デュアルライフ・二拠点生活[13]8年目のリアル「二拠点生活のために会社を辞めました」

二拠点生活(デュアルライフ)は楽しそう。でもずっと続けると、どんなことが起きるのか。
今回は、二拠点生活8年目となった先輩デュアラ―の暮らしを紹介。きっかけや当初の目的はもちろん、コミュニティ、働き方の変化、家族の反応、お金のことなど、これまでの様子をインタビューしました。

今回、インタビューを受けてくださったのは、会社員の菅原祐二さん(63)。2011年から、東京都葛飾区の自宅と、南房総(千葉県冨津市)の二拠点生活を送っています。

連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、さまざまな世代がデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点居住者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきますローンは組めない。そのときに下した大胆な決断

――そもそも、二拠点生活を始めた理由、きっかけは何だったんでしょうか?
釣りが好きで、千葉の海に通ううち、荷物を置いたり休憩したりできる、釣りの拠点になるような小さな家でいいから欲しいと思ったんです。そこで不動産会社をのぞいたら、“けっこう空き家がある。価格的にも買えるかも。DIYで改修するのも楽しそうだ”と思ったんです。その後、仲良くなった不動産会社の担当者から「探している物件とは違うけど、面白い古民家を見に行くので一緒に行きませんか」と誘われて、興味本位で付いて行きました。築100年ほどの古民家、長屋門や蔵、そして現役の井戸などがある、時代劇に出てくるような物件をそのとき初めて目の当たりにしました。それから一気に古民家に興味が移り、本格的に探し始めて出会ったのが、現在の古民家でした。

もともと建具屋さんの家だったらしく、造りも凝っていたし、太い立派な梁がすっかり気に入りました。正直、予算オーバーだったけれど、購入を決めました。当初は、土・日と月曜が休みの週4日勤務だったので、金曜日に仕事が終わったら、車で南房総に。金、土、日、月と過ごし、月曜日の夜に東京の自宅に戻る生活でした。

8年かけて少しずつ改修した古民家。建具や窓は、もともとあったものを再利用したものもあれば、解体現場を手伝いに行った際にもらい受けたものもある(写真撮影/片山貴博)

8年かけて少しずつ改修した古民家。建具や窓は、もともとあったものを再利用したものもあれば、解体現場を手伝いに行った際にもらい受けたものもある(写真撮影/片山貴博)

元々は小さな和室が並んであった1階は、すべて広げてフローリングの洋室に。置いてある家具や家電もほぼもらいもの(写真撮影/片山貴博)

元々は小さな和室が並んであった1階は、すべて広げてフローリングの洋室に。置いてある家具や家電もほぼもらいもの(写真撮影/片山貴博)

――週休3日制なんですね! 二拠点生活にあこがれていても、過ごせるのが土日だけと躊躇する人も多いです。二拠点生活当初からそのような勤務スタイルだったんですか?
それには事情がありまして……。実はこの古民家を購入するときに、ローンを組めず、現金が必要になったんです。そこで、先輩が代表を務める会社から“仕事を手伝ってもらえないか”と、ずっと誘われていたことを思い出したんです。“退職金が手に入れば買えるな”と決断。早期退職し、転職。誘われたのを幸いに、勤務を週4日にしてもらえるよう交渉したんですよ。2年前からは週3日勤務にして、金曜日の夜から火曜日までここで過ごしています。

――うらやましいです。二拠点生活が、仕事面での転機にもなったんですね。家族の反応は?
実は内緒だったんですよ。でもさすがに会社を辞めるときには言わざるを得なくて……。

――え、内緒だったんですか?
そうなんです。最初、妻は口をきいてくれませんでした。でも、実際に手を入れてキレイになったこの住まいを見て、ビックリしていました。東京じゃ、ありえない暮らしですからね。今は、友人たちが孫と一緒によく遊びに来ます。

古民家の現状を見て、初日に「失敗した」と大後悔

――確かに。子どもたちにとっては、夢のような環境ですね。二拠点での暮らしぶりについて教えてください。
当初は、まず “住める状態にしないといけない”ミッションがあったので、ひたすら、片付け、大工仕事に明け暮れる毎日でした。トイレをつくる、ピザ釜をつくる、ふすまでつながった和室を全部つなげて広いフローリングのリビングにする。次から次へとやるべきこと、やりたいことは出てくるので夢中でした。今は一段落しましたが、まだまだ手を加えてみたいので、改修工事に終わりはないですね。だから、当初の目的だったはずの釣りはしばらく、まったくできなかったんですよ(笑)。
今は、同じような移住者やデュアラー仲間の家に行って、改修を手伝ったり、ウチで集まって酒を飲んだりしています。釣りも再開しました。

仲間と談笑する菅原さん(中央)。自然と周囲に人が集まるのも、菅原さんのとてもフレンドリーでオープンマインドな人柄ゆえ(写真撮影/片山貴博)

仲間と談笑する菅原さん(中央)。自然と周囲に人が集まるのも、菅原さんのとてもフレンドリーでオープンマインドな人柄ゆえ(写真撮影/片山貴博)

――楽しそうです。でも、つらかったことはありませんか? やめたいと思ったことは?
実は初日に“やめたい”って思ったんですよ。まず室内が住める状態じゃないし、電気も通っていなくて、真っ暗。見学したときには気付かなかった欠点が目に付いて、大失敗したぞって思っちゃったんです。パンドラの箱を開けた気分でした。

でも、当初反対していた家族の手前、後には引けなくて頑張るしかないんですよね。今は仲間ができてお互いに工事を手伝い合っていますが、そのときは一人。例えば板を上に持ち上げるのも一苦労でした。でもそうなったら、なんとか創意工夫するんですよ。竹で足場をつくれば一人で持ち上げるのも可能だぞって。その試行錯誤する過程も、便利すぎる東京では、得難い経験だと思います。

もちろんプロにも改修工事をお願いしていたので、休憩の合間に教えてもらったりもしましたね。今では、確実にDIYのスキルは上がって、当時お願いしていた大工の棟梁さんから“定年になったら、ウチでアルバイトすればいい”って、言われています(笑)。そんな暮らしも悪くないですね。

小屋1階は作業スペース。道具類をさっと取りやすいように棚をDIY。秘密基地のようなスペースは菅原さんのお気に入り(写真撮影/片山貴博)

小屋1階は作業スペース。道具類をさっと取りやすいように棚をDIY。秘密基地のようなスペースは菅原さんのお気に入り(写真撮影/片山貴博)

デュアラー仲間が、菅原さんの作業場を使って大工仕事。お互い助け合いながら楽しんでいる(写真撮影/片山貴博)

デュアラー仲間が、菅原さんの作業場を使って大工仕事。お互い助け合いながら楽しんでいる(写真撮影/片山貴博)

コミュニティの存在は大きい一方、想定外の困りごとも

――この8年間で一番の変化は何でしょうか。
何より、仲間ができたことが大きいですね。最初の4年間はほぼ一人で作業していたのですが、4年前の断熱材のワークショップに参加してみたら、同じような境遇の仲間がたくさんいて、お互いの家の改修工事を手伝いに行くようになったんです。一人でやっていたことも仲間がいたら、圧倒的にはかどる。そのうち、宴会になって、泊まって、また翌日作業するっていうのが日課になりました。

こっちの人間関係の何がいいって、すごくフラットなこと。年齢も職業もまったく違う人たちと、素の付き合いができるんですよ。それに、この暮らし方を選ぶということは、どこか価値観が似ているということ。オープンマインドな人たちが多く、共通の作業を通して付き合いが深まるのがいい。東京だけでは得られない付き合いは、今では宝物です。

日曜日、取材に伺うと、南房総の仲間たちと朝ごはんの準備をされていました。かまどは元々あったものを移築、修理したもの(写真撮影/片山貴博)

日曜日、取材に伺うと、南房総の仲間たちと朝ごはんの準備をされていました。かまどは元々あったものを移築、修理したもの(写真撮影/片山貴博)

かまどで炊き上げたごはん。美味しそう! (写真撮影/片山貴博)

かまどで炊き上げたごはん。美味しそう! (写真撮影/片山貴博)

――コミュニティの存在が、二拠点生活を長く続けられる理由になるんですね。また、お金の面も気になります。コストについて教えてください。
この640坪の古民家は、土地代合わせて1200万円。さらにこれまで解体・改修にかかったお金はトータル1000万円くらいですね。確かにお金はかかりますが、キャッシュという動産を家という不動産に変えただけ。リフォームで住まいの価値を上げていると思っているんです。

――確かに。今後二拠点生活がもっと普及すれば、二拠点生活向きのエリアや、古民家の雰囲気は残されたまますぐに生活ができるよう改修された住まいは人気が集まりそうです。いいことばかりのように思えますが、想定外の困ったことってありますか?
やはり移動時間は正直、しんどいなと思うこともあります。今は職場もしくは自宅から通っていて、多少ルートは違いますが、車で1時間半くらいかかります。本当はもっと南に行ったほうが海も近く、温暖な気候になるので、二拠点目としては理想的。ですが、私は車の運転があまり好きじゃないので、これが限界かなと。また高速道路代やガソリン代などの移動費用は1回往復で約7000円。月に4回行けば、3万円弱ですから、小さな出費とは言えないでしょうね。

釣った魚、採れたて卵、地元のルバーブジャム、と豪勢な朝食に。ジャムは、地元「よぜむファーム」さんのもの。生産者自らがそれぞれ持ち寄った(写真撮影/片山貴博)

釣った魚、採れたて卵、地元のルバーブジャム、と豪勢な朝食に。ジャムは、地元「よぜむファーム」さんのもの。生産者自らがそれぞれ持ち寄った(写真撮影/片山貴博)

卵は、南房総山名のたまご屋さん「すぎな舎」のもの。平飼の有精卵を生産していている。卵かけご飯が最高(写真撮影/片山貴博)

卵は、南房総山名のたまご屋さん「すぎな舎」のもの。平飼の有精卵を生産していている。卵かけご飯が最高(写真撮影/片山貴博)

南房総仲間と一緒に、日曜日の朝食。建築家、コンサルタントなどをしているデュアラーや、地元を中心に活動するライター、地元の果物農園、養鶏業者の方々でにぎやか(写真撮影/片山貴博)

南房総仲間と一緒に、日曜日の朝食。建築家、コンサルタントなどをしているデュアラーや、地元を中心に活動するライター、地元の果物農園、養鶏業者の方々でにぎやか(写真撮影/片山貴博)

――旅行と違って何度も通うことになるので、移動費用や時間もシビアに考えないといけないですね。今後も二拠点生活を続けますか? それとも完全移住をしますか?
う~ん、まだ決めていません。完全移住も考えなくはないですが、東京の家は、現在、妻と成人した息子が暮らしていて、完全に引き払うことはありえない。となると結局、二拠点生活を続けていくんでしょうね。ただ、こっちの暮らしが楽しくなっちゃって、今後、さらに休みを増やして、週2日勤務にする予定。若い人たちも成長していて、職場での私が担う役割も変化してきたと思いますしね。

――人手不足や技術の伝承の必要性が問題になっている社会では、まさに理想的なセカンドキャリアですね。
最後に、二拠点生活を検討している方にアドバイスをお願いします。特に、“定年退職したら、田舎暮らしを始めよう”と思われている方も多いですが、もし菅原さんは55歳の現役ではなく、定年退職されてから二拠点生活を始めていたら、どうだったと思いますか?
正直、大変じゃないでしょうかね。きっと身体が思っていた以上に動かないと思いますし、誰も知り合いがいない土地に、いきなり暮らすのは正直キツイと思います。働き方も暮らし方もゆっくりシフトチェンジしていくには、55歳で決断したのは良かったと思います。二拠点目を持つことがセカンドキャリアに移行していく、いい機会にもなりました。

購入直後に菅原さんが手掛けたのが、屋外にあるトイレ。配管など、初めてのことばかりで悪戦苦闘したそう(写真撮影/片山貴博)

購入直後に菅原さんが手掛けたのが、屋外にあるトイレ。配管など、初めてのことばかりで悪戦苦闘したそう(写真撮影/片山貴博)

現在、進行中なのが小屋の二階。元々は干し草を保管する場所で、屋根に断熱材を設けたり、窓を設置するなどの改修を施している(写真撮影/片山貴博)

現在、進行中なのが小屋の二階。元々は干し草を保管する場所で、屋根に断熱材を設けたり、窓を設置するなどの改修を施している(写真撮影/片山貴博)

当初は趣味を充実させるために二拠点生活を始めた菅原さん。その後、新たなコミュニティを得ることで、地域に根を下ろし、二拠点目がリタイア後の人生の拠点へと移行していったように思われます。働き方のシフトチェンジも見事。二拠点目を持つことは、お金や仕事が大きな障害になることは事実ですが、100年生きる人生であることを考えれば、自分自身の働き方、生き方を変化させる、またとない機会となることは間違いありません。

【ファミリー編】池袋駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2019年版

池袋駅まで30分以内で行ける駅の中古マンションの価格相場を調査し、前回はカップル向け物件が安い駅、前々回はシングル向け物件が安い駅を紹介してきた。池袋編ラストの今回は、専有面積70平米以上~100平米未満のファミリー向け中古マンションの価格相場が安い駅をランキング。東京を代表する繁華街・池袋までアクセスしやすいうえにリーズナブルに住める駅はこちら!●【ファミリー編】池袋駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/池袋駅までの所要時間)
1位 みずほ台 1980万円(東武東上線/埼玉県富士見市/27分)
2位 柳瀬川 2430万円(東武東上線/埼玉県志木市/25分)
3位 新座 2470万円(JR武蔵野線/埼玉県新座市/27分)
4位 西浦和 2580万円(JR武蔵野線/埼玉県さいたま市/30分)
5位 南鳩ヶ谷 2830万円(埼玉高速鉄道/埼玉県川口市/30分)
6位 東久留米 3180万円(西武池袋線/東京都東久留米市/17分)
6位 清瀬 3180万円(西武池袋線/東京都清瀬市/20分)
6位 蕨 3180万円(JR京浜東北線/埼玉県蕨市/20分)
9位 中浦和 3230万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/24分)
10位 ふじみ野 3280万円(東武東上線/埼玉県富士見市/25分)

カップル編とファミリー編を合わせて見るとお得な駅が判明!

1位は東武東上線・みずほ台駅、2位はみずほ台駅から1駅の東武東上線・柳瀬川駅となり、隣り合う駅が1・2位にランクイン。専有面積40平米以上~70平米未満の物件を調査対象にした前回のカップル編では、この両駅共に価格相場が同額で2位だった。そして今回4位のJR武蔵野線・西浦和駅は、前回のカップル編では1位にランクインしていた。

カップル編と今回の結果を合わせて考えると40平米以上~100平米未満で池袋にアクセスしやすい中古マンションをお得に探すなら、1位・みずほ台駅、2位・柳瀬川駅、4位・西浦和駅は要チェックと言えそうだ。各駅の特徴については前回紹介しているので参照してほしい。

3位はJR武蔵野線・新座(にいざ)駅。かつてはブドウ畑に囲まれたのどかな環境だったが、2000年代に入ると南口側が開発されてマンションや商業施設が立ち並ぶように。現在は駅前にスーパーやドラッグストア、おもちゃ店「トイザらス」が営業する商業ビルがあるほか、ファミリーレストランや小児クリニックなど子どものいるファミリーにうれしい施設が並んでいる。

みずほ台駅周辺(写真/PIXTA)

みずほ台駅周辺(写真/PIXTA)

隣り合う駅だからといって価格相場も近いとは限らない!?

トップ10で池袋駅までの所要時間が最短だったのは6位・東久留米駅。西武池袋線で乗り換えせずに約17分で池袋駅にたどり着く。東久留米駅には、コンビニやスーパー、飲食店、保育所などがある商業施設「エミオ 東久留米」が直結している。駅周辺にはマンションが立ち並び、銀行やスーパーなど生活に便利な施設がそろっている。そして駅西口から市役所方面にまっすぐに伸びる道路の奥に、富士山の雄姿が眺められる点も特徴的。駅2階にある「富士見テラス」からの眺めは、「関東の富士見百景」に選ばれているほどの美景だ。

さてここで少々、価格相場に目を向けてみたい。3位・新座駅は2470万円で、4位・西浦和駅は2580万円。この2つの駅はJR武蔵野線で3位・新座駅~北朝霞駅~4位・西浦和駅という順に並んでおり、価格相場が大きく離れていないのも納得いく気がする。

ところが3位と4位にはさまれた北朝霞駅は今回トップ10圏外だった。そんな北朝霞駅の価格相場はというと、3480万円。お隣の新座駅と比べると、なんと1010万円も価格相場が高いのだ。確かに北朝霞駅は駅舎こそ違うがすぐ近くに東武東上線・朝霞台駅があるため近隣住民は2路線を使うことができ、駅周辺の商業施設も新座駅より充実している。価格の安さが魅力の新座駅と、生活に便利な北朝霞駅。1駅しか違わなくても駅の特徴はガラリと変わるという分かりやすい例と言えるだろう。

北朝霞駅 東口(朝霞台駅 北口駅前)の風景(写真/PIXTA)

北朝霞駅 東口(朝霞台駅 北口駅前)の風景(写真/PIXTA)

都心部からの距離や、急行停車駅かなどのアクセスの利便性、周辺環境などが複雑に絡み合って、物件や土地の価格相場は決まってくる。自分で想像するのはなかなか難しいので、ぜひ本記事のようなランキング調査を物件選びの際は参考にしてほしい。よりよい住まい探しの助けになれたら幸いだ。

●調査概要
【調査対象駅】池袋駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格相場 500万~2億円、専有面積70平米以上100平米未満、敷地権利は所有権のみ
【データ抽出期間】2019/1~2019/3
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換時間を含む)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
※所要時間には駅から駅への徒歩移動時間を含む。(例:大手町駅⇔東京駅間の移動距離など)

地下鉄構想も!都心湾岸エリアの交通問題、五輪後はどうなる?

2020東京五輪の開幕に向けて、選手村や各種競技施設の建設が急ピッチで進む。選手村は五輪後に約5600戸のマンションに生まれ変わり、老若男女さまざまな人が暮らす街となる。国家戦略特区やアジアヘッドクォーター特区といった東京圏の発展を担う拠点に指定され、訪日外国人の増加に対応した国際的ビジネス・交流拠点としての機能強化にも期待がかかる注目のエリアだ。

住む人も訪れる人も急激に増え続ける湾岸エリアで課題となっているのが交通アクセスだ。現状でも地下鉄駅の整備やバス網の強化などが進められているが、五輪特需やその後の需要増をにらんで大規模なインフラ整備構想も控える。五輪のその先の未来にどんな生活が待っているのか、想像してみた。

選手村の開発で晴海の人口が2倍に増える

中央区晴海5丁目で建設中の五輪選手村は、五輪後にリニューアルされ分譲や賃貸、シニア住宅やシェアハウスも含め約5600戸のマンション「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」として供給される。五輪から4年後の2024年には、約1万2000人が暮らす街が完成する予定だ。

「HARUMI FLAG」晴海ふ頭公園からの風景完成予想CG

「HARUMI FLAG」晴海ふ頭公園からの風景完成予想CG

中央区のデータによると、晴海地域の2019年6月1日時点の人口は1万4536人となっている。晴海5丁目のプロジェクトが完成すると、それだけで人口が現在の約2倍に増えるのだ。さらに晴海以外でも月島や勝どきなど周辺の湾岸エリアでタワーマンションの供給が活発になっており、人口が増加している。

こうしたなか、通勤・通学時の地下鉄駅の混雑や、都心方面への交通手段の確保といった課題に対応すべく、東京都交通局が対策を打ち出しているところだ。

東京都交通局担当者によると、有明、豊洲、晴海などの臨海部で大規模マンションの開発等により利用者が大幅に増えていることから、都営バスでは、2017年4月に東京駅から臨海部へ、深夜バスの運行を開始したとのこと。また、2019年4月には東京駅から銀座、勝どきを通り東京ビッグサイトへ向かう都05-2系統で増便を行うなど、地域住民のニーズをダイヤに反映しているという。
加えて、都営地下鉄では、大江戸線勝どき駅でのラッシュ時の混雑緩和に向けてホームや地上出入口の増設などの改良工事を実施し、2019年2月に一部完了したとのことだ。

写真上が改良前。下が改良後。線路の向こう側に新たにホームがつくられた(画像提供/東京都交通局)

写真上が改良前。下が改良後。線路の向こう側に新たにホームがつくられた(画像提供/東京都交通局)

BRTや地下鉄が実現すれば都心と湾岸が直結

さらに今、湾岸エリアの新たな輸送システムとして整備が進められているのがBRT(バス高速輸送システム)だ。BRTとは、連節バスの導入や走行環境の改善などにより、速達性・定時性を高めた運行を目指す交通システムのこと。東京都では都心と湾岸エリアを結ぶ「東京BRT」の開業準備を進めている。

計画では、2020年の東京五輪前に環状2号線の地上部道路開通後、虎ノ門~晴海二丁目のルートでプレ運行を開始させる予定。五輪後には虎ノ門~東京テレポート駅の幹線ルートに加え、虎ノ門~市場前駅の晴海・豊洲ルート、新橋駅~勝どきの勝どきルートの3系統を運行させる。2022年度に予定される環状2号線本線トンネル開通後には、新橋駅~晴海五丁目の選手村ルートを加えて本格運行させる考えだ。

(東京都都市整備局HPより)

(東京都都市整備局HPより)

さらに注目されるのが、都心と湾岸エリアを地下鉄で結ぶ構想だ。中央区が打ち出した銀座と国際展示場を結ぶルート案を受けて、「都心部・臨海地域地下鉄構想の新設及び同構想と常磐新線延伸の一体整備(臨海部~銀座~東京)」として2016年の交通政策審議会答申に盛り込まれた。

答申によると、地下鉄は臨海部から銀座を通り、東京駅まで延伸されるつくばエキスプレスへとつながる構想だという。着工時期などは未定だが、中央区では早期実現を目指して2018年10月に「都心・臨海地下鉄新線推進大会」を開催するなど、地元では大いに期待が高まっている状況だ。

水辺の風景が広がる開放的な街の発展に期待

では地元に住んでいる人たちは、湾岸エリアの住み心地や交通アクセスの現状と未来をどのように考えているのか。聞いてみた。

「駅まで歩く道は水辺が近く開放的で気持ちがいいです。東京駅の丸の内側や八重洲側行きなど複数の路線が通るバス停が近く、本数が多いのでそれほど待たずに通勤にも使えます」(晴海在住・30代会社員)

「隅田川の河口から東京湾が広がる景色が、自宅の窓から見られます。東京の水辺を見渡せる開放的な眺望は希少価値が高いし、なくなる心配もありません」(勝どき在住・40代会社員)

「今は大江戸線が混んでいるので乗るのが億劫になります。週末はシェアリング自転車で豊洲へ行ったり、豊洲から船でお台場に行ったりすることも。地下鉄ができると都心に出やすくなるので楽しみです」(晴海在住・Fさん)

「月島に住んで5年になりますが、最近はおしゃれなバーやカフェが増えており、今後も街としての発展に期待できます。ただ、保育園はたくさんあるけど入りづらいです。交通面では有楽町から深夜バスがあるので便利。豊洲まで行けば羽田空港までリムジンバスが出ています。車も豊洲から湾岸線にすぐに入れて、だいたい空いているので遠出もしやすいです。BRTはまだ実感がわきませんが、東京駅や有楽町に行きやすくなればうれしいですね」(月島在住・30代会社員)

人口の急増で交通や生活のインフラ整備が課題とはなるものの、今後の整備が進めば住み心地はさらに向上しそうな湾岸エリア。東京の未来を担うともいえる街の今後に期待したいところだ。

●取材協力
>東京都交通局
>東京都都市整備局

中古マンションを買うときには修繕積立金にもご注目

マンションといえば十数年ごとに大規模修繕が必要となりますが、ご存じでしょうか。この大規模修繕ではまとまった金額がかかるため、それに備えて積み立てが必要となります。中古マンションを買うときの修繕積立金について確認すべきことを、さくら事務所会長の長嶋修氏に聞きました。
修繕積立金が不足する原因とは?

マンションの「修繕積立金」は、所有者全員の積立貯金のようなもの。これを原資として将来の大規模修繕に備えるわけですが、早ければ2回目、遅くとも3回目には多くのマンションで修繕積立金が足りないといった事態が生じています。

もし不足していた場合、所有者各々が数十~100万円単位の一時金を拠出して修繕できればいいのですが、常に全員が足並みをそろえて一時金を出せるケースというのは非常にまれ。したがって、管理組合でローンを組んで大規模修繕にかかる金額を支払い、修繕積立金をアップさせることでローン返済をしていく手があるのですが、これもうまくいかないことが多いのです。当初は毎月5000~1万円程度だった修繕積立金がいきなり3万円にアップするなどというのは、家計によっては簡単に受け入れることができない場合があり、管理組合総会で否決されてしまうことが多かったりします。

そうなるとせいぜい、今ある手元資金でできることだけをやるか、全く何もしないといった選択とならざるを得ず、建物はどんどん陳腐化。購入・賃貸予備軍にも魅力的な建物になりえず、資産価値を下げることにつながる上、適切な修繕をしておけば本来100年以上長持ちするところ、建物の寿命を一気に短くしてしまうのです。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

なぜこのような負のスパイラルに陥るのかといえば、それは「新築マンション販売時の修繕積立金設定」にあります。新築マンション購入時には「販売価格や諸費用」のほか「住宅ローン利用の場合は毎月返済額」「管理費」「修繕積立金」などが提示されます。購入者からすると、毎月家計から出ていくこれらの総額は少ないに越したことはありません。そこで住宅ローンについては極力低金利の金融機関やローン商品を探します。一方で管理費や修繕積立金については購入者に選択の余地はなく、あらかじめ売主に提示された額を容認するかどうかといった選択しかありません。

売主の立場からみれば、管理費は極力高めに設定しておきたいのです。というのも、ほとんどの新築マンション販売のケースであらかじめセッティングされているのは、売主系列の管理会社。つまり管理費は、引き渡し後もグループ会社に毎月流れてくる売上でありその一部は利益です。一方で修繕積立金は、所有者で構成する管理組合がプールする貯金で、売主には直接関係のないものですから、どうしてもここを極力低額にして、ローン・管理費・修繕積立金の合計額を下げることで購入のハードルを下げる、つまり売りやすくするといった意図があります。

修繕積立金の適切な金額は?

国交省は「新築マンションの購入予定者に対し、修繕積立金に関する基本的な知識や修繕積立金の額の目安を示し、分譲事業者から提示された修繕積立金の額の水準等についての判断材料を提供する」として、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を公表しています。それによると、一般的なマンションなら、専有面積平米当たり200円程度の積立が適切です。例えば70平米のマンションなら適正な毎月修繕積立金額は1万4000円。この水準の積立金を入居直後から「毎月均等」に続けていればおおむね問題ないでしょうというわけです。タワーマンションなど、修繕によりお金のかかるものはもっと必要です。

「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の概要より)

(「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の概要より)

とはいえガイドラインはあくまで指針に過ぎず、強制力もありません。現在でも多くの新築マンション販売現場では、積立金方式は「毎月均等」としているところはほとんどないのは前述したとおりです。多くのマンションでは「段階増額積立方式」または「一時金徴収方式」であり、徐々に積立金が値上げされたり、一時金を徴収されたりします。

こうしたからくりに気付いて修繕積立金方式を変更したマンションと、そうでないマンションとが今、中古住宅市場において、同じ価格水準で売買されています。これは根本的に非常におかしなことで、先進国の中にあって日本だけが特有といえます。修繕積立金が潤沢で今後値上げや借金をする必要がなく、したがって建物の寿命が物理的にも経済的にも優れているマンションと、修繕積立金が枯渇し今後、値上げをするか借金をするか、あるいは何もできずに陳腐化し、寿命も短くなるであろうマンションとでは本来同等の資産価値をもち得るはずがないのですが、これらが同列に扱われているのです。

修繕計画やマンションの課題は、管理組合の議事録などで確認を(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

まずは「総会や管理組合の議事録」「長期修繕計画」などの閲覧を求めましょう。こうした議事録には、そのマンションで繰り広げられているさまざまな課題が満載。例えばどの程度の管理費・修繕積立金滞納があり、それに対してどのような対応をしているか、駐車場や駐輪場、ごみ置き場、廊下、そして外壁など共用部の使い方やコンディションに何か課題があるか、今後の修繕計画はどのようになっているかなどの事情が記載されているはずです。

修繕積立金滞納の全くないマンションはむしろ少数派ですし、多くの人が住んでいる以上、共用部の使い方に課題が全くないマンションもむしろ珍しい部類。経年によって建物が劣化していくのも当然のことです。要はこうした、マンションの宿命ともいえる各種の課題について、所有者で構成するマンション管理組合がどのような姿勢で、具体的にどんな取り組みをしているのか、知ることが大事なのです。

また「長期修繕計画」を見れば、今後の建物修繕予定が分かるのはもちろんのこと、今後の積立金負担も分かります。多くのマンションでは、新築時に売主が策定した長期修繕計画をそのまま変更せずに使用していることが多いのですが、たいていの場合、新築当初から当面の間は修繕積立金を低額に設定、5年目・10年目・15年目などに一気に上がったり、多額の一時金を徴収する計画となっています。

その上で分からないことがあれば不動産仲介会社を通じて管理組合に尋ねるか、判断に迷うことがあれば第三者の専門家に見解を聞くのもいいでしょう。こうしたことを踏まえながら買うか買わないか、いくらで買うかなどの意思決定をするべきでしょう。

ただしこうした内部書類については、マンション購入者などの第三者に閲覧させることは義務ではないため、あくまで任意で閲覧をお願いすることになります。言い換えると、閲覧に応じるマンションはその情報開示姿勢だけで好感がもてるということです。自らのマンション管理運営に自信があるとか、情報開示の重要性を理解しているといった組合員が多いからこそです。

ではこうした書類を確認できない場合はどうすればよいか。

(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

まずは「見た目」から。中古マンションを見学する際には、いきなり室内には入らず、まずは「共用部」をじっと見つめてください。例えば「外壁」。昨今のマンションはタイル張りが主流ですが、ざっと見渡してみて、タイルが剥がれているところ、あるいは浮いているようなところはないでしょうか。タイルは落下すればたちまち凶器となり得るうえ、このような状況を放置していれば躯体そのものが長持ちしません。もしタイル落下、浮きなどの症状が確認できたら次は、マンション管理組合がその状況を把握しているか、またそれについてなんらかの対処を行う予定があるかを確認しましょう。これは、不動産仲介担当を通じて管理組合に確認してもらってもいいですし、管理員がいれば尋ねてみてもいいでしょう。

このことは、廊下や階段などの共用部も同じです。経年によって徐々に劣化していくのは建物の宿命ですが、一定の幅や深さがあるひび割れや、一定量以上の白いカルシウム成分が浮き出てくる白華現象、コンクリート内部の鉄筋が水に触れたことで錆び汁がしみだしている現象などを長らく放置しておくと、それは建物内部を傷め、時間が経過するほど修繕コストは膨大になるうえ、着実に寿命を縮めていくことになります。

そしてエントランスまわりの清掃状態やポストまわりの整理整頓具合はどうでしょうか。こうしたところが雑然としているのは、管理員の仕事が行き届いていないからですが、背後にはそれを容認している管理組合の存在があります。マンション管理についてその程度の無関心さだというわけです。このことは、駐車場や駐輪場、ごみ置き場などの状態にも言えます。掲示板に数か月も前の古い情報が貼られている、雑然と貼られている、貼ったものが破れているなども組合運営の質を推し量れます。

新築マンションに比べるとさまざまな選択肢がある中古マンション。管理や修繕の状況も一つ一つ違います。選ぶ際には間取りや立地など分かりやすいものに目がいきがちですが、長く住むためには、修繕積立金についても注目してみましょう。

大の家好き作家・高殿円の新刊エッセイ『35歳、働き女子よ城を持て!』インタビュー

住宅購入を検討する女性が増えています。2019年4月に刊行されたエッセイ『35歳、働き女子よ城を持て!』(KADOKAWA)の主人公は35歳、年収300万の契約社員。そんなシングル女子が都内に自分の城となるマンションを買うまでの紆余曲折や具体的ノウハウが満載のこの本、著者は住宅に一家言あるに違いない、ということで突撃取材。女性にエールを送る物語を多数刊行している作家・高殿円(たかどのまどか)さんご自身の住まい観や出版の背景を聴いてきました。
子どものころから家好きで既に住宅購入4回、20代で一戸建て購入高殿さんは兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞し作家デビュー。13年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞受賞、女性にエールを送る著書多数。取材はKADOKAWA本社で行われた(写真撮影/片山貴博)

高殿さんは兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞し作家デビュー。13年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞受賞、女性にエールを送る著書多数。取材はKADOKAWA本社で行われた(写真撮影/片山貴博)

――著書『35歳、働き女子よ城を持て!』では、高殿さんが編集担当のM村さんに強く住宅購入をオススメされていますね。かなり不動産にお詳しいようですが?
SUUMO、いつも見ています(笑)。子どものころから不動産に人一倍興味があったので、今も趣味のように時間が空けば物件情報検索していて、間取図を見るのが大好きです。生まれた時は社宅住まいで、母親がマイホームを夢見ていつも間取りチラシをチェックしていた影響でしょうか。3歳で社宅から郊外のニュータウンに引越したのですが、その時のこともはっきり覚えています。
その後も親の都合で引越しを繰り返し、さらに阪神淡路大震災もあって。住んでいたマンションは幸い無事でしたが、ライフラインが復旧するまでは友人宅で過ごし、旧い街並みが壊れ、やがて高層マンションに変わっていく様を目の当たりにして、ますます住宅について考えさせられました。

著書自己紹介には「子持ち作家・物語作ります何でも屋。関西に35年ローンで家を建て、あと30年残っている。不労所得を夢見ていて基本働きたくない」とのお茶目なコメントが(笑)(写真撮影/片山貴博)

著書自己紹介には「子持ち作家・物語作ります何でも屋。関西に35年ローンで家を建て、あと30年残っている。不労所得を夢見ていて基本働きたくない」とのお茶目なコメントが(笑)(写真撮影/片山貴博)

――ご実家を出られてからのご自身の住まい歴を教えてください。
就職先が大阪で、距離的に通うことが難しいため実家を出ました。初めて借りた部屋は友人とのルームシェアで広めのファミリータイプ。ワンルームを一人で借りるより快適だと思って。その後賃貸は合計3軒、その間に結婚もしたので、27歳の時に建売の一戸建てを購入しました。賃料を払い続けても何も残らないけれど、ローンを払えば土地は残ると思って。土地は担保にもなりますし、古くならないし、マンションでも土地の持ち分はありますしね。

――この時の家選びのポイントやこだわりは?
こだわりは利便性です。都心でしかも駅から徒歩30秒という便利さで、どこへ行くにもアクセス抜群。作家になって3カ月に1冊本を出す生活で、とにかく時間に追われていて。この家もたまたま契約済だったのにローンが通らず空いていた、ということにご縁を感じました。利便性重視の反面、国道もあるためうるさく、狭小地の建売で物理的に狭いという課題もありました。一度不動産を買うと「次はもっと……」と不満を解消したくなり、どんどん購入をライトに考えられるようになりましたね。

親のためのマンション購入後、自然素材を使った念願の注文住宅を建てる

――不動産購入がライトになって、実際に買われた物件とその理由を教えてください。
31歳で、親のために新築マンションを購入しました。この時のこだわりは立地。親も高齢になって病院通いもあるので、県立病院にも私たちの住まいにも近い都心の立地が魅力でした。仕事が忙しい中、子どもの世話も頼めますし、とても助かりました。
気に入っている一方で、マンションというものは管理費や修繕積立金、管理組合の運営などが大変、ということも学びましたね。その後、36歳で念願の注文一戸建て。前が建売だったので、いつかは土地を買ってこだわりの一戸建てをと思っていて、子どもの校区が変わらないよう小学校入学前のタイミングで。以前は利便性重視で都心でしたが、のんびりした子なのでゆっくりできる環境の土地を選び、自然素材の家を建てて、35年ローンで支払っています。さらに、35歳で投資用マンションを五反田(東京)に購入。こちらは賃貸にしていましたが、距離があるので今は売却して身近な関西圏で投資用物件を探しています。

――今お住まいの注文住宅のこだわりポイントは? 住み心地はいかがですか?

土壁、珪藻土などの自然素材にこだわり、路地奥の敷地でも中庭があるため家全体に光と風あふれるプランに(写真提供/株式会社Oh!)

土壁、珪藻土などの自然素材にこだわり、路地奥の敷地でも中庭があるため家全体に光と風あふれるプランに(写真提供/株式会社Oh!)

前の建売一戸建ての課題を全て解決しました。仕事柄本が多く、収納に困っていたため、壁には天井まで本棚を造作。掃除好きなので、基本的に見せる収納でオープンな空間にしつつ、家事動線にも配慮。また、私自身がアトピー持ちということもあり、土壁や珪藻土といった自然素材を使ってもらいました。建築時にSUUMOの雑誌『注文住宅』にも取材されたりして、家族や友人にも好評です。何よりありがたいのは、ここに住んでからぜんそくが治ったこと。珪藻土のおかげかな、と思っています。

執筆活動をする机に面した壁には吹抜けの上部まで一面に本棚を造作し、収納の悩みを解決(写真提供/株式会社Oh!)

執筆活動をする机に面した壁には吹抜けの上部まで一面に本棚を造作し、収納の悩みを解決(写真提供/株式会社Oh!)

家族が過ごす1階は中庭に面してキッチン、ダイニング、仕事場などのコーナーが続くオープンな吹抜け空間で、明るく広々(写真提供/株式会社Oh!)

家族が過ごす1階は中庭に面してキッチン、ダイニング、仕事場などのコーナーが続くオープンな吹抜け空間で、明るく広々(写真提供/株式会社Oh!)

家は働く女性を裏切らない! じっと帰りを待って、褒めて、癒やしてくれる

――家が高殿さんを幸せにしていることを実感します。今回の新刊エッセイのテーマを家にしようと思ったのも、その理由ですか?
最近「家が欲しい」という声をよく聞きます。周囲の既婚者はたいがい家持ちですが、シングル女子は、まだまだこれから。「女性活躍」などと言われ忙しく働いていても、20年前の自分たちの時代よりお給料は下がっているのが現実。
女性の生き方も多様化して「旦那もいらない」「子どももいらない」など身軽になっていますが、家は必要。いざ購入となるとどう動いていいか分からなくて、友人にも話しにくいから相談相手もいないし、セミナーなどに一人で行くのは抵抗がある。会社員ならローンが組みやすいけれど、契約社員や私のようなフリーランスだとそこもハードルになる。私が実体験や体当たり取材をもとに発見したことを身の回りの友人知人に伝えるだけでなく、もっと多くの若い人に知ってもらいたい。不動産をはじめとした、税金についての知識は、あればあるほど得をするから、学校の義務教育で教えるべき、と思うくらいです。

――最後に、働くシングル女子にエールをお願いいたします。
持ち家は働く女性を裏切りません。男性や友人に裏切られることがあっても、仕事が期待どおりに進まないことがあっても、家はじっと帰りを待って、頑張っているあなたを毎日継続的に褒めてくれます。大人になると、親も褒めてくれないのにね。女子が生きていくために大切なのは、自分だけのくつろげる居場所(=資産)を見つけること。持ち家によって自分に自信がつき、癒やされ、支えになり、暮らしが激変したたくさんの成功例を見ています。全ての女性が「ラク」に生きる手助けができれば幸いです。

身の回りでもシングル女性の相談が相次ぎ、今回の35歳契約社員、の次は、アラフォーフリーランスなど、続編ができそうだという(写真撮影/片山貴博)

身の回りでもシングル女性の相談が相次ぎ、今回の35歳契約社員、の次は、アラフォーフリーランスなど、続編ができそうだという(写真撮影/片山貴博)

時代先取りのルームシェアから憧れの注文住宅に至る高殿さんご自身の住宅歴を根掘り葉掘り伺い、インタビューは女子会のごとく大盛り上がり。「家は裏切らない」「いつもお帰りなさいと癒やしてくれる」というお言葉に大きくうなずく編集部T(目黒にマンション購入)と筆者(鎌倉で古民家リノベ―ション)のシングル女子2名。はい、家、褒めてくれます!!

●取材協力
高殿 円(たかどの・まどか)
兵庫県生まれ。2000年『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。13年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。主な著作に「トッカン」シリーズ、「上流階級 富久丸百貨店外商部」シリーズ、「カーリー」シリーズ、『メサイア 警備局特別公安五係』『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』『主君 井伊の赤鬼・直政伝』『政略結婚』『ポスドク!』など。漫画原作も多数。
>Twitter 
@takadonomadoka
高殿 円 著、風呂内 亜矢 監修、KADOKAWA 刊

35歳、働き女子よ城を持て!


高殿 円 著、風呂内 亜矢 監修、KADOKAWA 刊

次世代住宅ポイント制度の発行申請がスタート!ところで、どんなポイントだっけ?

国土交通省によると、2019年6月3日から「次世代住宅ポイント制度」のポイント発行申請の受付を開始したという。この制度は、消費税率10%への引き上げ後の住宅購入などを支援するためのものなのだが、まだ消費税率は上がっていない。ポイント発行申請の受付とはどういったことか、そもそもどういった制度か、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
次世代住宅ポイント制度のポイント発行申請を受付開始/国土交通省消費税率10%のマイホームの新築やリフォームに与えられるポイント

住宅の新築やリフォームの費用は、消費する商品の中でも高額なものだ。消費税率が8%から10%へ引き上げられる影響も大きい。住宅の購入などの需要が落ちないように、政府はさまざまな優遇策を用意している。

そのひとつが「次世代住宅ポイント制度」で、一定の性能を満たす住宅の新築やリフォームに対して、商品と交換できるポイント(1ポイント=1円相当)を与えるもの。対象となるのは、消費税率10%が適用されるマイホームの新築(注文住宅の新築、新築分譲住宅の購入)とリフォームだ。

新築の場合は、一定の省エネ性、耐久性、耐震性、バリアフリー性能を満たす住宅に対して30万ポイントが与えられ、さらに性能を引き上げるなどの条件を満たせば最大35万ポイントまで引き上げられる。

一方、リフォームの場合は、断熱改修、エコ設備の設置、耐震改修、バリアフリー改修に加え、家事負担を軽減する設備の設置やインスペクションの実施などについて、それぞれ決められたポイントが設定され、該当する工事の内容ごとに加算され、上限で1戸当たり30万ポイントまでが与えられる。さらに、若者・子育て世帯がリフォームを行う場合などの条件を満たせば、ポイントの上限が引き上げられる特例が適用され、最大で45万または60万ポイントが与えられる可能性がある。

工事完了前ポイント発行申請とポイント予約申請の受付を開始

消費税率10%が適用されるということは、予定どおり10月1日から増税されれば、新築した住宅やリフォームの工事が終わって「10月1日以降に引き渡される」ことが基本的な条件だ。したがって、6月3日時点では、まだ工事が完了していないことになる(ただし、完成済みの新築分譲住宅の購入の場合を除く)。

実は、ポイントを申請するタイミングは、「工事完了後」、「工事完了前」、「分譲予約」がある。工事が完了して引き渡しを受け、入居してから申請する「工事完了後」だけでなく、工事請負契約や売買契約の締結後に申請する「工事完了前」のタイミングでも可能だ。ただし、リフォームの場合は、工事金額が1000万円を超える工事に限り「工事完了前」の申請ができる。

また、分譲住宅の場合はまとまった戸数が対象になるので、デベロッパーなどの分譲事業者が建築事業者と工事請負契約を締結した後にポイント発行申請の予約をする「分譲予約」を行うことも可能にしている。この場合は、住宅の購入者と売買契約を締結した後に各戸のポイントの発行申請を行うことができる。

つまり、6月3日から受付を開始したのは、「工事完了前」及び「分譲予約」の場合についてだけなのだ。

省エネ家電、健康家電、キッチン家電、子ども用品などの商品と交換可能

さて、気になるのは、与えられたポイントでどんな商品と交換できるかだろう。
6月3日から、交換できる商品の検索もできるようになった。

現時点で検索してみると、パソコンやテレビなどの省エネ家電、扇風機や空気清浄機などの健康家電、家事負担を軽減するキッチン・掃除・洗濯家電、ランドセルや子ども用自転車などの子育て商品、地域の食料品、防災用品など多岐にわたる。交換対象商品は今後も追加される予定だが、参考に検索してみるのもいいだろう。

ポイント制度の詳細や交換商品の検索については、「次世代住宅ポイント事務局」のサイトを参照してほしい。
<次世代住宅ポイント事務局HP>

せっかくの住宅購入などの支援策だが、次世代住宅ポイント制度の認知度はあまり広がっていないように感じる。でも、まだ消費税率が10%に上がっていないので、イメージがしづらいということもあるのだろう。とはいえ、ポイント発行の申請などが始まっている。例えばリフォームでは、工事前後や工事中の写真を提出する必要があるなど、実際にポイントが発行されるには細かい条件もある。知らなかったのでポイントがもらえなかったということのないよう、情報だけは事前に集めておくとよいだろう。

【カップル編】池袋駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2019年版

都内屈指の繁華街として知られ、さまざまな路線が通る交通の要所でもある池袋駅。そんな池袋駅まで30分以内にある、シングル向け中古マンションの価格相場が安い駅を前回は紹介した。続いて今回は専有面積40平米以上~70平米未満のカップル向け中古マンションの価格相場が安い駅TOP10をランキング。池袋駅まで行きやすくて便利かつリーズナブルな駅はどこなのか? さっそく見ていこう。●【カップル編】池袋駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/池袋駅までの所要時間)
1位 西浦和 1899万円(JR武蔵野線/埼玉県さいたま市/30分)
2位 みずほ台 2080万円(東武東上線/埼玉県富士見市/27分)
2位 柳瀬川 2080万円(東武東上線/埼玉県志木市/25分)
2位 西高島平 2080万円(都営三田線/東京都板橋区/30分)
5位 清瀬 2100万円(西武池袋線/東京都清瀬市/20分)
6位 南鳩ヶ谷 2190万円(埼玉高速鉄道/埼玉県川口市/30分)
7位 新高島平 2380万円(都営三田線/東京都板橋区/28分)
7位 高島平 2380万円(都営三田線/東京都板橋区/26分)
9位 扇大橋 2390万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/26分)
10位 志木 2435万円(東武東上線/埼玉県新座市/19分)

「池袋駅まで30分以内」で探すなら、シングル向けよりカップル向けがお得!?

1位はJR武蔵野線・西浦和駅で中古マンションの価格相場は1899万円。専有面積20平米以上~40平米未満の物件の価格相場をランキングした、前回のシングル編で最も安かったのは東武東上線・ときわ台駅で2175万円だったので、それよりも広いカップル向け物件のほうが安いという結果に。今回のカップル編TOP5は、いずれもシングル編1位よりも価格相場が安くなっている。

西浦和駅をはじめカップル編TOP5の駅がいずれもシングル編にランクインしなかったのは、そもそもシングル向け物件がない(SUUMO掲載件数11件以上という調査条件に満たない)ためだろう。池袋駅までの所要時間は西浦和駅よりもときわ台駅のほうが短いものの、「池袋駅まで30分以内」という条件をクリアしている点は同じ。「30分以内でさえあれば、より近いことよりも広いほうがいい」という人なら、物件探しの際に最初から広さを絞り込みすぎないほうがよさそうだ。

さて、1位・西浦和駅の環境はというと、大型商業施設はないものの駅周辺にスーパーやドラッグストアがあり日常の買物には困らない。駅の西側、荒川の河川敷にはバーベキュー場や遊具広場、芝生広場などがある「秋ヶ瀬公園」が広がり、休日の家族のおでかけ先にうってつけだろう。

荒川(写真/PIXTA)

荒川(写真/PIXTA)

2位には価格相場が同額の2080万円となった3つの駅がランクイン。その1駅、東武東上線・みずほ台駅の周辺にはスーパーやドラッグストア、100円ショップが点在するほか、気軽に利用できるファミレスなどの飲食店も充実。駅から徒歩約3分の場所に、2次救急指定病院として急患の対応もする総合病院があるのも安心だ。また、駅前から無料送迎バスに乗って、ボウリング場やゴルフ練習場、温泉施設を備えた「埼玉スポーツセンター」に行くこともできる。

もう一つの2位である柳瀬川駅は東武東上線でみずほ台駅から1駅。駅周辺に保育園や幼稚園、小・中学校が点在し、ファミリー層も多く住む住宅地。駅前の交番や志木市役所出張所を通り過ぎた先には、住民の日常生活を支えるスーパーも。また、駅から徒歩約15分の保育園2階には子育て支援センターもあり、乳幼児の育児中の人にとって心強い環境だ。

隣接する駅でも価格相場に300万円の開きがあることも

前述のみずほ台駅、柳瀬川駅と同じく、都営三田線・西高島平駅も価格相場は2080万円。都営三田線の終着駅である西高島平駅の隣りは7位・新高島平駅、さらに隣りは同額7位の高島平駅という位置関係だ。

西高島平駅~高島平駅間は約1.5kmしかなく、3つの駅の環境はさほど変わらない。この3駅を含む高島平地域は住宅地として開発され、駅周辺には団地や戸建てがびっしりと建ち並んでいる。街の開発から時が経ち、現在は段階的に地域一帯の再整備を進めている状況である。

現状では3駅の中でスーパーなどの商業施設が最も充実しているのは高島平駅周辺だ。2位の西高島平駅と、7位の新高島平駅・高島平駅の価格相場の差は300万円だが、この価格差が妥当と思えるかどうかは、自分の目で現地を確認したり実際の物件を見比べながら判断するといいだろう。

高島平駅の駅前(写真/PIXTA)

高島平駅の駅前(写真/PIXTA)

「池袋駅まで30分以内」という条件に絞るなら、シングル利用であってもカップル向けの広さがある物件のほうが価格相場はお得であると判明した今回のランキング。次回は専有面積70平米以上~100平米未満を対象にした、ファミリー向け物件の価格相場を調査したい。さて、どんなランキング結果となるだろう……?

●調査概要
【調査対象駅】池袋駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数40年未満、物件価格相場500万~1億2000万円、専有面積40平米以上70平米未満、敷地権利は所有権のみ
【データ抽出期間】2019/1~2019/3
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換時間を含む)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

福岡で誕生、100年先の暮らしを模索する実験的 コミュニティ

近年、東京都内でも拡張家族をテーマにしたシェアハウスなどができ、新たな社会関係が生まれはじめている。その中で昨年、福岡では「100年先の暮らし」をテーマにした実験的コミュニティ『Qross』が誕生。その特徴と、ファミリーやシングルマザー、多拠点生活者などさまざまな立場の中でコミュニティへ参加することへのメリットを、立ち上げから1年経った今、振り返りながら語っていただいた。
コンセプトは「100年先の暮らしを実験する場所」

Qrossができたのは、2018年4月。立ち上げ当初のメンバーが、たまたま同じ価値観をもっており一緒に暮らす場が欲しいということで、移動にも便利な天神に拠点をおいた。

ここはシェアハウスのように住むことが前提ではない。住む人もいれば、日中の生活拠点として利用する人、たまに遊びに来る人もいる。0歳から66歳まで多様な人が所属し、思い思いに自分の生活をゆだねることができる場所といった感じだろうか。

現在の利用者は約30名。クリエイターをはじめ、プロジェクトデザイナー、映画プロデューサー、新米猟師、不動産会社社長、シェアハウス運営者、アイドル、デザイナー、編集者、日韓ツアープロデューサー、占星術師、鍼灸師、小学校教師、元大学教授、学生……と、肩書きはそれぞれ。

ニュースでも流れるように、テクノロジーの急速な進化、地球温暖化など環境への不安、政治や経済も含めた既存の社会システムの限界など、さまざまな社会問題が世界を取り巻き、これからの未来が予測不能ななかで個人として暮らしはどうあるべきか?100年後、どういう暮らしが残っていたらうれしいのか?そういった問いかけをそれぞれに感じながら、ともに生活という場で実験をしている。

基本的には暮らしに重きをおいてはいるが、コミュニティ内でも集団子育てなど、さまざまな活動もこの1年で行ってきた。

Qrossでの社会実験1.「きいちの学校」。集団子育ての一環として、さまざまな肩書きをもつ利用者の特性を活かして、非婚シングルマザーの子どもの先生を日替わりで担当。この活動だけではなく、普段の生活でも利用者同士で子育てをしている。 ※)背景の松は、もともと能の練習場だった時の状態をそのまま残したもの。現在はリビング・ダイニングとして使用(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験1.「きいちの学校」。集団子育ての一環として、さまざまな肩書きをもつ利用者の特性を活かして、非婚シングルマザーの子どもの先生を日替わりで担当。この活動だけではなく、普段の生活でも利用者同士で子育てをしている。
※)背景の松は、もともと能の練習場だった時の状態をそのまま残したもの。現在はリビング・ダイニングとして使用(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験2.「田んぼ部」。都心の天神から車で30分ほどの糸島で田んぼを借りて自分たちのお米を育てる。手植えから脱穀まで、プロの指導を仰ぎつつ自分たちで管理(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験2.「田んぼ部」。都心の天神から車で30分ほどの糸島で田んぼを借りて自分たちのお米を育てる。手植えから脱穀まで、プロの指導を仰ぎつつ自分たちで管理(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験3.「ソウルツアー」。韓国のまちづくりをアートの視点で観光。また韓国と日本での共同イベントも今後実施予定(写真提供/Qross)

Qrossでの社会実験3.「ソウルツアー」。韓国のまちづくりをアートの視点で観光。また韓国と日本での共同イベントも今後実施予定(写真提供/Qross)

Qrossは8割が多拠点居住者で、残り2割が定住者であることが特徴。それぞれに個人の家、または家族と住む家を持っている中でコミュニティを利用している人のほうが多い。職業も働き方もバラバラ、単身者もいれば家族もいて、さらにここに定住する人もいれば多拠点先のひとつとして利用している人もいる。このように多様な、人・暮らし方が生まれたのは、それぞれこの場所のどこに魅力を感じたからだろうか?

年齢層も0歳~66歳と幅広い(写真撮影/加藤淳史)

年齢層も0歳~66歳と幅広い(写真撮影/加藤淳史)

コミュニティにしかない価値

主にあげられたのはこのような理由だ。

▪「ただいま」と言える場所が複数あると心に余裕が生まれて、いろいろなことに挑戦しやすい。会社と一人暮らしの往復だと視野が狭くなる気がした。自分の拠点を3つ以上持つと一つ一つの拠点にいる時間は短いけれどもその分、その場にいる人を大切にしようと思えた(多拠点居住/デザイナー)

▪起業を予定してシェアオフィスも探したけれど、皆が黙々と作業している雰囲気がそもそも苦手。変にルールに縛られる空間よりも自分は多様な空気、カオス感を感じる場所に身を置いていたかった。60歳代ともなると、ルールをつくることは簡単だけれどもカオスに戻るのが難しい。認識論より存在論。ありかたの大切さに重きを置きたかった(同県内にて家族と居住中/元大学教授・イドビラキ伝道師)

▪ある程度仕事をしながら収入は確保できるし、それなりにやりたいこともできるけれど、こなし作業になる気がした。自分がこの先どうなるか分からない、ワクワク感に身を置いていたかった(長崎壱岐と二拠点居住/プロジェクトデザイナー)

▪子育ては自分が運営しているシェアハウスでもしていたけれど、大家と入居者という立場だと遠慮して言えないことがあったかもしれない。ここでは全員で子育てしているので、子どもを叱ってくれることもあるし、叱るポイントも人それぞれなのが面白い。多様な価値観に触れ合えることで、柔軟性や社会性も自然と身について、キャパも広がりそう。(非婚シングルマザー/シェアハウス運営者)

▪友達と一緒に子育てがしたかったからQrossの利用者になった。結果的にはいろんな世代の人がいて、今まで出合わなかった価値観を知ることができた。大人になるにつれ、どんどん居心地の良い空間や人を求めがちだから、ここで暮らすことはすり合わせも大変だけれどいい刺激になる。(東京からUターン/フリーランス)

Qrossの入居は基本紹介制。さらに入居前に「100年先の暮らし」について事前に説明があり、その価値観を共有した上で利用者を迎えている。さまざまな肩書きや背景はあるけれども、皆が共通で感じているのは、時間や心の「余白」だった。

非婚シングルマザーで0歳と3歳の子どもをQrossで子育て中の江頭聖子さん。「最近は、私以外のQrossメンバーと子どもだけで海外旅行に行ったり、逆に私も子どもを残して数日海外に行けたり。集団子育てをすることで、安心信頼できる大人が実親以外にもいることは、私にも子どもにとっても有難いです」と語る(写真撮影/加藤淳史)

非婚シングルマザーで0歳と3歳の子どもをQrossで子育て中の江頭聖子さん。「最近は、私以外のQrossメンバーと子どもだけで海外旅行に行ったり、逆に私も子どもを残して数日海外に行けたり。集団子育てをすることで、安心信頼できる大人が実親以外にもいることは、私にも子どもにとっても有難いです」と語る(写真撮影/加藤淳史)

東京と福岡の二拠点生活中の山崎瑠依さん。東京でもシェアハウス居住中。「一人暮らしのときと違い、職場と自宅の往復だけではない、心が満たされている感じがする。人といる時間を大切にするようになった」と話す(写真撮影/加藤淳史)

東京と福岡の二拠点生活中の山崎瑠依さん。東京でもシェアハウス居住中。「一人暮らしのときと違い、職場と自宅の往復だけではない、心が満たされている感じがする。人といる時間を大切にするようになった」と話す(写真撮影/加藤淳史)

元大学教授であり、Qross最年長利用者の坂口光一さんはこう話す。「コミュニティは生き物のようで一人が入ってくるとまた色を変える。リアルな生命体のような印象で、それがさらに新しい可能性を見出しそう」糸島に自宅もあるが、「ダンナ元気に外遊び、おかげで手数いらず」と、コミュニティに参加することは妻も大賛成だったそう(写真撮影/加藤淳史)

元大学教授であり、Qross最年長利用者の坂口光一さんはこう話す。「コミュニティは生き物のようで一人が入ってくるとまた色を変える。リアルな生命体のような印象で、それがさらに新しい可能性を見出しそう」糸島に自宅もあるが、「ダンナ元気に外遊び、おかげで手数いらず」と、コミュニティに参加することは妻も大賛成だったそう(写真撮影/加藤淳史)

新しい暮らしは余白から生まれる

このようにお互いのバックグラウンドが違っていることをQrossでは歓迎し、お互いがそれぞれでできる範囲で暮らしの役割分担をしている。入居前に価値観をすり合わせていることもあり、利用後に「イメージと違う」と言う人はほぼいない。お互いが依存しすぎない、程よい距離感の中で付き合っているから良い関係性が成り立っているようだ。

「集団子育てや田んぼの耕作なども、この余白ができた上で成り立つ活動ですね。なので目立たない普段の日常での状態が、暮らしの実験そのものなんです」

今回、Qross立ち上げの際の呼びかけ人でもある坂田賢治さんはこう話す。

「Qrossは経営者などほぼ日常すべてがビジネスに関連づいている、という人たちも多く所属しています。ですがQrossの暮らしのなかでは互いの社会的立場はさほど関係なく、お互いが素でいられる状態が自然とつくられています。それによってビジネスの世界とはまた別の、感覚的なものや言語化できないものを、生活を通じて知ることができる。それによって自分一人では気がつかない感覚を知ることは、この先の未来、意味があることだと思っています」

新しい生活は、新しい社会関係の中で生まれる。

(写真撮影/加藤淳史)

(写真撮影/加藤淳史)

Qross呼びかけ人のプロジェクトデザイナー・坂田賢治さん。「100年先の暮らしがどうなるかについて、ゴール設定はしていません。どうなるか分からないのに設定しても無理があるので、まず個人がどうありたいか、社会から個人の暮らしを考えるのではなく、個人から暮らしのあり方を発信していくことを大切にしています」(写真撮影/加藤淳史)

Qross呼びかけ人のプロジェクトデザイナー・坂田賢治さん。「100年先の暮らしがどうなるかについて、ゴール設定はしていません。どうなるか分からないのに設定しても無理があるので、まず個人がどうありたいか、社会から個人の暮らしを考えるのではなく、個人から暮らしのあり方を発信していくことを大切にしています」(写真撮影/加藤淳史)

フリーランス(たまにDJ)で昨年、東京からUターン帰省した梅田佳枝さん。「いろんな人と交わると、なぜそうするの?と疑問をもつこともあるけれど、伝え合うことで幅広い視野が身につく!」とコメント(写真撮影/加藤淳史)

フリーランス(たまにDJ)で昨年、東京からUターン帰省した梅田佳枝さん。「いろんな人と交わると、なぜそうするの?と疑問をもつこともあるけれど、伝え合うことで幅広い視野が身につく!」とコメント(写真撮影/加藤淳史)

不動産やWEB、映像関連事業など多岐にわたってプロジェクトや会社を立ち上げている後原宏行さん。「今社会が分断され続けて改めてコミュニティが出来ているけれど、元々は皆、大きなコミュニティに属しているという認識です。それが曖昧になってきているから、昨今では分かりやすい場所のあるコミュニティが増えている。Qrossはそんなコミュニティのひとつですが、天神という福岡の都心部なのに気を張らずにいられる、ということは大きな価値だなと感じています」(写真撮影/加藤淳史)

不動産やWEB、映像関連事業など多岐にわたってプロジェクトや会社を立ち上げている後原宏行さん。「今社会が分断され続けて改めてコミュニティが出来ているけれど、元々は皆、大きなコミュニティに属しているという認識です。それが曖昧になってきているから、昨今では分かりやすい場所のあるコミュニティが増えている。Qrossはそんなコミュニティのひとつですが、天神という福岡の都心部なのに気を張らずにいられる、ということは大きな価値だなと感じています」(写真撮影/加藤淳史)

さまざまな立場でも、コミュニティに参加するしないの選択はできる

コミュニティに参加して1年、マインド面で変化したことは?と聞くと皆が「そんなに変わっていない」と一様に答える。ただ、コミュニティ、イコール「参加者が似通った、閉ざされた集団」というネガティブなイメージがポジティブに変わったり、朝起きてリビングに一人一人現れてコーヒーを誰かが淹れたり、子どもの楽しそうな声がBGMに加わったり、誰かと誰かが盛り上がって話していたりと、これまでの自分の暮らしに加えて、さらにQrossでお気に入りの場所やシーンが増えたみたいだ。無理なく生活の延長上に新たな視点を添える。それもまた、コミュニティを続ける秘訣なのかもしれない。

どうしてもコミュニティとなると、その場に生活拠点を構えたり、活動への参加が半ば強制的になったりと、特に子育て世代などには参加のハードルが高いように感じることもある。けれどもQrossのような、ある一定条件を満たせば、どんな社会的立場でも参加可能なコミュニティも誕生している。コミュニティは、いわば小さな社会でもある。このようなコミュニティに関わることで、自分の周囲にはない、新たな視点が得られる機会となり、社会に出る前の学びにもなりそうだ。

これからまたさらに変化する時代のなか、自分たちの暮らしのありかたもまた、再構築する時期がやってきているのかもしれない。

災害時に困るのはライフラインの遮断。住宅の機能でどこまで備える?

地震や豪雨、川の氾濫などの災害が、近年は甚大化する傾向が見られる。住環境研究所が“被災経験”のある人に調査したところ、被災したときに困ったのは、「停電」や「断水」などライフラインがストップしたことだと分かった。調査結果を詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「防災・災害意識と住まい調査」を発表/住環境研究所電気や水道などのライフラインの遮断が災害の課題

「地震」「水害」「台風」の被災経験のある25歳以上の既婚者に調査したところ、「停電」を経験した人は70%とかなり多く、「断水」を経験した人も43%もいることが分かった。これを災害別に見ると、「地震」被害の場合で、停電も断水も経験した割合が最も多くなっている。

■停電を経験した人の割合(全体:70%)
・地震被害:85%
・水害被害:69%
・台風被害:69%
■断水を経験した人の割合(全体:43%)
・地震被害:64%
・水害被害:43%
・台風被害:29%

断水が意外に多いように思うかもしれないが、巨大地震が起きれば、水源の水が枯れたり濁ったり、取水・浄水処理施設などの機能が損なわれたり、水道管が破裂したりといったさまざまな被害によって、断水を引き起こす可能性が高くなるという背景がある。

さらに断水は、水源から建物に給水するまでの異常だけでなく、実は停電とも関係がある。マンションなどの共同住宅の場合、各戸に水道を給水する方法はいくつかあるが、その多くは電気で動くポンプで水を送っているため、停電になると断水してしまうからだ。

ちなみに、ガス機器のなかには電源を必要とするものもあるので、ガスの使用も停電の影響を受ける場合がある。

災害時に困るのは、「家の片付け」「停電」「食料の入手」「飲み水の入手」「水洗トイレ」

次に「災害時に困ったこと」を聞くと、「家の片付け、掃除」26.6%、「停電、計画停電などで自宅の電気が使えない」25.7%、「食料の入手」25.0%、「飲み水の入手」23.3%、「自宅の水洗トイレが使えない」23.2%の順で、困った経験のある人が多いことが分かった。

また、断水経験のある人は、「自宅の水洗トイレが使えない」(38.5%)、「飲み水の入手」(37.4%)など、水に関して困った経験のある人が約4割にまで上がり、生活するうえでかなり困る様子がうかがえる。加えて、停電経験のある人は、「停電、計画停電」(31.2%)がお困り度ナンバーワンになるなど、ライフラインがストップすることの影響が大きいことが分かる。

災害時に困ったこと(出典/住環境研究所「防災・災害意識と住まい調査」より転載)

災害時に困ったこと(出典/住環境研究所「防災・災害意識と住まい調査」より転載)

住宅の機能で災害に備えるという方法もある

住宅の機能によって、災害に備えるという考え方もあるだろう。

災害に対応する住まい(建物、設備)への配慮の要望を聞いたところ、建物への要望では、地震対策として「倒壊しない強固な構造」75.3%「揺れによる室内の被害を抑える配慮」67.0%、台風対策として「飛来物に対する配慮がある(窓にシャッター等)」59.3%、「飛散に対する配慮がある(屋根の固定方法等)」55.2%などとなった。

設備への要望では、停電対策として「太陽光や蓄電池などにより最小限の生活が行える」46.1%、「電気のみに頼らない、ガスも併用した設備」36.5%、「大容量蓄電池などにより普段通りの生活が行える」34.9%などとなった。住環境研究所では、災害への住まいの対応として、台風対策や停電対策への要望も高いことに注目している。

また、被災経験のある人のなかでも住宅取得計画のある人に絞ると、要望の傾向は同じだが、要望の度合いがいずれも高まることも分かった。

災害に対応する住まい(建物、設備)への配慮の要望(出典:住環境研究所「防災・災害意識と住まい調査」より転載)

災害に対応する住まい(建物、設備)への配慮の要望(出典:住環境研究所「防災・災害意識と住まい調査」より転載)

最新の技術や設備によって、災害に備える機能を住宅に設けることは可能だ。もちろん、高い機能を付加すればそれだけ、コスト面もかかってくる。予算との兼ね合いでどこまで備えるかの優先順位をつけることになるが、住宅でも特に建物については、命や財産を守る箱にもなるので、あらゆる災害に備えられる機能をもたせることを強くお勧めしたい。

甚大な災害が増えるなか、災害への備えをする家庭も多くなっている。飲料水や食料品を備蓄したり、携帯の充電器を用意したり、懐中電灯を用意したり、風呂の水をためておいたり(水洗トイレで使用)と、万一に備えて家庭で用意できるものは怠らないようにすべきだ。

合わせて、建物や設備で災害に備えられる機能についても、新たに住宅を取得する際に考慮したり、必要に応じて居住中の住宅で耐震改修などのリフォームを行ったりといったことも検討してほしい。

サンワカンパニー社長の自邸を初公開!“家一軒丸ごと自社製品“への第一歩  あの人のお宅拝見[13]

住宅設備機器・建築資材業界において、ネット販売を推進しているサンワカンパニー。若き山根社長は、ミラノサローネ(世界的なインテリアデザインの見本市)でも日本企業で初めて賞を受賞するなど、デザイン性の高い商品をリーズナブルな価格で提供するべく建築業界の流通革命に挑んでいる。昨年ご自宅を建築したと聞き、まだメディアに出していないお宅を初取材させていただきました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井繁子が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。35歳山根社長、グローバルなバックグラウンドが挑戦の源

普段、私が山根社長にお会いするのは東京・青山のショールームやミラノサローネですが、サンワカンパニーの本社があるのは大阪府大阪市。なので、ご自宅は関西。中でも憧れの住宅地である“THE 阪神間”なスゴい立地に新築されました。
社長宅は当然、外観撮影NG……。コンクリート打ち放しとだけご紹介。
エントランスまでお出迎えいただき中に入ると、まず玄関の広さとデザインに圧倒されます!

床のタイルは1枚75cm角、横に4枚=3m幅の玄関は豊かさの象徴。トールキャビネットがダークなオーク材で落ち着いた空間に。正面には名和晃平作のアートが、あつらえたように納まっていた(写真撮影/NOB 川谷)

床のタイルは1枚75cm角、横に4枚=3m幅の玄関は豊かさの象徴。トールキャビネットがダークなオーク材で落ち着いた空間に。正面には名和晃平作のアートが、あつらえたように納まっていた(写真撮影/NOB 川谷)

その先に待ち受けていたのは、さらに広いワンルーム空間。リビングダイニングの奥にオープン・キッチンがあります。床壁、キッチンなど建材はふんだんに自社商材が使われています。
リビングの上は大きな吹抜けになっています。奥のダイニングテーブルでお話を伺いました。

昨年の6月に完成入居された新居。3年前の土地購入後、設計・建築に「妥協無しにやらせていただいたので、設計だけで2年かかってしまいました」と山根社長。

玄関から続く大判のタイル床は床暖房。「広いので冬場の暖房は心配しましたが、床暖房だけで十分でした」。壁は光触媒機能の塗装『オプティマス』(照明が当たると空気を浄化)(写真撮影/NOB 川谷)

玄関から続く大判のタイル床は床暖房。「広いので冬場の暖房は心配しましたが、床暖房だけで十分でした」。壁は光触媒機能の塗装『オプティマス』(照明が当たると空気を浄化)(写真撮影/NOB 川谷)

創業者である父上の急逝によって、伊藤忠商事で会社員をしていた山根社長が会社を継がれたのは2014年、30歳のころ(当時、東証マザーズ上場企業で最年少)。それから数年でやっとご自身の体制に社内は整ってきたようです。相当な苦労もされているはず……。
「自分自身、二代目という立場に抵抗もありましたが、“明日から社長やれ”って言われる境遇なんて、そう無い訳ですから」と意を決し、会社経営に邁進されてきた。

「親とは別の仕事に就きたくて、商社務めではアパレル担当でした。だから建築業界のことも一から勉強」。外から入ったからこそ業界の不合理を流せない、“異端児”たる所以(写真撮影/NOB 川谷)

「親とは別の仕事に就きたくて、商社務めではアパレル担当でした。だから建築業界のことも一から勉強」。外から入ったからこそ業界の不合理を流せない、“異端児”たる所以(写真撮影/NOB 川谷)

建築業界では成功例が少ない“住宅設備機器と建築資材のインターネット販売・キッチンの海外販売”に挑戦しています。
「ものづくりで成功するには、顧客に好きなブランドとして指名してもらえることが必要」と、山根社長はNO.1ブランドを目指して国際見本市へ出展しました。
昨年は【ミラノサローネ・アワード/Salone del Mobile.Milano Award】を受賞し、世界から注目されるブランドになりました。(詳しくは、昨年の記事『ミラノサローネ2018リポート!キッチンもインスタレーションも“JAPANESE”が注目の的』)

【ミラノサローネ・アワード】を受賞した展示。世界から出展した企業1841社の中で3社が選出された。今年亡くなったイタリアデザインの巨匠アレッサンドロ・メンディーニ氏がデザインしたコンパクト・キッチンも展示(写真提供/サンワカンパニー)

【ミラノサローネ・アワード】を受賞した展示。世界から出展した企業1841社の中で3社が選出された。今年亡くなったイタリアデザインの巨匠アレッサンドロ・メンディーニ氏がデザインしたコンパクト・キッチンも展示(写真提供/サンワカンパニー)

世界の有名インテリア・ブランドが集まるミラノサローネに出展するというのは、会社として大きな決断。
「実は大学生時代に2年間、フィレンツェに留学していたのですが、そのときに父がミラノサローネへ視察に来て通訳に駆り出されたんです」
現地で学生の山根社長が見た驚きと感動が、10年後の出展、受賞につながっていると思うと、これは父上のお導きではないかと感じました。

イタリア語のほかに、英語はもちろん、上海駐在経験から中国語も話せる山根社長。それも手伝ってか、ミラノサローネでは国際コンテストの審査員も務められました。

新人デザイナーの登竜門【サローネサテリテ・アワード】の受賞者を囲んだ審査員たちの中で、山根社長はアジア代表的な存在(写真提供/Salone del Mobile.Milano)

新人デザイナーの登竜門【サローネサテリテ・アワード】の受賞者を囲んだ審査員たちの中で、山根社長はアジア代表的な存在(写真提供/Salone del Mobile.Milano)

今年のミラノサローネには仕事の都合で渡航されませんでしたが、私が見学してきたことをご報告しました。

ミラノ市内イタリアの販売代理店ショールームで、Karimoku New Standardとのコラボ・キッチンを展示(写真撮影/藤井繁子)

ミラノ市内イタリアの販売代理店ショールームで、Karimoku New Standardとのコラボ・キッチンを展示(写真撮影/藤井繁子)

「来年もミラノサローネでは、日本のプロダクトを日本の技術と感性で勝負したいと思っています。外国人に媚びない仕事をしたいですね」
アジアを中心にグローバル展開をしていますが、今後山根社長は北米にも関心をもっているようです。

迫力のモダンデザイン・キッチンは、もちろん自社製品

さて、とても楽しみにしていたご自宅のキッチンを拝見。
中庭を囲んでコの字型に設計された1階の一番奥、天井材を変えることでキッチンはリビング・ダイニング空間と緩やかに区切られています。そのキッチン天井が一段下がっている中に、業務用エアコンをビルトイン。黒い部分、窓枠とそろったデザインで綺麗に収まっています。

モデルのように可愛い奥様に立っていただくと、キッチンの大きさがよく分かります。横幅は3.6m。レンジはシンクの背後に壁付けで(写真撮影/NOB 川谷)

モデルのように可愛い奥様に立っていただくと、キッチンの大きさがよく分かります。横幅は3.6m。レンジはシンクの背後に壁付けで(写真撮影/NOB 川谷)

こちらも自社製品のキッチン『エレバートEX』。黒の鏡面仕上げ、カウンタートップはステンレス。木製カウンターを付けてL字型にレイアウト。奥のキャビネットとビルトイン冷蔵庫も一面でスッキリデザイン(写真撮影/NOB 川谷)

こちらも自社製品のキッチン『エレバートEX』。黒の鏡面仕上げ、カウンタートップはステンレス。木製カウンターを付けてL字型にレイアウト。奥のキャビネットとビルトイン冷蔵庫も一面でスッキリデザイン(写真撮影/NOB 川谷)

キッチンも中庭に面しているので明るく、お子様たちが走り回る姿にも目が届きます。ボールを蹴ったり、木登りをしたりとワンパク兄弟、山根家のDNA!?

山根社長はマンション育ち。「戸建てに住むのは初めてで、この中庭で息子たちが遊ぶ姿を見ていて“これが戸建ての良さだなぁ”って感じます」(写真撮影/NOB 川谷)

山根社長はマンション育ち。「戸建てに住むのは初めてで、この中庭で息子たちが遊ぶ姿を見ていて“これが戸建ての良さだなぁ”って感じます」(写真撮影/NOB 川谷)

「自宅で夕食を食べることが少ないので、ダイニングより、このカウンターが私の定位置です」

お酒を飲まない山根社長。「家で食べるときは、オーガニック・サラダとかを買ってきて、ここで食べる程度です」(写真撮影/NOB 川谷)

お酒を飲まない山根社長。「家で食べるときは、オーガニック・サラダとかを買ってきて、ここで食べる程度です」(写真撮影/NOB 川谷)

テニスの腕前はプロ並み、オン・オフをストイックに全力で!

大きな吹抜けになっているリビングルーム、壁付けのスポット照明はFLOS社(イタリア)のもの。
「これ以外は、全てダウンライトで照明器具は付けませんでした」

吹抜けは5.6mダイニングテーブル上にもペンダント照明無しの潔さ。それによって、リビングからキッチンまで障害物無しに見渡せる(写真撮影/NOB 川谷)

吹抜けは5.6mダイニングテーブル上にもペンダント照明無しの潔さ。それによって、リビングからキッチンまで障害物無しに見渡せる(写真撮影/NOB 川谷)

そのリビングから見上げた、2階のガラス越しに見えるのは……ホームジム!

ミラーが一面に張られ、エクササイズに集中できるジム。「まだマシンもそろえてなくて、子どもの友達が来ると遊び場になってます(笑)」(写真撮影/NOB 川谷)

ミラーが一面に張られ、エクササイズに集中できるジム。「まだマシンもそろえてなくて、子どもの友達が来ると遊び場になってます(笑)」(写真撮影/NOB 川谷)

実は、このホームジムだけでなく、山根社長が毎日のようにフィットネス・ジムへも通う理由がありました。
何と、山根社長はプロを目指した経歴のあるテニスプレーヤー。
「学生時代は試合で海外を転戦していていました。そのころの“自分が外国人”としてのタフな経験は、今ビジネスでも役に立っていますよ」

HEAD JAPANの契約ベテランテニスプレーヤーとして活躍中。私もベテランプレーヤーの端くれなので、手ほどきをお願い(笑)。山根社長はサウスポー!(写真撮影/NOB 川谷)

HEAD JAPANの契約ベテランテニスプレーヤーとして活躍中。私もベテランプレーヤーの端くれなので、手ほどきをお願い(笑)。山根社長はサウスポー!(写真撮影/NOB 川谷)

出場されているトーナメントは、生半可にはできないレベルの大会なので「朝5時半から7時半、練習をしてから仕事に向かいます」(やっぱり、出来る人はストイック)

「テニスができることで、留学や駐在時の海外でも現地コミュニティーに早く溶け込むことができました」取材日の前日も大会に出場、日焼けして顔が赤くなっていた山根社長(写真撮影/NOB 川谷)

「テニスができることで、留学や駐在時の海外でも現地コミュニティーに早く溶け込むことができました」取材日の前日も大会に出場、日焼けして顔が赤くなっていた山根社長(写真撮影/NOB 川谷)

「仕事では社長という扱いをされますが、テニス仲間はいつまでたっても年功序列。そういう関係性って心地よくもあり、大切にしたいですね」

最後に、ご自身の体験も踏まえ、これから家づくりをする方へのアドバイスを伺うと
「自分が妥協したくない点を最初に決めておくことかな。広さなのか、内装なのかなど。それを実現するためには、自分で興味をもって情報を集めて勉強する。業者任せで、後悔してほしくないですからね」

今後は新居での経験がユーザー目線として、お仕事に反映されそう。仕事もテニスも“NO.1“を目指して挑戦し続ける山根社長の活躍には、私も目が離せません。

山根太郎
株式会社サンワカンパニー 代表取締役社長
1983年奈良県生まれ。関西学院大学経済学部卒業、在学時代はプロテニス選手を目指して海外を転戦。卒業後、2008年伊藤忠商事株式会社に入社。繊維カンパニーにて、2年の上海駐在。創業者である父の急逝により2014年4月株式会社サンワカンパニー入社、同年6月に代表取締役社長に就任。
著書『アトツギが日本を救う ――事業承継は最高のベンチャーだ』(幻冬舎)
株式会社サンワカンパニー
サンワカンパニー・オンラインストア

【シングル編】池袋駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2019年版

JR各線をはじめ東武東上線、西武池袋線、東京メトロの丸ノ内線・有楽町線・副都心線が乗り入れる一大ターミナル・池袋駅。都内屈指の繁華街として知られ、駅周辺には商業施設がひしめいている。大学や高校、専門学校も点在するので、通学で利用している人もいるだろう。そんな池袋駅まで30分以内で行くことができる、便利な駅を調査した。専有面積20平米以上~40平米未満の広さがある、シングル向け中古マンションの価格相場が安い駅TOP10をご紹介しよう。●【シングル編】池袋駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/池袋駅までの所要時間)
1位 ときわ台 2175万円(東武東上線/東京都板橋区/12分)
2位 中板橋 2180万円(東武東上線/東京都板橋区/8分)
2位 練馬 2180万円(西武池袋線/東京都練馬区/12分)
4位 板橋本町 2200万円(都営三田線/東京都板橋区/17分)
5位 錦糸町 2280万円(JR総武線/東京都墨田区/26分)
6位 大山 2295万円(東武東上線/東京都板橋区/6分)
6位 板橋区役所前 2295万円(都営三田線/東京都板橋区/15分)
8位 大塚 2320万円(JR山手線/東京豊島区/3分)
9位 住吉 2324.5万円(東京メトロ半蔵門線/東京都江東区/30分)
10位 人形町 2359.5万円(都営浅草線/東京都中央区/29分)

池袋駅まで乗り換えなし&お得に住める東武東上線は要チェック

最も中古マンションの価格相場が安かったのは、東武東上線・ときわ台駅で2175万円。同駅は2018年5月の駅舎リニューアルにより、「武蔵常盤駅」という駅名で1935年に開業した当時の昭和レトロな姿が再現されている。この街は住宅地として開発され、駅開業の翌年より住宅の分譲を開始した歴史がある。現在も住宅地として愛されており、駅周辺にはスーパーやドラッグストア、100円ショップなどがそろう住みやすい街並みだ。また、駅に隣接した商業ビルの開発工事も進行中。2019年内の開業予定というから今後も楽しみだ。

2位にランクインしたのは1位・ときわ台駅と同じ東武東上線の中板橋駅。ときわ台駅より約700m、1駅だけ池袋駅寄りに位置し、池袋駅方面へもう1駅進むと6位・大山駅に到着する。中古マンションの価格相場は2位・中板橋駅が1位より5万円アップの2180万円、6位・大山駅は2295万円となっている。

2位・中板橋駅と6位・大山駅は、隣接する駅のわりには価格相場の開きが大きいが、それは駅周辺の発展度合いによるものかもしれない。6位・大山駅の南口には全長約560mのアーケード商店街「ハッピーロード大山」が、北口から山手通りにかけては全長約550mの「遊座大山商店街」があり、日常の買い物にこと欠かない活気あふれる街並みが広がっている。

ハッピーロード大山(写真/PIXTA)

ハッピーロード大山(写真/PIXTA)

とはいえ2位・中板橋駅の周辺にもコンビニやスーパー、ドラッグストアがあり、東武東上線で4駅・約8分で池袋駅に行くこともできる。「日々の買物はコンビニで十分」という一人暮らしの人なら、価格相場がリーズナブルな中板橋駅のほうが穴場かもしれない。

2位にはもう1駅、中板橋駅と同額の西武池袋線・練馬駅がランクイン。池袋駅まで5駅の西武池袋線のほか、練馬駅と東京メトロ有楽町線上にある小竹向原駅を結ぶ西武有楽町線、遊園地「としまえん」へ向かう西武豊島線、そして新宿駅や代々木駅、六本木駅まで1本で行ける都営大江戸線も通っている。駅に直結して深夜1時まで営業のスーパー「西友練馬店」があり、駅北側にはスーパーやドラッグストア、「ユニクロ」などが入った商業施設「ココネリ」も。帰宅がてらにサッと買い物ができる便利な環境だ。

池袋駅から1駅・約3分離れるだけで価格相場が650万円もダウン!

TOP10のうち、池袋駅までの所要時間が最短だったのは8位のJR山手線・大塚駅。都心交通網の大動脈と言えるJR山手線で池袋駅から1駅、約3分という便利な立地だ。中古マンションの価格相場は大塚駅が2320万円だったのに対し、池袋駅は2970万円だった。池袋駅から1駅離れるだけで650万円も価格相場がダウンするので、お得な物件を探したいなら要チェックだろう。駅ビル「アトレヴィ大塚」をはじめ、駅周辺にはコンビニあり、スーパーあり、飲食店も充実。一人暮らしにとって不自由ない生活ができそうだ。

サンモール大塚商店街(写真/PIXTA)

サンモール大塚商店街(写真/PIXTA)

今回ランクインした駅の大半は池袋駅から北西方面の板橋区や練馬区に位置しているが、都心部の中央区にある駅も。それは10位の都営浅草線・人形町駅。江戸時代から栄えた東京の中心地で、伝統工芸の店や老舗も点在している。東京メトロ日比谷線も通っており、銀座駅までは約9分。東京駅にも約13分で行くことができる。池袋駅のほかに、東京都心部へのアクセスも重視する人には、人形町駅に住むという選択もアリだろう。

さて、今回はシングル向けの中古マンションの価格相場が安い駅をランキングしたが、次回は専有面積40平米以上~70平米未満のカップル向け物件の価格相場を紹介したい。どうやらランクインした駅の顔ぶれがガラッと変わる様子……。どこの駅がお得なのか、お楽しみに。

●調査概要
【調査対象駅】池袋駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数40年未満、物件価格相場400万~7000万円、専有面積20平米以上40平米未満、敷地権利は所有権のみ
【データ抽出期間】2019/1~2019/3
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換時間を含む)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載

マンション総合調査から分かる、マンション選びのポイントとは?

国土交通省は、5年ごとに実施しているマンション管理の実態に関する「マンション総合調査」について、平成30(2018)年度調査の結果を公表した。住活トピックでは、そのなかでも区分所有者に対して調査した項目を取り上げ、マンション選びのチェックポイントについて考えてみたい。【今週の住活トピック】
「平成30年度マンション総合調査結果」を公表/国土交通省マンション選びはなにより立地重視?

調査は、管理組合と区分所有者に対してそれぞれ行っているが、区分所有者に対して調査した項目をピックアップしながら、マンションを選ぶ際に何を考慮したのか見ていこう。

まず、マンション購入時に考慮した項目について聞く(複数回答)と、「駅からの距離など交通利便性」が72.6%で最多だった。ほかに上位に挙がった項目を見ると、3番目の「日常の買い物環境」(52.8%)、4番目の「周辺の医療・福祉・教育等の公共公益施設の立地状況」(39.4%)、6番目の「周辺の自然環境」(28.5%)と、立地に関する項目が上位に多いことが分かる。

住宅の基本性能より立地条件を重視して、マンションを選んだ人が多いことがうかがえる。

一方、2番目の「間取り」(63.7%)についてだが、広さは変えられないが、間取りはリフォームすれば変えることができるし、家具などで空間を上手く仕切って暮らすなどの工夫もできる。後から変えるには補強工事などが必要になる「建物の耐震性能」への考慮が、もっと多くてもよいのではないかと思う。

マンション購入の際に考慮した項目(複数回答)※新規調査項目(出典/国土交通省「平成30年度マンション総合調査」より転載)

マンション購入の際に考慮した項目(複数回答)※新規調査項目(出典/国土交通省「平成30年度マンション総合調査」より転載)

マンションの管理面では「管理会社」「管理規約」「管理費・修繕積立金の額」

マンションの維持管理で考慮した事項を聞く(複数回答)と、上位に挙がった項目は「優良なマンション管理業者であること」50.0%(前回=平成25年度調査41.7%)、「管理規約の内容が妥当であること」43.0%(前回33.4%)、「管理費及び修繕積立金の額が十分であること」41.8%(前回41.2%)となった。

維持管理で考慮した事項(複数回答)(出典/国土交通省「平成30年度マンション総合調査」より転載)

維持管理で考慮した事項(複数回答)(出典/国土交通省「平成30年度マンション総合調査」より転載)

マンションのルールブックと言える「管理規約」の内容の妥当性については、「考慮する」という回答が、前回の33.4%から43.0%へとこの5年でかなり上がっている。実は、マンションで民泊を可能とするのか否かを規約に明示するように、2017年(平成29年)に国土交通省が推奨するマンション標準管理規約が改正された。これを受けて、新築マンションはもちろん、既存のマンションでも管理規約を見直して民泊に関する記載を追加するなどの改訂をする事例が多かった。おそらく、こうした時代に応じた管理規約の内容になっているかどうか、関心が高まったことなどが背景にあるのだろう。

一方、大規模修繕工事の重要性は広く知られているので、そのために必要な修繕積立金の額についても、多くの人が考慮したことがうかがえる。

ちなみに、月額の修繕積立金の額の平均は1万1243円、駐車場使用料等からの充当分を含む修繕積立金の額の平均は1万2268円で、前回調査(1万783円、1万1800円)より増加している。

「特にトラブルがない」マンションが減少!?

マンション内のトラブルの発生状況を聞く(複数回答)と、「特にトラブルがない」という回答が23.2%になり、前回調査の26.9%より減る結果となった。

一方、トラブルが発生した内容については、「居住者間のマナー」が55.9%と最も多く、次いで「建物の不具合」が31.1%、「費用負担」が25.5%となった。また、前回調査より大きく増加したのは「その他」の項目だけだった。

トラブルの発生状況(複数回答)(出典/国土交通省「平成30年度マンション総合調査」より転載)

トラブルの発生状況(複数回答)(出典/国土交通省「平成30年度マンション総合調査」より転載)

トラブルとして過半数の「居住者間のマナー」については、カギを握るのが「管理規約」とそれに付随する「使用細則」だ。そのマンションでどういった暮らし方をすることになっているか、ルールブックの内容が重要になる。さらに、マナーを守らない居住者がいる場合、管理組合が注意を促すことになるが、それをサポートする「管理会社」のノウハウや助言が欠かせない。「費用負担」のトラブルも同様なので、管理会社や管理規約は、トラブル防止の観点でも考慮すべきポイントと言えるだろう。

調査結果を見ていくと、マンション選びでは「立地」や管理面の「管理会社」「管理規約」「管理費・修繕積立金の額」が重視されていることが分かった。

実は、チェックポイントとして、後から変えられない、変えるのが容易ではないことを重視するのが鉄則だ。例えば、管理規約や管理会社を変える場合、管理組合で審議をして、総会の場で規定数による多数決で決議する必要がある。管理組合が活発に運営されていないと、こうした合意形成を図ることが難しいのが実態だ。そういう意味では、マンションに住むなら管理組合の活動に関心をもって、積極的に関わっていってほしい。

理想の一戸建てに求めるのは、日当たりやLDの広さ?

中央住宅は、SUUMOが戸建住宅の検討者と購入者1030人を対象に実施したアンケートの結果を通して、様々な意見を取り入れた新しい住まいの形『「理想の家」 レシピプロジェクト第2弾』をスタートさせた。戸建住宅ならでは理想が浮き彫りになったようだが、どういった結果になったのだろう?【今週の住活トピック】
SUUMOが戸建住宅検討者と購入者1030人にアンケートを実施(理想の家に関する1030人のアンケート結果)/中央住宅

戸建住宅では「日当たり」を重視する人が多い?

戸建住宅といっても、実は様々なタイプがある。ハウスメーカーに建築を依頼する「注文住宅」もあれば、分譲会社が一定の戸数の住宅地を開発してまとまった戸数の家を建て、販売する「分譲住宅」もある。

まず、分譲の戸建住宅に魅力を感じる理由を聞いたところ、「各家の日当たりが配慮されていること」が503人と最多となった。加えて、「街並みがきれいなこと」414人、「隣家の視線が被らないように間取りが配慮されていること」406人が続いた。

まとまった戸数の住宅地を開発する分譲住宅の場合、日当たりや居住者間の視線などを考慮して、敷地内の住宅の配置や間取りを工夫するのが一般的だ。外壁や屋根などの外観を同じテイストに統一するので、街並みが形成されるのも特徴だ。こうした点を魅力と感じる人が多いことが分かる。

部屋数より居室の広さ、なかでもリビングを重視する傾向

次に、居室について見ていこう。

まず、「住み替えるとしたら、広さで妥協したくないもの・妥協できるもの」を聞くと、「リビング・ダイニングの広さ」、「収納の広さ」、「キッチンの広さ」は妥協したくないという人が圧倒的に多かった。

一方、妥協できるもので多かったのは「個室の部屋数」、「主寝室の広さ」、「子ども部屋の広さ」だ。つまり、部屋の数よりも広さを重視し、なかでも利用頻度の高いリビング・ダイニングや収納、キッチンの広さは妥協しがたいと考えていることがうかがえる。

例えば、寝室は机などを置かずに機能を寝ることに絞る、子ども部屋は勉強する場所としてくつろぐ場所をリビング・ダイニングで代用する、といったことも可能なので、妥協しやすいということだろう。

住み替えるとしたら、広さで妥協したくないもの・妥協できるもの(複数回答)(出典:中央住宅「SUUMOの戸建住宅検討者と購入者1030人アンケート」より転載)

住み替えるとしたら、広さで妥協したくないもの・妥協できるもの(複数回答)(出典:中央住宅「SUUMOの戸建住宅検討者と購入者1030人アンケート」より転載)

また、広さにこだわる「リビング」について、「リビングに求める暮らし方・過ごし方」を聞いたところ、「リラックスできること」や「家族と会話しやすいこと」が上位に挙がった。リビングではのんびりと長居したり、家族と団らんできることなどが重要な条件となっていることが分かる。

リビングに求める暮らし方・過ごし方(複数回答)(出典:中央住宅「SUUMOの戸建住宅検討者と購入者1030人アンケート」より転載)

リビングに求める暮らし方・過ごし方(複数回答)(出典:中央住宅「SUUMOの戸建住宅検討者と購入者1030人アンケート」より転載)

住む人の暮らし方が変わると、住宅の間取りも変わっていく

家族の人数が減少傾向にあることも一端だが、広い空間を上手にゾーニングして、機能分けをして暮らす人が増加していることも背景にあるだろう。

特に、リビング・ダイニングは、団らんや食事の場としてだけでなく、子どもの遊び場になったり、家事コーナーや書斎コーナーを設けることで、アイロンがけをしたりパソコンを使ったりといった場にもなる。

使用頻度が高くなることを受けて、戸建住宅ではリビング・ダイニングを日当たりのよい2階に設ける間取りも多くなっている。

また、居室の広さだけでなく、開放感が得られるように吹抜けやロフトを設けるなどで居室を高くする工夫も見られる。リビング・ダイニングに隣接するキッチンは、作業をしながら会話ができる「対面式キッチン」が圧倒的に多い。

収納についても、玄関横の収納や食料品をストックできるパントリーなど、私用する場所に付けるケースや、あえて家族ごとに分けずに大型のファミリークロゼットなどを設ける間取りも増えてきている。

このように、住む人の暮らし方が変われば、戸建住宅の間取りも変わってくる。マイホームの間取りを選ぶ際には、それぞれがどのように暮らすのかをイメージして、優先順位をつけて選ぶとよいだろう。

【フラット35】を使う人は必見!4月からと10月からの変更点とは?

住宅ローンの商品内容は、その時々のニーズに応じて見直される。全期間固定金利型ローンの代表格【フラット35】も同様だ。2019年度は4月と10月の2回にわたって、制度変更が行われる。どういった点が変わるのか、【フラット35】の利用を考えている人は要チェックだ。【今週の住活トピック】
【フラット35】2019年4月と10月の主な制度変更事項について/住宅金融支援機構
・4月の制度変更事項
・10月の制度変更事項【フラット35】のラインナップ、意外に充実?

まず、【フラット35】についておさらいしておこう。

住宅金融支援機構と民間金融機関が提携して、ユーザーに提供している住宅ローンで、35年などの長期間にわたって金利が変わらないのが特徴だ。提携先の民間金融機関や取り扱う商品タイプによって、実際に借りるときに適用される金利や融資手数料が異なる点が注意点だ。

また【フラット35】は、性能が低い住宅やワンルームのような狭い住宅には利用できない点にも注意したい。一方で、性能の高い住宅などには、金利の引き下げなどの商品タイプも用意されている。

具体的に、商品ラインナップを見ていこう。

〇返済期間の異なるもの
・【フラット20】:借入期間が15年以上20年以下の場合に利用できる。【フラット35】(借入期間21年以上35年以下)よりも金利が低くなる。
・【フラット50】:「長期優良住宅」であれば、35年を超えた返済期間(最長50年)を設定できる。【フラット35】(借入期間21年以上35年以下)よりも金利は高くなる。
〇当初一定期間金利を引き下げるもの
・【フラット35】S:省エネ性や耐震性などを備えた質の高い新築住宅や中古住宅を取得する場合に、当初一定期間【フラット35】の金利が引き下げられる。
・【フラット35】リノベ:中古住宅を購入して一定の性能向上リフォームを行う場合(住宅事業者が性能向上リフォームを行った中古住宅を購入する場合も対象)に、当初一定期間【フラット35】の金利が引き下げられる。
〇地方公共団体と連携して金利を引き下げるもの
・【フラット35】子育て支援型・地域活性化型:地方公共団体による補助金交付などの財政的支援とセットで、当初一定期間【フラット35】の金利も引き下げられる。
〇住宅取得費以外も対象になるもの
・【フラット35(リフォーム一体型)】:中古住宅を購入してリフォームする場合、リフォーム費用も借りられる。住宅の品質が住宅金融支援機能の技術基準を満たさない場合でも、リフォームすることで基準を確保できれば利用可能になる。

以上が【フラット35】のラインナップだ。ただし、金融機関がすべての商品を取り扱っているとは限らない。また、【フラット35】子育て支援型・地域活性化型は、地方公共団体によって制度の有無や利用条件が異なる。利用できるかどうかは、事前に確認する必要がある。

【フラット35】の2019年4月・10月からの変更点は?

ではまず、基本となる【フラット35】の4月・10月からの変更点について見ていこう。

【フラット35】の融資対象の融資対象となる費用は、2018年4月に拡充されたが、2019年4月からはさらに、建築確認費用や新築マンションを購入する場合に引き渡し時にまとめて払う「マンション修繕積立基金」「マンション管理準備金」などが加わる。

2019年10月1日以降に融資が実行される分からは、融資率が9割を超える場合、融資率が9割以下の金利に上乗せしていた金利が引き下げされるようになる。【フラット35】は、融資率が9割以下と9割超では金利が異なり、今は9割超の場合に年0.44%の金利を上乗せしている。この上乗せ分が、10月以降の融資実行分から年0.26%に引き下げられる。

【フラット35】(買取型)の融資率9割超の金利引き下げ(出典/住宅金融支援機構「2019年10月【フラット35】制度変更のお知らせ」資料より転載)

【フラット35】(買取型)の融資率9割超の金利引き下げ(出典/住宅金融支援機構「2019年10月【フラット35】制度変更のお知らせ」資料より転載)

また、融資対象となる住宅として、「住宅の建設費(土地取得費の借り入れを合わせて希望する場合はそれを含む)または購入価額が1億円以下(消費税含む)の住宅」という条件があるが、2019年10月1日以降にローンの申し込みをする分からこの制限がが撤廃される。

ただし、融資限度額の「8000万円以下」の条件は変わらないので、融資対象は広がったが、融資限度額が引き上げられたわけではない。

さてこうして見ていくと、融資率9割超の場合の金利がこれまでより引き下げられること、諸費用の範囲が拡大したことから、諸費用まで含めた額が借りやすくなるわけだ。しかし、今の年収から見て借りられるからと安易に借りてしまい、長期間返済するうちにローンに回せる額が不足するといったことのないよう、借り過ぎには注意したい。

【フラット35】のほかのラインナップの変更点は?

次に、【フラット35】のほかのラインナップ商品の変更点を見ていこう。

【フラット35(リフォーム一体型)】では、リフォーム工事前の住宅の状態が【フラット35】の技術基準に適合するかの事前確認が必要となるが、一定の条件を満たす場合に省略することができ、2019年4月からはその対象が広がった。

地方公共団体と連携する【フラット35】地域活性化型では、2019年10月1日以降にローンの申し込みをする分から、従来のUIJターンやコンパクトシティ形成、空き家バンクなどの補助金交付事業に加え、新たに「防災対策」と「地方移住支援」が加わる。

【フラット35】地域活性型の事業拡充(出典/住宅金融支援機構「2019年10月【フラット35】制度変更のお知らせ」資料より転載)

【フラット35】地域活性型の事業拡充(出典/住宅金融支援機構「2019年10月【フラット35】制度変更のお知らせ」資料より転載)

ほかにも、【フラット50】の融資率上限や融資限度額が、2019年10月1日以降の融資実行分から引き上げられる変更も行われる。

マイホームを取得する場合、住宅ローンの果たす影響は大きい。長期間にわたって返済していくことになるので、融資額や金利の違いは確実にチェックしておきたいポイントだ。事前に多くの情報を集めて、自分に適したローンをしっかり選んでほしい。

切り絵作家YUYAさんとパン・お菓子研究家スパロウ圭子さんの狭さを活かした一軒家 その道のプロ、こだわりの住まい[6]

東京、中野にある三角屋根の一軒家。切り絵作家でありイラストレーターのYUYAさんと、パン・お菓子研究家のスパロウ圭子さん夫婦の自宅兼アトリエだ。生活する場であるのはもちろん、教室を開いたり、月に一度はオープンアトリエとして開放して作品を販売したり。棚には二人が好きだという民芸の器や郷土玩具が並び、夫婦で楽しみながら暮らしていることが伝わってくる。決して広いとは言えないが、自分たちの好きなものを詰め込み、やりたいことを実現し続けている空間なのだ。コンパクトなスペースをどう使いこなしているのか、コツを教えてもらった。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。コンパクトな空間を、多機能に使う1階はダイニングキッチンであり、教室や作品展示スペースとしても利用する「店舗」でもある。棚はオープンにして出し入れしやすくしている。「使ったらすぐにしまえるし、気が付いたときにパッと掃除もできます」と圭子さん(写真撮影/嶋崎征弘)

1階はダイニングキッチンであり、教室や作品展示スペースとしても利用する「店舗」でもある。棚はオープンにして出し入れしやすくしている。「使ったらすぐにしまえるし、気が付いたときにパッと掃除もできます」と圭子さん(写真撮影/嶋崎征弘)

玄関の扉を開けると、すぐ目の前にダイニングがあり、両脇の棚には切り絵や郷土玩具が飾られている。切り絵は、この家の住人である切り絵作家でありイラストレーターのYUYAさんの作品。そして、奥に見えるキッチンは、妻でパン・お菓子研究家のスパロウ圭子さんの仕事場でもある。
二人がこの一軒家を手に入れたのは2015年。リフォームをしてから翌年に引越してきた。それまで住んでいたのはマンションで、この家よりも広い空間だったという。なぜ、あえて狭い一軒家に住むことにしたのだろうか。

一軒家のリフォーム前と後の間取り

一軒家のリフォーム前と後の間取り

YUYAさんの切り絵作品やイラスト、さらにそれらをプリントしたポストカードや手ぬぐいなどが並ぶ。作品の色が映えるよう、壁は白くしている(写真撮影/嶋崎征弘)

YUYAさんの切り絵作品やイラスト、さらにそれらをプリントしたポストカードや手ぬぐいなどが並ぶ。作品の色が映えるよう、壁は白くしている(写真撮影/嶋崎征弘)

「自宅でパンやお菓子の教室をやりたかったのと、夫の作品を販売するスペースがほしいという気持ちがあったからです。それを可能にする家を探し回りました」と話す圭子さんに、YUYAさんが続ける。「以前、建築の仕事をしていたので、内見したときに『この家ならなんとかなる』と判断できました。リフォームすれば生活の場としても、仕事場としてもうまく使えるだろう、と想像できたんです」

取材時に圭子さんがつくってくださったパンとお菓子。粉やフルーツなど素材の味を大切にしていて、素朴な手仕事の器との相性の良さは抜群だ(写真撮影/嶋崎征弘)

取材時に圭子さんがつくってくださったパンとお菓子。粉やフルーツなど素材の味を大切にしていて、素朴な手仕事の器との相性の良さは抜群だ(写真撮影/嶋崎征弘)

リフォームが完了してから、それぞれ勤めていた会社を辞めて独立をし、念願の仕事に専念するようになった。
圭子さんは1階のダイニングキッチンでパンとお菓子を教えている。YUYAさんは2階の仕事場で作品をつくっている。
「月に一度オープンアトリエとして、1階を開放しているんです。そこでパンやお菓子、作品を販売していて。その日はみなさんが靴を脱ぐのが面倒かもしれないと思って、土足でOKにしているんですよ」とYUYAさんが教えてくれた。だから、この家には、いわゆる玄関のたたきスペースがない。扉を開ければすぐにダイニングというつくりになっているのだ。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

使いたいものにすぐ手が届くキッチン

奥のキッチンはコンパクトなスペースながらも、大きなオーブンが組み込まれ、必要なものに手が届くような配置になっている。
「道具も器もたくさんあるので、『隙あらば棚』みたいになっています」と圭子さんは笑う。器は二人で民芸店や地方で活動する作家に会いに行って手に入れたものがずらりと並んでいる。

キッチンの棚には民芸の器がぎっしり詰まっている。「好きなものこそ、毎日大切に使いたいし、愛でるようにしたい」(圭子さん)(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチンの棚には民芸の器がぎっしり詰まっている。「好きなものこそ、毎日大切に使いたいし、愛でるようにしたい」(圭子さん)(写真撮影/嶋崎征弘)

大きな器はダイニング側の棚に収納。民芸の器とYUYAさんの切り絵は手仕事ならではの素朴な良さがあり、並んでいる姿にホッとさせられる(写真撮影/嶋崎征弘)

大きな器はダイニング側の棚に収納。民芸の器とYUYAさんの切り絵は手仕事ならではの素朴な良さがあり、並んでいる姿にホッとさせられる(写真撮影/嶋崎征弘)

「民芸品にこだわっているわけではないのですが、二人とも好きなのが民芸の器が多くて。作り手さんの気持ちが伝わってくるものに出合うと、使いたくなるんです」と圭子さん。器は普段の食事でも教室でも分け隔てなく使っているので、生活の楽しみとして大切な存在でもあるのだろう。
狭い空間で開け閉めするのは不便だからと、食器棚には扉がついていない。教室に限らず、オープンアトリエの際にも、訪れた人の目に入り、楽しませてくれている。

上部に収納を固めて、狭さを感じさせない空間に2階の仕事スペース。左がYUYAさん、右が圭子さんの机。右奥の扉付き収納に布団をしまっている。「慣れてしまえば毎日の上げ下ろしも苦になりません」と二人(写真撮影/嶋崎征弘)

2階の仕事スペース。左がYUYAさん、右が圭子さんの机。右奥の扉付き収納に布団をしまっている。「慣れてしまえば毎日の上げ下ろしも苦になりません」と二人(写真撮影/嶋崎征弘)

2階はプライベートな空間として使っている。リビング兼寝室と、それぞれの机が置かれた仕事部屋がひと続きになっていて、それほど狭さを感じさせない。その理由の一つは、本棚などの収納スペースを上部に設置したことにある。

YUYAさんの仕事机。正面の壁には制作途中の切り絵の下書きなどが貼ってあり、それすらもアートの一部のように感じられる(写真撮影/嶋崎征弘)

YUYAさんの仕事机。正面の壁には制作途中の切り絵の下書きなどが貼ってあり、それすらもアートの一部のように感じられる(写真撮影/嶋崎征弘)

整理整頓が得意というだけあり、YUYAさんは机の上はすっきりしている。制作途中に出た小さな紙片も大切に収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

整理整頓が得意というだけあり、YUYAさんは机の上はすっきりしている。制作途中に出た小さな紙片も大切に収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事スペースの対面にあるリビング。上部に棚を配したおかげでソファを置くことができた。棚や壁には民芸品が飾られていて、二人が日常的に楽しんでいることが分かる(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事スペースの対面にあるリビング。上部に棚を配したおかげでソファを置くことができた。棚や壁には民芸品が飾られていて、二人が日常的に楽しんでいることが分かる(写真撮影/嶋崎征弘)

「できるだけ床の面を広くして有効に活用しようと考えました。天井を抜いたことも効果があったと思います」とYUYAさん。収納の機能を目線より上の位置に集約したことで、圧迫感を減らしながら、机やソファを置くスペースも確保できた。

並べ方に規則はなく、好きなものを好きなように置いているコーナー。YUYAさん曰く「買った時の店主さんとのやりとりや、旅した時の風景を思い出したりします」(写真撮影/嶋崎征弘)

並べ方に規則はなく、好きなものを好きなように置いているコーナー。YUYAさん曰く「買った時の店主さんとのやりとりや、旅した時の風景を思い出したりします」(写真撮影/嶋崎征弘)

そして、壁面には1階と同じく郷土玩具が飾られている。これらも、器と同じく二人で買い集めてきたもの。日本に限らず、世界各国の民芸品と呼べるものだ。
「国ごとに分けて飾ることもないし、買うときにもどこのものかを特別に意識はしていません。どれも愛嬌のある感じが好きで、見ていると楽しくなってくるんです」と二人は言う。なんとも言えないとぼけた表情や、素朴な色使いと質感は、夫婦にとって何ものにも代えがたい魅力だ。

壁だけでなく、棚の上にもディスプレイ。違う国のものでも不思議となじんでまとまりが出るのが民芸品の良さなのだろう(写真撮影/嶋崎征弘)

壁だけでなく、棚の上にもディスプレイ。違う国のものでも不思議となじんでまとまりが出るのが民芸品の良さなのだろう(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

屋根裏は、好きなものを集めて気分転換できる部屋に

じつは、郷土玩具は1階と2階だけにとどまらない。上階にある屋根裏部屋には、さらにたくさんのものが並んで愛嬌を振りまいている。
「郷土玩具のほかに二人の本もたくさん収納していて、ここは完全に趣味の部屋です」とYUYAさん。右の壁面には郷土玩具がずらりと並び、左には民芸やアート、お菓子に関する本がぎっしり詰め込まれた棚がある。

三角屋根の一軒家ということが分かる屋根裏部屋。左の本棚はYUYAさんがサイズに合わせて自作したもの。キャスター付きなので奥のものも取り出しやすい(写真撮影/嶋崎征弘)

三角屋根の一軒家ということが分かる屋根裏部屋。左の本棚はYUYAさんがサイズに合わせて自作したもの。キャスター付きなので奥のものも取り出しやすい(写真撮影/嶋崎征弘)

「仕事に煮詰まったり、気分転換したいときはここで過ごすんです。生活と仕事が同じ空間だからこそ必要なスペースかもしれません」と圭子さん。ランチを食べたり、お茶を飲んだり、ちょっと贅沢な空間にうらやましくなってくる。

民芸館のような棚。「郷土玩具も民芸品も器も、好きだからどんどん増えてしまう。どこにどう飾ろうか、どう使おうか、考えてから選ぶようにしています」と圭子さん(写真撮影/嶋崎征弘)

民芸館のような棚。「郷土玩具も民芸品も器も、好きだからどんどん増えてしまう。どこにどう飾ろうか、どう使おうか、考えてから選ぶようにしています」と圭子さん(写真撮影/嶋崎征弘)

好きなもの、やりたいことを詰め込んだ暮らし

二人は好きなものや嫌だなと感じることが同じだと言う。だからこそ、飾っているものも使っている器も、それを収納する家の内装にもブレがなく、統一感がある。やみくもに好きなものを集めているのではなく、狭いからこそ選び抜いているということもあるだろう。
そして何よりも、二人は生活と仕事において、何をしたいかがはっきりしている。好きな民芸品を使いたい。パンとお菓子の教室をしたい。作品をつくりたい。そして、それを喜んでもらえる人に届けたい、と。この一軒家は、その想いを叶える場所なのだ。

2階の本棚にも郷土玩具が並び、なんとも愛らしいスペースになっている。「どんな場所でどんな人がつくっているのか、知りたくなっちゃうんです」と二人はうれしそうに話してくれた(写真撮影/嶋崎征弘)

2階の本棚にも郷土玩具が並び、なんとも愛らしいスペースになっている。「どんな場所でどんな人がつくっているのか、知りたくなっちゃうんです」と二人はうれしそうに話してくれた(写真撮影/嶋崎征弘)

●取材協力
YUYA / スパロウ圭子
YUYAさんは、切り絵作家、イラストレーターとして、広告・カタログ・ロゴデザイン等で活躍中。個展も開催している。スパロウ圭子さんは、パン・お菓子研究家として「食のアトリエ・スパロウ」を主宰。二人で「アトリエ・フォーク」として活動し、月に一度オープンアトリエで切り絵作品や天然酵母パン、ジャムなどを販売している。
>HP

マイホームの取得、財布と住まいで近づく親子の距離感

インタースペースが同社のママ向け情報サイト『ママスタジアム』で、「マイホームに対する意識」調査を実施したところ、マイホームに際して、親世帯と子世帯の距離の縮まりを感じさせる結果が多いことが分かった。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「マイホームに対する意識」調査を実施/インタースペース ママスタジアムいずれかの親との同居や近居、イマドキのママは意外に多い

親世帯と子世帯の距離の縮まりという点で、まずは、「同居」「二世帯」」「近居」についての状況を見ていこう。

なお、この調査では、両親や兄弟と同じ家に住むことを「同居」、両親と住む家に別玄関があるなどで生活圏が区切られていることを「二世帯」、として区別しており、約30分以内で行き来できる距離に両親が住んでいることを「近居」、と定義している。

さて、調査時点で、同居・二世帯・近居をすでに実施しているママは21.3%(同居7.4%・二世帯2.6%・近居11.3%)。意外に多いという印象だ。さらに、同居や近居をしていないママに「将来的に、両親との同居や二世帯・近居について考えているか」を聞いたところ、24.5%がいずれかを「考えている」と回答した。

「将来的に、両親との同居や二世帯・近居について考えていますか(単一回答)(出典:インタースペース「マイホームに対する意識」調査より転載)

「将来的に、両親との同居や二世帯・近居について考えていますか(単一回答)(出典:インタースペース「マイホームに対する意識」調査より転載)

若いママほど、同居や二世帯、近居を考える意向が強く、親世帯との同居や近居にメリットを感じていることがうかがえる結果だ。

この傾向は、リクルート住まいカンパニーの「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」にも表れている。いずれかの親がいるマイホーム検討者の21.9%に同居意向があり、38.3%に近居意向があった。特に20代では「近居」意向が45.1%と高い傾向がみられた。

4割超のママがいずれかの親の援助を受けたと回答

親世帯との距離の近さは、住まいの距離だけではない。

「住宅購入にあたり、両親からの援助の有無」を聞いたところ、「援助は受けていない」が57.8%と過半数を占めたが、「パパの両親から援助を受けた」17.9%、「ママの両親から援助を受けた」13.9%、「どちらの両親からも援助を受けた」10.4%と、親からの援助があった世帯は42.2%にも達したことが分かった。

親世帯のお財布の距離も、近いというわけだ。

「住宅購入にあたり、両親からの援助がありましたか」(単一回答)(出典:インタースペース「マイホームに対する意識」調査より転載)

「住宅購入にあたり、両親からの援助がありましたか」(単一回答)(出典:インタースペース「マイホームに対する意識」調査より転載)

マイホーム取得に関する調査結果などを多く見ている筆者からすると、4割を超える世帯で親から援助を受けているというのは、かなり多い結果だ。どちらの親からも援助を受けている世帯も1割いるので、マイホームの頭金や中古住宅購入時のリフォーム費用など、さまざまに活用されたことだろう。

この背景には、「住宅取得等資金の特例」という税制優遇措置がある。
親や祖父母などの直系尊属から住宅取得の資金の贈与を受けた場合に、一定額が非課税になる制度で、2019年4月時点では、省エネ等の性能を満たす住宅の場合は1200万円、それ以外の住宅の場合は700万円までが非課税になる。

仮に、1200万円を非課税制度のない用途で子どもに生前贈与した場合、子どもに246万円もの贈与税がかかってしまう。贈与税の税率は、親子間といえども極めて高いので、住宅取得資金であれば非課税になるこの制度のメリットは大きい。

この非課税制度は、消費税率が10%になると、景気浮揚策として非課税枠がさらに上乗せされる。省エネ等の性能を満たす住宅の場合なら最大で3000万円まで非課税になるので、親からの贈与が今後はさらに増えるかもしれない。

近年は「仲良し親子」が増えるなど、親子間の心理的な距離が近づいている。マイホームについては、たとえ配偶者の方の親であっても、一緒あるいは近くに住めば、いざという時のサポートを依頼できるなどのメリットを感じている。加えて、マイホームにあたって資金援助も期待できる。

心理的にも、資金的にも、生活の上でも、親と子の世帯間の距離は、どんどん近づいていくようだ。

【ファミリー編】横浜駅まで30分以内、中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2019年版

リクルート住まいカンパニーによる「住みたい街ランキング2019 関東版」の調査で、住みたい街の1位に輝いた横浜駅。そんな横浜駅に電車で30分以内にアクセスできる、カップル向け中古マンションの価格相場が安い駅を前回は紹介した。今回は専有面積70平米以上~100平米未満のファミリー向けタイプに条件を絞って、価格相場が安い駅TOP10をランキング。さっそく結果を見ていこう。●【ファミリー編】横浜駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/横浜駅までの所要時間)
1位 かしわ台 1780万円(相鉄本線/神奈川県海老名市/27分)
2位 六浦 1990万円(京急逗子線/神奈川県横浜市/25分)
3位 京急田浦 2140万円(京急本線/神奈川県横須賀市/27分)
4位 さがみ野 2150万円(相鉄本線/神奈川県海老名市/25分)
5位 踊場 2280万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/神奈川県横浜市/21分)
6位 京急富岡 2535万円(京急本線/神奈川県横浜市/16分)
7位 相模大塚 2580万円(相鉄本線/神奈川県大和市/23分)
8位 追浜 2590万円(京急本線/神奈川県横須賀市/25分)
9位 小机 2650万円(JR横浜線/神奈川県横浜市/16分)
10位 鶴ヶ峰 2739.5万円(相鉄本線/神奈川県横浜市/9分)

カップル編でも1位になった、かしわ台駅がファミリー編でも1位に

1位は相鉄本線・かしわ台駅。見出しでも触れたが、前回紹介したカップル編ランキングでも1位となっており、横浜駅周辺の住まい探しでは要チェックのエリアと言えそうだ。今回調査の基点にした横浜駅の価格相場は5580万円だったが、かしわ台駅は1780万円で、なんと横浜駅の3分の1以下!駅周辺には住宅地が広がり、保育園や小中学校もあるファミリー向きの街並みだ。
また、駅が位置する海老名市は、中学生以下の子どもの通院・入院医療費を市が負担してくれる点も、子育て世代には魅力だろう。駅から徒歩約15分圏内である他地域の制度を見てみると、綾瀬市は海老名市同様の医療費助成があり、座間市では1歳以上の場合は保護者の所得制限付きではあるものの0歳~中学生の医療費助成を行っている。

2位は京急逗子線・六浦(むつうら)駅で価格相場は1990万円。横浜市で最も南に位置するのがこの駅で、駅から南西に進むと逗子市、南東に進むと横須賀市に入る。駅周辺には住宅が立ち並んでいるが、車で15分ほど東へ向かうと海に面した野島公園に到着。バーベキュー場やキャンプ場、房総半島を望む展望台があり、休日に家族で遊びにでかけてもよさそうだ。

野島公園内の小道(写真提供/PIXTA)

野島公園内の小道(写真提供/PIXTA)

六浦駅から1駅北上し、京急本線に乗り換えてから2駅南下すると3位の京急田浦駅へ。駅の西側には自然豊かな南郷公園が広がり、国道16号が通る駅東側には商店が立ち並んでいる。駅前には警察署があり、市民の安全を守っている点が心強い。京急本線に乗ると横浜駅のほか、品川駅までも1本で行ける点も魅力だろう。

ちなみに3位・京急田浦駅が位置する横須賀市は、前出の海老名市同様に中学生以下の通院・入院医療費を市が負担してくれる。

横浜駅から約10分で価格相場が約2840万円ダウンする駅も!

今回のTOP10には横浜市、海老名市、横須賀市、とさまざまなエリアの駅が並んだ。大和市から唯一ランクインしたのが、7位の相鉄本線・相模大塚駅。急行に乗ると最短約23分で横浜駅に到着する。駅の北側、徒歩約5分圏内にスーパーやホームセンター、ドラッグストアが集まっており、日常生活の買物に便利。周辺は公園も多く、約600種の植物と約50種の野鳥が生息する「泉の森」も駅から徒歩15分ほどで行ける。自然豊かな地で子育てしたいファミリーにはうってつけだ。

TOP10のうち、横浜駅までの所要時間が最短だったのは10位の相鉄本線・鶴ヶ峰駅。快速に乗ると横浜駅までは2駅・約9分だ。駅南口直結の「ココロット鶴ヶ峰」には、スーパーやドラッグストア、クリーニング店、飲食店に保育園までそろっている。駅北側にもスーパーや100円ショップ、飲食店など店舗が多く、生活しやすい環境と言える。また、駅からバスに乗って約15分で「よこはま動物園ズーラシア」に行くことができるので、休日に家族で訪れるのも楽しそう。

よこはま動物園ズーラシアのサル(写真提供/PIXTA)

よこはま動物園ズーラシアのサル(写真提供/PIXTA)

今回ランクインした駅は、いずれも価格相場が横浜駅の2分の1以下だった。10位の鶴ヶ峰駅は、約9分離れるだけで横浜駅より価格相場が2840万円も下がるという驚きの結果である。横浜駅の価格相場の高さは街の魅力や需要の高さの証拠でもあるが、横浜から30分離れるが、物件の購入金額を半額に抑えられるのならば、横浜駅だけに限定せず物件探しの範囲を広げる価値はあるのではないだろうか。

住まいがある街の魅力や便利さ、知名度を重視するか、多少は職場から離れても物件価格を抑えたぶんのお金を生活に回してゆとりをもつか……。それぞれのライフスタイルや価値観に照らし合わせて検討するのがいいだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている横浜駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積70平米以上100平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018/10/1~2018/12/31
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

新築マンションの購入者は「既婚世帯の共働きが6割超」! その実態は ?

リクルート住まいカンパニーは、「2018年首都圏新築マンション契約者動向調査」及び「2018年関西圏新築マンション契約者動向調査」の結果を発表した。いずれの調査結果でも、新築マンション契約者の6割超が、既婚世帯の共働きという結果となった。実態について詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「2018年新築マンション契約者動向調査」を発表/リクルート住まいカンパニー
●首都圏
●関西圏平均購入価格は首都圏が5402万円で低下した一方、関西圏が4338万円で最高額に

調査は、2018年1月から12月の新築マンションの購入契約をした人についてアンケートを行い、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県:3760件)と関西圏(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県・和歌山県・滋賀県:1125件)の結果をまとめたもの。

新築マンションの平均購入価格は、首都圏が5402万円で、2017年より50万円低下した。これに対して、関西圏は4338万円で、2001年以来最高額となった。首都圏と関西圏で逆の結果となったのは、各圏域でシェアの高い東京23区が前年より84万円低下する一方、大阪市内が2001年以来の最高額にまで上昇した影響が大きい。これまで上昇を続けてきた東京23区に歯止めがかかる一方、首都圏の神奈川県や東京都下、関西圏では上昇が続くという構図になった。

既婚世帯の共働き比率がこれまでで最高。世帯年収やローンの借入額にも影響!?

購入者(世帯主)の平均年齢は、首都圏では38.3歳、関西圏では38.9歳。既婚世帯の共働き比率は、首都圏で66%、関西圏で62%に達し、おおむね既婚の3世帯に2世帯が共働きという状況だった。

その影響を受けたと思われるが、購入者の平均世帯年収は増加している。首都圏では960万円、関西圏では821万円で、それぞれこれまでで最も高くなった。ボリュームゾーンはどちらも「600~800万円未満」であるが、「1000~1200万円未満」が増加するなど、1000万円以上の世帯が増える傾向にある。

世帯年収の増加に伴い、住宅ローンの平均借入総額も増加した。首都圏では4693万円、関西圏では3760万円と、いずれも2005年以降で最も高くなった。

共働き世帯の増加で、暮らしに求めるものも変わる!?

さて、新築マンション購入者において共働き比率が上昇したことで、暮らしに対するニーズも変わってくると考えられる。

「住まい探しにあたって求めた暮らし方のイメージ」を聞いたところ、その順位は首都圏と関西圏でやや違いが見られた。首都圏では、上位3つが「仕事や通勤に便利(37%)、「子育て・教育がしやすい」「日々の生活がしやすい」(ともに35%)となったが、関西圏では「日々の生活がしやすい」(35%)、「仕事や通勤に便利」(33%)、「子育て・教育がしやすい」(32%)となった。

上位3つの項目は同じものだが、首都圏では特に通勤時間の長さが課題となることから、夫も妻もともに通勤をする共働き世帯の意向が反映されたという見方もできるだろう。10年前の2008年の調査結果と比べてニーズが強くなっているのは、いずれも交通利便性や生活利便性、子育て・教育のしやすさなど、共働き世帯が住宅を購入する際に重視するものへのニーズが強まっているようだ。

暮らし方のイメージ(全体/5つまでの限定回答)※50項目中上位15項目を表示(出典:リクルート住まいカンパニー「2018年首都圏新築マンション契約者動向調査」「2018年関西圏新築マンション契約者動向調査」)

暮らし方のイメージ(全体/5つまでの限定回答)※50項目中上位15項目を表示(出典:リクルート住まいカンパニー「2018年首都圏新築マンション契約者動向調査」「2018年関西圏新築マンション契約者動向調査」)

既婚世帯でみると、シニアカップルを除く夫婦二人のみ世帯では、共働き比率はさらに高い(首都圏83.8%、関西圏83.1%)。労働環境や若年世帯の所得の変化などの背景はいろいろあるが、仕事を持つ女性はさらに増加していくだろう。共に働き共に子育てをする世代のニーズで、これからの住まい選びの視点は、どのように変わっていくのだろう?

2019 「SUUMO住みたい街ランキング」関西版発表! 総合1位は引き続き「西宮北口」

株式会社リクルート住まいカンパニー(本社:東京都港区 代表取締役社長:淺野 健)は、関西圏(大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の男女4600 人を対象にインターネットによるアンケート調査を実施。「SUUMOみんなが選んだ住みたい街ランキング2019 関西版」を発表した。果たして、気になる順位は?
圧倒的な強さを見せる「西宮北口」。「夙川」「岡本」「京都」のランクアップにも注目住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街ランキング2019関西版のTOP3は「西宮北口」「梅田」「神戸三宮」

SUUMO「住みたい街(駅)」関西版ランキング2019のTOP3に輝いたのは、前年と変わらず第1位が「西宮北口」、続いて第2位「梅田」、第3位「神戸三宮」。順位は前年と同じであっても、注目すべきはその得点にある。上位3位の街はすべて前年より点数を伸ばし、人気がさらに高まっていることが分かる。年代別ランキングでも、どの世代でも同じ順位で、この3エリアが幅広い世代に支持されていることがうかがい知れる。

住みたい街(駅)年代別ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)年代別ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

「阪急西宮ガーデンズ」のリニューアルでさらに好感度があがる「西宮北口」

兵庫県「西宮北口」には、昨年11月に開業10周年を迎えたショッピングモール「阪急西宮ガーデンズ」がある。現在、開業以来2度目となる大きな改装工事の計画が進み、特に駅と直結する新館は、関西学院大による小学生向けの放課後学習支援施設が開かれるなど、ファミリー世代を意識したテナントが目立つ。

また駅の高架下には新たに認可保育所が開所する予定だ。西宮市は関西「住みたい自治体ランキング」(SUUMO調べ)でも例年1位を獲得しており、人気の高さがうかがい知れる。

住みたい自治体ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい自治体ランキングトップ10(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

北ヤードの開発、相次ぐ周辺の新築マンション供給で拡大する「梅田」エリア

第2位「梅田」は現在、繁華街である曽根崎の小学校跡地にタワーマンションの建設が進んでいる。完成すれば56階建て、総戸数836というスケールとなる。分譲ではなく関西最大級の大型賃貸マンションで、「梅田駅まで徒歩5分圏内に住む」という生活が夢ではなくなる。他にも、中津、中崎町、福島など梅田駅周辺でも新築マンション供給が続いており、商業地域としてだけでなく、居住エリアとしての梅田圏も拡大してきている。

「梅田」のほか、地下鉄御堂筋線は「なんば」「天王寺」「江坂」と、直通する北大阪急行線「千里中央」も合わせるとTOP10に5駅がランクインした。地下鉄御堂筋線が大阪の、ひいては関西の背骨の役目を果たしている現況が見て取れる。

再整備計画の全容が見えはじめ、注目を集める「神戸三宮」

第3位は「神戸三宮」だ。この駅に降り立つたびに、街の様相が大きく変化していることに驚かされる。JR、阪急、阪神、地下鉄西神・山手線、地下鉄海岸線、ポートライナーと6つもの駅からなる三宮エリア。この6つの駅をひとつの街としてイメージづくりをするべく2015年に策定された「三宮・再整備基本構想」がいよいよ可視化できる状態となった。

また、「夙川」「岡本」のランクアップにも注目。「夙川」は昨年の6位から5位へ、「岡本」は昨年の8位から6位へ順位が上昇した。ともに阪急神戸線の駅であり、阪神間を代表する人気の閑静な住宅街だ。

第5位の阪急「夙川駅」の近くにはJR「さくら夙川」駅があり、また第6位の「岡本」には、阪急「岡本」駅からさほど離れていないJR「摂津本山」駅には駅ナカに多くのショップ群が開業。駅前広場も拡大し周辺整備された。岡本はもともと学生街ゆえに比較的家賃が安く、加えて南東約1キロ圏内に大手スーパーが軒を連ね、暮らしやすい。

インバウンド効果で再評価される「京都」

また、「嵐山」「烏丸」「京都」などが、観光ブームにより再認識された。一方、京都市内は地価が高騰し続けており、一般の人が住むには手が届きにくくなっている。その中で「桂」は市街地中心部からは離れるが、隣駅洛西口の京都府最大規模のイオンスタイル京都桂川ができ商業利便性が高い上に、大阪に約40分、京都には約10分と足回りが良く、住宅価格も手の届く範囲、ということが京都の地元民に支持されているようだ。

住みたい街(駅)総合ランキングトップ11~25(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

住みたい街(駅)総合ランキングトップ11~25(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

「明石」「尼崎」の躍進

11位以下で特筆すべきは、31位から21位と急上昇した「尼崎」と、同じく34位から25位の「明石」。このふたつの街に共通している点は、ファミリー層に対する行政サービスの充実。「尼崎」は保育所の増設や学力向上を図り、2016年からは3年連続で転入者が転出者をうわまわった。新築マンションの供給も多く、かつての工場地帯という印象は年々薄れていっている。

また、「明石」も近年「子どもを核にしたまちづくり」を掲げ、中学生までの医療費無料化や第二子以降の保育料無料化など子ども施策を次々と打ち出し、人口も出生率も上昇。このように行政サービスと「住みたい街」の順位は、やはり比例するようだ。

「穴場だと思う街」でも第1位の「尼崎」。「大国町」が24位から6位に大躍進[関西] 穴場だと思う街(駅)ランキング(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

[関西] 穴場だと思う街(駅)ランキング(関西全体/3つの限定回答)(出典:リクルート住まいカンパニー)

続いては「穴場だと思う街(駅)」ランキングを見てみよう。

穴場だと思う街の1位に輝いたのは「尼崎」。前述のとおり「住みたい街」でも順位を上げた尼崎市は、今年1月24日、人口が9年ぶりに増加に転じたと発表。近年JR尼崎駅周辺はマンションや住宅の供給が増え、それにともない地元の小学校が増棟されるなど、さらに活性化している。市が進める教育や子育てに重点を取り組みが評価され、住みやすい街というイメージが定着したようだ。

滋賀県「草津」はタワーマンション「アトラスタワー草津」などの分譲マンションの供給が注目されている。

もっとも刮目すべきは24位から6位にまで昇進した「大国町」。大阪メトロ御堂筋線と四ツ橋駅の両方を利用することができ、「なんば」まで徒歩圏内と利便性の高さには定評がある。今年大規模なリニューアルが計画されている「なんばCITY」など、周辺はトレンド情報に事欠かない。

それにしても「穴場」というカテゴリーでさえ「西宮北口」が32位から第5位に食い込んでいる事実に驚かされる。ニシキタはそれだけ街が多面的で多様な魅力に富んでいるのだろう。

このように「住みたい街(駅)ランキング関西版」を見返してみると、鉄道の利便性に重きを置く傾向がさらに強まっているのではないかと考えられる。今年全線が開業したJR「おおさか東線」や2020年度に延伸の工事を終える予定の「北大阪急行線」が、今後ランキングにどのような変化をもたらすのか、注目したい。

消費税の増税前に「駆け込み」購入、住宅はどうなる?

2019年10月から予定されている消費税の増税。消費税率が3%になったときも、5%、8%と上昇したときも、話題になったのが「駆け込み」購入だ。さて、10%に上昇する今回も、駆け込みは起こるのだろうか?そして、住宅はどうなるのか……?【今週の住活トピック】
10月の消費増税に向けて「全国1万人意識調査」を実施/電通全国1万人の7割は、増税時になんらかの駆け込み購入を検討

電通の消費増税対策ユニットが昨年の12月21日~25日に実施した、10月の消費増税に向けての「全国 1 万人意識調査」によると、10%への消費税増税を「はっきりと知っている」のは80.7%。時期が定かでないが知っている(「来年からだとは知らなかった」「何月からかは知らなかった」)15.7%と合わせると、96.4%が認識していることが分かる。

消費増税までの間に、「事前に購入する/買い置きする」などの対策を、何かしら検討している(=「ほとんどしない/全くしない」、「わからない」を除いたもの)人は67.1%で、これは8%に引き上げられた前回調査(2013 年 6 月調査)の60.2%より増加する結果となった。

今から来年(2019 年)10 月の消費税率引き上げまでの間に、「事前に購入する/買い置きする」などの対策を、あなたは検討していますか。(複数回答)(出典/株式会社電通 消費増税対策ユニット 「全国1万人意識調査」)

今から来年(2019 年)10 月の消費税率引き上げまでの間に、「事前に購入する/買い置きする」などの対策を、あなたは検討していますか。(複数回答)(出典/株式会社電通 消費増税対策ユニット 「全国1万人意識調査」)

「日用品」や「保存食品」などの買い置きの利くものは前回調査より比率が上がっているが、駆け込み購入予定者にさらに突っ込んで聞いてみたところ、「シャンプーや洗剤などの日用品」「ティッシュ、トイレットペーパー」「缶ビール」「缶チューハイ」「タバコ」といった軽減税率対象外品目で、数カ月分程度をまとめ買いをするという声が多かったという。

その一方で、「住宅や車などの高額商品」の駆け込み購入の検討は、前回調査よりも減少している。では高額な住宅についてはどうなのか、考えていこう。

住宅の駆け込み購入はむしろ前回より抑制される?

消費税率が引き上げられる前に住宅の駆け込み購入が生じると、引き上げ後に住宅が売れずに市場が冷え込むことになる。住宅市況が悪化すると、経済に与える影響が大きいので、政府は需要の平準化のために、増税後の優遇措置を用意する状態が続いている。

10%への引き上げについても、次の4つの優遇措置を設けている。
 ○住宅ローン減税の控除期間を3年延長
 ○すまい給付金の拡充
 ○次世代住宅ポイント制度
 ○贈与税の非課税枠の拡充

住宅の場合は、土地は消費税が非課税なので、建物部分の取得価格(購入費用の建物分、建築費用、リフォーム費用)に消費税が課税される。税率が8%→10%になると、2%分の負担増になる。

この建物の2%分の負担増は、住宅ローン減税の3年延長により、所得税と住民税の還付で取り戻せる仕組みになっている。

実は住宅ローン減税の3年延長では、単純に3年延長した額と建物の2%の増額分の低い方が適用されることになっている。筆者が年収に応じた住宅を、ローンを利用して取得するという前提で試算したところ、おおむね建物の2%の増額分のほうが単純延長より低い額になるケースが多い。加えて、所得税や住民税の納税額が少ない一定の年収以下の世帯には、「すまい給付金」がもらえる。すまい給付金についても拡充されたので、給付対象になればその分だけ負担が減ることになる。

このように、建物の消費増税分は基本的には取り戻せることになるが、消費税は事務手数料などの諸費用にもかかってくるので、その分の負担は多少増えることになる。

一方で、一定の住宅を取得する場合は「次世代住宅ポイント」(上限35万ポイント)がもらえる。以前の省エネ住宅ポイントとは違って、ビルトイン食器洗機やビルトイン自動調理対応コンロ、浴室乾燥機、掃除しやすいトイレなどの「家事負担軽減に資する設備を設置」する場合でも、設備の種類ごとに9000~1万8000ポイントがもらえる(ただし、最低2万ポイントから申請可能)。最近の住宅の多くで採用されている設備が対象になっているので、このポイントだけでも諸費用分の増税を取り戻せる可能性は高いだろう。

つまり「消費税率が10%になる前に何が何でも駆け込もう」とは、あまり考えなくてもよいということだ。

どんな住宅をどうやって購入/建築するかによって優遇措置は変わる

しかし、売主が個人の中古住宅を購入する場合は、もともと消費税の課税対象外なので、住宅ローン減税の延長やすまい給付金の対象にはならない。建物分の負担増がないからだが、それでも、仲介手数料などの諸費用で消費増税の影響を受ける。

この場合でも、中古住宅をリフォームして住もうと考えているなら、リフォームに対する次世代住宅ポイントがもらえる可能性がある。ポイント数はリフォームの内容によって変わるが、40歳未満の世帯や子育て中の世帯が中古住宅を購入して一定規模以上のリフォームする場合は、ポイントが加算になるので、どういったリフォームなら対象になるのか確認しておくとよいだろう。

また、住宅ローンを利用せずに住宅を取得する場合は、住宅ローン減税の効果が全くないわけだが、すまい給付金の対象(50歳以上で一定年収以下などの条件がある)になる場合がある。

親や祖父母から1200万円(質の高い住宅の場合)または700万円(それ以外の住宅)を超える額の贈与を受けて住宅を取得する場合であれば、非課税枠が拡充される消費税率10%になってからのほうがメリットは大きい。

このように、どんな住宅をどうやって取得するかによって、優遇措置の効果が変わってくるが、「増税前に買った方が得だ」といったセールストークにあわてることなく、冷静に検討してほしい。それよりも、同じ住宅は2つとないので、気に入った住宅に出会えるどうかのほうが重要だろう。一時的な損得で、住みたいと思える住宅を逃すことのないようにしてほしいものだ。

【カップル編】横浜駅まで30分以内、中古マンション価格相場が安い駅ランキング

リクルート住まいカンパニーによる「住みたい街ランキング2019 関東版」の調査で、2018年に続き、住みたい街の1位に輝いた横浜駅。交通アクセスのよさや買い物の便利さが多くの人に支持された結果だが、人気の街は物件の価格相場も高くなる。では人気の街・横浜まで電車で30分以内とアクセスがよく、しかも価格相場が安い駅はどこなのかを調査! 専有面積40平米以上~70平米未満の、カップル向け中古マンションの価格相場が安い駅トップ10をランキングしてみた。ちなみに同条件の横浜駅の中古マンション価格相場は3890万円。トップ10の価格はどんなものだろう……?●横浜駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/横浜駅までの所要時間)
1 かしわ台 1497.5万円(相鉄本線/神奈川県海老名市/27分)
2 追浜 1699万円(京急本線/神奈川県横須賀市/25分)
3 十日市場 1745万円(JR横浜線/神奈川県横浜市/26分)
4 鶴間 1930万円(小田急江ノ島線/神奈川県大和市/27分)
5 下永谷 1990万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/神奈川県横浜市/18分)
6 鶴見小野 2030万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市/15分)
7 洋光台 2035万円(JR京浜東北線/神奈川県横浜市/21分)
8 西谷 2040万円(相鉄本線/神奈川県横浜市/12分)
9 小机 2099.5万円(JR横浜線/神奈川県横浜市/16分)
10 長津田 2120万円(JR横浜線/神奈川県横浜市/29分)

TOP4の駅の中古マンション価格相場は横浜駅の半額以下!

1位は相鉄本線・かしわ台駅。急行に乗れば8駅で横浜駅に到着する。駅周辺は住宅が密集しており、小学校や中学校も駅近くにある。駅の南側、徒歩5分圏内にはドラッグストアやスーパーがあり、帰宅途中の買物に便利。スーパー銭湯「おふろの王様 海老名店」もあり、休日に気軽にリフレッシュできるのもうれしいところ。横浜駅まで出なくても1駅隣の海老名駅に行くと、映画館やショッピングモールなど商業施設が充実している点も魅力だろう。気になる中古マンションの価格相場は1497.5万円で、横浜駅の3890万円の半額以下だった。

以降、4位までは価格相場が横浜駅の半額以下という結果に。3位の十日市場(とおかいちば)駅を通るJR横浜線は、路線名とは裏腹に横浜駅は沿線に含まれない。しかし本数は少ないもののJR根岸線直通の列車に乗れば、十日市場駅から横浜駅まで乗り換えなしで行くことが可能だ。十日市場駅の駅前にはスーパーやドラッグストア、100円ショップや飲食店が並んでおり、日常生活を送る街として申し分ない環境だろう。

十日市場駅(画像提供/PIXTA)

十日市場駅(画像提供/PIXTA)

また、3位・十日市場駅や9位・小机駅、10位・長津田駅を走るJR横浜線は多くの路線と交わっており、多方面に出かけやすい点も注目だ。長津田駅で東急田園都市線、町田駅で小田急小田原線、新横浜駅で東海道新幹線や横浜市営地下鉄ブルーライン、菊名駅では東急東横線に乗り換えができる。

長津田駅(画像提供/PIXTA)

長津田駅(画像提供/PIXTA)

有名建築家により生まれ変わった駅や新路線建設中の駅もランクイン

7位のJR京浜東北線・洋光台駅は、駅周辺が2018年にリニューアルして話題に。駅前にそびえるURの洋光台団地や、団地に囲まれた広場は1970年代にできたもので、老朽化が目立っていた。そこで、建築家・隈研吾氏やクリエイティブディレクター・佐藤可士和氏をアドバイザーにした「団地の未来プロジェクト」が始動。団地1階部分を利用した商店街や、広場の階段やデッキ、団地の外壁などが明るく開放的な雰囲気に生まれ変わり、2018年8月には新生・洋光台中央広場のオープニングセレモニーが開かれた。今後も一帯のリニューアルは続くので、街の価値は高まりそうだ。

トップ10のうち横浜駅までの所要時間が最も短いのは、8位の相鉄本線・西谷駅。各駅停車に乗ると7駅で横浜駅に到着する。駅北側を東西に走る国道16号沿いには飲食店が点在するほか、駅南側には商店街やスーパーがある。

この西谷駅とJRの貨物線駅である横浜羽沢駅間では現在、総延長約2.7kmの連絡線を新設するプロジェクトが2019年度下期の開業を目指して進行中。加えて横浜羽沢駅と東急東横線・目黒線の日吉駅間を結ぶ連絡線を2022年度下期までに新設予定で、この2つの連絡線が完成したあかつきには相鉄線とJR線、さらに相鉄線と東急線が相互直通運転されることに。アクセス性の向上やラッシュ時の混雑緩和が見込まれており、西谷駅は今後注目度が上昇する駅と言えるだろう。

今回の調査の基点にした横浜駅の中古マンション価格相場は、専有面積40平米以上~70平米未満でも3890万円と予想通り高めだった。しかし横浜駅の周辺に範囲を広げると、ぐっとお手ごろ価格でありつつ、横浜駅まで1本で行けたり、ほかの路線に乗り換えやすかったりと魅力的な駅が豊富にある。物件探しの際はあわてず、視野を広げて探すのがよさそうだ。

さて、次回は専有面積70平米以上~100平米未満のファミリー向け中古マンションの価格相場ランキングを紹介したい。今回ランクインした駅と顔ぶれがどう変わるのか注目だ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている横浜駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積40平米以上70平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018/10/1~2018/12/31
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

2019年の「住みたい街」1位はどこ?横浜が守るか吉祥寺が返り咲くか

リクルート住まいカンパニーでは、 関東圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)に居住している20歳~49歳の7000人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2019 関東版」を発表した。前回(2018年)には横浜がTOPの座を奪ったが、2019年はどうなったのだろうか?【今週の住活トピック】
「SUUMO住みたい街ランキング2019 関東版」を発表/リクルート住まいカンパニー住みたい街ランキング2019は、吉祥寺と恵比寿を抑えて横浜が1位を堅持

さて、2019年の住みたい街(駅)ランキングの結果は、2018年に衝撃のセンター(?)を射止めた横浜が2019年も堅持する形となった。TOP3は、1位の「横浜」に次いで、2位「恵比寿」、3位「吉祥寺」となり、前年と同じ順位だった。

住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関東全体/3つの限定回答)(出典:SUUMO)

住みたい街(駅)総合ランキングトップ10(関東全体/3つの限定回答)(出典:SUUMO)

ただし、4位以下は顔ぶれが変わっている。埼玉県の大宮、浦和の順位が上昇し、神奈川県の鎌倉もTOP10入りを果たした。おしゃれで便利な街のイメージがある品川や目黒は順位を落とした。

ランキング全体を見回しても、都心部の街が順位を下げる一方で、都区部周辺の人気エリアが順位を上げる傾向が見られる。

その背景には、都心部の地価や住宅価格が上昇して、一般ユーザーには身近な存在ではなくなってきていることがあるだろう。それなら、地元の近くで住みやすく便利な街のほうがよいと考えても不思議はない。では、順位を上げた街を取り上げて、詳しく見ていくことにしよう。

ランキング上昇の陰に、地元からの支持あり。便利で住みやすい街を選ぶ兆し

急上昇した街をピックアップしてみると、東京都では「三鷹」(総合38位→16位、東京都16位→7位)、神奈川県では「相模大野」(総合59位→47位、神奈川県15位→9位)、埼玉県では「和光市」(総合42位→33位、埼玉県9位→5位)、千葉県では「千葉」(総合53位→28位、千葉県4位→1位)が大きく順位を上げた。

いずれも、住宅地として地元に人気の街だ。加えて、交通アクセスが良く、相模大野や千葉では駅ビルを中心に商業施設が開業するなど賑わいのある街となっている。

和光市は駅前の賑わいにはやや欠けるが、東京メトロ副都心線の開通や他の沿線との相互乗り入れで、始発に乗ってどこにでも行けるという点が魅力だ。もちろん、「和光市行き」を繰り返し耳にすることで知名度が上がった影響もあるかもしれない。

このように、必ずしも広範囲に知名度が高い街でなくても、地元に住む人の支持を集めることでランキングを押し上げる動きが見て取れる結果となった。

居住都県別の住みたい街(駅)ランキングTOP10(出典:SUUMO)

居住都県別の住みたい街(駅)ランキングTOP10(出典:SUUMO)

総合力で順位を上げた、つくばエクスプレス沿線とさいたま市中核都市

このほかにも、ランキング上昇で注目したいエリアがある。そのひとつが『つくばエクスプレス沿線』だ。

「つくば」(総合51位→35位)、「流山おおたかの森」(総合46位→41位)、「研究学園」(総合56位→46位)、「守谷」(総合68位→51位)、「柏の葉キャンパス」(総合圏外→90位)と軒並み順位を上げている。新線開業後開発が進み、いずれの駅周辺も街が急速に形成されているからだろう。

もう一つの注目エリアが、『さいたま市』だ。その中核都市である「大宮」(総合9位→4位)、「浦和」(総合10位→8位)、「さいたま新都心」(総合29位→23位)がランキング上位に食い込んでいる。

東京オリンピックの会場にもなる「さいたまスーパーアリーナ」、集客力のある大型複合商業エリア「コクーンシティ」を擁し、居住や観光の利便性向上を目指しているさいたま市。大宮市役所の移転、ホテルの新設、大型病院の誘致、新築マンションの供給ラッシュなどの話題には事欠かない。文教都市浦和の魅力も相まって、住み心地を向上させる整備が進むさいたま市の中核都市は、これまでで最高位のランキングを獲得するに至った。

また、「上野東京ライン」開業で、高崎線、宇都宮線が上野で乗り換えずに東京に行けるようになったことも、さいたま市の中核都市がランキングを押し上げた要因になっていると考えられる。東京駅周辺の八重洲・丸の内・日本橋などの再開発でオフィスビルが急増し、働く人の巨大集積場となっている。通勤アクセスの起点が変われば、住みたい街選びにも影響するはずだ。

穴場だと思う街から住みたい街へ、アクセスが良く便利で住宅相場の割安な街に注目!

住みたい街ランキングの中で、いつも注目している「穴場だと思う街ランキング」。1位「北千住」、2位「赤羽」、3位「和光市」、4位「大宮」までは、前回と同じ順位だった。

筆者が注目していた大規模な再開発が進む「海老名」は、神奈川県民のランキングでは3位に位置しているものの、知名度が周辺にまで広がっていないためか、総合ランキングでは26位→25位とほぼ横ばいだった。

穴場だと思う(交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある)駅ランキング(関東全体/3つの限定回答)(出典:SUUMO)

穴場だと思う(交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある)駅ランキング(関東全体/3つの限定回答)(出典:SUUMO)

2019年のランキングを見た印象としては、「都心部の憧れの街に住みたい」というニーズが減退し、より現実的な「近くでアクセスのよい賑わいのある街に住みたい」というニーズが強まっていると感じる。これは全国的な傾向のようで、「東京一極集中から郊外中核駅集中が起こっている」(SUUMOジャーナル編集部)という。

「住みやすい」という感情は人それぞれで異なるものだが、今や「交通アクセスが良く、街に賑わいがある」ことが最低条件になってきているようだ。

ライター夏生さえりが妄想! 理想の間取りvol.3「秘密の部屋付き!4人家族で住みたいお家編」

理想の間取りをはちゃめちゃ自由に妄想するシリーズ、ついに最終回となりました! 1回目は「付き合って3カ月の恋人たちが住む家編」、2回目は「結婚直前の二人が購入するお部屋編」でしたが、3回目のお題は「4人家族で住みたいお家編」!

編集部いわく、「子どもができた後に買いたくなる家の間取りを妄想してください!」とのこと……。

子どもと住みたい家……。
子どもと住みたい家、ねぇ……。

うーん……。そんなこと言われて、「秘密の部屋が欲しい!」と思わない人がどこにいるのでしょうか……?(突飛な論説ですが、お許しください)。

秘密の部屋と言ってもね、別に扉が隠し扉になっているとか、そこへ入ると時空が歪むとか、はたまた賢者の石が隠されているとかそういうことではありません。要するに屋根裏部屋的なサムシングが欲しいんですよ。

家族はいつも一緒! オールウェイズトゥギャザー! ……といっても、やっぱりアローンになりたい日もありますよね。お母ちゃんだって、母である前に妻である前に、一人の女やねんな(涙ほろり)……な日もあるわけです多分。そんな日のための、秘密の部屋ですよ。

階段を上ったところにポツンとある秘密の部屋は、普段は「書斎」兼「シアタールーム」にするんです!

うぉぉおお! 最高な家になりそうな予感がする!
最終回は「子どもと住みたいお家編」

秘密の部屋については無限に語れてしまいそうなのですが、その気持ちをぐっとこらえて。まずは、住んでいる4人家族は一体どんな家族なのか、ディテールを思い描きましょうか。その先にしか理想の間取りは待っていない! 行くぜ!

~以下、無駄オブ無駄な文章となりますので読み飛ばしていただいても構いません~

きっと夫は、フリーのデザイナー。結婚するまでは雇われデザイナーをしていて、ベンチャー企業で夜中まで働いていたんだけど、結婚を機に「家族と過ごす時間以上に大事なものなんてないから」とか言って、一念発起でフリーランスへ転身。ちなみにメガネをかけていて、黒縁メガネ歴10年だったのに最近べっ甲柄に変えたんですよね。え? 妄想が細かすぎる? 知らないんですか? 神は細部に宿るっていう言葉を。ガンガン行くのでついてきてくださいね……。

そして、子どもは二人。どちらも女の子。とにかくよく喋る。喋る。喋る。最近なんて、「あたし、おとなになったら、オーラのあるおんなのひとになりたいの……」とか言い出しちゃって、なんだいこのオマセな子は! かわいすぎるじゃないの! って心の中でいつも悶えるような生活をしているわけです。

夫婦は本当に仲が良くて、3年付き合って結婚したのだけれど、子どもを産んでからというもの生活が一変。子ども部屋もない家で暮らしていたから、四六時中子どもと一緒。うん、まあ、子どもはかわいいですよ。すごくかわいいです。天使です。でも、でもね。夫と恋人時代みたいに過ごす時間ももっと欲しいな、あぁ望みすぎかな、あたしってばいつからこんな欲張りに……やだわばかばか。って子どもたちの桃のような頬を撫でながらほのかに悲しくなったときに、夫が言うわけです。

「家、買おうか」って。

「え? 家? 買うの?」
「うん。家族が住むのに適した家」
「……? 今だって十分じゃ……?」
「……“十分”かな? 僕はもっと君と一緒に過ごしたいって思ってるけど……」

はい、これ爆きゅん。いや、爆きゅんどころの騒ぎじゃない。これはきゅんのテロ。きゅん殺人事件。

それで二人で理想の家を考えるところから始まって、出来上がったのがこの家だってことです。

~以上~

よし、見えた。完全にこの家が見えてきた。むしろ暮らしているような気になってきた。

理想の間取りはこれ

そんな家族が住むなら、こんな条件を設けたい!

・安心安全な、ほぼワンフロア設計
・はちゃめちゃ広いリビング
・はちゃめちゃ広いウッドデッキ
・憧れていたアイランドキッチン
・秘密の部屋(書斎 兼 シアタールーム)
・夫婦の寝室は子ども部屋と離れている
・子ども部屋は思春期でも安心の設計
・リビングを通らないと子ども部屋に行けない
・トイレは二カ所
・収納がたっぷりある
・窓が多い
・海が見える!

あれ? フリーランスデザイナーの夫の仕事部屋は? と思ったかもしれませんが、夫は「みんなの姿を見るとつい一緒に遊びたくなっちゃうかわいいひと」なので、家のすぐ近くにオフィスを借りているのです(細かい妄想はまだ続く)。

そしてできた間取りがこちら!

(イラスト/岩間淳美)

(イラスト/岩間淳美)

はい、スペシャルドラスティックワンダフルルームオブザイヤー受賞おめでとうございます!!!!!

細かいポイントを見ていきましょう!

はちゃめちゃ広いリビング(イラスト/岩間淳美)

(イラスト/岩間淳美)

まず、家族で暮らしたい家の絶対的・マストオブマストは、とっても広いリビング……! 絵ではやや小さく見えるかもしれませんが、これはだいたい18畳くらいあります。広い!

子どもたちが「きゃーっ」ってはしゃいでコケても、どこにもぶつからないくらい家具をゆったり配置して。可能であれば、大型犬だって飼いたい。ゴールデンレトリバーがのっしのっしと歩いて、その横で子どもたちが疲れて眠って。それを眺めながらアイランドキッチンで料理をする。……ん? 極楽浄土かな……?

ちなみにこれまでの理想の間取りと同じく、窓はたっぷりつくっておきました。寒さに備えるべく、床暖房も完備。ちなみに天井は吹抜け箇所あり。開放感へのこだわりは誰にも負けない、開放王に俺はなるっっ!!

はちゃめちゃ広いウッドデッキ(イラスト/岩間淳美)

(イラスト/岩間淳美)

そしてリビングからつながっているテラスは、ウッドデッキに。開放王たるもの、夏は窓を開け放って、開放パラダイスにしなければ。そこでバーベキューをしてもいいな。簡易キャンプごっこもいい。広いウッドデッキで縄跳びの練習をする子どものビデオを撮る生活でもいい!!

夜、子どもが寝たら、夫婦でウッドデッキに出て、あたたかなコーヒーを飲みながら語り合ったりするのもいいかもしれない。良すぎて苦しい。

最高すぎる秘密の部屋(イラスト/岩間淳美)

(イラスト/岩間淳美)

そしてお待ちかねの、秘密の部屋。ここは本をたくさん置く、書斎にしたい。一人で本をよみふけったり、時にはお客さんを泊めたりと、用途はいろいろ。

夜ご飯後に秘密の部屋へと上がり、スクリーンで映画NIGHTをするのもいいですね。

「パパァ、きょうは、ぴーたーぱんがいい」
「いやだ、パパは今日こそトランスフォーマーを見たい」

と、ワーワー喧嘩している子どもみたいな夫を、うふふと笑って見つめる時間は超絶プライスレス……。秘密の部屋、最高すぎる。なにがなんでも手に入れたい。

ちなみに6畳ほどのその部屋へは、玄関横の階段から上がることができます。その心は、例えば家族に知られたくないほど落ち込んでいるとき、こっそり上へあがってこっそり泣くこともできるから……と。われながら最高の配慮では?

子ども部屋と離れた夫婦の部屋(イラスト/岩間淳美)

(イラスト/岩間淳美)

そして子ども部屋とは随分離れた場所にあるのが、夫婦の部屋。

子どもを持ったことがないのであくまで想像にすぎないのですが、ずっと「お母さん」「お父さん」でいるのって大変なんじゃないかな? とも思うわけです。子どもが寝た後は、ゆっくり夫婦で過ごす時間が欲しい。
子どもについて話したり、仕事の話をしたり、最近あったことを話したり。少しだけ気を抜ける時間が、この夫婦部屋によってつくれたらいいな……。

「ねえ」
「なに?」
「しあわせだね」
「うん」

って微笑みあって、髪をゆっくり撫でてもらえる時間もつくれる! そう、この間取りならね。

ちなみに子ども部屋は、高校生になったとき、妹にカレシとの会話を聞かれずに済むようにクローゼットを間に挟んでみました。まあクローゼット挟んでいても、少しは聞こえちゃうんですけどね(経験者は語る)。

たくさんあるクローゼット(イラスト/岩間淳美)

(イラスト/岩間淳美)

あまり物は持ちたくないのですが、それでも子どもが2人もいれば、やっぱり物は増えるわけで。クローゼットはたくさんあるほうがいいということで、山ほど配置してみました。助かる。

海が見える

そしてできれば、ここが「逗子」であって欲しい。海まで歩いて10分圏内に住むのが夢。それでやっぱりゴールデンレトリバーを飼って、おおらかに散歩をさせたい。

散歩に行く夫

犬の散歩当番は、夫。オフィスから帰ってきた足音を聞くなり、犬が起き上がって尻尾をブンブンと振りだすんですよ。あ、犬の名前は多分「ロビン」ですね。子犬の顔を見た瞬間に、家族全員が「ロビン顔だな」って思ったからだと思います。

毎日散歩に行くのは大変なはずなのに、夫は一度も文句を言わずに行ってくれる。その後ろ姿に、時には頼もしささえ感じてしまうんですよ。

それでたまに、「私も行く!」って鍵を持って追いかけようとすると、子どもたちも慌てて「私も!」「私も!」って言ってさ。ただの散歩なのに4人でぞろぞろでかけて、さながらお出かけDAYですよ。

海沿いで犬と散歩

そのまま家族4人で海辺まで行って、ロビンとボール遊びをして。ロビンが遊びまくったあと、舌を出してヘッヘッって笑うもんだから、「ロビン、幸せ?」って聞いてみたら、ぺろりと鼻をなめて舌を引っ込めて、キョトンとした顔をするわけ。なにを言ってるんだろう? ぼくはなにを聞かれているんだろう? って顔してさ。かわいい。かわいすぎる。

笑っている子ども

そんなロビンを見て、きゃははって子どもたちが笑い始めて、一度笑い出すとおさまらないみたいで、きゃっきゃっきゃっと笑って。それを見ている夫まで、あははっあははっと、笑い始めちゃって。

波の音がざざーとして、ロビンの足跡がついた浜辺が視界に入って、西日が彼らの顔を照らして、まつげの影が少し落ちていて。

思わずポエマーになる

それで思わず
「あぁ瞬きが、シャッターになればいいのにな……」とか思っちゃうんだよね。
絶対思っちゃう。ポエマー爆誕。
爆誕ついでに家に帰ったら、日記にこう書いちゃう。

「彼らを包む光。祝福の波音。笑い声は弾け、あぶくとなって海へと溶け出す。海の向こうの異国のものよ、受け取ってくれ。波に溶かしたとある家族の愛の形をーー」。

最後に

……。記事を書いているうちに、なぜか安っぽポエマーとして進化を遂げてしまった……。これ以上は危険なので、このあたりで終わりにしましょう。

それにしてもリアルに想像しすぎて、自分のカメラロールに海辺ではしゃぐ子どもとロビンの写真と、目を細める夫の写真が入っているのではないかという気持ちになっていたけど、わたしには子どももいないし、ロビンもいないし、べっ甲メガネの夫もいないんだった。ていうか、「ロビン顔」ってなんだ……?

妄想なのか記憶なのかが曖昧になってしまいそうなので、ここで自分が「秘密の部屋なしの普通の家」に住んでいることを思い出して終わりにします。海もない。つらい。

これにて全3話のお話は終わりです。楽しんでもらえましたか?
みなさんが素敵すぎるおうちで、素敵な暮らしをしていることを願っています……!

新築分譲のマンションと一戸建て、供給のされ方に大きな違い?

東京カンテイが2018年版の「マンション・一戸建て住宅データ白書」を発表した。そのデータを見ていくと、マンションと一戸建てでは供給のされ方などに大きな違いがあるということが分かる。どういう違いなのか、詳しく見ていくことにしよう。【今週の住活トピック】
「マンション・一戸建て住宅データ白書2018」を発表/東京カンテイ新築より中古のほうがマンション価格は上昇!

まず、東京カンテイが分析しているデータについて確認しておこう。

マンションはワンルームなども含む区分所有権の住宅用建築物、一戸建ては土地面積50平米以上300平米以下、最寄駅からの所要時間が徒歩30分かバス便20分以内、土地・建物ともに所有権の木造住宅。価格は新築が分譲価格、中古が売り希望価格となっている。

次に三大都市圏の2018年の市場動向について、マンション、一戸建ての順に見ていこう。

新築マンションの分譲戸数は、首都圏が4万9884戸で前年比+5.0%、近畿圏が2万1089戸で前年比+3.0%、中部圏が5701 戸で前年比+22.8%となった。中部圏の増加率が高いのは、名古屋市でタワーマンションやワンルームマンションの供給が多かったことが影響したということだ。
新築マンションの価格について(画像1)は、三大都市圏ともに上昇しているが、これまでの動きに比べるとかなり安定してきた感がある。中部圏の平均坪(3.3平米)単価の上昇はワンルームマンションの供給増の影響によるものだということなので、全体的に高止まりの状態といってよいだろう。

一方、中古マンションの価格(画像1)は、これまで新築マンションの価格が上昇してきた影響を受けて、前年より上昇している。三大都市圏ともに、これまで新築のタワーマンションが供給され続けてきたこともあって、高額帯の中古マンションが市場に流通している影響もあるようだ。

三大都市圏の新築・中古マンションの動向(出典/東京カンテイ「マンション・一戸建て住宅データ白書2018」)

三大都市圏の新築・中古マンションの動向(出典/東京カンテイ「マンション・一戸建て住宅データ白書2018」)

マンションより一戸建てで目立つ価格の上昇!

では、これまで価格はおおむね横ばいで安定傾向にあった、一戸建ての市況はどうだろう?

新築一戸建ては2018年に全国で11万7712戸が分譲され、前年比+1.2%と安定傾向が続いている。興味深いのは、首都圏の占めるシェアが55.6%とかなり高いことだ。新築マンションでも首都圏のシェアが高いが、その51.6%よりもさらに高いシェアになっている。

これは、全国展開しているものの主戦場を首都圏に置く「パワービルダー」(効率化を追求することで、比較的リーズナブルな価格で、年間、1000棟を超える大量供給を行う一戸建ての建売分譲会社)に勢いがあることも、影響しているのではないだろうか。新築一戸建ての供給元は、全国展開の大手デベロッパーやハウスメーカーがまとまった戸数を分譲する住宅地もあれば、地元ビルダーが地元の土地を買って数戸の一戸建てを建築し、不動産会社が仲介して販売する一戸建てもある。これに展開の早いパワービルダーの供給が加わって市場を形成するので、エリアごとの供給元の顔ぶれの違いが市場のカギを握ることになる。

さて、新築一戸建ての価格について(画像2)は、三大都市圏ともに、土地や建物の面積があまり変わらないのに上昇していることが分かる。特に近畿圏で上昇率の高さが目立つ。

一方、中古一戸建ての価格(画像2)は、同様に面積はあまり変わらないのに上昇している。その上昇率は、三大都市圏いずれも新築一戸建てよりも大きく、価格上昇傾向が目立つ。

三大都市圏の新築・中古一戸建ての動向(出典/東京カンテイ「マンション・一戸建て住宅データ白書2018」)

三大都市圏の新築・中古一戸建ての動向(出典/東京カンテイ「マンション・一戸建て住宅データ白書2018」)

新築のマンションと一戸建ての大きな違いは?

東京カンテイでは、新築一戸建てと新築マンションの違いについても分析している。その違いは供給エリアにある。

例えば、新築一戸建てで最も分譲戸数が多かった市区は、首都圏では埼玉県川口市、近畿圏では兵庫県姫路市、中部圏では愛知県春日井市だ。新築マンションが多く分譲される市区とは、かなり違う顔ぶれとなる。

さらに、データで明らかになったのは、最寄駅からの徒歩時間の違いだ。三大都市圏では同じような傾向にあるので、ここでは首都圏のデータを見ていこう。

画像3のように、新築マンションは最寄駅から10分以内に集中しており、なかでも徒歩5分以内が突出して多い。一方で、新築一戸建ては徒歩15分を中心に山なりに分布している。

新築マンションが利便性重視のニーズに応えるように「駅近」で供給されるのに対し、「住環境や子育て環境」へのニーズが強まる一戸建ては、徒歩で移動しやすい15分以内にも供給されるし、車移動が想定される15分以上にも供給されていることがうかがえる。

首都圏 新築一戸建てと新築マンションの徒歩時間別分譲戸数分布((出典/東京カンテイ「マンション・一戸建て住宅データ白書2018」)

首都圏 新築一戸建てと新築マンションの徒歩時間別分譲戸数分布((出典/東京カンテイ「マンション・一戸建て住宅データ白書2018」)

もちろん、住宅選びのニーズというだけでなく、市街地の街づくりの観点から自治体で定めている「用途地域」が異なることも要因だ。駅周辺では利便施設を誘導する「商業系地域」に定められるのが基本なので、大型の商業施設が入れるような高い建物が多く建てられる。これに対して、一戸建てで構成される住宅地は「住居系地域」の中でも『低層住居専用地域』に定められるので、大型の商業施設などは建てることができない地域になり、駅から離れた場所に定められることが多くなる。

こうした用途地域の区分けの中で、住む人が駅まで歩ける時間、例えば5分や10分、15分などを考慮して、マンションや一戸建てが供給されていくことになる。

また、駅周辺に多く供給されるマンションでは、商業施設やオフィスなどと土地の取得を争うことになるが、一戸建ては住宅供給元だけの争いになるので、こうした違いも価格に反映されていく。

マイホームを探す人は、マンションにするか一戸建てにするか、そのうえで新築か中古かなどと悩みながら絞り込んでいく。供給量や価格が安定傾向にあった一戸建ての市場も、マンションの市場の最近の変化に強く影響を受けて、価格が上昇したということになるだろう。

地主、居住者、行政の“三方良し”を実現する、これからの農園付き住宅

都市近郊の農業生産者が抱える大きな悩みは後継者不足。農地が耕作放棄地になることに加え、これまで「生産緑地」として税が優遇されてきた土地の多くが、2022年にその期限が切れ、宅地並みに課税されます。

その一方、自然、健康、食などに高い関心を持つ人たちは増え続け、市民農園が根強い人気を集めています。こうした動向をとらえて増木工業(埼玉県新座市)が送り出した農園付き分譲住宅が今、注目を集めています。現場を訪ね、その発想や魅力をレポートします。

農地という資産を守りつつ、住宅の魅力を創造する

JR新座駅から歩いて10分ほど、広い農地が残るエリアに、農園付き住宅「新農住コミュニティ野火止台」はあります。

ここを開発・販売する増木工業は、創業140年を越える長い歴史を持ち、地元の新座市を中心とする地域に密着して信頼を築いてきました。地元の地主から土地に関する相談を受けることも珍しくありません。

農園付き住宅の発想もそうした相談がきっかけで生まれました。同社の住宅事業部の大塚嘉孝(おおつか・よしたか)さんはこう振り返ります。
 
「先祖伝来の農地を持ち、お母さんが農業を続けているものの自分は公務員、後継者はいないという地主様から、農地を残す方法はないかと相談を受けました。社長(増田敏政氏)と私が対応する中で、定期借地権付きの一戸建ての賃貸住宅を建てる案が出てきました」。

定期借地権付き賃貸住宅なら、地主は土地の所有権を持ったまま、家賃に加えて地代も得ることができ、しかも固定資産税を大幅に減らすことができます(例えば東京都であれば課税標準は更地の6分の1)。この案は、土地売却より利益が少ないこと、定期借地権の期間が50年と長いことから、最終的には実現できませんでした。しかしこれを機に増田社長と大塚さんは構想を膨らませていきました。

「後継者がいなくても、先祖伝来の土地を失いたくないという農家さんは多いのです。そこで、定期借地権利用に限らず、住宅に農地を組み合わせることを考えました。これなら部分的に農地も残すことができます」。

増田社長はドイツのクラインガルテンを意識していたようです。 また大塚さん自身も、「単に不動産を細切れにして販売するだけではなく、地域に合った価値を付加した、わくわくするような街を作りたいという思いをずっと持っていました」。

埼玉県新座市は調整区域が多く、駅周辺には住宅と広い農地が混在した風景が広がっている(写真撮影/織田孝一)

埼玉県新座市は調整区域が多く、駅周辺には住宅と広い農地が混在した風景が広がっている(写真撮影/織田孝一)

そんなとき、800坪の農地を売却したいという農家からの依頼がありました。そこで、かねてから考えてきた農・住近接のアイデアを取り入れて開発したのが、「新農住コミュニティ野火止台」です。ここでは定期借地権ではなく、分譲住宅としました。

「地主様である農家さんが先祖伝来の土地を失うことを嫌うのは、土地と共に、手塩にかけて作ってきた肥沃な“土”を失うことも大きいと思います。農地付きの住宅なら、この土を活かせるのが、農家さんにとって大きな魅力なのだと思います」。

また、多くの都市近郊の農地が、「生産緑地」として受けてきた優遇税制が2022年には期限が切れることも、懸念材料となっているようです。「当社の農地付き住宅についての説明会には、多くの地主様が参加されています。土地を守り、活かす方法を模索されている背景には、この“2022年問題”もあるようです」。

敷地中央を通る散歩道が美しさと人間関係を生み出す

実際に「新農住コミュニティ野火止台」を歩いてみました。

志木街道に面した、細長い敷地に立つ住宅は15棟。敷地面積は一棟平均約35坪で、各棟に1坪サイズの家庭菜園が設置されています。

敷地の中央を、縁道(えんどう)と呼ばれるゆるやかに蛇行する散歩道が貫いているのが大きな特徴です。これは分譲地の景観を美しく演出するとともに、住まいと住まいの人間関係をつなぐ道でもあります。

「通常だと、中央に車の通れる広い道を通し、両側に住宅を配置するやりかたになりますが、それをせず、もっと自然と親しむ住宅地にしたいと思いました」。

中央部には共用畑を設けました。これは各棟の家庭菜園とは別に、入居者全員が共同利用できる畑です。畑の所有は増木工業。「もう一棟建てられるくらいの敷地(30坪強)をあえて共有の畑にしました。元地主の農家が農業アドバイザーとして農業のサポートをし、相談に乗ってくれるのも新しい試みです」。共用畑の向かいにある防災広場は、災害に備え煮炊きのできるカマドを設置する予定です。また、イベントスペースとして居住者同士のコミュニケーションを図る場として活用していきます。

地主にとってもただ土地を売っておしまいというのではなく、農を通じた土地との関係が続き、そこに住む人たちとの人間関係もできるという点が従来とは異なる魅力になっています。

植栽や畑と一体となったランドスケープデザインは、東京・世田谷区にある建築事務所ボスケデザインによるものです。約80種類もの植栽が、暮らしを彩ります。

整備中の共有畑の前で、住宅事業部の大塚嘉孝さん(営業)と、このプロジェクトの現場監督を務めた福田千尋さん(工事) (写真撮影/織田孝一)

整備中の共有畑の前で、住宅事業部の大塚嘉孝さん(営業)と、このプロジェクトの現場監督を務めた福田千尋さん(工事) (写真撮影/織田孝一)

もう一つ、「新農住コミュニティ野火止台」の大きな特徴は、果樹が数多く植えられていることです。

「果樹を植えた理由には、この『新農住プロジェクト』が、映画『人生フルーツ』に大きな影響を受けたためです。映画に出てきた津端御夫妻のような、“実りある暮らし”を実現する舞台にしたいと考えました」。

『人生フルーツ』(伏原健之監督)は、愛知県春日井市に住む建築家の津端修一・英子夫妻の日常を追ったドキュメンタリー。その自給自足的な生活や思想が多くの人の共感を呼び、隠れたヒット作となりました。「一般に広く上映していない映画なので、当社では何度も自主上映会を開催しました。この映画に共感されるお客様は、農住接近した生活に親和性が高いと考えたからです」。

果樹が数多く植えられていることを語る、住宅事業部営業リーダーの山口愛莉沙さん。そばにあるのはザクロがなっている木(写真撮影/織田孝一)

果樹が数多く植えられていることを語る、住宅事業部営業リーダーの山口愛莉沙さん。そばにあるのはザクロがなっている木(写真撮影/織田孝一)

雨水を利用した給水システムも用意されている(写真撮影/織田孝一)

雨水を利用した給水システムも用意されている(写真撮影/織田孝一)

15棟の内、10棟にはウッドデッキを設置した(写真撮影/織田孝一)

15棟の内、10棟にはウッドデッキを設置した(写真撮影/織田孝一)

住宅には無垢材を多用するなど、自然との調和を図っています。室内の温度ムラが少ない全館空調パッシブエアコンを採用したほか、家庭用燃料電池を使った給湯システム、太陽光発電システム、電気自動車用コンセントなど、環境保全型のしくみが数多く取り入れられています。

屋内は無垢の木を多用。年月が経過し、使い込むほどに美しくなる(写真撮影/織田孝一)

屋内は無垢の木を多用。年月が経過し、使い込むほどに美しくなる(写真撮影/織田孝一)

全棟に屋根裏収納スペースがあり、可動式梯子で上がれるようになっている(写真撮影/織田孝一)

全棟に屋根裏収納スペースがあり、可動式梯子で上がれるようになっている(写真撮影/織田孝一)

「新座でも貸し農園は人気がありますし、食育や自給自足への関心も今まで以上に高まっていると感じます。「新農住コミュニティ野火止台」はそんな時代にも合った分譲住宅でもあると思います」と大塚さんは自信を見せます。この11月3日、4日に開催された町開きでは、大勢の見学者を集め、盛況となりました。

農地を維持したい地主、健康的な生活を求める住民、人口流出をくい止め、景観を守りたい行政、三者いずれもが利益を得る、新しい住宅地の可能性が見えてくるようです。

●取材協力
増木工業株式会社

薄れる中古住宅への抵抗感! でも“認知度が低い”中古住宅キーワードとは?

全宅連・全宅保証協会では、毎年9月23日を「不動産の日」と定め、消費者向けに不動産に関する意識調査を実施している。2018年の調査結果を見ると、中古住宅への抵抗感が薄れている傾向が見られたという。その一方、中古住宅流通のカギを握るキーワードについての認知度は低かった。具体的に見ていこう。【今週の住活トピック】
「2018年『不動産の日』アンケート結果」公表/全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)・全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証協会)中古住宅に対する抵抗感が薄れている!

まず「既存住宅(中古住宅)に抵抗はあるか」を聞いた結果では、「まったく抵抗がない」と「どんな状態であろうと抵抗がある」という真逆の選択肢の回答が、同率の13.5%だった。また、最も多い回答は「きれいであれば抵抗はない」の39.8%で、次いで「売買金額と状態のバランスを見て判断する」の33.2%となった。

Q.既存住宅(中古住宅)に抵抗はあるか(出典:全宅連・全宅保証協会「2018年『不動産の日』アンケート結果」より転載)

Q.既存住宅(中古住宅)に抵抗はあるか(出典:全宅連・全宅保証協会「2018年『不動産の日』アンケート結果」より転載)

「中古住宅である」というだけで抵抗を感じる人が13.5%いる反面、「中古でもきれいであれば」「売買金額が見合えば」といった条件をクリアすれば抵抗を感じない人が7割超いることになる。加えて、「中古住宅にまったく抵抗がない」人も13.5%いるなど、筆者が思っていたよりも中古住宅への抵抗感が薄れていることが分かった。

近年、特にマンション市場では、新築の価格が上昇して一般消費者には手が届きにくい価格帯になっている。この市場を受けて、中古マンションの取引が活発になり、2016年からは売買される件数が新築と中古で同程度の規模になっている。

また、1990年後半~2000年前半までの新築マンションブームで大量供給されたものが、近年の中古マンション市場に出回ることで、「新築に近くて価格が手ごろなもの」から「築年がかなり古くて低価格のもの」まで、幅広い中古マンションから選択できるということも、抵抗感を薄める要因になっているのだろう。

「安心R住宅」「瑕疵保険(かしほけん)」「インスペクション」の認知度は低い

中古住宅への抵抗感が薄れているにもかかわらず、中古住宅の品質を見極めるカギとなる重要な仕組みについては、あまり知られていないことも分かった。

この調査では、「安心R住宅」「瑕疵保険」「インスペクション」を知っているか聞いているが、それぞれの認知度(=「知っている」)は「安心R住宅」6.4%、「瑕疵保険」16.3%、「インスペクション」7.7%とかなり低かった。

「安心R住宅」「瑕疵保険」「インスペクション」の認知度(出典:全宅連・全宅保証協会「2018年『不動産の日』アンケート結果」より転載)

「安心R住宅」「瑕疵保険」「インスペクション」の認知度(出典:全宅連・全宅保証協会「2018年『不動産の日』アンケート結果」より転載)

この中でも特に、「インスペクション」の認知度が低いことに驚いた。
インスペクションとは、建築士などの専門家が住宅の劣化や不具合の状況について調査を行い、報告をするもので、「建物検査」や「建物状況調査」などとも呼ばれている。

2009年にNPO法人日本ホームインスペクターズ協会が誕生し、ホームインスペクションの普及やインスペクターの育成に努めてきた。政府も宅地建物取引業法(宅建業法)を改正して、2018年4月からは中古住宅の売買の際にその住宅のインスペクション(「建物状況調査」という名称を使っている)を行うかなどの確認をするように仕組みを整えている。

具体的には、住宅を仲介する不動産会社に中古住宅の売買を依頼するときに「媒介契約」を結ぶ際には、契約書にインスペクション事業者のあっせんを望むかどうか確認して記載したり、中古住宅を購入する際に「重要事項説明」として、インスペクションの実施の有無などを書面に記載し、実施している場合は報告結果の概要を説明するといったことだ。

「瑕疵保険」は、この中では最も認知度が高い。
中古住宅の瑕疵保険は、正しくは「既存住宅売買瑕疵保険」といい、個人が保険に加入するには、検査機関に対して「住宅の構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分など」の検査と保証を依頼するもので、これら重要な構造部分の欠陥が見つかった場合には補修費用などについて保険金が支払われる仕組みだ。

また、「安心R住宅」は、国が定めた品質基準を満たす中古住宅について、物件を広告するときに「安心R住宅」のマークを表示できる制度だ。安心R住宅の基準を満たすためには、インスペクションを実施した結果、構造上の不具合や雨漏りが認められず、「既存住宅売買瑕疵保険」に加入できる用意がなされているなどの条件がある。

ただし、不動産会社を束ねる事業者団体がそれぞれで「安心R住宅」のマークを使用する際のルールなどを決めて徹底させる必要があり、この団体の登録に時間がかかっているという状況もあって、実際にマークを目にする機会はまだそれほど多くはない。

とはいえ、いずれも中古住宅の品質を専門家が客観的に調査をして、その結果を明らかにしたり、保証をしたりするものだ。一般消費者にはわかりにくい品質のチェックのためには、積極的に活用してほしい仕組みなだけに、もっと認知度を高めてほしいところだ。

もっともこの調査の対象は、住宅を探している人に限定しておらず、7割近くがすでに持ち家に住んでいるということから考えると、現実的に住まいを探している人ではもっと認知度が高いのだろうと期待している。

中古住宅への抵抗感が薄れていることは喜ばしいことだ。新築ばかりが本当に住む人にとって最適な住宅とは限らない。ただし、中古住宅は玉石混交の市場なので、品質の高いものを選んだり、購入後にリフォームをしたりすることが欠かせない。どういった仕組みがあるのか、しっかりと把握してほしいものだ。

●関連サイト
「2018年『不動産の日』アンケート結果」詳細

【ファミリー編】大宮駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

東北や北陸に向かう新幹線各線に加え、JR各線や東武野田線、埼玉新都市交通伊奈線(ニューシャトル)が乗り入れる大宮駅は、埼玉県屈指の一大ターミナル駅。交通の便がよく、商業施設も充実した大宮駅周辺に住めたら何かと便利だろう。そこで大宮駅から30分圏内にある、中古マンションの価格相場を調査してみた。前回のカップル編に続き、今回は専有面積70平米以上~100平米未満のファミリー向け物件の価格相場が安い駅トップ10をご紹介しよう。●大宮駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/大宮駅までの所要時間)
1位 指扇 1650万円(JR川越線/埼玉県さいたま市/11分)
2位 新白岡 1780万円(JR宇都宮線/埼玉県白岡市/17分)
3位 東鷲宮 1785万円(JR宇都宮線/埼玉県久喜市/24分)
4位 東浦和 1980万円(JR武蔵野線/埼玉県さいたま市/23分)
5位 北上尾 2300万円(JR高崎線/埼玉県上尾市/10分)
6位 新座 2490万円(JR武蔵野線/埼玉県新座市/27分)
6位 東川口 2490万円(JR武蔵野線/埼玉県川口市/27分)
8位 春日部 2500万円(東武野田線・東武伊勢崎線/埼玉県春日部市/21分)
9位 南与野 2580万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/7分)
10位 西浦和 2680万円(JR武蔵野線/埼玉県さいたま市/19分)

トップ3の価格相場は大宮駅より2500万円以上もお手ごろ

1位は価格相場1650万円のJR川越線・指扇(さしおうぎ)駅。今回の調査の基点にした大宮駅の価格相場は4330万円だったので、そこから電車で3駅離れるだけで2680万円も安くなるというわけだ。駅周辺は住宅地の合間に田畑が広がり、駅西側には荒川が流れるのどかな環境。とはいえ住宅地だけあって、周辺住民の生活を支えるスーパーやドラッグストアなどの店舗も県道沿いを中心に点在している。

2位のJR宇都宮線・新白岡駅は1987年、駅東側に広がる住宅地「白岡ニュータウン」の誕生とともに開業した比較的新しい駅。白岡ニュータウンは30年以上をかけて継続的に開発・分譲されてきたため、分譲のたびに若い世代が流入して住宅地の高齢化が防がれているのが特徴。加えて日当たりに配慮した街区割りや、緑道や公園を配した街並みも評価され、2017年には「グッドデザイン賞」を受賞している。中古マンションの数はさほど多くないが、価格相場は1780万円で大宮駅に比べるとぐっとお手ごろ。駅周辺に幼稚園や保育園があり、幼い子がいるファミリーには便利だろう。

3位も2位同様にJR宇都宮線が通る東鷲宮(ひがしわしのみや)駅で、価格相場は2位よりもわずかにアップした1785万円。調査時点ではSUUMO掲載の中古マンションの物件数がトップ10中で最も多く、お気に入りの物件が探しやすそうだ。駅周辺には幼稚園や保育園、小・中学校、公園などが点在しており、子育て世代に便利。駅前にスーパーがあるほか、駅から歩いて3分ほどで日帰り温泉施設「百観音温泉」があるのもうれしいところだ。

JR宇都宮線東鷲宮駅(写真/PIXTA)

JR宇都宮線東鷲宮駅(写真/PIXTA)

大宮&浦和の両方に行きやすい駅や、駅周辺を再開発中のエリアにも注目

埼玉県を代表する駅として、大宮駅と並んでよく挙がる駅に浦和駅がある。そんな浦和駅まで2駅・約15分、大宮駅までは6駅・約23分という便利なロケーションにあるのが、4位のJR武蔵野線・東浦和駅だ。

東浦和駅周辺はスーパーやドラッグストアが充実し、住宅の合間には小・中学校が点在。暮らしやすく開発されている一方、駅東側には豊かな自然が残されている。見沼代用水路にふちどられ、大きな池や田園がのどかな景観を織り成す一帯には野生生物の姿も。春は用水路沿いの桜並木が咲き誇り、自然に親しみながら子どもを育てられる環境だ。

見沼代用水西縁(写真/PIXTA)

見沼代用水西縁(写真/PIXTA)

トップ10のなかで大宮駅まで最短時間で行けるのは、9位にランクインしたJR埼京線・南与野駅。駅西側では2023年の完了を目指して再開発が進められている。開発済みの区画には歩道を広く設けた街並みが広がり、公園やマンション、スーパーや子ども用品店「西松屋」などの商業施設も備わる。今後も再開発が進むにつれて街の魅力向上が期待でき、JR埼京線1本で池袋や新宿、渋谷に行くこともできる注目の街と言える。

埼玉県各地からランクインしたトップ10には住宅街として暮らしやすいように整備された駅が多く出そろった。しかしひと口に「住宅街」と言っても、大宮駅や浦和駅といった主要駅までの近さや、周辺環境、物件の需給バランスなどにより価格相場にはかなりの違いがあり、トップ10だけでも1000万円以上の開きがあった。後悔しないためにも、価格帯と環境のバランスを見極めながら慎重に物件探しをしたいものだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている大宮駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積70平米以上100平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年8⽉1⽇~2018年10⽉31⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

首都圏の2018年の中古マンション動向、件数は横ばい、価格は上昇。新築と比較すると…

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が2018年の「首都圏不動産流通市場の動向」を公表した。これによると、首都圏の中古マンションの成約件数は3万7000件強とほぼ横ばい、価格は6年連続で上昇したことが分かった。2018年のマンション市況について振り返ってみよう。【今週の住活トピック】
「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」を公表/(公財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)中古マンションの成約件数は前年から微減ながら横ばい、価格は6年連続で上昇

東日本レインズの2018年のデータによると、首都圏で売買が成立した中古マンションの成約件数は、3万7217件で4年ぶりに前年をわずかに下回った(0.3%減)ものの、3年連続で3万7千件台前半の高水準を維持している。

一方、成約物件の1平米当たり単価は首都圏平均で51.61万円(前年比3.2%上昇)で、6年連続で上昇した。成約物件の首都圏平均価格は3333万円(前年比4.3%上昇)で、こちらも6年連続で上昇した。平均面積は64.6平米、平均築年数は21.0年だった。

中古マンションの成約件状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」より抜粋転載)

中古マンションの成約件状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」より抜粋転載)

価格についてさらに詳しく見ていこう。
中古マンションの価格帯別成約件数の推移を見ると、3000万円以下の成約件数や成約シェアが減っているのに対して、3000万円を超える価格帯では、5000万円以下、7000万円以下、1億以下、1億超のいずれもが成約件数、シェアともに増えている。

中古マンションの価格帯別成約件数(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」より転載)

中古マンションの価格帯別成約件数(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」より転載)

中古マンションの平均単価の上昇については、中古市場の活況を受けて、市場に出回るマンションの値付けを上げているという見方もできるが、同時に、価格の高い(条件のよい)中古マンションの成約が増えているという見方もできそうだ。

首都圏の中古マンション市況は、新築マンションと比べてどうだった?

<本文※必須>(400文字程度)※120文字目安で段落設定
では、同じ首都圏の2018年について、新築マンションの市況はどうだったのだろうか?
調査方法も調査対象も大きく異なるのだが、不動産経済研究所が公表した「首都圏マンション市場動向2018年(年間のまとめ)」を見てみよう。

このデータによると、2018年の供給戸数は前年より3.4%増の3万7132戸。首都圏では、中古マンションと同じ程度の供給があったことになる。
一方、1平米当たりの単価は86.9万円(1.2%増)、平均価格は5871万円(0.6%減)。中古マンションの価格が上昇トレンドだったことと比べると、新築は横ばいだったことが分かる。

価格については増減の状況だけを見ると、首都圏では、中古マンションが上昇、新築マンションが横ばいということなるが、果たしてそう単純に見てよいのだろうか?

首都圏のマンション市況の「平米単価」の推移を比べてみよう。
○首都圏の中古マンションと新築マンションの平米単価(万円)の推移
中古(※1)新築(※2)
・2014年 42.50 71.1
・2015年 45.25 77.9
・2016年 47.92 79.3
・2017年 50.00 85.9
・2018年 51.61 86.9
※1:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」
※2:不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向2018年(年間のまとめ)」

2014年から2018年の5年間の上昇率を見ると、中古マンションで21%、新築マンションで22%と同じような上昇率を示している。半面、平均平米単価の差を見ると、2014年では28.6万円だったものが、2018年では35.3万円と差が開き、中古マンションの価格は上昇しているものの、新築との比較で割安な感じを受ける市況だったと言えるだろう。

調査手法が異なるので、このように単純に比較するのは適切ではないのだが、新築マンションの価格は高止まりの状態に入り、一般的なサラリーマンが購入するには手が届きにくい価格帯にある。そのため、4000万円台以上などの予算の高い層が、立地や広さなどの条件を考慮して、中古マンションを購入したという状況だったと見てよいだろう。

さて、2019年については、新築マンションの供給量や価格などの市況は、2018年とあまり変わらないと見られている。一方で、10月に消費税率10%への引き上げが予定されている。政府は、消費税の増税の影響を緩和する住宅ローン減税の拡充や次世代住宅ポイント制度の創設など、住宅購入に関する優遇策を打ち出している。

一方、宅建業者がリフォームした上で販売する中古マンションを除き、個人が売り主となる中古マンションは消費税の課税対象外なので、こうした優遇策は受けられない(性能を引き上げるリフォームをする場合は適用される場合がある)。

こうした違いもあるので、増税の前後でマンション購入層がどう動くかによって、市況も大きく変わってくるだろう。目が離せない一年になりそうだ。

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「次世代住宅ポイント制度」創設! 消費増税の前と後、どちらで買うべき?
消費増税の負担を軽減する4つの支援策。どんな場合にどのくらい効果がある?

「変調」の1年? 2019年の不動産市場を読み解く4つのキーワード

2019年が始まってはや1か月が過ぎようとしています。1月の恒例企画として、2019年の不動産市場を予測してみたいと思います。高止まりしていた中古マンション価格の下落や消費増税など、今年は一言でいえば「変調」の1年といえそうです。
キーワード1「株価動向」:都心部の中古マンション価格と連動、今後は下落傾向に?

まずは誰もが気になる不動産価格。この価格の変動の波は、まず東京都心部から始まります。それがやがて23区に広がると同時に、神奈川・埼玉・千葉県へと波及していきつつ、札幌・名古屋・大阪・福岡圏などへ影響を与えるといった流れです。

そしてとりわけ都心部の中古マンション価格は、株価に敏感に反応します。昨年末から変調をきたしている株価は現在、2万円前後(1月7日時点)で推移していますが、この水準だと、都心3区(千代田・中央・港区)の中古マンション成約平米単価は、15~20パーセント程度割高であるといえます。

新宿・渋谷・品川・港区あたりも同様です。新築マンションは、デベロッパー(売主)が価格をコントロールしているためすぐには反応しません。したがって2019年の不動産市場動向を占うのは、株価動向を予測するのとほぼ同義です。

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先進各国の不動産市場を見ると、明らかに減速感が漂っています。要因は各国様々ですが、共通するのは「株式市場の変動性」「金利上昇」「金融引き締め」「マネーロンダリングへの取り締まり強化」「政府の規制強化」「新興国からの資金流出」「米中貿易戦争などで出金制限から中国人投資の減少」など。マンション価格が東京より高かった、バンクーバー・ロンドン・香港・シンガポール・シドニー・米主要都市・北京・上海など軒並み頭打ちから下落傾向が鮮明となっています。

2012年の民主党から自民党への政権交代以降、右肩上がりで上昇を続けてきた都心部のマンション価格ですが、どうやらこのあたりが天井かもしれません。むしろ株式市場の局面が大きく変わらない限り、下落傾向が見えてくるのではないでしょうか。とはいえ、先進各国の主要都市に比して出遅れ感のあった東京都心部の不動産価格は、その下落幅も限定的であるとはいえるでしょう。

キーワード2「3極化」:不動産価値の3極化は続く

以前にお話しした通り、不動産市場の「3極化」はますます鮮明なものとなります。「価値が落ちない・落ちにくい不動産」「ダラダラと下落を続ける不動産」「無価値・マイナス価値の不動産」といった具合です。

今年7月には統計局の空家調査(住宅・土地統計調査)の結果が公表されますが、この時おそらく全国の空き家数は1000万戸を超え、空家率は17パーセント程度になっているはずです。「都心」「駅近・駅前・駅直結」「大規模・タワー」といったワードに象徴されるマンションは強い一方、「駅から遠い」など利便性が相対的に劣る不動産ほど極端に弱くなり、都市郊外でも一部では「いくらで売り出しても売れない」といったものも出てきそうです。

空き家問題といえば、これまでは一部地方の問題と受けとられてきた節もあります。しかし今後は、高度経済成長期に、団塊世代を中心として人口ボリュームゾーンが一挙に高まった、かつてのいわゆる「ベッドタウン」と呼ばれるところで、人口減少に見合う流入のないところは、かなり厳しそうです。

なぜこれほどまでに、駅からの距離など「利便性」が重要視されるのか。ひとつは30代以下の若い世代の自動車保有率が低下している点です。基本的に彼らは、徒歩圏内で生活ができる環境を求める傾向があるようです。

さらには、共働き世帯の割合が年々増加傾向にあり、彼らのライフスタイルにおいても利便性が重視されています。共働きで小さなお子さんがいる家庭、かつ通勤に使う駅と保育園が離れている場合などでも、クルマで保育園まで送り届けて、家にクルマを戻し、そこからまた徒歩で駅に向かうのは時間的に難しいものがあります。駅前にクルマを停めようにも、首都圏近郊では駅前に駐車場がないケースや、あっても高額であるケースも少なくありません。そうなると、クルマ自体を持たない前提でライフスタイルを設計するケースが多くなるようです。

単身の若い方であっても、駅からの距離が短い物件を求める傾向が強くなっています。「空間」や「快適性」よりも「時間」を重要視する傾向が若い世代を中心に強まっているのです。

キーワード3「金利動向」:低金利のうちに固定金利に借り換えを

住宅購入に大きく関わる金利。2019年はさしあたって金利が大きく上昇する環境にはなさそうです。

ただし、住宅ローンは最大35年という長期にわたって支払いを続けるもの。住宅金融支援機構の「2018年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」によれば、2017年度の民間住宅ローン平均完済期間は15.2年とのことですが、そうだとしても15年先の金利動向を見通せる人などいないはずですが、現在より上がっていると考えるのが自然でしょう。

「住宅ローンを組んでマイホーム購入を」とお考えの方、すでに住宅ローンを組んでいる方には、低金利の今のうちに固定金利への借り換えをお勧めします。とはいえ相対的に金利が低い変動金利は、毎月の支払額が少ないことや、残金の減りが早いなどの魅力もあります。

この魅力を享受するには、住宅ローンの金利を、いざ金利が上昇を始めたらすぐに固定金利に切り替えることができればよいはず。しかし金利決定の仕組み上、固定金利が上昇を始めた時にはすでに変動金利は上昇しているものです。よほど株価や金利などの経済動向に敏感か、いざというときにはまとまったお金を繰り上げ返済して支払額を抑制できるなどの準備があるケース以外は難しいといえるでしょう。

キーワード4「消費増税」:住宅購入に大きなインパクトなし

2019年10月には8パーセントから10パーセントへの消費増税が予定されています。

政府は、その実行の判断は予算成立後の春先に判断するとしていますが、かつてのような駆け込み購入やその後の市場の落ち込みがないよう、住宅に関しては「住宅ローン減税期間を10年から13年へ延長」「すまい給付金や住宅エコポイントの給付」などが検討されています。想定通りに実行されるようであれば、増税前後で大きな変化は起きなさそうです。

消費増税の前に買うのがいいか、それとも後がいいかと悩むより、より価値の落ちない、落ちにくい不動産選びを心がけるほうが、よほど家計には優しそうです。

そもそもマイホーム選びを「価格動向」「金利」といった外部要因で判断するケースはそんなに多くはなく、「子供の学校」「親と同居」「賃貸契約の期限」といったそれぞれの家庭の内部要因が優先されるべきものです。ご自身やご家族が気に入って、支払いに無理がないのであれば、早く買うほど住宅ローンも早く終わります。慌てず、じっくり、自分に合う不動産選びを心がけてください。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

テーマのある暮らし[6] ラテンのリズムに囲まれ、国内外の音楽仲間が集うオープンな家

トロピカルなテイストに懐かしさのあるワールド・ミュージック楽団「キウイとパパイヤ、マンゴーズ」を率いて、世界各国を飛び回っている廣瀬拓音(ひろせ・たくと)さん。楽器とともに暮らし、国内外の仲間が気軽に集まれるオープンな家にリノベーションしました。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。祖母から受け継いだ昭和の家をリノベーション

廣瀬さんが主宰している「キウイとパパイヤ、マンゴーズ」の本拠地は、23区内でありながら下町風情が漂う板橋区。自宅とスタジオを兼ねた一戸建てに、廣瀬さんと妻、保育園に通う長女と暮らしています。取材に伺ったのは、あと数週間で第二子の出産予定日というとき。臨月の大変ななか、家族そろって快くお話を聞かせてくださいました。

幅広いジャンルの本と並ぶのは、国際色豊かなフェスの写真や珍しい楽器の数々。右上の楽器は、取材中にお嬢さんが披露してくれたモザンビークに伝わる伝統楽器、可愛い音色が特徴の木琴ティンビラ(写真撮影/内海明啓)

幅広いジャンルの本と並ぶのは、国際色豊かなフェスの写真や珍しい楽器の数々。右上の楽器は、取材中にお嬢さんが披露してくれたモザンビークに伝わる伝統楽器、可愛い音色が特徴の木琴ティンビラ(写真撮影/内海明啓)

「この家は、もともと私の祖母が住んでいました。一人暮らしをしていた祖母と私たちで同居をはじめたのですが、1年弱で祖母がケガをしてしまって……。私たちも仕事で家を空けることが多いため十分なお世話ができず、祖母は岩手県在住の両親にお願いして、私たちがこの家を受け継ぐことになりました」と廣瀬さんの妻。

「岐阜県出身の僕は祖母の家によく行き来していたので、前の家も落ち着けて好きだったんです。でも、海外に演奏ツアーへ行ったとき、ホテルや友人の家のざっくりした空間が生活しやすそうだなぁ、と感じていました」(画像提供/TAIMATSU)

「岐阜県出身の僕は祖母の家によく行き来していたので、前の家も落ち着けて好きだったんです。でも、海外に演奏ツアーへ行ったとき、ホテルや友人の家のざっくりした空間が生活しやすそうだなぁ、と感じていました」(画像提供/TAIMATSU)

ひとつひとつの部屋が区切られていた日本家屋に住んで9年。
「前の家に愛着もあったのですが、朝起きてから家を出るまで、とにかくふすまの開け閉めが多くて、座ったり立ったりの動作も多いことがストレスに感じていました」

生活の流れがスムーズで、たくさんの仲間たちが気軽に遊びに来てくれる開放的な空間づくり。そして、廣瀬さんの創作活動となる仕事場を快適にすることをテーマに、リノベーションを決めた廣瀬さん夫婦。友人であり、設計士の松尾さんに相談しました。

20個以上ある太鼓の置き場所を何とかしたい!

廣瀬さんは「キウイとパパイヤ、マンゴーズ」での活動のほか、ブラジル北東部の伝統芸能「マラカトゥ・ナサォン」をベースとした爆音ブラジル大太鼓集団「BAQUEBA(バッキバ)」の代表も務めています。ご自身の太鼓は5個ですが、メンバーの楽器も預かっているため大小合わせて20個以上の太鼓が自宅にあるのです。

「今まで、太鼓は2階の部屋に積んでいて、いつ崩れてもおかしくない状態。積み上げた太鼓に囲まれて、冷や冷やしながら仕事をしていました(笑)。それに、太鼓の出し入れがもう大変で……。階段が狭いので、太鼓を抱えて1階と2階を何度も往復。太鼓を車に載せるだけで、小1時間はかかっていました。それを頻繁にしていたので、かなりキツかったです」

そこで設計士の松尾さんが提案したのは、バスルームやトイレなど水周りの上を太鼓のスペースにすること。

「1階の天井をギリギリまで上げて、水周りをボックスで囲んで、その上に太鼓を置くことにしました。その分だけ水周りの天井は低くなりますが、太鼓の高さをきっちり計って、十分な天井の高さを取っています」と話す松尾さん。これで、太鼓の置き場所はクリアになりました。

身長178cmの廣瀬さん曰く「前の家は鴨居が175cm程だったので、ちょっと油断すると頭をぶつけちゃうんです。水周りの天井が少し低いといっても、今ではぶつけることもなく快適です」(写真撮影/内海明啓)

身長178cmの廣瀬さん曰く「前の家は鴨居が175cm程だったので、ちょっと油断すると頭をぶつけちゃうんです。水周りの天井が少し低いといっても、今ではぶつけることもなく快適です」(写真撮影/内海明啓)

水周りを囲んだボックスには、南米の路地裏をイメージしたラテンカラーの黄色を施しました。まるで太陽が降り注いでいるような明るさと温かみのあるアクセントは、廣瀬夫婦のお気に入り(写真撮影/内海明啓)

水周りを囲んだボックスには、南米の路地裏をイメージしたラテンカラーの黄色を施しました。まるで太陽が降り注いでいるような明るさと温かみのあるアクセントは、廣瀬夫婦のお気に入り(写真撮影/内海明啓)

玄関はいらない!? 誰でも好きなところから出入り自由

松尾さんが、廣瀬さんとの打ち合せでビックリしたのは「玄関は、なくてもいいから。みんながどこからでも入って来られるようにしたいし、リビングダイニングは土間みたいな仕様にして土足OK!」という点。さすが! グローバルに活動している人は考え方がおおらか(笑)と思いつつ、その楽しい発想にワクワクしたとか。

そこで、従来の玄関は扉1枚分のスペースに縮小して、リビングダイニングの掃き出し窓に幅広の縁側を設置。玄関はもちろん、縁側からも人の出入りができるようにしました。そのうえ、ここが駐車スペースになっているため、太鼓の搬出入にも便利と一石二鳥。いままで小1時間かかっていた搬出入が、わずか10分程度と6分の1に短縮できたそうです。

「我が家に来る人のほとんどは、玄関を使わずにここから出入りしています(笑)」と廣瀬さん。幅が広く、大きな掃き出し窓と縁側がウエルカムな空気を醸し出してくれています(写真撮影/内海明啓)

「我が家に来る人のほとんどは、玄関を使わずにここから出入りしています(笑)」と廣瀬さん。幅が広く、大きな掃き出し窓と縁側がウエルカムな空気を醸し出してくれています(写真撮影/内海明啓)

そして、掃き出し窓の向こうに、何やらもうひとつの扉が……。
実は、こちらはかつての勝手口。キッチンだったスペースを小上がり和室にして、ゲストルームに。海外からもたくさんの友人・知人が訪れる廣瀬家には、ブラジルから来日した太鼓の師匠をはじめ、フランス、カメルーン、台湾……とすでに5カ国の客人が滞在。和のテイストを楽しみながら、寛いでいかれたそうです。

「もし彼らの滞在中に、僕たちが出かけるときは、この勝手口のカギを渡します。そうすれば、彼らも好きなときに外出できるし、いつでも帰って来られます(笑)。それに、この小上がりはカーテンで仕切ることができるので、ひとりになりたいときは閉めればOK。向こうとリビングで違う音楽を流していたこともあったくらい、みんな自由に過ごしています(笑)」

お嬢さんの友達がたくさん来たときは、賑やかな遊び場に変身。畳なので、赤ちゃんの昼寝やハイハイにも最適です。出産後は、しばらくの間、妻と赤ちゃんの寝室になる予定とか(写真撮影/内海明啓)

お嬢さんの友達がたくさん来たときは、賑やかな遊び場に変身。畳なので、赤ちゃんの昼寝やハイハイにも最適です。出産後は、しばらくの間、妻と赤ちゃんの寝室になる予定とか(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、当初土足OK! といっていた土間風の床は、靴を脱ぐことにしたそうです。
「実際やってみたんです、土足を。そしたら、思った以上に床が汚れるのでやめました(笑)。よく考えたら、海外でも帰宅したら靴を脱いだり、ルームシューズなどに履き替えたりしていることって多いんですよね。部屋のスリッパとトイレのスリッパを替える、ということは、彼らにとって謎みたいですけど……(笑)」

洗面所って必要? バスルームの扉もいらないよね?

下の写真を見ると、一般的な住まいに当たり前のようにあるものが、ふたつありません。
それは、バスルームの扉と洗面所。

「扉があると、溝なども含めて汚れやすいじゃないですか。掃除も大変だし、なくてもいいかなぁと思ったんです。シャワーカーテンで水の跳ねを防げるし、これが意外と寒くないんですよ。夫にも実家の母にも、反対されましたけどね」と笑う廣瀬さんの妻。

バスルームと脱衣所とはシャワーカーテンで仕切られていて、同じ素材の床でつながっています。扉ひとつないだけで、一体感のある開放的な空間に(写真撮影/内海明啓)

バスルームと脱衣所とはシャワーカーテンで仕切られていて、同じ素材の床でつながっています。扉ひとつないだけで、一体感のある開放的な空間に(写真撮影/内海明啓)

そして、廣瀬家には洗面台はなく、バスルームのなかに小さなシンクを設置してあるだけです。
「帰宅してすぐのところに、手を洗う場所があればいいと思って(笑)。そしたら、洗面所にこだわらなくてもいいのかな、と。だから、キッチンにもうひとつ手洗い用のシンクを設けました」と廣瀬さん。

その一方で、妻は「最初、キッチンとバスルームの2カ所にシンクって必要? と思いました。でも、実際に生活してみると、子どもの上履きとか洗うのにバスルームのシンクは便利で、それぞれ使い方が違うなぁと感じています」

リビングダイニングにつながるキッチンに設けられた手洗い用のシンク。帰ったらすぐに手を洗えて、ここで歯磨きも。大工さんにつくってもらったキッチンテーブルは、収納力も抜群(写真撮影/内海明啓)

リビングダイニングにつながるキッチンに設けられた手洗い用のシンク。帰ったらすぐに手を洗えて、ここで歯磨きも。大工さんにつくってもらったキッチンテーブルは、収納力も抜群(写真撮影/内海明啓)

既存の窓にずっしり重みのある防音戸をつけたスタジオ

2階には、廣瀬さんがレコーディングや演奏で使うスタジオがあります。
壁の中には防音シートを入れて、窓は既存のまま使用し、そこに防音戸を設置しました。この防音戸を実際に持ってみましたが、厚みもあってずっしり。この重厚感ある防音戸をロープで上げ下げするのに役立ってくれるのが、ヨットの金物です。

開け閉め自由の防音戸なので、明るい日差しを取り入れることも可能。CM音楽や映画音楽などの作詞作曲を手がけている廣瀬さんの創作スペース(写真撮影/内海明啓)

開け閉め自由の防音戸なので、明るい日差しを取り入れることも可能。CM音楽や映画音楽などの作詞作曲を手がけている廣瀬さんの創作スペース(写真撮影/内海明啓)

ロープで防音戸を閉めれば、スピーカーからかなりの大音量で音楽を流しても音漏れすることがなく、ご近所への配慮もばっちり(写真撮影/内海明啓)

ロープで防音戸を閉めれば、スピーカーからかなりの大音量で音楽を流しても音漏れすることがなく、ご近所への配慮もばっちり(写真撮影/内海明啓)

「前は、ここに20個以上の太鼓があったので、ものすごい圧迫感がありました。すっきりした環境で音楽づくりができるのは快適で、創作のアイデアもどんどん沸いてきます」

ちなみに、お嬢さんの友達が遊びに来ると、このスタジオは“DJプリキュア化”することも多いのだそう。
「娘たちが大好きなアニメ『プリキュア』のCDをかけると大喜びで、ここで踊りまくってくれるんです。その姿にこっちもテンションと音量が上がって、クラブのようなノリに……。かかっているのは、アニソンなんですけどね(笑)」
その様子も拝見したかったくらいですが、このスタジオが音楽仲間だけでなく、子どもたちにとっても憩いの場になっていることは間違いありません。

将来のライフスタイルを見据えて自由に変更できるつくりに

かつて2部屋に仕切られていた2階は、収納スペースを挟んでスタジオと寝室がつながっている仕組み。収納につけた扉の開け閉めによって、個室にしたり、オープンなスペースにすることも自由自在です。

本棚の反対側はクローゼットになっていて、大容量の収納スペースを確保。スタジオの反対側には家族の寝室があり、将来は子ども部屋として使えるスペースも(写真撮影/内海明啓)

本棚の反対側はクローゼットになっていて、大容量の収納スペースを確保。スタジオの反対側には家族の寝室があり、将来は子ども部屋として使えるスペースも(写真撮影/内海明啓)

「昔の日本家屋って、どちらかといえば家に1歩入ったら全てがプライベートな空間って感じじゃないですか。我が家は、誰もが気軽に来てもらえるオープンなつくりにしていますし、家族が集まるリビングも半分プライベートで半分がオフィシャル。完全なプライベート空間は、寝室だけと思っています。家族といえど、ひとりひとりの個人ですからね。だから、寝室以外はオフィシャルな要素を意識していたい、と思っています」

バーベキューパーティーができそうな広いスペースのバルコニーには、ベンチも設置。もうすぐ家族が増えて、ますます賑やかな笑い声が聞こえてきそうです(写真撮影/内海明啓)

バーベキューパーティーができそうな広いスペースのバルコニーには、ベンチも設置。もうすぐ家族が増えて、ますます賑やかな笑い声が聞こえてきそうです(写真撮影/内海明啓)

家のつくりはもちろん、夫婦のオープンマインドな人柄によって、とにかく明るくてウエルカムな空気にあふれている廣瀬家。国内外の音楽仲間にとっても、子どもたちにとっても音楽を思いっきり楽しめて、人と人とのふれあいを大切にしている家は、つい長居してしまいたくなるような居心地の良さがありました。

●取材協力
・キウイとパパイヤ、マンゴーズ
・BAQUEBA
・TAIMATSU一級建築士設計事務所

消費増税の負担を軽減する4つの支援策。どんな場合にどのくらい効果がある?

2019年10月から予定されている消費増税。住宅に関しては増税の影響が大きいだけに、影響を緩和するための支援策が出そろった。住宅生産団体連合会(住団連)では、その支援策を分かりやすくまとめたリーフレットを作成し、普及に努めている。その内容を確認しながら、どういった場合に支援されるのかを見ていこう。【今週の住活トピック】
リーフレット「消費税率引上げに伴う住宅取得・リフォーム支援策」を掲載/住宅生産団体連合会消費税率引き上げで上昇する住宅取得費用に対する支援策が出そろった

住宅に関する消費税では、土地の取得は非課税なので、住宅の建物部分の取得費用や住宅を建築したりリフォームしたりする工事費用に消費税が課される。8%から10%に税率が引き上げられると、その費用の2%分、支払額が上昇することになる。

8%のうちに、と駆け込みが発生すると需要の先取りになって、増税後の住宅市場が冷え込むことになる。そこで駆け込みが生じないように、増税後の支援策を充実させるというわけだ。具体的な支援策は次の4つ。

 ○住宅ローン減税の控除期間を3年延長
 ○すまい給付金の拡充
 ○次世代住宅ポイント制度
 ○贈与税の非課税枠の拡充

この支援策を広めようということで、住団連ではホームページに制度を紹介したリーフレットを掲載している。

どんな場合にどの程度の恩恵が受けられる制度?

どういった場合にどの程度の支援がされるのか、もう少し具体的に見ていこう。

(1)住宅ローン減税の控除期間を3年延長
「住宅ローン減税」は、住宅ローンの年末残高(上限4000万円※)の1%を10年間控除するもの。これを3年間延長して、A. 住宅ローンの年末残高(上限4000万円※)の1%、B.建物価格(上限4000万円※)の2%(3分割して1年ずつ控除)のいずれか小さい額が控除されるようになる。
※ただし、認定住宅の場合は上限5000万円

理論的には、消費税率10%が適用されて負担が増える建物価格の2%分を控除する(現行の住宅ローン減税を3年延長するほうが額が小さければ、単純に延長される)ことになる。ただし、住宅ローンの借入額によって控除される金額が変わり、納めている所得税などが上限となる点に注意が必要だ。

(2)すまい給付金の拡充
住宅ローンを利用しなかったり、所得が低くて所得税の額が少なかったりする人は、住宅ローン減税の効果が小さくなる。そこで、そうした人を対象に支援するのが「すまい給付金」だ。

税率8%では、年収の目安として510万円以下(実際には、住民税の所得割額が9.38万円以下)が給付対象で、年収が低いほど給付額が増えて最大給付額は30万円となる。これが、税率10%になると、給付対象の年収の目安が775万円以下(実際には、住民税の所得割額が17.26万円以下)に拡充され、最大給付額は50万円に引き上げられる。

ただし、あくまで住宅ローン減税の効果が小さい人向けの、補完的な位置づけである点に留意したい。

(3)次世代住宅ポイント制度
住宅における消費増税分の緩和策は、(1)と(2)がメインであるが、増税による消費減退ムードに弾みをつけようというのが「次世代住宅ポイント制度」だ。エコ住宅などの良質な住宅に対して、購入や新築の場合で最大35万円相当、リフォームの場合で最大30万円相当※のポイントがもらえる。
※一定の条件を満たせばポイントが加算される

ただし、条件が細かく設定されているので、条件を満たすかどうかを販売や施工する会社に確認する必要がある。

(4)贈与税の非課税枠の拡充
父母や祖父母から子や孫に、住宅取得の資金として贈与した場合、一定の額までが非課税となる制度。現行の非課税枠は700万円または1200万円(良質な住宅の場合)で2021年まで段階的に非課税枠が小さくなる。
税率10%が適用された場合では、非課税枠は2500万円または3000万円(良質な住宅の場合)に引き上げられ、2021年まで段階的に非課税枠が小さくなる。

つまり、親などから多額の贈与を受ける人にとっては、大きな恩恵を受けられる拡充策となる。

なお、それぞれの制度については、SUUMOジャーナルの以下の記事も参考にしてほしい。
・2019年度与党税制改正大綱まとまる 消費増税時に住宅ローン控除を3年延長
・住宅購入時の増税緩和策「すまい給付金」ってなんだ?
・「次世代住宅ポイント制度」創設! 消費増税の前と後、どちらで買うべき?

消費税率10%でどの程度効果があるかは人それぞれ

消費税率10%が適用されたからといって、すべての事例で支援が受けられるわけではない。制度ごとに住宅の広さや性能、年収などの細かい条件があるので、対象となるかをそれぞれ確認する必要がある。

たとえ支援策を受けられる場合でも、その人の住宅ローンの額や贈与の額、納めている所得税の額などによって、効果の大きさが変わってくる。そのため、8%の場合と10%の場合で、増税による負担の増加と支援策による軽減のどちらが大きくなるかは、それぞれの場合で試算するなどして見極める必要があるだろう。

国土交通省の「すまい給付金」サイトには、すまい給付金と住宅ローン減税の額が試算できる「すまい給付金シミュレーション」が用意されているので、試算してみるとよいだろう。

また、そもそも個人が売り主の中古住宅のような個人間売買については、消費税が課税されないために支援策の対象外(宅地建物取引業者が売り主のリフォーム済み住宅などは対象)だ。

住宅に関する消費税については、引き渡しが2019年10月1日以降で税率が10%となる場合でも、2019年3月末日までに契約をすれば8%が適用される「経過措置」がある。今のうちから、支援策のそれぞれの制度についてしっかり情報を入手して、後悔しないように検討をしてほしい。

雑貨店店主と建築家の夫婦がつくる「変わり続ける家」 その道のプロ、こだわりの住まい[4]

JR国立駅と谷保駅の間に位置する、国立ダイヤ街商店街。精肉店や鮮魚店、青果店が軒を連ね、昔から地元の人たちに愛され続けている場所だ。その一角にあるのが日用雑貨を扱う「musubi」。ここは、店主の坂本眞紀さんと夫で建築家の寺林省二さん、一人娘の吟ちゃん、愛猫のトトが暮らす自宅でもある。道具を扱うプロと、家づくりのプロの生活を見せてもらった。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。昔ながらの商店を彷彿とさせる仕事場兼自宅坂本さん(左)は元インテリアショップのバイヤーで、独立して自身の店を構えた。寺林さん(右)は「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」として、住宅を中心に設計をしている。坂本さんの膝の上にいるのが、看板猫のトト(写真撮影/嶋崎征弘)

坂本さん(左)は元インテリアショップのバイヤーで、独立して自身の店を構えた。寺林さん(右)は「テラバヤシ・セッケイ・ジムショ」として、住宅を中心に設計をしている。坂本さんの膝の上にいるのが、看板猫のトト(写真撮影/嶋崎征弘)

日用雑貨が並ぶ店内の奥に目を向けると、一段高くなった場所にダイニングキッチンが見える。昔ながらの商店を彷彿とさせるつくりの雑貨店「musubi」。約8年前、自分たちの仕事場と自宅を兼ねた場所として、夫の寺林さん自ら設計した。

間取り(画像提供/寺林省二さん)

間取り(画像提供/寺林省二さん)

器やクロス、掃除道具やかごなど、さまざまな日用雑貨が並ぶ店内。どれも坂本さん自ら選び、使って、確かめたものばかり。箒づくりや刺繍などのワークショップを行うこともある(写真撮影/嶋崎征弘)

器やクロス、掃除道具やかごなど、さまざまな日用雑貨が並ぶ店内。どれも坂本さん自ら選び、使って、確かめたものばかり。箒づくりや刺繍などのワークショップを行うこともある(写真撮影/嶋崎征弘)

「以前はここでお昼ご飯を食べているときにお客様がいらして、扉を開けっ放しにしていて丸見えだったっていうこともあります(笑)。でも、周りの商店街はどのお店も奥に暮らしの気配があるから、それはそれでいいかと思って」と坂本さんはこのつくりを気に入っている様子。「この場所には、もともとクリーニング店があったんです。リフォームして使いたいほど気に入っていたんですが、難しい状態だったので、結局、ほぼ同じ間取りで建て替えました。だから、昔ながらの商店の感じが残っているのかもしれません」

シンクとガス台だけ取り付けた状態で生活を始めたという。カゴやゴミ箱、ツールをかけたバーなどは、生活しながら必要なものを見極め、後から設置した(写真撮影/嶋崎征弘)

シンクとガス台だけ取り付けた状態で生活を始めたという。カゴやゴミ箱、ツールをかけたバーなどは、生活しながら必要なものを見極め、後から設置した(写真撮影/嶋崎征弘)

箱のような状態からスタートした家

「家具も収納もきちんと決めていなくて、ただの箱のような状態だったんです。住みながら少しずつつくってきた感じ」と坂本さんは振り返る。約14坪弱の敷地に建てた自宅は、家、事務所、店という3つの要素を一つの場所に共存させるために、見極めるべきことが多かった。だからこそ、最初に細部まで決めすぎず、住んでみてから自分たちに必要なことを見極めていったという。「暮らしているうちに、ここに棚板があったら便利だな、ここに収納をつくればいいな、と考えていきました」と寺林さんも続ける。

料理に使うバットを引き出し代わりに。カトラリーや箸置きなどの細かいものを収納している。子どもでも手の届く高さなので、吟ちゃんがお手伝いで並べることも(写真撮影/嶋崎征弘)

料理に使うバットを引き出し代わりに。カトラリーや箸置きなどの細かいものを収納している。子どもでも手の届く高さなので、吟ちゃんがお手伝いで並べることも(写真撮影/嶋崎征弘)

例えばキッチン。シンクやガス台の下には、食材を入れたカゴやカトラリーを入れたバット、ゴミ箱などがきちんと収まっている。「ここも最初は何もない空間だったんです。引越してきてからは、紙袋や空き箱をいろいろ使ってみて、どんな大きさの収納道具が必要か考えていきました」。食材はどんなものをどれくらいストックするか、必要なゴミ箱の大きさと数はどれくらいか、よく使う調理道具はどこに置けば便利か、全てを暮らしながら見極めていったのだ。そうして坂本さんが自らスケッチを描き、必要な棚やキャスター付きの箱などを寺林さんにお願いしたという。全てをしまい込まず、頻繁に手にする調理道具は、使う場所の壁面にバーを設置してつるすようにもしている。出し入れしやすいということは、つまりは片付けやすくすっきりした状態を保てるということにつながっているのだろう。

食器棚は大きめの鉢のサイズに合わせて奥行きを設定。店で扱う器や銅なべ、せいろなどもあり、使い込まれた様子を見せてもらうことができる(写真撮影/嶋崎征弘)

食器棚は大きめの鉢のサイズに合わせて奥行きを設定。店で扱う器や銅なべ、せいろなどもあり、使い込まれた様子を見せてもらうことができる(写真撮影/嶋崎征弘)

家具は最初にそろえず、暮らしながら必要なものだけをつくる

食器棚も本棚も、そこにしまう食器や雑誌、文庫本のサイズに合わせてあつらえている。決して広いとは言えない空間だからこそ、きちんとものが収まるように工夫されている。「最初は、クローゼットも布団を入れる場所もなくて。奥行きがどれくらい必要か、どの高さなら届きやすいか、どこにあったら便利か考えて、この形になったんです」と坂本さんは話す。自分たちの洋服の量をきちんと把握し、奥行きや幅を考えてクローゼットをつくった。布団も上げ下ろしがしやすい高さに棚板を設置して、使いやすい収納になっている。

夫婦のクローゼットは、この奥にある吟ちゃんの部屋との間仕切りの役目も担う。洋服と下のケースのサイズに合わせて奥行きを設定したそう。扉はつけず、カーテンで目隠し(写真撮影/嶋崎征弘)

夫婦のクローゼットは、この奥にある吟ちゃんの部屋との間仕切りの役目も担う。洋服と下のケースのサイズに合わせて奥行きを設定したそう。扉はつけず、カーテンで目隠し(写真撮影/嶋崎征弘)

また、随所に棚板を取り付けているのも、ものを収めるのにとても役立っている。キッチンでは食器棚の上、シンクの上にそれぞれ1枚あり、鍋やカゴなどの道具類が置かれている。シンク前の窓にはすのこ状の棚板があり、洗った器や道具などを置いて乾かすのに最適な場所になっている。さらに、トイレ兼洗面所にも奥行きの浅い棚板が1枚あり、洗面道具などの細かなものが並び、隣の洗濯機の上にはタオルがきちんと収まる棚板が2枚取り付けられている。「どれも、奥行きはそこに置くものにサイズを合わせて取り付けています」と寺林さん。使う場所の近くに収納場所を設置することで、出し入れがしやすいというメリットが生まれているのだ。

トイレ兼洗面所。奥行きの浅い棚が一枚あるだけで、歯ブラシやハンドクリームなどの洗面道具の定位置ができる。右にお風呂があるので、タオルは洗濯機の上に収納。手を伸ばせばすぐ使える状態(写真撮影/嶋崎征弘)

トイレ兼洗面所。奥行きの浅い棚が一枚あるだけで、歯ブラシやハンドクリームなどの洗面道具の定位置ができる。右にお風呂があるので、タオルは洗濯機の上に収納。手を伸ばせばすぐ使える状態(写真撮影/嶋崎征弘)

さらに、階段下も見逃さず、坂本さんの事務スペースとして活用している。「収納にするかどうしようか迷っていたんですが、ここに机を置いてみたらいいんじゃないかということでやってみたんです。最初はふさごうと思っていたので、階段の裏まできちんと仕上げができていないんですけど、これはこれでいいかなと思って」と寺林さんは教えてくれる。坂本さんにとっては、料理などの家事をしながら、事務仕事や店番もできて、とても便利なスペースになっている。

階段の下に天板を置き、坂本さんの事務スペースに。店からは目に入りにくい場所なので、多少ものが多くても気にならない。階段裏には吟ちゃんが描いた絵などを貼って楽しい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

階段の下に天板を置き、坂本さんの事務スペースに。店からは目に入りにくい場所なので、多少ものが多くても気にならない。階段裏には吟ちゃんが描いた絵などを貼って楽しい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)

また、2階では、本棚やクローゼットが壁としての役割も果たしているのもこの家の特徴だ。もともとは、がらんとしたひとつながりの空間だった。そこに本棚とクローゼットを設置することで間仕切りになってスペースが生まれている。今は一人娘である吟ちゃんの部屋になっているが、ここはもと寺林さんの事務所だった場所だ。

2階の廊下。右の本棚が廊下と吟ちゃんの部屋の間仕切りとして機能している。そのほかはカーテンで仕切っているので、ほどよく気配が伝わる空間(写真撮影/嶋崎征弘)

2階の廊下。右の本棚が廊下と吟ちゃんの部屋の間仕切りとして機能している。そのほかはカーテンで仕切っているので、ほどよく気配が伝わる空間(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングは夫婦の寝室も兼ねている。大きな家具は置かず、臨機応変に使えるスペースになっている(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングは夫婦の寝室も兼ねている。大きな家具は置かず、臨機応変に使えるスペースになっている(写真撮影/嶋崎征弘)

さかのぼれば、建てた当初は、事務所は1階の雑貨店のスペースに併設していた。店で扱う品が増えてきたことから、2階の一角に事務所を移動。「1階で使っていた本棚を2階で間仕切りのように使うことで事務所スペースにしたんです」と寺林さん。吟ちゃんはというと、リビングの壁面に学習机と収納を設置して使っていた。成長とともに自分だけの空間が欲しいということになり、寺林さんは別の場所に事務所を借りて、吟ちゃんは無事に自分のお城を手に入れたというわけだ。

寺林さんの事務所スペースだった場所を吟ちゃんの部屋に。机とベッドを設置して、プライベートな空間をつくった。吟ちゃんは、好きな生地でカーテンをつくったり、壁に絵を貼ったりと、自分だけのスペースを楽しんでいる様子(写真撮影/嶋崎征弘)

寺林さんの事務所スペースだった場所を吟ちゃんの部屋に。机とベッドを設置して、プライベートな空間をつくった。吟ちゃんは、好きな生地でカーテンをつくったり、壁に絵を貼ったりと、自分だけのスペースを楽しんでいる様子(写真撮影/嶋崎征弘)

好きなものは我慢せず、でも、分量は決めて管理する

ものに合わせた収納だからこそ、きちんと収まってはいるものの、やはりどうしても好きな食器や本は増えてしまうという。「狭いからこそ、棚に収まる分だけと決めています。ここからあふれそうになったら、家族みんなで『ガサ入れ』して、不要なものがないか探すんです。使わないものは誰かに譲ったり、売ったりしています」と坂本さん。一人娘の吟ちゃんもその習慣がしっかり身についていて、読まなくなった絵本や使わなくなったおもちゃなどをダンボールにまとめて『ご自由にどうぞ』と自ら書き、お店がお休みの日に家の前に置いていることもあるのだという。

坂本さんの収納術を日常的に目にしているせいか、吟ちゃんが自分で管理する引き出しの中は見事にすっきり。引き出しごとに分類し、きれいに収めている様子はさすが。ここはマスキングテープなどの文具の段(写真撮影/嶋崎征弘)

坂本さんの収納術を日常的に目にしているせいか、吟ちゃんが自分で管理する引き出しの中は見事にすっきり。引き出しごとに分類し、きれいに収めている様子はさすが。ここはマスキングテープなどの文具の段(写真撮影/嶋崎征弘)

商品の使い心地を、自身のキッチンから伝える

「musubi」では、扱っている商品のほとんどを坂本さんが自身で使っている。「使い込んだらどんな状態に変化するか、知りたいお客様も多いんです。そういうときは、ダイニングキッチンから持ってくることもあるし、実際に使い心地を試してもらうこともあります」と坂本さん。また、寺林さん自身の作品として自宅をオープンハウスにすることもある。どこにどんな家具や収納が欲しいか、この家を見ながら打ち合わせることもできるというわけだ。

テーブルの下やクローゼットの中にトト専用のかごがあり、さりげなくしっかりと居場所をキープしている(写真撮影/嶋崎征弘)

テーブルの下やクローゼットの中にトト専用のかごがあり、さりげなくしっかりと居場所をキープしている(写真撮影/嶋崎征弘)

最初に決めず、生活とともに家をつくればいい

坂本さんも寺林さんも、自分たちの暮らしをよく観察し、それに合わせた家をつくり続けてきた。最初から家具を一式そろえたり、システムキッチンを組み込んだりという考えはなかったという。「小さい家だから、どこに何が必要かしっかり見極めたかったんです」と二人は話す。結果、店の形態の変化とともに、事務所が移動し、娘の成長に合わせて子ども部屋が生まれることになった。
最初から決めつけなくてもいいのだ。暮らし方も好みも変わっていくものだから、家も一緒に変化していけばいい。少しずつ、自由に、生活に合わせてしつらえていけばいい。
寺林家は、これからもきっとどこか変わっていくのだろう。「子ども部屋の棚も新しくしたいし、リビングに合うソファもつくろうかと思っているんです」。寺林さんはそう楽しそうに教えてくれた。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

●店舗情報
musubi
東京都国立市富士見台1-8-37
12:00~18:00
日、月曜定休
>HP●設計事務所
>テラバヤシセッケイジムショ●取材協力
坂本眞紀
1974年岩手県生まれ。商社、インテリアショップのバイヤーとして勤務後、東京・国立市に自身の店をオープン。使い心地がよく、実用性の高い道具を選ぶ目に定評がある。建築家である夫の寺林省二さんと娘、猫の3人と1匹暮らし。

「リノベ・オブ・ザ・イヤー 2018」に見る最新リノベーション事情

今年で6回目を迎える「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2018」の授賞式が2018年12月13日に開催され、「この1年を代表するリノベーション作品」が決定しました。住宅から商業施設までさまざまな施工作品はどれも、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれます。最新傾向を探ってみました。
エントリー数1.5倍増。ここ一年でリノベがより広く認知される

今回の「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2018」は、エントリー作品246件のなかからグランプリ1作品、部門別最優秀賞4作品、特別賞13作品が選ばれました。特別賞の受賞数が例年になく13件と多いのは、昨年と比べて1.5倍、過去最多のエントリー数があったからだそう。

2018年を振り返ると、報道番組や経済番組でさかんにリノベーションやリノベ会社が特集され、リノベーションが社会的に広く認知されるようになった1年だったと感じます。エントリー数が増えたのは、「リノベで自分らしい家を手に入れたい」というユーザーが増え、「中古を購入してリノベ」が、住宅を取得する際の選択肢の一つとして当たり前のように意識されるようになったのが一因だと考えられます。今回のエントリー作品一般投票の「いいね!」数が前回の3倍ほどに増えているのも、そうした背景があるからではないでしょうか。

リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、住宅メディア関係者を中心に編成された選考委員によって「今一番話題性がある事例・世相を反映している事例は何か」という視点で選考されるため、年によって受賞作品の傾向がさまざまに変化します。
例えば、2017年は「施主の思いを叶えるオーダーメード」「魅力度を増す再販リノベ物件」、2016年は「空き家リノベが街を活性化」「多様化するDIYリノベ」「インバウンド向けのお宿づくり」「住宅性能を格段に高める」、2015年は「地域再生につながる団地リノベ」「古いものをそのまま活かす」など、リノベトレンドを表した作品が目立っていました。

今回は「作品のクオリティの高さが相当にレベルアップしている」「どれがグランプリに選ばれてもおかしくなかった」と講評されたように、選考は難しく、激戦だったそうです。その戦いを制したグランプリをはじめ、全18受賞作の中から、注目した作品とポイントを見ていきましょう。

【注目point1】「この建物だからこそ」という強い思いが、リデザインを導く

[総合グランプリ]
黒川紀章への手紙(タムタムデザイン+ひまわり) 株式会社タムタムデザイン

空間の仕切りにガラスを多用する大胆なアイデアで、室内のどこからでも海へと視線が伸びます。朝焼けや夕焼けに染まる関門海峡を望む、魅力あるロケーションを最大限活かした作品(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

空間の仕切りにガラスを多用する大胆なアイデアで、室内のどこからでも海へと視線が伸びます。朝焼けや夕焼けに染まる関門海峡を望む、魅力あるロケーションを最大限活かした作品(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

空間をつなげて、玄関にも明るさと開放感を。施工面積69.08平米で、費用は700万円(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

空間をつなげて、玄関にも明るさと開放感を。施工面積69.08平米で、費用は700万円(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

Beforeの写真。このように以前のマンションではよく見られる間取りと内装でした(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

Beforeの写真。このように以前のマンションではよく見られる間取りと内装でした(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

1999年に建築界の巨匠・黒川紀章氏が設計したマンション「門司港レトロハイマート」の一住戸。レトロな街並みに溶け込む外観に比べて無個性だった室内空間を、海と山に囲まれた立地の魅力を最大限引き出すように工夫。リビングからしか絶景を望めなかった間取りを変え、開口部に向かって空間を縦に仕切り、間仕切り壁全体や壁上部をガラスとすることで、室内のどこからも絶景に視線を誘う仕掛けに。

この作品は、リノベ会社が中古物件を購入し、リノベを施した上で販売する「再販リノベ物件」。万人受けするデザインが求められがちな再販物件ですが、設計士は黒川紀章氏の設計思考を読み解き、この土地に本来あるべきだと考えられる住戸の姿を見出して、あえて大胆にリデザインすることで、質の高い一点モノの個性をもたせています。
「このマンションならではという説得力がある」と選考委員を唸らせていました。

【注目point2】すべての人の居場所となる多目的空間が熱い

[無差別級部門・最優秀賞]
ここで何しようって考えるとワクワクして眠れない!~「喫茶ランドリー」 株式会社ブルースタジオ

元工場の高い天井を活かし、居心地の良さを追求。奥にはランドリーマシンが鎮座する不思議な空間に(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

元工場の高い天井を活かし、居心地の良さを追求。奥にはランドリーマシンが鎮座する不思議な空間に(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

オープンから半年ほどでミシンワーク、クラフトワーク、パンづくり、トークショーなど、オーナーや顧客主催の100を超える催しが行われたそう(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

オープンから半年ほどでミシンワーク、クラフトワーク、パンづくり、トークショーなど、オーナーや顧客主催の100を超える催しが行われたそう(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

手袋工場の梱包作業場だった空間を、企業のオフィス兼喫茶イベントスペース「喫茶ランドリー」にコンバージョン。オーナーは「私設の公民館」を目指し、あらゆる人の居場所として設計したそうです。洗濯機やミシン、アイロンなどが置かれ、家事のワークショップやコンサートなども開催。空間の用途を決めず、多目的に誰でも使える場に。オーナーだけでなく、喫茶ランドリーのお客さんがイベントを主催しています。

リノベーションは建物のデザイン性だけでなく、「地域性」も注目される一大要素となっています。地域性とは、そのリノベ物件が新たに街に加わることで、人の流れや暮らしを心豊かに変えてくれるというものです。

空き家となった店舗やオフィス空間などの遊休不動産を、コミュニティスペースや宿泊施設といった人が集う場所にコンバージョンする作品が多く見られますが、使われ方はその作品ごとに多彩です。この「喫茶ランドリー」は使われ方の自由度が“カオス”的に高く、さまざまな交流や出来事を生み出す場所となっている点が高く評価されました。

このほかにも次のような、地域の人々が集う心地よい居場所・複合施設として再生された物件が多いのも近年のトレンド。日本各地で空き物件が生まれ変わっています。

[世代継承コミュニティー賞]
再び光が灯った地域のシンボル『アメリカヤ』 株式会社アトリエいろは一級建築士事務所

商店街のランドマークとして住人に愛された商業ビル。フォトジェニックな雰囲気に新たなファンを呼んでいるとか(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

商店街のランドマークとして住人に愛された商業ビル。フォトジェニックな雰囲気に新たなファンを呼んでいるとか(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

半世紀前に建てられたという古びたたたずまいをそのまま活かし、9つのテナント、コミュニティスペースの入る建物として復活しました(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

半世紀前に建てられたという古びたたたずまいをそのまま活かし、9つのテナント、コミュニティスペースの入る建物として復活しました(写真提供/株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

【注目point3】無個性な新築を一変。「新築リノベ」が市場ニーズを拓く

[1000万円未満部門・最優秀賞]
『MANISH』新しさを壊す 株式会社ブルースタジオ

既存のプランの無駄を削ぎ落としてシンプルに。カラーリングや曲線で個性を表現した物件(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

既存のプランの無駄を削ぎ落としてシンプルに。カラーリングや曲線で個性を表現した物件(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

新築の分譲一戸建てをリノベーションした作品が部門別最優秀賞となりました。一般に、ローコストを売りにしている分譲一戸建ては、コストを抑え、販売しやすいよう汎用的なデザインにするので、画一的で無個性な建物であることが多く見られます。そんな新築で購入した家を、数百万円かけてリノベーションする事例がここ数年で見られるようになりました。セルフリノベーションやDIYする人も年々増えていると感じます。これらは、「より個性的な住まいに」「より自分たちに合う住まいに」というニーズが生んだ現象です。

一般に「リノベーションの意義とは既存建物の再生」であることから、選考会でも受賞対象としてどうかという議論もあったそうです。しかし、新築であっても購入者のニーズを満たさない家に、間取りやデザイン、性能を向上するよう手を加えることで新たな価値をもたらすことは、リノベーションの意義を感じさせます。賢い選択となりうるという点で評価を受けました。
画一的な分譲住宅のあり方にも一石を投じた「新築リノベ」は、時代のニーズを捉え新たな広がりも感じさせています。

【注目point4】デザイン訴求が突き抜けている

[1000万円以上部門・最優秀賞]
家具美術館な家 株式会社grooveagent

「4年暮らしたデンマークで集めたお気に入り家具をゆったり置けること」がデザインテーマ(画像提供/株式会社水雅)

「4年暮らしたデンマークで集めたお気に入り家具をゆったり置けること」がデザインテーマ(画像提供/株式会社水雅)

好きなものが常に目に入るような間取りと壁や床の色に仕上げています(画像提供/株式会社水雅)

好きなものが常に目に入るような間取りと壁や床の色に仕上げています(画像提供/株式会社水雅)

「家具美術館」という作品名が表すように、数々のデンマーク家具・照明の名作を見せることに特化したミニマル空間に仕立てました。北欧家具を置く家はどちらかというとほっこりしたカフェ的空間となりがちですが、家具の有機的なフォルムやファブリックの色合いを引き立てるよう、美術館のようなホワイトキューブ的空間にして床壁天井を白基調に。家具のデザインが際立つ空間となりました。

住宅デザインでは建築そのものを主役と捉え、家具は二の次という扱いが多いのですが、それが入れ替わった空間づくりとなっています。

このほかにも下記作品のように、施主のデザインへの追求が「半端ないって!」という作品も目立っていました。

[特別賞・こだわりデザインR1賞]
もっと黒くしたい 株式会社ニューユニークス

「全てを黒くしたい」という施主の強烈な思いが形になった家。どんな黒をどう用いるのが理想的なのか話し合いを重ね、つや消しの黒でグラデーション的に仕上げた空間です(画像提供/株式会社ニューユニークス)

「全てを黒くしたい」という施主の強烈な思いが形になった家。どんな黒をどう用いるのが理想的なのか話し合いを重ね、つや消しの黒でグラデーション的に仕上げた空間です(画像提供/株式会社ニューユニークス)

[500万円未満部門・最優秀賞]
groundwork 株式会社水雅

ヴィンテージ感漂う作品。予算に縛りがあるなかでどこに力点を置くか、施主と設計士の知恵とこだわりが活かされています。本当に500万円未満なの?という作品が増えている中で、特にチャレンジ性のあるこの作品が受賞(画像提供/株式会社水雅)

ヴィンテージ感漂う作品。予算に縛りがあるなかでどこに力点を置くか、施主と設計士の知恵とこだわりが活かされています。本当に500万円未満なの?という作品が増えている中で、特にチャレンジ性のあるこの作品が受賞(画像提供/株式会社水雅)

【注目point5】温故知新・古さの心地よさを知る

再生によって、古いものが持つ味わいや温かみが蘇った事例は、そこを訪れる人々の心まで温めてくれます。役割を終えて朽ちていくだけの建物、見捨てられた住宅が新たな役目を持ち、人々に愛される存在となるからです。そうした作品も注目を集めていました。

[デスティネーションデザイン賞]
国境離島と記憶の再生(タムタムデザイン+コナデザイン) 株式会社タムタムデザイン

20年前から空き家となり、廃墟寸前だった築90年の元旅館と蔵。壱岐島という小さな離島の全住人がこの建物の再生を希望したそうで、新たに島外の人をも魅了する旅館と飲食店として蘇りました。90年分の人々の記憶を未来へ引き継ぎます(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

20年前から空き家となり、廃墟寸前だった築90年の元旅館と蔵。壱岐島という小さな離島の全住人がこの建物の再生を希望したそうで、新たに島外の人をも魅了する旅館と飲食店として蘇りました。90年分の人々の記憶を未来へ引き継ぎます(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

[ヘリテイジリノベーション賞]
築187年、執念のお色直し 株式会社連空間デザイン研究所

1831年に建てられた古民家を昔の面影をそのまま活かし、店舗・レストランにリノベーション。竣工後、引き渡し直前に熊本地震で柱が傾き、瓦が落ち、土壁は剥がれるという大きな被害を受け、さらに再建に1年を要したそうです(画像提供/株式会社連空間デザイン研究所)

1831年に建てられた古民家を昔の面影をそのまま活かし、店舗・レストランにリノベーション。竣工後、引き渡し直前に熊本地震で柱が傾き、瓦が落ち、土壁は剥がれるという大きな被害を受け、さらに再建に1年を要したそうです(画像提供/株式会社連空間デザイン研究所)

リノベは一点モノのオーダーメードだから、多様化がより深化

これまでのリノベーション・オブ・ザ・イヤーでは、その年ならではのトレンドや社会性というものをはっきり見て取ることができました。しかし今回は、作品数が多いこともあってか、傾向というよりは内容の多彩さとカテゴリーの幅広さが注目されました。

リノベーションは、「こんな暮らしがしたい」「こんな場所をつくりたい」という熱い思いを具体的な形に変えてくれる、住人やオーナー一人一人にとっての一点モノ、究極のオーダーメードでもあるので、事例が多彩なのは当然のことなのだと実感する年となりました。
前章で紹介した作品以外にも、次のようにバリエーションの幅が広く、個性の際立った作品が多々ありました。

●「リビ充(リビング充実)」をテーマにおしゃれに。心豊かに暮らせる築45年の団地(下写真参照)
●6000万円をかけた再販リノベ物件。資産価値を格段に高めた築130年の京町家(下写真参照)
●商店街の中心にある商業ビルを温もりある雰囲気の保育園にコンバージョン(下写真参照)
●ファッションブランドというニュープレイヤーが提案する、コーデも収納もしやすいプラン(下写真参照)
●新宿駅南口駅前の築39年のオフィスビルに、住機能を併せ持ったオフィス空間を提案
●家の中心に箱型階段室を設け、明るさや風通しなど暮らしの快適性能をアップさせた一戸建て
●劣化した屋根や天井床壁、サッシの断熱化、太陽光発電器の搭載などで低燃費に暮らす

コストパフォーマンスデザイン賞「リビ充団地」。団地が低コストでおしゃれに(写真提供/タムタムデザイン)

コストパフォーマンスデザイン賞「リビ充団地」。団地が低コストでおしゃれに(写真提供/タムタムデザイン)

ベストバリューアップ賞「OMOTENASHI HOUSE」。風致地区の高台という立地の良さも活かされています(写真提供/株式会社八清)

ベストバリューアップ賞「OMOTENASHI HOUSE」。風致地区の高台という立地の良さも活かされています(写真提供/株式会社八清)

共感リノベーション賞「そらのまちほいくえん」。鹿児島天文館の商業ビルを子どもが集う場所に(写真提供/内村建設株式会社)

共感リノベーション賞「そらのまちほいくえん」。鹿児島天文館の商業ビルを子どもが集う場所に(写真提供/内村建設株式会社)

ベストマーケティング賞「WEAR I LIVE」。試着室のようなクローゼットでコーデが楽に(写真提供/フージャースコーポレーション)

ベストマーケティング賞「WEAR I LIVE」。試着室のようなクローゼットでコーデが楽に(写真提供/フージャースコーポレーション)

今回のバリエーション豊富な作品群を拝見し、さまざまな制約のもと自由な発想で施されたリノベーション作品それぞれに、新たな役割をもった建物の「再生の物語」を数多く垣間見ることができました。既存の建物にまったく異なる価値をもたらすのがリノベの一番の醍醐味。今後も一人一人の熱い思いを形にした多彩な作品の完成を期待しています。

赤絨毯にタキシードが決まっている受賞者のみなさん。受賞作品数は過去最多となりました(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

赤絨毯にタキシードが決まっている受賞者のみなさん。受賞作品数は過去最多となりました(撮影/SUUMOジャーナル編集部)

●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2018」

「次世代住宅ポイント制度」創設! 消費増税の前と後、どちらで買うべき?

平成31年度予算案が閣議決定したことを受けて、国土交通省は消費税率引き上げを踏まえた住宅取得対策の目玉となる「次世代住宅ポイント制度」の概要を公表した。今まさに、住宅の建築や購入を検討している人には見逃せない制度になるだろう。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「次世代住宅ポイント制度を創設」を公表/国土交通省最大で新築は35万、リフォームは30万ポイント

新しく住宅のポイント制度が創設されるのは、消費税率引き上げによる駆け込みの緩和が目的だ。

かつて申し込みが殺到した「住宅エコポイント」のような制度を検討していると報道されていたが、エコ住宅に限らずに、対象となる範囲を広げた「次世代住宅ポイント制度」を創設することになった。

受け取れるポイント(1ポイント=1円相当)は、マイホームの新築、購入の場合で最大35万ポイント、住宅のリフォーム(貸家を含む)の場合で最大30万ポイントになる。

では、次世代住宅とはどういった住宅か?どんな条件を満たせばポイントが受け取れるのか?

基本的には、「環境」や「安全安心」、「高齢者対応」、「子育て支援」などについて性能の高い住宅ということになるのだが、新築や購入の場合とリフォームでは大きく異なる。

●マイホームの新築・購入の場合
基本的な条件は、⼀定の省エネ性、耐久性、耐震性、バリアフリー性能を満たす住宅であること。目安になるのは、住宅金融支援機構と民間金融機関が提携する【フラット35】で、当初一定期間金利を引き下げる【フラット35S】が適用される住宅と考えればよいだろう。この条件を満たせば30万ポイントが受け取れる。

さらに性能を引き上げたり、家事負担を軽減する設備を設置したり、耐震性のない住宅を建て替えたりした場合はポイントが加算されるが、上限は1戸当たり35万ポイントまでとなる。

●住宅のリフォームの場合
断熱改修、エコ設備の設置、耐震改修、バリアフリー改修に加え、家事負担を軽減する設備の設置やインスペクションの実施などについて、それぞれ決められたポイント(0.2~15万ポイント)が設定され、該当するごとに加算される。上限は1戸当たり30万ポイントまでだ。

ただし、若者・子育て世帯がリフォームを行う場合などの条件を満たせば、ポイントの上限が引き上げられる特例がある。特例が適用されると最大で上限が60万ポイントになる。

もちろん消費税増税の影響を緩和するための対策なので、税率10%が適用される「2019年10月1日以降に引き渡される住宅」が前提条件だ。ただし、住宅の場合は「経過措置」が設けられている。半年前の2019年3月31日までに建築請負契約を結んだ場合は、引き渡しが2019年10月1日以降でも旧税率の8%が適用されることになっている。

したがって、新築やリフォームの場合は、経過措置の対象外となる「2019年4月1日以降に請負契約をする」といった条件が加わる。かつ、期限付きの措置なので、2020年3月31日までに建築請負や売買の契約を締結するという条件もある。

消費増税の影響を緩和する4つの支援策

さて、新制度の創設により、消費税率10%引き上げの際に、その影響を緩和する支援策が出そろった。

「住宅の建物の取得価格」や「リフォーム工事」で2%上乗せされる消費税の増税分を、以下の4つの制度を組み合わせることで、どれだけお得になるかを判断して、増税対策を考えるとよいだろう。

今回の制度のポイントを、改めて簡単におさらいしておこう。

 ○住宅ローン減税の控除期間を3年延長(建物購入価格の消費税2%分の範囲で減税)
 ○すまい給付金の拡充:対象となる所得階層を拡充、給付額も最大50万円に引き上げ
 ○次世代住宅ポイント制度:新築は最大35万円、リフォームは最大30万円相当のポイントを付与
 ○贈与税の非課税枠の拡充:非課税枠を最大1200万円から最大3000万円に引き上げ
 
どの制度が適用されるかは、取得する人や住宅の条件によって異なる。例えば、取得する人の年収や住宅ローンの有無とその額、親からの贈与の有無、取得する住宅の性能のレベルなどだ。

なお、「次世代住宅ポイント制度」は、これからの国会で、予算案が成立することが前提になる。まだ正式に制度が認められる前ではあるが、経過措置の対象となる期限が3月末までと迫っているので、支援策のそれぞれの制度についてしっかり情報を入手して、今のうちから検討しておくべきだ。

2018年不動産市場を5つのキーワードで総括 注目は「消費増税」「不動産放棄制度」検討始まる

2018年もあと数日で終わりを迎えます。今年、不動産界隈では、どんな出来事が起こったのか。毎年恒例、5つのキーワードを元に2018年の不動産市場を振り返ってみましょう。今年は以下の5つのキーワードをピックアップしました。

【今年の注目5大キーワード】
キーワード1:免震・制振データ偽装
キーワード2:不動産放棄制度の検討
キーワード3:北海道胆振東部地震
キーワード4:消費増税
キーワード5:不動産テック協会設立

詳しくみていきましょう。

キーワード1:免震・制振データ偽装

タワーマンションなどに多く採用される免震・制振装置のデータが偽装・改ざんされ、市場に衝撃が走りました。仮に物件名が公表されていたら、風評被害によってこうした装置を採用する中古マンションが売れなくなるのではないかといった懸念もありましたが、数年前の免震ゴムデータ偽装事件と同様、マンション名の公表はなく、市場に影響は見られませんでした。データが改ざんされた装置に関しては、2年程度をめどに交換することが約束されていますが、折からの人手不足などから工期が長引いたり、個別物件名が出回ったりすると、その限りではないでしょう。マンション購入時にこうした詳細なデータを確認することは一般的ではありませんし、仮に確認できたとしても偽装を見抜くのは困難です。今後こうした不祥事のないことを祈るばかりです。

キーワード2:不動産放棄制度の検討

「都心」「駅前・駅近」「大規模」「タワー」といったキーワードで想起されるマンションなどは、2012年の民主党から自民党への政権交代以降、価格は上昇の一途をたどってきました。その一方で、空き家や所有者不明の土地などは増大し続けています。

こうした中、不要な土地のみを放棄できる制度(不動産放棄制度)を政府が検討し始め、「骨太の方針」にも盛り込まれました。現在はもし不要な不動産の相続放棄をしたくても、不動産だけを単独で放棄はできません。民法の規定では「所有者のない不動産は国庫に帰属する」といった規定はあるものの、具体的な手続きを定めたルールもありませんでした。これが具体的に法制化されると、その制度の利用者はかなりの数に上ることが予想されます。具体的な制度の詳細は不明ですが、来夏に公表される「空き家調査」(住宅・土地統計調査/総務省)では、全国の空家は1000万戸を超え、空家率は17パーセント程度にのぼると見込まれる中、不要な不動産の処理がある程度進む可能性があります。

キーワード3:北海道胆振東部地震

2018年9月には「北海道胆振東部地震」が発生。最大震度7、規模はマグニチュード6.7と大規模なものでした。ここ数年、大規模な地震や土砂崩れ、水害などが続き、日本はまさに災害列島であると思い起こされると同時に、その対策が模索される1年でした。個人が注意すべきこととしては、まず「建物の耐震性」と、さらには「地盤のゆれやすさ」、そして「土砂災害や浸水可能性」などの検討です。建物の耐震については診断や改修によって対応できますが、そもそもその建物がどのような土地にあるのかということを、強く意識する必要があるでしょう。同時に、こうした災害が起きた際に被害を最小限に食い止めることができるような都市計画の検討と実行が望まれます。

キーワード4:消費増税

2019年10月には8パーセントから10パーセントへの消費増税が予定されています。かつての増税時のように駆け込み需要やその後の大きな落ち込みがないよう、住宅には「住宅ローン減税期間の延長」や「住宅エコポイント」「すまい給付金」の付与などが検討されており、制度詳細いかんでは、増税前後に大きな影響はなさそうです。ただし建築費は高止まりを続けており、建設業などの人手不足は今後さらに加速することから、建築コストが下がる余地は今のところなさそうです。

キーワード5:不動産テック協会設立

IoTやブロックチェーン、AI・VRなどの新技術が注目される中、こうした技術を活用して不動産業界や市場に変革をもたらすべく「不動産テック協会」が11月に設立されました。同協会にはテックベンチャーのほか、大手不動産会社も加わり期待が集まっています。不動産とこうした技術との相性は非常に良く、不動産の未来は明るく楽しいものになるといいですね。

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18年はこの他にも「金融機関による融資データ改ざん」「地面師事件」「欠陥アパート問題」「都心部での児童相談所建設反対運動」など不動産関連の話題に事欠かない1年でした。さらには「EUの金融緩和縮小」「米の利上げ継続」といった方針が打ち出される中、基本的には国際的な協調が望まれる金融政策の中で、日本の金融緩和や低金利政策をいつまで継続できるのかといった大きな課題や、株価の変調も見られます。こうした中で19年の不動産市場がどうなるのか。次回のコラムでお届けします。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

デュアルライフ・二拠点生活[5]山梨県南巨摩郡、月に一度のゆる田舎暮らし。手間とお金をかけず楽しむデュアルライフ

「まさか、自分の人生で猿と本気で戦う日々が訪れるとは思ってもいませんでした」。そう語るのは、都会暮らしの長いHさん(40代)。月に一度、四方を山に囲まれた、住む人もまばらな里山で、悠々自適なデュアルライフ(二拠点生活)を楽しんでいます。天候や害獣に翻弄されはするものの、それも楽しみ方のひとつ。友人を招いてのアウトドア料理やDIYなど、新たな趣味も生まれました。なぜ、そのようなライフスタイルの変化が起きたのか、Hさんにうかがいました。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
デュアルライフ(二拠点生活)にはこれまで、別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイア組が楽しむものだというイメージがありました。しかし最近は、空き家やシェアハウス、賃貸住宅などさまざまな形態をうまく活用してデュアルライフを楽しむ若い世代も増えてきたようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます東日本大震災をきっかけに、土地に根差した生活を志向

Hさんはフリーランスのライター/雑誌記者。普段は、都心の事務所を拠点に、取材や原稿執筆に追われています。東京で生まれ、大阪を経て、横浜育ち。田舎とは無縁の生活を送ってきましたが、学生時代から、年に1、2回ほど、山梨県南巨摩郡にある人里離れた山中の集落に足を運んでいたとのこと。そこは、Hさんの祖父が生まれ育った土地。鎌倉時代から続くH家のルーツなのだそうです。

「最盛期には90人近くの住民がいたそうですが、急速に過疎が進行。祖父自身も、若くして山を下り、北海道に移り住みました。ただ、晩年になり、故郷に錦を飾りたくなったのでしょう。老朽化が進み、住む人もいなくなった生家を建て直し、瓦葺きの立派な母屋を新築したのです」

それが、40数年前のこと。ただ、新築後の数年を除き、すぐに空き家になってしまったそうです。

「そのため、私の両親や親戚がたまに手入れに行き、家を維持してきました。私自身も、学生時代から年に1、2回、墓掃除などに駆り出されていたんです。ただ、自宅から片道3時間弱かかるし、夜は真っ暗。私にとって、仕方なく行く場所でしかなく、次第に足は遠のいていきました」

(写真撮影/内海明啓)

(写真撮影/内海明啓)

(写真撮影/内海明啓)

(写真撮影/内海明啓)

築40数年。長く無人であったとは思えないほどしっかり保たれた室内。間取りは、なんと8LDK。山間だけあって日照時間は限られるが、室内には明るい日が差し込む(写真撮影/内海明啓)

築40数年。長く無人であったとは思えないほどしっかり保たれた室内。間取りは、なんと8LDK。山間だけあって日照時間は限られるが、室内には明るい日が差し込む(写真撮影/内海明啓)

祖父の実家でありながら、次第に足が遠のいていった土地。そうした意識が、180度変わったのが、東日本大震災だったとHさんは言います。

「テレビ番組で、タレントが畑を耕しながら、『村』を開拓する企画がありましたよね。好きな番組でしたが、原発事故により、その『村』が帰還困難区域に含まれたことを知りました。私も当時、仕事やボランティアで福島に何回か足を運びましたが、多くの人が理不尽にも、土地を追われたことに心を痛めました。私自身は、根無し草のような生活をしてきたけれど、本来、農耕民族である日本人にとって、土地は切っても切り離せないもの。たまたま、自分にはゆかりの土地がある。土地と共に暮らすとはどういうことか、肌感覚として知りたくなったんです」

土いじりやアウトドアとは無縁の生活からの第一歩

そんな思いから、Hさんのデュアラー(二拠点生活者)としての暮らしが始まりました。とは言っても、あくまで「気軽に、肩ひじ張らず」がコンセプト。土地を開墾し、小さな畑でもつくり、新鮮な野菜を肴(さかな)に、うまい酒が飲めればそれでいい、くらいに考えていたそうです。

「当時、『週末農業』という言葉が流行っていましたが、毎週なんてとても無理。そこで、『月1農業』と名付け、月1回のペースで都内から通うことにしたんです。最初のうちは、キュウリやナス、白菜など、さまざまな野菜を育てましたが、収穫のタイミングを逸したり、手入れが追いつかなかったりと大変。3年目以降は、月に1回の訪問でも育つ、ジャガイモやサツマイモなどの根菜を主力作物としています」

ありがたかったのは、設計関係の仕事をしている友人のAさんが趣旨に賛同してくれたこと。畑や造作関係で多大な力を発揮してくれているそうです。なんと、今ではHさんより訪問回数が多いとか。ほかにも、収穫の時期を中心に、多くの友人・知人が遊びに来てくれると言います。

最初のシーズンの収穫物。収穫時期を逸して、キュウリやナスが巨大化してしまった(画像提供/Hさん)

最初のシーズンの収穫物。収穫時期を逸して、キュウリやナスが巨大化してしまった(画像提供/Hさん)

友人のAさん(右)らとジャガイモを収穫。大勢来ても大丈夫なように、たくさんの作業着や長靴が用意されている(画像提供/Hさん)

友人のAさん(右)らとジャガイモを収穫。大勢来ても大丈夫なように、たくさんの作業着や長靴が用意されている(画像提供/Hさん)

農業どころか家庭菜園の経験もなかったHさん。最初は、ホームセンターで購入した苗を、プラスチックの黒いポットごと土に植えようとしていたほど。それが今では、たい肥を自作するまでになりました。

「ジャガイモの茎に、ミニトマトのような実がなって驚いたことがありましたが、ジャガイモもトマトも同じナス科の植物と知って納得。そんな、小さな気づきが、行くたびに生まれました。無農薬で育てた不格好な白菜が、虫の棲み処と化しているのを見たときは、農家さんの努力に頭が下がると同時に、スーパーに並ぶきれいな野菜は、どれだけ農薬を使っているのだろうか、と思ったり」

そうした害虫以上に手強いのが害獣だと、Hさんは力説します。

「新芽をすぐに摘んでしまう鹿や、土を掘り返す猪に対しては、畑に侵入しないよう、柵で囲うことで対抗したのですが、問題は猿との終わりなき攻防です。ご近所の方も、手を焼いているようでした。奴らは上から攻めてくるので、天井を含め、柵を全面ネットで覆うことで防御態勢を敷きました」

柵の中の作物を狙っている猿。人間が近づくとすぐに逃げるが、遠巻きに獲物を狙っている。こちらの画像は、動くものに反応してシャッターを切る「動物監視カメラ」で撮影(画像提供/Hさん)

柵の中の作物を狙っている猿。人間が近づくとすぐに逃げるが、遠巻きに獲物を狙っている。こちらの画像は、動くものに反応してシャッターを切る「動物監視カメラ」で撮影(画像提供/Hさん)

しかし、友人のAさんが、手間暇かけて育てたトウモロコシを、まさに収穫しにいったその日、猿の一団がナイロン製のネットを破って侵入。一瞬のスキをつかれ、すべて奪われてしまったのだと言います。

「ゆでたてのトウモロコシをつまみにビールを飲むことだけを楽しみにやってきたAさんの怒りは、その時、頂点に達しました。一方、私はといえば、猿と本気で戦っている自分たちの姿が、これまでの都会での生活とかけ離れているため、無性におかしくなり、笑いをこらえるのに必死でした。とはいえ、このまま手をこまねいているわけにもいかず、柵を全面、金網で囲うことにしたのです」
その後、半年かけて金網化を完了するものの、その翌年、まさかの大雪が。金網にしたことがあだとなり、柵は見事につぶれてしまいます。「本当にぺっちゃんこになってしまい、笑ってしまいました」とHさん。

積雪量が少ない地域にもかかわらず、数十年ぶりといわれる大雪に見舞われ、単管パイプ(足場パイプ)で組んでいた25mプールほどの大きさの柵が崩壊(画像提供/Hさん)

積雪量が少ない地域にもかかわらず、数十年ぶりといわれる大雪に見舞われ、単管パイプ(足場パイプ)で組んでいた25mプールほどの大きさの柵が崩壊(画像提供/Hさん)

その後、小さな柵を複数再建するも、今に至るまで、猿の軍団の遊び場と化している(画像提供/Hさん)

その後、小さな柵を複数再建するも、今に至るまで、猿の軍団の遊び場と化している(画像提供/Hさん)

新旧の友人が集う、大人の「秘密基地」として機能

それ以外にも「水道管が破裂した」「台風で屋根の瓦が吹っ飛んだ」「付近で山火事が起きた」「土砂崩れで道がふさがれた」「ネズミが食べ物を食い散らかした」など、行くたびにトラブルが生じます。しかし、そんな騒ぎも、楽しめるくらいたくましくなってきたとHさん。人里離れた、山暮らしの魅力とは何でしょうか。

夏から秋にかけてはスズメバチが活発化。日本酒やみりんでつくった自家製トラップの効果は高いが、軒下等に巣を見つけた場合は、シルバー人材センターなどに連絡して駆除してもらう(写真撮影/内海明啓)

夏から秋にかけてはスズメバチが活発化。日本酒やみりんでつくった自家製トラップの効果は高いが、軒下等に巣を見つけた場合は、シルバー人材センターなどに連絡して駆除してもらう(写真撮影/内海明啓)

「昔から、モノづくりやDIYに興味があったんです。けれど、都心の住宅地では、物音を立てるわけにはいきません。でも、ここでは、電気ノコギリや電動ドリル、エンジンチェーンソーを使っても、誰にも迷惑がかかりません。燻製やバーベキューなど、煙や臭いが出る調理もできるし、大音量で映画や音楽を楽しむこともできるんです」

(写真撮影/内海明啓)

(写真撮影/内海明啓)

屋外での調理やバーベキューでも、煙や臭いを心配する必要はなし(写真撮影/内海明啓)

屋外での調理やバーベキューでも、煙や臭いを心配する必要はなし(写真撮影/内海明啓)

Hさんたちがつくったのは、ウッドデッキをはじめ、テーブル、カウンター、石窯、アウトドアキッチン、ドラム缶風呂など、挙げればきりがありません。

「憧れだった電動工具をひと通りそろえました。コンクリートで基礎をつくるのも、昔からしてみたかったこと。今後は、溶接や鉄工に挑戦しようと思っています」

(画像提供/Hさん)

(画像提供/Hさん)

単管パイプと木材を併用して製作したウッドデッキ。母屋と庭を結ぶ大切な接点であり、憩いの場。この後、1.5倍に拡張したうえ、蚊帳や日除け、照明、ハンモックなどが吊るせるよう、柱と梁を設置した(画像提供/Hさん)

単管パイプと木材を併用して製作したウッドデッキ。母屋と庭を結ぶ大切な接点であり、憩いの場。この後、1.5倍に拡張したうえ、蚊帳や日除け、照明、ハンモックなどがつるせるよう、柱と梁を設置した(画像提供/Hさん)

自作の石窯はHさんの自信作。ただし、ピザを焼く適温の400度になかなか達しないのが悩み。改良の余地ありだとか(写真撮影/内海明啓)

自作の石窯はHさんの自信作。ただし、ピザを焼く適温の400度になかなか達しないのが悩み。改良の余地ありだとか(写真撮影/内海明啓)

裏の竹林から切り出した青竹でオリジナルの門松を製作。コストは限りなくタダに近い(画像提供/Hさん)

裏の竹林から切り出した青竹でオリジナルの門松を製作。コストは限りなくタダに近い(画像提供/Hさん)

先ほどから、料理の写真が続いていますが、Hさん自身は、決して料理が得意なわけではありません。都会の暮らしでは、なかなか味わえないような料理づくりも楽しみのひとつだとか。

「料理好きの友人が多いので、一緒になって、いろいろなことに挑戦しています。そば打ちや、手打ちうどん、流しそうめん、鯛の塩釜焼きといった和食から、自家製ソーセージやハンバーガー、パエリアやシュラスコなどの各国料理まで。七面鳥を焼くこともあるんです」

バウムクーヘンもづく作り。生地を塗った竹を炭火にかざし、回転させながら一層一層、焼き上げたのだそう(画像提供/Hさん)

バウムクーヘンも手づくり。生地を塗った竹を炭火にかざし、回転させながら一層一層、焼き上げたのだそう(画像提供/Hさん)

最近はパンづくりにも挑戦。ピザを焼いた後の石窯に発酵させたパン生地を投入し、鉄扉をとじるだけで見事な食パンが完成(画像提供/Hさん)

最近はパンづくりにも挑戦。ピザを焼いた後の石窯に発酵させたパン生地を投入し、鉄扉をとじるだけで見事な食パンが完成(画像提供/Hさん)

定番メニューと化しているという燻製。安いチーズやウインナーが極上のつまみになる(画像提供/Hさん)

定番メニューと化しているという燻製。安いチーズやウインナーが極上のつまみになる(画像提供/Hさん)

年に2回、農作物の「収穫祭」を実施。ここ数年は、現地に来られない人のために、収穫した作物を東京に持ち帰り、友人宅で豪華なホームパーティーを開催している(画像提供/Hさん)

年に2回、農作物の「収穫祭」を実施。ここ数年は、現地に来られない人のために、収穫した作物を東京に持ち帰り、友人宅で豪華なホームパーティーを開催している(画像提供/Hさん)

月1で通いだして3年目のこと。それまで携帯電話の電波もつながりづらかった土地に、光回線が開通し、インターネットが使えるようになりました。

「画期的な出来事でした。滞在期間中に急な仕事や作業が発生しても、都内の仕事場に戻らずにある程度の対応ができるようになりました。また、映画や音楽の配信サービスも利用できますから、大音量でそれらを楽しむこともできます。いずれにしろ、月に1回、リフレッシュする時間、空間があるというのは、都内で仕事をするうえでも貴重です」

二拠点生活をするようになって、話しのタネに困らなくなったと話すHさん。はじめて会う人でも、興味をもってくれる人が少なくないそう。交通の便がいいとは言えないものの、大勢の友人・知人が遊びに来てくれることが何よりうれしいとも。

「古い友人が訪ねてくれることもあります。知り合いが、その知り合いや家族を連れて来てくれることで、出会いも広がりました。単にうまい酒を飲みに来るのでもいいし、山登りやツーリング、釣りのついでに立ち寄るのでもいい。それぞれの人にとっての『秘密基地』として、機能してくれたらうれしいです」

バーカウンターにはウイスキーが並ぶ。「月に1回程度の訪問だから、封を開けてもボトルキープが利く蒸留酒がちょうどいいんです」とHさん(写真撮影/内海明啓)

バーカウンターにはウイスキーが並ぶ。「月に1回程度の訪問だから、封を開けてもボトルキープが利く蒸留酒がちょうどいいんです」とHさん(写真撮影/内海明啓)

ウッドデッキに照明を灯すと、おしゃれな雰囲気に。雲がないとプラネタリウムのような星空が広がる。初夏にはホタルが飛び交うシーンも(写真撮影/内海明啓)

ウッドデッキに照明を灯すと、おしゃれな雰囲気に。雲がないとプラネタリウムのような星空が広がる。初夏にはホタルが飛び交うシーンも(写真撮影/内海明啓)

夏に、一回り下の友人たちとした花火のひとコマ。世代に関係なく交流が広がっていく(画像提供/Hさん)

夏に、一回り下の友人たちとした花火のひとコマ。世代に関係なく交流が広がっていく(画像提供/Hさん)

祖父から引き継がれた家屋(現在はHさんの父親名義。Hさんは周辺の土地を所有)は、瓦の葺き替えや、井戸水ポンプの交換など、細かい修繕は必要なものの、大規模なリノベーションをしているわけではありません。身の丈にあわせて、コツコツのんびりやるのが性に合っているとのこと。必要以上にお金と手間をかけないことが長続きの秘訣なのでしょう。別荘みたいな使い方だけれど、それよりは頻繁に足を運ぶ大人の「秘密基地」。都会と田舎のいいとこ取り。そんなデュアルライフ(二拠点生活)を求めている人に、ヒントを与えてくれそうです。

テーマのある暮らし[6] 設計に参加してリノベーション! 三角形のキッチンで流れる空間の家

一児の母であり、都内の会社に勤務するTさんは、かつて仕事をしながら設計の勉強をしていました。その経験を生かして、自分の家を自分の手でリノベーション。そのチャンスが訪れたのは、なんと産休・育休期間だったのでした。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。「自分たちの家だから、自分の手で何かしたい」という強い思い

都内の最寄駅から徒歩10分、にぎやかなメイン通りから一歩入るといくつものマンションが立ち並ぶ静かで落ち着いた雰囲気。にぎわいと静けさが程よい距離感のあるエリアに、Tさんが夫と2歳の長女と暮らしているマンションがあります。

ナチュラルな素材が生み出すぬくもりのなかに、斜めに走ったキッチンの天井の紺色がアクセントになり、まるでカフェのようにおしゃれで落ち着いた空間に(写真撮影/内海明啓)

ナチュラルな素材が生み出すぬくもりのなかに、斜めに走ったキッチンの天井の紺色がアクセントになり、まるでカフェのようにおしゃれで落ち着いた空間に(写真撮影/内海明啓)

「物件は以前から探していたのですが、本格的に探しはじめたのは産休・育休のとき。今しかない! と思いました(笑)。設計の勉強をしていたときから、自分の家は自分の手で何かできたらいいな、と思っていたので、物件を探しながらリノベーション会社にも数社相談に行きました」
しかし、Tさんの希望を叶えてくれる会社は見つからなかったそう。

「どこも『一緒に作っていきましょう』とおっしゃるのですが、一緒の“度合い“が見えなくて……。例えば、私は設計の段階から参加して作りたかったのですが、ある程度パターン化されたものから選ぶのでは、自由にできる幅が限られてしまいます。また、解体しなくては状態がわからないリノベーションだからこそ、施工中も、実際に現場を見たうえで壁のクロスが必要なのか? とか、天井をどうしようか? とか、その都度臨機応変に対応できる柔軟性を求めていました。意見を言うタイミングが限られていたり、意見する内容が用意された選択肢の中からパーツを決めるなど、参加範囲が限られてしまうのは、自分たちがやりたい家づくりとは違うなと感じていたんです」

今しかない! 妊娠8カ月からスタートした物件探しとリノベ計画

ある日の夜、Tさんの脳裏によぎったのが、通っていた設計学校で当時、講師をしていて今は夫婦で設計事務所を開いている松尾さん夫妻のこと。
「きっとあのふたりにお願いしたら、楽しく一緒につくり上げてくれるに違いない」。すぐにでも会いに行きたい気持ちを抑えて、松尾さんに相談の電話をしたのが妊娠8カ月の時。この時点では、まだ物件も決まっていなかったそうです。

物件を決める前から「こんな雰囲気が好き」「ステキだな」と思ったものを切り抜いていたスクラップのごく一部。イメージを膨らませながら理想を現実にしていきました(写真撮影/内海明啓)

物件を決める前から「こんな雰囲気が好き」「ステキだな」と思ったものを切り抜いていたスクラップのごく一部。イメージを膨らませながら理想を現実にしていきました(写真撮影/内海明啓)

物件が決まったのは、長女が生後2カ月を迎えたころ。その間も、住まいに対する考えやイメージが見つかると、松尾さんに相談していたそうです。一般的にいえば産前産後という大変な時期ですが、出産という大きなミッションを境に、Tさんにとっての家づくりが本格的にスタートするのです。

「家っていうと一般的に一生の買い物とか長く住む…というイメージですよね。でも、私たちのスタンスは、これから先の5~10年を過ごす場所。今、どんな暮らしがしたいか? を優先して物件を探しました」(画像提供/TAIMATSU)

「家っていうと一般的に一生の買い物とか長く住む…というイメージですよね。でも、私たちのスタンスは、これから先の5~10年を過ごす場所。今、どんな暮らしがしたいか? を優先して物件を探しました」(画像提供/TAIMATSU)

「このマンションは築50年。玄関を入るとすぐ階段で、そこを上がってから居住スペースにつながります。使いやすいかどうかでいったら、多分不便なのでしょうけど(笑)、階段によって空間が切り替わって楽しいな、と感じました。あとは、お客さんをお招きしたかったので、リビングを大きくとるのは最初から決めていて、個室にわかれている部屋をひとつにしたら広く使えるだろう、と思っていました」とTさん。

家の片隅にあったキッチンを中央に配置し、かつてのキッチンは寝室に。部屋や収納の区切りも取り払って、可能な限りスペースを確保。設計図はTさんが描ける範囲を描いて、松尾さんにフォローしていただいたそうです。

こんなの見たことない! 三角形のキッチンカウンター誕生

実は、当初の予定では、中央のキッチンカウンターは一般的な四角いタイプのものを設置する予定だったとか。しかし、ここで松尾さんから設計学校の講師ならではの一言が……。

「私たちが授業を行うとき、生徒さんに必ず聞くことがあります。それは、『この設計やリノベーションプランで、本当にあなたのやりたいことが満たされますか? 』ということ。彼女にも投げかけてみました」

「部屋に入ってすぐ目の前に四角いキッチンカウンターがどん! とあると、どうしても圧迫感が。それに、リビングに流れる導線としても今ひとつ。もうひとひねりしたくなって、それはもう松尾さんと一緒に、これはどう? 配置を変えたらどうだろう? と時間をかけてひたすら悩みました」と、Tさんは当時描き込んだ何枚もの設計図を見せてくださいました。

そして、ついに生まれたアイデアが、斜めのキッチンカウンターとそれに合わせた斜めの天井。
「誰も見たことないけど、だからこそ面白いかも!? 斜めってアリでしょ」
どんどん盛り上がっていく妻を温かく見守っていたのは、Tさんの夫。…といっても、斜めのキッチンカウンターの話を聞いたときは、どう思ったのでしょう。

「最初は、それって大丈夫なの? と思いました(笑)。斜めのカウンターと聞いてもどんな空間になるのかイメージがつかなかったです。実際できあがってみると、使いやすいですし、良かったなって思うんですけどね(笑)」

キッチンカウンターと天井を同じ角度で斜めに取ったことで、キッチンからダイニング、リビングへと自然に視線が流れるように。各スペースがつながり、より広々とした空間に(写真撮影/内海明啓)

キッチンカウンターと天井を同じ角度で斜めに取ったことで、キッチンからダイニング、リビングへと自然に視線が流れるように。各スペースがつながり、より広々とした空間に(写真撮影/内海明啓)

実際キッチンに立ってみると、十分なスペースが確保できるうえに、手の伸ばせる範囲で作業でき、見た目以上の機能性。対面は座ることも可能で、お客さんとの距離もぐんっと近く、その場に応じてフレキシブルな使い方ができるのもポイントです。

キッチンカウンターの天板は、Tさん自ら探してきた素材を使用。「強度やひび割れの心配は? と聞けばちゃんと調べてきてくれるし、本当に手のかからない教え子です(笑)」と松尾さん(写真撮影/内海明啓)

キッチンカウンターの天板は、Tさん自ら探してきた素材を使用。「強度やひび割れの心配は? と聞けばちゃんと調べてきてくれるし、本当に手のかからない教え子です(笑)」と松尾さん(写真撮影/内海明啓)

「平日の昼間は私がいろいろ動けるので、現場へ行ったり、参考になりそうなものを探したりして、夫が帰ってきたら報告と私がやりたいことのプレゼンタイムです(笑)夫も基本は『普通じゃ、ちょっとつまらない』というタイプなので、そこは私と感覚が似ていて良かったです。平日の夜もそうですが、休日には素材探しなども一緒に見て回ってくれて、助かりました」

家全体の統一感と限られたスペースを生かすための工夫

以前の家から持ってきた家具はひとつだけ。あとは、作りつけの製作家具にしたというTさん。
「全体に統一感を持たせたかったのと、限られたスペースを広く使うためには作りつけがベストだと思いました。それに、斜めに対応する既製品はないですしね(笑)」

使いたいカゴを選んでから、ぴったり収まるように棚の高さを調整。「ウチは物が多いので、収納スペースは大事なんです」とおっしゃいますが、そのように見えないスッキリ感はさすが! 計算し尽くされています(写真撮影/内海明啓)

使いたいカゴを選んでから、ぴったり収まるように棚の高さを調整。「ウチは物が多いので、収納スペースは大事なんです」とおっしゃいますが、そのように見えないスッキリ感はさすが! 計算し尽くされています(写真撮影/内海明啓)

陽当たり抜群の窓際にはハンモック。大人も乗れるそうですが、お嬢さんをはじめ遊びに来た子どもたちもお気に入りなのだそう。取材のときも、乗ってみせてくれました(写真撮影/内海明啓)

陽当たり抜群の窓際にはハンモック。大人も乗れるそうですが、お嬢さんをはじめ遊びに来た子どもたちもお気に入りなのだそう。取材のときも、乗ってみせてくれました(写真撮影/内海明啓)

統一感といえば、壁や天井も大事なポイントで、ちょっとしたさじ加減でニュアンスも変わります。
「リノベーションの場合、壁や天井をはがしてみないとわからないことが多いんですよね。そこはある程度覚悟していたのですが、実際に見てからその都度判断してきました。壁の色は、職人さんが塗ってくださった途中工程の状態を見て、『これ、このままがいい!』と気に入ってそれ以上手を加えない、とか(笑)」

大人が寝られるくらいの大きなソファもオーダーメイド。クローゼットは扉をはずして、お気に入りの壁色になじみやすいカラーのカーテンを用いました(写真撮影/内海明啓)

大人が寝られるくらいの大きなソファもオーダーメイド。クローゼットは扉をはずして、お気に入りの壁色になじみやすいカラーのカーテンを用いました(写真撮影/内海明啓)

このような判断ができたのも、Tさん自らが頻繁に現場へ足を運んで実際を見ていたからこそ。
「現場には娘と一緒に通っていたのですけど、職人の皆さんに良くしてもらい、娘も可愛がっていただきました」愛らしいお嬢さんの笑顔は、職人さんたちにとって癒しのひとときだったのかもしれませんね。

細かい部分も吟味しながら、自分らしさと使いやすさを追求

約半年以上の月日をかけて行ったリノベーションは、「宿題の連続だった」とTさんは語ります。
「学生時代を思い出しましたが、学校の課題と大きく違うのは責任を伴う、ということ。それから、予算ですね。課題のときは、予算のことは一切考えませんでしたから(笑)」

「父が石やタイルの職人なのですが、多くのリノベ会社ではすでに職人さんが決まっているため入れないんですよね。でも、そこも考えていただけて、父にも協力してもらえたのはうれしかったです」とTさんの夫(写真撮影/内海明啓)

「父が石やタイルの職人なのですが、多くのリノベ会社ではすでに職人さんが決まっているため入れないんですよね。でも、そこも考えていただけて、父にも協力してもらえたのはうれしかったです」とTさんの夫(写真撮影/内海明啓)

「カタログを見ていいなぁ、と思っても、大きさやフィット感は実際に触れてみないとわからないんですよ」というTさん。ドアノブひとつも妥協せず、吟味を重ねました(写真撮影/内海明啓)

「カタログを見ていいなぁ、と思っても、大きさやフィット感は実際に触れてみないとわからないんですよ」というTさん。ドアノブひとつも妥協せず、吟味を重ねました(写真撮影/内海明啓)

おしゃれな空間のなかに、保育園に通うお嬢さんの作品スペースがあってほっこり。その上をよ~く見ると、何か突起物が。実はこれ、ドアストッパーなのだそう。何気ない箇所にもTさんのこだわりが表現されています(写真撮影/内海明啓)

おしゃれな空間のなかに、保育園に通うお嬢さんの作品スペースがあってほっこり。その上をよ~く見ると、何か突起物が。実はこれ、ドアストッパーなのだそう。何気ない箇所にもTさんのこだわりが表現されています(写真撮影/内海明啓)

「妻はやると決めたことは絶対にやるタイプなのですが、出産直後ということもあって正直心配もありました。…といっても妻と松尾さんの信頼関係があるので、最悪のときは松尾さんにすべてお願いしちゃおうと(笑)それに、賃貸だとどんなに気に入った物件でも、住んでみると『ここがちょっと…』という不満って出てきますよね。でも、この家は住んで1年ちょっとですけど、そういう不満がないんです。たくさん話し合って、納得しながらつくったものは違うなぁ、と感じます」とTさんの夫。自宅でゆっくり、家族でくつろいで過ごす時間も増えたそうです。

2歳のお嬢さんが懐いているほど、家族ぐるみのお付き合いをしているTさん一家と松尾さん夫妻。リノベーションを通じて、さらに信頼関係が深まりました(写真撮影/内海明啓)

2歳のお嬢さんが懐いているほど、家族ぐるみのお付き合いをしているTさん一家と松尾さん夫妻。リノベーションを通じて、さらに信頼関係が深まりました(写真撮影/内海明啓)

穏やかな口調からは想像できないほど、芯がしっかりしていてバイタリティーあふれるTさん。理想を現実のものにできたのも、あくなき探求心とブレない軸があるからこそ。大人数でも座れて居心地のいいリビングは憩いの場で、家族の楽しくにぎやかな声が印象に残る取材となりました。

●取材協力
・TAIMATSU一級建築士設計事務所

挿花家・雨宮ゆかさんの自然が身近にある暮らし その道のプロ、こだわりの住まい[3]

一面に広がる田んぼを通り過ぎ、坂道を登ると、庭先に薪を積んだ一軒家にたどり着く。ここは、挿花家の雨宮ゆかさんが夫で写真家の雨宮秀也さんと暮らす自宅。ゆかさんは日常の花を生ける教室「日々花」を主宰しながら、各地でワークショップや生け込みなども行っている。教室とはまた別の空間である自宅でどんな風に花を楽しみながら暮らしているのか、話を伺った。【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。

庭にもエントランスにも季節の草花がある。軒先には積まれた薪、日曜大工の道具、玄関の先にある土間には花材が置かれている。リビングに入れば、広い窓からまぶしいほどの光が差し込み、まるで山小屋に来たかのよう。玄関に入る前から気持ちがいい空間だということが伝わってくる。

「ここは小屋みたいな家なんです。家を建てるときに伝えたのは、自分たちの暮らし方。それをもとに中村さんが考えてくださった形がこの家なんです」とゆかさんは話す。中村さんとは建築家の中村好文氏。住宅を多く手がけているだけあり、暮らしやすい家をつくるスペシャリストである。

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

暮らし方を伝えてできた、五右衛門風呂のある一軒家

家を建てるに当たり、当時住んでいたアパートでの暮らしを要望書にまとめたという。見せてもらうとイラストとともに二人の一日がよく伝わってくる内容になっている。朝から電灯をつけなければいけないのが悲しい、本が入りきらない、夫の秀也さんが自宅で撮影するときのスペースが足りないといった不便さや、お昼ご飯は庭で食べることもある、一日の締めくくりはつくりながら飲みながらの晩御飯、など、食の時間を大切にしていることなどが書かれている。

「これ以外の要望は特に伝えなかったと思います。あ、夫と中村さんが二人で盛り上がって五右衛門風呂にしようというのはありました」とゆかさんは当時を振り返る。玄関前にあった薪(まき)は五右衛門風呂のためのものだったのだ。

建築家の中村好文さんに提出したという要望書。ゆかさんがイラストと文章でそれまでの自分たちの暮らしを表現している。不満や不便なこと、何を大切にしているかがよくわかる一枚(画像提供/雨宮ゆかさん)

建築家の中村好文さんに提出したという要望書。ゆかさんがイラストと文章でそれまでの自分たちの暮らしを表現している。不満や不便なこと、何を大切にしているかがよく分かる一枚(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取りもゆかさんが描いた(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取りもゆかさんが描いた(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取り。神奈川県川崎市に建てた。1階はリビングダイニングキッチン兼スタジオに、夫の仕事部屋、お風呂とトイレ。東西に土間が通っている。2階はもともと納戸にしようとしていたスペースをゆかさんの仕事スペースに変更した(画像提供/雨宮ゆかさん)

完成した家の間取り。神奈川県川崎市に建てた。1階はリビングダイニングキッチン兼スタジオに、夫の仕事部屋、お風呂とトイレ。東西に土間が通っている。2階はもともと納戸にしようとしていたスペースをゆかさんの仕事スペースに変更した(画像提供/雨宮ゆかさん)

土間も五右衛門風呂もあるという一軒家。そこでの暮らしは、仕事をしながら薪割りをしたり、庭の手入れをしたりと、やることはたくさんある。
「最近、地主さんから裏の土地を貸してもらえたので、畑を始めたんです。本当は山野草を植えたかったんですけど、ひとまず野菜を始めたら楽しくて」と言う。

五右衛門風呂用の釜にダッチオーブンを入れて料理をしたり、庭に出てコーヒーを飲んだり、教室の生徒が来てわら仕事をしたり、この家だからこそできる生活を楽しんでいる様子が伝わってくる。

1階は玄関から五右衛門風呂まで土間に。花材はもちろん、食材のストックなどの一時置き場としても活躍している。「買い物や仕事帰りにとりあえず荷物を置いておけるのでとても便利です」(写真撮影/雨宮秀也)

1階は玄関から五右衛門風呂まで土間に。花材はもちろん、食材のストックなどの一時置き場としても活躍している。「買い物や仕事帰りにとりあえず荷物を置いておけるのでとても便利です」(写真撮影/雨宮秀也)

秀也さんの希望で作った五右衛門風呂。「薪割りの大変さとかを差し引いても、つくってよかったと思っています。お湯の温まり方が違う。夏は夜のお湯が朝まであたたかいこともあるほど」(写真撮影/雨宮秀也)

秀也さんの希望でつくった五右衛門風呂。「薪割りの大変さとかを差し引いても、作ってよかったと思っています。お湯の温まり方が違う。夏は夜のお湯が朝まで温かいこともあるほど」(写真撮影/雨宮秀也)

無垢材の良さが感じられるから、スリッパは捨てた

新しい家での暮らしを始めてすぐにゆかさんが気がついたのは、スリッパが要らないということ。
「無垢(むく)の床材を使っているのですが、特に仕上げ材などを塗ったりしていないんです。木の質感をダイレクトに感じられるからとても気持ちよくて、スリッパは捨てました」。

また自然と物を片付けるようになったということも、二人にとってのメリットだったとか。
「それまでは仕事道具を持って帰ってきて、リビングやダイニングに置きっ放しということが多かったんです。でも、この家ではそれぞれの仕事部屋をきちんと確保できているし、何よりリビングに物を出ていると気持ちが悪いなと感じるようになった。この白い壁をきちんと見える状態にしておきたいという気持ちがあるから、お互いに何も言わずとも片付けるようになっているんだと思います」と、壁に目を向ける。そこは夫の撮影スタジオとしても使う空間。

左官で白く仕上げた壁の前には、ゆかさんが生けた花が置かれているほかには物はない。余白があることですっきりと感じられ、花も引き立って見える。余白を生むためには、ものを減らすことにも気を配った。
「本はたくさんあるんですが、それでも厳選しました。それに洋服もかなり減らしたと思います。食器も水屋に入るぶんだけにしていますし」と話す。自分たちに必要なものを見極めた暮らしだということがよく分かる。

広く白い壁は、ご主人のスタジオになったり、ゆかさんの花を楽しむスペースになったり、臨機応変に使っている。ものを出しっぱなしにしなくなったというのもよく分かる気持ちのいい空間(写真撮影/雨宮秀也)

広く白い壁は、夫のスタジオになったり、ゆかさんの花を楽しむスペースになったり、臨機応変に使っている。ものを出しっぱなしにしなくなったというのもよく分かる気持ちのいい空間(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

また、「何よりも、朝起きてパチンと電気をつけなくて済むようになったことがすごくうれしくて。天気が悪くても1階はいつも明るいんです」とゆかさん。リビングダイニング、キッチンが一続きになっているので、どこにいても窓の外を眺めることができる。庭にはゆかさんが選んで植えたという草花が生い茂り、その奥には丘の緑が見える。

「ここに住んで気がついたのは、季節は春夏秋冬4つじゃないということ。もっと細かくて、10日単位で季節が変わっていくんじゃないかと思うくらい。例えば、山を見ていると芽吹き始めたころの緑と、葉が開ききった緑とは違うんです」とうれしそうに教えてくれる。広い窓があることで、外と距離が近くなり、自然の移り変わりを身近に感じることができる。「家で仕事をしていても、ご飯を食べたり、お茶を飲んだりしながらふっと窓の外を見れば気分転換になるし、外とのつながりって大切なんだと感じています」

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

草花を飾る前に、まずスペースをきちんと確保する

そうして感じる季節の移り変わりや外の空気は、花を生けるということで室内にも取り入れている。仕事柄、花は常に身近にあるが、自宅でもそれは変わらない。くだんの白い壁の前以外にも、玄関や食器棚にしている水屋箪笥(だんす)の中には、いつも草花がある。

「水屋の中に花を飾るというのは、アパートに住んでいたころに思いついたことなんです。狭くて飾るスペースがないなかでの苦肉の策です」。一段の半分は何も置かないようにして、花のスペースと決めているのだそう。ガラス戸を閉めるとギャラリーのようにも感じられる一角だ。この方法は、動物と一緒に暮らしている人や小さなお子さんがいる人にとっても、草花にいたずらをされずに済むのでオススメだという。

「花を飾るのが難しいという悩みを聞くことが多いんですが、まずは置くスペースを確保することが大切なんです」。ものが多く飾られていたり、収納されている中に草花を飾っても紛れてしまって引き立たない。食器棚の一段の半分だけでもいいから、スペースを空ける。余白をつくることで、飾った花が生き生きとした姿に見えてくるのだ。

以前住んでいた家から持ってきた食器棚代わりの水屋箪笥。これを使いたいと中村さんに伝え、スペースを階段下に確保してもらった。上段の右下を花のスペースと決めて食器は入れないようにしている(写真撮影/雨宮秀也)

以前住んでいた家から持ってきた食器棚代わりの水屋箪笥。これを使いたいと中村さんに伝え、スペースを階段下に確保してもらった。上段の右下を花のスペースと決めて食器は入れないようにしている(写真撮影/雨宮秀也)

背景にものを置かずにスペースを確保するだけで、ぐんと草花が引き立って見える。使っている花器はカップ。専用の花器を使うこともあれば、食器を転用することもあるそう(写真撮影/雨宮秀也)

背景にものを置かずにスペースを確保するだけで、ぐんと草花が引き立って見える。使っている花器はカップ。専用の花器を使うこともあれば、食器を転用することもあるそう(写真撮影/雨宮秀也)

季節を感じられる花や緑を選んで楽しむ

飾る空間をつくったら、実際にどのような花材を選んだらいいのだろう?
「みなさんお花屋さんで購入することが多いと思うんです。そのときに花として選ぶものは1種類でいい。そこにグリーンを加えるようにするのがオススメです。アイビーでもいいし、ハーブでもいい。枝ものを購入できるなら、紅葉している、実がついている、新緑など、季節感を感じられるものを」。

そう言われて玄関の壁を見てみると、花にプラスされているのは小さな柿がなった枝で、なるほどと思う。もしもベランダで鉢植えをしたり、庭で育てることができる人なら、寄せ植えするのもいい、とも。

「寄せ植えだとそれぞれ競い合うのか、かえって丈夫に育つ気がします。それにお互いの植物が虫除けになったりすることもあるから安心。組み合わせるときは、紅葉するものや線の細いもの、まだら入りの葉のものや花のものなど、それぞれ葉に特徴がある緑を選ぶようにすると、生けるときに重宝します」。例えば、もみじ、ススキ、どくだみを組み合わせると、もみじが紅葉し、ススキの細長い線が動きを出してくれ、どくだみでは花も緑も楽しめる。

(写真撮影/雨宮秀也)

(写真撮影/雨宮秀也)

小さな柿がなった枝をあしらった玄関。花に枝ものや葉ものを組み合わせるだけでいいと考えると、気楽に草花を楽しむことができる (写真撮影/雨宮秀也)

小さな柿がなった枝をあしらった玄関。花に枝ものや葉ものを組み合わせるだけでいいと考えると、気楽に草花を楽しむことができる(写真撮影/雨宮秀也)

花を生けるにも、暮らすにも、無理せずに。ゆかさんたちは、それまでの暮らしを考え、自分たちに何が必要かをきちんと見極めて生活している。五右衛門風呂はあるが、広いスペースは必要ない。花を飾る空間は大切だが、たくさんの洋服はいらない。小屋のような一軒家で自然とともに過ごす毎日は、これからもとても健やかに過ぎていくに違いない。

リビングダイニングとキッチンはひとつながりのスペース。「壁などで仕切らないことで開放感もあるし、動線もスムーズ。何よりどこにいても窓の外が目に入るのがうれしい」とゆかさん(写真撮影/雨宮秀也)

リビングダイニングとキッチンはひとつながりのスペース。「壁などで仕切らないことで開放感もあるし、動線もスムーズ。何よりどこにいても窓の外が目に入るのがうれしい」とゆかさん(写真撮影/雨宮秀也)

●プロフィール
雨宮ゆか
日常の花を生ける教室「日々花」主宰。展覧会やワークショップなども開催。身近な植物をさりげなく美しく生活に取り入れる姿にファンが多く、雑誌や書籍などで活躍中。
>HP

住んでいない家のローンを払い続ける!? 離婚後の住居をどうするか問題

離婚にはさまざまな事情があると思われますが、二人でつくった思い出だけならまだしも、子どもや財産がかかわってくると一筋縄ではいきません。「結婚するより離婚する方が大変」という人もいるくらいです。そこで、メリットパートナーズ法律事務所の木村康紀(きむら・やすのり)弁護士に、離婚の際に住居関連で問題になりがちな論点や、事前の予防策、事後の対応方法などについて伺いました。
離婚で問題になるのはやっぱり住宅ローン

「芸能人の○○夫妻が離婚!」というニュースを目にすることはよくありますが、「自分の周りでも離婚している人が増えたような…」と思ったことはありませんか? 厚生労働省の平成 29 年(2017)年「人口動態統計の年間推計」によると、1年間の離婚件数は 21 万 2000 組、離婚率(人口千対)は 1.70 と推計されるとのこと。婚姻件数は 60 万 7000 組ですから、離婚するカップルの多さがうかがえます。

「離婚の際に発生するお金問題には大きく3つあります。一つ目が『慰謝料』、二つ目が『財産分与』、三つ目が『養育費』の問題です。このうち慰謝料は離婚の理由によって金額が変わってきます。財産分与は結婚した年数などに左右されますが、揉めやすいのは住宅ローンが残っているときです」と木村先生。なんとなくそんな気はしていましたが、やはり問題になると分かりました。住宅ローンは2人でつくった負債なので、まだ残っていると不動産を売るにしても問題が生じます。

ついに印鑑を押すときが来た(画像提供/PIXTA) 

ついに印鑑を押すときが来た(画像提供/PIXTA) 

「財産分与については、ふたりでつくった財産を半分にわけるのが基本ですので、一般的には婚姻期間が長い方が額が多くなる傾向にあります。しかし、短い婚姻期間でも大きい財産がつくられている場合もあります」(木村先生)

そして財産分与の際に気になるのが、やはり不動産。住宅ローンを組んでマンションを購入したりマイホームを建てたりしたら、その扱いはどのようになるのでしょうか。

自分の親の援助は「特有財産」になる

「財産分与では不動産の価値も半分にします。ただ、『特有財産』という概念があり、『夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産』(民法第762条)については財産分与の対象となりません。」と木村先生は言います。

例えば、不動産の購入に際して、頭金などを結婚前の自分の貯金から出していたら、不動産の評価額からそれを引いた額が財産分与の対象になります。また、どちらかの親が出した部分も、その金額分は「特有財産」となります。つまり、妻の親が出していれば「妻の財産」なので財産分与の対象にはならないのです。

住み続けることにこだわると大変?

離婚に際して、子どもがいる家庭などでは、出来る限り生活環境を変えたくないということで、夫婦の一方がそれまで住んでいた不動産に住み続けることを希望することもあります。

よくあるケースとしては、夫が不動産の所有権を持っており、住宅ローンを支払っているケースです。妻がそこに住み続けることになっても、すぐには不動産の所有権を渡せないのが実情です。原則として銀行はローンを完済しない限り、名義変更に応じてくれません。そのため、ローン完済するまでは当初のままの名義で、完済後に変更の手続きをすることになります。

「解決策として、ローンを支払い終えてから妻に登記を移すことが以前からよくあります。ただ、住宅購入時はだいたい35年ローンが多いですから、払い終わるまで離婚を待つわけにもいきません。まだ若いうちに離婚する人が増えた最近はこのことが揉めやすい理由にもなります」(木村先生)

住宅ローンがまだ30年も残っている…(画像提供/PIXTA) 

住宅ローンがまだ30年も残っている…(画像提供/PIXTA) 

基本的にその不動産に住み続ける必要があるかを考え、必要ないなら売って、住宅ローンを差し引いた額を分ければよいといえます。また、価値が下がった物件で負債だけが残るケースもありますが、そうなると財産分与で取得できる額が目減りしてしまいます。

「離婚後に焦らないためには離婚前に不動産の価格をしっかりと検討し、住み続けるのが良いのか、売ってしまった方が良いのかを見極めておいた方が良いと思います」と木村先生からはアドバイスが。

不動産のほかにも分けるものがたくさんあれば問題はさほどありません。しかし、分けるものがあまりない場合、あるいは負債がある場合もあるでしょう。ローンを借りていない妻の側に離婚の理由がある場合も、慰謝料を妻が払いますが、財産は基本的に均等に分与します。

「一般論として、離婚にあたっての合意事項は公正証書をつくっておくのが望ましいです。登記が後になってしまう場合は特につくっておいたほうがよいですね。一度合意したにもかかわらず、住宅ローンを支払い終える前に、払うのをやめてしまう人もいます。そういうことがあった場合には損害賠償等を請求できるようにしておく必要があります。」(木村先生)

妻が子どもを連れて家を出て行った(画像提供/PIXTA) 

妻が子どもを連れて家を出て行った(画像提供/PIXTA) 

「妻の収入も当てにして組むペアローンは、離婚時の論点が増えるのでもめがちですが、近年はよくありがちなケースですね。そのうえ、どちらかが住み続けることにしたら、別れてもローンを共同で支払うという関係を続けなくてはならなくなってしまいます。この場合、妻が住み続けることに決めたとしても夫が売ることを決めてローンを支払うのをやめてしまったら、差し押さえの対象になって追い出されることになります」(木村先生)

妻が残りのローンを払って、所有権も持てばよいと思うかもしれませんが、銀行は、支払い能力の低さなどから妻に信用がなければ、借り換えを認めてくれません。そうなると妻は所有権を得られなくなってしまいます。

一般的には、「支払いが終わるまでは所有権を移転しない」という契約条項が住宅ローンを組む際に交わされています。親がお金を持っていて保証人として入ってくれれば、妻への所有権の移転が認められることもありますが、親も年を取りますから、他の不動産等を担保に入れなければならないかもしれません。

「本当にそこに住み続ける必要があるのかということは、よく考えるべきでしょう」と木村先生はおっしゃいました。

円満な離婚はない それでも心づもりをしておくなら

住居を買う前に離婚の対策をすることはかなり難しいようです。そもそも、離婚時にもめるリスクを避けるためだけに、ランクを落とした物件を買うのは、結婚生活としてハッピーではありません。

「それでも、物件購入に際してどちらがどれくらいの金額を払ったかをはっきりさせておくべきです。明文化しておくのは難しいですが、援助してくれた親の通帳などはお金の軌跡として証拠になりますから、残しておくとよいです。これで特有財産がはっきりします」と木村先生。「住宅ローンを組む方が所有権を持つケースが多いですから、住宅ローンを組んだ物件の、お互いの特有財産の割合をわかるようにしておくとよいでしょう」

不動産評価額は財産分与の大きなポイント(画像提供/PIXTA)

不動産評価額は財産分与の大きなポイント(画像提供/PIXTA)

評価額はきっちりと算出しよう

不動産をもらう側は不動産の価値が低い方が、財産分与の対象の中の不動産の占める割合が少なくなります。そのため、他の財産からもらえる分が多くなり、有利になります。その一方で、あげる側は不動産の価値が高いほうが有利です。ですから、自分に有利な評価額であるかどうか、きちんと準備して離婚交渉にのぞまねばなりません。評価額は裁判にでもなれば、不動産鑑定士がきちんとした額を出しますが、そこまでいかない場合、つまり調停などではお互いがそれぞれ自分たちで仲介業者や買取業者などに依頼し、評価額を出しあうことになります。

幸せに結婚生活を続けたいと思ってもそうはいかないことも多い世の中、「しっかりと公正証書をつくっておく」「早めに自分の希望を弁護士に相談」などを心の片隅に置いておくとよいかもしれません。子どもが大きくなってからだと子どもへの影響も大きくなります。「円満」はありえないとしても、無事に住まいを確保して生活できるよう、勉強しておいて損はないのではないでしょうか。

●取材協力
・メリットパートナーズ法律事務所

150万円で買える!? 格安別荘の活用法と注意点

別荘はお金持ちの贅沢――。そんな固定概念を覆すような物件をしばしば見かけるようになった。例えば長野近辺の別荘地で土地建物込み150万円、といった別荘が売りにでていることも決して特殊ではない。こういった別荘を活用する方法はあるのだろうか? それとも何か落とし穴があるのだろうか? 別荘保有者と専門家に聞いた。
現在の別荘のトレンドは? 専門家に聞いてみた

“別荘が高級”というイメージは、既に過去のものかもしれない。日本の人口減にともなって空き家が増えているが、それは別荘に関しても例外ではない。軽井沢などの著名な別荘地でさえも100万円台の物件を多く見かけるようになった。憧れの別荘ライフが格安で手に入るとなると、飛びつきたくなる人は多いだろう。では実際、こういった物件はどのような人が買っているのだろうか。

リゾート物件のポータルサイト「別荘リゾートネット」を運営する唐品知浩(からしな ともひろ)さんは、「現在の別荘事情は二極化してきている」という。

「格安別荘ばかりではなく、昔からあるイメージ通り、広々として暖炉があるような、高級な別荘を保有する文化は健在です。一方で、リーズナブルな別荘を購入してセルフリノベーションするなど、お金をかけずに別荘ライフを楽しんでいる人も増えてきているのも確かです。別荘地を管理する側も多様化しており、2018年6月15日から施行された『民泊新法』に則ったかたちで、民泊を運営できるようにしている別荘地もあります。例えば『オーナーズフォレスト白河別荘地羽鳥湖高原』などは、管理会社が一元化して民泊の運用を管理しています」(唐品さん)

都会での生活に息苦しさを感じ、自然豊かな場所にも拠点を持ちたいと願う人は、若い世代にも多い。そんな新しいタイプのニーズに、柔軟に対応している別荘地もあるようだ。

しかし実際に別荘を購入するとなると、普通の住宅購入とは違う注意点や、普通はかからない経費がかかることもある。特に格安別荘に多い築古の別荘は、安いからと飛びつくと失敗することもありそうだ。実際に築古の別荘を所有する人に聞いた。

安く別荘を手に入れるときに、気をつけなければならないことは?

「150万円や200万円の格安別荘に安易に飛びつくと、思ってもみなかった経費がかかるかもしれません」。そう話すのは、別荘保有者で不動産関係のライターもしているアサクラさん。

「僕の場合は親戚が保有していた築50年の別荘を譲り受けたのですが、維持管理には思った以上の経費がかかっています。僕の別荘ライフを見て『自分も別荘を持ちたい』と決意した友人もいるのですが、一緒に150万円の別荘の内見に行ってみると、修繕にも管理にも経費がかかりそうで、安易に格安の別荘を購入するのは危険だなと思いました。もう100万出して250万円で設備の整った物件を買った方が、その後の経費を考えると安くつく場合もあるのです。 結局その友人は予算をアップして約300万円の別荘を購入しました」(アサクラさん)

アサクラさん自身は祖父から受け継いだ別荘を所有しているが、築50年の家を修繕するのに、結局250万円程かかったそうだ。それに加え、所有にともなうランニングコストも必要になってくる。

築古の別荘を購入後、どのくらいコストがかかった? 所有者に聞いてみた

アサクラさんは東京西部の山間部に、祖父から受け継いだ築50年の別荘を持ち、春は月に1回、夏は毎週のように家族とそこを訪れ、仕事をしたりくつろいだりして、活用している。なんとも羨ましい生活だが、築古の物件を実際に住めるようにするまで修繕するには、かなりの金額がかかったそうだ。

初期修繕費用の詳しい内訳を教えてもらった。

2009年「シロアリ駆除と床下換気扇の設置」約98万円
2011年「ハクビシン駆除」約15万円
2011年「足場を組んで屋根の修繕と外壁塗装」約77万円
2015年「離れの床の補強工事」約9万円
2016年「シロアリ防除剤・防カビ剤の散布」約32万円
2018年「水道管と水栓の修理」約24万円(と、その先の出費も)

総額250万円以上かかり、譲り受けた物件とはいえ、格安別荘を購入する以上の費用がかかっている。

「格安別荘を購入したとしても、メンテナンスの悪い物件を購入すると、同額かそれ以上の修繕費がかかることは覚悟しておかねばならないでしょう。なかでも注意したいのは屋根のコンディションと水まわりです。屋根は僕も77万円かけたように、修繕が高額になりがち。また水まわりの修繕も高額です。下水道のない場所に住む場合には浄化水槽を取り付けるのが一般的ですが、この設置には100万円程かかるのです。ですから屋根の葺き替えが必要だったり浄化水槽がなかったりする物件は、その後に必ずかかってくる費用を価格に上乗せして考える必要がありますね」(アサクラ さん)

また一般的な住宅でも必要な、税金やライフラインなどの維持コストもかかる。参考までにアサクラさんの、年間の別荘維持経費の内訳も教えてもらおう。

火災保険や固定資産税 約8万円
水道光熱費 約9万円
交通費や通信費 約19万円

アサクラさんの場合、別荘の維持コストは年間に約36万円かかっているということだ。当然住んでいる間にどこかが壊れれば、その修繕費もかかる。使わないと家が荒れるため定期的に訪れる必要があるが、そのための交通費もばかにならない。

また物件のある場所が別荘地にあれば、その地域を管理している会社に管理費を払う必要があると指摘するのは唐品さんだ。

「管理会社によって価格はさまざまですが、ゴミ収集や道路の整備は管理会社に委託するので、その為の費用がかかります。加えて留守中の窓開けや、寒冷地であれば冬場にバス・トイレ・湯沸かし器など水を使うところが凍って設備が使えなくなってしまわないよう『水抜き』といって、設備をばらして水を抜く作業なども頼む場合は、追加の費用もかかります」(唐品さん)

家や所有地のメンテナンスには手間がかかる。別荘地に物件を持ち、それらを代行してもらう場合にはそのための費用がかかり、アサクラさんのように自分で行う場合には、交通費などの費用や手間がかかるということだろう。

別荘を持つということは、購入費用以外にもかなりのお金がかかることが分かった。しかし唐品さんもアサクラさんも、「別荘を持つことは、人生を豊かにする」と口をそろえる。確かに、都心の喧騒を離れて、自然と触れ合える居場所があることは貴重だ。またその地で新たな人間関係を築くことができれば、人生の幅も広がりそうだ。

現代は、セルフリノベーションを楽しむことで修繕経費を削減したり、民泊などの制度を利用して使わない間はシェアしたりと、なるべくお金を使わない別荘スタイルも生まれつつある。加えて、唐品さんによれば「今は団塊の世代が別荘を手放すタイミングなので、市場に出回っている中古の別荘の物件数は多い」とのこと。

決して安易な選択肢ではないが、都心で家を買うことを考えれば、別荘を持つ金銭的ハードルが低いことには変わりがない。これを機に新たなスタイルで別荘を使いこなしてみるのも、面白いかもしれない。
 

●取材協力
・別荘リゾート.net
・なんでも大家日記@世田谷

【ファミリー編】品川駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

JRの新しい駅「品川新駅(仮)」の建設をはじめとする再開発が進められ、注目が集まる品川駅周辺。そんな品川駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場を、前回、前々回と2回にわたりお届けした。今回は品川駅編の最終回、専有面積70平米以上~100平米未満のファミリー向け中古マンションの価格相場を調査。これまで紹介したシングル向け、カップル向けとランクインした駅に違いはあるのか? さっそく調査結果を見てみよう。
●品川駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP12
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/品川駅までの所要時間)
1位 保土ヶ谷 2990万円(JR横須賀線ほか/神奈川県横浜市/25分)
2位 東戸塚 3780万円(JR横須賀線ほか/神奈川県横浜市/30分)
3位 新小岩 3980万円(JR総武線/東京都葛飾区/22分)
4位 新川崎 4350万円(JR横須賀線ほか/神奈川県川崎市/13分)
5位 川崎 4575万円(JR京浜東北線ほか/神奈川県川崎市/9分)
6位 平和島 4675万円(京急本線/東京都大田区/7分)
7位 鶯谷 4680万円(JR山手線ほか/東京都台東区/20分)
8位 京急川崎 4690万円(京急本線ほか/神奈川県川崎市/11分)
9位 市川 4980万円(JR総武線/千葉県市川市/28分)
9位 東神奈川 4980万円(JR京浜東北線ほか/神奈川県横浜市/24分)
9位 蒲田 4980万円(JR京浜東北線ほか/東京都大田区/10分)
12位 立会川 5055万円(京急本線/東京都品川区/5分)

JR横須賀線の隣り合う駅が1位と2位にランクイン

中古マンションの価格相場が最も安かったのは、JR横須賀線で横浜駅の次の保土ヶ谷(ほどがや)駅。専有面積40平米以上~70平米未満の物件を対象にした、前回調査のカップル編でも1位になった駅だ。品川駅に出やすいエリアで中古マンションを探す場合、まず保土ヶ谷駅は要チェックと言えそうだ。

2位は横浜駅から出て保土ヶ谷駅の次の駅となるJR横須賀線・東戸塚駅。駅周辺にはスーパーやショッピングモールなど大型の商業施設が立ち並び、中古マンションの物件数も今回ランクインしたトップ12の駅で最も充実している。

3位はJR総武線・新小岩駅。駅南口側には全長約420mにわたるアーケード商店街が広がり、約140店舗が元気に営業する一帯は東京の下町風情が漂っている。食料品店からドラッグストア、ファストフードなどの飲食店までそろうので、ここに来れば日々の買物をひと通り済ませられるだろう。

新小岩駅(写真/PIXTA)

新小岩駅(写真/PIXTA)

中古マンションの広さによって、狙い目の駅は変わってくる!?

さて、前回のカップル編と見比べると、1位だけではなくランキング上位陣の顔ぶれは似通った結果となっている。2位のJR横須賀線・東戸塚駅はカップル編で4位、3位のJR総武線・新小岩駅はカップル編でも3位にランクインしていた。

そんななか、4位のJR横須賀線・新川崎駅はカップル編、シングル編ともに上位にはランクインしていない。新川崎駅の東側には2015年~2016年に誕生した商業施設「新川崎スクエア」と47階建てタワーマンションがある。これらの建物を眺めつつ歩行者用通路を進むと、JR南武線・鹿島田駅にたどり着く。両駅間は6分ほどで行き来できるので、行先に応じて使い分けると便利だろう。

9位のJR京浜東北線・東神奈川駅もカップル編とシングル編にはランクインしなかった駅。駅の東口側には京急本線・仲木戸駅があり、両駅は歩行者用通路で結ばれている。両駅の間にはスーパーや惣菜店などをテナントに抱えた「シァルプラット東神奈川」があるほか、駅西口側にもスーパーやショッピングモールが点在。また、東神奈川駅からJR京浜東北線で1駅先は横浜駅なので、休日にふらりと家族で横浜に遊びに行きやすい環境だ。

東神奈川駅の中古マンション価格相場は4980万円、横浜駅は5950万円となっており、1駅違うだけで約1000万円も価格相場に開きがあった。

横浜みなとみらい(写真/PIXTA)

横浜みなとみらい(写真/PIXTA)

ちなみに今回調査の起点駅とした品川駅から徒歩15分以内にある、ファミリー向け中古マンションの価格相場は8280万円。それに比べると、1位・保土ヶ谷駅の相場は5290万円も安いという驚きの結果となった。12位の立会川駅でさえ、品川駅と比べると3000万円以上も相場が安い。「品川駅から電車で30分以内の場所」を近いと見るか遠いと見るかは人それぞれだが、30分の時間差で3000万円以上も価格が異なるならば、住まいの候補地として一考する余地はあるだろう。

また、3回にわけて広さ別に価格相場を見てきたが、カップル編とファミリー編のランキングが似通っていた一方で、シングル編とファミリー編ではランクインした顔ぶれはだいぶ異なっていた。シングル向けの物件が安いエリアだからといって、ファミリー向けの広さの物件も安いとは限らない点も頭に入れておくとよさそうだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積70平米以上100平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年4⽉1⽇~2018年6⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

スター猫のお宅訪問![2] フォロワー6万人!インスタで人気の「Niko&Poko」の暮らし

神奈川県の閑静な住宅街に暮らすスター猫は、インスタグラムをはじめ、写真集やカレンダーも出版するなど“ねむかわいい”ことで人気の、エキゾチックショートヘアのNikoちゃん(メス・5歳)とPokoちゃん(オス・3歳)。飼い主であるMakiさん夫婦とともに暮らしている。【連載】スター猫のお宅訪問!
インスタグラムで人気のキーワードといえば「猫」。多くのフォロワーを魅了するスター猫たちは、どんな暮らしを送っているのだろう。暮らしの工夫を聞いてみた。Instagramより(写真提供/Makiさん)

Instagramより(写真提供/Makiさん)

中古一戸建てを1階はリノベーション、2階はDIY

白い外観に、春にはバラが咲き乱れるという広く美しい庭。まるで写真集から出てきたかのような家。Makiさん夫妻は2011年に築5年の中古一戸建ての物件を購入後、リノベーションをしたのだとか。

Makiさんの家の間取り

Makiさんの家の間取り

「リノベーションをしたのは1階だけ。もともとは上がり框(かまち)の和室があったのですが取っ払って、トイレやキッチンの位置も変えました。リノベーションをお願いしたのは、恵比寿にあるインテリアショップ『PACIFIC FURNITURE SERVICE』のリノベーションサービス。昔からここのアメリカンで無骨な家具が好きだったので、デザイン重視で依頼しました。一番気に入っているのは、トイレ・洗面などの水まわり。壁をペンキ塗りで、床はグレーと白の格子模様にしたいとお願いしました。色みが『PACIFIC FURNITURE SERVICE』ならではのカラーなので、自分ではなかなかできないですよね」

1階のリノベーションはPACIFIC FURNITURE SERVICEに依頼。春にはウッドデッキがバラに包まれる(写真撮影/片山貴博)

1階のリノベーションはPACIFIC FURNITURE SERVICEに依頼。春にはウッドデッキがバラに包まれる(写真撮影/片山貴博)

リノベーションのイメージはMakiさんによるもの。

「お金のことは夫が担当で、テイストについては何も言われることはなかったんです(笑)。もちろんやれなかったこともあります。部屋の壁のペンキ塗りはお金がかかるのでやめました。ただ、今となってはそれでよかったかなと思います。猫を飼っているので壁が汚れてしまうこともあるのですが、ペンキ塗りだと拭くとはげてきてしまって、手入れが大変なので。2階の間取りは変えずに、ドアにペンキを塗ったり取手を取り替えたり、自分たちでDIYしました」

Nikoちゃん・Pokoちゃんの部屋の壁はニュアンスにこだわったブルー系に塗り、韓国のMYZOO「LUNA キャットステップ」でデコレーション。Pokoちゃんはカーテンの隙間から外を眺めるのが好きだそう(写真撮影/片山貴博)

Nikoちゃん・Pokoちゃんの部屋の壁はニュアンスにこだわったブルー系に塗り、台湾のMYZOO「LUNA キャットステップ」でデコレーション。Pokoちゃんはカーテンの隙間から外を眺めるのが好きだそう(写真撮影/片山貴博)

猫も人も心地いい暮らしを

ソファ以外は「手持ちの家具があったのであまり買い替えていない」というこだわりのインテリアに囲まれた、ヴィンテージ感の漂う落ち着いた空間は、NikoちゃんとPokoちゃんにとっても居心地がよさそう。最初の猫・NikoちゃんはMakiさんたちがこの家に引越してから2年目にやってきた。

Nikoちゃんは猫用ベッドの中からお出迎え(写真撮影/片山貴博)

Nikoちゃんは猫用ベッドの中からお出迎え(写真撮影/片山貴博)

「ちょっと顔が潰れたような犬や猫が好きで。以前はフレンチブルドッグを飼いたいと思っていたんです。たまたまエキゾチックショートヘアを飼っている人が載っている本を見て、その瞬間にビビッときて。そこからずっと飼いたいと思いつつもペットショップで見かけなかったので、そのうちブリーダーさんを通して買いたいなと思っていたんですね。ただ、命を預かることが怖く、なかなか勇気が出なくて、それで2年ほどかかってしまったんです。命を守れるかとか、もしも亡くなったとき耐えられるのかとか考えてしまって。それがある日、ペットショップでNikoと出会って、『うちの子だ!』と覚悟を決めたんです」

触ると嫌がるけど姿が見えないとニャーニャー鳴くというツンデレのNikoちゃん(写真撮影/片山貴博)

触ると嫌がるけど姿が見えないとニャーニャー鳴くというツンデレのNikoちゃん(写真撮影/片山貴博)

運命的な出会いによって家族がひとり増えたMakiさん一家。「今までいなかったのが信じられないくらい」という猫との暮らしにもう一匹が加わったのはその2年後だ。

専用の部屋にはベッドも(写真撮影/片山貴博)

専用の部屋にはベッドも(写真撮影/片山貴博)

「Nikoは典型的なツンデレで、普段はプイッとしているのですが、私がちょっと庭に出たりしているだけで寂しくてニャーニャー鳴くんですよね。2匹いたら寂しくないのかなと思ったのがもう1匹飼おうと思ったきっかけです。Pokoが来た最初のころ、Nikoはどうしていいのか分からないという感じでした。Pokoは小さくて力加減が分からないからNikoに馬乗りになったり噛んだりして、それをNikoは嫌がっていたんですけど、いまでは猫パンチをくらわせて威嚇するなど強くなりました(笑)」

リビングには、木製の宇宙船ベッドやダンボールハウス、ハンモックなどがたくさん。いただきものも多く、どんどん増えてきてしまったのだとか。2階には2匹専用の部屋もあり、毎日2匹はそれぞれ好きな場所で心地よさそうに過ごしている。そこには、猫と心地よく暮らすためのちょっとした工夫も。

窓に取り付けられるタイプのハンモックは、外を眺めたり、日差しを浴びながら寝るのが気持ちいいらしく2匹とも大好きだそう。猫のためのダンボール製インテリアはタイのペット雑貨の会社・KAFBOのオリジナル、木製の宇宙船ベッドは韓国のペットグッズデザイン会社MYZOOのもの。どちらも日本で購入可(写真撮影/片山貴博)

窓に取り付けられるタイプのハンモックは、外を眺めたり、日差しを浴びながら寝るのが気持ちいいらしく2匹とも大好きだそう。猫のためのダンボール製インテリアはタイのペット雑貨の会社・KAFBOのオリジナル、木製の宇宙船ベッドは台湾のペットグッズデザイン会社MYZOOのもの。どちらも日本で購入可(写真撮影/片山貴博)

最初はあまり高いところには登れなかったPokoちゃん。KAFBOのダンボール製インテリアに登っているうちに筋力が付いて椅子の上にも乗れるようになったとか(写真撮影/片山貴博)

最初はあまり高いところには登れなかったPokoちゃん。KAFBOのダンボール製インテリアに登っているうちに筋力が付いて椅子の上にも乗れるようになったとか(写真撮影/片山貴博)

窓際のハンモックでくつろぐのが大好きな2匹。ハンモックはAmazonで購入したものにカバーをつけて(写真撮影/片山貴博)

窓際のハンモックでくつろぐのが大好きな2匹。ハンモックはAmazonで購入したものにカバーをつけて(写真撮影/片山貴博)

「Nikoは家具で爪研ぎなどはしないのですが、Pokoは一時期2階の壁をガリガリしていたので、爪研ぎをしないように爪研ぎ防止のビニールを貼ったりもしていました。うちの子はどちらも高いところに登れないので、キャビネットの上などは荒らされなくて済むので助かります(笑)。よくお花が咲く時期には生花を飾っているのですが、NikoもPokoもあまり興味がないようで食べたりしないんですよね。机の上にあっても、よけるものだと認識しているようでよけて歩くんですよ。ラグは敷いていると毛がついて掃除が大変なので、使うときだけ敷くようにしています。水飲み場は、水がたくさんこぼれるとむく材の床が腐ってしまうと思って、まわりに珪藻土のマットを敷いて水はね予防をしています」

2階の洋室にある猫用トイレには珪藻土を塗ったカバーをつけて目隠し。においもそれほど気にならなくなったそう(写真撮影/片山貴博)

2階の洋室にある猫用トイレには珪藻土を塗ったカバーをつけて目隠し。においもそれほど気にならなくなったそう(写真撮影/片山貴博)

日常がより豊かになる猫との暮らし

猫と人がお互いに心地よい関係性で暮らしているMakiさん一家。猫との生活で一番変わったことは、「旅行に行かなくなった」ことだとか。

「Pokoが来てから旅行に行くこともなかったのですが、昨年ひさしぶりに夫婦で一泊旅行に行きました。一泊だったのでお留守番してもらったのですが、もう心配で心配で(笑)。家にはカメラを3台設置しているので、まめにチェックしていました。ごはんのとき以外はほとんど寝ていましたね(笑)。

普段はiPhoneで撮影をすることが多いというMakiさん。カメラを使用することもあるとか(写真撮影/片山貴博)

普段はiPhoneで撮影をすることが多いというMakiさん。カメラを使用することもあるとか(写真撮影/片山貴博)

玄関横にあるNikoちゃんそっくりの人形。愛犬・愛猫のオーダーメイドぬいぐるみをつくる「PECO Hug」がモデル例として作ってくれたものだとか。思わずNikoちゃんと間違えてしまうことも(写真撮影/片山貴博)

玄関横にあるNikoちゃんそっくりの人形。愛犬・愛猫のオーダーメイドぬいぐるみをつくる「PECO Hug」がモデル例としてつくってくれたものだとか。思わずNikoちゃんと間違えてしまうことも(写真撮影/片山貴博)

今まで動物と暮らしたことがなかったので、動物を飼っているみなさんがよく言う『家族の一員だから』という言葉にあまりピンときていなかったんです。けれど、今はすごくよく分かります。性格的にも、手のかかり方も、5歳と3歳の子どもと暮らしている感じ。Nikoはおませな5歳の女の子で、Pokoは甘えん坊で手がかかる3歳の男の子。どちらもかわいいですね。旅行に行けなくなったことを悲観しているわけではなく、日常はより楽しくなりました。今はただただ長生きしてほしい。NikoとPokoが元気で、幸せだなと思ってほしいですね」

庭を散歩するのが大好きだという2匹が外をより見られるように、いつかウッドデッキをサンルームにしたいという夢をふくらませるMakiさん。2人と2匹の暮らしは、これからもさらに快適にアップデートされていきそうだ。

リードをつけて庭を散歩するのが大好きだというNikoちゃんとPokoちゃん。庭に出るとぐるぐると何周も回るそう(写真提供/Makiさん)

リードをつけて庭を散歩するのが大好きだというNikoちゃんとPokoちゃん。庭に出るとぐるぐると何周も回るそう(写真提供/Makiさん)

KAFBOのダンボール製ハウスですやすや寝ていたNikoちゃんとPokoちゃん(写真撮影/片山貴博)

KAFBOのダンボール製ハウスですやすや寝ていたNikoちゃんとPokoちゃん(写真撮影/片山貴博)

自然災害でも「一時返済が免除」される住宅ローンがあるってホント?

大地震に台風、豪雨、土砂崩れ……。近年大きな災害が日本を襲っている。住宅への被害も甚大だ。被災した場合に住宅ローンの返済はどうなるのか、心配する人も多いだろう。そんななか、増えてきているのが、自然災害に遭った時に返済の一部を免除する住宅ローンだ。どういったものだろうか?
災害への備えの基本は火災保険と地震保険

近年、テレビや動画で災害の映像が流れ、胸が痛む機会が多くなった気がする。地球温暖化の影響もあるのだろうが、日本はもともと地震や台風などの被災リスクが高い。そんな日本に住むからには、災害への備えは必須だ。

住宅ローンの災害への備えは、基本は「火災保険」と「地震保険」だ。
住宅ローンを借りる際に、「火災保険」に必ず入らなければならない。ただ、火災保険と言っても、基本となる火災や落雷、爆発、風災、雪やひょうによる損害を補償するだけでなく、水災(台風や豪雨などによる洪水、土砂崩れなど)を補償するタイプもある。補償範囲をどこまで広げるかは加入者が決めることになる。

また、火災保険では補償されない、地震や噴火、津波を補償する「地震保険」は、火災保険に付帯されるもので任意に加入するもの。ただし、地震保険は、被災者の生活の安定を目的とした保険なので、震災後の生活に困らない程度の補償内容となっている。地震による被害を再建できるほどのものではない。

大災害に遭って幸い命は助かったとしても、ローン返済中にマイホームが損壊した場合は、住宅ローンの返済に加えて、家の補修や避難先の確保などさまざまな支出が増える。火災保険・地震保険だけでは補償に限度があるので、それ以外にも備えておく必要がある。

自然災害に被災したときに返済の一部を免除する特約付きの住宅ローンが登場

甚大な被害が増えるなか、被災直後に、被災の程度に応じて一定期間にわたり、住宅ローンの返済を免除する特約を付けた住宅ローンが次々と登場している。

2つの事例を見ていこう。
三井住友銀行の「自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン(約定返済保障型)」では、半壊で6回分、大規模半壊で12回分、全壊で24回分の住宅ローンの返済が免除され、罹災証明書提出後に引き落とされた分をまとめて払い戻す仕組みとなっている。この特約を付ける場合は、住宅ローンの金利が0.1%上乗せされる。

三井住友銀行「自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン(約定返済保障型)」(三井住友銀行のホームページより一部転載)

三井住友銀行「自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン(約定返済保障型)」(三井住友銀行のホームページより一部転載)

新生銀行の「安心パックS」の場合は、「自然災害時債務免除特約」と「コントロール返済」、介護リスクに備える「安心保障付団信」がセットになっている。自然災害時債務免除特約では、三井住友銀行と同様に半壊で6回分、大規模半壊で12回分、全壊で24回分の住宅ローンの返済が免除されるが、銀行に連絡した直後から引き落としが止まり、罹災証明書はそのあとで提出すればよい仕組みとなっている。安心パックSをつける場合は16万2000円の事務取扱手数料が必要だが、金利は変わらない。

いずれの銀行も、新規に住宅ローンを借りる場合に特約をつけることができ、ローン返済中の被災に対して1度限りの免除となる。

また、三井住友銀行では、「自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン」で、金利に0.5%上乗せで、地震や噴火、津波で全壊した建物のローン残高の50%相当が免除される「残高保障型」のタイプを選ぶこともできる。

これ以外にも類似の特約を用意している金融機関はあるが、対象となる災害や免除内容、コストなどがそれぞれで異なるので、条件などを詳しく確認してほしい。

自然災害への備えを厚くしたい人は、こうした特約の付けられる住宅ローンを選ぶという選択肢ができたことになる。

なお、もし大規模災害に被災して住宅ローンを抱えて生活に困窮するようなことになった場合は、自己破産を回避し、金融機関に「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(2016年4月より運用)に基づく住宅ローンの免除・減額などを申し出る道もある。

何事もなければ問題なく返済できる住宅ローンであっても、自然災害など自分ではどうしようもない原因で、返済が難しくなる可能性もある。そうしたことにあらかじめ備えておくことが、自然災害の多い日本でマイホームを買う心得だろう。

巨大地震の発生確率が高い現状ではあるが、甚大な自然災害が起きないことを願うばかりだ。

●取材協力
○三井住友銀行「自然災害時返済一部免除特約付住宅ローン」
○新生銀行「安心パックシリーズ/自然災害時債務免除特約」
○自然災害債務整理ガイドライン (政府広報オンライン)

暮らしのエッセイスト・柳沢小実さんの美しい収納と家づくり その道のプロ、こだわりの住まい[2]

初めての家づくりについてまとめた『考えない 探さない ラクして整う住まい考』(KADOKAWA)を2018年9月に上梓したばかりの暮らしのエッセイスト&整理収納アドバイザーの柳沢小実さん。それまでの賃貸の暮らしとこれからの生活を考えて出した答えは、物量は少しだけ少なく、一目で分かる収納に、ということだという。旅好きでもあり、身軽に暮らしたいという思いが詰まったご自宅に伺って、家づくりや暮らしについて話を聞いた。【連載】
料理家、インテリアショップやコーヒーショップのスタッフ……etc. 何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。キッチンは、左右からアクセスできるよう、アイランド型に。シンク下の収納はダイニング側に食器を、キッチン側に調理道具などを収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

キッチンは、左右からアクセスできるよう、アイランド型に。シンク下の収納はダイニング側に食器を、キッチン側に調理道具などを収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

東京都内にある柳沢さん宅は一戸建て。玄関から階段を上がった先には、広々と明るいLDKが広がる。取材陣が伺うと、柳沢さんは、さっとキッチンへ向かってお湯を沸かし、茶器を選んで、茶葉を出して、お茶を入れてくれた。その一連の動きはとてもスムーズだ。アイランド型のキッチンで、ダイニングとの境もないので、左右からアプローチしやすい。さらに、ダイニングとリビングもひとつながりなので、とても開放感がある。あえて壁をつくらなかったという理由が、一瞬にして伝わってきた。
運んできてくれたお茶は、かわいらしい花模様が入った茶器。ここ数年通っている台湾で購入したものだという。

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

「すっきり暮らしたいという思いもありますが、こういう食器は我慢できなくて、つい買ってしまうんです。物欲って抑えられないときもありますよね」と笑いながら話す。物欲があるとはいえ、このすっきりした空間はどうやって生まれ、どのようにキープしているのだろう?

ハウスメーカーで実現した「白い箱」のような家

家を建てるに当たって、建築家や工務店などの選択肢があるなかで、柳沢さんはハウスメーカーを選んだ。理由は、蓄積されたノウハウがあることや、長く住むことを考えてアフターケアがきちんとなされることだったという。
「家具はそれまで使っていたものを活用するので、『機能的な白い箱』のようなシンプルな家にしてもらいました」
すっきりと広く感じる理由は、この「シンプルさ」にもあるのかもしれない。造作家具などを必要以上につくらず、壁や床の面が大きく見えているから、開放感を感じられるのだろう。

物の量は「少ない」ではなく「少なめ」に

また、整理収納アドバイザーの資格をもつだけあり、出し入れしやすい収納にも心を配っている。
「この家に引越すに当たって極端に減らしたわけではありません。私はミニマリストではないので、物量が少ないわけじゃないし、物は好きなんです。意識しているのは、『少ない』じゃなく『少なめ』にするということ」と言う。
ほんのちょっと少なめにするだけで、積み重なったり、奥に入り込んだりということがなくなり、探し物をする手間が減るというわけだ。余白が生まれれば、出し入れしやすくなる。だから、お茶を入れるという作業も、スムーズに流れるようにできていたのだ。
物を少なめにキープしつつ、それらを分かりやすく収納しているのも、スムーズな動きの理由のひとつ。例えば、キッチンの引き出しは、どこを開けても、ひと目でどこに何があるかがすぐ分かる。フタ付きの収納グッズなどは使わず、中に入っているものが見渡せるようにしている。

引き出し内は無印良品のケースで仕切っている。カトラリー、木製のスプーン類、小さなもの、レンゲなどと大まかに分類。「奥には使用頻度の低いカトラリーを入れています。すぐには捨てられなくて」(写真撮影/嶋崎征弘)

引き出し内は無印良品のケースで仕切っている。カトラリー、木製のスプーン類、小さなもの、レンゲなどと大まかに分類。「奥には使用頻度の低いカトラリーを入れています。すぐには捨てられなくて」(写真撮影/嶋崎征弘)

旅先で購入したという器は、食器棚の中できちんと並んでいるし、キッチンカウンターの上に置きっぱなしにしていても絵になっている。好きだからといってぎゅうぎゅうに詰め込んだりせず、出し入れしやすい状態にしているのはさすがだ。
「仕事も家事もしなくちゃいけない。忙しいからこそ、簡略化してラクに暮らせるようにと思っています。おおざっぱでめんどうくさがりだからこそ、散らからない工夫をしているんです(笑)」

その考え方はキッチンに限らず、クローゼットや洗面所などのスペースでもしかり。
「好きだから、つい増えてしまう」という洋服は、クローゼットを開ければそのほとんどが目に入るように掛けて収納している。
「物量を把握できるし、畳みジワが嫌だということもあります。それに、洗濯物を畳みたくないという理由もあるんです(笑)。めんどうな家事はできるだけ省きたい。忙しくてもきちんと収納できている状態をキープするためには、効率よく家事をこなさないといけないですから」

洋服だけでなく、バッグ類もS字フックで掛けて見やすく、取り出しやすく。クローゼットは壁一面を3つに仕切り、左が柳沢さん、中央がご主人、右は裁縫道具や梱包材などの日用品を収納(写真撮影/嶋崎征弘)

洋服だけでなく、バッグ類もS字フックでかけて見やすく、取り出しやすく。クローゼットは壁一面を3つに仕切り、左が柳沢さん、中央が夫、右は裁縫道具や梱包材などの日用品を収納(写真撮影/嶋崎征弘)

洗濯物を干すにも、クローゼットに収めるにも同じハンガーを使っているので、洗って乾いた状態のまましまえる。伸びやすいニット類はくるくる丸めてかごの中へ入れているが、それ以外はほぼ掛けているので、こちらも扉を開ければ一目瞭然。家事は自分のライフスタイルに合わせて変えていけばいいのだ。

寝室のキャビネットの上にはアクセサリー類を並べている。その日のコーディネートに合わせ、さっと手に取れて便利(写真撮影/嶋崎征弘)

寝室のキャビネットの上にはアクセサリー類を並べている。その日のコーディネートに合わせ、さっと手に取れて便利(写真撮影/嶋崎征弘)

必要以上の収納スペースはつくらない

扉付きの食器棚は、上部はガラス製なので好きな食器を眺めることができ、下部は木製の扉で料理本を詰め込んでいても圧迫感がない。賃貸時代にデザインやサイズを吟味してやっと見つけた家具で、大切に使われていることがよく分かる。

2つ目のこの食器棚は以前から持っていたほうの奥行きと合うサイズと色、さらに掃除のしやすい脚付きのデザイン、ガラス扉でほどよく物が隠せる、など条件を決めて見つけた(写真撮影/嶋崎征弘)

2つ目のこの食器棚は以前から持っていた方の奥行きと合うサイズと色、さらに掃除のしやすい脚付きのデザイン、ガラス扉でほどよく物が隠せる、など条件を決めて見つけた(写真撮影/嶋崎征弘)

扉を開けると料理本やレシピファイルが並ぶ。扉を締めればすっきり。使う場所の近くにしまうというのも収納の鉄則だ(写真撮影/嶋崎征弘)

扉を開けると料理本やレシピファイルが並ぶ。扉を締めればすっきり。使う場所の近くにしまうというのも収納の鉄則だ(写真撮影/嶋崎征弘)

「料理本はダイニングで読むことが多いので、置き場所は食卓の近くに。大切に使ってきた家具はそのまま新しい家でも活躍しています。家を建てるからといって、必要以上に収納スペースをつくるのは避けました。例えば、階段上の空間を利用すれば、パントリーを設置することもできたんです。でも、果たしてそのスペースを活用するほど物を持つか、きちんと管理できるかを考えたら、私には必要ないという結論になりました」

つり戸棚をつけない代わりに、奥行きの狭い棚板を壁に設置。茶葉などを見せて収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

吊り戸棚をつけない代わりに、奥行きの狭い棚板を壁に設置。茶葉などを見せて収納している(写真撮影/嶋崎征弘)

仕事をしながら家事もこなす柳沢さんにとって大切なのは、パッと見て物量を把握でき、出し入れしやすいこと。過剰な収納は必要ないのだ。同じ理由で、キッチンのつり戸棚も設置せず、クローゼットはウォークインタイプはやめてシンプルなつくりにした。そのぶん、キッチンは上部に開放感があって広々と感じるし、寝室もシングルベッドを並べておいても余裕が持てている。

夫婦それぞれの場所をキープして、共有場所はすっきりとリビングテーブルは置かず、床を見せることで広さを感じられるリビングに。「家具を買うときは本当に必要か吟味してから。夫と相談して、なるべく一生使えるものを、と思っています」。ソファはハンス・J・ウェグナーのもの(写真撮影/嶋崎征弘)

リビングテーブルは置かず、床を見せることで広さを感じられるリビングに。「家具を買うときは本当に必要か吟味してから。夫と相談して、なるべく一生使えるものを、と思っています」。ソファはハンス・J・ウェグナーのもの(写真撮影/嶋崎征弘)

一人ではなく、夫と暮らしているからこその工夫も随所にある。「お互いに個人的に持っている物もありますよね。私の場合は家で仕事をするので仕事関係のものや書籍や雑誌など。夫は趣味の山登りの道具類がたくさんあるんです」。柳沢さんのものは仕事部屋があり、夫には寝室の横に通称「山部屋」があるので、それぞれで物量を管理するようにしている。リビングやダイニングに置きっぱなしにしない。そして、お互いにその部屋に関しては干渉しないと決めているので、共有のスペースであるLDKをすっきりさせることができている。

柳沢さんの仕事部屋には好きな書籍や雑誌、勉強中だという中国語のテキストなどが並んでいる。この4畳半ほどのスペースがあるおかげでリビングダイニングには物が置きっぱなしにならずにすむ(写真撮影/嶋崎征弘)

柳沢さんの仕事部屋には好きな書籍や雑誌、勉強中だという中国語のテキストなどが並んでいる。この4畳半ほどのスペースがあるおかげでリビングダイニングには物が置きっぱなしにならずにすむ(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

(写真撮影/嶋崎征弘)

無理せず、我慢せず、できることを

話を聞いていると、暮らしやすいということは、好きなものを大切にし、無理をしないということが伝わってくる。
「仕事も家事もしているので、いかに気持ちよくラクに暮らせるかが大切。めんどうくさがりだから(笑)、それでもすっきりできる方法を考えてこの状態になったんだと思っています」

ダイニングの食器棚の横にある椅子。ここが夫の仕事かばんなどの定位置。日中は、コード類を収納したバッグを置いている(写真撮影/嶋崎征弘)

ダイニングの食器棚の横にある椅子。ここがご主人の仕事かばんなどの定位置。日中は、コード類を収納したバッグを置いている(写真撮影/嶋崎征弘)

柳沢さんがずっと試行錯誤して実践し続けてきた収納法や家事に対する考え方は、家を建てずとも真似できる工夫がたくさんある。
「プライベートでも仕事でも、海外に行くことが多いので、身軽でいたいというのもあります。パッと準備して出かけたいし、帰ってきたときに片付いている状態のほうが気持ちいいですよね」
物量は少なめにし、物の場所をきちんと決めておくことで、それを実現させている。

シンク下には、好きで集めているという茶器やフルーツ柄のグラスなどを並べている。旅や仕事で行った台湾などで購入したもの。「決してミニマリストではない」という言葉にもうなずける。我慢はせず、暮らしを楽しむことも大切(写真撮影/嶋崎征弘)

シンク下には、好きで集めているという茶器やフルーツ柄のグラスなどを並べている。旅や仕事で行った台湾などで購入したもの。「決してミニマリストではない」という言葉にもうなずける。我慢はせず、暮らしを楽しむことも大切(写真撮影/嶋崎征弘)

物も収納スペースも、自分たちに必要なものを選べばいい。一般的な「こうあるべき」という概念に縛られず、それまでの自分たちの暮らし方をきちんと把握して考えた家だからこそ、今の柳沢さんの暮らしにとてもフィットしているのだろう。
「年内に2回台湾に行くんです」とうれしそうに笑う。きっと旅の準備はてきぱきとスムーズで、楽しんで帰ってきたときには、すっきりとして明るい家が迎えるに違いないのだ。

●取材協力
柳沢小実(やなぎさわ・このみ)
エッセイスト。1975年、東京都生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。整理収納アドバイザーの資格をもち、雑誌や書籍、新聞などで軽やかな暮らしを提案。現在、読売新聞(水曜夕刊隔週)での連載のほか、セミナーなども積極的に行っている。
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「子どもは自立」「今よりコンパクトな住まい」を支持する、イマドキの中高年

住環境研究所が既婚の50代以上の中高年に調査したところ、家族と常に一緒にいるより、それぞれの自立を期待する声の方が大きいことが分かった。夫婦や子どもとの関係はどうありたいと見ているのか、どんな住まいがよいと思っているのか、イマドキの中高年の意識を詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「中高年の生活・住まいに関する意識調査」を発表/住環境研究所イマドキの中高年は家族のまとまりより“個々を尊重”する傾向に

既婚で50代以上というと、夫婦だけの生活がこれから長く続くことが想定される。夫婦の関係について聞いたところ、【A】「夫婦といえども一人の時間がほしい、それでこそ仲良く暮らせる」のほうが、【B】「会話があってこそ分かり合える、共有の時間を多く持ちたい」より多く支持されたことが分かった。

この傾向は、年代別では定年前後の「55~59歳」と「60~64歳」、性別では「女性」に顕著に見られたという。仕事中心の夫が定年後に自宅に長くいるようになると、生活スタイルが変わってしまうことから、互いの自立を望む声が多くなるのだろう。特に女性にその傾向が強いわけだ。

自立を期待する人が多いことは、夫婦にとどまらず、子どもとの関係にも影響する。【A】「子どもは社会人になったら自立すべきだ(家を出るべきだ)」と【B】「子どもが結婚してもできればいっしょに(近くで)暮らしたい」のどちらかを聞くと、やはり子どもの自立を望む声が多かった。

子どもに関する意識(出典:住環境研究所「中高年の生活・住まいに関する意識調査」より転載)

子どもに関する意識(出典:住環境研究所「中高年の生活・住まいに関する意識調査」より転載)

ちなみに、筆者の知人の事例だが、同居している社会人の娘に自立をするようにと、一定期間の家賃補助を条件に促したところ、その期間が過ぎて家賃補助を打ち切ったら自宅に帰ってきてしまったという。なんということか!

モノへのこだわりは減少、シンプル・コンパクトな住まいに

夫婦でも親子でも自立を望む声が多数の中高年は、まだまだ働きたい、生きがいをつくったり体力をつけたりしたいという人が多く、元気そのもののようだ。そんな中高年の暮らしや住まい感については、どうだろう?

まず、モノについては【A】「すっきりシンプルに生活したい、不必要なものはどんどん処分する」が【B】「将来使う可能性のあるものは、スペースの許す限り処分せずとっておく」を上回っている。特に【B】は、2000年の58%(ほとんどB40%+Bに近い18%)から2018年の22%(同19%+3%)へと大きく下がっている。モノや過去の思い出へのこだわりが減っているということだろう。

その結果、住まいの広さについても、【A】「今の家は大きすぎる、もっとコンパクトな家に住みたい」と【B】「今の家は狭すぎる、もっと広い家に住みたい」では、わずかに【A】のほうが多く選択された。住居形態別で若干の違いがあり、持ち家一戸建てでは【A】が、賃貸では【B】が多い傾向があったという。

上:モノに関する意識、下:住まいの広さ(出典:住環境研究所「中高年の生活・住まいに関する意識調査」より転載)

上:モノに関する意識、下:住まいの広さ(出典:住環境研究所「中高年の生活・住まいに関する意識調査」より転載)

住まいの広さについては、「どちらともいえない」人が大半で、必ずしも中高年がコンパクトな住まいを好むとは言えないだろう。かつて取材したあるシニア層は、一戸建てからマンションに住み替えたのだが、狭くて困ると言っていた。そのマンションの専有面積は80平米台だったのだが……。“今より”コンパクトな住まいというのが、実際にどの程度の広さを指しているのかは、それぞれで異なるのだろう。

とはいえ、筆者はシニア層の方にはコンパクトな暮らしを勧めている。子どもが泊まるかもしれない部屋は不要だし、過去の思い出の品も断捨離して、掃除などの家事負担を減らして、体力が落ちても快適に暮らせるような住まいを選ぶほうが良いと思うからだ。はたして、皆さんはどうお考えだろうか?

「旧耐震」のマンション、買ったらだめですか? 住まいのホンネQ&A(9)

新築マンションの価格が高騰している昨今、注目を集めているのが中古マンション。しかし、いくら価格が安くても「耐震性」は気になる人が多いのではないでしょうか。
1981年以前に建てられた「旧耐震」のマンションも市場に多く出回っています。果たしてその安全性は? 選び方は? さくら事務所の長嶋修会長に解説いただきました。
地震大国日本「安全なマンション」の見分け方

2013年以降、新築マンションの価格は大幅上昇。17年の東京都区部における新築マンション平均発売価格は7000万円を超え、庶民には手の届きにくい水準に。一方で中古マンションは4000万円台と、相対的にリーズナブルであることから「中古マンションを買ってリフォーム・リノベーション」を検討する人が増えています。

一般には、価格下落が緩やかになる築15~20年の物件にお買い得感があり、また最近は築30年以上の取引のウエイトも高まっています。というのも、マンションが数多く造られた70年代の物件が市場に出始めているからです。

そうはいっても気になるのは、中古マンションの「耐震性」。いつどこで大きな地震が起きても不思議ではない地震大国日本で、マンションの耐震性についてどう考えたらいいでしょうか。

大きな目安となるのはいわゆる「新耐震基準」を満たしているかどうか。新耐震基準の建物は阪神淡路大震災の際に全壊が少なかったのに対し、旧耐震建物の中には大破・倒壊した建物も多数見られました(国土交通省「住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題」より)。

現行のいわゆる「新耐震基準」は、78年の宮城県沖地震における被害を受け、81年に建築基準法が改正されたもの。この基準をかんたんにいうと「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7程度の大規模地震でも倒壊は免れる」というものです。地震被害が心配な人は81年以降のマンションを選ぶのが基本ですが、いくつか注意点があります。

ここでいう81年とは正確に言えば「81年6月1日以降に建築確認申請が受理されているかどうか」。ところが中古マンションの物件広告には築確認申請受理日の記載はなく、建物の完成(竣工)年月が分かるだけです。なので新耐震基準を満たしているかどうか見極めるには、建築工事期間を考慮に入れる必要があります。マンションは工期が長く、規模にもよるものの、着工から完成までに1~2年近くかかるのが一般的。もし、物件の完成年月が83年もしくは84年以降であれば、新耐震基準で建てられていると考えてよいでしょう。具体的に建築確認申請受理日を知りたければ、不動産仲介会社に調べてもらうか、自治体の担当部署に赴いて尋ねてみましょう。

「旧耐震」でも安全な建物はある

もちろん、新耐震基準以前に建築されたいわゆる「旧耐震」のマンションでも、新耐震基準と同等の耐震設計をしているものは数多くあり、構造面、管理面などを含めて個別にチェックすることが大切。心配ならホームインスペクター(住宅診断士)や建築士など建物の専門家に相談してみましょう。

81年以前の旧耐震の建物なら、耐震診断を受けて、その結果に応じ必要な耐震改修をしているかどうかが評価の一つの目安。

ただし現実には「建物の竣工図面がない」「耐震改修費用がない」「所有者間の合意が得られない」など多くの課題があり、国や自治体も耐震診断や改修に助成措置を講じているものの、耐震診断を受けているマンションはそれほど多くなく、中には耐震診断を受けても改修までは行っていないマンションも多いものです。

地盤のチェックも欠かさずに

もう一つ大事な視点があります。それは「地盤」です。マンションは一般的に地盤の支持層まで、地盤改良を施すため、大きな地震が来てもその影響は限定的であるように設計されていますが、それでも軟らかい地盤の上では建物はより揺れやすくなります。逆に、固い地盤の上に建っていれば、地震の影響は相対的に軽微です。

地盤を調べるのは、国土地理院の「土地条件図」が便利です。住所を入力し「情報」-「ベクトルタイル提供実験」-「地形分類」(自然地形・人口地形)で地盤の傾向を見ることができます。建物の揺れや液状化被害などが心配なら「台地」など相対的に土地が高い位置にあり、浸水や液状化の懸念がなく、地盤の固いところを選びましょう。

国土地理院の「土地条件図」

国土地理院の「土地条件図」

地盤の固いところでも、地面をかさ上げする「盛土」をしていればその限りではありませんので注意が必要です。また、この地盤情報は250メートル基準で作成されており、厳密には個別に地盤調査を行わないとわからないところがありますので、あくまで地盤の傾向がわかるものだということを理解しておきましょう。

よりお得に、安全な中古マンションを購入したい場合、こうした「目利き」のポイントを外さないことが大切です。実際に購入を検討している方は、参考にしてみて下さい。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

わが家にあった予算・ローン[3] 教育重視! 子育て世帯にあった住宅ローンの組み方・返し方は?

子どもの教育費は住宅ローンと並ぶ、子育て世帯の大きな支出項目です。私立と公立で学費は大きく変わってきますし、塾やそのほかの習い事で多額の費用がかかることもあります。そこで教育熱心な家庭はどんな住宅ローンを利用すべきなのか、住宅ローンをどのように組むべきかについて「ホームローンドクター」の淡河範明(おごう・のりあき)先生にうかがいます。

今回のご相談者はKさん夫婦。夫のTさん、妻のAさんともに35歳の会社員です。
5歳の子どもがおり、現在は東京都文京区に家賃20万円のマンションを借りて住んでいますが、子ども部屋の必要性などを考え、同じ文京区内で新築マンションの購入を検討しています。
子どもの教育費を捻出しながら住宅ローンを返済していくには、家計も含めて、どのように設計すべきなのでしょうか?

【連載】教えて、ローンドクター! わが家にあった予算と、借り方・返し方
住宅購入に悩みはつきませんが、「予算」は最も大切なポイント。年収の何倍までとか、頭金はこれくらい必要などいろいろな情報があふれていますが、人によって、物件によって、タイミングによって変わるため、実際にはみんなに通用するセオリーはありません。いったい「わたし」「わがや」にとってはいくらの物件を買えばいいのか? ローンはどう組めばいいのか? そんな疑問に「ホームローンドクター」である淡河範明(おごう・のりあき)先生がビシッとお答えいたします。

今回の登場人物と住宅購入予定
【Kさん夫婦の場合】

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

7000万円のマンションを文京区に購入したい夫婦の家計を分析!

淡河範明先生(以下、先生):今日は、文京区内にマンションを購入したいというご相談ですね。7000万円のマンションを購入されるご予定だとか。

夫:はい、子どもの教育を考えると、気になる小・中学校が多くある文京区に住み続けたいと思っていまして。

妻:ゆくゆくは子どもの留学や大学院への進学、また6年制の大学の入学も視野に入れて塾や習い事に通わせています。

先生:まず現在の家計の状況を教えていただけますか?

夫:収入は2人合わせた手取りが70万円ほどです。支出は家賃が20万円で、食費、水道光熱費等の生活費が17万円、小遣いが8万円、各種の保険が5万円など。子どもの教育費は幼稚園や習い事代で毎月10万円ほど掛かっています。毎月10万円程度とボーナスを住宅購入費用などの貯蓄に回しています。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

先生:現時点で教育費に毎月10万円が掛かっているんですね。仮にお子さんが小学校~大学まですべて私立に通うことになると、一般的に学費だけで2000万円ほど掛かると言われています。さらに習い事や塾、一人暮らしやホームステイ、大学院や6年制の大学に通わせるとなると別途2000万円くらいは用意しておく必要があるかもしれません。
つまり4000万円が必要と考えると、お子さんの教育費に毎月20万円は確保しておく必要があります。

夫:そうですよね……。さしあたり家を買ったら、現在、住宅購入費用として貯蓄している分を教育費に充てようと考えています。

先生:基本的には、お二人がずっと正社員として働いて現在の収入を維持できるのであれば問題はないと思います。あとは老後の備えについても考えておきたいですね。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

老後への備えも大切! どれくらいあれば余裕をもって老後を過ごせる?

先生:現在、毎月10万円を住宅購入費用として貯蓄されているとのことですが、住宅購入後にそれをお子さんの教育費に充てるとしたら、その他の用途に使える分は残らなくなってしまいますね。

お二人とも現在35歳ですから65歳に定年すると考えても、まだ30年間は働けます。第2回の記事で、老後資金の貯蓄額として3つのプランを挙げたのですが、お二人の現在の生活水準を考えると、65歳の定年退職時に3000万円は貯めておきたいところです。ボーナスを老後資金に充てるという方法もありますが、ボーナスは会社の業績や景気に左右されますから臨時収入と考え、突発的な出費に備えるお金、というくらいに考えておいたほうが良いでしょう。できれば他の生活費を見直すなどして、毎月8万円程度を貯蓄できるように検討してみてください。

妻:子どもの教育と家を買うことで頭がいっぱいで、老後のことはあまり考えていませんでした……。

先生:お子さんの将来を第一に考えるのであれば、定年退職後もお子さんに経済的に頼らずに済むように計画的に貯蓄しておきましょう。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

教育費を確保しながら、住宅ローンを返済していくにはどう組めばいい?

先生:では、住宅ローンの組み方や返し方について考えていきましょう。Kさん夫婦の収入であれば、7000万円のマンションを買うことは可能です。頭金のご用意や返済計画についてはどのように考えていますか?

夫:頭金は親からの援助も受けて1000万円ほど用意できます。できるだけ早めに、遅くとも定年退職時にはローンを完済していたいので、6000万円の融資を30年で返していこうと思っています。

先生:では6000万円を借り入れ、返済期間はご希望の30年で住宅ローンを組んだ場合のシミュレーションを見てみましょう。お二人とも会社員で安定収入があるためペアローンを組むこともできますが、今回は返済期間による比較がしやすいよう夫のTさんが単独で住宅ローンを組んだ場合の試算をしました。下表を見てください。

※元利均等返済。ボーナス時加算なしで試算。金利は2018年10月1日現在のもの。金利やキャンペーン内容は金融機関や時期によって異なります

※元利均等返済。ボーナス時加算なしで試算。金利は2018年10月1日現在のもの。金利やキャンペーン内容は金融機関や時期によって異なります

今回はA信託銀行の【フラット35】Sを利用した場合と、金利キャンペーンを利用した場合を比較する形で試算しています。【フラット35】には、省エネやバリアフリーなど、一定の住宅性能を満たす場合に10年間、金利の優遇を受けられる【フラット35】Sがあります。そのため、当初10年間はA信託銀行のキャンペーン金利より、金利が低く抑えられます。購入を検討しているマンションが対象になるか、確認しておくといいでしょう。

11年目以降はA信託銀行のキャンペーン金利のほうが低くなりますので、総返済額としてはA信託銀行のキャンペーンのほうが50万円強、低くなります。今回比較している金利キャンペーンのように期間限定で展開しているもののほか、各金融機関ではさまざまな商品・プランを用意しています。それぞれで総返済額がどのように変わるかを試算して、比較検討することをおすすめします。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

固定金利と変動金利、どちらで融資を受けるのが良い?

先生:現在の家賃は20万円とのことですが、住宅を購入すると固定資産税や管理費・修繕積立金などが発生するので、住宅ローン返済額とは別に通常、月に3万~4万円ほどかかります。先程のプランを見ると、30年での返済だと住宅費が重くなってしまいますね。先に話したように、教育費や老後資金の貯蓄のためにも、月々の支出は抑えたいところです。

そこで私からの提案ですが、次の表、返済期間を35年にしてはどうでしょう? そうすれば、毎月の住居費は管理費・修繕積立金を合わせても約20万~22万円となり、現在の家賃に数千円~2万円ほどを追加する形で済みます。

※A信託銀行の金利は、金利引き下げキャンペーン適用が終了する31年目以降、その時点の金利を適用した固定金利または変動金利が選べます。現時点で31年目時点の金利は予測できないため、表内の試算は2018年10月1日現在の金利で行っています。将来の金利については変動する可能性があります

※A信託銀行の金利は、金利引き下げキャンペーン適用が終了する31年目以降、その時点の金利を適用した固定金利または変動金利が選べます。現時点で31年目時点の金利は予測できないため、表内の試算は2018年10月1日現在の金利で行っています。将来の金利については変動する可能性があります

定年退職時に約1000万円の残債があることになりますが、今は低金利。ローンの残債よりも手元にある現金の額が多くなるようにしっかり残しておいて、定年退職後一括して返済するか、またはゆっくりローンを返済していけばいいのです。どうしても定年退職時までに返済したいということであれば、当初20年間、お子さんの教育費として捻出していた分や以降のボーナスを返済期間の残りの15年間で繰り上げ返済に回せば、定年退職時までかからずに完済できるでしょう。

夫:このシミュレーションは固定金利ですよね? 変動金利のほうが当面の金利が低いので、そちらも検討してみようと思っていたのですが、固定金利が良い理由はありますか?

先生:現在は低金利時代ですから、確かに変動金利を魅力的に感じる人も多いでしょう。ただ、固定金利は30年、35年間の出費を確定できるメリットがあります。借入金額の多い方はわずかな金利アップでも、毎月の返済額が一気に数万円単位で増える可能性もあります。繰り返しになりますが、教育費や老後資金を確保するためには、リスクよりも安心を取ることができる固定金利をおすすめします。

(イラスト/岩間敦美)

(イラスト/岩間敦美)

子どもの教育費を十分捻出しながらも、6000万円の融資を受けて返済したいというKさん夫妻。教育費は進路によっても変わってくるので、確実に貯蓄をするのであれば他の出費額を固定し、計画的に貯められるようにするのがいいようです。住宅費を計算するときは、修繕費や税金のことも含めて出費を把握する必要があります。

また、将来子どもに負担をかけないためには、同時に老後の生活費も準備しておかなければいけません。しっかりと毎月の家計項目と出費を把握し、定年退職時までに住宅ローンを完済するのか、毎月余裕をもって返済し、繰り上げ返済を随時行うことで完済を目指すのかも、夫婦で相談して決めていきましょう。

s-淡河 範明淡河 範明 ホームローンドクター
日本興業銀行、エル・ピー・エル日本証券を経て、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立。利用者の立場にたち、住宅購入時の資金計画、住宅ローンの選び方を新しい方法で提案している。著書に『住宅ローンを賢く借りて無理なく返す32の方法』『住宅ローン借り換えマジック』などがある。

「人間は自然の一部」。八ヶ岳で体験型教育を推進する古川和女史のデュアルライフ あの人のお宅拝見[11]

私が知り合ったころの古川和(カズ)さんは、主婦から起業して体験型科学教育『リアルサイエンス』を、科学者の秋山仁氏らと子ども向けに行っていました。最近は「大人向けに、企業のチームビルディングなんかもやってるのよ!」と、相変わらずアクティブな姉御の行動力に驚くばかり。東京とのデュアルライフを楽しむ、八ヶ岳麓のお宅へ伺って話を聞くことにしました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にかかわってきたジャーナリストのVivien藤井が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「アメリカで衝動買いした家具を置くために建てたような家」!?

和(カズ)さんの本宅は東京で、八ヶ岳の麓・大泉町に別荘を建てられたのは約20年前。子ども2人の子育て時代から山登りが好きで、野外活動教育の仲間もいるこの辺りが気に入っていたそうです。
今回も東京で午前中の仕事を終えてから車を走らせ、15時過ぎにこの取材。日常的に行ったり来たりとデュアルライフ(二地域居住)を楽しむアクティブな61歳は、私の憧れです。

クリームイエローに赤のトリムが映える大屋根の外観。取材日は曇りで冴えなかったので、青空の写真を送ってもらいました!(写真撮影/古川和さん)

クリームイエローに赤のトリムが映える大屋根の外観。取材日は曇りで冴えなかったので、青空の写真を送ってもらいました!(写真撮影/古川和さん)

八ヶ岳の家はフィンランドメーカー『ホンカ・ジャパン』のログハウス。山小屋のような丸太組みのログと違って、角型ログで、モダンな雰囲気。断熱性は北欧仕様なので秋冬は冷え込む八ヶ岳でも問題なし。

大きな家の小さな玄関、個性的なデザインは童話の世界のよう(写真撮影/片山貴博)

大きな家の小さな玄関、個性的なデザインは童話の世界のよう(写真撮影/片山貴博)

玄関を入った先に広がる、吹抜けの大空間リビングでお話を伺うことにしました。

ログの構造壁にタイルの床、赤い薪ストーブのある吹抜けのリビング(写真撮影/片山貴博)

ログの構造壁にタイルの床、赤い薪ストーブのある吹抜けのリビング(写真撮影/片山貴博)

私の隣にはアインシュタインの人形が鎮座。アメリカの友人からプレゼントされたそう(写真撮影/片山貴博)

私の隣にはアインシュタインの人形が鎮座。アメリカの友人からプレゼントされたそう(写真撮影/片山貴博)

「やっぱりログだから、内装の木肌が柔らかいし香りも良いのよね。20年たったけど」

お子様も独立され、ますます活動的な和さん。私はテニスでもご一緒し、パワフルなプレーに圧倒されています!(写真撮影/片山貴博)

お子様も独立され、ますます活動的な和さん。私はテニスでもご一緒し、パワフルなプレーに圧倒されています!(写真撮影/片山貴博)

20年前と言えば2人のお子様もまだ10代のころ、40歳そこそこで別荘を持つ余裕に驚き……。
「そういうことでも無いのよ!子どもにも良い場所とは思っていたけれど。実はアメリカの友達が家を売るときに、家具を処分するって言うから『私が買う!』って言っちゃって(笑)。しばらく、置く場所もなくアメリカの倉庫で保管してて、やっとここに置ける家が建てられたの」

イエローがアクセントカラー。壁には絵画より、窓の景色

旦那さまの赴任地だった米国バークレーの友人から買った、お気に入りの家具が10点以上。
「特にこのイタリア製テーブルのデザインが斬新で気に入ったの。このイエローが、インテリアのテーマカラーになりました」

イタリアンモダンのテーブルに合わせたイエローの椅子、右奥にはイエローの冷蔵庫をあえてキッチンの外、斜めに置いてフォーカルポイントに(写真撮影/片山貴博)

イタリアンモダンのテーブルに合わせたイエローの椅子、右奥にはイエローの冷蔵庫をあえてキッチンの外、斜めに置いてフォーカルポイントに(写真撮影/片山貴博)

ほかには、アメリカンBIGサイズのベッドが2階の寝室にありました。窓もベッドに合わせたデザインです。

私もここに泊めていただきましたが、おばさんでもお姫様気分(写真撮影/片山貴博)

私もここに泊めていただきましたが、おばさんでもお姫様気分(写真撮影/片山貴博)

「絵画も好きだけど、この家は壁に絵を掛けていないの。窓にカーテンをせず、窓枠を額縁にした外の景色が絵の代わり」
朝から夜、春夏秋冬。刻々と変化する景色を眺め、過ごす豊かさがここにはあるようです。

和さんが撮った、窓からの富士山や紅葉。一時として同じ景色は無い、自然の醍醐味(だいごみ)(写真撮影/古川和さん)

和さんが撮った、窓からの富士山や紅葉。一時として同じ景色は無い、自然の醍醐味(だいごみ)(写真撮影/古川和さん)

八ヶ岳界隈に住まう、クラフト&アクティブな人々も魅力

子育て主婦だった和さんは、35歳のときにNPO法人『Teaching Kids to Love the Earth』を立ち上げ、体験型学習を実践してこられました。
「アメリカ在住のころはヨセミテへキャンプに行ったり、東京では多摩川で網を投げて魚を獲ったり。子どもと遊ぶのも本格的、自然の中で育つと人への優しさが備わるものよ」
人間も自然の一部だと理解できるようになると、子どもも大人も物の見方が変わるということです。

赤い薪ストーブがリビングのアイコン。床暖房もあるが、薪を焚くと朝までホンワカと暖かい(写真撮影/片山貴博)

赤い薪ストーブがリビングのアイコン。床暖房もあるが、薪を焚くと朝までホンワカと暖かい(写真撮影/片山貴博)

「八ヶ岳界隈はすてきなお店や、面白い人が多くてね。とてもすてきなご夫婦が営まれているインテリアのお店があるの!」と、和さんお気に入りの北欧ヴィンテージ家具ショップが『SKOGEN』。
そのワークショップに参加してつくったペーパーコード編みの椅子が、暖炉の前に2脚(旦那さまと1脚ずつ作製)。

「薪をくべるときに座るとちょうどいい高さなの」。トレーを置くと、サイドテーブルとしても使える優れもの!(写真撮影/片山貴博)

「薪をくべるときに座るとちょうどいい高さなの」。トレーを置くと、サイドテーブルとしても使える優れもの!(写真撮影/片山貴博)

インテリアや手づくりが大好きな和さん。この家を建てるときも、自分で建材・設備を選びにショールームへかなり足を運んだそう。

2階のトイレには、和さんが探して来たパステル色のタイルが貼られていた(写真撮影/片山貴博)

2階のトイレには、和さんが探して来たパステル色のタイルが貼られていた(写真撮影/片山貴博)

「ほかにも東京から移住されたご夫婦で、きれいな畑をやっているお友達がいてね。今日も来る前に寄ったら、いろいろと採れたての野菜を下さったの」

早速、頂いた野菜をダイニングテーブルで並べ始め……(写真撮影/片山貴博)

早速、頂いた野菜をダイニングテーブルで並べ始め……(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳らしいグリーン・アレンジメント完成! 器は人気のプリンセス社(オランダ)ホットプレート(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳らしいグリーン・アレンジメント完成! 器は人気のプリンセス社(オランダ)ホットプレート(写真撮影/片山貴博)

ダイニングルームには、大人数が座れる大きなテーブル。「ここで企業研修をすることもあるの。自炊もチームビルディングの一環」

10人くらいはゆったり座れるテーブル。ここからも、外の緑が目に入る開放的なダイニング(写真撮影/片山貴博)

10人くらいはゆったり座れるテーブル。ここからも、外の緑が目に入る開放的なダイニング(写真撮影/片山貴博)

そしてダイニングの奥には、コンサバトリー(サンルーム)もあります。

「ここは朝、気持ちいいのよー」。朝日が入る、東側にあるコンサバトリー(写真撮影/片山貴博)

「ここは朝、気持ちいいのよー」。朝日が入る、東側にあるコンサバトリー(写真撮影/片山貴博)

食器も好きな和さんコレクションで、朝食風にセットしてもらった(写真撮影/片山貴博)

食器も好きな和さんコレクションで、朝食風にセットしてもらった(写真撮影/片山貴博)

和さん自身がそうであるように、八ヶ岳界隈にはアクティブに何かをするために住まう人が多いよう。そんな活力のあるコミュニティーが、この避暑地ならではだなぁ……と感じました。

老若男女、グローバルな出会いの場になればという想い

海外の子どもたちが環境体験学習を行うのに、ここを拠点にすることもあるようで、こんな色紙を発見。

このお宅のデッキにあふれる子どもたち。つづられた感謝の言葉が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

このお宅のデッキにあふれる子どもたち。つづられた感謝の言葉が並ぶ(写真撮影/片山貴博)

色紙の写真は、このデッキ。ハンモックも気持ち良さそう(写真撮影/片山貴博)

色紙の写真は、このデッキ。ハンモックも気持ち良さそう(写真撮影/片山貴博)

「外国人をお招きすることもあるので、一応和室もね」、2階の和室には野点(のだて)の茶道具も収められています。

琉球畳に和紙のランプでモダンな和室。洋風窓も意外と調和(写真撮影/片山貴博)

琉球畳に和紙のランプでモダンな和室。洋風窓も意外と調和(写真撮影/片山貴博)

今回敷地内に、以前来たときには無かった物体や小屋が増築されていました(!?)。

高さ3mの壁、これを道具無しにチームで協力して全員登り切るという課題用

高さ3mの壁、これを道具無しにチームで協力して全員登り切るという課題用

シーソー、複数人が乗ってバランスを取るもの(写真撮影/片山貴博)

シーソー、複数人が乗ってバランスを取るもの(写真撮影/片山貴博)

「これも体験学習のひとつ。大人も子どもも自然のなかで身も心も鎧を脱ぎ捨てて、ひとりではできないことを助け合いながら達成する。人それぞれ得意不得意があって当然、お互いの理解が深まっていくのがチームビルディング」
子どもたちも、そんな体験から“多様性”を肌で実感することになるのだそう。

「今日は曇っていて残念ね」と空を眺めながら、「今度はここでテニス合宿するから、いらっしゃいよ!」と誘ってくれた(写真撮影/片山貴博)

「今日は曇っていて残念ね」と空を眺めながら、「今度はここでテニス合宿するから、いらっしゃいよ!」と誘ってくれた(写真撮影/片山貴博)

八ヶ岳のお住まいも拡張するなか、「今度は東京の家を建て替える計画をしたいの! いつか娘が子育てするのなら二世帯住宅にしたいと思って。子どもも大人も一緒に勉強できるような書斎をつくりたい、天井まで書棚があってハシゴに登って本を取るような……」と、目を輝かせる和さん。その夢は、いくつになっても尽きることが無さそうです。

古川 和
八ヶ岳エナジェティック倶楽部代表
1957年大阪府生まれ。東京都在住、結婚・子育てを経て1992年子どもの環境教育、科学教育の会Teaching Kids to Love the Earthを起業。2000年一橋大学大学院國際企業戦略研究科(非常勤講師)。後に、アクションラーニング研究所を立ち上げ、企業のチームビルディング研修を実施。カリフォルニア大学バークレー校の体験型の科学教育の手法を日本に普及し、NPO法人体験型科学教育研修所を立ち上げ2016年まで活動。2017年より株式会社EHRのエグゼクティブコンサルタント。(文部科学省政策評価有識者会議メンバー、東京学芸大学監事(非常勤)など)。
趣味はテニス、俳句、茶道、美術鑑賞と幅広く、多彩な人脈を持つ。座右の銘:格物致知
株式会社EHR
北欧家具「SKOGEN」

売買や賃貸で、問い合わせから契約までの期間が長期化! その理由は?

不動産情報サイト事業者連絡協議会(以下、RSC)が不動産情報サイト利用者にアンケートを行ったところ、問い合わせをしてから契約までにかかった期間が長期化していることが分かった。売買と賃貸では違いもあるが、いずれも長期化している。その背景として、どういったことが考えられるのだろう?【今週の住活トピック】
「不動産情報サイト利用者意識アンケート」調査結果を発表/不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)問い合わせ物件数が増加。売買・賃貸ともに1物件が減少

不動産情報を探すときには、多くの情報を比較検討する必要があることから、以前はスマホよりPCの利用が多かった。最近はスマホ利用者がPCより多くなってきたが、2018年の結果を見るとPC利用が多かった60代以上を含めて、いずれの年代もスマホ利用が大幅に増加した。

問い合わせた物件数は平均5.5物件で、前年の2017年の4.9物件より増加した。賃貸を契約した人では、前年の4.9物件から5.1物件とわずかに増加し、売買で契約した人では前年の5.1物件から6.0物件と大幅に増加した。

全体では「1物件」「2物件」が減少し、「6物件以上」が大幅に増加した点が特徴だが、これは売買を契約した人の動向が大きく影響している。「賃貸」でも「1物件」という割合が減少しているので、じっくり比較検討している様子がうかがえる。

問い合わせた物件数(出典:RSC「不動産情報サイト利用者意識アンケート」より転載)

問い合わせた物件数(出典:RSC「不動産情報サイト利用者意識アンケート」より転載)

問い合わせから契約までの期間は長期化が顕著

次に、問い合わせをしてから契約までにかかった期間を見ると、全体的に長期化している結果となった。売買と賃貸ではかかる期間が異なるが、売買では最多の「1か月~3か月未満」(前年48.4%→35.5%)、賃貸では最多の「1週間~1か月未満」(前年64.5%→42.6%)が、いずれも前年より大幅に減少している。一方で、売買では「6か月以上」(前年4.8%→24.6%)、賃貸では「1か月~3か月未満」(前年16.3%→34.4%)が大幅に増加するなど、長期化が顕著に見られる。

物件の検討から契約までの期間(出典:RSC「不動産情報サイト利用者意識アンケート」より転載)

物件の検討から契約までの期間(出典:RSC「不動産情報サイト利用者意識アンケート」より転載)

なぜ長期化する?長期化するのは望ましいこと?

問い合わせから契約まで、つまり住まい探しをスタートしてから契約する物件を決めるまでの期間が長期化するということは、どういうことだろうか?

それは「契約を急がない」「慎重に物件を比較検討する」ということだろう。

まず賃貸住宅市場だが、賃貸の空室率を示す、タス空室インデックスの過去2年の推移を見ると、関西圏・中京圏・福岡県はおおむね横ばい、埼玉県を除く首都圏はじりじりと上昇している。借り手が有利な市場といえるので、焦る必要はなくじっくり検討できる状況だ。

また売買では、新築マンションの価格が上昇し、中古マンションもつられるように上昇といった市況にある。複数物件を比較しながら無理なく買える価格かなど、価格と希望条件を慎重に見極めていることがうかがえる。

住宅はモノではなく生活の拠点となるものなので、焦らずじっくり比較検討するという状況は望ましいことだ。

だが一方で、新築マンションの価格が高止まりしている状況などから、いずれ価格が下がるのではないかと様子見をしている人も多いと聞く。そうなると、住まい探しを始めながらもなかなか物件を決めることができないので、今後さらに長期化するといったことも考えられる。

日本不動産研究所が東京23区のマンション価格の中期予測を発表しているが、「新築マンション価格は、2018年まで上昇、以降ほぼ横ばいで推移し、2020年には消費増税の影響でやや下落、以降2025年までは微減」と見て、2017年のm2単価98.9万円に対し、2025年は95.0万円になると予測している。

価格が微減したとしても、その間に住宅ローンの金利が上がってしまえば、利息増加分で相殺されてしまう可能性もある。不確かなものに振り回されて長期化するというのは、望ましいことではないだろう。自分が本当に住みたいと思えるものに出合った時が、決め時だと思う。

【カップル編】品川駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

JRの新しい駅「品川新駅(仮)」建設をはじめ、再開発が進められている品川駅周辺は、今後の発展が待ち遠しいエリア。前回は、そんな品川駅まで30分以内にある、シングル向け中古マンションの価格相場ランキングを紹介した。続いて今回は、同条件で専有面積40平米以上~70平米未満のカップル向け中古マンションの価格相場が安い駅のトップ10をピックアップ。注目が高まっている品川駅まで行きやすく、お手ごろに住める街はいったいどこ!?●品川駅まで30分以内の中古マンション価格相場が安い駅TOP10
順位/駅名/価格相場(沿線名/駅の所在地/品川駅までの所要時間)
1位 保土ヶ谷 2635万円(JR横須賀線ほか/神奈川県横浜市/25分)
2位 市川 2999万円(JR総武線ほか/千葉県市川市/28分)
3位 新小岩 3280万円(JR総武線ほか/東京都葛飾区/22分)
4位 東戸塚 3285万円(JR横須賀線ほか/神奈川県横浜市/30分)
5位 上中里 3489.5万円(JR京浜東北線/東京都北区/28分)
6位 川崎 3580万円(JR京浜東北線ほか/神奈川県川崎市/9分)
7位 蒲田 3585万円(J京浜東北線ほか/東京都大田区/10分)
8位 立会川 3594万円(京急本線/東京都品川区/5分)
9位 京急川崎 3605万円(京急本線ほか/神奈川県川崎市/11分)
10位 田端 3624万円(JR京浜東北線ほか/東京都北区/25分)

品川駅から約25分離れると価格相場が2900万円以上ダウン!

今回の調査の起点駅とした品川駅から徒歩15分以内にある、カップル向け中古マンションの価格相場は5625万円。そこから電車で30分以内まで調査範囲を広げると、価格相場はグッとリーズナブルになることがランキングから見て取れる。

ランキング1位は中古マンション価格相場が品川駅の半額以下である2635万円と判明した保土ヶ谷(ほどがや)駅。JR横須賀線で品川駅まで5駅・約25分という近さに加え、JR湘南新宿ラインに乗れば渋谷駅や新宿駅にも乗り換えなしで行くことができる。また、1駅お隣は横浜駅という点も魅力だろう。ちなみに今回調査での横浜駅の価格相場は3688万円で、1駅違うだけで1000万円以上も相場に開きがあることも驚きだ。

保土ヶ谷駅には「ビーンズ保土ヶ谷」と「シァル保土ヶ谷」が併設され、スーパーやドラッグストア、飲食店などが営業中。仕事帰りにサッと日用品の買い物や食事ができるので忙しい共働きカップルにもうれしい。

2位はトップ10で唯一、千葉県に位置するJR総武線・市川駅。価格相場はぎりぎり2000万円台に収まった。駅南側は再開発により10年ほど前に誕生した「I-linkタウンいちかわ」がある。商業施設や行政施設、分譲マンション、UR賃貸住宅などからなる2棟の高層ビルがそびえ、45階の展望スペースからは都心部まで一望! 駅に直結したショッピングセンターもあるほか、駅北側にはスーパーも。また、駅北口から500mほど北へ歩くと、京成本線・市川真間駅があるのも便利な点だ。

市川駅とI-linkタウンいちかわ(写真/PIXTA)

市川駅とI-linkタウンいちかわ(写真/PIXTA)

「穴場の街」として注目される、都内の駅もランクイン

品川駅までの所要時間が最短だったのは、品川駅から京急本線で5駅という8位・立会川駅。京急本線のエアポート急行なら品川駅から2駅・約5分という近さでありながら、価格相場は品川駅よりも約2000万円も安い。駅周辺にはかつて土佐藩・山内家の下屋敷があり、若いころの坂本龍馬の着任地であることが近年、判明した。そのため駅前には龍馬像があるほか、駅前商店街は龍馬ゆかりののぼり旗や商品を用意して街を盛り上げている。

10位にはトップ10で唯一、JR山手線が通る田端駅がランクイン。下町風情が残る街にはわざわざ遊びに来るような目立った繁華街はないが、駅前に商店街が延びているほか、駅ビル「アトレヴィ田端」があったり駅周辺にスーパーが点在していたりと日々の買い物には困らない。リクルート住まいカンパニーが調査した「住みたい街ランキング2018 関東版」の「穴場だと思う街ランキング」では9位に選ばれており、狙い目の街と言える。

田端駅(写真/PIXTA)

田端駅(写真/PIXTA)

さて、前回のシングル編ではランキング上位が都内の駅で埋め尽くされた一方、今回のカップル編では東京、千葉、神奈川の駅が多くランクイン。都内にこだわらなければ価格相場が品川駅の半額以下だったり、品川駅に近い都内であっても穴場の街があったりと、今回のランキングはなかなかに発見が多い結果となった。

次回は品川編の最終回、専有面積70平米以上・100平米未満のファミリー向け中古マンションの価格相場ランキングを紹介したい。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積40平米以上70平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年4⽉1⽇~2018年6⽉30⽇
【価格相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

東京五輪の選手村が巨大タウン「HARUMI FLAG」に【速報】

「東京 2020 オリンピック・パラリンピック」の後、東京・晴海に建設中の選手村がマンションや商業施設などで構成される巨大な街「HARUMI FLAG」になる。2018年10月31日(水)、「晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業」発表会にて開発コンセプト・ビジョン・名称が明らかになった。
5632戸を分譲住宅・賃貸住宅に

アツいドラマが繰り広げられる裏で、主役たる選手たちのオアシスとなる選手村。そんな舞台が、なんと開催後にマンションとして住めるようになる! しかも技術の粋を尽くした巨大な街になるという。その名も「HARUMI FLAG」。

約13ヘクタールの広大な土地に5つの街区で構成され、5632戸の分譲住宅・賃貸住宅と商業施設の合計で24棟が建築されるほか、保育施設、介護住宅などを整備。人口約12000人になる予定とのこと。その内容は?

「HARUMI FLAG」4つのテーマ

この新しい街が掲げるテーマは以下の4つ。

●ゆとりと変化を街に生み出す

5街区・6街区・7街区・小中学校に囲まれたCENTER CORE 完成予想 CG

5街区・6街区・7街区・小中学校に囲まれたCENTER CORE 完成予想 CG


駐車場は地下に設け、地上スペースを有効に活用。6街区:FLAG CORE 前の辻広場完成予想 CG

駐車場は地下に設け、地上スペースを有効に活用。6街区:FLAG CORE 前の辻広場完成予想 CG

広大な敷地には、直径約100mのCENTER CORE(中心広場)をはじめ、辻広場、中庭などのオープンスペースがそこかしこに。住居は2階以上に設け、各棟の1階は店舗や共用室にすることで、住人同士の交流が生まれるように工夫してある。

●本物の自然に包まれて暮らす

緑道公園と4街区の海からの風景完成予想CG

緑道公園と4街区の海からの風景完成予想CG


5街区:DOTS PLAZA 完成予想 CG

5街区:DOTS PLAZA 完成予想 CG

三方を海に囲まれたロケーションを活かし、開放的な海の眺めなどを満喫できる設計になっている。レインボーブリッジや東京タワーなどの東京ならではの景観を生活空間で楽しめるなんてぜいたく! 街中には約3900本、約100種の樹木が植えられ、四季の移ろいも感じられる。

●日本らしさが息づく

まちづくりには、日本の建築シーンをリードする気鋭のデザイナー25人が参加。統一感を大切にしつつも、それぞれの個性を活かしたデザインを実現した。

街路からエントランスに至るまで光の使い方を細かく設定したり、スカイラインに建築物の左右対称性をあえて崩す日本の伝統的手法「ダイナミックシンメトリー」を採用するなど、街の景観にもこだわる。

また「細部への気遣いとおもてなし」もポイントのひとつ。マンションでは、共用廊下を1.5m(通常のマンションでは1.2m)と広くし、車いすと人がすれ違えるゆとりをもたせている。17人乗りの大型エレベーターやバリアフリー法で定められた基準よりもゆるやかな 1/20(5%)以下の勾配スロープを設けるなど、街全体が誰もが快適に暮らせる空間となる。

●ご近所でつながる、分け合う

6街区:SORA TERRACE完成予想CG

6街区:SORA TERRACE完成予想CG


05街区:SPORTS BAR 完成予想 CG

5街区:SPORTS BAR 完成予想 CG


08_6街区:KODOMO PLAZA完成予想CG_result

6街区:KODOMO PLAZA 完成予想 CG


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7街区:商業施設完成予想 CG

タワー棟を除く分譲住宅では、2LDK~4LDKの1009通りの間取りを用意。分譲街区にはブックラウンジ、スポーツバー、キッズルーム、「CRAFT ROOM」など51の共用室が設置され、区の住民であれば街区を超えて利用可能。カーシェアリング、シェアサイクルなどシェアサービスも利用できるので、あわせて利用するのも楽しそう。

賃貸街区にも、シェアハウスやシニア住宅、介護住宅が設置される。スーパーマーケットや生活支援施設などの商業施設などのほか、小中学校、保育施設も設置される予定。

また、街のイベントや災害時のお知らせなどの街の情報が掲載される「タウンポータル」、地域のエネルギー状況を共有・管理する「エネルギーマネジメント」、街全体を監視する「セキュリティ」など、街全体をネットワークで繋いだサービスも提供される。

模型。次世代のエネルギーを供給する「水素ステーション」が設置されるなど、環境にも配慮した街になる

模型。次世代のエネルギーを供給する「水素ステーション」が設置されるなど、環境にも配慮した街になる

都心直結の新交通システム「BRT」を導入

「HARUMI FLAG」は、銀座へ約2.5km、東京へ約3.3kmと都心部へも好アクセスなだけでなく、豊洲まで約2.1km、国際展示場まで1.4km、台場まで約2.8kmと、湾岸エリアにも行きやすい場所に誕生する。交通には新たにBRT(バス高速輸送システム)が導入され、「HARUMI FLAG」と新橋駅・虎ノ門を結ぶ。新橋駅発5時台~24時台の運行が検討されており、朝のピーク時には1時間あたり12本の便が走るとのこと。朝のピーク時でも都心へのスムーズな移動が可能になる予定だそう。

選手村に住める、というだけでもワクワクするのに、さらにこんな未来な暮らしが待っているなんて……。価格はまだ発表されていないが、今から待ちきれない!

発表会時の様子

発表会時の様子

●今後のスケジュール
2019年 春 モデルルーム事前案内会開始
5月下旬 販売開始予定
2022年 秋 住宅棟(板状)竣工予定
2024年 3月 住宅棟(タワー)竣工予定

中古リノベを選ぶ独身女性が増加中! リノベ女子の暮らしとは

東京をはじめ首都圏で、中古マンションをリノベーションする一人暮らしの女性が増えている。住まいに合わせて暮らすのではなく、住まいを自分らしく変えられるリノベーション。今回は、中古マンションを購入してリノベーションし、理想の暮らしをかなえた「中古リノベ」の実例とともに、選択する人が増えている背景やメリット・デメリットを紹介する。
賃貸・新築購入に並び「中古リノベ」も次の住まいの選択肢に

「実は中古マンションを買って、リノベーションしたんだ」という知り合いが周りにチラホラ現れ、「中古リノベ」が賃貸への引越しや新築マンションの購入と同じような感覚で、次の住まいを考える際に選択肢のひとつになってきていることを実感している人も多いだろう。
ある程度カスタマイズできる賃貸や新築も増えているが、なぜ中古物件を買ってリノベーションをする「中古リノベ」を選ぶ人、特に単身の女性が増えてきているのか。リノベーションのメリット・デメリットと照らし合わせながら、その理由を探っていこう。

「中古リノベ」は住まいに感性を反映できる点が大きなメリット

10年ほど前までは、住まいに手を加える場合、“リフォーム”と呼ぶことが多かったが、現在は“リノベーション”と呼ぶ場合がほとんどだ。両者の違いを一般社団法人 リノベーション協議会では、壊れたトイレの交換や破れた壁紙を張り替えるなどの“原状回復”がリフォームであるのに対し、使える箇所があれば残しつつ暮らしに合わせた家全体の改修をリノベーションと定義している。従来はパーツの組み合わせが中心の「修繕」という概念から、最近は空間全体をオーダーメイドする人が増え、その自由度も格段に大きくなっていると言える。

画像提供/リノベーション協議会

画像提供/リノベーション協議会

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同協議会の樽宏彰さんによると、リノベーションをする人が増えてきた理由は「住宅ローンを組むことが可能になった」点が最も大きいという。20年くらい前までは、リノベーション費用を住宅ローンで一本化して組むことができず、現金で支払うか、別途金利の高いリフォームローン等で手当てするしかなかった。「リノベーション済み物件」が登場し、中古相場で「リノベーション」の価値が認知されるようになり、追いかけるようにここ10年で「中古物件+リノベーション」の一本で住宅ローンを組めるようになった。

「中古リノベ」を選ぶ人のなかでも単身の人は、「賃貸で保証人などで苦労しなくて済むように所有しておく『将来の住まいに対する備え』、新築ほど高価な資産は必要ないが自分らしい暮らしがしたい『経済合理性を求めつつ資産形成』の視点をもっている方が多いように思います」と樽さん。

特に女性には、インテリア好きや料理などの趣味をもつ人も多い傾向があり、実現したい暮らしをイメージすること、つまり感覚的な部分から、マンションの購入を検討しはじめるという。

賃貸とは違い、自分のものになること。未完成の新築物件とは違い、現状を確認して購入し自由に設計できること。そして何より、“新築にはない味わい”があることが、感覚的な部分からスタートしている彼女たちにとって、大きく響くのだろう。

リノベーションの認知度・関心度に関する調査「『住宅購入・建築検討者』調査(2016年度)」(リクルート住まいカンパニー※詳細は記事末にて) リノベーションの認知度は96.9%、関心度は52.1%で、2016年時点で2012年の約1.8倍に。世帯別では、男女ともにシングル層の認知度が高いことが分かる

「『住宅購入・建築検討者』調査(2016年度)」(リクルート住まいカンパニー※詳細は記事末にて)
リノベーションの認知度は96.9%、関心度は52.1%で、2016年時点で2012年の約1.8倍に。世帯別では、男女ともにシングル層の認知度が高いことが分かる

「中古リノベ」のデメリットを理解した資金計画が重要

ただし、「中古リノベ」にはメリットばかりでなくデメリットもあるので注意が必要だ。マンションの面積や築年数、耐震性などの条件によって、住宅ローン減税制度(ローンの一部に相当する金額が所得税や住民税から控除される制度)が使えない場合や、住宅ローンが組めるようになったとはいえ、物件価格+リノベ工事費のフルローンを組むことが難しい場合がある。

特に単身の場合は、一人で完済できるかを問われるため、無理のない資金計画が重要となる。中古マンションの購入に当たっては、年収や勤続年数などで借りられる金額に差が出るが、自己資金が必要な場合があり、早い段階で不動産会社経由でローンの相談をしておくといいだろう。一般的に「年収の5倍、年間の所得に対して25%のローンの支払い」の範囲に収めるのが理想的とされるので、参考にしよう。

“理想の暮らし”を形にした実例を紹介

身を置きたい空間のイメージがふくらみ、資金を用意できたら、準備万全! 「中古リノベ」を実現させるには、どんなステップを踏むのか。東京都豊島区の中古マンションを購入し、リノベーションを行ったKさん(40代・女性・独身)の実例を紹介しながら、その流れを追っていこう。

天井や配管がむき出しになった躯体現しの内装。それでも優しい質感の白い壁や木のフローリングに温もりを感じられ、Kさんが買い集めた古家具やアンティークの照明が良く合う(写真撮影/masa(PHOEBE))

天井や配管がむき出しになった躯体現しの内装。それでも優しい質感の白い壁や木のフローリングに温もりを感じられ、Kさんが買い集めた古家具やアンティークの照明が良く合う(写真撮影/masa(PHOEBE))

以前は家族所有のマンションで暮らしていたKさん。駐車場の隅で偶然出会った生まれたばかりの野良猫、現在は一緒に暮らす「わさび」(取材時3歳・メス)との出会いが「中古リノベ」への背中を押した。

「管理規定でペットが飼えないマンションだったのですが、そのまま見捨てることもできず、里親を探したり、友人に預けたりしていました。しかし、引き取り手が見つからず、安心して飼える環境が必要だと感じました」とKさん。また、蚤の市やアンティークショップなどを巡り、掘り出し物を探すのが好きなKさんは、「自分の暮らしの理想形があったのと、40代という年齢は、ローンを組むならそろそろリミットかなと思って」と、このタイミングでマンション購入に踏み切った理由を振り返る。

内覧した際に気になったという梁の出っ張りは、躯体現しで活かした。左側に写る対面式キッチンのカウンターは、この雰囲気に合う質感をもち、水に強いモールテックス仕上げに(写真撮影/masa(PHOEBE))

内覧した際に気になったという梁の出っ張りは、躯体現しで活かした。左側に写る対面式キッチンのカウンターは、この雰囲気に合う質感をもち、水に強いモールテックス仕上げに(写真撮影/masa(PHOEBE))

窓の外には視界を遮る物がなく、カーテンが不要なほど。カーテンレールは今や、植物をつるすために機能している(写真撮影/masa(PHOEBE))

窓の外には視界を遮る物がなく、カーテンが不要なほど。カーテンレールは今や、植物をつるすために機能している(写真撮影/masa(PHOEBE))

物件探しへと動き出し、当初は新築やリノベ済み物件を探した。しかし、イメージする暮らしと間取りが合わず、中古マンションを買って、自分好みに変えようと思うようになったという。条件はまずペット可であること。そして以前の住まいより広い50平米以上、通勤に便利な場所、駅徒歩数分以内であることなどを優先項目に挙げ、ピックアップした物件を不動産屋さんと約2カ月半、毎週2、3件、計10件ほど内覧した。

LDKには、わさびが運動できるようにキャットウォークを設けた。登りやすさはもちろん、年を取ってわさびが遊ばなくなったら棚として使えるようにも考慮されている(写真撮影/masa(PHOEBE))

LDKには、わさびが運動できるようにキャットウォークを設けた。登りやすさはもちろん、年を取ってわさびが遊ばなくなったら棚として使えるようにも考慮されている(写真撮影/masa(PHOEBE))

LDKにはキャットトンネルがあり、キャットトイレがある洗面脱衣室につながっている(写真撮影/masa(PHOEBE))

LDKにはキャットトンネルがあり、キャットトイレがある洗面脱衣室につながっている(写真撮影/masa(PHOEBE))

その際、「SUUMOジャーナルに掲載されていた『中古マンション見学のポイント』を参考に、部屋以外にもマンションのゴミ置き場、駐輪場が整理整頓されているかなど管理状態もチェックしました」とKさん。築年数がたっているが、管理体制がしっかりしていることもあって気持ち良く過ごせているという。

現在住む物件は、候補のなかで当初の条件に合う順位としては下位のほうだったというが、「当時現在のLDK部分を仕切っていたアコーディオンカーテンを開けたとき、視界が開けたのが気持ち良く、見晴らしが気に入って購入を決めました」

部屋が細かく分かれていた約71平米の2LDKを、ドアがなく緩やかに区切られた1LDKに変更。さらに玄関土間を広げ、オープンな収納にしたことで、よりのびやかな空間に生まれ変わった(画像提供/インテリックス空間設計)

部屋が細かく分かれていた約71平米の2LDKを、ドアがなく緩やかに区切られた1LDKに変更。さらに玄関土間を広げ、オープンな収納にしたことで、よりのびやかな空間に生まれ変わった(画像提供/インテリックス空間設計)

フィーリングが合う会社や担当者との出会いも重要

物件探しの段階からリノベーション会社に依頼すれば、物件探しからリノベーション工事まで、ワンンストップで行ってくれる。その場合は、どの壁が壊せて、どの部分が変えられないなど、アドバイスを受けながら物件を探すことができるので、効率が良いと言えるだろう。

しかしKさんの場合は自分で物件を探し購入したため、希望を実現できるリノベーション会社を別途探す必要があった。Kさんは雑誌などを見て気に入る事例ページをブックマークして、その数が多い3社ほどに連絡。好きなインテリアショップなどの話が合った会社に依頼することにした。

LDK入口のアンティークの扉。プランが決まる前にKさんが一目ぼれし購入したもので、補修して使用している。リノベーション会社によって、部材の持ち込みは不可の場合があり注意が必要(写真撮影/masa(PHOEBE))

LDK入口のアンティークの扉。プランが決まる前にKさんが一目ぼれし購入したもので、補修して使用している。リノベーション会社によって、部材の持ち込みは不可の場合があり注意が必要(写真撮影/masa(PHOEBE))

洗面台のレトロな鏡は、引越し祝いに友人からプレゼントしてもらったもの。こだわりがなかったという水まわりの機能はシンプルに。その分居室に予算を回し、費用面でメリハリをつけた(写真撮影/masa(PHOEBE))

洗面台のレトロな鏡は、引越し祝いに友人からプレゼントしてもらったもの。こだわりがなかったという水まわりの機能はシンプルに。その分居室に予算を回し、費用面でメリハリをつけた(写真撮影/masa(PHOEBE))

設計担当者とは、1カ月半で5回ほど打ち合わせを行い、3パターンほど提案があったという。「担当者とはひたすら意見交換し、一緒に1カ月半の間、ひたすら部屋のことを考えていました。自分の好みを突き詰める、いい時間だったと思います。大変な面もありましたが、その分、図面、そして部屋が完成したときは感動しました」

リノベーション会社の担当者のアドバイスに沿って近隣住民への挨拶を行い、購入契約後から工事を開始。入居はその4カ月後になった。

お気に入りだけに囲まれた自分仕様の住まい

現在の住まいでKさんは、休日にはインナーテラスで本を読んだり、ソファに腰掛けてDVDを観たりと、目的なしにゆっくり過ごしているそう。

寝室に設けたインナーテラスは、主に南向きで2面採光のため、日当たり・風通しともに良好。梁の出っ張りと床タイルでの切り替えが、寝室とインナーテラスとを視覚的に区切る(写真撮影/masa(PHOEBE))

寝室に設けたインナーテラスは、主に南向きで2面採光のため、日当たり・風通しともに良好。梁の出っ張りと床タイルでの切り替えが、寝室とインナーテラスとを視覚的に区切る(写真撮影/masa(PHOEBE))

模様の入ったすりガラスが味わい深い棚も、Kさんが以前の住まいから使っていた古家具のひとつ。以前は食器棚としての役割を果たしていたが、現在の住まいでは本棚に(写真撮影/masa(PHOEBE))

模様の入ったすりガラスが味わい深い棚も、Kさんが以前の住まいから使っていた古家具のひとつ。以前は食器棚としての役割を果たしていたが、現在の住まいでは本棚に(写真撮影/masa(PHOEBE))

「以前から気になってはいたものの、中古マンションを買ってさらにリノベーション工事と、ゼロからやるのは難しいと最初は思っていました。でもちょっとした理由から実際に動いてみて、振り返ると意外と思い通りに部屋全体を自分仕様にできたので、『中古リノベ』がブームとなっている理由が分かる気がします」

都心にもかかわらず、日当たり・風通しがよく開放的で心地よい空間。古くから建つため、恵まれた立地条件であることが多いのも中古マンションならではのメリットだ。わさびもこの部屋にお気に入りの場所をたくさん見つけ、のびのび暮らしている。

インナーテラスで日向ぼっこをするわさび。風通しを良くするために開けられたウィークインクローゼットの上やインナーテラスのカウンターなど、お気に入りの場所を教えてくれた(写真撮影/masa(PHOEBE))

インナーテラスで日向ぼっこをするわさび。風通しを良くするために開けられたウィークインクローゼットの上やインナーテラスのカウンターなど、お気に入りの場所を教えてくれた(写真撮影/masa(PHOEBE))

部屋が完成した後も少しずつ手を加えながら、自分らしい暮らしを満喫しているKさん。「家に居る時間が増えたのと、余計なものを買わなくなりました。本当に気に入ったものしかこの空間に置きたくないので」と、部屋全体を愛おしそうに眺める様子が印象に残った。

窓が多くドアが少ない開放的なKさんの住まい。好みの内装写真を通して建築士とイメージを共有。特に取り入れたかった室内窓にはこだわり、色とサイズを入念に確認して造作した(写真撮影/masa(PHOEBE))

窓が多くドアが少ない開放的なKさんの住まい。好みの内装写真を通して建築士とイメージを共有。特に取り入れたかった室内窓にはこだわり、色とサイズを入念に確認して造作した(写真撮影/masa(PHOEBE))

●取材協力
リノベーション協議会●実例の設計・施工
インテリックス空間設計●調査概要
「『住宅購入・建築検討者』調査(2016年度)」(リクルート住まいカンパニー)

スター猫のお宅訪問![1]インスタ・ブログで人気の「どんこ」と写真家・井上佐由紀さん、外山輝信さんの暮らし

コーヒーショップやインテリアショップが並ぶ渋谷の住宅街。その一角にある築54年のマンションに暮らすのは、写真家の井上佐由紀さんとマネージャーの外山輝信さん。そして、インスタグラムやブログ、雑誌などで人気のスター猫・どんこちゃん(オス、10歳、スコティッシュフォールドのミックス)だ。その暮らしぶりを拝見した。【連載】スター猫のお宅訪問!
インスタグラムで人気のキーワードといえば「猫」。多くのフォロワーを魅了するスター猫たちは、どんな暮らしを送っているのだろう。暮らしの工夫や写真の撮影のコツなどを聞いてみた。どんこちゃんが、グレーが美しいモルタル仕立てのリビングへご案内井上さん撮影のどんこちゃん(画像提供/井上佐由紀さん)

井上さん撮影のどんこちゃん(画像提供/井上佐由紀さん)

取材スタッフがお邪魔すると、井上さん・外山さんとともに玄関でお出迎えをしてくれたどんこちゃん。人見知りはせず「お客さんが大好き」というどんこちゃんが案内してくれたのは、モルタル仕立てのグレーが美しいリビングだ。

「最初はここまでモルタルにするつもりはなかったんです。床はモルタルにしたくて、壁はほかの素材も検討していたのですが、雰囲気も統一できるので結局全部モルタルにしました。ただ、最初の1~2週間は筋肉痛になりましたけど(笑)」(外山さん)
「モルタルの床ってすごく足が疲れるんですよ。もう慣れましたけどね(笑)。フローリングも硬いと思いつつも、やはり木の弾力性ってあるんだなと思いますね」(井上さん)

アートを集めるのも好きだという井上さんと外山さん。壁面収納にはお気に入りのアートをディスプレイ(写真撮影/片山貴博)

アートを集めるのも好きだという井上さんと外山さん。壁面収納にはお気に入りのアートをディスプレイ(写真撮影/片山貴博)

二人が中古マンションを購入・リノベーションしたのは2011年。購入の際は、物件探しからリノベーションまでをトータルでお願いできる会社に依頼をしたそう。物件を探す際に、まずポイントとしたのが立地。

「仕事柄、遠くに住んでいても都心に来ないといけないことが多いなかで、私は出かけるギリギリまで寝ていたいタイプなので(笑)、移動時間が少ないとなると都心かなと」(井上さん)
「建物の価値ってすぐ下がってしまいますけど、土地の値段ってそこまで急には下がらないから、とりあえず立地で選んだほうがいいですよとお願いしたその会社の方に言われて。広さは、それは広いに越したことはないですけど予算の範囲内で。二人だけの生活だし、それほど広さが必要でもないですしね。あと20平米くらい広ければいいなとは思いますけど、多分もう少し広くてもあと20平米くらいあればと思うだろうし、結局きりがないんですよね。あと、狭いほうが掃除が楽ですしね」(外山さん)

井上さん、外山さん宅の間取り

井上さん、外山さん宅の間取り

立地とともにこだわったもうひとつのポイントが、猫と暮らせることだ。ペット可物件を購入し、時を同じくして出会ったのが、どんこちゃんだった。

「以前からたまに、友達が旅行に行くときなどに猫を預かったりしていたんです。その子も愛想がよくて、膝の上に乗ってくるのを見ると猫と暮らすのもいいなと思って。その子も保護猫で、そういうシステムがあることを知って、インターネットの譲渡サイトで探しているときにどんこを見つけて。『こいつだ!』と思ったんです。けれど、外山さんや友人に見せたら、『なんでこいつなの?』と言われて(笑)」(井上さん)
「里親さんがガラケーのカメラ機能で撮った写真だったので、画質もすごく悪いしピンとこなかったんですよね(笑)。でも、井上が飼いたいという気持ちがあるならいいかなと思って」(外山さん)
「私が『こいつがいい!』って引かなかったんですよね。会いにいったら、ほかの子が隠れたりシャーシャーって声を出しているなかで、どんこはのんきにウロウロしていて、私のほうに近づいてきて。それはもう運命だと思っちゃいますよね」(井上さん)

井上さんが大好きなどんこちゃん。膝の上もお気に入り(写真撮影/片山貴博)

井上さんが大好きなどんこちゃん。膝の上もお気に入り(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのお気に入りのおもちゃは、フェルトでできたボール(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのお気に入りのおもちゃは、フェルトでできたボール(写真撮影/片山貴博)

部屋は猫も人も心地よく、すっきりと

猫を飼うのははじめてだったという井上さんと外山さん。運命的な出会いを経て、どんこちゃんは晴れて家族の一員となった。どの家でも自分の居場所のようにくつろげるというどんこちゃんは新居にもすぐ慣れたという。取材中も部屋を歩いたり机の上に寝転んでインタビューを聞いていたりとマイペースに過ごしていた。

取材中、お腹がすいてお昼ごはんを。ごはんは一気に食べる派(写真撮影/片山貴博)

取材中、お腹がすいてお昼ごはんを。ごはんは一気に食べる派(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのドライフードは瓶に入れて保存(写真撮影/片山貴博)

どんこちゃんのドライフードは瓶に入れて保存(写真撮影/片山貴博)

「お客さんのことが好きで、来客中もずっとウロウロしているんですよね。はじめて飼う猫なのであまり猫のことを分かっていなかったんですけど、よその子を預かったりすると、どんこは動きがどんくさいなって思います(笑)」(井上さん)

ものが少なくすっきりとした部屋は、猫にとっても過ごしやすそう。外山さんはあまりものを置きたくない派なのだとか。

キッチンは、モルタル仕立ての空間とよく合うステンレス製(写真撮影/片山貴博)

キッチンは、モルタル仕立ての空間とよく合うステンレス製(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

「引越す前からものが少ないとは言われていたんですけど、引越し後もさらに減らしていきました。外山さんはもともと本を集めるのが趣味でレアな本や写真集が並んでいたんですけど、全部売ってしまったんです」(井上さん)
「なるべくものを増やしたくないので、本も読んだら捨てる。たくさん並べていても自慢しているだけになってしまうというか。結局出して見ないし、それだったら意味ないなと思って。音楽もCDでは一切買わずデータです。あと、掃除に時間をかけるのが無駄だなと思ったんです」(外山さん)

スッキリとした空間には、ちょっとした猫への配慮も壊れてしまうものは壁面収納の中段に。口から煙が出るという猫のお香立ては「H.P.FRANCE」で購入(写真撮影/片山貴博)

壊れてしまうものは壁面収納の中段に。口から煙が出るという猫のお香立ては「H.P.FRANCE」で購入(写真撮影/片山貴博)

「棚の上にガラス製のものを置いていたときはよく落とされていたので、全部中段に入れたんですよ。どんくさいせいか、中段に入ることはできないみたいで、割られることはなくなりましたね。割れるものや小さいものは買わなくなりました」(井上さん)
「一人掛けのソファはもともとファブリックだったんですけど、友達の猫を預かったときに爪とぎをしてしまうので革に張り替えたんですよ。床の円形クッションはなぜ中途半端なところに置いているかというと、どんこが机から飛び降りたときに足が痛くないようにと思って置いたんです。けれど、実際は人間が気遣いをしてもそうではないところに降りるから意味ないんですけどね(笑)。あと、どんこはティッシュを食べてしまうので、友達がつくってくれたふたつきのティッシュケースを使っています」(外山さん)

モルタル仕立てのスタイリッシュな空間。ダイニングチェアはフリッツ・ハンセンの「セブンチェア」、パッチワークのソファは中目黒「HIKE」でオーダー(写真撮影/片山貴博)

モルタル仕立てのスタイリッシュな空間。ダイニングチェアはフリッツ・ハンセンの「セブンチェア」、パッチワークのソファは中目黒「HIKE」でオーダー(写真撮影/片山貴博)

「特に、猫のために何かをやっているわけではない」という部屋は、時とともに自然と、人間も猫も居心地がいい空間になっていっているようだ。どんこちゃんと暮らして7年。いまや雑誌のカバーを飾り、カレンダーも発売されるなどスター猫となったどんこちゃん。「どんこちゃんに会いたい!」と家を訪ねてくれる人も増えたのだとか。スター猫の飼い主と聞くとさぞ猫好きだろうと思いきや……。

「僕たちすごく猫好きに思われるんですけど、特別に動物が好きなわけじゃないんですよね(笑)。ほかの猫にわざわざ会いに行くこともないし」(外山さん)
「そうなんです。どんこが好きなだけなんです(笑)」(井上さん)

本当に必要なものと暮らす、無駄のないシンプルでコンパクトな暮らし。それはとても豊かな空間と暮らしだった。

リビングの窓際でくつろぐどんこちゃん(写真撮影/片山貴博)

リビングの窓際でくつろぐどんこちゃん(写真撮影/片山貴博)

アメリカ発の「小さな家」 タイニーハウスで実現する“シンプルで豊かな暮らし”

ここ数年で注目を集めつつある「小さな家」、タイニーハウス。移動ができるタイプであれば、トレーラーハウスのように“移動する暮らし”を実現できる利点もあります。アメリカでは、サブプライム住宅ローンの破綻やハリケーンによる被害などをきっかけに、「大きな家が豊かさの象徴」という価値観は揺らぎ、「シンプルに豊かに暮らしたい」というタイニーハウス・ムーブメントが起こっています。こうした動きは今後、日本で広まっていくのでしょうか。YADOKARI株式会社が運営するタイニーハウスの宿泊施設で、同社プロデューサーの相馬由季(そうま・ゆき)さんにお話を聞きました。
低コスト、居住空間の移動を可能にする“小さな家”の魅力とは

YADOKARI株式会社はタイニーハウスに関するメディア運営やイベント企画を行い、相馬さんはプロデューサーとして携わっています。

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――まずはタイニーハウスの定義を教えていただけますか。

明確な定義はありませんが、弊社では基本的に「約20平米前後の大きさで、1000万円以内で購入できる家」と設定しています。ホイールの上に設置された、自動車で牽引する移動式のタイプもあります。

1000万円以内を目安にしているのは、人によってはローンを組まずに支払える金額ですし、組む場合でも数年間の短いローンで返済可能な場合が多いからです。つまり、長年ローンを返すためだけに働く必要がなくなります。そうすると、働く時間を減らしたり、収入にこだわらず本当にやりたい仕事をしたりと、充実した人生を送ることができるというわけです。

――タイニーハウスは日本でどのようにして注目されるようになってきたのでしょうか。

大きなきっかけとなったのが東日本大震災です。未曽有の大災害がきっかけで、徐々に暮らしの価値観に変化がもたらされてきたように感じます。所有するモノを減らしてシンプルに生きよう、働き方や、大事な人との暮らし方を見直してみようといった価値観を持つ人が増え、その結果、タイニーハウスにも目が向けられるようになってきたのではないでしょうか。

タイニーハウスをつくり始めたり、タイニーハウスと本宅との二拠点居住の生活をしたりするなど、行動を起こす人も少しずつ現れてきました。最近は住宅関連のメディアなどでも、この用語が取り上げられるようになったと感じています。

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――タイニーハウスの課題はどんなところでしょうか。

一番は土地の問題ですね。小さな家なので大きい土地は必要ないものの、土地を購入してそこに電気やガス、水道を引く必要がある場合は結局費用がかさんでしまいます。

次に、いざ購入しようと思っても手間がかかるという点です。まだ日本では扱っているハウスメーカーが少ないですし、セルフビルドしようとしても設計の依頼や建築材料の調達など、問題が山積みです。

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ (画像提供 YADOKARI株式会社)

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ(画像提供 YADOKARI株式会社)

――タイニーハウスに興味を持つのはどのような人が多いですか?

1年ほど前、2017年秋に実施した初回の参加者は50~60代の男性がメインでした。定年後のセカンドライフで、別荘のように使うことを検討している人が多かった印象です。

それが徐々に変化し、最近では男女問わず30~40代の方がメインになりました。みなさんバリバリ働かれている方ばかりです。これはアメリカでも同じような傾向があったのですが、「モノを持つだけ持って、大きな家に住んでみたけど、その先に自分の幸せはなかった」「お金はあるけども、仕事が忙しく家族との時間がとれない生活は望んでいない」といった、今までの自分の生き方や暮らし方に疑問を感じたときに、タイニーハウスに興味を持つ傾向があるようです。

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

また、最近地方自治体からは移住を前提とした多くの相談を受けています。遊休地の活用や人口減の対策としても、タイニーハウスは期待できると考えています。

ただし、小さな家で暮らすことそのものを目的としてしまうと、結果的に不幸になってしまうケースもあるんです。アメリカでブームになったときは、タイニーハウスに住めば幸せになれると期待して住みはじめたものの、「狭すぎる」と売ってしまう人もいたそうです。日本でも単にブームだというだけで購入してしまうと、後悔しかねませんので注意が必要です。

タイニーハウスが働き方、生き方を見直すきっかけに

タイニーハウスの全体像が見えてきたところで、実際に住んでいる方にもお話を聞いてみました。タイニーハウスに住んで4年になるNPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央(すずき・なお)さんです。

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

――なぜタイニーハウスに住むようになったのでしょうか。

以前は、賃料12万円の150平米の2階建て賃貸住宅に住んでいましたが、一時期体調を悪くして仕事も行き詰まり、夫婦関係も良好ではないなど心身ともにボロボロの状態になりました。そこで生活を見つめ直し、「自分はどんな家でどんな暮らしをしたいんだろう」と考えていたときに、タイニーハウスに出合ったことがきっかけで住むことになったのです。
必要最低限のエコな暮らしに興味があったし、月々の賃料の支出を減らすことで少ない稼ぎでも生活は維持できる。そうすれば夜中まで仕事をしなくていいし、家族の時間も増える―――。このように総合的に判断して、とても合理的な生活ができると思いました。

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

――住んでみて分かったタイニーハウスのメリットとデメリットを教えてください。

狭いので片づけが楽、同じ部屋にいることが多くなり家族の距離が縮まるなどメリットはいろいろあります。しかし一番は、月々の賃料を支払う金銭的な不安から解放され精神的に自由になれたことです。このタイニーハウス自体は中古物件で4年ローンの480万円で購入し、最近支払いが終わりました。たった4年で住宅ローンが完済するなんて通常では考えられませんよね。また、光熱費も以前の半分ほどになり、賃料の負担が減った分とあわせて、家族で海外旅行をする費用などに回して楽しんでいます。

広さは、ロフト部分を含め約50平米。1階はリビング兼ダイニング、廊下兼キッチン、寝室、トイレです。ロフト部分は、天井が低い高さ140cmの子ども部屋と高さ110cmの荷物置きスペースという間取りになっています。

デメリットは、強いてあげれば、トレーラーでけん引して移動するので、家が多少傷んでしまう点が挙げられます。10トンの中古物件を購入したこともあって、トレーラーで運んだときの揺れで壁に亀裂が入ったり、水まわりが少し弱くなったりと一部損傷が発生しました。

また、正直「部屋が狭い」と感じることがあります。2人の子どもが大きくなってきていることも理由の一つです。その反面、家具をコンパクトにしたり、その他にも物を厳選して増やさないようにしたりと、生活を工夫できる楽しさがあります。それはそれで良い暮らしだと思っています。

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

――どんな人がタイニーハウスの暮らしに向いていると思いますか?

暮らすためにはいろんな工夫が必要になるので、日々冒険する感覚でデメリットも楽しめる人ですね。パッケージで、完成したものが欲しいという人には不向きといえるでしょう。

例えば、私の場合は部屋が狭いので、部屋と同じくらいのサイズのウッドデッキを造りました。ちょっとしたことなら外のデッキで作業ができたり、天気のいい日には食事をしたり、洗濯物を干したりできるようになりました。

このウッドデッキの増設により居住空間の移動は難しくなったものの、当面は移動せず、広くなった生活スペースで快適に過ごしたいそう。
働き方や生き方の多様化が進む昨今。シンプルで、状況に応じて移動も可能なタイニーハウスは、これからの住まい選びの選択肢の一つになっていくかもしれませんね。

●取材協力
・YADOKARI株式会社
・NPO法人グリーンズ

家事が億劫になるのは、怠け癖ではなく「住まいの温熱性能」が理由だった!?

旭化成建材・快適空間研究所と旭リサーチセンターが「住まいの温熱環境の実態と満足度」の第4回調査結果を公表した。筆者はこの結果を見て、「寒くて掃除する気にならない」と思うのは、私だけではないことに安心したり、自ら住宅内に温度ムラをつくっていたことが分かって反省したり、いろいろと気づくことが多かった。皆さんはどうだろうか?【今週の住活トピック】
「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査」を公表/旭化成建材・旭リサーチセンター温熱性能が高い住まいほど、家事行動が“億劫でない”傾向に

まず、この結果(画像1)を見てほしい。

【画像1】冬季の家事行動について(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像1】冬季の家事行動について(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

筆者は、猛暑日の昼間や真冬の夕方などに「掃除するのが面倒だなあ」と思いながら、だらだらと掃除をすることが何度もあった。我が家はマンションながら角住戸なので窓が多く、室内にいて暑さや寒さを感じることが多い。料理や洗濯よりも、住宅内の部屋を移動しながら掃除をするのが、特に億劫に感じる。

この結果を見て、筆者は激しく同意したのだが、皆さんはどうだろう?

温熱性能が高い住まいに暮らす人ほど、生活にムリ・ムダがない?

さて、「住まいの温熱環境の実態と満足度」の調査は、過去3回の調査で、「室温が高いと冬の防寒行動が少ない」、「温熱性能が高い住宅では、夏熟睡できる」など、住宅の温熱環境で生活行動に違いがあることを明らかにしてきた。第4回(2018年3月実施)では、冬季の生活行動・暮らしの関係などをより具体的に調査している。

調査対象は、一戸建ての持ち家に2人以上で住む既婚世帯。住宅の温熱性能を低・中・高の3つに分類して、意識や行動について比較している。温熱性能は、窓ガラスの種類への回答によって次のように分類しているが、これまでの調査によって、住宅全体の断熱性能と高い相関があることが確認されているという。
・温熱性能「低」:シングルガラス(N値:450)
・温熱性能「中」:複層ガラス(N値:484)
・温熱性能「高」:Low-Eペアガラス/トリプルガラス(N値:72)

今回の調査結果を分析した快適空間研究所では、生活行動に明確な違いがあった5つを「生活価値」として提示し、温熱性能が高いほど、「ムリ・ムダのない合理的な暮らしをしていることが推測される」とまとめている。

○温熱性能が高い住まいの5つの生活価値
(1)家事行動が「億劫でない」傾向に
(2)入浴時と睡眠・起床時に「不快でない」傾向に
(3)室内での「着衣と布団が少ない」傾向に
(4)寒さを解消するための「手間が少ない」傾向に
(5)空間利用の「無駄がない」傾向に

筆者が特に気になったのは、(1)と(5)だ。(1)はすでに紹介したので、次は(5)について見ていこう。

温度ムラ(住宅内の温度差)は部屋を閉ざすことでつくられる?

まず、冬に「家の中で寒くて使いたくない部屋やスペースがあるか」を聞いたところ、「ある」と答えたのは温熱性能「低」で35.7%、温熱性能「中」で30.9%、温熱性能「高」で27.4%で、温熱性能による差が見られた。

次に、「居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活しているか」を聞いたところ、以下のグラフの結果となった。住まいの温熱性能の高さによって、大きな差が生じている。

【画像2】居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活している(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像2】居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活している(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

今回の調査では、別に訪問調査も行っている。温熱環境に満足していると回答した7軒のお宅に訪問して、暮らし方を調査するだけでなく、サーモカメラを使って室内ごとの温度も測っている。訪問調査の結果では、温熱環境が悪いと思われがちな階段下に机を置いて勉強スペースとするなど有効活用をしている事例や、1階の各部屋の室内ドアを敢えて無くして開放的な間取りにした事例などがあったという。

また実際に各部屋の室温を測ってみると、室内ドアを開けたままのお宅のほうが「温度ムラ」がないということも明らかになった(画像3)。

【画像3】訪問調査の結果を一部抜粋(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像3】訪問調査の結果を一部抜粋(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

実は筆者は、光熱費を削減しようと、一人でいるときはその部屋だけ冷暖房を入れるようにしている。そうすると、部屋を移動するとムッとする暑さやヒヤッとする寒さを感じたりする。掃除が億劫になるのは、室温だけでなく、温度ムラも原因になっていたのだと思う。今はまだいいが、年齢を重ねていくと温度ムラが体にこたえるようにもなるだろう。

そういえば、来客時に室内ドアをすべて開けて2台のエアコンで冷房をかけたときは、住宅内の温度ムラがなかったなあと思い出し、これからは開放的に暮らそうと思った次第だ。

ほかにも調査結果では、住宅検討時に「住まいの温熱性能」について調べるなどの情報収集や勉強をした人ほど、温度ムラのない住まいに満足する傾向が見られた。

住宅供給側の説明を聞くだけでなく、自ら住まいの性能について知識を得た人ほど、満足度が高い家を手に入れることができ、ムリ・ムダのない生活を過ごせるということなので、皆さんも住まい選びでは気になることは自らしっかり調べることをお勧めしたい。

家事が億劫になるのは、怠け癖ではなく「住まいの温熱性能」が理由だった!?

旭化成建材・快適空間研究所と旭リサーチセンターが「住まいの温熱環境の実態と満足度」の第4回調査結果を公表した。筆者はこの結果を見て、「寒くて掃除する気にならない」と思うのは、私だけではないことに安心したり、自ら住宅内に温度ムラをつくっていたことが分かって反省したり、いろいろと気づくことが多かった。皆さんはどうだろうか?【今週の住活トピック】
「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査」を公表/旭化成建材・旭リサーチセンター温熱性能が高い住まいほど、家事行動が“億劫でない”傾向に

まず、この結果(画像1)を見てほしい。

【画像1】冬季の家事行動について(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像1】冬季の家事行動について(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

筆者は、猛暑日の昼間や真冬の夕方などに「掃除するのが面倒だなあ」と思いながら、だらだらと掃除をすることが何度もあった。我が家はマンションながら角住戸なので窓が多く、室内にいて暑さや寒さを感じることが多い。料理や洗濯よりも、住宅内の部屋を移動しながら掃除をするのが、特に億劫に感じる。

この結果を見て、筆者は激しく同意したのだが、皆さんはどうだろう?

温熱性能が高い住まいに暮らす人ほど、生活にムリ・ムダがない?

さて、「住まいの温熱環境の実態と満足度」の調査は、過去3回の調査で、「室温が高いと冬の防寒行動が少ない」、「温熱性能が高い住宅では、夏熟睡できる」など、住宅の温熱環境で生活行動に違いがあることを明らかにしてきた。第4回(2018年3月実施)では、冬季の生活行動・暮らしの関係などをより具体的に調査している。

調査対象は、一戸建ての持ち家に2人以上で住む既婚世帯。住宅の温熱性能を低・中・高の3つに分類して、意識や行動について比較している。温熱性能は、窓ガラスの種類への回答によって次のように分類しているが、これまでの調査によって、住宅全体の断熱性能と高い相関があることが確認されているという。
・温熱性能「低」:シングルガラス(N値:450)
・温熱性能「中」:複層ガラス(N値:484)
・温熱性能「高」:Low-Eペアガラス/トリプルガラス(N値:72)

今回の調査結果を分析した快適空間研究所では、生活行動に明確な違いがあった5つを「生活価値」として提示し、温熱性能が高いほど、「ムリ・ムダのない合理的な暮らしをしていることが推測される」とまとめている。

○温熱性能が高い住まいの5つの生活価値
(1)家事行動が「億劫でない」傾向に
(2)入浴時と睡眠・起床時に「不快でない」傾向に
(3)室内での「着衣と布団が少ない」傾向に
(4)寒さを解消するための「手間が少ない」傾向に
(5)空間利用の「無駄がない」傾向に

筆者が特に気になったのは、(1)と(5)だ。(1)はすでに紹介したので、次は(5)について見ていこう。

温度ムラ(住宅内の温度差)は部屋を閉ざすことでつくられる?

まず、冬に「家の中で寒くて使いたくない部屋やスペースがあるか」を聞いたところ、「ある」と答えたのは温熱性能「低」で35.7%、温熱性能「中」で30.9%、温熱性能「高」で27.4%で、温熱性能による差が見られた。

次に、「居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活しているか」を聞いたところ、以下のグラフの結果となった。住まいの温熱性能の高さによって、大きな差が生じている。

【画像2】居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活している(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像2】居間・食堂のドア・戸を開けたまま、広い空間で生活している(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

今回の調査では、別に訪問調査も行っている。温熱環境に満足していると回答した7軒のお宅に訪問して、暮らし方を調査するだけでなく、サーモカメラを使って室内ごとの温度も測っている。訪問調査の結果では、温熱環境が悪いと思われがちな階段下に机を置いて勉強スペースとするなど有効活用をしている事例や、1階の各部屋の室内ドアを敢えて無くして開放的な間取りにした事例などがあったという。

また実際に各部屋の室温を測ってみると、室内ドアを開けたままのお宅のほうが「温度ムラ」がないということも明らかになった(画像3)。

【画像3】訪問調査の結果を一部抜粋(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

【画像3】訪問調査の結果を一部抜粋(出典/旭化成建材・旭リサーチセンター「第4回『住まいの温熱環境の実態と満足度』調査報告書」から転載)

実は筆者は、光熱費を削減しようと、一人でいるときはその部屋だけ冷暖房を入れるようにしている。そうすると、部屋を移動するとムッとする暑さやヒヤッとする寒さを感じたりする。掃除が億劫になるのは、室温だけでなく、温度ムラも原因になっていたのだと思う。今はまだいいが、年齢を重ねていくと温度ムラが体にこたえるようにもなるだろう。

そういえば、来客時に室内ドアをすべて開けて2台のエアコンで冷房をかけたときは、住宅内の温度ムラがなかったなあと思い出し、これからは開放的に暮らそうと思った次第だ。

ほかにも調査結果では、住宅検討時に「住まいの温熱性能」について調べるなどの情報収集や勉強をした人ほど、温度ムラのない住まいに満足する傾向が見られた。

住宅供給側の説明を聞くだけでなく、自ら住まいの性能について知識を得た人ほど、満足度が高い家を手に入れることができ、ムリ・ムダのない生活を過ごせるということなので、皆さんも住まい選びでは気になることは自らしっかり調べることをお勧めしたい。

リノベパーツを駆使した「toolbox」な暮らし その道のプロ、こだわりの住まい[1]

「ここなら楽しんで家づくりができそう」と、築48年の中古マンションを夫と購入して、昨年の5月にリノベーションした「toolbox」スタッフの小尾絵里奈さん。仕事仲間と壁を塗り替えたり、同店の床材や引き戸、レンジフードなどを取り入れたり。「すごく楽しんでできました」と当時の様子を教えてもらった。

【連載】その道のプロ、こだわりの住まい
コーヒーショップやインテリアショップのスタッフ、旅人、料理家……何かの道を追求し、私たちに提案してくれるいわば「プロ」たちは、普段どんな暮らしを送っているのだろう。プロならではの住まいの工夫やこだわりを伺った。コンセプトと好きなパーツを決めて、自分たち好みの空間にリノベした部屋

内装建材や家具、住宅設備やパーツを扱うオンラインストア「toolbox」。シンプルでミニマルなデザインものや、木や鉄の素材感を活かしたものがそろい、リノベーションやDIYで好みの空間をつくりたい人の強い味方だ。そこで働く小尾さんは、言わずもがな、設備やパーツを熟知。彼女が使いたいと思った好みのパーツを詰め込んだというマンションは、黒杉材を使用した裸足で歩くのが気持ちのいい床に、室内窓がアクセントになった落ち着く空間。実際にどのように家づくりを進めて仕上げていったのだろうか。

10代のころからの付き合いという小尾さん夫妻。リノベは妻主導で、電化製品などのセレクトは夫が担当した。グリーンが置かれ、ゆったりしたリビング。正面の壁のペイントは、あえて少しムラのある仕上がりにし、天井の照明はデザイン選びも含め職人に任せたものだそう(写真撮影/masa(PHOEBE))

10代のころからの付き合いという小尾さん夫妻。リノベは妻主導で、電化製品などのセレクトは夫が担当した。グリーンが置かれ、ゆったりしたリビング。正面の壁のペイントは、あえて少しムラのある仕上がりにし、天井の照明はデザイン選びも含め職人に任せたものだそう(写真撮影/masa(PHOEBE))

ざらりとした肌触りの床に、薄いグレーの壁と天井。小尾さんのお宅は、ひと目でこだわったであろう様子が分かる。それを伝えると、小尾さんは「でも、そこまで強いこだわりとか、細かい要望があったわけではないんです」と笑顔で答えてくれた。空間づくりを楽しむということを大切に、無理せず、考えすぎず、進めていったという。「弊社が運営する『東京R不動産』でたまたま目にした物件で、ここなら楽しい家づくりができるんじゃないかと思って。もともとの内装も好きでしたし、共用部分もプールまでついていて、価格が予算内だったので衝動買いみたいな勢いでした」。大きな間取りの変更はせず、活かすところは残しつつ、内装に手を加えていった。

自分でこだわるところ、職人にまかせるところをきちんと分けて

「まずは、『落ち着く空間にしたい』というコンセプトを決めて。あとは、好きなパーツを集めて、平面図にいろいろ写真を貼ってイメージを固めて、職人さんにも伝えていきました。ただ、細かいところまですべて自分たちで決めるとなると大変なので、プロにまかせるところはお願いして。キッチンの壁は使いたいタイルだけを伝えてどう施工するかは委ねました」

屋外に面した窓のないダイニングキッチンだが、室内窓を設けたおかげで、隣の寝室からの光が程よく差し込む(写真撮影/masa(PHOEBE))

屋外に面した窓のないダイニングキッチンだが、室内窓を設けたおかげで、隣の寝室からの光が程よく差し込む(写真撮影/masa(PHOEBE))

小尾さんの言う「好きなパーツ」とは、床材や室内窓、引き戸といった大きなものから、照明や棚受け、水栓金具などの小さなものまで幅広いもの。どこに何を使いたいか、好きなものを集めて施工する職人に伝えていった。これらは小尾さんが勤めている「toolbox」で扱うものから選んでいる。
「各メーカーのカタログは、幅広いテイストがそろっていて見ごたえはあります。でも、そこから好みのものを探すとなると、時間も手間もかかってしまう。自分が好きで勤めている店だから、それほど悩むこともなかったんです」

玄関はあまり手を加えずに、照明を好みのものに。「toolbox」で扱っている「白熱サンマ球」タイプ。漁船で使用されている電球を一般家庭用にアレンジしたもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

玄関はあまり手を加えずに、照明を好みのものに。「toolbox」で扱っている「白熱サンマ球」タイプ。漁船で使用されている電球を一般家庭用にアレンジしたもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

「toolbox」は、“自分らしい空間をつくるための「手立て」を詰め込んだ道具箱”として、リノベやDIYでの空間づくりに役立つ内装建材や家具、住宅設備やパーツなどを取りそろえている。各メーカーからセレクトした商品のほか、オリジナルも製作していて、それらを使った施工例も充実。小尾さんは受発注業務を担っていて、商品のラインナップを熟知している。「リノベ前の内装も好きだったので、スイッチプレートなど活かせるものは残しつつ、タオルバーやタイルなど、好きな素材を取り入れていきました」。もちろん、小尾さんのような専門的な商品知識がなくとも、好きなパーツをいくつかセレクトして、部屋全体のイメージをつくっていくことは誰でも可能なのだ。

タイルやレンジフード、棚受けやタオルバーなどは「toolbox」で選んだもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

タイルやレンジフード、棚受けやタオルバーなどは「toolbox」で選んだもの(写真撮影/masa(PHOEBE))

コンセプトを固めておけば、職人や仕事仲間との意思疎通もスムーズ

「『落ち着ける空間』というコンセプトは大事にしていました。休日はアクティブに動き回るタイプなので、家はゆっくりくつろぐ場所にしたかったんです。だから壁は落ち着いたトーンの薄いグレーにしました」
壁の下地処理はプロに任せ、最後のペイントだけを仕事仲間とともに自分たちでやったそう。「かっちり均一な仕上がりになるのは嫌だったので、あえて『適当に塗って』って伝えました。ちょっとムラが出て落ち着ける雰囲気になったと思っています。今見ると、どこを誰が塗ったかって分かるんです(笑)。楽しかったですね」。小尾さんの「空間づくりを楽しみたい」という気持ちが、皆さんに伝わっていたことが分かる。

築48年の中古マンションで、2LDK。広さは約60平米。物件の価格は1980万円で、リノベ費用は約500万円だったとのこと。

築48年の中古マンションで、2LDK。広さは約60平米。物件の価格は1980万円で、リノベ費用は約500万円だったとのこと。

壁や天井と同じく、広い面積を担うものとして、床材にもこだわっている。「裸足で歩いて気持ちよくて、木の素材感を感じられるものにしています」。選んだのは杉材を使った足場板。なめらかな仕上がりのフローリングではなく、木の質感をそのままを活かした床材だ。

家の中でいちばん明るい部屋が寝室(写真撮影/masa(PHOEBE))

家の中でいちばん明るい部屋が寝室(写真撮影/masa(PHOEBE))

一方、寝室は「ふかふかしてて、明るい感じにしたくて、壁は白、床はカーペットにしています」。二面に窓があり、とても爽やかで清潔感のある空間に仕上がっている。さらに壁一面にポールを取り付けてクローゼット代わりにしているので、収納力も十分ある。

趣味部屋の床もリビングとひとつながりに。元々左手にあった収納を右手に配置換え。本を読んだり、仕事をしたりと自由に使っている空間(写真撮影/masa(PHOEBE))

趣味部屋の床もリビングとひとつながりに。元々左手にあった収納を右手に配置換え。本を読んだり、仕事をしたりと自由に使っている空間(写真撮影/masa(PHOEBE))

洋服以外のものは、すべて趣味部屋に収納をまとめた。壁の上部をすべて本棚にして、下はデスクに。対面には広いクローゼットがあり、夫妻で休日に楽しむというキャンプ道具や夫の仕事道具などを収めている。「この部屋は元々の収納スペースの場所が逆だったんです。でも目に入る壁面がクローゼットだと圧迫感があるので、デスクと本棚にしました」。この部屋があるおかげで、リビングダイニングにはほとんど収納がなくてもスッキリしているのだ。

なんとなく左右で夫婦のスペースを分けているそう。本棚にはすべて詰め込まず、飾るスペースを設けているので、圧迫感がない(写真撮影/masa(PHOEBE))

なんとなく左右で夫婦のスペースを分けているそう。本棚にはすべて詰め込まず、飾るスペースを設けているので、圧迫感がない(写真撮影/masa(PHOEBE))

奥行きのある広い収納スペース。壁には有孔ボードを貼り、引っ掛け収納に。引き戸はつりタイプで床に区切りがなく、広がりを感じる(写真撮影/masa(PHOEBE))

奥行きのある広い収納スペース。壁には有孔ボードを貼り、引っ掛け収納に。引き戸はつりタイプで床に区切りがなく、広がりを感じる(写真撮影/masa(PHOEBE))

失敗したらやり直せばいい。おおらかな気持ちでリノベする

家という広い空間をつくりあげることを考えると、どこから手をつけていいか分からなくなりがちだろう。でも、スイッチプレートのような小さなパーツからでもいいので、まずは好きなものを集めてみる。そしてそこから、全体のイメージを固めるという手もある。
「私たちの場合、失敗したらやり直せばいいというくらいの気持ちだったのが良かったのかもしれません。ペンキは塗りなおせばいいし、パーツ選びもちょっと違うと思ったら取り替えればいいと思っているくらいの感じなんです」と、小尾さんはおおらかだ。実際、リノベ中にキッチンの食洗機が古くて使えないことが分かり、取り外すことになったときも、それはそれで引き出しを組み込めばいいと前向きに方向転換したという。

リビングとつながるダイニングキッチン。もともと隣室の収納部分だったスペースの壁を取り払い、冷蔵庫置き場に。システムキッチンは既存のものをそのまま使っている(写真撮影/masa(PHOEBE))

リビングとつながるダイニングキッチン。もともと隣室の収納部分だったスペースの壁を取り払い、冷蔵庫置き場に。システムキッチンは既存のものをそのまま使っている(写真撮影/masa(PHOEBE))

「DIYも職人の手も自分で選んで、編集者として家づくりをしました。楽しい作業でしたし、今も楽しく生活できています。やってみて良かったです」とうれしそう。趣味部屋の壁の色を変えたいなど、まだやりたいことはあるという。最初に細かいところまですべて決める必要はない。家づくりは好きなパーツから少しずつスタートしてもいい。さまざまな設備やパーツを扱う小尾さんだからこそ、たどり着いた考え方だ。リノベーションに対するハードルは低く、気楽に暮らす様子にこちらまで楽しい気持ちが伝わってきた。

大人の段ボールハウス&家具をつくる!「部屋に小屋」を30分で

無印良品やスノーピークなどの人気ブランドも販売している「小屋」が話題だ。まさに大人の秘密基地。ワクワクする。とはいえ、これらはお金も場所もそれなりに必要だ。小屋をもっと手軽に楽しみたい。そうだ、童心に返って段ボール箱で工作するのはどうか。ただし大人クオリティで。
家具からアートまで! 段ボールの驚くべきポテンシャル

段ボールといえば、日常生活のなかで手に入りやすい素材の一つだが、そのポテンシャルはいかに? 改めて段ボールの最新事情や段ボールハウスのつくり方を知るべく、段ボールニュースを紹介しているWebメディア「段ペディア」管理人の小寺誠さんに話を聞いた。

――段ボールの魅力はどんなところですか?

段ボールはとても完成された素材です。低価格でどこでも手軽に入手可能、それでいて軽くて丈夫! また加工も簡単で、ハサミやカッターでのカット作業や、木工用の接着剤での貼り付け作業が簡単にできる点も魅力です。

小寺さんがつくった段ボール銃(ちゃんとゴムが飛ぶ仕組み!)(画像提供/段ペディア)

小寺さんが作った段ボール銃(ちゃんとゴムが飛ぶ仕組み!)(画像提供/段ペディア)

小寺さんがつくった段ボール機関車(ちゃんと走る!)(画像提供/段ペディア)

小寺さんが作った段ボール機関車(ちゃんと走る!)(画像提供/段ペディア)

――段ボールの最新事情を教えてください。

段ボールは今、2つの流れでとても注目されています。
1つ目は、家具や遊具、防災用品など向けの需要です。避難所にいる人の整理タンスとして段ボールが使われていたのをテレビなどで目にしたことがある方もいるかもしれません。素材自体のポテンシャルも高く、設計次第で車が乗っても大丈夫なぐらいの強度があるので、大変使い勝手がいいんです。
2つ目は、アートとしてです。あの段ボールにこんな使い道が!? なんて作品がたくさん出てきています。最近では、段ボールアーティストのオドンガー大佐さんの作品がとても話題になっています。尾長鶏、龍神などは段ボールの表現の限界に挑戦されているように感じます。

「尾長鶏」(画像提供/オドンガー大佐さん)

「尾長鶏」(画像提供/オドンガー大佐さん)

「龍神」(画像提供/オドンガー大佐さん)

「龍神」(画像提供/オドンガー大佐さん)

――家具としての需要があるとのことですが、具体的にはどのような?

整理タンスや子ども用の机、シューズラックや収納ボックス、本棚など、なんでもありますよ! 同じサイズのものを複数集めてブロックのように積み上げるだけでも、仕切りや間仕切り、壁のように使うことができ、ちょっとした個室スペースもつくれます。

――メンテナンス方法は?

破損箇所はテープやボンドで補強! ボロボロになったら廃棄してしまっていいと思います。廃棄してもまた新しい段ボールに生まれ変わるので、資源の無駄使いにもならず、地球にも優しいんです。

段ボールで個室を簡単に。段ボールブロック壁のつくり方

段ボールの魅力を知ったところで、実際に段ボールでの個室のつくり方を教えてもらった。「ベッドを隠せる安眠空間をつくります」と小寺さん。段ボールは、スーパーマーケットやホームセンターなどで無料で集められる。ポイントは同じサイズ(特に高さ)のものを集めることで、小寺さんのオススメは2L飲料水用のもの。強度もあり、同じようなサイズの箱も集めやすいとのこと。無地の段ボール箱を使いたい場合は、段ボール箱の通販会社から購入することも可能。

小寺さんと段ボール個室(画像提供/段ペディア)

小寺さんと段ボール個室(画像提供/段ペディア)

<つくるもの>
段ボールブロック壁

<所要時間>
30分

<用意するもの>
・段ボール箱(必要に応じて増減。今回は29箱)
・クラフトテープ、OPPテープ
・木工用の接着剤
・水入り2Lペットボトル(必要に応じて)

今回使用するのは、材質:Aフルート(厚さ5mm)、サイズ:幅32cm×奥行19cm×高さ33cmの段ボール(画像提供/段ペディア)

今回使用するのは、材質:Aフルート(厚さ5mm)、サイズ:幅32cm×奥行19cm×高さ33cmの段ボール(画像提供/段ペディア)

<つくり方>
(1)「用意した箱を図のように重ねていきます。今回はベッドを隠すようにつくるため、段ボール箱を29個使用しました。壁が倒れやすい場合は、一番下の段の段ボールに、水を入れた2Lペットボトルなどの重りになるようなものを入れておくと安定感が増します」

基本的には積み上げるだけ。仕上がりをきれいにするために使用することもあるが、ハサミやカッターも不要

基本的には積み上げるだけ。仕上がりをきれいにするために使用することもあるが、ハサミやカッターも不要

(2)「重ねるだけでは転倒するので、接着剤やテープなどを使用して固定しましょう。今回はクラフトテープと透明なOPPテープを使用しています」

(画像提供/段ペディア)

(画像提供/段ペディア)

(3)「完成! 難しいポイントは特にありません。箱の表面をカッターやハサミなどでデコレーションすると、よりイイ感じになります。好みに合わせてレイアウトをアレンジしてもいいですし、自由な発想で楽しんでつくりあげてみてください」

組み合わせ次第で可能性が広がる! あなたは何をつくってみる?

「段ボール箱の組み合わせ方を変えると、こんな感じの机もできちゃいます。軽いノートパソコンぐらいなら十分置いて作業できますので、部屋に机が用意できていないときなどは試してみてください」

アレンジすれば机もつくれる! 天板は段ボールを解体して板状にしたものを2枚重ねているそう。(画像提供/段ペディア)

アレンジすれば机も作れる! 天板はダンボールを解体して板状にしたものを2枚重ねているそう(画像提供/段ペディア)

段ボール工作=箱を解体して使うもの、というイメージがあったが、箱を積み上げるだけとは盲点! 刃物がなくてもつくれてしまう点は、小さい子どもと一緒に楽しむのにも良さそうだ。アレンジ次第で可能性が広がる点もワクワクする。童心とクリエイティビティをかなえてくれる段ボール、ますます目が離せない存在だ。

●取材協力
小寺誠さん
兵庫県西宮市で約300種類以上の商品を取り扱う段ボールのクラフト雑貨店「クラフトマンエッセンス」を経営しながら、段ボールの魅力を伝えるべくWebニュースサイト「段ペディア」を運営。段ボール工作イベントなども主催する。
段ペディア
オドンガー大佐さんのHP●撮影協力
住める・泊まれる・遊べるシェア古民家「里山ベース ハナビ」

LGBTの住まい探し、不動産オーナーの理解はまだまだ 実態は ?

LGBTという用語が世の中に浸透しつつあるが、いまだマイノリティゆえの偏見や行動への制約を受けることもあるだろう。リクルート住まいカンパニーは、LGBTの当事者にその実態を調査するとともに、不動産オーナーに対してLGBTへの意識調査を実施した。実態を紹介しよう 。【今週の住活トピック】
リクルート住まいカンパニー/
「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」
「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」LGBT当事者のほぼ3割が、住まい探しで困難や居心地の悪さを経験

「LGBT」とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称で、セクシャルマイノリティを表すひとつとされる。

本調査でLGBT当事者に「学校、会社など集団生活の中で、偏見や差別的な言動を受けたことや、差別的な言動に不快感を持ったことはあるか?」を聞いたところ、全体で41.2%が「ある」と回答した。中でも、ゲイの55.1%が最も高かった 。

さらに「住まい探し」について困難や居心地の悪さを経験したことがあるかを、住まい探しを経験した人に聞いたところ、「賃貸住宅探し」で28.7%、「住宅購入」で31.1%が「ある」と回答した。

ちなみに、「現在の住まい」については、「賃貸アパート・マンション」が36.7%で最も多く、持ち家の比率は31.2%(一戸建て22.1%+マンション9.1%)だった。

現在のお住まい(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」)

現在のお住まい(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「LGBTの住まい・暮らし実態調査2018」)

LGBTに向けた自治体の施策や住宅ローン商品も出始めた

LGBTが住まい探しで困難になる理由はいくつかある。

「賃貸住宅」では、貸主と賃貸借契約を結ぶ際にあらかじめ同居人を認めてもらう必要があるが、家族として同性パートナーが認められるケースは少ない。認められる賃貸住宅を探すか、ルームシェア可の物件を探すか、といったことになってしまう。

また、「住宅購入」に関しては、異性のパートナーであれば、二人の収入を合わせて一緒に住宅ローンを組むか、二人それぞれでローンを組む「ペアローン」が可能だ。しかし同性パートナー同士で住宅を購入しようとした場合には、いずれの組み方も認められないケースが多いのが現状。かといって1人でローンを組んでしまうと「万が一のときに残されたパートナーが住み続けられるのか」といった不安もつきまとう。

こうした不平等を無くしていこうと、同性カップルのパートナーシップを証明する自治体も現れた。
筆者は2015年4月8日のSUUMOジャーナルの記事で「渋谷区の同性カップル条例が成立。なぜ賃貸住宅が借りづらい?」を執筆した。渋谷区の「同性カップル条例」が成立し、手続きを取ればいわゆる「パートナーシップ証明」が発行されるようになり、賃貸住宅を探す際に、同性カップルの同居を認めやすくなると注目されたからだ。

これ以降も、世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、札幌市などの自治体で「パートナーシップ証明書」や「パートナーシップ宣誓書受領証」などを発行するようになった。こうして、一部の自治体でセクシャルマイノリティへの不平等を無くしていこうと動き出している。

また、三井住友信託銀行や住信SBIネット銀行、ソニー銀行などの銀行で、住宅ローンでペアローンや収入合算(同居親族の収入を借入者の収入と合算すること)、担保提供などができる “配偶者”の定義に、同性パートナーを加えるなどの商品改定を行った。銀行によって細かい条件などが異なるので、詳細は個別に確認をしてほしい。

LGBT当事者にこうした状況の認知度を聞いたところ、「同性カップルのパートナーシップ登録や証明書発行を行う自治体があること」の認知度が53.6%と過半数を超えたが、「同性カップルが共同で組める住宅ローン商品があること」への認知度は26.8%だった。

LGBTを応援したいという不動産オーナーは4割弱

このように、一部の自治体や金融機関では多様なパートナーシップのあり方を認めていこうという動きがあるものの、不動産の現場ではどこまで浸透しているのだろうか。

賃貸住宅の貸主である、不動産オーナーにLGBTへの意識について調査した結果を見ていこう。
同性カップルの入居を断った経験があるかどうか(入居希望を受けたことがあるオーナーが対象)については、「男性同士の同性カップル」の場合で8.3%、「女性同士の同性カップル」の場合で5.7%だった。なお、入居を断った割合が高かったのは、「ルームシェア(男性同士)」の8.2%、「同性愛者(女性)」の7.8%など。同性カップルに限らず、賃貸住宅の入居に困難が伴う実態を浮き彫りにしている。

これまでの入居希望者への対応(入居希望を受けたことがある人を対象・単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

これまでの入居希望者への対応(入居希望を受けたことがある人を対象・単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

また、不動産オーナー全員に今後の入居希望者の対応意向を聞いたところ、「男性同士」の同性カップルの入居希望に対して「特に気にせず入居を許可する」という回答は36.7%、「女性同士」の同性カップルの入居希望に対して「特に気にせず入居を許可する」という回答は39.3%などと、厳しい結果となった。

今後の入居希望者への対応意向(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

今後の入居希望者への対応意向(単一回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「不動産オーナーのLGBTに対する意識調査2018」)

調査結果を見ていくと、生活の拠点となる大切な住まい選びにおいて、LGBTへの偏見や差別的な行動がまだ多いことが分かる。とはいえ、不動産オーナーの中でも30代など若い世代ほど「応援したい」と回答するなど、認識が変わっていく状況も見られた。まずは、LGBTに対して適切な認識を持つことが重要だ。

今の社会の中で、LGBTであるとカミングアウトすることは勇気のいることだろう。カミングアウトした当事者をフレンドリーに受け入れる社会であってほしいと望む。

トッププランナーに聞いた! 知っておきたいリフォームの新定番12

住まいに求める基本的な思いは、今も昔も変わらない普遍的なものかもしれない。しかし、リフォーム技術の向上、素材の進化やプランナーの多彩なアイデア、住まい手の意識向上により、新たな定番が現場では次々と生まれている。今回は「素材」と「デザイン」二つの視点から、リフォームの現場をよく知るトッププランナー8人に、リフォームの新定番を教えてもらった
【1】引き締め素材を取り入れて空間のポイントにする

アイアンや真鍮(しんちゅう)など硬質感をもつ素材を、柔らかい雰囲気の木と組み合わせて使うのが最近の人気だ。ナチュラルな空間やモダンな空間にもなじみやすく、引き締め素材として使うと効果的。強度が高く、太さの変化によって、重厚にも繊細にも見せ方を変えられる。

既存の柱や梁を残したナチュラルな空間に、コンクリートブロックやアイアンの階段手すりなどハードな素材を組み合わせた。「黒のアイアンだとグッと引き締まり、白にするとなじむ感じにできます。どんなデザインテイストでも取り入れやすいのが魅力です」(画像提供/LIV(リヴ))

既存の柱や梁を残したナチュラルな空間に、コンクリートブロックやアイアンの階段手すりなどハードな素材を組み合わせた。「黒のアイアンだとグッと引き締まり、白にするとなじむ感じにできます。どんなデザインテイストでも取り入れやすいのが魅力です」(画像提供/LIV(リヴ))

【2】室内にはあまり使われない建築素材でラフ感を出す

ラワン合板(ベニヤ板)や足場板など従来は隠れて見えなくなる構造用建材や、古材、レンガなど外壁に使われる建築素材を、あえてインテリアに取り入れることで程よくラフな雰囲気に。ここ数年人気のインダストリアルな空間でよく見られる手法だ。

「キッチンの腰壁にラワン合板を使ってむく材とは違う質感のキリッとした塩系インテリアに」。大柄の木目が特徴的で、塗装の有無で上品系、素朴系と表情を変えられる(画像提供/ハコリノベ(サンリフォーム))

「キッチンの腰壁にラワン合板を使ってむく材とは違う質感のキリッとした塩系インテリアに」。大柄の木目が特徴的で、塗装の有無で上品系、素朴系と表情を変えられる(画像提供/ハコリノベ(サンリフォーム))

【3】イメージだけで選ばずに場所に合った素材の使い方をする

劣化が目立ちやすい水まわりなどに使う素材は、メンテナンスに手がかかってもこだわりたいのか、ラクに手入れができる方がいいのか、用途とライフスタイルに合った素材選びが暮らしやすさを左右する。長く使えるよう特性を見極め賢い素材選びをする人が増加中。

薄塗りができてクラックが入りにくいモルタルに似た質感の左官材をダイニングテーブルの天板(てんばん)や床全体に使用。「『ペットがいるので水拭きできる床に』との要望に応え、メンテナンス性とデザイン性を両立させました」(画像提供/ハコリノベ(サンリフォーム))

薄塗りができてクラックが入りにくいモルタルに似た質感の左官材をダイニングテーブルの天板(てんばん)や床全体に使用。「『ペットがいるので水拭きできる床に』との要望に応え、メンテナンス性とデザイン性を両立させました」(画像提供/ハコリノベ(サンリフォーム))

【4】再利用で新旧素材を違和感なく融合させる

全てを新しくしてしまうと、きれいにはなるが味気ない空間になってしまいがち。しかし、新旧素材をバランスよく組み合わせることで、住み慣れた家のようなこなれた空間が生まれる。古いものを以前とは違う雰囲気、違う場所で再利用するアイデアを楽しみたい。

玄関の式台に使われていた立派な木をリビングのカウンターに再利用。「捨ててしまうにはもったいない部材を活用すれば、古さを活かしたデザインの融合が楽しめます」(画像提供/LIV(リヴ))

玄関の式台に使われていた立派な木をリビングのカウンターに再利用。「捨ててしまうにはもったいない部材を活用すれば、古さを活かしたデザインの融合が楽しめます」(画像提供/LIV(リヴ))

【5】ずっと長く使える本物素材を取り入れる

質の良い本物の自然素材は、心地よさを与えてくれ、手入れ次第で長く使い続けられるのが魅力。新建材なら傷になってしまうものも、自然素材なら味になる。全面的に取り入れなくても床材やカウンターなど、足や手がよく触れる部分に絞って取り入れる人が増えている。

美しい色合いと高級感が魅力の御影石。「傷がつきにくく、水や熱に強いのが特徴で、最近は料理好きの方から天然石をキッチンカウンターに使いたいという要望が増えています」(画像提供/Kraft(クラフト))

美しい色合いと高級感が魅力の御影石。「傷がつきにくく、水や熱に強いのが特徴で、最近は料理好きの方から天然石をキッチンカウンターに使いたいという要望が増えています」(画像提供/Kraft(クラフト))

【6】塗装範囲や素材使いのバランスで印象を変える

「男前インテリア」などと呼ばれ、ここ数年人気のインダストリアルな空間。ダクトや配管がむき出しになったスケルトン天井が特徴だが、塗装や素材の組み合わせバランスで少し柔らかさをプラスすれば、ナチュラルテイストの家具にも合わせやすくなる。

スラブむき出しの天井にホワイト塗装の壁、木製サッシの室内窓を合わせ、どんなテイストにも似合う空間に。「気分に合わせて家具を入れ替えたい人や、家族の成長とともに内装を変えたい人に取り入れやすいデザインです」(画像提供/シンプルハウス)

スラブむき出しの天井にホワイト塗装の壁、木製サッシの室内窓を合わせ、どんなテイストにも似合う空間に。「気分に合わせて家具を入れ替えたい人や、家族の成長とともに内装を変えたい人に取り入れやすいデザインです」(画像提供/シンプルハウス)

【7】これまで以上に性能が高くフラットな土台づくり

2020年以降の新築では、断熱性能のレベルアップが義務化の予定。これまで体験したことのないような災害が各地で起こる中、長く安心して住み続けられるよう、家の土台となる耐震、断熱、構造面を当たり前レベル以上に引き上げるリフォームが再認識されている。

「できる限り補助金制度が使える、より高い性能を備えた家が、これからの時代に即したスタンダードになっていくはず。築古物件や増改築された物件でも、建築当時の設計図書が残っていれば一度フラットに戻し、そこから性能を高める作業が行えます」(画像提供/ATTRACT(アトラクト設計工務))

「できる限り補助金制度が使える、より高い性能を備えた家が、これからの時代に即したスタンダードになっていくはず。築古物件や増改築された物件でも、建築当時の設計図書が残っていれば一度フラットに戻し、そこから性能を高める作業が行えます」(画像提供/ATTRACT(アトラクト設計工務))

【8】室内開口を取り入れて時間と空間を家族で共有

室内開口は単に光と風の通り道としてだけでなく、デザイン性と機能性も兼ね備えている。最近ではプライバシーよりも家族とのつながりを重視する傾向が強いため、個室の扉をなくしたり、家族の気配を感じられる室内開口を設けるケースが増えている。

6人家族が集まる広いリビング。「遊び心のあるデザイン扉で子どもたちがワクワクするような空間を演出し、ガラス窓で家族の気配をいつも感じられるよう配慮しました」(画像提供/SCHOOL BUS)

6人家族が集まる広いリビング。「遊び心のあるデザイン扉で子どもたちがワクワクするような空間を演出し、ガラス窓で家族の気配をいつも感じられるよう配慮しました」(画像提供/SCHOOL BUS)

【9】ディテールまでこだわり、雰囲気ある空間をつくり出す

自分好みの空間をつくるため、モールディングやタイルの張り方、造作家具などのディテールまでこだわる人が増えている。使用する部材の太さや細さ、厚みや幅といった細やかなつくり込みのほか、素材の扱い方など一つひとつが、印象を変えるカギになる。

オリーブカラーのキッチンの腰壁に施されたモールディング。「凹凸をつけ過ぎてヨーロピアン調にならないよう、mm単位までこだわってシンプルな溝を施し、本場のアメリカンスタイルを再現」(画像提供/SCHOOL BUS)

オリーブカラーのキッチンの腰壁に施されたモールディング。「凹凸をつけ過ぎてヨーロピアン調にならないよう、mm単位までこだわってシンプルな溝を施し、本場のアメリカンスタイルを再現」(画像提供/SCHOOL BUS)

【10】照明器具や光量の調整で空間をスタイリングする

ダウンライトやダクトレールをとりあえず設置するだけの照明計画から、最近は家具とのバランスを考えた配置や照明自体のデザイン性を活かした提案へと進化。シーンによって調光できるシステムの採用など、スタイリングアイテムとして取り入れる照明計画が主流になってきた。

「古いビルを改装した空間には、カチッと計算されたデザイナーズ照明よりも、厚みのあるガラスやスチールなどラフな雰囲気のものを複数混ぜて組み合わせる方がうまくまとまります」(画像提供/アンメゾンワールド)

「古いビルを改装した空間には、カチッと計算されたデザイナーズ照明よりも、厚みのあるガラスやスチールなどラフな雰囲気のものを複数混ぜて組み合わせる方がうまくまとまります」(画像提供/アンメゾンワールド)

【11】構造上抜けない部分をあえて目立たせてアクセントにする

構造上抜けない壁や柱、梁などは、間取りをデザインする上でデメリットに思われがち。あえて特徴をもたせてデザイン化することで、その空間のポイントとして昇華させることもできる。さらに、異素材と組み合わせて新鮮なインパクトをもたせてみると、面白い空間が完成する。

LDKの中央に通る丸太柱は構造上抜くことができなかったため、磨きをかけて残し、印象的に。「美しい木目の柱はリビングの雰囲気によくなじみ、邪魔な雰囲気を感じさせません」(画像提供/ATTRACT(アトラクト設計工務))

LDKの中央に通る丸太柱は構造上抜くことができなかったため、磨きをかけて残し、印象的に。「美しい木目の柱はリビングの雰囲気によくなじみ、邪魔な雰囲気を感じさせません」(画像提供/ATTRACT(アトラクト設計工務))

【12】くすみ系アースカラーで大人上品に仕上げる

飽きのこないシンプルでナチュラルな空間は根強い人気だが、シンプル過ぎない上品で大人な雰囲気に仕上げたいという人が増えている。差し色として紺や緑、茶といった落ち着けるアースカラーを使えば上品にまとまり、どんなインテリアにも合わせやすい空間に仕上げられる。

アースカラーとは空や緑、大地の色。自然素材との相性もよく、どんなテイストにも合わせやすい。「SNSの影響か色の感覚はここ最近、多様になっているように感じますが、やはり落ち着ける色合いは昔から変わりません。人になじみの深いアースカラーが使いやすいでしょう。壁一面だけ使ったり、キッチンの造作扉だけに使うなど、アクセントカラーとして取り入れることが多いです」(画像提供/北条工務店一級建築士事務所)

アースカラーとは空や緑、大地の色。自然素材との相性もよく、どんなテイストにも合わせやすい。「SNSの影響か色の感覚はここ最近、多様になっているように感じますが、やはり落ち着ける色合いは昔から変わりません。人になじみの深いアースカラーが使いやすいでしょう。壁一面だけ使ったり、キッチンの造作扉だけに使うなど、アクセントカラーとして取り入れることが多いです」(画像提供/北条工務店一級建築士事務所)

住む人の個性やライフスタイルに合わせ、オリジナル性の高い空間づくりができるのがリフォームの醍醐味。気になる新定番をぜひプランに取り入れて、より自分らしく暮らせるリフォーム空間を実現させよう。

●取材協力
・ATTRACT(アトラクト設計工務) 林 光一さん/アンメゾンワールド 芝本貴行さん/Kraft(クラフト) 前田浅人さん/シンプルハウス 田口和也さん/SCHOOL BUS 古谷勇祐さん/ハコリノベ(サンリフォーム) 財津友里さん/北条工務店一級建築士事務所 影山絢香さん/LIV(リヴ) 藤関悦子さん

「映画『食べる女』山田優・壇蜜インタビュー」「蔦屋書店に聞く本棚レイアウト 」【9月人気記事まとめ】

秋晴れで爽やかな季節のはずなのに、台風のニュースばかり。秋空を拝めるのはいつのことになるのやら……。さてSUUMOジャーナルで9月に公開した記事では、「あの人のお宅拝見」「本棚のおしゃれ収納アイデア」「ZEHマンション」など、おしゃれで丁寧な暮らしのアイデアや、光熱費を抑えてお得に暮らすコツなどについての記事が人気でした。TOP10の記事を詳しくご紹介します。
9月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

第1位:“保存食の達人”料理家・黒田民子さん、亡き夫に導かれたキャリアと手づくりの豊かな日常 あの人のお宅拝見[10]
第2位:山田優「リノベーションで対面キッチンに。手早く料理できるようになりました」【映画『食べる女』インタビュー】
第3位:蔦屋書店に聞く! 本棚のおしゃれなレイアウト&収納アイデア
第4位:ZEH-M(ゼッチ・マンション)が続々登場! ZEHって何?なぜ増えている?
第5位:山手線29駅の家賃相場が安い駅ランキング! 2018年版
第6位:「片付いた家」どう作る? リフォームならではの解決法を紹介!
第7位:壇蜜「夕飯はなるべく自宅で。毎日のルーティンを大事にしています」【映画『食べる女』インタビュー】
第8位:山野草からサボテン……さまざまな緑と暮らす、こだわり夫婦の家
第9位:ドラマ『義母と娘のブルース』ロケ地・大岡山レポート! 「ベーカリー麦田」誕生秘話も
第10位:9月は“秋バテ”に注意? 家でできる予防策を紹介!
※対象記事:2018年9月1日~2018年9月30日までに公開された記事
※集計期間:2018年9月1日~2018年9月30日のPV数の多い順

「料理研究家のお宅拝見」「映画『食べる女』出演女優インタビュー」など、食に関係する記事が人気

第1位:“保存食の達人”料理家・黒田民子さん、亡き夫に導かれたキャリアと手づくりの豊かな日常 あの人のお宅拝見[10]

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問し、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探る連載「あの人のお宅拝見」。今回は家庭料理研究家、黒田民子さんのお宅を訪問しました。夫が内装をデザインしたマンションでの、飾らずシンプルで丁寧な民子さんの暮らしをご紹介します。

第2位:山田優「リノベーションで対面キッチンに。手早く料理できるようになりました」【映画『食べる女』インタビュー】

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1年前に、10年以上住んでいた家をリノベーションしたという山田優さん。こだわったのは、子育てしやすく、家族みんながリラックスできる家にすること。その希望をかなえたことで、実際の生活がどう変わったのか? 詳細はぜひ記事をご覧ください。

第3位:蔦屋書店に聞く! 本棚のおしゃれなレイアウト&収納アイデア

(写真提供/代官山 蔦屋書店)

(写真提供/代官山 蔦屋書店)

いつの間にか増えてしまうモノのひとつに本があります。そんな本をおしゃれに収納するためのヒントを、「代官山 蔦屋書店」建築・デザインコンシェルジュに教えていただきました。どうやら、自宅に書店のようなおしゃれ本棚をつくるポイントはDIYのようです。

第4位:ZEH-M(ゼッチ・マンション)が続々登場! ZEHって何?なぜ増えている?

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

住宅の断熱性・省エネ性能を上げたり太陽光発電などでエネルギーを創ることによって、住宅で消費する年間のエネルギーをゼロにしようという住宅のことをZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)といいます。もともとは戸建てで始まったこの取り組みですが、最近マンションでも増えているとのこと。その理由や、ZEHマンションのメリットなどを見てみましょう。

第5位:山手線29駅の家賃相場が安い駅ランキング! 2018年版

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

高いからムリ……と、検討をする前に家探しの選択肢から山手線を外してしまう方も多いのでは? でも、それはもったいない! 山手線にも穴場の駅があるのです。29駅中、10万円以下で住める駅はいったいいくつあるのでしょうか? 答えは記事でご確認ください。

「片付いた家のつくりかた」「秋バテを防ぐ方法」など、住みやすさを追求する記事がランクイン

第6位:「片付いた家」どう作る? リフォームならではの解決法を紹介!

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

ソファやTVボードのような大型家具から、クッションや飾り物などの小さなモノまで、さまざまなモノが集まるリビング。調味料や調理器具など、こまごまとして統一感のないモノが多いキッチン。そんな雑然としがちな空間の片付けポイントをお教えします。雑誌で見るような「片付いた家」を目指してみましょう!

第7位:壇蜜「夕飯はなるべく自宅で。毎日のルーティンを大事にしています」【映画『食べる女』インタビュー】

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公開中の映画『食べる女』に出演する壇蜜さんに、自宅でよく食べるものやダイニングキッチンのこだわりなど、「食」と「暮らし」についてインタビューしました。自宅に常備しているお気に入りの食品、好きなアイス、最近よくつくる料理など、壇蜜さんの日常に迫ります。

第8位:山野草からサボテン……さまざまな緑と暮らす、こだわり夫婦の家

(撮影/小野洋平)

(撮影/小野洋平)

住まいに彩りを与え心を落ち着かせてくれる、グリーン。そんなグリーンを上手に取り入れた暮らしをしているご夫婦に、植物のセレクトポイントや、一緒に暮らすコツ、植物のインテリア性についてのこだわりなどを伺いました。

第9位:ドラマ『義母と娘のブルース』ロケ地・大岡山レポート! 「ベーカリー麦田」誕生秘話も

『義母と娘のブルース』(写真提供/TBS)

『義母と娘のブルース』(写真提供/TBS)

綾瀬はるかさん主演の人気ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS・放送終了)のロケ地は、東京都目黒区と大田区にまたがる街「大岡山」でした。100以上のロケ地候補からこの地に決まった理由や、大岡山の魅力について、制作スタッフや商店街理事長に聞いてみました。

第10位:9月は“秋バテ”に注意? 家でできる予防策を紹介!

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

ようやく暑さがやわらぎ、ひと息つけると思ったのに、なんだか身体がダルい……。そんな症状がある人は、もしかしたら秋バテかもしれません。秋バテは、自律神経が乱れることで起こる症状です。秋バテを防ぐための対策方法を知って、元気に秋を乗り切りましょう!

連載「あの人のお宅訪問」、「映画『食べる女』出演女優インタビュー」「ドラマ『義母と娘のブルース』ロケ地レポート」など、好奇心をくすぐられる記事が多くランクインした9月でした。記事を参考に、いつもとは違うグルメにチャレンジしたり、いつもは行かないエリア探検をしてみるのも楽しいかもしれません。休日の過ごし方が広がれば幸いです。

あなたの都道府県のマンション、平均年収の何倍で買える ?

東京カンテイの調査結果によると、2017年のマンションの年収倍率(全国平均)は、新築マンションで7.81倍、中古マンションで5.30倍になり、いずれも前年度より拡大したという。とはいえ、エリアによって年収倍率は異なる。あなたが今住んでいる、住みたいと思っている都道府県のマンションは、その地域の平均年収の何倍で買えるのだろう?【今週の住活トピック】
「新築・中古マンション価格の年収倍率 2018【改訂版】」公表/東京カンテイ年収倍率の全国平均は、新築で7.47→7.81倍、中古で5.16→5.30倍

東京カンテイが都道府県別に算出したマンション価格の平均年収倍率は、“マンションの買いやすさ”を検証するためのもの。都道府県ごとに「2017年に分譲された新築マンションの平均価格(70平米換算)」と「2017年における築10年の中古マンションの平均価格(70平米換算)」が、平均年収※の何倍に相当するかを割り出している。
※内閣府発表の「県民経済計算」を基に都道府県ごとの平均年収を予測した数値

まず全国平均では、新築マンションの年収倍率は7.81倍となり、前年から0.34拡大した。

次に都道府県別に見てみると、最も倍率が高いのは東京都の13.26倍、最も低いのは山口県の5.87倍だった。年収倍率が9倍を超えているのは、首都圏の4県と近畿圏の京都府、大阪府、兵庫県と宮城県の8都府県。特に、東日本大震災からの復興が進む宮城県は前回調査の8.07から9.03倍と大きく上昇した。

また、石川県は4.85→8.37倍、長野県も6.15→8.69倍と大幅に上昇したが、これらの大幅な変動は、それぞれ金沢と軽井沢で高額物件が供給されたという特殊事情が原因のようだ。

●新築マンション
全国 7.81倍
首都圏 11.01倍(埼玉県10.13倍、千葉県9.02倍、東京都13.26倍、神奈川県11.16倍)
中部圏 7.96倍(岐阜県7.06倍、静岡県8.45倍、愛知県8.26倍、三重県8.02倍)
近畿圏 8.26倍(滋賀県7.89倍、京都府9.06倍、大阪府9.07倍、兵庫県9.67倍、奈良県7.26倍、和歌山県6.48倍)
2017年のマンション価格(70平米換算)の年収倍率(出典:東京カンテイ「新築・中古マンション価格の年収倍率 2018【改訂版】」より抜粋)

一方、築10年の中古マンションの年収倍率は、全国平均で5.30倍。前年より0.24拡大したが、新築の年収倍率との差は2.51と広がり、割安感が続く結果となった。最も倍率が高いのは東京都の10.46倍、最も低いのは山口県の3.76倍だった。

中古マンションの年収倍率で7倍を超えたのは、東京都に続き、沖縄県(8.09倍)、神奈川県(7.32倍)の3都県。観光地として人気が高い京都府が新築・中古ともに年収倍率を下げたのに対して、沖縄県は新築・中古とも上昇が続き、新築で8.60倍、中古で8.09倍と買いやすさにあまり差がないことが注目点だ。

●築10年中古マンション
全国 5.30倍
首都圏 7.42倍(埼玉県5.90倍、千葉県5.43倍、東京都10.46倍、神奈川県7.32倍)
中部圏 4.73倍(岐阜県4.46倍、静岡県5.05倍、愛知県4.95倍、三重県4.43倍)
近畿圏 5.59倍(滋賀県4.86倍、京都府6.57倍、大阪府6.78倍、兵庫県6.03倍、奈良県4.23倍、和歌山県4.98倍)
2017年のマンション価格(70平米換算)の年収倍率(出典:東京カンテイ「新築・中古マンション価格の年収倍率 2018【改訂版】」より抜粋)

年収倍率は高くても、返済額の家計に占める負担は少ないのが現実?

「住宅を購入する年収倍率は5倍までなら無理がない」と一般的に言われている。中古マンションでも全国平均で5倍を超えるという結果を見ると、マンション購入が難しい状況にあるのではないか、と思ってしまう人もいるだろう。

この結果はあくまで、平均値を基にして算出したものである。
参考までに、住宅金融支援機構の「2017年度フラット35利用者調査」の年収倍率を見てみよう。
【フラット35】を利用して住宅を取得した人に限定されるが、次のような結果が出ている。

新築マンション(全国平均):年収倍率6.9倍、毎月の予定返済額11万8800円、総返済負担率21.3%
中古マンション(全国平均):年収倍率5.6倍、毎月の予定返済額8万1900円、総返済負担率18.7%
※年収倍率は、各利用者の所要資金を世帯年収で除したものの総和をサンプル数で除したもの

こちらの年収倍率も上昇傾向にあるのだが、数値の違いは東京カンテイの算定した世帯年収(448万円)より実際に【フラット35】を利用した購入者の世帯年収(新築マンション775.7万円・中古マンション595.6万円)の方が高い、という影響があるだろう。

また、総返済負担率(住宅ローンの年間返済額を年収で割ったもの)は安全圏とされる25%を下回っている。首都圏で見ても、新築マンションで22.6%、中古マンションで19.8%に収まっているのは、今の超低金利が効果を発揮したということだ。

年収倍率5倍という目安は現実的には難しいかもしれないが、低金利の恩恵もあって、それぞれの世帯で年収に見合う無理のないマンションを購入した結果と見てよいだろう。

さて、“買いやすさ”の指標である年収倍率は上昇傾向が続くが、中心部など利便性の高い立地や富裕層向けの高額な新築マンションの供給量などによって、年収倍率は変わってくる。近畿圏の京都府や首都圏の神奈川県など年収倍率の拡大に歯止めがかかった府県も見られるので、エリアごとの事情をよく見ていく必要があるだろう。

いずれにせよ、自分が買いたいエリアで世帯年収に見合う、長期的に無理なくローンを返済できるマンションを探すというのが、物件選びの基本だ。

●参考
住宅金融支援機構「2017年度フラット35利用者調査」

【シングル編】品川駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

2020年の東京五輪開催に合わせて、JRの新しい駅「品川新駅(仮)」が開業予定だ。そこから1km弱という近場にある品川駅周辺も再開発が進められており、これから街の価値が高まることが予想される。そんな品川駅まで30分以内にある中古マンション相場を調査してみた。今回は専有面積20平米以上~40平米未満のシングル向け中古マンションの物件相場が安い駅をランキング。注目の駅に行きやすく、お得な物件があるエリアをチェックしていこう。●品川駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP12(13駅)
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/品川駅までの所要時間)
1位 錦糸町 1980万円(JR総武線ほか/東京都墨田区/17分)
2位 京急蒲田 1990万円(京急本線ほか/東京都大田区/7分)
3位 蒲田 1994.5万円(JR京浜東北線ほか/東京都大田区/10分)
4位 大森 2080万円(JR京浜東北線/東京都大田区/6分)
5位 鶯谷 2130万円(JR山手線ほか/東京都台東区/20分)
6位 日暮里 2180万円(JR山手線ほか/東京都荒川区/22分)
7位 駒込 2299万円(JR山手線/東京都豊島区/28分)
8位 田端 2349.5万円(JR山手線ほか/東京都北区/25分)
9位 大森海岸 2380万円(京急本線/東京都品川区/13分)
9位 平和島 2380万円(京急本線/東京都大田区/7分)
9位 高田馬場 2380万円(JR山手線ほか/東京都新宿区/24分)
12位 五反田 2390万円(JR山手線ほか/東京都品川区/5分)
12位 御徒町 2390万円(JR山手線ほか/東京都台東区/17分)

1位は商業施設が続々リニューアルを迎える錦糸町駅

品川駅から30分以内で最も中古マンションの物件相場が安かったのは、JR総武線錦糸町駅。2017年にリニューアルした駅ビル「テルミナ」をはじめ、駅周辺には大型商業施設が点在している。映画館やニトリも入った商業ビル「オリナス」は2018年9月にリニューアルが完了、そして「東京楽天地ビル」は1階~7階を占める主要テナントなどをパルコに変更して2019年春にリニューアルオープンの予定だ。

駅周辺が繁華街としてにぎわう一方、駅から少し離れると広々とした公園や静かな住宅街も。また、錦糸町駅はJR線に加え東京メトロ半蔵門線も通っており、便利な環境で暮らしたいシングル層にはぴったりと言えそうだ。

1位・錦糸町駅を含め、3位まではいずれも物件相場が2000万円を切った。2位の京浜急行線・京急蒲田駅と3位のJR京浜東北線・蒲田駅は、似た駅名だが駅舎は離れており、両駅間は歩いて12分ほど。ロケーションに大差はないものの、蒲田駅の物件相場のほうがわずかながらも高いのは、より便利なJR沿線であること、さらに東急電鉄の池上線と多摩川線も通っているためかもしれない。

2位・京急蒲田駅、3位・蒲田駅ともに駅ビルを備えているほか、蒲田駅西口には活気あるアーケード商店街も。駅周辺でひと通りの買い物が済むのは、暮らすうえではうれしいところ。また、京急蒲田駅は羽田空港に向かう京急空港線の駅でもあり、飛行機での出張が多い人にもおすすめだ。

羽田空港(写真/PIXTA)

羽田空港(写真/PIXTA)

都内屈指の便利な路線・JR山手線の駅が7駅もランクイン

今回ランクインした13駅の立地を見てみると、一見、無関係に散らばっているように見えるが、13駅中で7駅がJR山手線沿線という共通点がある。JR山手線は都内交通網の大動脈と言える主要路線。品川駅まで1本なのはもちろん、JR山手線沿線ならば都内の主な街に出かけやすい点が魅力だ。

そんなJR山手線沿線の駅のうち、最も物件相場が安かったのは5位・鶯谷駅。同駅はここ10年以上、JR山手線で最も乗車人員が少ない駅でもある。JRの線路の北東側には戦後から続く歓楽街が残る一方、線路の西南側にあるのは、美術館や動物園が点在する上野公園や、落ち着いた住宅街。1駅隣りはJR各線に加え東京メトロ銀座線・日比谷線も通る上野駅という便利な立地でもあり、JR山手線のなかでも穴場な駅と言える。

上野公園(写真/PIXTA)

上野公園(写真/PIXTA)

都内のさまざまなエリアの駅が顔を並べた今回のランキング。トップ13駅の物件相場の差が410万円と、あまり開きがなかった点も特徴的だ。マンションを次々と買って住み替える人は少数派で、たいていは長く住む想定で購入するだろう。そう考えると『あと少し購入資金をプラスしたら、もっといい条件の物件があったのに……』なんて後悔は避けたいところ。安さばかりに飛びつかずに、品川駅など自分が行動基点にしたい駅までの近さや周辺環境も考慮して、物件探しに励みたい。

さて次回は、今回同様に品川駅から30分以内に範囲を区切って、専有面積40平米以上・70平米未満のカップル向け中古マンションの物件相場ランキングを紹介。どんな結果になるか、お楽しみに。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている品川駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格5000万円以下、専有面積20平米以上40平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年4⽉1⽇~2018年6⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(品川駅まで乗換なし)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

危険な埋め立て地、どう見分ける? 北海道地震でも液状化被害

北海道地震で液状化被害が集中したのが、かつて谷だった場所を埋め立てた造成地でした。本来は住宅地に適さないとされていますが、なぜ危険なのでしょうか。うっかりその上に住んでしまわないためにはどうやって見分けたらよいのでしょうか。
さくら事務所会長の長嶋修氏に解説いただきました。
本来適さない土地にも、住宅が建設されている現実

9月6日の大地震「平成30年北海道胆振東部地震」では、建物の被害は1万件以上。うち住宅については全壊382件、半壊959件、一部損壊7404件(2018年10月4日現在)に及びました。

札幌市で特に被害が大きかった清田区里塚地区。札幌市南東部の丘陵地帯にあるこの住宅街では、道路の陥没やマンホールが突き出る、建物が大きく傾くなどの甚大な被害を引き起こしました。

12日に国土交通省が公表した「札幌市清田区の地形復元図」(地形分類図)によれば、被害が大きかった地区は「氾濫平野・谷底平野」とされています。この地形は一般に低地にあり、水分を多分に含んで液状化しやすく、地盤も弱くて建物が傾きやすい、いわゆる「谷埋め立て地」とされる土地です。

今回被害が大きかった地区には元々、川が流れていましたが、フタをかけられて外からは見えない水路となっていました。被害はこの川と谷筋沿いに起きたのです。一般に、建物を建てる際には地盤調査を行い、必要に応じた地盤改良を行うこととなっていますが、これは2000年6月の建築基準法改正によって事実上義務付けられたもので、それ以前の住宅では地盤調査も改良も行われていないケースも多いのです。

なぜこうした「宅地に適さない」ところに住宅が建つのか。それは「行政がそれを認めているから」というほかはありませんが、今回被害にあった地区に限らず、現実には、地盤の強さ・弱さには関係なく、市街地が形成され建物が建っているものです。

例えば関東の地勢はざっくりいって皇居の西側が強く、東側が弱い傾向にあり、この状況は栃木県あたりまで続きます。これははるか遠い昔の地形が影響しており、古くは海だったところです。

では、皇居の西側なら安心かというとそういうわけではありません。例えば筆者が創業したさくら事務所は渋谷区桜丘町にあり、周辺の地形分類は「山地」「台地・段丘」と非常に盤石で、土地も高く浸水や液状化の可能性も低いのですが、ほんの少し歩くと「氾濫平野」が広がっています。このように地形というものは、個別によく調べないと分からないものなのです。

地形を調べ、家を建てる前には必ず地盤調査を

これから家を買う方、すでに買っている方はまず、国土地理院の「土地条件図」にアクセスして、地形を調べてみましょう。 住所を入力し「情報」-「ベクトルタイル提供実験」-「地形分類」(自然地形・人口地形)で見ることができます。

建物が傾くことや液状化被害などが心配なら「台地」など相対的に土地が高い位置にあり、浸水や液状化の懸念がなく、地盤の固いところを選ぶべきでしょう。地盤の固いところでも、地面をかさ上げする「盛土」をしていればその限りではありませんのでご注意ください。

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かといって、地理的に相対的に低い位置にある土地や、液状化のリスクがあるところに住むなということではありません。そういった場所に住む場合は、浸水や液状化の懸念があることを把握しておくこと、必要に応じて地盤改良をしっかり行うことなどの対策を施すことが欠かせないといえるでしょう。

地盤が弱く揺れやすい地形の場合、地盤の固いところに建つ建物より揺れやすくなることも知っておき、必要に応じて耐震性を高めましょう。また仮に液状化した場合、建物は無事でも、上下水道など地下に敷設されているインフラは毀損する可能性があります。それも踏まえて、万が一災害に見舞われた場合は、地下のインフラのチェックも怠らないようにしてください。

一つご注意いただきたいのは、この「土地条件図」はメッシュが粗く、あくまで大雑把に地形をとらえるものだということ。現実には、同じ敷地内でも地盤の固さが異なるといったことはよくあることです。そのため、家を建てたりする際には、必ず地盤調査を行い、必要に応じた地盤改良をしっかり行いましょう。

液状化被害は居住地の自治体に連絡を

では、もしすでに住んでいる家や土地が液状化被害にあってしまったらどうしたらよいのでしょうか。

例えば東京都には、「液状化対策アドバイザー制度」があり連絡先が公開されています。地震保険に入っていれば液状化の被害に対して保険金が下りますが、これは被害の程度によって保証額に差があります。札幌市も今回の地震を受け、液状化に限らず、建物損壊などの被害について臨時の相談窓口を設けています。

保険金の算定にあたっては「全損・大半損・小半損・一部損」といった判定が、社団法人日本損害保険協会の認定試験に合格した専門家によって行われます。「全損」と判定されれば地震保険金額の満額(時価を限度)が支払われ、「大半損」認定なら地震保険金額の60%(時価の60%が限度)、「小半損」なら40%(時価の40%が限度)、「一部損」の場合は地震保険金額の5%(時価の5%が限度)が支払われます。どの程度の保障があり得るのか、実際に被害にあった後に慌てないためにも、あらかじめ確認しておきましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「渋谷駅」まで電車で30分以内・家賃相場が安い駅ランキング 2018年版

住む場所を決めるときの大切な要素のひとつは、交通の便の良さだ。それぞれの勤務先や通学先へはもちろんだが、生活の充実度や満足度を高めるためには、繁華街へのアクセスの良さも、大いに気になるところだろう。そこで、日本を代表する繁華街のひとつである渋谷へ30分以内で行ける、ワンルーム・1K・1DKを対象にした家賃相場が安い駅ランキングを分析。それぞれの特徴を紹介する。
渋谷駅まで電車で30分以内、家賃相場の安い駅TOP24(26駅)

順位/駅名/家賃相場/(沿線名/駅所在地/渋谷駅までの所要時間(乗り換え時間を含む)/乗り換え回数)
1位 向ヶ丘遊園 6.0万円(小田急線/神奈川県川崎市/24分/1回)
1位 登戸 6.0万円(JR南武線・小田急線/神奈川県川崎市/22分/1回)
3位 久地 6.1万円(JR南武線/神奈川県川崎市/29分/2回)
3位 和泉多摩川 6.1万円(小田急線/東京都狛江市/24分/2回)
5位 京王多摩川 6.2万円(京王相模原線/東京都調布市/29分/2回)
6位 狛江 6.3万円(小田急線/東京都狛江市/22分/2回)
7位 戸田公園 6.34万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/26分/0回)
8位 大倉山 6.35万円(東急東横線/神奈川県横浜市/29分/0回)
9位 戸田 6.4万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/28分/0回)
10位 成増 6.5万円(東武東上線/東京都板橋区/24分/1回)
10位 柴崎 6.5万円(京王線/東京都調布市/27分/3回)
10位 西川口 6.5万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/29分/1回)
10位 調布 6.5万円(京王線・京王相模原線/東京都調布市/23分/1回)
14位 石神井公園 6.53万円(西武池袋線/東京都練馬区/25分/1回)
15位 喜多見 6.6万円(小田急線/東京都世田谷区/20分/2回)
15位 綱島 6.6万円(東急東横線/神奈川県横浜市/26分/0回)
15位 鹿島田 6.6万円(JR南武線/神奈川県川崎市/28分/1回)
18位 つつじヶ丘 6.7万円(京王線/東京都調布市/23分/2回)
18位 三鷹台 6.7万円(京王井の頭線/東京都三鷹市/26分/0回)
18位 久我山 6.7万円(京王井の頭線/東京都杉並区/16分/0回)
18位 和光市 6.7万円(東京メトロ有楽町線・副都心線・東武東上線/埼玉県和光市/27分/1回)
18位 日吉 6.7万円(東急東横線・目黒線・グリーンライン/神奈川県横浜市/24分/0回)
18位 矢向 6.7万円(JR南武線/神奈川県横浜市/30分/1回)
24位 たまプラーザ 6.8万円(東急田園都市線/神奈川県横浜市/28分/2回)
24位 宮の坂 6.8万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/19分/1回)
24位 宮崎台 6.8万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市/24分/0回)

トップ3は神奈川県川崎市

ランキングのトップ3は、神奈川県川崎市の駅が占めた。1位は、小田急線の向ヶ丘遊園駅。急行や通勤急行の停車駅であり、渋谷と同じく大繁華街である新宿へも乗り換えなしで30分以内と、交通利便性が高い街だ。駅から少し行くとファミリー向けの一戸建てが目立つ閑静な住宅地だが、専修大学(生田キャンパス)の最寄駅であり、学生や単身者向けの物件も充実している。

駅の近くには駐車場完備で深夜1時まで営業しているスーパーがあるほか、区役所や警察署などの公共機関も徒歩圏内。また、大規模な都市計画緑地「生田緑地」があり、郷愁を誘う里山の環境が保たれている。小さい子どものいる家庭にとっては、遠出しなくても自然に触れ合える機会に恵まれるのは魅力的だ。敷地内には「川崎市岡本太郎美術館」や「かわさき宙と緑の科学館」など文化施設もあり、子どもの成長過程に沿った情操教育を期待できるのもうれしいだろう。

生田緑地(写真/PIXTA)

生田緑地(写真/PIXTA)

同率1位の登戸駅は、向ヶ丘遊園駅の隣駅。この2駅の距離は600m弱で徒歩圏内だが、登戸駅では快速急行も停車するほか、JR南武線も利用できる。この登戸駅と向ヶ丘遊園駅間は現在土地区画整理事業が進行中。女性や子ども連れなどにとっても住みやすい明るい街づくりがすすめられる予定だが、現在の、昔ながらの個人商店が残る街並みもそれはそれで魅力のひとつであるといえるだろう。

渋谷駅再開発で、乗り換え路線の利便性がさらに向上

渋谷は現在、大規模な再開発プロジェクトがいくつも進行中だ。そのひとつが、渋谷駅構内の改良工事。JR山手線のホームから400m弱離れていて乗り換えに時間がかかっていたJR埼京線と湘南新宿ラインが、JR山手線ホームの隣に移る予定だ。今はまだ少し不便とはいえ、渋谷まで直通で乗り換えなしで利用できるJR埼京線は、7位の戸田公園駅と9位の戸田駅がランクイン。どちらも同じ埼玉県戸田市に位置している。

戸田公園駅は、快速の停車駅。渋谷だけでなく、池袋や大宮まで約15分、新宿まで約20分と、交通アクセスの良さは抜群だ。大きな商業施設はないが、駅にはショッピングセンターが直結。飲食店なども数多いとはいえないが、その分のどかで落ち着いた雰囲気がある住宅街だ。

学校や公園なども多い。駅周辺を中心に道路の整備が進み歩道が広いため、小さな子どもを連れての徒歩移動でも快適そうだ。ファミリーだけでなく単身者にとっても、近くの荒川の河川敷でジョギング、といった楽しみも見いだせそう。

戸田駅は、通勤快速は停車しないが、駅前に家電なども扱う商業施設「T-FRONTE」がある。また、少し行けばホームセンターなどもあるので、買い物をするのにより不自由しないのは戸田かもしれない。近くには戸田東インターチェンジなど複数のインターチェンジがあるため、電車だけでなく車でのお出かけに便利なのもポイントが高い。

日吉の銀杏並木(写真/PIXTA)

日吉の銀杏並木(写真/PIXTA)

SUUMO「住みたい街ランキング」常連の人気エリア近くの駅も

ランキング内で突出して所要時間が短いのが、18位の久我山駅だ。渋谷からたったの16分で急行も停車する駅だが、駅周辺はやはり静かな住宅街。しかし、駅前の公園や川沿いの桜並木が美しく、落ち着いた日々の生活のなかに小さなうるおいと癒やしを見つけられる街ともいえそう。SUUMO「関東 住みたい街ランキング2018(総合)」の上位常連である吉祥寺までは急行で1駅だが、距離は約3km。特別な買い物がしたいときは、吉祥寺まで散歩がてら歩いても楽しいかもしれない。

18位の日吉駅は、SUUMO「関東 住みたい街ランキング2018(住みたい沿線)」2位にランクインしている東急東横線の駅。通勤特急が止まるほか東急目黒線の急行も利用可能で、直通する東京メトロ南北線・都営三田線の始発駅でもあり、乗り換えなしの電車利用の多彩さが大きな魅力。慶應義塾大学(日吉キャンパス)の最寄駅であるため、学生向けの安価な飲食店が充実している。駅から15分ほどいけば量販店の「ドン・キホーテ」もあるため、単身者には過ごしやすい地域だろう。ただし、坂の多い横浜市にあるだけに、学生といえども地域内の移動手段が自転車では少し辛いところが、ちょっとした悩みになるかもしれない。

ピックアップした街はいずれも、閑静な住宅街だ。落ち着いた暮らしと繁華街までのアクセスの利便性が両立できるのはうれしいもの。生活と、仕事や遊びのメリハリをつけられれば、どちらもより充実させられるのではないだろうか。

●調査概要
【調査対象駅】渋谷駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る・乗り換え時間を含む)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2018/6~2018/8
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出

ペット“可”ではなく“共生”。犬も猫も一緒に暮らすシェアハウスの魅力とは

近年、ユニークなコンセプトのシェアハウスが続々と登場していますが、ペットと一緒に暮らすことができるシェアハウスはまだまだ珍しいかもしれません。今回は、ペット共生シェアハウスを運営するHOUSE-ZOO株式会社代表取締役の田中宗樹さんに、ペット共生ハウスの魅力や運営について伺いました。
ペット共生シェアハウスの原点は、動物と一緒に暮らした故郷の生活

そもそも、田中さんがペット共生のシェアハウスをつくろうと決めたのは、自身の出身地である宮崎での思い出がきっかけだったそうです。

「上京するまでは、庭で犬やニワトリを飼うなど動物と一緒に暮らすのが当たり前の生活でした。でも、東京の集合住宅では、ペットを飼える物件はそれほど多くありません。しかし、人間と動物は昔から共存・共生してきたわけだから、動物と一緒に暮らせる生活をつくりたいと思うのは当たり前のことだと思うんです。動物と共生する住環境づくりに特化していきたいという考えで今の会社を始めました」

HOUSE-ZOOのシェアハウスではペットも家族の一員。特に共用スペースでは、ペットの誤飲や誤食を防ぐためにルールも設けている(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

HOUSE-ZOOのシェアハウスではペットも家族の一員。特に共用スペースでは、ペットの誤飲や誤食を防ぐためにルールも設けている(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

ちなみに、賃貸物件などでよく見かける「ペット可」という言葉はHOUSE-ZOOの物件にはありません。ペット可物件は動物が住んでも構わないというだけで、同じ建物のなかには動物が苦手な人が住んでいることも。

一方、HOUSE-ZOOでは、ペット可の代わりに「ペット共生」という言葉を使っています。ペットを飼うことを許可するという意味ではなく、はじめから「ペットと暮らすための住環境」をつくっているからです。ペットがいるのが当然の住環境なので、動物が苦手な人はまず入居しません。同じ建物で生活する住人たちがその環境に不満をもつことが少なくなるのです。

ペット同士の相性は人と同じ。入居者同士が助け合いながら飼育

HOUSE-ZOOが運営するペット共生シェアハウスでは1人で3頭まで飼うことができるので、運営物件全体では入居者よりもペットのほうが多いそう。シェアハウスによって飼える動物は異なりますが、犬や猫だけでなく、フェレットやカメ、インコ、ウサギなどといった小動物もいます。

「当社のペット共生シェアハウスの特徴は、ペットを飼っていなくてもペットが好き、ペットをこれから飼いたいという人でも入居でき、動物との生活が楽しめる点。飼っていないけど動物のいる環境で暮らしたいという人もいます。いずれはペットを飼いたいと考えている人も多いですね。まわりの入居者が飼い方を教えてくれるので、ほかの入居者の様子を見て飼いたいと思うようになった人も少なくないんです」

犬も猫も仲良く共生させるために、入居する際には時間をかけて環境になじませる工夫も(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

犬も猫も仲良く共生させるために、入居する際には時間をかけて環境になじませる工夫も(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

また、HOUSE-ZOOが運営するシェアハウスのなかには、犬専用・猫専用のほか、犬と猫が一緒に暮らす物件もあります。仲良くなりづらいと言われる犬と猫が共生するために、運営上注意している点はあるのでしょうか。

「犬と猫が特別相性が悪いとは思わないです。人と一緒で、同じ犬同士・猫同士であっても相性のいい子も悪い子もいます。だから、犬と猫を別々に生活させるなど、そこまで気をつかうことはありません。

ただ、猫だけは入居した最初の1カ月間ぐらいは部屋から出さないで、ということはお伝えしています。猫の場合は、いきなりほかの犬や猫と顔を合わせると警戒してしまう習性があるんです。たとえ猫専用シェアハウスであっても、あえて顔も合わせず、姿を見せず、まずは気配だけを感じさせるようにしています。それだけでも、もともといる子たちは新しい子が来たって分かるんですよね。その『気配』が新しく来た子にとって当たり前の生活になったら仲良くなれる。その点は飼い主さんにも焦らないように注意しています」

入居者が集まってパーティーを開くことも。ペットも他の入居者と一緒にくつろいでいる(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

入居者が集まってパーティーを開くことも。ペットもほかの入居者と一緒にくつろいでいる(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

一人暮らしでペットを飼うとなると、当然ながらすべて一人で世話をしなければなりません。でも、ペット共生のシェアハウスなら、入居者同士が自然と助け合う関係ができるのだそうです。

「入居して間もないうちは、慣れなくて吠えたり鳴いたりするペットもいます。でも、ペット共生シェアハウスで暮らす入居者たちは、そういう子たちに対して『うるさい』と注意するのではなく『ずいぶんと鳴いてるけど大丈夫?』『なんかあったんじゃないの?』と心配するんですよね」

入居者みんなで助け合いながらお互いのペットを大切にする生活は、ペット自身だけでなく飼い主にとってもうれしいに違いありません。

過剰な設備は不要。ただし、清掃や片付けは徹底的に

ペットと共生するシェアハウスとなると、どうしても気になるのは建物の設備や衛生面のこと。設備や環境づくりでこだわっている点はあるのでしょうか。

「当社のシェアハウスは普通の空き家をリノベーションしている物件がほとんど。散歩から帰ってきたときに捨てやすいところにゴミ箱を置いたり、ペットバスを設置したり、できるだけニオイを防ぐための換気を検討したりはしますが、それ以上の特別な設備はありません。できるだけ滑りにくく、粗相をしたときに片付けやすい建材を採用していますが、フロアや壁もペット用のものではないんです。ペットと共生する住環境としてはこれで十分。これ以上の設備は過剰だと考えています」

ペット用の体を洗うお風呂(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

ペット用の体を洗うお風呂(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

また、シェアハウス内のお掃除も気になるところです。同社が運営するシェアハウスでは、ロボット型掃除機で毎日掃除するほか、10日に1日のペースでHOUSE-ZOOのスタッフや同社に採用された近所の人が清掃を行うそう。「ペットと共生する環境づくりのために、掃除や片付けにはとても気を配っている」と田中さんは言います。

共用スペースの様子。ペットの誤飲や誤食を防ぐために片付けのルールは徹底している(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

共用スペースの様子。ペットの誤飲や誤食を防ぐために片付けのルールは徹底している(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

「一番怖いのはペットの誤飲や誤食です。そのため、入居者の皆さんには、共用スペースに物を出さない・出したら片付けるということを徹底的にお伝えしています。共用スペースでは、ペットから目を離さないようにするということもルールにしています。ただ注意するのではなく、ルールを破ったことでペットたちが苦しい思いをするかもしれないということを伝えると理解してもらえますね」

地方からペットと一緒に上京する人にぜひ利用してほしい

ペット共生シェアハウスは、都会でなかなかペットと一緒に住む家を見つけることができないという人だけでなく、地方からペットと一緒に上京する人にもぜひ利用してほしいと田中さんは言います。

一人暮らし用のペット可物件ではなかなか見られない、ペットが駆け回れるスペースも(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

一人暮らし用のペット可物件ではなかなか見られない、ペットが駆け回れるスペースも(画像提供/HOUSE-ZOO株式会社)

「シェアハウスなら家具も家電もそろっていますし、居心地がいいと言ってくれる人もたくさんいます。もちろん、いろんな入居者がいるのですぐに打ち解けるのは難しいかもしれませんが、ペットを飼っているという共通点があると仲良くなりやすいんです」

ペット共生シェアハウスは、ペットを飼う入居者同士が交流するだけでなく、入居者みんなでみんなのペットを育てていくという新しい住まいのかたち。ペットと一緒に暮らしたいと考えている人にとっては、新しい選択肢のひとつになるのではないでしょうか。

●取材協力
・HOUSE-ZOO株式会社

「片付いた家」どう作る? リフォームならではの解決法を紹介!

すっきり暮らしたいと思い、ノウハウ本を片手に収納術を実践しても何だかイマイチ……。雑誌で見るような「片付いた家」にするために見直したいポイントと、リフォームならではの解決法を解説しよう
【リビング】大小のモノが集まる空間は片付いていない印象に

リビングには、ソファやTVボードのような大型家具だけでなく、クッションや飾り物など小さなモノまで、さまざまなモノが集まる空間。モノが多い分、一生懸命に片付けても“片付いていない”印象になりがち。

「リビングは、壁面収納のように空間を邪魔しない収納の方が部屋はすっきりと見え、飾り物もより映えます。ただし飾るスペースは1カ所にしてテーマを決めておかないと、ごちゃごちゃとした印象になるので注意しましょう」(すはらさん、以下同)

見直したいポイント1.置き家具に統一感がない 2.ファブリックの色柄が多い 3.飾り物に統一感がない 4.背の高い家具で圧迫感が 5.家具が窓をふさいでいる6.室内に凹凸が多い(イラスト/越井隆)

見直したいポイント1.置き家具に統一感がない 2.ファブリックの色柄が多い 3.飾り物に統一感がない 4.背の高い家具で圧迫感が 5.家具が窓をふさいでいる 6.室内に凹凸が多い(イラスト/越井隆)

【キッチン】調味料や調理器具など収納量と収納が合わない

作業場といえるキッチンは、調味料や調理器具などこまごまとしていて、統一感のないモノが多い空間だ。

「リビングやダイニングから見えるところに出したままにするなら、調理器具はステンレス、調理家電は白か黒色など、素材や色を統一するとよいでしょう。また、キッチン周辺にパントリーを設けて、買い置き品や分別用ゴミ箱などを収納できるとよいですね。パントリーは広さが半畳程度でも、かなりの量が収納できて便利です」

見直したいポイント1.調理器具が丸見えに 2.統一感のない調理家電 3.ゴミ箱や買い置き品が床の上に 4.コードが表に出ている(イラスト/越井隆)

見直したいポイント1.調理器具が丸見えに 2.統一感のない調理家電 3.ゴミ箱や買い置き品が床の上に 4.コードが表に出ている(イラスト/越井隆)

「間取りを変更するリフォーム計画があるなら、居室空間を削って収納スペースを増やした方がよいケースは多いです」とすはらさんは話す。「収納家具を居室空間に置かずに済むと、リビングならソファやテレビ、寝室ならベッドと大型家具だけになり空間がすっきり見えます。その際に、柱や梁の凹凸を減らすことも意識するとよいでしょう」。

そして、収納スペースをつくる場合、長く過ごす場所の近くや動線上に配することが重要だ。「出し入れしやすい位置に収納をつくるだけで“出しっ放し”は大幅に減ります」。

リフォームは飾り物や持ち物をチェックするよい機会だ。「前述したように、飾り物はスペースとテーマを決めることが大事。奥様一人で頑張らず、ご主人やお子様も巻き込み、家族全員で持ち物を見直しましょう」

●取材協力
すはらひろこ(整理収納アドバイザー2級・1級認定講師、一級建築士、インテリアコーディネーター)

ZEH-M(ゼッチ・マンション)が続々登場! ZEHって何?なぜ増えている?

平成30年度になってから、「ZEH(ゼッチ)マンション」なるものが続々と登場している。ZEHとは?ZEHマンションとは?について、経済産業省の事業に認定されたマンションを事例に見ていくことにしよう。【今週の住活トピック】
経済産業省「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」
「Brillia 弦巻」が東京都内初の事業として採択決定/東京建物
大京グループ 10 事業が採択決定/大京グループ
当社の分譲マンション「(仮称)プレミスト稲川三丁目」が採択されました/大和ハウスZEH(ゼッチ)とはネット・ゼロ・エネルギー・ハウスのこと

まず、ZEH(ゼッチ)とは何かについて、説明しよう。
ZEHとは、Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)を略した呼び方だ。住宅で消費するエネルギーをゼロにしようというものだが、全くエネルギーを使わないわけにはいかない。住宅の断熱性・省エネ性能を上げることに加え、太陽光発電などによってエネルギーを創り、年間の「1次エネルギー消費量」をプラスマイナスでおおむねゼロ以下にしようというもの。

なお、1次エネルギー消費量の対象となるのは、「暖冷房・換気・給湯・照明」で、テレビや冷蔵庫などの家電製品は対象外だ。

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の仕組み(出典:経済産業省の資料より転載)

ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)の仕組み(出典:経済産業省の資料より転載)

補助金で高層のZEHマンションを後押しする仕組み

住宅のエネルギー消費量を削減したい政府は、ZEHを普及させようとしているが、ZEHでは、住宅に太陽光発電設備などを備えつけてエネルギーを創り出す必要がある。マンションは戸数が多いわりに、太陽光発電設備を設置できる屋上の面積が広くないなどの制約がある。

そこで、政府はZEH普及の2030年までのロードマップを作成し、まずは注文住宅での普及に力を入れてきが、次第に分譲の新築一戸建て、賃貸・分譲のマンションへと普及対象を拡大してきている。

マンションについては、あいまいだったZEHマンションの定義を明確にし、補助金を交付する事業によって普及を加速させようというのが、経済産業省の「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」だ。

この事業は、住宅部分が6階以上のZEHの集合住宅が対象となる。住宅部分が5階以下のZEHマンションについては、別途「低・中層ZEH-M支援事業」がある。

では、国が定めたZEH-M(ゼッチ・マンション)の定義を確認しよう。
図にあるように、『ZEH-M』、Nearly ZEH-M、ZEH-M Ready、ZEH-M Orientedの4タイプがある。マンションの制約上、太陽光発電設備などによる再生エネルギーを期待しづらいことから、階数が高くなるほど再生エネルギーによる削減の基準を緩めている。

また、マンションのばあいは、従来から共用部分を含む住棟と購入対象となる住戸のそれぞれで、省エネ性能を評価してきた経緯もあり、住棟単位(専有部及び共用部の両方を考慮)と住戸単位(各々の専有部のみを考慮)の両方について、ZEH の評価方法を定めている点も特徴だ。

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」公募要項より筆者が作成

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」公募要項より筆者が作成

平成30年度は、15の事業(分譲マンション14・賃貸マンション1)で補助金の交付が決定している。「ZEH-M Oriented」という定義の導入と補助金が、ZEHマンションを後押しする仕組みとなったわけだ。

で、ZEH-M(ゼッチ・マンション)って、どんなマンション?

今回の国の定義によると、年間の1次エネルギー消費量がプラスマイナスゼロになるのは「ZEH-M」のみだ。「ZEH-M Oriented」の基準を満たすZEHマンションの場合では、地域ごとに設定された外皮基準をクリアし、年間の1次エネルギー消費量を20%以上削減すればよいわけだ。

「平成30年度 高層 ZEH-M(ゼッチ・マンション)実証事業」に採択された事業を見ると、おおむね次のようなマンションになる。

・住棟の外壁や屋根、住戸の床や天井の断熱性能を従来より引き上げる
・サッシのフレームに熱を伝えにくい樹脂材(従来はアルミ)を入れ 、省エネ性の高い複層ガラスを入れる。または二重サッシにして、内窓に樹脂サッシと複層ガラスを入れる
・給湯器にエネルギー消費効率の良いエコジョーズやエコキュート、エネファーム(燃料電池)を採用する
・床暖房やエネルギー消費効率の良いエアコンを採用する

大京グループのプレスリリースより転載

大京グループのプレスリリースより転載

ZEHマンションは、室内にいるときに夏の猛暑や冬の寒さといった外気の変化の影響を受けにくくなり、室内空間の快適性がアップする。さらに、室内の温度調節については、エアコンをガンガン使うことも抑えられ、光熱費も削減できる。エアコン嫌いの筆者にとっては、なかなか魅力的だ。

一方、ZEHマンションは、省エネ性能を引き上げるので、その分の建築コストは上がる。マンションの購入者が何を重視するか、どんな生活をしたいかによって、ZEHの価値も変わってくるのだろう。

壇蜜「夕飯はなるべく自宅で。毎日のルーティンを大事にしています」【映画『食べる女』インタビュー】

2018年9月21日(金)公開の映画『食べる女』に出演する壇蜜さんは、自宅でどのようにパワーをチャージしているのか。よく食べるものやダイニングキッチンのこだわりなど、「食」と「暮らし」について語っていただいた。
自宅にはお気に入りの食品を常に大量にストック

 ご飯を食べて、細かい家事をやって、お風呂に入って、明日の支度をする。そんな毎日のルーティンを大事にしています。一連の流れを崩したくないので、夕飯は家で食べることが多いですね。

 だから、自宅には常にお気に入りの食品を常備しています。ミニトマトと梅干し、刻んだ冷凍パクチー、それから好きなアイス。今はアロエのアイスが30本くらいあります。一度気に入ると発売中止になるまで買い続けてしまうので、ストックは増える一方。飼っている蛇や熱帯魚のエサを置くスペースも必要なので、小さい冷蔵庫の中身を定期的にリストラしてやりくりしています(笑)

 自炊もしますよ。今の家はキッチンの使い勝手がよくて、特にコンロの下にある「ナゾの細い引き出し」が便利。前の家にはなかったんですけど、いざ使ってみるとすごくポテンシャルが高いんです、あの細い引き出し。上段に塩コショウや顆かりゅう粒だしなど背の低い調味料、下段に料理酒やごま油、オリーブオイルなど、コンロでよく使うものを入れています。キッチンが使いやすいと、料理も頑張れますね。最近はよく手羽元のグリルをつくります。開いた手羽元をしょうゆと酒とショウガでもみ込み、冷蔵庫でひと晩寝かせてからグリルする。とってもおいしいです。

小さいダイニングで一人静かに食事するのが好き

『食べる女』で私が演じるツヤコは、一見とんでもない、しょうがないお母さん。そのダメさ加減は、良くも悪くも小学生の娘・ミドリの心に強く刻まれます。そんな母を守りたいと思うのか、あるいは逆に軽蔑するのか。いずれにせよ、ツヤコの危うさ、変な部分をしっかり表現することは、娘の成長を描く上で欠かせないと考え、演じています。そしたら案の定、「(変な女が)よく似合うね」という感想をいただきました。ありがたいですね。

 映画には食卓の風景も数多く登場します。作中では誰かと一緒に食べるシーンがほとんどですが、私自身はなるべく一人がいい。実は、人前で何かを食べるのが苦手というか、恥ずかしいんです。手羽元を食べているところなんて、完全に「捕食シーン」ですからね。キッチンに近いコンパクトなダイニングで、誰に気兼ねすることなく静かに黙々と食べるのが好きですね。特に、仕事が休みの日に一人でこっそり食べるアイスやゼリーは最高のご褒美です。

壇蜜●取材協力
壇蜜(だん・みつ)さん

1980年生まれ、秋田県出身。雑誌グラビアで注目を浴び、主演映画『甘い鞭』では第37回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。映画『食べる女』では、2児の母で耳のパーツモデルをしている米坂ツヤコを演じる

●壇蜜さんが出演する映画
『食べる女』
『食べる女』
小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香、豪華女優陣が夢の競演。人生における価値観が異なる8人の女たちが、おいしいものを心置きなく食べる“女の本音満載の宴”を通して、現代に生きる女たちの“今”を描く。おいしいゴハンを食べれば、心も身体も元気になる!
2018年9月21日より公開。 Ⓒ2018「食べる女」倶楽部

取材・文/やじろべえ榎並紀行(壇蜜) デザイン/blue vespa

山田優「リノベーションで対面キッチンに。手早く料理できるようになりました」【映画『食べる女』インタビュー】

2018年9月21日(金)公開の映画『食べる女』に出演する山田優さんは、自宅でどのようにパワーをチャージしているのか。よく食べるものやダイニングキッチンのこだわりなど、「食」と「暮らし」について語っていただいた。
お風呂の床はコルクにして大正解。痛くないし、冷たくない

 1年前、10年以上住んでいた家をリノベーションしました。こだわったのは、子育てしやすくて、家族みんながリラックスできること。キッチンは独立型から対面カウンターに変えて、子どもとおしゃべりしたり、遊んでいる姿を見守りながら料理できるようにしました。それまでは、子どもに目が届かないのが不安だったけど、今は安心してキッチンに立てますね。キッチンのベビーゲートも、部屋の雰囲気に合ったものを造作で付けたので、見た目もすっきり。冷蔵庫から食材を出したら、シンクで洗って、ワークトップで下ごしらえして、コンロで火にかけて……と、流れで作業できるように配置したのもポイントです。バスルームや洗面室の床は、転んでも痛くないコルク素材に。最初は「お風呂にコルク!?」と思ったけど、濡れても大丈夫だし、はだしでも冷たくないので、冬も快適です。

 インテリアはNYのSOHOのようなイメージ。スチール素材と重厚感のある木を組み合わせて、無骨な雰囲気に仕上げました。写真集やPinterestから気に入った写真を集めて、「こんな感じにしたい」と設計士さんと相談するのは、すごく楽しかった! 夫はインテリアにこだわりがなくて、仕上がりを見て「いいんじゃない?」と言うだけ(笑)。ほとんど私が主導で考えました。

「おいしいね」の言葉で料理のやる気が出ます

『食べる女』は、自分の欲望に正直な女性たちがそれぞれ悩みを抱えながらも、仲間とおいしいものを食べて元気になる映画。それってすごく幸せなことですよね。私も料理はよくつくりますが、おばあちゃんがつくるような煮物や炒め物、おみそ汁にハンバーグと、ごく普通の家庭料理ばかり。おしゃれな料理はつくれないんです(笑)。いつも心がけているのは、野菜たっぷりで、タンパク質がちゃんと取れること。子どもにはもちろん、私の健康にもいいだろう、と考えています。友達を招くことも多くて、そういうときは大人用と子ども用のメニューを用意します。そういうと大変そうですけど、つくるのはまったく苦になりません。むしろ、みんなに「おいしいね」と食べてもらえるほうが、つくりがいがあるんです。

 今の家は心からリラックスできる、大好きな空間。でも、私は沖縄で生まれ育ったので、自然のなかで子どもを育てたいなと思うことも。海の近くにもう一つ家があって、今の家と行ったり来たり。いつかそんな生活ができたら最高ですね。

山田優●取材協力
山田優(やまだ・ゆう)さん

1984年生まれ、沖縄県出身。2000年よりファッション誌『CanCam』の専属モデルとして活躍し、2001年にはドラマ『カバチタレ!』で女優デビュー。雑誌、テレビ、広告と幅広く活躍する。映画『食べる女』では、結婚という形式にとらわれず、元夫への一途な愛を貫く茄子田珠美を演じる

●山田優さんが出演する映画
『食べる女』
『食べる女』
小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香、豪華女優陣が夢の競演。人生における価値観が異なる8人の女たちが、おいしいものを心置きなく食べる“女の本音満載の宴”を通して、現代に生きる女たちの“今”を描く。おいしいゴハンを食べれば、心も身体も元気になる!
2018年9月21日より公開。 Ⓒ2018「食べる女」倶楽部

取材・文/工藤花衣(山田優) デザイン/blue vespa

「BEAMS流インテリア」「子育て施設充実の賃貸マンション」【8月人気記事まとめ】

9月に入って暑さがやわらぎ、秋の気配が。ようやく過ごしやすい季節となりそうです。さてSUUMOジャーナルで8月に公開した記事では、「BEAMS流インテリア」「中古マンションを理想どおりにリフォーム」など、好奇心を刺激される記事、自分らしく暮らすコツやエピソードなどについての記事が人気でした。TOP10の記事を詳しくご紹介します。

8月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

第1位:BEAMS流インテリア[4] 新しいのに懐かしい、ビンテージ好きが選んだ経年変化を楽しむ古民家暮らし
第2位:BEAMS流インテリア[5] ないものは創る!賃貸1Kの部屋を自分らしく住みこなすDIY女子
第3位:わが家に合った予算・ローン[2] 共働き夫婦、住宅ローンは夫のみ? 夫婦でペアローン?
第4位:「中古マンション購入+リフォーム」で将来貸しやすく、快適に暮らせる部屋に【理想をかなえたマイホーム実例#03】
第5位:【カップル編】渋谷駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング
第6位:建物内保育園の入園を保証! 子育て施設が大充実の、賃貸マンションに行ってみた
第7位:若者の住まいの満足度は、賃貸と持ち家、広さ、ライフステージでどう変わる?
第8位:半数は掃除嫌い!掃除のしにくさに不満大! 今どきの住まいはどうなっている?
第9位:湘南生まれ、サーフィン育ち! 人気タウン藤沢市辻堂を地元サーファーに案内してもらった
第10位:”地域との連携、管理活動と平行” 絶景マンション、ブリリア有明シティタワー【管理はつなぐ[11]】
※対象記事:2018年8月1日~2018年8月31日までに公開された記事
※集計期間:2018年8月1日~2018年8月31日のPV数の多い順

「BEAMS流インテリア」など個性的な生活を楽しむ人の記事が人気

第1位:BEAMS流インテリア[4] 新しいのに懐かしい、ビンテージ好きが選んだ経年変化を楽しむ古民家暮らし

(写真/片山貴博)

(写真/片山貴博)

センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)スタッフのご自宅を訪問する連載です。第4回は、大のビンテージ好きというショップマネージャーのお宅。築50年の平屋を全面リノベーションしたという、ちょっと懐かしい感じがする古民家です。物が多くてもスッキリ見せる収納術は必見。

第2位:BEAMS流インテリア[5] ないものは創る!賃貸1Kの部屋を自分らしく住みこなすDIY女子

(写真/飯田照明)

(写真/飯田照明)

センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)スタッフのご自宅に訪問する連載です。第5回は「欲しいものが手に入らなければ自分で創る」というDIY好きスタッフの住む、25平米の賃貸1K。仕事や趣味のグッズが多くても、1Kでも、工夫次第でこんなに荷物が置ける! という実例をご覧ください。

第3位:わが家に合った予算・ローン[2] 共働き夫婦、住宅ローンは夫のみ? 夫婦でペアローン?

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

住宅ローンには、夫だけではなく妻も融資を受けるペアローンという選択肢もあります。このローンのメリットとデメリットについて、「ホームローンドクター」に教えていただきました。自分たちにはどんな住宅ローンがベストなんだろうと迷っている方。相談者の事例も参考に、ペアローンも検討してみるといいかもしれませんよ。

第4位:「中古マンション購入+リフォーム」で将来貸しやすく、快適に暮らせる部屋に【理想をかなえたマイホーム実例#03】

(写真撮影/PIXTA)

(写真撮影/PIXTA)

マイホーム購入を通じて、理想をかなえた方々のお宅に伺い、レポートする連載です。第3回は、転居が必要になった場合に備え資産価値高く、そして住まいとしての快適性も重視して中古マンションをリフォームしたご家庭。どんな工夫をされたのでしょうか?

「若者の住まいの満足度」「半数は掃除嫌い!掃除のしにくさに不満大!」など、調査記事がランクイン

第5位:【カップル編】渋谷駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

人気エリア・渋谷駅まで30分以内の中古マンションの価格相場を調査しました。基点駅である渋谷の物件相場5980万円に対し、一番物件相場が安かったのはJR南武線の久地駅。そのお値段はなんと半額以下! 2位以下には東武東上線、都営三田線沿線の駅が続きます。ランクインしているのはどこの駅? 詳細は記事をご覧ください。

第6位:建物内保育園の入園を保証! 子育て施設が大充実の、賃貸マンションに行ってみた

(画像提供/三井不動産)

(画像提供/三井不動産)

柏の葉キャンパス駅近くに、賃貸では珍しい、建物内保育園の入園保証がついた賃貸マンションが誕生しました。分譲ではなく賃貸ということで、子育て期間中のみここで暮らすという柔軟な住まい方も可能です。待機児童問題が大きな話題となっている昨今ですが、そんな悩みとは無縁、かつ住まいと育児施設が近い究極の“育住近接”生活始めてみませんか?

第7位:若者の住まいの満足度は、賃貸と持ち家、広さ、ライフステージでどう変わる?

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

ライフスタイルの違いや住宅の面積、賃貸か持ち家かなど、住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査があります。そのなかから今どきの若者のデータをピックアップし、結婚や出産願望、住宅の購入志向に注目してみました。果たして若者にはどんな傾向があるのでしょう?

第8位:半数は掃除嫌い!掃除のしにくさに不満大! 今どきの住まいはどうなっている?

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

自宅の掃除を主に行っている男性250人、女性500人にアンケート調査をしたところ、「掃除が嫌い」と回答した人は半数の50.0%! 面倒、時間がかかる、疲れるからというのがその理由のようですが……。調査結果の詳細、掃除に対する不満を解消する方法が気になる方はこちらをご覧ください。

第9位:湘南生まれ、サーフィン育ち! 人気タウン藤沢市辻堂を地元サーファーに案内してもらった

(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

サーファーに人気の街、藤沢市辻堂。そんな辻堂を、生まれも育ちも藤沢市という現役サーファーにガイドしてもらいました。辻堂といったらもちろん海!ですが、再開発で生まれ変わった辻堂駅、スマートタウンといった便利な生活環境や、計画的な街づくりなどにも注目です。

第10位:”地域との連携、管理活動と平行” 絶景マンション、ブリリア有明シティタワー【管理はつなぐ[11]】

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/柴田ひろあき)

高い資産性を守って次世代に渡したい。都心住宅に暮らす人々の誠実な管理に学ぶ。『都心に住む』の人気連載からの転載記事です。かつては空地が多かったが、近年は開発が活性化し、次々と高層タワーが登場している有明エリア。同エリア内西部で2015年に竣工した「ブリリア有明シティタワー」は、ラウンジやスパ、ゲストルームなど、多彩な共用施設が最上階の33階に集まり、昼夜で趣の異なる絶景を楽しめる物件。そんな「ブリリア有明シティタワー」の画期的な取り組みとは?

連載「BEAMS流インテリア」、資産性と住み心地にこだわってマンションリフォームをしたご夫婦など、住まいにこだわり、日々の暮らしを楽しんでいる記事が多くランクインした8月でした。どんな暮らしが合うかは人それぞれ。自分にとって心地いい住まいづくりの参考にしてみてくださいね。

戸建注文住宅の建築費や土地代が上昇! その理由は?どう対処した?

住宅生産団体連合会(以下、住団連)の「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」の結果が公表された。それによると、建築費や土地代を加えた住宅取得費が昨年度より上昇したという。これから建てる人には、コスト増は気になるところ。なぜ建築費が上昇したのか、コスト増にどう対処したのかについて、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」結果を報告/(一社)住宅生産団体連合会建築費が増加し、平均の建築費単価は1万円アップの27.5万円/平米

この調査は、三大都市圏と地方都市圏に注文住宅を建てた人を対象に住団連が毎年行っているもので、2017年度で第18回目となる。

まず、注文住宅を建てた人の最新の平均像を見ていこう。
世帯主年齢の平均は40.5歳で、平均世帯人数は3.4人。ここ数年、「25~29 歳」や「30~34歳」の世帯主の比率が増加傾向を示しているという。

平均延べ床面積は129平米で狭くなる傾向にある。一方で、平均建築費(3535万円)は昨年度より81万円増加し、土地代を加えた平均住宅取得費(4889万円) も昨年度より134万円増加するなど、コストは増加傾向にある。また、世帯年収が伸び悩むなか、住宅取得費の年収倍率は6.5倍、借入金年収倍率は4.5倍にそれぞれ上昇した。

このように、建物の面積が狭くなるのに建築費は増加しているので、平均の建築費単価も上昇し、昨年度より1万円アップの27.5万円/平米となった。

平均建築費単価の推移(出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

平均建築費単価の推移(出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

「長期優良住宅」や「低炭素住宅」の認定住宅が増加し、8割以上に

では、建築費単価が上昇するのは、どういった理由からだろう?

もちろん、大工などの職人不足による人件費の高騰などで、純粋に建築費自体が上がった部分もあるだろう。が、求められる性能の要因も見て取れる。

調査結果で、「長期優良住宅」(81.1%)や「低炭素住宅」(1.6%)の割合が増加し、一般住宅(15.8%)が減少していることに注目したい。

「長期優良住宅」「低炭素住宅」の適用((出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

「長期優良住宅」「低炭素住宅」の適用((出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

「長期優良住宅」とは、長期にわたって良好な状態を保てるようなさまざまな基準をクリアした住宅、「低炭素住宅」とは、二酸化炭素排出の削減ができる省エネ性の高い構造や設備を備えた住宅のことだ。いずれも国が定めた認定基準を満たす必要があり、高い性能を求められるがゆえに建築費も高くなる。

そのため、これらの認定を受けた住宅については、「住宅ローン減税(住宅ローン残高の1%を10年間にわたって所得税などから控除する制度)」の最大控除額が400万円→500万円に拡大し、「登録免許税」も減税されるなどのメリットを受けられる。「長期優良住宅」の場合はさらに、新築住宅の場合に「固定資産税(家屋)を1/2に減額」する措置が、一戸建ての場合で3年間→5年間に延長されるなどのメリットもある。

つまり性能の高い住宅が増えることで、建築費が上昇するという理由が考えられるわけだ。

なお、コスト増に対しては、自己資金(平均1372万円)と借入金(借入ありのみ平均4031万円)を増やすことで対処していると見られ、親などから贈与を受けた比率(18.0%)や贈与を受けた人の平均贈与額(1145万円)は下がっている。

土地なしで注文住宅を建てる人が増加傾向、過半数が新たに土地を購入

さて、コスト面で次に注目したいのは、土地の取得方法だ。

昔は注文住宅と言えば、元の家を建て替えて注文住宅を建てる「建て替え」が主体だった。ところが、「建て替え」比率(28.5%)は減少トレンドにあり、今は、新たに土地を購入して注文住宅を建てる「土地購入・新築」の比率(51.4%)が上がり、過半数を占めている。

「建て替え」では、建築費が住宅取得費総額のほぼ全てを占めるが、その平均建築費は4026万円と最も高くなる。これに対し、建築費に加えて土地代が別途必要となる「土地購入・新築」の平均建築費は3223万円だ。「建て替え」は土地代が必要ない分、建築費にシフトできるというわけだ。

昨年度からの変化を見ると、「建て替え」の建築費は50万円増加したが、「土地購入・新築」の建築費は78万円増加し、さらに新たに取得した土地代は昨年度より95万円増加して2160万円になった。「土地購入・新築」のほうが、建築費も土地代も負担が増えたことになる。

建築費と土地代の構成と合計金額のうち、「建て替え」と「土地購入・新築」のみ抜粋((出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

建築費と土地代の構成と合計金額のうち、「建て替え」と「土地購入・新築」のみ抜粋((出典:住団連「2017年度戸建注文住宅の顧客実態調査」)

さて、注文住宅を建てる人の過半数は別途土地を取得しているが、土地の取得は難しい環境になっている。

利便立地の大きな土地は、商業ビル、オフィスビル、ホテル、マンションで競合していることから、住宅の分譲業者の一部は一戸建ての建売販売に手を広げている。そこで、一戸建てが数棟建てられる小さな土地にも、もともとの一戸建て販売業者に加え、これまでより多くの不動産業者で競争することになり、なかなか一般の市場に出回ってこない。こうした状況で、これからの戸建注文住宅の動向はどうなっていくのか気になるところだ。

ファミリー世帯の多い街で、安心して子育て。都内ベイエリアの新築マンション【理想をかなえたマイホーム実例#04】

マイホーム購入を通じて、理想をかなえた方々のお宅に伺い、レポートする連載企画。
今回は「東京ならではの生活を楽しみつつ、安心して子どもを育てたい」と考え、江東区で新築マンションを購入したOさんのご自宅にお邪魔します!【連載】理想をかなえた!マイホーム実例
「いつかは家を買って、○○したい」――そう考えて、住宅購入に夢をふくらませている方も多いのではないでしょうか。実際に「こんな暮らしがしたかった」という理想の暮らしを実現したご家庭にお邪魔し、マイホームを購入するまで、してからのお話をあれこれ伺います。家族の幸せな笑顔が生活空間を彩る、かわいいディスプレイスペース

江東区、東京ベイエリアの新築マンションが立ち並ぶ一角。インターフォンでオートロックを解除してもらい、エレベーターで2階に上がった一番奥の角住戸が、今回のOさんファミリーの住まいです。夫婦と9歳の女の子、3歳の男の子の4人で住んでいます。

「かわいい~!」
玄関を開けると真っ先に目に入る靴箱の上のディスプレイスペースに、私たち取材陣がそろって声を上げました。たくさんの家族写真が飾られ、すてきにディスプレイされた玄関は、Oさんファミリーの幸せで充実した毎日を感じさせます。

ガーランドなどお星さまのモチーフで統一され、たくさんの家族写真が置かれた玄関のディスプレイスペース(写真撮影/片山貴博)

ガーランドなどお星さまのモチーフで統一され、たくさんの家族写真が置かれた玄関のディスプレイスペース(写真撮影/片山貴博)

玄関を上がってすぐ左手にあるのが、小学3年生になる長女の部屋。白とピンクを基調としたカラーリングが女の子の部屋らしい雰囲気です。大好きな小物たちがたくさんディスプレイされ、上手に描けた絵や家族の写真がたくさん飾られた空間は、さながらお姉ちゃんの宝箱のよう。いきいきと学校生活を楽しむ子どもの毎日の時間と、健やかな成長を願うOさん夫婦の気持ちが詰まっているのでしょう。

長女の子ども部屋には色とりどりの小物たちや絵、写真が飾られているが、白とピンクを基調としたカラーリングですてきな統一感がある(写真撮影/片山貴博)

長女の子ども部屋には色とりどりの小物たちや絵、写真が飾られているが、白とピンクを基調としたカラーリングですてきな統一感がある(写真撮影/片山貴博)

廊下を進むと、壁にもたくさんの写真と2人の子どもたちが着色したTシャツが飾られていました。シックなグレーの壁に写真や手描きの明るい色彩がよく映えています。

たくさんの写真が飾られたキャンパス地のアートボードと、子どもたちが絵を描いたTシャツが飾られている廊下の壁は、まるでギャラリーの一角のよう(写真撮影/片山貴博)

たくさんの写真が飾られたキャンパス地のアートボードと、子どもたちが絵を描いたTシャツが飾られている廊下の壁は、まるでギャラリーの一角のよう(写真撮影/片山貴博)

階の高さよりも広さを重視、内装をカスタマイズしてシックな空間に

――日々の生活の楽しさが、訪れるゲストにも存分に伝わるお住まいですね。いつごろからこちらに住んでらっしゃるんですか?

「2014年ごろに購入してマンション完成後の2015年に引越したので、住んで3年ほどです。以前は江戸川区にある賃貸マンションに住んでいたのですが、50平米の2LDKで、手狭に感じて引越しを考えていたときに2人目を妊娠しました。夫婦でこれはもう買うタイミングだろう、と話しまして」(Oさん、以下同)

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――新築マンションに絞って検討されたんですか?

「はい。特に夫は自分たちが初めての住人になる新築がいい、という考えなので、中古マンションは選択肢にありませんでした。このマンションは内覧して2つ目の物件だったのですが、モデルルームを見た瞬間、ここがいい、と。価格帯が低い2階という低層階にするかわりに、壁などはちょっとお金をかけて好きな仕様にしました。たとえば先ほどの廊下の壁や、畳を黒系の色みにカスタマイズしてシックな印象にしています」

ダイニングの壁もグレーに変更した。モノトーンを基調としたシンプルでシックな空間に、木目が映えるインテリア。スツールや家電類も白で統一されているので空間全体がスッキリと見える(写真撮影/片山貴博)

ダイニングの壁もグレーに変更した。モノトーンを基調としたシンプルでシックな空間に、木目が映えるインテリア。スツールや家電類も白で統一されているので空間全体がスッキリと見える(写真撮影/片山貴博)

――キッチンカウンターのステッカーなど、インテリアにもご夫婦のこだわりを感じます。

「ステッカーは夫が貼ったんですよ。あ、リビングの飾り棚のディスプレイも夫作です」

「夫がつくったんです」というリビングの飾り棚。ボードには「LIVE SIMPLY,LAUGH OFTEN,LOVE DEEPLY(シンプルに暮らし、よく笑い、深く愛そう)」の文字が(写真撮影/片山貴博)

「夫がつくったんです」というリビングの飾り棚。ボードには「LIVE SIMPLY,LAUGH OFTEN,LOVE DEEPLY(シンプルに暮らし、よく笑い、深く愛そう)」の文字が(写真撮影/片山貴博)

――お仕事が住まい選びにも影響した点などもありますか?

「夫は外資系のメーカーで働いていて車通勤なので、エリアの選択という点で、アクセスのいいところ、高速道路にも乗りやすく、東京都内でも道路が混雑しやすい西側は避けて……と考えました。江東区のなかでもやや南に位置するこのエリアは、そういった点を満たしていました」

――子育て環境についてはいかがですか?

「江東区は子育て支援制度も充実しているし、23区内なのに緑も水もあって自然豊か、子どもたちがのびのびと遊べる広い公園もたくさんあって気に入りました。同じベイエリアでも芝浦や豊洲などに比べると、都心から少し離れるこのエリアは物件の価格帯も割安ですしね(笑)」

――ベイエリアは車があれば、特に便利ですもんね。

「はい、友達や親戚が遊びに来たときにもお台場や葛西臨海公園、東京ディズニーランド、千葉方面など、いろいろなところに連れて行くことができます。でも、車がなく電車移動の場合でも、昼間は割と席が空いていて楽なんですよ」

お出かけや買い物は車移動が多い。夫の営業車は近くの契約駐車場に、マイカーはマンション内の駐車場に置いてあるので、妻と子どもたちもいつでも車で出かけられる(写真撮影/片山貴博)

お出かけや買い物は車移動が多い。夫の営業車は近くの契約駐車場に、マイカーはマンション内の駐車場に置いてあるので、妻と子どもたちもいつでも車で出かけられる(写真撮影/片山貴博)

――たしかに! 今日の取材に伺うときにも、電車で座って来ることができました!

「でしょう? 私はミーハーなので、東京の生活を満喫したいんですが、交通網の混雑や人混みは苦手なので、割とゆったり暮らせて『東京だけど、東京っぽくない』このエリアが本当に気に入っています。夫は東京都内に実家があるのですが、彼も都内でこんなに安くていいところはない、とよく言っています(笑)」

同世代のファミリーとのつながり、助け合いが子育ての味方

――「子育て」という側面において、ほかにも感じてらっしゃる利点はありますか?

「同世代の子育てファミリーが多いところです。新築マンションが同時期に建ったこともあって、うちと同じような子育て世帯がたくさん住んでいます。娘の小学校の同級生もすぐ近くのマンションに住んでいて、ママ同士で連絡を取り合って『集合!』をかければすぐに集まって遊べます。また、何かトラブルがあって帰りが遅くなるときなどは、ママ友たちに子どもを預かってもらったり、お互いに助け合えている状態がとても心強いんです」

取材当日もOさんがLINEで一声かけると、近くに住む長女のお友達やママ友がすぐに集まってくれた。すぐ近くの運河に沿う遊歩道も子どもたちの遊び場(写真撮影/片山貴博)

取材当日もOさんがLINEで一声かけると、近くに住む長女のお友達やママ友がすぐに集まってくれた。すぐ近くの運河に沿う遊歩道も子どもたちの遊び場(写真撮影/片山貴博)

――引越していらしたのが3年前ということなので、もともと幼稚園からのお友達、というわけではないんですよね?

「はい、知り合いが全くいないところに引越してきたので、正直、最初はかなり不安でした。ところが、引越してみると周りも同じように引越してきたファミリーばかり。小学校もこぢんまりしていて一学年が40人強、学年みんなの顔が分かって、子どもたちが表に出ていると誰かが見てくれている環境です。
近くの古い団地に住むおじいちゃんおばあちゃんもよく声をかけてくれ、こんなに助けてもらえる人がいるとは思いませんでした。震災の経験など、助け合えるコミュニティが必要だと思っていたときにこの環境に出合えて、本当によかったと思っています」

普段は利便性を享受しながら安心して生活ができること、そして休日に少し足を延ばせば首都圏ならではのレジャーを満喫できること。子どもの成長を見守りながら夫婦も存分に楽しむ、Oさんファミリーの温かく充実した生活をのぞかせてもらいました!
江東区というエリア、新築マンションで低層階を選び、広さをとって自分仕様のカスタマイズをする、という質実な選択をして実現した豊かな暮らし、ぜひ住まい選びの参考にしてください。

【ファミリー編】渋谷駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

前回に続いて、渋谷駅まで30分以内にある中古マンションの物件相場をランキング。今回は専有面積70平米以上~100平米未満に絞った、ファミリー向けの中古マンションの物件相場が安い駅にフォーカスする。ちなみに渋谷駅の同条件における物件相場は9315万円と、人気の街だけあってやはり都内でも高め! ランクインした駅と渋谷駅の物件相場の差にも注目しつつ、トップ10を見ていきたい。●渋谷駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10(11駅)
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/渋谷駅までの所要時間)
1 久地 3260万円(JR南武線/神奈川県川崎市/29分)
2 京王多摩川 3594.5万円(京王相模原線/東京都調布市/29分)
3 戸田公園 3680万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/26分)
4 上板橋 3780万円(東武東上線/東京都板橋区/28分)
5 地下鉄赤塚 3880万円(東京メトロ有楽町線・副都心線/東京都練馬区/29分)
6 町屋 3980万円(東京メトロ千代田線/東京都荒川区/30分)
6 鷺沼 3980万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市/28分)
8 向ヶ丘遊園 3990万円(小田急線/神奈川県川崎市/24分)
9 大倉山 4180万円(東急東横線/神奈川県横浜市/29分)
9 平間 4180万円(JR南武線/神奈川県川崎市/26分)
9 津田山 4180万円(JR南武線/神奈川県川崎市/27分)

「カップル編」「ファミリー編」共通で1位だった久地駅は要チェック

最も物件相場が安かったのは、JR南武線・久地駅。前回の「カップル編」ランキングでも久地駅が1位だった。ファミリー向け物件の価格相場は3260万円。なんと渋谷駅と比べて6055万円もダウンという驚きの結果! 久地駅~渋谷駅は所要時間が約29分だが、これほど価格差があれば渋谷駅にアクセスしやすい住まい候補地として検討に値するだろう。

2位以下も1位ほどではないにしろ、渋谷駅に比べるとリーズナブルな物件相場の駅が並んでいる。2位の京王相模原線・京王多摩川駅は、物件相場が渋谷駅よりも5700万円以上ダウン。駅の南には多摩川が流れるのどかな環境で、周辺には大型商業施設はないものの、商業ビルが立ち並ぶ調布駅まで1駅で行ける。また、京王線の区間急行や特急を乗り継ぐと新宿駅まで約22分で行けるのも魅力だ。

3位はJR埼京線・戸田公園駅で、物件相場は渋谷駅より6535万円ダウン。スーパーやドラッグストア、雑貨店、飲食店などが入った商業ビル「ビーンズ戸田公園」が駅に直結しており、日々の買物に困らない。駅南側には荒川が流れ、河川敷を舞台にした夏の花火大会の際には多数の人が押し寄せる。探してみると花火ビューの中古マンションも見つかるかもしれない。

戸田公園(写真/PIXTA)

戸田公園(写真/PIXTA)

トップ10のなかでも注目は南武線

トップ3だけ見ても神奈川、東京、埼玉と駅のエリアはバラバラで路線もさまざま。4位以下も多彩な路線が入り乱れてランクインしている。唯一、複数駅がランクインしたのはJR南武線で、1位・久地駅と9位の平間駅と津田山駅が該当。9位の平間駅と津田山駅は物件相場が同額の4180万円で、渋谷駅との価格差は5135万円だった。

久地駅の1駅隣に位置する津田山駅は、駅のすぐそばに小学校がある珍しい環境。近くには泥遊びができるアスレチック広場や屋内運動場を備えた「川崎市子ども夢パーク」があり、周辺には住宅地が広がっている。子育て世代に住みやすい環境と言えそうだ。津田山駅から6駅先が平間駅という位置関係。平間駅は渋谷駅へ向かう東急東横線との乗換駅、武蔵小杉駅から2駅目。駅周辺には大型ドラッグストアやスーパーがあるほか、駅前の通り沿いにベーカリーや生花店、クリーニング店などが並ぶ商店街もある。

トップ10中で最も渋谷駅からの所要時間が短かったのは、8位の小田急線・向ヶ丘遊園駅。同駅は前回の「カップル編」では10位にランクインしていた。駅周辺は住宅地で、スーパーや100円ショップなど暮らしに必要な施設もそろっている。また、駅南側には自然豊かな生田緑地が広がり、「川崎市岡本太郎美術館」をはじめ緑に包まれて科学館や工芸館といった文化施設が点在。休日のリフレッシュ場所にもこと欠かない環境だ。

向ヶ丘遊園駅前通り(写真/PIXTA)

向ヶ丘遊園駅前通り(写真/PIXTA)

前回「カップル編」と今回の「ファミリー編」を見比べると、共通してトップ10入りしたのは1位・久地駅、4位・上板橋駅、8位・向ヶ丘遊園駅のみで、11駅中8駅が違う駅という結果だった。中古マンションの広さによって、どのエリアの物件相場が安いのかが変わってくるので、住まい探しのときは注意が必要そうだ。

また、渋谷駅は複数路線が乗り入れるターミナル駅だが、トップ10中だと渋谷駅も通る路線はJR埼京線(3位・戸田公園駅)、東急田園都市線(6位・鷺沼駅)、東急東横線(9位・大倉山駅)のみという点にも注目したい。「渋谷駅から30分以内」というアクセスのよさを求めると、乗り換えなしの路線に絞って探したくなる。しかし、今回の結果を見ると、たとえ乗り換えがあっても所要時間が短く、物件相場がお得なエリアはこんなにあるということが判明した。視野を広げて住まい探しをしたほうが、いい物件が見つかるかもしれない。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている渋谷駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積70平米以上100平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない。乗換ありの場合は乗換時間を含む)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

新築では手が出なかった物件を購入できる「リノベ済物件」の魅力【リノベという選択肢】

住宅購入の選択肢として最近注目されているのが、中古物件をリノベーションした「リノベ物件」。中古物件を購入して自分たちでリノベーションプランを考える人もいますが、クオリティの高いリノベ済みの物件を購入することもできるようになりました。しかし、言葉では知っていても、リノベ物件の魅力がいまいち分からないという方も多いはず。今回は、実際にリノベ物件に住んでいる人に、気になる「リノベ物件のあれこれ」をうかがいます。
新築と同レベルの内装だったことから興味をもったリノベ済物件

今回お話をうかがったのは、江東区にお住まいのSさん夫婦(30代)。東京メトロ東西線「東陽町」駅からほど近いマンションの4階にあるリノベ済み物件にお住まいです。新婚でもあるSさん夫婦は、約3カ月前に購入したこの家で新しい生活を始めたばかり。実際に住んでいるからこそ見えてくる、リノベ済物件の魅力や物件選びのことについてお話をうかがいました。

最初に見に行った物件がたまたまリノベ済物件だったというSさん夫婦。実際に内覧に行った物件は、不動産会社が既存住宅を買い取ってからリノベーションしている、いわゆる「買取再販」と言われる物件でした。内装が新築と比べても遜色がないほどきれいだったため、リノベ済物件に興味をもったのだそうです。

駅近の3LDKで60平米という二人の希望を満たすご自宅。購入金額は、ほぼ予算通りの4000万円弱(写真撮影/土田凌)

駅近の3LDKで60平米という二人の希望を満たすご自宅。購入金額は、ほぼ予算通りの4000万円弱(写真撮影/土田凌)

「新築の物件も見たのですが、二人が求める部屋のスペックだけでなく、お互いの勤務地に30分以内などの立地条件を考慮すると、都内の新築物件ではどうしても予算を超えてしまうと思っていました」(Sさん夫婦)

共働き前提の新婚夫婦だったからこそ、駅近や区役所の近さ、保育に関する安心感といった生活環境の良さは外せない条件でした。いまのご自宅は、そういった条件を満たしながら、フルリノベーションされており、施工のクオリティが高かったため、購入を決意したと言います。

「リビングと仕切られている方が、湯気や臭いがリビングにたちこめる心配がないので、キッチンが独立している物件を選んだ」と語るSさん夫婦。写真中央は奥さまお気に入りの食洗器(写真撮影/土田凌)

「リビングと仕切られている方が、湯気や臭いがリビングにたちこめる心配がないので、キッチンが独立している物件を選んだ」と語るSさん夫婦。写真中央は奥さまお気に入りの食洗器(写真撮影/土田凌)

「古き良き」を感じながら暮らせるもリノベ済物件の魅力

リノベ済物件の魅力は「新築だったら買えない物件が買えること」と、Sさん夫婦は口をそろえます。

「リノベ済物件は外側が古いだけで、内側に関しては新築と同クオリティです。新築は高額で手が届かなかったとしても、リノベ済物件なら手が届く範囲で購入できるというのが、何よりもメリットだと思います」(Sさん夫婦)

また、新築物件とは異なり、建物の元からある構造を活かし、アップデートしているのもリノベ済物件の特徴です。だからこそ、建物自体が古いということは「必ずしもデメリットではない」とSさんご夫婦は言います。

バルコニー側から見たはめ殺しの大型の窓(写真撮影/土田凌)

バルコニー側から見たはめ殺しの大型の窓(写真撮影/土田凌)

「例えば、このバルコニー。バブル期に建てられた物件にはこういう出っ張った窓が多かったそうなのですが、いまはこういう形の窓のある物件は少ないんです。内装はきれいなのに、ベランダはちょっとレトロっていうこの空間が好きですね」(夫)

取材当日はあいにくのお天気でしたが、明るさは充分。ご夫婦いわく「サンルームとしても活用できそう」とのこと。もともとの構造を活かしたリノベ済み物件だからこそ、新築ではなかなかお目にかかれない「はめ殺しの大型の窓」を手に入れることができたと言えるかもしれません。

物件探しを通じて、自分たちの住まいへのこだわりを見つける

現在の住まいにたどり着くまで、リノベ済みの中古物件、リノベなしの中古物件、新築物件とさまざまな物件を見てきたというSさんご夫婦。だからこそ、リノベ済み物件を選ぶ際には「住んだあとにリフォームが発生するかどうかを確認したほうがいい」と言います。

つまり、リノベ済物件だからといって、部屋のすべてがリノベーションされているとは限らないということ。内装のみのリノベーションで、水まわりや配管工事までは行っていないという場合もあるため、部屋のどこまでがリノベーションされているのかは、きちんと確認する必要がありそうです。

「私たちが見た物件のなかで、内装はきれいだけど、お風呂のドアが前のままという物件がありました。でも、私たちはそれが妥協できなかった。だからこそ、水まわりや配管まで含めたスケルトンリノベーション(骨組みだけを残し、内装や設備を一新すること)にこだわることにしたんです。

ほかの物件を見て、比較対象となる物件を並べていくと、『実は自分はこんなところを気にしていたんだ』といままで顕在化されていなかったニーズが見えてきます。いくつか見比べて選択していくことが必要なのかなと思いますね」(妻)

営業担当との関係性も理想の住まい選びには欠かせない

さまざまな物件を見て、結果的に満足のいく住まいを購入できたというSさん夫婦。しかし、最初から「こういう住まいがほしい」という強いイメージがあったわけではなかったそう。そんなご夫婦が理想の住まいを手に入れることができたのは、ご夫婦の物件選びをサポートしたグローバルベイスの販売担当、後藤さんの存在が大きかったそうです。

取材中、息の合った掛け合いを見せたSさん夫婦と後藤さん。まさしくパートナーという言葉がふさわしい関係性でした(写真撮影/土田凌)

取材中、息の合った掛け合いを見せたSさん夫婦と後藤さん。まさしくパートナーという言葉がふさわしい関係性でした(写真撮影/土田凌)

「私たちはそもそも購入予算の設定からして甘かったんです。住宅の購入にすべての金額を注ぎ込むのではなく、『遊びや旅行など自分たちが人生を楽しむことにもお金を使えるような、生活の余白を残したい』と漠然とは考えていました。しかし、そのためにいくらのローンを組めばいいのかといった、具体的な資金計画すら分かっていませんでした。後藤さんに相談するうちに自分たちの予算が次第にクリアになり、それに見合った物件探しを進めることができたんです。

後藤さんは、親身に相談に乗ってくれるパートナーのような存在。パートナーから教えてもらう知識やアドバイスによって私たちの考えもまとまっていくので、住宅の購入はパートナーとの共同作業だなと思いました」(Sさん夫婦)

新築と比べて少ない予算で手に入れることができるとはいえ、ただ希望の条件を並べていくだけでは満足度の高い物件購入は難しいかもしれません。具体的な物件のイメージを持っていなかったSさん夫婦の場合は、「比較対象となる物件を複数見た」「営業担当の力も借りて、資金計画などから細かく詰め直した」という2つのポイントが、満足のいく物件購入に繋がりました。
自分たちが住まいに何を求めているのか、またその資金計画によっても、選び方は変わってきます。リノベ済み物件ならではの特徴や検討ポイントを理解した上で、後悔のない物件選びをしましょう。

●取材協力
・グローバルベイス株式会社

「リフォームやリノベーションで詐欺に遭わないためには?」 住まいのホンネQ&A(8)

中古マンションを購入してリフォームやリノベーションをしたら、思い通りの住まいを手に入れられるかも――。そう考えるとうっとりしてしまう人もいるかもしれませんが、近年は悪質な詐欺行為をはたらく業者も少なくないようです。
住宅という大きな買い物で、被害に遭わないためにはどうしたらよいのでしょうか。さくら事務所会長の長嶋修氏が語ります。

リノベーションで最も深刻なのは「配管問題」

「割安な中古住宅を買って、思い通りにリフォーム・リノベーション」といったセールストークが展開されるようになって久しいのですが、このところ各所でトラブルが頻発しているようです。

特にこうした事業への新規参入組は、さしたる知識や経験の積み上げがないため、リフォーム・リノベーションにありがちな雑な工事や「言った言わない」のトラブルを耳にします。

まずリノベーションに関しては、とりわけ隠れて見えない上下水道の配管や電気配線について、リノベーション前の状態をどのように判断し、取り換え工事をしたのかしなかったのか、必ず確認したいところです。

中でも、「雨漏り」「水漏れ」などの「水問題」は、後に大きな問題となる可能性があります。最も深刻な「配管問題」について説明します。

例えば築30年以上の古いマンションでは、金属製の給水管が使われていることがあります。本来ならそろそろ給水管の交換を検討するところ、それを行わず、配管は古いまま表面だけきれいにして、「リノベーション済」として販売されているケースも多いのが実情です。こうしたマンションは、リノベーション事業者が相場の8割程度で買取り、リノベーションを施して再販売する、いわゆる「買取再販物件」に多いのです。

どうしてそのようなことになってしまうのでしょうか。

買取再販を行う事業者は常に、ライバルとの猛烈なマンション買取り(仕入れ)競争にさらされています。このとき、上下水道の配管交換工事まで勘案してしまうと買取価格を下げざるを得ず、他社との競争に負けてしまうといったジレンマがあるのです。

そのため、表向きは「全面リフォーム済み」「リノベーション済み」とうたっておきながらも、目に見えないこうした部分はそのままにしてしまうわけです。

「瑕疵保険付き物件なら安心」はウソ

「事業者が売主なら補償がついているから安心」とはとてもいえません。なぜなら、こうしたマンションに一般につけられている2年程度の「瑕疵保険」は、現在の配管の状態を補償する訳ではありません。保険の適用期間が切れる3年目や4年目以降に故障する可能性があっても付帯できるからです。つまり現在、配管が古く交換時期に差しかかっていても、その時点ですでに水漏れしていなければ、交換せずに保険だけかけておくケースが多いのです。

仮に2年以内に水漏れが発覚して保険を適用する場合でも、修復するには全面的に建物を取り壊す必要があり、入居者はいったん引越し、数カ月後にまた戻ってこなければなりません。この期間中の「調査費用」や「転居・仮住まい費用」「引越し代 」は補償対象ですが、「時間的損失」「精神的な損害」などは保証されません。

最低2回、有資格者による確認を

冒頭で言ったとおり、昨今はリノベーション事業に新規参入する事業者が増加しています。事業者によってはトラブル可能性を排除できるだけの能力や経験がないことも多く、また工事管理体制の甘い事業者は定期的に欠陥や不具合を生み出しているのが実情です。

こうしたことを防ぐには「工事管理体制」を確認するとよいでしょう。どんな資格を持った人が、工事現場を何回確認するのか。建築士や施工管理技士などの有資格者による、最低限「解体後設備配管終了時」「完成時」の2回は確認が必要です。

リフォームトラブルは手口が多様化

リフォームトラブルについて国民生活センターに寄せられる苦情の中で最も多いのがいわゆる「訪問販売」。不要不急の住宅リフォーム工事の訪問販売を行う事案が多く発生しているとして、「突然の訪問に注意」「安価な金額でもすぐ契約しない」「『近所で工事をやっている』と言われても安心しない」「必ず複数社から見積もりをとること」「契約後8日間以内ならクーリングオフが可能」といった注意点や対処法を呼びかけています。

とはいえ、一見好青年風のセールスマンがやってきたり、最初は少額工事で安心させておいて、後から次々と工事を提案したりするなど、手口はますます巧妙化。最近は営業マンや上司風の人が次々とやってきては工事を勧める「劇場型」も登場しているようですので、気を抜けません。

リフォーム業者、3つのチェックポイント

自宅をリフォームするなら、きちんとした業者に頼みたいというのは、だれもが願うこと。では、良い業者とそうでない業者の見分け方とはどういったものでしょうか。

1.一式見積もりに注意

工事内容に関し「一式」とだけ書かれている見積書は意外と多いもの。それが、「解体工事」「クリーニング」「残材処分」「現場管理」のような、本体工事ではないところなら、問題はありません。しかし「造作工事」や「電気・水道工事」(内装・塗装工事)のような本体工事について、「一式」とだけしか書かれていない場合は要注意です。特に、リフォームしたい箇所だけを聞いて、「それは○○万円でできます」などと話す業者には注意。「水まわり一式30万円」などのパック料金型も同様です。

竣工図を見ない見積もりは、金額が大雑把になりがち。床や壁を解体したときに骨組みの状態や内部の傷み具合が不明で、別途工事が必要になったり、想定外に工期が延びたりしたときのために、一定程度の額を上乗せして見積もりを算出することがあるためです。

たとえ見積もりが安くても、業者が工事開始後に採算がとれないことに気づくケースもあります。その時点で料金を上げるわけにもいかず、気づかないところで手を抜くといったことになりがちです。

2.契約から完成まで、必要な書類があるか

契約前、建築中、契約(完成)後、工事の段階に応じた必要書類があります。契約前には、金額の大小にかかわらず、必ず「請負契約書」を取り交わしましょう。同時に、お互いの約束事を書面に記した「請負契約約款」もそろえておく必要があります。いずれも基本的には業者が用意するものですが、発注者もよく内容を確認しなければなりません。「約款」については、クーリングオフについて定めてあるものがベスト。

建築中に必要になるのは「工事内容変更合意書」です。当初の仕様や金額などの契約内容が途中で変更になったら、必ず取り交わします。

最後に「工事完了確認書」。リフォーム後のアフターサービスがある場合には、この書類に記載された日付が開始日となります。これらの書類は最低限必要なものですが、大切なのは、それぞれが適切なタイミングで用意されることです。

リフォームの際にありがちな「言った、言わない」のトラブルを避けるには、業者との打ち合わせの内容を記録しておくことをおすすめします。打ち合わせで決まったことをメモしておくとともに、工事前の状態、工事計画を記した図やスケッチなどを残しておけば、後で確認するときに便利です。業者によっては、専用の「打ち合わせシート」を用意してくれるところもありますので、打ち合わせの前に聞いてみてはいかがでしょうか。

簡単な工事ならまだしも、一定規模以上のリフォームや修復の場合、あなたが希望している内容の工事ができるかどうかは本来、建物が最初にできたときの状態を記した「竣工図」を確認しなければわからず、まともな見積もりも出せません。

竣工図とは、建物を新築するときに発生した設計変更などを元の設計図に反映させた図面のことです。配管や配線などは工事中に変更されることも珍しくありません。修繕やリフォームの際には、原状を把握するために、設計図ではなく竣工図が必要になってくるのです。

3.管理規約を閲覧していること(マンションの場合)

マンションの管理規約には、例えば、音にまつわるトラブルを防ぐため、フローリングの等級が規定されていたり、工事を実施する前に管理組合に対して行う必要がある手続きやリフォームが可能な曜日などが定められていたりします。

工事可能なリフォームの範囲や工程を割り出すには管理規約の確認が不可欠。仮に管理規約を業者に預ける場合には「預り証」を交付してもらいましょう。

高齢の両親が騙されるケースも

国民生活センターに寄せられた相談の中には、高齢の両親がリフォームの契約したことを息子や娘が不審に思い、不要なリフォームが発覚したケースもあったようです。離れた実家に住む親とは日ごろからよくコミュニケーションをとっておくことも大切でしょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

住宅ローンの借り換えはより低金利が原則! でも15.2%は毎月返済額が増える?

住宅金融支援機構が2017年度中に借り換えをした945人に調査をした「民間住宅ローン借換の実態調査」が公表された。住宅ローンは超低金利が長く続いているが、こうしたなか、どういった借り換えが行われているのだろう?今回は、住宅ローンの借り換えについて考えてみたい【今週の住活トピック】
「2017年度 民間住宅ローン借換の実態調査」/住宅金融支援機構/東京都住宅ローンの借り換えは、より低金利なローンに切り替えるのが原則

住宅ローンの借り換えとは、今借りている住宅ローンの残高分を、新しい住宅ローンで借りて完済することだ。新しい住宅ローンに切り替えることで、低金利などの条件がよいローンを借りることができるが、完済するローンと新たに借りるローンについて、それぞれ手数料などがかかるので、数十万円の諸費用がかかる。

借り換えの目的は、一般的には、より低金利ローンに切り替えて利息を減らすことにより、
・毎月返済額を少なくする(借り換え前のローンの返済期間のままで)
・毎月返済額は維持しつつ、返済期間を短くする
といった効果にある。
ちなみに、総返済額の利息削減効果は、期間短期化の方が大きいと言われている。

ところで、まとまった諸費用を払ってまで借り換えをするには、利息削減効果が大きいという前提が必要だ。ある程度のローン残高や返済期間が残っていて、借り換え前後で適用される金利差が大きいことが条件となる。

しかし、超低金利がこれだけ長く続いている今、どういった借り換えが行われているのだろう?

10年の固定期間選択型が借り換え後の受け皿に

住宅ローンの金利タイプには、半年ごとに金利が見直される「変動型」、返済当初一定期間の金利を固定する「固定期間選択型」、返済中金利が変わらない「全期間固定型」がある。固定期間選択型は、当初固定期間を2年、3年、5年、10年などから選ぶもの。全期間固定型は、住宅金融支援機構と民間金融機関の提携ローン【フラット35】が代表的なものだ。

今回の調査結果によると、借り換え前後では、利用する金利タイプのシェアが、次のように変化していた。
〇借り換え前→借り換え後
変動型 36.2%→42.0%
固定期間選択型 43.9%→46.3%
全期間固定型 19.9%→11.6%

低金利時代には、金利を固定する期間が長いほど金利は高く設定される。したがって、借り換えでより低金利なローンを狙うなら、全期間固定型から金利が変動するものに、固定期間選択型の長いものからより短いものへといった借り換えが行われるのがセオリーだ。

とはいえ、借り換え前後で選んだ金利タイプの変化を見ると、同じ金利タイプを選んだ人(変動型→変動型25.7%、固定期間選択型→固定期間選択型31.3%、全期間固定型→全期間固定型7.6%)がそれぞれで最も多いことが分かる。

金利タイプによって、将来金利が上昇したときに適用される金利が上昇し、返済額も増えるものがある。同じ金利タイプを選ぶ人が多いということは、返済中に金利が上がったり、返済額が増えたりすることへの基本的な姿勢が変わらないということだろう。

借り換えによる金利タイプの変化(全体に占める割合)(出典/住宅金融支援機構「2017年度民間住宅ローン借換の実態調査」)

借り換えによる金利タイプの変化(全体に占める割合)(出典/住宅金融支援機構「2017年度民間住宅ローン借換の実態調査」)

さらに、「固定期間選択型」の内訳を見ていくと、「固定期間が10年」のローンを選んだ人の割合が高い。
○借り換え後に固定期間選択型を選んだ人の10年固定の割合
・変動型→固定期間選択型(8.4%)のうち3.4%が10年
・固定期間選択型→固定期間選択型(31.3%)のうち13.2%が10年
・全期間固定型→固定期間選択型(6.7%)のうち3.6%が10年

低金利を狙って全期間固定型から固定期間選択型を選ぶ場合でも、「金利をできるだけ長く固定したい」と考えて10年固定を選ぶ人が多い一方で、低金利ではなく「金利上昇に備えて」、変動型などから10年固定や全期間固定型などに借り換えて「金利をできるだけ長く固定したい」と考える人がいることが推測される。

毎月返済額が上昇した人が15.2%もいる!? 金利上昇リスクも視野に

では、借り換えによってどんな効果を得たのだろうか?調査結果を見ていこう。

○借り換えによる変化
・金利が低下した人の割合は88.1%、金利が上昇した人の割合は6.3%
・返済期間が短期化した人の割合は72.1%、長期化した人の割合は6.3%
・毎月返済額が減少した人の割合は64.7%、増加した人の割合は15.2%

注目したいのは、毎月返済額が増加した人が15.2%と意外に多いことだ。おそらく、毎月返済額を増やして「返済期間を短くする」借り方を選んだり、金利が高く(返済額は増える)なっても「金利を長期間固定する」ローンを選んだ結果だろう。

日銀の政策の副作用が指摘され、低金利政策を緩和する動きも一部に見られるが、将来的な金利上昇リスクに備えて、低金利なうちに「全期間固定型」や「固定期間選択型」の中で10年など、金利を長期間固定するものに借り換えるという動きが生じるのもうなずけるものだ。

なお、多くの金融機関では、借り換えによるローンの返済期間は、前の住宅ローンで残っている返済期間と同じとするケースがほとんど。借り換えで返済期間を長くしようというのは、実際には難しいことを覚えておいてほしい。

さて、金利差が生じやすいという点で、今借り換えを検討してもよいのは、固定期間選択型の10年固定を借りている人や【フラット35】S(優良な住宅について当初5年または10年金利を引き下げるもの)を借りている人で、10年目を迎えて適用される金利が変わる人だ。住宅ローンの残高の1%の税金が10年間戻る「住宅ローン減税」も終わるタイミングなので、一度検討してみるとよいだろう。

とはいえ、住宅ローンの借り換えでは、新たに住宅ローンを借りる際に、返済能力を見られたり団体信用生命保険への加入の可否を判断されたりするので、借り換えができない場合もある。借り換えで適用される金利も、住宅購入などで新規に借りるローンと異なる場合も多い。希望通りの借り換えができるとは限らない点に留意してほしい。

コンパクトな建物に好きなものをぎゅっと詰め込んだ、遊び心満点の家 テーマのある暮らし[5]

建設会社に勤務後、建築士として独立。新築からリフォーム、家具やインテリアなどの設計を手掛ける一方で、写真家としての顔をもつ木暮洋治(こぐれ ようじ)さん。コンパクトでありながらも、大人も子どもも楽しめる“遊び心”あふれる住まいを都内につくりあげました。建築士ならではのこだわりや工夫の数々とは?【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。光、音、空気が通り抜ける開放的な家づくり

茗荷谷駅から徒歩10分、毎年春には桜の名所としてにぎわう緑豊かな場所に、木暮さんのオフィス兼住まいがあります。木暮さんは、妻、小学6年生の長女と間もなく5歳になる次女の4人家族。そして、とても人懐こい愛猫レンくんと一緒に暮らしています。

間口は5メートルで、奥行きのある建物。白色にまとめられたスタイリッシュな外観で、正面から見ると、1階はガレージと玄関です。プライバシーもしっかり確保された3階建てになっています(写真撮影/内海明啓)

間口は5メートルで、奥行きのある建物。白色にまとめられたスタイリッシュな外観で、正面から見ると、1階はガレージと玄関です。プライバシーもしっかり確保された3階建てになっています(写真撮影/内海明啓)

「土地をいろいろと探していたときに、偶然にもここだけが空いていたんです。土地の広さは18.6坪とコンパクトなのですが、私も妻もこの桜並木を見渡せるロケーションがとても気に入って、迷うことなく『ここにしよう』と即決しました」

玄関を入ってすぐの1階には、トイレやバスルームといった水まわり関係のお部屋が、集まっていました(写真撮影/内海明啓)

玄関を入ってすぐの1階には、トイレやバスルームといった水まわり関係のお部屋が、集まっていました(写真撮影/内海明啓)

玄関の扉を開けると、シンプルな外観とは裏腹にぬくもりある明るいポーチと廊下。その先には、ダイニングキッチンに直接つながる階段と、オープンな空間が広がります。

「奥行きが長いので、この空間をどうやって有効活用しようか……そこからスタート。自分の家を自分で設計する、ということもあって、やりたいことはどんどん取り入れよう! とチャレンジ魂に火がつきました。そのやりたいことのひとつがスキップフロアです。吹抜けを設けることで、光も風も通り抜ける開放的な空間をつくりたかったんです」と木暮さん。

20分の1の模型は、木暮さん渾身の作品。「私の母から『狭いんじゃないの?』と言われて、『そんなことないよ』と手直ししながらつくりました。ここまで細かく模型をつくったのは初めてです(笑)」(写真撮影/内海明啓)

20分の1の模型は、木暮さん渾身の作品。「私の母から『狭いんじゃないの?』と言われて、『そんなことないよ』と手直ししながらつくりました。ここまで細かく模型をつくったのは初めてです(笑)」(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、取材したのは35度の猛暑日で、同行メンバー全員汗だく。これだけ暑いと、冷房を効かせてもなかなか玄関まで冷たい空気が行き渡らないものですが、玄関に一歩入ると冷んやりした空気に。思わず「あぁ、生き返る~」と声が出てしまったほどです。壁や扉で区切られている構造では、こうはいきません。家の隅々まで一定の温度を保てるのも、開放的な空間だからこそ得られるメリットです。

たくさんの友達が来ても大丈夫! 広々と明るいリビング

キッチンからの階段を上ると、そこは明るいリビング。お子さんのピアノや勉強机、ソファを置いてもまだ十分余裕のある広々としたリビングは、吹抜け部分と通常よりやや低くした天井部分で変化を付けています。

「家を建てるときに、一番重視したのがリビングです。私も妻も以前から、友達やお客様をたくさん呼べるリビングが欲しいね、と話していて、できるだけ広いスペースを確保するように設計しました。また、天井って低すぎても高すぎても落ち着かないんです。天井の高さを変えたのは遊び心もありますが、開放的になれる場所と落ち着ける場所、その両方を味わえる狙いもあります」

木暮さん夫婦がこだわったリビングを上から見ると、その広さは一目瞭然。白いビニル床タイルには、床暖房を設置しています(写真撮影/内海明啓)

木暮さん夫婦がこだわったリビングを上から見ると、その広さは一目瞭然。白いビニル床タイルには、床暖房を設置しています(写真撮影/内海明啓)

「我が家に子ども部屋はありません。長女の机はありますが、そのときの気分でリビングやダイニングキッチンのテーブルに移動して勉強するなど、好きな場所で勉強しています。最近、長女は私の仕事部屋が気に入っているようですが(笑)」

リビングを中心に、ダイニングキッチン、木暮さんの仕事場などが、すべてオープンになって見渡せる仕掛け。どこにいてもコミュニケーションをとれる環境(写真撮影/内海明啓)

リビングを中心に、ダイニングキッチン、木暮さんの仕事場などが、すべてオープンになって見渡せる仕掛け。どこにいてもコミュニケーションをとれる環境(写真撮影/内海明啓)

リビングにブランコ!?  アートとの融合で大人も子どもも楽しめるリビング

リビングで注目したいのは、天井のフック。ここにブランコを取り付ければ、子どもたちが遊べるスペースに早変わり。天井裏には、頑丈な鉄板を使っているので、大人が乗ってもOK! サンドバッグをかけても大丈夫なくらいの強度があるそうです。

壁は、松の合板に自然塗料であるオスモカラーを塗って、うっすら木目を残した風合いに。明るさとぬくもりのある空間で、レンくんもすっかりリラックス(写真撮影/内海明啓)

壁は、松の合板に自然塗料であるオスモカラーを塗って、うっすら木目を残した風合いに。明るさとぬくもりのある空間で、レンくんもすっかりリラックス(写真撮影/内海明啓)

また、リビングの壁はアートスペース。アート好きの木暮さん夫婦が飾るお気に入りの作品と並んで、子どもたちがつくった作品がバランス良く飾られています。なかには、お子さんが貼ったと思われる可愛いシールもちらほら……。

「子どもたちは、シールが大好き。あちこちにペタペタ貼っても、基本何も言わずに好きにさせています。部屋の雰囲気にあっていればそのままにしておきますが、これはちょっと……というものは、子どもが飽きたころを見計らって、こっそりはがすのが私の役目です(笑)」

イギリス出身のアーティスト、ギャリー=ファビアン・ミラーの作品をはじめ、お嬢さんの趣味である三線もアートのように飾られている(写真撮影/内海明啓)

イギリス出身のアーティスト、ギャリー=ファビアン・ミラーの作品をはじめ、お嬢さんの趣味である三線もアートのように飾られている(写真撮影/内海明啓)

「私の祖父も父も絵が好きで、この絵は祖父が絵を習っていた先生の作品です。妻が馬を好きなこともあって、この家を建てたときに実家からもってきました」(写真撮影/内海明啓)

「私の祖父も父も絵が好きで、この絵は祖父が絵を習っていた先生の作品です。妻が馬を好きなこともあって、この家を建てたときに実家からもってきました」(写真撮影/内海明啓)

設計のアイデアを生み出している“男のロマン”あふれるアトリエ

木暮さんのアトリエは、まさに“男のロマン”があふれる秘密基地。建築関係の専門書から資料、カタログ……とデッドスペースがないくらい。棚をフル活用して、ぎっしり隙間なく詰め込まれています。

「これでも、まだ収納スペースが足りないくらいなんです(笑)建築技術の月刊誌などは、ちょっと油断するとどんどん溜まっていっちゃうので、必要なページはPDF化してiPadに入れるように心がけています」

趣味で革細工もやっているという木暮さん。「ここだけは、荷物が増えても家族から文句を言われないですからね(笑)好きなものに囲まれながら、アイデアと発想を広げています」(写真撮影/内海明啓)

趣味で革細工もやっているという木暮さん。「ここだけは、荷物が増えても家族から文句を言われないですからね(笑)好きなものに囲まれながら、アイデアと発想を広げています」(写真撮影/内海明啓)

人気のデジタル一眼レフカメラ「ニコンDf」をはじめ、初期のポラロイドカメラやクラシカルなカメラなど、木暮さんのカメラコレクションの一部(写真撮影/内海明啓)

人気のデジタル一眼レフカメラ「ニコンDf」をはじめ、初期のポラロイドカメラやクラシカルなカメラなど、木暮さんのカメラコレクションの一部(写真撮影/内海明啓)

日本文化のわびさびを現代風にデザインした茶室

リビングから寝室を経て3階に上っていくと、これまでとガラッと雰囲気が異なる和室がお目見えします。

「妻がやっている茶道を楽しむための空間として茶室をつくりました。中央にはお湯を沸かす炉(ろ)を設け、花や掛物を飾る床の間、和室の反対側にはお茶の準備をする水屋として使えるシンクも設け、伝統的な茶室の要素を現代風にアレンジしました」

落ち着いた雰囲気の和室。壁紙には伝統工芸品である「土佐和紙」を使用している。「茶室以外にも客間として使える、応用の利く空間です」(写真撮影/内海明啓)

落ち着いた雰囲気の和室。壁紙には伝統工芸品である「土佐和紙」を使用している。「茶室以外にも客間として使える、応用の利く空間です」(写真撮影/内海明啓)

こちらは茶室の特徴のひとつ、お客様の出入り口となる「躙口(にじりぐち)」。レンくんの出入り口ではありませんからね(笑)(写真撮影/内海明啓)

こちらは茶室の特徴のひとつ、お客様の出入り口となる「躙口(にじりぐち)」。レンくんの出入り口ではありませんからね(笑)(写真撮影/内海明啓)

「屋根の上に寝転びたい」がきっかけでできた屋上テラス

茶室の障子を開けると、傾斜のある芝生が広がり、屋上ウッドデッキテラスへと続きます。住宅密集地とは思えない開放感は、贅沢そのもの。子どもたちと一緒に花や野菜を育てたり、日向ぼっこをしたり、自然を楽しめる空間になっています。

「きっかけは、屋根の上に寝転がりたい、という妻の希望でした。さすがに屋根は熱いだろうと思い傾斜の高低差に合わせて2種類の芝生を植えることにしました。このテラスから見渡せる桜の景色は、最高です。この土地の決め手となった桜並木の景観を独り占めしたような気分になれます(笑)」

「屋上は保水力が弱いため、ちょっと暑い日になると芝生が全滅してしまうんです。一度ダメにしてしまったので、それ以来1日2回の自動散水をしています」。スクスク育った芝生の上でゴロンとする木暮さん(写真撮影/内海明啓)

「屋上は保水力が弱いため、ちょっと暑い日になると芝生が全滅してしまうんです。一度ダメにしてしまったので、それ以来1日2回の自動散水をしています」。スクスク育った芝生の上でゴロンとする木暮さん(写真撮影/内海明啓)

周りに高い建物がないため、テラスからの眺めは格別。外から見ると特徴的な四角い建物ですが、屋上は緑豊かな環境が広がっていました(写真撮影/内海明啓)

周りに高い建物がないため、テラスからの眺めは格別。外から見ると特徴的な四角い建物ですが、屋上は緑豊かな環境が広がっていました(写真撮影/内海明啓)

限られた面積、限られた予算のなかでも、楽しむ心を忘れない……家族それぞれの好きなものを全部つめ込んだお宅は、おもちゃ箱を開けたようなワクワク感にあふれています。いつもそこに子どもたちの笑顔があって、にぎやかな声が聞こえる暮らしは、木暮さん夫婦のパワーの源かもしれません。「もしかして人間が入っているのでは!?」と思えるくらい、とてもフレンドリーに接してくれたレンくんの姿は、仲良し家族の象徴そのもののような気がしました。

●取材協力
・一級建築士事務所 木暮建築設計室

若者の住まいの満足度は、賃貸と持ち家、広さ、ライフステージでどう変わる?

FRKの「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」は、ライフスタイルの違いや住宅の面積が50平米未満か以上か、賃貸か持ち家かなど、対象をグループ化して多岐にわたって調べている。このなかで、若者に注目した結果を詳しく見ていきたい。8~9割の若者には結婚や出産願望があって、住宅の購入が結婚や出産と関係が深いという。また、それぞれのグループで「住まいの満足度」はどう変わるについても掘り下げていこう。【今週の住活トピック】
「50m2未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」結果を公表/不動産流通経営協会(FRK)今どきの若者は、結婚や育児願望があり、持ち家志向も強い

この調査でいう「若者」は、25歳~35歳のシングル、カップル、子育てファミリーと定義している。また、36歳~49歳を「中年」として、若者と数値の比較をしている。

若者のうち、すでに結婚したことがある割合は58.9%、今後結婚の意向がある(予定の有無含む)割合は31.1%で、合わせて90.0%が結婚をした・したいと考えている。また、出産・育児をしたことがあるのは38.1%、今後意向がある(予定の有無含む)割合は45.4%で、合わせて83.5%が出産・育児をした・したいと考えている。つまり、8~9割の若者は、結婚や育児を望んでいるという結果だ。

若者に「住まいの優先度」を聞いた調査項目を見ると、「子どもがいるなら賃貸よりも持ち家の方が良い」(48.6%)、「結婚しているなら賃貸よりも持ち家の方が良い」(38.6%)が上位に来るなど、結婚や出産・育児が住宅の購入に少なからず影響していることもうかがえる。

住まいの優先度(出典/不動産流通経営協会「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」より転載)

住まいの優先度(出典/不動産流通経営協会「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」より転載)

次に、「住まい・ライフイベントに対する意識」を聞いた調査項目を見ると、「毎月の支払いが『家賃と同じ』で『広さが同じ、または広くなる』なら持ち家のほうがよい」、「持ち家なら安心して老後が送れる」などが上位になった。一方「賃貸で良い」は下位であることから、賃貸派よりも持ち家派のほうが多いことがうかがえる。

また、半数近くが「家は一生に一度しか買わないと思う」と答える一方で、3割近くが「持ち家でも家族状況や経済状況によって買い替えていく」と答えるなど、買い替えについては考え方の違う若者がそれぞれいることも分かった。

このほか、「近居=どちらかの親の近くに住む」の意向が見られるなども注目したい点だ。

住まい・ライフイベントに対する意識(出典/不動産流通経営協会「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」より転載)

住まい・ライフイベントに対する意識(出典/不動産流通経営協会「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」より転載)

住まいの満足度は持ち家、カップルやファミリーがより高い

若者の「住まいに対する満足度(高いほど満足度が高い)」は、平均6.5点。これは中年と同じ平均点だった。全体傾向を見ると、賃貸(50平米未満6.0点/50平米以上6.4点)より持ち家(50平米未満6.9点/50平米以上7.3点)のほうが、シングル(6.1点)よりカップル(6.7点)や子ありファミリー(6.6点)のほうが満足度は高い結果となった。

さらに若者の満足度が高い項目を見ると、部屋の満足度で「日当たり」(6.7点)と「通風」(6.7点)、住んでいる地域の満足度で「スーパーやコンビニ等の生活利便性」(7.0点)、「通勤や通学などの交通利便性」(6.7点)、「閑静さや公園などの住環境・治安の良さ」(6.6点)で点数が高かった。

逆に満足度が低い項目は、部屋の満足度で「セキュリティや宅配ボックス等の付加設備」(5.5点)、「遮音性」(5.6点)、住んでいる地域の満足度で「おしゃれ・高級感といったイメージの良さ」(5.4点)で点数が低かった。

住まいに対する満足度【部屋の満足度】(住まい・ライフイベントに対する意識(出典/不動産流通経営協会「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」より転載)

住まいに対する満足度【部屋の満足度】(住まい・ライフイベントに対する意識(出典/不動産流通経営協会「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」より転載)

住まいに対する満足度【地域の満足度】(住まい・ライフイベントに対する意識(出典/不動産流通経営協会「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」より転載)

住まいに対する満足度【地域の満足度】(住まい・ライフイベントに対する意識(出典/不動産流通経営協会「50平米未満の住宅の居住満足度・住宅がライフスタイルに与える影響に関する調査」より転載)

今回の調査結果を見ていくと、今どきの若者は家庭ができた場合(結婚より子どもが生まれた場合により強く)、引っ越しせずに同じ場所にある程度住み続け、利便性だけでなく住環境も重視したうえで、住宅を購入するという考えを持つ人が多いと感じた。

購入する場合は、「家賃と同じ支払いで今より広く、または同じなら購入する」という考え方なので、今の超低金利ならそれも可能だろう。ただし、金利は同じ水準が続くとは限らない。景気が回復したり、金利が上昇したりしたときに、若者はどんな住まい感を持つのだろうか。

”地域との連携、管理活動と平行” 絶景マンション、ブリリア有明シティタワー【管理はつなぐ[11]】

かつては空地が多かったが、近年は開発が活性化し、次々と高層タワーが登場している有明エリア。同エリア内西部で、2015年に竣工したのが「ブリリア有明シティタワー」だ。ラウンジやスパ、ゲストルームなど、多彩な共用施設が最上階の33階に集まり、昼夜で趣の異なる絶景を楽しめる。【住民経営マンション・管理はつなぐ】
高い資産性を守って次世代に渡したい。都心住宅に暮らす人々の誠実な管理に学ぶ。『都心に住む』の人気連載からの転載記事です共用部の運用法見直しや地域の取り組みを積極展開

「33階の共用施設は、眺望が素晴らしいこともあって、利用者が多く活況です。資産価値の面でもこのマンション特有のポイントとしてとらえ、快適性と利便性の向上を図っています」(管理組合理事長、以下同)


例えば、1カ月先まで予約でいっぱいだというゲストルーム。以前は、その都度、予約可能か問い合わせる必要があったが、新たに1階コンシェルジュに案内掲示板を設置して空き状況を公開。急にキャンセルが出た際なども、タイムリーに利用希望者を募れるようになった。
33階にあるスパについては、利用者の多い夜間と土日に、同フロア内で受付を開設。わざわざ1階に立ち寄らなくても利用できるようにした。

最上階にある「テラスガーデン」。運河やタワー群など、ウォーターフロントならではの眺望を堪能できる(写真撮影/柴田ひろあき)

最上階にある「テラスガーデン」。運河やタワー群など、ウォーターフロントならではの眺望を堪能できる(写真撮影/柴田ひろあき)

「オーナーズスイート」と名付けられたゲストルームは全4タイプ。いずれにも写真のようなテラスが設置されていて、リゾートホテルのような趣になっている(写真撮影/柴田ひろあき)

「オーナーズスイート」と名付けられたゲストルームは全4タイプ。いずれにも写真のようなテラスが設置されていて、リゾートホテルのような趣になっている(写真撮影/柴田ひろあき)

暮らしやすさの向上やコミュニティ形成に対する意識が高い

 また、年に2回の防災訓練やクリスマスイベントの開催など、マンション内のコミュニティ形成にも積極的だ。
「有事の際の備えとして、管理組合理事や災害協力隊などを中心に、日ごろから居住者間のコミュニティ形成に努めています。約600戸も擁するマンションなので、こうしたイベントを通じてお互いに顔見知りになっていただき、安心感を醸成していきたいですね」
 ブリリア有明シティタワーは、周辺5棟のマンションと連合自治会を組織。理事長が自治会役員を兼務している。
「各マンションで共通のアンケート調査を実施した上で、自治会から行政に路線バスの運行ルート変更やダイヤ改正を申請し、実現させています。また、近くの有明スポーツセンターでマンション対抗運動会を開催するなど、一帯の交流活性化にも取り組んでいます」
 もとは住宅が少なく、近年になって住民が急増したエリアだからこそ、暮らしやすさの向上やコミュニティ形成に対する意識が高いのだろう。
「管理組合や自治会の活動は、住民一人ひとりが参加して初めて意味あるものになると思います。自分で購入した資産を自らの手で守り、より暮らしやすくしていくのは、当然のことですよね。この点を全員で共有することで、絆を強めていければと思っています」

1 階のメインエントランスを入ってすぐの場所に広がる開放的なラウンジ(写真撮影/柴田ひろあき)

1 階のメインエントランスを入ってすぐの場所に広がる開放的なラウンジ(写真撮影/柴田ひろあき)

マンションの外観。高い建物が隣接していないので、視界が開けている(写真撮影/柴田ひろあき)

マンションの外観。高い建物が隣接していないので、視界が開けている(写真撮影/柴田ひろあき)

1 階にあるキッズルーム。スペースを充てるだけでなく、子ども向けのデザインに仕上げてある(写真撮影/柴田ひろあき)

1 階にあるキッズルーム。スペースを充てるだけでなく、子ども向けのデザインに仕上げてある(写真撮影/柴田ひろあき)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授 大月敏雄氏が語る建築家の視点
最上階に共用施設を集約した設計は、多くの入居者からの求心力が高まるという意味でも秀逸だ。その上で使い勝手をさらに向上させているのも素晴らしい。
理事会や総会での協議に先だって、事前にアンケート調査を実施することが多いと聞いた。入居者の家族構成やライフスタイルは刻々と変化するものだし、大規模物件であればもともと多種多様な世帯が集まっている。あらかじめ家庭内で話し合って出た結果を、入居者の総意に反映させられるのはとても有意義だ。
昨年からWEBサイトやFacebookページを立ち上げ、物件自体や有明エリアの資産価値向上にも努めているそうだが、住民の当事者意識を高める上でも効果的だと思う。.エントランスで開催されたクリスマス会の様子(写真提供/ブリリア有明シティタワー管理組合)

.エントランスで開催されたクリスマス会の様子(写真提供/ブリリア有明シティタワー管理組合)

理事は全15名。任期は4 年を最長4年。個々が任意に決められる。4 つの専門部会を常設しているが、夏祭り実行委員やクリスマス実行委員など、必要に応じて期間限定の組織も設置する

理事は全15名。任期は最長4年。個々が任意に決められる。4 つの専門部会を常設しているが、夏祭り実行委員やクリスマス実行委員など、必要に応じて期間限定の組織も設置する

※この記事は『都心に住む』2018年4月号(2018年2月26日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

物件DATA
江東区有明/2015年/地下1階・地上33階建て/総戸数601戸/分譲時売主:東京建物、住友不動産/設計・施工:三井住友建設/取材協力:ブリリア有明シティタワー管理組合、住友不動産建物サービス

【カップル編】渋谷駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

JR各線をはじめ、東京メトロの3路線、東急東横線・田園都市線、京王井の頭線が通る渋谷駅は都内屈指のターミナル駅。駅周辺では再開発が進行中で、今後さらなる発展が見込まれることもあり、住宅の相場は都内でも高めの部類。そんな人気エリア・渋谷駅まで30分以内の中古マンションの価格相場を調査! 駅徒歩15分圏内にある、専有面積40平米以上~70平米未満の物件を対象にした、カップル向け中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介する。ちなみに基点駅とした渋谷の物件相場は5980万円。ここから30分以内に範囲を広げるとどれほど安く住めるのか? さっそく見ていこう。●渋谷駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10(11駅)
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/渋谷駅までの所要時間)
1位 久地 2485万円(JR南武線/神奈川県川崎市/29分)
2位 上板橋 2550万円(東武東上線/東京都板橋区/28分)
3位 成増 2780万円(東武東上線/東京都板橋区/24分)
4位 志村坂上 2830万円(都営三田線/東京都板橋区/29分)
5位 中村橋 2880万円(西武池袋線/東京都練馬区/29分)
5位 和光市 2880万円(東武東上線ほか/埼玉県和光市/27分)
7位 登戸 2890万円(JR南武線ほか/神奈川県川崎市/22分)
8位 板橋本町 2900万円(都営三田線/東京都板橋区/25分)
9位 川口 2955万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/26分)
10位 向ヶ丘遊園 2980万円(小田急線/神奈川県川崎市/24分)
10位 宮崎台 2980万円(東急田園都市線/神奈川県川崎市/24分)

渋谷駅から約29分離れると3495万円もダウン!

1位は渋谷駅から約29分のJR南武線・久地(くじ)駅で、中古マンション物件相場は2485万円。物件相場が5980万円だった渋谷駅から30分弱離れると、3495万円も安くなるわけだ。久地駅周辺はのどかな住宅地で大型商業施設はないものの、スーパーや商店街はあるので生活には困らない環境。駅前から10分ほど北に歩くと多摩川が流れている。駅前の府中街道を西へ車で約5分走ると「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」や自然豊かな生田緑地があり、休日も楽しく過ごせそうだ。

生田緑地ばら苑(写真/PIXTA)

生田緑地ばら苑(写真/PIXTA)

久地駅からJR南武線で2駅目が7位・登戸(のぼりと)駅。こちらは小田急線も通っており、物件相場は久地駅より約400万円アップの2890万円となっている。小田急線代々木上原駅~登戸駅の複々線化による2018年3月のダイヤ改正で、登戸駅から快速急行に乗ると新宿駅まで3駅・約18分という早さに! この複々線化で通勤・通学ラッシュも和らいだと評判でもあり、登戸駅は狙い目だろう。

また、登戸駅から1駅の小田急線・向ヶ丘遊園駅が10位にランクイン。登戸駅から歩いても10分ほどしか離れていないが、物件相場は登戸駅より90万円アップの2980万円だった。向ヶ丘遊園駅から小田急線・通勤急行を利用すれば新宿駅まで4駅・約20分。向ヶ丘遊園駅も登戸駅も、渋谷駅まで30分以内であることに加え、新宿駅へのアクセスのよさも魅力だ。

新宿や池袋にも行きやすい便利な駅もランクイン

上記で取り上げた1位・久地駅、7位・登戸駅、10位・向ヶ丘遊園駅と、同じく10位の宮崎台駅はいずれも神奈川県川崎市。トップ11駅中の4駅が、渋谷駅の西南部という結果だった。残りの7駅はというと、渋谷駅の北部~北西部に点在していた。そのうち4駅は東京都板橋区に集中している。

東京都板橋区に位置するのは、2~4位と8位の駅。2位・上板橋駅と3位・成増駅は東武東上線で3駅の位置関係、4位・志村坂上駅と8位・板橋本町駅は都営三田線で2駅という位置関係でそれぞれ接近している。東武東上線沿線ならば渋谷に並ぶ繁華街の池袋駅まで1本、都営三田線沿線ならオフィス街である大手町駅まで1本で行けるのが魅力だろう。

東京・丸の内(写真/ PIXTA)

東京・丸の内(写真/ PIXTA)

また、5位・和光市駅は所在地としては埼玉県和光市だが、列車なら東武東上線で成増駅から1駅目というロケーション。東京メトロ有楽町線・副都心線が乗り入れる駅でもあり、副都心線直通の列車に乗ると乗り換えなしで渋谷に行くことができる。

さて、今回トップ10の駅はいずれも物件相場が2000万円台に収まった。つまり渋谷から電車で30分の範囲にまで住まい探しの条件を広げれば、渋谷駅の相場より3000万円以上も手ごろな物件を探すのは難しくないということ。新宿駅や池袋駅など、渋谷駅以外の都心部へのアクセスがいい駅も多く、単に安いだけではなくて住まいの候補地として検討する価値がある駅がランクインしたといえるだろう。

次回は渋谷駅から30分以内にある、専有面積70平米以上~100平米未満に絞った、ファミリー向けの中古マンションの物件相場ランキングを紹介する。どんな駅がランクインするか、お楽しみに。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている渋谷駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積40平米以上70平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2018年3⽉1⽇~2018年5⽉31⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない・乗り換え時間を含む)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

BEAMS流インテリア[4] 新しいのに懐かしい、ビンテージ好きが選んだ経年変化を楽しむ古民家暮らし

渋谷のBEAMS MEN SHIBUYAでショップマネージャーとして働く近藤洋司(こんどう・ひろし)さん。ファッションだけでなくインテリアもビンテージ好きで、住まいは築50年の平屋を全面リノベーションしたという徹底ぶり。鎌倉の高台に建つ、自然と古き良きものに囲まれた、ちょっと懐かしい感じがする古民家のお宅にお邪魔した。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。経年変化で味わいが増し、価値が落ちないのがビンテージの魅力

鎌倉の築50年の平屋を一年がかりで探し、さらに約半年かけてリノベーションしたという近藤さん。ガーデニング関連の仕事をする妻と2人で住む新居だ。「神奈川出身なので、家を持つならなじみが深く自然豊かなエリアがいいと思い、鎌倉、逗子、葉山で古民家を探し始めました」

近藤さんは、住まいだけでなくファッションもインテリアのコレクションなども一貫して、大のビンテージ好き。ビンテージとの出合いは、中学生のころ。当時サッカーの中田選手や前園選手がビンテージ物の服を着こなしているのに影響を受け、古着に凝り始めたのだという。今でも古着好きで、仕事にもつながる筋金入りだ。

寝室のクローゼットコーナー3列のうち右側2列が近藤さん分。洋服の半分は新品、半分は40年代から70年代ものだという古着好き(写真撮影/片山貴博)

寝室のクローゼットコーナー3列のうち右側2列が近藤さん分。洋服の半分は新品、半分は40年代から70年代ものだという古着好き(写真撮影/片山貴博)

古着の次は、働き始めてから食器に凝り始めた。「いい食器があるとモテるかな、と思って(笑)」とビンテージの北欧食器、ARABIA(アラビア)の絵皿を約8000円で単品購入。そうするとシリーズでそろえたくなって、海外駐在していた姉に頼んだり、インターネットなどさまざまなルートで集めたという。

キッチンのオープンな収納棚には、シリーズごとにRORSTRAND(ロールストランド)やARABIAなどのビンテージ北欧食器がずらり(写真撮影/片山貴博)

キッチンのオープンな収納棚には、シリーズごとにRORSTRAND(ロールストランド)やARABIAなどのビンテージ北欧食器がずらり(写真撮影/片山貴博)

さらにビンテージのコレクションは家具、雑貨、インテリア小物などと、広がっていく。「新しい物より、古い物の方が好きです。ストーリーがあるし、何より本物だから」という近藤さん。「本当にいい物で新しい物は高くて手が出なかったり、数が限られていて手に入らなかったり。さらに新品は中古になった瞬間に価値が下がるけれど、ビンテージ物は価値が下がりにくいのも魅力です」。

古い日本家屋にインダストリアルなテイストを組み合わせた独自空間

新居を探す際、住まいも価値が下がらないビンテージをと考えた。ところが、中古住宅を見学しても、築20年や30年ではただ古いだけで、味わいがあるちょうど良い古さの家はなかった。物件探しを始めて約一年、ようやく鎌倉の高台に建つ築50年の平屋に出合う。古いうえに小部屋が多くて室内は暗く、空き家になって長いため、庭にはススキや雑草が生い茂っていた。それでも「おばあちゃんが住んでいそうな懐かしい感じ。縁側があって、木の建具やレトロなガラスなど、求めていたイメージにピッタリでした」。

早速、雑誌などで作品を見て設計依頼したいと思っていた宮田一彦アトリエさんと現地へ。海が近く湿気が多い鎌倉だが、高台なので古くても基礎や土台は傷んでいないとプロからのお墨付きをもらい、購入して暗く使いにくい間取りは全面的にリノベーションをすることにした。

昔ながらのレトロな木製建具が残る平屋に一目惚れして、これを活かしてリノベーションすることに。高台にあるので遠くの山並みも見えて眺めも良い(写真撮影/片山貴博)

昔ながらのレトロな木製建具が残る平屋に一目惚れして、これを活かしてリノベーションすることに。高台にあるので遠くの山並みも見えて眺めも良い(写真撮影/片山貴博)

リノベーションにあたって近藤さんからオーダーしたのは3つ。アイランドキッチンにすること、フローリングを山形杉の柿渋塗装(柿渋からつくった液による古くからある日本の塗装方法。時間経過によって味わい深い色へと変化していくのが魅力)にすること、物が多いので最大限の収納スペースをつくること。「作品例を見てテイストは気に入っていたので、基本的に間取りはお任せしました」。

近藤さんの住まいのビフォーアフター。4畳半を中心に細かく仕切られ暗かった約60平米を、仕切りを全て取り払い、LDK・寝室・水まわりのシンプルでオープンな空間に(近藤さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

近藤さんの住まいのビフォーアフター。4畳半を中心に細かく仕切られ暗かった約60平米を、仕切りを全て取り払い、LDK・寝室・水まわりのシンプルでオープンな空間に(近藤さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

そして出来上がったのは、大きなLDKと寝室と水まわりに分かれたオープンな空間。天井は全て構造材をむき出しにして、ギリギリまで天井の高さを利用してロフトをつくり、物を置けるようにして収納の悩みを解決した大胆なリノベーションだ。

LDKの中央にはステンレスのアイランドキッチン。照明はむき出しの蛍光灯と2つの50年代フランスの工業用照明がインテリアのポイントに(写真撮影/片山貴博)

LDKの中央にはステンレスのアイランドキッチン。照明はむき出しの蛍光灯と2つの50年代フランスの工業用照明がインテリアのポイントに(写真撮影/片山貴博)

LDKと寝室を仕切るのは大正末期の「蔵戸」といわれる重厚な引き戸。アンティーク家具ショップをはしごしてイメージに合うものを近藤さん自身が探した(写真撮影/片山貴博)

LDKと寝室を仕切るのは大正末期の「蔵戸」といわれる重厚な引き戸。アンティーク家具ショップをはしごしてイメージに合うものを近藤さん自身が探した(写真撮影/片山貴博)

寝室の奥には広くオープンなクローゼットスペース。「クローゼットの中は隠したいものではないし、使い勝手の面でも湿気対策面でも扉を付ける必要を感じません」(写真撮影/片山貴博)

寝室の奥には広くオープンなクローゼットスペース。「クローゼットの中は隠したいものではないし、使い勝手の面でも湿気対策面でも扉を付ける必要を感じません」(写真撮影/片山貴博)

収納は縦空間を利用、古い日本家屋にインダストリアルでレトロなインテリア

近藤さんの収納のポイントは、何といっても縦空間の活用。平屋の天井高をフル活用して、ロフトを収納スペースにしていることだ。「季節外の衣類や趣味のキャンプ用品など、かなりの量を収納できて助かっています」。

基本的に全て見せる収納。物はかなり多いほうだというが、これをきれいに見せる秘訣は「きれいに畳むことと、同じものを集めてメリハリをつけること」。なるほど、物をたくさん置くコーナーと、何も置かず、置く場合も間隔を空けてスッキリ見せるコーナーと、メリハリをつけているのだという。

玄関の上など天井裏は全て収納スペースに。かさばるシュラフは天井から吊るして見せて収納。まるでアウトドアショップの展示のようなこのコーナーには物を雑然と、間隔も狭くたくさん置いている(写真撮影/片山貴博)

玄関の上など天井裏は全て収納スペースに。かさばるシュラフは天井から吊るして見せて収納。まるでアウトドアショップの展示のようなこのコーナーには物を雑然と、間隔も狭くたくさん置いている(写真撮影/片山貴博)

洋服は色別・柄別にまとめてきれいに畳むのが見せる収納のコツ。床から天井まで、ハンガーポールの上部も靴などがびっしり(写真撮影/片山貴博)

洋服は色別・柄別にまとめてきれいに畳むのが見せる収納のコツ。床から天井まで、ハンガーポールの上部も靴などがびっしり(写真撮影/片山貴博)

季節外の衣類はアーミー風のトランクにまとめて収納。そのまま寝室のインテリアにもなっている(写真撮影/片山貴博)

季節外の衣類はアーミー風のトランクにまとめて収納。そのまま寝室のインテリアにもなっている(写真撮影/片山貴博)

ビンテージの北欧食器コレクションをディスプレイするため、天井から吊って食器棚をあらかじめ造り付けた。天井までの空いたスペースも季節外の衣類などの収納に(写真撮影/片山貴博)

ビンテージの北欧食器コレクションをディスプレイするため、天井から吊って食器棚をあらかじめ造り付けた。天井までの空いたスペースも季節外の衣類などの収納に(写真撮影/片山貴博)

インテリアも「好きな物を集めただけ」というが、全て徹底したレトロ。日本の古い物はもちろん、北欧、フランス、アフリカ、など国はバラバラだが、共通するのは古き良き懐かしいテイスト。「古い日本家屋にインダストリアルなテイストを組み合わせた」という狙いどおりの仕上がりになっている。

昭和の建具、50年代のフランスの照明、フィンランドの50年代のダイニングテーブルと椅子、これらが見事に調和している(写真撮影/片山貴博)

昭和の建具、50年代のフランスの照明、フィンランドの50年代のダイニングテーブルと椅子、これらが見事に調和している(写真撮影/片山貴博)

レトロな模様のガラス入りの建具や障子は、この家の雰囲気に合わせて近藤さんがアンティークショップ巡りをしてサイズが合うものを探し出した(写真撮影/片山貴博)

レトロな模様のガラス入りの建具や障子は、この家の雰囲気に合わせて近藤さんがアンティークショップ巡りをしてサイズが合うものを探し出した(写真撮影/片山貴博)

少し無理をしてでも本物を買う、という近藤さん。「模倣されたデザインの物が次々に生まれても、その原点である本物を知っていることは仕事の現場でも役に立ちます」。新品は買った時が一番新しく徐々に古くなっていくが、ビンテージ物は経年変化が味になって価値が落ちにくい。新品では手に入らない物でも、時間が経つと手に入りやすいというメリットもあり、自分の元に来るまでのストーリーごと楽しんでいるという。徹底したアンティーク好きのお洒落な古民家、初めて訪れたのに懐かしい気持ちになり和みました。

●取材協力
・BEAMS

「中古マンション購入+リフォーム」で将来貸しやすく、快適に暮らせる部屋に【理想をかなえたマイホーム実例#03】

マイホーム購入を通じて、理想をかなえた方々のお宅に伺い、レポートする連載企画。
今回は「忙しい毎日のなかでも子どもとの時間を大切にしたかった」「将来的に売ったり貸したりできる資産性も重視した」というMさんの住宅購入ストーリーを伺いました! 多忙な毎日を過ごされているMさんはどうやって理想の暮らしを実現されたのでしょうか!?【連載】理想をかなえた!マイホーム実例
「いつかは家を買って、○○したい」――そう考えて、住宅購入に夢を膨らませている方も多いのではないでしょうか。実際に「こんな暮らしがしたかった」という理想の暮らしを実現したご家庭にお邪魔し、マイホームを購入するまで、してからのお話をあれこれ伺います。夫の転勤で札幌へ……! いつかは東京に戻る前提で資産性を重視

テレビ電話ごしの取材となった、札幌在住のMさん。取材のために事前に何度もメッセンジャーでやり取りをしながらも、本当に日々お忙しそうなご様子が伝わってきます。もともとは東京に住んでいたというMさんファミリーは、夫と小学3年生の男の子との3人暮らし。まずは札幌に移住することになった経緯から伺います。

――はじめまして! 本日は画面ごしですが、よろしくお願いします!
Mさんはもともと東京にお住まいだったと聞きましたが……?

「はい。私も夫も営業系の仕事なのですが、5年ほど前に夫が札幌に転勤することになり、家族全員で移住しました。子どもはまだそのころ幼稚園でしたし、私も夫も夜遅くまで仕事をしているので、単身赴任で物理的な距離が離れると、家族で過ごす時間が確保しづらくなってしまうと思ったんです。そのため、私は前の仕事を辞め、札幌で同じ業種の会社に転職をしました」(Mさん、以下同)

Mさんが住むのは有名な時計台やテレビ塔もある札幌市中央区。写真左は札幌駅、右は札幌の街並み(写真/PIXTA)

Mさんが住むのは有名な時計台やテレビ塔もある札幌市中央区。写真左は札幌駅、右は札幌の街並み(写真/PIXTA)

――そうすると、今後は札幌にお住まいになる予定なのでしょうか?

「いえ、転勤の多い職種なので、また東京に戻るか、他の地域に異動になる可能性も高くて……。実際に夫も札幌に転勤後、さらに帯広に転勤になり、結局、いまは単身赴任という形になりました。札幌に来てから2年間は夫の会社の住宅補助を受けて近くの賃貸マンションに住んでいたんですが、このエリアは賃貸相場もそれなりに高く、補助から足が出る状況で。夫といい物件があれば買った方がいいかも、という話を常々していたんです。ただ、もし買うなら、今後また転居することになったときにも売ったり貸したりできるよう、資産性の高い物件を選ぼうと」

――資産性の高い物件というと、具体的には?

「いま住んでいる地域は文教エリアで人気が高く、新築マンションがどんどん建っています。私たちのような転勤族も多いので、駅からの利便性が高く、大手デベロッパーの建てた物件であれば、多少築年数があっても買いたい人はたくさんいるだろうと感じていました。新築よりも中古マンションの方が割安に手に入りますし、きちんと管理され、ブランド力のあるマンションは、リフォームをすれば快適に住めて売りやすいはずだと。それで私たちが買おうかなと探していたときに、ちょうど駅から徒歩2分のこの物件が出ているのを知ったんです。近所の人であれば、マンション名と外観を見れば『ああ、ここか』とすぐ分かるような物件ですよ」

住まいとしての快適性と、資産価値UPを目的にリフォーム

――立地以外に「資産性」という面で重視されたポイントはありますか?

「この物件はもともと3LDKで、リビングの横に和室があったのですが、内覧したときにリビングとつなげれば広くできるな、と思いました。もともと所有されていた方も結構きれいにお住まいになっていたんですが、築20年くらいだったので、自分たちが快適に住むためにも、また今後、売却する可能性を考えてもリフォームが必要だなと」

【リフォーム前の間取図】もともとはリビングの横に和室がある形の3LDKの間取だった(Mさんに提供いただいた間取図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成) 【リフォーム後の間取図】リビング横の和室をつなげる形にして広いリビング・ダイニングの2LDKに変更(Mさんに提供いただいた間取図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

【リフォーム前の間取図】もともとはリビングの横に和室がある形の3LDKの間取だった(Mさんに提供いただいた間取図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成)
【リフォーム後の間取図】リビング横の和室をつなげる形にして広いリビング・ダイニングの2LDKに変更(Mさんに提供いただいた間取図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

――リフォームされたんですね! 他にも変更されたところはあるんでしょうか?

「間取りの変更という意味では、押入れだったところをウォークインクローゼットにしたり、お風呂が狭かったのを広くしたり……というくらいですが、設備や仕様はほぼ全て手を入れました。床とクロスを張り替え、キッチンやバスなどの設備も新しいものにしました。札幌市は窓を二重サッシに変えると補助金がでる制度(※)があるので、窓も全て取り替えたんですよ(笑)」

※札幌市住宅エコリフォーム補助制度:許可を受けた事業者が施工する省エネ改修やバリアフリー改修を行った場合に、改修費用の一部を補助する制度

札幌の冬は寒いが、補助金が出ることが分かり、二重サッシも全て新しいものに取り替えた(写真提供/Mさん)

札幌の冬は寒いが、補助金が出ることが分かり、二重サッシも全て新しいものに取り替えた(写真提供/Mさん)

和室についていた押入れは、隣りにあった物入れと一体化してウォークインクローゼットに(写真提供/Mさん)

和室についていた押入れは、隣りにあった物入れと一体化してウォークインクローゼットに(写真提供/Mさん)

――それだけ全体的にリフォームをしようと思うと、リフォーム会社選びも慎重になったのではないですか?

「それが実は、リフォーム会社はこのマンションを建てた大手不動産グループの会社にそのままお願いしました。検討に時間をかけたのはどこにお願いするかではなく、仕様をどのレベルに維持するか、です。いずれは引越すことが前提で一生住む家ではないので、コストは抑えたいんです。でも、あまりグレードの低い仕様・設備だと自分たちが住むのに日々、ストレスになりますし、いざ売ろうとしたときにも低く評価されては困ります。『中の上』くらいの仕様を意識して、すべてのものを選ぶようにしました。『本当はこっちがいいけど、ここまでお金かける必要ないな……」とそれなりの質は確保しつつ、コストも重視するという。見積もりを出してもらって、やりすぎかなと感じる部分は削って、を繰り返しました」

バスやキッチンなどの設備も新しいものに交換。「中の上」のグレードを意識しながら、使い勝手がよく、万人受けするシンプルな仕様に(写真提供/Mさん)

バスやキッチンなどの設備も新しいものに交換。「中の上」のグレードを意識しながら、使い勝手がよく、万人受けするシンプルな仕様に(写真提供/Mさん)

床やクロス、建具なども変更。空間を広く見せるために白を基調としたものをセレクト(写真提供/Mさん)

床やクロス、建具なども変更。空間を広く見せるために白を基調としたものをセレクト(写真提供/Mさん)

忙しく働くママが小学生の息子と時間・空間を共有するための工夫

――毎日本当にお忙しそうなので、リフォームの検討も大変でしたよね。普段はどのような形でお仕事されているんでしょうか?

「平日は朝7時半過ぎに家を出て、帰ってくるのはほとんど21時から22時くらいになります。早ければ週に1回程度、19時半くらいに帰れるときがあるかどうか……。なので、息子の生活は普段、ベビーシッターさんにお願いしています」

――わあ……本当にご多忙ですね。そうすると、帰宅されたときにはお子さんはもう寝ている感じですか?

「寝ちゃってますね……(涙)。その分、早く帰れたときや休日など、家にいられる時間は少しでも一緒に過ごしたいと考えまして。リフォームによって広くなったリビングの真ん中には、子どものデスクを置いています。子ども部屋もありますが、基本リビング学習です(笑)。早く帰れたときに、息子が宿題をしている姿が食卓からも見えます。お互いが何をしているかがパッと視界に入るんです」

リビングの中央には子どもの学習デスクが。Mさんがダイニングやキッチンにいるときも、一緒の時間・空間を共有できる(写真提供/Mさん)

リビングの中央には子どもの学習デスクが。Mさんがダイニングやキッチンにいるときも、一緒の時間・空間を共有できる(写真提供/Mさん)

――たしかに、息子さんのデスクが主役のリビングですね!

「でも息子は実際にはデスクだけじゃなくて、キッチンのカウンターで勉強することも多いんです。カフェっぽいカウンターにしたところは私のこだわりなんですが、ここで一緒にご飯を食べたり、私が料理しているときに息子が勉強したりしています。あと、夜の時間は私が一杯飲むためのバーカウンターに(笑)」

子どもが寝た後は、カウンターでゆっくりお酒をたしなみながら一息をつく時間も確保(写真提供/Mさん)

子どもが寝た後は、カウンターでゆっくりお酒をたしなみながら一息をつく時間も確保(写真提供/Mさん)

豊かな暮らしを実現するために、購入予算とローンの組み方も考慮

――素敵ですね。資産性も重視されたということなので、きっと購入予算についてもいろいろ考えられたんでしょう?

「購入予算については、それまでの家賃の負担額と同じくらいになるように予算を決めたうえで物件を検討しました。もともと賃貸で住んでいたときに15万円くらいの家賃を負担していたので、共益費や修繕積立金を入れて月々の支払額が同じくらいになるように計算して」

――人気があるエリアとのこと、地方都市の中古マンションとはいえ、高かったのではないですか?

「マンションを約2000万円で買って、リフォームに500万円ほどかけた形です。現金で買えない額ではなかったのですが、銀行や不動産会社の方が『現金で買えるとしても、ある程度は手元資金として置いておいた方がいい』とアドバイスをしてくれてローンを組みました。今は金利も低いですしね」

――引越し前提、売却も視野に入れているとのことなので、また次の新しい住まいを購入される可能性もありそうですもんね

「はい、今後のことも考えて、ローンは20年で組んでいます。無理のない範囲で、時々の状況にあわせた住まい選びができればと!」

そう魅力的にほほ笑むMさんの表情からは、バリバリとお仕事をしながら子どもとの時間も大切にして、充実した生活を送っていることが垣間見えます。一方、人気の高いエリアでブランド力のある中古マンションを買ってリフォームをすること、低金利の今、あえて手元資金を残しながら住宅ローンを組む選択をされたことも、今後の将来を見据えた賢明なプランですよね。
Mさんファミリーの選択からは、理想の暮らしを実現しながら、先を見据えた堅実な資金計画も両立する、そんな賢い住まい選びを学びました。

わが家に合った予算・ローン[2] 共働き夫婦、住宅ローンは夫のみ? 夫婦でペアローン?

女性の社会参画が進み、共働き世帯が6割を超える昨今。住宅ローンを組むときにも、夫だけではなく妻も融資を受け、住宅ローンの金額を増やしたい、と考える方もいるでしょう。
そこで今回は、夫婦でペアローンを組むことにどのようなメリットがあり、どのようなリスクがあるのかを「ホームローンドクター」の淡河範明(おごう・のりあき)先生に教えていただきます。

ご相談者はSさん夫婦。33歳の夫と31歳の妻の2人暮らしです。
埼玉県のさいたま市内にマンションを購入したいと検討しており、住宅ローンの融資を夫のみで受けるのか、それとも妻も融資を受けるのかで迷っています。夫婦ともに収入がある場合は、夫婦ペアローンを利用したほうがいいのでしょうか?【連載】教えて、ローンドクター! わが家に合った予算と、借り方・返し方
住宅購入に悩みはつきませんが、「予算」は最も大切なポイント。年収の何倍までとか、頭金はこれくらい必要などいろいろな情報があふれていますが、人によって、物件によって、タイミングによって変わるため、実際にはみんなに通用するセオリーはありません。いったい「わたし」「わが家」にとってはいくらの物件を買えばいいのか? ローンはどう組めばいいのか? そんな疑問に「ホームローンドクター」である淡河範明(おごう・のりあき)先生がビシッとお答えいたします。(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

夫婦のペアローンは融資額を増やし、節税効果も発揮してくれる!

淡河範明先生(以下、先生):今日は住宅ローンの融資を受けるに当たり、ペアローンを利用するべきかどうかというご質問ですね。

夫:はい、私の年収が530万円なのですが、今購入を検討しているマンションを買おうと思ったら、4000万円必要で。なんとか融資は受けられそうなのですが、私の年収から考えるとかなりギリギリの金額かなと……。

妻:私も派遣で一定の収入があるので、住宅ローンの一部を負担できないかと思っています。

夫:もう一つ、できれば早めに完済して、老後は住宅ローンの心配をせずにのんびり暮らしたいんです。20年くらいで住宅ローンを組みたいんですが、私と妻の年収でも完済できますか?

先生:お一人だと借りられる金融機関が限定されますが、夫婦でペアローンを組めば、借りられる金融機関を増やすことができるだけでなく、コスト面でもメリットが出せます。ペアローンのメリットは、互いが住宅ローン控除を利用できることですから、単独でローンを組むよりも手元に残るお金は多くなるでしょう。
一方、20年で完済するという考えは危険かもしれません。

夫:なぜですか? 金利という無駄な出費が減ると思うのですが。

先生:4000万円を20年で完済しようとすると、金利1.5%で融資を受けても毎月20万円弱を返済しなくてはいけません。手取りの月収は夫婦合わせてどれくらいでしょうか?

妻:えーっと……ボーナスを別に考えると夫婦で45万円ぐらいですね。

先生:つまり45万円の収入のうち、20万円も住宅費に充てなくてはいけない。これでは手元にお金が残らないギリギリの生活になってしまいますし、もし将来お子さんを欲しいと考えているのであれば、教育費などの貯金もままならないでしょう。
また、マンションは管理費や修繕費もあります。
今は低金利ですから、できるだけ多くのお金を借りて手元に残せるお金を増やすほうが得策です。

夫:そうなのでしょうか……? 住宅ローンが退職後にも残ると不安になってしまいます。

先生:夫のKさんは65歳の定年退職まで32年もあります。それに妻のYさんがお子さんを出産し、産休等で働けなくなると、Yさんのローンは育児休業給付金と貯金から返済することになりますから、毎月の返済分は抑えて余裕分は貯蓄に回しておくべきです。

妻:たしかに! 子どもも欲しいですし。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

先生:そこで20年間の固定当初金利優遇ローンを利用しましょう。三井住友信託銀行でしたら当初20年間の金利が1.15%、21年目以降は変動金利となり全期間1.075%になった前提です(2018年7月31日時点)。住宅ローンの融資を単独で受けた場合と、ペアローンで融資を受けたときの夫婦の負担比率を変えて数パターン、シミュレーションをしました。

ホームローンドクター淡河先生が作成したSさん夫婦の住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの夫婦の住宅ローン負担比率に対し、実質負担額がどう変化するかを試算

ホームローンドクター淡河先生が作成したSさん夫婦の住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの夫婦の住宅ローン負担比率に対し、実質負担額がどう変化するかを試算

Sさん夫婦:わぁ! 総支払額が数十万単位で変わってくるんですね!

先生:そうなんです。単独で融資を受けるより、ペアローンを利用すれば、諸費用は多少かかりますが、それを補って余りある住宅ローン控除が受けられます。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

ペアローンを組むときは、持分設定と離婚リスクに要注意!

先生:ただ、ペアローンで注意点がないわけではありません。上の表でも「住宅ローン負担比率」という数字がありますが、夫婦それぞれが住宅の購入に支払う金額(住宅ローン負担比率)と、登記上の持分設定を実状に沿ったものにしておかないと、贈与税が発生する可能性があります。

妻:住宅ローンの負担比率にかかわらず、夫婦で一緒に購入するから所有権は半々にする、という形ではダメですか?

先生:離婚時の財産分与は別ですが、所有権は費用を負担している割合と同等にしてください。例えば4000万円の住宅購入に際し、妻が800万円の支払いだと夫と妻の負担は3200万と800万で4:1です。
ところが、登記時に所有権の持分設定を1:1にしてしまうと、2000万円ずつを負担して住宅を買ったことになります。この差額の1200万円を夫から妻に贈与した、と見なされるリスクがあるのです。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

夫:それは問題ですね。

先生:まずは、支払っている税額と借入金額の関係を確認しましょう。もし、借入金額の1%以上の税金を払っているなら、所有権の持ち分比率をできる限り費用負担と同等の設定にすることで、控除の額が少なくなるのを避けられます。ただし、持ち分以上のローンがあっても、超過分の借入金については住宅ローン減税は受けられないので注意が必要です。

また、ペアローンの最も大きなリスクは「離婚」だということも覚えておきましょう。住宅を購入するときは夫婦ともに仲が良く、離婚など考えていない方が多いです。だからこそ、万一離婚したときにその後の所有や住宅ローンの返済をどうするか、先に決めておいてほしいのです。

Sさん夫婦:分かりました。あとで2人で話し合ってみます。

「退職時にいくらの資産を用意できるか」を考えて人生設計をしよう

先生:あとは無理のない返済で、手元にフリーキャッシュフローを残すことを意識してください。末永く、毎日の生活を楽しみながら暮らしていくには「何歳までに」「純資産(※)をどの程度つくれるか」を決めて行動することが重要です。

定年退職時の年齢が65歳、平均寿命の85歳くらいまで生きるとして、その間の20年間「年金と手持ちの資産で不自由のない生活を送れること」を目標としましょう。65歳時点で貯蓄がいくらあったら、安心して老後を送れると思いますか?

※純資産:会計用語で「会社の資産総額から負債総額を差し引いた金額」のこと。ここではそれを家計に当てはめ、保有している金融資産からローンなどの借金等を引いた自分の資産を指す

妻:えっと……1000万円とか2000万円とかでしょうか?

先生:ズバリ、私が65歳時点の参考貯蓄額として提唱するのは、以下の3つのプランです。

●1500万円:シンプル生活 →必要最小限の貯蓄で最低限必要な出費をまかなえるプラン
●3000万円:ピンピンコロリ →老後の生活を楽しみながら健康に過ごし、医療費があまりかからなかった場合のプラン
●6000万円:ゆうゆう生活 →海外旅行や趣味を楽しみながら、余裕のある老後を過ごすための金額

退職時にローンを完済していても、手持ちに現金がないのでは意味がありません。デフレの今は、繰上返済にこだわるより貯金を確保しておくほうが、ずっと生活が豊かになるのです。また、ゆっくりローンを返して、手元にある程度の現金を残しておくことは、急な出費が必要になったときのリスク対策にもなります。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

妻:私たちは30代だから、1年間で100万貯金できれば、ピンピンコロリプランには到達できそう、ってことですね。

先生:長い人生において、さまざまな経済的リスクを回避する一番の対策はまず「収入を増やすこと」、次に「手元にある程度の現金をしっかり残しておくこと」です。今回のプランでは現状の収入でも無理のない範囲で計画を立てていますが、収入を増やすための努力もぜひ忘れないようにしてください。

夫婦:はい!

夫婦ペアローンは融資額を増やすことにも役立ちますし、住宅ローン控除の効果でキャッシュフローが増えるというメリットがあります。生活の豊さを考えれば、無理に早く返済するだけではなく、手元にお金を残せるように返済していくことも大切だということが分かりました。

ただし、夫婦持分の数字にはよく注意しておかないと贈与税が発生しかねませんし、離婚というリスクが伴うことも。まずは夫婦でしっかり話し合い、何歳までにいくら貯めておきたいのか、どのように返済していくのかを決めておきたいものですね。

s-淡河 範明淡河 範明 ホームローンドクター
日本興業銀行、エル・ピー・エル日本証券を経て、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立。利用者の立場にたち、住宅購入時の資金計画、住宅ローンの選び方を新しい方法で提案している。著書に『住宅ローンを賢く借りて無理なく返す32の方法』『住宅ローン借り換えマジック』などがある。

建築家とデザイナーが二人三脚でつくりあげた、自分らしさあふれる住まい テーマのある暮らし[5]

デザイナーとして活躍するSさんが世田谷・駒沢公園のそばに建てたのは、店舗とオフィス、住まいを一体化させた一戸建て。建築家へのオーダーは「ただの“ハコ”みたいな家」だったそう。
その意を汲んだ建築家が提案したシンプルな“ハコ”に、Sさんが手を加えることによって、遊び心に満ちた空間の数々が仕上がりました。建築家とデザイナーの二人三脚によって生み出された、自分らしい住まいをつくるコツがたくさん隠されています。【連載】
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。建築家にオーダーしたのは「シンプルな“ハコ”のような家」

Sさんがこの家を建てたのは、10年前のこと。
オーダーメイドTシャツを制作し、販売するブランドを立ち上げるという人生の転機を迎え、これまでのマンションから、店舗とオフィス、さらには5人家族で暮らす住まいを兼ね備えた一戸建てに住み替えようと考えたのが発端でした。

当初は中古の一戸建てを購入して、リノベーションすることを考えていたSさん。昔から好きだったという駒沢公園の周辺に限定して探したのですが、なかなか条件に合う物件が見つからず、それならば、とゼロから建てることにしたのだそう。

「建築事務所を探していたら、妻が雑誌の切り抜きを持ってきて、この人に頼もうって言うんです。建築家・長洲研志(ながすけんじ)さんのご自宅の写真だったのですが、よく見えないくらい小さい写真なんですよ。まあ一度行ってみるか、という感じで訪ねたのがスタートなんです」

石畳のアプローチは、まるで駒沢公園と家をつなぐ小道のよう。「このアプローチが少しカーブを描いていて、家全体が外から見えないところがいいですね」とSさん(写真撮影/内海明啓)

石畳のアプローチは、まるで駒沢公園と家をつなぐ小道のよう。「このアプローチが少しカーブを描いていて、家全体が外から見えないところがいいですね」とSさん(写真撮影/内海明啓)

長洲さんに伝えたのは、「シンプルな“ハコ”のような家をつくってほしい」ということだけ。具体的な要望はほとんど出さず、イメージとして渡したのも倉庫や工場の写真だったそうです。

そこには、自分自身で手を入れて、できるかぎり自由に、自分らしい家に仕上げたいという、デザイナーとしてのSさんの思いがありました。

それに対して長洲さんが提案したプランはたったひとつ。
3階建てコンクリート打ち放しの躯体の中心部に回り階段をつくり、その階段をぐるりと囲むようにフロアを回遊式にした建築でした。

「外から入ってきて、階段をぐるぐると上がって屋上へ抜けていく、“外から外へ”というイメージの家なんです」とSさん。

さらに、家の中には、公園を想像させるような仕掛けがあちこちにあり、「ここは駒沢公園の一部なのでは……」という錯覚を抱きそうになるほど。

そう、長洲さんがつくったのは“ただのハコ”ではなく、Sさんらしさが十分に発揮できるように計算され尽くした “遊び甲斐のあるハコ”だったのです。

右手は家族が使う玄関、左手は店舗の入り口。ひとつの建物でありながら、公私が上手に切り分けられています(写真撮影/内海明啓)

右手は家族が使う玄関、左手は店舗の入り口。ひとつの建物でありながら、公私が上手に切り分けられています(写真撮影/内海明啓)

1階はプライベートと切り離して、店舗とオフィスに

こちらが、店舗スペース。
18平米ほどのこじんまりしたスペースなのに広く感じられるのは、床を低くつくっている分、天井が高くなっているからでしょうか。
2段だけ下りる半円形の階段は、まるで公園の一部のよう。すぐ近くにある駒沢公園からそのままつながっているような、不思議な感覚を抱かせてくれます。

入り口のドアは、なんとSさんの手づくりだそう。
「家を建てている間に予算がかさんでしまって、自分でドアをつくることになりました。長洲さんと一緒にジョイフル本田に2×4の木材を買いに行ったりして、楽しかったですよ(笑)。ドアの外側に設置した高さ8mほどの雨戸も自作です。結果的に、かなり自分でやりましたね」

無機質な雰囲気とアンティークのような温かみがバランス良く共存する店舗スペース。「この部屋で一番古いものといえば、文化村のオークションで落札したダリの版画。この部屋の雰囲気にぴったりでしょう?」(写真撮影/内海明啓)

無機質な雰囲気とアンティークのような温かみがバランス良く共存する店舗スペース。「この部屋で一番古いものといえば、文化村のオークションで落札したダリの版画。この部屋の雰囲気にぴったりでしょう?」(写真撮影/内海明啓)

陳列棚は、建築資材の輸入販売店GALLUPで古材のように加工してもらった板を使用。床は、モルタルを塗った上にポスターを貼り、ニスで仕上げたそう。10年たって、良い味が出てきています(写真撮影/内海明啓)

陳列棚は、建築資材の輸入販売店GALLUPで古材のように加工してもらった板を使用。床は、モルタルを塗った上にポスターを貼り、ニスで仕上げたそう。10年たって、良い味が出てきています(写真撮影/内海明啓)

一般的な住宅と違って収納がないことも、この家の特徴のひとつ。
「収納をつくると、それに従ってほかが決まってくるから、スペースを自由に使えなくなるでしょう? だからつくらないでほしい、とお願いしたんです」
Sさんが徹底して、自由さを求めたことが伝わってきます。

店舗の奥、まさに秘密基地のようなスペースがSさんのオフィス。
3人の子どもたちの父親でもあるSさんにとって、ひとつの建物の中で仕事と家族との時間を両立していくのは、なかなか大変なことです。
「1階は仕事場、2階と3階が家族のスペース、ときっちりフロアを分けたことで仕事に集中できるようになりました」

デスクはTHE CONRAN SHOPのもの。「このデスク、実は長すぎたので左側を切り落として、端材を棚として壁面に取り付けてあるんです」。小さな工夫が空間をよりセンス良く見せています(写真撮影/内海明啓)

デスクはTHE CONRAN SHOPのもの。「このデスク、実は長すぎたので左側を切り落として、端材を棚として壁面に取り付けてあるんです」。小さな工夫が空間をよりセンス良く見せています(写真撮影/内海明啓)

遊び心あふれる2階は、子どもたちのために

家族用の玄関から中に入ると、コンクリート製の洗面台が。ここもまた、公園の一部のような雰囲気です。
「収納をつくらない」というオーダーをしたSさんですが、唯一、玄関脇の階段下の三角スペースにだけは下駄箱をつくってもらったのだそう。

片付けすぎず、かといって「見せる収納」を気取るのでもなく、モノが雑然と並ぶ様子が海外のインテリア誌のよう。ひとつひとつのモノがしっかりとセレクトされているからなのでしょう(写真撮影/内海明啓)

片付けすぎず、かといって「見せる収納」を気取るのでもなく、モノが雑然と並ぶ様子が海外のインテリア誌のよう。ひとつひとつのモノがしっかりとセレクトされているからなのでしょう(写真撮影/内海明啓)

玄関脇の階段から、子ども部屋とバスルームのある2階に上がってみましょう。
回り階段をぐるぐると上がっていくと、そのまま屋上につながり、その途中に2階、3階の回遊式フロアがつくられています。

各フロアは約54平米とのことですが、広々と感じられるのは仕切りがないからでしょうか。「子どもは男の子と女の子なので、いずれ仕切りが欲しいと言われるでしょうね。そのときにはつくろうと思います」とSさん。

階段周辺のインテリアも個性的。赤い絨毯(じゅうたん)に洋書が並べられたスタイリッシュなスペースのすぐそばには、これまた公園仕様のネットが掛けられています(写真撮影/内海明啓)

階段周辺のインテリアも個性的。赤い絨毯(じゅうたん)に洋書が並べられたスタイリッシュなスペースのすぐそばには、これまた公園仕様のネットが掛けられています(写真撮影/内海明啓)

階段を上がったところの洗面台も、公園の水飲み場のよう。この洗面台は、イタリアのバスブランドagapeのもの。段ボール製の額縁に入れて飾られたお子さんの絵もアーティスティック(写真撮影/内海明啓)

階段を上がったところの洗面台も、公園の水飲み場のよう。この洗面台は、イタリアのバスブランドagapeのもの。段ボール製の額縁に入れて飾られたお子さんの絵もアーティスティック(写真撮影/内海明啓)

仕切りもなく、ぐるりとひとまわりできる子ども部屋を3人の子どもたちが駆けまわる様子が目に浮かぶようです。「建築中に通いつめて、自分で床や壁を塗ったり、人工芝を敷いたりしました」(写真撮影/内海明啓)

仕切りもなく、ぐるりとひとまわりできる子ども部屋を3人の子どもたちが駆けまわる様子が目に浮かぶようです。「建築中に通いつめて、自分で床や壁を塗ったり、人工芝を敷いたりしました」(写真撮影/内海明啓)

洗面所のドアは、なんとフェンス! ここにも公園感が漂っています。中にある浴室のドアはガラス張り(写真撮影/内海明啓)

洗面所のドアは、なんとフェンス! ここにも公園感が漂っています。中にある浴室のドアはガラス張り(写真撮影/内海明啓)

ビビッドなイエローのタイルが陽気な雰囲気を醸し出すバスルーム。オレンジ色のシャワーは、洗面台と同じくイタリアのバスブランドagapeのもの(写真撮影/内海明啓)

ビビッドなイエローのタイルが陽気な雰囲気を醸し出すバスルーム。オレンジ色のシャワーは、洗面台と同じくイタリアのバスブランドagapeのもの(写真撮影/内海明啓)

家族が集まる3階の見どころは、広くてスタイリッシュなキッチン

3階はキッチンとダイニング、リビングです。
圧巻なのは、フロアの一辺をすべて使った横長のキッチン。大きなターキーも焼けるガスオーブンや、同じくアメリカ製GEの冷蔵庫など、こだわりのセレクトがスタイリッシュでありながら、無骨なテイストを生み出しています。
「この家に来てから料理が楽しくなって、ずいぶん台所に立つようになりましたね」とSさん。

フロアの端から端まで渡されたコンクリートの台は、下に自由にモノを収納できるよう、あえて脚をつけず壁に固定。収納よりもフリースペースを増やすことで、増えていくモノに柔軟に対応しています(写真撮影/内海明啓)

フロアの端から端まで渡されたコンクリートの台は、下に自由にモノを収納できるよう、あえて脚をつけず壁に固定。収納よりもフリースペースを増やすことで、増えていくモノに柔軟に対応しています(写真撮影/内海明啓)

家族5人が集うダイニングテーブルは、新品の木材をGALLUPで古材のように加工してもらったもの。脚に木材を使わず、ステンレスをセレクトするところがSさんのセンス(写真撮影/内海明啓)

家族5人が集うダイニングテーブルは、新品の木材をGALLUPで古材のように加工してもらったもの。脚に木材を使わず、ステンレスをセレクトするところがSさんのセンス(写真撮影/内海明啓)

リビングの片隅は、Sさんと息子さんの趣味スペースとなっていました。音楽は、ジャズフリークである息子さんの影響で始めたのだそう。壁に掛けた絵は、美大で油絵を専攻していたご自身の筆によるもの。「5」の文字をペイントしたのは、「形がカッコよくて好きだから」とSさんは笑います。

ダリの版画も自分の作品も、子どもたちの落書きも、同じように扱うSさん。常識に縛られずにモノを見極める目が、アーティスティックでありながらもキメすぎない、絶妙な空気をつくりだしているのでしょう。

Sさんが長年憧れていたという薪ストーブ。煙突ではなく、壁からダクトを通して排気しています。「寒い日は自然とみんながストーブのまわりに集まってきますね(笑)」(写真撮影/内海明啓)

Sさんが長年憧れていたという薪ストーブ。煙突ではなく、壁からダクトを通して排気しています。「寒い日は自然とみんながストーブのまわりに集まってきますね(笑)」(写真撮影/内海明啓)

Sさんいわく、この家に遊びに来る友人たちは、ひとつのテーブルにつくのではなく、それぞれ居心地の良い場所を見つけてくつろいでいるのだそう。回遊式で仕切りのないつくりが、訪れる人の気持ちを解き放ってくれるのかもしれません。

屋根の形に沿って天井の高さが違うのも面白さのひとつ。壁が丸、三角、四角に切り抜かれていたり、そこから向こう側が見えたり……と、シンプルなようで実は斬新な仕掛けがあちこちに光っています(写真撮影/内海明啓)

屋根の形に沿って天井の高さが違うのも面白さのひとつ。壁が丸、三角、四角に切り抜かれていたり、そこから向こう側が見えたり……と、シンプルなようで実は斬新な仕掛けがあちこちに光っています(写真撮影/内海明啓)

「シンプルな“ハコ”のような家をつくってほしい」とういオーダーから始まった家づくり。建築家の長洲さんは、自由に使えるシンプルかつ斬新な“ハコ”を提案し、デザイナーであるSさんは、そこに手を加えて自分らしい空間をつくり上げました。あえて収納や仕切りをつくらなかったり、フェンスやネットなど本来外で使うものを持ち込んだり、名画と子どもの落書きを同じように扱ったり……と、Sさん流インテリアからは学べることがたくさんありそうです。
ちなみに、Sさんと長洲さんは、家が完成したあとにバンドを組み、今では一緒にステージに立っているのだそう。そんなエピソードからも、2人の家づくりが充実したものであったことが伝わってきました。

BEAMS流インテリア[3] 休日が待ち遠しい!鎌倉のモダンなこだわりの注文住宅ができるまで

ご夫婦ともにスーパーバイザーの村口良(むらぐち・りょう)さんと恭子(きょうこ)さん。40歳前後のお2人、そろそろ脱賃貸をとマイホームに選んだのは、立地も建物もどちらも妥協しない注文住宅。古都・鎌倉駅に近い土地を選び、建物もデザインや素材ひとつひとつにこだわり、しかも予算内に収めたアイデアいっぱいの新居を紹介しよう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。ファッションだけでなくライフスタイルもおしゃれに。予算内で土地も建物も妥協なしバルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

バルコニーに面した2階リビングは明るく風通しもいい開放的でモダンな空間(写真撮影/飯田照明)

ともにファッション好きで、BEAMSは憧れの職場だったという村口夫妻。若いころは洋服ばかりたくさん買って、後は飲み代に消えていたというが、会社の先輩の家に遊びに行き、そのライフスタイルに刺激を受け、考え方が変わったという。「ファッションだけでなくライフスタイルや生き方そのものをお洒落にしようと、目で盗んでインテリアセンスを磨きました」と村口さん。

「予算に限りがあるものの、土地・建物どちらも妥協したくなかった」というお2人がマイホームに選んだのは、土地探しから始める注文住宅。立地は通勤に便利な都内か、自然豊かな古都・鎌倉。運よく探し始めてすぐに、鎌倉駅から徒歩圏の、自然にも文化にも恵まれたイメージ通りの土地に巡り合い購入した。

知人でセンスも信頼できるデザイナーに依頼して、家のデザインイメージや間取りも決まった。そこまではとんとん拍子だったが、デザイナーは関西在住。地元でイメージ通りの家を建ててくれる工務店探しをすることになり、これが難航した。別プランを提案されたり、大幅に予算オーバーになったりを繰り返し、施工会社が決まるまでに20社近くとやり取りをする結果となった。

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村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

村口さん夫妻とお父様、大人3人が暮らす家。玄関は土間スペースになっていて広々、主な生活の場は2階のオープンなLDK(村口さん提供の間取図をもとにSUUMOジャーナル編集部にて作成)

古い街並みになじむモダンな家に。イメージに合う建具を自ら探し出し、特注も

新居のコンセプトは古都・鎌倉のモダンな家。古い街並みの中に、コンクリートやモルタルに真鍮(しんちゅう)や鉄などの金属を組み合わせた、モダンなイメージにこだわった。階段やバルコニーの手すりや寝室ドアはオーダーの鉄製。鉄の素材にこだわっていたものの、工務店に提案されたものがコスト的に合わず、自分で新潟県燕三条の会社を探し出して特注したという。

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

LDKと寝室を仕切るドア(写真右手)も新潟で特注した鉄製。ウォークインクローゼットのガラス窓は鉄製のドアと似たデザインで、素材の木枠を黒の塗装にしてコストダウン(写真撮影/飯田照明)

キッチンもイメージに合う既製品が高かったので、コンロなどのパーツはデザイン性の高い物を選び、モルタルとステンレスの組み合わせで造作して予算内に収めた。家づくりの過程ひとつひとつに手間をかけ、毎晩のようにインターネットで情報収集し、毎週末工務店と打ち合わせを繰り返したという努力の甲斐あって、イメージ通りの建物がなんと2000万円以内という予算内で出来上がった。

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

左手がこだわりの鉄製階段の手すり。2階のLDKはモルタルで造作したオープンキッチンの開放的な空間。ワンルームのLDKのなかでキッチン部分は天井に木を用いてコーナーを区切っている。オープンな大空間のなかでコーナーごとに素材で変化をつけるテクニックは店舗設計で学んだという(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

木の天井にステンレスやモルタルの厨房機器や収納棚で素材をまとめたキッチンスペース。調味料や調理道具類も全て見せる収納だが、素材や色がそろっているのでスッキリ見える(写真撮影/飯田照明)

とはいえ、「少し無理してでも、妥協せずその時に最大限にいい物を選ぶべき」とアドバイスする村口さん。実はコストダウンのため玄関の照明に安い物を選んだものの、毎日見るたびに気になり、結局入居後早々に変更したという。「最初からいいほうを選んでいたら工事代もかからなかったのに(笑)」。

徹底的な「見せる収納」、絵になる秘訣は妥協しないモノ選びと統一感

村口家の収納の特徴は徹底した「見せる収納」。ウォークインクローゼットもキッチンの収納棚も全てオープンで、トイレットぺーパーのストックさえも見せて収納しているという。

「見せる収納の秘訣は、置きっぱなしになっていても絵になる、見せていい物を選ぶこと」という村口さん。「手鏡は北欧の木の置物のようなデザインのものに、ハンドクリームは国産でなくデザインが洒落た海外の缶入りに変えてリビングに置いています」と恭子さん。

細かなものが集まりがちなキッチンも全てオープン。整然として見えるのは、調理器具のメーカーがBALMUDAで統一されていたり、並んだ調味料ラベルを包装紙でくるんでいたり、細かい物は籠や箱や壺などの入れ物にまとめて入れるなどの工夫をしているから。使いやすく、きれいに見えるちょっとした工夫を積み重ねているのだ。

服も見せる収納。「畳むのは2人ともお手のもの。20年やっているプロですから(笑)」と恭子さん。「色や素材別にまとめるときれいに見えます」と村口さん。仕事柄服も増える一方だが、定期的に人にプレゼントしたり切ってふきんとして使ったりして総量をセーブするように心がけている。

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

ダイニングの食器棚は昭和テイスト満載の小学校の靴箱を利用。「インターネットで探したもので約8000円です」。このセンスと探究心はお見事(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

寝室の収納もオープンな見せる収納。収納棚とデンマーク製アンティーク脚立の素材を木であわせているので統一感がある(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

1階玄関脇のクロークスペースは服と靴類中心。洋服は2人で共用することも多いので個別にわけるのではなく共通で素材別色別にまとめてすっきり見せている。ハンガーから落ちないよう前ボタンは留めて掛ける、が村口家のルール(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

お気に入りの靴は土間に置いたインドのアンティークのシューズキャビネットにディスプレーして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

引越しをきっかけに仕事中心だったライフスタイルが激変したという村口夫妻。庭づくりや周辺散策などやりたいことが沢たくさんあり、休日が待ち遠しいという。「仕事の張り合いにもなって、住まいって大事だなとしみじみ」と恭子さん。ベランダに照明をつけ、お気に入りの郵便受けを設置し、庭をモダンな金属製フェンスで囲み、ベランダに置く植物を選ぶ……まだまだこだわりの住まいは進化を続けています。

●取材協力
・BEAMS

18%が自宅や近所で空き巣被害に! 夏休みの防犯対策は大丈夫?

いよいよ夏休みシーズンに入った。ところが、留守宅が多くなる夏休みは、空き巣にとっては稼ぎ時だという。ALSOKの調査によると、自宅や近所で空き巣の被害に遭ったことがある人が約18%もいることが分かった。「空き巣」は誰にとっても身近な犯罪なのだ。きちんと防犯対策はされているのだろうか?【今週の住活トピック】
「空き巣被害に関する意識調査」を発表/ALSOK約18%の人が自宅や近所の家で空き巣の被害を経験、空き巣は身近な犯罪

ALSOKの「空き巣被害に関する意識調査」で、「あなたの自宅もしくは近所の家が、空き巣に入られたことはありますか」と聞いたところ、1回以上あると回答した人が17.7%もいた。

自宅もしくは近所の家が空き巣に入られた経験の有無(単数回答)(出典/ALSOK「空き巣被害に関する意識調査」より転載)

自宅もしくは近所の家が空き巣に入られた経験の有無(単数回答)(出典/ALSOK「空き巣被害に関する意識調査」より転載)

では、空き巣被害を知った後で、空き巣対策をしたかどうかを聞いたところ、52.8%が対策をしたと回答。具体的な防犯対策としては、「鍵を交換した」、「鍵の数を増やした」、「転居した」、「防犯ガラスに変更した」、「防犯カメラを設置した」などが挙がった。

自宅もしくは近所の家が空き巣に入られた後、実施した空き巣対策(複数回答)(出典/ALSOK「空き巣被害に関する意識調査」より転載)

自宅もしくは近所の家が空き巣に入られた後、実施した空き巣対策(複数回答)(出典/ALSOK「空き巣被害に関する意識調査」より転載)

この調査では、20代~60代600人に調査を実施しているが、自宅が持ち家か借家か、一戸建てか共同住宅かは不明だ。実際にはそれによって、防犯対策の選択肢は変わってくる。

借家の場合で考えると、自分でできるのは、補助錠を付けるなどで鍵を増やすか(この調査結果にはないが、防犯フィルムをガラスに貼る対策は可能)、それでも不安ならば転居も選択肢の一つになるだろう。基本は大家に依頼して、防犯対策を強化してもらうことになる。

持ち家で一戸建ての場合なら、個人の判断で防犯対策を強化できるのだが、マンションの場合は、一般的には鍵の交換やガラスの変更は共用部分に該当するので、管理組合と相談して対応策を取ることになる。

侵入を防ぐには、鍵と窓ガラスの防犯性がまさしくカギになる

ALSOKの調査では「空き巣」が対象だが、警察庁によると、住宅に侵入して金品を盗む「侵入窃盗」には、家人の留守を狙う「空き巣」、家人の就寝中に盗みを働く「忍び込み」、家人が在宅中に侵入する「居空(いあ)き」の3種類の手口があるという。

警察庁のサイト「住まいる防犯110番」によると、侵入するのは圧倒的に『窓』から(一戸建て57.6%、3階建以下の共同住宅56.9%、4階建以上の共同住宅34.9%)で、4階建以上の共同住宅だけは『表出入口』(52.4%)が多くなっている。

侵入する手段は、「無施錠」と「ガラス破り」が大半。まさしく「鍵」と「ガラス」がカギになるようだ。

防犯対策としては、可能な限り防犯性の高い鍵や窓ガラスに交換することが挙げられるが、そもそも「無施錠」であればその効果は期待できない。
では、なぜ鍵をかけないのだろうか?

LIXILの「防犯意識と実態調査」結果では、5分以内の外出なら鍵をかけない人が約48%もいた。「すぐ戻るつもりだから」、「これまで空き巣に入られたことがないから」、「安全な地域に住んでいると思うから」などの理由で、鍵をかけずに外出するというのだ。

つまり、「油断や思い込み」が無施錠につながって、窃盗犯に狙われることになる。

窃盗犯に侵入されることで、金品が盗まれるのも困るが、家の中に侵入されたことの不安や恐怖は堪えがたいものだろう。

一方、窃盗犯もプロなので、必ず下見をして侵入しやすい家を物色すると聞く。夕方になっても照明が付かないなど留守の時間帯を調べたり、外から見て窓が開いているか確認したりして、侵入する家をあらかじめ決めているわけだ。

マンションにオートロックがあるから、防犯カメラがあるから、上層階だからと油断していると、ほかの人と一緒に入ったり、防犯カメラの死角を探したり、壁をよじ登ったり屋上から降りたりして、無施錠の窓から侵入されることもある。

かくいう筆者もエアコンが苦手なので、就寝中に窓を少し開けておくことがある。窃盗犯に狙われないように、これからは気をつけるようにしようと思う次第だ。

鍵や窓ガラスの強化に加え、音や光、カメラの目などを活用

では、具体的にどういった防犯対策が効果的だろう。

ALSOKの調査で「具体的な空き巣対策」を聞いたところ、対策をしている37.9%では、「玄関扉・勝手口の扉の鍵を二重にする」(64.9%)が最も多く、「窓ガラスに補助錠をつける」(31.5%)、「窓ガラスを強化ガラスにしたり、防犯フィルムを貼る」(22.0%)と鍵や窓ガラスの防犯性強化を実施している人が多かった。

実際に行っている扉や窓を施錠する以外の防犯対策(複数回答)(出典/ALSOK「空き巣被害に関する意識調査」より転載)

実際に行っている扉や窓を施錠する以外の防犯対策(複数回答)(出典/ALSOK「空き巣被害に関する意識調査」より転載)

ほかにも、「防犯砂利」を敷くなど音による対策や「防犯カメラ」などカメラの目による対策なども見られた。加えて、人を感知すると照明が点灯する「人感センサー照明」など光による防犯対策も効果的だろう。

8番目の「キーカバー/キーケース」に鍵を入れるという対策は、管理会社と名乗り確認のためと鍵を出させ、鍵に刻印された鍵番号から合鍵をつくって侵入した事件をきっかけにしているのだろう。特に女性の一人暮らしでは、鍵番号を知らせないような対策にも気をつけたいものだ。

最近では、TwitterやFacebookなどのSNSで「これから海外です」など長期不在の情報を得て、発信時の位置情報などから自宅を探り当てる窃盗犯もいると聞く。

夏休みシーズンに入り、長期間自宅を留守にする人も増えるだろう。留守情報をオープンにするなどは慎んで、出かける際には近所の人や管理会社に声をかけたり、郵便物や新聞の配達を止めたりといった対応も考えて、空き巣に備えるようにしてほしい。

●参考
・警察庁のサイト「住まいる防犯110番」
・LIXILの「防犯意識と実態調査」

「良い中古マンションの見分け方を教えてください」 住まいのホンネQ&A(7)

新築マンションの価格が高騰する昨今、中古マンションも住宅購入の選択肢に入れたいもの。少しでも条件のよい中古マンションを手に入れるためには――?
目利きのポイントを、さくら事務所会長の長嶋修氏に聞いてみました。
室内に入る前に、まずチェックすべきはあの場所

中古マンションを見学する際には、いきなり室内(専有部)には入らず、まずは外壁やエントランスまわり、廊下や階段などの「共用部」をじっと見つめてください。

まず外壁。昨今、マンションの外壁はタイル張りが主流ですが、ざっと見渡してみたときに、タイルがはがれおちているところ、もしくは浮いているようなところはありませんか? 

タイルがはがれたり浮いたりする原因は「経年劣化」「不良工事」「地震の影響」などさまざまですが、万一落下すればたちまち凶器となり危険です。その上、タイルはコンクリートを劣化から守る役割もありますので、そのままにしておくとコンクリートの躯体(くたい)、そのものが長持ちしません。

もしタイル落下、浮きなどの症状が見つかったら、次はマンション管理組合がその状況を把握しているか、またそれについてなんらかの対処を行う予定があるかを確認しましょう。これは、不動産仲介担当を通じてマンション住民で構成する管理組合に確認してもらってもいいですし、管理員さんがいらっしゃれば尋ねてみてもいいでしょう。

次に廊下や階段などの共用部。築年数の経過で少しずつ劣化していくのは建物の宿命ですが、一定の幅や深さがある「ひび割れ」や、一定量以上の白い粉状カルシウム成分が浮き出てくる「エフロレッセンス」(白華現象)、「雨漏りや水漏れ」など、コンクリート内部の鉄筋から茶色い錆び汁がしみだしている現象などを放置しておくと、着実に建物の寿命を縮めていくことになります。また、時間が経過するほど、その修繕コストは膨大に。このコストは住民で構成する管理組合の負担です。早く発見するに越したことはないのです。

ちなみに、今年4月からホームインスペクションの説明が義務化されましたが、この診断で分かるのはあくまで個別の室内、つまりは「専有部」についてですので注意が必要です。

外壁タイルが浮いているマンション(さくら事務所提供)

外壁タイルが浮いているマンション(さくら事務所提供)

廊下・階段などに大きなひび割れはないか(さくら事務所提供)

廊下・階段などに大きなひび割れはないか(さくら事務所提供)

清掃状態に透ける管理組合の運営姿勢

エントランスや集合ポスト、ゴミ置き場や駐車場・駐輪場などの清掃状態・整理整頓具合はどうでしょうか。こうしたところが雑然としているのは、管理員の仕事が行き届いていないからに他なりませんが、背後にはそういった状態を容認している管理組合の存在があるわけで、マンション管理についてその程度の関心しかないということです。

掲示板に数カ月も前の古い情報が貼られたまま、貼ったものが破れているなどの事象も組合運営の姿勢を推し量れます。

購入の検討に入る前には「総会や管理組合の議事録」「長期修繕計画」などの閲覧を求めましょう。こうした議事録には、そのマンションで繰り広げられているさまざまな課題が満載。例えばどの程度の管理費・修繕積立金滞納があり、それに対してどのような対応をしているか、駐車場や駐輪場、ごみ置き場、廊下、そして先述の外壁など共用部の使い方やコンディションに何か課題があるか、今後の修繕計画はどのようになっているかなど、マンションのさまざまな事情が記載されているはずです。

修繕積立金滞納のないマンションはむしろ少数派ですし、多くの人が住んでいる以上、共用部の使い方に課題が全くないマンションも少数です。要はこうした、マンションの宿命ともいえる各種の課題について、所有者で構成するマンション管理組合がどのような姿勢で、具体的にどんな取り組みをしているのか、それを知ることが大事なのです。

また「長期修繕計画」を見れば、今後の建物修繕予定が分かるのはもちろんのこと、今後の積立金負担の趨勢も分かります。多くのマンションでは、新築時に売主が策定した長期修繕計画をそのまま変更せずに使用しているケースが多く、たいていの場合、新築当初から当面の間は修繕積立金を低額に設定、5年目・10年目・15年目などに一気に数倍になったり、多額の一時金を徴収する計画となっています。規模などにもよりますが、適正な修繕積立金額は平米あたり200円程度で、70平米のマンションなら月額1万4000円程度。これより少ない場合はその分、あとで積立金の値上げか、一時金の徴収があると思ってください。

分からないことがあれば不動産仲介会社を通じて管理組合に尋ねるか、判断に迷うことがあれば第三者の専門家に見解を聞くのもいいでしょう。ただしこのような内部書類については、マンション購入者などの第三者に閲覧させることは義務ではないため、あくまで任意で閲覧をお願いすることになります。言い換えると、閲覧に応じるマンションはその情報開示姿勢だけで好感が持てるということです。自らのマンション管理運営に自信があるとか、情報開示の重要性を理解しているといった組合員が多いからこその情報開示です。

居室はつい遠慮しがち インスペクターを活用しよう

室内(専有部)については、キッチンやユニットバス・洗面化粧台などの水まわりに水漏れがないか、換気扇が正常に稼働するか、建具に傾きがないか、正常に稼働するかなど、くまなくチェックしたいもの。

しかし現実には、多くのケースで売主さんが居住中であることから、どうしても遠慮がちになり、きちんとチェックするのをためらってしまうケースが多いはずです。そんな時はホームインスペクター(住宅診断士)に依頼して、室内を一通りチェックしてもらうのがおすすめ。インスペクターによりますが、50~100項目に及ぶ調査で入居後に発生するトラブルを防ぐことができますし、リフォームや修繕に「いつごろ」「どこに」「いくらくらいのお金がかかるのか」が分かります。この際には、中古マンションに詳しいホームインスペクターを選ぶようにしてください。

瑕疵保険はあくまで「保険」にすぎない

最後に、「瑕疵保険」の考え方についても説明しておきます。

中古マンションの中には期間1年・2年・5年などの「瑕疵(かし)保険」がついているものがありますが、だからといって建物に問題がなく安心だというわけではありません。例えば築30年以上のマンションなら、そのコンディションや材質によってはそろそろ上下水道の配管や電気配線などの交換時期ですが、瑕疵保険は、たった今水漏れさえしていなければ加入できるもの。「入ってさえいれば安心」という訳ではありません。あくまでも念のため、万が一の時のためのものであると理解しておきましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

最近よく耳にする「リースバック」って、どんな仕組み?どんなメリットがある?

住んでいる家を活用して現金を得る手段として、最近よく耳にするのが「リースバック」だ。「ハウス・リースバック」というサービスを展開している(株)ハウスドゥでは、9000件を超えるほど年間の問い合わせが増加したという。いったいどんな仕組みなのだろうか?【今週の住活トピック】
「ハウス・リースバック 年間問い合わせ件数9,000件突破!」 /(株)ハウスドゥリースバックってどんなもの?

一般的に「リースバック」とは、正式には“sale and leaseback”、つまり賃貸借契約付き売却のことをいう。
ここでいうリースバックとは、自宅などの所有不動産を第三者(投資家や不動産会社など)に売却し、売却先と賃貸借契約を結んで、元の所有者がそのまま住み続けるという仕組みだ。

この仕組みが実現する前提となるのは、購入した新たな所有者となる売却先と、元の所有者がお互いを信頼したうえで契約を交わすことだ。そうでないと、新たな所有者が立ち退きを求めたために住み続けられないとか、新たな所有者が別の第三者に転売してしまうということも起こり得るからだ。

こうしたリースバックサービスを(株)ハウスドゥでは2013年10月から開始しているが、リースバックへの年間(いずれも前年7月~6月の一年間)問い合わせ件数は、2016年の3384件、2017年の6907件と増加し続け、2018年には9000件を超えたという。

同社のサービスは、同社自身が不動産を購入して、大家となってあらかじめ決めた期間で元の所有者に賃貸(リース)するという仕組みだ。後から元の所有者が再度購入することも可能にしていて、契約の際にも再購入時の買い取り額をあらかじめ明示しているという。

「ハウス・リースバック」の仕組み(株ハウスドゥ提供)

「ハウス・リースバック」の仕組み(株ハウスドゥ提供)

リースバックのメリット・デメリットは?

一般的な「リースバック」のメリットとデメリットについて考えてみよう。
〇メリット
・売却によって、まとまった現金を手にできる。
・売却後も慣れ親しんだ自宅にそのまま住み続けられる。
・広く販売活動をすることがないので、売却したことを近隣に知られない。
〇デメリット
・所有ではなく賃貸となるので、賃料を払うなどルールを守る必要がある。
・終身住み続けたり、必ず買い戻せることが保証されているわけではない。

もちろん、契約で合意した期間中ずっと賃料を払い続けられる安定した収入があること、住宅ローンが残っている場合は金融機関の抵当権がはずせるように売却代金がローンの残高を上回ることなど、利用するには一定の条件が求められる。

また、リースバックで重要な役割を果たすのが、新たな所有者だ。当然ながら新たな所有者に利益が生じないと、この仕組みは成立しない。投資額(購入額)に対して、それを超える賃料が入ったり、賃貸借契約終了後に転売して利益が出たりすることが求められる。

そのため、リースバックの場合は、「普通に売るよりは売却額は低い」とか、「普通に借りるよりは賃料は高い」とか、「買い戻し額は売却額より高い」といった可能性もある。

したがって、「だれもが簡単に住みながら現金を手にできる」方法とは思わないほうがよいだろう。

リバースモーゲージとはどう違う?どんな人に向いている?

住みながらまとまった現金を手にできる方法として「リバースモーゲージ」という手法もある。

リバースモーゲージについては筆者も何度か記事にしているが、こちらは自宅を担保にお金を借りることで現金を手にする仕組みだ。したがって、「所有権を持ち続ける」、「借りたお金を返済していく」という点が根本的に異なる。

→リバースモーゲージについては筆者の記事「住みながら自宅を現金にする方法がある!?“リバースモーゲージ”の利用件数が増加」「住み続けながら家を現金化できる“リバースモーゲージ”。老後の資産活用の選択肢になる?」を参照

またリバースモーゲージは、死亡などによって契約が終了した時に相続人が売却するなどでローンを一括返済する仕組みなので、60歳以上などシニア層に限定して自宅を現金化するために利用されることが多い。

一方、リースバックのほうは、売却してしまうので自分のものではなくなるが、再度購入することで買い戻せる可能性はある。年齢制限なども特にないことから、例えば、次のような人に向いていると考えられる。

・学区の関係など一定期間自宅に住み続ける理由はあるが、今まとまった現金が必要な人(定めた期間を過ぎたら住み替える)
・一定期間後に確実にまとまった現金が手に入るが、今は必要な現金が手元にない人(まとまった現金が入った段階で買い戻す)

覚えておいてほしいことは、住み続けられると言っても「定期借家」による賃貸借契約になるので、定めた期間が来たら賃貸借契約は終了するのが原則だ。契約終了時に定期借家を再契約することは可能なので、希望する期間だけ再契約を繰り返すことで住み続けられる場合もあるが、どこかの段階で転居する計画でいたほうがよいだろう。

自宅に住み続けながら、「売却によって現金化」するリースバックも、「担保にしてお金を借りて現金化」するリバースモーゲージも、取り扱う機関もまだ少ない。サービスの内容もそれぞれで異なるため、利用する際には契約条件などを細かく調べる必要がある。

自宅を活用して現金化する必要がある場合には、その方法を幅広く検討してほしいが、選択肢の一つとしてこうしたサービスがあることも覚えておくとよいだろう。

〇SUUMOジャーナル関連サイト
住みながら自宅を現金にする方法がある!? 「リバースモーゲージ」の利用件数が増加
住み続けながら家を現金化できる“リバースモーゲージ”。老後の資産活用の選択肢になる?

「子どもができたら自宅で仕事」を実現した、念願の一戸建て【理想をかなえたマイホーム実例#02】

マイホーム購入を通じて、理想をかなえた方々のお宅に伺い、レポートする連載企画。
今回は「結婚後、子どもができたら自宅で仕事をしたい」と考えて家を建てた、滝澤理絵(たきざわ・りえ)さんのお宅にお邪魔しました! 滝澤さんは、ママの笑顔をつなげる「ハグミーラボ」を主宰し、ハートフルマザーリング協会の代表でもあります。2児の母でもある筆者としてはその活動内容も気になるところ。早速、お邪魔します!【連載】理想をかなえた!マイホーム実例
「いつかは家を買って、○○したい」――そう考えて、住宅購入に夢をふくらませている方も多いのではないでしょうか。実際に「こんな暮らしがしたかった」という理想の暮らしを実現したご家庭にお邪魔し、マイホームを購入するまで、してからのお話をあれこれ伺います。スタジオやカフェ……さまざまな用途で使えるようにつくられたスペース

「あぁ、これはすてきなお宅ですね」
私たち取材陣がお家に入る前から思わずうっとりため息を漏らした、趣のある白壁と木枠の外観。

白い壁と茶色の屋根、青い雨戸が地中海の風景を思わせるような外観(写真撮影/片山貴博)

白い壁と茶色の屋根、青い雨戸が地中海の風景を思わせるような外観(写真撮影/片山貴博)

施主である滝澤さん夫婦の設計へのこだわりを感じさせます。滝澤さんファミリーは、理恵さんと夫、9歳と7歳の男の子、4歳になる女の子の5人で埼玉県ふじみ野市に住んでいます。自宅を撮影スタジオやヨガのレッスン会場として使っているお家だと聞き、ワクワク楽しみにしてお部屋に入ります。

――わ、長方形のスペースを2つ、ずらしてくっつけたような、少し変わった形のリビングですね

【間取図】滝澤さん宅は2階建ての注文住宅。リビングとダイニングは2つの長方形をずらしてくっつけたような形(提供いただいた間取り図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

【間取図】滝澤さん宅は2階建ての注文住宅。リビングとダイニングは2つの長方形をずらしてくっつけたような形(提供いただいた間取り図を元にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

「実は、建てるときには義理の母と同居して二世帯住宅にする話が一時出たこともありまして。このリビングで寝起きしてもらうこともできるように考えてこんな形にしたんです。結局、同居の話はなくなり、いまは手前の空間をリビングに、奥の空間をダイニングとして利用しています。ダイニングでは折り畳み式のテーブルを広げて食事をしたり、この手前のカウンターでは椅子を並べて上の子どもたちが宿題をしたり、という感じです」(滝澤さん、以下同)

カウンターキッチンは、今は子どもたちの勉強スペースになっている。白い漆喰の壁、木の柱やカウンター、柱に付いているアンティーク風の時計が、ナチュラルで優しい印象を醸し出す(写真撮影/片山貴博)

カウンターキッチンは、今は子どもたちの勉強スペースになっている。白い漆喰の壁、木の柱やカウンター、柱に付いているアンティーク風の時計が、ナチュラルで優しい印象を醸し出す(写真撮影/片山貴博)

――カウンター、入るときに気になっていました! 上にあるアンティーク風の時計も、ヨーロッパのカフェや公園にある時計のように見守ってくれている感じですてきです

「今は子どもたちのカウンターになっていますが、将来何十年後かに、ここでカフェをやれたらいいよね、と夫と話してこんな形にしたんです。少し歳をとってからでも近所に住む方々のコミュニティスペースとして、カウンターでコーヒーを出したりできるかなと。ゲストがたくさん来ても大丈夫なように、玄関の上がりもあえて半円形にして靴をいっぱい置ける形にしてるんです(笑)」

青い扉とタイルの映えるエントランス。多くの来客があっても靴がたくさん置けるように、あえて上がりの部分は半円形に(写真撮影/片山貴博)

青い扉とタイルの映えるエントランス。多くの来客があっても靴がたくさん置けるように、あえて上がりの部分は半円形に(写真撮影/片山貴博)

働きながらも、母親として「いってらっしゃい」と「おかえり」を言いたい

――いろんな用途で使えるように設計されたお家なんですね。ママ向けの教室などを開催されているとのこと、どんな風にお仕事をされているんですか?

「外でベビーヨガの教室を月に4~5回ほど開講し、スケジュールに余裕があるときに手形・足形の教室や撮影などを行っている感じですね。自宅で仕事をするときには、手前のリビング部分をさまざまな教室やインストラクター養成講座の講義場所として、奥のダイニング部分を撮影スタジオとして使っています。授乳フォトや親子フォトの撮影にいらっしゃる方が月に15組くらいいらっしゃるんですよ」

取材当日は親子フォト撮影の日。取材の間も3組ほどの親子が訪れていた(写真撮影/片山貴博)

取材当日は親子フォト撮影の日。取材の間も3組ほどの親子が訪れていた(写真撮影/片山貴博)

――多くのゲストが出入りすることが、滝澤さんの暮らしのベースにあるんですね。前からこんな風に自宅で働くことを考えていたんですか?

「専門学校を卒業してからの12年間は、会社員として働いていました。社長秘書やマーケティングセールスの仕事に就いて、すごく忙しかったんです。それはそれでとても充実感がありましたが、結婚してからは『お客さんを笑顔にしたい』『自分の裁量で仕事がしたい』という想いが強くなってきて。最初は子ども向けの英語教室を始めるために資格を取りました。その後に3人の子どもたちの出産を経て、ベビーヨガをやりたい!と」

――滝澤さんご自身がママになって、子どもたちとの生活としてイメージされていたこともきっとあるんでしょうね

「私の母はすごく仕事の忙しい人で、夜中も出ることが多く、子どものころは寂しい思いもしました。それだけに、まずは母親としての役目を優先したいという気持ちや、『いってらっしゃい』と『おかえり』は言える母親でいたいという気持ちは強いかもしれません」

じっくり情報収集に時間をかけ、取り入れたいアイデアを詰め込む

――お住まいはお子さんが生まれてから建てたんですか?

「ええ、元々は数駅離れたところに中古マンションを買って住んでいたんですが、2人目が生まれると手狭になってしまい……。夫の母がふじみ野市内で近いこともあって、ゆくゆくはこの辺りに家を購入する前提で近くの賃貸アパートに住んだんです。2年ほどたったころにこの土地が空いたことが分かって、すぐに購入しました。実は、前にも検討した物件があったのですが、それはタッチの差で買えなかったんです。その経験もあって」

――物件を検討したり、どんな家にしようかと考える時間も長かったんでしょうか?

「はい、いろんな注文住宅を見に行ったり、本やネットでも情報収集をしました。いろいろ想像をふくらませながら施工事例を見ると、取り入れたいアイデアや自分ならこうするな、という考えも浮かんできました。今の家にはそれらのエッセンスが詰まっていると思います」

――具体的にどんなところにその知識を反映されたのか、ぜひ伺いたいです!

「例えば、トイレや各部屋のドアの上はガラス戸にしたり、開閉ができる窓にしています。トイレのドアの上をガラス戸にすると、家族の誰かがトイレを使用しているとひと目で分かって便利なんです(笑)。部屋のドアの上が空いていると、中の音が聞こえるので、それぞれが部屋に入っても何となく気配を感じられていいんですよ」

リビングから玄関側を。ここにも入口の左上にステンドグラスの窓があり、光を取り入れている(写真撮影/片山貴博)

リビングから玄関側を。ここにも入口の左上にステンドグラスの窓があり、光を取り入れている(写真撮影/片山貴博)

自分の性格を反映して、ずっと快適に住み続けられる家に

――ほかにも工夫されたポイントがたくさんありそうなので、ぜひ聞かせてください!

「例えば収納ですが、キッチンのすぐ横にパントリーを設けて、家具を据え付けてもらいました。お願いした工務店さんが造作家具をつくってくれるところで、その実績を見てお願いしようと決めたんです。パントリーの棚もキッチンのシンク下の棚も、ゴミ箱などが入れられるようにあえて空きスペースにしています。隠れるスペースがあると、どんどん物を仕舞い込む性格なので、収納は扉で閉じないようにしました」

――本当ですね。この下を空けるテクニックが洗面台にも活用されているのが分かります!

「洗面台は動線を意識して、パントリーを抜ける形でキッチンと一直線につながっています。実は洗濯機は今、2階に置いているんですが、洗濯したらすぐにベランダに干せる位置にあります。歳をとって2階に上がるのがきつくなったら、1階に洗濯機を置けるように蛇口や排水溝だけは付けてあるんですよ」

2階の洗濯機置き場。洗濯が終わればすぐにベランダに干せる動線。ベランダは屋根付きなので、雨の日でも洗濯物が干せる(写真撮影/片山貴博)

2階の洗濯機置き場。洗濯が終わればすぐにベランダに干せる動線。ベランダは屋根付きなので、雨の日でも洗濯物が干せる(写真撮影/片山貴博)

――すごい! リビングのカウンターの話といい、これから何十年も先にある老後のことも考えて設計されたんですね

「ふふふ。実はそういう意味では、子ども部屋も、将来、子どもたちが家から出ていったら間の扉を開けて教室として使えるようにしてるんですよ(笑)」

小学生男の子2人が過ごす子ども部屋。ベッドの脇には白い扉があり、ここを開くと隣の部屋とつながって広いスペースに(写真撮影/片山貴博)

小学生男の子2人が過ごす子ども部屋。ベッドの脇には白い扉があり、ここを開くと隣の部屋とつながって広いスペースに(写真撮影/片山貴博)

細部にこだわり、たくさんの工夫が凝らされた滝澤さんの住まいは、これからの暮らしも想像・創造できる場所になっていました。そこには家族や人々とかかわり合い、これからのライフステージに合わせて変化しながら「ここにずっと住み続けたい」という温かい気持ちがあふれています。
仕事をしながら子どもを育てること、楽しい老後を想像すること、住まいと暮らし方について考える楽しさをおすそ分けしてもらった取材でした。

●取材協力
・ハートフルマザーリング協会

わが家にあった予算・ローン[1] 両親と住む二世帯住宅を建てたいが、一度融資を断られ…

住宅の購入は多くの人にとって一生で最も高額な買い物になります。できるだけ借金はしたくないと思っても、住宅ローンを利用せずに購入できる人は、そう多くないでしょう。特に初めて住宅購入を検討している人は、自分たちで本当に何千万円も返済ができるのか、無理のない返済計画はどのように立てたら良いのか、不安になってしまうかもしれません。そこで、それぞれのご家庭の収入の状況を見ながら「身の丈に合った」借入金額や返済プラン、さらには金利を下げられる制度の活用などを「ホームローンドクター」の淡河範明(おごう・のりあき)先生に教えてもらいます。
淡河先生は銀行や証券会社などに勤務した後、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立しました。住宅ローンを検討中の人に対し、理想の住まい、そして住宅ローンの負担を減らすための提案を行っています。

今回のご相談は横浜市にお住まいの夫婦、そして妻の両親の4人です。
Aさんファミリーとご両親が住むための二世帯住宅を建てようと、夫のAさんが住宅ローンを申し込んだところ、一度審査に落ちてしまいました。お子さんも2人いるAさんたちは、果たして住宅ローンを借りられるのでしょうか? どんな考え方でローンを組めば、その後の生活を乗り切っていけるのでしょうか?

【連載】教えて、ホームローンドクター! わが家にあった予算と、借り方・返し方
住宅購入に悩みはつきませんが、「予算」は最も大切なポイント。年収の何倍までとか、頭金はこれくらい必要などいろいろな情報があふれていますが、人によって、物件によって、タイミングによって変わるため、実際にはみんなに通用するセオリーはありません。いったい「わたし」「わが家」にとってはいくらの物件を買えばいいのか? ローンはどう組めばいいのか? そんな疑問に「ホームローンドクター」である淡河範明(おごう・のりあき)先生がビシッとお答えいたします。(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

二世帯住宅を建てたいがローン審査に落ちた! そのときの対策は

淡河範明先生(以下、先生):本日は二世帯住宅用のローンが組めなかったので、なんとかする方法はないかとのご相談ですね。ご両親の土地に二世帯住宅を建てるとか。

妻:はい、私の両親が横浜市内に土地を持っているので、せっかくだからそこに家を建てて親子で住もうという話になりまして。

夫:見積もりをとったら建築費が4000万円だといわれてびっくり! 私の収入だけではローンが組めなかったので、妻の両親が頭金として500万円を出してくれることになったのですが、それでも3500万円必要なんですよね……。

先生:ご両親からの贈与は一定金額まで非課税ですから、うれしいお話ですね。ただ、諸経費まで考えると家の建築費総額は、新築でも5%は余分に必要です。つまり住宅資金として4200万円は必要ですよ。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

夫:ええ、それを後から知ってショックでしたが、貯金からねん出するしかないなと。

父:そこまで彼と話し合って、二世代ローンを組めないかという話になりました。私も再雇用ですが定収入がありますし。

妻:父が退職するころには子どもも二人とも小学生になっているので、万一のときには私が働く時間を増やして父の分まで頑張るつもりです。

先生:いいですね。二世代ローンは資金提供の方法としても有効ですし、相続においても有利に働きますから。

先生:ではAさん夫婦の今の家賃、住居費はどの程度でしょうか?

夫:家賃は12.5万円ですね。

先生:駐車場などは借りていませんか?

妻:駐車場付きの物件なので、家賃に含まれています。

先生:後はなにかこれから先に大きな出費の予定はありませんか? 例えば教育費などはどうされていますか?

夫:できればなんですけど、子どもは中学から私立に行かせたいな……と。

先生:そうなると教育資金も貯めておかなければいけませんね。

妻:はい、そのために私の収入の大半は、子どもたちの将来の学費として貯めています。

先生:ではその点も考慮して検討していきましょう。

長期優良住宅を建てるつもりのAさんには【フラット35】

先生:まずどの住宅ローンにするかですが【フラット35】を借りましょう。【フラット35】は、信用情報よりも住宅の質が重視されます。Aさんは「長期優良住宅(※)」を建てるとのことなので金利の優遇も受けられますからね。

※長期優良住宅:長期にわたって良好な状態で使用するための方策が取られた優良な住宅のこと。建築や維持保全の計画を作成して所管行政庁に申請して認定を受けることで、税金の控除などが受けられる

【フラット35】は融資額が購入金額の90%を上回ってしまうと金利がアップするため、借入金額は4200万円の90%以内、つまり3780万円以内にしておきます。

【フラット35】取扱金融機関が提供する金利の範囲と最も多い金利

【フラット35】取扱金融機関が提供する金利の範囲と最も多い金利

先生:では次に毎月の返済額を見てみましょう。【フラット35】の金利ですが、2018年6月時点の金利が1.37%です。

父:金融機関の変動金利の住宅ローンだともっと金利が安いようなので、そちらのほうがいいのではないですか?

先生:変動金利には金利上昇リスクがあります。お子さんを私立の学校に入れるのであれば、安定して支出計画が立てられる方がいいでしょう。【フラット35】には一定期間金利が安くなる優遇があるので、これをできるだけ活用しましょう。

夫:どのくらい優遇されるんですか?

先生:【フラット35】では省エネ住宅(太陽光発電が可能など、エネルギー消費が少ない住宅)やバリアフリー対応住宅、長期優良住宅を建てる人のために【フラット35】Sという制度があります。これを利用すれば10年間金利が-0.25%になります。

妻:わー! お得ですね。

先生:まだ終わりではありません。さらに横浜市は「【フラット35】 子育て支援型・地域活性化型」制度(※)を利用できるので、ローン返済の当初5年間は金利がさらに-0.25%され、-0.5%の0.87%になります。(2018年6月30日時点で住宅が完成している場合の金利)

※【フラット35】 子育て支援型・地域活性化型:子育て支援や地域活性化について積極的な取り組みを行う地方公共団体と住宅金融支援機構が連携し、【フラット35】の借入金利を一定期間引き下げる制度

【フラット35】Sと自治体の優遇制度を利用した場合の金利

【フラット35】Sと自治体の優遇制度を利用した場合の金利

夫:お~! そんなに変わるんですね。

先生:住宅ローンの金利は残高に比例するので、残高が多い時期の金利が低ければ負担も減ります。11年目から金利がアップしますが、そのころには子育ての負担が減ってより働けるようになっているのでは? そうすると収入も今よりも上がっているかもしれません。

毎月の返済額は以下のようになりますね。

※元利均等方式とは、毎回の返済額が返済中一定額から変動しない方式のこと Aさんファミリーの返済額月額試算

※元利均等方式とは、毎回の返済額が返済中一定額から変動しない方式のこと
Aさんファミリーの返済額月額試算

妻:今の家賃よりも全然安い! これなら貯金ももっとできるし、家計も楽になるかも。

先生:住宅を購入してしまえば、実は家計における住宅費の支出は下げられます。ただ、私の提案はこれで終わりではないのです。

4人:えっ?

住宅ローン控除を最大限活用するなら、自己資金はとっておく!

先生:住宅ローン控除を利用します。住宅ローン控除は10年間、住宅ローンの残高の1%が所得税から還元される制度で、最大で10年間、毎年40万円が所得税から還ってくるのです。さらに長期優良住宅なら10年間で最大500万円まで控除が受けられます。住宅ローン控除をフルに活用するなら、住宅ローンはギリギリまで借りてもいいのです。もちろんそもそも所得税を40万円以上払っていないと戻るものもないですけど。

夫:いやあ、そうは言っても借りるお金は少ないほうがいいでしょう?

先生:住宅ローン控除は住宅ローンの残高で還元額が決まります。住宅ローンで3500万円の融資を受ければ35万円が還ってきますが、3700万円の融資なら、37万円が還ってくるんですよ。これが10年間積み重なれば20万円近い差になります。

夫:でもその分融資の金額が多くなるので、毎月の返済やそれに伴う金利も増えますよね?

先生:確かにその考え方も間違いではありません。しかし3700万円の融資を受ければ、頭金の200万円は手元には残るはずです。その200万円を繰り上げ返済で有効活用するのです。

妻:どういうことですか?

先生:はい、今回のプランだと11年目から金利が1.37%になり、住宅ローン控除が受けられなくなるので、大幅に住居費の負担が増えます。そこで11年目に入る前に貯めていた200万円を使って繰り上げ返済を行えば、11年目からの負担を軽減できます。

借り入れた金額を示したシミュレーション表をご覧ください。

ホームローンドクター淡河先生が作成したAさんファミリーの住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの借入金ごとに、金利総支払額がどう変化するかを試算

ホームローンドクター淡河先生が作成したAさんファミリーの住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの借入金ごとに、金利総支払額がどう変化するかを試算

夫:えっ?3700万円を借りたほうが金利の支払額は少なくなるんですか?

先生:はい、頭金を多く用意するよりも、借入金を増やして住宅ローン減税を活用するほうが、最終的な支払い額は少なくなるという逆転現象がここでは発生しています。借入金を増やすことをリスクと考える方は多いのですが、実は逆に頭金を多く支払うほうが出費が増えることもあるのです。
今回のシミュレーションでは、金利支払額にそれほど大きな差は出ていませんが、住宅ローン減税の効果は所得によっても異なります。そのため、いくら借りればいいのかを検討するうえでは、数パターンのシミュレーションを行って、具体的な金額を出してみることが大切です。

妻父:なるほど。ただ、それまで200万円に手を付けないでおくのが大変そうだ。できるか? 二人とも。

夫:そこはもう信じてください! やります!

先生:この返済方針のポイントは繰り上げ返済ですから、いかに貯蓄しておくかがポイントです。もし使ってしまう可能性があるなら、定期預金などにして簡単に引き出せない形にしておくのもいいでしょう。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

「自由に使えるお金(フリーキャッシュフロー)」を収入の5%確保しよう

夫:これでなんとか家も建てられそうです。ありがとうございました!

先生:いえ、実はまだ重要なことが残っています。そもそも、今回の借入額で、月々の返済額で大丈夫なのか? それを考えるうえで「フリーキャッシュフロー」が大事になってくるので、最後にお伝えします。

妻:フリーキャッシュフローって、なんですか?

先生:生活の質を高めるために自由に使えるお金のことです。現在の家計の中の「自由に使えるお金」は、いくらぐらいでしょうか?

妻:月によって多少変わりますけど、だいたい3万円ぐらいですかね……。

先生:フリーキャッシュフローは最低でも年収の5%は欲しいです。Aさん夫妻の場合は年収620万円だから、5%は31万円、1カ月当たり2.58万円。現在の3万円はそれを上回っているのでOKですね。教育費はどの程度貯まっていますか?

妻:子ども2人、それぞれに300万円ずつ貯めています。

先生:それは素晴らしいですね。でも中学から私立に行くつもりがあるなら、引き続き頑張らないといけませんね。
それでは、今の情報をもとに家を購入した後のフリーキャッシュフローの計算をしてみましょう。

(イラスト/松元まり子)

(イラスト/松元まり子)

先生:毎月の余剰資金の3万円と家賃の12.5万円、そして積み立てている教育費から住宅ローンの返済額と固定資産税、家の修繕費、さらに今後の教育積立金を引いてください。

夫:えっと……固定資産税や修繕費ってどれくらいになるんですかね?

先生:固定資産税は横浜市に新築を建てるのであれば毎月1万円ほど、積立修繕費も後々の外壁や屋根の塗装、その他設備の交換を考えれば1万5000円ほど必要ですね。

夫:え!けっこう必要なんですね。家賃よりローンの返済額の方が安くなると思っていましたが、あまり余裕ないな……。教育費としては毎月3万円貯めていますね。今後も同じペースです。

先生:
3万円(余剰資金)+12.5万円(家賃)+3万円(教育費)-10万円(住宅ローン)-1万円(固定資産税)-1.5万円(積立修繕費)-3万円(教育費)=3万円ですね。

フリーキャッシュフロー
3万円×12カ月=36万円÷年収620万円×100=約5.8%。

年収の5%以上をフリーキャッシュフローとして貯蓄できているのであれば、最低限必要な貯蓄額には達していると思います。

夫:よかったー!

先生:将来的には10%以上の額になるようにしていただければと思います。フリーキャッシュフローは生活の余裕として充てられるお金でもありますし、また老後の生活資金としての備えにもなります。

夫・妻:はい、なんとかローンが借りられて、将来の見通しも立ちそうです。今日はありがとうございました!

夫1人で融資がおりなければ、妻の父と二世代でローンを組む、【フラット35】の優遇制度を最大限活用する、そして住宅ローン控除を活用するために、あえて融資額を増やすことで総合的な返済が減るということなど、知っているのと知らないのでは大きな出費の違いになります。また、そもそも自分たちが組む予算はこれでいいのか? 借りた後余裕がなくなって生活に困るということにならないのか? そんなことをチェックするためにも、「月々の自由に使えるお金」を確保したうえで、住宅ローンを組むことが大切になってきます。

s-淡河 範明淡河 範明 ホームローンドクター
日本興業銀行、エル・ピー・エル日本証券を経て、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立。利用者の立場にたち、住宅購入時の資金計画、住宅ローンの選び方を新しい方法で提案している。著書に『住宅ローンを賢く借りて無理なく返す32の方法』『住宅ローン借り換えマジック』などがある。

THE TOKYO TOWERS “100年続くマンション”を目指す【管理はつなぐ[10]】

マンション開発が活発な中央区勝どきエリアで、2008年に完成したTHE TOKYO TOWERS。1300戸を超える超高層タワーが2棟あり、スポーツ施設が入った別棟をはじめ、マンション内にはカフェやエステ、ライブラリーなど、実に多彩な共用施設が設置されている。【住民経営マンション・管理はつなぐ】
高い資産性を守って次世代に渡したい。都心住宅に暮らす人々の誠実な管理に学ぶ。『都心に住む』の人気連載からの転載記事です住み心地を向上させるには、ビジョンが必要

「現在、管理組合では、THE TOKYO TOWERSが目指すべきビジョンについて検討中です。入居者の総意として言語化された方針があれば、誰が理事になっても一定の価値観のもとで意思決定できると考えました」(理事長の友枝敦氏)

そこで友枝氏は、理事会内に「ビジョン検討委員会」を新設。100年続くマンションを目指そうという想いから、この委員会を“100マン会”と呼んでいる。現在は、協議に入る前の準備段階として、有識者を講師に招いたパネル検討会などを開催。入居者にビジョン策定の意義や必要性を認知してもらおうと活動している。

シータワーの49・50階にある「スカイラウンジ」

シータワーの49・50階にある「スカイラウンジ」


ビジョン策定に向けた活動の一環として有識者を招聘して開催されたパネル検討会(写真撮影/中垣美沙)

ビジョン策定に向けた活動の一環として有識者を招聘して開催されたパネル検討会(写真撮影/中垣美沙)

管理組合と自治会が連携 コミュニティフェスティバルを共催

なお、建物の維持管理を担う管理組合のほかに、コミュニティ活動推進の担い手として自治会がある。自治会では、地元にある住吉神社の例大祭参加や入居者のクラブ活動支援など、さまざまな取り組みを精力的に展開中だ。「中央区の地域コミュニティとコラボしたドラゴンボートの体験会や、クルーザーをチャーターした東京湾クルーズの開催など、クラブの活動内容は多種多様です。

また、隣接した晴海エリアでは2020年東京五輪に向けて選手村の整備が進んでいるので、大会中の警備のあり方について、地元の警察や消防と協議を進めているところです」(自治会長・高崎泰典氏)

地域と協力しつつ、マンション周辺の安全確保にも取り組んでいるわけだ。また、管理組合と自治会は、連携も強化している。一例が、入居者や周辺住民の交流の場として自治会が主催している恒例行事「コミュニティフェスティバル」だ。管理組合は昨年まで後援だったが、今年は共催になったことで、プログラムの内容や種類を拡充でき、ボランティア留学生の協力を得ることもできたという。

「THE TOKYO TOWERSの資産価値にソーシャルキャピタルも組み込むことが、自治会と管理組合で共有している目標です。その結果、安心感や暮らし心地を高めていければ素敵ですよね」(友枝氏)

自治会主催の「コミュニティフェスティバル」。さまざまなステージイベントのほか、屋台の出店などもあって毎年活況

自治会主催の「コミュニティフェスティバル」。さまざまなステージイベントのほか、屋台の出店などもあって毎年活況


シータワー3 階にある「ライブラリー」。隣接して、個人ブースが並ぶ「スタディルーム」もある

シータワー3 階にある「ライブラリー」。隣接して、個人ブースが並ぶ「スタディルーム」もある


敷地内の別棟「シーサイドアネックス」には、フィットネスジムやプール、ジャグジーなどが入っている(写真撮影/中垣美沙)

敷地内の別棟「シーサイドアネックス」には、フィットネスジムやプール、ジャグジーなどが入っている(写真撮影/中垣美沙)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授 大月敏雄氏が語る建築家の視点
マンション全体で目指すべき方向性を定め、そこに沿ってコミュニティ形成やハードの維持管理にあたるという考え方は、実に素晴らしい。また、理事長・自治会長共に中央区主催のコミュニティ養成塾に参加なさったそうだが、コミュニティのあり方について自発的に学ぼうという積極性には敬服する。長期的なビジョンを定めて管理にあたるという例は珍しいので、ぜひ実現させていただきたい。
なお、共用施設が多彩に提供されているのは大規模マンションの魅力のひとつだが、各施設をいかに柔軟に運営していけるかは、将来的な課題になると思われる。運用見直しに着手する条件やタイミングなどを、予め設定しておくのもいいかもしれない。マンション内のロビーでも水辺を身近に感じられる(写真撮影/中垣美沙)

マンション内のロビーでも水辺を身近に感じられる(写真撮影/中垣美沙)

理事会は17名で構成。その中に4つのチームを設置し、理事はいずれかに所属する。必要に応じて専門委員会も組織している。コミュニティ活動推進を担う自治会組織は、取り組みによって理事会内のチームや専門委員会と連携

理事会は17名で構成。その中に4つのチームを設置し、理事はいずれかに所属する。必要に応じて専門委員会も組織している。コミュニティ活動推進を担う自治会組織は、取り組みによって理事会内のチームや専門委員会と連携

※この記事は『都心に住む』2018年2月号(2017年12月26日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

物件DATA
所在地:中央区勝どき/2008年完成/地下2 階・地上58階建て(2棟とも)/総戸数2794戸(うち賃貸部813戸)/分譲時売主:オリックス不動産、東急不動産、住友商事、THE TOKYO TOWERS特定目的会社/設計:住友商事/施工:前田建設工業・大成建設/取材協力:THE TOKYO TOWERS管理組合・自治会、住商建物

THE TOKYO TOWERS “100年続くマンション”を目指す【管理はつなぐ[10]】

マンション開発が活発な中央区勝どきエリアで、2008年に完成したTHE TOKYO TOWERS。1300戸を超える超高層タワーが2棟あり、スポーツ施設が入った別棟をはじめ、マンション内にはカフェやエステ、ライブラリーなど、実に多彩な共用施設が設置されている。【住民経営マンション・管理はつなぐ】
高い資産性を守って次世代に渡したい。都心住宅に暮らす人々の誠実な管理に学ぶ。『都心に住む』の人気連載からの転載記事です住み心地を向上させるには、ビジョンが必要

「現在、管理組合では、THE TOKYO TOWERSが目指すべきビジョンについて検討中です。入居者の総意として言語化された方針があれば、誰が理事になっても一定の価値観のもとで意思決定できると考えました」(理事長の友枝敦氏)

そこで友枝氏は、理事会内に「ビジョン検討委員会」を新設。100年続くマンションを目指そうという想いから、この委員会を“100マン会”と呼んでいる。現在は、協議に入る前の準備段階として、有識者を講師に招いたパネル検討会などを開催。入居者にビジョン策定の意義や必要性を認知してもらおうと活動している。

シータワーの49・50階にある「スカイラウンジ」

シータワーの49・50階にある「スカイラウンジ」


ビジョン策定に向けた活動の一環として有識者を招聘して開催されたパネル検討会(写真撮影/中垣美沙)

ビジョン策定に向けた活動の一環として有識者を招聘して開催されたパネル検討会(写真撮影/中垣美沙)

管理組合と自治会が連携 コミュニティフェスティバルを共催

なお、建物の維持管理を担う管理組合のほかに、コミュニティ活動推進の担い手として自治会がある。自治会では、地元にある住吉神社の例大祭参加や入居者のクラブ活動支援など、さまざまな取り組みを精力的に展開中だ。「中央区の地域コミュニティとコラボしたドラゴンボートの体験会や、クルーザーをチャーターした東京湾クルーズの開催など、クラブの活動内容は多種多様です。

また、隣接した晴海エリアでは2020年東京五輪に向けて選手村の整備が進んでいるので、大会中の警備のあり方について、地元の警察や消防と協議を進めているところです」(自治会長・高崎泰典氏)

地域と協力しつつ、マンション周辺の安全確保にも取り組んでいるわけだ。また、管理組合と自治会は、連携も強化している。一例が、入居者や周辺住民の交流の場として自治会が主催している恒例行事「コミュニティフェスティバル」だ。管理組合は昨年まで後援だったが、今年は共催になったことで、プログラムの内容や種類を拡充でき、ボランティア留学生の協力を得ることもできたという。

「THE TOKYO TOWERSの資産価値にソーシャルキャピタルも組み込むことが、自治会と管理組合で共有している目標です。その結果、安心感や暮らし心地を高めていければ素敵ですよね」(友枝氏)

自治会主催の「コミュニティフェスティバル」。さまざまなステージイベントのほか、屋台の出店などもあって毎年活況

自治会主催の「コミュニティフェスティバル」。さまざまなステージイベントのほか、屋台の出店などもあって毎年活況


シータワー3 階にある「ライブラリー」。隣接して、個人ブースが並ぶ「スタディルーム」もある

シータワー3 階にある「ライブラリー」。隣接して、個人ブースが並ぶ「スタディルーム」もある


敷地内の別棟「シーサイドアネックス」には、フィットネスジムやプール、ジャグジーなどが入っている(写真撮影/中垣美沙)

敷地内の別棟「シーサイドアネックス」には、フィットネスジムやプール、ジャグジーなどが入っている(写真撮影/中垣美沙)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授 大月敏雄氏が語る建築家の視点
マンション全体で目指すべき方向性を定め、そこに沿ってコミュニティ形成やハードの維持管理にあたるという考え方は、実に素晴らしい。また、理事長・自治会長共に中央区主催のコミュニティ養成塾に参加なさったそうだが、コミュニティのあり方について自発的に学ぼうという積極性には敬服する。長期的なビジョンを定めて管理にあたるという例は珍しいので、ぜひ実現させていただきたい。
なお、共用施設が多彩に提供されているのは大規模マンションの魅力のひとつだが、各施設をいかに柔軟に運営していけるかは、将来的な課題になると思われる。運用見直しに着手する条件やタイミングなどを、予め設定しておくのもいいかもしれない。マンション内のロビーでも水辺を身近に感じられる(写真撮影/中垣美沙)

マンション内のロビーでも水辺を身近に感じられる(写真撮影/中垣美沙)

理事会は17名で構成。その中に4つのチームを設置し、理事はいずれかに所属する。必要に応じて専門委員会も組織している。コミュニティ活動推進を担う自治会組織は、取り組みによって理事会内のチームや専門委員会と連携

理事会は17名で構成。その中に4つのチームを設置し、理事はいずれかに所属する。必要に応じて専門委員会も組織している。コミュニティ活動推進を担う自治会組織は、取り組みによって理事会内のチームや専門委員会と連携

※この記事は『都心に住む』2018年2月号(2017年12月26日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

物件DATA
所在地:中央区勝どき/2008年完成/地下2 階・地上58階建て(2棟とも)/総戸数2794戸(うち賃貸部813戸)/分譲時売主:オリックス不動産、東急不動産、住友商事、THE TOKYO TOWERS特定目的会社/設計:住友商事/施工:前田建設工業・大成建設/取材協力:THE TOKYO TOWERS管理組合・自治会、住商建物

「ワークライフバランスを支える住まい」が、今後の住宅のキーワードになる!?

公表された「平成29年度国土交通白書」によると、20~30代の子育て世代を中心に「ワークライフバランス」を支える住まいに対するニーズが高いことが分かった。今後の住まい選びのキーワードになりそうな「ワークライフバランスを支える住まい」とは、どういったものだろうか、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「平成29年度国土交通白書」を公表/国土交通省ワークライフバランスとは、仕事と生活の調和?

「ワークライフバランス」とは何か?

これは政府の働き方改革の中で使われるようになった言葉で、直訳すると「仕事と生活の調和」ということになる。

そこで筆者は、内閣府の「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を見てみたが、正直言って概念的すぎてよく分からなかった。

「仕事と、子育てや介護といった生活との両立が難しい」「安定した仕事に就けない、一方で、長時間労働を強いられる」といった現実があり、多様な働き方や生き方が可能な社会にする必要がある。ということが語られているが、労働環境についてが主で、住まいや地域に関する具体的な言及はなかった。

職育近接、職住近接、三世代同居などがキーワード

そこで、白書ではどういった調査結果を基に、「ワークライフバランスを支える住まい」というキーワードを導き出したのか、見ていくことにしたい。

まず、ワークライフバランスについて、白書の第2章「第1節働き方に対する意識と求められるすがた」を見ていこう。
「働く上で重視すること」を聞いた調査結果(図表2-1-5)によると、20代~70代までの年代によりバラツキはあるものの「給与・賃金」や「仕事のやりがい」が多数を占める。ただし、20代・30代に注目すると「ワークライフバランス(子育て・介護などとの両立)」の重視度が高くなる。

「働けるうちはできるだけ働きたい」というニーズが高いこともあって、20代・30代には、長く仕事を続けながらも、家事・育児などのための時間を確保できる「ワークライフバランス」の実現へのニーズがある。このことから、白書では「在宅勤務」などの勤務場所の多様化や、「フレックスタイム制」などの労働時間の多様化といった、場所や時間に制約の少ない働き方に対する取り組みが求められていると指摘している。

働く上で重視すること(年代別)(出典/「平成29年度国土交通白書」)

働く上で重視すること(年代別)(出典/「平成29年度国土交通白書」)

次に、白書の第2章「第3節住まい方に対する意識と求められるすがた」を見ると、各世代に「今後求められる住まい方」を聞いた調査結果(図表2-3-4)がある。最も多い回答は、全世代で「介護が必要になっても年金の範囲内で安心して暮らし続けられる住まいの整備」で、次いで年代を問わず「親世帯、子ども世帯との同居や近居の推進」が多いという結果だった。

一方で、20代・30代の若年層に注目してみると、「職場内や近隣への子育て支援施設整備による職育近接の推進」という回答がともに多く、20代では「田舎暮らしなど地方移住の推進」も多いという結果だった。

今後求められる住まい方(年代別)(出典/「平成29年度国土交通白書」)

今後求められる住まい方(年代別)(出典/「平成29年度国土交通白書」)

こうした結果を受けて、国土交通省では、「職育近接、職住近接、三世代同居の推進等、ワークライフバランスを支える住まい方の支援が求められる」と見ているわけだ。

働き方が変われば住まい選びの基準も変わる?

図表2-1-5の「働く上で重視すること」の調査結果を見ると、「勤務地・勤務場所までの距離」の重視度は必ずしも高いわけではない。一方、図表2-3-4の「今後求められる住まい方」の結果では、20代・30代が「職場内や近隣への子育て支援施設整備による職育近接」を重視している。

つまり、自宅と職場の距離の近さよりも、例えば企業内保育所や駅前保育所のような通勤上で立ち寄れる、あるいは自宅に近いといった子育て支援施設を求めていることが分かる。

また、「親世帯との同居や近居」を望むのは、20代・30代は子育てのサポートを親世帯に期待して、50代・60代では親の介護を視野に、70代では自身の介護を考えているからだろう。

となると、子育ての時間が欲しい20代・30代、仕事の責任が重くなる40代、親の介護が視野に入る50代以降などではワークライフバランスの考え方も変わってくるわけで、「状況に応じて住み替えしやすい住宅市場」ということも求められているのだろう。

白書では「新たな兆し」の一例として「ワーケーション」を挙げている。国内外のリゾート地や帰省先など休暇中の旅先で仕事をする“テレワーク”のことだという。

今後働き方改革が進み、子どものお迎えの前後に自宅で在宅勤務をしたり、旅先の田舎などでも勤務できるようになると、住まい選びの基準もどんどん変わっていくことだろう。

BEAMS流インテリア[2] 世界各国のアンティーク家具・民芸品がつくりだす極上おもてなし空間

一生ものの家具に出会うまでは妥協なし。捨てるのが嫌なので、気に入ったものに巡り合うまではたとえ不自由でも間に合わせは買わない、と断言するスタイリングディレクターの和田健二郎(わだ・けんじろう)さん。お眼鏡にかなった世界各国の民芸品、家具、ファブリックなどが創り出す独自なミックステイストは、BEAMSスタッフ間でも羨望の的。とびきりのセンスと、居心地の良さの秘訣を探ってみましょう。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のバイヤー、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。オープンなLDK空間とプライベート空間を分けた最上階のメゾネット

和田さんが住むのは、世田谷の住宅街を見渡す低層マンションの最上階メゾネット。購入してリノベーションしたのは約8年前。結婚して借りた下北沢の1LDKのメゾネットにも8年住んでいた。「上下階で空間を分ける暮らしが気に入っていたので、中古マンションを探す際もメゾネットにこだわりました」(和田さん・以下同)。

元々住んでいた下北沢の近くで探し始めたものの、人気の沿線、かつメゾネットは数が少ないため、物件探しは長期戦に。半年過ぎて諦めて別の中古マンションに決めかけていたころ、東南角部屋の100平米を超す広さのこの部屋に巡り合った。「最上階で窓も多く、視界のヌケ感や空の広さが理想通り」と即決。当時築30年だったマンションを、同じ鹿児島出身のLAND SCAPE PRODUCTSさんに依頼してリノベーションすることにした。

コンセプトは「人が集まりやすい家」。玄関を入ったフロアはLDKメインのオープンな空間にするため、2つの部屋をひと続きにして広々と。LDKの一部に小上がりをつくって変化をつける、キッチンコーナーもオープンに、壁は漆喰(しっくい)、など妻と相談しながら空間イメージや素材もスケッチにして具体的に提示した。

和田さんのお住まいはマンションの最上階、4階と5階のメゾネット。人が集まりやすいよう玄関を入ったフロアをパブリックスペースに、階段をあがった上階を寝室や子ども部屋などのプライベートスペースに(和田さん提供資料を基にSUUMOジャーナルにて作成、上階省略)

和田さんのお住まいはマンションの最上階、4階と5階のメゾネット。人が集まりやすいよう玄関を入ったフロアをパブリックスペースに、階段をあがった上階を寝室や子ども部屋などのプライベートスペースに(和田さん提供資料を基にSUUMOジャーナルにて作成、上階省略)

「全ての希望はかない、壁の一部に大谷石を使うなど面白い提案ももらい、仕上がりの満足度は120%です」

玄関を入ると20畳以上の明るく広々したLDK。ウェグナーのダイニングテーブル(デンマーク)、革製ロバのスツール(スペイン)、パーシヴァル・レイファーの黒革ソファ(ブラジル)、100年以上前の食器棚(イギリス)など世界各国のこだわりのインテリアが並ぶ(写真撮影/飯田照明)

玄関を入ると20畳以上の明るく広々したLDK。ウェグナーのダイニングテーブル(デンマーク)、革製ロバのスツール(スペイン)、パーシヴァル・レイファーの黒革ソファ(ブラジル)、100年以上前の食器棚(イギリス)など世界各国のこだわりのインテリアが並ぶ(写真撮影/飯田照明)

リビングの一角にはお気に入りのスツールや小物をディスプレーする小上がり空間。冬にはここがこたつコーナーになるという。LDKの壁は漆喰、棚の奥は大谷石で空間のアクセントに(写真撮影/飯田照明)

リビングの一角にはお気に入りのスツールや小物をディスプレーする小上がり空間。冬にはここがこたつコーナーになるという。LDKの壁は漆喰、棚の奥は大谷石で空間のアクセントに(写真撮影/飯田照明)

小上がりの下は、段差を利用して引き出し式の大きな収納スペースに。3つある引き出しには季節外のラグやこたつなど模様替え用のファブリック中心。かさばるものも重いものも入って便利(写真撮影/飯田照明)

小上がりの下は、段差を利用して引き出し式の大きな収納スペースに。3つある引き出しには季節外のラグやこたつなど模様替え用のファブリック中心。かさばるものも重いものも入って便利(写真撮影/飯田照明)

世界各国の椅子が20脚以上! 妥協しないインテリア選びの秘訣

リビングの小上がりは、いま和田さんが気になっているものをディスプレーする舞台のようなコーナー。インテリア小物、美術書などの絵になる本、スツール類が無造作に並ぶ。現在、棚にはテイスト別に民族ものやビンテージものなどお気に入りの服がお店のように並び、こまめに模様替えも楽しんでいるという。

ここにある柳宗理(やなぎ・そうり)デザインのバタフライスツール3脚は、20年前に出会って和田さんがインテリアに関心をもつキッカケとなったもの。

棚上段に中国やアフガニスタンの民族ものの衣服、2段目にアメカジやボーダー、3段目にデニム、チノパン、ミリタリー、ビンテージものを分類。その下には3脚のバタフライスツール、手前には部族によってデザインが違うアフリカのスツール類を集めて植物を置いている(写真撮影/飯田照明)

棚上段に中国やアフガニスタンの民族ものの衣服、2段目にアメカジやボーダー、3段目にデニム、チノパン、ミリタリー、ビンテージものを分類。その下には3脚のバタフライスツール、手前には部族によってデザインが違うアフリカのスツール類を集めて植物を置いている(写真撮影/飯田照明)

「曲線的なフォルムの美しさに惹かれて。日本製とは思えないデザインと技術力に驚き、売り場の商品だったので説明できるよう、インテリアの勉強を始めました」

臨時収入があると飲み代に消えていたお金で、このバタフライスツールを買った。そこからスツールに凝り始め、「すっかり椅子フェチ、いまではスツールだけで20脚以上あります(笑)」
※スツールとは背もたれなしの椅子のこと

スツールのなかでも貴重なのが、アフリカ民芸もの。一本の太い木をくり抜いてつくられる接ぎ木のないもので、部族ごとにデザインも違う、木材・技術ともに今やつくることが難しい一点物のアンティーク。そのほか、フィンランドのサウナスツール、スペインの革製ロバなど、国も素材も年代も多様。「好きなモノをイメージして探し続ければいつか出会える」という。

実際、海外のフリーマーケットや近所のアンティークショップまでさまざまなところで出会いがあり、「海外から大荷物を背負って帰ることもしばしば」とのこと。

家具や小物だけでなく、中東、アジア、アフリカなどの民族着やファブリックもコレクションに。「年代を経た手の込んだ一点物を見るとつい買ってしまいます」。ラグは、季節ごとに模様替えを楽しんでいるという。

「家具は捨てるとき大きなゴミになるから買い替えが嫌。買うときは一生ものだと思って慎重に選び、間に合わせで妥協はしない」という和田さん。結婚当初、欲しいローテーブルが2~3年待ちと言われ、納品まで不便でもローテーブル無しで過ごした。当時から人が集まる家にしたいという思いがあり、ダイニングテーブルも2人暮らしには大きい6人掛けサイズを選んだ。その甲斐あって、家族が増え住まいが変わったいまも全て大活躍中だ。

フローリングは全てオーク材、壁は漆喰など大規模なリノベーションだったが、工事中の廃材もなるべく出さないように気遣った。「天井や床も、全て元の素材の上から張ってもらいました。ゴミも出ないし、断熱や防音も兼ねられるので一石二鳥です」。

奥のキッチンは、タイルの色までこだわって妻がデザイン画を作成してイメージを伝えた。左の食器棚はイギリスの100年超えのアンティーク、右は大正末期の水屋箪笥というミックス感。手前のローテーブルが2年待ち、フィンランドのタピオ・ヴィルカラ(写真撮影/飯田照明)

奥のキッチンは、タイルの色までこだわって妻がデザイン画を作成してイメージを伝えた。左の食器棚はイギリスの100年超えのアンティーク、右は大正末期の水屋箪笥というミックス感。手前のローテーブルが2年待ち、フィンランドのタピオ・ヴィルカラ(写真撮影/飯田照明)

既成概念にとらわれず、収納も自由な発想でアレンジ

素敵な一点物を買ってきて置いているだけでは生まれない、異なるインテリアテイストのミックス感が生みだす独自のハーモニーもある。もちろんそれぞれが和田さんのお眼鏡にかなったという前提はあるものの、国も年代もテイストも素材もバラバラなものを組み合わせる秘訣は何だろうか。

「ものをありのままでとらえるのではなく、自由な発想でアレンジして組み合わせを楽しんでいます」。手に入れたものはそのまま使うだけでなく、色を塗ったり、用途を変えたり、パーツを変えたり、ちょっとした手間や工夫で見違えるような変化があるというのだ。

リビングのイギリスのアンティークの食器棚は、背が高く圧迫感があるためひとつのものを上下別々に2カ所で使用。玄関の昭和な下駄箱とリビングに続くアンティークの扉は、形も素材も異なるテイストを合わせるため色を塗る、などDIYのひと手間をかけた。小物を飾る際も、ひとつの下駄箱の上は日本の作家のものでまとめる、一方はアフリカの仮面など、同じテイストのものを固めるのもテクニックのひとつだ。

玄関ドアを開けると、マンションの玄関とは思えない広々した空間にパタパタ扉付きの昭和レトロな下駄箱が2つ。収納としての機能だけでなく、家具の存在そのものが絵になる(写真撮影/飯田照明)

玄関ドアを開けると、マンションの玄関とは思えない広々した空間にパタパタ扉付きの昭和レトロな下駄箱が2つ。収納としての機能だけでなく、家具の存在そのものが絵になる(写真撮影/飯田照明)

苦労して運び込んだという下駄箱の上は、日本の作家ものの陶器をディスプレー。昔の小学校の雰囲気そのままで使うのではなく、黒のペンキを塗り、取っ手を真ちゅうのボタン型に変えることで、波型ガラスが映える雰囲気あるインテリアに早変わり(写真撮影/飯田照明)

苦労して運び込んだという下駄箱の上は、日本の作家ものの陶器をディスプレー。昔の小学校の雰囲気そのままで使うのではなく、黒のペンキを塗り、取っ手を真ちゅうのボタン型に変えることで、波型ガラスが映える雰囲気あるインテリアに早変わり(写真撮影/飯田照明)

「あまり得意ではない」と謙遜しながら、さらにDIYで収納量アップの工夫も。下駄箱は箱内も板で仕切り、収納出来る靴の数を2倍3倍に。この2つに入りきらない靴類は、クロークの壁にDIYで棚を付けて大量に収納している。

出番待ちの靴や衣類を大量に収納するクローク。靴の高さに合わせてIKEAで購入したパーツと板でDIY、木製のネクタイ掛けはBROOKS BROTHERSのショップで使われていたものをDIYした(写真撮影/飯田照明)

出番待ちの靴や衣類を大量に収納するクローク。靴の高さに合わせてIKEAで購入したパーツと板でDIY、木製のネクタイ掛けはBROOKS BROTHERSのショップで使われていたものをDIYした(写真撮影/飯田照明)

上階寝室の窓際には、DIYで天井から帽子掛けを吊るして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

上階寝室の窓際には、DIYで天井から帽子掛けを吊るして見せる収納に(写真撮影/飯田照明)

マンションとは思えない玄関のしつらえ、風が吹き抜ける眺めのいい広々したLDK。世界各国の民芸とミッドセンチュリーが融合したインテリア。「妥協しないから失敗はしない」「いい物を選ぶと収納も楽しくなる」という言葉に納得の美術館のようでいて居心地もいいお住まい。ほぼ毎週末来客があり、年末には20人を超すゲストと忘年会を開いているというのも納得の、居心地の良さを兼ね備えた極上空間でした。

●取材協力
・BEAMS

家探しあるあるに笑って感動。漫画『わが家は今日も建築中!』がおもしろい

「そろそろ家を買おうか」と夫婦の意見は一致したものの、実際にマイホーム探しをはじめるとケンカばかりで話が進まない……ということはありませんか。そんなマイホーム探しの「あるあるネタ」がつまっているのが、『わが家は今日も建築中!』(デンショバで連載中)。その作者である尚桜子(なおこ)さんに、家探しと夫婦の物語を聞いてきました。
漫画のエピソードはすべて実話。描かれている以上にケンカも多かった?

漫画『わが家は今日も建築中!』は、タカとナオコ夫妻が1年間の米国生活を終えて日本に帰国し、本格的に「マイホームを探そう!」と決意するところからお話がはじまります。妻のナオコは子どもたちにこれ以上、引越し・転校をさせたくないという母心もあり、マイホーム探しに全力を尽くしますが、夫のタカはどこか消極的。何かにつけてはケチをつけて、話が前に進みません。

156694_sub01(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

お互いにイライラを募らせる妻と夫の姿、どこかで身に覚えがあるという人も多いはず。こうした漫画で描かれているエピソードは、すべて「実話」なのでしょうか。

「ストーリーはすべて実話です。しかも濃く脚色しているというより、お話としてわかりやすく、薄めているという感じです。実際はもっとケンカして私が家を飛び出し、一人、カラオケで歌っていたということもありました(笑)。もともと、私自身の家探しを漫画化するつもりはなく、その途中は必死すぎてメモもとっていなかったんです。実際に家ができあがり、生活がはじまったことで、当時の記憶と記録を振り返りながら、今、昇華している感じです」(尚桜子さん、以下同)と理由を明かします。

漫画では、理系で合理的、どこか保守的なところがある夫のタカと、心配性ながらも直感的、感情をしっかり表に出してコミュニケーションをとるナオコという、ご自身たちがモデルとなっている夫婦の姿が描かれています。2人の家探しは、まずは住む街選びからはじまり、現在、土地探しまで進行中です。

「街選びの段階で、タカはひと言目には『通勤時間が…』と言っていました。彼は愛知県出身で、ホームは愛知、東京は出稼ぎにきている場所というスタンスだったんです。出稼ぎだから家は勤務地から近いほどいい、通勤時間をかけるなんてバカバカしいという意識です。また、長男なので自分が家を守らなければという意識がどこかにあったのだと思います」と振り返るナオコさん。

156694_sub03156694_sub04(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

妻からみれば、「現在の家族は私と子どもでしょ? なんで実家がでてくるの?(怒)」となりそうですが、夫からみれば「ふるさとと実家」は格別。東京にマイホームを購入することが、どこか「ふるさととの決別」のように思え、足を重くしていたのかもしれません。

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

「この問題はかなりやっかいで、妻としてモヤモヤするものがありました。ただ、苦労して向き合い、話し合ったところで、お互いに納得がいったんだと思います」といい、ケンカしながらも「住む街選び編」では良い結論を出すことに成功します。

夫にのしかかるプレッシャー、妻のやるせなさ。お互いにすれ違う思い

今後は土地契約から住宅ローンどうする、建物のテーマ決め~間取り決定、建物の着工~大工さんと建築士とのバトル、インテリア選び、念願の入居まで、まだまだお話は続いていくといいます。

「家を探すぞとなってから、実際に着工し、入居するまで2年かかりました。設計は漫画にもでてくる義理の兄であるトシにお願いし、あれこれ話し合いながら進めていったんです。これは、漫画でも描く予定ですが、途中でタカが『俺はいなくてもいいの?』というんですよね。結局、俺は住宅ローンだけ払っていればいいんでしょ、と。会社の同僚や友人などから、マイホームに居場所がなくて休日、持て余しているなんて話を聞くたびに、不安になっていたんだと思います」

156694_sub07156694_sub08(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

昨今、夫婦共働きが増えたとはいっても、主となって住宅ローンを返済するのはまだまだ夫が多いもの。しかし長時間労働のため家にいる時間は少なく、必然的に「俺が住宅ローンを払っているのに、マイホームにいるのは妻と子どもだけ。居場所がない」という事態になりがちです。タカさんのように、夫からみれば「マイホームを買ったところで、俺にメリットないじゃん。いなくていいじゃん」という思いにかられるのも、ムリはないのかもしれません。

一方のナオコからみれば、子育てのために自身の仕事のペースを落とし、家事と子育てに多くの時間を割いています。お金にならない日々の家事、あきらめた夢……。「私の稼ぎだけで家が買えたらいいのに」という切ない思いに共感する妻も多いことでしょう。

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

(画像提供/『わが家は今日も建築中!』尚桜子 NAOKO)

「私たちはケンカや話し合いを重ねながらなんとか設計の段階まで進みましたが、そこでトシが「家の『テーマ』を決める」と言い出しました。トシは『間取りはパズルみたいなもので、テーマが何より大事』という建築士なんです。そのテーマを考える中で、お互いの思いがよりクリアになっていき、話が進むようになりました」といいます。

いったん完成しているけれど、家はこれからも成長していく

こうして、夫婦で向き合う作業を徹底的に行った結果、無事に新居へと引越しをし、現在、家族4人で暮らしています。

「家づくりの過程で徹底的に話し合ったからでしょうか、夫婦ゲンカがなくなりました。子どもたちにも言われましたからね。『パパとママ、ケンカしなくなったね』って。物理的に家が広くなり、気持ちにもゆとりができたのだと思います。また、カーテンや雑貨など、気に入ったものに囲まれているので、出かけることも減りました。家がいちばん心地よいので。マグカップ1コ、椅子1脚、高価ではないけれどそれぞれに思い出があるので、家が大好きですし、たいていのことは『ま、いっか』と受け流せるようになりました」とうれしそう。

そしてナオコさん以上に変わったのが、夫であるタカさんだ、といいます。
「これが自分の建てた家なんだと実感したんでしょうね、ここまで変わるのかと、驚いています(笑)。DIYにめざめていろいろ自作したり、芝生を植えて庭の手入れを楽しんでいます。またご近所との交流も増え、『自分の根ざす地域』ができたことで、心がまえも変わったように思います。本当の意味で居場所ができたというか。家探し、家づくりの工程をへて、ようやく子どもたちの親として成長できた。これは賃貸では得られないものだったと思います」と充実した表情です。

最後に、これから家探し、家づくりをする人に向けて、アドバイスをもらいました。
「私たちも、トシに言われたんですが、『一生で最もお金をかけるんだから、とことん楽しまないと損だぞ』と。家探し、家づくりは、めんどうだし大変だけど、夫婦できっちり向き合って、一つずつ結論を出していくことで、より理解が深まると思います。お金も手間もかかる壮大な趣味ともいえますが、とことん楽しむのがよいのではないでしょうか」といいます。

モデルとなった家はすでに完成していますが、「新築完成時がいちばんよい状態」ではなく、家族の成長とともに味わいを増す建材を使い、間取りも変化させられるようになっています。だからこそ、漫画のタイトルは、「わが家は今日も建築中!」。まだまだ完成しない家で、ナオコさん夫妻と家族の物語は、これからも続いていきます。

●取材協力
尚桜子さん
わが家は今日も建築中!

【速報】2018年の路線価が発表。全国平均で3年連続上昇。その要因は?

国税庁から2018年の路線価が発表された。地価は上がったのか、下がったのか、注目ポイントを確認していこう。
路線価が上がると相続税や贈与税もアップする

まずはおさらいから。路線価とは国が定めた1m2当たりの土地の価格のこと。一定範囲の道路に面した区画ごとに決められるので「路線価」と呼ばれている。その年の相続税や贈与税を計算する際の基準となる地価だ。

つまり路線価が上昇すると相続税や贈与税もアップし、下落すると税金もダウンする。特に2015年に相続税が増税されてからは課税の対象になるケースが増えており、それだけ路線価が気になる人も増えているだろう。

全国平均で3年連続上昇。上昇率の拡大続く

さて今年の路線価だが、全国平均(標準宅地の対前年変動率)では前年比0.7%アップと3年連続で上昇した。上昇率は前年の0.4%と比べて0.3ポイント拡大している。

都道府県別に見ると、東京都(前年比4.0%アップ)、大阪府(同1.4%アップ)、京都府(同2.2%アップ)、愛知県(同1.5%アップ)など、三大都市圏で高い上昇率となった。いずれも上昇率は前年より高い数字だ。

また北海道(同1.1%アップ)、宮城県(同3.7%アップ)、広島県(同1.5%アップ)、福岡県(同2.6%アップ)など、中核都市を抱える道県の上昇率が目立つほか、沖縄県は同5.0%アップと47都道府県で最も高い上昇率だった。

上昇率の全国トップはニセコ。2位は祇園

主要な個別地点で最も高かったのは33年連続日本一となった東京都中央区銀座5の「鳩居堂」前で、1m2当たりの価格は4432万円。前年比9.9%のアップとなり、バブル期を超えた前年に続き、過去最高を更新している。

個別地点で上昇率全国トップは北海道ニセコ地区の「道道ニセコ高原比羅夫線通り」で同88%の上昇。スキーリゾートとして世界的に人気が高まり、外国人などが高額なコンドミニアムを買うケースが目立つという。

全国2位の上昇率は京都市東山区の祇園四条駅周辺で同25.9%アップ。国内外からの観光客でにぎわい、商業施設の賃料などが高騰しているようだ。

訪日外国人客の増加やマンション需要が地価を押し上げ

都市部や観光地を中心に地価上昇の勢いが増している要因としては、やはり訪日外国人客の増加が挙げられる。2017年の年間訪日客数は2800万人を超えて過去最高だったが、今年はさらに上回るペースだ。訪日客が増えれば買い物施設や宿泊施設の需要が増え、条件の良い土地は商業ビルやホテル用地として取り合いになるため地価が吊り上がる。沖縄県の上昇率が高いのも同様の動きだ。

マンション需要の根強さも地価を押し上げている。東京都心部などでは物件価格の高騰でファミリータイプの物件供給が減少しているが、1億円を超える高額物件は売れ行きが好調だという。また郊外や地方都市でも駅の近くなど利便性の高いマンションは人気が高く、用地を確保するのが難しい状況となっている。

東京五輪が終わっても地価上昇は続く!?

こうした地価の上昇傾向はいつまで続くのか。一説には東京五輪が開催される2020年前後にピークを迎え、そこからは下り坂になるとの見方もある。

だが、五輪はあくまで東京都心部に限定されたイベントに過ぎない。他のエリアにとって五輪の影響はさほど大きくないと考えられる。東京都心部についても、山手線新駅や渋谷駅、虎ノ門地区など五輪後も大規模な再開発が計画されている地区は少なくない。五輪の前後に東京の地価が一時的に弱含みになったとしても、それで地価上昇が止まるとは限らないだろう。

さらに重要なのは、日銀による大規模な金融緩和策が今後も続く見通しであることだ。アベノミクスが目標とする物価上昇率2%は達成の見通しが立たず、金融緩和策を手じまうための出口戦略は議論の糸口さえつかめない。日銀が国債を大量に買うことで超低金利が維持され、土地やマンションを購入しやすい状況が続く限り、地価の上昇基調も続くとの見方が多い。

4人家族で50平米台? ワールドカップ開催地ロシアの住宅事情

サッカーのワールドカップ開催で盛り上がるロシア。テレビでも連日報道されていますね。街中のインタビューをみると、街並みがきれいだなとか、ロシアの住まいってどんな感じなんだろう? 広いのかな? 共産圏だったから何か違うのかな? などいろいろ気になりますよね。というわけで、ロシアの住宅事情を調べてみました。
ロシアの家は4人家族で50平米台。なぜ狭い?

まずロシアといえば「広い」という印象ですよね。そう、世界で一番広い国は、ロシアです。 面積は1710万平方km、日本の約45倍の広さがあります。これだけ国土が広かったら家も広いのだろう、軽井沢みたいな広大な敷地の木立の隙間から一軒家が見える、そんなイメージかと想像していました。ところが、そんなことはないようです。都市部は基本的に集合住宅、そして面積は家族4人の住まいで50平米台が主流だとか。意外に狭いのです。

どうしてなのでしょうか?

話は旧ソ連時代にさかのぼります。当時は国が無償で国民に住居を提供していました。共産圏の国だったので「公平性」を重んじます。また「効率性」も重んじます。その結果、効率よく暮らせる集合住宅で、最低限の生活ができる広さということでこの形になったのだとか。

また暖房とお湯も関係しています。ロシアの冬はとても寒いので、各住戸にお湯や暖房をひく必要があります。このときに広大な敷地の一戸建てにそれぞれお湯やガスの配管を回すのは非効率です。日本でも空き家が増えてこのインフラの維持が問題になっています。だからロシアでの原則は「都市部に集まって暮らす」という形になっているようです。

百聞は一見に如かず――ということでさっそく家庭訪問してみました。訪問した街は、サッカーワールドカップ日本代表のキャンプ地、カザンです。

1970年代~1980年代の日本の団地を彷彿(ほうふつ)とさせる。どの集合住宅も戸数が多い(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

1970年代~1980年代の日本の団地を彷彿(ほうふつ)とさせる。どの集合住宅も戸数が多い(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さて、到着してまず感じたのは、規模の大きさ。正確な戸数は聞きそびれてしまいましたが、イメージはURの高島平団地です(東京都板橋区にあるUR団地、総戸数は約8000戸)。さっそく部屋に案内してもらいます。あれ? 玄関ドアが2枚ある? さすが寒い国ロシア、玄関ドアは2枚仕立てが多いようです。そしてバルコニーも日本とは趣が異なります。サンルーム仕様になって窓が付いているのです。日本でも日本海側の家にはこのサンルームが多いと聞きます。

写真左:2枚ある玄関ドア 写真右:窓付きのバルコニー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

写真左:2枚ある玄関ドア 写真右:窓付きのバルコニー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

そして室内に。通されたのはダイニング・キッチン。決して広くはないのですが、日本よりも暖かい感じがします。なぜそう感じるのかといえばそれは壁紙とファブリックでした。他の居室もそうですが、白い壁がひとつもありません。部屋ごとに好みの壁紙が張られ、テーブルにはクロスが掛けられています。

キレイな柄に包まれたダイニング・キッチン(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

キレイな柄に包まれたダイニング・キッチン(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

この壁紙はこの家の妻が張ったそうです。ロシアでは壁紙は自分で張るのがフツーだそうです。ある意味料理をつくるのと同じ感覚だとか。平均月収が7万円(ホワイトカラーエリートでその倍)で家賃と光熱費で3万円くらい。支出に占める住居費比率は高い。だから内装などは自分たちでやるというのもありそうです。キッチンは入居時に自分で設置することも多いそう。天井や床や壁も未仕上げが普通。天井壁床で40万円くらい払うと仕上げてくれますが自分でやる人も多いのだとか。

これは別の部屋を訪問したときの写真ですが、全部自分でつくったのよと誇らしげに教えてくれました。ちなみにこの部屋の住人はシングル女性です。すごい。

シングル女性が造作したバスルーム。日本の銭湯のようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

シングル女性が造作したバスルーム。日本の銭湯のようだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「こっちも見て! 狭いから天井吊りの収納つくったのよ」「次は貯めたお金で古くなった窓を断熱性の高いものに変えるのよ」と次から次へとやりたいことがあるそう(日本の集合住宅と違い窓も玄関ドアも個人の判断で変えてOK)。日本でもDIYが流行っていますが、ここはレベルが違います。住んでから少しずつ暮らしをよくしていくことは、ここロシアでは当たり前のようです。

次の2枚の写真は少し郊外にある一戸建ての子ども部屋。どちらの部屋も個性的な壁紙が張られ、ファブリックも装飾品もかわいい。日本のマンションモデルルームのようです。

カザン市郊外にある一戸建ての子ども部屋。モデルルームではありません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

カザン市郊外にある一戸建ての子ども部屋。モデルルームではありません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ロシアの一戸建て事情はどうなっているの?

ロシアは市内中心部が都市計画上、ほぼ集合住宅しか建てられません。しかも広さは40~60平米と狭い。やはりこの生活にストレスを感じる人もいるようです。またカザンのようにやや裕福な層が出始めている都市では、郊外の戸建住宅を買い始める動きも出てきています。そう、公団住宅が羨望のまなざしだった時代から、郊外の一戸建てへあこがれがシフトした日本の30~40年前と似たような状況です。

そんなロシアでの一戸建てはどんなものかというと……写真(下)のようなレンガの家です。子どものころに読んだ『3匹の子ぶた』にに出てくるあのレンガの家です。

ロシアの一戸建てはレンガブロックを積んだものが多い(写真撮影/IIDA SANGYO RUS)

ロシアの一戸建てはレンガブロックを積んだものが多い(写真撮影/IIDA SANGYO RUS)

ロシアの一戸建てにはいくつか課題があるそうです。おもなものを4つほど挙げます。
ひとつは施工精度。未仕上げで引き渡す文化があることも影響してか、大工さんの仕上げの精度が日本と全然違うそうです。大げさな比喩になりますが、日本はミリ単位の仕上げ水準ですが、ロシアはセンチ単位くらいの差があるとか。

もうひとつはその構造と断熱。レンガ造りが標準で、これだけ寒いのに断熱材が使われていません! 推定50cm以上ある分厚いレンガが断熱材になってます。見た目は頑丈ですが壁の断熱は課題があります。

そして3つ目は引き渡しの水準。キッチン、バス、トイレ、内装仕上げは含みません。内装はホームセンターで買ってきて自分で取り付ける、あるいはそれをプロに別で依頼する方法が一般的。ただ、ロシアでも日本でいうパワーカップル(共働き夫婦で二人とも高収入)が登場してきており、この若い世代からすると、ある程度内装仕上げもお任せしたいというニーズも出てきているとか。

4つ目として品質保証がないこと。日本では住宅品質確保促進法(品確法)というのがあって、第三者の専門機関が住宅の性能を評価し、購入者に分かりやすく表示したり、、引き渡し後10年以内に瑕疵が見つかった場合は、売主が無償補修などをしなくてはならないという制度がありますが、それがロシアにはありません。

ロシアに一戸建て住宅の日本代表が進出!?

さて、そのロシアに、日本の住宅会社、飯田グル―プホールディングスが進出します。日本の分譲一戸建ての3割のシェアをもつ一戸建て業界の日本代表です。

先に書いたように(1)レンガ造り (2)造りがやや雑 (3)未仕上げ引き渡し (4)品質保証がない というロシアの一戸建ての課題に対し、(1)日本の木質在来工法 (2)日本品質 (3)内装仕上げ済み  (4)第三者評価をつける というチャレンジです。その最初の家、モデルハウスが完成し、事業の正式なオープニングセレモニーが開催されました。

写真左:当日のレセプションでは日本式で鏡割りが行われた  写真右:第一号物件を購入されたミハイルさん(写真/IIDA SANGYO RUS)

写真左:当日のレセプションでは日本式で鏡割りが行われた  写真右:第一号物件を購入されたミハイルさん(写真/IIDA SANGYO RUS)

本来はモデルルームとして使いたかったのに、「ぜひ売ってほしい」という方が現れて、既に契約もしたとのこと。この住宅は構造材のみシベリア鉄道で運び、残りの資材は現地調達(将来は現地での建材生産も見込む)。日本の大工がロシア大工を指導しながらつくった家。第三者の専門機関による住宅の性能評価も付いてます。

第一号物件の外観と内装。見た目は日本のものと似ているが、トリプルガラスのサッシなど完全に現地仕様(写真提供/IIDA SANGYO RUS)

第一号物件の外観と内装。見た目は日本のものと似ているが、トリプルガラスのサッシなど完全に現地仕様(写真提供/IIDA SANGYO RUS)

感銘を受けたのは「MADE WITH JAPAN」という思想。これは“MADE IN JAPAN=日本製”とは少しニュアンスが違います。木造在来工法や建築の仕上げ精度、建物に第三者評価を付けるなどは日本のものを導入するのですが、あくまでも仕組みや技術をもっていくだけ。WITHとは一緒にやっていきましょう、現地の資材を使って、現地の大工さん、現地の販売員のみなさんと一緒にいうことなんです。なんだかすてきではありませんか。

もう少し細かくみてみましょう。木材は、森林大国であるロシアの地域木材を活用します。その木材を精度高く施工するために日本のプレカット技術を導入します。プレカットとは、設計図に基づいて建材を工場でカットしてから現地に運び大工は現場では組み立てるだけにする仕組みのことで、これにより工期を短縮し、現場での施工の精度向上もできるというものです。同社が長年磨き続けてきた技術・ノウハウを惜しみなく現地のプレカット工場、マシンに注ぎ込んでいます。

さらに飯田産業のエース大工である上杉学氏をロシアに駐在させ、日本並みの施工精度を実現する現場施工技術をロシアの大工に教えています。日本の木造建築技術・ジャパンウッド・テクノロジーを駆使して、ロシアの一戸建て品質を上げ、日本と同じくローコストで提供します。そしてなるべくそのお金がロシア内部に落ちるように現地生産・現地雇用にもこだわっているのです。

写真左:ロシアの大工に技術を教える上杉氏 写真右:ロシアのプレカット工場。日本式に細かくチューニング・教育を行った(写真提供:IIDA SANGYO RUS)

写真左:ロシアの大工に技術を教える上杉氏 写真右:ロシアのプレカット工場。日本式に細かくチューニング・教育を行った(写真提供:IIDA SANGYO RUS)

「MADA WITH JAPAN」は売り方にも反映。ロシア事業の実行責任者である大河龍也氏は「ご案内の仕方、接客の仕方もおもてなしの心で日本流にこだわりたい」と、接客も日本水準にしようと現地の従業員に発破をかけています。

「誰もが当たり前に一戸建てが買える社会にしたい」を掲げる同社、そのビジョン実現に向けて挑む壮大なチャレンジがFIFAワールドカップの日本のキャンプ地カザンで始まったことに、なんだか奇遇で運命的なものを感じます。

●取材協力
飯田グループホールディングス

宅配物の増加と再配達問題に対応。タワーマンション内に「物流センター」を導入

トイレットペーパーのような日用品や食品まで、ネットショッピングで購入するのが珍しくなくなった昨今、宅配物の増加とそれに伴う再配達が社会問題として知られるようになりました。特に多くの世帯が暮らすタワーマンションでは、大規模マンションならではの課題があるようです。そこで、現在の課題を宅配事業者に取材。さらに一部のマンション内に「宅配スタッフが常駐する物流センター」をつくる取り組みや今後の動きについて、三井不動産レジデンシャル 開発室の大熊さんに話を伺いました。
宅配物の増加が住民や宅配事業者、管理面の負担に

このところ関心を集めている宅配物の増加とそれに伴う再配達問題ですが、大規模マンション、特に住民が多いタワーマンションなどでは、以下のようなストレスがあるといわれています。

(1)インターホンが鳴ってから住戸に届くまでに時間がかかる
(2)宅配ボックスが埋まっていて受け取れないことがある
(3)宅配ボックスから自宅まで荷物を持ち運ぶのがおっくう

特に(1)の住戸に届くまでに時間がかかる、については配達先の住戸数が多いと宅配事業者がエントランスのインターホンから各住戸に連絡をしてから、実際に配送されるまで数十分かかることもあり、その間に住民が外出してしまい、再配達になるというケースもあるといいます。

従来のインターホンの呼び出しから荷物が配達されるまで(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

従来のインターホンの呼び出しから荷物が配達されるまで(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

また、宅配事業者で現場スタッフとして働く方に大規模マンションでの配達の宅配事業者としての悩みを聞いてみたところ、複数の宅配事業者同士で宅配タイミングが重なると、トラックの駐車場所を確保するのが難しいほか、運ぶ荷物の個数が多く、午前・午後・夕方・夜間と一日のうちに何度も訪問する必要性から、スタッフを重点的に配置しているとあかしてくれました。

さらに、宅配事業者が駐車場や、エレベーター、エントランスのインターホンを長時間使用することは共用部の清掃などを担う管理会社の業務に影響する懸念がありそうです。

住民、宅配事業者、管理側から見た「宅配物増加と再配達問題のストレス」。大規模物件ならではの悩みだ(住民、宅配事業者の取材をもとに筆者作成)

住民、宅配事業者、管理側から見た「宅配物増加と再配達問題のストレス」。大規模物件ならではの悩みだ(住民、宅配事業者の取材をもとに筆者作成)

とはいえ、共働き世帯が増え、在宅時間が減るなかで宅配ニーズは高まるばかり。そこで、これらの問題を解決すべく、いっそのこと「物流センター」をマンション内につくってしまおう、という動きがでてきたのです。

今回、マンション内に物流センターを設ける予定となっているのは、現在建設中で2020年に竣工予定のタワーマンション「ザ・タワー横浜北仲」です。では、なぜここまで注力するのでしょうか。

「三井不動産レジデンシャルではこれまでも武蔵小杉等のタワーマンション内にも物流センターを設けて、宅配物をよりスムーズに受け取れるよう、取り組んできました。これはネットショッピングの普及などにより宅配物が増加していることを考慮してのことです。

今回、物流センターに加えて、宅配スタッフの携帯電話から各住戸内インターホンに連絡できるシステムなどを導入し、より配達効率を上げようという試みを始めました」と話すのは、三井不動産レジデンシャル横浜支店開発室の大熊麻祐子さん。

物流センターには宅配スタッフが常駐。インターホンと宅配ボックスも改良

では、具体的にはどのようなシステムになるのでしょうか。

「3つの施策を考えております。まず1つ目はマンションの共有部に物流センターを設け、そこに宅配スタッフが常駐します。複数の宅配事業者から荷物をいったん預かり、まとめて各住戸に配達します」(同)

住民からみると、宅配事業者に関係なく、複数の荷物が一度に受け取れるのはうれしいところでしょう。いつも同じスタッフが届けてくれるので安心感もあり、エレベーターの混雑緩和にもつながるはずです。一方で宅配事業者からみれば、マンション内の物流センターに荷物を届けるだけでよいので、住戸ごとに配達する必要がなくなり、大幅に効率化ができます。

物流センターと配達までのイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

物流センターと配達までのイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

今のところ常駐の宅配スタッフは、日中に配置され、およそ2~4名程度で運用する予定だといいます。

2つ目の施策は、マンション内物流センターに常駐している宅配スタッフの携帯電話から直接住戸内のインターホンに連絡ができるシステムを構築したこと。携帯電話から直接、在宅確認ができるようになるので、「インターホンを鳴らしてから自宅到着までタイムラグがある」「宅配事業者がエントランスのインターホンを長時間使い続けている」ということもなくなりそうです。

インターホンシステム改良後のイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

インターホンシステム改良後のイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

3つ目は、同じ届け先であれば同一の宅配ボックスに、追加で荷物を預け入れられるようにしました。これにより「一つの住戸が複数の宅配ボックスを占有する」「宅配ボックスが足りなくなる」ということも少なくなり、宅配ボックスに余裕が生まれるため、それだけ多くの住民が荷物を受け取りやすくなります。

宅配ボックス追加預け入れのイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

宅配ボックス追加預け入れのイメージ(画像提供/三井不動産レジデンシャル)

物流センターの運営費は一部を管理費から捻出。他の大規模物件での展開も

気になる物流センターの場所は地下1階にあり、倉庫と事務所の機能を備えた空間になるといいます。また、費用ですが、一部を管理費からまかない、運営するといいます。

今回の物流センターは、1200戸弱の大規模なタワーマンションだからこそできたともいえます。今後の展開はどうなるのでしょうか。
「今後も、大規模物件に、物流センターを設ける可能性は出てくると思います。またインターホンシステム・宅配ボックスは、物流センターとは別に物件ごとに採用できるので徐々に増えていくかもしれません」とのこと。

ネットショッピングの拡大によって、課題となっていた宅配物の増加と再配達問題。これを宅配事業者の問題と見るのではなく、デベロッパーはもちろん宅配ボックスメーカーなど複数社が現在のシステムを見直すことで、住民と宅配事業者、管理会社、みなが助かる仕組みに変えていけるのだなと思いました。こうした地道な取り組みや改善こそが、実は「住み心地」に直結するのかもしれません。

●取材協力
・三井不動産レジデンシャル

理想をかなえた!マイホーム実例[1] 子どもたちが回る・踊る、のびのび育てるスキップフロアの一戸建て

「家を買ったら、○○したい!」――マイホーム購入を通じて、そんな理想をかなえた方々のお宅に伺い、レポートする連載企画。
第1回は「子どもたちが階下への音を気にせずに、のびのびと走り回れる家に住みたかった」と話すKさんファミリーのお宅にお邪魔しました!【連載】理想をかなえた!マイホーム実例
「いつかは家を買って、○○したい」――そう考えて、住宅購入に夢を膨らませている方も多いのではないでしょうか。実際に「こんな暮らしがしたかった」という理想の暮らしを実現したご家庭にお邪魔し、マイホームを購入するまで、してからのお話をあれこれ伺います。実現したかったのは「子どもたちが思いっきり遊べる家」

玄関のドアを開けると同時に「わぁっ!」と思わず高い声を上げたカメラマンと私。「WELCOME!」の文字が躍るチョークアートの黒板が迎えるKさんファミリーの住まいは、東京都大田区の住宅街の中にあります。40代の夫と妻、11歳・8歳・4歳になる3人の女の子たちの5人家族です。

玄関を入るとまず目に入る壁一面のチョークアートには「THERE’S NO PLACE LIKE HOME(わが家が1番!)」の文字が。家を建てた年と、家族全員の名前と一緒に記されている(写真撮影/片山貴博)

玄関を入るとまず目に入る壁一面のチョークアートには「THERE’S NO PLACE LIKE HOME(わが家が1番!)」の文字が。家を建てた年と、家族全員の名前と一緒に記されている(写真撮影/片山貴博)

Kさん夫婦は、もともと結婚したときに購入した中古マンションをリノベーションして住んでいました。ところが、子どもたちが生まれて大きくなるにつれ、下の階に住む人から「ドンドンしないで」という苦情が頻繁にくるようになり、早く引越したいという気持ちが高まっていったそうです。

「ほかの子と遊ぶときでさえ、娘たちが音を立てないように気をつかって遊んでいる様子を見て、子どもたちが存分に動き回れる一戸建てに住みたいと考えるようになりました。できれば自分たちの家を建てたいと何年もかけて土地を探していたのですが、都内の土地は価格も高く、なかなか手が出ずに悩んでいたんです。そんな私たちを見かねて、近くに住む父が『ここに建てたら?』と、もともと古いアパートが建っていたこの土地を譲ってくれたのです」(Kさん夫婦、以下同)

子どもたちがゆるやかに上り下りできる「スキップフロア」の家に

――お父様から土地を譲り受け、家族の新しい家を一から建てられるとなったとき、どんな家にしたいと考えたのでしょう?

「中古マンションをリノベーションした経験から、次に住まいをつくるときには仕様に制約があるメーカーさんの施工は避けたいと思っていました。ハウスメーカーの施行例もいろいろ見に行ったのですが、やはり自由度を重視したいと思って、設計士さんに依頼しようと。

最初に設計士さんから『どんな家にしたいかイメージを聞かせてくださいね』と言われたので、インターネットでいろいろ調べました。そのなかでスキップフロアの画像を見つけて、こんな一段ずつ上がったところで子どもたちが舞台のように踊る場所があったら楽しいな、と思ったんです」

「スキップフロア」は、同じ空間の中で少しずつ段差をつけ「中2階」や「中3階」を設ける方法です。段差の下に収納を設けられたり、2階建てでも3層以上を確保できるため、空間を無駄なく使うことができる、視覚的に広く見える、というメリットがあります。

階段が玄関からリビングを抜け、家全体をぐるりと取り囲むようにらせん状に伸びている(写真撮影/片山貴博)

階段が玄関からリビングを抜け、家全体をぐるりと取り囲むようにらせん状に伸びている(写真撮影/片山貴博)

――家族全員が使用するリビングとは別に、スキップフロアの最上階には子どもたち専用のリビングがあるそうですね

「はい、子どもたちが全員女の子なので、小さいうちはここで一緒に遊んでほしいと思っています。大きくなったら、この子どもリビングに壁を追加して3部屋設け、それぞれ独立した子ども部屋にできるように設計してもらいました」

中3階、階段の一番奥にある「子どもリビング」(写真撮影/片山貴博)

中3階、階段の一番奥にある「子どもリビング」(写真撮影/片山貴博)

子どもリビングと並んでつながる寝室。現在は1部屋に入口が2つある状態だが、将来的には壁で仕切り、独立した子ども部屋にできるように設計されている(写真撮影/片山貴博)

子どもリビングと並んでつながる寝室。現在は1部屋に入口が2つある状態だが、将来的には壁で仕切り、独立した子ども部屋にできるように設計されている(写真撮影/片山貴博)

収納を1階にまとめて、家族とお客さまの動線を意識した玄関

――間取りについて工夫をした点はほかにありますか?

「実はさっき上がっていただいた玄関のところなのですが、入口が二手に分かれるんです。このメインの入口はお客様用の入口、もうひとつ左脇に入ると家族用の入口で、そこは直接シューズクローゼットとウォークインクローゼットに入れるようになっています。ここで靴や上着をすぐに脱ぎ着できるようになっています」

左から手前がお客様用の玄関となるルート、左手奥にあるドアからつながる右のウォークインクローゼットにつながるルートが家族用(写真撮影/片山貴博)

左から手前がお客様用の玄関となるルート、左手奥にあるドアからつながる右のウォークインクローゼットにつながるルートが家族用(写真撮影/片山貴博)

玄関脇から入る大容量のシューズクローゼット兼ウォークインクローゼット。家族全員の300着以上の衣類と50足以上の靴がほぼ、ここに収納されている(写真撮影/片山貴博)

玄関脇から入る大容量のシューズクローゼット兼ウォークインクローゼット。家族全員の300着以上の衣類と50足以上の靴がほぼ、ここに収納されている(写真撮影/片山貴博)

先ほど玄関から入ってきたときには気づきませんでしたが、ブラックボードの裏は、こんなに大容量のウォークインクローゼットになっていたんですね! 有孔ボードにたくさんの帽子がディスプレイされていてとってもおしゃれです。

「この有孔ボードは『フックを引っ掛ければ自由にバッグや帽子をかけることができて便利ですよ』と設計士さんが提案してくれたものです。確かに好きなものを楽しく飾れますし、ぱっと見で何がどこにあるのかを見つけることができるのでとても重宝しています。もっと引っ掛ける帽子を増やそうと思っているところです」

夫婦でお店を回って見つけた、こだわりのインテリアグッズ

――ご夫婦、とってもおしゃれですもんね。玄関を入ったときにも思ったのですが、インテリアのポイントになっているベンチやドライフラワー、アンティークの額などはご自身で購入されたものですか?

「はい、2人でインテリアショップを回って見つけたものばかりです。結構安くてオシャレなアンティークグッズを売っているお店があって、例えばリビングのテーブルとして使っているもの、実はあれ、大きなヴィンテージのトランクなんですよ」

――わ、本当ですね! トランクの持ち手があります! 先ほどからダイニングでお話をうかがっていて、このダイニングテーブルの上のペンダントライトがかわいいな、と気になっていたんですが、これもご夫婦が選ばれたんですか?

ダイニングテーブルの上には細長い形のおしゃれなペンダントライトを3つ並べて(写真撮影/片山貴博)

ダイニングテーブルの上には細長い形のおしゃれなペンダントライトを3つ並べて(写真撮影/片山貴博)

2階の洗面脱衣室の上にも「PRIVATE」のペイントが施されたペンダントライトが(写真撮影/片山貴博)

2階の洗面脱衣室の上にも「PRIVATE」のペイントが施されたペンダントライトが(写真撮影/片山貴博)

「ライト類は全て自分たちで選んで購入して、工事のときに付けてもらいました。このダイニングキッチンのシンクもそうですが、私が一番こだわっていたのが洗面所に使用しているアメリカのKOHLER(コーラー)社のシンクです。これをどうしても使いたいと設計士さんに相談をしたら、せっかくだから全てKOHLER社のもので統一しませんか、と提案してくれました。このアイランドキッチンも私たちの好みに合わせてオリジナルでつくってもらって」

KOHLER社のシンクを中心にオリジナルで造作されたキッチン(写真撮影/片山貴博)

KOHLER社のシンクを中心にオリジナルで造作されたキッチン(写真撮影/片山貴博)

洗面所にKOHLER社のシンクと、変形タイルを使うことがKさん夫婦の外せないこだわりだった(写真撮影/片山貴博)

洗面所にKOHLER社のシンクと、変形タイルを使うことがKさん夫婦の外せないこだわりだった(写真撮影/片山貴博)

無垢材とアクアレイヤーで、一年中春のような心地よさ

――先ほどからこのキッチンの木の温かみとペイントの色が素敵だなと思っていました! 全体的に壁や床も、木を意識的に使われていますよね

「ええ、床に無垢材使いたい、というのはマストの要望でした。子どもたちが裸足で走り回って気持ちいい床であること、また年月が経ったときに使用感がちゃんと『味』になる素材を選びたいと思っていました。ほら、玄関の壁の部分を見ていただくと、木と木の間が黒い線のように見えるでしょう? あれも建てたばかりのときは閉じていたんですよ。設計士さんが『時間が経つにつれて少しずつ木が縮んで、ランダムに線が入って味になっていきますよ』とおっしゃっていたんですが、本当にそうなってきました(笑)」

ドライフラワーが飾られる壁の板には少しずつ隙間ができて黒い線のように。床の無垢材と組み合わせ、ナチュラルで優しい印象になっているところを黒の手すりが引き締めている(写真撮影/片山貴博)

ドライフラワーが飾られる壁の板には少しずつ隙間ができて黒い線のように。床の無垢材と組み合わせ、ナチュラルで優しい印象になっているところを黒の手すりが引き締めている(写真撮影/片山貴博)

――壁や床など、構造にかかわるところでほかに工夫されたところはありますか?

「今は暖かい季節なので使用していませんが『アクアレイヤー』という床下の水の袋で蓄熱する床暖房を入れています。これも設計士さんから『1年中春のように気持ちが良いですよ』と勧めてもらって取り入れました。電気代が割安な夜の間に熱をため込んで、日中はその余熱で暖かく過ごせるという仕組みの床暖房です。

とても優しい暖かさなので毎日違和感なく過ごしていたんですが、年末に旅行に出かけたときに電源を切ったことがあるんです。それまでは毎日暖かいことが当たり前だったので気づかなかったのですが、旅行から帰ってきたときの家のあまりの寒さに、この床暖房のすごさを感じました」

至るところにKさん夫婦のこだわりと「子どもたちがのびのびと健やかに育ってほしい」と願う親としての気持ちが詰まった優しい住まい。特に子どもが欲しいと考えている方や、子どもたちの成長を見守る暮らしを考えている方は、これからの住まいの参考にしていただけるのではないでしょうか。

現代の“モダンガール”と“モダンボーイ”が建てた、大正末期~昭和初期の薫り漂う文化住宅 テーマのある暮らし[4]

「日本モダンガール協會」を立ち上げ、自らモダンガール(=モガ)を追いかける淺井カヨ(あさい・かよ)さんと、音楽史研究家の郡修彦(こおり・はるひこ)さん。大正末期から昭和初期にかけての文化やライフスタイルに惚れ込んだご夫婦がつくり上げた「新文化住宅」とは? 完成に至るまでの苦労話、個性的な暮らしぶり、そのすべてをご紹介します。【連載】
ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。1920~30年代に流行した「文化住宅」をゼロから建てる、という挑戦

細い通りが入り組み、時折子どもたちの元気な声が響く東京都小平市の住宅街。一般的な住宅が立ち並ぶ中、和風の木造建築に青緑色の三角屋根の洋館が付いた一戸建てが異彩を放っています。表札は「小平新文化住宅」。淺井カヨさんと郡修彦さんが、2016年の秋に建てたご自宅です。古い建築物への造詣が深い2人が熱望したのは、1920年代から30年代にかけて流行した和洋折衷の「文化住宅」でした。現在は、当時の文化を伝えるため、随時見学会を開催していらっしゃいます。

レトロな自転車とともに自宅の前に立つ淺井さん。このドレスは1920年代のアメリカのドレスを再現したもの。「ドレスは、古着を見本として仕立屋さんに持ち込んで、同じものをつくってもらうことが多いですね」(写真撮影/内海明啓)

レトロな自転車とともに自宅の前に立つ淺井さん。このドレスは1920年代のアメリカのドレスを再現したもの。「ドレスは、古着を見本として仕立屋さんに持ち込んで、同じものをつくってもらうことが多いですね」(写真撮影/内海明啓)

この家を建てるにあたって一番苦労したのは、工務店を見つけることだったそう。
現在の住宅とは資材も工法もまったく違うため、引き受けられる工務店が都内では見つからなかったのです。

半年間あちこちで断られ続け、最終的にはハウスメーカーや工務店とユーザーのマッチングサービスを提供しているザ・ハウスを通して、あきる野市の来住野(きしの)工務店と奇跡的な出会いを果たすことができました。

「妥協は絶対にしたくありませんでした。希望通りの家ができないのなら何もいらない、という気持ちでしたからね」淺井さんは、そう振り返ります。

工務店探しに奔走していた時期、設計図を見せてもなかなか理解してもらえないことに困った郡さんがつくった1/40の模型。「計画は細部まで決まっていたので、あとは実現してくれる工務店を見つけるのみでした」と郡さん(写真撮影/内海明啓)

工務店探しに奔走していた時期、設計図を見せてもなかなか理解してもらえないことに困った郡さんがつくった1/40の模型。「計画は細部まで決まっていたので、あとは実現してくれる工務店を見つけるのみでした」と郡さん(写真撮影/内海明啓)

伝統的な素材と工法にこだわり尽くしたエクステリア

壁面に板を少しずつ重ねて取り付ける工法は「下見板張り」といって、昭和初期の木造建築では一般的なものだったそう。こうした古い工法で仕上げるためには、工務店と何度も打ち合わせを重ねなければなりませんでした。

玄関の引き戸の格子は「横に5本、縦に9本」という、当時からある形のひとつを参考にしたもの。寸法もすべて細かくオーダーしたそうです。

2階の面積を小さくしたり、屋根瓦の代わりに金属製のスレートを使用したりしているのは地震対策。かつての文化住宅に最新の耐震技術を盛り込むことも、テーマのひとつでした(写真撮影/内海明啓)

2階の面積を小さくしたり、屋根瓦の代わりに金属製のスレートを使用したりしているのは地震対策。かつての文化住宅に最新の耐震技術を盛り込むことも、テーマのひとつでした(写真撮影/内海明啓)

表札を固定する2本のマイナスねじは、よく見ると縦方向に止められています。これは、雨が降ったときに水がたまらないので、さびを防げるという昔ながらの知恵なのだとか(写真撮影/内海明啓)

表札を固定する2本のマイナスねじは、よく見ると縦方向に止められています。これは、雨が降ったときに水がたまらないので、さびを防げるという昔ながらの知恵なのだとか(写真撮影/内海明啓)

小さくかわいらしい庭には、立派な3本の和棕櫚(わじゅろ)が植えられています。「昔の洋館には棕櫚(しゅろ)が付きものだから、絶対に欲しかったんですよ」と淺井さん。クレーンでつり、前もって掘っておいた穴に植え付けてもらったのだそうです(写真撮影/内海明啓)

小さくかわいらしい庭には、立派な3本の和棕櫚(わじゅろ)が植えられています。「昔の洋館には棕櫚(しゅろ)が付きものだから、絶対に欲しかったんですよ」と淺井さん。クレーンでつり、前もって掘っておいた穴に植え付けてもらったのだそうです(写真撮影/内海明啓)

庭の片隅には、パクチー、パセリ、バジルなどが青々と葉を茂らせていました。「今は雑草防止のために庭全体に小石を敷いているのですが、いずれは取り除いて畑にする予定です。できる限り食べるものをいろいろつくって、生活道具は自然素材のものにしたいですね」

玄関脇には、ピンク色の可憐なバラが咲いていました。モダンガールが帽子をかぶっている様子に似ていることから、品種名は「モガ」。「この家の完成と同じ、2016年の新種なんです」と淺井さん(写真撮影/内海明啓)

玄関脇には、ピンク色の可憐なバラが咲いていました。モダンガールが帽子をかぶっている様子に似ていることから、品種名は「モガ」。「この家の完成と同じ、2016年の新種なんです」と淺井さん(写真撮影/内海明啓)

居間、台所、お風呂も、当時のライフスタイルを取り入れて

では、家の中にお邪魔しましょう。まず目につくのは、現役で使っているという黒電話。以前は昭和38(1963)年製のものを使っていましたが、その後、昭和8(1933)年製という、より古いものに“機種変更”したそうです。

「見学に来る若い人のなかには、黒電話のダイヤルの回し方が分からない人もいますよ」という淺井さん。ちなみに携帯電話は持っていません(写真撮影/内海明啓)

「見学に来る若い人のなかには、黒電話のダイヤルの回し方が分からない人もいますよ」という淺井さん。ちなみに携帯電話は持っていません(写真撮影/内海明啓)

四畳半の居間では、2人の祖父母の家財道具が日常的に使われています。淺井さんの実家からやって来たのは、立派なちゃぶ台と柱時計。柱時計は裏に「昭和四年」と記されています。長い間眠っていたのですが、つい最近時計修理の職人さんに見せたところ、動くように直してくれたのだそうです。

郡さんの実家に眠っていたのは、火鉢。祖父母の結婚記念品だったという1930年代の桐たんすは、削り直したというだけあってとてもきれいです。

障子にはめ込まれた、付け書院(明かり取りの装飾は)古い木造建築が解体されるときに譲ってもらったもの。「襖(ふすま)を切り抜いてこの装飾を入れてあるので、夜は奥の部屋から漏れる光でほんのりと明るいんです」(写真撮影/内海明啓)

障子にはめ込まれた、付け書院(明かり取りの装飾は)古い木造建築が解体されるときに譲ってもらったもの。「襖(ふすま)を切り抜いてこの装飾を入れてあるので、夜は奥の部屋から漏れる光でほんのりと明るいんです」(写真撮影/内海明啓)

火鉢は大正時代のもの。四畳半くらいだと、これですぐに暖まるのだそうです(写真撮影/内海明啓)

火鉢は大正時代のもの。四畳半くらいだと、これですぐに暖まるのだそうです(写真撮影/内海明啓)

鏡台と衣紋掛け(着物を掛ける用具)も、あるお屋敷が解体されたときに譲ってもらったそう。「だんだんと人とのつながりができてきて、いろいろなものをお譲りいただけたことはうれしいですね」と笑う淺井さん(写真撮影/内海明啓)

鏡台と衣紋掛け(着物を掛ける用具)も、あるお屋敷が解体されたときに譲ってもらったそう。「だんだんと人とのつながりができてきて、いろいろなものをお譲りいただけたことはうれしいですね」と笑う淺井さん(写真撮影/内海明啓)

キッチンには、昔ながらの形をしたガス七輪が。本当はかまどを使いたかったのですが、住宅が密接しているので煙を出すことができず、断念したのだそう。

「冬は火鉢のために炭をおこさなければならないのですが、自動消火機能が付いたコンロだと、途中で消えてしまうんですよ。そこで昔ながらの鋳物(いもの)コンロを使っています」と淺井さん。昔のものと今のもの、それぞれの短所と長所を理解した上で、ライフスタイルに合うものをていねいに選んでいます。

シンクは、職人さんが手作業でつくり上げた「人造研ぎ出し」。種石(天然石を細かく砕いたもの)とセメントを塗りつけて、固まったところを研磨するという昔ながらの技法です。これを手がける職人さんも、もう少ないのだそう。

炊飯器や電子レンジはありません。「現代の料理本はそういった調理器具がある前提で書かれていることが多いです。大正~昭和初期の献立で昔ながらの調理器具を使って料理をしています」

炊飯器や電子レンジはありません。「現代の料理本はそういった調理器具がある前提で書かれていることが多いです。大正~昭和初期の献立で昔ながらの調理器具を使って料理をしています」

冷蔵庫は電動ではなく、大きな板氷で冷やす氷冷式です。「新居に合わせて特注でつくってもらいました。近所に氷屋さんがあるので、時々、買いに行きます。氷を自転車で運ぶのは大変です」と淺井さん。

しかし、決して無理をして昔風の暮らしをしているのではなく、この生活が一番自分たちにしっくりくるのだそうです。「何でも使い捨てにするような慣習も、だんだん見直されつつありますね? 昔の生活を見直すきっかけになれたらと思っています」と2人は言います。

生ものは買ってくるとすぐに調理、果物などは外に出して水につけておく……など、電気冷蔵庫に頼らない暮らしを楽しむ2人。「冷凍保存もできないから、あるもので料理をするようになります。無駄がなくていいですよ」と郡さん(写真撮影/内海明啓)

生ものは買ってくるとすぐに調理、果物などは外に出して水につけておく……など、電気冷蔵庫に頼らない暮らしを楽しむ2人。「冷凍保存もできないから、あるもので料理をするようになります。無駄がなくていいですよ」と郡さん(写真撮影/内海明啓)

光沢のあるタイル張りの浴室も、文化住宅を再現したもの。現在の建築業界では、滑るので危険だという理由から、原則として浴室の床に光沢のあるタイルは張らない決まりになっているのだそう。「何かあったら自己責任で、ということで、なんとか張ってもらえたんです」と淺井さん。

当時の文化住宅では、浴室の木枠を白く塗るのが一般的でした。明るく見えることと、水気を弾いて湿気を防ぐことがその理由だったそう(写真撮影/内海明啓)

当時の文化住宅では、浴室の木枠を白く塗るのが一般的でした。明るく見えることと、水気を弾いて湿気を防ぐことがその理由だったそう(写真撮影/内海明啓)

洋風建築の魅力を最大限に活かした応接室と2階

こちらは、こだわりの応接室です。漆喰(しっくい)の壁、高い天井、出窓の木枠。どれもこれも、大正末期から昭和初期の洋館がもっていた特徴です。「窓枠は特注なんです。ひとつひとつの寸法を細かく指定して、職人さんにつくってもらいました」と淺井さん。細部へのこだわりが、統一感を生み出しています。

後ろに積んである箱には、郡さんのレコードが詰まっています。郡さんは古いレコードなどの音源をCDに復刻するお仕事をされているのです。「この部屋には約2000枚、博物館に寄託したものは約5000枚あります。内容は、ほとんどが昭和の流行歌とクラシックですね」(写真撮影/内海明啓)

後ろに積んである箱には、郡さんのレコードが詰まっています。郡さんは古いレコードなどの音源をCDに復刻するお仕事をされているのです。「この部屋には約2000枚、博物館に寄託したものは約5000枚あります。内容は、ほとんどが昭和の流行歌とクラシックですね」(写真撮影/内海明啓)

郡さんの祖父母が、昭和5(1930)年に結婚記念として購入した蓄音機「ビクトローラ4-40」。昭和4(1929)年にアメリカで製造されたもので、電気ではなく、ぜんまいの力でターンテーブルを回します(写真撮影/内海明啓)

郡さんの祖父母が、昭和5(1930)年に結婚記念として購入した蓄音機「ビクトローラ4-40」。昭和4(1929)年にアメリカで製造されたもので、電気ではなく、ぜんまいの力でターンテーブルを回します(写真撮影/内海明啓)

洋風の応接室にぴったりのシャンデリアは、1920年代のフランスのもの。骨董屋さんで見つけたそうです(写真撮影/内海明啓)

洋風の応接室にぴったりのシャンデリアは、1920年代のフランスのもの。骨董屋さんで見つけたそうです(写真撮影/内海明啓)

最後に2階を見せていただきましょう。思わず歓声をあげたくなるようなこの部屋は、淺井さんの私室。「和洋折衷」というのが大正末期から昭和初期の文化住宅の特色ですが、2階はまさに洋風です。所狭しと並ぶコレクションは、淺井さんが子どものころから集めてきたもの。

貴重な資料が並ぶ本棚は一見の価値あり。『主婦之友』シリーズや、昨年復刻された『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)の初版本なども並んでいました(写真撮影/内海明啓)

貴重な資料が並ぶ本棚は一見の価値あり。『主婦之友』シリーズや、昨年復刻された『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)の初版本なども並んでいました(写真撮影/内海明啓)

この部屋の主役は、旧高田義一郎邸が解体されるときに譲ってもらったという、昭和初期の窓だそう。木枠の塗料をはがして塗り直し、割れていたガラスのみ新品に入れ換えました。「この窓をどうしても使いたかったので、2階は窓に合わせて設計したんです」と淺井さん。新しく再現したものと、実際に当時使われていたものがあちこちでミックスされているデザインからも、2人らしさが伝わってきました。

窓の持ち主だった高田義一郎さんは医学博士であり、文筆家でもあった方。以前から著書の『らく我記』を愛読していた淺井さんにとって、窓との出会いは思わぬ幸運でした(写真撮影/内海明啓)

窓の持ち主だった高田義一郎さんは医学博士であり、文筆家でもあった方。以前から著書の『らく我記』を愛読していた淺井さんにとって、窓との出会いは思わぬ幸運でした(写真撮影/内海明啓)

「1920年代~30年代の普遍的なかっこよさも、ものを無駄にせず、自然を大切にする生活も、もっともっと発信していきたいですね。ここは生きた博物館のようにしたいと思っています」と語る2人は、当時の文化に憧れるだけなく、実際に生活に取り入れて楽しんでいます。「一生遊べる家が出来上がりましたね。2人だったからできたことです」と語る淺井さんの晴れ晴れとした笑顔が印象的でした。

淺井さんの著書『モダンガールのスヽメ』(2016年/原書房)。大正末期から昭和初期の文化に興味をもった理由から、当時のライフスタイルについての歴史的考察に至るまで、読み応え満点の1冊です(写真撮影/内海明啓)

淺井さんの著書『モダンガールのスヽメ』(2016年/原書房)。大正末期から昭和初期の文化に興味をもった理由から、当時のライフスタイルについての歴史的考察に至るまで、読み応え満点の1冊です(写真撮影/内海明啓)

●取材協力
・淺井カヨさん
昭和51(1976)年名古屋生まれ。平成19(2007)年に、大正末期から昭和初期とモダンガールを愛好する「日本モダンガール協會」を設立。著書に『モダンガールのスヽメ』(原書房)、共著に『東京府のマボロシ』(社会評論社)など。

・郡修彦さん
東京生まれ。作曲家・音楽評論家の故・森一也先生に師事。SPレコード時代の音楽史を、CD解説書・新聞・雑誌・同人誌に発表している。「山田耕筰の遺産」「古賀政男大全集」「古賀政男黄金時代の集大成」「復刻盤軍歌・愛国歌撰集」等を手がけ、企画・構成・復刻の「SP音源復刻盤信時潔作品集成」は平成20年度(第63回)文化庁芸術祭大賞を受賞。元・昭和館音響専門委員、平成15(2003)年5月から翌年4月まで月1回、NHK「ラジオ深夜便」に出演し、選曲・録音・解説を担当。平成19(2007)年11月よりライブハウスにてSP盤鑑賞会を定期開催中。

「結局、住宅ローンは年収の何倍まで組めますか?」 住まいのホンネQ&A(6)

住宅購入には必ずついてまわる住宅ローン。住宅ローンはいったい年収の何倍まで組めるのか? 頭金は? 住宅は生涯で最も大きな買い物、といっても過言ではありませんから、悩みは尽きませんよね。

いったい、どんな考え方をしたらよいのでしょうか。さっそく、今回も回答を見ていくことにしましょう。
ノウハウ本の基準はアテにならない

住宅購入をするときには、ほとんどの人が住宅ローンを利用しますが、多くの方に共通するお悩みは「どれくらいのローン借入額が適切なのか?」ということ。これにはいくつかの説があり、そのほとんどは「住宅ローンは物件価格の何倍まで」とか「返済比率は○○%が目安」といったもの。住宅購入ノウハウ本を読むとかならずこうした目安が書かれていますが、こうした基準は、一言でいうとあまりにも大ざっぱすぎて、まったくあてにも参考にもなりません。

例えば「物件価格は年収の何倍まで」といった話。一般的にこの「年収倍率」は、7倍程度が目安とされることが多いのですが、住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」によれば、建売住宅融資利用者(平均年齢38.9歳)の年収倍率は6.5倍、マンション融資利用者(平均年齢42.0歳)で6.8倍。しかしこれらはあくまで平均値であり、実際にはかなりのばらつきがあるのです。3倍程度の人もいれば、10倍近い人もいます。

さらにこの話には「金利水準がどの程度か」といった視点が欠けています。例えば年収500万円の人が年収倍率7倍のマンションを買うとき、頭金が500万円(諸費用別途)あれば住宅ローンの額は3000万円ですが、金利1%と4%とでは、両者の支払額には天地の差が出ます。3000万円のローンを期間35年で組むとき、金利1パーセントなら月々の支払いは8万4686円ですが、4%だと13万2832円と、4万8146円も増加。総返済額に至ってはなんと約2022万もの差がつきます。

次に「返済比率」について。返済比率とは「年収に対する年間ローン支払い額」を指し「年間支払額÷税込み年収×100」で計算します。例えば年収500万円の人で返済比率25%なら年間ローン支払い額は125万円。ボーナスなしで毎月均等にならせば10万417円です。一般的な金融機関における返済比率の審査基準は、住宅ローンの種類や借入者の年収によって異なるものの、おおむね30~35%程度が目安となっています。住宅購入ノウハウ本を見ると「返済比率は25%が目安」などと書かれていることが多いのではないでしょうか。

しかし、こうした目安を各家計にあてはめるのはいかにも乱暴です。やはり住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」によれば、建売住宅融資利用者(平均年齢38.9歳)の世帯収入に対する返済比率は21.4%、マンション融資利用者(平均年齢42.0歳)で21.1%。

総返済負担率(世帯月収に占める1カ月当たりの予定返済額割合)の内訳をより詳しくみてみると、住宅ローンの返済額が家計に占める割合の15%未満の人が19.4%、30%以上の人が7.6%いるなど、やはりかなりのばらつきがあります。

マンションの場合は「管理費」や「修繕積立金」も

また例えばマンションの場合、ローン返済のほかに「管理費」や「修繕積立金」を毎月の支出として勘案する必要があります。しかも修繕積立金は多くのケースで、実際にかかる修繕費より低めに見積もられていることがあります。なぜなら新築時の積立金は、極力低めにして、買いやすくしていることがほとんどだからです。「長期修繕計画」を見れば、10年目・20年目などに積立金がアップする計画になっていることも少なくありません。そうであればもちろんそのことも踏まえておく必要がありますよね。

一般的なマンションの場合、目安として、専有面積平米当たり月200円程度は必要で、70平米のマンションなら1万4000円です。50戸以下の小規模マンションや、機械式駐車場などの設備があるマンションはもっと必要です。さらにこの修繕積立金は、屋根や外壁、廊下、エレベータといった共用部分のためのもの。室内(共用部)の修繕費用は別途でねん出する必要があります。

一戸建ての場合には管理費や修繕積立金の徴収はありませんが、屋根や外壁、内装や設備など、建物が経年劣化すればやはり修繕費はかかり、目安として年に建物代金の1%程度は確保しておく必要があります。1500万円の建物なら年間15万円、毎月にならせば1万2500円です。

さらに見逃せないのが固定資産税。新築の際は固定資産税が据え置かれやすくなっていますが、一戸建てなら3年、マンションは5年たつと優遇措置がなくなり、固定資産税額は2倍近くに跳ね上がることも踏まえておく必要があるでしょう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「貸してくれる額」と返せる額は別物

こうしたコストも踏まえたうえで、住宅ローンの「返済可能額」を割り出しましょう。そのためには「家計の棚卸し」が必要です。

まずは税込み年収から、所得税・住民税、さらに社会保険料等を引いた手取り額を見てください。さらにそこから食費・光熱費・教育費・衣服費・遊行費などを引いていきます。一定の貯蓄も必要でしょう。こうして最後に残ったお金が、あなたがローン返済に充てられる金額です。変動金利なら金利上昇、転勤や転職といった将来可能性も踏まえておく必要があります。お子さんがいるなら教育費も。大学まで行かせるのか、私立か公立かによって費用も大きく変わります。こうした機会に、家族で、将来にわたってどんな暮らしをしたいのかといったことをお互いに話し合うのも有用ですね。

ところでこうした「家計の棚卸し」をすると、多くの家計で、何に使ったか分からない「使途不明金」が出てくるものです。これはたいていの場合、持ち歩いていた現金を使い、領収証やレシートがないときに発生します。

金融機関が「貸してくれる額」と、実際に「返せる額」は別物です。自身に合った無理のないマネープランを立てましょう。

最後に。住宅探しをしていると、どうしても予算をアップしたくなるもの。予算よりちょっと高い住宅は当然条件もいいのですが、物件情報を見ているうちに、当初決めていた予算を超えて背伸びしたくなる衝動に駆られるものです。これも無理のない範囲ならいいのですが、度を越すと当初のマネープランが無意味になってしまいますので注意してください。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「結局、住宅ローンは年収の何倍まで組めますか?」 住まいのホンネQ&A(6)

住宅購入には必ずついてまわる住宅ローン。住宅ローンはいったい年収の何倍まで組めるのか? 頭金は? 住宅は生涯で最も大きな買い物、といっても過言ではありませんから、悩みは尽きませんよね。

いったい、どんな考え方をしたらよいのでしょうか。さっそく、今回も回答を見ていくことにしましょう。
ノウハウ本の基準はアテにならない

住宅購入をするときには、ほとんどの人が住宅ローンを利用しますが、多くの方に共通するお悩みは「どれくらいのローン借入額が適切なのか?」ということ。これにはいくつかの説があり、そのほとんどは「住宅ローンは物件価格の何倍まで」とか「返済比率は○○%が目安」といったもの。住宅購入ノウハウ本を読むとかならずこうした目安が書かれていますが、こうした基準は、一言でいうとあまりにも大ざっぱすぎて、まったくあてにも参考にもなりません。

例えば「物件価格は年収の何倍まで」といった話。一般的にこの「年収倍率」は、7倍程度が目安とされることが多いのですが、住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」によれば、建売住宅融資利用者(平均年齢38.9歳)の年収倍率は6.5倍、マンション融資利用者(平均年齢42.0歳)で6.8倍。しかしこれらはあくまで平均値であり、実際にはかなりのばらつきがあるのです。3倍程度の人もいれば、10倍近い人もいます。

さらにこの話には「金利水準がどの程度か」といった視点が欠けています。例えば年収500万円の人が年収倍率7倍のマンションを買うとき、頭金が500万円(諸費用別途)あれば住宅ローンの額は3000万円ですが、金利1%と4%とでは、両者の支払額には天地の差が出ます。3000万円のローンを期間35年で組むとき、金利1パーセントなら月々の支払いは8万4686円ですが、4%だと13万2832円と、4万8146円も増加。総返済額に至ってはなんと約2022万もの差がつきます。

次に「返済比率」について。返済比率とは「年収に対する年間ローン支払い額」を指し「年間支払額÷税込み年収×100」で計算します。例えば年収500万円の人で返済比率25%なら年間ローン支払い額は125万円。ボーナスなしで毎月均等にならせば10万417円です。一般的な金融機関における返済比率の審査基準は、住宅ローンの種類や借入者の年収によって異なるものの、おおむね30~35%程度が目安となっています。住宅購入ノウハウ本を見ると「返済比率は25%が目安」などと書かれていることが多いのではないでしょうか。

しかし、こうした目安を各家計にあてはめるのはいかにも乱暴です。やはり住宅金融支援機構の「2016年度フラット35利用者調査」によれば、建売住宅融資利用者(平均年齢38.9歳)の世帯収入に対する返済比率は21.4%、マンション融資利用者(平均年齢42.0歳)で21.1%。

総返済負担率(世帯月収に占める1カ月当たりの予定返済額割合)の内訳をより詳しくみてみると、住宅ローンの返済額が家計に占める割合の15%未満の人が19.4%、30%以上の人が7.6%いるなど、やはりかなりのばらつきがあります。

マンションの場合は「管理費」や「修繕積立金」も

また例えばマンションの場合、ローン返済のほかに「管理費」や「修繕積立金」を毎月の支出として勘案する必要があります。しかも修繕積立金は多くのケースで、実際にかかる修繕費より低めに見積もられていることがあります。なぜなら新築時の積立金は、極力低めにして、買いやすくしていることがほとんどだからです。「長期修繕計画」を見れば、10年目・20年目などに積立金がアップする計画になっていることも少なくありません。そうであればもちろんそのことも踏まえておく必要がありますよね。

一般的なマンションの場合、目安として、専有面積平米当たり月200円程度は必要で、70平米のマンションなら1万4000円です。50戸以下の小規模マンションや、機械式駐車場などの設備があるマンションはもっと必要です。さらにこの修繕積立金は、屋根や外壁、廊下、エレベータといった共用部分のためのもの。室内(共用部)の修繕費用は別途でねん出する必要があります。

一戸建ての場合には管理費や修繕積立金の徴収はありませんが、屋根や外壁、内装や設備など、建物が経年劣化すればやはり修繕費はかかり、目安として年に建物代金の1%程度は確保しておく必要があります。1500万円の建物なら年間15万円、毎月にならせば1万2500円です。

さらに見逃せないのが固定資産税。新築の際は固定資産税が据え置かれやすくなっていますが、一戸建てなら3年、マンションは5年たつと優遇措置がなくなり、固定資産税額は2倍近くに跳ね上がることも踏まえておく必要があるでしょう。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「貸してくれる額」と返せる額は別物

こうしたコストも踏まえたうえで、住宅ローンの「返済可能額」を割り出しましょう。そのためには「家計の棚卸し」が必要です。

まずは税込み年収から、所得税・住民税、さらに社会保険料等を引いた手取り額を見てください。さらにそこから食費・光熱費・教育費・衣服費・遊行費などを引いていきます。一定の貯蓄も必要でしょう。こうして最後に残ったお金が、あなたがローン返済に充てられる金額です。変動金利なら金利上昇、転勤や転職といった将来可能性も踏まえておく必要があります。お子さんがいるなら教育費も。大学まで行かせるのか、私立か公立かによって費用も大きく変わります。こうした機会に、家族で、将来にわたってどんな暮らしをしたいのかといったことをお互いに話し合うのも有用ですね。

ところでこうした「家計の棚卸し」をすると、多くの家計で、何に使ったか分からない「使途不明金」が出てくるものです。これはたいていの場合、持ち歩いていた現金を使い、領収証やレシートがないときに発生します。

金融機関が「貸してくれる額」と、実際に「返せる額」は別物です。自身に合った無理のないマネープランを立てましょう。

最後に。住宅探しをしていると、どうしても予算をアップしたくなるもの。予算よりちょっと高い住宅は当然条件もいいのですが、物件情報を見ているうちに、当初決めていた予算を超えて背伸びしたくなる衝動に駆られるものです。これも無理のない範囲ならいいのですが、度を越すと当初のマネープランが無意味になってしまいますので注意してください。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

収納家具なし! 見せ方・隠し方に技アリのオープン大空間【BEAMS流インテリア(1)】

同期入社で結婚4年目、というプレスの安武俊宏(やすたけ・としひろ)さんとディレクターで現在は産休中の恵理子(えりこ)さん。初めての出産を控えたご夫妻の住まいは、コンクリートむきだしの大空間をガラスの建具で緩やかに区切る、大胆にリノベーションされたマンション。照明や椅子など、インテリアひとつひとつにストーリーがあるものを選び抜いた、アイデアいっぱいの空間を拝見します。●BEAMSスタッフのお住まい拝見・魅せるインテリア術
センス抜群の洋服や小物等の情報発信を続けるBEAMS(ビームス)のディレクター、プレス、ショップスタッフ……。その美意識と情報量なら、プライベートの住まいや暮らしも素敵に違いない! 5軒のご自宅を訪問し、モノ選びや収納の秘訣などを伺ってきました。自分たちらしい空間を求めて中古マンションをモダンにリノベーション

プレスとディレクターという、華やかなお仕事についている安武ご夫妻。ファッションが好きで入社したお2人ですが、洋服はその時々に好きなものを買い、かつ仕事で毎日関わっているので、オフのときは逆にインテリアやライフスタイルを大切にするようになったとのこと。2人の共通の趣味も、インテリアショップや雑貨店巡りと旅行だという。

安武さんは、プレスとして『BEAMS AT HOME』等の書籍制作も担当。この仕事を通して、ますますインテリア熱も高まったという。現在4冊発行されているシリーズの1冊目に、結婚前に2人で住んでいた部屋が掲載され、恵理子さんの名字をプレス権限で「安武」に変えて発行するというサプライズがプロポーズだったというから、公私ともに住まいと縁が深い。

1冊目発行後の2015年1月に結婚、さらに自分たちらしい空間を求めて、2016年1月から家探しを開始。2人とも仕事が忙しいので都心へのアクセス最優先で渋谷区・目黒区・港区に限定し、リノベーション前提なので築年数関係なく、50平米後半の中古マンションを探した。

SUUMOで物件検索して、これはというものがあれば週末ごとに内見へでかけたものの、なかなかピンと来る物件はなかった。さらに条件を新宿区まで広げたところ、神楽坂駅に近く通勤30分、当時築37年60平米のこの物件に巡り合う。既に20件以上見学していたので即決し、それからは5月末契約、仕事仲間に紹介されたデザイナーにリノベーション依頼、8月に完成・入居と、とんとん拍子だった。

リノベーション後の安武さん宅の間取り。玄関を入って廊下正面がLDK空間。寝室にはLDKからも、玄関から直接納戸経由でも出入りすることができる(安武さん提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

リノベーション後の安武さん宅の間取り。玄関を入って廊下正面がLDK空間。寝室にはLDKからも、玄関から直接納戸経由でも出入りすることができる(安武さん提供資料を基にSUUMOジャーナル編集部にて作成)

玄関を入って廊下右手に水まわり、左手に寝室、正面の扉奥がLDK。廊下左の壁一面は収納になっている(写真撮影/飯田照明)

玄関を入って廊下右手に水まわり、左手に寝室、正面の扉奥がLDK。廊下左の壁一面は収納になっている(写真撮影/飯田照明)

趣味のインテリアショップ巡りで磨いたセンスで長く使える良いものを選ぶ

リノベーションで元々あった壁や天井、内装などを一度すべて壊してスケルトン状態から出来上がったのは、コンクリートや配管がむき出しのLDKを中心に、書斎兼収納、寝室、玄関・水まわりの3つの空間を黒のガラス入り建具で緩やかに仕切った大空間。約60平米というが、ガラス越しに視線がつながって一体感があるため広く感じる。

インテリアのテイストは、好みの写真などをデザイナーと共有しながら、相談してつくり上げていったという。
休日はお気に入りのインテリアショップ巡りをしているというお2人だけあって、センスも抜群。色味を抑えたモノトーンのモダンなテイストでまとめている。

「インテリアで最初に決めていたのはダイニングの照明。フランスの名作照明でずっと欲しかったけれど工事が必要なので賃貸時代は我慢していたので」という安武さん。「私は毎日使う水まわりにこだわりました。キッチンは造作にしてLDKの中心に、バスルームもホテルライクにしました」という恵理子さん。

多少優先順位は違うものの、美しい物へのこだわりやセンスは一致している。例えば、LDKにある2脚の名作椅子。入居前、新居のインテリアに合うリラックスチェアを探していたところ、繊細で美しいフォルムのポール・ケアホルムPK22に巡り合う。高価なため中古品も探したが条件に合うものがなく、ちょうど発売になった限定モデルが色も素材もぴったりで一脚約50万円を即決したという。ペンダントライトも作家の一点もの。

「2つ欲しかったけど、ひとつでいいじゃないとは言われました(笑)」と安武さん。目線より高い位置にものを置かないことで空間を広く見せ、ぶら下がった照明でメリハリをつけているという。

線が細いフォルムのポール・ケアホルムPK22の60周年記念モデル・グレーのヌバック素材が優しくインテリアに溶け込む。クッションと絨毯(じゅうたん)はモロッコ旅行の際に2人で選んだもの(写真撮影/飯田照明)

線が細いフォルムのポール・ケアホルムPK22の60周年記念モデル・グレーのヌバック素材が優しくインテリアに溶け込む。クッションと絨毯(じゅうたん)はモロッコ旅行の際に2人で選んだもの(写真撮影/飯田照明)

オープンな大空間は収納家具に頼らず、隠すべきものは隠し方にもこだわって

リビングからは、ガラスの建具越しに部屋全体が見渡せる。仕事柄洋服や小物なども多いはずだが、いったいどこに収納しているのか。空間を広く見せるために、大きな収納家具は置かない主義。確かに食器棚も洋服ダンスも見当たらない。

玄関の廊下には、それぞれの靴とバッグ専用の壁面収納を造り付けた。2人合わせて実に靴150足はあるというが、扉を閉めればスッキリ。扉で隠す造作収納は玄関収納のほか、家の中心にあるキッチン収納だ。いわゆる食器棚は置かず、吊戸棚もなく、アイランド型キッチンの下に食器類も全て収納している。

写真左:玄関の壁面上部にロードバイク、反対側は一面4カ所の壁面収納、扉を閉めればスッキリ。写真右:壁面収納はちょうど靴が入る奥行きで、夫婦それぞれの靴やバッグ用。靴だけで安武さん100足、恵理子さん50足は超える(写真撮影/飯田照明)

写真左:玄関の壁面上部にロードバイク、反対側は一面4カ所の壁面収納、扉を閉めればスッキリ。写真右:壁面収納はちょうど靴が入る奥行きで、夫婦それぞれの靴やバッグ用。靴だけで安武さん100足、恵理子さん50足は超える(写真撮影/飯田照明)

食器棚も置かず、アイランドキッチンの下に食器類も収納。「キッチンは造作で細かな仕切りや棚がなかったので、引き出せる棚を通販で探しました」(写真撮影/飯田照明)

食器棚も置かず、アイランドキッチンの下に食器類も収納。「キッチンは造作で細かな仕切りや棚がなかったので、引き出せる棚を通販で探しました」(写真撮影/飯田照明)

衣装持ちのはずだが、衣類はどうしているのか。まずは玄関からも直接出入りできる、便利な寝室のウォークインクローゼット。ここは頻繁に着るシーズンものを中心に、ハンガーパイプに吊るした、オープンで使いやすい収納だ。しかし収納量には限りがある。

LDKとガラスの建具で仕切られた寝室(写真撮影/飯田照明)

LDKとガラスの建具で仕切られた寝室(写真撮影/飯田照明)

寝室奥のウォークインクローゼットはシーズンものの洋服を手前に、奥には頻度低めのスーツやコートがかけられるようになっている(写真撮影/飯田照明)

寝室奥のウォークインクローゼットはシーズンものの洋服を手前に、奥には頻度低めのスーツやコートがかけられるようになっている(写真撮影/飯田照明)

ベッド奥の出窓を利用して本などを見せて収納(写真撮影/飯田照明)

ベッド奥の出窓を利用して本などを見せて収納(写真撮影/飯田照明)

シーズン外の物は書斎兼ウォークインクローゼットにあるというが、一切目に入らない。不思議に思って尋ねると、インテリアにもなる洒落た丸箱には布団が、アンティークの旅行鞄などに季節外の洋服やバッグ類を入れているのだという。クローゼットでさえも生活感なくセンスがいいのは、収納家具に頼らず、さらに収納する入れ物自体もデザインにこだわって選んでいたからだった。ガラス越しに見渡せるひと続きの大空間は、見せ方も隠し方も技ありだった。

机の上にハンガーポールや棚が造り付けられた書斎兼ウォークインクローゼット。一見ただの書斎にしか見えないほど整然としているが、アルミ製のキャンプ用品の収納ケース(机の上部、棚の最上段)やインテリアショップで見つけたデザイン性の高い丸箱(写真右)、アンティークの大型旅行鞄やコンテナ(写真左)に季節外の物を全て収納(写真撮影/飯田照明)

机の上にハンガーポールや棚が造り付けられた書斎兼ウォークインクローゼット。一見ただの書斎にしか見えないほど整然としているが、アルミ製のキャンプ用品の収納ケース(机の上部、棚の最上段)やインテリアショップで見つけたデザイン性の高い丸箱(写真右)、アンティークの大型旅行鞄やコンテナ(写真左)に季節外の物を全て収納(写真撮影/飯田照明)

スノーピークのキャンプ用品の収納ケースは、積み重ねも可能で多目的に使える。現在は季節外の衣類を入れて収納ケースとして棚の最上段で使用(写真撮影/飯田照明)

スノーピークのキャンプ用品の収納ケースは、積み重ねも可能で多目的に使える。現在は季節外の衣類を入れて収納ケースとして棚の最上段で使用(写真撮影/飯田照明)

「長く使えるいいものを」と、2人のアンテナにかかるものをひとつひとつ選んでいった安武夫妻。家にあるもの全てに「インテリアショップで一目惚れした照明」「新婚旅行で訪れたモロッコで気に入った絨毯や写真」「ずっと欲しくて運命的に限定モデルが手に入ったチェア」など、素敵なストーリーがある。隠すものは上手に隠し、好きなモノだけを見渡せる大空間。もうすぐ家族3人になる安武家。お子さんが生まれてからの、お2人のセンスを活かした住まいの変化も楽しみです。

●取材協力
・BEAMS

「リフォーム」理由に変化の兆し?「長持ちさせるため」「よい住宅にする」が上昇

国土交通省の平成29年度の「住宅市場動向調査」によると、住宅をリフォームする動機として、「家を長持ちさせるため」が長期的に見て増加傾向にあることが分かった。リフォームへの取り組みが変わっていくのだろうか、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「平成29年度住宅市場動向調査」を発表/国土交通省リフォームの動機は「住宅の老朽化」。ただし、「長持ちさせるため」が長期的に上昇

調査は、平成28年度中(平成28年4月~29年3月)に住み替えや建て替え、リフォームを行った世帯を対象に行ったもの。今回は、リフォームに関する調査結果に注目したい。

三大都市圏でリフォームを行った世帯に、リフォームの動機を複数回答で聞いたところ、「住宅がいたんだり汚れたりしていた」が46.5%と断トツ1位となった。これは過去の調査でも同様だった。

一方で、2位になったのは「家を長持ちさせるため」(29.8%)で、平成27年度まで2位につけていた「台所・浴室・給湯器などの設備が不十分だった」(27.3%)を平成28年度に引き続いて上回った。また、「不満はなかったがよい住宅にしたかった」は14.4%となり、前年度までと比べて大きく伸びる結果となった。

リフォームの動機(主なもの)(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」よりSUUMOジャーナル編集部にて作成)

リフォームの動機(主なもの)(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」よりSUUMOジャーナル編集部にて作成)

では、具体的にどんなところをリフォームしたのだろうか。

まず「住宅内設備」を見ると、「台所・便所・浴室等の設備を改善した」が85.2%と抜きん出て多い。大半が水まわりの交換などを行っているようだ。次に「住宅の構造」を見ると、「断熱工事・結露防止工事等を行った」が67.7%で、次いで「基礎・構造の補強を行った」の45.2%となった。いずれも住宅を長持ちさせるには欠かせない工事といえるだろう。

住宅内設備の改善・変更の内容(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」)

住宅内設備の改善・変更の内容(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」)

住宅構造の改善・変更の内容(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」)

住宅構造の改善・変更の内容(複数回答)(出典:国土交通省「平成29年度住宅市場動向調査」)

リフォームの目的は「不満の解消」から「積極的な改良」へと変わる!?

さて、筆者は住宅に関する多くの調査結果に目を通しているが、リフォームをする理由として「住宅や設備の老朽化」などを挙げる調査結果は多い。

住宅リフォーム推進協議会の「平成29年度住宅リフォーム実例調査」を見ても、リフォーム工事の目的には、「住宅、設備の老朽化や壊れたため」(60.9%)が「使い勝手の改善、自分の好みに変更するため」(64.2%)と並んで、6割を超える多さとなっている。つまり、古くなったり不具合が起きたりして、生活に支障が出るという理由からリフォームに至ることが多いのが実態だ。

しかし、徐々にではあるが、「家を長持ちさせるため」や「不満はなかったがよい住宅にしたかった」が増加傾向にあることから、リフォームの目的が「不満を解消する」から「積極的に改良を図る」というものへ広がっていく兆しと見てもよいだろう。

特に若い世代では、中古住宅を購入してリフォームすることで、「自分好み」の家にしたい、「快適に暮らせる」家にしたいという発想が広がっている。限られた資金を自分たちなりに効果的に使って、住まいの満足度を上げるという流れだ。

一方で、子どもが独立した年配の夫婦が、快適なセカンドライフのために住み替えをしたり、リフォームをしたりする「積極的」な住まいへの投資も見られるようになってきた。人生100年と言われる時代だからこそ、住まいの果たす役割は大きいものになる。

これからのリフォームは、「新築として提供された家を手直ししながら住む」という旧来型の考え方ではなく、「手をかけて自分らしく快適に暮らせる家にしていく」という考え方がスタンダードになっていくのだろう。