「タイニーハウス村」誕生!? 山梨県小菅村から未来の住まいを発信

アメリカ西海岸を中心に広がりを見せている「タイニーハウス」。日本でもブームの兆しを見せているものの、現在は個人での所有や商業施設で利用されるにとどまっています。しかし山梨県小菅村では、この10~25平米ほどの小さな住まいが続々と建てられているとか。小菅村がタイニーハウスに注目する理由とは? 現地に行ってみました。
タイニーハウスが住宅不足の救世主に?

東京都心部から車で2時間ほど、多摩川の源流部にある山梨県小菅村。村の面積の約95%を山林が占める大自然の中で、山の斜面を利用した畑作や、清らかな水を活用したヤマメやイワナの養殖などが行われています。時間がのんびりと流れ、ノスタルジックな雰囲気です。

山梨県小菅村、手前に見えるのがヤマメの養魚場(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

山梨県小菅村、手前に見えるのがヤマメの養魚場(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

村の人口は714人(2019年7月時点)、小菅村源流親子留学や多摩川源流大学、地域おこし協力隊などで村外の人も積極的に迎え入れています。今回、取材の対応をしてくれた一級建築士・技術士の和田隆男さん(トップ写真)も、もともとは地域おこし協力隊のひとり。25年前から小菅村役場、小菅村体育館などの村内の公共施設づくりに携わってきましたが、小菅村への地域貢献を本格化。山梨県甲府市のマンションと村内のタイニーハウスで二拠点生活を送り、72歳になった現在も村のために日々奔走しています。

そんな和田さんが中心となって3年前に始動したのが「小菅村タイニーハウスプロジェクト」です。タイニーハウスのデザインを全国から公募し、その中から最優秀賞や優秀賞に輝いたものも含め、年2~3棟のペースで建てています。3年目の現在、9棟が建ち、そのうち7棟は村営住宅として移住者や地域おこし協力隊へ貸し出されていて、2棟はモデルハウスとして利用されています。

この取り組みの背景には、移住者等の増加による住宅不足があると言います。

和田さんが3年前にこの現状を知ったときに思い出したのが、住宅不足が深刻化しているイギリスでの経験でした。ホームステイ先の庭先7坪ほどの場所でビジネスをするためのアイデアを求められた際に、日本のワンルームに着想を得た小さな家の提案をして興味を持たれたそうです。さらに、その後に日本で起きたタイニーハウスのムーブメントもあって、ますます実現してみたい気持ちが大きくなっていったそう。

「小菅村には豊富な森林資源があります。これを活用しつつ、住宅不足を緩和できる糸口になるのではと、まずは個人的に別荘を建てるつもりで設計していました。そうしたら村長に興味を持ってもらえて、地方創生事業として本格的に取り組めることになったんです」

百聞は一見にしかず。モデルハウス2棟と、和田さんが住んでいるタイニーハウスにおじゃましてみましょう。

暮らしに家を合わせるのではなく、家に暮らしを合わせる

和田さんいわく、タイニーハウスの条件は、トイレ、風呂、キッチンなどの家としての機能を完備している“快適な住まい”であること。設備込みで500万円前後から購入でき(土地代を除く)、建設期間は2カ月ほど。維持費もほとんどかからず、光熱費が年間1万4000円という人もいるそう。とても経済的です。

村では高齢化が進んでいることもあり、地区ごとに若い人に住んでもらうためにタイニーハウスを点在させて建築しています。

小菅村のタイニーハウス第1号では、住まいの最小単位を追求。「はじめは8畳一間で何ができるだろうと不安でした。50年近く仕事で設計に携わっているのに、イメージできなかったんです。ところがつくってみたら、狭さを感じないし、逆にほかに何が必要なの?と思うようになりました(笑)」(和田さん)

外にはデッキがあり、天気がいい日はここで朝食を食べたり、コーヒーでひと休みすることもできます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

外にはデッキがあり、天気がいい日はここで朝食を食べたり、コーヒーでひと休みすることもできます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

床面積13.2平米、ロフトの床面積は4.9平米と1.9平米、設備代込みの参考価格500万円(土地代を除く。販売はしていない)。真夏の訪問、ロフトはさぞかし暑かろうと思いましたが、エアコンをつけずとも家中に心地いい風が行き渡っていて、とても快適です。これも小さな家ならではのメリットかもしれません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

床面積13.2平米、ロフトの床面積は4.9平米と1.9平米、設備代込みの参考価格500万円(土地代を除く。販売はしていない)。真夏の訪問、ロフトはさぞかし暑かろうと思いましたが、エアコンをつけずとも家中に心地いい風が行き渡っていて、とても快適です。これも小さな家ならではのメリットかもしれません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

棚を兼ねた階段を登るとロフトが2つも。隠し部屋みたいでワクワクします。展示では就寝スペースにしてありましたが、書斎などの趣味スペースとして活用するのも楽しそう。シンプルだからこそ、想像力がかきたてられます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

棚を兼ねた階段を登るとロフトが2つも。隠し部屋みたいでワクワクします。展示では就寝スペースにしてありましたが、書斎などの趣味スペースとして活用するのも楽しそう。シンプルだからこそ、想像力がかきたてられます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2軒目は、リビング・就寝スペースがある主屋、トイレ・風呂がある水屋と、2棟に分割されたタイニーハウス。「家具は可動式。暮らし方は変化していくものですから、快適な間取りも変わっていくはずです。だから、はじめから間取りを決めてしまうのではなく、家具などで変えられるようにしました」(和田さん)

主屋の床面積9.4平米(ロフト別)、水屋の床面積4.5平米、ウッドデッキの床面積10.5平米、参考価格700万円(設備代込み、土地代を除く。販売はしていない)。1年目の最優秀賞作品(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

主屋の床面積9.4平米(ロフト別)、水屋の床面積4.5平米、ウッドデッキの床面積10.5平米、参考価格700万円(設備代込み、土地代を除く。販売はしていない)。1年目の最優秀賞作品(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

主屋と水屋の2棟をつなぐデッキには扉が付いていて、扉を閉めれば目隠しができます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

主屋と水屋の2棟をつなぐデッキには扉が付いていて、扉を閉めれば目隠しができます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ロフトは床面積4.0平米。クローゼット付き(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ロフトは床面積4.0平米。クローゼット付き(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

棚はキャスター付き、壁付けのテーブルは折りたたみ式(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

棚はキャスター付き、壁付けのテーブルは折りたたみ式(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

これらモデルハウス2棟は、今年中に民泊申請をする予定とのこと。実際にタイニーハウスでの暮らしを体験できるのが楽しみですね。

3軒目は和田さんのご自宅です。キッチン、トイレ、寝室、クローク、書斎、バスタブ付きの風呂場、2段ベッド付きの子ども部屋と、かわいらしいサイズ感の外見からは想像がつかないたくさんのスペースがあります。

床面積25平米(展望台別)、参考価格800万円(設備代込み、土地代を除く)。現在は和田さんが居住中(現在ほかに空き家なし)。1年目の優秀賞作品(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

床面積25平米(展望台別)、参考価格800万円(設備代込み、土地代を除く)。現在は和田さんが居住中(現在ほかに空き家なし)。1年目の優秀賞作品(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関は人間用(左)と、ワンちゃん用(右)に分かれていて、ワンちゃん用の玄関からは土間続きに。「近所の人に、靴を脱がないまま気軽に『お茶を飲んでいきなよ』と言えるのが新鮮ですね」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

玄関は人間用(左)と、ワンちゃん用(右)に分かれていて、ワンちゃん用の玄関からは土間続きに。「近所の人に、靴を脱がないまま気軽に『お茶を飲んでいきなよ』と言えるのが新鮮ですね」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

甲府市では50平米の1LDKマンションに住んでいるという和田さんですが、ここ2年のタイニーハウスでの暮らしはいかがでしょうか?

「十分です。3歩以内で身の回りのことが何でもできます(笑)」

たくさん物があるから収納はたっぷり欲しい、家具をたくさん置きたいから広々としたスペースが欲しいと思いがちですが、タイニーハウスに住むことで足るを知る、ということでしょうか。

また、和田さんは以前から「大きい家はいらないという思いは持っていました」と言います。

「このタイニーハウスが、長年向き合ってきた住まいに対する僕のひとつの答えです。
僕もかつては大きな家を買うためにローンを払ってきました。無理をしてきた部分があったと思います。資産になる、家族のため、と思っていましたが、子どもたちとその大きな家で暮らしたのは15年ほど。子どもが家の中からいなくなって思ったのは、建設費が安く、維持費も少なくてすむ小さな家で、心軽やかにいろいろと好きなことをやったほうがいいなと」

そう話しながら和田さんは、こだわりのBOSEのスピーカーでジャズをかけてくれました。音が家中に反響して、まるで自分のためだけのコンサートホールのようです! 展望台にのぼると、大きな窓一面に山々の緑が広がりました。夜は満点の星空を見ることができるそうです。

2.0平米の展望台付き(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2.0平米の展望台付き(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「豊かさってこういうことなんだな、ということを実感しています。この先進的な小さな家では、精神的な豊かさを得られています。

僕も、おそらく建築業界の人も、住宅に対してあえて小さな家をつくるという発想を持っていませんでした。戦後から団地に見られる個室と浴室・トイレのついた2DKの田の字形プランがスタンダードになりましたが、昔は長屋や屋敷など、住まいの形はもっと自由でした。特に、鴨長明や良寛和尚などの偉人が山の中に建てた小さな庵は、タイニーハウスに通じるものがあります。

欧米では、地球温暖化防止や持続可能な社会実現のために、社会に対する自分の意志の表現や行動としてタイニーハウスで暮らす人々が増えていますが、日本人にとっても、思想として受け入れやすい住まい方なんですよね。

新しい暮らしに敏感な人がよく見学に来てくれています。今、求められているのはこういう精神的な豊かさが得られる暮らしだと思いました。

何より、小さな家なら自分の好きな空間を簡単につくることができて、楽しいんですよ。50年後、タイニーハウスが家のスタンダードになったら面白いですよね」

2年目からはタイニーハウスを小菅村産のスギでつくっているそうです。家を壊した後も自然に還りやすい素材でつくられているという点も、昔の庵と同じ。環境にも配慮されているんですね(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2年目からはタイニーハウスを小菅村産のスギでつくっているそうです。家を壊した後も自然に還りやすい素材でつくられているという点も、昔の庵と同じ。環境にも配慮されているんですね(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

タイニーハウスには“未来の家”の可能性が詰まっている

「タイニーハウスデザインコンテスト」の作品応募数は、1年目50、2年目126、3年目260と年々倍増しています。3年目となる今年の最優秀賞は、なんと女子高校生の作品。次世代の可能性を感じます。コンテスト1年目はタイニーハウスの可能性を探った作品、2年目は実現可能性が高い作品、3年目は住まいという概念を飛び越えた“未来の暮らし”を提案する作品が多かったそうです。

今年7、8月に3年間で応募された436作品が一堂に会する「森とタイニーハウスとものづくり展」が開催されました。展示作品をまとめた書籍を、今年中に発刊予定とのこと(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今年7、8月に3年間で応募された436作品が一堂に会する「森とタイニーハウスとものづくり展」が開催されました。展示作品をまとめた書籍を、今年中に発刊予定とのこと(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2019年の最優秀賞作品『森を浴びる家』は2階建てテントのような建物。自然の明かりで目覚め、眠る。家からは温かい明かりが漏れる提案がされています。好きな場所で組み立て直すこともできます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2019年の最優秀賞作品『森を浴びる家』は2階建てテントのような建物。自然の明かりで目覚め、眠る。家からは温かい明かりが漏れる提案がされています。好きな場所で組み立て直すこともできます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

特別賞作品『散歩しながら暮らす家』は、2019年度中に建設予定とのことです。外からは中が見えづらいかわりに、中庭を部屋の一部として楽しめる空間になっています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

特別賞作品『散歩しながら暮らす家』は、2019年度中に建設予定とのことです。外からは中が見えづらいかわりに、中庭を部屋の一部として楽しめる空間になっています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、村の住民にも変化があったと言います。

「はじめは、『そんなちっぽけな家をつくることに意味があるのか』という声もありました。ですが、タイニーハウスを通じて若い人にも村自体に興味を持ってもらえるようになったことで、『村を良くすることに必要。そうしないと村の未来がない』と言ってくれる人も出てきました」

小菅村に「タイニーハウス・ビレッジ」が生まれる!?

現在はものづくりを楽しめる工房「小菅つくる座」での取り組みに力を入れているとのこと。タイニーハウス建設はいったんお休み?と思いきや、「タイニーハウスを進化させるための『小菅つくる座』なんです」と和田さんは話します。「タイニーハウスはスペースが限られていますから、既存の家具を入れることが難しい。だから、タイニーハウスに合う家具をつくることが必要だと考えました」

工房は事前予約すれば村外の人も使える。ハイスペックなCNCルーターやレーザーカッターも完備。8月3日には初のDIY教室が開かれた。今後も定期的に開催予定とか(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

工房は事前予約すれば村外の人も使える。ハイスペックなCNCルーターやレーザーカッターも完備。8月3日には初のDIY教室が開かれた。今後も定期的に開催予定とか(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ロッキングチェアをひっくり返すと安定性の高い作業用の椅子になる一石二鳥な家具や、バラバラにして移動しやすくした本棚やスツールなどを見せてもらいました。タイニーハウスで暮らす和田さんだからこその発想です。

写真はロッキングチェアモード。作業用の椅子にすると、自然と背筋が伸びる工夫がされています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

写真はロッキングチェアモード。作業用の椅子にすると、自然と背筋が伸びる工夫がされています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ゆくゆくはセルフビルドできるタイニーハウスキットの販売や、森の中にタイニーハウス・ビレッジをつくりたいと思っています。借りられそうな森は、もう目星がついているんですよ」

なんと夢のある話でしょう! 木漏れ日の美しい森で日々を過ごし、近くの温泉で癒やされる。そんな贅沢な暮らしが目に浮かぶようです。

写真は、自然共生型アスレチック施設「フォレストアドベンチャー・こすげ」がある森。こんな森の中にタイニーハウス・ビレッジが……(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

写真は、自然共生型アスレチック施設「フォレストアドベンチャー・こすげ」がある森。こんな森の中にタイニーハウス・ビレッジが……(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

バンで移動しながら暮らす「バンライフ」や、好きな地域で週末を過ごす「二拠点生活(デュアルライフ)」、定住しない暮らし方「アドレス・ホッパー」などが注目を集めています。いろんな場所におじゃまできるこれらの暮らしも魅力ですが、タイニーハウスでは理想の住まいの形にじっくり向き合うことができそうです。

“欲しい家”ではなく、“欲しい暮らし”を考えた先にあるのは、どんな住まいの未来でしょうか。

●取材協力
小菅村タイニーハウスプロジェクト

地域に根差した劇場が誕生! 京都駅の東南部エリアが文化芸術都市に

「京都」といえば歌舞伎や能・狂言など伝統芸能のイメージが強いですよね。ところが、実は現代劇や小演劇のカルチャーも盛んなのです。

今、京都で最も注目を集めているエリアといえば、京都駅の東南部。京都市はここ一帯を「文化芸術都市」として発展させたい意向があるようです。そのようななか、先手を打つかのように一館の劇場が誕生しました。なんでも、京都では過去にない多くの機能を誇る施設なのだそう。いったい、どんな劇場なのでしょう。そっと、ドアを開けてみましょう。

さわやかな風が吹く鴨川沿いに話題の劇場が誕生

京都を代表する一級河川、鴨川。春には遊歩道に桜が咲き誇る、市民の憩いの場です。

京都を南北に貫く、京都人の心のよりどころ、鴨川(写真撮影/吉村智樹)

京都を南北に貫く、京都人の心のよりどころ、鴨川(写真撮影/吉村智樹)

涼やかな川風に吹かれながら、鴨川のほとりを歩いていると、樹々の向こうに真新しい劇場が顔を覗かせました。

鴨川の遊歩道、桜の木立の間から垣間見える話題の新劇場「THEATRE E9 KYOTO」(写真撮影/吉村智樹)

鴨川の遊歩道、桜の木立の間から垣間見える話題の新劇場「THEATRE E9 KYOTO」(写真撮影/吉村智樹)

この劇場の名は、「THEATRE E9 KYOTO(シアター・イーナイン・キョウト)」。今年(2019年)6月22日にオープンしたばかりのニューフェイス。「E9」とは、劇場が建つ街「東九条」をイーストナインと訳してつけられたもの。

エントランスはガラス張りで明るい印象。「E9」とは劇場がある東九条を意味する(写真撮影/吉村智樹)

エントランスはガラス張りで明るい印象。「E9」とは劇場がある東九条を意味する(写真撮影/吉村智樹)

開館して間もない劇場ながら、公演スケジュールは驚くほどぎっしり! おめでたい狂言「三本柱」をこけら落としに、音楽劇、独り芝居、喜劇、ミステリー、舞踊、バーレスクなどなど、上演されるジャンルは多種多彩。知的好奇心をくすぐるラインナップとなっています。

ウワサの新劇場はカフェとコワーキングスペースを兼ね備える

さらにこの劇場の大きな特徴は、カフェとコワーキングスペースを併設していること。鴨川のせせらぎを眺めながら飲食を楽しんだり、仕事をしたり。ゆったりとした極上の雰囲気。

併設された「Cafe & Restaurant Odashi」(写真撮影/吉村智樹)

併設された「Cafe & Restaurant Odashi」(写真撮影/吉村智樹)

「コワーキングスペースは朝7時から夜11時まで年中無休で使えます。劇場とコワーキングスペースが一緒になっていて、さらにカフェまで備わった場所は日本中を探しても、なかなかないです。単にお芝居を鑑賞するだけではなく、さまざまな文化が交わる空間になっています」

「THEATRE E9 KYOTO」の支配人であり、運営する一般社団法人「アーツシード京都」の理事を務める蔭山陽太さん(55)は、そう言います。蔭山さんはこれまで「ロームシアター京都」をはじめ、京都・横浜・松本で4つの劇場で支配人を務めた名マネージャーです。

「THEATRE E9 KYOTO」の支配人、蔭山陽太さん。かつて札幌で和食の料理人をやっていた異色の経歴をもつ(写真撮影/吉村智樹)

「THEATRE E9 KYOTO」の支配人、蔭山陽太さん。かつて札幌で和食の料理人をやっていた異色の経歴をもつ(写真撮影/吉村智樹)

5つもの小劇場が一気に閉館! 京都の演劇界を襲った危機

楽しさがたっぷりと詰まった新劇場。しかし……幕が上がるまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。そもそもこの劇場が誕生した理由は、ある危機的状況がきっかけでした。

「ロームシアター京都を運営していたある日、芸術監督のあごうさとしさんから、『2015~2016年の間に京都市内の小劇場が5つもクローズする』という話を聴いたんです。京都の小劇場は民間経営が多く、建物の老朽化やオーナーの高齢化などが理由で維持できなくなっていたんですね」

京都は日本でもトップ5に入ると謳われる、演劇活動が盛んな街でした。そのような京都で主要小劇場が一気に5つも閉館になるなんて、文化的喪失の大きさは計り知れません。33年続いていた、京都の中心的な小劇場『アトリエ劇研』で最後のディレクターを務めていたあごうさとしさんと、現代美術と演劇を融合させてきた作家のやなぎみわさんは、蔭山さんに『新しい劇場をつくれないか』と相談を持ち掛けます。

「小劇場の文化が廃れていたのならば、『もう現代には需要がないんだ』と諦めるしかない。けれども、消滅するどの劇場もフル稼働だったんです。観る側、舞台に立つ側、ともにニーズがあった。そんななかでの閉館とあって、本当に残念だったんです。さらに、このまま劇場がない状態が続くと、京都から劇団や表現者が離れていったり、未来の担い手が辞めてしまったりしてしまう。私も強い危機感を抱き、『ひと肌脱ぎたい』という気持ちになりました」

新たな劇場を創設する新天地として選ばれた「東九条」

京都の小劇場界が苦境にさらされる現況が忍びない。そこで蔭山さんたちは新劇場の開館を目指し、物件探しに奔走します。

ところが、これがなかなか見つからない。京都市内で最寄駅から徒歩圏内にあり、100席を設置できて、天井が高く、音や声が出しても周辺から苦情が来ない。そんな好条件に合う物件に出会えずにいました。

「どこにも物件がないので、私がそれまで個人的にお世話になっていた、リノベーションを得意とする株式会社八清の西村直己社長に相談しました。すると『東九条に、自社倉庫があります』とすすめてくださったんです」

かつては倉庫として使われていた建物(画像提供/THEATRE E9 KYOTO)

かつては倉庫として使われていた建物(画像提供/THEATRE E9 KYOTO)

「東九条」とは、京都駅の東南側と鴨川の間をはさむ地域。交通至便でありながら、住民の高齢化と人口減少によって空き家や空き地が増え、エアポケットと化していた場所です。

指し示された空き倉庫は、鴨川の沿岸に建っていました。ここは、ほかにもJRと京阪電鉄「東福寺」駅や地下鉄「九条」駅からも歩いて訪れることが可能な、願ってもない地だったのです。

「京都という名だたる観光都市の、新幹線停車駅から徒歩圏内。世界的に見ても劇場の立地としては超一等です。『ここしかない』、そう思いました。ただ……」

ただ? そう、さっそく資金の問題が立ちはだかったのです。

クラウドファンディングで申請資金の調達に成功。もう後へは引けない!

「倉庫を劇場にリノベーションするためには、建築審査会に申請書を提出して特例許可を得なければなりません。そして最も頭が痛いのが、申請をするだけでも、約1200万円がかかること。耐震や防音など専門家に依頼して調査をしないといけませんから」

申請のみで、およそ1200万円が飛んでいく。潤沢な資金は、もちろんありません。そこで蔭山さんたちは、クラウドファンディングを呼びかけます。設定は「オール・オア・ナッシング」。期限は3カ月。手数料を含めた目標額1400万円に達することができなければ、劇場を建てる計画そのものをあきらめることも考えました。

すると……。

「オープンできた今だからお話しますが、正直に言って『お金は集まらないだろう』と踏んでいました。新しい劇場の誕生を望んでいる人が、果たしてどれほどいるのだろうか……って。ところが、予想をはるかに超えた約1900万円を超える金額が集まったんです。とてもうれしかったし、驚きました。『劇場が生みだす文化を応援したいと考えてくださっている人が、こんなにたくさんいたんだ!』と。そして、『もう後には引けない』と、決意を新たにしました」

初期費用1200万円を集める段階で「劇場の建設は無理ではないか」と、あきらめかけていたという(写真撮影/吉村智樹)

初期費用1200万円を集める段階で「劇場の建設は無理ではないか」と、あきらめかけていたという(写真撮影/吉村智樹)

うれしい出来事は、ほかにもありました。同時期に鴨川周辺でカフェとコワーキングスペースを営みたいと考えていた株式会社ラ・ヒマワリと巡りあい、一棟を共同でつくりあげる運びとなったのです。

地元企業の支援や、演劇を愛する人々の熱い想いに支えられた

こうして申請に充てられる資金の調達をクラウドファンディングで成しえた蔭山さんたち。ところが、喜びも束の間、工事費は当初予想額の3倍、およそ2億円にまで膨れ上がりました。蔭山さんは資金繰りに明け暮れる日々を送ります。

さらに検査する箇所は日ごとに増え、検査されるたびに修正が求められ、開館を発表したあとでもまだ工事が進まない状況。このような逆境に陥るたびに、劇場の未来に可能性を感じた地元企業の支援や、演劇や表現を愛する人々の情熱によって支えられてきたのです。

壁には支援してくれた人たちの名が刻み込まれている(写真撮影/吉村智樹)

壁には支援してくれた人たちの名が刻み込まれている(写真撮影/吉村智樹)

開館までに、蔭山さんにはもうひとつ、やらねばならない重要な仕事がありました。それは「地域住民から理解を得ること」。産声をあげる劇場は、新天地である東九条の街に根差さなければ意味がないと考えた蔭山さんは、できるかぎり住民たちとの交流を深める努力をしました。

「東九条にお住まいの皆さまに、劇場を続ける意義をご理解いただくために、地域のお祭には積極的に参加し、アーティストを呼んでワークショップも開催しました。そのおかげか、2度開催した公聴会では、劇場を開くことに反対する方はひとりもおられなかったんです」

多様な表現を可能にする「ブラックボックス」

そうして、遂に幕を開けた「THEATRE E9 KYOTO」は、さまざまな表現に対応できるブラックボックス(四方八方が真っ暗なスペース)と呼ばれる劇場形式。これまで幾度も劇場の開館に立ち会ってきた蔭山さんですが、ゼロから3年、苦労の末に完成までたどり着き、理想の空間が目の前に開けたときは感慨もひとしおだったとか。

京都から消え去ろうとしていた「ブラックボックス」タイプの劇場を蘇らせた(画像提供/THEATRE E9 KYOTO)

京都から消え去ろうとしていた「ブラックボックス」タイプの劇場を蘇らせた(画像提供/THEATRE E9 KYOTO)

客席には一見、普通のスタッキングチェアが設置されていますが、この椅子こそ、蔭山さんのこだわりでした。

「クッション性と反発性のバランスがちょうどよく、長く座っていても疲れない椅子を吟味しました。椅子の状態がよくないと、どんなにいいお芝居やパフォーマンスも、集中して鑑賞することができません。劇場や映画館、スタジアムの椅子を専門につくっている会社の協力を得て、小劇場向けに特別に研究開発された椅子を導入することができました。みなさんに長く親しんでいただけるかと思います」

「これからは団塊の世代が演劇を楽しむ時代。椅子の品質にはこだわり抜いた」という蔭山さん(写真撮影/吉村智樹)

「これからは団塊の世代が演劇を楽しむ時代。椅子の品質にはこだわり抜いた」という蔭山さん(写真撮影/吉村智樹)

アートのパワーで大きな変貌を遂げる「京都駅東南部エリア」

「THEATRE E9 KYOTO」が注目される理由は、劇場の多様な機能、だけではありません。特筆すべきは劇場の立地。今後京都のトレンドを大きく左右する場所にあるのです。

2017年3月、京都市は「京都駅東南部エリア活性化方針」と題し、京都駅から鴨川をはさむ東南方面へかけての地域を「アートによって活性化させる」方針を打ちだしました。2023年度には近隣の駅東部へ京都市立芸術大学や京都市立銅駝美術工芸高等学校の移転が予定されるなど、今後は文化芸術に関連する多くの資源が集積してゆくエリアなのです。

京都駅から徒歩圏内の東九条に建てられた「THEATRE E9 KYOTO」は、アートによって変わってゆく街の、まさに先鞭をつける存在となりました。

「地域の人たちに育てられて、新しい人や新しい作品が生まれてくる。この劇場から、国内外で活躍するアーティストが生まれるかもしれないし、そうなってほしい。それが私たちの願いです」

目標は「100年続く劇場」。世界にその名を轟かせる劇場都市へ

蔭山さんたちが高く掲げる目標は「100年続く劇場」。東九条が国内だけでなく世界の文化都市とつながる「劇場がある街」になるための、その一歩を踏み出したのです。

「地域に根差し、地域に認められ、地域に必要とされる劇場でありたいですね。劇場を訪れた方が、この街でお茶をしたり、食事をしたり、買い物をしたりして楽しむ。そして街が活性化する。地域に貢献できる劇場でありたい、そんなふうに考えています」

悠久の時を刻み、流れ続ける鴨川。そのほとりに誕生した新劇場もまた、100年後も人々の心にあり続けるのでしょうね。そのような想像がひろがり、胸が熱くなった一日でした。

「街の人々に愛され、100年続く劇場にしたい」。蔭山さんはそう熱く語る(写真撮影/吉村智樹)

「街の人々に愛され、100年続く劇場にしたい」。蔭山さんはそう熱く語る(写真撮影/吉村智樹)

●取材協力
THEATRE E9 KYOTO/一般社団法人「アーツシード京都」

東京都内の中央線の駅、家賃相場が安い駅ランキング 2019年

人気の街や路線は数多くあれど、人気に比例して家賃は高くなるものだ。沿線内でどの駅がお手ごろなのか、お目当ての駅の周辺地域で価格がどう変わるかは部屋探しの際、必ずポイントになる。そこで、SUUMO「関東 住みたい街ランキング2019」で上位の街を多く有し「2019年の住みたい沿線ランキング関東版」でも4位のJR中央線を分析。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象にした最新の家賃相場ランキングから、人気の街の実態を確認してみた。順位/駅名/家賃相場/駅の所在地
1位 西八王子 4.70万円 八王子市 
1位 高尾 4.70万円 八王子市
3位 日野 5.30万円 日野市
4位 国立 5.60万円 国立市
5位 西国分寺5.70万円 国分寺市 
6位 国分寺 6.00万円 国分寺市 
7位 八王子 6.10万円 八王子市
8位 東小金井 6.40万円 小金井市
9位 武蔵小金井 6.50万円 小金井市
10位 立川 6.70万円 立川市 
11位 武蔵境 6.80万円 武蔵野市
12位 豊田 6.85万円 日野市
13位 三鷹 7.00万円 三鷹市
14位 吉祥寺 7.40万円 武蔵野市
14位 西荻窪 7.40万円 杉並区
16位 阿佐ヶ谷 7.50万円 杉並区
16位 高円寺 7.50万円 杉並区
18位 中野 7.80万円 中野区
18位 荻窪 7.80万円 杉並区
20位 東中野 8.10万円 中野区
21位 大久保 8.80万円 新宿区
22位 水道橋 10.93万円 千代田区
23位 市ヶ谷 11.00万円 千代田区
23位 御茶ノ水 11.00万円 千代田区 
25位 四ツ谷 11.10万円 新宿区
26位 新宿 11.11万円 新宿区 
27位 信濃町 11.38万円 新宿区
28位 東京 11.40万円 千代田区
29位 代々木 11.50万円 渋谷区
30位 神田 12.10万円 千代田区 
31位 飯田橋 12.20万円 千代田区 
32位 千駄ヶ谷 12.30万円 渋谷区

住みたい街ランキング常連の街、にぎやかさか閑静さか

東西に長いJR中央線、正式名称中央本線のうち、東京都内に当たるのは東京駅から八王子市にある高尾駅まで。本記事で取り上げるのはこの区間にある32駅が対象だ。

1位は、八王子市が所在地の西八王子駅と高尾駅。東京駅からの所要時間は1時間を超えてしまうが、高尾駅は通勤特快などの各快速列車、西八王子は快速と中央特快が利用できる。都心への出社に少し時間はかかってしまうが、高尾駅は始発のため、車内は座って通勤できるのはメリットだ。ともに都内ではあるが、緑が豊かに残る街。郊外でののんびりした子育てと都心での勤務を両立させられるため、特にファミリー層は選択肢に入れたい地域だ。

中央線沿線でSUUMOで発表している「関東 住みたい街ランキング2019」でトップなのは、吉祥寺駅だ。2019年度版では3位だが、17年には1位にも輝いている同駅は、家賃ランキングでは西荻窪と同率の14位。通勤快速と快速などの停車駅で、JR中央線以外にも京王井の頭線と、中野駅から直通する東京メトロ東西線も利用でき、交通の利便性も抜群だ。

界隈はパルコやロフトなど大きな商業施設が多く、オシャレなお店にも事欠かない。一方で、駅北側には戦後の闇市から続くディープな飲食店街「ハモニカ横丁(ハーモニカ横丁)」や、初心者からコアなファンまで喜ばせる上演ラインナップの「吉祥寺シアター」もあり、年齢を問わず魅力的な街なのはよく知られている。シングルからファミリー層までどんな世帯でも満足させる街だが、あえて言うなら、遊びに来ても楽しい場所だけに常に街に多くの人があふれていることが気になる点だろうか。

吉祥寺駅の隣駅、三鷹駅も、住みたい街ランキングの上位常連だ。2019版の同ランキングでは16位で、本記事のランキングでは家賃も吉祥寺駅よりも少しお手ごろな13位。JR総武線も利用でき、東京メトロ東西線も乗り入れている。どちらも三鷹駅が始発のため、乗車時に座れる可能性が高いのはうれしいところだ。駅の所在地は三鷹市だが、駅の南口は三鷹市、北口側は武蔵野市と自治体が異なる。

三鷹の森ジブリ美術館があることで有名な街だが、同じく人気エリアである吉祥寺と比べると閑静で、その分ファミリー向けの印象。井の頭恩賜公園など大きな公園があるのは吉祥寺だが、三鷹駅南口からはその井の頭恩賜公園へ向かう川沿いの遊歩道が整備されている。

井の頭恩賜公園(写真/PIXTA)

井の頭恩賜公園(写真/PIXTA)

日常生活の買い物先になるスーパーや商店街なども充実しており、自然が多く残り、葉物野菜などをつくる農家も多く存在。そのため、直売所が街のあちこちにあり、新鮮な野菜を入手しやすいことも、食にこだわりたい世帯には大きなポイントだろう。

18位の中野駅は、中央特快や通勤快速などの停車駅。同率で18位の荻窪駅や、同じ中野区の東中野駅が20位のことを考えると、交通コスパが良いのは中野といえるだろう。

再開発進み、リノベ物件も充実

中野駅は漫画などのサブカルチャーの集積地である「中野ブロードウェイ」や、コンサートが行われる「中野サンプラザ」といった商業施設のイメージが強いが、北口にある大きな商店街「中野サンモール商店街」など、日常の買い物を安く済ませられる場所にも恵まれた下町の面も持ち合わせている。オシャレで手軽な価格の飲食店も充実している。

中野サンモール商店街(写真/PIXTA)

中野サンモール商店街(写真/PIXTA)

近年は再開発が進み、警察大学校の跡地に明治大学などの新キャンパスが開校。オシャレなライトアップが売り物の公園としても整備されている。その影響か、単身者向けの古い物件がリノベーションされて賃貸に出されるケースも増えており、特に女性にとっては目移りしてうれしい悩み、となりそうだ。

人気のある路線は、それだけの理由がある。率直にいってしまえば、沿線中のどの駅を選んでも、過ごしやすさと楽しさを満喫できそうだ。その中でどうやって部屋を選ぶかで、生活や人生の中で重視するものが可視化されそうなのも、部屋探しの大きな楽しみのひとつだろう。

●調査概要
【調査対象駅】中央線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2019/2~2019/4
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

都内の中央線の駅、家賃相場が安い駅はどこ? 家賃相場全駅ランキング

人気の街や路線は数多くあれど、人気に比例して家賃は高くなるものだ。沿線内でどの駅がお手ごろなのか、お目当ての駅の周辺地域で価格がどう変わるかは部屋探しの際、必ずポイントになる。そこで、SUUMO「関東 住みたい街ランキング2019」で上位の街を多く有し「2019年の住みたい沿線ランキング関東版」でも4位のJR中央線を分析。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象にした最新の家賃相場ランキングから、人気の街の実態を確認してみた。順位/駅名/家賃相場/駅の所在地
1位 西八王子 4.70万円 八王子市 
1位 高尾 4.70万円 八王子市
3位 日野 5.30万円 日野市
4位 国立 5.60万円 国立市
5位 西国分寺5.70万円 国分寺市 
6位 国分寺 6.00万円 国分寺市 
7位 八王子 6.10万円 八王子市
8位 東小金井 6.40万円 小金井市
9位 武蔵小金井 6.50万円 小金井市
10位 立川 6.70万円 立川市 
11位 武蔵境 6.80万円 武蔵野市
12位 豊田 6.85万円 日野市
13位 三鷹 7.00万円 三鷹市
14位 吉祥寺 7.40万円 武蔵野市
14位 西荻窪 7.40万円 杉並区
16位 阿佐ヶ谷 7.50万円 杉並区
16位 高円寺 7.50万円 杉並区
18位 中野 7.80万円 中野区
18位 荻窪 7.80万円 杉並区
20位 東中野 8.10万円 中野区
21位 大久保 8.80万円 新宿区
22位 水道橋 10.93万円 千代田区
23位 市ヶ谷 11.00万円 千代田区
23位 御茶ノ水 11.00万円 千代田区 
25位 四ツ谷 11.10万円 新宿区
26位 新宿 11.11万円 新宿区 
27位 信濃町 11.38万円 新宿区
28位 東京 11.40万円 千代田区
29位 代々木 11.50万円 渋谷区
30位 神田 12.10万円 千代田区 
31位 飯田橋 12.20万円 千代田区 
32位 千駄ヶ谷 12.30万円 渋谷区

住みたい街ランキング常連の街、にぎやかさか閑静さか

東西に長いJR中央線、正式名称中央本線のうち、東京都内に当たるのは東京駅から八王子市にある高尾駅まで。本記事で取り上げるのはこの区間にある32駅が対象だ。

1位は、八王子市が所在地の西八王子駅と高尾駅。東京駅からの所要時間は1時間を超えてしまうが、高尾駅は通勤特快などの各快速列車、西八王子は快速と中央特快が利用できる。都心への出社に少し時間はかかってしまうが、高尾駅は始発のため、車内は座って通勤できるのはメリットだ。ともに都内ではあるが、緑が豊かに残る街。郊外でののんびりした子育てと都心での勤務を両立させられるため、特にファミリー層は選択肢に入れたい地域だ。

中央線沿線でSUUMOで発表している「関東 住みたい街ランキング2019」でトップなのは、吉祥寺駅だ。2019年度版では3位だが、17年には1位にも輝いている同駅は、家賃ランキングでは西荻窪と同率の14位。通勤快速と快速などの停車駅で、JR中央線以外にも京王井の頭線と、中野駅から直通する東京メトロ東西線も利用でき、交通の利便性も抜群だ。

界隈はパルコやロフトなど大きな商業施設が多く、オシャレなお店にも事欠かない。一方で、駅北側には戦後の闇市から続くディープな飲食店街「ハモニカ横丁(ハーモニカ横丁)」や、初心者からコアなファンまで喜ばせる上演ラインナップの「吉祥寺シアター」もあり、年齢を問わず魅力的な街なのはよく知られている。シングルからファミリー層までどんな世帯でも満足させる街だが、あえて言うなら、遊びに来ても楽しい場所だけに常に街に多くの人があふれていることが気になる点だろうか。

吉祥寺駅の隣駅、三鷹駅も、住みたい街ランキングの上位常連だ。2019版の同ランキングでは16位で、本記事のランキングでは家賃も吉祥寺駅よりも少しお手ごろな13位。JR総武線も利用でき、東京メトロ東西線も乗り入れている。どちらも三鷹駅が始発のため、乗車時に座れる可能性が高いのはうれしいところだ。駅の所在地は三鷹市だが、駅の南口は三鷹市、北口側は武蔵野市と自治体が異なる。

三鷹の森ジブリ美術館があることで有名な街だが、同じく人気エリアである吉祥寺と比べると閑静で、その分ファミリー向けの印象。井の頭恩賜公園など大きな公園があるのは吉祥寺だが、三鷹駅南口からはその井の頭恩賜公園へ向かう川沿いの遊歩道が整備されている。

井の頭恩賜公園(写真/PIXTA)

井の頭恩賜公園(写真/PIXTA)

日常生活の買い物先になるスーパーや商店街なども充実しており、自然が多く残り、葉物野菜などをつくる農家も多く存在。そのため、直売所が街のあちこちにあり、新鮮な野菜を入手しやすいことも、食にこだわりたい世帯には大きなポイントだろう。

18位の中野駅は、中央特快や通勤快速などの停車駅。同率で18位の荻窪駅や、同じ中野区の東中野駅が20位のことを考えると、交通コスパが良いのは中野といえるだろう。

再開発進み、リノベ物件も充実

中野駅は漫画などのサブカルチャーの集積地である「中野ブロードウェイ」や、コンサートが行われる「中野サンプラザ」といった商業施設のイメージが強いが、北口にある大きな商店街「中野サンモール商店街」など、日常の買い物を安く済ませられる場所にも恵まれた下町の面も持ち合わせている。オシャレで手軽な価格の飲食店も充実している。

中野サンモール商店街(写真/PIXTA)

中野サンモール商店街(写真/PIXTA)

近年は再開発が進み、警察大学校の跡地に明治大学などの新キャンパスが開校。オシャレなライトアップが売り物の公園としても整備されている。その影響か、単身者向けの古い物件がリノベーションされて賃貸に出されるケースも増えており、特に女性にとっては目移りしてうれしい悩み、となりそうだ。

人気のある路線は、それだけの理由がある。率直にいってしまえば、沿線中のどの駅を選んでも、過ごしやすさと楽しさを満喫できそうだ。その中でどうやって部屋を選ぶかで、生活や人生の中で重視するものが可視化されそうなのも、部屋探しの大きな楽しみのひとつだろう。

●調査概要
【調査対象駅】中央線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2019/2~2019/4
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

パリの暮らしとインテリア[1]ヴィンテージ家具に囲まれたデザイナー家族のアパルトマン

私はフランスのパリに暮らすフォトグラファーです。パリのお宅を撮影するたびに、スタイルを持った独自のインテリアにいつも驚かされています。

今回はヴィンテージ家具を20年以上かけて少しずつ集めて生活を楽しんでいる、ブティックなどの内装を手がけるデザイナーのヴァレリーさん、ファッションデザイナーの仁美さんらが暮らすアパルトマンに伺いました。

連載【パリの暮らしとインテリア】
フランス・パリで暮らす写真家が、パリの素敵なお宅を撮影。インテリアの取り入れ方から日常の暮らしまで、現地の空気感そのままにお伝えします。人気エリア11区から静かな『北マレ』への引越し

ヴァレリーさんと仁美さんが子どもたちと暮らすお住まいは、今パリの最新トレンド発信地として大人気の北マレ地区にあります。2005年に引越してきたときにはまだ「北マレ」というエリア名では呼ばれておらず、パリの中心地にある割にはとても静かなところでした。今では多くのギャラリーやおしゃれなカフェなどが点在し、活気がある地区に変化を遂げました。

お住まいの通りは北マレにあっても静かな通りです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お住まいの通りは北マレにあっても静かな通りです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

以前は子育てにも人気な地区である11区に住んでいましたが、当時の家は子ども部屋が小さかったこと、子どもたちを公立の小学校に通わせるために、パリ中心部への引越しを決めました。ちなみにそのとき住んでいた家は、お二人自身でDIYで改装していたので、売買するときもすぐに買い手が見つかり、スムーズだったといいます。

今の住まいを見つけたきっかけはインターネットでのアノンス(通知)で、とても興味深い物件だったとのこと。
「長女のアリスと長男ジェレミーがまだ小さかったので、共働きの私たちにとって、お手伝いさん用の小さなスペースが隣接していたのがここと契約する決め手になりました」と仁美さん。

入り口の共用部分の階段は、最近ようやく工事が終了! カラーリングは住人たちで相談して決めました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

入り口の共用部分の階段は、最近ようやく工事が終了! カラーリングは住人たちで相談して決めました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓から見える風景。向かいは歴史的建造物。マレ地区には古い館が点在しています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

窓から見える風景。向かいは歴史的建造物。マレ地区には古い館が点在しています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「ただ、部屋を自分たちでデザインしてDIYしていたので、完成には6カ月もかかりました。でも楽しい時間でした」(ヴァレリーさん)
購入した金額のプラス12%が改装費。もちろん業者さんに支払った額も含まれています。ヴァレリーさんの仕事柄、通常よりリーズナブルに収まったようです。

特に部屋の色合いには気を付けているとのこと。階段側面のグレーは自然素材のペンキFarrow&Ballで、自分たちでペイント。一部を塗ることでメリハリをつけています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

特に部屋の色合いには気を付けているとのこと。階段側面のグレーは自然素材のペンキFarrow&Ballで、自分たちでペイント。一部を塗ることでメリハリをつけています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

偶然に見つけた椅子からインテリアのヒントを得る

ヴィンテージ家具をコレクションするきっかけになったのは、仁美さんが20年以上も前にドイツ旅行をしたときにさかのぼります。たまたま見つけたオレンジの椅子が始まりです。「パットンチェアーと呼ばれる椅子に目が留まって、当時10ユーロもしなかったのですぐに飛びつきました。それからはどんなものを加えていくか夫婦二人でよく話し合うようになりました」
ひと目惚れのパットンチェアー以降はほとんど衝動買いをせず、部屋の空間バランスや色合いなどを考慮して買い足して今日に至った様子。

最初に購入したヴィンテージのオレンジの椅子がイメージを膨らませました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

最初に購入したヴィンテージのオレンジの椅子がイメージを膨らませました(写真撮影/Manabu Matsunaga)

家具にはいろいろな想いも詰まっているといいます。例えば息子のジェレミーの部屋に入る扉の上には、彼が生まれた記念に購入したネルソンクロックのオレンジの時計が飾られています。パリでは、子どもの出産時に記念品を購入することが多いのです。
今回写真には登場しないジェレミーは、バレエダンサーになるべくレッスンでオランダのサマースクールへ。お部屋は見せてもらえませんでしたが、彼の部屋にも少しヴィンテージ家具が置いてあるとのことでした。

息子のジェレミーが生まれた記念に購入した時計。奥がジェレミーの部屋になっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

息子のジェレミーが生まれた記念に購入した時計。奥がジェレミーの部屋になっている(写真撮影/Manabu Matsunaga)

東欧製のピアノ上には、ハンドプレーイングという小さなサーフボードのオブジェが飾られています。ヴァレリーさんはフランスのサーファーの聖地、ビアリッツ近くの街オースゴー出身で、子どものころからサーフィンをしていました。

ピアノは東欧のPetorf、イケアのデザインランプの横にはHand Playing(ハンドプレーイング)を飾っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ピアノは東欧のPetorf、イケアのデザインランプの横にはHand Playing(ハンドプレーイング)を飾っています(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「気に入るのはどうしても北欧系の家具になってしまいますが、ソファと椅子の2点だけはフランスものです」

家具のアクセントになるような小物もところどころに配置されています。「最近では特にドナ・ウィルソン(ロンドンを拠点に活動するクリエイター)のぬいぐるみ、ブロッコリー、ピーナッツモチーフが気に入って少しずつ足していっています」(仁美さん)

ブロッコリー、ピーナッツモチーフが気に入っているが、次は狐を狙っているとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ブロッコリー、ピーナッツモチーフが気に入っているが、次は狐を狙っているとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

「家具だけでなく、デザイン性が高い小物を飾ることも大好きです。食器に関してはフランスのツェツェ・アソシエのものが大好きですが、デリケートな陶器なので扱いが難しいですね。それでも食卓に登場する頻度は高いです」(仁美さん)

大好きなツェツェ・アソシエのカップでお茶の準備中。お茶の時間は大切な家族の対話に必要(写真撮影/Manabu Matsunaga)

大好きなツェツェ・アソシエのカップでお茶の準備中。お茶の時間は大切な家族の対話に必要(写真撮影/Manabu Matsunaga)

料理はヴァレリーさんもよくつくるそうで、得意料理はパスタ。家族みんなの大好物! 仁美さんは、日曜日に必ずバスチーユのマルシェに季節の野菜や果物類を買いに行きます。

日曜日はヴァレリーさんの出番も多いです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

日曜日はヴァレリーさんの出番も多いです(写真撮影/Manabu Matsunaga)

将来的な計画も

「今、改装を考えているところです。アリスが高校を卒業したタイミングで、彼女の部屋を使用人部屋に移そうかと。台所が2人で作業できないほど狭いので、キッチン部分を小さな寝室にして、隣接するサロン(ダイニングのような部分)をアメリカンオープンキッチンにしたいと考えているのです」(仁美さん)

改装を考える一方で、いい部屋があれば引越しも検討しているとか。仁美さんは不動産探しも趣味。アプリで自分の気に入った条件を力すると最新の情報のお知らせが来ることで、夢も広がり、寝る前のリラックスタイムになっているそうです。

「でも今は物件が高くてなかなか手が出るものはないんです。
特に今のこの場所がどこに行くのも便利なのでなかなか離れられませんね」

4人ともそれぞれの自転車を持っているので、あまり電車には乗らないそうです。
かつてヴァレリーさんがスケートボードのお店をやっていたせいか、子どもたちはスケートボードで出かけることも多いとのこと。

近所にはアリスはスケートボードで出かける(写真撮影/Manabu Matsunaga)

近所にはアリスはスケートボードで出かける(写真撮影/Manabu Matsunaga)

散歩を兼ねてよく行く近所のホテルレストランはアートセンスが満載(写真撮影/Manabu Matsunaga)

散歩を兼ねてよく行く近所のホテルレストランはアートセンスが満載(写真撮影/Manabu Matsunaga)

中庭には心地よいレストランもあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

中庭には心地よいレストランもあります(写真撮影/Manabu Matsunaga)

お互いの興味をよく話し合い快適な住まいづくりを実践している素敵な夫婦でした。これからも家も家庭も進化していくと感じました。

30年も前からヴァレリーさんが少しずつ描き続けているデッサンを絵巻にして保存。 過去にギャラリーで展示したことがありますが、新しいものもあるのでまたやってみたいとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

30年も前からヴァレリーさんが少しずつ描き続けているデッサンを絵巻にして保存。
過去にギャラリーで展示したことがありますが、新しいものもあるのでまたやってみたいとのこと(写真撮影/Manabu Matsunaga)

ヴァレリーさん自身がスケッチした間取図(画像提供/ヴァレリーさん)

ヴァレリーさん自身がスケッチした間取図(画像提供/ヴァレリーさん)

メザニン(中二階)から見下ろすサロン空間(写真撮影/Manabu Matsunaga)

メザニン(中二階)から見下ろすサロン空間(写真撮影/Manabu Matsunaga)

駅近からチャリ近へ。シェアサイクルの普及によって変わる? これからの住まい選び

ここ数年、東京の街角でよく見かけるようになった赤いシェアサイクル。このサービスの利便性と可能性に惹かれ、生活の中心に据えて暮らしているというAさんに、その魅力と住まい選びへの影響について聞きました。
「シェアサイクルのポートが近くにあったこと」が家探しの決め手に

「ポートに近かったことが、今の物件に住むことにした決め手です」

そう語るのは東京都内に住む30代前半の男性、Aさんです。渋谷区に暮らすAさんは、2019年初頭に渋谷区内で引越しを経験。その際、セキュリティや築年数、日当たりなどといった要素と同じように重視した、通常の物件情報からは読み取れないポイントがあったといいます。

「今の物件は駅近で間取りや広さも希望通りだったのですが、似たような物件はほかにもいくつかありました。そんななかこの物件にした決め手になったのが徒歩圏内にシェアサイクルのポート(借り出しと返却が可能な無人の駐輪場)があることでした。駅近であり、チャリ近の物件だったんです」

Aさんのいうシェアサイクルとは、2019年7月現在、東京都内10区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、目黒区、大田区、渋谷区)主導で行われている自転車シェアリング事業実証実験のこと。都内にお住まいの方には「Uber Eats(ウーバーイーツ)の配達員がよく乗っている赤い自転車」と言えば分かりやすいでしょうか。先述の10区内に設置された専用ポートであれば、いつどこで借りて、どこに返却してもOK。しかも電動なので、坂道の多い東京の街でも体力を奪われることはありません。Aさんは2年前に使い始めて以来ほぼ毎日利用していて、もはやシェアサイクルのない生活は考えられないといいます。

(写真撮影/今井雄紀)

(写真撮影/今井雄紀)

「通勤はもちろん、買い物や通院などにも利用しています。ポートにしか返せないと聞くとめんどうに思われる方もいるかもしれませんが、駐輪場を探す手間がないとも言えます。渋谷や新宿といったエリアに行くとき、停める場所の心配がないのは快適です。また、終電後もすごく便利ですね。わたしはお酒を飲まないので、会食後で遅くなっても自転車の運転ができます。ポートを探して多少歩くことはありますが、自転車を見つければ1回30分150円の料金で帰れる。深夜にタクシーに乗ることはほとんどなくなりました」

また、シェアサイクルは手軽に利用できるのが魅力とのこと。

「スマホさえあれば、すでにアカウントのある人なら1分以内に、アカウント未登録の状態からでも5分以内には手続きが完了してすぐ乗車することができると思います。毎朝指定業者が各ポートまでトラックでやってきて、自転車を回収し、充電とメンテナンスをしてくれるため、管理のストレスもありません。

料金も手ごろで、支払いも簡単です。初乗り150円の料金は、その後30分経過ごとに100円ずつ課金されます。例えば70分乗ったら、最初の150円+200円で350円の利用料。基本料金などは不要で、これがいちばんライトな使い方で、他に、初乗り分が乗り放題になる(30分ごとの100円課金は有り)月額会員もあります。いずれも、入会時に登録したクレジットカードから引き落とされるので楽ちんです。月4000円で完全乗り放題となる法人会員制度もありますよ」(Aさん)

便利で手軽なだけでなく、自転車を使うことによる「たのしみ」も

かように便利で手軽に利用できるのはもちろん、それ以外にも「たのしみ」があるとAさんは続けます。

「公共交通機関を利用するときにはなかなか体感しづらい、街やスポットの位置関係の把握ができるのはおもしろいですね。神田・秋葉原・神保町ってこんなに近いんだ、とか。あとこれは乗ってから分かったことなんですが、自転車のいいところって簡単に“停まれる”ことなんですよね。ちょっと気になるお店があったら片足をおろして表にあるメニューをながめたり、いい感じの公園を見つけたらGoogleマップにピンを立てておいて、休日にゆっくり訪ねるなんてこともできます。そういう発見があるので、天気のいい日なんかは移動自体がたのしみになりますね」

Aさんのご友人には、同じように日常的にシェアサイクルを利用している方が何名もいらっしゃるといいます。時には、このシステムを使ってちょっとしたあそびをやることもあるとか。

(写真撮影/今井雄紀)

(写真撮影/今井雄紀)

「いつも集まる同世代の男性10人ぐらいのグループがあるんですが、そこでは8割の人間がシェアサイクルのアカウントを持っています。一昨年の10月ぐらいかな、ようやく涼しくなった日の深夜、それぞれが自転車を借りて日本武道館に集合し、みんなで都内を“流した”こともありました。あてもなく移動してたまたま見つけた銭湯に入って、深夜までやってる町中華を見つけて夜食を食べて、また適当に帰る。普段とは違う速度で移動すると街の見え方が全然ちがって、すごくたのしかったです」

改善点はありつつも、似たような物件があったら絶対ポートに近いほうに住みたい

シェアサイクルのおかげで東京という街をこれまで以上にきめ細かく知ることができ、より好きになったと語るAさん。課題はないのでしょうか。

「改善してほしいところはたくさんあります。ポートの数はその筆頭ですね。渋谷区は後発ということもありますが、まだまだ十分な数とは言えません。それと、これは利用者が増える以上仕方のないことだと思いますが、メンテナンス不良の車両を見かけることが多くなりました。パンクしていたり、サドルが壊れていたり。多少利用料金が値上がりしてもいいのでそこはしっかり対応してほしいなと思います。あとこれは友人の話なのですが、同じようにポートに近いからと物件を選んだらそのポートが閉鎖されてしまって……あれはかわいそうでしたね」

Aさんが不足していると語る、渋谷近辺のポート網(写真撮影/今井雄紀)

Aさんが不足していると語る、渋谷近辺のポート網(写真撮影/今井雄紀)

最後に「次に引越しするとき似たような物件があって、家賃の差が数千円なら、絶対ポートに近い方を選びますね」と語ってくれたAさん。駅近の物件の価値がすぐに変わるといったことはないかと思いますが、「駅徒歩15分(でもシェアサイクルのポートには徒歩2分)」といった風に、シェアサイクルのポートに近いことが、物件の付加価値になるなど、住まいの選びかたが変わっていく可能性を感じたインタビューでした。

(写真撮影/今井雄紀)

(写真撮影/今井雄紀)

コンビニが団地で生活支援! 1号店「セブン-イレブンJS森之宮団地店」反響は?

大阪市城東区にあるUR賃貸住宅・森之宮&森之宮第二団地は総戸数約2000戸の大型団地。JR大阪環状線の車窓からも望むことができるこの団地に、今までにないタイプのコンビニが誕生したという。さっそく現地を訪ねてみた。
高層棟の1階に登場した「セブン-イレブンJS森之宮団地店」

JR大阪環状線&大阪メトロ中央線「森ノ宮」駅から徒歩数分、幹線道路に面し、利便性の高い立地の森之宮団地。この5号棟の1階部分に2019年5月10日にオープンしたのが「セブン-イレブンJS森之宮団地店」だ。現地を訪ねてみると、片側2車線の道路に面した「団地の顔」となる場所に、見慣れた「セブン-イレブン」の看板があった。コインパーキング形式の駐車スペースもあり、一見したところ他店との違いは分からない。マンションの1階がコンビニというスタイルは都市部ではよく見かけるし、あえて探すなら「JS」という文字が入っているところが違いだろうか?

(左)15階建ての高層棟の向かいには大型の医療機関(右)JSという文字が入った看板は珍しい?(写真撮影/井村幸治)

(左)15階建ての高層棟の向かいには大型の医療機関(右)JSという文字が入った看板は珍しい?(写真撮影/井村幸治)

何が新しいのか? UR都市機構 西日本支社住宅経営部ウェルフェア推進課の高橋俊氏にお聞きしてみた。
「URでは初となる、生活支援サービス拠点としてのコンビニエンスストアという点がポイントです。2016年度から検討を始め、試行店の運営などを重ねて、本格展開の全国1号店となります。通常のコンビニ機能に加えて、団地の管理窓口の営業時間外には集会所の鍵や駐車場ゲートコインの貸し出しを行います。また、森之宮団地と森之宮第二団地にお住いの方への商品配達サービス、多世代コミュニティづくりを目的とした掲示板設置、パンフレットの配布などを実施しています」とのこと。

団地住民の生活支援サービスの拠点となること、同時に住民同士のコミュニティづくりの拠点となることを目指している点が一般のコンビニとの違いになりそうだ。

500円以上で団地の部屋まで配達をしてくれる!

配達サービスは森之宮&森之宮第二団地の居住者限定で500円以上の購入で無料配達を行ってくれる。トイレットペーパーなどかさばるもの、お米やお水など重たい商品も含めてお店の商品は全てが対象。翌日の昼食・夕食の配達もオーダーできるし、電話・FAXでの注文も可能だ。高齢の方には助かるサービスだし、普段から顔を知っているスタッフが配達にも来てくれるという安心感もあるだろう。

レジの下には配達サービスの告知があった(写真撮影/井村幸治)

レジの下には配達サービスの告知があった(写真撮影/井村幸治)

団地住民に対して行った事前アンケートによると、大型スーパーは森ノ宮駅周辺の徒歩圏にあるのだが、幹線道路を横断して買い物にいくのがおっくうになるとの、心理的なハードルから生鮮食品も扱ってほしいとの声が上がっていた。その結果も踏まえて野菜など食料品の取り扱いも増やしている。

野菜などの生鮮食料品も販売(写真撮影/井村幸治)

野菜などの生鮮食料品も販売(写真撮影/井村幸治)

店内の掲示板では、集会所で開催されるヨガ教室の案内など、コミュニティを活性化する情報を提供。このほか、AEDの設置もしており、緊急時に対応する場としても期待されている。また、店頭の屋根付きスペースに3つのテーブル席を設置することで、自然なコミュニケーションが生まれるようにしているとのことだ。

店内の掲示板には団地内のイベントも告知されている(写真撮影/井村幸治)

店内の掲示板には団地内のイベントも告知されている(写真撮影/井村幸治)

店員にも気さくに話しかける、大阪のお客さん!

オープンから約3カ月が経過し、住民の反応はどうなのか?運営を担っている日本総合住生活株式会社(JS)事業企画課副長で店長の那須俊吾氏にお客さんの反応をお聞きしてみた。
「ご好評をいただいています。想定した以上に高齢のお客様が多いですね。高齢者に特有の反応も含めて、これまでの接客経験からいくつかの特徴や課題も見え始めてきました」とのこと。お聞きした特徴を整理してみた。

【特徴 その1】買い物を楽しみたいから店に来る
団地住民には無料配達のサービスを実施しているので、高齢のお客様には「次回から家までお届けしましょうか?」とレジで申し出ると「いや大丈夫、お店に買い物に来るのが楽しみだから、自分で来るよ」という方が結構いるそうだ。必要品を手に入れるだけの場所ではなく、散歩感覚、散歩や、自宅以外の外の空気に触れることを楽しむ目的で店を訪れる方が多いのだろう!

【特徴 その2】店員にとても気さくに話しかける
「あんた、5階の●●さんの息子さんやな、大きなったなぁ、がんばりや」と、スタッフにとても気さくに話しかけるお客様が多いそうだ。実は、スタッフの約4割は団地住民が担っており、地域の雇用創出にもひと役かっている。そのため「店員さんは知り合い」というケースも多いことで、コミュニケーションが生まれやすいのだろう。もうひとつ「買い物は店員さんとやりとりすることが当たり前、それが楽しい」という大阪特有の距離感もありそうだ。私の友人にもコンビニ店員さんにいつも話しかける人がいるが、東京ではあまり見かけない風景だと思う。ただし、「値段、まけてや!」という本気の値引き交渉はないようだ(笑)。

【特徴 その3】店頭のテーブルは「お茶会」の場に
店舗外側のテーブル席も想定以上に利用されていて、“お年寄りの社交場”となりつつある。淹れたてのコーヒーが買え、お茶菓子もそろっていて雨にも濡れない。朝早くからお友達同士が集まって数時間おしゃべりしていることも増えているとのこと。“団地カフェ”の誕生だ(笑)。

店頭にはテーブル席があり、のんびり時間を過ごす方も多い(写真撮影/井村幸治)

店頭にはテーブル席があり、のんびり時間を過ごす方も多い(写真撮影/井村幸治)

【特徴 その4】孫が遊びに来る機会が増えた
「孫と一緒に買い物に行ける場所ができてうれしい」という声もあった。お孫さんが「おばあちゃんの家に行って、コンビニでアイスを買ってもらうのが楽しみやねん」と言ってくれるそうだ。コンビニのお陰で、孫が来てくれる回数が増える……これもコミュニティ創造効果のひとつと言えそうだ。

【特徴 その5】商品に関するさまざまな要望
「いつも使っている角砂糖はないの?」「●●カレーが欲しいの」「健康器具は置いてないの?」などなど、商品や品ぞろえに対する細かな要望の声が多いそう。特に高齢の方は長年培ってきたこだわりや商品への愛着があるのだろう。しかしコンビニのスペースと品数は限られている。「角砂糖はないからスティックシュガーではどうでしょうか?」「XXXカレーはないけれど、このブランドの商品はいかがでしょうか?」というように細やかに案内をすることで理解してもらうとのこと。新しく紹介したものを「これ、おいしかったわ」と喜んでいただけると、スタッフも笑顔になるそうだ。

トイレットペーパーなど日用雑貨も豊富にそろう(写真撮影/井村幸治)

トイレットペーパーなど日用雑貨も豊富にそろう(写真撮影/井村幸治)

団地の住民に、もっと認知度をあげていくことが課題

一方で課題も見えてきたという。
「団地の住民へのコンビニ認知ですが、まだ100%には至っていないように思います。分かりやすい場所にはありますが、日常の動線が違うと気が付いていない人もいらっしゃるようです。認知度アップをはかり、コミュニティの一員となるために5月には森ノ宮フェスティバル、8月の盆踊り(予定)といった地域イベントにも積極的に参加しています」と話すのはJS住生活事業部事業企画課長の北野雅之氏。

認知度アップには団地住民を代表する自治会もバックアップしてくれている。自治会とも定期的にミーティングを行っている北野氏によると、今年(2019年)6月に大阪で行われたG20の際には、商業施設や交通機関が自粛営業など大きな影響を受け「コンビニは臨時閉店するの? 変更があるなら自治会で広報するよ」との声を掛けていただいたそうだ。「自分たちの店なので、つぶしたくない、自分たちで支えていく」「つぶれたら元も子もないので、ぼちぼち頑張って長く続けてほしい」といった温かい声をいただいているとのこと。

コンビニの裏側、団地の中庭は静かな空間(写真撮影/井村幸治)

コンビニの裏側、団地の中庭は静かな空間(写真撮影/井村幸治)

ウェルフェアの取り組みの一環として位置づけられるコンビニ

「自分たちの店」という言葉はとても重要なフレーズだと思う。
他人事ではなく、自分事として考える人が増えると、事業や組織は活性化していくもの。この団地ではコンビニの開店によって着実に新しい団地コミュティが育っているように思う。取材させていただき、そんな感想を話しているとUR都市機構ウェルフェア推進課の石井里絵氏が改めて解説してくれた。

「私たちウェルフェア推進課は、団地という住み慣れた住まいで、より長く住み続けていただくために住宅提供者として何ができるかという課題に取り組んでいます。その仕掛けのひとつが生活拠点サービスの拠点となるコンビニの誘致なのです。ほかにも、城東区や隣接する大型医療機関、薬局ともこの団地との連携を進めています」とのこと。

なるほど! ウェルフェアの推進という大きなミッションの取り組みの一つとして、団地でのコミュニティづくりがあり、その実現策としてコンビニ誘致があるのか。合点がいった。

UR都市機構の石井里絵氏と高橋俊氏(写真撮影/井村幸治)

UR都市機構の石井里絵氏と高橋俊氏(写真撮影/井村幸治)

コンビニが団地の鉄の扉を開かせるきっかけになってほしい

このような形態での団地内コンビニは今後も拡大を進めていく方針とのこと。コンビニ出店のスペースを確保しやすい中層&高層住宅で、一定規模の住戸数がまとまっている団地が候補として挙げられそうだ。

「高齢者には鉄の扉を開けて、外に出て行くこと自体がおっくうに感じる人もいる」。
これは以前、団地の取材で聞いた言葉だ。団地の鉄の扉を開かせるきっかけとして、各地でコンビニが活躍してくれるといいなと思う。

●取材協力
UR都市機構ウェルフェア情報サイト

あなたの家は大丈夫? 台風やゲリラ豪雨災害に備えよう

近年、大型台風やゲリラ豪雨が原因で浸水被害に遭う家が増えています。被害に遭わないためには、浸水の恐れがある立地や建物の形などについて正しい情報を知ることが大切。危険な建物の見分け方や、どんなことに気を付けたらいいのか、さくら事務所会長の長嶋氏に聞きました。
標高が高いところでも浸水の可能性はある

2019年6~7月にかけて、南九州では総雨量800mmを超える豪雨に見舞われました。2018年7月の豪雨では、広島県、岡山県、愛媛県など西日本を中心に大規模な土砂災害や浸水が発生し、12府県で死者数が130人。防災白書(内閣府)によると、2004年10月の台風23号、2011年8~9月の台風12号による豪雨で、それぞれ98人の死者・行方不明者が出ています。

「浸水」といえば、海沿いや低地などをイメージしますが、実は内陸部の比較的標高が高いところでも起こりえます。例えば東京都世田谷区の標高は30~35mですが、ハザードマップを見ると、2m以上浸水する可能性のある地域がたくさんあります。

その原因は「ゲリラ豪雨」や「長時間にわたる降雨」。都市の雨水排水能力は一般的に50~60mm/ 時間を目安として設定されていますが、ゲリラ豪雨などは100mm/ 時間を超えることもあります。いくら一定の標高があっても、排水能力が追いつかなくなれば、水は低いところに流れますから、周辺地に比べて相対的に低い地区に水は集中してしまうわけです。

にもかかわらず実際に現地に行ってみると、こうした地域に普通に建物が建っていたりします。洪水を予測して基礎を高くするなどの工夫が施されていればまだマシですが、100mm以上のゲリラ豪雨的な大雨に見舞われたら浸水確実と思われるものがたくさんあります。
さらに、いわゆる「半地下物件」の一戸建てやマンションすら散見されます。半地下物件とは、土地を掘削し地盤面より低いところに1階部分があるような建物のこと。住宅地は建物の高さが制限されていることが多く、そうした地域で建設される一戸建てや、販売戸数を稼ぐ意図で建設されたマンションなどが典型的です。

このような半地下物件では一般的に、数万円のポンプで排水処理を行うため、浸水リスクはこのポンプの処理能力に依存します。そもそもポンプが壊れたり、停電で止まってしまったら排水不可能になるでしょう。

不思議なことに、こうした浸水可能性地域は、そうでないところと比べて、地価にさほど違いがないことが多いのです。というのも、浸水や土砂災害など防災等の情報や過去の取引履歴をはじめとする各種不動産情報は、国、都道府県、市区町村、法務局、上下水道局など多様な情報保有主体に分散しており、個別の物件に関する情報を幅広く調べることが困難なためです。ハザードマップなどのネガティブ情報は、親切な不動産業者であれば説明するものの、法律上は説明義務がありません。

ハザードマップで浸水可能性を探ることや、自治体に直接赴いて浸水履歴を確認することは必須と言えるでしょう。

災害に対する保険や防災対策の検討も

水害に、金銭的に備えるためには火災保険の「水災補償」があります。水害はもちろんのこと、竜巻、台風の強風、雷、雹(ひょう)などが対象。雪の重みで屋根がつぶれるなどの被害も補償実績があります。ただしオプション契約なので、これから保険に入る場合、すでに保険に入っている場合もよく確認しましょう。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

台風や水害で慌てない防災対策としては例えば「風雨で飛ばされそうなものを固定するか、室内にしまう」「雨戸やサッシのコンディションを確認する」「敷地内の排水溝や雨水ます、周辺の側溝などにつまりがないか確認し必要な場合は掃除をする」「避難用の備品として懐中電灯、ラジオ、救急用品、飲食物、衣類等、現金、通帳、身分証明書、印鑑、貴重品などを確認しておく」などが考えられるでしょう。いざというときにどこに非難するかの想定をしておくことも大切です。

マンションの場合、電源やボイラー、インターネット設備などが浸水すると使用不能になる恐れがありますし、防災用品や車庫が地下にある場合も同様です。床上浸水の可能性のある地域では、管理人室の書類や備品を避難させる必要もあるでしょう。

泥かきのためのスコップや長靴、浸水を防ぐ土嚢(どのう)などの準備も検討したいところ。こうした備品をリスト化したうえで、いざというときにどのような行動をとるのかマニュアルを整備しておくと安心です。
土嚢といえば、土を入れるのではなく、水に浸して数分で膨らむタイプのものがあります。他にも止水板などを検討してもよいでしょう。

水害などの災害は、いつ巻き込まれるか分かりません。いつ襲われても大丈夫なように災害の可能性に見合った準備をし、いざというときに慌てないように備えておきたいところですね。

JR東日本の社宅と寮をリノベーション。“まちのホーム”「リエットガーデン三鷹」

日本では木造であっても、コンクリート造であっても、築30年~40年で建物が取り壊され、建て替えられることが少なくありません。そんななかで、リノベやコンバージョン(用途変更)などで、建物を活かしつつ、再活用する動きが年々、増えてきています。そんなケースのひとつ「リエットガーデン三鷹」をご紹介しましょう。
ファミリー向け賃貸住宅、シェア畑、シェア型賃貸住宅からなる複合施設

「リエットガーデン三鷹」があるのは、東京を背骨のようにまっすぐ走る中央線の「三鷹駅」と「武蔵境駅」から徒歩圏内の住宅街です。目の前にJR東日本の三鷹車両センターがある敷地で、もともとはJR東日本の独身寮と社宅として使われていました。それらの建物と敷地をリノベーションしてできたのが「リエットガーデン三鷹」です。

「リエットガーデン三鷹」のすぐ目の前にあるJR東日本の三鷹車両センター(写真撮影/嘉屋恭子)

「リエットガーデン三鷹」のすぐ目の前にあるJR東日本の三鷹車両センター(写真撮影/嘉屋恭子)

今年3月にファミリー向け賃貸住宅の「アールリエット三鷹」が、7月にシェア型賃貸住宅の「シェアプレイス三鷹」、サポート付きの貸し農園「シェア畑」が完成、過日、内覧会が行われました。

「リエットガーデン三鷹」の一番の特徴は、7200平米の広々とした敷地に2つの建物が建っている点です。駐輪場やバイク置き場など充実した共用施設のほかに、「森の広場」や「食の広場」などがあり、住民が自由に使えるようになっています。ファミリー向け賃貸住宅の「アールリエット三鷹」では、こうした敷地の「ゆとり」を魅力にあげる人が多く満室となっております。

「現在、住宅を開発しようとしたら、ここまでゆとりのある設計ではできないと思います。建物は1981年築ですが、リノベーションしてあって古さを感じさせません。視界に緑がたくさん入り、のびのび過ごしたいというカップル・ファミリーに大変好評で、現在満室稼働中です(取材時点)」と教えてくれたのは、ジェイアール東日本都市開発のオフィス住宅事業部・大竹涼土氏さん。

土地売却ではなくなぜリノベ? その狙いは?

通常、社宅や寮を活用する場合、一度更地にして、敷地面積を最大限活かした賃貸または新築マンションになるのが一般的です。では、なぜ今回はリノベーションという手法だったのでしょうか。

リノベーション前の建物。味わいはあるものの、経年を感じさせるつくり(写真提供/リビタ)

リノベーション前の建物。味わいはあるものの、経年を感じさせるつくり(写真提供/リビタ)

前出の大竹涼土氏によると、「弊社では沿線活性化を目的として、賃貸物件を2026年までに3000戸まで増やしたいと考えています。今回は、敷地や周辺地域との調和を考え、リノベーションだけでなく、独身寮も100戸超のシェアハウスとして活用するのがもっとも最適だと考え、シェアハウスの企画、運営に実績のあるリビタさんと協力し、開発することとなりました」と背景を教えてくれました。

また、企画・デザイン監修を担当したリビタの資産活用事業本部地域連携事業部事業企画第一グループ鈴木佑平さんは、「改修前に敷地を見学したときは草木がうっそうとしていましたが、武蔵野の自然と既存の建物の風合いを活かして、多様な人が多様な過ごし方のできる“まちのホーム”にしていきたいなと思いました」といいます。

かつて独身寮だった建物は1975年築、家族向けの社宅だった建物は1981年築なので、耐震診断および必要な補強をし、建物が持つ独特の味わいを活かしたプランニングを考え、複合施設として蘇ったというわけです。

今回、完成したシェアプレイス三鷹は、112部屋あり、家賃6万4000円~7万5000円(別途共益費1万5000円/水道光熱費・ネット利用料込み)で利用できます。居室の広さは13.5平米ほどで、トイレやシャワーといった水まわり設備は共有のスペースに集約されております。

シェアプレイス三鷹の居室の例。床のフローリングやサッシは既存のものを活用したが、古さを感じさせない(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアプレイス三鷹の居室の例。床のフローリングやサッシは既存のものを活用したが、古さを感じさせない(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアプレイス三鷹のキッチンとダイニング。調理器具や家電も充実しているほか、カウンター席を設けるなど、“食”をきっかけに住民の交流が生まれる工夫がされている(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアプレイス三鷹のキッチンとダイニング。調理器具や家電も充実しているほか、カウンター席を設けるなど、“食”をきっかけに住民の交流が生まれる工夫がされている(写真撮影/嘉屋恭子)

1階には広いシェアラウンジがあり、キッチン、ダイニング、ライブラリー、リラックススペースがあります。その他にもシアタールーム、パントリー、トランクルーム、サイクルガレージなど、充実した施設が魅力です。キッチンには食器や調理道具・家電などもそろっています。また、コイン式のランドリーもあるので洗濯機を用意する必要もなく、見学した人の反響も上々だそう。

リラックススペース(写真撮影/嘉屋恭子)

リラックススペース(写真撮影/嘉屋恭子)

ライブラリースペース。勉強をしたりくつろいだりと、思い思いの過ごし方ができる(写真提供/リビタ)

ライブラリースペース。勉強をしたりくつろいだりと、思い思いの過ごし方ができる(写真提供/リビタ)

シェア畑や広場があることで、地域住民にもひらかれた空間に

「リエットガーデン三鷹」のもう一つの狙いが地域交流です。

「以前は企業の社宅・寮ということもあり、地域に対して閉じられた場所でしたが、今回はシェア畑や食の広場、森の広場を設け、地域に開かれた場所といたしました。」とリビタの鈴木さん。
(株)アグリメディアが運営するサポート付き農園の貸出は現在、3割ほど。今後、シェアプレイスの住民が増え、認知が広がることで、じょじょに利用者も増えていくことでしょう。

敷地の中央にあるサポート付き農園(写真提供/リビタ)

敷地の中央にあるサポート付き農園(写真提供/リビタ)

土をいじることでリエットガーデン三鷹だけでなく、周辺住民との交流が生まれるはず(写真提供/リビタ)

土をいじることでリエットガーデン三鷹だけでなく、周辺住民との交流が生まれるはず(写真提供/リビタ)

また、畑をのぞむようなかたちで「食の広場」があり、緑を眺めながら食事をしたり、おしゃべりをすることができます。こうした共有場所があれば、シェア型賃貸住宅・ファミリー向け賃貸住宅と、普段は別々の棟で暮らしていても、住民同士の自然な交流が生まれ、心地よく過ごせるに違いありません。

シェアプレイス三鷹のダイニングスペースの窓越しに広がる「食の広場」。晴れた日にはキッチンで調理した料理を屋外でも楽しむことができる(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアプレイス三鷹のダイニングスペースの窓越しに広がる「食の広場」。晴れた日にはキッチンで調理した料理を屋外でも楽しむことができる(写真撮影/嘉屋恭子)

鈴木さんは「リエットガーデン三鷹を多様なアクティビティの受け皿にしたいですね。広場でマルシェやアコースティックライブ、ヨガなどもできますし、住民や地域の方々とともに、新たな文化・新たな価値を生み出していきたいです」と話します。

既存建物を有効活用して時代に合うカタチとしてリ・デザインし、新しく住む人と今まで地域で暮らしていた人がゆるく、自然に交流できるように工夫する。今後、これまで以上に建物のストックが増えていくなか、これからのまちづくりはこうした「リノベ型」「シェア型」「地域交流」が主流になっていくことでしょう。

●取材協力
リエットガーデン三鷹
シェアプレイス三鷹

インフラツーリズムってどんなもの? 夏休みに体験してみよう

国土交通省が「インフラツーリズム」に力を入れている。ポータルサイトの開設や手引きの作成などを行って、さらに見学者数を倍増させるプロジェクトを始動させた。これによって、インフラツーリズムの件数の増加や内容面の充実が期待できる。夏休みには、涼しげなインフラ施設を見に行くというのはいかがだろう?【今週の住活トピック】
「インフラツーリズム魅力倍増プロジェクト」始動/国土交通省インフラツーリズムとは、ダムや治水施設などを見たり体験したりすること

そもそも「インフラ」とは、インフラストラクチャー(infrastructure)の略で、「産業や生活の基盤として整備される施設」をいう。国土交通省でいうインフラとは、国や地方自治体が管理している道路や橋、トンネル、ダム、下水道、港湾、空港などの施設。ツーリズムとは、地域の風景やイベント、観光施設を見たり体験したりすることなので、「インフラツーリズム」とは、橋やダム、下水道などの施設を見たり体験したりすることだ。

見学者にとっては、普段見られない施設の内部を見学でき、防災や治水、交通システムなどを学べるという魅力がある。かたや国土交通省の狙いは、インフラを観光資源として活用することで、地域経済の活性化や雇用機会の増大につなげられるという点にある。

国土交通省では、2016年にインフラツーリズムを紹介するポータルサイトを開設し、情報発信を行ってきた。インフラの管理者と旅行会社などが調整して実施する民間ツアーも増えつつある。

国土交通省の「インフラツーリズムポータルサイト」

国土交通省の「インフラツーリズムポータルサイト」

実際に、インフラツーリズムで見学者を多く集めている施設もある。埼玉県春日部市の「首都圏外郭放水路」がその事例だ。治水施設として地下に巨大な調圧水槽を擁するが、その荘厳さから「防災地下神殿」と呼ばれている。地下神殿のブランディングを強化する一方、見学会の運営を民間会社に委託し、コースを増やしたり土日祝日にも開催したりして見学者枠を増やした。映画やテレビのロケ地としても使われ、海外からの見学者も多いと話題になっている。

「防災地下神殿」と呼ばれる首都圏外郭放水路(出典/国土交通省「インフラツーリズム有識者懇談会」の資料より転載)

「防災地下神殿」と呼ばれる首都圏外郭放水路(出典/国土交通省「インフラツーリズム有識者懇談会」の資料より転載)

こうした人気のインフラ施設がある一方で、魅力を活かせていない施設も多くあることから、国土交通省では2018年11月に「インフラツーリズム有識者懇談会」を設置し、さらなる拡大に向けて議論を重ね、「インフラツーリズム拡大の手引き(試行版)」を作成するなどの活動を行ってきた。

さらに、2020年に向けた「インフラツーリズムの魅力倍増プロジェクト」の一環として、5カ所のモデル地区を選び、地域との連携や国内外への広報などの社会実験を行うと発表した。

インフラツーリズム魅力倍増プロジェクトのモデル地区(出典/国土交通省)

インフラツーリズム魅力倍増プロジェクトのモデル地区(出典/国土交通省)

夏休みにはインフラツーリズムが数多く開催される!

見逃せないのが、この夏開催される旬のインフラツアー全437件を「インフラツーリズムポータルサイト」に掲載していることだ。

具体的にどんなツアーがあるか、筆者が住む関東地方を例に見てみよう。
まず、施設管理者が行う「現地見学」を見ると、東京都の「国営東京臨海広域防災公園」(江東区)の防災体験施設の見学に始まり、各県の各地のダムのほか、運河・水路、河口堰、治水施設、下水処理場、灯台といった施設が見学できることが分かる。普段は公開されていない内部に入れるのは、興味深いだろう。

さらに「民間主催ツアー」(有料)を見ると、湯西川ダム・川治ダム、川俣ダム、八ッ場ダム、浦山ダムの見学ツアー(カヌーや遊覧船に乗るツアーもある)、首都圏外郭放水路や東京湾アクアライン・海ほたるの海底トンネル、成田国際空港、羽田空港、ネクスコ東日本、第ニ海堡などの見学ツアーが紹介されている。

また、ダム見学では、「ダムカード」(表はダムの写真、裏はダムの形式や貯水池の容量などの基本情報を掲載したカード)を集めるといった楽しみもあるようだ。

ほかの地域にもそれぞれツアーが用意されているので、掲載されているURLなどから詳しい内容を確認するとよいだろう。

ダムといって最も有名なのは、関西電力の黒部ダムだ。筆者も2017年の夏に訪れた。観光・見学をかなり意識しているのだろうが、観光用の放水ではその水量の迫力や虹の美しさは圧巻だった。展望台や遊歩道、観覧船も整備され、観光しやすい環境が整っているのも黒部ダムの特徴だ。周辺の観光スポットと組み合わせて、宿泊しながらの旅行としても楽しめた。

暑い夏こそ、地下やトンネル、水辺などの涼を求めて、家族でインフラツーリズムへの参加を考えてみてはいかがだろう。

●参考
国土交通省「インフラツーリズムポータルサイト」

ふるさと納税、新制度後も注目したい地域は?「関係人口」貢献で地域おこしに参加

自分の好きな自治体へ寄付をすることで、税制控除が受けられる「ふるさと納税」。家計の節約効果の大きさや魅力的な返礼品からすっかり世に浸透したが、今年2019年6月1日に法律が改正され、新しい制度が導入された。「ふるさと」を冠する制度にふさわしく、地方やその自治体ならではの特色を打ち出す新制度の内容とともに、地方にかかわる手段のひとつとしてのふるさと納税のケースを考えてみたい。
返礼品が地場産品限定、地方を意識する契機に

2008年に導入されたふるさと納税は、出身地や本籍地などに関係なく任意の自治体に寄付をすると、翌年の確定申告で自己負担の2000円を超えた金額が所得税と住民税から上限までの全額控除される制度。寄付をした自治体からは、その地方の農作物などお礼の品が届くことで人気となり、2016年には受入額約2844億円、受入件数約1271万件に達している。一方、その地域と直接関係のない金券などを返礼品に設定するなど、自治体による納税者の奪い合いの過熱が問題となり、新制度の下では、返礼品は地場産品、返礼割合は寄付金額の3割以下で、寄付できる自治体も総務省が指定した対象地域となった。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

都心に人が集中するなか、地方は人口が減少し、財政面でも厳しい状況が続いている日本において、人口や経済活動は都心に集中し、地方は厳しい現状におかれている。地方の経済の再生と資源を活用する地域創生は、政府が推進する大きなテーマのひとつだ。

その地域に住んでいなくても、地域や地域住民との関係を持つとして、近年、「関係人口」というキーワードが注目されている。その地方に移住した「定住人口」、または観光にきた「交流人口」でもなく、多様なかかわり方をするひとびとのことで、地域外の人材が地域づくりや変化を生み出すとして期待されている。政府は今年6月、2020年度から地方創成に向けた新たな戦略の基本方針案を示しており、「関係人口」拡大もその一つだ。

ふるさと納税は、生まれ育った地域を離れて東京や大阪など都市部に移住した人たちにとって故郷を意識する契機であり、また、国内の各地方の魅力を知ったり接点を持ったりする大きな機会にもなりうる。

ふるさと納税は、地方の「関係人口」として貢献できる

ふるさと納税を行うことは、関係人口としてその地域に貢献できるこということでもある。ふるさと納税の返礼品には、物そのものをもらうことができるものが目を引くが、「体験」を提供するものも多い。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

和歌山県田辺市の返礼品は、同市にある世界文化遺産に登録されている「紀伊山地の霊場と参詣道」の熊野古道を語り部の解説を聞きながら歩く宿泊付きのウォークプラン(額によっては和歌山の特産である梅製品をもらえるプランもある)。寄付金は、間伐や枝打ちなど森林の手入れとともに、観光地にとって共通の悩みであるトイレや多言語案内の設置などの環境整備に使用されている。

また、来年にせまった東京オリンピック・パラリンピック開催を契機にしたスポーツ振興の機運を、地方から支えることもできる。富山県氷見市は、ハンドボール振興のため「春の全国中学生ハンドボール大会」を2005年から実施しており、寄付金は大会継続のための資金として使用されている。野球やサッカーのような競技人口の多い競技と違って、そのスポーツに親しむ人数が多いとはいえないマイナー競技には、甲子園や花園といった“聖地”の設定が難しいこともある。氷見市は小中学生のチームが全国優勝するなどハンドボールが盛んな土地であり、市民の意欲を満たす一方で、各都道府県の代表チームを応援するサポーターを市内の地域ごとに設定、他県からの参加者の応援をすることで、大会自体を盛りあげている。

かつてサッカーの日韓ワールドカップで、カメルーンのキャンプ地となったことで同国との交流が話題になった大分県の小さな村・中津江村が、現在でも同国との親交が続いているように、支援された氷見市だけでなく、サポーターとなった先の都道府県との相互の関係人口となれることも、ふるさと納税がもたらす恩恵といえるだろう。寄付者には大会決勝戦のチケットが届けられるが、氷見漁港でとれた海産物による郷土料理や氷見牛など、食べてうれしい返礼品も希望することができる。

岡山県の和気町では、日本最古の庶民の学校といわれる「閑谷学校」にゆかりのある地であることから、「教育の街」を推し進めることにふるさと納税を活用している。2016年から本格的に始められた公営塾では、特に英語教育に力を入れており、当初は中学生のみだった対象生徒も、小学校高学年の児童にも拡大。塾で学ぶ子どもたちの英検合格実績が報道で取り上げられたこともあり、同年の和気町への移住者は、前年の約3倍になった。ふるさと納税から、知識に関係するだけでなく定住人口の増加につなげられた好例といえるだろう。

お得さや返礼品のラインナップについつい目を奪われてしまうが、ふるさと納税の理念に立ち返れば、本当に気にかけたいのはその使途のはず。自分の寄付したお金がどのように使われているかで選べば、その地域への愛着や興味とともに、そこを訪れたい気持ちや実際に行った際の楽しみもふえるだろう。地場産品の返礼品を眺めるとともに、その地域への貢献に、改めて思いをはせてみたい。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」をつくる

2019年7月17日、吉祥寺の東急百貨店の裏手に、「本」をテーマにした、新しいスポットが誕生しました。その名は「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」。
なかでも、地下1階のフロアを使い、個人の小さな本屋さんをシェアする「ブックマンション」が注目です。
このビルの仕掛け人であり、三鷹にある無人の古本屋さん『BOOK ROAD』のオーナーでもある、中西功さんに、両方の本屋さんを手掛けたきっかけ、目指す方向性について、お話を伺いました。
無人古本屋さんが成り立つ理由

――「ブックマンション」のお話の前に、まずは無人古本屋さん『BOOK ROAD』のお店を始めた経緯を伺いたいです。

本が好きすぎて、どんどん収集しているうちに、家が本であふれてしまい、妻から「なんとかして」と言われていたんです。売るのもいいけど、二束三文の値しかつかないし、捨てるのはもっと嫌。だったら、自分で直接売れる、古本屋さんなんていいじゃないか、ってずっと思っていて、そんなとき、今の店舗と出会いました。
駅から少し遠い、小さな商店街沿い。それなりに人通りがあって、お店の規模も、家賃的にも現実的だなぁと。当時、私は会社員として働いていたので、日中は店舗に立てないし、だれかに任せるのもちょっと違うなぁと思って、だったら無人でやるしかないという結論になりました。

商店街の一角にある、無人古本屋さん「BOOK ROAD」の写真

商店街の一角にある、無人古本屋さん「BOOK ROAD」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――でも、無人って、成り立つんでしょうか?万引きされるんじゃないかって心配です。

私の地元の小平には、農家さんの無人野菜販売所がたくさんあって、ちゃんと成立しているから、なんとかなるんじゃないかなぁと(笑)。周囲には驚かれましたけどね。でも、素人の私が、普通の本屋さんを始めても面白くないでしょう。
で、オープンしてみたら、みんなが心配していた盗難もなく、意外と大丈夫だったんです。住宅街の中にある、地元の小さな商店街沿いという場所も良かったんでしょうね。人通りが多すぎず、少なすぎず、悪いことがしづらいんでしょう。儲かりはしないですけど、少なくとも赤字じゃないです。

無人古本屋さん「BOOK ROAD」の店内には、本の買い方の説明イラストが飾られている

買いたい本が見つかったら、ガチャガチャで会計する。カプセルの中には持ち帰り用のビニール袋が入っているので、その中に購入した本を入れる仕組み。購入した証明にもなる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

無人古本屋さん「BOOK ROAD」の店内にある300円と500円の2台のガチャガチャ

ガチャガチャは300円と500円の2種類。ガチャガチャを回す行為そのものも楽しい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――この「BOOK ROAD」は24時間営業なんですよね。どうしてですか?

当初は朝シャッターを開けて、夜閉めていたのです。2013年の年末に妻の実家への帰省のタイミングで思い切って開けっ放しにしてみたんです。妻の実家から戻ってお店に行ってみると、店内は全く問題なく綺麗な状態で、逆に多くのお客さんが購入してくれていました。これだったら大丈夫!ということで24時間営業にしました。実は、ゴールデンウィークや年末年始など長期のお休みって、売り上げがいいんですよ。

――商品の仕入れはどうしているんでしょうか?

当初はほぼ私の蔵書からでしたが、今は2割くらいです。あとは、お客さんが、自分の蔵書を寄贈してくださるんです。何も言わずに段ボールを何箱も置いてくださった方もいれば、木箱の中にメモと一緒に入れてくださる方もいます。ついでに庭で採れた野菜もお裾分けしてくれたり。このお店は、お客さんの「善意」で成り立っています。

無人古本屋さん「BOOK ROAD」の店内にある木箱には、お客さんが譲ってくださった本が数冊入っている

この日も木箱の中に本が数冊入っていた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――商品のセレクトは?

漫画以外の、さまざまなジャンルの本を扱っています。例えば、美大の学生さんが、デザインや建築系の書籍を置いて行ってくれたり、開高健さんが好きな方が何冊も寄贈してくれています。近くに保育園や公園があるので、絵本を置いてくださっているママさんもいるみたいです。

無人古本屋さん「BOOK ROAD」の本棚には、写真だけでなくお客さんがくれた小物なども一緒に置いてある

商品の展示はアトランダム。理路整然と並んでいないことで、「何があるだろう」と宝探しの気分になる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――あ、いいですね。自分の子どもが卒業した絵本を、小さな子どもたちが読んでくれるなんて、ほっこりした気持ちになります。

私は、お客さんが本棚をつくると思っていて、目指しているのは、「街の本棚」。この「街の本棚」を通してコミュニケーションの場となってくれたらと思っているんです。

無人古本屋さん「BOOK ROAD」の店主、中西功さん

「雨の日には雨宿りついでに立ち寄る人もいますよ。店主がいないことで、自由に立ち読みをしたり、気に入った本を探せるんだと思います」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

本棚をシェアする本屋さん「ブックマンション」

「本を通したコミュニティ」を目指す中西さんが新たに取り組んでいるのが、吉祥寺の小さなビル1棟を、丸々借りた「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」。地下1階から3階までの4つのフロアを持つことがビル名の由来です。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

通行人が目に留める看板(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――まずは、地下1階の「ブックマンション」について教えてください。

ざっくりいうと、小さな本屋さんの集合体。「レンタルボックス」って分かりますか?自分の収集したおもちゃやハンドメイドした物などを売っているボックスです。その本屋さんと思っていただければイメージが近いでしょうか。本箱は自分の好きな本だけを販売するので、通常の本屋さんにはないラインナップになると思います。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

地下1階の「ブックマンション」。「マンションなので、部屋番号が必要だなと思い、オリジナルでつくってもらいました」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さらに棚をシェアするだけでなく、「ひとり1カ月に1回程度、実際に店舗に立つ」など、日々の運営も分担する予定です。というか、みなさん、売り場に立ちたいそうなんですよ。自分の好きなものに興味を覚えてくれる人と話がしたいって思っていらっしゃるんです。本を通したコミュニケーションですね。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

「文化の街、吉祥寺はもともと古本屋さんが多く、こうした変わった試みも受け入れやすい土壌があると思いました」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――確かに。リアルに話すのって楽しそうですね。最近はネットで本や雑誌を注文する人も多いですが、ここでなら思わぬ本との出会い、“新しい世界との遭遇”がありそうです。

そうなんです。そのうち、それぞれの本棚に、ファンが付いたらいいなと思っています。「本屋を始めてみたい」って考える人って本好きには多いけれど、やっぱりハードルが高いでしょう。でもココでなら、開店や運営のリスクを抱え込まずに、気軽に始められます。とにかく本好きっていう人だけでなく、自分の好きなことだけを追求できるオリジナルな本棚ができるはず。楽しいでしょう。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

店内にあるわたがしの機械。本を買ったお客さんに、自由にわたがしをつくってもらいたいという中西さんのおもてなし(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

――地下1階はブックマンションですが、1階以上は通常の本屋さんですか?

いいえ、違います。1階はコーヒースタンドで、喫茶店のような造りの2階と、何も置かない3階はイベントスペースにして、講演やワークショップとして使う予定です。例えば、終電が終わった後の真夜中の読書会だったり、地下1階の本棚の店主さんが書籍と連動した料理教室などを開くなど、何でもありです。みなさんの要望を聞きながら、どんな形がいいか模索していこうかなと思っています。

店舗改修も「みんなで」。目指すはスモールコミュニティ

この「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」。「お金がないので自分たちで改修していくしかない」と考えていた中西さんに、救いの手を差し伸べたのが、セルフビルドによるリノベーションに長年取り組んでいる、株式会社小さな都市計画の宮口明子さんと笠置秀紀さん。彼らの指導の下、壁の塗装や床張りなどの作業を自分たちでやりました。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

株式会社小さな都市計画のお二人(写真提供/中西功)

――どういう方たちがお手伝いにいらっしゃっているのでしょうか?

私の友人や元同僚たち、SNSを通じた呼びかけに“おもしろそう”と応じた方たちも多いです。面識のない人たちと同じ作業をしながら、おしゃべりしながら、楽しそうですよ。私は主に差し入れ担当です(笑)。
無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

宮口さん指導の元、この日は3階の壁を黒く塗装(写真提供/中西功)

――お店がオープンする前から、仲間ができている感じですね。

そうなんです。お客様とスタッフの境目があいまいな場所にしたいなと思っています。例えばブックマンションのお客様が、ここでなら自分のお店の本棚を持ってみたい思うとか。人通りの多い吉祥寺の街にオープンするので、ふらっと立ち寄ってくださる方もウェルカムなのですが、もう少し踏み込んで、この場所に主体的に関わってくれる方を増やし、街に“小さなコミュニティ”をつくりたいと思っています。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

「手伝ってくださった方たちは、ありがたいことにみんな本当に楽しそうでした」(写真提供/中西功)

――1階のコーヒースタンドは、会計方法が独特なんですよね。

これは、コーヒー代金をトレイに入れ、レバーを引くと、からくりの装置が動いて、「THANK YOU」と表示されるもの。その名も「からくり決済」。制作いただいたのは、私が以前から惚れこんでいた鈴木完吾さん。アート作品「書き時計」で有名な方です。その間、30秒。見ているだけでワクワクするでしょう。時代は電子マネーなど、キャッシュレスの時代ですが、実店舗だからこその体験をしてもらいたいと考えています。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

細やかなパーツが美しい「からくり決済」。制作は鈴木さんにおまかせではなく、中西さんのこだわりも随所に反映されている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今は、ネットでなんでも気軽に手に入る時代。無人古本屋さんでも、ブックマンションでも、実店舗でできることを模索し続ける中西さん。本屋さんという「場」を通して、人と人がつながり、コミュニティが生まれていく。
今後も「吉祥寺×4ビル(バツヨンビル)」の仕掛けに注目していきたい。

無人古本屋さん、今度は吉祥寺に「ブックマンション」を作る

個性豊かな本棚が並ぶ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「デュアラーを面白がる会」開催。切実なるお金と移動問題はどうなる?

6月25日(火) 、SUUMO(リクルート住まいカンパニー)による『第1回 デュアラーを面白がる会』が開催されました。
この『面白がる会』は、「お酒を飲みながらワイワイ」と、課題の洗い出し、解決方法のアイデア出しをブレストするというもの。
今回は、デュアルライフに憧れている、実際に検討している人、彼らにサービスを提供する・したいと考えている企業の担当者などが集まりました。当初はぎこちなかった初対面同士も、お酒を飲みながら打ち解け、いろんなアイデアが飛び出しました。
どうして始められない? 実践して困ったことは何?

「面白がる会」は、難しい課題を“自分ごと”としてとらえ、今までの慣例や常識にとらわれず、“こうだったらいいんじゃない”とアイデアをみんなでブレストする会。「意見を否定しない」、「難しい言葉・業界用語を使わない」、「偉そうにしない」、「思いついたアイデアをどんどん発表」をルールに、お酒を飲みながら、軽く食べながら、ワイワイ話し合います。

まずは、「デュアルライフの課題は何か」を話し合いました。
参加者の立場はそれぞれ。憧れつつも、実現していない人が「乗り越えられないハードルは何か」というアプローチと、実践者ならではの「現在進行形の悩み」について、情報共有されていたようでした。

「面白がる会」運営代表の唐品知浩さんの音頭で、まずは乾杯からスタート(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「面白がる会」運営代表の唐品知浩さんの音頭で、まずは乾杯からスタート(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

最初に発表したグループからは、デュアラー実践者である男性から、「二拠点を持つということは生活コストが二倍になる。購入となると、固定資産税も二カ所分です」と早々にシビアな意見が。
ほかにも移動に関わるコスト面を指摘したグループは多数。「高速代、ガソリン代だけでなく、車検代、保険、税金など出費がかさみます、都会だけなら車ナシ生活でもOKですが、田舎は車がマストになるので、正直痛いです」

そもそも「車を運転しないので、基本は公共交通機関を利用するしかありません。でも、そんな生活って都会では可能でも、田舎では難しいですよね」という女性も。田舎は路線バスの本数が少ない事情もあります。コスト面だけではなく、移動時間の長さも、デュアルライフの阻害要因になるようでした。

さらに、田舎でのコミュニティに入りづらいと指摘をする人もたくさんいました。「基本はよそもの。独特の近所付き合いに慣れない」、「交流はしたいけれど、きっかけがない」、「そもそも、デュアラー全員が地元コミュニティに深く入りたい人ばかりではないのでは」など、立ち位置はそれぞれ違うものの、都会とは異なる地域との距離感に戸惑う声が多く聞かれました。また、受け入れ側も「空き家であっても貸したがらない」、「知らない人には警戒してしまう」という事情もあるようです。

家族の問題も課題です。特に子どもがいる場合、小学校に入るタイミングで、どちらかに拠点を決めざるを得ないケースも。ほかにも、自分1人がデュアラーをする場合は、「家族の同意が得られないのでは」、「家族バラバラになりそう」という心配がありました。

ほかにも、「ゴミを決まった曜日に捨てられず、都内まで持って帰っている」、「やはり人が住まないと建物が傷む」「冬場は水道が凍結してしまう」「とにかく寒いので、エアコンを稼働して温かくするまで時間がかかる」、「事前に荷物や食材を送りたくても、受け取る人がいない」など、実践者ならではのリアルな悩みも多々ありました。

開催されたのは平日の19時~。約半数が「デュアラー」未経験者。3割が実践者、それ以外が不動産会社や支援団体などの関係者という顔ぶれ。ほぼ誰もが初対面同士(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

開催されたのは平日の19時~。約半数が「デュアラー」未経験者。3割が実践者、それ以外が不動産会社や支援団体などの関係者という顔ぶれ。ほぼ誰もが初対面同士(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

デュアルライフの経験がない人も、自分がするとしたらまずはこんな壁にぶち当たりそうと、想像を巡らせて発言していきます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

デュアルライフの経験がない人も、自分がするとしたらまずはこんな壁にぶち当たりそうと、想像を巡らせて発言していきます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

コスト削減だけではない。デュアラーを支援するアイデアいっぱい

デュアルライフの課題発表終了後は、2回目のブレストタイム。これまでに出た課題に対し、「何でもあり」でアイデアを出し合うことに。時間も経ち、お酒も回って、話は大盛り上がりました。

以下、課題として多く指摘された「住居費」「移動」「コミュニティ」「ゴミ出し」に関して発表された、面白いアイデアを箇条書きで紹介します。

住居費について
・「10人で10軒をシェア」各拠点をみんなでシェアすれば二居住どころかマルチ居住
・「交換デュアラー」田舎の人も東京で過ごしたいのでは?→だったら交換してみればいい
・「デュアラー特区」デュアラーに力を入れている自治体。固定資産税などの減税、空き住戸含めた情報提供など、自治体の積極的なPRあれば二拠点目のエリアとして選びやすい
・「私、〇〇できます」宣言。料理人がいろんなシェアハウスを転々としながら暮らしている例がある。一年中、収穫を手伝いながら旅する人もいるそう。自分のスキルを田舎暮らしで活かし、コストに充てる
・「デュアルアワー貸し」人によっては短い間だけ借りるのもアリでは

移動について
コストを削減する方法と、移動=価値を見出す方法の2通り提案されました
・「定額新幹線乗り放題」自由席ならどれだけ乗ってもいい。デュアラー割引でも可
・「長距離トラックに相乗り」
・「移動するついでに宅配」車移動のついでに荷物を運び、利益を得る
(「あなたの代わりに墓参りします」墓参りを代行も)
・道の駅に「コワーキングスペース」(すぐにでも実現できそう!)
・「自動運転でラクに移動」:乗用車2台を前後につなぎ、2台目のほうは自動運転で付いていく形なら技術的にもスムーズでは?(完全妄想!)

女性ばかりのテーブルでは、女性ならではのコミュ力で一気に打ち解け、話が盛り上がる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

女性ばかりのテーブルでは、女性ならではのコミュ力で一気に打ち解け、話が盛り上がる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

コミュニティについて
・「草刈りフェス」コミュニティに入るきっかけになる、お祭りも兼ねて一石二鳥
・「村人に聞こう~ドラクエ化」地元の人に話しかけ、交流が生まれるような仕掛け。
例:この人にこの質問をしないと、家の鍵がもらえない。まずは「〇〇店」で〇〇を購入、装備する、などロールプレーイング風に
・「よろしくステッカー」家の前に、交流ウェルカムという意思表示のステッカーを貼る。
逆に「サーフィンに来ています」ならサーフボードのステッカー、「ひとりでのんびりしにきています」なら寝ているステッカーなど、二拠点の目的を明確にする
・受け入れ側も「うちはウェルカムですよ」というステッカーがあれば、きっかけがつかみやすい。
・「おじいちゃんおばあちゃんとシェアハウス」広い一軒家にひとりで住んでいるお年寄りは多いはず。遠方にいる子世帯に様子を知らせれば安心(例:草刈りを手伝ったり、車で病院に連れて行ってあげたりなど労働力を提供すれば、住居費はタダ)

デュアルライフ実践者からリアルな意見も。みなさんプレゼン慣れしています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

デュアルライフ実践者からリアルな意見も。みなさんプレゼン慣れしています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ゴミ出しなどについて
・「マッチングアプリでお願い、ご近所さん」 ゴミ出しや荷物の受け取りをご近所の方にお願いして、電子マネーで謝礼を払う
・「ドローンでゴミ捨て」 広告を載せて宣伝にも使えばコスト削減できる
・「大学生が管理するデュアラー村」 複数の家の1つを大学生の寮や合宿所に。不在時のさまざまな雑務を引き受けてもらう

デュアラーに愛される街が、もうかる自治体になればいい

ほかにも、「学校データ化で、子どもの勉強の進度などを情報共有。どこでも学べる環境になる」、「デュアラー向けに家を貸すのを躊躇するオーナーさん向けに、デュアル保険を用意して貸し手の不安を払拭する」、「まずは公共施設を開放し、再活用できるような動きをするべきでは」というさまざまな意見が出ました。

「デュアラーによる“住みたい街ランキング”も面白そう。スーモさん、是非やって」という声も(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「デュアラーによる“住みたい街ランキング”も面白そう。スーモさん、是非やって」という声も(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さらに、「デュアルライフに市場原理を持ち込もう」という切り口で、「デュアルファンドを創設する」→「投資に値する、選ばれる行政を目指すようになる」→「投資した人は、家族、友人を誘って足を運ぶようになる」→「もうかる自治体はさらに魅力的になる」など、経済がまわっていく仕組みをつくれないかなど、壮大なアイデアもありました。
具体的に「奥多摩を盛り上げよう」という地名が出たことで、「以前は東京の人がみんな軽井沢などの別荘地に憧れましたが、現在のデュアラーは移動の時間とコストにシビア。例えば中央線沿線なら奥多摩や山梨方面、東京北部なら秩父方面、東京東部なら千葉の南房総など、今の生活圏の延長線上にある立地を選ぶほうが、現実的で愛着が持ちやすいのでは」と主催者のひとりが提案。そのあたりにもデュアラーを盛り上げるヒントがありそうです。

以上、すぐに取り組めそうなものから。かなり壮大なレベルのものまで、さまざまにアイデアが上がった、盛況な会に。数年後には、なにかが実現しているかもしれません。

デュアルライフ・二拠点生活[12] 新鮮マグロに採れたて野菜。5組11人が集う三崎港ビューの“シェア別荘”とは?

玄関のドアを開ければ目の前に三崎港――。「三崎の『ミ~』で!」という掛け声とともにポーズをとってくれた彼らは、この場所に建つ築80年の古民家で週末移住を楽しむ5組の人々だ。

職業もバラバラで知り合ってからの年月も浅い。しかし、旧知の仲のように息もぴったりだ。そんな彼らが営むデュアルライフと地域との交流の様子を覗いてみよう。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、若い世代もデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点居住者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます品川から京急本線で1時間ちょい、そこから路線バスで15分

三浦半島の南端に位置する三崎港(神奈川県三浦市)。全国有数のマグロ水揚げ港として知られ、年間15隻前後のマグロ漁船が入港する。

最寄駅の三崎口駅までは、品川駅から京急本線快特に乗って1時間ちょい。そこから路線バスに揺られること15分で三崎港に到着した。

2階の窓からの風景。晴れた日には左の方角に富士山も見える(撮影/相馬ミナ)

2階の窓からの風景。晴れた日には左の方角に富士山も見える(撮影/相馬ミナ)

港内に係留された水中観光船の脇には、「うらり」の愛称で親しまれている「三崎フィッシャリーナ・ウォーフ」。2001 年に旧三崎魚市場の跡地の一部に建てられた施設で、新鮮な魚や野菜を販売している。年間の来館者数は130万人を超える。

「うらり」の2階デッキからは360°の眺望が楽しめる。料理教室やお笑いライブなども定期的に開催(撮影/相馬ミナ)

「うらり」の2階デッキからは360°の眺望が楽しめる。料理教室やお笑いライブなども定期的に開催(撮影/相馬ミナ)

また、毎週日曜の目玉は早朝5時~朝9時に開催される「三崎朝市」。マグロを中心に、海の幸、山の幸を求める人々で大いににぎわう。

白首系の「三浦大根」は食感が柔らかいのに煮崩れしにくい。おでんなどの煮物に最適(写真提供/山本葵)

白首系の「三浦大根」は食感が柔らかいのに煮崩れしにくい。おでんなどの煮物に最適(写真提供/山本葵)

さらに、街を歩くと美味しそうな飲食店が続々と現れた。例えば、老舗の「まるいち魚店」では店頭で選んだ地魚を隣の食堂で食べられるというサービス付き(調理代は別)。

扱う魚のほとんどは三崎港で水揚げされたもの。すべて量り売りで販売してくれるのもうれしい(撮影/相馬ミナ)

扱う魚のほとんどは三崎港で水揚げされたもの。すべて量り売りで販売してくれるのもうれしい(撮影/相馬ミナ)

平日は表参道のアパート、週末は三崎の古民家というデュアルライフ

街の紹介はここまで。満を持してデュアラーたちにご登場いただこう。すべてのきっかけをつくったのは、コンサル業を営む杉本篤彦さん(29歳)。うらりにほど近い、三浦の看板ともいえるような通りにたたずむ古民家がデュアルライフの舞台だ。

杉本さんは言う。

「きっかけは、この物件を管理していた大家さんの姪っ子さんとの出会いから。4年前に三浦市が2週間のお試しで空き家に住める『三浦トライアルステイ』という企画を始めたんですが、私がそれに参加した際に住む家の相談をしました」

以前から、自分と波長が合う人が集まるスペースをつくりたいと思っていた杉本さん。この出会いをきっかけにデュアラーとしての第一歩を踏み出した(撮影/相馬ミナ)

以前から、自分と波長が合う人が集まるスペースをつくりたいと思っていた杉本さん。この出会いをきっかけにデュアラーとしての第一歩を踏み出した(撮影/相馬ミナ)

とはいえ、二つ返事で物件を貸してくれたわけではない。

「三崎はマグロで儲けた人たちが多い街。収入のために空き家を売ったり貸したりするよりは、思い出が詰まった空き家のままにしておきたいと考える人が多いため、物件サイトに載っていない空き家もたくさんあります。仲良くなれば中を見せてくれて、『月いくらでいい』と言われるパターンも少なくないですね」

杉本さんも、そのパターン。姪っ子さんとかなり打ち解けた段階で、週末移住者のための共同スペースをつくるという「シェア別荘計画」を打ち明けた。「それなら、親戚の空き家でこんな物件があるよ」という流れで、この古民家を紹介してもらった。

撮影場所はメンバーお気に入りの喫茶店「トエム」。人気のクリームソーダは380円(写真提供/山本葵)

撮影場所はメンバーお気に入りの喫茶店「トエム」。人気のクリームソーダは380円(写真提供/山本葵)

平日は表参道のアパート、週末は三崎の古民家というデュアルライフが始まったのは2年半前。家賃は5万円以内という“お友達価格”だ。しかし、11年間誰も住んでいない物件は予想以上に手強かった。

「まずは普通に住めるような家にしようと、一人で黙々と作業。掃除が本当に大変で、ぶっちゃけ、何度も心が折れそうになりました(笑)」

杉本さんがFacebookに載せていた夕日の写真が決め手

そんな杉本さんの思いに賛同して合流したのが、自営業役員の山本陽平(33歳)さんとインテリア雑貨企画開発の葵(33歳)さん夫妻。

陽平さんはお祭り好きが高じて「オマツリジャパン」という全国のお祭り情報サイトを立ち上げた“お祭り男”だ。

取材前日も後ろの海南神社の八雲祭で御輿を担いだ陽平さんは「肩、バッキバキですよ」と笑う。葵さんはシェア別荘のオシャレ担当(撮影/相馬ミナ)

取材前日も後ろの海南神社の八雲祭で御輿を担いだ陽平さんは「肩、バッキバキですよ」と笑う。葵さんはシェア別荘のオシャレ担当(撮影/相馬ミナ)

神輿は地元の青年会のメンバーらが担ぐ(写真提供/山本葵)

神輿は地元の青年会のメンバーらが担ぐ(写真提供/山本葵)

現在、山本さん夫妻は西新宿の賃貸マンションに住んでいるが、杉本さんからの誘いに軽い気持ちで乗ったという。

「費用の負担も少ないし、二人ともアウトドア好き。そして、何よりも杉本さんがFacebookに載せていた夕日の写真が決め手でした」(葵さん)

三崎のすぐ南にある城ヶ島から望む夕日と大島の影。夕日好きの葵さんにとっては堪らない1枚だった(写真提供/山本葵)

三崎のすぐ南にある城ヶ島から望む夕日と大島の影。夕日好きの葵さんにとっては堪らない1枚だった(写真提供/山本葵)

時代を感じさせる柱や掛け軸など、古民家の魅力は残したい

古民家での週末移住に山本さん夫妻という戦力が加わった。杉本さんとしては家賃負担が半分になったこともうれしい。

「こないだ部屋の畳を剥がしたら昭和48年の新聞が敷かれていました。つまり46年間、そのままだったということ」(葵さん)

とはいえ、古民家の魅力は極力残したい。時代を感じさせる柱や掛け軸もそのひとつだ。長年にわたって誰も触れなかった調度品が家の歴史を物語る。

コンロや洗濯機を設置したことで、ようやく“普通に住める”レベルの家に(撮影/相馬ミナ)

コンロや洗濯機を設置したことで、ようやく“普通に住める”レベルの家に(撮影/相馬ミナ)

みんなと場をつくる楽しさ、喜びも悲しみも共有できる

仲間はどんどん増えていった。昨年11月に会社員の永田篤史さん(42歳)と1歳の息子を連れた栗山和基さん(36歳)、奈央美さん(34歳)夫妻が参戦。

Negiccoファン歴6年の永田さん。推しメンを聞くと「箱推し」、すなわちグループ全体を推すスタイルらしい(撮影/相馬ミナ)

Negiccoファン歴6年の永田さん。推しメンを聞くと「箱推し」、すなわちグループ全体を推すスタイルらしい(撮影/相馬ミナ)

「多拠点居住にはもともと興味があったんです。今は江戸川区に住んでいますが、将来的にはマレーシアと日本の両方に拠点を持ちたくて。さらに、エストニアの電子国民の資格も取りました」

「東京と比べて、ここは時間の流れもゆっくり。魚も美味しいし」と語る永田さん。シェア別荘が旅館に泊まるのと決定的に違うのは、「みんなと場をつくる楽しさ、喜びも悲しみも共有できる点」だという。

一方で、栗山家は西新宿でシェアハウスを運営。自身もそこで暮らしている。メインの住居も週末用の別荘もシェアしているのだ。

「今日は『ジモティー』経由で乾燥機をもらいました。子ども連れだと服が多くなるので、ここで乾かせるといいなと思って」(撮影/相馬ミナ)

「今日は『ジモティー』経由で乾燥機をもらいました。子ども連れだと服が多くなるので、ここで乾かせるといいなと思って」(撮影/相馬ミナ)

三浦半島には大人も子どもも楽しめるスポットがたくさんある

最後に仲間入りしたのは、中国人でエンジェル投資家のロウさん(39歳)家族。妻は42歳の会社員で、小学5年生の娘と小学2年生の息子がいる。

「住居は天王洲アイルにあるので、ここへのアクセスもいい。子どもが大きくなるにつれて、テーマパークとかよりは山や海で遊ばせたいと思うようになったんです」

この日も目の前の海で魚獲り(撮影/相馬ミナ)

この日も目の前の海で魚獲り(撮影/相馬ミナ)

見事、ハゼと沢ガニをゲット(撮影/相馬ミナ)

見事、ハゼと沢ガニをゲット(撮影/相馬ミナ)

妻が言う。

「最近は小網代の森でホタルを観察したり、ソレイユの丘でバーベキューをしたり。三浦半島には大人も子どもも楽しめるスポットがたくさんあって気に入っています」

全国のデュアラー共通の悩みは「ゴミ出し」

ここに来るのは月に1回から3回程度と、皆さん頻度こそ違う。しかし、じつに濃い顔ぶれでそれぞれ専門分野を持っている。サッカーチームならかなり強力なイレブンになりそうだ。

ポイントは、週末移住者を“募集”しているわけではないということ。

「すべて、メンバーからの紹介です。“シェア別荘”で一番の醍醐味(だいごみ)は人。どの物件をシェアするかより、誰とシェアするかが重要なんです」(杉本さん)

複数の家族が円滑に利用するためのチェックシート。三崎の先っちょにあるから「みさきっちょ」だという(撮影/相馬ミナ)

複数の家族が円滑に利用するためのチェックシート。三崎の先っちょにあるから「みさきっちょ」だという(撮影/相馬ミナ)

「あと、全国のデュアラー共通の悩みは『ゴミ出し』。平日はいないので、私たちも各自で持ち帰ったり、たまに地元の方にゴミ捨て代行してもらったりしています」(葵さん)

看板娘がいるような港町のバーもつくりたい

取材後、杉本さんと山本夫妻の案内で再び近所を散策した。

どこか落ち着く懐かしい街並み(撮影/相馬ミナ)

どこか落ち着く懐かしい街並み(撮影/相馬ミナ)

「よく外に飲みに行くので、この辺の飲み屋の店主はみんな友達。看板娘がいるような港町のバーもつくりたいねと飲食店をやっている友達と相談しているところです。適任者がいたらやろうかなと」(杉本さん)

三崎港バスロータリー前の「山田酒店」では看板犬がお出迎えしてくれた。

購入したお酒を店内で飲めるうえに、2階は民泊として開放しているという。天国か(撮影/相馬ミナ)

購入したお酒を店内で飲めるうえに、2階は民泊として開放しているという。天国か(撮影/相馬ミナ)

毎年8月13日、14日の2日間は「みうら夜市」で盛り上がる(写真提供/山本葵)

毎年8月13日、14日の2日間は「みうら夜市」で盛り上がる(写真提供/山本葵)

この場所に5組全員がそろうのは2カ月に1回ぐらい

ちなみに、2週間に1回は都内で顔を合わせてミーティングを行う。来られない人はオンラインで参加する。この場所に5組全員がそろうのは2カ月に1回のペースだ。

「貴重な機会なので、今日はこれからみんなでバーベキューです」というので、「ぜひ、写真を送ってください」と頼んで三崎を後にした。

届いた写真がこちら。どう見ても美味しいに決まっているやつだった(写真提供/山本葵)

届いた写真がこちら。どう見ても美味しいに決まっているやつだった(写真提供/山本葵)

今回取材した人々は皆、社会の第一線で活躍する人々。しかし、そんな彼らでも東京での生活に疲弊することがある。月に数回、東京に背を向けて眺める美しい夕焼けは心の避難所なのかもしれない。

風光明媚(めいび)で食べ物も美味しい土地に建つ別荘を安く“シェア”するという発想。今後、こうした動きはますます増えていくだろう。

新鮮な魚、採れたての野菜、そして“シェア別荘”がある人生に乾杯!(写真提供/山本葵)

新鮮な魚、採れたての野菜、そして“シェア別荘”がある人生に乾杯!(写真提供/山本葵)

●取材協力
・オマツリジャパン

大学生がシニアと団地で暮らす理由とは。世代間交流深める高蔵寺ニュータウンの今

愛知県名古屋市に隣接する春日井市の丘陵地に広がる、UR都市機構が開発した高蔵寺ニュータウン。東京の多摩、大阪の千里と並ぶ日本三大ニュータウンの一つと言われ、当初は約700haに8万人超が暮らす大規模な街づくりが行われた。最初に完成した藤山台団地が1968年に入居を開始してから、昨年で50年が経過。全国各地で課題となっている少子高齢化の波はここにも押し寄せているようにも見える。だがこの団地では、住人に新しい気持ちが芽生えるような取り組みが進んでいた。
通学時間を短縮して有意義に!

現在、高蔵寺ニュータウンの団地には、そこから3kmほど離れた場所にある中部大学の学生83名(2019年4月1日時点)が「地域連携住居」という取り組みを利用して暮らしている。団地内にはファミリー向けにつくられた間取りも多く、十分な広さがある。入居を希望する学生は、各地区の自治会加入・地域活性化に資する活動(以下、地域貢献活動)への継続参加が条件。地域貢献活動への参加によって与えられるポイントを学期(春・秋)内に一定数集めることが要件となっており、その特典として家賃が割引になる。これがUR都市機構・春日井市・中部大学の3者で取り組む「地域連携住居制度」の仕組みだ。スタートした初年度は21人の学生が入居、年々入居者は増え、現在のこの人数になっている。

高度経済成長とともに増加した高蔵寺ニュータウンの人口は、95年をピークに減少がはじまり、少子高齢化が進んでいる。そんな中「春日井市と、市内にある中部大学から、URにニュータウンへの学生の入居促進に対する協力の依頼があったのは2014年のことです。私たちとしても、年月が経った団地への魅力づけを、何かしなくてはと考えているところでした。学生さんたちへの生きた教育の場の提供にもなるのであればと考え、協力をさせていただくことにしました」と話すのは、UR都市機構中部支社で団地マネージャーを務める所義高さん。

高蔵寺ニュータウン内には遊具のある公園や広場が点在。保育園や幼稚園もあり、子ども達の元気な声が響く(写真撮影/倉畑桐子)

高蔵寺ニュータウン内には遊具のある公園や広場が点在。保育園や幼稚園もあり、子ども達の元気な声が響く(写真撮影/倉畑桐子)

この取り組みのきっかけについて、依頼側である中部大学学生教育部学生支援課の殿垣博之さんはこう話す。
「本学は東海三県から通学する学生の割合が大きく、中には片道2時間以上をかけて通学する学生もいます。そこで大学としては、学生の通学時間を短縮し、その時間を学業やクラブ活動、インターンシップなどに役立ててほしいと考えました。ただ、経済的に厳しい状況の学生も多いので、可能な限り通学にかかる交通費に近い金額で下宿代がカバーできるような取り組みを模索し、この制度が提案されました」

元気な学生たちの住まいは上層階

地域連携住居制度を利用する入居者で組織される学生団体、中部大学KNT創生サポーターズ(以下、CU+)の今年度リーダーを務める、中部大学人文学部三年生の西井皓祐さんにお話を聞いた。
「地域連携住居制度については、大学の合格通知に同封されていたので、入学前から知っていました。実家は県外なので、当初からここに住もうと決めていました」

明るい日差しが差し込む西井さんの住まい。ゆとりある間取りを活用し、自炊や洗濯をして一人暮らしを満喫中だ(写真撮影/倉畑桐子)

明るい日差しが差し込む西井さんの住まい。ゆとりある間取りを活用し、自炊や洗濯をして一人暮らしを満喫中だ(写真撮影/倉畑桐子)

それまでは、地域イベントへの参加経験がなかったという西井さん。「入学するまであまり興味がなかった」と正直だ。そんな西井さんの住まいにお邪魔してみた。ファミリーでも住むことができる2DKの間取りは「1人なら十分すぎる広さです」といい、住み心地には大満足。毎月の家賃も割安で、大学からも近いので、友達が遊びに来ることもある。

学生の住まいは、エレベーターのない指定された棟の空いている部屋から、好きな間取りを選べる。4~5階は高齢者や幼児がいる世帯にとっては不人気であるため、学生たちが住めば、UR都市機構側としてもメリットがある。西井さんも上の方の階に住んでいるが、若いだけあって「階段にはすぐ慣れました」と笑顔を見せた。

UR都市機構による賃貸物件なので、仲介手数料や礼金などが必要なく、退去時の精算も国土交通省のガイドラインに則って行われるので、初めて一人暮らしをする学生にも分かりやすい。

入居は空室があれば随時で、年度の途中から住むこともできる。入居可能な住居や家賃については、希望者がUR都市機構の窓口に問い合わせることになっている。なかには、部屋をシェアして住んでいる学生もいるそうだ。

参考書などが並び、いかにも学生らしい西井さんの居間兼寝室。大学へは車で10分ほどの距離なので、授業の合間にちょっと帰宅することもできる(写真提供/西井さん)

参考書などが並び、いかにも学生らしい西井さんの居間兼寝室。大学へは車で10分ほどの距離なので、授業の合間にちょっと帰宅することもできる(写真提供/西井さん)

力仕事と爽やかな「おもてなし」で学生が本領発揮

入居のための必須条件である地域貢献活動への参加は、大きく分けて2種類ある。
1)依頼を受けて自治会等主催の地域活動に参加すること。地域の運動会や餅つき大会、防災イベント、防犯パトロールなど
2)地域連携住居制度を利用する学生が地域住民に向けて、自主的に行事を企画し開催すること。コーヒーサロンの企画・実施、高蔵寺ニュータウン内の清掃活動、夜警など

「団地に住む学生は、毎月、月例会で地域貢献活動内容について話し合います。内容ごとにポイントが違い、どれに参加するかは自由です。ポイントは学期(春・秋)で最低5ポイントずつ、1年で10ポイント以上を取得するように決められています」と西井さん。

西井さんに、地域貢献活動への参加記録である「地域貢献活動カード」を見せてもらった。入学以来、定期的に地域の祭りや運動会の運営サポート、草刈りや団地内の夜警、自治会の防災倉庫の点検などの地域貢献活動に参加し、主催者側と大学の学生支援課がチェックした記録があった。

「自治会から頼まれるものの中には、イベント時のテントの設営と片付けなどの力仕事や、ウォーキング時のコース案内など、炎天下での活動もあります。学生の僕たちでも疲れるような作業があるので、無事に終了すると、地域の方から『とても助かったよ』と喜ばれます。地域のみなさんの役に立っているんだなと実感しています」と話す。

自治会主催のイベントへの参加は、自身が住む地域でどのような催しが行われているのかを知る機会になり、大人から子どもまで、多世代の地域住民と交流するきっかけにもなっているという。

一方、学生からの人気が高い地域貢献活動は「コーヒーサロン」の企画・実施だ。これは、団地の集会室で、学生が淹れたコーヒーを振る舞う無料のおしゃべりサロンのこと。「一人暮らしの地域の方から、『部屋を出て若い人と話すだけでもうれしい』と喜んでもらったり、『君は将来、何がやりたいの?』と進路を聞かれて身が引き締まるような思いをしたり。昔の春日井市の話を聞かせていただくこともあり、僕たちも楽しんでやらせてもらっています」。時には団地の住民から差し入れがあることも。開始以降好評で、毎年秋に開催される、住民の世代間交流の場になっている。

学生たちによる自主企画である、団地内の清掃活動の様子(写真提供/中部大学)

学生たちによる自主企画である、団地内の清掃活動の様子(写真提供/中部大学)

安心・安全な街づくりを呼び掛ける、地域の防犯パトロールに住民と共に参加(写真提供/中部大学)

安心・安全な街づくりを呼び掛ける、地域の防犯パトロールに住民と共に参加(写真提供/中部大学)

視野が広がり気付いた、「地域貢献って楽しいもの」

昨年秋からCU+のリーダーを務める西井さん。当初は地域貢献に興味がなかったが、年配者から力仕事に対して感謝されるだけでなく、「若い人と話して元気が出た」「孫と接しているみたい」と言われることで、「自分にできる範囲の、何気ないことでも喜んでもらえるんだ」と感じるようになった。次第に「地域貢献活動自体が自然なことで、楽しみの一つにもなりました」という。

ただ、80人以上の学生がいると、なかなか足並みがそろわない部分もある。「家賃を割り引きしてもらっている義務感で、仕方なく地域貢献活動に参加している人も見受けられました。でも、それってちょっと違うんじゃないかと。みんなが心から、楽しいな、やりたいなと思うような地域貢献活動にしようと思って」、昨年のリーダー交代のタイミングで立候補。自分自身が「みんなを鼓舞しよう」と思うほどに変化するとは、想像していなかったという。

リーダーの任期は1年間。西井さんが率先して、楽しみながら地域貢献活動に参加することで、月例会で活発に意見が交わされるようになるなど、「一人一人が考えながら、自主的に行動できるように変化してきた」と感じている。

現在は、団地内で一人暮らしをする年配の女性から、おかずを分けてもらうこともあるという西井さん。ナチュラルな形で、すっかり地域に溶け込んでいる。

大学側も取り組みの手応えを語る。「シニアの方からは、イベントなどに学生が参加することで『地域の活性化につながる』というありがたいお言葉もいただいています。学生たちは、人生の先輩であるシニアや親世代の方々と交流することで、さまざまな考え方に触れることができ、視野を広げるきっかけとなっています。地域連携住居制度によって、授業だけでは学ぶことのできない経験をすることができ、学生にとってのキャンパスが学外にも広がりつつあります。これを本学では第3の教育として推奨しています」(※第1:正課教育(授業)、第2:正課外教育(クラブ活動など)、第3:社会連携教育)(前出の中部大学学生教育部学生支援課 殿垣さん)

昨年、団地の敷地内に、廃校になった藤山台東小学校を利用した多世代交流拠点施設「グルッポふじとう」がオープン。カフェや図書館、児童館などが入り、地域の人々でにぎわう(写真撮影/倉畑桐子)

昨年、団地の敷地内に、廃校になった藤山台東小学校を利用した多世代交流拠点施設「グルッポふじとう」がオープン。カフェや図書館、児童館などが入り、地域の人々でにぎわう(写真撮影/倉畑桐子)

制度をきっかけに、自然とコミュニティが活性化

前出のUR都市機構・所さんは、「コミュニティの活性化は、日本全国どこでも、住宅を管理する側の課題です。でもこれらは住民の方の気持ちがあってこそ成り立つので、本来、家主側がやろうと思ってできることではありません。一緒に住んでいただきながら、自然な形で多世代が交流するというのは、ミクストコミュニティの良い事例だと思っています」と話す。

地域連携住居制度については、現在まで、学生と元から住む住民との双方から好評の声を聞いているという。「学生さんの住まい方については、特に何もお願いをしていませんが、騒音などの不満も聞きません。多世代と共同住宅に住むということで、よりマナーをわきまえて生活しているのでは」(UR都市機構・所さん)

中部大学側からは、「学生が多く入居しているため、気が緩みがちになりますので、常に中部大学の学生として見られていることを意識して、日ごろの挨拶やゴミ出しなどのマナーの遵守を徹底するように伝えています」(殿垣さん)とのことだ。

双方が「今後も望ましい形を模索しながら、この取り組みを続けていきたい」と話す。毎年度末には、春日井市や自治会、UR都市機構の担当者を交え、地域連携住居制度の年間活動報告会を行っている。

「核家族が増えている中で、ご高齢の方と日常的に接する機会があり、自分が住む地域で地域貢献活動の経験ができるというのは、価値があることなのでは。学生さんたちが、今後も自主的に考えて行動するきっかけの一つになればうれしいですね」とUR都市機構・所さん。

中部大学は「取り組みが5年目を迎え、入居する学生の増加につれて、地域からの期待や要望も大きくなっていると感じます。今後は、これまでの経験や地域の皆さんからいただいたご意見を活かしつつ、持続的に地域と連携していくための制度や、地域貢献活動への参加方法などをさらに改善していきたいと思います」(殿垣さん)と展望を話す。

これからも地域に馴染みながら、より快適な制度へと姿を変えていくのだろう。

中部大学で行われた「防災企画」の講習会に、地域連携住居制度を利用するメンバーと地域住民が参加。共に災害に関する知識を身に付けた(写真提供/中部大学)

中部大学で行われた「防災企画」の講習会に、地域連携住居制度を利用するメンバーと地域住民が参加。共に災害に関する知識を身に付けた(写真提供/中部大学)

同世代ではない人たちへの理解、お年寄りへの細やかな気遣い、自分も地域の担い手であるという責任感。それらを身に付けることは、これから社会へ出ていく学生にとって、無駄なことが一つもない。

一方で、団地内に顔見知りが増えれば、独居のシニアの体調の変化などに学生が気づくこともあるかもしれない。どちらにもメリットが多い取り組みだと思う。

お邪魔した西井さんの部屋は、ザ・大学生の一人暮らし!という懐かしい雰囲気。そこから一歩外へ出ると、公園の遊具や時計台があり、子どもの声が響くのどかな環境というのもいい。人生のうちの数年間、団地で暮らしてみるという経験は、社会へ巣立つ前の彼らを温かく育むに違いない。

●取材協力
・UR都市機構 中部支社 
・中部大学

街とつながるライフスタイルホテル【後編】「ノーガホテル上野」で東京の食と文化とアートに触れる

宿泊客と地域の人々との交流を促すライフスタイルホテルが注目されています。前編「星野リゾート OMO5 東京大塚」に続き、後編では、館内のアメニティやレストランの食材、アート作品などを地元で製作、調達することで、地域の魅力を世界に伝える「ノーガホテル上野」に伺いました。
住宅のプロ「野村不動産」グループがホテル事業に初参入!

ニューヨーク発のメンズファッション&ライフスタイル誌『GQ』や、ロンドンに拠点を構えるグローバル情報誌『MONOCLE(モノクル)』など、高感度な海外メディアにも取り上げられ、世界的に注目を集めている「ノーガホテル上野」。野村不動産グループによる初のホテル事業の第1号店で、JR上野駅浅草口から東へ徒歩5分のところにあります。

吹抜けのラウンジスペースは、道路に面したガラスドアからテラス席に続いています。通りからふらっと立ち入りやすい、開放的な雰囲気です(写真提供/ノーガホテル上野)

吹抜けのラウンジスペースは、道路に面したガラスドアからテラス席に続いています。通りからふらっと立ち入りやすい、開放的な雰囲気です(写真提供/ノーガホテル上野)

パリの「The Hoxton」やニューヨークの「11 howard」のエッセンスを感じさせるデザイン性の高いラウンジでお茶を飲んでいると、ここが上野だということを忘れてしまいそうになります。

なぜ、1号店を上野に決めたのでしょうか? 野村不動産ホテル事業部の中村泰士さんに尋ねてみました。

「上野のある台東区を訪れる観光客は、年間5000万人とも言われています。上野エリアには国立西洋美術館や東京国立博物館、上野動物園、上野東照宮もありますよね。浅草寺や仲見世通り、アメ横や合羽橋も、ホテルのすぐ近く。多くの人が訪れてみたいと思う観光資源が豊富な点が、このエリアの魅力のひとつです」

ワインエキスパートとSAKE DIPLOMAの資格も有する、美味しいもの好きの中村さん。2年かけて、地元の飲食店や工房を400軒以上も巡ったそうです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ワインエキスパートとSAKE DIPLOMAの資格も有する、美味しいもの好きの中村さん。2年かけて、地元の飲食店や工房を400軒以上も巡ったそうです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さらに上野は、新・旧が融和したプロダクトの街である点も魅力なのだとか。

「江戸切子や東京硝子といった伝統的なものづくり文化が残るだけでなく、蔵前のように若いクリエーターが集まる街もあります。ホテル事業を通して『人と人、人と街をつなぐコミュニティづくり』を推進していきたいと考えていた我々にとって、上野は1号店にベストな立地だったんですよ」

エレベーターホールには、地元の家紋職人である「京源」波戸場承龍氏、耀次氏による家紋アート作品が飾られているほか、4種類の客室カードキーにも両氏によるオリジナルデザインが採用されています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

エレベーターホールには、地元の家紋職人である「京源」波戸場承龍氏、耀次氏による家紋アート作品が飾られているほか、4種類の客室カードキーにも両氏によるオリジナルデザインが採用されています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ノーガホテルのコンセプトは、『地域との深いつながりから生まれる素敵な経験』。ゲストがその地域の文化を感じられるよう、地元の職人やデザイナーとともに製作したオリジナルプロダクトがホテル内のいたるところで採用されています。

客室のドアノブにかける「ECO FRIENDLY CLEANING(タオル・ベッドリネン交換不要)」などのサインプレートは、生活デザイン雑貨の企画会社「SyuRo」のオーナー、宇南山加子氏とのコラボレーションで製作(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

客室のドアノブにかける「ECO FRIENDLY CLEANING(タオル・ベッドリネン交換不要)」などのサインプレートは、生活デザイン雑貨の企画会社「SyuRo」のオーナー、宇南山加子氏とのコラボレーションで製作(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「客室のハンガーや靴べら、レストランのカトラリーレストやメニューボードなども、地元のクリエーターと一緒につくりました。お客様のご要望を受けて店頭で販売するようになったものもあるんですよ。製作しているショップや工房をお客様にご紹介すると、とても喜ばれます。『お土産に』と、たくさんお買い物してこられる方もいますね」

谷中、鳥越、入谷……イベントの開催も食材の調達も地元と連携

ノーガホテルでは、館内で使われるものだけでなく、イベントやワークショップの開催も地域と連携して行っているそうです。

谷中に本店のある自転車専門店「トーキョーバイク」とのコラボレーションでは、上野エリアを自転車で巡るサイクリングツアーを企画。地元、台東区の魅力を知り尽くしたトーキョーバイク代表のきんちゃん(金井一郎さん)が案内役を務めます。

洗練されたデザインと高い機能性を誇る「トーキョーバイク」の自転車は、国内外にファン多数。ツアーに使用される自転車は、スポーツバイク初心者にも扱いやすい「26」と、乗車姿勢が高く広い視野を確保できる「BISOU 26」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

洗練されたデザインと高い機能性を誇る「トーキョーバイク」の自転車は、国内外にファン多数。ツアーに使用される自転車は、スポーツバイク初心者にも扱いやすい「26」と、乗車姿勢が高く広い視野を確保できる「BISOU 26」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

野村不動産ホテル事業部の竹村明里さんによると、「日本酒のテイスティングセミナーも人気」なのだとか。

ホテル事業部にくる前は、野村不動産のマンションシリーズ「PROUD」の賃貸部門にいたという竹村さん。「新しい取り組みに挑戦したい」という考えで、ホテル業界未経験のスタッフが多く採用されたそうです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ホテル事業部にくる前は、野村不動産のマンションシリーズ「PROUD」の賃貸部門にいたという竹村さん。「新しい取り組みに挑戦したい」という考えで、ホテル業界未経験のスタッフが多く採用されたそうです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「テイスティングセミナーは、ホテルのすぐ近くにある木本硝子さんにご協力いただいて開催しています。全国各地の日本酒の蔵元からゲスト講師を招いてお話を伺いつつ、木本硝子さんの日本酒グラスで実際に試飲いただくという内容です。グラスの形が違うだけで味がこんなにも変わるんだと、毎回参加者の方に驚かれますよ」

「ワイングラスはあるのに、なぜ日本酒グラスはないのか」という着想から生まれた木本硝子の『es』シリーズ。セミナー参加者には、ノーガホテルオリジナルの平杯グラスがプレゼントされます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ワイングラスはあるのに、なぜ日本酒グラスはないのか」という着想から生まれた木本硝子の『es』シリーズ。セミナー参加者には、ノーガホテルオリジナルの平杯グラスがプレゼントされます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、ホテル内のレストラン「ビストロ・ノーガ」では、地域の食材を積極的に採用しているそうです。コーヒーは台東区鳥越の喫茶店「蕪木」とコラボレーションしたオリジナルブレンド、パンは隅田川沿いにある手づくりパンの店「マニファクチュア」から、ハムやベーコンは入谷の隠れた人気店「太田ハム」から取り寄せています。

蕪木珈琲とマスカルポーネを合わせた大人の風味の和モダンかき氷『蕪木珈琲をティラミスのイメージで』。このほか、塩を効かせたグラノーラが香り高いほうじ茶シロップの甘みを引き立てる『ほうじ茶シロップと塩グラノーラ』も人気(写真提供/ノーガホテル上野)

蕪木珈琲とマスカルポーネを合わせた大人の風味の和モダンかき氷『蕪木珈琲をティラミスのイメージで』。このほか、塩を効かせたグラノーラが香り高いほうじ茶シロップの甘みを引き立てる『ほうじ茶シロップと塩グラノーラ』も人気(写真提供/ノーガホテル上野)

「どのお店も、ホテルから徒歩や自転車で気軽に行ける距離にあります。レストランのディナー等で召し上がって気に入ったからと、店舗を訪れる方も多いです。初めての場所でも、事前に少しお店の雰囲気が分かっていると訪れやすいのかもしれませんね」

地元アーティストの作品が展示される館内でギャラリーホッピング

館内には、あちこちにアート作品が展示されているのも印象的。たくさんのギャラリーを巡らなくても、ホテルにいながらギャラリーホッピングしている気分が味わえます。

中村さんによると、「キュレーションは『IDÉE』創始者の黒崎輝男さんと、『東京画廊+BTAP』の山本豊津さんによるもので、多くは地域のアーティスト、デザイナーの作品です。若手アーティストの成長を支援するとともに、ホテルを訪れたゲストにアートを楽しんでいただきたいという思いで作品をセレクト、展示しています」

有機的なラインが美しいコンシェルジュ・カウンター。手前はゲスト対面して話しやすい低さ、奥はゲストにタブレット画面を見せながら話しやすい高さを採用。カウンターを取り囲むようにギャラリーとショップが設けられています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

有機的なラインが美しいコンシェルジュ・カウンター。手前はゲスト対面して話しやすい低さ、奥はゲストにタブレット画面を見せながら話しやすい高さを採用。カウンターを取り囲むようにギャラリーとショップが設けられています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「アーツ千代田3331」と提携し、3カ月ごとに企画展を実施。現在、展示されているのは「21_21 DESIGN SIGHT」の「デザインあ展」などでも知られるデザイナー、寺山紀彦氏の作品『自然と人工の共通点』。気に入った作品は購入可能(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「アーツ千代田3331」と提携し、3カ月ごとに企画展を実施。現在、展示されているのは「21_21 DESIGN SIGHT」の「デザインあ展」などでも知られるデザイナー、寺山紀彦氏の作品『自然と人工の共通点』。気に入った作品は購入可能(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

野村グループの創業者、野村徳七氏は茶の湯や能楽に造詣が深く、文化、芸術の支援に力を注いできたといいます。その想いを受け継いで、現代アートの未来を担う新人アーティストを表彰、支援する「野村アートアワード」を創設するなど、グループ全体に文化、芸術の発展に貢献していきたいという考え方が根付いているようです。

エントランスを入ってすぐ、右手の壁面を飾るのは、東京藝術大学出身の山田悠太朗さんによるインスタレーション『Apollo Program』(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

エントランスを入ってすぐ、右手の壁面を飾るのは、東京藝術大学出身の山田悠太朗さんによるインスタレーション『Apollo Program』(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

欧米の宿泊客にニーズの高いフィットネスルームには、「テクノジム」のトレッドミルやスキルロウなどのマシンのほか、壁面には清水総二氏による大判のアート作品も(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

欧米の宿泊客にニーズの高いフィットネスルームには、「テクノジム」のトレッドミルやスキルロウなどのマシンのほか、壁面には清水総二氏による大判のアート作品も(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今のところ、ホテルの宿泊客は8割が外国人。日本の文化や歴史、食に関心の高い方が多く、地域との結びつきが強いノーガでの体験を楽しんでいるそうです。一方で、日本の宿泊客はまだまだ少ないのが課題だといいます。

「日本の方、地元の方にも、コミュニティスペースとして気軽に活用いただけるよう、イベントや企画を考えていきたいと思っています」という中村さん。

野村不動産の「PROUD」や「OHANA」を手がけるインテリアデザイナーとともに「家とホテルの中間」を目指したという客室は、家より洗練された上質な空間、ホテルよりは開放的で寛げる雰囲気に仕立てられています。宿泊料金は一室約1万6800円(大人一名、約8400円/泊)から。9歳までの子どもは無料(写真提供/ノーガホテル上野)

野村不動産の「PROUD」や「OHANA」を手がけるインテリアデザイナーとともに「家とホテルの中間」を目指したという客室は、家より洗練された上質な空間、ホテルよりは開放的で寛げる雰囲気に仕立てられています。宿泊料金は一室約1万6800円(大人一名、約8400円/泊)から。9歳までの子どもは無料(写真提供/ノーガホテル上野)

「大規模な再開発、地域に根ざした街づくりでは長年の実績がある野村不動産ですが、そこでの我々の仕事は建物をつくって販売するところまででした。でも、ホテルはつくってからがスタート。街の魅力をお客様にお伝えして楽しんでいただけるよう、今後も時間をかけて地域の人々との交流を深めていきたいと考えています」

これまで、ホテルといえば旅行客のための場所で、ある意味、それ以外の人には閉ざされた空間でした。けれども、ライフスタイルホテルは旅行客だけでなく、その街で働く人、暮らす人、暮らしたい人にも開かれた場所です。そこで私たちを迎えてくれるのは、「ホテルのコンシェルジュ」ではなく「街のコンシェルジュ」。住みたい街選びの強力なサポーターになってくれるかもしれませんね。

ノーガホテルは今後、2020年に秋葉原店、2022年には京都店をオープンする予定だそうです。それぞれの地域ならではの食、文化、アートを、独自のスタイリッシュな切り口で紹介してくれる日が今から楽しみです!

●取材協力
NOHGA HOTEL UENO

地下鉄構想も!都心湾岸エリアの交通問題、五輪後はどうなる?

2020東京五輪の開幕に向けて、選手村や各種競技施設の建設が急ピッチで進む。選手村は五輪後に約5600戸のマンションに生まれ変わり、老若男女さまざまな人が暮らす街となる。国家戦略特区やアジアヘッドクォーター特区といった東京圏の発展を担う拠点に指定され、訪日外国人の増加に対応した国際的ビジネス・交流拠点としての機能強化にも期待がかかる注目のエリアだ。

住む人も訪れる人も急激に増え続ける湾岸エリアで課題となっているのが交通アクセスだ。現状でも地下鉄駅の整備やバス網の強化などが進められているが、五輪特需やその後の需要増をにらんで大規模なインフラ整備構想も控える。五輪のその先の未来にどんな生活が待っているのか、想像してみた。

選手村の開発で晴海の人口が2倍に増える

中央区晴海5丁目で建設中の五輪選手村は、五輪後にリニューアルされ分譲や賃貸、シニア住宅やシェアハウスも含め約5600戸のマンション「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」として供給される。五輪から4年後の2024年には、約1万2000人が暮らす街が完成する予定だ。

「HARUMI FLAG」晴海ふ頭公園からの風景完成予想CG

「HARUMI FLAG」晴海ふ頭公園からの風景完成予想CG

中央区のデータによると、晴海地域の2019年6月1日時点の人口は1万4536人となっている。晴海5丁目のプロジェクトが完成すると、それだけで人口が現在の約2倍に増えるのだ。さらに晴海以外でも月島や勝どきなど周辺の湾岸エリアでタワーマンションの供給が活発になっており、人口が増加している。

こうしたなか、通勤・通学時の地下鉄駅の混雑や、都心方面への交通手段の確保といった課題に対応すべく、東京都交通局が対策を打ち出しているところだ。

東京都交通局担当者によると、有明、豊洲、晴海などの臨海部で大規模マンションの開発等により利用者が大幅に増えていることから、都営バスでは、2017年4月に東京駅から臨海部へ、深夜バスの運行を開始したとのこと。また、2019年4月には東京駅から銀座、勝どきを通り東京ビッグサイトへ向かう都05-2系統で増便を行うなど、地域住民のニーズをダイヤに反映しているという。
加えて、都営地下鉄では、大江戸線勝どき駅でのラッシュ時の混雑緩和に向けてホームや地上出入口の増設などの改良工事を実施し、2019年2月に一部完了したとのことだ。

写真上が改良前。下が改良後。線路の向こう側に新たにホームがつくられた(画像提供/東京都交通局)

写真上が改良前。下が改良後。線路の向こう側に新たにホームがつくられた(画像提供/東京都交通局)

BRTや地下鉄が実現すれば都心と湾岸が直結

さらに今、湾岸エリアの新たな輸送システムとして整備が進められているのがBRT(バス高速輸送システム)だ。BRTとは、連節バスの導入や走行環境の改善などにより、速達性・定時性を高めた運行を目指す交通システムのこと。東京都では都心と湾岸エリアを結ぶ「東京BRT」の開業準備を進めている。

計画では、2020年の東京五輪前に環状2号線の地上部道路開通後、虎ノ門~晴海二丁目のルートでプレ運行を開始させる予定。五輪後には虎ノ門~東京テレポート駅の幹線ルートに加え、虎ノ門~市場前駅の晴海・豊洲ルート、新橋駅~勝どきの勝どきルートの3系統を運行させる。2022年度に予定される環状2号線本線トンネル開通後には、新橋駅~晴海五丁目の選手村ルートを加えて本格運行させる考えだ。

(東京都都市整備局HPより)

(東京都都市整備局HPより)

さらに注目されるのが、都心と湾岸エリアを地下鉄で結ぶ構想だ。中央区が打ち出した銀座と国際展示場を結ぶルート案を受けて、「都心部・臨海地域地下鉄構想の新設及び同構想と常磐新線延伸の一体整備(臨海部~銀座~東京)」として2016年の交通政策審議会答申に盛り込まれた。

答申によると、地下鉄は臨海部から銀座を通り、東京駅まで延伸されるつくばエキスプレスへとつながる構想だという。着工時期などは未定だが、中央区では早期実現を目指して2018年10月に「都心・臨海地下鉄新線推進大会」を開催するなど、地元では大いに期待が高まっている状況だ。

水辺の風景が広がる開放的な街の発展に期待

では地元に住んでいる人たちは、湾岸エリアの住み心地や交通アクセスの現状と未来をどのように考えているのか。聞いてみた。

「駅まで歩く道は水辺が近く開放的で気持ちがいいです。東京駅の丸の内側や八重洲側行きなど複数の路線が通るバス停が近く、本数が多いのでそれほど待たずに通勤にも使えます」(晴海在住・30代会社員)

「隅田川の河口から東京湾が広がる景色が、自宅の窓から見られます。東京の水辺を見渡せる開放的な眺望は希少価値が高いし、なくなる心配もありません」(勝どき在住・40代会社員)

「今は大江戸線が混んでいるので乗るのが億劫になります。週末はシェアリング自転車で豊洲へ行ったり、豊洲から船でお台場に行ったりすることも。地下鉄ができると都心に出やすくなるので楽しみです」(晴海在住・Fさん)

「月島に住んで5年になりますが、最近はおしゃれなバーやカフェが増えており、今後も街としての発展に期待できます。ただ、保育園はたくさんあるけど入りづらいです。交通面では有楽町から深夜バスがあるので便利。豊洲まで行けば羽田空港までリムジンバスが出ています。車も豊洲から湾岸線にすぐに入れて、だいたい空いているので遠出もしやすいです。BRTはまだ実感がわきませんが、東京駅や有楽町に行きやすくなればうれしいですね」(月島在住・30代会社員)

人口の急増で交通や生活のインフラ整備が課題とはなるものの、今後の整備が進めば住み心地はさらに向上しそうな湾岸エリア。東京の未来を担うともいえる街の今後に期待したいところだ。

●取材協力
>東京都交通局
>東京都都市整備局

「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」とは? 地域やシェアハウス住人と一緒に行う新しい子育ての形

共働きで小さな子どもがいれば、引越しの際のポイントのひとつとして「保育園」を挙げる家庭も多いのではないだろうか。待機児童などの問題はあれど、子どもにとっての “もうひとつの家”の環境には、できるだけこだわりたいもの。保育園ごとにさまざまな特色があるが、東京都渋谷区にある「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」は、“シェア”がテーマとなっているユニークな保育園だ。
「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」とは?「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」学校法人正和学園 理事長・齋藤祐善さん(中央)、施設長・佐藤喜美子さん(左)、まち暮らし不動産 代表取締役・齊藤志野歩さん(右)(写真撮影/片山貴博)

「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」学校法人正和学園 理事長・齋藤祐善さん(中央)、施設長・佐藤喜美子さん(左)、まち暮らし不動産 代表取締役・齊藤志野歩さん(右)(写真撮影/片山貴博)

2017年に不動産に特化した投資型クラウドファンディングのプラットフォーム「クラウドリアルティ」上で資金を募り、申込金額は1億7400万円を達成。準備期間を経て2019年2月に開園した「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」は、“日本初のクラウドファンディング保育園”として話題になった。

代々木上原から徒歩約10分。閑静な住宅街の中にあるレンガ造りの建物の1階が「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」だ。園内は、仕切りが少なく、異年齢の子どもたちがのびのびと遊ぶことができ、明るく開放的だ。都心部でありながら周辺環境にも恵まれ、近隣の東京大学や駒場公園などにお散歩に行くのだとか。月極での契約のほか一時保育も利用可能で、海外在住の親子が日本滞在中に利用者することもあるとのこと。
地下1階は、通常は事務所として使われているが、イベントスペースとしても活用できる設計になっている。
2・3階はシェアハウスで、現在2家族が入居中。子どもを1階の保育園に預けることができれば通園時間も大幅に短縮できる。複数の家族がともに子育てをする“大きな家族”を育むことができるのは、共働きの家庭にはメリットも大きいだろう。将来的には一部を民泊としても貸し出す予定で、希望があれば民泊宿泊者と保育園の交流も行っていきたいという。

「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」外観(写真撮影/片山貴博)

「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」外観(写真撮影/片山貴博)

この保育園の大きな特徴は、施設名のように“子育てをシェアする”というメッセージだ。行事は保育園関係者だけで行うのではなく、近隣住民・親子、クラウドファンディングの出資者、この保育園のメッセージに共感してくれる人たちなどに開かれたものにしていく計画だという。多くの人と触れ合うことによって子どもには大きな刺激となるだろうし、孤独になりがちで悩むことの多い子育て世代や地域の交流の場ともなるだろう。

「ほかの保育園との一番大きな違いが、その名称のとおり、人とのつながり、生活そのものをシェアしていくという発想で運営しているところです。渋谷区はシェアリングエコノミーに対して積極的に取り組んでいる自治体のひとつ。そして、そのような事柄に感度の高い人がたくさん住んでいます。そのため、保育園にシェアハウスを併設して、保育園自体も社会に開いていくという形が取れないかと考えました。ただ地域や社会とつながりをもつだけではなく、さらに生活そのものをシェアしていくことで、子どもたちの成長の共有はもちろん、お母さん同士のコミュニティづくりもさらに一歩踏み出していければと思っています」(理事長・齋藤さん)

つながりをイメージしたサインもかわいい(写真撮影/片山貴博)

つながりをイメージしたサインもかわいい(写真撮影/片山貴博)

日本初のクラウドファンディング保育園

クラウドファンディングではわずか10日で目標金額を達成したことからも、“子育てをシェアする”というメッセージは、多くの人に共感・支持されていることが分かる。
「保育園を開園する際、銀行から資金を借りるのが通常のルートだと思うのですが、あえてクラウドファンディングという手法を使ったのは、仲間を増やしたかったからなんです。今回の大きなチャレンジのひとつが、保育園というハードウェアの所有をシェアすること。クラウドファンディングを使って出資者から集めた資金でファンドを組成し、クラウドリアルティさんの子会社がその資金をもとに土地を購入して、我々の学校法人がその土地をお借りするという形になるので、ここは実質的には出資していただいた数百名の方々がみんなで持っている保育園なんです。保育園で何かするときにも、出資者に声がけができるユーザーグループを持ったことが大きなポイントだと思っています。開園直前にはみんなで棚をつくったり、シェアハウスに置く本を持ち寄ったりしました。
通常の保育園だと、サービス提供者=保育園とサービス受給者=保護者・児童という関係性ができてしまうことも多いですが、ここの出資者はお金のみならず気持ちもコミットしている。そういう関係性が一番欲しかったんです。今後は、出資者の方々が時折遊びにきて一緒におやつを食べたり、一緒に遊んだりする機会を積極的につくっていきたいと思います。もちろん、まだ開園したばかりで課題もたくさんあるのですが、そのきっかけづくりはできたかなと思っています」(理事長・齋藤さん)

子どもがいることで、社会は素敵に、より安全になる保護者にその日の様子が分かるように、保育園入口横には給食のメニューやその日撮影された園児の写真などが掲示されている(写真撮影/片山貴博)

保護者にその日の様子が分かるように、保育園入口横には給食のメニューやその日撮影された園児の写真などが掲示されている(写真撮影/片山貴博)

子育てを社会や地域とシェアする。そのテーマは、保育園の内装にも表れている。光がたくさん入る大きな窓や床の一部に屋外に使うことが多いテラコッタ素材を使用して外部とのつながり感を演出した内部は、子どもはもちろん、大人も長居してしまいそうな居心地のいい空間。保育室も仕切りがなく広々としていて、子どもたちにも自然と兄弟のような関係性が生まれている。
「例えば、低年齢の子がバウンサーで泣いていると、上の子が近寄ってきてバウンサーを揺らしてあげたり、おもちゃを持ってきてあやしてあげたりしています。食事も、給食の先生含めて保育士・子どもみんなで食べていますので、『おいしいね』『もう少したべたら?』など自然と声をかけあいます。幼稚園の後に一時保育でくる子もいるのですが、保育園に入ってくるとみんなで『おかえり!』と声をかけたりして、本当に大きな家の家族のような感じです」(施設長・佐藤さん)

シェアハウス入口前のテラスには、保育園の園芸部の鉢植えが。「私と2歳の子のふたりの園芸部です(笑)。シェアハウス入口のテラスでトマトやきゅうりを育てています。毎日時間になると、『先生、園芸部の活動の時間だよ』と声をかけてくれて、毎日一緒にお水をあげています」(施設長・佐藤さん)(写真撮影/片山貴博)

シェアハウス入口前のテラスには、保育園の園芸部の鉢植えが。「私と2歳の子のふたりの園芸部です(笑)。シェアハウス入口のテラスでトマトやきゅうりを育てています。毎日時間になると、『先生、園芸部の活動の時間だよ』と声をかけてくれて、毎日一緒にお水をあげています」(施設長・佐藤さん)(写真撮影/片山貴博)

「“自分はここにいていいんだ”という安心感や所属感は、今の時代に欠けていると思うんです。特に、最近は痛ましい事故が相次いでいますよね。1990年代に学校での事件が相次いだときは、国から180cm以上のフェンスで学校のまわりを囲めという通達が出て、全国の学校・幼稚園・保育園はそのようになった。ただ、それによって地域と隔絶してしまったので、その断絶をどのように埋めるかがこの数十年のテーマだったんです。行政は、フェンスの件やお散歩などのルート改善など事件・事故を未然に防ぐための通達を出します。
もちろんそれも大切ですが、私たちは施設だけが子どもを守るということではなく、社会全体で子どもが大切だと認識して守っていくことが重要だと考えています。『つながりシェア保育園』はその最前線にいる砦。事件・事故が起こることで子どもたちを守ろうとするが故に施設に縮こまっていくのではなく、『みなさん、子どもたちと一緒に安全な地域をつくっていきましょう』と呼びかけていきたいんです。
だから、保育士には施設に閉じないようにとよく言っています。社会の中に子どもがいて、子どもがいることで社会はより素敵なものになるということをこの施設からも発信していく必要があるからです。それを徹底してやることで、地域の目も浸透してきて、子どもの安全も確保されていくと思います。このような考えの味方としてクラウドファンディングの出資者がいるということは、私たちの大きな力になっています」(理事長・齋藤さん)

子育てのハブとなる保育園を目指してシェアハウスのリビング(写真提供/まち暮らし不動産)

シェアハウスのリビング(写真提供/まち暮らし不動産)

シェア保育園が提唱する“拡張家族”の概念は、海外に住む保護者からも支持されているようだ。
「先日、お母さんが日本人、お父さんがアメリカ人で、アメリカ在住のお子さんを一時保育でお預かりしたんです。そうしたら非常に喜んでいただいて、『アメリカに帰ったらみんなに宣伝する!』と言ってくださったんです(笑)。『つながりシェア保育園』には英語を話せる保育士もいますし、親御さんが海外の方のお子さんをお預かりすることもあります。日本だけではなくて世界ともつながっていく。これからは、もっとグローバルな関係性もつくれるといいなと思っています」(施設長・佐藤さん)

シェアハウス内観。天窓から注ぐたくさんの光と木の匂いに癒やされる明るい室内。シェアハウスに住むAさんは、1階にある保育園で働き、子どもも預けている。「通勤時間は30秒。“職住近接”ならぬ“職住直接”です(笑)。1階で保育士として働いていますから、なおさら日常の暮らしと仕事、子育てなどのすべてが、つながっているのだと実感しています」(撮影/片山貴博)

シェアハウス内観。天窓から注ぐたくさんの光と木の匂いに癒やされる明るい室内。シェアハウスに住むAさんは、1階にある保育園で働き、子どもも預けている。「通勤時間は30秒。“職住近接”ならぬ“職住直接”です(笑)。1階で保育士として働いていますから、なおさら日常の暮らしと仕事、子育てなどのすべてが、つながっているのだと実感しています」(撮影/片山貴博)

(写真提供/まち暮らし不動産)

(写真提供/まち暮らし不動産)

子ども用トイレがシェアハウスの脱衣所にあるのも特徴的(撮影/片山貴博)

子ども用トイレがシェアハウスの脱衣所にあるのも特徴的(撮影/片山貴博)

「今後は併設のシェアハウスの一部を民泊として貸し出し、関わる人をもっと増やしたいと思っています。海外の人でも子どもたちと関わっていただいて、子どもに刺激を与えてもらったり、そこでつながった仲間が“子育てをシェアする”という発想を各国で発信するようなきっかけづくりは、この施設の大きなミッションのひとつです。この施設がシェア、保育、子どもの未来などについて考えたいという人たちがつながるハブになりたいと思っています」(理事長・齋藤さん)

シェアハウスの間取り(画像提供/まち暮らし不動産)

シェアハウスの間取り(画像提供/まち暮らし不動産)

民泊として貸し出す予定の部屋(撮影/片山貴博)

民泊として貸し出す予定の部屋(撮影/片山貴博)

子育てをシェアする。「つながりシェア保育園・よよぎうえはら」のテーマが浸透すれば、もっと子育てしやすく、老若男女の笑顔があふれる社会・地域になるだろう。保育園の今後の取り組みに注目し、機会があればぜひイベントに参加して“子育てのシェア”を体感してほしい。そして、この考えが社会全体に浸透していくよう、ひとりひとりがそれぞれの地域で心がけていくのが理想だ。

●取材協力
>学校法人 正和学園「つながりシェア保育園・代々木上原」
>クラウドファンディングプラットフォーム「クラウドリアルティ」
>まち暮らし不動産

SDGs発信の拠点「鎌倉みらいラボ」として鎌倉市景観重要建築物・旧村上邸が生まれ変わった!

お屋敷の多い鎌倉の中でも、個人宅でありながら茶室や池のある日本庭園に加え、能舞台まであるといえば、その荘厳さの想像がつくだろうか。鎌倉市の景観重要建築物にも指定されているこの建物は、所有者であった村上梅子さんの「建物を残し、日本古来の良きものを伝える場に」との想いを受け継ぎ鎌倉市に寄付され、SDGs未来都市に選ばれた鎌倉市のモデル事業として新たなスタートを切った。そのお披露目会で公開された建物の詳細、保存活動の流れと今後の活用方法をレポートしよう。780坪(約2600m2)もの広大な敷地には、母屋と別棟の茶室があり、日本庭園も池がある立派なお屋敷だ(写真撮影/飯田照明)

780坪(約2600m2)もの広大な敷地には、母屋と別棟の茶室があり、日本庭園も池がある立派なお屋敷だ(写真撮影/飯田照明)

キーワードは「サスティナビリティ(持続可能性)」。継続的に、みんなで、関わる場に

旧村上邸は、鎌倉の旧市街地の中でもひときわ静かな西御門にある和風木造住宅。母屋には茶室や能舞台、敷地内には日本庭園や別棟の茶室もあり、能や謡曲の会、茶会などが行われて文化伝承や交流の場として愛されてきた。所有者である村上梅子さん(以下梅子さん)が2014年逝去し、遺志を継いで市に寄付されたのが2016年。2018年6月には内閣府から自治体SDGsモデル事業に選定され、ますますこの保存活用事業が注目されることに。

その後プロポーザル(※1)を経て、保存活用のための民間の事業主体がエンジョイワークスに決定、改修工事やイベントが実施された。そして2019年5月20日、企業の研修所や市民の文化活動の場として「旧村上邸―鎌倉みらいラボ―」がお披露目された。完成お披露目会には松尾崇鎌倉市長をはじめ、このプロジェクトを支えた約20名の来賓と報道陣がこの家の代名詞でもある能舞台に集まった。
※1.旧村上邸の保存・活用する企画提案を市が公募し優れた提案を選ぶこと

SDGs未来都市に選定された鎌倉市の取り組みを語る松尾市長。お披露目当日は村上家の親族やご友人、事業主体者や工事関係者、研修運営関係者など旧村上邸に縁が深い方々が列席(写真撮影/飯田照明)

SDGs未来都市に選定された鎌倉市の取り組みを語る松尾市長。お披露目当日は村上家の親族やご友人、事業主体者や工事関係者、研修運営関係者など旧村上邸に縁が深い方々が列席(写真撮影/飯田照明)

鎌倉では街のあちらこちらで、この旧村上邸の近くでも古民家が取り壊されているのが現実。旧村上邸は鎌倉市の所有となり取り壊しは免れたものの、歴史ある大きな建物や敷地を安全に活用するための改修には莫大な費用が掛かるうえに、継続的な維持管理も必要になる。たとえ国や市からの補助金が出たとしても、一時的なもの。この静かで緑豊かな環境を維持しながらこれだけの規模のお屋敷を活用していくためには、官だけでなく、市民、企業みなが一体となって継続的に関わっていく仕組みが必要だった。

大切にされたお屋敷の和の趣を残しながら耐震性をクリアして多目的に活用しやすく

では、具体的な改修のポイントを紹介していこう。最も大きな課題だったのが耐震性だ。昭和14(1939)年以前に建てられた母屋は耐震補強が必要だったものの、筋交いや耐力壁を設けてしまっては、この荘厳な日本家屋や能舞台が台無しになる。趣を損なうことなく、大空間を残しながら耐震性を高め安全に活用できる建物にする方法が検討され、「仕口ダンパー」を採用。一棟で、なんと80~90個もの仕口ダンパーを使って柱と梁の接続部を補強したという。それでも安全性を考慮し、2階建ての建物だが2階部分は使用しない判断がなされた。

能舞台というこの建物の特徴的な大空間の趣を壊さず耐震補強するため、目につく部分とつかない部分に分けて2種類の仕口ダンパーで補強された(写真撮影/飯田照明)

能舞台というこの建物の特徴的な大空間の趣を壊さず耐震補強するため、目につく部分とつかない部分に分けて2種類の仕口ダンパーで補強された(写真撮影/飯田照明)

入口近くの計28畳の和室は、趣を変えないよう畳敷きのまま会議室に。和室ならではのフレキシブルさで8畳ふたつ、6畳ふたつの4部屋に仕切ることもできるし、オープンな大空間として使用することも可能。和室としてはもちろん、写真のように畳の上で使えるテーブルと椅子もある。新しくWifiも完備され、ホワイトボードやプロジェクター、スクリーンなど、会議に必要な備品も用意された。

畳敷きで和室の風情を残した会議室で、庭の緑を眺めながらの企業研修に。和室4室に分けることも、オープン28畳の大空間として使うことも可能。4時間利用で5万円のところ、オープン割引期間は1万5000円、一日利用は3万円(写真撮影/飯田照明)

畳敷きで和室の風情を残した会議室で、庭の緑を眺めながらの企業研修に。和室4室に分けることも、オープン28畳の大空間として使うことも可能。4時間利用で5万円のところ、オープン割引期間は1万5000円、一日利用は3万円(写真撮影/飯田照明)

梅子さんが居室にしていたという家の中心部のニ間続きの和室は、じゅうたん敷きに変更してラウンジスペースに。こことキッチンは、会議室利用者が研修時の休憩スペースや憩いの場として活用できる。

ソファやじゅうたんも古民家に合う和の色合いで、欄間の梅の模様ともマッチしている(写真撮影/飯田照明)

ソファやじゅうたんも古民家に合う和の色合いで、欄間の梅の模様ともマッチしている(写真撮影/飯田照明)

元の間取りをベースに、入口脇の和室と能舞台をそれぞれ貸し出しスペースに。その他を共用部分として手を加え、ラウンジやキッチン、トイレも男女別に増設された。別棟の茶室はそのまま茶室として貸し出し(写真提供/エンジョイワークス)

元の間取りをベースに、入口脇の和室と能舞台をそれぞれ貸し出しスペースに。その他を共用部分として手を加え、ラウンジやキッチン、トイレも男女別に増設された。別棟の茶室はそのまま茶室として貸し出し(写真提供/エンジョイワークス)

静かな伝統ある古民家で、10年後、100年後の自分たちのあるべき姿を考える

梅子さんが足袋を履かずに上がることを許さなかった、というほど大切にしていた荘厳な能舞台は、そのままで企業研修、講座、お稽古など多目的に使用する場に。座布団や椅子を並べることができるが、場の雰囲気を壊さないよう神社仏閣などで使われる椅子を選び、さらに椅子の脚裏には能舞台を傷付けないようフェルトを付けるなど配慮されている。

旧村上邸の特徴である日本庭園に面した能舞台。最大収容30名程度で、能のお稽古はもちろん、椅子や座布団で講座や研修などにも。4時間で3万5000円、一日7万円(写真撮影/飯田照明)

旧村上邸の特徴である日本庭園に面した能舞台。最大収容30名程度で、能のお稽古はもちろん、椅子や座布団で講座や研修などにも。4時間で3万5000円、一日7万円(写真撮影/飯田照明)

梅子さん百寿を記念してつくられた冊子には、2002年当時、能舞台で多くの観客を前に笛を吹く梅子さんの姿が。多くの人に愛された場であったことが伝わってくる(写真撮影/飯田照明)

梅子さん百寿を記念してつくられた冊子には、2002年当時、能舞台で多くの観客を前に笛を吹く梅子さんの姿が。多くの人に愛された場であったことが伝わってくる(写真撮影/飯田照明)

別棟の茶室は炉も切られ、水屋もある本格的なつくり。独立感もあるため個室として、お茶のお稽古はもちろん、10名までの少人数の集まりなどに使用できる。

別棟の茶室は4時間で1.5万円のところ、オープン割引料金1万円、1日(8時間)2万円で利用可能(写真撮影/飯田照明)

別棟の茶室は4時間で1.5万円のところ、オープン割引料金1万円、1日(8時間)2万円で利用可能(写真撮影/飯田照明)

旧村上邸再生にあたっては、補助金だけでなく一般からの投資も受けるため投資型クラウドファンディングも募集し、目標金額900万のところ、見事120%の目標達成にて終了。投資家特典は施設利用割引券や企画会議参加権などということからも、市民の関心の高さがうかがえる。イベントにも多くの市民が参加して、実際に障子の張り替えやペンキ塗り、暖簾の草木染めなど、普段触れることが少なくなった昔ながらの暮らしの手仕事を体験する貴重な機会となった。

威風堂々とした門構えの「旧村上邸―鎌倉みらいラボ―」。所有者であった村上梅子さんにちなんで梅のマークの草木染の暖簾は、市民参加のワークショップを開催し手づくりされた(写真撮影/飯田照明)

威風堂々とした門構えの「旧村上邸―鎌倉みらいラボ―」。所有者であった村上梅子さんにちなんで梅のマークの草木染の暖簾は、市民参加のワークショップを開催し手づくりされた(写真撮影/飯田照明)

梅子さんの百歳を祝う「百寿の会」には瀬戸内寂聴さんも村上邸を訪れ、その日のことがエッセーに書かれているというから、その交友関係の広さには驚くばかり。そうやって梅子さんが日本古来の良きものを伝え、交友を広げてきた場が、いまもここに存在している。

100年先の未来に伝えるべき事、そのためにこの10年自分ができること。実際梅子さんは100歳をこの家で迎え、最後までこの家で暮らした。この家も正確な築年数は不明だが、80年前の昭和14年には既に建っていることから、100歳に近いといわれる。そんな100年という時の流れをリアルに感じるこの場所で、日常を離れ、自分が、会社が、鎌倉が、日本が、世界が、より幸せであるために何ができるか考えるために、これ以上ふさわしい場所はない。これから市民も参加可能なお茶体験や手仕事のイベントも企画されている。目の前にあるものを五感で味わい、次世代につなげるべきものを生み出す場として楽しみに活用していきたい。企業研修担当者の皆さん、非日常で斬新な研修場所、ここにあります!

(写真撮影/飯田照明)

(写真撮影/飯田照明)

窓の外には緑豊かで池もある本格的な日本庭園が広がる。会議室、能舞台、茶室,それぞれの利用もでき、全館利用の場合は9時から17時の8時間で15万円。オープン割引中は8時間が10万円、4時間なら5万円に(写真撮影/飯田照明)

窓の外には緑豊かで池もある本格的な日本庭園が広がる。会議室、能舞台、茶室,それぞれの利用もでき、全館利用の場合は9時から17時の8時間で15万円。オープン割引中は8時間が10万円、4時間なら5万円に(写真撮影/飯田照明)

●取材協力
旧村上邸 ―鎌倉みらいラボ―
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古都鎌倉の街並みを守れ!市所有「旧村上邸」を通じてSDGsを考える

街とつながるライフスタイルホテル【前編】「星野リゾート OMO5 東京大塚」とディープな“地元のとっておき“を巡る

近ごろ、続々とオープンしているライフスタイルホテル。日本らしさを体験できる仕掛けがあったり、ゲスト
同士が交流できる工夫があったりと、単に「宿泊する」以上の付加価値を備えているのが特徴です。なかでも、とくに注目したいのが、宿泊客と地域の人々との交流を生み出しているホテル。宿泊客に街を楽しんでもらうだけなく、結果として街の価値向上にもつなげている「星野リゾート OMO5 東京大塚」に、知られざる大塚のディープな魅力をご紹介いただきました。

おもてなしのプロ「星野リゾート」が手がける都市観光ホテルとは

「山手線の大塚駅って、はじめて来ました!」 関西出身の私だけでなく、同行した編集者、東京出身のAさん、東京暮らしの長いTさんも同じだと言うのだから、やはり大塚は隣駅の池袋や巣鴨ほどには認知度が高くないのかもしれない。……そう思いながら北口を出ると、正面に「OMO5(おもふぁいぶ)」のロゴが入った建物が見えました。

「OMO5 東京大塚」のエントランスは、はやりのライフスタイルホテルっぽい、おしゃれな雰囲気。全125室、宿泊料金は7000円から(写真提供/星野リゾート)

「OMO5 東京大塚」のエントランスは、はやりのライフスタイルホテルっぽい、おしゃれな雰囲気。全125室、宿泊料金は7000円から(写真提供/星野リゾート)

昨年5月にオープンした「OMO5 東京大塚」は、駅から徒歩1分のところにあります。「星のや」「界」といった上質な宿泊施設を運営する星野リゾートによる新ブランドの都市観光ホテルで、北海道の「OMO7 旭川」に次ぐ2施設目です。それにしても、なぜ大塚? 不躾ながら、広報の栗原幸英さん(TOP画像左)に聞いてみました。

「実ははじめから大塚に、と決めていたわけではないんです。たまたま建物のオーナーから声をかけていただいて街を調べてみたら、駅周辺にディープで魅力的な世界が広がっていることが分かりました。『寝るだけで終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル』というOMOのブランドコンセプトにぴったりの街だったんですよ」

ロビーに掲げた「ご近所マップ」に、スタッフが厳選した地元のおすすめスポットを網羅。マップは縦2m、横3mの特大サイズ。情報は日々更新されています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ロビーに掲げた「ご近所マップ」に、スタッフが厳選した地元のおすすめスポットを網羅。マップは縦2m、横3mの特大サイズ。情報は日々更新されています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

かつて花街として栄えた大塚には、今でも下町文化が色濃く残っています。昔ながらの八百屋、魚屋などが並ぶ商店街や、東京に残る数少ない路面電車のひとつ「都電荒川線」。街全体が、どこかレトロで懐かしい雰囲気を醸し出している一方で、JAZZバーが多いことで知られていたり、日本酒居酒屋の聖地として有名だったり。

ゆったりと設計されたパブリックスペース。地元のミュージシャンを招いたワークショップやご近所のクラフトビールバーによる出張ビアガーデンといったイベントも開催(写真提供/星野リゾート)

ゆったりと設計されたパブリックスペース。地元のミュージシャンを招いたワークショップやご近所のクラフトビールバーによる出張ビアガーデンといったイベントも開催(写真提供/星野リゾート)

「ガイドブックに掲載されることは少ないけれど、知れば知るほど面白いのが大塚の魅力」と話す栗原さん。「OMOが提供するのは『部屋』ではなく、『旅』そのものです。お客様に都市観光を満喫していただけるよう、街と連携してさまざまなサービスを提供しています」

客室は約19平米とコンパクトながら、天井高は3m近くあります。やぐらにベッドを置いて、その下に大きなソファを配したり、壁面に角材を組んで収納スペースにしたりと、空間を使い切る工夫が満載(写真提供/星野リゾート)

客室は約19平米とコンパクトながら、天井高は3m近くあります。やぐらにベッドを置いて、その下に大きなソファを配したり、壁面に角材を組んで収納スペースにしたりと、空間を使い切る工夫が満載(写真提供/星野リゾート)

「友達が住んでいる街に遊びに行ったら、『ここはおすすめだよ!』『ぜひ、あそこに行ってみて!』と、選りすぐりのスポットを紹介してもらえますよね。そんな旅先の友達みたいな役割を、私たちが担えたらいいなと考えています」

地元の人気店を引き合わせて生まれた「ご近所さんコラボスイーツ」

宿泊客に街を紹介するだけでなく、地元の人気店同士を引き合わせ、新たな商品開発につなげることもあるといいます。例えば、ホテル内のカフェで販売されている「OMOなかサンド」や「OMOどらパンケーキ」は、地元で知らない人はいない老舗の「千成もなか本舗」と、SNSでパフェが話題の「フルーツすぎ」とのコラボスイーツです。

お店同士は以前から相手の存在を知っていたものの、駅の「向こう側」と「こっち側」なので、話をする機会がなかったのだとか。OMOのスタッフが「絶対、合う!」と確信を抱いて間をとりもったのが、オリジナルスイーツ誕生のきっかけだそうです。

香ばしいもなかの皮にしっとり餡とふわふわクリーム、香り高い旬のフルーツをはさんだ「OMOなかサンド」。甘味と酸味と香りのバランスが絶妙。地元のお茶専門店の「緑茶deアールグレイ」によく合います(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

香ばしいもなかの皮にしっとり餡とふわふわクリーム、香り高い旬のフルーツをはさんだ「OMOなかサンド」。甘味と酸味と香りのバランスが絶妙。地元のお茶専門店の「緑茶deアールグレイ」によく合います(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「これまで星野グループが手がけてきたホテルや旅館では、ゲストに館内でいかに寛ぎ、楽しんでいただくかにフォーカスしていました。けれども、OMOは違います。館内にこもらず、どんどん街に出かけてくださいとご案内しています。私たちも、ここまで街に入り込んで一緒にお仕事させていただくのは初めてです。いわゆる『観光スポット』でなくても、お客様が楽しめる素材になり得るというのは、まったく新しい発見でした」

どらやきの皮をタワー型に積み上げ、季節のフルーツとブリュレ風クリーム、キャラメルソースを添えた「OMOどらパンケーキ」。思わず写真を撮りたくなるチャーミングな見た目も魅力(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

どらやきの皮をタワー型に積み上げ、季節のフルーツとブリュレ風クリーム、キャラメルソースを添えた「OMOどらパンケーキ」。思わず写真を撮りたくなるチャーミングな見た目も魅力(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ホテルでスイーツを楽しんだ後で、そのお店を訪れるとまた違った発見がありますよ」と栗原さん。でも、はじめての街で知らないお店に行くのは不安だし、行ったとしてもお店で何を食べたらいいのか分からないし……。「そんなお客様を街に案内するのが、『ご近所ガイド OMOレンジャー』です」。栗原さん自らOMOレンジャーとなって、街に連れ出してくれるというので、さっそく出かけてみることに!

OMOレンジャーの「衣装」を着た栗原さん。栗原さんたちオープニングスタッフは開業前に半年かけて、ホテルから500歩圏内にある飲食店を100軒以上尋ね歩いたのだとか。街について詳しいはずです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

OMOレンジャーの「衣装」を着た栗原さん。栗原さんたちオープニングスタッフは開業前に半年かけて、ホテルから500歩圏内にある飲食店を100軒以上尋ね歩いたのだとか。街について詳しいはずです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

いざ出発!OMOレンジャーが大塚の街をディープに案内(昼の部)

「OMOレンジャー」は「散歩」「はしご酒」「大塚定番グルメ」「大塚のディープグルメ」「ナイトカルチャー」の5テーマからさまざまなコースを案内してくれます。レンジャーの出動は1000円/2時間ですが、街の歴史や見どころを約1時間かけて案内してくれる「散歩」コースは、なんと無料! 初心者さんにおすすめのコースだそうです。

細い道の両脇に、古くからある小さなお店がたくさん並ぶ商店街(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

細い道の両脇に、古くからある小さなお店がたくさん並ぶ商店街(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ホテルを出て都電荒川線の大塚駅前駅を抜け、まずはサンモール大塚商店街へ。ここには、コラボスイーツで知った「千成もなか本舗」がありました。お店のお母さんが栗原さんを見ると、「あら、いらっしゃい」と明るく声をかけてくれます。

カラフルな5色もなかは、小倉、梅、ごま、白、こしの5種類。商品名のアップリケは、ご近所さんからのプレゼントなのだとか(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

カラフルな5色もなかは、小倉、梅、ごま、白、こしの5種類。商品名のアップリケは、ご近所さんからのプレゼントなのだとか(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

商店街を抜けると、地域の氏神様が祀られる天祖神社がありました。「境内にあるイチョウは樹齢約600年。高さ25mの一対の大イチョウが夫婦のようなので、『夫婦イチョウ』と呼ばれています。こちらの狛犬は『子育狛犬』なんですよ。子どもに授乳している狛犬で、全国的にも珍しいみたいです」。そんな話を聞きながら街をのんびり歩いていると、本当にそこに住む友人と散歩している気分になります。

天祖神社の例大祭は毎年9月17日。その前後の土日は神輿や山車が繰り出され、たいへんにぎわうそうです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

天祖神社の例大祭は毎年9月17日。その前後の土日は神輿や山車が繰り出され、たいへんにぎわうそうです(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

都電荒川線沿線は、大輪のバラ越しに路面電車が見られる絶景スポット。「大塚駅前や線路沿いを美しくしたいという思いで、地元住民のボランティアグループによって植えられました」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

都電荒川線沿線は、大輪のバラ越しに路面電車が見られる絶景スポット。「大塚駅前や線路沿いを美しくしたいという思いで、地元住民のボランティアグループによって植えられました」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

途中、前を通った蕎麦屋の「大塚長寿庵」は、そばが美味しい……だけでなく、驚異の成約率を誇る婚活イベント「大塚 de そばこん」で有名なのだとか。

イベントに参加するには、メールで問い合わせ→女将が自ら面接→カップルになる確率を上げる必勝法を伝授→「そばこん」当日を迎えます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

イベントに参加するには、メールで問い合わせ→女将が自ら面接→カップルになる確率を上げる必勝法を伝授→「そばこん」当日を迎えます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

空蝉橋から山手線越しにスカイツリーを眺めつつ、「マルキク矢島園」へ。コラボスイーツと一緒にいただいた「緑茶deアールグレイ」はここの商品。爽やかに澄んだ上品なお茶だったので、どんなにしゃれた店かと思ったら、話好きな店主が営む親しみやすいレトロなお店でした。

栗原さんと仲良しの店主。「もうそろそろ行くからね」と何度も栗原さんが話を中断するのに、おもしろネタを次々に聞かせてくれました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

栗原さんと仲良しの店主。「もうそろそろ行くからね」と何度も栗原さんが話を中断するのに、おもしろネタを次々に聞かせてくれました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

最後は、コラボスイーツのフルーツを提供している「フルーツすぎ」。その場でフルーツをカットしてつくるフレッシュジュースやパフェ目当てに通う人も多いのだとか。

息子の勝也さんは以前、大田市場で働いていたそうです。「鮮魚といえば築地が有名ですが、フルーツといえば大田市場。そこで培った杉さんの美味しいフルーツを見極めるセンスはご近所でも評判なんですよ」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

息子の勝也さんは以前、大田市場で働いていたそうです。「鮮魚といえば築地が有名ですが、フルーツといえば大田市場。そこで培った杉さんの美味しいフルーツを見極めるセンスはご近所でも評判なんですよ」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大満足のディープな散歩を終えてホテルに戻ると、栗原さんがにこやかに「大塚が本当に楽しいのは夜ですよ」。行かずに帰れるわけがありません!

一見さんでも大丈夫! 夜の大塚をホロ酔い気分で大満喫(夜の部)

OMOレンジャー夜の部「昭和レトログルメ」ツアーを案内してくれたのは、渡邉萌美さん。1軒目はクラフトビールの「TITANS」です。どのビールを選ぼうかとモジモジしていたら、渡邉さんが顔なじみの店員さんに声をかけてくれました。

「おすすめは『Left Hand Sawtooth Ale』。コクのある飲み口ですが、ホップのドライな後味が楽しめますよ」。人気のおつまみはなんと、宇都宮の焼き餃子(5個で500円)。しっかり味付けされているので、タレは不要。ビール片手に食べやすい!

OMOのイベントでビールを提供することもあるなど、ホテルとの結びつきも強い「TITANS」。商店街で買ったお惣菜の持ち込みもOK(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

OMOのイベントでビールを提供することもあるなど、ホテルとの結びつきも強い「TITANS」。商店街で買ったお惣菜の持ち込みもOK(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

クラフトビールで喉を潤したら、お次はやきとん「富久晴(ふくはる)」へ。カウンター越しにメニューを見ながら、「レバー、ハツ、タン……」と注文していると、渡邉さんが「メニューにはないんですが、タタキも美味しいですよ」

店の前で、犬の散歩中だった女将に遭遇。「あら、レンジャーのお客さんね~!入って入って~」と背中を押してくれました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

店の前で、犬の散歩中だった女将に遭遇。「あら、レンジャーのお客さんね~!入って入って~」と背中を押してくれました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

……タタキ? 店員さん曰く「ナンコツを細かくたたいて団子状にしたもので、塩で食べます」。コリコリとした食感が楽しく、さっぱりと香ばしい味が瓶ビールに合います。

お店に人によると、「うちのお客さんのほとんどは、昔から通ってくれる地元の人。レンジャーが来てくれるようになって、新規のお客さんが増えました」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お店に人によると、「うちのお客さんのほとんどは、昔から通ってくれる地元の人。レンジャーが来てくれるようになって、新規のお客さんが増えました」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「昭和レトログルメ」では、だいたい3軒くらいの店にを巡ることが多いという渡邉さん。「お客様がのんびりお食事されたい雰囲気だったら1、2軒、たくさん回りたいご様子だったら4、5軒など、臨機応変に対応しています。ルートを決めているわけではないので、案内するレンジャーによってお連れする店も違うんですよ。お客様とお話しながら、合いそうな店を考えてお連れします」

そんな渡邉さんが最後に連れてきてくれたのが、てんぷら「つづみ」。

以前は1割くらいだった外国人のお客さんが今では4割に増えたそう。店主によると「OMOで『天ぷらが食べたいけど、おすすめの店は?』と尋ねるお客さんに、うちを紹介してくれているおかげだよ」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

以前は1割くらいだった外国人のお客さんが今では4割に増えたそう。店主によると「OMOで『天ぷらが食べたいけど、おすすめの店は?』と尋ねるお客さんに、うちを紹介してくれているおかげだよ」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ここの天ぷらは本当に美味しいんですよ! 私たち、スタッフもよくランチでお邪魔しています。やっぱり自分が美味しい!オススメしたい!と思う店にお連れして、お客様に喜んでいただけるのが一番うれしいです」

昼でも夜でも、天ぷらは必ず揚げたてを出すのが店主のこだわり。7種類の塩が用意されているので、お好みでかけていただきま~す(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

昼でも夜でも、天ぷらは必ず揚げたてを出すのが店主のこだわり。7種類の塩が用意されているので、お好みでかけていただきま~す(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

約2時間のコースを終えてテンションの上がった私たちは、その後、ほかにもOMOレンジャーに教えてもらった店に行って、夜の大塚をさらに満喫したのでした。

住む街選びの第一歩として、昼だけでなく夜の街の雰囲気もしっかり知るために、まずはこういったホテルに一泊してみてもいいかもしれませんね。

2021年には、大阪市西成区の新今宮に3軒目のOMOがオープンする予定だそうです。新今宮といえば、通天閣に新世界、ジャンジャン横丁と、昭和世代には馴染み深い「じゃりん子チエ」の街。さらにディープな街の魅力をゲストに紹介してくれるのを楽しみにしています!

●取材協力
星野リゾート OMO5 東京大塚

便利?不安?“キャッシュレスな街“の暮らし心地を調査してみた

2018年~2019年にかけて、にわかに注目を集めるようになった「キャッシュレス決済」。最近では商店街での買い物、税金などの公共料金の支払いにも対応するようになっています。では、暮らしはどう変わっていくのでしょうか? 現在、東京都墨田区では約800の個人商店でQR決済が利用できるようになっていますが、そのなかの一つ、「向島橘銀座商店街(通称:キラキラ橘商店街)」を歩いて聞いてきました。
実証実験中に墨田区の個人商店800店でQR決済が可能に。その効果は?

東京都墨田区の曳舟駅から徒歩数分の場所にある「向島橘銀座商店街(通称:キラキラ橘商店街)」は、飲食店など、大小のさまざまな店舗が軒を連ねる下町の商店街です。2018年12月から2019年3月まで、QRコード決済「PayPay(ペイペイ)」が利用できる実証実験を行い、一躍、脚光を浴びました。でも多数の個人商店が集まる商店街でなぜ「QRコード決済」を導入しようと思ったのでしょうか。墨田区商店街連合会・事務局長である井上佳洋さんに、まずは背景を伺いました。

墨田区商店街連合会の井上さん。当初の想定よりも「PayPay」の実証実験に参加する店舗が増え、商店街連合会としても手応えがあったよう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

墨田区商店街連合会の井上さん。当初の想定よりも「PayPay」の実証実験に参加する店舗が増え、商店街連合会としても手応えがあったよう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「今回の実証実験は、私ども墨田区商店街連合会から『PayPay』に持ちかけ、実施となりました。QRコード決済を導入しようという背景ですが、2点あり、(1)2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、海外からの訪日客の決済需要に答えたいということです。墨田区には両国国技館があり、ボクシングが実施されるので、当然、海外のお客様が多く訪れることが予想されます。(2)地元客に対しても今後、普及するであろうQRコード決済にいち早く対応して生活利便性を上げていきたい、との狙いがありました」(井上さん)

とはいえ、キャッシュレス決済の事業者は乱立気味。「キャッシュレスって言ったって、どこの事業者を導入したらいいのか分からない」と商店街のみなさんも困惑していたそう。そこで、商店街連合会が複数のQRコード決済事業者を比較し、導入コスト、入金までの期日といった使い勝手を比較、最も商店の導入負担の少ない「PayPay」を選定したそう。

加えて、「PayPay」が2018年12月に大規模キャンペーンを打ったこともあり、認知度が急激にアップ。そのため、当初、実証実験に参加したのは約300店舗だったものの、最終的には墨田区商店街連合会が把握するだけでも約800店舗にものぼったそう(チェーン店などは除いた個人店の数)。実証実験が終わった取材日(2019年5月末)でも、およそこの800店でキャッシュレス決済が継続しているといいます。

「当初は、『よく分かんない』『怖い』『めんどくさい』などのネガティブな意見を想定していたのですが、煩わしくないし、トラブルもほとんど聞きませんでした。拍子抜けするほどです」とあっさりしたようす。

利用者の年代はやはり若い世代が中心のよう。
「20代、30代が多くて、ついで40代といったところでしょうか。このあたりは平坦なので自転車を利用者が多いんですが、スマホさえあれば会計できるので、ドライブスルーのように自転車を降りずに買い物している姿なんかも見かけましたね」。確かに!自転車に乗ったまま買い物できるという発想はありませんでした。キャッシュレスの進展でドライブスルーならぬ、「チャリンコスルー」が流行るかもしれません。

平坦な地勢で、買い物に自転車利用者も多い商店街。スマホひとつで買い物できるのは便利なはず。ただ利用時には自転車を完全停車のうえ、周囲にも十分配慮したいところ(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

平坦な地勢で、買い物に自転車利用者も多い商店街。スマホひとつで買い物できるのは便利なはず。ただ利用時には自転車を完全停車のうえ、周囲にも十分配慮したいところ(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、筆者もですが、小さな子どもがいると大荷物になってしまい、お財布を探すのに時間がかかってイライラ……ということがしばしばあります。QRコード決済であれば、スマホさえ取り出せればお会計できるのでスムーズになるかもな、と思いました。

では、実際の使い勝手は? 商店のみなさんに聞いてみた

さらに使い勝手を知るべく、商店街を歩いて店舗のみなさんと利用者に話を聞いてみました。まずは和菓子屋さん。

和菓子屋さんのご主人と筆者が操作をするところ。あっけないほど簡単に買い物できます。店舗側でも思ったよりも不安なく導入できたと話します(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

和菓子屋さんのご主人と筆者が操作をするところ。あっけないほど簡単に買い物できます。店舗側でも思ったよりも不安なく導入できたと話します(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「『PayPay』利用者の利用者は一日に数人かな。こちらも慣れたので不安もないし、スマホですぐに入金確認できるし安心。これがパソコンだったら面倒だけど、スマホで見られるのもいいよね」と満足そう。

それでも困ったことは? と聞くと「たま~に支払い画面を見せてくれないお客さんがいることかな。そうすると『あれ? ほんとに払ったかな?』って不安になっちゃうよね。『ペイペイ♪』って決済音が出るんだけど、それが聞こえないときもあるしさ(笑)」と笑います。

次に訪れたのはお惣菜も売っているお肉屋さん。名物の東京コロッケや焼き鳥がずらりと並んでいて、晩ごはんやおつまみとしてついつい買って帰りたくなります。

「PayPay」のキャンペーン中は客単価もアップ。みなさん「おトク!」に敏感なんですね(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「PayPay」のキャンペーン中は客単価もアップ。みなさん「おトク!」に敏感なんですね(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「『PayPay』の利用者はやはり若い人が多いですね。100億円キャンペーンのときは、おトクに買えるということもあって、1人当たりの購入単価が多少、高くなっていた感触があります」とうれしそう。夕方、買い物客が増える時間帯にレジをあけずにさっと会計できるのもよいようです。

たこ焼き屋さんでも聞いてみました。
「たこ焼きってつくっているときに、手を休めることができないでしょう。だから、スマホを見るだけでいいQRコード決済はすごく助かりますよ。それに、導入するときに『PayPay』さんにいろいろと操作方法を教えてもらえたからね。とりあえず実験ということで、だめだったらやめればいいし(笑)、その点はすごく心強かったかな」と話します。

こちらのお店で「PayPay」払いを利用する人は、多いときで1日に10人ほど。たこ焼きさんのように、常に手で作業している店と親和性は高いよう。また、席で会計できる「飲食店」などでも使い勝手がよく、じわりと浸透してきているのを実感しました。

ちなみに各種電子マネーだと読み取り用の端末が油まみれになってしまうため、店頭での導入は難しいそう(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ちなみに各種電子マネーだと読み取り用の端末が油まみれになってしまうため、店頭での導入は難しいそう(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

消費者の使い勝手も悪くない。では後の展望と課題は?

また、この日、キャッシュレスを駆使して買い物をしているたこ焼き屋の常連さんにも話を伺いました。

「現金を持ち歩きたくない主義なんだよね。だからキャッシュレス決済で5種類ほどスマホに入れているよ。この商店街では『PayPay』を使える店は多いってことになっているけど、それでももっと増えてほしいよね。今だと、一度、チャージするとお金を使い切るのに3カ月ほどかかる。つまり、それほど使える店が少ないってことなんだよ」と、もっと普及してほしい様子。

たこ焼き屋さんの常連で、現在、キャッシュレス生活を満喫中。財布は持ち歩かないけど「ぜったいにスマホは落とせない」といい、バッテリーも持ち歩いているそう(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

たこ焼き屋さんの常連で、現在、キャッシュレス生活を満喫中。財布は持ち歩かないけど「ぜったいにスマホは落とせない」といい、バッテリーも持ち歩いているそう(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

よくある「使いすぎそうで怖いという不安」に問いに対しては、「キャッシュレスのいいところは、あとから買い物を振り返ることができるでしょ」と答えてくれました。課題としては、「やっぱりLINE、楽天、PayPayも含め、交通系ICカードの電子マネーなどと、規格が乱立しているから、もう少し統一されるといいかな」と話します。

確かにユーザー側から見ると、電子マネー払いやクレジットカード、さらにQRコード決済などと分散気味ですし、「何から導入したらいいか分からない」というのはよく分かります。そして、「管理できない」「設定がめんどくさそう」となり、「まだ様子を見ようかな(というだけで、何もしない)」となりがちです。

ただ、筆者はこの日、実際に「PayPay」を使って買い物をしてみましたが、想像以上にスムーズで拍子抜けするほど。キャンペーンで500円もらえたし、「タダで買い物できた、ラッキー!」が本音です。一方で、近所で使える店舗はまだチェーン店が中心で、よく行く店では使われていません。「もうちょっと規格が整理されて、使える店が増えてほしいなあ」というのが実感です(なお、利用者からのリクエスト機能もあるようです)。

公共料金や税の支払いにもキャッシュレス化の波が

日々の暮らしにかかわるキャッシュレス化は、日常の買い物だけではありません。最近は、行政が積極的に税や公共料金などの支払いをキャッシュレス化しようとしています。筆者が暮らしている神奈川県では、『キャッシュレス都市(シティ)KANAGAWA宣言』をしており、各種税金や上下水道料金の支払いがLINE Payで行えます。試しにアプリを入れ、現金でチャージをして、納付書に記載されていたバーコードを読み取ると支払い画面に。それをクリックするとあっという間に完了してしまいました。自宅にいながらにして納税できるのは便利ではありますが、「クレジットカード払いだったらポイントついたな……」となぜか損した気持ちに。

キャッシュレス化に取り組む行政の事例

ただ、個人的にはむしろ高額になる税金よりも、「保育園や学童などの細々とした支払いにQRコード決済が使えたらいいのに!」と思います。こういう教育現場では、衛生費や延長保育代など、期日までに現金で端数漏れなく用意してと言われることが多いのですが、「小銭の手持ちがない!」ということがよくあり、いつも半泣きになって用意しています。教育現場では先生や職員の業務負担軽減も叫ばれていますし、相性は悪くないと思うのですが……。

キャッシュレスを敬遠しがちな消費者も、一度なにかのきっかけで「QR決済」にふれることで便利さが実感できれば、加速的に普及していくことでしょう。スマホ決済が増えることで、現金管理のストレスが減り、今よりもっと楽しく買い物・決済ができるこれからの暮らしに期待したいと思います。

●取材協力
・向島橘キラキラ商店街
・PayPay

新しい郊外を模索する「ネスティングパーク黒川」。なぜ焚き火付きシェアオフィス?

働き方改革のひとつとしてリモートワークの推進や副業など、多様な働き方が広がりつつある昨今、職場以外の仕事ができる場所「シェアオフィス」「コワーキングスペース」がどんどん増えています。でも、シェアオフィスなのに「焚き火ができる」となると、驚く人も多いはず。シェアオフィスながら新しい郊外の形を体現しているものだといいます。では、果たしてどんな空間なのでしょうか。2019年5月、川崎市麻生区にある小田急多摩線・黒川駅前にできた「ネスティングパーク黒川」を訪問し、オープニングイベント「ネスティングパーク・ジャンボリー」の様子と、郊外のあり方を模索するトークイベントから、「選ばれる郊外の姿」をご紹介します。
自然豊かな「黒川駅」。その駅前にできた心地よい空間

焚き火ができるシェアオフィス「ネスティングパーク黒川」ができたのは、小田急多摩線黒川駅の駅前です。シェアオフィス(デスク・ブース・ルーム)を中核に、カフェ「ターナーダイナー」、さらに芝生広場が広がり、夏にはコンビニエンスストアも開業予定です。木のぬくもり溢れる空間、青々と茂った芝生広場、広い空を見ていると「いい場所だな」という思いが心の底からこみ上げてきます。

奥の建物が小田急多摩線黒川駅。以前は鉄道用の資材用地だった(写真撮影/嘉屋恭子)

奥の建物が小田急多摩線黒川駅。以前は鉄道用の資材用地だった(写真撮影/嘉屋恭子)

もともとこの黒川駅周辺は、緑豊かなで良質な住宅街が広がっていましたが、駅前は鉄道用の資材用地になっていました。今回、その土地を利用して小田急電鉄がデザイン事務所ブルースタジオと組み、「ネスティングパーク黒川」を開業しました。でも、なぜ「シェアオフィス」だったのでしょう。立地と経済合理性を考えれば、(失礼ながら)よくある駅ビルをつくり、飲食店を誘致するというのが開発の鉄板にも思えますが……。

「背景になるのは、鉄道会社としての危機感です。少子化でこれから沿線人口がどんどん減っていくのは明らかです。だからこそ、今が良ければいい、ではなく、先手を打って『選ばれる郊外』を目指さなければ、と考えています」と話すのは小田急電鉄生活創造事業本部開発推進部の志鎌史人さん。

そもそも、神奈川県川崎市と東京市部を結ぶ小田急多摩線は、多摩ニュータウン構想のなかで生まれたいわゆる「郊外路線」。黒川駅もそんな一つで、都心に通勤して眠るために帰る「ベッドタウン」でした。もちろん、路線が走る川崎市も「かわさきマイコンシティ」に企業を誘致してはいたものの、街は本質的に子育てに特化していて、「眠る・暮らす」という性格が強かったのです。そこで、「働く」「遊ぶ」「暮らす」のあいだの場所として「シェアオフィス」をつくり「単一機能」の街から住む、働く、遊ぶといった「複合機能の街にしたい」というのが、今回の狙いだと話します。

ネスティングパーク黒川の、木のぬくもり溢れる外観と内装。豊かな自然環境と調和するデザインを意識した(写真撮影/嘉屋恭子)

ネスティングパーク黒川の、木のぬくもり溢れる外観と内装。豊かな自然環境と調和するデザインを意識した(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアオフィスは個室タイプ(写真)ほか、半個室のブース、オープンタイプのデスクがある。個室はショップとしても利用可能(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアオフィスは個室タイプ(写真)ほか、半個室のブース、オープンタイプのデスクがある。個室はショップとしても利用可能(写真撮影/嘉屋恭子)

現役世代、ママ、リタイア世代などの地元の交流の場に

今回のシェアオフィスの利用者として想定しているのは、(1)現在は子育て中で仕事をセーブしているものの、ショップなどを開きたい主婦、(2)リタイアしたけどビジネスを始めたいシニア、(3)現役会社員がリモートワークで働く場所、フリーランサーのオフィス、といったさまざまなライフスタイルの人たちです。当面の目標は「満室稼働です」(志鎌さん)ということですが、シェアオフィスの内覧見学会には続々と希望者が来ていて、すでに数十組の申し込みがあり、第1号のショップも誕生しました。

シェアオフィスにはデスク利用だけなら月1万円~、ルーム(約4平米~約8平米)であれば3万2000円~5万6000円から利用できます。都心にあるシェアオフィスと比べたら格安ですし、「何かをはじめたいけど、高額費用は出せない」という人にも、利用しやすい価格であることは間違いありません。

シェアオフィスは通称「キャビン」という。ポストや宅配ボックス、ミーティングルームなどの設備も充実(写真撮影/嘉屋恭子)

シェアオフィスは通称「キャビン」という。ポストや宅配ボックス、ミーティングルームなどの設備も充実(写真撮影/嘉屋恭子)

見学希望者が続々と。自宅で仕事をしている人、コワーキングスペースとして利用したい人など、ニーズもありそう(写真撮影/嘉屋恭子)

見学希望者が続々と。自宅で仕事をしている人、コワーキングスペースとして利用したい人など、ニーズもありそう(写真撮影/嘉屋恭子)

こうした「職住が近接した、新しいワークライフスタイルに挑戦できるのも、郊外だからこそ」と話すのは、企画・設計を担当したブルースタジオの広報担当 及川静香さん。
「ネスティングという名前には、『巣(NEST)』として暮らしを育む、人生を楽しむ人が『集う(NESTING)』、さらに『ビジネスを育む』という3つの意味があります。ふるさとのように、いつでも戻れるような、どこかほっとする温かい言葉にしています」(及川さん)

芝生広場からターナーダイナーと焚き火の様子。周囲に高い建物はなく空は広く、山も近い。仕事の合間に焚き火をすれば、いいアイデアも自然と浮かびそう(写真撮影/嘉屋恭子)

芝生広場からターナーダイナーと焚き火の様子。周囲に高い建物はなく空は広く、山も近い。仕事の合間に焚き火をすれば、いいアイデアも自然と浮かびそう(写真撮影/嘉屋恭子)

今回、カフェ「ターナーダイナー」を運営する株式会社ワットの石渡康嗣さんは、「働くならこんなに最高な場所はないよね。夕日はキレイだし、焚き火もできる。僕らも仕事している場合じゃない(笑)」と話します。石渡さん自身、都心に複数の飲食店を運営していますが、ネスティングパーク黒川の「ターナーダイナー」ではお客さんからポジティブな声を聞き、手応えを感じています。

仕事終わりに、こんな風景を眺めつつお酒を飲めたら、最高だ(写真撮影/嘉屋恭子)

仕事終わりに、こんな風景を眺めつつお酒を飲めたら、最高だ(写真撮影/嘉屋恭子)

「『待っていました!』『また来ます!』って声をもらうことがすごく多いって、スタッフが言っていました。自分たちの店を軸に、地元の人の交流の場所として活用してもらえたら、こんなにうれしいことはない」とにこやかです。

お祭り感ある「ジャンボリー」。これからの郊外を考えるトークショーも

取材に訪れた日は、「ネスティングパーク・ジャンボリー」という、オープニングイベントが開催されていました。木工ワークショップやオイルランプワークショップ、ワインツーリズムのほか、地元JAが運営する「セレサモス麻生店」が産直野菜を販売しており、家族連れなどが大勢訪れていました。何より子どもたちが楽しそうに芝生を走っている様子は、見ているこちらも微笑ましくなるほど。

ワークショップは多くの家族連れでにぎわった(写真撮影/嘉屋恭子)

ワークショップは多くの家族連れでにぎわった(写真撮影/嘉屋恭子)

子どもだけでなく、何より大人たちが楽しそう(写真撮影/嘉屋恭子)

子どもだけでなく、何より大人たちが楽しそう(写真撮影/嘉屋恭子)

ネスティングパーク・ジャンボリーでは、地元野菜を焼いて食べたり、マシュマロを焼いたりする姿も(写真撮影/嘉屋恭子)

ネスティングパーク・ジャンボリーでは、地元野菜を焼いて食べたり、マシュマロを焼いたりする姿も(写真撮影/嘉屋恭子)

日が傾きはじめた17時30分からは、ブルースタジオのクリエイティブディレクターの大島芳彦氏、郊外を研究しているマーケティングリサーチャーの三浦展氏、株式会社ワット代表の石渡康嗣氏、スノーピークビジネスソリューションズ取締役の山口昌浩氏による「焚き火を囲んで語りあおう、これからの『郊外』の楽しみ方」と題したトークイベントがスタート。

17時30分~行われたトークイベント。まじめな話をしているのに、どこか楽しそうなのは焚き火の力でしょうか(写真撮影/嘉屋恭子)

17時30分~行われたトークイベント。まじめな話をしているのに、どこか楽しそうなのは焚き火の力でしょうか(写真撮影/嘉屋恭子)

トークイベントに登壇した大島芳彦氏(左)と、三浦展氏。郊外研究やリノベーションの第一人者が登場し、現在の課題とこれからの展望を話しました(写真撮影/嘉屋恭子)

トークイベントに登壇した大島芳彦氏(左)と、三浦展氏。郊外研究やリノベーションの第一人者が登場し、現在の課題とこれからの展望を話しました(写真撮影/嘉屋恭子)

はじめに大島芳彦氏による現在の「郊外」が抱える課題、つまり「高齢化」「空き家の増加」「縮退」「若い世代が帰ってこない」といった流れの説明があり、それに対して「ネスティングパーク黒川」でできること、「未来をどうして行きたいか」という説明がありました。続いて、三浦展氏からは、「脱・典型的なベッドタウン」になるために、「多様性を増すこと」「夜の魅力を増すこと」「女性に選ばれる街」という「処方せん」が提案されました。

三浦展氏は、ベッドタウンはこれまで「都心で働く男性」「郊外で子育てする女性」というロールモデルを前提にして街が設計されていたため、「夫婦共働き」や「生涯働きつづける」という現代のライフスタイルに合わなくなっていると指摘します。今後は「郊外で昼間仕事ができる」ことに加え、「街を散歩してリフレッシュして新しい発想を得られる」「仕事のあとの夜の娯楽がある」といった要素を加えることで魅力的な郊外として再生するというのです。今回、シェアオフィスなのに、焚き火ができるのは、そうした大人の「遊び心」の象徴なのかもしれません。

スノーピークの山口氏も「日常のなかに、こうしたアウトドアの『非日常』があることで、人生も働き方ももっと豊かになるはず。火をかこむだけで、自然と人とのコミュニケーションが生まれますから」と焚き火の魅力を語ります。確かに焚き火を囲んでいるとなぜか自然と笑顔に。昔の日本の農家には「囲炉裏」があったように、実はとても落ち着くスタイルなのかもしれません。

小田急電鉄としては、今回の「ネスティングパーク黒川」はパイロットケースとしていて、仮に成功したからといってむやみに増やすという計画はなく、「小田急線沿線はエリアごとに特色があります。だからこそ、その土地、その街にあった開発、暮らし方の提案をしていきたい」(志鎌さん)と話します。首都圏の郊外エリアでも人口減少は少しずつ、でも確実にはじまっています。ただ、それを嘆くのではなく、時代にあった豊かなものへと価値を転換していけるかどうか、鉄道会社も不動産会社も試行錯誤をするなかで、「魅力的な郊外」として再生していくのかもしれません。

●取材協力
ネスティングパーク黒川

ローカルで長屋暮らし。福岡県八女市で賃貸住宅「里山ながや・星野川」を選んだ人たちに起きたこと

福岡の山どころとも呼ばれる八女市。お茶の産地として有名だが、特によい茶葉が取れるエリアとして人気の高い上陽町に2018年7月に誕生したのが、この賃貸住宅「里山ながや・星野川」だ。自然あふれるローカルエリアに突如できた長屋にどのような人たちが移り住み、生活しているのだろうか。現地の暮らしぶりをリサーチしてきた。
民間企業が運営。移住前のお試し居住として、長屋の暮らしを提供

上陽町久木原は近隣にスーパーなど日用品をそろえる施設がなく、八女の市街地からも車で20分と、ローカル中のローカル、という声が地元でもちらほら聞こえるエリアだ。

もともと小学校跡地のグラウンドを民間会社が土地を借り利活用、建築設計事務所アトリエ・ワンの塚本由晴氏が設計を手掛けている。施工は地元の若手大工が行い、全8戸がつながった長屋様式の建物は、ほぼ全てが八女産の木材を使用して造られている。

この場所に賃貸の長屋を構えることを決めたのは、この住宅の管理会社でもある八女里山賃貸株式会社。自然資源の活用と、無理のない移住生活へのステップを創出しようという想いから、あえてこの田舎で長屋建築を計画実行した。

地域おこし協力隊で八女移住。夢を形にする助走期間として住まう山内淳平さん(28歳)は、福岡県小郡市出身。新卒で大手家電メーカーに就職後、2018年9月から八女の地域おこし協力隊に就任。地元企業のIT指導や広報支援を行う(写真撮影/加藤淳史)

山内淳平さん(28歳)は、福岡県小郡市出身。新卒で大手家電メーカーに就職後、2018年9月から八女の地域おこし協力隊に就任。地元企業のIT指導や広報支援を行う(写真撮影/加藤淳史)

まずお話をお聞きしたのは、会社員時代は営業職を担当していたという山内淳平さん。東京、大阪、福岡と転勤を繰り返すなかで、今はローカルが時代の最先端だと感じ、地域おこし協力隊の求人を一年かけて探したという。全国的にも珍しい、商工会に配属されるという募集要項を見て、八女への移住を決めた。「この建物はSNSで見て一目惚れ。地域資源を使って地元の若手大工がつくったというコンセプトもとても良くて、絶対ここに住もうと思っていました」と、協力隊就任とともに入居を開始した。大学時代を含めると、ひとり暮らしは4拠点目になるが、今が最も心にゆとりがあるという。

部屋はメゾネットタイプの2階建て。天井、柱、家具、格子などは全て八女杉を使用。1階は土間空間で、ひんやりと涼しい空気が流れる。写真はモデルルーム。どの部屋も同じ間取りとなる(写真撮影/加藤淳史)

部屋はメゾネットタイプの2階建て。天井、柱、家具、格子などは全て八女杉を使用。1階は土間空間で、ひんやりと涼しい空気が流れる。写真はモデルルーム。どの部屋も同じ間取りとなる(写真撮影/加藤淳史)

同じく八女杉を使ったキッチン。通常、八女杉を素材に使ったキッチンはほぼないそう。木の良い香りが漂う(写真撮影/加藤淳史)

同じく八女杉を使ったキッチン。通常、八女杉を素材に使ったキッチンはほぼないそう。木の良い香りが漂う(写真撮影/加藤淳史)

キッチン裏は浴室とトイレ、ランドリースペースと水まわりが1カ所にまとめられている。小屋の先には元ランチルームがあり、それが程よい目隠しに。日光が差し込んで開放感あふれる空間が広がる(写真撮影/加藤淳史)

キッチン裏は浴室とトイレ、ランドリースペースと水まわりが1カ所にまとめられている。小屋の先には元ランチルームがあり、それが程よい目隠しに。日光が差し込んで開放感あふれる空間が広がる(写真撮影/加藤淳史)

「室内は木材がいっぱいで、玄関をくぐるたびにふわっと森林の香りがします。朝には鳥のさえずりが聴こえます。星野川は星が綺麗な地域なので、空を見上げると満天の星空が望めますし、目の前にある清流の音も心地いい。空間や家具に木が使われていることでおだやかな気持ちになり、料理や入浴の時間とかも、ひとつひとつを丁寧に過ごせるようになりましたね」と話すように、飲み会の多かった会社員時代と比べて自宅でゆっくりと過ごす時間が増えたそうだ。

当初は、八女でなくてもどこでも構わないと思っていたが、至るところに野菜の直売所があり、どれを食しても美味しいことや、長屋暮らしを通じて隣人や地元の人たちとも程よい交流ができたおかげで、暮らしを通じて、この土地に住む人のあたたかさや生活環境の良さが分かってきた山内さん。特に八女の星空と山の景色に魅せられ、地域おこし協力隊の任期を終えたあとは、この地形を活かし体験型のアクティビティをメインにした事業を起こそうと計画中だ。

「地域を盛り上げることを目標とするより、八女にいる自分がどう幸せになれるかを考えた方が地域にとって良くなりそうな気がするんです」と語る。自分の生活像も将来のことも八女に来た当初はぼんやりとしか持っていなかったが、自分の環境を変えたことで少しずつ考えがクリアになってきたそうだ。

「自身のステップの場としてこの環境があることに満足しています」と最後、爽やかに答えていただいた。

「長屋暮らしだからか周囲に人がいなくて寂しいと感じたことはないです。地域の方とは年に数回、近くの公民館で親睦会を開いてお酒を飲みながら交流するのが楽しいです」(写真撮影/加藤淳史)

「長屋暮らしだからか周囲に人がいなくて寂しいと感じたことはないです。地域の方とは年に数回、近くの公民館で親睦会を開いてお酒を飲みながら交流するのが楽しいです」(写真撮影/加藤淳史)

夫婦生活のはじまりの場として。職場は変わらずとも気持ちに変化が桜木愼也・有希子さんご夫妻。お互い理学療法士で、同じ病院に就職したことがきっかけで知り合い、昨年結婚。初めての同居生活をこの里山賃貸でスタートさせた。仕事は結婚後も継続中(写真撮影/加藤淳史)

桜木愼也・有希子さんご夫妻。お互い理学療法士で、同じ病院に就職したことがきっかけで知り合い、昨年結婚。初めての同居生活をこの里山賃貸でスタートさせた。仕事は結婚後も継続中(写真撮影/加藤淳史)

次にお話を聞いたのは、里山賃貸住宅の利用者第一号となった桜木愼也・有希子さんご夫妻。「八女のロマン」という地元の移住ポータルサイトを見て竣工式から完成まで何度も足を運び、入居開始と同時に二人暮らしを始めた。
お互いアウトドア好き、また、夫が柳川、妻が筑後から職場のある八女の中心街まで通っていたということもあり、もともと3,40分の通勤時間が発生していたことから、星野川から勤務地まで車で20分という距離もさほど気にならず、それよりも自然に囲まれた環境が良いということで、長屋生活を選んだ。

「最初は、キャンプのコテージに泊まっているような気分でしたね。春は家の窓から桜並木を眺めたり、夏は目の前にある川に足を浸して涼んだり、冬はストーブで暖をとったりと、四季を生活のなかで楽しんでいます」

そう話す愼也さんは、この物件に移り住んでからドライフラワーの制作に目覚めて、趣味でつくった花々を壁に吊るして飾っている。

ドライフラワーは愼也さんの趣味。「いつの間にか始めてましたね」とコメント。中には結婚式のブーケで使った花もあるそう(写真撮影/加藤淳史)

ドライフラワーは愼也さんの趣味。「いつの間にか始めてましたね」とコメント。中には結婚式のブーケで使った花もあるそう(写真撮影/加藤淳史)

日用品などの買い物については市街地の病院で働いていることもあり、仕事帰りに済ませているので田舎暮らしに不便は感じていない。むしろ、周囲に店が少ないことで、なるべく自宅にあるもので済ませるうちに、物を買うことへの意識が変わってきたとのこと。ひとつひとつを吟味して買うようになったので、無駄遣いがなくなり貯金ができるようになったそうだ。また、家庭菜園を始めたことで、病院に来るおじいちゃん、おばあちゃんと肥料の種類など、野菜の栽培についての話が盛り上がるようにったという。

「接客業という仕事柄、ストレスを溜めることもあります。しかし、夫への悩み相談は通勤中にするようになったので、家に帰ると自然とスイッチが切り替わって、全く仕事のことは考えなくなりますね」とにこやかに話す有希子さん。外出してもすぐに家に帰りたくなるくらい、自分の住まいが好きなんだそう。

(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

「以前は、せかせかして時間にゆとりが持てていなかったんだろうな、と思うときがあります。自分たちは、職場は変わらず、ただ住環境を変えただけなのですが、木のお風呂に浸かったり、2階のスペースで横になって休んだり、そういう暮らしが手に入ったことで変わってきたような気がしますね」と有希子さん。場所の力をひしひしと感じているようだ。

長屋の住人たちとの軽い挨拶や日常会話は毎日。「さっきイタチを見たよ」など気軽に話せる相手が近くにいることが生活の安心・安定感にもつながっている(写真撮影/加藤淳史)

長屋の住人たちとの軽い挨拶や日常会話は毎日。「さっきイタチを見たよ」など気軽に話せる相手が近くにいることが生活の安心・安定感にもつながっている(写真撮影/加藤淳史)

愼也さんも「もともと意識下にあった自分の好きなことや物が引き出された感じがありますね」というように、住まいによってご夫婦それぞれの行動や心境にポジティブな変化が生まれたようだ。

「子どもが生まれても生活的に問題なければずっとここにいたいですね。それ位この自然環境と木の生活は気に入ってます」と話す桜木さんご夫婦は最後、顔を見合わせて穏やかに微笑みあっていた。

シンプルに心地よい暮らしを求めたら、たまたま移住につながった(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

今回取材した山内さん、桜木さんはともに都市部からの移住。一般的にはそのように環境の大きく異なる地域への移住は、うまく生活していけるかなどの不安で、ハードルが高く感じるものだ。しかしこの2組の場合は、いきなり完成形を求めるのではなく、まずは里山賃貸住宅の暮らしに惹かれてコンパクトな長屋暮らしを始め、そこから少しずつ自分たちの好きなことや、やってみたいことに出会え、将来的にもここに住み続けるという「移住」という思いに至った。

全く違う環境に飛び込んでいく「移住」を大げさにとらえずに、こんな暮らしをしてみたいな、とか、単に住まい環境を変えたい、他者のコンセプトや物に惹かれた、という心のままにローカルでの暮らしを始めるのもいいのかもしれない。特にこの八女里山賃貸住宅では、同じ感覚で集まった人同士がつながることによって、それぞれが良い方向へと進んでいるようだった。

継続的な生産性は、無意識レベルでの「好き」から始まるのかもしれない。

取材当日に地域住民の有志で植えた芝生。今後はここでBBQや星空観察などを計画中だ(写真撮影/加藤淳史)

取材当日に地域住民の有志で植えた芝生。今後はここでBBQや星空観察などを計画中だ(写真撮影/加藤淳史)

●取材協力
>八女里山賃貸住宅ホームページ

家具や家電が借り放題!?モノをシェアする新しい賃貸物件のカタチ

シェアハウス、ソーシャルアパートメント、DIY可能物件、クリエイタープロデュース型物件など、いまは賃貸物件もバリエーション豊か。個々のライフスタイルにあった物件を選択できるようになった。そんな中、賃貸物件の新たな形を提案しているのが「カスタムアパートメント」だ。敷金礼金なしで家具・家電が借り放題。空間をシェアするシェアハウスとは違う、“モノをシェア”する新しい暮らしとはどのようなものだろうか。
カスタムアパートメントとは?カスタムアパートメント多摩川外観。1階がカフェ、2・3階が住居となっている(写真撮影/片山貴博)

カスタムアパートメント多摩川外観。1階がカフェ、2・3階が住居となっている(写真撮影/片山貴博)

JR・小田急線の登戸駅から徒歩3分。多摩川の土手沿いにある3階建の新築の建物が「カスタムアパートメント多摩川」だ。駅近で新築、2・3階の住居部分からは多摩川が一望できるという、聞いただけで気になる物件。部屋は全室バス・トイレ・ミニキッチンの1Rタイプ。さらに、冷蔵庫・洗濯機・シングルベッド・デスクや収納になるシェルフが付いているので、コンパクトな荷物で新生活をスタートすることができる。

レンタルアイテムを使ったインテリアコーディネート例(写真提供:デモクラシ。)

レンタルアイテムを使ったインテリアコーディネート例(写真提供:デモクラシ。)

50種類以上の家具や家電が借り放題!レンタルできる家具・家電の一部。スツール、デスクなどの家具、最新の家電やデジタル機器、そしてスーツケースまでもがレンタルできる。その他にもゲーム機器やフィットネス用品も(写真撮影/片山貴博)

レンタルできる家具・家電の一部。スツール、デスクなどの家具、最新の家電やデジタル機器、そしてスーツケースまでもがレンタルできる。その他にもゲーム機器やフィットネス用品も(写真撮影/片山貴博)

何といっても、この物件の最大の魅力は、50種類以上の家具や家電が借り放題という家具・家電のサブスクリプションサービスが付帯されていることだろう。レンタルできる家具・家電は、ダイソンの掃除機、LEDプロジェクター、BoseのBluetoothスピーカー、Play Station VR、バルミューダのトースター、シェルフ、スツール、テーブルなど、デザインや機能性に優れた幅広いアイテムがラインナップされている。レンタル方法も、住民専用サイトで商品・日時を指定して予約するだけなのでとても簡単。一人暮らしにはちょっと高価なアイテムを日常で気軽に使うことができるのがうれしい。家具・家電のサブスクリプションサービスが付いている分家賃は相場より少し高めだが、最新の家具・家電を購入することなく使いたいときに気軽にレンタルできる環境は、日々の生活をより豊かにしてくれそうだ。

住人専用のレンタルアイテム管理ページ。24時間予約の申し込みができる(写真提供:デモクラシ。)

住人専用のレンタルアイテム管理ページ。24時間予約の申し込みができる(写真提供:デモクラシ。)

レンタルできるアイテムの例。絵画やオブジェ、多肉植物などもある(写真撮影/片山貴博)

レンタルできるアイテムの例。絵画やオブジェ、多肉植物などもある(写真撮影/片山貴博)

リビング代わりとなる、管理員のいるカフェリビングカフェ内観。大きな窓からたくさんの光が注ぎ込む明るい空間だ。窓際にはレンタルできる家具・家電がディスプレイされている(写真撮影/片山貴博)

リビングカフェ内観。大きな窓からたくさんの光が注ぎ込む明るい空間だ。窓際にはレンタルできる家具・家電がディスプレイされている(写真撮影/片山貴博)

予約したアイテムをレンタルする場所であり、この物件のリビング的な場所となるのが1階にあるリビングショップ。ここでは、カフェやレストラン開業を目指す人が地域の住民に向けた実験店舗を経営している。2019年4月からは、「リビングショップ 旅カフェ SHANTI店」がオープン。日中はカフェ、夜はバーとして利用できるこのお店では、ネパールで修行した店長によるカレーや世界のビール、コーヒーなどを楽しめる。

カスタムアパートメント多摩川の管理員・住人の千丈さん。「多摩川の土手沿いなので風も抜けるし、東京も近いわりに自然を感じやすい。東京も多摩川を越えればすぐですし、向ヶ丘遊園、宿河原、狛江、二子玉川など自転車でいろいろな街にアクセスできるのがいいですね」(写真撮影/片山貴博)

カスタムアパートメント多摩川の管理員・住人の千丈さん。「多摩川の土手沿いなので風も抜けるし、東京も近いわりに自然を感じやすい。東京も多摩川を越えればすぐですし、向ヶ丘遊園、宿河原、狛江、二子玉川など自転車でいろいろな街にアクセスできるのがいいですね」(写真撮影/片山貴博)

「リビングショップ 旅カフェ SHANTI店」のスタッフ・千丈さんは、この物件の管理員でありカスタムアパートメントの住人でもある。千丈さんも他の入居者もこの4月から新生活をスタートさせたばかり。新社会人、新大学生が多いそう。
「僕もこのカスタムアパートメントに住んでいるのですが、冷蔵庫や洗濯機、ベッドまでついているのがありがたいですよね。レンタルできる家具・家電もいいものがそろっています。“ちょっといいもの”“使ってみたかったもの”を試すことができると、生活がグッと明るくなりますよね。また、いいものの効果を実感すると、今後の人生で“安物買いの銭失い”をしなくなるのではと思います(笑)。家電などを購入する必要がないので、引越しも車1台に収まるくらいの荷物でできました」

現代版長屋暮らしができる場所取材中にもご近所さんが来店。お客さんとの距離が近い店内では、おいしい食事をしながら会話もはずむ(写真撮影/片山貴博)

取材中にもご近所さんが来店。お客さんとの距離が近い店内では、おいしい食事をしながら会話もはずむ(写真撮影/片山貴博)

千丈さんが一番魅力を感じているのが、このカスタムアパートメントの在り方だという。モデルは“昔の長屋暮らし”なのだとか。
「今のシェアハウスの主流は、空間をシェアするシェアハウスですよね。でも、カスタムアパートメントは、個人の生活が自分の部屋で完結するワンルームのアパートに加えて、モノだけをシェアする。その中継地点となるのがこのリビングカフェというイメージなんです。隣人の顔が見える一人暮らしってなかなかないじゃないですか。新しい暮らし方の実行役になれたらいいなと思います」

都市ではなかなか感じることのできない、隣の人の顔が見える暮らし。その魅力について、千丈さんはこう続ける。
「僕は東京出身なんですけど、ここに引越すまでの1年はたまたま仕事の関係で地方を転々としていて。それで分かったことがあるんです。地方では生活する地域で働いている人が多いため、働いているときも暮らしているときも人の顔が見えるということ。一方東京は、東京で働いていても暮らす場所は別の地域だったりするし、生活する時間帯も違うから、人がたくさんいるのにすぐ近くにいる人は知らない人だったりします。当たり前のことなんですけど、ずっと住んでいるとなかなかそれに気づかない。地方だといつも誰かに見られているように感じる人もいるかもしれませんが、東京にずっと住んでいた僕からすると、いつもそばに知っている人がいることってすごく安心するんですよね。それは、東京に欠けているような部分だとも思うんです。

この カスタムアパートメントの取り組みは、近くの人と顔を合わせることができる。“あそこに行けば誰かがいる”という安心感って大事じゃないですか。リビングカフェでも、日常的に使うモノの貸し借りを通して、人とのつながりを感じてもらいたいです。そういう安心できる場所があるだけで孤独じゃなくなるし、ライフスタイルは変わると思うんですよね」

春には桜も美しい多摩川沿い(写真撮影/片山貴博)

春には桜も美しい多摩川沿い(写真撮影/片山貴博)

「地域コミュニティを担う場を目指したい」

また、カスタムアパートメントの住民だけではなく、近隣の住民やお店の常連さんにも優しい場所をつくりたいと語る千丈さん。
「ここは多摩川沿いで、ランニングや散歩をする人が多い場所。ご近所さんにお散歩途中に気軽に立ち寄ってもらったり、地域の人がわいわいできる場として活用してもらえるようにしていきたいですね。また、今後は地域の人もここのレンタルアイテムを借りられる制度をつくってもいいかもしれません」

店内には旅をイメージさせる食器や小物がたくさん(写真撮影/片山貴博)

店内には旅をイメージさせる食器や小物がたくさん(写真撮影/片山貴博)

ミニマリストやアドレスホッパーなど、モノを持たない新しい生き方が提案されている昨今。カスタムアパートメントは、モノを介して生まれるコミュニティ、いまの時代に必要なちょうどいいつながりの豊かさを感じられる場所になりそうだ。まだ始まったばかりのカスタムアパートメントの取り組みに今後も注目したい。

●取材協力
デモクラシ。
カスタムアパートメントは2019年11月ごろ、初の関西展開となる「カスタムアパートメント灘」が完成予定。2019年夏ごろより問い合わせ開始。
>カスタムアパートメント

〈ミラノサローネ2019〉インテリアデザインも職人技からAI技術まで!世界の感性が集結

2019年4月9日~14日のMilan Design Week(イタリア・ミラノ)は、インテリア世界最大の見本市「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)を核に、街中がデザインの祭典に沸いた。レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年のオマージュ企画から、最先端のテクノロジーとデザインの融合も見られた刺激的な1週間となった。
デザイン都市ミラノ、イタリアオペラの殿堂「スカラ座」とも共演

今年2418の出展数となったミラノサローネ見本市会場には、181カ国から38万6236人が来場。加えて街中でのイベントが1,350カ所もあり、その一つTortona地区にあるSurperStudioでも8万人が来場とのこと。総勢50万人を超えるデザイン・コンシャスな人々であふれた、Milan Design Weekとなった。

ミラノは世界一の“デザイン・シティ”を目指し、国を挙げて産業界を盛り上げている。今年から、芸術の中心であるミラノ・スカラ座財団とのパートナーシップを結び、デザインとアートの融合も強化。そのスカラ座でミラノサローネ前夜祭が開催された。

スカラ座音楽総監督リッカルド・シャイーによる前夜祭のコンサート。筆者もバルコニーから鑑賞(写真撮影/藤井繁子)

スカラ座音楽総監督リッカルド・シャイーによる前夜祭のコンサート。筆者もバルコニーから鑑賞(写真撮影/藤井繁子)

驚かされたのは、その後のディナー。なんと、オーケストラがはけた、舞台上にテーブルがセットされていた!

別室でアペリティーボ(食前酒)を楽しんでいる間に、約300名のテーブルがステージ上で完璧にセッティング!? スゴイ技(写真撮影/藤井繁子)

別室でアペリティーボ(食前酒)を楽しんでいる間に、約300名のテーブルがステージ上で完璧にセッティング!? スゴイ技(写真撮影/藤井繁子)

スカラ座ディナーでも椅子は、Kartell社『MASTERS』のゴールド・バージョン! 樹脂製で軽く、スタッキング可能という特性が、このような場でも活かされている。

さて、翌日からミラノサローネが開幕。見本市フィエラ会場でも、そのKartell社が朝一注目を集めていた。

世界のメディアを前に登場したのは、やはりこの方。御歳70歳のP.スタルク氏がプレゼンテーション(写真撮影/藤井繁子)

世界のメディアを前に登場したのは、やはりこの方。御歳70歳のP.スタルク氏がプレゼンテーション(写真撮影/藤井繁子)

実は今年、Kartell社は創業70周年記念(スタルクと同い年!)。ここで発表されたのは、「世界初のAI(人工知能)によって創られた椅子」。基本AIが描き出したデザインに、スタルクがアングルなどの注文を付けただけというプロセスが動画で紹介され、会場の目が釘付けになった(動画は記事末にて掲載)。

『AIデザインの椅子』3D 技術を使ったデザイン・設計ソフトのAUTODESK社(米国)とコラボ(写真撮影/藤井繁子)

『AIデザインの椅子』3D 技術を使ったデザイン・設計ソフトのAUTODESK社(米国)とコラボ(写真撮影/藤井繁子)

スタルクは「デザイナーの仕事も無くなる? そうじゃない、素晴らしい友ができたって気分だ!」とAIとの協働を楽しんでいた。

また、Kartell社70周年を記念した特別展〈The Art side of KARTELL〉は、Palazzo Reale(王宮) Museumで開催された。

夜のパーティーは家具・照明から食器・花器までKartellずくし。王宮の階段にも、充電式のランプ『BATTERY』が並んでお出迎え。大理石の床に放たれた光模様の美しいこと!(写真撮影/藤井繁子)

夜のパーティーは家具・照明から食器・花器までKartellずくし。王宮の階段にも、充電式のランプ『BATTERY』が並んでお出迎え。大理石の床に放たれた光模様の美しいこと!(写真撮影/藤井繁子)

アジアン・デザイナーがラグジュアリーブランドで活躍

日本でも人気のイタリア・ラグジュアリーファニチャーブランドのMinotti社。
昨年、日本のデザイナーnendo(佐藤オオキ)などを起用し話題を集めたが、今年は更に斬新なプロダクト&展示に驚かされた。

このゼブラ柄ファーが空間のアクセントにたくさん使われていた。ほかにもパープルのファーやガラス使いなども素敵だった。ソファはR.ドルドーニによる新作『LAWSON』、アームで抱かれるようなデザイン(写真撮影/藤井繁子)

このゼブラ柄ファーが空間のアクセントにたくさん使われていた。ほかにもパープルのファーやガラス使いなども素敵だった。ソファはR.ドルドーニによる新作『LAWSON』、アームで抱かれるようなデザイン(写真撮影/藤井繁子)

そして、nendoによるアウトドア家具『TAPE CORD OUTDOOR』シリーズが発表された。

Minotti社で遭遇した佐藤オオキ氏。昨年リリースの家具『TAPE』が、翌年アウトドアラインとして追加されるとは……評判が良かったに違いない(写真撮影/藤井繁子)

Minotti社で遭遇した佐藤オオキ氏。昨年リリースの家具『TAPE』が、翌年アウトドアラインとして追加されるとは……評判が良かったに違いない(写真撮影/藤井繁子)

アウトドア家具としては小ぶりにデザインされていて、日本の住宅にもフィットするサイズ感。

このデイベッド、バルコニーや中庭に置けば、日常が非日常になること間違いなし(写真撮影/藤井繁子)

このデイベッド、バルコニーや中庭に置けば、日常が非日常になること間違いなし(写真撮影/藤井繁子)

一方、同じく歴史あるラグジュアリーブランドMolteni&C社で見られたのは、初めてアジア人としてデザイナーに起用されたNeri&Hu(中国)のベッドルーム。

『TWELVE A.M.』ベッドとサイドベンチ。Neri&Huは世界で活躍する男女のユニット。シンプルでプラクティカルな上品さに共感する(写真撮影/藤井繁子)

『TWELVE A.M.』ベッドとサイドベンチ。Neri&Huは世界で活躍する男女のユニット。シンプルでプラクティカルな上品さに共感する(写真撮影/藤井繁子)

話題を呼んだ新企画パビリオン〈S.Project〉、日本のMaruniも登場

〈S.Project〉と名付けられた新企画のパビリオン。従来のカテゴリーにとらわれず、家具・水まわり・照明などブランド横断で空間展示を行うなど多目的な場が見本市会場に用意され87社が出展した。

ここで4000平米もの巨大ブースで注目を集めていたのが、家具のB&B Italia社、照明のFlos社 ・Louis Poulsen社の合同展示(Design Holdingグループ)。B&B Italia社が久しぶりに見本市会場へ出展することもあって、来場者が押し寄せていた。
面白かったのは、ブースの壁にイラストで描かれた著名デザイナーたちと3社の代表作品。センサーを感知すると、デザイナーたちが動いてウィットのあるリアクションを見せてくれる。

黄色の丸ゾーンに手を置くと、センサーで動き出すデザイナー。インタラクティブなプレゼンテーションが今っぽい(写真撮影/藤井繁子)

黄色の丸ゾーンに手を置くと、センサーで動き出すデザイナー。インタラクティブなプレゼンテーションが今っぽい(写真撮影/藤井繁子)

P.ウルキオラ女史(B&B Italia社)は、あまり似てないが……nendo佐藤くん(Flos社)はよく似てる!(写真撮影/藤井繁子)

P.ウルキオラ女史(B&B Italia社)は、あまり似てないが……nendo佐藤くん(Flos社)はよく似てる!(写真撮影/藤井繁子)

外で遊んでから中の展示へ。B&B Italia社の家具を分解し構造を見せることで、クオリティの高さを解説するゾーンが興味深かった。

V.V.デュイセンによる新作チェア『Pablo』も一枚の革で構成されているのが分かる(写真撮影/藤井繁子)

V.V.デュイセンによる新作チェア『Pablo』も一枚の革で構成されているのが分かる(写真撮影/藤井繁子)

A.チッテリオがデザインしたダイニングも、M.アナスタシアデスがデザインした照明(Flos社)と合わせることで、また違った空間が生まれる。

テーブル『Astrum』とチェア『Fulgens』はチッテリオ氏、照明『Arrangements』はアナスタシアデス氏の共演(写真撮影/藤井繁子)

テーブル『Astrum』とチェア『Fulgens』はチッテリオ氏、照明『Arrangements』はアナスタシアデス氏の共演(写真撮影/藤井繁子)

M.アナスタシアデスの今年の新作照明(Flos社)も素晴らしかった。

『Coordinates』=座標、と言う名のとおり縦横3次元の軸が交差するデザイン。ニューヨークのホテルFour Seasonsのレストラン用にデザインしたものを商品化(写真撮影/藤井繁子)

『Coordinates』=座標、と言う名のとおり縦横3次元の軸が交差するデザイン。ニューヨークのホテルFour Seasonsのレストラン用にデザインしたものを商品化(写真撮影/藤井繁子)

次も人気グループの出展、キッチンやバスルームなど水まわりの老舗ブランドBoffi社を中心に、家具の人気ブランドDePadova社などグループ4社で〈S.Project〉に出展。
メインデザイナーのP.Lissoniが、大きな池の上に建つようなブースをデザインした。

Boffi社の新作『Round Fisher』かなり大きい丸のバスタブ(高さ45×直径190cm)コーリアン人工大理石コーリアン®製。シャワーはM.ワンダースのデザイン(写真撮影/藤井繁子)

Boffi社の新作『Round Fisher』かなり大きい丸のバスタブ(高さ45×直径190cm)コーリアン人工大理石コーリアン®製。シャワーはM.ワンダースのデザイン(写真撮影/藤井繁子)

DePadova社でも、リッソーニ氏デザインの丸いテーブル。今年は丸く収めたい?

新作テーブル『FRENCH CONCESSION』(高さ73×直径250cm)リッソーニ氏は「花が咲くように」と表現。照明は人気の女性建築家E. オッシノによる『ELEMENTI』(写真撮影/藤井繁子)

新作テーブル『FRENCH CONCESSION』(高さ73×直径250cm)リッソーニ氏は「花が咲くように」と表現。照明は人気の女性建築家E. オッシノによる『ELEMENTI』(写真撮影/藤井繁子)

そんな世界的なトップブランドが居並ぶ〈S.Project〉に、日本のMaruni(マルニ木工)も出展。

昨年までのパビリオンから〈S.Project〉へ移動し、スペースも約2倍に拡大したMaruniの挑戦。深澤直人氏(右)デザインの『Roundish』アームチェアにクッションシートが登場(写真撮影/藤井繁子)

昨年までのパビリオンから〈S.Project〉へ移動し、スペースも約2倍に拡大したMaruniの挑戦。深澤直人氏(右)デザインの『Roundish』アームチェアにクッションシートが登場(写真撮影/藤井繁子)

AI(人工知能)と、人・暮らしの関わり方を探るプロジェクトも

市内の展示(フオリ・サローネ)で筆者が興味をもったのは、Google社の体験型インスタレーション。
デザインが感情や健康に、どう影響するのかを探求するプロジェクトだ。Google Design Studioが建築事務所Reddymade Architecture、デンマークの家具ブランドMuuto社、そして米国のJohns Hopkins Universityと組んだ企画。

心拍数、皮膚温、運動、皮膚伝導性などのデータを測定するセンサーを備えたリストバンドを巻いて、10人1グループで入場。3つのインテリアデザインが異なる部屋に5分ずつ滞在する。

3つの部屋で参加者が感じた快適性や感情を、biological(生物学)データを分析して“最も心地よい”と感じた部屋を教えてくれる。(意外と自分が感じた部屋の印象と、データに現れた生理反応が違うことも多いそう。頭と体の反応が違うってこと?)

左/3部屋から退出後、リストバンドを計測モニターに置くと、3部屋での反応データが現れる。筆者は真ん中の部屋が心地よく反応したと出た。インテリアの色や素材、デザインだけでなく、香りや音楽も影響している。右/一人一人の結果データを即、カードにプリントアウトし解説してくれる。その手際良さにも、IT企業らしさを実感し感動(笑)(写真撮影/藤井繁子)

左/3部屋から退出後、リストバンドを計測モニターに置くと、3部屋での反応データが現れる。筆者は真ん中の部屋が心地よく反応したと出た。インテリアの色や素材、デザインだけでなく、香りや音楽も影響している。右/一人一人の結果データを即、カードにプリントアウトし解説してくれる。その手際良さにも、IT企業らしさを実感し感動(笑)(写真撮影/藤井繁子)

Googleとしては、デザインの影響を可視化することで、さらに感性デザインを深く追求する事に役立てたいということだ。

Sonyは昨年同様、Tortona地区で企画展示。
〈Affinity in Autonomy -共生するロボティクスー〉というテーマで、人とロボティクスの関係性についての新しいビジョンを提案した。5つのセクションで構成された展示を進むと、センサーによって人を感知したロボットが反応する様々な形を体験できる。

生命感をそなえたロボティクス『aibo』。名前を呼ぶと反応し、撫でると喜ぶ。ここでは感情が下のモニターに色彩で現れる、赤くなっているのは怒っているらしい(写真撮影/藤井繁子)

生命感をそなえたロボティクス『aibo』。名前を呼ぶと反応し、撫でると喜ぶ。ここでは感情が下のモニターに色彩で現れる、赤くなっているのは怒っているらしい(写真撮影/藤井繁子)

最後のセクションでは、ロボティクスが来場者に今回の展示に関するフィードバックを尋ねる。

記入台が自動で人に寄ってきて、身長に合わせて台の高さが変わる(写真撮影/藤井繁子)

記入台が自動で人に寄ってきて、身長に合わせて台の高さが変わる(写真撮影/藤井繁子)

人とロボティクスの共演を、エンターテインメントで魅せたのがLEXUSのインスタレーション。
日本のテクノロジーアーティスト集団ライゾマティクス(Rhizomatiks)を起用(リオ五輪の閉会式や紅白歌合戦のPerfumeも手掛けた)。
暗闇で一人のダンサーと一緒に踊るのは……4輪の付いたパーテーションのようなロボットたち!?

〈LEADING WITH LIGHT〉@Tortona地区Superstudio Piu会場。ダンサーの後ろを付いて回ったりするパーテーション・ロボット。そこにも光が投影され、空間にリズムが出る( 写真撮影/藤井繁子)

〈LEADING WITH LIGHT〉@Tortona地区Superstudio Piu会場。ダンサーの後ろを付いて回ったりするパーテーション・ロボット。そこにも光が投影され、空間にリズムが出る( 写真撮影/藤井繁子)

ダンス・ショーが終わると観客に光るボールが渡されて、照明にかざしてみる。照明が光るボールを追随するセンサーシステムを体験。

センサー技術によって人の動きにリアクションする、インタラクティブな体験型イベント展示が増えてきた。インスタレーションも“見て感動する”から、”やって見て感動する“時代になった。

日本からはインテリア以外の企業の参加も増えている。ダイキン工業がnendoと個展を行ったり、AGCやグランドセイコーは継続して出展、YAMAHAやLIXIL(INAX)が復活出展、住友林業は初出展など世界に向けたブランディングをミラノで行った。

年々、出展者・来場者共に増加し、世界のメディアが注目するMilan Design Week。
来年のミラノサローネは、2020年4月21日(火)~26日(日)と今年より遅い開催スケジュールと発表された。キッチン・バス見本市が併催の年。さらなる技術革新や新たなタレントと会えるのを楽しみに。Chao!

■「世界初のAI(人工知能)によって創られた椅子」Kartell社発表会の様子

【Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)】
 来年の会期:2020年4月21日(火)~26日(日)
>ミラノサローネ・オフィシャルサイト
>日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

日本に「オープンカフェ」が少ない理由って?“住みたい街”の条件が見えてきた

「エリアマネジメントの実践」や「パブリックスペースの重要性」なんて言葉にはピンとこない人も「オープンカフェのある街っていいな」「ご近所にいい感じのカフェや公園があったら」なんて考えたことはあるのでは。
これこそ、「パブリックスペース」であり、それを実現する仕組みが「エリアマネジメント」なんです。でも、ヨーロッパではよく見かけるオープンカフェは、日本には少ないもの。その理由を深堀りしていくと、その価値や今後の課題がおのずと見えてくるはず。
今回は、エリアマネジメントやパブリックスペースの社会実験の専門家であり、こうした活動の情報発信をするWEBメディア『ソトノバ』編集長の泉山さんにインタビューしました。
お話を伺った『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん(写真提供/泉山塁威さん)

お話を伺った『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん(写真提供/泉山塁威さん)

日本は路上を使うのはハードルが高いもの

――海外に旅すると、街のあちこちにオープンカフェがありますが、日本は、こうしたオープンカフェって少ないですよね。どうしてなんでしょう。

まず、日本のオープンカフェは民間の敷地内にあることがほとんどですが、海外では加えて公道に展開されていることをよく見かけます。
日本の場合、道路を使うには行政や警察への申請が必要で、これが、けっこう大変。まず、申請者は、個人やお店は基本的にはダメで、商店会やNPOなど地域団体に限られるのが実情です。一方、先日、研究のためにオーストラリアの都市のメルボルンとアデレードに行きましたが、実にオープンカフェが多いんですよ。というのも、オーストラリアはカフェやバーなどのお店からの申請がOKで、使用料は必要ですが、あまりNGにされることはないようです。

――その違いって何なんでしょうか。

まず、日本では、路上が「公共の場」(=行政の場所)という意識が強いからでしょうか。何かしら問題があったときに、行政や警察に連絡がきて対応を求められてしまうので、避けたい意識が働くのでしょう。だから規制することになる。
また、海外では、路上でアルコール販売は禁止なので、公共の場では、お店で提供するしかない点も関係あるでしょう。

――それは残念。オープンカフェ、あったらいいですよね。公共のものだから制限を設けるのか、公共のものだからみんなのために活用すべきなのか、その考え方の違いが根本にあるのですね。

ただ、小泉政権(2001-2006年)以降の規制緩和によって、少しずつではありますが、行政が民間の力を借りて、バブリックスペースを魅力的にしようという動きはあります。

パブリックスペースの充実が街の魅力を上げていく

――私たちは「パブリックスペース」というと公園や駅前広場などをイメージしますが、路上もバブリックスペース。海外で見かけるようなオープンカフェもそうですね。

はい。やはり「ソトで過ごす」時間を考えると飲食できる場は重要なファクターです。
住んでいる街のあちこちに、まるでリビングのようにくつろげる場所があるでしょう。私たちはそんな場所やライフスタイルを「PUBLIC LIFE(パブリック・ライフ)」と呼んでいます。

泉山さんがよくパブリック・ライフの例に挙げるパブリックスペース、ニューヨークのブライアントパーク。「図書館と公園、カフェがあり、まさに理想形です」(写真提供/泉山塁威さん・Shutterstock)

泉山さんがよくパブリック・ライフの例に挙げるパブリックスペース、ニューヨークのブライアントパーク。「図書館と公園、カフェがあり、まさに理想形です」(写真提供/泉山塁威さん・Shutterstock)

例えば、このニューヨークのマンハッタンにあるブライアントパーク。公園と図書館があるだけでは、単に「空間」ですが、可動式のベンチやテーブルを置き、「場」を提供することで、ここで食事したり、本を読んだり、子どもと遊んだり、昼寝したり、「人」が主役となります。街で、それぞれが思い思いに過ごすことができ。多様な目的とアクティビティが存在することが日常の風景になる。気づけば長い滞在時間、そこで過ごすようになる。そんな形が理想的。

例えば、ビアガーデンに行く人の目的は飲食で、それが達成すれば帰ってしまうでしょう。一方で、パブリックライフのある場所は、食事をした後に、運動をしたり、昼寝をしたり、はたまた読書をしたりと、いろんな目的がある。多様な行動ができるということは多様な人が使える。こうしたパブリックスペースが自分の街にあれば、暮らしが豊かになるはずです。

――確かに。そういうパブリックスペースがあることが、街の魅力につながり、住み替えるときに街選びの基準にもなりますよね。
泉山さんが手掛けられた既存の街のパブリックスペースを魅力的に変えた事例を教えていただけないでしょうか。

2014・2015年に行った、池袋駅東口グリーン大通りオープンカフェ社会実験ですね。ここはオフィス街で、とても広い歩道沿いにチェーンの飲食店が並んでいました。こうしたチェーン店の協力のもと、期間限定でテイクアウトスペースをつくり、オープンカフェやマルシェを開きました。「何をしているんだろう」と、道行く人が足を止め、食事をしたり、お店の人とおしゃべりしたり、日常的なアクティビティが一時的に行われました。

池袋駅東口グリーン大通りのブロジェクト(2014-2015)。(左)普段は広い歩道が続く通りだが、(右)期間中はイスやテーブルを置いて飲食できるスペースに(写真提供/泉山塁威さん)

池袋駅東口グリーン大通りのブロジェクト(2014-2015)。(左)普段は広い歩道が続く通りだが、(右)期間中はイスやテーブルを置いて飲食できるスペースに(写真提供/泉山塁威さん)

また、2018年には、さいたま新都心周辺で「パブリックライフフェスさいたま新都心2018」を行いました。もともと歩車分離の高質な歩行者デッキがあり、地域の企業と一緒に、ゾーンごとに、ガーデンのような場所や、60mのロングテーブルとイス200脚程度、インスタ映えするチャンネル文字を置くなどして、通り過ぎるだけの場所から、くつろげるスペースに変えました。特に日陰のリラックスチェアは大人気。普段使えない場所も出店者を集めたり、ビル風を風力発電のスマホ充電に利用したり、いろいろ仕掛けを実験し、課題や可能性を抽出するためのデータ分析も行っています。

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ。「元々あった公共施設を使い倒そうと仕掛けました」(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ。「元々あった公共施設を使い倒そうと仕掛けました」(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ(写真提供/泉山塁威さん)

さいたま新都心の「パブリックライフフェス」の1コマ(写真提供/泉山塁威さん)

――どちらもとても楽しそうですし、こうしたイベントは、自分たちが働く、もしくは暮らす街に愛着がもてるきっかけになりますね。

実験に終わらせない。継続させるために必要なこと

――どちらも期間限定ですが、継続的に行うことは難しいのでしょうか?

元々、どちらも社会実験のひとつとしてスタートしたことが大きいです。また、期間限定だからこそ協力を得られた部分もあり、同じことをそのまま継続するには、マンパワー的に難しいのが実情です。今かかわっているさいたま新都心では、実験のコンテンツ自体は好評のものは多く、常設化や継続できるものはないか、今後の方向性を検討中です。

現在、都心のバブリックスペースで日常的に使われている例として思い浮かぶのは、東京の丸の内や六本木界隈、中野セントラルパーク。新しいところでは、虎ノ門ヒルズ周辺の新虎通り、渋谷ストリームですが、どれも企業のパワーか、企業と地域が連携して実施しています。

東京は再開発ビルのオープンスペース(公開空地)を活用できる場所が多く、デベロッパーや企業が主導的にかかわっていくことは、資産価値やテナントへの訴求力につながりやすい。一方で、道路や公園になると、地域や行政との連携を密に行っていかなければならない。いずれにしても、世界の各都市と競争する東京ならではのやり方です。東京以外では、違う状況や方法で考えていかなければなりません。

――継続的に行うためには何が必要でしょうか。

ひとつのヒントになりそうな海外事例があります。
メルボルンから電車で30分の街、ポイントクックという街で、期間限定の公園「ポップアップパーク」が行われていました。去年と今年2月~4月の3カ月間、街の中心地であるショッピングモールのメインストリートに人口芝生を敷いて、みんながくつろげるスペースがありました。

オーストラリアのポイントクックの事例(写真提供/泉山塁威さん)

オーストラリアのポイントクックの事例(写真提供/泉山塁威さん)

この街は急激に郊外開発が進み、住宅がどんどん増えて人が移り住んできたベッドタウンで、コミュニティが希薄だったんです。そこで、「自分の街に住んでいる人を誰も知らないなんて嫌」と思った主婦2人が始めたのがきっかけ。元々は彼女たちが、仲間を募って始めたものなんです。今年はスポンサーもつき、法人化し、プロジェクトが発展しています。

この事例がすごいのは、主催する側のホストと、参加する側のゲストの境目があいまいなこと。「ヨガを教えたい」「ライブをやりたい」など、遊びに来た人が、今度は仕掛ける側にまわっていく。
FacebookなどSNSのツールを駆使して、共感や仲間を集めています。企画をやりたい人が集まってきたり、あるいは人同士をつなげることで、勝手に企画が始まる。ゲストの立場だけなら、数回足を運んで「楽しかったね」で終わりますが、ホストの立場も兼ねるなら、そのつながりは強くなります。

人工芝を敷き、ベンチ、パラソルを各自で持ち寄った。随時、さまざまなイベント情報がFacebookで紹介されている(POINT COOK POP UP PARK FACEBOOK)

人工芝を敷き、ベンチ、パラソルを各自で持ち寄った。随時、さまざまなイベント情報がFacebookで紹介されている(POINT COOK POP UP PARK FACEBOOK)

――確かに、イベントでは遠方からくるゲストと地元に暮らすホストは明確な境目がありますが、みんな同じ街に暮らすコミュニティが前提なら継続的になっていく可能性は高まりますね。

「パブリックスペース」が使えるという事例が増えてきているなかで、人が歩いている街で、人が休んだり、出会ったりする場所が大事だと思っています。そのためには、イベントのように、人を呼んで楽しませて終わり、ではなく、日常的にくつろげたり、楽しめたり、継続的に取り組む必要性があります。
前出の、オーストラリアのポイントクックの主婦の方もスキルのある「当事者市民」です。今後は行政も、民間企業だけでなく、当事者意識の高い市民を巻き込みながら、街を盛り上げてほしいですね。

ポイントクックの活動を始めた主婦2人と泉山さん。日本ではなかなか難しいストリートミューラル(横断歩道のカラフルなペイント)も、イベント時に「後で黒く塗って原状回復する」として街の風景に。日本では考えられない大らかさと交渉力だ(写真提供/泉山塁威さん)

ポイントクックの活動を始めた主婦2人と泉山さん。日本ではなかなか難しいストリートミューラル(横断歩道のカラフルなペイント)も、イベント時に「後で黒く塗って原状回復する」として街の風景に。日本では考えられない大らかさと交渉力だ(写真提供/泉山塁威さん)

●取材協力
『ソトノバ』編集長 泉山塁威さん
東京大学先端科学技術研究センター 助教/ソトノバ編集長/博士(工学)/認定准都市プランナー/タクティカル・アーバニスト/アーバンデザインセンター大宮|UDCO ディレクターほか/1984年札幌市生まれ/明治大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。エリアマネジメントやパブリックスペース利活用及び規制緩和制度、社会実験やアクティビティ調査、タクティカル・アーバニズムの研究及び実践にかかわる
>ソトノバ

古都鎌倉の街並みを守れ! 市所有「旧村上邸」を通じてSDGsを考える

旧いお屋敷や神社仏閣が残る街並みが魅力の、古都・鎌倉。その鎌倉市の景観重要建築物等に指定されている「旧村上邸」は、個人宅でありながら能舞台や茶室のある主屋、別棟の茶室、日本庭園が780坪(約2600m2)もの敷地に広がる、それは立派なお屋敷だ。そのお屋敷が鎌倉市に寄贈され、自治体SGDsモデル事業として新たな活用が検討されているという。筆者も鎌倉市民、気になるその検討現場を潜入レポートしてきた。
そもそも、「旧村上邸」ってどんな家?活用方法検討中の現場に潜入!鎌倉市の旧市街地のなかでもひときわ緑豊かで静かな環境が残る西御門エリアに建つ旧村上邸見学に自転車で駆け付けた。立派な門構えやたたずまいでスケールの大きさがひしひしと伝わってくる(写真撮影/長井純子)

鎌倉市の旧市街地のなかでもひときわ緑豊かで静かな環境が残る西御門エリアに建つ旧村上邸見学に自転車で駆け付けた。立派な門構えやたたずまいでスケールの大きさがひしひしと伝わってくる(写真撮影/長井純子)

1990年(平成2年)に景観重要建築物に指定された証に、門前には説明プレートが。これによると、築年は不詳ながら、1939年(昭和14年)以前の明治末期から大正にかけての建築と推定される(写真撮影/長井純子)

1990年(平成2年)に景観重要建築物に指定された証に、門前には説明プレートが。これによると、築年は不詳ながら、1939年(昭和14年)以前の明治末期から大正にかけての建築と推定される(写真撮影/長井純子)

鎌倉市が指定した景観重要建築物等は、「鎌倉文学館」(指定第1号)や「旧華頂宮邸」(同29号)といった名だたる観光名所など計33件。「旧村上邸」(同18号)は能舞台や茶室のある主屋、別棟の茶室、日本庭園が約780坪もの敷地に広がる、個人宅とは思えない規模の立派で美しいお屋敷だ。村上夫妻がお住まいになっていた時代は、ここに文化人を招いて、能・謡曲の会・茶会などを開催し、伝統文化を伝え、地域の人たちとも楽しむ、豊かで貴重な交流の場であったという。

主屋には個人宅とは思えない、荘厳かつ本格的な能舞台まであり、伝統文化を愛した先人の思いが伝わってくる(写真撮影/長井純子)

主屋には個人宅とは思えない、荘厳かつ本格的な能舞台まであり、伝統文化を愛した先人の思いが伝わってくる(写真撮影/長井純子)

2014年に亡くなった梅子夫人の「建物は壊さず、市民のために使ってほしい」との遺志から、2016年に土地と建物は寄贈され鎌倉市の所有に。最善の活用方法を模索していた市は、近隣住民や地元の民間企業などとの対話型市場調査を実施した結果、鎌倉の中でもひときわ閑静な周辺環境を守りつつ建物を活用するために、シェアオフィスや近隣自治会の集会所などとして活用する大方針を策定。公募型プロポーザル方式で募集し、事業主体者を決定して具体的運用の検討が始まった。

実はこの「旧村上邸」の活用案公募時、自分も市民として所属する団体で何かできればと見学に駆け付けた。しかし、想像をはるかに超えた規模の歴史ある建物を守り、活用しながら次の世代につないでいくためには相当のパワーが必要。現地を見学して荘厳さに圧倒されると同時に毎朝雨戸を全て開けるだけでも大変だと応募を断念した経緯があった。個人の手には負えないものの、民間の事業主体として選ばれたエンジョイワークスが市民も巻き込んで一緒に「旧村上邸」活用を考えるプロジェクトを立ち上げたと聞いて、さっそく参加してきた。

自治体SDGs未来都市に選ばれた鎌倉市のSDGsモデル事業でもある古民家活用

2019年5月の「旧村上邸オープン」に向けて、活用方法など詳細を検討する市民参加型のイベントは計8回。イベント内容についてはSNSに告知され、会場の規模次第ではあるものの定員は毎回30名ほどで、自由に参加表明でき、当日の様子も写真や動画などで確認できる。実はこのイベント参加を通じて、私は鎌倉市がSDGs未来都市に採択されていて、「旧村上邸」の活用もSDGsのモデル事業であるということも恥ずかしながら初めて知った。

ここ数年、ニュース等でよく耳にするようになった「SDGs(エスディジーズ)」。SDGsとは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年に国連で開かれたサミットで決められた国際社会共通の目標。17のグローバル目標と169のターゲットからなる具体的行動指針を2030年までに達成して持続可能な未来を実現するべく、国際社会全体で取り組んでいるのだ。

この目標を達成すべく、日本政府や日本企業も具体的に動き出している。2018年には内閣府地方創生推進事務局により全国から公募された中から、29の「SDGs未来都市」、および10の「自治体SDGsモデル事業」が選定された。身近なところでは、神奈川県、神奈川県横浜市、そして神奈川県鎌倉市が「自治体SDGsモデル事業含むSDGs未来都市」に採択されている。鎌倉市が推奨する「持続可能な都市経営『SDGs未来都市かまくら』の創造」のポイントは「経済」「社会」「環境」の連携で、この「旧村上邸」活用もそれを具体化するモデル事業なのだ。

鎌倉市HPより引用

鎌倉市HPより引用

「旧村上邸」をどう活かす?市民も自主参加で共創する白熱の検討プロジェクト市民参加検討イベント(第3回)は桜咲く地元の中学校を会場に、松尾崇鎌倉市長と清水千弘日本大学教授によるクロストーク。筆者はここで初めて鎌倉のSDGsへの具体的な取り組みを知った(写真撮影/長井純子)

市民参加検討イベント(第3回)は桜咲く地元の中学校を会場に、松尾崇鎌倉市長と清水千弘日本大学教授によるクロストーク。筆者はここで初めて鎌倉のSDGsへの具体的な取り組みを知った(写真撮影/長井純子)

では、企業研修場として運営開始までの市民参加イベントの状況をレポートしよう。「旧村上邸から持続的な都市経営を考える」と題した松尾崇鎌倉市長と清水千弘日本大学教授によるトークセッションでは、まずは清水教授から国際社会の視点から見た鎌倉の魅力と課題(新陳代謝で変化し続けることが結果的に伝統を守ることにもなる)について各国の具体事例をもとにお話しいただく。さらに松尾市長からは、鎌倉市の具体的なSDGsの取り組みについて伺うが、身近なはずなのに知らないことが多く驚く。その後も参加者である市民も交えて質疑応答があり、熱いトークが繰り広げられる。

ある時は鎌倉市役所最上階の眺めの良い会議室で、ある時は鎌倉で働く人のための食堂で、検討プロジェクトは積極参加の市民で毎回熱い議論に(右写真撮影/エンジョイワークス、左写真撮影/長井純子)

ある時は鎌倉市役所最上階の眺めの良い会議室で、ある時は鎌倉で働く人のための食堂で、検討プロジェクトは積極参加の市民で毎回熱い議論に(右写真撮影/エンジョイワークス、左写真撮影/長井純子)

全8回の市民参加のイベントでは、毎回検討テーマがきめられている。「活用方法アイデア出し」「どんなプロジェクト参加の形があるか」「場を活かす魅力的な企業研修」などなど。複数回参加していると、顔見知りの人も出てくるが、初参加の人も1/3くらいはいて顔ぶれは入れ替わる。参加の動機を伺うと、「地域活動」「街づくり」「SDGs」「古民家」などに興味のある市民や、「鎌倉が好き」という市外の方も。

この市民参加型の活用方法検討イベントとは別に、維持運用にかかるコストをクラウドファンディングで資金調達するための検討イベントもある。どちらも参加者は自主的に集まっているだけあり、皆熱く発言するので、時間がいつも足りないほど白熱。意見も実に的確で、想像するに皆さん専門分野でご活躍の方々なのだろう。そして、参加するほどに「旧村上邸に愛着がわいてきた」という。実は筆者もその一人。

これから公開までプロジェクトは続くが、ますます参加者は「旧村上邸」も「SDGs」が他人ごとでなく、自分ごとになっていくことだろう。これらの意見が集約され、具体的にどのように企業研修の場として生まれ変わってお披露目されるのか。いまから発表が楽しみだ。

●取材協力
・エンジョイワークス(事業主体)
・旧村上邸について(鎌倉市HPより)
・「旧村上邸」アップデートプロジェクト

賃貸団地をDIY工房に! 世代や地区を超え、DIYが住民をつなぐ!?

この春、大阪府堺市の大規模賃貸住宅団地「茶山台団地」の一角がDIY工房「DIYのいえ」として生まれ変わった。賃貸住戸をあえて工房に転換させた狙いとは?
団地の空き住戸がDIY工房に変身した!

大阪府堺市・泉北ニュータウンにある総戸数930戸の賃貸住宅団地「茶山台団地」、その一角の空き住戸を使い、「賃貸住宅でも行えるDIY」の普及拠点として2019年2月に誕生したのがDIY工房「DIYのいえ」だ。工房スペースがあり、工具の貸し出し、ワークショップや相談室が随時行われるほか、関連書籍やDIY作品見本の展示、団地サイズに合わせたDIYパーツの販売も行われている。

ワークスペースには電動ノコギリや各種ツールも完備(写真撮影:井村幸治)

ワークスペースには電動ノコギリや各種ツールも完備(写真撮影:井村幸治)

団地の1階、2住戸を利用して「DIYのいえ」がつくられている(写真撮影:井村幸治)

団地の1階、2住戸を利用して「DIYのいえ」がつくられている(写真撮影:井村幸治)

大阪府住宅供給公社の小原旭登氏も「公社ではDIYを施した部分の原状回復義務を緩和する『団地カスタマイズ』制度があり、入居者にはDIYをある程度残したままでも退去可能なので気兼ねなくチャレンジいただけます。2017年1月の開始から約2年間で225件の申し込みがありました」と注目度の高さを語る。
「DIYのいえ」は周辺住民や入居検討中の人など、団地住民以外の利用も可能なので、地域コミュニティを活性化させる拠点になることも期待されているようだ。
実際に2月16日のオープニングには電動ノコ体験や子ども向けのワークショップも行われ、多くの人でにぎわった。

2月16日オープン時には女性も電動ノコギリに挑戦、子どもたちはフォトフレームづくりに参加(写真提供:大阪府住宅供給公社)

2月16日オープン時には女性も電動ノコギリに挑戦、子どもたちはフォトフレームづくりに参加(写真提供:大阪府住宅供給公社)

畳スペースにはおもちゃも用意されている(写真提供:大阪府住宅供給公社)

畳スペースにはおもちゃも用意されている(写真提供:大阪府住宅供給公社)

団地外からも参加者が! 早くもコミュニティ誕生の兆し

3月16日には「内窓フレームづくり体験」のワークショップが開催された。内窓フレームとは、既存窓の内側に簡易的な窓を追加することによって空気層をつくり、結露対策や断熱性のアップ、防音効果を高めようというもの。

戸車付きの内窓フレームキット「I・W・F」を使い、ワーク用に用意されたミニサイズの窓枠に合わせて製作を進める。手順は
1)メジャーでサイズを測り、プラスチックとアルミ製のフレームを金ノコなどで切断していく。
2)バリ(切断面の出っ張り)をやすりで削って組み立て、フレームの枠をつくる。
3)プラ板(中空ポリカーボネート)をカットし、両面テープでフレームに貼り付けていく。
4)戸車を付けて内窓フレームに設置…という流れだ。

作業自体は難しくないが、金ノコでアルミを切断する作業は女性陣が少し苦戦していた(写真撮影:井村幸治)

作業自体は難しくないが、金ノコでアルミを切断する作業は女性陣が少し苦戦していた(写真撮影:井村幸治)

子ども連れで参加された団地の住人Aさんに感想をお聞きした。
「DIYはほとんど経験がなく、アルミを切るのは大変だったけど、もっとやってみたいと思いました。子どもが小さくても遊べるスペースがあるので助かります! 団地の友人たちも参加したいって言っていますし、次回もテーマと時間が合えばぜひ参加したいです!」とのこと。

フレームの下に戸車を付けるときにはピッタリとはまって「おおーっ!」という歓声が♪(写真撮影:井村幸治)

フレームの下に戸車を付けるときにはピッタリとはまって「おおーっ!」という歓声が♪(写真撮影:井村幸治)

もうひと組の参加者、団地外から参加されたというBさんご夫妻は十数年間のアメリカ在住経験があるそう。「アメリカでは DIY が当たり前でした。現在は近くの一戸建て住宅に住んでいるのですが、賃貸なのであまり大きくDIYができません。ワークショップがあることを Facebook で知って参加したのですが、こんな内窓のキットがあるなんて知らなかった! 今後もいろいろやってみたいと思います」とのこと。

金ノコなど工具の扱いも手慣れたご様子(写真撮影:井村幸治)

金ノコなど工具の扱いも手慣れたご様子(写真撮影:井村幸治)

ワークは約1時間で終了し、無事に内窓が完成!
その後Bさんは「内窓フレームにはプラ板ではなくて網を貼って網戸にしてもいいかも。すりガラスタイプにすれば間仕切りにもできるし、シェルフの目隠しにもなりそう!」と、思いついたアイデアを相談されていた。 

素晴らしい!  

DIYは決められたやり方にこだわる必要はない。自分でどんどんアイデアを加えてオリジナリティーを出していけばいい、それが DIYの魅力だ 。今後はさらにコミュニティが広がり、より個性あふれる作品が誕生するのではないだろうか。みなさん、頑張って!

DIYの普及とともに、シニア層の活躍の場づくりを目指す

今回取材を行った茶山台団地は大阪府住宅供給公社が管理する全28棟の大規模賃貸住宅団地だ。1971年に入居が開始され、約800戸の入居世帯のうち契約名義人65歳以上の世帯が46%を占めるなど(2019年1月時点)入居者の高齢化が進んでいる。団地の一室を利用した惣菜屋さん「やまわけキッチン」、野菜などの移動販売「ちゃやマルシェ」、集会所を利用した「茶山台としょかん」、DIYリノベーションスクールの開催やDIYリノベーション住戸の賃貸募集、2住戸を合体させた「ニコイチ」の募集など、さまざまな「団地再生プロジェクト」が実施されているモデル団地でもある。

一方で、大阪府住宅供給公社の小原旭登氏は今後の課題を以下のように述べた。「ただ、利用者は40代までの若年層が中心で、団地居住者の半数以上を占める60代以上のシニア世代には浸透していないのが現状です。だからこそ、「DIYのいえ」を拠点とした世代間の交流を促し、将来的には団地居住のシニア層にこの施設のスタッフとして活躍してもらうことで、生きがいづくりにもつなげていければと考えています」

DIYで仕上げた突っ張りタイプのツールを使ったデスク&テレビ台の組み立て見本が展示されている(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げた突っ張りタイプのツールを使ったデスク&テレビ台の組み立て見本が展示されている(写真撮影:井村幸治)

団地押入れサイズにDIYで仕上げた収納用カート(写真撮影:井村幸治)

団地押入れサイズにDIYで仕上げた収納用カート(写真撮影:井村幸治)

トイレの壁面を利用した収納スペースなどDIYのヒントもたくさん(写真撮影:井村幸治)

トイレの壁面を利用した収納スペースなどDIYのヒントもたくさん(写真撮影:井村幸治)

団地のキーマンにも参加してもらい、技術を継承していきたい

「DIYのいえ」の運営を担当しているカザールホーム代表の中島久仁氏も、
「もっともっとDIY が浸透してほしいと思い、試行錯誤しながら活動しています。ここではツールのレンタルもおこなっていますが、団地内の DIY だけを考えるサンダーや丸ノコといった本格的な工作ツールは必要なく、もっとシンプルなツールだけでもいいのかもしれません。そこも含めて試行錯誤中です」と展望を語る。

「団地に暮らすシニアには、現役のときにさまざまな分野でプロ&職人として活躍された方もいらっしゃいます。そうした人たちの技を、若い人たちに伝えていけるような場になればいいと思っています。団地内の惣菜屋さん「やまわけキッチン」のDIY改装をサポートさせていただいた際には団地住民のリーダー的な方がいらっしゃいました。そんなキーマンとなる方と一緒に活動していきたいと考えています」(中島氏)

「DIYのいえ」はひとまず8月までの期間限定での活動だ。今回のワークショップにも高齢者の女性の方が見学に訪れていたが、DIYがちょっと気になっているけど、きっかけがない……という人もいるだろう。そんな人たちが気軽に参加してくれるようになれば、地域のDIYコミュニティも拡大し新たな活動へとつながっていきそうだ。

若い人からシニア世代まで、それぞれの人の暮らしをもっとより良いものに変えていきたいとおっしゃる中島氏(写真撮影:井村幸治)

若い人からシニア世代まで、それぞれの人の暮らしをもっとより良いものに変えていきたいとおっしゃる中島氏(写真撮影:井村幸治)

北側の部屋には養生用のビニールシートも用意されており、塗装やペンキ塗りの作業にも活用できる(写真撮影:井村幸治)

北側の部屋には養生用のビニールシートも用意されており、塗装やペンキ塗りの作業にも活用できる(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げたボックス(写真撮影:井村幸治)

DIYで仕上げたボックス(写真撮影:井村幸治)

世代やライフスタイルを超えたDIYのつながりで、暮らしを豊かに

この先、「DIYのいえ」では襖張りやペンキ塗り、壁塗りのワークショップも予定されている。日程が合えば工房としても利用でき、工房前の駐車場も利用可能。大きな材料を持ち込んだりまた運び出したりということもできるそうだ。

ワークショップの参加者には友人を誘いたいという人もいれば、アメリカのDIY文化に触れたことがある人もいた。DIYに興味をもつ若年層だけでなく、豊富な人生経験や匠の技をもつ団地住民、周辺に暮らすさまざまなライフスタイルの地域住民が「DIYのいえ」を通じてつながっていくことできれば素敵なことだと思う。それぞれの暮らしが豊かに変わっていく拠点、コミュニティの中心となる場所。そんな役割を「DIYのいえ」が担ってくれることに期待したい。

●店舗情報
「DIYのいえ」
堺市南区茶山台2丁1番 茶山台団地16号棟1階101・102号室
運営時間やワークショップについてはこちら
https://www.facebook.com/diynoie/
TEL:0120-45-8540●内窓フレームに関してのお問い合わせ
和気産業株式会社 EC事業部(直通)
TEL:06-6723-5060(平日9:30~17:00)

台湾の家と暮らし[1] 若手アーティスト夫婦のインダストリアルなDIY賃貸アトリエ in台北

私、柳沢小実は、暮らしや旅について書いているエッセイストです。旅歴はかれこれ30年以上で、一人旅歴は18年。ヨーロッパや北欧への旅を経て、いつしか年に何回も台湾を旅するようになりました。1年のうち1カ月以上は台湾という生活を何年も続けるうちに、現地の友達ができて、家や暮らし方を垣間見る機会が増えました。彼らは好奇心旺盛で前向きで、行動力もある。DIYもいとわず、インテリアは足し算が上手です。
今回は、台湾で素敵な暮らしを送る3軒におじゃましてきました。1軒目は、ブランディングデザイナーのピーター(28)と、イラストレーターのロージー(31)夫妻が台北中心部に借りているアトリエへ。収納が少なくてもまとまりのある部屋づくり、日本との文化の違い、外で買ってくる朝ごはんのこと、自分たちらしい結婚式写真などについて、お話を伺いました。連載名:台湾の家と暮らし
雑誌や書籍、新聞などで連載を持つ暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんは、年2回は台湾に通い、台湾についての書籍も手掛けています。そんな柳沢さんは、「台湾の人の暮らしは、日本人と似ているようでかなり違って面白い」と言います。柳沢さんと台北へ飛んで、自分らしく暮らす3軒の住まいへお邪魔してきました。ピーター&ロージー夫妻と、朝ごはんを買いにいく(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

朝10時。ブランディングデザイナーのピーターと、イラストレーターのロージー夫妻と、朝ごはん屋さんで待ち合わせ。台湾の朝ごはんは、豆漿・鹹豆漿(豆乳)や蛋餅(卵を挟んだクレープ)、飯糰(具だくさんのおにぎり)などが伝統的なメニューですが、近年は三明治(サンドイッチ)も人気です。若い人たちは朝から外で食べたり買ったりすることも多く、二人もそう。
だから、台北市内で最も都会的なこのエリアでさえ、一本裏道に入ると、昔ながらの朝ご飯屋さんや食堂が軒を連ねています。なんだか、ホッとする。人が働き、住み、食べる場所がすべて混ぜこぜだから、都会でも無機質にならず、程よい雑多さがあります。

「内用? 外帯?(店で食べる? 持ち帰る?)」
「外帯!(持ち帰ります)」
さあ、朝ごはんを持ち帰って、アトリエで食べながら話を聞きましょう。

ピーターとロージーのアトリエへお邪魔します!パートナーを大切にする台湾男子は、かいがいしく働く。ピーターも料理上手(写真提供/KRIS KANG)

パートナーを大切にする台湾男子は、かいがいしく働く。ピーターも料理上手(写真提供/KRIS KANG)

台湾の伝統的な朝ごはん(写真提供/KRIS KANG)

台湾の伝統的な朝ごはん(写真提供/KRIS KANG)

台湾製の古いグラス(写真提供/KRIS KANG)

台湾製の古いグラス(写真提供/KRIS KANG)

休日のひだまりのような、ほのぼのした雰囲気の二人は、昨年入籍したばかりの新婚夫婦。彼らは2015年から、友人と3人でこのアトリエを持っています。場所は台北市内の中心地で、駅前の大通りに面したオフィスビルの一角。もうひとりのメンバーのお父様が不動産屋さんで、その元オフィスを借りています。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

台湾の首都、台北市の広さは東京都23区の40%くらい。人口は2018年の時点で267.4万人ですが、台湾の人は職場のすぐそばなど便利なところに住みたがる傾向があるためか、中心部に一極集中。よって、台北市内の住宅はほぼマンションです。一般的にはエレベーターのない5階建てくらいの建物が多く、近年は高級な高層マンションも増えています。
台北ではマンションの価格が大幅に高騰しており、データではここ5年は減少傾向も見られるものの、15年前の3倍ほどになっていると聞きました(※)。そのため、20~40代の友人・知人の多くは、賃貸マンションや実家住まいです。ピーターとロージーも、普段は台北市の隣の新北市にあるそれぞれの実家で暮らしています。

台北の家賃の目安は、一人暮らしは12000元(約43000円)、二人暮らしだと20000元(約72000円)ほど。沖縄と似た気候の台湾では、入浴はシャワーが主で、バスタブは付いていたりいなかったり。また、外食文化が定着していて日本ほど自炊をしないため、学生が住む小さな部屋などにはキッチンが付いていないこともあります。

アトリエの間取り(イラスト提供/Rosy Chang)

アトリエの間取り(イラスト提供/Rosy Chang)

台湾では賃貸物件でもDIYできることは日本よりも一般的。賃貸物件の改装の可否は、貸主との話し合い次第だそう(一般的に原状回復は不要だけれど、貸主によっては必要な場合も)ですが、彼らは改装の許可をもらって、壁を取り払い、天井を抜き、キッチンはピーターがデザインして大工さんに施工を依頼。また、オフィス物件でお風呂がなかったため、シャワーも付けました。窓際の長テーブルや本棚、作業テーブルなどの家具は、美大時代の友人につくってもらったものです。

料理をするピーターが設計したキッチン。手前に作業台があるので、調理しやすい(写真提供/KRIS KANG)

料理をするピーターが設計したキッチン。手前に作業台があるので、調理しやすい(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

この部屋は収納のないワンルーム。アトリエということもあってほぼ見せる収納になっていますが、物が多くても乱雑に見えないのはアーティストである彼ららしいバランス感覚と色づかいゆえ。例えば調理家電と鍋の色をベージュでそろえていたりと、色数を絞って似たトーンでまとめているのでうるさくない。さし色はオレンジと時々ブルー。見せる収納のヒントが満載です。

窓際に置いてあるセサミストリートの照明器具は、閉園する幼稚園からもらってきた(写真提供/KRIS KANG)

窓際に置いてあるセサミストリートの照明器具は、閉園する幼稚園からもらってきた(写真提供/KRIS KANG)

この扇風機、欲しい!(写真提供/KRIS KANG)

この扇風機、欲しい!(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

台湾の人を見ていてすごいなと感じるのは、柔軟な発想と行動力。面白そうなら、とりあえずすぐにやってみる。だから、部屋づくりに関しても自由で、想像力が豊か。さまざまな要素をミックスした足し算と、お金をかけずに楽しむのも上手で、ピーターとロージーも、DIYやアンティークショップ、オークションサイト、蚤の市など、ありとあらゆる方法で、自分たちの空間に合うものを探しています。

さりげなくコラージュした紙類も、素敵なインテリアに(写真提供/KRIS KANG)

さりげなくコラージュした紙類も、素敵なインテリアに(写真提供/KRIS KANG)

本棚には日本の雑誌がずらっと並んでいる(写真提供/KRIS KANG)

本棚には日本の雑誌がずらっと並んでいる(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

彼らの行動力は結婚写真などにも表れていて、お仕着せのウェディング写真ではなくて、自分たちが好きな服とシチュエーションでカメラマンさんに撮ってもらったそう。まるで写真集のような、一生の宝物になる美しい本です。
「みんながそうしているから」「これが普通だから」にとらわれず、台湾の人らしい行動力とアーティストならではのセンスで、「やればできる」「やってみよう」と行動に移すっていいなと、強く感じました。

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

(写真提供/KRIS KANG)

今はそれぞれ実家暮らしをしながらアトリエを持っている二人ですが、結婚を機に一緒に暮らせる部屋を探しています。取材後も一軒内覧しに行くのだと、うれしそうに話していました。今後、彼らの暮らしがどう変わっていくのか、とても楽しみです。

※参考資料:日本不動産研究所「第 11 回「国際不動産価格賃料指数」(2018 年 10 月現在)の調査結果」

●取材協力
Peter
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Rosy Chang
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2019 「SUUMO住みたい街ランキング」関西版発表! 総合1位は引き続き「西宮北口」

株式会社リクルート住まいカンパニー(本社:東京都港区 代表取締役社長:淺野 健)は、関西圏(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の男女4600 人を対象にインターネットによるアンケート調査を実施。「SUUMOみんなが選んだ住みたい街ランキング2019 関西版」を発表した。果たして、気になる順位は?
圧倒的な強さを見せる「西宮北口」。「夙川」「岡本」「京都」のランクアップにも注目住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街ランキング2019関西版のTOP3は「西宮北口」「梅田」「神戸三宮」

SUUMO「住みたい街(駅)」関西版ランキング2019のTOP3に輝いたのは、前年と変わらず第1位が「西宮北口」、続いて第2位「梅田」、第3位「神戸三宮」。順位は前年と同じであっても、注目すべきはその得点にある。上位3位の街はすべて前年より点数を伸ばし、人気がさらに高まっていることが分かる。年代別ランキングでも、どの世代でも同じ順位で、この3エリアが幅広い世代に支持されていることがうかがい知れる。

住みたい街(駅)年代別ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)年代別ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

「阪急西宮ガーデンズ」のリニューアルでさらに好感度があがる「西宮北口」

兵庫県「西宮北口」には、昨年11月に開業10周年を迎えたショッピングモール「阪急西宮ガーデンズ」がある。現在、開業以来2度目となる大きな改装工事の計画が進み、特に駅と直結する新館は、関西学院大による小学生向けの放課後学習支援施設が開かれるなど、ファミリー世代を意識したテナントが目立つ。

また駅の高架下には新たに認可保育所が開所する予定だ。西宮市は関西「住みたい自治体ランキング」(SUUMO調べ)でも例年1位を獲得しており、人気の高さがうかがい知れる。

住みたい自治体ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい自治体ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

北ヤードの開発、相次ぐ周辺の新築マンション供給で拡大する「梅田」エリア

第2位「梅田」は現在、繁華街である曽根崎の小学校跡地にタワーマンションの建設が進んでいる。完成すれば56階建て、総戸数836というスケールとなる。分譲ではなく関西最大級の大型賃貸マンションで、「梅田駅まで徒歩5分圏内に住む」という生活が夢ではなくなる。他にも、中津、中崎町、福島など梅田駅周辺でも新築マンション供給が続いており、商業地域としてだけでなく、居住エリアとしての梅田圏も拡大してきている。

「梅田」のほか、地下鉄御堂筋線は「なんば」「天王寺」「江坂」と、直通する北大阪急行線「千里中央」も合わせるとTOP10に5駅がランクインした。地下鉄御堂筋線が大阪の、ひいては関西の背骨の役目を果たしている現況が見て取れる。

再整備計画の全容が見えはじめ、注目を集める「神戸三宮」

第3位は「神戸三宮」だ。この駅に降り立つたびに、街の様相が大きく変化していることに驚かされる。JR、阪急、阪神、地下鉄西神・山手線、地下鉄海岸線、ポートライナーと6つもの駅からなる三宮エリア。この6つの駅をひとつの街としてイメージづくりをするべく2015年に策定された「三宮・再整備基本構想」がいよいよ可視化できる状態となった。

また、「夙川」「岡本」のランクアップにも注目。「夙川」は昨年の6位から5位へ、「岡本」は昨年の8位から6位へ順位が上昇した。ともに阪急神戸線の駅であり、阪神間を代表する人気の閑静な住宅街だ。

第5位の阪急「夙川駅」の近くにはJR「さくら夙川」駅があり、また第6位の「岡本」には、阪急「岡本」駅からさほど離れていないJR「摂津本山」駅には駅ナカに多くのショップ群が開業。駅前広場も拡大し周辺整備された。岡本はもともと学生街ゆえに比較的家賃が安く、加えて南東約1キロ圏内に大手スーパーが軒を連ね、暮らしやすい。

インバウンド効果で再評価される「京都」

また、「嵐山」「烏丸」「京都」などが、観光ブームにより再認識された。一方、京都市内は地価が高騰し続けており、一般の人が住むには手が届きにくくなっている。その中で「桂」は市街地中心部からは離れるが、隣駅洛西口の京都府最大規模のイオンスタイル京都桂川ができ商業利便性が高い上に、大阪に約40分、京都には約10分と足回りが良く、住宅価格も手の届く範囲、ということが京都の地元民に支持されているようだ。

住みたい街(駅)総合ランキングトップ11~25(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)総合ランキングトップ11~25(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

「明石」「尼崎」の躍進

11位以下で特筆すべきは、31位から21位と急上昇した「尼崎」と、同じく34位から25位の「明石」。このふたつの街に共通している点は、ファミリー層に対する行政サービスの充実。「尼崎」は保育所の増設や学力向上を図り、2016年からは3年連続で転入者が転出者をうわまわった。新築マンションの供給も多く、かつての工場地帯という印象は年々薄れていっている。

また、「明石」も近年「子どもを核にしたまちづくり」を掲げ、中学生までの医療費無料化や第二子以降の保育料無料化など子ども施策を次々と打ち出し、人口も出生率も上昇。このように行政サービスと「住みたい街」の順位は、やはり比例するようだ。

「穴場だと思う街」でも第1位の「尼崎」。「大国町」が24位から6位に大躍進[関西] 穴場だと思う街(駅)ランキング(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

[関西] 穴場だと思う街(駅)ランキング(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

続いては「穴場だと思う街(駅)」ランキングを見てみよう。

穴場だと思う街の1位に輝いたのは「尼崎」。前述のとおり「住みたい街」でも順位を上げた尼崎市は、今年1月24日、人口が9年ぶりに増加に転じたと発表。近年JR尼崎駅周辺はマンションや住宅の供給が増え、それにともない地元の小学校が増棟されるなど、さらに活性化している。市が進める教育や子育てに重点を取り組みが評価され、住みやすい街というイメージが定着したようだ。

滋賀県「草津」はタワーマンション「アトラスタワー草津」などの分譲マンションの供給が注目されている。

もっとも刮目すべきは24位から6位にまで昇進した「大国町」。大阪メトロ御堂筋線と四ツ橋駅の両方を利用することができ、「なんば」まで徒歩圏内と利便性の高さには定評がある。今年大規模なリニューアルが計画されている「なんばCITY」など、周辺はトレンド情報に事欠かない。

それにしても「穴場」というカテゴリーでさえ「西宮北口」が32位から第5位に食い込んでいる事実に驚かされる。ニシキタはそれだけ街が多面的で多様な魅力に富んでいるのだろう。

このように「住みたい街(駅)ランキング関西版」を見返してみると、鉄道の利便性に重きを置く傾向がさらに強まっているのではないかと考えられる。今年全線が開業したJR「おおさか東線」や2020年度に延伸の工事を終える予定の「北大阪急行線」が、今後ランキングにどのような変化をもたらすのか、注目したい。

東京23区の家賃相場が安い駅ランキング! 一人暮らしの人必見

東京は家賃が高いといわれますが、場所や条件次第では、東京にも穴場の地域があります。今回は、23区のターミナル駅や神奈川、埼玉の近郊駅などから主に一人暮らしにぴったりなワンルーム・1K・1DKの物件を対象とした家賃相場が安い駅をピックアップ。それぞれの駅の家賃相場や特徴をご紹介します。
東京23区内&山手線の家賃相場が安い駅ランキング

ランキングの約半数を占めたのは足立区の駅

ランキングTOP10を占めたのは、板橋区や江戸川区、足立区、葛飾区といった、23区の北側・東側の区にある駅でした。これらの区は、都心からはやや距離があるため、比較的家賃相場がリーズナブルなイメージがありますが、実際にもそのとおりの結果となりました。

相場ランキング1位は、西高島平駅(板橋区)で5.55万円。西高島平駅からJR山手線巣鴨駅まで22分、都心の大手町駅までは35分と都心に出やすいうえ、三田線の始発駅のため、座って通学・通勤することができます。

3位の北綾瀬駅(足立区)も5.9万円と5万円台で住むことができ、日比谷や大手町などのビジネス街まで約30分、原宿や表参道など人気の地域にも乗り換えなしに行ける便利な駅です。千代田線の支線という扱いのため隣の綾瀬駅で乗り換えが必要というところがややネックでしたが、今年の3月16日から乗り換えなしの直通運転が始まることで、ますます便利に。割安な家賃で便利な場所に住みたいという人にとって、要チェックな駅になりそうです。

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【2018年】東京23区内の家賃相場が安い駅ランキング

繁華街に住みたいのであれば池袋駅が狙い目

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

東京23区内ランキングでは、ひとつもランクインしていなかった山手線の駅。それもそのはず、山手線の駅は一番安い田端駅で8.10万円と、23区内の平均と比較すると約2.6万円高い結果となりました。とはいえ都心部をぐるりと回る山手線は本数も多く便利な路線。そう考えると10万円以下で住めるのは、考え方によっては安いといえるかもしれません。
利便性が高いターミナル駅では、唯一、池袋駅(同率7位)がランクイン。ほかのターミナル駅が11万円を超えるところ、池袋は8.60万円とお手ごろ。交通アクセスがよく、商業施設が充実している繁華街の近くで生活したい人は、検討すべきエリアといえそうです。

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山手線29駅の家賃相場が安い駅ランキング! 2018年版

利便性が大きいターミナル駅から30分以内の家賃相場ランキング(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

路線の選択肢が多いターミナル駅周辺は、住むと何かと便利です。電車だけでなく、高速バスや深夜バスなどのバスターミナルもあり、各地に行く選択肢が多いことも見逃せません。特に利用者数が多いのが、東京駅、渋谷駅、新宿駅、品川駅、池袋駅。なかでも19位まで5万円台が続く池袋駅に住むのが一番家賃を抑えられそうです。とはいえどのターミナル駅も、6万円台の物件がありますので、自分の通学・通勤場所に行くのに便利でかつ、暮らしに合う駅を見つけてくださいね。

日本を代表するターミナル駅、東京駅

東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅は、1位の南船橋駅(5.6万円)を筆頭に、千葉エリアが多くトップ10入りを果たしました。これは、JR総武線や京葉線の特急や快速があり東京駅までの所要時間が短いこと、乗り換えなし1本で通えることが影響しています。

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「東京駅」まで30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

流行最先端の街代表、渋谷駅

渋谷駅まで30分以内の家賃相場が安い駅のトップ3は、神奈川県川崎市の駅が占めました。1位は小田急線の急行や通勤急行も停まる向ヶ丘遊園駅(6万円)。新宿にも乗り換えなしで30分以内と、交通利便性が高い駅でもあります。

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「渋谷駅」まで電車で30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

日本屈指の繁華街、新宿駅

新宿駅まで30分以内の家賃相場が安い駅トップは、京王相模原線の稲城駅(4.8万円)です。稲城駅のある稲城市は、駅から少し歩けば畑なども目立つ緑豊かな街。駅前周辺にはマンションが多いので、単身者もファミリー層も暮らしやすい街といえそうです。

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「新宿駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

新幹線が停まり空港へのアクセスもよい品川駅

品川駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキングは、横浜市の駅が多くランクインしました。トップは保土ヶ谷駅の5.63万円。保土ヶ谷駅はJR横須賀線が通っており、乗り換えなしで品川駅まで行くことができます。逆方向の鎌倉駅へは乗り換えなしで約20分と便利な位置にあり、相鉄線の天王町駅までも約1km、2路線を使うことも可能です。

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「品川駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

東京の三大繁華街のひとつにある池袋駅

池袋駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキングのトップは東武東上線・上福岡駅で、家賃が4.4万円。5つのターミナル駅のなかでは最安値という結果となりました。その後も5万円(同・柳瀬川駅)、5.1万円(同・鶴瀬駅)と続きます。ランキング上位には東武東上線と西武池袋線が目立ちました。

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「池袋駅」まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキング 2019年版

東京近郊の人気都市、横浜・大宮から30分以内の家賃相場ランキングまとめ(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

東京への便が良く、場所によってはベッドタウンとしての側面が強い神奈川県と埼玉県。今回ピックアップする「関東 SUUMO住みたい街ランキング2019」で1位の横浜、4位の大宮は、言わずと知れた、神奈川県と埼玉県を代表する都市です。どちらも東京に比べると家賃相場が安いので、家賃を抑えつつ便利な暮らしをしたい場合には、ぜひ検討してみましょう。

首都圏屈指の観光地、横浜

横浜駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキングのトップは、京急本線の安針塚駅(4.65万円)でした。所在地は横須賀市なので横浜エリアとは少し言いづらいかもしれませんが、依然豊かでのどかな雰囲気の街です。横浜駅までの所要時間がわずか4分と最短なのが、ブルーライン・三ツ沢上町駅と、相鉄本線・星川駅(5.5万円)。三ツ沢上町駅は東京駅まで約30分と交通アクセスも便利です。星川駅は横浜駅まで4駅ありますが、快速を利用すれば1駅。現在再開発が進められ、すでに隣駅の天王町駅との間はすべて高架化されたため、街の安全性も向上しています。

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「横浜駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2019年版

“埼玉ディス”で話題の埼玉

大宮駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキングは、3.5万円~5.08万円とリーズナブルな結果に。1位の東武野田線の藤の牛島駅は、特急や急行列車が停まる春日部市の駅です。ほか、東武野田線からは八木崎駅(4万円)、岩槻駅(4.8万円)、南桜井駅(4.85万円)などがランクイン。

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「大宮駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2019年版

【2019年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング! 一人暮らしの人必見

東京は家賃が高いといわれますが、場所や条件次第では、東京にも穴場の地域があります。今回は、23区のターミナル駅や神奈川、埼玉の近郊駅などから主に一人暮らしにぴったりなワンルーム・1K・1DKの物件を対象とした家賃相場が安い駅をピックアップ。それぞれの駅の家賃相場や特徴をご紹介します。
東京23区内&山手線の家賃相場が安い駅ランキング

ランキングの約半数を占めたのは足立区の駅

ランキングTOP10を占めたのは、板橋区や江戸川区、足立区、葛飾区といった、23区の北側・東側の区にある駅でした。これらの区は、都心からはやや距離があるため、比較的家賃相場がリーズナブルなイメージがありますが、実際にもそのとおりの結果となりました。

相場ランキング1位は、西高島平駅(板橋区)で5.55万円。西高島平駅からJR山手線巣鴨駅まで22分、都心の大手町駅までは35分と都心に出やすいうえ、三田線の始発駅のため、座って通学・通勤することができます。

3位の北綾瀬駅(足立区)も5.9万円と5万円台で住むことができ、日比谷や大手町などのビジネス街まで約30分、原宿や表参道など人気の地域にも乗り換えなしに行ける便利な駅です。千代田線の支線という扱いのため隣の綾瀬駅で乗り換えが必要というところがややネックでしたが、今年の3月16日から乗り換えなしの直通運転が始まることで、ますます便利に。割安な家賃で便利な場所に住みたいという人にとって、要チェックな駅になりそうです。

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【2018年】東京23区内の家賃相場が安い駅ランキング

繁華街に住みたいのであれば池袋駅が狙い目

(写真/PIXTA)

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東京23区内ランキングでは、ひとつもランクインしていなかった山手線の駅。それもそのはず、山手線の駅は一番安い田端駅で8.10万円と、23区内の平均と比較すると約2.6万円高い結果となりました。とはいえ都心部をぐるりと回る山手線は本数も多く便利な路線。そう考えると10万円以下で住めるのは、考え方によっては安いといえるかもしれません。
利便性が高いターミナル駅では、唯一、池袋駅(同率7位)がランクイン。ほかのターミナル駅が11万円を超えるところ、池袋は8.60万円とお手ごろ。交通アクセスがよく、商業施設が充実している繁華街の近くで生活したい人は、検討すべきエリアといえそうです。

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山手線29駅の家賃相場が安い駅ランキング! 2018年版

利便性が大きいターミナル駅から30分以内の家賃相場ランキング(写真/PIXTA)

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路線の選択肢が多いターミナル駅周辺は、住むと何かと便利です。電車だけでなく、高速バスや深夜バスなどのバスターミナルもあり、各地に行く選択肢が多いことも見逃せません。特に利用者数が多いのが、東京駅、渋谷駅、新宿駅、品川駅、池袋駅。なかでも19位まで5万円台が続く池袋駅に住むのが一番家賃を抑えられそうです。とはいえどのターミナル駅も、6万円台の物件がありますので、自分の通学・通勤場所に行くのに便利でかつ、暮らしに合う駅を見つけてくださいね。

日本を代表するターミナル駅、東京駅

東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅は、1位の南船橋駅(5.6万円)を筆頭に、千葉エリアが多くトップ10入りを果たしました。これは、JR総武線や京葉線の特急や快速があり東京駅までの所要時間が短いこと、乗り換えなし1本で通えることが影響しています。

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「東京駅」まで30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

流行最先端の街代表、渋谷駅

渋谷駅まで30分以内の家賃相場が安い駅のトップ3は、神奈川県川崎市の駅が占めました。1位は小田急線の急行や通勤急行も停まる向ヶ丘遊園駅(6万円)。新宿にも乗り換えなしで30分以内と、交通利便性が高い駅でもあります。

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日本屈指の繁華街、新宿駅

新宿駅まで30分以内の家賃相場が安い駅トップは、京王相模原線の稲城駅(4.8万円)です。稲城駅のある稲城市は、駅から少し歩けば畑なども目立つ緑豊かな街。駅前周辺にはマンションが多いので、単身者もファミリー層も暮らしやすい街といえそうです。

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新幹線が停まり空港へのアクセスもよい品川駅

品川駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキングは、横浜市の駅が多くランクインしました。トップは保土ヶ谷駅の5.63万円。保土ヶ谷駅はJR横須賀線が通っており、乗り換えなしで品川駅まで行くことができます。逆方向の鎌倉駅へは乗り換えなしで約20分と便利な位置にあり、相鉄線の天王町駅までも約1km、2路線を使うことも可能です。

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東京の三大繁華街のひとつにある池袋駅

池袋駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキングのトップは東武東上線・上福岡駅で、家賃が4.4万円。5つのターミナル駅のなかでは最安値という結果となりました。その後も5万円(同・柳瀬川駅)、5.1万円(同・鶴瀬駅)と続きます。ランキング上位には東武東上線と西武池袋線が目立ちました。

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東京近郊の人気都市、横浜・大宮から30分以内の家賃相場ランキングまとめ(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

東京への便が良く、場所によってはベッドタウンとしての側面が強い神奈川県と埼玉県。今回ピックアップする「関東 SUUMO住みたい街ランキング2019」で1位の横浜、4位の大宮は、言わずと知れた、神奈川県と埼玉県を代表する都市です。どちらも東京に比べると家賃相場が安いので、家賃を抑えつつ便利な暮らしをしたい場合には、ぜひ検討してみましょう。

首都圏屈指の観光地、横浜

横浜駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキングのトップは、京急本線の安針塚駅(4.65万円)でした。所在地は横須賀市なので横浜エリアとは少し言いづらいかもしれませんが、依然豊かでのどかな雰囲気の街です。横浜駅までの所要時間がわずか4分と最短なのが、ブルーライン・三ツ沢上町駅と、相鉄本線・星川駅(5.5万円)。三ツ沢上町駅は東京駅まで約30分と交通アクセスも便利です。星川駅は横浜駅まで4駅ありますが、快速を利用すれば1駅。現在再開発が進められ、すでに隣駅の天王町駅との間はすべて高架化されたため、街の安全性も向上しています。

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「横浜駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2019年版

“埼玉ディス”で話題の埼玉

大宮駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキングは、3.5万円~5.08万円とリーズナブルな結果に。1位の東武野田線の藤の牛島駅は、特急や急行列車が停まる春日部市の駅です。ほか、東武野田線からは八木崎駅(4万円)、岩槻駅(4.8万円)、南桜井駅(4.85万円)などがランクイン。

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豊島区も期待の「コマワリキッチン」とは? めざすは食のスター誕生と商店街活性化!

時間単位でプロ仕様のキッチンが利用できる「シェアキッチン」が、2019年1月、豊島区に誕生しました。その名も「コマワリキッチン」。では、何ができ、どんな場所になのでしょうか。どんな人が利用するのか、また将来像についても聞いてみました。
自分のお店のような感覚で利用できる、「シェアキッチン」

近年、時間単位でオフィスとして利用できるシェアオフィスやコワーキングスペースは増えていますが、シェアキッチンは、文字通りその「キッチン版」で、時間単位でプロ仕様の厨房が利用できる施設です。

飲食店は店を構えようと思ったときに、資金面や許認可のハードルが高く、よほど本気でないと難しいもの。それがこの「コマワリキッチン」であれば、食品衛生責任者の資格さえとれば(1日の講習だけで取得ができる)時間単位で利用でき、「まずはどれだけ一般のお客様相手に通用するのか、腕試しができる」というわけです。ほかにも「パンづくりが好きで販売したい」「焼き菓子を通販で売りたい」「料理教室をしてみたい」というチャレンジの場として利用を見込んでいます。

取材で訪れたのは2月上旬、オープンから半月あまりでしたが、当日はコーヒーショップ「名前はまだない珈琲店」が営業していました。珈琲の焙煎を学んだ女性がレンタルできるキッチンを探していたところ、条件がぴったりの「コマワリキッチン」見つけ、すぐに利用を申し込んだとか。

名前はまだない珈琲店。都内でシェアキッチンを探していたときに、見つけて「ココだ!」と申し込み。トントン拍子に出店が決まった(写真撮影/嘉屋恭子)

名前はまだない珈琲店。都内でシェアキッチンを探していたときに、見つけて「ココだ!」と申し込み。トントン拍子に出店が決まった(写真撮影/嘉屋恭子)

ショップカード、コーヒーのパッケージなど、あちこちに猫の姿(写真撮影/嘉屋恭子)

ショップカード、コーヒーのパッケージなど、あちこちに猫の姿(写真撮影/嘉屋恭子)

コーヒーにあうマフィンも販売している。本格仕様のキッチンで、許認可を得ていて、安心して利用できるのがよいそう(写真撮影/嘉屋恭子)

コーヒーにあうマフィンも販売している。本格仕様のキッチンで、許認可を得ていて、安心して利用できるのがよいそう(写真撮影/嘉屋恭子)

「ここは本格的な調理機器を備え、菓子製造業と飲食店営業許可が取得済みなので、安心して利用できます。お客さまも増えてきて、手ごたえも上々です」と語ります。

住民の関心度合いも高く、取材中もさまざまな方から次々と「今度、ここを使ってみたいんだけど、モノの保管はどうすればいいの?」「今までどんなお店が出店したの?」とかなり本気の質問が投げかけられていました。「キッチンが借りられるのであればチャレンジしたい!」という潜在ニーズはかなりあるようです。

豊島区の公民連携事業に選定。でもなぜシェアキッチンなの?

今回、「コマワリキッチン」は築40年超のビル1階にあった空き店舗を、これまで空き家再生などを手がけてきた会社「ジェクトワン」がリノベーションおよび運営をしています。また、豊島区が公民連携事業として改修と運営費の一部を補助。では、なぜ「シェアキッチン」という業態が選ばれたのでしょうか。

豊島区役所の生活産業課の担当者は、
「豊島区は『としまビジネスサポートセンター』で起業や創業のお手伝いをしています。今回の『コマワリキッチン』でも連携して、新しいチャレンジを応援したいというのが選定理由です。また、商店街では高齢者の代替わりが課題になっています。将来的には『コマワリキッチン』でデビューをした人が、店舗を構えてくれたら、商店街の活性化にもつながると期待しています」と展望を語ります。

ジェクトワンの地域コミュニティ事業部チーフの布川朋美さんも「シェアキッチン」を提案した背景として、以下のように話します。

「この場所は、以前は中華料理店でした。空き店舗を再生するにあたり、近隣住民にヒアリングを行い、“夜、気軽に飲める場所がほしい”“コーヒー・お茶や軽食ができる場所がほしい”など、飲食に関する需要が高いことが分かりました。そこで、地域貢献、創業支援として当社の知見のあった“シェアキッチン”を提案したんです」

つまり、単なる一店舗の再生というより、「新しい才能を発掘する場所」「人が集い、にぎわいを生み出すコミュニティ拠点」としての狙いが強いようです。また、利用者としては、子育て中で現在、働いていない女性を考えていましたが、想像以上に幅広い世代からの問い合わせがあるよう。

厨房設備はガス、オーブン、水道それぞれ2台いれているので、2組の同時利用可能。テーマにそって料理対決する「料理の鉄人」ごっこもできる!?(写真撮影/嘉屋恭子)

厨房設備はガス、オーブン、水道それぞれ2台いれているので、2組の同時利用可能。テーマにそって料理対決する「料理の鉄人」ごっこもできる!?(写真撮影/嘉屋恭子)

「年齢性別問わず、お問い合わせをいただきます。もちこみパーティーや町内会の集い、ママ・パパ、サークルの利用など、使い方はまだまだ未知数です」(布川さん)

さらに、今年3月からは講師を招いて、創業支援の教室も開催予定。参加者は、何かをはじめてみたい人、意欲にあふれる人が集う場所でもあります。参加者同士、顔を合わせることでよい刺激が生まれるのも「シェアキッチン」ならではのよさといえるでしょう。

めざせ新しい食のスター! トキワ荘の復元とのコラボも期待大!

ちなみに、コマワリキッチンができた場所は、若き日の手塚治虫や藤子不二雄などが暮らした「トキワ荘」があった場所のすぐそば。マンガの才能が集った「元祖・シェアオフィス」のあった場所に「シェアキッチン」ができるのも、不思議な縁です。

トキワ荘の建物そのものはなくなっているが、跡地には石碑とモニュメントが立つ。来年にはミュージアムも完成予定で、新たな東京の名所になりそう(写真撮影/嘉屋恭子)

トキワ荘の建物そのものはなくなっているが、跡地には石碑とモニュメントが立つ。来年にはミュージアムも完成予定で、新たな東京の名所になりそう(写真撮影/嘉屋恭子)

「南長崎花咲公園にミュージアムができれば、観光客だけでなく、人の流れができるようになります。現在、南長崎には飲食店も少なく、またお土産品などはありませんが、このコマワリキッチンで、新しいお土産や名物、新しい何かができたらいいなと願っています。単なる消費の場だけでなく、何か行動を起こす、交流がおきる、そんなポテンシャルの高い場所と見込んでいます」(布川さん)

確かに、せっかく訪れたのであれば「何かお土産を買って帰りたい」というのが人情というもの。場所とのコラボでうまれるお土産には、期待したいところです。

「コマワリキッチン」は日替わりで店舗が営業しているため、「今日は何のお店?」と聞きにくる住民の人も多く、早くも地元に根付いているようすが分かりました。

また取材時に質問していた人の多くは「こんな場所があるなら、チャレンジしてみようかな」ととても意欲的なのが印象に残っています。食は万国共通の楽しみでもあります。トキワ荘でマンガのスターが誕生したように、「コマワリキッチン」で生まれた新しい食のスターが世界で活躍する--そんな日が来るのかもしれません。

●取材協力
コマワリキッチン
運営会社:株式会社ジェクトワン

ミラノ サローネ2019の見どころは? “ダ・ヴィンチ没後500年”とモダンデザイン

インテリア・デザイン世界最大の見本市〈ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)〉が、今年4月9日~14日に開催される。今年は〈レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年〉の記念行事と共に、2019年はレオナルドのDNAを感じるデザインの祭典になりそう。
ミラノサローネ主催者による記者発表会が、現地ミラノで開かれ取材に飛んだ。今年の見どころや最新ニュースをご紹介!

レオナルドから受け継ぐ『INGENUITY(創意工夫)』がテーマに

“世紀の天才”“万能の天才”と称されるレオナルド・ダ・ヴィンチ (Leonardo da Vinci)は、1452年に生まれ、 1519年67歳で死去した。2019年は没後500年となり、絵画『最後の晩餐』を残すなど彼が20年間を過ごしたミラノでは、今年、記念イベントが各所で催される。
ミラノサローネでも、その一環となる特別展など新しい取り組みが企画されている様子。現地ジャーナリストに加えて、世界から60名弱の海外ジャーナリストが招待され、記者発表会がトリエンナーレ美術館で開かれた。

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長などの挨拶の後、今年のミラノサローネが“レオナルドへのオマージュ(敬意)”として企画する2つの特別展について、その内容が発表された。

ミラノ公に仕えたレオナルドは、芸術家・建築家・科学者・エンジニアとして、多くのプロジェクトにかかわり、“万能の天才”ぶりを発揮した。
特別展のひとつは、市内San Marco通りにある、レオナルドが木製の水門の設計と建築工事を監督したと言われるConca dell’Incoronata(運河の閘門※)が舞台に選ばれた。数々のオリンピック式典をプロデュースした著名なイタリア人演出家Marco Balichが魅せる、壮大な映像と音楽による〈AQUA. Leonardo’s Vision〉だ。
※高低の差の大きい水面で、船舶を昇降させるための装置

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

ミラノサローネLutiプレジデントは、見本市のマニフェストに新しいテーマ『INGENUITY(創意工夫)』を加え、レオナルドの功績を受け継ぐ意思を込めた。「『INGENUITY』とは、未来を見据えた新たな目で常に全てを再発明し、再発見することができると考え、その場で満足せず先を見越すことです」

これを受け、二つ目の特別展〈DE-SIGNO〉がミラノサローネ見本市会場で催される。
イタリア人芸術監督Davide Rampelloによるインスタレーション、ブースは建築家Alessandro Colomboがデザインしている。

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

天才レオナルドが遺産として残した、デザイン力と実行力を称賛する2つの特別展。彼によって開花したイタリア・デザインの文化を、過去と現代で比較する今年のイベントは必見だ。

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

進化するサローネ、新企画パビリオン〈S.Project〉が登場

ミラノサローネは、今年で58回目。年々、展示構成を見直しながら情報発信を続けてきた。
今年はホール〔22・24〕1万4000平米に、〈S.Project〉と名付けられた特設パビリオンが登場する。ここを“マルチセクター”と位置づけ、家具・水まわり・照明に加えて音楽・ウェルネスなど、既存展示セクターに捉われない多目的な展示で、空間提案のクオリティを高める試みが行われる。
出展する66社のなかには、「B&B Italia」「Boffi」など世界的な人気ブランドと共に日本の「Maruni(マルニ木工)」の名前も並ぶ。

その一つ、1872年から北欧のライフスタイルを牽引してきた「Fritz Hansen」(デンマーク)は、照明メーカーをグループに加えブランドを統一、家具・小物から照明までトータルな空間を〈S.Project〉で展示する。

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

新作家具では、デザイナーJaime Hayonが手がけるラウンジチェアが登場。

「Fritz Hansen」では10年以上デザインを手がけている人気デザイナーJaime Hayonの作品も。オーク材構造の後ろ姿が素敵(写真提供:Fritz Hansen)

「Fritz Hansen」では10年以上デザインを手がけている人気デザイナーJaime Hayonの作品も。オーク材構造の後ろ姿が素敵(写真提供:Fritz Hansen)

また「Fritz Hansen」からのニュースでは、日本の〈nendo × Tenoha restaurant〉というコラボレーション展示で、nendoデザイン『NO1』チェアが見られると紹介された。

〈S.Project〉には、バスルームの世界的人気ブランド「antoniolupi」(イタリア)も登場する。
今年は隔年で行われるバスルーム見本市の年ではないが、あえて見本市会場に出展してきた意気込みが楽しみだ。

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

照明見本市〈Euroluce〉には421社出展。Artemide社など周年記念も目白押し

隔年開催の国際照明見本市〈Euroluce(エウロルーチェ)〉では、421社もの照明ブランドが出展し、新作を披露する。現代における照明デザインのキーワードを“実験と技術革新・持続可能性・人間中心主義(human-centricity)・美的研究”と掲げた。

LEDから有機EL、AIを含めた技術革新が進む照明界において、“human-centric(人間中心)”、つまり環境や健康、人のためになるライティングをデザインの方向性とした点に共感した。

イタリア照明ブランドの大手「Artemide」は今年創業60周年を迎える。

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

今年もBIGなど注目度が高い建築家やデザインユニットが14組、「Artemide」の照明デザインを手掛ける。

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

レオナルド没後500周年の今年、ほかにも周年記念を迎えるブランドが続く。
モダン家具ブランド「Living Divani」は50周年記念で、見本市会場とPalazzo Crivelliの庭園でも記念展示が行われる。加えてメインデザイナーのPiero Lissoniとの協業30周年を祝し、限定モデル商品が世界で発売されるそうだ。

また、イタリアモダン家具の革新的存在「Kartell」も、今年で創業70周年。
デザイン性の高い家具をプラスティック製で身近な物とし、暮らしを豊かに彩ってきた「Kartell」の歴史。それが、〈The art side of Kartell〉と題したPalazzo Reale(王宮)での展覧会で見ることができそうだ。

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネを核に、ミラノ市はデザインが街中にあふれる“Milano Design Week(2019年4月8日-14日”が始まる。ミラノ市は大阪市と姉妹都市でもあり、万国博覧会を控えた大阪はじめ日本企業・デザイナーの参加ニュースも続々と入っている。
2019年は、レオナルドの功績とモダンデザインの今に出会えるスペシャルな年。デザイン・コンシャスな人にとって見逃せない1週間となりそうだ!

Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)
会期:2019年4月9日(火)~14日(日)
会場:Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場)
総出展数 約2300社(サローネサテリテ参加デザイナー約550人含む)
総出展面積 20万5000平米
ミラノサローネ・オフィシャルサイト
日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

ミラノサローネ2019の見どころは? “ダ・ヴィンチ没後500年”とモダンデザイン

インテリア・デザイン世界最大の見本市〈ミラノサローネ国際家具見本市(Salone del Mobile.Milano)」(以下、ミラノサローネ)〉が、今年4月9日~14日に開催される。今年は〈レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年〉の記念行事と共に、2019年はレオナルドのDNAを感じるデザインの祭典になりそう。
ミラノサローネ主催者による記者発表会が、現地ミラノで開かれ取材に飛んだ。今年の見どころや最新ニュースをご紹介!

レオナルドから受け継ぐ『INGENUITY(創意工夫)』がテーマに

“世紀の天才”“万能の天才”と称されるレオナルド・ダ・ヴィンチ (Leonardo da Vinci)は、1452年に生まれ、 1519年67歳で死去した。2019年は没後500年となり、絵画『最後の晩餐』を残すなど彼が20年間を過ごしたミラノでは、今年、記念イベントが各所で催される。
ミラノサローネでも、その一環となる特別展など新しい取り組みが企画されている様子。現地ジャーナリストに加えて、世界から60名弱の海外ジャーナリストが招待され、記者発表会がトリエンナーレ美術館で開かれた。

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

文化財・文化活動省Bonisoli大臣の挨拶から始まった記者会見。「トリエンナーレ美術館内に本格的なデザインミュージアムをつくるにあたって、政府は1千万ユーロを投資する」と、イタリア・デザイン継承の重要性にも触れた(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市長などの挨拶の後、今年のミラノサローネが“レオナルドへのオマージュ(敬意)”として企画する2つの特別展について、その内容が発表された。

ミラノ公に仕えたレオナルドは、芸術家・建築家・科学者・エンジニアとして、多くのプロジェクトにかかわり、“万能の天才”ぶりを発揮した。
特別展のひとつは、市内San Marco通りにある、レオナルドが木製の水門の設計と建築工事を監督したと言われるConca dell’Incoronata(運河の閘門※)が舞台に選ばれた。数々のオリンピック式典をプロデュースした著名なイタリア人演出家Marco Balichが魅せる、壮大な映像と音楽による〈AQUA. Leonardo’s Vision〉だ。
※高低の差の大きい水面で、船舶を昇降させるための装置

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

記者会見でBalich氏(右)がミラノサローネ のLutiプレジデント に、過去と現在の運河写真を紹介しながら企画への思いを語った。「ルネサンスの名残りとミラノの未来を語るインスタレーションになる」(写真撮影/藤井繁子)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

〈AQUA. Leonardo’s Vision〉4月5日(金)~14日(日)10:00 ~ 22:00、入場無料 @Conca dell’Incoronata, via San Marco。最先端技術を駆使した映像と音響によって、水が持つ美しさやエネルギーを体験する空間展示(写真提供:ミラノサローネ)

ミラノサローネLutiプレジデントは、見本市のマニフェストに新しいテーマ『INGENUITY(創意工夫)』を加え、レオナルドの功績を受け継ぐ意思を込めた。「『INGENUITY』とは、未来を見据えた新たな目で常に全てを再発明し、再発見することができると考え、その場で満足せず先を見越すことです」

これを受け、二つ目の特別展〈DE-SIGNO〉がミラノサローネ見本市会場で催される。
イタリア人芸術監督Davide Rampelloによるインスタレーション、ブースは建築家Alessandro Colomboがデザインしている。

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

〈DE-SIGNO〉4月9日(火)~14日(日) 9:30~18:30 @Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場) ホール24。映画館のような4つの大型スクリーンで、美しいイタリアの文化が映像と音楽に乗って語られるショー(写真提供:ミラノサローネ)

天才レオナルドが遺産として残した、デザイン力と実行力を称賛する2つの特別展。彼によって開花したイタリア・デザインの文化を、過去と現代で比較する今年のイベントは必見だ。

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

現在ミラノ市庁舎となっているマリーノ宮前のスカラ座広場では、レオナルド・ダ・ヴィンチ像(ピエトロ・マーニ作)が、今を見下ろしている(写真撮影/藤井繁子)

進化するサローネ、新企画パビリオン〈S.Project〉が登場

ミラノサローネは、今年で58回目。年々、展示構成を見直しながら情報発信を続けてきた。
今年はホール〔22・24〕1万4000平米に、〈S.Project〉と名付けられた特設パビリオンが登場する。ここを“マルチセクター”と位置づけ、家具・水まわり・照明に加えて音楽・ウェルネスなど、既存展示セクターに捉われない多目的な展示で、空間提案のクオリティを高める試みが行われる。
出展する66社のなかには、「B&B Italia」「Boffi」など世界的な人気ブランドと共に日本の「Maruni(マルニ木工)」の名前も並ぶ。

その一つ、1872年から北欧のライフスタイルを牽引してきた「Fritz Hansen」(デンマーク)は、照明メーカーをグループに加えブランドを統一、家具・小物から照明までトータルな空間を〈S.Project〉で展示する。

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

ペンダント照明『Suspence P1.5』は、直径320mmの新サイズ、新色POWDER BURGUNDY (写真)と PALE PEARLを発表。写真は全て「Fritz Hansen」ブランドで構成された空間(写真提供:Fritz Hansen)

また「Fritz Hansen」からのニュースでは、日本の〈nendo × Tenoha restaurant〉というコラボレーション展示で、nendoデザイン『NO1』チェアが見られると紹介された。

〈S.Project〉には、バスルームの世界的人気ブランド「antoniolupi」(イタリア)も登場する。
今年は隔年で行われるバスルーム見本市の年ではないが、あえて見本市会場に出展してきた意気込みが楽しみだ。

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

「antoniolupi」は、〈antoniolupi GALLERY〉と題し、プロダクトをアート作品のように展示。音響ブランドの「K-array」とのコラボが、プレゼンテーションを盛り上げる(写真提供:antoniolupi)

照明見本市〈Euroluce〉には421社出展。Artemide社など周年記念も目白押し

隔年開催の国際照明見本市〈Euroluce(エウロルーチェ)〉では、421社もの照明ブランドが出展し、新作を披露する。現代における照明デザインのキーワードを“実験と技術革新・持続可能性・人間中心主義(human-centricity)・美的研究”と掲げた。

LEDから有機EL、AIを含めた技術革新が進む照明界において、“human-centric(人間中心)”、つまり環境や健康、人のためになるライティングをデザインの方向性とした点に共感した。

イタリア照明ブランドの大手「Artemide」は今年創業60周年を迎える。

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

記者発表では、会社を牽引するCarlotta de Bevilacqua女史がプレゼンテーション、イタリア照明界の中心人物。自身がデザインした『COME TOGETHER』(充電式ポータブルライト)を手に(写真撮影/藤井繁子)

今年もBIGなど注目度が高い建築家やデザインユニットが14組、「Artemide」の照明デザインを手掛ける。

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

見本市〈Euroluce〉と共に、街中で照明デザインを見る楽しみも! LEDで明るくなりすぎない工夫が歴史的建造物には必要(写真撮影/藤井繁子)

レオナルド没後500周年の今年、ほかにも周年記念を迎えるブランドが続く。
モダン家具ブランド「Living Divani」は50周年記念で、見本市会場とPalazzo Crivelliの庭園でも記念展示が行われる。加えてメインデザイナーのPiero Lissoniとの協業30周年を祝し、限定モデル商品が世界で発売されるそうだ。

また、イタリアモダン家具の革新的存在「Kartell」も、今年で創業70周年。
デザイン性の高い家具をプラスティック製で身近な物とし、暮らしを豊かに彩ってきた「Kartell」の歴史。それが、〈The art side of Kartell〉と題したPalazzo Reale(王宮)での展覧会で見ることができそうだ。

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネ記者会見で使われていたのは「Kartell」のチェア『MATRIX』、吉岡徳仁のデザイン。ミラノ市内ショールームのウインドウでも大々的にプロモーションされていて、日本人としてうれしかった!(写真撮影/藤井繁子)

ミラノサローネを核に、ミラノ市はデザインが街中にあふれる“Milano Design Week(2019年4月8日-14日”が始まる。ミラノ市は大阪市と姉妹都市でもあり、万国博覧会を控えた大阪はじめ日本企業・デザイナーの参加ニュースも続々と入っている。
2019年は、レオナルドの功績とモダンデザインの今に出会えるスペシャルな年。デザイン・コンシャスな人にとって見逃せない1週間となりそうだ!

Salone del Mobile.Milano(ミラノサローネ国際家具見本市)
会期:2019年4月9日(火)~14日(日)
会場:Rho Fiera Milano (ミラノ国際見本市会場)
総出展数 約2300社(サローネサテリテ参加デザイナー約550人含む)
総出展面積 20万5000平米
ミラノサローネ・オフィシャルサイト
日本版 ミラノサローネ・オフィシャルサイト

ゆれる民泊、被災地でも 釜石「あずま家」ゲストハウスへの挑戦

2011年に発生した東日本大震災では、多くの宿泊施設も被害を受けた。再建費用や、集客面の課題から、再建を諦めた施設も少なくない。岩手県大槌町にあった民宿「あづま民宿」もその中の一つだ。

しかしその民宿のオーナー夫妻の娘、東谷いずみさん(25)が昨年秋から、釜石市の商店街で民泊「あずま家」を始めた。「ゆくゆくはゲストハウスにしたい」と東谷さん。新たな規制にゆれる民泊を運営する上での苦労や、ゲストハウス開業に向けた意気込みをきいた。

東日本大震災で消えた「あづま民宿」

――ご実家でも民宿を営んでいたそうですね。
東谷:はい、「あづま民宿」という名前で、私もお皿を洗ったり、お布団を敷いたりと手伝いをしていました。なので、小さいころから他の人が家にいる環境には慣れていましたね。

でも東日本大震災をきっかけに、廃業することになりました。震災当時は、私は高校2年生で学校で被災しました。大槌の自宅には父と母と祖母、犬も一緒にいました。父が消防団に入っていたので、水門を閉めに行くなどして家を離れ、祖母と母で逃げたと聞いています。
3人は無事でしたが、犬はそのまま亡くなってしまいました。

――ご実家の民宿は再建されなかったのですか?

民泊「あずま家」の一室で語る東谷いずみさん(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

民泊「あずま家」の一室で語る東谷いずみさん(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

東谷:昔からのお客様やご近所の方には「またやらないの?」と言っていただきました。でも現実には、難しかったです。大槌町はかなり大きな被害を受け、「あづま民宿」の建物も流されてしまったので、建て直すには費用がかかります。実家の民宿があった吉里吉里(きりきり)に三陸道が開通すると、インターチェンジのちょうど間なので、集客も難しそう。父が61歳、母が58歳だったので、年齢的な問題もあって廃業を決意しました。

釜石市とパソナ東北創生は、行政と地域の住民が力を合わせて、最長3年間で起業を準備し、事業を創出する「釜石ローカルベンチャー制度」を推進している。その一環に「起業型地域おこし協力隊制度」という町おこしを推進する制度があり、東谷さんは仙台で行われた告知イベントをきっかけに応募。二期生に選ばれた。

――民泊「あずま家」の物件を見つけたきっかけは?

仲見世通りにある民泊「あずま家」の外観(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

仲見世通りにある民泊「あずま家」の外観(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

「釜石ローカルベンチャー制度」の2017年当時の募集テーマが、釜石観音のふもとにあり、かつて観光地として栄えた「仲見世通り」の再生でした。仲見世通りはかつて20店舗以上が軒を連ね「人にぶつからずに歩けない」と言われるほどにぎわっていたそうです。しかし現在は「あずま家」とシェアオフィス「co-ba」の他は、飲食店が1店舗営業をしているだけとなってしまいました。

仲見世通りは一時期、店舗数ゼロに陥っていた(写真撮影/富谷瑠美)

仲見世通りは一時期、店舗数ゼロに陥っていた(写真撮影/富谷瑠美)

ここで空き店舗や空き家を活用した事業を行うメンバーの募集があり、私がエントリーしたのがきっかけです。ここ仲見世通りにはローカルベンチャー制度の地域パートナーがいて、その方に今のあずま家の物件を紹介してもらいました。以前は1階がお蕎麦屋さん、2階が住居だったと聞いています。
一階ではカフェの開店準備中(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

一階ではカフェの開店準備中(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

現在は2階部分を民泊として運営しています。1階部分には近々カフェがオープンする予定です。

カフェの開店資金はクラウドファンディングで集り、目標額の109%となる約440万円を集めた(画像/キャンプファイヤーHPより)

カフェの開店資金はクラウドファンディングで集り、目標額の109%となる約440万円を集めた(画像/キャンプファイヤーHPより)

「釜石ローカルベンチャーコミュニティ」の二期生は、東谷さんを入れて計5人。三井不動産レジデンシャルを退職し、「あずま家」のある仲見世通りの活性化に取り組む神脇隼人さん(30)らが活動している。1階部分のカフェをオープンするための資金は、神脇さんを中心にクラウドファンディングで募った。最終的に約440万円(目標金額の109%)を集め、クラウドファンディングは大成功。神脇さんは「目標金額達成はゴールではなくスタート。皆さんの思いを、必ず形にしていきたい」とコメントを寄せた。

――東谷さんもここに住んで民泊を運営されているとか。1日をどのように過ごしているのでしょうか。

東谷:まず客室は全部で3部屋で、最大で7人が泊まれます。
チェックアウトは朝10時、チェックインは夕方4時。午前中はお洗濯や掃除で終わってしまうので、お昼過ぎからチェックインまでが自分の時間です。「1人で大変だね」と言われることもあるのですが、そんなに大変だと感じることはないんですよ。

入り口では、手書きのメッセージボードと羊がお出迎え(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

入り口では、手書きのメッセージボードと羊がお出迎え(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

二階の民泊入り口ドアを開けると、釜石の観光地案内や、名産物のパンフレットが並んでいる(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

二階の民泊入り口ドアを開けると、釜石の観光地案内や、名産物のパンフレットが並んでいる(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

室内は和室で、我が家のようにくつろげる雰囲気(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

室内は和室で、我が家のようにくつろげる雰囲気(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

2018年9月に始めてからまだ5か月ですが、物件の家賃と光熱費は民泊で稼ぐことができています。「釜石ローカルベンチャーコミュニティ」からの活動資金を加えて、事業として軌道に乗せていければと思っています。

校庭から100メートルでも“アウト”に

――民泊を運営する上で大変なことはありますか。
東谷:始める前は「民泊というと、楽に始められるのかな」と思っていましたが、たくさんの書類が必要で、申請がとっても大変でした。規制もどんどん厳しくなってきています。つい最近は、新しく県の条例ができました。「学校の半径100メートル以内では、平日に民泊を営業してはいけない」という制限が加わりました(岩手県「住宅宿泊事業法施行条例」平成31年2月1日施行)。

この民泊「あずま家」のそばには釜石商工高校があります。校舎からは100メートル以上離れているのですが、校庭も入れると100メートル以内に入ってしまうと……。保健所の方が説明に来てくださいました。

――騒音や迷惑行為の防止が規制を強化する趣旨だとされています。土日の運営だけでは経営が成り立たないのではないでしょうか。

東谷:「あずま家」は今後旅館業(簡易宿泊所)の営業許可を取得し、ゲストハウスという形にしていきます。しかしもしこのまま民泊で進めるとしたら、やりづらさを感じます。特にこれを本業としてやっていくのであれば、なおさらです。迷惑行為等に関しては様々な声があると思いますが、民泊の運営者側から宿泊者へ民泊がどのような場所(多くは住宅街)で運営されているか説明し、宿泊ルールについて双方がきちんと認識できれば、クリアになる部分もあるのではないかと思います。

民泊はいまも、年間180日以上は運営ができません。「通年営業のゲストハウスならよくて、民泊はなんでダメなのかな」というのが正直な気持ちです。

――それもあって、ゲストハウスに変更されるのですね。

東谷:そうですね。もともとゲストハウスをする方向では考えていましたが(ゲストハウス運営に必要な)簡易宿泊所の営業許可を取るのは、物件によっては大変だと聞きます。でもいまの民泊「あずま家」の場合は、あとは書類を集めればいけるところまできました。民泊新法ができた直後は「スモールスタートとして民泊をやろう」と思ったんですよね。でも今になって考えてみると、ゲストハウスより民泊を始めるほうが、場合によっては手続きや書類の数が多くてはるかに大変だった気がします(苦笑)。

「ふつふつ」している人たちをつなぐ場にしていきたい

――「あずま家」をどんなゲストハウスにしていきたいと思いますか。

共有スペースに飾られている写真。今でも様々なバックグラウンドの利用者の出会いの場となっている(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

共有スペースに飾られている写真。今でも様々なバックグラウンドの利用者の出会いの場となっている(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

共有キッチンにはお菓子やコーヒーが置かれている。利用者同士で料理をすることもある(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

共有キッチンにはお菓子やコーヒーが置かれている。利用者同士で料理をすることもある(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

東谷:外から来る人(旅行客や関係人口層)と中の人(釜石の地元住民や移住者等)をつなぐ場にしていきたいです。いっときの、自分と同じような人たちの出会いの場にしていきたいと思っています。自分の人生を生きよう、一歩踏み出そうとしてるけど踏み出せない。そんな、なにか「ふつふつ」としている人たちをつなぐ場づくりをしたいのです。

――なぜそう思うようになったのでしょうか。

東谷:私自身がこれまでいろんなつながりに出会い、助けられてきました。今度は自分が場をつくることで、これからいろいろな人と出会い、つながれる時間を作っていきたい。じゃあ、その場はどんな形?と迷っていた時に、新潟の粟島にある「おむすびの家」というゲストハウスに行ったんです。そこのオーナーさんの生き方、そこで出会った人たちが、自分で事業をやる、という決意をさせてくれたと思う。あの場を自分でも、釜石に再現できたらと思っています。

近隣のシェアオフィス「co-ba」では仲見世商店街活性化プロジェクトの打ち合わせなどが開催されている(写真撮影/富谷瑠美)

近隣のシェアオフィス「co-ba」では仲見世商店街活性化プロジェクトの打ち合わせなどが開催されている(写真撮影/富谷瑠美)

ここから徒歩1~2分のところにはシェアオフィスもあります。そこはこの(あずま家がある)仲見世商店街を活性化プロジェクトの打ち合わせ場所にもなっています。そこに集う起業家や建築士、主婦やデザイナーといった人たちも、よく「あずま家」にやってきますから、いろいろなバックグラウンドや、スキルを持った人たちとつながることができます。

――そのつながりから、また新しい取り組みも生まれそうですね。

東谷:そうですね。今はまだできていませんが、泊まりに来た人に観光地だけを案内するのではなく、ローカルでディープな釜石の魅力も伝えたいです。釜石市内の他地域、例えば甲子町や尾崎白浜など、ほかの地域をつなぐ役割ができないかなと思っています。甲子町の名物、いぶした柿「甲子柿」なんか、本当に甘くてとってもおいしいんですよ(笑)。でも釜石市内でも、あまり知られていなかったりするのでもったいないと思っています。

それぞれの地域にキーマンはいるので、セットプランを作ったり、ツアーを開催したり、ゲストハウスとしてのコンテンツをもっと増やしていきたいですね。

――逆に、ここは変えたくない、ということは何かありますか?

東谷さんの笑顔も利用者がくつろげる秘訣?(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

東谷さんの笑顔も利用者がくつろげる秘訣?(写真撮影/フォトスタジオクマ・熊谷寛之)

東谷:内装などは、あまり変えないようにしようと思っています。泊まりにきてくれた人たちにアンケートをとっているのですが、あずま家の魅力はリラックスできるところみたいです。「釜石の我が家」と書いてくれた人もいました。共同スペースのこたつで仕事用のパソコンを開いたまま、寝てしまう人も多いです(笑)。よい意味で力の抜けたあたたかい空間を、これからも提供していきたいです。

「池袋駅」まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキング 2019年版

東京の三大繁華街といえば、渋谷と新宿、そして池袋。交通や買い物など、いずれ劣らぬ便利な街だが、繁華街周辺の家賃は高額なもの。では、池袋へのアクセスが良い場所かつ、お手ごろ価格で部屋を探すならどこがいいのか。池袋へ電車で30分以内で行ける、ワンルーム・1K・1DKを対象にした家賃相場が安い駅ランキングを分析してみた。
池袋駅まで電車で30分以内、家賃相場の安い駅TOP20駅

順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅の所在地/池袋駅までの所要時間(乗り換え時間を含む)/乗り換え回数)
1位 上福岡 4.40万円(東武東上線/埼玉県ふじみ野市/28分/1回)
2位 柳瀬川 5.00万円(東武東上線/埼玉県志木市/25分/1回)
3位 鶴瀬 5.10万円(東武東上線/埼玉県富士見市/29分/1回)
4位 東久留米 5.20万円(西武池袋線/東京都東久留米市/17分/1回)
5位 朝霞台 5.30万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/16分/0回)
6位 みずほ台 5.38万円(東武東上線/埼玉県富士見市/27分/1回)
7位 ひばりヶ丘 5.40万円(西武池袋線/東京都西東京市/14分/0回)
7位 朝霞 5.40万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/17/1回)
9位 北朝霞 5.50万円(JR武蔵野線/埼玉県朝霞市/20分/1回)
9位 志木 5.50万円(東武東上線/埼玉県新座市/19分/0回)
9位 清瀬 5.50万円(西武池袋線/東京都清瀬市/20分/1回)
12位 所沢 5.60万円(西武池袋線・新宿線/埼玉県所沢市/21分/0回)
12位 西浦和 5.60万円(JR武蔵野線/埼玉県さいたま市/30分/1回)
14位 西高島平 5.75万円(都営三田線/東京都板橋区/30分/2回)
15位 ふじみ野 5.90万円(東武東上線/埼玉県富士見市/25分/0回)
15位 南与野 5.90万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/26分/0回)
15位 南浦和 5.90万円(JR京浜東北線・武蔵野線/埼玉県さいたま市/24分/1回)
15位 新座 5.90万円(JR武蔵野線/埼玉県新座市/27分/2回)
15位 秋津 5.90万円(西武池袋線/東京都東村山市/22分/1回)
20位 南鳩ヶ谷 6.10万円(埼玉高速鉄道/埼玉県川口市/30分/1回)

日用品も個性的な買い物も楽しめる駅が1位に

ランキング1位は、東武東上線の上福岡駅。ランキング上位には、同じく東武東上線と西武池袋線が目立つ。

上福岡駅は普通列車と準急のみが停車。東武東上線は東京メトロ副都心線と有楽町、東急東横線、みなとみらい線と直通運転しているが、時間帯によって、副都心線の列車も停車しない。しかし、所在地のふじみ野市では唯一の鉄道駅だ。

上福岡駅(写真提供/PIXTA)

上福岡駅(写真提供/PIXTA)

駅西口はショッピングモールや公共機関、住宅棟も備える複合施設「ココネ上福岡」があるほか、深夜2時まで営業している駅直結スーパーもあるため、日常の買い物に不自由することはないだろう。駅前には大きな広場があり、毎年夏には規模の大きな七夕祭りが開催され、住民の楽しみになっている。

駅周辺には高層マンションが増えているが、少しいけば閑静な住宅街。また、ラジコンやカブトムシなど個性的な専門店が並ぶ「中央通り商店会」や、さまざまな居酒屋がそろった「上野台銀座商店会」など大小約20の商店街があり、子育て家庭だけでなく、趣味や外食の充実を重視するシングルも満足できそうだ。

東京都内で最上位になるのは、西東京市のひばりヶ丘駅(西武池袋線)だ。池袋までは急行で2駅、ランキング内で所要時間がもっとも短い15分以内。新宿駅へも30分圏内で、渋谷にも乗り換えなしで行くことができ、交通利便性はかなり高い。

駅の南側はホームセンターや家電量販店、パルコなどがあり、ちょっとした買い物でもすべてまかなうことができる。一方で、駅近くにも大きな公園など自然を感じるスポットがあり、周辺の道路沿いも街路樹の整備が進んでいて、散歩するのも気持ち良い。また、東京大学大学院農学生命科学研究科付属の研究施設「西東京フィールド」の最寄駅であり、敷地内の博物館や環境や食に関する講演会は一般向けにも公開されているため、年代を問わず知的好奇心を充足させることができるだろう。

埼玉の文教地区と、国際色豊かなコンパクトシティ

ひばりヶ丘と同様に乗り換え不要なのが9位の志木駅。東武東上線の急行や快速も停車し、渋谷へも乗り換えなしで行ける。駅周辺は飲食店も充実。またカルディなどが入る東武沿線の商業施設「EQUiA」やマルイもあるため、少しおしゃれなものを手近で買いたいときにも便利だ。すぐ近くには24時間営業のお手ごろスーパーもあり、特に小さな子どものいる家庭にはありがたいだろう。

志木駅(写真提供/PIXTA)

志木駅(写真提供/PIXTA)

子育て家庭にとって気になる学校施設も、志木は要チェックの場所だ。志木駅は、慶應義塾志木高校や、立教大学新座キャンパスも最寄駅。ここを目指す生徒や学生のための学習塾なども充実している。

注意が必要なのは、志木駅の所在地は新座市だが、志木市と朝霞市の境界であるという点。住むところが、どこの学校に通えるのかは確認しておきたい。

ランキングから外れてしまうが、対象物件がいちばん多い駅は、21位に入っていた蕨駅(6.20万円、JR京浜東北線/埼玉県蕨市/20分/1回)だった。池袋までは乗り換えが必要だが、京浜東北線沿線のため、東京駅まで一本で行くことができる。

所在地の蕨市は、面積が約500万平米と、日本でいちばん小さな市として知られている。駅西口には市役所などの公共機関が集中しており、文字通りのコンパクトシティ。小回りが良いともいえそうだ。駅周辺にはスーパーも充実しているが、ノスタルジックな雰囲気の商店街「ピアロード商店街」もある。

近年は外国人の住民が増えており、珍しい外国の食材が手に入るお店もある。毎年3月には、在住クルド人たちのよるお祭りなども開かれ、国際色豊かな街でもある。

池袋は大きな繁華街だが、池袋まで足を延ばさなくても、買い物も教育環境も十分便利な地域が目立つ印象だ。世帯やライフスタイルに合わせて、一番しっくりくる場所はどこなのか。きめ細かに選ぶことができそうだ。

●調査概要
【調査対象駅】池袋駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018/8~2018/10
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出

無人になった被災地に「小高パイオニアヴィレッジ」誕生。若手起業家が地域再生モデルへ挑む

福島第一原発事故に伴い避難指示区域に指定された福島県南相馬市小高区(旧小高町)。一時無人となった町に2018年1月、新たな営みを生み出す拠点「小高パイオニアヴィレッジ」が完成した。同施設を企画した一般社団法人パイオニズム代表の和田智行氏に話を聞いた。
たくさんのスモールビジネスに支えられた魅力的な町をつくる和田智行さん(写真撮影/佐藤由紀子)

和田智行さん(写真撮影/佐藤由紀子)

「復興拠点の計画が形としてできたことで、今後事業や活動が加速すると思うので、期待と責任が入り混じった気持ちです」と話す、和田智行さん。大学進学で上京し、卒業後はITベンチャー2社を起業、2005年に故郷の南相馬市小高区にUターンして仕事を続けた。

東日本大震災後、小高区の住民1万2842人全員が避難指示の対象となり、5年以上町への立ち入りを制限された。和田さんの自宅も警戒区域に指定され、会津若松市に避難し、起業や創業を志す人たちを支援するインキュベーションセンターに勤めた。そして、避難指示が解除される前の小高区に入り、食堂や仮設スーパー、ガラスアクセサリー工房を経営した。

2016年7月に避難指示が解除され2年半以上。病院や学校などが再開し、小高交流センターがオープンするなど、徐々に生活環境は整いつつあるものの、帰還者は約3000人で、住民のほとんどが65歳以上。人口の回復、若い人の帰還、人材育成など、課題は多い。

「10年、20年後、この町はどうなるのか、多くの人が漠然とした不安をかかえています。ここで事業を起こし、働く場所や住民の暮らしを支えるサービス、失われたコミュニティをつくることで、地域が消滅せず存続していく可能性を示していくことができたら」と和田さんは、南相馬市出身の起業家2人に声をかけ、日本財団の支援金やクラウドファンディングなど、活動を応援する方々の支援を受けて「小高パイオニアヴィレッジプロジェクト」をスタートさせた。

プロジェクトが目指すのは、1000人を雇用する1社に支えられる社会ではなく、10人を雇用する多様な100社が躍動する社会。「一つの大企業に支えられた町は、事業の継続が困難になったとき撤退して町は焼け野原になってしまいます。たくさんのスモールビジネスがあれば、一気に全滅することはなく、多様な商品や人がいて魅力的な町になる。そういう風土が出来上がれば、新しい世代も次々出てくるのではないかと思います」

起業やものづくりをする人が励まし合い成長していくコミュニティ小高パイオニアヴィレッジ北側外観(写真撮影/佐藤由紀子)

小高パイオニアヴィレッジ北側外観(写真撮影/佐藤由紀子)

小高パイオニアヴィレッジ外観。半透明の壁「ルメウォール」を通して、中の灯りが外に漏れる(写真撮影/佐藤由紀子)

小高パイオニアヴィレッジ外観。半透明の壁「ルメウォール」を通して、中の灯りが外に漏れる(写真撮影/佐藤由紀子)

建築中の小高パイオニアヴィレッジ。土地を確保することから始まった(画像提供/一般社団法人パイオニズム)

建築中の小高パイオニアヴィレッジ。土地を確保することから始まった(画像提供/一般社団法人パイオニズム)

約10カ月の工期を経て1月に完成した「小高パイオニアヴィレッジ」は、延べ床面積約280平米、鉄骨造りの2階建て。建築費用は日本財団の「東日本大震災復興支援 New Day 基金」の支援金をはじめ、自己資金、クラウドファンディングを活用した。内装はラワン合板をふんだんに使った最低限のシンプルな仕上げで、今後のニーズ、周囲の状況にあわせて柔軟に変えていく予定だという。

小高パイオニアヴィレッジ俯瞰図の構想スケッチ。「境界のあいまいな建築」がデザインコンセプトだ(画像提供/一般社団法人パイオニズム、設計:RFA)

小高パイオニアヴィレッジ俯瞰図の構想スケッチ。「境界のあいまいな建築」がデザインコンセプトだ(画像提供/一般社団法人パイオニズム、設計:RFA)

吹抜けのコワーキングスペース。ひな壇にはコンセントや暖房が装備されている(画像提供/一般社団法人パイオニズム)

吹抜けのコワーキングスペース。ひな壇にはコンセントや暖房が装備されている(画像提供/一般社団法人パイオニズム)

中心施設は、ひな段状で、吹抜けで2階とオープンにつながるコワーキングスペース。ここでさまざまな事業、業種の方々が自由に働き、アイデアを練る。また最大50人程度のイベントにも対応可能だ。「起業は孤独な闘いで、起業したい気持ちがあっても諦める人も多いと思いますが、隣に創業を目指す仲間がいれば、励まし合い、化学反応が生まれます」と和田さん。ここは、そんなコミュニティが活性化する場であり “ヴィレッジ”の広場のような存在だ。

2段ベッドが設置されたシンプルなゲストハウス(画像提供/一般社団法人パイオニズム)

2段ベッドが設置されたシンプルなゲストハウス(画像提供/一般社団法人パイオニズム)

2階にあるゲストハウスは、長期滞在する人、出張などでコワーキングスペースを活用したい人のための簡易的な宿泊施設で、5部屋用意されている。

メイカーズルームの「HARIOランプワークファクトリー小高」工房では地元の主婦4人が職人として働いている(写真撮影/佐藤由紀子)

メイカーズルームの「HARIOランプワークファクトリー小高」工房では地元の主婦4人が職人として働いている(写真撮影/佐藤由紀子)

1階には、ものづくりを生業とする人たちの共同作業場「メイカーズルーム」を設置。現在は老舗ガラスメーカーHARIOのガラスアクセサリーブランドの生産拠点として、2015年に設立された「HARIOランプワークファクトリー小高」が入所。今後はワークショップを行い、職人の発掘・育成を行う予定だ。

震災の避難生活を経験して気づいた大切なものと新たな価値観2019年1月20日に行われたオープニングセレモニー風景。関係者ら35人が訪れ開所を祝った(写真撮影/佐藤由紀子)

2019年1月20日に行われたオープニングセレモニー風景。関係者ら35人が訪れ開所を祝った(写真撮影/佐藤由紀子)

完成した「小高パイオニアヴィレッジ」に対する地域の反応はどうか。「20~40代の人がほとんど住んでいないので、若い人がいるだけで住民は歓迎してくれるし、喜んでくれているのを感じています」と和田さん。「いつから使えますか?行ってみたい」という利用の問い合わせは全国各地からあり、コワーキングスペースを運営する人から和田さんあてに「一緒に何かやりましょう」という声がけも多いという。

すでに、地元の農家と提携するクラフトビールづくりのプロジェクト、手づくりDJイベント、ガラスアクセサリーの新ブランドの発表といった企画も目白押し。10人の起業家を誘致し、サーフカルチャーや馬事文化など地域資源を活用した事業を起こす「Next Commons Lab南相馬」など、すでに生まれている起業家コミュニティの拠点にもなる。3月10日にグランドオープン、本格的にスタートする。

利用者は、働く場所にこだわらない、自営業のフリーランスやクリエイターを想定している。「旧避難指示区域に住むことに抵抗がある人、大きなスーパーやアメニティ施設がない町に暮らせない人は多いと思います。一方では、むしろ、こういう場所に興味があり、面白いと感じる感性の持ち主もいるはず。やりたいことがある人、今の社会を生きづらいと感じている人がここに滞在して、一緒にさまざまな活動や事業を起こしたりして、結果この町に住むようになれば」と和田さんは期待する。

オフィス機能をもつ2階のフリースペース。状況に応じて柔軟に変えられる設計になっている(写真撮影/筆者)

オフィス機能をもつ2階のフリースペース。状況に応じて柔軟に変えられる設計になっている(写真撮影/筆者)

ITベンチャー企業の役員として働いていた当時は、稼ぐために仕事をしていたという和田さん。「震災が起きて避難生活を余儀なくされ、お金があっても食べ物もガソリンも手に入らず、1歳と3歳だった私の子どもにもストレスを与えるのではないかと心配になりました。けれども、いろいろな人に助けられて生き延びることができて、自分を支える柱は収入ではなく、人との関係性をたくさんもつことだと感じ、価値観が変わりました」と話す。

今後については、「課題は山積みですが、見方を変えれば、ゼロベースで自由なチャレンジができるのが魅力です。真っ白いキャンバスに自由な絵を描くように、自分たち好みの町をつくっていける。将来、小高パイオニアヴィレッジで事業を始めた人が成長して、事業が拡大して施設が狭くなったら、近くの空き地を借りて新しく事業を始める。そうしてコミュニティが広がり、“ヴィレッジ”の“村人”がどんどん増えればと思います」と話す和田さんの表情から静かな自信が伝わってきた。

つくられた価値観のなかで暮らし、欲しいものが簡単に手に入る今。「小高パイオニアヴィレッジ」は、必要最小限のものしかないが、明るい笑顔、人と人の信頼関係、希望が感じられた。一時、無人、無になった町はパイオニアである若手起業家たちの手で、新しい価値観、新しい社会が生まれようとしている。また5年後、10年後の小高区を見てみたいと思わずにはいられない。

●プロフィール
和田智行
福島県南相馬市小高区(旧小高町)生まれ。2005年より故郷の南相馬市で東京のITベンチャーの役員として働く。東日本大震災後、避難生活を経て2014年に避難区域初のコワーキングスペース事業「小高ワーカーズベース」を開始。一般社団法人パイオニズム代表理事として住民帰還の呼び水となる事業の創出に取り組む。●取材協力
小高パイオニアヴィレッジ
Makuakeのプロジェクトページ

デュアルライフ・二拠点生活[9]兵庫県城崎温泉 ”踊る”ことを見つめ直す、もうひとつの居場所

京都市内在住、「コミュニティダンス・ファシリテーター」という肩書きで活動する千代その子さん(31)。とあるプロジェクトのために訪れ、街と街の人々にもすっかり惚れ込んだ兵庫県豊岡市の城崎温泉をもうひとつの拠点にするべく2018年に社団法人を設立。ダンスを通した地域貢献を実践しています。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、若い世代もデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。日本にもっともっと踊れる場が増えればいいのに

「物心ついたときには踊っていた」という千代さん。3歳でバレエをはじめてから今まで「息をすること」と同じくらい、日々の中で「踊ること」が当たり前にある人生を歩んできました。17歳でイギリスへバレエ留学。その後、イタリアのダンスカンパニーへの所属や、バレエ講師になるための再留学など、海外での経験が、千代さんの「踊ること」や「ダンサーとしての職業観」へ大きく影響を与えました。そして帰国後、フリーのダンサーやバレエ講師として活動していくなかで、
「どうすれば日本でダンサーが自立して生きていけるんだろう。ダンスが自然に在る世の中にもっとしたいけれど、その在り方ってなんだろう、という疑問に行きつき、大学院の政策学研究科に入りました」

千代さんが代表を務める一般社団法人ダンストーク(Danstork)が主催する「KINOSAKI OPEN DANCE CLASS」。住人も、旅行者も、大人も子どもも、ダンスの経験の有無も関係なく、誰でも普段着で気軽に参加でき、ダンスのもつ根源的な魅力や楽しさを体感できる(写真撮影/田中友里絵)

千代さんが代表を務める一般社団法人ダンストーク(Danstork)が主催する「KINOSAKI OPEN DANCE CLASS」。住人も、旅行者も、大人も子どもも、ダンスの経験の有無も関係なく、誰でも普段着で気軽に参加でき、ダンスのもつ根源的な魅力や楽しさを体感できる(写真撮影/田中友里絵)

大学院では地域政策やまちづくりについて研究し、インターンシップをきっかけにNPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワークに所属。千代さんはそこで運命の職業「コミュニティダンス・ファシリテーター」に出合います。「コミュニティダンス」とは、ダンス経験の有無・年齢・性別・障がいにかかわらず、「誰もがダンスを創り、踊ることができる」という考えのもと、アーティストがかかわりながらダンスの力を地域社会のなかで活かしていく活動のこと。そしてそのためのワークショップ等の活動において、参加者一人一人の表現力や創造力を引き出し、全体を目的に向かって進行するのが「コミュニティダンス・ファシリテーター」。千代さんはその養成講座の日本初の開講に準備段階から携わり、また、自分自身も「コミュニティダンス・ファシリテーター」としての活動をスタートさせ、やってきたのが兵庫県豊岡市にある城崎温泉でした。

開湯から約1300年の歴史があり、かつては志賀直哉や島崎藤村など文豪に愛された城崎温泉。7つの外湯を巡って楽しむ「外湯めぐり発祥の地」で、旅行誌の人気温泉地ランキングでは常に上位!近年は外国人観光客が5年で約40倍に急増したことで注目を集めている(撮影/田中友里絵)

開湯から約1300年の歴史があり、かつては志賀直哉や島崎藤村など文豪に愛された城崎温泉。7つの外湯を巡って楽しむ「外湯めぐり発祥の地」で、旅行誌の人気温泉地ランキングでは常に上位!近年は外国人観光客が5年で約40倍に急増したことで注目を集めている(撮影/田中友里絵)

「ダンスってなんだろう?」の答えをくれた場所

千代さんが兵庫県北部・豊岡市にある城崎温泉を初めて訪れたのは2012年。2年後に温泉街の中での開館を控えた、舞台芸術のアーティスト・イン・レジデンス施設としては日本最大級となる「城崎国際アートセンター」で行われるコミュニティダンスのプロジェクトのための視察でした。
「初めて来たのにどこか懐かしい雰囲気のする穏やかな街だなぁ、という印象でした」と千代さん。しかしそのときはまだ、自分がこの街とこんなに深くかかわることになるとは思っていなかったそう。しかし、そのプロジェクトの中心となるイタリア人アーティストの通訳兼コーディネーターを担当することになり、事前リサーチやアーティスト帯同のため、2014年・2015年にかけて京都から城崎温泉へ通う日々がはじまりました。

城崎国際アートンセンターは舞台芸術に特化したアーティスト・イン・レジデンスで、芸術監督は劇作家・演出家の平田オリザ氏が務める。年1回の公募により選ばれたアーティストは最長で3カ月の間滞在し、作品制作を行うことができる(撮影/田中友里絵)

城崎国際アートンセンターは舞台芸術に特化したアーティスト・イン・レジデンスで、芸術監督は劇作家・演出家の平田オリザ氏が務める。年1回の公募により選ばれたアーティストは最長で3カ月の間滞在し、作品制作を行うことができる(撮影/田中友里絵)

「地元の人を巻き込まないと成立しないプロジェクトだったんですが、どの人が街の人でどの人が観光客か、最初は見分けすらつかなくて。地元の人はどこにいるんですかー!!って感じでした(笑)」

ほんの少しのとっかかりを掴んだら数珠つなぎのように人に人を紹介してもらい、地元の人を訪ねて街を歩きまわり、話を聞き、プロジェクトやダンスについて想いを伝え続ける日々。最初は「自分たちが踊る?」と、どこか警戒していた人たちの表情も、コミュニケーションを重ねるにしたがって次第に和らぎ、街を歩くと手を振ってくれたり、「その子ちゃんなにしとるん!?」と声をかけてくれたり、飲みに誘われることも。コツコツと、とにかく地道に関係性を深めていきました。

「実際の公演では、皆さんに舞台上で踊ってもらったんですが、公演前の1カ月はもう!ところどころ記憶がないほど、とにかく必死で。私のすべてを捧げたというか、作品をつくること・踊ること・踊る人・踊る場を考え続け……実は、こんなにダンスと真正面から向き合ったのは初めてだったのかもしれません。そして、踊りながらときどきふと思っていた”ダンスって何だろう”という疑問に、ひとつの答えが出た気がしたんです。そして私自身、踊ることが大好きだ!って」

千代さんがかかわったプロジェクトでは温泉街の旅館の若旦那たちも舞台に。今も滞在中の生活に必要なものを借りるなど、城崎温泉での活動をサポートしてくれている。「旅館・やまとやの若旦那の結城さんは親戚のお兄さんのような存在」(写真撮影/田中友里絵)

千代さんがかかわったプロジェクトでは温泉街の旅館の若旦那たちも舞台に。今も滞在中の生活に必要なものを借りるなど、城崎温泉での活動をサポートしてくれている。「旅館・やまとやの若旦那の結城さんは親戚のお兄さんのような存在」(写真撮影/田中友里絵)

城崎国際アートセンターの近くにある喫茶店スコーピオ。お腹が空いたときはもちろん、一息つきたいときにもよく訪れる。マスターは、城崎に誰も知り合いのいなかった千代さんが最初に打ちとけ、さまざまな相談にのってくれた恩人(写真撮影/田中友里絵)

城崎国際アートセンターの近くにある喫茶店スコーピオ。お腹が空いたときはもちろん、一息つきたいときにもよく訪れる。マスターは、城崎に誰も知り合いのいなかった千代さんが最初に打ちとけ、さまざまな相談にのってくれた恩人(写真撮影/田中友里絵)

日本のどこにもないダンスの在り方を、ここ城崎温泉で

プロジェクトが終わったあとも、しばらく城崎温泉のことが忘れられなかったという千代さん。せっかく築いた街の人との関係をどうにか続けられないか……それほどに、城崎温泉の人と街に魅了されていました。そんなとき、城崎の子どもたちのなかから 「ダンスを続けたい」という相談の連絡がきたのです。

「この街の子どもたちのダンスの環境を、私がかかわることでもしも変えることができるのであれば、なんだってしたい!そしてこの街なら、性別や世代、いろんな条件を越えてひとりひとりを大切にできて、ダンスを通したさまざまな繋がりをつくれるんじゃないか。踊る人も踊らない人もすべての人の身近にダンスがある。まさに現代のダンスの在り方が実践できるんじゃないかって思ったんです」

城崎温泉と京都を行き来しながら活動をするにあたり、家族の理解は得られたものの収入面や他の活動とのバランスなどクリアしなければならない問題も。
「私の気持ちだけで見切り発車のように事業をスタートしてしまったら、もし行き詰まったとき、純粋に“ダンス”が好き!って思ってくれた子どもたちからまたダンスを取り上げてしまうことになる。それだけは避けたくて、どうにかできる方法はないかを模索しました」

そんなとき、千代さんの考えに賛同した城崎国際アートセンターが場所を提供してくれることに!ほかにもさまざまな形で協力してくれる人が増え、2016年に「誰でも気らくにたのしめる、みんなのおどる場所」をコンセプトに掲げた「KINOSAKI OPEN DANCE CLASS」がスタートしました。3年目を迎えた今では、豊岡市だけでなく、周辺の市町からもクラスに参加する人たちも。このクラスの存在を聞きつけ、旅を兼ねてわざわざ関東方面から参加してくれた人もいたそう。そして昨年、この活動をさらに広げるべく、城崎温泉を所在地に置く一般社団法人ダンストーク(Danstork)を設立したのです。実際に、設立後は城崎温泉を軸にしながら活動エリアを広げ、出石町やお隣の養父市での「オープンダンスクラス」開催や、豊岡市内の高校でのダンスプログラムの実施など、千代さんはダンスの在る暮らしの愉しさや豊かさをより広く多くの人に届けています。

城崎国際アートセンターの田口館長(真ん中)と、職員でありダンストークのメンバーでもある橋本さん(左)。ふたりとも、千代さんの活動を応援してくれるよき相談相手 (写真撮影/田中友里絵)

城崎国際アートセンターの田口館長(真ん中)と、職員でありダンストークのメンバーでもある橋本さん(左)。ふたりとも、千代さんの活動を応援してくれるよき相談相手 (写真撮影/田中友里絵)

城崎温泉では、町内に外湯(そとゆ)と呼ばれる公衆浴場が7つ点在している。地元の人は100円で利用できることもあって社交場のひとつになっており、大切なコミュニケーションの場に。「レッスン後に参加者と一緒になることも。いきなり裸のお付き合いです(笑)」 (写真撮影/田中友里絵)

城崎温泉では、町内に外湯(そとゆ)と呼ばれる公衆浴場が7つ点在している。地元の人は100円で利用できることもあって社交場のひとつになっており、大切なコミュニケーションの場に。「レッスン後に参加者と一緒になることも。いきなり裸のお付き合いです(笑)」 (写真撮影/田中友里絵)

家族と暮らす京都を拠点にしながら、月に1週間ほど(長いときで3週間滞在することも!)城崎温泉に滞在する暮らしは千代さんにとってどんな影響を与えているのかを聞いてみました。
「家族と暮らす京都は、生活面でサポートし合うことができるので、何かを学んだり吸収したりする環境が整っているインプットの場。そして城崎は、京都で得たものを使いながら集中してダンスと向き合う実践の場、という感じでしょうか。行き来することで、人や場ともいい意味での距離感を保つことができています。城崎にいたら京都に帰りたいなぁ、って思うこともあるし、京都にいるときは城崎に早く行きたい!って思いますしね(笑)」

千代さんの理想は、城崎や但馬を「すべての人のまわりに“ダンス”が当たり前のように在る」、そんな場所にすることだそう。そして、他の地域から注目され人が来る場所になれば、人と人との関わりのなかにまたダンスが生まれ、みんなにとってダンスが在って当たり前のことになっていく。それが地域社会をより豊かなものにできるダンスの力である、と千代さんは信じているからです。「私にとって、夢をかなえられる場所が城崎温泉なのかもしれません。踊っても踊らなくてもダンスは必ず、日々を豊かにしてくれます。大好きな城崎や但馬の人たちに、これからもそのことを伝え続け、場をつくり続けていきたい」と千代さん。
人が日常のなかで暮らしと仕事とのバランスをとるように、千代さんは日常の中で京都と城崎温泉をバランスよく行き来し、夢に向かって進んでいます。

(写真撮影/田中友里絵)

(写真撮影/田中友里絵)

●取材協力
・一般社団法人 ダンストーク
・城崎国際アートセンター

デュアルライフ・二拠点生活[9]兵庫県城崎温泉 “踊る”ことを見つめ直す、もうひとつの居場所

京都市内在住、「コミュニティダンス・ファシリテーター」という肩書きで活動する千代その子さん(31)。とあるプロジェクトのために訪れ、街と街の人々にもすっかり惚れ込んだ兵庫県豊岡市の城崎温泉をもうひとつの拠点にするべく2018年に社団法人を設立。ダンスを通した地域貢献を実践しています。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、若い世代もデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。日本にもっともっと踊れる場が増えればいいのに

「物心ついたときには踊っていた」という千代さん。3歳でバレエをはじめてから今まで「息をすること」と同じくらい、日々の中で「踊ること」が当たり前にある人生を歩んできました。17歳でイギリスへバレエ留学。その後、イタリアのダンスカンパニーへの所属や、バレエ講師になるための再留学など、海外での経験が、千代さんの「踊ること」や「ダンサーとしての職業観」へ大きく影響を与えました。そして帰国後、フリーのダンサーやバレエ講師として活動していくなかで、
「どうすれば日本でダンサーが自立して生きていけるんだろう。ダンスが自然に在る世の中にもっとしたいけれど、その在り方ってなんだろう、という疑問に行きつき、大学院の政策学研究科に入りました」

千代さんが代表を務める一般社団法人ダンストーク(Danstork)が主催する「KINOSAKI OPEN DANCE CLASS」。住人も、旅行者も、大人も子どもも、ダンスの経験の有無も関係なく、誰でも普段着で気軽に参加でき、ダンスのもつ根源的な魅力や楽しさを体感できる(写真撮影/田中友里絵)

千代さんが代表を務める一般社団法人ダンストーク(Danstork)が主催する「KINOSAKI OPEN DANCE CLASS」。住人も、旅行者も、大人も子どもも、ダンスの経験の有無も関係なく、誰でも普段着で気軽に参加でき、ダンスのもつ根源的な魅力や楽しさを体感できる(写真撮影/田中友里絵)

大学院では地域政策やまちづくりについて研究し、インターンシップをきっかけにNPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワークに所属。千代さんはそこで運命の職業「コミュニティダンス・ファシリテーター」に出合います。「コミュニティダンス」とは、ダンス経験の有無・年齢・性別・障がいにかかわらず、「誰もがダンスを創り、踊ることができる」という考えのもと、アーティストがかかわりながらダンスの力を地域社会のなかで活かしていく活動のこと。そしてそのためのワークショップ等の活動において、参加者一人一人の表現力や創造力を引き出し、全体を目的に向かって進行するのが「コミュニティダンス・ファシリテーター」。千代さんはその養成講座の日本初の開講に準備段階から携わり、また、自分自身も「コミュニティダンス・ファシリテーター」としての活動をスタートさせ、やってきたのが兵庫県豊岡市にある城崎温泉でした。

開湯から約1300年の歴史があり、かつては志賀直哉や島崎藤村など文豪に愛された城崎温泉。7つの外湯を巡って楽しむ「外湯めぐり発祥の地」で、旅行誌の人気温泉地ランキングでは常に上位!近年は外国人観光客が5年で約40倍に急増したことで注目を集めている(撮影/田中友里絵)

開湯から約1300年の歴史があり、かつては志賀直哉や島崎藤村など文豪に愛された城崎温泉。7つの外湯を巡って楽しむ「外湯めぐり発祥の地」で、旅行誌の人気温泉地ランキングでは常に上位!近年は外国人観光客が5年で約40倍に急増したことで注目を集めている(撮影/田中友里絵)

「ダンスってなんだろう?」の答えをくれた場所

千代さんが兵庫県北部・豊岡市にある城崎温泉を初めて訪れたのは2012年。2年後に温泉街の中での開館を控えた、舞台芸術のアーティスト・イン・レジデンス施設としては日本最大級となる「城崎国際アートセンター」で行われるコミュニティダンスのプロジェクトのための視察でした。
「初めて来たのにどこか懐かしい雰囲気のする穏やかな街だなぁ、という印象でした」と千代さん。しかしそのときはまだ、自分がこの街とこんなに深くかかわることになるとは思っていなかったそう。しかし、そのプロジェクトの中心となるイタリア人アーティストの通訳兼コーディネーターを担当することになり、事前リサーチやアーティスト帯同のため、2014年・2015年にかけて京都から城崎温泉へ通う日々がはじまりました。

城崎国際アートンセンターは舞台芸術に特化したアーティスト・イン・レジデンスで、芸術監督は劇作家・演出家の平田オリザ氏が務める。年1回の公募により選ばれたアーティストは最長で3カ月の間滞在し、作品制作を行うことができる(撮影/田中友里絵)

城崎国際アートンセンターは舞台芸術に特化したアーティスト・イン・レジデンスで、芸術監督は劇作家・演出家の平田オリザ氏が務める。年1回の公募により選ばれたアーティストは最長で3カ月の間滞在し、作品制作を行うことができる(撮影/田中友里絵)

「地元の人を巻き込まないと成立しないプロジェクトだったんですが、どの人が街の人でどの人が観光客か、最初は見分けすらつかなくて。地元の人はどこにいるんですかー!!って感じでした(笑)」

ほんの少しのとっかかりを掴んだら数珠つなぎのように人に人を紹介してもらい、地元の人を訪ねて街を歩きまわり、話を聞き、プロジェクトやダンスについて想いを伝え続ける日々。最初は「自分たちが踊る?」と、どこか警戒していた人たちの表情も、コミュニケーションを重ねるにしたがって次第に和らぎ、街を歩くと手を振ってくれたり、「その子ちゃんなにしとるん!?」と声をかけてくれたり、飲みに誘われることも。コツコツと、とにかく地道に関係性を深めていきました。

「実際の公演では、皆さんに舞台上で踊ってもらったんですが、公演前の1カ月はもう!ところどころ記憶がないほど、とにかく必死で。私のすべてを捧げたというか、作品をつくること・踊ること・踊る人・踊る場を考え続け……実は、こんなにダンスと真正面から向き合ったのは初めてだったのかもしれません。そして、踊りながらときどきふと思っていた”ダンスって何だろう”という疑問に、ひとつの答えが出た気がしたんです。そして私自身、踊ることが大好きだ!って」

千代さんがかかわったプロジェクトでは温泉街の旅館の若旦那たちも舞台に。今も滞在中の生活に必要なものを借りるなど、城崎温泉での活動をサポートしてくれている。「旅館・やまとやの若旦那の結城さんは親戚のお兄さんのような存在」(写真撮影/田中友里絵)

千代さんがかかわったプロジェクトでは温泉街の旅館の若旦那たちも舞台に。今も滞在中の生活に必要なものを借りるなど、城崎温泉での活動をサポートしてくれている。「旅館・やまとやの若旦那の結城さんは親戚のお兄さんのような存在」(写真撮影/田中友里絵)

城崎国際アートセンターの近くにある喫茶店スコーピオ。お腹が空いたときはもちろん、一息つきたいときにもよく訪れる。マスターは、城崎に誰も知り合いのいなかった千代さんが最初に打ちとけ、さまざまな相談にのってくれた恩人(写真撮影/田中友里絵)

城崎国際アートセンターの近くにある喫茶店スコーピオ。お腹が空いたときはもちろん、一息つきたいときにもよく訪れる。マスターは、城崎に誰も知り合いのいなかった千代さんが最初に打ちとけ、さまざまな相談にのってくれた恩人(写真撮影/田中友里絵)

日本のどこにもないダンスの在り方を、ここ城崎温泉で

プロジェクトが終わったあとも、しばらく城崎温泉のことが忘れられなかったという千代さん。せっかく築いた街の人との関係をどうにか続けられないか……それほどに、城崎温泉の人と街に魅了されていました。そんなとき、城崎の子どもたちのなかから 「ダンスを続けたい」という相談の連絡がきたのです。

「この街の子どもたちのダンスの環境を、私がかかわることでもしも変えることができるのであれば、なんだってしたい!そしてこの街なら、性別や世代、いろんな条件を越えてひとりひとりを大切にできて、ダンスを通したさまざまな繋がりをつくれるんじゃないか。踊る人も踊らない人もすべての人の身近にダンスがある。まさに現代のダンスの在り方が実践できるんじゃないかって思ったんです」

城崎温泉と京都を行き来しながら活動をするにあたり、家族の理解は得られたものの収入面や他の活動とのバランスなどクリアしなければならない問題も。
「私の気持ちだけで見切り発車のように事業をスタートしてしまったら、もし行き詰まったとき、純粋に“ダンス”が好き!って思ってくれた子どもたちからまたダンスを取り上げてしまうことになる。それだけは避けたくて、どうにかできる方法はないかを模索しました」

そんなとき、千代さんの考えに賛同した城崎国際アートセンターが場所を提供してくれることに!ほかにもさまざまな形で協力してくれる人が増え、2016年に「誰でも気らくにたのしめる、みんなのおどる場所」をコンセプトに掲げた「KINOSAKI OPEN DANCE CLASS」がスタートしました。3年目を迎えた今では、豊岡市だけでなく、周辺の市町からもクラスに参加する人たちも。このクラスの存在を聞きつけ、旅を兼ねてわざわざ関東方面から参加してくれた人もいたそう。そして昨年、この活動をさらに広げるべく、城崎温泉を所在地に置く一般社団法人ダンストーク(Danstork)を設立したのです。実際に、設立後は城崎温泉を軸にしながら活動エリアを広げ、出石町やお隣の養父市での「オープンダンスクラス」開催や、豊岡市内の高校でのダンスプログラムの実施など、千代さんはダンスの在る暮らしの愉しさや豊かさをより広く多くの人に届けています。

城崎国際アートセンターの田口館長(真ん中)と、職員でありダンストークのメンバーでもある橋本さん(左)。ふたりとも、千代さんの活動を応援してくれるよき相談相手 (写真撮影/田中友里絵)

城崎国際アートセンターの田口館長(真ん中)と、職員でありダンストークのメンバーでもある橋本さん(左)。ふたりとも、千代さんの活動を応援してくれるよき相談相手 (写真撮影/田中友里絵)

城崎温泉では、町内に外湯(そとゆ)と呼ばれる公衆浴場が7つ点在している。地元の人は100円で利用できることもあって社交場のひとつになっており、大切なコミュニケーションの場に。「レッスン後に参加者と一緒になることも。いきなり裸のお付き合いです(笑)」 (写真撮影/田中友里絵)

城崎温泉では、町内に外湯(そとゆ)と呼ばれる公衆浴場が7つ点在している。地元の人は100円で利用できることもあって社交場のひとつになっており、大切なコミュニケーションの場に。「レッスン後に参加者と一緒になることも。いきなり裸のお付き合いです(笑)」 (写真撮影/田中友里絵)

家族と暮らす京都を拠点にしながら、月に1週間ほど(長いときで3週間滞在することも!)城崎温泉に滞在する暮らしは千代さんにとってどんな影響を与えているのかを聞いてみました。
「家族と暮らす京都は、生活面でサポートし合うことができるので、何かを学んだり吸収したりする環境が整っているインプットの場。そして城崎は、京都で得たものを使いながら集中してダンスと向き合う実践の場、という感じでしょうか。行き来することで、人や場ともいい意味での距離感を保つことができています。城崎にいたら京都に帰りたいなぁ、って思うこともあるし、京都にいるときは城崎に早く行きたい!って思いますしね(笑)」

千代さんの理想は、城崎や但馬を「すべての人のまわりに“ダンス”が当たり前のように在る」、そんな場所にすることだそう。そして、他の地域から注目され人が来る場所になれば、人と人との関わりのなかにまたダンスが生まれ、みんなにとってダンスが在って当たり前のことになっていく。それが地域社会をより豊かなものにできるダンスの力である、と千代さんは信じているからです。「私にとって、夢をかなえられる場所が城崎温泉なのかもしれません。踊っても踊らなくてもダンスは必ず、日々を豊かにしてくれます。大好きな城崎や但馬の人たちに、これからもそのことを伝え続け、場をつくり続けていきたい」と千代さん。
人が日常のなかで暮らしと仕事とのバランスをとるように、千代さんは日常の中で京都と城崎温泉をバランスよく行き来し、夢に向かって進んでいます。

(写真撮影/田中友里絵)

(写真撮影/田中友里絵)

●取材協力
・一般社団法人 ダンストーク
・城崎国際アートセンター

「喫茶ランドリー」誕生から1年で地域に変化。住民が見つけた新たな生き方とは?

「どんな人にも、自由なくつろぎ」というコンセプトのもと、2018年1月、東京都墨田区にオープンした「喫茶ランドリー」。老若男女が思い思いにくつろぎ、家事をし、自主的にイベントを開き、皆が思い思いに楽しんでいる……そんな新たな“公的空間”が注目を集めています。どんな思いでつくられたのか、オープンから1年、どんな変化があったのか、店主の田中元子さんに話をうかがいました。
どんな人にも自由なくつろぎを。通常のランドリーカフェとは一線を画す手袋の梱包作業場として使われた築55年の空間をリノベーションし、喫茶室、ランドリースペース、運営会社の事務所を兼ねる店舗に(写真/阿野太一)

手袋の梱包作業場として使われた築55年の空間をリノベーションし、喫茶室、ランドリースペース、運営会社の事務所を兼ねる店舗に(写真/阿野太一)

0歳から80代まで、街のさまざまな人たちが訪れるという喫茶ランドリー。この街で生まれ育ったご近所さん、近くのマンションに暮らすママ友さんたちとキッズ、デート中の若いカップル、PCを開いて仕事をするビジネスパーソンなど、その客層はこの街の縮図そのものだそう。

レトロな雰囲気の喫茶スペースに加え、洗濯機・乾燥機、ミシンやアイロン、裁縫箱が置かれた「まちの家事室」のある店内。「喫茶」と「ランドリー」という分かりやすいストレートなネーミングから、最初店名を聞いたときは、近年各地に登場している「ランドリーカフェ」(コインランドリーにおしゃれなカフェを併設した店舗)なのだろうと思いましたが、「喫茶ランドリー」はそれとは一線を画したお店です。

「喫茶ランドリーは『自由』がコンセプト。スペースごとに、あるいはお店全体をレンタルスペースとしてお貸しするほか、お茶を飲みながら、何かやりたいことがあればどうぞ自由に使ってくださいとお話ししています」と店主の田中元子さん。

約100平米の店内はおおまかに4つのスペースに分かれます。ここは店内の一角を占める「まちの家事室」。洗濯やミシンがけなどの合間に、ご近所さん同士で“井戸端会議”が始まることも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

約100平米の店内はおおまかに4つのスペースに分かれます。ここは店内の一角を占める「まちの家事室」。洗濯やミシンがけなどの合間に、ご近所さん同士で“井戸端会議”が始まることも(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

階段数段分床面が低くなった「モグラ席」。篭り感があって落ち着けると人気の空間です(写真/阿野太一)

階段数段分床面が低くなった「モグラ席」。篭り感があって落ち着けると人気の空間です(写真/阿野太一)

「大テーブル席」は、実はここの企画・運営も行うグランドレベルのオープンな事務所。お客様にも開放しています。写真に映っているのは、田中さんのビジネスパートナー、大西正紀さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「大テーブル席」は、実はここの企画・運営も行うグランドレベルのオープンな事務所。お客様にも開放しています。写真に映っているのは、田中さんのビジネスパートナー、大西正紀さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「フロア席」には、かつていろんな喫茶店で使われていた椅子とテーブルが(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「フロア席」には、かつていろんな喫茶店で使われていた椅子とテーブルが(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

小さな「やりたい」が実現できる場所をつくりたい

「喫茶ランドリーが立地するのは、かつて倉庫や町工場が立ち並んでいた街です。近年は徐々にマンションに建て替わり、人口は増えているはずなのに人通りが少ない。森下駅から徒歩5分、両国駅からも8分と利便性は悪くなく、都心へ出かけやすい立地ですが、都心などへ出かけない日は家の中で過ごしている時間が長いのでしょうね。それは、近所にふらっと立ち寄れる場所がないからだと思いました。

このお店をつくる際にモデルにしたのは、コペンハーゲンで街巡りをした際に出会ったランドリーカフェ。当時、日本でそういう施設は聞いたことがなかったのですが、そのお店では若い夫婦が洗濯しながら赤ちゃんをあやしていたり、おじさんがぼうっと過ごしていたり、子どもがおもちゃで遊んでいたり、さまざまな客層がそれぞれ好きに過ごす、日常生活が垣間見られる場所でした。この街にはそんなお店のように気取らない場所が必要だと考えたのです」

コペンハーゲンのランドリーカフェ(写真提供/喫茶ランドリー)

コペンハーゲンのランドリーカフェ(写真提供/喫茶ランドリー)

「喫茶ランドリーという名前にしたのは便宜上で、ここを喫茶店としてのみ、ランドリーとしてのみ、受動的に消費するだけの場にはしたくありませんでした。ここでは誰もが自由に何かをする場にしたかったんです。

私は2015年から趣味で『パーソナル屋台』を引き、公園でコーヒーを無料で配るという活動をし、自分もパーソナル屋台で何かを振る舞いたいという人を応援しているのですが、その経験から分かったのは『人は意外といろんなことをやりたがっている』ということ。それは大規模なことではなく、日常のほんの小さなことだったりします。

でも、都会では遠慮しながら暮らしている方がとても多いんじゃないでしょうか。みんなふと『これがしたい』と心に浮かぶのに、人目や常識を気にしてしまって気持ちにフタをしてしまう。だから喫茶ランドリーを、心のフタを開けて『やりたい』が実現できる場にしようと思ったんです」

「お客様は、家事をしたり、読書室や工房として使ったり、自主的にイベントを開催したりしています。なかには、『ここで編み物してもいい?』っていうお客様や、カバンづくりが趣味で『家だと音がお隣に響くから、バッグの鋲打ちをここでさせて』という方もいらっしゃいます。普通のお店では人目が気になったり、家でも音が響くからと考えてなかなかできないことです。でもここなら『自由に過ごして』と言っているワケで、皆さん本当に自由ですよ(笑)」

人通りの少ない街にできた、多様な人々が訪れる“私設公民館”道行く人に店内の雰囲気が伝わるように全面をガラスにした開放感ある店構えにし、内外の境界を低くしました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

道行く人に店内の雰囲気が伝わるように全面をガラスにした開放感ある店構えにし、内外の境界を低くしました(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

オープン当初2、3週間ほどは全く来店者がなく、田中さんは、毎日店先で「よかったら見ていって」とコーヒーを振る舞い、「自由に使ってくださいね」と語りかけ続けたといいます。ある日、地元の主婦の方たちがコーヒーを片手に家事室で談笑を始めたかと思うと、ご近所さんが通りかかるたびに「あら、久しぶり!」と呼び込んで、“井戸端会議”状態になったそう。人通りが少なかったエリアがこうして徐々に再生し、今では“私設公民館”と呼べるような、人々の交流の場となりました。

リノベーションのビフォー(右写真)アフター。寂しかった街の一角に明かりが点りました(写真提供/喫茶ランドリー(左)、写真撮影/SUUMOジャーナル編集部(右))

リノベーションのビフォー(右写真)アフター。寂しかった街の一角に明かりが点りました(写真提供/喫茶ランドリー(左)、写真撮影/SUUMOジャーナル編集部(右))

とにかく受け入れる。使い方はお客様次第

その結果、さまざまな出来事が生まれました。

「大家族の忘年会に使いたい」と総勢20人でモグラ席と周辺席を貸し切った3世代5家族。旧友との再会にと焼肉パーティーを敢行した若者グループ。事務所スペースの「大テーブル席でパン生地づくりを」と集まった女性9人のご近所さんグループ。パン生地はすぐ近くの自宅で焼き、できたてのパンを他の来店者にもお裾分けして新たな交流も生まれたそうです。

「大テーブル席」は基本的に事務スペースだが、ある日「ここを大勢で囲んでパン生地づくりをしたい」と驚きの申し出が(写真提供/喫茶ランドリー)

「大テーブル席」は基本的に事務スペースだが、ある日「ここを大勢で囲んでパン生地づくりをしたい」と驚きの申し出が(写真提供/喫茶ランドリー)

「まちの家事室」でも、子どもの幼稚園バッグづくりやアイロン掛けをするママさんグループが登場し、そこから発生した「ミシンウィーク」(ミシンが得意な人たちが1週間交代で開くワークショップ)を定期開催するようになり、「つくったものをいろんな人たちに見せて交流できるのが楽しい」と手芸を楽しむ年配の女性達も増えました。家事のための場所をつくると、作業をする人同士のコミュニケーションが生まれやすいのだと気付かされます。

オープンした翌月に、「まちの家事室」を貸し切って、お客様によって主催された「ミシンウィーク」。ミシンに興味のあるプロ級の方から初心者まで、さまざまな街の人たちが参加した(写真提供/喫茶ランドリー)

オープンした翌月に、「まちの家事室」を貸し切って、お客様によって主催された「ミシンウィーク」。ミシンに興味のあるプロ級の方から初心者まで、さまざまな街の人たちが参加した(写真提供/喫茶ランドリー)

さらに、毎週フロア席を貸し切って、支店とネット中継しながら業務の勉強会を行う場として活用する会社も現れました。「自由に使える施設公民館」の使われ方は、まさにお客様次第。そうした使い方をされるとは、当初思っていなかったそうです。

ほかにも、ここで婚姻届を記入したカップルが2組、届けた後にここで休憩していったカップルが1組。家出してきたご近所さんを受け入れたこともあったそうです。そうした人生の大切な時期に立ち寄ろうと思える求心力や懐の深さが、この喫茶ランドリーにはあるのでしょう。

「オープン以来1年で、200以上のイベントが開催されました。もともと小さなコミュニティはしていたけど、すべて建物の中にあったのだと思います。こうしたスペースがあることで、わくわくする時間がもてたり、人目に触れることで人とのつながりが深まっていくのだと思います」

なぜ「喫茶ランドリー」でそのイベントを?という葛藤も

喫茶ランドリーは基本的に周辺の住人の方々を想定した場なのですが、自由に使えるレンタルスペースであることもあって、さまざまな想定外のイベント話が舞い込むようにもなりました。

「一番驚いたのは、洗剤メーカーが主催するイベント」と田中さん。「洗濯機に扮したバーチャルユーチューバーと総勢60人のファンが洗濯のコツについて直接会話するという不思議な展開のプロモーションでした。でも最初は、なぜ喫茶ランドリーでそのイベントを?って思いましたね。ここが選ばれたのは洗濯機があるからという理由だけで、喫茶ランドリーの良さを分かってくれたワケじゃないのではと何だか腑に落ちない心の葛藤もありました。

でも大勢の参加者の方々の念願がかなったと喜んでいる様子を見て、この場を選んでもらってよかったなと思いました。きっかけは何であれ、ここで過ごしていただいた方々に良い思いを感じていただいて、こうした自由な場があることの良さを分かってもらえたらとてもありがたいですね」
「人気アイドルのプロモーション撮影の場としてお貸しした際も、なぜウチで?と思ったりしましたが、そのアイドルのファンの方々が訪れてくれるようになり、喫茶ランドリーの良さを感じてくれて、リピーターになる方もいらっしゃって、うれしいです。受け入れること、判断を任せることの大切さを学びました」

人と人のつながりが、店の雰囲気をどんどん変えていくお店のキッチンカウンター(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

お店のキッチンカウンター(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

オープンから1年。店内は当初よりも彩りが増しています。
「知らないうちに花が飾られている、贈られた果物で新しいスイーツがいつの間にかメニューに加わっているということもあります(笑)。『まちの家事室』の入り口を飾る三角フラッグもスタッフがつけてくれたもの。ほかの仕事でしばらく来ないでいると店の雰囲気が変わっていて、それも何だかうれしいことです。良いことが蓄積されていって、それが見て取れるわけですから」と田中さん。

「最初は私とパートナーの2人だけで運営し、メニューもコーヒー、紅茶と『ツナメルトトースト』だけでした。今、無水カレーやシチュー、オープンサンド、ケーキなどはすべてスタッフが自主的にメニュー開発してくれたもので、すべて手づくりです」

手づくりの米粉のホワイトシチュー750円(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

手づくりの米粉のホワイトシチュー750円(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「スタッフは現在4人ですが、みんなもともとこの店のお客様。募集していないのに働きたいと申し出があってお願いしました。人を雇うことは初めてで戸惑いもありましたが、のびのび働いてもらえているのがうれしいですね。専業主婦の彼女たちには、プロ店員のように接客しなくていい、背伸びせず自分らしく働いてほしいと話していますが、みんなコミュニケーション能力が高いので、お客様との交流は安心してまかせられます。

喫茶ランドリーでさまざまなお客様と出会い、いろいろな話をするようになって、街の出来事をたくさん発見できました。ここがなかったら、この瞬間、この街のどこかの部屋の中で喜んでいる人や悲しんでいる人がいることにも気が付かなかったと思います。予想外のことも起こりますが、そうした経験がいちばんの財産ですね」

店内で販売されているハンドメイド作品。常連さんとの会話で「そんなものつくられているのですか!」となると、翌日から無料の委託販売がはじまるそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

店内で販売されているハンドメイド作品。常連さんとの会話で「そんなものつくられているのですか!」となると、翌日から無料の委託販売がはじまるそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

LPレコードは、ご近所のコンビニ店長さんのコレクションを販売中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

LPレコードは、ご近所のコンビニ店長さんのコレクションを販売中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大テーブルには、ここでプリザーブドフラワー教室を主催した常連さんが自分の作品を飾っています。ミニチュアハウスは別のお客様の作品で、「飾って」と差し入れされたもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大テーブルには、ここでプリザーブドフラワー教室を主催した常連さんが自分の作品を飾っています。ミニチュアハウスは別のお客様の作品で、「飾って」と差し入れされたもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

1階が楽しくなれば、街も楽しくなる

喫茶ランドリーの誕生は、田中さんが代表を務める街づくりコンサルティング会社「株式会社グランドレベル」が、この建物の活用を依頼されたことがきっかけでした。

「グランドレベルの理念は『1階づくりはまちづくり』というものです。建物の1階(グランドレベル)を街に開いたつくりにすれば、1階だから誰もが気軽に立ち寄れて、人の流れが生まれ、街が変わる。日本では1階のもつポテンシャルがないがしろにされていると感じています。1階はプライベート空間とパブリック空間のつなぎ目。1階が面白くなければ街は面白くなりません」

その理念が活かされた喫茶ランドリーは、多様な人が訪れる街に開かれた寛容な場をつくった点が高く評価され、2018年10月にグッドデザイン賞のグッドフォーカス賞[地域社会デザイン]を、同年12月にはリノベーション・オブ・ザ・イヤー2018・無差別級部門最優秀賞を受賞しました。

白い「縁結びリース」は「1周年記念に」とお客様が発案したもの。来店者がメーッセージを書き込んだハギレを結びつけてつくられています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

白い「縁結びリース」は「1周年記念に」とお客様が発案したもの。来店者がメーッセージを書き込んだハギレを結びつけてつくられています(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そうした評価を受け、第2、第3の出店話も進んでいるそうです。
「出店といっても私たちが直営するのではなく、お店を始めたいという人にコンセプトを共有し、コンサルティング協力をしています。喫茶ランドリーの店名をそのまま使ってもらっても良いですが、地域の特性に合う店舗にしないと人の集まる場所になりません。

喫茶ランドリーはなんとなく出来上がった店舗に見えるかもしれませんが、ハードやソフト、コミュニケーションのデザインを、繊細にコントロールしています。マグカップ一つにしても、おしゃれなものではなく、実家にあるカップのように親しみもあって毎日見ても飽きないものを選ぶなど、格好良すぎに決めないで、多くの人にちょうどいい『ちょっと素敵』で仕立てています。最初から100%つくり込むのではなく、スタッフやお客様の意向も受け止められる器づくりも大切です。そうした点をきちんとお伝えしたいですね。

喫茶ランドリーは、ワクワクを共有できたり、コミュニティのつながりが豊かになったり、さらには自分という存在が社会から受け入れられていると実感できる場所。こうした、街に開かれた自由な場、私的公民館的なスペースがどんどん増えれば、とてもうれしいです」

田中さんのお話をうかがい、ふらっと立ち寄れて自然体で過ごせる居心地の良い場所が自宅近くにある。そこでは人と人が自然とつながることもできる。それはなんと幸せなことなのだろうと感じました。

看板も、道ゆく人に「寄っていきませんか」と語りかけているよう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

看板も、道ゆく人に「寄っていきませんか」と語りかけているよう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●取材協力
喫茶ランドリー

田中元子さん
株式会社グランドレベル代表取締役。喫茶ランドリー店主。1975年茨城県生まれ。独学で建築を学び、2004年大西正紀氏と共にクリエイティブユニットmosakiを共同設立。建築やデザインなどの専門分野と一般の人々とをつなぐことをモットーに、建築コミュニケーター・ライターとして、主にメディアやプロジェクトづくりを行う。2010年よりワークショップ「けんちく体操」に参加。同活動で2013年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。2015年よりパーソナル屋台の活動を開始。2016年、株式会社グランドレベルを設立。主な著書に『マイパブリックとグランドレベル―今日からはじめるまちづくり』

地主、居住者、行政の“三方良し”を実現する、これからの農園付き住宅

都市近郊の農業生産者が抱える大きな悩みは後継者不足。農地が耕作放棄地になることに加え、これまで「生産緑地」として税が優遇されてきた土地の多くが、2022年にその期限が切れ、宅地並みに課税されます。

その一方、自然、健康、食などに高い関心を持つ人たちは増え続け、市民農園が根強い人気を集めています。こうした動向をとらえて増木工業(埼玉県新座市)が送り出した農園付き分譲住宅が今、注目を集めています。現場を訪ね、その発想や魅力をレポートします。

農地という資産を守りつつ、住宅の魅力を創造する

JR新座駅から歩いて10分ほど、広い農地が残るエリアに、農園付き住宅「新農住コミュニティ野火止台」はあります。

ここを開発・販売する増木工業は、創業140年を越える長い歴史を持ち、地元の新座市を中心とする地域に密着して信頼を築いてきました。地元の地主から土地に関する相談を受けることも珍しくありません。

農園付き住宅の発想もそうした相談がきっかけで生まれました。同社の住宅事業部の大塚嘉孝(おおつか・よしたか)さんはこう振り返ります。
 
「先祖伝来の農地を持ち、お母さんが農業を続けているものの自分は公務員、後継者はいないという地主様から、農地を残す方法はないかと相談を受けました。社長(増田敏政氏)と私が対応する中で、定期借地権付きの一戸建ての賃貸住宅を建てる案が出てきました」。

定期借地権付き賃貸住宅なら、地主は土地の所有権を持ったまま、家賃に加えて地代も得ることができ、しかも固定資産税を大幅に減らすことができます(例えば東京都であれば課税標準は更地の6分の1)。この案は、土地売却より利益が少ないこと、定期借地権の期間が50年と長いことから、最終的には実現できませんでした。しかしこれを機に増田社長と大塚さんは構想を膨らませていきました。

「後継者がいなくても、先祖伝来の土地を失いたくないという農家さんは多いのです。そこで、定期借地権利用に限らず、住宅に農地を組み合わせることを考えました。これなら部分的に農地も残すことができます」。

増田社長はドイツのクラインガルテンを意識していたようです。 また大塚さん自身も、「単に不動産を細切れにして販売するだけではなく、地域に合った価値を付加した、わくわくするような街を作りたいという思いをずっと持っていました」。

埼玉県新座市は調整区域が多く、駅周辺には住宅と広い農地が混在した風景が広がっている(写真撮影/織田孝一)

埼玉県新座市は調整区域が多く、駅周辺には住宅と広い農地が混在した風景が広がっている(写真撮影/織田孝一)

そんなとき、800坪の農地を売却したいという農家からの依頼がありました。そこで、かねてから考えてきた農・住近接のアイデアを取り入れて開発したのが、「新農住コミュニティ野火止台」です。ここでは定期借地権ではなく、分譲住宅としました。

「地主様である農家さんが先祖伝来の土地を失うことを嫌うのは、土地と共に、手塩にかけて作ってきた肥沃な“土”を失うことも大きいと思います。農地付きの住宅なら、この土を活かせるのが、農家さんにとって大きな魅力なのだと思います」。

また、多くの都市近郊の農地が、「生産緑地」として受けてきた優遇税制が2022年には期限が切れることも、懸念材料となっているようです。「当社の農地付き住宅についての説明会には、多くの地主様が参加されています。土地を守り、活かす方法を模索されている背景には、この“2022年問題”もあるようです」。

敷地中央を通る散歩道が美しさと人間関係を生み出す

実際に「新農住コミュニティ野火止台」を歩いてみました。

志木街道に面した、細長い敷地に立つ住宅は15棟。敷地面積は一棟平均約35坪で、各棟に1坪サイズの家庭菜園が設置されています。

敷地の中央を、縁道(えんどう)と呼ばれるゆるやかに蛇行する散歩道が貫いているのが大きな特徴です。これは分譲地の景観を美しく演出するとともに、住まいと住まいの人間関係をつなぐ道でもあります。

「通常だと、中央に車の通れる広い道を通し、両側に住宅を配置するやりかたになりますが、それをせず、もっと自然と親しむ住宅地にしたいと思いました」。

中央部には共用畑を設けました。これは各棟の家庭菜園とは別に、入居者全員が共同利用できる畑です。畑の所有は増木工業。「もう一棟建てられるくらいの敷地(30坪強)をあえて共有の畑にしました。元地主の農家が農業アドバイザーとして農業のサポートをし、相談に乗ってくれるのも新しい試みです」。共用畑の向かいにある防災広場は、災害に備え煮炊きのできるカマドを設置する予定です。また、イベントスペースとして居住者同士のコミュニケーションを図る場として活用していきます。

地主にとってもただ土地を売っておしまいというのではなく、農を通じた土地との関係が続き、そこに住む人たちとの人間関係もできるという点が従来とは異なる魅力になっています。

植栽や畑と一体となったランドスケープデザインは、東京・世田谷区にある建築事務所ボスケデザインによるものです。約80種類もの植栽が、暮らしを彩ります。

整備中の共有畑の前で、住宅事業部の大塚嘉孝さん(営業)と、このプロジェクトの現場監督を務めた福田千尋さん(工事) (写真撮影/織田孝一)

整備中の共有畑の前で、住宅事業部の大塚嘉孝さん(営業)と、このプロジェクトの現場監督を務めた福田千尋さん(工事) (写真撮影/織田孝一)

もう一つ、「新農住コミュニティ野火止台」の大きな特徴は、果樹が数多く植えられていることです。

「果樹を植えた理由には、この『新農住プロジェクト』が、映画『人生フルーツ』に大きな影響を受けたためです。映画に出てきた津端御夫妻のような、“実りある暮らし”を実現する舞台にしたいと考えました」。

『人生フルーツ』(伏原健之監督)は、愛知県春日井市に住む建築家の津端修一・英子夫妻の日常を追ったドキュメンタリー。その自給自足的な生活や思想が多くの人の共感を呼び、隠れたヒット作となりました。「一般に広く上映していない映画なので、当社では何度も自主上映会を開催しました。この映画に共感されるお客様は、農住接近した生活に親和性が高いと考えたからです」。

果樹が数多く植えられていることを語る、住宅事業部営業リーダーの山口愛莉沙さん。そばにあるのはザクロがなっている木(写真撮影/織田孝一)

果樹が数多く植えられていることを語る、住宅事業部営業リーダーの山口愛莉沙さん。そばにあるのはザクロがなっている木(写真撮影/織田孝一)

雨水を利用した給水システムも用意されている(写真撮影/織田孝一)

雨水を利用した給水システムも用意されている(写真撮影/織田孝一)

15棟の内、10棟にはウッドデッキを設置した(写真撮影/織田孝一)

15棟の内、10棟にはウッドデッキを設置した(写真撮影/織田孝一)

住宅には無垢材を多用するなど、自然との調和を図っています。室内の温度ムラが少ない全館空調パッシブエアコンを採用したほか、家庭用燃料電池を使った給湯システム、太陽光発電システム、電気自動車用コンセントなど、環境保全型のしくみが数多く取り入れられています。

屋内は無垢の木を多用。年月が経過し、使い込むほどに美しくなる(写真撮影/織田孝一)

屋内は無垢の木を多用。年月が経過し、使い込むほどに美しくなる(写真撮影/織田孝一)

全棟に屋根裏収納スペースがあり、可動式梯子で上がれるようになっている(写真撮影/織田孝一)

全棟に屋根裏収納スペースがあり、可動式梯子で上がれるようになっている(写真撮影/織田孝一)

「新座でも貸し農園は人気がありますし、食育や自給自足への関心も今まで以上に高まっていると感じます。「新農住コミュニティ野火止台」はそんな時代にも合った分譲住宅でもあると思います」と大塚さんは自信を見せます。この11月3日、4日に開催された町開きでは、大勢の見学者を集め、盛況となりました。

農地を維持したい地主、健康的な生活を求める住民、人口流出をくい止め、景観を守りたい行政、三者いずれもが利益を得る、新しい住宅地の可能性が見えてくるようです。

●取材協力
増木工業株式会社

【カップル編】大宮駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

東北新幹線や北陸新幹線などの新幹線各線に加え、JR各線、さらに東武野田線と埼玉新都市交通伊奈線(ニューシャトル)が乗り入れる大宮駅。東京と東北・北信越地方を結ぶ交通の要所であり、埼玉県を代表する一大ターミナル駅だけあって、駅周辺には大型商業施設も林立してにぎわっている。そんな大宮駅から30分圏内にある、中古マンションの価格相場を調査。今回は専有面積40平米以上~70平米未満のカップル向け物件の価格相場が安い駅トップ10を紹介する。●大宮駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/大宮駅までの所要時間)
1位 豊春 880万円(東武野田線/埼玉県春日部市/17分)
2位 八木崎 1190万円(東武野田線/埼玉県春日部市/19分)
3位 久喜 1280万円(JR宇都宮線/埼玉県久喜市/20分)
4位 指扇 1305万円(JR川越線/埼玉県さいたま市/11分)
5位 武里 1335万円(東武伊勢崎線/埼玉県春日部市/29分)
6位 春日部 1399万円(東武野田線/埼玉県春日部市/21分)
7位 日進 1690万円(JR川越線/埼玉県さいたま市/4分)
8位 東大宮 1780万円(JR宇都宮線/埼玉県さいたま市/6分)
9位 今羽 1799万円(埼玉新都市交通伊奈線(ニューシャトル)/埼玉県さいたま市/9分)
10位 鴻巣 1860万円(JR高崎線/埼玉県鴻巣市/21分)

1位の価格相場は大宮駅の約4分の1!どんな駅なのか……?

今回調査の基点にした大宮駅のカップル向け中古マンションの価格相場は3455万円。そこから電車で30分圏内だと、どれほど相場は変わるのか? さっそくランキングを見ていこう。

1位になったのは東武野田線・豊春(とよはる)駅。価格相場はなんと大宮駅の約4分の1である880万円で、トップ10の中でもずば抜けた安さ。確かに大宮駅のように大型商業施設はない静かな住宅地だが、駅周辺にはスーパーやドラッグストアが点在し、15分ほど歩くと生鮮食品から雑貨までそろう「MEGAドン・キホーテ春日部店」も。日常生活に必要なものは駅周辺でまかなえそうだ。

2位以下は価格相場が1000万円台に突入する。2位は1位の隣駅である東武野田線・八木崎駅、そして3位にはJR宇都宮線・久喜駅がランクイン。久喜駅でJR宇都宮線に乗れば、大宮駅のほか上野駅や東京駅にも乗り換えなしで行ける。また、久喜駅には東武伊勢崎線も通っている。東武伊勢崎線は東京メトロ半蔵門線との直通運転もあるため、渋谷駅にも1本で行くことが可能。久喜駅に直結してショッピングセンター「クッキープラザ」がある点も便利なところだ。それでいて価格相場は大宮駅の2分の1以下、1280万円となっている。

久喜駅(写真/PIXTA)

久喜駅(写真/PIXTA)

大宮駅から1駅で価格相場が半額の駅など、注目の駅はほかにも!

6位になったのは、東武野田線と東武伊勢崎線が乗り入れている春日部(かすかべ)駅。『クレヨンしんちゃん』の舞台として聞いたことがある人もいるだろう。この駅は現在、東口側と西口側が線路で分断されているが、両側を行き来できるようにと鉄道の高架化・駅周辺の再開発をする計画が進められている。実現するのはまだ先になりそうだが、これから注目しておきたい駅と言える。

JR川越線とJR埼京線が通る、7位の日進駅は大宮駅から1駅・約4分という近さでありながら、中古マンションの価格相場は1690万円と大宮駅の半額以下だ。駅一帯は住宅地で、調査時点のSUUMOの掲載物件数もトップ10中では最も多いため、お気に入りの物件を見つけやすそう。駅周辺にショッピングセンターやスーパーがあるほか、15分少々歩くと映画館を併設した「イオン大宮店」も。JR埼京線に乗れば池袋駅や新宿駅、渋谷駅までも1本で行ける。

もう1駅、気になるのは9位の今羽(こんば)駅。駅を通るのは埼玉新都市交通伊奈線(ニューシャトル)というちょっと聞きなれない路線だが、東北・上越両新幹線の誕生に合わせ、沿線住民の大宮駅へのアクセス向上のために1983年に開業したという。新幹線高架軌道の張り出し部分を走るこの路線に乗れば、今羽駅から大宮駅は4駅・約9分。駅の徒歩15分圏内に数軒のスーパーやドラッグストアもあるが、休日にサッと大宮駅に出て買い物をするのもいいだろう。

ニューシャトル2020系(写真/PIXTA)

ニューシャトル2020系(写真/PIXTA)

路線もさまざまな駅が並んだ今回のランキング。大宮駅は周辺地域に比べると中古マンションの価格相場がグッと高めということもあり、トップ10の駅の価格相場はいずれも大宮駅よりも1500万円以上も低い結果になった。

さて、次回は専有面積70平米以上~100平米未満のファミリー向け中古マンションの価格相場ランキングをお届けする。どんな駅がランクインするのか、お楽しみに。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積40平米以上70平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年8⽉1⽇~2018年10⽉31⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

キッズデザイン賞受賞! 建設反対の声を乗り越え、地域との共生を考えて設計された保育園

待機児童解消の問題と並行して、保育施設増設反対の住民運動についての賛否が話題となっています。ここ最近では、港区白金台の白金台保育室、南青山の(仮称)港区子ども家庭総合支援センターへの住民反対運動などが頻繁にメディアで報道されているので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

そんな中、建設反対の声がありながらそれを乗り越えて、2018年4月に開園した保育園があります。8月にはキッズデザイン賞を受賞した、世田谷区の代沢ききょう保育園です。どんな点が評価されて受賞にいたったのか、また、開園に至るまでの軌跡は――?

保育園を運営する福祉法人桔梗(以下、桔梗)の理事長、山田静子(やまだ・しずこ)さんと、保育園を設計した住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所の井上恵子(いのうえ・けいこ)さんに、地域との共生を実現するまでの工夫やプロセスについてお話を聞きました。
世田谷区にある代沢ききょう保育園は2018年キッズデザイン賞を受賞。「高級住宅地にふさわしいデザインに」と地域からの要望を受け設計された外観は、オリジナルデザインの門扉、薩摩中霧島塗りの壁、木レンガの歩道など、建築物としてのこだわりも満載(写真撮影/片山貴博)

世田谷区にある代沢ききょう保育園は2018年キッズデザイン賞を受賞。「高級住宅地にふさわしいデザインに」と地域からの要望を受け設計された外観は、オリジナルデザインの門扉、薩摩中霧島塗りの壁、木レンガの歩道など、建築物としてのこだわりも満載(写真撮影/片山貴博)

保育園増設に反対の声!? 反対の理由って?

代沢ききょう保育園の整備計画が決定したのは2014年5月、現在、運営を行なっている社会福祉法人桔梗が事業者として認定されたのが2016年3月のことでした。既にこの段階で、世田谷区主催での住民説明会が8回開催されていたそうです。2016年3月に開かれた9回目の住民説明会に初めて参加した山田さんが、その時の状況を振り返ります。

「初めて地域のみなさんを前にして、『良好な保育環境の充実を目指して、子どもの声が響く、地域に開かれた保育園を目指したい』と挨拶をしました。ところが『“子どもの声が響く“なんて。騒音が問題だとこれまでの説明会で訴えてきたことを理解していないのではないか』とのお声が。そこから、地域の方々との調整がスタートしたのです」(山田さん)

世田谷区の代沢ききょう保育園を運営する社会福祉法人桔梗の理事長、山田静子さん(写真撮影/片山貴博)

世田谷区の代沢ききょう保育園を運営する社会福祉法人桔梗の理事長、山田静子さん(写真撮影/片山貴博)

その後も重ねられた近隣説明会の中、で山田さんたちが受け取った要望はなんと141項目に及びます。指摘されたのは大きく3つで「施設の配置」「保育園の運営」「騒音」についての問題でした。

代沢ききょう保育園建設にあたり、近隣説明会で出された地域の要望は141項目(井上さん提供)

代沢ききょう保育園建設にあたり、近隣説明会で出された地域の要望は141項目(井上さん提供)

地域との対話を10回以上重ねてできた保育園

山田理事長と井上さんはそれらの近隣からの意見を受け入れ、保育園の設計に一つひとつ反映させていきます。

「当初、総敷地面積2000平米という豊かな立地を活かして、南側に500平米程の広い園庭を有したL字形の園舎を建築したいとプランを提出しました。けれども、騒音を懸念するご意見をいただいたので、その点に配慮するために建築プランを大きく変更することにしました。

代沢ききょう保育園を設計した建築士の井上恵子さん(写真撮影/片山貴博)

代沢ききょう保育園を設計した建築士の井上恵子さん(写真撮影/片山貴博)

まず、園庭の音を建物で遮断するため園舎の形をL字型からロの字型に変更しました。そして保育棟部分を中心に防音性能の高いサッシを採用することで、子どもたちが思い切り声を出して遊んでも、周辺住宅地には音が漏れない園舎を実現しています」(井上さん)

当初の建築プランは、南側に広い園庭を確保したL字型の園舎(井上さん提供の図をもとに作成)

当初の建築プランは、南側に広い園庭を確保したL字型の園舎(井上さん提供の図をもとに作成)

地域の要望を受け、園庭をぐるりと園舎で囲む形のロの字型配置で遮音性を確保(井上さん提供の図をもとに作成)

地域の要望を受け、園庭をぐるりと園舎で囲む形のロの字型配置で遮音性を確保(井上さん提供の図をもとに作成)

「建物で園庭を囲うことで園庭の音の問題は解決しても、園庭の日当たり条件が悪くなってしまいます。そこで北側と南側とで園舎の高さを変え、園庭になるべく多く日が入るように設計しています。隣地と園舎が近い南側には遮音壁も設置しましたが、近隣の景観を損ねないよう木製のものにしました」(井上さん)

左側の保育棟と右側の施設等は近隣の建物にあわせて高さを変え、可能な限り採光がとれ、風が通る設計になっている。左手前の柵の中は、現在はオフシーズンのため蓋をしている園児用プール(写真撮影/片山貴博)

左側の保育棟と右側の施設等は近隣の建物にあわせて高さを変え、可能な限り採光がとれ、風が通る設計になっている。左手前の柵の中は、現在はオフシーズンのため蓋をしている園児用プール(写真撮影/片山貴博)

園庭を中央に配し、周囲に園舎を設けることで園庭の音がカットされる設計(井上さん提供)

園庭を中央に配し、周囲に園舎を設けることで園庭の音がカットされる設計(井上さん提供)

敷地の南側(一部)には、天然木と黒に塗られた鉄のコントラストが洗練された雰囲気の木製遮音壁を配置(写真撮影/片山貴博)

敷地の南側(一部)には、天然木と黒に塗られた鉄のコントラストが洗練された雰囲気の木製遮音壁を配置(写真撮影/片山貴博)

もちろん、子どもたちが健やかに過ごせるよう保育環境にも配慮されています。

「都市部では珍しい木造在来(真壁)工法を採用し、木の柱・梁を現すことで、木の雰囲気を感じられる温かみのある園舎にしました。木造建築物は火災を懸念されますが、燃え代(もえしろ)設計(想定される火事で消失する木材の部分を想定して部材の断面寸法を考えること。木材が火災にあっても、燃え代を想定しておけば、直ちに建物が倒壊することはない)を行い、準耐火建築物として認定されています。

また、開口部に使用している木製のサッシは、遮音性はもちろん、断熱性にも優れ、施設内で子どもたちが夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるようになっています」(井上さん)

保育棟の廊下。左側の開口部には遮音性の高い木製サッシが使われている。屋根の形を生かした勾配天井は空間を広く見せる効果も(写真撮影/片山貴博)

保育棟の廊下。左側の開口部には遮音性の高い木製サッシが使われている。屋根の形を生かした勾配天井は空間を広く見せる効果も(写真撮影/片山貴博)

これだけの充実した設備や、いたるところに配慮の及ぶ設計に筆者はびっくりしましたが、設計や建設にはかなりお金がかかったのでは……?

「ここは高さ10メートルの建物が建てられる地域ですが、7メートル以下に抑えて欲しい、また園舎の面積も最低限にして欲しいという要望がありました。そこで当初2階建てのプランを平屋に変更し、天井を高く取って空間を広く見せようと考えました。高い天井に木の梁がダイナミックに出ているため、費用がかかっているように見えるかもしれません。今回採用した真壁工法は、施工がたいへん難しく手間ひまがかかりますが、設計・建設費は保育園の建設に通常かかる平均的な予算の中に納まっています。施工会社さんの頑張りもあってできた建物なんです」(井上さん)

運営・コミュニケーション面でも、近隣に配慮した運営方法を採用

近隣説明会では、園児が園庭に出る時間や送り迎え時の運用、自転車置き場やゴミ置き場など「運営」についても住民の方からの要望がありました。

「送迎の主な時間帯である7:15~9:15と16:30~18:30は門扉を開放し、交通誘導員を入口に配置して、ベビーカーや自転車に乗った状態で門を入って園内でお子さんに乗り降りしてもらい、交通の安全を確保しました。園庭に出て遊ぶ時間も午前中の9:00~11:30と午後の15:30~17:30に限定することで、住民の方の了承を得ています。

ゴミ置き場は近隣への影響を減らすため道路沿いではなく敷地奥に設置し、カラス等の被害を防ぐためコンクリートブロック造の建物を設けました。ゴミ置き場の前の通路の先、道路ぎわに、ゴミ収集車や食材や必要資材などの搬入・搬出をする車が駐車できるスペースを設けています。

保育園の裏手にある搬入・搬出用の通路とコンクリートブロック造のゴミ置き場(通路左)(写真撮影/片山貴博)

保育園の裏手にある搬入・搬出用の通路とコンクリートブロック造のゴミ置き場(通路左)(写真撮影/片山貴博)

イベント時の騒音は特に気になる問題だったので、運動会も園庭内では行わず、近隣の広い公園で開催します。『げんき広場』として地域の皆さんにも開放した形の運動会にしています」(山田さん)

これらの数々の工夫によって、地域に受け入れられてきたのですね。

子どもも、大人も、地域と一緒に育ち、育む環境を

とはいえ、山田理事長の本来の思いは冒頭の住民説明会の挨拶にもあるように、子どもたちが周囲と完全に遮断された環境ではなく「地域に開かれ、地域と共に育つ保育園」にあります。

「私自身も、母として保育園に子どもたちを預けながら商社に勤務する身でした。当時の保育園の園長先生や保育士の先生方をはじめ、多くの方に助けていただきましたし、子どもが育つ環境には未来があります。実際に保育施設の運営を始めて40数年が経ちますが、当時保育園に通っていた子たちが、今、父・母という立場になって自分の子どもを先生に見てもらいたい、と通ってくれます。子どもたちがあっと言う間に社会を背負う大人となって成長していくわけです。

一時保育室として設けられた保育スペースも勾配天井とむき出しになった木の梁が温かく印象的(写真撮影/片山貴博)

一時保育室として設けられた保育スペースも勾配天井とむき出しになった木の梁が温かく印象的(写真撮影/片山貴博)

運動会を公園で開き、げんき広場として地域の方が参加しやすい場にしていく工夫もそうですが、この園舎のエントランスがある事務棟には、地域の方々にも使っていただける開放スペースも用意しました。
地域の方々にも子どもがいる風景を身近に感じていただき、少しずつ対話を重ね、子どもたちが地域の中で育ち、私たち大人も一緒に育つ環境を提供できれば、と考えています」(山田さん)

エントランスを入って目の前にある「つどいのひろば」という部屋は、地域の人々がサークル活動などに使用できるように設けられた(写真撮影/片山貴博)

エントランスを入って目の前にある「つどいのひろば」という部屋は、地域の人々がサークル活動などに使用できるように設けられた(写真撮影/片山貴博)

キッズデザイン賞の審査員のコメントには「保育園新設に対する近隣との対立は社会問題化している。対話を通じて挙がってきた課題や要望を、デザインを通じて解決し、結果として保育環境の向上につながったプロセスは特筆すべきものである」とあります。この、近隣にも園内の保育環境にも配慮して設計された保育園は、見学希望者が後を絶たないそうです。
代沢ききょう保育園の取り組みを自治体や運営事業者の工夫例として参考にしていくことはもちろん、一方で、住民側として、子育て中の親として、筆者も主体的に地域福祉に尽力・協力する、という共助的な環境づくりに貢献できれば、と想いを強くした取材でした。

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●取材協力
社会福祉法人桔梗
代沢ききょう保育園
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所

団地の一室に惣菜屋さん!? 「やまわけキッチン」がつなぐ住民の絆

大阪府堺市・茶山台団地の一室に、イートインもできるお惣菜屋さん「やまわけキッチン」が2018年11月にオープンした。クラウドファンディングを活用し、住民たちがDIYでリノベーションをした部屋へ、にぎわいぶりを取材してきた。
ここが団地の一室? 味わいあるカフェのような惣菜とランチのお店

「やまわけキッチン」は大阪府堺市、泉北ニュータウンの一角にある茶山台団地21棟1階の角部屋に2018年11月5日オープンしたばかり。オープン初日には約100名の来場があるなど、にぎわいをみせているそうだ。その人気の秘密を探るべく、12月の土曜日にお店を訪ねてみた。

(左)南側のベランダ面と(右)北側の玄関面にある立て看板が目印(写真撮影:井村幸治)

(左)南側のベランダ面と(右)北側の玄関面にある立て看板が目印(写真撮影:井村幸治)

丘陵地にある団地のなかでも見晴らしの良い場所に建つ21棟に着くと、「やまわけキッチン」の看板が目に入ってくる。数段の階段を上り玄関ドアを開けると「本日のお惣菜」のメニューボード。その奥にはお総菜や調理パン、そして野菜などが展示販売されている。南側のバルコニーに面した明るいスペースにはキッチンとテーブル席とレジ、北側には座卓の客席スペースがある。

ベランダに面したところにあるキッチンとテーブル席(写真撮影:井村幸治)

ベランダに面したところにあるキッチンとテーブル席(写真撮影:井村幸治)

玄関を開けると本日のメニューがある(写真撮影:井村幸治)

玄関を開けると本日のメニューがある(写真撮影:井村幸治)

その横にはお惣菜と野菜類(写真撮影:井村幸治)

その横にはお惣菜と野菜類(写真撮影:井村幸治)

さっそくランチをいただくことに。選んだのは「やまわけ盛り定食」700円。週替わり献立で、この日はひじきの煮物、チキンのトマト煮、五目豆、かき揚げのおかずとご飯、お味噌汁。お惣菜を単品で追加もできるし、うどんも別メニューである。

「やまわけ盛り定食」700円は野菜中心の健康的なメニューで“おふくろの味”(写真撮影:井村幸治)

「やまわけ盛り定食」700円は野菜中心の健康的なメニューで“おふくろの味”(写真撮影:井村幸治)

優しくて、ちょっと懐かしい味を美味しくいただいたころ、続々とお客さんが増え始める。
老人会の役員を務めている男性、その知り合いの人々、小学生の子ども、そして家族連れの親子……。団地の一室なので、それほど広くない空間はいつのまにか、満席の状態に。確かに、なかなかのにぎわいぶりだ!

お昼時にはお客さんで満席に。写真は北側の客席(写真撮影:井村幸治)

お昼時にはお客さんで満席に。写真は北側の客席(写真撮影:井村幸治)

買い物難民の解消、コミュニティの再創生をめざして住民が立ち上がる

茶山台団地は大阪府住宅供給公社が管理する総戸数936戸の賃貸住宅。昭和40年代から開発が進み、当初は多くのファミリー世帯が暮らす団地であったが、現在は約800戸の入居世帯のうち4割以上は名義人が65歳以上の世帯、65歳以上の単身世帯も70戸を超えるなど(2018年12月現在)、高齢化が進んでいる。

なぜ、団地の一室にこんなお店をつくったのか? 「やまわけキッチン」が登場した経緯を大阪府住宅供給公社の笹井純氏にお聞きした。

「団地近くにはスーパーや飲食店がなく、また団地は丘陵地に位置しており、移動手段をもたない高齢者にとっては、最寄駅となる泉ヶ丘駅の商業施設やコンビニなどへは徒歩で20分以上かかるため、買い物支援が課題となっていました。近隣スーパーが閉店して食料品やお総菜を買う場所もなくなったという単身居住者の声もお聞きし、何か良い方法はないかと思案していたところでした」と笹井氏。

毎週土曜日に行われている「ちゃやマルシェ」(写真撮影:井村幸治)

毎週土曜日に行われている「ちゃやマルシェ」(写真撮影:井村幸治)

一方、茶山台団地では集会所を活用したコミュニティ支援事業の拠点として「茶山台としょかん」が2015年11月に開館し、2016年5月からは野菜などの移動販売「ちゃやマルシェ」がスタートするなどコミュニティづくりの仕掛けがすでに動き始めていた。またDIYリノベーションスクールの開催やDIYリノベーション住戸の賃貸募集、2住戸を合体させた「ニコイチ」の募集など、さまざまな団地再生プロジェクトが活発に動いている土壌もあった。

「茶山台としょかん」(写真撮影:井村幸治)

「茶山台としょかん」(写真撮影:井村幸治)

月に1回行われる「ゼロ円マーケット」(写真撮影:井村幸治)

月に1回行われる「ゼロ円マーケット」(写真撮影:井村幸治)

DIYにはのべ181人の住民が参加、クラウドファンディングも活用!

公社から委託を受けて「茶山台としょかん」の運営を担ってきたNPO法人SEIN(サイン)代表理事の湯川まゆみさんは語る。
「茶山台としょかんでは、子どもたちが本を読んだり宿題を片付けたりするばかりでなく、衣類や雑貨の交換会「ゼロ円マーケット」なども実施してコミュニティづくりの活動を続けてきました。そのなかでよくお聞きしていたのは、食べ物を買える場所が欲しい、子どもたちが安心して食べられる場所も欲しい……といった住民の声でした。これまでの活動の枠を超えて、食を通じて住民のみなさんが仲良くなれる場所、暮らしが便利になる場所をつくりたいと思い立ったのです」

NPO法人SEIN(サイン)代表理事の湯川まゆみさん(写真撮影:井村幸治)

NPO法人SEIN(サイン)代表理事の湯川まゆみさん(写真撮影:井村幸治)

間仕切りや展示棚もすべて住民のみなさんのDIY!(写真撮影:井村幸治)

間仕切りや展示棚もすべて住民のみなさんのDIY!(写真撮影:井村幸治)

買い物支援の課題を解決するだけでなく、コミュニティづくりの夢をかなえるために「やまわけキッチン」の設立計画がスタートしたのは2017年11月。改築資金はクラウドファンディングの活用と一般財団法人ハウジングアンドコミュニティ財団の助成金を活用し、公社は2020年3月までは無償で部屋を貸し出すかたちでこのプロジェクトをサポートしている。店舗づくりのリノベーション作業はのべ181人の住民が参加してのDIYで完成させた、手づくり感満載のお店だ!

美味しさの秘密は地元の食材と、味付けの工夫!

「やまわけキッチン」を訪ねてみて、にぎわいの秘密をいくつか発見した。
●魅力その1
みんなに当事者意識が強いこと。
老人会の役員を務める川野さん(78歳)がおっしゃった「みんなでつくったんやから、つぶすわけにはいかへんからな」と言う言葉が耳に残っている。運営するスタッフだけでなく、お客さんである住民にも「自分たちでつくりあげた場」という想いが強いことが、にぎわいを継続させる秘密になるのだと思う。

「明日は老人会主催の餅つき大会をやります!」と熱く語ってくれた川野さんは子どもたちの見守り活動にも参加している(写真撮影:井村幸治)

「明日は老人会主催の餅つき大会をやります!」と熱く語ってくれた川野さんは子どもたちの見守り活動にも参加している(写真撮影:井村幸治)

●魅力その2
料理が美味しいこと。
この日のメニューはひじきの煮物、チキンのトマト煮、五目豆、コロッケ、かき揚げなど煮込み料理や揚げ物など家庭料理が中心。家族大勢で暮らしていたころはつくっていた煮込み料理も、1人暮らしになると面倒でつくらなくなったという声をよく聞く。「たくさんつくらないと美味しくないし」という人もいる。だから、あえて家庭の味を思い出させるようなメニューにしている。

(写真撮影:井村幸治)

(写真撮影:井村幸治)

(写真撮影:井村幸治)

(写真撮影:井村幸治)

ただし、おからサラダにも粒マスタードをいれるなど、味付けにはひと工夫している。そうすることで「この味付け、どうやってるの?」というコミュニケーションが生まれるという。さらに、食材にはできるだけ地元の産品を使っている。お米は近くの上神谷(にわだに)で取れたお米、天ぷらのニンジンは住民が畑で育てて間引きしたもの、といった具合だ。

●魅力その3
居心地がいいこと。
高台に位置するお部屋には暖かな日差しが降りそそぎ、窓からは遠く葛城山を見渡せる景色がひろがる。1階住戸だが空が抜けていて気持ちがいい。心地よいBGMが流れ、対流式ストーブの炎にも癒やされるカフェのような空間だ。

ふらっと訪ねると誰か知り合いがいて世間話が始まりそうな「丘の上の惣菜屋さん」、それが「やまわけキッチン」の魅力だ。

団地の斜面で栽培されているレモン。泉北の季候はレモン栽培に向いているそうで、特産品化を目指している!(写真撮影:井村幸治)

団地の斜面で栽培されているレモン。泉北の季候はレモン栽培に向いているそうで、特産品化を目指している!(写真撮影:井村幸治)

喜びや楽しみを「やまわけ」できる場所へ

出足好調な「やまわけキッチン」だが、にぎわいを継続&拡大させていくことがこれからの課題になりそうだ。団地の部屋には鉄の扉がついており、歳を重ねると扉を開けて出かけていくのが億劫になるもの。「やまわけキッチン」に興味はあるのだけど、扉を開けて中に入るのはちょっと勇気がない……、という人もまだいるようだ。老人会の川野さんも「知り合いを誘って、少しずつ仲間を増やしている。週に一度でも通ってくれる人が増えるとうれしい」とおっしゃる。

「やまわけキッチンには、もっと多くの方に通っていただきたいと思っています。ここで感じたうれしい気持ちを、住民のみなさんとわたしたちで“やまわけ”できる場にしていきたいです」とNPO法人SEINの湯川さんは語る。

子どもから高齢者まで、団地の住民みんなが喜びや楽しみをシェアできる場所として「やまわけキッチン」がにぎわい続けることを願いたい!

●店舗情報
丘の上の惣菜屋さん「やまわけキッチン」
堺市南区茶山台2丁1番 茶山台団地21棟1階302号室
営業時間:月・火・金・土 11:00~15:00

ハイパー銭湯「BathHaus(バスハウス)」。仕事の後は風呂に浸かってビールをキュッ!

銭湯にコワーキングスペースとバーを取り込んだのがハイパー銭湯「BathHaus(バスハウス)」。仕掛けたのは株式会社chill & workの代表としてさまざまなプロジェクトを手がけている榊原綾香さん(29歳)だ。

小田急線の代々木八幡駅から歩いて10分弱。一見するとビルの1階にあるカフェのようなたたずまいだが、こここそが「BathHaus」だ。

仕事をしに来る人と地元民とのおもしろい交流を生み出したいもともとは日本茶販売店の自社ビル。地下にコワーキングスペース、1階に銭湯とバーがある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

もともとは日本茶販売店の自社ビル。地下にコワーキングスペース、1階に銭湯とバーがある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

せっかくなので、自慢のクラフトビールをいただきながら話を伺うことにした。

タップ(ビールサーバーの注ぎ口)を背に語り始める榊原さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

タップ(ビールサーバーの注ぎ口)を背に語り始める榊原さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

彼女は神戸大学を卒業後、GREEに入社し、ソーシャルゲームの開発に携わる。その後、何度かの転職を経て2017年に独立した。

「日常のなかで気軽に立ち寄れるような、仕事もできるしくつろぐこともできる理想の空間があるといいなと、かねてより考えていました。銭湯とクラフトビールバーというオープンなコミュニティを併設したコワーキングスペースなら、働きに来る人と地元民のおもしろい交流が生まれるのではないかと思いまして」(榊原さん、以下同)

内装イメージは1920年から40年ぐらいの海沿いのリゾート地男湯と女湯は1週間ごとに入れ替わる。もうひとつはタイル張りのお風呂(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

男湯と女湯は1週間ごとに入れ替わる。もうひとつはタイル張りのお風呂(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ここで、気になっていたことを聞いた。「BathHaus」って20世紀初頭にドイツで創設された造形学校の「バウハウス」に掛けていますか?

「あ、そのとおりです。名付けは少し意識しました。バウハウスが目指していた、機能的ながら人間味のあるデザインの道具や家具などが元々好きであったことと、1920~40年代のどこか懐かしい雰囲気を目指すことで居心地のいい空間をつくりたかったこともあり、『BathHaus』という名前にしました。だから、ハウスはドイツ語の『Haus』にしています」

内装は1920~40年代のリゾートをベースに、レトロになりすぎないよう現代らしさも加えて仕上げた。

(写真提供/榊原さん)

(写真提供/榊原さん)

戸棚は近所のビンテージ家具を売っている店で、レトロな野球盤はのみの市で購入した(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

戸棚は近所のビンテージ家具を売っている店で、レトロな野球盤はのみの市で購入した(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「私はビンテージの家具も好きで、当時のつくり手が使いやすさとデザインにこだわったことが感じられる物と出合い、それをまた受け継いで使えるということにうれしさを感じるんです。言葉にできないかわいさや使い勝手のよさに惹かれます」

榊原さんの自宅リビングも好きなイメージ、好きなもので統一されている(写真提供/榊原さん)

榊原さんの自宅リビングも好きなイメージ、好きなもので統一されている(写真提供/榊原さん)

クラフトビール店とコラボして開発した「HINOKI BITTER」

クラフトビールに話を戻す。

5種類のクラフトビールは自身の舌で味を確認したのちに、東京、奈良、京都の醸造所から取り寄せている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

5種類のクラフトビールは自身の舌で味を確認したのちに、東京、奈良、京都の醸造所から取り寄せている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

勧められるまま、「HINOKI BITTER」のハーフ(700円)を注文。

2017年、高円寺にオープンした人気のクラフトビール店、「アンドビール」とコラボして開発したもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2017年、高円寺にオープンした人気のクラフトビール店、「アンドビール」とコラボして開発したもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「カンナで削ったヒノキのチップを、ビールを煮沸する工程で一緒に煮出しています。使用するヒノキの量や煮沸時間などの掛け合わせで、風味を調整しているんですよ」

おお、最後にふわっとヒノキの香りが立ち上がってくる。これは、日を改めてほかのビールも飲まないと……。

気分転換でふらっと訪れた八幡湯がすごくよかった

さて、コトの経緯の続きだ。榊原さんが生まれ育ったのは大阪のベッドタウン、堺市。近所にいわゆる“街の銭湯”はなく、数カ月に一度ぐらいのペースで父親に連れられて国道沿いのスーパー銭湯に行く程度だった。

「神戸に住んでいたときは大学の近くに銭湯が2、3軒あって、そこで初めて銭湯を体験したんです。とはいえ、六甲山に登ったり、スポーツしたりした後に立ち寄るぐらいで日常には入り込んでいませんでした」

上京してから、街のあちこちに銭湯がある環境に驚く。東京で初めて行った銭湯は新卒で入社した会社の近く、黒湯で有名な麻布十番の「竹の湯」だ。

「頻繁に行くようになったのは2017年から。独立したタイミングで代々木公園エリアに引越したんですが、基本的に毎日家で一人で仕事をして、たまに打ち合わせのために外に出るという生活。気分転換に近所の『八幡湯』を訪れてみると、想像以上に気持ちを切り替えることができて驚きました」

のんびりとお湯に浸かって体はすっきりし、さまざまな人としゃべることで気分もほぐれた。地元の八幡湯は今でも一番好きな銭湯だという。

銭湯は江戸時代から庶民や下級武士たちの社交場

そんな榊原さんが今回のプロジェクトを始めるきっかけの一つとなったのは海外での体験だった。大学1年生のときに行ったニューヨークでは、現地の人に洋服を「それ、いいね。どこで買ったの?」と褒められた。日常生活で通りすがりの人に何かを褒められるという経験が初めてだったため、前向きでオープンなカルチャーに衝撃を受けながらも、とても心地よく感じたという。

物件の受け渡し時はスケルトン状態だった(写真提供/榊原さん)

物件の受け渡し時はスケルトン状態だった(写真提供/榊原さん)

「留学や就職を経て、しばらくして銭湯に通うようになり、銭湯でのコミュニケーションに海外で感じた心地よさに近いものがある気がしたんです。ジェットバスに浸かっているおばちゃんに『私、ジェットバス嫌いなのよ』と謎の告白をされたりと、気の抜けた感じがすごく楽(笑)。社会に出てから、満員電車に疲弊したり、固定された働き方に疲れている人が多いことに疑問を持ち続けていたのですが、銭湯のような寛容さが現代人の暮らしに広がればマイペースに気持ちよく日々を過ごせる人が増えるのではないか?と思ったんです」

12月2日に行われたプレオープンパーティーは多くの人々でにぎわった(写真提供/榊原さん)

12月2日に行われたプレオープンパーティーは多くの人々でにぎわった(写真提供/榊原さん)

確かに、SNSなどが発達した昨今は人付き合いも均質化してゆく。銭湯のような雑多な人たちが集まって何でもない会話を交わせる場所は貴重かもしれない。そもそも、銭湯は江戸時代から庶民や下級武士たちの社交場。時には落語会なども行われた。

そんな文化は現在にも受け継がれている。高円寺の「小杉湯」は2017年に隣接する空きアパートにさまざまなクリエイターが入居する「銭湯ぐらし」という試みを実施した。また、上野の「日の出湯」は今年10月、銭湯と音楽が融合するイベント「ダンス風呂屋」を開催している。

融資とクラウドファンディングで資金調達

「やる」と決めてからは一気にギアが上がり、金融機関からの融資を取り付けるとともにクラウドファンディングで資金を募り、初期費用を見事に調達。榊原さんの思いに共感した協力者やクリエイターも続々と集まってきた。

バーと銭湯は誰でも入れるエリアだが、地下のコワーキングスペースはメンバー(有料会員)のみ。全40席でWi-Fi完備。複合プリンター、冷蔵庫も自由に使える。

コワーキングスペースの利用時間は9時~23時(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

コワーキングスペースの利用時間は9時~23時(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

月額の利用料金はできるだけ安く抑えた。フリーデスクは5万円、週末のみ利用する場合は2万円、1日利用は3500円などを用意している。

モダンな内装デザインと懐かしいケロリンがマッチ

そして、いよいよ銭湯エリアをご紹介しよう。一般向けには、銭湯 700円(レンタルタオル別途200円)を用意しており、コワーキングスペースの利用者には月額9800円でパスポートならぬ「バスポート」を発行し、入り放題となる。

2018年12月9日にオープン。プレオープンは足湯のみで営業していた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2018年12月9日にオープン。プレオープンは足湯のみで営業していた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

モダンな内装デザインと懐かしいケロリンが妙にマッチするから不思議だ。

のれんのイラストはもともと面識のあった白根ゆたんぽさんにお願いした(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

のれんのイラストはもともと面識のあった白根ゆたんぽさんにお願いした(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

泉州タオルの老舗「ふくろやタオル」のフェイスタオルと、「チル&ワーク」という刺繍入りのスウェットは購入も可(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

泉州タオルの老舗「ふくろやタオル」のフェイスタオルと、「チル&ワーク」という刺繍入りのスウェットは購入も可(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

バースペースで販売するコーラ(500円)は有機栽培の砂糖でつくられたオーガニックドリンク(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

バースペースで販売するコーラ(500円)は有機栽培の砂糖でつくられたオーガニックドリンク(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ドリンクやフードは自分がいいと思ったものを出したいという。家具、タオル、スウェットもつくり手の思いが見えるものを厳選した。

仕事して、ひとっ風呂浴び、ビールを引っ掛けてから帰宅

そんな彼女にとって銭湯は多種多様な価値観に触れられる場所、心からくつろげる場所の一つである。

「独立して会社名をどうしようか考えているときに浮かんだのが『チル&ワーク』という単語。一生懸命集中した後は銭湯でのんびりくつろぐ。仕事場と銭湯が併設していれば、普段は面倒が理由で湯船に浸かることができない人でも気軽に安らげるのではないかと思います」

来年1月以降には、こんな光景が日常的に繰り広げられるはずだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

来年1月以降には、こんな光景が日常的に繰り広げられるはずだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

コワーキングスペースでは「チル」と「ワーク」のタイミングを自分で設定できる。利用者がマイペースに過ごせる場所という意味では銭湯と同じだ。階段を上がれば銭湯。「仕事して、ひとっ風呂浴び、ビールを引っ掛けてから帰宅」という一連の流れが習慣化すれば、さぞやぐっすりと眠れることだろう。

榊原さんの思いが詰まったハイパー銭湯「BathHaus」。バウハウス創設から100年後の日本で、個々が新しいスタイルを“造形”する場が誕生した。

●店舗情報
「BathHaus」
東京都渋谷区西原1-50-8 1F • B1F
>HP

DIY可の賃貸物件の先駆け「ジョンソンタウン」レポート。埼玉にある米国の暮らしとは?

白い木壁の家が垣根なく立ち並び、足元には緑の芝生が広がる……。埼玉なのに、まるで米国のようなたたずまいで人気を集めているジョンソンタウン。住まいの合間にはショップも点在し、週末には多くの人が訪れ、今や入間の「名所」にもなっています。現在は約80棟があり、約200人が暮らしていますが、実際の暮らしぶりはどのようなものなのでしょうか。
街並みと建物に一目ぼれ。都内のマンションから入間へ引越し

ジョンソンタウンは西武池袋線・入間市駅から徒歩18分、池袋駅まで電車で40分弱かかり、通勤に便利とは言い難い立地の賃貸物件。それでも「ウェイティングリスト」ができ、ほぼ空室がないほどの人気ぶりです。かつて米軍基地のアメリカ兵とその家族のためにつくられた米軍住居地域跡地にあるジョンソンタウンは、DIYが盛んなアメリカ本国と同様に建物内部はDIYが可能で、どうやらそれも人気の理由になっているよう。

米国のような街並みを形成しているジョンソンタウン。その取り組みは2017年に日本建築学会賞(業績)で表彰された(撮影/嶋崎征弘)

米国のような街並みを形成しているジョンソンタウン。その取り組みは2017年に日本建築学会賞(業績)で表彰された(撮影/嶋崎征弘)

そこで、今回、ジョンソンタウンに引越してきてDIYをするようになったという岩下潤さんにお話を伺いました。職業はブルースギターを奏でるギタリスト。単独ライブも行うほか、週6日、都内のスクールでギターを教えています。現在は平屋づくりやゆったりした間取りなどが特徴の米軍ハウス(アメリカン古民家)に妻と2匹の猫ちゃんとお住まいです。

「引越しのきっかけは、都内にある前の住まいが古くなったから。以前、座間の米軍ハウスでライブをしたことがあって、一度、住んでみたいという憧れがあって、ネットで調べてジョンソンタウンを知り、実際に街並みを見たら一目ぼれでしたね」と振り返ります。

ダイニングでお話をする岩下さん。DIYだけでなく、トークも上手!(撮影/嶋崎征弘)

ダイニングでお話をする岩下さん。DIYだけでなく、トークも上手!(撮影/嶋崎征弘)

リビングでギターを弾く岩下さん。床材はこの建物が完成した1954年当時のもの。数々のキズも岩下さんのお気に入り(撮影/嶋崎征弘)

リビングでギターを弾く岩下さん。床材はこの建物が完成した1954年当時のもの。数々のキズも岩下さんのお気に入り(撮影/嶋崎征弘)

4棟を見学し、なかでも本来であれば店舗のための場所にある家が気に入ったそう。引越し先は都市部を希望していた妻も現地を見て納得、見学したその日のうちに申し込み、トントン拍子に話が進んだといいます。

「家賃が決して安くないのは分かっています(笑)。ただ、都内まで1本で行けるので不便は感じていないですね」と話します。

人との関係、DIYでの建物への愛着。すべてがちょうどいい

暮らしはじめて大きく変わったのは、玄人はだしの「DIY」と隣人の関係です。

「引越した当初、DIYはやらないつもりだったんです。職業柄、指をけがしたら仕事にならないので。それでも、2~3カ月たったあたりから、庭をいじりはじめたんです。ほぼ砂利だった庭を芝にしたいって思って。ジョンソンタウンのオーナーに相談したら、『どうぞ、やってください』と言われて」

根が凝り性の岩下さん。砂利と土を手作業で選り分け、土壌を改良して、芝の品種も研究。今では自宅だけでなく周囲のお宅の敷地にも芝を植え、手入れするまでに。

「当時ジョンソンタウンに住んでいた人で、DIYの師匠がいてね。はじめ、物干しスペースのところをなんとかしたいって考えていたら、必要な道具を貸してくれただけでなく、『何か問題あったら俺が教えるから』って言ってくれて。その男気がかっこよかった」と振り返ります。今までの人生になかった、隣人との出会い、コミュニティが心地よく、アレもできるかな?これはどうだろう?と研究するうちにDIYにはまっていったそう。現在は防音室やDIYの作業部屋も自作してしまうなど、「もはや素人ではないのでは……」という腕前です。

こちらはリビングの脇につくってしまったDIYの工房。奥の扉を開けると庭へ出られる(撮影/嶋崎征弘)

こちらはリビングの脇につくってしまったDIYの工房。奥の扉を開けると庭へ出られる(撮影/嶋崎征弘)

木に熱を加えて曲げる機械を購入し、使い方をマスター。来年にはついに本業にもかかわるギター制作もしたいそう。本当に意欲的(撮影/嶋崎征弘)

木に熱を加えて曲げる機械を購入し、使い方をマスター。来年にはついに本業にもかかわるギター制作もしたいそう。本当に意欲的(撮影/嶋崎征弘)

「賃貸だから隣人ともほどよい距離の、心地よいお付き合いができる。で、一方でDIYしてきたから住まいにも愛着がある。本当にちょうどいいんだよね」

今でも一日に1つ新しいことを学ぶ、知る、身につける、買うなどをして、「日々、成長している」という思いがあるとか。朝、早起きして庭いじりやDIYをし、その後出勤、帰宅は深夜、というライフスタイルですが、充実感でいっぱいのようです。

DIYで自作した防音室(右手奥)がある仕事部屋。大人の理想がつまっている(撮影/嶋崎征弘)

DIYで自作した防音室(右手奥)がある仕事部屋。大人の理想がつまっている(撮影/嶋崎征弘)

防音室内部。防音室を見た人から問い合わせがあり「6台売れて、その人たちの家までつくりに行ったんだよ」と岩下さん。すごすぎる!(撮影/嶋崎征弘)

防音室内部。防音室を見た人から問い合わせがあり「6台売れて、その人たちの家までつくりに行ったんだよ」と岩下さん。すごすぎる!(撮影/嶋崎征弘)

「人に喜んでもらえる趣味ってほんとにいい。隣人から『アレつくって、こんなことできるかな?』って相談されて、できるよ~って言って。喜んでもらう。こんなに楽しいことはないよね」と言います。

岩下さん宅。玄関から入ってすぐがダイニング。猫が外に出ないようにしつらえた内扉(写真奥)ももちろん、DIYで自作!(撮影/嶋崎征弘)

岩下さん宅。玄関から入ってすぐがダイニング。猫が外に出ないようにしつらえた内扉(写真奥)ももちろん、DIYで自作!(撮影/嶋崎征弘)

猫2匹の名前は「たら」と「ふく」。あわせて「たらふく」。写真は「たら」ちゃん(撮影/嶋崎征弘)

猫2匹の名前は「たら」と「ふく」。あわせて「たらふく」。写真は「たら」ちゃん(撮影/嶋崎征弘)

「お前の手を見せてくれ」。米国のライブで言われたうれしい言葉

土いじり、DIYをするようになり、仕事である音楽面でもいい影響を感じるとか。

「演奏から“土の匂い”がするようになったと感じる。そりゃそうだ。だって、毎日、土いじりしているんだもん(笑)。でも、そもそもブルースって、米国ではキツイ野良仕事の後に演奏していた音楽なんだよ。実はこの前、米国でライブしたときにね、現地の人から『お前の手を見せてくれ』って言われたんだけど、あれは本当にうれしかったなあ」と感慨深い様子。

もともとベランダガーデニングをしていた妻も、建物の表通りは赤で統一、裏庭は青と白というコンセプトで、ガーデニングを満喫しています。

ジョンソンタウンの室内はDIY可だが、外観は基本的に改装不可。街並みを守るための工夫だ(撮影/嶋崎征弘)

ジョンソンタウンの室内はDIY可だが、外観は基本的に改装不可。街並みを守るための工夫だ(撮影/嶋崎征弘)

カエルもギターを持っているなど、庭の小物にも随所に遊び心が(撮影/嶋崎征弘)

カエルもギターを持っているなど、庭の小物にも随所に遊び心が(撮影/嶋崎征弘)

「ここならガーデニングだってやり放題だもん(笑)。日本にいながらにして、米国のライフスタイルができるんだから、本当に理想形だよね。アレもやりたい、コレもできるって、理想をかなえていける」といい、夫婦で日々の暮らしを満喫しています。

また、ジョンソンタウンには、個人店が約50店舗ほどあり、そこも好きなところなのだとか。
「街歩きだって、フラフラしているだけで楽しいし、ちょっとお土産がいるなって思ったら、即、買い物だってできるし、外食もできる。住んでいる人もおもしろい人が多いしね、交流の温度感などもちょうどいい。本当に心地いいんだよ」

写真左/さながらアメリカのようなEAST CONTENTS CAFE。気軽に食事とお酒が楽しめる、岩下さんの行きつけ 写真右/コイガクボのもっちりとした食感が楽しい米粉パンは岩下さんのお気に入り(撮影/嶋崎征弘)

写真左/さながらアメリカのようなEAST CONTENTS CAFE。気軽に食事とお酒が楽しめる、岩下さんの行きつけ 写真右/コイガクボのもっちりとした食感が楽しい米粉パンは岩下さんのお気に入り(撮影/嶋崎征弘)

写真左/花やリースを扱うブルーメンヒュッテ。庭づくりの相談も可。オーナーは岩下さんのお友達 写真右/イギリスから直輸入した雑貨が並ぶコッツウォルズ。岩下さんはちょっとした手土産をココで買うとか。商品は一点物も多く、見ていて飽きない(撮影/嶋崎征弘)

写真左/花やリースを扱うブルーメンヒュッテ。庭づくりの相談も可。オーナーは岩下さんのお友達 写真右/イギリスから直輸入した雑貨が並ぶコッツウォルズ。岩下さんはちょっとした手土産をココで買うとか。商品は一点物も多く、見ていて飽きない(撮影/嶋崎征弘)

ガーデニング、DIY、そして人との交流と、以前では考えられなかった暮らしを楽しむ岩下さん。引越しがもたらした「思いがけない出会い」が、人生を豊かにしてくれたようです。

●取材協力
ジョンソンタウン
Blumen Hutte
米粉パン専門店 コイガクボ
EAST CONTENTS CAFE
COTSWOLDS●取材協力
岩下潤さん 
日本屈指のブルースギタリスト。ライブだけでなく、ブルースギターに関する著作も多数執筆するほか、講師としても活躍。観客を引き込むブルース演奏に加えて、楽しいMCはさながらお笑いライブのよう。ライブ予定や高田馬場にあるギター教室への問い合わせは以下から。
>ジャグ・サウンズ・ギター・スクール 

デュアルライフ・二拠点生活[7]都市部のマンションと里山が結びつき、住民の第二のふるさとに

通勤便利なJR千葉みなと駅徒歩3分の大規模マンションの管理組合が、マンションの魅力アップ策として新たに「里山縁組プロジェクト」に取り組み、絵に描いたような美しい里山の風景が広がる群馬県川場村との交流を始めた。利便性の高い都市部に住みながらマンションぐるみで里山とつながる、そんな新しい形のデュアルライフを紹介しよう。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、若い世代もデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。平日は都会の生活、休日は自然豊かな環境へ。住民経営マンションの新たな取り組み

「ブラウシア」はJR千葉みなと駅から徒歩3分と近く都内への通勤者も多い、2005年完成の438世帯約1400人が住む大規模マンションだ。マンションの資産価値を保つことを目的に、管理組合が積極的に活動する「住民経営マンション」としても注目されているブラウシア管理組合が、あらたなマンション魅力アップ策として取り組んでいるのが「里山縁組プロジェクト」だ。

2005年完成、438世帯約1400人が住む「ブラウシア」。大規模マンションながら住民交流も活発で空室もないという人気だ(写真提供/ブラウシア管理組合)

2005年完成、438世帯約1400人が住む「ブラウシア」。大規模マンションながら住民交流も活発で空室もないという人気だ(写真提供/ブラウシア管理組合)

このプロジェクトを仕掛けたのは、資産価値向上のために「住民経営マンション」として活動するブラウシア管理組合の皆さんと、植栽管理およびコミュニティ形成活動にかかわっている東邦レオ株式会社(以下東邦レオ)だ。マンションの立地は変えることはできないが、マンションにとっての「第二のふるさと」をつくって住民が自然を楽しめる環境をつくることが付加価値のひとつになるのでは、というアイデアから「里山縁組プロジェクト」はスタートした。

「利便性のいい都市型マンションに住んで都内に通勤しながら、一方で自然に囲まれのんびりしたいと思っている人が多いのでは、と。私自身移住も考えたこともありますが、通勤のため断念。実際、週末になるとマンションからキャンプに出掛ける車をよく見かけます」と管理組合の吉岡さん。

川場村には山、川、田畑など絵に描いたような里山の風景が広がる。恵まれた自然はすぐにブラウシアの子どもたちの遊び場に(画像提供/ブラウシア管理組合)

川場村には山、川、田畑など絵に描いたような里山の風景が広がる。恵まれた自然はすぐにブラウシアの子どもたちの遊び場に(画像提供/ブラウシア管理組合)

東邦レオ側で面識のあった川場村の永井酒造さんからのご縁で、まずは管理組合が初めて川場村に足を運んだのが2017年7月。その後住民も交えてバスツアーなどのイベントも実施。ブラウシア側は、訪れた誰もが、豊かな自然と温かいもてなしに感激。そしてマンション内交流も盛んであったことから相思相愛となり、さまざまな共同イベントを本格開催するに至った。

住民同士の交流も深めたリンゴ狩り&BBQ日帰りバスツアー

具体的に一つ、ブラウシアと川場村の交流イベントをご紹介しよう。12月に行われたイベントは川場村のリンゴ農家での収穫体験と交流BBQをメインにしたもの。ブラウシア側の参加者は子ども10人を含む28人が、満席のバスで早朝にマンションを出発。バスはまず、川場村のリンゴ農園へ。

(写真撮影/内海明啓)

(写真撮影/内海明啓)

1本のリンゴの樹にブラウシアの家族がオーナーになる「りんごオーナー制度」。自分たちの樹のリンゴを自分の手で収穫(写真撮影/内海明啓)

1本のリンゴの樹にブラウシアの家族がオーナーになる「りんごオーナー制度」。自分たちの樹のリンゴを自分の手で収穫(写真撮影/内海明啓)

川場村との交流のため、あらかじめ川場村のリンゴの樹の年間オーナーを募集し、応募したブラウシア住民家族は、現地で自分たちの樹のリンゴを収穫。オーナー以外の家族も、リンゴ狩りをして自分たちが採ったリンゴを買い取って楽しんだ。川場村は知る人ぞ知る、リンゴの名産地なのだ。

この日収穫したリンゴの一部。自然環境に恵まれた川場村は、リンゴのほかにも米、そば、ブルーベリー、ブドウなど農産物が豊富だ(写真撮影/内海明啓)

この日収穫したリンゴの一部。自然環境に恵まれた川場村は、リンゴのほかにも米、そば、ブルーベリー、ブドウなど農産物が豊富だ(写真撮影/内海明啓)

リンゴ狩りのあとは、川場村の住民中村さんのお宅のお庭で川場村住民、ブラウシア、川場村の取り組みにかかわっている東京農業大学の学生さんら総勢50人余りでBBQを楽しむ。このBBQが川場村のみなさんとの重要なコミュニケーションの場でもある。その後、川場村の自然に触れられる体験イベントや温泉などに移動して最後はマンションまで戻って解散、というもの。イベントのスケジュールは主だったものは決めるが、あまり固定しすぎず、その場のみんなの意見や、川場村の皆さんのアドバイスで臨機応変に変更し、住民交流できるようにしているという。

農家の庭先を借りてのBBQ交流会の様子。ブラウシア住民約30名に加え、川場村のみなさん、川場村と交流のある世田谷川場ふるさと公社や東京農業大学のみなさん合計4団体50人超で大賑わい(写真撮影/内海明啓)

農家の庭先を借りてのBBQ交流会の様子。ブラウシア住民約30名に加え、川場村のみなさん、川場村と交流のある世田谷川場ふるさと公社や東京農業大学のみなさん合計4団体50人超で大にぎわい(写真撮影/内海明啓)

川場村の皆さんは郷土料理だご汁(団子汁)をつくっておもてなし。つくり方や素材の話で会話も弾む(写真撮影/内海明啓)

川場村の皆さんは郷土料理だご汁(団子汁)をつくっておもてなし。つくり方や素材の話で会話も弾む(写真撮影/内海明啓)

単なる旅行でなく田植え、BBQ、地元交流など目的のあるイベントを楽しむ

このような住民を交えたバスツアーを、提携後11月「敬老会」、6月「田植え体験」、7月「古民家とブルーベリー」、9月「稲刈り体験(雨天により中止)」、12月「リンゴ狩り」と計画、実施し、イベント運用の目途も立ってきた。好評な「道の駅 川場田園プラザ」でのお買い物を定番にさまざまな企画を加え、来年度はより多くの住民に参加してもらう予定だという。

「道の駅川場田園プラザ」は東日本でも指折りの充実した道の駅。ここに立ち寄り地元の新鮮野菜をBBQ用やお土産用に買い物するのはイベントの定番コースに(写真撮影/内海明啓)

「道の駅川場田園プラザ」は東日本でも指折りの充実した道の駅。ここに立ち寄り地元の新鮮野菜をBBQ用やお土産用に買い物するのはイベントの定番コースに(写真撮影/内海明啓)

今回、ご家族4名で参加された守屋さんは、6月の田植え体験に続いて2回目の参加。ご夫婦ともに千葉出身で「いわゆる田舎らしい田舎がないので、子どもにここでしかできない田植えやリンゴの収穫などを実際に体験させてあげられることが貴重です」と語る。5歳の長男も田植えをしたら収穫が楽しみになり、いい教育になったという。

6月に行われた田植えは泥んこになって大人も子どもも初体験。夢中になってカエルを探したり、お米ができるまでに興味をもったり、貴重な体験となった(画像提供/ブラウシア管理組合)

6月に行われた田植えは泥んこになって大人も子どもも初体験。夢中になってカエルを探したり、お米ができるまでに興味をもったり、貴重な体験となった(画像提供/ブラウシア管理組合)

小学生の男の子を連れて家族2人で参加した高田さん一家は、なんとプライベートでもおとずれるといい、今回で6回目の川場村訪問。「川場村の道の駅は第七駐車場まであっても一杯になり、一日中遊べるくらいの充実度で都会的です。でもそこから数分走って村までくると観光客には誰にも会わない、この絶妙なバランスがいいですね」と高田さん。川場村との提携の話を聞いて、早速一家で訪問してからすっかりお気に入りだという。「子どもには田んぼでの泥んこ遊びがとにかく楽しかったみたいです。通っているうちに村に、というより出会う村の人に愛着を感じ、人に会いに来ています」

このように、川場村の住民の皆さんとの交流も楽しみのひとつ。地元の親子も参加する交流BBQや自然体験を通じて子ども同士も仲良くなり、「環境が異なる場所で育っている子ども同士の触れ合いもいい刺激です」という声も。「途中の道の駅でBBQ用の野菜を買ったら、川場村側の参加者にその野菜の生産者さんがいた」「メールアドレスを交換して珍しい野菜の調理方法や田舎料理のレシピを教えてもらった」など。相互の交流を楽しむ声が続々聞こえてきた。

バスツアーのほか、マンション内で行われる夏祭りなどのイベントでは、川場村の産直野菜を販売するマルシェはもはや定番。過去2回実施したが、発売前に長蛇の列ができるほどの人気だ。

ブラウシアで実施する夏祭りやクリスマスなどのイベントでは川場村の産直野菜を販売。発売30分で売り切れるほどマンション住民にも大人気だ(画像提供/ブラウシア管理組合)

ブラウシアで実施する夏祭りやクリスマスなどのイベントでは川場村の産直野菜を販売。発売30分で売り切れるほどマンション住民にも大人気だ(画像提供/ブラウシア管理組合)

管理組合のみなさんに今後の抱負を伺うと「川場村でお米や野菜を育てたい」「蛍が見られるときにツアーを」「お米の田植えと収穫体験をセットで」「りんご農家さんで受粉体験を」「川場村の獣害などお困りごと解決ボランティア」「川場村のような提携先を複数の自治体と」など次々にアイデアがあふれ出る。来季からはより多くの住民がイベントに参加し、川場村と交流できるようにする予定。着実に群馬県川場村はブラウシア住民の心の故郷になろうとしている。こんなマンションに住んだら休日も楽しそう、と思ったが「残念ながら現在空室ありません」とのこと。やはり管理組合が活性化しているマンションは人気なのだ。

●取材協力
ブラウシア管理組合
東邦レオ

閉店する喫茶店の家具と想いを次の使い手へと届ける「村田商會」の挑戦

赤いベルベットの椅子、カーブを描いた脚のテーブル、レトロなロゴ入りのグラスやあめ色に変わったコーヒーミル。村田商會が販売する古い家具や喫茶道具は、すべてが閉店するという喫茶店から引き取ってきたもの。この仕事を始めた経緯や想いを、2018年12月8日にオープンしたばかりの実店舗で話を聞いた。
ウェブショップから実店舗へ

西荻窪駅から歩いて5分ほど、喫茶店「POT」があった場所。ここが、それまでネット販売で営業していた村田商會の実店舗となる。オープンに向けて準備中だという店内は、以前の喫茶店の雰囲気を残しながらも、客席だったところには椅子やテーブルが所狭しと積まれている。
「これらが商品なんです。もともと喫茶店で使われていた家具や道具、雑貨などを引き取り、手入れをしてから販売しています」と話すのは村田商會の店主である村田龍一さんだ。

喫茶店としても営業するべく、準備中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

喫茶店としても営業するべく、準備中(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大好きな喫茶店の家具や想いを受け継ぐ

村田さんが自身の店を立ち上げたのは2015年。それまで勤めていた会社を辞めてのことだった。
「学生のころから純喫茶が好きで、よくいろいろなお店に行っていました。古いお店の内装、雰囲気、マスターやママさんと話す時間が好きで喫茶店巡りをするようになって。社会人になってからも続いていたんですが、それまで何度か足を運んでいた喫茶店に閉店のお知らせの紙が貼ってあったんです。マスターに話を聞いているうちに、家具を捨ててしまうという話が出て、もったいないなと思って1セットくださいとお願いしたんです。そのテーブルと椅子は、今でもうちで使っています」

自身が好きだった喫茶店のテーブルと椅子を自宅で使用している。譲ってもらってから10年以上たった今も現役。「この家具があることで、今でもお店のことを思い出したりして、愛着も増しています」(写真提供/村田龍一さん)

自身が好きだった喫茶店のテーブルと椅子を自宅で使用している。譲ってもらってから10年以上たった今も現役。「この家具があることで、今でもお店のことを思い出したりして、愛着も増しています」(写真提供/村田龍一さん)

そこで、村田さんは自分と同じように純喫茶が好きで、そこで使われている家具を欲しいと思う人がほかにもいるのではないかと考える。お店もしかり。閉店してしまうが、家具を捨てるのはもったいないと思う人もいるのではないか、と。
「純喫茶の家具って、欲しいと思って探してもなかなか見つからないんです。アンティークとも、中古家具とも違う。使い込まれてきた風合いがあって、さらにお店の雰囲気をもっているものだから。閉店するお店そのものは残せなくても、家具なら残せるし、仕事にしてみよう、と始めました」

現在はネットだけでなく、イベントにも出店し、家具だけでなく、喫茶小物や道具なども販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

現在はネットだけでなく、イベントにも出店し、家具だけでなく、喫茶小物や道具なども販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

閉店を望んでいるわけではないからこその葛藤

かくして村田商會がスタートする。閉店する喫茶店の情報は、実際に自分の足で探すこともあれば、周りから教えてもらったり、ネットで仕入れたりすることもある。村田さんは必ずお店へ出向き、話をするという。閉店することを決めた店主に話をするのは、かなり気使うことなのではないだろうか?
「それまで自分が通っていたお店だったら、話はしやすいんです。でも、行ったことのないお店だと確かに難しい。混んでいない時間帯に行って、コーヒーを飲んだり、ご飯を食べたりして、お店の雰囲気を伺って、話すタイミングを見計らって、やっと切り出す感じです」
閉店を決めた店主の気持ちがどのようなものか想像し、お客さんとの関係もきちんと汲み取ったうえで買い取りの話をもちかける。友人の紹介があれば信用してもらえるが、よく分からない営業だと思われたこともあったという。
「そりゃ怪しいですよ、僕が逆の立場だったら、なんだ?って思います(笑)。信用してもらえても、高い金額で買い取ることができないので、折り合わないこともあるし、すべてがうまくいくわけではないんです」。それに、とちょっと顔を曇らせて続ける。
「ものすごいジレンマがあって。僕は閉店を望んでいるわけではないんです。喫茶店は一軒でも多く残ってほしいし、続けられるなら続けてほしいから。矛盾というか葛藤というか、複雑な気持ちはいつもあります。

喫茶店ならではのおもしろい雑貨も。これは「かうひい異名熟字一覧」で、さまざまな文献に掲載されたコーヒーの別名を紹介している。非売品。小岩にあった喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

喫茶店ならではのおもしろい雑貨も。これは「かうひい異名熟字一覧」で、さまざまな文献に掲載されたコーヒーの別名を紹介している。非売品。小岩にあった喫茶店「らむぷ」で使われていたもの(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「瓦版」の文字がくりぬかれた板も喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。当時はお店からの案内を貼るためのものだったのだろうか。村田商會の実店舗で使う予定だそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「瓦版」の文字がくりぬかれた板も喫茶店「らむぷ」で使われていたもの。当時はお店からの案内を貼るためのものだったのだろうか。村田商會の実店舗で使う予定だそう(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

家具を残すことで、お店の雰囲気を少しでも受け継ぎたい。なくなってしまう喫茶店のことが好きで、家具だけでも欲しいというお客さんもいます。僕自身がそうであったように、喫茶店を好きだという人が、自宅でも楽しめたらいいなと思ってのことなんです」

家庭でも使いやすいよう、丁寧にリペア

仕事は村田さんが一人ですべて行っている。喫茶店店主とのやりとり、買い取る家具の査定、運び出して倉庫に入れ、一つ一つ状態をチェックし、修理をして、写真を撮ってネットに掲載して販売し、発送する。書き出すだけでも膨大な仕事量だ。力仕事なのはいうまでもない。
「買い取る前にチェックはするんですが、照明の暗いお店だったりすると、外に運び出すときに初めて『あれ?』と気付くこともあるんです。ちょっと破れていたり、さびがひどかったり、いろいろです。喫煙可能なお店が多いので、ニオイも気になりますし、ヤニが付いているものもあります。それをすべてリペアしてから販売するので、手間も時間もかかるんです」

東大宮にあった喫茶店「ひまつぶし」の椅子。スポンジがすり減り、生地が擦り切れていた(左)。きれいに張り替え、きちんと使える状態に生まれ変わった(右)。手が触れる場所だからと裏地もしっかり張り替えている(写真提供/村田龍一さん)

東大宮にあった喫茶店「ひまつぶし」の椅子。スポンジがすり減り、生地が擦り切れていた(左)。きれいに張り替え、きちんと使える状態に生まれ変わった(右)。手が触れる場所だからと裏地もしっかり張り替えている(写真提供/村田龍一さん)

リペアの技術は知り合いに教えてもらったり、調べたりして身につけた。自宅でも問題なく使えるように、さび止め加工をしてペイントすることもあれば、生地の貼り直しやぐらつきの修正などもある。家具以外のものも加われば、細かな調理道具などの整理も必要だ。

ただ売るだけじゃなく、喫茶店の空気感も伝えたい

「以前、キャバレーの家具を買い取ったことがあるんです。やっぱりタバコの匂いやお酒のシミも残っていてリペアは必要でした。買ってくれたお客さんのなかに、お父様がそのキャバレーに通っていたから、サプライズでプレゼントしたいという方がいて。その話を聞いたときはうれしかったですね」
自分たちで喫茶店を始めたいと家具や小物を買っていくお客さんもいるという。

ただ単に売っているだけではない。村田商會のホームページには、その家具を使っていたお店について伝えるページがある。どんな歴史があり、どんな雰囲気でどんなお客さんが来ていたのか。閉店前のお店の写真まで掲載している。
「家具を売るだけじゃなく、お店のことをきちんと伝えていきたいと思って。受け継ぐ気持ちでやっています」

今年の夏に閉店した喫茶店「POT」。村田さんが内装や家具もそのまま引き継いで残している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今年の夏に閉店した喫茶店「POT」。村田さんが内装や家具もそのまま引き継いで残している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2018年8月営業当時のPOTの店内。記事トップの写真にある赤いポットは、もともとの喫茶店「POT」の象徴的なアイテムで、こちらも商品になる(家具(椅子・テーブル)は販売対象外)(写真提供/村田龍一さん)

2018年8月営業当時のPOTの店内。記事トップの写真にある赤いポットは、もともとの喫茶店「POT」の象徴的なアイテムで、こちらも商品になる(家具(椅子・テーブル)は販売対象外)(写真提供/村田龍一さん)

そうして、ネット販売を続け、実店舗のオープンにつながった。
「『POT』も好きなお店で、ちょこちょこ来ていたんです。閉店すると聞いてご主人と話をするうちに、家具を買い取るのではなく、この場所を受け継ごうと決心しました。ちょうどお店を持ちたと思い始めた時期でもあったので、ありがたかったです」

実店舗なら、たくさんの喫茶店で使われてきた家具を販売しながら、それぞれのお店のことをお客さんに直接話をして伝えていくことができる。
「今はまだ準備中ですが、ゆくゆくはここも喫茶店としてオープンする予定です。もともとの『POT』さんで使われていた家具や道具は残してあるのでそれをきちんと戻して、昔から通っていたお客さんにも楽しんでもらえるように」

形を変えても残るものがある。楽しめるものがある。喫茶店を営む人、楽しむお客さんへ向けた、村田さんの愛情はここからさらに広がっていくだろう。

12月8日にオープンし、家具や雑貨を販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

12月8日にオープンし、家具や雑貨を販売している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●店舗情報
村田商會 西荻窪店
東京都杉並区西荻北3-22-17
2018年12月8日オープン(喫茶店の営業は2019年から予定)
12月中の営業時間 12:00~18:00【不定休】

デュアルライフ・二拠点生活[2] 長野県小布施 自分のスキルが地域の役に立つ感覚、刺激的な人とのつながりは都会生活だけでは得られない

普段は東京のデザイン会社でデザイナーとして企業の価値創造のためのデザイン に携わる丸山拓哉さん(35)は、ふとしたことから長野県・小布施町を知り、この町で地域振興に携わるようになりました。川崎市に住む丸山さんですが、今では小布施町に定期的に滞在するというデュアルライフを実現しています。
現在の生活や思いについて、小布施町のコワーキングスペース「ハウスホクサイ」で丸山さんに話を伺いました。

連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、若い世代もデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます若者会議から生まれた小布施町のコワーキングスペースをデザインプロフィール/丸山拓哉さんは、ハウスホクサイのチーフデザイナー。石川県・金沢市の美術大学を卒業し、いくつかの企業を経て、東京、銀座のデザイン会社に勤務。川崎市で妻と二人住まい 。(写真撮影/内海明啓)

プロフィール/丸山拓哉さんは、ハウスホクサイのチーフデザイナー。石川県・金沢市の美術大学を卒業し、いくつかの企業を経て、東京、銀座のデザイン会社に勤務。川崎市で妻と二人住まい(写真撮影/内海明啓)

丸山さんが小布施町を知ったのは2年ほど前。六本木ミッドタウンで開催されていた地域の町づくりを紹介する催しを見たことからです。「そこで、『小布施若者会議』というイベントがあることを知りました」と丸山さんは語ります。

これは、小布施町に若者を集め、2泊3日を一緒に過ごす間、地域のありかたを議論し、地域活性化のアイデアを出すプログラムです。「不思議なことをやってる町があるな、というのが最初の印象でした。著名人の講演会など、議論と提案だけで終わってしまうイベントは多いのですが、小布施若者会議では若者の発想を活かし、実践するところに新鮮さを感じました」

もともと町づくりに関心のあった丸山さんは、この若者会議に参加しました。「30人以上が集まり、教育・観光などのテーマに沿って、6人毎のチームに分かれて議論をするのですが、そのチームのなかで僕は最年長でした。ウェブ開発者、SE、デザイナーなどクリエイティブ職の人が多く、大学生もいました。そこから出てきたアイデアが、『ハウスホクサイ』です。

町民向けのギャラリースペースを、宿泊施設が隣接したコワーキングスペースという創造活動の拠点にも使えるように改装したハウスホクサイ。小布施若者会議でのアイデアが形になった(写真撮影/内海明啓)

町民向けのギャラリースペースを、宿泊施設が隣接したコワーキングスペースという創造活動の拠点にも使えるように改装したハウスホクサイ。小布施若者会議でのアイデアが形になった(写真撮影/内海明啓)

小布施若者会議がきっかけでできたハウスホクサイは、小布施町の利用率の低下が課題だった町民向けの施設を改装してできたコワーキングスペース。若者会議でこうした場をつくるアイデアが出て、小布施町との協議を重ねて実現したものです。地元の会員もいますが、2階は町営の宿泊施設になっているので、海外や都心からの利用者も寝泊まりでき、長期的な利用も可能です。

丸山さんはハウスホクサイのチーフデザイナーとして、ロゴ・名刺・告知媒体のデザイン・オフィスレイアウト・内装デザイン・インテリアデザインなど幅広く手がけてきました。これを機に小布施町に人のつながりもでき、今、月に1回ほどのペースで小布施町に滞在し、他のメンバーと企画や運営に携わっています。自宅の川崎市と、勤務地である東京・銀座、そしてそこに小布施町での活動が加わり、まさにデュアルライフを実践中です。

ハウスホクサイの1階。2階は利用者が宿泊できる町営の宿泊施設がある。1日単位のゲスト利用ができ、また会員となって定期利用をすることも可能 (写真撮影/内海明啓)

ハウスホクサイの1階。2階は利用者が宿泊できる町営の宿泊施設がある。1日単位のゲスト利用ができ、また会員となって定期利用をすることも可能(写真撮影/内海明啓)

ハウスホクサイのある小布施町は年間95万から100万人の観光客が訪れる。名産の栗と花で知られ、秋は観光の最盛期だ。周辺は歴史あり自然ありの豊かな環境 (写真撮影/内海明啓)

ハウスホクサイのある小布施町は年間95万から100万人の観光客が訪れる。名産の栗と花で知られ、秋は観光の最盛期だ。周辺は歴史あり自然ありの豊かな環境 (写真撮影/内海明啓)

最大の動機は自己実現の場を求めていたこと

丸山さんは当初は、特に二拠点生活をするつもりはなかったそうです。それが実際にはそうなったのはなぜでしょうか。

「最も大きな動機は、デザイナーとしての能力や可能性を、東京での普段の仕事とは別の形で活かせる場所が欲しかったことです。一種の自己実現と言えるかもしれません」

スケジュールに追われてアウトプットが続くこともある東京の仕事のなかで、自分から進んでインプットをする必要性を強く感じていたことも、動機の一つだったそうです。

ハウスホクサイでは内装やイベント告知など、さまざまなデザインに取り組む丸山さん。ハウスホクサイのチーフデザイナーとして、デザイン全般を担当。現在は、カフェスタンドのデザインを作成中(写真撮影/内海明啓)

ハウスホクサイでは内装やイベント告知など、さまざまなデザインに取り組む丸山さん。ハウスホクサイのチーフデザイナーとして、デザイン全般を担当。現在は、カフェスタンドのデザインを作成中(写真撮影/内海明啓)

丸山さんは愛知県の出身で、小布施町には縁もゆかりもありませんでした。しかし小布施町にかかわった経験から、全く新しい環境で活動を始めるほうが、デュアルライフの拠点には望ましいのでは、と語ります。

「出身地などを拠点の一つにするやりかたもありますが、地縁や血縁のある地域は自由に活動しにくいこともあります 。むしろ、僕を誰も知らない土地でコミュニティに参加するほうがいろいろなことができると思います」

もちろんこれが閉鎖的な地域ではむずかしいのですが、その点、小布施町には非常にオープンな風土があります。

小布施町は、古くから交通の要衝であり、晩年の葛飾北斎が滞在して天井画を制作するなど、外から人が来ることにあまり抵抗がないという気風があります。それに加え、小布施町が外部人材を受け入れやすくしている大きな要因が市村良三町長です。市村町長は、小布施町で「若者版ダボス会議」をやりたいと考えていたなど、町外とのかかわりに積極姿勢で臨みました。

実際に日米学生会議の受け入れ、高校生向け国際サマースクール HLAB の開催など、市村町長のリーダーシップによって実現。この10年ほどで、地域や都市を研究する大学生、研究者などが頻繁に訪れるという若者にとっても開放的な町となりました。

ハウスホクサイでは定期的にイベントを開き、自分の活動などをシェアする機会を設けている。参加者は都心で仕事している若手社会人、地元で活動しているメンバーなどさまざま(写真提供/ハウスホクサイ 写真撮影/Shiho Yokoyama)

ハウスホクサイでは定期的にイベントを開き、自分の活動などをシェアする機会を設けている。参加者は都心で仕事している若手社会人、地元で活動しているメンバーなどさまざま(写真提供/ハウスホクサイ 写真撮影/Shiho Yokoyama)

小布施町は1980年から小布施町並み修景事業として、景観への配慮を打ち出し、それが町のそこかしこに感じられる(写真撮影/内海明啓)

小布施町は1980年から小布施町並み修景事業として、景観への配慮を打ち出し、それが町のそこかしこに感じられる(写真撮影/内海明啓)

丸山さんとともにハウスホクサイにかかわり、小布施町の観光DMO事務局の仕事を任されている谷口優太さん(25)は、こう説明します。

「小布施町は行政も住民もオープンマインドな方が多いです。小布施では“観光”でなく“交流と協働”という言葉を使います。見て帰っておしまいでなく、外の人が地域の人々とかかわりあうことを重視しているからです。長野県で最も面積の小さな町ですが、子連れで移住してくる人、新しく農業を始める人、起業する人など若い世代で移住してくる世帯も多くいます」

谷口さん自身、学生時代に高校生向けの国際英語サマースクールHLABの事業に携わっていた関係で、小布施町を初めて訪れました。大学卒業後、海外の旅行情報サイト運営会社に勤務した後、小布施町で開催されたスラックラインワールドカップのボランティアを契機に小布施に惹かれ、移住しました。

(写真撮影/内海明啓)

(写真撮影/内海明啓)

丸山さんと一緒にハウスホクサイを立ち上げ、ハウスホクサイを運営する法人の代表理事である塩澤耕平さん(31)も、現在は小布施に移住しています。長野県駒ヶ根市の出身で、これまで、IT系企業や在宅医療診療所で新規事業を担当していました。

「30歳を契機に会社から独立して、実家で土蔵を改装したカフェを始めようと考えていたのです。なので、若者会議での提案も、最初は半信半疑でした。丸山さんと『DIYで場所づくりだけ形にできたら合格点だよね』と話していたのです(笑)。しかし、出来上がってくる場所、丸山さんを始めかかわってくれる人たちの応援によって、徐々に意識が変わり、『法人を立ち上げて、運営までやってみよう』と思うようになりました」

塩澤さんは2017年2月の若者会議の参加をきっかけに小布施町とかかわり始め、同年12月に移住するまでは、東京・世田谷区の自宅と小布施町を行き来するデュアルライフを送っていました。

「この期間は小布施町の友人宅に93泊していました。「移住しなよ!」と簡単に言う人がいますが、移住は簡単に決断できるようなことではないと思います。だからグラデーションの期間があることは大事です。家族の理解を得たり、移住先のネットワークを構築して、自分の事業を考える期間をつくるという点でも二拠点居住は役立ちます」

ハウスホクサイ(写真撮影/内海明啓)

ハウスホクサイ(写真撮影/内海明啓)

塩澤さんは、ハウスホクサイの管理運営以外にも、小布施町の地域おこし協力隊でクリエイターと小布施をつなぐ仕事もされています。また、東京でのEC事業もフリーランスとしてやられているとのことで、兼業を組み合わせて事業と生活のポートフォリオをつくっているそうです。

丸山さんと塩澤耕平さん(中央)、谷口優太さん(向かって右)。塩澤さんは丸山さんと「小布施若者会議」で出会い、ハウスホクサイの立ち上げからかかわった。谷口さんは、小布施町で開催されたスラックラインのワールドカップで小布施町との縁が深まって移住を決めたという(写真撮影/内海明啓)

丸山さんと塩澤耕平さん(中央)、谷口優太さん(向かって右)。塩澤さんは丸山さんと「小布施若者会議」で出会い、ハウスホクサイの立ち上げからかかわった。谷口さんは、小布施町で開催されたスラックラインのワールドカップで小布施町との縁が深まって移住を決めたという(写真撮影/内海明啓)

丸山さんは、小布施町での生活や経験が、東京での仕事にも役立っていると語ります。

「以前と比べ、社内でのチーム形成や、業務改善の方法などをより強く考えるようになったと思いますね。小布施町では、普段の東京の仕事のなかでは接することがないタイプの人に出会えることが多いのですが、“やるべき”だけでなく、内面からの“やりたい”を意識して、物事に取り組んでいらっしゃる方が多いように感じます。そんな環境のなかで得たいろいろな新しい経験を社内で共有して、チーム成長のきっかけにすることも、会社での僕の役割だと感じています」

小布施町のまちづくりは全国的に注目され、クリエイターの拠点として、ハウスホクサイにも訪問者が訪れることもある。丸山さんたちは、「内と外」の両方視点をもって、この事業の意義を説明する(写真撮影/内海明啓)

小布施町のまちづくりは全国的に注目され、クリエイターの拠点として、ハウスホクサイにも訪問者が訪れることもある。丸山さんたちは、「内と外」の両方視点をもって、この事業の意義を説明する(写真撮影/内海明啓)

岡山県の片山工業株式会社が開発した、ステップに足を乗せ、左右交互に踏み込んで走るウォーキング・バイシクル。小布施町で観光や健康利用のための実証が行われている。この地ではこのような新規性の高い取り組みに積極的。再生可能エネルギーを活用した新しい地域新電力の取り組みなども始まっている(写真撮影/内海明啓)

岡山県の片山工業株式会社が開発した、ステップに足を乗せ、左右交互に踏み込んで走るウォーキング・バイシクル。小布施町で観光や健康利用のための実証が行われている。この地ではこのような新規性の高い取り組みに積極的。再生可能エネルギーを活用した新しい地域新電力の取り組みなども始まっている(写真撮影/内海明啓)

●取材協力
一般社団法人ハウスホクサイ
>HP 

挿花家・雨宮ゆかさんの自然が身近にある暮らし その道のプロ、こだわりの住まい[3]

一面に広がる田んぼを通り過ぎ、坂道を登ると、庭先に薪を積んだ一軒家にたどり着く。ここは、挿花家の雨宮ゆかさんが夫で写真家の雨宮秀也さんと暮らす自宅。ゆかさんは日常の花を生ける教室「日々花」を主宰しながら、各地でワークショップや生け込みなども行っている。教室とはまた別の空間である自宅でどんな風に花を楽しみながら暮らしているのか、話を伺った。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。

庭にもエントランスにも季節の草花がある。軒先には積まれた薪、日曜大工の道具、玄関の先にある土間には花材が置かれている。リビングに入れば、広い窓からまぶしいほどの光が差し込み、まるで山小屋に来たかのよう。玄関に入る前から気持ちがいい空間だということが伝わってくる。

「ここは小屋みたいな家なんです。家を建てるときに伝えたのは、自分たちの暮らし方。それをもとに中村さんが考えてくださった形がこの家なんです」とゆかさんは話す。中村さんとは建築家の中村好文氏。住宅を多く手がけているだけあり、暮らしやすい家をつくるスペシャリストである。

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

暮らし方を伝えてできた、五右衛門風呂のある一軒家

家を建てるに当たり、当時住んでいたアパートでの暮らしを要望書にまとめたという。見せてもらうとイラストとともに二人の一日がよく伝わってくる内容になっている。朝から電灯をつけなければいけないのが悲しい、本が入りきらない、夫の秀也さんが自宅で撮影するときのスペースが足りないといった不便さや、お昼ご飯は庭で食べることもある、一日の締めくくりはつくりながら飲みながらの晩御飯、など、食の時間を大切にしていることなどが書かれている。

「これ以外の要望は特に伝えなかったと思います。あ、夫と中村さんが二人で盛り上がって五右衛門風呂にしようというのはありました」とゆかさんは当時を振り返る。玄関前にあった薪(まき)は五右衛門風呂のためのものだったのだ。

建築家の中村好文さんに提出したという要望書。ゆかさんがイラストと文章でそれまでの自分たちの暮らしを表現している。不満や不便なこと、何を大切にしているかがよくわかる一枚(画像提供/雨宮ゆかさん)

建築家の中村好文さんに提出したという要望書。ゆかさんがイラストと文章でそれまでの自分たちの暮らしを表現している。不満や不便なこと、何を大切にしているかがよく分かる一枚(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取りもゆかさんが描いた(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取りもゆかさんが描いた(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取り。神奈川県川崎市に建てた。1階はリビングダイニングキッチン兼スタジオに、夫の仕事部屋、お風呂とトイレ。東西に土間が通っている。2階はもともと納戸にしようとしていたスペースをゆかさんの仕事スペースに変更した(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取り。神奈川県川崎市に建てた。1階はリビングダイニングキッチン兼スタジオに、夫の仕事部屋、お風呂とトイレ。東西に土間が通っている。2階はもともと納戸にしようとしていたスペースをゆかさんの仕事スペースに変更した(画像提供/雨宮ゆかさん)

土間も五右衛門風呂もあるという一軒家。そこでの暮らしは、仕事をしながら薪割りをしたり、庭の手入れをしたりと、やることはたくさんある。
「最近、地主さんから裏の土地を貸してもらえたので、畑を始めたんです。本当は山野草を植えたかったんですけど、ひとまず野菜を始めたら楽しくて」と言う。

五右衛門風呂用の釜にダッチオーブンを入れて料理をしたり、庭に出てコーヒーを飲んだり、教室の生徒が来てわら仕事をしたり、この家だからこそできる生活を楽しんでいる様子が伝わってくる。

1階は玄関から五右衛門風呂まで土間に。花材はもちろん、食材のストックなどの一時置き場としても活躍している。「買い物や仕事帰りにとりあえず荷物を置いておけるのでとても便利です」(写真撮影/雨宮秀也)

1階は玄関から五右衛門風呂まで土間に。花材はもちろん、食材のストックなどの一時置き場としても活躍している。「買い物や仕事帰りにとりあえず荷物を置いておけるのでとても便利です」(写真撮影/雨宮秀也)

秀也さんの希望で作った五右衛門風呂。「薪割りの大変さとかを差し引いても、つくってよかったと思っています。お湯の温まり方が違う。夏は夜のお湯が朝まであたたかいこともあるほど」(写真撮影/雨宮秀也)

秀也さんの希望でつくった五右衛門風呂。「薪割りの大変さとかを差し引いても、作ってよかったと思っています。お湯の温まり方が違う。夏は夜のお湯が朝まで温かいこともあるほど」(写真撮影/雨宮秀也)

無垢材の良さが感じられるから、スリッパは捨てた

新しい家での暮らしを始めてすぐにゆかさんが気がついたのは、スリッパが要らないということ。
「無垢(むく)の床材を使っているのですが、特に仕上げ材などを塗ったりしていないんです。木の質感をダイレクトに感じられるからとても気持ちよくて、スリッパは捨てました」。

また自然と物を片付けるようになったということも、二人にとってのメリットだったとか。
「それまでは仕事道具を持って帰ってきて、リビングやダイニングに置きっ放しということが多かったんです。でも、この家ではそれぞれの仕事部屋をきちんと確保できているし、何よりリビングに物を出ていると気持ちが悪いなと感じるようになった。この白い壁をきちんと見える状態にしておきたいという気持ちがあるから、お互いに何も言わずとも片付けるようになっているんだと思います」と、壁に目を向ける。そこは夫の撮影スタジオとしても使う空間。

左官で白く仕上げた壁の前には、ゆかさんが生けた花が置かれているほかには物はない。余白があることですっきりと感じられ、花も引き立って見える。余白を生むためには、ものを減らすことにも気を配った。
「本はたくさんあるんですが、それでも厳選しました。それに洋服もかなり減らしたと思います。食器も水屋に入るぶんだけにしていますし」と話す。自分たちに必要なものを見極めた暮らしだということがよく分かる。

広く白い壁は、ご主人のスタジオになったり、ゆかさんの花を楽しむスペースになったり、臨機応変に使っている。ものを出しっぱなしにしなくなったというのもよく分かる気持ちのいい空間(写真撮影/雨宮秀也)

広く白い壁は、夫のスタジオになったり、ゆかさんの花を楽しむスペースになったり、臨機応変に使っている。ものを出しっぱなしにしなくなったというのもよく分かる気持ちのいい空間(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

また、「何よりも、朝起きてパチンと電気をつけなくて済むようになったことがすごくうれしくて。天気が悪くても1階はいつも明るいんです」とゆかさん。リビングダイニング、キッチンが一続きになっているので、どこにいても窓の外を眺めることができる。庭にはゆかさんが選んで植えたという草花が生い茂り、その奥には丘の緑が見える。

「ここに住んで気がついたのは、季節は春夏秋冬4つじゃないということ。もっと細かくて、10日単位で季節が変わっていくんじゃないかと思うくらい。例えば、山を見ていると芽吹き始めたころの緑と、葉が開ききった緑とは違うんです」とうれしそうに教えてくれる。広い窓があることで、外と距離が近くなり、自然の移り変わりを身近に感じることができる。「家で仕事をしていても、ご飯を食べたり、お茶を飲んだりしながらふっと窓の外を見れば気分転換になるし、外とのつながりって大切なんだと感じています」

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

草花を飾る前に、まずスペースをきちんと確保する

そうして感じる季節の移り変わりや外の空気は、花を生けるということで室内にも取り入れている。仕事柄、花は常に身近にあるが、自宅でもそれは変わらない。くだんの白い壁の前以外にも、玄関や食器棚にしている水屋箪笥(だんす)の中には、いつも草花がある。

「水屋の中に花を飾るというのは、アパートに住んでいたころに思いついたことなんです。狭くて飾るスペースがないなかでの苦肉の策です」。一段の半分は何も置かないようにして、花のスペースと決めているのだそう。ガラス戸を閉めるとギャラリーのようにも感じられる一角だ。この方法は、動物と一緒に暮らしている人や小さなお子さんがいる人にとっても、草花にいたずらをされずに済むのでオススメだという。

「花を飾るのが難しいという悩みを聞くことが多いんですが、まずは置くスペースを確保することが大切なんです」。ものが多く飾られていたり、収納されている中に草花を飾っても紛れてしまって引き立たない。食器棚の一段の半分だけでもいいから、スペースを空ける。余白をつくることで、飾った花が生き生きとした姿に見えてくるのだ。

以前住んでいた家から持ってきた食器棚代わりの水屋箪笥。これを使いたいと中村さんに伝え、スペースを階段下に確保してもらった。上段の右下を花のスペースと決めて食器は入れないようにしている(写真撮影/雨宮秀也)

以前住んでいた家から持ってきた食器棚代わりの水屋箪笥。これを使いたいと中村さんに伝え、スペースを階段下に確保してもらった。上段の右下を花のスペースと決めて食器は入れないようにしている(写真撮影/雨宮秀也)

背景にものを置かずにスペースを確保するだけで、ぐんと草花が引き立って見える。使っている花器はカップ。専用の花器を使うこともあれば、食器を転用することもあるそう(写真撮影/雨宮秀也)

背景にものを置かずにスペースを確保するだけで、ぐんと草花が引き立って見える。使っている花器はカップ。専用の花器を使うこともあれば、食器を転用することもあるそう(写真撮影/雨宮秀也)

季節を感じられる花や緑を選んで楽しむ

飾る空間をつくったら、実際にどのような花材を選んだらいいのだろう?
「みなさんお花屋さんで購入することが多いと思うんです。そのときに花として選ぶものは1種類でいい。そこにグリーンを加えるようにするのがオススメです。アイビーでもいいし、ハーブでもいい。枝ものを購入できるなら、紅葉している、実がついている、新緑など、季節感を感じられるものを」。

そう言われて玄関の壁を見てみると、花にプラスされているのは小さな柿がなった枝で、なるほどと思う。もしもベランダで鉢植えをしたり、庭で育てることができる人なら、寄せ植えするのもいい、とも。

「寄せ植えだとそれぞれ競い合うのか、かえって丈夫に育つ気がします。それにお互いの植物が虫除けになったりすることもあるから安心。組み合わせるときは、紅葉するものや線の細いもの、まだら入りの葉のものや花のものなど、それぞれ葉に特徴がある緑を選ぶようにすると、生けるときに重宝します」。例えば、もみじ、ススキ、どくだみを組み合わせると、もみじが紅葉し、ススキの細長い線が動きを出してくれ、どくだみでは花も緑も楽しめる。

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

小さな柿がなった枝をあしらった玄関。花に枝ものや葉ものを組み合わせるだけでいいと考えると、気楽に草花を楽しむことができる (写真撮影/雨宮秀也)

小さな柿がなった枝をあしらった玄関。花に枝ものや葉ものを組み合わせるだけでいいと考えると、気楽に草花を楽しむことができる(写真撮影/雨宮秀也)

花を生けるにも、暮らすにも、無理せずに。ゆかさんたちは、それまでの暮らしを考え、自分たちに何が必要かをきちんと見極めて生活している。五右衛門風呂はあるが、広いスペースは必要ない。花を飾る空間は大切だが、たくさんの洋服はいらない。小屋のような一軒家で自然とともに過ごす毎日は、これからもとても健やかに過ぎていくに違いない。

リビングダイニングとキッチンはひとつながりのスペース。「壁などで仕切らないことで開放感もあるし、動線もスムーズ。何よりどこにいても窓の外が目に入るのがうれしい」とゆかさん(写真撮影/雨宮秀也)

リビングダイニングとキッチンはひとつながりのスペース。「壁などで仕切らないことで開放感もあるし、動線もスムーズ。何よりどこにいても窓の外が目に入るのがうれしい」とゆかさん(写真撮影/雨宮秀也)

●プロフィール
雨宮ゆか
日常の花を生ける教室「日々花」主宰。展覧会やワークショップなども開催。身近な植物をさりげなく美しく生活に取り入れる姿にファンが多く、雑誌や書籍などで活躍中。
>HP

「品川駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

家の立地を選ぶときに重視するのは、毎日利用する通勤や通学の便の良さだろう。ビジネス街へのアクセスは、ぜひとも押さえておきたいポイントだ。都心の大動脈・山手線の新駅の建設が進む品川エリアは、2027年開業予定のリニア中央新幹線ターミナルが計画され、大規模な再開発が進行中の注目地域。そこで、品川駅へ30分以内で行ける、ワンルーム・1K・1DKの物件を対象にした、家賃相場の安い駅ランキングを分析。それぞれの特徴や、狙い目の場所を考えてみた。
品川駅まで電車で30分以内、家賃相場の安い駅TOP20

順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅の所在地/品川駅までの所要時間(乗り換え時間を含む)/乗り換え回数)
1位 保土ヶ谷 5.63万円(JR横須賀線、湘南新宿ライン/神奈川県横浜市保土ケ谷区/25分/0回)
2位 白楽 5.70万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/30分/1回)
3位 京急新子安 5.80万円(京急本線/神奈川県横浜市神奈川区/23分/1回)
4位 東白楽 6.10万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/28分/1回)
5位 三ツ沢下町 6.15万円(ブルーライン/神奈川県横浜市神奈川区/29分/1回)
6位 弁天橋 6.20万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市鶴見区/23分/2回)
6位 神奈川新町 6.20万円(京急本線/神奈川県横浜市神奈川区/26分/1回)
8位 新子安 6.22万円(JR京浜東北線/神奈川県横浜市神奈川区/20分/1回)
9位 小島新田 6.30万円(京急大師線/神奈川県川崎市川崎区/29分/1回)
9位 戸塚 6.30万円(JR東海道線ほか、ブルーライン/神奈川県横浜市戸塚区/27分/0回)
9位 生麦 6.30万円(京急本線/神奈川県横浜市鶴見区/21分/1回)
12位 菊名 6.42万円(JR横浜線、東急東横線/神奈川県横浜市港北区/27分/1回)
13位 子安 6.50万円(京急本線/神奈川県横浜市神奈川区/25分/1回)
13位 小岩 6.50万円(JR総武線/東京都江戸川区/29分/1回)
15位 天王町 6.60万円(相鉄本線/神奈川県横浜市保土ケ谷区/30分/1回)
15位 市川 6.60万円(JR総武線/千葉県市川市/28分/0回)
15位 綱島 6.60万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/24分/1回)
15位 鹿島田 6.60万円(JR南武線/神奈川県川崎市幸区/19分/1回)
19位 新川崎 6.65万円(JR横須賀線、湘南新宿ライン/神奈川県川崎市幸区/13分/0回)
20位 国道 6.70万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市鶴見区/20分/2回)
20位 日吉 6.70万円(東急東横線・目黒線、グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/21分/1回)
20位 東戸塚 6.70万円(JR横須賀線、湘南新宿ライン/神奈川県横浜市戸塚区/30分/0回)
20位 産業道路 6.70万円(京急大師線/神奈川県川崎市川崎区/28分/1回)
20位 矢向 6.70万円(JR南武線/神奈川県横浜市鶴見区/16分/1回)
20位 花月園前 6.70万円(京急本線/神奈川県横浜市鶴見区/20分/1回)
20位 鶴見小野 6.70万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市鶴見区/21分/2回)

ランキングは大半が横浜市、1位は横浜駅徒歩圏内

ランキングの大半を占めたのは、神奈川県横浜市の駅だった。1位の保土ヶ谷駅はJR横須賀線の沿線のため、乗り換えなしで品川駅まで着くことができる。逆方向へ向かえば、鎌倉も乗り換えなしで約20分。また隣駅は横浜駅で、駅間距離は3kmほど。散歩がてら歩いて横浜駅を利用することも十分可能だ。また相鉄線の天王町駅までも約1kmで、2路線を使うこともできる。交通の便で判断するなら、穴場と言えるかもしれない。

元々が宿場町のため、街並みにはさりげなく、歴史を感じさせる碑なども。古くから住んでいる人も多く、下町人情を感じさせる商店街などもある。

商店街は駅の西口にもあるが、駅から少し距離はあるものの洪福寺松原商店街は「横浜のアメ横」とも称される品ぞろえと安さで人気のスポット。毎日正午から午後6時まで歩行者天国になるため、小さな子ども連れでもゆっくり買い物を楽しめるだろう。

2位の白楽駅は、SUUMO「関東 住みたい街ランキング2018」で調査した住みたい沿線ランキングの沿線として2位にランクインしている東急東横線の駅。4位に入った東白楽駅とは隣駅で、ともに各駅列車しか停車しないが、横浜駅までの所要時間は電車で約5分であり、十分便利な立地といえそうだ。

白楽駅は神奈川大学の最寄駅であるため、学生だけでなく単身者にとってうれしい安価な定食屋さんや、チェーンの飲食店が充実している。深夜まで営業している店もあるが、駅から少し離れると閑静な住宅街で、単身者向けの物件も数多い。

六角橋商店街(写真/PIXTA)

六角橋商店街(写真/PIXTA)

駅から旧綱島街道沿いにある六角橋商店街は、レトロな雰囲気が気になる商店街だ。メーン通りとアーケード街が並行して成り立っており、昭和を舞台にした映画やドラマの撮影地になることもあるとか。生鮮食品や日用品のほかに、お酒が飲める中古レコード店などユニークなお店があり、みんなでライブや野宿などを楽しむ「ドッキリヤミ市場 夜のフリーマーケット」などのイベントも開催されている。独り暮らしの気楽さと他者とのふれあいが両立できるのは、大きな魅力だ。

住みたい街ランキング上位の街のすぐそばに、穴場を発見

品川までの所要時間が一番短いのは、19位の新川崎駅。ランキング内で唯一、15分を切る。
1位の保土ケ谷駅と同じくJR横須賀線の沿線のため、乗り換えも必要ない。SUUMO「関東 住みたい街ランキング2018(総合)」6位の武蔵小杉駅とは湘南新宿ラインの隣駅で、距離は約3km。人気エリアに住みたいけれど予算が……という人におすすめだ。

武蔵小杉駅周辺の風景(写真/PIXTA)

武蔵小杉駅周辺の風景(写真/PIXTA)

武蔵小杉駅の再開発がひと段落したため、近年は新川崎駅周辺の再開発が注目されるように。2015年には駅に接続した大型商業施設「新川崎スクエア」が開業。大規模なマンションの建設も増えている。

駅周辺では、深夜1時まで営業しているスーパーもあり、多忙なビジネスパーソンや共働きのDINKSには心強い。また、15位の鹿島田駅までは600m超しか離れておらず、「新川崎スクエア」は鹿島田駅とも接続している。南武線は川崎まで乗り換えなしで利用できるため、小さな子どもを連れて川崎の商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」などへ遊びに行く際にも快適だろう。

神奈川県以外でランクインしている13位の小岩駅と15位の市川駅は、ともに千葉方面に延びる総武線の沿線。品川とは反対の東方向だが東京駅へも20分以内で出られ、利便性は文句なしだ。

小岩駅は、駅周辺は歓楽街が目立つものの、下町情緒があふれる純喫茶店や商店街などがあり、ディープな魅力にあふれる街。対して市川駅は、駅直結のショッピングセンターやスーパーなどが充実し、街中には公園も多く、ファミリーが住みやすい街だ。

人気のある駅や沿線は、当然家賃が高くなる。しかし、最寄駅の駅名がメジャーか否かだけにこだわらず、エリアとして見まわしてみれば、人気のある場所周辺にお手ごろ価格で住むことは十分に可能だ。「名より実をとる」のは、賢い生き方の選択のひとつ。お気に入りの家探しの秘訣も、同じといえるだろう。

●調査概要
【調査対象駅】品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018/6~2018/8
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出

デュアルライフ・二拠点生活[1] 南房総に飛び込んで生まれた、新しい人間関係や価値観

今までにない、デュアルライフ(二拠点生活)で、人生を充実させている人が増えています。その一人が、川鍋宏一郎さん(34)。東京に本社のある外資系IT企業に勤務し、横浜市内の自宅で四人家族で生活していますが、2年ほど前から、毎週末は、千葉県南房総のもう一つの拠点に通っています。
その動機や経緯、意識の変化などについて、南房総でうかがいました。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
デュアルライフ(二拠点生活)にはこれまで、別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイア組が楽しむものだというイメージがありました。しかし最近は、空き家やシェアハウス、賃貸住宅などさまざまな形態をうまく活用してデュアルライフを楽しむ若い世代も増えてきたようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。田舎の不動産探しをきっかけにシェアハウスを知る

「もともとキャンプや自然が好き。しかし住んでいるのは綱島(横浜)の住宅地。あるとき、東京近郊でも少し田舎に行けば、空き家物件が300万円くらいと驚くような低価格で買えることを知って、探し始めたのがきっかけです。同じころ、建築ライターの馬場未織さんの書かれた書籍『週末は田舎暮らし』にも影響を受けました」と川鍋さん。

川鍋宏一郎さん。東京に本社のある外資系IT企業に勤務。キャンプ好きが昂じて南房総と綱島のデュアルライフをするようになった(写真撮影/内海明啓)

川鍋宏一郎さん。東京に本社のある外資系IT企業に勤務。キャンプ好きが高じて南房総と綱島のデュアルライフをするようになった(写真撮影/内海明啓)

手に入れた住宅を改修して週末に過ごすことを想定、まずはDIYのスキルを身につけようと、ワークショップを探すうち、見つけたのが、ヤマナハウスのウェブサイトでした。「関心のある人が月一回集まって、古民家の改修に取り組もうとしていました。これだ!と思って、参加したんです」

千葉県南房総市三芳にあるヤマナハウスは、シェアオフィス運営を手がけるHAPON新宿の創設者の一人、永森昌志さんが主宰しメンバーと共同運営しています。約2500坪もの里山にある古民家を改造したので『シェア里山』と呼び、年齢も職業もさまざまな人たちが週末に集まっては、田舎暮らしを楽しんでいます。

千葉県南房総の広大な里山にある古民家を改修してできたヤマナハウス(写真撮影/内海明啓)

千葉県南房総の広大な里山にある古民家を改修してできたヤマナハウス(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウス室内。川鍋さんら、このハウスのメンバーがリフォーム。週末に集まって野良仕事などした後は、ここで食事を(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウス室内。川鍋さんら、このハウスのメンバーがリフォーム。週末に集まって野良仕事などした後は、ここで食事を(写真撮影/内海明啓)

大工仕事の腕も上がった川鍋さんは現在、ほぼ毎週末をヤマナハウスで過ごしています。「綱島から車で約1時間20分ほど。金曜の夜にヤマナハウスに着き、日曜日の朝に戻るというパターンです」。交通費は高速を使って1回に5000円~6000円程度です。
現地では、ここの仲間のほかに、移住してきた人たちも加わり、野良仕事やバーベキュー、飲み会などを楽しんでいます。古民家の改修・改造は今も続いています。取材中も、多くの人が集まり、にぎやかに新たな物置を建設中でした。

綱島の自宅付近も緑の多い住宅地ですが、南房総とは比べものになりません。「人工的な自然ですし、落ち葉を集めての焚き火もできません。キャンプにも親しんできましたが、キャンプ場は管理されていて、薪のための木一本切ることもできません。しかしここでは自由にいろいろなことができます」

ヤマナハウスは2015年の春にスタート。古民家改修、畑仕事、裏山の整備・手入れなどを行い、それが都市ではできない“遊び”にもなっている(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウスは2015年の春にスタート。古民家改修、畑仕事、裏山の整備・手入れなどを行い、それが都市ではできない“遊び”にもなっている(写真撮影/内海明啓)

取材の日は、ヤマナハウスの前に物置小屋を建築中で川鍋さんもお手伝い(写真撮影/内海明啓)

取材の日は、ヤマナハウスの前に物置小屋を建築中で川鍋さんもお手伝い(写真撮影/内海明啓)

5歳、7歳になる二人の娘さんを連れて行くと、自然のなかでキックボードをしたり、川や砂浜で貝殼を拾ったり、虫やカエルをつかまえたりと、都会ではできない生活を楽しんでいるそうです。
「妻は福島の自然の豊かなところの出身ですから、最初は、今さらなぜ田舎に?と感じたようですが、協力してくれました。たくさんの人が集まっているので、代わる代わる誰かが子どもの相手をしてくれるのもうれしいところ。このヤマナハウスには、疑似(大)家族的な側面がありますね」

左)川鍋さんの娘さんたち。自然のなかで遊び、生きものに触れる機会が増えた。右)農作業のお手伝いも貴重な経験(画像提供/川鍋宏一郎)

左)川鍋さんの娘さんたち。自然のなかで遊び、生きものに触れる機会が増えた。右)農作業のお手伝いも貴重な経験(画像提供/川鍋宏一郎)

新しい人間関係が生まれ、都会での価値観が変わる

こうしたデュアラー(二拠点生活者)としての生活は、川鍋さんの意識にも変化をもたらしました。
「それまでの生活では絶対知り合えなかったはずの、年齢、職業などが多種多様な友人ができました。それぞれが得意なことが違うので、教え合い、手分けする“タスク分散”もできます。僕は酒が好きなので、果実酒のつくり方を伝えたりしています」

川鍋さんは、東京都品川・戸越銀座の育ちです。祭りのときは御輿(みこし)担ぎに駆り出されるなど、人間関係は今もしっかり残っていて、いわゆる“都市生活者の孤独”とは無縁です。「でもそれは、上下のある縦の人間関係なんです。一方、シェアハウスでの人間関係はフラットで平等。これも心地よさの理由かもしれません」

モノはお金を払って買う、という発想も揺らぎました。必要なモノはつくる、誰かと交換する、壊れたら自らの手で直す、そうした発想になりました。「すぐ近くに移住して養鶏をしている人がいるので、そこに酒を持って行き、卵を分けてもらうといったこともあります」

都心のIT企業に長く勤務し、千葉県君津市に移住して、毎月ヤマナハウスに足を運んでいる高橋新志さん(52)も、「犬の散歩に一周歩いたら、いただいた野菜で両手がいっぱい、といったことが起こります。ここは物々交換経済がまだかなり機能しているんですね。だから東京の基準で考えたら低い収入だとしても、豊かな暮らしがしていけるんです」

ヤマナハウスの土間部分に設けられたキッチン。床部分のコンクリートも職人さんに教わりながらメンバーが手伝って敷いた。(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウスの土間部分に設けられたキッチン。床部分のコンクリートも職人さんに教わりながらメンバーが手伝って敷いた(写真撮影/内海明啓)

スタディツアーでやってきた都内の大学生との交流会。ヤマナハウスメンバー以外にも地元の方も加わり、多様な世代、多様なライフスタイルの人達と関わりが持てる場になっている(写真提供/ヤマナハウス)

スタディーツアーでやってきた都内の大学生との交流会。ヤマナハウスメンバー以外にも地元の方も加わり、多様な世代、多様なライフスタイルの人たちとかかわりがもてる場になっている(写真提供/ヤマナハウス)

ヤマナハウスには女性の参加者もいます。東京のSI企業に勤務している女性SEは、「東京では体を動かして何かをするという実感が得られず、自然に引かれて参加しました。月に1、2回ですが、こちらに来ると元気になりますね」。
前述の高橋新志さんは、東日本大震災以降、自給自足的な生活拠点を持つことへの関心が高まってきたことを感じるそうです。「川鍋さんはキャンプという下地があったので、田舎の生活になじみやすかったように思えます。ご家族の協力があることも大きいですね」(高橋新志さん)

田舎の生活に人間関係は大切、と語るのは、高橋保雄さん(54)。千葉県船橋市に住み、都会の企業に勤務し、ヤマナハウスには月に2度くらい来ています。「川鍋さんが若いときから、こういう生活を試せるのはうらやましいですね。僕が若いころはそうした機会を得られず、粛々と会社人間を続けました。実はそれで精神的に参ったことが、デュアルライフに切り替えたきっかけになったんです」(高橋保雄さん)

ヤマナハウスのメンバーのほか、南房総が気に入って移住してきた人たちも加わっての作業。田舎で、職業や背景の異なる仲間と出会うのも楽しみだ。得意な人、慣れた人が教えて、みんなで学んでいく関係になっている(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウスのメンバーのほか、南房総が気に入って移住してきた人たちも加わっての作業。田舎で、職業や背景の異なる仲間と出会うのも楽しみだ。得意な人、慣れた人が教えて、みんなで学んでいく関係になっている(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウス室内。築250~300年ほどの古民家を再生・改修したもの。古い窓枠や廊下の木材はそのまま利用している(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウス室内。築250~300年ほどの古民家を再生・改修したもの。古い窓枠や廊下の木材はそのまま利用している(写真撮影/内海明啓)

個人としても家と土地を借りる

川鍋さんは、移住を考えたところから始まって、デュアラーとなりましたが、移住を諦めたわけではありません。移住も視野に入れ、家を借りることもしています。 
「このヤマナハウスの大家さんのご紹介で、私個人が半年ほど前から近くに家を借りました。家と言っても1500~2000坪の敷地も込みで、東京で言えば駐車場代程度。将来はここにキャンプ場をつくりたいと考えているんです」

川鍋さんがこのような紹介で、土地と家を借りることができたのも、ヤマナハウスが地元に定着し、そこで活動していることで、地元の人たちの信頼を得るようになったからと言えそうです。
「ヤマナハウスのみんなで、地域で年に1回行われる草刈りに参加したり、祭りでは御輿を担いだりしています。地元の青年部の方々には喜んでいただけていますね。そこからまた知り合いを紹介されるなど、人の輪が広がることもあります」

ヤマナハウスとは別に、すぐ近くに川鍋さんが借りた家。小屋や車を何台も停められる広いスペースも。これに手を加え、将来は仲間とのキャンプの拠点にしたいと考えている(写真撮影/内海明啓)

ヤマナハウスとは別に、すぐ近くに川鍋さんが借りた家。小屋や車を何台も停められる広いスペースも。これに手を加え、将来は仲間とのキャンプの拠点にしたいと考えている(写真撮影/内海明啓)

裏山で長年放置されて広がってしまった竹をみんなで刈って整備。新しい農法に挑戦したりなど新しい取り組みにも挑戦している(写真提供/ヤマナハウス)

裏山で長年放置されて広がってしまった竹をみんなで刈って整備。新しい農法に挑戦したりなど新しい取り組みにも挑戦している(写真提供/ヤマナハウス)

将来の移住のためのトライアルとしても有効なデュアルライフ

川鍋さんのお話からは、デュアルライフに必要なヒントがいくつも見出せます。自ら工夫する力、お金ではない価値を大切にすること、家族の協力、地元の方々との良い人間関係などです。
またデュアルライフは、都会の仕事をやめずに実現できるので、特別な富裕層でなくても可能です。また将来の移住を考えている人にとっては、トライアルとしても有効な手段と言えるでしょう。

南房総の里山の自然は豊か。季節の変化を感じる生活が、都会の変化だけでは得られない変化を与えてくれ、翌週の活力につながっている(写真撮影/内海明啓)

南房総の里山の自然は豊か。季節の変化を感じる生活が、都会の変化だけでは得られない変化を与えてくれ、翌週の活力につながっている(写真撮影/内海明啓)

●取材協力
HAPON新宿

【ファミリー編】品川駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

JRの新しい駅「品川新駅(仮)」の建設をはじめとする再開発が進められ、注目が集まる品川駅周辺。そんな品川駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場を、前回、前々回と2回にわたりお届けした。今回は品川駅編の最終回、専有面積70平米以上~100平米未満のファミリー向け中古マンションの価格相場を調査。これまで紹介したシングル向け、カップル向けとランクインした駅に違いはあるのか? さっそく調査結果を見てみよう。
●品川駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP12
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/品川駅までの所要時間)
1位 保土ヶ谷 2990万円(JR横須賀線ほか/神奈川県横浜市/25分)
2位 東戸塚 3780万円(JR横須賀線ほか/神奈川県横浜市/30分)
3位 新小岩 3980万円(JR総武線/東京都葛飾区/22分)
4位 新川崎 4350万円(JR横須賀線ほか/神奈川県川崎市/13分)
5位 川崎 4575万円(JR京浜東北線ほか/神奈川県川崎市/9分)
6位 平和島 4675万円(京急本線/東京都大田区/7分)
7位 鶯谷 4680万円(JR山手線ほか/東京都台東区/20分)
8位 京急川崎 4690万円(京急本線ほか/神奈川県川崎市/11分)
9位 市川 4980万円(JR総武線/千葉県市川市/28分)
9位 東神奈川 4980万円(JR京浜東北線ほか/神奈川県横浜市/24分)
9位 蒲田 4980万円(JR京浜東北線ほか/東京都大田区/10分)
12位 立会川 5055万円(京急本線/東京都品川区/5分)

JR横須賀線の隣り合う駅が1位と2位にランクイン

中古マンションの価格相場が最も安かったのは、JR横須賀線で横浜駅の次の保土ヶ谷(ほどがや)駅。専有面積40平米以上~70平米未満の物件を対象にした、前回調査のカップル編でも1位になった駅だ。品川駅に出やすいエリアで中古マンションを探す場合、まず保土ヶ谷駅は要チェックと言えそうだ。

2位は横浜駅から出て保土ヶ谷駅の次の駅となるJR横須賀線・東戸塚駅。駅周辺にはスーパーやショッピングモールなど大型の商業施設が立ち並び、中古マンションの物件数も今回ランクインしたトップ12の駅で最も充実している。

3位はJR総武線・新小岩駅。駅南口側には全長約420mにわたるアーケード商店街が広がり、約140店舗が元気に営業する一帯は東京の下町風情が漂っている。食料品店からドラッグストア、ファストフードなどの飲食店までそろうので、ここに来れば日々の買物をひと通り済ませられるだろう。

新小岩駅(写真/PIXTA)

新小岩駅(写真/PIXTA)

中古マンションの広さによって、狙い目の駅は変わってくる!?

さて、前回のカップル編と見比べると、1位だけではなくランキング上位陣の顔ぶれは似通った結果となっている。2位のJR横須賀線・東戸塚駅はカップル編で4位、3位のJR総武線・新小岩駅はカップル編でも3位にランクインしていた。

そんななか、4位のJR横須賀線・新川崎駅はカップル編、シングル編ともに上位にはランクインしていない。新川崎駅の東側には2015年~2016年に誕生した商業施設「新川崎スクエア」と47階建てタワーマンションがある。これらの建物を眺めつつ歩行者用通路を進むと、JR南武線・鹿島田駅にたどり着く。両駅間は6分ほどで行き来できるので、行先に応じて使い分けると便利だろう。

9位のJR京浜東北線・東神奈川駅もカップル編とシングル編にはランクインしなかった駅。駅の東口側には京急本線・仲木戸駅があり、両駅は歩行者用通路で結ばれている。両駅の間にはスーパーや惣菜店などをテナントに抱えた「シァルプラット東神奈川」があるほか、駅西口側にもスーパーやショッピングモールが点在。また、東神奈川駅からJR京浜東北線で1駅先は横浜駅なので、休日にふらりと家族で横浜に遊びに行きやすい環境だ。

東神奈川駅の中古マンション価格相場は4980万円、横浜駅は5950万円となっており、1駅違うだけで約1000万円も価格相場に開きがあった。

横浜みなとみらい(写真/PIXTA)

横浜みなとみらい(写真/PIXTA)

ちなみに今回調査の起点駅とした品川駅から徒歩15分以内にある、ファミリー向け中古マンションの価格相場は8280万円。それに比べると、1位・保土ヶ谷駅の相場は5290万円も安いという驚きの結果となった。12位の立会川駅でさえ、品川駅と比べると3000万円以上も相場が安い。「品川駅から電車で30分以内の場所」を近いと見るか遠いと見るかは人それぞれだが、30分の時間差で3000万円以上も価格が異なるならば、住まいの候補地として一考する余地はあるだろう。

また、3回にわけて広さ別に価格相場を見てきたが、カップル編とファミリー編のランキングが似通っていた一方で、シングル編とファミリー編ではランクインした顔ぶれはだいぶ異なっていた。シングル向けの物件が安いエリアだからといって、ファミリー向けの広さの物件も安いとは限らない点も頭に入れておくとよさそうだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積70平米以上100平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年4⽉1⽇~2018年6⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

「人間は自然の一部」。八ヶ岳で体験型教育を推進する古川和女史のデュアルライフ あの人のお宅拝見[11]

私が知り合ったころの古川和(カズ)さんは、主婦から起業して体験型科学教育『リアルサイエンス』を、科学者の秋山仁氏らと子ども向けに行っていました。最近は「大人向けに、企業のチームビルディングなんかもやってるのよ!」と、相変わらずアクティブな姉御の行動力に驚くばかり。東京とのデュアルライフを楽しむ、八ヶ岳麓のお宅へ伺って話を聞くことにしました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「アメリカで衝動買いした家具を置くために建てたような家」!?

和(カズ)さんの本宅は東京で、八ヶ岳の麓・大泉町に別荘を建てられたのは約20年前。子ども2人の子育て時代から山登りが好きで、野外活動教育の仲間もいるこの辺りが気に入っていたそうです。
今回も東京で午前中の仕事を終えてから車を走らせ、15時過ぎにこの取材。日常的に行ったり来たりとデュアルライフ(二地域居住)を楽しむアクティブな61歳は、私の憧れです。

クリームイエローに赤のトリムが映える大屋根の外観。取材日は曇りで冴えなかったので、青空の写真を送ってもらいました!(写真撮影/古川和さん)

クリームイエローに赤のトリムが映える大屋根の外観。取材日は曇りで冴えなかったので、青空の写真を送ってもらいました!(写真撮影/古川和さん)

八ヶ岳の家はフィンランドメーカー『ホンカ・ジャパン』のログハウス。山小屋のような丸太組みのログと違って、角型ログで、モダンな雰囲気。断熱性は北欧仕様なので秋冬は冷え込む八ヶ岳でも問題なし。

大きな家の小さな玄関、個性的なデザインは童話の世界のよう(写真撮影/片山貴博)

大きな家の小さな玄関、個性的なデザインは童話の世界のよう(写真撮影/片山貴博)

玄関を入った先に広がる、吹抜けの大空間リビングでお話を伺うことにしました。

ログの構造壁にタイルの床、赤い薪ストーブのある吹抜けのリビング(写真撮影/片山貴博)

ログの構造壁にタイルの床、赤い薪ストーブのある吹抜けのリビング(写真撮影/片山貴博)

私の隣にはアインシュタインの人形が鎮座。アメリカの友人からプレゼントされたそう(写真撮影/片山貴博)

私の隣にはアインシュタインの人形が鎮座。アメリカの友人からプレゼントされたそう(写真撮影/片山貴博)

「やっぱりログだから、内装の木肌が柔らかいし香りも良いのよね。20年たったけど」

お子様も独立され、ますます活動的な和さん。私はテニスでもご一緒し、パワフルなプレーに圧倒されています!(写真撮影/片山貴博)

お子様も独立され、ますます活動的な和さん。私はテニスでもご一緒し、パワフルなプレーに圧倒されています!(写真撮影/片山貴博)

20年前と言えば2人のお子様もまだ10代のころ、40歳そこそこで別荘を持つ余裕に驚き……。
「そういうことでも無いのよ!子どもにも良い場所とは思っていたけれど。実はアメリカの友達が家を売るときに、家具を処分するって言うから『私が買う!』って言っちゃって(笑)。しばらく、置く場所もなくアメリカの倉庫で保管してて、やっとここに置ける家が建てられたの」

イエローがアクセントカラー。壁には絵画より、窓の景色

旦那さまの赴任地だった米国バークレーの友人から買った、お気に入りの家具が10点以上。
「特にこのイタリア製テーブルのデザインが斬新で気に入ったの。このイエローが、インテリアのテーマカラーになりました」

イタリアンモダンのテーブルに合わせたイエローの椅子、右奥にはイエローの冷蔵庫をあえてキッチンの外、斜めに置いてフォーカルポイントに(写真撮影/片山貴博)

イタリアンモダンのテーブルに合わせたイエローの椅子、右奥にはイエローの冷蔵庫をあえてキッチンの外、斜めに置いてフォーカルポイントに(写真撮影/片山貴博)

ほかには、アメリカンBIGサイズのベッドが2階の寝室にありました。窓もベッドに合わせたデザインです。

私もここに泊めていただきましたが、おばさんでもお姫様気分(写真撮影/片山貴博)

私もここに泊めていただきましたが、おばさんでもお姫様気分(写真撮影/片山貴博)

「絵画も好きだけど、この家は壁に絵を掛けていないの。窓にカーテンをせず、窓枠を額縁にした外の景色が絵の代わり」
朝から夜、春夏秋冬。刻々と変化する景色を眺め、過ごす豊かさがここにはあるようです。

和さんが撮った、窓からの富士山や紅葉。一時として同じ景色は無い、自然の醍醐味(だいごみ)(写真撮影/古川和さん)

和さんが撮った、窓からの富士山や紅葉。一時として同じ景色は無い、自然の醍醐味(だいごみ)(写真撮影/古川和さん)

八ヶ岳界隈に住まう、クラフト&アクティブな人々も魅力

子育て主婦だった和さんは、35歳のときにNPO法人『Teaching Kids to Love the Earth』を立ち上げ、体験型学習を実践してこられました。
「アメリカ在住のころはヨセミテへキャンプに行ったり、東京では多摩川で網を投げて魚を獲ったり。子どもと遊ぶのも本格的、自然の中で育つと人への優しさが備わるものよ」
人間も自然の一部だと理解できるようになると、子どもも大人も物の見方が変わるということです。

赤い薪ストーブがリビングのアイコン。床暖房もあるが、薪を焚くと朝までホンワカと暖かい(写真撮影/片山貴博)

赤い薪ストーブがリビングのアイコン。床暖房もあるが、薪を焚くと朝までホンワカと暖かい(写真撮影/片山貴博)

「八ヶ岳界隈はすてきなお店や、面白い人が多くてね。とてもすてきなご夫婦が営まれているインテリアのお店があるの!」と、和さんお気に入りの北欧ヴィンテージ家具ショップが『SKOGEN』。
そのワークショップに参加してつくったペーパーコード編みの椅子が、暖炉の前に2脚(旦那さまと1脚ずつ作製)。

「薪をくべるときに座るとちょうどいい高さなの」。トレーを置くと、サイドテーブルとしても使える優れもの!(写真撮影/片山貴博)

「薪をくべるときに座るとちょうどいい高さなの」。トレーを置くと、サイドテーブルとしても使える優れもの!(写真撮影/片山貴博)

インテリアや手づくりが大好きな和さん。この家を建てるときも、自分で建材・設備を選びにショールームへかなり足を運んだそう。

2階のトイレには、和さんが探して来たパステル色のタイルが貼られていた(写真撮影/片山貴博)

2階のトイレには、和さんが探して来たパステル色のタイルが貼られていた(写真撮影/片山貴博)

「ほかにも東京から移住されたご夫婦で、きれいな畑をやっているお友達がいてね。今日も来る前に寄ったら、いろいろと採れたての野菜を下さったの」

早速、頂いた野菜をダイニングテーブルで並べ始め……(写真撮影/片山貴博)

早速、頂いた野菜をダイニングテーブルで並べ始め……(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳らしいグリーン・アレンジメント完成! 器は人気のプリンセス社(オランダ)ホットプレート(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳らしいグリーン・アレンジメント完成! 器は人気のプリンセス社(オランダ)ホットプレート(写真撮影/片山貴博)

ダイニングルームには、大人数が座れる大きなテーブル。「ここで企業研修をすることもあるの。自炊もチームビルディングの一環」

10人くらいはゆったり座れるテーブル。ここからも、外の緑が目に入る開放的なダイニング(写真撮影/片山貴博)

10人くらいはゆったり座れるテーブル。ここからも、外の緑が目に入る開放的なダイニング(写真撮影/片山貴博)

そしてダイニングの奥には、コンサバトリー(サンルーム)もあります。

「ここは朝、気持ちいいのよー」。朝日が入る、東側にあるコンサバトリー(写真撮影/片山貴博)

「ここは朝、気持ちいいのよー」。朝日が入る、東側にあるコンサバトリー(写真撮影/片山貴博)

食器も好きな和さんコレクションで、朝食風にセットしてもらった(写真撮影/片山貴博)

食器も好きな和さんコレクションで、朝食風にセットしてもらった(写真撮影/片山貴博)

和さん自身がそうであるように、八ヶ岳界隈にはアクティブに何かをするために住まう人が多いよう。そんな活力のあるコミュニティーが、この避暑地ならではだなぁ……と感じました。

老若男女、グローバルな出会いの場になればという想い

海外の子どもたちが環境体験学習を行うのに、ここを拠点にすることもあるようで、こんな色紙を発見。

このお宅のデッキにあふれる子どもたち。つづられた感謝の言葉が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

このお宅のデッキにあふれる子どもたち。つづられた感謝の言葉が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

色紙の写真は、このデッキ。ハンモックも気持ち良さそう(写真撮影/片山貴博)

色紙の写真は、このデッキ。ハンモックも気持ち良さそう(写真撮影/片山貴博)

「外国人をお招きすることもあるので、一応和室もね」、2階の和室には野点(のだて)の茶道具も収められています。

琉球畳に和紙のランプでモダンな和室。洋風窓も意外と調和(写真撮影/片山貴博)

琉球畳に和紙のランプでモダンな和室。洋風窓も意外と調和(写真撮影/片山貴博)

今回敷地内に、以前来たときには無かった物体や小屋が増築されていました(!?)。

高さ3mの壁、これを道具無しにチームで協力して全員登り切るという課題用

高さ3mの壁、これを道具無しにチームで協力して全員登り切るという課題用

シーソー、複数人が乗ってバランスを取るもの(写真撮影/片山貴博)

シーソー、複数人が乗ってバランスを取るもの(写真撮影/片山貴博)

「これも体験学習のひとつ。大人も子どもも自然のなかで身も心も鎧を脱ぎ捨てて、ひとりではできないことを助け合いながら達成する。人それぞれ得意不得意があって当然、お互いの理解が深まっていくのがチームビルディング」
子どもたちも、そんな体験から“多様性”を肌で実感することになるのだそう。

「今日は曇っていて残念ね」と空を眺めながら、「今度はここでテニス合宿するから、いらっしゃいよ!」と誘ってくれた(写真撮影/片山貴博)

「今日は曇っていて残念ね」と空を眺めながら、「今度はここでテニス合宿するから、いらっしゃいよ!」と誘ってくれた(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳のお住まいも拡張するなか、「今度は東京の家を建て替える計画をしたいの! いつか娘が子育てするのなら二世帯住宅にしたいと思って。子どもも大人も一緒に勉強できるような書斎をつくりたい、天井まで書棚があってハシゴに登って本を取るような……」と、目を輝かせる和さん。その夢は、いくつになっても尽きることが無さそうです。

古川 和
八ヶ岳エナジェティック倶楽部代表
1957年大阪府生まれ。東京都在住、結婚・子育てを経て1992年子どもの環境教育、科学教育の会Teaching Kids to Love the Earthを起業。2000年一橋大学大学院國際企業戦略研究科(非常勤講師)。後に、アクションラーニング研究所を立ち上げ、企業のチームビルディング研修を実施。カリフォルニア大学バークレー校の体験型の科学教育の手法を日本に普及し、NPO法人体験型科学教育研修所を立ち上げ2016年まで活動。2017年より株式会社EHRのエグゼクティブコンサルタント。(文部科学省政策評価有識者会議メンバー、東京学芸大学監事(非常勤)など)。
趣味はテニス、俳句、茶道、美術鑑賞と幅広く、多彩な人脈を持つ。座右の銘:格物致知
株式会社EHR
北欧家具「SKOGEN」

【カップル編】品川駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

JRの新しい駅「品川新駅(仮)」建設をはじめ、再開発が進められている品川駅周辺は、今後の発展が待ち遠しいエリア。前回は、そんな品川駅まで30分以内にある、シングル向け中古マンションの価格相場ランキングを紹介した。続いて今回は、同条件で専有面積40平米以上~70平米未満のカップル向け中古マンションの価格相場が安い駅のトップ10をピックアップ。注目が高まっている品川駅まで行きやすく、お手ごろに住める街はいったいどこ!?●品川駅まで30分以内の中古マンション価格相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線名/駅の所在地/品川駅までの所要時間)
1位 保土ヶ谷 2635万円(JR横須賀線ほか/神奈川県横浜市/25分)
2位 市川 2999万円(JR総武線ほか/千葉県市川市/28分)
3位 新小岩 3280万円(JR総武線ほか/東京都葛飾区/22分)
4位 東戸塚 3285万円(JR横須賀線ほか/神奈川県横浜市/30分)
5位 上中里 3489.5万円(JR京浜東北線/東京都北区/28分)
6位 川崎 3580万円(JR京浜東北線ほか/神奈川県川崎市/9分)
7位 蒲田 3585万円(J京浜東北線ほか/東京都大田区/10分)
8位 立会川 3594万円(京急本線/東京都品川区/5分)
9位 京急川崎 3605万円(京急本線ほか/神奈川県川崎市/11分)
10位 田端 3624万円(JR京浜東北線ほか/東京都北区/25分)

品川駅から約25分離れると価格相場が2900万円以上ダウン!

今回の調査の起点駅とした品川駅から徒歩15分以内にある、カップル向け中古マンションの価格相場は5625万円。そこから電車で30分以内まで調査範囲を広げると、価格相場はグッとリーズナブルになることがランキングから見て取れる。

ランキング1位は中古マンション価格相場が品川駅の半額以下である2635万円と判明した保土ヶ谷(ほどがや)駅。JR横須賀線で品川駅まで5駅・約25分という近さに加え、JR湘南新宿ラインに乗れば渋谷駅や新宿駅にも乗り換えなしで行くことができる。また、1駅お隣は横浜駅という点も魅力だろう。ちなみに今回調査での横浜駅の価格相場は3688万円で、1駅違うだけで1000万円以上も相場に開きがあることも驚きだ。

保土ヶ谷駅には「ビーンズ保土ヶ谷」と「シァル保土ヶ谷」が併設され、スーパーやドラッグストア、飲食店などが営業中。仕事帰りにサッと日用品の買い物や食事ができるので忙しい共働きカップルにもうれしい。

2位はトップ10で唯一、千葉県に位置するJR総武線・市川駅。価格相場はぎりぎり2000万円台に収まった。駅南側は再開発により10年ほど前に誕生した「I-linkタウンいちかわ」がある。商業施設や行政施設、分譲マンション、UR賃貸住宅などからなる2棟の高層ビルがそびえ、45階の展望スペースからは都心部まで一望! 駅に直結したショッピングセンターもあるほか、駅北側にはスーパーも。また、駅北口から500mほど北へ歩くと、京成本線・市川真間駅があるのも便利な点だ。

市川駅とI-linkタウンいちかわ(写真/PIXTA)

市川駅とI-linkタウンいちかわ(写真/PIXTA)

「穴場の街」として注目される、都内の駅もランクイン

品川駅までの所要時間が最短だったのは、品川駅から京急本線で5駅という8位・立会川駅。京急本線のエアポート急行なら品川駅から2駅・約5分という近さでありながら、価格相場は品川駅よりも約2000万円も安い。駅周辺にはかつて土佐藩・山内家の下屋敷があり、若いころの坂本龍馬の着任地であることが近年、判明した。そのため駅前には龍馬像があるほか、駅前商店街は龍馬ゆかりののぼり旗や商品を用意して街を盛り上げている。

10位にはトップ10で唯一、JR山手線が通る田端駅がランクイン。下町風情が残る街にはわざわざ遊びに来るような目立った繁華街はないが、駅前に商店街が延びているほか、駅ビル「アトレヴィ田端」があったり駅周辺にスーパーが点在していたりと日々の買い物には困らない。リクルート住まいカンパニーが調査した「住みたい街ランキング2018 関東版」の「穴場だと思う街ランキング」では9位に選ばれており、狙い目の街と言える。

田端駅(写真/PIXTA)

田端駅(写真/PIXTA)

さて、前回のシングル編ではランキング上位が都内の駅で埋め尽くされた一方、今回のカップル編では東京、千葉、神奈川の駅が多くランクイン。都内にこだわらなければ価格相場が品川駅の半額以下だったり、品川駅に近い都内であっても穴場の街があったりと、今回のランキングはなかなかに発見が多い結果となった。

次回は品川編の最終回、専有面積70平米以上・100平米未満のファミリー向け中古マンションの価格相場ランキングを紹介したい。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積40平米以上70平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年4⽉1⽇~2018年6⽉30⽇
【価格相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

東京五輪の選手村が巨大タウン「HARUMI FLAG」に【速報】

「東京 2020 オリンピック・パラリンピック」の後、東京・晴海に建設中の選手村がマンションや商業施設などで構成される巨大な街「HARUMI FLAG」になる。2018年10月31日(水)、「晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業」発表会にて開発コンセプト・ビジョン・名称が明らかになった。
5632戸を分譲住宅・賃貸住宅に

アツいドラマが繰り広げられる裏で、主役たる選手たちのオアシスとなる選手村。そんな舞台が、なんと開催後にマンションとして住めるようになる! しかも技術の粋を尽くした巨大な街になるという。その名も「HARUMI FLAG」。

約13ヘクタールの広大な土地に5つの街区で構成され、5632戸の分譲住宅・賃貸住宅と商業施設の合計で24棟が建築されるほか、保育施設、介護住宅などを整備。人口約12000人になる予定とのこと。その内容は?

「HARUMI FLAG」4つのテーマ

この新しい街が掲げるテーマは以下の4つ。

●ゆとりと変化を街に生み出す

5街区・6街区・7街区・小中学校に囲まれたCENTER CORE 完成予想 CG

5街区・6街区・7街区・小中学校に囲まれたCENTER CORE 完成予想 CG


駐車場は地下に設け、地上スペースを有効に活用。6街区:FLAG CORE 前の辻広場完成予想 CG

駐車場は地下に設け、地上スペースを有効に活用。6街区:FLAG CORE 前の辻広場完成予想 CG

広大な敷地には、直径約100mのCENTER CORE(中心広場)をはじめ、辻広場、中庭などのオープンスペースがそこかしこに。住居は2階以上に設け、各棟の1階は店舗や共用室にすることで、住人同士の交流が生まれるように工夫してある。

●本物の自然に包まれて暮らす

緑道公園と4街区の海からの風景完成予想CG

緑道公園と4街区の海からの風景完成予想CG


5街区:DOTS PLAZA 完成予想 CG

5街区:DOTS PLAZA 完成予想 CG

三方を海に囲まれたロケーションを活かし、開放的な海の眺めなどを満喫できる設計になっている。レインボーブリッジや東京タワーなどの東京ならではの景観を生活空間で楽しめるなんてぜいたく! 街中には約3900本、約100種の樹木が植えられ、四季の移ろいも感じられる。

●日本らしさが息づく

まちづくりには、日本の建築シーンをリードする気鋭のデザイナー25人が参加。統一感を大切にしつつも、それぞれの個性を活かしたデザインを実現した。

街路からエントランスに至るまで光の使い方を細かく設定したり、スカイラインに建築物の左右対称性をあえて崩す日本の伝統的手法「ダイナミックシンメトリー」を採用するなど、街の景観にもこだわる。

また「細部への気遣いとおもてなし」もポイントのひとつ。マンションでは、共用廊下を1.5m(通常のマンションでは1.2m)と広くし、車いすと人がすれ違えるゆとりをもたせている。17人乗りの大型エレベーターやバリアフリー法で定められた基準よりもゆるやかな 1/20(5%)以下の勾配スロープを設けるなど、街全体が誰もが快適に暮らせる空間となる。

●ご近所でつながる、分け合う

6街区:SORA TERRACE完成予想CG

6街区:SORA TERRACE完成予想CG


05街区:SPORTS BAR 完成予想 CG

5街区:SPORTS BAR 完成予想 CG


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6街区:KODOMO PLAZA 完成予想 CG


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7街区:商業施設完成予想 CG

タワー棟を除く分譲住宅では、2LDK~4LDKの1009通りの間取りを用意。分譲街区にはブックラウンジ、スポーツバー、キッズルーム、「CRAFT ROOM」など51の共用室が設置され、区の住民であれば街区を超えて利用可能。カーシェアリング、シェアサイクルなどシェアサービスも利用できるので、あわせて利用するのも楽しそう。

賃貸街区にも、シェアハウスやシニア住宅、介護住宅が設置される。スーパーマーケットや生活支援施設などの商業施設などのほか、小中学校、保育施設も設置される予定。

また、街のイベントや災害時のお知らせなどの街の情報が掲載される「タウンポータル」、地域のエネルギー状況を共有・管理する「エネルギーマネジメント」、街全体を監視する「セキュリティ」など、街全体をネットワークで繋いだサービスも提供される。

模型。次世代のエネルギーを供給する「水素ステーション」が設置されるなど、環境にも配慮した街になる

模型。次世代のエネルギーを供給する「水素ステーション」が設置されるなど、環境にも配慮した街になる

都心直結の新交通システム「BRT」を導入

「HARUMI FLAG」は、銀座へ約2.5km、東京へ約3.3kmと都心部へも好アクセスなだけでなく、豊洲まで約2.1km、国際展示場まで1.4km、台場まで約2.8kmと、湾岸エリアにも行きやすい場所に誕生する。交通には新たにBRT(バス高速輸送システム)が導入され、「HARUMI FLAG」と新橋駅・虎ノ門を結ぶ。新橋駅発5時台~24時台の運行が検討されており、朝のピーク時には1時間あたり12本の便が走るとのこと。朝のピーク時でも都心へのスムーズな移動が可能になる予定だそう。

選手村に住める、というだけでもワクワクするのに、さらにこんな未来な暮らしが待っているなんて……。価格はまだ発表されていないが、今から待ちきれない!

発表会時の様子

発表会時の様子

●今後のスケジュール
2019年 春 モデルルーム事前案内会開始
5月下旬 販売開始予定
2022年 秋 住宅棟(板状)竣工予定
2024年 3月 住宅棟(タワー)竣工予定

あなたの都道府県のマンション、平均年収の何倍で買える ?

東京カンテイの調査結果によると、2017年のマンションの年収倍率(全国平均)は、新築マンションで7.81倍、中古マンションで5.30倍になり、いずれも前年度より拡大したという。とはいえ、エリアによって年収倍率は異なる。あなたが今住んでいる、住みたいと思っている都道府県のマンションは、その地域の平均年収の何倍で買えるのだろう?【今週の住活トピック】
「新築・中古マンション価格の年収倍率 2018【改訂版】」公表/東京カンテイ年収倍率の全国平均は、新築で7.47→7.81倍、中古で5.16→5.30倍

東京カンテイが都道府県別に算出したマンション価格の平均年収倍率は、“マンションの買いやすさ”を検証するためのもの。都道府県ごとに「2017年に分譲された新築マンションの平均価格(70平米換算)」と「2017年における築10年の中古マンションの平均価格(70平米換算)」が、平均年収※の何倍に相当するかを割り出している。
※内閣府発表の「県民経済計算」を基に都道府県ごとの平均年収を予測した数値

まず全国平均では、新築マンションの年収倍率は7.81倍となり、前年から0.34拡大した。

次に都道府県別に見てみると、最も倍率が高いのは東京都の13.26倍、最も低いのは山口県の5.87倍だった。年収倍率が9倍を超えているのは、首都圏の4県と近畿圏の京都府、大阪府、兵庫県と宮城県の8都府県。特に、東日本大震災からの復興が進む宮城県は前回調査の8.07から9.03倍と大きく上昇した。

また、石川県は4.85→8.37倍、長野県も6.15→8.69倍と大幅に上昇したが、これらの大幅な変動は、それぞれ金沢と軽井沢で高額物件が供給されたという特殊事情が原因のようだ。

●新築マンション
全国 7.81倍
首都圏 11.01倍(埼玉県10.13倍、千葉県9.02倍、東京都13.26倍、神奈川県11.16倍)
中部圏 7.96倍(岐阜県7.06倍、静岡県8.45倍、愛知県8.26倍、三重県8.02倍)
近畿圏 8.26倍(滋賀県7.89倍、京都府9.06倍、大阪府9.07倍、兵庫県9.67倍、奈良県7.26倍、和歌山県6.48倍)
2017年のマンション価格(70平米換算)の年収倍率(出典:東京カンテイ「新築・中古マンション価格の年収倍率 2018【改訂版】」より抜粋)

一方、築10年の中古マンションの年収倍率は、全国平均で5.30倍。前年より0.24拡大したが、新築の年収倍率との差は2.51と広がり、割安感が続く結果となった。最も倍率が高いのは東京都の10.46倍、最も低いのは山口県の3.76倍だった。

中古マンションの年収倍率で7倍を超えたのは、東京都に続き、沖縄県(8.09倍)、神奈川県(7.32倍)の3都県。観光地として人気が高い京都府が新築・中古ともに年収倍率を下げたのに対して、沖縄県は新築・中古とも上昇が続き、新築で8.60倍、中古で8.09倍と買いやすさにあまり差がないことが注目点だ。

●築10年中古マンション
全国 5.30倍
首都圏 7.42倍(埼玉県5.90倍、千葉県5.43倍、東京都10.46倍、神奈川県7.32倍)
中部圏 4.73倍(岐阜県4.46倍、静岡県5.05倍、愛知県4.95倍、三重県4.43倍)
近畿圏 5.59倍(滋賀県4.86倍、京都府6.57倍、大阪府6.78倍、兵庫県6.03倍、奈良県4.23倍、和歌山県4.98倍)
2017年のマンション価格(70平米換算)の年収倍率(出典:東京カンテイ「新築・中古マンション価格の年収倍率 2018【改訂版】」より抜粋)

年収倍率は高くても、返済額の家計に占める負担は少ないのが現実?

「住宅を購入する年収倍率は5倍までなら無理がない」と一般的に言われている。中古マンションでも全国平均で5倍を超えるという結果を見ると、マンション購入が難しい状況にあるのではないか、と思ってしまう人もいるだろう。

この結果はあくまで、平均値を基にして算出したものである。
参考までに、住宅金融支援機構の「2017年度フラット35利用者調査」の年収倍率を見てみよう。
【フラット35】を利用して住宅を取得した人に限定されるが、次のような結果が出ている。

新築マンション(全国平均):年収倍率6.9倍、毎月の予定返済額11万8800円、総返済負担率21.3%
中古マンション(全国平均):年収倍率5.6倍、毎月の予定返済額8万1900円、総返済負担率18.7%
※年収倍率は、各利用者の所要資金を世帯年収で除したものの総和をサンプル数で除したもの

こちらの年収倍率も上昇傾向にあるのだが、数値の違いは東京カンテイの算定した世帯年収(448万円)より実際に【フラット35】を利用した購入者の世帯年収(新築マンション775.7万円・中古マンション595.6万円)の方が高い、という影響があるだろう。

また、総返済負担率(住宅ローンの年間返済額を年収で割ったもの)は安全圏とされる25%を下回っている。首都圏で見ても、新築マンションで22.6%、中古マンションで19.8%に収まっているのは、今の超低金利が効果を発揮したということだ。

年収倍率5倍という目安は現実的には難しいかもしれないが、低金利の恩恵もあって、それぞれの世帯で年収に見合う無理のないマンションを購入した結果と見てよいだろう。

さて、“買いやすさ”の指標である年収倍率は上昇傾向が続くが、中心部など利便性の高い立地や富裕層向けの高額な新築マンションの供給量などによって、年収倍率は変わってくる。近畿圏の京都府や首都圏の神奈川県など年収倍率の拡大に歯止めがかかった府県も見られるので、エリアごとの事情をよく見ていく必要があるだろう。

いずれにせよ、自分が買いたいエリアで世帯年収に見合う、長期的に無理なくローンを返済できるマンションを探すというのが、物件選びの基本だ。

●参考
住宅金融支援機構「2017年度フラット35利用者調査」

危険な埋め立て地、どう見分ける? 北海道地震でも液状化被害

北海道地震で液状化被害が集中したのが、かつて谷だった場所を埋め立てた造成地でした。本来は住宅地に適さないとされていますが、なぜ危険なのでしょうか。うっかりその上に住んでしまわないためにはどうやって見分けたらよいのでしょうか。
さくら事務所会長の長嶋修氏に解説いただきました。
本来適さない土地にも、住宅が建設されている現実

9月6日の大地震「平成30年北海道胆振東部地震」では、建物の被害は1万件以上。うち住宅については全壊382件、半壊959件、一部損壊7404件(2018年10月4日現在)に及びました。

札幌市で特に被害が大きかった清田区里塚地区。札幌市南東部の丘陵地帯にあるこの住宅街では、道路の陥没やマンホールが突き出る、建物が大きく傾くなどの甚大な被害を引き起こしました。

12日に国土交通省が公表した「札幌市清田区の地形復元図」(地形分類図)によれば、被害が大きかった地区は「氾濫平野・谷底平野」とされています。この地形は一般に低地にあり、水分を多分に含んで液状化しやすく、地盤も弱くて建物が傾きやすい、いわゆる「谷埋め立て地」とされる土地です。

今回被害が大きかった地区には元々、川が流れていましたが、フタをかけられて外からは見えない水路となっていました。被害はこの川と谷筋沿いに起きたのです。一般に、建物を建てる際には地盤調査を行い、必要に応じた地盤改良を行うこととなっていますが、これは2000年6月の建築基準法改正によって事実上義務付けられたもので、それ以前の住宅では地盤調査も改良も行われていないケースも多いのです。

なぜこうした「宅地に適さない」ところに住宅が建つのか。それは「行政がそれを認めているから」というほかはありませんが、今回被害にあった地区に限らず、現実には、地盤の強さ・弱さには関係なく、市街地が形成され建物が建っているものです。

例えば関東の地勢はざっくりいって皇居の西側が強く、東側が弱い傾向にあり、この状況は栃木県あたりまで続きます。これははるか遠い昔の地形が影響しており、古くは海だったところです。

では、皇居の西側なら安心かというとそういうわけではありません。例えば筆者が創業したさくら事務所は渋谷区桜丘町にあり、周辺の地形分類は「山地」「台地・段丘」と非常に盤石で、土地も高く浸水や液状化の可能性も低いのですが、ほんの少し歩くと「氾濫平野」が広がっています。このように地形というものは、個別によく調べないと分からないものなのです。

地形を調べ、家を建てる前には必ず地盤調査を

これから家を買う方、すでに買っている方はまず、国土地理院の「土地条件図」にアクセスして、地形を調べてみましょう。 住所を入力し「情報」-「ベクトルタイル提供実験」-「地形分類」(自然地形・人口地形)で見ることができます。

建物が傾くことや液状化被害などが心配なら「台地」など相対的に土地が高い位置にあり、浸水や液状化の懸念がなく、地盤の固いところを選ぶべきでしょう。地盤の固いところでも、地面をかさ上げする「盛土」をしていればその限りではありませんのでご注意ください。

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かといって、地理的に相対的に低い位置にある土地や、液状化のリスクがあるところに住むなということではありません。そういった場所に住む場合は、浸水や液状化の懸念があることを把握しておくこと、必要に応じて地盤改良をしっかり行うことなどの対策を施すことが欠かせないといえるでしょう。

地盤が弱く揺れやすい地形の場合、地盤の固いところに建つ建物より揺れやすくなることも知っておき、必要に応じて耐震性を高めましょう。また仮に液状化した場合、建物は無事でも、上下水道など地下に敷設されているインフラは毀損する可能性があります。それも踏まえて、万が一災害に見舞われた場合は、地下のインフラのチェックも怠らないようにしてください。

一つご注意いただきたいのは、この「土地条件図」はメッシュが粗く、あくまで大雑把に地形をとらえるものだということ。現実には、同じ敷地内でも地盤の固さが異なるといったことはよくあることです。そのため、家を建てたりする際には、必ず地盤調査を行い、必要に応じた地盤改良をしっかり行いましょう。

液状化被害は居住地の自治体に連絡を

では、もしすでに住んでいる家や土地が液状化被害にあってしまったらどうしたらよいのでしょうか。

例えば東京都には、「液状化対策アドバイザー制度」があり連絡先が公開されています。地震保険に入っていれば液状化の被害に対して保険金が下りますが、これは被害の程度によって保証額に差があります。札幌市も今回の地震を受け、液状化に限らず、建物損壊などの被害について臨時の相談窓口を設けています。

保険金の算定にあたっては「全損・大半損・小半損・一部損」といった判定が、社団法人日本損害保険協会の認定試験に合格した専門家によって行われます。「全損」と判定されれば地震保険金額の満額(時価を限度)が支払われ、「大半損」認定なら地震保険金額の60%(時価の60%が限度)、「小半損」なら40%(時価の40%が限度)、「一部損」の場合は地震保険金額の5%(時価の5%が限度)が支払われます。どの程度の保障があり得るのか、実際に被害にあった後に慌てないためにも、あらかじめ確認しておきましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

ドラマ『義母と娘のブルース』ロケ地・大岡山レポート! 「ベーカリー麦田」誕生秘話も

人気ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS・火曜放送中)、略して“ぎぼむす”。綾瀬はるか演じるヒロインの岩木亜希子がキャリアウーマンから、小学3年生の義母に“就職”。家事や育児に奮闘するホームドラマだ。第二章では「ベーカリー麦田」(店長/佐藤健)の再建をかけて奮闘中。そのロケ地が東京都目黒区と大田区にまたがる街「大岡山」だ。そこで、ロケハンスタッフや商店街理事長に大岡山の魅力について聞いた。
ロケ地候補は100以上! 原作のイメージにぴったりの建物を大岡山で発見

2018年9月11日(火)に9話が放送になる『義母と娘のブルース』。主人公・亜希子(綾瀬はるか)は、夫・宮本良一(竹野内豊)が亡くなってから10年、高校3年生になった義理の娘・みゆき (上白石萌歌)と二人暮らしをしている。亜希子はみゆき最優先の生活を送るためキャリアウーマン時代の貯金を元手にデイトレードで家計を支えるも、みゆきの目には楽な仕事に映っていた。それではいけないと、働く親の姿を娘に見せるべく一念発起し、倒産寸前のパン屋「ベーカリー麦田」に就職。ビジネス手腕を発揮して、経営の立て直しをはかるために奔走する。

この「ベーカリー麦田」の撮影現場となっているのが、大岡山北口商店街。実在する建物の1階空き店舗にセットが組まれている。なぜこの場所がロケ地に選ばれたのだろう? 制作スタッフの清藤唯靖さんに裏話を教えてもらった。

まるで本物のパン屋さんのような「ベーカリー麦田」はすべてセット。撮影時には人だかりができるそうで、観光地化しているそう(写真提供/TBS)

まるで本物のパン屋さんのような「ベーカリー麦田」はすべてセット。撮影時には人だかりができるそうで、観光地化しているそう(写真提供/TBS)

大岡山北口商店街での撮影シーン(写真提供/TBS)

大岡山北口商店街での撮影シーン(写真提供/TBS)

「原作のイメージに合う街を見つけるため、1カ月半くらいロケ地を探しました。なかでも、大井町線沿線はマンションもあって都会的な雰囲気がありながら、下町の風情も持ち合わせていることから有力候補に。大岡山になった決め手は、『ベーカリー麦田』のイメージに合う建物が見つかったことです。『ベーカリー麦田』はドラマ後半のメイン舞台になるので、監督もかなりこだわっていました。かわいいとかスタイリッシュではなく、味がある建物がいいとオーダーされていて、100棟ほど提案したところ、正面の間口の雰囲気がいいと即決でした」(清藤さん)

「ベーカリー麦田」の厨房。佐藤健演じる、元ヤンキーの麦田章店長の“ダメっぷり”をただすべくヒロイン・亜希子が叱咤激励する場面でもおなじみ(写真提供/TBS)

「ベーカリー麦田」の厨房。佐藤健演じる、元ヤンキーの麦田章店長の“ダメっぷり”をただすべくヒロイン・亜希子が叱咤激励する場面でもおなじみ(写真提供/TBS)

本格的なパン焼き機もセットに完備。こうした機材も物語に臨場感をもたらす重要なアイテム(写真提供/TBS)

本格的なパン焼き機もセットに完備。こうした機材も物語に臨場感をもたらす重要なアイテム(写真提供/TBS)

街ぐるみの撮影とあって、ロケを通して人とのつながりがある暮らしの良さを実感したという清藤さん。いまでは大岡山北口商店街にぞっこんな模様。

「大岡山、とくに北口商店街に1日いると、住んでいる人の魅力がひしひしと伝わります。皆さん協力的で撮影を温かく見守ってくださるので、とてもありがたいです。昔ながらのお総菜屋さんやお茶屋さん、お弁当屋さんなど魅力的な個人商店が多くて、ほっとします。人情に厚いのは大岡山に根付く文化なのかもしれませんね。居心地が良過ぎて仕事終わりには、スタッフと商店街にある大衆酒場『やかん』に入り浸っています(笑)。このお店の気さくな雰囲気が大好きなんです。やはり便利さだけではなく、人とのつながりがある街はすてきですよね」(清藤さん)

8話を撮影中の風景。下町の風情がありながら、都心にも近いとあって大岡山のとりこになるスタッフも続出しているとか(写真提供/TBS)

8話を撮影中の風景。下町の風情がありながら、都心にも近いとあって大岡山のとりこになるスタッフも続出しているとか(写真提供/TBS)

廃校寸前の小学校を人気校へ! 大岡山は地域愛にあふれる人が集まっている

大岡山北口商店街振興組合の相川英昭理事長は、生まれてから69年間、大岡山で育ち暮らす一人。畳店を営みながら、ボランティアで商店街の活性化に尽力してきた人物である。商店街の特長について、次のようなポイントを挙げてくれた。

大岡山北口商店街振興組合の相川英昭理事長。懐が深く、とても気さくな人柄でドラマスタッフからの信頼も厚い

大岡山北口商店街振興組合の相川英昭理事長。懐が深く、とても気さくな人柄でドラマスタッフからの信頼も厚い

「まずは、地域密着型であることですね。商店街を訪れてくれるお客様に還元できるイベントもたくさんやっていて、お客様に感謝の念を伝えることは惜しみません。交通安全や防災訓練も商店街主導で積極的に実施しているので、地域とのつながりが自然と深くなります。また、近隣の人が買い物に来るので、お店の主人たちもほとんどのお客さんの顔を覚えているんです。些細なことかもしれませんが、心ある人の存在が暮らしの安心にもなると思います」(相川理事長)

170ある商店は、生鮮食品から肉屋さん、魚屋さんまでバラエティ豊富。「商店街の店主たちは、品ぞろえには並々ならぬこだわりをもっていますよ」と自信をのぞかせる相川理事長。

商店街の“ご意見番”、下山和子(麻生祐未)が営む不動産屋さん。こちらも大岡山北口商店街にあるセット(写真提供/TBS)

商店街の“ご意見番”、下山和子(麻生祐未)が営む不動産屋さん。こちらも大岡山北口商店街にあるセット(写真提供/TBS)

また、大岡山という街は、地域で子どもを見守り育てようという風土が定着しているという。

「大岡山駅のすぐそばに、私の母校でもある大田区立清水窪小学校があるんですが、少し前までは生徒が集まらず廃校寸前だったんです。そこで、同じく大岡山にキャンパスがある東京工業大学の教授にわれわれ地域に住む卒業生からも相談を持ち掛けたところ、実践的な科学教育で独自性を出すのはどうかという話になり、大学と行政が協力して『おおたサイエンススクール』を設置する運びとなりました。その授業内容が良いと評判になり、いまでは入学希望者が増加してクラスが足りないほどです。地域に暮らす人、特に子どものためになることなら、街ぐるみで取り組もうという姿勢は長年受け継がれている風土ですね」(相川理事長)

ちなみに、制作スタッフの清藤さんは相川理事長から「きよちゃん」と呼ばれ、かわいがられていた。こうした大らかな人情が、きっとドラマのハートフルな雰囲気に好影響をもたらしているのかも。これからクライマックスに向けて、ますます目が離せない“ぎぼむす”。物語もさることながら、ぜひ街の風情にも目を向けてみると楽しみも一層広がりそうだ。

●取材協力
TBS系 火曜ドラマ『義母と娘のブルース』(毎週火曜 夜10時放送中)

山手線29駅の家賃相場が安い駅ランキング! 2018年版

東京の交通の大動脈といえば、山手線。突出した利便性ゆえに、沿線は高いイメージも強く、検討する前に家探しの選択肢から外してしまう人も少なくはないだろう。しかし、人気の山手線といえど、穴場の地域はあるはず。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象とした、山手線の全29駅家賃相場の調査結果を分析。狙いどころの駅や、それぞれの特徴を紹介する。山手線29駅の家賃相場が安い駅ランキング! 2018年版
順位/駅名/家賃相場/(駅所在地)
1位 田端8.10万円(北区)
2位 西日暮里8.30万円(荒川区)
3位 目白8.31万円(豊島区)
4位 大塚8.40万円(豊島区)
5位 駒込8.50万円(豊島区)
5位 高田馬場8.50万円(新宿区)
7位 日暮里8.60万円(荒川区)
7位 池袋8.60万円(豊島区)
9位 巣鴨9.00万円(豊島区)
9位 鶯谷9.00万円(台東区)
11位 大崎9.20万円(品川区)
12位 新大久保9.70万円(新宿区)
13位 上野9.76万円(台東区)
14位 五反田9.80万円(品川区)
15位 品川10.20万円(港区)
16位 目黒10.45万円(品川区)
17位 御徒町10.60万円(台東区)
18位 秋葉原10.75万円(千代田区)
19位 神田10.80万円(千代田区)
20位 代々木11.00万円(渋谷区)
21位 東京11.10万円(千代田区)
22位 浜松町11.20万円(港区)
23位 新宿11.40万円(新宿区)
23位 田町11.40万円(港区)
25位 渋谷11.50万円(渋谷区)
26位 恵比寿12.00万円(渋谷区)
27位 新橋12.40万円(港区)
28位 原宿12.80万円(渋谷区)
29位 有楽町12.85万円(千代田区)

都心を走る山手線。下町情緒もあふれる田端が1位に

安い駅ランキングのトップは北区の田端。都心を回遊する山手線のなかでは珍しく住宅地が目立ち、下町情緒が残る地域だ。駅周辺に大きな繁華街はなく、単身者が夜遅くまで出歩く楽しみは少ないかもしれない。しかし、ノスタルジックな雰囲気のあふれる商店街「田端銀座商店街」があり、ゆったり生活できる街といえそうだ。

田端駅は山手線だけでなく、同じく都心の大動脈である京浜東北線も利用できる。京浜東北線は昼間は快速運転になるが、その快速の停車駅であるため、横浜方面へのアクセスは抜群だ。また、隣駅で2位の西日暮里とは約700m、その向こうで7位の日暮里駅までも約1.3kmと駅間距離が狭く、両駅とも徒歩圏内。西日暮里は日暮里・舎人ライナーと東京メトロ千代田線、日暮里駅は同じく日暮里・舎人ライナーと京成電鉄、常磐線が利用できるため、交通アクセスの良さは大きな利点だろう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

その西日暮里駅と日暮里駅の駅間距離は約500m。山手線のなかで最も短く、乗車時間は約1分で、歩いたほうが早いともいわれるほどだ。日暮里駅は、昔ながらのレトロな雰囲気で人気の谷根千地区こと谷中・根津・千駄木周辺地区の最寄駅。人情あふれる地域での生活は、それだけで魅力だろう。

東京らしい下町風情が満喫できる一方で、谷根千はクリエーターショップが集中する、オシャレな観光地としても愛されている。日暮里駅には、そうしたクリエーターにとって欠かせない卸問屋である日暮里繊維問屋街も近い。プロや業者だけでなく一般人でも購入可能なうえ、洋服や下着なども格安で購入できる店もあり、趣味と生活の両立を満喫できる街といえるだろう。

とにかく繁華街に住みたいなら、狙い目は池袋!

渋谷・新宿・池袋など、山手線沿いの大きな繁華街のなかで、いちばんお手ごろ価格なのは7位の池袋だ。ともに11万円を超える渋谷、新宿に比べ、池袋は8万円台。交通アクセスや商業施設はいずれも同等の充実ぶりなので、とにかく繁華街の近くで生活したい! というならまず検討するべきは池袋、といえそうだ。

同じような規模の繁華街でありながら、渋谷や新宿に比べると池袋は、少し華やかさが控え目、というイメージがあるかもしれない。しかし、大規模な繁華街を抱える駅であれば必然的に住宅地域まで距離が必要となるが、池袋は地域によっては徒歩5分ほどに閑静な住宅地が広がっており、昔ながらの商店も営業している。そのためか池袋は、山手線全駅のなかで今回対象となった物件数が突出して多く、渋谷や新宿の約2倍。住みたい部屋のタイプをいろいろ検討できる選択肢の多さは見過ごせない。

池袋(写真/PIXTA)

池袋(写真/PIXTA)

また池袋は、区をあげてアニメなどクールジャパンカルチャーを推進している印象も大きいが、もうひとつ、劇場の街という側面がある。日本でトップクラスのクオリティーの作品が上演される劇場のひとつである駅西口の東京芸術劇場だけでなく、老舗のサンシャイン劇場、中規模作品が上演されるあうるすぽっと、これから話題になるかもしれない劇団の作品が上演されるシアターグリーンなど、規模を問わず多種多様な作品が楽しめるのも見逃せない。

2018年の「住みたい街ランキング」(SUUMO調べ)の関東編では、2位に山手線の恵比寿がランクインしている。オシャレさや飲食店の充実ぶりがその理由。夜遅くまで人通りが絶えないため、帰宅が深夜になったとしても、比較的安心して過ごせるのも、人気のひとつかもしれない。同じ渋谷区内に位置している代々木、渋谷の3駅のなかでは、いちばん物件数が多い。

オシャレな印象が先行しているため、日常の買い物をイメージするのが少し難しいが、駅近くには朝8時から営業しているスーパーもある。しかし、周囲のすてきな飲食店の引力が強すぎて、自炊する気力を保つ難しさが、いちばんの強敵かもしれない。

人気のある路線は、駅それぞれの魅力も大きい。よく知っているつもりの山手線でも、改めて探してみたら新しい魅力が見つかるもの。自分が住むつもりで眺めてみれば、いつもの車窓からの眺めもまた違って映るかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】山手線沿線すべての駅(掲載物件が11件以上ある駅からランキングを作成)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018/4/1~2018/6/31
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出

ファミリー世帯の多い街で、安心して子育て。都内ベイエリアの新築マンション【理想をかなえたマイホーム実例#04】

マイホーム購入を通じて、理想をかなえた方々のお宅に伺い、レポートする連載企画。
今回は「東京ならではの生活を楽しみつつ、安心して子どもを育てたい」と考え、江東区で新築マンションを購入したOさんのご自宅にお邪魔します!【連載】理想をかなえた!マイホーム実例
「いつかは家を買って、○○したい」――そう考えて、住宅購入に夢をふくらませている方も多いのではないでしょうか。実際に「こんな暮らしがしたかった」という理想の暮らしを実現したご家庭にお邪魔し、マイホームを購入するまで、してからのお話をあれこれ伺います。家族の幸せな笑顔が生活空間を彩る、かわいいディスプレイスペース

江東区、東京ベイエリアの新築マンションが立ち並ぶ一角。インターフォンでオートロックを解除してもらい、エレベーターで2階に上がった一番奥の角住戸が、今回のOさんファミリーの住まいです。夫婦と9歳の女の子、3歳の男の子の4人で住んでいます。

「かわいい~!」
玄関を開けると真っ先に目に入る靴箱の上のディスプレイスペースに、私たち取材陣がそろって声を上げました。たくさんの家族写真が飾られ、すてきにディスプレイされた玄関は、Oさんファミリーの幸せで充実した毎日を感じさせます。

ガーランドなどお星さまのモチーフで統一され、たくさんの家族写真が置かれた玄関のディスプレイスペース(写真撮影/片山貴博)

ガーランドなどお星さまのモチーフで統一され、たくさんの家族写真が置かれた玄関のディスプレイスペース(写真撮影/片山貴博)

玄関を上がってすぐ左手にあるのが、小学3年生になる長女の部屋。白とピンクを基調としたカラーリングが女の子の部屋らしい雰囲気です。大好きな小物たちがたくさんディスプレイされ、上手に描けた絵や家族の写真がたくさん飾られた空間は、さながらお姉ちゃんの宝箱のよう。いきいきと学校生活を楽しむ子どもの毎日の時間と、健やかな成長を願うOさん夫婦の気持ちが詰まっているのでしょう。

長女の子ども部屋には色とりどりの小物たちや絵、写真が飾られているが、白とピンクを基調としたカラーリングですてきな統一感がある(写真撮影/片山貴博)

長女の子ども部屋には色とりどりの小物たちや絵、写真が飾られているが、白とピンクを基調としたカラーリングですてきな統一感がある(写真撮影/片山貴博)

廊下を進むと、壁にもたくさんの写真と2人の子どもたちが着色したTシャツが飾られていました。シックなグレーの壁に写真や手描きの明るい色彩がよく映えています。

たくさんの写真が飾られたキャンパス地のアートボードと、子どもたちが絵を描いたTシャツが飾られている廊下の壁は、まるでギャラリーの一角のよう(写真撮影/片山貴博)

たくさんの写真が飾られたキャンパス地のアートボードと、子どもたちが絵を描いたTシャツが飾られている廊下の壁は、まるでギャラリーの一角のよう(写真撮影/片山貴博)

階の高さよりも広さを重視、内装をカスタマイズしてシックな空間に

――日々の生活の楽しさが、訪れるゲストにも存分に伝わるお住まいですね。いつごろからこちらに住んでらっしゃるんですか?

「2014年ごろに購入してマンション完成後の2015年に引越したので、住んで3年ほどです。以前は江戸川区にある賃貸マンションに住んでいたのですが、50平米の2LDKで、手狭に感じて引越しを考えていたときに2人目を妊娠しました。夫婦でこれはもう買うタイミングだろう、と話しまして」(Oさん、以下同)

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――新築マンションに絞って検討されたんですか?

「はい。特に夫は自分たちが初めての住人になる新築がいい、という考えなので、中古マンションは選択肢にありませんでした。このマンションは内覧して2つ目の物件だったのですが、モデルルームを見た瞬間、ここがいい、と。価格帯が低い2階という低層階にするかわりに、壁などはちょっとお金をかけて好きな仕様にしました。たとえば先ほどの廊下の壁や、畳を黒系の色みにカスタマイズしてシックな印象にしています」

ダイニングの壁もグレーに変更した。モノトーンを基調としたシンプルでシックな空間に、木目が映えるインテリア。スツールや家電類も白で統一されているので空間全体がスッキリと見える(写真撮影/片山貴博)

ダイニングの壁もグレーに変更した。モノトーンを基調としたシンプルでシックな空間に、木目が映えるインテリア。スツールや家電類も白で統一されているので空間全体がスッキリと見える(写真撮影/片山貴博)

――キッチンカウンターのステッカーなど、インテリアにもご夫婦のこだわりを感じます。

「ステッカーは夫が貼ったんですよ。あ、リビングの飾り棚のディスプレイも夫作です」

「夫がつくったんです」というリビングの飾り棚。ボードには「LIVE SIMPLY,LAUGH OFTEN,LOVE DEEPLY(シンプルに暮らし、よく笑い、深く愛そう)」の文字が(写真撮影/片山貴博)

「夫がつくったんです」というリビングの飾り棚。ボードには「LIVE SIMPLY,LAUGH OFTEN,LOVE DEEPLY(シンプルに暮らし、よく笑い、深く愛そう)」の文字が(写真撮影/片山貴博)

――お仕事が住まい選びにも影響した点などもありますか?

「夫は外資系のメーカーで働いていて車通勤なので、エリアの選択という点で、アクセスのいいところ、高速道路にも乗りやすく、東京都内でも道路が混雑しやすい西側は避けて……と考えました。江東区のなかでもやや南に位置するこのエリアは、そういった点を満たしていました」

――子育て環境についてはいかがですか?

「江東区は子育て支援制度も充実しているし、23区内なのに緑も水もあって自然豊か、子どもたちがのびのびと遊べる広い公園もたくさんあって気に入りました。同じベイエリアでも芝浦や豊洲などに比べると、都心から少し離れるこのエリアは物件の価格帯も割安ですしね(笑)」

――ベイエリアは車があれば、特に便利ですもんね。

「はい、友達や親戚が遊びに来たときにもお台場や葛西臨海公園、東京ディズニーランド、千葉方面など、いろいろなところに連れて行くことができます。でも、車がなく電車移動の場合でも、昼間は割と席が空いていて楽なんですよ」

お出かけや買い物は車移動が多い。夫の営業車は近くの契約駐車場に、マイカーはマンション内の駐車場に置いてあるので、妻と子どもたちもいつでも車で出かけられる(写真撮影/片山貴博)

お出かけや買い物は車移動が多い。夫の営業車は近くの契約駐車場に、マイカーはマンション内の駐車場に置いてあるので、妻と子どもたちもいつでも車で出かけられる(写真撮影/片山貴博)

――たしかに! 今日の取材に伺うときにも、電車で座って来ることができました!

「でしょう? 私はミーハーなので、東京の生活を満喫したいんですが、交通網の混雑や人混みは苦手なので、割とゆったり暮らせて『東京だけど、東京っぽくない』このエリアが本当に気に入っています。夫は東京都内に実家があるのですが、彼も都内でこんなに安くていいところはない、とよく言っています(笑)」

同世代のファミリーとのつながり、助け合いが子育ての味方

――「子育て」という側面において、ほかにも感じてらっしゃる利点はありますか?

「同世代の子育てファミリーが多いところです。新築マンションが同時期に建ったこともあって、うちと同じような子育て世帯がたくさん住んでいます。娘の小学校の同級生もすぐ近くのマンションに住んでいて、ママ同士で連絡を取り合って『集合!』をかければすぐに集まって遊べます。また、何かトラブルがあって帰りが遅くなるときなどは、ママ友たちに子どもを預かってもらったり、お互いに助け合えている状態がとても心強いんです」

取材当日もOさんがLINEで一声かけると、近くに住む長女のお友達やママ友がすぐに集まってくれた。すぐ近くの運河に沿う遊歩道も子どもたちの遊び場(写真撮影/片山貴博)

取材当日もOさんがLINEで一声かけると、近くに住む長女のお友達やママ友がすぐに集まってくれた。すぐ近くの運河に沿う遊歩道も子どもたちの遊び場(写真撮影/片山貴博)

――引越していらしたのが3年前ということなので、もともと幼稚園からのお友達、というわけではないんですよね?

「はい、知り合いが全くいないところに引越してきたので、正直、最初はかなり不安でした。ところが、引越してみると周りも同じように引越してきたファミリーばかり。小学校もこぢんまりしていて一学年が40人強、学年みんなの顔が分かって、子どもたちが表に出ていると誰かが見てくれている環境です。
近くの古い団地に住むおじいちゃんおばあちゃんもよく声をかけてくれ、こんなに助けてもらえる人がいるとは思いませんでした。震災の経験など、助け合えるコミュニティが必要だと思っていたときにこの環境に出合えて、本当によかったと思っています」

普段は利便性を享受しながら安心して生活ができること、そして休日に少し足を延ばせば首都圏ならではのレジャーを満喫できること。子どもの成長を見守りながら夫婦も存分に楽しむ、Oさんファミリーの温かく充実した生活をのぞかせてもらいました!
江東区というエリア、新築マンションで低層階を選び、広さをとって自分仕様のカスタマイズをする、という質実な選択をして実現した豊かな暮らし、ぜひ住まい選びの参考にしてください。

【ファミリー編】渋谷駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

前回に続いて、渋谷駅まで30分以内にある中古マンションの物件相場をランキング。今回は専有面積70平米以上~100平米未満に絞った、ファミリー向けの中古マンションの物件相場が安い駅にフォーカスする。ちなみに渋谷駅の同条件における物件相場は9315万円と、人気の街だけあってやはり都内でも高め! ランクインした駅と渋谷駅の物件相場の差にも注目しつつ、トップ10を見ていきたい。●渋谷駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10(11駅)
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/渋谷駅までの所要時間)
1 久地 3260万円(JR南武線/神奈川県川崎市/29分)
2 京王多摩川 3594.5万円(京王相模原線/東京都調布市/29分)
3 戸田公園 3680万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/26分)
4 上板橋 3780万円(東武東上線/東京都板橋区/28分)
5 地下鉄赤塚 3880万円(東京メトロ有楽町線・副都心線/東京都練馬区/29分)
6 町屋 3980万円(東京メトロ千代田線/東京都荒川区/30分)
6 鷺沼 3980万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市/28分)
8 向ヶ丘遊園 3990万円(小田急線/神奈川県川崎市/24分)
9 大倉山 4180万円(東急東横線/神奈川県横浜市/29分)
9 平間 4180万円(JR南武線/神奈川県川崎市/26分)
9 津田山 4180万円(JR南武線/神奈川県川崎市/27分)

「カップル編」「ファミリー編」共通で1位だった久地駅は要チェック

最も物件相場が安かったのは、JR南武線・久地駅。前回の「カップル編」ランキングでも久地駅が1位だった。ファミリー向け物件の価格相場は3260万円。なんと渋谷駅と比べて6055万円もダウンという驚きの結果! 久地駅~渋谷駅は所要時間が約29分だが、これほど価格差があれば渋谷駅にアクセスしやすい住まい候補地として検討に値するだろう。

2位以下も1位ほどではないにしろ、渋谷駅に比べるとリーズナブルな物件相場の駅が並んでいる。2位の京王相模原線・京王多摩川駅は、物件相場が渋谷駅よりも5700万円以上ダウン。駅の南には多摩川が流れるのどかな環境で、周辺には大型商業施設はないものの、商業ビルが立ち並ぶ調布駅まで1駅で行ける。また、京王線の区間急行や特急を乗り継ぐと新宿駅まで約22分で行けるのも魅力だ。

3位はJR埼京線・戸田公園駅で、物件相場は渋谷駅より6535万円ダウン。スーパーやドラッグストア、雑貨店、飲食店などが入った商業ビル「ビーンズ戸田公園」が駅に直結しており、日々の買物に困らない。駅南側には荒川が流れ、河川敷を舞台にした夏の花火大会の際には多数の人が押し寄せる。探してみると花火ビューの中古マンションも見つかるかもしれない。

戸田公園(写真/PIXTA)

戸田公園(写真/PIXTA)

トップ10のなかでも注目は南武線

トップ3だけ見ても神奈川、東京、埼玉と駅のエリアはバラバラで路線もさまざま。4位以下も多彩な路線が入り乱れてランクインしている。唯一、複数駅がランクインしたのはJR南武線で、1位・久地駅と9位の平間駅と津田山駅が該当。9位の平間駅と津田山駅は物件相場が同額の4180万円で、渋谷駅との価格差は5135万円だった。

久地駅の1駅隣に位置する津田山駅は、駅のすぐそばに小学校がある珍しい環境。近くには泥遊びができるアスレチック広場や屋内運動場を備えた「川崎市子ども夢パーク」があり、周辺には住宅地が広がっている。子育て世代に住みやすい環境と言えそうだ。津田山駅から6駅先が平間駅という位置関係。平間駅は渋谷駅へ向かう東急東横線との乗換駅、武蔵小杉駅から2駅目。駅周辺には大型ドラッグストアやスーパーがあるほか、駅前の通り沿いにベーカリーや生花店、クリーニング店などが並ぶ商店街もある。

トップ10中で最も渋谷駅からの所要時間が短かったのは、8位の小田急線・向ヶ丘遊園駅。同駅は前回の「カップル編」では10位にランクインしていた。駅周辺は住宅地で、スーパーや100円ショップなど暮らしに必要な施設もそろっている。また、駅南側には自然豊かな生田緑地が広がり、「川崎市岡本太郎美術館」をはじめ緑に包まれて科学館や工芸館といった文化施設が点在。休日のリフレッシュ場所にもこと欠かない環境だ。

向ヶ丘遊園駅前通り(写真/PIXTA)

向ヶ丘遊園駅前通り(写真/PIXTA)

前回「カップル編」と今回の「ファミリー編」を見比べると、共通してトップ10入りしたのは1位・久地駅、4位・上板橋駅、8位・向ヶ丘遊園駅のみで、11駅中8駅が違う駅という結果だった。中古マンションの広さによって、どのエリアの物件相場が安いのかが変わってくるので、住まい探しのときは注意が必要そうだ。

また、渋谷駅は複数路線が乗り入れるターミナル駅だが、トップ10中だと渋谷駅も通る路線はJR埼京線(3位・戸田公園駅)、東急田園都市線(6位・鷺沼駅)、東急東横線(9位・大倉山駅)のみという点にも注目したい。「渋谷駅から30分以内」というアクセスのよさを求めると、乗り換えなしの路線に絞って探したくなる。しかし、今回の結果を見ると、たとえ乗り換えがあっても所要時間が短く、物件相場がお得なエリアはこんなにあるということが判明した。視野を広げて住まい探しをしたほうが、いい物件が見つかるかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている渋谷駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積70平米以上100平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない。乗換ありの場合は乗換時間を含む)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

「小学生で身につける片づけ力」「中古マンションの見分け方」「BEAMS流インテリア」【7月人気記事まとめ】

7月から記録的な猛暑が続いているうえに、台風も到来。気が抜けないシーズンです。さてSUUMOジャーナルで7月に公開した記事では、「2018年の路線価発表」や「良い中古マンションの見分け方」「家探しあるある」など、お金や家探しのコツやエピソードなどについての記事が人気でした。TOP10の記事を詳しくご紹介します。
7月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

第1位:【速報】2018年の路線価が発表。全国平均で3年連続上昇。その要因は?
第2位:「東京駅」まで30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版
第3位:【2018年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング! 最安は5万円台
第4位:夏休みがチャンス! 「小学生のうちに“片づけ力”を身につける」ススメ
第5位:BEAMS流インテリア[2] 世界各国のアンティーク家具・民芸品がつくりだす極上おもてなし空間
第6位:「良い中古マンションの見分け方を教えてください」 住まいのホンネQ&A(7)
第7位:家探しあるあるに笑って感動。漫画『わが家は今日も建築中!』がおもしろい
第8位:BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで
第9位:YKK吉田前会長、71歳男のロマン! 地方創生、パッシブタウンからヤギ牧場まで あの人のお宅拝見[9]
第10位:上野や浅草が徒歩圏内! 地元カフェオーナーと台東区「入谷」の魅力を探索してみた
※対象記事:2018年7月1日~2018年7月31日までに公開された記事
※集計期間:2018年7月1日~2018年7月31日のPV数の多い順

「路線価発表」「家賃相場が安い駅ランキング」など、お金関連の記事が人気

第1位:【速報】2018年の路線価が発表。全国平均で3年連続上昇。その要因は?

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

2017年の路線価が国税庁から発表されました。地価は上がったのでしょうか、それとも下がったのでしょうか。32年連続日本一の東京のあの場所は記録更新となったのか、上昇率の全国トップは……? 今年の注目ポイントをプロが解説します。

第2位:「東京駅」まで30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

上位の半数が千葉県の駅に。特急や快速が運行するJR総武線やJR京葉線の影響が大きいようです。その他、ディープな魅力にあふれた下町、深夜まで営業しているスーパーなど施設が充実した駅、小児科が複数ある駅など、さまざまな駅がランクインしています。詳細は記事をご覧ください!

第3位:【2018年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング! 最安は5万円台

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

家賃が高いことで知られている東京23区ですが、探せば穴場や掘り出し物の地域はあります! ランキング内の約半数を占めたのは足立区の駅。実は足立区は、北千住駅が「SUUMO住みたい街ランキング2018」の穴場だと思う街で1位に選ばれるなど、家賃相場だけではない魅力も。お得に暮らせる駅はどこか? ぜひチェックしてみましょう!

第4位:夏休みがチャンス! 「小学生のうちに“片づけ力”を身につける」ススメ

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

うちの子は何度言っても片づけができない……とお嘆きのみなさん。もしかしたら子どもは片づけができないのではなく、片づけ方が分からないのかもしれません。片づけができないと、時間やお金を無駄にしてしまうこともあります。そうならないためには子どものうちに「片づけ力」を身につけることが大切。夏休みの自由研究のテーマとして「片づけ」を学ぶ方法をご紹介します。

第5位:BEAMS流インテリア[2] 世界各国のアンティーク家具・民芸品がつくりだす極上おもてなし空間

(写真撮影/飯田照明)

(写真撮影/飯田照明)

センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)スタッフのご自宅に訪問する連載です。第2回は、「気に入ったものに巡り合うまではたとえ不自由でも間に合わせは買わない」と断言するスタイリングディレクターが住む、メゾネットタイプのリノベーションマンション。異なるインテリアテイストを組み合わせる秘訣、DIYで収納力アップする工夫など、居心地のいい住まいのコツを探ってみました。

「中古マンションの見分け方」「家探しあるある」など、家探しについての記事がランクイン

第6位:「良い中古マンションの見分け方を教えてください」 住まいのホンネQ&A(7)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

新築マンションの価格高騰によって、注目を集めている中古マンション。中古マンションを見学する際のチェックすべき場所、気を付けるポイントなどをご紹介。自分でチェックすることが難しい場合はホームインスペクターに依頼することも考えましょう。少しでも条件のよい中古マンションを手に入れるための参考にしてみてください。

第7位:家探しあるあるに笑って感動。漫画『わが家は今日も建築中!』がおもしろい

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

家を買いたいという気持ちは一致しているのに、実際にマイホーム探しをはじめると夫婦ゲンカばかり……。そんなエピソードに共感する人も多いのでは? そんなマイホーム探しのあるあるネタ満載の漫画の作者である尚桜子さんにインタビューしてみました。

第8位:BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで

(写真撮影/飯田照明)

(写真撮影/飯田照明)

BEAMS(ビームス)スタッフのご自宅に訪問する連載第3回は、ファッション好きで、ご夫婦ともにスーパーバイザーのお二人が住む古都・鎌倉のモダンな注文住宅。ご夫婦の新居は、こだわりを予算内で実現するための工夫、見せる収納の秘訣などが盛りだくさんの、まだまだ進化を続ける住まいでした。

第9位:YKK吉田前会長、71歳男のロマン! 地方創生、パッシブタウンからヤギ牧場まで あの人のお宅拝見[9]

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

YKKの吉田前会長は現在富山県黒部市にある「パッシブタウン(PASSIVETOWN)」に住みながら、エネルギー消費の少ない街・住まいを実現する実証実験を研究中です。もともとは社員寮や社宅として計画が始まりましたが、今は一般の方も入居する人気の賃貸住宅となっています。エネルギー消費を抑える住まい方に挑戦しようと思ったきっかけ、会長職の引退後にヤギ牧場でのチーズづくりという事業を起業したわけなどをインタビューしました。生き生きと輝いている吉田さん、次の事業も考えているそうで……!

第10位:上野や浅草が徒歩圏内! 地元カフェオーナーと台東区「入谷」の魅力を探索してみた

(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

観光客でにぎわう浅草や上野に隣接するエリアでありながら、ややマイナーな印象の入谷とは、どんな街なのでしょうか? 地元在住のカフェオーナーの案内で浅草方面、上野方面に歩いてみると、古民家カフェや寺社など、さまざまな魅力的スポットが! 歩けば歩くほど新しい発見のある入谷、ぜひ足を運んでみては。

7月は好評の連載「BEAMS流インテリア」が2本ランクインしたほか、路線価のポイント解説記事や、東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅ランキング、東京23区の家賃相場が安い駅ランキングなど、お金に関する記事が3本ランクインしました。引越しを考える際の参考にしてみてはいかがでしょうか。

湘南生まれ、サーフィン育ち! 人気タウン藤沢市辻堂を地元サーファーに案内してもらった

サーフィンをはじめとするマリンスポーツが盛んな湘南。なかでも、神奈川県藤沢市は人気があり、サーファーの移住者も少なくないらしい。今年の4月には、人口が43万人を突破したそうだ。そんな藤沢ではいったいどんな暮らしがかなうのだろうか? 今回は、藤沢のなかでも駅前の再開発で注目を集める「辻堂周辺」を、実際にそこに暮らす地元の方に案内してもらった。
サーファーに大人気のビーチタウン中野拓さん。後ろに見えるのは「江の島」(写真撮影/小野洋平)

中野拓さん。後ろに見えるのは「江の島」(写真撮影/小野洋平)

今回、街のガイド役をお願いしたのは、藤沢で生まれ育ち、現在はフリーのWebデザイナーをしている中野・拓(なかの・たく)さん。「太陽がファンデーション」と豪語するだけあって、お肌がこんがり焼けている。

中野さん(以下省略)「辻堂の魅力といえば、やはりサーフィンだよ。まずは海に行ってみようか」

というわけで、さっそく中野さんのマイカーに乗り込み、辻堂の街案内がはじまった。言わずもがな、車のBGMはサザンオールスターズである。

「藤沢住民は車を持っている人が多いと思う。移動手段としても楽だし、基本的にアウトドアやスポーツ好きが多いから、車があると道具を運ぶのに便利なんだよね」

国道134号線へ続く昭和通り。道沿いにはサーフショップやカフェなどが立ち並ぶことから「サーファー通り」と呼ばれている(写真撮影/小野洋平)

国道134号線へ続く昭和通り。道沿いにはサーフショップやカフェなどが立ち並ぶことから「サーファー通り」と呼ばれている(写真撮影/小野洋平)

辻堂駅から辻堂海岸までつながるサーファー通りを走ること10分。辻堂海浜公園に到着した。

「サーフィンする人は辻堂海浜公園に車を止める場合が多いかな。というのも、駐車場は800台まで収容可能だし、屋外には無料のシャワーもついているので多くのサーファーが重宝しているんだよ」(日中は有料の温水シャワーも使用可能)

1年を通してサーフィンが盛んな辻堂海岸(写真撮影/小野洋平)

1年を通してサーフィンが盛んな辻堂海岸(写真撮影/小野洋平)

中野さんの言うとおり、平日の午前中にもかかわらず、駐車場にはたくさんの車が止まっており、海では多くのサーファーが波に乗っていた。

「サーフィンはオールシーズン、老若男女が楽しめるところがいいよね。ちなみに湘南には初心者も多いので、気軽に体験するのにいいと思うよ」

そんな中野さん自身はというと、サーファー歴20年のベテラン。現在住んでいる実家は藤沢市内にあるが、より海に近い場所へ引越そうと、1人暮らしも検討しているそうだ。……サーフィンへの情熱がとてつもない。

南国気分が味わえるヤシの木が植えられている(写真撮影/小野洋平)

南国気分が味わえるヤシの木が植えられている(写真撮影/小野洋平)

なお、辻堂海浜公園にはジャンボプールや交通展示館、芝生広場などがあり、多くの子連れファミリーが訪れており、年間を通じてイベントが多数開催されているそうだ。また、辻堂海浜公園以外にも、市街地には多くの公園が点在しているとのこと。

再開発で生まれ変わった辻堂駅北口

続いて案内してくれたのは、JR東海道線と湘南新宿ラインが乗り入れる辻堂駅。海に程近いだけではなく、東京駅や新宿駅にも1時間ほどでダイレクトアクセスでき、東京都心への交通利便性も悪くない。

駅前広場はキレイに整備され、広々としている(写真撮影/小野洋平)

駅前広場はキレイに整備され、広々としている(写真撮影/小野洋平)

2010年には地上6階、地下2階建ての商業施設『Luz』、2011年には湘南最大級のショッピング施設『テラスモール湘南』がオープンするなど、近年辻堂駅では大規模な再開発が行われ、駅周辺は便利かつ近代的な街並みに生まれ変わった。それに伴い、街の人気が上がっているという。

工場跡地を利用した「テラスモール湘南」には約280店舗が入る(写真撮影/小野洋平)

工場跡地を利用した「テラスモール湘南」には約280店舗が入る(写真撮影/小野洋平)

「北口は『シークロス』と呼ばれる再開発計画によって、大きく変わったよ。ショップだけでなく、飲食店やシネコンなどが入っているので、地元民以外にもたくさんの人が辻堂を訪れるようになったと思う」と中野さん。

さらに、駅周辺には湘南藤沢徳洲会病院をはじめ、辻堂市民図書館、子育て支援センター、神台公園など充実した環境。

テラスモールの裏側に立つ湘南藤沢徳洲会病院(写真撮影/小野洋平)

テラスモールの裏側に立つ湘南藤沢徳洲会病院(写真撮影/小野洋平)

「主観だけど、藤沢市で育った人は地元に住み続ける人が多い気がするんだよね。おそらく、市内の施設が充実してきただけじゃなく、行政のサポートもしっかりしてるからだと思うよ」

実際、藤沢市では小学校6年生までの子どもについては、通院・入院の医療費が所得に関係なく無料という制度がある。また、65歳以上の方対象の寝具乾燥消毒サービスや障がい者施設等通所交通費助成などの福祉の補助もある。

再開発により快適な生活環境が整備されつつある辻堂。海に近いだけでなく、住環境としても整っているようだ。

辻堂には珍しい、夜遅くまで楽しめる「湘南T-SITE」

次に中野さんが案内してくれたのは、辻堂駅から少し車を走らせたところにある『Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)』。

Fujisawa SSTは、住宅はもちろんのこと、クリニックや保育所、公園などの施設が充実した新しい街だ。また、電気自動車のシェアリングサービスといった先進的な取り組みを進めているそう。

「『Fujisawa SST』はすごい人気だね。街並みはオシャレだし、住宅街としても機能的だから俺も住んでみたいよ」

2014年にオープンした「湘南T-SITE」(写真撮影/小野洋平)

2014年にオープンした「湘南T-SITE」(写真撮影/小野洋平)

中野さんが特にオススメしてくれたのは、国内2店舗目のT-SITEとなる『湘南T-SITE』。13万冊の書籍をそろえる『湘南 蔦屋書店』があるほか、年間1000回ものイベントを開催しているそうだ。

「『湘南T-SITE』は一番のお気に入りだね。辻堂の店って全体的に閉まるのが早いんだけど、ここは遅くまでやっているから、ついつい目的がなく来てもブラブラしちゃうんだよ」

理由はサーフィンが好きだから! 東京から移住した方にインタビュー

近年では、住宅地の増加や駅周辺のマンション建設によって多くのファミリーが新たに住み始めているという辻堂。それだけでなく、単身の移住者も珍しくないという。

というわけで、昨年、都内から移住したというMさんを紹介してもらい、お話を聞いてみた。

中野さんの友人Mさん(写真撮影/小野洋平)

中野さんの友人Mさん(写真撮影/小野洋平)

――どうして移住されたんですか?

「3年前にサーフィンにハマったからです。それと同時に会社を辞め、フリーランスになりました。通勤する必要がなくなったため、今では波の良い日は朝から海に行けますよ」

サーフボードは7枚所有(写真撮影/小野洋平)

サーフボードは7枚所有(写真撮影/小野洋平)

――どうして辻堂だったんですか?

「海にも都内にも気軽にアクセスできる点で選びました。また、湘南は僕みたいにサーフィン好きが多く移住しているので、サーファーに合った物件や施設が多かったんです。まあ人気エリアな分、思ったより家賃が高かった印象ですけどね(笑)」

ボードを乗せられるビーチクルーザーも所有。それを借りて楽しむ中野さん(写真撮影/小野洋平)

ボードを乗せられるビーチクルーザーも所有。それを借りて楽しむ中野さん(写真撮影/小野洋平)

――移住して良かったと思うところはどこですか?

「やっぱり、家からウエットスーツを着て、海までビーチクルーザーで行けるのは非常に便利です。帰りもぬれたまま帰ってきて、風呂場に直行できますから」

辻堂は、便利さと湘南ならではのスローライフの両方を享受できる場所、とMさん。Mさんのような生活を求めて移住する人は少なくないようだ。

辻堂の家賃相場は?

最後に気になる家賃相場をチェックしてみよう。辻堂駅の一人暮らし向け賃貸物件の家賃相場は6.1万円。辻堂駅の使える路線はJR東海道本線と湘南新宿ラインの2路線だが、快速が止まる隣の藤沢駅に出れば、江ノ島電鉄と小田急江ノ島線が利用できる。

というわけで、街のポイントをまとめると……

・豊かな自然環境があり、公園も数多く点在
・再開発を遂げた駅前の充実ぶり
・街にはファミリー層や単身の移住者が年々増えている印象

なんとなくオシャレなイメージが先行していた湘南エリア。しかしそれだけでなく、便利な生活環境や、計画的な街づくりなど、豊かな毎日が送れそうな魅力あふれるエリアでもあった。自然を身近に感じながら、都市のにぎわいも楽しむ。最先端の湘南が味わえる街こそ、ここ辻堂なのかもしない。

●調査概要
【調査対象駅】辻堂駅
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、面積10平米~40平米、築年数35年以下、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018年4⽉1⽇~2018年6⽉30⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出

【カップル編】渋谷駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

JR各線をはじめ、東京メトロの3路線、東急東横線・田園都市線、京王井の頭線が通る渋谷駅は都内屈指のターミナル駅。駅周辺では再開発が進行中で、今後さらなる発展が見込まれることもあり、住宅の相場は都内でも高めの部類。そんな人気エリア・渋谷駅まで30分以内の中古マンションの価格相場を調査! 駅徒歩15分圏内にある、専有面積40平米以上~70平米未満の物件を対象にした、カップル向け中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介する。ちなみに基点駅とした渋谷の物件相場は5980万円。ここから30分以内に範囲を広げるとどれほど安く住めるのか? さっそく見ていこう。●渋谷駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10(11駅)
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/渋谷駅までの所要時間)
1位 久地 2485万円(JR南武線/神奈川県川崎市/29分)
2位 上板橋 2550万円(東武東上線/東京都板橋区/28分)
3位 成増 2780万円(東武東上線/東京都板橋区/24分)
4位 志村坂上 2830万円(都営三田線/東京都板橋区/29分)
5位 中村橋 2880万円(西武池袋線/東京都練馬区/29分)
5位 和光市 2880万円(東武東上線ほか/埼玉県和光市/27分)
7位 登戸 2890万円(JR南武線ほか/神奈川県川崎市/22分)
8位 板橋本町 2900万円(都営三田線/東京都板橋区/25分)
9位 川口 2955万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/26分)
10位 向ヶ丘遊園 2980万円(小田急線/神奈川県川崎市/24分)
10位 宮崎台 2980万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市/24分)

渋谷駅から約29分離れると3495万円もダウン!

1位は渋谷駅から約29分のJR南武線・久地(くじ)駅で、中古マンション物件相場は2485万円。物件相場が5980万円だった渋谷駅から30分弱離れると、3495万円も安くなるわけだ。久地駅周辺はのどかな住宅地で大型商業施設はないものの、スーパーや商店街はあるので生活には困らない環境。駅前から10分ほど北に歩くと多摩川が流れている。駅前の府中街道を西へ車で約5分走ると「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」や自然豊かな生田緑地があり、休日も楽しく過ごせそうだ。

生田緑地ばら苑(写真/PIXTA)

生田緑地ばら苑(写真/PIXTA)

久地駅からJR南武線で2駅目が7位・登戸(のぼりと)駅。こちらは小田急線も通っており、物件相場は久地駅より約400万円アップの2890万円となっている。小田急線代々木上原駅~登戸駅の複々線化による2018年3月のダイヤ改正で、登戸駅から快速急行に乗ると新宿駅まで3駅・約18分という早さに! この複々線化で通勤・通学ラッシュも和らいだと評判でもあり、登戸駅は狙い目だろう。

また、登戸駅から1駅の小田急線・向ヶ丘遊園駅が10位にランクイン。登戸駅から歩いても10分ほどしか離れていないが、物件相場は登戸駅より90万円アップの2980万円だった。向ヶ丘遊園駅から小田急線・通勤急行を利用すれば新宿駅まで4駅・約20分。向ヶ丘遊園駅も登戸駅も、渋谷駅まで30分以内であることに加え、新宿駅へのアクセスのよさも魅力だ。

新宿や池袋にも行きやすい便利な駅もランクイン

上記で取り上げた1位・久地駅、7位・登戸駅、10位・向ヶ丘遊園駅と、同じく10位の宮崎台駅はいずれも神奈川県川崎市。トップ11駅中の4駅が、渋谷駅の西南部という結果だった。残りの7駅はというと、渋谷駅の北部~北西部に点在していた。そのうち4駅は東京都板橋区に集中している。

東京都板橋区に位置するのは、2~4位と8位の駅。2位・上板橋駅と3位・成増駅は東武東上線で3駅の位置関係、4位・志村坂上駅と8位・板橋本町駅は都営三田線で2駅という位置関係でそれぞれ接近している。東武東上線沿線ならば渋谷に並ぶ繁華街の池袋駅まで1本、都営三田線沿線ならオフィス街である大手町駅まで1本で行けるのが魅力だろう。

東京・丸の内(写真/ PIXTA)

東京・丸の内(写真/ PIXTA)

また、5位・和光市駅は所在地としては埼玉県和光市だが、列車なら東武東上線で成増駅から1駅目というロケーション。東京メトロ有楽町線・副都心線が乗り入れる駅でもあり、副都心線直通の列車に乗ると乗り換えなしで渋谷に行くことができる。

さて、今回トップ10の駅はいずれも物件相場が2000万円台に収まった。つまり渋谷から電車で30分の範囲にまで住まい探しの条件を広げれば、渋谷駅の相場より3000万円以上も手ごろな物件を探すのは難しくないということ。新宿駅や池袋駅など、渋谷駅以外の都心部へのアクセスがいい駅も多く、単に安いだけではなくて住まいの候補地として検討する価値がある駅がランクインしたといえるだろう。

次回は渋谷駅から30分以内にある、専有面積70平米以上~100平米未満に絞った、ファミリー向けの中古マンションの物件相場ランキングを紹介する。どんな駅がランクインするか、お楽しみに。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている渋谷駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積40平米以上70平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない・乗り換え時間を含む)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

危険なブロック塀、自治体によっては撤去・改修に助成も。大阪でも7月から制度が開始

6月18日に発生した大阪府北部を震源とする直下型地震によって、幼い命と引き換えに再びクローズアップされたのが、「ブロック塀」の危険性だ。戦後の建築ラッシュ時に、コストの安い遮へい壁や、防犯も兼ねた民家の外構壁として、ブロック塀は盛んに用いられた。もちろん現在の建築基準法で、ブロック塀の耐震性は確保されてはいるが、劣化や老朽化、違法な構造等により、その危険性が放置されているものも多い。自宅は? 子どもたちの通学路は? 私たちは、危険性をどう判断したらいいのか。その対策は? 行政の取り組みをまとめてみた。
危険なブロック塀は、これだ! 国土交通省が、公開したチェックポイントとは

6月18日朝方、筆者はこの時間もう職場のデスクに着いていた。時計の針が8時を指そうかとしたその瞬間。ドドーンと一発目の縦揺れがきた。続いて2発、3発と次第に大きくなってくる。阪神大震災も経験済みの筆者には時間はそんなに長く感じなかったが、その揺れは明らかにかつての大地震より強く感じた。

今回クローズアップされたブロック塀だが、1981年の施行令改正で規定された現在の建築基準法では、震度6強から7の地震でも倒壊しない強度を、ブロック塀に求めている。1978年6月の宮城県沖地震による犠牲者28人のうち18人がブロック塀や門柱の倒壊で死亡し、これが改正のきっかけとなった。

が、今回の地震で露呈したように、地震による倒壊等の危険が残るブロック塀が放置されているのも現実。
そこで、国土交通省が改めて、既設のブロック塀の危険度判定のポイントを示し、安全点検の必要性を広く告知している。以下のイラストがそれだ。

国土交通省が発表した「ブロック塀の点検とチェックポイント」(国土交通省HPより転載)

国土交通省が発表した「ブロック塀の点検とチェックポイント」(国土交通省HPより転載)

上記イラストによると、チェックポイントは次の6つ。1つでも不適合があれば危険だ。

1.塀は高すぎないか…塀の高さは地盤から2.2m以下か
2.塀の厚さは十分か…塀の厚さは10cm以上か(塀の高さが2m超~2.2m以下の場合は15cm以上)
3.控え塀はあるか(塀の高さが1.2m超の場合)…塀の長さ3.4m以下ごとに、塀の高さの1/5以上突出した控え壁があるか
4.基礎があるか…コンクリートの基礎があるか
5.塀は健全か…傾きやひび割れはないか
6.塀に鉄筋は入っているか

チェックポイント1、2、3、5は私たちでも判断できる。
まず、メジャーをもって高さや幅などの寸法を計ってみる。そして、ひびや割れ、傾きなどをみて、手で押してぐらつきなども確かめてみるといいだろう。

が、チェックポイント4や6の内部の鉄筋の様子や、基礎の有無等、私たちが見ただけでは、判断がつかない部分もある。ちょっとでも心配であれば専門家に相談しよう。身近に業者が見つけられない場合は、市役所等に問い合わせてみるといい。建築関連の部署であれば、まず、業界団体の紹介をしてもらえるはずだ。そこから、具体的に専門業者に当たってみるといいだろう。

自宅のブロック塀を撤去、改修で自治体からの助成制度も

自宅のブロック塀で、不具合が見つかった場合。この危険性を取り除くためには、改修あるいは撤去によって、フェンスや生け垣といった別の物に取り換えるといったことが考えられる。各自治体では、この費用に対する補助金制度を設けて、危険なブロック塀の撤去を進めている。具体的に各自治体の補助制度をいくつか紹介する。

早くから大地震に対する都市防災対策を行っている東京都の文京区と新宿区の制度を紹介する。

文京区では、危険なブロック塀の撤去費用と新しい設置費用の両方を助成する。既存の塀の高さによって、額が違うが1m当たり撤去で5000円から1万円、設置費用として1m当たり1万円から2万5000円を助成する。例えば、塀の高さ2m×長さ10mであれば、撤去費用として10万円、新しく設置する費用として25万円の助成が受けられる。実際にかかる費用のかなりの部分が賄えるといえる。

文京区の助成金例(文京区HPを参考にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

文京区の助成金例(文京区HPを参考にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

新宿区の場合はどうだろう。こちらはブロック塀の除去のみの助成だ。長さ1m当たり1万円となり上限額20万円となっている。ただし、ブロック塀を生垣や植樹帯にする場合は「接道部緑化助成制度」という制度があり、最大30万円までの助成がある。

そのほか、東京都の各区での取り組みは、東京都耐震ポータルサイトがブロック塀の改善に活用できる助成制度一覧をまとめているので自分の住む地域に助成制度があるか確認してみよう。

このなかで、特に留意しておきたいのが、どの区の助成制度を見ても、あくまで家の前の道路や、公園といった公共のスペースに面したブロック塀だけがその対象になるということ。つまり左右の隣地(民有地)や家の裏との間のブロック塀は対象外だということ。

文京区の助成の事例(文京区HPより画面キャプチャ)

文京区の助成の事例(文京区HPより画面キャプチャ)

大阪でも今回の地震を機に助成制度がスタート

次に、今回の地震の震源地となった大阪府の各市の場合はどうだろう。実は、関西ではかつて大きな地震の危険が見込まれていなかった事情もあり、市街地の危険なブロック塀の対策が遅れていた。そして、今回の災害を契機に、一気にその流れができ、ようやく高槻市や大阪市、堺市などでも7月に助成制度がスタートした。

高槻市の例を見てみよう。ここでは、ブロック塀の撤去費用のみの助成になる。補助額は実際にかかった撤去費用の最大20万円まで、指定された通学路に面する塀は30万円まで、とある。特に通学路の安全性に留意した制度だ。

大阪市の場合、補助限度額は、撤去に際しては15万円、軽量フェンス等の新設工事費用として25万円だが、2018年度、2019年度に限り、補助限度額が5万円引き上げられている。所有者に対してより迅速な対応を促す制度となっている。

通学路や自宅以外の危険なブロック塀は、どうすればいい?

ブロック塀の撤去費用の助成制度は、自宅のブロック塀をその所有者が点検し、危険性を取り除くためのものだ。では、自宅以外のブロック塀はどうすればいいのか。国交省の「通学路を含めた点検を」との呼び掛けに、各自治体は、教育委員会も含めて点検に回っている。そして、応急的な対応として、学校施設のブロック塀などには注意を促す張り紙を張って告知している。

学校施設のブロック塀に張られた注意を促す告知(写真撮影/コハマジュンイチ)

学校施設のブロック塀に張られた注意を促す告知(写真撮影/コハマジュンイチ)

豊中市や吹田市では、基準に照らし危険性があると思われるロック塀のある民家には、点検と安全対策を求めるチラシを投函している。つまり個人の所有する家のブロック塀は、「お願い」で終わっているのが現状だ。

小学校を含めた公共施設のブロック塀は、行政の取組みが進むが、個人の所有物である民家のブロック塀からその危険性を除去するために、行政ができることは残念ながら限られているという訳だ。

今回の地震では小学校に設置されたプール横のブロック塀の下敷きになった女児の命が失われた。小学校のプールの横に塀がある理由は、文部科学省の「小学校施設整備指針」に「屋外プールは・・・周囲に、遮へい板、囲障壁等の施設を設けることが重要である」との記述があることに起因する。つまり、小学校のプールは外から見えないよう遮へいし、壁で囲むことが求められているのだ。

コストの面から、多く導入されたであろうブロック塀だが、今は遮へいの機能もあり、軽いアルミなどの材料で代替も可能だと思う。大きな地震の発生が予見されている今の時代に合った、より安全な塀の導入が急務だ。

もうひとつ。個人の財産である塀の危険を取り除くのは「所有者の自覚」しかない。撤去・改修には大きな費用がかかるのも事実だが、所有する壁が老朽化し不具合が認められるままで、通行人等にケガをさせてしまった場合、所有者に重い責任が問われる場合があるということを認識してほしい。

関西でもようやくスタートした、ブロック塀の撤去改修の助成制度。まずこの制度の充実を望みたい。

●各自治体の助成制度
▼大阪府
・高槻市 ブロック塀等の撤去を促進する補助制度について
・大阪市 大阪市ブロック塀等撤去促進事業
・堺市 指定通学路の危険なブロック塀の撤去等に補助します!

▼東京都
・文京区 ブロック塀等改修工事費助成
・新宿区 ブロック塀等の除去に対する助成
・東京都耐震ポータルサイト ブロック塀の改善に活用できる助成制度一覧

YKK吉田前会長、71歳男のロマン! 地方創生、パッシブタウンからヤギ牧場まで あの人のお宅拝見[9]

私が住宅雑誌の編集長時代から、多くの経営者にお話を伺ってきたなかで最も“人”として関心を引かれたのがYKKとYKK AP前会長(現両社取締役)の吉田忠裕さん(「吉」は、正しくは下が長いつちよし)。YKK AP社は窓などの建材メーカーであるが、本体YKK社はファスナーの世界的メーカー。早くからインターナショナルな視点をもち、ファッション業界の荒波にも揉まれた経験が、日本の住宅業界では異質な輝きを放っていた。

6月に会長職を退かれた吉田さん。そのバックグラウンドと最近の暮らしぶりを探るべく、YKK総本山の富山県黒部市に伺った。

連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。グローバル企業のリーダーを引退、富山県黒部での新生活

東京が本社のYKKですが、製造・開発など“技術の総本山”と位置付けられているのが富山県黒部市。創業者・吉田忠雄氏の生まれ故郷・魚津市の隣町というご縁。

東京から北陸新幹線に乗って約2時間半、黒部宇奈月温泉駅に到着。お宅訪問の前に、YKKセンターパークへ伺った。

一般の方も無料で見学できる、YKKのテーマパーク的な施設。右が一号館、左が二号館(写真撮影/片山貴博)

一般の方も無料で見学できる、YKKのテーマパーク的な施設。右が一号館、左が二号館(写真撮影/片山貴博)

富山県や黒部の紹介映像が上映されるシアターは迫力満点(実はテーマソングを歌っている歌手は、吉田さんのご息女!)展示ゾーンでは、ファスナーの仕組みや窓の機能など、子どもでも楽しく学べるようになっています。

NASAの宇宙服にもYKKファスナーが採用されているなんて知りませんでした!(写真撮影/片山貴博)

NASAの宇宙服にもYKKファスナーが採用されているなんて知りませんでした!(写真撮影/片山貴博)

そんな中でも私が一番感動したのは、「創業者 吉田忠雄ホール」。忠雄氏の生い立ちや起業の歴史、その功績を映像や肉声で知ることができます。
『善の巡環』(自社の利益だけを考えることなく、お客様/社会・取引先とともに繁栄してゆく)を唱えた忠雄氏。この時代の創業者の人生に触れると頭が下がり、「私も頑張ろう!」という気持ちにさせてくれます。

自然の力を利用して暮らす『パッシブタウン』、理想の街づくりに挑戦中

さて、その創業者の志を継ぐ吉田忠裕前会長のお宅がある、『パッシブタウン(PASSIVETOWN)』へと向かいます。

2016年に第1期街区(36戸)が竣工し、現在第3期街区まで入居済み。2025年までには約250戸が完成予定のプロジェクト。これを構想し、推進しているのが吉田さんご自身なのです。

日本海沿岸で沖から吹く夏のそよ風『あいの風』や、立山連峰からの豊富な地下水など富山の自然を利用したパッシブエネルギーで、エネルギー消費の少ない街・住まいを実現する実証実験を、吉田さんご自身で住まいながら研究されています。

『あいの風』を取り込む建築レイアウト。雪国なので駐車場は地下に、その分地上は緑が豊か。ランドスケープの設計は宮城俊作氏(写真撮影/片山貴博)

『あいの風』を取り込む建築レイアウト。雪国なので駐車場は地下に、その分地上は緑が豊か。ランドスケープの設計は宮城俊作氏(写真撮影/片山貴博)

東京から黒部への本社機能一部移転に伴い社員寮や社宅の整備も必要であったことから、その跡地で計画が始まったようですが、今は一般の方も入居する人気の賃貸住宅となっています。

第1期街区の設計は、パッシブハウスの研究者・小玉祐一郎氏。木質バイオマスボイラーや太陽熱、地下水による冷暖房システムによって光熱費を抑える計画(写真撮影/片山貴博)

第1期街区の設計は、パッシブハウスの研究者・小玉祐一郎氏。木質バイオマスボイラーや太陽熱、地下水による冷暖房システムによって光熱費を抑える計画(写真撮影/片山貴博)

第3期街区J棟とK棟(設計:森みわ氏)は、既存の社宅をリノベーションしたもの。資材削減のストック活用であり、減築によって屋上庭園を設けるなどの工夫が評価され、日本で初めてLEED※ Homes Awards 2017の最高位を受賞しました。
※LEED(Leadership in Energy & Environmental Design) 米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発・運用する環境配慮建築やエリア開発の認証システム

吉田さんは、第1期ー3期街区すべての住戸を住み渡り、現在は第2期街区にお住まいです。最近は神奈川のご家族との本宅と、こちらを半々程度の生活の様子。単身、どんなお宅になっているのでしょう。

第2期街区は、吉田さんが旧知の槇文彦氏による設計。建築界の大御所が手がけたパッシブ賃貸住宅!(写真撮影/片山貴博)

第2期街区は、吉田さんが旧知の槇文彦氏による設計。建築界の大御所が手がけたパッシブ賃貸住宅!(写真撮影/片山貴博)

1階のインターホンで呼び出すと、吉田さんが降りてきてお出迎えくださいました。

地上4階・地下1階(駐車場)建てマンション(写真撮影/片山貴博)

地上4階・地下1階(駐車場)建てマンション(写真撮影/片山貴博)

ご案内いただいたお住まいは、70平米ほどの1LDK。開口部がふんだんに取られた明るいリビングルームでお話を伺いました。

雪国では珍しい、窓・ドアが天井高まで大きく取られたマンション。YKK APの高断熱樹脂窓が実現する気持ちの良い空間(写真撮影/片山貴博)

雪国では珍しい、窓・ドアが天井高まで大きく取られたマンション。YKK APの高断熱樹脂窓が実現する気持ちの良い空間(写真撮影/片山貴博)

『パッシブタウン』は建築後にエネルギー削減目標が実現できているか、住人の住み心地はどうかなどを第三者の専門家が調査する『パッシブタウン性能評価プロジェクト』を実施しているそうです。取材当日も、評価プロジェクト委員会の専門家たちが東京から訪れて、住人と意見交換をしていたようです。

「私は事業主であり、住人であるという両方の立場ですが、いつも委員会に参加して双方の貴重な意見を伺っています」と、吉田さん。

立山連峰を眺めながら、企業として個人として何ができるか考える

『パッシブタウン』のプロジェクトを構想された経緯をお話してくださいました。

「創業当時からYKKの本社は東京でしたが、工場や研究開発を黒部に集約してきました。海外では本社を中心地に置かず、流通面や住環境の良い街を選んできたので、日本の東京一極集中をいろんな意味から回避したいと考えていました」

国が“地方創生”を唱える前から、黒部への本社機能一部移転や街づくりを進めていた吉田さん (写真撮影/片山貴博)

国が“地方創生”を唱える前から、黒部への本社機能一部移転や街づくりを進めていた吉田さん
(写真撮影/片山貴博)

「黒部へ東京から社員が異動して問題だったのは、大きな戸建てはあっても住み慣れた大きさのマンションが無いことだったんですよ。
そんな最中の2011年に東日本大震災が起こり、エネルギー問題に直面したのも当プロジェクトのキッカケ。富山の自然を活用したパッシブデザインにより、エネルギー消費量を抑える住まい方に挑戦しようと思ったのです」

「ここに座って、立山連峰を眺めてるんだ」と、お気に入りの窓際に座らせてくれた(写真撮影/片山貴博)

「ここに座って、立山連峰を眺めてるんだ」と、お気に入りの窓際に座らせてくれた(写真撮影/片山貴博)

バルコニーからも、雄大な山並みが望め、空気も抜群! 手前の3階建がリノベーションの第3期街区K棟、屋上庭園の緑が見える(写真撮影/片山貴博)

バルコニーからも、雄大な山並みが望め、空気も抜群! 手前の3階建がリノベーションの第3期街区K棟、屋上庭園の緑が見える(写真撮影/片山貴博)

それぞれ街区ごとに違う建築家を採用しながら、その知恵を出し合うプロジェクト運営をされていますが、全戸で外断熱システムなどの構造とともに効果を上げるのが、YKK APの樹脂窓『APW』シリーズの高断熱窓。

Low-E複層ガラスに加え、樹脂フレームはアルミ製と比べて断熱性能が高く、冬の結露も心配ない(筆者宅も樹脂フレーム採用!)(写真撮影/片山貴博)

Low-E複層ガラスに加え、樹脂フレームはアルミ製と比べて断熱性能が高く、冬の結露も心配ない(筆者宅も樹脂フレーム採用!)(写真撮影/片山貴博)

高効率全熱交換器の採用など省エネ設備を駆使した電力削減状況が、端末で見ることができると利用者の節電意識も高まる(写真撮影/片山貴博)

高効率全熱交換器の採用など省エネ設備を駆使した電力削減状況が、端末で見ることができると利用者の節電意識も高まる(写真撮影/片山貴博)

「机や椅子、鞄も好きなんだよ」黒部宅ではパーソナルデスクが“男の書斎”

今回は特別に寝室にある、お気に入りデスクまで見せてくださった。

米国人デザイナー、ジョージ・ネルソンのライティング・デスク&チェアー『Swag Leg シリーズ』(ハーマンミラー社)。スーツ&シャツはイタリア製しか着ないのに、アメリカ家具を選ぶところが吉田さんらしい!

「この椅子は、そんなに好きでも無いんだけど。一応、セットだからね」モダンデザインの名作に座り、機能的なパーソナルデスクがコンパクトな書斎(写真撮影/片山貴博)

「この椅子は、そんなに好きでも無いんだけど。一応、セットだからね」モダンデザインの名作に座り、機能的なパーソナルデスクがコンパクトな書斎(写真撮影/片山貴博)

デザイナーやプロダクトのヒストリーが記された『George Nelson』の書籍も(写真撮影/片山貴博)

デザイナーやプロダクトのヒストリーが記された『George Nelson』の書籍も(写真撮影/片山貴博)

デスクのデザイン設計図とともに飾られていた写真は、経済誌の写真展のものと、今年のお正月ご自身で撮られたご夫婦ツーショット。「着物はワイフからのプレゼント」だそう(写真撮影/片山貴博)

デスクのデザイン設計図とともに飾られていた写真は、経済誌の写真展のものと、今年のお正月ご自身で撮られたご夫婦ツーショット。「着物はワイフからのプレゼント」だそう(写真撮影/片山貴博)

金属製の脚を成型する技術“Swag(スウェージ)”が名前の由来。珍しい黒色のデスクが、白い椅子とともに寝室のモノトーンに収まっていた(写真撮影/片山貴博)

金属製の脚を成型する技術“Swag(スウェージ)”が名前の由来。珍しい黒色のデスクが、白い椅子とともに寝室のモノトーンに収まっていた(写真撮影/片山貴博)

『パッシブタウン』での吉田さんの暮らしを垣間見ることができましたが、実は黒部生活の本題はここから!
「黒部でヤギ牧場をやっている」と以前から伺っていて、遂に、その現場へご案内いただくことになりました。

“Think globally, Act locally”を、ここ黒部で実践

「引退しても、何か没頭できる仕事が欲しいと考えていた」ところに、黒部牧場を再生する機会に遭遇したそう。

「富山湾は魚の宝庫、なので山側にも何か観光レジャーになるものがあっても良いと思ってね。チーズが好きなのでヤギ牧場を始めて、黒部で世界に誇れる六次産業をやってみようと思ったわけ」

早速、吉田さんの運転で助手席に乗せていただき牧場へ向かいます。

愛車スバル[フォレスター]雪道もガッツリ走ります!(写真撮影/片山貴博)

愛車スバル[フォレスター]雪道もガッツリ走ります!(写真撮影/片山貴博)

ちなみに、吉田さんは社長・会長時代も役員車を使わずに、東京本社へ神奈川の自宅から1時間半かけて電車通勤。「電車のほうが早いし効率が良い」と。その上、お酒を飲まない吉田さんは「社員に、僕が送るから飲んで良いよって言うんだ」と話します。黒部では本当に社員を送ったりもするそうです。
創業社長の跡取りに育ちながら、分け隔てなく合理的に物事を考える、この姿勢には驚かされます。

20分ほど山に向かって走り、『くろべ牧場 まきばの風』に到着。

富山湾を見下ろす山の斜面に広がる牧場、「向こうが能登半島だよ」(写真撮影/片山貴博)

富山湾を見下ろす山の斜面に広がる牧場、「向こうが能登半島だよ」(写真撮影/片山貴博)

YKKとは全く関係なく、ファミリービジネスとして牧場を一から始めるって……凄い発想。吉田さんは、やっぱりアメリカ的。米国人サラリーマンの夢は、牧場をもつことって良く聞きますから。
「ブラジルの農園は……スイスのバスや鉄道は……ドイツの再生可能エネルギー政策は……」と次々出てくる世界の話は、吉田さんの実体験による生きた知恵。
それを、黒部で活かす。これこそ真の“Think globally, Act locally”

吉田さん直筆の“ゆるい”MAPが微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

吉田さん直筆の“ゆるい”MAPが微笑ましい(写真撮影/片山貴博)

ヤギ飼育舎の手前にはラベンダーが咲き誇り、いわゆる牧歌的な美しい風景(写真撮影/片山貴博)

ヤギ飼育舎の手前にはラベンダーが咲き誇り、いわゆる牧歌的な美しい風景(写真撮影/片山貴博)

われわれ取材班も長靴に履き替えて、ヤギ牧場見学へ。吉田さんは、赤いMyキャップを被って牧場主に変身!

赤いキャップ、ちょっとトランプ大統領風?(写真撮影/片山貴博)

赤いキャップ、ちょっとトランプ大統領風?(写真撮影/片山貴博)

米国大統領といえば、故ジミー・カーター大統領とは州知事時代からのお付き合い。何と1977年大統領就任式に吉田さんのお父様とお母様は特等席で臨席されたというお話でした。

ヤギは100頭から200頭。生まれては育て、ほかへ譲ったりもしながら徐々に増やしてきたそうです。

ヤギは好奇心旺盛で直ぐに寄ってくる。筆者の指を吸う、子ヤギ。カワイイ!(写真撮影/片山貴博)

ヤギは好奇心旺盛で直ぐに寄ってくる。筆者の指を吸う、子ヤギ。カワイイ!(写真撮影/片山貴博)

富山湾から吹くミネラルたっぷりの風を受けた草を食べ、黒部の美味しい水を飲み健康に育つ子ヤギたち(写真撮影/片山貴博)

富山湾から吹くミネラルたっぷりの風を受けた草を食べ、黒部の美味しい水を飲み健康に育つ子ヤギたち(写真撮影/片山貴博)

「失敗しても成功せよ」『善の巡環』がここにも

ヤギ牧場に似つかわしくないモダンな建物、これは吉田さんと旧知であるイタリア・建築デザイン界の巨匠、マンジャロッティ事務所が設計したレセプションハウス。

レセプションハウス「La Capra」。マンジャロッティ氏は約30年前に東京事務所を設立、2012年に死去(写真提供/マンジャロッティ事務所)

レセプションハウス「La Capra」。マンジャロッティ氏は約30年前に東京事務所を設立、2012年に死去(写真提供/マンジャロッティ事務所)

ヴェネチアンガラスのモダンなシャンデリア「ジョガリ」、テーブル・棚「カヴァレット」と椅子「トレトレ」も全てマンジャロッティによるデザイン(写真撮影/片山貴博)

ヴェネチアンガラスのモダンなシャンデリア「ジョガリ」、テーブル・棚「カヴァレット」と椅子「トレトレ」も全てマンジャロッティによるデザイン(写真撮影/片山貴博)

レセプションハウスの中には、イタリアのチーズ・コンテストで受賞した証明書なども飾られています。

「チーズづくりは試行錯誤、イタリアのチーズ職人の師匠を得てからも5年間ほど格闘しました」(写真撮影/片山貴博)

「チーズづくりは試行錯誤、イタリアのチーズ職人の師匠を得てからも5年間ほど格闘しました」(写真撮影/片山貴博)

『失敗しても成功せよ』と言うYKK創業者である父上、吉田忠雄氏の言葉。
やってみて、失敗しないと成功への道は開けない。そして、やるからには成功させるのだという意志が、このヤギ牧場やチーズづくりにもつながっていると感じました。

“マーケティングの父”と称される、コトラー教授の愛弟子でもある吉田さん。チーズづくりや牧場経営にも、その手腕が発揮されている!?(写真撮影/片山貴博)

“マーケティングの父”と称される、コトラー教授の愛弟子でもある吉田さん。チーズづくりや牧場経営にも、その手腕が発揮されている!?(写真撮影/片山貴博)

富山湾の深層水から採った塩が熟成させた、素晴らしいチーズをいただきました。リコッタ(写真:右上)が、絶品!『カプリーノ』のしょうゆ味(写真:右下)は日本酒にも合いそう(写真撮影/片山貴博)

富山湾の深層水から採った塩が熟成させた、素晴らしいチーズをいただきました。リコッタ(写真:右上)が、絶品!『カプリーノ』のしょうゆ味(写真:右下)は日本酒にも合いそう(写真撮影/片山貴博)

会長引退後の吉田さんは、新たにベンチャー企業の事業家として生き生きと輝いていました。

「あいの風」を感じながら、黒部から地方創生の夢を語ってくださる吉田さん。日本海・富山湾を背景に、牧場のベンチにて(写真撮影/片山貴博)

「あいの風」を感じながら、黒部から地方創生の夢を語ってくださる吉田さん。日本海・富山湾を背景に、牧場のベンチにて(写真撮影/片山貴博)

「シンプルに、『ここに住んでみたい!』と思う魅力的な街にする事が、地方創生なのだと思ってる。仕事があれば、若い人も富山に住みたいと思うはず。だから、次の事業ももう考えているよ!」と、悪巧みをするように微笑む吉田さん。

自分が熱中できる事業を富山に起業し、人を呼び、地域を元気にする『善の巡環』を率先する姿は、日本の経営者たちも憧れる70代の姿ではないでしょうか。

吉田忠裕
YKK/YKK AP取締役(前会長CEO)。1947年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、米国のノースウエスタン大学経営大学院(ケロッグ)修了、“マーケティングの父”と称されるF・コトラー教授に学ぶ(後に、大学院のアドバイザリーボードのメンバーに)。1972年父、吉田忠雄創業のYKK入社(旧吉田興業)。1990年YKK AP/1993年YKK社長、2011年両社会長CEO歴任後、2018年6月退任。
2017年、永年にわたる企業活動を通じての建築文化への貢献により日本建築学会文化賞を受賞。
【YKK】ホームページ
【YKK AP】ホームページ
【PASSIVETOWN】ホームページ
【ヤギチーズ専門「Y&Co」】ホームページ

【2018年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング! 最安は5万円台

人生トータルの支出のなかで、大きな割合をしめるのが家賃。なかでも東京23区は家賃が高いことで知られるが、穴場や掘り出し物の地域はある。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象とした家賃相場が安いトップ17の駅をピックアップし、それぞれの特徴を紹介する。東京23区内の家賃相場が安い駅TOP17

順位/駅名/ 家賃相場/ (沿線名/駅所在地)
1位 西高島平5.55万円(都営地下鉄三田線/板橋区)
2位 葛西臨海公園 5.70万円(JR京葉線/江戸川区)
3位 北綾瀬 5.90万円(東京メトロ千代田線/足立区)
4位 一之江 6.00万円(都営地下鉄新宿線/江戸川区)
4位 京成金町6.00万円(京成金町線/葛飾区)
4位 金町 6.00万円(JR常磐線/葛飾区)
7位 堀切 6.15万円(東武伊勢崎線/足立区)
8位 柴又 6.20万円(京成金町線/葛飾区)
8位 江戸川 6.20万円(京成本線/江戸川区)
8位 篠崎 6.20万円(都営新宿線/江戸川区)
11位 上井草6.30万円(西武新宿線/杉並区)
11位 堀切菖蒲園 6.30万円(京成本線/葛飾区)
11位 宮ノ前 6.30万円(東京さくらトラム(都電荒川線)/荒川区)
11位 竹ノ塚6.30万円(東武伊勢崎線/足立区)
11位 舎人公園 6.30万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
16位 青井 6.35万円(つくばエクスプレス/足立区)
17位 お花茶屋 6.40万円(京成本線/葛飾区)
17位 五反野6.40万円(東武伊勢崎線/足立区)
17位 京成小岩 6.40万円(京成本線/江戸川区)
17位 六町 6.40万円(つくばエクスプレス/足立区)
17位 新柴又 6.40万円(北総線/葛飾区)
17位 西新井 6.40万円(東武伊勢崎ほか/足立区)

家賃相場だけではない魅力の足立区

約半数を占めたのは、足立区の駅だった。23区の北端という立地などから比較的家賃相場がリーズナブルな印象がある区だが、実際にその通りといえそう。しかし足立区は、2006年に東京芸術大学が新キャンパスを開設して以降大学の誘致が進み、「SUUMO住みたい街ランキング2018」の穴場だと思う街で1位に北千住が選ばれるなど、家賃相場だけではない魅力がある。

3位の北綾瀬駅は東京メトロ千代田線の駅で、足立区内で最東端に位置する。日比谷や大手町などのビジネス街まで30分ほど、原宿や表参道など人気の遊び場も沿線だ。だが北綾瀬駅は、千代田線の支線という扱いの駅。上記の街がある駅へは、同じ千代田線内の隣駅、綾瀬駅での乗り換えが必要になる。しかし現在、北綾瀬駅内で工事が行われており、来年の2019年には日比谷や表参道などへも直通運転になる予定で、利便性は格段に向上する。少し先の時期へ向けて部屋を探すなら、最注目といってもいいかもしれない。

駅のすぐそばには、木立に囲まれ滝や水車も整備された「しょうぶ沼公園」がある。雑然とした街中にありながら水と緑に親しむことができるため、ファミリー世帯の憩いの場にもなっている。

東京都足立区 初夏のしょうぶ沼公園(写真/PIXTA)

東京都足立区 初夏のしょうぶ沼公園(写真/PIXTA)

同じ足立区の7位の堀切駅や11位の竹ノ塚駅、17位の五反野駅がある東武伊勢崎線は、東京メトロ日比谷線と半蔵門線と相互直通運転している。有楽町や渋谷など、通勤や遊びに頻繁に通うであろう街への乗り換えに便利で、所要時間も意外に少ない。勤務先などの立地によっては、穴場といえるだろう。

単身者や学生が暮らしやすい条件がそろう

葛飾区も数多くランクインしている。4位の金町駅はJR常磐線の各駅停車のみの駅だが、JR常磐線は東京メトロ千代田線と直通運転している。北綾瀬駅でも触れた日比谷や大手町などのビジネス街へ、やはり30分ほどで乗り換えなしで移動ができ、利便性は抜群だ。

駅周辺は商店街があり少しノスタルジックな雰囲気だが、24時間営業で駐車場完備のスーパーもある。単身者向けの低価格な飲食店も充実しているため、学生にとっては心強い街だろう。また、同率4位の京成金町駅は金町駅と約150mの距離で、互いに2線の利用が可能。最寄駅の路線にとらわれすぎることなく、好きな間取りの部屋を柔軟に選ぶことができそうだ。

東京 葛飾区 金町駅 北口駅前風景(写真/PIXTA)

東京 葛飾区 金町駅 北口駅前風景(写真/PIXTA)

ランクインした駅が東京の北と東に集中しているなかで、唯一西側の街にあるのが11位、杉並区の上井草駅だ。西武新宿線の各駅停車のみの駅だが、新宿までは約20分。乗り換えも不要なことを考えると、交通アクセスは決して悪くはない。

上井草は快速などが止まらないために杉並区内での家賃相場も低く抑えられている街ではあるが、ランクインしたのは、物件自体が小規模で安価に設定されているためだろう。西武新宿線内でターミナル機能を果たす高田馬場駅は、早稲田大学の最寄駅。そのため同大学を筆頭に、沿線の学校に通う学生向けの価格を抑えた物件が集中していることが理由といえそうだ。大きな商業施設などはないが、進学で一人暮らしを始めた若者にとっては同じ境遇の人が多く安心して住めて、勉学にも集中できる場所と考えてもいいかもしれない。

23区内と限っても、東京は広い。そして便利で、複雑だ。直線距離だけでは利便性は測れないが、生活スタイルやライフステージの変化によって、住むのに最適な場所は変化するもの。その見極めは難しいが、だからこそ、部屋探しは楽しいともいえるだろう。

●調査概要
【調査対象駅】東京23区内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出

「ドラマ『花のち晴れ』の部屋づくり」「BEAMS流インテリア」【6月人気記事まとめ】

梅雨が明け、ギラギラと日差しが照りつく毎日。いよいよ夏が到来しましたね。さて、SUUMOジャーナルで6月に公開した記事では、「ドラマ『花のち晴れ』の部屋づくり」や「レトロな文化住宅」「BEAMS流インテリア」など、スタイルが確立された暮らしにかかわる記事がランクインしました。TOP10記事を詳しくご紹介します。
6月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

第1位:人気ドラマ『花のち晴れ』美術担当に聞く!「セレブ」と「庶民」の部屋はココが違う
第2位:現代の“モダンガール”と“モダンボーイ”が建てた、大正末期~昭和初期の薫り漂う文化住宅 テーマのある暮らし[4]
第3位:収納家具なし! 見せ方・隠し方に技アリのオープン大空間【BEAMS流インテリア(1)】
第4位:【ファミリー編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング
第5位:関西住みたい沿線3位の「JR東海道本線」、家賃相場が安い駅トップ20を発表!【沿線調査 関西版】
第6位:「リフォーム」理由に変化の兆し?「長持ちさせるため」「よい住宅にする」が上昇
第7位:「結局、住宅ローンは年収の何倍まで組めますか?」 住まいのホンネQ&A(6)
第8位:弾かないけど捨てられない! 使わなくなった“物置ピアノ”、よみがえらせるには?
第9位:【漫画】第1回「理事長って何するの…?」入居1年目でマンション管理組合の理事長になってしまった件
第10位:赤羽VS川口、葛西VS浦安 川を越えると家賃は下がる? 東京の端VSとなり街を調査してみた
※対象記事:2018年6月1日~2018年6月30日までに公開された記事
※集計期間:2018年6月1日~2018年6月30日のPV数の多い順

「『花のち晴れ』美術スタッフインタビュー」「文化住宅レポート」などがランクイン

第1位:人気ドラマ『花のち晴れ』美術担当に聞く!「セレブ」と「庶民」の部屋はココが違う

(画像提供/TBS)

(画像提供/TBS)

放送後はSNSのトレンド入りをするなど話題をさらったTBSドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』。セレブな高校生たちの恋模様は多くの視聴者を胸キュンさせました。物語を盛り上げた舞台のひとつが、主人公・音(おと)と晴(ハルト)の部屋。彼女たちの心の変化を散りばめたという部屋づくりのこだわりとは?

第2位:現代の“モダンガール”と“モダンボーイ”が建てた、大正末期~昭和初期の薫り漂う文化住宅 テーマのある暮らし[4]

(写真撮影/内海明啓)

(写真撮影/内海明啓)

1920~30年代に流行した「文化住宅」を建てたご夫婦のお宅にお邪魔しました。伝統的な素材と工法にこだわり尽くしたエクステリアから内部まで、いたるところに当時のライフスタイルを取り入れた、個性的な暮らしぶりをご紹介します。

第3位:収納家具なし! 見せ方・隠し方に技アリのオープン大空間【BEAMS流インテリア(1)】

(写真撮影/飯田照明)

(写真撮影/飯田照明)

センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)スタッフのご自宅に訪問する連載です。第1回は、はじめての出産を控えたご夫婦が住む、コンクリートむきだしの大空間を活かしてリノベーションされたマンション。照明や椅子など、インテリアひとつひとつにストーリーがあるものを選び抜いた、アイデアいっぱいの空間でした。

第4位:【ファミリー編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

立地は住まい選びの重要なポイントのひとつ。そこで、新宿駅までのアクセスが良い駅で、実際の相場を調査。シングル編、DINKS編に続き、今回はファミリー向けの中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介します。

第5位:関西住みたい沿線3位の「JR東海道本線」、家賃相場が安い駅トップ20を発表!【沿線調査 関西版】

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」で住みたい沿線ランキングで3位に選ばれたのは、JR東海道本線。その理由は、子育てにも最適な自然豊かな環境と都市圏へのアクセスの良さ。駅別の特徴も細かくご紹介します。あなたはどの駅に魅力を感じますか?

「リフォーム最新事情」「住宅ローンの目安」などの記事が人気

第6位:「リフォーム」理由に変化の兆し?「長持ちさせるため」「よい住宅にする」が上昇

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

住宅をリフォームする理由に新しい兆しがあるようです。リノベーションやDIYなど、住宅のあり方の選択肢が増えてきた今ならではの素敵な考えですね。

第7位:「結局、住宅ローンは年収の何倍まで組めますか?」 住まいのホンネQ&A(6)

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

誰もが知りたい住宅に関するさまざまなQ&Aについて、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答してもらう「住まいのホンネQ&A」の第6回がランクイン。住宅購入には必ずついてまわる住宅ローン。住宅ローンはいったい年収の何倍まで組めるのか? 頭金は? ……etc. 悩みは尽きない住宅ローンについてお答えします。いったい、どんな考え方をしたらよいのでしょうか。

第8位:弾かないけど捨てられない! 使わなくなった“物置ピアノ”、よみがえらせるには?

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

ピアノはいつの時代も人気の習い事のひとつ。思い切って購入したものの、置きっぱなし……という状況に陥っているご家庭も少なくないのでは。そんなピアノを活かすインテリア配置や、ピアノに色を塗ったりしてインテリアとして生き返らせる「デザインピアノ」という考え方をご紹介します。

第9位:【漫画】第1回「理事長って何するの…?」入居1年目でマンション管理組合の理事長になってしまった件

(画像提供/アトリエブックス岡本圭一郎)

(画像提供/アトリエブックス岡本圭一郎)

街中にある無数のマンションひとつひとつに、こんなドラマがあるかもしれない……。将来のマンションの資産価値を左右する要因のひとつ「管理」は、どんな風に行われているのでしょうか? 新築で入居したマンションの管理組合の理事長になってしまった白川丈馬の奮闘記を4回シリーズのマンガでお届けする第1回目の記事です。

第10位:赤羽VS川口、葛西VS浦安 川を越えると家賃は下がる? 東京の端VSとなり街を調査してみた

(画像/やじろべえ[写真:photoAC])

(画像/やじろべえ[写真:photoAC])

人気ゆえ家賃が高い、東京。しかしその“となり街”は? 都心の利便性を享受しつつ、県境を一歩越えるだけでどのくらい家賃が安くなるのでしょうか。東京の端っこに位置する街とそのとなり街を実際に歩き、両街の「生活環境」を比較してみました。

定番人気の沿線・駅の家賃相場比較の記事のほか、「ドラマ『花のち晴れ』の部屋」や「文化住宅」「BEAMS流インテリア」など、6月は「スタイルが確立された暮らし」の記事が多くランクインしました。立地や環境も重要ですが、自分らしく、好きなものに囲まれて暮らすことも住まいの醍醐味(だいごみ)ですよね。
暑い日は家のなかで過ごすことも増えそうです。素敵な暮らしを、充実したインドアライフの参考にしてみてはいかがでしょうか。

「東京駅」まで30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

住む場所を決めるときに大きなポイントになるのは、交通の便の良さだろう。日本を代表するターミナル駅、東京駅へのアクセス具合は、その判断材料の基準になるもの。そこで、ワンルーム・1K・1DKの物件を対象とした家賃相場が安いトップ16の駅をピックアップ。それぞれの特徴を紹介する。●東京駅まで30分以内の家賃相場が安い駅TOP16駅

順位/駅名/ 家賃相場/ (沿線名/駅所在地/東京駅までの所要時間)
1位 南船橋 5.6万円(JR京葉線など/千葉県船橋市/26分)
2位 葛西臨海公園 5.7万円(JR京葉線/東京都江戸川区/14分)
3位 南行徳 5.9万円(東京メトロ東西線/千葉県市川市/29分)
4位 一之江 6.0万円(都営地下鉄新宿線/東京都江戸川区/27分)
5位 東船橋 6.3万円(JR総武線/千葉県船橋市/29分)
5位 津田沼 6.3万円(JR総武線/千葉県習志野市/28分)
7位 下総中山6.4万円(JR総武線/千葉県船橋市/25分)
7位 五反野 6.4万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/30分)
7位 新子安 6.4万円(JR京浜東北線/神奈川県横浜市/30分)
10位 足立小台 6.45万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/23分)
11位 亀有 6.5万円(JR常磐線/東京都葛飾区/30分)
11位 小岩 6.5万円(JR総武線/東京都江戸川区/20分)
11位 小菅 6.5万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/28分)
11位 新浦安 6.5万円(JR京葉線/千葉県浦安市/17分)
11位 瑞江 6.5万円(都営地下鉄新宿線/東京都江戸川区/30分)
16位 扇大橋 6.6万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/25分)
16位 船堀 6.6万円(都営地下鉄新宿線/東京都江戸川区/25分)
16位 西川口 6.6万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/29分)
16位 高野 6.6万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/27分)

リーズナブルさと利便性の両立、千葉県強し!

上位10位に限ってチェックすると、1位の南船橋を筆頭に半数のエリアの所在地が千葉県にある。JR総武線やJR京葉線は特急や快速が運行するため、東京駅までは所要時間が短いことに加え、乗り換えが不要なことも、特に通勤で利用する社会人層には魅力的だろう。

南船橋駅も、快速の停車駅だ。かつてはバブル世代を象徴する屋内スキー場の最寄駅であったが、その跡地に2006年、スウェーデンの人気家具店で、日本1号店となる「IKEA船橋」がオープン(現在は「IKEA Tokyo-Bay」に名称を変更)。また、ショッピングモールのららぽーとTOKYO-BAYやホームセンターも充実しており、インテリアにこだわりたい単身者層から家族を連れて行楽がてらの買い物を楽しみたいファミリー世代まで、多様な層の購買欲を満たしてくれそうだ。

南船橋駅周辺のショッピングモール(写真/PIXTA)

南船橋駅周辺のショッピングモール(写真/PIXTA)

東京方面とは反対になるが、幕張新都心の玄関口である海浜幕張駅へ2駅という近さも、ひとによっては注目ポイントだろう。オフィスビルもあるため海浜幕張へ通勤する人にとって便利なのはもちろんだが、同駅は、熱心なファンが多いことで知られる千葉ロッテマリーンズの本拠地、ZOZOマリンスタジアムや大規模イベント会場の幕張メッセの最寄駅。家賃をリーズナブルに抑えた分、趣味につぎ込むことも可能となれば、一石二鳥ならぬ一石三鳥、といっても過言ではない。

ZOZOマリンスタジアム、海浜幕張駅周辺(写真/PIXTA)

ZOZOマリンスタジアム、海浜幕張駅周辺(写真/PIXTA)

2位の葛西臨海公園もJR京葉線の沿線駅だが、こちらは23区内。ランキング内で突出して東京駅からの所要時間が短いことが目を引く。駅の南側にある葛西臨海公園は、広い芝生の広場のほか、水族園や鳥類園、水遊びができる人工渚などがあり、休日を家族やカップルでのんびり過ごすにはうってつけといえそうだ。

東京駅へのアクセスは抜群ながら、ディープな魅力にあふれる下町

11位の小岩は各駅列車しか停車しないが、それでも東京駅から20分以内とアクセスは抜群の駅だ。駅周辺には安価な飲み屋街や歓楽街があり、わい雑な印象もあるため、女性の単身者や小さな子どもがいる家庭は敬遠してしまうこともあるかもしれない。しかし駅の南口には、全長が2km弱にもわたる「小岩フラワーロード」など3つの大きな商店街があり、下町情緒あふれる街という顔ももつ。

小岩駅(写真/PIXTA)

小岩駅(写真/PIXTA)

商店街は扱っている商品の価格も安く、昭和レトロ感のあふれる純喫茶店なども多い。駅から少し離れると高層マンションも充実しているため、物件選びによってはディープな楽しみと快適な生活の両方を満喫できるだろう。

今回京葉線の駅が複数ランクインしているが、海の近く・橋の上を運行するこの路線は強風などの影響を受けやすいイメージがある。その懸念から地下鉄沿線を選ぶひとも多い。11位の瑞江(みずえ)と16位の船堀は、都営地下鉄新宿線の沿線駅だ。

船堀駅は急行の停車駅であり、東京駅からの所要時間も瑞江駅より短くて済む。瑞江駅は各駅停車しか利用はできないが、駅周辺は深夜まで営業しているスーパーなど施設が充実しており買い物の利便性が高く、区画整備も進んでいる。小さな子どもがいる家庭にとって気になる医療機関も、瑞江駅前には土日も開業している小児科も複数あるため、世帯構成でどちらを選ぶか考えてもいいかもしれない。

上記で触れた都内の街は、いずれも千葉寄りの地域だ。お手ごろ価格かつ東京駅へのアクセスもいいのは、千葉県方面に優位性があるとみていいだろう。地名やイメージだけでは、その土地の本当の便利さや魅力はなかなか見えづらいもの。もっとも、それを探求する過程も、住まい探しの楽しみのひとつであるともいえるかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】東京駅から乗車30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない。乗換有の場合は、乗換時間を含む)

上野や浅草が徒歩圏内! 地元カフェオーナーと台東区「入谷」の魅力を探索してみた

東京の下町、台東区入谷。観光客でにぎわう浅草や上野に隣接するエリアだ。近隣のメジャーな街の陰に隠れがちで、ややマイナーな印象だが、いったいどんな街なのだろうか? 入谷をよく知るガイド役とともに、街を歩いてみた。
地元カフェオーナーと歩く入谷今回のガイド役は入谷で昔ながらの玩具を取りそろえる「空想カフェ」を営む神谷さん(写真撮影/小野洋平)

今回のガイド役は入谷で昔ながらの玩具を取りそろえる「空想カフェ」を営む神谷さん(写真撮影/小野洋平)

今回、街を案内してくれるのは代々、入谷に住み続ける神谷僚一(かみや・りょういち)さん。神谷さんは、かつて玩具の街として栄えた地元の歴史を後世に残すため、入谷で昔ながらの玩具を取りそろえる「空想カフェ」を営んでいる。

さっそく、街を案内していただこう。

……と思ったら、開始早々、近所にある老舗の煎餅(せんべい)屋さん「花見煎餅」に立ち寄る神谷さん。まずは顔なじみの店主に、入谷の魅力について聞き込みをしてくれるようだ。

昭和28年創業の老舗。ちなみに「空想カフェ」ではコーヒーのお供にこちらの煎餅を添えている(写真撮影/小野洋平)

昭和28年創業の老舗。ちなみに「空想カフェ」ではコーヒーのお供にこちらの煎餅を添えている(写真撮影/小野洋平)

花見煎餅の店主さん「入谷って、今どんどん新しいマンションが建っているんですよ。これから歩けば分かると思うけど、浅草や上野に比べて落ち着いているし、生活にも便利な環境だから住みやすいんじゃないかな」

なるほど、これは散歩ががぜん楽しみになってきたぞ。

入谷駅前のマンション群(写真撮影/小野洋平)

入谷駅前のマンション群(写真撮影/小野洋平)

確かに店主さんの言うとおり、駅周辺、特に入谷駅前を走る昭和通り沿いには多くのマンションが立ち並んでいた。

花見煎餅の店主さん「昔、入谷には婚礼家具を扱う家具屋さんが多かったんです。でも、時代とともに需要が減っていき、今ではその跡地にマンションが建つようになりました」

昭和通りを越えた根岸方面にも建設中のマンションが(写真撮影/小野洋平)

昭和通りを越えた根岸方面にも建設中のマンションが(写真撮影/小野洋平)

マンションが増え、若いファミリーも増えているという入谷。神谷さんいわく、入谷は新入りにやさしい街だという。

神谷さん「入谷は朝顔市に代表されるお祭りが多いんですけど、新しい住民ってなかなか参加しづらいじゃないですか? そんなときは昔から住んでいる大家さんに町会を紹介してもらえばいいんです。というのも、この辺りは代々営んできた商店をたたみ、マンションを建てたケースが多いんです。街との結びつきが強い大家さんが、地元になじむきっかけをつくってくれると思いますよ」

下町には世話好きが多いとウワサに聞くが、入谷にもその文化はしっかり根付いているようだ。

入谷は、浅草・上野の「隠れ家的存在」?

隣の浅草には観光客向けの飲食店や土産物店が多いが、入谷は生活のための商店がしっかりそろっている印象を受けた。街中のスーパーでは近隣に住む高齢者のために、購入した商品の宅配サービスを行っているそうだ。高齢者も多く暮らす地域に根差した、地元スーパーならではの心遣いである。

地域住民御用達のスーパー「ココスナカムラ」(写真撮影/小野洋平)

地域住民御用達のスーパー「ココスナカムラ」(写真撮影/小野洋平)

昔ながらの家並みが残っているのも入谷の魅力。歴史を感じさせる酒屋さんの隣には、これまた味わい深い看板の薬局が(写真撮影/小野洋平)

昔ながらの家並みが残っているのも入谷の魅力。歴史を感じさせる酒屋さんの隣には、これまた味わい深い看板の薬局が(写真撮影/小野洋平)

街のメインストリートでもある金美館通りには、新しい飲食店や、ドラッグストア、100円ショップも点在していて日々の買い出しに重宝しそう。なお、病院や保育園などの施設も徐々に増やしていく動きがあるそうだ。

ここで神谷さん、「休憩ならここがオススメです」と立ち止まった。「ジァン」という喫茶店で、行きつけだという。

9時から営業する「ジァン」には朝から足を運ぶという(写真撮影/小野洋平)

9時から営業する「ジァン」には朝から足を運ぶという(写真撮影/小野洋平)

コーヒー好きが高じて自らカフェを始めてしまった神谷さんだけに、気になった喫茶店には必ず立ち寄るそう。こちらも散歩中に見つけたのだとか。

コーヒー350円。サンドイッチ1個250円(写真撮影/小野洋平)

コーヒー350円。サンドイッチ1個250円(写真撮影/小野洋平)

静かな店内。コーヒーも薫り高く美味で、これは何時間でも入り浸ってしまう……。こうしたお店の存在も含め、にぎやかな周囲の街からエスケープできる場所が充実している。入谷って、なんだか隠れ家っぽい感じがする。

周囲の街の「おいしいところ」を享受できる

神谷さん、今度は上野方面に向かって歩き始めた。
神谷さん「入谷の魅力って、となりの街の良さを享受できるところだと思うんです。上野・浅草はもちろん、鶯谷の周辺にも安くておいしい定食屋やラーメン屋、居酒屋が多い。ちょっとした散歩が、本当に楽しいんですよ」

鶯谷駅に続く橋からは電車が眺められる(写真撮影/小野洋平)

鶯谷駅に続く橋からは電車が眺められる(写真撮影/小野洋平)

鶯谷駅を通過し、東京国立博物館の脇を抜けて、たどり着いたのは上野恩賜公園の大噴水。入谷駅からは15分ほどの距離である。

30分間隔で噴水の形が変わり、夜はライトアップされる(写真撮影/小野洋平)

30分間隔で噴水の形が変わり、夜はライトアップされる(写真撮影/小野洋平)

神谷さん「上野公園にも歩いて行けるんですよ。園内では毎週末のようにイベントをやっていますし、夏は子どもたちが噴水で遊べるので親子連れにはもってこいです」

一方、上野と逆方向に歩くと浅草。こちらも徒歩圏内だ。

調理道具などを取り扱う店舗が並ぶ合羽橋(写真撮影/小野洋平)

調理道具などを取り扱う店舗が並ぶ合羽橋(写真撮影/小野洋平)

神谷さん「合羽橋というと調理器具のイメージですが、じつは食料品も豊富なんです。僕も散歩がてら、ここで買い出しすることも多いですよ」。ちなみに歩くのがしんどければ、バスを使うのも手。台東区内を循環するバス「めぐりん」は東西南北を網羅する4路線が運行。運賃も100円と安い! 

レトロなカラーリングがかわいい「めぐりん」(写真撮影/小野洋平)

レトロなカラーリングがかわいい「めぐりん」(写真撮影/小野洋平)

入谷の家賃相場は?

最後に気になる家賃相場をチェックしてみよう。入谷駅の一人暮らし向け賃貸物件の家賃相場は9.0万円。そこそこイイ金額だが、日比谷線のほかJR鶯谷駅も使える交通利便性や暮らしやすさ、環境の良さを考慮すると納得である。

というわけで、街歩きで見えてきた入谷の特徴をまとめると……

・世話好きが多く、新しい住民もなじみやすい
・昔ながらの味わい深い街並みは残しつつも、新しいマンションが増えている
・生活のためのお店がしっかりそろい、隠れ家的な喫茶店・カフェも多い
・浅草や上野など、徒歩圏内に魅力的な街が多い

改めてふりかえると、入谷はじつに「歩き甲斐のある街」だった。昭和通りを一本入った住宅街には古い民家や寺社なども多く、渋い銭湯も見受けられた。また、古民家を改装したようなカフェもあり、歩けば歩くほど、新しい魅力を発掘できる。街を探索し、深掘りしていく楽しみにあふれているのだ。長く暮らすほど好きになる、そんな街じゃないだろうか。

●調査概要
【調査対象駅】入谷駅
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、面積10平米~40平米、築年数35年以下、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出

4人家族で50平米台? ワールドカップ開催地ロシアの住宅事情

サッカーのワールドカップ開催で盛り上がるロシア。テレビでも連日報道されていますね。街中のインタビューをみると、街並みがきれいだなとか、ロシアの住まいってどんな感じなんだろう? 広いのかな? 共産圏だったから何か違うのかな? などいろいろ気になりますよね。というわけで、ロシアの住宅事情を調べてみました。
ロシアの家は4人家族で50平米台。なぜ狭い?

まずロシアといえば「広い」という印象ですよね。そう、世界で一番広い国は、ロシアです。 面積は1710万平方km、日本の約45倍の広さがあります。これだけ国土が広かったら家も広いのだろう、軽井沢みたいな広大な敷地の木立の隙間から一軒家が見える、そんなイメージかと想像していました。ところが、そんなことはないようです。都市部は基本的に集合住宅、そして面積は家族4人の住まいで50平米台が主流だとか。意外に狭いのです。

どうしてなのでしょうか?

話は旧ソ連時代にさかのぼります。当時は国が無償で国民に住居を提供していました。共産圏の国だったので「公平性」を重んじます。また「効率性」も重んじます。その結果、効率よく暮らせる集合住宅で、最低限の生活ができる広さということでこの形になったのだとか。

また暖房とお湯も関係しています。ロシアの冬はとても寒いので、各住戸にお湯や暖房をひく必要があります。このときに広大な敷地の一戸建てにそれぞれお湯やガスの配管を回すのは非効率です。日本でも空き家が増えてこのインフラの維持が問題になっています。だからロシアでの原則は「都市部に集まって暮らす」という形になっているようです。

百聞は一見に如かず――ということでさっそく家庭訪問してみました。訪問した街は、サッカーワールドカップ日本代表のキャンプ地、カザンです。

1970年代~1980年代の日本の団地を彷彿(ほうふつ)とさせる。どの集合住宅も戸数が多い(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

1970年代~1980年代の日本の団地を彷彿(ほうふつ)とさせる。どの集合住宅も戸数が多い(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さて、到着してまず感じたのは、規模の大きさ。正確な戸数は聞きそびれてしまいましたが、イメージはURの高島平団地です(東京都板橋区にあるUR団地、総戸数は約8000戸)。さっそく部屋に案内してもらいます。あれ? 玄関ドアが2枚ある? さすが寒い国ロシア、玄関ドアは2枚仕立てが多いようです。そしてバルコニーも日本とは趣が異なります。サンルーム仕様になって窓が付いているのです。日本でも日本海側の家にはこのサンルームが多いと聞きます。

写真左:2枚ある玄関ドア 写真右:窓付きのバルコニー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

写真左:2枚ある玄関ドア 写真右:窓付きのバルコニー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして室内に。通されたのはダイニング・キッチン。決して広くはないのですが、日本よりも暖かい感じがします。なぜそう感じるのかといえばそれは壁紙とファブリックでした。他の居室もそうですが、白い壁がひとつもありません。部屋ごとに好みの壁紙が張られ、テーブルにはクロスが掛けられています。

キレイな柄に包まれたダイニング・キッチン(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

キレイな柄に包まれたダイニング・キッチン(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

この壁紙はこの家の妻が張ったそうです。ロシアでは壁紙は自分で張るのがフツーだそうです。ある意味料理をつくるのと同じ感覚だとか。平均月収が7万円(ホワイトカラーエリートでその倍)で家賃と光熱費で3万円くらい。支出に占める住居費比率は高い。だから内装などは自分たちでやるというのもありそうです。キッチンは入居時に自分で設置することも多いそう。天井や床や壁も未仕上げが普通。天井壁床で40万円くらい払うと仕上げてくれますが自分でやる人も多いのだとか。

これは別の部屋を訪問したときの写真ですが、全部自分でつくったのよと誇らしげに教えてくれました。ちなみにこの部屋の住人はシングル女性です。すごい。

シングル女性が造作したバスルーム。日本の銭湯のようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

シングル女性が造作したバスルーム。日本の銭湯のようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「こっちも見て! 狭いから天井吊りの収納つくったのよ」「次は貯めたお金で古くなった窓を断熱性の高いものに変えるのよ」と次から次へとやりたいことがあるそう(日本の集合住宅と違い窓も玄関ドアも個人の判断で変えてOK)。日本でもDIYが流行っていますが、ここはレベルが違います。住んでから少しずつ暮らしをよくしていくことは、ここロシアでは当たり前のようです。

次の2枚の写真は少し郊外にある一戸建ての子ども部屋。どちらの部屋も個性的な壁紙が張られ、ファブリックも装飾品もかわいい。日本のマンションモデルルームのようです。

カザン市郊外にある一戸建ての子ども部屋。モデルルームではありません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

カザン市郊外にある一戸建ての子ども部屋。モデルルームではありません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ロシアの一戸建て事情はどうなっているの?

ロシアは市内中心部が都市計画上、ほぼ集合住宅しか建てられません。しかも広さは40~60平米と狭い。やはりこの生活にストレスを感じる人もいるようです。またカザンのようにやや裕福な層が出始めている都市では、郊外の戸建住宅を買い始める動きも出てきています。そう、公団住宅が羨望のまなざしだった時代から、郊外の一戸建てへあこがれがシフトした日本の30~40年前と似たような状況です。

そんなロシアでの一戸建てはどんなものかというと……写真(下)のようなレンガの家です。子どものころに読んだ『3匹の子ぶた』にに出てくるあのレンガの家です。

ロシアの一戸建てはレンガブロックを積んだものが多い(写真撮影/IIDA SANGYO RUS)

ロシアの一戸建てはレンガブロックを積んだものが多い(写真撮影/IIDA SANGYO RUS)

ロシアの一戸建てにはいくつか課題があるそうです。おもなものを4つほど挙げます。
ひとつは施工精度。未仕上げで引き渡す文化があることも影響してか、大工さんの仕上げの精度が日本と全然違うそうです。大げさな比喩になりますが、日本はミリ単位の仕上げ水準ですが、ロシアはセンチ単位くらいの差があるとか。

もうひとつはその構造と断熱。レンガ造りが標準で、これだけ寒いのに断熱材が使われていません! 推定50cm以上ある分厚いレンガが断熱材になってます。見た目は頑丈ですが壁の断熱は課題があります。

そして3つ目は引き渡しの水準。キッチン、バス、トイレ、内装仕上げは含みません。内装はホームセンターで買ってきて自分で取り付ける、あるいはそれをプロに別で依頼する方法が一般的。ただ、ロシアでも日本でいうパワーカップル(共働き夫婦で二人とも高収入)が登場してきており、この若い世代からすると、ある程度内装仕上げもお任せしたいというニーズも出てきているとか。

4つ目として品質保証がないこと。日本では住宅品質確保促進法(品確法)というのがあって、第三者の専門機関が住宅の性能を評価し、購入者に分かりやすく表示したり、、引き渡し後10年以内に瑕疵が見つかった場合は、売主が無償補修などをしなくてはならないという制度がありますが、それがロシアにはありません。

ロシアに一戸建て住宅の日本代表が進出!?

さて、そのロシアに、日本の住宅会社、飯田グル―プホールディングスが進出します。日本の分譲一戸建ての3割のシェアをもつ一戸建て業界の日本代表です。

先に書いたように(1)レンガ造り (2)造りがやや雑 (3)未仕上げ引き渡し (4)品質保証がない というロシアの一戸建ての課題に対し、(1)日本の木質在来工法 (2)日本品質 (3)内装仕上げ済み  (4)第三者評価をつける というチャレンジです。その最初の家、モデルハウスが完成し、事業の正式なオープニングセレモニーが開催されました。

写真左:当日のレセプションでは日本式で鏡割りが行われた  写真右:第一号物件を購入されたミハイルさん(写真/IIDA SANGYO RUS)

写真左:当日のレセプションでは日本式で鏡割りが行われた  写真右:第一号物件を購入されたミハイルさん(写真/IIDA SANGYO RUS)

本来はモデルルームとして使いたかったのに、「ぜひ売ってほしい」という方が現れて、既に契約もしたとのこと。この住宅は構造材のみシベリア鉄道で運び、残りの資材は現地調達(将来は現地での建材生産も見込む)。日本の大工がロシア大工を指導しながらつくった家。第三者の専門機関による住宅の性能評価も付いてます。

第一号物件の外観と内装。見た目は日本のものと似ているが、トリプルガラスのサッシなど完全に現地仕様(写真提供/IIDA SANGYO RUS)

第一号物件の外観と内装。見た目は日本のものと似ているが、トリプルガラスのサッシなど完全に現地仕様(写真提供/IIDA SANGYO RUS)

感銘を受けたのは「MADE WITH JAPAN」という思想。これは“MADE IN JAPAN=日本製”とは少しニュアンスが違います。木造在来工法や建築の仕上げ精度、建物に第三者評価を付けるなどは日本のものを導入するのですが、あくまでも仕組みや技術をもっていくだけ。WITHとは一緒にやっていきましょう、現地の資材を使って、現地の大工さん、現地の販売員のみなさんと一緒にいうことなんです。なんだかすてきではありませんか。

もう少し細かくみてみましょう。木材は、森林大国であるロシアの地域木材を活用します。その木材を精度高く施工するために日本のプレカット技術を導入します。プレカットとは、設計図に基づいて建材を工場でカットしてから現地に運び大工は現場では組み立てるだけにする仕組みのことで、これにより工期を短縮し、現場での施工の精度向上もできるというものです。同社が長年磨き続けてきた技術・ノウハウを惜しみなく現地のプレカット工場、マシンに注ぎ込んでいます。

さらに飯田産業のエース大工である上杉学氏をロシアに駐在させ、日本並みの施工精度を実現する現場施工技術をロシアの大工に教えています。日本の木造建築技術・ジャパンウッド・テクノロジーを駆使して、ロシアの一戸建て品質を上げ、日本と同じくローコストで提供します。そしてなるべくそのお金がロシア内部に落ちるように現地生産・現地雇用にもこだわっているのです。

写真左:ロシアの大工に技術を教える上杉氏 写真右:ロシアのプレカット工場。日本式に細かくチューニング・教育を行った(写真提供:IIDA SANGYO RUS)

写真左:ロシアの大工に技術を教える上杉氏 写真右:ロシアのプレカット工場。日本式に細かくチューニング・教育を行った(写真提供:IIDA SANGYO RUS)

「MADA WITH JAPAN」は売り方にも反映。ロシア事業の実行責任者である大河龍也氏は「ご案内の仕方、接客の仕方もおもてなしの心で日本流にこだわりたい」と、接客も日本水準にしようと現地の従業員に発破をかけています。

「誰もが当たり前に一戸建てが買える社会にしたい」を掲げる同社、そのビジョン実現に向けて挑む壮大なチャレンジがFIFAワールドカップの日本のキャンプ地カザンで始まったことに、なんだか奇遇で運命的なものを感じます。

●取材協力
飯田グループホールディングス

赤羽VS川口、葛西VS浦安 川を越えると家賃は下がる? 東京の端VSとなり街を調査してみた

東京へは毎年多くの人が移り住む。利便性もさることながら、東京に住むこと自体に憧れを抱く人もいるのではないだろうか? しかし、その人気ゆえ必然的に家賃も高くなる。
もし、東京というステータス(?)にさほどこだわりがないのであれば、「東京のとなり街」に住むという選択肢もアリなのではないだろうか? 都心の利便性を享受しつつ、県境を一歩越えるだけで家賃もグッと安くなったりするものだ。おそらく住み心地だって、そう大きくは変わらないのでは?
そこで、東京の端っこに位置する街とそのとなり街を実際に歩き、両街の「生活環境」を比較してみることにした。
【埼玉編】赤羽(東京の端っこ)VS川口(そのとなり街)

というわけで、今回は埼玉寄り、千葉寄り、神奈川寄りの東京の端っこの街と、それぞれのとなり街を比較してみようと思う。
まずは、東京都北区の「赤羽」と、そのとなり街にあたる埼玉県「川口」をチェックしていく。

■「赤羽」(東京の端っこ)の生活環境は?

赤羽を代表する飲み屋ストリート「一番街」(写真撮影/小野洋平)

赤羽を代表する飲み屋ストリート「一番街」(写真撮影/小野洋平)

荒川を隔てて埼玉県に接する東京都北区赤羽。ディープな飲み屋がひしめいているイメージだが、実は生活利便性も優れている。今年の「SUUMO住みたい街ランキング」では19位、「SUUMO穴場だと思う街ランキング」では2位に輝いた。

赤羽駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

赤羽駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

まず、特筆すべきは買い物環境の充実ぶり。飲食店や雑貨店が入る駅中の「エキュート赤羽」や駅直結のショッピングセンター「ビーンズ赤羽」、さらには「赤羽アピレ」、「ビビオ」、「イトーヨーカドー赤羽店」など、多種多様なショッピング施設が駅前に大集結しているのだ。

赤羽駅東口駅前(写真撮影/小野洋平)

赤羽駅東口駅前(写真撮影/小野洋平)

また、駅徒歩5分圏内にはドラッグストアや100円ショップ、八百屋、魚屋もあり、買い物の選択肢は多様だ。仮にひいきにしているスーパーが閉店してしまったとしても、第二、第三の選択肢があるのは心強い。

赤羽公園近くのマンション群(写真撮影/小野洋平)

赤羽公園近くのマンション群(写真撮影/小野洋平)

住環境はどうだろう。一番街周辺には一人暮らし向けのマンションやアパートが多い印象。一方、東口の繁華街を抜けると、ファミリー向けのマンションが立ち並び、静かな住宅エリアとなっている。周辺には、荒川の河川敷や赤羽自然観察公園もあり、豊かな自然環境も魅力だ。

赤羽駅のホーム(写真撮影/小野洋平)

赤羽駅のホーム(写真撮影/小野洋平)

そして、なんといっても最大の魅力は抜群の交通アクセス。JR京浜東北線、埼京線、湘南新宿ラインなど複数路線が利用でき、乗り換えなしで池袋まで10分、新宿まで16分、東京まで19分だ。赤羽駅から10分ほど歩けば、南北線の赤羽岩淵駅も利用可能。さらに都内からの終電時間は遅く、池袋からは深夜バスが出ている。深い時間まで足があるのは有難い。

そんな赤羽の家賃相場だが、シングル向けの部屋(ワンルーム・1K・1DK 以下同)で7.7万円。ここ数年、テレビドラマの舞台になるなど注目を集めたこともあり、若干お高めの相場観である。

■「川口」(東京のとなり街)の生活環境は?

川口駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

川口駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

一方、こちらは赤羽のとなり街、川口。埼玉きってのベッドタウンだ。ちなみに、家賃相場は7万円ジャスト。赤羽からたった一駅なのに7000円もの差である。これが東京の壁なのか……。

さっそく駅前を見てみよう。

川口駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

川口駅西口駅前(写真撮影/小野洋平)

まずは、高層マンションが建ち並ぶ西口。十数年前から街の再開発が進んだ結果、街中の道幅は広く、街路樹も整備されて心地よい景観。全体的に穏やかな雰囲気が漂っている。

川口駅西口ロータリー。花壇の手入れも行き届いている(写真撮影/小野洋平)

川口駅西口ロータリー。花壇の手入れも行き届いている(写真撮影/小野洋平)

川口駅東口駅前(写真撮影/小野洋平)

川口駅東口駅前(写真撮影/小野洋平)

一方、反対側の東口は一大商業エリア。赤羽に負けない充実ぶりだ。特に、老舗百貨店の「そごう」をはじめ、ジムやエステなどが入った「キャスティ」、図書館や保育園が入った「キュポ・ラ」など、大型ショッピング施設が目を引く。

さらに、かつて川口の一大産業だった鋳物工場の跡地には「イオンモール川口前川」「ララガーデン川口」「アリオ川口」「ミエルかわぐち」など、多くのショッピングモールも誕生している。

東口のペデストリアンデッキ。大型商業施設が点在する(写真撮影/小野洋平)

東口のペデストリアンデッキ。大型商業施設が点在する(写真撮影/小野洋平)

駅前の各商業施設は西口と東口を結ぶペデストリアンデッキで行き来することができ、バス乗り場にも簡単にアクセスができて便利だ。

東口に設置されたバス専用の掲示板(写真撮影/小野洋平)

東口に設置されたバス専用の掲示板(写真撮影/小野洋平)

バス路線も充実している川口らしく、バスの運行情報をぎゅっと集めた専用コーナーも設けられていた。

鉄道アクセスは赤羽に劣るものの、買い物環境や街の発展度などは川口も負けていない。家賃の安さを考えれば、「東京のとなり街」である川口に住むのもアリだろう。

【都心までのアクセス比較】
・赤羽―池袋 10分・154円
・川口―池袋 20分・165円

【家賃相場比較】
・赤羽駅 7.7万円
・川口駅 7.0万円【千葉編】葛西(東京の端っこ)VS浦安(そのとなり街)

続いて、(千葉寄りの)東京の端っこ「葛西」と、そのとなり街である「浦安」(千葉県)を比較してみよう。

■「葛西」(東京の端っこ)の生活環境は?

葛西駅前のバスロータリー(写真撮影/小野洋平)

葛西駅前のバスロータリー(写真撮影/小野洋平)

東西線が発着する葛西駅は環七通り沿いに位置しており、駅前には広々と開放的な空間が広がっている。羽田空港や東京ディズニーランドへのバス便もあり、アクセス環境はなかなか充実しているようだ。

ちなみに、葛西には友人が住んでいる。せっかくなのでお話を聞いてみた。

葛西在住歴4年のHさん(写真撮影/小野洋平)

葛西在住歴4年のHさん(写真撮影/小野洋平)

「葛西に住むなら自転車かバスの移動が便利だと思います。駅前に大きなショッピング施設はないんですが、街中には24時間営業のスーパーや安い飲食店がけっこう点在しているんですよ」

高架下の商店街「メトロセンター葛西」。書店やスーパー、飲食店が並ぶ(写真撮影/小野洋平)

高架下の商店街「メトロセンター葛西」。書店やスーパー、飲食店が並ぶ(写真撮影/小野洋平)

Hさんの証言通り、これといった商店街や大型商業施設はないものの、駅周辺や住宅街に近いエリアにひと通りのものはそろっていた。旧江戸川の河川敷も近く、そのまま南へ3kmほど下ると葛西臨海公園へ行ける(自転車なら15~20分程度)。ランニングや散歩コースとしてもちょうどいい距離感だ。家賃相場も6.7万円と、先ほどの赤羽と比べて1万円安い。

■「浦安」(東京のとなり街)の家賃相場は?

浦安駅南口(写真撮影/小野洋平)

浦安駅南口(写真撮影/小野洋平)


旧江戸川を越えて千葉県に位置する浦安駅はどうだろうか。駅前にはビルが点在していて、葛西よりもギュっと商業エリアが密集している感じだ。高架下には「浦安メトロ・グルメショッピングセンター」があり、居酒屋を中心にさまざまな飲食店が集まっている。

メトロセンターの飲食街(写真撮影/小野洋平)

メトロセンターの飲食街(写真撮影/小野洋平)

また、駅近くの南口商店会には24時間営業のスーパーや100円ショップ、カラオケなどが。生活のための買い物や外食、遊びまで駅周辺で完結するコンパクトさは魅力的だ。駅徒歩3分の場所には「浦安魚市場」もあり、プロが目利きした新鮮な魚が手に入る。スーパーではなかなかお目にかかれない珍しい魚や高級魚も買えるので、料理好きには重宝するだろう。

首都高速へ続く、やなぎ通り(写真撮影/小野洋平)

首都高速へ続く、やなぎ通り(写真撮影/小野洋平)

駅前の商業空間を抜けると、幹線道路「やなぎ通り」が走り、このあたりには住宅も点在している。

あくまで筆者の所感ではあるが、駅前に関しては浦安の方がお店が多い印象だ。これで家賃も安ければと思ったが、東西線の快速が停車することもあってか、相場は6.8万円でなんと東京の葛西よりも1000円高いという結果に。とはいえ、快速も停まり、駅前の充実ぶりや市場の存在、さらには葛西と同様に江戸川が至近の自然環境などを考慮すれば、なかなかリーズナブルであるといえる。

【都心までのアクセス比較】
・葛西―大手町 20分・195円
・浦安―大手町 23分・237円

【家賃相場比較】
・葛西駅 6.7万円
・浦安駅 6.8万円おまけ:【神奈川編】町田(東京の端っこ)VS相模大野(東京のとなり街)

ちなみに、神奈川寄りの東京の端っこである「町田」と、そのとなり街「相模大野」もチェックしてみた。

こちらは「町田」の駅前通り。駅前の商業施設は充実している。家賃相場は6.1万円(写真撮影/小野洋平)

こちらは「町田」の駅前通り。駅前の商業施設は充実している。家賃相場は6.1万円(写真撮影/小野洋平)

一方、こちらは「相模大野」。駅ビル「ステーションスクエア」にはスーパーや飲食店、ドラッグストア、家電量販店などが入っている。さらに、北口には「伊勢丹」、「モアーズ」、そして約180店舗が入る商業施設「ボーノ」も。買い物環境は町田と遜色ない印象。家賃相場は5.1万円と1万円安い(写真撮影/小野洋平)

一方、こちらは「相模大野」。駅ビル「ステーションスクエア」にはスーパーや飲食店、ドラッグストア、家電量販店などが入っている。さらに、北口には「伊勢丹」、「モアーズ」、そして約180店舗が入る商業施設「ボーノ」も。買い物環境は町田と遜色ない印象。家賃相場は5.1万円と1万円安い(写真撮影/小野洋平)

【都心までのアクセス比較】
・町田―新宿 38分・370円
・相模大野―新宿 41分・370円

【家賃相場比較】
・町田 6.1万円
・相模大野 5.1万円

というわけで今回3つのエリアを比較してみたが、赤羽VS川口は交通利便性は赤羽に軍配が上がったが、商業施設はどちらも充実しており、家賃相場は赤羽が7000円高いという結果に。町田VS相模大野は、どちらも商業施設が充実しているものの、相模大野のほうが家賃は1万円も安い。しかし葛西VS浦安は、浦安の方が1000円家賃が高いことが判明。川を越えればどこでも家賃が下がる、というわけではないのだ。

もちろん都心までの距離、移動時間やそれに伴う交通費は川を越えた方が遠くなるが、
無理に東京にこだわらなくても、街の雰囲気や家賃相場によっては、「東京」のとなり街を選ぶのもありだと思う。

●調査概要
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米~40平米 、定期借家のぞく 、住戸名寄せあり、管理費込み、ワンルーム/1K/1DK、築35年以下、物件数11件以上
【調査期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を除く⽉額賃料から中央値を算出(随時更新のため、物件数は変動の可能性があります)
【乗車時間の算出方法】『Yahoo!乗換案内』を使用。2018年6月20日時点で「2018年7月2日(月)8:30までに都心駅に到着」を指定し検索した結果。(列車種別ごとに乗車時間は算出していません)

別府温泉&NY、別府温泉&東京、二地域で暮らし働く魅力とは? 2人のフリーランスに聞いてみた

別府駅を降り立つと、そこにたなびくのはいく筋の湯けむり。
観光名所として知られるこの場所を、第二の生活の拠点として選ぶ人がいるという。今回、別府&NY、別府&東京に暮らす2人に話を伺うことができた。彼女たちはなぜ二地域居住の拠点として、あえて温泉地・別府を選んだのだろうか? 二拠点生活は、定住よりどんなメリットを公私ともにもたらすのだろうか? その魅力などを伺った。

別府&NY。移動距離1万1130Kmのデュアルライフ

ヤノユウコさんは現在、NYと大分県・別府を行き来して仕事を回している。パタンナーという仕事で独立して10年。昨年からNYと行き来を始め、その移動距離は片道約1万1130Kmにも及ぶ。「日本の精密なパターンが海外の方では需要があるみたい」と肌で実感したヤノさんは今後も海外に目を向けて仕事の幅を広げていこうと目論み中だ。

別府とNYを行き来するヤノさん。別府では主にパタンナーとしてCADデータでデザインを描き起こしている(写真撮影/フルカワカイ)

別府とNYを行き来するヤノさん。別府では主にパタンナーとしてCADデータでデザインを描き起こしている(写真撮影/フルカワカイ)

服づくりを学びたいと宮崎から上京して、都内のファッション専門学校に通学したのち、大手のアパレルブランドにパタンナーとして就職。当時、ファストファッションの先駆けブランドとして人気を集めていたときに唯一新卒枠で配属され、他の人から見ても羨むような、まさに時代の先端の部署で働くチャンスを得たのだった。

しかし、ファストファッションは通常よりも販売サイクルが早かった。「大量生産、大量廃棄」という方向性と自分の洋服づくりに対しての考えに違いを感じ、良好な職場環境よりも自分の服づくりと生き方を見直そうと2年半で退職。その後、パタンナーとして複数の国内ブランドで修行を積んだのちフリーランスとして独立する。フリーランスは場所や時間にとらわれず、自分のイメージした生活ができる。そう思って選んだ道だったが、いざ独立してみると全然違った現実がヤノさんを待ち受けていた。

仕事を失う怖さよりも、自分を消費されるほうが怖かった

独立当初は都内に通える辻堂(神奈川県)に生活拠点をおき、プライベートでは趣味のサーフィンなどに時間を費やしていた。しかし公私ともにバランスが取れていた時期は短く、あっという間に仕事が増え、自宅作業で一日中引きこもるような生活が続いた。

「パタンナーの単価が低いものも多く、量をこなさないといけなかったんですね。また都内に気軽にいけるので頻繁に打ち合わせに行ってましたが、それでも往復で3時間はかかってしまい、いつの間にか仕事だけの生活になってしまいました」

辻堂の後は、鎌倉の古民家で海から徒歩1分の立地に住んでいたヤノさん。一見、充実した暮らしを過ごしているような気もヤノさん自身していたが、当初イメージしていたフリーランスとしての働き方と目の前の現実は全く違っていた。「ファストファッションのように自分や自分がつくった洋服が消費されていくのは違う」。その原点の思いや東日本大震災をきっかけに、九州移住を考え始めたヤノさん。友人の紹介をつてに、1年ほど九州各地を見回った結果、思い切って別府を拠点にすることを選んだという。

「窓から見える湯けむりが毎日の気温や湿度によって違うので見ていて飽きないんです」と語るヤノさん(写真撮影/フルカワカイ)

「窓から見える湯けむりが毎日の気温や湿度によって違うので見ていて飽きないんです」と語るヤノさん(写真撮影/フルカワカイ)

温泉=早めの体力回復に。また観光地はクリエイターにとっては刺激の場に

「もともと多拠点をするつもりで移住先を選んだのですが、別府は友人の勧めもあり、温泉地のなかでもずば抜けて景観もよく人もオープンでいながら個性的で面白く優しい人が多いのが最大の魅力でした。多忙であっても温泉があれば心身の回復が早い。また源泉も豊富なので、さまざまなお湯を日替わりで楽しめるのがいいですね。別府は国際観光地なので、人が多国籍かつ流動的なんですよね。平日と週末でも歩いている人の年齢層も家族構成も全く違う。多くは県外から訪問してくるので、外部からの情報も入ってきやすいです。わりと一定の場所にいるようで、日々違った風景や人間関係が別府にはあるので新鮮な気持ちで日常を過ごしています」とヤノさん。当初心配していた仕事の量は、減らした分、自分の好きなやりかたで作業ができているという。

「別府に拠点を変えた分、都会で過ごす時間も貴重になりました。都会ではインプット、別府ではアウトプットと自然にスイッチが切り替わるようになり作業の質も効率も格段に上がりました。また拠点が離れていることで周囲のクライアントがスケジュールを調整してくれるようになったんですね。スケジュールに余裕がある仕事だけを相談してくれるようになった分、自分のやりたいことに時間を割けるようになれたので、オーダー服のデザインや製作、裁縫ワークショップの開催が定期的にできるようになったんです」

ワークショップのときの様子(写真提供/ヤノユウコ)

ワークショップのときの様子(写真提供/ヤノユウコ)

多拠点生活は「失敗はつきもの」と思えば怖くない

「今は別府を拠点としてNYには2カ月、そのほか不定期で東南アジアや東京へとあちこち行ってますが、別府以外の滞在は友人宅やAirbnb、ゲストハウスなど。移動はLCCを使えば生活コストは私の場合はそこまで甚大ではないです。別府は共同浴場が月1000円前後で利用でき、湧き水を汲む場所もあるので光熱費が安い。また飲食も観光地価格ではなく住民価格で利用できるお店がたくさんあるので他の温泉地よりも単価が安く済むんじゃないでしょうか。私は、人生において“後悔しないほう”と“どうなるか分からないほう”を選択する、ということだけは心がけてきました。30代後半での移住はもちろん不安になることもありましたが、もともと場所によってルールは違うもの、失敗はつきものと思えば、意外とあとから楽しめることが自然とついてきます」

そう語るヤノさんは今後、裁縫ワークショップを通じて知り合った地元の人たちとチームとなり、国内外で依頼された仕事を回していき、大分の雇用創出をしていくことが目標とのこと。消費されないものづくりの楽しさを大分に根付かせていきたい。そんな思いで今後はNYだけにとどまらずタイや発展途上国にも目を向け活動をスタートさせている。

二拠点居住者を中心とした交流会。別府では定期的に移住者交流会が開催されお互いの情報交換の場になっている(写真撮影/フルカワカイ)

二拠点居住者を中心とした交流会。別府では定期的に移住者交流会が開催されお互いの情報交換の場になっている(写真撮影/フルカワカイ)

東京&別府。自分の仕事の価値を見直す生活スタイル

別府駅前にある老舗映画館「別府ブルーバード劇場」で働く森田真帆(もりた・まほ)さん(37歳)は、東京では映画ライター、別府では映画の番組編成を担当している。居住場所により職業も変えている、珍しいパターンでの勤務だ。また私生活ではシングルマザーとして17歳の子とともに実家で暮らしつつ、別府との二拠点居住を実現させている。

森田さんは映画ライターのかたわら、映画館の上映番組の企画編成、およびイベント企画立案で映画監督や俳優陣のキャスティング、当日の司会進行、アテンドまで行っている(写真撮影/フルカワカイ)

森田さんは映画ライターのかたわら、映画館の上映番組の企画編成、およびイベント企画立案で映画監督や俳優陣のキャスティング、当日の司会進行、アテンドまで行っている(写真撮影/フルカワカイ)

もともと東京の杉並区出身の森田さん。現在は自分で企画した映画イベントごとに別府を行き来。大体1カ月に1週間位の滞在だが、多いときは月の半分は別府で過ごしている。別府はもとより九州にも地縁がないなかでこの生活を選んだのは、何より映画館の「ブルーバード」に心底惚れ込んだからだ。

大学時代から映画業界に興味をもち、大学を中退してハリウッドへ留学。現地で出会ったアメリカ人との間に子どもを授かり帰国。アメリカ在住時その当時から映画コラムを担当していた会社の編集部に就職。シングルマザーとして、子育てに毎日追われながら、海外の映画祭取材や、俳優、監督のインタビュー記事を書く日々が続いた。あまりに忙しい生活が続き、世界がだんだんとモノクロと化していくことを感じた森田さん。体調を崩し、失意の中にいたときに別府在住の親友に会いに行ったのが居住のきっかけとなった。

もともと移住希望ゼロだった森田さん。この映画館の外観に魅せられて人生が一変した(写真提供/森田真帆)

もともと移住希望ゼロだった森田さん。この映画館の外観に魅せられて人生が一変した(写真提供/森田真帆)

映画の専門家だったのに、初めての体験をしたのがこの映画館だった

「滞在中にふらりと寄ったのがこのブルーバード劇場でした。まず外観に惹かれてふらふらと中に入りました。階段を昇るとまるで昭和の時代の映画館にタイムスリップしたような劇場が目の前に広がっていて、すごく懐かしい匂いがしました。当時の私は、狭い試写室で映画を観ることが日常になっていたけれど、そのとき、母親と一緒にワクワクしながら観た映画体験を思い出したんです。その日は、お客さんが誰もいなくて、映画館でたった一人、自分ひとりだけ席につき、映画を鑑賞しました。映画が始まると、あの空間の中で映画の世界に没頭できて、ただただ胸を打たれて涙が止まらなかった。もう一度、心から映画が面白いと思えたんです」と森田さん。そして、映画館の館長である岡村照さんに会ったのが二拠点居住のきっかけとなった。「そもそも映画が始まる前、照館長がお煎餅をくれて(笑)。今の映画館は音を出さない!とか、喋らないとか、いろんな決まりごとの映像が予告編の前に流れる場所まであるのに、お煎餅って(笑)。おかしくてクスクス笑っちゃってましたね」

「この映画館に出会うまで、いつの間にか映画は『個』で観るものになっていました。試写室でも、都会の映画館でも『一人』で観て『一人』で帰る。それが当然だと思ってたんですが、帰りに照館長に「この映画面白かったやろ」って話しかけられて、おしゃべりしているうちにいつの間にか『一人ぼっち』という感覚が消えていた。その感覚が忘れられなくて、多くの人と一つの映画を見ることで生まれる映画体験の素晴らしさ、この映画館の良さをなんとか広めたいと、知り合いの映画監督や俳優にお願いしてイベントを定期的に開催しています」

映画館で俳優・青柳尊哉さんとのトークショーの様子。お互いにスニーカーでラフなスタイルでやるのが別府ブルーバード劇場流(写真提供/森田真帆)

映画館で俳優・青柳尊哉さんとのトークショーの様子。お互いにスニーカーでラフなスタイルでやるのが別府ブルーバード劇場流(写真提供/森田真帆)

別府で学んだのは、自分の仕事の価値と人との向き合い方

二拠点居住で仕事内容も異なるとなると一見とても忙しいように見えるが、森田さんにとってはむしろライターの仕事に良い変化があったという。「映画館で働くと、映画を観た直後のお客様の素直な感想が聞けるようになったので、観客の顔を想像しながら、どう作品の魅力を伝えるかをより具体的に文章に落とし込めるようになったんですね。どんな情報をお客様は求めているか、想像するよりははるかにクリアになりました」

また、別府は公衆浴場で24時間温泉に入れるところもあるので、どんなに遅い時間に仕事を終えても疲れを癒やすことができる。またまちが狭いのでみんなが「ひとつのまち」にいる感覚がある。都会は匿名性が高いですが、別府はその逆。だからこそ皆が腹を割って付き合える感覚が心地いいし、移動も都内よりはすぐできるので便利です。監督や役者の方々も、イベントが終わった後に美味しいご飯を食べて温泉に入ると取材だけでは見えなかった、その方自身の魅力をもっと知ることができるようになる。

公私を場所によって分けられ、自分にしかできない仕事ができる

都会との二拠点で一番ネックになるのが移動時間と生活コストだが、森田さんはそれ以上のメリットがあると強く語ってくれた。「別府は大分空港から1時間くらいですが実際移動するとそこまで大変な距離ではないです。むしろスイッチの切り替えをするにはフライトの時間を含めてちょうどいい感じ。それがないと都会とのスピード調整ができないですね。生活コストはLCCを使ったり、リサイクルショップで家具を購入したりするとそこまでかからなかった。食費も。別府にいるとおばちゃんたちがどんどん美味しいものを持ってきてくれるんで、毎回お金を使わず太って帰るくらいです(笑)。

それよりも、自分だけにしかできない仕事を実現していくことが何より人生を豊かにすると確実に言えます。なので、年々忙しくなりますがブルーバードに関わりたい気持ちは3年前よりも増しています」

温泉地という場所を選ぶことにより多拠点生活をする上でデメリットとなる移動疲れがクリアになり、湯けむりというどこにでもない風景を目の前にすることによって仕事の切り替えができる。また観光地の割に生活コストが高くないことが別府の魅力なのだと感じる。

「副業・複業」が注目されるなか、今回取材したお二人のようなフリーランス生活に興味をもつ方もいるかもしれません。1つの地域に限らず、二拠点、三拠点と複数の地域で暮らしたり、仕事したりする生き方も以前よりは増えてきているようです。自分は仕事に、生活のなかで最も大事にしたいものは何か。もし現状抱えている問題があれば生活スタイルの変化で打破できる可能性はないか。あらためて自分の働き方と生活スタイルについて見直しをしても良い時期がきているのかもしれません。

関西住みたい沿線3位の「JR東海道本線」、家賃相場が安い駅トップ20を発表!【沿線調査 関西版】

リクルート住まいカンパニーでは、関西(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」を発表した。住みたい沿線ランキングで3位になったのは、JR東海道本線。1位の阪急神戸線、2位の大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)御堂筋線に続き、その特徴や、駅周辺情報を調査してみた。
自然豊かな環境で子育てしつつ、都市圏へ通勤……地に足の着いたJR東海道本線

東京駅から兵庫県の神戸駅まで結ぶJRの東海道本線は、東日本旅客鉄道(JR東日本)、東海旅客鉄道(JR東海)、西日本旅客鉄道(JR西日本)の3社が管轄する長い路線。JR西日本の区間は米原駅から神戸駅までで、沿線はそれぞれ米原駅から京都駅間がJR琵琶湖線、京都駅から大阪駅までがJR京都線、大阪駅から神戸駅間がJR神戸線の愛称で親しまれている。

快速や新快速などの特急列車が数多く設定されているため、地理的には少し距離があるように感じられる駅でも、大阪市を中心とする関西の都市部への通勤圏内。特にJR琵琶湖線の沿線は田園地帯が多いが、自然豊かな環境でゆったりとした子育てを行えるためか、住みたい沿線ランキングでJR東海道本線を選んだ回答者は30代と40代の割合が大きかった。強固なブランドイメージの阪急神戸線や、交通利便性が突出した地下鉄御堂筋線と比べると、日常生活により密接した、地に足の着いた人気といえるかもしれない。

●JR東海道本線・家賃相場が安い駅ランキング(TOP20)
順位/駅名/家賃相場(中央値 賃料_管理費込)/所在地
1位 河瀬 4.0万円(滋賀県彦根市)
2位 JR総持寺 4.2万円(大阪府茨木市)
3位 南彦根 4.3万円(滋賀県彦根市)
4位 瀬田 4.4万円(滋賀県大津市)
4位 稲枝 4.4万円(滋賀県彦根市)
6位 篠原 4.5万円(滋賀県近江八幡市)
7位 山崎 4.6万円(京都府乙訓郡大山崎町)
8位 栗東 4.7万円(滋賀県栗東市)
8位 能登川 4.7万円(滋賀県東近江市)
10位 向日町 4.8万円(京都府向日市)
11位 米原 4.9万円(滋賀県米原市)
11位 彦根 4.9万円(滋賀県彦根市)
11位 石山 4.9万円(滋賀県大津市)
11位 膳所 4.9万円(滋賀県大津市)
15位 千里丘 5.0万円(大阪府摂津市)
15位 岸辺 5.0万円(大阪府吹田市)
17位 草津 5.2万円(滋賀県草津市)
17位 摂津富田 5.2万円(大阪府高槻市)
17位 長岡京 5.2万円(京都府長岡京市)
20位 大津 5.3万円(滋賀県大津市)
20位 山科 5.3万円(京都府京都市)
20位 摂津本山 5.3万円(兵庫県神戸市)
20位 甲子園口 5.3万円(兵庫県西宮市)

上位には琵琶湖線の駅が多くランクイン。滋賀県民の住みたい街1位の草津市の人気の理由とは

家賃相場は都市から離れるほど低くなるため、上位20位のピックアップでは、大半を琵琶湖線の駅が占めた。

滋賀県民が選ぶ「住みたい自治体ランキング」でトップになった「草津市」の玄関口、草津駅は、JR京都線の摂津富田と同率で17位。草津駅は新快速の停車駅で、大阪駅まで1時間以内、京都駅まで30分以内で直通と、乗り換えの手間なく都市部まで移動できる交通の便の良さが魅力だ。三重県方面からくるJR草津線の終点駅でもある。

百貨店や商業施設などの充実ぶりが滋賀県のなかで屈指であるのが、草津市の人気の大きな理由だ。駅前などではタワーマンションも増えているが、少し歩けば一戸建ての住宅地が広がる。便利だけれど都会過ぎないほどよさも、人々を惹きつける理由なのだろう。滋賀県は日常の足は車が一般的だが、草津市には新名神高速道路の草津田上インターチェンジがある。小さな子どもがいるファミリー世帯にとっては、行楽での車移動の利用しやすさはうれしいところだ。

草津駅前ロータリー(写真/PIXTA)

草津駅前ロータリー(写真/PIXTA)

また、滋賀県は冬になると、降雪で新幹線が県内で止まるというニュースを耳にすることがあるが、草津市は南に位置するため、北部に比べると雪が比較的少ない。一年のうちの数カ月のこととはいえ、住む上では大いに利点といえるだろう。

滋賀県の県庁所在地である大津市の代表駅、大津駅は20位。商業施設のほか、大津地方裁判所や滋賀県警察本部などの行政施設が集中しており、京都や大阪への所要時間は草津よりさらに短い。名神高速の大津インターチェンジのそばであり、草津同様に車でのお出かけが便利だ。また、やはり同じく県南部に位置するため、雪の不安も軽減される。

大津市は大津駅以外にも、瀬田駅、石山駅、膳所(ぜぜ)駅と計4駅が上位20位入りしている。県庁所在地という都市部でありながら、大津市は自然が豊かに残っており、市内には世界文化遺産の比叡山延暦寺などの文化財や風光明媚(めいび)な観光地が数多い。

前述の4駅のうち、新快速が停車するのは大津駅と石山駅だ。新快速は利用できないとはいえ瀬田駅は、日本三名橋のひとつである瀬田の唐橋があり、古い民家が並ぶ街並みがどこかホッとさせるたたずまいで、膳所駅は進学校である滋賀大学教育学部附属中学校の最寄駅。電車の利用は少し不自由になるが、知識欲の探求や子どもの教育に、あえて選んでみても、楽しい生活が送れそうだ。

大阪駅から30分で、自然豊かな名水の里「山崎駅」

7位の山崎駅はJR京都線。大阪までは快速を利用すれば直通で約30分、京都までは約15分で到着する。サントリーの山崎蒸溜所があることで知られており、良質な湧き水に恵まれた地域で、かつては水道水にも井戸水が使われていたほど。

山崎蒸溜所(写真/PIXTA)

山崎蒸溜所(写真/PIXTA)

水資源の質から分かるように、都市部へのアクセスの良さからは意外なほどの豊かな自然が残る静かな環境は、都市部での通勤や通学と、豊かな住空間を両立させうるといえそう。とはいえ、日常生活では車は必須になることは注意が必要かもしれない。

居住地を決めるとき、交通アクセスの良さは大切な要素だ。目的地への乗車時間は短いに越したことはないが、家は、充実した生活の拠点となるべきもの。予算や家族の事情によっては、少し郊外へと目を向けてみたら、乗車時間の長短よりも、もっと大きな物を得られるかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】JR東海道本線の柏原駅~神戸駅(関西圏にある駅)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、広さ10~40平米以内、築年数40年以内、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ算出期間】2018年1⽉1⽇~2018年3⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

【ファミリー編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

住まい選びをする際、立地は重要なポイントのひとつ。そこで、都内屈指のターミナル駅・新宿駅まで30分圏内という交通の利便性がいいエリアにある、中古マンションの価格相場を調査! これまで2回にわたってシングル編、DINKS編を紹介してきたが、第3弾となる今回は駅徒歩15分圏内にある、専有面積70平米以上~100平米未満の物件を対象にした、ファミリー向けの中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介する。●ファミリー向け 新宿駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新宿駅までの所要時間)
1位 読売ランド前 2580万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/27分)
2位 与野本町 2680万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/29分)
3位 百合ヶ丘 2690万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/29分)
4位 京王稲田堤 2800万円(京王相模原線/神奈川県川崎市/25分)
5位 生田 2880万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/25分)
6位 稲城 2980万円(京王相模原線/東京都稲城市/29分)
7位 北戸田 2985万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/25分)
8位 日野 3080万円(JR中央線/東京都日野市/30分)
8位 蕨 3080万円(JR京浜東北線/埼玉県蕨市/25分)
10位 戸田 3190万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/23分)

DINKS編と合わせて見ると2人以上の世帯必見のエリアが明らかに

最も価格相場が安かったのは、小田急小田原線・読売ランド前駅。専有面積40平米以上~70平米未満の物件を対象に物件相場を調査した前回の「DINKS編」調査でも1位になっており、今回の結果も考え合わせると専有面積40平米以上~100平米未満の価格相場が安い物件を探すなら、まず読売ランド前駅はチェックしたほうがよさそうだ。

2位のJR埼京線・与野本町(よのほんまち)駅は、「DINKS編」では3位にランクインしていた。駅に直結してドラッグストアやスーパーなどが並ぶ「ビーンズ与野本町」が備わり、駅周辺には住宅街が広がっている。駅の1.5kmほど北東側にさいたま新都心駅が、また与野本町駅からJR埼京線に乗り2駅で大宮駅があり、そちらのほうへ行くと商業施設はより充実している。

与野本町駅(写真/PIXTA)

与野本町駅(写真/PIXTA)

1位と2位以外にも、「DINKS編」トップ10にランクインした駅がある。それは4位の京王相模原線・稲田堤駅(DINKS編は2位)、5位の小田急小田原線・生田駅(同5位)、7位のJR埼京線・北戸田駅(同4位)、10位のJR埼京線・戸田駅(同6位)。これらのエリアは、2人暮らし以上の世帯が新宿駅まで30分圏内で住まい探しをする際は要チェックだ。

駅前だけでなく隣接駅など周辺環境も暮らすうえでは要チェック

3位は小田急小田原線・百合ヶ丘駅。1駅新宿寄りには1位の読売ランド前駅、小田原方面に1駅進むと快速急行が停まる新百合ヶ丘駅がある。お隣の新百合ヶ丘駅のほうが住宅地として人気があり駅前も発展しているが、物件相場は4390万円と百合ヶ丘駅の1.6倍超! 一方で百合ヶ丘駅の周辺も生活に必要な施設はそろっているし、必要に応じて新百合ヶ丘駅にもすぐ行ける。物件相場を考えると、新百合ヶ丘駅よりも百合ヶ丘駅のほうが穴場といえるかもしれない。

新百合ヶ丘駅前(写真/PIXTA)

新百合ヶ丘駅前(写真/PIXTA)

8位になると3000万円台に突入する。8位は物件相場が同額の3080万円だったJR中央線・日野駅とJR京浜東北線・蕨(わらび)駅。両駅ともに駅前にはスーパーやドラッグストア、飲食店などの商業施設が充実し、日常の買い物に困らない環境。また、日野駅からJR中央線で高尾方面へ行った1駅目の豊田駅前には「イオンモール多摩平の森」が、蕨駅からバスで10分弱の場所には「イオンモール川口前川」がある。どちらも100店舗以上が入っており、こうした大型ショッピングモールがあるのは都心部とは違った魅力だろう。

さて、3回にわたって新宿駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場が安い駅ランキングをお届けしてきた。ランキングを振り返ると新宿までのアクセスを重視しつつお得な中古マンションを探すなら、シングル向けは1000万円台後半、DINKS向けは1900万円台~2300万円台、ファミリー向けは2500万円台~3000万円台の予算が目安となる様子。この価格帯を大きく上回る物件の場合は、築浅であるとか、新宿にとても近い立地であるなど、それに見合った魅力がある物件なのかをもう一度見直すといいだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積70平米以上100平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2017年3⽉1⽇~2018年2⽉28⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

【DINKS編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

前回に引き続き、都内屈指のターミナル駅・新宿駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場を調査した結果をランキング。今回は駅徒歩15分圏内にある、専有面積40平米以上~70平米未満の物件を対象にした、共働きで子どもがいない世帯「DINKS」向けの中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介する。前回のシングル向け物件のランキングとはトップ10の顔ぶれがガラッと変化。さっそく結果を見ていこう。●DINKS向け 新宿駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新宿駅までの所要時間)
1位 読売ランド前 1980万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/27分)
2位 京王稲田堤 2170万円(京王相模原線/神奈川県川崎市/25分)
3位 与野本町 2180万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/29分)
4位 北戸田 2200万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/25分)
5位 生田 2230万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/25分)
6位 戸田 2280万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/23分)
6位 中浦和 2280万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/30分)
8位 朝霞台 2315万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/25分)
9位 北朝霞 2340万円(JR武蔵野線/埼玉県朝霞市/29分)
10位 花小金井 2365万円(西武新宿線/東京都小平市/28分)

日常生活も休日も充実して過ごせる環境の駅「読売ランド前」が1位に

1位は物件相場が1980万円だった小田急小田原線・読売ランド前駅。名前の通り、駅からバスに約10分乗ると遊園地「よみうりランド」にたどり着く。駅北側にはよみうりランドのほかに日本女子大学のキャンパスが広がり、雑木林に囲まれた「多摩自然遊歩道」など豊かな自然が残されている。また、駅前にスーパーがあるほか、生鮮食品店やハム・ソーセージが評判高い精肉店、地元に愛される洋菓子店などが並ぶ商店街がある。休日のレジャースポットにも日用品の買い出しにも困らない、住みやすそうな街並みだ。

よみうりランド(写真/PIXTA)

よみうりランド(写真/PIXTA)

2位以下は物件相場が2000万円台に突入する。2位の京王相模原線・京王稲田堤駅は物件相場2170万円で、駅の400mほど東にJR南武線・稲田堤駅があり2路線を利用できる。両駅を結ぶ通り沿いに商店街があるほか、2つの駅の周辺には飲食店も点在。駅の北側に進むと多摩川が流れており、川を渡ると東京都調布市という立地だ。

トップ10の駅は立地も路線もバラエティ豊かな顔ぶれ

トップ10の中で新宿駅まで最短で行けるのは、所要時間が約23分という6位のJR埼京線・戸田駅。物件相場は2280万円で、中浦和駅も同額だった。JR埼京線は行き先が複数あり、新木場行きならば池袋駅、新宿駅を経由して渋谷駅や大井町駅にも1本で行くことが可能。戸田駅直結の「ビーンズ戸田」にはスーパーやカフェがあり、駅前にはスーパーや100円ショップ、書店や家電量販店が3フロアにわたって展開する商業ビル「T-FRONTE」も。首都圏のベッドタウンとして親しまれる街だけあって、商業施設の充実ぶりは申し分なさそうだ。

8位の東武東上線・朝霞台駅と9位のJR武蔵野線・北朝霞駅は、駅舎こそ別々だが屋根のある連絡通路で結ばれており、雨の日もぬれずに乗り換えが可能。両駅の駅前広場を囲むように飲食チェーン店があるほか、周辺にはスーパーや銀行も点在している。

朝霞台駅 北口駅前(写真/PIXTA)

朝霞台駅 北口駅前(写真/PIXTA)

さて、トップ10の駅を振り返ってみると、10位・花小金井駅以外は東京都外という結果だった。一方で前回のシングル編では11駅中10駅が東京都内の駅。シングル向けの広さなら都内にも手ごろな物件が豊富にあるが、40平米以上となると東京都以外のエリアに価格面で軍配が上がるようだ。

しかし都外とはいえ新宿駅まで30分圏内なら、通勤・通学の面でも許容範囲といえるだろう。「都民」という点にこだわらず、所要時間を基準に住まい探しの範囲を広げたら、お気に入りの物件に出合えるチャンスも広がりそう。今回のランキングを参考に、中古マンションをチェックしてみてはいかがだろう。

次回は専有面積70平米以上・100平米未満に絞った、ファミリー向けの中古マンションの物件相場ランキングを紹介する。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積40平米以上70平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2017年3⽉1⽇~2018年2⽉28⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

家賃は? 買い物環境は? 小江戸・川越に住む魅力を住人に聞いた

江戸時代からの街並みが色濃く残る「川越」。小江戸と称される粋な風景を求め、県外、そして海外からも観光客が訪れる人気の街だ。旅行雑誌などで特集されることも多いが、その一方で川越の「住環境」についてはあまり語られていないように思う。そこで今回は、川越での暮らしを知り尽くす住人と一緒に街を歩き、その住み心地を調査してみた。
駅前の充実した商業環境

今回、街を案内してくれるのは生まれも育ちも川越という櫻井理恵(さくらい・りえ)さん。大正時代から続く「櫻井印刷所」の社長でありながら、川越のフリーペーパー『kawagoe premium』の編集長も務めている、生粋の川越マスターだ。

川越駅前の商店街「クレアモール」。全長1200mにもおよぶ(写真撮影/小野洋平)

川越駅前の商店街「クレアモール」。全長1200mにもおよぶ(写真撮影/小野洋平)

まず櫻井さんが案内してくれたのは、駅から中心市街地へと続く商店街「クレアモール」。飲食店、アパレル、書店などさまざまな路面店が密集しながらも、百貨店の「丸広」もある。

「いつも学生や若い人を中心ににぎわっているので『川越の竹下通り』といったところですかね。私も幼いころ~学生時代、そして今でもよく遊びに来ます」(櫻井さん、以下同)

さらに、「ルミネ川越」や「アトレ川越」など、駅直結の商業施設もある。

「とにかく川越駅前のショッピング環境は充実していますよ。オシャレなお店が並ぶ、通称『裏川(うらかわ)』(裏原宿ならぬ、裏川越の略)もありますし、反対側の西口にも夜遅くまで営業しているお店が点在しています」

なお、丸広百貨店には昭和レトロな雰囲気が漂う屋上遊園地「わんぱくランド」もある。

昭和43年開園。今では希少な「屋上遊園地」(写真撮影/小野洋平)

昭和43年開園。今では希少な「屋上遊園地」(写真撮影/小野洋平)

カラフルなミニ観覧車、屋上を外周するミニモノレールからは川越の街並みを一望できる。ボールプールなんかもあって、思いのほか本格的なプレイスポットだ。「子どものころはよく連れてきてもらっていました。きっと、みんなの思い出が詰まった遊園地なのでこれからも残り続けてほしいです」と櫻井さん。

昔のデパートにはこういう遊園地がたくさんあったというが、今ではほとんど見ない。屋上を緑化したりオシャレなオープンカフェにしたりするのもいいが、子どもの思い出に残るのはきっとこっちだろう。

老舗専門店が集まる一番街

続いて、クレアモールから「大正浪漫夢通り」を抜け、小江戸の雰囲気が味わえる「一番街」へと歩を進める。

もともと、東京・日本橋と川越が舟運でつながっていたことから江戸の文化が発展した川越。明治、大正、昭和、平成と時代が移り変わっても、一番街の「蔵造りの町並み」は健在だ。

蔵造りが単なる見世物ではなく、現在も人が住んでいるからこそ尊いと語る櫻井さん(写真撮影/小野洋平)

蔵造りが単なる見世物ではなく、現在も人が住んでいるからこそ尊いと語る櫻井さん(写真撮影/小野洋平)

「安くて何でもそろうスーパーとこだわりの専門店、どちらも充実しているのが川越の魅力。住民の多くは、両方をうまく使い分けて賢く買い物していると思います。餅は餅屋じゃないですけど、専門店の品質ってやはり抜群なんですよね。私もよく豆腐屋さんやお米屋さんなどを利用しますが、それほど高くもないのに贅沢(ぜいたく)な気持ちになれるんです」

鰹節などの乾物を販売する中市本店(写真撮影/小野洋平)

鰹節などの乾物を販売する中市本店(写真撮影/小野洋平)

そう言ったそばから、道すがらの乾物店「中市本店」で鰹節を購入する櫻井さん。ちょうど、みそ汁に使っている鰹節が切れていたとのこと。ちなみに鰹節は自ら鉋(かんな)で削っているそうだ。そういう生活の細部を丁寧にこだわることで、暮らしはより楽しくなるに違いない。

「休日になると、一番街には観光客が押し寄せます。だからこそ、平日の買える時に買っておくのが鉄則なんです(笑)」

なお、櫻井さんと世間話をしている店主の落合さんは、一番街商店街組合の理事長を務めている。中市本店は江戸末期から続く老舗乾物店で、店頭で販売している「ねこまんま焼きおにぎり」は、日によっては100人以上並ぶこともあるという人気ぶりだ。

「古くからの住民は、それぞれ『行きつけ』のお店があるんですよね。古い個人商店が多く関係性が濃いからか、うなぎ屋ならココ、饅頭屋ならココ、寿司屋ならココといった昔ながらのお付き合いを大事にしているんでしょうね」

一方で、そんな一番街にも最近は新しい風が吹いている。古い建物の内装をリノベーションしたカフェをはじめ、新たなお店も増えているようだ。

2018年3月にオープンした「スターバックスコーヒー」も、街並みに溶け込む造りとなっている(写真撮影/小野洋平)

2018年3月にオープンした「スターバックスコーヒー」も、街並みに溶け込む造りとなっている(写真撮影/小野洋平)

「“古いものを守りつつ、生活利便性を高める”。言うほど簡単なことではありませんが、川越の街は常に新旧の適正なバランスを探り続けていると思います。例えば、スターバックスなどの新しいお店は、古い街並みに溶け込むような店構えになっています。一方で、町内には『七曲がり』という江戸時代に造られた細い道が残っていて、昔の生活をうかがい知ることができますが、その半面、先が見通せずに事故が起きやすいのも事実です」

近年では、住人の安全な暮らしを優先した道路の拡幅・整備が徐々に始まっているそうだ。

きっと、川越の街並みは今日に至るまでにさまざまな問題を解決し、守られてきたものなのだろう。そう思うと、より一層、蔵の街が尊いものに感じられた。

小江戸・川越の住環境とは?一番街を中心とした一帯は「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている(写真撮影/小野洋平)

一番街を中心とした一帯は「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されている(写真撮影/小野洋平)

櫻井さんによれば、「近年では川越の活気に魅力を感じ、移り住むIターンも多いんです」とのこと。なかには、毎年10月に催される「川越まつり」で練り歩く山車(だし)がある町内に住みたいと、ピンポイントで引越してくる人もいるそうだ。では、市街地の住環境はどうなっているのだろう。

「やはり城下町だった中心市街地には、昔から住まれている方が多いので土地や賃貸物件は少ないですね。それに中心街の古い街並みを守るため、市内の民間団体では『2階建て』や『色指定』などの規範もあるので、新しい住居を建てるのはなかなか難しいと思います。数年前に建売住宅が販売されたこともありましたが、そこはすぐに売れてしまったそうです」

となると、移り住んだ人たちはどこに住むのだろうか。

「駅前には、シングルやファミリーを受け入れるアパートやマンションも多いです。それに、西口や入間川付近などの郊外に行けば一戸建ての住宅街が広がっています」

川越駅前のマンション群(写真撮影/小野洋平)

川越駅前のマンション群(写真撮影/小野洋平)

なお、Iターンだけでなく、結婚や出産を機に川越へUターンする人も増加している実感があるという。

「川越は街中に幼稚園や小学校、公園、病院が点在しているので、子育てには良い環境だと思いますよ」

発達した川越の交通利便性

続いて、交通利便性に目を向けてみよう。

「川越駅」からはJR埼京線・川越線、東武東上線、観光客に人気の一番街に近い「本川越駅」からは西武新宿線の計4路線が使用可能。ちなみに東武鉄道の「TJライナー」に乗れば池袋まで28分で到着でき、西武鉄道の「特急レッドアロー号」に乗れば新宿まで約45分で到着することができる。

さらに、川越駅がある東武東上線は、銀座エリアへ続く有楽町線や横浜方面へ続く副都心線・東急東横線に乗り入れており、申し分ないアクセス条件を誇っている。

「JR埼京線「川越駅」や西武新宿線の「本川越駅」、それと東武東上線・川越駅の隣「川越市駅」は始発駅にもなっているため、平日、都内で仕事をされる方、休日にどこか遠く遊びに行きたい方にとっても魅力的だと思いますよ」

最近の一番街は平日でも観光客でにぎわいを見せる(写真撮影/小野洋平)

最近の一番街は平日でも観光客でにぎわいを見せる(写真撮影/小野洋平)

なお、ファミリーで暮らすのであれば「車は必須」と櫻井さん。

「川越の郊外には大型量販店やレストランも多いですし、川越ICも近いので一家に一台あると便利だと思います。また、駅前のロータリーから出発するバスの本数も豊富です。ただし、休日の市街地は外国人観光客やレンタル着物を着た人が大勢いるので渋滞します。一応裏道もあるのですが道幅が狭く一方通行も多いので、休日、市街地での車・バス移動は避けたほうがいいかもしれません」

ちなみに、川越駅周辺は坂も少なく、自転車を利用する方も多いそうだ。

整備された駅前のバスロータリー(写真撮影/小野洋平)

整備された駅前のバスロータリー(写真撮影/小野洋平)

川越近辺の家賃相場は?

最後に、川越の気になる家賃相場を見てみよう。川越駅の一人暮らし向け賃貸物件の家賃相場は5.7万円。本川越駅の家賃相場は、少し下がって5.5万円だった。言わずもがな、東京に比べて物価や家賃は安いので『ベッドタウン』として好条件である。

というわけで、街歩きで見えてきた川越の特徴をまとめると……

・駅前に多様な商業施設が点在している
・日用品はスーパーで、こだわりの品は専門店で、といった使い分けができる
・蔵造りの建物が残る一番街には、景観に配慮しつつ新しいお店もできている
・駅前にマンション、川越郊外に一戸建てが多く、新規住人のための住環境は整っている
・都心への通勤への足は申し分ないが、川越郊外の大型店舗へ足を延ばすには車が必須

江戸時代から続く渋い街並み。そんなイメージが先行している川越だが、駅周辺は都会的で多様な商業施設が充実していた。また、商店街は観光客のみならず住人の生活をもしっかり支え、ガイドブックでしか知らなかった川越の意外な暮らしやすさが見えてきた。
一方で、地元住人が大切に守ってきた「蔵の街」はやはりとても美しく、“古き良き文化”と“便利で新しいもの”がしっかり両立している印象だ。小江戸の粋な風情、ベッドタウンとしての快適性、両方を享受したい人にとっては最高の街なんじゃないだろうか。

●調査概要
【調査対象駅】川越駅、本川越駅
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、面積10平米~40平米、築年数40年未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2017年12⽉1⽇~2018年2⽉28⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出(家賃20万円以内)●取材協力
・株式会社櫻井印刷所

【シングル編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

住まい探しをするときの条件はさまざまあるが、立地も重要なポイントのひとつ。日々繰り返される通勤・通学や、買い物や遊びに出かける際の利便性は生活の質を大きく左右する。その点、都内屈指のターミナル駅である新宿駅にアクセスしやすい立地なら何かと便利だろう。そこで、新宿駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場を調査。シングル、DINKS、ファミリー、それぞれに適した広さの物件にわけて、価格相場が安い駅トップ10をランキングしてみた。今回は駅徒歩15分圏内にある、専有面積20平米以上~40平米未満の物件を対象にした、シングル向け中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介しよう。

●シングル向け 新宿駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
(順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新宿駅までの所要時間)
1位 大島 1090万円(都営新宿線/東京都江東区/24分)
2位 小竹向原 1480万円(東京メトロ有楽町線ほか/東京都練馬区/17分)
3位 西川口 1485万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/23分)
4位 桜台 1570万円(西武池袋線/東京都練馬区/19分)
5位 練馬 1630万円(西武池袋線ほか/東京都練馬区/17分)
6位 中村橋 1699万円(西武池袋線/東京都練馬区/23分)
7位 中板橋 1719万円(東武東上線/東京都板橋区/19分)
8位 新桜台 1720万円(西武有楽町線/東京都練馬区/19分)
9位 大山 1730万円(東武東上線/東京都板橋区/17分)
10位 江古田 1765万円(西武池袋線/東京都練馬区/18分)
10位 新江古田 1765万円(都営大江戸線/東京都中野区/15分)

1位は1100万円以下! 急行も停車し、新宿まで1本で楽々

最も物件相場が安かったのは、2位に390万円も差をつけて1090万円という結果となった都営新宿線・大島駅。駅の北側はURの団地や小中高校が点在しており、マンションはどちらかというと南側に多く見られる。駅の北側・南側ともにスーパーや商店街があり、下町っぽさが残る落ち着いた住環境だ。新宿駅までの所要時間はランクインした11駅中で最も長い約24分だが、平日10時~16時台、土日祝7時~18時台に走る急行を利用すれば最短約17分で新宿に到着。通勤・通学の時間帯には利用できなくても、休日には急行でサッと新宿駅に出られるのは魅力的だろう。

2位は物件相場が1480万円の小竹向原(こたけむかいはら)駅がランクイン。同駅は東京メトロの有楽町線・副都心線が通っているほか、西武有楽町線の終点駅でもある。東京メトロ有楽町線・副都心線に乗るとわずか3駅で池袋駅に到着。そのまま有楽町線で進むと永田町駅や銀座一丁目駅へ、副都心線なら新宿三丁目駅や渋谷駅、横浜駅へ。池袋駅からJR埼京線に乗り換えれば新宿駅に出ることができ、多方面への交通の便がいい点が大きな魅力だ。

3位はトップ11駅中で唯一、東京都外に位置する埼玉県川口市のJR京浜東北線・西川口駅。駅に直結してショッピングセンター「ビーンズ西川口」があり、肉・魚・青果の専門店や惣菜店、書店などが利用できる。駅周辺には飲食店も豊富なので、「今日は料理したくない……」なんて日も帰宅途中に気軽に外食できるのがうれしいところ。ランクインした駅で唯一のJR線が走る駅でもあり、JR京浜東北線に乗ると1本で東京駅や新橋駅、品川駅、横浜駅にも行くことができる。

西川口駅(写真/PIXTA)

西川口駅(写真/PIXTA)

重視するのは安さ? それともアクセスの良さ? 新宿駅までの早さ重視なら新江古田駅

トップ11駅中で新宿駅までの所要時間が最短だったのは、乗り換えせずに約15分で新宿駅に着く10位の都営大江戸線・新江古田(しんえごた)駅。駅前にはスーパーとドラッグストアがあり、日用品や食料の買物はここで済ませられるだろう。駅から北に約10分歩くと、同じく10位の西武池袋線・江古田(えこだ)駅にたどり着く。池袋駅に出るなら江古田駅から西武池袋線を利用し、新宿駅なら新江古田駅から都営大江戸線……、と行き先に応じて2路線を使い分けてもよさそうだ。

1位と10位では物件相場に675万円もの開きがあった今回のランキング。新宿駅までの所要時間がそれぞれ約17分だった2位・小竹向原駅(物件相場1480万円)、5位・練馬駅(同1630万円)、9位・大山駅(同1730万円)の3駅でも物件相場は異なっており、新宿駅までの所要時間と物件相場が比例するわけではない結果となった。

所要時間が同じなら、とにかく安いほうがいいのか、街の環境を優先するのか、物件自体の質にこだわるのか……。「中古マンション選びは失敗したくない!」と慎重になるあまり、自分なりの判断基準が定まっていないと延々と悩み続けることになりそうだ。物件探しをする前に一度、物件に求める優先順位を決めておくといいかもしれない。

さて、シングル向け情報を紹介した今回に続き、次回はDINKS向けに専有面積40平米以上・70平米未満の中古マンションの物件相場ランキングを紹介したい。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積20平米以上40平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2017年3⽉1⽇~2018年2⽉28⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

住みたい沿線2位の「御堂筋線」を調査! 全20駅の家賃相場や特徴は?【沿線調査 関西版】

リクルート住まいカンパニーでは、関西(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」を発表した。住みたい沿線ランキングで2位になったのは、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)御堂筋線。1位の阪急神戸線に続き、その特徴や、駅周辺情報を調査してみた。
大阪の繁華街を総ナメ、実は穴場の駅がズラリの地下鉄御堂筋線

今年の4月に民営化され、大阪市営地下鉄から大阪メトロとなった地下鉄御堂筋線は、吹田市の江坂駅から堺市のなかもず駅までを通る路線。大阪市の二大ターミナルである梅田駅となんば駅や、新幹線の停車する新大阪駅、大阪市役所や大阪地方裁判所など行政機関の集中する淀屋橋駅など、大阪市の主要な繁華街のほとんどをほぼ直線的に結ぶ大阪の主要幹線だ。

江坂駅からは北大阪急行線と直通運転をしているが、梅田駅では阪急電鉄と阪神電鉄、淀屋橋駅で京阪電鉄、なんば駅で南海電鉄と近畿日本鉄道(大阪難波駅)など、関西の主な私鉄の本線や幹線と連絡。交通利便性の突出した路線だが、繁華街の印象が強いだけに、「住む」というイメージがわきづらい沿線でもある。しかし、「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」の「穴場だと思う街(駅)ランキング」では、東三国、梅田、江坂、天王寺、新大阪、中津、あびこと最多の7駅がランクインしており、住んでみることも十分検討可能な沿線であるといえそうだ。

●御堂筋線・家賃相場が安い駅ランキング

順位/駅名/家賃相場(中央値 賃料_管理費込)/所在地
1位 長居 5.0万円(大阪市住吉区)
1位 動物園前 5.0万円(大阪市西成区)
3位 西田辺 5.1万円(大阪市阿倍野区)
4位 あびこ 5.3万円(大阪市住吉区)
5位 新金岡 5.4万円(大阪府堺市)
6位 なかもず 5.5万円(大阪府堺市)
6位 昭和町 5.5万円(大阪市阿倍野区)
8位 北花田 5.6万円(大阪府堺市)
9位 天王寺 6.2万円(大阪市天王寺区)
9位 東三国 6.2万円(大阪市淀川区)
11位 新大阪 6.5万円(大阪市淀川区)
12位 西中島南方 6.6万円(大阪市淀川区)
12位 大国町 6.6万円(大阪市浪速区)
12位 中津 6.6万円(大阪市北区)
15位 なんば 6.7万円(大阪市中央区)
16位 心斎橋 7.0万円(大阪市中央区)
16位 梅田 7.0万円(大阪市北区)
18位 江坂 7.3万円(大阪府吹田市)
19位 本町 7.5万円(大阪市中央区)
20位 淀屋橋 7.6万円(大阪市中央区)

1位の長居は、老若男女の趣味を満足させる街

ランキング1位の長居駅は、梅田駅からは20分強、なんばからは15分弱で到着し、JR阪和線とも接続している駅。駅周辺はややざわつきはあるものの、ごく一般的な住宅街といった風情だ。

そんな長居のいちばんの魅力は、長居公園の最寄駅であることだろう。プロサッカーチーム「セレッソ大阪」のホームスタジアムであるヤンマースタジアム長居や、大阪市立自然史博物館などがある総合公園で、休日ともなれば散策やスポーツする親子連れやカップルでにぎわう。

ヤンマースタジアム長居(写真/PIXTA)

ヤンマースタジアム長居(写真/PIXTA)

低年齢の子どもがいる家庭にとって、近所に大きな公園があることはそれだけでもポイントが高いものだが、特に大阪市立自然史博物館は、自分で動物をはく製にする「なにわホネホネ団」などユニークな活動を行っている複数の団体が拠点を置いており、子どもに個性的な教育を行いたい親にとっては気になるところ。年齢を問わず、幅広い趣味のひとたちを満足させる街といえるかもしれない。

15位のなんば駅は、住みたい街(駅)ランキングでも20代と30代で3位、40代で8位に入っている。「ミナミ」の愛称で知られるなんばは、吉本新喜劇が行われる「なんばグランド花月」や道頓堀、心斎橋筋商店街など大阪らしいにぎやかなイメージと観光地的な遊び場のあふれる街だ。

高島屋などの百貨店や複合施設「なんばパークス」など、買い物の便利さも抜群だが、やはり遊びに行く場所というイメージは強いかもしれない。だが駅から少し外れれば、マンションが立ち並ぶ、落ち着いた住宅街が広がっている。また「大阪でいちばんおしゃれなエリア」といわれる堀江地域は、なんば駅の圏内。オトナも楽しめるカフェや雑貨店も多く、遊びを満喫したい若者だけでなくファミリー層も満足して住めるだろう。

実は穴場、再開発が進む天王寺の魅力はあべのハルカスだけじゃない

9位の天王寺は、穴場だと思う街(駅)ランキングで8位に入っている。地下鉄谷町線や近鉄南大阪線の大阪阿部野橋駅と接続するほか、JR天王寺駅は関西空港方面へ向かう路線が通るターミナル駅でもある。近年は日本一高いビルで知られる商業施設「あべのハルカス」の開業が注目を集めているが、大規模施設の間にひっそりと昔ながらの飲食店もみかけることができ、どこか下町情緒も残る。

天王寺駅前(写真/PIXTA)

天王寺駅前(写真/PIXTA)

天王寺周辺は1970年代から再開発事業が進められており、2018年3月に事業が完了。かつて老朽住宅が密集していた地域が整備され、住宅戸数が増加した。また、大阪星光学院や四天王寺学園など、関西屈指の進学校である中高一貫校の最寄駅でもあることも、学齢期の子どもがいる家庭にとっては魅力だろう。

11位の新大阪駅は、同じく穴場だと思う街(駅)ランキングで13位。新幹線の停車駅だけに、駅のすぐ近くはホテルやオフィスビルなどが目立つが、御堂筋線沿線で調査条件に該当する物件数がいちばん多いのは、実は新大阪駅だ(2017年11⽉~2018年1⽉時点)。駅から10分ほど歩くと住宅街。駐車場完備で24時まで営業しているスーパーや、ホームセンターも、駅から徒歩10~15分ほどの場所にあり、日常の生活に不自由することはないだろう。

交通の利便性は、高いに越したことはない。穴場、というと「地味だけど実は……」という沿線を想像してしまうものだが、物でもお店でも、最も利用するものにこそ気づかない一面がある、というのは普遍的なもの。路線も同様だ。自分のライフスタイルに沿って探してみたら、最高に便利な“穴場”の部屋も、見つかるかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】御堂筋線の駅
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、広さ10~40平米以内、築年数40年以内、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ算出期間】2017年11⽉1⽇~2018年1⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

生まれ変わった「映画のまち」調布を住民の方と一緒に散策してみた

東京都心部と、自然豊かな高尾・多摩エリアの中間あたりに位置する調布。市内に映画・映像関連企業が多いことから「映画のまち」として栄え、かつては「東洋のハリウッド」とまで言われた街だ。近年は京王線調布駅の地下化、駅前広場の拡充などの再開発が進むが、街の変化は住環境にどのような影響をもたらしたのだろうか。変わりつつある「調布」の街を調査すべく、住民の方と一緒に歩いてみた。
2017年誕生の駅ビル「トリエ京王調布」

今回、街を案内してくれるのは調布在住歴18年の坪沼大輔(つぼぬま・だいすけ)さん。映画やドラマの撮影に携わる仕事をしており、「映画のまち」の案内人にはうってつけのお方だ。ちなみに好きな映画は『ニュー・シネマ・パラダイス』。

トリエ京王調布B館のビックカメラ(写真撮影/小野洋平)

トリエ京王調布B館のビックカメラ(写真撮影/小野洋平)

坪沼さんがまず案内してくれたのは、2017年に誕生した駅ビル「トリエ京王調布」(以下トリエ)。かつて地上にあった調布駅舎の跡地に位置し、ショッピングセンターのA館、家電量販店のB館、映画館のC館の3つから構成されている。

トリエ京王調布C館の映画フロア(写真撮影/小野洋平)

トリエ京王調布C館の映画フロア(写真撮影/小野洋平)

なかでも注目すべきは、「シアタス調布」。「映画のまち」に6年ぶりに誕生したシネコンだ。動きや香り、光などの演出効果が人気の「4DXデジタルシアター」や東日本では初となる立体音響テクノロジー「GDC featuring dts-X」を採用しており、これには映画好きの坪沼さんも歓喜したそうだ。

ちなみに4月13日からは、往年の名画を1年間にわたって連続上映するイベント「午前十時の映画祭」がシアタス調布でも始まり、最新のスクリーンで『タイタニック』や黒澤明監督作品などが楽しめる。

「往年の名作映画を最新の設備で見られるのはうれしいです。個人的には早く『七人の侍』をスクリーンで見たいですね」(坪沼さん、以下同)

充実度を増した調布駅前

新たな駅ビルの誕生は、市民の生活利便性も大きく向上させたという。

トリエA館に入る成城石井(写真撮影/小野洋平)

トリエA館に入る成城石井(写真撮影/小野洋平)

「駅前に来れば、そろわないものはないと思います。以前から駅前にはPARCOをはじめ、西友や東急ストアがありましたが、今回駅ビルの中に『成城石井』が登場し、グローサラント(※)も展開されているんです」

(※)グローサラント:食品販売店の「グローサリー」と「レストラン」を合わせた造語。店で売っている食材をその場で調理した料理を、飲食スペースで楽しむことができる。

トリエC館の横にある「てつみち」。オープンテラスの憩いの空間となっている(写真撮影/小野洋平)

トリエC館の横にある「てつみち」。オープンテラスの憩いの空間となっている(写真撮影/小野洋平)

また、最近では駅前に、子育て世代に向けた公園や保育園などの施設も徐々に増えてきているという。

「市役所や大病院なども駅から徒歩圏内ですし、生活の充実度はかなり増したと思います」

調布市民待望のとんかつ屋も復活行きつけの飲み屋が並ぶ北口(写真撮影/小野洋平)

行きつけの飲み屋が並ぶ北口(写真撮影/小野洋平)

一方、老舗店が並ぶ「天神通り商店街」や飲み屋がひしめく「調布百店街」など、昔ながらの街並みも健在だ。

「この先には調布市民ならば、知らない人はいない『とんかつ屋』があるんです」と、坪沼さんが案内してくれたのは、駅北口から徒歩5分のところにある「かつ元」。

調布駅から徒歩5分(写真撮影/小野洋平)

調布駅から徒歩5分(写真撮影/小野洋平)

創業は1976年。調布駅の隣駅「布田駅」で35年間営業を続け、土地区画整理のため、2012年に調布市国領へ移転。その後、オーナーの体力的な理由もあり一時は閉店したが、この味を受け継ぎたいという弟子の熱意により復活。2015年、ふたたび布田に店を構えることになったそうだ。

自慢のロースかつ定食。肉は岩手県産の「岩中豚」を使用している(写真撮影:小野洋平)

自慢のロースかつ定食。肉は岩手県産の「岩中豚」を使用している(写真撮影:小野洋平)

坪沼さんも昔からの常連の1人。「働き始めたころはお金がなくてなかなか食べられなかったけど、今では自分へのご褒美として食べに来ています」と、顔をほころばせる。

映画館に加え、長年愛され続けた名店まで復活し、昔ながらの住民も大いに喜んでいるようだ。

駅から多摩川に続く、住宅街や撮影所

食事の後は、散歩がてら調布駅南側を流れる「多摩川」を目指すことに。

大映製作の特撮時代劇映画「大魔神」がお出迎え(写真撮影/小野洋平)

大映製作の特撮時代劇映画「大魔神」がお出迎え(写真撮影/小野洋平)

途中、「日活調布撮影所」や「角川大映スタジオ」など、今も映画を制作する現役の撮影所を発見。

「もともとは日本映画株式会社が調布に『多摩川撮影所』を設立したことが『映画のまち』と呼ばれるようになったゆえんなんです。今でも東京現像所や美術、特機(撮影の機材)を扱う映像関連の企業は残っています」

多摩川沿いの住宅街(写真撮影/小野洋平)

多摩川沿いの住宅街(写真撮影/小野洋平)

さらに歩を進め日活撮影所を越えると、戸建ての住宅街が広がっていた。

「駅前は再開発によってマンションが多く建ち、若年層のファミリーが増えたような気がしますが、品川通りを越えると戸建てが多い印象です」

このあたりの住民は車もしくは自転車を使って駅に向かうそうだ。なお、駅に向かうバスの本数も多いため、生活の足には困ったことがないとのこと。

「調布は自然も多く残っているけど、意外に交通も至便で特急電車に乗れば新宿まで15分、車でも30分ほど。調布ICを使えばさらに早く着きますよ」

山梨・東京・神奈川を流れる多摩川(写真撮影/小野洋平)

山梨・東京・神奈川を流れる多摩川(写真撮影/小野洋平)

調布駅から歩くこと20分、市民の憩いの場、多摩川に到着。花見シーズンとあって平日でも多くの人でにぎわっている。

「私も休みの日には読書をしたり、ランニングをしていますが、用もないのに来てしまうときもあります。そういう方はけっこう多いみたいですよ(笑)。やはり市民にとって多摩川の存在は大きいんだと思います」

国道114号線の桜並木(写真撮影/坪沼大輔)

国道114号線の桜並木(写真撮影/坪沼大輔)

そう語る坪沼さんに、“心の拠り所”である多摩川沿いの桜並木を撮ってもらったら、どこかの映画のワンシーンで使われていてもおかしくないカットになった。さすがプロ。

調布近辺の家賃相場は?

最後に、調布の気になる家賃相場を見てみよう。調布駅周辺の一人暮らし用賃貸物件の相場は6.4万円。調布駅は京王線、京王相模原線が乗り入れており、京王線の特急を使えば、新宿駅まで2駅でいける便利な駅だ。坪沼さんいわく、京王線沿線には大学が多く集まっているため、一人暮らしの学生も多いという。

調布をまとめてみると……
・新たに駅ビルが誕生したことで市民の生活利便性は飛躍
・オープンした映画館には最先端の設備がある
・撮影所をはじめとする映像関連会社が残っている
・子育てがしやすい設備・環境も徐々に増えてきている
・多摩川沿いには戸建てが並び、バスや自転車を多く利用している
・多摩川は市民の憩いの場となっている

都市のような利便性と豊かな自然が共存する街・調布。「映画のまち」としての誇りも残っており、今後は映画を使ったまちづくりにも期待がかかる。時にのどかな多摩川に癒やされ、時には映画の世界にどっぷり浸るーー。そんな生活に筆者も思わず憧れてしまった。

●調査概要
【調査対象駅】調布駅
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、面積10平米~40平米、築年数40年未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2017年12⽉1⽇~2018年2⽉28⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出(家賃20万円以内)

「資産価値が落ちない家ってどんな家?」 住まいのホンネQ&A(4)

“人生最大の買い物”とも言われる住宅。せっかく買うなら、資産価値が落ちない物件を購入し、その価値を維持したい、と誰もが思うのではないでしょうか。
住宅に関するさまざまな疑問について、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく本連載。第4回の質問は「資産価値が落ちない家ってどんな家?」です。物件選びからその価値を維持する秘訣までをお答えいただきました。2018年4月に始まったホームインスペクションの意義や、ホームインスペクターの選び方についても詳しく解説します。

資産価値が落ちない家その1:なんといっても駅近!

まずは、物件の条件からお話ししましょう。昨今顕著なのは「駅距離格差」です。購入であれ賃貸であれ、求められる「駅からの距離」がどんどん短くなっているのです。

REINS(東日本不動産流通機構)のデータによれば、東京都心7区(中央区・千代田区・港区・新宿区・渋谷区・品川区・目黒区)において2013年は、駅から1分離れるごとに、中古マンション成約単価が平米あたり8000円程度の下落を示していました。しかし2017年には、1万6000円ずつ下落しています。

この傾向は都市郊外のベッドタウンでも同様で、千葉県柏市の場合は柏駅から1分離れると、2008年の中古マンションの成約単価は平米8000円ずつの下落でしたが、2017年では1分ごとに平米1万6000円以上の下落を示しています。

都心でも郊外でも駅前や駅近はめっぽう強く、駅から離れるほどどんどん弱くなっているのです。このような現象が起きている最も大きな理由は言うまでもなく「住宅余り」が影響しているものと思われます。

世帯数に対して住宅数は圧倒的に上回っており、18年の現時点ではすでに1000万戸を超える空き家が存在しているといわれていますが、要はよりどりみどりの「買い手・借り手市場」なわけです。また、若年層が自動車を保有しなくなったこととも関係があるでしょうし、部屋の広さや間取り、日当たりなどを多少我慢してでも、通勤や買い物などの生活利便性を優先するといった嗜好もうかがい知れます。

資産価値が落ちない家その2:選べるなら“立地適正化区域内”を

またこれから本格的な人口減少、少子化・高齢化社会を迎えるにあたり、全国1740あまりの自治体のうち384自治体において、街を縮める「コンパクト&ネットワーク政策」が進められています。これはかんたんに言えば、人口密度を一定程度に維持することで、行政効率の悪化を防ごう、市民の生活利便性を維持しようというものです。埼玉県毛呂山町はこの「立地適正化区域内」については、地価上昇10%を目指すとしています。言いかえると、区域外は地価について約束もできないということです。

岐阜県岐阜市は現市街地のうち、立地適正化区域を55%程度にする方針です。この政策は5年ごとに見直しが行われる予定ですが、その中で徐々に規制を厳しくしながら街のコンパクト化はじわりじわりと進み、やがて10年、20年と経過するうちに、人が集まる区域とそうでない区域が徐々に色分けされていく可能性が高いでしょう。

そうなると不動産の資産価値にも大きな影響が出そうです。決定的なのは、金融機関の評価。金融機関が、立地適正化区域内であれば一定の担保評価ができるが、区域外は評価できない、といったことになれば、両者の資産性に差が出るのは必至です。自分が選ぶ自治体において、こうした計画があるかどうか、あればその中身はどういったものか、調べてみてください。

宅地建物取引業法が改正され、18年4月から「インスペクション説明義務化」がスタートしました。これは簡単に言えば「媒介契約」「重要事項説明」「売買契約」といった不動産取引の節目に、建物のコンディションを見極めるインスペクションについて説明を行うということです。2025年までに中古住宅市場・リフォーム市場を2倍(15年比)にする、といった国の方針の一環で、建物の劣化具合などを見極めるホームインスペクション(住宅診断)を普及させようというもの。

資産価値が落ちない家その3:ホームインスペクションで良コンディションの物件を

これまで日本の住宅は、一戸建ては25年、マンションなら30年程度で価値ゼロになるとされてきましたが、こうした慣行を改め、コンディションの良い建物は積極的に評価、中古住宅でも一定の品質を保っているものは積極的に評価しようという試みです。

住宅購入時には、新築でも中古でも、専門家に依頼してホームインスペクション(住宅診断)を入れ、建物のコンディションを見極める。住み始めたら適度な点検とメンテナンスを行い建物価値を維持するといったことが、今後非常に重要になってきます。

なおホームインスペクション(住宅診断)を行うホームインスペクター(住宅診断士)を探す際にはまず「実績」を確認してください。候補をいくつか選んだら、まずは率直にこれまでのインスペクション実績を尋ねましょう。どの構造に詳しいのかも必ず確認を。建物の工法にはさまざまな種別がありますが、木造に詳しいホームインスペクターが、RC(鉄筋コンクリート)造に詳しいとは限らないためです。自分がホームインスペクションを依頼する建物の構造に詳しいかどうかを必ず確認するようにしてください。

またその際には「専門用語を多用せず、分かりやすく説明してくれるか」に注目を。建築の専門用語を極力使わず、なるべく平易な言葉で、分かりやすく判断材料を提供してくれるかどうかというのは重要なポイントです。

ホームインスペクターは客観性・第三者性が大切

そして最も重要なのは、ホームインスペクターの「客観性・第三者性」。現時点ですら早速、業界では大きく問題となる動きが起きています。それは「ホームインスペクターと不動産業者との癒着」です。この癒着は、売主や買主が、不動産業者からホームインスペクターを紹介されたとき、つまり、買主や売主が自らインスペクターを選べない場合に起こります。なぜなら、不動産業者とインスペクターは、仕事を発注する側ともらう側の関係になってしまっているからです。

不動産業者は常に「契約したい」といったモチベーションをもっているもの。しかし建物の不具合など不都合な真実が出てきたとき、不動産業者がそうした不都合を隠そうと、インスペクターに問題写真や文言の削除を依頼するケースが報告されています。このとき、インスペクターがこの依頼を断ったら、この不動産業者からはもう仕事が来ることはありません。

ホームインスペクションを手掛けるさくら事務所にはしばしばこうした依頼があり、すべて断っていますが、次から依頼がくることはありません。ということは他のインスペクターが、その業者のインスペクションを引き受けて業者の主張を受け入れている可能性があるのです。

米国ではかつて、ホームインスペクターと不動産業者との癒着が問題となり、州によっては「不動産業者によるインスペクターの紹介は禁止」です。オーストラリアでもやはり「売主のインスペクションは虚偽が多い」と問題になり、買主がインスペクションする仕組みが創設されてきました。英国でも同様に買い手がホームインスペクションを依頼しています。インスペクションはあくまでも、買い手が選んだインスペクターが行うのが望ましいのです。

また「無料インスペクション」にも注意しましょう。なぜ無料なのか、その理由を考えるとよいでしょう。そこにはほぼ100%の確率でリフォームや耐震工事のプレゼンが付いているはずです。
「格安ホームインスペクション」にも留意してください。あまりに安すぎるホームインスペクションは、やはりリフォームなどの仕事が目的か、能力に自信がないかのどちらかという可能性があります。ホームインスペクション単体で営業できるだけの妥当な料金設定であることが、その健全さを判断する指標になると言っていいでしょう。相場としては、目視による診断で5万円~7万円程度。床下や天井裏にまで進入する場合は11~12万円程度です。

ホームインスペクションで大事なのは、あくまで第三者を立て、買主あるいは売主が自ら選んだインスペクターに依頼をすること。この原則を忘れないようにしてください。

最後に「”瑕疵(かし)保険”と”ホームインスペクション”は別物」ということを知っておきましょう。建物の保証をしてくれる「瑕疵(かし)保険」は、ホームインスペクションではありません。これは文字通り、念の為の建物保証をするもので、建物の劣化具合について判断材料を提供したり、直し方などについてアドバイスをくれたりするものではありません。くれぐれも、混同してしまわないようにしましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「2018住みたい街ランキング関西版」、「住みたい部屋に収納がない……!」【3月人気記事まとめ】

新年度が始まり、街では初々しい新社会人の姿を目にします。気候はすっかり暖かくなり、日中は汗ばむ日も増えてきました。さて、SUUMOジャーナルで3月に公開した記事では、恒例の「住みたい街ランキング」のほか、リフォームやリノベーションなどの記事が人気でした。TOP10の記事を、詳しく紹介します。
3月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

TOP10はこちらの記事となりました!

第1位:2018年「住みたい街ランキング」関西版発表!上位にランクインした街の特徴は?
第2位:住みたい部屋に収納がない……!  それでも快適に暮らす方法はある?
第3位:【検証】自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか?
第4位:「『勝ち組不動産』の条件を教えてください」 住まいのホンネQ&A(2)
第5位:不動産エンターテーメント サイト「物件ファン」に聞く 思わず驚いたユニーク物件5選
第6位:“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは
第7位:築50年の家をリフォーム、猫3匹とくつろぐ ”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]
第8位:地方出身者へ贈る 内見前に知っておきたい「東京」の賃貸事情
第9位:MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト 、仕掛け人に聞く”これからの住まい方”
第10位:好立地にあるビルを住居に 「ビル1棟リノベ」の魅力とは

※対象記事:2018年3月1日~2018年3月31日までに公開された記事
※集計期間:2018年3月1日~2018年3月31日のPV数の多い順

「住みたい街」「勝ち組不動産」人気の物件はどこにある?

第1位:2018年「住みたい街ランキング」関西版発表!上位にランクインした街の特徴は?

2018年「住みたい街ランキング」関西版発表!上位にランクインした街の特徴は?

(写真/PIXTA)

1位は、交通の便や商業施設の豊富さといった安定の使いやすさと洗練されたイメージで、根強い人気の“ニシキタ”こと「西宮北口」。2位の「梅田」は、再開発により繁華街としてだけでなく居住地の一つとして認識されつつあり、今後は緑地も拡大される予定。また、京阪エリアのベッドタウンとして人気の滋賀県からは、「草津」が京都を抑えてベスト10入りを果たしている。

第2位:住みたい部屋に収納がない……!  それでも快適に暮らす方法はある?

住みたい部屋に収納がない…! それでも快適に暮らす方法はある?

(写真/PIXTA)

クローゼットがないことを理由にとりあえず収納グッズを買ってしまうのはNG。「収納グッズ」というモノを増やすことになってしまいます。「本当に必要な収納グッズ」を見極めて狭くても快適に暮らせるコツを、都内で収納なし・14平米のワンルーム物件に居住経験のある、整理収納アドバイザーのkomugiさんに伺いました。

第3位:【検証】自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか?

自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか? 検証してみた

(写真撮影/大嶺 建)

とある室内。くつろいでピザを食べるアイドルと、ママチャリを必死にこぎ続ける筆者。
遊んでいるのではない、仕事である。
「自転車発電と太陽光発電のどっちが勝つのか比べたらおもしろそうですよね(笑)!」
1カ月前、ママチャリで日本一周した経験がある筆者が、初対面のスーモ編集長に遊び半分で口走った一言が企画になってしまい、引くに引けなくなったのである。辛い……帰りたい……。

第4位:「『勝ち組不動産』の条件を教えてください」 住まいのホンネQ&A(2)

「『勝ち組不動産』の条件を教えてください」 住まいのホンネQ&A(2)

(写真/PIXTA)

不動産の価値は「売れる・貸せる」といった「市場流動性」で決まります。『勝ち組』になれるかどうかを左右するポイントは「駅徒歩8分以内」「子育て環境」など、多岐にわたります。将来的には、修繕対応など管理組合の運営状況も大きな要素と成り得るため、同条件のマンションであっても、数千万円の開きが出ることも予想されます。

第5位:不動産エンターテーメント サイト「物件ファン」に聞く 思わず驚いたユニーク物件5選

不動産エンターテーメントサイト「物件ファン」さんに聞く 思わず驚いたユニーク物件5選

(画像提供/物件ファン)

引越先検索目的だけではない、読者が楽しめる不動産エンターテーメントサイトである「物件ファン」。「変わった物件に興味がある」という人たちの間で話題となり、SNSなどから徐々に認知度が上がり、2018年1月には月間270万ページビューを超えるメディアへと成長。そんな「物件ファン」のなかでも、特筆すべき個性をもった5件をピックアップしました!

「リフォーム」「リノベ」新築にはない多彩なメリットは見逃せない

第6位:“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

(画像提供/お部屋改造計画)

片付いていなかったり汚れていたりする“おブス部屋”に住んでいては、気分が冴えないばかりか、気軽に人を呼べませんよね?個人宅のインテリアコーディネートや模様替え、小さな店舗のトータルプロデュースなど、お部屋改造を1000件以上手がけた有限会社お部屋改造計画にお話を伺うと、おブス部屋脱却のカギは「収納の動線」でした。

第7位:築50年の家をリフォーム、猫3匹とくつろぐ ”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]

テーマのある暮らし[1]本好き夫婦が暮らす”おウチライブラリー”がある家(前編)

(写真撮影/内海明啓)

神楽坂駅から徒歩10分。祖父母が住んでいた築50年の母屋にアパートが付いた建物を、新聞紙に包まれて押入れに保管されていた文芸集とともに受け継いではみたが、古くて使い勝手が悪い。出版社に勤める夫が所有する大量の本も収納できて、夫婦と3匹の愛猫が気持ちよく過ごせる、昭和のレトロ風情を残した快適空間にリフォームしました。

第8位:地方出身者へ贈る 内見前に知っておきたい「東京」の賃貸事情

地方出身者へ贈る 内見前に知っておきたい「東京」の賃貸事情

(写真/PIXTA)

進学や就職で春から東京生活!という方も多いはず。しかし、東京での部屋探しは家賃の高さはもちろん、「相互直通運転」の存在など、路線図だけでは分からないこともたくさんあるのではないでしょうか?そこで今回は、離島出身の筆者が自ら学んだ経験から、東京の家賃相場や部屋探しのコツを伝授します!

第9位:MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト 、仕掛け人に聞く”これからの住まい方”

MUJI×UR団地5周年。プロジェクト仕掛け人に聞く、これからの「住まい方」

(画像提供/MUJI HOUSE)

プロジェクト開始から丸5年を経過した現在も高い人気を誇る、無印良品とUR賃貸住宅のコラボレーション。新築にはない魅力は、20~30代にとってはヴィンテージ的にも感じられるようです。仕掛け人であり設計担当者の豊田輝人(とよだ・てるひと)さんに、団地の古さを活かしながら現代に沿う、『暮らしを彩る』設計についてお話を伺いました。

第10位:好立地にあるビルを住居に 「ビル1棟リノベ」の魅力とは

好立地にあるビルをリノベーションして住居に。「ビルリノベ」の魅力とは

(画像提供/株式会社クラフト)

ビルリノベーション(ビルリノベ)の注目度が上がっています!住居用に整備するため水まわりのコストなども発生しますが、立地の良さや高い耐久性は見逃せません。また、柱がないため大きな空間をつくることも可能なので、一戸建てではかなわないおしゃれなデザインや意外な利便性も実現できます。

3月は「リノベ」や「リフォーム」に関する記事が3つと「部屋改造」「収納」に関する記事が2つランクインしました。また、5位に入った「物件ファン」についても半数がリノベ物件を取り上げており、既存物件にいかにして心地よく住まうかという関心が高いことがうかがえます。新築への転居をしなくとも快適な住環境を手に入れるためのアイデアは、新築派の方にも必見の内容となっています。

住みたい沿線1位の「阪急神戸線」を調査! 全15駅の家賃相場や特徴は?【沿線調査 関西版】

リクルート住まいカンパニーでは、関西(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」を発表した。住みたい沿線ランキングで1位になったのは、阪急神戸線。その特徴や、駅周辺情報を調査してみた。
都市部へのアクセスも良い! 緑豊かで閑静な住宅街が多い阪急神戸線

大阪の中心地である北区・梅田駅から兵庫県神戸市の神戸三宮駅までを結ぶ、阪急神戸線。同じく梅田から神戸の中心地へ向かう阪神電鉄・阪神本線やJR神戸線(東海道本線)とは、西宮駅から西へはほぼ並走するものの、より内陸部を通っているため、沿線は緑豊かで閑静な住宅街が多い。

都市部へのアクセスの良さも人気の大きな理由だが、阪急電鉄は住宅開発とともに発展してきたという背景から、阪急各線の沿線は住環境の整備が進んでいる。なかでも阪急神戸線はブランドイメージが強く、著名人や富裕層の住民が多いことで知られる芦屋も同線の芦屋川駅付近を指すことが一般的だ。

子育てをする環境としての安心感があるためか、住みたいと回答した人を年代別にみると40代の支持が約4割と最も高かった。20代~40代までの年代別に住みたい街ランキングをみると、各年代で1位、2位に西宮北口と梅田がランクインしているほか、40代ではトップ10に神戸三宮、岡本、夙川(しゅくがわ)、御影(みかげ)がランクイン。阪急神戸線の駅がトップ10の過半数を占めている。また、関西在住者だけでなく、転勤などで他地域から引越してきた土地勘のないひとが、前任者からお墨付きがあったから住んでみる、というケースもある。

●阪急神戸線・家賃相場が安い駅ランキング

順位/駅名/家賃相場(中央値 賃料_管理費込)/所在地
1位 武庫之荘 4.8万円(兵庫県尼崎市)
2位 塚口 5.0万円(兵庫県尼崎市)
3位 岡本 5.2万円(兵庫県神戸市東灘区)
4位 園田 5.3万円(兵庫県尼崎市)
4位 王子公園 5.3万円(兵庫県神戸市灘区)
4位 御影 5.3万円(兵庫県神戸市東灘区)
7位 夙川 5.5万円(兵庫県西宮市)
8位 神崎川 5.8万円(大阪府大阪市淀川区)
8位 六甲 5.8万円(兵庫県神戸市灘区)
10位 西宮北口 5.9万円(兵庫県西宮市)
11位 芦屋川 6.2万円(兵庫県芦屋市)
12位 十三 6.3万円(大阪府大阪市淀川区)
12位 春日野道 6.3万円(兵庫県神戸市中央区)
14位 中津 6.6万円(大阪府大阪市北区)
15位 神戸三宮 7.0万円(兵庫県神戸市中央区)
15位 梅田 7.0万円(大阪府大阪市北区)

西宮北口駅は年齢問わず住みたい街の1位 駅前は商業施設が充実西宮北口駅(写真/PIXTA)

西宮北口駅(写真/PIXTA)

住みたい街ランキングは今年から調査方法の一部を変更したとのことだが、調査方法を変更する前の5年間も、今年も関西版の1位は西宮北口駅となっている。阪神大震災の被災後の再開発や、阪急西宮スタジアム跡地の活用などで、駅前には大規模商業施設が充実している。赤ちゃん用品店や図書館がある「ACTA西宮」は低年齢の子どものいる家庭にも人気があり、「阪急西宮ガーデンズ」は映画館のほか、阪急沿線ならではの阪急百貨店や、高級志向のセレクトショップもそろっているため、わざわざ梅田まで出なくても買い物には困らないだろう。

デザイン性の高い大規模マンションも多数増えているため、こだわりを持った家探しに応えてくれることも人気の理由だ。

また、阪急ならではといえば、宝塚歌劇団。西宮北口駅は阪急今津線も利用することができるが、今津線は宝塚大劇場の最寄駅である宝塚駅や宝塚南口駅まで約15分。ヅカファンにとって大変便利な街であるが、実はタカラジェンヌにとっても買い物やお茶によく利用する人気の駅。美を売り物にする彼女たちに愛されているという点でも、街の魅力がうかがえるだろう。

3位の岡本駅は、阪急神戸線のブランドを代表するともいえる駅。駅から少し離れると大きな邸宅が目立つが、駅周辺には若者や女性向けのおしゃれなお店や有名なカフェなども多い。甲南大学や甲南女子大学などの最寄駅でもあり、住むだけでなくデートなどで遊びにきても楽しい街だ。

特急が止まるため、梅田まで30分以内、神戸三宮までは10分以内という交通の良さも特徴。駅から約300mの位置にJR神戸線(東海道本線)の摂津本山駅があるため、2路線利用できるのも利便性が高い。

閑静だけじゃない 十三駅は飲食店や映画館など大阪らしい魅力も十三駅(写真/PIXTA)

十三駅(写真/PIXTA)

交通アクセスが一番良いのは、12位の十三(じゅうそう)駅だろう。阪急宝塚線や京都線とのハブ駅で、特急や快速などすべての電車が止まる。

駅周辺は、立ち飲み居酒屋がつらなるような少し猥雑な雰囲気もあり、いわゆる神戸線のイメージとは少し異なるかもしれない。しかし、小規模でも良質な映画や珍しい海外作品の上映で知られる映画館、第七藝術劇場や、大阪府で屈指の進学校として知られる大阪府立北野高校の最寄駅でもある。多少クセはあるが大阪らしい魅力があり、ハマるひとはどっぷりハマってしまう街だ。

2位の塚口駅は、住みたい街ランキングの穴場だと思うランキングでトップを獲得している。特急は止まらないが、ラッシュ時には通勤特急などが停車している。駅前の大型スーパー「塚口さんさんタウン」は、日常の買い物だけでなく公共サービスセンターや映画館も入っているため、子育てに忙しい家庭には強い味方だろう。また、庶民的な飲食店も多い点も魅力だ。

せっかく住むのなら、ブランド力のある路線に住みたいというのは当然の心理だろう。ハイソなイメージのある阪急神戸線だが、同じ沿線とはいえ、さまざまな特徴や魅力がある。イメージに先行されず、家族構成やそれぞれの趣味など、本当に自分たちにあう街を見つけるのも、家を探す楽しみのひとつだろう。

●調査概要
【調査対象駅】阪急神戸線沿線の駅
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、広さ10~40平米以内、築年数40年以内、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ算出期間】2017年11⽉1⽇~2018年1⽉31⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

再開発のすすむ二俣川駅前に、新スポットがオープン! 都心へのアクセス向上も

相鉄線の二俣川駅周辺が、現在注目されているのをご存じですか? 実は、二俣川駅から都心への相互直通運転を2019年下期から順次予定していることから、駅舎のリニューアルと同駅南口の再開発の真っ最中なのです。それに先がけ、駅前にファッションとグルメの新スポットのオープンが予定されているのだそうです。 相鉄グループの担当者に相互直通運転が始まることのメリットも教えてもらいました。
「ジョイナス テラス二俣川」がグランドオープン

2018年4月27日(金)に、相鉄グループの(株)相鉄アーバンクリエイツと(株)相鉄ビルマネジメントによる新しい商業施設「JOINUS TERRACE(ジョイナス テラス)二俣川」がグランドオープンします。場所は、再開発が進み新しく生まれ変わる「相鉄線二俣川駅」南口です。

画像提供/相鉄ビジネスサービス株式会社

画像提供/相鉄ビジネスサービス株式会社

「エリア最大の集積となる食料品ゾーンを中心に、カフェやレストラン・衣料品・生活雑貨・服飾雑貨など多彩なテナントラインナップの施設です」(相鉄グループ担当者)。建物は2カ所に分かれていて、「ジョイナス テラス2」2階のみ2018年秋のオープンを予定しているそう。

「都心直通プロジェクト」で二俣川がもっと便利に

更に気になる相鉄線の「都心直通プロジェクト」についても聞いてみました。いったいどんな変化がおこるのでしょうか?

「相鉄・JR直通線、相鉄・東急直通線が完成すると横浜市西部および神奈川県央部と東京都心部への 所要時間の短縮や乗換回数の減少、新幹線へのアクセス向上など利便性 が向上します。また、地域の活性化など に寄与し、相鉄線沿線のさらなる発展にも貢献することで沿線価値の向上に繋がると考えます」(相鉄グループ担当者)

開業後の所要時間の例を挙げると、「二俣川駅から新宿駅までの相鉄・JR直通線の所要時間(予測)」は約44分。横浜駅乗換えJR湘南新宿ライン利用と比較すると、15分程度短縮される見込みなのだとか。
通勤・通学時間帯の15分短縮は大きいです! 朝の支度に余裕が生まれるのではないでしょうか。

ちなみに、「相鉄・JR直通線」のスタート予定は2019年度下期で、相鉄・東急直通線は2022年度下期の開業を予定しているのだとか。相鉄線の沿線でお部屋探しをされる場合は、より便利になる二俣川周辺にも注目してみてはいかがでしょうか。

職人未満・素人以上のセミプロが活躍!KILTAが育てるセルフリノベインストラクターとは

自分で自宅をDIYでリノベーションする「セルフリノベ」に興味を持つ人が増え、体験施設も急増しています。しかし、セルフリノベのインストラクター認定までおこなっている施設はありません。そこで、今回はセルフリノベのインストラクターを育てる施設「KILTA(キルタ)」を運営する一般財団法人KILTA代表理事であり、KUMIKI PROJECT株式会社代表取締役の桑原憂貴(くわはら・ゆうき)さんに、KILTAをつくった背景と目的、今後目指している方向性についてうかがいました。
KUMIKI PROJECTが掲げる「DIT」とは?

「KUMIKI PROJECT」は、2013年に奇跡の一本松で知られる岩手県陸前高田市でスタートしました。国産杉のブロックキットを使って、地元の人たちと21坪の集会所をつくろうというプロジェクトから始まった会社です。

2017年には事業エリアを首都圏にも拡大すべく、本社を神奈川県二宮町に移転。現在は、東北を中心とした国産材を素材に、小規模のお店やオフィスをサポートしようと、セルフリノベーションによるお店づくりやオフィスづくり、ワークショップまで手がけています。

そんなKUMIKI PROJECTが掲げるコンセプトはDoing It Togetherを意味する「DIT」です。「『ともにつくる』を楽しもう、ということを大事にしたくて使っている言葉なんです」と桑原さんは言います。

岩手県陸前高田市での集会所セルフビルドの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

岩手県陸前高田市での集会所セルフビルドの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

「僕自身、5年前までDIYはやったこともありませんでした。実は、被災地で集会所をセルフビルドしたのがはじめてのDIYだったんです。ともにつくることで、みんながつながっていく。その光景はとても印象的で、KUMIKI PROJECTの原点になっています。だからといって、みんなにつながりこそ何より大事だと、無理強いするつもりはないんです。つながりは強くなりすぎるとしがらみになってしまう可能性もある。むしろ、今のライフスタイルにあったつながり『方』を増やしていきたい」(桑原さん、以下同)

無理につながろうとする、というわけではありません。あくまでつながりたい人が、つながることができる機会をつくるのが大事、それがKUMIKI PROJECTの思いでもあります。

KUMIKI PROJECTの活動の中で生まれた「KILTA」

KUMIKI PROJECTは活動当初、国産の杉材でつくる家具キットを開発し、販売していました。でも、売上を伸ばすのは大変だったそう。国産材でつくるから、大きな家具量販店が製造する量産品に比べると、価格がどうしても高くなってしまう。家具キットの製造販売という方法だけでなく、どうすれば被災地の国産材をより多く使ってもらえるのかを改めて考えた結果、たどり着いたのが「キットをツールとして使い、オフィスづくりやお店づくりのセルフリノベーションをお手伝いすること」だったのだそうです。

「例えば、100万円ほどの予算でお店づくりを行うとします。これまでのように建築事務所や工務店などの専門業者に相談して進める場合、この予算ではできることがかなり限られてしまうのが現実です。でも、僕らの場合、職人さんではなく、お店をはじめる人と一般の人々が一緒に手を動かし、ワークショップ形式で空間づくりを進めるため、『コストは抑えながらも、愛着はいっぱいなお店づくり』が可能になるんです。これまでつくってきた国産材の家具や内装キットを使うため、DIY初心者でもクオリティを守った空間づくりができています。

お店をはじめる人からすると、最初の負担を下げることができるだけでなく、手間をかけることで愛着が生まれます。そして、ともにつくった人たちは自分のお店の大切な応援団になっていく。そんなお店づくりで、僕らの価値が発揮できるようになりました」

空き家を地域住民とともに全5日間のワークショップでセルフリノベーションしたカフェスペース。壁解体、床はり、漆喰塗り、家具キットの組み立てなどを実施 (画像提供/KUMIKI RPOJCET 写真撮影/八幡 宏)

空き家を地域住民とともに全5日間のワークショップでセルフリノベーションしたカフェスペース。壁解体、床はり、漆喰塗り、家具キットの組み立てなどを実施 (画像提供/KUMIKI RPOJECT 写真撮影/八幡 宏)

しかし、そこで持ちあがった課題が、こうしたワークショップでセルフリノベを教える「先生」の不足。素人だけでは分からない空間の構造や、工具の使い方や材料の加工方法について現場でサポートしてくれる先生、インストラクターが必要でした。

「家具や内装はキット化しているため、職人さんじゃなくてもできるようになっています。だからこそ、例えば、地域の子育て中のお母さんが、お子さんが学校に行っている間に、インストラクターをやるというのでもいい。地域の人たちがインストラクターになり、地域の材を家具や内装キットにし、地域で空間づくりをはじめる人を支える。そんな循環ができるといいと思っています。

そのためには、セルフリノベーションに関する知識と技術を伝え、インストラクターになりたい人を育てる拠点が必要でした。例えば、床の張り方、壁の塗り方や張り方、家具の造作の仕方などを学んでもらうプログラムをやるためにつくったのがKILTAなんです」

KILTAのインストラクターは「職人未満・素人以上」

KILTAのインストラクターは「ものづくりやインテリアが好きだから仕事に活かしたい。でも、職人として技術を極めて仕事をしたいわけじゃない人」なのだと桑原さんは言います。

DITインストラクター認定講座(モニタークラス)受講生の現場実習。床ハリクラスと壁ヌリクラスを2018年3月に試験開講。プログラムを改良し、5月ごろから本格実施予定 (画像提供/ KUMIKI PROJECT)

DITインストラクター認定講座(モニタークラス)受講生の現場実習。床ハリクラスと壁ヌリクラスを2018年3月に試験開講。プログラムを改良し、5月頃から本格実施予定 (画像提供/ KUMIKI PROJECT)

「みんなで楽しみながらつくるために必要な知識や技術は、空間を施工する職人の技術とはかなり違います。例えば、ワークショップに参加したけれど、不安で手が出せない人や、何をやれば良いのかわからなくて手が空いてしまった人などに、楽しんでつくってもらうためのコミュニケーションの取り方や、時間内に終わらせるスケジュール管理、散らばった工具につまずいて転んだりしないように注意するといったリスク管理などができることが求められます。そのうえで、職人まではいかなくていいけど、空間づくりに最低限必要な知識と技術があって楽しくワークショップを進められるっていうことがインストラクターとして大事なことなんです」

昨今のDIYブームもあってか、インストラクターをやりたいという人は多く、昨年末から行った説明会は軒並み盛況だそうです。

「暮らしをつくれる人を増やしたい」全国にKILTAを

KILTAはもともと横浜にあるリフォーム会社とKUMIKI PROJECTの共同事業として始まりましたが、職人不足や高齢化などの課題を抱える建築業界をはじめ、DIY市場の拡大を進めたい建材メーカー、インテリアやDIY情報の発信を行うメディア、多様な働き方を増やしたい地域団体などからこうした動きへの賛同を得られたことから、今年1月に一般財団法人KILTAを設立。同法人で本格的にインストラクター育成事業に取り組むことになりました。拠点も横浜だけではなく、京都や春日部、神戸にも開設準備中であり、全国各地で暮らしをつくれる人材育成に注力していきたいのだそう。

一方でネックになるのが工具の問題。本格的な機械工具や手道具を、インストラクターになった人がすべて用意するのは負担が大きすぎるため、現場で使用する工具類はKILTAがすべて用意する形で考えているそうです。

「壁塗りや床張りなどのワークショップで使う工具一式を詰め込んだ『ツールボックス』と僕らが呼んでいる工具箱を、現場に直送できるようにテスト運用をはじめています。インストラクターになった人は、手ぶらで現場にいき、ワークショップを実施。終了後は、手ぶらで帰っていける形にしようと思っています。ですから、KILTAという拠点は、実は倉庫機能も兼ね備えた存在でもあり、全国にこうした拠点を増やしていきたいと思っています。

いま、全国には公立図書館がおよそ3000カ所あります。図書館が暮らしの知恵を学ぶ場だとしたら、KILTAは暮らしの技術を学べる場所として、同じくらい全国各地のインフラとして増やしていければとよく話しています。

広い工房がなくても、例えばマンションの一室をKILTAという拠点にする。そこには工具を集約し、マンションの修繕をマンションに住んでいる人がインストラクターになって支えるようになるという形もあるのではと思っています」

京都で開催したセルフリノベーションによるシェアスペースづくりの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

京都で開催したセルフリノベーションによるシェアスペースづくりの様子 (画像提供/KUMIKI PROJECT)

一方で、インストラクターとなった人たちが、きちんと報酬を得て活躍できるような舞台をつくることも大切。現在は、リフォーム会社などにも働きかけている最中なのだそうです。

「例えば、 建築現場というのは、個人宅の新築やリノベーション、お店やオフィスづくり、公共施設の修繕など、本当に多種多様です。多種多様であるということは、求められるスキルや難易度も本来はバラバラだということです。
にもかかわらず、どんな現場でも、すべて職人さんが仕事として受けているというのが、これまでの当たり前でした。でも、この難易度や必要なスキルをきちんと現場ごとに分析し、分類できれば、素晴らしい技術を持った職人ではなくても対応できる現場が実はたくさんあるのではないでしょうか。
業界全体で建築現場を分類する指標をつくり、必要なスキルを持った人に適切にマッチングすることで、職人未満だけど、素人以上のセミプロであるインストラクターの人々でも十分に対応できる舞台ができると考えています。そうすることで、地域にたくさんの小さな仕事が放出され、一方で技術を持った職人さんは価値ある仕事に集中できる、そんなみんながハッピーな世界をともにつくれたらうれしいです」

セルフリノベーションを通じて「地域に住む人たちが自分の暮らしに『つくる時間』を取り戻していく流れができたら」と考えていたという桑原さん。地域の人たちがKILTAで学び、インストラクターとして活躍できる場が増えれば、ライフスタイルや働き方も変わっていくかもしれませんね。

●取材協力
・KUMIKI PROJECT
・KILTA

スタイリッシュな「無印良品の家」モデルハウスが名古屋に登場! 「木の家」「窓の家」を体験しよう

無駄なくシンプルだけれど機能的な品質、スタイリッシュで長く使っても飽きないデザイン性で、根強いファンをもつ「無印良品」。食品や文房具といった小物から、家電に家具まで、私たちの生活のあらゆる場面におなじみの存在ですよね。そんな無印良品が、2004年から販売している「無印良品の家」シリーズ。この度名古屋に、「木の家」「窓の家」を実際に見て体験できるモデルハウスが3月15日にオープンしたそうです。
国内の「無印良品の家」モデルハウスのなかでも最大規模だというこの名古屋の施設の特徴を、運営会社の株式会社MUJI HOUSEにお答えいただきました。また、シリーズ全3タイプの魅力も、改めてご紹介します。画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

こちらが、名古屋にオープンするモデルハウス。写真左が「木の家」、右が「窓の家」になります。

「『木の家』と『窓の家』を併設している拠点は複数ありますが、モデルハウスの一部を事務スペースとして使用しています。今回の名古屋店では、事務所棟を別に設けることにより、モデルハウスのすべてを見ていただくことができます」と、株式会社MUJI HOUSEのご担当者が教えてくれました。

つまり、実際に「木の家」・「窓の家」を建てて住むときの生活イメージを、全て体験できるということですね。また、「モデルハウスの敷地内に通路を設けており、道路と建設用地を再現しています」とのコメントも。家の中だけではなく、周辺環境もイメージしやすくするためだとか。

では改めて、「木の家」「窓の家」「縦の家」それぞれの特徴を見ていきましょう。

●木の家

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

木の家の魅力は、何といっても吹抜けがある開放的な一室空間。「住まい手が思うままに住まいを『編集』する」。そんな自由な発想を形にした木造住宅なのだとか。「無印良品の家」の第一弾としてデビューしたのがこの「木の家」でもあります。
大きな開口部と深い庇がある、箱のようなすっきりとした外観。太陽光と通風を最大限に活用する、環境負荷の少ない合理的な考えで設計されています。例えば南向きの庇は、季節によって異なる日射を調整し、夏は直射日光を遮り、冬は温かな陽光を室内の奥まで導きます。

実際に「木の家」を施工して既にお住まいの方が、「夏、室内が暑くならないことにびっくりしました」「冬は室内が暖かいので、うっかり半袖のまま外に出てしまうことがありました(笑)」と語っているそうです。
ぜひ名古屋店のモデルハウスでも、その空気感を体験したいですね。

●窓の家

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

通風や採光の機能だけでなく、風景を切り取るフレームとしての窓のあり方に着目したという「窓の家」。壁に頼らず、柱と梁で支えるSE構法でつくられているので、窓が欲しい場所に、壁を切り取るように窓を開けることが可能になったのだそう。つまり窓枠や桟に邪魔されることなく、窓から見える風景を一枚の絵画のように楽しむことができるのです。海の前に「窓の家」を建てた方は、「海を眺めるメインの窓には、カーテンを取り付けていません」と話しているそう。海の景色がインテリアになる家なんて素敵ですね。
「窓の家」の外観は、家の原形とも言える三角屋根と、軒が出ず、すっきりと洗練された白い壁。名古屋店ではこの家の全貌を見ることができます。

●縦の家(※名古屋店には設置なし)

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

今回オープンしたの名古屋店にモデルハウスの設置はありませんが、せっかくなので「縦の家」の魅力もご紹介いたします。
「縦の家」は、6つの部屋を組み合わせて、空間を縦に広げた家。スキップフロアによりスペースを縦・斜めに使い、3階建てという概念に縛られない、縦横無尽に広がる空間を造りだせる家なのだとか。
日射取得の厳しい都市部でも最低限のエアコン使用で快適に過ごせる性能をもっているそうなので、まさに都市の暮らしにうってつけ。そうかと思うと、外壁には天然杉板張りが採用されていて、都市型住宅の概念を一新する温かみも感じさせます。

株式会社MUJI HOUSEによると、今回の名古屋のモデルハウス以降も、新モデルハウスのオープン予定が複数あるそうです。2018年7月には「鹿児島店(木の家)」、「つくば店(窓の家)」。同10月には「湘南店(木の家)」「姫路店(木の家)」のオープンを予定しているそう。「無印良品の家」の購入を検討されている方は要注目です。

2018年「住みたい街ランキング」関西版発表!上位にランクインした街の特徴は?

株式会社リクルート住まいカンパニー(本社:東京都港区 代表取締役社長:淺野 健)では、関西圏(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の男女4600 人を対象にインターネットによるアンケート調査を実施。「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」を発表した。関東版と同様に、今年から調査方法を一部変更したということだが、果たして気になる順位は?
TOP3に兵庫県が2カ所ランクイン 開発が進む「梅田」にも注目

関西の「住みたい街(駅)ランキング」の第1位は4桁の票を獲得して圧倒的な強さを見せる「西宮北口」。次いで2位「梅田」、3位「神戸三宮」。TOP3に兵庫県が2カ所ランクインする結果となった。

住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街ランキング2018関西版の第1位は「西宮北口」

第1位に輝いたのは「ニシキタ」の愛称で親しまれる西宮北口。2位と419票もの差をあけ、ダントツの求心力を誇る。「住みたい街(駅) 年代別ランキング」でも20代、30代、40代のすべてで1位。世代ごとの評価に隔たりがないのが特徴。また兵庫県民のみならず大阪府民ランキングでも3位につけるなど他府県からの支持も厚い。「商業施設や交通が充実しており、行政の市民サービスもよい。実際に住んでいる人たちも住みやすいと言っている」(26歳 女性)といった回答も複数あり、実際のニシキタ居住者たちの高評価が、他都市へ伝播しているのも人気の一因なのだろう。

住みたい街(駅)年代別ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)年代別ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

ニシキタ人気の理由としては、交通の利便性のよさをあげる人が多い。阪急神戸線の特急を使えば大阪の梅田と神戸三宮までともにおよそ15分で着き、宝塚へと向かう阪急今津線との乗り換えも可能なアクセスのよさは他府県民から見ても魅力。この阪急神戸線は今年から始まった「住みたい沿線ランキング」でも1位を獲得。西宮北口の人気と沿線そのものの人気が相乗効果を生んでいる。

「洗練・高級」というイメージもあるようだ。西宮北口ならではの「プチ・ハイソ感」が心惹かれるポイントといえるのではないだろうか。

住みたい沿線ランキングトップ5(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい沿線ランキングトップ5(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

さらに関西最大級の駅前ショッピングゾーン「阪急西宮ガーデンズ」をはじめとするバラエティに富んだ商業施設の数々と、新築マンションなどの住宅供給の多さから、住まいの選択肢が豊富であることが高いスコアの理由だと考えられる。「阪急西宮ガーデンズ」の隣には甲南大学の西宮キャンパス「CUBE西宮」をはじめ駅周辺には大学や予備校が集まり、西宮北口が20代にもニーズがある原因のひとつではないだろうか。

このように西宮北口周辺は商・住・遊の三つ巴な充実ぶりが広く知られることとなり、若いファミリー層の移住が増えたおかげで、2016年には駅北東の徒歩圏内に「西宮市立高木北小学校」が新設された。少子化が叫ばれる昨今において小学校が新設される例は極めて珍しいと、ニュース番組で報道されたほど。さらに西宮市は待機児童対策を重く見ており、2018年度は民間保育所の整備補助に約18億1300万円を計上すると発表した。「文教住宅都市」を宣言する同市の面目躍如だろう。

大規模な再開発によって、夢だった居住が現実味を帯びる「梅田」

「住みたい街ランキング2018関西版」の第2位に輝いたのは大阪の「梅田」。大阪最大の交通の要衝であり、かつ商業集積地区ゆえに「住みたい街2位」という結果を不思議に思う方がいるかもしれない。

しかしいま梅田は、かつての繁華街という概念を大きく変えようとしている。その要因が「うめきた」(梅田の北部)の新活用。

大阪市は、7月からコンペがスタートするJR大阪駅北側の再開発区域「うめきた2期」(大阪市北区)の全容を発表した。これによるとエリア内は「全面みどり化」、つまり植物を全域に行き渡らせる計画があるとのこと。「まちびらき」は2024年の夏と伝えられており、そう遠くない将来、梅田には広大で心地よい緑地が現れる。そしてきっとその風景は、これまでの梅田の心象とは大きく異なるものであるはずだ。

「うめきた2期」だけではない。いま梅田はかつてない規模の一大再開発が行われている。先行して建てられた「グランフロント大阪」や、1928年に完成し1世紀近い歴史をいだく「梅北地下道」を閉鎖して行う梅田貨物駅跡地を中心とした通称「梅田北ヤード」の工事など、梅田は緑にあふれたカルチャーシティへと変貌を遂げている過程にある。こういった潮流を受け、URをはじめ、梅田のイメージチェンジをアピールする媒体も増えた。加えてJR西日本、南海、阪急が乗り入れる「北梅田駅(仮称)」設置事業が幕を開けた。これら可視化した「梅田の変化感」が人々の胸を躍らせ、都市の成長に期待をいだくようになり、2位というよい結果になったのではないだろうか。

さらに同市の、こういったワクワクさせるムーブメントは、近隣の地域にも影響を及ぼしている。隣接する福島、中津、扇町などがこのごろは「梅田圏」として紹介される例が増え、そこで供給されるタワーマンションも梅田の名を冠した物件が少なくはない。こうして梅田と呼ばれるエリアがワイド化し、そのため「梅田に住む」「梅田で暮らす」ことが実現可能になった。梅田を選んだ理由に「利便性が良いところ。通勤、ショッピングなど困ることがない点。マイホーム購入したとしても価値を維持できそう」(35歳 女性)と、「梅田」という地名自体のブランド力を高く評価する意見もある。こういった街の声を受け、「梅田圏」は今後もますます拡張してゆくとみられる。

開港150年を迎え再び注目を集める「神戸三宮」

「住みたい街ランキング2018関西版」の第3位は「神戸三宮」。「阪神、JR、神戸市営地下鉄と、すべての交通網に近く、百貨店やスーパーも充実している」(49歳 男性)と交通・商業両面の便利さを魅力だとする回答が多かった。

ここも梅田と同じく、大規模な再開発が進行中だ。神戸市は昨年11月、JR三ノ宮駅のそばに高層ツインタワービルを建設する再整備基本計画を発表。このビルは西日本最大級のバスターミナルとしても機能し、バスによるネットワーク結節の要となる。神戸三宮を居住地に選べば、バスによって行動範囲は一気に拡大するのだ。そういった生活向上に役立つ情報のアウトプットが増えたことが第3位という人気につながったのではないか。

また、先ごろ三宮ターミナルビル内の商業施設「三宮OPA」が閉館し、建て替え工事が始まっている。さらに阪急も神戸三宮の「神戸阪急ビル東館」の着工をスタートさせた。こちらは地上29階、地下3階という、近畿地方の駅ビルでは屈指のスケールを誇るものとなる。数年後には神戸三宮のシーンはがらりと変わるだろう。

神戸三宮の強みは、港を擁するゾーンがあり、船便の入り口という役目を担う点にもある。神戸開港150周年を記念する数々のイベントによりマスコミ露出の回数が伸び、寄港・出港する豪華客船の数も増えた。海からのインバウンドの流れも次第に整い始めている。海外から見た「観光地」という側面では大阪や京都に後塵(こうじん)を拝していた感がある神戸が、いよいよ動きだした。

関西では再開発とアミューズメントが「住みたい街」を決めるポイントとなる

こうしてTOP3を振り返ってみると、関西では居住地を選択するにあたり、再開発計画やそれに伴うアミューズメント感が重要視されているのではないだろうか。大規模な再開発の構想があり、行政がそれを実施すると発表し、報道が広く伝えると、「そこに住む私」を夢想しやすくなるのかもしれない。

ならば4位にランクインしている「なんば」は、2018年に完成予定の「なんばスカイオ」や、なんば高島屋大阪店前に誕生する予定の新広場など、今年から来年にかけて話題に事欠かず、今後はいっそうのランク上昇が期待できそうだ。

「草津」一強の滋賀県と、票が分散する京都

ベスト10のなかで注目したいのが、京都を圧し10位となった滋賀県の「草津」。琵琶湖に面して自然が豊かで、かつ商業施設が拡充し、特に隣駅の「南草津」駅周辺の発展は著しい。草津市の人口も年々増加の一途をたどっている。

住みたい街(駅)居住府県別ランキングトップ10(滋賀県民/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)居住府県別ランキングトップ10(滋賀県民/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

居住府県別ランキングにおいても1位が「草津」、2位が「南草津」と実質草津市の圧勝。滋賀県において草津は一強と呼んで大げさではない。

「通勤に便利で気候もよく、住みやすい。治安もよく、町並みもきれいですごしやすい。京都・大阪へのアクセスがよい」(48歳 男性)と、交通の利便性に対して満足度が高い。自家用車がないと暮らしに不便という印象が強い滋賀県だが、電車移動が比較的ラクな点が好評価につながっているようだ。京都・大阪へのアクセスなら県庁所在地・大津のほうが早いのでは? と思ってしまうが、大津だと県境に近すぎ、反対に滋賀県内への移動が不便になる可能性もある。そんな草津の「ちょうどよさ」が訴求力となったのかもしれない。

ひとつのエリアが強大な支持を得る滋賀県に対し、得票がばらける傾向にあるのが京都。居住府県別ランキングの1位は「桂」だが、ポイントは152と得票数はそこまで高くはない。

住みたい街(駅)居住府県別ランキングトップ10(京都府民/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)居住府県別ランキングトップ10(京都府民/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

この結果は、京都府民が「住みたい」に挙げた場所がいかに分散しているかの証し。しかも1位となった桂は他都市の上位と違い、繁華街ではない。インバウンドの影響をさほど受けぬ、静かに時を刻む街だ。にぎわいよりも落ち着きを優先する京都府民の気質がランキングに表われている。それぞれに思い入れの深い場所が異なるため票が集中しないのだろうか。世界遺産を数多(あまた)有しながらも総合ランキングTOP10に一カ所も顔を見せないのはそのためなのかもしれない。

「穴場だと思う駅ランキング」の1位は昭和レトロな風情の「塚口」

「穴場だと思う駅ランキング」の1位に躍り出たのが「塚口」。兵庫県ではあるものの大阪「梅田」までわずか5駅。阪急神戸線でランクインしているが徒歩圏内にJR福知山線の同名駅があり、縦横のアクセスを可能にしている。さらに阪急伊丹線の始発駅。ターミナルとして申し分ない。

穴場だと思う(交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある)駅ランキング(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

穴場だと思う(交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある)駅ランキング(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

「程よく都会ではない感じで公園などの緑も残っているところが住みやすい」(44歳 女)と、洗練されすぎていない光景に愛着をもつという回答が複数あった。なるほど駅前は昭和ムードがいまなお横溢(おういつ)し、その気取らなさにほっとする人も多いようだ。とはいえランドマーク的存在だった「塚口さんさんタウン3番館」が昨年秋、老朽化を理由に閉館となり、跡地に商住複合型マンションの建設予定が発表された。この街もまた未来へ向けて表情を変えつつある。「穴場」の1位に選ばれたのも、街の蘇生に期待をいだく人が少なくないからではないだろうか。

それにしても、「総合ランキング」でも「穴場だと思う駅」のランキングでも、TOP3に2カ所ずつランクインさせた兵庫県の強さに驚かされる。

関西のランキングをつぶさに見てゆくと、関西人はなんらかのニュース性がある街を居住地に選ぶ傾向があるのかもしれない。これから様相を変えようとしている街が現れれば、順位はいくらでも変動するに違いない。「住みたい街(駅)ランキング関西版」は、関西のうごめきが分かる俯瞰図でもある。

●参考
・2018年の結果を見る
「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」(PDF)/リクルート住まいカンパニー

地方出身者へ贈る 内見前に知っておきたい「東京」の賃貸事情

今年の部屋探し&引越しシーズンもいよいよ終盤。大学進学や就職といったタイミングで、地方から東京に移り住む人も多いはず。しかし、土地勘や家賃相場が分からずに、部屋探しに苦戦してしまう人も多く、「花の東京ライフ、こんなはずじゃなかった……」と後悔してしまうケースもしばしば。
そこで今回は、今まで地方出身者へ80回以上引越しのアドバイスを行ってきた街選びアドバイザー・土井直樹(どい・なおき)さんに「東京の賃貸事情と、上手な部屋の探し方」について、聞いてみました。
春から東京生活スタート、ワクワクしながら新居探しをしている方も多いでしょう。ただ、東京という広大な都市での住まいを探す上では、内見前におさえておきたいポイントがいくつかあります。私自身も兵庫県の離島出身というバックグラウンドをもっているので、大学進学で上京した際、都内での家賃の高さや駅の多さに目の玉が飛び出たことを思い出します。

エスカレーターでの立ち位置、話し方など、関西人には当初慣れないこともたくさんありました。しかし都内の街を歩き尽くして得た知識や経験のおかけで、今まで80人以上の方へ街選びのアドバイスができたのだと思っています。

今回は、地方出身者の方に向けて、「東京の家賃相場」「初めて東京に住むならどこがいいのか」「地方出身者がお得に東京で部屋探しをするコツ」という3つのポイントをご紹介します。

地方に比べて、東京は家賃相場が高い!

一般にもよく言われる「東京は家賃が高い」という話ですが、実際のデータではどれくらい高くなっているのでしょうか? 

都心と言われる山手線の内側にある駅に絞ってみてみましょう。安い順に並べてみても、1位は雑司が谷駅と田端駅の7.8万円。

●山手線の内側で家賃相場が安い駅
順位/駅名(主な路線/駅所在地)/家賃相場(1R・1K・1DK)
1位 雑司が谷(東京メトロ副都心線/豊島区) 7.8万円
1位 田端(JR山手線/北区) 7.8万円
3位 鬼子母神前(都電荒川線/豊島区) 7.95万円
4位 駒込(JR山手線/豊島区) 8万円
4位 目白(JR山手線/豊島区) 8万円
4位 西日暮里(JR山手線/荒川区) 8万円
4位 千駄木(東京メトロ千代田線/文京区) 8万円
8位 高田馬場(JR山手線/新宿区) 8.2万円
8位 早稲田(都電荒川線/新宿区) 8.2万円
8位 大塚(JR山手線/豊島区) 8.2万円

これに対して、例えば、私が現在住んでいる仙台駅から15分圏内の駅で家賃相場をみてみると、一番家賃相場が安い駅は、なんと3.4万円なのです。雑司が谷や田端の家賃相場と比べると、4.4万円も安くなります。

都心の家賃の高さはデータからもしっかりと見て取れます。住まいを探すにあたって、この東京の相場はまず頭に入れておきたいですね。

●仙台駅まで15分以内にある家賃相場が安い駅
順位/駅名/家賃相場(主な路線/所在地/仙台駅までの所要時間)
1位 八木山動物公園 3.4万円(地下鉄東西線/仙台市太白区/12分)
2位 北山 3.9万円(JR仙山線/仙台市青葉区/10分)
2位 旭ヶ丘 3.9万円(地下鉄南北線/仙台市青葉区/11分)
4位 台原 4.0万円(地下鉄南北線/仙台市青葉区/9分)
4位 黒松 4.0万円(地下鉄南北線/仙台市泉区/12分)
4位 東北福祉大前 4.0万円(JR仙山線/仙台市青葉区/12分)
4位 国見 4.0万円(JR仙山線/仙台市青葉区/15分)
8位 青葉山 4.2万円(地下鉄東西線/仙台市青葉区/9分)
9位 東仙台 4.4万円(JR東北本線/仙台市宮城野区/4分)
10位 福田町 4.5万円(JR仙石線/仙台市宮城野区/14分)

東京の賃貸は、地方と比べれば「どこも高いやんけ!」という声も聞こえてきそうですが、東京にしかない魅力もいっぱいあるんです。ここからはそんな東京の魅力を含めて、初めて住むならどこがいいか、ご紹介していくことにしましょう。

初めて東京に住むならどこがいい?

[1]東京はエリアによって街の雰囲気が違うので、自分にあった街を選ぶことが重要

新宿駅(写真/PIXTA)

新宿駅(写真/PIXTA)

地方出身者がはじめて上京すると、ザ・大都会という感じがする東京駅や新宿駅に圧倒されることが多いと思いますが、実際に暮らし始めると「都会が連続して続いている感覚」に驚くことになるでしょう。

先月、twitterでも「関西地方の民が感じた東京」というツイートが話題になっていました。電車に乗っていると「どこまで行っても街が続くという感覚」を覚えるのですが、地方出身の私にとっても、これは東京でしか味わえない感覚でした。

地方都市、例えば大阪であれば、栄えているのは梅田・難波・天王寺。福岡であれば、博多・天神と、都心エリアはごく限られているのですが、東京はそうではないのです。東京では、山手線を中心として、東西南北にさまざまな街が広がっています。

山手線でいえば、東京駅、上野駅、品川駅などを中心とした東側エリア、新宿駅、渋谷駅、池袋駅を中心とした西側エリア。そして、これらのターミナルからは私鉄沿線が放射線状に連なっていきます。繁華街が限定されている地方都市と異なり、それぞれの街で大きく雰囲気が違うので、自分のライフスタイルにあった街を見つけることが最も重要なポイントです。

[2]学校・職場がある沿線から検討するのが王道、「相互直通運転」を忘れずに

東京駅(写真/PIXTA)

東京駅(写真/PIXTA)

さて、ここからは具体的な街選びの方法についてですが、学校や職場がある駅につながっている路線から検討するのが王道です。例えば、職場が渋谷なら、JR山手線、JR埼京線、東急田園都市線、東急東横線、京王井の頭線、東京メトロ銀座線、東京メトロ半蔵門線……と渋谷に乗り入れがある沿線から探していきましょう。

そして、ぜひチェックしたいのは、地方と東京の鉄道の大きな違いである「相互直通運転」について。路線図を見ると一見別の路線に見える電車が、そのまま一本でつながっていることが多いのです。これが、東京における鉄道の大きな特徴。

例えば、東京メトロ半蔵門線に乗ると、別の会社が運営する東急田園都市線の中央林間や、東武スカイツリーラインの東武動物公園まで乗り換えなしでそのまま向かうことも可能なんです(私も初めて上京した際、なぜ半蔵門線のホームに田園都市線の車両が止まっているのか、謎で仕方がありませんでした……)。このような「相互直通運転」は関西や福岡などの一部エリアでは実施されていますが、東京では非常に多くの路線で導入されているので、ぜひ注目してみてください。

地方出身者が、お得に東京で部屋探しをするコツは?

さて、最後に実際に役立つ「お得に東京で部屋探しをするコツ」についてご紹介することにしましょう。

[1]「人気の駅」から1~2駅ズラせば、家賃は安くなる可能性も

吉祥寺の井の頭恩賜公園(画像/PIXTA)

吉祥寺の井の頭恩賜公園(画像/PIXTA)

SUUMOでも毎年住みたい街ランキングが発表されていますが、テレビや雑誌でよく取り上げられる「横浜」「吉祥寺」「恵比寿」などの駅が上位にランクインしています。これらの街は、地方出身の方もご存じの場合が多いと思いますし、「雑誌でよく見かける吉祥寺に住みたい」なんて憧れている方もいるかもしれません。

ただ、人気の駅はやっぱり家賃も高い、というのが現実でもあります。そこで、おすすめしたいのは、「人気の駅」から1駅~2駅範囲を広げてみること。例えば、吉祥寺駅から1駅隣の三鷹駅や井の頭公園駅を選べば、家賃相場もちょっと下がるのです。1駅~2駅ズラすと1カ月当たり数千円安く物件を探すことも可能な場合があります(年間換算すれば2万~3万円安くなることも!)。

同じように、横浜駅ではなくて、1駅隣の戸部駅、平沼橋駅など、少し範囲を広めてみることで、予算の中で希望の条件を満たせる可能性もグンと上がります。特に、地方と比べて・東京、首都圏は駅と駅の区間が短いので、1駅ズラしたとしても歩ける範囲であることも多いのがポイントです(自転車が使えるなら、なお不便さを感じにくいです)。

参考……家賃も手ごろで住みやすい? 住みたい街として人気の吉祥寺や恵比寿の「隣の街」はどんな街?

[2]契約時期や引越す時期を5月や6月にズラすことで、家賃が安くなったり、引越し費用が安くなったりすることも

引越し準備をする男性(画像/PIXTA)

引越し準備をする男性(画像/PIXTA)

先ほどは、「駅をズラす」というコツについてお話ししましたが、そもそも契約時期や引越す時期をズラす、というのもお得に家探しをする上では重要なポイントです。必ず3月4月に引越さないといけないというケースでなければ、繁忙期が終わった5月6月に契約したり引越したりすると、繁忙期より家賃が安くなっていたり、引越し費用が安くなったりすることもあります。

特に、神奈川・埼玉・千葉・茨城・群馬・栃木などに住んでいて、頑張れば電車で都内に通える範囲であれば、実際に入学する学校や新しい職場の環境を十分に知った上で引越すとミスマッチの可能性が減ります。

以前、私のところへ相談に来てくださった群馬県高崎市に暮らす新社会人の方がいたのですが、春に引越すかどうか迷われていたので、少しズラして5月のGWに契約&引越すことをご提案。結果、繁忙期を過ぎていたので、家賃も引越し費用も安くしてもらえたと喜んでいました。

最後に:東京を効率的に知るには、自転車がおすすめ

今はネット上にパノラマ・動画などが掲載されている物件が増えており、地方にいながら物件に関する多くの情報を知ることができるようになりました。その一方で、本当に住みやすいかどうか(坂が多いか、駅の出口から近いかなど)の感覚は、やはり実際に足を運んで東京の街を感じてみないと、分からないケースが多いのです。

そこで、内見の前後のタイミングで、自転車に乗って街を巡ってみることを私はお勧めしています。徒歩では歩き回れる範囲に限界がある一方、車だとつい目的地にダイレクトで行ってしまい、見落とす景色が多くなりがち。加えて、坂を感じることが難しいというデメリットがあるので、実際に住み始めてから「こんなはずじゃなかった」と後悔することもしばしば。

こんな背景から、効率的に街を巡り、エリアを知るには、自転車がお勧めです。東京には、気軽に利用できるレンタサイクルも数多くありますので、ぜひ試してみてください!

最後になりましたが、東京は、都市圏人口で3000万人を超える世界最大の都市です。一言で東京といっても、どの街を選ぶかで、あなたの東京ライフは大きく変わります。どんなライフスタイルの人も受け入れてくれる土壌があるので、ぜひ、あなたにあった「東京」を見つけてみてください!

ネコの街と呼ばれる谷中ってどんな街? 住民の方と一緒に散策してみた

東京の谷中、根津、千駄木。「谷根千」と呼ばれる界隈は、下町の雰囲気を色濃く残す人気の街だ。なかでも谷中は「ネコの街」として知られ、人に慣れた猫たちが悠々と街を往来している。雑誌やテレビの散歩特集などで取り上げられることも多いが、一方で、その住環境について語られることはあまりないように思う。
そこで、知られざる谷中の「住み心地」を調査すべく、住民の方を案内役にその魅力を掘り下げてみることにした。

迷路のような路地裏

今回ガイドしてくれるのは、谷中在住歴15年というサッサさん。ネコの雑貨販売を生業にしており、「ネコの街」の案内人としてはうってつけである。

サッサさん。たまたま訪れた谷中に惹かれ、住みつくようになったという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

サッサさん。たまたま訪れた谷中に惹かれ、住みつくようになったという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

JR日暮里駅を出て最初に訪れたのは、「夕やけだんだん」。夕焼けの美しさで知られる名所である。ここを下ると、これまた名物商店街の「谷中銀座商店街」へつながるのだが、商店街は通らず手前の道を脇へと逸れるサッサさん。

夕暮れ時には、階段に座って風景を眺める人の姿も(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

夕暮れ時には、階段に座って風景を眺める人の姿も(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

なんでも、「谷中銀座商店街は休日になると観光客で溢れかえるので、あまり住民は行かないんですよ」とのこと。

そう言って、静かな路地をするする抜けていく(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そう言って、静かな路地をするする抜けていく(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

確かに、商店街を一歩隔てただけの路地は静かで、誰ともすれ違わない。ここをゆっくり散歩するのが、サッサさんの日課だ。

「谷中は路地裏がいいんですよ。少し脇道に入ると、どこに続いているか分からない曲がり道や素敵な細い道がたくさんある。何度通っても迷路のように迷い込んでしまう。私は、そこに惹かれたんですよね」

下を流れる川に沿ってできた「蛇道」(写真撮影/小野洋平)

下を流れる川に沿ってできた「蛇道」(写真撮影/小野洋平)

なお、この路地の多さこそ、ネコが住み着いた要因の1つだという。

「どの路地も車が通れないほど狭いでしょ? それに古くから神社仏閣や墓地が多いエリアなので、ネコも安心してのんびり暮らせていたんです」

こちらはつつじの名所として知られる根津神社(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こちらはつつじの名所として知られる根津神社(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今と昔が混在する街並み

また、なんといっても古い街並みの美しさ。木造の長屋が並ぶ下町らしい風景が、サッサさんのお気に入りだ。

「初めて谷中に訪れたとき、その美しさに感動したんです。それから『こんな街に暮らしてみたいな』と思い焦がれていたらご縁があり、2年後に引越しを決めました」

サッサさんを魅了した木造長屋の街並み(写真撮影/小野洋平)

サッサさんを魅了した木造長屋の街並み(写真撮影/小野洋平)

最近は古い建物を活かし、リノベーションしたカフェがオープンするなど、谷中らしい景観を残そうとする動きも見られる。しかし、その一方で、近代的な外観の建物も急速に増えているそうだ。

「最近になって、新しい住民は増えましたね。東大や芸大が近いので学生はもともと多かったんですけど、ここ数年は単身者らしき大人の方もよく見かけます。耐震の関係で建て替えをする家も多く、一人暮らし用の手ごろなアパートなんかが見つかりやすいのだと思います」

寺町らしい一画。正面に見えるのは谷中のシンボル、樹齢90年を超えるヒマラヤスギ。なんと、植木鉢から育てられ、ここまでの巨木になったという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

寺町らしい一画。正面に見えるのは谷中のシンボル、樹齢90年を超えるヒマラヤスギ。なんと、植木鉢から育てられ、ここまでの巨木になったという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さて、下町というとコミュニティが若干閉鎖的というイメージが筆者にはあった。しかし、ヨソからやってきたサッサさんは、完全に街に溶け込んでいる様子。街を散策中、幾度もすれ違う人とあいさつを交わし、時には立ち話に花が咲いた。

「さっきの人は行きつけの飲み屋で知り合ったおかあさんです。お祭りの神輿に誘ってくれたり、いま住んでいるお家も見つけてもらったんです」

なんでも、昔からの住民は「世話好き」が多いとのこと。

「何か困ったことがあったら助けてくれる良い方ばかりですよ。もはや地元にいるのと変わらない感覚ですね。行きつけの飲み屋は親戚の家みたいな雰囲気だし、新旧の住民が密接な関係になりやすいのも谷根千ならではだと思います」

どうやらここにはリアルに「下町の温かさ」が根付いているようである。

散策中に出会ったネコ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

散策中に出会ったネコ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ちなみに、谷中の住民は人だけでなくネコにも温かいそうだ。

「近所に住む人たちは、野良猫でも責任を持って世話するんです。だから、街も汚れずに多くのネコが住み着いたんですよ」

しかし、その一方でこんな話も。

「ただ、じつは谷中のネコは年々減少しています。というのも、区のボランティアによって、去勢・避妊手術を行い、殺処分ゼロ・野良猫ゼロにする運動を行ってきたからです」

野良猫が際限なく増えれば、糞害などのトラブルも起こる。谷中のネコに癒やしを求める観光客は多いが、住民にとっては可愛いだけでは済まされないストレスもあるのだろう。数年前から区のボランティアグループが立ち上がり、「ネコの街」は新たな転換点を迎えているという。

そんな谷中の生活環境とは?

さて、最後に谷中の生活環境に目を向けてみよう。まずは買い物事情。生活必需品は、谷中銀座商店街に交わる「よみせ通り」でそろうとのこと。谷中銀座商店街は観光客向け、よみせ通りは地元民向けという棲み分けのようだ。

地元民が行き交う「よみせ通り」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

地元民が行き交う「よみせ通り」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「大きな買い物をするときは上野に行きます。自転車で10分弱くらいなので不自由ないですね。それから、電車も日暮里駅や千駄木駅が使えるので便利ですよ。どこにでも出やすいです。ただ、街中は坂が多くて体力がないときついかな。私は自転車によく乗りますが、すぐにブレーキがすり減ります(笑)」

長い一本道の坂。足腰が鍛えられそうだ(写真撮影/小野洋平)

長い一本道の坂。足腰が鍛えられそうだ(写真撮影/小野洋平)

谷中近辺の家賃相場は?

そんな谷中の気になる家賃相場を見ていこう。JR日暮里駅の一人暮らし用賃貸物件(駅徒歩10分圏内、20~30平米のワンルーム・1K・1SK)の相場は8.9万円、物件数は824件もヒットした。ただ、サッサさんいわく、古くから残る物件もあれば最近建て直された物件もあるのでピンキリだという。

また、参考までに谷中近隣の街の家賃相場は以下のとおり。

●谷中まで15分以内の家賃相場が安い駅ランキング(TOP10)

1位 谷在家(日暮里・舎人ライナー)/14分/5.8万円/物件数175
2位 お花茶屋(京成電鉄本線)/15分/6.5万円/物件数249
3位 江北(日暮里・舎人ライナー)/11分/6.6万円/物件数146
4位 荒川二丁目(都電荒川線)/14分/6.6万円/物件数24
5位 小菅(東武伊勢崎線)/14分/6.6万円/物件数146
6位 扇大橋(日暮里・舎人ライナー)/8分/6.8万円/物件数115
7位 高野(東京)(日暮里・舎人ライナー)/10分/6.8万円/物件数111
8位 西新井大師西(日暮里・舎人ライナー)/13分/6.8万円/物件数162
9位 東尾久三丁目(都電荒川線)/14分/7.0万円/物件数65
10位 堀切菖蒲園(京成電鉄本線)/13分/7.1万円/物件数526

というわけで、街歩きで見えてきた谷中の特徴をまとめると…

・車も入れないほどの路地が迷路のように入り組んでいる
・古い長屋や神社仏閣、坂など昔ながらの景観が残る
・一方で、新しい住居も増えつつある
・ここ数年、単身者を中心に新しい住民が多く見られる
・昔からの住民は世話好きな方が多く、仲良くなりやすい
・実は野良猫は減りつつある

「ネコと商店街」のイメージが強かった谷中だが、ネコは減り、地元民はあまりメインの商店街を使っていないという意外な事実が見えてきた。「ネコと商店街」はあくまで“観光客が求める谷中”であって、実際には冷静で地に足のついた生活が根付いている印象だ。一方で「世話好き」など、いわゆる下町の人情みたいなものはしっかりあって、サッサさんとご近所さんとのふれあいには、取材中何度もほっこりさせられた。これからさらに新しい住民が増えても、そういうベタな“下町的エモさ”は残り続けてほしい。帰り際、夕やけだんだんから赤く染まる街並みを眺めつつ、そんなことを思った。

地熱発電の利用拡大はできるのか? 別府市の取り組みを取材してみた

環境に配慮した自給自足のエネルギーとして再生可能エネルギーの重要性が年々高まっている。太陽光、風力、水力と発電方法はさまざまだが、そのなかでも天候に左右されないエネルギーとして注目されているのが「地熱エネルギー」だ。そこで国内で初めて地熱発電に成功した大分県・別府市にて現状と今後について伺った。
地熱発電の導入数でトップ

温泉大国・別府市は源泉数2217件、毎分83058Lの湧出量を誇る。これは日本でもずば抜けて多い源泉数と湧出量で、至るところで湯けむりがたなびいている景色は、国内外問わず観光客に支持されている。そして同市はその豊かな源泉を活かして日本で初めて地熱発電を成功させた。

1919年、別府の鶴見噴気孔付近で掘削した後、1925年に東京電灯(東京電力の前身)の太刀川平治博士が深度約24mの井戸から出た噴気を利用して電灯10個分ほど(1.12kW)の発電に成功したことがきっかけで、地熱発電が全国へと広まった。その後、東日本大震災をきっかけに再生可能エネルギーの導入が進んでいるが、なんと2017年3月末時点で全国29カ所のうち17カ所が別府市と、日本の地熱発電所の約6割が同市に集まっている。

【画像1】資料は資源エネルギー庁の集計のもの。発電所数に関して別府市は全国でもトップ。認定=国から売電の許可を得た発電所。導入=そのうち売電を始めた発電所(提供/別府市)

【画像1】資料は資源エネルギー庁の集計のもの。発電所数に関して別府市は全国でもトップ。認定=国から売電の許可を得た発電所。導入=そのうち売電を始めた発電所(提供/別府市)

【画像2】海側から眺めた別府市(写真提供/別府市観光協会)

【画像2】海側から眺めた別府市(写真提供/別府市観光協会)

別府市の地形は扇型で、二つの断層が市街地を挟むように山から海に向かって伸びており、その断層をつたって温泉が湧き出ている。山側・中側・海側と断層を掘る位置によって違った泉質の温泉が楽しめるのが特徴だが、地熱発電に関して言えば山側の断層付近では高深度の掘削を行わなくても高温の温泉や蒸気を確保することが可能であり、それによって地熱バイナリー発電の導入が進んでいる。

【画像3】別府市では「別府市地域エネルギービジョン」を掲げ、地熱・太陽光・風力・バイオマスなど各種再生可能エネルギーの導入に関して具体的な目標数値を設定。温泉発電の導入ペースはこのまま維持する計画だ(出典/別府市「別府市地域エネルギービジョン」より転載)

【画像3】別府市では「別府市地域エネルギービジョン」を掲げ、地熱・太陽光・風力・バイオマスなど各種再生可能エネルギーの導入に関して具体的な目標数値を設定。温泉発電の導入ペースはこのまま維持する計画だ(出典/別府市「別府市地域エネルギービジョン」より転載)

固定価格買取制度(FIT制度)に関する地熱発電の買取価格は40円/1kwと太陽光に比べても高く、また天気に左右されず24時間安定供給ができるクリーンエネルギーであることから地産地消のエネルギーとして拡大が期待されている。しかし実際のところを伺うと、開発費用や設置費用、メンテナンス費用など経費が高く事業として成り立たない恐れや、メイン産業である温泉に「これ以上、掘削を続けると影響があるのではないか」という懸念の声が一部で出ていることが分かった。別府市の産業の9割はサービス業なので、温泉の湯量や温度への影響は死活問題でもあるのだ。

災害などの非常事態にも備えた取り組みは、まちのシンボルに

一方、地熱発電の先駆けとして走っているのが「杉乃井ホテル」だ。このホテルでは1980年に日本のホテル業界では初めて本格的な地熱発電所として運転を開始し、当時は3000kWの発電に成功した。現在は1900kWの設備容量により、ホテル館内の約46%の電力を賄っている。

【画像4】杉乃井地熱発電所。24時間体制で電力を送電でき、非常時にも対応できるのが魅力。施設は日本工業技術庁が地熱発電試験を行った跡地を利用(写真撮影/フルカワカイ)

【画像4】杉乃井地熱発電所。24時間体制で電力を送電でき、非常時にも対応できるのが魅力。施設は日本工業技術庁が地熱発電試験を行った跡地を利用(写真撮影/フルカワカイ)

「温泉はスケールと呼ばれる『湯垢』がつくので、温泉を通る管やタンクなどのメンテナンスには費用がかかります。それでも熊本地震のときには非常電力として稼働し、ホテルなので非常食やベッドなどの提供もできる態勢が整っていたので、災害時に感謝の声をいただきました。私たちとしても続けてよかったなと思っているところです」と語る広報の東さん。

事実「震災に見舞われて一時的だが観光客が減ったときも杉乃井ホテルの明かりがついていたことは市民のこころの支えになった」という地元の声もあった。また通常時でも夏には温水プール、冬にはイルミネーションと電力を観光客の楽しめるエンタテインメントに替え、地域の魅力を発信している。

【画像5】杉乃井ホテルの外観(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像5】杉乃井ホテルの外観(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像6】330万球のイルミネーション。おもてなしの精神を光で表現している(写真提供/杉乃井ホテル)

【画像6】330万球のイルミネーション。おもてなしの精神を光で表現している(写真提供/杉乃井ホテル)

古き良き温泉熱利用でうまれた温泉たまご

乱掘が懸念されてはいるが、多くの温泉が湧き出るなかでそのまま利用しないのはもったいないというのも事実である。鉄輪温泉にある「双葉荘」は、源泉から出た蒸気をさまざまな形で利用して観光客向けのサービスを提供している旅館だ。「地獄蒸し」と呼ばれる、蒸気でつくる温泉たまごは温泉独自の硫黄の香りがさらに味わいを増し、6時間以上たってもあたたかい。また蒸し湯やオンドルもじんわりと体を温めてくれるので長湯ができない人にも人気だ。古くから行われている温泉の二次利用の代表例であり、それが観光資源となるなど、最先端の有効活用法でもある。

【画像7】写真左:宿泊客のリピート率が90%という旅館「双葉荘」で人気の地獄蒸し。写真右:宿泊客は自由に野菜やたまご、海鮮類を持ち込んでは蒸し料理を楽しんでいる。旅館内にはオンドルも(写真撮影/フルカワカイ)

【画像7】写真左:宿泊客のリピート率が90%という旅館「双葉荘」で人気の地獄蒸し。写真右:宿泊客は自由に野菜やたまご、海鮮類を持ち込んでは蒸し料理を楽しんでいる。旅館内にはオンドルも(写真撮影/フルカワカイ)

【画像8】 別府市では規定により発電に関する堀削の場所や穴の深さ・横幅を定めている。「すでに湧出している温泉や蒸気の熱エネルギーの有効活用を図るという意味での、温泉発電の導入促進が進んでいるのが現状です」と別府市環境課の津川さん(写真撮影/フルカワカイ)

【画像8】 別府市では規定により発電に関する堀削の場所や穴の深さ・横幅を定めている。「すでに湧出している温泉や蒸気の熱エネルギーの有効活用を図るという意味での、温泉発電の導入促進が進んでいるのが現状です」と別府市環境課の津川さん(写真撮影/フルカワカイ)

再生可能エネルギーの自給率を上げるにはまず、個人の意識を高めることが必要

このように、地熱エネルギーの取り組みは国内でも進んではいるものの、現状の施設への配慮を優先とし、使用用途などを慎重に考慮しながら進めているのが事実として見えてきた。環境にも優しく、非常事態でも使えるエネルギーは市外の人間にとってはメリットしか見えないが、温泉を生業にする人には持続可能な温泉資源の利活用が重要な課題として上がってくる。「まずは現状湧き出ている温泉の蒸気の二次利用など、現状の状態でできることから始めていき、だんだんと理解を深めていくのが必要なことかもしれません」と環境課の津川さんは語る。ある地域に依存する、ということではなく、再生可能エネルギーを私たち個人がどう生み出すか。次世代に向けてエネルギーのあり方をひとりひとりが考えていくことが大切なのかもしれない。

●取材協力
・別府市
・杉乃井ホテル
・鉄輪温泉「双葉荘」●参考
・再生可能エネルギーを知る・学ぶには

2018年「住みたい街ランキング」1位は、東京都ではないあの街に!?

リクルート住まいカンパニーでは、 関東圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)に居住している20歳~49歳の7000人を対象に実施した「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関東版」を発表した。人気の街として知られている吉祥寺や恵比寿を押しのけてTOPになったのは、なんと東京都の街ではなかった!【今週の住活トピック】
『SUUMO住みたい街ランキング2018 関東版』を発表/リクルート住まいカンパニー住みたい街ランキング2018は、横浜が1位!

今回は、調査方法を一部変更したということなので、過去のランキングとは単純に比較することはできないが、住みたい街(駅)ランキングのTOP3は、1位「横浜」、2位「恵比寿」、3位「吉祥寺」という結果となった。

【画像1】住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関東全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

【画像1】住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関東全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

顔ぶれよりも、その順位が驚きだ。TOPに躍り出たのは東京都の街ではなく、横浜だったからだ。もともと吉祥寺や恵比寿といった過去のランキングの常連に加えて、人気の高い横浜ではあったが、どういった点が評価されたのだろうか?

横浜を1位に挙げた人の理由を見ると、圧倒的に「交通のアクセスの良さ」と「何でもそろう買い物の便利さ」を挙げる人が多かった。

特に交通のアクセスは、ビッグターミナル駅として抜きん出ている。JRだけでも、東海道線、横須賀線、湘南新宿ライン、京浜東北線・根岸線、横浜線が走り、さらに京浜急行、東急東横線、相模鉄道、横浜市営地下鉄、みなとみらい線などの私鉄・地下鉄が集まるなど、横浜市内だけでなく首都圏全域に交通網を広げている。

また、みなとみらい線の乗り入れを契機に駅構内の通路も整備され、充実した商業施設が駅周辺に広がるなど、街が一大商圏を形成している。ほかにも、「オシャレ」や「洗練した」イメージのある横浜ブランドも強みで、「歴史を感じる」「観光に便利」といった声も多かった。

注目したいのは、横浜を選んだ人の居住地域の広がりだ。恵比寿や吉祥寺が、地元である東京都の人が6割以上を占めるのに対して、横浜は地元神奈川県の人は半数強にとどまり、東京都や埼玉県など他の都県から幅広い支持を集めたのが特徴だ。

【画像2】ランキング上位3位の街(駅)の居住都県別内訳(出典:リクルート住まいカンパニー)

【画像2】ランキング上位3位の街(駅)の居住都県別内訳(出典:リクルート住まいカンパニー)

他の都県から支持を集められる街がランキング上位に来る傾向も

2018年のランキングTOP10を見ても、同じような傾向が見られる。つまり、他の県に住む人から支持を得られたかどうかだ。

4位の「品川」は東京都(50.6%)だけでなく神奈川県(22.9%)からも、5位の「池袋」は東京都(58.1%)だけでなく埼玉県(24.9%)からも、アクセスの良さから厚い支持を集めている。

【画像3】他の県に住んでいる人からも支持を集めている4位の品川、5位の池袋(出典:リクルート住まいカンパニー)

【画像3】他の県に住んでいる人からも支持を集めている4位の品川、5位の池袋(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたいと答えた人の理由として、「どこにでも行ける交通アクセスの良さ」と「アミューズメントを含む商業施設の充実」が多いのだが、そこに知名度や話題性が加わることで、人気が高まるという図式のようだ。

一方で、9・10位の「大宮」と「浦和」は8割前後が地元の埼玉県で占めているが、「新幹線も停まる交通アクセスの良さ」(大宮)、「文教都市、落ち着いた住宅地の街並み」(浦和)といったその街ならではの住みたい理由が多く見られた。地元の人が高く評価する理由から圧倒的な支持を得て、ランクインしたと考えてよいだろう。

ちなみに、1都3県の住民がそれぞれ選んだ地元1位は、東京都民は、「吉祥寺」、神奈川県民は「横浜」、埼玉県民は「大宮」、千葉県民は「船橋」だった。

住みたい自治体は、TOP10すべてが東京都!?

住みたい街(駅)の総合ランキングでは、横浜が1位だが、「住みたい自治体」では、TOP10すべてが東京都の区になった。

住みたい街(駅)が交通利アクセスや商業利便が重視されるのに対して、行政市区を聞かれると住宅地かどうかが重視されるからではないだろうか。

【画像4】住みたい自治体ランキング(関東全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

【画像4】住みたい自治体ランキング(関東全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

また、「穴場だと思う街(駅)」では、「北千住」と「赤羽」が1位・2位となった。ブランド力はないが、交通アクセスや都心部との距離、商業施設の充実や成長性、家賃の割安感などが強みだ。

3位に入った「和光市」は1位・2位とはちょっと違い、始発駅という点が高く評価されたようだ。特に、東京メトロの有楽町線が副都心線に乗り入れ、東急東横線とも直通運転をするようになってからは、利便性が格段に向上した。都心部や横浜方面に座ったまま行ける狙い目駅というわけだろう。

【画像5】穴場だと思う(交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある)駅ランキング(関東全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

【画像5】穴場だと思う(交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある)駅ランキング(関東全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

ところで、住みたい理由にサッカーチームの名前を挙げた人もいた。例えば、横浜や浦和、柏などだ。好きなチームの応援に行きやすいというのも、住みたい要因になるわけだ。地元愛につながるので、こういった理由で住みたいと思うのもよい選択だと思う。

さて、住みたい街の調査では、過去のランキングの影響も受けるようだ。その街を選んだ理由の中には、「ランキングに入っていたから」「○○が話題になっていたから」という声もわずかながらあった。知名度やイメージが重視される傾向は変わらずで、ランキングの結果や上位として紹介された街の報道などを通じて、それが知名度やイメージアップにつながるというスパイラルになっている点は気になるところだ。

住みたい街は、快適な暮らしを求めて選んでほしい。特定の趣味のある人、子育てを重視する人、家にいるのが好きな人……。それぞれの理由で快適だと思う街を探してみてはいかがだろうか。

地域の不動産業者を”街の大家”に 宅建協会がタウンマネジメント・スクールを開催

現在、日本の人口は減少の一途。そんななか、地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための取り組みである「タウンマネジメント」が注目されている。その担い手として期待されるのが、宅建業者、いわゆる不動産仲介に携わる人たちである。彼らが本業である“土地や物件の取引”の枠を超える役割を果たすことで、「事業者自身」「街に暮らす人」「街の持続的な発展」、それぞれに寄与できるともいわれている。

果たして、これからの不動産業者はどうあるべきなのか? そのヒントを探るべく、今年1月30日と31日の2日間にわたり、埼玉県宅地建物取引業協会が全宅連不動産総合研究所と共同で開催した「不動産業者のためのタウンマネジメント・スクール」を取材した。

若手からシニアまで、地場の不動産業者がまちづくり・地域の魅力向上について真剣議論

テーマを「空き家対策とまちを活性化し地域価値を高める」に据えて開催された2日間のスクールには、埼玉県宅地建物取引業協会の県内16支部に所属し、不動産仲介業や管理業などに携わる人を中心に70人ほどの受講者が参加した。30代40代の若手が中心だったが、70代オーバーの方々も多数見受けられた。

各日8時間にわたる講座では、さまざまな切り口の内容を用意した。不動産学の第一人者で、国の不動産行政の審議会委員なども務める清水千弘(しみず・ちひろ)氏を迎えた基調講演「不動産業のこれから進むべき方向について」、八王子市で賃貸空き室を解消するべく就活セミナーや商店街とのタイアップを企画。学生が街に残りたくなる地域を目指す不動産仲介業者・杉本浩司(すぎもと・こうじ)氏による「地域貢献を通じて空き家・空き室を解消する」など、業界の未来を俯瞰した内容から先進的な街づくりの事例紹介まで、多彩な講師が熱弁をふるった。

【画像1】マサチューセッツ工科大学不動産研究センターの研究員も務める清水千弘氏。不動産市場分析の第一人者からの講義は、地場で不動産業を営む面々にとっては大きな刺激だったようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】マサチューセッツ工科大学不動産研究センターの研究員も務める清水千弘氏。不動産市場分析の第一人者からの講義は、地場で不動産業を営む面々にとっては大きな刺激だったようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

また、タウンマネジメントの取り組みを肌で感じてもらおうと、現地見学会も実施。リノベーションによる街づくりを行う草加市の宅建業者や、入間市ジョンソンタウンの歴史を継承したエリアのリノベーション、商店街の空き家を改修し、若い事業家に賃貸する千駄木の事例など、いくつかの班に分かれ3カ所に足を運んだ。

その後は、今後の目指すべき姿について思考を深めるべく、全員参加のチームディスカッションへ。発表では、次のような声が聞かれた。

「街の不動産会社は、オーナーや地元の人たちとの付き合いが深く、人脈も豊富です。その強みを活かして、負の資産と考えられがちな物件に価値付けをし、大手が行き届かないところをケアして行けたら」(浦和支部所属)

「10年後の不動産業界では、空き家や高齢者の増加などで、オーナーに対してその解決策を示していくようなコンサル力が必要とされるのではないかと思いました。不動産会社がそこまでやるか、というくらいお客様と地域をつなぐ役割を担っていく必要がある。何もしなければ、時代とともに消滅してしまうでしょう。

お客様に頼られる不動産会社というのが大事だと思いました。あと、横のつながりもより大切になってくる。地域コミュニティや行政との連携強化、他の地域で同じ悩みを抱える同業者との情報交換も一層求められると思います」(川口支部所属)

「これからは市場が縮小して家の借り方や買い方が変わってくる。差別化して闘っていくしかない。例えば、地域を絞ってオーナーまわりをしようという意見が出ました。不動産事業者自らが地域コミュニティをつくる起点になったり、防災ステーションの運営をしたり、とにかく何かを始めていかなければならない」(戸田支部所属)

【画像2】付せんを使い、不動産業の未来について整理しながらディスカッションを重ねた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】付せんを使い、不動産業の未来について整理しながらディスカッションを重ねた(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】チームごとに導き出した結果を発表(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】チームごとに導き出した結果を発表(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

個人経営型の不動産仲介業者が持続して発展していくには、地域活性への積極的なかかわりが必要だという意見が多く聞かれた。ディスカッションの内容について、清水千弘氏は次のように総括する。

「皆さん自身が、社会的な介在価値や存在意義を問うたディスカッションでした。受け身ではなく、攻めの姿勢が未来をつくり、生き残っていけるのかなと思います。地域活性と不動産業のかかわり方には、教科書となるビジネスモデルがあるわけではありませんが、一人でもスターが誕生すると地域が元気になっていくんですね。

そういう意味では、今回の参加者のなかから、ヒットを積み重ね、ホームランを打てるような方が誕生するのではないかと思います。宅建士は、社会とともにあり、地域の発展がなければ自分も儲からない。そんな気づきの声が聞けたことがうれしいです」(清水氏)

不動産業者が学ぶことで10年後の街を変えることができる

2日間のスクールを終えた参加者に感想を聞いてみた。

「カリスマ性のある人や発信力がある人であれば可能かもしれませんが、小規模業者が単体で頑張っても、地域活性にダイレクトにつなげることは難しいのかなと思うところもあります。ただ、木造賃貸アパートを再生している『モクチン企画』のビジネスモデルは取り入れたいと思いました。地域への貢献度が高いだけではなく、材料の仕入れを工夫してコスト削減すれば、儲かる事業に育ちそうな気がしています」(戸田支部所属)

「私は西川口の不動産屋の三代目なのですが、以前は大手不動産会社に所属していました。今回、地場の不動産業者の話を聞いて、違いを感じました。大手だと担当者が割と頻繁に変わりますが、地場だとずっとつながりを持つことができる。それは強みだと思います。ただし、持っている畑を耕さないとダメで、身銭をきって種を蒔くところをどれだけできるか、種を育てられるかどうかだなと。そのうえでも、これまで同業者との交流があまりなかったので、こうしたスクールを通してつながりを持てることで、畑の耕し方の情報共有にもつながると思います。

あと、地場の不動産業者って店舗に入りにくいんですよね。さらに、不動産会社って部屋探しする以外、足を運ばないですよね。それを、お茶のみできるような、入りやすい店づくりをすることで、ちょっと雑談しに立ち寄れる場として活用していただけると、地域コミュニティのハブになっていけるのかなと思います」(川口支部)

本業を軸に、どうやって地域の活性化にかかわっていくか。成功パターンがないからこそ、自分たちの目指すべき方向を模索する参加者たち。しかし、感想を語る表情は極めて明るく、今後の事業の可能性に胸を躍らせているようにも感じられた。

タウンマネジメント・スクールを主宰した埼玉県宅地建物取引業協会の内山俊夫会長は、同イベントの意義を次のように語った。

「開催の趣意は、埼玉県宅地建物取引業協会のグループビジョンでもある『行政と生活者の中心となる』こと。子どもを先生と親だけではなく地域が育てるのと同じように、地域コミュニケーションを高めるうえで“街の大家”である不動産会社の介在価値は高いだろうという発想に端を発しています。
ただ、目先の仕事だけするのではなく、10年後の発展を考えて仕事をする、そうした気づきが大事だと思いました。“負動産”を“富動産”に変えられるのが、地域の不動産業者なのではないでしょうか」(内山氏)

【画像4】「これまでの宅建士は、仲介の仕事がメインだった。これからはそれだけでは淘汰(とうた)されてしまう」と危機感を募らせる内山会長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】「これまでの宅建士は、仲介の仕事がメインだった。これからはそれだけでは淘汰(とうた)されてしまう」と危機感を募らせる内山会長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

いくらやる気があっても、学びがないと先には進めない。そこで、スクールと題して協会員に学びの機会を提供したかったという。なぜタウンマネジメントに宅建業者なのかといえば、法律関係に詳しく大家さんとの結びつきが深いからだとか。

「単なる仲介ではなく、今ある資産をどう再生させていくか、意識付けがどれくらい深まるか。今回のスクールが、地域のためになりビジネスとしてもつながる、ボランティアではないアプローチを宅建士たちから発信していくきっかけになればと思います」(内山氏)

不動産業のはじまりにあたる江戸時代、大家を中心とした地域のコミュニティが形成された頃から数百年あまり。住まいにまつわるビジネスは、システマチックに進化を遂げてきた。しかし、地域コミュニティが街の活性につながるキーワードとして取り上げられる昨今。スモールビジネスを営む宅建の有資格者たちが、ミクロな地域で社会貢献につながる取り組みが、不動産業界を持続的に発展させる新たなビジネスの種になるのかもしれない。

●取材協力
・公益社団法人 埼玉県宅地建物取引業協会
・公益社団法人 全国宅地建物取引業協会連合会不動産総合研究所

SUUMO編集長的「住むのにオススメな街」3つ

もうすぐ『住みたい街ランキング2018 関東版』が発表されるという情報を入手! 毎年、ランキングを見るたびに「住みたい街」って本当に人によって違うんだなぁ……としみじみ感じます。とすれば、SUUMOを取り仕切る編集長の池本洋一(いけもと・よういち)はどうなんだ、と気になるところ。

「僕は住まいの情報屋」と自ら全国、いえ全世界の街を巡り、住まいにかかわるありとあらゆる情報を収集している池本編集長に「個人的に」今オススメするならどこ? を聞いてきました!

都心で今、そしてこれからアツイのは「池袋」

さて、取材のために待ち合わせた「品川」も今回のこの記事で取り上げる候補エリアの1つに挙がっていた街ですが、池本編集長いわくそれを超える街が「池袋」だといいます。品川在住の筆者としては、この街が選ばれなかったことにちょっとしたジェラシーも感じつつ、その理由を聞くことにしました。

はたしてなぜ池袋!? どんな人に対して池袋押しなんでしょう?

【画像1】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「率直に言うと、池袋はまず、20代の女性にオススメしたい街です」(池本編集長、以下同)

え!? 女性、しかも20代ですか? 池袋といえば、結構男くさい街というイメージがあるのですが……そのココロは?

「実は、住みたい街ランキングでも、池袋は女性の得票数の多い街なんですよ。まず、ハイブランドからファストファッションまで、ありとあらゆるファッションブランドがこの街で一通り網羅できます。駅直結の西武、PARCO、東武百貨店、Echika、Esolaとファッション施設がてんこ盛り、少し離れたマルイまでも地下通路で駅から雨にぬれずに行けちゃう。ファッションの街、といえば原宿や渋谷などをイメージしますが、池袋は今のトレンドど真ん中を広く、網羅的に押さえられるショップが多くそろってるんです」
※関連記事……独身OLだった私にも優しく住みやすい街「池袋」

【画像2】池袋駅東口の風景(写真/PIXTA)

【画像2】池袋駅東口の風景(写真/PIXTA)

「それに、ビックカメラやヤマダ電機という家電量販店も充実しています。サンシャインシティの西側には、アニメイトやまんだらけをはじめとするオタク文化の聖地が広がっていて、いわば“秋葉原・中野的要素”がある。北口・東口に行けば、雑居ビルの中に昔から営業している飲食店がたくさんあって“赤羽・北千住的な要素”を感じますよね。さらに、サンシャインシティには水族館やナムコナンジャタウンなどの子どもが楽しめる場所もあり、家族で行ってもそれぞれに満喫できる場所が見つかります。

街として、複数の顔を持っていて受け皿が広い。これは多くの人にとって『居場所を見つけやすい街である』ってことが言えると思うんです。街全体がいろんな層の人を許容している雰囲気があって『懐の深さ』を感じます」

なるほど! そう言われるとたしかに子どもも大人も楽しめる場所がちゃんとありますね。筆者は、新文芸坐に映画を観に行ったりするんですが、子どもたちを連れて行くには何となく治安が良くないように思って、出かけ先の候補として避けてしまいがちでした……。

「その治安の悪いイメージもね、今、古くから池袋で商売をやっている人たちが改善しようとボランティアで地域パトロール隊を編成して活動してたりするんです。『池袋の良さ』を分かっている人たちが、その魅力をキープしてさらに進化させようとしている。

行政もそうです。南池袋公園がリニューアルして、全面芝生のきれいでオシャレな雰囲気になりましたよね。その近くには豊島区役所が移転して周辺の開発が進んでいます。北側の旧庁舎があった場所は、近くに新文芸坐のような民間の劇場も多いし、東京芸術劇場や公会堂など、もともと文化施設の多いエリア。豊島区はその一帯を『文化拠点』と位置づけて、2020年には宝塚や歌舞伎などを上演できる大型文化施設をつくる予定です。メインカルチャーとサブカルチャーがいい具合に混ざり合って、文化の多様性を大切にしながら進化しているんです」

「さらに池袋は住みやすい街でもありますよ。マンションだけでなく、雑司が谷のほうに行けば昭和の古い街並みが残っていて、一戸建ても多くある。『待機児童ゼロ』をはじめとして共働きファミリーに暮らしやすい施策も整っています。都心なのにそこそこ家賃も安くて『等身大の街』って感じがする。今、池袋に暮らしてる、って悪くないと思うんですよね」

だんだん、池袋周辺にファミリーで引越すというのも悪くない選択肢だな……と思い始めてしまいました。個人的に少し前までは池袋のような超都心エリアより、もう少し落ち着いた23区の縁側、杉並や世田谷のような場所に目が行きがちだったんですけどね。

23区の縁側なら「西荻窪」の魅力を知ってほしい

「その辺りなら今、僕は『西荻窪』をオススメします。住みたい街ランキングで上位を張り続けている吉祥寺の隣駅。僕の周りの人でも西荻窪に住んでる人、結構います。テナントの賃料なんて吉祥寺の半分くらいで借りられたりするから、出店したい人や落ち着いて住みたい人が流れてきていて、おいしくてオシャレなお店がどんどん増えてます」

ええ、筆者も何度か遊びに行ったことがありますが、古家具を扱っているお店やかわいい雑貨屋さんに加えて、オシャレなカフェやデリも、おいしく飲み食いできるお店もそろってますよね。また行きたいと思わせる街だし、行くと住みたくなります。

「そう。この街には住んでいる人か、本当に好きで来るリピーターのような人たちしかいない。『この街好き!』っていう純度がすごく高い街だと思うんです。

フランチャイズ店が極端に少なくて個人経営のお店が多いんだけど、例えばあるお店に行って店主と話すと『あそこの店も行ってごらんよ』と次の店がレコメンドされる。ここにいる人たちはみんなこの街がすごく気に入っていて、好きな者同士でその良さを共有し合おうという空気が流れている。それは住む人にとっても一緒で、一人で住んでも友達をつくりやすい街だと思うんです。こじんまりとした店で飲んで店主と話していると、隣に座っている人を紹介されたりとかね」

【画像3】西荻窪の飲み屋街(写真/PIXTA)

【画像3】西荻窪の飲み屋街(写真/PIXTA)

「昨年夏に社会デザイン研究者の三浦展(みうら・あつし)さんが自分の住んでいる西荻窪を紹介する、って記事を公開したんだけど僕もその取材に同行してたんです。あれを読んでもらえば、西荻窪の魅力は存分に分かってもらえるんじゃないかな。この街を歩いていると、ちょっとヨーロッパの街みたいだな、と思います。いや、見た目は全然ヨーロッパじゃないんだけどね(笑)。1階に店舗があって2階が住居って構造の店舗兼住宅が連なっているところが、歩いて楽しい街、住んでもいい街って感じで」

三浦さんの記事、筆者も読みました。こういう温かい空気が流れているように感じる場所って、子どもを育てるときにもいい効果があるように思いますね。一人で飲み歩くのも好きですが、二児の母としては、やはり子育て視点でも魅力を感じることのできる街だといいなと思っていて。

「教育という観点で見ると、中央線って魅力的な中学校・高校がそろっているので、将来、子どもが大きくなって中学受験するとか、高校に進学するようになったときに通いやすい立地だと思いますよ。かと言って、三鷹や吉祥寺のように学習塾が多いという印象でもない。

西荻窪は古家具屋さんや古本屋さんなんかもたくさんあって、古くていい物を長く大事にしようって感覚が住む人たちの中に共通してあるように感じます。お祭りや地域のイベントもたくさんあるから地域の人との交流も多く、子どもたちが街と一緒に育ってくイメージが湧くんですよね」

なるほど、池袋でも出てきた「街としての懐の広さ」みたいなものは、この街にも感じますね。ほかにも「子育て」という側面でオススメの街ってありますか?

子育て世代にオススメしたい郊外の街は「多摩センター」

「SUUMOでも今年のキーワードとして『育住近接』を掲げてるんですが、今回オススメする多摩センターは、30年くらい前に一世を風靡(ふうび)した計画都市『多摩ニュータウン』の中心地。莫大(ばくだい)なコストをかけて開発・整備された街です。幼稚園、保育園、小・中学校が等分配置されているから、どこに住んでもある程度アクセスしやすい場所に園や学校があるんですよ」

多摩センターですか! 子育て真っ最中の身からすると「親世代が憧れた住宅地」として何となく見聞きしてはいても、何だか一昔前の家族像が投影された街のよう。正直魅力を感じづらいのですが……。

「ですよね。みんなが都心を向いて一生懸命な今だからこそ、あえてオススメしたいんです。郊外と言われる場所は賃料に割安感があるし、昔ファミリー視点で徹底的に開発されたこの街は、本来すごく『子育てしやすい』場所なんです。

例えば、多摩センター駅から伸びるペデストリアンデッキ(建物と接続して建設された、広場と横断歩道橋の両機能を持つ歩行者専用の高架建築物)は、日本でも有数の広さで、歩くとすごく気持ちがいいですよ。完全に歩道と車道が分かれており、緑がその間に配された道路はアメリカの計画都市のようです。安心・安全に、スピーディーに子どもの送り迎えが可能な毎日をイメージできるでしょう」

【画像4】多摩センター駅前に伸びるペデストリアンデッキ(写真/PIXTA)

【画像4】多摩センター駅前に伸びるペデストリアンデッキ(写真/PIXTA)

でも、郊外に住むとなると、やっぱり生活利便性が落ちてしまうんだろうと思って、なかなか都心の生活を手放せずにいます。育児と仕事の両立においては、やはり通勤時間がかかるのも負担に感じますしね……。

「そう、交通アクセスがずっとネックだったんですけど、朗報があってね。この3月から小田急線の複々線化が完了して、多摩センターから新宿へのアクセスが最速で33分、朝のラッシュ時で40分と最大14分も短縮されるんですよ。しかも、これまで急行は新百合ヶ丘で乗り換えが必要だったんだけど、多摩センターから新宿へ直通の『通勤急行』『急行』が新設されて、多摩センターが始発のものもできる。座って乗ることができれば、通勤への負担感もずっと軽減されるでしょう?」

「それに駅前にはショッピング施設が多数あって、ユニクロやニトリ、電気量販店など生活に必要なものがそろう『ナショナルチェーン店の天国』と言ってもいいくらい。2駅先には南大沢の三井アウトレットパークがあって、商業的にすごく充実した立地なんですよ。一方で、聖蹟桜ヶ丘のほうに行けば多摩川が流れていて、大きな公園があって……と自然にあふれてる。

教育環境、日用品が買える店舗群、大規模ショッピングセンター、毎日使える公園、ちょっと遠出すれば山や川など自然……郊外の生活にあったらいいなと思うものがそろってるんです。もし郊外も検討に入れるんだったら、いっそ思い切ってここに住んでみたら? と子育て世代に提案したい街です」

なるほど! 納得です。今回、池本編集長に紹介してもらった3つの街は、どれも「やんわりと私たちを受け入れて、居心地のいい場所を与えてくれそうな街」という印象。今年の住みたい街ランキングがどんなラインナップになるのか楽しみですが、人気の街に限らず、ちょっと目線を広げた街選びと住まい探しで、理想の環境を手に入れたいものですね。

街のすごしやすさは? 代官山 VS 恵比寿編[4]【ライバルタウン我が街自慢対決!!】

ライバルタウン同士、自分たちの街を自慢し対決する新企画がスタート。今回はおしゃれな高級住宅街のイメージの代官山と、住みたい街ランキング1位で知られている恵比寿が対決!ここだけは負けない!という、「この街のすごしやすさ」を聞いてみました!■代官山
東急東横線で渋谷駅から1駅、隠れ家的なセレクトショップや人気ブランドの路面店が立ち並ぶ代官山。時代をリードする流行発信地として知られている。「代官山T-SITE」や「LOG ROAD DAIKANYAMA」など若者に人気なスポットが駅周辺にある人気エリア。【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

■恵比寿
JR山手線で渋谷駅から1駅、JR以外にも東京メトロ日比谷線が通っていてアクセスのいい恵比寿。グルメタウンとしても知られており、高級店から庶民派の店まで幅広くそろっている。「恵比寿ガーデンプレイス」や「ウェスティンホテル東京」など有名なスポットが数多く存在。【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

それでは、まず代官山の意見から聞いてみましょう!
【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:あすか(20)
職業:学生
趣味:買い物

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:あずさ(20)
職業:大学生
趣味:映画を観ること

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のあすかさんのこの街の過ごしやすさは、「移動手段がすべて歩き」なところ。代官山は駅周辺にお店が密集していて、隣の街の中目黒、恵比寿、渋谷にも歩いて行けるほどの距離なのが魅力ですね!歩きだからこそ、新しいお店や自分好みのお店など知らなかったお店を見つけられちゃうかも?
二人目のあずささんのこの街の過ごしやすさは、「他の場所よりものんびりできる」ところ。代官山は高級住宅街なのでガヤガヤせず、おしゃれな大人が多いからゆっくり落ち着いて過ごせるみたいです。カフェでのんびり友だちと話したり、ゆっくりと過ごしたいときは代官山がおすすめですね。 

それでは、次は恵比寿の意見を聞いてみましょう。【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:ユウナ(22)
職業:大学生
趣味:おいしいものを食べること

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:なおみ(26)
職業:美容師
趣味:ヨガ、演劇鑑賞

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のユウナさんのこの街の過ごしやすさは、「でしゃばりすぎないおしゃれさ」があるところ。恵比寿のおしゃれなお店は、大通りではなく路地に入ったところや、駅から少し離れたところにこじんまりと営んでいるお店が多いみたいです。ちょっと歩きながらいろいろ探すのも恵比寿の楽しみ方の一つです!
二人目のなおみさんのこの街の過ごしやすさは、「何でもそろう」ところ。恵比寿の駅前にはアトレがあり、周辺には生活雑貨から、飲食店やセレクトショップ、古着屋などのお店が数多く並びます。あまり歩かず恵比寿駅周辺でほとんど必要な物がそろうのはうれしいですね!

両代表の意見を比べると、代官山は人がガヤガヤしておらず、周辺の街もあまり離れていないのでほとんど徒歩で活動できるのが魅力。恵比寿は駅前にいろんなお店が密集しているのでほぼ駅前だけで生活には困らず、少し離れるとこじんまりとしたおしゃれなお店があるのが魅力。どちらも人気スポットだけに、立地も申し分なくいいですね。皆さんもぜひ、現地を訪れてみてくださいね。

お気に入りの飲み屋さんはここ♪【ライバルタウン我が街自慢対決!!】代官山VS恵比寿編[3]

ライバルタウン同士、自分たちの街を自慢し対決する新企画がスタート。今回はおしゃれな高級住宅街のイメージの代官山と、住みたい街ランキング1位で知られている恵比寿が対決!ここだけは負けない!という、「お気に入りの飲み屋」を聞いてみました!■代官山
東急東横線で渋谷駅から1駅、隠れ家的なセレクトショップや人気ブランドの路面店が立ち並ぶ代官山。時代をリードする流行発信地として知られている。「代官山T-SITE」や「LOG ROAD DAIKANYAMA」など若者に人気なスポットが駅周辺にある人気エリア。【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

■恵比寿
JR山手線で渋谷駅から1駅、JR以外にも東京メトロ日比谷線が通っていてアクセスのいい恵比寿。グルメタウンとしても知られており、高級店から庶民派の店まで幅広くそろっている。「恵比寿ガーデンプレイス」や「ウェスティンホテル東京」など有名なスポットが数多く存在。【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

それでは、まず代官山の意見から聞いてみましょう!【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:高取直樹(22)
職業:大学生
趣味:お笑い、アニメ、服、音楽

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:まさあき(20)
職業:大学生
趣味:読書、音楽、バスケ

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目の高取直樹さんがお気に入りの飲み屋さんは、SNSでも話題のNYスタイルの大きなピザが食べられる「PIZZA SLICE」。店内も白を基調とした雰囲気のある空間で、代官山のおしゃれな人が集まるお店です。大きなピザを片手に、ビールと合わせて食べるなんて最高ですね! 
二人目のまさあきさんがお気に入りの飲み屋さんは、「daikanyama O’KOK」。代官山駅からほど近いイタリアンバルです。代官山ならではの落ち着いた店内で、新鮮な食材を使ったイタリアンが楽しめます。最後にパスタとワインを味わうのがいつもの定番らしいです!

それでは、次は恵比寿の意見を聞いてみましょう。【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:ゆうた(21)
職業:大学生
趣味:バレーボール

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:やすけん(24)
職業:会社員
趣味:古着屋巡り

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のゆうたさんがお気に入りの飲み屋さんは、「恵比寿のバル」。恵比寿の駅前は人が多いけど、駅から少し離れた裏路地に雰囲気のあるバルがたくさんあるみたいです。大通りにはない、路地裏にあるおしゃれなお店を探すのも楽しいですし、静かな店内でゆっくりお酒を飲むのも素敵ですね!
二人目のやすけんさんがお気に入りの飲み屋さんは、立ち飲みもつ焼き屋さんの「縄のれん」。恵比寿駅近くにあるお店で、食べ物も飲み物もすべて安く食べられるとのこと。特に、焼トンとハラミが絶品らしいです。恵比寿は高級感のあるお店以外にも、大衆酒場のようなお財布にやさしいお店もたくさんあるのが魅力ですね。

両代表の意見を比べると、代官山はおしゃれな雰囲気のお店が多いのが魅力。恵比寿は落ち着いたお店からちょっとガヤガヤした大衆酒場まで幅広く飲み屋があるのが魅力。どちらも絶品グルメスポットが豊富みたいですね。さて、皆さんはどちらの街に興味が湧きましたか?ぜひ足を運んで確認してみてくださいね。

次回は代官山VS恵比寿編[4]「この街のすごしやすさ対決」です!

お気に入りの飲み屋さんはここ♪【ライバルタウン我が街自慢対決!!】代官山VS恵比寿編[3]

ライバルタウン同士、自分たちの街を自慢し対決する新企画がスタート。今回はおしゃれな高級住宅街のイメージの代官山と、住みたい街ランキング1位で知られている恵比寿が対決!ここだけは負けない!という、「お気に入りの飲み屋」を聞いてみました!■代官山
東急東横線で渋谷駅から1駅、隠れ家的なセレクトショップや人気ブランドの路面店が立ち並ぶ代官山。時代をリードする流行発信地として知られている。「代官山T-SITE」や「LOG ROAD DAIKANYAMA」など若者に人気なスポットが駅周辺にある人気エリア。【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

■恵比寿
JR山手線で渋谷駅から1駅、JR以外にも東京メトロ日比谷線が通っていてアクセスのいい恵比寿。グルメタウンとしても知られており、高級店から庶民派の店まで幅広くそろっている。「恵比寿ガーデンプレイス」や「ウェスティンホテル東京」など有名なスポットが数多く存在。【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

それでは、まず代官山の意見から聞いてみましょう!【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:高取直樹(22)
職業:大学生
趣味:お笑い、アニメ、服、音楽

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:まさあき(20)
職業:大学生
趣味:読書、音楽、バスケ

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目の高取直樹さんがお気に入りの飲み屋さんは、SNSでも話題のNYスタイルの大きなピザが食べられる「PIZZA SLICE」。店内も白を基調とした雰囲気のある空間で、代官山のおしゃれな人が集まるお店です。大きなピザを片手に、ビールと合わせて食べるなんて最高ですね! 
二人目のまさあきさんがお気に入りの飲み屋さんは、「daikanyama O’KOK」。代官山駅からほど近いイタリアンバルです。代官山ならではの落ち着いた店内で、新鮮な食材を使ったイタリアンが楽しめます。最後にパスタとワインを味わうのがいつもの定番らしいです!

それでは、次は恵比寿の意見を聞いてみましょう。【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:ゆうた(21)
職業:大学生
趣味:バレーボール

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:やすけん(24)
職業:会社員
趣味:古着屋巡り

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のゆうたさんがお気に入りの飲み屋さんは、「恵比寿のバル」。恵比寿の駅前は人が多いけど、駅から少し離れた裏路地に雰囲気のあるバルがたくさんあるみたいです。大通りにはない、路地裏にあるおしゃれなお店を探すのも楽しいですし、静かな店内でゆっくりお酒を飲むのも素敵ですね!
二人目のやすけんさんがお気に入りの飲み屋さんは、立ち飲みもつ焼き屋さんの「縄のれん」。恵比寿駅近くにあるお店で、食べ物も飲み物もすべて安く食べられるとのこと。特に、焼トンとハラミが絶品らしいです。恵比寿は高級感のあるお店以外にも、大衆酒場のようなお財布にやさしいお店もたくさんあるのが魅力ですね。

両代表の意見を比べると、代官山はおしゃれな雰囲気のお店が多いのが魅力。恵比寿は落ち着いたお店からちょっとガヤガヤした大衆酒場まで幅広く飲み屋があるのが魅力。どちらも絶品グルメスポットが豊富みたいですね。さて、皆さんはどちらの街に興味が湧きましたか?ぜひ足を運んで確認してみてくださいね。

次回は代官山VS恵比寿編[4]「この街のすごしやすさ対決」です!

お気に入りの飲み屋さんはここ♪代官山VS恵比寿編[3]【ライバルタウン我が街自慢対決!!】

ライバルタウン同士、自分たちの街を自慢し対決する新企画がスタート。今回はおしゃれな高級住宅街のイメージの代官山と、住みたい街ランキング1位で知られている恵比寿が対決!ここだけは負けない!という、「お気に入りの飲み屋」を聞いてみました!■代官山
東急東横線で渋谷駅から1駅、隠れ家的なセレクトショップや人気ブランドの路面店が立ち並ぶ代官山。時代をリードする流行発信地として知られている。「代官山T-SITE」や「LOG ROAD DAIKANYAMA」など若者に人気なスポットが駅周辺にある人気エリア。【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

■恵比寿
JR山手線で渋谷駅から1駅、JR以外にも東京メトロ日比谷線が通っていてアクセスのいい恵比寿。グルメタウンとしても知られており、高級店から庶民派の店まで幅広くそろっている。「恵比寿ガーデンプレイス」や「ウェスティンホテル東京」など有名なスポットが数多く存在。【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

それでは、まず代官山の意見から聞いてみましょう!【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:高取直樹(22)
職業:大学生
趣味:お笑い、アニメ、服、音楽

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:まさあき(20)
職業:大学生
趣味:読書、音楽、バスケ

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目の高取直樹さんがお気に入りの飲み屋さんは、SNSでも話題のNYスタイルの大きなピザが食べられる「PIZZA SLICE」。店内も白を基調とした雰囲気のある空間で、代官山のおしゃれな人が集まるお店です。大きなピザを片手に、ビールと合わせて食べるなんて最高ですね! 
二人目のまさあきさんがお気に入りの飲み屋さんは、「daikanyama O’KOK」。代官山駅からほど近いイタリアンバルです。代官山ならではの落ち着いた店内で、新鮮な食材を使ったイタリアンが楽しめます。最後にパスタとワインを味わうのがいつもの定番らしいです!

それでは、次は恵比寿の意見を聞いてみましょう。【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:ゆうた(21)
職業:大学生
趣味:バレーボール

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:やすけん(24)
職業:会社員
趣味:古着屋巡り

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のゆうたさんがお気に入りの飲み屋さんは、「恵比寿のバル」。恵比寿の駅前は人が多いけど、駅から少し離れた裏路地に雰囲気のあるバルがたくさんあるみたいです。大通りにはない、路地裏にあるおしゃれなお店を探すのも楽しいですし、静かな店内でゆっくりお酒を飲むのも素敵ですね!
二人目のやすけんさんがお気に入りの飲み屋さんは、立ち飲みもつ焼き屋さんの「縄のれん」。恵比寿駅近くにあるお店で、食べ物も飲み物もすべて安く食べられるとのこと。特に、焼トンとハラミが絶品らしいです。恵比寿は高級感のあるお店以外にも、大衆酒場のようなお財布にやさしいお店もたくさんあるのが魅力ですね。

両代表の意見を比べると、代官山はおしゃれな雰囲気のお店が多いのが魅力。恵比寿は落ち着いたお店からちょっとガヤガヤした大衆酒場まで幅広く飲み屋があるのが魅力。どちらも絶品グルメスポットが豊富みたいですね。さて、皆さんはどちらの街に興味が湧きましたか?ぜひ足を運んで確認してみてくださいね。

次回は代官山VS恵比寿編[4]「この街のすごしやすさ対決」です!

かわいいインスタ映えスポットは?代官山 VS 恵比寿編[2]【ライバルタウン我が街自慢対決】

ライバルタウン同士、自分たちの街を自慢し対決する新企画がスタート。今回はおしゃれな高級住宅街のイメージの代官山と、住みたい街ランキング1位で知られている恵比寿が対決!ここだけは負けない!という、「かわいいインスタ映えスポット」を聞いてみました!■代官山
東急東横線で渋谷駅から1駅、隠れ家的なセレクトショップや人気ブランドの路面店が立ち並ぶ代官山。時代をリードする流行発信地として知られている。「代官山T-SITE」や「LOG ROAD DAIKANYAMA」など若者に人気なスポットが駅周辺にある人気エリア。【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

■恵比寿
JR山手線で渋谷駅から1駅、JR以外にも東京メトロ日比谷線が通っていてアクセスのいい恵比寿。グルメタウンとしても知られており、高級店から庶民派の店まで幅広くそろっている。「恵比寿ガーデンプレイス」や「ウェスティンホテル東京」など有名なスポットが数多く存在。【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

それでは、まず代官山の意見から聞いてみましょう!【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:あずさ(20)
職業:学生
趣味:映画を観ること

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:あすか(20)
職業:学生
趣味:買い物

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のあずささんのかわいいインスタ映えスポットは、「Taji Maji」というお花とクレープのお店。店内はたくさんのお花が飾ってあり、お店の中を撮るだけでもインスタ映え間違い無し!花束のようなクレープと一緒に撮るとさらにおしゃれな写真が撮れるみたい。SNSで話題沸騰中の人気スポットです。
二人目のあすかさんのかわいいインスタ映えスポットは、代官山の人気スポット「LOG ROAD DAIKANYAMA」。いろいろなおしゃれなお店が並び、カフェや植物のグリーンのある場所でOOTDを撮るとおしゃれな写真に。コテージのようなスタイリッシュな空間やシンプルな壁もあって色んなところで撮影できちゃうのがいいみたいです! 

それでは、次は恵比寿の意見を聞いてみましょう。【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:なおみ(26)
職業:美容師
趣味:ヨガ、演劇鑑賞

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:ユウナ(22)
職業:学生
趣味:おいしいものを食べること

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のなおみさんのかわいいインスタ映えスポットは、「アトレ西館の空中花園」。恵比寿の駅前すぐのアトレの屋上にある空中花園は花や植物を見ながらお昼を食べられます。アトレで買ったごはんをキレイな空気と一緒に食べられて最高らしいです。日差しもきれいに入るので、ヘルシーな写真も撮れますよ!
二人目のユウナさんのかわいいインスタ映えスポットは、「SORCERY DRESSING」という恵比寿駅すぐのお花屋さん。店内のディスプレイは季節によって色とりどりの花が並べられ、素敵な雰囲気がただよいます。ドライフラワーを買って部屋に花を飾るのもおすすめみたいです!

両代表の意見を比べると、代官山はテレビや雑誌で話題のインスタスポットがたくさんあるのが魅力。恵比寿はオシャレなお花屋さんや空中花園など街の中にあるグリーンな写真が撮れるのが魅力。どちらも人気スポットだけに、かわいいインスタ映えスポットがたくさんありますね。さて、皆さんはどちらの街に興味が湧きましたか?ぜひ足を運んで確認して見てくださいね。

次回は代官山VS恵比寿編[3]「お気に入りの飲み屋さん対決」です!

デートスポット、行きたいのはどっち?代官山 VS 恵比寿編[1]【ライバルタウン我が街自慢対決】

ライバルタウン同士、自分たちの街を自慢し対決するこの企画。第1回はおしゃれな高級住宅街のイメージの代官山と、住みたい街ランキング1位で知られている恵比寿が対決!まずはここだけは負けない!という、「おすすめデートスポット」について聞いてみました!

■代官山
東急東横線で渋谷駅から1駅、隠れ家的なセレクトショップや人気ブランドの路面店が立ち並ぶ代官山。時代をリードする流行発信地として知られている。「代官山T-SITE」や「LOG ROAD DAIKANYAMA」など若者に人気なスポットが駅周辺にある人気エリア。【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像1】代官山アドレス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

■恵比寿
JR山手線で渋谷駅から1駅、JR以外にも東京メトロ日比谷線が通っていてアクセスのいい恵比寿。グルメタウンとしても知られており、高級店から庶民派の店まで幅広くそろっている。「恵比寿ガーデンプレイス」や「ウェスティンホテル東京」など有名なスポットが数多く存在。【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像2】恵比寿ガーデンプレイス(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

それでは、まず代官山の意見から聞いてみましょう!【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像3】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:まさあき(20)
職業:大学生
趣味:読書、音楽、バスケ

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像4】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像5】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:はやと(20)
職業:学生
趣味:サッカー観戦、ショッピング

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像6】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のまさあきさんのおすすめのデートは、「TSUTAYAで読書デート」。代官山といったらシンボル的存在の代官山蔦屋。いろんなジャンルの本がいっぱいあって1日中過ごせるスポットですね。代官山蔦屋は、旅行に関する本の品ぞろえも豊富な上、その場で旅行の予約ができるんです。彼女と一緒に雑誌を見ながら旅行先を決めて、そのままの流れで旅行の予約もできちゃう。そんなデートに憧れますね。
二人目のはやとさんのおすすめデートは、「西郷山公園で散歩デート」。代官山はおしゃれなお店だけじゃなく、自然豊かな公園もあるんです。ショッピングでいろいろなお店を回った後に、西郷山公園でゆっくり休憩するのも素敵ですね。晴れた日は丘から富士山も見られるし、春には桜も咲きます。こういうのんびりしたデートもいいですね! 

それでは、次は恵比寿の意見を聞いてみましょう。【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像7】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:やすけん(24)
職業:会社員
趣味:古着屋巡り

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像8】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像9】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

氏名:ゆうた(21)
職業:大学生
趣味:バレーボール

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

【画像10】(写真撮影/東京グラフィティ編集部)

一人目のやすけんさんのおすすめデートは、「恵比寿ガーデンプレイスでビールの試飲デート」。ヱビスビール記念館では有料でビールの試し飲みもできるし、映画や美術館、ショッピングといろいろ楽しめます。夜になったら夜景も見られていい雰囲気に。王道だけど恵比寿のデートスポットといったらここですよね。
二人目のゆうたさんのおすすめデートは、「MiLKsでスイーツデート」。テレビや雑誌でも取り上げられている、リキュールをかけて食べる大人の味のソフトクリーム専門店。店内は白を基調とした内装で、カウンター席がブランコになっていてソフトクリーム以外もインスタ映え!おしゃれなカフェに気になる子を連れていけば絶対喜ぶはず。

両代表の意見を比べると、代官山は彼女と話しながらのんびり過ごせるデートスポットが豊富。恵比寿はスイーツや夜景のきれいなスポットなど王道デートスポットが豊富。どちらも人気スポットだけに、いいデートスポットがたくさんありますね。さて、皆さんはどちらの街に興味が湧きましたか?ぜひ足を運んで確認してみてくださいね。

次回は代官山VS恵比寿編[2]「かわいいインスタ映えスポット対決」です!お楽しみに!

羽田新ルート、住民説明会で聞いてみた 「都心上空を低空飛行、本当に大丈夫?」

2020年オリンピック開催に向けて、国際線の需要拡大のため羽田空港への着陸ルートが見直されようとしています。うちは空港近くじゃないから……と思っている人が多いかもしれませんが、実は新ルートでは、豊島区、練馬区、中野区、北区、板橋区……と都内の幅広い範囲の上空を飛行予定。そこで、飛行高度や騒音、落下物など気になる問題を探るべく、国土交通省が行っている「住民説明会」に潜入してみました。過去の経緯はこちら:都心上空を旅客機が飛ぶ!? 羽田空港の離着陸新ルート計画とは練馬区の住民説明会に潜入!どんな説明がされるの?

広大な敷地で開放的な練馬区光が丘公園。今回潜入したのは住民の憩いの場に隣接した「光が丘IMA光の広場」。商業施設内のオープンなホールです。休日とはいえ寒さが厳しいなか、説明会には多くの来場者が見受けられました。住民説明会は今回で第4回目(第4フェーズ)。これまで新飛行ルートが通る自治体で開催され、累計1万3000人超が参加している(国土交通省担当者)とのことです。

ちなみにこの羽田空港国際線の新ルートに関係するのは、埼玉県と東京都が中心です。埼⽟県内ではいずれも約1800mから900mと⽐較的⾼い⾼度を保つとのこと。ところが羽田空港に向かっていく東京都内に⼊ると、東側ルートでは、豊島区や練⾺区⽅⾯から新宿、表参道、⽩⾦⾼輪、品川と都⼼上空を南下し、それぞれの⾼度は、新宿駅が約915m、広尾駅が約600m、品川駅が約450mと空港に近づくほど低下します。

もう一つ設定される⻄側ルートは、練⾺区⽅⾯から中野、渋⾕、代官⼭、⽬⿊、五反⽥、⼤井町を南下。渋⾕、恵比寿駅近辺が約610m、五反田駅近辺が約455m、そして最も低くなるとされている⼤井町では約300mになります。これは東京タワーより低い⾼度です。

説明会は、こうした高度やそれに伴う騒音、飛行機の見え方、さらに落下物への対策など、関係する自治体の住民が気になる情報を中心にパネルが展示され、適時国土交通省の職員が参加者に対して説明を行ったり、質問に答えるという形式でした。また職員によると、説明会を開始した当初は自治体が所有する施設の会議室などで行っていたのですが、現在は、誰しもが参加して質問がしやすいよう、商業施設のホールや駅前広場などオープンな場所でも積極的に行うようにしているとのことです。

騒音がイメージできる体感ブースもあり、実際に体験してみましたが、個人的な感想としては、音に関しては最も音量が大きい場所でもそこまで気になる音量ではありませんでした。ただ、大井町周辺の高度約300mと同等の高度を飛行する映像は、かなりの圧迫感を感じました。

【画像1】会場には騒音を体感できるブースも。高度や騒音レベルなどを、今回のルートに近い大阪の環境を収録し、映像と音から体感できる。羽田空港内にも常設されているとのこと(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像1】会場には騒音を体感できるブースも。高度や騒音レベルなどを、今回のルートに近い大阪の環境を収録し、映像と音から体感できる。羽田空港内にも常設されているとのこと(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】飛行経路やよく寄せられる疑問への回答を、パネルで分かりやすく展示。国土交通省の職員が案内したり、デスクで質問に答えている。商業施設内で誰でも入れるため気軽に訪れやすい印象(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像2】飛行経路やよく寄せられる疑問への回答を、パネルで分かりやすく展示。国土交通省の職員が案内したり、デスクで質問に答えている。商業施設内で誰でも入れるため気軽に訪れやすい印象(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

「騒音、事故…」説明会参加者の住民に、不安に思うことを聞いてみた

実際に説明会に訪れていた参加者の何人かにお話を伺ってみました。最も不安に思うことはやはり「騒音」「事故、落下物への対策」でした。

「気になるのはやっぱり音。車輪を出したときと出さないときの騒音は違うと聞いたことがあり、住んでいる場所ではどういう状況で飛行するのかを聞きにきました」(60代 男性/練馬区在住)

「大阪の方で航空機からパネルが落下したニュースを見たのでちょっと心配で。落ちて来たら防ぎようがないのでやっぱり少し不安です。対策はしっかりすると言われてもいまいちピンと来なくて……」(50代 女性/練馬区在住女性)
こうした不安の声が多く聞かれました。

その一方で、
「国際線が増えて、訪日外国人が増えれば、インバウンドで経済が良くなるメリットがあるし、そうしたポジティブな説明も聞けました」(40代 男性/板橋区在住)
「成田空港より羽田空港の方が都心からのアクセスがいいので、旅行好きの人にはいいかもしれませんね」(40代 男性/豊島区在住)
という声も。

パネルや職員の説明では「ここ10年墜落事故は起きていない」、「落下物に関しても、羽田空港周辺はゼロです」と安全性の説明が多く聞かれました。

【画像3】商業施設内のオープンな説明会会場のため、多くの通行人が足を止めてパネル展示などを眺めていた(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像3】商業施設内のオープンな説明会会場のため、多くの通行人が足を止めてパネル展示などを眺めていた(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

危険度、騒音レベル、不動産価値etc. 住民説明会で直撃してみた

とはいえ安全性、騒音問題、さらには不動産価値下落などの不安要素もあることから、会場で説明中の国土交通省の鈴木さんに直撃してみました。「参加者の皆さまの多くが関心をもっているのも、まさにご指摘の点についてですね。確かに落下物事故は過去10年間(平成19年度~平成28年度)の発生件数は、成田空港周辺で19(部品13件、氷塊6件)ありましたが、羽田空港周辺では0件となっています。ただ2017年9月に、成田空港に到着した航空機からパネル(重さ約3kg)が脱落した事案や、関西空港発の航空機から重さ約4.3kgの胴体のパネルが脱落し、大阪市内を走行中の車両に衝突した事案等が発生したこともあり、さらなる落下物対策に取り組んでいます。3月末をめどに世界でも類をみない落下物対策への新たな基準案を策定する予定です」

また騒音に関しては、「防音対策では現状で対象となる施設はない想定ですが、一定基準以上の騒音が発生する場所の施設、建物に対して防音工事の助成があります。また、空港の国際線着陸料について、航空機の重量と騒音の要素を組み合わせた料金体系に見直し、航空会社に対して低騒音機の使用を促進し、現行経路を含めた経路での全体の音の低減を図ります」といいます。

さらに都心の一部の住民から不安の声が上がっているのが「不動産価値」の下落。騒音や事故のリスクからマンションなど住宅の価値が下がるのではという懸念だ。実際に住宅専門家でも意見の分かれるところで、下がるという人もいれば、影響は飛んでみないと分からないという声も。国土交通省では「一般的な不動産の価値は騒音などの環境面、立地などによる地域要因に、人口の増減や需給バランス、音に関していえば個人差もあります。複合的な要因があるので、飛行経路と不動産価値の変動に直接的な因果関係を表すのは難しいと考えています」とのこと。

打開策のひとつとして、実際の運用前に試験飛行ができるかという質問をしたところ、「現在の羽田空港には着陸⽤の誘導装置がないことや、空港の運⽤を⼀時⽌めなければならないことなどから現状では対応は難しい」らしく、試験飛行の実現は望み薄だそう。

その上で鈴木さんは「私たちとしては、今後も住民の皆さまに説明会を含めて情報を積極的に発信し、ご不安やご懸念を解消していきたいと考えています」と話してくれました。

【画像4】お話を伺った国土交通省航空局航空ネットワーク部の鈴木さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像4】お話を伺った国土交通省航空局航空ネットワーク部の鈴木さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像5】会場となった光が丘IMA周辺。この青空の下で安心して暮らしたい。そう思えるほど澄み切った青空だった(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像5】会場となった光が丘IMA周辺。この青空の下で安心して暮らしたい。そう思えるほど澄み切った青空だった(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

羽田空港国際線の新飛行ルートについては、2020年までに運用を開始したいということです。ただ今回の光が丘周辺で、新ルートについて知っているか道行く家族連れや公園利用者に訪ねたところ、知らないと答える人のほうが多く、まだまだ認知度が低いのが現状のよう。国土交通省や関係自治体のホームページでは、住民説明会の今後の日程や開催場所などが分かるので、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょう。

●取材協力
・国土交通省航空局

JR札幌駅から15分圏内! 家賃相場が安い駅ランキング

北海道内各地への列車が多数発着し、道内を代表するJR札幌駅。駅周辺には商業施設や企業も数多く、この近辺に住まいがあれば日々の暮らしも快適だろう。そこで札幌駅まで列車・地下鉄で、15分圏内で行けるエリアの家賃相場を調査。札幌駅に近い便利さと、家賃の安さを両立した駅を紹介しよう。●JR札幌駅まで15分以内の家賃相場が安い駅TOP14駅
順位/駅名/家賃相場(主な路線/所在地/札幌駅までの所要時間)
1位 森林公園 3万円(JR函館本線/札幌市/約13分)
1位 大麻 3万円(JR函館本線/江別市/約15分)
1位 新道東 3万円(市営地下鉄東豊線/札幌市/約15分)
4位 北34条 3.1万円(市営地下鉄南北線/札幌市/約13分)
4位 元町 3.1万円(市営地下鉄東豊線/札幌市/約13分)
4位 美園 3.1万円(市営地下鉄東豊線/札幌市/約15分)
7位 白石 3.2万円(JR函館本線/札幌市/約6分)
7位 中の島 3.2万円(市営地下鉄南北線/札幌市/約13分)
7位 平岸 3.2万円(市営地下鉄南北線/札幌市/約14分)
7位 麻生 3.2万円(市営地下鉄南北線/札幌市/約15分)
11位 環状通東 3.3万円(市営地下鉄東豊線/札幌市/約11分)
11位 豊平公園 3.3万円(市営地下鉄東豊線/札幌市/約13分)
13位 北24条 3.5万円(市営地下鉄南北線/札幌市/約11分)
13位 幌平橋 3.5万円(市営地下鉄南北線/札幌市/約12分)

1位は家賃相場3万円! 日常の買い物にも困らない3駅がランクイン

1位には家賃相場が同額の3万円となった3駅がランクイン。JR函館本線の森林公園駅と大麻(おおあさ)駅、札幌市営地下鉄東豊線・新道東(しんどうひがし)駅だ。札幌駅の家賃相場は4.5万円だったので、札幌駅から約13分~15分離れたこの3駅で住まいを探すと、家賃相場で考えれば札幌駅周辺と比べて年間18万円も節約できることになる。

森林公園駅は札幌市、大麻駅は江別市に位置するものの両駅は隣り合っており、直線距離では3km弱しか離れていない。両駅の東側には敷地面積2000ha以上もある「道立自然公園野幌森林公園」が広がっている。駅周辺には複数の大学キャンパスをはじめ学校も多く、単身者向けの賃貸物件や、生活に便利なスーパー、飲食店もあり暮らしやすそうな街並みだ。

新道東駅はJR札幌駅と地下街で結ばれた「さっぽろ駅」から札幌市営地下鉄東豊線に乗って5駅目。ちなみに3駅目に11位・環状通東駅、4駅目に4位・元町駅を通り過ぎていく。新道東駅から徒歩10分弱の場所には飲食店や100円ショップも備えたイオンのショッピングセンターがあり、駅前を通る札幌新道沿いにも商業施設が立ち並ぶ便利な環境となっている。

【画像1】大麻駅

【画像1】大麻駅(写真/PIXTA)

札幌では市営地下鉄の駅が便利!

4位以下にも家賃相場3万円台の駅が続く接戦となった。そのうち、札幌駅からの所要時間が最短なのは札幌駅からJR函館本線に乗って約6分、家賃相場が3.2万円だった7位・白石(しろいし)駅だ。

同駅は2011年、線路で分断されていた駅南北をつなぐ自由通路と新駅舎が誕生し、駅前広場もきれいに整備されている。また、JR白石駅の南西には市営地下鉄東西線の白石駅がある。両駅は約2km離れてはいるが、この2つの駅の中間あたりで住まいを探すと2路線が使えて便利だろう。

札幌駅周辺は市営地下鉄網も発達しており、上位14駅には地下鉄の駅も多くランクインしている。家賃相場3.5万円の13位・北24条駅は市営地下鉄南北線の駅。周辺には北区役所、警察署、消防署といった街の主要施設が集まっており、スーパーや飲食店も充実。北海道大学のキャンパスに近いこともあってか、学生向きのワンルーム・1K・1DKのSUUMO掲載の賃貸物件数は2300件以上(今回の調査時点)という充実ぶりだった。

【画像2】北海道大学

【画像2】北海道大学(写真/PIXTA)

列車の交通網が充実しているだけあり、札幌駅の15分圏内に絞っても家賃相場もさまざまな駅の選択肢があると判明した今回のランキング。札幌駅の近くは繁華街すぎて住むのには落ち着かない……。そんなふうにお考えなら、今回ランクインした駅で住まい探しをしてみるのもいいだろう。にぎやかすぎないけれど生活に必要な商店はそろっていて、そのうえ家賃もお得な物件が見つかるはずだ。

●調査概要
【調査対象駅】JR札幌駅から乗車15分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10m2以上、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2017年9⽉1⽇~2017年11⽉30⽇
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)

【ファミリー編】東京駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

住宅は人生最大の買い物といわれている。家選びの判断軸はそれぞれだが、子どもがいる家庭は、子育ての環境や地域性に加え、実家との距離なども考慮する必要があるだろう。それに加え、通勤などの利便性も、高価な買い物には欠かせない大切な要素だ。

子育てと仕事の両立に便利な駅はどこなのか、日本の玄関口であるターミナル駅、東京駅へのアクセスから考えるべく、東京駅まで30分圏内の中古マンションの価格相場が安い駅をリサーチ。これまでシングル、DINKSと世帯のタイプ別に紹介をしてきたが、最後は3K以上の物件を対象としたファミリー向けトップ10を紹介する。
●ファミリー向け、東京駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10
(順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/東京駅までの所要時間)
1位 扇大橋 2285万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約25分)
2位 東船橋 2380万円(JR総武線/千葉県船橋市/約30分)
2位 西新井大師西 2380万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約30分)
4位 江北 2490万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約28分)
5位 下総中山 2605万円(JR総武線/千葉県船橋市/約26分)
6位 栄町(東京) 2640万円(都電荒川線/東京都北区/約26分)
7位 四ツ木 2690万円(京成押上線/東京都葛飾区/約26分)
8位 西船橋 2780万円(JR総武線ほか/千葉県船橋市/約25分)
8位 西川口 2780万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/約29分)
10位 柏 2830万円(JR常磐線ほか/千葉県柏市/約30分)

1位は日暮里・舎人ライナーの扇大橋。同沿線駅は上位に3駅ランクイン

1位は、東京都足立区にある日暮里・舎人ライナーの駅、扇大橋。日暮里・舎人ライナーは2008年3月に開業した路線だ。沿線には都道58号線があるため、車でのお出かけには便利といえそう。荒川の河川敷も近く、のびのびした子育てをしたい家庭には魅力的。駅から近くに小学校も2校存在している。

【画像1】荒川に架かる扇大橋を通過中の日暮里・舎人ライナー(写真/PIXTA)

【画像1】荒川に架かる扇大橋を通過中の日暮里・舎人ライナー(写真/PIXTA)

8~10位の駅は、乗り換えがゼロ

子育て世帯が気になるのは、周囲の買い物施設の充実具合だろう。8位の西船橋駅は、駅ビルのほか、タイムセールの充実したスーパー「ベルクス」や駐車場完備の総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」など、子育てで便利なものの買い物がほぼまかなえそうな環境だ。

ファミリー層に人気の街なのか、調査対象物件数も100以上。JR総武線のほか、JR武蔵野線やJR京葉線、東京メトロ東西線、東葉高速鉄道と利用できる路線も多く、東京駅まで乗り換えがゼロなのは、通勤だけでなく休日に子連れで遊びに行くにも魅力的だ。

【画像2】西船橋駅(写真/PIXTA)

【画像2】西船橋駅(写真/PIXTA)

同じく8位で、埼玉県川口市の西川口駅も、乗り換えが不要。ランクインした駅のなかでは物件数が一番多く、150件以上掲載されている。駅直結の商業施設「ビーンズ西川口」や、24時間営業のスーパー「東武ストア」があり、買い物も便利。整備計画の浸透からか、現在は落ち着いた住宅街に変わりつつあるのに加え、飲食店も充実している。なかでも、本格的な中華料理店が多く、日本では珍しい郷土料理などが楽しめる店もある。

10位の柏も、西船橋や西川口よりはわずかに時間がかかるものの乗り換えがいらない駅。JR常磐線は快速、特急もとまるほか、東武野田線も乗り入れており、商業施設「柏高島屋ステーションモール」が直結している。ほかにも駅周辺には百貨店や家電量販店などのショップも集中しているほか、野菜の直売所などもあり、子どもの食にこだわりたい人には楽しみが見いだせそうだ。

また、スーパーサイエンスハイスクール指定校の千葉県立柏高等学校や、「医歯薬コース」がある中高一貫の千葉県立東葛飾高等学校など、特徴のある学校が近くにあることも、子どもの将来を考えると大きな魅力だろう。

子どもが小さいうちは、電車に乗ってのお出かけは子どもにとっては楽しい思い出となるが、親にとっては少し負担があるもの。だからこそ、主要駅まで乗り換えが不要な駅、または自家用車の所有に便利な駅は、子育て世帯にとって魅力的にうつるだろう。同じ東京駅から30分圏内でも、千葉から埼玉まで範囲は広い。子育てに重視するものの優先順位を吟味して、すてきな環境を探したいものだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数40年未満、専有面積100m2未満、3K以上の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2016年10⽉1⽇~2017年9⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

【DINKS編】東京駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

家を購入するとき、立地はとくに重視するポイントだろう。交通の便の良さは誰もが求めるものだが、どう重視するのかは、世帯のタイプによって異なるもの。その基準のひとつになるのは、日本の玄関口ともいえるターミナル駅、東京駅へのアクセスだ。
そこで、東京駅まで30分圏内の、中古マンションの価格相場が安い駅をリサーチ。今回は2K、2DK、2LDKの物件を対象とした、DINKS向けのトップ10を紹介する。
●DINKS向け、東京駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
(順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/東京駅までの所要時間)
1位 江北 1780万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約28分)
2位 西新井大師西 1990万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約30分)
3位 京成立石 2280万円(京成押上線/東京都葛飾区/約27分)
3位 西川口 2280万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/約29分)
5位 四ツ木 2330万円(京成押上線/東京都葛飾区/約26分)
5位 青砥 2330万円(京成本線/東京都葛飾区/約29分)
7位 下総中山 2380万円(JR総武線/千葉県船橋市/約26分)
8位 小菅 2480万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/約29分)
9位 板橋本町 2500万円(都営三田線/東京都板橋区/約29分)
10位 綾瀬 2535万円(JR常磐線・東京メトロ千代田線/東京都足立区/約26分)

23区内で2000万円を切る江北駅が1位 近所で楽しく飲める街も

1位は、東京都足立区に位置する江北駅。駅の周辺の商業施設は多くないが、スーパーや家電量販店などがあり、生活必需品の買い物に困ることはなさそうだ。また、2位の西新井大師西駅は、日暮里・舎人ライナーで江北駅と隣同士。両駅ともに東京23区内でありながら、価格が2000万円を切ることは、大きな魅力といえるだろう。

3位は東京都葛飾区の京成立石駅。駅前には下町情緒あふれるアーケード街、立石仲見世通りや、昭和レトロな飲食店が並ぶ「呑んべ横丁」などがあり、仕事帰りに夫婦で待ち合わせて赤ちょうちんで軽く飲んで帰宅、といったオトナの時間が味わえそうだ。

しかし京成立石駅は、これから工事が始まる京成押上線の高架化対象区域のため、オトナの雰囲気ある街並みを楽しめるのは、残りあとわずかかもしれない。その代わり、現在は交通渋滞が課題となっている11カ所の踏切がなくなるほか、高架下空間には公共施設などが整備される予定。生活する上で快適さが向上することは間違いないだろう。

【画像1】立石仲見世通り(写真/PIXTA)

【画像1】立石仲見世通り(写真/PIXTA)

商店街がある街は、ファミリーになってもそのまま住めそうな魅力

7位の下総中山駅は千葉県船橋市。JR総武線の各駅停車駅だが、京成中山駅が徒歩圏内のため、京成本線も利用が可能だ。駅前は24時間スーパーなどの買い物拠点のほか船橋市役所の連絡所もあり、用事をコンパクトに済ませられる。お互い仕事で忙しいDINKSにとって心強い味方となりそう。こちらも再開発が進んでおり駅前は整然としているが、少し歩けばローカルな雰囲気が漂う店舗もあり、休日はのんびり散歩ができそうだ。

9位の板橋本町駅周辺は、環七通りと中山道17号線が交差しており、車の便が良い。スキーやゴルフなどアウトドアレジャーが好きで車を所有する夫婦にとっては、趣味を満喫するのに住みやすそうだ。

駅前のスーパーは小規模なものが多いが、中山道の隣に並行している旧中山道は板橋本町商店街という長い商店街。今後子どもが生まれたとしても、買い物を含めて快適に住み続けられる街だろう。

また、板橋本町駅は都営三田線沿線。東京駅までは1回乗り換えがあるが、実はその必要がない場合も。大手町駅で下車すれば、地上からも地下からも東京駅に出られるため、実質は乗り換えゼロだ。

【画像2】中山道(写真/PIXTA)

【画像2】中山道(写真/PIXTA)

夫婦共働きで子どもがいない世帯は、比較的経済的な余裕があることが一般的で、双方が趣味やこだわりを大切にしている家庭も多い。マンションを購入するなら通勤に加え、それぞれの好きなことやライフスタイルへの考慮も必要かもしれない。

次回は、ファミリー世帯向けに、中古マンションの価格相場が安い駅を紹介する。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数40年未満、専有面積100m2未満、2K、2DK、2LDKの物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2016年10⽉1⽇~2017年9⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している