができる。

最も家賃相場が低かったのは、西武新宿線・東伏見駅で家賃相場は6万6000円。西東京市に位置し、早稲田キャンパスの最寄駅の一つである高田馬場駅までは準急で約18分だ。駅名や周辺の地名である東伏見は、駅から徒歩10分少々の場所にある「東伏見稲荷神社」に由来するそう。また、この地は早稲田大学とも縁が深く、南口駅前には東伏見キャンパスが広がっている。早大生が部活動に励む野球場や馬場、サッカー場や体育会系の合宿所や学生寮もあり、大正時代から現在まで多くの学生が汗を流してきたのだ。

東伏見駅(写真/PIXTA)

東伏見駅(写真/PIXTA)

東伏見キャンパスの左右には「都立東伏見公園」「区立武蔵関公園」という緑豊かな2つの公園とアイススケートリンクがあり、その他の駅周辺は静かな住宅地といった趣。スーパーやコンビニ、ドラッグストアは駅の北と南どちらにもあり、駅前通りと交差する新青梅街道の周辺にはファミレスや「ユニクロ」も。また、東伏見駅や2位・上井草駅を含む西武新宿線の井荻駅~西武柳沢駅間では立体交差化事業が進行中。高架化に合わせて東伏見駅前広場の再整備や商業施設の誘致も計画されているので、今後はより暮らしやすい街になると期待されている。

1位・東伏見駅のほかにもトップ10には西武新宿線の駅が多数ランクイン。高田馬場方面に向かって、東伏見駅(1位)~武蔵関駅(8位)~上石神井駅(3位)~上井草駅(2位)~井荻駅(4位)~下井草駅(6位)と連続しており、そこから2駅はさんで野方駅(8位)という位置関係だ。残る駅は5位の西武池袋線・江古田駅、6位の東京メトロ副都心線・小竹向原駅、10位の都営大江戸線・新江古田駅。実はこの3駅は路線こそ違うものの位置としては近く、江古田駅を基点にすると南に徒歩約8分で新江古田駅へ、北に徒歩約12分で小竹向原駅へと行くことができる。この3つの駅のうち中間にある、江古田駅周辺の様子も見てみよう。

5位・江古田駅は練馬区に位置し、家賃相場は7万円。西武池袋線で池袋駅まで約8分、さらにJR山手線に乗り換えて約4分で高田馬場駅にたどり着く。早稲田キャンパスがある高田馬場駅に加え、都内有数の繁華街・池袋にアクセスしやすい点も魅力だろう。そんな江古田駅の近くには日本大学芸術学部と武蔵大学、武蔵野音楽大学のキャンパスがあり、学生の街として知られている。駅の北口側にも南口側にも商店街があり、狭い道沿いに多彩な商店がひしめく活気ある街並みだ。学生街だけありリーズナブルな飲食店も豊富で、早朝から深夜まで時間帯を気にせず買い物できるスーパーやコンビニも。同年代の若者も多く住む江古田の街は、学生の一人暮らしによさそうだ。

高田馬場駅から25分前後の東武東上線沿線なら家賃相場は5万円台~6万円台に

トップ11にランクインした駅の家賃相場は早稲田キャンパス周辺に比べるとリーズナブル。しかし、「もっと安さを追求したい、でも通学しやすさも担保したい」という人もいるだろう。そこで「ハウスメイトショップ新宿店」店長・林さんに、家賃を抑えたい人向けのおすすめの街を聞いてみると……。「東武東上線の和光市駅や朝霞駅、朝霞台駅です」と教えてくれた。

和光市駅(写真/PIXTA)

和光市駅(写真/PIXTA)

おすすめ駅の一つ、和光市駅の家賃相場は6万6000円。東武東上線の準急で池袋駅まで約17分、そこからJR山手線に乗り換えると約4分で高田馬場駅へ。「東武東上線の準急と急行に加えて快速急行の停車駅でもあり、快速急行なら池袋駅まで1駅・最短約12分です。さらに和光市駅は東京メトロの有楽町線・副都心線の始発駅でもあり、副都心線1本で早稲田大学近くの西早稲田駅までも約24分で到着できます」

そんな和光市駅は埼玉県和光市にあり、東京メトロの駅としては最北端かつ最西端。2020年3月に全面開業した駅ナカ施設&駅ビル「エキア プレミエ和光」には、改札階である地下1階から地上3階にかけてレストランや食料品店、「ユニクロ」など多彩な店舗がずらり。4階~7階部分は「和光市東武ホテル」となっている。また、駅南口には書店や飲食店、家電量販店を併設した「イトーヨーカドー和光店」もあるなど、スーパーも点在。駅北口エリアでは再開発が進められており、駅直結型の複合施設の新設も検討されているとか。今後の発展にも期待できる街だ。

さらに家賃を抑えたいなら、埼玉県朝霞市にある朝霞台駅と朝霞駅に注目。朝霞台駅は東武東上線の急行停車駅で、家賃相場は5万7000円。「急行なら池袋駅まで3駅、最短約17分で到着。東京メトロ副都心線直通の東武東上線に乗れば、乗り換えせずに西早稲田駅まで約31分で行くことができます」。また、「朝霞台駅の駅前ロータリーをはさんでJR武蔵野線の北朝霞駅があり、2つの路線を利用できる点も便利ですよ」と話す林さん。高田馬場駅までは池袋駅からJR山手線に乗り換え、計約28分で行ける。朝霞台駅は改札前コンコースにファストフード店やベーカリー、書店などがあり、駅前には複数のコンビニや気軽に入れる飲食店も。すぐ近くにスーパーもあるので、日常の買い物には困らない環境だ。

北朝霞・朝霞台 駅前広場(写真/PIXTA)

北朝霞・朝霞台 駅前広場(写真/PIXTA)

朝霞駅は朝霞台駅の隣に位置しており、家賃相場は5万9300円。「こちらは準急が利用でき、池袋駅まで3駅・最短約16分です」と林さん。朝霞台駅と同様に池袋駅で乗り換えて、高田馬場駅までは約26分。また、副都心線直通の東武東上線に乗ると、西早稲田駅まで約28分だ。朝霞駅には駅ビル「エキア朝霞」が併設され、ラーメン店やハンバーガー店、カフェといった飲食店に、服飾雑貨店、書店やドラッグストアなど20店以上が並んでいる。駅前にも複数の飲食店が点在するほか、安さを売りにしたスーパーもあるので自炊派で食費を節約したい人にもいいだろう。

さて、林さんがおすすめしてくれた和光市駅と朝霞台駅は「Fライナー」の停車駅でもある。このFライナーは東武東上線~東京メトロ副都心線~東急東横線~みなとみらい線を結ぶ急行の一種で、朝霞台駅や和光市駅から池袋駅、渋谷駅、横浜駅、元町・中華街駅などへも1本で行くことが可能だ。また、東武東上線は池袋と逆方面に進むと、川越や東松山といった埼玉県内の駅を通っている。だからたとえば、たびたび通いたいほど横浜が好きだったり、実家が川越にある場合、通学以外の面でも東武東上線沿線に住むと便利だろう。そんなふうに、通学で利用する駅以外に沿線にはどんな街があるのかもチェックしつつ住む街を探すと、より充実した学生生活が送れるかもしれない。

●取材協力
ハウスメイトショップ

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている高田馬場駅、西早稲田駅、早稲田駅(東京メトロ、都電)まで20分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/2~2022/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※早稲田駅については、メトロ、都電を最寄りとする物件両方の中央値を掲載しています
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年11月28日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載

【慶應義塾大学】周辺のオススメ賃貸情報&家賃相場ランキング2023年版! 日吉&三田キャンパス(一人暮らし向け)

間もなく訪れる新年度より、大学進学を機に一人暮らしをスタートさせる人も多いはず。そんな人の参考になるように、今回は慶應義塾大学で学部数の多い日吉キャンパス(神奈川県横浜市)と三田キャンパス(東京都港区)に通いやすく、家賃相場が安い駅を調査! 各キャンパスの最寄駅である、日吉駅まで電車で15分圏内、または田町駅・三田駅・赤羽橋駅いずれかまで電車で20分圏内に位置し、家賃相場が安い駅のランキングをご紹介する。さらに不動産会社「ハウスメイトショップ」武蔵小杉店店長の加瀬舞子さん、目黒店店長の山本泰史さんに聞いた、各キャンパス周辺にある学生が住む街としておすすめの駅についても見ていこう。

日吉キャンパス最寄り:日吉駅まで15分以内の家賃相場が安い駅TOP14(15駅)

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 白楽 6.0万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/11分/0回)
2位 高田 6.2万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/5分/0回)
2位 妙蓮寺 6.2万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/9分/0回)
4位 大口 6.3万円(JR横浜線/神奈川県横浜市神奈川区/12分/1回)
5位 東白楽 6.4万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/13分/0回)
6位 東山田 6.65万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市都筑区/7分/0回)
7位 小机 6.7万円(JR横浜線/神奈川県横浜市港北区/14分/1回)
8位 日吉本町 6.8万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/2分/0回)
9位 日吉 6.9万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/0分/0回)※起点駅
10位 中川 7.0万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/神奈川県横浜市都筑区/15分/1回)
11位 菊名 7.1万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/5分/0回)
11位 大倉山 7.1万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/4分/0回)
13位 綱島 7.35万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/1分/0回)
14位 元住吉 7.4万円(東急東横線/神奈川県川崎市中原区/1分/0回)
14位 鹿島田 7.4万円(JR南武線/神奈川県川崎市幸区/13分/1回)
―――
「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」加瀬さんおすすめの駅
13位 綱島
14位 元住吉
ランク外 武蔵小杉 8.35万円(東急東横線/神奈川県川崎市中原区/2分/0回)

三田キャンパス最寄り駅(田町駅、三田駅、赤羽橋駅)いずれかまで20分以内の家賃相場が安い駅TOP14(15駅)

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数/到着駅)
1位 流通センター 8.2万円(東京モノレール/東京都大田区/18分/1回/田町駅)
2位 糀谷 8.3万円(京浜急行空港線/東京都大田区/19分/0回/三田駅)
3位 武蔵小杉 8.35万円(東急目黒線/神奈川県川崎市中原区/18分/1回/田町駅)
4位 川崎 8.4万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市幸区/16分/1回/田町駅)
5位 大森町 8.45万円(京浜急行本線/東京都大田区/19分/1回/三田駅)
6位 昭和島 8.5万円(東京モノレール/東京都大田区/19分/1回/田町駅)
6位 西馬込 8.5万円(都営浅草線/東京都大田区/15分/0回/三田駅)
6位 田園調布 8.5万円(東急目黒線/東京都大田区/20分/0回/三田駅)
6位 平和島 8.5万円(京浜急行本線/東京都大田区/14分/0回/三田駅)
10位 京急蒲田 8.6万円(京浜急行本線/東京都大田区/17分/0回/三田駅)
10位 大井競馬場前 8.6万円(東京モノレール/東京都品川区/16分/1回/田町駅)
12位 旗の台 8.7万円(東急大井町線/東京都品川区/18分/1回/田町駅)
12位 千駄木 8.7万円(東京メトロ千代田線/東京都文京区/20分/1回/三田駅)
14位 蒲田 8.8万円(JR京浜東北・根岸線/東京都大田区/14分/0回/田町駅)
14位 洗足 8.8万円(東急目黒線/東京都目黒区/17分/0回/三田駅)
―――
「ハウスメイトショップ目黒店」山本さんおすすめの駅
14位 洗足
ランク外 武蔵小山 9.2万円(東急目黒線/東京都品川区/12分/0回/三田駅)
ランク外 中延 9.3万円(都営浅草線/東京都品川区/11分/0回/三田駅)

慶應義塾大学を代表する2つのキャンパス周辺の環境&家賃相場は?

慶應義塾大学のキャンパスは各地にあるが、メインとなるのは多くの学部の1・2年生が通う日吉キャンパスと、同様に複数の学部の2~4年生や大学院生が通う三田キャンパスだ。

日吉キャンパス(写真/PIXTA)

日吉キャンパス(写真/PIXTA)

神奈川県横浜市港北区に位置する日吉キャンパスの最寄駅は、東急東横線と東急目黒線、横浜市営地下鉄グリーンラインが乗り入れる日吉駅。2023年3月に開業予定の東急新横浜線の乗り入れも始まる、注目の駅だ。東口駅前には見事なイチョウ並木が延びており、そこはもう敷地面積約10万坪という広大な日吉キャンパス。駅西口側には食料品街からユニクロなどの服飾・雑貨店、家電量販店までそろう「日吉東急アベニュー」があるほか、リーズナブルな飲食店も豊富な商店街が広がっている。

日吉駅(写真/PIXTA)

日吉駅(写真/PIXTA)

今回お話をうかがった「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」店長・加瀬舞子さんは、「日吉キャンパスに通うのは単位取得のため学校に通う機会が多い1・2年生が多数。そのため最寄りの日吉駅や、近隣駅にお住まいになる学生さんが多いですね」と教えてくれた。そんな日吉駅は9位にランクインしており、学生向け賃貸物件の家賃相場(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK、駅から徒歩15分圏内。以下同)は6万9000円。さらに家賃を抑えたいなら、ランキング上位の6万円台前半の駅もチェックしたい。加瀬さんからは「近すぎると友人のたまり場になり、遠すぎると通学が面倒になるので、学校から20分ほどの範囲で探すのもいいですよ」とのアドバイスも。その点からも、あえて最寄りの日吉駅ではない街に住むのもアリだろう。

続いて三田キャンパス周辺の様子を見てみよう。東京都港区にある三田キャンパスは慶應義塾の原点といえる地だ。最寄駅である田町駅にはJRの山手線や京浜東北・根岸線が乗り入れ、駅周辺はビジネス街として発展。駅から大学へと向かう通り一帯はリーズナブルな飲食店がひしめく学生街としても愛されている。田町駅のすぐ近くには都営地下鉄の三田線・浅草線が通る三田駅が位置。キャンパスから北へ徒歩8分ほどの場所にある都営大江戸線・赤羽橋駅とあわせて、この3駅が主に大学の最寄駅として利用されている。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

田町駅前の様子(写真/PIXTA)

田町駅前の様子(写真/PIXTA)

田町駅周辺の学生向け賃貸物件の家賃相場は11万6000円、三田駅の家賃相場は11万5500円、赤羽橋駅の家賃相場は12万円。大学への通いやすさなら最寄駅周辺に住むのが一番だろうが、学生にとってこれだけの家賃を払うのは厳しそう……。「ハウスメイトショップ目黒店」の山本泰史さんも、「三田周辺は家賃が高めのため、電車を使ってドア・トゥ・ドアでキャンパスまで30分以内にある物件を探す方が多い印象です」とのこと。上記ランキングで記載している所要時間は「電車の乗車時間(乗り換え時間含む)」であり「物件~駅/駅~大学間の所要時間」は含まないので、その点は物件探しの際に考慮したい。とはいえ家賃相場に注目するとトップ14の駅は8万円台で、田町駅や三田駅、赤羽橋駅の周辺よりもだいぶ費用を抑えることができる。

家賃の安さで住まいを選ぶ際は、上記のランキングをぜひ参考にしてほしい。しかし安さばかりではなく、住みやすい街かどうかも気になるところ。そこで先に登場したお2人に、日吉・三田の各キャンパスに通う学生の住む街としておすすめの駅を教えてもらった。

日吉キャンパスに通う1・2年生が住むなら、東急東横線沿線がおすすめ!

まずは日吉キャンパスに通う学生も利用する、「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」店長の加瀬さんにおすすめの街をうかがおう。先述したように、日吉キャンパスに通う学生は日吉駅や近隣駅に住むことが多いのだそう。「日吉駅や日吉近隣の東急東横線沿線は、飲食店をはじめ商業施設が充実している駅も多く、初めての一人暮らしでも安心して住める環境ですよ」と加瀬さん。なかでも特におすすめの駅を3つ、教えてくれた。

元住吉駅前の商店街(写真/PIXTA)

元住吉駅前の商店街(写真/PIXTA)

おすすめ度1位は日吉駅の隣、東急東横線と東急目黒線が通る元住吉駅。上記の日吉キャンパス周辺の家賃相場が安い駅ランキングでは、家賃相場7万4000円で14位に。「駅を挟んで東西2つの商店街があり、チェーン系の店舗や地元の個人商店も含めて約270店舗の商店が立ち並んでいます。主にファミリー層が住むエリアなので、落ち着いた住環境を求められる方には非常におすすめできる駅です」。また、駅から徒歩7分ほどの場所に広大な「川崎市中原平和公園」があったり、駅前を流れる渋川沿いに約2kmにわたる桜並木が続いていたりと、自然を感じられる環境なのも魅力だという。

武蔵小杉駅周辺の様子(写真/PIXTA)

武蔵小杉駅周辺の様子(写真/PIXTA)

次なるおすすめは東急東横線と東急目黒線、JRの南武線など各線が乗り入れる武蔵小杉駅。日吉駅までは東急東横線でも東急目黒線でも2駅・3分前後、家賃相場は8万3500円だ。「家賃の価格帯は少し上がりますが、住みたい街ランキングでも上位に入る、人気が高いエリアです。『ららテラス 武蔵小杉』や『グランツリー武蔵小杉』など大型商業施設も充実。乗り入れ路線も多く、都内への玄関口として非常に利便性が高い駅です」

「SUUMO住みたい街ランキング2022 首都圏版」(リクルート調べ)で14位にランクインした武蔵小杉駅は神奈川県川崎市にあるが、駅東側を流れる多摩川を越えると東京都大田区に。東急東横線の通勤特急に乗れば、自由が丘駅まで1駅・約5分、渋谷駅まで3駅・約16分で行くことができる。日吉キャンパスまでの近さはもちろんのこと、せっかく進学で上京するならば都内までの近さも重視したい人には、うってつけだろう。また、武蔵小杉駅は今回調査した「三田キャンパス」周辺の家賃相場が安い駅ランキングだと3位。1・2年次は日吉キャンパス、3年次以降は三田キャンパスに通う予定の学生なら、進級後も引越しせず住み続けられる点も便利そう。

加瀬さんおすすめの3つ目の駅は、日吉キャンパス周辺の家賃相場が安い駅ランキングで13位の東急東横線・綱島駅。元住吉駅とは逆側、日吉駅から下り方面へ1駅目に位置しており、家賃相場は7万3500円。「スーパーやドラッグストア、飲食店など、駅周辺には幅広いジャンルの店舗がとても豊富。2023年3月には東急新横浜線の新綱島駅が開業予定で、ますます利便性が高まる点も注目です!」と加瀬さん。

新綱島駅のイメージ(写真/PIXTA)

新綱島駅のイメージ(写真/PIXTA)

東急新横浜線は日吉駅~新横浜駅を結ぶ路線として開業予定で、同じく開業準備が進む新横浜駅~羽沢横浜国大駅・西谷駅を結ぶ相鉄新横浜線とともに、相鉄・東急直通線の連絡線としての役割を担う。開業したあかつきには相鉄線と東急線との相互直通運転が可能に。新しく誕生する新綱島駅は綱島駅から100mほどの位置なので、この辺りに住むと2駅2路線が利用できるわけだ。新駅開業にあわせて道路の整備などの再開発も進められ、より住みやすい街へと進化しているところだ。

三田キャンパスに通う学生の住まいとして、おすすめの駅3選

三田キャンパスへの通学にも便利な街は、「ハウスメイトショップ目黒店」山本泰史さんにうかがった。住む街を選ぶ際のポイントは、「交通の利便性が高い駅であること」と話す山本さん。「三田キャンパスを利用する3・4年生は、アルバイトや就職活動など学校外での活動が増えてくる時期。そのため学校への行きやすさをふまえたうえで、別の場所へのアクセスの利便性も高い駅を選ぶのがよいでしょう」

三田キャンパスは最寄駅が多く、どの路線がよいのかも迷うところ。その点をうかがうと、「特におすすめは東急目黒線の沿線。都営三田線と相互直通運転されていてキャンパスがある三田駅まで乗り換えせずに行けること、目黒駅に出れば都内の主要駅に行きやすいJR山手線に乗り換えられる点が魅力です」と教えてくれた。

武蔵小山駅前(写真/PIXTA)

武蔵小山駅前(写真/PIXTA)

なかでも山本さんイチ押しは、急行停車駅でもある東急目黒線・武蔵小山駅。大学最寄りの三田駅までは都営三田線直通の東急目黒線なら約12分で行くことができる。家賃相場は9万2000円と少々高め。「開発が進み、近年は家賃相場が上がった点はネック。ですが、東京で最も長いアーケード商店街があって、買い物や外食にたいへん便利な環境です。にぎわいのある街なだけに適度に人目があり、一人暮らしの学生さんも安心して暮らせるでしょう」。都内最長だというアーケード商店街「武蔵小山商店街パルム」は、全長約800mで店舗数は約250軒にものぼる。商店街の東側駅前エリアには、再開発で2019年に開業したショッピングモール「パークシティ武蔵小山ザモール」や、品川区役所の出張所や商業施設も備える2021年7月竣工の複合施設も。駅周辺の再開発は現在も進行中なので、今まさに街が生まれ変わりゆく様子を見られる点も魅力だ。

武蔵小山商店街パルム(写真/PIXTA)

武蔵小山商店街パルム(写真/PIXTA)

もう少し家賃相場を抑えたいなら、「東急目黒線の東京都区間内では比較的に家賃相場が安い、洗足(せんぞく)駅もおすすめです」と山本さん。洗足駅の家賃相場は8万8000円で、三田キャンパス周辺の家賃相場が安い駅ランキングで14位に。三田駅までは都営三田線直通の東急目黒線に乗ると約17分だ。

「駅前にスーパーやドラッグストアがそろっていて買い物に便利な環境。駅周辺は閑静な住宅街で落ち着いた印象です。ただ、人通りが少ない点が心配なら、住まい探しの際に駅までの道のりチェックも忘れずにしましょう」

この洗足駅前には美しいイチョウ並木が続き、並木通り沿いを中心に商店街が広がっている。日々の食事に役立つ惣菜店や、神保町に本店がある欧風カレーの名店「ボンディ」の支店、自家焙煎にこだわるコーヒーショップなど個性的な店が豊富でめぐり歩くのも楽しそう。また、洗足駅から徒歩10分弱に位置する東急大井町線・北千束駅を利用することも可能だ。

洗足駅前の風景(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

洗足駅前の風景(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

山本さんがもう1駅、おすすめしてくれたのが都営浅草線・中延(なかのぶ)駅。家賃相場は9万3000円で、三田駅までは約11分。

「都営浅草線と東急大井町線が利用できて便利。若者に人気の自由が丘駅までも1本で行くことができます。駅近くには商店街が3つあり、八百屋さんや精肉店などが並んでいるので食費を抑える助けにもなるかも。駅前にユニクロがあるのもうれしいところです」

商店街のなかでも注目は、「なかのぶスキップロード」と呼ばれる中延商店街。中延駅から北に延びており、東急池上線の荏原中延駅まで約330mも続くアーケード商店街だ。買い物に利用できる商店街独自のポイントシステムも用意されているので、ポイントを貯めつつお得に買い物ができる。

なかのぶスキップロード(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

なかのぶスキップロード(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さて今回はランキング調査に加え、これまで多くの学生を新生活へと送り出してきた不動産会社のお話を参考に、学生におすすめの街をご紹介した。住む街によって生活の充実度は変わってくるし、学生時代に暮らした街は卒業後も大事な思い出の地になるだろう。しっかりと自分の好みにあった街を選び、ぜひ楽しい新生活を送ってほしい。

●取材協力
ハウスメイトショップ

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている田町駅、三田駅、赤羽橋駅まで20分以内、日吉駅まで電車で15分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/2~2022/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年11月28日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載

【明治大学】周辺のオススメ賃貸情報&家賃相場ランキング2023年版! 和泉キャンパス(一人暮らし向け)

新年度が始まる4月に合わせて、そろそろ引越しを考える人も増える時期。進学を機に大学の近くで一人暮らしを始める予定の学生もいるだろう。そんな新入生や、これから入学を目指す人の参考になるように、今回は明治大学・和泉(いずみ)キャンパス(東京都杉並区)の最寄駅である明大前駅にアクセスしやすく、家賃相場が安い駅を調査。さらに「ハウスメイトショップ下北沢店」店長の山室貴広さんに聞いた、和泉キャンパスに通う学生の住まいとしておすすめの街もご紹介していきたい。

和泉キャンパス最寄駅(明大前駅)まで15分以内の家賃相場が安い駅TOP14(19駅)

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 つつじヶ丘 6.58万円(京王線/東京都調布市/12分/0回)
2位 三鷹台 6.8万円(京王井の頭線/東京都三鷹市/13分/0回)
3位 成城学園前 6.9万円(小田急小田原線/東京都世田谷区/15分/1回)
3位 仙川 6.9万円(京王線/東京都調布市/11分/0回)
5位 井の頭公園 7.0万円(京王井の頭線/東京都三鷹市/15分/0回)
5位 久我山 7.0万円(京王井の頭線/東京都杉並区/9分/0回)
5位 松原 7.0万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/8分/1回)
8位 調布 7.1万円(京王線/東京都調布市/13分/0回)
9位 桜上水 7.3万円(京王線/東京都世田谷区/2分/0回)
9位 浜田山 7.3万円(京王井の頭線/東京都杉並区/6分/0回)
11位 西永福 7.35万円(京王井の頭線/東京都杉並区/4分/0回)
12位 山下 7.4万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/10分/1回)
12位 上北沢 7.4万円(京王線/東京都世田谷区/5分/0回)
14位 永福町 7.5万円(京王井の頭線/東京都杉並区/2分/0回)
14位 経堂 7.5万円(小田急小田原線/東京都世田谷区/13分/1回)
14位 豪徳寺 7.5万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/13分/1回)
14位 千歳烏山 7.5万円(京王線/東京都世田谷区/7分/0回)
14位 梅ケ丘 7.5万円(小田急小田原線/東京都世田谷区/12分/1回)
14位 富士見ケ丘 7.5万円(京王井の頭線/東京都杉並区/9分/0回)
―――
「ハウスメイトショップ下北沢店」山室さんおすすめの駅
14位 千歳烏山
ランク外 明大前 8.1万円(京王井の頭線/東京都世田谷区/0分/0回)※起点駅
ランク外 下北沢 8.8万円(京王井の頭線/東京都世田谷区/3分/0回)

大学名を冠した「明大前駅」周辺は生活する街としても魅力的

東京都内を中心に、4キャンパス・10学部を抱える明治大学。東京都杉並区には主に法学部や商学部といった文系学部の1・2年生が通う、和泉キャンパスがある。2022年春には学生の交流スペースも備えた新教育棟「和泉ラーニングスクエア」が誕生した。この和泉キャンパスから徒歩5分ほどの最寄駅はその名も「明大前駅」。明治大学予科(当時)が移転してきたのを機に1935年から、この駅名になったのだとか。

明大前駅(写真/PIXTA)

明大前駅(写真/PIXTA)

京王線と京王井の頭線が通る明大前駅は、新宿駅まで京王線の特急で2駅・最短約7分、渋谷駅まで京王井の頭線の急行で2駅・最短約6分という好立地。駅ビル「フレンテ明大前」が併設され、スーパーや書店、飲食店などがある点も魅力の一つだ。駅周辺は細い路地に沿ってコンビニや100円ショップ、ファストフード店やラーメン店といったリーズナブルな飲食店が立ち並び、学生にも愛用されている。大型の商業施設はなく、駅前から少し離れると住宅街。また、明治大学以外にも日本女子体育大学の附属高校など学校が点在しており、通学時間帯の駅周辺は学生の姿でにぎわっている。

明大前駅周辺で暮らす学生も多いそうで、「ハウスメイトショップ渋谷店」店長の山室貴広さんも明大生が住むイチ押しの街として明大前駅を挙げてくれた。

「大学生の住まい探しは、キャンパスまでドア・トゥ・ドアで30分以内、もしくは電車で2~3駅圏内がおすすめ。近年は自転車でも通える距離内でお探しになる方が増えています。また、住む街を選ぶ際はアルバイトや部活動など、授業以外の利便性も考慮するとよいでしょう。その点、明大前駅は2路線利用可能で渋谷駅や新宿駅に乗り換えなしでアクセスできるため非常に便利。駅前商店街に飲食店も多く、コンパクトながら生活に必要な施設はそろっています」

また、明大前駅を含む京王線笹塚駅~千川駅間では現在、連続立体交差事業が進行中。明大前駅の高架化にともなって駅舎のリニューアルも予定され、駅前広場が設けられるなどの駅周辺地区の再開発も計画されている。高架化事業の完了は当初予定の2022年度中から後ろへずれ込んでいるようだが、明大前駅周辺は変革期を迎えているところだ。

そんな明大前駅から徒歩15分圏内にある、学生向け賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK。以下同)の家賃相場は8万1000円。便利な街だけあって、学生の一人暮らしにとって安くはない。もう少し家賃相場がお手ごろで魅力的な街として山室さんがおすすめしてくれたのが、今回調査したランキングの14位にも入った京王線・千歳烏山駅だ。

千歳烏山駅(写真/PIXTA)

千歳烏山駅(写真/PIXTA)

東京都世田谷区に位置する千歳烏山駅の家賃相場は明大前駅より6000円低い7万5000円となっており、「家賃を抑えたい方におすすめです」とのこと。「親しみやすい風情あふれる商店街があり、ドラッグストアや定食屋さんなど日常使いできる店が多数、立ち並んでいます。また、家具や工具を買いたい場合はホームセンターが隣駅の仙川にありますので、カーシェアなどを利用すれば20分程度で行くことが可能です」と山室さん。千歳烏山駅から明大前駅までは、京王線の特急で1駅・約7分。駅周辺にはクリームソーダが名物の昭和レトロな喫茶店や行列のできるベーカリー、それぞれに特徴的な数々のラーメン店もあり、お気に入りの店を探して街をめぐるのも楽しそう。また、前述した京王線の連続立体交差事業区間に千歳烏山駅も含まれており、将来的には駅の高架化が予定されている。

明大前駅まで乗り換えなし&15分以内の駅でも家賃相場は1万円以上も下がる

続いてランキング上位になった駅も見ていこう。明大前駅まで電車で15分圏内にある、家賃相場が最も安かった駅は東京都調布市に位置する京王線・つつじヶ丘駅。家賃相場は明大前駅よりも1万5000円以上低い、6万5800円だった。京王線の急行に乗ると、2駅・約12分で明大前駅に到着する。つつじヶ丘駅の南口では道路の再整備が行われており、拡張された駅前広場などの一部は供用が開始された。駅舎北側には「京王リトナード つつじヶ丘」が併設され、書店やドラッグストア、飲食店が営業中。そして北口の駅前にもスーパーや飲食店をはじめさまざまな店舗が建ち並ぶ。一帯に広がる「つつじヶ丘商店街」は店舗数が多く、にぎわいを感じる街並みだ。

つつじヶ丘駅(写真/PIXTA)

つつじヶ丘駅(写真/PIXTA)

2位は東京都三鷹市にある京王井の頭線・三鷹台駅で、家賃相場は6万8000円。明大前駅までは各駅停車で7駅・約13分で行けるほか、明大前駅とは逆方面に進むと若者にも人気の街・吉祥寺駅に2駅・約3分で到着する。駅周辺は線路と沿うように神田川が流れ、川の北側にあるドラッグストアとコンビニの先には立教女学院の敷地と住宅地が広がる。商店が多いのは川と線路の南側。スーパーやコンビニのほか、三鷹台駅前通り沿いの商店街を中心にラーメン店や宅配ピザなどの飲食店も点在している。また、1駅隣には5位・井の頭公園駅(家賃相場7万円)があり、駅前には緑豊かな井の頭恩賜公園が広がっている。三鷹台駅からも電車や自転車で訪れやすく、気軽にリフレッシュに出かけられる点も魅力だ。

三鷹台駅周辺(写真/PIXTA)

三鷹台駅周辺(写真/PIXTA)

3位以下は家賃相場が同額の駅が多い結果に。たとえば5位には家賃相場が同額7万円となった、京王井の頭線の井の頭公園駅と久我山駅、東急世田谷線・松原駅の3駅がランクインした。そのうち明大前駅までの所要時間が最も短いのは松原駅。東急世田谷線で下高井戸駅に出てから京王線に乗り換える必要はあるものの、明大前駅までは計約8分で行くことができる。「乗り換えは面倒だな」と感じるかもしれないが、実は松原駅から明大前駅まではほぼ平坦な道のりで自転車なら約6分、歩いても20分ほどの近さ。都内の路線は入り組んでおり、立地的には近い駅でも電車の乗り換えが面倒な場合もある。住む街を探す際は、乗り換え経路だけではなく地図もチェックしておきたい。

東京都世田谷区に位置する5位・松原駅の周辺は静かな住宅地。駅前にはスーパーやコンビニ、ドラッグストアがあるので、日常の買い物には困らないだろう。チェーン系の飲食店はないが、小ぢんまりとしつつも評判高いカフェが点在している。ご近所にある穴場の名店を探すのも楽しそうだ。

流行に敏感な人には、新スポット目白押しの下北沢駅も要チェック!

さて、明治大学の学生が住む街として「ハウスメイトショップ下北沢店」の山室さんはもう1駅、おすすめしてくれた。それは京王井の頭線・下北沢駅。

「バンド、サブカル、古着の聖地。駅前商店街はいつも20代の若者でにぎわっており、学生さんにとても人気がある街です。その分少々、家賃は高いですが……」と話す山室さん。家賃相場は8万8000円で、確かに明大前駅よりもアップしてしまう。しかし明大前駅までは京王井の頭線の各駅停車で3駅・約3分、自転車なら10分弱。渋谷駅までは各駅停車で4駅・約7分、急行なら1駅・約4分で行ける。小田急線も乗り入れているので、通勤急行や快速急行に乗って2駅・約9分で新宿駅にも出られるアクセスのよさが魅力だ。

下北沢駅(写真撮影/嶋崎征弘)

下北沢駅(写真撮影/嶋崎征弘)

ミカン下北(写真撮影/嶋崎征弘)

ミカン下北(写真撮影/嶋崎征弘)

下北沢の街自体も山室さんがおすすめするように若者に人気があり、わざわざ遠方から遊びに来る人も少なくない。古くから人気のショップや飲食店に加え、小田急線の地下化にともなってここ数年で新スポットも次々とオープン。商業施設「シモキタエキウエ」を併設した新駅舎や、線路跡地が商業ゾーンやホテルに生まれ変わった「下北線路街」、井の頭線高架下を活用した商業空間「ミカン下北」など、新施設が街の魅力を高めている。話題のスポットにふらりと出かけたり人気店の食べ歩きをしたりと、学業以外の時間も充実させたいタイプの人なら下北沢での暮らしを気に入ることだろう。

●取材協力
ハウスメイトショップ

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●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている明大前駅まで15分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/2~2022/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年11月28日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載

東京都23区のファミリータイプの賃貸住宅が活況。就業環境や働き方の変化が影響?

三菱UFJ信託銀行が、資産運用会社や不動産管理会社などの24社に対して、「2022年度 賃貸住宅市場調査」(2022年秋時点)を実施し、その結果を発表した。それによると、「東京23区ではファミリータイプのリーシングが好調」だという。詳しく見ていこう。

【今週の住活トピック】
【新レポート発行】独自調査「2022年度 賃貸住宅市場調査」を発行/三菱UFJ信託銀行

ファミリー向け賃貸住宅の需要が高まる!?

2023年1月17日の日経新聞の「ニュースぷらす」欄で、「分譲高騰 ファミリー向け賃貸に需要」という見出しが躍った。ファミリー向け(広さ50~70平方メートル以下)の賃貸住宅の平均募集賃料が上昇しているのだという。

同じ週にリリースされた、三菱UFJ信託銀行の「2022年度 賃貸住宅市場調査」でも、ファミリータイプの好調ぶりが指摘されている。東京23区や首都圏において、ファミリータイプのリーシング(不動産の賃貸を支援する業務)のDI【=(ポジティブな回答の割合-ネガティブな回答の割合)×100)】が大きくプラスになっているからだ。

エリア別のリーシング環境

(注) 1. 本調査におけるDIは、「(ポジティブな回答の割合-ネガティブな回答の割合)×100」と定義します。
2. 「ダウンタイム」とは、前テナントの契約終了から新テナントの契約開始までの空室期間を指します。
エリア別のリーシング環境(出典/三菱UFJ信託銀行「2022年度 賃貸住宅市場調査」より転載)

東京23区のファミリータイプの稼働率DIは41.0、テナント入れ替え時の賃料DIは28.7、半年後の予想でも稼働率DIは30.1、入れ替え時の賃料DIは24.8と大きくプラスとなり、ポジティブな回答が多かったことがわかる。東京23区を除く首都圏でも、同様の傾向が見られ、好調ぶりがうかがえる。ただし残念ながら、名古屋市のファミリータイプでは大きくマイナスになっている。

同行では、テレワークの普及等によって広い間取りを求める動きも影響してか、23区のファミリータイプの稼働率や賃料、ダウンタイム(空室期間)が改善し、半年後もその傾向が続くと見ている。一方、名古屋市では、エリアや物件による差があるものの、入れ替え時の賃料が低下、ダウンタイムが長期化し、広告費を増やしてリーシングを強化する市場が当面続くとしている。

ファミリー向け賃貸住宅に需要が高まる理由

では、特に首都圏でファミリータイプの賃貸住宅需要が高まる要因はなんだろう?考えられる要因はいくつかある。まず、マンションの価格が上昇しているため、購入を考えた場合に手が届きにくいことがあげられる。不動産経済研究所が公表した「首都圏マンション市場予測」によると、2022年1月~11月の新築マンションの平均価格は、首都圏で6465万円、東京23区に至っては8230万円となっている。中古マンションでも価格は上昇し、東日本レインズが公表した「首都圏不動産流通市場の動向(2022年)」によると、2022年の首都圏の成約平均平米価格は67.24万円(70平米換算で4707万円)、23区では100.32万円(70平米換算で7022万円)だった。

さらに、当サイトでも何度か記事にしたが、コロナ禍で自宅にいる時間が長くなり、住まいに多くの機能を求めるようになり、ユーザーの志向が住宅の広さや部屋数を求めるようになったこともあげられる。その結果、一戸建て志向が高まったといわれているが、賃貸物件で一戸建ては数が少なく、購入する場合は駅から離れた場所や郊外に供給が多いため、利便性を重視するとファミリータイプの賃貸マンションなどに落ち着く、といったこともあるだろう。

また、コロナ禍で雇用環境が悪化するなど、収入安定への不安なども、購入に待ったをかける要因になり、まずはより広い、あるいは性能の高い賃貸住宅へ引越すという流れも考えられる。

日本の若者は都心志向が強い?

一方、シングルタイプについては、東京23区でもファミリータイプほどの大きなプラスはなかったものの、半年後の予想で稼働率のDIが20.8となっている。コロナ禍で東京都からの転出者が増えて一時的に人口が減少したが、「東京都における就業環境の回復や人口の転入超過拡大への期待等が影響」して、稼働率の改善を見込む回答者が多い可能性があるという。

さて、シービーアールイーが、「ジャパンレポート-Live Work Shop 2023年1月」という特別レポートを公表した。それによると、他の国と比較した場合に日本では賃貸志向が強いものの、その一方で、引越し頻度は他国より低い傾向にあるという。また、日本では「若い世代ほど引越しの意向が強く(Figure13)、『他の都市の中心部』に行きたい(Figure14)と考えている」という。特に、Z世代(18~25歳)でこの傾向は顕著だ。このレポートでは、都心志向が強いのは「就労機会が都市部、特に首都圏に集中していることがその理由だと考えられる」と分析している。

出典:シービーアールイー「ジャパンレポート-Live Work Shop 2023年1月」

出典:シービーアールイー「ジャパンレポート-Live Work Shop 2023年1月」

就業環境や働き方が賃貸住宅市場に影響

また、三菱UFJ信託銀行の調査では「今後1年間のリーシングマーケット全体に与える影響が大きいと考える項目」についても聞いている。「個人の就業環境や収入の増減」が最多となり、「テレワーク等の働き方の変化」、「新型コロナウイルス等の感染拡大の状況」が続く結果となった。感染状況はもちろんだが、それよりも就業環境や働き方が、賃貸住宅市場に大きく影響するということだ。

今後1年間のリーシングマーケット全体に与える影響が大きいと考える項目

(注) 1位:2pts 2位:1ptsとして計算し、合計値を集計しました。合計ptsは68ptsでした。
今後1年間のリーシングマーケット全体に与える影響が大きいと考える項目(出典/三菱UFJ信託銀行「2022年度 賃貸住宅市場調査」より転載)

こうして見ていくと、就業環境や働き方は、人が移動したり、マイホームを購入するか賃貸にするか分かれたりといった、生活拠点となる住宅に与える影響が大きいことがわかる。住宅市場を見るうえでは、住宅の賃料や価格、住宅ローンの金利だけでなく、労働環境にも注意を払う必要がありそうだ。

●関連サイト
三菱UFJ信託銀行【新レポート発行】独自調査「2022年度 賃貸住宅市場調査」
シービーアールイー「ジャパンレポート-Live Work Shop 2023年1月」

高齢者・外国人・LGBTQなどへの根強い入居差別に挑む三好不動産(福岡)、全国から注目される理由とは

日々の生活を送る上で、安心して暮らせる場所があることは重要です。しかし、高齢者や低所得者層、外国人など、住まいを探してもさまざまな事情により入居先を確保することが困難な人たちの問題が今も存在します。
福岡県を中心に活動している三好不動産は、持続可能な社会の実現に向けて、「すべての人に快適な住環境の提供を」のマインドを常に持ち続けています。三好不動産の川口恵子さんと原麻衣さんに取り組みや、その思いについて、話を聞きました。

「お客様が希望する住環境を提供できない」不動産賃貸業界における問題

福岡のまちには、企業や大学が多く存在します。また、地の利も良いことから、海外からの留学生や移住者、日本で仕事をする人も増え、投資の対象としても注目されてきました。

下図は福岡市が民間賃貸住宅事業者に対して行ったアンケート結果(「福岡市住宅確保要配慮者賃貸住宅供給促進計画(2019年3月)」より抜粋)です。2016年時点で実に67.5%の民間の不動産会社が「入居を断ることがある」と答えており、その対象として「外国人」「ホームレス」「高齢者世帯」では3割以上の会社で入居を制限しているという実態がありました。

家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)

家を探そうとしても、断られてしまう人たちがいる(画像提供/福岡市)

「当社は『すべての人に快適な住環境の提供をしたい』という基本姿勢のもと、かねてより高齢者や外国人、DV被害者、災害時の住宅提供など、さまざまなニーズにいち早くお応えしてきました。住まい探しに困っている方がいるのであれば、なんとか力になりたいといった社風があります。どのような方がお部屋探しにいらっしゃっても、基本的にお断りすることはありません」(原さん)

すべての人に快適な住環境の提供を!三好不動産が舵を切った分岐点

三好不動産はもともと多様性には理解のある社風でしたが、中でも社員の意識が大きく変わったきっかけがあったといいます。それは、2008年にプロジェクトを立ち上げ、外国人の入居希望者を積極的に受け入れるようになったこと。原さんは、当時のことを「“ありとあらゆる人たちに住環境を提供するのだ”と、社員全員がはっきりと意識する分岐点になった」と感じているそうです。

外国人の従業員も採用するようになり、現在は中国、ベトナム、ネパール、韓国出身の13名が三好不動産で働いており、このうち9名が宅地建物取引士の資格を取得しています。

「2008年当時、福岡で外国人に物件を紹介していた不動産会社は、三好不動産だけだったような気がします。他社よりも外国人への理解はそれなりにあると思っていたのですが、新たに外国人スタッフが加わったことで、今まで当たり前と思っていたことに対して『私の国ではこうです』と指摘され、文化の違いを知ることもあり、お互いの凝り固まった見方とはまた違った考え方や“世界から見た日本”の視点に気付かされることが、たくさんありました」(原さん)

現在、三好不動産が支援する住宅確保に配慮が必要な人たちは、多岐にわたります。外国人や高齢者、LGBTQ、DV被害者、被災者など、抱える問題や事情に違いはあれど、対応していこうとする姿勢に変わりはありません。

「身寄りがないなどの理由で賃貸住宅を借りることが困難な高齢者など、通常の契約が難しいケースでは、自社で設立したNPO法人が、オーナーと借主の間に入って住宅を提供しています。身寄りのない方とも面談をして、一人で生活するのに支障がないことを確認した上でお部屋を紹介することが可能です」(川口さん)

三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)

三好不動産が設立した介護賃貸住宅NPOセンターを介したサービス。「身寄りがない」「高齢だから」などの理由で一般の住宅に入居しづらい人と、空室に悩むオーナーをつなぐ(画像提供/三好不動産)

「問題の根本は何なのか」「足りない点は何なのか」を勉強することから始めたLGBTQの居住支援

LGBTQの人たちも、不動産会社側の偏見や理解不足、知識不足から、部屋探しにはさまざまな壁があるようです。LGBTQの居住支援の担当者となった原さんと広報の川口さんは、まずLGBTQの人たちが抱える悩みごとや問題点は何なのか、勉強するところからスタートしました。

「LGBTQ専用のサービスの必要性や所得が低いために生じる問題はほとんどなく、多くは理解のないことや知識不足に起因します。知識と相互理解によって、齟齬のないようにしていくことが大事です」と話す原さん。よくある事例としては、パートナーと一緒に入居を希望した場合に、カミングアウトしていないため、親族に保証人を頼めないケースや、同性パートナーとの同居を、その関係性を打ち明けられず一人入居と偽って契約してしまうといったケースなどが挙げられます。

原さんたちは、まずは店舗にレインボーマークを掲げるなどLGBTQの方が相談しに来やすい環境づくりからはじめ、最近ではYouTubeチャンネルで情報を発信するなど、活動を広げていきました。そして、今では、どの店舗でもLGBTQの人の部屋探しに対応できるまでに。2016年10月~2022年10月の間の賃貸契約数は約120組、相談件数においては常時100件以上にのぼります。

社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)

社内勉強会の様子。「何が問題なのか」「何が足りないのか」、まずは知るところから取り組みが始まる(画像提供/三好不動産)

店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)

店舗のドアに貼られたレインボーステッカーが、LGBTQフレンドリーである姿勢を示している(画像提供/三好不動産)

行政や異業種とのタッグも!取り組みがもたらした変化

三好不動産では、住まいの確保に困難を感じている人たちと、オーナーさんが貸し出すことを承諾した管理物件とをつないで、契約を結んでいます。行政から相談を受けたり、調査や講演などへの協力を要請されたりすることも少なくないそう。

「LGBTQ支援をはじめ、さまざまな活動を通して、不動産業界以外の企業や団体から『三好不動産のLGBTQの取り組みを話してほしい』などの依頼をいただくこともあります。福岡市パートナーシップ宣誓制度の導入を受け、福岡市に後援いただいて当社が主催したセミナーも4回にわたりました」(原さん)

活動を通じて、同じ方向を見ている企業や行政とは、業種を超えて新たな取り組みにつながっていく、良い循環ができているようです。

福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)

福岡市高島市長より、LGBTQをはじめとする性的マイノリティ支援に取り組む企業として、ふくおかLGBTQフレンドリー企業登録証が直接手渡されたときの様子。行政から相談を受けることも多い(画像提供/三好不動産)

他社でできないことが三好不動産ならできる、その理由は?

三好不動産で行っている、住まい探しに配慮が必要な人たちに寄り添う取り組みについては「取り組みを始めたけどなかなかうまくいかない」と話す会社も多いそうです。それはどうしてなのか、という疑問を原さんにぶつけてみました。

「何のためにやるのか、そもそもの方向性が違うのだと思います。住まいを求めるお客さまの目線から入っていくことに従業員一人ひとりの発見があるのです。世の中から評価されるために、例えば『SDGsが世の中で評価されているからやる』という視点で見てしまうと、見えるべきものも見えなくなるのではないかと感じます」(原さん)

原さんたちは「いつかは取り組まなくてはならないことだから」と、見切り発車でも、まずは動いてきたと言います。まだ先を完全に読みきれない不安もある中、「失敗を恐れて何もしないよりは」と行動することで取り組みを推し進めてきました。

また、三好不動産の各部署では、自主的に研修会や勉強会を企画・開催し、社内だけでなく社外向けに発信する機会も多くもあるそうです。一人ひとりが受け身ではなく、能動的に動くことこそが、他社ではできないことを可能にしているのではないでしょうか。

九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)

九州レインボープライドのブースにて(画像提供/三好不動産)

原さんは会社全体のプロジェクトとしてLGBTQやDV被害者のお部屋探しの推進を担当していますが、三好不動産ではそれぞれの店舗でも、高齢者や災害被害者、LGBTQといった住宅確保に困難を抱える人の、住まい探しを支援しています。

「お客さまの身になって」「一人ひとりに寄り添って」。言葉で言うのは簡単です。しかし、本当に困っている人たちと向き合うには、知識も必要ですし、多くの人に理解をしてもらうための手間暇を惜しんではいけないのだと改めて感じました。それは、ボトムアップで意見のできる風通しの良い社風、そして、会社の利益だけでなく“お客さまのために何ができるか”で行動できる環境がそろっているからこそできることなのかもしれません。

そして活動の効果を実感するまでには長い年月がかかるといいます。原さんたちが明らかな変化を感じたのが、2016年から参加している、性的少数者をはじめとするすべての人が自分らしく生きていける社会の実現を目指す啓発イベント「九州レインボープライド」にブースを出店したときの来場者の反応だそう。最初はLGBTQなどの当事者、行政、NPOなど、LGBTQの問題に直接的に関わる人や団体の参加が多く、「どうして不動産会社がここにいるの?」と不思議そうな顔をされたそうですが、2022年の開催では、来場者から「応援しています」「三好不動産の活動、知っていますよ」など、激励の言葉をたくさんもらったのだとか。地道な活動が、少しずつ形になり、実を結びつつあるということでしょう。

●取材協力
株式会社三好不動産

世界で5番目に高額なシンガポールの不動産。一方で高い持ち家率、その理由は?

前回の記事では、シンガポールの生活環境について触れたが、今回は不動産事情についてフォーカスしてみたい。世界の主要都市の中で5番目に高いというデータもあるシンガポールの不動産価格。シンガポールで家を購入して住みたい、賃貸で暮らしたい、と考えたことがある人はもちろん、そうでない人も興味深い最新の現地の不動産事情をご紹介する。

シンガポールの不動産価格の推移

シンガポールの住宅の価格は総じて高額だといわれている。不動産コンサルティング会社・ナイトフランク社の「2020年ウェルスレポート」によると、100万ドルで購入できる世界の一等地の面積ランキングでシンガポールは狭い方から5番目、約35平米の広さしか買えない。東京は12位にランクインしており、約64平米(100万ドルあたり)なので、同価格でシンガポールの約2倍の広さは確保できる。

アジアの国々の中には、不動産を購入する際、外国人には特別な条件を課して、自国民を優先する政策を取っている場合が多い。シンガポールもその1つ、外国人が購入できる居住用物件はコンドミニアムと呼ばれる、高額な集合住宅に限られている。

またシンガポールの不動産価格は上昇を続けている。下記はHDB(政府系集合住宅。日本でいえば、かつての住宅・都市整備公団が分譲する集合住宅の総称。住宅・都市整備公団は現在UR都市機構)の再販価格の推移だが、26カ月連続で上昇している。コンドミニアムの価格はさらに高額だが、やはり同じように上昇を続けているようだ。

HDBの再販価格推移(2022年現在)

HDBの再販価格推移(2022年現在)

2009 年の第1四半期を 100 としたら、2022年第1四半期のHDB再販価格指数は159.5だ。つまりHDB再販アパートの価格は2009年よりもほぼ60%も高くなっている。

シンガポール政府は住宅価格を抑えるためにさまざまな冷却策を導入しているが、大枠で見ると価格は上がり続けているということが分かる。

日本人に人気の住宅エリアは?

シンガポールは東京23区と同じ位の広さなので、どこに住んだとしてもアクセスは便利だ。買い物施設や教育施設によって人気のエリアがある。以下は代表的な住宅エリアである。

●オーチャード・サマセットエリア
日本人に人気があるのが、オーチャード・ロードを中心とするエリア。オーチャード・ロードには、日系のデパートの高島屋や伊勢丹、日本人医師が在籍する病院や歯科もあるので、日本人にとって住みやすい。また学習塾もこのエリアに集中している。

日本でいうと「銀座」のような場所で、ブランドショップからドン・キホーテ、ハンズ、ダイソー、ユニクロまで、日系のお店が充実しているので欲しい物で手に入らないものはほぼない。

日本でいうと銀座のようなショッピングエリア。南北にコンドミニアムが並ぶ(写真撮影/四宮朱美)

日本でいうと銀座のようなショッピングエリア。南北にコンドミニアムが並ぶ(写真撮影/四宮朱美)

●リバーバレーエリア
シンガポール川とリバーバレー通沿いを中心に街が広がるエリア。オーチャードエリアについで、日本人に人気が高い。オーチャードにも近いが、家賃がオーチャードと比べると少し割安感がある。

ローカルの大手スーパーや大きなフードコートがある。大規模なショッピングモール、グレートワールドシティ周辺は高層の物件が立ち並んでいる。

川沿いのロバートソン・キーやクラーク・キーにはおしゃれなレストランやカフェがそろっている。

グレートワールドシティには明治屋やインテリアショップが並ぶ(写真撮影/四宮朱美)

グレートワールドシティには明治屋やインテリアショップが並ぶ(写真撮影/四宮朱美)

●チョンバルエリア
Tiong Bahru (チョンバル) エリアは低層のHDB(公団団地)が多く、のんびりとした雰囲気をもつ昔ながらの住宅街だ。低層のHDBは非常に人気で実際に住むのは難しいが、周辺の高層住宅に住んで、街の雰囲気を楽しむことはできる。

最近では、おしゃれなカフェやショップが増えていて、日本の代官山のような雰囲気だ。鮮度のよい魚介類、野菜、肉がそろうチョンバルマーケットがあり、食材の入手が簡単。またMRT駅構内、そして駅周辺に地元のスーパーがあるので生活も便利。

チョンバルの低層住宅街。緑も多くゆったりした街並み(写真撮影/四宮朱美)

チョンバルの低層住宅街。緑も多くゆったりした街並み(写真撮影/四宮朱美)

おしゃれなカフェやショップが多いチョンバルエリア(写真撮影/四宮朱美)

おしゃれなカフェやショップが多いチョンバルエリア(写真撮影/四宮朱美)

●イーストコーストエリア
海沿いの眺めの良い物件が多い。中心部に比べ比較的リーズナブルで築浅の物件を借りることが可能だ。またチャンギ空港へのアクセスもいいので海外出張の多い人には便利。

海岸線沿いに広い公園があり、サイクリングやジョギングを楽しむこともできる。バイリンガル教育を実施している日系幼稚園、日本人小学校のチャンギ校があり子どものいる家庭に人気。日本食品を取り扱うお店も充実していて住みやすい。

●ウエストコーストエリア
日本人小学校のクレメンティ校、日本人幼稚園、早稲田渋谷シンガポール校のあるエリアで、子どもの学校に近い場所に住みたいという日本人に人気のエリア。East Coast Park同様に、海岸の公園には、大きなアスレチック遊具や砂場スペースがあり、子どもの遊ぶ場所も多い。

閑静な住宅街が多く、予算も比較的抑えられるので、単身の方にも人気。

シンガポールの住宅は主に3タイプ

シンガポールでは大まかに3つのタイプの住宅様式がある。政府系集合住宅(HDB)、民間集合住宅、一戸建ての3種類だ。

またシンガポールの国土の大半は国有地であるため、ほとんどが99年や999年といった長期間のリースホールド(定期借地権)型で売買される。永久的に不動産を所有することができるフリーホールド型の物件は限られている。

また、政府系集合住宅や土地付き一戸建ては、外国人は購入できない。つまり購入する場合は、日本と異なり買える物件と買えない物件があるということだ。

●政府系集合住宅(HDB)
シンガポール国民の80%以上が暮らすといわれているHDBは日本の公団住宅のような住宅だ。The Housing & Development Boardという機関が建築・販売しているため、物件自体がHDBと呼ばれている。

シンガポール国民の住居として販売されている物件なので、民間が分譲するコンドミニアムといわれる比較的高級な物件に比べて価格は抑えられている。外国人は購入することはできないが、借りることはできる。

以前は民間住宅のコンドミニアムに比べて、共用部などがシンプルだったが、最近建てられたものは、コンドミニアムに比べてデザイン性も遜色のないモノが建設されている。建物の中に食堂が集まるホーカーズセンターがあったり、買い物施設があったり、生活するための施設は整っている。

リトルチャイナにあるHDB。駅の近くにあるので便利(写真撮影/四宮朱美)

リトルチャイナにあるHDB。駅の近くにあるので便利(写真撮影/四宮朱美)

●民間集合住宅
民間集合住宅は、プールやジムなどの付帯設備のあるコンドミニアムと呼ばれる豪華な集合住宅と、設備の少ないアパートメントに分類される。

日本人や欧米の駐在員が、主に多く住んでいるのはコンドミニアム。共用部にプールやフィットネスジムなどの設備が整い、セキュリティーがしっかりしている。シンガポール人の富裕層あるいは外国人の住居として利用されている。海外からの不動産投資の対象ともなっており、外国人のオーナーの比率が高い。高額だといわれている理由の1つは、外国人がコンドミニアムを購入する例が多いからだろう。

ユニークな外観のコンドミニアム(写真撮影/四宮朱美)

ユニークな外観のコンドミニアム(写真撮影/四宮朱美)

●一戸建て
シンガポールは国土が狭いため、広い土地を必要とする一戸建ては少ない。数少ない一戸建て住宅の家賃はひときわ高く、住めるのは一部の富裕層に限られている。一般的に外国人は買うことができない。ただしセントーサ島(レジャー施設が多数の観光スポット)の住宅開発地区の物件は、外国人の購入が認められている。

間取りや設備、シンガポールの住まいの特徴は?

次にシンガポールの住宅の特徴について見てみたい。日本とは間取りや設備に違いがある。

●間取り
シンガポールでは単身者は結婚するまで家族と暮らすことが多く、HDBにしろ、コンドミニアムにしろ、ファミリー向けの広い間取りが中心でシングル向けの小さな部屋は少ない。つまり買うにしても借りるにしても高額になりがちだ。そのため単身者の人は広い部屋をシェアすることが多いそうだ。

シンガポールの一般的な間取りは、リビング、キッチン、ダイニング以外に個室が2~3部屋あるタイプが多く、主寝室に1つ、共用部分に1つの計2箇所のシャワールームが標準装備されている。また、それ以外にお手伝いさんのための小さなメイドルームが付いている物件も多い。

シェアハウスに利用される場合、その中のバストイレ付きの一番大きい部屋はマスタールーム、残りのバストイレが共有の部屋をコモンルームと呼び、どこを借りるかで家賃が多少異なるようだ。日本でこのように1つの住居をシェアするのは、知り合い同士で一緒に契約して借りるということが多いが、シンガポールの場合は別々の賃貸契約として提供されていて、知らない人が入居してくるという欧米などでよく見られるスタイルになっている。

シェアハウス・イメージ図(画像提供/pixta)

シェアハウス・イメージ図(画像提供/pixta)

●室内の設備
高い確率でバスタブがないことが多い。熱帯の国ではバスタブを必要としない国は多い。日本人や外国人向けに作られたコンドミニアムではバスタブが設置されているが、バスタブのない物件が主流だ。

日本の物件ではおなじみのシャワー付きトイレもない。取り付けることは可能だが、電気配線工事が必要になるので、簡単には設置できない。

室内や同じフロアのエレベーターホールなどにダストシュートが付いていることが多いので、わざわざゴミ捨て場に行かなくても、24時間いつでもすぐにごみが捨てられるのは便利だ。

天井にシーリングファンが設置されていることが多い。日本でも最近はインテリアの一部のようにシーリングファンが設置されていることがあるが、シンガポールではリビング以外に各個室にも設置されている。しかもかなり大きくパワフルだ。大きな風がゆったりと動くので、個人的にはこの設備が非常に快適だった。夜間などはエアコンがなくても十分に涼しい。

HDBのリビングに設置されたシーリングファン(画像提供/Matthew)

HDBのリビングに設置されたシーリングファン(画像提供/Matthew)

HDBの水回り。バスタブはなくシャワーブースがある(画像提供/Matthew)

HDBの水回り。バスタブはなくシャワーブースがある(画像提供/Matthew)

●共用部
コンドミニアムや新しいHDBは敷地内の施設が充実している。プールは大人用と子ども用が別々に用意されている物件もある。また設備の整ったジムも設置されている。ファミリー向けのコンドミニアムはプレイ・グランドやBBQスペース、貸出しのイベントルームもが設置されているものもある。

コンドミニアムはセキュリティーがしっかりしていて、ほとんどが24時間体制のセキュリティーガードが常駐している。カードキーを持っていないと敷地にも入れないし、エレベーターにも乗れない仕組みになっている。

コンドミニアムの中庭。噴水があるなどリゾートホテルのような雰囲気だ(写真撮影/四宮朱美)

コンドミニアムの中庭。噴水があるなどリゾートホテルのような雰囲気だ(写真撮影/四宮朱美)

コンドミニアムに設置されているプール。大人用と子ども用のプールが設置されていて広い(写真撮影/四宮朱美)

コンドミニアムに設置されているプール。大人用と子ども用のプールが設置されていて広い(写真撮影/四宮朱美)

コンドミニアムの敷地の入り口にはセキュリティーガードが常駐している(写真撮影/四宮朱美)

コンドミニアムの敷地の入り口にはセキュリティーガードが常駐している(写真撮影/四宮朱美)

不動産購入に不可欠な保険や税金のシステム

最後に、暮らしに欠かせないお金事情もチェックしておきたい。

シンガポールでは、年金と健康保険を組み合わせたようなCPF(Central Provident Fund)と呼ばれる、シンガポール人と永住権保持者のみ加入できる、強制積立制度がある。

日本の年金は、現在の現役世代から集めた金を現在のリタイヤ世代への支払いに充当する制度だが、CPFは積立方式なので、自分が現役世代に支払った年金が積み立てられ、将来、自分で受け取ることになるということが大きく異なる。

CPFは雇用主である会社と被雇用者である従業員の両方から,それぞれ一定額を強制的に積み立てさせ,それを中央年金庁(CPFB: CPF Board)が運用し,老後の年金として支給する制度。以下の3つの口座に分けられ、預金,債権,不動産など安定的な資産に再投資されている。

引き出すにはそれぞれの口座ごとの引き出し条件等を満たす必要があるため、実質的に国民等の老後の生活資金として機能している。住宅購入の際は下記の積み立てを利用できるうえに、政府からの援助もあるので、持ち家率が非常に高い。

〇普通口座(Ordinary Account) :住宅の購入,保険,投資,教育のために使われる口座
〇特別口座(Special Account):老後の年金,緊急時の支出のために使われる口座
〇保険口座(Medisave Account) :医療費や特定の医療保険のために使われる口座

しかし外国人が不動産購入する場合は税金が高い。2021年12月に、2軒目の住宅購入および外国人の住宅購入には、より高い印紙税を支払う制度ができた。不動産を購入する場合は最高30%の印紙税が課税されることになる。購入意欲を上げすぎず不動産価格の高騰を防ぐための政策だ。

所得税の面から見ると、シンガポールも日本のように累進課税だが、高所得者でも現状22%という低水準、今後24%にまで引き上げられる予定だが、日本の所得税は、住民税も入れれば最高55%にもなるので、高所得者にとってはシンガポールに住むことは有利になる。

永住権を取得すると効率のよいCPFが使え、税金の控除も利用できるので、メリットが多い。シンガポールに長期滞在を希望している方や移住を真剣に検討している人たちが、シンガポールでの永住権の取得を考えているのもうなずけるだろう。

シンガポールの不動産価格は高い水準でキープされている。しかし現地の人たちは政府機関が運営するHDB に住むことができるので持ち家率は高い。コンドミニアムは外国人やシンガポールの富裕層の投資対象となっているが、近年はシンガポール政府の政策で購入のハードルが上がっている。

部屋を借りるときは、シングルの場合はシェアハウスという選択が多い。ファミリーの場合はコンドミニアムだけではなく、HDBを借りるという選択肢も視野に入れておくと、比較的リーズナブルに住むことができる。

物価が高いといわれるシンガポールだが、現地の情報をアップデートしていけば、かしこく住むことも可能だ。

●関連情報
IRAS |追加の購入者印紙税(ABSD)

高齢者や外国人が賃貸を借りにくい京都市。不動産会社・長栄の「入居を拒まない」取り組みとは

国内外から多くの観光客を呼び込む京都のまちに、市内の賃貸管理物件数で多くのシェアを誇る株式会社長栄(以下、長栄)という不動産管理会社があります。長栄は長年にわたり、高齢者や外国人など、賃貸物件への入居が難しい人たちへのサポートを実施してきました。賃貸物件の入居や日々の生活に困難を感じる人を支援するためには、どのような体制や仕組みが必要なのでしょうか。長栄の奥野雅裕さんに話を聞きました。

観光地として国内外から注目を浴びる京都市ならではの住まい事情

奥野さんによれば、さまざまな理由で入居に困難を感じる人がいるなかで、特に京都のまちがもつ特徴から支援が必要だと感じられるのは、高齢者・子育て世帯・外国人の人たちだと言います。

「背景の一つとして、京都市の物件価格の高さが挙げられます。もともと盆地で人が住みやすい条件を満たす土地が限られる中、古くからの建造物や歴史的価値の高い建物も多く、新しい住宅を建てられる場所が、ごくわずかしかありません。提供できる住宅の数が少なければ価格が上がり、それに紐づいて市場が高騰するという悪循環が生じてきました」(奥野さん、以下同)

京都府内の賃料は高止まり状態が続いていて、住宅弱者の住まい探しをより困難にしている(画像提供/長栄)

京都府内の賃料は高止まり状態が続いていて、住宅弱者の住まい探しをより困難にしている(画像提供/長栄)

数が限られた住宅、特に賃貸物件においては、高齢による孤独死などのリスクを不安に思う大家さんが、高齢者の入居を断ることが多々ありました。

また、京都というまちのブランド力により、不動産投資の対象として外国人投資家などからの注目度が高いことも住宅価格を押し上げる要因です。それゆえ、一般の子育て世帯が住宅を購入しづらい点が指摘されています。

そして、京都には大学が多く存在し、留学生の積極的な受け入れに舵を切ったことから、海外からの学生が急激に増えました。ただでさえ賃貸物件数が限られる中、外国人が身寄りのない日本で住居を確保するのは、なかなか難しい状況になっているのです。

「コロナ禍で情勢が変わったのは間違いありませんが、京都市内の住まいの需要は減っていません。売買価格や賃料は高止まりしている状況です」

長栄が主催する外国人留学生に向けた、日本の慣習やルールの説明会。慣れない国での暮らしをスムーズに送るためのサポートを行なっている(画像提供/長栄)

長栄が主催する外国人留学生に向けた、日本の慣習やルールの説明会。慣れない国での暮らしをスムーズに送るためのサポートを行なっている(画像提供/長栄)

市内の不動産会社との連携で住宅弱者の問題に取り組む

このような背景をもとに、「京都の不動産会社には、協力して住宅確保の問題に取り組んで行こうとする会社が多い」と奥野さんは言います。

今回お話を伺った、奥野雅裕さん。賃貸管理部門で12年間経験を積んだ後、顧客サービス部門で日本人、外国人を問わない、入居者に喜ばれるサービスを構築。長期入居者の増加や入居者のニーズに沿ったスキーム、物件の改善に取り組んでいる(画像提供/長栄)

今回お話を伺った、奥野雅裕さん。賃貸管理部門で12年間経験を積んだ後、顧客サービス部門で日本人、外国人を問わない、入居者に喜ばれるサービスを構築。長期入居者の増加や入居者のニーズに沿ったスキーム、物件の改善に取り組んでいる(画像提供/長栄)

京都市は2012年に「すこやか住宅ネット」の愛称で居住支援協議会を立ち上げました。これは、住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)に基づき、住宅確保に配慮が必要な人が円満に民間の賃貸住宅へ入居できる環境を整えるため、行政と民間企業が一体となって取り組んでいく組織です。

京都市は、不動産会社や家主に対して高齢であったり障がいがあったりすることだけを理由に入居を拒否しないよう指導するなど、入居に困難を抱える人を受け入れていくよう説明する機会を積極的に設けています。

「協議会メンバーである不動産会社が中心となって、セキュリティー会社と連携したり、IoT機器を使ったりして、家主が安心して高齢者を受け入れられる環境を作り、高齢者の入居を受け入れてもらうことにも取り組んでいます。当社は協議会立ち上げ当初から関わり、ほかの不動産会社への情報共有や勉強会・セミナーなども行ってきました」

京都市の居住支援協議会、「すこやか住宅ネット」では行政と不動産会社が共に、高齢者や障がい者といった住宅弱者の住まい探しや、暮らしに寄り添う取り組みを行なっている(画像提供/京都市住宅支援協議会)

京都市の居住支援協議会、「すこやか住宅ネット」では行政と不動産会社が共に、高齢者や障がい者といった住宅弱者の住まい探しや、暮らしに寄り添う取り組みを行なっている(画像提供/京都市住宅支援協議会)

「入居を断らない」ことが、大家さんの収益最大化につながる

住宅確保に配慮が必要な人への支援を継続していくには、一時的なものではなく、事業として成り立たなくてはなりません。

「私たちが目指しているのは、家主さんの収益の最大化との両立です。当然のことながら、高齢者、外国人、低所得者だからと言って入居をお断りしていては、家主さんの収益の機会損失になります。入居のハードルが下がれば、入居者さんが増え、家主さんの収益にもつながるというのが、私たちの考えです」

基本的に「入居を希望する人を断らない」のが、長栄のスタンスだそう。だからと言って、やみくもに入居を推し進める訳でありません。

「家賃保証とそのための審査は、不動産の管理・運営をしていく上での肝となる業務です。当社の管理物件に入居される際はほとんどの場合、グループ内の保証会社が対応しています」

必要があれば、入居者と契約前に個別に面談を行って自分たちで審査することも。高齢者の孤独死をはじめ、大家さんにとってリスクの高い人には、「特約」を設けるなど個別対応し、リスクヘッジを図りながら入居を促進するのが長栄のやり方です。

また、高齢者には、セキュリティー会社と連携した見守りサービスの提供、外国人には、各種手続きのサポートやトラブルを避けるための説明会を開催するなどしています。万が一、家賃の滞納が続く場合は、入居者の母国語を話せる外国人スタッフが、事前に取得している母国の連絡先に連絡して対応するなどの解決策を講じています。

高齢者の見守りサービス「ベルヴィシルバーあんしんサポート」。70歳以上の人が単身で入居する際に加入することで、スムーズに入居ができる(画像提供/長栄)

高齢者の見守りサービス「ベルヴィシルバーあんしんサポート」。70歳以上の人が単身で入居する際に加入することで、スムーズに入居ができる(画像提供/長栄)

「入居者ファースト」のサービス会社であることが会社の“幹”

「今後の課題は、住宅確保に配慮が必要な方たちが安心して、長く住んでいただける状況をつくっていくことです」

入居者に長く住んでもらえば収益も安定するので、長栄は入居率を重視しています。現在管理している物件の入居率は、実に96.31%(2022年11月30日時点)と業界平均を大きく上回る状態です。しかし奥野さんは、目先の利益を上げるために、手数料収入さえもらえれば良いと考えている、“不動産屋さん”的な考え方の不動産管理会社が、まだまだ多いと感じているそうです。

「私たちの収益の源泉は入居者さんがお支払いいただく家賃です。入居者さんのために何ができるか、私たちの仕事はサービス業であるという考えが事業の『幹』にあります」

この考えは、長栄の全社員が入社した頃から叩き込まれているといいます。マニュアル通りにはいかないこともたくさんあり、それらにどう対応していくかは日々トレーニングだとも。

「入居者お一人おひとりが本当に困っていることが何なのかを丁寧にうかがって、私たちが解決のためにできることを、しっかりと構築していきたいと考えています」

京都は観光地としての知名度や学校が多いことから外国人も多く、土地や住宅の高騰で、高齢者やひとり親世帯の住宅弱者が多い土地柄。今後も居住支援を長く継続していくには、家主をはじめ周囲の理解と同時に不安を取り除くことが必要です。

そのためには、リスクヘッジをしっかりと行い、万が一のトラブルが起こっても対応できる、仕組みや体制を整えることが大事で、その幹となる心構えがあって初めて居住支援の輪が広がっていくのだと感じました。

●取材協力
株式会社長栄

瀬戸内国際芸術祭の舞台、人口800人弱の”豊島”に移住者が増えている! 「余白のある」島暮らしの魅力とは?

瀬戸内海に「豊島」という島がある。豊島と書いて「てしま」と読む。小豆島の西に位置する、人口768人(2020年国勢調査による)の小さな島だ。「瀬戸内国際芸術祭」の舞台にもなるので、アート好きには知られた島でもある。この島に9日間ほど滞在することになった。住民の高齢化が進むなか、移住者が多い島でもあると聞いて、話をうかがうことにした。

瀬戸内国際芸術祭秋会期中に施設の“助っ人”として訪れて

この島を訪れた理由は、この秋に開業した宿泊兼研修・イベント施設の「豊島エスポワールパーク」を手伝うためだ。「瀬戸内国際芸術祭」2022年秋会期と同時にオープンしたので「助っ人が必要だ」と知人から聞き、手を挙げた。

宿泊棟の全室から海が見える「豊島エスポワールパーク」。ここに助っ人として8日間通った(筆者撮影)

宿泊棟の全室から海が見える「豊島エスポワールパーク」。ここに助っ人として8日間通った(筆者撮影)

「瀬戸内国際芸術祭」とは、2010年にスタート以降3年に1度開催される、瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台とする現代アートの祭典。会期中は国内外から多くの観光客が訪れる。豊島にも、豊島美術館や豊島横尾館などの数多くの作品が見られる。

筆者は、豊島エスポワールパークの寮に滞在したのだが、都心と違って建物が少ないからか空が大きく感じられ、空の景色も日々天候によって変わった。夜空の星もきれいに見えた。自然豊かな島ではあるが、あらかじめ「コンビニやスーパーはないので、必要なものは宅配で送るなどしてほしい」と言われていた。

島の中央にそびえる標高約340mの檀山(筆者撮影)

島の中央にそびえる標高約340mの檀山(筆者撮影)

檀山からの景色。右下に見える集落は豊島美術館のある唐櫃(からと)地区(筆者撮影)

檀山からの景色。右下に見える集落は豊島美術館のある唐櫃(からと)地区(筆者撮影)

島に雑貨店はあるが、品数は少なく欲しいものがないときも多い。「観光客お断り」の掲示がしてあるのは、地元住民の買い物を優先したいからだろう。欲しいものがあれば、通販で宅配してもらうか、船で隣の小豆島や岡山県の宇野、香川県の高松に出て買い求めることになる。ただし、船の便の本数は限られる。

一方豊島では、温暖な瀬戸内の気候のもと、米と種類豊富な野菜や果物を育てている。オリーブやミカン、イチゴなどの農園はあるが、それぞれの田畑で育てたものの多くは販売するのではなく、自給自足や物々交換で消費されるものらしい。収穫したものを自宅で食べたり近所に配ったり、そのお返しをもらったりという形だ。

東京で生まれ育った筆者には、なじみのない暮らし方だが、この島には都市部から移住してきた人が多いと聞いて、その理由を知りたいと思った。

まったく変わらない島で、念願だったコーヒーの焙煎所を開業

そこで、豊島エスポワールパーク館長の三好洋子さんに、移住者を紹介してもらった。田中健太さんは単身の45歳。島でコーヒー焙煎の仕事をしている。

「豊島焙煎所」を営む田中さん(筆者撮影)

「豊島焙煎所」を営む田中さん(筆者撮影)

以前は千葉の舞浜に住み、近くのテーマパークに勤務していた。そこを退社後、コーヒーや日本茶の仕事をしたかったので勉強を始めていたが、地域に関わる仕事がしたいと思い、倉敷市玉島の地域おこし協力隊に応募した。協力隊に採用されて担当したのは、朝市(マルシェ)活性化のプロジェクト。

協力隊として商工会議所に所属し、地域の商店とのネットワークを築くことは、将来コーヒー関連の仕事をする際にも活かされるとの思いもあって、2年間働いた。プロジェクトの成果は上がったが、倉敷市は移住するには思っていたよりも大きな街だと分かり、もっと自然の豊かな所で働きたいという思いが強くなった。

そのとき思いついたのが、テーマパーク勤務時代から観光で通っていた、瀬戸内国際芸術祭が開催される島だ。何度も芸術祭で島々を訪れていたが、多くの島がその都度にぎやかになっていくのに対し、豊島は全く変わらなかった。「この島で暮らしたい」と思って仕事を探したところ、「海のレストラン」の新しい店長として採用された。こうして、2018年に豊島への移住が実現した。

店長としてレストランの物品の仕入れなどをするうちに、地域の人たちとのつながりをもつこともでき、レストランの仕事と並行して2年前から念願のコーヒー焙煎の仕事「豊島焙煎所」を始めた。その2年後には店長を辞めて焙煎所に専念し、地元の土産販売店や宿泊施設、飲食店に焙煎したコーヒーを提供している。また、イベントに呼ばれて、屋台でコーヒーの販売をすることも多いという。

「海のレストラン」入社当初は勤務先の寮で暮らしていたが、いまは甲生(こう)地区の一戸建てを借りて住んでいる。「ぼくたちは植松チルドレンと言われているんですよ(笑)」という。なぜかというと、民泊「植松さん家」を営む植松さんが、地元の人に声をかけて移住者が住むための家を探してくれたからだという。

田中さんによると、甲生地区は、豊島の自治会のある3つの集落(ほかに家浦地区、唐櫃(からと)地区)のうち、最も小さい集落だという。人口が減るなか、移住者が増えることは歓迎したい、家の明かりがついているほうが安心できる、といった考えから家探しに協力をする植松さんがいるおかげで、この地区には移住者が多いのだとか。

甲生地区の移住者は同世代が多く、地域ネットワークができている。移住者たちで頻繁に集まって、情報共有などもしている。

田中さんが借りている住まい

田中さんが借りている住まい(筆者撮影)

純和風のお宅で、コーヒーをご馳走になった

純和風のお宅で、コーヒーをご馳走になった(筆者撮影)

妻の条件をクリアして、夫婦で移住。住み続けたいと思える島にしたい

さて、田中さんの取材を終えて、車で安岐石油まで送ってもらった。安岐石油は筆者が通う施設から滞在する寮までの往復途中にあり、レンタカーとレンタサイクルも営んでいるので、自転車を借りようと思ったからだ。店主の安岐さんは、車や自転車を借りに来た人たちに観光ルートを案内したり、開業したばかりの豊島エスポワールパークの紹介もしてくれたりしていたので、顔見知りではあった。

到着すると安岐さんに「田中さんと知り合いだったのか?」と聞かれ、記事にするために取材をさせてもらったと答えると、「それならおっちゃんが移住してきた人を紹介しちゃる」と声をかけてくれた。渡りに船と紹介してもらったのが、川端拓也(43歳)さん、亜希(39歳)さん夫妻だ。

川端さんのマイホームの前で。川端さん夫妻の間にいるのは、民泊を営む植松さん

川端さんのマイホームの前で。川端さん夫妻の間にいるのは、民泊を営む植松さん(筆者撮影)

2人が豊島に移住したのは、2019年11月。豊島移住のきっかけは、やはり「瀬戸内国際芸術祭」だ。拓也さんが旅行で来て、豊島がすっかり気に入ってしまい、知り合いをつくろうと何度も訪れるようになった。檀山に上ったら、凧揚げをしている地元の人がいて仲良くなったりといった具合だ。そのうち、高校の恩師が定年後にUターンして豊島にいると分かったこともあって、真剣に移住を考えるようになった。

問題は当時付き合っていた亜希さんだ。旅行先として豊島に連れてきて、その魅力をアピールした後、仕事を辞めて豊島に移住したいと申し出た。そのとき亜希さんが出した条件が2つある。1つは「仕事を辞めずに続けること」、もう1つが「当面の生活に困らないだけの貯金をすること」。生活の基盤を整えてからなら、移住先についていってもよいということだろう。

その条件はクリアしたものの、移住で最も大変だったのは家探しだった。川端さんは家を買おうと探したが、不動産会社はないし、空き家バンクはあっても、小豆島の物件が中心で豊島の物件はほとんどなく、家探しは難航した。ようやく家浦地区に見つけて契約という段取りになったが、契約日当日にキャンセルになった。移住事態をあきらめかけていたところで、恩師が家探しをサポートしてくれ、いまの家が見つかった。浴室の改修中には、恩師の義理の兄である植松さんの民泊のお風呂をしばらく借りるなど、お世話になっている。

増築して浴室を設けたり浄化槽を設置したりなどの大幅な改修もしたが、拓也さんが床のフローリングを張り替えたり亜希さんが壁に色を塗ったり壁紙を張り替えたりといったDIYも行っている

増築して浴室を設けたり浄化槽を設置したりなどの大幅な改修もしたが、拓也さんが床のフローリングを張り替えたり亜希さんが壁に色を塗ったり壁紙を張り替えたりといったDIYも行っている(筆者撮影)

こうして、川端さん夫妻の豊島への移住が実現した。川端さんはIT関係の仕事をリモートワークで続けているが、亜希さんは東京でのアパレルの仕事を辞め、豊島に来てからは収穫期のイチゴ農家やオリーブ農園などでアルバイトをして生活を支えている。いずれは、自身でつくった食材や島の食材を元にお店をやろうかと計画しているという。

家に併設された倉庫を改造して、拓也さんの仕事場にしている。中では干し柿をつくっていた(筆者撮影)

家に併設された倉庫を改造して、拓也さんの仕事場にしている。中では干し柿をつくっていた(筆者撮影)

川端さん夫妻は、自治会に入り、地域のお祭りや定期的に地域で行う草刈りなどに参加して、地域の人たちとの交流を深めている。自宅の庭で畑をやり始めると、近隣の農家の人たちが寄ってたかって、何をどう育てたらよいかなど助言をしてくれる。川端さんのほうでも、訪ねてくるお年寄りに、スマホの使い方を教えたり車を出したりしている。地域の人たちとは、持ちつ持たれつの関係なのだ。

いま亜希さんは妊娠中だ。今住みたいと移住した島だが、子どもが生まれた後も住み続けたい場所であってほしいと考えている。そこで、川端さん夫妻は移住者たちのネットワークを使って、地域イベントなどを積極的に開いている。例えば、ソーメン屋をたたんだ人から中力粉がたくさんあると聞いて、それを使った「うどんを食べる会」を開いたり、音楽の演奏ができる人を集めて「小さな音楽会」を開いたりして、地域の住民とのつながりを強めているのだ。

島暮らしは不便だらけ、それでも移住する魅力は?

田中さんも川端さんも、島暮らしは不便なことだらけだと口をそろえる。最も不便だと思うのは「島に病院がないこと」というのも、同じ意見だ。島の診療所に週4日、小豆島から医療スタッフが来るが、夜間診療など緊急時に困るという。ただしそれ以外は何とかなる、というのも同じ意見だ。

田中さんは「島への移住は憧れだけではできません。不便だけど、不便を楽しめる人でないと」と、川端さんは「不便だらけだけど、困るほど知恵が沸く。なければつくればよいんです」と。どうやら、豊島の移住者にはこうしたツワモノが多いようだ。

では、島暮らしの魅力は何か? 田中さんは地域の人たちとのつながりのなかで、念願だったコーヒー焙煎の仕事に就けた。店ごとにコーヒーの焙煎を変えるなどしているが、「檀山」や「硯(黄昏)」「硯(彼誰=かわたれ)」などの豊島にちなんだ名前を付けることも多く、パッケージやラベルも手づくりで用意している。以前のレストランとは繁忙期に副業として働くなど、その関係は今も続いている。

ショップ「ナミノミ」で販売されている、田中さんが焙煎したコーヒー。豊島は、瀬戸内国際芸術祭の主要な島でもあるので、芸術祭会期中はもちろん、会期外でも観光客が多く訪れる(筆者撮影)

ショップ「ナミノミ」で販売されている、田中さんが焙煎したコーヒー。豊島は、瀬戸内国際芸術祭の主要な島でもあるので、芸術祭会期中はもちろん、会期外でも観光客が多く訪れる(筆者撮影)

島暮らしの魅力について、亜希さんは「家族感」を挙げた。小さな集落だけに、住民はみな顔見知りだ。緩やかに大きな家族としてつながっているのが心地よいという。逆に「プライバシーを損なわれるのではないか」が気になったが、家族なら生活ぶりを見られても恥ずかしく思わないというので、なるほどと納得した。

そういえば、取材で川端さんの家を訪れたその場に、うわさの植松さんが近所の漁師さんが釣った魚のおすそ分けだとやってきたり、取材中にうどんの会の中力粉を提供した住民が亜希さんに子どもの産着を持ってきたりしていた。川端さんを紹介してくれた安岐さんも、灯油の配達の際に亜希さんが好きなパンを持ってきてくれたりするという。取材時間は1~2時間のことだったので、いかに頻繁に住民との行き来があるかが分かる。

一方、拓也さんは、「東京での生活には手を加えるところがなかったが、豊島での暮らしには余白があるのが楽しい」と言う。移住してきた自分たちでも、集落がよりよくなるためにできることがある。だからこそ、積極的に地域住民と交流するためのイベントを開き、お祭りなどの地域の伝統を継承しようとしているわけだ。

移住者たちは、植松さんの指導の下で棚田で米をつくっている(筆者撮影)

移住者たちは、植松さんの指導の下で棚田で米をつくっている(筆者撮影)

空き家はあるけど、買ったり借りたりできない!?

土庄町(とのしょうちょう)は、香川県の町で、瀬戸内海で2番目に大きい島である小豆島の西北部(小豆島のそれ以外は小豆島町)と豊島で構成される。土庄町は移住に力を入れており、小豆2町(土庄町・小豆島町)で「小豆島移住・交流推進協議会」を運営し、NPO法人Totie(トティエ)と連携してさまざまな移住者の受け入れ支援を行っている。「空き家バンク」や空き家リフォームの補助金なども用意している。川端さんも補助金を利用して、改修費用の一部に充てた。

ただし、空き家バンクは小豆島の物件が多く、豊島の物件はほとんど出てこない。だから、田中さんも川端さんも、家探しに苦労した。もちろん、豊島に空き家がないわけではない。島を歩けば多くの空き家に遭遇する。それでも、買ったり借りたりする家が見つからないということに、筆者はとても驚いた。

空き家はあっても、先祖代々の家を売ったり貸したりしたくないといった所有者自身の意向もあれば、所有者本人が同意したとしても、親戚筋への確認や近所の人たちとの調整などで先に進めない場合も多い。川端さんが最初に契約しようとしていた家も、それが原因で白紙になった。

だからこそ川端さんは、豊島に移住者を増やすために、「空き家を移住者に提供できるような取り組み」(家を探しやすければ移住しやすい)と「地元の人と仲良くなる取り組み」(地元に受け入れられ楽しく過ごせれば移住しやすい)を行っている。空き家を掃除しますと声をかけて所有者を探したりしているが、家の所有者が島外に出てしまい、連絡先が分からない場合も多いという。そうしたときに、地域の事情に精通した植松さんのような人がいてくれることが、とても助かるのだという。

田中さん・川端さんたちが住む甲生地区の穏やかな集落。男木島(おぎじま)が大きく見える(筆者撮影)

田中さん・川端さんたちが住む甲生地区の穏やかな集落。男木島(おぎじま)が大きく見える(筆者撮影)

甲生地区の海岸「ドンドロ浜」。大きなベンチは瀬戸内国際芸術祭の作品「海を夢見る人々の場所」(筆者撮影)

甲生地区の海岸「ドンドロ浜」。大きなベンチは瀬戸内国際芸術祭の作品「海を夢見る人々の場所」(筆者撮影)

移住者の熱意と地元のお節介さんがカギ!?

こうして豊島に移住してきた人の話をうかがって、思ったことがある。島への移住が成功するかどうかは、まずは移住者側の熱意だ。島の暮らしや時間の流れ方に溶け込み、伝統の継承を担うといった気構えも必要だ。加えて、植松さんや安岐さんのような、移住者と地域住民の間を取り持つ“お節介焼き”の存在が欠かせない。

地域住民のなかには、よそ者を嫌う人もいるだろうし、本気で定住するかどうか疑う人もいるだろう。ある意味でお節介なキーマンが間に入って取り持ってくれることで、移住者が島の生活になじみ、それを楽しんでいることが分かって多くの地域住民が歓迎するようになり、持ちつ持たれつの関係になる、というように輪が広がっていくのだろう。

島には70代・80代のお年寄りが多く、人口は減少を続けている。子どもは少なく、小・中学校はあるが、中学校は2016年に小学校に併設となり、今は校舎が空いている。一方で、豊島に移住してきた人たちに子どもが誕生し、自分の子どもに同級生が欲しいと思っている移住者も多いという。こうした移住者のネットワークが、新しい移住者を受け入れる体制を整備し、さらに大きな輪を広げようとしている。

自然豊かな景観や暖かい人との交流は変わってほしくないが、子どもの声がどこにでも聞こえる島になってほしいと思う。

土間や軒下をお店に! ”なりわい賃貸住宅”「hocco」、本屋、パイとコーヒーの店を開いて暮らしはどう変わった? 東京都武蔵野市

「なりわい賃貸住宅」、「暮らしの町あい所」として話題になった「hocco(ホッコ)」。13戸の賃貸住宅のうち5戸は居住者がなりわいとしてお店を開ける店舗兼用住宅だ。誕生から1年が経過し、「グッドデザイン賞」も受賞した。いま、そこに住む人はどんな暮らし方をしているのだろうか? 再び、訪れることにした。

2022年度グッドデザイン特別賞を受賞した「hocco(ホッコ)」は今?

2021年10月に筆者は「武蔵野市に店舗兼用の『なりわい賃貸住宅』が誕生!住宅街に顔の見える交流拠点を」という記事を書いた。東京都武蔵野市に、小田急バスが自社のバス折返場に建設した複合施設「hocco(ホッコ)」を取り上げたものだ。

hoccoは2022年10月に、2022年度グッドデザイン特別賞・グッドフォーカス賞[地域社会デザイン]を受賞した。「住宅地の真ん中にあるバスターミナルを地域交流拠点として開発した新しい取り組み」として評価されたものだ。審査員のコメントを見てみよう。

「駅から離れた立地のバスターミナルに店舗併用の賃貸住宅を建てることで、住む人の『なりわい』が地域の人々の新しい交流を生む魅力的な場となっている。中庭に面して店舗が並び、店舗は土間と軒先の空間を通じて中庭へと繋がる。軒下があることで人は気持ちよくお店の前でたたずみ、住む人とその『なりわい』に出会うことができる。個性あふれる『なりわい』が魅力となり、地域の人が自然に集まれる場ができている」

1年前、hocco誕生の際には、その仕掛けが面白いと思い、取材して記事にした。それが、入居が始まって1年経った今、実際にはどんな「なりわい」や「地域の人との出会い」が生まれているのだろうか? hoccoの建築設計・賃貸管理をしているブルースタジオの広報・平尾美奈さんに案内してもらった。

全13戸の賃貸住宅『hocco』(撮影/片山貴博)

全13戸の賃貸住宅『hocco』(撮影/片山貴博)

hocco配置図(画像提供/ブルースタジオ)

hocco配置図(画像提供/ブルースタジオ)

hoccoは、13戸の賃貸住宅が中庭を囲むように建ち、バスターミナルに近い5戸が店舗兼用住宅となっている。その特徴は、中庭に開かれた土間だ。「土間」と玄関前の「軒下」で“なりわい”を行うことができる。

04S号室「rn press + RIGHT NOW BOOKSTAND」(撮影/片山貴博)

04S号室「rn press + RIGHT NOW BOOKSTAND」(撮影/片山貴博)

※04S号室の間取り(画像提供/ブルースタジオ)

※04S号室の間取り(画像提供/ブルースタジオ)

現在は、次のような店舗が営業されている。
01S号室「l’atelier de nature(ラトリエ ド ナチュール)」:パンと焼き菓子の店
03S号室「玉草屋」:庭・外構・室内観葉のデザイン施工の店で、店舗で植物を販売
04S号室「rn press + RIGHT NOW BOOKSTAND」:新書古本を扱う書店
05S号室「オーブン屋」:オーブン料理のテイクアウト専門店。弁当販売も
13S号室「The Pie Hole LA 小金井公園」:パイとコーヒーの店

店長は猫のモリオ。本を買うためだけでないコミュニケーションが生まれる店

なりわい賃貸の居住者の一人、株式会社rn press代表取締役の野口理恵さん(41歳)が切り盛りする、書店「RIGHT NOW BOOKSTAND」(04S号室)を訪れた。この書店の店長は猫のモリオだ。

エキゾチックショートヘアのモリオ(1歳10カ月)。人懐っこいので、店長に任命された!?(撮影/片山貴博)

エキゾチックショートヘアのモリオ(1歳10カ月)。人懐っこいので、店長に任命された!?(撮影/片山貴博)

そもそもここに入居を決めたのは、猫のモリオが発端だった。コロナ禍で野口さんとパートナーが家にいるようになってから二人とも外出すると、高齢の猫・うなぎが鳴くようになり、新しく子猫のモリオを飼うようになった。元気がよすぎるモリオのために、ペットが飼える階段のあるメゾネットの賃貸住宅を探していた時に出合ったのが、hoccoだ。土間を自由に使ってよいと聞き、編集の仕事を長くしていることから、土間を書店にしたらどうかと思いついた。

04S号室「rn press + RIGHT NOW BOOKSTAND」1階の事務所。2階がプライベート空間。テーブルの上の籠の中にいるのが6歳のうなぎ。ここに引越してから生後10カ月のマニも飼い始めた(撮影/片山貴博)

04S号室「rn press + RIGHT NOW BOOKSTAND」1階の事務所。2階がプライベート空間。テーブルの上の籠の中にいるのが6歳のうなぎ。ここに引越してから生後10カ月のマニも飼い始めた(撮影/片山貴博)

自分がセレクトした本を置けたらよいと思い、いろいろな本屋のレイアウトをリサーチしたが、最終的には知り合いの元木大輔さん主宰のデザインスタジオDaisuke Motogi Architecture (現DDAA)に本棚の造作を依頼した。本のサイズはそのジャンルによっても変わるので、どんなジャンルの本を何冊ほど置きたいとイメージを固め、それに合わせて本棚をつくってもらった。

野口さんのご自慢の“本が浮いているように見える”ようデザインされた本棚(撮影/片山貴博)

野口さんのご自慢の“本が浮いているように見える”ようデザインされた本棚(撮影/片山貴博)

本業の編集の仕事を続けながら、副業の本屋の仕事も加わり、かなり大変ではないかと心配になったが、「むしろ本業がはかどるようになった」という。月曜~水曜は本屋を休んで本業に充て、木曜~日曜は本屋を営業するスタイルを取っている。本屋の営業日は1階の事務所にいる必要があるので、事務作業や執筆業務を集中してでき、以前よりメリハリがついてはかどるのだとか。本屋営業日に編集の仕事が入ることもあるので、営業は不定期となるが、インスタグラムやツイッターで営業時間を告知している。

では、本屋の営業状況はどうだろう? 以前の賃貸住宅の家賃との差額分を稼げればいいという程度に考えていたが、それを十分に超える収入になっているという。よく売れるのは「料理本」と「絵本」だ。近くに小さな子どものいる家庭が多いからだが、子どもたちは本よりも猫のモリオやマニがお気に入りだ。閉店時でもガラス越しにモリオを呼ぶ子どもの声が聞こえることもあるという。

年配の方が多いのもこの地域の特徴だ。縄文文化の研究をしていたというように、得意分野をもつ高齢者がその分野の本についていろいろ教えてくれることもある。読んだ本の感想を教えてくれる人もいて、野口さんのほうでも、この作家が好きならこちらの作家も好きだと思うと、本を紹介することもある。知的な会話を楽しみたいために通ってくる常連さんもいるとか。

地元の街の小さな本屋さんは、単に本を買いに来る場所ではなく、本に関する会話を楽しんだり、店長猫たちと遊んだりできる、交流の場になっているようだ。

なりわいの入居者は商店街ではなく、地域の人とふれあえる場所での開店を選んだ

次に訪れたのが、「The Pie Hole LA 小金井公園」。2022年7月にオープンしたパイとコーヒーの店だ。この店のY・Hさんが入居を決めたのは、バスターミナルからOPENの看板がよく見える13S号室だ。

13S号室「The Pie Hole LA 小金井公園」(撮影/片山貴博)

13S号室「The Pie Hole LA 小金井公園」(撮影/片山貴博)

The Pie Hole LAは、ロサンゼルス発の焼き立てパイとオーガニックコーヒーを提供するブランドだ。西麻布、軽井沢に店舗があり、期間限定で百貨店などに出店することもある。

東京都武蔵野市にずっと住んでいるHさんは、開催されていたhoccoのイベントに訪れて、地域の人たちと交流できる場所であること、なりわいができることを知った。もともと地域の人たちとのコミュニティーを作ることに興味があったHさんはhoccoに魅力を感じた。

店内にはハンドメイドのパイが並べられたショーケースやエスプレッソマシンが並んでいる(撮影/片山貴博)

店内にはハンドメイドのパイが並べられたショーケースやエスプレッソマシンが並んでいる(撮影/片山貴博)

ハンドメイドのパイは、Hさん自身が工場で手づくりしたものを、店に運んで販売している。13S号室は角地なので軒下が広く、椅子とテーブルを置くことができるが、店舗兼用住宅の中では土間が狭いので、レイアウトに苦労したという。

中心に据えられたショーケースには、おいしそうな総菜パイとデザートパイが並ぶ。パイはグランドメニューに加えて季節ごとのパイの展開もしているので、常に新しいパイに出合える。

人気のパイは、奥の「シェパーズパイ」(挽き肉とポテトを使ったミートパイ)と手前の「マムズアップルクランブルパイ」(りんごとクランブルのデザートパイ)。筆者も買ってみた(撮影/片山貴博)

人気のパイは、奥の「シェパーズパイ」(挽き肉とポテトを使ったミートパイ)と手前の「マムズアップルクランブルパイ」(りんごとクランブルのデザートパイ)。筆者も買ってみた(撮影/片山貴博)

名物のアップルパイには、長野県産のりんごを使っている。東京では購入できない、その農家より仕入れる珍しい品種のりんごの販売や、近所の農家と共同して野菜の販売もはじめた。近所の農家の野菜を使ったおかずなどの商品を今後考えていきたいという。

地域の農家の野菜の販売も試している(撮影/片山貴博)

地域の農家の野菜の販売も試している(撮影/片山貴博)

パイやコーヒーは、hoccoの居住者はもちろん、地域に暮らす人や近くの小金井公園に訪れる人が買いにきてくれる。開店してからまだ5カ月なので、いまは店を知ってもらうために火曜の定休日以外は毎日オープンしているという。

地域の交流拠点を目指して、定期的にイベントも開催

「なりわい賃貸住宅」では、野口さんの本屋や「玉草屋」(03S号室:庭・外構・室内観葉のデザイン施工の店)のように、本業とは別に店舗を営業している入居者もいれば、Hさんのパイとコーヒーの店や「オーブン屋」(05S号室:オーブン料理のテイクアウト専門店)のように、本業として店舗を営業している人もいる。どちらも成り立つのがhoccoの魅力だろう。

03S号室:玉草屋(画像提供/玉草屋)

03S号室:玉草屋(画像提供/玉草屋)

建築設計・賃貸管理をするブルースタジオによると、店の業種が重ならないように配慮しているという。店舗だけでなく、キッチンカーなども呼び込むようにしているので、取材した日には移動販売の花屋「ena to nico(エナトニコ)」がクリスマス用の商品も並べて営業をしていた。

クリスマス向けの商品も数多く用意されていた(撮影/片山貴博)

クリスマス向けの商品も数多く用意されていた(撮影/片山貴博)

店主の林実和さんは、2022年2月からhoccoに毎週(現在は毎週金曜)出店している。毎週出店しているのは、hoccoの環境がとても気に入っているからだ。hoccoの住民で毎週花を買っていく人もいるし、周辺の住民がランチを買いにきたときや犬の散歩の途中で寄って花を買っていく。林さんは、常連さんがいるので市場で花を選ぶ際にとても悩むという。

「ena to nico」はフラワーカーによる移動販売専門の花屋だ(撮影/片山貴博)

「ena to nico」はフラワーカーによる移動販売専門の花屋だ(撮影/片山貴博)

ほかにも、年に1~2回は、地域に開かれたイベントを開催している。2022年は桜咲く4月と10月にイベントを開催した。最新の10月10日に開催した「hoccoの秋祭り」では、hoccoの住民が主体となり、入居者の知り合いやなりわい賃貸店舗が出店し、当日限定の商品などを販売したり、ワークショップを行ったりした。

入居者がハロウィーンのデコレーションを行い、「玉草屋」とその知り合いの「アトリエ自作自演」が、カボチャのペイントなどのワークショップを行い、ハロウィーンムードを盛り上げた。取材をした野口さんは知り合いの「大福書林」に、Hさんは知り合いの「cafe247」に出店を呼び掛けた。

2022年10月に「秋祭り」を開催。時期的にハロウィーンの飾りつけで盛り上げた(画像提供/ブルースタジオ)

2022年10月に「秋祭り」を開催。時期的にハロウィーンの飾りつけで盛り上げた(画像提供/ブルースタジオ)

手芸用品の販売を行った「アトリエ自作自演」。デコレーションパーツは玉草屋のワークショップにも使われた(画像提供/ブルースタジオ)

手芸用品の販売を行った「アトリエ自作自演」。デコレーションパーツは玉草屋のワークショップにも使われた(画像提供/ブルースタジオ)

05S号室「オーブン屋」は特別メニューを提供(画像提供/ブルースタジオ)

05S号室「オーブン屋」は特別メニューを提供(画像提供/ブルースタジオ)

この地域には、古い団地もあれば新しいマンション群もあり、年配の人や子育て家族が多く住んでいる。こうしたイベントは、hoccoの常連客だけでなく、地域の人たちに広くhoccoを知ってもらい、地域交流の場となるようにという狙いがある。イベントには小田急バスやブルースタジオもスタッフを派遣して、当日の設営・片付けや交通整理などを行ったが、いずれは入居者たちだけでイベントが開催できるようになるとよいと考えているという。

現在、hoccoに入居募集中の住戸はないが、店舗兼用住宅への関心は高く、入居待ちの人もいるという。暮らしの延長でなりわいができること、地域の人たちの顔が見えるコミュニケーションができることなど、ほかにはない魅力を感じてのことだろう。新時代を感じさせる拠点だと思う。

●関連サイト
hocco物件専用WEBサイト

JR中央線(東京都内)、家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

JR山手線と並んで東京を代表する路線といえるJR中央線。そのうち東京都内に位置する駅は、東京駅から高尾駅まで全32駅ある。沿線には大学のキャンパスも多く、東京駅や新宿駅といった都心のビジネス街もあるため、学生やビジネスマンの一人暮らしにも人気の路線だ。そんなJR中央線のシングル向け物件(専有面積10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場を調査! 東京都内32駅の家賃相場が安い駅ランキングを見ていこう。

JR中央線(東京都内)の家賃相場が安い駅ランキング

順位/駅名/家賃相場(駅の所在地)
1位 高尾 4.60万円(東京都八王子市)
2位 西八王子 5.10万円(東京都八王子市)
3位 日野 5.30万円(東京都日野市)
4位 西国分寺 5.50万円(東京都国分寺市)
5位 国立 5.60万円(東京都国立市)
6位 東小金井 6.00万円(東京都小金井市)
6位 豊田 6.00万円(東京都日野市)
8位 国分寺 6.10万円(東京都国分寺市)
9位 八王子 6.30万円(東京都八王子市)
9位 武蔵小金井 6.30万円(東京都小金井市)
11位 武蔵境 6.70万円(東京都武蔵野市)
12位 三鷹 7.10万円(東京都三鷹市)
13位 阿佐ケ谷 7.15万円(東京都杉並区)
14位 吉祥寺 7.60万円(東京都武蔵野市)
14位 西荻窪 7.60万円(東京都杉並区)
16位 立川 7.70万円(東京都立川市)
16位 荻窪 7.70万円(東京都杉並区)
16位 高円寺 7.70万円(東京都杉並区)
19位 中野 8.20万円(東京都中野区)
19位 東中野 8.20万円(東京都中野区)
21位 大久保 9.40万円(東京都新宿区)
22位 御茶ノ水 11.00万円(東京都千代田区)
22位 東京 11.00万円(東京都千代田区)
24位 四ツ谷 11.30万円(東京都千代田区)
25位 代々木 11.49万円(東京都渋谷区)
26位 市ケ谷 11.70万円(東京都千代田区)
27位 水道橋 11.80万円(東京都千代田区)
28位 神田 11.90万円(東京都千代田区)
29位 信濃町 12.10万円(東京都新宿区)
30位 新宿 12.40万円(東京都新宿区)
31位 飯田橋 12.50万円(東京都千代田区)
32位 千駄ケ谷 13.25万円(東京都渋谷区)

ランキング上位は東京西部の駅がずらり。都内最西端の高尾駅が1位に

JR中央線は「中央本線」と呼称を変えながら東京都から神奈川県、山梨県、長野県……と続く長い路線。東京駅~高尾駅間の東京都内だけでも走行距離は53km以上におよび、沿線の家賃相場もさまざまだ。シングル向け物件(専有面積10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が最も安かったのは、八王子市に位置する高尾駅で家賃相場は4万6000円だった。

高尾駅(写真/PIXTA)

高尾駅(写真/PIXTA)

1位・高尾駅はJR中央線のうち東京都内の最西端。しかし通勤特快に乗れば新宿駅まで4駅・約47分、東京駅まで8駅・約1時間1分と、思いのほか早くたどり着く。ほとんどの便が高尾駅始発なので、座りやすい点も魅力だ。高尾駅には京王高尾線も乗り入れており、駅にはスーパーや書店、飲食店などを抱えるショッピングモールが併設されている。駅南口を出て東に進むと、100円ショップやスーパー、ホームセンターがあり、さらにその先には多彩な店舗がそろうショッピングモール「イーアス高尾」も。ファストフード店やリーズナブルな食堂など、一人でふらりと入りやすい飲食店が駅周辺に点在している点もうれしいところ。駅の南口側と北口側を行き来するには大きく迂回する必要がある点がネックだが、南北を通り抜けできる自由通路の整備計画もあるそう。当初計画より進ちょくは後ろにずれ込んでいるようだが、完成すればより便利になるだろう。

2位は高尾駅の1駅隣にある西八王子駅で、家賃相場は5万1000円。駅には「セレオ西八王子」が併設され、食料品店やドラッグストア、飲食店が営業中。駅の北口側と南口側どちらにも複数のコンビニが点在し、南口から徒歩3分ほどの場所にはスーパーや100円ショップなどを備えた「コピオ西八王子駅前」がある。一人暮らしの日常の買い物には十分な環境と言えるだろう。また、駅周辺はファストフード店や居酒屋など気軽に行ける飲食店も充実しているうえ、「ラーメン激戦区」とも言われるラーメン店の密集地域でもある。刻み玉ねぎのトッピングが特徴的な「八王子ラーメン」の人気店をはじめ個性豊かなラーメン店が豊富なので、休日ごとに食べ歩いても楽しそうだ。

西八王子駅前の風景(写真/PIXTA)

西八王子駅前の風景(写真/PIXTA)

3位は家賃相場5万3000円の日野駅がランクイン。かつては甲州街道の宿場町として栄えた街で、現在は日野市を代表する駅の一つでもある。南北に走る線路の東側と西側に複数のスーパーやコンビニ、ドラッグストアがあり、日常使いできる飲食店も。バス乗り場やタクシープールがある駅前には交番もあり、安心感を高めてくれる。大型商業施設はないものの、ショッピングモールや家電量販店、映画館もある立川駅(16位・家賃相場7万7000円)まで1駅。平日は自然を感じられる多摩川の河川敷にも近くて落ち着いた街並みの日野で過ごし、休日はお隣の立川で遊ぶ……という暮らし方もいいだろう。JR中央線の快速と通勤特快を乗り継げば、日野駅から新宿駅まで約36分、東京駅までは約50分で行くことが可能だ。

日野駅前(写真/PIXTA)

日野駅前(写真/PIXTA)

都心に近いほど家賃は高め。安く住むには「人気駅の近隣駅」に注目!

JR中央線沿線には都内でも知名度の高い駅が数々あるが、なかでも住む街として人気なのは武蔵野市に位置する14位・吉祥寺駅だろう。リクルート住まいカンパニーが毎年調査する「SUUMO住みたい街ランキング(首都圏版)」では、2018年~2021年は3位、2022年は2位に輝いている。商業施設が充実し、少し歩けば緑豊かな井の頭恩賜公園もある吉祥寺は人気なのも納得だ。しかし家賃相場は7万6000円と、ランキングトップ3に比べるとやはり高め。そんなときは便利な街の恩恵にあずかりつつも家賃が抑えられる、吉祥寺にほど近い駅に住むのも一案だ。たとえば吉祥寺駅から高尾方面へ2駅目、武蔵境駅などいかがだろう。

武蔵境駅前(写真/PIXTA)

武蔵境駅前(写真/PIXTA)

武蔵野市にある武蔵境駅は、家賃相場が6万7000円で11位にランクイン。吉祥寺駅まではJR中央線快速で約5分、自転車でもほぼ平坦な道を走って15分ほど。さらに新宿駅まで約24分、東京駅までは約37分で行くことができる。そんなアクセスのよさだけではなく、武蔵境駅周辺の街並みも魅力的。駅にはスーパーやドラッグストア、飲食店が店を構える「nonowa 武蔵境」が併設され、駅西側高架下の「ののみちサカイ」にも店舗が軒を連ねている。また、武蔵境駅には西武多摩川線も乗り入れており、そちらの駅側には飲食店やスーパーを備えた「エミオ 武蔵境」がある。さらに南口にはショッピングモール「イトーヨーカドー武蔵境」、北口には武蔵野市役所の出張所や屋上にグランピングBBQ施設が入った官民連携の複合施設「QuOLa」も。個人商店が並ぶ商店街も広がる暮らしやすい環境でありながら、家賃相場は吉祥寺駅より9000円も低いのだ。

さて「人気の駅の近くに住み、家賃を抑えつつ便利に暮らす」方式を新宿駅にも応用してみよう。新宿駅は30位にランクインしており、家賃相場は12万4000円。ここからなるべく近くて家賃相場が低い駅としては、19位・東中野駅をピックアップしたい。家賃相場は8万2000円で、新宿駅よりも4万2000円も安いとの調査結果が出ている。新宿駅まではJR中央・総武線(各駅停車)で2駅・約4分、自転車なら12分ほどでたどり着く。この程度なら、ぶらりと出かけやすい距離感と言えるだろう。東中野駅には都営大江戸線も通っており、駅から北へ5分ほど歩くと東京メトロ東西線・落合駅を利用することも可能だ。

東中野駅周辺(写真/PIXTA)

東中野駅周辺(写真/PIXTA)

東中野駅にはスーパーやカフェ、書店などが入った駅ビル「アトレヴィ東中野」が併設されている。駅西口には再開発により2015年に誕生した駅前広場が広がり、27階建てのマンションがそびえ立つ。そして東口側に見えるのは、2005年に誕生した再開発エリア「ユニゾンスクエア」にある高層マンションだ。駅前には高層ビルばかり建ち並ぶかというとそんなことはなく、昔ながらの親しみやすい商店街もあるのが東中野の魅力。あれこれとまとめ買いできるスーパーも点在しているが、フランス料理の惣菜店など個性豊かな個人商店をめぐるのもおすすめだ。映画やテレビのロケ地にもなった昭和レトロな飲食店街「東中野ムーンロード」で、ちょっとディープな夜を過ごすのも楽しそう。そんな新旧の街が融合した東中野にはここ数年でも大型マンションが複数誕生しており、2024年にも25階建てマンションが竣工予定。今後も魅力ある街として、さらに発展していきそうだ。

●JR中央線(東京都内)の家賃相場が安い駅ランキング ※駅の並び順
JR中央線(東京都内)の家賃相場が安い駅ランキング

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている中央線沿線(東京都内)の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/8~2022/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

家賃債務保証会社の強引な「明け渡し条項」に使用差し止め判決。裁判で争われたポイントは?

ニュースメディアで数多く報道された、家賃債務保証会社の強引な明け渡し条項の使用差し止めという、最高裁判所の判決。住宅業界に身を置くものとしては気になる判決だ。どういったことが争われ、どういった判決になったのだろう。筆者なりに分析してみたい。

【今週の住活トピック】
家賃債務保証会社の「追い出し条項」は無効の判決/最高裁判所

家賃債務保証会社とは?国の登録制度とは?

最高裁まで争われることになったこの訴訟で、訴えられたのは家賃債務保証会社だ。裁判の話の前に、まず「家賃債務保証会社」とは何かを説明しておきたい。

通常、賃貸住宅を借りるときには、借主が家賃を支払わなかったり、住宅の設備機器を壊したりした場合に、代わりに家賃や修理費を負担する「連帯保証人」が求められる。多くは親などの家族が連帯保証人になるが、何らかの事情で連帯保証人を立てられない借主もいる。家賃債務保証会社(以降、保証会社)は、借主の家賃を貸主に保証する会社で、保証会社に保証を依頼することで、連帯保証人を立てなくても賃貸住宅を借りることができるようになる。

借主が保証会社を利用するには、家賃の0.5カ月~1カ月程度の保証料を払い、入居後も定期的に「更新保証料」を払うことになる。保証料を払っているからといって、滞納した家賃を払わずに済むわけではない。保証会社は貸主に対して家賃を肩代わりするが、滞納した家賃は保証会社が借主に請求することになる。

保証会社は肩代わりした家賃を回収する必要があるので、保証会社によっては、強引な取り立てをするといったトラブルが発生することもあった。そこで2017年10月に、国土交通省は保証会社の登録制度を設けた。一定の基準を設け、その基準を満たす保証会社が登録することで、適正な家賃債務保証の業務を行う事業者として情報を公開するものだ。ただし、任意の登録制度なので、登録しなくても保証会社として業務を行うことはできる。

「家賃債務保証業者登録制度」の登録業者であることを示す「登録家賃債務保証業者シンボルマーク」(出典:国土交通省のサイトより転載)

「家賃債務保証業者登録制度」の登録業者であることを示す「登録家賃債務保証業者シンボルマーク」(出典:国土交通省のサイトより転載)

また、2020年4月の民法改正では、連帯保証人が保護される改正が行われた。連帯保証の契約で連帯保証人が個人の場合は、極度額(保証する金額の上限額)を書面で合意することが求められるようになった。この改正により、貸主側が借主に、連帯保証人ではなく保証会社の利用を求めるケースが増えている。

保証会社が消費者に不利益のある契約をするのは×

では、判決の内容を見ていこう。といっても、筆者は法律の専門家ではないので、その点はご容赦いただきたい。筆者が理解したのは次のようなことだ。

まず、ポイントとなるのは、家賃債務保証会社が賃借人(借主)と交わす保証に関する契約書の中の特定の条項の使用を差し止めることを求めたもの。定型の契約書に、こうした条項があるのは消費者が不利益になるので、使ってはいけないのではないか?ということが争われたわけだ。

次に、どういった条項かというと、2つある。
ア)借主が家賃などの支払いを怠り、その額が家賃の3カ月分以上に達したときは、借主に催促することなく賃貸借契約を解除できる
イ)借主が家賃などの支払いを2カ月以上怠り、保証会社が合理的な手段を尽くしても借主と連絡が取れず、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況などから相当期間住んでいないと認められ、かつ、もうこの部屋を使う意思がないと客観的に見て取れる場合、借主が異議を述べないなら、賃貸住宅を明け渡したとみなす

最高裁はア)について、家賃滞納を理由に催促なく賃貸借契約を解除することは、あながち違法とはいえないが、貸主ではなく保証会社が、合理的な事情がある場合などの限定もなく、催告なしに解除できるのは、消費者に不利益を与えかねない。

イ)については、家賃滞納、連絡不能、利用実態なし、利用する意思が認められないといった条件で明け渡したとすることは、あながち違法とは言えないが、賃貸借契約が終了してない場合に保証会社の一存で明け渡したとみなすのは不当だし、利用の意思がないと客観的に見て取れるという要件は明確ではなく、意義を述べる機会が確保されているわけでもないので、消費者に不利益を与えかねない。

よって、消費者契約法に基づき「ア)イ)の条項がある契約書を使ってはいけない」と判断した、という判決だと筆者は理解した。

最高裁は、地裁、高裁とは異なる判断をした。いわゆる保証会社の「強引な明け渡し条項」に対して、適正な法的手続きを踏まない条項に歯止めをかける形となった。

強引な明け渡し条項は不当とされたが、家賃を滞納すると、賃貸借契約が解除されたり保証会社から家賃に遅延損害金などが加算された額を請求されたりといったことも起こりうる。家賃が払い続けられる額かどうか、しっかり見極める必要がある。

賃貸借契約時の保証会社を選ぶのは、貸主や仲介会社、賃貸管理会社などの貸主側だ。そうはいっても、保証契約は借主自身が保証会社と結ぶもの。契約解除や明け渡しに関する契約内容については、事前に確認しておくべきだ。トラブルは事前に回避したいものだ。

●関連サイト
裁判所の最高裁判所判例集

昭和街角の情緒を伝える名物賃貸群「大森ロッヂ」。コロナ禍経て深まる住人同士の“ゆるやかなつながり” 東京都大田区

昭和の趣が残る「大森ロッヂ」(東京都大田区)は、住む人や地域の人がゆるやかにつながり、コミュニティが醸成される場所です。2009年以降に順次リノベーションされた8棟の住宅のほか、長屋式店舗兼用住宅「運ぶ家」が竣工・営業開始したのが、2015年6月。当時の様子はSUUMOジャーナルでも紹介しました。今年(2022年)4月には、新たに、一戸建てをリノベーションした「笑門の家」(しょうもんのいえ)が完成。コロナ禍を経て変わったこと、時流が変化しても変わらない思いについて、住民の皆さんや大家さんに伺いました。

石畳の路地の脇に黒壁の長屋が並ぶ。ドアやサッシは一部差し替えたが、中にはもう手に入らない昭和のガラス戸もある(画像撮影/桑田瑞穂)

石畳の路地の脇に黒壁の長屋が並ぶ。ドアやサッシは一部差し替えたが、中にはもう手に入らない昭和のガラス戸もある(画像撮影/桑田瑞穂)

縁台に飾られた鉢植の草花。緑が黒壁に映える(画像撮影/桑田瑞穂)

縁台に飾られた鉢植の草花。緑が黒壁に映える(画像撮影/桑田瑞穂)

コロナ禍に深まる閉塞感への疑問から生まれた、人とつながる「笑門の家」

京急線・大森町駅から歩いて2分、にぎやかな往来から一本入ると、右側に懐かしい佇まいの木塀と木戸でできた大森ロッヂの「ともしびの門」が見えてきます。前で迎えてくれたのは、大家の矢野一郎さんと住民で管理人もしている山田昭二さん。木戸を開けてもらうと、敷地内には昭和の風情を感じる路地があり、路地を挟んで、黒壁の長屋が並んでいます。昭和30~40年代に建てられた木造アパート群の古いものを活かしてリノベーションした賃貸住宅です。

矢野さん(左)と山田さん(右)。大森ロッヂの玄関口である「ともしびの門」の前で(画像撮影/桑田瑞穂)

矢野さん(左)と山田さん(右)。大森ロッヂの玄関口である「ともしびの門」の前で(画像撮影/桑田瑞穂)

大森ロッヂに新しく加わった「笑門の家」は、通りに面したところにあり、温室のような吹抜けの窓が特徴的です。

通りから見える「笑門の家」。古谷デザインに依頼し、木造2階建ての古い住宅をリノベーションした(画像撮影/桑田瑞穂)

通りから見える「笑門の家」。古谷デザインに依頼し、木造2階建ての古い住宅をリノベーションした(画像撮影/桑田瑞穂)

「笑門の家」の計画は、2020年春、コロナ禍ではじまりました。

「コロナ禍では、人の自由が奪われて非常に孤立化してしまったという印象を受けました。テレワークもはじまりましたが、感染流行が拡大するなかで、世の中がどんどん閉鎖的になっていくことに疑問を感じていました。人間が生活する上でいちばん大切なものは、社会の状況に影響されない根源的な部分にあるはずです。それは、家に帰ったらリラックスしてゆったりした気持ちでいたいこと。必要なのは、家族や職場以外の誰かとのふれあいだと思いました。高気密で狭いところへ人を押し込めずに、誰かと接しようとすれば接することのできる機会を提供したいという思いがありました」(矢野さん)

「ゆるやかに人と交流できる家に」というコンセプトで、敷地に立っていた昭和の民家をリノベ―ション。設計を担当した古谷デザインから提案されたのは、一部をガラス張りの吹抜けにして半外部化するアイデア。「開いていく・創造していく場所にふさわしい」と考えた矢野さんは採用を決め、2022年4月に「笑門の家」が完成しました。

建物の一部が吹抜けのガラス張りで温室のような構造になっている(画像撮影/桑田瑞穂)

建物の一部が吹抜けのガラス張りで温室のような構造になっている(画像撮影/桑田瑞穂)

人を招きよせる「笑門の家」。地域とつながる交流拠点に

「笑門の家」に入居し、事務所兼住居として使っているのは、デザイン会社「グラグリッド」の三澤直加さんと尾形慎哉さんです。もともと恵比寿を拠点に仕事をしてきましたが、会社の移転を考えていたころ、新型コロナウイルス感染症の流行が重なりました。

「笑門の家」に引越して「地に足がついた生活ができている」という三澤さん(左)の言葉に頷く尾形さん(右)(画像撮影/桑田瑞穂)

「笑門の家」に引越して「地に足がついた生活ができている」という三澤さん(左)の言葉に頷く尾形さん(右)(画像撮影/桑田瑞穂)

「笑門の家」に引越して「地に足がついた生活ができている」という三澤さん(左)の言葉に頷く尾形さん(右)(画像撮影/桑田瑞穂)

古い欄間や梁を活かしてリノベーション。アール型の小上がりを見たとき「どう使うかワクワクしました」と三澤さん。すぐにワークショップのイメージが膨らんだ(画像撮影/桑田瑞穂)

「コロナ禍の影響で、人と繋がりたくてもリモートワークが増えて、知っている者同士しか会えなくなってしまいました。恵比寿のオフィスビルから離れて、大きく生活を変えたいと思うようになったんです。面白い場所に住み替えたいと探していたところ、『笑門の家』に出合い、『これだ!』と思いました」(三澤さん)

「笑門の家」で生まれたアイデアの数々。「関わりしろはどこまで大きくできるのか?」という発想からオープンなザクロ収穫祭の企画へとつながった(画像撮影/桑田瑞穂)

「笑門の家」で生まれたアイデアの数々。「関わりしろはどこまで大きくできるのか?」という発想からオープンなザクロ収穫祭の企画へとつながった(画像撮影/桑田瑞穂)

「ビルの四角い部屋では出ない発想ができるかもしれないと感じたんです。大森ロッヂにコミュニティがあることを知り、住民の方や地域とのつながりで、ワークショップをするなどして、一緒にデザイン活動ができるのではないかというイメージが湧いて。交流(ワークショップ)ができる温室と、集中して仕事ができる2階があり、ほしかった条件がそろっていました。地域の人とつながりあって、実験しながら、やりたいことを実現できるのではないかと思いました」(尾形さん)

2022年6月に引越してから、庭にあったザクロを収穫し、ジュースをつくるイベントを開催。大森ロッヂに住んでいる人や近隣の子ども達も参加しました。尾形さんが非常勤講師を務める専修大学の学生たちと、大森に昔からある産業の廃材を使ってランタンをデザインするワークショップも行い、手ごたえを感じた二人は、いずれテーマを決めて語り合う「笑門の会」をつくりたいと夢を語ってくれました。

引越したとき、庭の隅に咲いていたザクロの花が実ったので催した収穫祭(画像提供/グラグリッド)

引越したとき、庭の隅に咲いていたザクロの花が実ったので催した収穫祭(画像提供/グラグリッド)

「見たことのなかった赤い花がザクロの実に変わっていくのに感動しました」と三澤さん(画像撮影/桑田瑞穂)

「見たことのなかった赤い花がザクロの実に変わっていくのに感動しました」と三澤さん(画像撮影/桑田瑞穂)

ルビーのような実を取り出し、つぶして、ジュースに(画像提供/グラグリッド)

ルビーのような実を取り出し、つぶして、ジュースに(画像提供/グラグリッド)

ふすま屋さんの廃材を使ったランタンづくりのワークショップ(画像提供/グラグリッド)

ふすま屋さんの廃材を使ったランタンづくりのワークショップ(画像提供/グラグリッド)

ふすま紙などを再利用して独創的なランタンが生まれた(画像提供/グラグリッド)

ふすま紙などを再利用して独創的なランタンが生まれた(画像提供/グラグリッド)

「『笑門の家』というネーミングが絶妙なんですよね。人を招くような、不思議な言葉の力があります。名を体現するような使い方ができればいいな。我々のつながりから、周辺の人もつながって、集まった人の話の中から、プロジェクトやイベントのアイデアが自然に発生する。新しいことが生まれるエンジンとしてこの場所を使っていきたいです」(尾形さん)

ワークショップのあとは、小上がりが語らいの場になる(画像提供/グラグリッド)

ワークショップのあとは、小上がりが語らいの場になる(画像提供/グラグリッド)

アトリエ付住宅「ひらめきの家」や店舗兼用住宅「運ぶ家」のその後

大森ロッヂには、長屋群のほか、通りに面したアトリエ・中庭付の2階建て集合住宅「ひらめきの家」や前回の取材時(2015年)に新築された店舗兼用住宅「運ぶ家」があります。

「ひらめきの家」は、店舗として使えるアトリエが通りに面してあり、奥が住居になっている(画像撮影/桑田瑞穂)

「ひらめきの家」は、店舗として使えるアトリエが通りに面してあり、奥が住居になっている(画像撮影/桑田瑞穂)

「旅する茶屋」を訪ねると、吹抜けの明るい空間に、茶香炉から良い香りが漂っています。オーナーで日本茶ソムリエの津田尚子さんは、もともと大森ロッヂに住んでいましたが、「ひらめきの家」に空室が生じることになり、住み替えをして、店舗を構えました。

中庭の緑が見える店内でお茶を淹れる津田さん(画像撮影/桑田瑞穂)

中庭の緑が見える店内でお茶を淹れる津田さん(画像撮影/桑田瑞穂)

美しい茶器に注がれるのは八女の白折という日本茶。体調に合わせたおすすめ茶をオーダーすることもできる(画像撮影/桑田瑞穂)

美しい茶器に注がれるのは八女の白折という日本茶。体調に合わせたおすすめ茶をオーダーすることもできる(画像撮影/桑田瑞穂)

「『旅する茶屋』という名前のとおり、店舗を持たず旅先でお茶をたてるワークショップをメインに活動していたのですが、まわりの人に勧められて、タイミングも合ったのでやってみようと思いました。近くの小学生が『ただいま』と声をかけてくれたり、旅で留守にしていて帰ると『閉まっていたけど、どうしていたの?』近所の人が心配してくれたり。地域の風景になりつつあるのかな」(津田さん)

「旅する茶屋」のお隣さんは、2020年から絵画工房と絵画教室を営む「アトリエウォボ」。講師を務めるのは、写実絵画の描き手である油彩画家の宮原俊介さんです。

「住居と一体でありながら、居住スペースとは別に絵を描く場所がほしかったので、条件に合う物件を探して『ひらめきの家』にたどり着きました。教室には、年代も職業もさまざまな人が通ってきます。いずれ、大森ロッヂのギャラリーで生徒たちのグループ展をしたいです」(宮原さん)

写真のように見たまま描いている印象のある写実絵画だが、宮原さんは「見た時の印象を誇張して表現しているので印象画だと思っています」と語る(画像撮影/桑田瑞穂)

写真のように見たまま描いている印象のある写実絵画だが、宮原さんは「見た時の印象を誇張して表現しているので印象画だと思っています」と語る(画像撮影/桑田瑞穂)

壁にかけられた宮原さんの作品。描かれた人物や動物の目力に圧倒される(画像撮影/桑田瑞穂)

壁にかけられた宮原さんの作品。描かれた人物や動物の目力に圧倒される(画像撮影/桑田瑞穂)

「アトリエ ウォボ」の中庭から隣にあるタイル工房「fuchidori」の作業風景が見えていた。クリエイター同士の距離が近いのもお互いの刺激になるのかもしれない(画像撮影/桑田瑞穂)

「アトリエ ウォボ」の中庭から隣にあるタイル工房「fuchidori」の作業風景が見えていた。クリエイター同士の距離が近いのもお互いの刺激になるのかもしれない(画像撮影/桑田瑞穂)

タイルでつくった「fuchidori」の看板がかわいい。「世界の街角を彩る装飾タイルの楽しさを多くの方と共有したい」という思いから、絵付けワークショップを不定期で開催している(画像撮影/桑田瑞穂)

タイルでつくった「fuchidori」の看板がかわいい。「世界の街角を彩る装飾タイルの楽しさを多くの方と共有したい」という思いから、絵付けワークショップを不定期で開催している(画像撮影/桑田瑞穂)

前回の取材時(2015年)に建築された店舗兼用住宅「運ぶ家」は、その後、どのように使われているでしょうか。「運ぶ家」は、貸駐車場借主の退去で空いたスペースに新築されましたが、「ただ建てるのではなく、住む人と建築家とみんなで一緒につくりあげたい」という矢野さんの思いが強く反映された建物です。

「運ぶ家」の2階で蚤の市(不定期)が開かれたときの様子(画像提供/大森ロッヂ)

「運ぶ家」の2階で蚤の市(不定期)が開かれたときの様子(画像提供/大森ロッヂ)

「借主は、建築費や設計料がいくらかわからないまま、家賃が決められていますよね。事業収支をオープンにして、設計段階から入居者、設計者、施主が、あたかも自宅を建てるようなプロセスを踏んだら、きっと場所への愛着も増すのではという気持ちもありました」(矢野さん)

「運ぶ家」に建築当時から関わった入居者のうち、コムロトモコさんはカフェ兼カバンのギャラリー「yamamoto store」を、もうひとりは、「たぐい食堂」を営んでいます。入居者が職住一体でなりわいをもつことができる「ひらめきの家」と「運ぶ家」。「地域に開かれた場所になって、街や大森ロッヂの活性化につなげたい」という矢野さんの思いを体現する場所になっています。

「運ぶ家」1階の「たぐい食堂」では、和定食やおにぎりが食べられる(画像提供/大森ロッヂ)

「運ぶ家」1階の「たぐい食堂」では、和定食やおにぎりが食べられる(画像提供/大森ロッヂ)

日替わりのプレートランチなどを提供するyamamoto store。店内には、店主が手掛けるカバンブランド「aof-kaban-shop」も営業している(画像提供/大森ロッヂ)

日替わりのプレートランチなどを提供するyamamoto store。店内には、店主が手掛けるカバンブランド「aof-kaban-shop」も営業している(画像提供/大森ロッヂ)

場が人を呼び、人とのつながりが価値になる門を入った路地に面してあるノスタルジックなポスト(画像撮影/桑田瑞穂)

門を入った路地に面してあるノスタルジックなポスト(画像撮影/桑田瑞穂)

大森ロッヂの案内図。住居のなかに「かたらいの井戸端」や「はぐくむ広場」など交流できる場所が設けられている(画像提供/大森ロッヂ)

大森ロッヂの案内図。住居のなかに「かたらいの井戸端」や「はぐくむ広場」など交流できる場所が設けられている(画像提供/大森ロッヂ)

現在、大森ロッヂには、15世帯が暮らしています。入居者募集に関しても、矢野さんは、不動産会社任せにするのではなく、自分で入居希望者に会って話を聞くことにしています。入居基準は、「大森ロッヂが好きな人」。長屋の家賃は新築並みで設備も古いですが、納得してくれる人が集まっています。矢野さん主催のイベントは、餅つきや新酒を楽しむ会など年2回ほどですが、住民発案で路地の広場で飲み会が催されることも。イベントは、コロナ禍のため中断していましたが、この11月にやっと再開することができました。

「借りて住む価値はひとりではつくり出せないものなんですよ。お金さえあれば、家は買えますが、周辺は買うことができません。人とのつながりが価値になる。場が人を呼び、自然と街に開かれていけばいいと思っています」(矢野さん)

大家業を通じ、入居者の人生に関わってきた矢野さん。「この仕事は、人間を愛する気持ちが大事」と話す時の優しいまなざしが印象に残っています。これからも、大森ロッヂは、古き良きものを活かしながら、新しいものを生み出す場として育まれていくのでしょう。

●取材協力
・大森ロッヂ
・株式会社グラグリッド
・旅する茶屋
・アトリエウォボ
・fuchidori
・たぐい食堂
・yamamoto store

山形住みます芸人・ソラシド本坊元児さん「東京の8年間は罰ゲームみたいだった」。都会を捨て、農業や”まともな生活”で得た充足感

吉本興業の芸人さんが全国47都道府県に暮らす「あなたの街に”住みます”プロジェクト」。お笑いコンビ「ソラシド」の本坊元児さんは、指名を受けて2018年に山形県へ移住、テレビやラジオ出演のかたわら農業を営んでいます。本坊さんのように地方へ移住をしてみたいと願う人も最近は増えていますが、不安や迷いも多くて足踏みしてしまうことも。そんな迷える人に向けて教えてください。本坊さん、移住について本当のところはどう思っているんですか?

手探りで始めた農業は、ご近所の人から教わった

現在山形市内に居住しながら、西川町にある畑や竹林、平屋の古民家を借りて通いで農業に勤しむ本坊さん。日本テレビのTV番組「人生が変わる1分間の深イイ話」では、本坊さんの暮らしぶりに密着するコーナーもあり、注目をされています。実際に目にしたことがある人もいるのでは?芸人仲間で仲良しの「麒麟」川島明さんも、本坊さんの山形暮らしについて、メディアでたびたび話しています。2022年4月には、山形暮らしのことを綴った『脱・東京芸人 都会を捨てて見えてきたもの』(大和書房)を上梓しました。

山形での暮らしぶりを赤裸々に綴った、本坊さん二冊目の著書(画像提供/大和書房)

山形での暮らしぶりを赤裸々に綴った、本坊さん二冊目の著書(画像提供/大和書房)

それにしても、芸人さんが農業? 一体どんな生活をしているのでしょうか。私たちは東京から飛行機で1時間、さらに車に乗り換えて1時間ほどかけて、西川町に到着しました。

本坊さんの畑がある場所は、山々に囲まれた自然豊かな環境(写真撮影/土田 貴文)

本坊さんの畑がある場所は、山々に囲まれた自然豊かな環境(写真撮影/土田 貴文)

広大な畑をせっせと行き来する本坊さん。「こんにちは」と近くに行くと、10月上旬のこの日は大根の葉の間引きや、里芋の収穫作業をしていました。

大根の葉の間引き作業をする本坊さん(写真撮影/土田 貴文)

大根の葉の間引き作業をする本坊さん(写真撮影/土田 貴文)

(写真撮影/土田 貴文)

(写真撮影/土田 貴文)

作付けをしている畑は約400平米ほどの広さ。ここでは現在里芋、大根のほか、玉ねぎやジャンボニンニクなど1シーズンで8種類近くの農産物を育てています。

「実は、里芋の収穫は作付けしてから初めての作業なんですよね、一体どうやるのかなあ」と笑いながら手探りの作業が続きます。

ドキドキしながら里芋収穫の作業をする(写真撮影/土田 貴文)

ドキドキしながら里芋収穫の作業をする(写真撮影/土田 貴文)

掘り起こした根元を見てみると、たっぷり里芋が!(写真撮影/土田 貴文)

掘り起こした根元を見てみると、たっぷり里芋が!(写真撮影/土田 貴文)

「農作物の育て方も、農機具を使うことも、ここにきて初めて知ったこと。何も知らないことばかりで、試行錯誤です。あまりに何もわからないから、ご近所の人たちや、地主であるシゲルさんから教えてもらいながら育ててきましたよ」(本坊さん)

本坊さんの農業の先生、地主のシゲルさんとの出会いは、2020年のコロナ禍、趣味である沖縄三線を通じてだったそう。

家主シゲルさんとの共通の趣味、沖縄三線を楽しむ(画像提供/吉本興業株式会社)

家主シゲルさんとの共通の趣味、沖縄三線を楽しむ(画像提供/吉本興業株式会社)

「それまでは少しずつメディアの仕事が増えていってたのが、コロナになって全てパー。アルバイトすらままならなくなったんですよ。そこで、以前から思っていた”何かやりたい、ここでしかできないことをしたい”を実行に移す時だと、農業を始めることに。そのタイミングでシゲルさんとSNSを通じて知り合い、空き家になっていた古民家と竹林、畑を月100円で借りられることになったんです」(本坊さん)

借りている平屋には、家主シゲルさん一家の生活の名残が感じられます(写真撮影/土田 貴文)

借りている平屋には、家主シゲルさん一家の生活の名残が感じられます(写真撮影/土田 貴文)

右も左もわからない状態で始まった山形暮らしですが、現在は毎日が大忙し。作った農作物を道の駅などで販売するほか、今年は近隣の食品会社から400本の大根の注文を受けたのだとか。「社長が、『本坊くんの作っている大根をうちで買わせてくれないか』って言ってくれて。大根を使って、漬物を作ってくれるんですって。ありがたいですよね。だから期待に応えられるようにしっかり作らないと、と思っているんです」(本坊さん)

農作物の生産や販売だけではありません。この日は取材の前に、西川町の名産品であるさるなし・こくわの商品PRショーを行っていたそう。農業を経験したことで、農産物のPRや商品開発にも携わることへと広がり、本気で農業と向き合っているそうです。
一方芸人としての仕事に始まり、東北地方でのメディア出演も増えているとのこと。現在テレビ6本、ラジオ2本へのレギュラー出演と2本の連載、そのほか講演活動にも勤しんでいます。「先日は小学校から講演依頼があったんですけど、テーマが『SDGs』で依頼をもらって。むずいテーマだなって思いながらも、17のテーマの中から農業とゲームで結びつけて話しました。こういう形で、芸人と農業が生きています」(本坊さん)

東京にいることが苦しくて、移住を決意

今でこそ多忙な毎日を送っている本坊さんですが、「それまで僕は20年間、今よりもずっと売れてなくて、月に5日も芸人の仕事があればいいほうでした」と話します。
「それ以外の時間は、日雇いの工事現場での仕事をしていたわけで。明日の予定さえよくわからない毎日だったんです。でも、おかげさまで今はやりたいこと、やらなくてはならないことが常にタスクとしてたまっている日々。そんな日々を走っているってことが嬉しいですね。忙しいことは、暇なことよりもストレスにならないです」(本坊さん)

東京時代のことを振り返る本坊さん(写真撮影/土田 貴文)

東京時代のことを振り返る本坊さん(写真撮影/土田 貴文)

会社からの指令で山形へ移住することに抵抗はなかったのでしょうか。

「そりゃあ、抵抗はありましたよ。2011年にも一度移住の話を持ちかけられたんですが、その時は断っています。だって僕らは芸人になりたくて吉本に入っているんであって、地方を目指したいわけではない。大都会のてっぺんで頑張りたいって思うわけです。その時は即答で断りました」(本坊さん)

その後東京で芸人活動を続けますが、次第に本坊さんは都会での暮らしに疲弊していったのだと振り返ります。

イチから始めた山形の生活も、四の五の言わずに淡々と楽しんでいる(写真撮影/土田 貴文)

イチから始めた山形の生活も、四の五の言わずに淡々と楽しんでいる(写真撮影/土田 貴文)

「とにかくバイト生活から脱したかった。ほとんどずっと工事現場で働いていて、『この生活は何の罰ゲーム?東京におる意味ってあるんか?』と思いながら過ごしていました。僕にとっての暗黒の8年間。仕事も辛かったけれど、それ以上に人や街の空気に酔ってしまい疲れていたんだと思います。年齢も30過ぎてて、住めるわけでもない大都会の真ん中へ、仕事のためだけに毎日電車に揺られて通う。しんどい以外の何ものでもなかった。そう思っている大人、他にもいるんちゃうかな。だから2回目の移住指令に応じたのは、正直なところ都会の苦しさから逃げたくてラクを選んだところもありました」(本坊さん)

移住をするからって、ずっと住むわけではない

移住してから初めのころは仕事を介した地元の人との付き合いが中心だった本坊さん。その後「芸人じゃない友人」である宅配便配達員・ジンくんとの出会いがきっかけで、仕事以外の地元の友達がたくさんできたといいます。

仲良しの友達ジンくん一家と、馬場園梓さんとの一コマ(画像提供/吉本興業株式会社)

仲良しの友達ジンくん一家と、馬場園梓さんとの一コマ(画像提供/吉本興業株式会社)

「芸人じゃない人たちの生活がとにかく新鮮でしたね。起きて布団を干して、洗濯をする。きちんと靴もそろえられていて、献立表とかが冷蔵庫に貼ってあるんですよ! 何もかもがまともな生活。ああ!こういう生活が普通の生活なんやって、40年近く生きてきて今さら知ったという。遅いんだけど(笑)。そのことがいちいち面白かったです」(本坊さん)

山形の人にとって当たり前の風景や気候も、本坊さんには何もかもが新鮮だったという(写真撮影/土田 貴文)

山形の人にとって当たり前の風景や気候も、本坊さんには何もかもが新鮮だったという(写真撮影/土田 貴文)

休みの日ともなれば友人たちと釣りへ行き、麻雀をし、食事を共にしては時には友人宅に寝泊まりするほど本坊さんは山形の暮らしに馴染んでいきます。これほどに仲良くなれるって珍しいのではないでしょうか。

「”地元を盛り上げたくて”みたいな、なんかうわついたこと言って構えて移住してきても、”あんた何言ってんの?”みたいに思うじゃないですか。大そうなことをしようとなんて思っていないし、正直に嘘をつかないで過ごすことが大事だと思うんです」(本坊さん)
本坊さんが徐々に人脈を広げて、そして仕事へと広がりを見せていったのは、無理な姿をつくらないこと、そして高すぎる志を掲げなかったことが多くの人との距離感を縮めていたのかもしれません。

この地区では一番若いという本坊さん。元気な年長者たちに助けてもらいながら、過ごしているそう(写真撮影/土田 貴文)

この地区では一番若いという本坊さん。元気な年長者たちに助けてもらいながら、過ごしているそう(写真撮影/土田 貴文)

「だから移住の理由も本音を話すんです。本当は”山形に来たくて、移住しました”っていう方がみんな喜ぶでしょうし、それを期待しているんでしょうけれど。”住みます芸人で指名されたから来ました”が僕の本音。嘘は言わない。でも、住むからにはその土地で文句を言わずにできることを一生懸命やる。これが僕のできることです」(本坊さん)
これだけ仲の良い人間関係が出来上がると定住しそうにも思えますが……。

「でもね、住んでる家は賃貸ですしね。一生家を買わない方向を考えているから、またどこかに引越すことになるかもしれません。その時になってみないとわからない。今は今で楽しいけれど、先はもしかしたらまたどこかに移住するかもしれない。そういう話をすると、山形の人たち寂しそうな顔するんですけどね。移住したからといって、移住先に一生住み続けなければならない。ってことはないんですよね」(本坊さん)

迷っている人がいたら、自分が斜に構えないこと

「移住をしたら、ずっと住み続けなければならないってことはない」ーーその一言にハッと目を覚まさせられた気持ちになります。なぜならば、移住を願う人たちの多くは、その土地に住むならば「失敗したらどうしよう・人間関係がうまくいかなかったらどうしよう」と、先々ずっと続く心配をしがちだからです。移住を先に経験している本坊さんは、そこをさらに突いてきます。

「いや、不思議に思うんですけど……。皆なんでそんなにトラブルがありき前提で家や土地探しに行くんですかね。確かに隣の人たちの顔が見えないっていう状況が怖いのはわかるんですけれど。でも正直、自意識過剰な気がします。相手にだって相手の生活があり、彼らにとっても知らない人が移住してくるのは不安や未知がある。見えない情報に翻弄されず、斜に構えないで、目の前の人たちのことをしっかり見ることが大事なんじゃないですかね」(本坊さん)

工事現場での作業経験を活かしながら、廃材を利用してDIYでつくった農作業庫(写真撮影/土田 貴文)

工事現場での作業経験を活かしながら、廃材を利用してDIYでつくった農作業庫(写真撮影/土田 貴文)

確かにその通りですね。自分のことばかりではなく、相手の立場に立って考えることで、不安や心配は和らぐのかもしれません。誰だって未知なる世界に不安が膨らむのは当然のことなのですから。

「僕も移住前に、空き家バンクなんかをネットで調べたりしました。今は手軽に情報が調べられるけれど、こと移住となると、ネットはやっぱり嫌なことしか情報として出てこないんですよ。でもそれを自分の実生活に当てはめてみると、ネットに上がっている情報が全てではなくて。鵜呑みにしない方がいいなって思いますね。半分ゴシップだと思えばいいんです」と語る本坊さん。

移住に対しても一歩俯瞰的に見ているところに芸人さんらしさを感じます(写真撮影/土田 貴文)

移住に対しても一歩俯瞰的に見ているところに芸人さんらしさを感じます(写真撮影/土田 貴文)

本坊さんがおっしゃるように、SNSやインターネットでの情報が手軽に入るようになったからこそ、不安の面積が広がっているというのはあるのかもしれません。

「だって、世の中には嫌な奴もいるし、一方ではいい人もたくさんいる。それは東京でも山形でも同じでしょう? だからパソコンやスマホを指先だけでいじって調べてないで、嫌なことも楽しいことも変化を面白がる。そのくらいの気持ちを持って、体ごとぶつかっていけば、“住めば都”になるかもしれないですね」(本坊さん)

実直な気持ちで、いいも悪いも変化として面白がる。そして失敗したと思っても引き返せばいいし、移住した先に住み続けることが必須ではない。その気持ちと行動が、移住を実現するには何よりも大切なのかもしれません。

東京から遊びに来てくれた「おかずクラブ」と大根の収穫作業を楽しむ(画像提供/吉本興業株式会社)

東京から遊びに来てくれた「おかずクラブ」と大根の収穫作業を楽しむ(画像提供/吉本興業株式会社)

「本音を言うとまた東京にいる芸人さんたちと一緒に仕事をしたいですよ、特に昔の仲間たちと」とぽつりと語してくれた本坊さん。しかし「東京の暮らしをまたしたいとは思わない、なんだかんだ楽しんでいるんだと思う」とも続けてくれました。

最近は芸人仲間も、本坊さんの山形暮らしにとっても興味を持っている様子。実際に「天津」の木村卓寛さんや、「おかずクラブ」の二人などが、遊びに来てくれたそうです。東野幸治さんはなんと地方移住に興味を持っているのだとか。こうして芸人さんにも、山形や移住のことを自分ごととして感じてもらい、更には街の人たちとの交流が増えるという流れをつくること。それが本坊さんにとってのこれからやりたいことだそう。ますます関係人口が広がっていきそうで、とても楽しみですね。

泥臭く大変な作業ですが、楽しそうに話す姿が印象的でした(写真撮影/土田 貴文)

泥臭く大変な作業ですが、楽しそうに話す姿が印象的でした(写真撮影/土田 貴文)

●取材協力
・吉本興業株式会社
・よしもと住みます芸人
・ソラシド
・本坊元児

賃貸物件の1階を“街の交差点”に。パン屋さんやコワーキングスペースでにぎわい生む「西葛西APARTMENTS-2」

東京都江戸川区にある「西葛西APARTMENTS-2」は、住むに加えて商う・働くという機能を加えた新感覚の集合住宅です。ベーカリー&カフェ、小商いができるオープンスペース、コワーキングスペースを設けるなどで、街のコミュニティをつくり出しています。こちらが誕生した経緯と、完成から4年でどのように地域に変化をもたらしているかを取材します。

設計者が企画、設計、運営を行う新しいタイプの複合建築

初秋のよく晴れた日の朝、最寄駅である地下鉄東西線 西葛西駅の改札を出て歩くこと約10分。「西葛西APARTMENTS-2」は、大通りから一本入った住宅街のなかにありました。通りから見えるベーカリーの窓には、パンを仕込んでいる職人さんの姿。隣にあるデッキには、木々の緑陰が落ちています。

2000年に竣工した集合賃貸住宅「西葛西APARTMENTS」(右)にデッキスペースをはさんで隣り合う「西葛西APARTMENTS-2」(左)(写真撮影/桑田瑞穂)

2000年に竣工した集合賃貸住宅「西葛西APARTMENTS」(右)にデッキスペースをはさんで隣り合う「西葛西APARTMENTS-2」(左)(写真撮影/桑田瑞穂)

エントランスのスロープは、バリアフリーに配慮して、端ではなく中央に設けた。「誰にとっても居心地のよい場所に」という想いが込められている(写真撮影/桑田瑞穂)

エントランスのスロープは、バリアフリーに配慮して、端ではなく中央に設けた。「誰にとっても居心地のよい場所に」という想いが込められている(写真撮影/桑田瑞穂)

駅からの道すがら街なかで目立つのは、整然としたコンビニやファミレスなどのチェーン店ですが、ここには、手作り感あるほっとできる空間が広がっていました。静かな朝のひとときが過ぎると、保育園に子どもを送ったあとのお母さんたちが次々にやってきて、デッキでおしゃべりがはじまります。ロードバイクでふらりと立ち寄った人も。たちまち、にぎわいが生まれました。

「7丁目PLACE」のデッキには、パンとコーヒーを飲んで一息ついているお母さんたちが多かった(写真撮影/桑田瑞穂)

「7丁目PLACE」のデッキには、パンとコーヒーを飲んで一息ついているお母さんたちが多かった(写真撮影/桑田瑞穂)

2018年に完成した「西葛西APARTMENTS-2」は、駒田建築設計事務所の駒田剛司さん、由香さん夫妻が、資金計画、設計、運営まで一貫して行っている集合住宅です。駒田さん自身が銀行で融資を受け、所有しています。

1階にはカフェ併設のベーカリー&カフェ、2階には、コワーキングスペース「FEoT」(FAR EAST of TOKYO)と自社事務所があり、3・4階が賃貸住宅で、どの場所も路地のようなオープンスペース「7丁目PLACE」に開かれています。
隣接する「西葛西APARTMENTS」1階には、シェアキッチンを備えたコミュニティスペース「やどり木」を設けました。

「西葛西APARTMENTS-2」は、単なる集合住宅ではなく、街に開いたオープンスペースを持ち、働く人、商う人、地域の人が集う複合建築であり、地域のコミュニティを再生する場です。通常、集合住宅で、店舗を併設する場合、居住者と店舗の来客の入口は別々にして、動線を分けるのが一般的ですが、「7丁目PLACE」と名付けたデッキスペースに、賃貸部分の居住者やコワーキングスペースの利用者、ベーカリーの来客などすべての動線をあえて重ね、にぎわいを生み出すようにデザインされています。

「7丁目PLACE」のデッキには、パンとコーヒーを飲んで一息ついているお母さんたちが多かった(写真撮影/桑田瑞穂)

「7丁目PLACE」のデッキには、パンとコーヒーを飲んで一息ついているお母さんたちが多かった(写真撮影/桑田瑞穂)

「『西葛西APARTMENTS』には、私たちも入居していましたが、開発事業によって発展した西葛西は、どこにでもある大型のチェーン店が多く、個人の魅力的なお店がなかったんです。徐々に、自分たちが居心地よく過ごせる場所がほしいと思うようになりました。街を面白くするには、自分たちが街に開いていくべきじゃないか。そんな想いから『西葛西APARTMENTS-2』の計画はスタートしました」(由香さん)

エントランス脇の看板は、公園の入口にある看板をイメージしてデザイン。自由に使えるオープンスペースであることを表現している。ベーカリー&カフェ「gonno bakery market」が開店すると瞬く間に自転車でいっぱいに(写真撮影/桑田瑞穂)

エントランス脇の看板は、公園の入口にある看板をイメージしてデザイン。自由に使えるオープンスペースであることを表現している。ベーカリー&カフェ「gonno bakery market」が開店すると瞬く間に自転車でいっぱいに(写真撮影/桑田瑞穂)

賃貸集合住宅に、働く、商う、集う場を複合しコミュニティを生み出す

西葛西でやりたかったのは、小さくても「住む」「働く」「商う」「集まる」というさまざまな用途をぎゅっと詰め込んだ建物でした。そのためには近隣の人をいかに呼び込むかが大切で、最初に計画したのが、誰でも気軽に立ち寄れるベーカリー&カフェを1階に誘致することでした。

「一般的な集合住宅は、生垣や塀で囲まれていて、通りから中が見えない閉じたつくりになっていますが、その真逆をやってみたいという構想は以前からもっていました。駒田建築設計事務所では、集合住宅を計画する際、『1階を開くと街の価値まで上がる』とオーナーに店舗の誘致やオープンスペースの提案をしてきましたが、『うまくいくの?』と難色を示されてしまうことが多くて。自らオーナーである『西葛西APARTMENTS-2』で、その可能性を証明できるのではと思いました」(由香さん)

誘致した「gonno bakery market」は、もともと近隣の人気店。メディアに取り上げられることも多い。スコーンやバゲットなどさまざまな種類のパンが並び、選ぶのに迷ってしまうほど(写真撮影/桑田瑞穂)

誘致した「gonno bakery market」は、もともと近隣の人気店。メディアに取り上げられることも多い。スコーンやバゲットなどさまざまな種類のパンが並び、選ぶのに迷ってしまうほど(写真撮影/桑田瑞穂)

小さな子ども連れのご家族から高齢者まで、想定通り近隣の住民でにぎわうカフェコーナー(写真撮影/桑田瑞穂)

小さな子ども連れのご家族から高齢者まで、想定通り近隣の住民でにぎわうカフェコーナー(写真撮影/桑田瑞穂)

「空間の力で集客したい」と考えた駒田さん夫妻は、エントランスに、ベーカリーの来客や建物利用者が共有するデッキスペース「7丁目PLACE」を設けました。動線やオープンスペースとしての機能を考え抜き、デザイン案は100通りにものぼったそうです。完成した「7丁目PLACE」では、パンのイベントや不揃いの野菜を販売する「でこぼこマーケット」や美大生による子ども向けアートイベントなどが開催され、大反響。「西葛西APARTMENTS-2」の屋上スペース「7丁目ROOF」も希望者に貸し出していますが、ヨガ教室などのイベントが好評です。

コロナ禍前のパンイベントでは、建物周囲を囲むほどの行列ができた(画像提供/駒田建築設計事務所)

コロナ禍前のパンイベントでは、建物周囲を囲むほどの行列ができた(画像提供/駒田建築設計事務所)

デッキスペースに出店した「でこぼこマーケット」。三輪自転車の店舗に、新鮮な野菜がずらり(画像提供/駒田建築設計事務所)

デッキスペースに出店した「でこぼこマーケット」。三輪自転車の店舗に、新鮮な野菜がずらり(画像提供/駒田建築設計事務所)

「西葛西APARTMENTS-2」の屋上「7丁目ROOF」で催されているヨガ教室。空が近く感じられる気持ちのいい場所(画像提供/駒田建築設計事務所)

「西葛西APARTMENTS-2」の屋上「7丁目ROOF」で催されているヨガ教室。空が近く感じられる気持ちのいい場所(画像提供/駒田建築設計事務所)

駒田建築設計事務所の駒田由香さん。イベントは、主催者とテーマ設定や告知について話し合いながら一緒につくり上げていく(写真撮影/桑田瑞穂)

駒田建築設計事務所の駒田由香さん。イベントは、主催者とテーマ設定や告知について話し合いながら一緒につくり上げていく(写真撮影/桑田瑞穂)

「小さな経済がここで回っていくことが大事だと思っています。住んでいる人や街の人のチャレンジを後押ししながら、自分たちも成長したいと思っています。」(由香さん)

「西葛西APARTMENTS」1階にある「やどり木」は、シェアキッチン付きのオープンスペースです。飲食店営業と菓子製造業の許可を取得済みで、和菓子の会や無農薬野菜のカレー屋さんなどさまざまな活動が催されました。ここでの活動をきっかけに、本を出版したり、ビジネスを立ち上げた人もいるそうです。

「やどり木」でのイベント風景。もともと賃貸住居として貸し出していたスペースをリノベーションしてシェアキッチンとして開放(画像提供/駒田建築設計事務所)

「やどり木」でのイベント風景。もともと賃貸住居として貸し出していたスペースをリノベーションしてシェアキッチンとして開放(画像提供/駒田建築設計事務所)

コワーキングスペースが、居住者や地域の人のサードプレイスに

「西葛西APARTMENTS-2」2階にあるコワーキングスペース「FEoT」は、家でも職場でもない居場所をつくろうという思いで企画されました。

駒田さん夫妻にとって、コワーキングスペースの運営は初めてでしたが、外が見えて風が抜けるリビングのような居心地の良い空間を目指しました。合理的な壁柱の構造を活かしたワークスペースには、プライバシーを保ちつつ、デスクがゆったりと配置されています。構造躯体でない間仕切りには、本棚やコンクリートブロックを使い、簡単にスペース全体のレイアウトを変えられるようになっています。

窓いっぱいに外が見えて開放感のある「FEoT」。右側の壁も中央の壁と同じ構造になっていて、本棚を取り外すと一体の空間として使える(写真撮影/桑田瑞穂)

窓いっぱいに外が見えて開放感のある「FEoT」。右側の壁も中央の壁と同じ構造になっていて、本棚を取り外すと一体の空間として使える(写真撮影/桑田瑞穂)

「FEoT」は駒田建築設計事務所と同フロアにあり、受付は事務所スタッフが行い、運営に関する面談や契約は由香さんが担当。開業半年後から満席が続き、空きが出てもすぐに埋まる状況が続いています。

受付を兼ねたシェアキッチン。右奥が駒田建築設計事務所の入口で、コワーキング利用者と事務所スタッフがスペースを共有している(写真撮影/桑田瑞穂)

受付を兼ねたシェアキッチン。右奥が駒田建築設計事務所の入口で、コワーキング利用者と事務所スタッフがスペースを共有している(写真撮影/桑田瑞穂)

「現在の利用者は入居者、近隣の方を中心に27名ほどです。通常、コワーキングスペースを契約する際には、禁止事項などがずらっと書かれた利用規約がありますけど、悩んだ末、必要最低限の利用規約にとどめました。お互い挨拶を交わすなかで、利用者同士や事務所スタッフが顔見知りの関係になり、みなさん安心して快適に過ごされているようです」

賃貸部分の入居者は、30代~40代が中心で、「西葛西APARTMENTS-2」の醸し出すオープンな雰囲気が気に入って入居されている方が多いようです。この建物を通じて知り合った入居者の方と、近隣に住むコワーキング利用者と三者で、被災時に対応すべきマニュアルの作成など、新しい社会的活動も始めています。

コワーキングスペースはフリーランスの方の事務所となったり、保育園に子どもを送ったあと1時間利用する人がいたり、ベーカリー&カフェでテイクアウトしたパスタを、居住エリアのベンチに持ち込んでテレワークする人も。「『西葛西APARTMENTS-2』みたいな場所があってよかった」という声が寄せられています。

男性が入居する賃貸の一室。キッチンが広めの28.8平米ワンルーム(写真撮影/桑田瑞穂)

男性が入居する賃貸の一室。キッチンが広めの28.8平米ワンルーム(写真撮影/桑田瑞穂)

朝の日差しが気持ちよく差し込んでいた(写真撮影/桑田瑞穂)

朝の日差しが気持ちよく差し込んでいた(写真撮影/桑田瑞穂)

3階のこの部屋は共有廊下に接した写真左の引き違い窓が入口で、入ってすぐキッチンがある。住居を開放して、小商いをすることも可能(写真撮影/桑田瑞穂)

3階のこの部屋は共有廊下に接した写真左の引き違い窓が入口で、入ってすぐキッチンがある。住居を開放して、小商いをすることも可能(写真撮影/桑田瑞穂)

コミュニティが再生する場をつくり、地域の価値を上げる

「1階を開くと街の価値まで変わる」と信じて、新しい集合住宅を設計した駒田さん夫妻。企画当初は、融資を打診した銀行から、立地や場所性を理由に飲食の店舗やコワーキングスペースにする計画には、難色を示されましたが、竣工から1年後、管理会社から、築20年の「西葛西APARTMENTS」の家賃の値上げを提案されたのです。「西葛西APARTMENTS2」を通じてさまざまな人が交流するなかで、「環境をつくる」ことが街に新しい価値を生み出し、その結果事業利益にもつながりました。

「以前は、コンセプトを言葉で説明しても理解されにくかったのですが、実際に「西葛西APARTMENTS-2」を見た多くの人に共感してもらえるようになりました。今までやってきたことがフィードバックされてきたのかなと思っています。これからも、地域の人が交流し発展する場所として育てていきたいです」(由香さん)

設計者自ら不動産を手掛け、「空間の力で集客できる」ことを証明した駒田建築設計事務所の剛司さんと由香さん。2022年11月には、外階段から直接住戸にアクセスでき、小商いが可能な賃貸集合住宅「wdsビル」が竣工しました。これからは、多様な人々を呼び込み、街に開いた集合住宅が、住む人、商う人、働く人の交差点になり、街のコミュニティを醸成する場になっていくのかもしれません。

●取材協力
駒田建築設計事務所

31歳女子、2棟目の大家になる。屋上農園や喫茶店付きで住民と地域がつながる賃貸「ロジハイツ」荒川区

2022年2月の記事、「24歳女子、大家になる。築40年超エレベーターなしマンションが人気物件になるまで 東京都荒川区」で「トダビューハイツ」を取材させていただいた戸田江美さん。
その際に「荒川区町屋に新たに賃貸住宅を建てます!」とお話を伺ったのだが、今年2月完成。入居が開始して半年経過し、「その後、どうだったのか」を伺うべく、新物件「ロジハイツ」へ。「まったく当初の予定通りにはいかなくて大変だった!」という戸田さんと、入居者や地域住民の方々にお話を伺った。

空き地のまま活用する想像建築プロジェクト。想定外な出来事が

そもそもこの「ロジハイツ」は、戸田さんの祖母が所有し、長く借地として貸し出していた土地が更地になって戻ってきたことを契機に、新たな活用法を考えるところから始まったプロジェクト。
すぐに建物を建てずに、空き地のまま残し、マルシェ、街歩き、トークイベントなどを開催。「想像建築プロジェクト」と名付けられたこの試みは、荒川区の土地にまったく地縁のない人でも、この場所に興味を持ってもらえる仕掛けとしてスタートした。

ロジハイツを建てる前の空き地で行われたマルシェイベント(画像提供/戸田さん)

ロジハイツを建てる前の空き地で行われたマルシェイベント(画像提供/戸田さん)

商店街をめぐる街歩きは人気イベント。戸田さん作成の『街歩きのしおり』を手に、「はっぴいもーる熊野前」と「おぐ銀座商店街」と、地元の人でにぎわう2つの商店街をめぐり、荒川区の暮らしをシミュレーション(画像提供/戸田さん)

商店街をめぐる街歩きは人気イベント。戸田さん作成の『街歩きのしおり』を手に、「はっぴいもーる熊野前」と「おぐ銀座商店街」と、地元の人でにぎわう2つの商店街をめぐり、荒川区の暮らしをシミュレーション(画像提供/戸田さん)

最終的には、小さな賃貸住宅ながら、屋上にシェア菜園、1階に喫茶店を設け、地元の人との接点となる”場”を用意することに。

扉からのぞいている鳥はハクセキレイ。物件近くの尾久の原公園で元気に走り回っている野鳥をモチーフに。どこかレトロで丸みのあるデザインで、新築だが昔ながらの住宅街になじむ、温かみのある住まいに (写真撮影/片山貴博)

扉からのぞいている鳥はハクセキレイ。物件近くの尾久の原公園で元気に走り回っている野鳥をモチーフに。どこかレトロで丸みのあるデザインで、新築だが昔ながらの住宅街になじむ、温かみのある住まいに (写真撮影/片山貴博)

「こんなことしながら、“面白い街、面白い物件”って興味を覚えた方々が、物件のスペック以外の、この独特さにひかれて引越してくれたら、すごく面白いな、って思ってたんです」(戸田さん)。1階の店舗物件を除けば、賃貸住戸は単身者向けの2住戸のみ。ロジハイツの”特別さ”を愛してくれる、たった2名の入居者がいればいい。そして、実際、街歩きなどのイベントを通して、まったく地縁のないけれども「ここに絶対住みたい」方が現れた。
ところが! 「家庭や仕事の事情で、この方たちが2人とも東京を離れることになったんです。その時点ですでに住み替えの繁忙期が終わっており、本当に焦りました。建築用木材の供給が需要に追いつかない“ウッドショック“の影響でコストが上がる、納期は遅れると、タイミングも悪かったですね。『(空き地でイベントなど開かず)さっさと賃貸住宅を建てていればよかったのに』と言われたこともありました」

大家の戸田江美さん。祖母の跡を過ぎ、大家業を継いだのは24歳の時。現在は結婚し、大家業とともに、フリーランスのデザイナー、イラストレーターをしている(写真撮影/片山貴博)

大家の戸田江美さん。祖母の跡を過ぎ、大家業を継いだのは24歳の時。現在は結婚し、大家業とともに、フリーランスのデザイナー、イラストレーターをしている(写真撮影/片山貴博)

「物件のビハインドに触れて決めた」――Sさんの場合

そんななか、どうにか2人の入居者が現れた。

一人は、転職をきっかけに実家を出て一人暮らしを始めようとした女性、Sさん。「いろんな物件サイトをみていても、どんな物件も金太郎飴みたいに同じに見えちゃうんです。ストーリーのあるもの、付加価値のあるもの、個性のあるもの、ネットの検索条件を入れても見つけられない部屋と出会えないかなと思ったんです。エリアは、23区内であれば、実家からの通勤に比べれば通勤時間が短縮されるだろうと、絞り込めないでいました。公園はもちろん、海や川など水辺が近くにあるといいな、図書館もほしいな。そんな漠然とした感じだったので、まずエリアを入れて、というネット検索ができないでいたんです」(Sさん)

そんな中、たまたま出会ったのが、戸田さんの「大家女子になる」というWebの連載記事。
「ああ、こんな想いで大家さんをされているんだ、新しい物件もすごく面白そうって思って、見学を予約して。そうしたら、戸田さんご本人が物件を案内してくださって、街歩きも一緒にしてくださったんですよね」
すると戸田さんが、「そういえば、Sさんは川は近くにありますか?ってすぐ聞かれましたよね。最初、川近くは嫌なのかと思ってましたよ」
「そうそう(笑)。なんだか、面白そうだなって思ったんです」(Sさん)

Sさんがロジハイツに決めた理由である、徒歩1分の位置にある尾久の原公園。広い原っぱは、地元住民の憩いの場(写真撮影/片山貴博)

Sさんがロジハイツに決めた理由である、徒歩1分の位置にある尾久の原公園。広い原っぱは、地元住民の憩いの場(写真撮影/片山貴博)

「物件よりも、どんな街に暮らすかを大切にしたい」――新社会人のY君の場合

一方、新卒で就職とともに上京した社会人1年目のY君。「大学で卒業制作しているうちに、部屋探しに完全に出遅れてしまったんですよ。でも、初めての東京暮らしは、どんな物件に暮らすというより、どんな街に住みたいかが大事という想いがあって。東京の下町っぽいところに憧れもあり、見つけたのがこの物件のサイトでした。手書き風のデザインや、その物件に至るストーリーに興味を覚えてたんです。東京に行く時間もなくて、オンライン上での内見でしたけど、当初イメージしていた”不動産会社で部屋探し”と全然違ってました(笑)」

Y君が興味をそそられたロジハイツのサイトのデザインは、デザイナーでもある戸田さんの手によるもの(画像提供/戸田さん)

Y君が興味をそそられたロジハイツのサイトのデザインは、デザイナーでもある戸田さんの手によるもの(画像提供/戸田さん)

2人ともエリア×予算のスペックでだけでは探しきれない、言語化しにくい価値観に魅了されて、この「ロジハイツ」に行きついたのだ。

さらに、ロジハイツのきょうだい物件(もともと戸田さんが祖母から大家を任された物件)である「トダビューハイツ」の入居者とも交えた食事会も開かれた。Sさんはロジハイツ屋上のシェア菜園も利用登録し、同じメンバーと顔見知りに。Y君はトダビューハイツ入居者で同業者の男性と知り合い、すっかり意気投合。地元の居酒屋や銭湯に連れて行ってもらうなど、住まいを拠点として、街に知り合いが増えている。

「トダビューハイツとロジハイツの入居者の希望する人だけでライングループをつくっているんです。とはいうものの、食事会といっても2カ月に1度ぐらいのものですよ。あとは個別に。程よい距離感も大切です」(戸田さん)

ロジハイツの住人さん歓迎会をきょうだい物件・トダビューハイツと合同開催。商店街のお店も紹介しながら。「その後、住人同士で交流もあるようでうれしいです」(戸田さん、写真提供も)

ロジハイツの住人さん歓迎会をきょうだい物件・トダビューハイツと合同開催。商店街のお店も紹介しながら。「その後、住人同士で交流もあるようでうれしいです」(戸田さん、写真提供も)

1階の喫茶店はゆるやかに人と街がつながる場に

入居者と地元民の憩いの場となっているのが1階の喫茶店「ふくか」。店主の竹前さんは、荒川区に生まれ育ち、戸田さんの大学時代の同級生。「下町の飲食店のオーナーって、とにかく人柄が大事。彼女なら、おじいちゃんおばあちゃんと仲良くできるだろうし、私の想いを共有してくれているのが心強いです」(戸田さん)

「早朝は近くの公園でラジオ体操をした帰り、ちょっと朝食を食べながらおしゃべりしたいね」という地元の人向けに平日は朝6時半から(土日は9時~)営業している。メニューも豊富だ。トースト、ピザ、サンドイッチ、カレー、焼きそば、パスタ、ケーキ類。開店から10時半まではモーニングがあり、お酒類もひと通りある。

「元気がなくなったら営業終了」という喫茶店「ふくか」。「だいたい17時ぐらいが目安でしょうか(笑)」(竹前さん)(写真撮影/片山貴博)

「元気がなくなったら営業終了」という喫茶店「ふくか」。「だいたい17時ぐらいが目安でしょうか(笑)」(竹前さん)(写真撮影/片山貴博)

スィーツ類も充実。緑茶付きクリームあんみつは750円(写真撮影/片山貴博)

スィーツ類も充実。緑茶付きクリームあんみつは750円(写真撮影/片山貴博)

「この辺りは、小さな子どもを連れて入れるお店が少ないということで、昼間は子連れのママさんたちが多いですね。夕方4時になったら必ず現れる常連さんもいます」(竹前さん)。
ちなみに、入居者は月2回の無料ドリンク付き。朝は少しのんびり出勤というY君は、ここでモーニングを食べてから出勤することも。Sさんもリモートワーク時はお昼ご飯にと活用していた。

竹前さんとお店を手伝っている竹前さんのお母さん、入居者の2人。「そうそう、引っ越し当初は、Y君のWi-Fi使わせてもらったよね」(Sさん)。「ボードゲームしませんでしたっけ」(Y君)、「そうそう、『はぁって言うゲーム』だよ」と戸田さん。「大家とテナントのオーナーと入居者たち」で連想される立場より、「もっと近い」。この温度感が微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

竹前さんとお店を手伝っている竹前さんのお母さん、入居者の2人。「そうそう、引っ越し当初は、Y君のWi-Fi使わせてもらったよね」(Sさん)。「ボードゲームしませんでしたっけ」(Y君)、「そうそう、『はぁって言うゲーム』だよ」と戸田さん。「大家とテナントのオーナーと入居者たち」で連想される立場より、「もっと近い」。この温度感が微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

屋上のシェア菜園に参加した地元民の理由とは?

屋上には小さなシェア菜園「ロジガーデン」があり、ここは地域住民にも開かれており、現在は満席。「三鷹の農家・冨澤ファームさんに、土の入れ方からタネの植え方、水の撒き方など、ビギナーにとっては知らないコツや知識をレクチャーしてもらっています」(戸田さん)

今回はプレ時期から利用登録している方おふたりにお話を伺った。

契約期間は半年ごと。「メンバー限定のチャットで冨澤ファームさんに相談にのってもらえるので、“すぐ植物を枯らしてしまう”という初心者も心強いです」(戸田さん)(写真撮影/片山貴博)

契約期間は半年ごと。「メンバー限定のチャットで冨澤ファームさんに相談にのってもらえるので、“すぐ植物を枯らしてしまう”という初心者も心強いです」(戸田さん)(写真撮影/片山貴博)

Hさんは、もともとこの場所は空き地だった時からイベント参加をしていたご近所さん。「街歩きやマルシェなどのイベントがとても楽しくて。だからこの場所に賃貸住宅ができると聞いて、形になって良かったと思う反面、ああ、暮らす人だけの場所になるんだと、寂しくなったのも本音でした。だけど、戸田さんが屋上に小さな菜園をつくる、それは私たちにも借りられる、と聞いて、すぐ手を上げました」(Hさん)
「Hさんの”借ります”っていう言葉はすごく心強かったです。正直、本当に借りてくれる人いるのかな、私の考え、合っているのかな、って不安でしたから。実はHさんはご自宅のお庭も菜園にしている経験者で、とても頼りにしています」(戸田さん)。

一方Dさんは荒川区に暮らして7年目というものの、多忙な会社員生活で、ほとんど荒川区の住まいは帰って寝るだけの場所。地元の付き合いはまったくなかったそう。
「ところがコロナ禍で生活が激変。在宅ワークとなり、否応なく、地元で過ごす時間が増えたんです。せっかくなら地元のお店をいろいろ開拓してみよう、新しいことに挑戦してみようと思ったんです」(Dさん)
そんな時、たまたま地元のウェブマガジンで、このロジハイツ1階の『喫茶ふくか』やシェア菜園の事を知り、挑戦してみることに。
「私はサボテンも枯らすような人間なんですけど、プロの先生もいて、気兼ねなくいろいろ聞けるので頼りにしています」

ご近所のHさん(左)、在宅ワークを機に地元生活を満喫し始めたDさん(右)。これまで接点のなかった者同士が一緒におしゃべりしながら作業して、1階の喫茶店でお茶して、と楽しい時間になっている(写真撮影/片山貴博)

ご近所のHさん(左)、在宅ワークを機に地元生活を満喫し始めたDさん(右)。これまで接点のなかった者同士が一緒におしゃべりしながら作業して、1階の喫茶店でお茶して、と楽しい時間になっている(写真撮影/片山貴博)

夏には収穫祭も。くびれていたり、巨大だったり。スーパーではお目にかかれない野菜に愛着もひとしお (写真提供/戸田さん)

夏には収穫祭も。くびれていたり、巨大だったり。スーパーではお目にかかれない野菜に愛着もひとしお (写真提供/戸田さん)

「正直、入居希望者が白紙になったときは本当にどうしようと思いましたが、空き地のイベントや物件完成に至るプロセスに価値を見つけてくれた2人が入居者になってくれたし、そのイベントを通してHさんも私を応援してくれた。Dさんもこうした取材で、生活が楽しく変わったとお聞きすると、ああ、私の選んだ道は間違えてなかったと思いますね」(戸田さん)

10月には収穫した野菜を使った料理やオススメの一品を持ち寄り、屋上で夕涼み会も (写真提供/戸田さん)

10月には収穫した野菜を使った料理やオススメの一品を持ち寄り、屋上で夕涼み会も (写真提供/戸田さん)

この荒川区に全く地縁のない人でも、住まいを通して、知り会いが増え、街に愛着を持てるようになる。そんな「関わりしろのある物件」で、自分が生まれ育った街を愛してくれる人を増やしたい――戸田さんが思い描いていた世界が始まっている。

戸田さん、竹前さん、入居者のY君、菜園メンバーのHさん夫妻、Dさん(写真撮影/片山貴博)

戸田さん、竹前さん、入居者のY君、菜園メンバーのHさん夫妻、Dさん(写真撮影/片山貴博)

●取材協力
ロジハイツ

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「小田急線」沿線、家賃相場が安い駅ランキング! 2022年版

新宿に下北沢、町田……と数多くの人気駅を抱える小田急電鉄。環七に架かる橋や駅のホームなど駅周辺がフジテレビ系ドラマ『silent(サイレント)』のロケ地になり、注目度が急上昇中の世田谷代田駅も小田急電鉄の駅の一つだ。そんな小田急電鉄には小田原線、江ノ島線、多摩線の3路線・全70駅がある。今回は小田急電鉄全70駅について、駅徒歩15分以内にあるシングル向け物件(専有面積10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場を調査した。人気の駅はやはり高いのか……? 調査結果をチェックしよう。

小田急線沿線の家賃相場が安い駅TOP20

順位/駅名/家賃相場(路線名/駅所在地)
1位 座間 4.00万円(小田急小田原線/神奈川県座間市)
2位 鶴巻温泉 4.35万円(小田急小田原線/神奈川県秦野市)
3位 玉川学園前 4.40万円(小田急線/東京都町田市)
4位 渋沢 4.45万円(小田急小田原線/神奈川県秦野市)
5位 善行 4.50万円(小田急江ノ島線/神奈川県藤沢市)
5位 東海大学前 4.50万円(小田急小田原線/神奈川県秦野市)
7位 富水 4.55万円(小田急小田原線/神奈川県小田原市)
8位 新松田 4.60万円(小田急小田原線/神奈川県足柄上郡松田町)
8位 栢山 4.60万円(小田急小田原線/神奈川県小田原市)
8位 足柄 4.60万円(小田急小田原線/神奈川県小田原市)
11位 開成 4.65万円(小田急小田原線/神奈川県足柄上郡開成町)
12位 螢田 4.70万円(小田急小田原線/神奈川県小田原市)
13位 小田急相模原 4.78万円(小田急小田原線/神奈川県相模原市南区)
14位 六会日大前 4.90万円(小田急江ノ島線/神奈川県藤沢市)
14位 鶴川 4.90万円(小田急線/東京都町田市)
16位 東林間 4.93万円(小田急江ノ島線/神奈川県相模原市南区)
17位 唐木田 5.00万円(小田急多摩線/東京都多摩市)
18位 秦野 5.05万円(小田急小田原線/神奈川県秦野市)
19位 伊勢原 5.10万円(小田急小田原線/神奈川県伊勢原市)
19位 生田 5.10万円(小田急線/神奈川県川崎市多摩区)
※21位以降は記事末尾に記載

トップ3は家賃相場4万円台前半。新宿まで40分ほどで行ける駅も!

1位は神奈川県座間市に位置する小田原線・座間駅で、家賃相場は4万円。各駅停車と快速急行を乗り継ぎ、新宿駅までは50分前後で行ける。タクシー乗り場や駅前広場がある東口側には「小田急マルシェ」の建物が2棟あり、スーパーやドラッグストア、ベーカリーや歯科医院が入っている。その北側に建つのは、かつての小田急電鉄社宅をリノベーションした賃貸用の駅前団地「ホシノタニ団地」。ウッドデッキのテラスや芝生広場を設けた開放的な造りで、団地1階部分にあるカフェ&ランドリーはビジターも利用可能だ。

座間駅(写真/PIXTA)

座間駅(写真/PIXTA)

座間駅の西口側には住宅のほかに小学校や高校があり、10分ほど歩いた県道51号・町田厚木線周辺にはスーパーやディスカウントストアも。さらに進んで、駅から徒歩約15分でJR相模線・入谷駅へ。入谷駅から電車で南下すると約30分で湘南エリアを代表する駅・茅ヶ崎に行けるので、休日に海辺で遊びたい時も便利なロケーション。また、ショッピングモールや映画館といった商業施設が充実した海老名駅まで座間駅から1駅・約3分という点も魅力だろう。

2位は小田原線・鶴巻温泉駅で家賃相場は4万3500円。神奈川県秦野市に位置し、新宿駅まで快速急行で約1時間10分、反対方面の終点でもある43位の小田原駅までは急行で約28分。駅北口側には温泉宿2軒に加え、日帰り温泉施設1軒がある。日帰り温泉施設は市営で市内在住・在勤だと割安で利用できるので、仕事の疲れがたまった際など気軽に立ち寄るのもいいだろう。温泉が湧いているとはいえ街は観光地ではなく住宅地といった雰囲気で、駅から徒歩10分圏内には住宅の合間にスーパーやドラッグストア、コンビニ、飲食店が点在。大型商業施設はないが、日常の買い物には困らなそうだ。

3位には東京都町田市にある、小田急線・玉川学園前駅が家賃相場4万4000円でランクイン。通勤準急や各駅停車で新百合ヶ丘駅に行き、通勤急行や快速急行に乗り換えると新宿駅まで40分前後で行ける。新宿方面に向かって3駅目の新百合ヶ丘駅や、逆方面に1駅目の町田駅は大型商業施設が充実し、ショッピングに出かけやすい立地だ。

玉川学園前駅の様子はというと、南口側には飲食店やドラッグストアの入った商業施設があり、隣にはスーパーも。駅前にもチェーン系の飲食店があるので、料理をしたくない仕事帰りの夕食にも困らなそう。駅北口側にもスーパーや飲食店が点在し、線路に沿うようにして商店街が続いている。そして、駅北東部は幼稚部から大学院まで抱える玉川学園の広大な敷地。学園都市として形成された駅周辺は文教地区に指定されており、落ち着きのある街で暮らしたい人にもうってつけだ。

玉川学園(写真/PIXTA)

玉川学園(写真/PIXTA)

新宿まで座って通勤可能で家賃相場5万円の穴場駅も発見

トップ20の大半を小田原線の駅が占めるなか、5位には江ノ島線の善行(ぜんぎょう)駅が家賃相場4万5000円でランクイン。善行駅から各駅停車で相模大野駅に行き、快速急行に乗り継げば新宿駅まで約1時間3分。また、近隣屈指の繁華街がある藤沢駅まで2駅・約5分。そこからJR東海道本線に乗り換えると、善行駅から30分前後で横浜駅に到着する。

神奈川県藤沢市に位置する善行駅周辺は、スポーツ振興に力を入れてきた街。江ノ島線の車窓からも見える乗馬クラブや、プロも輩出するテニスクラブなどがあるスポーツクラブ、さらにプールやトレーニングジムもある県立スポーツセンターなど、駅周辺にはスポーツ施設が充実している。新たな趣味を探すため、個人・ビジター利用できるプログラムにお試しで参加するのも楽しそう。駅前にはファストフードなどの飲食店やドラッグストア、早朝から深夜まで営業するスーパーもあり、日常生活も送りやすいだろう。また、駅周辺の住宅街を過ぎると農地も残る環境のためか、駅前には無農薬野菜の直売も行うオーガニックカフェがあるほか、2022年6月には農家直営のピザ店もオープン。スポーツに親しみ、野菜を満喫し……と、健康的な生活ができそうだ。

善行駅(写真/PIXTA)

善行駅(写真/PIXTA)

トップ20に多摩線から唯一、ランクインしたのは17位の唐木田駅。多摩ニュータウンの一角、東京都多摩市に位置し、家賃相場は5万円だった。新宿駅発の小田急線に乗った際に「カラキダ行き~」といった車内アナウンスで駅名を聞いたことがある人もいるだろうが、小田急線の新宿駅~多摩線の唐木田駅を乗り換えなしで結ぶ直通列車も運転されている。おかげで唐木田駅から新宿駅まで急行1本で約42分。唐木田駅は多摩線最西端で始発駅のため、通勤時間帯でも座りやすいというメリットもある。

そんな唐木田駅は1990年、小田急電鉄で69番目に開業した比較的新しい駅。ちなみに最も新しい70番目の駅は2004年に開業した、同じく多摩線の「はるひ野駅」だ。さて、唐木田駅周辺の様子を見てみると、北西側から南側にかけてはゴルフ場や大妻女子大学のキャンパス、森が駅の間近まで迫っている。そのため住宅街は駅東側がメイン。駅前にはコンビニやスーパー、ホームセンターがあり、日常の買い物には困らない。また、京王相模原線と多摩モノレールに乗り換え可能な小田急多摩センター駅までは1駅。ショッピングモールや映画館もある多摩センター駅周辺に出かけやすいのも魅力だろう。

唐木田駅(写真/PIXTA)

唐木田駅(写真/PIXTA)

3路線・全70駅におよぶ小田急電鉄沿線は、駅により街並みも家賃相場もさまざま。今回の調査で最も家賃相場が高かったのは新宿駅で、12万6000円だった。そのほか主な駅の家賃相場を見てみると、新百合ヶ丘駅が6万7000円(51位)、登戸駅が6万8000円(52位)、下北沢駅が8万7800円(64位)、代々木上原駅が9万9000円(66位)。テレビドラマのロケ地として脚光を浴びている、世田谷代田駅は8万4000円(63位)だった。

急行が停まるような有名どころだと街も発展しているため、やはり家賃相場が高めという結果に。だが、同じ小田急電鉄の沿線ならば、そうした駅にもアクセスしやすい。狙った駅に近い各駅停車駅に住んで家賃を抑えつつ、休日はふらりと近隣の商業施設が豊富な街へ出かけるのも一案かもしれない。

小田急線沿線の家賃相場が安い駅21位以降
小田急線沿線の家賃相場が安い駅21位以降

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている小田急線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/7~2022/9
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

人気店の味を気軽に楽しみ食品ロスにも貢献! マンションと地域の交流を育む「夜のパン屋さん」飯田橋第一パーク・ファミリア 新宿区

コロナ禍のステイホームなどにより、マンション等の集合住宅では、住民同士の交流が減るなどの問題が生じていました。高齢者が多く入居する飯田橋第一パーク・ファミリア(東京都新宿区)では、管理会社と管理組合が連携し、売れ残ってしまいそうなパンを有償で引き取り代理販売する「夜のパン屋さん」を誘致。社会貢献をしながら、入居者や近隣の人へ食の楽しみを提供した活動が評価され、「マンション・バリューアップ・アワード2021『マンションライフ・シニアライフ部門』」で佳作を受賞しました。管理会社の三井不動産レジデンシャルサービス倉本昇さんに、取り組みの経緯と反響を伺いました。

売れ残りパンの代理販売「夜のパン屋さん」がマンションの駐車場にオープン

夕暮れ時、人が行き交う通りから一本入った住宅街のマンションの駐車場に、オレンジ色の光が灯るキッチンカー「夜のパン屋さん」がオープンしていました。マンションに帰宅する人や近隣に住んでいる人が立ち寄り、店頭に並ぶパンを選びながら、店員さんとの会話を楽しんでいます。

「夜のパン屋さん」は、「パンを焼かないパン屋さん」。どのお店のパンが並ぶかは当日のお楽しみ(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」は、「パンを焼かないパン屋さん」。どのお店のパンが並ぶかは当日のお楽しみ(写真撮影/桑田瑞穂)

マンションの居住者だけでなく、近隣の人も「夜のパン屋さん」のパンを楽しみにしている(写真撮影/桑田瑞穂)

マンションの居住者だけでなく、近隣の人も「夜のパン屋さん」のパンを楽しみにしている(写真撮影/桑田瑞穂)

17~20時の間に20組ほどが訪れる。この日は、静岡や埼玉のパン屋さんから届いたパンが並んだ(写真撮影/桑田瑞穂)

17~20時の間に20組ほどが訪れる。この日は、静岡や埼玉のパン屋さんから届いたパンが並んだ(写真撮影/桑田瑞穂)

飯田橋第一パーク・ファミリアを含む東京の3カ所で定期的にオープンしている「夜のパン屋」さんは、ホームレス状態など生活に困窮する人の自立支援事業を展開する有限会社ビッグイシュー日本が運営するパン屋さんで、売れ残りそうなパンをパン屋さんから預かり、代理販売をしています。

賞味期限が近いパンを買っておいしく食べることで、パン屋さんの食品ロスを減らし、同時に、パンの回収と販売を生活に困窮した人に携わってもらうことで、新たな仕事を創り出す取り組みです。

扱うパンは、都内の有名店や老舗店のほか北海道や静岡などの街のパン屋さんから送られてきたパン。さまざまな店のパンを購入できるとあって、人気を博しています。飯田橋第一パーク・ファミリアは、そのプロジェクトの2号店です。

柿とサツマイモのマフィン(写真撮影/桑田瑞穂)

柿とサツマイモのマフィン(写真撮影/桑田瑞穂)

東京都港区にある「ラトリエCOCCO」から届いたパンの詰め合わせ(写真撮影/桑田瑞穂)

東京都港区にある「ラトリエCOCCO」から届いたパンの詰め合わせ(写真撮影/桑田瑞穂)

コロッケバーガー、チーズボール、クリームパン、あんぱんなど詰め合わせパンは、組み合わせが異なるので選ぶ楽しみがある(写真撮影/桑田瑞穂)

コロッケバーガー、チーズボール、クリームパン、あんぱんなど詰め合わせパンは、組み合わせが異なるので選ぶ楽しみがある(写真撮影/桑田瑞穂)

飯田橋第一パーク・ファミリアの管理会社で、「夜のパン屋さん」のキッチンカーの誘致に尽力した三井不動産レジデンシャルサービスの倉本さんは、「今はすっかり定着しましたが、はじめての取り組みで初日はドキドキでした」と振り返ります。

飯田橋第一パーク・ファミリアには、もともと、管理会社によるキッチンカーの提供がありましたが、外部の運営業者のキッチンカーを敷地内に入れることについて、管理組合では、防犯面などから、さまざまな議論があったそうです。

コロナ禍で孤立する高齢の居住者に食の楽しみを増やしたい

飯田橋第一パークファミリアは、179世帯が入居するマンションで、築40年を超え、居住者の多くが高齢者です。管理会社として、「夜のパン屋さん」出店以前から、敷地内にキッチンカーを無償で出店し、コロナ禍で外出を控えている入居者に、お店でしか食べられないような、美味しい料理を提供してきました。

『夜のパン屋さん』の誘致は、倉本さんが、もともと管理会社が無償で出店していたキッチンカーに訪れた方から、『夜のパン屋さんプロジェクト』の話を聞いたのがきっかけです。運営する有限会社ビッグイシュー日本に問い合わせたところ、ちょうどプロジェクトの2号店として、キッチンカーの出店場所を検討中だとわかりました。以前から出店していたキッチンカーにはなかったパン屋さんであること、おいしいパンを食べることで、社会貢献ができる意義のある取り組みであることに魅力を感じた倉本さんは、マンションの敷地を提供したいと考えました。

「夜のパン屋さん」初のキッチンカー。キャッシュレスで清算できるのは、うれしい(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」初のキッチンカー。キャッシュレスで清算できるのは、うれしい(写真撮影/桑田瑞穂)

「当時は、コロナ禍で外出を控えたり、在宅勤務が多くなり、先が見えないなかで、自分もフラストレーションを感じていました。なにかできないだろうかと考えていましたが、食の楽しみが増えたらすてきなのではと。入居者の方々の喜ぶ顔が見たいと思いました」(倉本さん)

誘致に対するネガティブな意見に対して不安をなくす提案書を作成

2021年4月に、有限会社ビッグイシュー日本の担当者に現地を見てもらい、6月から理事会へ提案をはじめました。

「理事会では、管理会社の提供ではない外部の事業者が敷地内へ入ることへの防犯面の不安や販売員に対する消極的な意見がありましたが、『パン屋さんが来るのはうれしい』という前向きな意見もありました。管理組合から寄せられた懸念を払拭できるよう、担当者と打合せして、提案書をまとめていきました」(倉本さん)

倉本さん(中央)と販売員さん(左)、スタッフさん(右)。販売員さんは、夜のパン屋さん1号店オープンから手伝うベテラン。ユニフォームは、おそろいのエプロン(写真撮影/桑田瑞穂)

倉本さん(中央)と販売員さん(左)、スタッフさん(右)。販売員さんは、夜のパン屋さん1号店オープンから手伝うベテラン。ユニフォームは、おそろいのエプロン(写真撮影/桑田瑞穂)

提案書には、販売時の服装がわかる写真や、「夜のパン屋さんプロジェクト」の過去の実績を盛り込みました。

「販売員の方に清潔感があることや、不人気な売れ残りではなく、並ばないと買えないような有名店のパンも購入できることが好印象を与え、8月には理事会決議が通りました。有限会社ビッグイシュー日本さんが、課題に対して、スピード感のある提案をしてくださったこと、もともと当社と管理組合で信頼関係があったことも大きかったと思います」(倉本さん)

人気店や老舗店の売れ残りパンが大人気!居住者や近隣住民の楽しみに

「2021年10月5日、3カ月間のトライアルとして第1回目の夜のパン屋さん(2号店)がスタートしました。チラシ配布のみの告知だったにも関わらず、たくさんのお客様でにぎわい、飛ぶようにパンが売れました。当日は、17時に3店舗から預かったパンで販売をスタートしましたが、準備したパンは20分ほどで完売。18時すぎに追加の1店舗からパンが到着し、19時すぎに更に2店舗目からパンが到着しましたが、20時に完売となりました」(倉本さん)

訪れたのは、マンションに住んでいる高齢者、乳児や小さな子ども連れの女性たちでした。「パンが売り切れてしまって残念。次は早めに来ます」「コロナ禍でなかなか外出が出来ない中、毎週火曜日が楽しみになりました」などうれしい言葉が寄せられたそうです。

「夜のパン屋さん」の灯りで駐車場が明るくなり、「防犯面もよくなった」という声もあった(写真撮影/桑田瑞穂)

「夜のパン屋さん」の灯りで駐車場が明るくなり、「防犯面もよくなった」という声もあった(写真撮影/桑田瑞穂)

「参加のパン屋さんも増えていく予定とのことですので、いろいろなパンを住民の皆様にお届け出来るようになればいいなと思っています。ほかのマンションへも波及していったらうれしいです」(倉本さん)

マンションの駐車場にオープンした「夜のパン屋さん」が与えてくれたささやかな幸せ。管理会社や管理組合が工夫することで、居住者だけでなく近隣住民の暮らしも豊かになりました。街のパン屋さんから「夜のパン屋さん」に、そして、買う人へ。パンを通じて、お腹とこころを満たす取り組みが続いています。

●取材協力
・夜のパン屋さん(Twitter)
・マンション・バリューアップ・アワード2021
・三井不動産レジデンシャルサービス株式会社

世界の名建築を訪ねて。ウーブン・シティなど手掛けるビヤルケ・インゲルス設計の集合住宅「ザ・スマイル」/NY

世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載1回目は、アメリカ・ニューヨークにある複合開発ビル「The Smile(ザ・スマイル)」(設計:ビヤルケ・インゲルス(BIG))を紹介する。

火星移住計画、トヨタ「ウーブン・シティ」も手掛ける世界的建築家の作品

今日ニューヨークで話題の建築家ビヤルケ・インゲルスは、デンマークのコペンハーゲン出身の建築家で、まだ48歳という世界の建築界では圧倒的に若さを誇る建築家である。いわゆるアトリエ派といわれる建築家集団(個人名を会社名として使用し設計活動をしている会社)では、おそらく世界有数の規模を有する建築デザイン・アトリエだ。その作品は世界中に展開され、さらに「火星移住計画」なども発表している。     

彼の事務所は「BIG」、すなわちBjarke Ingels Group(ビヤルケ・インゲルス・グループ)と呼ばれ、生み出す建築作品は、そのデザインの形態的ダイナミズム、アイディアの先進性、イノベイティブな機能性など、圧巻の魅力を兼ね備えている。それゆえトヨタが富士山麓に計画しているスマート・シティである「ウーブン・シティ」の都市デザインも任されているのだ。

イースト・ハーレムに打ち込まれた建築的スパーク

ニューヨークのハーレムといえば、多くの人はマンハッタンの北側方向にある治安が悪い場所というイメージをもっていると思う。あながち間違いではないが、近年では治安は以前より良くなっているようだ。裏通りなどはやめて、表通りを歩いていれば安全ということである。

ハーレムの存在はニューヨークの都市的多様性を示す好例であろう。縦長のマンハッタンにはロウアー・マンハッタンからアップタウンに向けて北上して行くと、先述のアーバン・ダイバーシティを種々体験することができる。そしてセントラル・パークを越えると、ハドソン川沿いにあるハーレムに行き着く。

さてビヤルケ・インゲルスがデザインした「ザ・スマイル」は、ハーレム125ストリートとハーレム126ストリートというふたつの通りをつなぐという大きな建物である。1階に看護学校を擁し、上部に集合住宅があり、両ストリートをつなぐ複合開発ビルだ。延床面積26,000平米の建物は、集合住宅の3分の1は手ごろな値段のアパートメントで、この界隈における集合住宅の多様性の一翼を担っている。

T字形をした建物プランにより、ユニット・サイズやレイアウトにバラエティがある一方、近隣ビル群との連繋も強化したデザインとなっている。この南側キャンティレバー部分は、125ストリートに面した既存の商業ビルの上部に浮遊するように見え、発展するアップタウンにおけるダイナミックな起爆剤となっている。

建物における最大の特徴となっている126ストリート側ファサードは、壁面が上部にいくに従って緩やかに湾曲を増していくという、従来の直線的なストリート・ラインに対し、ソフトでエレガントな形態となっている。このデザインは建物のマッス(躯体)を市のゾーニング規制に対応させているし、さらに集合住宅が多いこのストリート界隈に、より多くの直射光を導入するという、巧みな配慮が生きていて素晴らしい。

上部にいくに従って緩やかに湾曲を増していく壁面ファサード。チェッカーボードのパネルの合間は居室の窓にあたり、床から天井までの景色が楽しめる

上部にいくに従って緩やかに湾曲を増していく壁面ファサード。チェッカーボードのパネルの合間は居室の窓にあたり、床から天井までの景色が楽しめる

ニューヨークとはいえ、この辺はにぎわうフィフス・アベニューなどとは違って超高層ビルがないので通りがそんなに暗くはない。だがそれでもニューヨーカーは都心の超高層ビル群の間を巡るストリートの暗さを、日ごろ体験しているので、その気持ちが強いのだと思う。インゲルスもそうした気持ちから、ここハーレムでファサード・デザインに粋を凝らして、街路により多くの自然光を導入しようと考えたのだろうと思う。

建物名の「ザ・スマイル」については、彼の真意は分からないが、曲面壁のファサードは建物がスマイルして(笑って)いると考えたのかもしれない。そのファサード全体に使用された連続するチェッカーボードのパネル・システムは、個々の住宅ユニットに床から天井までフルハイトの開口部を可能にした。そのためテナントは同市のオープンでワイドな景色をエンジョイすることができる。さらにセントラル・パーク方向へのイースト・ハーレムや、北方向のハーレム川やブロンクスの眺望が可能になっている。

のんびりとしたルーフデッキからのワイドな眺望は圧巻

エントランスはタイル張りで、近隣の壁画アートからインスピレーションを得た強烈なカラー・コンクリートのデザイン。界隈のビル群に対しユニークでウェルカムな態度をアピールしている。内部のアメニティとしては、フィットネス・センターをはじめ、メディア・ルーム、リラクゼーション・スパ、ソーシャル・ラウンジ、さらにスカイライトで明るい3層吹き抜けのギャラリーを見晴らすワーク・スペースがある。

さらに外部のルーフトップ・アメニティとして、ワールプール・スパ、水泳プール、その他のソーシャルな活動や集会用に種々のタイプのスペースを提供するルーフデッキがある。建物の外装は黒色のメタル・パネルに対し、インテリアの居住スペースはニュートラルかつミニマルな空間となっている。インテリア全般において、空間は木材、コンクリート打放し、スティール・トラスといった建築素材で構成。それに対し、パブリックなアメニティ・スペースではより多くのファサードのメタル・パネルやカラー・タイルを組み合わせている。

のどかなルーフデッキから遠望するマンハッタン中心部の超高層ビル群が素晴らしい!

のどかなルーフデッキから遠望するマンハッタン中心部の超高層ビル群が素晴らしい!

ユニークな形態で界隈を明るくする「ザ・スマイル」は、前世紀のセットバック規制をクリアしている。良き隣人として、建物は既存の界隈の仲間となり、コミュニティのエネルギーを吸収し、イースト・ハーレムのコミュニティに新たなスパーク(火花)を点火したようだ。

●The Smile (New York, USA)
ザ・スマイル(アメリカ、ニューヨーク)

猫好きさん夢のシェアハウス! 獣医師が運営、定期健診つきで愛猫の健康を守る 「KOTERA」東京都大田区

猫が好き、猫に囲まれて暮らしたい! できれば猫好きの同志も近くに住んでいたら、毎日楽しそう……。そんな暮らしを実現できるのがペット飼育可のシェアハウスです。

ペット飼育可というと、犬のみ、猫のみ、または犬猫OKなどバリエーションはさまざまですが、東京都大田区にあるシェアハウス「KOTERA」の特徴は、オーナーが猫専門の獣医師であること。猫と気持ち良く暮らすための工夫やシェアハウスの運営体制について、オーナーと入居者に聞きました。

「全ての猫に医療の機会を」 知見を活かしたシェアハウス開設(画像提供/猫の診療室モモ)

(画像提供/猫の診療室モモ)

「KOTERA」のオーナーは、猫専門動物病院「猫の診療室モモ」の院長を務める谷口史奈さん。幼いころから猫と過ごし「将来は猫に関する仕事に就きたい」と考えていた谷口さんは、その思いを叶えて獣医師になり、2016年に同院を開業。診察や治療だけでなく、保護猫支援にも積極的に取り組んでいます。

「全ての猫が等しく医療を受けられる機会をつくりたい」と話す谷口さん。実践の場の一つとなっているのが、自身が運営する猫飼育可・女性専用のシェアハウス「KOTERA」です。

入居条件は「猫を飼っている人」もしくは「猫と暮らしてみたい人」一戸建ての2階部分が「KOTERA」(画像提供/KOTERA)

一戸建ての2階部分が「KOTERA」(画像提供/KOTERA)

東急池上線・旗の台駅から徒歩圏内、閑静な住宅街にあるシェアハウス「KOTERA」。現在は、2人と4匹の猫たちが暮らしています。

入居の条件は、「猫を飼っている人」だけでなく「猫と暮らしてみたい人」。猫を飼いたいけれど自分一人で受け入れる余裕や準備がまだできていない人や、猫との暮らしを経験してみたい人が、ほかの入居者の飼い猫との触れ合いを通じて猫に慣れ、学ぶことができます。

約40坪の3LDKで、リビング・ダイニング、キッチンのほか、バスルームや洗面所、トイレといった水回りは共用。玄関前にはウッドデッキも(画像提供/KOTERA)

約40坪の3LDKで、リビング・ダイニング、キッチンのほか、バスルームや洗面所、トイレといった水回りは共用。玄関前にはウッドデッキも(画像提供/KOTERA)

家賃は8万円で、光熱費・水道代、インターネット使用料、共用部の消耗品代、家財保険を含めた共益費が1万6千円。猫の飼育は1人3匹までで、2匹目からは月5千円の追加費用がかかります。

動き回って、外を眺めて 猫の本能を満たす環境づくり共用部であるリビングは掃除がしやすく猫が動き回れるよう、家具は多く置かない(画像提供/KOTERA)

共用部であるリビングは掃除がしやすく猫が動き回れるよう、家具は多く置かない(画像提供/KOTERA)

室内に入ってまず印象的だったのが、リビングの高い天井に渡る2本の梁。入居者の飼い猫たちがキャットウォークとして使っています。キャットタワーやカーテンレールから梁へと移動することができ、日々の運動不足を防ぎます。

人の手が届かない高い位置から、人間の様子を見ている猫たち(画像提供/KOTERA)

人の手が届かない高い位置から、人間の様子を見ている猫たち(画像提供/KOTERA)

飼い主の居室に戻ってほしいのに梁から全然降りてくれなくて困る……なんてこともあるほど、猫たちのお気に入りスポットとなっているそう。こうした縦方向に移動できる環境を飼い猫に提供できるのも、マンションの個室ではない、一戸建てタイプのシェアハウスの広い空間ならでは。

室内飼いの猫にとっては、外の景色を眺めて刺激を受けることも大切です。ウッドデッキ側の大きな窓からはもちろん、猫たちは幅のある窓枠に乗ってそこからも風景を眺めています。

窓辺の猫(画像提供/KOTERA)

窓辺の猫(画像提供/KOTERA)

「猫の本能は見張りと狩り。室内飼いの安全な状態でありつつ、本能が満たされる環境にできると猫の健康のためにいいですね。

とはいえ、『適切な運動量は一日●分』、など一概に言うことは難しいもの。猫にもそれぞれ個性があるので、飼い主が考える『正しい生活』を一方的に強いるのはおかしいですよね。飼い猫の性格を理解したうえで健康を維持できる環境を整える、という考え方が自然ではないでしょうか」(谷口さん)

定期的な健康チェックや往診 もしもの時にも対応

「ペット可のシェアハウスを始めるにあたって、なにか特徴がないと入居には至らないだろうし、猫の健康に関するサービスは特に充実させることにしました」と谷口さん。「KOTERA」で暮らす猫と飼い主のために、いくつかのサービスを用意しています。

・年1回の健康診断、月1回の健康チェック・爪切り・ノミ予防(無料)
・入居猫への往診(往診無料、別途治療費)
・慢性腎臓病などの慢性疾患をもつ猫に必要な薬や処方食を優遇
・最新フードやサプリメントの情報共有

(画像提供/KOTERA)

(画像提供/KOTERA)

月に1回、谷口さんが来訪して健康チェックや爪切り、ノミ予防を行います。爪切りが苦手な飼い主や猫は多いと思いますが、その点、定期的にプロに切ってもらえるのは安心です。

往診が無料というのも、移動や病院がストレスになってしまう猫にとってはありがたいですね。多忙で通院が難しい飼い主も時間をつくりやすくなるため、健康チェックは好評だそう。

また、腎臓病は高齢の猫の発症率が高いため、薬や処方食が今すぐ必要ではない飼い猫にとっても、いざというときの支えになればと考えているそう。何よりも、専門医にすぐ相談できる環境があるということが心強いと感じました。

絶妙な距離感で一つ屋根の下に住む

シェアハウスにつきものなのが、ほかの入居者との相性問題。「KOTERA」の場合は猫同士の相性にも気をつけなくてはいけません。円満な猫関係のために、どのような対策を取っているのでしょうか。

「入居前のヒアリングで猫の性格などを聞き、先住猫とやっていけそうかをある程度判断します。入居後は個室に置いた3段ケージの中で過ごしてもらい、慣れてきたら少しずつ行動範囲を広めて先住猫と対面します。このあたりは普通の多頭飼いとあまり変わらないかなと」(谷口さん)

3段ケージ(右)、個室、共用部と少しずつ環境に慣らしていく(画像提供/KOTERA)

3段ケージ(右)、個室、共用部と少しずつ環境に慣らしていく(画像提供/KOTERA)

猫同士が十分な距離を取れる環境のため、相性の合わない猫たちがずっと一緒にいてストレスがかかることはないそう。仲が悪くも良くもないという、猫らしい絶妙な距離感でそれぞれマイペースに過ごしています。

入居者の居室でリラックスする猫(画像提供/KOTERA)

入居者の居室でリラックスする猫(画像提供/KOTERA)

また、安全のために「KOTERA」では飼い主の不在中は飼い猫を個室にとどめておくというルールを設定。飼い主が出入りする際の玄関ドアからの脱走や、キッチンなど危ない場所への立ち入りを防ぎます。

キャットウォークにもなるウォールシェルフなど、入居者の個室にも猫が動き回れる工夫が(画像提供/KOTERA)

キャットウォークにもなるウォールシェルフなど、入居者の個室にも猫が動き回れる工夫が(画像提供/KOTERA)

エサやトイレは、入居者それぞれの個室に設置。ほかの猫にエサを食べられたりトイレを使われたりというトラブルを避け、臭い対策にもなります。

家賃が猫のためになる 保護猫支援の取り組み保護猫団体「CAT’S INN TOKYO」の活動の様子。同団体の代表と谷口さんは知り合いで、猫に関するさまざまな活動を一緒に行ってきた(画像提供/CAT’S INN TOKYO)

保護猫団体「CAT’S INN TOKYO」の活動の様子。同団体の代表と谷口さんは知り合いで、猫に関するさまざまな活動を一緒に行ってきた(画像提供/CAT’S INN TOKYO)

「KOTERA」では、保護猫支援にも取り組もうとしています。板橋区で里親募集型保護猫カフェの運営や猫の飼育講座を行う団体「CAT’S INN TOKYO」と提携し、保護猫を一定期間預かってお世話をする「預かりボランティア」をシェアハウスで実施予定。エサ代など費用の一部は、シェアハウス入居者の家賃からまかなわれます。

保護猫を迎えたいと思っていても、一人暮らしだと譲渡が難しいケースもあります。「KOTERA」では入居者が保護猫を飼う際、迎え入れる猫の相談や飼育のアドバイスなど、「CAT’S INN TOKYO」と谷口さんがサポートするそうです。

「猫と暮らしたい人、猫と暮らす適性があるか分からない人に、保護猫の迎え入れや預かりボランティアを通じて猫との生活の機会を提供できれば」(谷口さん)

「うちの子こんなに動けたんだ」 実際に入居してみて

「KOTERA」での生活や猫たちの様子について、入居者の方にもお話を伺いました。

入居定員は3名で、それぞれ鍵付きの個室(約5~6畳)を備える(画像提供/KOTERA)

入居定員は3名で、それぞれ鍵付きの個室(約5~6畳)を備える(画像提供/KOTERA)

入居者・ハルカさん(仮名)の飼い猫は3匹。もともと自分で飼っていた猫たちに加え、実家の猫も引き取ることになったタイミングで引越してきました。

「複数匹を飼える賃貸物件はなかなかないので、ありがたかったです。物件自体が広くて猫たちの住み心地がいいのはもちろん、私自身は備え付けのダブルベッドが快適で気に入っています(笑)」(ハルカさん)

ハルカさんの飼い猫、ちろちゃん(左)とチーズちゃん。ダブルベッドですやすやと眠る(画像提供/KOTERA)

ハルカさんの飼い猫、ちろちゃん(左)とチーズちゃん。ダブルベッドですやすやと眠る(画像提供/KOTERA)

もう一人の入居者・ナツコさん(仮名)の飼い猫は、KOTERAに住む猫たちの中で唯一のオスでいちばん年下の新入り。ほかの猫と暮らした経験もありませんでしたが、たまに先輩猫に追いかけ回されたりしつつも、おっとりとマイペースに過ごしているそうです。

ナツコさんの飼い猫・とのくん 窓辺でまったり(画像提供/KOTERA)

ナツコさんの飼い猫・とのくん 窓辺でまったり(画像提供/KOTERA)

「とのは運動があまり得意じゃないと思っていたんです。でもここに引越してから活発に動き回っていて、うちの子こんなに動けたんだ、と驚きましたね。広い環境だからこそ知れた、新たな一面です」(ナツコさん)

入居者はお互いの猫を可愛がるのはもちろん、それぞれの猫の面倒を見ることもあります。朝急いで外出しないといけない時は、お互いの同意のもと、まだ家にいる相手に自分の飼い猫を自分の居室に入れるのを頼んだりするそうです。

膝に乗るのが大好きなちろちゃんは、よくナツコさんの膝の上でくつろいでいる(画像提供/KOTERA)

膝に乗るのが大好きなちろちゃんは、よくナツコさんの膝の上でくつろいでいる(画像提供/KOTERA)

日中は2人とも外出して働いていますが、リビングで会うと必ず雑談したり、ときにはハルカさんがナツコさんにおすすめして2人ともハマったというアイドルの動画を一緒に観たり、入居者同士もゆるやかな関係を築いているそうです。

シェアハウスでの猫との生活は、1人では実現できないような居住空間やサービスを愛猫に与えられること、価値観の似ている入居者同士が気兼ねない距離感で暮らせることが魅力ではないでしょうか。何よりも、「人の飼い猫も思う存分可愛がれる」というのが、猫好きにとっては心惹かれるポイントかもしれません。

●取材協力
・KOTERA
・猫の診療室モモ 院長 谷口史奈さん

台湾女子の一人暮らしin西荻窪。インテリアやライフスタイルにも個性あり!

エッセイスト柳沢小実が、気になる人のお部屋と暮らしをのぞきにいくシリーズ。第2回目は、台湾・高雄出身で東京在住の郭晴芳(ハル)さんのご自宅へお邪魔しました。

ハルさんは台湾の大学を卒業した後、約15年前に日本の大学院に留学してそのまま就職。現在は、カルチャー系ウェブメディアを運営する会社でプロデューサーをしています。コロナ禍前は日本国内や台湾中を飛び回る日々を送っていました。この数年でどのような変化があったのでしょうか。

Instagramで知り合ってはや数年。最もアクティブな友人

母国語である中国語に加えて日本語も堪能なハルさんは、アジアのクリエイティブシティガイドのディレクターをはじめ、コンテンツ制作やイベントの企画、プロモーション全般も担う、“ひとり広告代理店”のような人。

会社経由のみならず個人でも仕事を受けていて、2021年に高円寺の銭湯「小杉湯」で行われた台北の温泉博物館「北投温泉博物館」のプロモーションイベント、「歡迎光臨 小杉湯的台湾北投」も話題になりました。このイベントでは、台湾のアイテムが購入できるマーケットやトークイベント、ライブ、台湾映画の上映などが行われて大好評。こんこんと湧き出る好奇心と柔軟な発想力、センスの良さで、ますます仕事の幅を広げています。
私とハルさんの出会いは、6年以上前にInstagram経由で私が声をかけたこと。そこから仲良くなり、日本や台湾で頻繁に会うようになりました。もしかすると、家にこもりがちな私といちばん遊んでくれている人かも。遊ぶとはいっても、たいてい散歩して古道具屋や喫茶店に一緒に入るくらいで、あとはイベントに行ったり、ごはんを食べたり。そしてたまに、お互いの家でご飯や梅酒をつくったりしています。

台湾に住むハルさんの友人が二人宛の荷物を私のところに一緒に送ってくれたので、取材で会うついでにハルさん宅にお届け(写真撮影/相馬ミナ)

台湾に住むハルさんの友人が二人宛の荷物を私のところに一緒に送ってくれたので、取材で会うついでにハルさん宅にお届け(写真撮影/相馬ミナ)

形にとらわれない身軽な暮らしぶりは学ぶところが多く、いつか彼女の暮らしや考え方を紹介したいとずっと思っていました。

西荻窪の、繁華街と住宅地の間にある古いマンションに住む

ハルさんの自宅は、西荻窪駅(東京都杉並区)からほど近いところにある築50年ほどのマンション。商店街と住宅地の境目に立つ、愛らしい建物です。部屋の間取りは1Kで、広さはゆったりとした一人暮らしサイズの約39平米。もともとは3部屋が縦に連なるつくりでしたが、リフォームによって2部屋に変えられていて、DKと寝室+リビングとしてゆるやかにゾーン分けできる、住みやすそうな、いい間取りです。

縦に連なる二部屋は、もともとはめてあった間のドアを外して広々と(写真撮影/相馬ミナ)

縦に連なる二部屋は、もともとはめてあった間のドアを外して広々と(写真撮影/相馬ミナ)

ベッドははじめ窓辺に置いていたけれど、朝明るすぎたためにソファと置き替え(写真撮影/相馬ミナ)

ベッドははじめ窓辺に置いていたけれど、朝明るすぎたためにソファと置き替え(写真撮影/相馬ミナ)

ここは日本に来てから5軒目の部屋。最初は日本語学校の寮、その後は荻窪、阿佐ヶ谷、西荻窪、そしてまた今回の西荻窪。ずっと中央線沿線に住んでいます。

「古いものや、古いマンションが好き。新しい物件は間取りが似たり寄ったりだけど、この部屋は間取りがオープンで、フレキシブルに使えるのがいい。それが古い物件が好きな理由です。当初は角部屋を探していましたが、そうでなくても二面に窓があって明るいです。
押し入れはクローゼットにリフォームされていて使いやすいですし、キッチンとトイレのタイルや壁の色も、入居時に自分で好きなものを選ぶことができました。

駅から近いと周辺がにぎやかだけど、ここは商店街の端の住宅地に入るところだから静か。窓を開けても外から見えないので、ベランダを縁側のように使っています」

築年数が経っている物件は、建物はレトロで愛らしい一方で、室内は水まわりを中心にこざっぱりとリフォームされていることも。管理状態が良い物件を選べば、同じ予算で築浅物件より駅近や広い部屋に住めたりするケースもあり、メリットも大いにあります。

カメラマンの友人とDIYでつくったキッチンカウンター(写真撮影/相馬ミナ)

カメラマンの友人とDIYでつくったキッチンカウンター(写真撮影/相馬ミナ)

岡山出身の陶芸家・加藤直樹さんの急須(写真撮影/相馬ミナ)

岡山出身の陶芸家・加藤直樹さんの急須(写真撮影/相馬ミナ)

好きで選んだものを使うのが、とびきり嬉しい(写真撮影/相馬ミナ)

好きで選んだものを使うのが、とびきり嬉しい(写真撮影/相馬ミナ)

ハルさんは、コロナ禍のかなり早い時期に完全テレワークになりました。本社オフィスも早々になくなったため、全く出社せず自宅で働く形態に。生活環境の向上のために、広い部屋に引越したり、東京を離れた同僚もいて、自身も同じ西荻窪内で引越しをしました。

新しい部屋を一からつくるのはやはり心躍るもので、友人に手伝ってもらってキッチンのカウンターを製作したり、古い家具を探してインテリアの配置を考えたり、これまでは苦手でほとんどしていなかった料理に挑戦したり(台湾では外食文化が発達していて、特に都市部に暮らす若い世代は自宅で料理をつくる習慣がほとんどないのです)。ずっと外での楽しみがあったのが180度転換して、家で過ごすことが楽しく思えてきたそうです。

家にいるときはソファで仕事をしたりすることも。お気に入りの場所(写真撮影/相馬ミナ)

家にいるときはソファで仕事をしたりすることも。お気に入りの場所(写真撮影/相馬ミナ)

外食メインだったのが、毎日一食は自炊するように

ハルさんの本棚は、同年代のカルチャー好きな日本人とほぼ一緒。また、作家ものの雑貨やうつわ、洋服などが好きで、インテリアにエスニックなテイストを取り入れるのも上手。〇〇系とくくれないところに、個性が出ています。

「考えずに置いているだけ」が、いい塩梅に(写真撮影/相馬ミナ)

「考えずに置いているだけ」が、いい塩梅に(写真撮影/相馬ミナ)

絵本作家の友人渡邊知樹さんの絵が描かれた紙袋などが無造作に掛けられている(写真撮影/相馬ミナ)

絵本作家の友人渡邊知樹さんの絵が描かれた紙袋などが無造作に掛けられている(写真撮影/相馬ミナ)

「ものを直感で選ぶから、どんどん増えています。買うときに、家に合うかは考えない。無機質な質感のものが苦手で、基本的に古いものが好き。クリエーターの友達の作品や、海外のものに惹かれます」

ハルさんのものの選び方は、ミニマリスト寄りで引き算系、使い道や収納まであらかじめ熟考しないと手に取れない私にとっては、ただただ羨ましい。頭で考えすぎずに、偶然性を楽しんでいてとても素敵です。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

そんなハルさん、コロナ前は台湾の同年代の友人たちと同様に、家で料理をほとんどしていませんでした。それが、コロナ禍で数年間台湾に帰れなくなったために、恋しい台湾料理を自分でつくるようになり、おうち時間も楽しむ人に大変身。好きなうつわを使いたくて、毎日昼か夜のどちらかは家でつくって食べる生活になったそうです。台湾の屋台料理の鹽酥鶏(鶏のから揚げと素揚げした野菜にスパイスをかけた料理)をつくってもてなしてくれたこともありました。

「二食も外食するとお金がかかるので、一食は自炊してもう一食は外というサイクルになりました。夜は家で食べることが多くなったかな。放っておいても料理がつくれる台湾の電気調理器、“電鍋”を買おうかと思っています」

ほとんど出しっぱなし、そこがいい(写真撮影/相馬ミナ)

ほとんど出しっぱなし、そこがいい(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

入居時に選んだスモーキーなブルーのタイルが効いている(写真撮影/相馬ミナ)

入居時に選んだスモーキーなブルーのタイルが効いている(写真撮影/相馬ミナ)

とにかく西荻窪の街が好き。お店を家のように使っています

「引越してから自宅に置くワークデスクを探していた時に、家の目の前のカフェで仕事ができると知りました。お茶代だけでコワーキングスペースを利用できて、オンライン用の打ち合わせ空間も用意されているので、今は週3日くらいそこで仕事をしています。
リモート生活になってから、これまで以上にオンとオフの切り替えをしなくなりました。仕事と仕事の合間に好きなことをしていて、もちろんその逆もあります。西荻窪はお店が多いから、お昼時になったら外に出て、お店でごはんを食べてそのまま外で仕事をしたり、おにぎりを買ってきたり。フレキシブルに暮らせる街です」

台湾のデザート“愛玉子(オーギョーチ)”をその場でつくってふるまってくださいました(写真撮影/相馬ミナ)

台湾のデザート“愛玉子(オーギョーチ)”をその場でつくってふるまってくださいました(写真撮影/相馬ミナ)

種子を水の中で揉むとゼリー状に。甘酸っぱいシロップをかけていただきます(写真撮影/相馬ミナ)

種子を水の中で揉むとゼリー状に。甘酸っぱいシロップをかけていただきます(写真撮影/相馬ミナ)

西荻窪は、喫茶店や小さな飲食店がひしめく街。自然と繰り返し通う店ができて、お店の人とのコミュニケーションも楽しい。人のあたたかみと優しさを感じます。

台湾の人は、職場の近くや都会に住むことを好み、外に開いているイメージです。喫茶店で息抜きしたり、近くの店をオフィスのように利用したり、内と外の使い分けがとても上手。家の延長に街があって、街の中に家がある。だから、住宅地にばかり住んできて、内と外を明確に線引きして考えがちな私にとって、彼女の視点はとても新鮮でした。

●西荻窪のお気に入りのお店
・オーケストラ(カレー)
・どんぐり舎(喫茶)
・FALL(雑貨) 毎週展示が変わります

一人掛けのソファが特等席(写真撮影/相馬ミナ)

一人掛けのソファが特等席(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

ハルさんはコロナ禍を経て、住まいの基準や条件が大きく変わったといいます。出勤がなくなったこともあり、利便性以上に広さや環境を重視するように。家賃も高いので、将来的には都心から1~1.5時間くらいのエリアで二拠点生活をすることも考えているそうです。

私のまわりでも、都市部から離れる人や二拠点生活をする人が年々増えています。暮らしや働き方、住まいに対する価値観の変化は、この先新しいかたちになることはあれ、元には戻らないのではないでしょうか。私自身は持ち家なので簡単に居住地を変えることはできませんが、それでも暮らし方をアップデートし続けたいという気持ちは持ち続けていて。まずは、ハルさんのように直感を大切にして、心の声に素直になってみます。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

●取材協力
ハルさん
Instagram @patsykuo
『日青糸且HARU GUMI』@haru__gumi

賃貸の中に店や路地のユニーク長屋! 中国福建省伝統の”朱紫坊”インスパイア系 「ドラゴンコートビレッジ」愛知県岡崎市

愛知県岡崎市にあるスタイリッシュな「Dragon Court Village(ドラゴンコートビレッジ)」は、竜美丘コートビレジという賃貸住宅です。2014年の開業以来、居住者に、敷地の一部を地域の人とのつながりの場に開放したり、小商いしたりできる環境を提供してきました。これらの賃貸住宅における店舗兼住宅化は、コロナ禍で人とのつながりが見直されて以降、特に注目されていますが、当時はまだ珍しいものでした。最先端の住まいの先駆けともいえるこの物件は、住む人の暮らしにどのような影響を与えているのでしょうか。設計者で、一級建築士事務所 Eurekaを共同主宰する稲垣淳哉さんに取材しました。

居住者は「自宅でお店を開く」夢がかない、カフェやネイルサロンに地域の人が訪れる軒下や中庭でかつて月1回のペースで催されていたマルシェ「スミビラキ」は、たくさんの人でにぎわっていた(画像提供/Eureka)

軒下や中庭でかつて月1回のペースで催されていたマルシェ「スミビラキ」は、たくさんの人でにぎわっていた(画像提供/Eureka)

小商いという生活形態が話題になったのは2012年ごろ。コロナ禍では、テレワークや副業を始めたいという人が増えました。店舗付き住宅や自宅に店舗機能をもたせた物件が人気を集め、『小商い建築』『商い暮らし』という言葉が注目されています。2010年ごろから設計が始まった「Dragon Court Village」は、小商いできる賃貸集合住宅の先駆けといえるものでした。

「30年ほど前まで、職住近接は身近にありました。例えば、駄菓子屋さんの奥が畳敷きになっていて家族が住んでいたり、八百屋さんの2階部分を賃貸アパートにしていたり。かつての日本では珍しくなかったんですね。設計の早い段階から、一般的な2階建てのアパートと差別化を図るため、アネックス(離れ)、軒下、中庭などを取り入れた集合住宅を構想していました」(稲垣さん)

通路に面して、さまざまなタイプのアネックスがあり、小商いができる(画像提供/Eureka)

通路に面して、さまざまなタイプのアネックスがあり、小商いができる(画像提供/Eureka)

「住みながら商う」暮らしが、新しい生き方につながる

「Dragon Court Village」は、特徴的な外壁をもつ「箱」型の住戸で構成されており、スタイリッシュな印象を与えます。シンプルなデザインですが、路地や中庭で住戸とアネックスをつないだ複雑な構成の建物です。

縦格子や板張り、モルタルを組み合わせた外壁が印象的な外観(画像提供/Eureka)

縦格子や板張り、モルタルを組み合わせた外壁が印象的な外観(画像提供/Eureka)

長手断面図。住戸やアネックスは、「箱」の集合体で、随所に軒下空間を取り入れている(画像提供/Eureka)

長手断面図。住戸やアネックスは、「箱」の集合体で、随所に軒下空間を取り入れている(画像提供/Eureka)

敷地の配置図(向かって上が北、右が東)。駐車スペースは、東にある道路(グレー)側ではなく、敷地境界線に沿って縦列に配置。車路兼通路(茶色)で敷地内を回遊できる(画像提供/Eureka)

敷地の配置図(向かって上が北、右が東)。駐車スペースは、東にある道路(グレー)側ではなく、敷地境界線に沿って縦列に配置。車路兼通路(茶色)で敷地内を回遊できる(画像提供/Eureka)

住宅街に佇む「Dragon Court Village」(画像提供/Eureka)

住宅街に佇む「Dragon Court Village」(画像提供/Eureka)

敷地の境界線に沿ってアパートを囲むように駐車スペースが設けられ車路兼通路で、敷地内を歩いて回遊できます。住戸と住戸の間は、路地や中庭になっています。車路兼通路に面した住居の軒下とアネックス(離れ)が、小商いのために活用できるスペース。9戸ある住居の広さは、40平米から60平米位の差があり、シングルからファミリーが選択して住めるつくりです。希望する居住者は、デザインの異なる5つのアネックスから選んで借り増しができます。

向かって右側が居住者の駐車スペースで、軒下が小商いできるスペース。中央のグレーの砂利敷きの車路兼通路には、イベント時キッチンカーが出店したこともある(画像提供/Eureka)

向かって右側が居住者の駐車スペースで、軒下が小商いできるスペース。中央のグレーの砂利敷きの車路兼通路には、イベント時キッチンカーが出店したこともある(画像提供/Eureka)

「賃貸収入を得るだけなら、高容積で建てれば効率的です。しかし、何十年と住みつないでもらうためには、ほかの賃貸集合住宅にはない魅力が必要です。職住近接といっても、ただ単に昔の住まいに戻ろうというのではありません。私が子ども時代には、自宅のリビングで塾などを開いている例もありましたが、現代にはそぐわないでしょう。住戸から独立し、開放的なアネックス(離れ)が、新しい暮らしの提案になると考えたのです」(稲垣さん)

アネックス(離れ)では、八百屋さんや花屋さん、カフェなどが開業し、月に1度開催されていたマルシェは、地域の人でにぎわいを見せていました。現在、主催していた居住者が転居したためマルシェは中止されていますが、ネイルサロンや英会話教室、エステルーム、オフィスの打ち合わせスペースとして使われています。

左側のモルタル部分がアネックスで、デザイン事務所の打合せスペースとして使われている(画像提供/Eureka)

左側のモルタル部分がアネックスで、デザイン事務所の打ち合わせスペースとして使われている(画像提供/Eureka)

設計の基になったのは中国福建省の伝統的住居

「Dragon Court Village」は、一般的な2階建てアパートにある共用の廊下や階段などがなく、通路や路地から直接住戸へ出入りできる長屋住宅です。江戸の庶民のイメージがある長屋ですが、意外にも稲垣さんが参考にしたのは、中国の伝統住宅地でした。「Dragon Court Village」を設計していたころ、稲垣さんは、一級建築士事務所Eurekaの活動をしながら、大学の研究員として、東・東南アジアの集落や都市空間の調査に携わっていました。

視察時に撮影した朱紫坊の様子。日本の坪庭より広い中庭がある(画像提供/Eureka)

視察時に撮影した朱紫坊の様子。日本の坪庭より広い中庭がある(画像提供/Eureka)

「2011年の東日本大震災を境に、住宅のサステナビリティ(持続可能性)やレジリエンス(回復力※)が、重要なテーマになっていました。日本では、近代化に伴い、住宅の個々に完結したプロダクト(製品)としての性能が重視されました。その結果、コミュニティを育む力が弱まり、子どもの教育、高齢者の介護など皆で助け合っていた場もなくしてしまったのです。研究は、昔の暮らしにノスタルジックに憧れるのではなく、近代化で失われてしまった叡智、例えば、自然と融合したような暮らしがもつ災害に対する備えなどを学ぼうとするものでした」(稲垣さん)

※レジリエンス:「弾力」「回復力」「強靭」という意味。ここでは、ハード(フィジカル)な住宅のレジリエンスだけでなく、自然環境(ランドスケープ)や地域・近隣コミュニティを含んだ「地域防災力」を備える住宅のレジリエンスを指している。

稲垣さんが、特に感銘を受けたのは、中国福建省福洲市内にある朱紫坊という都市部の伝統的住居でした。道路の一辺に敷地が接しており、建物が奥に延びていく京都の町家のようなつくりで、中庭を備えていました。

「朱紫坊の中庭は、ひとりだけのものではなく、みんなが使える空間で、イベントを催したり、ゲストを招いたりする社交の場として機能していました。外部や自然環境につながっている中庭には、風が流れて、おおらかな暮らしぶりがうかがえました。建物が出来上がったときが快適性のピークではなく、ある場所をシェアして皆でより快適な場所につくり上げていくスタイルは、大きな学びとなりました」(稲垣さん)

車路兼通路から見る中庭と路地(画像提供/Eureka)

車路兼通路から見る中庭と路地(画像提供/Eureka)

賃貸集合住宅に設けた中庭や路地という「余白」。居住者で耕しつくり上げる空間に

研究で得た成果を日本での集合住宅設計に応用したいと考えた稲垣さん。「Dragon Court Village」では、建物と建物の間に中庭や路地を設け、軒下空間で緩やかに住戸をつないでいます。中国の伝統的住居のようなシェアスペースを賃貸集合住宅の中にもたせ、豊かなコミュニティを生み出せるように設計しました。

路地の風景。路地に面したデッキやテラスで家族や友人と食事を楽しむ居住者も(画像提供/Eureka)

路地の風景。路地に面したデッキやテラスで家族や友人と食事を楽しむ居住者も(画像提供/Eureka)

難しかったのは、風をデザインすること。風のシミュレーションをして、季節ごとの風の流れを検証するなど試行錯誤し、時には設計をやり直すことも。一見、アトランダムに見える住戸やアネックスの配置は、それらシミュレーション結果を反映した入念な設計で、風が通り抜ける心地よい軒下空間が生まれました。

シミュレーションで、夏場の風の流れを確認。南北に風が流れる設計に(画像提供/Eureka)

シミュレーションで、夏場の風の流れを確認。南北に風が流れる設計に(画像提供/Eureka)

住戸やアネックスは、路地や中庭につながっている(画像提供/Eureka)

住戸やアネックスは、路地や中庭につながっている(画像提供/Eureka)

「家族構成や社会情勢が変わったときに、余白があれば、使い方を工夫しながら、快適性を持続することができます。最初は与えられたものであっても、居住者が耕していき、自分たちでつくり上げた空間になればという思いです」(稲垣さん)

当初は、「アネックスなんて借りる人がいるのだろうか」とオーナーも心配したと言いますが、「Dragon Court Village」が認知されるにつれ、「やりたいことをかなえるならここに住みたい!」という人が集まるようになりました。コロナ禍では、「息が抜ける空間があり、テレワークも快適」「軒下で食事をするのが楽しみ」という声が寄せられているそうです。完成品に住むのではなく、住みながら暮らしをつくり上げていく。8年がたってもなお「Dragon Court Village」は、新しい人生が始まる場所であり続けています。

●取材協力
・一級建築士事務所 Eureka
・「Dragon Court Village」(竜美丘コートビレジ)

役目終えた造船の地・北加賀屋が「現代アートのまち」に。地元企業、手探りの10年 大阪市

「アートによるまちづくり」で大きな成果をあげている場所があります。それが大阪の北加賀屋(きたかがや)。かつては造船景気に沸いたウオーターフロントの街が、役目を終えて沈滞。この10年でアートという新たな航路へと舵を切り、再び浮上したのです。

アートで街全体を彩る大胆な構想を実践したのは、長く地元に根差してきた、「まちの大家さん」ともいえる不動産会社、千島土地株式会社。手探りでアートとまちづくりに向きあってきた10年を振り返っていただきました。

「造船所が去った街」から「アートの街」へと変身

「弊社は不動産会社で、過去にアートにたずさわった経験がなく、『アートでの街づくり』は手探りで進めてきました」

「千島土地株式会社」(以下、千島土地)地域創生・社会貢献事業部の宇野好美さん、福元貴美子さんは、口をそろえてそう語ります。

千島土地地域創生・社会貢献事業部の宇野好美さん、福元貴美子さんと(写真撮影/出合コウ介)

千島土地地域創生・社会貢献事業部の宇野好美さん、福元貴美子さんと(写真撮影/出合コウ介)

明治45年設立の千島土地は、大阪湾に近い木津川沿いの「北加賀屋」地区に約23万平米もの広大な経営地をいだく賃貸事業主。明治時代から昭和の高度成長期にかけて造船所や関連工場などに土地を賃貸し、日本の近代化を支えてきました。

しかし、1980年代に入って産業構造の変化に伴い造船所の転出が進み、北加賀屋は空き工場や空き家が増えていったのです。なかでもとりわけ大きな空き物件が、1988年に退出した「名村造船所大阪工場」の跡地でした。

かつて造船所でつくった船はここから旅立っていったが、船の大型化により浅瀬の木津川では船づくりが難しくなり、九州などに拠点が移っていったという(写真撮影/出合コウ介)

かつて造船所でつくった船はここから旅立っていったが、船の大型化により浅瀬の木津川では船づくりが難しくなり、九州などに拠点が移っていったという(写真撮影/出合コウ介)

宇野「不動産バブルの時代で、広大な土地が返還されるケースが稀だったこともあり、そのままの姿で返還を受けました。しばらくは個人様や企業が所有するボートなどを預かるドックとして機能していました。けれどもバブルが崩壊し、いよいよ使いみちがなくなってしまったんです」

名村造船所跡地(返還時の様子)(写真提供/千島土地株式会社)

名村造船所跡地(返還時の様子)(写真提供/千島土地株式会社)

そういった重工業の集積地である北加賀屋に「アート旋風」の第一陣が巻き起こったのが2004年。「造船所の跡地を表現の場として再活用しよう」という動きが芽吹き始めたのです。

福元「造船所の跡地をアートイベントにお貸ししたら、これがとても好評で。2005年には『クリエイティブセンター大阪(CCO)』として演劇や作品展などにお貸しするようになり、それに伴い弊社もアートに理解を示すようになっていったんです」

千島土地の代表取締役社長である芝川能一(しばかわ よしかず)さんは「アートには街を変える力がある」と確信。2009年に北加賀屋を創造的エリアへと変えていく「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」を打ち立てました。

さらに2012年に株式会社設立100周年を迎えるにあたり、記念事業の一環として「一般財団法人おおさか創造千島財団」を創設。これらをきっかけに、千島土地の本格的なアート事業がいよいよ幕を開けたのです。

(写真撮影/出合コウ介)

(写真撮影/出合コウ介)

Ben Eineによるウォールアート(写真提供/千島土地株式会社 Photo by keiichi yamamura)

Ben Eineによるウォールアート(写真提供/千島土地株式会社 Photo by keiichi yamamura)

宇野「北加賀屋は、なんばから地下鉄で5駅。大阪の繁華街からめちゃめちゃ離れているわけじゃないんです。けれども以前は、『北加賀屋? それどこ?』と場所を認識してもらえませんでした。『精神的距離がある街』なんて呼ばれて(苦笑)。けれどもアートでの街づくりを始めてから、『北加賀屋、カッコいいよね』というお声をいただくようになったんです」

アートによって街の印象を大きく変えたという北加賀屋。では、造船の街だった北加賀屋は、アートによってどのようにイメージチェンジしたのか、宇野さんと福元さんに実際に街をガイドしていただくとしましょう。

アーティストのために「改装自由」で部屋を貸し出した

千島土地が手がける北加賀屋の「アートで街づくり」には、さまざまな事例があります。まず紹介するのが、2020年から貸し出しが始まった通称「半田文化住宅」。

工房「atelier and, so(アトリエ アンド ソー)」が入居する半田文化住宅外装はタイル貼り。1階部分は好みにペイントしたり飾ったり、2階は元のまま、レトロな雰囲気が残る(写真撮影/出合コウ介)

工房「atelier and, so(アトリエ アンド ソー)」が入居する半田文化住宅外装はタイル貼り。1階部分は好みにペイントしたり飾ったり、2階は元のまま、レトロな雰囲気が残る(写真撮影/出合コウ介)

「文化住宅」とは、主に1950年代~1960年代に建てられた2階建て集合住宅を指す関西の言葉、関東では「モクチン」と呼ばれる場合もあります。一般的にいう「木造アパート」で、それまでの時代は共同だった玄関やトイレなどが各住戸に独立してついており、「文化的」な印象からそう呼ばれるようになりました。イメージは「2階建ての長屋」です。

千島土地はこの半田文化住宅をアーティストやクリエイター向けに、なんと! 「改装自由」「原状回復不要」といった格別な条件で賃貸しているのです。

もともとの借家人の苗字からその名で呼ばれる半田文化住宅は、Osaka Metro四つ橋線「北加賀屋」駅から徒歩わずか1分の好立地にあります。1階に2戸、2階に2戸の風呂なし物件。陶芸家や生き物の標本作家など全戸にアーティストが入居し、ものづくりに励んでいるのです。

とりわけ見違えるほどの改装を施したのが、2020年5月にここへやってきた工房「atelier and, so(アトリエ アンド ソー)」の大浦沙智子さん。大浦さんは「撮影用の背景ボード」をつくるデザインペインター。SNSやフリーマーケットアプリの「映え」には欠かせぬ、今の時代にぴったりな仕事です。

専門であるペイントや、DIYのスキルを活かして、見違えるようにおしゃれな空間になった工房「atelier and, so(アトリエ アンド ソー)」(写真撮影/出合コウ介)

専門であるペイントや、DIYのスキルを活かして、見違えるようにおしゃれな空間になった工房「atelier and, so(アトリエ アンド ソー)」(写真撮影/出合コウ介)

居住はせず、アトリエとして部屋を借りている大浦さん。大きな作業台を必要とする仕事柄、壁を大胆にぶち抜き、広さを確保しました。シャビーシックに色変わりしたこの空間は「水まわりと床以外は建具も含め、ほぼ自分で改装した」というから驚き。さらに2階も借り、ワークショップの会場に使用しています。

ワークショップの会場にもなる2階の作業場(写真撮影/出合コウ介)

ワークショップの会場にもなる2階の作業場(写真撮影/出合コウ介)

宇野「私どもも『ここまで生まれ変わらせていただけるとは』と感動しました」

福元「見事なDIYです。『これがビフォーアフターか!』と見とれましたね」

大浦さんが半田文化住宅を選んだ理由は――。

大浦「隣が空き地だったのが決め手の一つです。空き地のおかげで窓から光が入るのが気に入りました。サンプルの写真がとても撮りやすいんです。この部屋を選ぶ以前は住之江区内のガレージを工房の代わりに使っていました。暗いし、冷暖房はない。夏や冬は大変だったんです。私にとって半田文化住宅は天国ですよ」

この仕事を始める前、塗料の会社で経験を重ねていた大浦さん。独立後、半田文化住宅で気に入ったアトリエを持てたことで、仕事が順調になったそう(写真撮影/出合コウ介)

この仕事を始める前、塗料の会社で経験を重ねていた大浦さん。独立後、半田文化住宅で気に入ったアトリエを持てたことで、仕事が順調になったそう(写真撮影/出合コウ介)

隣接する空き地は、以前は活用されていなかった場所だったのだそう。北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想に共鳴した大浦さんは、フェンスの塗装、芝生の水やりや育成などの空き地の管理にも協力しています。

大浦「部屋の改装はまだ終わってはいません。きっと、これからもずっとどこかをなおし続けていくでしょう。改装というより、『部屋を育てる』感覚なんです」

アーティストが部屋を育て、街の景観を育てる。アートの力で街が育ってゆく。それが北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想の本質なのだろうな、そう感じました。

「住宅そのものがアート作品」という驚きの賃貸物件

居住を可能とする事例なら、2016年に誕生した「APartMENT(アパートメント)」もあります。

(写真撮影/出合コウ介)

(写真撮影/出合コウ介)

「APartMENT」は、築古の集合住宅を8組のアーティストやクリエイターのプロデュースによってリノベーションし、再生させるプロジェクト。千島土地が、不動産から設計、工務までトータルでおこなう「Arts & Crafts(アートアンドクラフト)」とタッグを組んでおこなう、「住宅そのものがアート作品」という極めて意欲的な取り組みです。

福元「アーティストに限らず、アートに興味がある人々にも北加賀屋で暮らしてほしい。そのためにも住む場所の提供は弊社の課題でした。『北加賀屋らしい、アートに特化した、特徴のある集合住宅にしよう』と考えて始まったのが、このプロジェクトです。ネーミングとロゴにも『AP“art”MENT』と、アートという言葉が入っているんですよ」

「art(アート)」を内包する住宅、それはまさに北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想の所信表明といえるでしょう。

「APartMENT」には二つのタイプの部屋があります。一つ目は、北棟1階と南棟を使った「toolbox PROJECT(ツールボックス・プロジェクト)」による部屋。

「ツールボックス」とは、「自分らしい家づくり」に必要なアイテムを販売したり、実際にそれらを使用して施工したりするWebショップ。

福元「改装できるギリギリ寸止め状態まで弊社で施工しておいて、『あとの内装は自由にやっていいですよ』『ツールボックスの商品を使用した改装内容については原状回復もしなくていいですよ』という部屋なんです」

二つ目が、北棟の2階より上で展開する「8 ARTISTS PROJECT(エイトアーティスト・プロジェクト)」の部屋。モダンアート、照明作家、造園家、先鋭的なデザイン事務所などジャンルの垣根を越えた8組のアーティストが、オリジナリティあふれる「45平米のアート作品」を生みだしたのです。

なかでもインパクトが絶大なのが、現代美術作家の松延総司(まつのべそうし)さんがつくりあげた「やすりの部屋」。壁紙の代わりに使用しているのは、なな、なんと「紙やすり」! ざらりとした手触りは、住む人によってはクセになること請け合い。壁に貼られた紙やすりは部屋ごとに種類が異なり、「この部屋のやすりは刺激的だぞ」と、五感が研ぎ澄まされてゆきます。

現代美術作家の松延総司さんによる「やすりの部屋」。茶色く変化した部分は、家具が擦れて自然とついた色だそう(写真撮影/出合コウ介)

現代美術作家の松延総司さんによる「やすりの部屋」。茶色く変化した部分は、家具が擦れて自然とついた色だそう(写真撮影/出合コウ介)

宇野「以前の住民が使っていた掃除機のルンバと紙やすりが格闘した跡を、あえて現状のまま残しています。こういった生活の痕跡が引き継がれていくのがおもしろいと思うんです」

こちらは「スキーマ建築計画」による、「足す」のではなく「引く」デザインの部屋。中央奥の押入れは、引っこ抜いたかのように取り払い、収納スペースは畳の下にしまい込んで隠してしまう。「足しがち」な暮らしの固定観念を覆す、住む人の気持ちが反転していくような部屋(写真撮影/出合コウ介)

こちらは「スキーマ建築計画」による、「足す」のではなく「引く」デザインの部屋。中央奥の押入れは、引っこ抜いたかのように取り払い、収納スペースは畳の下にしまい込んで隠してしまう。「足しがち」な暮らしの固定観念を覆す、住む人の気持ちが反転していくような部屋(写真撮影/出合コウ介)

このように前衛的な部屋が並ぶ「APartMENT」は、アートとリノベーションの融合、住人の創造性の誘発といった点が評価され、2017年、大阪市が実施する顕彰事業「第30回 大阪市ハウジングデザイン賞」において「大阪市ハウジングデザイン賞特別賞」を受賞しました。

もとは1971年築の鉄工所社宅。鉄筋コンクリートによるがっしりした構造が、アーティストたちの自由な発想を受け入れています。その様子は、鉄でものづくりをしてきた先人たちが、次世代を築くアーティストたちを応援し、胸を貸しているように見えました。

「近寄りがたい」といわれていた集合住宅が交流の場として甦った

住宅を提供する場合があれば、かつて住宅だった物件を別のかたちに蘇らせたケースもあります。それが「千鳥(ちどり)文化」。

千鳥文化の外観。中央がメインとなるアトリウム。統一されていないごちゃごちゃ感もこの文化住宅ができ、育ってきた歴史を物語っている(写真撮影/出合コウ介)

千鳥文化の外観。中央がメインとなるアトリウム。統一されていないごちゃごちゃ感もこの文化住宅ができ、育ってきた歴史を物語っている(写真撮影/出合コウ介)

「千鳥文化」とは2017年にオープンした文化複合施設のこと。「クリエイターと地域の人々が緩やかに交流するプラットフォーム」をコンセプトに、食堂、商店、バー、ギャラリー・ホール、テナント区画が一堂に会しています。築60年ほどの文化住宅をリノベーションした話題のスポットなのです。

福元「アートイベントのためだけに訪れるのではなく、北加賀屋に滞在してほしい。そんな想いで始まったプロジェクトです。元々千鳥文化と呼ばれていた建物。名前もそのまま承継しました」

旧・千鳥文化は、現在の法律では住居としてありえないアバンギャルドな姿をしており、「近寄りがたい雰囲気だった」といわれています。

家の改造はお手の物だった船大工たちの作業の跡が残る室内(写真撮影/出合コウ介)

家の改造はお手の物だった船大工たちの作業の跡が残る室内(写真撮影/出合コウ介)

宇野「かつての千鳥文化は、造船業に従事していた住人たちが自らの手で増改築を繰り返していました。『もともと平屋だった建物に住民が2階を増築したのではないか』と推測されています。わかっているだけでも5回、大きな改築がなされていますね。どうやって建っているのかすらわからないほど不思議な構造だったんです」

増築に「船の素材が使われていた」など、住んでいた船大工の手によっていびつに表情を変えていったこの文化住宅は、ある意味でアートの街・北加賀屋にぴったり。とてもクリエイティブな文化遺産といえるでしょう。

旧・千鳥文化はのちに空き家となり、解体も検討されました。しかし、「迷路のように複雑化するほど人々の暮らしの痕跡が刻まれている貴重な建物だ。二度と再現できない。更地にしてしまうのはもったいない」と、北加賀屋を拠点に活動する建築家集団「dot architects(ドットアーキテクツ)」の手によって、A棟とB棟で二期に分けてリノベーションを実施。新時代の千鳥文化プロジェクトがスタートしたのです。

宇野「設計図が存在しない難物です。柱の1本1本を測りなおし、できる限り元の古材を残しながらも耐震対策は現行法に基づきしっかりやるという、気が遠くなるような作業から始まりました。完成するまでに3年もの年月がかかりましたね」

dot architectsは千鳥文化も含めた功績が認められ、2021年に建築のアワード「第2回 小嶋一浩賞」を受賞しました。

印象に残るレトロな「TEA ROOM まき」の装飾テントには手を加えず、玄関はガラス張りに改修。再生した施設内は「アトリウム」と呼ばれる吹き抜けの共有スペースがあり、誰でも出入りできます。1階部分はカフェや、展示などを行える空間として、2階部分にはアート作品が飾られており、自由に見学できるのです。

アトリウム奥のカフェ「千鳥文化」(写真撮影/出合コウ介)

アトリウム奥のカフェ「千鳥文化」(写真撮影/出合コウ介)

吹き抜けの2階部分。建物の構造を見るだけでもおもしろい(写真撮影/出合コウ介)

吹き抜けの2階部分。建物の構造を見るだけでもおもしろい(写真撮影/出合コウ介)

2階部分に常設されているのは金氏徹平「クリーミーな部屋プロジェクト」。手前と奥の部屋合わせて一人のアーティストの世界観でつくられている(写真撮影/出合コウ介)

2階部分に常設されているのは金氏徹平「クリーミーな部屋プロジェクト」。手前と奥の部屋合わせて一人のアーティストの世界観でつくられている(写真撮影/出合コウ介)

壁にあいた舟窓の穴からのぞくと隠れている奥の部屋にも現代アートがある遊び心あふれる空間(写真撮影/出合コウ介)

壁にあいた舟窓の穴からのぞくと隠れている奥の部屋にも現代アートがある遊び心あふれる空間(写真撮影/出合コウ介)

元居室の扉には、住民がいたころの紙をぺたっと貼っただけの表札が(写真撮影/出合コウ介)

元居室の扉には、住民がいたころの紙をぺたっと貼っただけの表札が(写真撮影/出合コウ介)

往時は「近寄りがたい」と言われていた建物に今や新鮮な空気が循環し、陽がさんさんと降り注ぐ。「千鳥文化というアート作品」が60年の時を経て、やっと正当に評価されたのでは。そんなふうに思えました。

現代美術作家の巨大作品がずらり並ぶ「生きている倉庫」

続いて案内されたのは、外観だけを見れば、単なる大きな倉庫。実はこの倉庫こそが、北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想が成し遂げた重要な功績の一つなのです。

MASK(マスク/MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)(写真撮影/出合コウ介)

MASK(マスク/MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)(写真撮影/出合コウ介)

扉を開けて、びっくりしない人はいないでしょう。目の前に並んでいるのは、世界に名だたる現代美術作家たちの、巨大な造形作品なのですから。

ヤノベケンジ 作品 左「ラッキードラゴン」、右「サン・チャイルド」(写真撮影/出合コウ介)

ヤノベケンジ 作品 左「ラッキードラゴン」、右「サン・チャイルド」(写真撮影/出合コウ介)

名和晃平 作品「N響スペクタクル・コンサート「Tale of the Phoenix」舞台セット」(写真撮影/出合コウ介)

名和晃平 作品「N響スペクタクル・コンサート「Tale of the Phoenix」舞台セット」(写真撮影/出合コウ介)

久保田弘成 作品「大阪廻船」(写真撮影/出合コウ介)

久保田弘成 作品「大阪廻船」(写真撮影/出合コウ介)

床面積 約1,030平米(52.5×19.5m)、高さ 9.25mというとてつもない広さを誇るスペースを使った驚異のプロジェクト、その名は「MASK(マスク/MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」。

収蔵するアーティストは、宇治野宗輝、金氏徹平、久保田弘成、名和晃平、持田敦子、やなぎみわ、ヤノベケンジといった、国際的に活躍する現代美術の人気作家ばかり。

宇野「近年、芸術祭等で大型作品を制作する機会が増えていますが、会期後の保管はアーティストにとって大きな課題となります。実際、多くの作品が解体されたりしているのです。そのため、弊社では無償で大型作品をお預かりすることにしました」

芸術祭の会期後、「作品をどう残すのか」は、アーティストにとって頭が痛い問題です。維持するにはお金がかかる。そもそも “メガ”(大変な規模の)サイズの作品を保管できる“ストレージ”(領域)がない。実際、置き場に困り、作品が廃棄される悲しい例も多いのです。

このような状況に一石を投じるべく、千島土地が管理する鋼材加工工場の倉庫跡を利用し、2012年からアーティストの大型作品を無償で預かるプロジェクト「MASK」を発起しました。作品の保管のみならず、2014年から、年に1回「Open Storage(オープン ストレージ)」と銘打ち、一般公開をしています。

2022年は10月に「Open Storage(オープン ストレージ)」を実施。鉄の柱が張り巡らされた倉庫でたくさんの現代アートを楽しめる。撮影も可能(写真撮影/出合コウ介)

2022年は10月に「Open Storage(オープン ストレージ)」を実施。鉄の柱が張り巡らされた倉庫でたくさんの現代アートを楽しめる。撮影も可能(写真撮影/出合コウ介)

福元「みなさん『北加賀屋にこんなすごいところがあったんだ』と、とても喜んでくださいます。全国を見渡しても、これほどの量の大型作品が並ぶ場所は他にはないと思います」

宇野「北加賀屋がアートで街づくりをしていると一般の方にも知っていただけた、大きなきっかけとなった場所です。よく『なぜ無償で預かっているの? 利益が出ないでしょう』と聞かれるのですが、弊社では『アラビア数字では表せない価値をもたらしてくれた』と考えています」

収蔵のみならず、持田敦子さんの手によるビッグサイズの回転扉『拓く』は、2021年にMASKで現地制作されました。
また、「大きな作品を預かる」という点では、他の倉庫で、オランダのアーティスト、フロレンティン.ホフマンの、膨らますと高さ9.5メートルにも及ぶパブリックアート『ラバー・ダック』を管理し、各地の水上で展示する拠点にもなっています。

「すみのえアート・ビート2021」開催風景(写真提供/千島土地株式会社)

「すみのえアート・ビート2021」開催風景(写真提供/千島土地株式会社)

千島土地は作品『ラバー・ダッグ』を保有する日本唯一の窓口という意外な一面も。水都大阪2020のイベントや、東日本大震災のチャリティイベントでもおなじみの姿が北加賀屋のまちのマンホールアートでも見られる(写真撮影/出合コウ介)

千島土地は作品『ラバー・ダッグ』を保有する日本唯一の窓口という意外な一面も。水都大阪2020のイベントや、東日本大震災のチャリティイベントでもおなじみの姿が北加賀屋のまちのマンホールアートでも見られる(写真撮影/出合コウ介)

倉庫が収蔵する目的を越え、作品を生み出し発信する場所として新たな命を宿している。脈を打ち始めている。ここはまさに「生きている倉庫」ではないでしょうか。2022年の秋も一般公開が予定されています。謎のヴェールに包まれた倉庫がマスクをはぎ取る瞬間に、ぜひ立ち会ってみてください。

2022年度の一般公開「Open Storage 2022 ―拡張する収蔵庫-」は、10月14日(金)~16日(日)、21日(金)~23日(日)と、「すみのえアート・ビート」に合わせて11月13日(日)に開催予定です。

広大な造船所の跡地が表現の場へと船出した

最後に案内していただいた場所、そこはフィナーレを飾るにふさわしい、素晴らしい別天地でした。それは2007年に、経済産業省「近代化産業遺産」に認定された、木津川河口に位置する「名村造船所大阪工場跡地」。そう、千島土地がアートを手掛ける第一歩となった記念すべき場所です。2005年に跡地の一部を「クリエイティブセンター大阪(Creative Center OSAKA/略称:CCO)」と名づけ、敷地面積が約4万平米という空前の広さを活かした一大アートパラダイスへと変貌を遂げたのです。

湾岸沿いで交通の便がいいとはいえない場所だがイベントでは大勢のファンが足を運ぶ(写真撮影/出合コウ介)

湾岸沿いで交通の便がいいとはいえない場所だがイベントでは大勢のファンが足を運ぶ(写真撮影/出合コウ介)

クリエイティブセンター大阪は、「廃墟のポテンシャル」を存分に楽しめる場所。「建物そのものを楽しみたい」という人のために参加無料の見学ツアーも行われています。

さらにライブや演劇、コスプレイベント、撮影会、映画・ドラマのロケ、サバイバルゲームの舞台としてもレンタルされ、なかには結婚式に使うツウなカップルまでいるのだそうです。

福元「一般に開放した当初は、コスプレイベントのためにカートを引いた若者たちが北加賀屋に集まってくるので、地元の方々は『なんだ? なんだ?』とけげんそうな目で見ていました。けれども現在は、集まる若者たちがこの街を盛り上げてくれているんだと、歓迎してくださっています」

刮目すべきは4階にある、船の製図室の遺構をそのまま活かした無柱の創造スペース。

右奥に人のサイズ感で伝わるだろうか。柱がないこれだけの空間は極めて珍しい。この反対側にもこれと同じくらいの広さがさらに広がる(写真撮影/出合コウ介)

右奥に人のサイズ感で伝わるだろうか。柱がないこれだけの空間は極めて珍しい。この反対側にもこれと同じくらいの広さがさらに広がる(写真撮影/出合コウ介)

宇野「この部屋では以前は、船や部品の原寸図を引いていたんです。床に敷いて這いながら書くため、天井には手元を照らすための蛍光灯がずらっと並んでいます。床を見てください。まだ図面の跡があるんですよ」

まるで幾何学模様のような傷は設計の痕跡(写真撮影/出合コウ介)

まるで幾何学模様のような傷は設計の痕跡(写真撮影/出合コウ介)

本当だ。広々とした床には船の図面の面影が遺っていました。往時の果てしない造船作業、職人さんたちの高い技量と苦労が想い起こされ、胸を打ちます。そしてこの部屋は現在、現代アートの展示やイベント、さらに地下アイドルのフェスであれば物販やチェキタイムなど、ファンとの交流にも利用されているのです。

こういった取り組みが評価され、2011年には文化庁が後援する企業メセナ(企業が芸術文化活動を支援すること)協議会「メセナアワード2011」にて「メセナ大賞」を受賞。千島土地がアートでの街づくりに拍車をかけるきっかけとなりました。

かつて2万人を超える造船労働者で盛況を博した北加賀屋。役目を終えた造船所が、北加賀屋のランドマークとなって眠りから覚めました。そうして可能性を秘めたアーティストの卵たちの船出を、あたたかく見守っているのです。その海は、世界へとつながっています。

アートの力で活性化した街の「次の一手」は

造船所が転出し、一時期は活気を失っていた北加賀屋。千島土地の尽力とアートのパワーにより今や世界からも注目される街となり、息を吹き返しています。タワーマンションの供給が始まるなど具体的な経済効果も表れはじめているようです。今後の展望は。

宇野「ギャラリーの誘致を目指す新しい拠点などを計画中です。アーティストが暮らし、作品をつくり、この街で発表する。その作品に注目が集まる。この流れを生みだしていけたらいいなと考えています」

福元「そして、長く暮らしたくなる、価値が高い街にしていきたいです。アートに触れながら、親子3代にわたって住む。そうやって文化を育んでいければ」

芸術の秋です。ウォールアートやパブリックアートの数々が迎えてくれる北加賀屋を散策してみませんか。なんばから、わずか5駅ですよ。

北加賀屋の街中ではさまざまなオブジェやウォールアートが出迎えてくれる(写真撮影/出合コウ介)

北加賀屋の街中ではさまざまなオブジェやウォールアートが出迎えてくれる(写真撮影/出合コウ介)

(写真撮影/出合コウ介)

(写真撮影/出合コウ介)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●取材協力
「千島土地株式会社」Webサイト
「おおさか創造千島財団」Webサイト
「atelier and, so(アトリエ アンド ソー)」Webサイト
「APartMENT」(アパートメント) Webサイト
「千鳥文化」Instagram
「MASK」(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)Webサイト
「クリエイティブセンター大阪」Webサイト

品川駅まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング! 2022年版

東京を代表するビジネス街の一つである品川駅。羽田空港へのアクセス拠点で、2027年にはリニア中央新幹線の駅開業を控えているほか、最近は東京メトロ南北線の延伸計画の素案も発表された。品川エリアでは京急電鉄とトヨタ自動車による複合施設の建設が進められている。そんな品川駅へのアクセスが良い狙い目の駅はどこだろうか。シングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)を対象にした、品川駅まで30分以内で行ける家賃相場が安い駅ランキングから考えてみたい。

品川駅まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅15駅

順位/駅名/家賃相場/(主な沿線名/駅の所在地/品川までの所要時間(乗り換え時間・駅から駅への徒歩移動時間を含む)/乗り換え回数)
1位 羽沢横浜国大 5.30万円(JR埼京線/横浜市神奈川区/30分/1回)
2位 星川 5.50万円(相鉄本線/横浜市保土ケ谷区/30分/1回)
2位 片倉町 5.50万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/横浜市神奈川区/30分/1回)
4位 保土ケ谷 5.64万円(JR横須賀線/横浜市保土ケ谷区/24分/1回)
5位 山手 5.70万円(JR京浜東北・根岸線/横浜市中区/30分/1回)
6位 安善 5.90万円(JR鶴見線/横浜市鶴見区/27分/2回)
6位 白楽 5.90万円(東急東横線/横浜市神奈川区/29分/1回)
8位 武蔵白石 5.95万円(JR鶴見線/川崎市川崎区/29分/2回)
9位 三ツ沢下町 6.00万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/横浜市神奈川区/26分/1回)
9位 小田栄 6.00万円(JR南武線/川崎市川崎区/25分/2回)
11位 大口 6.10万円(JR横浜線/横浜市神奈川区/29分/1回)
11位 天王町 6.10万円(相鉄本線/横浜市保土ケ谷区/28分/1回)
13位 三ツ沢上町6.15万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/横浜市神奈川区/27分/1回)
14位 東白楽 6.20万円(東急東横線/横浜市神奈川区/28分/1回)
14位 浜川崎 6.20万円(JR南武線/川崎市川崎区/27分/2回)

1位の羽沢横浜国大駅は相鉄と東急の直通控え、再開発進む

ランキングはすべて神奈川県の駅が占め、所在地は横浜市神奈川区が目立つ。神奈川区は横浜市の北東に位置し、海と山に囲まれた自然豊かな地域で、横浜のイメージらしいおしゃれな繁華街のヨコハマポートサイド地区があるほか、横浜駅の北側に隣接している。

羽沢横浜国大駅(写真/PIXTA)

羽沢横浜国大駅(写真/PIXTA)

1位の羽沢横浜国大駅も、横浜市神奈川区に位置している。横浜国立大学の最寄駅で、2019年のJRと相鉄の直通に伴い開業した新しい駅だ。

駅開業までは鉄道の整備が不十分で、都心へのアクセスも良いとはいえないエリアだったが、相鉄は23年3月に、羽沢横浜国大駅から新横浜駅を経由して、東急東横線と目黒線の日吉駅まで直通する連絡線を開業予定。渋谷駅などへ乗り換えなしで行けるようになるほか、東急目黒線の相互乗り入れしている東京メトロ南北線や都営三田線も利用できるようになる。新幹線の停車する新横浜駅までのアクセスが抜群のため、遠方への出張が多いビジネスパーソンには心強いだろう。

東急との直通線の開業に合わせ、横国大の研究チームや提携企業などによる駅周辺の再開発が進められ、買い物施設なども増えてきている。駅前には商業店舗や医療施設、子育て支援施設や横国大の関係施設が入った高層マンションが建設中。今後も市街地整備などが進められる予定だという。

2位は、横浜市保土ケ谷区に位置する星川駅で、相鉄本線の快速が停車する。快速乗車時は横浜駅の次の停車駅で、両駅間の所要時間は約7分だ。

星川駅(写真/PIXTA)

星川駅(写真/PIXTA)

横浜市といえば坂の多さが知られているが、星川駅周辺は比較的、平坦な地形が広がっている。駅の近くには駐車場の完備された大規模なスーパーなどが充実しており、広いホームセンターもすぐそば。少し行くと、地元産の野菜や生鮮食品などの専門店が連なり「ハマのアメ横」の愛称で親しまれる人気スポットの「横浜洪福寺松原商店街」がある。総菜店も充実しており、日中は歩行者天国にもなっているため、食べ歩きも楽しそうだ。

所在地である保土ケ谷区役所の最寄駅でもあり、徒歩約2分の近さなのも便利。図書館や公会堂、警察署なども集まっている。星川駅周辺はかつて大規模な工場地帯だが、1980年代に移転。その跡地が官公庁用地となったため、現在は区の行政の中心地となっている。

ビジネス街でもあり、オフィスビル群にレストランや公園などが備わったビジネスセンター「横浜ビジネスパーク」にも近い。かつて存在したビールメーカー「東京麦酒」の工場跡地が再開発されたエリアで、中央の公園「ベリーニの丘」はイタリアの著名建築家マリオ・ベリーニの手によるもの。アート展示やイベントなども随時開催され、ビジネスパーソンだけでなく地元民の憩いの場になっている。

ベリーニの丘(写真/PIXTA)

ベリーニの丘(写真/PIXTA)

駅から少し行くと、広大な県立公園の「保土ケ谷公園」がある。野球場やサッカーやラグビーのグラウンド、テニスコートやプールが整備されており、2002年の日韓ワールドカップではサブグラウンドとして使用されたことでも知られる。現在も、女子サッカーリーグ「なでしこリーグ」の試合などが開催されることもある。また神奈川フィルハーモニー管弦楽団の練習拠点である文化施設「かながわアートホール」もあり、休日の趣味の満喫にも事欠かなさそうだ。

横浜駅へのアクセス抜群な駅も多数ランクイン

5位の山手駅は、ランキング中唯一の、JR京浜東北・根岸線の沿線駅。横浜駅までは約10分で行くことができる。

山手駅(写真/PIXTA)

山手駅(写真/PIXTA)

周辺は一戸建て住宅が目立ち、閑静な雰囲気の住宅街が広がる。付近には、横国大の教育学部附属横浜小学校や、中高一貫の男子校聖光学院中学校・高等学校などの教育機関も多い。

駅そばには深夜まで営業しているスーパーがあるが、買い物施設が充実しているとは言いがたいかもしれない。しかし、おしゃれなセレクトショップが立ち並ぶ横浜の人気観光地である「元町商店街」まで約2kmで、横浜中華街やみなとみらいなどの繁華街へも遠くはない。また、付近をめぐる市営バスの本数も充実している。交通利便性の高さと落ち着いた環境を優先するなら、選択肢に入れてもよさそうだ。

6位の白楽駅と14位の東白楽駅は、首都圏の「住みたい沿線ランキング」(リクルート)上位常連で、2022年では3位に入っている人気路線の東急東横線の隣駅同士。どちらも各駅列車しか停車しないが、白楽駅は横浜駅まで3駅で、所要時間は約5分。距離は約3kmのため、横浜駅で終電を逃しても帰宅に大きな負担にはならなさそうなのは魅力だ。

白楽駅は神奈川大学横浜キャンパスの最寄駅の一つであり、単身者向けの物件が充実。学生の心強い味方になりそうな定食店やチェーン系の飲食店も豊富で、深夜まで営業している店も多い。

学生街の顔を持つ一方で、駅から少し行くと、のんびりした住宅街が広がる。白楽駅近くの「六角橋商店街」は、生鮮食品や日用品だけでなく、個性的な雰囲気の飲食店も点在。独特のレトロな雰囲気は、昭和を舞台にした映画やドラマの撮影地にもなっている。

六角橋商店街(写真/PIXTA)

六角橋商店街(写真/PIXTA)

その白楽駅から約800mの距離にある東白楽駅は、横浜方面の隣駅。徒歩圏内にJR東神奈川駅と京急本線の京急東神奈川駅があり、交通利便性がより高いといえそうだ。東神奈川駅は新横浜駅まで直通しており、京急東神奈川駅は羽田空港への京急本線エアポート急行が運行している。ビジネスパーソンには白楽駅よりもより向いているかもしれない。東神奈川駅は、駅の所在地である神奈川区の区役所の最寄駅の一つでもある。

駅前は落ち着いた雰囲気だが、少し行くと、コメダ珈琲店やファミレス、ファストフードなども多数入っている大規模スーパーの「イオンスタイル東神奈川」がある。ほかにも、深夜まで営業しているスーパー、安売りスーパーなどが充実。日々の生活で不便することはなさそうだ、

また、横浜方面へ向かって、両脇に花壇が整えられた緑道が整備されている。休日のウオーキングや散歩が楽しみになるだけでなく、自然豊かな雰囲気も感じることができるのは、生活に潤いを与えてくれそうだ。

新しく生まれ変わりつつある品川駅のように、街や駅も、常に変化を続けている。住宅地も同様で、再開発で魅力を増す速度の著しい街もあれば、ゆったりとした変化が愛おしい街もある。自身の人生やライフステージの変化に合わせ、その時々の生活にフィットする街や部屋を探したいものだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/4~2022/6
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年7月25日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

木造でも「火事に負けない」賃貸住宅! 法改正で木造の可能性広がる。地域と住民のハブにも アーブル自由が丘

木造建築は、環境負荷の低さや、性能がここ数年で格段に進化していることで注目されているだけでなく、2020年の建築基準法の改正以降、耐火・準耐火に関する基準の見直しや整備により、利用の可能性が広がったこと、2021年の「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称、改正木材利用促進法」によって、木材利用の推進対象が公共建築物から一般建築物に広がり、「高層木造ビル」といった今までには考えられなかった建築物が続々と登場しています。

植物の緑に木のあしらい。まるで昔からあったかのような佇まい

今回は話題の木造建築のなかでも、今年2月に誕生した店舗+集合住宅の複合施設「アーブル自由が丘」(東京都目黒区)を取材しました。地球環境や安全に配慮しながら、その街らしさを色濃く打ち出したこれからの住まいのカタチとは、どのようなものでしょうか。

スイーツや雑貨店などが集まり、おしゃれな街として知られる自由が丘(東京都目黒区)。「アーブル自由が丘」は、自由が丘駅から徒歩5分の場所に、今年2月に誕生した複合施設です。1階には自家焙煎のスペシャルティコーヒーショップ「ONIBUS COFFEE(オニバスコーヒー)」、ワインのセレクトショップ(角打ちも可!)「VIRTUS(ウィルトス)」、ごま油でおなじみの「かどや製油」による初のカフェ「goma to(ごまと)」のテナント、2階と3階はTECH人材向けのコミュニティ型賃貸住宅「TECH RESIDENCE JIYUGAOKA(テックレジデンス自由が丘)」(全22室)、さらにオーナーがお住まいの2住戸から構成されています。

1階のテナントが設けているテラス席では、植物の緑がつくる心地よい木陰で、ご近所の人たちが思い思いに過ごしています。その風景はあまりにもなじんでいるため、ずっと前からあったかのような佇まいです。

自由が丘らしさを感じる1階。カフェやワインバーのテラス席は大人気です(写真撮影/片山貴博)

自由が丘らしさを感じる1階。カフェやワインバーのテラス席は大人気です(写真撮影/片山貴博)

「アーブル自由が丘」があるのは、準防火地域(市街地における火災の危険を防ぐために定められる地域)。敷地に対して最大限のボリュームを確保するため、1時間耐火建築物(※)とし、さらに1階は鉄骨造、2~3階は木造という「混構造」にしています。火災にも強い、今、大注目の木造建築物というわけですが、ここに至るまでの道のりは平坦ではありませんでした。話の始まりは、なんと10年前、2012年~13年ごろになるといいます。

※耐火建築物……建物の主要構造部(柱・梁・床・耐力壁など)が耐火構造または所定の性能を満たし、延焼のおそれのある部分に設けられた開口部には、防火設備(防火サッシやシャッター)が用いられたもの

アーブル自由が丘の断面図。1階が鉄骨造、2~3階が木造(画像提供/内海さん)

アーブル自由が丘の断面図。1階が鉄骨造、2~3階が木造(画像提供/内海さん)

木造で自由が丘らしい建物を目指し、10年かけてコンセプトを詰めていく

「もともと材木商を営んでいたオーナーのご家族から、『実家を建て替えたいので、相談にのってほしい』ともちかけられたのがきっかけです。そのころ、私は世田谷区下馬で、5階建の木造集合住宅を手掛けていたのですが、できたら木造で建て替えられないかというお話からスタートしました」と話すのは、設計を手掛けた内海彩建築設計事務所の内海彩さん。

仕上げ材にも高知・四万十産の良質のスギをふんだんに使い、新築ですがすでに自由が丘の景観になじんでいます(写真撮影/片山貴博)

仕上げ材にも高知・四万十産の良質のスギをふんだんに使い、新築ですがすでに自由が丘の景観になじんでいます(写真撮影/片山貴博)

もともとは、お隣も合わせた約2倍の広さの土地(借地)に4棟のアパートやご自宅がありました。ちょうど商業地域と住宅地の境目にあり、都市計画道路予定地(※2)でもあります。

完成した現在の敷地はL字型になっていますが、建て替えの話がもちあがったときは、どの範囲が敷地になるのか決まっておらず、敷地面積や建物の床面積・用途に応じてチェックするべき都や区の条例が異なるので、さまざまなケーススタディを繰り返したそう。それにしても、今でこそゼネコン各社を含めて木造高層建築に注力していますが、依頼者から希望はあったとはいえ、なぜ当時はまだハードルが高かった“木造”を想定していたのでしょう。

※2 都市計画道路予定地……都市計画法に基づいて計画された道路が予定されている地。計画であり決定ではないため、土地の売買や建築は可能だが建築物の構造や高さ、階数などに制限がある

(画像提供/内海さん)

(画像提供/内海さん)

「オーナーさんが元木材屋さんということで、木造建築物への関心が高かったこともあり、クリアしなければいけない課題は多くあったものの、『木造でいけたらいいね』という方向性は一貫していました。木造ならではの温かみ、風景との調和など木の持つ良さ、価値を共有できていたんだと思います。一方で、従来の『裸木造』(防耐火性能のない木造のこと)のイメージも強く、耐震性などへの不安もおありのようでしたので、CLT(繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料)といった最新の木質材料もご紹介し、これからの時代にふさわしい耐震耐火性能を備えた『都市木造』を目指すことにしたのです」(内海さん)

設計を担当した内海彩さん(写真撮影/片山貴博)

設計を担当した内海彩さん(写真撮影/片山貴博)

もともと、内海さんが木造建築に注目したのは2000年前後。建築士として独立した直後で時間もあり、勉強会に参加して、「鉄筋コンクリート造や鉄骨造ばかりの都市に『木造』という選択肢をつくれたらおもしろそう」と夢を思い描いていました。ただ、「世間的には木造というと2~3階建ての一戸建てがイメージされてしまうもの。中高層の木造集合住宅といっても理解されずに、聞きかえされることもしばしばでした」

そんななか、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(通称、木材利用促進法)」ができて、国交省の「木のまち整備促進事業(現・サステナブル建築物等先導事業)」に採択されたことが大きな追い風となり、2013年、世田谷区下馬に5階建の耐火木造集合住宅が完成しました。設計プランとしては注目されていたものの、竣工したことにより、「『本当にできるんだ……!』と多くの方が関心を寄せてくださったんです」と内海さん。

1・2階がRC造(鉄筋コンクリート造)、2~5階が木造の集合住宅「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

1・2階がRC造(鉄筋コンクリート造)、2~5階が木造の集合住宅「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

「下馬の集合住宅(サンパパ下馬ハウス)」(設計:小杉栄次郎・内海彩、撮影:淺川敏)

今回の「アーブル自由が丘」はすべて民間で開発・実現しました。都市計画道路予定地のため、高さ制限や構造制限があり、また、1階は当初より店舗として貸すことが決まっていたため、区画内に柱や壁をつくらず、できるだけ天井高を確保できるよう鉄骨造に。住空間である2・3階を木造とすることにしました。どこにでもある店舗ではなく、暮らしや食に豊かさを感じられるような「自由が丘らしい建物にしたい」というオーナーさんの思いを汲んでテナント募集が進められました。

「コンビニやファミレスへの1店鋪貸しではなく、小ぶりでもセンスの良い、ちょっと入ってみたくなるようなカフェやベーカリー、ギャラリーやフラワーショップなどが並ぶすてきな街並みをつくりたい、というお考えでした。もともと自由が丘に長くお住まいなので、いい街にしたい、この街にふさわしいものをという想いがおありだったんです」(内海さん)

3階にお住まいのオーナーさんのお住い。画廊のお仕事もされていてアートにも造詣が深く、室内のそこかしこに作品が飾られています(写真撮影/片山貴博)

3階にお住まいのオーナーさんのお住い。画廊のお仕事もされていてアートにも造詣が深く、室内のそこかしこに作品が飾られています(写真撮影/片山貴博)

お住まいの一角には、お仕事スペースも。ロールスクリーンを使ってゆるく空間を区切る工夫がされています(写真撮影/片山貴博)

お住まいの一角には、お仕事スペースも。ロールスクリーンを使ってゆるく空間を区切る工夫がされています(写真撮影/片山貴博)

共用ホールにテナント。住民の居場所が複数ある構造に

こうして「木造建築物」「自由が丘らしい」などのコンセプトが固まってきた一方、シェアスペースがあったらいいという話もでてきました。

「この街にふさわしいものを、という話の中で、シェアオフィスもいいねという案が出てきました。単なるワンルームマンションではなく、暮らす人たちが交流・休憩・触発されるような共用空間があったなら……。
シェアオフィス単体で成立させるのは事業計画上難しそうだったのですが、そんな中、テナント募集を進めていた東急さんより、賃貸住宅部分の運営会社としてCEスペースさんのご紹介がありました。CEスペースさんは、IT人材専用コミュニティ型住宅『テックレジデンス』を都内数カ所で運営されています。そのノウハウもプランニングに盛り込み、2・3階を『TECH RESIDENCE JIYUGAOKA(テックレジデンス自由が丘)』として、IT系エンジニアに入居してもらうことになりました。
もともとワンルームだけではなく、2LDK、3LDKと混在させる計画でしたが、これらをシェアタイプの賃貸住戸として利用できるよう調整しました。状況が変われば、シェアハウスの3DKを2LDKに改修できるよう考慮しています。

目黒区の『自由が丘街並み形成委員会』との事前協議でもこの建物の話をしたところ、応援していただきました。自由が丘は、これから駅前を中心に再開発が進みます。そんな未来の自由が丘に才能ある若いIT系エンジニアが集まり、新しい価値観を発信していく、ということに大きな期待があるようでした」(内海さん)

こうして、ワンルーム住戸5室とシェアタイプ住戸内の個室17室、共用ホールという構成が決まり、さらに細部のプランを詰めていき、ついに着工。途中、ウッドショックの荒波に揉まれつつも、1年の工期をかけて完成しました。

入居が始まって約半年が経過した今、共用ホールに至る廊下にはさり気なくオーナーが選んだアートが飾られているほか、トップライトから日光が降り注いだり、木のぬくもりがあったりと、職業はデジタルな「ITエンジニアの住まい」でありつつも、どことなく「アートな香り」「あたたかさ」などアナログの良さを感じられる住まいとなっています。

「アーブル自由が丘」の共用ホール。「ゆ」ののれんが掛かっているのは住戸の玄関で、住民の方がつけたもの。のれんの奥はワンルーム住戸になっています(写真撮影/片山貴博)

「アーブル自由が丘」の共用ホール。「ゆ」ののれんが掛かっているのは住戸の玄関で、住民の方がつけたもの。のれんの奥はワンルーム住戸になっています(写真撮影/片山貴博)

吹き抜けを上部から見たところ。開放感がお分かりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)

吹き抜けを上部から見たところ。開放感がお分かりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)

吹き抜けの共用ホールは、住民のみが利用できる場所です。ここで仕事をしてもいいですし、気が向いたときは1階のカフェやワインバーも利用できます。自分だけの水まわりがあるワンルームタイプと、キッチン、バス、トイレを3~4名で共用する3~4DKのシェアタイプが混在するので、自分にあった住まい方、暮らし方ができるのもいいですね。家賃は9万4000円~12万6000円。自由が丘駅徒歩数分、共用スペースがあるので感覚的な“広さ”は十分。住む、働くが一体化していることを考えると、納得なのではないでしょうか。

「1階カフェと連携したサブスクリプションサービスが提供されているので、自分がコーヒーを飲むだけでなく、仕事の打ち合わせ、友達とのおしゃべりにも活用できますよね。仕事の打ち合わせでも、共用スペースや1階のカフェ、レストランなどを”自分のテリトリー”として利用できると、人を呼びやすいだろうなと思います。そこからどこかに出かけてもよいし、そういうときに魅力的なスポットがあちこちにある『自由が丘』という地の利もより活かせると思います」と内海さん。

居室に設けられた部屋番号とインターフォン。工事の端材でつくられたものですが、こちらも木のあしらいがかわいい。施錠にはスマートロックを利用しています(写真撮影/片山貴博)

居室に設けられた部屋番号とインターフォン。工事の端材でつくられたものですが、こちらも木のあしらいがかわいい。施錠にはスマートロックを利用しています(写真撮影/片山貴博)

シェアタイプ住戸内の個室。家具・家電は備え付けられているので、カーテンとベッド、身の回りのものがあれば生活が始められます(写真撮影/片山貴博)

シェアタイプ住戸内の個室。家具・家電は備え付けられているので、カーテンとベッド、身の回りのものがあれば生活が始められます(写真撮影/片山貴博)

2階のシェアタイプ住戸の窓。構造材、耐火被覆、外装仕上げを合わせたため、壁の厚みは40センチ弱あり、一般的な一戸建ての2倍以上! そのため、温熱環境はもちろんのこと、遮音性も高く、驚くほど静か(写真撮影/片山貴博)

2階のシェアタイプ住戸の窓。構造材、耐火被覆、外装仕上げを合わせたため、壁の厚みは40センチ弱あり、一般的な一戸建ての2倍以上! そのため、温熱環境はもちろんのこと、遮音性も高く、驚くほど静か(写真撮影/片山貴博)

シェアタイプの部屋を外側から見たところ。フシのない杉材は外装材で、内側には木の構造材と断熱材、それを耐火被覆した壁があります(写真撮影/片山貴博)

シェアタイプの部屋を外側から見たところ。フシのない杉材は外装材で、内側には木の構造材と断熱材、それを耐火被覆した壁があります(写真撮影/片山貴博)

住戸と住戸を仕切る隔壁パネルにも杉材を使用。他の賃貸集合住宅では見られない仕様です(写真提供/内海彩さん)

住戸と住戸を仕切る隔壁パネルにも杉材を使用。他の賃貸集合住宅では見られない仕様です(写真提供/内海彩さん)

シェアタイプの水まわり。バス、洗濯機、トイレ、洗面所を共用して使います(写真撮影/片山貴博)

シェアタイプの水まわり。バス、洗濯機、トイレ、洗面所を共用して使います(写真撮影/片山貴博)

キッチンには冷蔵庫や炊飯器も。共用部は週2回の業者による清掃が入ります(写真撮影/片山貴博)

キッチンには冷蔵庫や炊飯器も。共用部は週2回の業者による清掃が入ります(写真撮影/片山貴博)

注目されている木造耐火建築、その街らしいテナント、シェアタイプの住戸と、通常の開発よりも手間と時間をかけて完成した「アーブル自由が丘」。それを実現したのは、オーナーさんと建築家さんの「よい街にしたい」「木とともに心地よく暮らしてほしい」という強い思いでした。

「シェアハウスとワンルームの混在」「共用スペース」「一階に店舗がある」「入居者がITエンジニア限定」「木造」など、この物件の魅力の感じ方は人それぞれでしょう。ただ、暮らしの多様性、生き方や地域への関わり方が増えていることは確かです。成熟した街・自由が丘に、今までにない木造の建物ができ、若い世代/才能がともに暮らす。街をよりすてき・魅力的にするような、そんな化学反応が起きるのではないでしょうか。

●取材協力
内海彩建築設計事務所 内海彩さん

不動産屋さんがなぜ米づくり?! 松戸のまちづくりで知られるomusubi不動産、コミュニティづくりは農業だ!

千葉県松戸市にある「omusubi不動産」。一般的な不動産会社は物件への入居希望者と物件をマッチングし、契約を結ぶところまでが仕事だが、同社の場合はむしろ契約してからがスタート。入居者や地域の人たちと一緒に田植えを行うなど、ユニークなアプローチでコミュニティづくりを行っている。
「お米づくりとコミュニティ形成は似ている」と言うomusubi不動産の殿塚建吾さん。その共通点やコミュニティづくりにおける具体的な仕掛け、また、10年にわたり関わり続けている千葉県松戸の街がどう変化してきたかなど、じっくりお話を伺った。

お米づくりはコミュニティの原点

――「omusubi不動産」では、物件の入居者や地域の人たちと田んぼを管理し「お米づくり(田植え、稲刈り)」などを行っています。まず、そもそもなぜお米づくりだったのか、経緯から教えてください。

殿塚建吾(以下、殿塚): うちは祖父の代から不動産会社(omusubi不動産とは別会社)を営んでいて、将来は自分も不動産業に関わるんだろうなと漠然と考えていました。一方、母方は農家だったこともあって、田舎での自給自足の暮らしにもなんとなく憧れを持っていたんです。

そこで、不動産業と田舎のライフスタイルを融合したような働き方ができないかと思い、2012年に「自給自足」をテーマにしたトークイベントやワークショップなどを行う「green drinks松戸」を立ち上げました。同時に、知人から紹介してもらった千葉県白井市にある田んぼで米づくりに挑戦してみることにしたんです。

omusubi不動産の殿塚建吾さん。幼稚園のころから松戸で育ち、新卒で中古マンションのリノベーション会社に就職。その後、企業のCSRプランナーを経て、房総半島にある古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候。2011年の東日本大震災を機に松戸へ戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」に参加。2014年、「omusubi不動産」を立ち上げる(写真撮影/松倉広治)

omusubi不動産の殿塚建吾さん。幼稚園のころから松戸で育ち、新卒で中古マンションのリノベーション会社に就職。その後、企業のCSRプランナーを経て、房総半島にある古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候。2011年の東日本大震災を機に松戸へ戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」に参加。2014年、「omusubi不動産」を立ち上げる(写真撮影/松倉広治)

――その後、2014年に「omusubi不動産」を立ち上げていますが、最初から入居者のみなさんと一緒に田んぼをやるつもりだったんでしょうか?

殿塚:いえ、当初はあくまで僕の個人的な活動として、地元の農家さんに手伝ってもらいながら田んぼをやるつもりでした。でも、たまたま田んぼに遊びにきた近所の人が家探しをしていて相談に乗ったり、逆にomusubi不動産で仲介した入居者さんが田んぼに興味を持ったりと、両方が結びつくようになっていって。次第に多くの人が田んぼに集まるようになりましたね。その時に、お米づくりってコミュニティをつくるのにすごく適しているんじゃないかと思ったんです。それから、会社のイベントとして参加者を募り、希望する入居者の方に田植えや稲刈りに参加してもらうようになりました。

千葉県白井市にある田んぼ。母方の祖父母の家からも近く、縁を感じたそう(画像提供/加藤甫)

千葉県白井市にある田んぼ。母方の祖父母の家からも近く、縁を感じたそう(画像提供/加藤甫)

――お米づくりのどんなところがコミュニティ形成に適していると思いますか?

殿塚:お米づくりは自然との戦いでもあります。人間一人きりでは、とても厳しい自然と対峙することはできません。田んぼをやっていると、自然相手には到底ひとりで生きるのは無理だろうなと嫌でも感じます。だから、大昔の先人たちも、みんなで力を合わせて田んぼを守り、お米をつくってきたのだと思います。

そういう意味では、米づくりはコミュニティの原点と言えるかもしれません。実際、「omusubi不動産」も田んぼを通じて入居者さん同士はもちろん、地域の方々も含めた豊かなコミュニケーションが生まれる、きっかけになっています。

空き家を「DIY可の賃貸」として貸し出し新京成線・みのり台駅から徒歩6分の「omusubi不動産」。omusubiの頭文字である「O」には、「Organic(食べもの、身につけるものの素材や人のつながりも有機的に)」「Old(古くても懐かしいもの)」「Ourselves(身の回りのことはできるだけ、自分自身で)」「Originality(それぞれの個性やオリジナリティを尊重すること)」。この4つの“Oを結ぶ”存在になりたいという意味が込められている(写真撮影/松倉広治)

新京成線・みのり台駅から徒歩6分の「omusubi不動産」。omusubiの頭文字である「O」には、「Organic(食べもの、身につけるものの素材や人のつながりも有機的に)」「Old(古くても懐かしいもの)」「Ourselves(身の回りのことはできるだけ、自分自身で)」「Originality(それぞれの個性やオリジナリティを尊重すること)」。この4つの“Oを結ぶ”存在になりたいという意味が込められている(写真撮影/松倉広治)

――omusubi不動産では、古民家やレトロな団地、空き家などを積極的に取り扱っています。古い建物の利活用に注目したのはどうしてでしょうか?

殿塚:祖父母の家が古民家のような造りだったこともあり、もともと古い建物に愛着がありました。それに、まだ使える空き家を取り壊し、新しく建て替えるのはもったいないと感じていたので、自分が不動産の世界に関わるなら既存の建物を活かしたいと思ったんです。新卒で中古マンションのリノベーション会社に入ったのも、それが動機ですね。

――既存の物件をそのまま貸し出すのではなく、「DIY可能」や「シェアOK」といった付加価値をつけているのも特徴ですよね。

殿塚:もちろん、こちらでリノベーションをして物件の魅力を高め、高い賃料で貸すという方法もあります。でも、それが通用するのって高額家賃でも借り手がつく都心部だけで、松戸のような場所だと賃料をそこまで上げることは難しいですよね。だったら、入居者さんご自身が自由に改修できる「DIY可能物件」として貸してしまえば、オーナーさんも改修コストがかかりませんし、入居者側も「自由に物件が使える」「安くDIYを始められる」など、双方にメリットがあるだろうと考えました。

実際に借りてくださっているのはデザイナーやイラストレーターなど、クリエイターの方が多いですね。他には、DIYに挑戦したい公務員の方などもいます。ちょっと変わったタイプの物件なので、それに共感してくれるユニークな感性を持った人が多いように思います。

――ちなみに、空き家はどう探していますか? また、そのオーナーとどうやって知り合うのでしょうか?

殿塚:改修費の負担が大きい古い建物って市場になかなか出てこないので、足で探すしかありませんでした。よさそうな建物を見つけたら、役所で所有者を調べてお電話したり、建物にお手紙を投函したりして、本当に地道な活動です。ただ、今では知り合ったオーナーさん側から所有物件のご相談をいただくこともありますし、月に100件以上は見つかるようになりました。なかには、これまで空き家を積極的に活用する気はなかったけど、「街が面白くなるならいいよ」と快く貸してくださるオーナーさんもいましたね。

居酒屋の廃業を機に、オーナーさんから預かった物件。今ではお蕎麦屋や革製品のアトリエが入居している(写真撮影/松倉広治)

居酒屋の廃業を機に、オーナーさんから預かった物件。今ではお蕎麦屋や革製品のアトリエが入居している(写真撮影/松倉広治)

――その結果、「DIY物件」の取り扱い数が日本一になったと。ちなみに、空き家を取り扱う上での苦労みたいなものはありますか?

殿塚:たとえば権利関係なども物件によりさまざまですし、空き家の場合は前オーナーの荷物や家具などがそのままになっていることもあります。一般的な賃貸物件のようにマニュアル通りに進められることはほとんどなく、個別に問題を解決していかなければいけないのは空き家ならではだと思いますね。

子どものころから憧れていた建物を再生

――住居以外にクリエイティブスペースも手がけられていますが、特に面白いのが「せんぱく工舎」です。古い社宅にクリエイターが集まるこのスペースは、どういう経緯で誕生したのでしょうか?

殿塚:ここは、もともと船の会社が持っている築60年の社宅でした。僕の母校の近くにあったので、学生の頃からカッコいい建物だなと思っていたんです。大人になり、松戸に戻ってきてから改めて見てもその印象は変わりませんでした。長く空き家でボロボロな状態ではありましたが、400平米もの大きなスケールの建物ですし、うまく活用できたら街のランドマークになるんじゃないかと。

そこで、オーナーである神戸の会社に手紙を出し、協議を重ねた結果、現在のような形で使わせてもらえることになったんです。

「せんぱく工舎」。改修中の部屋からは阪急ブレーブスのブーマーが満塁ホームラン打ったときの新聞が出てきたそう(画像提供/omusubi不動産)

「せんぱく工舎」。改修中の部屋からは阪急ブレーブスのブーマーが満塁ホームラン打ったときの新聞が出てきたそう(画像提供/omusubi不動産)

――改修はかなり大変だったのでは?

殿塚:外観は刷新しましたが、内部はDIY物件として貸す前提で、最低限の改修のみ行いました。そのぶん家賃を抑えて、入居者さんが好きに手を加えられるようにしています。余談ですが、改修する時って建物を布で囲うじゃないですか。なので、地域の人は布で囲われた様子を見て解体が始まったと思いきや、囲いが外されるやいなや綺麗な外観に生まれ変わっていてビックリされていましたよ。

オーナーとの交渉から2年後にオープン。1階にはカフェやスコーン屋、本屋、スペインバル、劇団の事務所、2階にはクリエイターの工房が入る(画像提供/omusubi不動産) 

オーナーとの交渉から2年後にオープン。1階にはカフェやスコーン屋、本屋、スペインバル、劇団の事務所、2階にはクリエイターの工房が入る(画像提供/omusubi不動産) 

――部屋数も多く、立地的にも満室にするのは大変だったと思います。どのように入居者を集めたのでしょうか?

殿塚:リノベーションしたとはいえ、古い建物には変わりません。なので、一般的なスペースとは異なることを理解してもらうために、完成前からSNSでの告知に力を入れたり、内覧ツアーを組んだりしていました。また、廊下を塗ったり、外にウッドデッキをつくったりするワークショップなども定期的に行い、みんなで協力しながら少しずつ街に開いていきました。そうした取り組みのなかからさまざまなつながりが生まれ、最終的には多くの人に借りていただくことができましたね。

――DIY賃貸物件の場合、特別な入居の審査はあるのでしょうか?

殿塚:「せんぱく工舎」は何かにチャレンジしたい人、叶えたい夢がある人の土台になる場所だったり、クリエイティブな活動を始めたい人の学校のような場所にしたいと考えていますので、そうした方々を迎えています。実際、面白い人が多いと感じますし、さまざまな才能が集まることによる化学反応みたいなものも生まれていますよ。

例えば、omusubi不動産の事務所がある「あかぎハイツ」に出店しているキッチンカーは、オーナーも車をデザインしたデザイナーも、ロゴを描いたイラストレーターも全て、「せんぱく工舎」の入居者だった方々です。業種もスキルもバラバラな入居者同士が新しいプロジェクトを生み出したり、退去後もつながって一緒に街で活動してくれるのは、とても嬉しいですね。それに、そうやって面白い人が一箇所に集まりコラボすることで様々な仕掛けが生まれ、街自体の魅力も高まっていくと思うんです。

――「せんぱく工舎」では街に開いたイベントも行っていますよね。

殿塚:月に一度の「ゆるっとオープンデー」というイベントでは、入居者同士がコラボ料理を開発したり、2階のクリエイターが個展を開いたりしています。また、以前は入居者さんの発案で生まれた「おもかじ祭」や「とりかじ祭」というイベントに紐づけて、街なかを巡るイベント「やはしら日々祭」を同時開催したこともあります。

1階のベルエンザイム、星子スコーン、せんぱくブックベース、エルアルカと、2階のTransMeatがコラボした「せんぱく弁当」(画像提供/omusubi不動産)

1階のベルエンザイム、星子スコーン、せんぱくブックベース、エルアルカと、2階のTransMeatがコラボした「せんぱく弁当」(画像提供/omusubi不動産)

――殿塚さんはそうした「せんぱく工舎」のイベントだけでなく、2018年からは国際芸術祭「科学と芸術の丘」の企画・運営にも携わっています。そうしたイベントや、これまでの活動の結果として、松戸の街自体が盛り上がってきたと感じますか?

松戸市で行われる「科学と芸術の丘」では国の重要文化財である「戸定邸」のほか、松雲亭、戸定が丘歴史公園にて、国内外のアーティストによる作品展示やトークイベント、ワークショップを開催(画像提供/加藤甫)

松戸市で行われる「科学と芸術の丘」では国の重要文化財である「戸定邸」のほか、松雲亭、戸定が丘歴史公園にて、国内外のアーティストによる作品展示やトークイベント、ワークショップを開催(画像提供/加藤甫)

今年は初年度のようにマルシェも開催予定とのこと(画像提供/加藤甫)

今年は初年度のようにマルシェも開催予定とのこと(画像提供/加藤甫)

殿塚:僕の活動の成果どうこうは置いておいて、松戸がどんどん面白くなっているのは間違いないですね。「せんぱく工舎」がオープンしたのと同時期に、シェアカフェがオープンしたり、都内にある有名な本屋がなぜか松戸に出店してきたりと、面白いお店が一気に増えています。

それに、数年前に比べて「この街で何かを始めたい」と考える人が増えたように感じます。以前は松戸で新しい試みを始める時には、まず我々に声がかかり、何かしらの形で関わることが多かったんです。でも、今は僕らと全く関係のないところで人が集まり、どんどん面白い動きが始まっている。街がイキイキと動き始めた感じがして、とても喜ばしいことだなと。

これまでのように僕らが声をあげて「松戸にきませんか?」「一緒に楽しいことしませんか?」と呼びかけなくても、まちの外の方から松戸を面白がって来てくれるようになったのは、大きな変化だと思います。

2020年には下北沢の「BONUS TRACK」でコワーキングスペースの運営。さらに昨年からは東急が手掛けている、学芸大学の高架下活用プロジェクトなど、松戸以外にも活動の幅を広げている(画像提供/加藤甫)

2020年には下北沢の「BONUS TRACK」でコワーキングスペースの運営。さらに昨年からは東急が手掛けている、学芸大学の高架下活用プロジェクトなど、松戸以外にも活動の幅を広げている(画像提供/加藤甫)

――不動産会社の枠を超え、どんどん活動の領域が広がっていますが、今後はどのようなことにチャレンジしていきますか?

殿塚:これから注力していきたいのは「人が集まって暮らすことの再構築」。つまり、コミュニティをリノベーションすることです。単に住居や活動の場所を用意するだけではなく、そこに住む人たちや集まる人たちが楽しく幸せに過ごせたり、そこで何かをやりたいクリエイターが力を発揮しやすい環境を整えること。もちろんこれまでにも取り組んできたことですが、より意識的に取り組んでいけたらと考えています。

(写真撮影/松倉広治)

(写真撮影/松倉広治)

――そして、お米づくりも続けていくと。

殿塚:そうですね。コミュニティーづくりって、田んぼへの向き合い方と似ていると思うんです。田んぼも、苗が育ちやすい環境を整備することがとても重要で、場づくりと全く同じですよね。管理する人がしっかり手をかけないと、良いコミュニティは育っていかない。お米づくりをしていると、改めてそのことに気付かされますね。そうした原点を忘れないためにも田んぼは今後も続けながら、コミュニティのリノベーションの事例を増やしていきたいです。

●取材協力
omusubi不動産

昭和レトロの木造賃貸が上池袋で人気沸騰! 住民や子どもが立ち寄れる憩いの場、喫茶店やオフィスにも活用 豊島区

東武東上線の北池袋駅(東京都豊島区)から徒歩10分ほどの場所で活動する「かみいけ木賃文化ネットワーク」。活動の中心は昭和に建築された3つの木造賃貸建築物。コミュニティづくりやアートワーク、オフィス、住居などに利用し、訪れる人や住まう人たちがゆるやかに活動をする繋がりをつくり上げています。
そのようななか、2022年1月に新たなスペースとして「喫茶売店メリー」をオープン。まちなかに住む人々とのつながりが変化したそうです。一体どのように変わったのでしょうか。

木造賃貸アパートをもっと面白く活用したい

巨大ターミナル駅・池袋駅の1つ隣にある、東武東上線の北池袋駅。周辺には低層住宅が所せましと並び、大都会である豊島区・池袋とは思えぬ穏やかな時間が流れます。駅から住宅街を10分ほど歩いていくと、昔ながらの木造の建物「山田荘」「くすのき荘」「北村荘」が見えてきます。戦後、「木賃(もくちん)」と呼ばれる、狭い木造賃貸アパートが多く建築されたこのまちで、ネットワークをつくりながら”木賃文化”を盛り上げているのは、「かみいけ木賃文化ネットワーク」を運営する、山本直さん・山田絵美さん夫妻。

実家である「山田荘」について、思いを話す山田絵美さん(写真撮影/片山貴博)

実家である「山田荘」について、思いを話す山田絵美さん(写真撮影/片山貴博)

「かみいけ木賃文化ネットワーク」は木造賃貸アパートをどう面白く活用するかを徹底的に考える活動。活動のきっかけは、山田さんが両親から受け継いだ「山田荘」でした。

「『山田荘』は、もともと私の実家が、賃貸アパートとして運営していた建物です。とはいえ、狭くて古い建物を住まいとして貸し続けることには限界があると感じていて。私が受け継ぐ時に、この建物を『もっと良く活用ができないものか』と考え始めたんです」(山田さん)

1979年築の木造賃貸アパート「山田荘」は、昔ながらの風呂なし・トイレ共同で、4畳半の部屋が並ぶ6室構成。随所に古き良き面影を残しながらも、綺麗にリフォームされています。入口では愛らしい人形がお出迎えする(写真撮影/片山貴博)

1979年築の木造賃貸アパート「山田荘」は、昔ながらの風呂なし・トイレ共同で、4畳半の部屋が並ぶ6室構成。随所に古き良き面影を残しながらも、綺麗にリフォームされています。入口では愛らしい人形がお出迎えする(写真撮影/片山貴博)

「山田荘もそうですが、かなり築年数の進んだ木造アパートなどは、現代の建物と比べると機能も足りてないところが多いんですよね……。風呂なし、トイレ共同、洗濯機置き場がないというのがおおむねスタンダードです。でも暮らしの全てを、自分の住むスペースでまかなうのではなく、まち全体を1つの『家』に見立てれば、いろんな暮らし方ができるんじゃない?と思うのです。台所がないなら食堂へ。お風呂がないならば、銭湯へ。アトリエがないならばガレージへ。庭がないならば公園へ――古き良き木造建築物を楽しんで生かし、”足りないことはまちなかで補い、まちの人や暮らしとゆるく繋がろう”ということを目指しています」(山田さん)

アーティストの拠点として、木造賃貸アパートの居室を利活用

こうした活動に至ったのは、山田さん自身が、豊島区内で実施していたアートイベントとの出合いも影響していたようです。2011年ごろから、東京都や豊島区は「としまアートステーション構想」という、地域資源を活かした「アート」につながる活動をする場づくりをしていました。その一環で山田荘のアパートの一部を、美術家である中崎透さんの滞在制作場所として提供しました。

アーティストなどに賃貸している山田荘1階の入口部分(写真撮影/片山貴博)

アーティストなどに賃貸している山田荘1階の入口部分(写真撮影/片山貴博)

「山田荘をプロジェクトで活用してもらえることはうれしかったですね。この建物は、古い木造建築物で、当時の建築基準法に沿ってつくられており、現行法では既存不適格です。そのため、これを壊すことなく同じ形で、建物そのものが持つ良さを文化として残したいという思いもあったので、これはチャンスだと感じました」(山田さん)

3つの拠点を行き来することで、新たな出会いと交流が生まれる

「山田荘」の、居住する以外の活用方法を通じて、おもしろさを実感した山本さん・山田さん。

「そうしたら、自然と空き物件が目に入るようになったんです(笑)」(山田さん)

その後、2016年に「山田荘」から徒歩5分ほどの位置にある「くすのき荘」を借り、2020年には「北村荘」を借りることとなりました。

運送会社が使用していた建物を改修した「くすのき荘」。右横にはくすのき公園があり、まるで庭のよう(写真撮影/片山貴博)

運送会社が使用していた建物を改修した「くすのき荘」。右横にはくすのき公園があり、まるで庭のよう(写真撮影/片山貴博)

運送会社の名残を残す「くすのき荘」は、1975年築の2階建て事務所兼住居建物です。隣にはくすのき公園があり、あたりには気持ちの心地の良い穏やかな時間が流れています。

運送会社時代に倉庫として使用されていた天井の高い1階スペースは、メンバー制のシェアアトリエとして利用。2階は、山本さん・山田さん夫妻の居住スペースのほか、メンバーのシェアリビング、シェアキッチンとしても開放。時折開かれるイベントには、近所に住むメンバー外の人も訪れることもあり、まさに「まちのリビング」として、思い思いの時間を過ごしています。

1階にあるメンバー制のシェアアトリエ。大学生がアート作品の制作をしたり、アーティストがワークショップを開いたりと、それぞれの活動を繰り広げている(写真撮影/片山貴博)

1階にあるメンバー制のシェアアトリエ。大学生がアート作品の制作をしたり、アーティストがワークショップを開いたりと、それぞれの活動を繰り広げている(写真撮影/片山貴博)

2階のシェアスペースは、勉強に使ってよし、食事してよし、と使い道は自由自在。時折イベントやワークショップも実施されている(写真撮影/片山貴博)

2階のシェアスペースは、勉強に使ってよし、食事してよし、と使い道は自由自在。時折イベントやワークショップも実施されている(写真撮影/片山貴博)

看板猫がのんびりと同居中(写真撮影/片山貴博)

看板猫がのんびりと同居中(写真撮影/片山貴博)

一方、2020年に活動開始した「北村荘」は一見すると一軒家のようですが、1階・2階にそれぞれ玄関があり、スペースが区切られている2階建ての木造賃貸アパート。1階は住人たちのコミュニティスペース、2階はシェアハウスになっています。

「1964年築のこの建物は、山田荘と同じく、旧耐震基準の建物です。やはり一度壊したら同じ形での再建築は不可です。私たちが山田荘に対して感じていたことと同じように、不動産屋さんからも『この建物を壊すことなく活かす方法を探している』と相談をいただき、引き受けることにしました」(山田さん)

その後、耐震改修を加え、内装をDIYで改装し、「北村荘」は再生されたのです。

「北村荘」への入口は昔ながらの細路地(写真撮影/片山貴博)

「北村荘」への入口は昔ながらの細路地(写真撮影/片山貴博)

1階のコミュニティスペース、2階のシェアハウス(居住スペース)にはそれぞれに別の玄関がある(写真撮影/片山貴博)

1階のコミュニティスペース、2階のシェアハウス(居住スペース)にはそれぞれに別の玄関がある(写真撮影/片山貴博)

DIYのワークショップを行いながら改装した「北村荘」1階のコミュニティスペース。”日常生活の中で探求する場”として研究活動や、ワークショップなどが行われている(写真撮影/片山貴博)

DIYのワークショップを行いながら改装した「北村荘」1階のコミュニティスペース。”日常生活の中で探求する場”として研究活動や、ワークショップなどが行われている(写真撮影/片山貴博)

「3つの建物は、コンセプトも用途も異なりますが、利用者は居住者やご近所さんだけでなく、遠方から”何か楽しい集まり”や”出会い”を期待して足繁く通う人もいます。また、それぞれの拠点を行き来する使い方もあります。そうすることで新たな出会いや交流が生まれますね」(山田さん)

コロナ禍で、半径500m圏内のご近所付き合いを実感

「開けたまちのスペース・まちの人同士をつなぐ場でありたい」という願いがありながらも、「メンバーシップ制」のため、どうしても仲間うちの閉じた活動になりやすいことが悩みだったそうです。

「活動をするメンバーは、”アート”をきっかけに興味を持った人のほか、豊島区近郊ではなく、首都圏内広くから、さらにはそれより遠方から通うクリエイターさんもいて。特に『くすのき荘』はガレージの奥が深く、常にオープンしていたわけではないので、近所の人たちからは『一体あそこで何をやっているのだろう?』と思われがちだったんです」(山本さん)

子どもが気軽に楽しめるようにと、駄菓子やおもちゃも販売(写真撮影/片山貴博)

子どもが気軽に楽しめるようにと、駄菓子やおもちゃも販売(写真撮影/片山貴博)

隣にあるくすのき公園で遊ぶ人も(写真撮影/片山貴博)

隣にあるくすのき公園で遊ぶ人も(写真撮影/片山貴博)

そんななか、2020年からのコロナ禍で状況が大きく変化しました。

区外の離れた場所からコミュニティスペースに通えなくなる人が増加した一方で、人々の活動範囲が狭められ、半径500m圏内の生活濃度が上がったのを実感したそうです。

これを機に、『くすのき荘』を、地域の人たちと繋がるためのもっと”開けた場”にし直そうと決意。いつでも誰でもふらっと足を運び、気軽におしゃべりしたり、交流する” 半径500m圏内の憩いの場”にするべく、リニューアルすることにしたのです。

特別な店ではない 日常の延長にある「喫茶売店メリー」をオープン

山本さんは、リニューアルにあたって「喫茶売店メリー」を設けることを決めます。

「喫茶というよりも、イメージは『公園にある売店』といった感じのものを考えていました。ガレージを開放した状態だと、隣にあるくすのき公園と地続きになり、自由に行き来ができる。そういうつくりにして、『喫茶売店メリー』が”街の一角である”ことをイメージさせたかったのです」(山本さん)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

正面の通りからも、ガレージ側からも購入ができる開放的なキッチンカウンター(写真撮影/片山貴博)

正面の通りからも、ガレージ側からも購入ができる開放的なキッチンカウンター(写真撮影/片山貴博)

やはり、まちの人にとって「こんな開放的な場所があるのね!」と知ってもらい、いつでも足を延ばしてほしい、という思いがあるゆえなのでしょう。

「このエリアにはお年を召した方も多く住んでいます。若い単身者や外国にルーツを持つ人も多く、まさに多種多様です。さまざまな人にとって魅力的に感じ、いつでも気軽に訪れることができるコンテンツは何か?と考えた結果、カフェという答えに行きつきました。でも僕自身は今までカフェなんてやったことなかったんですよ。だから本当にイチから勉強で、試行錯誤もいいところです(笑)。

最初はレシピやメニューをつくるにも、何からすればいいか分からなかったんです。なので、近所に住む台湾人の料理人のおじさんに教えてもらい、看板メニューであるルーローハンをつくったんですよ。おかげさまで彼はよく顔を出してくれます」(山本さん)

看板メニューのルーローハンとアイスコーヒー(写真撮影/片山貴博)

看板メニューのルーローハンとアイスコーヒー(写真撮影/片山貴博)

カフェを増築するにあたっては、山本さんと旧知の関係である建築事務所「チンドン」主宰、建築家の藤本綾さんが設計を担当しました。

設計を担当した藤本綾さん。施主である山本・山田さん夫妻の想いや願いを聞きながら一緒につくり上げていくことが新鮮かつ楽しかったそう(写真撮影/片山貴博)

設計を担当した藤本綾さん。施主である山本・山田さん夫妻の想いや願いを聞きながら一緒につくり上げていくことが新鮮かつ楽しかったそう(写真撮影/片山貴博)

「中をのぞけば楽しそうにしている方たちがたくさんいるのに、外部から中の様子が見えづらいことで、入りづらさを感じて。開放的な場所づくりを意識し、建物の大きな扉を開けるとコンパクトな売店が出現する設計にしました。テイクアウトで使えるような小さな窓口を設けることで、通りを歩く人との接点がつくりやすいようにしています」(藤本さん)

通りからフラッと入れる入口ゆえ、この日も台湾人のおじさんが顔を出す(写真撮影/片山貴博)

通りからフラッと入れる入口ゆえ、この日も台湾人のおじさんが顔を出す(写真撮影/片山貴博)

ゆるく交わるオープンスペースの連続性で、都心の街並みは変わる

2022年1月に「喫茶売店メリー」がオープンしてから、半年以上が経過。内輪感のある空気にひそかに頭を悩ませていた山田・山本さん夫妻は「顔ぶれに変化が生まれた」と話します。

開放的なガレージ部を利用した喫茶スペースに開店と同時に人が集う(写真撮影/片山貴博)

開放的なガレージ部を利用した喫茶スペースに開店と同時に人が集う(写真撮影/片山貴博)

「ワンちゃん連れのお客さんが散歩の途中でコーヒーを買ってくれたり、ベビーカーで赤ちゃんを連れたファミリーが公園に寄る途中で訪れてくれたりすることが増えましたね。あと、たまに小学生がフラっとガレージに紛れ込んでくるんです。何気なくベンチで休憩していて(笑)。そういうのが楽しいですよね。まちの居場所として思ってもらえているんだなと」(山本さん)

これまでに「かみいけ木賃文化ネットワーク」の活動にアドバイスしてきた、「まちを編集する出版社」千十一編集室の代表・編集者の影山裕樹さんは、今回「喫茶売店メリー」オープンに伴い、クラウドファンディングの立ち上げから、コピーライティング、コンセプトの考案などのディレクションに携わりました。その時のことを思い出しながら、こう話します。

まちのコミュニティについて研究を続ける影山さんは、「かみいけ木賃文化ネットワーク」を支える重要な存在の一人(写真撮影/片山貴博)

まちのコミュニティについて研究を続ける影山さんは、「かみいけ木賃文化ネットワーク」を支える重要な存在の一人(写真撮影/片山貴博)

「昔は、角のタバコ屋のようにちょっとした憩いの場ってありましたよね。いまでも都市公園にある、気の抜けた売店みたいな場所があり、そこに集う人々は飲食や休憩、遊具の購入などいろいろな目的を持って訪れています。ですが、現代の都市空間においては、経済合理性が優先され、お店の機能が限定されてしまっています。複数の機能を持ったゆるいスペースがなくなっているんです。そういう場所をつくりたかったので、今回のプロジェクトは渡りに船だなと感じました。また、東京の人たちは、自分の足元の半径500mのコミュニティとの繋がりがほとんどなく、せいぜいコンビニや居酒屋とかしか行かない。こうした狭い範囲で暮らす人が多様な人と関われる場所にもしたくて、”公園の売店のようなお店”だとか、”開けっぱなしの客席”というコンセプトにつながりました」(影山さん)

上池袋のまちを中心とした、「木賃文化」のことやご近所付き合いについても、続けてこう話します。

「このエリアは木造密集エリアとして知られ、火事などの災害に弱い反面、木貸アパートが持つゆるやかなご近所づきあいという、文化的遺伝子を持つエリアでもあります。都市開発において、木造賃貸アパートは次第に淘汰されていく運命ですが、高度成長期は地方都市からの上京組が、その時代を経て、日本へやってきた外国人や単身者が暮らし、家族とは違うコミュニティを形成してきました。こうしたご近所さんとのゆるやかなつながりを生み出す仕組みを、現代に引き継ぐというのが木賃アパートの価値だと思います。こうしたソフト面でのまちづくりは現代の東京に必要な視点だと思いますね」(影山さん)

くすのき荘オープン時に募ったクラウドファンディングのリターンの1つ、中崎透制作の看板たち。地域の応援でこの場所は支えられている(写真撮影/片山貴博)

くすのき荘オープン時に募ったクラウドファンディングのリターンの1つ、中崎透制作の看板たち。地域の応援でこの場所は支えられている(写真撮影/片山貴博)

「カフェができることによって、出入り自由のオープンな雰囲気がより強くなったと思います。こうした空気感のある中で生まれる小さなつながりが、徐々に広がっていくと、きっと住みやすい街になっていきそうですよね」(山本さん)

「かみいけ木賃文化ネットワーク」内にもたらされた、「喫茶売店メリー」オープンという変化は、都市のソーシャルな課題を解決するために多くの人に知ってほしい、”小さくも大きい出来事”だったのではないでしょうか。

●取材協力
・かみいけ木賃文化ネットワーク

生活保護を理由に入居差別。賃貸業界の負の解消に取り組む自立サポートセンター「もやい」の願い

長引くコロナ禍で、仕事を失ったり、家賃を支払えない人が増えています。また以前から、生活保護受給者を入居拒否する入居差別はありました。連帯保証人がいないなどの問題もあります。こういった生活困窮者の住まい探しのサポートを行っている自立生活サポートセンター・もやいに、生活困窮者の住まい探しの現状と入居支援などについて取材しました。

生活保護受給者の住まい探しは難しい。入居を希望しても断られる入居差別の実態コロナ禍で困窮が深まったため、2020年4月から臨時の相談会を開催。公的制度の利用のための支援や、宿泊費・生活費を提供するなどのサポートを行っている(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

コロナ禍で困窮が深まったため、2020年4月から臨時の相談会を開催。公的制度の利用のための支援や、宿泊費・生活費を提供するなどのサポートを行っている(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

自立生活サポートセンター・もやいの名前の由来は、「もやい結び」という船を港に係留するときや、登山や救助活動で安全を確保するときのロープの結び方を表す言葉です。“船と船をつなぎあわせること”“寄り添って共同でことをなすこと”という意味があり、「日本の貧困問題を社会的に解決する」という理念を表しています。2010年からもやいの活動に携わってきた理事長の大西連さんは、生活困窮者による問い合わせ件数がコロナ禍前に比べて1.5倍以上に増えているといいます。

メディアからのインタビューを受ける大西さん。2022年には、地方新聞46紙と共同通信社が選ぶ「地域再生大賞」の優秀賞にもやいが選ばれたが、「もやいが必要のない世界」を目指し発信を続けている(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

メディアからのインタビューを受ける大西さん。2022年には、地方新聞46紙と共同通信社が選ぶ「地域再生大賞」の優秀賞にもやいが選ばれたが、「もやいが必要のない世界」を目指し発信を続けている(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

生活困窮者とひとくくりにいっても、ネットカフェに泊まりながら派遣で働く若者や、パートナーのDVから避難してきた女性、低年金・無年金の高齢者などさまざまな人がいます。年代は、10代~70代と幅広く、男女比は6:4で男性が多いですが、年々女性の数も増えています。

「6000件/年の問い合わせには、『生活費が足りない』『仕事が見つからない』という生活に関する相談のほか『住むところが見つからない』という住まいに関する困りごとも寄せられます。賃貸住宅に入居を希望する場合、入居審査を受ける必要があります。もやいの設立当初、審査で重要視されていたのは、収入や支払い能力のある連帯保証人がいること。ホームレスで仕事がなかったり、連帯保証人が見つけられないと、審査に通りませんでした。近年では保証会社の利用が一般的なので連帯保証人は必須ではありませんが、親族等の緊急連絡先が必要です。緊急連絡先は連帯保証人とは異なり法的な責任を問われるものではありませんが、依頼できる先が見つからず物件申込ができないという相談は多く寄せられます。入居を希望しても、生活保護だからという理由で断られる入居差別もあります」(大西さん)

連帯保証人を引き受けるなど、生活困窮者の住まい探しをサポート

設立当初、野宿者支援を行うなかで、連帯保証人を見つけられず賃貸住宅に入居できない問題に直面したもやいは、連帯保証人を引き受ける入居支援「もやい保証」の取り組みをはじめました。今までに、もやいが連帯保証人になったのは、延べ2400世帯。宅建免許を取得した2018年以降は、仲介を行う「住まい結び」で生活困窮者の住まい探しをサポートしてきました。

入居支援チーム。左から川岸夕子さん、東あさかさん、伊藤かおりさん。入居者、大家さん、管理会社、それぞれの利害を調整しながら、支援の形を模索している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

入居支援チーム。左から川岸夕子さん、東あさかさん、伊藤かおりさん。入居者、大家さん、管理会社、それぞれの利害を調整しながら、支援の形を模索している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

全体の問い合わせのうち、住まいが見つからない相談者に対し、身分証や携帯電話がない場合の取得方法、収入がなくて家賃が払えない場合の生活保護の利用についてアドバイスしています。

仲介担当の東あさかさんは、入居差別があるなかで住まいを探す厳しさを実感しています。

「生活相談後に希望があれば、不動産情報サイトを使って物件を調べ、不動産会社に問い合わせをします。生活保護を利用している方だと伝えると、当初は7割断られる状況でした。『生活保護相談可』という物件でも『受給理由』によるというケースは多く、精神障害のある方は断られることが多いという二重の差別もあります。入居拒否の理由はさまざまですが、『無職だと生活サイクルがほかの居住者と合わない』と心配される大家さんもいます。明確な理由はなく『トラブルを起こすのでは』という先入観もあるようです。一般の人が、さまざまな不動産情報サイトにアクセスし、自分で住まいを選べるのに対し、生活困窮者の選択肢はとても少ないのです」(東さん)

都営住宅や市営住宅など公的な住宅は老朽化していたり供給戸数が限られており、エリアによっては選択肢にならない場合も多いのです。行政は、生活困窮者向けの居住支援として、住宅セーフティネット制度を2017年にスタート。高齢者、障害者、子育て世帯など住宅の確保に配慮が必要な人が今後増加すると見込み、民間の空き家・空き室を活用して供給を促す取り組みです。「セーフティネット住宅情報提供システム」から誰でも検索できるようになっています。さらに2021年7月には、住むところに不安を抱えている人の相談窓口「すまこま。」のサイトがオープン。最近では、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(通称:住宅セーフティネット法)に基づき、都道府県が指定した団体(居住支援法人)が居住支援を行えるようになりました。

もやいでは、2017年から毎年、厚生労働省に対して、「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望書」を提出している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

もやいでは、2017年から毎年、厚生労働省に対して、「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望」書を提出している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

「社会的意識の高まりという面での前進はあると思いますが、『セーフティネット住宅情報提供システム』は、登録件数も少なく相談現場での現実的な選択肢にはなりません。『すまこま。』は、電話・メールなどからの相談を受けて、最寄りの該当窓口へつなぐもの。仲介は行っていません。生活保護の住宅扶助内では、新宿区や千代田区など家賃が高いエリアで物件探しが難しい実態もあります」(東さん)

生活困窮者に向けた居住支援は少しずつ広がりを見せていますが、まだ課題が山積みです。

「制度があっても現実に即していない場合があるのです。住宅確保給付金は、離職・廃業や所得の減少が受給条件の一つとなっているので、慢性的貧困に陥っているワーキングプアは使えません。月々の家賃の支払い能力があっても、転居のための初期費用が用意できず、やむなくネットカフェ暮らしをしている人もいます。公的補助による転居支援が必要とされています」(大西さん)

サロンや誰でも入れる互助会「もやい結びの会」を運営。孤立しがちな生活困窮者を息の長い支援で支えるもやいの事務所内で、誰でも立ち寄れる交流サロン「サロン・ド・カフェ こもれび」を運営(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

もやいの事務所内で、誰でも立ち寄れる交流サロン「サロン・ド・カフェ こもれび」を運営(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

週替わりランチ・おやつ、飲み物を提供していた。現在はコロナ禍での活動を模索中(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

週替わりランチ・おやつ、飲み物を提供していた。現在はコロナ禍での活動を模索中(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

もやいでは、新たな取り組みとして、2020年に、住居がない人のためにシェルターの運営を開始。アパート型のシェルターに住民票をおいてマイナンバーカードなどの身分証明書を取得するなど態勢を整えた上で、賃貸住宅に移ってもらおうというものです。

期間限定のモデル事業としてスタートした「もやいシェルター」だが、コロナ禍で困窮が深まったと判断し、2022年度も継続している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

期間限定のモデル事業としてスタートした「もやいシェルター」だが、コロナ禍で困窮が深まったと判断し、2022年度も継続している(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

保証人の担当をしている伊藤かおりさんは、「相談者との付き合いは、入居後の方が長い」と言います。

「不動産会社とトラブルがあれば間に入って対応をしています。入居しても、その後、孤立してしまう相談者もいますので、契約更新時には面談をするなどコミュニケーションを図っています。バースデーカードや年賀状、年4回の会報も郵送しています。会報には、切手不要のハガキを添え、近況を返信してもらえるよう工夫しています。コロナ禍に送ったお米には感謝の声が寄せられました」(伊藤さん)

「助けられるだけでなく、もやいの活動に参画するひとり」だと感じてほしいと、連帯保証人・緊急連絡先の引き受けを行った相談者は、すべて、『もやい結びの会』という互助会に属しています。もやいの事務所を開放した『サロン・ド・カフェ こもれび』や農業活動も行ってきました。今後、コロナ禍での交流をどうしていくか検討を進めています」

2021年4月にはじまった「もやい畑@藤沢」。藤沢市と協働して行っている。2021年度の開催回数は53回、延べ390名が参加。畑づくりをきっかけに新たな目標を見つける参加者も(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

2021年4月にはじまった「もやい畑@藤沢」。藤沢市と協働して行っている。2021年度の開催回数は53回、延べ390名が参加。畑づくりをきっかけに新たな目標を見つける参加者も(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

「もやい畑@藤沢」で収穫したじゃがいも。休憩時間は、持ち帰った野菜の食べ方などの会話で盛り上がる(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

「もやい畑@藤沢」で収穫したじゃがいも。休憩時間は、持ち帰った野菜の食べ方などの会話で盛り上がる(画像提供/自立生活サポートセンター・もやい)

「サロンや農業は自由参加です。ゆるく長く見守り続けるのがもやい流。『ここに来れば安心できる居場所があるんだ』と思ってもらえたら」と大西さん。

生活困窮者は遠い存在ではなく、身近に困っている人がいるかもしれません。「生活保護に先入観のある人も、知らずに出会っていたら、その人に違った印象を持ったでしょう。一面だけで判断しないでほしいのです」という東さんのメッセージが心に残っています。皆が安心して住めるように、関心を持ち続け、自分の意識から変えていくことが大切だと感じました。

●取材協力
・自立生活サポートセンター・もやい

地元の北本団地が高齢化。生まれ育った子どもたちが住居付き店舗をジャズが流れるコミュニティスペースに 埼玉県

総戸数2000戸を超える巨大な団地「北本団地」(埼玉県北本市)。しかし、高齢化や少子化に伴って入居数は年々減り、団地中心部の商店街もシャッター通りと化していた。そこで2021年に発足したのが「北本団地活性化プロジェクト」だ。北本団地出身・在住のまちづくりチーム「暮らしの編集室」を主体に、北本市・良品計画・MUJIHOUSE・UR都市機構の5者が連携し、団地の活性化に取り組んできた。

どうにかして“ふるさとの団地”と関わりたかった

その最初の取り組みが、団地内にある商店街の活性化だ。商店街にある20の建物は全てが住居付店舗(1階店舗、2階住宅)になっているが、その一つをジャズが流れるコミュニティスペース「中庭」として再生。1階は「暮らしの編集室」が改装し、2階の住居部分はMUJIHOUSEとUR都市機構がリノベーションした。なお、2階部分には中庭を運営する夫妻が暮らしている。商店街の住居付店舗を再生し、そこに住みながら地域活性化に取り組むという、全国的にも珍しい試み。その背景や目的、これからについて「暮らしの編集室」メンバーの江澤勇介さん、岡野高志さんに伺った。

「暮らしの編集室」のメンバー江澤勇介さん(左)と岡野高志さん(右)。2人は中学校の同級生(写真撮影/松倉広治)

「暮らしの編集室」のメンバー江澤勇介さん(左)と岡野高志さん(右)。2人は中学校の同級生(写真撮影/松倉広治)

――2021年にスタートした「北本団地活性化プロジェクト」ですが、その主体である「暮らしの編集室」設立の経緯から教えてください。

岡野高志(以下、岡野):私は北本市の観光協会に勤めているのですが、2019年に埼玉県と北本市から「街を活性化するために、商店街や中心市街地で何かできないか」と相談を受けました。そこで、まずは北本駅前周辺にある空き店舗を活用して何かを始めようと考え、地元の友人だったカメラマンの江澤と建築家の若山に声をかけ「暮らしの編集室」を立ち上げたんです。

江澤勇介(以下、江澤):暮らしの編集室のコンセプトは、地元・北本に暮らしながら楽しめる街をつくっていくこと。北本市って典型的な郊外のベッドタウンで、手付かずの自然や田畑のほかには「何もない街」なんです。でも、何もないからこそ、何か新しいことをやるためのフィールドや余白が残っていると思いました。

――まずは、どんな活動からスタートしましたか?

岡野:はじめは、「市民がチャレンジできる場所」をつくりたいと思い、「暮らしの編集室」の拠点を兼ね、1日からレンタルできるシェアキッチン「ケルン」をつくりました。立ち上げから2年半が経ちますが、延べ35組の方々にご利用いただき、現在は1カ月のうち平均20日くらいは稼働しており、地元野菜を使った、さまざまな美味しい料理が食べられる場になっていますよ。

「暮らしの編集室」の拠点でもある「ケルン」(画像提供/暮らしの編集室)

「暮らしの編集室」の拠点でもある「ケルン」(画像提供/暮らしの編集室)

――その後、2021年には「北本団地活性化プロジェクト」を発足させていますが、そもそも北本団地に目を向けた理由というのは?

江澤:北本団地は僕が生まれ育った場所なんです。団地を出た後も「団地祭」という夏祭りには毎年訪れていたのですが、年々衰退していくのを目の当たりにしてきました。とはいえ、自分も今は住んでいないし、関わりしろもない。仕方ないと思いつつも、団地内の商店街がシャッター通りになったままなのは寂しくて。地元の同級生とも「どうにかしたいね」と話していたんです。

岡野:私も団地には7年ほど住んでいます。北本団地は北本町が市になった1971年に完成し、総戸数2000戸を超える巨大な団地として注目を集めました。しかし、次第に高齢化が進み、団地内の商店街の店舗も少しずつシャッターを下ろすようになっていったんです。2021年3月には、団地の子どもたちが通うためにつくられた小学校も閉校してしまいました。

北本駅から車で15分の北本団地商店街(写真撮影/松倉広治)

北本駅から車で15分の北本団地商店街(写真撮影/松倉広治)

江澤:僕も岡野も昔の活気ある商店街の風景を覚えているだけに、非常に寂しい気持ちでした。そして、せっかく「暮らしの編集室」をつくったのだから、北本団地の空き店舗を活用して何かできないかと考えたんです。それから、「ケルン」の運営と並行して、その可能性を模索するようになりました。

――まずは「ケルン」と同様に、自分たちで北本団地の空き店舗を借りたと伺いました。

岡野:そうですね。そこは「ケルン」の成功体験が大きかったと思います。一般的なお店ではなく、ケルンのシェアキッチンのような入り口があれば、その場所を使いたい人が集まってくる。そして、そのコミュニティをきっかけにさまざまな展開が起こる流れを体験していたので、団地でも同じことができるのではないかと考えました。

団地活性化のカギは「住居付店舗の再生」

――「北本団地活性化プロジェクト」には「暮らしの編集室」に加え、北本市・良品計画・MUJIHOUSE・UR都市機構が参加しています。連携することになった経緯を教えてください。

岡野:もともと、北本市とは地域づくりの事業を進めてきた実績がありました。また、良品計画には私の知人がいて、北本団地についても相談していたんです。良品計画も団地の活性化には課題感を持っていて、これから団地や商店街に活気を呼び起こすには「住宅付店舗」(1階が店舗、2階が住宅)のような、職住隣接の暮らし方がキーになるということでした。ぜひ北本団地でも敷地内の商店街にある既存の住居付店舗を積極的に活用したいと考え、団地を管理するUR都市機構へ提案しにいきました。

北本団地(画像提供/暮らしの編集室)

北本団地(画像提供/暮らしの編集室)

シャッター商店街となっていた北本団地(写真撮影/松倉広治)

シャッター商店街となっていた北本団地(写真撮影/松倉広治)

――それが採択され、大きなプロジェクトへ発展していったわけですね。プロジェクトのなかで「暮らしの編集室」はどんな役割を担っているのでしょうか?

江澤:僕らは現場でプロジェクトを主導するプレイヤーですね。街づくりでありがちなのは、支援者は多いのに、実際にそこで何かをやる人、現場を動かす人がいないことです。特に少子高齢化が進んでいる団地はネガティブなものとして捉えられ、進んでやりたがる人は多くありません。でも、ここは僕らの地元ですし、発起人としての責任もある。そこで、「暮らしの編集室」のメンバーが実際に現場で動くプレイヤーとなり、北本市・良品計画・MUJIHOUSE・UR都市機構にバックアップしてもらう体制をとっています。

――では、「住宅付店舗」を再生させる取り組みを進めるにあたり、最初に何から始めたのでしょうか?

岡野:「きたもと未来会議」というワークショップを開きました。「団地の活性化」とか「街の未来」といっても漠然としているし、描くものは人によって違うじゃないですか。ですから、まずはみんなが「この場所をどうしたいか」について話し合い、共通言語をつくる必要があると考えたんです。会議には団地の自治会の人、商店街の人、UR都市機構の人、地元の友人などを招き、団地や街に対する思いをぶつけてもらいました。

江澤:従来の団地の自治会でも会議は行われていましたが、これまではそこで出た住民の要望をUR都市機構に伝えるだけでした。でも、今は自治会とUR都市機構、そして僕たちも含めたプロジェクトのメンバーがともに顔を付き合わせて、団地の未来について考えています。直接コミュニケーションをとることでアイデア出しや意見交換も活発に行われるようになり、例えば自治会からはコロナ禍で2年間開催できていない「団地祭」についての相談が出たり、UR都市機構からは「団地の広場を防災のために活用してはどうか」という提案が出たりしています。

「きたもと未来会議」の様子(画像提供/暮らしの編集室)

「きたもと未来会議」の様子(画像提供/暮らしの編集室)

――みんなで一丸となって「団地や暮らしを良くしていこう」という気概が感じられますね。

岡野:もちろん、それまでにも多くの人が良くしようという気持ちは抱いていたと思います。でも、それがうまく形にできていなかったし、そもそも思いをぶつけられる場がなかった。「暮らしの編集室」では“コミュニケーションを軸とした編集”を基本にしています。だから、みんながフラットに話せる場はとても重要なんです。

――今回の住居付店舗再生の取り組みにあたって苦労した点はありますか? 5者が連携するとなると、足並みをそろえるのも大変だと思うのですが。

江澤:みなさん同じ目線で考えてくださったので、その部分での苦労はありませんでした。しいて言えば、資金繰りですね。「住宅付店舗」を再生させる上で、2階の住宅部分はMUJI×URで改装を行い、1階の店舗部分は「暮らしの編集室」が改装を行ったのですが、僕たちは資金力が豊富にあるわけではありませんでしたから。

岡野:改装には初期投資だけで約350万円かかったんですが、その資金集めはかなり大変でしたね。ふるさと納税型クラウドファンディングで200万円は集まりましたが、足りない部分は会社からの持ち出しによって工面しました。

――どこまで自分たちで改修されたんですか?

江澤:入り口の建具、水回り、電気は工務店にお願いしましたが、その他は自分たちで改修しています。UR都市機構はスケルトン貸し、スケルトン返しが基本なので、例えば天井のほこり留めは塗り直したものの、色はもとのままです。あとは、棚やカウンター、入り口の壁などもDIYしました。

1階部分を改修(画像提供/暮らしの編集室)

1階部分を改修(画像提供/暮らしの編集室)

「一緒に面白がれる人」に住んでほしかった

――そこに住む人はどう選定しましたか?

岡野:実は、そこが一番のネックでした。プロジェクトは順調に進み1階を「飲食を軸とした交流スペース」にすることまで決定していたものの、肝心の「誰に住んでもらうか」というところが、なかなか決まらなかったんです。初めての試みだけにどういう形になるか分からなかったし、「誰でもいいから住んでほしい」という類いのものでもない。できれば、私たちと一緒にこの場所を“面白がれる”人に来てほしいと思い、慎重に候補を探していました。

江澤:最終的には、僕の知人である落合夫妻が住んでくれることになりました。1階はただのお店ではなく「みんなの居場所」になるようなスペースにしたいと考えていたところ、夫がジャズミュージシャン、妻が喫茶店を営む落合夫妻が「それならジャズ喫茶をやってみたい」と言ってくれたんです。それで、西荻窪(東京)から引っ越していただき、2021年の5月末に「ジャズ喫茶 中庭」がオープンしました。

北本団地「住宅付店舗」の第一号でもある「ジャズ喫茶 中庭」(写真撮影/松倉広治)

北本団地「住宅付店舗」の第一号でもある「ジャズ喫茶 中庭」(写真撮影/松倉広治)

妻のカナコさんは喫茶店を営みながら、縫い物のワークショップを開いている(写真撮影/松倉広治)

妻のカナコさんは喫茶店を営みながら、縫い物のワークショップを開いている(写真撮影/松倉広治)

――当初の狙い通り、人が集まる場になっていますか?

江澤:そうですね。現在では落合夫妻だけでなく、地元の人が投げ銭ライブを開催したり、週一でジャズライブを行ったりしています。毎回ライブに来ているお客さんもいて「中庭でのライブ鑑賞が私の趣味になった」と楽しんでくれていますよ。

岡野:お店の1周年記念の時には自治会の人が街宣車を出して、「本日は中庭が1周年です」と告知して回ってくれたんです。「こういうことは、ちゃんと言わなきゃダメだよ」って。自治会のみなさんには本当にいろいろと協力していただいて、感謝しきれません。

グランドピアノ、レコード、オーディオなどは落合夫妻の知人から譲り受けたものだそう。また、店内で使用している中華椅子は以前この商店街で49年営んでいた「大盛食堂」のもの。いろんなものが混在しているのが面白いと2人は語る(写真撮影/松倉広治)

グランドピアノ、レコード、オーディオなどは落合夫妻の知人から譲り受けたものだそう。また、店内で使用している中華椅子は以前この商店街で49年営んでいた「大盛食堂」のもの。いろんなものが混在しているのが面白いと2人は語る(写真撮影/松倉広治)

地域のお客さんからのプレゼント(写真撮影/松倉広治)

地域のお客さんからのプレゼント(写真撮影/松倉広治)

「ジャズ喫茶 中庭」を営みつつ、2階で暮らす落合さん。住み心地については「とても良いです。長く住む方々からの視線は感じますが『面白いことをやっているな!』と来てくださる方も多いので救われています。まだまだこれからですが、徐々になじんできていると思います」と話す(写真撮影/松倉広治)

「ジャズ喫茶 中庭」を営みつつ、2階で暮らす落合さん。住み心地については「とても良いです。長く住む方々からの視線は感じますが『面白いことをやっているな!』と来てくださる方も多いので救われています。まだまだこれからですが、徐々になじんできていると思います」と話す(写真撮影/松倉広治)

江澤:正直、団地の人たちとの関わり方は大変だと思います。でも、この2人だからうまくやれていると感じますし、こちらとしても非常に助かっています。実は一度、生音を出した際にクレームが入り、シャッターに生卵をぶつけられたこともあったんですよ。でも、落合夫婦は自粛するのではなく「調整しよう」って言うんです。やりたいことはやりながらも、もしヤダと言われたら折衝していく。疲れるけれど、この場所で新しいことを受け入れてもらうためには欠かせないことなのかなと思います。

「郊外団地」再活性化のモデルケースに

――現在、商店街に「住居付店舗」は20戸あるということですが、他の建物も「中庭」のように再生していくのでしょうか?

「商店街だけでなく、団地にも人が入るサイクルも考えていきたい」と岡野さん(写真撮影/松倉広治)

「商店街だけでなく、団地にも人が入るサイクルも考えていきたい」と岡野さん(写真撮影/松倉広治)

岡野:そうですね。現在、1階のテナント部分にはスーパーや接骨院、診療所などが入っていますが、2階に暮らしながら運営しているのは「中庭」だけです。せっかくの住居付店舗ですから、やはりそこに暮らしながら地域を盛り上げてくれる人を増やしていきたいと思っています。また、今年5月には同じ商店街内に「まちの工作室 てと」がオープンし、2階部分をシェアアトリエとして活用しています。今までとは異なる、新たな商店街の使い方が広がると、もっと面白くなっていくんじゃないでしょうか。

江澤:「まちの工作室 てと」は、もともとケルンで展示販売をやってくれていた作家さんが、ギャラリー兼シェアアトリエが欲しいということでスタートしました。他にも、この商店街へ遊びに来て「私たちも借りたい」と言ってくれる方は多いので、今後も増やしていきたいですね。

「まちの工作室 てと」。羊毛の手芸家、洋裁師、天然石とビーズでアクセサリーデザイナーの3人の女性が入居

「まちの工作室 てと」。羊毛の手芸家、洋裁師、天然石とビーズでアクセサリーデザイナーの3人の女性が入居

「てと」でワークショップ終わりに「中庭」でランチする人は珍しくないそう(画像提供/暮らしの編集室)

「てと」でワークショップ終わりに「中庭」でランチする人は珍しくないそう(画像提供/暮らしの編集室)

岡野:実は今、「多肉植物と陶芸のお店を開きたい」という人と交渉中です。私たちには想像もつかない活用法ですが、こうして商店街を訪れる人が「こんなふうに使いたい」と可能性を見いだしてくれるのは、とても面白いですし、いい傾向だと思います。

江澤:また、「中庭」でも空いている日はシェアキッチンとして貸し出しを行っています。この間は川越(埼玉)の台湾料理店が借りてくれましたし、お店を持っていない人たちも間借りなら気軽にトライできる。これまでに例えば、お弁当屋さん、タップダンス教室、坊主カフェなど、いろんなお店が開かれましたよ。あとは、社会福祉協議会の方々と一緒に手話で注文できるカフェも月に1回オープンしています。手話を使う人って、注文の手間だったり、周囲の目線など一般的なお店に入るのを躊躇するそうなんです。それもあってか、毎回大盛況で外に人があふれていますね。

(画像提供/暮らしの編集室)

(画像提供/暮らしの編集室)

岡野:ほかにも、ピザのキッチンカーが来たり、JAが野菜を売りに来たりしています。実は、キッチンカーは団地出身の人がやってくれているんですよ。この場所なら、採算を度外視してでも毎月出たいと言ってくださっています。私たちがそうだったように、なんとかこの思い出の場所に関わりたいという人たちは意外と多いのだと思います。だから、関わりしろさえあれば惜しみなく協力してくれる。クラウドファンディングをやった時も、北本団地ではないですが「昔、団地に住んでいました」という支援者からのコメントが多かったですし、団地って愛着がわきやすいんでしょうね。

(画像提供/暮らしの編集室)

(画像提供/暮らしの編集室)

(画像提供/暮らしの編集室)

(画像提供/暮らしの編集室)

――それにしても、決して利便性が高いとはいえない団地に、これだけ多くの人が関わりたいと思っているというのは意外でした。

江澤:そうですね。実際、これまでのMUJI×URのプロジェクトも都内近郊で、都心に通うような人たちをターゲットにしてきたところがあると思います。一方で、北本団地のような場所って言い方は悪いですが、「中途半端な郊外」なんですよね。だけど、日本中にはそんな「中途半端な郊外」の団地の方が多いんじゃないでしょうか。今まで放って置かれがちだった「中途半端な郊外」の団地に、思いを持つ人が集まり再生の道を探るというのは、これまでになかったこと。新しい郊外団地の在り方として、可能性を示していけたらいいですね。

「今後、団地に住んでいたころに感じた“楽しい”と思える場所の選択肢を増やしていきたい」と江澤さん(写真撮影/松倉広治)

「今後、団地に住んでいたころに感じた“楽しい”と思える場所の選択肢を増やしていきたい」と江澤さん(写真撮影/松倉広治)

●取材協力
暮らしの編集室

外国人は家賃滞納ナシでも入居NGが賃貸の実態。積極受け入れで入居率100%のスーパー大家・田丸さんの正攻法

高齢者や障がい者、シングルでの子育て世帯など、さまざまな事情で住まいが借りにくい人のことを「住宅弱者」「要配慮者」といいますが、「外国人」もそんな不動産が借りにくい「住宅弱者」にあたります。一般に「大家が敬遠する」と言われますが、積極的に外国人を受け入れている大家・不動産管理会社もいます。その内の一人、東京都杉並区で不動産管理業を営む田丸賢一さんにリアルな事情を伺いました。

増え続ける在留外国人。部屋探しでは門前払いされることも

コンビニや建設現場、100円ショップ、飲食店などで、外国出身と思しき人を見かけることが増えました。筆者は横浜市在住ですが、子どもの通う小学校や習いごとの風景を見ても、多国籍だなと痛感します。実際、統計データでは外国人居留者はコロナ前の令和2年度は約288万人(※2020年6月時点。出入国在留管理庁より)、令和3年末でも276万635人と、日本の人口が減り続けるなか、「もはや外国人の手がなければ日本社会は成り立たないのでは」と感じている人もいることでしょう。

ただ、SUUMOジャーナルでもたびたびご紹介してきましたが、外国人は生活の基盤である住まいが借りにくいことで知られています。そんな中、10数年以上前から外国人を積極的に受け入れ、自社の物件は切れ目なく満室を維持し、入居率100%を続けているのが、東京都杉並区にある株式会社田丸ビルの田丸賢一さんです。2021年11月、外国人との不動産契約やそのノウハウを一冊にまとめた『「入居率100%」を実現する「外国人大歓迎」の賃貸経営』(現代書林)を上梓しました。まずは外国人に部屋を貸し出すようになった経緯から伺いましょう。

「弊社は不動産賃貸業と不動産管理業を行っており、私はその3代目です。創業者がもともと困っている人に家を貸そうという人で、昔の書類を見ても日系外国人を受け入れてきた経緯がありました。そのため、私が会社を引き継いだときにも、外国人に部屋を貸すのは自然な流れでした」(田丸さん、以下同)
ただ、田丸さんによると、部屋を借りたいと不動産会社を訪れても、外国人というだけでおよそ2人に1人は拒否されてしまうといい、令和の今でも門前払いは珍しいことではないそう。

田丸賢一さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

田丸賢一さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「以前、外国人に部屋を貸し出した際に汚されたり、部屋の扱いが悪かったといったトラブルがあり、もうコリゴリというケースが多いように思います。個人が悪いのか、契約に問題があったのか、原因はさまざまなんですが、入居前や入居後のコミュニケーションや説明をていねいに行うことで回避できるケースが多いんです」

ではどのようなトラブルがあり、田丸さんはどのような方法で回避しているのか、その内容を聞いていきましょう。

生活音とゴミの仕分け、入居者が増えた!が3大問題

まず、大前提として、外国人の多くがトラブルを起こしたくないと考えているといいます。

「外国人といっても出身国や年齢、収入、背景もさまざまですが、多くが就労目的で日本に来るわけで、日本社会に溶け込み、日本の常識にあわせて暮らしたいと願っています。なぜなら、彼らが一番恐れているのが国外退去処分だから。日本で得た収入から母国に仕送りをしたいので、トラブルを起こして強制送還されるのは避けたいんですよ。だから家賃の滞納のような問題行動はまずありません」

田丸さんの会社で契約した外国人には、真面目で礼儀正しく、お中元やお歳暮、帰国時のお土産などを欠かさないという人も少なくないそう。一方で、文化や風習の違い、コミュニケーション不足から、今までトラブルにも多数、直面してきました。

「”生活音がうるさい、ゴミの仕分けができていない、入居者が増えた”が3大問題でしょうか。まず、生活音がうるさいというのも、よくよく調査すると、外国人が住んでいる部屋が原因ではなく、実は他の部屋が発生源だったというケースも多いんです。これは外国人に限りませんが、生活音の問題はとてもデリケート。だからこそ管理会社がすぐに動いて、ていねいに聞き取りをして、コミュニケーションをとることが大切なんです」

外国人に限らず、集合住宅で生活音の問題は避けて通れません。外国人の入居者がいればなおのこと目立つため、先入観で「あの部屋に違いない」と決めつけた苦情がくるのだそうです。入居者の間にたつ管理会社がすばやくていねいに対応して誤解を解くことで、外国人への偏見が少なくなり、お互い快適に暮らせるのだといいます。

また、ゴミの仕分けは、自治体から配布される「母国語」のパンフレットを必ず渡し、ていねいに説明しているといいます。

杉並区のゴミの仕分けのページは多言語で対応している(杉並区ホームページより)

杉並区のゴミの仕分けのページは多言語で対応している(杉並区ホームページより)

こちらは横浜市のゴミの仕分けのページ。ベトナム語、フィリピン語、ネパール語などの言語もカバーしている(横浜市ホームページより)

こちらは横浜市のゴミの仕分けのページ。ベトナム語、フィリピン語、ネパール語などの言語もカバーしている(横浜市ホームページより)

「ポイントは母国語です。日本人は外国人というと英語で対応しがちですが、それだと通じない。大切なのはその人の出身国の言葉で話し、理解をしてもらうこと。場合によっては通訳をいれたりして、お互いの不安や不信感がないように説明、納得、理解、契約、書類にサインしてもらうことなんです」

田丸さんはゴミの分別だけでなく、基本的に入居希望者の母国語を用いて「説明、納得、理解、契約」という段階を踏んでいるのだそう。ゴミを分別すること自体が母国の習慣になく、戸惑う人も多いそうですが、きちんと説明することで協力してくれる人が大半だといいます。

ここまでは想像できそうなトラブルですが、最後の「入居者が増える」というのは、どういうことなのでしょうか。

「外国人は異国で働いているということもあり、横のつながりが非常に強い。家賃を節約したいということで、先に日本に住んでいた人の部屋に勝手に出入りして、共同生活を始めてしまうんです。不動産大家・管理会社は、当たり前のように1人で住むと思い、説明はしません。そこであつれきが生じるんですね。
過去には16平米のワンルームに8人が暮らしていたことも(苦笑)。退去後の部屋の傷みぐあいはひどかったですよ。その時以降、契約書類には入居者は1人までと明記し、契約時に説明、納得、理解を得るようにしています」

よく「ワラビスタン」「リトル・インディア」「リトル・ブラジル」など、特定の外国人が多い地域がありますが、異国で奮闘しているとその人を頼って仲間が1人また1人と増えて、自然発生的にコミュニティが生まれるのかもしれません。

外国人専門の賃貸保証会社、多言語の契約書類などツールは揃っている

こうして聞いてみると、田丸さんもいきなり外国人に部屋を貸し出して「成功」しているわけではなく、多数の経験を繰り返すことで、外国人に歩み寄った母国語でのコミュニケーション、当たり前に思える慣習や契約内容もていねいに説明、理解・納得したうえで「契約」し、明文化して残すという現在のかたちに行き着いたようです。

「外国人は基本的にはあまり経済的余裕がありません。そのため非常に防衛や自衛の意識が高く、契約内容・書類についても一つずつ知りたがります。賃貸保証会社の利用料、火災保険料、礼金、敷金、鍵交換、ハウスクリーニング代など、逐一、このお金は何?なんで?と聞いてきます。日本人ではここまで突っ込んで聞く人は少ないですし、僕も鍛えられました」

「鍵交換はしなくていいから、費用をまけて」「退去時のハウスクリーニングは、自分でやるから安くして」などと、交渉を持ちかけられることもしばしば。その都度、相手が納得できるまでていねいに説明して歩み寄っているそう。こうしてお話を伺っていると、外国人を受け入れて問題が起きたときに、「やっぱり失敗した…」ではなく、どうやって改善すればいいかを考えているからこそ、うまくいっているのだなあと痛感します。

田丸さんによると、現在では、外国人専門の賃貸保証会社があるほか、国土交通省では、「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」も整備され、不動産契約に必要な制度や多言語に対応した書類は揃っているといいます。

「ただ、問題なのは、行政は書類を作っておしまいになっていることです。国交省から不動産業界の団体に告知はありますがあまり知られていないし、活用方法は不動産業界や大家におまかせの状態です。当然、トラブルになったときの受け皿もない。生活音の問題でも紹介したとおり、既に入居している人が嫌がる場合もあります。日本社会のなかに、まだまだ偏見があるなあと痛感しています」

国土交通省の「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン。申込書や重要事項説明書、定期賃貸住宅標準契約書が多言語でずらりと揃う(国土交通省のホームページより)

国土交通省の「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン。申込書や重要事項説明書、定期賃貸住宅標準契約書が多言語でずらりと揃う(国土交通省のホームページより)

大家は家賃滞納、騒音、他の入居者とのトラブルを避けたい、不動産仲介会社は外国語での説明に対応できるスキル、時間がない、管理会社は面倒事やトラブルを避けたいなどなど、「外国人を受け入れづらい」条件は揃ってしまっています。これまで日本の歴史を振り返ると「外国にルーツのある人が社会全体で少数だった」「たいていの場合、日本語が通じた」のが現実です。いきなり「多様性だ」「外国人の受け入れだ」と正論を突きつけられても、「受け入れがたい」「話が通じずに怖い」と戸惑う気持ちがあることでしょう。

ただ、これから先、日本で働く外国人は増えていくことが考えられます。外国人は家賃滞納をしにくいこと、きちんと母国語で説明して理解してから入居してもらえばトラブルは起きづらいことがもっと知られるようになれば、外国人を受け入れる大家が増えるかもしれません。人口が減少している日本を支えてくれる外国人が増えてくれる今、共生社会の模索は、まだはじまったばかりです。

●取材協力
田丸ビル

屋根の上には中央線! 高架下の学生向け賃貸「中央ラインハウス小金井」完成から2年、コロナ禍での住み心地

2020年3月、JR中央線東小金井駅から武蔵小金井駅間の高架下に建設された、学生向け賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」。JR中央線の高架下を敷地としていること、3人の有名建築家が各棟を設計、専用カフェテリアでの食事付き、などが話題となった。現在、入居開始から3年目。コロナ禍をまともに受けつつ、どのように学生たちが過ごしているのか、お話を伺った。

中央線の高架下の有効活用が「食事付き学生専用マンション」

「入居開始後、最初の入居者は地方出身の1年生(当時)がほとんどでした。新築の「デザイナーズマンション」であることに加え、管理人がいて学生専用である安心感、朝夕の食事付きであることも親御さんからの支持が大きいです。いわゆる学生寮に比べればプライベートな居住空間はしっかり確保され、門限もない自由さもいいようです」と当物件の管理運営を担っている株式会社学生情報センター 広報室の寺田律子さん。

周辺には商店街も。そもそもここに学生向け賃貸住宅が計画されたのは、中央線の高架化に伴い生まれた土地の有効活用という観点から。多くの大学に通学できる利便性から、法政大学、東京農工大学、国際基督教大学はじめ約30校の学生が暮らしている(写真撮影/桑田瑞穂)

周辺には商店街も。そもそもここに学生向け賃貸住宅が計画されたのは、中央線の高架化に伴い生まれた土地の有効活用という観点から。多くの大学に通学できる利便性から、法政大学、東京農工大学、国際基督教大学はじめ約30校の学生が暮らしている(写真撮影/桑田瑞穂)

高架下かつ第一種低層住居専用地域で、「寄宿舎」カテゴリによる建築確認申請により建設をしているため、共同施設が必要になる。当物件には食堂があり、おのずと目玉は学生専用カフェテリアに。平日の朝と夕に、管理栄養士監修のボリューム感ある食事は「美味しい」と評判だ。さらに、専用カフェテリアが営業しない週末は自炊も。専用部分にキッチンがない学生は共用キッチンで調理をする。

メニューの一例(写真は夕食)。食事は朝食・夕食の提供で1万7600円/月(税込)。提供時間は月~金曜の7時~9時、18時~21時 (画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

メニューの一例(写真は夕食)。食事は朝食・夕食の提供で1万7600円/月(税込)。提供時間は月~金曜の7時~9時、18時~21時 (画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

外から中が見える、開放的なカフェテリアは居住する学生専用。近所の住民の方から「これは何?」と聞かれることも多いとか(写真撮影/桑田瑞穂)

外から中が見える、開放的なカフェテリアは居住する学生専用。近所の住民の方から「これは何?」と聞かれることも多いとか(写真撮影/桑田瑞穂)

高架下ということで騒音や揺れが気になるのでは、とイメージする人は多そうだが、実際はほとんど気にならない。
C棟に住むAさん(大学3年・男性)は、「むしろ、昔から鉄道が好きで、高架下のマンションということでがぜん興味を覚えました。都市学にも興味があり、こんな新しい土地活用は、恰好のネタにもなると思いました。暮らすのは一番の実践です」と話す。

棟は3通り。専用部分はミニマムに。共用スペースをシェア

実際の部屋や共用スペースを案内していただいた。
各部屋専有部は10~15平米とコンパクトだが、机やベッド、収納などが備え付けられ、洗濯機や冷蔵庫など家電も付いている(棟によって内容は異なる)。必要最低限の荷物で生活が始められるとあって、地方から上京する新1年生に人気の物件だ。

共用部を通らず入室でき、2住戸ごとにオートロックがあるなど、最も独立性の高い「C棟」(写真撮影/桑田瑞穂)

共用部を通らず入室でき、2住戸ごとにオートロックがあるなど、最も独立性の高い「C棟」(写真撮影/桑田瑞穂)

C棟の部屋は13.04~15.94平米で、ロフト、キッチン、浴室付きが最も人気が高い(写真撮影/桑田瑞穂)

C棟の部屋は13.04~15.94平米で、ロフト、キッチン、浴室付きが最も人気が高い(写真撮影/桑田瑞穂)

勉強や食事などができるコミュニティスペースを併設している「L棟」(写真撮影/桑田瑞穂)

勉強や食事などができるコミュニティスペースを併設している「L棟」(写真撮影/桑田瑞穂)

L棟の部屋は10.75~11.36平米(写真撮影/桑田瑞穂)

L棟の部屋は10.75~11.36平米(写真撮影/桑田瑞穂)

L棟にある共用キッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

L棟にある共用キッチン(写真撮影/桑田瑞穂)

コインランドリー(写真撮影/桑田瑞穂)

コインランドリー(写真撮影/桑田瑞穂)

最も天井の高い「H棟」(10.44~11.59平米)。シャワーユニットとロフト付き。冷蔵庫付き(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

最も天井の高い「H棟」(10.44~11.59平米)。シャワーユニットとロフト付き。冷蔵庫付き(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

ロフトから見たH棟の部屋(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

ロフトから見たH棟の部屋(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

コロナ禍で交流イベントが白紙に。現在は少しずつ挑戦中

「共用部を充実させることで、付加価値を付けられたらと考えています。当初は、さまざまなイベントを提供することで、自然と交流を生み出す手伝いもできたらと考えていました」と寺田さん。というのも、多くの学生専用マンションを手掛けてきた同社は、これまでウェルカムパーティーやゲーム大会、ハロウィーンイベントなど、さまざまな仕掛けで、入居する学生たちの交流を促してきた実績があったからだ。

しかし、完成と同時にコロナ禍に。当然、さまざまなイベントは白紙になった。新入生も突如すべての授業がオンラインになるなか、実家にも帰れないという状況が続いた。前出のAさんも「最初の3カ月間は、初めての一人暮らしとコロナ禍のダブルで精神的につらかったです」と思い返す。

ただし、この学生向け賃貸住宅なら、会話を通しての交流は難しくても、同じ建物内に人がいる安心感や自分の部屋以外のスペースを使えるメリットがある。
「共用スペースで料理をしていれば、当然他の学生と同じ時間に料理したりすることがあるので、そこで会話をして顔見知りになっていくことができました」とH棟の住民の学生Sさん(大学2年・男性)

「感染状況をみながら、イベントも少しずつ再開しました。例えば、カフェテリアでスタッフが楽器を演奏するイベントなどを試みました」と当物件の事業開発主体であり、沿線のコミュニティを創発する株式会社JR中央線コミュニティデザインの山口剛さん。パーティーは無理だが、音楽を通して自然とそこに居る人たちの一体感が増す仕掛けだ。

6月にカフェテリアで行われた音楽イベント。スタッフがアコースティックギターとバイオリンを奏でて(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

6月にカフェテリアで行われた音楽イベント。スタッフがアコースティックギターとバイオリンを奏でて(画像提供/JR中央線コミュニティデザイン)

学生自ら企画に参加。東京五輪の観戦イベントも

学生が自ら企画したイベントもある。前出のSさんは、東京五輪のサッカー戦をカフェテリアで一緒に観戦するイベントを担当した。

「せっかく、ただのアパートではなく学生マンションに住んでいるので、他の学生とも気軽に交流できる環境をつくりたいと思ったんです。一緒に企画したり、実際に来てくれた人と話している中で、他の大学の話を聞いたり、北から南まで出身地がバラバラで、故郷の話を聞いたり、すごく面白かったんです。もともとは部屋の美しさと食堂があったことで決めた物件ですが、いろんなバックグラウンドを持つ学生が集まっている良さを実感しました」(Bさん)

シェア工作室で地域にも開かれた場所に

そして、住人の学生だけでなく地域にも開かれた交流の場となっているのが、ナレッジルームだ。さまざまな工具、道具が用意されているため、材料を持ち込んでDIYをしたり、不用品を分解してつくるアートを楽しむこともできる。入居している学生のなかには、壊れていたものを自分で直したり、自分の部屋用にと棚や箱などぴったりサイズのものをDIYする人も。

「何をするかは自分で決める」が基本だが、小さなワークショップを開催することもある。小学生でも、初回のみ保護者の同伴が必要だが、保護者の許可があれば小学生だけで利用することも可能だ。
「ここは高架下で多くの方が“ここは何だろう”と思う場所。その注目度を活かして、学生だけでなく、地域の皆さまにも自然に交流が生まれる場所になったら理想的だなと思っています」と山口さん。

毎週月・火曜13時~18時、日曜10時~15時(不定期)にオープン。クリエイティブ・フィールドVIVISTOPを運営するVIVITA JAPAN(株)のスタッフに相談もできる(写真撮影/桑田瑞穂)

毎週月・火曜13時~18時、日曜10時~15時(不定期)にオープン。クリエイティブ・フィールドVIVISTOPを運営するVIVITA JAPAN(株)のスタッフに相談もできる(写真撮影/桑田瑞穂)

あらゆる工具のほか、ミシンやロックミシン、カッティングマシーン、シルクスクリーンなどが準備されている(写真撮影/桑田瑞穂)

あらゆる工具のほか、ミシンやロックミシン、カッティングマシーン、シルクスクリーンなどが準備されている(写真撮影/桑田瑞穂)

また、ナレッジルームで行われるイベントを学生が手伝うケースもある。
C棟に住むCさん(大学3年)は、「たまたま夏に募集があって、ヒマだったので参加しました。一般の来場者向けに、デイジーの種を空き缶で育てるプラントづくりを考案し、当日たくさんの方にレクチャーしました。緊張しましたがとても楽しくて、やってよかったですね。それきっかけで、スタッフの方と仲良くなり、たまに顔を出しています」と他にはない体験を楽しんだようだ。

正直、コロナ禍で、当初思うような交流の場が設けられていないのは事実だ。
「しかし、こちらの物件ではありませんが、オンラインを使ったe-スポーツ大会、有給のインターシップなど、新しい試みを実施しています。今後は学生さんたちもさまざまなイベントを企画する側から参加していただけたら面白いですね」(寺田さん)

できた当初は“高架下にできた学生寮”という珍しさで注目を集めた「中央ラインハウス小金井」。実は、中央線の高架化に伴い、学生向け賃貸住宅のほかにも、新たな商業施設、コワーキングスペース、保育園、クリニックなどが整備されている。つまり、駅の高架下という立地は、自然と地域住民が目にすることの多いロケーションなのだ。こうした特性を生かし、今後は、地域との交流も加速していくかもしれない。

現時点では、交流が入居の決め手になった学生はそれほど多くないが、今後は変わるかもしれない。就職活動において「自ら考え、自ら動いてきたか」を重視する傾向にある今、自分が暮らす場がその舞台になるのは絶好の機会だ。今後は「交流をしたいから」「イベントを自分で考えてみたいから」入居するという学生が増えるかもしれない。今後にも期待したい。

今回お話を伺った学生情報センター寺田律子さんと、JR中央線コミュニティデザインの山口剛さん(写真撮影/桑田瑞穂)

今回お話を伺った学生情報センター寺田律子さんと、JR中央線コミュニティデザインの山口剛さん(写真撮影/桑田瑞穂)

●取材協力
・中央ラインハウス小金井
・学生情報センター

入居者全員クリエイター! 築49年の今も作家たちのアイデアで進化する「インストールの途中だビル」品川区中延

東京都品川区中延にある「インストールの途中だビル」は、2012年にスタートした6階建てのビル型シェアアトリエ。現代美術家、ファッションデザイナー、演劇団体、キャンドル作家、靴職人など多業種のクリエイター20組以上が共同利用している。今年10周年を迎えたこの異色の物件には、どのような歴史やライフスタイルがあるのか。訪れて話を聞いてみた。

駅から徒歩1分、騒がしい立地が好条件に「インストールの途中だビル」が入る光洋ビルは築49年(写真撮影/小林景太)

「インストールの途中だビル」が入る光洋ビルは築49年(写真撮影/小林景太)

「インストールの途中だビル」は、東急大井町線・都営浅草線の中延駅から徒歩1分とアクセス良好な場所にあり、6階建てビルの2階から5階を使って運営される。国道1号沿いで、向かいと左右をパチンコ店に囲まれる騒がしい立地だが、音を伴う「ものづくり」の環境としては周りに気を使う必要がないため、むしろ好条件と支持されている。

運営するのは、自らを「まちづくり会社」と称する合同会社ドラマチック。建物の再生事業や全国の公共施設の運営、地域で活動したい人に向けての拠点づくり・イベント運営などを行っている。

「インストールの途中だビル」を立ち上げたドラマチック代表社員の今村ひろゆきさんにお話を伺った。

「インストールの途中だビル」責任者の今村ひろゆきさん(画像提供/ドラマチック)

「インストールの途中だビル」責任者の今村ひろゆきさん(画像提供/ドラマチック)

時間の経過とともにきれいになる。アップデートを前提としたスタート

今村さんがこのビルを知ったのは、2011年4月ごろ。ドラマチックの活動が新聞に掲載された日に、一通のメールが届いた。内容は「中延駅のすぐそばにビルを持っているが、どうにかしてくれないか」というもの。

「ビルを見に来たらびっくりしました。会社の事務所として使われていたようですが、壁もカーペットも汚れていてヤニ臭く……(笑)。しかし、駅チカでほぼ一棟まるまる空いている物件なんてそう無いですし、すごいポテンシャルを感じました」

しかし、普通のシェアオフィスやコワーキングスペースとして利用できる状態に改装するには、初期費用がかなりかかってしまう。

「活動場所を探しているアーティストの知り合いが複数いたので、アトリエとして使うのはアリだなと。ものづくりをしているとどうしても周りが汚れてしまうので、それなら最初からきれいである必要がないですしね」

オープン準備の様子(画像提供/ドラマチック)

オープン準備の様子(画像提供/ドラマチック)

シェアアトリエとして運営する方針を定めてから、どのような準備をしたのか。

「掃除と、窓を拭くこと。基本はそれだけです(笑)。あとは入居ブースごとに仕切りで区画を分けて、そのほかは入居者の自由ということにしました。壁を塗ってもいいし、照明を変えてもいい。正直まだ会社としてもお金が無かったころなので、アイデアで工夫していくしかありませんでした」

廊下の照明は、入居者の提案で蛍光灯から電球に変更。階段のウォールアートは入居者がテープで制作した(写真撮影/小林景太)

廊下の照明は、入居者の提案で蛍光灯から電球に変更。階段のウォールアートは入居者がテープで制作した(写真撮影/小林景太)

合同会社ドラマチックを立ち上げる前は、商業施設の開発をしていたという今村さん。

「新しくつくった商業施設は、時間が経てば建物が古くなって集客も減り、廃れていきます。でもこの『インストールの途中だビル』は未完成な状態から始まり、徐々に人が集まって場がアップデートされていく。いわゆる商業的な開発の流れとは逆の場をつくっていければと思いました」

コミュニケーションの中で生まれるアイデアをインストールし、よりよい環境をつくるという方針が、施設名の由来ともなるコンセプトだ。こういった事業は一般的にリノベーションを済ませてから開始するものと思い込んでいたが、入居者に使ってもらいながら整えていくという手法は、空き物件を活用するうえでの可能性を広げるアイデアだと感じた。

24時間制作可能。展示会やパフォーマンスができるスペースも

「入居している方は『ものづくりをする』という点では共通していますが、活動のジャンルは本当にばらばらですね。ビルが揺れるほどの大きな音を出して金属の彫刻物をつくる方もいます。ここでの活動を本業としている方は3割ぐらいでしょうか」

各アトリエに住宅の機能はないが、24時間出入り可能。賃料はブースの広さによって変わり、月額2万1800円から。入居金5万円と水道光熱費が別途かかる。利用を続ける中で「もう少し広いスペースを使いたい」といった要望があれば、今村さんらが大工仕事ができる入居者に依頼して仕切りを動かし、ブースを拡張することも。

過去に入居していた版画作家のアトリエの様子(画像提供/ドラマチック)

過去に入居していた版画作家のアトリエの様子(画像提供/ドラマチック)

このブースも上の写真と同じ間取りだが、利用者によって部屋の印象は大きく異なる(写真撮影/小林景太)

このブースも上の写真と同じ間取りだが、利用者によって部屋の印象は大きく異なる(写真撮影/小林景太)

ビル内には約50平米のレンタルスペースもあり、入居者は1時間200円で借りられる。演劇の稽古など広い場所が必要な活動や、作品展・イベント会場、打ち合わせ・撮影の場として使われるという。

レンタルブース「インストジオ」(写真撮影/小林景太)

レンタルブース「インストジオ」(写真撮影/小林景太)

屋上は無料で開放され、植物を育てるなど息抜きの場所となっている。気候のいい時期はここで飲食をしながら入居者同士の近況報告会が行われることも。

イベント開催時の様子(画像提供/ドラマチック)

イベント開催時の様子(画像提供/ドラマチック)

入居するクリエイターたちにとって、このビルは制作の場だけでなく、発表や交流の場ともなっているようだ。では、実際の入居者の方々にお話を聞いてみよう。

アトリエが稽古場にも舞台にもなる

まずは「インストールの途中だビル」が始まった当初から入居している演劇団体「Prayers Studio」さん。稽古場として常時利用するほか、アトリエ内に舞台と客席をつくって公演も行う。

代表の渡部朋彦さん、設立メンバーの妻鹿有利花さんが、入居当時のことからお話ししてくれた。

「Prayers Studio」代表・渡部朋彦さん(左)、妻鹿有利花さん(写真撮影/小林景太)

「Prayers Studio」代表・渡部朋彦さん(左)、妻鹿有利花さん(写真撮影/小林景太)

「ここに来るまでは区民施設などを都度借りて稽古しながら活動していました。小道具なども徐々に増えていき、どこかに拠点を構えたいと感じていたところ、劇団員がこのビルのことをTwitterで偶然見つけたんです。すぐに連絡して、4月1日のオープンぴったりのタイミングで入居しました。月末には公演を控えていたので、さっそく本番前は徹夜で稽古しましたね」(渡部さん)

50平米の部屋は、仕切りで楽屋などを設ける(写真撮影/小林景太)

50平米の部屋は、仕切りで楽屋などを設ける(写真撮影/小林景太)

声を出すことが不可欠な演劇の活動にとって、入居者全員がものづくりに理解のある環境は理想的だという。現在、Prayers Studioは11人のメンバーで4チームに分かれて活動しており、ブースには常に誰かがいるような状況。ここを拠点として活動を続けてきた結果、ビル周辺の中延エリアに引越してきた劇団員も多い。

「天井はあえて梁を見せて高さを出し、蛍光灯やカーペットは外して、客席やカーテンの仕切りを設置しました。また、24時間活動できるといっても音に関しては多少気を使います。遅い時間に大道具を組み立てたり大声を出したりするのは控えるなど。逆に私たちの公演期間はほかの入居者が音を出す作業を控えてくれて、積極的に協力してくださりありがたいです」(渡部さん)

もともと天井にあった板を転用したドア(写真撮影/小林景太)

もともと天井にあった板を転用したドア(写真撮影/小林景太)

入居者同士で生まれる活動のつながり

10年間入居していることもあり、入居者とのコミュニケーションが創作活動やプライベートにつながることもあったという。

「キャンドル作家の方に制作を依頼して、アトリエで香りを焚かせてもらったり……」(妻鹿さん)

「結婚を考えている劇団員が、アクセサリー作家さんのワークショップで婚約指輪をつくったことも。その後も結婚式の引き出物としてキャンドルをつくってもらったり、式の撮影も入居者のフォトグラファーさんにお願いしたり(笑)。逆に入居者の方の個展で僕がナレーションをやったり、劇団員がファッションブランドのモデルを務めたりしたこともありますね」(渡部さん)

想像以上に濃いつながりだった。このほかにも、中延商店街のお祭りでの公演や、子ども向けのワークショップ、観客参加型の舞台上演など、地域と関わる活動も多く行ってきたPrayers Studio。現在も「拠点を持つ劇団」という強みをきっかけに、外部のクリエイターと共同で舞台演出上の新企画に取り組んでいる。

「夜、活動を終えて帰宅するときに、ほかの部屋に明かりがついていると『自分も負けていられないな』と思います。モチベーションが刺激される環境ですね」(妻鹿さん)

舞台と客席の配置は、公演内容によって変える(写真撮影/小林景太)

舞台と客席の配置は、公演内容によって変える(写真撮影/小林景太)

イベントでたまたま訪れたビルに入居して9年目

続いては、ファッションブランド「NeLL」のデザイナー・hee(ヒー)さん。「誰でも着られる服」というコンセプトに基づき、1つの素材で1サイズのみの服をつくる『One=Everyone』というシリーズが好評だ。

「NeLL」デザイナーのheeさん(写真撮影/小林景太)

「NeLL」デザイナーのheeさん(写真撮影/小林景太)

NeLLのアトリエ(写真撮影/小林景太)

NeLLのアトリエ(写真撮影/小林景太)

このアトリエには、本職の仕事場として週5日ほど通うheeさん。入居のきっかけは、ビルの屋上で行われた2周年イベントだという。

「最初は、ただ好きなミュージシャンの方がライブをすると聞いて来たんです。でも中に入ってみたら結構良さそうな場所だったのと、ちょうど当時使っていたアトリエを出なくてはいけないタイミングだったので、後日改めて内見をしました」

求めていた条件は「ある程度の広さ」「汚しても大丈夫なこと」など。いずれも問題なさそうで、「夜でもミシンの音など気にせず作業できるのは気楽でいいな」と感じ、入居を決めたそう。

NeLLの展示会で渡したノベルティ。制作は同ビルに入居するキャンドル作家さん(写真撮影/小林景太)

NeLLの展示会で渡したノベルティ。制作は同ビルに入居するキャンドル作家さん(写真撮影/小林景太)

「入居して9年目になりますが、実は今のブースを使い始めるまでにビル内で3回引越しました。一緒に借りていたメンバーが離れるタイミングなどで、その都度ちょうどいい広さのブースに移っています。このビルは『駆け出しの人を応援する場』だという感覚もあるので、本当は早くここを出られるように頑張らなきゃいけないと思うんですけど、なかなか居心地が良くて今に至ります(笑)」

ジャンルを問わない出会いが活動の幅を広げる

heeさんに「入居してから感じた良い点」を聞いてみた。

「やっぱり入居者の知り合いができることですね。創作活動の話や展示など自分の作品を知ってもらう方法について情報交換できますし、そこから依頼が発生することもありました。インストールの途中だビルでは、月一回の定例会があって、コロナ禍で頻度は落ちてしまいましたが、ビルのメンバーとコミュニケーションをとれます。年末の忘年会など交流機会は割とあって楽しいです」

2014年には、インストールの途中だビルが主催となり近隣の商店街で「中延EXPO」を開催。ダンサーやミュージシャンが即興で演奏しながら街を練り歩くイベントで、heeさんはパフォーマーの衣装を提供したという。

「中延EXPO」の様子(画像提供/LAND FES)

「中延EXPO」の様子(画像提供/LAND FES)

「今後もさまざまなジャンルの人と関わっていきたい」と語るheeさん。ビルのレンタルスペースで開催される音楽イベントでミュージシャンの衣装提供なども予定しているとのことだった。

これからもインストールは続いていく

シェアアトリエという空間を活かし、地域や外部との交流も図ってきたインストールの途中だビル。

「料金設定もそうですが、『これからがんばっていこう』という段階のクリエイターを応援したい気持ちがあります。そのために、ハード面である物件に手を加えていくのではなく、人同士のつながりというソフト面でメンバーの活動を応援して、ビルを盛り上げていきたいです。運営を続ける中で、活動が成功して売れっ子になっていった方もいて、そういう過程を見られるのはうれしいですね」と今村さん。

あえてセオリーどおりの「快適な空間」を用意せずにスタートしたこのシェアアトリエでは、入居者自身が過ごしやすいように作業環境をつくることができる。いわば全員が「ビルのクリエイター」として一つの居場所を構築していくことは、ライフスタイルの充実に大きく寄与していると感じた。

インストールの途中だビルは今年で10周年を迎え、入居者はのべ100名を超える。今村さんは「今後も新しいクリエイターの方と出会えるのが楽しみ」とほほえみ交じりに語っていた。

●取材協力
・インストールの途中だビル
・まちづくり会社ドラマチック
・Prayers Studio
・NeLL

梅田駅まで30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

関西トップのターミナル駅である、大阪府大阪市の梅田駅。仕事や遊びの拠点であると同時に、3月に発表された「SUUMO住みたい街ランキング2022関西版」では西宮北口駅と逆転し首位に輝いた。その梅田駅まで電車で30分以内で行ける、ワンルーム・1K・1DKを対象にした家賃相場が安い駅ランキングの最新版を紹介。気になる駅と、その魅力を探る。

梅田駅まで30分以内の家賃相場が安い駅TOP11

※所要時間は、大阪駅、大阪梅田駅、東梅田駅、西梅田駅、北新地駅など梅田駅と地下通路や連絡通路でつながっている場合には当該駅から梅田駅までの徒歩時間を加算している

順位/駅名/家賃相場(代表的な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 寝屋川市 3.70万円(京阪本線/寝屋川市/25分/2回)
1位 萱島 3.70万円(京阪本線/寝屋川市/21分/1回)
3位 大和田 3.80万円(京阪本線/門真市/29分/2回)
3位 武庫川団地前 3.80万円(阪神武庫川線/兵庫県西宮市/30分/1回)
5位 四条畷 3.88万円(JR学研都市線/大東市/30分/1回)
6位 島本 4.00万円(JR京都線/島本町/28分/1回)
7位 大日 4.20万円(大阪メトロ谷町線/守口市/24分/0回)
8位 香里園 4.25万円(京阪本線/寝屋川市/29分/1回)〇
9位 俊徳道 4.30万円(近鉄大阪線/東大阪市/29分/2回)
9位 津守 4.30万円(南海汐見橋線/大阪市西成区/25分/2回)
11位 上新庄 4.40万円(阪急京都線/大阪市東淀川区/18分/1回)
11位 住道 4.40万円(JR学研都市線/大東市/26分/1回)
11位 古川橋 4.40万円(京阪本線/門真市/27分/2回) 

京阪本線は観光地も充実

1~3位までは、京阪本線の駅がしめた。京阪本線は大阪市中央区の淀屋橋駅を基点に、ビジネス街の京橋駅や京都市の繁華街の祇園四条駅などを経由して京都市の三条駅までをつなぐ都市間路線。大阪中心部への通勤・通学路線であるが、沿線には現存する遊園地で最古の「ひらかたパーク」や、京都の伏見稲荷大社や清水寺など有名な観光地も数多い。一方で、大阪の2大ターミナル駅である梅田駅と難波駅には直通しておらず、どちらへ向かうにも乗り換えが必要なことが家賃が割安で上位になった理由の一つだろう。

同率1位になった寝屋川市駅と萱島駅は、ともに京阪本線沿線で寝屋川市に位置する。特に寝屋川市駅は寝屋川市の中心駅で、快速急行や通勤快速も停車する。市役所や警察署などの公共施設が周囲に集まっており、家電量販店やホームセンターなどの大型商業施設も充実している。駅近くにはアーケード街が延び、できたての料理を配達してくれる飲食店や雰囲気の良い喫茶店、各種の小売店などが約250mにわたって軒を連ねる大利(おおとし)商店街や寝屋川一番街商店街、レトロな風情の日之出商店街があり、魅力的な個人経営の店も多い。

寝屋川市駅周辺の風景(写真/PIXTA)

寝屋川市駅周辺の風景(写真/PIXTA)

寝屋川市駅周辺の風景(写真/PIXTA)

寝屋川市駅周辺の風景(写真/PIXTA)

大阪府東部の寝屋川市は古くから穀倉地帯であり、京阪間のベッドタウンとして発展した現在も緑が多く残る。駅と並行して流れる寝屋川沿いでは再開発も行われており、道幅を3倍以上にして歩道を整備し、電線も地中化する都市計画が進行中だ。

大阪電気通信大学と摂南大学の寝屋川キャンパスや、大阪府立大学工業高等専門学校への最寄駅であり、学生街の顔も持つ。そうした学生向けの単身者用物件も充実しているが、教育機関の多さから、ファミリー層からの人気も高い。

阪神タイガースの熱狂的ファンは武庫川団地前駅という選択肢も

ランキングは大阪府内の街がほとんどだが、唯一兵庫県に位置するのが、同率3位の武庫川団地前駅。
所在地の西宮市は、「SUUMO住みたい街ランキング2022関西版」の「[関西]住みたい自治体ランキング」で1位の自治体だ。

阪神武庫川線の終点駅で、周辺は閑静な住宅街。印象的な娯楽施設があるわけではないが、スーパーなどは充実。市立図書館の高須分室も近く、こじゃれた雰囲気の喫茶店なども点在している。また、駅付近には病院が目立つ。

武庫川団地前駅(写真/PIXTA)

武庫川団地前駅(写真/PIXTA)

駅名にもなっている武庫川団地は、5500世帯を超える西日本最大の団地。広大な敷地には4つのエリアがあり、保育所から高校までの教育施設やショッピングセンター、市役所の分室などもある。あちこちに公園も点在しており、野球場やテニスコートなどもそろっている。

武庫川線は武庫川と並走しているが、武庫川団地前駅は武庫川が流れ込む大阪湾が近い。武庫川団地の南側は工業地帯だが、その無骨さよりも自然豊かな印象の方が強く感じられそうだ。大阪湾沿いにある鳴尾浜臨海公園は海が一望できる広大な芝生広場や海づり広場があるほか、近くには天然温泉が楽しめるスーパー銭湯もある。また、プロ野球人気球団の阪神タイガースのファーム拠点である阪神鳴尾浜球場までも約1.7km。趣味を満喫するには穴場かもしれない。

鳴尾浜臨海公園(写真/PIXTA)

鳴尾浜臨海公園(写真/PIXTA)

5位は大東市にある四条畷(しじょうなわて)駅。区間快速や快速も停車する。JR学研都市線は梅田駅に直通はしていないが、沿線上の北新地駅は梅田駅と地下通路でつながっている。実質的には改札の遠い梅田駅、といった存在なので、乗り換えなしでの利用も可能だ。

所在地はぎりぎり大東市だが、同名である四条畷市の中心駅の扱いになる。四条畷市は市内の約3分の2が生駒山地で占められており車利用が多い地域のため、大きな商業施設は少し駅から離れた場所にある。しかし深夜まで営業しているスーパーが周辺にあり、駅を中心に昔ながらの商店街「四條畷商店会」も残る。

四条畷市は市の一部が国定公園の「金剛生駒紀泉国定公園」に指定されており、自然が多く残る。また鎌倉時代末期の武将、楠木正成とゆかりが深く、正成の嫡男の正行が命を落とした「四條畷の戦い」の場所としても知られ、駅から少しいくと、正成らをまつった四條畷神社がある。ほかにも、貝塚跡や古墳など古代の史跡から、2021年には戦国武将の三好長慶が居城とした飯盛城跡が国史跡に指定されるなど、歴史ロマンにあふれた街でもある。

新区間開業で急発展の俊徳道駅、古川橋駅は人気向上が期待

9位の俊徳道駅は近鉄大阪線の駅。普通列車のみの停車駅だが、急行が停車する隣駅の布施駅との距離は約1.2km。物件の立地によっては急行も利用できそうだ。また、俊徳道駅は同名のJRおおさか東線の駅と隣接しており、2路線使用できる。JRおおさか東線は2019年に新区間が開業して、新幹線の停車駅である新大阪駅まで乗り換えなしで行けるようになっており、交通利便性のよさとお手ごろな家賃のバランスがとれたエリアといえそうだ。

おおさか東線 JR俊徳道駅(写真/PIXTA)

おおさか東線 JR俊徳道駅(写真/PIXTA)

周囲は住宅街が広がり、落ち着いた雰囲気が漂う。駅前は最近整備が終わり、JRとの間に屋根のある動線もできて安心感がある。かつてはスーパーに困ることこそなくても飲食店事情のさびしい地域であったが、JRおおさか東線の新区間開業にともない、近年はおしゃれな店などを見かけることも。また所在地である、ものづくりの街としてしられる東大阪市ならではといえそうな、レンズメーカーがカフェも併設するショールームなど、個性的な店舗も点在している。

布施駅と反対方面の隣駅の長瀬駅は、西日本最大級の学生数の近畿大学の最寄駅。駅間距離は約1.1kmで、徒歩圏内だ。進学による初めての一人暮らしの場所の選択肢に、入れてみてもよさそうだろう。

同率11位の古川橋駅は門真市に位置する。京阪本線の区間急行の停車駅だ。駅すぐそばにはイオンなどの大型スーパーも充実。チェーン系から落ち着いた雰囲気のカフェまで飲食店も多く、日常生活にはなにかと便利な地域だ。門真運転免許試験場の最寄駅でもある。

市名を冠する隣駅の門真市駅との距離は約800mで、徒歩圏内。門真市駅は伊丹空港こと大阪国際空港へ向かう大阪モノレールの乗り換え駅で、遠隔地への出張の多いビジネス―パーソンにも心強いだろう。門真市駅付近には、2023年にららぽーととコストコの開業も控えている。

近場な便利な大型施設が多い一方で、駅周辺にはレトロな小さい商店街など昔ながらの街並みも残る。そうしたエリアや駅北側の廃校跡の再開発が決定し、地域に開放された交流スペースなどの設置も予定された門真市初のタワーマンションや商業棟、憩いの場づくりが計画。市の玄関口にふさわしい、複合的な都市機能の集積を目指すという。竣工は2026年の予定で少し先だが、今からチェックしておいてもいいかもしれない。

梅田駅は、JR大阪駅北側の再開発「うめきた2期地区開発プロジェクト」が進み、2023年には関西国際空港に直結するJRの新駅が開業予定。閉塞感の否めない昨今だからこその、将来への期待感の高まりも感じられた。期待があれば、部屋探しも楽しくなる。楽しい将来のためにも、ねらい目の部屋を見落とさず、自分にフィットする部屋を見つけたいものだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている梅田駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/2~2022/4
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年4月25日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

マンションも木造の時代に! 耐震性や遮音など住みごこち満足度98%のお墨付き 「MOCXION INAGI」東京都稲城市

法律の改正により国土交通省が民間での木材活用を推進したこともあり、2021年から木造ビルが各地に誕生し、今、かつてないほど「木造建築」に注目が集まっています。なかでも、2021 年に完成した「MOCXION INAGI(以下、モクシオン稲城)」(三井ホーム)は木造マンションの幕開けを象徴するような建物です。入居者の実際の住み心地や満足度、マンションの性能、今後どのように普及していくかについて紹介します。

遮音、耐震性もバッチリ! 入居者の98%が住み心地に満足と回答

高層ビルやマンションは珍しいものではありませんが、その多くはコンクリートと鉄骨鉄筋で、構造でいうと、鉄筋コンクリート(RC造)や、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC造)にあたります。だからこそ、記事冒頭のように一見よくある新築マンションが「木造なんだよ」と言われたら、多くの人は驚くのではないでしょうか。

「木造マンション」という新しいカテゴリーを生み出した「モクシオン稲城」一見、よくあるマンションですが、実は「木造」なんです(写真撮影/片山貴博)

「木造マンション」という新しいカテゴリーを生み出した「モクシオン稲城」一見、よくあるマンションですが、実は「木造」なんです(写真撮影/片山貴博)

そんな驚くような木造マンション「モクシオン稲城」が2021年11月、東京都稲城市に完成しました。総戸数は51戸、間取りは2LDK~3LDK、専有面積は50平米~96平米で、シングルからディンクス、子どものいる世帯が暮らしています。1階はRC(鉄筋コンクリート)造で、2~5階に木造枠組壁工法を採用しています。賃料は稲城駅の周辺物件の相場よりも高額な設定でありながらも、見学した人の約7割が入居を申し込みたい(内覧即申し込み含む)と回答し、募集開始後約1カ月で満室になるほどの人気物件です。

エントランスの上部にも木をあしらっています。木ってやっぱりカッコいい(写真撮影/片山貴博)

エントランスの上部にも木をあしらっています。木ってやっぱりカッコいい(写真撮影/片山貴博)

木造の建物というと、音や耐火性、耐震性などが心配という人もいるかもしれませんが、住み心地はどうなのでしょうか。

「入居から4カ月が経過した今春、アンケートをしましたが、入居している47世帯からの回答のうち98%もの人が満足と回答してくださっています」と話すのはこのプロジェクトの推進責任者の依田明史(よだあけし・三井ホーム)さん。では、どのような点に魅力を感じているのでしょうか。

「入居開始が12月だったので、入居者のみなさんは冬をマンションで過ごされたわけですが、断熱性にすぐれ、結露が少なくて快適、天井高や断熱、遮音といった点で高く評価していただいています。耐震性でいうと、3月には東京都で震度4の地震が発生しましたが、その際も揺れてモノが落ちるなどもなく、コンクリートのマンションに住んでいたときと体感はまったく変わらなかったとのコメントも聞きました」(依田さん)

「木造」マンションを推進した依田さん。完成するまでは「木造でしょ」と言われることが多く、悔しい思いをしたことも(写真撮影/片山貴博)

「木造」マンションを推進した依田さん。完成するまでは「木造でしょ」と言われることが多く、悔しい思いをしたことも(写真撮影/片山貴博)

見学のきっかけは、「木造マンションに興味」「脱炭素に貢献」

木造建築物をめぐる法改正などの背景はSUUMOジャーナルでもお伝えしてきましたが、そうはいっても、「一戸建てではない木造建築に住みたい!」と意欲的な人は実はまだごく少数なのではないでしょうか。そもそも、入居者のみなさんは、「木造マンション」のどのあたりに魅力を感じて、見学にいらっしゃったのでしょう。

「見学者のみなさんに来場のきっかけのアンケートをしたのですが、『木造マンションに興味があった』が2位、『木造マンションは地球環境にやさしく脱炭素に貢献』が6位となっていました。実はこの『脱炭素に貢献』というのは、マーケットにおける環境意識の変化を知りたくて手探りで選択肢に入れたのですが、驚くほど上位に来ていました。私たちが思っている以上に、環境意識が高まっているのだと思います」と依田さんは分析します。

回答数89、複数回答可

回答数89、複数回答可

近隣エリアからの見学者は当然のことながら多かったそうですが、東京都品川区や文京区といった都心部からの住み替えもあったといい、いかに木造マンションが注目されていたかがわかります。

「コロナ禍で、多くの企業でテレワークが導入されたことで、郊外で少し広め、質のよい建物に住みたいという需要をくみ取れたと思います。室内の広さを確保したい、地球環境意識の高まりなど、まさに時代の流れにあった建物が完成したと思っています」(依田さん)

エントランスホールには木をふんだんにあしらった和モダンな雰囲気に(写真撮影/片山貴博)

エントランスホールには木をふんだんにあしらった和モダンな雰囲気に(写真撮影/片山貴博)

廊下は建物に内包された「内廊下方式」に。高級感があっていいですよね(写真撮影/片山貴博)

廊下は建物に内包された「内廊下方式」に。高級感があっていいですよね(写真撮影/片山貴博)

部屋番号も木製。こういう遊び心のある造りも心躍ります(写真撮影/片山貴博)

部屋番号も木製。こういう遊び心のある造りも心躍ります(写真撮影/片山貴博)

1階のモデルルーム。木造マンションへの関心は高く、デベロッパー、不動産会社、金融機関など見学希望が絶えないそう(写真撮影/片山貴博)

1階のモデルルーム。木造マンションへの関心は高く、デベロッパー、不動産会社、金融機関など見学希望が絶えないそう(写真撮影/片山貴博)

5階のモデルルーム。最上階ですが表面に木材を使って仕上げています(写真撮影/片山貴博)

5階のモデルルーム。最上階ですが表面に木材を使って仕上げています(写真撮影/片山貴博)

テレワークを想定した部屋。コロナ禍のテレワーク需要に応える結果に(写真撮影/片山貴博)

テレワークを想定した部屋。コロナ禍のテレワーク需要に応える結果に(写真撮影/片山貴博)

RC造(写真左)には柱や梁(はり)のでっぱりがありますが、木造(写真右)は壁面工法のため梁のでっぱりがなく、部屋がより広く、のびやかな空間になるのがおわかりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)

RC造(写真左)には柱や梁(はり)のでっぱりがありますが、木造(写真右)は壁面工法のため梁のでっぱりがなく、部屋がより広く、のびやかな空間になるのがおわかりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)

写真を見ていただくとわかると思いますが、エントランスや内廊下、キッチン、リビングなど、随所に木が使われていて、一般的な賃貸物件のデザイン・仕様とは一味違います。

建物をつくる、住む、解体する。すべてのステップで環境負荷を軽減

木造建築の強みとして(1)快適で住み心地がよい、(2)断熱性にすぐれる、(3)軽量で施工性にすぐれるが挙げられますが、それだけではありません。

「『木』で建物をつくるということは、S(鉄骨)造、RC(鉄筋コンクリート)造、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造と違い、二酸化炭素を大気中に戻さないわけですから、この建物で炭素を数十年間貯蔵しているわけです。この建物だと約736.4トン、貯蔵している計算になり、これは樹齢35年の杉の木に換算すると約3,000本に相当します。また、建築にかかる二酸化炭素排出量はRC造の半分程度で、将来、解体するときも二酸化炭素の排出量が抑えられるでしょうし、解体後も木材なら再利用も可能です」と依田さん。

コンクリートは二酸化炭素を吸収してくれませんが、木は二酸化炭素を吸収して大きくなります。木材を使っている住まいだとそれだけで「二酸化炭素を貯蔵している」というのは、新しい発見です。また、冒頭に挙げたとおり、(2)木材は断熱性にすぐれているという特性を活かし、省エネルギー集合住宅の証である「ZEH-M oriented(ゼッチ・エム・オリエンテッド)」の認証を取得。住んでいる人から見ると、真夏の冷房、真冬の暖房使用量が少なくて済み、より省エネルギーになるというわけです。よく、“つくる責任、使う責任”といわれますが、トータルで見ても環境性能にすぐれる木造建築は、非常に時代に合った建物といえそうです。

中層建築・大型建築を可能にした高強度耐力壁「MOCX wall」(写真撮影/片山貴博)

中層建築・大型建築を可能にした高強度耐力壁「MOCX wall」(写真撮影/片山貴博)

モデルルームでは生活音を再現し、音の伝わり方を体験できて、遮音性の高さに驚くはず(写真撮影/片山貴博)

モデルルームでは生活音を再現し、音の伝わり方を体験できて、遮音性の高さに驚くはず(写真撮影/片山貴博)

木材に加えて、構造的にも高気密・高断熱とすることで、住宅性能評価の「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級5」を取得(写真撮影/片山貴博)

木材に加えて、構造的にも高気密・高断熱とすることで、住宅性能評価の「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級5」を取得(写真撮影/片山貴博)

課題は部資材や人材確保。「木造マンション」を当たり前の時代に

実は木造マンション、環境負荷が低いだけでなく、工期を短縮できることから、RC造と比較して「建築費が安く、工期も早い」という利点もあったそうですが、昨今のウッドショックの影響と世界情勢による建築費の高騰から「安くて早い」とは断言しにくくなったとのこと。

「住宅建材全般の急激な値上がりが激しいのと、工事を実施する土地の周辺事情により建築費と工期は違ってきます」と依田さん。

もう一つ、今まで木造住宅の普及のネックになってきたのがとポータルサイトでの「ジャンル」です。

「一般的にはアパートよりマンションの方が価値が高いと認識されています。しかし、今まで弊社でどんなによい木造賃貸住宅をつくっても、SUUMOほか、ポータルサイトでは規約によりマンションで募集登録できませんでしたし、同業他社からは『木造アパートはマンションでないため経年すると価値が下がり入居者募集に苦労しますよ』と言われてきました。どんなにいい木造建築をつくっても評価されないのだと、悔しい思いをしてきたんです。今回、一定の要件のもと、木造住宅でも『マンション』として募集できるようになりました。さらに、プロ投資家に向けて、住宅性能評価書と投資判断に重要とされるエンジニアリングレポートを取得することで、木造でもRC(鉄筋コンクリート)造と同等の減価償却期間47年が可能となることを証明し、木造建物に投資する門戸を広げました」(依田さん)

今後の課題は、木材の確保、部資材の調達、施工監理などの人材育成だといいます。
「普及を考えたときの木材や、木造マンションに合った建材、部資材の確保は課題といえるでしょう。あわせて施工してくれる人材は必要不可欠なので、その点を解決していきたいですね。これは私の後輩の役割となると思いますが、RC造と同様に、木造マンションが当たり前の選択肢として世の中に広まっていったら、と願っています」(依田さん)

「同潤会アパート」や「霞が関ビルディング」のように、時代の転換点を象徴するような「建築物」がありますが、後世から振り返ってみたとき、「モクシオン稲城」もそのような存在になるのかもしれません。

●取材協力
モクシオン稲城

空き家リノベを家主の負担0円で! 不動産クラウドファンディングが話題 鎌倉市・エンジョイワークス

人口が減り始めた日本では、売ったり、貸したりといった活用がなかなか進まない「負動産」と揶揄される空き家が増えています。一方で、所有者の経済的な負担を減らしつつ、住まいとして現代の暮らしに合うよう、再生する試みがはじまっています。どんな仕組みなのでしょうか。仕掛け人の株式会社エンジョイワークスが始めた「0円! RENOVATION 」の取り組みを、実際のプロジェクト「鎌倉雪ノ下シェアハウス」とともにご紹介しましょう。

鎌倉駅から徒歩12分。空き家が海を見下ろすシェアハウスに

2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の舞台でもあり、日本を代表する古都・鎌倉。戦前から避暑地として栄え、今なお「住みたい街」として根強い人気があります。そんな鎌倉駅から徒歩12分、細道を抜けた緑豊かな小高い丘に、今年、一軒家を改装したシェアハウスが誕生しました。

地名は「雪ノ下」ですが、源実朝が鶯の初音を聞いたことから、古くは「うぐいすがやつ」と呼ばれていたそう。地元の人は「うぐいす村」と呼んでいます(写真撮影/桑田瑞穂)

地名は「雪ノ下」ですが、源実朝が鶯の初音を聞いたことから、古くは「うぐいすがやつ」と呼ばれていたそう。地元の人は「うぐいす村」と呼んでいます(写真撮影/桑田瑞穂)

鎌倉駅から徒歩圏内でこの風景。緑のトンネルを抜けると……(写真撮影/桑田瑞穂)

鎌倉駅から徒歩圏内でこの風景。緑のトンネルを抜けると……(写真撮影/桑田瑞穂)

建物からの眺め。緑は濃く、鳥のさえずりが耳に愛らしい(写真撮影/桑田瑞穂)

建物からの眺め。緑は濃く、鳥のさえずりが耳に愛らしい(写真撮影/桑田瑞穂)

もともとこの一軒家は1960年に、個人の邸宅として建てられたものです。ここ15年ほど空き家になっていましたが、2年程前にこの建物に一目惚れした現オーナーが購入し、別荘として活用する計画だったそう。とはいえ、空き家だったため、建物の痛みが激しく、個人でDIYをして利用するのは難しいと断念、取り壊すには惜しいことから旧村上邸などの「鎌倉市内はじめ湘南エリアでの空き家再生」に実績のあった「エンジョイワークス」に物件を委託されたそう。

物件活用の方法として、ドミトリーなども考えられましたが、個室がしっかりとれること、昔から住んでいる地域の住民との関係、鎌倉らしい暮らしができる立地など、もろもろを考慮して、「シェアハウス」として活用するアイデアが出たそう。

シェアハウスとなる個室は全5部屋、家賃は部屋ごとに異なるものの、平均で7万5000円(Wi-Fi使用料、共益費込み)。庭には桜や紅葉が植えられていて、2階の一部の部屋からは海が見え、隣接した鶴岡八幡宮から早朝に祝詞(のりと)も聞こえるなど、まさに「鎌倉らしい暮らし」を満喫できる物件です。

鎌倉・雪ノ下にできた女性専用シェアハウス。今の建物にない味わい、ひと目見て夢中になります(写真撮影/桑田瑞穂)

鎌倉・雪ノ下にできた女性専用シェアハウス。今の建物にない味わい、ひと目見て夢中になります(写真撮影/桑田瑞穂)

「鎌倉雪ノ下シェアハウス」の間取りイラスト。左側は1階部分+庭、右側は2階部分(画像提供/エンジョイワークス)※応募時のイメージ。現状とは間取りが異なっている部分あり

「鎌倉雪ノ下シェアハウス」の間取りイラスト。左側は1階部分+庭、右側は2階部分(画像提供/エンジョイワークス)※応募時のイメージ。現状とは間取りが異なっている部分あり

エントランスからして、もうかわいい(写真撮影/桑田瑞穂)

エントランスからして、もうかわいい(写真撮影/桑田瑞穂)

玄関(写真撮影/桑田瑞穂)

玄関(写真撮影/桑田瑞穂)

建物には、部屋にマントルピース(装飾暖炉)があったり、化粧梁があったりと、かつての所有者の思い入れを感じる、凝った造りです。今回、1100万円ほどの費用をかけてリノベーションし、現在の暮らしに合うように、手すりをつける、壁を塗り直す、キッチン・設備などを交換する、傷んでいる部分を直すといった工事をしていますが、照明やバス・洗面所などはあえてそのままとし、物件が持つレトロな味わいを極力、残すようにしたといいます。

浴室はタイル貼りのまま。改修も考えたものの「このままのほうがいい」との意見で残したそう(写真撮影/桑田瑞穂)

浴室はタイル貼りのまま。改修も考えたものの「このままのほうがいい」との意見で残したそう(写真撮影/桑田瑞穂)

浴室に隣接した洗面所。籐のかごが建物の雰囲気とよくあっています(写真撮影/桑田瑞穂)

浴室に隣接した洗面所。籐のかごが建物の雰囲気とよくあっています(写真撮影/桑田瑞穂)

1階の個室。写真右側にあるマントルピース(装飾された暖炉)も照明も、従来からあったもの(写真撮影/桑田瑞穂)

1階の個室。写真右側にあるマントルピース(装飾された暖炉)も照明も、従来からあったもの(写真撮影/桑田瑞穂)

(写真撮影/桑田瑞穂)

(写真撮影/桑田瑞穂)

「大きな庭もありますので、ハーブや野菜などを育てることもできます。ゆっくり、ていねいな暮らしをしたいと考える女性に住んでもらえたらいいなと思っています」と話すのは、物件の企画・運営に携わる株式会社エンジョイワークスの事業企画部の羽生朋代さん。

物件所有者も投資家も、入居者も。みんながうれしい仕組みとは?

驚くのは今回の物件改修に際し、物件所有者の負担は「ゼロ円」だという点です。では、どのような仕組みになっているのでしょうか。

まず、物件所有者はエンジョイワークスと定期賃貸借契約を結びます。このときの賃料は、1年間の固定資産税程度の金額です。次にエンジョイワークスがプロジェクトに興味のある人に物件を紹介し、活用のための資金とアイデアを募ります。エンジョイワークスは不動産特定共同事業の匿名組合営業者としてファンドを組成し、ファンドに出資する投資家を募ります。

図版提供:エンジョイワークス

図版提供:エンジョイワークス

今回の「鎌倉雪ノ下シェアハウス」の場合、リノベーション費用にかかる総額を約1100万円と想定、1口5万円からの投資を募ったところ、約30名の投資家が「参加したい」と申し出があったそう。

ファンド募集期間中は、エンジョイワークスがイベントや意見交換会を4回ほど実施し、プロジェクトの認知を高め、共感を集め、投資家を募り、集まったファンド資金でリノベーション工事を進めます。今後は、エンジョイワークスが一定期間シェアハウスとして運営し、投資家へ利益を還元したところで、オーナーに返却するという仕組みになっています。

鎌倉は住みたい街として人気はあっても、「そもそも賃貸募集物件が少ない」「鎌倉らしい物件が少ない」という弱点を抱えているそう。今回のシェアハウスは、そうした「鎌倉らしい物件を提供する」という意味でも、入居者にもメリットがある、まさに「いいことづくめ」のプロジェクトといえるのです。

ここで、入居者を含めた4者のメリットを整理してみましょう。

入居者を含めた4者のメリット

2階の居室から見える緑。壁色にグレイッシュカラーを採用し、よりモダンな雰囲気に(写真撮影/桑田瑞穂)

2階の居室から見える緑。壁色にグレイッシュカラーを採用し、よりモダンな雰囲気に(写真撮影/桑田瑞穂)

エンジョイワークスの羽生朋代さん(写真撮影/桑田瑞穂)

エンジョイワークスの羽生朋代さん(写真撮影/桑田瑞穂)

一般に建物所有者が古民家を改修して、現代の暮らしにあうようリノベーションしようとしても金融機関からの融資が受けられない(個人・法人問わず、土地の評価額以上の借り入れが難しい)ため、税金ばかりかかって個人では維持しきれないというのが、古民家再生の大きな課題になっています。

この「0円! RENOVATION 」は、そうした所有者の負担を極力減らし、個人や企業などで事業を応援したい人からの投資という形で資金をまかない、再生するというのが大きなポイントといえそうです。また、日本には家を持っていても、「再生しようにもお金も知識もない」「誰かわからない人には貸したくない」「手放したくない」という人は多いもの。建物の良さを再発見、価値化できるのであれば、「うちもお願いしたい」という人も増えてくることでしょう。

投資家は利益よりも、「つながり」「地域活性化」「空き家再生」「社会課題の解決」に興味大

では、投資家にはどのような人が多いのでしょうか。一般的な不動産投資よりも、「プロジェクトが小さいこと」「アイデア」が出せる点が魅力に思えますが、どのような点に惹かれて、投資を決めるのでしょうか。

「利益というよりも、シェアハウスの運営を学んでみたい、地域の活性化に興味があるといった人が多いように思えます。また建物が好き、プロジェクトに参加してみたい、DIYを手伝いたいといった人もいらっしゃいましたね」と話を聞いていると、単に利益を求めて出資するというよりも、「つながり」「建物再生に携わりたい」「地域をよくしたい」という思いが背景にあるようです。

イベント時の様子(写真提供/エンジョイワークス)

イベント時の様子(写真提供/エンジョイワークス)

また、今回の物件は、かなり山深い場所に建っています。そのため、当初は庭全面に野草が生えている状態だったそう。そこで、草刈りイベントを実施したところ、投資家を含め協力的な参加者が多く1時間程度であっという間に庭がきれいになったそう。その後に実施したイベントも盛況で、単に投資しておしまいではなく、「社会への投資をしたい」「携わっていきたい」という関心の高さが伺えます。

「やはり、空き家や地域再生に関心が高いんだなと思いました。みなさん、あの建物がどのように再生していくのか、ワクワクしていらっしゃるようです。一方で私は運営の当事者でもあるので、早く入居者に入っていただき、利益を還元していかないといけないという、責任を感じています」

こうしていくと、物件を通して、オーナーさんと投資家のみなさんが、「建物の再生の物語」を共有しているように思えます。

共有スペースのリビングダイニングで。壁を壊して柱を見せている(写真撮影/桑田瑞穂)

共有スペースのリビングダイニングで。壁を壊して柱を見せている(写真撮影/桑田瑞穂)

キッチン上部には、昭和レトロなガラスを残したそう。いいですよね、昭和のガラス……(写真撮影/桑田瑞穂)

キッチン上部には、昭和レトロなガラスを残したそう。いいですよね、昭和のガラス……(写真撮影/桑田瑞穂)

庭の家庭菜園で採れたサンチュ(写真撮影/桑田瑞穂)

庭の家庭菜園で採れたサンチュ(写真撮影/桑田瑞穂)

「鎌倉に限らずですが、日本全国、不動産を持て余しているオーナーさんはたくさんいらっしゃいますし、よい物件がないという入居希望者もたくさんいらっしゃいます。『自分がいいと思うものに投資したい』『社会をよくするためにお金を使いたい』という投資家もたくさんいらっしゃる。こうした思いを結びつけて、地域の資産である建物や住まいを守っていけたら」と羽生さん。

現代の法律と金融の仕組みでは、どんなに思い入れのある建物でも、残し、住み繋いでいくことは、かんたんなことではありません。その一方で、「空き家のまま終わらせたくない」「建物を残したい」「物件を地域に開いて、暮らしを豊かにしたい」という志を持った人は確実に増えています。家を「負動産」ではなく、価値ある「不動産」にするカギは、不動産とお金、そして人と人を結びつける仕組みにありそうです。

●取材協力
エンジョイワークス
0円! RENOVATION

いくえみ綾らレジェンド漫画家12名、名作を生んだ住まい秘話にときめきが止まらない!『少女漫画家「家」の履歴書』

青池保子、一条ゆかり、庄司陽子、山岸凉子、美内すずえ、いくえみ綾といった少女漫画家の名前を聞いて、「なつかしい!」「夢中で読んだ!」と思う人は多いはず。そんな少女漫画家たちに、住まいを軸に半生を語ってもらったのが『少女漫画家「家」の履歴書』(文藝春秋、週刊文春編)です。レジェンド少女漫画家への取材時のエピソードなど、本が完成するまでの舞台裏を文春新書編集部に聞きました。

庄司陽子先生からの直電も! 読者からも熱いお便りが届く

才能あふれる若き漫画家たちが次々と登場し、少女漫画界に新しい風を吹き込んでいた1970年代。『少女漫画家「家」の履歴書』(文藝春秋、週刊文春編)は、そんな70年代にデビューした少女漫画家の半生と住まいを振り返る一冊です。もともとは、2004年から2021年の「週刊文春」に掲載されたものでしたが、この春、新書になって刊行となりました。少女漫画を読んで大きくなった筆者としては、すぐに飛びついてしまいましたが、同じような人は多かったようです。

表紙・裏表紙には不朽の名作12冊の書影が並ぶ『少女漫画家「家」の履歴書』(文藝春秋、週刊文春編)

表紙・裏表紙には不朽の名作12冊の書影が並ぶ『少女漫画家「家」の履歴書』(文藝春秋、週刊文春編)(画像提供/文春新書編集部)

「発売前から書店員さんを中心に『水野英子、青池保子、一条ゆかり、美内すずえ、庄司陽子、山岸凉子、木原敏江、有吉京子、くらもちふさこ、魔夜峰央、池野恋、いくえみ綾と名前が並んでいるだけでワクワクする』とSNSで話題にしていただきましたが、発売後も読者がどんどん書影とともに感想を紹介してくれ、口コミが広がっていくのを実感しました」と話すのは編集を担当した文春新書編集部・池内真由さん。

実際、編集部には3枚以上にわたる長文の手紙が届くこともあるそうで、少女漫画を心の支えにしていた人はたくさんいるようです。しかも本書の発売後には、なんと庄司陽子先生から直接、池内さんにお電話がかかってきたそう。

「1度目は電話をとれず、2度目に『知らない番号だな……』とおそるおそる出てみたら『庄司陽子です』と! にわかに信じられなくて、先生には申し訳ないのですが、お名前を聞き直してしまいました(笑)。『大変いい思い出になりました。どうもありがとう』と仰ってくださって。私にとってはレジェンドの先生が、ただただ感謝を伝えるためだけに電話をしてくださったことに感動してしまいました。それが自分にとっては一番の『反響』かもしれません」

なんでしょう、そのエピソードだけで、なんだか胸がいっぱいになります。

(画像提供/文春新書編集部)

(画像提供/文春新書編集部)

取材OKがもらえるのは3人に1人! 鮮明な記憶に仰天!

それにしても、掲載されている少女漫画家の先生方は大御所のみなさまばかり。取材交渉も大変なのではないでしょうか。

「『家』というプライベートな話を扱うので、漫画家に限らず3人に依頼してようやく1人に受けていただけるかという企画なんです。何人もの編集者が関わっているので、それぞれ取材を快諾してもらうまでの難しさはあったと思います。残念ながら私は雑誌連載時の取材には同行していないのですが、取材をしてみると、さすが漫画家の先生方は記憶力バツグンで、次から次へと映像的なイメージが浮かぶように話してくださったと聞いています。一流の漫画家はこんなにも映像的な記憶力が優れているのかと思うほどだったと。青池保子先生はあらかじめ大きな方眼紙に手ずからご生家の間取り図を描いてくださって、担当編集者は家宝にしているそうです(笑)」

(画像提供/文春新書編集部、(c)市川興一)

(画像提供/文春新書編集部、(c)市川興一)

やはり絵を扱うプロだけあって、間取りや住まいへの解像度、理解度は並外れたものがあるようです。インタビューで衝撃を受けたのは、凉子先生。なんとエプロン姿で表れたといいます。

「山岸先生といえば“天才肌”で“知的”で“クール”。先生の描く『青青の時代』の日女子(卑弥呼)や『馬屋古女王』のようなミステリアスで威厳のある女性の姿を想像していました。ただ、実際には白を基調としたモダンな建築のお家の玄関に、エプロン姿で出迎えてくださって。自らセレクトした美味しいケーキと紅茶を振る舞っていただき、誌面に載せきれないほどの怪奇現象をお伺いしました。特に、幼少期に育った北海道の社宅や初めて建てた洋館での怪奇現象が本当に怖かったです」

(画像提供/文春新書編集部、(c)市川興一)

(画像提供/文春新書編集部、(c)市川興一)

作品さながらの怪奇現象を聞けるなんて、うらやましい……。ただ、エプロン姿でありながらも、同時代を生きる人たちのはるか先を見据えているような雰囲気があり、まるで“生きている厩戸皇子”だと思ったそう。

一輪のバラにすら書き手の表現力があらわれる

本書は表紙だけでなく、随所にバラがあしらわれているのも特徴的です。そうですよね、1970年代の少女漫画といえばバラです。かたい中身が多い新書の装丁では、少し珍しい印象です。

「たくさんの編集者の漫画愛が詰まってできた一冊なので、それが無事に届くようにと思っていました。文藝春秋社の新書の読者層はどちらかというと男性が多いので、少女漫画を読んできた女性は少ないのではないかと思っていたからです。そこで、70年代を想起させるようなバラで表紙を飾ろうと当初から思っていたのですが、たった一輪のバラでも、無料のイラストでは全然70年代の雰囲気が出ないんですよ」(池内さん)

そこで、バラのイラストを笹生那実さん(『薔薇はシュラバで生まれる』(イースト・プレス))に書き下ろしていただいたそう。笹生さんは美内すずえさんや山岸凉子さんのもとでアシスタントをされていた経験の持ち主で、このバラであれば、時代の空気までも伝えられると確信したといいます。

(画像提供/文春新書編集部、(c)笹生那実)※誌面よりトリミング

(画像提供/文春新書編集部、(c)笹生那実)※誌面よりトリミング

「バラ一つとってもそうなのですから、一冊の漫画ができ上がるまでに、漫画家、アシスタント、編集者の方々が注ぎ込む労力はハンパなものじゃないですよね。だから人の心を揺さぶることができるんだと思いました」

そうですよね、先人たちが文字通り「心血注いでできた」少女漫画だからこそ、今のように後進が続いているのだと思います。では、先生方からの原稿への赤字(間違いを正す指示書き)も厳しいものがあったのでしょうか。

「漫画家はセリフを書くプロでもありますから、赤字も面白かったです。さらに新たな要素が加わったり言葉のリズムが生き生きとした会話になったり。今回は連載時に加えて近況を『追伸』という形でメッセージをいただいています。どんな内容かは、ぜひ本書で確かめていただきたいです」
たしかに!! 追伸の内容、くすりとさせられました。あれは先生方からの赤字だったんですね……。

女性が漫画を描く道を切り開き、理想の家を建てた

それにしても、本書では女性漫画家それぞれの歩みのようで、日本の女性が社会に出て働けるようになった足跡とも重なります。

「そうですね、本書に登場するのは、魔夜峰央先生をのぞく11名が女性です。水野英子先生を皮切りに年齢の違う12人の漫画家の半生を見ていくことによって、『女性が漫画を描く』という道を切り拓き、その姿に憧れて新たな女性漫画家が生まれていったという時代の変遷を感じ取れると思います。結果として女性漫画家は、当時の働く女性の中でも飛び抜けた富を得て経済的に自立し、理想の家を建てるまでになりました」

個人的には新築マンションを購入し、3LDKを1Lにリノベーションしたいくえみ綾先生の話が印象的です。その時なんと20歳(!)。あまりの若さから施工業者に「あなたが買うんじゃないんですよね?」と言われ、お父様が「いえこの子が買うんです」と言い返したとか。伝説ですよね……。その他先生方の家を建てるとき、買うときのエピソードもまた個性があって、痛快すぎます。こだわりをつめこんだ注文住宅を建てるだけでなく、今でいうニ拠点生活をしていたり、ホテルで缶詰になって仕事をしていたり、アシスタントとのシェア生活だったりと、さまざまな住まい方のバリエーションが出てきます。やはり少女漫画家にとって「家」は特別な場所なのでしょうか。

「漫画家の場合、自宅が仕事場であることも多く、仲間たちと切磋琢磨した『戦場』でもあります。取材前は、家は傑作が生まれた『舞台裏」だと思っていました。ただ、山岸凉子先生に『あの頃 わたしは あの家で マンガ家になろうと 足掻(あが)いていた』と帯に書いていただき、随分と狭い考えだったと反省しました。12人のレジェンドたちがまだ何者でもなかった時の原体験。それを与えてくれたのが『家』なのだなと。彼らが何者でもない時に、何をみていたのか。どんな家で、家族とどんな時間を過ごしたのか。つまり、『世界をどのように見てきたか』、その視点こそが漫画家としての根っこになっているんだと気付かされたんです。そんな奥行きのあるコピーをわずか2行で書いてしまうんですから、すごいですよね」

(画像提供/文春新書編集部)

(画像提供/文春新書編集部)

やはり、時代をつくった稀代の少女漫画家は違いますね。もっと他の先生のお話や続編にも期待しているのですが、予定はあるのでしょうか。

「個人的には続編を出せたらいいなと思っています。今後も順調に売れてくれればですが……(笑)。本書が出てから『この漫画家に取材してほしい』というメッセージをいただきましたし、こちらとしても出ていただきたくてアプローチをしている先生方もいらっしゃいます。特に里中満智子さんはぜひご登場いただきたい方の一人です」と語ってくれました。

本書を読んで、久しぶりに少女漫画を読んでいたころのときめきを思い出しました。大人になると家は、広さや家賃、価格、駅徒歩、設備などの情報に目を奪われがちですが、実は住まい探しに大切なのは、「幼き日の憧れ」や「ときめき」かもしれません。

●取材協力
文藝春秋

子育てや家事もシェアする「シェアハウス日日」。孤育てや強制ない距離に共感、学生や会社員の入居者も

住まいを探すときの選択肢として、すっかり定着したシェアハウス。家賃をおさえるため、趣味を共有したい、異文化交流したい、など目的に合わせてさまざまなタイプがありますが、多いのは20代から30代のシングル向けの、大人がほどよい距離を保ちながら暮らすという物件です。ただ、今回はそんな物件とはちょっと趣が異なる、子育てやDIYなど、暮らしを分け合うシェアハウスをご紹介します。

築90年の古民家に子育て中の夫妻、入居者4人が暮らす階段から玄関を見たところ。建物全体に年を経た味わいがあります(写真撮影/相馬ミナ)

階段から玄関を見たところ。建物全体に年を経た味わいがあります(写真撮影/相馬ミナ)

DIYや食事、子育てといった日々の営みを“シェア”する「シェアハウス日日(にちにち)」は、北千住駅から少し歩いた住宅街の一角にあります。長年、空き家となっていましたが、所有者が活用方法を模索するため行政主催の空き家活用コンペにこの物件を提供。Tさんたちの企画が採用され、シェアハウスになることが決まったといいます。現在、暮らしているのは、管理人ご夫妻とそのお子さん、入居者4名の計7名です。管理人のTさん、Kさん夫妻はシェアハウスの運営をしつつ、古民家をリノベーションした日用品と喫茶の店「KiKi北千住」を営んでいます。

「シェアハウスの運営を通じて、暮らし方や建築、不動産のあり方を考えています」(管理人のTさん)といいます。

口コミや紹介などで自然と次の人が決まっているとのことで、「常に満室フル稼働」というよりは、住まいや暮らしの価値観の合う、理解のある人を求めているそう。
建物の築年数は古いものの、基本的な内装とバスやトイレなどの水回り、キッチンはプロの手によって改修されています。間取りは1階にキッチン、リビング、バストイレ、ご夫妻の居室、2階に寝室があり、家賃は5万円、共益費が1万4000円。1階のLDKのほか各部屋もDIY可能で、共有部分にはDIY道具も置いてあります。
基本的に入居者は自炊して暮らしていますが、時間が合う時には食材を持ち寄ってパーティをしたりします。

共有部に置かれたDIY用品。「私達にはDIYスキルがあるので、入居者に経験がない場合でも、教えることも可能だと思ったんです」と妻のKさん。KiKi北千住をセルフリノベーションした経験があるほか、「大工インレジデンス」(大工技術を提供する代わりに家賃や食費を提供してもらえる)という仕組みがある九州のシェアハウスで、住み込み大工をしていたこともあるそう(写真撮影/相馬ミナ)

共有部に置かれたDIY用品。「私達にはDIYスキルがあるので、入居者に経験がない場合でも、教えることも可能だと思ったんです」と妻のKさん。KiKi北千住をセルフリノベーションした経験があるほか、「大工インレジデンス」(大工技術を提供する代わりに家賃や食費を提供してもらえる)という仕組みがある九州のシェアハウスで、住み込み大工をしていたこともあるそう(写真撮影/相馬ミナ)

取材前、シェアハウスで子育て、食事を分け合っていると聞いて、あまりイメージがわかなかったのですが、実際に和やかにランチをともにしている様子を拝見していると、とても自然な様子です。まるで昔からの友人や親戚のようなあたたかさに驚きます。

娘ちゃんを囲んでランチの様子。みんなのアイドルです!(写真撮影/相馬ミナ)

娘ちゃんを囲んでランチの様子。みんなのアイドルです!(写真撮影/相馬ミナ)

“孤育て”やイライラとは無縁! シェアハウスでの子育て

ご夫妻で決めた上でシェアハウスで子育てをしているわけですが、まずはその成り立ちから聞いてみました。

妻のKさんはこう言います。「シェアハウスの運営を通じて、子育てを夫婦以外の第三者も巻き込んで、ゆるやかなコミュニティの中でする方が、親にとっても子どもにとってもよい環境なのではないかと思い、試してみたかったんです」

そのため、シェアハウスの企画が立ち上がり、夫のTさんからシェアハウスで子育てしようという話が持ちかけられたとき、ここで子育てをするというのは実に自然な流れだったといいます。

左が妻のKさん、右がTさん。(写真撮影/相馬ミナ)

左が妻のKさん、右がTさん。(写真撮影/相馬ミナ)

入居時、建物は未完成の状態でしたが、その後、入居者といっしょに壁を塗ったり、床を貼ったり、棚をつくったりと、DIYを続け、現在のかたちに落ち着いています。夫妻は共働きのため、現在、娘さんは保育園に通っていますが、まだまだ手がかかる年齢です。シェアハウスでの子育ては、まわりに気を使って大変ではないんでしょうか。

「子どもがいることに理解をして入居してもらっているので、寧ろ子ども好きな人が多いですね。ごはんづくりやお風呂、トイレといったちょっとした時間も、入居者のだれかが娘の面倒を見ていてくれることもあります。小さなことかもしれないけど、ストレスがなくて助かっています。親以外の大人が、子どものことを可愛がってくれると、子育ての喜びも増しますし、逆に大変なことも笑いあえる環境というのがとても有難いです」とKさん。

おそうじの当番表。ありがとうと書き込まれているので、はげみになります(写真撮影/相馬ミナ)

おそうじの当番表。ありがとうと書き込まれているので、はげみになります(写真撮影/相馬ミナ)

娘さんは入居者みんなのアイドル、かわるがわるに遊んでもらったり、抱っこしてもらったりと、可愛がられています。親戚のような、きょうだいのような、「ゆるい親戚」という言葉が実にしっくりきます。

「夫が料理好きで、食いしん坊なんです。ふるまうのが好きで、それで突然、パーティがはじまることも多いですね」とKさん。Tさんが自然と続けます。
「近所に足立市場があるんですが、お刺身にしたり、鍋にしたり。新鮮な魚が近くにあって、市場に行くだけでもイベント感があるので楽しめます」とにこやかです。ほかにも味噌をつくったり、たこ焼きパーティをしたり、誕生日を祝ったりしています。

キッチンのタイルは入居者みんなで貼ったもの(写真撮影/相馬ミナ)

キッチンのタイルは入居者みんなで貼ったもの(写真撮影/相馬ミナ)

料理をしているといい香りが漂います(写真撮影/相馬ミナ)

料理をしているといい香りが漂います(写真撮影/相馬ミナ)

この日はみんなが大好きなパスタをつくってくれました(写真撮影/相馬ミナ)

この日はみんなが大好きなパスタをつくってくれました(写真撮影/相馬ミナ)

配膳はみんなで分担。カウンターもDIYで造作しました(写真撮影/相馬ミナ)

配膳はみんなで分担。カウンターもDIYで造作しました(写真撮影/相馬ミナ)

完成した料理。サラダも盛り付けて、みんなでいただきます(写真撮影/相馬ミナ)

完成した料理。サラダも盛り付けて、みんなでいただきます(写真撮影/相馬ミナ)

「東京にあるもう一つの実家」。居心地の良さに出たくないほど

では、入居者はどのように感じているのでしょうか。大学生のAさんは、半年ほど前に別のシェアハウスからこのシェアハウスへ引っ越してきた住人です。通学にかかる時間は増えてしまいましたが、居心地のよさから「第二の実家」とまで言い切ります。

「前に暮らしていた知人のデザイナーさんから、お部屋を引き継いで暮らしているのですが、あまりにも居心地良すぎて、大人になってもずっとここに住んでいたいです(笑)」とおっとりと話します。前の住人が壁を白く塗ってくれていた部屋の雰囲気に合わせて、フローリングシートを張ったり、ロフトの壁を塗ったりお部屋をAさんらしくアレンジしています。

Aさんのお部屋の入り口にあるサイン。アートバーで制作したそう(写真撮影/相馬ミナ)

Aさんのお部屋の入り口にあるサイン。アートバーで制作したそう(写真撮影/相馬ミナ)

お気に入りのお部屋で。広さもインテリアも「すべてがいい感じ」だそう(写真撮影/相馬ミナ)

お気に入りのお部屋で。広さもインテリアも「すべてがいい感じ」だそう(写真撮影/相馬ミナ)

「室内の白い壁は前の入居者さんががんばってDIYして、白いまま残してくださりました。インテリアは私の好みのものを揃えたのですが、白い壁の雰囲気とよくマッチしていて、すべてがいい感じなんです」といいます。あまりにも暮らしが快適なため、「欲しい物もあまりないかな」と話すほどで、その満足度の高さが伺えます。Tさん夫妻の娘とも仲良しです。

「年の離れたお姉さんというよりも、純粋に友達という感じでしょうか。いっしょになって遊んでいます。めちゃくちゃかわいくて毎日癒やされてます。」といい、子どものいる暮らしがとても楽しいよう。

意地悪な質問ですが、シェアハウスにありがちな生活音やトラブル、暮らしでいやな経験をしたことはないのでしょうか。
「管理人夫妻がいっしょに住んでいらっしゃるので、何かあっても感情的になるのではなく、冷静に『指摘』してくれるので助かっています。通勤してくる管理人、清掃スタッフだとまた違うのではないでしょうか。トラブルや困りごとはないですね」といいます。このあたり、入居前に顔をあわせていたり、紹介を経由して人が集まったりすることで、「入居者同士の感覚が近い」のもあるのかもしれません。

Aさんの個室。シンプルですが個性が出ていてすてき(写真撮影/相馬ミナ)

Aさんの個室。シンプルですが個性が出ていてすてき(写真撮影/相馬ミナ)

もうひとり、1カ月ほど前からここで暮らしはじめたFさんにもお話を伺いました。

「出身は千葉ですが、以前は福岡で一人暮らしをしていました。この春に東京に戻ってくることが決まり、家具家電をそろえる費用がかからないシェアハウスを探していたんです。管理人Tさんが私の大学の先輩というご縁もありましたし、勤務先の近くにあるので、通勤にも便利ということで、入居を決めました」と立地や実用性も重視しての入居となったそう。入居して間もないものの、すでにシェアハウスに馴染んでおり、前出のAさんのことはまるで妹のようと話すなど、気持ちのよい関係が築けています。 

「入居前に心得をブログにまとめてくれていたので、共通理解ができているのは大きいと思います。共有部分の掃除や汚れが気になることもないし、分担も自然とできています」。なるほど、管理人夫妻の人柄やシェアハウスでつくりたい「暮らし」のイメージが明確だからこそ、大きくぶれないのかもしれません。

自分の好きな作品をディスプレイ(写真撮影/相馬ミナ)

自分の好きな作品をディスプレイ(写真撮影/相馬ミナ)

トイレには、元住人が作った作品の姿も(写真撮影/相馬ミナ)

トイレには、元住人が作った作品の姿も(写真撮影/相馬ミナ)

今後の展望についてTさんに聞いてみました。
「昨今、北千住の人気が出てきてしまったので、なかなかいい物件と出会いにくくなっているというか。ただ、空き家活用や建築のお悩みごとや街への想いは地元のみなさん、お持ちなんですね。物件との出会いは人との出会いでもあるので、不動産や建築を通して、この街にもっと根ざしていけたらいいなと思います」とTさん。

この建物ができた今から90年ほど前の日本では、長屋暮らしが一般的でしたし、家族や親類縁者、住み込みの従業員でいっしょに食事をしたり、建物の普請や手直しをすることが多かったはずです。シェアハウス日日の暮らしがなんとなく懐かしいのは、新しいようでいて、実は古くからある暮らしそのものだからなのかもしれません。

入居者ごとにマステが決められていて、貼っておけば誰のものかわかる仕組み。賢い!(写真撮影/相馬ミナ)

入居者ごとにマステが決められていて、貼っておけば誰のものかわかる仕組み。賢い!(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

●取材協力
シェアハウス日日

NY、経済活動再開で家賃相場が30%増の地域も! シビアな世界の不動産事情

新型コロナウイルス感染症拡大で、2020年以降大打撃を受けたアメリカ・ニューヨーク。一時はロックダウンで街から人が消え去り、さらにはリモートワーク/テレワークなどの新たな働き方の浸透によって、多くの市民が市外や州外へ転出した。それに伴って、市内の不動産価格や家賃が下落。あれから2年。コロナ禍3年目となった今、感染状況は一進一退だが、不動産価格や家賃相場は再び上昇傾向になっている。そこには全世界から人が集まる大都市ならではの「ある理由」があった。

NYと日本、いま「住みたい街」とは?

アメリカの大都市ニューヨークでは、東京や大阪などと同様に、街によってそこを選ぶ人の世代やライフスタイルが異なる。収入が十分でない若年層が注目するのは、マンハッタンの外れの地域や、川を越えたクイーンズだ。タウンハウスという一軒家を借りて何人かでシェアしていることもある。子育てをしているファミリー層はマンハッタンから電車で1時間ほどの郊外にある、広い庭付きの一軒家が好まれる傾向がある。富裕層はマンハッタンのパークアベニューやアップタウン、トライベッカなどに好んで住む傾向だ。個性を求めているアーティストには、クリエイティブで独自の文化があるマンハッタンのダウンタウンや、広いロフトが多いブルックリンなどが人気だ。

ブルックリン(写真/PIXTA)

ブルックリン(写真/PIXTA)

ちなみに日本では、今コロナ禍による影響も大きな要因となって、都心よりも郊外の人気がやや上昇している。在宅時間が長くなり、人々が利便性に優れた都心だけでなく郊外の住環境などにも目を向けた結果だろう。 今年発表された「SUUMO住みたい街(駅)ランキング2022」でも、横浜駅や吉祥寺駅、恵比寿駅の人気は相変わらずだが、上位に埼玉県の大宮市や浦和市など、郊外の都市がランクインしたのが特徴的だった。

ニューヨークも同様、観光客が多いマンハッタンの繁華街ではなく、中心部から少し離れた場所や郊外などが「住みたい街」として注目されている。

2年前、この街は新型コロナウイルスの感染拡大によって大打撃を受け、経済が壊滅状態となった。感染を避けるため、またはリモートワーク/テレワークの浸透によって、多くの市民が市外や州外へと続々と転出したことが地元メディアでも報じられた。それによって、不動産価格や地価、家賃の下落が起きたのだ。不動産の調査をする「ストリート・イージー」によると、2021年1月~3月期のマンハッタンの月の家賃の中央値はコロナ騒動が勃発した時期の前年同期比17%減の2700ドル(当時の為替で約29万円)だった。これは集計を開始した10年以来で最低の数値だった。

コロナ禍3年目、不動産市場が再び活況に

しかしコロナ禍3年目となる今、ニューヨーク市内での不動産価格や地価、家賃の上昇が伝えられている。

「ニューヨークは戻った」という見出しを掲載したビジネス誌『FORTUNE(フォーチュン)』のウェブ版記事は、「アメリカの金融資本の需要はかつてないほど高まっている」とし、マンハッタンの家賃が記録的な金額に達したと報じた。

マンハッタン(写真/PIXTA)

マンハッタン(写真/PIXTA)

同誌によると、マンハッタンの家賃は昨年に比べて24%も上昇したという。中央値は昨年より705ドル(9万円以上。1ドル128円計算。以下同)も値上がりし、(今年3月時点で)3700ドル(47万円超え)に。家賃の上昇は、オフィス勤務の復活や学校再開に伴い人々が市内に戻り、空室が少なくなったことを意味する。空室率は昨年2月の時点で12%近かったが、今年の同時期は1.32%まで下がっている。

マンハッタン以外でも、ブルックリンで昨年に比べて10.5%上昇し、中央値は2900ドル(37万円超え)、クイーンズで14.5%上昇し中央値は2888ドル(37万円超え)に達するなど、市内の至るところで家賃が上昇している。

地元メディアのニューヨークポストによると、特に中心部や繁華街(マンハッタンのアッパーウェストサイドやダウンタウン、ブルックリン)の駅近くの物件において家賃が上昇傾向にあるという。

NY、エリア別の家賃相場

家賃が東京の2倍もしくはそれ以上とも言われるニューヨーク。家賃相場はエリアにより、また間取りやビルの状態などによって異なる。
ニューヨークは全体的に家賃が急上昇しています。特にマンハッタンは前年同月比で30%くらい上がっていると思います。ブルックリンも負けずに上がっています」と話すのは、滝田不動産(Yoshi Takita REALTOR(R))の代表、滝田佳功(たきたよしのり)さん。

Living NY社に勤務する、ニューヨーク州認定の不動産エージェント、木城祐(ひろし)さんも、「特に家賃が上昇しているのはマンハッタンです。アッパーマンハッタン(北部)など一部エリアを除いて、上がり続けています」と話す。

アッパーウエストサイド(写真/PIXTA)

アッパーウエストサイド(写真/PIXTA)

木城さんによると、昨年は入居者を呼び込むための優遇措置で、家賃割引や仲介料なしといった物件もあったが、現在の市場ではそれらの優遇措置はほぼ見られないという。

「日本人留学生などに人気のイーストビレッジ地区やローワー・イーストサイド地区ではパンデミック中、入居者が大量に流出し、多数の空室が出て大家は頭を抱えました。しかし昨年秋に市内の大学が対面授業の再開を発表するや否や、学生が州外や国外から市内に戻り、瞬く間に空室がなくなってしまったのが印象的です」(木城さん)

また前述の「優遇」の恩恵を受けた入居者も1年契約が終わった途端に家賃が大幅に高騰し、住み続けられず慌ててほかのアパートを探すケースもよくあるという。

滝田さんは、学校が再開して学生が戻ってきたあと、学生寮のルームシェアが撤廃されたため、寮以外の一般のアパートを借り始めた学生も多いという情報を聞いており、そんな事情も家賃上昇に拍車をかけている一因になっていそうだ。

学生だけでなく、新しくビジネスを始める人々や一度は郊外や州外に引越しをしたがやはりニューヨーク市内での生活が良いと感じた人などが戻り、市内を拠点にしたことで、家賃の高騰に拍車をかけた。

家賃以外で、暮らしで変化したこと

ニューヨーカーの暮らしを圧迫しているのは家賃だけではない。物価高騰も暮らしを圧迫している。
家賃上昇に加え、最近アメリカでは記録的なインフレが続いている。2021年から加速して39年ぶりの高水準となり、ガソリンや日用品、食費などあらゆる物価が高騰している。特にロシアによるウクライナ侵攻後、ガソリン価格が過去最高値を更新した。

また、物不足も深刻だ。住宅建築需要の増加によって、木材不足・価格高騰(ウッドショック)や半導体などあらゆる不足が連日ニュースとなっている。そして最近は、粉ミルク不足も大きな社会問題となっている。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

今後、家賃相場の高騰に対するなにか対策がされていくのか

また、インフレとは無関係に、世界を代表する大都市ニューヨークは、世界中から移住者が増え続けており、家賃は恒常的に毎年上昇し続けている。ブルックリンのアパートに住む筆者の家賃も、13年前の引っ越し当初の家賃と比べて、円にして数万円単位で値上がりしている。家賃上昇と物価高騰のWパンチで、ますます大都市は住みにくくなっている。

「この街を一層ユニークで味のあるものにしてきたのは、ここで生まれ育ったニューヨーカーたち。そんな彼らが、物価上昇と家賃の高騰に悲鳴を上げている。以前と同じ住居やエリアに住み続けられないのだとしたら、それはとても残念なことです」と、木城さんは話す。

滝田さんも、以下のように言う。
「ニューヨーク州の条例では、コロナ禍に家賃が払えなくなった住民のために『Eviction Moratorium(強制立ち退き猶予)』が設けられ、今年1月15日まで、大家による強制立ち退きは禁止されていました。またハードシップ手当として、家賃支払いができない人のための補助金も出ていたので、本当に家賃が支払えなくて退去させられた人は少ないと思います。また、生活費に困窮した市民が申請し、審査に通れば、よりリーズナブルな家賃で住める『アフォーダブルハウジングのプログラム』などの措置もあります」

最近物価高騰が報じられる日本だが、それでもコンビニに行けば、数百円単位の美味しいものに出合うことができる。当地でも昔から1ドルピザなるものがあったが、コロナ禍で次々に閉店が報じられている。物価上昇と家賃上昇などで、この大都市はさらに住みにくい街として汚名を着せられていくのか? 人々は戦々恐々としている。

●取材協力
Yoshi Takita REALTOR(R)
Living New York

「東京駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

東京駅は、日本を代表するターミナル駅。仕事や遊びにかかわらず、すべての移動の起点となる東京駅へのアクセスは、部屋探しの際に気になる人は多いだろう。東京駅へ電車で30分以内に到着するシングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)を対象にした最新の家賃相場ランキングから、ねらい目の駅を探してみたい。

東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅TOP16駅

順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間(乗り換え時間・駅から駅への徒歩移動時間を含む)/乗り換え回数)
1位 蕨6.00万円(JR京浜東北線/埼玉県蕨市/29分/1回)
2位 一之江 6.18万円(都営新宿線/東京都江戸川区/27分/1回)
3位 南船橋 6.20万円(JR京葉線など/千葉県船橋市/30分/0回)
4位 津田沼 6.35万円(JR総武線/千葉県習志野市/30分/0回)
5位 竹ノ塚 6.45万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/30分/2回)
6位 堀切菖蒲園6.50万円(京成本線/東京都葛飾区/28分/1回)
6位 小菅 6.50万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/25分/1回)
6位 新子安 6.50万円(JR京浜東北線/横浜市神奈川区/30分/1回)
6位 瑞江 6.50万円(都営新宿線/東京都江戸川区/30分/1回)
6位 船堀 6.50万円(都営新宿線/東京都江戸川区/25分/1回)
11位 小岩 6.55万円(JR総武線/東京都江戸川区/19分/1回)
12位 下総中山 6.60万円(JR総武線/千葉県船橋市/26分/1回)
13位 五反野 6.70万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
13位 国道 6.70万円(JR鶴見線/横浜市鶴見区/30分/2回)
13位 舞浜 6.70万円(JR京葉線/千葉県浦安市/16分/0回)
16位 小竹向原 6.80万円(東京メトロ副都心線/東京都練馬区/27分/1回)
16位 新浦安 6.80万円(JR京葉線/千葉県浦安市/20分/0回)
16位 松戸 6.80万円(JR常磐線・新京成線/千葉県松戸市/27分/0回)
16位 梅島 6.80万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1回)
16位 青井 6.80万円(つくばエクスプレス/東京都足立区/25分/1回)

首位は“時代の先端”をいく、埼玉の蕨駅

トップ3には、埼玉県、都内、千葉県がバランスよく分散した。1位は、埼玉県蕨市にある蕨駅だ。

蕨駅前(写真/PIXTA)

蕨駅前(写真/PIXTA)

蕨市は面積が5.11平方kmと、全国で一番小さな市として知られている。端から端までは約4kmのコンパクトさで、蕨駅は市の玄関口であるとともに唯一の駅でもある。東京駅までの所要時間短縮のためには乗り換えが効果的ではあるが、路線のJR京浜東北線は首都の大動脈のひとつであり、乗り換えなしでの利用も可能だ。

近年は、都市機能の活性化をかかげた「コンパクトシティー」構想が推奨されていて、蕨市は小さな市域の中に40以上の医療機関や保育園児童館、商業施設などがぎゅっと凝縮している。駅周辺を核に、駅前広場や商業施設、公共複合施設の整備などの再開発も進めている。そうした機能の要となる市役所は耐震化などのため建て替え中で、現在は駅から少し離れた場所にあるが、今後はいざというときの災害拠点にもなる機能をもたせるという。

また蕨市といえば、外国人の住民が増えており、なかでも在住クルド人が多いことでも知られる。彼らによるお祭りや、地元住民も一緒に参加できる料理教室が開催されるなど、地に足の着いた国際交流も盛んだ。海外の珍しい食材を扱う商店を見かけることも少なくなく、ダイバーシティを体現している街ともいえる。

そういた“時代の先端”をいく一方で、市内にはいくつもの人情味あふれる商店街も残る。蕨市は江戸時代、中山道の「蕨宿」として栄え、また江戸から昭和にかけては織物の生産地としても名をはせていた。市内には今でも、かつての風情を感じさせる歴史ある建物が点在。商店街の中を散策していて、そんな歴史の息吹を思わせる店舗にふらっと出合うこともある。

商業施設が充実の南船橋駅は、大規模施設の開業控える

3位は千葉県船橋市の南船橋駅。京葉線の快速列車の停車駅で、スウェーデン発の人気家具店IKEAの日本1号店「IKEA Tokyo-Bay」や大型商業施設の「ららぽーとTOKYO-BAY」のほか、深夜まで営業しているスーパーなどもあり、必要なものはなんでも近場でそろいそうな便利さが魅力だ。

ららぽーと(写真/PIXTA)

ららぽーと(写真/PIXTA)

2020年末には通年型のアイススケートリンク「三井不動産アイスパーク船橋」がオープン。国際スケート連盟基準を満たしたリンクで、競技大会なども開かれている。また2024年には、船橋市を拠点にする男子プロバスケットボールBリーグの「千葉ジェッツふなばし」のホームアリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY(仮称)」が完成予定。1万人規模が収容でき、スポーツだけでなくコンサートや企業イベントなどにも対応する予定とのこと。スポーツファンだけでなく、足を運ぶ機会が増えそうだ。

同率6位の新子安駅、船堀駅、瑞江駅、ライフスタイル別でどこを選ぶ?

同率6位には5駅がランクインしている。そのうちの一つの新子安駅は神奈川県の駅でランキング最上位、JR京浜東北線で、蕨駅同様に、東京駅まで乗り換えなしでも利用できる。

新子安駅(写真/PIXTA)

新子安駅(写真/PIXTA)

横浜駅、川崎駅へはともに2駅で、10分以内で行くことができる。また京急本線沿線の京急新子安駅がすぐそばにあるため、羽田空港などへのアクセスもいいほか、少し行けばJR横浜線の大口駅があり、新幹線が停車する新横浜駅へも直通で利用できる。遠隔地への出張が多いビジネスパーソンには心強い穴場スポットかもしれない。

駅北側の丘陵地にかけて、閑静な雰囲気の住宅街が広がっている。駅前にはスーパーやファミリーレストラン、郵便局などが入った商業施設「オルトヨコハマ」や、深夜1時半まで営業しているスーパーがあり、日常の買い物に不自由することはなさそうだ。少し足を延ばせば、映画やドラマの撮影地などにもなっている、横浜の名物のひとつの六角橋商店街もある。

六角橋商店街(写真/PIXTA)

六角橋商店街(写真/PIXTA)

駅の南側、港湾部は京浜工業地帯の工場や倉庫が集まっており、やや無骨な印象もあったが、近年は再開発で高層マンションも建てられている。周辺住民も利用できる広場や、防災対策にも活用できる空き地が整備されたマンションなどもある。

駅から近いキリンビールの横浜工場や日産自動車の横浜工場は、大人にも人気の高い工場見学も受け付けている。なかでもキリンビールは敷地内に芝生広場やレストランなども併設し、限定グッズも販売しており、散策だけでも楽しめる。工業地帯の偏ったイメージだけでは見逃すにはもったいないかもしれない。

同じく6位の船堀駅と瑞江駅は、都営新宿線の沿線駅。間に2位の一之江駅をはさんだ隣駅になる。都営新宿線は日中、新宿―本八幡間で急行運転しているが、船堀駅は急行が停車。そのため新宿駅までは約20分で行くことができる。

船堀駅は駅すぐに24時間営業のスーパーがあり、低価格が売り物の大型スーパーなども目に付く。チェーン系の飲食店も多いので、自炊したくない日などにはありがたいところだ。ファミリー層も多いため駅前はにぎやかだが、少し行けば一戸建て住宅の目立つ住宅街が広がる。

駅そばには、所在地である江戸川区が水資源に恵まれていることにちなみ「区民の乗合船」をコンセプトに建てられた「タワーホール船堀(江戸川区総合区民ホール)」がある。著名アーティストのコンサートも開催されるほか、こだわりのアート作品からハリウッド大作映画まで上映される映画館「船堀シネパル」などが入っており、知的好奇心を満たしてくれそう。一般公開されている展望台からは、江戸川区花火大会も望むことができる(2022年は中止された)。

江戸川区花火大会(写真/PIXTA)

江戸川区花火大会(写真/PIXTA)

瑞江駅は各駅停車のみの駅ながら、駅付近の施設は船堀駅よりも充実している。すぐ近くにはディスカウントストアの「ドン・キホーテ」や業務スーパー、深夜まで営業しているスーパーなどと豊富で、家計の賢いやりくりのためには選択肢の上位にあがりそうだ。書店も駅すぐそばにあり、夜10時まで営業している。

駅周辺は再開発されているため、雰囲気自体はすっきりしておりチェーン系飲食店が目立つ。少し行くと、おしゃれな飲食店も点在。江戸川区は50年以上にわたって緑化運動をすすめており、親水公園や親水緑道の整備をしている。瑞江駅周辺も親水緑道を見かけることが多く、公園もあちこちにあり、近場で自然を感じることができる。

また、江戸川区役所へは区内のあちこちの駅からバスが主な経路になるが、瑞江駅は分所の東部事務所の最寄駅。公的手続きの手間を少し省けるのはありがたい。ファミリー層の人気も高いエリアだ。

16位も同率で5駅がランクインしている。このうちの松戸駅はJR常磐線の沿線だが、同線は東京メトロ千代田線と乗り入れているため、東京駅だけでなく大手町や赤坂などのビジネス街や、表参道や原宿などの繁華街へも乗り換えなしで行くことができる。また新京成線も利用できる。

松戸駅周辺(写真/PIXTA)

松戸駅周辺(写真/PIXTA)

駅に直結した商業施設や大きなスーパーなどが多く、非常に栄えているが、駅周辺は再開発が進行中で、2027年までには新しい駅ビルもできる予定。生活する上ではとても便利なことは間違いないだろう。また、松戸はラーメン激戦区としても知られており、頑固店や知る人ぞ知る名店まで充実している。“おひとりさま”の生活も楽しめそうだ。

大都会・東京の真ん中へのアクセスと考えると、都心を連想しがちだが、東京駅は乗り込む路線が多いだけに、部屋探しの選択肢も多種多様。ライフスタイルにあわせた部屋も、きっと見つかることだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/2~2022/4
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年5月30日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

「新宿駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

日本屈指の繁華街、新宿駅。2022年4月には高層オフィスビル建設を含むグランドターミナル再編を目指した再開発計画の概要も発表されている。その新宿駅へ30分以内で行ける駅はどこだろうか。ワンルーム・1K・1DKを対象にした家賃相場が安い駅の最新ランキングから、狙い目の街を探してみよう。

新宿駅まで電車で30分以内、家賃相場の安い駅TOP12

順位/駅名/家賃相場(沿線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間(乗り換え時間を含む)/乗り換え回数)
1位 京王よみうりランド 5.00万円(京王相模原線/東京都稲城市/29分/1回)
2位 生田 5.20万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/22分/1回)
3位 花小金井 5.30万円(西武新宿線/東京都小平市/30分/1回)
4位 読売ランド前 5.35万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/24分/1回)
5位 朝霞台 5.40万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/28分/1回)
6位 西国分寺 5.50万円(JR中央線・武蔵野線/東京都国分寺市/29分/1回)
7位 田無 5.60万円(西武新宿線/東京都西東京市/28分/1回)
8位 京王稲田堤 5.80万円(京王相模原線/神奈川県川崎市多摩区/28分/1回)
9位 朝霞 5.90万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/27分/1回)
9位 百合ヶ丘 5.90万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市麻生区/26分/1回)
9位 稲田堤 5.90万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/29分/1回)
12位 中野島 6.00万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/27分/1回)
12位 京王多摩川6.00万円(京王相模原線/東京都調布市/26分/1回)
12位 南浦和 6.00万円(JR京浜東北線・武蔵野線/埼玉県さいたま市/30分/1回)
12位 向ヶ丘遊園6.00万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/19分/1回)
12位 和泉多摩川6.00万円(小田急小田原線/東京都狛江市/22分/1回)
12位 柴崎 6.00万円(京王線/東京都調布市/27分/1回)
12位 蕨 6.00万円(JR京浜東北線/埼玉県蕨市/26分/1回)
12位 西調布 6.00万円(京王線/東京都調布市/28分/1回)

自然豊かな地域で農作所の直売所も

1位は東京都稲城市にある京王よみうりランド駅だった。京王相模原線の快速と区間急行の停車駅で、駅名のとおり遊園地の「よみうりランド」の最寄り駅だ。

よみうりランド(写真/PIXTA)

よみうりランド(写真/PIXTA)

稲城市は、多摩ニュータウンに含まれる東京都内のベッドタウンで、緑豊かな地域。農業が盛んで、市と同名の品種「稲城」などのブランド梨の栽培でも知られる。そのため、駅付近は閑静な住宅地だが、周囲には畑も目立ち、市内のあちこちで農家の直売所も見かける。駅近くには百円均一店などが入るスーパーもあるが、市外からも買いに訪れる人の多い梨をふくむ新鮮な農産物が手軽に入手できるのは魅力だ。

少し行けば、大露天風呂を備えた温泉施設や、よみうりランドで遊ぶ際にも利用できる大規模なバーベキュー施設などもある。郊外ならではの週末の楽しみも満喫できそうだ。

3位の花小金井駅は西武新宿線の沿線駅。急行と準急が停車する。7位の田無駅とは隣駅で、こちらは快速急行と急行、通勤急行と準急の停車駅。駅間距離は約2.6kmなので、価格と交通利便性のバランスをとってうまく物件を選びたいところだ。

周囲には市立の図書館や、世界一に認定されたプラネタリウムのある体験型ミュージアム「多摩六都科学館」など教育設備が点在しているため、子育て世帯が多い印象を受けるが、駅周辺は単身者向けの物件も目立つ。西武新宿線は早稲田大学の最寄駅の高田馬場駅にも乗り入れて、花小金井駅には早稲田大生も多く住んでいる。また法政大の小金井キャンパスもほど近い。

駅の近くには24時間営業のスーパーなども充実しており、100軒以上の飲食店などが並ぶ商店街「花小金井商栄会」もある。自然が豊かな地域で、うつくしく整備された長い緑道沿いには、野菜の直売所をみかけることも。桜の名所として知られる約80haの「小金井公園」もすぐそば。サイクリング専用コースやドッグランなどの施設のほか、墨田区にある江戸東京博物館の分館として開設された屋外博物館「江戸東京たてもの園」もある。文化的価値の高い歴史的建造物を移築、復元して展示している博物館で、地元の多摩地域の歴史に関する展示も豊富だ。

小金井公園(写真/PIXTA)

小金井公園(写真/PIXTA)

また7位の田無駅は、駅直結の複合商業施設や成城石井などのスーパーのほか、少し行けばホームセンターもある。便利なチェーン系飲食店も数多いが、駅の南側にはレトロな雰囲気のある個人経営店も点在している。所在地である西東京市の市役所も近く、日常の生活には全方位的に便利な場所、といえそうだ。

複数路線利用駅や再開発進行中の駅もランクイン

5位の朝霞台駅は、東武東上線の急行や快速の停車駅。新宿と同様に都内屈指の繁華街である池袋駅までも乗り換えなしで約20分で行ける、利便性抜群の駅だ。JR武蔵野線の北朝霞駅と直結しているため、複数路線利用できるのもうれしいところ。

駅前はチェーンの飲食店や深夜2時まで営業しているスーパーがあるが、少し行くと落ち着いた住宅街が広がる。9位の朝霞駅とは東武東上線の隣駅だが、朝霞駅は準急と普通の停車駅。交通の便がよく、駅周辺がよりにぎやかなのも朝霞台駅だが、朝霞市役所や朝霞税務署、ハローワーク朝霞などの公的機関は朝霞駅が最寄りだ。

両駅の所在地の朝霞市は埼玉県の南東側に位置し、東京都と隣接している。地名を冠した陸上自衛隊の朝霞駐屯地が有名だが、敷地は実は練馬区や和光市、新座市にまたがっていて、大半は朝霞市ではない。しかし広報センターは朝霞市にあるため、納涼祭などのイベントが開かれ、地域に親しんでいる。また市民まつりでは、県外からの参加者もいる大規模なよさこいが開催される。

ランキング中、唯一所要時間が20分を切ったのが、同率12位の向ケ丘遊園駅。向ケ丘遊園駅は渋谷駅まで電車で30分以内の家賃相場が安い駅ランキングの2021年版でも3位にランクインしている。

向ケ丘遊園駅(写真/PIXTA)

向ケ丘遊園駅(写真/PIXTA)

周辺は専修大学生田キャンパスや明治大学生田キャンパスなど大学が多いため、そうした学生向けの物件が充実している。深夜まで営業しているスーパーや飲食店が多く、特にラーメン店が充実しており、学生でなくても単身者には心強い。所在地である多摩区役所の最寄り駅でもある。また、近くには漫画家の藤子・F・不二雄氏の描いた原画などが展示された「藤子・F・不二雄ミュージアム」や、川崎市生まれの芸術家、岡本太郎氏と、その両親で漫画家の岡本一平氏、小説家の岡本かの子氏の作品を顕彰する「岡本太郎美術館」など複数の美術館がある。

駅名の由来となった向ヶ丘遊園の広大な跡地は再開発が進められており、23年度には新たなシンボルとして温泉や商業施設、自然体験ができるキャンプ場などを備えた施設が完成する予定という。なかでも温泉施設は、周囲の自然豊かな環境を楽しみながら都心まで望める露天風呂や、貸し切り個室風呂、昨今ブームになっているサウナ施設なども設ける予定で、近い将来に、新しい魅力をみせてくれそうな街といえそうだ。

ランキングは東京、神奈川、埼玉を各方面がバランスよく混在し、路線も非常にバラエティー豊か。新宿駅というターミナルの大きさを実感するとともに、家探しの選択肢の無限さにも思いをはせてしまう。自分の求めるライフスタイルや生活の中で重視するものは何かをしっかり見極めて、最適な部屋を見つけたいものだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/1~2022/3
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年3月28日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

「横浜駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

リクルートが2022年3月に発表した「SUUMO住みたい街ランキング2022 首都圏版」で、5年連続で総合1位になった横浜駅。歴史ある港町で首都圏屈指の観光地でもある繁華街だ。その横浜駅に電車で30分以内で行ける、ワンルーム・1K・1DKの物件を対象にした家賃相場の安い駅ランキングを紹介する。

横浜駅まで電車で30分以内、家賃相場の安い駅TOP14駅

順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅の所在地/横浜駅までの所要時間(乗り換え時間を含む)/乗り換え回数)
1位 善行 4.80万円(小田急江ノ島線/神奈川県藤沢市/29分/1回)
2位 南万騎が原 4.90万円(相模鉄道いずみ野線/横浜市旭区/15分/1回)
3位 藤沢本町 4.95万円(小田急江ノ島線/藤沢市/29分/1回)
4位 安針塚 5.05万円(京急本線/横須賀市/29分/1回)
5位 三ツ境 5.10万円(相鉄本線/横浜市瀬谷区/17分/0回)
5位 桜ケ丘 5.10万円(小田急江ノ島線/大和市/28分/1回)
7位 京急田浦 5.15万円(京急本線/横須賀市/26分/1回)
8位 能見台 5.20万円(京急本線/横浜市金沢区/19分/1回)
8位 舞岡 5.20万円(ブルーライン/横浜市戸塚区/16分/1回)
8位 鶴間 5.20万円(小田急江ノ島線/大和市/29分/1回)
11位 京急富岡 5.30万円(京急本線/横浜市金沢区/18分/1回)
11位 南林間 5.30万円(小田急江ノ島線/大和市/27分/1回)
13位 屏風浦 5.40万円(京急本線/横浜市磯子区/13分/1回)
14位 いずみ野 5.45万円(相鉄いずみ野線/横浜市泉区/20分/0回)
14位 さがみ野 5.45万円(相鉄本線/海老名市/26分/1回)
14位 汐入 5.45万円(京急本線/横須賀市/30分/0回)
14位 追浜 5.45万円(京急本線/横須賀市/24分/0回)

1位の善行駅と2位の南万騎が原駅はともにアニメやドラマの“聖地” 善行駅周辺(写真/PIXTA)

善行駅周辺(写真/PIXTA)

1位は小田急江ノ島線沿線の善行駅。駅の読み方は「ぜんぎょう」だが、字面の縁起の良さから、かつては記念入場券も発行されていた。駅名は、付近に江戸時代にあったという寺「善行寺」に由来している。

所在地の神奈川県藤沢市は、県の中央南部に位置し、南を相模湾に面している。市域はおおむね平坦な地形だが、善行駅付近は丘陵地帯で坂が多い。毎日坂道を登り下りすると考えると敬遠してしまいそうだが、それすら“味”と感じられそうなどこか郷愁を誘う景色は、まるで映画の場面のような風情と魅力的な雰囲気がある。実際、2017年にTOKYO MX系で放送されたテレビアニメ『Just Because!』など、駅周辺を忠実に描写した作品などもある。

駅周辺は深夜1時まで営業しているスーパーやドラッグストア、飲食店などが充実しており、駅東側は陸上競技場や球技場を備えた神奈川県立スポーツセンターなどがある。少し行くと果樹園や田畑などが広がり、親水広場や植物園がある「引地川親水公園」もある。

2位の南万騎が原駅は、横浜市旭区にある。横浜駅までの所有時間は15分と利便性抜群な上、沿線である相模鉄道は2023年3月に東急線と相互直通運転を予定。都内の渋谷駅や目黒駅までのアクセスも向上が期待できる。

南万騎が原駅前広場(写真/PIXTA)

南万騎が原駅前広場(写真/PIXTA)

所在地の旭区は自然豊かなエリアで、区内には国内でも希少な動物が飼育されおり人気の「よこはま動物園ズーラシア」などがある。横浜市は市の魅力を広く発信し、ブランド力向上や集客増のためのプロモーションとして市内での映像や出版物の撮影などに対応する事業「横浜フィルムコミッション」を手がけており、南万騎が原駅もTBS系の人気テレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で、星野源演じる主人公の住む最寄り駅として登場。ほかにもテレビCMなどで登場することも多い。

駅前にあるドラックストアや病院の入ったスーパーは深夜1時半まで営業。すぐ近くにはJA横浜が運営する農作物の直売所「ハマっ子」があるのは、自炊派にとってはうれしい点だろう。

沿線である相模鉄道いずみ野線の宅地開発とともに発展してきた駅で、相鉄グループや市による再開発も行われており、子どもや高齢者にも暮らしやすく環境に配慮した次世代の街づくりが進められている。持続可能な開発目標・SDGsが世界的に掲げられるなか、「持続可能な住宅地モデル」として南万騎が原駅周辺の商業施設や周辺地域を再開発。電柱の地中化なども進んでいる。そうした街並みや住宅は、「グッドデザイン賞」も複数回受賞。“横浜”らしい、スタイリッシュな気分も満喫できる街かもしれない。

横浜名物も近所で買える三ツ境駅、隠れたグルメスポットの舞岡駅

同率5位の三ツ境駅は、相鉄の急行、通勤急行、快速、各駅停車のすべてが停車する駅。横浜駅まで乗り換えなしなのはポイントが高い。所在地は瀬谷区だが、旭区との境に位置しており、南万騎が原駅と同じく自然に恵まれている。天候に恵まれた日には富士山が見えることでも知られている。

三ツ境駅(写真/PIXTA)

三ツ境駅(写真/PIXTA)

瀬谷区の区役所は三ツ境駅が最寄り。駅前には警察署があるのも、いざというときに心強い。区役所と隣接する公会堂では、モノづくり体験やスポーツ講座なども開かれている。周辺には学校も数多い。

駅に直結した「相鉄ライフ 三ツ境」はスーパーのほか、スターバックスコーヒーやカルディコーヒーファームなどが入っている。飲食店も多数あり、横浜名物である崎陽軒や横濱文明堂も入っているのが地元民にはうれしいところだ。ほかにも大きなスーパーや家電量販店、安売り店などが点在するほか、「三ツ境駅前商店街」「笹野台商店街」など、昔ながらの商店街も複数ある。季節ごとのイベントが開催されることもあり、買い物も楽しそうだ。

同率8位の舞岡駅は、ランキング中唯一の戸塚区所在で、ブルーライン沿線駅。駅前のJA横浜の直売所「ハマっ子」や、お弁当や総菜などを扱う「ハム工房まいおか」、いちご狩りもできる「舞岡いちご園」などのファーマーズマーケットがあちこちに点在しており、ちょっとしたグルメスポットとして知られている。

舞岡駅周辺(写真/PIXTA)

舞岡駅周辺(写真/PIXTA)

舞岡地区は横浜市の市街化調整区域に指定されており、自然景観の保全に力を入れているエリア。小さな川のほとりに遊歩道が整備されたのどかな景色には、心が癒やされそうだ。その小川沿いに少し行くと鎌倉時代に創建されたと伝えられる舞岡八幡宮がある。新型コロナウイルス禍以前には、毎年、沸かした湯に笹の葉を浸して神前や参詣人にまく祭礼「湯花神楽」が行われており、地域の歴史に思いをはせることができそうだ。

ランキング中、横浜駅までの所要時間が一番短いのが、13位の屏風浦駅。普通列車のみの停車駅だが、隣駅はエアポート急行や特急が停車し、横浜市営地下鉄が利用できる上大岡駅で、駅間距離は約2.5km。同じく隣駅でエアポート急行と、JR根岸線と横浜シーサイドラインが利用できる杉田駅は約1.6kmで、屏風浦駅を最寄りとする物件でも、選ぶ場所によっては利用路線の選択肢を増やすことができる。

周辺は落ち着いた住宅街で、味のある個人経営の飲食店などが点在。駅前には100円均一店が入ったスーパーがあり、少し行くと業務スーパーなどもある。また、総合病院の康心会汐見台病院も近い。大きな商業施設などはないがどこか人情味が感じられる街並みで、穴場といえそうだ。

横浜は利便性の高い都会だが、少し足を延ばせば海や緑など自然が豊かなところも大きな魅力の一つだ。ランキングでは、そんな横浜に共通する豊かな自然環境を大切にしている街が目立つ。洗練された便利さとのどかさが両立できることこそ、横浜に魅せられる要因なのだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている横浜駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/1~2022/3
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2022年3月28日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

築50年の古アパートに入居希望殺到? 高円寺・小杉湯コラボの“銭湯付き物件”が話題 「湯パートやまざき」

若者に人気の街、高円寺(東京都杉並区)。この街に全国に名を馳せる銭湯、「小杉湯」がある。1日の利用者数は500人前後。電車を乗り継いでやってくる熱狂的ファンもいるのだ。

ミルク風呂やフルーツ風呂などの日替わり湯が人気で、さまざまなイベントも行っている。しかし、最新のホットニュースは、小杉湯が連携する築50年の空き家だったアパートを活用した「湯パートやまざき」のオープンだ。都内の銭湯で使える1カ月分の入浴券付きで家賃は5万円~6万円程度。

プロジェクトのきっかけは? 室内の雰囲気は? どんな人が住んでいる? さっそく取材に行ってきました。

「終電で帰ってきても利用できる」銭湯

JR新宿駅から中央線快速で2駅、6分で高円寺に着いた。北口には高円寺の代名詞ともいえる純情商店街のアーチ。「キングオブコント2021」で空気階段が優勝した際は、「高円寺芸人 鈴木もぐらさん おめでとう!!」という横断幕が掲げられた。

高円寺は芸人が多く住む街でもある(写真撮影/片山貴博)

高円寺は芸人が多く住む街でもある(写真撮影/片山貴博)

駅から歩くこと5分。昭和8年創業の老舗銭湯、小杉湯が見えてきた。玄関には社寺にみられる丸みを帯びた「唐破風(からはふ)」、屋根には三角形の「千鳥破風(ちどりはふ)」が施されている。

2021年1月には国の登録有形文化財(建造物)に登録された(写真撮影/篠原豪太)

2021年1月には国の登録有形文化財(建造物)に登録された(写真撮影/篠原豪太)

「終電で帰ってきても利用できるように」という思いから、営業時間は深夜1時45分まで。待合では漫画が読み放題で、壁にはアート作品や著名人の色紙も飾られていた。

風呂上がりにのんびりと過ごせるスペース(写真撮影/篠原豪太)

風呂上がりにのんびりと過ごせるスペース(写真撮影/篠原豪太)

ペンキ絵はいまや日本に3人しかいない銭湯絵師、中島盛夫氏によるもの。ペンキ絵は定期的に描き換えられ、現在の絵は2020年11月に上書きされた。

鮮やかな色使いで富士山と海辺の風景が描かれている(写真撮影/篠原豪太)

鮮やかな色使いで富士山と海辺の風景が描かれている(写真撮影/篠原豪太)

高円寺に新風を吹き込むシェアスペース

さらに、2020年3月にオープンしたのが「小杉湯となり」という会員制の銭湯付きシェアスペース。文字通り、小杉湯の隣で銭湯まで徒歩3秒という立地だ。

建て主は小杉湯、建築設計は東京を拠点に活動するT/Hが担当した(写真撮影/片山貴博)

建て主は小杉湯、建築設計は東京を拠点に活動するT/Hが担当した(写真撮影/片山貴博)

エントランスの脇には緑が映える中庭も(写真撮影/片山貴博)

エントランスの脇には緑が映える中庭も(写真撮影/片山貴博)

1階は食堂のような場所で、シェアキッチンとテーブル席を自由に使える(写真撮影/片山貴博)

1階は食堂のような場所で、シェアキッチンとテーブル席を自由に使える(写真撮影/片山貴博)

Tシャツやスウェットなどの小杉湯となりオリジナルグッズも販売中(写真撮影/片山貴博)

Tシャツやスウェットなどの小杉湯となりオリジナルグッズも販売中(写真撮影/片山貴博)

2階はWi-Fi、電源、プリンター完備のお座敷。ここで仕事をするもよし、ゴロゴロするもよし(写真撮影/片山貴博)

2階はWi-Fi、電源、プリンター完備のお座敷。ここで仕事をするもよし、ゴロゴロするもよし(写真撮影/片山貴博)

スタッフや会員が選書している大きな本棚もある(写真撮影/片山貴博)

スタッフや会員が選書している大きな本棚もある(写真撮影/片山貴博)

こちらは「1話だけ読んでも面白いエッセイ」という棚(写真撮影/片山貴博)

こちらは「1話だけ読んでも面白いエッセイ」という棚(写真撮影/片山貴博)

「湯パートやまざき」のキーパーソンたち

さて、ここからが本題だ。

3階の個室で「湯パートやまざき」についての話を聞かせてくれたのは、「小杉湯となり」発起人で株式会社銭湯ぐらし代表の加藤優一さん(34歳)、株式会社まめくらしに所属し、「高円寺アパートメント」の女将として住人や地域の人たちとの関係性を育む宮田サラさん(28歳)、そして、「湯パートやまざき」の住人1号となった勝野楓未さん(23歳)の3人。

加藤さんと勝野さんは定休日以外は毎日小杉湯に通う。宮田さんも週に1、2回は訪れるという小杉湯愛に満ちた面々だ。

右から加藤さん、宮田さん、勝野さん(写真撮影/片山貴博)

右から加藤さん、宮田さん、勝野さん(写真撮影/片山貴博)

旧国鉄の社宅を株式会社ジェイアール東日本都市開発がリノベーションした賃貸住宅、「高円寺アパートメント」(写真提供/株式会社まめくらし)

旧国鉄の社宅を株式会社ジェイアール東日本都市開発がリノベーションした賃貸住宅、「高円寺アパートメント」(写真提供/株式会社まめくらし)

「この『小杉湯となり』が立つ場所には、もともと風呂なしアパートがあったんですが、取り壊しが決まった後、1年間は空いた状態でした。そこで、僕を含めた多様なクリエイターで共同生活を始めることになったんです。その生活で気付いたのが、街全体を家のように楽しむ豊かさでした。風呂なしアパートが寝室で、銭湯が浴室、台所は近くのお店と考えると、暮らしの選択肢が広がります。その考え方を実現したのが『小杉湯となり』であり、『湯パートやまざき』もプロジェクトの一つです」(加藤さん)

(画像提供/加藤優一)

(画像提供/加藤優一)

「小杉湯となり」ができる前にあった、風呂なしアパート。当時、期間限定の新住人で外壁に絵も描いた(写真提供/加藤優一)

「小杉湯となり」ができる前にあった、風呂なしアパート。当時、期間限定の新住人で外壁に絵も描いた(写真提供/加藤優一)

きっかけは空き家活用のための勉強会

「湯パートやまざき」は、前述の「小杉湯となり」から徒歩7分ほど離れた場所にある。「湯パートやまざき」プロジェクト発足のきっかけは、空き家を活用して高円寺を盛り上げるための勉強会だった。対象は空き家を持っているが活用に悩んでいる大家さんたち。

「去年の6月に第一回の勉強会を開催したら、10人ぐらいの方が参加してくれました。みなさん、空き家のまま放置しておくのはもったいないし、街のために活用できたらと思っていらっしゃる方々でした」(宮田さん)

同年8月に開催した第二回勉強会の様子(写真提供/加藤優一)

同年8月に開催した第二回勉強会の様子(写真提供/加藤優一)

この勉強会には現「湯パートやまざき」の大家・山崎さんのご家族が参加しており、「10年ぐらい空き家になっているアパートを何とか活用できないか」という相談を受ける。そこで、「じゃあ、みんなで物件を見に行きましょう」となった。

現「湯パートやまざき」に向かう参加者たち(写真提供/加藤優一)

現「湯パートやまざき」に向かう参加者たち(写真提供/加藤優一)

住人募集の告知から3日間で応募が殺到

「最初に外観を見た感想は、『一般的な風呂なしアパートだなあ』というもの。でも、中に入るとレトロな家具の雰囲気が良くて、随所に大工さんの技巧も凝らしてある。ここに銭湯を組み合わせることで“湯パート”としてリブランディングしようと思いました」(加藤さん)

去年の11月ぐらいから「銭湯ぐらし」にかかわり始めた勝野さんは、東京大学大学院で建築を学んでいる学生。加藤さんと宮田さんが「湯パートやまざき」のリブランディングとなるコンセプトや企画を考え、彼女がより具体的なイメージ図を描いた。

現在、大家さんは住んでいないが部屋は残してある(イラスト/勝野楓未)

現在、大家さんは住んでいないが部屋は残してある(イラスト/勝野楓未)

勝野さんがnoteに描いたイメージ図とともに、住人募集の告知をTwitterにアップしたのが2022年1月30日。すると3日間で50人の応募があり、あわてて募集を締め切ったという。

「『シェアハウスほど近すぎず、普通のアパートほど遠くない、ほどよい関係』がみなさんに刺さったのでは」と加藤さんは振り返る。個室はあるが1階にシェアスペースもあり、価値観の近い人が入居することもイメージできる。また、「近所に小杉湯があることも大きかったと思います。ほかには、大家さんの顔が見えることや、DIYができること、そして、1人ではできないけど誰かとはやってみたいという“小さな暮らしが実現できる”という点に魅力を感じていただけたと思います」と話す。

以前は家賃3万円だったが、小杉湯を起点に「街を家と捉える」プロジェクトの一つとして生まれ変わらせるにあたり、家賃に入浴券1カ月分を組み込んだ家賃5~6万円の「銭湯付きアパート」へ(頭が出た分の金額は、大家さんと株式会社銭湯ぐらしで按分している)。入浴券は都内共通入浴券なので都内の銭湯ではどこでも使えるが、ご近所にある小杉湯のファンが集う結果となったようだ。

「応募してくれたのは20歳から30代後半の方で、6割ぐらいが女性でした。職業はいろいろ。高円寺に住んでいないけど、高円寺が好きという人もいれば、コロナ禍で1人で暮らすのが寂しいという人もいました。必ずしも小杉湯ファンだけではなかったですね」(勝野さん)

共有スペースには螺鈿細工のたんすやレトロなテーブル

内見会やオンラインでのヒアリングを経て、勝野さんを含む3名の住人が決まった。勝野さんは2月の半ばから、残りの2名も3月中旬から住み始めている。

コンセプトは「暮らしの要素をシェアする、懐かしくて新しい共同生活」。というわけで、さっそく物件を案内してもらった。

「ようこそ、『湯パートやまざき』へ!」(写真撮影/片山貴博)

「ようこそ、『湯パートやまざき』へ!」(写真撮影/片山貴博)

高円寺駅から徒歩9分、小杉湯から徒歩7分。防犯上の理由から詳しい場所は書けないが、閑静な住宅地にある木造2階建てのアパートだった。

まずは、1階の共有スペースを拝見。

螺鈿細工のたんすやレトロなテーブルが雰囲気たっぷり(写真撮影/片山貴博)

螺鈿細工のたんすやレトロなテーブルが雰囲気たっぷり(写真撮影/片山貴博)

ホワイトボードには住人らによる「今後やりたいこと」が貼ってあった(写真撮影/片山貴博)

ホワイトボードには住人らによる「今後やりたいこと」が貼ってあった(写真撮影/片山貴博)

このキッチンも共同で使用する(写真撮影/片山貴博)

このキッチンも共同で使用する(写真撮影/片山貴博)

「湯パートやまざき」での暮らしを選んだ理由

次に2階の勝野さんの部屋へ。

階段には収納用の隠し棚があった(写真撮影/片山貴博)

階段には収納用の隠し棚があった(写真撮影/片山貴博)

入口のドアの上には今やなかなかお目にかかれない電気メーターが(写真撮影/片山貴博)

入口のドアの上には今やなかなかお目にかかれない電気メーターが(写真撮影/片山貴博)

「ここが私の部屋です」と勝野さん(写真撮影/片山貴博)

「ここが私の部屋です」と勝野さん(写真撮影/片山貴博)

間取りは6畳プラス、ミニキッチン(写真撮影/片山貴博)

間取りは6畳プラス、ミニキッチン(写真撮影/片山貴博)

張り替えたばかりの青畳が香る。

「布団は押入れに入れてあって、寝るときに出します。日当たりが良いので外に干すとすぐに乾くんですよ。設計の勉強に使う金尺は置き場所がないので柱に掛けました」

実は勝野さん、ここに住む前は隣駅の阿佐ケ谷に住んでいた。風呂トイレ付きで床はフローリングというアパート。しかし、銭湯ぐらしやまめくらしの「街を大きな家と捉えて大きく暮らす」という考え方に共感したことと、コロナ禍で家に全部そろっている必要はないと考え方が変わったことから、「湯パートやまざき」への転居を決めたそうだ。

共同作業の第一歩はバルコニーのペンキ塗り

勝野さん以外の住人2名にもオンラインで話を聞いた。

そのうちの1人は転職で大阪から上京したばかりの27歳の女性。たまたま、加藤さんのツイートを目にし、応募した。東京に知り合いが1人もいない状態での共同生活は楽しく、初めて訪れた高円寺を徐々に開拓したいそうだ。

彼女の部屋はこんな感じ。裸電球がいい味を出している(写真撮影/本人)

彼女の部屋はこんな感じ。裸電球がいい味を出している(写真撮影/本人)

もう1人は建築設計事務所で働く28歳の男性。彼もまたTwitterでの告知を見てすぐに応募したという。多忙のため終電で帰ることが多い生活だが、会ったら「オッス」というぐらいの距離感がちょうどいいと言っていた。

現在入居者の住居となっている部屋には、図書館司書として働いている大家さんの親族がセレクトしたセンスあふれる本の数々が置いてあった。

住人も本好きな人たちなので、いずれは共有スペースをミニ図書館にする予定(写真撮影/宮田サラ)

住人も本好きな人たちなので、いずれは共有スペースをミニ図書館にする予定(写真撮影/宮田サラ)

そして、生活を豊かにしてくれそうなのが通りに面した広いバルコニー。勝野さんのイメージ図には望遠鏡のイラストとともに「流星群や満月を観察」と書かれていた。

机とテーブルを置けばコーヒータイムも楽しめる(写真撮影/片山貴博)

机とテーブルを置けばコーヒータイムも楽しめる(写真撮影/片山貴博)

「今度、みんなで柵にペンキを塗るんですよ。いずれは菜園もやりたいです」

取材後、3人の予定が合った日にペンキ塗りを実行(写真撮影/宮田サラ)

取材後、3人の予定が合った日にペンキ塗りを実行(写真撮影/宮田サラ)

大家さんの思いとともにそれぞれのスタイルで暮らす

築50年とはいえ、必要最低限の補修のみで大がかりなリノベーションはしていない。つまり、長く住んだ大家さんの思いを残した形だ。3人は今後、大家さんの思いとともに「暮らしの要素をシェアする、懐かしくて新しい共同生活」を送る。それぞれのスタイルで、街を取り込みながら。

老舗銭湯の「小杉湯」を軸に新しい風は吹き続ける。スタートしたばかりの「湯パートやまざき」の試みが軌道に乗れば、高円寺にまだまだたくさんあるという空き家アパートの活用が一層進むだろう。

●取材協力
小杉湯となり
銭湯ぐらし
まめくらし
湯パートやまざきSNSアカウント
Instagram:@yupart_yamazaki
Twitter:@yupart_yamazaki

パリの暮らしとインテリア[14]パリジェンヌ、息子&猫と郊外へ。移住してでも欲しかったアートとグリーンいっぱいの住まい

大きな窓から差し込む自然光、白い空間を飾る無数の額、心地よく配されたグリーン……1年前の引越しで手に入れた新しい環境に、心から満足しているエヴ=マリーさん。27平米から54平米へ、約2倍になった住空間と、念願のバルコニーのある暮らしです。これと引き換えに手放したのは、大好きなパリ暮らしへのこだわりでした。エヴ=マリーさん決断の物語です。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

大好きなパリ暮らしにさよなら!

エヴ=マリー・ブリオラさんは息子のエミール君と、大きな猫のノラちゃんと暮らしています。ちょうど1年前、パリ北西の郊外の街、ル・プレ・サン・ジェルヴェにある54平米の集合住宅に引っ越してきました。パリに愛着を持つパリジェンヌにとって、パリを離れる決断はとても重大です。しかしエヴ=マリーさんには、広い住空間とバルコニーのある暮らしを得る、という明確なヴィジョンがあったのです。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「パリのそのアパルトマンには15年以上暮らしていて、パリらしいオスマニアン建築(※)にも、街でのライフスタイルにも、とても満足していました(※オスマニアン建築:19世紀のパリ改造を象徴する集合住宅の建築様式。石造りの壁、凝った装飾を施した鉄柵のバルコニーなどが特徴)。でも息子が8歳になり、27平米の暮らしがだんだんと手狭になってきて……そこへコロナ禍の外出制限(ロックダウン)が重なったのです。オフィスで働く生活が一変し、自宅勤務が当たり前になった時、慣れ親しんだパリ暮らしにお別れする決意をしました」と、エヴ=マリーさん。

そのころエヴ=マリーさんは、自身が2018年に創業した手編みキットのブランドKnit in Parisの経営者として、責任ある仕事をしていました。そしてそれ以前の仕事は、DIYとインテリアデコレーション専門のジャーナリストだったそう。20年以上にわたって、『MARIE CLAIRE IDEES(マリクレール・イデ)』をはじめとするフランスのメジャー雑誌で仕事をしていたのです。つまり、快適な住まいづくりのプロ! 

「新しい暮らしのイメージが具体的に、はっきりとありましたから、物件は3週間もかからずに見つかりましたよ」

決断したら早いところは、さすが、自ら会社を立ち上げた経験の持ち主です。しかも郊外暮らしをスタートした後に仕事も一新し、この1月から非営利団体の広報責任者を務めているとのこと。もともとジャーナリストだったエヴ=マリーさんにとって、情報を集めて文章を書き、それを効果的なグラフィックで見せていくという点で、現在の仕事は長くキャリアを積んだフィールドと共通しているのだそうです。
新しい街で、新しい住まいをつくり、新しい仕事を始めたエヴ=マリーさん。彼女が「大満足しています!」と言う住まいに、お邪魔しました!

エミール君とノラちゃん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

エミール君とノラちゃん(写真撮影/Manabu Matsunaga)

条件に合わせて街を決め、さらに物件を絞り込む

「15年以上暮らしたパリの27平米のアパルトマンを賃貸に出して、その家賃収入で広い住まいを借りて住む」
これがエヴ=マリーさんの引越しプロジェクトでした。「広さ、バルコニー、地下物置」という条件を満たす物件は、郊外に多く見つかりましたが、ル・プレ・サンジェルヴェに絞り込んだことには理由がありました。なぜならこの街からは、パリの中心部レ・アルまでメトロ1本でアクセスできるのです。東京に例えるなら、新宿駅に地下鉄1本でアクセスできる感覚。これなら、パリのギャラリーやエキシビジョン巡りをする生活が続けられますし、エミール君も転校せずに通学できます。この立地が、全く未知の街だったル・プレ・セン・ジェルヴェを、有力な引越し先にしたのでした。

街の様子(写真撮影/Manabu Matsunaga)

街の様子(写真撮影/Manabu Matsunaga)

街が決まったら、次は物件です。これも条件が明確だったため、検索ですぐに絞り込みができたと言います。広さ、バルコニー、そして地下物置。

念願のバルコニー! エミール君とノラちゃんの安全のためにネットを装着した(写真撮影/Manabu Matsunaga)

念願のバルコニー! エミール君とノラちゃんの安全のためにネットを装着した(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「内観したときに、ここで暮らしている様子がすんなりとイメージできました」
ということで即決。このジャッジの速さと正確さは、インテリアに携わる仕事をしてきた経験のたまもの。多くを見て知っている分、迷いがないわけです。ダイニングスペースのある広いキッチンと、広いリビング、子ども部屋、バルコニーと地下物置のある日当たりのいい10階の物件を、予算内で見つけることができました。

「気に入らないところはバスルームだけ。でも賃貸なので、ある程度の妥協はやむを得ませんね。バルコニーからの眺めと、遮るものがなくいつでも明るい10階の環境は、何ものにも代えられませんから」

こだわりのインテリア。選び方や配置のコツは?

エヴ=マリーさんの住まいは個性にあふれている印象。なぜかな、と思ってぐるりと見渡し気づくのは、やはり特徴的なインテリアづかい。白で統一した空間に、たっぷりと配したグリーン、そして壁を覆う額。

ダイニングスペースのある広いキッチン。ここにも額を飾り、グリーンをたっぷりと配している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ダイニングスペースのある広いキッチン。ここにも額を飾り、グリーンをたっぷりと配している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「写真やイラストが好きで、たくさん購入してしまうのです。息子が生まれたころ、つまり9年くらい前から少しずつ集め始めて、引越しを機に数えたところ、なんと額が89枚もありました! 友達に手伝ってもらって1つ1つ包むのに、丸1日かかりましたよ。以前の住まいは27平米でしたから、それこそ1cmの隙間もないくらい、壁一面に飾っていました。そこに対する友達の反応ですか? 上々でしたよ!」

今は飾るべき壁がたくさんあることも、エヴ=マリーさんには喜びです。額を飾るコツを聞くと、壁に飾る前にまず床に平置きして、全体のバランスを見るのだそう。どこに何を置くか配置が決まったら、しっかり採寸して壁に穴を開けて釘を打ち、飾っていきます。こうすれば失敗を未然に防ぐことができるわけですが、もし失敗したときは「後で壁を塗り替えればいい」と頭を切り替え、やり直します。

「モダンな額と、ナポレオン3世スタイル(19世紀中頃のフランスで流行した建築様式、室内装飾様式。第二帝政期スタイルとも呼ばれる)が好きで、額はこのモダンスタイルとナポレオン3世スタイルの2タイプに統一しています。アンティークの額はeBay(主に中古品を売る転売サイト)や蚤の市で見つけることが多いです。まだまだたくさん飾りますよ、せっかく広い壁があるのですから! 以前の住まいのように、1cmの隙間もないくらい飾りたいです。それからグリーンも大好きなので、自然光がたっぷり入る今の環境は最高ですね」

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

白い壁と白い家具、モダンな額とナポレオン3世スタイルの額、そしてグリーン。このベースにそってインテリアを整えているので、たくさんのアートを飾っても、雑然とせず統一感があります。そしてそれはキッチンやサロンだけでなく、廊下も、子ども部屋も、家の中すべてに言えることなのでした。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

子どものころからアートを生活に取り入れて

エミール君の部屋は、9歳の男の子の部屋とは思えないシックなインテリア。モダンな額とナポレオン3世スタイルの額が壁を覆い、家具はやはり白が基調です。額の中の絵や写真をよく見ると、自分が小さかったころに描いた絵や顔写真などがあって、ああ、やっぱり子ども部屋なんだと気付かされる感じ。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「エミールの部屋に飾るものは、もちろん本人の意見を反映していますよ。彼自身、自分がつくり上げた飾り付けを誇りに思っているようです。私が何かを飾るときに、どちらにしようか悩んだりすると彼に意見を聞くこともあります。子どもの意見を聞くことは重要ですし、アートについて考える機会を与えることも大切だと思っています。私が幼かったころ両親がしてくれたように、人生の中でアートは重要だということを、ごく自然に学んでくれたら」

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

エミール君はお小遣いができると、近所の園芸店へ植物を買いに行くのだとか。アートとグリーンを愛する心は、しっかりと育まれているようです。

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

あれ? でもちょっと待ってください。エミール君の部屋はありますが、エヴ=マリーさんの寝室がありません! 

「私はリビングのソファベッドに寝ています。70年代建築のこの物件はよくできていて、玄関からの廊下に沿ってまずバスルーム、その向かいに子ども部屋、その先にリビング、キッチン、と続き、リビングを通らずにキッチンやバスルームに行ける間取りになっています。つまり、リビングのドアを閉めてしまえば、ここは独立した私の部屋。実はさっきまで、私の母がキッチンでエミールの宿題を見てくれていました。その間、私はこうしてプライバシーを確保しながら、お客様と話ができます。この間取りのおかげで、あと10年はここに住めそうです。引っ越しはとても大変な作業なので、しばらくは動きたくありませんから!」

リビングからもキッチンにアクセスできる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングからもキッチンにアクセスできる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

新しい生活と共に始まる、これからの豊かな暮らし

理想の間取りとバルコニー、そして収納力たっぷりの地下物置のある住まい。そして、以前は知らなかった郊外の街。そのどちらにも大満足しているエヴ=マリーさんを見ながら、決断の大切さを思いました。外出制限中の「パリ暮らしにさよならする」決断があったからこそ、現在の暮らしがあるのです。

「この街には、私が大好きなアムステルダムを思わせるレンガ建築の一角があったり、オーガニックやヴィーガンの食材店が充実していたり、住んでみて嬉しい発見がたくさんありました。朝は車の騒音ではなくて、小鳥のさえずりと共に目覚めます。ほんとうに、パリのすぐそばなのに。この街そのものの暮らしの魅力と、パリへのアクセスの良さと、その両方が得られたのはラッキーだったと思います」

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのオーガニック専門店(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのオーガニック専門店(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ラッキー」は、自分の基準がはっきりわかっている、ということなのかも知れません。基準さえ明確なら、あとは何を決めるのも早いし、失敗も少ないはずですから。
引越してから2年目になる今年の夏も、エヴ=マリーさんは友達を自宅に招待し、自慢のバルコニーでアペリティフを楽しむことでしょう。自分の基準、重要ですね。

(文/Keiko Sumino-Leblanc)

●取材協力
エヴ=マリー・ブリオラさん
著書
動物好きのエヴ=マリーさんがボランティアをしている動物保護非営利団体Truffes Sans Toit

通勤時間1分。「会社のとなりに住む人は幸せか?」を聞いてみた

この世には、「会社のとなりに住む人たち」がいる。

通勤時間を極限まで減らし、空いた時間を生活やさらなる仕事に割り振る。限られた人生の時間を、究極の方法で生み出す者だ。

コロナ禍で、働き方の可能性を大きく広げたリモートワーク。それでも補完しにくい、直接的なコミュニケーションが可能なオフィスの役割も見直されるいま。彼らの生活に迫ってみた。

90万円の部屋に住み、となりの会社へ通う社長

今回はそんな日常生活を送る2人に話を伺った。この両者、家賃は10倍ほど違う。まずは90万円もの高額な家賃を払いながら、会社のとなりに住む1人目の声を聞く。

左はオフィスがあるアークヒルズ、右は住居の泉ガーデンレジデンス。本当にとなりだ(写真撮影/辰井裕紀)

左はオフィスがあるアークヒルズ、右は住居の泉ガーデンレジデンス。本当にとなりだ(写真撮影/辰井裕紀)

位置関係はこの通り(写真撮影/辰井裕紀)

位置関係はこの通り(写真撮影/辰井裕紀)

六本木のアークヒルズサウスタワーに会社を構え、システムエンジニアリングサービス事業とSaaS事業を営む株式会社エージェントグロー。このエリアは完全なる「ビジネス一等地」だが、よりによってとなりにある超高級マンション、泉ガーデンレジデンスに居を構えている人がいる。同社代表取締役の河井智也さんである。

「ウマ娘」にハマる河井社長(撮影時のみマスクを外しています。写真撮影/辰井裕紀)

「ウマ娘」にハマる河井社長(撮影時のみマスクを外しています。写真撮影/辰井裕紀)

会社のとなりへ住むようになったいきさつを語ってくれた。

「実家暮らしが長かったんですけど、27~28歳で一人暮らしを始めてから、ずっと職場の近くに住むようにしています」

そこには理由があった。

「実は私、元引きこもりのニートで。家は貧乏でしたし、学歴もそれほどじゃなくて」

世の中は不平等だ。

「ですがある日、『どんな人にも時間は平等なんだよな』と気付いたんです」

当時住んでいた新横浜の実家から、都心へは通勤に1時間以上かかる。その通勤時間を時給2000円で計算すると「1年でおよそ100万円」になる。

「時間を有効活用して通勤時間を仕事や勉強に費やそうと思い、『会社の近くに住もう』と決めました」

そう一念発起して、18億円を超える売り上げと317名もの従業員を抱える会社を築いた。

かつて河井さんのオフィスがあった溜池交差点(写真撮影/辰井裕紀)

かつて河井さんのオフィスがあった溜池交差点(写真撮影/辰井裕紀)

創業当初のオフィスは溜池山王にあり、赤坂に住んでいた。

「当時は会社から7分くらいのところに住んでいたのですが、会社が移転したのに伴い徒歩10分ぐらいになっちゃって。それを機に『新社屋から一番近い部屋に引っ越そう!』って決めたんです」

部屋の中。さまざまな日本画が飾られている(写真提供/河井智也)

部屋の中。さまざまな日本画が飾られている(写真提供/河井智也)

真ん中に見えるのが自宅と会社を行き来する裏道(写真撮影/辰井裕紀)

真ん中に見えるのが自宅と会社を行き来する裏道(写真撮影/辰井裕紀)

新しい住まいは1LDKで66平米ほど。リビングは16.5畳(約30平米)でバルコニーも広々としている。

「赤坂のときは妻と2人暮らしで2LDKに住んでいたんですけど、引っ越し先を決める際に『個室がふたつあるより、リビングの大きいところに住みたいね』と話して。画家の妻が大きな作品を描くにも便利なので、広いリビングのある1LDKに引っ越しました」

始業の10分前に起きても会社へ間に合う

一人暮らし時代の家賃は15万円、赤坂のときは30万円。六本木で48万円と来た。そしてこの記事が出るころには、同じマンションの高層階に引っ越している。床面積は2倍近くに広がるも、家賃はさらに90万円へ跳ね上がった。

「子どもが生まれてから物がすごく増えて手狭になり、リビングがさらに広い2LDKに引っ越しました。物置が大きいので、たくさんある妻の画材もしまえますね」

リビングは19畳と広々している(画像提供/河井智也)

リビングは19畳と広々している(画像提供/河井智也)

90万円もの高額な部屋に住む、決断に至った心中とは。

「環境がよければ、お金を稼げますから。家賃が高くとも、たくさん頑張って成果を出せばいいので」

力強く語る。そのために寝る時間も大切にしている。

「家が会社のとなりにあるおかげで、徒歩1分で帰宅できます。会社を出るのが24時を過ぎても7~8時間は眠れますし、仮に寝坊して8時50分に起きても、定時の9時に間に合いますよ」

エスカレーターを乗り継げば泉ガーデンレジデンスからアークヒルズまで雨に濡れずに移動できる(写真撮影/辰井裕紀)

エスカレーターを乗り継げば泉ガーデンレジデンスからアークヒルズまで雨に濡れずに移動できる(写真撮影/辰井裕紀)

「電車通勤が不要」なのも、会社のとなりに住む利点という。

「なかなか気づかないですけど、電車に乗るのは意外と精神的に削られるんですよ。人とすごく近いとかで。会社に着いた時点でもう、ちょっと疲れちゃうんですよね」

“仕事のパフォーマンスに直結する”との考えから、電車に乗らなくていい家を選んだ。

東京メトロ南北線 六本木一丁目駅も近いがほぼ使わない(写真撮影/辰井裕紀)

東京メトロ南北線 六本木一丁目駅も近いがほぼ使わない(写真撮影/辰井裕紀)

近いから家庭生活も大事にできる

会社の成長にも、「会社のとなり」生活が活きた。

「一番大きいのは、採用面接ですね。面接に来る求職者の方の大半は平日の日中帯に働いていますから、だいたい定時後か土日の面接を希望されるんですよ。コロナ前は対面の面接がメインだったんですが、さまざまな事情で来社できなくなる方もたまにいらっしゃって」

家が遠ければ通勤時間が気になるが、家がとなりにあれば精神的にも余裕ができる。土日の面接でもゆとりを持って対応でき、良い社員が続々と入社してくる好循環が生まれた。そして、「結婚生活」においてもメリットがある。

「1歳にならない子どもがいるんですが、子どもに何かがあって妻からヘルプがあったらすぐ帰れるんですよね。家のベランダから会社の明かりが見えるほど近いので、お互い安心できます」

中央右側が家。バルコニーから合図を送れる距離だ(写真撮影/辰井裕紀)

中央右側が家。バルコニーから合図を送れる距離だ(写真撮影/辰井裕紀)

ちなみに行きつけのお店は?

「自宅近くのお店にはだいたい入ったことがあるので、誰かとごはんを食べるときにいいお店はある程度把握しています」

さすがの網羅ぶりを見せる河井さんに、いくつか店をピックアップしてもらった。

「THE CITY BAKERY BRASSERIE RUBINは、パリのパン屋さんのレストランです。広くて子連れで行きやすいうえにテラス席もありますし、妻も好きなお店です。あとは陳麻婆豆腐とか。辛いのが好きな社員も多いので、みんなでランチによく行きますよ」

陳麻婆豆腐(写真撮影/辰井裕紀)

陳麻婆豆腐(写真撮影/辰井裕紀)

ランチセットは1,100円。ごはんを大盛りにすれば食べごたえもある(写真撮影/辰井裕紀)

ランチセットは1,100円。ごはんを大盛りにすれば食べごたえもある(写真撮影/辰井裕紀)

歩かなくなって30キロ太った(撮影時のみマスクを外しています。写真撮影/辰井裕紀)

(撮影時のみマスクを外しています。写真撮影/辰井裕紀)

メリットは多いが、意外な盲点も。

「会社の近くとなると大都会であることも多いので、まず家賃が跳ね上がります。職場近くにずっといると生活もマンネリ化しがちなので、旅行などでリフレッシュするように心がけます」

近くに住むからこそ、遠出する余裕もできるという。そして河井社長は笑って話す。

「会社のとなりに住むようになって、30キロ太ったんですよ。あまりに太りすぎてみんなから『痩せろ』と言われて。歩くってカロリー消費に大切だったんだなと。あわててジムに通い始めましたね」

老後は、会社を離れて住むことも考えている。

「歳を取って会社の近くに住まなくてよくなったとき、競馬ファンの私は『競馬場の近く』にでも住んでいるかもしれません(笑)。そのとき自分が熱中しているものや、やりたいことを叶えられるところに住むのが一番だと思いますから」

それまでは、仕事がやりやすい「会社のとなり」生活を謳歌する。

「仕事で成果を出したり年収を上げたりしたい人は、絶対会社の近くに住んだ方がいいと思いますね」

(写真撮影/辰井裕紀)

(写真撮影/辰井裕紀)

あの大阪の大手ゲーム社員も「会社のとなりに住む」

もう1人。誰もが知るあの大阪の大手ゲーム会社のとなりに住むのが、キャラクターデザイナーのolorさんだ。

olorさんの近影(画像提供/olor)

olorさんの近影(画像提供/olor)

「会社への距離は……本当に1分くらいですね。距離は50mもないです」

JR吉祥寺駅前 (写真/PIXTA)

JR吉祥寺駅前 (写真/PIXTA)

いったいなぜ会社のとなりに住んだのか。それは東京時代にさかのぼる。

「吉祥寺に住み、渋谷まで通勤していました。会社までは50分かかり、出退勤ラッシュに苦しんでいたんです。人混みに眼鏡を割られたこともありますし、酔ったとなりの人からゲロを吐かれたことも3回あります(笑)」

olorさんが勤めるゲーム会社の社屋(画像提供/olor)

olorさんが勤めるゲーム会社の社屋(画像提供/olor)

電車を逃して会社に何度も泊まったこともあり、通勤の苦労は深く脳裏に刻まれた。そこから3年前に転職し、東京から大阪に移住する。

8年住んだ吉祥寺は気に入っており、「関西の吉祥寺」のようなところを探したが、なかった。そこで目を付けたのが、会社のとなりだったのだ。

「さすがに会社のとなりは、仕事モードのオンオフができなさそうで悩みました。ですがこだわりポイントがすべて集まっていたのも、会社の近くだったんです。川の真ん中にあってオシャレな中之島公園もあるし、10分歩けば大阪城。ショッピングモールもあったので」

そして「通勤・退勤ラッシュにつかまらない」のも理由のひとつだった。

遊覧船が通る中之島公園。イベントも開催されてにぎわう(画像提供/olor)

遊覧船が通る中之島公園。イベントも開催されてにぎわう(画像提供/olor)

関西の物件は東京よりは安いと思っていたが、本社があるのは大阪市でも都会の中央区だ。7万2000円の家賃では広い部屋を借りられなかった。

「吉祥寺時代の6畳から9畳になりましたが、実質キッチンが3畳ほど取っている1Kなので、やっぱり狭いです」

olorさんの部屋。キッチンが部屋のスペースを取っている(画像提供/olor)

olorさんの部屋。キッチンが部屋のスペースを取っている(画像提供/olor)

猛暑や梅雨も関係なく過ごせる

「残業が多い業界で近所に住む社員も多いですが、本当にすぐとなりだと知るとびっくりされましたね」

だからプライベートでもよく同僚と遭遇する。

「気まずくはないですけど、ピザを買って帰るところを目撃されて『今日ピザなんですね』とか言われることはあります(笑)」

行きつけのお店も、やはり近くの店になる。

「いつも同じところばっかりに行ってしまうのが問題です(笑)」

長い行列のできるつけ麺の井手本店や、たっぷりの鶏むねからあげが食べられる万喜鶏などは、olorさんも何十回と通っている。

焼き鳥屋の万喜鶏。「めちゃくちゃなボリュームの鶏のむねからあげが好きで、よく行きます」(画像提供/olor)

焼き鳥屋の万喜鶏。「めちゃくちゃなボリュームの鶏のむねからあげが好きで、よく行きます」(画像提供/olor)

+200円で倍近くからあげが増える(画像提供/olor)

+200円で倍近くからあげが増える(画像提供/olor)

住んでみると徒歩1分もかからず出勤できるし、電車のラッシュとは無縁で、まるで体力を消耗しなかった。猛暑や梅雨も苦にならないし、自分の時間が増えた。

「家と会社への往復があまりにもカンタンですから、家のPCの調子が悪くなったときも、出勤して会社のPCでやり過ごせました。退社後には『olorさんがデータを確認しないと進めない』などの連絡もたまに来るんですが、パジャマのまま会社に行ってすぐ解決できますよ」

「ついでに」の行動ができない

だが、デメリットもある。olorさんが勤めるような大企業は都会にあるため、「都市のノイズがうるさい」

「働くならいいんですが、住むのは大変です。そばに片側5~6車線くらいあるすごく大きい道路があり、緊急車両のサイレンが毎日のように鳴るし、バイクの暴走族もいます。休日にはデモまで」

さらにまわりには高い建物が多く、日当たりも微妙だという。

「会社と家の往復では仕事のオンオフができません。インドア派の私でも、変化がなくて息苦しさを感じます」

関西に来て3年経つが、その実感も薄いという。会社もデスクワークのため、1日10分も歩かない。

「あと、通勤に距離があるとお店や公園に寄ったり、映画を観たりできます。家が近すぎると、意識してアクションを起こさないと外での行動ができません。お家に入ったら『もう出たくない』となるので」

物も増えて手狭になり、引っ越しを計画中(画像提供/olor)

物も増えて手狭になり、引っ越しを計画中(画像提供/olor)

「会社から離れる幸せ」も見えてきた

なので、次は会社から離れたところへのマイホーム購入を考えている。

「大阪は東京ほど電車が混まないっていうし、30分以上離れてもいいかなと。物も増えましたし、関西で落ち着いてもいいと思ったので」

探しているのは交通の便のよさとともに、自然豊かな街だ。

「京都と大阪の真ん中にある高槻市とか、大阪・枚方市の樟葉とか。老後も考えたら、京都の宇治市もいいかなって。通勤は1時間かかりますが、電車1本ですぐ京都市内には出られるので。趣味のバイクで琵琶湖にもすぐ行けますから」

宇治市御蔵山から見渡す秋晴れの山科方面の景色      (写真/PIXTA)

宇治市御蔵山から見渡す秋晴れの山科方面の景色 (写真/PIXTA)

そうやって引っ越しを考える日々だが、それでも「会社のとなり生活」は、メリットの方が多いと語る。

「移動がない分、自分の時間は明らかに増えます。仕事が生活のメインの人か、完全にインドアの人にはいいと思いますし、都会生活が好きな人には最適だと思いますよ」

会社のとなりに住みたくなった人には。

「単調な毎日になりやすいので、帰宅後や週末のプランを意図的に組み込んで、気分のオンオフをしたほうがいいですね」

夕日が沈む琵琶湖(写真撮影/辰井裕紀)

夕日が沈む琵琶湖(写真撮影/辰井裕紀)

テレワークで、時間と距離の自由を得た現代人。しかし、もし行き詰まりを感じているようであれば、「会社のとなりに住む」のも選択肢の一つだ。多くのメリットとともに、デメリットも確実にある。そこを見きわめて納得できたら、こう生きるのもいいだろう。

会社のとなりに住むメリットと、離れて住むメリット。一緒に見つめられるはずだ。

●取材協力
株式会社エージェントグロー
olorさん

谷根千エリアを地元目線で取材! 街の見方が変わるローカルメディア「まちまち眼鏡店」がスタート

谷根千「谷中・根津・千駄木」を拠点に、活動を続ける一級建築事務所HAGI STUDIOが、2022年3月末に谷根千のローカルWebメディア「まちまち眼鏡店」をローンチした。おもしろいところは、情報を発信するだけでなく、谷根千に住んでいる人、この街を愛する人なら誰でも参加できるという、街全体を巻き込もうとしているところ。メディアを通じて、どのようにコミュニティをつくっていくのか、その想いや背景を取材した。

地元密着の建築事務所だからこそ、メディア発信が必要左から、千十一編集室の影山裕樹さん、『まちまち眼鏡店』店長の坪井美寿咲さん、副店長の柳スルキさん、HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉さん(写真撮影/片山貴博)

左から、千十一編集室の影山裕樹さん、『まちまち眼鏡店』店長の坪井美寿咲さん、副店長の柳スルキさん、HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉さん(写真撮影/片山貴博)

「HAGI STUDIO」は、ちょっと変わった建築事務所だ。例えば「宿(まちやど hanare)」を運営しているし、「教室・イベント(まちの教室KLASS)」も開く。さまざまなジャンルの「食(HAGI CAFE、TAYORI等)」のお店や、カフェやギャラリーなどの「複合施設(HAGISO)」も運営している。ただし、場所は谷根千エリアが主軸。活動範囲は狭く、そして深い。
「事務所から自転車で行ける範囲で7件ほどの拠点があります。それらの運営をするなかで、自然と街の人々と関わることが増え、自分たちで発信するローカルメディアの必要性を感じていたんです」と代表取締役の宮崎晃吉さん。とはいえ、本業が忙しく、なかなか重い腰を上げられなかったという。
「そんななかコロナ禍で、遠くに行けない事態になり、地元への関心が高まりました。谷根千は、観光地であり住宅街であり、寺町であり職人の街であり、商業地でもあります。生まれも育ちもココという人もいれば、最近はマンションが増え、新しい住民も増えています。同じ街でも、違う人が見れば、違ったふうに見える。人の目線を借りることで、街の魅力を再発見するのは、街の豊かさにつながる。それでメディアをつくろうと思いました」(宮崎さん)。

HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉さん。学生時代に住んでいた木造アパート「萩荘」を改修し2013年『最小文化複合施設HAGISO』として生まれ変わらせる。以来、谷根千エリア内での建物再生と運営、全国での建築設計を手掛ける(写真撮影/片山貴博)

HAGI STUDIO代表取締役の宮崎晃吉さん。学生時代に住んでいた木造アパート「萩荘」を改修し2013年『最小文化複合施設HAGISO』として生まれ変わらせる。以来、谷根千エリア内での建物再生と運営、全国での建築設計を手掛ける(写真撮影/片山貴博)

背景にはステレオタイプな谷根千イメージへの危機感が

こうしたローカルメディアを考えた背景には、既存メディアで谷根千が「昭和」「レトロ」というステレオタイプに扱われていることに、一種の危機感があったそう。
「あまりにもイメージが定着しすぎると、街がそれを追いかけるようになる。“昭和レトロな店しかこの街らしくない”とか。それでは街の解像度が粗い。実際はもっと複雑です。分かりやすいほうが消費しやすいのも分かりますが、複雑さは街の豊かさにつながるもの。複雑なものをそのまま享受するのは、分かりやすさを優先する既存のメディアでは難しいだろうと思ったんです」(宮崎さん)

では、手掛けるローカルメディアの柱とはなんだろうか?
「まず、観光客向けではなく、暮らす人に軸足を置くこと。読み手もつくり手になるような参加するメディアであること。このメディアを媒体にして、さまざまな属性を持つ人々のコミュニティ化が出来たら理想的だと考えました。これは単身者、ファミリー、高齢者、暮らす人働く人と、多様性のある谷根千ご近所エリアだからこそできることです」とはメディア監修を行う、千十一編集室の影山裕樹さん。

千十一編集室代表の影山裕樹さん。全国各地でローカルメディアや地域プロジェクトのディレクション、コンサルティング、制作を行う。今回はメディアのプロとして監修を行う(写真撮影/片山貴博)

千十一編集室代表の影山裕樹さん。全国各地でローカルメディアや地域プロジェクトのディレクション、コンサルティング、制作を行う。今回はメディアのプロとして監修を行う(写真撮影/片山貴博)

誰かの目線の「眼鏡」に見立てたウェブメディアがコンセプト

メディア名は「まちまち眼鏡店」。といっても眼鏡を売っているのではない。「誰かの目線で暮らしが深まるローカルメディア」をコンセプトに。多様な視点を”眼鏡”に見立て、まちを紹介する試みだ。
いわゆる観光客向けの情報サイトではない。具体的には、Web上で特集や、インタビュー、エッセイ、動画、ラジオ音源を掲載し、まちに関わる人たちが、どんな見方でまちを見ているのかを追体験できるメディアを考えている。「眼鏡店」と名付けたWebだから、運営するスタッフは「店長」「副店長」と、ちょっと変わった肩書にした。

「まちまち眼鏡店」という名は「ひとの数だけまちの見方がある」という気づきをもとに、まちを見る目を眼鏡に見立てたことから(画像提供/HAGI STUDIO)

「まちまち眼鏡店」という名は「ひとの数だけまちの見方がある」という気づきをもとに、まちを見る目を眼鏡に見立てたことから(画像提供/HAGI STUDIO)

コンテンツ例(画像提供/HAGI STUDIO)

コンテンツ例(画像提供/HAGI STUDIO)

軒先、塀の上などで思い思いに園芸を楽しむ路地裏の風景は谷根千ではおなじみ。「“路上園芸鑑賞家”の村田あやこさんとまち歩きをした際、その家の個性、最近の流行まで分かったんです。その気づきがメディアづくりのきっかけにもなりました」(宮崎さん)(写真撮影/片山貴博)

軒先、塀の上などで思い思いに園芸を楽しむ路地裏の風景は谷根千ではおなじみ。「“路上園芸鑑賞家”の村田あやこさんとまち歩きをした際、その家の個性、最近の流行まで分かったんです。その気づきがメディアづくりのきっかけにもなりました」(宮崎さん)(写真撮影/片山貴博)

読み手がつくり手にもなる。制作過程が目的にもなるメディア

収益面でも挑戦がある。
通常のメディアは、媒体でもWebでも、広告収入でまかなうのが普通だ。しかしローカルメディアは対象が限られているため、こうしたマスメディアの広告ありきのスキームは限界がある。
そこで、目指すのは「当事者たちによる自立した収益モデル」。地域の事業者で構成されるパートナー会員に加え、個人のメンバー会員も募集。「編集会議」と「まちの作戦会議」に参加する権利が得られる。メンバーについては現状、オープン記念につき10月末まで無料で登録ができるとのこと。

読み手がつくり手も担うことで、制作物であるWebメディアとその制作過程(ビハインド)の両方がコミュニティの場となるのだ。

「毎月の編集会議はリアルとオンラインの併用を想定。未定ですが、それぞれの興味あるものをフックに、地域に関われるリアルな場を設けたいと考えています。イメージは部活。例えば写真部、カレー部、猫部、お茶部など。引越して、いきなり町内会はハードルが高いけれど、例えば、一見では入りにくいお店に、地元の常連さんと一緒に入ってみるのが、地元での関わりのきっかけになるかもしれません」(宮崎さん)

編集会議の様子(画像提供/HAGI STUDIO)

編集会議の様子(画像提供/HAGI STUDIO)

メディアを活用することで、リアルの場の活性化も期待

ローカルメディアの登場によって、現在実施している「リアルな場」も良い影響を与えることも期待を寄せている。

例えば、「HAGI STUDIO」が手掛ける「まちの教室 KLASS」は、地域の方が教え、教わることができる学び場だ。
「ただし多くは単発で、なかなか継続的な流れにならないのが残念でした。集客がままならないケースもありました。コロナ禍でオンラインも試みたのですが、“初めまして”でいきなりネット上は難しいと感じていました」と、HAGI STUDIOのKLASS担当、柳スルキさん。
「例えば、メディアが発信し続けることで、ゆるくつながる場になります。また、部活的なチームのようなものができれば、先生役も希望者がリレーでまわすこともできます。知り合いの中でなら、教える側になるのもハードルが低く、継続的な活動ができやすくなります。またチームとして顔見知りになればオンライン上のやり取りもスムーズになると思います」(柳さん)

柳スルキさん。韓国生まれ日本育ち。KLASS担当のスタッフで、ローカルメディア『まちまち眼鏡店』副店長(写真撮影/片山貴博)

柳スルキさん。韓国生まれ日本育ち。KLASS担当のスタッフで、ローカルメディア『まちまち眼鏡店』副店長(写真撮影/片山貴博)

コロナ前のKLASSの教室の風景。アイランドカウンターのキッチンがあり、料理教室が人気。地域の方を講師に迎え、近所の大工さんによる箸づくりや金継ぎ教室なども(画像提供/HAGI STUDIO)

コロナ前のKLASSの教室の風景。アイランドカウンターのキッチンがあり、料理教室が人気。地域の方を講師に迎え、近所の大工さんによる箸づくりや金継ぎ教室なども(画像提供/HAGI STUDIO)

また、取材をするという名目の上、普段つながりがないような街の人々から思わぬ話が聞け、街への理解が深まる面も。『まちまち眼鏡店』店長の坪井美寿咲さんは、宿泊施設「まちやど hanare 」では、ゲストの要望に合わせた街の情報を提供したり、案内したりする「まちのコンシェルジュ」としても働いている。
「私は、生まれも育ちも谷中。だからよく知っていると思っていたのですが、取材となると、消費者の私では気付けない面を知る機会を得ます。例えば、子どものころからよく買い物にいった魚屋さんに思わぬ物語があることを知ったり、寺の住職からは“こんな話、聞かれるまで忘れていた”なんてエピソードを聞いたり。逆に、ホテルの宿泊ゲストと街歩きを一緒にしたときは、自分がまったく気付いていなかった街頭ランプの美しさを教えてもらいました。メディアでの取材と、コンシェルジュの両方の業務で、街への解像度が上がってきたことを実感しています」

坪井美寿咲さん。「私は、地元、谷中の工務店の娘で、今も街のあちこちに知り合いが(笑)。街の皆さんに見守っていただきながら幼少期を過ごしました」(写真撮影/片山貴博)

坪井美寿咲さん。「私は、地元、谷中の工務店の娘で、今も街のあちこちに知り合いが(笑)。街の皆さんに見守っていただきながら幼少期を過ごしました」(写真撮影/片山貴博)

どこか懐かしいモダンなデザインの街灯ランプ。「ホテルのお客様が写真を撮られていました。私はいつもこの下を通っているのに、特別視をしたことがなかった。人の数ほど、街の見方があると実感した出来事でした」(坪井さん)(写真撮影/片山貴博)

どこか懐かしいモダンなデザインの街灯ランプ。「ホテルのお客様が写真を撮られていました。私はいつもこの下を通っているのに、特別視をしたことがなかった。人の数ほど、街の見方があると実感した出来事でした」(坪井さん)(写真撮影/片山貴博)

取材したのは4月の発行前の3月初旬。地元の人、編集者・ライターといった書くプロ、音楽家や料理家の専門家による「寄稿」をベースとして考えているとのこと。街の目利きによる、編集のプラットフォームだ。 
「通常、広告で成り立つネットの世界では、“PV(ページビュー)をいくら稼げるか”みたいなことが重要視されますが、今や単体でメディアを成立するにはもう難しい時代にきているのかなと。このローカルメディアは、地域に関わりたい人たちにとって、この街で暮らす上で必要なツールになることができれば成功だと思っています」(影山さん)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

●取材協力
・まちまち眼鏡店
・HAGI STUDIO

「SUUMO住みたい街ランキング2022関西版」、大阪市中心部人気が高まる。郊外は明石などが再開発+子育て施策で人気アップ

リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2022関西版」を発表した。今年はどんな順位になったのだろう。

昨年から順位逆転。1位は「梅田」、2位は「西宮北口」

まず「2022年の住みたい街(駅)」ランキングの結果を紹介しよう。
TOP3では4年連続1位を堅守していた「西宮北口」と2位の「梅田」が逆転。トップになったのは関西ナンバーワンの大都市「梅田」だった。
神戸市の中心地「神戸三宮」は今年も3位に。

住みたい街(駅)ランキング1位~20位

本年度より、集計方法を変更しており、上記の表の見方および、注意点については本記事末に表示。

4年ぶりに1位となった「梅田」。周辺ではJR大阪駅北側「うめきた2期地区開発プロジェクト」が進み、関空に直結するJR新駅が2023年に誕生予定など、再開発とともに将来への期待感の高まりが感じられる。

梅田駅周辺の風景(写真/PIXTA)

梅田駅周辺の風景(写真/PIXTA)

一方、盤石の人気を誇ってきた「西宮北口」だが、約10年ほど前から駅周辺の人口増加が落ち着いていた。対して梅田駅のある大阪市北区は5年で1割増程度のペースで人口増加を続けている。そのことからも人気の逆転現象がうかがえる。

若い世代の支持を集め、大阪市内中心部の人気が顕著に

TOP20に注目すると、「本町」「心斎橋」が初トップ20入りを果たした。
得点を見ても、「なんば」(+90点)「梅田」(+79点)「福島(22位)」(+66点)「本町」(+41点)など大阪市の中心部が昨年より急上昇。都心人気の高まりが顕著な結果となった。
ちなみに「梅田」は男女ともに20代で1位。「本町」は20代女性でベスト10に入るなど、若い世代からの支持が高いことがわかる。

梅田エリアに隣接する「福島」は「うめきた2期」の波及効果で人気が上昇。初トップ20入りした「本町」は、西区と中央区のほぼ境目。両区ともタワーマンションの相次ぐ誕生や靭(うつぼ)公園、大坂城公園など都心部でも緑豊かな環境とあって、子育て層が流入。このため「本町」のある中央区は15歳未満人口が大幅に増加している。

本町の街並み(写真/PIXTA)

本町の街並み(写真/PIXTA)

一方、「岡本」(8位→12位)「芦屋川」(13位→19位)などブランドイメージの強い阪神間の住宅地がやや順位を下げている。
共働き世帯率が上がり、新築マンションを中心とする大阪市内の住宅供給が増えたことから、大阪市内中心部の居住ニーズが高まった結果だろう。

関西圏はコロナ禍でも郊外より都市部

2年前から続くコロナ禍で、郊外への注目度が上がったことは報道でも伝えられている。首都圏の住みたい街ランキングは郊外人気が顕著な結果となった。
ところが、関西では逆に都市部への注目度が一層増す結果に。なぜか。
関西は首都圏に比べてテレワーク率が低いことが理由のひとつにあげられる。また、生まれ育った地域に住み続けている人が多いことや、通勤時間が首都圏ほど長くないことなどから、コロナ禍でも生活スタイルを変える人が少なかったためではないだろうか。

「明石」がランクアップした理由とは?

一方、都心部以外で大きくランクアップし、初のベスト20入りしたのが「明石」(27位→16位)。
「住みたい自治体」でも明石市は過去最高の6位となり、関西全体で最も得点を伸ばした(+123点)。

住みたい自治体ランキング(1位~20位

明石がこれほどランクアップしたのはなぜだろう。
明石市は神戸市など周辺エリアからファミリー層が流入し、2020年の国勢調査では人口増加率が全国62中核市で1位になっている。
明石駅周辺で長年進められていた再開発が完成し、大型商業施設や子育て支援などの公共施設、タワーマンションが整備されたことに加え、子ども医療費の無料化、第2子以降の保育料無料化、中学校の給食の無償化など市が子育て支援の施策を次々に打ち出し、ファミリー層を引きつけているようだ。
投票した理由として、駅周辺のショッピングモールや商店街の利便性、緑豊かな明石公園など、派手ではないが暮らしやすさを評価する人が多かった。
また、明石市に投票した人のうち、神戸市・明石市以外の兵庫県に住む人が半数近くを占めた。子育て支援の取り組みなど、市民目線の自治体の施策が、他都市から新住民を呼び込む大きな要因となっていることがわかる。

明石市(写真/PIXTA)

明石市(写真/PIXTA)

「住みたい自治体」では、草津市(+43点)、姫路市(+58点)も得点が急上昇した。
草津市の中心部である「草津」や「南草津」は、再開発により大型商業施設を整備。両駅を核とする地域発展への期待に加えて、琵琶湖畔の景観に恵まれた住宅地の美しさや、JRで大阪と直結する交通アクセスの良さなどにより、不動産価値上昇への期待などが高支持の理由だろう。
「姫路市」も駅周辺の再整備で駅前に大型商業施設が整備。大ホールのある姫路市文化コンベンションセンターやはりま姫路総合医療センターなどの大型施設のオープンが相次ぎ、駅周辺が目覚ましい発展を見せている。

明石市、草津市、姫路市はいずれも再開発・大型整備が完成したことで街が美しく整備され、生活の利便性を増した。さらにJR新快速電車の停車駅で大阪や神戸、京都への通勤が可能なことなどが、共通した魅力といえる。

再開発で変化した姫路駅前(写真/PIXTA)

再開発で変化した姫路駅前(写真/PIXTA)

ブランドより実利性が重視される傾向

住みたい街2022を見ると、若い世代の都心部人気の高まりとともに、郊外でも子育てしやすい住環境や自治体の施策が評価に影響していることを感じた。
明石市がその典型だが、高槻市(+40点)も医療施設や教育環境の充実が支持を集めており、姫路市も文化・娯楽施設や学びの施設充実で評価を高めている。
従来からのイメージやブランド力だけでなく、実利面でも住みやすさに注目が集まっている印象をもつ。今後、西宮北口のような住みたい街ランキング上位の常連となる街が新たに登場するかもしれない。今後の結果が楽しみだ。

■関連ページ
>「SUUMO住みたい街ランキング2022 関西版」
>住みたい街ランキング トップページ

■記事中に紹介しているランキング表について
・調査対象は関西2府4県(大阪府・兵庫県・京都府・滋賀県・奈良県・和歌山県)に住む20代~40代の男女4600人。調査は2022年1月に実施。最も住みたい街(駅・自治体)から3位までを投票し、最も住みたい街を3点、2番目に住みたい街を2点、3番目に住みたい街を1点として集計している。
・本年度より、集計方法を「※注」のように変更している。
※注:本年度より、「駅すぱあと路線図」において、複数の駅が、地下通路や連絡通路でつながっている場合には同じ駅として集計している。表中の※印は本年度より得点を合算している駅で、先頭に表記している駅を代表して表示している。以下が合算している対象駅
※1:梅田 大阪 大阪梅田 東梅田 西梅田 北新地
※2:神戸三宮 三ノ宮 三宮 三宮・花時計前
※3:なんば 難波 大阪難波 JR難波
※4:天王寺 天王寺駅前
※5:神戸 高速神戸 ハーバーランド
※6:烏丸 四条
※7:明石 山陽明石
※8:心斎橋 四ツ橋

パリの暮らしとインテリア[13] アーティスト河原シンスケさんが暮らす、狭カッコいいアパルトマン

パリを拠点に活動するアーティストの河原シンスケさんは、若者に人気のエリア、バスティーユに暮らしています。話題のレストランやショップが次々と誕生するそばで、庶民の市場やおじさんたちのカフェが健在しているミックス感が、とても居心地良いのだそう。アーティスト・河原シンスケ(かわはら・しんすけ)さんの住まいにおじゃましました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
パリで暮らすフォトグラファーManabu Matsunagaが、フランスで出会った素敵な暮らしを送る人々のおうちにおじゃまして、こだわりの部屋やインテリアの写真と一緒に、その暮らしぶりや日常の工夫をご紹介します。

今の自分に合わせて選んだ、コンパクトな住まい

ヨーロッパ、アメリカ、アジアの、さまざまな都市を舞台に活動するアーティスト、河原シンスケさん。日本に生まれ、武蔵野美術大学を卒業し、アーティスト活動を始めてからはパリに暮らしています。

河原さんのアートに頻繁に登場する動物、うさぎ。うさぎをモチーフにしたオブジェが室内のあちこちに点在している。うさぎの黒いキャンバス画は河原さんの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんのアートに頻繁に登場する動物、うさぎ。うさぎをモチーフにしたオブジェが室内のあちこちに点在している。うさぎの黒いキャンバス画は河原さんの作品(写真撮影/Manabu Matsunaga)

その生活は文字通り移動の連続で、フランスでエルメスとのコラボレーションを続けつつ、東京都南青山にあるギャラリーSCÈNEや宮城県仙台市の仙台うみの杜水族館、ブリュッセルの@elevensteens 等で展覧会を開催する、といった具合。フットワークの軽さは引越しにも影響するのか、パリ暮らしの約30年の間に、なんと7回も住居を変え、そのたびに改装を重ねたそうです。

「パリで最初に住んだワンルームは、レピュブリック広場近く、今人気の北マレにある小さな住まいでした。そのあとでエッフェル塔の正面にある住まいや、90平米もある歴史的なアパルトマンなど、広さも、建築年代も、さまざまな住居に暮らしました。8年前に引越してきた今の住まいは、日本式でいう1階(海外では日本の2階部分を1階と数える)にあります。日本やフランスの地方都市への移動が多くなったころに、生活をコンパクトにしたいと思って、これまで住んだことがない20平米のワンルームを買いかえました」と、河原さん。

住まいの目の前は車の入らない路地。通行人の行き来もあまり激しくなく、若者エリアにありながらエアポケットにいるよう。古き良きパリの風情の中に、若者に人気のレストランが点在している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

住まいの目の前は車の入らない路地。通行人の行き来もあまり激しくなく、若者エリアにありながらエアポケットにいるよう。古き良きパリの風情の中に、若者に人気のレストランが点在している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

20平米はともかく、フランスでは1階の物件は人気がありません。集合住宅の入り口の階なので、人が出入りするたびにドアを開閉する音が響いたり、窓の目の前を通行人が行き来したり。都市の喧騒がそのまま住空間の中に入ることが、敬遠される理由です。日当たりも良くありません。住みにくいことが大前提になっている証拠に、かつて建物の入り口脇の1階は、管理人が暮らすスペースの定番でした。そこをなぜあえて、河原さんは選んだのでしょう?

「移動が多い私にとって、スーツケースを簡単に出し入れできる1階の住まいは何より楽です。段差がないので、作品の搬出の際も便利。そしてコンパクトな住まいは戸締まりが簡単で、セキュリティ面の心配も少ないでしょう。以前、90平米に住んでいた時は、出張のたびにチェックポイントが多くてなかなか面倒でした。今は東京からパリに戻って荷物を置いて、そのままブリュッセルへ出張、ということもとても楽にできます」

あえて暗く演出した室内はひっそりとしたムードがあり、とても落ち着く。壁画アートに見える木製の壁は、全て収納の扉(写真撮影/Manabu Matsunaga)

あえて暗く演出した室内はひっそりとしたムードがあり、とても落ち着く。壁画アートに見える木製の壁は、全て収納の扉(写真撮影/Manabu Matsunaga)

1階には1階のメリットがある。これは意外な発見でした。でも、日当たりや通行人による騒音はどうでしょう?

「もちろん日当たりの良い住まいの方が、悪い住まいよりはいいですよね。でも住まいというのは、その時その時の予算の中で、自分が何を優先するかで決まると思うのです。これから先また変わるとしても、今の私にとっての優先順位はまず、移動が楽な1階であること、そしてコンパクトであること。その優先順位の中で納得のいく物件を選び、そしてその中で、自分にとって暮らしやすい空間づくりに挑戦したいと思いました」

「狭くて落ち着く大人な場所」を表現

「自分にとって暮らしやすい空間」をつくる! そう明確な意図があった河原さんは、物件を購入するや否や大改装に着手しました。入り口のドアを塞ぎ、逆に塞がれ使われていなかったほうのドアを開け、こちらを入り口に変更。リビング側から住まいに入るつくりに変えました。リビングの奥に続く細長い空間は、キッチン兼バスルームに。システムキッチンは、奥行きをリビングとの仕切りになった入り口の開口に合わせてオーダーメイドしたものです。そのおかげでシステムキッチン全体が壁面のようにペタンと空間に収まり、全く圧迫感がありません。

リビングの開口に合わせて、ペタンと平面になるようデザインしたシステムキッチン。その向かいにバスタブが設置されている。洗濯機とトイレも、バスタブの延長に並列(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングの開口に合わせて、ペタンと平面になるようデザインしたシステムキッチン。その向かいにバスタブが設置されている。洗濯機とトイレも、バスタブの延長に並列(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オーダーメイドのシンクは奥行き約30cmとコンパクト。収納扉の取っ手は、バーナーを使って自分で焼き色を入れ加工した。河原さんは料理の腕前も有名。シンプルでおいしいおしゃれなレシピを日本の雑誌で連載中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

オーダーメイドのシンクは奥行き約30cmとコンパクト。収納扉の取っ手は、バーナーを使って自分で焼き色を入れ加工した。河原さんは料理の腕前も有名。シンプルでおいしいおしゃれなレシピを日本の雑誌で連載中(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンに立った時に、背の側になる壁面がバスタブとトイレです。こちらも、リビングからの開口部の幅に合わせた奥行きにそろえて、スッキリと造り付けました。なんと、今バスタブが置かれている壁面が、以前の入り口ドアの場所だというのですから、河原さんの大改装がどれだけ抜本的なものだったのか想像できるというものです。白いパネル式のスライドドアでトイレや洗濯機をカバーして、1枚の壁にして隠す仕組みも、河原さんの考案によるオーダーメイドです。

「一人暮らしだからこんなことも可能」と、大胆な場所に設置したバスタブ。なんと今はタイルで覆われている壁が、物件購入時にはドアだった(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「一人暮らしだからこんなことも可能」と、大胆な場所に設置したバスタブ。なんと今はタイルで覆われている壁が、物件購入時にはドアだった(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンの向こうは小さな中庭。リビングの窓と合わせて、窓はトータル2カ所ある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンの向こうは小さな中庭。リビングの窓と合わせて、窓はトータル2カ所ある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「小さな住まいだからといって、学生の一人暮らしみたいな場所にはしたくありませんでした。これまでもずっとそうでしたが、ここでも『真似できない独特の空間をつくる』ことをポリシーに、住まいづくりをしています。もし家族がいたら20平米は狭すぎるでしょうし、予算は同じでも優先したいこと、しなければならないことは他にあったでしょう。でも私は今一人で、自分が満足するための空間づくりに集中することができるのです。ここには『狭くて落ち着く大人な場所』をつくりたいと思いました」

居心地の良さに必要な条件は、どうやら広さや日当たりにあるとは限らないようです。河原さんの住まいに居ると、確かにそう感じます。今の自分が満足するには何を優先するべきか、そこがカギになる、とスッと納得できるのです。では、1階にあるこの20平米がなぜ心地よいのか、そのポイントを探っていきましょう。

キッチンとリビングの間の開口部上に、トレーニング用のバーを設置。ジムの役割も備え、今の自分にとって必要な全てを装備した空間に。2カ月間続いたコロナ禍のロックダウン中も、この住まいのおかげで快適に過ごすことができた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

キッチンとリビングの間の開口部上に、トレーニング用のバーを設置。ジムの役割も備え、今の自分にとって必要な全てを装備した空間に。2カ月間続いたコロナ禍のロックダウン中も、この住まいのおかげで快適に過ごすことができた(写真撮影/Manabu Matsunaga)

床暖房と、暗い照明

まず、住空間の快適さのために、河原さんは床暖房を取り入れました。床暖房は暖房装置としての性能が優れていることに加え、もし暖房器具を取り付けるとなった場合に必要な、気に入ったデザインを見つける時間や労力をまるまるカットすることができます。多忙な人ならなおのこと、この素早いジャッジは参考にしたいところです。さらには、暖房器具そのものを住空間に取り付けなくて済む、という大きなメリットもあります。小さい住まいにとって、電気機器等の家電の出っ張りは、できればない方がありがたい!

暖房器具としても、装飾のオブジェとしても、活躍している暖炉。暖炉はもともとあったものを残した。来客のあった時などにムードづくりも兼ねて使用するとか。暖炉の奥行きと窓の開口に合わせて、壁面収納をオーダーした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

暖房器具としても、装飾のオブジェとしても、活躍している暖炉。暖炉はもともとあったものを残した。来客のあった時などにムードづくりも兼ねて使用するとか。暖炉の奥行きと窓の開口に合わせて、壁面収納をオーダーした(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そして照明。1階であるが故の暗さをカバーするために、天井にスポットを付ける、という発想が一般的なところですが、河原さんはその反対。できるだけ暗くする目的で、アンティークやヴィンテージのライトを採用しました。

うさぎモチーフのネオンを照明に。明るさを抑えた照明をいくつも組み合わせるのが、心地よさのポイント(写真撮影/Manabu Matsunaga)

うさぎモチーフのネオンを照明に。明るさを抑えた照明をいくつも組み合わせるのが、心地よさのポイント(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ライティングはくつろぎの演出にとってとても重要な要素です。落ち着きやリラックス感を得られるよう、できるだけ暗い照明にしたいと思いました。ライトの他に、キャンドルも毎日の生活に取り入れています」

『狭くて落ち着く大人な場所』は、床暖房の快適さと、抑えた照明がポイントであると言えそうです。実は、リビングにある唯一の窓の前には、屏風が置かれています。自然光をさえぎるのはもったいない、と多くの人が思うところですが、こうすることで窓の前を歩く通行人の存在が気にならず、なんとも言えない隠れ家的ムードが生まれるのでした。

窓の前の屏風は、河原さんの作品。ここにもうさぎが登場している。花は河原さんの生活に欠かせない大切なディテール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓の前の屏風は、河原さんの作品。ここにもうさぎが登場している。花は河原さんの生活に欠かせない大切なディテール(写真撮影/Manabu Matsunaga)

既製品に手を加えて、自分だけのオリジナル家具に

あえて照明を暗くして、心地よさを演出した小さな住まい。コンパクトだからこそ、空間を最大限に生かすために、システムキッチンや収納をオーダーすることが不可欠だったことがわかりました。照明と、造り付けのオーダー家具の他はどうでしょう? 他の部分の、心地よさのポイントは? そう思って河原さんの住まいを眺めて気づくのは、目に入る全てが河原さん流だということです。

「コンパクトな生活をしたくて決めた20平米の暮らしでしたから、持ち物も厳選して、徹底的にミニマムにしました。ここには必要なもの、気に入っているもの、実際に使うものしかありません。小さい子どものいる家だったら、お客さん用の食器と普段使いのものを使い分けた方が安心です。でも、ここはそうではない。気に入っていて、使う食器だけがあれば十分で、たくさん持つ必要がないのです」

リビングのベッドは毎朝布団を収納に片付け、毎晩眠る前にベッドメイキングしている。毎日きちんとやるのは大変だ、と思ってしまうが「日本の布団だってそうでしょう?」と言われてみれば確かにそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

リビングのベッドは毎朝布団を収納に片付け、毎晩眠る前にベッドメイキングしている。毎日きちんとやるのは大変だ、と思ってしまうが「日本の布団だってそうでしょう?」と言われてみれば確かにそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)

そのように厳選されたものが集まっているから、目に入る全てが河原さん流なのでしょう。壁のペイントや、作品のインスタレーション、そして既製品にバーナーで焼き色をつけた家具など、河原さんの手によるものと、アンティークのベッドや椅子、ヴィンテージの照明といった河原さんが選んだお気に入りが混在し、『真似できない独特の空間』がつくられているのでした。

イケアのテーブルと椅子は、バーナーで焼き色を入れて自分で加工した。このテーブルで6人が着席するディナーを振る舞うことも(写真撮影/Manabu Matsunaga)

イケアのテーブルと椅子は、バーナーで焼き色を入れて自分で加工した。このテーブルで6人が着席するディナーを振る舞うことも(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バーナーで焼き色を入れた収納家具と壁面。ここが入り口のドア(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バーナーで焼き色を入れた収納家具と壁面。ここが入り口のドア(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アールデコのカトラリーホルダーも日常使いの小物。そしてこれも、やはりうさぎ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アールデコのカトラリーホルダーも日常使いの小物。そしてこれも、やはりうさぎ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんのお話を伺いながら、いつか取材した女性内装デザイナーの話を思い出しました。家づくりは洋服選びと違って経験値が少ない分、失敗が怖くて冒険ができません。そう彼女に伝えると、「あなたの住まいなのですから、あなたが好きなようにすればいいのです。第一、外科の手術ではなくてインテリアです、失敗したらやり直せばいい。もし誰かに悪趣味だと言われたとしても、あなたの家はあなたのためのものですよ」との言葉。自分にとっての優先順位を明確にして、自分がいいと思うものを選ぶ、という河原さんのお話と、核心は同じです。そして同時に思うのです、自分が選ぶこと、自分が決めることに、なんと私たちは不慣れなことか! そう河原さんに伝えると、そっと背中を押してくれる言葉が返ってきました。

「予算や、家族等の条件や、色々を含めて、その中で最大限に楽しもうと考えてはどうでしょう? せっかく自分で、住まいづくりができるのですから」

河原さんのように、セオリーではなく、自分を優先してみる! そう考えるだけでプレッシャーから解放され、気が楽になります。住まいづくりを自由に楽しむことができそうです。

自分のバッグのオリジナルペイントは、フランスのファッション&アクセサリーブランドである「ピエール・アルディ」とのコラボの楽しみとして始めた。その後オーダーが殺到し、4月中ごろからピエール・アルディのサイトにも登場することに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自分のバッグのオリジナルペイントは、フランスのファッション&アクセサリーブランドである「ピエール・アルディ」とのコラボの楽しみとして始めた。その後オーダーが殺到し、4月中ごろからピエール・アルディのサイトにも登場することに(写真撮影/Manabu Matsunaga)

個性的なドクロのドアノブは、道端で拾ったもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

個性的なドクロのドアノブは、道端で拾ったもの(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の高さを生かして設置したインスタレーション。鏡の額装を兼ねている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天井の高さを生かして設置したインスタレーション。鏡の額装を兼ねている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お気に入りのパリ暮らし。そしてこれから。

フランス人が敬遠する1階のワンルーム、しかもコンパクトな20平米をあえて選んで、自分のための快適な空間づくりに挑戦し、それを実現した河原さん。住まいがあるエリアもお気に入りで、19世紀から続くアリーグルの市場や、目利きが選ぶアンティークショップ、おしゃれなカフェやベトナムレストランなど、庶民の活気と最新アドレスが混ざり合うパリならではの環境を、一人のパリジャンとして日々、満喫しています。朝ちょっと外に出てテラスでカフェを飲む。そんななんでもないことが当たり前にできるのも、パリ暮らしの魅力だ、と。

天気がいい時、気分転換したい時、打ち合わせの時、ふらりと活用できるカフェはパリジャンにとって第2のリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)

天気がいい時、気分転換したい時、打ち合わせの時、ふらりと活用できるカフェはパリジャンにとって第2のリビング(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんがよく立ち寄るヴィンテージのショップ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

河原さんがよく立ち寄るヴィンテージのショップ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリジャンの暮らしに花は欠かせない。庭は無くとも、新鮮な切花が部屋にあればフレッシュな季節感を感じられる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パリジャンの暮らしに花は欠かせない。庭は無くとも、新鮮な切花が部屋にあればフレッシュな季節感を感じられる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

19世紀から続くアリーグル市場はいつでも庶民の活気に満ちている。河原さんのお気に入りスポットの一つ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

19世紀から続くアリーグル市場はいつでも庶民の活気に満ちている。河原さんのお気に入りスポットの一つ(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「でも実は、そろそろ次を考え始めているのですよ。気に入っていても、飽きるので(笑)。次の住まいは、広々とした郊外もいいかもしれませんし、コロナ禍以降人気の上がっている地方都市も面白いかもしれません。ヨーロッパのほかの都市という選択肢だってあり得ます。いろいろな考えが浮かんでは消えてゆき、まだ確定していません。というのも、ギャラリーや美術館の多いパリの暮らしがやっぱり好きですし、世界中どこへ行くにもここは便利ですから」

新しい住まいづくりは新しいチャレンジ! そう捉えている河原さんだからこそ、暮らし変えを躊躇せず、常に前に進んで行けるのだなあと実感しました。

(文/角野恵子)

●取材協力
河原シンスケさん
HP
Instagram
●関連サイト
ピエール・アルディ

山手線の全30駅、家賃相場ランキング2022年版!最も高いのは原宿、最安は?

東京都内で交通利便性を重視して部屋を探すなら、真っ先に思い浮かぶのがJR山手線沿線だろう。人気と知名度の高さゆえに、家賃も高い印象が強いが、あえてそのなかでねらい目な駅を探すならどこだろうか。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象とした、山手線全30駅の家賃相場の最新ランキングから考えてみた。

JR山手線30駅の家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

JR山手線30駅の家賃相場が安い駅ランキング 2022年版

1位に高田馬場駅が急上昇、沿線内での価格差はせばまる傾向に

最新の2022年版のランキングの家賃相場は2021年版に比べ、全体的に家賃が上昇している。しかし13位の有楽町駅が2.50万円下落したのを筆頭に、下位グループ、つまり家賃の高い駅に限定すると、半数近くが下落。山手線沿線内での価格差はせばまっているようだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

1位だったのは高田馬場駅で、2021年版の5位、2020年版の7位から急上昇。上位の駅は軒並み家賃が上がっているなかで唯一の値下げ駅であり、22年にまさにねらい目といえそうだ。所在地の新宿区は都内でも家賃相場の高い方に分類されるが、新宿駅から少し離れれば価格帯も幅広くなる。

高田馬場駅前(写真/PIXTA)

高田馬場駅前(写真/PIXTA)

高田馬場といえば代名詞ともいえるのが、早稲田大学の存在だろう。創立者である大隈重信の像や大隈記念講堂がある早稲田キャンパスや文学部などがある戸山キャンパス、理工学術院のある西早稲田キャンパスの最寄り駅の一つ。東京メトロ東西線や西武新宿線が乗り入れるターミナル駅でもある。

周辺には学習院女子大学など他にも大学や教育機関が多く、一大学生街が広がっている。そのため、進学や就職で初めて一人暮らしを経験する人に心強い飲食店も数多い。近年はラーメン激戦区としてや、エスニック料理店の充実ぶりなどが話題になり、食の街としても人気エリアだ。歴史ある学生街らしく、名画座や小劇場なども点在している。

2位の田端駅は、山手線唯一の北区にある駅。山手線と同様に東京の交通の大動脈である、JR京浜東北線の快速停車駅だ。

田端駅前(写真/PIXTA)

田端駅前(写真/PIXTA)

都心部を通るイメージのある山手線だが、田端駅周辺は落ち着いた住宅街。すぐそばに大きな施設が立ち並ぶというわけではないが、駅直結の商業施設「アトレヴィ田端」があり、飲食店などのほかドラッグストアや成城石井なども入っている。また、駒込駅方面へいけば、昔ながらの情緒が残る商店街などもあり、ちょっとした日々の買い物も楽しい。田端は大正時代、芥川龍之介や室生犀星などの文学者たちが集って執筆活動にいそしんだ文学の街という一面を持ち、駅北口すぐの「田端文士村記念館」では、彼らの貴重な資料なども展示されている。

消滅可能性解消の豊島区、大塚駅や池袋駅は再開発で魅力向上

同率5位の大塚駅と池袋駅は隣駅で、駅間距離は約2km。ともに所在地である豊島区は2014年に23区で唯一、少子化や人口移動などにより将来消滅する可能性がある「消滅可能性都市」だと指摘された。しかし近年、解決のための取り組みが実を結んできており、官民あげた魅力的なまちづくりが進められている。

池袋駅(写真/PIXTA)

池袋駅(写真/PIXTA)

大塚駅周辺も、地元住民とともに再開発が行われている。駅周辺は、「アトレヴィ大塚」や星野リゾートが運営する都市型ホテル「OMO5東京大塚」が入る「ba01」など商業施設が整備され、女性の夜の一人歩きも安心できる明るい街並みになっている。スーパーも商店街も数多い。

山手線で唯一、路面電車(都電荒川線<さくらトラム>)が停車するという下町情緒を生かし、空き家だった古民家をリノベーションした昭和レトロな飲食店が軒を連ねる「東京大塚のれん街」は、話題のスポットにもなっている。また、昔ながらの喫茶店もあちこちに見かけ、ノスタルジックな雰囲気が漂う。駅から少し行った住宅地も区画整理が進み、広い敷地に小さな森や池を備えた「大塚台公園」などが点在。憩いや癒しの場を、そこかしこで楽しむことができる。

東京大塚のれん街(写真/PIXTA)

東京大塚のれん街(写真/PIXTA)

池袋駅は、住宅街である大塚駅と同じ家賃で大繁華街に住めると考えれば、都心らしい暮らしを楽しみたい人にはお得感がより増すだろう。東京の主要な繁華街である渋谷駅、新宿駅が12万円前後であることに比べると、9万円以下の池袋駅のねらい目度もわかりやすい。

豊島区は持続発展する都市「国際アート・カルチャー都市づくり」を推進し消滅可能性都市の危機を脱したが、その世界を視野に置いた街づくりの中心が池袋駅。旧庁舎跡地を活用した「Hareza池袋」など新しい施設が開業したほか、南池袋公園を中心に街全体が人が交流できる開放的な公園のようにしていく取り組みが次々と行われている。

南池袋公園(写真/PIXTA)

南池袋公園(写真/PIXTA)

アニメなどのカルチャー拠点が注目されるが、池袋は駅西口の東京芸術劇場を筆頭に、大物演出家が手掛ける大作から宝塚歌劇団の公演、ネクストブレイクの若手劇団が上演する小劇場まで幅広く上演される、劇場街としての顔も持つ。一方で、少し行けばこじんまりしたスーパーや個人商店がのんびりと営業する住宅街があり、便利な都心と住みやすい街の双方の発展が両立した街といえる。

高値な駅は値下げ傾向、最も「お得」なのは有楽町駅

13位の有楽町駅の相場は10万円、前述したが今回のランキング内で最も「お得」になったといえそうだ。21年は27位で12.50万円、20年は24位で11.80万円から大幅にランクアップしている。

有楽町駅(写真/PIXTA)

有楽町駅(写真/PIXTA)

東京駅から徒歩圏内の隣駅で、皇居や帝国ホテル、銀座も歌舞伎座もすぐそばにある、ビジネス街で繁華街。住む場所としてのイメージが薄く、選択肢から外してしまいそうだが、足を延ばせば銀座三越のデパ地下や、駅前の「ルミネ有楽町」の中に成城石井が入っており、スーパーが皆無というわけでもない。すぐそばの東京交通会館では産地直送の野菜や米、果物などの食材がならぶ「交通会館マルシェ」を実施、平日は5店舗、週末は20~30店舗も出店している。自炊派にとっても満足な買い物環境にあるといえそうだ。

16位の目黒駅も、ランキングこそ21年と同じものの、家賃が下がった駅。東急目黒線と東京メトロ南北線、都営三田線が乗り入れている。

目黒駅前(写真/PIXTA)

目黒駅前(写真/PIXTA)

駅直結の商業施設は規模も大きく、アトレ目黒1には「ザ・ガーデンズ自由が丘 目黒店」ほか地下にも魚屋、肉屋、八百屋が、さらにアトレ目黒2には「プレッセ目黒店」も入っておりスーパーはかなり充実している。駅のすぐそばには小規模な商店街もあるが、中目黒方面まで足を延ばせば、約900mに個性豊かな170の専門店が並ぶ「目黒銀座商店街」も。昭和レトロな店舗からおしゃれな雑貨屋まで、散策も楽しい。

繁華街の印象が強いが、駅すぐそばには結婚式場としても人気のミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」がある。美術工芸品の展示や豪華な内装は有名だが、落ち着いた庭園も非常に魅力がある。その庭園の存在もあり、意外なほど緑豊かで落ち着いた雰囲気も感じられる。花見の名所で知られる目黒川もほど近い。

春の目黒川(写真/PIXTA)

春の目黒川(写真/PIXTA)

都心部を選ぶときに気になるのが、手近に大きなホームセンターがあるとは限らないという点だが、目黒駅から少し離れてはいるものの、22年夏に目黒通り沿いに家具・インテリア雑貨の「ニトリ」の大型店舗の開業が予定されている。

人気のある路線は、各駅がそれぞれ違った吸引力にあふれている。どれも魅力的で目移りしてしまうが、そこから厳選するのも、また部屋探しの楽しみの一つだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/10~2021/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

賃貸で内装をオーダーメイド&DIYで自分好みに! 夏水組プロデュース「西荻北ホープハウス」

オーダーメイドで自分好みの内装が決められる賃貸住宅があるという。東京都杉並区・JR西荻窪駅からほど近く(徒歩4分)の西荻北ホープハウスだ。オーダーメイドのみならず、入居後にDIYも可能で「原状回復」の縛りもないのだという。女性を中心に魅力的なインテリアを提案している「夏水組」の坂田夏水さんにお話を聞いた。

憧れのウィリアム・モリスの壁紙で、おうち時間も快適に

リビングの壁と玄関ドアにウィリアム・モリスの壁紙を選んだAさんは「好みのインテリアに囲まれているから一日家にいても飽きません」と話す。昨年に会社員からフリーランスに転じた女性で、在宅の仕事でほぼ一日を家で過ごすことから、この部屋の居心地の良さに満足そうだ。

オーダーメイドで壁紙が選べることに魅力を感じ、物件を内見してすぐにこの部屋に決めたという。いくつか壁紙のサンプルを見せてもらったなかから、モリスの柄から2種類を選んだ。
モリスは、19世紀後半の英国で産業革命による粗悪な工業製品を嫌って、生活と芸術の調和を目指したアーツ・アンド・クラフツ運動を興した。工業製品に対して、中世の美意識や手仕事に重きを置いた。これは遠く日本の柳宗悦らによる民芸運動にも影響を与えた。
「古い物件でも、手を入れてリニューアルされることに共感をおぼえます。37平米とひとり暮らしに広さも十分で、キッチン周りも広く使いやすく改修されていて料理が楽しくなりました」と話してくれた。

壁紙などオーダーメイドのマテリアルは、夏水組がプロデュースするDecor Interior Tokyoでコーディネートの相談にのってくれる(画像提供/夏水組)

壁紙などオーダーメイドのマテリアルは、夏水組がプロデュースするDecor Interior Tokyoでコーディネートの相談にのってくれる(画像提供/夏水組)

Aさんが入居の際に選んだウィリアム・モリスの壁紙を貼ったドア(画像提供/夏水組)

Aさんが入居の際に選んだウィリアム・モリスの壁紙を貼ったドア(画像提供/夏水組)

築古の賃貸にかかわらず、魅力的なリニューアルによって人気物件に

西荻北ホープハウスのリノベーションを5年前から任っているのは、空間デザインやリノベーションを手がける夏水組(武蔵野市)の坂田夏水さんだ。デザイン事務所・夏水組のほか、東京・吉祥寺と大阪・梅田でDecor Interior Tokyoというインテリアマテリアルショップも経営していて、自分らしい豊かな空間をつくる提案をしている。

不動産投資家のオーナーBさんと夏水組の坂田夏水さん。リニューアルを終えた西荻北ホープハウスの部屋で。現オーナーは、1年ほど前に前のオーナーから購入した(写真撮影/村島正彦)

不動産投資家のオーナーBさんと夏水組の坂田夏水さん。リニューアルを終えた西荻北ホープハウスの部屋で。現オーナーは、1年ほど前に前のオーナーから購入した(写真撮影/村島正彦)

「こちらのマンションは1975年に建築されて、築年数も40年以上と老朽化が進んでいて、私がご相談を受けたときには、総戸数42戸のうち空き室が30%以上ありました」と話す。

この空き室について、夏水組プロデュースにてリニューアル工事を進めて、ほどなく満室に導いたという。
築古のマンションだけに、入居者が長く住んでいた部屋、入れ替わりがそれなりにあった部屋などあり、入居者が代わるタイミングで行われるリフォーム工事によって、部屋の状態にはバラつきがあった。そこで、坂田さんは、3つのリニューアルプランを提示したという。

もとの間取りには手を入れずトイレやお風呂など水回りを中心にリニューアルする「スタンダードプラン」。2つ目は、キッチンを使い勝手の良い間取りにする「キッチンプラン」。そして、3つ目は間仕切り壁を無くして開放感のあるお部屋にする「フリープラン」という3タイプだ。いずれのプランにおいても、エントランス正面のクロスやバスルームのタイルなどは、部屋ごとに違うものとして、費用を抑えつつも個性をもたせたという。

玄関周りの壁紙は部屋ごとに違うものをあしらい個性を持たせた(画像提供/夏水組)

玄関周りの壁紙は部屋ごとに違うものをあしらい個性を持たせた(画像提供/夏水組)

「賃貸住宅のリニューアルは、オーナーさんの負担が原則です。オーナーさんの資金も限られているなかで、部屋ごとの老朽化の具合やこれまでのリフォーム投資を無駄にしないよう、リニューアルの仕方も選択性にしました」と坂田さん。

西荻北ホープハウスのオーナーのBさんは「提案していただいたリニューアルは、空き部屋が出ても次の入居者がすぐに決まり、オーナーとしてもリニューアルへの投資の面からも不安がありません」と話してくれた。

西荻北ホープハウスでは、壁紙だけでなく、DIYも楽しんで欲しい

夏水組にリニューアルを依頼しているのは、5年前から西荻北ホープハウスの管理を請け負っている地元の不動産会社・リベスト(武蔵野市)だ。

リベスト・中道通り店の店長代理・荒井康友さんは「当社で管理をさせていただく以前は、建物の築年数がそれなりに経過していることもあり、空室率が高い状況でした」と話す。

そこで西荻北ホープハウスの管理の請け負いと同時に、築年数の経過にも調和したデザイン力のある夏水組にリニューアルを依頼するようになったという。また、部屋が空いて内装のリニューアルを行っている途中であれば、壁紙やタイル等の入居者が選べる箇所も多く、「期間限定・内装を自分好みにオーダーメイド可能」と記した間取り図付きのチラシを出せば、すぐに次の入居者が決まることも多いという。
荒井さんは、「西荻北ホープハウスは、こうしたインテリアにできるということが評判をよび、空き室待ちが発生することもあります」と話してくれた。

坂田さんは、国交省が賃貸住宅の流通促進の一環として取り組む「DIY型賃貸の普及」にも共感して、住まい手の啓発につとめているという。「西荻北ホープハウスでも、DIYができることをアピールしています。築古の物件でオーナーさんの理解があれば、住まい手が自分の住まいを自分でつくる楽しみを実現できます」と話す。

西荻北ホープハウスでは、オーナーの意向もあり「DIY可能」な賃貸物件だ。坂田さんは「住まい手自身、住みながら家に手を入れて愛着を持ってもらいたい」と話す(画像提供/夏水組)

西荻北ホープハウスでは、オーナーの意向もあり「DIY可能」な賃貸物件だ。坂田さんは「住まい手自身、住みながら家に手を入れて愛着を持ってもらいたい」と話す(画像提供/夏水組)

坂田さんが経営するインテリアマテリアルショップDecor Interior Tokyoでは、壁紙などインテリア商品の販売だけでなく、壁紙の貼り方や小物のデコレーションなどワークショップも積極的に行って、自分の住まいを自分でアレンジする楽しみの輪を広げているという。

夏水組がプロデュースするDecor Interior Tokyo(吉祥寺店・梅田店)では定期的にインテリアワークショップを行っている(画像提供/夏水組)

夏水組がプロデュースするDecor Interior Tokyo(吉祥寺店・梅田店)では定期的にインテリアワークショップを行っている(画像提供/夏水組)

坂田さんは「ヨーロッパでは、古い建物を、住まい手自らがインテリアにこだわりを持って修復やDIYしながら、豊に暮らしています。そんな文化を若いときに暮らす賃貸住宅でトライして楽しみを知ってもらうことで、日本にも根付かせていきたい」と語ってくれた。

画一的でなく、部屋ごとに個性の感じられる西荻北ホープハウスを見ると、住まい手が自由に楽しんで暮らしていることがうかがえる。最近ではリノベーションへの注目から、築古の賃貸住宅を中心に、借り手が好みのインテリアにできるDIY可能な賃貸が増えてきている。こうした流れを受けて、国土交通省では、貸主と借主のトラブルを未然に防ぐためにDIY型賃貸借に関する契約書式例やガイドブックを作成して公開している。参考にしてもらいたい。

●取材協力
・夏水組
・Decor Interior Tokyo
・リベスト
・国土交通省 DIY型賃貸

東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 2022年版! 2位は金町、1位は?

部屋探しの際、利便性や交通アクセスの良さを重視するなら、東京23区内はぜひ候補に入れたいもの。家賃との兼ね合いを意識するなら、押さえておくべき街はどこだろうか。東京23区内の家賃相場が安い駅の最新ランキングから、ワンルーム・1K・1DKの物件を対象にリサーチしてみた。

東京23区内の家賃相場が安い駅TOP34駅

東京23区内の家賃相場が安い駅TOP34駅

緑豊かな江戸川区の葛西臨海公園駅や篠崎駅はアウトドア派に嬉しい街

ランキング10位までに、江戸川区の駅が6つ入っている。江戸川区は23区の東の端にあたり、東京湾に面した比較的自然が豊かなエリア。近年は夏になると猛暑が話題になることが多いが、江戸川区は豊かな水自然の影響もあり、23区内では最高気温の平均値が低い。

葛西臨海公園駅(写真/PIXTA)

葛西臨海公園駅(写真/PIXTA)

1位だったのは、JR京葉線の葛西臨海公園駅。23区と千葉県の境界の駅だが、東京駅や新橋駅、秋葉原駅などのビジネス街や繁華街へ電車で30分以内へ行くことができ、交通利便性は高い。駅の目の前には東京湾が広がり、駅と同名の葛西臨海公園や葛西海浜公園といった、バーベキューなどができる広々とした敷地の公園があるため、ドライブなどで訪れたことのある人もいるかもしれない。また、隣駅の舞浜駅は、東京ディズニーリゾートの最寄り駅だ。

ただ葛西臨海公園駅は、駅の南側はほぼ公園で北側は倉庫などが多く、住宅街は駅から離れている。徒歩10分圏内にはほとんど物件はなく、15分圏内まで広げると多少見つかる程度。本記事の相場は徒歩15分以内の物件を集計しているが、実際に多いのは、駅から20分以上や、ほかの駅からのバス便物件のようだ。駅からの利便性を求める人にはあまりおすすめしないが、車を利用する人には、だからこそ穴場な街、といえるだろう。

篠崎駅前(写真/PIXTA)

篠崎駅前(写真/PIXTA)

同じ江戸川区にある篠崎駅は昨年のランク外から急上昇して4位に。付近は静かな住宅街で、ファミリー向けのマンションも多い。24時間営業のスーパーなどもあり、落ち着いた生活がおくれそうな雰囲気がある。

駅から少し行くと野球のグラウンドやテニスコート、ドッグランなどがある広大な篠崎公園がある。また、江戸川区花火大会の会場になっている江戸川の河川敷も近い。河川敷は普段から散歩やジョギングをする人でにぎわっており、スポーツが趣味のアウトドア派には魅力的だろう。

再開発が進む金町駅の周辺エリア、住みやすさ向上も期待

2位の金町駅、3位の京成金町駅を含む6駅がランク入りした葛飾区は、23区の中でも野菜の生産が盛ん。区内では、とれたての野菜を手軽に購入できる野菜の直売所をあちこちで見かけることができる。

金町駅と京成金町駅は、路線こそが違うが約150mと至近距離にあり、ほぼ同じエリアといえる。金町駅のJR常磐線は東京メトロ千代田線と直通運転しているため実質3路線が利用可能。日比谷駅や大手町駅などのビジネス街へ、30分ほどで乗り換えなしで行けるのはポイントが高いだろう。

金町駅周辺(写真/PIXTA)

金町駅周辺(写真/PIXTA)

駅周辺は商店街のほかスーパーも充実しており、単身者には心強い飲食店も数多い。下町風情の漂う街だが、近年は再開発が進められており、2021年には駅前に図書館やワーキングスペース、商業施設などが入った新しい高層複合施設も開業。今後は道路の拡張や混雑解消なども計画されており、住みやすさや街の魅力の向上も期待できそうだ。

お手ごろな家賃と交通利便性の両立が狙える竹ノ塚駅と梅島駅

ランクインした駅の所在地が一番多かったのは足立区だった。最上位にきたのは、12位の竹ノ塚駅だ。東武伊勢崎線の普通列車のみの停車駅だが、同線は東京メトロ日比谷線や東京メトロ半蔵門線・東急田園都市線と直通している。日比谷線は六本木駅や恵比寿駅などのおしゃれな街や、美術館や博物館の多い上野駅や歌舞伎座と直結している東銀座駅などの文化的なエリアも沿線にあり、半蔵門線は東京を代表する繁華街のひとつである渋谷駅がある。どこへ遊びに行くにも便利で、休日の充実度が増しそう。18位の小菅駅、19駅の梅島駅、22位の五反野駅も同様だ。

中でも竹ノ塚駅と梅島駅は、東武伊勢崎線の急行や区間急行などすべての列車が停車する西新井駅のそれぞれ隣駅になる。ちなみに西新井駅は6.9万円と家賃が一段高くなるので、こういった急行停車駅の周辺に着目するのはお手ごろな物件を探すテクニックだ。

竹ノ塚駅付近は歓楽街の存在が取りざたされることもあるが、そのぶん深夜や24時間営業をしているスーパーなども多く、帰宅が遅くなる多忙なビジネスパーソンでも買い物に不自由することはなさそう。地元密着の味のある飲食店なども数多いので、にぎやかな空気の好きな人には楽しいエリアだろう。

ベルモント公園(写真/PIXTA)

ベルモント公園(写真/PIXTA)

一方、梅島駅は、少し行くと落ち着いた住宅街が広がっている。駅近くの梅島駅前通り商店街は町中華などの飲食店や総菜屋などが並ぶ。駅から徒歩5分ほどにあるベルモント公園は、オーストラリアのベルモント市との友好親善のシンボルとしてつくられ、1.3haの敷地の中に同市から贈られた工芸品などが展示されている瀟洒な赤レンガの陳列館などがある。

勉強に打ち込めそうな学生街と、昭和風情満喫な街もランクイン

22位には同率で7駅がランクインしているが、目を引くのは杉並区にある西武新宿線の上井草駅。各駅停車のみの駅だが、東京を代表する繋華街のひとつである新宿まで直通で約20分なのは便利だ。

西武新宿線内でターミナル機能をはたす高田馬場駅が最寄り駅である早稲田大学を筆頭に、沿線の学校に通う学生向けのリーズナブルな物件が充実しており、落ち着いた学生街の顔を持つ。付近は閑静な住宅街で目立った商業施設などはないが、プールやジム、アーチェリー場などが備えられた上井草スポーツセンターがあり、プロサッカークラブのFC東京による教室が開かれることも。浮かれず勉強にも運動にも打ち込める街、ともいえそうだ。

上井草駅(写真/PIXTA)

上井草駅(写真/PIXTA)

同じく22位の大泉学園駅は、練馬区に位置している。練馬区は23区で一番新しい区で、江戸川区と同じく自然が豊か。また区の特産品である練馬大根の存在で知られるように、葛飾区同様、野菜の生産も盛んだ。もっとも、現在最も生産されているのは大根ではなくキャベツとのこと。
大泉学園駅は西武池袋線の各駅列車のみの停車駅だが、東京メトロ有楽町線や副都心線、東急東横線などと直通。吉祥寺や阿佐ヶ谷などへ一本で行けるバスも充実している。駅直結の商業ビルなどがあり、買い物施設も数多い。付近の住宅街が整備されたのは実は戦前からで、区画もすっきりしている。その中を、おしゃれな飲食店が点在している。

大泉学園駅前(写真/PIXTA)

大泉学園駅前(写真/PIXTA)

また、人気アニメ漫画『ワンピース』などを手がける東映アニメーションのスタジオは、大泉学園駅が最寄り。そのため、「ジャパンアニメーション発祥の地」とも呼ばれている。

同率29位で6駅ランクインしているうち、京成本線沿線の堀切菖蒲園駅もチェックしたい。上野駅まで約15分で、下町の雰囲気が色濃く残るエリアだ。駅付近は大型スーパーもあるが、お手軽価格の惣菜などが売っている商店街や個人経営の飲食店、また焼き肉の食材を売る直売センターといった個性的な店なども点在。昭和の風情が好きな“大人”には、散策だけでも楽しい街でもある。

堀切菖蒲園駅前(写真/PIXTA)

堀切菖蒲園駅前(写真/PIXTA)

少し行くと、落ち着いた住宅街。また駅と同名の花菖蒲園があり、見ごろを迎える6月には多くの人出でにぎわう。梅や藤など、四季折々で楽しめる花も植えられており、季節の変化が待ち遠しくなりそうだ。

堀切菖蒲園(写真/PIXTA)

堀切菖蒲園(写真/PIXTA)

新型コロナウイルス禍でテレワークやリモートワークが普及し“都心離れ”もささやかれていて「家賃や距離だけで生活の質は決まらない」と考える人も増えてきているように感じられる。しかし東京23区はなににつけても便利で、依然として人気が高い。そんななかで、自分のスタイルにあった部屋を見つけることは、充実した日々への近道であることは間違いない。23区内の部屋といえば、とかく高額な点が気になってしまうが、範囲も広い。その中にはきっと、自分にフィットする部屋があるはずだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京23区内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/10~2021/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

おしゃれ別荘に月額5.5万円で家族や友人と泊まり放題! サブスク「SANU」八ヶ岳、山中湖など

毎月定額でさまざまな暮らし方ができる「住まいのサブスク」。空き家やゲストハウスを活用したADDressやHafH(ハフ)、ホテルが泊まり放題になるサービスも登場するなど、コロナ禍でテレワークが定着したこともあり、暮らし方のひとつとして普及しつつあります。2021年11月、そんな住まいのサブスクのなかでも、大自然にあるセカンドホーム、いわゆる別荘暮らしが月額5万5円でできるサービス「SANU 2nd Home」が登場し、注目を集めています。実際の利用者の声とあわせてご紹介しましょう。

毎月5万5000円! 豊かな自然の中でもう一つの家―セカンドホームが利用できる

SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)は、「Live with nature. / 自然と共に生きる。」をコンセプトにした、住まい・別荘のサブスクサービスです。月額利用料は5万5000円で、会員登録をすれば会員本人に加えて、家族や友人など3人まで無料で宿泊できます。利用できる住まいは「SANU CABIN」と呼び、都市部から車で1.5~3時間程度の白樺湖、八ヶ岳などのアクセスのよい場所に、2022年2月現在、2拠点5棟が誕生しており、春頃までに新たに5拠点45棟にオープンする予定です。

白樺湖の風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

白樺湖の風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

SANU CABIN(写真提供/SANU、撮影/Yikin Hyo)

SANU CABIN(写真提供/SANU、撮影/Yikin Hyo)

SANU CABINは抜群のロケーションに建つ(写真提供/Timothée Lambrecq)

SANU CABINは抜群のロケーションに建つ(写真提供/Timothée Lambrecq)

1回の滞在は4泊まで、週末・休前日やピークシーズンにプラス料金が発生するなどの条件はありますが、憧れの別荘が、ホテルのように使いたいときに使え、しかも定額制とあれば興味がわくのではないでしょうか。2021年11月にサービスを開始しましたが、初期の会員枠は完売し、現在、キャンセル待ちの登録希望者(ウェイティング会員)が1500人以上いる状態だそうで、いかに注目を集めているかがわかります。

今回、SANU 2nd Homeを運営する株式会社Sanuを創業したのは本間貴裕さんと福島弦さん。今まで本間さんは蔵前のNui. HOSTEL & BAR LOUNGEや東日本橋のCITANといった人気ホステルを運営してきましたが、今回の「自然の中にもう一つの家を持つ」というビジネスモデル構築のきっかけとなったのは、自身のコロナ禍の「疎開体験」だといいます。

左から、本間貴裕さん、福島弦さん。本間さんはゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanの創業者でもあり、ご自身もサーフィンやスノーボードが趣味の、自然を愛する人でもあります。福島さんは、外資系コンサルティング企業を経て、プロラグビーチームの創業やラグビーチームW杯の運営に携わった経歴の持ち主。スキーとラグビーがお好きです(写真提供/SANU、撮影/Ayato Ozawa)

左から、本間貴裕さん、福島弦さん。本間さんはゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanの創業者でもあり、ご自身もサーフィンやスノーボードが趣味の、自然を愛する人でもあります。福島さんは、外資系コンサルティング企業を経て、プロラグビーチームの創業やラグビーチームW杯の運営に携わった経歴の持ち主。スキーとラグビーがお好きです(写真提供/SANU、撮影/Ayato Ozawa)

「以前から漠然と自然と人をつなげる仕事をしたいと考えていたんですが、2020年の緊急事態宣言下、都市部での密な暮らしへの違和感がはっきりとしてきました。そこで、千葉県の自然豊かな環境に家を借りて過ごしたんですが、それがとても心地よくて。オンラインで仕事しつつ、合間に野に咲く花を摘んできて活けたり、サーフィンをしたり。そこで、海や山に近い場所にある住まいを、スマートフォンで会員登録すればすぐに利用できるサービスがあったらいいなと思いついたんです」(本間さん)

なるほど、本間さん自身の「あったらいいな」をかたちにしていったんですね。別荘やホテルとの違いは、「個人の空間を確保できる」そして「暮らし」の延長線上にある点だ、といいます。
「ホテルにはキッチンがないことが多く、調理や洗濯などができないことが多いもの。また、自分もバックパッカーだったからわかるのですが、アドレスホッパーのように住まいを持たずに転々とホテルやゲストハウスを渡り歩く生活をするのは万人には向きません。自宅のようにくつろぎつつ過ごせて、思いついたときに利用できる気軽さを目指しました」(本間さん)

そのため、利用する人の暮らしやすさを考え、キャビンは内装を統一し、一度滞在すると他のキャビンに滞在しても「どこに何があるかわかる」状態にしているといいます。

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

海、山、湖、川…。日本の豊かな環境を建物や室内でも楽しめるように

筆者が個人的にすてき!だと思ったのは、周囲の環境だけでなく、建物やインテリアそのものが美しく、滞在したくなるという点です。また、キャビンの内装は統一しているものの、大きい窓の先に広がる風景は二つとして同じものがなく、キャビンごとにまったく異なる景色が映ります。

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

「海や山や湖、川、高原など、日本の自然環境は本当に豊かです。季節ごとの変化や表情の移り変わりを部屋にいても楽しめるように配慮しています。季節が変わるたび、何度でも来たくなる、繰り返し使ってもらうことがこのサービスで大切にしたいこと」と本間さんは話します。このあたりは、何より本間さん自身が「美しい自然が好き」という想いがあるからでしょう。

デッキから見える風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

デッキから見える風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

また今回、「建物に岩手県釜石市の杉材を使用しています。それにはコロナの影響も大きく関係しています」と解説するのは、同じく創業者の福島弦さん。

「サービスの設計を考え、建築プランも決まり、いざ着工するぞという段階になって、コロナ禍で海外からの木材の輸入が少なくなったことで国内の木材価格が高騰し、調達できなくなる『ウッドショック』が起きたんです。でも、まあ着工はできるでしょと軽く考えていたら、なんと1棟目からすでに調達できない、と。そこで、日本各地の森林組合さんにお願いしてまわり、結果的に協力してもらえることになったのが釜石地方森林組合だったんです」

(写真提供/SANU、撮影/Sayuri Murooka)

(写真提供/SANU、撮影/Sayuri Murooka)

日本では、戦後に植林した杉材が樹齢50年前後になり、今、建材として“使いどき”になっていますが、長年の木材価格低迷や人手不足などの問題もあり、思うように木材として提供できない状態が続いています。今回SANU 2nd Homeでは、釜石地方森林組合と協力し、木材を提供してもらうだけでなく、キャビンのために伐採した杉の木(50棟でおよそ7500本分)と同じ本数の苗木を、釜石地方に植林する予定です。こうして事業で使った分だけ新しい木々を植えることで、地方の林業、そして森が蘇ることになりますし、事業を通じたカーボンネガティブ(CO2吸収量がCO2排出量を上回る状態)を達成することができます。

(写真提供/ADX)

(写真提供/ADX)

「針葉樹の杉だけではなく、ナラや樫、シイノキなどの広葉樹など異なる種類の苗木を植えることで、多様性のある豊かな森になる。SANU CABINをつくることで、林業が活性化し、日本の森が美しくなっていくとしたら、こんなにうれしいことはないですよね」と話します。

もちろん、SANU 2nd Homeで提供したいのは「自然のなかでの暮らし」といいますが、サービスを考えるうえでも、「持続可能性」が考えられているのはやはり時流といえるでしょう。

旅行やホテルとも違う居心地のよさ! 仕事にもプラスに

SANU 2nd Homeを利用している石田さんと野村さん(ともに30代)にも話を聞いてみました。

野村さん(左)と石田さん(右)(写真提供/野村さん、石田さん)

野村さん(左)と石田さん(右)(写真提供/野村さん、石田さん)

「11月はサービス開始直後から3泊、12月は4泊、1月には4泊と、今のところ毎月利用しています。初めて訪れたのは白樺湖のSANU CABINでしたが、窓からの開放感がすごくて、部屋のカーブがきれいでとても印象に残っています。キッチンも充実していますし、3泊で滞在予定でしたが、すぐに4泊にすればよかった!と思いました」(石田さん)

滞在中は、山に登ったり、自転車でサイクリングにいったり、焚き火をしたりと、存分に野遊びを楽しんでいるそう。もちろん、自宅にいるように仕事をしたり、料理をしたり。ときには地域の店で外食や買い物などをし、地域の人と交流ができるのも、ホーム感があり、二人のたのしみになっています。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

「八ヶ岳では周辺の店を紹介したオリジナルのマップがあったんですが、掲載されている店はすべてめぐりました。お店の人との会話でもSANU 2nd Homeに滞在しているというと、どういうサービスなのか聞かれたり。興味関心の高さを感じました」

料理好きな野村さんにとっては、キッチンが充実しているのも、楽しいといいます。
「キャビンが同じかたちをしていて、どこに何があるのかわかるのは、我が家のような安心感がありますね。自分の別荘があるとこんな感じなのかなと思いました」(野村さん)。使い方を聞いていると、生活や暮らしの延長に利用してもらいたいという、サービスの狙い通りと言えるのかもしれません。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

友人たちを招いてホームパーティーをすることも(写真提供/野村さん、石田さん)

友人たちを招いてホームパーティーをすることも(写真提供/野村さん、石田さん)

SANU 2nd Homeのように自宅と別に拠点があると、仕事をするうえでもプラスになっているといいます。
「自宅で働いていると、曜日や時間などのメリハリがなくなってしまいがちですよね。その点、SANU 2nd Homeに行くぞと予定を入れることで、1週間がフラットにならずに、○曜日までにこれを終わらせるなどの意識をするようになりました。違う場所に行くことが、よい刺激になっていると思います」(石田さん)。また、場所も車で2~3時間程度で、ほどよいそう。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

「ホテルやコテージと比較しても、定額料金の価格設定には納得感があるのですが、カーシェアや高速代に加えて、珍しい食材を買ったりすることで、意外とお金を使っているんです(笑)。想定外といえばそれくらいでしょうか。あと、仕事をしていると、背景が映り込むので、『どこにいるの?』と聞かれるんですよね。SANUだよ~と答えると、『いいな』『今度一緒に行きたい』などポジティブな反応がほとんど。私の周りでも移住ほどではなくても、旅行とは違う、地方の体験への興味は高まっている気がします」(野村さん)

お話を聞いていると、「いいな~~!」というみなさんの気持ちにはげしく共感します。旅行ではなく、暮らしと遊びをシームレスに楽しめる。そんなライフスタイル、やっぱり憧れますよね。

別荘を持つよりも手軽で、さまざまな拠点で飽きることもなく生活できるサブスクサービス「SANU 2nd Home」。都市部にある家ももちろん好きだけど、自然のある暮らしもしたい。コロナ禍の転換期に生まれたサービスですが、きっとコロナが収束しても、ひとつの暮らし方として、定着していくに違いありません。

●取材協力
SANU 2nd Home

おしゃれ別荘に月額5.5万円で家族や友人と泊まり放題! サブスク「SANU 2nd Home」八ヶ岳、山中湖など

毎月定額でさまざまな暮らし方ができる「住まいのサブスク」。空き家やゲストハウスを活用したADDressやHafH(ハフ)、ホテルが泊まり放題になるサービスも登場するなど、コロナ禍でテレワークが定着したこともあり、暮らし方のひとつとして普及しつつあります。2021年11月、そんな住まいのサブスクのなかでも、大自然にあるセカンドホーム、いわゆる別荘暮らしが月額5万5円でできるサービス「SANU 2nd Home」が登場し、注目を集めています。実際の利用者の声とあわせてご紹介しましょう。

毎月5万5000円! 豊かな自然の中でもう一つの家―セカンドホームが利用できる

SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)は、「Live with nature. / 自然と共に生きる。」をコンセプトにした、住まい・別荘のサブスクサービスです。月額利用料は5万5000円で、会員登録をすれば会員本人に加えて、家族や友人など3人まで無料で宿泊できます。利用できる住まいは「SANU CABIN」と呼び、都市部から車で1.5~3時間程度の白樺湖、八ヶ岳などのアクセスのよい場所に、2022年2月現在、2拠点5棟が誕生しており、春頃までに新たに5拠点45棟にオープンする予定です。

白樺湖の風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

白樺湖の風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

SANU CABIN(写真提供/SANU、撮影/Yikin Hyo)

SANU CABIN(写真提供/SANU、撮影/Yikin Hyo)

SANU CABINは抜群のロケーションに建つ(写真提供/Timothée Lambrecq)

SANU CABINは抜群のロケーションに建つ(写真提供/Timothée Lambrecq)

1回の滞在は4泊まで、週末・休前日やピークシーズンにプラス料金が発生するなどの条件はありますが、憧れの別荘が、ホテルのように使いたいときに使え、しかも定額制とあれば興味がわくのではないでしょうか。2021年11月にサービスを開始しましたが、初期の会員枠は完売し、現在、キャンセル待ちの登録希望者(ウェイティング会員)が1500人以上いる状態だそうで、いかに注目を集めているかがわかります。

今回、SANU 2nd Homeを運営する株式会社Sanuを創業したのは本間貴裕さんと福島弦さん。今まで本間さんは蔵前のNui. HOSTEL & BAR LOUNGEや東日本橋のCITANといった人気ホステルを運営してきましたが、今回の「自然の中にもう一つの家を持つ」というビジネスモデル構築のきっかけとなったのは、自身のコロナ禍の「疎開体験」だといいます。

左から、本間貴裕さん、福島弦さん。本間さんはゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanの創業者でもあり、ご自身もサーフィンやスノーボードが趣味の、自然を愛する人でもあります。福島さんは、外資系コンサルティング企業を経て、プロラグビーチームの創業やラグビーチームW杯の運営に携わった経歴の持ち主。スキーとラグビーがお好きです(写真提供/SANU、撮影/Ayato Ozawa)

左から、本間貴裕さん、福島弦さん。本間さんはゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanの創業者でもあり、ご自身もサーフィンやスノーボードが趣味の、自然を愛する人でもあります。福島さんは、外資系コンサルティング企業を経て、プロラグビーチームの創業やラグビーチームW杯の運営に携わった経歴の持ち主。スキーとラグビーがお好きです(写真提供/SANU、撮影/Ayato Ozawa)

「以前から漠然と自然と人をつなげる仕事をしたいと考えていたんですが、2020年の緊急事態宣言下、都市部での密な暮らしへの違和感がはっきりとしてきました。そこで、千葉県の自然豊かな環境に家を借りて過ごしたんですが、それがとても心地よくて。オンラインで仕事しつつ、合間に野に咲く花を摘んできて活けたり、サーフィンをしたり。そこで、海や山に近い場所にある住まいを、スマートフォンで会員登録すればすぐに利用できるサービスがあったらいいなと思いついたんです」(本間さん)

なるほど、本間さん自身の「あったらいいな」をかたちにしていったんですね。別荘やホテルとの違いは、「個人の空間を確保できる」そして「暮らし」の延長線上にある点だ、といいます。
「ホテルにはキッチンがないことが多く、調理や洗濯などができないことが多いもの。また、自分もバックパッカーだったからわかるのですが、アドレスホッパーのように住まいを持たずに転々とホテルやゲストハウスを渡り歩く生活をするのは万人には向きません。自宅のようにくつろぎつつ過ごせて、思いついたときに利用できる気軽さを目指しました」(本間さん)

そのため、利用する人の暮らしやすさを考え、キャビンは内装を統一し、一度滞在すると他のキャビンに滞在しても「どこに何があるかわかる」状態にしているといいます。

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

海、山、湖、川…。日本の豊かな環境を建物や室内でも楽しめるように

筆者が個人的にすてき!だと思ったのは、周囲の環境だけでなく、建物やインテリアそのものが美しく、滞在したくなるという点です。また、キャビンの内装は統一しているものの、大きい窓の先に広がる風景は二つとして同じものがなく、キャビンごとにまったく異なる景色が映ります。

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

「海や山や湖、川、高原など、日本の自然環境は本当に豊かです。季節ごとの変化や表情の移り変わりを部屋にいても楽しめるように配慮しています。季節が変わるたび、何度でも来たくなる、繰り返し使ってもらうことがこのサービスで大切にしたいこと」と本間さんは話します。このあたりは、何より本間さん自身が「美しい自然が好き」という想いがあるからでしょう。

デッキから見える風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

デッキから見える風景(写真提供/SANU、撮影/Timothée Lambrecq)

また今回、「建物に岩手県釜石市の杉材を使用しています。それにはコロナの影響も大きく関係しています」と解説するのは、同じく創業者の福島弦さん。

「サービスの設計を考え、建築プランも決まり、いざ着工するぞという段階になって、コロナ禍で海外からの木材の輸入が少なくなったことで国内の木材価格が高騰し、調達できなくなる『ウッドショック』が起きたんです。でも、まあ着工はできるでしょと軽く考えていたら、なんと1棟目からすでに調達できない、と。そこで、日本各地の森林組合さんにお願いしてまわり、結果的に協力してもらえることになったのが釜石地方森林組合だったんです」

(写真提供/SANU、撮影/Sayuri Murooka)

(写真提供/SANU、撮影/Sayuri Murooka)

日本では、戦後に植林した杉材が樹齢50年前後になり、今、建材として“使いどき”になっていますが、長年の木材価格低迷や人手不足などの問題もあり、思うように木材として提供できない状態が続いています。今回SANU 2nd Homeでは、釜石地方森林組合と協力し、木材を提供してもらうだけでなく、キャビンのために伐採した杉の木(50棟でおよそ7500本分)と同じ本数の苗木を、釜石地方に植林する予定です。こうして事業で使った分だけ新しい木々を植えることで、地方の林業、そして森が蘇ることになりますし、事業を通じたカーボンネガティブ(CO2吸収量がCO2排出量を上回る状態)を達成することができます。

(写真提供/ADX)

(写真提供/ADX)

「針葉樹の杉だけではなく、ナラや樫、シイノキなどの広葉樹など異なる種類の苗木を植えることで、多様性のある豊かな森になる。SANU CABINをつくることで、林業が活性化し、日本の森が美しくなっていくとしたら、こんなにうれしいことはないですよね」と話します。

もちろん、SANU 2nd Homeで提供したいのは「自然のなかでの暮らし」といいますが、サービスを考えるうえでも、「持続可能性」が考えられているのはやはり時流といえるでしょう。

旅行やホテルとも違う居心地のよさ! 仕事にもプラスに

SANU 2nd Homeを利用している石田さんと野村さん(ともに30代)にも話を聞いてみました。

野村さん(左)と石田さん(右)(写真提供/野村さん、石田さん)

野村さん(左)と石田さん(右)(写真提供/野村さん、石田さん)

「11月はサービス開始直後から3泊、12月は4泊、1月には4泊と、今のところ毎月利用しています。初めて訪れたのは白樺湖のSANU CABINでしたが、窓からの開放感がすごくて、部屋のカーブがきれいでとても印象に残っています。キッチンも充実していますし、3泊で滞在予定でしたが、すぐに4泊にすればよかった!と思いました」(石田さん)

滞在中は、山に登ったり、自転車でサイクリングにいったり、焚き火をしたりと、存分に野遊びを楽しんでいるそう。もちろん、自宅にいるように仕事をしたり、料理をしたり。ときには地域の店で外食や買い物などをし、地域の人と交流ができるのも、ホーム感があり、二人のたのしみになっています。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

「八ヶ岳では周辺の店を紹介したオリジナルのマップがあったんですが、掲載されている店はすべてめぐりました。お店の人との会話でもSANU 2nd Homeに滞在しているというと、どういうサービスなのか聞かれたり。興味関心の高さを感じました」

料理好きな野村さんにとっては、キッチンが充実しているのも、楽しいといいます。
「キャビンが同じかたちをしていて、どこに何があるのかわかるのは、我が家のような安心感がありますね。自分の別荘があるとこんな感じなのかなと思いました」(野村さん)。使い方を聞いていると、生活や暮らしの延長に利用してもらいたいという、サービスの狙い通りと言えるのかもしれません。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

友人たちを招いてホームパーティーをすることも(写真提供/野村さん、石田さん)

友人たちを招いてホームパーティーをすることも(写真提供/野村さん、石田さん)

SANU 2nd Homeのように自宅と別に拠点があると、仕事をするうえでもプラスになっているといいます。
「自宅で働いていると、曜日や時間などのメリハリがなくなってしまいがちですよね。その点、SANU 2nd Homeに行くぞと予定を入れることで、1週間がフラットにならずに、○曜日までにこれを終わらせるなどの意識をするようになりました。違う場所に行くことが、よい刺激になっていると思います」(石田さん)。また、場所も車で2~3時間程度で、ほどよいそう。

(写真提供/野村さん、石田さん)

(写真提供/野村さん、石田さん)

「ホテルやコテージと比較しても、定額料金の価格設定には納得感があるのですが、カーシェアや高速代に加えて、珍しい食材を買ったりすることで、意外とお金を使っているんです(笑)。想定外といえばそれくらいでしょうか。あと、仕事をしていると、背景が映り込むので、『どこにいるの?』と聞かれるんですよね。SANUだよ~と答えると、『いいな』『今度一緒に行きたい』などポジティブな反応がほとんど。私の周りでも移住ほどではなくても、旅行とは違う、地方の体験への興味は高まっている気がします」(野村さん)

お話を聞いていると、「いいな~~!」というみなさんの気持ちにはげしく共感します。旅行ではなく、暮らしと遊びをシームレスに楽しめる。そんなライフスタイル、やっぱり憧れますよね。

別荘を持つよりも手軽で、さまざまな拠点で飽きることもなく生活できるサブスクサービス「SANU 2nd Home」。都市部にある家ももちろん好きだけど、自然のある暮らしもしたい。コロナ禍の転換期に生まれたサービスですが、きっとコロナが収束しても、ひとつの暮らし方として、定着していくに違いありません。

●取材協力
SANU 2nd Home

24歳女子、大家になる。築40年超エレベーターなしマンションが人気物件になるまで 東京都荒川区

東京都荒川区東尾久の下町。エレベーターなしの築44年の賃貸マンション「トダビューハイツ」。
実は現在は常に満室の不思議物件で、しかも、当時24歳のデザイナーの女性が、祖母の跡を継いで大家になり、10カ月で満室にしたというから驚きだ。
人気の秘密は何なのか? さらに彼女が大家になる決意をした理由、満室にするまでの道のり、今後の展望など、あれこれお話を伺った。

左から、入居者の安谷屋貴子さん、大家の戸田江美さん、新しい賃貸住宅「ロジハイツ」のカフェオーナーになる竹前さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

左から、入居者の安谷屋貴子さん、大家の戸田江美さん、新しい賃貸住宅「ロジハイツ」のカフェオーナーになる竹前さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

24歳のとき祖母の跡を継ぎ、「トダビューハイツ」の大家に

大学生のころに母を亡くし、祖母と2人暮らしだった戸田江美さんが、「トダビューハイツ」の運営を祖母から引き継いだのは6年前、24歳の時だ。

6年前当時の部屋の様子(写真提供/戸田江美さん)

6年前当時の部屋の様子(写真提供/戸田江美さん)

「当時、周囲にマンションが増え、だんだん空き室が目立つようになったんです。もろもろトラブルがあったこともあり、祖母は元気をなくしていきました。もっと祖母のそばにいようと、多忙だった会社を辞め、転職を考えました。そんなとき、フリーのデザイナーとして単発の仕事を受けるようになり、フリーランスのデザイナーとして在宅で仕事をするなら、大家業も兼業できるのではと思ったんです。もちろん素人なので祖母の助けをもらいながら。“これはどうするの”“誰にお願いすればいいの?”と頼りにすることで、祖母も元気になってきました」

現在は30歳の戸田さん。結婚し、大家業とともに、フリーランスのデザイナー、イラストレーターをしている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在は30歳の戸田さん。結婚し、大家業とともに、フリーランスのデザイナー、イラストレーターをしている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、美大を出てデザイナーとして働いてきた自分だからこそのスキルを活かした「デザイン×不動産」の掛け合わせも面白そうだとも感じていた。最初に取り掛かったのが、物件のサイトづくり。「築年数の古さ」がネックになり集客できないなら、自分でやってみようと思ったのだ。

現在のトダビューハイツのサイトからも、その工夫が伝わってくる。
トダビューハイツを「築40年のおっちゃん物件」と擬人化しつつ、街の様子もレポート。

クリエイティブな大家が自ら手掛ける主観と愛あるサイトは読みものとしても秀逸(HPより)

クリエイティブな大家が自ら手掛ける主観と愛あるサイトは読みものとしても秀逸(HPより)

(HPより)

(HPより)

築年数の古さを逆手にとって「DIY可能」も打ち出した。壁棚の造作や壁の塗装など、内容や箇所を事前に相談しておけば、原状回復義務はないというもの。
さらに、また次の入居者のためにリフォームするならと、「ふすま紙とトイレの床を無料でリフォームサービス」を実施。その相談もフォトショップを使って提案できるのもデザイナー大家ならではだ。

過去のDIY例(写真提供/戸田江美さん)

過去のDIY例(写真提供/戸田江美さん)

入居者の方が好きな本の装丁に合わせた色を職人技で再現してもらって塗ったドアの色(写真提供/戸田江美さん)

入居者の方が好きな本の装丁に合わせた色を職人技で再現してもらって塗ったドアの色(写真提供/戸田江美さん)

襖の柄や色は事前に戸田さんがPC上で再現。家具や好みに合わせて提案している(画像提供/戸田江美さん)

襖の柄や色は事前に戸田さんがPC上で再現。家具や好みに合わせて提案している(画像提供/戸田江美さん)

(画像提供/戸田江美さん)

(画像提供/戸田江美さん)

「顔の見える」大家女子として、自ら広報活動。それが功を奏した

とはいえ、順調だったわけではない。当初は12部屋のうち3室が空室。サイトから見学を申し込む人は若い人が多いが、古さや設備など、いわゆるスペックで評価されがちなことがネックになり、なかなか契約に至らなかったのだ。
そんななか、「20代女子の大家さん」という目新しさから、Webサイト「物件ファン」に取り上げられた。そのサイトから内見メールがいくつも届いた。大家である戸田さんが自ら案内をする。街や物件に愛着を持つ「顔の見える」大家――。特に意識したわけではなく、自分ができることをしていたら、そうなっていた。

24歳のときにふすま貼りを習いに行ったときの写真。その後、「大家女子の日記」という連載も開始し、問い合わせも増えた(画像提供/戸田江美さん)

24歳のときにふすま貼りを習いに行ったときの写真。その後、「大家女子の日記」という連載も開始し、問い合わせも増えた(画像提供/戸田江美さん)

入居者に聞いた「トダビューハイツの魅力とは?」

サイトを通して、新たな入居者となってくれた1人が、福島県でコミュニティ支援の仕事をしていた安谷屋貴子さんだ。
「もう帰って寝るだけの1人暮らしは嫌だなと思ったんです。そんなとき、大家さんに直接内覧を申し込めるこの物件に、ピンとくるものがありました。江美さんには、入居前にふすま紙とトイレの床を何にするか一緒に選んでもらったり、街案内をしてもらったり、まったく地縁のない私には、ありがたかったんです」(安谷屋さん)

戸田さんにとって、のちに単に入居者という以上のサポーターになってくれたという安谷屋貴子さん(写真撮影/ジャーナル編集部)

戸田さんにとって、のちに単に入居者という以上のサポーターになってくれたという安谷屋貴子さん(写真撮影/ジャーナル編集部)

とはいえ、入居後半年間は最低限の連絡事項のやり取りで、頻繁なお付き合いがあったわけではなかった。そのあたりのこと戸田さんに質問してみた。
「私、大家業をしているので勘違いされがちなのですが、人見知りなんですよ。安谷屋さんが入居したころはまだ入居者の方との距離感を探っていたところでもありました。また、シェアハウスではないので、ほどよい距離感は必要だなと思っているんです」
入居1年後に、安谷屋さんは戸田さんの地元の知り合いとの花見に参加。顔見知りができたことで、その後の街歩きやワークショップなどのイベントにも参加しやすくなり、自然と安谷屋さんの尾久コミュニティの輪は広がった。

2018年、当時のお花見の様子。最初は6人だったけれど、ご近所さんが声をかけてみんなで集合写真。「江美さんのお友達の輪に入れてもらえたようで、すごく楽しかったです」(安谷屋さん)(写真提供/戸田江美さん)

2018年、当時のお花見の様子。最初は6人だったけれど、ご近所さんが声をかけてみんなで集合写真。「江美さんのお友達の輪に入れてもらえたようで、すごく楽しかったです」(安谷屋さん)(写真提供/戸田江美さん)

「子どもがいたら別でしょうけど、地縁のない独身の社会人にとって地元に知り合いをつくるってなかなかハードルが高いもの。でも大家の江美さんを通じて、人とまちと少しずつ知り合える実感がありました。特にコロナ禍はそれを実感しましたね。買い物途中に知り合いと立ち話をしたり、江美さんと偶然会って一緒にお弁当を買いに行ったり。知り会いがいない街で、一人暮らしで在宅ワークになっていたら、誰とも会話しないままだったかも」(安谷屋さん)

また戸田さんのほうも、社交的な安谷屋さんというサポーターを得たことで、新しい入居者の方とのウェルカムごはん会なども企画し、ゆるやかにつながれるように。

「いきなり大家とサシでごはん……ちょっと抵抗感あるでしょう。でも入居者の安谷屋さんがいてくれたら、誘いやすい。入居者の数人で韓流ドラマ『愛の不時着』を観たこともありました」(戸田さん)
その後、入居者でもある落語家さんによる落語会も開催。昔から暮らしている入居者と新しい入居者が自然と知り合う、またとない機会になった。

落語会の前には、戸田さんのお知り合いが三味線で出囃子を弾く贅沢さ(画像提供/戸田江美さん)

落語会の前には、戸田さんのお知り合いが三味線で出囃子を弾く贅沢さ(画像提供/戸田江美さん)

入居者の交流の場となる部屋は、戸田さんの仕事場でもある。一部DIYを行い、トダビューハイツの「レトロで和む」雰囲気の味わい場所に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

入居者の交流の場となる部屋は、戸田さんの仕事場でもある。一部DIYを行い、トダビューハイツの「レトロで和む」雰囲気の味わい場所に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

共用廊下には回覧板とともに、庭でとれた柿をおいて。「どうぞ自由にもっていってください」とメッセージ付き。みんなで干し柿をつくる小さなイベントも(写真提供/戸田江美さん)

共用廊下には回覧板とともに、庭でとれた柿をおいて。「どうぞ自由にもっていってください」とメッセージ付き。みんなで干し柿をつくる小さなイベントも(写真提供/戸田江美さん)

新たなプロジェクト始動。その名も「想像建築」

そして、このトダビューハイツとは別に祖母が所有し、長く借地として貸し出していた荒川区町屋の土地が、住人が退去して更地になって戻ってきたことを契機に、新たな活用法を考えることに。
そこに何を建てようか想像することから始めようというのが、「想像建築」プロジェクト。

「売却したり、業者さんに丸投げして賃貸マンションを建てれば簡単だって分かっているんですけど、それは祖母が大切にしてきた地域との関わりを絶つような感じがして、違うかなと。もっと街に愛着が持てるような場所にしたかったんです」
そこで戸田さんがとった方法は「すぐに住宅を建てない」方法だ。
「荒川区が古い建物を取り壊し、更地にして空き地を保全している間は固定資産税を安くする制度があったんです。だったらまず空き地であれこれ利用しているうちに、方向性が出てくるかなと考えたんです」
例えば、屋台村は保健所からのNGが出て実現できなかったが、マルシェ、街歩き、トークイベントを開催し、この場所に興味を持ってもらえるような仕掛けだ。

2019年に行った、路地裏マルシェ&トークイベント。「ご近所の大好きなお店に出店して頂き、さらに発起に至った経緯や、個人的に感じている荒川区の課題などを話しました」(戸田さん。画像提供も)

2019年に行った、路地裏マルシェ&トークイベント。「ご近所の大好きなお店に出店して頂き、さらに発起に至った経緯や、個人的に感じている荒川区の課題などを話しました」(戸田さん。画像提供も)

地元の建築家を招いて荒川区の街歩きイベントも(画像提供/戸田江美さん)

地元の建築家を招いて荒川区の街歩きイベントも(画像提供/戸田江美さん)

そのうち、荒川区役所に勤める人、荒川好きのご夫妻、荒川区に住みたい区外の人、ご近所の人など、自然につながりが生まれた。
「そうしているうちに、やっぱり売るはナシだなと実感。街を愛してくれる人が増えてくれる住まいにしたい。よし賃貸住宅を建てようと思うようになりました」

さらにワークショップを行い、地元住民やこの土地に興味のある未来の住人さんたちにアイデアをプレゼンし、方向性は間違えていないかを探った。
 
その結果、「屋上菜園」と「カフェ」を持つ賃貸住宅を新築することに。コンセプトは“この街に長く住みたくなる賃貸マンション”だ。
会員制の「屋上菜園」は地域住民も登録可能。1階に「カフェ」を設けることで、地域に開かれた住まいを目指している。

新しい賃貸住宅「ロジハイツ」の模型。東京スカイツリーの見える屋上には菜園を設ける予定。「すでに近隣住民の方から申し込みがあり、地域と住民のゆるやかな交流の場になったらいいですね」(戸田さん)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

新しい賃貸住宅「ロジハイツ」の模型。東京スカイツリーの見える屋上には菜園を設ける予定。「すでに近隣住民の方から申し込みがあり、地域と住民のゆるやかな交流の場になったらいいですね」(戸田さん)(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

なかでもキーポイントとなるカフェのオーナーは、なんと戸田さんの大学時代の同級生の竹前さん。同じ荒川区に生まれ育ち、「いずれお店を持ちたい」と喫茶店で働いていた。物件が建つエリアは周囲に飲食店が少ないため、地域住民度の期待は大きい。

「荒川区のような下町の飲食店のオーナーって、とにかく人柄がすごく大事なんですよ。老若男女と仲良くできて、程よい距離感が保てる人。単にテナントとして貸すのではなく、人柄もよく分かっていて信頼している彼女にお願いすることで、暮らす人、地域の人から愛される、そんな気持ちのいい物件を目指したいんです」(戸田さん)

「モーニング営業もしたいし、大きな公園も近いので、ピクニックができるようなメニューも考えたいって夢が広がっています」(竹前さん)。カフェは今年4月オープン予定(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「モーニング営業もしたいし、大きな公園も近いので、ピクニックができるようなメニューも考えたいって夢が広がっています」(竹前さん)。カフェは今年4月オープン予定(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「大家さん」は大好きな街に人を呼び込むシゴト

戸田さんのこうした活動のモチベーションは、子どものころの記憶とも紐づいている。
「トダビューハイツができた当初から40年以上住んでいるご夫婦もいて、“江美ちゃん、すっかり大きくなって”と毎回言われる(笑)。ほぼ親戚のような存在ですよね」

戸田さんの好きな落語の世界では、「大家と言えば親も同然、店子(たなこ)と言えば子も同然」が決まりセリフで、大家は困ったことがあれば顔を出してくる中心的存在だ。

「祖母もそうでしたね。大変だけど面白いですよ。この前、テレビが映らなくなったって、1階の外で入居者さんと話していたら、他の方も上のベランダから、”ウチも映らないよ“って顔だしてきて(笑)。 “どーしても日本シリーズが観たいんだ”っていう入居者さんがいて、慌てて近所の電気屋さんに電話したら、“気持ちが分かる、大変だ”ってすぐ自転車でやって来てくれたんです。街を歩いていると、誰かから、”おかえり”って言われて、”ただいま”って答えるし(笑)。地図を見ながら歩いていたトダビューハイツに遊びに来たご夫妻が、自転車で通りかかったおじさんに声をかけられて美味しい中華屋さんを教えてもらったって言っていました(笑)」

そんな下町らしい距離感の住まいに、付加価値を感じて入居を決めてくれる人は多い。
築年数や設備などのネット検索でははじかれてしまうかもしれない物件でも、そこに大きな愛がある。
「ちょっと窮屈に感じることはあっても、街全体が自分のホームタウン。そんな大好きな街に新たに人を呼びこめる”大家”という仕事はとっても面白いと思います」

「もしランチ営業で人手が足りなかったら手伝いにいくよ」「グループラインでヘルプ出したらいいんじゃない」と、大家さん、入居者、新物件のテナントのオーナーと立場の違う3人が楽しく話す雰囲気が、トダビューハイツの魅力を証明しているかもしれない(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「もしランチ営業で人手が足りなかったら手伝いにいくよ」「グループラインでヘルプ出したらいいんじゃない」と、大家さん、入居者、新物件のテナントのオーナーと立場の違う3人が楽しく話す雰囲気が、トダビューハイツの魅力を証明しているかもしれない(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

トダビューハイツ(写真提供/戸田江美さん)

トダビューハイツ(写真提供/戸田江美さん)

●取材協力
トダビューハイツ
想像建築

ビカクシダだらけ!? デザイナー夫妻が猫と暮らすインダストリアルな賃貸

インダストリアルな室内に、ビカクシダ(コウモリラン)や自然のオブジェなどが置かれ、白とグレーの猫が悠々とたたずむ。そんな自然物が似合う「博物館」をテーマにした部屋で暮らす森田賢吾さん・仁美さん夫婦に、ライフスタイルとリンクする「ステキなお部屋づくり」について伺いました。

「ペット可・バイク駐車可・変わった物件」を条件に部屋探し

クリエイティブディレクターでグラフィックデザイナーの森田賢吾さんと、クリエイティブディレクターでテキスタイルデザイナー、イラストレーターの森田仁美さん。多摩美術大学の同級生のご夫妻は、お互いに好きなものを集めているうちに部屋が狭くなり、2019年に今の住まいに引っ越しました。
Twitter(@Hi__MoriMori)で、普通ではないお住まいとジャングルのような植物、カッコイイ家具、2匹の猫の美しさに興味をひかれ、訪問させていただきました。

まるで絵のよう。クールなインテリアに植物や猫が生命のぬくもりを添える(写真提供/森田さん)

まるで絵のよう。クールなインテリアに植物や猫が生命のぬくもりを添える(写真提供/森田さん)

この賃貸物件を見つけたのは、夫の賢吾さん。「東京周辺で、猫が飼えて、バイクが置ける場所があって、おしゃれなデザイナーズ物件」の4つを条件に、お部屋探しのアプリを5、6個ダウンロードして時間があれば見ていました。不動産会社に行って、「コンクリートの箱みたいな部屋でいいので、変わった物件はないですか」とイメージに近い写真を見せて相談しましたが、東京都内はペット可物件が少なく、条件やイメージに合う部屋はなかなか巡り合えませんでした。

陽が当たる窓際は猫も植物も大好きな場所(写真撮影/相馬ミナ)

陽が当たる窓際は猫も植物も大好きな場所(写真撮影/相馬ミナ)

「不動産屋さんが紹介してくれるのは、ほとんどが一般的な普通の部屋でした。これはと思う物件はスピード勝負ですぐに内定していたり、なかなか条件が合わなかったり。この物件はポータルサイトで見つけて、内見して即決しました」(賢吾さん)

「部屋自体に個性やスタイルがあるより、ニュートラルな部屋で、自分たちが好きで集めてきたものを置いてスタイルができ上がるような物件がいいと思っていました」と話す仁美さん。夫婦の趣味が合うので、決断はスムーズでした。

コンセプトを「博物館&インダストリアル」に決めてぶれない部屋づくり

住まいはインテリアや家具、暮らし方で表情が変わるもの。ブランディングの仕事をしている森田さん夫妻は、コンセプトから始めました。

「まずこの部屋をどういう世界観にしたいか、お互いに意見を出してコンセプトを決めました。『木や石、植物などの自然物が映える、博物館のような家』をコンセプトにプランニングしたことで、想像どおりの家になりました。持っている家具をリストアップして、サイズを測って間取図に落とし込んだり、世界観資料のようなものをつくって、仕事でやっていることを部屋でもやりました」(賢吾さん)

住まいのメインステージは、窓が大きいリビングです。天井と壁の一部はコンクリートの打ちっぱなしで、床は黒いストロングフロアに壁は黒やグレー。モノクロがベースですが、陽当たりが良く明るい雰囲気。デザイン書やレコードなどを収納している本棚は、アメリカでガレージに置くようなものを、キッチンの棚はお店の厨房などで使用されているものを買って、無骨さを生かした部屋づくりを目指したそうです。

シンプルなリビング。低い家具でまとめているため広く感じる(写真提供/森田さん)

シンプルなリビング。低い家具でまとめているため広く感じる(写真提供/森田さん)

リビングのテーブルは恵比寿にある人気のインテリアショップ「パシフィック・ファニチャー・サービス」で購入。使うほどに色が濃くなり味が出てくる無垢材の寄せ木の天板が特徴的です。

テーブルと木の色が合う椅子はイームズ(写真撮影/相馬ミナ)

テーブルと木の色が合う椅子はイームズ(写真撮影/相馬ミナ)

対面式キッチンは吊り戸棚もキャビネットもなく、圧迫感も生活感も感じられず、キッチンというよりお店のカウンターのよう。キッチンとダイニング・リビングの間の段差が空間を仕切らずに分けています。家具は、キッチンの前壁のステンレスと木の色とできるだけ合わせるなど、マテリアルやカラーを統一しています。

カフェのようなキッチン。レトロなペンダント照明も素敵(写真撮影/相馬ミナ)

カフェのようなキッチン。レトロなペンダント照明も素敵(写真撮影/相馬ミナ)

家具はアメリカ系のインテリアショップや業務用の家具屋さんで買ったものがほとんど。「私たちは好みが似ていて、デザインされすぎているものより、インダストリアル感がある武骨なものが好きなんです。自然物、木のモノ、植物沢山が映えるように主張し過ぎる家具は置かないし、可愛い家具や小物に惹かれても、コンセプトのインダストリアルから外れるなら選びません」(仁美さん)

リモートワークの際に夫婦が並んで作業ができるワークスペースもシンプルに(写真撮影/相馬ミナ)

リモートワークの際に夫婦が並んで作業ができるワークスペースもシンプルに(写真撮影/相馬ミナ)

また、浴室もコンクリートの壁に囲まれていて19世紀後半のアメリカで流行した猫脚の浴槽が設置されています。浴室とトイレ、洗面台が同じ空間にあるため、来客時に水まわりが丸見えにならないよう内装屋さんに頼んでガラスドアにカッティングシートを貼ったそうです。

猫脚の浴槽が置かれたガラス張りの水廻り。ビカクシダが水分を補給中(画像提供/森田さん)

猫脚の浴槽が置かれたガラス張りの水まわり。ビカクシダが水分を補給中(画像提供/森田さん)

自慢のコレクションを飾り、生活感があるものは徹底的に隠す

両親が水産大学出身であったことから、子どもの頃から魚の造形に興味をもち、釣りや魚の絵を描いて過ごし、たくさんの魚や昆虫を捕ってきて飼育をしていたという賢吾さん。自然が豊かな環境で、動物たちが多くいる実家で育ち、よく昆虫を捕ったりしていた仁美さん。森田さん夫婦は、そんな原体験をベースに、自然や動物、生き物に興味をもち続け、自分たちの目線を通した「博物館」を居住空間で表現しています。

家具と同様、コレクションも厳選された美しいモノばかり。テレビ台の隣にある六面体のオブジェは、イタリアのデザインデュオ、alcarol(アルカロール)が製作したもので、世界遺産のドロミテ山の低層で眠っていた”むした苔をまとった木材”を使用したスツール。「池をそのままくりぬいて形にしたような、水の中に入っているような気持ちになれる不思議なオブジェです」と仁美さん。

感性に合うアートを厳選。テレビ台の横にある椅子は本来座るもの。テーブルの上にあるのは賢吾さんが作成した苔のテラリウム(写真撮影/相馬ミナ)

感性に合うアートを厳選。テレビ台の横にある椅子は本来座るもの。テーブルの上にあるのは賢吾さんが作成した苔のテラリウム(写真撮影/相馬ミナ)

夫のコレクションの石。自然に造られた形や柄、色が美しい(写真撮影/相馬ミナ)

夫のコレクションの石。自然に造られた形や柄、色が美しい(写真撮影/相馬ミナ)

石の博物館やジビエ屋で購入した化石や骨。コレクターにとって垂涎の逸品(写真撮影/相馬ミナ)

石の博物館やジビエ屋で購入した化石や骨。コレクターにとって垂涎の逸品(写真撮影/相馬ミナ)

流木で出来た牛の骨格は、アーティスト・古賀充さんの作品(写真撮影/相馬ミナ)

流木で出来た牛の骨格は、アーティスト・古賀充さんの作品(写真撮影/相馬ミナ)

すっきりと暮らす秘訣を聞くと、「植物、石、アートなどのコレクションやデザイン書、レコード、DJの機材などは出しっぱなしだし、収集癖があるのでモノはたくさんあります。ただ生活感があるもの、例えば商品としてデザインされたパッケージなどがあると生活空間がごちゃごちゃしてしまうので、見えない所に隠しています」と賢吾さん。

キッチンは食器棚の代わりに、飲食店の厨房にあるようなステンレス製の収納台を設置。家電もステンレスや黒で統一。流しの下の空洞には、サイズを測ってコンテナボックスやダストボックスを収めています。

調味料も台車式の収納ボックス内に収納(写真撮影/相馬ミナ)

調味料も台車式の収納ボックス内に収納(写真撮影/相馬ミナ)

「調味料や油や鍋などは、キッチンに出しておいた方が使いやすいかもしれませんが、夫が生活感のあるものを出しておくのが嫌いなので、使うときに出して、出したらすぐしまうことが習慣になりました」(仁美さん)

細かいものや日常品は収納グッズを利用。アメリカのバンカーズや無印良品の収納ボックスなどの、同じ形のフタ付きのツールボックスをいくつか重ねたり並べたりしてモノを隠しています。

寝室の収納。収納ボックスは棚のサイズに合うものを選んだ(写真撮影/相馬ミナ)

寝室の収納。収納ボックスは棚のサイズに合うものを選んだ(写真撮影/相馬ミナ)

猫と両立する「スッキリきれいなインテリア」

森田家には2匹の猫がいます。仁美さんは、実家で10匹~15匹くらいの保護猫と暮らしていましたが、賢吾さんは結婚して初めて触れあった猫の人懐っこさに驚いたそうです。

白猫のやっこちゃん。猫もアートのように美しい(写真撮影/相馬ミナ)

白猫のやっこちゃん。猫もアートのように美しい(写真撮影/相馬ミナ)

凛と佇む姿が部屋の雰囲気に溶け込んでいる、しじみちゃん(写真撮影/森田さん)

凛とたたずむ姿が部屋の雰囲気に溶け込んでいる、しじみちゃん(写真撮影/森田さん)

「最初の頃は、机の上にあるものを片っ端から落とすので、お気に入りガラスの置物を壊されたこともありましたが、『猫はモノを落とす生き物だから、しまっておかない人間が悪い』と夫に話して理解してもらいました。おかげで、モノを出しておかないきっかけになったかもしれません。

猫のおもちゃも、夜寝る前にはしまいます。出しっぱなしより、時々出した方が喜んで遊んだりしますね。植物にいたずらするのは、かまってほしいときなので、猫草で気をそらすようにしています」(仁美さん)

やっこちゃんのお気に入りの場所。猫は狭い凹みが大好き(写真撮影/相馬ミナ)

やっこちゃんのお気に入りの場所。猫は狭い凹みが大好き(写真撮影/相馬ミナ)

自然と向き合うこと、ビカクシダを育てることもクリエイティブ

仁美さんは、この部屋に越して急激に植物への興味が出てきたそうです。最初は多肉植物や大きい花瓶に枝ものを刺したりしていましたが、コケ玉に着生したビカクシダ(コウモリラン)をひとつ買って、調べるうちに、植物の概念を覆すような生態やインテリアとしての面白さに惹かれたそうです。植物は種類により猫との共生に気をつける必要がありますが、森田さんは猫たちが、多肉植物やビカクシダなどに反応しないことをテスト済みの上、増やしています。

ビカクシダは丸い葉っぱ(貯水葉)と長い葉っぱ(外套葉)から成る(写真撮影/相馬ミナ)

ビカクシダは丸い葉っぱ(貯水葉)と長い葉っぱ(外套葉)から成る(写真撮影/相馬ミナ)

自然界では地面に生えるのではなく木に寄生して生きるビカクシダ。板に貼り付ける人もいますが、仁美さんは、「室内に自然物があるような感じにしたい」と、コルクの木の樹皮にくくりつけています。

天井に突っ張りポールを設置して吊るしたビカクシダ。一つひとつ形が違い、葉っぱの形に装飾性があり面白い(写真提供/森田さん)

天井に突っ張りポールを設置して吊るしたビカクシダ。一つひとつ形が違い、葉っぱの形に装飾性があり面白い(写真提供/森田さん)

「同じフォーマットでも少しずつデザインや色が違うものを集めたくなるコレクター魂が刺激されて、今は20株ほどあります。部屋の陽当たりがいいので、すごい早さで植物が育つんです。全部大きくなると大変なので、これ以上は増やせないと思っています」

お手入れは「陽当たりが良く、常にサーキュレーターをつけて、風がそよそよと吹く状態を作っておくこと。水苔が乾いたら浴室でコルクの樹皮と植物の間にある水苔にたっぷりと水をあげて、水を切って部屋に戻します。数が多いので手はかかりますが、ビカクシダを育てて約2年、一度も枯らしたことがありませんし、最近はホームセンターなどに育てやすく品種改良されたものも売っているので、初めての人もトライしやすいと思います」と仁美さん。Twitterを始めたのも、愛好家がビカクシダをどう育てているのか、情報を収集するためだそう。

一年を通して水苔が乾いたらたっぷりと水を与える(写真撮影/相馬ミナ)

一年を通して水苔が乾いたらたっぷりと水を与える(写真撮影/相馬ミナ)

「ビカクシダはS缶やフックを使って天井や突っ張り棒に吊るしたり、ハンガーラックにかけるなど、壁に掛けて飾れるので生活面積を邪魔しません。床が広いまま増やせるのも魅力です」

ハンガーラックに沢山並べて吊るしている(写真提供/森田さん)

ハンガーラックに沢山並べて吊るしている(写真提供/森田さん)

希少性の高いビカクシダは金額が高いので、胞子から育て始めた仁美さん。「時間をかけて育てられた達成感もあり、愛着が違うので、興味がある人は育ててみるのもいいかもしれません。ちょこちょこ手を加えて見ていると、一気に大きくなったり変化が分かりやすく、自然と向き合うことが楽しい。植物を育てるのはクリエイティブな作業です」

撒いた胞子が芽を出し9カ月位でここまで育った(写真撮影/相馬ミナ)

撒いた胞子が芽を出し9カ月位でここまで育った(写真撮影/相馬ミナ)

ビカクシダは仁美さんの趣味ですが、賢吾さんは、最近渓流でのテンカラ釣りに凝っていて、イワナなど川魚のはく製や毛鉤(けばり)を作るための素材(鳥の羽など)を少しずつ集めているそう。「お互いに好きなものは認めて応援しています。これからも、まだまだ興味が広がって変化するかもしれません」と仁美さん。

独自の世界観をつくり上げている森田夫妻。「植物が沢山ある自然と向き合う暮らし。日常生活でありながら非日常に住むスペシャル感というか、非日常が日常になっていて、居心地がとてもいい」と仁美さん。「好きなモノを自分の身のまわりに置いて、好きを感じられる趣味部屋のような家。趣味、ライフスタイルイコール部屋みたいな感じはします」と賢吾さん。

好きなことを優先し、コンセプトを決めて、しっかりプランニングして統一感をもたせることで完成した、オリジナリティあふれる「博物館のような住まい」。夫妻のような特別なセンスがなくても、取り入れたり試せるヒントがあるのではないでしょうか。

●森田賢吾さん
クリエイティブディレクター・グラフィックデザイナー
多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。大貫デザイン、博報堂デザインを経て2016年デザインユニットknotを設立。JAGDA正会員。ハイクオリティなビジュアルコミュニケーションを軸としたブランディングデザインを多数手がける。NY ADC賞、 D&AD賞、 ONE SHOW、TOPAWARDS ASIA、グッドデザイン賞、亀倉雄策賞・JAGDA賞ノミネートなど国内外の賞を多数受賞。
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●森田仁美さん
クリエイティブディレクター・ テキスタイルデザイナー・イラストレーター。多摩美術大学テキスタイルデザイン学科卒業。アパレル小物の企画デザインや生産に携わった後に独立。国内の靴下工場のCDO(チーフデザインオフィサー)としてものづくりの現場のブランディングを行う傍ら、イラストの仕事も手がける。
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駅遠の土地が人気賃貸に! 住人が主役になる相続の公募アイデアって?

祖父がなくなり不動産を相続することになった相続人の安藤勝信さんは、納税のため所有する賃貸アパートの隣地を売却。土地を継承し、地域のために活用してくれる売却先をプロポーザルで公募し、結果もともとの賃貸アパートの住人と新たな住人が温かなコミュニティでつながる地域になった。現地で話を聞いた。

借りる人の希望を聞きながら建築する新スタイル「賃貸コーポラティブ」

最寄駅から徒歩30分、バス便の立地に2戸の一戸建てと11戸の長屋住宅から成る13戸の賃貸コーポラティブ区画が、2021年5月に東京都世田谷区に誕生した。

コーポラティブハウスとは、入居予定者が建設組合をつくり、主体となって建築する集合住宅のこと。通常は事業主が集合住宅の概要を計画し、購入予定者が区分所有部分のプランを建築士とつくりあげていく形態で、賃貸での例はほとんどない。

「賃貸なのだけど、持ち家のような不思議な感覚です」と話してくれたのは、ここの賃貸コーポラティブに住む川浪さん。一戸建ての室内は、デザインを仕事とする川浪さんのこだわりにあふれている。

(写真撮影/片山 貴博)

(写真撮影/片山 貴博)

玄関ドアを開けるとモルタル仕上げの土間、そこに大きなテーブルを置いて仕事用のスペースにしている。本棚も川浪さんのオーダー(写真撮影/片山 貴博)

玄関ドアを開けるとモルタル仕上げの土間、そこに大きなテーブルを置いて仕事用のスペースにしている。本棚も川浪さんのオーダー(写真撮影/片山 貴博)

「コロナ禍になって、できる限り自分にとって居心地の良い空間で過ごしたいと思うようになりました。でもこの変化の時代に、一生の選択をして家を持っても同じ場所に住み続けるかはわかりません。賃貸は気軽だけれど、空間の自由度が低くて限界があるし、事務所利用可能な住居物件自体がほとんどないんですよ。そんなとき、カスタマイズ可能な戸建て賃貸を見つけたんです」(川浪さん)

オーナーの田畑至誠(たばた・しじょう)さんが用意していた建物オプションは壁紙や床材の選択などだったが、「エアコンを埋め込んでもらったり、床はオプション外の少し特殊な素材でお願いしたり。できる限りの希望を聞いてもらえました」(川浪さん)
基本計画以上のコストアップは、入居者が負担することになっている。「工期の期限と躯体への影響がない範囲で、と限度があるとはいえ、一般的な賃貸では考えられないことです」と川浪さんは笑顔で話す。

夫妻とふたりの子どもとの4人家族。1階は仕事用スペースとキッチンダイニング、2階は居室(写真撮影/片山 貴博)

夫妻とふたりの子どもとの4人家族。1階は仕事用スペースとキッチンダイニング、2階は居室(写真撮影/片山 貴博)

賃貸にDIYとコミュニティを解放したら好循環が生まれた

この賃貸コーポラティブ区画の敷地一帯には、もともと賃貸アパートと駐車場があった。誕生するまでは、「奇跡のような出会いがあった」と祖父の土地の相続人だった安藤勝信(あんどう・かつのぶ)さん。賃貸コーポラティブの隣地の、賃貸アパートの経営者でもある。

安藤さんの祖父母は、世田谷区で都市農場と賃貸アパートを経営していた。
「祖父は賃貸アパートの入居募集に苦労していました。東京では駅から遠い物件は人気がなく、さらに古くなるごとに賃料を下げざるを得ない。下げても満室になるとは限りません」(安藤さん)
そんな状況を見かねて、賃貸アパートの経営を安藤さんが法人をつくって買い受けたのが8年ほど前。一度内装を取り壊し、入居者の希望を内装に反映する形で募集を開始したところ、あっという間に満室になった。
さらに、敷地でのBBQや家庭菜園、焚き火台を使った小さな焚き火といった住民の要望を叶えるうちにコミュニティも深まり、居心地のいい人気物件として生まれ変わらせることができたのだ。

住人共用の菜園(写真撮影/片山貴博)

住人共用の菜園(写真撮影/片山貴博)

「賃貸経営はよくクレーム産業と言われがちです。設備不具合のクレームや住民同士のトラブルにオーナーや管理会社が追われがちなのです。ですが本当は、少しだけお互いを知る機会があれば、生活音が『苦情』から『お疲れさま』に変わることもあるのではないでしょうか。
DIYもできますから、好きな壁紙を貼ればいいし、前の住人と好みが合えば新しい人にそのまま入居してもらうこともできる。前に住んでいた住人と次に住む住人が会うこともあります。募集して待っている立場から、入居者を探せるようになりました」(安藤さん)

相続発生。プロポーザルで売却後も土地の継承を図る

アパート経営から8年ほど経ち、祖父の相続を経験した安藤さん。アパートが建つ敷地の一部、駐車場部分を納税のために手放さざるを得なかった。
「土地は先祖から授かったものではなく未来から預かったもの。亡くなった祖父がよく言っていた言葉です。
アパートのコミュニティの延長でもある土地を、将来にも良い形でバトンを渡したい」と安藤さんが相談したのは、不動産コンサルタントの田中歩(たなかあゆみ)さん。購入希望者から土地利用についてプロポーザル(提案)を受けた上で、共感できる人に売却することを提案してくれたのだそう。

安藤さんは田中さんの伴走のもと「未来へのバトンプロポーザル説明会」を開催し、思いを共有してくれる売却先を探すこととなった。

未来へのバトンプロポーザル説明会(写真提供/安藤勝信)

未来へのバトンプロポーザル説明会(写真提供/安藤勝信)

開催場所は安藤さんが納税資金を借り入れた東京中央農業協同組合のホール。銀行勤務の経験がある田中さんが「通常、相続税は10カ月内に納めねばなりません。プロポーザルからの売却では間に合わないので、納税資金を借り入れる提案をしたんです。延滞税より金利が低いですから」と教えてくれた。
「農協は地域の事業を協同組合の立場で助けてくれる仲間です。とはいえ、担当の安藤也侑(あんどう・あつむ)さん(以降、也侑さん)が自分達に共感して頑張ってくれなかったら、この協同事業に行き着けなかったかもしれません。説明会から売却、融資返済までを上司に取り付けてくれたんですから」(安藤さん)

元の敷地図。左側の駐車場部分が説明会の対象だった(資料提供/トライクコンサルティング藤田弘之)

元の敷地図。左側の駐車場部分が説明会の対象だった(資料提供/トライクコンサルティング藤田弘之)

売却部分と所有部分を一体化。コミュニティが繋がる区画に

説明会には不動産会社や投資家など数十人が集まった。

その中でもうひとり、この土地の未来に熱くなる人物が現れた。分譲コーポラティブマンションの企画やコンサルティングに携わる藤田弘之(ふじた・ひろゆき)さんだ。
「同業者から説明会の情報を得て参加したのですが、説明を聞いてびっくり。自宅の近所で、なんと借りている駐車場の売却計画でした。駐車場がなくなると困る、という思いもあって計画にのめり込みました(笑)」

説明会は、一方的に安藤さんが説明するのではなく、参加者がアイデアを出し合うワークショップの体をなした。
借りる人の好みを反映する賃貸アパートの成功例を知り、地域コミュニティへの思いを聞いた藤田さんは「入居予定者と一緒に建物仕様を決めていく、コーポラティブの手法がぴったりだと思いました」と語る。
「当初想定されていた一戸建ての分譲ではなく、中長期でオーナーの思いを引き継ぎやすい賃貸にすべき、とも提案して採用されました。先にコミュニティが醸成されていたアパート部分との繋がりも大事にしたかった。そのため、以前から信頼していた不動産投資家の田畑さんに購入を持ちかけました」(藤田さん)

敷地配置は、右上のアパート敷地と一体で書き換えられた。A、Bの一戸建てとC1~D1までの長屋が新築された賃貸コーポラティブ。「道を通して区画全体に統一感を持たせたいと、そのために売却部分を変更してもらいました。借入先の農協の也侑さんは大変だったでしょうし、新オーナーの田畑さんの共感がなければ実現できませんでした」(藤田さん)(資料提供/トライクコンサルティング藤田弘之)

敷地配置は、右上のアパート敷地と一体で書き換えられた。A、Bの一戸建てとC1~D1までの長屋が新築された賃貸コーポラティブ。「道を通して区画全体に統一感を持たせたいと、そのために売却部分を変更してもらいました。借入先の農協の也侑さんは大変だったでしょうし、新オーナーの田畑さんの共感がなければ実現できませんでした」(藤田さん)(資料提供/トライクコンサルティング藤田弘之)

田畑さんは全国で不動産を運用している投資のプロフェッショナル。賃貸物件であれば利益のためコスト効率を重視するところだが、藤田さんから紹介された安藤さんのコミュニティ重視型の賃貸経営に深く共感した。

田畑さんが土地の購入を決め、入居募集を始めてみると多くの応募があった。田畑さんは、「初期費用がかかっても好きに住みたいというニーズ」「転職歴などでローンが組めない高収入層」「オフィスと自宅を賃貸住宅で併用したい個人事業者」の多さに改めて気付かされたという。

(画像提供/トライクコンサルティング藤田弘之、イラスト/渡邉友紀)

(画像提供/トライクコンサルティング藤田弘之、イラスト/渡邉友紀)

安藤さんが経営する賃貸アパート(右側)と田畑さんが新オーナーとなった賃貸コーポラティブD棟(左上)。小道と植栽の統一で区画に一体感が生まれている(写真撮影/片山 貴博)

安藤さんが経営する賃貸アパート(右側)と田畑さんが新オーナーとなった賃貸コーポラティブD棟(左上)。小道と植栽の統一で区画に一体感が生まれている(写真撮影/片山 貴博)

コーディネーターの立場からプロジェクトを担当したのは、渡邉友紀(わたなべ・ゆうき)さん。「用意していたオプションは限られたものでしたが、実際は分譲コーポラティブと同じようにこだわる人が多く、キッチンセットだけで100万円かけた人もいました」(渡邉さん)

賃貸コーポラティブの契約は、一般的な賃貸借契約と同様の2年で更新。原状回復については住戸ごとの仕様に合わせて入居者と話し合い、詳細に取り決めている。
「住みながらのDIYも原則自由です。こだわりがある入居者によるリフォームは、建物の劣化ではなく価値アップに繋がりますし。また、普通の賃貸にはないようなコミュニケーションが入居者とも生まれて、経営のモチベーションにもなっています」(田畑さん)

前列左から安藤さん(アパート経営者・土地の相続人)、川浪さん(入居者)、田畑さん(隣地新オーナー) 後列から也侑さん(農協)、田中さん(不動産コンサルタント)、渡邊さん(コーポラティブコーディネーター)、藤田さん(コーポラティブコンサルタント)(写真撮影/片山 貴博)

前列左から安藤さん(アパート経営者・土地の相続人)、川浪さん(入居者)、田畑さん(隣地新オーナー)
後列左から也侑さん(農協)、田中さん(不動産コンサルタント)、渡邊さん(コーポラティブコーディネーター)、藤田さん(コーポラティブコンサルタント)(写真撮影/片山 貴博)

(画像提供/トライクコンサルティング藤田弘之、イラスト/渡邉友紀)

(画像提供/トライクコンサルティング藤田弘之、イラスト/渡邉友紀)

「自分好みの家はとても快適。家族もこの家と環境にすっかり馴染んでいます。初期費用もかけているので、愛着も湧きますし、その分長く丁寧に住みたいと思うようになります」という川浪さんの言葉に、笑顔になった田畑さん。
「考え方の近い人と暮らせることで、監視しあうような緊張感が生まれにくくて、むしろお互いにより豊かになるようなアイデアを持ち寄れるようなオープンな雰囲気があります」(川浪さん)

「今回大変なこともありましたが、やってみて本当によかったです。このような形が今後どこかで、ゆっくり広まってくれたらいいなと思っています」(安藤さん)

自分に合う住まいで暮らすこと、隣人を大切にできること。この事例をヒントに、理想に叶う賃貸がもっと増えることを期待していきたい。

●取材協力
安藤勝信さん(株式会社アンディート)、田中歩さん(あゆみリアルティーサービス)、藤田弘之さん(トライク・コンサルティング)、田畑至誠さん(グレープEQ)、渡邉友紀さん(NENGO)、安藤也侑さん(東京中央農業協同組合)、川浪さん(入居者)

明治大学(和泉キャンパス)学生の一人暮らしにオススメの街2022年! 家賃相場ランキングも

新年度が始まる4月に合わせて、そろそろ引越しを考えている人も増える時期。進学を機に大学の近くで一人暮らしを始める予定の学生もいるだろう。そんな新入生や、これから入学を目指す人の参考になるように、今回は明治大学 和泉(いずみ)キャンパスの最寄駅である明大前駅にアクセスしやすく、家賃相場が安い駅を調査。さらに不動産会社の方がおすすめする、和泉キャンパスに通う学生が住む街もご紹介していきたい。

明大前駅まで電車で15分以内の家賃相場が安い駅TOP15(17駅)

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 調布 6.40万円(京王線/東京都調布市/12分/0回)
2位 三鷹台 6.50万円(京王井の頭線/東京都三鷹市/13分/0回)
2位 久我山 6.50万円(京王井の頭線/東京都杉並区/9分/0回)
4位 仙川 6.55万円(京王線/東京都調布市/11分/0回)
5位 富士見ケ丘 6.60万円(京王井の頭線/東京都杉並区/9分/0回)
6位 つつじケ丘 6.70万円(京王線/東京都調布市/12分/0回)
7位 成城学園前 6.90万円(小田急小田原線/東京都世田谷区/15分/1回)
8位 松原 6.97万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/8分/1回)
9位 井の頭公園 7.00万円(京王井の頭線/東京都三鷹市/15分/0回)
9位 永福町 7.00万円(京王井の頭線/東京都杉並区/2分/0回)
11位 下高井戸 7.10万円(京王線/東京都世田谷区/1分/0回)
11位 千歳烏山 7.10万円(京王線/東京都世田谷区/7分/0回)
11位 西永福 7.10万円(京王井の頭線/東京都杉並区/4分/0回)
14位 経堂 7.20万円(小田急小田原線/東京都世田谷区/13分/1回)
15位 宮の坂 7.30万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/12分/1回)
15位 桜上水 7.30万円(京王線/東京都世田谷区/2分/0回)
15位 高井戸 7.30万円(京王井の頭線/東京都杉並区/8分/0回)

「ハウスメイトショップ渋谷店」店長の山本泰史さんおすすめの駅
ランク外 明大前駅 7.80万円(京王線/東京都世田谷区/0分/0回)
ランク外 千歳烏山駅 7.10万円(京王線/東京都世田谷区/10分/1回)
ランク外 下北沢駅 8.40万円(京王線/東京都世田谷区/1分/0回)

大学名を冠した「明大前駅」周辺は生活する街としても魅力的

東京都内を中心に、4キャンパス・10学部を抱える明治大学。なかでも東京都杉並区にある和泉キャンパスは、主に法学部や商学部といった文系学部の1・2年生が通っている。大学から徒歩5分ほどの最寄駅はその名も「明大前駅」。明治大学予科(当時)が移転してきたのを機に1935年から、この駅名になったのだとか。

明大前駅(写真/PIXTA)

明大前駅(写真/PIXTA)

明大前駅は新宿駅まで京王線の特急で1駅・最短約5分、渋谷駅まで京王井の頭線の急行で2駅・最短約6分という好立地。2022年春のダイヤ改正により京王線特急の停車駅が増えて明大前駅から新宿駅まで2駅になるものの、便利さほど変わらない。駅ビル「フレンテ明大前」が併設され、スーパーや書店、飲食店などがある点も魅力の一つだ。駅周辺は細い路地に沿ってコンビニや100円ショップ、ファストフード店やラーメン店といったリーズナブルな飲食店が建ち並び、学生にも愛用されている。大型の商業施設はなく、駅前から少し離れると住宅街。また、明治大学以外にも日本女子体育大学の付属高校など学校が点在しており、通学時間帯の駅周辺は学生の姿でにぎわっている。

明大前駅周辺で住まい探しをする学生は実際に多く、「ハウスメイトショップ渋谷店」店長の山本泰史さんもイチオシだそう。

「大学生の住まい探しは、キャンパスまでドア・トゥ・ドアで30分以内、もしくは電車で2~3駅圏内がおすすめ。近年は自転車でも通える距離内でお探しになる方が増えています。また、住む街を選ぶ際はアルバイトや部活動など、授業以外の利便性も考慮したいところ。その点、明大前駅は渋谷駅や新宿駅に乗り換えなしでアクセスできて非常に便利。駅前商店街に飲食店も多く、コンパクトながら生活に必要な施設はそろっています」

そんな明大前駅から徒歩15分圏内にある、シングルタイプの賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK。以下同)の家賃相場は7万8000円。便利な街だけあって、学生の一人暮らしにとって安くはない。もう少し家賃相場がお手ごろで魅力的な街として山本さんがおすすめしてくれたのが、今回調査したランキングの11位にも入っている京王線・千歳烏山駅だ。

千歳烏山駅(写真/PIXTA)

千歳烏山駅(写真/PIXTA)

家賃相場は明大前駅より7000円低い7万1000円となっており、「家賃を抑えたい方におすすめです」とのこと。「風情あふれる商店街があり、ドラッグストアや定食屋さんなど日常使いできる店が多数、建ち並んでいます。また、家具や工具を買いたい場合はホームセンターが隣駅の仙川にありますので、カーシェアなどを利用すれば20分程度で行くことが可能です」と山本さん。千歳烏山駅から明大前駅までは、京王線の準特急で1駅・約7分。先ほど述べた2022年春のダイヤ改正で準特急は廃止されるが、特急の停車駅として新たに加わり明大前駅から1駅で行ける点は同様だ。駅前には韓国発のフライドチキン専門店や家系ラーメン店といった若者に人気の飲食店や、昭和レトロな喫茶店、行列のできるベーカリーもある点も魅力だろう。

明大前駅まで乗り換えなし&15分以内の駅でも家賃相場は1万円以上も下がる

続いてランキング上位になった駅も見ていこう。明大前駅まで電車で15分圏内にある、家賃相場が最も安かった駅は京王線・調布駅。家賃相場は6万4000円で、明大前駅より1万4000円も下がる。調布駅は明大前駅と同様に、各駅停車から特急まですべての列車が停車する京王線を代表する駅の一つで、準特急や特急に乗れば約12分で明大前駅に到着する。

調布駅前(写真/PIXTA)

調布駅前(写真/PIXTA)

駅のホームは地下にあり、地上部分には2017年にオープンした駅ビル「トリエ京王調布」が建っている。3館に分かれたこの商業施設には、ファッション店や食品フロア、レストラン、家電量販店に映画館までそろい、日々の買い物から休日の息抜きにまでお役立ち。ほかにも駅周辺には「調布パルコ」をはじめ商業施設が充実し、大いににぎわっている。調布は『ゲゲゲの鬼太郎』の作者・水木しげる氏ゆかりの地でもあり、駅北側の「布多天神社」の参道に連なる「天神通り商店会」には鬼太郎や妖怪たちのモニュメントが点在している点も注目だ。

2位は京王井の頭線・三鷹台駅で家賃相場は6万5000円。明大前駅までは各駅停車で7駅・約13分で行けるほか、若者にも人気の街・吉祥寺駅に2駅・約3分で到着する。駅周辺は線路と沿うように神田川が流れており、川の北側にあるドラッグストアとコンビニの先には立教女学院の敷地と住宅地が広がる。商店が多いのは川と線路の南側。スーパーやコンビニのほか、三鷹台駅前通り沿いの商店街を中心にラーメン店や宅配ピザなどの飲食店も点在している。1駅隣には9位・井の頭公園駅があり、駅名通りに緑豊かな井の頭恩賜公園の最寄り駅なので電車や自転車で足を延ばしてもいいだろう。

三鷹台駅前周辺(写真/PIXTA)

三鷹台駅前周辺(写真/PIXTA)

京王井の頭線・久我山駅も、三鷹台駅と同じ家賃相場6万5000円で2位にランクイン。三鷹台駅から井の頭公園駅とは逆方向、明大前・渋谷方面に1駅進むと久我山駅に到着する。駅舎と一体になったビルには朝から営業しているベーカリーやファミレス、書店があるほか、駅の北側と南側それぞれにスーパーやドラッグストア、コンビニも備わっている。気軽に利用できる持ち帰り弁当店やコーヒーショップにラーメン店、居酒屋もあり、食事には困らないだろう。三鷹台駅前を流れる神田川は久我山駅前にも続いており、川沿いには緑地や「都立高井戸公園」「宮下橋公園」などほっと寛げる場所もある。

流行に敏感な人には、新スポット目白押しの下北沢駅も要チェック!

さて、明治大学の学生が住む街として前出の山本さんはもう1駅、おすすめしてくれた。それは京王井の頭線・下北沢駅。

「バンド、サブカル、古着の聖地。駅前商店街はいつも20代の若者でにぎわっており、学生さんにとても人気がある街です。そのぶん少々、家賃は高いですが……」と話す山本さん。家賃相場を調べてみると8万4000円で、明大前駅よりもアップしてしまう点は確かにネックかもしれない。しかし明大前駅までは京王井の頭線の各駅停車で3駅・約3分、そして渋谷駅までは急行で1駅・約4分、各駅停車でも4駅・7~8分。小田急線も乗り入れているので、通勤急行や快速急行に乗って2駅・約9分で新宿駅にも出られるアクセスのよさが魅力的。

「reload」(写真撮影/相馬ミナ)

「reload」(写真撮影/相馬ミナ)

「BONUS TRACK」(写真撮影/相馬ミナ)

「BONUS TRACK」(写真撮影/相馬ミナ)

下北沢の街自体も山本さんがおすすめするように若者に人気があり、わざわざ遠方から遊びに来る人も少なくない。小田急線の地下化により生まれた線路跡地の開発が進められ、2020年4月には飲食店や物販店、コワーキングスペースなどが立ち並ぶカルチャー発信地「ボーナストラック」ができたほか、2021年6月~9月には下北沢駅と東北沢駅の中間エリアに商業空間「reload(リ・ロード)」や都市型ホテル「MUSTARD HOTEL SHIMOKITAZAWA(マスタードホテル 下北沢)」、エンタメカフェ「ADRIFT(アドリフト)」が相次いで誕生。この線路跡地一帯「下北線路街」では2022年1月にもミニシアターや宿を備えた商業施設が開業予定なので、今後はますます下北沢の注目度が高まりそうだ。話題の施設が集まる刺激的な街で暮らしてプライベートを充実させたい人に、下北沢はうってつけかもしれない。

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●取材協力
ハウスメイトショップ

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている明大前駅まで15分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/8~2021/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2021年10月1日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載

早稲田大学(早稲田キャンパス)学生の一人暮らしにオススメの街2022年! 家賃相場ランキングも

引越しをするタイミングで多いのは、進学や就職など新生活を始めるとき。この春から大学に進学し、初めての一人暮らしをスタートさせる人もいるだろう。そんな新入生や、これから入学を目指す人の参考になるように、今回は早稲田大学・早稲田キャンパスの最寄駅にアクセスしやすく、家賃相場が安い駅を調査。さらに不動産会社の方から、早稲田キャンパスに通う学生が住む街としておすすめの駅について教えてもらった。ではさっそく見ていこう。

早稲田キャンパス最寄駅まで電車で20分以内の家賃相場が安い駅TOP10

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数/到着駅)
1位 小竹向原 6.9万円(東京メトロ副都心線/東京都練馬区/11分/0回/西早稲田(東京メトロ副都心線※以下略))
1位 野方 6.9万円(西武新宿線/東京都中野区/12分/0回/高田馬場(JR・西武新宿線※以下略))
3位 下井草 7万円(西武新宿線/東京都杉並区/15分/1回/高田馬場)
3位 千川 7.0万円(東京メトロ副都心線/東京都豊島区/9分/0回/西早稲田)
5位 都立家政 7.2万円(西武新宿線/東京都中野区/14分/0回/高田馬場)
5位 阿佐ケ谷 7.2万円(JR総武線/東京都杉並区/11分/0回/高田馬場)
7位 東長崎 7.3万円(西武池袋線/東京都豊島区/15分/1回/高田馬場)
7位 沼袋 7.3万円(西武新宿線/東京都中野区/8分/0回/高田馬場)
7位 鷺ノ宮 7.3万円(西武新宿線/東京都中野区/10分/0回/高田馬場)
10位 新桜台 7.35万円(西武有楽町線/東京都練馬区/14分/1回/西早稲田)

「ハウスメイトショップ新宿店」店長の大堀智史さんおすすめの駅
ランク外 和光市 6.50万円(東武東上線/埼玉県和光市/23分/1回/高田馬場(JR・西武新宿線))
ランク外 朝霞台 5.25 万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/27分/1回/高田馬場(JR・西武新宿線))
ランク外 朝霞 5.70万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/26分/1回/高田馬場(JR・西武新宿線))

複数の駅に囲まれた早稲田キャンパス周辺は学生が集う街

2022年に創立140周年を迎える早稲田大学を代表するキャンパスと言えば、国の重要文化財に指定された大隈講堂が建つ東京都新宿区の早稲田キャンパス。6つの学部生が通うキャンパスは、JR山手線と西武新宿線、東京メトロ東西線が通る高田馬場駅から東へ歩いて20分ほど。駅から早稲田キャンパスに向かう通りは「早稲田通り」と呼ばれている。数多くの飲食店に加えて古書店も建ち並んでいる点は、さすが大学お膝元の街といった趣だ。またこの一帯には早稲田大学のほかに学習院女子大学もあるほか、高校や専門学校、学習塾も多いので、学生らしき若者の姿もよく見かける。

早稲田キャンパスのすぐ近くにはサークル活動の拠点である学生会館を備えた戸山キャンパスがあるほか、高田馬場駅から徒歩15分ほどの場所には西早稲田キャンパスも。各キャンパスの近くには東京メトロ東西線・早稲田駅や東京さくらトラム(都電荒川線)早稲田駅、東京メトロ副都心線・西早稲田駅もあり、そちらを利用する学生も少なくない。

そこで今回は高田馬場駅(JR・西武新宿線)をはじめ、早稲田駅(東京メトロ東西線・都電荒川線)、西早稲田駅(東京メトロ副都心線)のいずれかの駅の20分圏内にある駅を調査対象とし、それぞれの駅から徒歩15分圏内にあるシングルタイプの賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK。以下同)の家賃相場が安い駅を順位付けした。その結果が上記のランキングというわけだ。

ちなみに高田馬場駅の家賃相場は8万7000円。同じくキャンパス最寄駅の早稲田駅(東京メトロ東西線・都電荒川線)と西早稲田駅はどちらも8万9000円。都心部だけあり学生にとっては手ごろとは言いがたい金額だが、早稲田大学の学生たちは実際、どんな場所に住んでいるのだろう。早稲田大学の学生にも利用されている、「ハウスメイトショップ新宿店」店長の大堀智史さんにお話を伺った。

「特に早稲田大学の方は、大学周辺で物件を探していらっしゃるように感じます」と話す大堀さん。「どこに住むとよいかは人それぞれで、例えば学業に専念したいなら移動時間を極力減らすために早稲田駅周辺、大学以外にもアクセスしやすいほうがよければJR山手線も通る高田馬場駅周辺や、高田馬場駅まで2駅のターミナル駅・新宿駅周辺などがよいでしょう」。早稲田駅の周辺は高田馬場駅ほどの繁華街ではないので、落ち着いて暮らせる住環境のよさを求める人にもおすすめだそう。

高田馬場駅(写真/PIXTA)

高田馬場駅(写真/PIXTA)

東京メトロ東西線 早稲田駅周辺(写真/PIXTA)

東京メトロ東西線 早稲田駅周辺(写真/PIXTA)

通学時間を短く、家賃も抑えたい場合はランキングがお役立ち

通学時間をなるべく短縮するなら大学の近くに住むのがいいし、実際にそうしている学生も多い様子。とはいえ、広さなどそのほかの条件も加味した家賃が自分の予算と合わなければ、近さだけを重視して住まいを決めるのは難しい。そんな場合は、今回調査した家賃相場が安い駅のランキングを参考にするのもいいだろう。ランキングトップ10の駅は家賃相場が6万円台~7万円台なので、家賃相場が8万円後半だった早稲田キャンパスの徒歩圏内と比べるとだいぶ負担を抑えることができる。

最も家賃相場が低かったのは、東京メトロ副都心線・小竹向原(こたけむかいはら)駅の6万9000円だ。早稲田キャンパスの最寄駅の一つである西早稲田駅までは、5駅・約11分。西早稲田駅に向かう途中には都内屈指の繁華街・池袋駅もあり、遊びに出るにも便利な立地と言える。また、池袋駅からJR山手線に乗り継ぐと、小竹向原駅から計約15分で高田馬場駅に行くことも可能だ。そんな小竹向原駅周辺の様子はというと、大型商業施設はない住宅街。コンビニやドラッグストア、スーパーに100円ショップなどはあるので、日々の暮らしには困らないだろう。気軽に利用できるチェーン系の飲食店はファミレスが1軒ある程度だが、持ち帰り弁当店があるので自炊が面倒なときに役立ちそうだ。

小竹向原駅前(写真/PIXTA)

小竹向原駅前(写真/PIXTA)

小竹向原駅と同じく家賃相場が6万9000円で1位となった、西武新宿線・野方駅は東京都中野区に位置。1駅下り方面に5位の都立家政駅、1駅上り方面には7位の沼袋駅があり、いずれも西武新宿線1本で高田馬場駅に行くことができる。野方駅を出ると北口側の北原通り、南口側の駅前通りをはじめ5つの商店街が続いている。通りに並ぶ商店は飲食店からスーパー、食料品関係の個人商店、雑貨店など約320店! 大学帰りや休日に商店街をめぐるのも楽しそうだ。

野方駅周辺(写真/PIXTA)

野方駅周辺(写真/PIXTA)

トップ10の駅で大学最寄駅までの所要時間が最も短かったのは、東京都中野区にある7位の西武新宿線・沼袋駅で家賃相場は7万3000円。前述の通り1位の野方駅の隣に位置し、高田馬場駅へは4駅・約8分で到着する。沼袋駅周辺の商店は駅北側に多く点在しており、駅前にラーメン店などの飲食店やベーカリー、さらに北へ進むと100円ショップやドラッグストアも。大型スーパーは見当たらないが、小型のスーパーやコンビニはあるので、学生の一人暮らしなら日常生活に必要なものはそろえられそう。駅南口から2分も歩くと、「中野区立平和の森公園」へ。広大な園内は緑豊かで、池や滝のある水辺の広場や草地広場、林間を通るジョギング・ウォーキングコース、バーベキューサイトなどがあるので、友達と遊びに訪れるのもいいだろう。

高田馬場駅から25分前後の東武東上線沿線なら家賃相場は5万円台~6万円台に

トップ10にランクインした駅の家賃相場は早稲田キャンパス周辺に比べると下がってはいる。だけど「さらに安く住める街はないか?」と考える学生もいるだろう。そこで「ハウスメイトショップ新宿店」店長・大堀さんに、家賃を抑えたい人向けのおすすめの街を教えてもらった。

「東武東上線の和光市駅がいいでしょう」と大堀さん。和光市駅から東武東上線で池袋駅に出て、そこからJR山手線に乗れば高田馬場駅までは計約23分で行ける。「東武東上線の急行に加えて快速急行の停車駅でもあり、快速急行なら池袋駅まで1駅・最短約12分です。さらに和光市駅は東京メトロの有楽町線・副都心線の始発駅でもあり、副都心線1本で早稲田大学近くの西早稲田駅までも約24分で到着できます」

和光市駅 南口(写真/PIXTA)

和光市駅 南口(写真/PIXTA)

そんな和光市駅は埼玉県和光市にあり、東京メトロの駅としては最北端かつ最西端に位置している。2020年3月には駅ビル「エキア プレミエ和光」が全館開業した。改札階である地下1階から地上3階にかけてレストランや食料品店、さらにユニクロなど多彩な店舗がずらりと並び、4階~7階部分は「和光市東武ホテル」となっている。また、駅南口には書店やファストフード店などが並ぶ専門店街を併設した「イトーヨーカドー和光店」もあるなど、大型のスーパーも点在している。暮らしやすそうな街並みながら、埼玉県という立地からか家賃相場は6万5000円。ランキングトップ10の駅と比べてもだいぶリーズナブルになっている。

さらに家賃を抑えたい人に向け、大堀さんは和光市駅と同じ東武東上線の沿線で、埼玉県朝霞市にある朝霞台駅と朝霞駅もおすすめしてくれた。

朝霞台駅は東武東上線の急行停車駅で、家賃相場は5万2500円。「急行なら池袋駅まで3駅、最短約17分で到着。東京メトロ副都心線直通の東武東上線に乗れば、乗り換えせずに西早稲田駅まで約32分で行くことができます」と話す大堀さん。また、「朝霞台駅の駅前ロータリーをはさんでJR武蔵野線の北朝霞駅があり、2つの路線を利用できる点も便利ですよ」とのこと。高田馬場駅までは池袋駅からJR山手線に乗り換え、計約27分で行ける。朝霞台駅は改札前コンコースにファストフード店やベーカリー、書店などがあり、駅前には複数のコンビニや気軽に入れる飲食店も。すぐ近くにスーパーもあるので、日常の買い物には困らない環境だ。池袋など都内へのアクセスのよさから、首都圏のベッドタウンとして人口を増やしている。

北朝霞・朝霞台駅 駅前広場(写真/PIXTA)

北朝霞・朝霞台駅 駅前広場(写真/PIXTA)

朝霞駅は朝霞台駅の隣に位置しており、家賃相場は5万7000円。「こちらは準急が利用でき、池袋駅まで3駅・最短約16分です」と大堀さん。朝霞台駅と同様に池袋駅で乗り換えて、高田馬場駅までは約26分。また、副都心線直通の東武東上線に乗ると、西早稲田駅まで約28分だ。朝霞駅には駅ビル「エキア朝霞」が併設されており、ラーメン店やハンバーガー店、カフェといった飲食店に、服飾雑貨店、書店やドラッグストアなど23店舗が利用できる。駅前にも複数の飲食店が点在するほか、安さを売りにしたスーパーもあるのは自炊派で食費を節約したい人にもうれしいポイントだろう。

朝霞駅 南口(写真/PIXTA)

朝霞駅 南口(写真/PIXTA)

大堀さんおすすめの3つの駅は高田馬場駅まで25分前後ほど離れている半面、家賃相場は5万円台~6万円台におさまっている。一方で早稲田キャンパスの徒歩圏内にある、高田馬場駅や早稲田駅、西早稲田駅は家賃相場が8万円後半だ。そして今回調査したランキングトップ10の駅は高田馬場駅まで20分以内、家賃相場は6万円台~7万円台前半という結果だった。都心にあるキャンパスに近いと家賃は高く、離れると安くなるものの通学に時間と費用がかかる、と一長一短である。冒頭で大堀さんがアドバイスしてくれた通り、「どこに住むとよいかは人それぞれ」。何よりも通学時間が短いことを重視するか、家賃の安さをとるか……。まずは自分がどんな学生生活を送りたいのかをよく考えてから、住む街を選ぶことが大切だろう。

●取材協力
ハウスメイトショップ

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている高田馬場駅、西早稲田駅、早稲田駅(メトロ、都電)まで20分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/8~2021/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※早稲田駅については、メトロ、都電を最寄りとする物件両方の中央値を掲載しています
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2021年10月30日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載

「ひばりが丘団地」50年の歴史に新展開! マルシェなど住民主体の新しいエリアマネジメント

高度経済成長期に建設された団地の建て替えが続くなか、旧ひばりが丘団地エリア(東京都西東京市/東久留米市)でのUR都市機構(以下、UR)と民間事業者間の垣根を超えた住民主体のエリアマネジメントに注目が集まっています。まちづくりからエリアマネジメントまで取組む日本初の事例として団地再生事業を機にスタート、2014年にエリアマネジメント組織「(一社)まちにわ ひばりが丘」(以下、まちにわ)が発足し、関係事業者でエリアマネジメントを実施してきましたが、2020年6月末からは活動主体が住民主体に移行しました。
2014年から今まで、特に住民主体になってからの様子について、ひばりが丘のエリアマネジメントをリードしてきた「まちにわ」の岩穴口康次(いわなぐち・こうじ)さん、若尾健太郎さん、渡邉篤子さんにお話を聞きました。

「街全体ににぎわいを」と複数のスポットでイベント開催団地の西側、「ひばりテラス118」脇の公園では「にわマルシェ」が開催された(写真撮影/片山貴博)

団地の西側、「ひばりテラス118」脇の公園では「にわマルシェ」が開催された(写真撮影/片山貴博)

2021年12月11日と12日、ひばりが丘パークヒルズ(建て替え後の団地名称)では「STAY HIBARI(ステイひばり)」というイベントが行われました。もともと33.9ha、184棟もの公団住宅が立っていた広大な敷地。団地内の北集会所エリア、南集会所エリア、5番街広場、ひばりテラス118エリアの4カ所それぞれでマルシェやフリーマーケット、ボーネルンド社の提供する屋外の遊び場「PLAY BUS(プレイバス)」などが展開されたのです。その中の1つ「にわマルシェ」をステイひばりの主催者であるURとともに企画・運営したのが住民主体のエリアマネジメント組織、まちにわです。

2日間で飲食店やハンドメイド雑貨を扱う店など約30店が出店(写真撮影/片山貴博)

2日間で飲食店やハンドメイド雑貨を扱う店など約30店が出店(写真撮影/片山貴博)

団地の南集会所近くにはキッチンカーが出現(写真撮影/片山貴博)

団地の南集会所近くにはキッチンカーが出現(写真撮影/片山貴博)

マルシェのほか、集会所内では団地自治会が主催する親子で楽しめる「むかしあそび」コーナーも(写真撮影/片山貴博)

マルシェのほか、集会所内では団地自治会が主催する親子で楽しめる「むかしあそび」コーナーも(写真撮影/片山貴博)

青空の下、数々の商品が広げられたマルシェやフリーマーケット、広大な芝生の上に現れた遊び場には、子ども連れの家族を中心に多くの人びとが集まっていました。また各スポットを巡るスタンプラリーが行われ、団地内を回遊する子どもたちの姿を目にすることができました。

当日、団地の北集会所前で開催されたフリーマーケット「たんぽぽマーケット」の様子(写真撮影/片山貴博)

当日、団地の北集会所前で開催されたフリーマーケット「たんぽぽマーケット」の様子(写真撮影/片山貴博)

団地中央に広大な芝生が広がる5番街広場ではボーネルンド社の「PLAY BUS(プレイバス)」の遊具に多くの家族連れが集まった(写真提供/UR都市機構)

団地中央に広大な芝生が広がる5番街広場ではボーネルンド社の「PLAY BUS(プレイバス)」の遊具に多くの家族連れが集まった(写真提供/UR都市機構)

ひばりが丘団地は近年、どう変わった?

ひばりが丘団地は、約60年前の1959年、東京都市圏の住宅難に対応するため、全184棟、2714戸を有する首都圏初の大規模住宅団地として建設されました。建設から数十年の歳月を経て、緑豊かな団地へと成長した一方で、生活スタイル・居住者ニーズの変化への対応が求められるようになりました。そこで、URは1999年から団地の再生事業に着手したのです。

1960年代のひばりが丘団地の空撮画像(資料提供/UR都市機構)

1960年代のひばりが丘団地の空撮画像(資料提供/UR都市機構)

江戸東京博物館で復元展示されたひばりが丘団地の一室(資料提供/UR都市機構)

江戸東京博物館で復元展示されたひばりが丘団地の一室(資料提供/UR都市機構)

4階建てと2階建てだった団地の建物を高層化して建て替えたことで生まれた広大な土地には、高齢者や子育てを支援する公共公益施設を誘致した他、約7haは、民間の事業者に住宅を整備してもらうことにしました。その際、URと民間事業者の開発エリアが分断されることがないように、開発からエリアマネジメントまで継続的にまちづくりを進めるため、URで初めて取り入れられたのが「事業パートナー方式」です。エリア全体の価値を向上させるために、URと連携・協議しながら開発を進められる民間事業者を募ったのです。

開発後(2017年)のひばりが丘団地の土地利用状況(資料提供/UR都市機構)

開発後(2017年)のひばりが丘団地の土地利用状況(資料提供/UR都市機構)

この街はURの建物と民間事業者の開発した建物が混在する形で美しく整備されており、一見してどちらの建物かは素人目には簡単に判別できません。民間事業者の発想・ノウハウを活用しながら、調和したまちづくりを目指したというURの意図がしっかりと反映された結果と言っていいでしょう。

左手前がUR、右手側が民間事業者の集合住宅。エリア全体で一体感が出るように調和が図られている(写真提供/UR都市機構)

左手前がUR、右手側が民間事業者の集合住宅。エリア全体で一体感が出るように調和が図られている(写真提供/UR都市機構)

ランドマークとして残された当時の建物も

建て替えによって誕生したURの新しい賃貸住宅は、「ひばりが丘パークヒルズ」と名付けられました。近年のライフスタイル・ライフステージに合わせて選択できる広さや間取りの住宅は全部で1504戸、30棟に。ペットと快適に暮らせるよう、足洗い場やエレベーターにペットボタンなどを設けたペット共生住宅も1棟あります。

ひばりが丘パークヒルズ一帯の様子(写真撮影/片山貴博)

ひばりが丘パークヒルズ一帯の様子(写真撮影/片山貴博)

一方で、ひばりが丘団地の団地再生にあたっては、古い建物を全て解体して建て替えるのではなく、歴史を継承し、資源を有効活用する観点から、3つの異なるタイプの住棟を1棟ずつ残す形で活用が図られています。

例えば、三方に広がる星型の形状をした「スターハウス」は、管理サービス事務所として使用。前面の広場には上皇ご夫妻が皇太子・皇太子妃時代に訪問したバルコニーが移設され、ウッドデッキと一緒にメモリアル広場として整備されました。

上空から見ると星型をした「スターハウス」は団地のシンボル。写真右下に見えるバルコニーや広場は、当時の皇太子ご夫妻が立ったバルコニーを移設してメモリアル広場としたもの(写真撮影/片山貴博)

上空から見ると星型をした「スターハウス」は団地のシンボル。写真右下に見えるバルコニーや広場は、当時の皇太子ご夫妻が立ったバルコニーを移設してメモリアル広場としたもの(写真撮影/片山貴博)

また、「にわマルシェ」の舞台となった「ひばりテラス118」はもともと6世帯が住むことができた長屋形式の2階建て住宅(テラスハウス)。リノベーションされたこの建物は、現在、カフェやコミュニティースペース、お花屋さんや近隣で創作活動を行う作家が作品を販売するシェアスペースになっています。

「ひばりテラス118」は長屋形式のテラスハウスだった旧118号棟をエリアマネジメントセンターとしてリノベーション(写真撮影/片山貴博)

「ひばりテラス118」は長屋形式のテラスハウスだった旧118号棟をエリアマネジメントセンターとしてリノベーション(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

2014年から本格的にスタートしたひばりが丘団地の「エリアマネジメント」

さらにURが開発計画を練るなかで、注力したポイントが「エリアマネジメントの推進」でした。地域の環境やエリア全体の価値向上に向けて住民が主体的に取り組む組織をつくるため、事業パートナーと共にエリアマネジメントの仕組みを考え、2014年に「一般社団法人まちにわ ひばりが丘」を設立したのです。

現在、事務局長を務める若尾さんは、設立当初から関わってきました。「当時の事務局長が人を巻き込むのが上手な人で、イベントに参加しているうちに手伝うように言われて運営側にまわるようになった」(若尾さん)のだそう。代表理事の岩穴口さん、スタッフの渡邉さんも最初はボランティアとして2015年ごろからまちにわの活動に参加するようになりました。

以来、地域の文化祭的なイベント「にわジャム」や、ハンドメイド雑貨とフード・ドリンクを提供するお店が集まる「にわマルシェ」といったイベント、講座・サークル活動などを定期的に行ってきました。そしてコロナ禍でイベントの開催が難しくなった最中の2020年、それまでは民間の開発事業者と開発街区の各管理組合を正会員として運営してきたまちにわは、住民主体の組織へと生まれ変わったのです。既存のUR賃貸住宅の自治会や地域の関係者とは、設立当初から連携して活動しています。

住民主体になる前、2017年のまちにわの組織図。正会員は開発事業者と地域住民からなり、理事会は開発事業者の社員で構成、UR職員が監事を務めていた。(資料提供/UR都市機構)

住民主体になる前、2017年のまちにわの組織図。正会員は開発事業者と地域住民からなり、理事会は開発事業者の社員で構成、UR職員が監事を務めていた。(資料提供/UR都市機構)

コロナ禍を経て、住民主体のエリアマネジメント組織へ

「まちにわは、もともと設立後5年を目処に住民主体の組織となることを目指して設立されたので、組織変更は決まっていたのです。予定外だったのは新型コロナウィルス感染症の流行・拡大。当初から人と人との接点をどうつくっていくか、ということを目的に活動してきた中で、接すること自体がNGになり、戸惑いもありました。
コロナ以後の2年間はイベント等の開催ができなくなり、それまでの5年間で培ってきたつながりをどうつなぎとめていくか、ということを一生懸命に考えてきました」(岩穴口さん)

2018年には2~3カ月に1回の頻度で開催していたマルシェも、2019年の緊急事態宣言発令以後は中止に。2020年は10月下旬から12月中旬まで9週間、毎週末の土日に芝生入口にゲートを設け、3~4店舗ずつ、入場制限を行いながら開催したそう。

今回、URが主催する「STAY HIBARI(ステイひばり)」と同時開催された「にわマルシェ」は1年ぶりの開催。「URと調整しながら一緒に企画・開催できたことが嬉しい」(岩穴口さん)と語る(写真撮影/片山貴博)

今回、URが主催する「STAY HIBARI(ステイひばり)」と同時開催された「にわマルシェ」は1年ぶりの開催。「URと調整しながら一緒に企画・開催できたことが嬉しい」(岩穴口さん)と語る(写真撮影/片山貴博)

「ひばりが丘のエリアマネジメントに主体的に関わる人(まちにわ師)を育てる『まちにわ師養成講座』の開催なども経て、住民が自ら何かをやる空気が少しずつできていました。例えば『ひばりンピック』というスポーツ大会を住民発のイベントとして開催しようと準備していました。結果的にはコロナで開催中止となってしまいましたが、住民が発案したものを実行に移せる土壌が整ったのです」(渡邉さん)

「まちにわ師養成講座」の様子(写真提供/UR都市機構)

「まちにわ師養成講座」の様子(写真提供/UR都市機構)

他にも、住民がつくった「まちにわ組」というLINEのオープンチャットには、現在110人ほどが登録しているそう。誰でも入れて、個人アカウントを明かさなくても入れるが、「いざというときのためにも、できれば本名で登録してほしい」と投げかけています。

「先日、地震があったときにもオープンチャット内で頻繁にやりとりがありました。『インターネットがつながらない』『ガスが止まりました。どうしたらいいですか』といったSOSに対し、詳しい人が具体的な解決方法を示してくれました。普段は『この店おいしいよ』という、他愛ないコミュニケーションにも使われています」(若尾さん)

今後まちにわでは、LINE等がうまく使えない人のために、スマホ講座なども企画しているそうです。

住民の「やりたいこと」を支援する場所として

このような広がりを受け、岩穴口さんは「これまではまちにわが水先案内人として先導する役目だったが、これからは住民の方がやりたいことを後押し、支援をしていく立場へと変わっていく」と言います。

「僕たちが施す、ということではなく、やりたい人たちができる場所を用意する、ということに主眼を置きつつあります。少しずつコロナとの付き合い方が見えてきて、今後リアルなつながりが増えてくると思いますし、やはり『つながりづくり』を重視したい。

一方で、一部の人だけが集まる状態では、他の方を阻害してしまうことになりかねません。これまでは新しいマンションの住人に向けての取り組みが多かったのですが、今後は高齢者の方も含めて、どのように取り組んでいくか、そのバランスが重要だと思います。社会問題はこれからもどんどん出てくると思うので」(岩穴口さん)

2019年まで、3000人を超える人が集まるバルやマルシェを出店した「にわジャム」は今年、オンライン形式でつながりづくりを意識した交流会やワークショップを実施(写真提供/UR都市機構)

2019年まで、3000人を超える人が集まるバルやマルシェを出店した「にわジャム」は今年、オンライン形式でつながりづくりを意識した交流会やワークショップを実施(写真提供/UR都市機構)

(写真提供/UR都市機構)

(写真提供/UR都市機構)

実際に、昔から住まわれているUR賃貸住宅の自治会から「まちにわと一緒に取り組みを考えさせてほしい」といった連携のオファーも出てきたのだそう。

「僕たちは昔のひばりが丘団地エリアで民間事業者が開発したマンションに住む各世帯から月300円をいただいて運営をしています。その対価をどういう風に提供していくか、それは常に考えるべきことです。子育て世帯、高齢者と、世代も異なる全ての人が、小さな取り組み一つひとつに全て賛成をしてくれるという状態は現実的にはありえません。ただ、まちにわの大きな世界観に共感してもらい、まち全体がよくなっていくことを一緒に目指せればいい。そのためにコンセプト、ビジョン、ミッションといったものを共有できるよう常に発信しています」(若尾さん)

今回お話を聞かせてくれたまちにわ事務局長の若尾健太郎さん(左)、代表理事の岩穴口康次さん(中央)、渡邉篤子さん(右)(写真撮影/片山貴博)

今回お話を聞かせてくれたまちにわ事務局長の若尾健太郎さん(左)、代表理事の岩穴口康次さん(中央)、渡邉篤子さん(右)(写真撮影/片山貴博)

「普段は楽しく、いざというとき助け合える」がまちにわのコンセプトだそう。普段から住民の「やりたいこと」を支援しながら、付き合いのある関係、顔が見える関係を築いておくことで、非常時の助け合いにもつながる、という考えがそこにはあります。

「みんなで情報共有しながら、つくり上げる過程こそが面白い」と言う若尾さんの言葉通り、人と人とのつながりこそが、まちが生む最大の価値なのかもしれません。

●取材協力
・UR都市機構
・一般社団法人まちにわ ひばりが丘

京都らしい街並みが消えていく…。1年に800件滅失する京町家に救世主?

古都・京都の風情を残す「京町家」。 筆者もある種の憧れを感じてきたが、このたび「京町家等の不動産情報ポータルサイトが公開された」という報道を見て、そのサイトをのぞいてみた。そこには、実際に賃借や購入ができる京町家の物件情報に加え、京町家を活用した事例の紹介もされていた。このサイトを見ているだけでも面白いのだが、サイト公開に至る経緯などの詳しい話を聞きに行くことにした。

1日に2軒の京町家がなくなっている!京町家を保全する活動が盛んに

ポータルサイトの名前は、「MATCH YA(マッチヤ)」だ。 文化的価値を持つ京町家や古民家、近代和風住宅などの歴史的建造物に特化して、マッチングのための“不動産情報”や活用したい企業や起業家の参考になる“活用事例”が紹介されている。運営するのは、経済、不動産、建築、金融、法律、市民活動、行政の団体で構成され、所有者や居住者と協力して京町家などの保全・継承を担う「京町家等継承ネット」(事務局:公益財団法人京都市景観・まちづくりセンター)だ。

今回、取材に対応していただいたのは、事務局の京都市景観・まちづくりセンター(以下、まちセン)の西井明里さん、網野正観さん、京町家等継承ネットに協力する株式会社フラット・エージェンシーの寺田敏紀さん、浜田幸夫さんの4名だ。

「MATCH YA」公開に至る経緯には、いくつか要因がある。

直近の要因は、新型コロナウイルスの影響だ。京町家への関心は、日本全国あるいは海外へと広がっているが、コロナ下でテレワークが普及したり、京都への来訪が難しくなったりしたことで、インターネットを活用した京町家の物件や活用事例の紹介の重要性が高まった。

そして、より根源的な要因は、京町家が年々減少していることだ。京都市が行った2016(平成28)年の調査によると、その時点の京町家は約4万軒(うち約5800軒が空き家)あり、7年前と比べて約5600軒の京町家が滅失しているという。1日当たり2軒が取り壊された計算になり、空き家率も高まっている。

京町家は建物や街並みというだけでなく、京都の生活文化を残すものでもある。京町家には、京都の暮らしの文化、建築が持つ空間の文化、職住共存を基本として発展してきたまちづくりの文化が息づいている。そこで、20年ほど前から京町家を残そうという活動が盛んになるが、「MATCH YA」開設も、この京町家の保全・継承を目指すビッグプロジェクトの取り組みの一つにすぎなかった。

20年以上にわたる「京町家を残そう」という活動

「MATCH YA」を運営する「京町家等継承ネット」の事務局であるまちセンは、住民・企業・行政が連携してまちづくりを推進する橋渡しをしようと、1997年に設立した。京町家が街から姿を消していく現状を目の当たりにして、2001年から「京町家なんでも相談」を、2005年から「京町家まちづくりファンド」を始めた。

ちなみに、今回の取材場所として指定されたのは、取材時点で「MATCH YA」に賃貸物件として掲載されていた京町家だ。ここは、京町家なんでも相談に所有者が改修の相談に来て、「京町家まちづくりファンド」で外観改修助成を行った物件だという。地道で長期的な活動が、成果を生んでいる事例ということだろう。

取材場所になった「元カフェの町家」。かつて豆腐屋として建てられた名残である、大きな土間が特徴(筆者撮影)

取材場所になった「元カフェの町家」。かつて豆腐屋として建てられた名残である、大きな土間が特徴(筆者撮影)

京都市も、京町家の保全・継承に本腰を入れるようになる。2007年に「京町家耐震改修助成制度」を設け、2012年には「京都市伝統的な木造建築物の保存及び活用に関する条例」を制定し、2013年には新たに鉄筋コンクリート造等の非木造建築物も対象に加え、名称も「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」に改正した。さらに2017年に「京都市京町家の保全及び継承に関する条例(京町家条例)」を制定した。

こうしたなか、2014年にはまちセンを事務局として「京町家等継承ネット」が設立された。京町家の保全継承には、公的な支援制度も必要なうえ、伝統技術の継承、法律等の専門知識、改修費用のための金融支援、利活用を促す市場流通のための不動産業の協力や経済界の支援など、幅広い領域のサポートが不可欠であることから、31の関係団体が会員となったネットワークで京町家の継承に当たろうという組織だ。

「京町家を守りたい」という京都の“ホンキ度”がすごい!

実は、筆者自身も東京で、歴史ある建物の保全活動をする団体の会員になっている。ただし、とてつもなく高いハードルを感じている。歴史ある建物を保全しようとすると、安全性や意匠性を担保するための改修費用がかなり掛かり、建て替えた方が安く済むということが多い。たとえ所有者が愛着ある建物を保全したいと思っても、次の代に相続が発生すると、相続人たちの話し合いで売却されてしまうことも多い。行政側も、よほど著名な建築家が設計したり著名な人が住んでいたりしない限り、保全に動くことは少ない。

ところが、京町家の場合は、行政も含めて、あの手この手で可能な手を打ち続けている。保全継承の“ホンキ度”がハンパないと感じた。たとえば、京都市ではすでに紹介したように、現実的に京町家の保全継承を支援する条例を定めている。

まず、京町家であるという認識がなく、単なる古い家と思っている所有者も多い。そこで、条例で京町家について定義をした。
〇京町家の主な定義
築年:昭和25年以前に建築
構造:伝統的な構造で建てられた、平入り屋根の木造一戸建て(長屋建て含)など
形態・意匠:通り庭、火袋、通り庇などの京町家特有の形態を1つ以上有すること

典型的な京町家の改修事例

釜座町町家の改修事例(画像提供:京町家等継承ネット)

釜座町町家の改修事例(画像提供:京町家等継承ネット)

また、京町家条例では京町家を個別にあるいは地区を指定して、保全継承のために相談対応や補助金などの支援をする一方で、解体をする場合は着手する1年前までに届け出をすることを定めている。解体までに保全継承の手立てはないかを検討する時間が1年生じることで、保全継承につなげたい狙いだ。

一方、条例で法律の制限を緩和する策を講じた。建築基準法が制定された昭和25年より前の伝統的な構造で建てられた家は、建築基準法に合致していない。こうした家を増築したり、住宅から飲食店や宿泊施設などに変更したりすると、現行の建築基準法に適合させなければならない。となると、壁や筋交いなどの構造材を補強するなどで、京町家らしい文化的な意匠や形態を保全することができない事例も出てくる。

そのため、景観的・文化的に特に重要なものとして位置付けられた建築物について、建築物の安全性の維持向上を図ることにより、建築基準法の適用を除外して、改修が行えるようになった。2017年からは、「包括同意基準」(一定の構造規模・安全基準・維持管理の方法の基準からなる技術的基準)を制定して、一般的な京町家の改修手続きの簡素化なども図っている。

京都では、京都市内の京町家の調査を継続して行っている。調査によって、典型的な京町家だけでなく、長屋や看板建築などの見た目ではそうとはわかりづらい京町家の存在も明らかになった。京都市と立命館大学、まちセンが2008・2009年度に実施した大規模調査では、専門調査員とボランティアの市民調査員が、京都市内の約5万軒の京町家について外観調査とアンケート調査を行い、京町家の実態を把握した。2016年にも追跡調査により、京町家の滅失状況などを捕捉している。

京町家まちづくりファンドの改修前後の事例(画像提供:京町家等継承ネット)

京町家まちづくりファンドの改修前後の事例(画像提供:京町家等継承ネット)

また、まちセンでは京町家の価値を客観的に把握してもらうために、文化的価値や建物の基礎情報などをまとめた「京町家カルテ」などの作成等も行っている。

京町家を「保全継承したい人」と「活用したい人」をマッチング

しかし、このように行政・民間を問わず京町家の保全継承に取り組んでいるとはいえ、個々の京町家の所有者が補助金等の支援を受けて改修工事を実施し、自ら活用者を探すことは難しい。所有者の相談などに応じて、活用計画を立てて活用してくれる人を探してくれる存在が必要だ。

そこで、京都市やまちセンでは、「マッチング制度」によって、不動産会社などの登録団体が活用の提案や助言をする仕組みを整えている。

改修費用についても、公的な補助制度のほか、地元不動産会社の働きかけなどにより地元金融機関において京町家向けのローンが提供されたり、賃貸の場合に所有者(貸主)と活用事業者(借主)の費用分担で、借主が全額負担して家賃を低減する方法なども提案している。

冒頭のポータルサイト「MATCH YA」は、こうしたマッチングの取り組みのひとつでもある。同サイトに京町家の掲載を依頼できるのは、事前に登録した不動産会社のみで、申請された物件をさらにまちセンで「MATCH YA」の要件に合うかどうか審査したうえで物件情報として掲載するなど、厳しい運用をしている。京町家に興味のある個人だけでなく、店舗やオフィスなどとして活用したい企業にもアピールしたいとしている。

京町家の保全継承とひとくちにいっても、所有者だけではなく、多方面の専門家の知恵を絞らないと実現できない。京町家の保全継承には生活スタイルに合わせた改修が不可欠だが、取材時に「京町家を健全に改修する」という言葉を何度か聞いた。建築基準法のような同じルールに従うのではなく、個別の京町家の構造体がどんな状態か把握し、伝統的な構造に適した耐震補強や意匠を保持しながら防火性能を高める方法を検討して、京町家として健全に改修をすることで、こうした改修技術を引き上げることも必要となる。多方面での地道な努力によって、ようやく京町家の保全継承が実現するというわけだ。

とはいえ、京町家はあくまで個人の所有財産だ。所有者側に京町家を保全継承しようというマインドや環境が整わなければ、実現するには至らない。ここまであの手この手を尽くしても、残念ながら滅失してしまう京町家も相当数あるだろう。

京町家の長い奥行きの敷地を生かした通り庭や奥庭、大戸、出格子など季節を取り込む工夫や独特のデザインは、ぜひ守ってほしいと思うが、所有者や関係者だけで保全継承を担うのは難しい。ファンドに寄付をしたり活用に手を挙げたりなど、多くの人たちが京町家の保全継承に長く関心を払うことが大切だろう。

●関連サイト
京都市、京町家等の不動産情報ポータルサイトの公開について
「MATCH YA」未来と町家をマッチするポータルサイト
京町家等継承ネット

慶應義塾大学(日吉&三田キャンパス)学生の一人暮らしにオススメの街2022年! 家賃相場ランキングも

間もなく訪れる新年度より、大学進学を機に慣れない土地での生活が始まる人も多いはず。そんな人の参考になるように、今回は慶應義塾大学で学部数の多い三田キャンパスと日吉キャンパスに通いやすく、家賃相場が安い駅を調査! 各キャンパスの最寄駅である田町駅、三田駅、赤羽橋駅いずれかまで電車で20分圏内、日吉駅まで電車で15分圏内に位置し、家賃相場が安い駅のランキングをご紹介する。さらに、不動産会社の方に聞いた各キャンパス周辺にある学生が住む街としておすすめの駅についても見ていこう。

三田キャンパス最寄り:田町駅、三田駅、赤羽橋駅いずれかまで20分以内の家賃相場が安い駅TOP20

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数/到着駅)
1位 昭和島 7.2万円(東京モノレール/東京都大田区/19分/1回/田町(JR山手線・京浜東北線※以下略))
2位 流通センター 7.8万円(東京モノレール/東京都大田区/18分/1回/田町)
3位 大森町 8.1万円(京浜急行本線/東京都大田区/18分/1回/三田(都営地下鉄浅草線・三田線※以下略)
4位 平和島 8.2万円(京浜急行本線/東京都大田区/13分/0回/三田)
4位 武蔵小杉 8.2万円(JR横須賀線/神奈川県川崎市中原区/18分/1回/田町)
6位 川崎 8.25万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市川崎区/16分/1回/田町)
7位 大岡山 8.3万円(東急目黒線/東京都大田区/16分/0回/三田)
7位 田園調布 8.3万円(東急目黒線/東京都大田区/20分/0回/三田)
9位 梅屋敷 8.35万円(京浜急行本線/東京都大田区/19分/1回/三田)
10位 洗足 8.4万円(東急目黒線/東京都目黒区/16分/0回/三田)
10位 糀谷 8.4万円(京浜急行空港線/東京都大田区/20分/0回/三田)
12位 西馬込 8.5万円(都営浅草線/東京都大田区/14分/0回/三田)
12位 馬込 8.5万円(都営浅草線/東京都大田区/12分/0回/三田)
14位 旗の台 8.51万円(東急大井町線/東京都品川区/18分/1回/田町)
15位 中延 8.6万円(都営浅草線/東京都品川区/11分/0回/三田)
15位 緑が丘 8.6万円(東急大井町線/東京都目黒区/17分/1回/三田)
15位 荏原町 8.6万円(東急大井町線/東京都品川区/18分/1回/田町)
18位 大森 8.7万円(JR京浜東北・根岸線/東京都大田区/10分/0回/田町)
18位 戸越公園 8.7万円(東急大井町線/東京都品川区/15分/1回/田町)
18位 西大井 8.7万円(JR横須賀線/東京都品川区/12分/1回/田町)

「ハウスメイトショップ目黒店」の須田さんオススメの駅
10位 洗足
15位 中延
ランク外 武蔵小山 9.0万円(東急目黒線/東京都品川区/11分/0回/三田)

日吉キャンパス最寄り:日吉駅まで15分以内の家賃相場が安い駅TOP15(16駅)

順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 白楽 5.7万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/11分/0回)
2位 高田 5.9万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/5分/0回)
3位 妙蓮寺 6.0万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/9分/0回)
3位 東白楽 6.0万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/13分/0回)
5位 大口 6.3万円(JR横浜線/神奈川県横浜市神奈川区/13分/1回)
6位 日吉本町 6.4万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/2分/0回)
7位 大倉山 6.5万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/4分/0回)
7位 日吉 6.5万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/0分/0回)
7位 東山田 6.5万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市都筑区/7分/0回)
7位 菊名 6.5万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/5分/0回)
11位 小机 6.55万円(JR横浜線/神奈川県横浜市港北区/14分/1回)
12位 綱島 6.9万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/1分/0回)
13位 元住吉 7.0万円(東急東横線/神奈川県川崎市中原区/1分/0回)
14位 中川 7.13万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市都筑区/15分/1回)
15位 平間 7.2万円(JR南武線/神奈川県川崎市中原区/11分/1回)
15位 武蔵新城 7.2万円(JR南武線/神奈川県川崎市中原区/12分/1回)

「ハウスメイトショップ目黒店」の須田さんオススメの駅
12位 綱島
13位 元住吉
ランク外 武蔵小杉 8.2万円(東急東横線/神奈川県川崎市中原区/3分/0回)

慶應義塾大学を代表する2つのキャンパス周辺の環境&家賃相場は?

慶應義塾大学の主なキャンパスといえば、多くの学部の1・2年生が通う日吉キャンパスと、同様に複数の学部の2~4年生や大学院生が通う三田キャンパス。特に東京都港区にある三田キャンパスは慶應義塾の原点といえる地だ。最寄駅である田町駅にはJRの山手線や京浜東北・根岸線が乗り入れており、駅周辺はビジネス街として発展。駅から大学へと向かう通り一帯はリーズナブルな飲食店がひしめく学生街としても愛されている。田町駅のすぐ近くには都営三田線と浅草線が通る三田駅が位置。キャンパスから北へ徒歩8分ほどの場所にある都営大江戸線・赤羽橋とあわせて、この3駅が主に大学の最寄駅として利用されている。

田町駅前(写真/PIXTA)

田町駅前(写真/PIXTA)

三田駅(写真/PIXTA)

三田駅(写真/PIXTA)

赤羽橋駅周辺(写真/PIXTA)

赤羽橋駅周辺(写真/PIXTA)

そんな田町駅周辺のシングルタイプの賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK。駅から徒歩15分圏内。以下同)の家賃相場は11万1000円、三田駅の家賃相場は11万3000円、赤羽橋駅の家賃相場は12万2000円。大学への通いやすさなら最寄駅周辺に住むのが一番だろうが、学生にとってこの家賃相場は相当高めに思える。実際、今回お話をうかがった「ハウスメイトショップ目黒店」の須田さんによると、「徒歩で通える三田周辺は家賃が高めのため、電車を使ってドア・トゥ・ドアでキャンパスまで30分以内にある物件を探す方が多い印象です」とのこと。上記ランキングで記載している所要時間は「電車の乗車時間(乗り換え時間含む)」であり「物件~駅~大学間の所要時間」は含まないので、その点は物件探しの際に考慮したい。とはいえ家賃相場に注目するとトップ20の駅は7万円台~8万円台で、田町駅や三田駅、赤羽橋の周辺よりも2万5000円~5万円ほど費用をおさえることが可能だ。

慶應義塾大学 日吉キャンパス(写真/PIXTA)

慶應義塾大学 日吉キャンパス(写真/PIXTA)

神奈川県横浜市港北区に位置する日吉キャンパスの最寄駅は、東急東横線と東急目黒線、横浜市営地下鉄グリーンラインが乗り入れている日吉駅。駅を出るとまず見事なイチョウ並木に目を奪われる。この並木沿いを進むと敷地面積約10万坪という広大なキャンパスにたどり着く。駅周辺にはにぎやかな商店街があり、学生が日常使いできる飲食店も多彩。駅直結の「日吉東急アベニュー」には食料品店からユニクロなどの服飾・雑貨店、家電量販店までそろっており、日常生活に必要な買い物はすべて駅周辺でまかなえそうだ。駅前の商店街を抜けると静かな住宅地が広がっており、住む街としても魅力的だ。

日吉駅周辺(写真/PIXTA)

日吉駅周辺(写真/PIXTA)

7位にランクインし、起点駅でもある日吉駅周辺の学生向け賃貸物件の家賃相場は6万5000円。都心に位置する三田キャンパスに比べれば、学生にも手が届きやすい価格帯だろう。実際、「日吉駅もしくは、近隣駅の徒歩圏内で探される学生が多いですね」と「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」店長の高橋良平さん。日吉キャンパスは単位取得のため学校に行く機会が多い1・2年生時に通う人が多いので、特にキャンパスへの近さが重視されるようだ。

高橋さんは「近すぎると友人のたまり場になり、遠すぎると通うのが面倒になるので、学校から20分ほどの範囲で探すのもいいですよ」とアドバイスをくれた。友達と過ごすばかりでなく一人の時間も大事にしたいタイプや、大学がある街以外での生活も楽しみたいなら、最寄駅とは別の場所に住むのがいいかもしれない。

とにかく家賃が安いことを望むなら、駅からの距離や広さを妥協するのもよいだろう。しかし一度住まいを決めたらそう簡単には引越しするわけにもいかないので、安さばかりではなく住みやすい街かどうかも気になるところ。そこで先に登場したお2人に、三田・日吉の各キャンパスに通う学生の住む街としておすすめの駅を教えてもらった。

三田キャンパスに通う学生の住まいとしておすすめの駅3選

まずは三田キャンパスに通う学生も利用するという、「ハウスメイトショップ目黒店」須田さんがおすすめする街を紹介しよう。住む街を選ぶ際のポイントは、「交通の利便性が高い駅であること」と話す須田さん。「三田キャンパスを利用する3・4年生は、アルバイトや就職活動など学校外での活動が増えてくる時期。そのため学校への行きやすさをふまえた上で、他の場所へのアクセスの利便性も高い駅を選ぶのがよいでしょう。特におすすめは東急目黒線の沿線。都営三田線と相互直通運転されていてキャンパスがある三田駅まで乗り換えせずに行けること、目黒駅に出れば都内の主要駅に行きやすいJR山手線に乗り換えられる点が魅力です」

武蔵小山駅前の様子(写真/PIXTA)

武蔵小山駅前の様子(写真/PIXTA)

なかでも須田さんイチ押しは、急行停車駅でもある東急目黒線・武蔵小山駅。大学最寄りの三田駅までは都営三田線直通の東急目黒線なら約11分で行くことができる。家賃相場は9万円と少々高めで、今回のランキングでは27位だった。「開発が進み、近年は家賃相場が上がった点はネック。ですが、東京で最も長いアーケード商店街があって、買い物や外食にたいへん便利な環境です。にぎわいのある街なだけに適度に人目があり、治安の面でも安心感があると評判で、学生の一人暮らしでも安心でしょう」。都内最長だというアーケード商店街「武蔵小山商店街パルム」は、全長約800m! 店舗数は約250軒にのぼり、例年は夏の納涼市や秋のサンバパレードなどイベントも豊富。あちこちの街へ出かけにくいコロナ禍では、自分の住む街自体にこうした楽しみがあることが特に魅力的に思える。

武蔵小山商店街パルム(写真/PIXTA)

武蔵小山商店街パルム(写真/PIXTA)

もう少し家賃相場をおさえたいなら、「東急目黒線の東京都区間内では比較的に家賃相場が安い、洗足(せんぞく)駅もおすすめです」と須田さん。洗足駅の家賃相場は8万4000円で10位にランクインしており、三田駅までは約16分でたどり着く。「駅前にスーパーやドラッグストアがそろっていて買い物に便利な環境です。駅周辺は閑静な住宅街で落ち着いた印象です。ただ、人通りが少ない点が心配なら、住まい探しの際に駅までの道のりチェックも忘れずにしましょう」。この洗足駅前には美しいイチョウ並木が続き、並木通り沿いを中心に商店街が広がっている。日々の食事に役立つ惣菜店もあるほか、神保町に本店がある欧風カレーの名店「ボンディ」の支店も。商店街をめぐり、自分のお気に入りの店を探すのも楽しそうだ。

洗足駅前の風景(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

洗足駅前の風景(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

須田さんがもう1駅、おすすめしてくれたのが15位の都営浅草線・中延(なかのぶ)駅。家賃相場は8万6000円で、三田駅までは約11分。「都営浅草線と東急大井町線が利用できて便利。若者に人気の自由が丘駅までも1本で行くことができます。駅近くには商店街が3つあり、八百屋さんや精肉店などが並んでいるので食費をおさえる助けにもなるかも。駅前にユニクロがあるのもうれしいところです」。商店街のなかでも注目は、「なかのぶスキップロード」と呼ばれる中延商店街。中延駅から北に延びており、東急池上線の荏原中延駅まで約330mも続くアーケード商店街だ。買い物に利用できる商店街独自のポイントシステムも用意されているので、ポイントを貯めつつお得に買い物が楽しめる。

なかのぶスキップロード(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

なかのぶスキップロード(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

日吉キャンパスに通う1・2年生が住むなら、こちらの駅がおすすめ!

続いて日吉キャンパスに通う学生におすすめの街を、「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」店長の高橋さんに伺った。先述した通り、日吉キャンパスに通う学生は日吉駅や近隣駅に住むことが多いのだそう。「日吉駅や日吉近隣の東急東横線沿線は、飲食店をはじめ商業施設が充実している駅も多く、初めての一人暮らしでも安心して居住できる環境ですよ」と話す高橋さん。なかでも特におすすめの駅を3つ、教えてくれた。

おすすめ度1位は日吉駅の隣、東急東横線と東急目黒線が通る元住吉駅で、家賃相場は7万円で家賃相場ランキングでは13位に登場している。「駅を挟んで東西2つの商店街があり、チェーン系の店舗・地元の個人商店も含め約270店舗の商店が立ち並んでいます。主にファミリー層が住むエリアなので、落ち着いた住環境を求められる方には非常におすすめできる駅です」。また、駅から徒歩7分ほどの場所に広大な「川崎市中原平和公園」があったり、駅前を流れる渋川沿いに約2kmにわたる桜並木が続いていたりと、自然を感じられる環境なのも魅力だという。気軽に遠出しづらいコロナ禍において、近所にリフレッシュできる場所があるのはうれしいものだ。

元住吉駅(写真/PIXTA)

元住吉駅(写真/PIXTA)

続いておすすめしてくれたのは東急東横線と東急目黒線、JR南武線が乗り入れている武蔵小杉駅。日吉駅までは2駅・約3分、家賃相場は8万2000円だ。「家賃の価格帯は少し上がりますが、住みたい街ランキングでも上位に入る、人気が高いエリアです。『ららテラス 武蔵小杉』や『グランツリー武蔵小杉』など大型商業施設も充実。乗り入れ路線も多く、都内への玄関口として非常に利便性が高い駅です」。

武蔵小杉駅東口の様子(写真/PIXTA)

武蔵小杉駅東口の様子(写真/PIXTA)

「SUUMO住みたい街ランキング2021 関東編」(リクルート調べ)で14位にランクインした武蔵小杉駅は神奈川県川崎市にあるが、駅東側を流れる多摩川を越えると東京都大田区に。東急東横線の通勤特急に乗れば、自由が丘駅まで1駅・約5分、渋谷駅まで3駅・約15分で行くことができる。日吉キャンパスまでの近さはもちろんのこと、せっかく進学で上京するならば都内までの近さも重視したい人にとっては、うってつけの環境といえるだろう。また、武蔵小杉駅は今回調査した「三田キャンパス」周辺の家賃相場が安い駅ランキングで4位にランクインしてもいる。1・2年次は日吉キャンパス、3年次以降は三田キャンパスに通う予定の学生なら、進級後も引越しせず済み続けられる点も便利そう。

高橋さんおすすめの3つ目の駅は、12位にランクインしている東急東横線・綱島駅。元住吉駅とは逆側、日吉駅から下り方面へ1駅目に位置しており、家賃相場は6万9000円。「スーパーやドラッグストア、飲食店など、駅周辺には幅広いジャンルの店舗がとても豊富。2022年度には東急新横浜線の新綱島駅が開業予定で、ますます利便性が高まる点も注目です!」と高橋さん。

新綱島駅のイメージ(写真/PIXTA)

新綱島駅のイメージ(写真/PIXTA)

東急新東横線は日吉駅~新横浜駅を結ぶ路線として開業予定で、同じく開業準備が進む新横浜駅~羽沢横浜国大駅・西谷駅を結ぶ相鉄新横浜線とともに、相鉄・東急直通線の連絡線としての役割を担う。開業したあかつきには相鉄線と東急線との相互直通運転が可能となる。新しく誕生する新綱島駅は綱島駅から100mほどの位置なので、この辺りに住むと将来的には2駅2路線が利用できるわけだ。

さて今回はランキング調査に加え、これまで多くの学生を新生活へと送り出してきた不動産会社のお話を参考に、学生におすすめの街をご紹介した。安さ重視でランキングの駅を参考に探すもよし、環境重視でおすすめに挙げてもらった街で探すのもよし。自分好みの街に住んで、ぜひ楽しい新生活を送ってほしい。

●取材協力
ハウスメイトショップ

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている田町駅、三田駅、赤羽橋駅まで20分以内、日吉駅まで電車で15分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/8~2021/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2021年10月30日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載

知的障がい者の一人暮らしをサポート。24時間体制の介助「パーソナルアシスタンス」とは?

重度の知的障がいと自閉症をもちながらも、都内でアパートを借り、1人暮らしをする岡部亮佑さん。自分らしい生活ができる理由は、公的な制度の利用に加え、本人の自己選択に基づき、24時間体制でサポートするパーソナルアシスタントの存在。とある平日に同行し、アシスタントチームのマネージャーである中田了介さんと、亮佑さんの父親で社会福祉学者の岡部耕典さんにお話を聞きました。

将来の自立を考え、11歳から介助者のいる暮らしをスタート

日本の人口の7.4%(936.6万人)に当たる障がいがあるとされる人のなかで、知的にハンディを負う人は108.2万人。障害者手帳を有する65歳未満の知的障がい者は96.2万人ですが、そのうち81%が親や兄弟・姉妹をはじめとした同居者、また14.9%がグループホームといった施設に住んでおり、1人暮らしをする人は、わずか3%にとどまっています(2016年 厚生労働省 生活のしづらさなどに関する調査)。
そんななか、岡部亮佑さん(以下、亮佑さん)は重度の知的障がいと自閉症をもちながら24時間体制で介助者の力を借り、自立した生活をしています。

通所施設から帰宅中の岡部亮佑さん(右)とパーソナルアシスタントの中田了介さん(左)(写真撮影/田村写真店)

通所施設から帰宅中の岡部亮佑さん(右)とパーソナルアシスタントの中田了介さん(左)(写真撮影/田村写真店)

亮佑さんは赤い洋服が好きで、自分で選ぶことも。休日は自立生活センターの仲間とプールや川で遊んだり、パーソナルアシスタントと公園や銭湯に行ったりして過ごします(写真撮影/田村写真店)

亮佑さんは赤い洋服が好きで、自分で選ぶことも。休日は自立生活センターの仲間とプールや川で遊んだり、パーソナルアシスタントと公園や銭湯に行ったりして過ごします(写真撮影/田村写真店)

今年28歳になる亮佑さんが、実家を離れて1人暮らしを始めたのは、学校生活を終える18歳のときのこと。しかし、それ以前から介助者が身近にいる日々を送っていました。背景には、ご両親の考えがあります。
「常に見守りが必要で、集団生活でストレスを抱えがちな息子の将来を思えば、早い段階で自立を支えてくれる人を見つけ、環境を整えたほうがいい」と、小学校5年生のときから平日は放課後から夕食までの約4時間、休日は丸1日を介助者と過ごしてきたのです。
常時8人ほどが交代で訪れていたため、大人に差しかかるころには、本人の意思をくんだ上で適切に対応できるチームがつくられていました。
ハンディを負う当事者が、主体性をもって生活するべくアシスタントを育て、サービスを利用していくことを“パーソナルアシスタンス”といい、北欧やイギリス・カナダなどでは一般的です。亮佑さんは、まさにその概念を日本で体現しているといえます。

本人の意思を尊重しつつ、リスクを回避するのもアシスタントの役割

平日は通所施設、土日はプライベートの時間を過ごす亮佑さん。現在、かかわっているパーソナルアシスタント(以下、アシスタント)は、全て当初から契約している自立生活センター「特定非営利活動法人 グッドライフ」のスタッフです。
「自立生活センター」とは、障がいのある当事者が中心になり、地域生活をかなえるための各種サービスや情報提供などを行う民間機関のこと。中田了介さんが亮佑さんのアシスタントチームのマネージャーとなり、自身もアシスタント業務に入りながら、全体のスケジュール調整や課題解決を図っています。
中田さんは、亮佑さんが介助者利用を開始したころからのメンバー。付き合いは17年にもなると言います。
ある平日の2人に同行させてもらいながら、お話を伺いました。

高校時代の同級生が介護の専門学校に通っていたことから関心をもち、介護福祉士になった中田さん。最初は老人ホームでキャリアを積んでいましたが、先輩に誘われ自立生活センターで仕事をするように(写真撮影/田村写真店)

高校時代の同級生が介護の専門学校に通っていたことから関心をもち、介護福祉士になった中田さん。最初は老人ホームでキャリアを積んでいましたが、先輩に誘われ自立生活センターで仕事をするように(写真撮影/田村写真店)

亮佑さんの日常でアシスタントがつかないのは、通所施設の間だけ。この日は施設終了時間の16時に中田さんが訪れ、ともに自宅に向かいました(写真撮影/田村写真店)

亮佑さんの日常でアシスタントがつかないのは、通所施設の間だけ。この日は施設終了時間の16時に中田さんが訪れ、ともに自宅に向かいました(写真撮影/田村写真店)

自閉症には「言葉のやりとりの難しさ」「特定のものごとへの強いこだわり」といった、共通して見られがちな傾向があるものの、一人ひとりで個性や人となりはさまざまです。亮佑さんの場合は好きなことが明確で、常にやりたいことがいっぱい。中田さんはパーソナルアシスタントとして、本人の自己決定に基づいてサポートしていきますが、ただ、時としてそうでない場面が出てくると言います。

「例えば本人の嗜好のまま食事をすると、ソースを大量にかけたり、甘いジュースをとことん飲んだりしてしまうことが。『健康を害しても好物だから構わない』と納得しているならよいですが、そうではありません。ぎりぎりまで尊重しますが、『これは止めておこう』と促すこともあります」(中田さん)

帰り道が、毎回同じだと執着が生まれてしまうことや、その時々で調子に違いがあるため、アシスタントが臨機応変に変えます。亮佑さんが中田さんに腕を添えるのは比較的、状態が優れないときですが「この人は大丈夫」と感じている証しでもあります(写真撮影/田村写真店)

帰り道が、毎回同じだと執着が生まれてしまうことや、その時々で調子に違いがあるため、アシスタントが臨機応変に変えます。亮佑さんが中田さんに腕を添えるのは比較的、状態が優れないときですが「この人は大丈夫」と感じている証しでもあります(写真撮影/田村写真店)

自動販売機の前で清涼飲料水の見本を指さし、飲みたいことを示す亮佑さん。何本も欲しいと伝えますが、促されて1本に。リュックから財布を取り出し、中田さんがお金を払います(写真撮影/田村写真店)

自動販売機の前で清涼飲料水の見本を指さし、飲みたいことを示す亮佑さん。何本も欲しいと伝えますが、促されて1本に。リュックから財布を取り出し、中田さんがお金を払います(写真撮影/田村写真店)

亮佑さんには感覚が繊細なところがあり、人の騒がしい声などを聞くと、調子が傾いて行動が落ち着かなくなることが。また、マンホールを踏んだり、水に触れたりするのを好むため、道端で見掛けると突進しそうになることもあります。放っておくと社会生活の輪から外れてしまうため、これを制して周囲の人と調和できるようにすることもアシスタントの役割です。

公園は、帰りによく立ち寄る場所。この日はたまたま居合わせたお子さんとともにブランコをこぎました(写真撮影/田村写真店)

公園は、帰りによく立ち寄る場所。この日はたまたま居合わせたお子さんとともにブランコをこぎました(写真撮影/田村写真店)

「行動の傾向が目立ちやすく、変わった人に映るかもしれませんが、『やりたいな』と思うことをしているのはみんなと同じ。亮佑さんの場合は『赤信号で渡らない』など、基本的なルールをわかっていますが、障がいの内容は本当に人それぞれです」(中田さん)(写真撮影/田村写真店)

「行動の傾向が目立ちやすく、変わった人に映るかもしれませんが、『やりたいな』と思うことをしているのはみんなと同じ。亮佑さんの場合は『赤信号で渡らない』など、基本的なルールを分かっていますが、障がいの内容は本当に人それぞれです」(中田さん)(写真撮影/田村写真店)

今日は公園に約40分滞在。最後は中田さんもブランコに参加。自閉症の人は「同調」を好むところがありますが、「合わせなくては」と苛立ちになり得るため、偏り過ぎないことが大切と言います(写真撮影/田村写真店)

今日は公園に約40分滞在。最後は中田さんもブランコに参加。自閉症の人は「同調」を好むところがありますが、「合わせなくては」と苛立ちになり得るため、偏り過ぎないことが大切と言います(写真撮影/田村写真店)

公園を出たら、手袋とゴミ袋を買いにホームセンターへ。亮佑さんが要求しなくても生活のなかで必要になる日用品は、前日のアシスタントがノートに書き込み、翌日の担当者が買うようにしています(写真撮影/田村写真店)

公園を出たら、手袋とゴミ袋を買いにホームセンターへ。亮佑さんが要求しなくても生活のなかで必要になる日用品は、前日のアシスタントがノートに書き込み、翌日の担当者が買うようにしています(写真撮影/田村写真店)

時間をかけてきたからこその、当事者とアシスタントの心地いい関係

当事者の身の回りでできないことに対し、介助者がどうかかわっていくかは、事業所によって考えが異なります。自立の一環として一緒に取り組む人もいますが、亮佑さんのアシスタントチームでは、本人が関心の無いことは無理強いしない方針。例えば食事は基本的に食べたいものがあるのでそれに沿いますが、掃除や洗濯・日用品の買い足しは、完全にアシスタントが行います。

「ただ、はっきり『する・しない』の線引きをしているわけではなく、そのときの状況を見た上で長年の感覚に頼ることが多いです。毎日の洋服選びや休日に出掛けるスポットなどは、日ごろから本人の親しんでいるものがわかるので、自然と答えが落ち着きます」(中田さん)

これは亮佑さんとアシスタントチームが17年の月日のなかで、心地よいあり方を育んできたからこそ。
一方で、入所施設やグループホームだと、こうはいかないと話します。

本人の好みで自炊をすると味つけが偏りがちなため、最近は外食が中心。「食事、何にしようか」と中田さんが聞くと「うどん、ポテト」と亮佑さんが言い、これらがそろう回転寿司店へ(写真撮影/田村写真店)

本人の好みで自炊をすると味つけが偏りがちなため、最近は外食が中心。「食事、何にしようか」と中田さんが聞くと「うどん、ポテト」と亮佑さんが言い、これらがそろう回転寿司店へ(写真撮影/田村写真店)

「施設ではどうしても複数の入居者を1人のスタッフで見るため、後回しになることが出てきます。以前いたグループホームで、たまたま1対1で入居者を見るようになった時期があるのですが、自由に過ごせることで穏やかになり、知らなかった一面が見えてきた方がいました。異動の多い施設だとなおさら、一人ひとりとじっくり向き合い、理解していくのは難しいでしょう。一概に1人暮らしがよいとは言いませんが、違いはあると思います」(中田さん)

築約30年・2DKのアパートは自分名義で借りたもの。お茶を入れ、絵を描き、音楽を聴き、ゲームをしてと、帰宅後もやりたいことがたくさん。ただ本人ができることが必ずしも安全とは限らないため、中田さんは常に注意をめぐらせています(写真撮影/田村写真店)

築約30年・2DKのアパートは自分名義で借りたもの。お茶を入れ、絵を描き、音楽を聴き、ゲームをしてと、帰宅後もやりたいことがたくさん。ただ本人ができることが必ずしも安全とは限らないため、中田さんは常に注意をめぐらせています(写真撮影/田村写真店)

頸椎損傷やALSの人の在宅介護をしたこともある中田さん。亮佑さんが就寝中、隣で横になりますが、少しの気配で起きることができると言います(写真撮影/田村写真店)

頸椎損傷やALSの人の在宅介護をしたこともある中田さん。亮佑さんが就寝中、隣で横になりますが、少しの気配で起きることができると言います(写真撮影/田村写真店)

各種制度の利用に加え、息子のよき支援者をつくることに尽力

1人暮らしがすっかり板についている亮佑さんですが、どうやってここまでの土台を築いてきたのでしょう。
父親であり、社会福祉学者でもある岡部耕典さんにお話を聞きました。

早稲田大学教授で福祉社会学・障害学を専門とする岡部耕典さん。これまで障がい者政策・制度改革にも携わっていました(写真提供/岡部さん)

早稲田大学教授で福祉社会学・障害学を専門とする岡部耕典さん。これまで障がい者政策・制度改革にも携わっていました(写真提供/岡部さん)

現在、亮佑さんの生活支援は夜間を含む介護(重度訪問介護)と施設への通所(生活介護)、生計は「障害年金」「特別障害者手当」「東京都重度心身障害者手当」で成り立っています。岡部さんご夫妻は、自分では環境を整えられない息子の親として、資金面の基盤を用意するだけでなく、自立を支えてくれる支援者をつくることに力を入れてきました。
重度訪問介護とは、重度の肢体不自由者もしくは行動上著しい困難がある知的障がい者および精神障がい者が、生活全般にわたる介護を受けられる制度のこと。認定された事業所であればどこでも利用できますが「パーソナルアシスタンスの考えに理解があること」「丸1日のサポートに対応できること」を重視すると、おのずと見えてきたのは自立生活センターだったと言います。
ただ、長時間の重度訪問介護制度を使うのは、地域によっては壁が高いのだとか。

「自治体によって姿勢が異なるため、きちんとコミュニケーションを取り、利用する側の意志を伝えていくことが必要です。例えば依頼する予定の事業所と、一緒に相談や申請に行くのもよいでしょう。自立生活センターなど、重度訪問介護の制度を熟知し、手続きに慣れている事業所もあります」(岡部さん)

いずれにしても地域で暮らすようにしたいとなったら「うちの子どもにできるはずがない」と思い込まず、重度訪問介護を利用した自立生活を選択肢に入れてみたらよいのでは、と話します。

「まずは、できるだけ早い段階から短時間でも介助者を利用してみて、本人が慣れていくこと。当事者を理解し、相談に乗り、ともに励んでくれるアシスタントを事業所と一緒につくり上げていくことが大事ではないでしょうか」(岡部さん)

思いがけないことを経験しながらも、自分らしい生活を営んでいく

今、亮佑さんが住むのは1人暮らしを始めて2軒目の物件。通所施設に近く、より静かな環境を求めて住み替えを決めたものの、希望するエリアで不動産会社から紹介してもらえたのは2軒だけ。部屋探しには、ままならない現実があると言います。また、道端などで人と接触したとき、一方的に非があるとされるケースも少なくないそうです。

「だからといって特別扱いされるのも違っていて、仮に迷惑をかけたならほかの人たちと変わらない対応をしてほしいと思うんです。そうすることで当たり前のように社会になじんでいけるのではないでしょうか」(中田さん)

中田さん自身、自閉症の人と接したのは亮佑さんが初めてで、言葉の少ないところに最初は躊躇したとか。しかし、今では意思疎通が図れないとは、まったく思わないと言います。

「たまに『何でこんなことにこだわるの?』と思って『あっ、そうか』と気付くんです。そのくらい自閉症であることを忘れています(笑)。
当事者と介助者は相性がありますし、もちろん役割を担っているので大変な場面もあります。でも1人と長く付き合うと、よく知った仲になるだけにラクでいられるんです。いろいろなところに出掛けると楽しいですし、『気持ちが通じ合った』『うれしいことが伝わった』と思える瞬間があるのが、この仕事のよさ。亮佑さんからたまに新しい言葉を聞けることがあり、日々の発見も面白いです」(中田さん)

亮佑さんは絵が得意で、国立新美術館で作品を展示するほか、都内のアート展で佳作を取ったことも。「フリーハンドで正確な直線や真円を描けるのですが、直に目にすると本当にすごいと感じます」(中田さん)(写真撮影/田村写真店)

亮佑さんは絵が得意で、国立新美術館で作品を展示するほか、都内のアート展で佳作を取ったことも。「フリーハンドで正確な直線や真円を描けるのですが、直に目にすると本当にすごいと感じます」(中田さん)(写真撮影/田村写真店)

「自閉症や知的障がいとされる人は、街のあちこちにいます。確かに触れたことのない言動を目の当たりにすると、驚いて『何かされるのでは』と感じるかもしれませんが、アシスタントが一緒であればまず大丈夫でしょう。どうあるべきかの答えはないかもしれません。でも、まずは知ってほしいと思います」(岡部さん)

最後に、これからの亮佑さんの暮らしの課題を問うと、中田さんは「今は十分な生活ができていて、これ以上はないほどだと思うので、現状維持かなと。この状態を長く続けられたらと、切に願います」と話しました。

ただただ自分らしく暮らしを営む。そうであることの意味がここにあるのかもしれません。

高齢の母が住む賃貸の1室がシェアスペースに? 住人の交流や見守りはじまる

賃貸マンションに入居していた住人の一人が、高齢のお母さんを同じマンションに呼び寄せたところ、自然とその部屋がシェアスペースに。住人同士の交流が深まった、という話を聞きました。「お母さんの部屋がシェアスペースに」とは一体どんな空間で、集まる人たちはどのように交流し、どう感じているのでしょうか。

東京都世田谷区内にある賃貸マンションの大家である安藤勝信さん、住人のKさん、Nさん(Kさんの母)、Eさんにお話を聞きました。

「どなたか、母と一緒に犬の散歩に行ってもらえる人を知りませんか?」

全10戸からなるこのマンションに住むKさんが、住人同士のグループLINEに投稿したのは、3月ごろのこと。神奈川県内で医師として働くKさん(40代)は、日中は仕事で不在にしています。Nさん(70代)は、一通りの日常生活は自分でできるものの、数年前からアルツハイマー病を患っており、慣れない環境に一人でいることは不安な状況でした。また、Nさんが飼うトイプードルのラッキーも、昼間に一度は散歩に連れ出す必要もありました。

マンションの3階で、共用テラスのチェアに座るNさんとラッキー(写真撮影/片山貴博)

マンションの3階で、共用テラスのチェアに座るNさんとラッキー(写真撮影/片山貴博)

Kさんは10年ほど前、この賃貸マンションができた当初からの住人です。長野県にある実家で暮らしていた両親のうち、父が入院することになり、母のNさんを同じマンションの別室に呼び寄せたのでした。

「2~3年前からできれば近くで住みたいと考えていたものの、高齢の両親が賃貸物件を借りることは、簡単なことではありませんでした。近年、高齢者や生活に一定の不安を抱えた人が本人にとって快適な賃貸物件を借りようとするときに、入居をみとめてもらいにくいなどの問題があります。大家の安藤さんに『なかなか物件探しが難しくて……』と話をしたところ、『このマンション内にお引っ越し予定の部屋があるよ』と教えてもらい、母の部屋としてもう1室借りることにしたのです」(Kさん)

この賃貸マンションができたときからの住人である娘のKさんと母Nさん(写真撮影/片山貴博)

この賃貸マンションができたときからの住人である娘のKさんと母Nさん(写真撮影/片山貴博)

お母さんの部屋が住人みんなのシェアスペースに!?

このマンションには、1階に大家の安藤さんファミリーも住んでいて、他にもう一つファミリー向けの住戸、加えて写真スタジオがあります。2階と3階は単身者向けの部屋がメインで、そのうちの2つにKさんとNさん母娘が住んでいます。

取材当日、母のNさんの部屋を訪れると、玄関ドアの外側には、日替わりのメニューが書かれたホワイトボード「ラッキー&NさんCafe」の看板がありました。この日のおすすめは、「ミニプッチンプリン」と「贅沢ルマンド宇治抹茶カカオ」だそう。最後には「本日、14時ごろまでお待ちしています」とメッセージが添えられています。

Nさんの玄関ドアにかけられたラッキーの写真と本日のおすすめメニュー。その日は取材直前の14時まで「ラッキー&NさんCafe」がオープンしていた模様(写真撮影/片山貴博)

Nさんの玄関ドアにかけられたラッキーの写真と本日のおすすめメニュー。その日は取材直前の14時まで「ラッキー&NさんCafe」がオープンしていた模様(写真撮影/片山貴博)

マンションができたときから、安藤さんは新しく入居する人がいれば歓迎会を開くなどして「住人同士の自然なコミュニケーションによる関係構築を大切にしてきた」そう。そのため、マンション退去後も近隣に引っ越した前住人が食事会に参加することも自然なことだと言います。さらに前述のグループLINEが交流をきっかけに自発的にできたことで、何かあったときのやり取りも気安く便利なものになりました。

Nさんとラッキーの散歩には、グループLINEでのKさんの呼びかけに応じる形で、同じマンション内で在宅ワークをしている住人と近隣に住む前住人の2人が交代で付き添うように。Nさんも「オートロックの開け方すらわからなくて困っていたときに、助けてもらったことも。そういう繋がりがありがたい」と喜んでいます。

さらにKさんが他の住人にも「お茶を飲みにだけでも寄ってください」「暇な時に来てくださったら嬉しいです」と声をかけるうちに、Nさんの部屋が、住人みんなが出入りするシェアスペースのようになっていったのだそうです。

ラッキーとNさんと仲良しになった、安藤さんの娘さんもちょくちょく遊びに来るそう(写真撮影/片山貴博)

ラッキーとNさんと仲良しになった、安藤さんの娘さんもちょくちょく遊びに来るそう(写真撮影/片山貴博)

住人同士で食事会を開催、住人発案のグループLINEも

私たち取材陣が訪れたその日も、夜はNさんの部屋で住民同士の食事会が開催されると言います。筆者が「今日はどなたが参加されるんですか?」と尋ねると、Kさんは指を折りながら「今日は私たちと◯◯さんと、◯◯さん、◯◯さん……。あれ? 2階以上に住んでいる単身者は全員ですね(笑)」と答えてくれました。

しかも、開かれる場所はNさんの部屋ですが、主催者は部屋の主人であるNさんでも、娘のKさんでも、大家の安藤さんでもないと言います。何でも、前回の食事会をしたときに、住人の一人が他の住人に誘われて料理教室に通い始めたため、習った料理をつくるよ!という話になったのだそう。先にフォカッチャをつくっておこうか、と盛り上がるKさんたちは、本当に楽しそう。食事会は特に定期的に開催しようとしているわけではなく「開催すると盛り上がってじゃあまた次はいつにしようか、となる」(Kさん)のだそうです。

屋上の共用テラスには大家の安藤さんや住人が手入れする小さなハーブガーデンがある。ここにあるレモングラスを切ってKさんが淹れてくれたハーブティー。住人はハーブを自由に取って料理などに使っているのだとか(写真撮影/片山貴博)

屋上の共用テラスには大家の安藤さんや住人が手入れする小さなハーブガーデンがある。ここにあるレモングラスを切ってKさんが淹れてくれたハーブティー。住人はハーブを自由に取って料理などに使っているのだとか(写真撮影/片山貴博)

食事会の詳細を住人同士でやり取りするときに活用されるのは、やはり、グループLINEです。これは大家の安藤さんが作成したものではなく、今回お話を聞かせてくれた一人、グラフィックデザイナーのEさん(30代)の歓迎会が2年前に開かれた時にできました。前に住んでいた人が「やり取りが面倒だから繋がっちゃおうよ」と声をかけてつくることになったものだと言います。

“対流”が先で構造は結果、住人同士の“信頼”で成り立つ緩やかなコミュニティ

筆者が「大家さんでなく、住人さん、しかも前に住んでいた人が退去後も食事会に参加し続けていて、住人同士のグループLINEを作るなんて初めて聞きました!」と、大家の安藤さんに声をかけると「コミュニティってつくるものではないと思うんですよね」という答えが返ってきました。

「熱量の中で自然とできていくものであって、つくろうとすると、むしろ指の間からすり抜けていくようなものだと思うんです。ましてや大家が押し付けるものではない、と私は考えています。例えば、私が先にグループLINEという構造をつくってしまうと、きっと裏アカ(裏アカウント、表のアカウントに対して秘密裏にやり取りされるアカウント)ができたりするものでしょう(笑)」(安藤さん)

このマンションのオーナー、安藤勝信さん。みんなでワイワイ話している間、BGMのように心地よいギターの音色を聞かせてくれた。ときどきNさんの部屋で演奏して練習しているそう(写真撮影/片山貴博)

このマンションのオーナー、安藤勝信さん。みんなでワイワイ話している間、BGMのように心地よいギターの音色を聞かせてくれた。ときどきNさんの部屋で演奏して練習しているそう(写真撮影/片山貴博)

現在のグループLINEも作成されたのはEさんの歓迎会が開かれた2年前。つまり、このマンションができてから8年間は住人プラス大家の安藤さんのグループLINEはない状態でやってきたということです。それまで何か連絡が必要なときにどうしていたのかを聞くと、安藤さんは一人ひとり個別に連絡をしていた、と言います。

「大家である私にとっては、当然グループLINEのような仕組みがあった方が連絡も1回で済むので楽なんです。ただ、なんとなく違和感があって私からはつくりませんでした。。仕掛けるという視点側にいるとそういった構造からつくりがちです。私にできることは住まい手にとっての良き環境になること、それをコントロールしようとすれば、相手の方は私に信頼されていないと感じてしまうでしょう。お互いの信頼をベースに、時間とともに住む人同士の関係が構築されていくことが、自然で居心地のいい関係に繋がるのではないでしょうか」(安藤さん)

マンションのエントランス脇の掲示板も、住人たちがおすすめのお店やメッセージを自由に貼り付け、コミュニケーションの場になっている(写真撮影/片山貴博)

マンションのエントランス脇の掲示板も、住人たちがおすすめのお店やメッセージを自由に貼り付け、コミュニケーションの場になっている(写真撮影/片山貴博)

同じくエントランス脇の素敵なライティングビューローには、住人たちがお土産をシェアしたり、おすすめの本を並べて、自由に貸し借りしている。自分の置いた本が棚に見当たらないときは「誰かが借りて読んでくれてる!と思って嬉しい」(Eさん)のだそう(写真撮影/唐松奈津子)

同じくエントランス脇の素敵なライティングビューローには、住人たちがお土産をシェアしたり、おすすめの本を並べて、自由に貸し借りしている。自分の置いた本が棚に見当たらないときは「誰かが借りて読んでくれてる!と思って嬉しい」(Eさん)のだそう(写真撮影/唐松奈津子)

「ヘルプを出してもらえることが嬉しい」お互いさまの関係

たしかに住人の一人であるEさんの話を聞いて印象的だったのが、「Kさんがお母さんのことでヘルプを出してくれたのが嬉しかった」という言葉でした。Eさんは在宅で仕事をしているので、Nさんの玄関に「お待ちしてます」の看板がかかっているときにはお茶を飲みに訪れ、時にはNさんと一緒に台所に立って簡単な夕食の準備をしながらKさんの帰りを待つこともあるそうです。

住人の一人、グラフィックデザイナーのE さん(写真右)。Nさんの部屋のキッチンとリビングを行き来しながら手慣れた様子でお茶を運んでくれた(写真撮影/片山貴博)

住人の一人、グラフィックデザイナーのE さん(写真右)。Nさんの部屋のキッチンとリビングを行き来しながら手慣れた様子でお茶を運んでくれた(写真撮影/片山貴博)

「結局、Nさんとラッキーのお散歩は他の方がお手伝いしてくださることになりましたが、Kさんに頼ってもらえたことがまず嬉しかったんです。私は仕事の合間にお邪魔してNさんと一緒にお茶を飲んでいるだけですが、こんなことで喜ばれるなら、私も嬉しい。そして、コロナ禍でなかなか外出しづらいなか、私自身にとっても、とてもいい過ごし方のひとつになっているんです」(Eさん)

住む「人」次第で、ルールも変える

Eさんは内見の時から住人とのコミュニケーションが始まっていたといいます。

「住み始める前、お部屋の内見に来たときにKさんなど住人の方が3階の共用テラスに座ってお茶を飲んでいて。よかったら座って一緒にいかがですか、と席を勧めてくださったのが嬉しかったことを覚えています」(Eさん)

Eさんが見学に来た時も住人たちがみんなでお茶を楽しんでいたそう(写真撮影/片山貴博)

Eさんが見学に来た時も住人たちがみんなでお茶を楽しんでいたそう(写真撮影/片山貴博)

実は、Eさんの見学が終わった後、安藤さんは他の住人たちに「今日見学に来た人で誰が入居するのがいいかな?」と聞いてEさんの入居が決まったのだそう。

「新しく入居される方も、既に住んでいる私たちも、お互い選び選ばれる関係だと思っています。この人に住んでもらいたい、と思ったら構造や秩序を形づくるルールも、人に合わせて変わっていいと思うんです。

例えば、もともとこのマンション内で飼育可能な動物は猫のみでした。でもEさんに住んでほしいと思ったら、Eさんはヨウムというインコを飼っていたので鳥がOKになりました。Nさんが入居するときにも、住人みんなにNさんの状況と愛犬がいることは大丈夫?と聞いたんですよ。それで全員賛成だったからいま、Nさんもラッキーもここに一緒に暮らしています」(安藤さん)

3階の共用テラスで記念撮影。写真右下に生えているのが、取材時に切ってハーブティーとしていただいたレモングラス(写真撮影/片山貴博)

3階の共用テラスで記念撮影。写真右下に生えているのが、取材時に切ってハーブティーとしていただいたレモングラス(写真撮影/片山貴博)

Kさんが、母Nさんの入居できる物件を探していたときに苦労した背景には、高齢者の孤独死や家賃滞納などの問題が増え、大家さんや不動産会社に負担のかかる場面が生じていることなどがあります。そのリスクを回避し、関係する人みんなが安心・安全に過ごすためにルールや体制などの“構造”が必要なこともあるでしょう。

一方で、安藤さんが「今は量より質で、人が主役でなければならない」と言うように、住まいにおいても住む人、一人ひとりにとって心地よく、ちょうど良い距離感での関係構築やサービス提供が求められているように感じます。そのバランスを考えるとき、この賃貸マンションで時間とコミュニケーションを重ねながらできてきた小さなコミュニティの在り方は、参考になるのではないでしょうか。

●取材協力
株式会社アンディート代表取締役安藤勝信さん(オーナー)とお住まいのKさん、Nさん、Eさん、ラッキー

JR中央線(東京都内)32駅の家賃相場が安い駅ランキング 2021年版

東京駅から日本最大級の繁華街・新宿を経て、住みたい街人気の高い駅の数々を経由していくJR中央線。長野を経て愛知まで延びる沿線のうち、東京都内にある32駅の最新の家賃相場ランキングをリサーチ。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象に、ねらい目の駅やエリア、その特徴を探ってみた。

JR中央線、都内32駅の家賃相場が安い駅ランキング

順位/駅名/駅の所在地/家賃相場
1位 高尾(八王子市) 4.30万円
2位 西八王子(八王子市) 4.50万円
3位 日野(日野市) 5.10万円
4位 豊田(日野市)5.20万円
5位 西国分寺(国分寺市)5.30万円
6位 八王子(八王子市)5.50万円
6位 国立(国立市)5.50万円
8位 国分寺(国分寺市)5.90万円
9位 東小金井(小金井市)6.20万円
9位 武蔵小金井(小金井市)6.20万円
11位 武蔵境(武蔵野市)6.90万円
12位 三鷹(三鷹市)7.20万円
12位 阿佐ヶ谷(杉並区)7.20万円
14位 西荻窪(杉並区)7.40万円
15位 吉祥寺(武蔵野市)7.50万円
16位立川(立川市)7.70万円
16位高円寺(杉並区)7.70万円
18位荻窪(杉並区)7.75万円
19位中野(中野区)8.00万円
20位東中野(中野区)8.30万円
21位大久保(新宿区)9.50万円
22位信濃町(新宿区)10.95万円
23位代々木(渋谷区)11.00万円
24位飯田橋(千代田区)11.30万円
25位御茶ノ水(千代田区)11.40万円
25位新宿(新宿区)11.40万円
25位東京(千代田区)11.40万円
25位水道橋(千代田区)11.40万円
29位神田(千代田区)11.52万円
30位市ヶ谷(千代田区)12.00万円
31位千駄ヶ谷(渋谷区)12.10万円
32位四ツ谷(新宿区)12.20万円

ランキング上位駅が多い八王子市は、国際都市への飛躍が期待

JR中央線は、「SUUMO住みたい街(駅)ランキング関東版」住みたい沿線ランキングに2019年、2020年に続いて4位に入る人気の路線。沿線の吉祥寺、立川、三鷹は、住みたい街ランキングのそれぞれ3位、25位、27位にも入っている。

高尾駅(写真/PIXTA)

高尾駅(写真/PIXTA)

上位19駅はすべて快速が停車するが(一部平日のみ)、1位の高尾駅は通勤特快や成田エクスプレス、2位の西八王子駅は中央特快も停車する。所在地は、東京都の市部では最大の八王子市。6位にも市のターミナル駅である八王子駅がランクインしている。

高尾駅は、同名の人気観光地、高尾山の印象が強い。八王子市はそんな高尾山のイメージ同様、自然が豊かな地域だが、同市を中心にした地域は実は製造業も盛んだ。中央大学多摩キャンパスや東京薬科大学、創価大学など大学や大手企業の研究機関も多く、八王子駅前には都の産業振興やインバウンド振興策の一環であるMICE(※)を目的とした東京都立多摩産業交流センターが2022年10月に開業予定。国際会議・学会など世界から人が集まる国際的な都市としての飛躍が期待されている。
※MICEとは、Meeting( 会議やセミナー )、Incentive travel( 研修・報奨・招待旅行 )、Convention( 国際会議・学会 )、Exhibition または Event( 展示会・イベント )の総称。国際的な会議やイベントを観光と絡めて招致し、周辺の産業を活性化していく取り組み

3位の日野駅、4位の豊田駅はともに中央特快の停車駅で、所在地は日野市。多摩川などの河川や湧水といった水辺や自然環境に恵まれた日野市は、「水都日野」を掲げ、それらを生かした街づくりを目指している。市から社名をとった日野自動車やGEヘルスケア・ジャパンなど、同市に本社を置く大手企業も多いが、のどかな雰囲気もただよう。

日野宿本陣(写真/PIXTA)

日野宿本陣(写真/PIXTA)

日野駅近くにある市の指定文化財、江戸時代の宿場「日野宿本陣」は、都内に現存する唯一の本陣で一般公開もされている。また日野市は、土方歳三や井上源三郎など著名な新選組隊士の出身地であり、彼らが剣術を学んだのも、日野駅のすぐ近く。その縁で、「新選組のふるさと」としても知られている。

豊田駅は、東京方面への始発になる列車も運行されており、通勤や通学時に座って利用できるのが利点。駅周辺は飲食店なども多く、大型の商業施設「イオンモール多摩平の森」があり、日常生活の味方として心強いだろう。

住み続けたい自治体トップ武蔵野市の駅は

2021年10月に発表された、実際に住んでいる人に聞いた「SUUMO 2021年住み続けたい街(自治体/駅)ランキング関東版」によると、住み続けたい自治体のトップは武蔵野市だった。その武蔵野市にある駅は、11位に武蔵境駅、15位に吉祥寺駅がランクインしている。ちなみに12位の三鷹駅は、駅の南口は所在地が三鷹市だが、北口は武蔵野市と、出口で自治体が異なっている。

武蔵野市は、全域が市街化区域に区分されている一方で、吉祥寺を中心に文化や商業が集積している。成蹊大学や武蔵野美術大学吉祥寺校など大学が多いほか、センスの良い作品ラインアップで人気の吉祥寺シアターなどの劇場もある。また、武蔵野八幡宮など由緒ある寺社や歴史的建造物も数多い。

武蔵境駅(写真/PIXTA)

武蔵境駅(写真/PIXTA)

武蔵境駅はJR青梅線に乗り入れしており、西武多摩川線も利用できる。沿線の大学に通う学生に向けた物件も多いため学生街の面も持つ。クイーンズ伊勢丹などが入った駅直結の商業施設「nonowa武蔵境店」や、駅前にはカルディコーヒーファームなども入った大型スーパー「イトーヨーカドー武蔵境店」がある。駅北口にはチェーン系飲食店も充実した商店街もあり、日常の買い物には非常に便利だ。

駅前にある図書館「武蔵野プレイス」は、ミニコンサートなどのイベントも数多く開催。生涯学習支援なども行っており、カフェも併設。市民の出会いの場も提供している。

三鷹駅南口周辺(写真/PIXTA)

三鷹駅南口周辺(写真/PIXTA)

駅の立地がユニークな三鷹駅は、JR総武線や東京メトロ東西線も始発として乗り入れている。スタジオジブリの「三鷹の森ジブリ美術館」があることで知られているが、街並みも閑静だ。

駅前の中央通りでは、歩行者天国や、手づくり品を売る「M-マルシェ」などのイベントが定期的に開かれている。周辺には農業を営む人も多いため、街中で野菜などの直売所を見かけることもあり、ジブリ作品から連想される豊かな自然や穏やかな生活の期待を裏切らない街といえるだろう。

JR中央線はビジネス街や繁華街、少し“尖った”住みたい街などを経由するため、個性的なイメージもある。しかし沿線は都内であっても、自然豊かでのんびりした街も数多い。刺激的な生活と穏やかな日常を両立できる、素敵な部屋がみつけられそうだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている中央線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/7~2021/9
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

東急東横線の家賃相場が安い駅ランキング 2021年版

SUUMO「関東 住みたい街ランキング」で、住みたい沿線ランキング上位の常連である東急東横線。渋谷駅から横浜駅までをつなぐ東急電鉄の基幹路線で、自由が丘駅や中目黒駅など魅力的な街が連なる。部屋探しの際には選択肢に入れる人も多い路線だが、なかでも穴場の駅を探すならどこがいいのだろうか。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象にした東横線21駅の最新の家賃相場ランキングから考えてみよう。

東横線の家賃相場の安い駅ランキング

順位/駅名/家賃相場/駅の所在地
1位 白楽 5.70万円 神奈川県横浜市神奈川区
2位 妙蓮寺 5.95万円 神奈川県横浜市港北区
3位 東白楽 6.00万円 神奈川県横浜市神奈川区
4位 大倉山 6.50万円 神奈川県横浜市港北区
4位 菊名 6.50万円 神奈川県横浜市港北区
6位 日吉 6.60万円 神奈川県横浜市港北区
7位 綱島 6.75万円 神奈川県横浜市港北区
8位 元住吉 7.00万円 神奈川県 川崎市中原区
9位 反町 7.60万円 神奈川県横浜市神奈川区
10位 多摩川 7.80万円 東京都大田区
11位 武蔵小杉 8.10万円 神奈川県川崎市中原区
12位 新丸子 8.20万円 神奈川県川崎市中原区
13位 田園調布 8.30万円 東京都大田区
14位 横浜 8.50万円 神奈川県横浜市西区
15位 自由が丘 9.00万円 東京都目黒区
16位 祐天寺 9.20万円 東京都目黒区
17位 学芸大学 9.30万円 東京都目黒区
18位 都立大学 9.70万円 東京都目黒区
19位 中目黒 11.50万円 東京都目黒区
20位 渋谷 12.30万円 東京都渋谷区
21位 代官山 12.70万円 東京都渋谷区

上位の白楽駅と東白楽駅は横浜駅も生活圏

1位は白楽駅。所在地は横浜市神奈川区で、各駅停車のみの駅だ。
周辺はのんびりした住宅街だが、神奈川大学(横浜キャンパス)の最寄駅の一つであり、学生街としての顔ももつ。自炊がおっくうな単身者には心強いチェーン系の飲食店が充実している一方で、近くには昔ながらの個人商店や個性的な飲食店などが魅力的な六角橋商店街があり、散策するだけでも楽しそうだ。

白楽駅西口すぐにある六角橋商店街(写真/PIXTA)

白楽駅西口すぐにある六角橋商店街(写真/PIXTA)

横浜駅からは3駅で、所要時間は約5分。距離は約3kmなため、繁華街である横浜駅付近で夜遅くまで過ごしてしまってもタクシー代が安価で済んだり、健康目的で歩いて帰宅したりしても大きな負担ではない距離なのは魅力的だろう。地に足のついたゆったりした生活と、繁華街の生活圏という利便性の両立ができそうだ。

3位の東白楽駅は、白楽駅の横浜側方面の隣駅。横浜駅からの距離は約2kmで、前述の利点は東白楽駅も同様だ。さらに東白楽駅近辺は、徒歩圏内にJR東神奈川駅と京急本線の仲木戸駅がある。東神奈川駅からは新幹線の停車駅である新横浜駅までJR横浜線で直通、仲木戸駅も羽田空港への京急本線エアポート急行が運行しているので、各地への出張の多いビジネスパーソンにとっては狙い目だろう。

駅前はこぢんまりして見えるが、少し行くと、百円均一店や家電も扱う大規模スーパー「イオンスタイル東神奈川」店などがあり、大概の買い物は賄える。多忙な人もそれほどでもない人も、それぞれの目的をちゃんと満たしてくれる街かもしれない。

趣味を満喫できそうな大倉山駅、下町情緒が楽しい元住吉駅

4位の大倉山駅は横浜市港北区にある。各駅停車の駅だが、港北区役所の最寄駅だ。閑静な住宅街で、駅を中心に同様に落ち着いた雰囲気の複数の商店街がある。個人経営らしきカフェなどの飲食店も数多く、休日の地元散策が楽しそう。付近にはスーパーも充実している。

大倉山駅周辺(写真/PIXTA)

大倉山駅周辺(写真/PIXTA)

駅から少し行くと、梅の名所として知られる大倉山公園がある。毎年2月ごろには観梅会が催され、梅を観ながらお茶を楽しむ野点(のだて)なども行われている。公園内の大倉山記念館は、横浜市有形文化財に指定されており、地域密着のイベントも多数開催。映画などのロケ地としても人気だ。

また大倉山駅からは、新横浜駅までの距離が2.5kmほど。新幹線の利用はもちろんだが、スポーツイベントや大規模コンサートが開催される横浜アリーナや日産スタジアムは、新横浜駅が最寄り。部屋を選ぶエリアによっては、そうした会場も徒歩圏内になる。趣味を満喫させるにはもってこいかもしれない。

所在地が川崎市の駅で最上位は8位の元住吉駅。各停のみの停車駅だが、東京メトロ南北線や都営地下鉄三田線と直通している東急目黒線も乗り入れているため、日比谷や大手町など都内のビジネス街へのアクセスも良い。

元住吉駅周辺(写真/PIXTA)

元住吉駅周辺(写真/PIXTA)

大きな商業施設はないが、駅近くには深夜まで営業しているスーパーがある。また駅前のブレーメン通り商店街やモトスミ・オズ通り商店街は関東でもよく知られた商店街で、日々とてもにぎわっている。下町の雰囲気を残したリーズナブルな商店からスーパー、おしゃれな飲食店などが混在し、外食だけでなく、コロナ禍で需要が増えたテイクアウトでも、目移りしてしまいそうだ。

「東横線」という名称からイメージするのは主に、15位の自由が丘駅から19位の中目黒駅までの、目黒区に位置する駅だろう。いずれも有名な飲食店やおしゃれな衣服、雑貨店が集まる魅力的な街だが、この5駅の中では最上位の自由が丘駅は特急の停車駅。また、閑静な住宅環境であることも知られている。もちろん家賃は張るが東横線“らしさ”と家賃、交通の便のトータルバランスを取るなら、チェックを忘れずにしておきたい。

人気のある路線は駅もそれぞれの魅力が大きく、どこを選ぶか迷ってしまうものだ。部屋選びは自分が生活の中で何を重視するかが可視化されるものだが、東横線はそれがより明確になりそうだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東横線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/7~2021/9
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

サブスク「DOME住む」で東京ドームシティに住める! 定額でホテルや温泉、遊園地を使い放題

東京ドームを中心に遊園地や温泉、ホテルまでそろった東京ドームシティ。なんと、定額でホテル暮らしや温泉、遊園地で遊び放題のまるごと「住める」サブスクリプション(サブスク)プラン「DOME住む」が人気を集めています。三井不動産と東京ドームホテルが贈る、働く、遊ぶ、リラックスもまるごとできる、新しい暮らし方をご紹介しましょう。

東京ど真ん中で展開される「DOME住む」は破格の15泊15万円!

2021年は多くのホテルが「ホテルのサブスク」を打ち出しましたが、夏にはなんとホテルだけでなく周辺の遊園地や温泉、食事、ホテル宿泊も含めた、一大エンターテインメント”シティ”に住めるサブスクが登場しました。

「DOME住むプラン」は、東京ドームシティ内の東京ドームホテルに15連泊または30連泊できるというものです。
住むというだけあって、連泊中は敷地内の「東京ドーム天然温泉 スパ ラクーア」に入館無料でお風呂に入り放題、東京ドームシティ内のアトラクションは乗り放題、東京ドームホテルのレストランなどの施設を利用できるレジャーチケット「得10(とくてん)チケット」も付いてきて、東京ドームシティに暮らす楽しさを存分に満喫できます。当たり前ですが室内は清潔感があり、得10チケットを使えばホテルレストランで食事もできる(当たり前ですが調理も片付けも不要……!)それでいて15連泊で15万円、ちょっと贅沢すぎるのではないでしょうか。夏には30連泊プランを販売したところ、なんとあっという間に完売だったといいますが、それも納得です。

「DOME住む」で利用できる東京ドームホテルの客室(写真撮影/相馬ミナ)

「DOME住む」で利用できる東京ドームホテルの客室(写真撮影/相馬ミナ)

窓のむこうには都内の風景(写真撮影/相馬ミナ)

窓の向こうには都内の風景(写真撮影/相馬ミナ)

夜はこんな夜景が眼下に(写真提供/東京ドームホテル)

夜はこんな夜景が眼下に(写真提供/東京ドームホテル)

筆者は今まで「ホテルライク」を売りにしたマンションをたくさん見てきましたが、まさか本物のホテルに住める日がくるとは……。
テレワークが当たり前になった今、仕事もできて、遊べて、気分転換もできて、ホテルにこんな使い方があったのか!とまさに目からウロコです。

「ホテルライクなマンション」ならぬ、「リアルホテルライフ」でテレワーク(写真撮影/相馬ミナ)

「ホテルライクなマンション」ならぬ、「リアルホテルライフ」でテレワーク(写真撮影/相馬ミナ)

ホテル最上階にあるレストランからの眺め(写真撮影/相馬ミナ)

ホテル最上階にあるレストランからの眺め(写真撮影/相馬ミナ)

アーティスト カフェ「パノラマランチ」(写真提供/東京ドームホテル)

アーティスト カフェ「パノラマランチ」(写真提供/東京ドームホテル)

ホテルサブスクは好調、暮らし方の新しい選択肢に

東京ドームホテルがあるのは東京都文京区。「住み続けたい自治体ランキングTOP50」(2021年、SUUMOリサーチセンター)では3位にランクインしたほど人気の街ですが、分譲価格にしても家賃にしてもやはりお高く、なかなか手がでるエリアではありません。そんな文京区に住めるというのも、貴重な体験です。
では、このプランがはじまった経緯はどこにあるのでしょうか。

「ご存じのようにコロナ禍で暮らしが大きく変わり、ホテルの宿泊需要が蒸発してしまいました。そこでホテルの活用法としてサブスクリプションサービスを打ち出し、三井不動産グループが展開するザ セレスティンホテルズ、三井ガーデンホテルズ、sequenceで利用可能な『サブ住む HOTELどこでもパス』『サブ住む HOTELここだけパス』を2月に発売したところ、これが大好評でした。そこで早い段階で、連携している東京ドームホテルでもできないか企画を練っていました」と話すのは三井不動産ホテル・リゾート本部ホテルリゾート運営一部運営企画グループの江連沙織さん。

左から、東京ドームホテル総支配人室営業企画課広報 渡辺友紀さん、三井不動産ホテルリゾート本部の名塚旭さん(リモート参加)、江連沙織さん(写真撮影/相馬ミナ)

左から、東京ドームホテル総支配人室営業企画課広報 渡辺友紀さん、三井不動産ホテルリゾート本部の名塚旭さん(リモート参加)、江連沙織さん(写真撮影/相馬ミナ)

ちなみに、はじめに発売したホテルサブスク「サブ住む」には、全国各所にある三井不動産グループが展開しているホテルに連泊できる「HOTELどこでもパス」と、お気に入りのホテルにじっくり連泊できる「HOTELここだけパス」の2種類ありますが、それぞれ利用者の傾向が異なるといいます。

「どこでもパスのほうは、20~30代で、仕事もテレワーク中心で、仕事と旅がシームレスな方が多いですね。一方で、ここだけパスは40~60代で、自宅近くのホテル、または会社近くのホテルを確保し、出勤しつつ、仕事をするというスタイルが多いように見受けられます。また家の近くのホテルを借りて、ホテルを仕事部屋にしたり、会社近くに借りたホテルから出勤するという使われ方もされていました」(名塚さん)

東京ドームのすぐ隣に立つ東京ドームホテル。遊園地があるからでしょうか、どこか街全体にワクワク感が漂っています(写真撮影/相馬ミナ)

東京ドームのすぐ隣に立つ東京ドームホテル。遊園地があるからでしょうか、どこか街全体にワクワク感が漂っています(写真撮影/相馬ミナ)

セカンドハウスやホテルに缶詰仕事と聞くと、文豪や大金持ちという別世界の使われ方を想像してしまいましたが、今回のコロナ禍を受け、わりと身近に使えることがわかったように思います。東京ドームホテルの『DOME住む』は、この「サブ住む」での反響を受け、夏前に販売しましたが、それまでとは違った使われ方をしていたといいます。

ホテルと住まいはもっと気軽で近い存在に!

「夏に『DOME住む』を利用した方にアンケートを取りましたが、東京都内や近郊にお住まいのご利用者が多く、ご家族連れで30連泊している方もいらっしゃいました。周辺にはレジャー施設もたくさんあるので、お子さまは遊んで、大人は仕事をして、夜はゆっくりお食事を楽しむ、そのように自由に時間を使って過ごしていると30日があっという間なのではないでしょうか」(渡辺さん)

東京ドームシティのアトラクション。「DOME住む」なら乗り放題(写真撮影/相馬ミナ)

東京ドームシティのアトラクション。「DOME住む」なら乗り放題(写真撮影/相馬ミナ)

東京ドームシティは、いってみれば「遊園地」なわけで、「遊園地に住む」というのは子どもにとっても夢のよう。ホテル住まいなら親もごはんづくりなどの家事をお休みできますもんね。近くに美術館や博物館も多数あるので、勉強もできますし、コロナ禍で遠出はできないけれど「夏休みを楽しみたい」という使われ方をしていたようです。

アトラクションだけでなく、イベントやショップもたくさんあるので、15連泊できても時間は足りないだろうな(写真撮影/相馬ミナ)

アトラクションだけでなく、イベントやショップもたくさんあるので、15連泊できても時間は足りないだろうな(写真撮影/相馬ミナ)

現在も15連泊と30連泊のプランを販売していますが、好調とのこと。また、住まいと異なり、ホテルは契約が簡素で初期費用が不要といった実利的な点を評価されているといいます。

ただ、気になる今後ですが、どうなるかは未定だそうです。テレワークは普及しましたが、一方で、「定着するか」どうかは見えないところもあるため、確かにホテルとしては難しい判断になるのかもしれません。

とはいえ、今回のような“街のサブスク”が今後も展開されるとしたら、引越し前や移住を検討している地方など住んでみたい街のホテルでお試し居住をしてみたりするという使い方もできそうです。ほかにも、高齢になったので身軽にホテルで暮らしたり、テレワークで旅をしながら各地を巡って暮らす、なんていう使い方は大いにアリなのではないでしょうか。街のサブスクをきっかけに、新しい街との出合いや、暮らしに対する発見があるかもしれません。

2021年は帝国ホテルをはじめ、さまざまなホテルが「ホテルに住む」「ホテルでテレワーク」という新しい活用法を打ち出し、ホテルサブスクもいろんな種類が登場しています。これからの「ちょい住み」「気軽な住まい」の場所としての「ホテル」は、もっと普及していくかもしれません。

●取材協力
東京ドームホテル
三井不動産

「事故物件」の告知、今後どうなる? 国交省がガイドライン発表

2021年10月8日に国土交通省から「宅建業者による人の死の告知に関するガイドライン」が発表された。5月に発表された「ガイドライン(案)」に対するパブリックコメント(一般からの意見)を受け、修正したものだ。「事故物件」の告知はどういう結論になったのか。検討した委員会ではどのような議論があったのか。私たちの住まい選びにどうかかわるのかについて考えてみたい。

なぜガイドラインが必要なのか

以前にもSUUMOジャーナルでご紹介したが、人の死が発生した物件の告知について、明確なルールがないことがさまざまな問題を招いていた。
買主や借主は、深刻な事故があっても告知しない業者がいるのではないかという不信感をもつ。死因や経過年数にかかわらず告知が必要という誤解もあるため、宅建業者の調査・対応の負担が過大になる。単身の高齢者・障がい者に対する入居拒否などの問題も事故物件につながる確率が高いのではと敬遠されがちなことによるものだ(参照「事故物件の告知ルールに新指針。賃貸物件は3年をすぎると告知義務がなくなる?」)。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

人の死は、個別性が強く一律に線を引くのは難しい問題である。しかし、一定の判断基準を示すことでこれらの問題を解決し、安心できる取引、円滑な流通を実現しようというのがガイドラインの目的だ。

告知する範囲(国土交通省HPより)

(国土交通省HPより)

ガイドラインでは告知範囲と宅建業者の調査方法について基準を示している。まず、告知する範囲については「取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼす可能性がある場合は告げる」ことを原則としつつ、以下に該当する場合には宅建業者が告知しなくてもよい、としている。

【宅建業者が告知しなくてもよい場合】
1. 自然死・日常生活の中での不慮の死
(老衰、持病による病死、転倒事故、誤嚥(ごえん)など)
2.(賃貸借取引において)「1以外の死」「特殊清掃等が行われた1の死」が発生し、おおむね3年が経過
3. 隣接住戸、日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で発生した死

ただし、上記1~3に該当する場合であっても、「社会に与えた影響が特に高い」ものは告げる必要がある。残酷な事件や社会に広く知れ渡ったような事件の場合には告知しなければならないのだ。
文章では、ややわかりにくいので図にしてみよう。

■ガイドラインによる告知範囲
(図:国交省ガイドラインをもとに筆者作成)

(図:国交省ガイドラインをもとに筆者作成)

そもそも今回のガイドラインで告知の要否を検討しているのは、不動産取引における取引の「対象不動産」と「通常使用する共用部分」だ(上記図のタイトル部分)。通常使用する共用部分とは、マンションのエントランス、共用階段、共用廊下などのこと。ここで発生した死は、対象不動産同様、一定の場合には告知が必要となる。一方、隣接住戸や通常使用しない共用部分で発生した死は対象としていない。
 その上で死因や取引態様(賃貸か売買か)によって告知の要否を分けている。まず、自然死・不慮の事故であれば告知は不要だ(1)。死因が自然死等以外(自殺や他殺など)の場合や、自然死等であっても特殊清掃が行われた場合には、賃貸であれば3年間は告知が必要となる(2)。売買については告知期間を定めていない(3)。より長い期間告知が必要ということになる。

以上はあくまで原則だ。「社会に与えた影響が特に高い」事案であれば、話が変わってくる。賃貸で3年経過していようとも告知しなければならない(4)。もちろん、売買でも告知が必要だ。

宅建業者はどのような調査を行うのか(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

次に調査について。宅建業者は売主・貸主に対し、過去に生じた事案(人の死)について告知書への記載を求めることで調査義務を果たしたことになる。近隣住民への聞き込みやネットで調査するなど自発的な調査までは求められていない。
それでは売主や貸主が事実を隠蔽するのではないか、と心配になるかもしれない。この点については、告知書が適切に記載されるよう助言することが宅建業者に求められている。「故意に告知しなかった場合には、損害賠償を求められる可能性があります。きちんと告知してください」といった注意がされるわけだ。
また仮に売主・貸主からの告知がなくても、「人の死に関する事案の存在を疑う事情があるとき」は、宅建業者が売主・貸主に確認する必要がある。後々のトラブルを回避したいと考える宅建業者による適切な助言や情報収集が期待されている。

人の死は、それだけで瑕疵なのか

また、告知にあたっては「亡くなった方やその遺族等の名誉及び生活の平穏に十分配慮し、これらを不当に侵害することのないようにする必要がある」としている。具体的には「氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない」とされる。亡くなった方の名誉を傷つけることのないよう配慮が求められているのだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

これは今回の修正で強調されたことだ。パブリックコメントにも「人の死は当然あることで嫌悪感をもたないような一文を添えてほしい」「自死のあった物件をすべからく心理瑕疵物件とすることは、差別・偏見を助長する」という意見が寄せられた。

「事故物件」を扱った番組や記事などでは、「事故物件は嫌だ」という街の人の声とともに、足の踏み場のないくらい山積みになったゴミ袋の映像や写真が取り上げられることが多い。しかし、人が亡くなった物件の全てがそのような状態になるわけではない。自殺や孤独死があった物件を、一律ゴミ屋敷扱い、お化け屋敷扱いし、忌み嫌うべきものとしていることは、まさに「偏見を助長する」ものだろう。

物件選択の基準はそれぞれだ

一方、たとえ偏見であっても、ある事情があれば借りたくない、買いたくない、と考える人もいる。他人から見れば不合理に見えても、本人が嫌だというのであれば、借りない、買わない、というのは自由である。これは人の死に限らない。繁華街を利便性が良いとプラス評価する人もいれば、うるさいのは嫌だと思う人もいるだろう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

物件選択にあたり何を重視するかは人それぞれなのだ。他人からその観点は非合理だ、と否定されるべきものではない。ガイドラインでも「不動産取引における人の死に関する事案の評価については、買主・借主の個々人の内心に関わる事項であり、それが取引の判断にどの程度の影響を及ぼすかについては、当事者ごとに異なるもの」としている。そのため「買主・借主から事案の有無について問われた場合」や「買主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合」には告げる必要がある。

検討会ではどのような議論がされたのか

今回のガイドラインは国交省の「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」での議論を基に作成された。この検討会の座長を務めた明海大学不動産学部学部長の中城康彦(なかじょう・やすひこ)教授に、検討会ではどのような議論があったのか、お話を伺った。

「人の死を巡る課題の解決は、「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」(国土交通省 2019年4月)が重点的に検討すべき政策課題とした、ストック型社会の実現、安全・安心な不動産取引の実現、全ての人が安心して暮らせる住まいの確保など、ビジョンの目標と重層的にかかわってきます」(中城先生)

明海大学不動産学部学部長の中城康彦教授(写真提供/中城康彦)

明海大学不動産学部学部長の中城康彦教授(写真提供/中城康彦)

ストック型社会の実現、つまりは住宅を適切に管理し、長期にわたって使用していく、ということだ。その過程では、人が亡くなるということも当然に起こりうる。人が亡くなった物件を一律、瑕疵のある物件として扱うのでは、ストック型社会の実現は難しい。
また、検討会では「死の尊厳」についても意見が交換されたという。

「検討会では不動産関連団体、消費者団体、学識経験者から多面的な視点と情報が提供されました。その上でパブリックコメント後の修正では「死の尊厳」に配慮しました。宅建業法の枠内とはいえ、ガイドラインが慣習的な「心理的瑕疵」という言葉を用いない点を評価したいと思います。今後は住宅管理業と協働し、人の死を予防し早期発見する社会を実現することが期待されます」(中城先生)

レッテルを貼り続けることは、社会的損失を生む

ある住居で人が亡くなったとしても、死後、一定年数が経過しているのならば気にしない、という人も少なくないはずだ。しかし「事故物件」「心理的瑕疵物件」というレッテルが貼られているものに住むことは躊躇するかもしれない。周りから、事故物件に住んでいる人、という目で見られるのは嫌だからである。となると、そういう物件は選ばない。これは需要者側の物件選択の幅を狭めることになる。
一方、供給者側は、物件を敬遠する需要者が出ることで、価格・賃料を下げなければ売れなくなる、貸せなくなる。中には、どうせまともな賃料では借り手がつかない、ということでリフォームされず放置されるものも出てくる。高齢者、障がい者の一人暮らしが拒まれることも続くだろう。遺族への損害賠償請求という深刻な事態にもつながる。
本来ならば長期利用が可能な物件が「事故物件」のレッテルを貼られることで、スポイルされ、さまざまな問題を生んでしまうのだ。

本人が嫌だと思うからその物件を選ばない。これであればなんの問題もない。しかし皆が嫌がる物件だから……というある種の同調圧力により優良な住宅ストックが利用されないのは社会的な損失でしかない。
「建物を長期利用する過程では、いろいろなことがある。事故が3年以上前の話なら、(極端な例を除いては)気にする必要はない」という考えが広まることは、不動産の流通、優良な建築ストックの活用につながるだろう。今回のガイドラインをきっかけに、無意味なレッテル貼りがなくなることを期待したい。

●関連サイト
宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン
事故物件の告知ルールに新指針。賃貸物件は3年をすぎると告知義務がなくなる?

来春から成人年齢は18歳に。はじめての一人暮らしは賃貸借契約に注意!

全宅連・全宅保証協会では、毎年実施している消費者セミナーとして、スペシャルサイト『大人へのトビラ』を公開した。成人年齢引き下げが予定され、18歳で成人してから一人暮らしを始める人に向けて、賃貸借契約の注意点などを紹介したもの。どんな内容か、紹介していこう。

【今週の住活トピック】
「消費者セミナー2021秋『大人へのトビラ』スペシャルサイト」を公開/全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)・全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証協会)

2022年4月1日から成人年齢が18歳に

スペシャルサイトのテーマの一つが、2022年4月1日からの「成年(成人)年齢の引き下げ」だ。民法改正により、2022年4月1日から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。これから高校を卒業し、一人暮らしを始める予定の人たちは、成人として初めて契約という行為をする可能性がある。

サイトでは、民法改正の経緯などに加え、賃貸借契約や売買契約などの不動産の取り引きをする場合、未成年と成年では大きく違う点を説明している。未成年者は親などの保護の下にあるので、契約をする場合に親権者の同意が必要とされ、同意がない契約は原則として取り消すことができる。一方、成年者は単独で契約ができるが、自由に取り消すことはできなくなる。それだけ、契約について強い責任が生じるわけだ。

はじめての一人暮らし、賃貸借契約の注意点は?

スペシャルサイトのメインテーマは、「一人暮らしの賃貸借契約の注意点」。契約に責任が伴う以上、自身でトラブルのないように注意する必要があるからだ。

(画像提供/全宅連)

(画像提供/全宅連)

サイトではまず、部屋探しの際には、「入居予定日から逆算してスケジュールを組み、予算を立てて、計画的に取り組むこと」「希望条件を整理し、優先順位を決めておくこと」などのポイントのほか、賃貸住宅の人気の設備や間取りの見方などを紹介している。

そして、住みたい部屋が決まったら、さまざまなルールを確認し、宅地建物取引業者から重要事項の説明を受け、入居時に部屋の状況をきちんと確認することなどの注意点も紹介している。

文字だけでなく、マンガを交えて興味をもてる工夫もしているが、「部屋探しの流れ」「賃貸借契約の基礎知識」「金銭管理の基礎知識」「生活マナーの基礎知識」「こんな時にどうする?(トラブル対策)」など、動画(『はじめての一人暮らしガイドムービー』)で詳しい説明をして、はじめての一人暮らしのガイドとして役立てて欲しいとしている。11月24日には、はじめての一人暮らしの注意点をまとめたアニメーション動画も公開する予定だという。

「連帯保証人」や「原状回復」を理解している?

さて、このサイトでは「連帯保証人」と「退去立会と原状回復」について、詳しく説明している。

「連帯保証人」は家賃の滞納などがあったときに、借りた人と連帯して責任を負う人。親が連帯保証人になることが多いだろう。最近は、連帯保証人の代わりに、家賃保証会社の利用を求めるケースが多い。保証会社は借りる人から保証料を受け取り、滞納時に家賃を立て替えたりする。ただし、家賃を払わなくてよいわけではなく、保証会社はしっかり請求するので、この制度についてよく理解しておく必要がある。

入居中に部屋を損傷させた場合、退去するときに元に戻す義務がある。これが「原状回復」だ。ただし、国土交通省のガイドラインでは、普通に生活していれば経年劣化などが生じるので、それは原状回復の範囲外としている。こうしたことを理解していないと、貸し手と借り手のどちらが負担すべきかトラブルになったりするので、ガイドラインについても理解しておく必要がある。

賃貸借契約についてさらに理解しておこう

このほか、賃貸借契約に関して注意しておきたいことがあるので、いくつか補足をしておこう。

部屋が気に入って借りたいとなると、優先順位を確保するために「申込金」を求められる場合がある。この申込金は、借りる意思を示して優先的に審査をしてもらうためのものなので、申込金=契約の成立ではない。申し込んだ後に契約が成立しないこともあれば、契約する前に部屋を借りるのをやめることもできる。この際には、「申込金は返還される」のが原則。一時的に預けたお金という扱いだからだ。申込金を払う場合も「領収書」ではなく「預り証」を受け取ろう。

宅地建物取引業法では、賃貸借契約を結ぶ前に、仲介を行う不動産会社は、入居予定者に対して賃貸物件や契約条件に関する重要事項の説明をしなければならないとしている。これが「重要事項説明」で、必ず書面が提示され、口頭で宅地建物取引士が説明することになっている。重要なことばかりなので、早めに書面を受け取って内容を確認し、不明点を不動産会社に問い合わせるようにしたい。ただし、不動産会社自身が賃貸住宅の貸し手である場合は、重要事項説明をする義務を負っていない。それでも重要な事項は説明するはずなので、契約前にしっかり確認をしておこう。

「重要事項説明」と同様に重要になるのが、「賃貸借契約書」の確認だ。重要事項説明を受けて、納得したら正式に契約を結ぶことになる。この書面も早めに受け取って、目を通しておくのがよい。賃料などの支払いルールや敷金などの扱い、部屋を使用する際の禁止事項、契約の解除、原状回復の範囲など、知らないでは済まされない内容が記載されているので、しっかり確認しよう。

おかしいと思っても、その場で契約を取りやめるのはなかなか難しいことだ。やはり事前に書面を受け取って親に見てもらったり、その場に同席してもらったりして、人生の先輩から助言を受けることをオススメしたい。

公開されたサイトでは、「宅地建物取引士」についても説明している。成人になれば、宅地建物取引士などの国家資格が必要な職業に就くこともできる(国家試験合格が前提)ようになる。一方で、酒やたばこなどは健康被害への懸念などから、20歳以上とされたままなのでお忘れなきように。

「消費者セミナー2021秋『大人へのトビラ』スペシャルサイト」を公開/全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)・全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証協会)
「消費者セミナー2021秋『大人へのトビラ』スペシャルサイト」

日の里団地を「ひのさと48」で再生。ビールやDIY工房、保育園などでにぎわう

福岡県宗像市にある、日の里団地は、1971年に日本住宅公団(現・UR都市機構)が“九州最大級の団地”として開発。憧れのニュータウンだった場所だが、他エリアの団地と同様、建物の老朽化や住民の高齢化などが進んでいる。しかし日の里団地は団地の再生プランを立て、新しい団地のあり方「宗像・日の里モデル」を提案できるように歩み始めている。今回はその象徴となる48号棟「ひのさと48」を訪れた。

50歳を迎えた「日の里団地」48号棟が「ひのさと48」に。ワクワク虹色の未来を描く(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

最寄駅となるJR鹿児島本線・東郷駅は、博多駅まで快速列車で約30分の距離。福岡市の都心部に通勤するのにほどよいベッドタウンだ。その東郷駅から広がる丘陵地に開かれた日の里団地は、開発された1971年当初、全65棟に次々と入居者が決まり、最盛時は約2万人もの人々が暮らしていた。

そして50年後の2021年。住民数は10分の1の2000人程度となり、65歳以上人口の割合である高齢化率は4割前後。宗像市全体の高齢化率3割前後を超えている。

そんななか、日の里団地のいちばん奥まったエリアにある、48号棟に注目が集まっている。2017年に閉鎖された10棟のうちの1棟で、住民はもちろん宗像市や周辺エリアのコミュニケーションのハブとなるよう2021年3月、「ひのさと48(よんじゅうはち)」という場所として動き始めた。

虹色のバルコニーパネルや木のテラスは2021年3月末に「ひのさと48」に関わる人が集まってペイントした(写真撮影/笠井鉄正)

虹色のバルコニーパネルや木のテラスは2021年3月末に「ひのさと48」にかかわる人が集まってペイントした(写真撮影/笠井鉄正)

虹色のカラーリングをほどこされた「ひのさと48」の見た目はもちろん、その中身もワクワクしたものがあふれだし始めているようだ。これからこの場所で何が起こり、日の里団地はどのように変わっていくのか。

お話を伺うために、「ひのさと48」のディレクター・吉田啓助(よしだ・けいすけ/東邦レオ株式会社)さんとスタッフの谷山紀佳(たにやま・のりか/同社)さんを訪ねた。

「ひのさと48」ディレクター・吉田啓助さん。ご自身も日の里団地内に分譲の物件を購入している(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」ディレクター・吉田啓助さん。ご自身も日の里団地内に分譲の物件を購入している(写真撮影/笠井鉄正)

ふたつのエリアが融合しながら里山的な暮らしをつくる

下の写真の広々とした更地は「ひのさと48」と隣接したエリアにある。かつて10棟の団地が存在していたが、そのうち9棟は取り壊されて2022年、64戸の新築戸建てが建設される「戸建てエリア(むなかた さとのは hinosato)」が誕生する予定だ。新築の戸建てエリアが築50年の団地に挟まれている風景にも興味が湧く。

「ひのさと48」の3Fベランダから、日の里団地58・59号棟を方面を眺めた風景。「ひのさと48」と団地の間の土地に新しく「戸建てエリア」が出現する(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」の3Fベランダから、日の里団地58・59号棟を方面を眺めた風景。「ひのさと48」と団地の間の土地に新しく「戸建てエリア」が出現する(写真撮影/笠井鉄正)

上の写真の逆向きバージョン。日の里団地58・59号棟から「ひのさと48」を眺めた風景(写真撮影/笠井鉄正)

上の写真の逆向きバージョン。日の里団地58・59号棟から「ひのさと48」を眺めた風景(写真撮影/笠井鉄正)

「戸建てエリア」の開発を担うのは、ハウスメーカーなど8社からなるJV(ジョイントベンチャー。特定目的会社)で、里山をイメージした街づくりが進められている。木々のなかに戸建てがゆったりと並び、大人も子どもも自由に伸びやかに散歩にでかけ、小さな自然を楽しむ。そんなイメージだ。

「戸建てエリア」に隣接する「生活利便施設エリア」として位置づけられているのが、かつての48号棟「ひのさと48」である。

現在、1階にはクラフトビールのブリュワリー&ショップ「ひのさとブリュワリー」、最新の木工加工機が設置された「じゃじゃうま工房」、コミュニティカフェ「みどり TO ゆかり」、シェアキッチン「箱とKITCHEN」、「ひかり幼育園 ひのさと分園」が入居。取材に訪れた日も子どもたちの声が響いていた。

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

(写真撮影/笠井鉄正)

この「戸建てエリア」と「生活便利エリア」を合わせて「宗像・日の里モデル」と呼ばれる団地再生プロジェクトとなっている。

クラフトビールを足がかりに、人と地域が交わり、広がる

2021年3月から本格的に稼働し始めた「ひのさと48」で今、何かと話題をふりまいているのがブリュワリー&ショップ「ひのさとブリュワリー」だ。団地の1階にクラフトビール工房というシチュエーション。聞いただけでワクワクするし、ここを目指してふらりと訪れる人も多い。

2021年10月までに、第7弾まで発売されている(写真撮影/笠井鉄正)

2021年10月までに、第7弾まで発売されている(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」の醸造タンクは2つ。東邦レオ株式会社の社員が醸造長となり、クラフトビール界で有名な「インターナショナル・ビアカップ2021」で賞を獲得した。すごい!(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」の醸造タンクは2つ。東邦レオ株式会社の社員が醸造長となり、クラフトビール界で有名な「インターナショナル・ビアカップ2021」で賞を獲得した。すごい!(写真撮影/笠井鉄正)

訪れた人が「おもしろいことをやっている団地がある」と周りの人に伝え、よい循環もできている。
「宗像市の離島・大島のみなさんも『日の里がビールとかつくるんなら、私たちにもなにかできるかも?』と独自の地域活性に取り組もうと動き出したり。周辺の活性化にもいい影響があるといいですね」と吉田さん。

お隣の福津市でクラフトビールづくりを始めたいという男性が、買い物&リサーチに訪れていた(写真撮影/笠井鉄正)

お隣の福津市でクラフトビールづくりを始めたいという男性が、買い物&リサーチに訪れていた(写真撮影/笠井鉄正)

また、「ビールを買いに来てくれたご夫婦が『私たち、実は、この48号棟に住んでいたのよ。懐かしいわ!』なんて打ち明けてくれたり。日の里団地との関係性が切れた方も、ビールをきっかけに思い出してくれて、さらに足を運んでくれるって素敵ですよね」と谷山さんもうれしそう。

おいしいアルコール飲料であるのはもちろん、人と人、人と地域を楽しくさせるコンテンツでもある。「ひのさとブリュワリー」はそんな役割も担っている。

ちなみに「ひのさとブリュワリー」のビール「さとのBEER」には、宗像での栽培が盛んな大麦が使われている。自分たちの足元にそんな農産物があるという、情報を知るきっかけにもなっている。

「ひのさとブリュワリー」のショップで大麦を見せてくれた谷山さん(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさとブリュワリー」のショップで大麦を見せてくれた谷山さん(写真撮影/笠井鉄正)

お金のつながりだけでないことが、持続していくこと

「ひのさとブリュワリー」「じゃじゃうま工房」などは吉田さんたちが運営している施設だが、2021年の春からそれ以外のテナントもぼちぼちと入居をし始めている。ウクレレの工房や就労継続支援のオフィスなど「ひのさと48」のコンセプトに賛同してくれた人ばかりだ。

「みなさんテナントさんであるし、もっと増えてほしいです。ただ、お金をもらったからスペースを貸すよ、という関係性は目指していません。みんなでこの場所を、この地域をどう楽しみ、どうしていくのか。一緒に考えられる関係性でいたいなと思っています」。そう話してくれた谷山さんは、入居者のことを「さとの仲間」と呼んでいる。「『ひのさと48』担当になって最初のころ、ついつい『さとの仲間』のことをお客さんだと思いそうになっていました。でもそうじゃないんですよね。日の里に一緒にコトを起こす仲間になりたいんです」

今はスタートしたばかりの「ひのさと48」だが、今後、持続的に活動を続け、10年後には運営を地域にバトンタッチしていく予定だ。それまでに仲間たちで何ができるのか、次代へ何を手渡せるのか、これからの課題でもある。

「ひのさと48」の一角には野菜畑があり、入居者やご近所さんがゆるやかに協力し合いながら育てている。もうすぐさつまいもの収穫(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」の一角には野菜畑があり、入居者やご近所さんがゆるやかに協力し合いながら育てている。もうすぐさつまいもの収穫(写真撮影/笠井鉄正)

日の里団地の子どもたちがドミノ大会を開催。「ひのさと48」でお化け屋敷をやりたいという声もあがり、スペースを提供する予定(写真撮影/笠井鉄正)

日の里団地の子どもたちがドミノ大会を開催。「ひのさと48」でお化け屋敷をやりたいという声もあがり、スペースを提供する予定(写真撮影/笠井鉄正)

テーブルの足は、団地のベランダにあった物干し竿かけを再利用(写真撮影/笠井鉄正)

テーブルの足は、団地のベランダにあった物干し竿かけを再利用(写真撮影/笠井鉄正)

10年後も変わらないもの、変わっていくものはなんだろう?(写真撮影/笠井鉄正)

10年後も変わらないもの、変わっていくものはなんだろう?(写真撮影/笠井鉄正)

「ひのさと48」と2022年に完成する戸建てエリアのコンセプトは「サスティナブル・コミュニティ」である。そして「ひのさと48」持続可能にしていくものは、地域であり、人々であり、里山の自然である。

先日は地域の子どもたちのリクエストに応えて、クラウドファンディングで資金をつくり、団地の壁にクライミングのホールドを設置した。これからも多様な切り口で活動することで、人々に多様なワクワクをプレゼントしていく。

●取材協力
ひのさと48
UR都市機構

集合住宅の省エネ対応、ZEHの普及は進んでる? メリット・デメリットは?

ZEH(ゼッチ ※ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称)とは、高断熱化と高効率設備の導入により、使うエネルギーを減らしつつ、太陽光発電等でエネルギーをつくり、1年間で消費する一次エネルギー消費量をおおむねゼロ以下にする住宅のことだ。これまで一戸建てを中心にZEHの普及が進んできたが、最近になって分譲マンションや賃貸住宅といった集合住宅のZEH化も始まっている。集合住宅がZEH化すると、入居者にはどんなメリットがあるのか? デメリットは?

そもそも「ZEH」って何? どんな種類やメリットがある?

集合住宅のZEHの状況について説明する前に、まずはZEH(Net Zero Energy House=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)とは何か?について、おさらいしておこう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

まず住宅の断熱性能を高め、高効率設備を導入することで、使用するエネルギーを減らす。さらに太陽光発電等の再生可能エネルギーでエネルギーをつくり、1年間で消費する住宅のエネルギー量から創エネルギー量を引くことにより、正味(net=ネット)でおおむねゼロ以下となる住宅のことである。

ちなみに、ここで言うエネルギー量とは一次エネルギー消費量のことで、住宅で使う電気等をつくり出すエネルギー(石油や石炭、天然ガスなど)の量を指す。また、創エネルギーの使い道は太陽光発電を設置した住宅の所有者等にまかされていることから、必ずしも光熱費がゼロになるわけではないが、既にZEHに暮らしている人の中には、1年間の光熱費が実質ゼロになっている人もいるものと考えられる。

ZEHは、屋根や壁、窓等の断熱性能を高め、照明やエアコンといった設備を省エネ性能の高いものにすることで、建築物のエネルギー消費性能基準から一次エネルギー消費量を20%削減することが要件。その上で、都市部狭小地域や多雪地域等の地域的な制約がある場合に限り、太陽光発電がなくても「ZEH Oriented」が認められている。一方、太陽光発電等の創エネ設備を設置して、更に一次エネルギー消費量を削減したものが『ZEH』や「Nearly ZEH」となる(画像提供/経済産業省)

ZEHは、屋根や壁、窓等の断熱性能を高め、照明やエアコンといった設備を省エネ性能の高いものにすることで、建築物のエネルギー消費性能基準から一次エネルギー消費量を20%削減することが要件。その上で、都市部狭小地域や多雪地域等の地域的な制約がある場合に限り、太陽光発電がなくても「ZEH Oriented」が認められている。一方、太陽光発電等の創エネ設備を設置して、更に一次エネルギー消費量を削減したものが『ZEH』や「Nearly ZEH」となる(画像提供/経済産業省)

ZEHで暮らすことには下記のようなメリットがある。
●住宅の省エネルギー化や創エネルギーの活用によって光熱費を抑えられる
●住宅の高断熱化によって、夏は涼しく、冬は暖かい快適な住環境を実現できる
●断熱化により室温を保ちやすくなるので、ヒートショックなどのリスクの低減が期待できる
●太陽光発電の設置によって災害による停電時でも一定程度の生活を営むことができる

このように、光熱費を抑えられて、一年中快適かつ安心安全に暮らせるのがZEHというわけだ。

一方デメリットとしては、高断熱化や太陽光発電等の導入などの初期費用がかかること。そこで国は補助金制度によりZEHの普及促進を図っている。現在は、地域的な制約や政策目的に応じて下記のZEHが普及促進の対象となっている。

一戸建て住宅のZEH

こうした様さまざまな種類のZEHがある理由は大きく二つある。一つは地域や周辺環境によって、どうしても太陽光発電による発電量が比較的少なくなるエリアがあることだ。例えば雪国などは冬の日射量や積雪の影響で発電量は見込めないし、ビルや家々がひしめくように立ち並ぶ都心部などは日陰になりがちだ。

こうしたエリアにおいてはエネルギー収支をゼロ以下にすることが困難であるが、これらのエリアにおいても可能な限り省エネルギー化を図り、再生可能エネルギーを導入していくことが重要であることから「Nearly ZEH」や「ZEH Oriented」が設けられた。これらのZEHもエネルギー収支こそゼロにはならないものの、外皮性能(屋根、天井、壁、開口部、床、基礎など)がZEH基準に達しているため、先に挙げたメリットを享受できる。

もう1つは、ZEHよりもさらに省エネルギー性能を高め、かつ再生可能エネルギーの自家消費率を高めたZEHの普及を政策的に促すためだ。いわばさらに高性能なZEHとして「ZEH+」や「次世代ZEH+」が設定されている。

集合住宅のZEH=ZEH-Mとは? 一戸建てのZEHと何が違う?

上記、一戸建て住宅におけるZEHに加えて、集合住宅のZEHについても説明しよう。集合住宅においても一戸建てのように種類が分けられているので、まずはそちらを見てみよう。

集合住宅のZEH

一戸建てのZEHと比べると、「Ready」という名称がつくZEH-Mが設けられていることがわかる。これは、一戸建てにはなかった「太陽光発電によって集合住宅全体の一次エネルギー消費量の50%以上を削減」しているもの。

なぜ“このようなZEH-Mが設けられているのか”といえば、一戸建てに比べて住戸数に対しての太陽光発電の設置面積が少ない集合住宅では、一次エネルギー消費量を100%以上削減することが現状の技術では難しいからだ。当然、高層になればなるほど難しくなる。

高層になるほど住戸数が増えるが、屋上に設置する太陽光発電の面積は同じ比率では増やせない。そのため高層の集合住宅になるほど太陽光発電による一次エネルギー消費量の削減が難しくなる(画像提供/経済産業省)

高層になるほど住戸数が増えるが、屋上に設置する太陽光発電の面積は同じ比率では増やせない。そのため高層の集合住宅になるほど太陽光発電による一次エネルギー消費量の削減が難しくなる(画像提供/経済産業省)

「集合住宅の場合、創エネルギーで全住戸の消費エネルギーをまかなうことが高層になるほど難しくなります」と資源エネルギー庁の鈴木さん。

とはいえ、外皮性能がZEH基準なら光熱費を削減しやすくなるし、一年中快適かつ安全に暮らしやすくなる。また、全住戸は無理だとしても、太陽光発電の電気を一部の住戸に分配することは可能だ。「集合住宅の場合、住棟単位のZEH-Mとしての評価に加えて、ZEHとして住戸単位で評価することも可能であり、分譲マンションの販売主や賃貸住宅のオーナーの方々にとっては、一部の住戸のみ一次エネルギー消費量を100%以上削減した『ZEH』として資産価値を差別化して販売や賃貸することも可能になっています」

高層の集合住宅における技術的課題については、太陽電池の発電換率の向上や、最近話題になっているフィルム状の太陽電池を壁面に設置するという方法により解消していくことが考えられるが、いずれもこれからの技術開発が待たれる分野だ。

集合住宅のZEH化は、入居者にどんなメリットがあるのか?

ではZEH-Mにすることで、分譲マンションの購入者や賃貸住宅の入居者にとってどんなメリットをもたらすのか。既にあるZEH-Mの中から、積水ハウスが手がけた賃貸住宅「シャーメゾンZEH」を例に見てみよう。

(写真提供/積水ハウス)

(写真提供/積水ハウス)

(写真提供/積水ハウス)

(写真提供/積水ハウス)

2020年度のシャーメゾンZEHの年間受注戸数は2976戸を記録した。これは「2022年までに年間受注数2500戸を達成」という同社の目標を2年前倒しでクリアしたことになる。それだけ賃貸住宅のオーナーからZEH-Mの注目度が高いといえるだろう。なお累計では2021年1月時点で3500戸を突破している。

上記の通りZEH-Mには「ZEH-M「Nearly ZEH-M」「ZEH-M Ready」「ZEH-M Oriented」があるが、シャーメゾンZEHはZEH-M Ready以上、つまり太陽光発電等で一次エネルギーの使用量を50%以上削減できる賃貸住宅となる。

積水ハウスの賃貸住宅「シャーメゾン」ZEH仕様の埼玉県さいたま市の実例。屋根に太陽光発電パネルが搭載されている以外、ZEHのために特殊な形にしているというわけではない(写真提供/積水ハウス)

積水ハウスの賃貸住宅「シャーメゾン」ZEH仕様の埼玉県さいたま市の実例。屋根に太陽光発電パネルが搭載されている以外、ZEHのために特殊な形にしているというわけではない(写真提供/積水ハウス)

住戸の断熱性能を高めるため、窓は全て高断熱窓が採用されている(写真提供/積水ハウス)

住戸の断熱性能を高めるため、窓は全て高断熱窓が採用されている(写真提供/積水ハウス)

各住戸には現在のエネルギー状況が一目でわかるHEMS(ヘムス※ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の端末が置かれている(写真提供/積水ハウス)

各住戸には現在のエネルギー状況が一目でわかるHEMS(ヘムス※ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)の端末が置かれている(写真提供/積水ハウス)

同社が入居者に向けたアンケート結果によると、入居後の満足の理由に「光熱費が安くなるから」「太陽光発電があるから」「断熱性能が高いから」が上位にランクインした(下記表参照)。

積水ハウスが行ったシャーメゾンZEHの入居者アンケートより。入居前から大きくランクを、つまり満足度を上げたのはいずれもZEH由来のメリットであることがわかる(資料提供:積水ハウス)

積水ハウスが行ったシャーメゾンZEHの入居者アンケートより。入居前から大きくランクを、つまり満足度を上げたのはいずれもZEH由来のメリットであることがわかる(資料提供:積水ハウス)

いずれも入居前には入居者にとってあまり重要視されていなかったZEH-M化のメリットが、リアルな体験を通して満足度の順位をグンと上げたことになる。

確かに「あれ、今月の光熱費ってこれだけ?」とか「エアコンを切って寝ても朝まで暑くない(寒くない)」など快適な暮らしを体感したからこそ、満足度が高まったのだろう。ちなみに同社の調べでは、年間光熱費が約4割も削減できるという(下記グラフ参照)。

積水ハウスが試算した年間光熱費の比較。約4割の削減はかなり大きいと言えるだろう(資料提供:積水ハウス)

積水ハウスが試算した年間光熱費の比較。約4割の削減はかなり大きいと言えるだろう(資料提供:積水ハウス)

入居者の満足が上がることは、賃貸住宅のオーナーにとってもメリットがある。満足度が高ければ、それだけ長期入居が見込めるため、家賃収入の安定化が図れるからだ。またこれらの高付加価値があれば、周囲より高い家賃設定も可能になる。ZEH-Mの事例が増えるほど、ますます賃貸住宅オーナーからの注目が高まり、普及につながりそうだ。

ZEHの普及についてはまだまだこれから。その課題は?

では今後はどのようにZEHの普及が進んで行くのだろう。

国は、2014年の「エネルギー基本計画」において、「住宅については、2020 年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上でZEHの実現を目指す」と掲げていた。

「『エネルギー基本計画』における『2020 年までにハウスメーカー等が新築する注文住宅の半数以上でZEH』というのは、数値目標としては新築一戸建ての50%をZEHにすることでした。その進捗ですが、2019年時点で見ると、大手住宅メーカーに限れば約50%ですが、全体ではまだ約20%と、達成とはいえない状況です」と資源エネルギー庁の鈴木さん。

ZEHロードマップフォローアップ委員会が令和3年3月31日に発表した資料より。一般工務店によるZEHがなかなか進んでいないことを示している(画像提供/経済産業省)

ZEHロードマップフォローアップ委員会が令和3年3月31日に発表した資料より。一般工務店によるZEHがなかなか進んでいないことを示している(画像提供/経済産業省)

「こうした状況を踏まえ、昨年8月に国土交通省、経済産業省、環境省の3省合同で開催した『脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方・進め方検討会』で検討が行われ、2030年に目指すべき住宅の姿が定められました」

まず省エネルギーについては「新築される住宅についてはZEH基準の水準の省エネルギー性能」を目指すとされた。一方の再生可能エネルギーについては「新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されること」を目指すとしている。ZEH-Mで説明したように、集合住宅については、現状では太陽光発電の技術開発を待たなければならないということのようだ。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

これらの目標に対し、既にロードマップもつくられ、ZEH化の促進が図られているが、その際のポイントの一つは、「ZEHの周知」だという。ZEHやZEH-Mの認知度、認識がまだまだ不足しているのが実情だ。施主に求められなければ建てる側も建てようがない。

最後に資源エネルギー庁の鈴木さんは、「まずはZEH・ZEH-Mについて多くの人に知ってもらうことが重要だと考えています。そのためには光熱費の削減といった経済的メリットだけではなく、ZEH・ZEH-Mが快適に暮らせること、安心安全に過ごせること、災害による停電時でも自宅で過ごせるメリットを伝えていくことが大切です」と強調した。

世界的な脱炭素社会への潮流の中、昨年政府から「2050年カーボンニュートラル」が宣言され、その中で2030年代半ばまでに、新車販売で電動車100%を実現するとした。また東京都では新築住宅への太陽光発電の設置義務付けが検討されるという。ほかにも省エネ性能をさらに高めた家電の開発や、太陽光発電以外の再生可能エネルギーの検討など、さまざまな動きが今後もあると思われるが、大事なのは脱炭素社会になることで私たちがどんなメリットを享受できるのか、ということを改めて理解することではないだろうか。

電気自動車に乗ったり、太陽光発電を住宅に載せたりすることが私たちの「メリット」ではない。脱炭素化によって光熱費が抑えられ、暮らしが快適に、安心安全になり、それが地球温暖化の防止につながっていくということが「メリット」であるはずだ。そのメリットを手に入れるにはどんな住宅に暮らせばかなうのか。それを今一度問いなおしてみてほしい。今なら望みさえすれば、すぐに手に入るメリットなのだから。

●取材協力
経済産業省
積水ハウス

東京駅まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2021年版

部屋探しの大きなポイントといえば交通の便の良さ。首都・東京の玄関口であり、日本を代表するターミナル駅である東京駅へ電車で30分以内に到着するシングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)を対象にした最新の家賃相場ランキングとともに、穴場の駅を見ていこう。

東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅TOP10駅

順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅の所在地/東京駅までの所要時間(乗り換え時間・駅から駅への徒歩移動時間を含む)/乗り換え回数)
1位 南船橋 5.30万円(JR京葉線など/千葉県船橋市/29分/0回)
2位 戸田公園 6.10万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/30分/1回)
2位 蕨 6.10万円(JR京浜東北線/埼玉県蕨市/29分/1回)
4位 東船橋 6.18万円(JR総武線/千葉県船橋市/30分/1回)
5位 松戸 6.20万円(JR常磐線・新京成線/千葉県松戸市/27分/0回)
6位 一之江 6.30万円(都営新宿線/東京都江戸川区/27分/1回)
6位 津田沼 6.30万円(JR総武線/千葉県習志野市/30分/0回)
8位 梅島 6.40万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/29分/1)
9位 足立小台 6.45万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/27分/1回)
10位 下総中山 6.50万円(JR総武線/千葉県船橋市/27分/1回)
10位 五反野 6.50万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/27分/1回)
10位 新浦安 6.50万円(JR京葉線/千葉県浦安市/20分/0回)
10位 瑞江 6.50万円(都営新宿線/東京都江戸川区/30分/1回)
10位 舞浜 6.50万円(JR京葉線/千葉県浦安市/16分/0回)
10位 西新井 6.50万円(東武伊勢崎線・大師線/東京都足立区/27分/1回)

かつては屋内スキー場の街だった南船橋、令和はスケートリンクの街に

上位5位には、JR各線の駅がランクインしていた。1位の南船橋駅は、京葉線の快速停車駅で、東京駅まで乗り換えなく利用できる。

ららぽーとTOKYO-BAY(写真/PIXTA)

ららぽーとTOKYO-BAY(写真/PIXTA)

大型商業施設の「ららぽーとTOKYO-BAY」や、スウェーデン発の人気家具店IKEAの日本1号店「IKEA Tokyo-Bay」などがあり、商業施設が充実している。IKEA Tokyo-Bay がある場所には、かつてバブル経済を象徴した屋内スキー場があり、レジャーを楽しめる地域であったが、2020年末に新しく、国際スケート連盟基準を満たしたアイススケートリンク「三井不動産アイスパーク船橋」がオープンした。アスリート育成とともに、生涯スポーツとしてもフィギュアスケートに親しめるよう、地域住民へ向けた優待チケットの配布なども計画されている。また、南船橋駅の所在地である船橋市を拠点にする男子プロバスケットボールBリーグの「千葉ジェッツふなばし」のホームアリーナも建設が検討されており、スポーツをフックにした魅力的な街づくりが進められている。

昨年の同ランキングでは上位3位は千葉県にある駅だったが、今回は2位に埼玉県戸田市の戸田公園駅、同蕨市の蕨駅と、埼玉県の駅が同率ランクインした。

戸田公園駅(写真/PIXTA)

戸田公園駅(写真/PIXTA)

戸田公園駅の周辺は、ファミリー層が多い閑静な住宅地。目立つ商業施設などはないが、JR埼京線の快速停車駅で新宿駅へ約20分、池袋駅や大宮駅へ約15分と、東京駅以外へも大きな繁華街へのアクセスが良いことが魅力だ。あちこちへ便利に遊びに行きたいけれど住む所は落ち着いた場所で、と考えるなら選択肢に入れておきたい。

蕨駅のある蕨市は面積が約500万平米と、日本で一番、市としては小さく、かつ人口密度の高い市として知られている。その特性を活かして、市役所などの公共機関や病院、買い物など都市機能を集約させたコンパクトシティの体現を掲げており、“効率的”な生活を送ることができそうだ。

蕨駅前(写真/PIXTA)

蕨駅前(写真/PIXTA)

また近年は、クルド人など外国人の住民が増えており、他地域では見かけないような珍しい外国の食材などが買えるお店もある。そうした人たちの郷土料理教室が開かれたり、お祭りが行われたりするなど、ダイバーシティも体感できる街でもある。

東武伊勢崎線の沿線、西新井や梅島は買い物も便利

東京都内で最上位にランクインしたのは、6位の一之江駅。駅周辺は新しいマンションが目立ち、落ち着いた印象を受ける住宅街だ。近くには深夜0時まで営業しているスーパーもある。

一之江駅(写真/PIXTA)

一之江駅(写真/PIXTA)

環七通りや新大橋通りなどの幹線道路が近いため、車での遠出が多い人にとっては便利そう。駅前のバス停からは、成田空港や羽田空港、また東京ディズニーリゾートへのバスも発着している。遠くへの出張が多いビジネスパーソンにも心強そうだ。

8位以下は昨年からの入れ替えが激しく、新浦安駅以外は“新顔”だった。8位の梅島駅は東武伊勢崎線の沿線駅。東武伊勢崎線は東京メトロの日比谷線や半蔵門線と連絡しているため、渋谷駅などにも乗り換えなしで行くことができる。

梅島駅の周辺は、下町情緒の残る住宅街が広がる。駅前にはスーパーもあるが、駅周辺に広がる「梅島駅前通り商店街」には人情味あふれる個人店舗も。また少し行けば家電量販店などが入った商業施設や、早朝5時まで営業している「MEGAドン・キホーテ環七梅島店」などもあるため、目的にあわせた買い物場所も不自由することはなさそうだ。

10位の西新井駅は梅島駅と同じく東武伊勢崎線の沿線駅だが、急行や区間急行などすべての列車の停車駅だ。そのため周辺は、駅ビルから家電量販店の入った大型商業施設まで買い物環境が充実している。

駅西口は再開発計画が立てられ、広場と駅ビルの一体的な整備などが計画されている。その便利さもあってにぎやかな街の印象を受けるが、駅から少し行けば、厄除け祈願で知られる真言宗豊山派の寺院「西新井大師」がある。西新井大師は、真言宗の開祖である弘法大師(空海)が流行する悪病の平癒を祈願したことが由来の寺院で、、緑あふれる境内は、懐かしさと落ち着きを街に添えている。

は都内、千葉と、埼玉をと各方面がまんべんなくランクインしているが、今回は千葉県方面の駅がやや優勢な印象だった。どんな暮らしをしたいのかを考えてみると、ぴったりな街が見つかるはずだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/5~2021/7
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2021年8月31日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

渋谷駅まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2021年版

日本屈指の繁華街である渋谷。渋谷駅周辺の商業施設や駅構内の大規模な再開発が進行中で、いつ訪れてもダイナミックな変化が刺激的だ。その渋谷へのアクセスを重視し、電車で30分以内で行ける街に住むならどこがねらい目だろうか。ワンルーム・1K・1DKを対象にした、家賃相場が安い駅ランキングの最新版をみてみよう。

渋谷駅まで電車で30分以内、家賃相場の安い駅TOP10

順位 駅名 家賃相場(主な路線/駅所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 生田 4.90万円(小田急線/神奈川県川崎市多摩区/28分/2回)
2位 読売ランド前 5.00万円(小田急線/神奈川県川崎市多摩区/30分/2回)
3位 中野島 6.00万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/30分/2回)
3位 向ヶ丘遊園 6.00万円(小田急線/神奈川県川崎市多摩区/23分/1回)
3位 妙蓮寺 6.00万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/30分/1回)
3位 宿河原 6.00万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/28分/1回)
3位 武蔵浦和 6.00万円(JR埼京線・武蔵野線/埼玉県さいたま市南区/29分/0回)
3位 高田 6.00万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/30分/1回)
9位 戸田公園 6.10万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/29分/0回)
10位 登戸 6.20万円(JR南武線・小田急線/神奈川県川崎市多摩区/22分/1回)

青春小説の舞台の学生街、生田駅が1位

1位の生田駅は、小田急線の沿線駅。快速急行や通勤急行は停車しないものの、準急や通勤準急は利用できる。

生田駅周辺の風景(写真/PIXTA)

生田駅周辺の風景(写真/PIXTA)

駅の周辺には、単身者には心強い手軽な飲食店やドラッグストアなどが充実している。生田駅は明治大学の生田キャンパスや聖マリアンナ医科大学の最寄駅で、専修大学生田キャンパスなども近い。大学を中退した青年の引きこもりの葛藤を描いた滝本竜彦の人気小説やアニメ『NHKにようこそ!』の舞台になった街でもある。

そんな学生街の一方で、アットホームな雰囲気の店が並ぶ商店街や野菜の直売所などもあり、閑静な住宅街としての顔も持つ。少し歩けば、生田配水池を整備した緑豊かな散策路や、晴れた日には東京スカイツリーまで望める絶景の展望広場などもあるため、近年は小さな子どものいるファミリー層の住民も増えている。

JR南武線の中野島駅、東急東横線の妙蓮寺駅―……前回の選外から5駅がランクイン

今回のランキングでは同率3位が6駅もあるのが印象的だが、そのうち向ヶ丘遊園駅以外の5駅は実は、前回は選外からランクインしている。

中野島駅はJR南武線の沿線駅。落ち着いた住宅街だが、深夜0時まで営業しているスーパーや、安売りスーパーなどがある。商店街もあり、買い物環境は困ることはなさそうだ。

中野島駅(写真/PIXTA)

中野島駅(写真/PIXTA)

駅周辺では大規模な住宅施設などの建設もあり、再開発が進められている印象を受けるが、付近には畑や果樹園などが見受けられ、のどかな雰囲気も感じられる。駅は現在、横断するのに線路を渡る必要があるが、橋上駅舎化整備事業が進行中。生活しやすい雰囲気と利便性の両立が、今後期待できそうだ。

妙蓮寺駅は、人気の高い東急東横線の沿線駅。時間短縮を優先するなら特急が停車する隣駅の菊名駅で乗り換える必要があるが、急がなければ渋谷まで乗り換えなしで利用できる。また、横浜駅へも約6分で行くことができるほか、菊名駅からは新幹線の新横浜駅へもアクセスがいいので、出張が多いビジネスパーソンなどには魅力的だろう。

妙蓮寺駅(写真/PIXTA)

妙蓮寺駅(写真/PIXTA)

印象的な駅名の由来は、現在の東急東横線の前身である東京横浜電鉄の開通の際に、駅前にある日蓮宗のお寺、妙蓮寺の敷地を無償で提供してもらったことによる。そうした環境のためか、駅周辺は緑が多く落ち着いた風情がある。昔ながらの総菜屋やレトロな喫茶店などもあり、地元に根付いた穏やかな生活が楽しい街といえそうだ。

武蔵浦和駅は、埼玉県さいたま市に位置するJR埼京線と武蔵野線の駅。渋谷へは埼京線の通勤快速で30分とぎりぎりだが対象内だ。渋谷駅では他路線と埼京線とのホームの遠さが課題となっていたが、2020年6月に同線の新しいホームの供用がスタート。山手線と並ぶことになって、同駅利用時の埼京線の利便線は一気に向上した。

近年は駅前を中心にタワーマンション建築が進んでおり、それにともなって駅直結の商業施設も充実してきている。付近には家電量販店や大きな100円均一店、輸入食品店などもあり、生活に必要なものには不自由しなさそうだ。雰囲気の素敵な飲食店も数多い。また、同駅のあるさいたま市南区の区役所や図書館などが入る複合公益施設サウスピアも武蔵浦和駅から直結。すぐそばには大規模病院の武蔵浦和メディカルセンターもある。

武蔵浦和駅(写真/PIXTA)

武蔵浦和駅(写真/PIXTA)

そうした一方で、駅周辺には緑も多い。すぐそばを流れる一級河川の笹目川の沿岸は桜並木や歩道も整備されており、散歩も楽しそうだ。また駅から少し行くと、プロ野球球団・千葉ロッテマリーンズの二軍本拠地であるロッテ浦和球場や、同球団の親会社であるロッテの浦和工場がある。子どもだけでなく大人にも人気な工場見学も行っており、野球観戦とあわせて、趣味も満喫できそうだ。

渋谷は巨大ターミナル駅だけに、乗り入れる数多くの路線の組み合わせ次第で、探す部屋の候補も膨大なものになる。ちょっと条件を変えるだけで、部屋も選択肢も増える。理想の部屋も、きっと見つかるだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている渋谷駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/5~2021/7
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2021年7月31日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

空き家に住み込んでDIY! 家がない人に住まいと仕事を「Renovate Japan」

住まいがなく、仕事に困っている人が、住み込みのアルバイトとして空き家のリフォームに参加し、一時的に住居と収入を得ることで生活の立て直しを図ってもらうソーシャルビジネスが登場。“誰もが生きやすい社会”のために会社を立ち上げた「Renovate Japan(リノベートジャパン)」の甲斐隆之さんに起業のきっかけや現状のお話をインタビューするとともに実際に利用した方にも感想を伺いました。

住まいのない人と日本の空き家を結びつける新発想(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

日本の相対的貧困率(その国の大多数の人々の文化・生活水準と比べて貧しい状態にある人の割合)は15.7%(2018年 厚生労働省 国民生活基礎調査の概況)と、国民の約6人に1人。先進国を中心に38カ国が加盟するOECD諸国の中でも高い数値になっています。ホームレス状態の人の数は、全国で3824人(2021年 厚生労働省 ホームレスの実態に関する全国調査結果)。ネットカフェなどで生活する住居喪失者は都内で推定約4000人(2018年 東京都 住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書)と推計され、住居と収入に困難を抱える方の問題とどう向き合っていくかは、日本の重要な課題と言えるでしょう。

東京都国分寺市を拠点にする「リノベートジャパン」は、総住宅数に占める割合が13.6%、全国に846万戸(2018年 総務省 住宅・土地統計調査)もある日本の空き家問題に着目し、“余っている住まいと、住まいのない人”を結びつけ、困難の解決を図る会社です。

その仕組みはこう。
同社が空き家のオーナーに物件を賃貸化してもらえるよう交渉。ライフラインの整備や基本的なリフォームを行った後、生活困窮者とされる方がアルバイトとして加わり、DIYで内装を整えます。作業中はその物件に住めるようにし、シェルターとしても機能します。スタッフが仕事に就くための話を聞いたり、セーフティネットを紹介したりして支援。一定期間、家と仕事が確保される状況をつくり、次のステップに進みやすくなるのです。さらに改修した物件は、主に外国人や性的少数者といったマイノリティの方を対象にしたシェアハウスとして運営することで、作業にかかった費用を回収します。

(資料提供/リノベートジャパン)

(資料提供/リノベートジャパン)

学生時代と前職での経験を糧に“生きやすい社会”に取り組む

起業したのは、まだ20代の甲斐隆之さん。
大学時代は海外インターンシップ事業や国際学生寮の学生団体で活動し、大学院では開発経済学を専攻。卒業後は日系大手のシンクタンクに就職し、インフラ政策をはじめとした公共コンサルタントに携わってきました。

左から3番目が代表の甲斐隆之さん(左から「リノベートジャパン」のメンバーの吉田佳織さん、池田大輝さん、甲斐さん、木村剛瑠さん、元メンバーの杉浦悠花さん)(写真提供/リノベートジャパン)

左から3番目が代表の甲斐隆之さん(左から「リノベートジャパン」のメンバーの吉田佳織さん、池田大輝さん、甲斐さん、木村剛瑠さん、元メンバーの杉浦悠花さん)(写真提供/リノベートジャパン)

社会人になって約5年での挑戦は、これまでの経験が実を結んだからと言えますが、根底には甲斐さんならではの深い想いがあります。

小学生のころに父親を亡くし、母子家庭で育った甲斐さんは、遺族年金などの社会のセーフティネットに支えられてきました。一方で家庭の事情により中学1年生までの数年間をカナダで過ごした帰国子女。いわゆる“普通”のあり方とは違っていただけに、レッテルを貼られて偏見を感じたり、家庭を気づかって周囲と違う選択をしたりすることが少なくなく、アイデンティティの葛藤から自分は社会に馴染めないのではと思っていたそう。
そんななか、大学生のときにある気づきがあります。

「ある授業で貧困問題を学んだときのこと。機会に恵まれないために社会的な安定から外れてしまう人がいると知ったんです。自分はたまたまセーフティネットなどに救われましたが、ともすると同じだったかもしれません。
その人の望んでいることが、置かれている事情で左右されることがあってはいけない。道を狭められることのない“生きやすい社会”をつくりたいと強く思うようになりました」

大学3年生の時に、インド・ムンバイのNGOでインターンしていた時にスラム街を訪れた際の甲斐さん(2015年)(写真提供/甲斐さん)

大学3年生の時に、インド・ムンバイのNGOでインターンしていた時にスラム街を訪れた際の甲斐さん(2015年)(写真提供/甲斐さん)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

前職の経験から、「公的機関の役割は大きいが、限界がある。個々のニーズを満たす福祉を民間でつくっていけたら」と思うようになっていた甲斐さん。とくに住居も仕事も失っている人が一時的に利用する宿泊場所は、公的なものだと相部屋になったり規則が厳しかったりして、ストレスになりがちと聞いていました。1人ひとりが満足する空間を考えたとき、「空き家を宿泊場所にして、生活の立て直しを考えている人と結びつけられないか」と着想したそう。

甲斐さんのアイデアのポイントは、リフォームで付加価値をつけた物件をシェアハウスにし、資金回収ができるようにしたところ。助成金に頼り切らない、企業として自走できる体制だからこそ、自由な取り組みをしていけるのだと話します。

「幸い学生時代や前職で、ゼロからイチをつくるプロジェクトに関わってきたため、ビジネスをはじめるイメージはついていました。加えて事業内容は1軒1軒の空き家の改修というシンプルなもの。大がかりな構想や資金を立てなくてもスモールステップで進めてゆけて、負担が少ないことにも背中を押されました」

支援団体とも提携。包括的なサポート体制で入居者を迎える

仲間たちに声をかけ、2020年10月に事業をスタート。物件は自治体の「空き家バンク」を活用するほか、地元の不動産会社に相談したり、まちづくりの場で情報収集したりして選定しています。国分寺市・小平市の建物がまもなく完成予定で、現在は3件目となる東久留米市の物件を改修中です。

物件は住居と仕事に困った人の宿泊場所として需要が見込まれる都心に近いエリアが中心。一軒家のほかアパートも対象です(写真提供/リノベートジャパン)

物件は住居と仕事に困った人の宿泊場所として需要が見込まれる都心に近いエリアが中心。一軒家のほかアパートも対象です(写真提供/リノベートジャパン)

「空き家のオーナーの理解を得るのが一番大変なところです。正直、生活を立て直そうとしている人が利用すると聞くと、どんな人か分からないことから不安に感じる人や、近隣へ特別な配慮が必要ではないかと懸念されることもあります。宿泊場所になるのは改修を終えるまでの期間であることや、その後の利用についてのプランを説明すると、なかには『社会貢献になる』と喜びを感じていただけることも。積極的なオーナーに出会えるとありがたいです」

会社のスタッフ以外に、住み込みでアルバイトをするメンバーは“リノベーター”と呼び、支援団体と連携して募るようにしています。物件の規模が小さいため、1軒で受け入れられるのは1~2名。さまざまなケースが想定されるため、対応に配慮の必要を感じたときはスタッフから心理士に相談したり、公的な窓口につないだり、包括的にサポートしています。

(資料提供/リノベートジャパン)

(資料提供/リノベートジャパン)

「ここが各種の相談窓口につながったり、アクセスしたりするときの拠点となり、ハブのような役割を果たせたらと思うんです。そうした場所に相談役がいたら安心だと思っていて、私たちはそれを目指しています」

空き家のDIYにはスタッフも参加。スタートから約1年で、これまで3名(9月27日現在)のリノベーターを迎えました。

「本人のやる気を促し、仲間として応援するスタンスでいます。ただ心理的な負担をかけないことも大事にしていて、時間のあるときに入れて気兼ねなく帰りもできる、出入り自由なアルバイトになるようにしています」

DIYを楽しみながら自然とスタッフと関り、前向きにステップ

今夏、リノベーターを経験したSさん(20代女性)にお話を伺いました。

家に居場所がない人たちの力になりたい、と10~20代の若者に向けた支援団体でボランティアをしていたSさんは、自身も家に居づらいと感じることがあり、一時期、ネットカフェなどを転々と生活していました。そんなときに支援団体を通して「リノベートジャパン」を知り、思い切って連絡。リノベーターをすることになります。

「参加したのは安心できる環境で生活を立て直したいのもありましたが、何かをイチからつくる過程が好きなのと、事業内容が新しくて興味が湧いたのが大きいです。
壁のペンキを塗ったり養生テープを貼ったりする作業に週2時間・2カ月間ほど参加。ものができあがっていく達成感を味わえましたし、作業している間に住む部屋としてもとても快適でした」

DIY中のスタッフとの関わりも、プラスになったと言います。

「私は気分に波があったり、不眠などに悩んだりしていたのですが、そういうことはもちろん、些細なことも気にかけていただき、定期的に相談に乗ってもらいました。
これまでは『自分なんかが助けを求めてはいけない』『もっと大変な人がいるのだから我慢をしなくては』と思いがちでした。でも、辛さは比べられるものではなく、辛いかどうかは自分が決めるものだと気づけたし、困っているときはまわりがどう思おうが関係なく、いろんなところを頼ろうと思えるようになりました。
スタッフにはいろいろな人がいますが、自分の話をちゃんと聞いて、サポートしていただける本当にいい方々です」

DIY中の様子。楽しく作業をすればスタッフとの垣根が低くなります(写真提供/リノベートジャパン)

DIY中の様子。楽しく作業をすればスタッフとの垣根が低くなります(写真提供/リノベートジャパン)

リノベーターが入居する前に、スタッフらで宿泊場所にする部屋やベースの改修を行います(写真提供/リノベートジャパン)

リノベーターが入居する前に、スタッフらで宿泊場所にする部屋やベースの改修を行います(写真提供/リノベートジャパン)

左/改修前の1F和室 右/完成してきれいになった部屋(写真提供/リノベートジャパン)

左/改修前の1F和室 右/完成してきれいになった部屋(写真提供/リノベートジャパン)

DIYを終えてSさんは現在、以前からアルバイトをしているNPO法人で正社員になることを目標に働いているそう。今回の経験は、未来への想いを強くすることにつながっています。

「生きづらさを抱えている若者たちを、私がしてもらったように上手く巻き込んで居場所をつくっていきたいです。『1人で何とかしなきゃ』と思わず、困ったときは『こうした団体もあるよ』『見知らぬ人についていくならここにまず頼ってみよう!』と伝えていきたいです」

若者を支援する意欲を高まらせているSさん。その1つひとつの言葉に希望が感じられました。

この活動を社会に広めたい! 1年で得たノウハウを公開予定

「1軒1軒、質を重視して手がけている分、リノベーターの方から『こういう場所があってよかった』と言ってもらえるとありがたいです。スタッフからは『社会問題を学びつつ、現場でDIYを楽しめるのがいい』と言ってもらえます」

週一回ほど定例のミーティングで状況を報告。今後どういうステップを踏むかなどを話し合います(写真提供/リノベートジャパン)

週一回ほど定例のミーティングで状況を報告。今後どういうステップを踏むかなどを話し合います(写真提供/リノベートジャパン)

今後は、新規開拓をいったん休んで、これまで得てきたノウハウをマニュアル化し、外部に公開することを考えているそう。

「自分たちの実績を重ねるのも大事ですが、『同じことがしたい』という人が、すぐはじめられるようにしたいんです。課題解決のひとつの形として社会に浸透させていきたいと思っています」

この活動は誰かのためになるのはもちろん、自分のためになると語る甲斐さん。そのぶれない姿勢と仲間たちがある限り、着実に広がりを見せてゆくことでしょう。

●取材協力
リノベートジャパン
●厚生労働省
ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について
●東京都
住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書(18ページ)
●総務省
平成30年 住宅・土地統計調査
住宅数概数集計
●国土交通省
平成30年住宅・土地統計調査の集計結果
(住宅及び世帯に関する基本集計)の概要

徳島県神山町で最先端の田舎暮らし!子育て世代が主役の「大埜地の集合住宅」

徳島県徳島市から車で約40分。豊かな自然に囲まれた神山町は、アーティストが滞在し創作活動を行う「神山アーティスト・イン・レジデンス」や、”地産地食”を合い言葉に農業を育てる「フードハブ・プロジェクト」、また企業のサテライトオフィス誘致の成功など、先進的な取り組みで「奇跡の田舎」と呼ばれる。そんな神山町に、町内外から子育て世代が移り住むための住宅「大埜地(おのじ)の集合住宅」が誕生した。環境や地域産業にも寄与できるという最先端の技術を取り入れた住まいの今を探ってみた。

子育て世代が集える町営住宅を目指して山々に囲まれ清流・鮎喰川が町の中心を流れる神山町。写真中央にあるのが大埜地の集合住宅(写真提供/神山町)

山々に囲まれ清流・鮎喰川が町の中心を流れる神山町。写真中央にあるのが大埜地の集合住宅(写真提供/神山町)

大埜地の集合住宅がある大埜地地区は、神山町役場から徒歩約15分。小学校と中学校も徒歩圏内にあり、子育て世代が生活するには便利な文教エリアだ。ここにはかつて町内の遠方から中学校へ通う学生のための寄宿舎「青雲寮」があった。しかし少子化のあおりを受け2005年に閉寮。その場所の活用方法が長年議論されていた。

大埜地の集合住宅がある場所にあったかつての青雲寮(写真提供/神山町)

大埜地の集合住宅がある場所にあったかつての青雲寮(写真提供/神山町)

一方で町内に企業のサテライトオフィスの開設や東日本大震災の影響、加えてNPO法人グリーンバレーが運営する移住交流支援センターによる支援により、移住者が増えつつあった神山町にとって、住居の確保やその情報提供は手薄な状態だった。町内には不動産会社もなく、空き家となった古民家を紹介するとなっても、移住交流支援センターの取り組みだけでは、住みたいと思う人たちの希望に全て沿えるわけではない。家を建てる土地や借家を見つけるには困難が伴っていた。

また、既に町内の各所に住んでいる子育て世代にとっても、広い町域にゆえに、近所に同世代の子どもが少なく、普段の生活の中で互いに遊び、触れ合うことで、成長や学びに繋がる機会が損なわれつつあった。子育て世代が近所で暮らすことは、子どもだけでなく親同士が支え合えるメリットもある。

そんな状況を打開する方策のひとつとして浮かび上がってきたのが、新たな集合住宅の建設。そこで白羽の矢が立ったのが大埜地地区の青雲寮跡だった。

住居と駐車場が隔離された歩車分離の敷地では、子どもたちも安心して遊ぶことができる(写真提供/神山町)

住居と駐車場が隔離された歩車分離の敷地では、子どもたちも安心して遊ぶことができる(写真提供/神山町)

快適な住環境が地域に貢献する家づくり

2015年、入居者のための「大埜地住宅」と、広場や文化施設がある「鮎喰川コモン」からなる拠点づくりが決定。翌年から2021年までをめどに、工期を4期に分け、少しずつ開発を進めてきた。大埜地住宅は全20戸、子育て世代のための住宅18戸と単身者用シェアユニット2戸で構成。鮎喰川コモンは多世代の人が交流できる施設だ。

鮎喰川沿いに広がる大埜地住宅。住宅の周囲には神山町産の樹木が植栽されている(画像提供/神山町)

鮎喰川沿いに広がる大埜地住宅。住宅の周囲には神山町産の樹木が植栽されている(画像提供/神山町)

建築を担ったのは大工など町内のつくり手たち。工事が長期間に及んだのは、大工が小規模ゆえに、一度に大規模な工事はできないのもあった。その反面、この工事をきっかけに、担い手不足に悩まされていた町内の建築業に新陳代謝が起こり、若手大工の活躍の場が広がっていった。

住宅の建材には町内産の木材を使用。さらに給湯や暖房などの暮らしに必要なエネルギーとして、製材所から出るおがくずなどを原料にした木質ペレットを燃料とした、木質バイオマスボイラーを採用。ボイラーが設置されたエネルギー棟から各戸へ熱を送る。町内の森林資源を利用することで、経済を回し、間伐による健全な森づくりにも寄与できる。

また、冬は屋根で温めた空気で補助暖房。夏は夜間の冷気を取り込む仕組みを設置。これらの先端技術だけでなく、窓の位置や形状などの設計上での工夫も凝らし、エアコンやストーブなどに頼り切らない、快適な住環境を実現した。木質バイオマスボイラーを使用することで、毎月平均1万円の「熱料金」が発生するものの、ガスや電気を利用した一般住宅の光熱費より財布に優しい試算結果も出ている。

家族・夫婦用ユニットのメゾネットタイプとバリアフリー対応のフラットタイプ、そして単身用ユニットの3戸で一棟になっている集合住宅。2戸1タイプもある(写真撮影/生津 勝隆)

家族・夫婦用ユニットのメゾネットタイプとバリアフリー対応のフラットタイプ、そして単身用ユニットの3戸で一棟になっている集合住宅。2戸1タイプもある(写真撮影/生津 勝隆)

南向きのリビングダイニング。川沿いの涼しい風を取り入れる設計になっている。コンクリートタイル仕立ての床は、冬の昼間は太陽の熱を蓄熱。さらに温水式床下暖房で室内全体を温める(写真撮影/生津 勝隆)

南向きのリビングダイニング。川沿いの涼しい風を取り入れる設計になっている。コンクリートタイル仕立ての床は、冬の昼間は太陽の熱を蓄熱。さらに温水式床下暖房で室内全体を温める(写真撮影/生津 勝隆)

メゾネットタイプの2階の室内。室内の壁は調湿性能のある珪藻土や、健康に配慮した自然由来の塗装剤で仕上げている(写真撮影/生津 勝隆)

メゾネットタイプの2階の室内。室内の壁は調湿性能のある珪藻土や、健康に配慮した自然由来の塗装剤で仕上げている(写真撮影/生津 勝隆)

メゾネットタイプの間取り。1階は北にある玄関から南のダイニングまで、土間が段差なく続く。2階は子どもの成長に合わせて仕切りを設けることも可能(画像提供/神山町)

メゾネットタイプの間取り。1階は北にある玄関から南のダイニングまで、土間が段差なく続く。2階は子どもの成長に合わせて仕切りを設けることも可能(画像提供/神山町)

敷地内にあるエネルギー棟。木質バイオマスボイラーを使って、ここから各戸へ熱を供給する(写真撮影/生津 勝隆)

敷地内にあるエネルギー棟。木質バイオマスボイラーを使って、ここから各戸へ熱を供給する(写真撮影/生津 勝隆)

アフターコロナで期待される交流の活性化

2021年春、無事竣工を迎えた大埜地住宅は現在満室。入居者の数は総勢67人となり、約80人だった大埜地地区の本来の人口からほぼ倍増したわけだ。入居者は、町内出身者のUターン、町外からのIターン、あるいは町内からの引越しと顔ぶれはさまざま。仮に「都市部からの引越し」を「移住者」と定義するなら、移住者の割合が多い。

徳島市内への通勤者もいるが、リモート勤務も含め、入居者の大半が町内で働く。出身地は異なれど、同じ子育て世代で、普段から親同士、あるいは子ども同士の交流も活発だ。LINEグループでの情報交換、また月に一度の自治会の例会では、周辺の草刈りや敷地内での交通安全などの議題を話し合う。都市部からの移住者にとってこの交流は、新鮮であり、安心できる要素のようだ。

入居者の中には、もともと神山町出身者もいるため、近くに住む祖父母が孫を訪ね大埜地住宅に足を運ぶことも多い。現在はコロナ禍の影響もあり、なかなか地元との交流の場が設けられることがないものの、コロナ収束後は地域の祭りなど通じて、多世代の人たちとの交流の機会を設けていく。

これらの交流を通して、町民はもとより町外の人にも、地元の資源を使った家づくりの大切さや新しい木造住宅の素晴らしさを再認識してもらう狙いもあるようだ。

「地域の植生を活かしながら、楽しい原っぱを育ててゆくこと」を目標に、入居者や鮎喰川コモンの利用者である町内外の人たちと行う除草作業も大切な交流のひとつ(写真提供/神山町)

「地域の植生を活かしながら、楽しい原っぱを育ててゆくこと」を目標に、入居者や鮎喰川コモンの利用者である町内外の人たちと行う除草作業も大切な交流のひとつ(写真提供/神山町)

住み継ぐことで次世代が担っていくまちの将来像

順風満帆でスタートを切った大埜地住宅は、これからどのようにして維持・運用していくかがポイントとなってくる。主な入居条件が、50歳以下で高校生以下の子どもがいる家族、または今後子どもが生まれる可能性のある夫妻となっているため、子どもが高校を卒業し進学等で家を出ると、親も退去し新たな住まいを探す必要がある。

海外ではライフスタイルに合わせて、その都度家を住み替えていくことが一般的だが、日本人は親から引き継いだ家や自分が買った家を住み替えずに守っていくという思考の人が多く、大きな家に一人で高齢者が暮らすことも多い。そのため昨今問題が表面化してきているのが、同世代が一斉に入居し、その何十年後に高齢夫妻だけが残された「ニュータウンの限界集落化」だ。

神山町は大埜地住宅を軸にした「住み替え文化」の形成を目指す。課題は大埜地住宅を退去した親世代の生活に適した住居の確保だ。幸いにしてまだ時間が残されているため、現在は既存の町民を対象に空き家相談会など実施して、課題解決に向け取り組んでいる。

また、東京の工学院大学と提携し、大埜地住宅の各住居に内外の気温差、消費電力、換気状況などがモニタリングできるシステムを設置予定。木質バイオマスボイラーや環境に配慮した構造がどのような効果を上げているかをデータとして積み重ね、国内でも数少ない設備を持つ最新鋭の住宅を検証し、さらに快適な住環境の整備へと繋げていく。

自然豊かで快適な住環境を備えた大埜地住宅に、また新たな世代が入居し、親となり、その後も神山町に住み継いでいく……。そんな理想的なまちの姿が数十年後に見えてくるかもしれない。

●取材協力
神山町

商店街のシェアハウスで “街×人”の化学反応はじまる!「寿百家店」で北九州市黒崎が再燃中

福岡県北九州市黒崎の「寿通り商店街」を、“ニューノーマルな商店街”に生まれ変わらせるプロジェクト「寿百家店」。商店街の一部区画をフルリノベーションし、店舗とシェアハウスを創出するこの取り組み。シェアハウス「三角フラスコ」の入居もスタートして、これまでにない化学反応が起こりつつある。
シャッター通りが、なごやかでにぎわいのあるアーケードにJR黒崎駅からアーケードまでは雨に濡れずに移動できて便利(写真撮影/加藤淳史)

JR黒崎駅からアーケードまでは雨に濡れずに移動できて便利(写真撮影/加藤淳史)

北九州市内で小倉に続く規模の街・黒崎。JR黒崎駅前から扇のカタチのように広がる黒崎商店街は、1901年の官営・八幡製鐵所の創業をきっかけに発展してきた。1970~80年代に黒崎で青春時代を過ごした人々は「小倉や博多よりにぎわいのある街だった」とも語る。

昭和~平成~令和と時代は流れて、JR黒崎駅から徒歩約6分の「寿通り商店街」はシャッター通りと化していた。2016年時点で13店舗中8店舗が空き店舗。そのうち3店舗分(174.83平米/52.88坪)をリノベーションし、1階にテナント11区画、2階にシェアハウス4室+LDKをつくったプロジェクトが「寿百家店」だ。

シャッター通りと化していた「寿通り商店街」(写真提供/田村晟一朗さん)

シャッター通りと化していた「寿通り商店街」(写真提供/田村晟一朗さん)

2020年5月にスタートした「寿百家店」プロジェクトの中心人物はPR・企画会社「三角形」代表の福岡佐知子(ふくおか・さちこ)さんと、建築事務所「タムタムデザイン」代表の田村晟一朗(たむら・せいいちろう)さん。その想いやプロジェクトの経緯はこちらの記事で詳しく紹介されている。

2021年8月時点で、1階のテナント11区画はすべて入居が決まり、取材で訪れた日は子どもたちが参加するワークショップも開催中。集まった人々の楽しそうな声であふれていた。

飲食店やショップ、サロンが入居する「寿通り商店街」(写真撮影/加藤淳史)

飲食店やショップ、サロンが入居する「寿通り商店街」(写真撮影/加藤淳史)

黒崎商店街のお店や住民たちによるコミュニティが運営する無人の古本屋も登場(写真撮影/加藤淳史)

黒崎商店街のお店や住民たちによるコミュニティが運営する無人の古本屋も登場(写真撮影/加藤淳史)

「寿百貨店」が運営する無添加ラーメンと人形焼の店「あんとめん」(写真撮影/加藤淳史)

「寿百貨店」が運営する無添加ラーメンと人形焼の店「あんとめん」(写真撮影/加藤淳史)

「あんとめん」のラーメンのかまぼこに「寿」の文字が(写真撮影/加藤淳史)

「あんとめん」のラーメンのかまぼこに「寿」の文字が(写真撮影/加藤淳史)

シェアハウス開業の狙いは、街の密度を高かめたかったから

商店街の2階にイベントスペースなどではなく、シェアハウスを選択したのは「街の中心部における“人”や“暮らし”の密度を高めたかったから」と田村さんは話す。かつて商店街の2階には店主ファミリーが暮らすのが定番だった。しかし時代の変化で2階はオフィスや倉庫になるパターンが増えていった。

「夜の商店街に灯りがともったら人の気配があり、何より安心です。 またいろいろな人が商店街に暮らすことで多様性が生まれ、可能性も広がる。ですからシェアハウスがいいねと決まったんです」

福岡県行橋市の商店街にもアーケードハウスを立ち上げたことがある田村さんの経験も活きた。

ただ田村さんも福岡さんも口をそろえて「どんなシェアハウスがいいのか、なかなかイメージが固まらなかった。そもそも黒崎にシェアハウスの需要があるのか?とも考えていた」という。1階のテナント誘致が好調だったが、2階に関してはモヤモヤしたまま日々が過ぎていった。

シェアハウス「三角フラスコ」の一室。右側の窓は古い木枠のまま。採光のため右側の小窓2つを新設した(写真撮影/加藤淳史)

シェアハウス「三角フラスコ」の一室。右側の窓は古い木枠のまま。採光のため右側の小窓2つを新設した(写真撮影/加藤淳史)

部屋の窓から眺めるアーケードの景色。明るくて想像していたよりも圧迫感がない(写真撮影/加藤淳史)

部屋の窓から眺めるアーケードの景色。明るくて想像していたよりも圧迫感がない(写真撮影/加藤淳史)

地元・黒崎出身者が入居して、商店街を少しずつ変えていく

そんな折、「寿百家店」のInstagramにメッセージが届いた。第1号の入居者となる堀 加奈恵(ほり・かなえ)さんからだ。北九州市内で働く堀さんは、ひとり暮らしをいったん終えて黒崎の実家に戻り、また新たに一人暮らしができる住まいを探していた。

「多様な人と出会えるシェアハウスに住んでみたくて、北九州市内で探していました。情報収集するうちに発見したのが『寿百家店』。メッセージを送った翌日には福岡さんのところへ会いに行き、街づくりから人生についてまで初対面とは思えないほど濃い内容の話をしたんです」と堀さん。

「寿百家店」についてワクワク感いっぱいに話す福岡さんと出会い「こんなに人生を楽しんでいる人が運営しているシェアハウスなら間違いない!」と入居を即決。古い木枠の窓を残した部屋を選び、LDKの壁のクリーム色もお気に入りになった。

写真右から田村さん、福岡さん、入居者の堀さん、奥迫さん(写真撮影/加藤淳史)

写真右から田村さん、福岡さん、入居者の堀さん、奥迫さん(写真撮影/加藤淳史)

店舗3店分をつなげているので、奥に長いシェアハウスに(写真撮影/加藤淳史)

店舗3店分をつなげているので、奥に長いシェアハウスに(写真撮影/加藤淳史)

「もっとコミュニケーションを」と入居者が入居者を連れてくる

LDKが充実していて他の入居者とコミュニケーションが取れるシェアハウスであることも、決め手となった。「他のシェアハウスでは、あえて入居者同士が接触しないようにしているところも。私の場合、シェアハウスに住むのなら、ぜひいろんな人と交流したいと考えていたんです」と堀さんは続ける。

そんなある日、堀さんは高校の同級生で近くの美容室「cococara-hair」の1階店長を務める奥迫響子(おくさこ・きょうこ)さんをシェアハウスに招いた。すると奥迫さんもこの場所にひと目惚れ。奥迫さんが一人暮らしをしようと思いはじめたタイミングも重なり、2人目の入居者となった。

奥迫さんも入居を即決したそうで「この場所にはなにか吸引力があるのかも」と堀さん。「寿通り商店街は実家からも勤務先からも歩いてすぐの場所だし、幼いころから知っている場所。でも“住む”となると、ときめくし、とても新鮮ですよね」と話す。

左が1人目の入居者・堀さん、右が奥迫さん(写真撮影/加藤淳史)

左が1人目の入居者・堀さん、右が奥迫さん(写真撮影/加藤淳史)

奥迫さんが店長を務める美容室は歩いて4分の職住近接(写真撮影/加藤淳史)

奥迫さんが店長を務める美容室は歩いて4分の職住近接(写真撮影/加藤淳史)

堀さんの個室は木の窓枠が残っているタイプ。全4部屋あり、1部屋あたりの広さは6畳(写真撮影/加藤淳史)

堀さんの個室は木の窓枠が残っているタイプ。全4部屋あり、1部屋あたりの広さは6畳(写真撮影/加藤淳史)

奥迫さんの部屋の出窓には、商店街内にある花屋さんから贈られた観葉植物があった(写真撮影/加藤淳史)

奥迫さんの部屋の出窓には、商店街内にある花屋さんから贈られた観葉植物があった(写真撮影/加藤淳史)

商店街を昔に戻すのではなく、今の姿にバージョンアップすればいい

堀さん・奥迫さんの親は黒崎の全盛期を知っている世代。ふたりは幼いころから「自分たちが若いころ、アーケードを歩くと人と人の肩がぶつかり合うほどにぎわっていた」というエピソードを聞かされていた。でも「私たちは黒崎がその時代に戻ってほしいわけじゃない」と口をそろえる。

「どんな商店街でも、活性化したい、若者に来てもらいたいと言うけれど、若者の人口自体が減っている。だからそこにこだわらなくていいんじゃないかな?」と堀さん。福岡さんも「一過性のものでなく今の時代にあった、本当の新陳代謝が必要だよね?」と相槌を打つ。

2021年7月の入居から1カ月。「この場所で人と街、人と人との化学反応が起きるといいな」と願う堀さんは自ら発案し、みんなと相談しながらシェアハウスをネーミング。決まった名前は「三角フラスコ」だ。フラスコ内で起こる化学反応をイメージし、福岡さんの事務所「三角形」をプラスした。

堀さんが中心となり、みんなで決めた「三角フラスコ」のネーミング(写真撮影/加藤淳史)

堀さんが中心となり、みんなで決めた「三角フラスコ」のネーミング(写真撮影/加藤淳史)

20代のふたりが商店街の風景になじんでいる(写真撮影/加藤淳史)

20代のふたりが商店街の風景になじんでいる(写真撮影/加藤淳史)

商店街のシャッター前で趣味のダンスを踊ってInstagramで発信している(写真撮影/加藤淳史)

商店街のシャッター前で趣味のダンスを踊ってInstagramで発信している(写真撮影/加藤淳史)

商店街から見上げたシェアハウス。ここに灯りがともる(写真撮影/加藤淳史)

商店街から見上げたシェアハウス。ここに灯りがともる(写真撮影/加藤淳史)

20代の堀さん・奥迫さんが持つ「商店街をにぎわっていた時代に無理やり巻き戻すのではなく、今の時代にそった新しいにぎわいを生み出したらいい」という感覚。これは今後さらなる少子化と人口減が進む日本において、共有されるべきものではないだろうか。余談ではあるが堀さんは「三角フラスコ」入居によって出会った福岡さんのもとで働くことになったそうだ。もちろん「寿百家店」にも関わっていく。自ら「三角フラスコ」の中心となり、化学反応を起こしていく。これからも「寿百家店」と黒崎の街に注目したい。

●取材協力
・寿百家店
・cococara-hair

名古屋「栄駅」まで電車で15分以内、家賃相場が安い駅ランキング! 2021年版

東海圏最大の大都市である愛知県名古屋市において、最大の商業地であり繁華街といえば、栄エリア。中心地である錦三丁目での百貨店やホテルが入居するシンボル的な複合施設の建設計画のほか、久屋大通公園の「RAYARD Hisaya-odori Park」誕生など再開発が進み、ますます魅力を増している。そんな栄駅へのアクセスが良い、狙い目の駅はどこだろうか。シングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)を対象に、最新の家賃相場が安い駅ランキングを見ていこう。
栄駅まで電車で15分以内、家賃相場の安い駅TOP10

順位/駅名/家賃相場/(主な路線名/駅の所在地/栄駅までの所要時間(乗り換え時間・駅から駅への徒歩移動時間を含む)/乗り換え回数)
1位 小幡 4.65万円(名鉄瀬戸線/名古屋市守山区/15分/0回)
2位 新守山 4.75万円(JR中央本線/名古屋市守山区/13分/1回)
3位 枇杷島 4.80万円(JR東海道本線/清須市/15分/1回)
4位 黄金 5.10万円(近鉄名古屋線/名古屋市中村区/15分/1回)
5位 勝川 5.15万円(JR中央本線/春日井市/14分/1回)
5位 東海通 5.15万円(名古屋市営地下鉄名港線/名古屋市港区/15分/0回)
7位 伝馬町 5.20万円(名古屋市営地下鉄名城線/名古屋市熱田区/14分/0回)
7位 岩塚 5.20万円(名古屋市営地下鉄東山線/名古屋市中村区/14分/0回)
9位 庄内通 5.28万円(名古屋市営地下鉄鶴舞線/名古屋市西区/13分/1回)
10位 六番町 5.30万円(名古屋市営地下鉄名港線/名古屋市熱田区/13分/0回)
10位 御器所 5.30万円(名古屋市営地下鉄鶴舞線・桜通線/名古屋市昭和区/14分/1回)

1位の小幡駅は緑豊かでのどかな環境と生活の便利さが両立

1位は小幡駅で、家賃相場は4.65万円。小幡駅は名鉄瀬戸線の開業と同時に設置された駅で、古くから交通の要衝であった地域だ。駅周辺には瀬戸街道や県道15号線、千代田街道など幹線道路も多い。

愛知県営小幡緑地のアウトドア施設「オバッタベッタ」(写真/PIXTA)

愛知県営小幡緑地のアウトドア施設「オバッタベッタ」(写真/PIXTA)

所在地である守山区は名古屋市の北東部に位置し、区の面積に対する緑地面積の割合である緑被率は16区中でトップと、自然が豊富に残る。付近には県営の都市公園「小幡緑地」も。野球場などの運動施設や広い芝生広場などがあり、住民の癒やしの場になっている。

買い物施設や飲食店も充実しているほか、守山区役所の最寄駅であり、クラシックコンサートや映画の上映会などが開かれる「守山文化小劇場」もすぐそば。緑豊かでのどかな環境と生活の便利さを両立できそうだ。

2位は新守山駅。1位の小幡駅と同じく守山区に位置する。JR中央本線の普通列車の停車駅で、周辺は落ち着いた印象を受ける住宅街。駅周辺は、専門店も多数入っている総合スーパー「アピタ新守山店」やホームセンターなど、大型の商業施設も多く、買い物も非常に便利だ。

東海圏で熱狂的な人気のプロ野球球団「中日ドラゴンズ」の本拠地であり、今年「ナゴヤドーム」から改称されたばかりの「バンテリンドーム ナゴヤ」のJRの最寄駅は、新守山駅の隣駅である大曽根駅だが、新守山駅からドームまでの距離は3km弱。バスも運行しているが、野球好きにとっては、散歩がてら趣味も満喫できるエリアといえそうだ。

3位の枇杷島駅は清須市にあるが、東海圏の玄関口である名古屋駅とは隣駅で、駅間距離は約4km。名古屋駅は栄駅と同じく再開発が進められており、どちらへのアクセスも抜群なのは大きな利点だろう。

清須城(写真/PIXTA)

清須城(写真/PIXTA)

清須市は、愛知県が誇る戦国大名、織田信長が若いころに本拠地とした清須城があり、その信長の後継問題をめぐる清須会議も行われた場所。2005年に西枇杷島町、清洲町、新川町、その後09年に春日町を合併して誕生した新しい市で、ベッドタウンとして発展し続けている。

駅の周辺は企業の工場なども集まるが、市内は庄内川や五条川、新川などの河川が多く、河川敷などを活用した施設が充実している。新川沿いにある浄化センターの敷地を使った緑地公園「新川西部浄化センター緑地」の園内通路は、のどかな自然を楽しめるランニングコースとしても最適だ。

ちなみに、ランキングは栄駅から15分以内で算出しているが、20分以内に範囲を広げると、同じく清須市にある須ケ口駅(4.35万円)と二ツ杁駅(4.50万円)が、上位にランクインしている。須ケ口駅は名鉄名古屋本線と津島線、二ツ杁駅は名鉄名古屋本線の沿線駅で、やはりどちらも名古屋駅へのアクセスも非常に便利。名古屋市外であってもこの利便性は注目したいところだ。

“名古屋らしさ”を満喫できるエリア、活気ある住宅街もランクイン

7位の伝馬町駅は、名古屋市営地下鉄名城線の沿線駅。三種の神器の1つである「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」をまつる「熱田神宮」は、名鉄の神宮前駅が最寄駅であるが、熱田神宮の正門になる南口と東門の最寄駅は伝馬町駅だ。そのため、熱田神宮への案内効果を高める目的で、2022年度中に「熱田神宮伝馬町」駅への改名が予定されている。

熱田神宮(写真/PIXTA)

熱田神宮(写真/PIXTA)

その立地から観光地の印象を受けるが、周辺は住宅街としての面も持ち、ホームセンターなどの買い物施設にも困らない。一方で、史跡や老舗の飲食店なども数多い。旧東海道の唯一の海路であった「七里の渡し」の船着き場跡、常夜灯や鐘楼、桟橋を備えた「宮の渡し公園」のほか、熱田神宮と縁が深く、毎年12月に勇壮な火渡り神事が行われる「圓通寺」などがある。また、名古屋名物であるひつまぶしの登録商標を保持している「あつた蓬莱軒」など、“名古屋めし”を満喫できるエリアでもある。

9位の庄内通駅は、活気ある住宅街。周辺には、24時間営業の大型スーパーなどが入る商業施設「イオンタウン名西」やホームセンターなどがあり、買い物する場所には事欠かない。また、県の災害拠点病院や地域周産期母子医療センターの認定などを受けている「名古屋市立大学医学部附属西部医療センター」があり、いざというときも安心できるだろう。

通勤にしても遊ぶにしても、繁華街へのアクセスの良さは引越しに際に必ず気になるもの。繁華街の“近場”は同じく繁華街、と思いがちだが、そうとは限らないのが部屋探しの面白いところでもある。自分のライフスタイルは何を重視するかよく見極めれば、最適の部屋がきっと見つかるはずだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている栄駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2021/3~2021/5
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2021年6月30日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載