【ファミリー編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

住まい選びをする際、立地は重要なポイントのひとつ。そこで、都内屈指のターミナル駅・新宿駅まで30分圏内という交通の利便性がいいエリアにある、中古マンションの価格相場を調査! これまで2回にわたってシングル編、DINKS編を紹介してきたが、第3弾となる今回は駅徒歩15分圏内にある、専有面積70平米以上~100平米未満の物件を対象にした、ファミリー向けの中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介する。●ファミリー向け 新宿駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新宿駅までの所要時間)
1位 読売ランド前 2580万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/27分)
2位 与野本町 2680万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/29分)
3位 百合ヶ丘 2690万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/29分)
4位 京王稲田堤 2800万円(京王相模原線/神奈川県川崎市/25分)
5位 生田 2880万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/25分)
6位 稲城 2980万円(京王相模原線/東京都稲城市/29分)
7位 北戸田 2985万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/25分)
8位 日野 3080万円(JR中央線/東京都日野市/30分)
8位 蕨 3080万円(JR京浜東北線/埼玉県蕨市/25分)
10位 戸田 3190万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/23分)

DINKS編と合わせて見ると2人以上の世帯必見のエリアが明らかに

最も価格相場が安かったのは、小田急小田原線・読売ランド前駅。専有面積40平米以上~70平米未満の物件を対象に物件相場を調査した前回の「DINKS編」調査でも1位になっており、今回の結果も考え合わせると専有面積40平米以上~100平米未満の価格相場が安い物件を探すなら、まず読売ランド前駅はチェックしたほうがよさそうだ。

2位のJR埼京線・与野本町(よのほんまち)駅は、「DINKS編」では3位にランクインしていた。駅に直結してドラッグストアやスーパーなどが並ぶ「ビーンズ与野本町」が備わり、駅周辺には住宅街が広がっている。駅の1.5kmほど北東側にさいたま新都心駅が、また与野本町駅からJR埼京線に乗り2駅で大宮駅があり、そちらのほうへ行くと商業施設はより充実している。

与野本町駅(写真/PIXTA)

与野本町駅(写真/PIXTA)

1位と2位以外にも、「DINKS編」トップ10にランクインした駅がある。それは4位の京王相模原線・稲田堤駅(DINKS編は2位)、5位の小田急小田原線・生田駅(同5位)、7位のJR埼京線・北戸田駅(同4位)、10位のJR埼京線・戸田駅(同6位)。これらのエリアは、2人暮らし以上の世帯が新宿駅まで30分圏内で住まい探しをする際は要チェックだ。

駅前だけでなく隣接駅など周辺環境も暮らすうえでは要チェック

3位は小田急小田原線・百合ヶ丘駅。1駅新宿寄りには1位の読売ランド前駅、小田原方面に1駅進むと快速急行が停まる新百合ヶ丘駅がある。お隣の新百合ヶ丘駅のほうが住宅地として人気があり駅前も発展しているが、物件相場は4390万円と百合ヶ丘駅の1.6倍超! 一方で百合ヶ丘駅の周辺も生活に必要な施設はそろっているし、必要に応じて新百合ヶ丘駅にもすぐ行ける。物件相場を考えると、新百合ヶ丘駅よりも百合ヶ丘駅のほうが穴場といえるかもしれない。

新百合ヶ丘駅前(写真/PIXTA)

新百合ヶ丘駅前(写真/PIXTA)

8位になると3000万円台に突入する。8位は物件相場が同額の3080万円だったJR中央線・日野駅とJR京浜東北線・蕨(わらび)駅。両駅ともに駅前にはスーパーやドラッグストア、飲食店などの商業施設が充実し、日常の買い物に困らない環境。また、日野駅からJR中央線で高尾方面へ行った1駅目の豊田駅前には「イオンモール多摩平の森」が、蕨駅からバスで10分弱の場所には「イオンモール川口前川」がある。どちらも100店舗以上が入っており、こうした大型ショッピングモールがあるのは都心部とは違った魅力だろう。

さて、3回にわたって新宿駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場が安い駅ランキングをお届けしてきた。ランキングを振り返ると新宿までのアクセスを重視しつつお得な中古マンションを探すなら、シングル向けは1000万円台後半、DINKS向けは1900万円台~2300万円台、ファミリー向けは2500万円台~3000万円台の予算が目安となる様子。この価格帯を大きく上回る物件の場合は、築浅であるとか、新宿にとても近い立地であるなど、それに見合った魅力がある物件なのかをもう一度見直すといいだろう。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積70平米以上100平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2017年3⽉1⽇~2018年2⽉28⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

一戸建て育ちVSマンション育ち! “そこで育った”からこそ分かる「良さ」討論会

住宅系のメディアで度々議論される「一戸建てVSマンション」。それぞれのメリット・デメリットについて、これまであまたの専門家がさまざまな知見を述べてきた。管理費やら資産運用やら、さまざまな観点は参考にはなるものの、ぶっちゃけ「実際に住んでみないと実感が湧かない」というのが正直なところではないだろうか。

では、いっそのこと専門家ではなく、実際に「そこで育った人」たちに討論させてみてはどうだろうか? 専門家が語る長所・短所ではなく、そこに暮らして大人になったからこそ分かる「良さ」を語ってもらうのだ。

そこで、今回は一戸建て、マンション、それぞれの環境で育った男女6人を招き、各々が思う魅力や子どものころの思い出を語ってもらった。
写真撮影/榎並紀行

写真撮影/榎並紀行

集まってもらったのは「一戸建てで育った3名」と「マンションで育った3名」の計6名。それぞれ、思い出を振り返りつつ「良さ」を主張してもらうことにした。さらには、逆に相手側の「うらやましかったところ」も述べてもらおう。

写真撮影/榎並紀行

写真撮影/榎並紀行

こちらは一戸建て育ちの3名。向かって左からタカダ氏、ハコちゃん、タニ氏。

写真撮影/榎並紀行

写真撮影/榎並紀行

一方、マンション育ちの3名。向かって左からポインティ氏、アイハル氏、ホウキバラ氏。

育ったからこそ分かるマンションの良さ

というわけで、さっそく語っていただこう。口火を切ったのはマンションチームのホウキバラ氏。いわく、子どもにとってマンションほど魅力的な遊び場はないと語る。

【マンションの良さ・その1】子どもにとってマンションは絶好の遊び場

ホウキバラ(マンション育ち、以下、マ)「マンション住まいの利点が最大に活かされるのは、小・中学生時代じゃないかな。マンションのほうが、遊ぶ空間に恵まれていると思うんですよね」

のっけから熱いホウキバラ氏(写真撮影/榎並紀行)

のっけから熱いホウキバラ氏(写真撮影/榎並紀行)

ホウキバラ(マ)「ポコペン(※)って遊びがあるじゃないですか? だいたい4~5人でこぢんまりとやる遊びなんですけど、そんなポコペンもマンションを舞台にするととても壮大になります。僕がやっていたのはマンションの敷地全てをフィールドにした『サバイバルポコペン』です」

※ポコペンとは……鬼は隠れている子を探し、見つけたら所定の場所に戻り「〇〇くん、ポコペン」などと叫びながらタッチする遊び。なお、地域によってさまざまなローカルルールがある。

サバイバルポコペン??? いきなり知らない遊びが出てきて戸惑う一戸建てチーム(写真撮影/榎並紀行)

サバイバルポコペン??? いきなり知らない遊びが出てきて戸惑う一戸建てチーム(写真撮影/榎並紀行)

タカダ(一戸建て育ち、以下、戸)「公園じゃダメなの?」

ホウキバラ(マ)「公園だとヨコにしか広がりがないけど、マンションの場合はタテも使える。上の階から下の階の様子をうかがったり、情報を伝達したり。かけひきの楽しさもグンと上がります。ポコペンに限らず、マンションって子どもの遊びの想像力を広げてくれると思うんですよね。それでいて、どこか遠くに行かれるよりマンションの敷地内で遊んでくれたほうが親も安心できる。マンションって、小学生でも扱いきれるスケールなのがいいんですよ。もちろん、危険な遊びはダメですけど」

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【マンションの良さ・その2】やっぱり眺望は魅力!

ホウキバラ(マ)「あと、これは言わずもがなかもしれませんが、マンションの良さといったらやはり眺望です。うちの親父は『リビングから富士山が見える』という理由だけでマンションを買いました。結果的に職場まで片道2時間の通勤という代償を払うことになりましたけど、それほどまでに景色というのは人を魅了するんだなあと子どもながらに思いましたね」

ポインティ(マ)「うちも眺めは良かったな。自然豊かな場所で、窓から四季折々に風景が移ろっていく様子が眺められました。子どものころはそんなのまったく興味なかったけど、大人になってから振り返ると季節の風景が思い出にひもづいて、よりエモーショナルな気持ちになれる」

ハコちゃん(戸)「それは素直にうらやましい!」

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【マンションの良さ・その3】住民同士の属性が近く、友達ができやすい

アイハル(マ)「私がマンションで良かったと思うのは、幼なじみができたことですね」

マンションには同年代の子どもがたくさん住んでいたと語るアイハル氏。何度も引越しを重ね、最終的に実家は一戸建てになったというが、思い出深いのはマンションでの暮らしとのこと(写真撮影/榎並紀行)

マンションには同年代の子どもがたくさん住んでいたと語るアイハル氏。何度も引越しを重ね、最終的に実家は一戸建てになったというが、思い出深いのはマンションでの暮らしとのこと(写真撮影/榎並紀行)

ホウキバラ(マ)「確かにマンション、特に新築の場合は同じ属性の世帯が多く住んでいるから友達はできやすいし、距離的にも近いから密になるよね。僕は6階に住んでたんだけど、3階のモトちゃんと少年野球でもバッテリー組むくらい仲が良かった」

ハコちゃん(戸)「すてきな思い出」

ホウキバラ(マ)「ヒマなときにすぐピンポン鳴らしてキャッチボールしようぜって。あと、隣に住んでた子とも仲良くて、壁を挟んで向こう側がその子の部屋だった。僕が壁をドンドンってたたくと向こうもたたき返してきて、それが『遊ぼうぜ!』の合図だった。そういう気楽さはマンションならではだと思う」

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【マンションの良さ・その4】協調性や察する力など「大人力」が身につく

タニ(戸)「そういうコミュニケーションはうらやましいと思うけど、音が響くのは嫌じゃない? 隣人同士の騒音もだけど、マンションって大概ワンフロアだから家族同士のプライバシーを確保するのも難しそう」

ポインティ(マ)「まあ、家族が喧嘩してたりすると筒抜けなのは確か。うちも両親がよくケンカしてましたね、夜中に。でも、だんだん深夜ラジオみたいな感覚で聞き流すようになったけど」

タカダ(戸)「なんか達人っぽい」

両親の喧嘩はラジオだったと、独特の経験談を語るポインティ氏(写真撮影/榎並紀行)

両親の喧嘩はラジオだったと、独特の経験談を語るポインティ氏(写真撮影/榎並紀行)

ポインティ(マ)「両親の喧嘩に僕が口を挟むことはないんですけど、どっちの言い分が正しいのか分析したり、そういうことはやってましたね。丸聞こえだったがゆえに大人の事情を知ることができ、察する力とか、物事をバランスよく公平に見る力、ジャッジする力が養われたような気がします(笑)」

ホウキバラ(マ)「ポインティさんのケースはやや特殊かもしれないけど、マンションって密なコミュニティであるがゆえに『大人力』みたいなものは身につきやすいと思います。大人と触れ合う機会も多いし、協調性とかが磨かれる気がする」

アイハル(マ)「確かに、マンションだと騒音問題とかもあるけど、それはお互いさまだよねって。私が育ったマンションでも、基本的にそういう協調性をみんなが互いにもって暮らしていたと思います」

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一戸建ての良さは?

【一戸建ての良さ・その1】一戸建ての子どもはイケてる気がする

では、一方の一戸建ての良さは何だろうか? 日当たり良好な庭付き一戸建てで育ったというタカダ氏が猛然と吠える。

タカダ(戸)「まず、一戸建てって子どもにとっても何となく誇らしいよね。“一国一城”の子どもっていうプライドをもてるし、自信満々で友達を呼べる」

タニ(戸)「それは確かに。マンションと値段が同じだったとしても、根拠のない“金持ち感”みたいなものはあったね」

一戸建て育ちの誇りを語るタカダ氏(写真撮影/榎並紀行)

一戸建て育ちの誇りを語るタカダ氏(写真撮影/榎並紀行)

ポインティ(マ)「確かに、一戸建ての子どもって何かキラキラして見えたような気がする」

タカダ(戸)「そう、ちょっと中二っぽいことを言わせてもらうと、一戸建てって“主人公”っぽさがあるんですよね」

アイハル(マ)「???」

タカダ(戸)「少年漫画とかアニメの主人公って、だいたい一戸建てに住んでませんか? のび太やサザエさん一家は言わずもがな、キャプテン翼とか、タッチとかもそう。食パンかじりながら自宅を出るとか、幼なじみと2階の窓越しに行き来するとか、漫画におけるベタなシーンも一戸建てが舞台だからこそ映えると思うんですよ」

アイハル(マ)「確かに、主人公の実家がマンションってあまりない気がする……」

ホウキバラ(マ)「それは地味にちょっと悔しい」

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【一戸建ての良さ・その2】人が集まりやすいため、ホスピタリティが磨かれる

タニ(戸)「あと、さっきタカダさんがちょっと言ってたけど、人を呼びやすいってのはあると思う。一般的には一戸建てのほうが部屋がたくさんあったり、庭があったりして広いので集まりやすいし、みんなも来たがる」

ハコちゃん(戸)「私の家にも友達はよく来ていました。うちの場合は一戸建てで、なおかつ小学校が目の前だったので、余計にたまり場みたいになってましたね。おかあさんは大変だったと思うけど……。でも、来客用のお菓子は常にストックされていて、それはうれしかったな」

タニ(戸)「小学校のすぐ近くなんて、もう住んでるだけでヒーローだよね。で、友達が来てくれると楽しいのもあるけど、ホスト精神というか、おもてなしの精神みたいなものが自然と身につく気がします。マンション住まいだと大人力が磨かれると言ってましたけど、こっちはホスピタリティが養われる」

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【一戸建ての良さ・その3】思春期のプライバシーを守れる

タカダ(戸)「あと、僕はやっぱり家族同士でも互いのプライバシーは必要だと思うし、その点でも一戸建てに利がある。特に思春期のころですよね。僕は2階に子ども部屋があったので、主に1階にいた親と心理的、精神的にほどよい距離感を保つことができました。ワンフロアのマンションだと、自分の部屋はあっても家族がすぐ近くにいる感じがして落ち着かないと思います」

アイハル(マ)「親は心配だろうけど、確かに子どもとしてはある程度の距離は保ちたいですよね」

タカダ(戸)「距離って大事なんだよ。少年マガジンのグラビアを熟読してる姿とか、ゼッタイ親に見られたくない。だから、グラビアを読みつつ別のページを指で挟んでおいて、親が階段を上る足音が聞こえたら瞬時にMEGUMIから『はじめの一歩』に切り替える。そういう危機管理ができるのも一戸建てならではだよね」

ハコちゃん(戸)「……意外としょうもない話だった」

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実はマンションがうらやましかった点は?

ここまで一歩も譲らぬ両者。そこで、「互いにうらやましかった点」を聞いてみた。まずは一戸建てチームに「マンション住まいのうらやましかったところ」を聞いてみると……

写真撮影/榎並紀行

写真撮影/榎並紀行

【マンション住まいのうらやましい点】すぐに友達と集まれる

タニ(戸)「さっきホウキバラさんも話していたけど、やっぱり友達とすぐ集まれるっていうのはマンションならではの魅力だと思う。学校帰り、ランドセルを置いたらすぐマンションの1階に集合とか、そういうのはうらやましかったですね」

タカダ(戸)「確かに、遊戯王のカードがはやったときにマンションのやつらはロビーでバトルしてて、あれはうらやましかったな。風でカードもめくれないし、雨でぬれる心配もないし」

ポインティ(マ)「確かに、遊戯王はうちのマンションでもはやってました」

タカダ(戸)「ロイヤルマンションってところが主戦場になってたから、よく遠征に行ってた。だから小学生のときはまっすぐ家に帰らずロイヤルマンションに直行するっていう」

ハコちゃん(戸)「公園とかに行かなくても、マンション自体がコミュニティスペースになるからいいですよね。あと、マンションは学年関係なく仲良くなれるのがうらやましかった。一戸建てだと、家に兄妹がいないと他学年の子と絡むことはないから」

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一戸建てへの憧れポイントは?

では、マンション育ちから見た一戸建てのうらやましい点は?

【一戸建て住まいのうらやましい点】とにかく広い!

アイハル(マ)「やっぱり、何といっても『広い』ってことですね。庭で愛犬を遊ばせたり、バーベキューをしたり。マンション住みからするとキャンプ場でやるような特別なイベントを家でできるっていうのは、本当にうらやましかった」

ホウキバラ(マ)「確かに庭は憧れだった。野球少年だったから庭でティーバッティングできるとか、本当にうらやましかった。あと、同じマンションの友達の家に行くとほぼ間取りが同じなんだけど、一戸建てはすごく自由な感じがして楽しかったのは覚えてるなあ」

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一戸建てとマンション、どっちも良いけど……

というわけで、まとめると……

【マンションの良さ】
・子どもにとってマンションは絶好の遊び場
・やっぱり眺望は魅力!
・住民同士の属性が近く、友達ができやすい
・協調性や察する力など「大人力」が身につく
・すぐに友達と集まれる

【一戸建ての良さ】
・一戸建ての子どもはイケてる気がする
・人が集まりやすいため、ホスピタリティが磨かれる
・思春期のプライバシーを守れる
・シンプルに広い

ということになった。それぞれに良さがあり優劣はつけられないが、一戸建て育ちとマンション育ちでは幼少期の思い出や思春期の悩み、考え方や育ち方にも微妙な違いが生じるように感じた。専門家が語るメリット・デメリットは参考になるが、「子どもにどんな風景を見せたいか」、「どんな思い出を刻んでほしいか」といった視点も、同じくらい大事なのかもしれない。そんなことを思い起こさせてくれる討論会だった。

※今回のメリットはそれぞれの体験がもとになっているため、一戸建て、マンションともに一概には言えません

約5000人が暮らす港区の大規模マンション 管理と自治の工夫とは?【管理はつなぐ[9]】

ワールドシティタワーズ(以下、WCT)が立つ東京都・港区港南は1~5丁目まであり、総人口は2万1000人弱(※2017年9月1日時点)。「そのうちWCTの住民は約5000人。港南の4分の1に相当します」(自治会理事・野田久正氏)そんな超大規模物件だからこそのマンション管理の工夫に迫る。【住民経営マンション・管理はつなぐ】
高い資産性を守って次世代に渡したい。都心住宅に暮らす人々の誠実な管理に学ぶ。『都心に住む』の人気連載からの転載記事です”中期経営計画”を立案 住民合意形成の一助に

24時間営業のスーパー、クリニック、薬局、銀行、認可保育園、カフェ、品川駅と物件を結ぶシャトルバスもある、まさにひとつの街。これほどの規模だけに、竣工時から物件管理、修繕などハードを請け負う管理組合と、住民の交流促進や防災などソフト面を担当する自治会の分業体制が敷かれている。
管理組合の目下の課題は2021年度開始予定の大規模修繕工事だ。「費用は億単位、1年以上はかかります。総会で承認を得るべき事項も膨大な数のため、2017年4月に大規模修繕工事委員会を立ち上げました。これを機に“中期経営計画”的なロードマップを作成、住民に発信して合意形成の一助にしたいと考えています」(管理組合理事長・八木智裕氏)

(上)アクアタワー26・27階にある2層吹抜けのスカイラウンジ。レインボーブリッジ、東京湾のパノラマビューを楽しめる(下) 品川駅と物件前を結ぶシャトルバス。1 日約70本、朝の通勤時間帯は5~7分に1本の割合で走る(写真撮影/中垣美沙)

(上)アクアタワー26・27階にある2層吹抜けのスカイラウンジ。レインボーブリッジ、東京湾のパノラマビューを楽しめる(下) 品川駅と物件前を結ぶシャトルバス。1 日約70本、朝の通勤時間帯は5~7分に1本の割合で走る(写真撮影/中垣美沙)

全戸自治会加入の新体制 管理組合とのさらなる好循環へ

一方の自治会は、約300戸の分譲賃貸を含む全住民で構成され、快適で安全な生活を守る活動に努めている。「大きな仕事のひとつが今年で10回目の秋祭り。隣にある約2万平米の区立公園を会場に、歴代の役員が手弁当で行政や企業、学校などと折衝し、参加を募ってきました。今では地元の公立小中学校の鼓笛隊や企業、レストランなどが出店して1日約800人が訪れる一大イベントになっています。
また、昨年管理規約を改定し、基本的に全戸自治会加入の新体制が確立しました。コミュニティとしてさらに成熟が進みそうです」(自治会会長・伊丹桂氏)
管理組合理事長の八木氏は、今後、組合と自治会の連携を深めたいと話す。
「自治会は住民の生の声に触れる機会が多い。われわれは自治会を通じて住民のリアルな要望を集め、管理や大規模修繕に反映したいと考えています」 
自治会からは「駐車場にEV充電設備を設置してEV車を有事の共用電源にする、共用プールを非常用水源にするなど、新たな仕組みをつくっては、といった具体的な意見が出ています。実現できればWCTの付加価値は確実に上がると思います」(伊丹氏)
管理組合と自治会が連携し、住み心地や資産性の向上を目指す。今後、2つの組織の協働が好循環を生めば、一層の相乗効果が期待できるだろう。

(左)昨年の秋祭りの様子。近隣のカフェ、レストランからの出店もある(右)こちらも秋祭り。場所は物件隣の港区立港南緑水公園(写真撮影/中垣美沙)

(左)昨年の秋祭りの様子。近隣のカフェ、レストランからの出店もある(右)こちらも秋祭り。場所は物件隣の港区立港南緑水公園(写真撮影/中垣美沙)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授  大月敏雄氏が語る建築家の視点
一般的には、管理組合は所有者目線で建物の維持に取り組み、自治会は賃貸も含めた全住民の生活者目線に基づいて活動する。WCTのように両者が連携を意識すればマンション経営は円滑に進むはず。
管理組合の総務部会理事が自治会環境部でも仕事をされており、こうした人的交流も理想的だ。 
自治会は港南地区のマンションや企業が加盟する地域連合会に参加しており、品川駅に向かう公道の拡幅などにも尽力したという。ひいてはWCT住民の快適、安全な生活にも寄与しているわけで敬意を表したい。
現在、自治会報制作の負荷が高くアウトソーシングも検討中とのこと。これについて管理組合が資金援助を考えているそうで、実現すればより密な関係になりそうだ。6~23時まで使用できるプール。出勤前にひと泳ぎする人も多い(写真撮影/中垣美沙)

6~23時まで使用できるプール。出勤前にひと泳ぎする人も多い(写真撮影/中垣美沙)

3棟構成だが、管理組合は1つ。理事会は監事を含めて34名で任期は2年。議案が多いため、月1回の理事会前に準備部会で優先順位を付ける仕組み。自治会の理事は20名超で自他薦で決定

3棟構成だが、管理組合は1つ。理事会は監事を含めて34名で任期は2年。議案が多いため、月1回の理事会前に準備部会で優先順位を付ける仕組み。自治会の理事は20名超で自他薦で決定

※この記事は『都心に住む』2018年1月号(2017年11月25日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

物件DATA
所在地:港区港南4丁目/2005年12月~2007年2月完成/アクアタワー、ブリーズタワー、キャピタルタワー地上42階・地下2階建て/総戸数2092戸(店舗等含む)/分譲時売主:住友不動産/設計・監理:日建設計/施工:清水建設、ピーエス三菱、西武建設/取材協力:ワールドシティタワーズ管理組合・自治会、住友不動産建物サービス

住みながら自宅を現金にする方法がある!? 「リバースモーゲージ」の利用件数が増加

「リバースモーゲージ」というワード、「聞いたことはあるけど、詳しいことはよく分からない」という人も多いのではないか。持ち家を担保にしてローンを借り、死亡時に清算する方法で、高齢者の持ち家活用に効果的と言われている。
このたび、住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用したリバースモーゲージである、【リ・バース60】の利用実績が公表された。どういう制度で、誰がどういった目的で利用しているのだろうか?【今週の住活トピック】
「【リ・バース60】の利用実績等の公表について」/住宅金融支援機構リバースモーゲージってどんなもの?どんなメリットがある?

リバースモーゲージを直訳すると、「逆抵当融資」となる。持ち家を担保にお金を借り、長期間にわたって元金と利息を返し続けて完済に至るのが、一般の住宅ローンだ。これに対し、持ち家を担保にお金を借りる点は同じだが、お金を一括して受け取って利息だけを返し続けたり、お金を年金のように分割して受け取ったりして(利息は元本に加算)、最終的には死亡時に持ち家を売却して完済するのが、リバースモーゲージだ。

リバースモーゲージを取り扱っている金融機関はまだ少ないが、商品設計、つまり担保の条件や借りたお金の受け取り方、返し方などはそれぞれで異なる。融資限度額は、おおむね土地の評価額の50%~70%程度とする事例が多く、利用するには相続人の同意なども必要となる。

リバースモーゲージの最大のメリットは、持ち家を所有し続けることができる点だ。年金暮らしで収入は限られるが、貯蓄を使ってしまうのは不安なので、持ち家を活用したいと考える人も多い。持ち家を相続で残すことはできないが、住み続けながらまとまった現金を手にできるというメリットがある。

【リ・バース60】とは、どんなリバースモーゲージ?

【リ・バース60】は、60歳以上を対象として、住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用したリバースモーゲージで、提携している一部の金融機関で取り扱っているもの。毎月の返済は利息のみで、元金は死亡時に住宅や土地の売却代金などで一括返済する。

【リ・バース60】と一般的な住宅ローンの違い(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】と一般的な住宅ローンの違い(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】の仕組み(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】の仕組み(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

特徴は、住宅のリフォーム費用や本人または子ども世帯が居住する住宅の購入資金、住宅ローンの借り換え資金、サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金など、住宅に関する融資に限定されていること。融資限度額は、担保評価額の50%または60%までで、購入資金や建設資金の場合は5000万円、リフォーム資金や入居一時金の場合は1500万円などとなっている。

【リ・バース60】はどんな利用をされている?

さて、住宅金融支援機構が公表した【リ・バース60】の平成29年度の利用実績だが、金融機関から住宅金融支援機構に住宅融資保険を付保するために申請があったのは174戸、付保されて融資が実行されたのは68戸で、いずれも対前年度で400%を超える伸びを見せている。取扱金融機関は38機関で、実行された融資額は8.5億円にのぼる。

利用申込者の属性を見ると、平均年齢は72歳、平均年収は330万円、60%が年金受給者で、神奈川県(16%)・千葉県(12%)・東京都(8%)が上位を占めるなど首都圏での利用が圧倒的に多い。

筆者が注目している「資金の使い道」を見ると、想定していたのは、長く住むための建て替えやリフォームだったのだが、結果は次のようなものだった。
・新築マンション購入(40%)
・新築一戸建て建設(31%)
・一戸建てリフォーム(13%)
・借り換え(8%)
・その他(8%)

「新築マンション」を自分が住むために購入したものなのか、子ども世帯の購入を支援したものなのかは不明だが、利便性のよい新築のマンションを買って一戸建てから住み替えるという人は多いのだろう。その場合、担保となる持ち家の方は貸すのだろうか、なども気になるところだ。

「一戸建ての建設」は、建て替えが多いと見てよいだろう。老朽化してきた一戸建てを建て替えたり、リフォームをしたりという使い方をした人も、やはり相当数いたようだ。

購入や建設などに必要な額は3391万円、借りた額は1691万円、毎月返済額は3.5万円というのが、利用者の平均像だった。

また、【リ・バース60】のもう一つの特徴が、「ノンリコース型」を用意していることだ。

リバースモーゲージのリスクとして、「金利上昇」や「不動産価格の下落」のほか、「長生き」のリスクがある。これらによって、死亡時に売却した代金よりローンの残債のほうが多くなる可能性が生じる。この場合に、相続人が残債を一括返済する「リコース型」と、売却代金で清算されて相続人に請求が生じない「ノンリコース型」がある。

【リ・バース60】では、住宅金融支援機構の住宅融資保険を利用することで、金融機関が残債を回収できない事態を回避することができるために、「ノンリコース型」の用意ができるようになる。利用実績では、ノンリコース型が61%、リコース型が39%となっていた。

高齢化が進み、親世帯が老後資金を十分に用意する必要がある一方で、相続時にはすでに子ども世帯がマイホームを構えていることが多くなる。そうだとしたら、持ち家は自分のために利用すると割り切って、リバースモーゲージの活用を検討してもよいだろう。

最近では「リースバック」と呼ばれる商品も登場している。リースバックとは、持ち家を売却して買主とリース契約を結び、買主に賃料を払いながら自宅に住み続ける方法だ。

いずれの場合も持ち家に住みながら現金を手にできる方法だが、どんな家でも利用できるわけではない。取り扱い先が限られるうえ、思っているよりも条件は厳しいと考えたほうがよいだろう。人生100歳の時代を迎える今こそ、持ち家の価値を見直して、老後の資産設計を考えてほしいと思う。

住みながら自宅を現金にする方法がある!? 「リバースモーゲージ」の利用件数が増加

「リバースモーゲージ」というワード、「聞いたことはあるけど、詳しいことはよく分からない」という人も多いのではないか。持ち家を担保にしてローンを借り、死亡時に清算する方法で、高齢者の持ち家活用に効果的と言われている。
このたび、住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用したリバースモーゲージである、【リ・バース60】の利用実績が公表された。どういう制度で、誰がどういった目的で利用しているのだろうか?【今週の住活トピック】
「【リ・バース60】の利用実績等の公表について」/住宅金融支援機構リバースモーゲージってどんなもの?どんなメリットがある?

リバースモーゲージを直訳すると、「逆抵当融資」となる。持ち家を担保にお金を借り、長期間にわたって元金と利息を返し続けて完済に至るのが、一般の住宅ローンだ。これに対し、持ち家を担保にお金を借りる点は同じだが、お金を一括して受け取って利息だけを返し続けたり、お金を年金のように分割して受け取ったりして(利息は元本に加算)、最終的には死亡時に持ち家を売却して完済するのが、リバースモーゲージだ。

リバースモーゲージを取り扱っている金融機関はまだ少ないが、商品設計、つまり担保の条件や借りたお金の受け取り方、返し方などはそれぞれで異なる。融資限度額は、おおむね土地の評価額の50%~70%程度とする事例が多く、利用するには相続人の同意なども必要となる。

リバースモーゲージの最大のメリットは、持ち家を所有し続けることができる点だ。年金暮らしで収入は限られるが、貯蓄を使ってしまうのは不安なので、持ち家を活用したいと考える人も多い。持ち家を相続で残すことはできないが、住み続けながらまとまった現金を手にできるというメリットがある。

【リ・バース60】とは、どんなリバースモーゲージ?

【リ・バース60】は、60歳以上を対象として、住宅金融支援機構の住宅融資保険を活用したリバースモーゲージで、提携している一部の金融機関で取り扱っているもの。毎月の返済は利息のみで、元金は死亡時に住宅や土地の売却代金などで一括返済する。

【リ・バース60】と一般的な住宅ローンの違い(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】と一般的な住宅ローンの違い(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】の仕組み(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

【リ・バース60】の仕組み(出典/住宅金融支援機構のホームページより転載)

特徴は、住宅のリフォーム費用や本人または子ども世帯が居住する住宅の購入資金、住宅ローンの借り換え資金、サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金など、住宅に関する融資に限定されていること。融資限度額は、担保評価額の50%または60%までで、購入資金や建設資金の場合は5000万円、リフォーム資金や入居一時金の場合は1500万円などとなっている。

【リ・バース60】はどんな利用をされている?

さて、住宅金融支援機構が公表した【リ・バース60】の平成29年度の利用実績だが、金融機関から住宅金融支援機構に住宅融資保険を付保するために申請があったのは174戸、付保されて融資が実行されたのは68戸で、いずれも対前年度で400%を超える伸びを見せている。取扱金融機関は38機関で、実行された融資額は8.5億円にのぼる。

利用申込者の属性を見ると、平均年齢は72歳、平均年収は330万円、60%が年金受給者で、神奈川県(16%)・千葉県(12%)・東京都(8%)が上位を占めるなど首都圏での利用が圧倒的に多い。

筆者が注目している「資金の使い道」を見ると、想定していたのは、長く住むための建て替えやリフォームだったのだが、結果は次のようなものだった。
・新築マンション購入(40%)
・新築一戸建て建設(31%)
・一戸建てリフォーム(13%)
・借り換え(8%)
・その他(8%)

「新築マンション」を自分が住むために購入したものなのか、子ども世帯の購入を支援したものなのかは不明だが、利便性のよい新築のマンションを買って一戸建てから住み替えるという人は多いのだろう。その場合、担保となる持ち家の方は貸すのだろうか、なども気になるところだ。

「一戸建ての建設」は、建て替えが多いと見てよいだろう。老朽化してきた一戸建てを建て替えたり、リフォームをしたりという使い方をした人も、やはり相当数いたようだ。

購入や建設などに必要な額は3391万円、借りた額は1691万円、毎月返済額は3.5万円というのが、利用者の平均像だった。

また、【リ・バース60】のもう一つの特徴が、「ノンリコース型」を用意していることだ。

リバースモーゲージのリスクとして、「金利上昇」や「不動産価格の下落」のほか、「長生き」のリスクがある。これらによって、死亡時に売却した代金よりローンの残債のほうが多くなる可能性が生じる。この場合に、相続人が残債を一括返済する「リコース型」と、売却代金で清算されて相続人に請求が生じない「ノンリコース型」がある。

【リ・バース60】では、住宅金融支援機構の住宅融資保険を利用することで、金融機関が残債を回収できない事態を回避することができるために、「ノンリコース型」の用意ができるようになる。利用実績では、ノンリコース型が61%、リコース型が39%となっていた。

高齢化が進み、親世帯が老後資金を十分に用意する必要がある一方で、相続時にはすでに子ども世帯がマイホームを構えていることが多くなる。そうだとしたら、持ち家は自分のために利用すると割り切って、リバースモーゲージの活用を検討してもよいだろう。

最近では「リースバック」と呼ばれる商品も登場している。リースバックとは、持ち家を売却して買主とリース契約を結び、買主に賃料を払いながら自宅に住み続ける方法だ。

いずれの場合も持ち家に住みながら現金を手にできる方法だが、どんな家でも利用できるわけではない。取り扱い先が限られるうえ、思っているよりも条件は厳しいと考えたほうがよいだろう。人生100歳の時代を迎える今こそ、持ち家の価値を見直して、老後の資産設計を考えてほしいと思う。

【DINKS編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

前回に引き続き、都内屈指のターミナル駅・新宿駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場を調査した結果をランキング。今回は駅徒歩15分圏内にある、専有面積40平米以上~70平米未満の物件を対象にした、共働きで子どもがいない世帯「DINKS」向けの中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介する。前回のシングル向け物件のランキングとはトップ10の顔ぶれがガラッと変化。さっそく結果を見ていこう。●DINKS向け 新宿駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新宿駅までの所要時間)
1位 読売ランド前 1980万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/27分)
2位 京王稲田堤 2170万円(京王相模原線/神奈川県川崎市/25分)
3位 与野本町 2180万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/29分)
4位 北戸田 2200万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/25分)
5位 生田 2230万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市/25分)
6位 戸田 2280万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/23分)
6位 中浦和 2280万円(JR埼京線/埼玉県さいたま市/30分)
8位 朝霞台 2315万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/25分)
9位 北朝霞 2340万円(JR武蔵野線/埼玉県朝霞市/29分)
10位 花小金井 2365万円(西武新宿線/東京都小平市/28分)

日常生活も休日も充実して過ごせる環境の駅「読売ランド前」が1位に

1位は物件相場が1980万円だった小田急小田原線・読売ランド前駅。名前の通り、駅からバスに約10分乗ると遊園地「よみうりランド」にたどり着く。駅北側にはよみうりランドのほかに日本女子大学のキャンパスが広がり、雑木林に囲まれた「多摩自然遊歩道」など豊かな自然が残されている。また、駅前にスーパーがあるほか、生鮮食品店やハム・ソーセージが評判高い精肉店、地元に愛される洋菓子店などが並ぶ商店街がある。休日のレジャースポットにも日用品の買い出しにも困らない、住みやすそうな街並みだ。

よみうりランド(写真/PIXTA)

よみうりランド(写真/PIXTA)

2位以下は物件相場が2000万円台に突入する。2位の京王相模原線・京王稲田堤駅は物件相場2170万円で、駅の400mほど東にJR南武線・稲田堤駅があり2路線を利用できる。両駅を結ぶ通り沿いに商店街があるほか、2つの駅の周辺には飲食店も点在。駅の北側に進むと多摩川が流れており、川を渡ると東京都調布市という立地だ。

トップ10の駅は立地も路線もバラエティ豊かな顔ぶれ

トップ10の中で新宿駅まで最短で行けるのは、所要時間が約23分という6位のJR埼京線・戸田駅。物件相場は2280万円で、中浦和駅も同額だった。JR埼京線は行き先が複数あり、新木場行きならば池袋駅、新宿駅を経由して渋谷駅や大井町駅にも1本で行くことが可能。戸田駅直結の「ビーンズ戸田」にはスーパーやカフェがあり、駅前にはスーパーや100円ショップ、書店や家電量販店が3フロアにわたって展開する商業ビル「T-FRONTE」も。首都圏のベッドタウンとして親しまれる街だけあって、商業施設の充実ぶりは申し分なさそうだ。

8位の東武東上線・朝霞台駅と9位のJR武蔵野線・北朝霞駅は、駅舎こそ別々だが屋根のある連絡通路で結ばれており、雨の日もぬれずに乗り換えが可能。両駅の駅前広場を囲むように飲食チェーン店があるほか、周辺にはスーパーや銀行も点在している。

朝霞台駅 北口駅前(写真/PIXTA)

朝霞台駅 北口駅前(写真/PIXTA)

さて、トップ10の駅を振り返ってみると、10位・花小金井駅以外は東京都外という結果だった。一方で前回のシングル編では11駅中10駅が東京都内の駅。シングル向けの広さなら都内にも手ごろな物件が豊富にあるが、40平米以上となると東京都以外のエリアに価格面で軍配が上がるようだ。

しかし都外とはいえ新宿駅まで30分圏内なら、通勤・通学の面でも許容範囲といえるだろう。「都民」という点にこだわらず、所要時間を基準に住まい探しの範囲を広げたら、お気に入りの物件に出合えるチャンスも広がりそう。今回のランキングを参考に、中古マンションをチェックしてみてはいかがだろう。

次回は専有面積70平米以上・100平米未満に絞った、ファミリー向けの中古マンションの物件相場ランキングを紹介する。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積40平米以上70平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2017年3⽉1⽇~2018年2⽉28⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

住宅購入で親子の距離が縮まる!?「親の面倒をみたい」が過去最高に

リクルート住まいカンパニーが「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」の結果を発表した。住宅の購入・建築やリフォームを検討している人(1239人)を対象にした調査なのだが、住宅購入をきっかけに親子の距離感が縮まっていることを表す結果が多く見られた。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」を発表/リクルート住まいカンパニー「親の面倒をみたい」が過去最高、同居や近居の意向は?

この調査では、住宅への意識を聞くほかに、親子関係にかかわる質問もしている。

・「20~40代」には、「親(自分の親または配偶者の親)が年をとったら、親(自分の親または配偶者の親)の面倒をみてあげたい」かどうか
・「50~60代」には、「自分が年をとったら、子どもに面倒をみてもらいたい」かどうか

その結果は、「親の面倒をみたい」が83.1%で、前回より5.3ポイント増の過去最高に、「子どもに面倒をみてもらいたい」が38.8%で、前回より0.6ポイント増の過去最高になった。

そこで、「同居・近居」の意向を聞いたところ、「同居意向あり」が16.0%、「近居意向あり」が45.2%と極めて高いことが分かった。

親との同居・近居意向(出典/リクルート住まいカンパニー「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」)

親との同居・近居意向(出典/リクルート住まいカンパニー「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」)

これには男女差も見られ、「同居」意向は男性(夫)が21.5%と女性(妻)の10.1%より高く、「近居」意向は女性(妻)が51.8%と男性(夫)の39.1%より高い結果となった。キッチンなどを共有する可能性があるので、女性(妻)のほうが同居よりも近居を望むということだろう。

「親からの援助」を期待する意向は調査開始以来最高に高い44.8%

住み替えにあたって「親や親族からの援助」について、それを「期待する」か、「援助してもらえる」かを聞いているが、いずれも調査開始以来最高価になった。

内訳は以下の通り。
「援助してもらいたいし、援助してもらえると思う」25.9%
「援助してもらいたいが、援助してもらえないと思う」18.9%
「援助してもらうつもりはないが、援助してもらえると思う」17.0%
「援助してもらうつもりはないし、援助してもらえないと思う」38.2%

親や親族からの援助に対して(出典/リクルート住まいカンパニー(出典/リクルート住まいカンパニー「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」)

親や親族からの援助に対して(出典/リクルート住まいカンパニー(出典/リクルート住まいカンパニー「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」)


※「援助期待・計」は「援助してもらいたいし、援助してもらえると思う」+「援助してもらいたいが、援助してもらえないと思う」
※「援助実現見込・計」は「援助してもらいたいし、援助してもらえると思う」+「援助してもらうつもりはないが、援助してもらえると思う」

「援助してもらいたいし、援助してもらえると思う」の割合が伸びたことが、「援助期待」(44.8%)も「援助実現見込み」(42.9%)も引き上げる要因となっている。

また、20代、30代の若年層ほど「援助期待」や「援助実現見込み」が高く、20代では半数以上が期待もして、実現見込みも高いと考えていることが分かる。

一方、いくら援助をしてほしいかの「援助希望額」を聞くと、「1000万円以上~1500万円未満」が28.2%で最多で、次いで「500万円以上~750万円未満」の24.7%となった。「500万円以上」の援助を希望する人は68.8%を占め、こちらも過去最高値になった。

ただし、20代、30代の若年層ほど、希望額は下がる傾向にある点に、注目したい。

親や親族からの援助を期待している人の援助希望額(出典/リクルート住まいカンパニー(出典/リクルート住まいカンパニー「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」)

親や親族からの援助を期待している人の援助希望額(出典/リクルート住まいカンパニー(出典/リクルート住まいカンパニー「『住宅購入・建築検討者』調査(2017年度)」)

住宅取得に関わる贈与は最大1200万円まで非課税。消費税率が10%になるとさらに拡大

さて、親からの援助については、筆者は「できるものなら援助してもらうのがよい」と考えている。
というのは、今なら「直系尊属」つまり親や祖父母が子や孫に、「住宅取得などの資金」について贈与した場合は最大1200万円の「非課税枠」があるからだ。

ちなみに非課税枠は、消費税率が10%になった場合は最大3000万円(2020年3月末までの贈与で、一定基準を満たす住宅を取得する場合の非課税枠)に拡大される。

親からまとまった額の贈与を受けることができれば、その分だけ住宅ローンの借入額を減らすことができるし、相続税に対する節税対策になるなどの効果を生む可能性もある。反面、特定の子だけに贈与が行われる場合は、兄弟姉妹間でトラブルとなる可能性もある。トラブルなく贈与できるのであれば、メリットの多い制度なので、期限内に活用するとよいだろう。

さて今回の調査結果からは、多額の支出となる住宅の購入・建築などをきっかけに、親と子の世帯間の距離が縮まる傾向が見えてきた。親子の距離は、住まいはもちろん、家計や介護などさまざまな領域に影響を与える。住宅の購入・建築を考える際には、それをきっかけに親子の関係を見直してみてはいかがだろう。

「一生賃貸?35年ローンで住宅購入?どちらも不安です…」 住まいのホンネQ&A(5)

家族を持ったら家を買う。住宅は一生で一番高い買い物。昨今はそんな常識が変わりつつあり、一生賃貸で過ごす人も増えているといいます。しかし、どちらを選ぶにしても不安はつきもの。高齢になっても賃貸を借りられるのか。はたまた、35年ローンを組んで購入しても、70歳近くまで返済しきれるものなのか……。
住まいに関するさまざまな質問について、ホンネでお答えする本連載。第5回の質問は「一生賃貸?35年ローンで住宅購入?どちらも不安です…」です。誰もが知りたいこの悩み、果たして専門家の回答は如何に。

賃貸でも、購入でも、心配は杞憂に終わるかもしれない

確かに、日本社会の不確実性は高まる一方です。「年功序列」「終身雇用」といった旧来の働き方が崩壊しつつあり、さらに政府主導の「働き方改革」が進むなかで、人間の仕事の多くがAIやロボットに代替される可能性がある――。長期の住宅ローンを組んでマイホームを購入するのは「リスク」だと考えるのは、当然とも言えるでしょう。最長35年もの期間、ずっとローンを払っていけるのか、保証はどこにもありませんからね。

では一生賃貸でいいのかといえば、それはそれで心配になるでしょう。住宅ローンはいつか終わりますが、高齢になっても生きている限り、家賃の支払いはずっと続くわけですから。さくら事務所には「歳をとったら賃貸住宅を借りられなくなるから」といった購入動機をお持ちの方が多く来訪されます。ここで、「だからこそ低金利の今のうちに、終の棲家を確保しておこう」という流れがおこるわけです。

では、はたして現在の住宅購入層である30代が高齢者になったときにも、「歳をとったら賃貸住宅を借りられなくなる」という現在の常識が、はたして本当に成立するのでしょうか。結論を言えば、このような心配は杞憂に終わるでしょう。

高齢者に好まれなければ、賃貸経営者として失格に!?

かつては確かに、「高齢者は賃貸を借りにくい」いう風潮がありましたし、今後も完全になくなることはないかもしれません。しかし遠くない将来、状況が一変することになるはずです。なぜなら、日本はこれから、「少子化」「高齢化」を伴った本格的な「人口・世帯数減少時代」を迎えます。国立社会保障・人口問題研究所の平成29年版の推計によれば、2036年には3人に1人が高齢者になるとされています。

こういった世の中で、もし高齢者に対して積極的に賃貸住宅を貸そうとしなければ、賃貸住宅経営などとうてい成り立たなくなるでしょう。むしろ、高齢者に対して積極的にアプローチする物件、高齢者に好まれる物件でなければ、賃貸経営者として失格という世の中がやってくるはずです。

賃貸住宅だけではありません。日本の資本主義経済における高齢者とは、非常に大きなマーケット。街も高齢者向けにアレンジされ、市場で提供される商品やサービスも高齢者向けのものが現在より格段に多くなるのではないでしょうか。

3人に1人が高齢者の世の中では、電車やバスの優先席などは、全席の33%確保しなければならない計算です。もっとも、平均寿命は年々伸びていることや医療の発達などから、そのころの高齢者はおそらくとても元気で、趣味志向もおそらくかつての高齢者層とは大きく異なった「新世代高齢者」とでもいえるような状況になっていることが、想像に難くありません。“高齢者”という言葉からイメージする像は、現在をベースには考えられなくなることでしょう。

数十年先の住宅事情は大きく様変わりしている

未来の住宅事情も大きく様変わりするはず。新築は土地などの関係からもうあまりつくられず、中古住宅と賃貸住宅が、現在では想像もできないほど充実しているはずです。そうなると一生賃貸暮らしという選択も全く珍しくなくなっているでしょう。また賃貸であれ購入であれ、ライフスタイルやライフサイクルの変化に合わせて、住宅をリズミカルに住み替えることができる市場が出来上がっていることでしょう。すでに日本以外の先進国ではこうした市場が出来上がっており、住み替え頻度も日本よりかなり頻繁です。

つまり将来の日本の住宅事情は、より多様化し、どの世代にとっても楽しく面白く、より安全で安心感のあるものになっているはずです。すでに国は、中古住宅市場やリフォーム市場の活性化策や空き家活用による賃貸住宅増加策など住宅市場の多様化へ政策の舵を方向転換しているのです。未来に対して漠然とした不安を根拠に何かを決断するのではなく、その数十年先には日本の住宅事情が大きく様変わりしているということを踏まえておく必要があります。

まずは、住まいに関する現在の常識ははずしてしまいましょう。そしてそのうえで、自身や家族のライフスタイルやライフサイクルを考え、自由な住まい選びを楽しみましょう。賃貸でも購入でも、新築でも中古でも、世の中の常識や既成概念に自分をあてはめず、自由に発想して決めることができれば、それがあなたにとってのベストな選択になるのです。

買いたいときが“買い時”

ではそのうえで、マイホーム購入が肯定できるのはどんなときでしょうか。

「マイホーム、いつが買い時?」みたいな話は、私も不動産コンサルタントとして、聞かれればアレコレと理屈をこねくり回して答えるものの、現実には多くの人が「金利」や「価格水準」などの市場動向、つまり「外部要因」に合わせて生活しているわけではありません。子どもの学校とか家族のライフイベント、つまりは「内部要因」に合わせて動くケースがほとんどなのです。

つまりは、購入可否判断のための物差しを持つために、市場や金利の動向、税金などについて一定の知識を習得した上で
・売ったり貸したりと、将来の流動性が確保できそう
・支払いに無理がなさそう
かつ
・その物件を気に入っている
ならば、思い切って購入してしまえばよいのではないでしょうか。

ちなみに将来の流動性を確保しやすい物件については、第4回の「資産価値が落ちない家ってどんな家?」の内容を参考にしてください。資産価値が落ちにくい物件=流動性を確保しやすい物件です。無理のない支払い条件については、次回のコラムで触れますのでお楽しみに。

そうはいっても、マイホームを購入したあとに、例えば転勤やリストラ、長期にわたる疾病などに備えるにはどうしたらよいだろうかといった懸念は残ります。これを担保するにも、なるべく「価値が落ちない、落ちにくい住宅」を選べばいいでしょう。

仮に3000万円で買ったマンションが10年後に2000万になってしまった場合を考えてみましょう。よほど頭金を入れていないと、売却価格をローン残債が上回り、その分を現金で補填しないと売ることもできません。一方、10年後も3000万円で売れるなら、これはもう家賃はドブに捨てるようなものだといい切っていいでしょう。低金利の今なら10年間の支払い金利よりも賃料のほうがはるかに大きいはずです。

いつか住宅ローンを組むなら、それは一日でも早いほうがいいのです。理由はかんたんで「その分、支払いも早く終わるから」。35年の住宅ローンを組む場合、30歳なら65歳でローンが終わりますが、40歳だと75歳まで支払いは続きます。

株式売買とは異なり、不動産は一対一の相対取引で、契約条件もそれぞれ異なります。2012年の民主党から自民党への政権交代以降、不動産価格はほぼ一貫して上昇を続け、当時から見ればずいぶんと高くなりました。しかしこの期間中の価格上昇の多くの部分は「金利低下」で説明できる事が多いですし、そもそも安い時に買っている人もその多くは「たまたま」買えたというだけだったりするのです。

市場動向や金利やらの「外部要因」は「思い立ったときにたまたま条件良かったらうれしいよね」という程度に捉えておけば、後悔しないのではないでしょうか。

予算800万円以内! 60歳からの住まいは2人でリノベーション

「老後資金には1億円が必要」とか「年金に期待するな」とか、最近の日本は年をとるのもたいへんだ。今まで一生懸命に働いてきたのに、リタイア後も頭が痛くなるような話題ばかり。もっと楽しく、自分たちの身の丈に合った暮らしはできないのか。そんなとき、長年の友人が700万円以下で首都圏に一戸建てを手に入れ、自分たちでリノベーションをすると聞いた。ワクワクするようなニュースだ。早速遊びに行った。
現金で払える予算で自分たちの終の棲家を探す

中原夫妻は私と同じで60歳。妻は私がコピーライターとして新人だった時代の少し先輩だ。お互い還暦を迎え、そろそろリタイア後の生活に真剣に取り組む必要がある。「まだまだ元気で仕事も現役だが、ほんとうに体力がなくなる前に自分たちの終の棲家は確保しておきたい」と家探しを始めたのは2015年だった。

そんな2人が手に入れたのは、千葉県千葉市の土気駅から歩ける場所にある築35年超の一戸建てだ。
「町田で賃貸住宅に住んでいましたが、そろそろ自分たちの老後を考えたときに、いつまでも家賃を払い続けるのも不安で、この際家を買おうということに。これからのことを考えたら、自分たちが用意できる現金の範囲で探そうということになりました」と夫。

予算は最大800万円まで。最初は東京より西側の神奈川で探していたが、坂の上で階段がある物件が多い。予算内だと再建築不可(※)といった物件もあった。夫妻ともに海の近くで育っているので、山よりも海の近くが暮らしやすい。そのため今度は千葉県にも足を延ばして探すことにした。

※建て替えや増改築ができない状態。市街化調整区域の土地、建築基準法の接道義務に違反している(4m以上の道路に間口2m以上接していない)土地、あるいは法律の施行以前に建てられた「既存不適格建築物」などが該当する。

「古い団地も見に行きましたが、階段の上り下りがいずれたいへんになりそうで……。やはり庭仕事が好きな私たちには一戸建てが向いていると考えはじめました」と妻。そこで出会ったのが今の住まいだった。予算内に収まる価格と駅からのアプローチがフラットだったのもポイントだった。

「中古の一戸建てを自分たちの手で直しながら住むのもいいかと。古いけれど角地に建っていて開放感があるのと庭があるのも気に入りました」と妻。「供給公社がしっかり建てた物件で、床下も屋根裏も見てみましたがきれいなものでした。途中で白アリ防除もしたということで購入を決めました」と夫。

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした (写真撮影/片山貴博)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした(写真撮影/片山貴博)

購入後に雨漏りを発見、修理をしてくれた大工さんと仲良くなる

2人はまず手描きで図面を起こし、1階部分の和室を洋室に変え、リビングと棚でつなげるようなプランを考えた。当初は1階リビングを完成させて引越したら、住みながら手を入れていく予定だった。

最初につくった手描きのリノベーションの設計図 (写真提供/中原健二氏)

最初につくった手描きのリノベーションの設計図(写真提供/中原健二氏)

ところが契約時に決めていた瑕疵担保責任の期間ぎりぎりの時期に、2階のベランダのジョイント部分から雨が入り込み、柱が1本腐っていたのを発見することになった。交渉した結果、売主が地元の大工さんに工事を頼んで修復してくれることになった。この修復工事が終わらないと、自分たちの工事もできない。

「この大工さんがいい人で、親しくなって、ついでにあれこれと見てくれました。その時、動かしていい柱を教えてもらったので、後の仕事がスムースになりました」。災い転じて福となすとは、まさにこのことだ。

しかも修復工事で壁を開けてみたら、やはり古い戸建てだけに断熱が完璧ではないことに気付いてしまった。夫はがぜん断熱にこだわりはじめ、床下や天井にも断熱材を張り巡らせることになった。

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた (写真提供/中原氏)

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた(写真提供/中原氏)

「モノと一緒にやさしさもいただく」。お金をかけずに材料を入手

リノベーションに必要な材料も実は費用がほとんどかかっていない。妻の口癖である「宝くじ以外は何でも引き寄せる法則」が随所で役に立った。

「ある日、いつもと違う道を歩いていたら、リフォーム会社のお持ち帰りボックスに壁紙がドーンと置いてあるのを発見。さっそく貰って帰りました」。さらに壁紙は友人からも貰うことができた。

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

またリビングのフローリングを無垢板にしたかったけれど、高いのでどうしようかと考えていたら、材木屋が廃棄しようとしていた板を少しずつ分けてもらうことができた。「無垢のフローリング材は、それぞれ規格が違い、サネと呼ばれるジョイント部の高さが違うのでカンナ掛けの加工が必要でした。1本ずつ夫が削って合わせて貼りました。でも色合わせが楽しかったです」

「玄関、廊下、1階の和室の竹のフローリングは、ホームセンターで見切り品になっていたのを買い占めました。お店でちゃんとお金を出して買ったレアケースです」と妻。

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

「某所では昭和20年代の室内ドアと、アメリカンクレイという壁塗り用の土を手に入れました。次はタイルが必要と言っていたら廃業するタイル屋さんとつながりました」とさらに妻の才能は開花する。

驚いたのはジモティの使いこなし術だ。「バスタブも展示品だけど新品を3000円でゲット。さらにレンジフードも新しいのを買っちゃおうかなと考えはじめていたところ、施工業者から新品未使用のものを7000円で手に入れました」。メインの写真で二人がくつろいでいる赤いソファ は4000円。ワイン箱の出物を6個1000円で手に入れ、奥行きを詰めて底と側面の板にフェルトを貼り棚の引き出しに利用したそうだ。手間をかけることをいとわなければ、こだわりのあるインテリアはお金をかけずにそろえることができるという好例だろう。
リビングと洋室の間のパーテーションにした棚は、イケアのものを2個はタダで、1個は1000円ほどでもらい受け、表面にサンダーをかけ荒らしてペイントし、3個1で組み込んだ。
「現場での解体が大変そうだと思っていましたが、受け取先の場所に伺うと、先に解体しておいてくれたうえに、組み立てるために便利なように完璧な合番まで振ってくれていました。ジモティでは庭の植栽も含めて10数件ほどやりとりをしましたがどの方も気持ちのいい方ばかり。モノだけではなくやさしさも一緒にもらいました」と妻。

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

夫が棟梁、妻はディレクター、それぞれが得意分野を活かす

夫は電気工事士の資格を持っているうえ、とにかく手先が器用だ。細かいところまでこだわり、なんでもつくってしまう。妻は以前グラフィックデザインの仕事をしていただけに、色やデザインにこだわりがある。妻が大まかなプランやデザインを考えるディレクターのような役割だ。夫がそれを実現していく。

例えばリビングの仕上げは壁紙を貼るのではなく、壁のボードをはがした上で構造材を張り直し、構造材にペイントした。「ペンキなどでテストしてみたら、プライマーと呼ばれる下塗り塗料をスポンジで載せていったものが、味わいがありしっくりきたのでそれをいかすことに」と妻。このほか、廊下からのリビングの入り口の壁には、お手製の猫ドアや古い建具を扱っている道具屋で見つけ出した昭和のガラスが入った飾り窓をはめ込むなど、次々にアイデアをかたちにしていったという。

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

キッチンとリビングの間の棚は、妻がデザインして夫がきっちりカタチにしていく。配線も壁や天井を造作する前に、ベストポジションにスイッチやコンセントをつくりたいという要望に、夫が天井に顔を突っ込んだり、 床に這いつくばったりして、コード類を裏から通して大健闘した。

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

「完成はいつごろの予定?」と聞いたら、「たぶん一生どこかを直し続けそう」との答えが返ってきた。このリノベーションの過程で、妻はもちろん私たちまで、中原氏を「棟梁」と呼んでしまうようになった。物件購入後2年をかけて、毎週末に町田から千葉市までリノベーションに通うというハードな日々を過ごした棟梁からは「リタイア後の住処は、なるべく体力と気力のある早いうちからアクションを起こすことをおすすめします。時間をかけてでも、その工程を楽しんでリノベーションに挑戦してください」と、アドバイスがあった。

実は中原夫妻は再婚同士だ。私がはじめて棟梁を紹介されたのは、1年ほど前に2階の和室の壁塗りを手伝いに来た時だ。年齢を経て知り合うカップルの理想的な姿のような気がした。自分たちならではの住まいをつくる過程で、あうんの呼吸がさらにぴったり合ってきている気がする。これからも少しずつ自分たちの生活に合わせて、住まいをバージョンアップしていくはずだ。理想的な年齢の重ね方ではないだろうか。

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

今は庭にウッドデッキを作成中だそうだ。完成するころには、またお邪魔してデッキでビールを飲ませてもらいたい。

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

60歳からの家は自分たちで創ることにした

「老後資金には1億円が必要」とか「年金に期待するな」とか、最近の日本は年をとるのもたいへんだ。今まで一生懸命に働いてきたのに、リタイア後も頭が痛くなるような話題ばかり。もっと楽しく、自分たちの身の丈に合った暮らしはできないのか。そんなとき、長年の友人が700万円以下で首都圏に一戸建てを手に入れ、自分たちでリノベーションをすると聞いた。ワクワクするようなニュースだ。早速遊びに行った。
現金で払える予算で自分たちの終の棲家を探す

中原夫妻は私と同じで60歳。妻は私がコピーライターとして新人だった時代の少し先輩だ。お互い還暦を迎え、そろそろリタイア後の生活に真剣に取り組む必要がある。「まだまだ元気で仕事も現役だが、ほんとうに体力がなくなる前に自分たちの終の棲家は確保しておきたい」と家探しを始めたのは2015年だった。

そんな2人が手に入れたのは、千葉県千葉市の土気駅から歩ける場所にある築35年超の一戸建てだ。
「町田で賃貸住宅に住んでいましたが、そろそろ自分たちの老後を考えたときに、いつまでも家賃を払い続けるのも不安で、この際家を買おうということに。これからのことを考えたら、自分たちが用意できる現金の範囲で探そうということになりました」と夫。

予算は最大800万円まで。最初は東京より西側の神奈川で探していたが、坂の上で階段がある物件が多い。予算内だと再建築不可(※)といった物件もあった。夫妻ともに海の近くで育っているので、山よりも海の近くが暮らしやすい。そのため今度は千葉県にも足を延ばして探すことにした。

※建て替えや増改築ができない状態。市街化調整区域の土地、建築基準法の接道義務に違反している(4m以上の道路に間口2m以上接していない)土地、あるいは法律の施行以前に建てられた「既存不適格建築物」などが該当する。

「古い団地も見に行きましたが、階段の上り下りがいずれたいへんになりそうで……。やはり庭仕事が好きな私たちには一戸建てが向いていると考えはじめました」と妻。そこで出会ったのが今の住まいだった。予算内に収まる価格と駅からのアプローチがフラットだったのもポイントだった。

「中古の一戸建てを自分たちの手で直しながら住むのもいいかと。古いけれど角地に建っていて開放感があるのと庭があるのも気に入りました」と妻。「供給公社がしっかり建てた物件で、床下も屋根裏も見てみましたがきれいなものでした。途中で白アリ防除もしたということで購入を決めました」と夫。

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

購入後、リビングと和室を隔てる壁を壊した状態の写真。いわゆる昭和の一戸建て木造住宅だった(写真提供/中原氏)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした (写真撮影/片山貴博)

和室の壁はベンガラをイメージした紅色に。ジモティで手に入れた棚を仕立て直して間仕切りにした(写真撮影/片山貴博)

購入後に雨漏りを発見、修理をしてくれた大工さんと仲良くなる

2人はまず手描きで図面を起こし、1階部分の和室を洋室に変え、リビングと棚でつなげるようなプランを考えた。当初は1階リビングを完成させて引越したら、住みながら手を入れていく予定だった。

最初につくった手描きのリノベーションの設計図 (写真提供/中原健二氏)

最初につくった手描きのリノベーションの設計図(写真提供/中原健二氏)

ところが契約時に決めていた瑕疵担保責任の期間ぎりぎりの時期に、2階のベランダのジョイント部分から雨が入り込み、柱が1本腐っていたのを発見することになった。交渉した結果、売主が地元の大工さんに工事を頼んで修復してくれることになった。この修復工事が終わらないと、自分たちの工事もできない。

「この大工さんがいい人で、親しくなって、ついでにあれこれと見てくれました。その時、動かしていい柱を教えてもらったので、後の仕事がスムースになりました」。災い転じて福となすとは、まさにこのことだ。

しかも修復工事で壁を開けてみたら、やはり古い戸建てだけに断熱が完璧ではないことに気付いてしまった。夫はがぜん断熱にこだわりはじめ、床下や天井にも断熱材を張り巡らせることになった。

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた (写真提供/中原氏)

天井も高くしたいとぶち抜くことに。みっちりと断熱材を入れた(写真提供/中原氏)

「モノと一緒にやさしさもいただく」。お金をかけずに材料を入手

リノベーションに必要な材料も実は費用がほとんどかかっていない。妻の口癖である「宝くじ以外は何でも引き寄せる法則」が随所で役に立った。

「ある日、いつもと違う道を歩いていたら、リフォーム会社のお持ち帰りボックスに壁紙がドーンと置いてあるのを発見。さっそく貰って帰りました」。さらに壁紙は友人からも貰うことができた。

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

トイレの壁紙は友人から。目立たない2階のトイレで初チャレンジ。実は狭いところはプロでも一番難しいことが分かる。大雑把な計算が間違いのもとで、余りをパズルのように何枚も貼り合わせることに。 結果、いい感じのツートンカラーに仕上がった(写真提供/中原氏)

またリビングのフローリングを無垢板にしたかったけれど、高いのでどうしようかと考えていたら、材木屋が廃棄しようとしていた板を少しずつ分けてもらうことができた。「無垢のフローリング材は、それぞれ規格が違い、サネと呼ばれるジョイント部の高さが違うのでカンナ掛けの加工が必要でした。1本ずつ夫が削って合わせて貼りました。でも色合わせが楽しかったです」

「玄関、廊下、1階の和室の竹のフローリングは、ホームセンターで見切り品になっていたのを買い占めました。お店でちゃんとお金を出して買ったレアケースです」と妻。

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

竹ですっきりした玄関と廊下。框の段差を丁寧にまるめ、廊下の直角にまがる部分の板の合わせもかなり手をかけた(写真提供/中原氏)

「某所では昭和20年代の室内ドアと、アメリカンクレイという壁塗り用の土を手に入れました。次はタイルが必要と言っていたら廃業するタイル屋さんとつながりました」とさらに妻の才能は開花する。

驚いたのはジモティの使いこなし術だ。「バスタブも展示品だけど新品を3000円でゲット。さらにレンジフードも新しいのを買っちゃおうかなと考えはじめていたところ、施工業者から新品未使用のものを7000円で手に入れました」。メインの写真で二人がくつろいでいる赤いソファ は4000円。ワイン箱の出物を6個1000円で手に入れ、奥行きを詰めて底と側面の板にフェルトを貼り棚の引き出しに利用したそうだ。手間をかけることをいとわなければ、こだわりのあるインテリアはお金をかけずにそろえることができるという好例だろう。
リビングと洋室の間のパーテーションにした棚は、イケアのものを2個はタダで、1個は1000円ほどでもらい受け、表面にサンダーをかけ荒らしてペイントし、3個1で組み込んだ。
「現場での解体が大変そうだと思っていましたが、受け取先の場所に伺うと、先に解体しておいてくれたうえに、組み立てるために便利なように完璧な合番まで振ってくれていました。ジモティでは庭の植栽も含めて10数件ほどやりとりをしましたがどの方も気持ちのいい方ばかり。モノだけではなくやさしさも一緒にもらいました」と妻。

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

赤いマッサージチェアもジモティで7000円。小さくて場所もとらないのに高機能だ(写真提供/中原氏)

夫が棟梁、妻はディレクター、それぞれが得意分野を活かす

夫は電気工事士の資格を持っているうえ、とにかく手先が器用だ。細かいところまでこだわり、なんでもつくってしまう。妻は以前グラフィックデザインの仕事をしていただけに、色やデザインにこだわりがある。妻が大まかなプランやデザインを考えるディレクターのような役割だ。夫がそれを実現していく。

例えばリビングの仕上げは壁紙を貼るのではなく、壁のボードをはがした上で構造材を張り直し、構造材にペイントした。「ペンキなどでテストしてみたら、プライマーと呼ばれる下塗り塗料をスポンジで載せていったものが、味わいがありしっくりきたのでそれをいかすことに」と妻。このほか、廊下からのリビングの入り口の壁には、お手製の猫ドアや古い建具を扱っている道具屋で見つけ出した昭和のガラスが入った飾り窓をはめ込むなど、次々にアイデアをかたちにしていったという。

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

フローリングの板と、貰い受けた縦型のCDラック2本を組み合わせてつくったキッチンとリビングの間のパーテーション(写真撮影/片山貴博)

キッチンとリビングの間の棚は、妻がデザインして夫がきっちりカタチにしていく。配線も壁や天井を造作する前に、ベストポジションにスイッチやコンセントをつくりたいという要望に、夫が天井に顔を突っ込んだり、 床に這いつくばったりして、コード類を裏から通して大健闘した。

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

リビングの壁は構造材をいかしたままに(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

猫の元気くんの通り抜け用ドアも手づくりだ(写真提供/中原氏)

「完成はいつごろの予定?」と聞いたら、「たぶん一生どこかを直し続けそう」との答えが返ってきた。このリノベーションの過程で、妻はもちろん私たちまで、中原氏を「棟梁」と呼んでしまうようになった。物件購入後2年をかけて、毎週末に町田から千葉市までリノベーションに通うというハードな日々を過ごした棟梁からは「リタイア後の住処は、なるべく体力と気力のある早いうちからアクションを起こすことをおすすめします。時間をかけてでも、その工程を楽しんでリノベーションに挑戦してください」と、アドバイスがあった。

実は中原夫妻は再婚同士だ。私がはじめて棟梁を紹介されたのは、1年ほど前に2階の和室の壁塗りを手伝いに来た時だ。年齢を経て知り合うカップルの理想的な姿のような気がした。自分たちならではの住まいをつくる過程で、あうんの呼吸がさらにぴったり合ってきている気がする。これからも少しずつ自分たちの生活に合わせて、住まいをバージョンアップしていくはずだ。理想的な年齢の重ね方ではないだろうか。

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

棚の向こうの洋室は家の中で一番日当たりのいい場所。妻の仕事スペースに(左)素通しの棚には、以前妻がガラス工房でものづくりをしていたころに親方につくってもらった小物などを並べている(写真提供/中原氏)

今は庭にウッドデッキを作成中だそうだ。完成するころには、またお邪魔してデッキでビールを飲ませてもらいたい。

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

庭仕事も楽しみな広い庭。現在はウッドデッキを作成中(写真提供/中原氏)

逗子にたたずむ「和モダン」な住まい 季節を楽しむ演出とは?

住宅取材を長年続けてきた筆者が、心底憧れる住まい。それはご近所にある、お庭も素晴らしい入母屋造りの家。愛犬と暮らすSさんの、日常を大切にするライフスタイルにも惹かれています。建物ハードと住まい方ソフトの両面で、和と洋が融合した情緒ある和モダンのお住まいを紹介します。
緑青の銅屋根が美しい、和紙とガラス工芸が彩る住まい

神奈川県逗子市の里山に囲まれた谷戸で、ひときわ目を引く白壁の門構え。
緑青屋根のグリーンと木の濃い茶色が、白壁とのコントラストで美しく映える外観です。

茶色はガレージの折戸、今は閉じて中をギャラリーにリモデル。植栽のドウダンツツジは秋に紅葉して右写真のように鮮やかになる(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

茶色はガレージの折戸、今は閉じて中をギャラリーにリモデル。植栽のドウダンツツジは秋に紅葉して右写真のように鮮やかになる(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

玄関門扉の素晴らしさが、この家への関心を高めます。
よく見る豪邸の威圧的な門でなく、板引戸の渋さが“わびさび”感すら醸し出し、里山の自然に囲まれた街並みに調和しています。

庭の桜を背景にたたずむ門扉。正面の飾りや手前の鉢植えは季節毎に替わり、道ゆく人を楽しませてくれる(写真撮影/片山貴博)

庭の桜を背景にたたずむ門扉。正面の飾りや手前の鉢植えは季節毎に替わり、道ゆく人を楽しませてくれる(写真撮影/片山貴博)

玄関灯は、Sさんが大好きなガラス工芸の蝉(写真撮影/片山貴博)

玄関灯は、Sさんが大好きなガラス工芸の蝉(写真撮影/片山貴博)

取材時は陶器の時計が飾られていたが、お正月飾り(右)やクリスマスリースだけでなく天使の羽などバリエーション豊富(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

取材時は陶器の時計が飾られていたが、お正月飾り(右)やクリスマスリースだけでなく天使の羽などバリエーション豊富(写真撮影/(左)片山貴博・(右)Sさん)

門をくぐり、庭石のアプローチを進むと玄関。
こちらも合理的でシンプルで美しい、和のたたずまいには必須、引戸の玄関。

庭の花を愛でながら、自然石のアプローチを進む。木の造作が施されたガラス引戸(写真撮影/片山貴博)

庭の花を愛でながら、自然石のアプローチを進む。木の造作が施されたガラス引戸(写真撮影/片山貴博)

「どうぞ、お上がりください」と、Sさん。廊下の両側は、はめ込みガラスで庭を眺めながら入っていくと
「この扉、素敵でしょ。奈良の古い知人宅を取り壊すときに、もったいないからいただいたのよ」

見事な鶴が描かれた板戸、かなりな年代物のよう。高さや取手をリメイクして、この家で生きのびた幸せな鶴(写真撮影/片山貴博)

見事な鶴が描かれた板戸、かなりな年代物のよう。高さや取手をリメイクして、この家で生きのびた幸せな鶴(写真撮影/片山貴博)

「この貝殻、逗子海岸に犬と散歩に行く度に拾っていたら、こんなたくさんになっちゃった(笑)」
ゴミ拾いのボランティアをしていた所、砂浜で貝が“拾って!”ってSさんに向かって光っているのだそう……。

自分がきれいだと思うものを、好きなガラスの器に飾る。好きなものに囲まれて生活する心地よさを教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

自分がきれいだと思うものを、好きなガラスの器に飾る。好きなものに囲まれて生活する心地よさを教えてくれた(写真撮影/片山貴博)

今回、顔出しNGのSさんですが、知人が描いたパステル画肖像でご紹介。何と、50歳から始めたフラメンコを踊る姿。
「フラメンコを見たとき、それまでの私は“自分”を生きていなかったことに気づいたの」と、フラメンコダンサーがりりしい眼差しで見栄を切る姿に魅了され習い始めたそうです。

この肖像は筆者(50歳代)と同じ歳のころのSさん。「フラメンコのおかげで足腰が鍛えられました」実は、20歳上の大先輩!(写真撮影/片山貴博)

この肖像は筆者(50歳代)と同じ歳のころのSさん。「フラメンコのおかげで足腰が鍛えられました」実は、20歳上の大先輩!(写真撮影/片山貴博)

廊下から居間へ入ると、庭に面した広縁のある畳10畳の和室が広がっています。
古材を利用した表しの梁は、年季の入った焦茶色。同色の造り付け家具と共に、落ち着いた古民家のような大空間です。

漆喰の壁に、和紙の創作照明が柔らかな光を映す(写真撮影/片山貴博)

漆喰の壁に、和紙の創作照明が柔らかな光を映す(写真撮影/片山貴博)

畳敷にテーブル&チェア、こんな風に和洋折衷のライフスタイルでくつろぐアイデアが満載のお住まいです。

居間の引戸の引手は、「安土桃山時代の形に七宝焼きでつくっていただいたの」(写真撮影/片山貴博)

居間の引戸の引手は、「安土桃山時代の形に七宝焼きでつくっていただいたの」(写真撮影/片山貴博)

こんな細部に伝統工芸のアイデア、宝探しのように見つけるとうれしくなります。

日本的な曖昧さが豊かさをもたらす、広縁のある暮らし

Sさんのお住まいは、約25年前に建てた木造2階建て。

「建てるときに注文したのは、屋根。迎賓館などで見る緑青の銅板屋根にしたかったの。私、色もねグリーンが好きなのよ」

屋根にこだわるなんて、素人考えではなかなか出てこない。Sさんの感性には、いつも驚かされている筆者。
旅先や雑誌などで見たもの感動したことを、自分でやって見るのだそう。

2層になった入母屋屋根の下、すだれは日除けと共に外観デザインのアクセントにもなっている(写真撮影/片山貴博)

2層になった入母屋屋根の下、すだれは日除けと共に外観デザインのアクセントにもなっている(写真撮影/片山貴博)

すだれは外部からの視界を遮る役目も。ちょうど、お向かい2階からの視線を遮ることができます。高い塀を立てずに、緩やかにプライバシーを守る技に脱帽。

外側はガラスサッシ戸、和室側は障子によって囲われた板張りの広縁(ひろえん)。室内との緩衝エリアとなっている広縁は、季節ごとに寒さを遮ったり、涼を運んだり。

Sさんは、その広縁にお気に入りのものを飾っていました。

この日は、珍しいガラス細工が施されたアンティークの噴水(ムラーノ島ヴェネチアングラス)。百合が活けられている花瓶も、やっぱり好きな緑色(写真撮影/片山貴博)

この日は、珍しいガラス細工が施されたアンティークの噴水(ムラーノ島ヴェネチアングラス)。百合が活けられている花瓶も、やっぱり好きな緑色(写真撮影/片山貴博)

こちら側の広縁は、愛犬Doriちゃんの特等席です!

Doriちゃんは、Sさんが保護団体から譲り受けた2代目の愛犬。Sさん宅にもらわれた犬は皆、元気に生まれ変わる(写真撮影/片山貴博)

Doriちゃんは、Sさんが保護団体から譲り受けた2代目の愛犬。Sさん宅にもらわれた犬は皆、元気に生まれ変わる(写真撮影/片山貴博)

庭と居間の間にある広縁は、その面積以上に生活を豊かにしてくれるもののようです。

6月はインテリアも衣替え、季節を感じる住まい方

玄関と広縁からも出られるお庭は、あまりつくり込まずに自然な趣にされています。

奥のほうには近所の子どもが遊べるよう、ブランコと鉄棒も(写真撮影/片山貴博)

奥のほうには近所の子どもが遊べるよう、ブランコと鉄棒も(写真撮影/片山貴博)

取材時、桜やお花の時期とズレてしまったのでSさんの写真をお借りしました。

かれんな“立てば”芍薬、“座れば”牡丹。Sさんのよう! (写真撮影/Sさん)

かれんな“立てば”芍薬、“座れば”牡丹。Sさんのよう! (写真撮影/Sさん)

お庭の花を花器に飾って、二度楽しむ。枝垂れ桜が和の住まいと調和する(写真撮影/Sさん)

お庭の花を花器に飾って、二度楽しむ。枝垂れ桜が和の住まいと調和する(写真撮影/Sさん)

キッチンからは裏庭が望めるよう、大きなフィックス窓。キッチンキャビネットは、やはりグリーン!(写真撮影/片山貴博)

キッチンからは裏庭が望めるよう、大きなフィックス窓。キッチンキャビネットは、やはりグリーン!(写真撮影/片山貴博)

お庭の四季を楽しむと共に、日本住宅の季節感ある伝統的な機能も見せて下さいました。
秋から冬、6月までは内側に障子戸を入れて寒さを防ぎながら、和紙の柔らかい空間で過ごす居間。

「障子の桟(さん)を少なくしたデザインをお願いしたの」、桟の入れ方次第で障子の表情も大きく変わるものだ(写真撮影/片山貴博)

「障子の桟(さん)を少なくしたデザインをお願いしたの」、桟の入れ方次第で障子の表情も大きく変わるものだ(写真撮影/片山貴博)

そして6月になったら、夏障子とも呼ばれる簾戸(すど)に替えるのです(わざわざ替えていただきました!)

Sさん邸の簾戸には萩が使われている。夏は風通し良く、日差しを遮る日本の伝統建具(写真撮影/片山貴博)

Sさん邸の簾戸には萩が使われている。夏は風通し良く、日差しを遮る日本の伝統建具(写真撮影/片山貴博)

そしてもう一つ、すてきなアイデアを拝見。和紙でつくられた四枚仕立ての屏風ですが、両面異なるデザインになっており、季節によって使い分けることができるようになっています。

クローバーが描かれた、淡いブラウン系の片面(写真撮影/片山貴博)

クローバーが描かれた、淡いブラウン系の片面(写真撮影/片山貴博)

もう一面は、アイビーが描かれた水色の屏風。「季節やイベントに合わせて使い分けるの」とSさん(写真撮影/片山貴博)

もう一面は、アイビーが描かれた水色の屏風。「季節やイベントに合わせて使い分けるの」とSさん(写真撮影/片山貴博)

ほかにも、キッチンのドアを暖簾(のれん)に替えるなど、インテリア小物でも季節を楽しむ住まい方を教えてくれました。

“天使が舞い降りる” 好きなものに囲まれると、家がパワースポットに

2階のプライベートゾーンにもご案内いただきました。
「天使がたくさん、居るわよ」と、早速、階段に天女のような絵がお出迎え。

ご友人の画家が描かれた絵、天女はSさんのイメージと重なる(写真撮影/片山貴博)

ご友人の画家が描かれた絵、天女はSさんのイメージと重なる(写真撮影/片山貴博)

「なんだか、天使が集まってくるのよね(笑)」と寝室にも、羽の生えた天使たちの絵が……

折り上げ天井で、空間に豊かさが増す寝室(写真撮影/片山貴博)

折り上げ天井で、空間に豊かさが増す寝室(写真撮影/片山貴博)

その天井には、ヴェネチアンガラスのシャンデリア。やはり!緑色があしらわれたもの(写真撮影/片山貴博)

その天井には、ヴェネチアンガラスのシャンデリア。やはり!緑色があしらわれたもの(写真撮影/片山貴博)

Sさんお気に入りのスペース・デザインは、この暖炉の一角。
「昔、スペインのホテル リッツのロビーで見たとき“これはすてき!”と思ったの」、そのアイデアを取り入れたそう。

部屋の角、三角に暖炉を取り、その上に直角にミラーを天井まで貼ることで、万華鏡のように部屋が映りこみ、ズーと奥まで部屋が広がって見える(写真撮影/片山貴博)

部屋の角、三角に暖炉を取り、その上に直角にミラーを天井まで貼ることで、万華鏡のように部屋が映りこみ、ズーと奥まで部屋が広がって見える(写真撮影/片山貴博)

2階の寝室は、1階の古民家風とは打って変わって洋館の雰囲気になっています。
部屋のドアとバスルームへのドアも、木製の開き戸。

左がバスルームへのドア、右が部屋のドア。対の小窓にも、天使!(写真撮影/片山貴博)

左がバスルームへのドア、右が部屋のドア。対の小窓にも、天使!(写真撮影/片山貴博)

天使とガラスが大好きなSさんがオーダーした、趣のある色彩がすてきなエッチングガラス(写真撮影/片山貴博)

天使とガラスが大好きなSさんがオーダーした、趣のある色彩がすてきなエッチングガラス(写真撮影/片山貴博)

バスルームには、洗面との壁にはめ込まれた大きなエッチングガラス(彫刻ガラス)の作品が!

エッチングガラスのデザインも空飛ぶ天使。洗面室の壁には寝室のシャンデリアと同じヴェネチアンガラスの、ブラケット照明(写真撮影/片山貴博)

エッチングガラスのデザインも空飛ぶ天使。洗面室の壁には寝室のシャンデリアと同じヴェネチアンガラスの、ブラケット照明(写真撮影/片山貴博)

天使が舞う魅惑の寝室空間でお話を聞いていると、何だか時空が歪むような感覚になってしまいました。
「天使にほほ笑まれて、ついつい欲しくなってしまってね(笑)」、好きなものに囲まれたSさんにとってはパワースポットのような家。

ふと、窓から外を見下ろすと……

2階寝室の眼下には、入母屋造りの緑青屋根が重なり、マンサクのピンクの花が広がっていた(写真撮影/片山貴博)

2階寝室の眼下には、入母屋造りの緑青屋根が重なり、マンサクのピンクの花が広がっていた(写真撮影/片山貴博)

この居間で、よく、お友達やご近所さんを招いてホームパーティーをしてくださるSさん邸。
「ボケ防止に、ここでマージャンをしたりね!」と、住生活の楽しみはますます広がっている様子。

テーブルは囲炉裏(いろり)も備え付けられ、冬に使う鉄瓶をつるしてみてくださった(写真撮影/片山貴博)

テーブルは囲炉裏(いろり)も備え付けられ、冬に使う鉄瓶をつるしてみてくださった(写真撮影/片山貴博)

今回じっくりお話を伺って、今まで気づかなかった家の細部に改めて魅了されました。
Sさんの趣味や旅、人との出会いで築いてこられた感性が、この家に集約されていて、住まいは人の鏡なのだと実感する取材でした。

古民家暮らしの魅力や注意点は? 実際の購入者に話を聞いた 古民家購入マニュアル(後編)

「憧れの古民家暮らしがしたい」。前編では、購入に関するノウハウをお伝えしましたが、後編の今回は、実際に古民家を購入し、新しい暮らしを手に入れた方々にお話をうかがいました。古民家暮らしの魅力や購入前のアドバイスなど、実際に購入した人たちの暮らしから探っていきましょう。
古民家を購入してカフェをオープン!DIYで心地よい空間を(30代夫婦)

まずお話を聞いたのは、「古民家で暮らしながらカフェをやりたい」と、東京都内から千葉県茂原市に転居。2015年に古民家を改装して「コーヒーくろねこ舎」をオープンしたKさん夫妻(30代)です。
古民家暮らしをしようと思った理由は、もともと夫が山形育ちとのことで、のびやかな環境で自分たちのペースで暮らしたいと考えていたから。「私は東京生まれ東京育ちですが、ゆったり暮らしたいっていうのは誰しも考えることですし、いつか自分でカフェを開きたいと思っていたので、住む場所は都会に限定しなくても」と古民家探しをはじめたそうです。

「数えきれないほど(笑)」物件を見学したKさん夫妻。じっくり探した結果、住む家とカフェが別々で設けられる2棟建て、敷地内に畑が設けられ、お客さんが駐車できる広い敷地など、希望を叶えた現在の場所を見つけました。

そこからはカフェオープンに向けてこつこつDIYで店舗づくり。「電動工具などそれまで触ったこともなかったのですが、いざやってみると大変だけど楽しかったですね」。サンダーで削ったり、床板をくぎ打ちしたり、少しずつ自分たちの色が広げていきました。「古民家ははじめて訪れてもどこか懐かしい空間が魅力だと思います。もともと好きだった古道具店めぐりや雑貨収集などもより楽しくなりました。テーブルや椅子も古道具を使っていくつか自作しているのですが、ちょっと曲がっていたりしても、この空間だから味になるというか」。そんな魅力を発見しながら、つい長居したくなる古民家カフェができました。

壁の漆喰塗から床の張り替え&自然塗料による塗装、近隣の古道具店などから手に入れたテーブルや椅子をカスタマイズ。Kさん夫妻が営む古民家カフェ「コーヒーくろねこ舎」の内装はすべてDIYでこつこつつくり上げられたもの。のんびりした風景と調和する優しい空間だ(写真撮影/山口俊介)

壁の漆喰塗から床の張り替え&自然塗料による塗装、近隣の古道具店などから手に入れたテーブルや椅子をカスタマイズ。Kさん夫妻が営む古民家カフェ「コーヒーくろねこ舎」の内装はすべてDIYでこつこつつくり上げられたもの。のんびりした風景と調和する優しい空間だ(写真撮影/山口俊介)

「貯蓄」と「地域共生」 古民家暮らし満喫のための大切な要素

そんなKさん夫妻のように、古民家カフェや古民家パン屋など、古民家暮らしと古民家を活かした事業を両立したいという人が若い人の中で増えています。ですが、Kさんは古民家暮らしには「夢や理想だけでは厳しい部分もあると思います」といいます。

「当たり前だと思いますが、購入前に貯蓄は必要だと思います。もし貯蓄が無かったら、当然生活のためにしたくない仕事をしなくてはいけなくなります。それではせっかくのびやかに自分たちのペースで暮らしたいという理想がかなえられませんよね。だから私たちは目標として、2年はお客さまが入らなくて、赤字になっても暮らしていける額を設定して、貯蓄してから購入しました」。もちろん新築に比べて固定資産税などがかからない特徴はありますが、自分たちの手で維持していくにもお金がかかるもの。住んですぐ引越さなくてはいけなくなるのは避けたいものです。特に事業を行うならなおさら注意が必要です。

もうひとつは近隣の方々とのお付き合い。古民家が立地する多くのエリアは、昔から代々住んでいる人が多く、また、土地ごとに風習、文化が色濃く残っていることも多いのが都会と異なる点です。

「ご近所付き合いは大切にしたほうが良いと思いますね。私はどちらかというと苦手なのですが、夫は得意な性分で、地元の消防団に入ったり、お祭りに参加したり、積極的にコミュニケーションをとって地域に参加しています。人との繋がりが広がっていくといろいろ発見がありますし、自分たちのペースで繋がる感じがすごく心地よいです」といいます。だからこそ「事前に住む地域がどんな文化的背景があるかや、地域の行事が充実しているかなどをしっかりリサーチしておくと良いかなと。そういう文化に積極的に触れられるのも、田舎の古民家暮らしならではだと思います」

「お客様はみなさんのんびり、ゆっくり過ごしていただいています」(Kさん)。古民家独特のどこか懐かしくて、落ち着きを感じる空間はリピーターも多いという(写真撮影/山口俊介)

「お客様はみなさんのんびり、ゆっくり過ごしていただいています」(Kさん)。古民家独特のどこか懐かしくて、落ち着きを感じる空間はリピーターも多いという(写真撮影/山口俊介)

アメリカの雄大な自然環境に触れ、古民家暮らしを決意

お次は千葉県長南町の古民家で暮らすトモ長谷川さん(50代夫婦と子ども)。実は日本を代表する銃器や刃物の写真家であり、大学時代は夫婦ともに建築学科で日本家屋を専攻していたというマルチな方です。

そんなトモ長谷川さんの古民家暮らしへの憧れは大学生時代。「東京に住んでいたのですが、競技射撃選手だったので、演習などでアメリカ・カリフォルニア州のヨセミテの近くの広大な原野で生活することも多かったんです」。そんな自然の中での暮らしに何度も触れたことから、「日本の都会に戻ってくると、周囲に配慮しすぎたり、自然に触れられない環境に徐々に息が詰まるようになって。また、日本国内で旅をすることも多かったのですが、なぜかひきつけられるように『古民家』の宿を泊まり歩いていて。いつしか古民家で生活したい!と思ったんです」。

自然あふれる田舎暮らしにあこがれて古民家暮らしを決意したトモ長谷川さん。時間を見つけてはさまざまな物件を見学し、現在の立派な長屋門が付いた由緒ある古民家を見つけて購入しました。古民家を購入する前と購入後でどんな変化があったのでしょう?

「私にとってはとても価値ある暮らしができていると実感しています。「自然がリビング」といえる環境を感じながらの暮らしは、都会ではなかなか味わえない。また、良さがどんどんわかってくるのも古民家ならではだと思います。使われている部材はもちろん天然素材で、アカマツなど今では希少な木材ばかり。それが長い年月を経たことにより、風合いやたたずまいに時が刻まれることで、自然がつくった彫刻品に住んでいるような気さえします」

森を背に広大な敷地に建つトモ長谷川邸。こつこつDIYで住まいを改装しながら暮らしている(写真提供/トモ長谷川さん)

森を背に広大な敷地に建つトモ長谷川邸。こつこつDIYで住まいを改装しながら暮らしている(写真提供/トモ長谷川さん)

(左)周囲に自生する山菜なども満喫。季節や自然を感じながらの食事は格別だそう(右)屋根裏部屋にDIYで子ども部屋を制作した。歴史を感じる梁や柱に囲まれての生活は、新築では味わえないという(写真提供/トモ長谷川さん)

(左)周囲に自生する山菜なども満喫。季節や自然を感じながらの食事は格別だそう(右)屋根裏部屋にDIYで子ども部屋を制作した。歴史を感じる梁や柱に囲まれての生活は、新築では味わえないという(写真提供/トモ長谷川さん)

掃除をすれば感動する!最初の印象にだまされないで

そんなトモ長谷川さんに、古民家暮らしを希望する人に向けたアドバイスも聞いてみました。
「実際の古民家探しで絶対に驚くのは最初の見学。古民家は雑然として、思わず「汚い」「ここに住めるの?」ってびっくりすると思いますよ。だから『まずは掃除から』と言いたいですね。自分が真っ黒になるまでぴかぴかにすると、ホコリや汚れの下に、年月を経たからこそ深まった古民家の良さを見つけられると思います。また、よく言われるのですが、最初から大きな改修は考えなくていいと思います。暮らしながら手をかけていく。それも古民家暮らしの醍醐味のひとつですから」

また、トモ長谷川さんが住む千葉県長南町のように、移住促進の補助金制度がある自治体も数多くあるといいます。

【例】長南町若者定住促進事業
・45歳以下の夫婦世帯に対して奨励金(上限200万円)を交付
・リフォーム補助

「自治体サポートのほか、私が古民家探しで相談した千葉房総ねっとさんの「田舎暮らし交流会」のような、先輩移住者からお話を聞けたり、実際の暮らしを見学できる集まりもあります。臆せずまずは飛び込んで、古民家、田舎暮らしの魅力に触れてみてほしいですね」

そんなトモ長谷川さんは、自身の経験を生かして「ウルトラ“古民家”防衛軍」という、古民家を通じた暮らし提案の活動も行っています。木工ワークショップや古民家リノベ見学会など多彩なイベントを行っているので、気になる人はホームページを覗いてみてはどうでしょう。

古民家、田舎で暮らすことで、コミュニティーつくりにも熱心に。「手をかけながら暮らす」という古民家暮らしの醍醐味を、木工ワークショップなどさまざまなイベントを主催して広めている(写真提供/トモ長谷川さん)

古民家、田舎で暮らすことで、コミュニティーつくりにも熱心に。「手をかけながら暮らす」という古民家暮らしの醍醐味を、木工ワークショップなどさまざまなイベントを主催して広めている(写真提供/トモ長谷川さん)

トモ長谷川さんが中心となって活動する「ウルトラ“古民家”防衛軍」。古民家を改修することで価値を付与し、有効活用する活動などを行っている(写真提供/トモ長谷川さん)

トモ長谷川さんが中心となって活動する「ウルトラ“古民家”防衛軍」。古民家を改修することで価値を付与し、有効活用する活動などを行っている(写真提供/トモ長谷川さん)

古民家暮らしの良さは、古民家だからこそ持っている歴史や年月、環境を感じながら暮らせること。そして自分で手をかけて暮らすことへの楽しさのようです。古民家だからこそ体感できる豊かな暮らしは、ますますこれからの家選びの大きな選択肢になっていくかもしれません。

●前編
・古民家が欲しいと思ったら? 覚えておきたいノウハウを紹介 古民家購入マニュアル(前編)●参考
・長南町若者定住促進事業 / リフォーム補助●取材協力
・コーヒーくろねこ舎
・ウルトラ“古民家”防衛軍

プロ(FP)の6割が平成30年度は買い時と回答 その理由とは?

「今は買い時か」を問う調査結果は複数あるが、一般消費者だけでなく、ファイナンシャルプランナーや住宅事業者も調査対象としているのが、住宅金融支援機構の「平成30年度における住宅市場動向について」の調査(2018年2月~3月実施)だ。ファイナンシャルプランナーの買い時感を中心に、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「平成30年度における住宅市場動向について」を公表/住宅金融支援機構ファイナンシャルプランナーの「買い時」は64.5%で、一般消費者の50.6%を上回る

まず、マネーのプロである「ファイナンシャルプランナー(セミナー等の同機構業務協力者62名)」の買い時感を見てみよう。

「平成30年度は29年度と比べて買い時か」を聞くと、「買い時」(64.5%)、「どちらとも言えない」(27.4%)、「買い時ではない」(8.1%)になり、買い時との回答が最多となった。住宅取得を検討中の消費者に「これから1年(平成30年4月~平成31年3月)は買い時と思うか」を聞いており、「買い時」の回答は50.6%だったので、これを上回る結果となった。

前年同時期の調査と比べると、「どちらとも言えない」が増加(20.7%→27.4%)しているが、「買い時」(67.2%→64.5%)と「買い時ではない」(12.1%→8.1%)はともに減少している。特に「買い時ではない」という回答は実数では5人だけという結果だった。

【画像1】平成30年度の住宅市場(出典/「平成30年度における住宅市場動向について」住宅金融支援機構)

【画像1】平成30年度の住宅市場(出典/「平成30年度における住宅市場動向について」住宅金融支援機構)

買い時の要因は、第1に住宅ローンの低金利、第2に消費税率引き上げの駆け込み

では、「買い時」と思う要因について見ていこう。

ファイナンシャルプランナーが「買い時」と思う要因として第1に挙げたのは、超がつくほどの「住宅ローンの低金利」(85.0%)だ。次いで平成31年10月に予定されている「消費税率引き上げ」(62.5%)だ。この2つの要因は、前年の前回調査より大幅に増加している。

【画像2】ファイナンシャルプランナーの「買い時」と思う要因(出典/「平成30年度における住宅市場動向について」住宅金融支援機構)

【画像2】ファイナンシャルプランナーの「買い時」と思う要因(出典/「平成30年度における住宅市場動向について」住宅金融支援機構)

減少はしたものの、3番目に多い「金利先高感」(45.0%)の要因も見逃せない。景気は不透明であるが、先々の金利上昇懸念があるので、今の超低金利を活用できる平成30年度は買い時と考えるファイナンシャルプランナーが多いということだろう。

なお、大半の住宅ローンでは適用される金利は「融資実行時」だ。つまり、契約した後、融資を受けて住宅の代金をすべて支払う時点の金利が適用される。契約時と融資実行時では月をまたいだり、新築住宅の場合に数カ月や数年先になったりする場合もある。したがって、融資実行時の金利が、購入を思い立ったときの金利より高くなっている可能性もあるという背景があるわけだ。

また、引き上げ延期を繰り返した消費税率10%についても、駆け込み効果があると見ている。

消費税が課税されるのは、住宅の「引き渡し時」だ。住宅については、半年前の前日(平成31年3月31日)までに契約したものについては、引き渡しが10月1日以降になったとしても、8%の税率が適用されるという経過措置がある。つまり、平成31年3月末までに契約をしようという動きが起きるのが「駆け込み」だ。

過去に消費税率が引き上げられたときにも、一定の駆け込み行為が見られたので、今回も駆け込み効果があると見ているのだろう。

ちなみにこの調査では、住宅事業者(【フラット35】の利用があった733事業者)に、「平成30年度の受注・販売等の見込みは29年度と比べて増えるか?」を聞いている。「増加する見込み」という回答は59.4%だったが、増加する要因として第1に挙がったのは「消費税率引き上げ前の駆け込み効果」(64.3%)だった。

住宅事業者は、消費税増税の駆け込み需要に期待する傾向もうかがえるが、筆者としては、ファイナンシャルプランナーが買い時要因として、消費税より低金利を多く挙げた点に注目したい。

金利は35年などの長期間にわたって多額の元金にかかってくるので、影響が非常に大きい。一方、消費税は住宅価格全体に課税されるのではなく、建物価格のみにかかる(土地は非課税)。また、「個人」が売主の中古住宅の売買には、消費税は課税されない。引き上げられる2%の影響が具体的にどの程度になるのか、試算するなどしてきちんと把握し、安易に「駆け込む」ことのないようにしてほしいと思う。

【シングル編】新宿駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

住まい探しをするときの条件はさまざまあるが、立地も重要なポイントのひとつ。日々繰り返される通勤・通学や、買い物や遊びに出かける際の利便性は生活の質を大きく左右する。その点、都内屈指のターミナル駅である新宿駅にアクセスしやすい立地なら何かと便利だろう。そこで、新宿駅まで30分圏内にある中古マンションの価格相場を調査。シングル、DINKS、ファミリー、それぞれに適した広さの物件にわけて、価格相場が安い駅トップ10をランキングしてみた。今回は駅徒歩15分圏内にある、専有面積20平米以上~40平米未満の物件を対象にした、シングル向け中古マンションの物件相場が安い駅トップ10を紹介しよう。

●シングル向け 新宿駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
(順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新宿駅までの所要時間)
1位 大島 1090万円(都営新宿線/東京都江東区/24分)
2位 小竹向原 1480万円(東京メトロ有楽町線ほか/東京都練馬区/17分)
3位 西川口 1485万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/23分)
4位 桜台 1570万円(西武池袋線/東京都練馬区/19分)
5位 練馬 1630万円(西武池袋線ほか/東京都練馬区/17分)
6位 中村橋 1699万円(西武池袋線/東京都練馬区/23分)
7位 中板橋 1719万円(東武東上線/東京都板橋区/19分)
8位 新桜台 1720万円(西武有楽町線/東京都練馬区/19分)
9位 大山 1730万円(東武東上線/東京都板橋区/17分)
10位 江古田 1765万円(西武池袋線/東京都練馬区/18分)
10位 新江古田 1765万円(都営大江戸線/東京都中野区/15分)

1位は1100万円以下! 急行も停車し、新宿まで1本で楽々

最も物件相場が安かったのは、2位に390万円も差をつけて1090万円という結果となった都営新宿線・大島駅。駅の北側はURの団地や小中高校が点在しており、マンションはどちらかというと南側に多く見られる。駅の北側・南側ともにスーパーや商店街があり、下町っぽさが残る落ち着いた住環境だ。新宿駅までの所要時間はランクインした11駅中で最も長い約24分だが、平日10時~16時台、土日祝7時~18時台に走る急行を利用すれば最短約17分で新宿に到着。通勤・通学の時間帯には利用できなくても、休日には急行でサッと新宿駅に出られるのは魅力的だろう。

2位は物件相場が1480万円の小竹向原(こたけむかいはら)駅がランクイン。同駅は東京メトロの有楽町線・副都心線が通っているほか、西武有楽町線の終点駅でもある。東京メトロ有楽町線・副都心線に乗るとわずか3駅で池袋駅に到着。そのまま有楽町線で進むと永田町駅や銀座一丁目駅へ、副都心線なら新宿三丁目駅や渋谷駅、横浜駅へ。池袋駅からJR埼京線に乗り換えれば新宿駅に出ることができ、多方面への交通の便がいい点が大きな魅力だ。

3位はトップ11駅中で唯一、東京都外に位置する埼玉県川口市のJR京浜東北線・西川口駅。駅に直結してショッピングセンター「ビーンズ西川口」があり、肉・魚・青果の専門店や惣菜店、書店などが利用できる。駅周辺には飲食店も豊富なので、「今日は料理したくない……」なんて日も帰宅途中に気軽に外食できるのがうれしいところ。ランクインした駅で唯一のJR線が走る駅でもあり、JR京浜東北線に乗ると1本で東京駅や新橋駅、品川駅、横浜駅にも行くことができる。

西川口駅(写真/PIXTA)

西川口駅(写真/PIXTA)

重視するのは安さ? それともアクセスの良さ? 新宿駅までの早さ重視なら新江古田駅

トップ11駅中で新宿駅までの所要時間が最短だったのは、乗り換えせずに約15分で新宿駅に着く10位の都営大江戸線・新江古田(しんえごた)駅。駅前にはスーパーとドラッグストアがあり、日用品や食料の買物はここで済ませられるだろう。駅から北に約10分歩くと、同じく10位の西武池袋線・江古田(えこだ)駅にたどり着く。池袋駅に出るなら江古田駅から西武池袋線を利用し、新宿駅なら新江古田駅から都営大江戸線……、と行き先に応じて2路線を使い分けてもよさそうだ。

1位と10位では物件相場に675万円もの開きがあった今回のランキング。新宿駅までの所要時間がそれぞれ約17分だった2位・小竹向原駅(物件相場1480万円)、5位・練馬駅(同1630万円)、9位・大山駅(同1730万円)の3駅でも物件相場は異なっており、新宿駅までの所要時間と物件相場が比例するわけではない結果となった。

所要時間が同じなら、とにかく安いほうがいいのか、街の環境を優先するのか、物件自体の質にこだわるのか……。「中古マンション選びは失敗したくない!」と慎重になるあまり、自分なりの判断基準が定まっていないと延々と悩み続けることになりそうだ。物件探しをする前に一度、物件に求める優先順位を決めておくといいかもしれない。

さて、シングル向け情報を紹介した今回に続き、次回はDINKS向けに専有面積40平米以上・70平米未満の中古マンションの物件相場ランキングを紹介したい。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築年数40年未満、物件価格3億円以下、専有面積20平米以上40平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2017年3⽉1⽇~2018年2⽉28⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

古民家が欲しいと思ったら? 覚えておきたいノウハウを紹介 古民家購入マニュアル(前編)

「古民家を購入して住みたい」と思っても、どこに相談したらよいか分からないという人は少なくないはず。税金、断熱と耐震、補助金なども、新築住宅を購入するときとはちょっと異なる制度・注意点などもありそうです。古民家購入前に知っておきたいノウハウや、実際購入した人の声を前後編でお届けします。前編の今回は、古民家購入のために覚えておきたい基礎知識について、「千葉房総ねっと」代表の武田新さんにお話をうかがいました。
そもそも古民家物件はどうやって探せばいい?

古民家には、明確な定義はありませんが、一般的に伝統的な木造建築工法で昭和初期までに建てられている日本家屋を指すそうです。当然築年数が相当に古く、普通の不動産会社ではなかなか取り扱っていません。

「専門誌を参考にしたり、古民家専門の不動産会社を探すことなどから始めましょう」と武田さんは言います。古民家専門の不動産会社は、インターネットで「古民家 物件」「古民家 購入」といったキーワードで検索すると比較的簡単に見つかりますし、「NPO法人 日本民家再生協会」(http://www.minka.or.jp/index.html)や「(一社)全国古民家再生協会」(http://www.g-cpc.org/)といった団体のホームページから探すのもおすすめだそうです。「建物の構造チェックや古民家建築に詳しい建築士情報など、扱う情報は団体ごとに特徴があるので、さまざまなウェブサイトをチェックするといいでしょう」(武田さん、以下同じ)

ここ数年、のんびり田舎暮らしがしたいというニーズに、インバウンドを狙った需要も高まり、古民家人気が高まっていると話す武田さん。「売買がすぐ決まることも多いので、気に入った物件はすぐに問い合わせましょう」(写真撮影/山口俊介)

ここ数年、のんびり田舎暮らしがしたいというニーズに、インバウンドを狙った需要も高まり、古民家人気が高まっていると話す武田さん。「売買がすぐ決まることも多いので、気に入った物件はすぐに問い合わせましょう」(写真撮影/山口俊介)

それ以外では、移住促進に力を入れている自治体などで広がっている、古民家を含めた空家物件の紹介事業や「空家バンク」などもあります。古民家情報を紹介するイベントなどを行っている自治体もあるので、住みたいエリアの自治体に問い合わせてみるのもひとつの手かもしれません。

「千葉房総ねっと」では、サイト利用者も参加できる「田舎暮らし交流会」を開催。古民家暮らしの先輩たちから直接話を聞くことで、地域の特徴や古民家暮らしを具体的にイメージできる(写真提供/田舎暮らし!千葉房総ねっと)

「千葉房総ねっと」では、サイト利用者も参加できる「田舎暮らし交流会」を開催。古民家暮らしの先輩たちから直接話を聞くことで、地域の特徴や古民家暮らしを具体的にイメージできる(写真提供/田舎暮らし!千葉房総ねっと)

古民家購入は、補助や税金メリットがあるって本当?

住みたいと思えるような古民家物件を見つけたら、次に気になるのが購入にかかるコスト。購入の流れは基本的に中古物件を購入する際と同じですが、実は古民家ならではの税金上のメリットがあります。

「古民家には築70年や100年という物件もざらにあるので、建物自体の価値が低く見積もられ、固定資産税が安いんです。そのほか、不動産取得税も少なくなりやすい。もちろん、物件によりますが、諸費用を抑えて購入できると考えてよいでしょう」

それだけでなく、前述の通り、移住促進事業などで補助金を出している自治体もあるため、購入コストだけでなく、住み始めてからの生活コストも抑えることもできるかもしれません。

ただし、古民家を購入する際には注意しておきたい点がいくつかある、と武田さんは言います。

「古民家は購入後そのまま住めるわけではなく、ほとんどの方が古民家を購入して、リフォーム、リノベーションを行います。その工事費用を見積もっておかなくてはいけません。特に古民家の修繕は熟練職人の力が必要な場合や、同じ部材がなく調達コストが思いのほかかかることもあるので、そうした手間なども考えておきましょう」

また、新築住宅購入の際に利用できる住宅ローン減税については、中古住宅購入と同じ減税制度を受けることができます。ただ、古民家の多くが1981年以前の旧耐震物件のため、制度の条件から外れる物件が多く、「ローン控除はないと考えたほうがよいでしょう」とのことです。

さらに、古民家ならではといえる特徴として「農地付き物件」の取得条件があるのだとか。「農地付き物件とは、文字通り、農地を所有する物件のこと。農地付き物件を取得するには、各自治体が発行する『農家資格」が必要です。就農しない場合は仮登記を行い、権利を保全する必要があります」

【古民家のなかには「農地付き物件」も。農地付き物件を取得するには農家資格が必要になる(写真/PIXTA)

【古民家のなかには「農地付き物件」も。農地付き物件を取得するには農家資格が必要になる(写真/PIXTA)

古民家の「断熱性」「耐震性」は大丈夫?

古い家であればあるほど機能や構造面も気になるところ。特に断熱性や耐震性は、快適で安心・安全な暮らしを送るために知っておきたいポイントですね。

「実は古民家暮らしで一番相談されるのが『寒さ』なんです。古民家暮らしをしている人たちも、集まれば『冬は寒いね~』が合言葉になるほど、正直冬は寒いです。複層ガラスのサッシや床下、天井に断熱材を入れることで断熱性能を上げることはできますが、基本的に古民家は田の字型間取りですべての空間がつながっていることが多く、風通しに優れているのが特徴です。天井まで吹抜けた家も多いので、古民家ならではの空間を活かすなら、断熱材を取り入れられる箇所が少ないんですよね。

そのため、冬は囲炉裏を囲み、かいまきを着て暖を取る人が多いですよ。ただ、庇(ひさし)が大きい分、直射日光をさえぎることができ、土壁など調湿性の高い素材を使っているので、夏は涼しいです。四季を感じながら暮らすのも古民家の魅力なので、せっかく古民家に暮らすなら、そのくらいの割り切りが必要だと思います」

「冬は背中の寒さを少し我慢しながら、囲炉裏を囲んで暖をとりながら団らんするなど、せっかく古民家暮らしなら、その醍醐味を味わってほしいですね」(武田さん)(写真/PIXTA)

「冬は背中の寒さを少し我慢しながら、囲炉裏を囲んで暖をとりながら団らんするなど、せっかく古民家暮らしなら、その醍醐味を味わってほしいですね」(武田さん)(写真/PIXTA)

東北や上越といった豪雪地帯の古民家であれば、防寒力が高いのでは?と聞いてみたところ、「雪が積もりにくい傾斜の屋根を持つなどは見受けられますが、基本的な構造は同じなのであまり差はありませんね」とのこと。寒さを感じながら暮らすのも一興ということです。

しかし、寒さは我慢できても、家が傾いては困ります。耐震性についてはどうでしょうか?

「考え方が真っ二つに分かれるところです。古民家の多くは1981年以前に建てられたいわゆる『旧耐震基準』の物件になります。耐震性担保の目安のひとつとして挙げられる新耐震基準ではありません。ただ、一方で80年も100年もずっと倒壊せず建ってきたという実績もあるんです。日本古来の建築の家は『揺れを逃がす』という特徴があります。ひとたび地震が来ると、自ら揺れることで倒壊せず耐えるものです。

どちらがよいかは専門家でも判断が分かれるところですが、古民家だから耐震性が低いと断じるのは早計だと思います。どうしても不安な場合は、インスペクター(診断士)など専門家に見てもらうのも手ですね」

もちろん金物を使って補強することもできますが、木組みの良さを損なうこともあるので、リノベーションの際に相談してみましょう。

武田さんに教えていただいたとおり、古民家を購入する際は、新築物件を購入するときとは違うポイントがあります。ただ、古民家が欲しいと思ったときに一番重要なことは「住んでから家に手をかけることを楽しめるかどうか」だと武田さんは話します。壁や床がはがれたり、建具の建てつけが悪くなるなど、新築以上に修繕が発生します。自分たちで、生活も家も紡ぎながら暮らす。それが古民家暮らしの醍醐味なんですね。

●取材協力
・田舎暮らし!千葉房総ねっと

「住宅ローン低金利時代の注意点」「タワーマンション低層階に住む」【4月人気記事まとめ】

この春は気温の高い日が多く、桜は駆け足で開花し、ゴールデンウイーク前半には真夏日となった地域も。
そんな4月に公開したSUUMOジャーナルの記事でよく読まれたものは、変動金利や家賃相場、賃貸住宅の退去時にかかる費用など「お金」にまつわる記事でした。TOP10の記事をご紹介します。
4月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

第1位: 変動金利で借り過ぎた!?住宅ローン“低金利時代”の注意点 賢い住まいのマネー術(7)
第2位: RoomClip編集部に聞く「100均DIY」の驚くべき進化
第3位:タワーマンション、 あえて“低層階”という選択肢
第4位:住みたい沿線1位の「阪急神戸線」を調査! 全15駅の家賃相場や特徴は?【沿線調査 関西版】
第5位: マンションなのに「土間」がある? 静かなブームになりつつあるそのワケは
第6位:賃貸住宅の「更新料」って何のためのお金? 絶対に払わなきゃダメなのか聞いてみた
第7位:賃貸住宅でトラブルを避けたい人必見!東京都の資料が「使える」理由
第8位: 住まいのトラブル調査【購入編】購入物件で一番多いトラブルは「近隣トラブル」!
第9位:子育て世帯の騒音問題! 賃貸でストレスなく暮らせる防音対策グッズは?
第10位:「資産価値が落ちない家ってどんな家?」 住まいのホンネQ&A(4)

※対象記事:2018年4月1日~2018年4月30日までに公開された記事
※集計期間:2018年4月1日~2018年4月30日のPV数の多い順

「タワマン低層階」「マンションに土間」などがランクイン

第1位: 変動金利で借り過ぎた!?住宅ローン“低金利時代”の注意点 賢い住まいのマネー術(7)

変動金利で借りすぎた!?住宅ローン“低金利時代”の注意点 賢い住まいのマネー術(7)

(画像/PIXTA)

連載「賢い住まいのマネー術」より、住宅ローン低金利についての注意点を紹介した記事が1位にランクイン。
「いまの金利が低いから」と、目先のおトク感につられて契約していませんか?変動金利はその名のとおり、市場金利の変化によって半年ごとに見直されるのが一般的で、長く低金利を保証するものではありません。賢く住宅ローンを選べるようになるために、何を知っておくべきでしょうか?

第2位: RoomClip編集部に聞く「100均DIY」の驚くべき進化

メディアの発信で流行した「100円ショップのアイテムを使ったDIY」。流行した理由と、どのような変化をしてきたかを、月間270万人が利用する部屋のインテリア実例共有サイト「RoomClip」を運営する方に伺いました。

第3位:タワーマンション、 あえて“低層階”という選択肢

タワーマンション、 あえて“低層階”という選択肢

(写真/PIXTA)

タワーマンションのウリといえば「眺望」。しかし、あえて低層階を選んで住む人も。住み心地やメリットなど、実際に住んでいる人の事例を紹介。また、タワーマンションに詳しい専門家にもお話を伺いました。

第4位:住みたい沿線1位の「阪急神戸線」を調査! 全15駅の家賃相場や特徴は?【沿線調査 関西版】

住みたい沿線1位の「阪急神戸線」を調査! 全15駅の家賃相場や特徴は?【沿線調査 関西版】

(写真/PIXTA)

リクルート住まいカンパニー発表の「みんなが選んだ住みたい街ランキング2018 関西版」で「住みたい沿線1位」に選ばれた阪急神戸線。アクセスの良さとブランドイメージの強さで人気の路線ですが、ハイソなイメージだけではなく、同じ路線内でもさまざまな特徴のある駅が。住まい探しにぜひ、役立ててみてください!

第5位: マンションなのに「土間」がある? 静かなブームになりつつあるそのワケは

マンションなのに「土間」がある? 静かなブームになりつつあるそのワケは

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最近、「土間」のあるマンションが静かなブームに?昔の日本家屋にあるものと思いがちですが、実用性が高く、かつオシャレな空間の演出もできて収納スペースとしても優秀!実際に、土間のあるマンションで暮らしている人の実例をご紹介しました。

更新料、契約から退去までのトラブル防止策など賃貸関連の記事が人気

第6位:賃貸住宅の「更新料」って何のためのお金? 絶対に払わなきゃダメなのか聞いてみた

賃貸住宅の「更新料」って何のためのお金? 絶対に払わなきゃダメなのか聞いてみた

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一つの賃貸住宅に住み続けていると、2年ごとにやってくる「更新料」。家計の負担にもなるため、更新料が発生する前に引越す人も?そんな「更新料」について、実際にあった判例を紹介しながら法的な視点と賃貸管理業を営む側からのご意見を伺いました。

第7位:賃貸住宅でトラブルを避けたい人必見!東京都の資料が「使える」理由

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「賃貸住宅紛争防止条例」の施行にあわせて、東京都が作成した『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』。条例の内容や、賃貸住宅に多いトラブルの例、入居から退去時までの住まい方に関する注意までを図解入りで分かりやすく説明。賃貸にお住まいの方、これから住む予定のある方におすすめの記事です。

第8位: 住まいのトラブル調査【購入編】購入物件で一番多いトラブルは「近隣トラブル」!

住まいのトラブル調査【購入編】購入物件で一番多いトラブルは「近隣トラブル」!

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連載「住まいのトラブル調査」シリーズから、持ち家の人が経験したトラブルの事例やランキング、トラブル回避のため実際何をしたか等をご紹介。実際にあったトラブル事例を知っておくことで、これから住宅購入を検討したい人の一助となるはず!

第9位:子育て世帯の騒音問題! 賃貸でストレスなく暮らせる防音対策グッズは?

子育て世帯の騒音問題! 賃貸でストレスなく暮らせる防音対策グッズは?

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集合住宅で暮らすにあたり、近隣への迷惑とならないよう、子育て中の人は生活音に気を配ることが多いのではないでしょうか。床・壁・窓に至るまで、賃貸でも手軽に使える防音グッズをご紹介。

第10位:「資産価値が落ちない家ってどんな家?」 住まいのホンネQ&A(4)

「資産価値が落ちない家ってどんな家?」 住まいのホンネQ&A(4)

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住宅にまつわる疑問にホンネで回答する連載「住まいのホンネQ&A」より、住宅購入についての記事がランクイン。とても大きな買い物だからこそ、資産価値が落ちない物件を選び、失敗したくない!と思う方はぜひご一読を。

4月は新生活スタートの時期であることから、入退去や住宅購入に関連する記事が多く読まれました。「100均DIY」や「マンションに土間がある」記事もランクインしたことから、自分の好みに合う住まいにカスタムしたい、個性ある部屋に住みたいと思う方も多かったのではないでしょうか。
防音対策やトラブル問題は、生活がスタートした後にこそ役立つ情報ですので、ぜひ参考にしてみてください。

首都圏の中古住宅で続く価格上昇、2017年度はどの地域が上昇した??

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が2017年度の「首都圏不動産流通市場の動向」を公表した。これによると、中古マンション、中古一戸建てともに、前年度より成約件数は増えていないのだが、成約価格は上昇している。東京23区や横浜・川崎の状況など、地域別に詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「首都圏不動産流通市場の動向(2017年度)」を公表/(公財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)2017年度の首都圏の中古マンション・中古一戸建ての動向は?

まずは、東日本レインズの2017年度のデータから、首都圏全体の中古住宅の市場傾向を見ていこう。

【図1】成約動向(ベクトル表)より首都圏の中古住宅市場の動向※太い矢印は上昇幅が大きいことを示している(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年度)」)

【図1】成約動向(ベクトル表)より首都圏の中古住宅市場の動向※太い矢印は上昇幅が大きいことを示している(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年度)」)

首都圏の中古マンションの成約件数は3万7172件(前年度比0.7%減)で、前年度を下回ったものの過去最高だった前年度に続いて3万7000件台となり、横ばいという状況だった。一方で、平均成約価格(3253万円)と平均平米単価(50.63万円)は5年連続で大きく上昇した。

かたや、首都圏の中古一戸建て住宅の成約件数は、1万2560件(前年度比3.7%減)で前年度を下回り、平均成約価格(3111万円)は4年連続で上昇する結果となった。

中古マンションは、成約価格で過去最高を更新。23区と横浜・川崎がけん引

では、中古マンション市場を地域別に詳しく見ていこう。

【図2】都県・地域別の中古マンションの成約状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年度)」)

【図2】都県・地域別の中古マンションの成約状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年度)」)

首都圏全体の成約価格は、前年度の3078万円から3253万円に上昇し、平米単価も前年度の48.43万円から50.63万円に上昇してついに50万円台に乗った。価格上昇をけん引しているのは、高い上昇率を示す「東京23区」と「横浜・川崎」だ。

マンション市場では、特に交通や生活の利便性が重視されるので、その影響があるのだろう。さらに、近年はこうした利便立地で新築マンションの供給が集中しており、比較的築年数の浅い中古が市場に出回っている影響も考えられる。東京23区と横浜・川崎で平均築年数が他の地域より若干短いことからも、それがうかがえる。

一方で、首都圏の平均住戸面積は2013年度以降縮小してきたが、2017年度は「東京都下」を除きすべての地域で前年度より拡大し、64.24平米になった。広めの住戸を希望する傾向が強まったように見えるが、広めの住戸なら千葉県や埼玉県で探しやすいといえるだろう。

中古一戸建ては、東京都下や横浜・川崎以外の神奈川県に注目が集まった?

次に、中古一戸建て市場を地域別に詳しく見ていこう。

【図3】中古一戸建ての成約状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年度)」)より編集部にて作成

【図3】中古一戸建ての成約状況(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年度)」)より編集部にて作成

10年前(2007年度)と比べると、マンション市場は成約件数が2万8667件→3万7172件、成約価格が2545万円→3253万円と大きく市場が変わっているのだが、一戸建て市場は比較的安定している。10年前と比較すると、成約件数が9533件→1万2560件、成約価格が3305万円→3111万円といった違いしかない。

それでも、例えば東京23区を見ると、土地・建物面積を小さくしながらも成約件数が伸びているのは、新築・中古のマンション価格が急上昇したために中古一戸建てが注目されたといったことが考えられる。また、成約価格の上昇率が高いのは東京都下や横浜・川崎以外の神奈川県だが、新築マンションの供給が抑制されているなか、中古のマンションや一戸建てへの関心が高まったという見方もできるだろう。

一方、一戸建てらしい広さを求めるなら、ダントツで千葉県ということになる。

一戸建て市場は新築・中古ともに、上がり下がりはありながらも市場は安定している。しかし、マンション市場、特に新築マンションの供給量や価格の変動が激しく、中古マンションはもちろん、一戸建て市場にも影響を及ぼす可能性がある。

首都圏の2018年の新築マンション市場は、2017年と同程度と見られているが、地域ごとにそれぞれに及ぼす影響が違うため、希望する地域の住宅市場全体を把握していく必要があるだろう。

貼るだけ・塗るだけでOK! 人気インスタグラマーの素敵DIYアイデア5

DIYやリノベーションで、住まいを自分好みにカスタマイズして素敵空間を手に入れる。そうした人が増えている一方で、自分もやってみたいけれど大掛かりになりそうで……と躊躇(ちゅうちょ)している人も多いのではないでしょうか。でも、大きな道具がなくても大丈夫。手づくりで部屋を変身させている人気インスタグラマーのDIYアイデアを紹介します。
まっさらな新築空間をDIYで自分色にカスタマイズ

木材パッチワークウォールの圧倒的な存在感。この壁面をつくったのは千葉県で暮らす田中さやかさん。DIYライフやお子さんの日常を撮影した写真が人気のインスタグラマーです。

シャビーなテクスチャー感のあるインテリアが好きな田中さんは、7年半前に新築で購入したマンションを、暮らしながらコツコツと手を入れて好みの空間に変えてきました。「新築のピカピカな新しさよりも、表情のある空間が好き」と、壁やドアをペイントし、クッションフロアを張り、雑貨や植物を飾って楽しんでいます。

田中さんのDIYポイントは大掛かりな道具を使わず、いかに簡単にやるかを考えることだそう。
「工具は普通の家にあるようなドライバーや塗装用のハケ、あとは最近マルチツール(※)を購入したくらいです」
「自分の家だから失敗してもいいと思い切って、DIYをしています」と語る田中さんに、家中のDIYアイデアについて聞いてみました。

※1台で木材の「切断」「研磨」「穴あけ」や「ネジ締め」などいろんな機能が使える電動工具

壁を塗った塗料とパッチワークウォールの木材に塗ったワックス。右は最近購入したマルチツール(写真提供/田中さやかさん)

壁を塗った塗料とパッチワークウォールの木材に塗ったワックス。右は最近購入したマルチツール(写真提供/田中さやかさん)

【DIYアイデア1】何でも受け入れる「包容力」のあるパッチワークウォール無垢材の家具の木質感と、木材パッチワークの壁の質感がそろっていて、不思議な統一感を見せています(写真撮影/山出高士)

無垢材の家具の木質感と、木材パッチワークの壁の質感がそろっていて、不思議な統一感を見せています(写真撮影/山出高士)

――ここをパッチワークウォールにしようと考えたきっかけは何ですか?
「白い壁の前にある黒いテレビの存在感が大きくてインテリアに馴染まないなあと感じていて、思いついたのがこの木材パッチワークです。ネットで見た外国のインテリア写真から思いつきました」(田中さん・以下同様)

――壁一面のDIYは大変ではなかったですか?
「ホームセンターで買った1袋100円の端材に、ブライワックスという自然素材のワックスを塗り、それを白い壁紙の表面に、端から順に強力接着材で貼り付けただけなんです。苦労した点は端材の並べ方。サイズがバラバラなので、モザイク状に貼っていくと隙間ができてしまうのですが、隙間が小さくなるように組み合わせました。それでもどうしても隙間が空きますが、フェイクのモス(苔)やタイルを埋めています。壁紙の表面に貼っただけなので、木材の重量に耐えられるかどうか不安でしたが、今のところ大丈夫です。剥がれてしまっても自己責任です(笑)」

――費用はどのくらいかかったのですか?
「使った端材は30袋未満だったので、低コストで済みましたが、接着材に費用がかかりました。1本1000円程度のものを10本くらい使ったので」

――雑貨がたくさん飾られていて、一つ一つをじっくり見入ってしまいます(笑)
「お菓子の空き箱やガラクタのようなものなど、何を置いてもサマになります。とっても包容力のある壁です(笑)。以前は雑貨を飾る場所が少なかったのですが、一面が飾り棚になりました」

サイズの異なる端材をうまく利用した、いろんな雑貨をちょこっと飾れる”ミニ棚”がたくさん。「計算して組み合わせているのではなく、何となくの感覚で木材を配置しました」と田中さん(写真撮影/山出高士)

サイズの異なる端材をうまく利用した、いろんな雑貨をちょこっと飾れる”ミニ棚”がたくさん。「計算して組み合わせているのではなく、何となくの感覚で木材を配置しました」と田中さん(写真撮影/山出高士)

製作途中のパッチワークウォール。小さな隙間があるのが分かります。壁全面もいいですが、部分的にパッチワークになっているのも素敵(写真提供/田中さやかさん)

製作途中のパッチワークウォール。小さな隙間があるのが分かります。壁全面もいいですが、部分的にパッチワークになっているのも素敵(写真提供/田中さやかさん)

【DIYアイデア2】シャビーなニュアンスカラーで雰囲気のある空間づくりを奥の壁と窓側の壁を、濃淡の異なるグリーンにペイント。「白い壁も、壁紙のままより、白く塗装した壁の方が自然の風合いを感じます」。床は薄い杉板を敷き詰めています(写真撮影/山出高士)

奥の壁と窓側の壁を、濃淡の異なるグリーンにペイント。「白い壁も、壁紙のままより、白く塗装した壁の方が自然の風合いを感じます」。床は薄い杉板を敷き詰めています(写真撮影/山出高士)

――ダイニングスペースの壁は色合いが独特ですね。
「壁紙に直接、塗料をペイントしました。ニュアンスのある色合いにこだわって、ポーターズペイントという塗料を使っています。この塗料は自然素材に馴染む発色で、空間に趣のある表情をもたらしてくれます。塗装は初めてなので、ワークショップでペイントレクチャーを受けてからDIYに臨みました」

――ダイニングはリビングと床材が違いますね。
「もともと全面フローリングでしたが、ピカピカの床ではなくて、シャビー感のある無垢の床にしようと思いました。床を張り替えるとなると大ごとですが、これは、建築現場で使われていたオールド足場板をスライスした板材を、フローリングの上に敷き詰めただけなんですよ。足場板の加工品を数多く取り扱っている、広島市のウッドプロというお店のネットショップでサイズオーダーできます。この床にしたら家具が以前より良いものに見えます(笑)。いずれはリビング側もこの床にしようと思っています」

――右側のカーテンの奥には何があるんですか?
「クローゼットがあるのですが、扉の表面に艶があって部屋の雰囲気に合わないので、カーテンで隠しています。自然な風合いのカーテンが部屋の雰囲気に合っていて、奥行きも感じさせてくれます」

――お子さん・こまちゃんをよくここで撮影されていますね。
「娘の成長記録としてよく写真を撮っています。最近、世間では写真スタジオで撮影するのが流行っていますが、自宅でも写真スタジオのような雰囲気で撮影できるので、お金がかかりません(笑)」

とてもフォトジェニックな長女・こまちゃん。塗りムラのあるグリーンカラーの壁が自然光を受けて独特の表情を浮かべています(写真提供/田中さやかさん)

とてもフォトジェニックな長女・こまちゃん。塗りムラのあるグリーンカラーの壁が自然光を受けて独特の表情を浮かべています(写真提供/田中さやかさん)

思い切り飾り付けても映えるので、イベント時にもこの空間が活躍します(写真提供/田中さやかさん)

思い切り飾り付けても映えるので、イベント時にもこの空間が活躍します(写真提供/田中さやかさん)

【DIYアイデア3】写真を思い通りの位置に配置できるマグネットウォール寝室の壁には田中さんが撮影したこまちゃんの写真がたくさん(写真撮影/山出高士)

寝室の壁には田中さんが撮影したこまちゃんの写真がたくさん(写真撮影/山出高士)

――壁一面に写真を飾るのって素敵ですね。
「このフォトフレーム、磁力で壁にペタッとくっついているんです。壁は、ニチレイマグネットという会社の製品で鉄製の『アイパネル』。キッチンボード用接着剤と両面テープで壁に貼ってあります。細長いパネル2枚を上下に貼る際には夫と2人で苦心しました。これはグレイジュという色ですが、木目調などほかの色もあります。パネルを貼った余白の壁はフォトフレームに合わせてグリーンに塗装しました」

――壁にフックをいくつもつけなくてよいわけですね。
「フォトフレームのうち6つはニチレイマグネット『HEYADECO』シリーズの『フレームデコ』というもので、磁石付き。他は、市販のフォトフレームの裏にマグネットシートを貼りました。マグネットのフレームだと着脱が簡単。飾る位置を決めるとき、微調整がとっても楽にできました」

ペタッと壁にくっつくので、フォトフレームの数が多い家にはオススメ。HEYADECOシリーズはフォトフレームのほか、棚、フック、ウォールデコレーション用品があります(写真撮影/山出高士)

ペタッと壁にくっつくので、フォトフレームの数が多い家にはオススメ。HEYADECOシリーズはフォトフレームのほか、棚、フック、ウォールデコレーション用品があります(写真撮影/山出高士)

【DIYアイデア4】スイッチも、コンセントのごちゃごちゃも隠してスッキリ写真左/水を使うキッチンの照明のスイッチパネルは、レザーを挟んだフォトフレームにイン。写真右/トイレの照明スイッチは額装したポストカードの裏側にあります。単なるスイッチではなくアート作品の展示になっていて素敵(写真撮影/山出高士)

写真左/水を使うキッチンの照明のスイッチパネルは、レザーを挟んだフォトフレームにイン。写真右/トイレの照明スイッチは額装したポストカードの裏側にあります。単なるスイッチではなくアート作品の展示になっていて素敵(写真撮影/山出高士)

――スイッチやインターホンが、何だか楽しく変身していますね。
「スイッチ類は毎日使うものなので、素材感やディテールが気になります。ある日ふと、見た目が気になるものはフォトフレームや扉を付けて隠してしまおうって思いつきました(笑)。照明スイッチは、額に入れたレザーやポストカードの上からスイッチをカチッと押して切り替えます。額装できないインターホンは塗装しました」

――コンセントも隠していますね。
「コンセントや操作パネルのプラスチックは黄色く変色してしまうタイプが多いので、フォトフレームとボックスを組み合わせたものでスッキリ隠しています(下写真参照)。差し込み部分や配線のごちゃごちゃも気にならないですよ」

左のインターホンはベニヤ板で囲い、表面をアイアン塗料で黒くして、上部にミニチュアを飾っています。「1」「2」と書かれた横の丸い押しボタンはレザー貼り。左側にある床暖房の操作パネルは黒い蓋を付けました。(写真撮影/山出高士)

左のインターホンはベニヤ板で囲い、表面をアイアン塗料で黒くして、上部にミニチュアを飾っています。「1」「2」と書かれた横の丸い押しボタンはレザー貼り。左側にある床暖房の操作パネルは黒い蓋を付けました。(写真撮影/山出高士)

コンセントの両脇にL字フックを取り付けて、アートフレームを貼ったボックスを引っ掛けるだけ。ボックスの下側はコードが出るように空けてあります(写真撮影/山出高士)

コンセントの両脇にL字フックを取り付けて、アートフレームを貼ったボックスを引っ掛けるだけ。ボックスの下側はコードが出るように空けてあります(写真撮影/山出高士)

この額もコンセントカバー。照明の配線用にボックス上部にも穴をあけてあります(写真提供/田中さやかさん)

この額もコンセントカバー。照明の配線用にボックス上部にも穴をあけてあります(写真提供/田中さやかさん)

お子さんの似顔絵を飾ったコーナー。照明の電源コードを邪魔しないよう、アートフレームの両脇に角材をつけて奥行きをとりました(写真撮影/山出高士)

お子さんの似顔絵を飾ったコーナー。照明の電源コードを邪魔しないよう、アートフレームの両脇に角材をつけて奥行きをとりました(写真撮影/山出高士)

【DIYアイデア5】濃色と淡色を使い分けた塗装が空間にメリハリを生むキッチン側はグレイジュカラーに塗装し、左側はドアを含めて黒く塗装。個性的な雰囲気に仕上がっています。中央のドアは壁や天井に合わせて白く塗りました(写真撮影/山出高士)

キッチン側はグレイジュカラーに塗装し、左側はドアを含めて黒く塗装。個性的な雰囲気に仕上がっています。中央のドアは壁や天井に合わせて白く塗りました(写真撮影/山出高士)

――壁の塗装は大胆な色使いですが、落ち着いた色合いなので独特の雰囲気を生んでいますね。
「場所ごとに濃淡に塗り分けると、空間にメリハリが生じます。全体が白い空間に雑貨をたくさん置くとごちゃごちゃした印象になりがちですが、色によってメリハリがあると、雑多な雰囲気を飲み込んでまとまりが出ると考えました」

――サッシやドアノブも黒くしたのですか?(下写真参照)
「塗るだけでざらっとした鉄っぽい質感になるアイアン塗料を塗りました。窓枠が黒いのも、空間にメリハリや雰囲気が出ますね」

――壁の色を選んだ決め手は何ですか。
「最初は何色にするかさんざん迷いました。でもとりあえずコレと思った色を塗ってみようと思って。塗装だけではありませんが、『自分の家だから、失敗してもいいや』って考えました。思い切りがいいんですね。考え込んでしまうより、まずやってみるということで進めています」

写真左/ダイニング側のサッシの室内側をアイアン塗料で黒く塗装。ガラスには半透明のフィルムを貼りました。「向かい側に大きな倉庫があるので目隠しです」。黒い鳥のシールが効いています。写真右/ドアノブも黒く(左写真撮影/山出高士、右写真提供/田中さやかさん)

写真左/ダイニング側のサッシの室内側をアイアン塗料で黒く塗装。ガラスには半透明のフィルムを貼りました。「向かい側に大きな倉庫があるので目隠しです」。黒い鳥のシールが効いています。写真右/ドアノブも黒く(左写真撮影/山出高士、右写真提供/田中さやかさん)

カウンター小窓の枠はゴールドの樹脂塗料で仕上げました。「この塗料は臭いがきつくてすぐ固まってしまうので、塗るのにとても苦労しました」。キッチン雑貨をたくさん置いても、ごちゃつきなく収まっています(写真撮影/山出高士)

カウンター小窓の枠はゴールドの樹脂塗料で仕上げました。「この塗料は臭いがきつくてすぐ固まってしまうので、塗るのにとても苦労しました」。キッチン雑貨をたくさん置いても、ごちゃつきなく収まっています(写真撮影/山出高士)

窓側の壁は深みのあるグリーンに塗装。エアコンのダクトカバーも壁に合わせて下半分を塗装しています。「この塗り分けは気に入っています」。無印良品のチェストは脚を黒く塗装し、引き出しに数字シールを貼ってカスタマイズしました(写真撮影/山出高士)

窓側の壁は深みのあるグリーンに塗装。エアコンのダクトカバーも壁に合わせて下半分を塗装しています。「この塗り分けは気に入っています」。無印良品のチェストは脚を黒く塗装し、引き出しに数字シールを貼ってカスタマイズしました(写真撮影/山出高士)

【DIYアイデア色々】“ちょっとここを変えたいな”という気持ちを大切に

――DIYを始めたきっかけは何ですか。
「夫の希望で新築マンションを購入しました。購入当初は普通の内装だったのですが、『ちょっとここを変えたいな』という気持ちが芽生えていきました。面白いものが好き、雑貨が好き、小さいころから工作好きということもあって、やってみようと。何かに心が突き動かされました(笑)」

――塗装やパッチワークウォールづくり、クッションフロアやタイル貼りなど、時間も手間も気力もかかりそうですね。
「娘がもっと幼い時期、家にいる時間が長かったので、家事の合間に壁を少しずつ塗ったりしていました。始めると集中するので、ストレス発散になってよかったです」

田中さんは愛猫2匹と暮らしています。パッチワークウォールの一角には、猫のトイレブースも設置しました(写真撮影/山出高士)

田中さんは愛猫2匹と暮らしています。パッチワークウォールの一角には、猫のトイレブースも設置しました(写真撮影/山出高士)

こまちゃんの部屋は女の子らしさ全開。壁をピンクに塗装し、床はクッションフロアを敷き詰めました(写真撮影/山出高士)

こまちゃんの部屋は女の子らしさ全開。壁をピンクに塗装し、床はクッションフロアを敷き詰めました(写真撮影/山出高士)

もともと大理石だった玄関土間は、上から好みのタイルを貼りました。照明はダウンライトでしたが、アタッチメントを付けてペンダントライトにチェンジ(写真撮影/山出高士)

もともと大理石だった玄関土間は、上から好みのタイルを貼りました。照明はダウンライトでしたが、アタッチメントを付けてペンダントライトにチェンジ(写真撮影/山出高士)

写真左/木とアイアンの組み合わせが素敵なフックは、板にフックをネジ留めして壁に接着剤で設置。「木ネジが打てない壁でも、重い鞄を安心して掛けられます」。写真右/キッチンツール掛けも木板に設置して、タイル壁に取り付けました(写真撮影/山出高士)

写真左/木とアイアンの組み合わせが素敵なフックは、板にフックをネジ留めして壁に接着剤で設置。「木ネジが打てない壁でも、重い鞄を安心して掛けられます」。写真右/キッチンツール掛けも木板に設置して、タイル壁に取り付けました(写真撮影/山出高士)

吊り戸棚にずらっと並べて掛けたカップ収納のカゴは、IKEAの製品。DIYではありませんが、このアイデアは訪ねて来るお友達に大好評だそう(写真撮影/山出高士)

吊り戸棚にずらっと並べて掛けたカップ収納のカゴは、IKEAの製品。DIYではありませんが、このアイデアは訪ねて来るお友達に大好評だそう(写真撮影/山出高士)

食器棚のガラスにレトロな模様入りフィルムを貼って、中身を隠しています(写真提供/田中さやかさん)

食器棚のガラスにレトロな模様入りフィルムを貼って、中身を隠しています(写真提供/田中さやかさん)

洗面室の壁に洗剤ボトルをかけられるよう、扉の取っ手をフックとして取り付けました。パッと手に取れて便利。普段はカーテンを閉めてスッキリ隠しています(写真撮影/山出高士)

洗面室の壁に洗剤ボトルをかけられるよう、扉の取っ手をフックとして取り付けました。パッと手に取れて便利。普段はカーテンを閉めてスッキリ隠しています(写真撮影/山出高士)

陶器の猫の横にさりげなく飾られた田中さんファミリーの木彫り人形。よく見ると胸に愛猫2匹も描かれています(写真撮影/山出高士)

陶器の猫の横にさりげなく飾られた田中さんファミリーの木彫り人形。よく見ると胸に愛猫2匹も描かれています(写真撮影/山出高士)

田中さんのDIYは、壁や建具を塗装する、フックを設置する、接着剤で貼り付けるなど、持ち家だからできることが多いですが、賃貸住宅でも、壁に刺した穴が目立たないフックや両面テープ、剥がせる壁紙、敷くだけの床材などを用いれば、応用できそうなアイデアもたくさん。

「ここがこうなったら毎日いい感じかも」「気になるものは見えなくする」……そうした、ちょっとした思いつきを形にして、家を素敵に変身させてきた田中さん。ここまで手を入れられて凄いですねと話す私に、田中さんは「マメな性格ではなく、ちょっと器用っていうだけなんですよ」と微笑みます。

「徐々に変わって行く我が家の様を見て、夫はいつも褒めてくれます。ここまでやるとは思っていなかったみたいです(笑)。好きなことを楽しみながら、思う存分できて幸せですね」とDIYライフを振り返る田中さん。素敵なお住まいを見て、「わが家もカスタマイズしたい!」ととても影響を受けた1日となりました。

●取材協力
・田中さやかさん

共働きママに聞いた!家を買うとき、子育て面で重視したことは? マイホーム購入調査[3]

子育て世代にとって、マイホームの購入の際に悩むポイントはたくさんあります。今回は、共働き子育てママに購入のタイミングをはじめ、購入の際に重視したこと、住んでから分かった意外とよかったことなどをヒアリングしました。これからマイホーム購入を考えている子育て世代には要チェックな内容です。
子育て世代がチェックするポイントは、「教育施設までの距離」や「周辺の治安」が上位

子育て世代が土地や購入物件を探すときに「子育て」に関することで重視したことはどんなことでしょうか。
1位は「保育園、幼稚園、小学校までの距離」(38.0%)、2位は「周辺の治安が良いかどうか」(30.5%)、3位が「実家との距離」(30.0%)でした。教育施設はもちろんですが、保育園や幼稚園を卒園後に小学校に上がると、子ども一人での行動も増えるため、周辺の治安は気になるポイント。また、特に共働きの場合には、普段の生活に加えて、子どもが熱を出したけれど会社は休めない、急な残業でお迎えに行けないなど、親に協力を頼みたい場面がどうしても出てきます。そんなときに、近くに親がいると助かるという人は多いようです。
4位以降は「公園など、周辺に子どもを遊ばせる施設があるか」(28.5%)、「部屋数や広さが十分かどうか」(28.0%)と続きます。

また、「子育て補助、医療補助などの支援が充実している自治体かどうか」(15.5%)などは、事前に調べておくと生活する上で助かるので、チェックしておきたいポイントです。

周辺環境、教育機関、医療機関など、さまざまな視点で選んでいることが分かる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

周辺環境、教育機関、医療機関など、さまざまな視点で選んでいることが分かる(出典/SUUMOジャーナル編集部)

それぞれを重視した理由は以下のとおり。
【保育園、幼稚園、小学校までの距離】
・登下校の距離が長いと、心配事が増えるから(38歳・秋田市)
・私自身、小さいころに小学校が遠くて嫌だったので、ある程度小学校に近い家を選びたかった(36歳・茨城県守谷市)
・子どもはまだいなかったけれど、将来的に環境の良い幼稚園に入れたいと思ったので(34歳・北海道苫小牧市)

【実家との距離】
・共働きなので、子育てする上で実家の援助は不可欠だから(43歳・岡山県早島町)
・1人目を妊娠していて家族がこれから増える。義理の母が1人暮らしで、できるだけ近くに住みたかった(41歳・仙台市青葉区)
・両方の実家からほどほどに近い所(40歳・川崎市高津区)

【周辺の治安が良いかどうか】
・安心して子どもを遊ばせたいから(37歳・岐阜県各務原市)
・小学校までの距離や道が危なくないか、地元ではないので詳しく分からず、治安の良さが心配で友人にいろいろと聞いた(31歳・名古屋市)

【公園など、周辺に子どもを遊ばせる施設があるか】
・男の子二人だったため、外でしっかり遊べる場所が欲しかった(41歳・横浜市神奈川区)
・田舎育ちなので自然がある場所で育てたかった。公園が近くにある場所を検討した(39歳・大阪府富田林市)

【子育て補助、医療補助などの支援が充実している自治体かどうか】
・子育て支援にも力を入れている自治体なので、経済的にも助かると感じた(36歳・福岡県那珂川町)
・医療助成が充実していると助かるので(43歳・秋田県大仙市)

購入タイミングは、「第一子が0歳~2歳のとき」がトップ

次に、先輩たちが実際に物件を購入したタイミングを教えてもらいました。
1位は「第一子が0歳~2歳のとき」(27.5%)。これは保育園に通い出すタイミングで購入を決意したのではと予想できます。2位は「第一子が3歳~5歳のとき」(19.0%)。こちらは小学校に上がる前に引越しを済ませてしまおうという計画なのかもしれません。
このように、第一子が生まれてから購入に至る人が多いですが、第一子妊娠前、第一子妊娠中という人も合わせると28.0%いました。

第一子妊娠前、妊娠中という人は3割弱(出典/SUUMOジャーナル編集部)

第一子妊娠前、妊娠中という人は3割弱(出典/SUUMOジャーナル編集部)

購入後に後悔した点は、「通学路の交通量」や「保育園激戦区かどうか」など

また、住んでから気が付いた、子育ての面で「もっと重視しておけばよかった」ということを聞いたところ、以下のようなコメントがありました。

・家の前の道が意外と交通量が多かった(43歳・神奈川県大和市)
・こんなにも保育園に空きがないとは思わず、安易に考えていたので後悔した(42歳・千葉県市川市)
・小学校は近いけど中学校が遠いので、中間位の位置にしておけばよかった(41歳・大田区)
・歩道が狭く、ガードレールもないため、もう少し考慮すれば良かった(34歳・北九州市)
・最寄りの小学校は学区外で、実際に通う小学校のほうが遠く、交通量の多い道の近くだった(39歳・埼玉県越谷市)
・部屋の広さが不十分。子どもの洋服や勉強道具などが増えるので、もっと部屋数があればよかった(40歳・新潟県新発田市)

家の間取りや設備のことはもちろんですが、立地や近隣の道路の安全性、教育・医療施設の問題などは住んでみないと分からないことも多く、「もっと調べておけばよかった」と後悔することもあるようです。
また、近い将来の生活を視野に入れておくことも大事です。例えば、今はまだ子どもが小さいからと幼稚園や保育園のことだけを調べるのではなく、将来通うかもしれない小学校、中学校もチェックしておくと、後悔がない生活を送れそうです。

意外とよかった点は、「同世代の子どもが多い」「児童館、図書館などが近い」など

逆に、住んでから気が付いた、子育ての面で「意外とよかった」点はどうでしょうか。
コメントは以下のようになりました。

・町の子育てに関しての取り組みが盛ん。子どもも増えてきたので周りの人たちと交流ができること(47歳・香川県三木町)
・小学校の預かり保育が無料である。隣の県は学童でお金が1万円ほどかかると聞いた(35歳・川崎市宮前区)
・児童館、図書館など子どもが使える施設が市内に多く、イベントも多数だった(39歳・埼玉県越谷市)
・近所は高齢者が多く、同世代の友達は少ないが、おばあちゃんたちが子どもたちを孫のように可愛がって接してくれる(36歳・福岡県那珂川町)
・同じ学年や近い世代の子が多く、子ども同士が仲良くなった。それで親も仲良くなったりする(41歳・大田区)
・近くに地区センターがあり、絵本も借りやすいし未就学児が遊べる広場もある。子育てサロンも近い。地区センターは子どものイベントがたくさん催されている。自然がたくさんあり、自然公園がふたつも近くにあり散歩コースがたくさんある(30歳・横浜市)
・子どもが見える範囲にいつもいるような間取りになっているので、安心して家事ができる(36歳・富山県入善町)

間取りなど家のこともありましたが、同世代の子どもが多かった、教育施設のイベントが多い、町内の人たちとの触れ合いがあるなど、周辺の環境のことを挙げる人が多数いました。

子育て中のママにとって、住まいの暮らしやすさはもちろんですが、周辺環境が整っているかどうかは重要です。家を買うということは、終の棲家(ついのすみか)とはいかずとも、長い期間その場所に住むということ。気になることを事前に調べたり、実際に見たりして、不安はなくしておきたいもの。今回の調査で挙がっていた点で気になることがあれば、物件購入を決める前にチェックしてみてくださいね。

●調査概要
・[マイホーム購入調査]より
・調査期間:2018年3月27日~29日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:10年以内に購入した持ち家にお住まいの20歳~49歳の既婚共働き女性
・有効回答数:200名(子どもありの世帯のみ)

共働き世帯のマイホーム購入、ローンや頭金で後悔することは? マイホーム購入調査[2]

一生で一番大きな買い物と言っても過言ではないマイホーム購入。額が大きいだけに、不安や疑問が付きまとうもの。今回は実際にマイホームを購入した共働きの妻400人を対象に、予算や頭金、ローンの組み方や資金計画で後悔していることなどをズバリ聞きました。妻の目線からの意見、ぜひチェックしてみてください。
予算オーバーした人の平均金額は600万 予算以下に収まった人の理由は?

まず、今回の調査に協力してくれた対象者の世帯年収をチェックしてみると、600万円~800万円未満(23.8%)、400万円~600万円未満(23.3%)が、合わせて約半数を占めました。次に800万円~1000万円未満が17.0%、1000万円~1500万円未満が15.0%となりました。

400万円~800万円未満が多いが、800万~1500万円も3割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

400万円~800万円未満が多いが、800万~1500万円も3割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

今回は全国で過去10年間に物件購入経験がある人を対象に調査を行っていますが、その購入金額を見てみると、3000万円~3500万円未満が16.5%で最多。2000万円未満が14.8%、2500万円~3000万円未満が14.0%と続きます。また、「予算より、実際の購入金額のほうがオーバーした」人と「予算と、実際の購入金額がほぼ変わらなかった」人が37.3%で同数。「予算より、実際の購入金額のほうが安くなった」人は10.0%で少数でした。

内訳を見てみると、「予算より、実際の購入金額のほうがオーバーした」のは新築注文住宅、新築分譲住宅が圧倒的に多いことが分かりました。注文住宅の場合、天井、壁、床などの仕上げ材をはじめ、キッチンやバスルーム、トイレなどの設備機器など、仕様決定をする際、こだわって好きなものを選んだらグレードが高いものばかりだったということが多いよう。その結果、もともと組んでいた予算を大幅にオーバーすることになるようです。また、土地代が予定していた金額よりも高くなってしまったという人も多くいました。

4000万円未満が7割近くを占めた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

4000万円未満が7割近くを占めた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

予算を決めていても、「実際の購入金額がオーバーした」と答えた人は4割近い(出典/SUUMOジャーナル編集部)

予算を決めていても、「実際の購入金額がオーバーした」と答えた人は4割近い(出典/SUUMOジャーナル編集部)

実際に予算よりオーバーした人、安くなった人のコメントを見てみると以下のとおり。

【予算より、実際の購入金額のほうがオーバーした】
・中古でいい物件がなく、土地付き新築にした。土地が高かったから予算オーバー(新築注文住宅・1000万円オーバー)
・低い階でも構わなかったが、先に買われてしまい高層階しか残っていなかった(新築マンション・400万円オーバー)
・オプション、壁紙、外壁など、好きなものを選んでいたら増えた(新築注文住宅・1000万円オーバー)
・ペットOKマンションで探したら額が上がった(中古マンション・400万円オーバー)
・中古住宅を購入したが、設備で故障しているものなどがあり、多くかかった(中古一戸建て・200万円オーバー)

【予算より、実際の購入金額のほうが安くなった】
・最後の一邸がキャンセル住戸として出たので、割引で購入することができた(新築マンション・600万円ダウン)
・モデルルームに使われていた部屋を購入(新築マンション・300万円ダウン)
・職場や都心から離れてしまい、最寄駅からもバスが必要なため、安い物件となった。その代わり、静かで自然豊かな環境を得られた(新築マンション・400万円ダウン)
・最初は新築物件を考えており、多めに予算を見積もっていたが、中古物件にリノベーションをプラスして価格を抑えることができた(中古マンション・1000万円ダウン)

購入の際の頭金は「夫婦共同の貯蓄から出した」人が約半数

物件も決まり、いざ購入となると、まず手続きとして頭金をどうするか決めなくてはいけません。
頭金の出所は「夫婦共同の貯蓄」が49.8%で最多で、個人で出す人を上回りました。額は「200万円未満」が24.1%でトップ。「200万円~400万円未満」(13.7%)、「400万円~600万円未満」(11.9%)と続きます。

自分たちで確保するケースが多いが、親からの贈与という人も(出典/SUUMOジャーナル編集部)

自分たちで確保するケースが多いが、親からの贈与という人も(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、頭金を貯めるためにした工夫を聞いたところ、「コツコツ」派と「ボーナスをすべて貯蓄」派に分かれました。

【コツコツ派】
・頭金は財形貯蓄でためた(41歳)
・夫婦共働きで、夫の給料のみで生活。自分の給料は貯蓄した(39歳)
・とにかく日常生活で節約をした(32歳)
・社宅に入っていたので、一般的な賃貸と社宅の家賃の差額分程度の金額を月々貯めていた(43歳)

【ボーナスをすべて貯蓄派】
・夫のボーナスはすべて貯めていた(32歳)
・お互いの給与から月々固定額を貯金し、自分のボーナスは全部貯金。夫のボーナスは必要諸経費部分や旅行などの娯楽分を引いた額を貯金。年に最低200万貯めるようにした(33歳)

住宅ローンは夫名義が約7割 「ローンを組まなかった」が10人に1人

頭金は2人の貯蓄から出す人が多いようですが、住宅ローンをどのように組んだか聞いてみると、配偶者(夫)名義でローンを組んだ人が約7割と多いことが分かりました。
「ローンを組まなかった」のは10人に1人。夫婦それぞれの名義で別々にローンを組む人は1割もいませんでした。

ローンは配偶者(夫)名義が約7割も(出典/SUUMOジャーナル編集部)

ローンは配偶者(夫)名義が約7割も(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、住宅ローンや資金計画については「後悔していない」人が7割を超えました。

「後悔している」人は全体の約3割とそれほど多くはありませんが、どんなことに後悔しているのでしょうか。

・もっと頭金を貯めておけばよかったと思う(41歳)
・夫婦名義でのローンにすれば、私にも控除などがあるので良かったと思う(36歳)
・もっと金利を比べればよかった。借り換えしたい(38歳)
・共働きなので多少無理しても大丈夫だろうと2人の収入で気に入った物件を購入したが、見通しが甘かった気がする。ローン、教育資金、老後資金を考えるともっと身の丈にあった総額にすべきだったと思う(34歳)
・子どもの成長とともにお金がかかるようになり、中古物件にして安く抑えれば良かった(39歳)
・固定金利を選択したが、変動金利にすれば、利息が安くて良かった(48歳)
・ローン契約時よりも収入が減ったため、月々の支払が苦しい(36歳)

「後悔していることはない」が約75%で「後悔していることがある」(25.8%)を上まわった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

「後悔していることはない」が約75%で「後悔していることがある」(25.8%)を上まわった(出典/SUUMOジャーナル編集部)

今回の調査で、物件を探す段階では「このくらい」と予算を決めていても、予想以上に土地代が高かったり、マンションで高層階を選んだり、注文住宅の設備をグレードアップさせたりと、予算オーバーする要因はさまざまであることが分かりました。予算以下で購入できた人はたった1割。「プラン変更をするなら○○万円まで」など、最初に予算を設定する際に考慮しておかないと、すぐに予算オーバーしてしまいそう。

また、物件を購入後の住宅ローンや資金計画に関して、「後悔していることはない」人は約7割でしたが、「後悔している」人に関しては、「頭金をもっと出せばよかった」「金利を比べればよかった」など、具体的なコメントが挙げられました。
予算オーバーしてしまうことを想定に入れ、子どもが何歳のときにどのくらいのお金がかかるのか、転職をする予定はあるのか(収入が増減するのか)、妻が仕事を辞めて専業主婦になることはあるのかなど、夫婦の先の人生をシミュレーションしてローンや資金計画を立てると後悔が少なそう。一生に何度もない高い買い物だけに、住んだ後も後悔のないよう事前準備をしっかりしたいものです。

●調査概要
・[マイホーム購入調査]より
・調査期間:2018年3月27日~29日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:10年以内に購入した持ち家にお住まいの20歳~49歳の既婚共働き女性
・有効回答数:400名(夫婦のみ世帯200名・子どもありの世帯200名)

家を買うとき、夫婦で意見が分かれるのはどんなこと? マイホーム購入調査[1]

マイホームを購入するとき、夫婦で意見が食い違うことはどのくらいあるのでしょうか。例えば購入タイミングや資金計画のこと、立地や間取りなど、もめるポイントはいくつもあるようです。物件を購入した人はどんなことで夫婦の意見が食い違ったのか、もめた場合どうやって解決したかを聞いてみました。
検討当初に購入を希望していたのは「新築注文住宅」がトップ

まず、住宅購入を検討し始めたとき、どんなマイホームを希望していたかを聞いてみました。
全国400名の購入者に聞いたところ、トップは「新築注文住宅(※建替えを除く)」(44.8%)。続いて「新築分譲住宅」(32.0%)で、一戸建てが人気なのが分かります。次いで新築マンション(30.3%)と続きます。

新築注文住宅、新築分譲住宅、新築マンションが3トップで新築が人気(出典/SUUMOジャーナル編集部)

新築注文住宅、新築分譲住宅、新築マンションが3トップで新築が人気(出典/SUUMOジャーナル編集部)

実際に購入した住宅は「新築注文住宅(※建替えを除く)」(34.8%)が1位ですが、2位は「新築マンション」(21.0%)で、新築分譲住宅(20.5%)をわずかに上回りました。つまり、一戸建てを購入しようと思っていたけれど、最終的にマンションに決めた人が意外に多いことが分かります。「住みたいエリアでは注文住宅だと予算オーバーのため、新築マンションに切り替えた」というのがその理由のようです。

実際に購入した住宅は新築注文住宅、新築マンション、新築分譲住宅の3種別で4分の3を占めた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

実際に購入した住宅は新築注文住宅、新築マンション、新築分譲住宅の3種別で4分の3を占めた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

夫婦間でもめるポイントは、「購入のタイミング」「間取りや部屋数」「購入予算」など

次に、物件購入の際に夫婦間でもめたかどうか聞いてみました。
「もめていない」という人が約半数いたものの、「もめた」という人の中では、「購入するかどうか」(13.0%)や「購入のタイミング」(12.5%)、「間取りや部屋数」(13.0%)「購入予算」(12.5%)などがもめるポイントとして挙がりました。

購入のタイミングから日当たり、方角まで、もめるポイントは多数(出典/SUUMOジャーナル編集部)

購入のタイミングから日当たり、方角まで、もめるポイントは多数(出典/SUUMOジャーナル編集部)

具体的には以下のとおり。
【購入するかどうか】
・購入しなくてもよいと私は思っていたが、夫がどんどん話を進めてしまった(41歳・新築マンション)
・ここしかないという絶妙なタイミングと場所に土地を見つけたのに、なかなか購入する決断をしなかったため(47歳・新築注文住宅)
【購入のタイミング】
・今購入して大丈夫か、まだ自分たちには贅沢なものなのではないか(43歳・新築マンション)
・新築希望でもう少し待ちたい私と、中古でもいい物件なので買いたい夫でもめた(43歳・中古一戸建て)
【間取りや部屋数】
・リビングを広くとって、仕切りのないだだっ広い空間にしたが、収納や家事動線をもっと優先したかった(41歳・新築注文住宅)
・間取りについて、何でもかんでも広くしようとする夫と、使い勝手を重視する私とでかなりもめた(40歳・新築注文住宅)
【購入予算】
・私はある程度予算を抑えたかったが、夫は希望の設備を入れたがった(43歳・新築注文住宅)
・自分は短期的なローンを計画したかったが、配偶者は逆の提案だった(40歳・新築注文住宅)
【その他】
・私は戸建てが良かったが、夫はマンションを希望していてもめた(42歳・新築マンション)
・私は高層階が良かったが、高所が苦手な夫は3階以下にこだわった(42歳・中古マンション)
・トイレを1つにするか2つにするか(34歳・新築注文住宅)
・購入価格をもっと高くして、建具の質などをもっと高級な物にしたいと夫は主張、私は建具より立地の良さを重視(39歳・新築マンション)

夫婦間のもめごと解決法は「とにかく話し合う」「事前に譲れないポイントを明確化」など

さまざまなもめごとはあるものの、それらを解決しないと購入には至りません。もめた人はどのようにして問題を解決したのでしょうか。

経験した人のコメントで多かったのは、「とにかく2人で話し合うこと」。
これは、「それぞれのメリットとデメリット、緩和策を話して決めた(29歳)」「夫の意見を取り入れる設備と、私の意見を取り入れて設備変更したものと半分ずつくらいにした(43歳)」「双方で少しずつ妥協した(42歳)」など、お互いに譲り合い、それぞれの希望を尊重する夫婦もいれば、「自分が納得し、合わせた形になった(40歳)」「話し合いをして自分が折れる形でまとまった(43歳)」など、どちらかが妥協した夫婦もいました。

また、「スーモカウンターに一緒に行き、第三者の話を聞かせてその気にさせた(30歳)」「知り合いのライフプランナーに相談して解決した(48歳)」など、第三者の力を借りる方法も。

ほかには「夫に毎月のお金の出入りを細かに書き出したものを見せて、長めの返済設定で毎月の返済額を少なくするのを納得させた(44歳)」など、「事前に譲れないポイントを明確化」した人も。ポイントを「見える化」することで、「もめる」までいかずに解決できるようです。

もめないためには、やはり「話し合い」がポイント

もめごとを解決することも重要ですが、もめることなくスムーズに物件購入まで至ることが理想。そのためのアドバイスとしては、やはり「話し合い」が重要だとするコメントが多数ありました。また、「事前に譲れないポイントを明確化」「第三者に頼る」ことも挙がり、もめ事の解決法と同様のアドバイスが寄せられました。

・徹底的に話し合い、購入前にはファイナンシャルプランナーに介入してもらうこと(43歳)
・譲れないところと妥協点をしっかり話し合うしかない(47歳)
・妥協点を見つける。納得いかないなら納得いくまで話し合ってから次に進む(34歳)
・ある程度の勢いも必要(29歳)
・むしろもめたほうが良い。なにも意見を言わずに後から後悔するより良い(34歳)

今回の調査では、希望物件と実際に購入した物件に差があるケースもあることが分かりました。
また、物件購入の際に夫婦間でもめることはよくあることで、もめるポイントは「物件を購入するかどうか」だったり、「購入タイミング」や「間取りや部屋数」「購入予算」などが多いようです。
実際にもめた経験がある人は、「話し合い」で譲り合う、妥協をする、事前に譲れないポイントを明確化するなどで解決した模様。大きな買い物ですからもめることもありますが、解決法を知っておくことで、もめたとしても慌てず対処できるようになるといいですね。

●調査概要
・[マイホーム購入調査]より
・調査期間:2018年3月27日~29日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:10年以内に購入した持ち家にお住まいの20歳~49歳の既婚共働き女性
・有効回答数:400名(夫婦のみ世帯200名・子どもありの世帯200名)

「資産価値が落ちない家ってどんな家?」 住まいのホンネQ&A(4)

“人生最大の買い物”とも言われる住宅。せっかく買うなら、資産価値が落ちない物件を購入し、その価値を維持したい、と誰もが思うのではないでしょうか。
住宅に関するさまざまな疑問について、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく本連載。第4回の質問は「資産価値が落ちない家ってどんな家?」です。物件選びからその価値を維持する秘訣までをお答えいただきました。2018年4月に始まったホームインスペクションの意義や、ホームインスペクターの選び方についても詳しく解説します。

資産価値が落ちない家その1:なんといっても駅近!

まずは、物件の条件からお話ししましょう。昨今顕著なのは「駅距離格差」です。購入であれ賃貸であれ、求められる「駅からの距離」がどんどん短くなっているのです。

REINS(東日本不動産流通機構)のデータによれば、東京都心7区(中央区・千代田区・港区・新宿区・渋谷区・品川区・目黒区)において2013年は、駅から1分離れるごとに、中古マンション成約単価が平米あたり8000円程度の下落を示していました。しかし2017年には、1万6000円ずつ下落しています。

この傾向は都市郊外のベッドタウンでも同様で、千葉県柏市の場合は柏駅から1分離れると、2008年の中古マンションの成約単価は平米8000円ずつの下落でしたが、2017年では1分ごとに平米1万6000円以上の下落を示しています。

都心でも郊外でも駅前や駅近はめっぽう強く、駅から離れるほどどんどん弱くなっているのです。このような現象が起きている最も大きな理由は言うまでもなく「住宅余り」が影響しているものと思われます。

世帯数に対して住宅数は圧倒的に上回っており、18年の現時点ではすでに1000万戸を超える空き家が存在しているといわれていますが、要はよりどりみどりの「買い手・借り手市場」なわけです。また、若年層が自動車を保有しなくなったこととも関係があるでしょうし、部屋の広さや間取り、日当たりなどを多少我慢してでも、通勤や買い物などの生活利便性を優先するといった嗜好もうかがい知れます。

資産価値が落ちない家その2:選べるなら“立地適正化区域内”を

またこれから本格的な人口減少、少子化・高齢化社会を迎えるにあたり、全国1740あまりの自治体のうち384自治体において、街を縮める「コンパクト&ネットワーク政策」が進められています。これはかんたんに言えば、人口密度を一定程度に維持することで、行政効率の悪化を防ごう、市民の生活利便性を維持しようというものです。埼玉県毛呂山町はこの「立地適正化区域内」については、地価上昇10%を目指すとしています。言いかえると、区域外は地価について約束もできないということです。

岐阜県岐阜市は現市街地のうち、立地適正化区域を55%程度にする方針です。この政策は5年ごとに見直しが行われる予定ですが、その中で徐々に規制を厳しくしながら街のコンパクト化はじわりじわりと進み、やがて10年、20年と経過するうちに、人が集まる区域とそうでない区域が徐々に色分けされていく可能性が高いでしょう。

そうなると不動産の資産価値にも大きな影響が出そうです。決定的なのは、金融機関の評価。金融機関が、立地適正化区域内であれば一定の担保評価ができるが、区域外は評価できない、といったことになれば、両者の資産性に差が出るのは必至です。自分が選ぶ自治体において、こうした計画があるかどうか、あればその中身はどういったものか、調べてみてください。

宅地建物取引業法が改正され、18年4月から「インスペクション説明義務化」がスタートしました。これは簡単に言えば「媒介契約」「重要事項説明」「売買契約」といった不動産取引の節目に、建物のコンディションを見極めるインスペクションについて説明を行うということです。2025年までに中古住宅市場・リフォーム市場を2倍(15年比)にする、といった国の方針の一環で、建物の劣化具合などを見極めるホームインスペクション(住宅診断)を普及させようというもの。

資産価値が落ちない家その3:ホームインスペクションで良コンディションの物件を

これまで日本の住宅は、一戸建ては25年、マンションなら30年程度で価値ゼロになるとされてきましたが、こうした慣行を改め、コンディションの良い建物は積極的に評価、中古住宅でも一定の品質を保っているものは積極的に評価しようという試みです。

住宅購入時には、新築でも中古でも、専門家に依頼してホームインスペクション(住宅診断)を入れ、建物のコンディションを見極める。住み始めたら適度な点検とメンテナンスを行い建物価値を維持するといったことが、今後非常に重要になってきます。

なおホームインスペクション(住宅診断)を行うホームインスペクター(住宅診断士)を探す際にはまず「実績」を確認してください。候補をいくつか選んだら、まずは率直にこれまでのインスペクション実績を尋ねましょう。どの構造に詳しいのかも必ず確認を。建物の工法にはさまざまな種別がありますが、木造に詳しいホームインスペクターが、RC(鉄筋コンクリート)造に詳しいとは限らないためです。自分がホームインスペクションを依頼する建物の構造に詳しいかどうかを必ず確認するようにしてください。

またその際には「専門用語を多用せず、分かりやすく説明してくれるか」に注目を。建築の専門用語を極力使わず、なるべく平易な言葉で、分かりやすく判断材料を提供してくれるかどうかというのは重要なポイントです。

ホームインスペクターは客観性・第三者性が大切

そして最も重要なのは、ホームインスペクターの「客観性・第三者性」。現時点ですら早速、業界では大きく問題となる動きが起きています。それは「ホームインスペクターと不動産業者との癒着」です。この癒着は、売主や買主が、不動産業者からホームインスペクターを紹介されたとき、つまり、買主や売主が自らインスペクターを選べない場合に起こります。なぜなら、不動産業者とインスペクターは、仕事を発注する側ともらう側の関係になってしまっているからです。

不動産業者は常に「契約したい」といったモチベーションをもっているもの。しかし建物の不具合など不都合な真実が出てきたとき、不動産業者がそうした不都合を隠そうと、インスペクターに問題写真や文言の削除を依頼するケースが報告されています。このとき、インスペクターがこの依頼を断ったら、この不動産業者からはもう仕事が来ることはありません。

ホームインスペクションを手掛けるさくら事務所にはしばしばこうした依頼があり、すべて断っていますが、次から依頼がくることはありません。ということは他のインスペクターが、その業者のインスペクションを引き受けて業者の主張を受け入れている可能性があるのです。

米国ではかつて、ホームインスペクターと不動産業者との癒着が問題となり、州によっては「不動産業者によるインスペクターの紹介は禁止」です。オーストラリアでもやはり「売主のインスペクションは虚偽が多い」と問題になり、買主がインスペクションする仕組みが創設されてきました。英国でも同様に買い手がホームインスペクションを依頼しています。インスペクションはあくまでも、買い手が選んだインスペクターが行うのが望ましいのです。

また「無料インスペクション」にも注意しましょう。なぜ無料なのか、その理由を考えるとよいでしょう。そこにはほぼ100%の確率でリフォームや耐震工事のプレゼンが付いているはずです。
「格安ホームインスペクション」にも留意してください。あまりに安すぎるホームインスペクションは、やはりリフォームなどの仕事が目的か、能力に自信がないかのどちらかという可能性があります。ホームインスペクション単体で営業できるだけの妥当な料金設定であることが、その健全さを判断する指標になると言っていいでしょう。相場としては、目視による診断で5万円~7万円程度。床下や天井裏にまで進入する場合は11~12万円程度です。

ホームインスペクションで大事なのは、あくまで第三者を立て、買主あるいは売主が自ら選んだインスペクターに依頼をすること。この原則を忘れないようにしてください。

最後に「”瑕疵(かし)保険”と”ホームインスペクション”は別物」ということを知っておきましょう。建物の保証をしてくれる「瑕疵(かし)保険」は、ホームインスペクションではありません。これは文字通り、念の為の建物保証をするもので、建物の劣化具合について判断材料を提供したり、直し方などについてアドバイスをくれたりするものではありません。くれぐれも、混同してしまわないようにしましょう。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「かぼちゃの馬車」が経営破綻!国が改定したサブリース契約の標準契約書の中身は?

世間を騒がせた、シェアハウス「かぼちゃの馬車」トラブル。ついに運営会社の民事再生法申請に至った。シェアハウス運営事業のカギを握るのは「サブリース」の賃貸借契約にある。これまでもサブリースには問題点が指摘されてきたが、国土交通省が「賃貸借標準契約書」を改定した。改定ポイントは何か、見ていこう。【今週の住活トピック】
「賃貸住宅標準契約書」等を改定/国土交通省不動産のサブリースとは転貸借のこと。手軽な半面リスクもある

女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズの経営破綻。この事業の仕組みには、「サブリース」という賃貸借契約が利用されている。

サブリースとは、不動産会社が入居者に転貸することを目的に、物件オーナーから建物を借り上げる賃貸借契約(一般的に「サブリース原契約」と呼ばれる)のこと。つまり、物件オーナーが、実質的には不動産会社に入居者の募集(仲介)と管理を一括して任せ、賃料を得る仕組みとなっている。

不動産経営では「空室リスク」が大きな課題となるが、サブリースでは空室期間も不動産会社から安定した賃料を得ることができる。つまり、専門的な知識がなくても、手間をかけずに不動産経営ができるというメリットがある。

一方で、不動産会社との契約期間中に、契約賃料の減額や中途解約を求められる可能性があったり、不動産会社が倒産したりする危険性もある。もちろん契約賃料は、不動産会社が入居者の募集や管理にかかるコストや空室率を見込んで設定するので、オーナーが自ら不動産経営するよりも低くなる。

「かぼちゃの馬車」は、サブリースでなぜトラブルになった?

とはいえ、サブリースが、常に危険性が高いというわけではない。健全にサブリース事業を行っている不動産会社も、数多く存在する。

今回のトラブルの経緯を見ていこう。
2012年に創業したスマートデイズは、首都圏を中心に女性専用のシェアハウスを運営し、事業を急拡大させた。しかし、2017年10月ころからシェアハウスを所有するオーナーに賃料の大幅な減額を通告しはじめ、2018年1月ごろからはオーナーに保証した賃借料の支払いが停止するようになった。

すると、数多くのオーナーがローンを返済できなくなり、各所への相談が急増して、トラブルが大きく報じられるようになった。ついに運営会社は、4月9日に民事再生法の適用を東京地裁に申請し受理されたと発表するに至った。

トラブルの原因は、空室リスクへの対応が不十分なのに高い賃料を保証するなど、健全なサブリース事業を行っていなかったことにある。ビジネスモデルも、資金力が豊富とは言えない会社員などに高額のローンを借りさせて、シェアハウスを高い価格で取得させ、その差額を賃料の支払いに充てるといったゆがんだ構造だった。加えて、金融機関のローン審査についても問題が指摘されている。

国土交通省が「賃貸住宅標準契約書」を改定した理由は?その内容は?

国土交通省が「賃貸住宅標準契約書」を改定した理由は2つある。

1つ目の理由は、2020年4月に施行予定の「民法改正」だ。
賃貸借契約では、以下のような点が改正される。
・退去時の敷金返還や原状回復に関して明文化する
・連帯保証人を保護するために、あらかじめ保証する限度額の合意を必要とする

限度額を記載した連帯保証にはなじみがないこと、連帯保証人を依頼しづらいために保証会社による保証を希望する人が増えていることなども背景にあり、新たに「賃貸住宅標準契約書(家賃債務保証業者型)」を作成し、「賃貸住宅標準契約書(連帯保証人型)」に極度額の記載欄を設けるなどの改定が行われた。

もう1つの理由が、サブリースに関するトラブル対応だ。
これは以前から、「長期間にわたり一括借り上げて家賃保証をするので、安定した賃料が手に入る」と賃貸アパートを建てることを勧誘されて新築したものの、一定期間経過後に賃料相場の下落を理由に賃料の減額を求められ、これに応じないと中途解約されるといったトラブルが生じていたからだ。

特に、2015年からの相続税増税の影響で、節税対策として賃貸アパートの建設に拍車がかかり、トラブルは増加していた。2018年3月27日には、国土交通省が消費者庁と連携し、「サブリース契約に関するトラブル」への注意を呼び掛けたほどだ。

では、具体的に「サブリース住宅原賃貸借標準契約書」で改定された点を見ていこう。
次に示したように、「賃料の改定時期の明確化」や「サブリース業者から契約を解約できない期間の設定」が追加されている。

マーカー部分が追加項目※マーキングは筆者による(出典/国土交通省「サブリース住宅原賃貸借標準契約書(平成30年3月版)」より抜粋転載)

マーカー部分が追加項目※マーキングは筆者による(出典/国土交通省「サブリース住宅原賃貸借標準契約書(平成30年3月版)」より抜粋転載)

つまり、運営会社が勝手に減額を通告したり、短期間で中途解約をしたりできない契約内容になる。ただし、※以降にあるように、周辺の賃貸市場の変化や建物の不具合などに応じて、協議のうえで賃料を改定することは可能だ。

ほかにも、転貸の条件項目への「民泊の可否に関する事項」を追加したり、「個人情報保護法等の遵守」を盛り込んだりといった、最近の変化に応じた改定も行っている。

賃貸借契約書の国土交通省のひな型が変わったからといって、不動産経営を安易に考えるのは禁物だ。不動産会社任せにすることなく、提示された賃料が妥当なものなのか、周辺の賃貸市場に需要はあるのかといった基本的なことを、自分自身でも見極める必要があるだろう。

「住宅ローン・教育費・老後資金」家計の3大プロジェクト、どう成功させる? 賢い住まいのマネー術(8)

子育て中の家庭であれば、「住宅ローン・教育費・老後資金」といった家計における3大プロジェクトを同時に走らせなければならないことがあります。

住宅ローンを返済しながら、子どもの教育費や老後資金などの貯金をすることは可能なのでしょうか? その場合、何を優先してどういう順番でお金を準備すれば良いのでしょうか。基本的な考え方をお伝えしたいと思います。

【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。基本は住宅ローン返済を優先しよう

             
まず、教育費や老後資金といった「貯金」よりも、優先すべきは住宅ローンの返済です。ただしその前提として、住宅ローンを抱えている人でも、最低でも200万円程度の預貯金は確保しておきましょう。これは教育費・老後資金とは別に、突然の病気や失業といった人生の不測の事態に備えるためです。

最低限の貯金をつくった後は、さらなる貯金増額よりも、住宅ローンの返済を優先しましょう。返済を進めることで利息の負担を減らすことができるからです。ただし例外として、住宅ローン控除を受けている期間は、ゆっくり返済することも選択肢の一つです。現在は住宅ローン金利が非常に低いために、無理をしてまで返済を進める必要はありません。

住宅ローン控除のキホンをおさらい

住宅ローン控除の仕組みについても、簡単におさらいしておきましょう。

住宅ローン控除とは、購入1年目から10年目までの年末のローン残高の1%が所得税や住民税から控除され、確定申告で戻ってくる制度です(控除限度額あり)。繰り上げ返済を進めると、年末時点のローン残高を減らすことになります。そのため、この期間はあえて繰り上げ返済をせずに貯金をして、住宅ローンの控除期間終了後に、積極的に繰り上げ返済をする方法もある、ということです。

ただし、繰り上げ返済が有利になるか否かについてはケースバイケース。詳しくは税理士などの専門家に相談をすることをお勧めします。

住宅ローンの次は教育費 大学費用はこう貯める!

                                               
住宅ローンの次に優先したいのが、教育費です。月々の住宅ローン返済に加えて、教育費と老後資金の準備を行っている人はどのようにそれぞれを進めれば良いのでしょうか。

教育費のうち、もっとも費用がかかるのは大学の学費。
大学の入学、在学費用に関しては、日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査結果」(平成29年度)によると、国公立大学の場合で合計約503万円、私立大学文系の場合で約738万円、私立大学理系の場合で、平均約807万円がかかっていることが分かります(いずれも端数切り捨て)。

こうした大学資金に関しては、児童手当を全額貯めるのと同時に、子どもが生まれたら子ども1人につき月1万円ずつ貯めましょう。

児童手当を使わずに頑張って全部貯めると、子ども1人当たり約200万円(3歳未満=月額1万5000円、3歳以上小学校修了前=第1子・第2子は月額1万円、第3子以降は月額1万5000円、中学生=月額1万円 所得制限あり)になります。子ども1人当たり月1万円を貯めれば18年間で216万円貯まります。児童手当と合わせれば子ども1人当たり400万円以上になるので大学資金の備えになります。

退職金は老後資金に

住宅ローンを返しながらでも、児童手当と月々の1万円貯金(子ども2人なら月2万円)で大学進学費用はなんとかできるかもしれません。しかし、老後資金はいつ貯めれば良いのでしょうか。出産・育児スタート時の夫と妻の年齢によっては、子どもの独立が退職時期に差し掛かる場合もあります。

まず退職金があれば、それを老後の費用に充当できるとよいでしょう。

総務省の家計調査(2017年)によると、年金世帯の月間の平均支出は、約26万円(年間312万円程度)です。25年間で7800万円程度が必要という計算になります。

一方、年金世帯の平均収入は月額約21万円(年間約252万円)、25年間で約6300万円です。必要総額に対して、年金などの収入だけだと、約1500万円の赤字になってしまいますね。娯楽費や急病時の備えなど、予備費として1000万円程度は欲しいと考えると、夫婦で約2500万円程度の老後資金があると安心です。退職金を確認し、足りない部分は確定拠出年金などを活用しましょう。

そのためにも、住宅ローンは遅くとも退職前には完済をしましょう。教育費も、退職金をあてにせずとも貯め終わっていることが望ましいですね。専業主婦の妻であれば、子どもに手がかからなくなった後は働きに出て、その収入の何割かを老後資金のための貯金に回したいところです。

また、最近は就業規則も以前に比べると緩やかになってきました。社内規定を確認する必要はありますが、会社員として就業されている方がサイドビジネスを検討し、そのぶんを貯蓄に回すのも選択肢の一つです。

仮想通貨や株式…不確実な投資はおすすめできない

最後に、「投資で増やす」という考え方もありますが、不確実な投資はあまりお勧めできません。株式や仮想通貨などへの投資は、大きく儲かる可能性もありますが、多額の損失が出る可能性もあります。投資をする余裕があるならば、まず住宅ローンの繰り上げ返済優先で、確実に利息を減らすところから取り組んでいきましょう。
            
同時に3つのプロジェクトを達成させるのは至難の技ですが、緊急度に応じて優先順位を決めて、一つずつ攻略をしていくしかありません。特に子育て(進学)や住宅購入の時期が遅くなったカップルは、退職前後にローンの完済や子どもの大学資金問題が出てきます。家計の管理には、くれぐれも要注意です。

失敗すると、人生を左右しかねないお金の問題。迷ったときはファイナンシャルプランナーなどのプロに相談をするのも一つの手段ですので、ぜひ頭に入れておいてくださいね。    

花輪陽子phpto2花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

        

変動金利で借り過ぎた!?住宅ローン“低金利時代”の注意点 賢い住まいのマネー術(7)

住宅ローンの変動金利が0.5%を切る時代。目先の金利の低さに飛びついて契約しがちですが、ちょっと待って。変動金利はその名の通り、市場金利の変化によって変動するもの。半年ごとに金利の見直しがあるのが一般的なのです。つまり、いまはたまたま低金利でも、それをずっと保証するものではありません。変動金利の落とし穴にも注意して、賢く住宅ローンを選べるようになりましょう。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。住宅ローンの基本の3タイプの特徴を押さえよう!

では、いったいどうやって住宅ローンの金利タイプを選んだらよいのでしょうか。

まず、住宅ローンの基本の3種類の特徴を押さえましょう。それぞれメリット・デメリットがあります。金利落下局面では変動金利型が有利になりますが、これから金利が上昇するかもしれないというときには固定金利型のほうが有利になります。

【変動金利型】
特徴:市場金利の変化によって住宅ローン金利も変動する。半年ごとに金利の見直しがあるのが一般的
メリット:固定金利型より金利が低い
デメリット:住宅ローン返済額の見直しは通常5年ごとのため、金利上昇局面では金利の変化に気付きにくい

【全期間固定金利型】
特徴:借りている間ずっと金利が一定
メリット:あらかじめ金利が決まっているために将来の資金繰りを見通しやすい。金利上昇局面では金利上昇リスクを防ぐ効果がある
デメリット:金利は変動金利型よりやや高め

【固定金利選択型】
特徴:一定期間(3年、5年、7年、10年、15年など)は固定金利で、固定期間終了後は変動金利にするか固定金利にするか選択できるのが一般的
メリット:住宅ローンを借り入れた当初の残債が多いときに、一定期間金利を固定にすることができる
デメリット: 3年や5年など期間が短い固定金利選択型を選択する場合、残債が思うように減らないこともある

変動で借りて、金利が上がってきたら固定に切り替えればいいのではという意見もよく聞きます。ですが、景気動向が金利に反映されるのは固定金利のほうが早いのです。金利が上がってきたのでは?と思ってから切り替えても、すでに固定金利が上がっている可能性もあるので注意が必要です。金利が低い時期に、最初から10年以上の長期の固定金利選択型にしておけば安心です。

変動金利の場合、金利上昇リスクを考えて

2007年末から2009年ごろにアメリカでサブプライム住宅ローン危機が起こりました。この危機は金利が上昇し、住宅価格が下落を始めたことが発端でした。金利が上昇した結果、負担が大きくなり、返済が滞る家庭が増えました。

住宅価格が下落した際に、多額のローンが残っているとローンの借り換えも厳しくなります。サブプライム住宅ローン危機は今や一昔前のことなので、知らない人や忘れてしまった人もいるかもしれませんが、他人事ではありません。歴史からしっかりと学ぶようにしたいですね。

全期間固定金利型に抵抗がある場合は、10年固定金利などにするのも一つの手です。借入額の大きい10年間、固定金利にしておけば仮に市場金利が上がってしまった場合でもその期間は返済額が変わらないからです。10年の間に一生懸命返して住宅ローンを小さくしてしまえば、借り換えのときにたとえ金利が上がったとしてもそれほど怖くはなくなります。

低金利ゆえの“借り過ぎ”に要注意!

一番よくないのは低金利だからと、返済できるギリギリまで借り過ぎることです。住宅ローンの返済額は手取り月収の30%程度までに留めましょう。そうしなければ、教育費や老後資金を貯めながら他の支出のやりくりをするのが難しくなるからです。一定額の貯金があり、いざというときには繰上げ返済ができる人を除いては全額を変動金利で借りないことをお勧めします。なぜなら、将来的に金利が上昇したら、返済額が増える可能性もあるからです。変動金利だけではなく、3年などの短期間の固定金利選択型も同じことが言えます。

現在は金利が低いので住宅ローンのハードルが低いように錯覚してしまい、大きな額を借りがちです。しかし、金利が上がった場合、返済が厳しくなるので借り過ぎない。リスクヘッジのためには、変動金利型と固定金利選択型を組み合わせる技も身に付けることが大切です。住宅ローンを選ぶ際には、目先の金利の低さだけではなく、「低い金利が何年続くのか」が大切。長期的な視点をもちましょう。

花輪陽子phpto2花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

タワーマンション、 あえて“低層階”という選択肢

タワーマンションのウリは、立地のよさ、そして何と言っても眺望。高層階から見下ろす景色は、やはりタワーマンションならではですよね。しかし、あえてタワーマンションの低層階を選択する人も。低層階ならではのメリットや住み心地を、実際に住んでいる人々と、タワーマンションに詳しい専門家に聞いてみました。
低層階に住む住人にインタビュー! リアルな住み心地ってどう?

それでは、実際にタワーマンションの低層階に住む人は、その住み心地についてどのように感じているのでしょうか?

Iさん(30代後半、女性)は、3年前に結婚して現在40階建てのタワーマンションの9階に居住中です。バルコニーからは海とレインボーブリッジが望める環境に暮らしています。実はIさん、結婚前にも同エリア内の別のタワーマンションの28階に住んでいたとか。

今回話をしてくれたIさん。0歳の子をもつママで現在育休中、港区ベイエリアのタワーマンションに家族3人で暮らしている(写真撮影/スパルタデザイン)

今回話をしてくれたIさん。0歳の子をもつママで現在育休中、港区ベイエリアのタワーマンションに家族3人で暮らしている(写真撮影/スパルタデザイン)

「確かに28階のほうが眺望はよかったのですが、窓が開けられないので開放感を感じにくいというデメリットもありました。マンションによるかもしれませんが、今の低層階のほうが、水面が近くてリラックスできて、開放感という意味では満足しています。今のマンションは目立たない程度なら洗濯物を干してもOKですし、レインボーブリッジを眺めながらバルコニーでランチやお茶をすることもできます。夜景を見ながら夫とお酒を飲んで語り合う時間は格別ですよ」(Iさん)

Iさん宅、9階バルコニーからの眺望(写真提供/Iさん)

Iさん宅、9階バルコニーからの眺望(写真提供/Iさん)

高層階と低層階の両方に住んでみて、低層階のいま、デメリットを感じることはほとんどないとIさんは続けます。高層階に住んでいたときに、反対に大変だったのはやはり災害時。

「東日本大震災のとき、ちょうど28階に住んでいました。ハイヒールで階段を上り下りしなければならなかったことが無茶苦茶きつかったんです。独身のあのときでもかなり大変だったのですが、子どもが生まれた今となっては、子どもを抱えて28階を階段で上ることは考えられないですね」

タワーマンション低層階には、こんなメリットが!

「眺望や高層階に住むというステータスにこだわりがなければ、タワーマンションの低層階はかなりお勧めできる物件だと思います」と話すのは住宅アドバイザーの高江啓幸さん。

住宅アドバイザー・高江啓幸さん(写真撮影:スパルタデザイン)

住宅アドバイザー・高江啓幸さん(写真撮影:スパルタデザイン)

実際にタワーマンションを購入予定の人が住みたい階の一番人気は、10~14階というデータもあります。

参考:憧れのタワーマンション!購入検討者に聞いた「住みたい階」は意外な結果に!? タワマン調査[1]

「『低層階』といっているものの、実際は10~14階も普通のマンションなら十分に高層階です。さえぎる建物が少ないため、タワーマンションに期待する眺めの良さも十分に満喫できるでしょう」(高江さん、以下同)

眺望面以外にも、タワーマンションの低層階に住むメリットがある、と高江さんは続けます。

「特に東日本大震災以降に建てられたタワーマンションは、最新の免震技術の導入やセキュリティ、共用施設の充実など、資産価値が高いと感じます。ゲストルームやスポーツジム、プールといった共用施設は居住者なら誰でも利用できます。低層階の区分所有者は高層階よりも割安に購入できるのが一般的ですが、タワーマンションライフは十分に堪能できるでしょう。
 
また、通常のマンションよりも維持費が高いと思われがちな施設管理費に関しては、世帯数が多いので、1戸当たりの金額を見ると、それほど高くないケースが多いようです」

低層階に住むのが合っている人の特徴とは?

それでは、タワーマンションの低層階に住むのが合っている人というのは、どんな人なのでしょうか?

「多くの人が一番心配しているのは、きっと災害時のことだと思います。地震などの災害によりエレベーターが止まったときのことを考えると、子どもがいるファミリーや高齢者の方が、あえて低層階を選ぶというのは大いに理にかなっていると思います」

写真/PIXTA

写真/PIXTA

また、資産としての効率を重視する人にも、低層階はおすすめだと高江さんは言います。

「タワーマンションの立地の多くは駅前で利便性も高く、ほかの一般的な物件と比べて知名度もあるため、たとえ低層階であっても、購入時の金額と比較して資産価値が落ちにくい傾向があります。急な転勤や生活環境の変化から早く売りに出したい場合に、売却しやすいのも大きなメリットになるでしょう。買いたい人が多いということは売りやすいということでもありますから」

部屋へのアクセスが楽で、エレベーター待ちが少なく、災害時も避難しやすい……。タワーマンションの低層階に住むことのメリットは、思った以上にたくさんありそうです。

限られた予算で自分の住みたいマンションを見つけることはとても難しいことです。マンションを購入する際には、家族構成やライフスタイルなどによって、求める条件は変わります。住む階数もそうですが、住環境や利便性、安全性などを考慮しながら、心地良く過ごすために優先したいポイントを考えてみましょう。

●取材協力
・住宅アドバイザー 高江啓幸さん

タワマン上層階で被災したらどうするの? 気になる災害対策を聞いてみた 

住宅にブランドやステータスを求めるとき、有力な選択肢のひとつとなるのがタワーマンションだろう。人気を集める最大の理由は眺望の良さだが、高層建築ならではのその魅力は災害に遭遇したときには不安の種ともなりうるもの。タワーマンションの災害対策はどうなっているのか、タワーマンションが多数立っているエリアで地震災害を担当している東京都中央区・総務部防災課の早川紀行(はやかわ・のりゆき)課長に聞いてみた。
タワーマンションで被災するとどういうことが起きるか

そもそもタワーマンションは、比較的大災害に強いといわれている。1981年に適応された新耐震基準の建物は震度6強から7程度の地震でも倒壊しないような構造基準に設定されているが、タワーマンションでは免震や制震構造などの最新の建築技術を用いた建物も多く、倒壊などの心配はほとんどないといっていいだろう。

高層建築ならではの被害は、電気やガス、水道など生活する上で欠かせないライフラインのひとつ、エレベーターだ。

「ほとんどのエレベーターは、震度4以上の地震が発生すると緊急停止します。エレベーターが復旧するまでの移動手段は、原則徒歩。高層階になればなるほど上下の移動が困難になり、備蓄品が不十分だと生活を継続することが難しくなります」(早川課長、以下同)

自宅にいて被災し部屋自体が無事であっても、停電やエレベーターの運転再開のための復旧作業には時間を要することから、建物の外に出ることすら大変になる。救援物資の配布を受けても、水など重いものは部屋へ持って帰るだけでも低層階住宅に比べてはるかに労力が必要になってしまう。

また、地震の揺れの力を逃す免震構造により、上層階ほど大きく長く揺れる可能性もある。高層建築物と共振しやすい長周期地震動では「震源地が遠方の場合でも、影響を受ける場合もあります」

もしも建物や設備に修繕が必要になった場合、居住者数が多いタワーマンションは、建て替えなどの合意を住民から得るのに時間がかかるであろうことも課題だそうだ。

もしものとき、マンションや自治体はどう対応するのか

被災時には、近隣住民同士の協力は欠かせないものだ。玄関から出ても建物内であり、住民の様子を外からうかがうことのできないタワーマンションの災害時マニュアルは、住民同士での安否確認の手順が記載されている。

「災害発生直後には、各住戸の安全確認をはじめ各フロア単位での安否確認・救助活動を行い、各階の情報を対策本部に集約するという流れになっています」。マニュアルには、被災生活を送る際にマンションが備蓄している防災用品の一覧表や食料品の配布方法などのルールも記載されている。

災害時マニュアルの作成は居住者や管理組合が行うが、中央区では防災アドバイザーがアドバイスすることも(※写真はイメージです)(画像提供/PIXTA)

災害時マニュアルの作成は居住者や管理組合が行うが、中央区では防災アドバイザーがアドバイスすることも(※写真はイメージです)(画像提供/PIXTA)

マニュアルの作成は居住者や管理組合が主体となって実施されているが、中央区では、防災アドバイザーとともに高層住宅に赴き、資料の用意や必要なアドバイスなどをする支援も行っている。「防災アドバイザーは、防災訓練などの相談や助言も行っています」

また中央区では、防災対策の推進と地域とのつながりを一層高めるため、防災組織の設置や震災時活動マニュアル作成などの一定の条件を満たすマンションを「中央区防災対策優良マンション」と認定。優良マンションに認定されると、防災資器材などの助成を受けることができるという。

タワーマンションに住む個人や家庭で備えておくべきことは

いざというときの危険や不便さを少しでも軽減するべく、高層住宅に住む家庭や個人が普段から備えておくべきことも教えてもらった。

長周期地震動では上層階になるほどマンションは大きく揺れるため、室内の家具が転倒したり棚から食器が飛び出したりする危険性は高くなる。しかしながら、地震の種類によっては階層にかかわらず、大きな揺れが起こる可能性があるため、全ての家庭において家具の固定は重要だ。

備蓄の目安は住居のタイプにかかわらず、最低3日分の水・食料・簡易トイレを家族の人数分、が基本であり、内閣府では1週間分を推奨している。だが、前述のとおり、タワーマンションの高層階の場合、外に出ることが難しい場合もある。

「高層階になるほどエレベーターが停止中の移動が困難となるため、備蓄数を増やす必要があります。日常生活で使う食料や水を多めに用意して消費した分を補充するローリングストック法なら、日ごろから無理なく行うことができます」

中央区のホームページでは、缶詰や乾物など家庭にある食材を火を使わずに調理するレシピを掲載した「災害時簡単料理レシピ」も掲載しているので、普段からチェックしておくのも良いだろう。

被災時を想定して火を使わずに調理する方法も覚えておきたいところ(画像提供/PIXTA)

被災時を想定して火を使わずに調理する方法も覚えておきたいところ(画像提供/PIXTA)

また、災害時にはエレベーターが利用できなくなることの周知の徹底も大切だ。「エレベーターが緊急停止した際には最寄り階で停止するため、速やかに降りることの周知も混乱を避けるために重要です。高齢者やけが人などを下の階に運ぶための非常用階段避難車といった資器材の配備を検討することも、対策のひとつです」

日ごろの備えが大切なのは、どんな住居に住んでいても同じこと。災害の規模が大きければ大きいほど、重要な一線を分けるのは、住民同士で助け合えるかどうかだ。「そのために、自らの命は自分で守り共に助け合う、地域ぐるみでの防災体制の構築が重要です」。自分の住んでいる建物の特質と起こりうると想定される被害を知ることで、最適な備えを心がけたいものだ。

●取材協力
東京都中央区防災課普及係

住まいのトラブル調査【購入編】居住中に起こったトラブル、どこに相談した?

住まいのトラブル調査。購入編の第2弾は居住中や、リフォーム、リノベーションでの具体的なトラブル内容の紹介と、相談相手についてです。知っておけば、たとえトラブルに巻き込まれても落ち着いて対応できそうですね!
居住中のトラブルは、「雨漏り」や「騒音」 リフォームでは「高額請求」など

前回、物件探しや契約時、建設中、内覧の具体的なトラブルを取り上げましたが、今回は実際に住んでから、そして購入物件ならではのリフォーム、リノベーション時のトラブルについてご紹介します。

【居住中】
・外壁塗装が剥がれてきて困った(28歳・女性)
・隣に越してきた人が飼う意思もないのに野良猫に餌をやって居ついてしまい、飼い犬の餌の横取りをしたり、けがを負わさせられた(38歳・女性)
・隣に住む人からの嫌がらせ。子どもが夜中に泣いたりぐずったりしたときに、壁を叩いて威嚇されたり、ベランダ越しに暴言を言われた(47歳・男性)
・暴風雨のときに雨漏りするようになった。管理組合がきちんと対処せず、いつまでたっても修繕しない(47歳・男性)
・隣で炭を使ったバーベキューをしていて、洗濯物等に肉のにおいがついた(事前に断りなし)(57歳・男性)

【リフォーム・リノベーション時】
・入居前にフロアコーティングしたら、フローリングが傷ついた(37歳・女性)
・見積もりよりも高額な請求をされた(59歳・女性)
・塗装忘れや外壁の破損などが見つかった(50歳・女性)
・リフォームをするために家の中の壁をはがしたら、雨漏り箇所が見つかった。雨漏りの原因が最初に建てた時点でのやり忘れだったと思われるが、築年数がたっていたため、建設会社の免責となった(47歳・女性)
・管理組合への申請が遅れたため、入居までに間に合わず、土日も対応してもらった(52歳・男性)
・屋上工事の際に雨漏りがした(51歳・男性)

特に居住中のトラブルはコメントが多く、騒音や生活マナーなどのトラブルが挙げられました。リフォーム、リノベーションに関しては、見積もりと異なる請求や工事の遅れ、作業ミスなどのトラブルが多いようです。

トラブル時に相談するのは「家族、知人、友人」に次いで、「管理組合」「建設会社」

トラブルに巻き込まれたとき、みんなはどう行動しているのでしょうか。実際にトラブルにあった人に、トラブルや困ったことについてどこかに相談したか聞いたところ、「家族、知人、友人」に相談した人が34.7%、「管理組合、管理会社」が30.6%、「建築会社、施工会社」23.1%となりました。

トラブルの際には、まず家族や知人、友人など、気の許せる人に相談する人が多く、相談した結果、トラブルの内容によって管理組合や管理会社、建築会社、施工会社に相談しているのかもしれません。

トラブル内容により解決可能な相談相手が異なる。誰に相談するかを見極めるのも重要(出典/SUUMOジャーナル編集部)

トラブル内容により解決可能な相談相手が異なる。誰に相談するかを見極めるのも重要(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、そのトラブルが解決した人は6割を超えていました。トラブルにあっても、然るべき相手に相談をすれば、トラブルを最小限にできたり、解決できるため、一人で悩むのではなく誰かに相談することから始めてみることが重要なようです。

トラブルを経験した人の6割以上が解決したと回答(出典/SUUMOジャーナル編集部)

トラブルを経験した人の6割以上が解決したと回答(出典/SUUMOジャーナル編集部)

相談しなかった理由は「面倒だったから」「当事者だけで解決しようと思ったから」

一方、Q4で「どこにも相談しなかった」と回答した人は19.0%いました。トラブルに遭ったにもかかわらず、誰にも相談しなかったという人の理由で一番多かったのは「面倒だったから」(28.6%)、次いで「当事者だけで解決しようと思ったから」(25.0%)、「相談先が分からなかったから」(21.4%)でした。

誰にも相談をしなくても問題が解決することはあるかもしれませんが、誰かに相談すると、問題解決への近道を教えてもらえたり、実際に問題を解決してもらえたりと、プラスになることが多いはず。誰に相談していいか分からない場合には、まず家族、知人、友人に相談したり、インターネットで同じようなトラブルに遭った事例を探してみるといいでしょう。また、過去に住まいを購入している人にアドバイスをもらうのもよさそうですね。

トラブルに遭う前に、トラブル回避のためのアドバイスをもらうのも重要ですが、それでもトラブルに巻き込まれることはあり得ます。万が一トラブルにあってしまったら、誰かに相談することで解決する確率がぐっと上がるようなので、一人で抱え込んで悩むのではなく、まずトラブル内容を誰かに相談してみて。それが解決への第一歩となるはずです。

●調査概要
・[住まいのトラブル調査 購入編]より
・調査期間:2018年3月12日~13日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の購入物件(一戸建てまたはマンション)にお住まいの20歳~59歳の方
・有効回答数:男女600名(新築一戸建て150名、中古一戸建て150名、新築マンション150名、中古マンション150名)

住まいのトラブル調査【購入編】購入物件で一番多いトラブルは「近隣トラブル」!

住まいのトラブル調査シリーズ。賃貸編に続き、購入編です。賃貸住宅とトラブル内容は異なるのか、トラブルにあったことのない人はどんな回避法を行ったのかなどを紹介します。また、物件探しや契約時、内覧までの期間に経験した具体的なトラブル内容を大公開。賃貸編との違いもチェックしてみてくださいね。
購入物件では「近隣トラブル」がトップ

前回の賃貸編では、「物件の欠陥や設備の故障などのトラブル」(67.7%)がトップ、次いで近隣トラブル(61.0%)が多い結果だったトラブル内容。購入物件の場合には、どのような結果となるのでしょうか。

結果は、「近隣トラブル」(14.8%)が1位、「物件の欠陥や設備の故障などのトラブル」(10.7%)が続きました。購入物件の場合、町内会への参加やゴミ出しなど、周囲のご近所さんと付き合いややりとりが多くなります。そのため、賃貸物件では2位だった近隣トラブルが購入物件ではトップなのかもしれません。また、物件の欠陥、設備の故障に関しては、購入物件は事前によく確認してから契約に至ることが多いので、賃貸物件よりも数が少ないのでしょう。
その他、購入物件ならではのリフォームやリノベーションでのトラブルも6.2%ありました。

トラブルのなかでは近隣トラブルが1位だが、各項目「経験したことがない」と回答した人が8割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

トラブルのなかでは近隣トラブルが1位だが、各項目「経験したことがない」と回答した人が8割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

一方、「トラブルを経験したことがない」と回答した人に、トラブル回避のために気を付けていたことを聞いてみると、以下のようなコメントが挙げられました。

【購入前に気を付けたこと】
・購入前に、マンションに住んでいる人がどのような人なのかなど情報収集を行った(55歳・男性)
・住宅関係の知人にいろいろアドバイスをもらった。防犯対策にも気をつけたい(49歳・男性)
・トラブルについて、ネットで調べた(45歳・男性)
・口頭でやり取りしない、必ず文書で残す(50歳・女性)
・信頼できる会社、信頼できる担当者と交渉した(47歳・女性)
・購入するときに、その土地柄、雰囲気などを不動産会社に聞き、理解した上で購入を決めた(44歳・女性)

【購入後に気を付けたこと】
・近所付き合いは、こまめにする(54歳・男性)
・日ごろから顔を合わせたら挨拶をしておく(46歳・男性)
・夜はテレビの音を小さめにしたり、子どもに騒がないように言い聞かせていた(37歳・男性)
・事前にご近所に挨拶回りをした(58歳・女性)
・多少のことは我慢する。生活音などに気を付ける(54歳・女性)
・近所の人に不快な思いをさせないように騒音やペットの臭いなど 気を付けている(47歳・女性)

物件探し、契約時、内覧でのトラブルは「納期遅れ」「施工ミス」など

どんなシチュエーションにおいてもトラブルは起こり得ますが、物件探しや契約時、建設中、内覧のトラブルは、事前に知っておけば防ぐこともできそう。具体的にどんなトラブルがあったのかチェックしてみましょう。

【物件探しのとき】
・近隣建物やその付近で、違法建築で建築中のものがあった(54歳・男性・新築マンション)
・希望の物件を紹介してくれなかった(49歳・男性・中古マンション)
・マンション購入を決めて、手続き中に売り切れたということが何度かあった(34歳・女性・中古マンション)

【ローン契約、物件契約時】
・ローン仮審査の時仲介業者が報告を怠ったため延期になった(40歳・男性・中古マンション)
・地下埋設物処理(57歳・男性・中古一戸建て)
・10年以上働いていると思っていたが、ローンを組む段階で実際は10年以内だったので、予定していたローンの審査が通らなかった(49歳・女性・新築マンション)

【建設中】
・隣地の所有者にある権利を主張された(49歳・男性・新築マンション)
・工程の遅れで、子どもの進学に影響があった(48歳・男性・中古一戸建て)
・境界の塀をつくるのに、合意が得られなかった(58歳・女性・中古一戸建て)

【内覧のとき】
・カウンターキッチンにひびが入っていた(58歳・男性・新築マンション)
・排水が漏れた(52歳・男性・新築一戸建て)
・造り付けの棚がゆがんでいた(37歳・女性・新築マンション)

購入物件では、物件探しから始まり、契約、建設、内覧まで、実際に住むまでにいくつもの工程があるため、トラブルが起こる確率も賃貸物件よりも高くなる可能性があります。しかし、実際に起こったトラブルを事前に知っておくことで避けられるトラブルも多いはず。これから物件購入を検討されている方は、今回のトラブル事例を参考にして、面倒なトラブルに巻き込まれることがないよう、快適な新生活のスタートに役立ててくださいね。

●調査概要
・[住まいのトラブル調査 購入編]より
・調査期間:2018年3月12日~13日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:全国の購入物件(一戸建てまたはマンション)にお住まいの20歳~59歳の方
・有効回答数:男女600名(新築一戸建て150名、中古一戸建て150名、新築マンション150名、中古マンション150名)

「優しく・おいしく・楽しく」がモットー、“本気キッチン”がある家(後編) テーマのある暮らし[3]

2児の母であり、栄養士・フードコーディネーターとして活躍している落合貴子さん。これまで多くの料理家のアシスタントを務めた経験から、さまざまなキッチンを見つめてきました。後編では、プロならでの視点が随所に散りばめられたこだわりを紹介します。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。あえて“見せる収納”にした理由とは……?

フライパンやなべを収納している棚は、かつてリビングだった場所。柱と柱の間には大きな窓がありました。

「最初は、この窓を壁でふさいでしまうのもありかな、と思ったんです。でも、『すりガラスだから気にならないよ』とパパ友の建築士にアドバイスしてもらって、窓に棚をつけてもらいました。明かりも入りますし、へんな出っ張りもないのできれいに見えます」

「私は、“捨てられないタイプ”なので持ち物が多いんです。このリフォームをしたとき、あれ? 私ってこんなのも持ってたんだ、という懐かしいモノもたくさん出てきて……(笑)。だから、全部出していつも見える場所に置かないとダメなんです」という落合さん。

「初めて料理教室に来た人も、後片付けのときに何をどこにしまうか、ひと目で分かります。生徒の皆さんが戸惑わないことも、メリットのひとつです」(写真撮影/内海明啓)

「初めて料理教室に来た人も、後片付けのときに何をどこにしまうか、ひと目で分かります。生徒の皆さんが戸惑わないことも、メリットのひとつです」(写真撮影/内海明啓)

注目したいのは、窓の下部分をはじめ、シンク下もあえてオープンにしている点。これには、どんな秘密があるのでしょうか?

「実は、下にもぐると棚でふさがっている窓を開けることができます。肉を焼いたり、スモーク料理をして換気が追い付かないときに便利ですね。扉で隠してすっきり見えるシステムキッチンも良いのですが、オープンにすることで、汚れに気付いたときにすぐに掃除できるというメリットもありますね」

「私のように持ち物が多い人や忘れっぽい人は、“隠さない収納“でひと目で分かりやすくしておくことも対策のひとつです」(写真撮影/内海明啓)

「私のように持ち物が多い人や忘れっぽい人は、“隠さない収納“でひと目で分かりやすくしておくことも対策のひとつです」(写真撮影/内海明啓)

落合さん絶賛! トレイ付きワゴン。「美容室でロッドなどを入れているこのワゴンが欲しくて、買っちゃいました。お値段はしますけど、頑丈でとても使いやすいのでお気に入り」(写真撮影/内海明啓)

落合さん絶賛! トレイ付きワゴン。「美容室でロッドなどを入れているこのワゴンが欲しくて、買っちゃいました。お値段はしますけど、頑丈でとても使いやすいのでお気に入り」(写真撮影/内海明啓)

5口のガスコンロを備えながら必要なスペースもしっかり確保

料理は、火加減が命です。ガスコンロは家庭用のなかで最も火力の強いタイプを含めて、全部で5口備えています。

「最初は、3口のコンロを2セット置く予定でした。でも、そうすると調理台のスペースが狭くなって困るので、3口コンロに一人暮らし用のマンションに使われる2口タイプのコンロをプラス。プラスした2口コンロは、縦に並んでいるのでそんなに場所を取りません。それでも足りないときは、卓上のIHコンロの出番です」

コンロまわりも掃除しやすいステンレス仕様で統一。汚れが気になったらすぐ拭けるよう、専用のクリーナーも見える場所でスタンバイしています(写真撮影/内海明啓)

コンロまわりも掃除しやすいステンレス仕様で統一。汚れが気になったらすぐ拭けるよう、専用のクリーナーも見える場所でスタンバイしています(写真撮影/内海明啓)

レンジフードは業務用を使用。大きいので掃除の大変さはあるものの、家庭用に比べて外す部品が少なくシンプルなつくりで、何といってもパワフル(写真撮影/内海明啓)

レンジフードは業務用を使用。大きいので掃除の大変さはあるものの、家庭用に比べて外す部品が少なくシンプルなつくりで、何といってもパワフル(写真撮影/内海明啓)

欧米のキッチンでよく見かける憧れのダブルシンク

そのほかにも、二人並んでも余裕で使えるダブルシンクをはじめ、家電製品の置き場所や選び方にも落合さんらしさがいっぱい。効率面、利便性、費用対効果など、さまざまな視点で考えられています。

ボリュームの多い仕事のときは、なべやフライパンを洗うことと野菜洗いが同時進行することも。洗いものの強い味方になってくれるダブルシンク(写真撮影/内海明啓)

ボリュームの多い仕事のときは、なべやフライパンを洗うことと野菜洗いが同時進行することも。洗いものの強い味方になってくれるダブルシンク(写真撮影/内海明啓)

奥行と幅のある収納スペースに電子レンジや炊飯器、電気ポットをセットイン。使用時にトレイを引けば、湯気で収納家具を傷めることはありません(写真撮影/内海明啓)

奥行と幅のある収納スペースに電子レンジや炊飯器、電気ポットをセットイン。使用時にトレイを引けば、湯気で収納家具を傷めることはありません(写真撮影/内海明啓)

リフォーム前、1台しか置けなかった冷蔵庫は2台に。修理やメンテナンスの費用も考えて、業務用ではなく家庭用冷蔵庫を使用しています(写真撮影/内海明啓)

リフォーム前、1台しか置けなかった冷蔵庫は2台に。修理やメンテナンスの費用も考えて、業務用ではなく家庭用冷蔵庫を使用しています(写真撮影/内海明啓)

料理や用途に応じて調理グッズも使い分け

落合さんが提供しているレシピは、「優しく・おいしく・楽しく」がモットー。それはキッチンだけでなく、使っている調理グッズにもあらわれています。

スパイスを挽くグッズも、ピリッとしたスパイシーさや粒感が欲しいときにはオリーブの木でできたすりこぎを使用するとか。香りを重視したいときは細かく挽ける陶器のすりこぎを使うなど、用途に応じて使い分けているそうです。

ずっしりした重みのある天然オリーブの木でつくられたすりこぎ(左)と、益子焼展で一目惚れして買った青森在住の作家による陶器のすりこぎ(右)(写真撮影/内海明啓)

ずっしりした重みのある天然オリーブの木でつくられたすりこぎ(左)と、益子焼展で一目惚れして買った青森在住の作家による陶器のすりこぎ(右)(写真撮影/内海明啓)

“本気キッチン”で生み出された、落合さん考案のレシピ集(写真撮影/内海明啓)

“本気キッチン”で生み出された、落合さん考案のレシピ集(写真撮影/内海明啓)

明るくて気さくな落合さん。翌日に大きな仕事を控えていたにもかかわらず、快く取材を受けてくださいました。落合さんのこだわりのひとつ「素材本来がもっている風合いや味」は、ステンレスや床板に限らず、ひとつひとつの食材に対しても同じ想いなのでしょう。時間や手間を惜しまず、丁寧に素材の良さを引き出す落合さんの料理マジックを、教えていただきたくなりました。

●取材協力
・落合貴子さん
自然食品メーカーにてカウンセリングなどの実務経験を経て、フードコーディネーターに転身。多数の料理家アシスタントを務め、料理家として独立。現在2児の母親であり、テレビや雑誌などで「優しく・おいしく・楽しく」を心がけたレシピを提案している。
・一級建築士事務所 木暮建築設計室

自宅をキッチンスタジオに改造!“本気キッチン”がある家(前編) テーマのある暮らし[3]

栄養士の資格を取得した後、現在はフードコーディネーターとして雑誌やテレビで活躍している落合貴子(おちあい・たかこ)さん。仕事柄、たくさんの料理をつくる機会が多いうえに、自身で料理教室を開催していることもあり、住んでいた自宅をキッチンスタジオにつくりかえてしまいました。まずは、その前編からスタートです。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。対面式のカウンターキッチンを仕事専用のキッチンに

春日通りと白山通りに挟まれ、歴史と文学の香りが漂う街、文京区小石川エリア。落合さんのキッチンスタジオは、大通りから一歩奥まった静かな住宅街にたたずむマンションの一室にあります。

「こちらはファミリータイプのマンションで、最初は私たち夫婦と子どもの3人で住んでいました。当時からフードコーディネーターの仕事をしていたのですけれど、ふたり目の子どもが生まれたときに、この場所で生活と仕事を両立させるのは難しいと感じたため、住まいを引越してここを仕事場にすることにしました」

当時は、対面式のカウンターキッチンがあるリビングダイニングだったそう。しばらくは、そのままの状態で使っていたそうですが、仕事のボリュームが増えていくにつれて問題が生じてきました。

食材から調味料、調理器具など、ただでさえモノがあふれやすいキッチン。「家族4人の暮らしと仕事場を分けることで、問題を解決しようと考えていました」(写真撮影/内海明啓)

食材から調味料、調理器具など、ただでさえモノがあふれやすいキッチン。「家族4人の暮らしと仕事場を分けることで、問題を解決しようと考えていました」(写真撮影/内海明啓)

デッドスペースをなくして動きやすく、間取りもとにかくフレキシブル

「家庭用のキッチンは、手の届く範囲でいろいろ動けて便利なのですが、仕事で使う場合は圧倒的に狭いんです。私ひとりならまだしも、ボリュームの多い仕事はアシスタントさんにお願いすることもあります。そうすると、窮屈だし、スムーズに動けません。それでも、なるべくデッドスペースを減らそうと、ワゴンをつくるなど自分なりにDIYをやってみたのですけど、やっぱり限界でしたね」と落合さん。

そんな落合さんが相談したのは、子どものつながりで知り合ったパパ友の建築士。「年齢的にも近いし、住宅を手掛けるために独立したことも伺っていたので、ちょっと聞いてみようかな、と(笑)。それが、リフォームのきっかけでした」

シンクやコンロを壁側に寄せて、“見せる収納”にこだわったキッチン。ブルーのタイルがステンレスの風合いとマッチして、清潔感のある雰囲気を醸し出しています(写真撮影/内海明啓)

シンクやコンロを壁側に寄せて、“見せる収納”にこだわったキッチン。ブルーのタイルがステンレスの風合いとマッチして、清潔感のある雰囲気を醸し出しています(写真撮影/内海明啓)

落合さんがこだわったのは、可能な限りデッドスペースをなくして、広くて動きやすいキッチンにすることと、使えるものをそのまま使って予算の範囲内におさめる、という点でした。

「シンクまわりはシステムキッチンのほうが安いのですが、サイズが決まっているためどうしてもデッドスペースができやすいんです。なので、ここはステンレス製のオーダーメイドでバッチリ予算をかけました」

スパイスや調味料、調理器具がびっしり入っている調理台は、女性でも簡単に動かせます。「コンロが足りないときは、カセットコンロを置く場所にもなるんですよ」(写真撮影/内海明啓)

スパイスや調味料、調理器具がびっしり入っている調理台は、女性でも簡単に動かせます。「コンロが足りないときは、カセットコンロを置く場所にもなるんですよ」(写真撮影/内海明啓)

また、落合さんのキッチンは料理の撮影だけでなく、タレントさんが来てスタジオスペースとして貸す機会もあるのだそう。

「L字型やコの字型とかでキッチンをがっちりつくってしまうと自由に動けず、できることが限られてしまうんですよね。そこで、調理台にキャスターをつけて、移動できるようにしました。撮影内容に応じて、自由に間取りを変えられるようにしています」

床暖房をあきらめて無垢の床材にこだわった理由

リフォームを行ううえで、落合さんが最も悩んだのが床材。このリビングダイニングにはもともと床暖房が付いていましたが、それを活かそうとすると素材が限られてしまいます。

「私は、使えば使うほど味が出てくる素材が好きなんです。キッチンまわりにステンレスを使ったのも、ついた傷がいい味わいになるから。そこで、床材もユーズド感のある古木のような素材を使いたかったんです。だから、床暖房はあきらめて取ってしまいました(笑)」と落合さん。

いろいろなサンプルのなかから、落合さんが一目惚れしたのはこのカラフルな床材。
「海外の学校で使われていた床材を輸入して、アンティーク加工したもの。でも、いざ見積もりを見たら、想像をはるかに超えたお値段で、泣く泣くあきらめることに……。その床材をワンポイントとして、壁に貼ってもらうことにしました」

「かわいい色合いの床材が貼られたこのスペースは、撮影のバックで使われるくらい大活躍しているんですよ」と落合さん(写真撮影/内海明啓)

「かわいい色合いの床材が貼られたこのスペースは、撮影のバックで使われるくらい大活躍しているんですよ」と落合さん(写真撮影/内海明啓)

そして、次の候補となった無垢の床材を選ぶことになったそうです。「学校施設の建築に携わっていた建築士の方が、体育館で使われている床材を見つけてくれました。傷も目立ちにくいし、自然なツヤも出て、結構雑に使ってもいい風合いを出してくれています」

「取材撮影する方々が気を使って養生シートを持ってきてくださることもありますが、私自身はそのままでも気にしません。むしろ私のほうが傷付けちゃうくらいで、この床材にしてよかったと思っています」(写真撮影/内海明啓)

「取材撮影する方々が気を使って養生シートを持ってきてくださることもありますが、私自身はそのままでも気にしません。むしろ私のほうが傷付けちゃうくらいで、この床材にしてよかったと思っています」(写真撮影/内海明啓)

2部屋を遮っていた壁を抜いて、明るく広々としたスペースに

実は、リビングダイニングの隣にはもうひとつ部屋があったそうで、今回のリフォームで壁を抜いてゆとりあるスペースを確保しました。

「もともと隣の部屋は日当たりがよかったのですけど、1枚壁を取ったことでキッチンのほうまで明るくなりました。こちらの場所は、打ち合わせや料理教室、ケータリングのときなどに使うことが多いです。西日がスゴイですけどね(笑)。でも、エアコンや照明などの電気系統は、一切変えずにそのまま使えています」

友人たちとワイワイ飲み会をする機会も多い、という落合さん。自家製の梅干しの下には、大好きなお酒もずらっと並んでいます(写真撮影/内海明啓)

友人たちとワイワイ飲み会をする機会も多い、という落合さん。自家製の梅干しの下には、大好きなお酒もずらっと並んでいます(写真撮影/内海明啓)

部屋の隅は、お菓子づくりの道具や撮影のためのスタイリング用品、使用頻度の低い食器類を収納するスペースに。ここは、かつてクローゼットだったそう。扉をはずして棚をつけてもらい、こまごました道具もカテゴリ別に缶やカゴにまとめられ、すっきり収納されています。

「お菓子の抜き型って、意外とスペースを取るんですよ。しかも、つくる料理によって大きさや形でニュアンスが変わるので、どんどん増える一方です」(写真撮影/内海明啓)

「お菓子の抜き型って、意外とスペースを取るんですよ。しかも、つくる料理によって大きさや形でニュアンスが変わるので、どんどん増える一方です」(写真撮影/内海明啓)

さて、本気キッチンがある家【前編】はここまでです。【後編】では、プロならではの視点で考えられたシンクやコンロまわり、“見える収納”にこだわった理由などをご紹介します。【後編】も、ぜひお楽しみくださいね。

●取材協力
・落合貴子さん
自然食品メーカーにてカウンセリングなどの実務経験を経て、フードコーディネーターに転身。多数の料理家アシスタントを務め、料理家として独立。現在2児の母親であり、テレビや雑誌などで「優しく・おいしく・楽しく」を心がけたレシピを提案している。

・一級建築士事務所 木暮建築設計室

NGの物件も! 「自力で引越し」をするときの注意点とは!?

「引越し難民」単語までうまれた昨今ですが、進学や転勤で、どうしても引越しのタイミングをずらせない、という場合もあります。そんなときに考えるのは、「自力で引越し」。 引越し会社に頼むより安く済むのかな……と思う人もいるのではないでしょうか? ここでは、引越しする際の注意点やコツ、そもそも引越しは自分でしても大丈夫なの? という疑問にお応えします。
引越し会社に頼らない! 自力で引越しするための注意すべきポイント

いざ自分で引越しを始めると、ガムテープやダンボールなどの資材の準備が意外と大変! 梱包作業も自分でやらなければなりません。さらにレンタカーを利用するとなると、通常の乗用車やワゴンのような車ではなく軽トラックやバンなどになるでしょう。レンタカー代にプラスしてガソリン代、自分たちの力だけで運べない家具には、友人の助けが必要になり、謝礼などの費用もかかります。事前に計算をしたうえで、本当に引越し会社に頼むよりも安く済ませられるのかは、しっかり検討しておきたい点です。

また「ホームステージング(売却物件にインテリアコーディネートを行う)」サービスを提供し、家具の搬入・搬出に立ち会う機会も多い野村の仲介+(PLUS)の足立光(あだち・ひかる)さんによると、特に高額帯のマンションの場合は、あらかじめ引越しのルールが決められていることが少なくないため、事前の確認が必須だといいます。

「荷物の搬入口が決められていたり、エレベーターや駐車スペースの利用に許可が必要だったりすることもあります。特に繁忙期は引越しの日程が他世帯と重なってしまうケースも多いので、搬入口やエレベーターの利用に制限がかかることがありますね」(足立さん、以下同)

野村の仲介+(PLUS)の足立さん。自身の引越しでも大型の家具がエレベーターに乗りきらず、階段で運んでもらった経験があるとのこと(写真撮影:スパルタデザイン)

野村の仲介+(PLUS)の足立さん。自身の引越しでも大型の家具がエレベーターに乗りきらず、階段で運んでもらった経験があるとのこと(写真撮影:スパルタデザイン)

そのようなマンションの場合、共用部分の床や壁などに傷をつけないように、きちんと養生することを管理員や管理会社から指示されることもあります。

「事前に管理員に連絡をせずに、勝手に搬入・搬出を始めてしまうと、作業を中止させられる可能性もあります」

さらに、手持ちの家財によっては気を付けておくべきこともあるようです。

「大型の家具は分解しないと入口を通らないこともあるので、搬入・搬出経路のチェックもしておいたほうがいいでしょう。また、家具の材質・構造によっては、一度分解してしまうと再度組み立てたときに、ゆるみやガタつき等の不具合が生じる可能性がありますので、注意が必要です」

当日になって引越しができない! という事態を避けるためにも、自力で引越しを行うときには事前に駐車スペースや経路を確認し、届出が必要かどうかを物件の管理会社へ確認・相談をするなど、しっかり準備をしておきましょう。

自力で引越しをするリスクに注意! その危険な落とし穴とは!

自力で引越しをした場合、万一、荷物をキズつけられたり、建物を損傷したりしてしまった……などの状況になれば責任を巡って深刻なトラブルになりかねません。しかし、自力引越しの場合は、家や荷物の破損に対する保険というのは存在しません。その点、引越し会社に頼んでいれば、補償されているケースもあります。

賃貸住宅を管理運営している住友林業レジデンシャルの大澤裕次(おおさわ・ゆうじ)さんによれば、「補償や保険のことをよく知らない人は結構多い」といいます。

「特に共用部分のガラス戸に家具をぶつけてガラスを割っちゃった、という話は多いです。引越し会社に頼む場合は引越し会社が補償してくれますが、自力で引越ししたときに個人で負担するには厳しい金額なのではないでしょうか。実は賃貸契約をするときに家財保険、火災保険等の名称で『借家人賠償責任保険』に入っていることがほとんどで、契約期間中であればその保険が適用されるんです。ただ一つ気をつけてほしいのは、仲介会社が事前に鍵を渡すなどして、契約期間が始まる前に自力引越しをして傷をつけた場合です。保険適用開始は契約期間の開始日からなので、その前では保険が適用されず、全額自分で払わなければならないリスクがあります」(大澤さん)

写真/PIXTA

写真/PIXTA

また、引越しをする本人の家財にもリスクがともないます。冷蔵庫を自分で運んだら冷却用のガスが抜けて使えなくなった、洗濯機の排水口の接結を外す手順が分からず水浸しになった、などという話もよく聞きます。アースの取り付けや取り外しは、引越し会社でも専門の電気工事員を呼ぶケースがあるくらいなので、素人には危険な作業だという認識をもっておいたほうがよさそうです。

「自力で引越し」はOK? NG?

では結局、自力で引越しをしても問題ないのでしょうか? それとも止めておいたほうがいいのでしょうか。

「よっぽど荷物が少ないほうでない限り、まずお勧めしないですね」(足立さん)
「引越し業界が人手不足で料金高騰、特に2月~4月はそもそも空いている日がないというニュースも多いですが、個人的には繁忙期を避けたうえで引越し会社に依頼するのが賢い方法だと思います」(大澤さん)

不動産のプロであるお二人が即答するように、引越し会社を使わない方法は、経費を抑えられる可能性は高いものの、手間と時間がかかり、なおかつ万一のときの補償がないのも事実です。
それでもどうしても自分で引越しを考えたいという方は、少しでもお得かつ安心で安全な引越しができるよう、慎重に計画を立てましょう!

万一の事故やトラブル、今後の近隣住人とのお付き合いを考えると自力引越しにはリスクがともないます。事前の準備や自力で引越しするためにかかる費用を考えれば、結局は引越し会社に任せるのが正解かもしれません。

●取材協力
・野村の仲介+(PLUS)
・住友林業レジデンシャル株式会社

「空き家購入、メリットとデメリットを知りたいです」 住まいのホンネQ&A(3)

誰もが知りたい住宅に関するさまざまな疑問について、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく本連載。第3回の質問は「空き家購入、メリットとデメリットを知りたいです」です。
新築マンション価格が高騰している一方、国内の空き家は増加の一途をたどり、社会問題になりつつあります。最近は、空き家のマッチングサイトなどがよくメディアに取り上げられるようになり、一般消費者が購入可能な手段も増えてきました。新築マンションが高騰しているいま、安く空き家を買えたら言うことなしのようにも思えますが、果たしてどんなメリットやデメリットがあるのか……? 注意すべき点や税制控除などについてもお話しいただきました。
社会問題化する「空き家」、高騰する新築マンション

総務省によれば日本の空き家は2013年時点でおよそ820万戸。2018年の現時点ではおそらく1000万戸を超える空き家があります。さらに日本はこれから本格的な人口減少と少子化・高齢化に見舞われるため、2033年には空き家が2000万戸、空き家率は30%を超えるとのシンクタンク試算もあります。エリアによっては「お隣りは空き家」といった時代が到来しそうです。

一方で新築マンションを中心とした住宅価格は高止まり。不動産経済研究所によれば、2018年2月の首都圏新築マンション価格平均は6128万円。東京都区部に至っては平均7223万円と、普通のサラリーマンが買える水準をはるかに超えている状態です。

こうしたなか「空き家をうまく活用しよう」といった動きも出始めています。全国の自治体が管理する空き家・空き地情報を集約した『LIFULL HOME’S 空き家バンク』(運営:株式会社LIFULL )や、空き家の売り手と買い手が直接交渉でき、物件価格0円の空き家なども紹介されている『家いちば』(運営:株式会社エアリーフロー)など。とはいえ、こうした取り組みもまだ端緒についたばかり。『家いちば』は2015年の開設から成約は20件程度と、まだまだ認知度も低くユーザーも少ないのが実情です。

空き家活用が進まない3つの理由

空き家活用がなかなか進まない理由にはさまざまなことが考えられますが、第一に「立地」の問題があります。自分がほしい場所にたまたま空き家があり、売りに出ていれば検討の余地がありますが、エリアをある程度限定すると、売りに出ている空き家はまだまだ少数です。「売ることも貸すこともせず、ただ放置されている空き家がたくさんある」というのが昨今の空き家問題の特徴なのです。

第二に「建物のコンディション」。家というものは、人が住まなくなってから時間が経過するほど傷んでいきます。その理由には大きく2つあり、一つは「換気」が行われないことで通風性が失われ、カビや結露を発生させてしまうこと。次に「雨漏り」や「水漏れ」など建物の不具合が発生しても、誰も気づかず放置され事態が悪化してしまうことです。

また空き家の多くには、庭や室内に、前居住者の「残置物」が残っていたりします。残置物とは、庭の物置きや植栽、室内の家具や生活道具一式などです。こうしたものは原則として買い手か売り手のどちらかの負担で処分するしかありませんが、それにも当然コストがかかります。

このように空き家活用は一般に、普通に新築や中古を買うより少しリスクが高く、手間がかかり面倒なのです。それでも、よりリーズナブルに家を手に入れたいという人にとっては、いい買い物になる可能性もあります。割安感のある空き家を買って、自分の思いどおりにリフォーム・リノベーションして暮らすことができればいいですね。

住宅ローン控除やフラット35の適用にはコストがかかる!?

では次に、購入者する側に立った際に使える控除などについて見ていきましょう。

まず住宅ローンを組む場合、新築から築20年以内の建物(マンションは25年以内)であれば「住宅ローン控除」が使えます。住宅ローン控除とは、ローン残高(年末時点)の1%分の所得税が10年間、戻ってくるものです。

空き家の場合、これよりも築年数が古いことが往々にしてあるでしょう。その場合に住宅ローン控除を利用する方法は2つあり、一つは「既存住宅売買瑕疵保険」に加入すること。保険期間は1年ないしは5年、支払い限度額は500万円ないしは1,000万円というのが一般的ですが、保険加入のためには一定の建物補修が必要など、コストがかかる要件があります。

もう一つは「耐震基準適合証明書」を取得する方法。こちらも、耐震診断やその結果に応じた耐震改修をする必要があるので一定のコストがかかります。

留意したいのが、中古住宅で『フラット35』や不動産取得税の減税制度などを利用したい場合です。フラット35については、『フラット35の適合証明書』が必要で、1981年5月31日以前に建築確認を取得した旧耐震の物件で制度を利用するには、『耐震基準適合証明書』の取得が必須。それに伴って、やはり耐震診断や改修コストは必要です。築20年以上の一戸建て・25年以上のマンションで不動産取得税の減免を受けるには先述の『耐震基準適合証明書』が必要です。

リフォームやリノベーションには補助金がもらえることも

一方でリフォームやリノベーションを行う場合には、国や自治体からさまざまな補助金が出ることもあります。例えば東京都豊島区では修繕工事に10万円、リフォーム工事に20万円を限度として補助金がもらえます(※適用にはいくつかの要件あり)。使えるものはうまく使っておきたいところ。こうした税制や補助金等に詳しいリフォーム・リノベーション事業者とお付き合いすることがお得に空き家を活用するコツとも言えるかもしれません。

いずれにせよ、購入前に建物のコンディションはよく調べておきたいもの。2018年4月からは住宅売買時に「インスペクション説明義務化」がスタートします。これは簡単に言うと、住宅の売主・買主に、建物の状況を調べるインスペクション事業者のあっせんの有無やその内容について説明するという制度です。

中古住宅取引時に、欧米では当たり前のように行われているホームインスペクション(住宅診断)を日本でも常識化し、中古住宅流通を促進させたいといった国の意志の表れですが、未来の日本では、中古住宅や空き家をうまく活用するというのは当たり前のことになっているでしょう。とはいえ日本ではまだこうした施策はまだ始まったばかり。制度をよく知った上で、インスペクションを依頼するホームインスペクターやリフォーム事業者をうまく見極めつつ、空き家活用にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

増税されてもされなくても!「いま買うべき物、買わなくてもよい物」 賢い住まいのマネー術(6)

森友学園問題で揺れる自民党政権ですが、いまのところ2019年10月には、消費税率が10%に引き上げられる予定です。2%の差は大きいので、大きな買い物はなるべく早くから準備して、安いうちに買っておきたいと思っている人もいるでしょう。
でも、ちょっと待って。8%に上がるときも起こった駆け込み消費ですが、増税後にセールになる品物もありましたよね。「早まった!」もしくは「買っておけばよかった」といった後悔をしないためにも、何をいつ買うべきなのか。もし増税がされなかった場合にも参考になる、基本的な考え方をご紹介します。

【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。家電や家具などは買っておくほうがよい?

まず、すべての買い物に共通する基本的な考え方としては、「購入予定があって値崩れしにくい商品は『現在(税率8%)』のうちに買っておくとよい」ということです。必要のないものまで買ってしまえば支出は増えますし、値崩れする商品を先に買っても消費税の増税分より値段が下がってしまう可能性もあるからです。

家電に関しては、一般に値段が安定している白物家電(洗濯機や冷蔵庫、電子レンジなど日常生活に使う家電)は「買い」で、値動きしやすい黒物家電(音楽機器やゲーム機など、趣味や娯楽用途の家電)は「待ち」です。白物家電は生活をする上で欠かせませんし、値段が大きく崩れることも少ないからです。

では、白物家電はそれぞれいつ買えばよいのでしょうか。新居やリフォーム後のお部屋ができたタイミングですべてを新しくしたいと思うかもしれませんが、市場の値段が安くなるのと、自分が欲しいタイミングがずれる場合もしばしば。場合によっては今まで使っていた家具・家電をひとまず新居に持って行き、落ち着いたら探し始めるというのも一つです。一度に買うのに比べると、予算面からも融通を利かせやすいでしょう。

冷蔵庫は秋に新商品が出る場合が多く、発売からしばらくした年末ごろから値段が下がり始めるのが一般的なパターンです。さらに、ひとつ古い型の商品をアウトレット店やインターネットで探せば、安価な金額で手に入れることができます。

家電の値段変動サイクルは商品によって異なり、エアコンの場合は年明けごろに新商品が投入されることが多いです。エアコンの需要が減る4~5月になると値段が安くなります。家電の価格の推移は「価格.com」などでも検索が可能です。自分が欲しい家電で検索し、人気商品の値動きを2~3点調べてみることをおすすめします。

例えば、そろそろ冷蔵庫の買い替えを考えている方なら、2018年の年末ごろにアウトレット店などに冷蔵庫を探しにいくというイメージです。エアコンの場合は2019年の4月ごろから探し始めるとよいでしょう。増税は2019年10月なので、まだ先のように感じますが、増税前でもお得なタイミングで購入したいとなると、意外にも早くから準備をしたほうがよいことが分かります。

大手量販店では、古い家電を処分し、新しい商品に買い替える人向けのキャンペーンを行う場合もあるので、そうしたキャンペーンを活用したり、配送のタイミングなども相談するとよいでしょう。原則、引き渡し日の税率になることが多いため、増税直前に駆け込む場合は要注意です。

家具に関しては、ブランド家具などで値崩れしにくい物は増税前に探し始めてもよいでしょう。ただし、催事場などで行われる家具セールや中古品を活用する方法もあるので、必ずしも駆け込み購入しなくてもよいと思います。

自動車は増税前に買うべき? その他、住まいまわりで検討したい物は?

また、購入のタイミングを考えておきたいのは自動車です。車を購入する際に適用される税率が決まるのは、「登録時」になっていますが、ナンバープレートの登録には時間がかかります。増税直前の2019年9月に選んでいるとギリギリになってしまうので、買う予定があるならゆとりのあるスケジュールを組むべきでしょう。

できれば早い時期から準備して、3月や9月などの決算期前にディーラーと交渉して有利な条件で購入したいものです。決算期の1カ月半前くらいから動き出し、複数の見積もりを取るとよいでしょう。2019年2月ごろから動き始めて、3月決算を狙って購入するのも手です。

増税されるとなれば、直前の2019年9月決算は、同じように駆け込み購入しようとする人が多くなることが予想されます。となるとあまり値下げされないことも考えられますね。もし出遅れたら、需要が低迷するであろう増税後に、オプションなどで値引き・サービスを受けられないか交渉してみるのもよいと思います。

その他、リフォームも値段が下がりにくいので、リフォームをする予定がある人は増税前に検討をしてもよいでしょう。「床暖房にリフォームしたい」など小さなリフォームも含めて検討してみてもよいかもしれません。

浄水器のカートリッジや空気清浄機のフィルターなど、既に本体を購入している商品の「交換品」は値引きしなくても売れるので、値崩れしにくい商品です。消費増税前に購入準備しておいてもよいでしょう。

値崩れしにくい物などは消費増税前、いますぐに購入してもよいのです。その反面、値崩れが予想される物は駆け込む必要はありません。慌てて買わないで、必要性に応じて吟味できる目を養いましょう。

花輪陽子phpto2花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

車、家電、家具…増税されてもされなくても「いま買ってよいもの」は? 賢い住まいのマネー術(6)

森友学園問題で揺れる自民党政権ですが、いまのところ2019年10月には、消費税率が10%に引き上げられる予定です。2%の差は大きいので、大きな買い物はなるべく早くから準備して、安いうちに買っておきたいと思っている人もいるでしょう。
でも、ちょっと待って。8%に上がるときも起こった駆け込み消費ですが、増税後にセールになる品物もありましたよね。「早まった!」もしくは「買っておけばよかった」といった後悔をしないためにも、何をいつ買うべきなのか。もし増税がされなかった場合にも参考になる、基本的な考え方をご紹介します。

【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。家電や家具などは買っておくほうがよい?

まず、すべての買い物に共通する基本的な考え方としては、「購入予定があって値崩れしにくい商品は『現在(税率8%)』のうちに買っておくとよい」ということです。必要のないものまで買ってしまえば支出は増えますし、値崩れする商品を先に買っても消費税の増税分より値段が下がってしまう可能性もあるからです。

家電に関しては、一般に値段が安定している白物家電(洗濯機や冷蔵庫、電子レンジなど日常生活に使う家電)は「買い」で、値動きしやすい黒物家電(音楽機器やゲーム機など、趣味や娯楽用途の家電)は「待ち」です。白物家電は生活をする上で欠かせませんし、値段が大きく崩れることも少ないからです。

では、白物家電はそれぞれいつ買えばよいのでしょうか。新居やリフォーム後のお部屋ができたタイミングですべてを新しくしたいと思うかもしれませんが、市場の値段が安くなるのと、自分が欲しいタイミングがずれる場合もしばしば。場合によっては今まで使っていた家具・家電をひとまず新居に持って行き、落ち着いたら探し始めるというのも一つです。一度に買うのに比べると、予算面からも融通を利かせやすいでしょう。

冷蔵庫は秋に新商品が出る場合が多く、発売からしばらくした年末ごろから値段が下がり始めるのが一般的なパターンです。さらに、ひとつ古い型の商品をアウトレット店やインターネットで探せば、安価な金額で手に入れることができます。

家電の値段変動サイクルは商品によって異なり、エアコンの場合は年明けごろに新商品が投入されることが多いです。エアコンの需要が減る4~5月になると値段が安くなります。家電の価格の推移は「価格.com」などでも検索が可能です。自分が欲しい家電で検索し、人気商品の値動きを2~3点調べてみることをおすすめします。

例えば、そろそろ冷蔵庫の買い替えを考えている方なら、2018年の年末ごろにアウトレット店などに冷蔵庫を探しにいくというイメージです。エアコンの場合は2019年の4月ごろから探し始めるとよいでしょう。増税は2019年10月なので、まだ先のように感じますが、増税前でもお得なタイミングで購入したいとなると、意外にも早くから準備をしたほうがよいことが分かります。

大手量販店では、古い家電を処分し、新しい商品に買い替える人向けのキャンペーンを行う場合もあるので、そうしたキャンペーンを活用したり、配送のタイミングなども相談するとよいでしょう。原則、引き渡し日の税率になることが多いため、増税直前に駆け込む場合は要注意です。

家具に関しては、ブランド家具などで値崩れしにくい物は増税前に探し始めてもよいでしょう。ただし、催事場などで行われる家具セールや中古品を活用する方法もあるので、必ずしも駆け込み購入しなくてもよいと思います。

自動車は増税前に買うべき? その他、住まいまわりで検討したい物は?

また、購入のタイミングを考えておきたいのは自動車です。車を購入する際に適用される税率が決まるのは、「登録時」になっていますが、ナンバープレートの登録には時間がかかります。増税直前の2019年9月に選んでいるとギリギリになってしまうので、買う予定があるならゆとりのあるスケジュールを組むべきでしょう。

できれば早い時期から準備して、3月や9月などの決算期前にディーラーと交渉して有利な条件で購入したいものです。決算期の1カ月半前くらいから動き出し、複数の見積もりを取るとよいでしょう。2019年2月ごろから動き始めて、3月決算を狙って購入するのも手です。

増税されるとなれば、直前の2019年9月決算は、同じように駆け込み購入しようとする人が多くなることが予想されます。となるとあまり値下げされないことも考えられますね。もし出遅れたら、需要が低迷するであろう増税後に、オプションなどで値引き・サービスを受けられないか交渉してみるのもよいと思います。

その他、リフォームも値段が下がりにくいので、リフォームをする予定がある人は増税前に検討をしてもよいでしょう。「床暖房にリフォームしたい」など小さなリフォームも含めて検討してみてもよいかもしれません。

浄水器のカートリッジや空気清浄機のフィルターなど、既に本体を購入している商品の「交換品」は値引きしなくても売れるので、値崩れしにくい商品です。消費増税前に購入準備しておいてもよいでしょう。

値崩れしにくい物などは消費増税前、いますぐに購入してもよいのです。その反面、値崩れが予想される物は駆け込む必要はありません。慌てて買わないで、必要性に応じて吟味できる目を養いましょう。

花輪陽子phpto2花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

スタイリッシュな「無印良品の家」モデルハウスが名古屋に登場! 「木の家」「窓の家」を体験しよう

無駄なくシンプルだけれど機能的な品質、スタイリッシュで長く使っても飽きないデザイン性で、根強いファンをもつ「無印良品」。食品や文房具といった小物から、家電に家具まで、私たちの生活のあらゆる場面におなじみの存在ですよね。そんな無印良品が、2004年から販売している「無印良品の家」シリーズ。この度名古屋に、「木の家」「窓の家」を実際に見て体験できるモデルハウスが3月15日にオープンしたそうです。
国内の「無印良品の家」モデルハウスのなかでも最大規模だというこの名古屋の施設の特徴を、運営会社の株式会社MUJI HOUSEにお答えいただきました。また、シリーズ全3タイプの魅力も、改めてご紹介します。画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

こちらが、名古屋にオープンするモデルハウス。写真左が「木の家」、右が「窓の家」になります。

「『木の家』と『窓の家』を併設している拠点は複数ありますが、モデルハウスの一部を事務スペースとして使用しています。今回の名古屋店では、事務所棟を別に設けることにより、モデルハウスのすべてを見ていただくことができます」と、株式会社MUJI HOUSEのご担当者が教えてくれました。

つまり、実際に「木の家」・「窓の家」を建てて住むときの生活イメージを、全て体験できるということですね。また、「モデルハウスの敷地内に通路を設けており、道路と建設用地を再現しています」とのコメントも。家の中だけではなく、周辺環境もイメージしやすくするためだとか。

では改めて、「木の家」「窓の家」「縦の家」それぞれの特徴を見ていきましょう。

●木の家

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

木の家の魅力は、何といっても吹抜けがある開放的な一室空間。「住まい手が思うままに住まいを『編集』する」。そんな自由な発想を形にした木造住宅なのだとか。「無印良品の家」の第一弾としてデビューしたのがこの「木の家」でもあります。
大きな開口部と深い庇がある、箱のようなすっきりとした外観。太陽光と通風を最大限に活用する、環境負荷の少ない合理的な考えで設計されています。例えば南向きの庇は、季節によって異なる日射を調整し、夏は直射日光を遮り、冬は温かな陽光を室内の奥まで導きます。

実際に「木の家」を施工して既にお住まいの方が、「夏、室内が暑くならないことにびっくりしました」「冬は室内が暖かいので、うっかり半袖のまま外に出てしまうことがありました(笑)」と語っているそうです。
ぜひ名古屋店のモデルハウスでも、その空気感を体験したいですね。

●窓の家

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

通風や採光の機能だけでなく、風景を切り取るフレームとしての窓のあり方に着目したという「窓の家」。壁に頼らず、柱と梁で支えるSE構法でつくられているので、窓が欲しい場所に、壁を切り取るように窓を開けることが可能になったのだそう。つまり窓枠や桟に邪魔されることなく、窓から見える風景を一枚の絵画のように楽しむことができるのです。海の前に「窓の家」を建てた方は、「海を眺めるメインの窓には、カーテンを取り付けていません」と話しているそう。海の景色がインテリアになる家なんて素敵ですね。
「窓の家」の外観は、家の原形とも言える三角屋根と、軒が出ず、すっきりと洗練された白い壁。名古屋店ではこの家の全貌を見ることができます。

●縦の家(※名古屋店には設置なし)

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

画像提供/株式会社MUJI HOUSE

今回オープンしたの名古屋店にモデルハウスの設置はありませんが、せっかくなので「縦の家」の魅力もご紹介いたします。
「縦の家」は、6つの部屋を組み合わせて、空間を縦に広げた家。スキップフロアによりスペースを縦・斜めに使い、3階建てという概念に縛られない、縦横無尽に広がる空間を造りだせる家なのだとか。
日射取得の厳しい都市部でも最低限のエアコン使用で快適に過ごせる性能をもっているそうなので、まさに都市の暮らしにうってつけ。そうかと思うと、外壁には天然杉板張りが採用されていて、都市型住宅の概念を一新する温かみも感じさせます。

株式会社MUJI HOUSEによると、今回の名古屋のモデルハウス以降も、新モデルハウスのオープン予定が複数あるそうです。2018年7月には「鹿児島店(木の家)」、「つくば店(窓の家)」。同10月には「湘南店(木の家)」「姫路店(木の家)」のオープンを予定しているそう。「無印良品の家」の購入を検討されている方は要注目です。

【2017年新築マンション】平均購入価格は首都圏が5452万円で過去最高、関西圏が4060万円で微減

リクルート住まいカンパニーでは、「2017年首都圏新築マンション契約者動向調査」及び「2017年関西圏新築マンション契約者動向調査」の結果を発表した。新築マンションの平均購入価格は、首都圏では上昇、関西圏では微減するものの、ローンの借入額はいずれも過去最高になる結果となった。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「2017年新築マンション契約者動向調査」を発表/リクルート住まいカンパニー
●首都圏
●関西圏平均購入価格は首都圏が5452万円で過去最高、関西圏が4060万円で微減

調査は、新築マンションの購入契約者を対象に、2017年1月~12月に集計した、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県:4768件)と関西圏(大阪府・京都府・兵庫県・奈良県・和歌山県・滋賀県:1160件)の結果をまとめたもの。

新築マンションの平均購入価格は、首都圏が5452万円となり、2001年の調査開始以来の最高額になった。これに対して、関西圏は4060万円で前年より34万円低下となった。首都圏と関西圏で動向に違いが出た理由は、マンション価格が高額となる都心部の占めるシェアの違いだ。

首都圏では、購入価格「6000万円以上」が30.5%となり、前年(23.2%)より大きく拡大したが、これが平均額を引き上げる要因となっている。購入した物件の所在地を見ると、「東京23区」のシェアは43.2%となり、前年(40.3%)より拡大した。「東京23区」のシェアが広がっていることと、6000万円以上の購入者が増えていることとは関係性があるだろう。

一方、関西圏では購入価格「5000万円以上」の14.2%(前年16.8%)と「3500万~4000万円未満」の23.1%(前年27.0%)の縮小が目立つ。購入した物件の所在地でも「大阪市」のシェアが35.5%となり、前年(40.2%)より縮小した。こちらも、大阪市などの高額都心部の購入者が減ったことの影響があると見てよいだろう。

【画像1】購入価格(全体/実数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年首都圏新築マンション契約者動向調査」「2017年関西圏新築マンション契約者動向調査」)

【画像1】購入価格(全体/実数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年首都圏新築マンション契約者動向調査」「2017年関西圏新築マンション契約者動向調査」)

では、供給サイドの状況を見てみよう。不動産経済研究所の首都圏および近畿圏の「マンション市場動向2017(年間まとめ)」によると、東京都区部の首都圏におけるシェアは44.6%で、対前年で8.5%増、大阪市部の近畿圏におけるシェアは48.5%で、対前年で15.4%増となっている。

購入物件所在地の結果を見ると、大阪市内のシェアはむしろ前年より減少しているので、供給量の増減とは必ずしも一致しないことが分かる。購入者にとって手の届きやすい価格か、魅力的なマンションかなどの影響もあるのだろう。

ローンの借入総額は首都圏・関西圏ともに2005年以降の最高額 返済は大丈夫?

さて今回の調査結果で注目したいのは、ローン借入総額の平均額だ。

首都圏が平均4568万円で2005年以降の最高額。借入額「5000万円以上」という人が前年(28.0%)より大きく増えて35.0%になった。関西圏は平均3512万円で同じく2005年以降の最高額。借入総額「4000万~5000万円未満」という人が前年(17.7%)より増えて22.1%になった。

【画像2】ローン借入総額(ローン借入者/実数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年首都圏新築マンション契約者動向調査」「2017年関西圏新築マンション契約者動向調査」)

【画像2】ローン借入総額(ローン借入者/実数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年首都圏新築マンション契約者動向調査」「2017年関西圏新築マンション契約者動向調査」)

超低金利が続くとはいえ、こんなに借りて、返済は大丈夫なのだろうか?

平均世帯総年収を見ると、首都圏で944万円、関西圏で776万円だ。
世帯総年収がこれだけあれば、返済負担もさほど重たくはないだろう。ただし、注意したい点がある。

既婚世帯のうちの共働き比率を見ると、首都圏で64.9%、関西圏で60.4%とかなり高い。例えば、夫だけの年収が900万円の場合も、夫の年収が500万円・妻の年収が400万円の場合も、世帯総年収は900万円になる。ただし、共働きの場合は夫婦ともに働き続けないと年収900万円を維持できない。子育てや介護などの理由でどちらかが働けなくなったとしたら、年収が一気に下がるというリスクなどにも配慮したい。

購入理由として「金利が低く買い時」が大きく減少!

最後に、購入理由を見ていこう。

首都圏・関西圏ともに、住まいの購入を思い立った理由は、「子供や家族のため、家を持ちたいと思ったから」が最多で、「現在の住居費が高くてもったいないから」、「金利が低く買い時だと思ったから」と続く。
2017年の特徴として、前年では2番目に多かった「金利が低く買い時」の理由が大幅に下がった点に注目したい。

アベノミクスによる超低金利が長く続いてきたことで、購入理由としての影響力が下がっているのだろう。代わりに上昇したのが、関西圏では「子供や家族のため」や「住居費がもったいない」であるが、首都圏では「資産を持ちたい、資産として有利」であるという点も興味深い。首都圏では、新築マンションを住まいより資産として見る傾向が高まっているのだろうか。

筆者は、「マイホームは欲しいと思ったときが買い時」と考えている。まず、マイホームで日々暮らしたいと思う「理由」があってのことと思うので、その人なりのタイミングは大きな決め手になる。加えて、購入には時間とパワーもかかるので、欲しいと思った情熱でやり抜くことも重要だからだ。さらに今なら、低金利のメリットも活かせるだろう。

だからといって、無理な借り入れをするのは禁物だ。金利が上昇したときに返済に無理はないか、いつまで共働きを続けられる見通しがあるか、ほかに大きな出費の予定はないか、などをきちんと考慮した上で、自分らしいマイホームを見つけてほしいと願う。

なぜ売れる? 空き家専門マッチングサイト「家いちば」のノウハウとは

空き家の売り手と買い手をつなぐマッチングサイト、「家いちば」が話題を集めている。なぜなら、不動産会社が「売れる見込みがない」と取り扱いを渋るような、古い空き家が売れるというからだ。どうしてここでは売れるのか? 「家いちば」を運営する藤木哲也(ふじき・てつや)さんに話を聞いた。
掲載物件は住宅や飲食店、ホテル、郵便局までと幅広く

新聞やテレビで次々と取り上げられ、注目を集めている空き家のマッチングサイト、「家いちば」。2015年の立ち上げ以来、成約件数は徐々に伸び、17年10月からは月平均5,6件ペースだという。18年2月は9件だった。

一般的な不動産売買のポータルサイトのように、“中古だけど、それ以外の条件は◎”というたぐいの物件ばかりではない。それどころか、相当の築年数がたっていたり、長年放置され荒れていたり、周囲には交通機関らしきものが見当たらない不便な地域にたっていたりするものもある。

住宅が大半だが、ホテルなどの宿泊施設や郵便局などの施設、敷地や山林まで混じっているのも印象的だ。販売価格は、「タダでもいいからもらってほしい」といった0円のものから、1億円までと幅がある。

「空き家は売れないと言われますが、ニーズはあるんです。これまで成立した契約には、『自分には不要でも、他の人には魅力的な条件がそろっていた』というケースが多い。そんな幸福なマッチングがあって、空き家は売れていきます」と、サイトの運営者で不動産コンサルタントの藤木さんは話す。

掲載物件の一例、郵便局。約80組の購入希望者から問い合わせがあり、売却が決まった(画像提供/家いちば)

掲載物件の一例、郵便局。約80組の購入希望者から問い合わせがあり、売却が決まった(画像提供/家いちば)

掲載物件の一例。二世帯で暮らしていた母屋と離れを、引越しを機に売却希望。場所は福島県郡山市(画像提供/家いちば)

掲載物件の一例。二世帯で暮らしていた母屋と離れを、引越しを機に売却希望。場所は福島県郡山市(画像提供/家いちば)

売れるポイントは、“売り手自身が物件を紹介すること”にある

売買の仕組みはこうだ。空き家や空き地の売り手が、掲示板に物件の情報を投稿する。掲載は無料だ。買いたい人がサイトを通じて連絡した後、藤木さんらのサポートを受けながら、当事者同士で交渉を始める。交渉が成立したときは、宅地建物取引業の免許をもつ「家いちば」の運営会社、エアリーフローが、重要事項説明や契約書の作成をするなど、売買の手続きを行う。成約した場合のみ、物件価格の1.5~5%の仲介手数料をもらい受けている。

千差万別の物件がそろうなか、どうやってニーズの合う売り手と買い手が出会い、交渉成立に至るのだろうか。藤木さんによれば、そのポイントは、仕組みのなかの「売り手自身が、物件の紹介記事をつくることにある」という。売り手は、キャッチコピーの売り文句や物件の説明を書き、写真を提供している。運営者は、ほとんど手を加えない。

「当サイトでは、契約前には、売り手と買い手が直接交渉をします。それに備えて、ほとんどの売り手は、その物件の再建築不可などのネガティブな条件まで包み隠さずに書くんです。また、空き家と言っても思い出が詰まっている場合も多く、丁寧に使ってほしいという思いで、これまでの歴史などもしっかり書く。このように、一般的なポータルサイトなどと比べ建物の情報が多岐にわたることから、安心して交渉できるのではないでしょうか」と藤木さん。

「家いちば」のトップページ。売却物件の情報がずらりと並ぶ。※画像にある物件は撮影時の物件になるため、詳細は確認が必要

「家いちば」のトップページ。売却物件の情報がずらりと並ぶ。※画像にある物件は撮影時の物件になるため、詳細は確認が必要

サイトを通じて全国各地の売り手、買い手が結び付く

ここで、契約が成立した2つの例を紹介しよう。

まずひとつは、石川県の海沿いにある、築75年の古民家の例だ。25年以上空き家だったが、相続を機に売り手Aさんは売却を考え始めた。売れなければ解体する心づもりだった。

そんなときに見つけたのが「家いちば」だ。サイトを活用した理由についてAさんは、「掲載物件の所在地が限定されていなかったことと、所有者側の事情や希望を自分の言葉で語れるサイトだったこと。地方で、思い入れのある家を手放す人に合っていると思います」と話す。

その結果、現地を見に来て、由緒ある建物のつくりと、周囲の街並みにほれ込んだという買い手Bさんが現れた。契約は無事成立。ちなみに、買い手Bさんは今後、この建物だけでなく、街並みの維持にも貢献したいと考えているそうだ。

契約が決まった、石川県の築75年の古民家。重厚な能登瓦、外壁の下見板張りなど古民家の魅力があふれる(画像提供/家いちば)

契約が決まった、石川県の築75年の古民家。重厚な能登瓦、外壁の下見板張りなど古民家の魅力があふれる(画像提供/家いちば)

上記の古民家のあるまちの様子。連続する能登瓦と下見板張りの壁が風情を生む(画像提供/佐藤正樹)

上記の古民家のあるまちの様子。連続する能登瓦と下見板張りの壁が風情を生む(画像提供/佐藤正樹)

もうひとつは、鹿児島県の築40年の元花屋の店舗だ。売り手Cさんは4年前に身内が営業をやめてから売却を考えていたものの、リフォームにも解体にもコストがかかるなどの理由から、不動産会社経由では売れなかった。

「『家いちば』は、そういった不利な条件でも掲載できるので、利用してみることにしました」とCさん。情報の掲載から約1週間のうちに問い合わせが来て、契約に至った。買い手Dさんは東京都に住んでいるが、「家いちば」でこの物件を見て、付近に親戚がいるこのエリアと建物に興味をもち購入を決めたのだという。若者が集う場として再生したいと、今、計画を練っているところだ。

契約が決まった、鹿児島県の元花屋の店舗。以前は料亭だったため、天井の細部にその名残がある(画像提供/家いちば)

契約が決まった、鹿児島県の元花屋の店舗。以前は料亭だったため、天井の細部にその名残がある(画像提供/家いちば)

「その建物と、地域を大切にしたい」という気持ちを忘れずに

最後に、藤木さんに、空き家を購入するときの心構えやマナーを尋ねた。

「単に、タダだから譲り受けよう、安いから買ってみようなどとは、思わないでほしいんです。空き家の売り主のなかには、先祖代々の土地と建物を売ることに抵抗感がある人も多い。それを乗り越えられずにいるから、空き家になっているという事情もあるんですね。

『先祖代々の建物と土地を預かる』『近隣との昔ながらの付き合いを大切にする』という気持ちを忘れずに、また、その気持ちを売り手にきちんと伝えつつ、購入の交渉に臨んでいただきたいと思います」

今後、引越し先などで住まいや店舗を探すとき、こういったマッチングサイトや口コミを通じて、空き家活用を選択肢に加える手もありそうだ。空き家は流通にのっていないケースが多いので、契約時には宅地建物取引士など不動産のプロに、快適に住めるかどうか、リフォームが必要かなどは建築士など住まいのプロにアドバイスをあおぎたい。

そして、藤木さんの言うように、売り手の建物への思いや昔ながらの付き合いを継承するといった配慮を、念頭に置いてほしいと思う。

(構成・文/介川亜紀)

●取材協力
・家いちば

なかなか増えない保育園併設マンション、その理由を探ってみた

保育園に入りたいけれども、入れない「待機児童問題」。その解決策のひとつとして、2017年秋、国土交通省・厚生労働省が「大規模マンション建設における保育施設の設置を促進します」を発表しました。では、「保育園併設マンション」がなかなか増えない理由とはどこにあるのでしょうか。行政とデベロッパーに取材してきました。
保育園併設マンション、メリットが薄い購入者も?

保育園の待機児童の問題が話題になると、「大規模マンションに保育園を併設すれば、待機児童も解消できるしマンションも売りやすいんじゃないの?」そう考えたことがある人が、いるのではないでしょうか。

筆者が記憶する限り、大規模マンションが多数登場した2000年代前半には認証/認可保育園併設のマンションが登場していたように思います。しかし、「保育園併設のマンション」の供給戸数やエリア、ニーズなどを網羅したデータはなく、まだまだ一般的になったとは言い難い状況です。

写真/PIXTA

写真/PIXTA

最も大きなポイントとなるのは、認可保育園の場合、マンションの購入者・住人だからといって、優先的に入れるわけではないところでしょう。認可外や認証であればマンション住人優先枠を設けているところもあるようですが、人気が高く、多くの親が利用したいと考えている認可保育園の場合であれば、地域住民と同じように審査されるわけで、マンションに住んでいるのに「落ちた……」という可能性は十分にあるのです。

また、マンションの規模が大きければ大きいほど、シニアカップルやDINKS、シングルなど、多彩な世帯が購入します。子育て世帯向けに利用が限られていて、しかも入れるどうかが不透明というのであれば、「保育園併設マンション」のデメリットに目が向いてしまうのも、ムリはないかもしれません。

保育園の運営会社に携わる、デベロッパー側の思いとは?

一方で、デベロッパーはどんな思いを抱いているのでしょうか。大手デベロッパーの東京建物は、2016年、保育園開設 ・運営を行う「東京建物キッズ」を立ち上げました。デベロッパー側から見て、保育園併設マンションを建設するうえで課題はあるのでしょうか。

「マンション企画・開発と保育園の企画・開発などは似ているところが多く、建物をつくるところまではほぼ一緒です」と話すのは、マンション開発の経験をもちながら、保育事業部でエリアマネージャーを務める猪俣章信さん。建築法規などを順守しつつ、行政との協議を行い、建物やコミュニティつくっていくのは、デベロッパーの得意とするところだといいます。

つまり、保育園のための「ハコ」や「建物」そのものをつくるのは、あまり難しいことではないというのです。ただ、肝心の保育園はその性質上、運営に関しての参入障壁が高いのだといいます。

「乳幼児を預かるわけですし、行政からの補助金で運営するので、保育園運営はどこの誰でもOKというわけにはいきません。参入障壁があるのは当たり前ではないでしょうか」と、解説してくれたのは、事業企画部部長の田所照代さん。そのため、保育園開設に際しての審査も多く、その度に確認、調整、書類作成が必要になるといいます。

また、デベロッパー側からみれば、保育園が不足する都市部の土地は、マンション・商業施設・ホテルなどとの争奪戦で仕入れた土地です。一住戸でも販売住戸を増やして利益を出したいという「事業性」の観点からみても厳しい側面があるそうです。

「デベロッパーは用地買収の際に、事業計画を立案し、どの程度の収益を見込むかを勘案しています。ですから、用地買収後に自治体から保育園を要望されても難しいのも事実です。一企業の使命感やCSRというだけではなかなか増えないでしょう。どの企業が土地を購入するとしても、フェアな競争になるよう、自治体側で要綱・条例が整備されることによって、状況は変わるのではないでしょうか」と田所さんは解説します。

写真/PIXTA

写真/PIXTA

保育施設促進の通知を出した国交省の考えは?

では、2017年秋に「大規模マンション建設における保育施設の設置を促進します」という通知を出した、国土交通省はどう考えているのでしょうか。あらためて通知を出した背景について聞いてみました。

「ご存じのとおり、待機児童問題の解消は喫緊の課題です。ただ、保育園の開園は行政だけの力では難しく、民間事業者に広く呼びかける必要があり、通知にいたりました。しかし、今回の通知だけで、待機児童の問題が解消されるとは考えていません」と担当者は話します。

今までタテ割りだった行政(マンション建設担当部署・保育担当部署)の情報共有が活発になることや、「保育園併設マンション」の成功事例が周知されることが、待機児童問題解消の一助になると考えているようです。

また、保育園併設マンションがなかなか増えない要因としては、次の2つをあげてくれました。
「保育園併設マンションについては、(1)保育園は商業施設などと比べた場合、事業性が低いこと(2)将来的に住人のニーズがなくなってしまう などの懸念があると聞いています。そのため、今回の通知では将来の用途変更についても配慮した内容となっています」

ちなみに、すべての大規模マンションに保育園開設を義務づけることは、デベロッパーの財産権の侵害になる可能性があり、難しいといいます。そのため、今後も地域の保育需要にもとづき、行政とデベロッパーの話し合いで建設が協議されていくことになる、と教えてくれました。

写真/PIXTA

写真/PIXTA

ここまでまとめると、マンション購入者にとっても、デベロッパーにとっても「直接的なメリットが薄い」、行政にとっては「デベロッパーと協議し、お願いしていくしかない」というのが保育園併設マンションの実情のようです。

働く母親でもある筆者は、今回、子どもの預け先がなく5カ月の娘とともに取材にのぞみました。幸い、春からの保育園入園が決まっていますが、多くのママたちが今まさに「保育園に入りたい!」と叫んでいるのをみると、第一子のときの保育園落選を思い出し、心が痛くなります。課題はあるかもしれませんが、保育園併設マンションは待機児童問題の解決策のひとつになると思うのです。

現状でも「開設当初は認可外保育施設(例:企業型保育所など)で立ち上げ、マンション住人に優先権を付与し、10年後に認可保育園に移行させてもらう」といった条件で建設するなど、保育園併設マンションを増やす工夫の余地があるといいます。

地道ではありますが、みんなで「保育園併設マンションがもっと増えてほしい!」という声をあげていくことが大切だと思っています。

●取材協力
・東京建物キッズ
・国土交通省

本好き夫婦が暮らす”おウチライブラリー”がある家(後編) テーマのある暮らし[1]

医療系の出版社にお勤めの加藤泰郎(かとう・やすあき)さん。仕事上、本を購入する機会が多いことに加えて、夫婦そろって無類の活字好き。そんな本好きが高じて、本とともに暮らす家を手にしました。大好きな本に囲まれたライフスタイル、その後編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。

いよいよ「本とともに暮らす家」のメインとなる2階へ

活字が大好きな加藤さんは、本の編集に携わっています。以前は建築関係、現在は医療関係と専門書を読む機会が多く、どんどん本が増えているのだとか。その本のほとんどは、2階のリビング・ダイニングに収められています。

「後になって読み返すか? といったら、その頻度は低いかもしれません。どちらかというと捨てられないタイプなんです。それでも、1年に1回くらい本の整理をして処分しているのですが、これがなかなか追いつかない(笑)。そこで、家のリフォームに合わせて、本を収納できる棚も欲しい、と建築家に相談しました」

では早速、今回のメインとなる2階にお邪魔してみましょう。

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

イメージは樽のタガ、開放的なリビングをぐるっと囲む本棚

2階は、すっきりとした1ルームのリビングダイニングキッチン。元々、増築したアパートの壁があった部屋ですが、当時の柱だけを残し、壁を抜いたことで開放感のある回遊型空間が生まれました。この空間をぐるっと囲むように、5段の棚が壁につくられています。

「イメージしたのは、ウイスキー工場やワイナリーにある樽のタガ。棚で囲むことで建物の強度も増すだろう、という思いもあって、可能な限り隙間なく設置してみました」と話すのは、このリフォームを担当した建築家の荒木さん。この棚が、本はもちろん、いろいろな用途に使える大容量の収納スペースとなるわけです。

「確かに、棚が欲しいということはお話ししました。でも、ここまで多くなるとは想像してなくて、最初はビックリしました(笑)」

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

また、階段の隣には「縦180cm×横90cm」の吹抜けがあり、1階と2階をひとつにさせる一体感も演出。それぞれ1階と2階で離れていても会話ができるくらい、音と風が流れる空間になっています。

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

「出会いは突然に」当時の技と現代の技がコラボ

「現場で天井を壊していたときに、いきなり現れたのがツガ材の梁。ずっと天井裏に隠れていた梁はきれいで、見た目も良かったので、”見せる梁“にしようと遊び心をプラス。場所によって天井の高さを変えたことで同じ部屋のなかでも動きができ、見た目にもメリハリがつきました」

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

柱も梁と同じく、ツガ材でできています。「リフォームは、実際にフタを開けてみないと状態が分からないことが多いんです。幸い柱はシロアリにやられることもなく、全て使えたのでほっとしました」

2階のスペースは基本的に1つの大きな部屋ですが、奥の引き戸を閉めることで、手前をダイニングキッチン、奥の書斎を個室としてそれぞれ使い分けられる柔軟性の高さも魅力的です。限られたスペースだからこそ、部屋のあちこちにさまざまな工夫が施されています。

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

窓の前にも棚!? 幅広いジャンルの本が並ぶ「おウチライブラリー」

よく見ると窓の前にも棚が。そして、2階の窓にはカーテンが一枚もありません。「1階と同じように、2階も今まで使っていたサッシをそのまま活用しています。曇りガラスというのもありますし、ここに長く住んでいるのでご近所さんはみんな顔見知り。だからなのか、あまり気にならないですよ。それよりも、窓の掃除に苦労しています(笑)」

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、棚の一番上は3匹の猫が使うキャットウォークとして空けているのだそう。
「自分の専用スペースと分かっているのでしょうか。本にいたずらすることもなく、いつも棚の上を走り回っています」

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

加藤さん夫妻が大切にしているのは本だけに限らず、家の持ち主だった祖父母への感謝、家族の歴史や記憶、当時の家を建てた職人さんへのリスペクト、そして愛らしい猫たち。「本を捨てられない」という言葉からも、「全てを大切にする心」がベースにあると感じました。ほっこりした温かさにあふれる住空間は、おふたりの人柄そのもので、やさしさのおすそ分けをいただきました。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

憧れの壁一面本棚を楽しむ ”おウチライブラリー”がある家(後編)テーマのある暮らし[1]

医療系の出版社にお勤めの加藤泰朗(かとう・やすあき)さん。仕事上、本を購入する機会が多いことに加えて、夫婦そろって無類の活字好き。そんな本好きが高じて、本とともに暮らす家を手にしました。大好きな本に囲まれたライフスタイル、その後編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをお伺いします。

いよいよ「本とともに暮らす家」のメインとなる2階へ

活字が大好きな加藤さんは、本の編集に携わっています。以前は建築関係、現在は医療関係と専門書を読む機会が多く、どんどん本が増えているのだとか。その本のほとんどは、2階のリビング・ダイニングに収められています。

「後になって読み返すか? といったら、その頻度は低いかもしれません。どちらかというと捨てられないタイプなんです。それでも、1年に1回くらい本の整理をして処分しているのですが、これがなかなか追いつかない(笑)。そこで、家のリフォームに合わせて、本を収納できる棚も欲しい、と建築家に相談しました」

では早速、今回のメインとなる2階にお邪魔してみましょう。

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

家の中央に位置する階段は、吹抜けタイプ。階段の幅は90cmですが、手すりのみのシンプルなつくりで、圧迫感はありません。階段を上っていくと、正面に本棚が見えてきます(写真撮影/内海明啓)

イメージは樽のタガ、開放的なリビングをぐるっと囲む本棚

2階は、すっきりとした1ルームのリビングダイニングキッチン。元々、増築したアパートの壁があった部屋ですが、当時の柱だけを残し、壁を抜いたことで開放感のある回遊型空間が生まれました。この空間をぐるっと囲むように、5段の棚が壁につくられています。

「イメージしたのは、ウイスキー工場やワイナリーにある樽のタガ。棚で囲むことで建物の強度も増すだろう、という思いもあって、可能な限り隙間なく設置してみました」と話すのは、このリフォームを担当した建築家の荒木さん。この棚が、本はもちろん、いろいろな用途に使える大容量の収納スペースとなるわけです。

「確かに、棚が欲しいということはお話ししました。でも、ここまで多くなるとは想像してなくて、最初はビックリしました(笑)」

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

「最初はジャンルごとに本の置き場所を決めていたのですけど、最近はつい空いているところに置いちゃって……」と妻の加藤さん。それでも、どこに何があるかを把握してるのはさすが! (写真撮影/内海明啓)

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

キッチン、階段、吹抜けを部屋の中央に集め、その周囲を自由に行き来できるつくりになっています。それを囲むように、つくり付けの棚(青色で塗った部分)を設置

また、階段の隣には「縦180cm×横90cm」の吹抜けがあり、1階と2階をひとつにさせる一体感も演出。それぞれ1階と2階で離れていても会話ができるくらい、音と風が流れる空間になっています。

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

2階から吹抜けを覗くと、真下に洗面台が見えます。洗面台の裏側は洗濯機置き場、その奥がバスルーム、反対側の廊下奥にはトイレ。どこにいても声をかけやすい間取りです(写真撮影/内海明啓)

「出会いは突然に」当時の技と現代の技がコラボ

「現場で天井を壊していたときに、いきなり現れたのがツガ材の梁。ずっと天井裏に隠れていた梁はきれいで、見た目も良かったので、”見せる梁“にしようと遊び心をプラス。場所によって天井の高さを変えたことで同じ部屋のなかでも動きができ、見た目にもメリハリがつきました」

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

天井を高くしたダイニングテーブル側の棚には、CDや可愛い小物類、加藤さんの趣味でもあるカメラ、フォトフレームなどが飾られています(写真撮影/内海明啓)

柱も梁と同じく、ツガ材でできています。「リフォームは、実際にフタを開けてみないと状態が分からないことが多いんです。幸い柱はシロアリにやられることもなく、全て使えたのでほっとしました」

2階のスペースは基本的に1つの大きな部屋ですが、奥の引き戸を閉めることで、手前をダイニングキッチン、奥の書斎を個室としてそれぞれ使い分けられる柔軟性の高さも魅力的です。限られたスペースだからこそ、部屋のあちこちにさまざまな工夫が施されています。

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

キッチンは回遊性の高い、アイランドタイプになっています(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

「書斎横の引き戸は開けたり閉めたりできるので、ときには個室、ときにはオープンと、そのときどきで自由に使えるようにしてもらいました」(写真撮影/内海明啓)

窓の前にも棚!? 幅広いジャンルの本が並ぶ「おウチライブラリー」

よく見ると窓の前にも棚が。そして、2階の窓にはカーテンが一枚もありません。「1階と同じように、2階も今まで使っていたサッシをそのまま活用しています。曇りガラスというのもありますし、ここに長く住んでいるのでご近所さんはみんな顔見知り。だからなのか、あまり気にならないですよ。それよりも、窓の掃除に苦労しています(笑)」

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

本の紙焼け防止と日当たりの確保から、できるだけ窓の前には本を置かないように心がけているそうです(写真撮影/内海明啓)

ちなみに、棚の一番上は3匹の猫が使うキャットウォークとして空けているのだそう。
「自分の専用スペースと分かっているのでしょうか。本にいたずらすることもなく、いつも棚の上を走り回っています」

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

専門書から歴史もの、小説と、幅広いジャンルの本が並んでいる膨大なライブラリー。「“見せる収納”は掃除やメンテナンスが大変ですが、部屋をキレイに保つためのモチベーションにもなります」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

床材は柔らかいスギを使用。「傷がつきやすいですが、足への負担が少なく、断熱性もあって、床に寝転んでも痛くなりません。人にも猫にもやさしい材料です」(写真撮影/内海明啓)

加藤さん夫妻が大切にしているのは本だけに限らず、家の持ち主だった祖父母への感謝、家族の歴史や記憶、当時の家を建てた職人さんへのリスペクト、そして愛らしい猫たち。「本を捨てられない」という言葉からも、「全てを大切にする心」がベースにあると感じました。ほっこりした温かさにあふれる住空間は、おふたりの人柄そのもので、やさしさのおすそ分けをいただきました。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

築50年の家をリフォーム、猫3匹とくつろぐ ”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]

「きっかけは、老朽化した家を快適な環境にすることでした」と話す加藤泰朗(かとう・やすあき)さん。夫婦そろって本好きという加藤さんは、リフォームを機に今までスペースを取っていた本の”美しい収納“にもこだわりました。大好きな本に囲まれたライフスタイルとは? 今回はその前編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをうかがいます。50年の時を経た祖父母の家をリフォーム

加藤さんの家は、神楽坂駅から徒歩10分。細い路地を入った閑静な住宅街に、夫婦で暮らしています。現在は、医療系の出版社に勤務している加藤さん。実はこの家、もともと加藤さんの祖父母が住んでいたもの。築50年になる母屋にアパートが付いた建物は、親の代を経て3代目の加藤さんが受け継ぐことになりました。

しばらく夫婦で暮らしていましたが、年季の入った家は傷みが進んでいるうえに使い勝手も悪く、断熱材も使われていません。「お風呂場は外のブロック塀とくっついているし、部屋の壁もわずか1枚。冬はもう寒くて仕方ありませんでした」

加藤さん夫婦は3匹の愛猫(11歳になる八兵衛くん、8歳のまめ吉くん、3歳のまん福くん)と一緒に暮らしています。取材がはじまると年長の八兵衛くんがやって来て、スリスリと挨拶をしてくれました。

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

土間が中心の1階は、新しく生まれた庭を楽しむ開放的な空間に

「ここを更地にして家を建てる、という発想はなかったです。せっかく引き継いだ家なので、今あるものを残してリフォームすることを決めていました」

そんな加藤さん宅の1階は、約9畳の土間が中心。土間の中央には2階への階段、その奥は寝室となる和室。その隣には譲り受けた年代モノの桐箪笥(きりだんす)が置かれており、おばあちゃんの家に遊びに来たようなぬくもりが感じられます。

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

また、昔の母屋があった場所を減築(建物の一部を解体)して、あらたに6坪の庭をつくりました。階段下をふさがなかったのも、和室から庭までのつながりを持たせるためで、和室からも庭を楽しめる開放的な空間になっています。ちなみに、階段下は猫たちのトイレスペース。砂が多少とび散っても、下が土間なので掃除をするのもラクになったとか。

「夏になると、うちの子はみんな土間でゴロゴロしていますよ。風もよく通って涼しいですし、土間ならではのひんやり感は、猫たちも気に入ってくれているみたいです(笑)」。建物全体に断熱材を入れ、土間には土間暖房も設置しているため、冬でも寒すぎず快適に過ごせるそうです。

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

1階の本棚も圧倒的な存在感

土間が中心の1階といっても、ここにも本棚はあります。メインの本棚は2階のリビング・ダイニングになりますが、バスルームとトイレを結んでいる1階の廊下やその手前の壁にも棚をつくって、本を置くスペースに。ずらっと並ぶ本の数々が、存在感を放っています。

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

どうやら、加藤さんの本好きはDNAのなせるわざなのかもしれません。というのも、実はこの家とともに受け継いだ本もたくさんあるのだそう。「この1番上と2番目の棚にある本は、新聞紙に包まれて押入れに保管されていた文芸集です。ほかにもありますが、この赤い装丁がとてもきれいなので、日差しを直接受けないこの場所で保管することに決めました」

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

古民家風の風情が落ち着く、障子と昭和レトロな曇りガラス

1階でもうひとつ特徴的なのは、古民家風な雰囲気を醸し出している障子付きのサッシ。掃き出し窓として使われていた当時のものをそのまま活用して、土間との一体感を演出しています。

「日差しが強いときは障子を閉めればいいですし、カーテンやブラインドと違って暗くなり過ぎないのも障子の良さ。外からの目隠しにもなりますしね。ただ、一番下の障子は猫が突き破るので、そのまま空けています(笑)」

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

障子を開けると、サッシの下半分は昭和のレトロ風情が漂う模様付きの曇りガラス。「妻がとても気に入って、これだけは残したい、という想いがありました。それに、今どきこういうガラスは珍しくて、なかなか見つからないです」。多層づくりではないシングルのガラスでも、障子があるため、断熱効果や結露の防止になるのだとか。
「リフォーム前にここに実際に暮らしていたからこそ、残したい部分と変えたい部分が明確になっていました」

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

さて、本と暮らす家【前編】はここまで。【後編】では、いよいよ2階のリビング・ダイニングを紹介。見渡す限り本、本、本……と数えきれないほどの本に囲まれたライフスタイルのメインに迫ります。【後編】も、どうぞお楽しみに。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

本好き夫婦が暮らす”おウチライブラリー”がある家(前編) テーマのある暮らし[1]

「きっかけは、老朽化した家を快適な環境にすることでした」と話す加藤泰郎(かとう・やすあき)さん。夫婦そろって本好きという加藤さんは、リフォームを機に今までスペースを取っていた本の”美しい収納“にもこだわりました。大好きな本に囲まれたライフスタイルとは? 今回はその前編をお届けします。【連載】テーマのある暮らし
この連載では、ひとつのテーマで住まいをつくりあげた方たちにインタビュー。自分らしい空間をつくることになったきっかけやそのライフスタイル、日々豊かに過ごすためのヒントをうかがいます。50年の時を経た祖父母の家をリフォーム

加藤さんの家は、神楽坂駅から徒歩10分。細い路地を入った閑静な住宅街に、夫婦で暮らしています。現在は、医療系の出版社に勤務している加藤さん。実はこの家、もともと加藤さんの祖父母が住んでいたもの。築50年になる母屋にアパートが付いた建物は、親の代を経て3代目の加藤さんが受け継ぐことになりました。

しばらく夫婦で暮らしていましたが、年季の入った家は傷みが進んでいるうえに使い勝手も悪く、断熱材も使われていません。「お風呂場は外のブロック塀とくっついているし、部屋の壁もわずか1枚。冬はもう寒くて仕方ありませんでした」

加藤さん夫婦は3匹の愛猫(11歳になる八兵衛くん、8歳のまめ吉くん、3歳のまん福くん)と一緒に暮らしています。取材がはじまると年長の八兵衛くんがやって来て、スリスリと挨拶をしてくれました。

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

「本とともに大切にしたかったのは、人にも猫にも気持ちよく過ごせる空間」と話す加藤さん夫妻。細かく区切っていた壁を抜いたことで、さらに日当たり抜群の環境に(写真撮影/内海明啓)

土間が中心の1階は、新しく生まれた庭を楽しむ開放的な空間に

「ここを更地にして家を建てる、という発想はなかったです。せっかく引き継いだ家なので、今あるものを残してリフォームすることを決めていました」

そんな加藤さん宅の1階は、約9畳の土間が中心。土間の中央には2階への階段、その奥は寝室となる和室。その隣には譲り受けた年代モノの桐箪笥(きりだんす)が置かれており、おばあちゃんの家に遊びに来たようなぬくもりが感じられます。

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

土間と和室の段差は、腰かけて庭を見渡せる高さに設計。桐箪笥の上にある棚にはプロジェクターがあり、映画の上映会も可能です(写真撮影/内海明啓)

また、昔の母屋があった場所を減築(建物の一部を解体)して、あらたに6坪の庭をつくりました。階段下をふさがなかったのも、和室から庭までのつながりを持たせるためで、和室からも庭を楽しめる開放的な空間になっています。ちなみに、階段下は猫たちのトイレスペース。砂が多少とび散っても、下が土間なので掃除をするのもラクになったとか。

「夏になると、うちの子はみんな土間でゴロゴロしていますよ。風もよく通って涼しいですし、土間ならではのひんやり感は、猫たちも気に入ってくれているみたいです(笑)」。建物全体に断熱材を入れ、土間には土間暖房も設置しているため、冬でも寒すぎず快適に過ごせるそうです。

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

夏場も涼しい土間は、漬け物を寝かせる場所としても最適。祖父母の代から庭にある梅の木から今でも収穫できるので、毎年梅干しを漬けているそうです(写真撮影/内海明啓)

1階の本棚も圧倒的な存在感

土間が中心の1階といっても、ここにも本棚はあります。メインの本棚は2階のリビング・ダイニングになりますが、バスルームとトイレを結んでいる1階の廊下やその手前の壁にも棚をつくって、本を置くスペースに。ずらっと並ぶ本の数々が、存在感を放っています。

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

以前の家には洗面所がなかったため、土間の一角に待望の洗面所を設置。配管もむき出しにして圧迫感を減らし、木のぬくもりにマッチするデザインになっています(写真撮影/内海明啓)

どうやら、加藤さんの本好きはDNAのなせるわざなのかもしれません。というのも、実はこの家とともに受け継いだ本もたくさんあるのだそう。「この1番上と2番目の棚にある本は、新聞紙に包まれて押入れに保管されていた文芸集です。ほかにもありますが、この赤い装丁がとてもきれいなので、日差しを直接受けないこの場所で保管することに決めました」

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

赤い文芸集が並んでいる姿は、オブジェとしても楽しめるアクセントに。その下には、庭の手入れや家庭菜園用の園芸本もたくさん。庭に通じる玄関脇にあるため、ガーデニングの際にすぐ手に取れるようにしているのだとか(写真撮影/内海明啓)

古民家風の風情が落ち着く、障子と昭和レトロな曇りガラス

1階でもうひとつ特徴的なのは、古民家風な雰囲気を醸し出している障子付きのサッシ。掃き出し窓として使われていた当時のものをそのまま活用して、土間との一体感を演出しています。

「日差しが強いときは障子を閉めればいいですし、カーテンやブラインドと違って暗くなり過ぎないのも障子の良さ。外からの目隠しにもなりますしね。ただ、一番下の障子は猫が突き破るので、そのまま空けています(笑)」

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

昔の家でよく見かけた、懐かしい欄間(らんま)にも障子が付いて、柔らかい日差しが入ってきます。欄間を開けるだけで空気の入れ替えができるなど、日本家屋ならではの知恵が詰め込まれています(写真撮影/内海明啓)

障子を開けると、サッシの下半分は昭和のレトロ風情が漂う模様付きの曇りガラス。「妻がとても気に入って、これだけは残したい、という想いがありました。それに、今どきこういうガラスは珍しくて、なかなか見つからないです」。多層づくりではないシングルのガラスでも、障子があるため、断熱効果や結露の防止になるのだとか。
「リフォーム前にここに実際に暮らしていたからこそ、残したい部分と変えたい部分が明確になっていました」

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

障子の骨組みも敷居も当時のまま。長い年月を経たとは思えない状態で、日焼けによる風合いが“いい味”に。また、模様付きの曇りガラスは、バスルームとトイレにも使われています(写真撮影/内海明啓)

さて、本と暮らす家【前編】はここまで。【後編】では、いよいよ2階のリビング・ダイニングを紹介。見渡す限り本、本、本……と数えきれないほどの本に囲まれたライフスタイルのメインに迫ります。【後編】も、どうぞお楽しみに。

●取材協力
・有限会社 荒木毅建築事務所

職人が足りないなら育てよう リノベ会社がはじめた「マルチリノベーター(多能工)」育成

今や一般にも広く認知されているリノベーション。しかし、拡大するリノベ業界には深刻な職人不足という大きな課題があり、それを解消するための人材育成の動きが活発化しつつあります。リノベ業界を牽引する企業、
インテリックス空間設計が取り組んでいる「リノベーションカレッジ」もその一つ。どんな育成方法なのか、リノベ業界にはどんな課題があるのか、聞きました。

深刻化する職人不足にともない、「多能工」育成が活発化

住宅を購入して自分らしい住まいにカスタマイズしたい、個性的な住宅に暮らしたい……そんなリノベーションのニーズが高まっている現状にもかかわらず、少子高齢化に伴う労働人口の減少などで、建設現場は高齢化が進行しています。さらに現在、震災復興事業、景気回復やオリンピックに向けた建設ラッシュの影響などで人手不足はより深刻化しつつあります。リノベ工事を依頼して設計が決まっても、職人不足ですぐに着工できず、困った状態になるといったことも考えられます。そうした背景から、リノベーションやリフォームなどの住宅業界では職人を独自に育成する必要性に迫られています。

実は日本の建設業は、他国に比べて分業化が進みすぎていると言われています。大工職人、左官職人など職種が細分化されていると、職人が現場に入るのは工事の進行に応じて半日だけという状況や、待ち時間が長い状況など、非効率的な事態になることも少なからずあるといいます。

人手不足解消に加え、作業の集約化を図るために求められているのが、複数の職種に携われる能力をもつ「多能工」です。「多能工」の職人を育成し活用することで、非効率的な現場から、生産性の高い現場へ変えていくことが可能となるため、積極的に自社で育成に取り組む企業が増えつつあります。

入社後の研修をOJTとし、大工工事、水道工事、電気工事の三職種を一貫して行えるよう技術習得のサポートを行い、自社育成を進めているリフォーム企業もあれば、自社研修にパワーを割けない企業向けに研修施設を開設したという設備商社、多能工養成コースがある専門学校など、取り組みはさまざま。自治体でも職業訓練校で多能工育成のコースを設けたり、国土交通省も多能工(マルチクラフター)育成の必要性を説いたりしています。

リノベ業界で活躍する人材を増やすためには職の効率化が必要

そのなかで、昨年、新たな取り組みをスタートさせたのは、リノベ業界のリーディングカンパニーのひとつであるインテリックスの設計・施工部門「インテリックス空間設計」。3カ月という短期間で「マルチリノベーター(多能工)」を育成する「リノベーションカレッジ」を2017年4月に開校しました。

インテリックスが提唱するマルチリノベーターとは、大工、水道、電気などの専門技術とリノベ全般の知識を備えた施工・管理をトータルに行う専門家。カレッジを、リノベの基礎知識から大工作業、設備工事、プランニング、施工管理まで、座学と現場研修を通じて実践的に習得できる場としています。大工技術等の習得には修行期間を含めて長い期間が必要とされていますが、自社の施工ノウハウをマニュアル化することで、初心者でも技術が習得しやすいカリキュラムとしているそうです。

インテリックス空間設計副社長でカレッジ長を務める藤木賀子さんに、カレッジを立ち上げた経緯についてお話を伺いました。

「職人不足の背景には、若手でなり手がいないという状況があります。なぜ若い世代が職人になりたがらないかと言うと、いわゆる『技術は盗んで覚えろ』という昔ながらの職人文化についていけないためです。職人自身も教えてもらった経験がないから、教え方が分からない。また、教えようと思っても会社規模が小さいところが多いために、限られた施工期間のなかでは、実現場で基礎教育に充てる時間の確保が難しいようです。それなら、事前にリノベの基礎や実践的なスキルを研修してから現場に出る仕組みがあれば、教える側・学ぶ側双方にとって効率が上がり、現場での成長スピードも早まると考えました」

次回は2018年4月開講の予定(開講日4月9日、願書受付3月17日まで、募集人数10名以上)。3カ月で習得することは多岐にわたります(資料提供/インテックス空間設計)

次回は2018年4月開講の予定(開講日4月9日、願書受付3月17日まで、募集人数10名以上)。3カ月で習得することは多岐にわたります(資料提供/インテックス空間設計)

カレッジの座学や実習は月曜日から金曜日の9時半~17時まで。講師は自社社員・協力会社の担当が行います(資料提供/インテックス空間設計)

カレッジの座学や実習は月曜日から金曜日の9時半~17時まで。講師は自社社員・協力会社の担当が行います(資料提供/インテックス空間設計)

設計から施工、積算、現場監督まで。全体を学ぶから生産性の高い人材に

「当カレッジの強みは、リノベーション現場での実習を行わない職業訓練校や専門学校と異なり、当社が手がけている施工現場が常に100件以上あること。実際の現場での研修や見学があり、より理解が深まり実践力を身につけることができます」(藤木さん・以下同)

「職人として独立しても、生産性が低く安定した収入につながらないケースもあり、そうした場合、夢がもてず、老後も安心できません。職人としてだけでなく、現地調査・設計・積算・現場監督・検査方法などリノベーションの入口から出口までを一通り学べるので、生産性の高いマルチリノベーターとして活躍できる人材を送り出す場としたいですね。また、その後のキャリア選択の幅も広げてもらえたら」と藤木さんは語ります。

「マンションリノベーションでは、工事で発生する音やほこり、通路の養生などに対する近隣住人からの要望への対応に時間を取られ、工事がストップしてしまうことも少なからずあるので、施工管理を行う現場監督の役割が重要だと考えています。カレッジでは近隣への接客マナーやコミュニケーション方法も身につけてもらうことになります」

設備交換などのシンプルなリフォームに比べて施工期間が1カ月、2カ月と長期になるリノベーション。マンションという住戸が密接した建物ということもあり、同社でも現場で近隣住人からの要望やクレームが施工中に入ることもあるそうです。監督が常駐していない現場の場合、大工職人が近隣住人に対面することになるのですが、管轄外のことであり、きちんと対応できるかどうかはその人次第となってしまいます。

工事全体を把握し、近隣に対応する折衝スキルをもつ人が現場にいることで、工事を滞らせることなく進めることができるのです。

ご近所対応をうまく行うことで、物件に入居する住人にとっても、気持ちよく入居していただくことにつながるといいます。「生産者を紹介している野菜直売所のように、物件オーナーにとってもご近所の方々にとっても、『リノベ担当者の見える安心な現場』になれればと考えています」と藤木さん。

リノベーションカレッジの授業の様子。現場でも多くの実践的な内容を学べます(資料提供/インテックス空間設計)

リノベーションカレッジの授業の様子。現場でも多くの実践的な内容を学べます(資料提供/インテックス空間設計)

「設計も職人も監督もできるのが魅力」「まずは現場から」という希望者が集う

「2017年4月の1期生は定員の10人が集まりました。不動産会社勤務でリノベをやりたい方、未経験だけれど現場監督になりたい方、解体業者さんなど、20代~60代まで年齢もさまざまで、うち4人が女性の方です。基礎コースの3カ月で45万円(入学金5万円と受講料40万円)の受講料を頂きましたが、それだけに意気込みのある方ばかりでした。専門学校2年間で学ぶような高密度の内容を3カ月という短期間で行うことになりますが、集中したほうが身につきやすいと考えています」

修了後は、希望者には契約社員として現場で理解を深めていく期間があり、試験や面談にパスすれば社員登用の道もあります。1期生で社員となったのは2人。

「当社では社員となった場合、OJTで学び、いずれは現場監督兼大工職人として現場に出ることになります。それ以外の工事は専門の職人が担当します。将来的には、給排水工事、電気設備工事、左官工事などの専門職を兼ねる者が出てくるかもしれません。それは当人次第ですね。いずれそうしたマルチスキルをもった者が独立した場合、協力関係を築けたらと思います」

「カレッジとは別に、昨年末に中途採用でマルチリノベーターの募集をかけたところ、予想外に多くの方から応募がありました。未経験の方も多く、入社後にはリノベーションカレッジで基礎を身につけてもらいます。なかには建築学科卒業の方も多く、『設計をやりたいけれど、現場を知ることから始めたい』『職人にもプランナーにも監督にもなれるから職能的に魅力』という声が多かったですね。現場で学ぶことで実践力が身につく、そうした点に大きな魅力を感じていただいているようです」

大学や専門学校の建築学科では現場施工を学ぶ機会は意外と少なく、リノベーションの全体を把握できないそうで、同社のようにマルチに活躍できる職場を求めている人は想像以上に多いと藤木さんは感じたそうです。

受講者のなかには賃貸アパートオーナーもいました。「大家さんがリノベーションのマルチスキルをもっていると、とても役立つと思います。自分で施工することも可能ですし、業者に依頼する際にも工事内容を把握しているので、依頼内容が的確で追加工事が生じなかったり、見積もりが適正か判断できるためです」

3カ月の短期間にぎゅっと詰まったカリキュラムをやり遂げたことで、皆さん格段に成長したそうです(写真提供/インテリックス空間設計)

3カ月の短期間にぎゅっと詰まったカリキュラムをやり遂げたことで、皆さん格段に成長したそうです(写真提供/インテリックス空間設計)

リノベーションを考えている人にとって、昨今の職人不足はひとごとではありません。安心して任せられる職人兼現場監督が常に現場にいれば、リノベの依頼者・近隣住人にとっても気持ちよく、予定通りに工事を進めることにつながります。

「カレッジの運営は収支だけで考えると赤字ですが、より多くの人がマルチリノベーターとして活躍できるようにするために使命感をもって臨んでいます。『この人なら安心して任せられる』と感じていただける、“顔の見えるリノベ現場”でありたいですね」と、最後に力強く語る藤木さん。お話を伺って、より多くの人材の活躍を期待したいと感じました。

●取材協力
・株式会社インテリックス空間設計「リノベーションカレッジ」

「『勝ち組不動産』の条件を教えてください」 住まいのホンネQ&A(2)

「住まいのホンネQ&A」は、誰もが知りたい住宅に関する様々なQ&Aについて、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく連載です。
第2回の質問は「『勝ち組不動産』の条件を教えてください」。
第1回の「東京五輪前に家を買いたい。選び方のコツはありますか?」という問いに対して、長嶋氏はまず「価値が落ちない家を買うこと」をすすめていました。では具体的にどんな立地を選べばいいのか。またどんな建物なら価値が上がる、もしくは落ちにくい、いわゆる「勝ち組不動産」なのか。今回のコラムで解説します。

「マンションは駅7分以内しか買うな!」の理由

不動産の価値は、1にも2にも3にも「ロケーション」ありきです。どんなに立派な建物でも立地が悪く、次の買い手・借り手が現れなければ不動産評価上の価値は「ゼロ」。要は売れる・貸せるといった「市場流動性」がどの程度あるのかということです。

拙著「不動産格差」(日本経済新聞出版社)には「マンションは駅7分以内しか買うな!」といったキャッチコピーがついていますが、これには理由があります。というのは、新築マンションデベロッパーの用地仕入れ担当者にヒアリングしたところ「駅から求められる距離は年々短くなっており、昨今では駅7分を超えると用地仕入れには非常に慎重になっている」といった見立てを複数耳にしていたためです。

トータルブレイン社の調査結果によれば、17年の首都圏新築マンション販売は「徒歩8分」で明暗が別れた模様。徒歩9分以上になるととたんに販売が苦戦していることから、「今や駅徒歩8分以内の分譲はマーケットの常識」だとしています。

総人口や世帯数が減少し、少子化・高齢化が進展する中で「人口動態」は不動産の需要そのものですから、このままいけば不動産市場が全体として資産価格を下げていくのは必然とも言えます。前回述べた通り、実際には市場が大きく3極化しており「都心」「駅近」などのワードで評される立地はますます強さを増し、それも駅距離で選別が進んでいるわけです。

「ロケーション」というのは必ずしも「駅からの距離」だけを意味するものではありません。例えば港区・渋谷区などの都心地区には「麻布」「青山」「広尾」といった、駅からの距離は遠いのに不動産価値が非常に高いエリアもあります。

あとは例えば、東京五輪開催に沸く都心湾岸地区のマンション価格がこの数年で大きく価格上昇したのは周知の通りですし、2005年開業のつくばエクスプレス開業で周辺地が恩恵を受けたのも事実です。神奈川県では武蔵小杉・川崎・港北ニュータウンなどがやはり再開発の恩恵を受け、山手線品川・田町間にできる新駅と再開発効果、2027年まで続く渋谷駅周辺の再開発は、やはり周辺不動産の価格上昇をもたらします。

一戸建ての場合は多くのケースで必ずしも駅から近いわけではなく、必ずしも駅距離にこだわる必要もありませんが、この場合はまた別のロケーション要素が重要になってきます。例えば「学区」。小中学校の評判が良いところでは子育て世帯を引きつけ、不動産価格が高止まりしますし、近隣に美しい公園がある、買い物利便性が高いといった要素もロケーションのうちです。

不動産選びが「自治体選び」になる?

さらに今後必要になるのが「不動産選びは自治体選びである」といった視点です。前述したとおり、本格的な人口減少や少子化・高齢化はこれから始まります。すると自治体による行政コストはかさむ一方です。税収は減少し、上下水道の修繕やごみ収集などもままならないといった事態に陥る自治体が、今後出てくる可能性がありそうです。

例えば千葉県流山市は「子育てするなら流山市」といったキャッチコピーで、担税力の高い、つまり働いて稼ぎ、納税してくれる市民を増やそうとしています。子育て世帯に焦点をあて、おおたかの森駅、南流山駅の二か所に送迎保育ステーションを設けるなど子育て世帯に優しい政策をとり、UターンやIターンといった子育て世帯の誘致に成功しています。もっとも、そうした政策がうまくいきすぎ、今度は小学校などが足りなくなるといった課題にも直面しています。

いずれにせよ、税収が豊富になれば、それを原資にますます行政サービスを充実させることができ、さらにその街の魅力も高まるといった循環が巻き起こります。するとその自治体の不動産価値は上昇、市民も資産も増え、自治体は税収の多くを占める固定資産税収入のアップも望めます。

国土交通省によれば、2050年には日本の人口は約9700万人に減少、全国の6割以上の地域で、人口が2010年時点の半分以下になるという試算を発表しています。自治体運営を「経営」と捉えて運営に取り組むところとそうでないところの差は、今後ますます強いコントラストで浮かび上がり、自治体選びはやがて、不動産探しの重要なポイントだと認識されるようになるでしょう。

ロケーションの次は「建物のコンディション」

こうした「ロケーション」ありきを前提とした上で、次に重要になるのが「建物のコンディション」。今年4月には、中古住宅取引の際にホームインスペクション(住宅診断)の説明が義務化されます。インスペクションの実施が義務化されるわけではなく、説明が義務化される点には留意が必要ですが、「中古住宅はよくわからない」といった漠然とした懸念を払拭する道を創るため、イギリスやアメリカ・カナダ・オーストラリアではあたり前の様に行われているインスペクションを常識化しようといった取り組みです。

これまで日本の住宅は「新築で買ったときのその価値が最も高く、10年で建物価値は半値、25年程度でほぼゼロになり、土地値となる」(一戸建の場合)のが常識でしたが、築年数に関係なく、コンディションの良い中古住宅は価値が落ちない、もしくは落ちづらいといった市場を創るための第一歩と言えます。

よく「木造住宅の法定耐用年数は22年、鉄筋コンクリート造のマンションは47年」だといった論を見かけますが、これは税制上の話に過ぎず、市場の評価とは連動していません。

「建物の寿命」については誤解も多いのも実情です。国交省がこれまで公表してきた資料では、木造住宅の寿命は27年ないしは30年、マンション(RC/鉄筋コンクリート造)は37年としているケースが多いのですが、こうした数字は、取り壊された建物の築年数、あるいは建物の新築数を取り壊し数で除した数字であり、実態を反映していません。

早稲田大学の小松教授らが行った「建物の平均寿命推計」の最新調査(2011年)によれば、人間の平均寿命を推計するのと同様の手法を建物で採用した場合、木造住宅の平均寿命は65年としています。

マンション(RC/鉄筋コンクリート造)の寿命には諸説あり、例えば、117年(飯塚裕/1979「建築の維持管理」鹿島出版会)、68年(小松幸夫/2013「建物の平均寿命実態調査」)、120~150年(大蔵省主税局/1951「固定資産の耐用年数の算定方式」)など。実際には配管の種類や箇所にも大きく左右されますが、思いのほか長持ちするイメージではないでしょうか。

「管理組合」が資産性に結びつく日も近い

マンションの「管理組合の運営状況」もやがて資産性に結びつく日も遠くないでしょう。

管理状態が良好でムダもなく修繕積立金が潤沢なマンションと、割高な管理費を垂れ流し、修繕積立金が足りず建物修繕もままならないといったマンションでは、これまでさほど資産格差が見られなかったのが実情ですが、未来の不動産市場では、同条件のマンションであっても管理組合の運営状態によってかたや5000万円、かたや2000万円といった価格差が現れることになるはずです。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

“おブス部屋“はもう卒業! プロに聞くお部屋改造のコツとは

「うち近いから寄ってく?」と友人に言いかけて途中で飲み込んだ覚えはありませんか? 部屋が散らかっていたり汚かったりすると、人を呼ぶのをためらってしまいがち。「うちにおいでよ!」と気軽に言えるお部屋にするにはどうしたらよいのでしょうか。人には見せられない“おブス部屋”から卒業するための、ちょっとした工夫をプロに聞きました。
手がけた物件は1000件以上! お部屋改造のプロってどんな人?

今回、散らかり放題のおブス部屋をイケてる部屋にするヒントを聞かせていただくために伺ったのは、有限会社お部屋改造計画。一人暮らしや、ご夫婦の方々の「インテリアコーディネート」や「お部屋模様替え」、カフェやサロン、オフィスなど小さな店舗の「トータルプロデュース」を行っている会社です。今年で設立19年目、手がけた物件は1000件を超えるそう。

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[1]After(画像提供/お部屋改造計画)

お客様は一人暮らしの方が多く、女性は20代~30代、男性は30~40代が多いとのこと。「しっかりヒアリングをして、その人の生活習慣にマッチした部屋づくりをします。好きなことや嫌いなこと、仕事は何かなど、こだわりや趣味を考え抜いてつくり上げます。ですから、100人100様の部屋ができ上がります」と代表兼ルームスタイリストの柳橋浩さんは話します。

そんなお部屋づくりのプロ・柳橋さんに聞く、おブス部屋から抜け出すコツとは!?

断捨離はする必要なし! 持ち物があってこその生活

ちまたではミニマリストなど、断捨離が流行して普遍になりつつありますが、柳橋さんはそれには賛同しかねると言います。

「思い入れのあるものなど、処分できないものは、リメイクや置く場所等を工夫してお部屋になじませるという方法でクリアできます。なんでもかんでも捨ててしまわなくても、きれいな部屋はつくれますよ」(柳橋さん)

大切なものは捨てられないと思っていた筆者としては、すこし安心しました。

とはいえ、物が多いと片づけの難易度が上がるはず。物を捨てずに片づけるコツはあるのでしょうか? 柳橋さんによると、まずは「収納場所を特定したほうがよい」とのアドバイスが。

「片づけやすい環境づくりをすることで、実際に『片づける』という行動につながります。ただ、収納スペースを多くつくってしまうと、安心感から今度はそこに物がたまってしまうので注意しましょう」(同)

また、収納が面倒くさくなるのは「収納の動線」がつくられていないからだそう。「捨ててもいいものは外に出しやすい、玄関に近いほうに置くようにしましょう。また、急な来客があったときなどのために、『とりあえず入れておくコーナー』を設置しておくのもよいですね」(同)

まずは収納の動線をつくって片づけをしやすい環境にととのえることが、おブス部屋脱却のカギになりそうです。

おブス部屋の原因はどこにある? 実際に聞いてみた

柳橋さんのお話にうなずきながら、おそるおそる筆者の部屋の写真を出して、見ていただきました。インテリア雑誌やテレビの情報番組を見て「隠せ、隠せ」とできるだけシンプルな布を購入して、積み上げたものを隠している部分です。

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

取材当日の筆者の部屋。積み上げた本と書類を布で覆って隠し、なんとかなっているつもり(写真撮影/近藤智子)

冷や汗をかきながら小声で「汚くてなんだかすみません」と恐縮しまくる筆者に「そんなに汚くないですよ~」と明るく優しく声をかけてくださる柳橋さん。そしてすぐさま直せそうなポイントを指摘してくださいました。

「目隠しの布はよく使われますが、相当に気を使わないと実は難しいもの。適当な布を置いてもバランスが崩れるので、やめたほうが賢明です」(同)

また、家具の並べ方にもポイントがあるそう。

「背の高い家具同士は極力並べるのを避けて、間に少し低い家具を置いたり、余白をつくったりして高低差をつけて、メリハリを出してください。そのほうが圧迫感を感じにくくなります。もし圧迫感のある家具が多い場合には、今の位置と反対側に置くなどして、同一方向の視線から外しましょう」(同)

さらに、新たに家具選びをするときには、こんなコツがあるそうです。

「『食器棚』『テレビ台』など、家具は決まった用途があるかのように名づけられて売られていますが、これに惑わされないでください。見た目とサイズ感から、従来の使い方以外にも用途がいろいろ浮かんでくると思います。そうすれば、自分にぴったりなオリジナルの使い方ができます」(同)

家具の並べ方は、やはりバランス感覚が重要とのこと、安定感や見た目の重視に気をつけるだけで、相当に片づいて見えるようです。これなら少しずつ解決ができそうな気がします。

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]Before(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋の改造例[2]After(画像提供/お部屋改造計画)

お部屋改造は、どんなメリットがある?

最後に柳橋さんに、お部屋を改造することで部屋が片づくこと以外に得られるメリットについて伺いました。

「部屋が変わると、世界観が変わるというお客様が多いですね。『生活が好転しました』『気持ちが明るくなりました』と言ってくださる方が多いです。大掃除の達成感に似ているのかもしれませんが、部屋を変えることでご本人の何かが変わるのではないでしょうか。すぐには引越しできない場合にも、模様替えは可能ですから、ぜひ一度試してみていただきたいです」(同)

今回いただいたアドバイスで、おブス部屋から脱出する糸口が見つかったような気がします。大掛かりなものはプロに任せるという選択肢もアリかな、と感じました。

お部屋の改造は住み続けるための選択肢。人に見せても恥ずかしくない部屋づくりはちょっとしたことから始められます。そして部屋に向き合うことは、自分と向き合うことにもつながっているのかもしれません。

●取材協力
・有限会社お部屋改造計画

お部屋がまるで公園に! グリーンも設計するリノベーションプランとは?

植物に囲まれた暮らしに憧れるけれど「都会のマンション住まいでは無理」と諦めていませんか? そんな固定観念を覆すべく発表されたのが、「GREEN DAYS(グリーンデイズ)」というリノベーションプランです。「植物と人間が心豊かな時間を過ごせる住空間」をコンセプトに、植物がそこに住む人とともに成長し、生きる環境づくりを目標にしているそう。

このサービスはリノベーション事業を行うグローバルベイス株式会社の「マイリノ事業部」と、青山フラワーマーケットの姉妹ブランドで空間デザイン事業を行う「parkERs by Aoyama Flower Market(パーカーズ バイ アオヤマフラワーマーケット)」が事業提携して展開。今年2月から提供が始まっています。

「GREEN DAYS」の空間を体験!

 

さっそく展示会場である渋谷の2LDKマンションを訪れてみると、そこには部屋のなかに公園があるかのような、癒やしの空間が広がっていました。

キッチンまわりの水耕栽培では、ハーブを育てるのもおすすめ(画像提供/グローバルベイス株式会社)

キッチンまわりの水耕栽培では、ハーブを育てるのもおすすめ(画像提供/グローバルベイス株式会社)

インナーバルコニーの一角は、読書や考え事をするのにもぴったり(画像提供/グローバルベイス株式会社)

インナーバルコニーの一角は、読書や考え事をするのにもぴったり(画像提供/グローバルベイス株式会社)

「GREEN DAYS」のポイントはふたつあります。

ひとつめは、プランターや水耕栽培システムのみならず、キッチンやソファー、照明などもオリジナルでデザインされており、植物が映える住空間が演出されていること。

ふたつめに、植物の選び方や手入れなどを植物の専門家がしっかりとサポートしてくれることです。入居した後も初年度4回の無料フォローがついており、専門家がお家を訪問してアフターケア等についてアドバイスをくれるそう。

しかし植物選びが完璧でも、部屋全体に配置するとなると日当たりや水やりの加減なども気になるもの。これだけの量のグリーンがあると、逆に枯れてしまったら悲惨なことになるのではないかと不安になるのですが……。

グローバルベイス株式会社広報企画室の植田有紀(うえだ・ゆき)さんによれば、リノベーションの段階からグリーンを設計することが、そんな不安を解消するカギになるといいます。

グローバルベイス株式会社広報企画室 植田有紀さん(写真撮影/蜂谷智子)

グローバルベイス株式会社広報企画室 植田有紀さん(写真撮影/蜂谷智子)

「物件の日当たりと植物を置く位置なども考慮して、オリジナル家具を設計します。植物のある生活を前提にしたリノベーションを行っているからこそ、機能的な栽培ができるんですよ。例えば水やり回数が少なくて済むプランターは、保水性のある構造になっているので重量がありますが、その分床の強度を上げて対応しています。またキッチンまわりは水耕栽培ができるようになっていて、ハーブなどを育てることが可能。それもキッチンから直接水やりができるような構造になっています。植物に適した環境をつくることと、育てる手間を減らし、負担に感じないよう設計の段階から意識しています」(植田さん)

水やりは週一回 忙しい人でもグリーンに囲まれた生活が可能に

「GREEN DAYS」で使用する土はココヤシピートやコーヒーのカスを使用し、虫も含まれていません。これは環境に負荷をかけないエコで地球に優しい「parkERs soil(パーカーズソイル)」といって、地球環境に配慮した園芸資材を製造しているプロトリーフ社とパーカーズが共同開発したオリジナルの土だそうです。

「特殊な土とプランターによって、水やりは週に1度で問題ありません。またパーカーズは植物の専門家集団なので、育て方で迷ったときは的確なアドバイスをしてくれます。季節ごとの植え替えなどもご提案できますので、マンションでも季節を感じる暮らしを楽しんでいただけますよ」(植田さん)

なお同プランでフルリノベーションする場合に限って、リビングだけ、インナーバルコニーだけなど、一部分に特化した植栽設計も可能とのこと。また初年度4回が無料の植物専門家のアドバイスは、2年目以降も有料で申し込むことができます。
※費用はアドバイス内容に応じて変動

住まいの好みが細分化しており、住宅の資産としての価値だけでなく「そこでどんな暮らしができるのか」が重視される昨今。間取りや立地などの物件の魅力だけでなく、ライフスタイルも込みで提案するビジネスが増えそうです。

●取材協力
グローバルベイス

イタリア仕込みのお料理ママが選んだのは「ドイツ製キッチン」、納得の理由とその使い心地は?

都内に土地を購入し家を建てた40代のHさんは、イタリアに留学経験のある子育て中のママ。注文建築で特にこだわったのは、キッチンのプランニング。イタリア本場でお料理を学んだとあって、数あるイタリア・ブランドのどこのキッチンが入っているのかな? と思いきや……。 新居にはドイツ製のキッチンが美しく収まっていた。その選択のワケを、興味津々で伺ってみた。
仕事も趣味もイタリアを満喫、モダンデザインのベースを学ぶ

都心の駅近なのに閑静な住宅街、希少な立地に3階建ての家を新築されたHさん。その3階、リビングとは完全に独立させた大きなキッチンがこの家の主役。

壁付けでキッチン~トールキャビネットを回して全長12m。中央にシンク付きのアイランドカウンターを備えた11畳の独立したキッチン・ダイニング(写真撮影/片山貴博)

壁付けでキッチン~トールキャビネットを回して全長12m。中央にシンク付きのアイランドカウンターを備えた11畳の独立したキッチン・ダイニング(写真撮影/片山貴博)

Hさんは2人の小学生のお子様がいる専業主婦、「結婚する前はインテリアの会社にも勤めていたので、家のイメージはある程度できていて、コンクリート打ち放しのモダンデザインにしたいと思っていました」とのこと。しかし、”戸建ては庭のある木造”と考えていた夫と意見が正反対⁉︎

「建築会社は信頼できる大手でなければダメだと言う夫に従って、打ち放しコンクリートを諦めました。その代わり、内装やキッチンは私の好きに選ばせてもらいました」

キッチン選びは、国内外メーカーのショールームを見て回ったそう。

「イタリアで暮らしているときにも、ショールームやミラノサローネ国際見本市でキッチンを見ていて大好きなブランドもあるのですが、イタリアのデザインはカッコいいけど適当な気がするんです(笑)。メンテナンスのことも考えて、輸入キッチンでも日本法人がしっかりしているブランドを選びました」

なるほど、イタリアを熟知している人の選択だ。

その御眼鏡(おめがね)にかなったのが、ドイツのポーゲンポール社のキッチン。
「扉材は鏡面仕上げのテカテカしたのが嫌だったの。マットなグレーにしたかったのですが、ポーゲンポールで思い通りのものが見つかりました」

柔らかいグレーなので、壁一面大きなキャビネットに囲まれているが圧迫感なく、家電の黒やお花の色が生きる。クォーツストーン製のカウンター、「このブラウンも私の好きな色」。広いアイランドで朝のお弁当づくりも手際良く(写真撮影/片山貴博)

柔らかいグレーなので、壁一面大きなキャビネットに囲まれているが圧迫感なく、家電の黒やお花の色が生きる。クォーツストーン製のカウンター、「このブラウンも私の好きな色」。広いアイランドで朝のお弁当づくりも手際良く(写真撮影/片山貴博)

ポーゲンポール(Poggenpohl)社は1892年創業のドイツを代表する老舗キッチンブランド。日本では約40年前から代理店により輸入販売されているが、2010年に日本法人も設立。「会社の信用性にうるさい夫も、了解してくれました」とHさん。

イタリアでお料理を学んだHさんは、カウンター高を95cmに要望。
「私の身長では高すぎると、他のキッチンメーカーからは否定されました(笑)。でも私には楽な高さだし、お料理を手伝ってくれる子どもたちも、すぐに背が伸びて私よりは高くなるでしょうから」

モダンデザインが好みのHさんは「シンプルでシャープなハンドル金具も気に入りました」(写真撮影/片山貴博)

モダンデザインが好みのHさんは「シンプルでシャープなハンドル金具も気に入りました」(写真撮影/片山貴博)

「つや消しのヘアライン加工は、マットな扉材との相性がいいでしょ。指紋や汚れも付きにくいし大正解」

ハンドルを引き出すと、さり気なく

ハンドルを引き出すと、さり気なく”poggenpohl”のロゴが現れる(写真撮影/片山貴博)

キッチン設備にもドイツの人気ブランドが並ぶ

シンプルなモダンデザインのキッチンには、よく見るとすてきな設備機器が搭載されている! コンロと換気扇は、ガゲナウ(GAGGENAU)社製。ドイツで1683年創業の歴史をもつ、人気ブランドだ。

換気扇のデザインを優先して選ばれたそう。クリーニングのサインが出たら、フィルターは簡単に取り外して食洗機で洗える(写真撮影/片山貴博)

換気扇のデザインを優先して選ばれたそう。クリーニングのサインが出たら、フィルターは簡単に取り外して食洗機で洗える(写真撮影/片山貴博)

コンロはIHクッキングヒーター、「4口にしたのですが、もう少し大きいものにしたほうが良かったかな……」とHさん。

IHコンロの手前にあるのは、電気の遠赤外線バーベキューグリル(写真撮影/片山貴博)

IHコンロの手前にあるのは、電気の遠赤外線バーベキューグリル(写真撮影/片山貴博)

バーベキューグリルは下に遠赤外線効果のある溶岩石が敷き詰められていて、炭火焼きのようにふっくらと焼き上がる。「お肉や野菜を焼くとおいしいですよ」

「グリルにカバーが付いているのが、ガゲナウ社の良いところです」(写真撮影/片山貴博)

「グリルにカバーが付いているのが、ガゲナウ社の良いところです」(写真撮影/片山貴博)

換気扇のフィルターをそのまま洗える、大型の食洗機もガゲナウ社(写真撮影/片山貴博)

換気扇のフィルターをそのまま洗える、大型の食洗機もガゲナウ社(写真撮影/片山貴博)

そして、壁付けのキャビネットにはドイツを代表するブランド、ミーレ(Miele)社のオーブンレンジがビルトイン。「オートメニューでピザを焼いたりもします」と話してくれた。

タテヨコのラインが美しく収まっている。キッチン全体のデザインにこだわる人が選ぶミーレの機器(写真撮影/片山貴博)

タテヨコのラインが美しく収まっている。キッチン全体のデザインにこだわる人が選ぶミーレの機器(写真撮影/片山貴博)

ドイツブランドがそろったキッチン。ブランドが違っても、根底に流れる質実剛健なドイツデザイン思想が共通であるからか、喧嘩すること無く整然と調和していた。

リビングとキッチン、独立させたレイアウトにある工夫

H邸のキッチンは2階のインナーバルコニーに面していて、都心でも十分な採光を考えられた設計。

大きく空が広がるバルコニーでは天体観測も楽しめる。「夏は大きなプールを広げて、子どもたちが大喜びです」(写真撮影/片山貴博)

大きく空が広がるバルコニーでは天体観測も楽しめる。「夏は大きなプールを広げて、子どもたちが大喜びです」(写真撮影/片山貴博)

そのバルコニーに沿って、キッチンと廊下でつながっているのがリビングルーム(写真の手前側)。

廊下の奥がキッチン、天井までの扉が開いた状態(写真撮影/片山貴博)

廊下の奥がキッチン、天井までの扉が開いた状態(写真撮影/片山貴博)

キッチンの扉を閉めた状態、階段から上がって来た手前がリビングルーム(写真撮影/片山貴博)

キッチンの扉を閉めた状態、階段から上がって来た手前がリビングルーム(写真撮影/片山貴博)

「LDKがオープンになっているプランは、キッチンの油やにおいが部屋に充満するので全く考えませんでした」

リビングとキッチンを廊下&バルコニーで距離をもたせ、個々の役割を明確にしている。そして、リビング側の大引き戸を閉めると、階段・廊下とも完全に独立した一室のリビングルームになる。

ウォールナットのフローリング床と合わせた特注の大引き戸(写真撮影/片山貴博)

ウォールナットのフローリング床と合わせた特注の大引き戸(写真撮影/片山貴博)

夫の選んだDENON社オーディオセットが、システム収納できれいに収まったリビングルーム。

60インチの大型テレビの前に、120インチのスクリーンが下りて来ると大迫力のシアタールームになる(写真撮影/片山貴博)

60インチの大型テレビの前に、120インチのスクリーンが下りて来ると大迫力のシアタールームになる(写真撮影/片山貴博)

「キッチンが私の部屋」だから、好きなものに囲まれていたい

「夫には書斎、子どもにも個室がありますが、1日の大半を過ごす私の部屋はキッチンなのです」

お料理だけでなく、お子様の宿題や事務仕事など。キッチンで過ごす時間が一番長いのがママの日常(写真撮影/片山貴博)

お料理だけでなく、お子様の宿題や事務仕事など。キッチンで過ごす時間が一番長いのがママの日常(写真撮影/片山貴博)

2.1mのトールキャビネットが4連で収納も豊富だが、「2連は子どもの書類やら一杯で、収納は足りないくらい!」

トールキャビネット内は、引き出しとシェルフで使い分け(写真撮影/片山貴博)

トールキャビネット内は、引き出しとシェルフで使い分け(写真撮影/片山貴博)

Hさんにとってはマルチな空間になっているキッチンですが、家族にとってはやはり食事の場。

「食事はできるだけ家族そろって食べるようにしています。テレビは無し! お話ししながら、しっかり食べることを大切にしています」

食事時にテレビを見ないのは、Hさんの育った習慣とのこと。そんなHさんが大切にしている習慣が、もう一つ……。

キッチンの窓辺に飾られた花。「母がいつも花を欠かさない人だったので、私も自然とそうなりました。そして、娘もお花屋さんが好きですね」(写真撮影/片山貴博)

キッチンの窓辺に飾られた花。「母がいつも花を欠かさない人だったので、私も自然とそうなりました。そして、娘もお花屋さんが好きですね」(写真撮影/片山貴博)

キッチンを調理の場としてだけでは無く、お子様とのコミュニケーションやご自身の時間を過ごす場にしているHさん。自分の部屋としてキッチンを心地よくするために、好きなカラーや素材を大切に選ぶことの意味を教えてくれた。

●取材協力
・ポーゲンポール東京(poggenpohl)

「時短」で子育てをサポート コンパクトシティがかなえる育児環境とは【育住近接(3)】

共働きの夫婦が増えた今、子育てと仕事の両立の難しさに直面している人は多いだろう。野村不動産は、そんな子育て世帯向けにマンションを建設、昨年の3月から入居が始まった。その物件「プラウドシティ大田六郷」は、どのように育児をサポートするのだろうか。入居者の声を交えながら紹介したい。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。子育てに必要な施設がそろう「コンパクトシティ」

政府が取り組む「少子化対策」と「女性活躍」。産休、育休を取得しやすくする企業が増えてきたが、保育園不足による「待機児童」問題など、子育て環境はまだまだ整ってはいないのが現状だろう。そんななか供給されたのが、野村不動産が手がける「プラウドシティ大田六郷」。一体どんな特徴があるのだろうか。

物件は、京急本線・雑色駅から徒歩約10分の場所に位置する。多摩川緑地にほど近く、品川や川崎方面にも通勤が便利な場所で、昔から町工場が多いエリアだ。

【画像1】スカイデッキからは多摩川が望め、自然環境もよい(画像提供/野村不動産)

【画像1】スカイデッキからは多摩川が望め、自然環境もよい(画像提供/野村不動産)

マンションの敷地内には、保育施設、学童、医療、ショップなどの子育て世帯にうれしい施設を内包している。また、大型コインランドリーやカーシェア、宅配レンタカーなど、便利な設備は実に豊富だ。

物件の周辺は、徒歩7分圏内に幼稚園、小学校、中学校、児童館がそろい、家の近くで子どもが成長することができる。公園や自然、病院もあるのも魅力的で、「コンパクトシティ」という呼び名にふさわしい場所であることがうかがえる。

野村不動産の高橋和也(たかはし・かずや ※「高」は正式には「はしごだか」)さんによると、このマンションの開発の背景には「時短を図り、子育て世帯をサポートしたい」という思いがあったという。というのも、働きながら子育てをする際に問題になるのは、「とにかく時間が足りない」ということだからだ。遠くの保育園に連れて行ってからの出勤、遠くの保育園に寄ってからの帰宅。あるいは日々の買い物をするためのスーパーが遠いこと……。

そうしたことが原因で発生する時間のロスを解決するのが、マンション内に設置された施設と街の利便性だと考えたそう。

この記事の作成にあたって行った居住者アンケートで寄せられた、「すべての生活動線が1つにつながっている」(Hさん)という意見に、このマンションの特徴「時短」が集約されているように感じられる。

「昨年3月より入居を開始したばかり。入居者には子育て世代が多く、6歳未満の未就学児のいる家庭が多いですね」と高橋さん。購入者層も20代~30代と比較的若い。また、共働き世帯が多く、「通勤しやすいので選んだ」という声が多く見受けられた。同じように多かった意見が「子どもが生まれ、子育てをしやすい環境を求めていました」(Kさん)といった声。

つくり手の思いは、たしかに入居者に届いているようだ。

キッズラウンジで育つのは、子どもだけでなく、大人たちのコミュニティ【画像2】敷地内にはひろびろとした場所があり、外遊びもできる(画像提供/野村不動産株式会社)

【画像2】敷地内にはひろびろとした場所があり、外遊びもできる(画像提供/野村不動産株式会社)

これまで生活の利便性について述べてきたが、敷地内の共用施設にも注目したい。

子ども向けの共用施設として、よく利用されているのが「キッズラウンジ」。キッズラウンジは、絵本や遊具が豊富にそろった子ども向けの遊び場で、世界の優れたあそび道具を販売する玩具メーカー、ボーネルンドがプロデュース。その存在感はラウンジというよりもむしろ屋内型の公園のようだ。雨が降っても家の外に出て遊ぶことができるのは大きな魅力といえるだろう。

【画像3】カラフルで色彩豊かなキッズラウンジ(画像提供/野村不動産株式会社)

【画像3】カラフルで色彩豊かなキッズラウンジ(画像提供/野村不動産株式会社)

高橋さんによれば、だいたいいつも6~7組の親子が遊んでいる姿を目にするという。アンケートでも「キッズラウンジや中庭など、マンション敷地内で遊ぶスペースがあることはよいと思う」(Tさん)など、キッズラウンジに好感をもつ声が目立った。一人っ子だとしても、同じマンション内に同世代の子どもがいることで、「きょうだい感覚」を得ることができるかもしれない。

また、キッズラウンジには父親の姿も見かけるそう。「父親がスムーズに入り込める感じで、休日の育児が楽しくなりました」(Iさん)や、「子育て世帯が多くいて、話がしやすい」(Hさん)といった声があがった。こういう交流の積み重ねが、マンションコミュニティを形成していくのだろう。

施設内の子育て施設 利用状況はいかほど?

敷地内にある学童施設「ポピンズアフタースクール西六郷」は、放課後や長期休暇に小学生を預けることができる。小学校入学後、保護者が勤務から帰宅する夜間の時間に起こる「小一の壁」問題に対応することが目的のようだ。未就学児童が多いこともあり、まだマンション住人の利用は少ないそうだが、機能を発揮する日も遠くないだろう。

また、開設準備中の医療施設も、子どもたちの「かかりつけ医」として活躍しそう。そして、4月にはいよいよ認可保育園が開園予定。マンションを購入したからといって優先的に入れるわけではないのだが、実際に入居者の多くが入園を希望している。

どの施設もまだまだマンション入居者の利用は少ないが、今後の発展に期待したい。

コンパクトシティに建てられた「プラウドシティ大田六郷」。共働き夫婦が、育児と子育てを両立するための環境が十分に整っていることが分かった。入居が始まったばかりだが、今後「育住近接」のお手本となってくれそうだ。

●取材協力
・プラウドシティ大田六郷(野村不動産株式会社)

専門委員を理事会に加え、大規模修繕の成功へ【管理はつなぐ[8]】

一大商業地の銀座や、大型ターミナルの東京駅が生活圏に収まる中央区築地。特に東京駅八重洲口側では複数の大規模開発が予定されていることもあり、昨今では住む街として改めて熱い視線が注がれつつある。そんな好立地に立っているのが、今回紹介する「ハウスコート築地」だ。
日ごろの管理の成果で、大規模修繕がスムーズに進行

「ハウスコート築地」では、竣工から12年目を迎えた2017年、竣工当初の予定に沿って大規模修繕工事を実施した。
「工事に先立ち、3名の入居者有志に大規模修繕委員として理事会に加わっていただきました。おもに、工事に関する協議や見積もりのチェックなどで協力していただきましたが、委員のなかには建設関係に詳しい方もいらっしゃったので、心強かったですね」(平久江理事長、以下同)

日ごろの定期メンテナンスがしっかりしていたこともあって、当初予定されていた工事を実施しないで済む箇所もあったという。
「共用廊下の床シートや側溝部分などは、ほとんど劣化していませんでした。半面、外壁のタイルは、修繕を要する箇所が想定より多かった。そこで、作業時に足場が必要な工事を優先したのです。現時点で支障がなく、足場なしで作業できる工事を見送ることで、支出のバランスをとりました。結果、当初の想定予算にほぼ収まりました」

【画像1】(左)外壁のタイルは、浮き上がってしまっていた箇所だけ大規模修繕時に交換(右)共用廊下には長尺の樹脂製シートが使われているが、劣化が少なかったため継続して使用中(写真撮影/柴田ひろあき)

【画像1】(左)外壁のタイルは、浮き上がってしまっていた箇所だけ大規模修繕時に交換(右)共用廊下には長尺の樹脂製シートが使われているが、劣化が少なかったため継続して使用中(写真撮影/柴田ひろあき)

周辺地域との連携によるコミュニティ形成を模索中

一方、コミュニティ形成については、これまで実施してきたのが、年に一度の防災訓練と、花火大会時の屋上開放程度で、今後の注力課題だという。
「築地一帯は祭りなどのイベントが盛んで、地域の結びつきが強い。マンション内はもちろんですが、周辺との交流活性化にも取り組んでいきたいですね。特に近隣には公園や児童館などがあって、多くの子育て層が利用しています。マンション内にも子育てファミリーが多いので、何かきっかけをつくれないかと模索しているところです」

コミュニティ形成の大切さについて、平久江氏は次のように続ける。
「エレベーターで顔を合わせた際にあいさつを交わす程度でも、安心感の醸成やみんなで気持ちよく暮らすための配慮につながると思います。また、私は今回初めて理事を経験していますが、マンションや管理について関心や理解が深まりました。できるだけ早い段階で全員が理事を経験し、入居者が自発的に安全で快適な住環境づくりに乗り出すようになるといいですね」

【画像2】マンション外周に配置された植栽。毎年、6月と10月に造園会社が入って手入れしている(写真撮影/柴田ひろあき)

【画像2】マンション外周に配置された植栽。毎年、6月と10月に造園会社が入って手入れしている(写真撮影/柴田ひろあき)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授 大月敏雄氏が語る建築家の視点
大規模修繕のコスト節減や工事箇所の適切な選定を実現させる上で、建設に詳しい人に専門委員を務めてもらうのはとても有効だ。この知見は、ぜひ次回の大規模修繕にも活かしていただきたい。
今後に向けては、各フロアのまとめ役の新設を提案したい。誰がどんなジャンルの専門知識をもっているのかを把握しやすくなるので、大規模修繕時には適任者を専門委員として選定できるし、日ごろのコミュニケーション活性化にもつなげられる。
また、周辺地域との交流を深める一歩としては、マンションの自治会設立をお勧めする。役員は理事会のメンバーが兼務し、自治会として町内の取り組みに参加すれば、交流を深めていきやすくなるはずだ。【画像3】マンションの南東50mほどの場所には「築地川公園」があり、住民は日常使いできる。近くには中央区の子育て支援施設「築地児童館」もあるため、近隣の子育て世帯と交流しやすい環境が整っている(写真撮影/柴田ひろあき)

【画像3】マンションの南東50mほどの場所には「築地川公園」があり、住民は日常使いできる。近くには中央区の子育て支援施設「築地児童館」もあるため、近隣の子育て世帯と交流しやすい環境が整っている(写真撮影/柴田ひろあき)

【画像4】7名の理事と監事1名の計8名が通常の体制で、任期は1年間。現在のところ立候補者で構成している。大規模修繕時には、3名の大規模修繕委員を別途選出し、協議や意思決定の場に参加してもらった

【画像4】7名の理事と監事1名の計8名が通常の体制で、任期は1年間。現在のところ立候補者で構成している。大規模修繕時には、3名の大規模修繕委員を別途選出し、協議や意思決定の場に参加してもらった

※この記事は『都心に住む』2017年12月号(10月26日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

【検証】自転車発電は、太陽光発電に勝てるのか?

きつい、辛い、帰りたい。

なぜ僕は部屋の中で自転車を漕いでいるのだろうか。なぜ一生懸命に走っているのだろうか?
【画像1】(写真撮影/大嶺 建)

【画像1】(写真撮影/大嶺 建)

今、僕は部屋で必死に自転車発電を行っている。そして僕の横では女の子がくつろいでピザを食べている。ふざけているわけではない。これはれっきとした闘いなのだ。己の魂をかけた挑戦なのである。

こんなカオスな空間が生まれたのには理由がある。きっかけは1カ月前に遡る。

遡ること約1カ月前【画像2】リクルート住まいカンパニーの社屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】リクルート住まいカンパニーの社屋(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

とある日、SUUMOジャーナル編集部に打ち合わせに行く用があった。そのときにたまたまSUUMO編集長である池本さんにお会いした。

SUUMO編集長はとても気さくだった。初対面の僕に向かって「君の顔めちゃくちゃ長いね!」と言って緊張をほぐしてくれるような人だ。あくまで緊張をほぐすために言ってくれたことであり、バカにされたわけではないと、僕は池本編集長を信じている。信じている。

【画像3】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】池本編集長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

池本編集長「最近注目の集まっているエコな住宅関係で記事をつくりたいと思っているので、おもしろいネタがあったらぜひ一緒にやりましょう」

そんな声をかけてもらったので、僕はとっさに

「自転車発電と太陽光発電のどっちが勝つのか比べたらおもしろそうですよね(笑)!」

と冗談半分で提案した。僕は過去にママチャリで日本一周した経験があり、それをやっているときにふと思った疑問をここで出してみたのである。

そしたらそのネタに池本編集長が予想外に食いついてくれ、大盛り上がりしてネタがどんどんと膨らんでいった。

【画像4】(写真撮影/大嶺 建)

【画像4】(写真撮影/大嶺 建)

そして気づいたらこうなっていた。

もちろん自転車を借りて、部屋を借りて……と段取りを踏んでやっているので、いきなり拉致されて企画に巻き込まれたという意味で言っているわけではない。

冗談で言った企画が、編集部から連絡が来て、ガッチリとした企画になり、まさか家を借りて行うほどの大掛かりなものになるとは思っていなかったのだ。あれよあれよと気づいたらあとに引き下がれない状況になっていたのだ。

大人になると「言葉に責任をもたなきゃいけない」というのは本当のことであったと学んだ。

ただし、やるからには負けたくない。過去にママチャリで日本一周した経験は本当であるし、勝つ気でやらないとものごとはまったくおもしろくない。記事もおもしろくならない。

かくして「自転車発電 vs 太陽光発電」の火ぶたが切って落とされた。

自転車発電 vs 太陽光発電自転車発電 vs 太陽光発電の対戦ルール
・ママチャリを使用して発電を行う
・宿泊して2日にわけて行う
・制限時間は最大10時間(借りている部屋の使用時間が決まっているため)
・Wh(電力量)で対決する ※1時間でどのくらいの電力が稼げるかの値

今回の企画を簡単に言うと「自転車発電で太陽光発電に勝てるのか?」という検証である。

【画像5】(写真撮影/大嶺 建)

【画像5】(写真撮影/大嶺 建)

【画像6】(写真撮影/大嶺 建)

【画像6】(写真撮影/大嶺 建)

自転車発電と太陽光発電を比べるために、今回は積水ハウスの賃貸住宅をお借りすることができた。亀有駅から徒歩5分という好立地な部屋だ。

ここまできれいな部屋を用意されていたら、僕の言った「あとに引けない状況になっている」という言葉の意味がよく分かると思う。やるしかないのだ。

【画像7】(写真撮影/大嶺 建)

【画像7】(写真撮影/大嶺 建)

実はこの家は太陽光発電ができるだけでなく、なんとその日に発電した電力量がどのくらいかを見ることができる「HEMS」という端末までついているのだ。

こんなに今回の企画に適した家もなかなかないだろう。

【画像8】(写真撮影/大嶺 建)

【画像8】(写真撮影/大嶺 建)

今回の企画では「vs 太陽光発電」という形をとるために、仮想対戦相手を用意した。仮想対戦相手には太陽光発電ができる家で一日過ごしてもらう。

つまり「自転車で一生懸命漕ぐ人(自転車発電)」vs「家でダラダラ過ごす人(太陽光発電)」という、図式にして分かりやすくした。

仮想対戦相手として選んだのはアイドルのカワシマユカさんだ。彼女はアイドルグループを自ら運営して立ち上げている途中であり、現在はアイドルニートを自称している。そのため一日中家の中ですごしてもらう今回の企画に合っていると思ったからだ。

あと「企画的に写真が地味になりそうだから女の子を呼んだ」という大人の事情もある。むしろこっちの理由がメインかもしれない。

【画像9】(写真撮影/大嶺 建)

【画像9】(写真撮影/大嶺 建)

ちなみにカワシマユカさんには、仮想敵なので「なるべく僕がムカつくようなことをやってほしい」とお願いしてある(お願いしなきゃよかったと後悔した)。

どうでも良いけど灰色のパーカが被っていて、親戚のぎこちない記念撮影みたいになった。

自転車の準備に時間がかかる/部屋の説明を受ける【画像10】(写真撮影/大嶺 建)

【画像10】(写真撮影/大嶺 建)

ということで対戦は始まったのだけれど、まずは下記のように自転車発電の準備をしなければならない。

自転車を家の中に運び込む

発電機を組み立てる

発電機に自転車をセットする

自転車発電のセットは有限会社ひのでやエコライフ研究所でお借りした。これが予想以上に組み立てるのに時間がかかる重労働であった。というか僕はイケアの家具すら組み立てるのを挫折したことがある男だ(結局そのときは兄を呼んでことなきを得た)。

【画像11】(写真撮影/大嶺 建)

【画像11】(写真撮影/大嶺 建)

このときもなかなか上手く組み立てられず、写真撮影をしてくれているカメラマンに手伝ってもらいながら2時間くらいかかってようやく準備をし終えた。この組み立て段階が今回一番だったと言ってもいいくらい大変だった……。

【画像12】説明をしてくれているのはZEH体験宿泊のPR担当をしている向井さん(写真撮影/大嶺 建)

【画像12】説明をしてくれているのはZEH体験宿泊のPR担当をしている向井さん(写真撮影/大嶺 建)

そのころカワシマユカさんはこの家の設備の説明を受けていた。

この家はZEH(ゼッチ)の基準を満たした家である。ZEHとは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略称で、断熱や省エネ、そして太陽光発電などで電力を売り、年間の一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の電気代をゼロにするという住宅である。

【画像13】ソーラーパネルが最初から設置されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像13】ソーラーパネルが最初から設置されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像14】お風呂も大気の熱を利用してお湯を沸かすエコキュートが採用されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像14】お風呂も大気の熱を利用してお湯を沸かすエコキュートが採用されている(写真撮影/大嶺 建)

【画像15】窓はなんとガラスが二重になっており、外の冷気が入りづらくなっている。外側にガラスがあるため、内側の窓には水滴ができずカビの心配もない(写真撮影/大嶺 建)

【画像15】窓はなんとガラスが二重になっており、外の冷気が入りづらくなっている。外側にガラスがあるため、内側の窓には水滴ができずカビの心配もない(写真撮影/大嶺 建)

今回借りた部屋も、高断熱材を使用した壁、2枚のガラス板でつくられた複合ガラスの窓など、熱を逃がさないようなエコなつくりになっている。そして太陽光発電ができるので家で電力を生み出し、それを自動で売ってくれる。

家の工夫によって熱を外に逃さずにエコな過ごし方ができ、さらに自分の家の電気代を太陽光で生まれた電気でまかない、実質的に電気代が概ねゼロ以下になるようになっているのだ。

【画像16】太陽光発電などでどのくらい電気が売れたのかは、HEMSという端末ですぐに確認することができる(写真撮影/大嶺 建)

【画像16】太陽光発電などでどのくらい電気が売れたのかは、HEMSという端末ですぐに確認することができる(写真撮影/大嶺 建)

ZEHの家に無料で宿泊体験ができるキャンペーンがあり、今回はその中の一つを借りているという形だ。

【画像17】(写真撮影/大嶺 建)

【画像17】(写真撮影/大嶺 建)

発電機の準備をしながら横で僕も聞いていたんだけど、「ZEHってどういう意味か知っている?」という質問に対して、カワシマユカさんは

「ゼッチって漢字でどう書くんですか?」

と聞くほどだったので本当に何も知らないようであった。それにしても漢字という発想はなかった。「絶地」と書くと思ったのだろうか? 漢字で書くと『るろうに剣心』とかに出てくる必殺技っぽくなる。

【画像18】(写真撮影/大嶺 建)

【画像18】(写真撮影/大嶺 建)

カワシマユカさんが説明を受けている間に着々と準備を進めて、いよいよ自転車は組み上がった。あとはひたすら漕ぐだけだ。

自転車発電の計算方法【画像19】(写真撮影/大嶺 建)

【画像19】(写真撮影/大嶺 建)

ということで僕の勝負がいよいよ始まった。時刻はだいたい16時ごろ。22時までは漕げるので、6時間は漕げる計算になる。あとはとにかく必死に漕ぐだけである。

それにしても異質な空間である。女の子がいる部屋で僕はひたすら自転車を漕いでいる。なんだろうこの空間。新しいフェチ動画として世に発信したほうが良かったかもしれない。

【画像20】自転車発電の仕組み(画像作成/megaya)

【画像20】自転車発電の仕組み(画像作成/megaya)

自転車発電といっても、漕げば漕ぐだけ電力が溜まっていくという仕組みではない。(蓄電ができれば話は別であるが、)どれくらいの電力を消費するか、が計算される。

分かりやすくいうと、例えば自転車に繋いでスマホを充電する場合はMAXで5W(ワット)までしか発電できない。つまりずっと5W分のスピードを出して漕げば充電されるわけだ。

しかし例えばドライヤーの場合は約1000Wほどあるので、その分の力を常に出してないといけない。自転車を一生懸命漕いでもそのW数にいかない場合は、ドライヤーが動くことはないのだ。ほぼ全力でずっと漕いでいないといけないので、自転車発電でドライヤーを動かすのはかなりの労力がいる。

つまりW数が高いもので発電すれば大変だけど稼げる電力は大きくなり、W数が低いもので発電すれば楽だけど稼げる電力が小さくなるのだ。

【画像21】(写真撮影/大嶺 建)

【画像21】(写真撮影/大嶺 建)

今回はWh(ワットアワー)という単位で勝負を行う。Whとは1時間でどのくらいのWを発電しているかを表す単位だ。100Wを1時間使ったら単純に100Whだ。

ざっくりと言ってしまえば1時間の平均の値で勝負することになる。つまりは継続ができなければまるで意味がないのである。

なので僕はとにかく継続して電力を稼ぐことを目的として、体力的に負担が低いスマホを自転車に繋いで、常に5Wの発電をするようにした。

【画像22】スマホのメーターで発電量を確認できる(写真撮影/大嶺 建)

【画像22】スマホのメーターで発電量を確認できる(写真撮影/大嶺 建)

【画像23】(写真撮影/大嶺 建)

【画像23】(写真撮影/大嶺 建)

とにかく止まることが悪なので、ひたすら漕ぐ。ママチャリ日本一周した経験が蘇ってくるものの、やったのはもうすでに7年も前の話だ。体力的には今とかなり違う。普段運動しないので開始10分でかなり体力が奪われた。足が早くも笑っている。

【開始1時間】暑さとの闘いだと気づく【画像24】(写真撮影/大嶺 建)

【画像24】(写真撮影/大嶺 建)

【画像25】(写真撮影/大嶺 建)

【画像25】(写真撮影/大嶺 建)

それにしても暑い。ZEHの家では高断熱材を使用しているので、部屋がとてもあたたかい。普段なら快適で過ごしやすい家なのかもしれないが、自転車を漕いでる今はそれが仇になっている。

とりあえず着ていたパーカを脱いだ。あと脱水症状が怖いので、水分は多めにとるようにした。

【開始から2時間】着替えてテンションをあげる【画像26】(写真撮影/大嶺 建)

【画像26】(写真撮影/大嶺 建)

走り始めて1時間経ったころに、膝がガクガクしていることに気づいた。運動不足がここに来て響いている。早くも辛くなってきた。

しかしこちらも太陽光発電に勝つために準備はしっかりとしているのだ。テンションをあげるために着替えよう。

【画像27】(写真撮影/大嶺 建)

【画像27】(写真撮影/大嶺 建)

【画像28】(写真撮影/大嶺 建)

【画像28】(写真撮影/大嶺 建)

【画像29】(写真撮影/大嶺 建)

【画像29】(写真撮影/大嶺 建)

【画像30】(写真撮影/大嶺 建)

【画像30】(写真撮影/大嶺 建)

ということでサイクルウェアに着替えた。初めて着たけど異常にカッコイイ……!

なぜこれを着たのかというと『弱虫ペダル』という自転車漫画が僕は好きで、ロードバイクに憧れがあるのだ。なのでサイクルウェアを着ただけで自然と笑みがこぼれてくる。やる気も出てくるのだ。

日本一周のときに学んだことの一つに「体力よりも精神を安定させた方が漕ぐ力が湧いてくる」という僕の中での学びがある。なのでこのサイクルウェアにも大きな働きがあるのだ。断じてただコスプレがしたかったわけではない。

【画像31】(写真撮影/大嶺 建)

【画像31】(写真撮影/大嶺 建)

僕が必死に漕いでる横でカワシマユカさんは『魔法少女まどか☆マギカ』というアニメのSNSゲームをずっとやっており、開始30分くらいでこの体勢になっていた。もはや実家のようである。

僕のことはまるで空気のように意に介していなかった。思っていたよりも図太い子なのかもしれない。

【開始から3時間】夜ご飯【画像32】(写真撮影/大嶺 建)

【画像32】(写真撮影/大嶺 建)

この日の制限時間は22時までなので(念のために騒音の心配も考慮して)、まだまだ先は長い。倒れないように食料と水は定期的にとるようにする。この「自転車に乗りながら携行食を食べる」というのも『弱虫ペダル』の憧れのシーンなのである。箱根の直線鬼と呼ばれる新開隼人がやっていて、それが真似できたのでひそかにテンションが爆上がりしていた。

ただこのくらいの時間が一番つらいのだ。まだまだ終わりは見えないし、漕ぎ続けないといけない。

必死に自転車を漕いでいるとインターホンが鳴った。「誰だろうか?」と疑問に思っているとカワシマユカさんが玄関に向かっていった。誰かがやってきたようだ。

【画像33】(写真撮影/大嶺 建)

【画像33】(写真撮影/大嶺 建)

【画像34】(写真撮影/大嶺 建)

【画像34】(写真撮影/大嶺 建)

【画像35】(写真撮影/大嶺 建)

【画像35】(写真撮影/大嶺 建)

……

携行食を食べている僕を尻目にカワシマユカさんの夜飯がこれみよがしに到着した。ピザと寿司とコーラである。「欧米か!!」という懐かしいフレーズで全力でツッコミたくなる夜ご飯である。

【画像36】(写真撮影/大嶺 建)

【画像36】(写真撮影/大嶺 建)

実においしそうに食べるカワシマユカさんを横目に足を動かす。僕は初めに「闘いなのでムカつくことをやってください」とお願いしているため、彼女は何も間違ったことはしていない。正しい働きなのだ。彼女をキャスティングしてよかった。ムカつくけど。

それから一つ言っておきたいのは、僕はピザや寿司は食べていない。お腹いっぱいで自転車に乗ると辛くなるのは経験則で分かっているし、何事も真剣にやったほうがおもしろくなると思っているからだ。

【開始から4時間】体にガタが来る【画像37】(写真撮影/大嶺 建)

【画像37】(写真撮影/大嶺 建)

だんだんと体力の限界に近づいてくる。足のガクガクが尋常じゃなくなってくるし、飲み物の消費量がかなり多くなってくる。もうすでに2リットルを消費している。

【画像38】(写真撮影/大嶺 建)

【画像38】(写真撮影/大嶺 建)

その一方でカワシマユカさんはポテチを食べながらゴロゴロしていた。まさにアイドルニートに恥じない動きである。

【開始から5時間】昔を思い出す【画像39】(写真撮影/大嶺 建)

【画像39】(写真撮影/大嶺 建)

【画像40】(写真撮影/大嶺 建)

【画像40】(写真撮影/大嶺 建)

体力は消耗しているものの、だんだんとどのくらいのペースで漕げば良いのか掴んできたので、スマホをいじりながらでも走れる余裕が出てきた。

またも自転車日本一周したときの知識が活きてきた。「中途半端に休んだり走ったりしてはいけない」ということを思い出したのだ。自転車で長い距離を走るためには常に一定のペースで走るのが大切だ。マラソンと同じだ。常に漕ぎ続けろ……!!

【画像41】(写真撮影/大嶺 建)

【画像41】(写真撮影/大嶺 建)

僕の心の中で熱い思いがほとばしっているとき、カワシマユカさんはスマホで『弱虫ペダル』のアニメの最新話を見ていた。

いやいやいや、真横で一人でママチャリで必死に走っているんだからこっち見てくれ。スマホに写った『弱虫ペダル』じゃなくて、現実のママチャリ男をせめて応援してくれ。

【開始から6時間】今日のラストラン【画像42】(写真撮影/大嶺 建)

【画像42】(写真撮影/大嶺 建)

途中で足をつりながらも、いよいよラストスパート。とにかく必死に漕いで漕ぐしかない。何も考えず、ただただ走り抜くだけである。ここまで来ると体力ではなく精神の問題である。

大丈夫だ。おれは最後までやれる。走れる。頑張れる。やれる。頑張れ。最後まで……!!

【画像43】(写真撮影/大嶺 建)

【画像43】(写真撮影/大嶺 建)

ちらりと横を見るとアイスを食べながら彼女はこっちを見ていた。

クソ野郎……!!

就寝【画像44】(写真撮影/大嶺 建)

【画像44】(写真撮影/大嶺 建)

6時間走り切ったので、いよいよ就寝である。しかしさすがにアイドルと同じ部屋で寝ることはできないので、池本編集長の紹介で近くにある知り合いの家に移動した。

泊まらせてもらう家は、築95年の木造建築の長屋なので、先ほどのZEHの家と比べてかなり寒い。

【画像45】ZEHの部屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像45】ZEHの部屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像46】築95年の長屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

【画像46】築95年の長屋の壁の温度(写真撮影/大嶺 建)

ついこの前Amazonで「壁の温度が測れる機械」があったので衝動買いした(なんで買ったのか覚えていない)。

試しにZEHと長屋でどのくらい違うのかやってみたら一目瞭然であった。壁の温度が8度も違うのだ。やっぱり高断熱材を使用している効果がハッキリと出ている。数値を見たら余計に寒く感じてきた。壁の温度なんて測らなければよかったと後悔した。

【画像47】(写真撮影/大嶺 建)

【画像47】(写真撮影/大嶺 建)

【画像48】(写真撮影/大嶺 建)

【画像48】(写真撮影/大嶺 建)

あまりに寒かったので寝袋を借りて就寝。まさか家の中で寝袋を使うことになるとは思わなかった。あとこの企画が思ったより過酷で辛い。

こうやって写真で見ると寝るときの差がえげつない……。

ラスト2時間【画像49】(写真撮影/大嶺 建)

【画像49】(写真撮影/大嶺 建)

朝6時前に起きた。前日が過酷で「もうやりたくない……」となるかと思ったが、意外にも気持ちはやる気で満ち溢れていた。

早めにZEHの家に戻り、朝の7時から再び漕ぎ始めた。いよいよ残り2時間である。これで勝負が決まる。

コツコツやっている人が勝つ世の中であって欲しい。そう願いながら必死に漕ぐ。

【画像50】(写真撮影/大嶺 建)

【画像50】(写真撮影/大嶺 建)

思えば21のときに家出をしてママチャリ日本一周をしてから、もう7年も経っていた。あのときはとにかく毎日必死に生きていて、明日のことなどこれっぽっちも考えていなかった。

毎日とにかく必死にペダルを漕いで、毎日必死に限界に挑んだ。

今はどうだろうか?
毎日を必死に生きているだろうか?
一つ一つを大切に生きているだろうか?

どうですか?僕?

あのころを思い出して今はペダルを漕いでいる。久しぶりに全力で生きている。今はそれがただただ誇らしい。

【画像51】(写真撮影/大嶺 建)

【画像51】(写真撮影/大嶺 建)

完走……!!!

今日僕はここで大切なことを思い出し、大切なものを手にいれた。

カワシマユカさんもこの僕の姿にきっと感動しているはずだ……!!

【画像52】(写真撮影/大嶺 建)

【画像52】(写真撮影/大嶺 建)

化粧してました。

結果発表

5Wでずっとやり続けてきた僕の結果は約35Whという結果になった。僕は電力などには詳しくないが、これはそこそこの結果なんじゃないだろうか? 距離もサイクルメーターで測っていて約70kmを走破したことになる。

ということで、運命の結果発表……

【画像53】(写真撮影/大嶺 建)

【画像53】(写真撮影/大嶺 建)

【画像54】(写真撮影/大嶺 建)

【画像54】(写真撮影/大嶺 建)

なんと太陽光発電!!

しかも差が圧倒的だと言う。嘘だ。地道に努力して努力して、必死に漕いだあの時間はなんだったんだろうか。いやいや確認間違いの可能性もある。

それなりに頑張ったがさすがに最新鋭の機械には勝てないかもしれない。しかし「太陽光発電とどのくらい良い勝負ができたか?」ということだ。端末にてその結果を確認する。

【画像55】(写真撮影/megaya)

【画像55】(写真撮影/megaya)

昨日の発電量のデータを確認したのだが、昨日の発電量は1Whや2Whが多く、僕よりかなり低い数値を叩きだしていた。

「あれ? これ結果発表間違っていたんじゃないか?」

と思いもう一度確認したみたところ「単位の読み間違えしていませんか?」と指摘された。ん? 単位?

【画像56】(写真撮影/megaya)

【画像56】(写真撮影/megaya)

 【画像57】(写真撮影/megaya)

【画像57】(写真撮影/megaya)

単位が「kWh」だ。つまり僕が一生懸命に稼いでいた「Wh」の1000倍である。ZEHの家では1時間で最大3kWhも発電していた。太陽光発電に今の同じペースで追いつくためには、僕があと685人はいないとダメということだ。

僕は今まで家庭の電力はWh計算だと勝手に勘違いしていた。だからスマホの5Whを走り抜ければ勝てると思っていた。その勘違いをしたままだったので、つまりはこの企画がスタートした時点で負けが確定していたということだ。自分の無知さが憎い。

さらに僕の漕いだ電力を円に換算(1kWh=24円)すると約0.8円らしい。1円にすら満たない。どんなに頑張っても日本円にはならないのだ。つらすぎる。

真っ白に燃え尽きたよ。

発電は圧倒的に太陽光発電

1日当たりの電気使用量平均は18.5kWhくらいで、この家(ZEH)の発電量は、だいたい20kWh近くはいくらしい。ほぼ発電だけで電力をまかなえていることになる。

自転車だと1日分の電力稼ぐだけでも何年かかるか分からない。自転車発電ってもっと効率の良いものだと思ってた。よくよく考えたら効率がもしよかったら色んな家庭で流行るはずだもんなぁ……。

【画像58】(写真撮影/大嶺 建)

【画像58】(写真撮影/大嶺 建)

【画像59】(写真撮影/大嶺 建)

【画像59】(写真撮影/大嶺 建)

というか必死にやっている感じずっと出してたけど、実はアイス食べたり、カワシマユカさんがつくった動画見てたりしてだいぶ休んでいた。

8時間漕いで70kmしか走ってないのを考えると、思っていたよりサボっていたというのが自分でも分かる。

【画像60】(写真撮影/大嶺 建)

【画像60】(写真撮影/大嶺 建)

最後にカワシマユカさんに「今回、ZEHの宿泊体験でどこが一番よかった?」という話を聞いてみたら、

「シャワーが上下に動くのが一番良かったです!」

と元気よく教えてくれた。いやそれZEH全然関係ないから……!!

不妊治療と住宅購入、同時に実現させるには? 賢い住まいのマネー術(5)

不妊治療と住宅購入、どちらも非常にお金がかかるライフイベントです。二つの大きなライフイベントを同時に実現させることは可能なのでしょうか。その場合どのようなマネープランが必要なのか、基本から一緒に考えていきましょう。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。不妊治療にかかるお金と助成を知ろう 

      

不妊治療にはいくらかかるのでしょうか。タイミング指導で授かることができる場合、数万円で済むこともありますが、人工授精の場合は1回当たり数万円、体外受精の場合は1回当たり数十万円と、1人の子どもを授かるための費用は100万円以上かかることもよくあります。また、治療が長期に及ぶ場合も多いものです。

莫大なお金がかかるのに対して国や自治体からの補助はどれくらい受けることができるのでしょうか? 国の特定治療支援事業では、体外受精や顕微授精に対して、1回当たり最高15万円の給付があります。所得制限があり、夫婦合算の所得額が730万円未満(給与所得控除等を引いた額)に限られます。

独自の助成制度を設けている市区町村もあります。例えば、東京・港区の場合、所得制限なしで年30万円を限度に特定不妊治療費助成を受けることができ、東京都からの受給額では足りない部分をカバーすることができます。

品川区の場合は「一般不妊治療費助成事業」があり、国の助成制度では対象外となっているタイミング法・薬物療法・人工授精など一般不妊治療の医療費を最大で50万円助成します(年10万円まで、通算5年度、所得制限なし、年齢制限あり)。
※いずれも記事掲載時点。品川区の「一般不妊治療費助成事業」は制度変更を予定しており、上記は平成30年3月31日までの助成内容です。詳細については品川区のHPでご確認下さい。

すべての行政で独自の助成があるわけではありませんので、お住まいの市区町村のホームページや広報誌などで確認をしてみましょう。また、多くの場合、助成対象となる年齢に制限が設けられています。不妊治療は早期に始めるほうが、助成を受けるという面でも有利でしょう。

住宅選びで注意すべきは「予算」と「間取り」

では次に、不妊治療中にマイホームを購入する場合の注意点について考えてみましょう。まず一番大きなところは予算です。

住居費は手取り収入の3割以内に収めることが望ましいと言われていますが、不妊治療中もその原則は変わりません。

マイホームを購入し、不妊治療を続けた場合の家計簿はどうなるでしょうか。例えば、世帯の手取り月収40万円のA家庭の場合を見てみましょう。私の考える理想的な配分は以下のとおりです。

世帯の手取り 40万円
住居費 12万円(手取り月収の3割まで)
光熱・水道費 1万5000円
交通・通信費 2万円
保険・医療費 1万円
食費 6万円
生活用品費 5000円
被服・美容費 2万円
教養・娯楽費 2万円
交際費 1万円
夫婦小遣い 4万円
ライフイベント費(不妊治療にかかるお金) 6万円
※治療初期のケースを想定
貯金 2万円

不妊治療にかかるお金は医療費ではなくライフイベント費に含めています。治療の方法と受けられる助成額にもよって負担額は異なりますが、毎月の大きな支出になることは間違いありません。そのために、固定費となる住居費(住宅ローン返済額)は手取り月収の1/3以内に留められるように工夫をしましょう。

住宅購入の中でもマンションを購入する場合は、住宅ローンの返済以外に、管理費や修繕積立金、駐車場代など毎月住宅に固定費がかかります。すべて合わせて、現在の家賃と比べて無理がないかは必ずチェックをしておくとよいでしょう。

間取りに融通が利く物件にするなどの工夫も必要です。家族構成が決まらないうちに住宅を購入することになるからです。妊活に優しい自治体、子育てに優しい自治体もあるので、自治体情報も確認をしながら住むエリアを考えることも重要です。

夫婦共働きの期間は人生の貯め時であり、手取り月収の25%程度貯めたいところですが、ライフイベント費にお金もかかるので貯金が難しくなるかもしれません。治療が終了したら貯める、という意識を持つようにしましょう。

頭金は入れすぎない 少なくとも200万円の現預金を残そう

    
治療の方法によっては貯金を切り崩す必要が出てくる場合もあります。そのことも想定して、マイホーム購入の際に頭金を入れ過ぎない(手元にある程度の現金・預金を確保しておく)ほうがよいでしょう。

具体的には、少なくとも手元に200万円程度の現金・預金を残しておきたいものです。なぜならば不妊治療をしていない家計であっても、出産前は妊婦健診や出産費用、休職中の収入減に備えて、最低100万円は余裕が欲しいです。不妊治療をしている場合はそれに加えて、医療費やサプリメントの購入など様々なお金がかかるからです。

頭金と住宅ローンのバランスを考える必要があるので、場合によってはファイナンシャル・プランナーなど専門家にライフプランの相談をするのも一つです。

治療中は体調が不安定になることがあります。筆者の知る限り、妻側が休職するケースもあるようです。そのリスクに備えて、住宅ローンを夫一人でも返済可能な額に留めたり、勤め先に不妊治療休暇がないかを確認したりもしておきましょう。
                                                    
人生ではお金がかかるライフイベントがいくつもありますが、ライフイベントが二つ同時に重なるケースもあるものです。その場合、より慎重なプランニングが必要になります。

花輪 陽子花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

好立地にあるビルを住居に 「ビル1棟リノベ」の魅力とは

ビルリノベーション(ビルリノベ)とは、その名のとおりビルをリノベーションすること。一戸建てやマンションをリノベーションするように、ビル1棟をリノベーションして住居として住む人がじわじわ増えているのだそうです。ビルリノベーションを手がける株式会社クラフトの田代さんに、ビルリノベの魅力についてお話をうかがいました。
「一戸建てではできないこと」がかなう

一戸建てでもなく、マンションでもなく、ビルをリノベーションして住む。その住まい方にはどんな魅力があるのでしょうか。

「一般的なビルの場合、駅近だったり、幹線道路に面していたりするため、通勤・通学に便利な好立地に建っていることが多いんです。また、鉄骨造、鉄筋コンクリート造で耐久性が高く、壁や柱のない構造なので、大空間をつくりやすいのもビルのいいところですね」(田代さん)

【画像1】東京都中央区の賃貸用ビルの1階を駐車場に、2階~4階を居住スペースにリノベ。日本橋や銀座といったエリアへのアクセスが良い立地にあるのが魅力(画像提供/株式会社クラフト)

【画像1】東京都中央区の賃貸用ビルの1階を駐車場に、2階~4階を居住スペースにリノベ。日本橋や銀座といったエリアへのアクセスが良い立地にあるのが魅力(画像提供/株式会社クラフト)

一戸建てやマンションでは実現できないことが、ビルに住むことで叶えられることもあるようです。しかし、住居用としてつくられていないビルの場合、いくつかデメリットもあると言います。

「ほとんどのビルの場合、キッチンやバスルームなどが備わっていないので、リノベーションのコストがかかってしまいます。バルコニーもないことが多いため、洗濯物を外に干すことも難しいんです。繁華街やオフィス街にあるビルの場合、隣のビルと密接していることも少なくないので、日当たりが悪かったり、周辺が騒がしかったりといったデメリットもあるんですよね」(田代さん)

ビルリノベでは、これらのデメリットをどのように解決していくかがカギになるそうです。

採光や水まわり……ビルのデメリットもリノベで解決

住居用ではないビルならではのデメリットを、リノベーションでどのように解決するのでしょうか。

「隣のビルが密接していて採光がむずかしいビルの場合、日当たりがよく、視線が抜けるような場所を探して、窓の光を上手く取り入れる工夫を施します」(田代さん)

【画像2】このお宅の場合、光量が限られていたリビング側の腰窓を全面窓に交換し、食卓を明るくするためにトップライトの下にダイニングを設けた(画像提供/株式会社クラフト)

【画像2】このお宅の場合、光量が限られていたリビング側の腰窓を全面窓に交換し、食卓を明るくするためにトップライトの下にダイニングを設けた(画像提供/株式会社クラフト)

また、バルコニーがないビルの場合は、洗濯物が干せるように日当たりのよい場所にインナーテラスを設置するといった工夫を施すことも。

【画像3】リビングのそばに日が差し込むインナーテラスを設置した事例(画像提供/株式会社クラフト)

【画像3】リビングのそばに日が差し込むインナーテラスを設置した事例(画像提供/株式会社クラフト)

インナーテラスを設置すれば、雨でも洗濯物を干すことができるようになるだけでなく、通行人から洗濯物を見られることもなくなるため、かえって一戸建てやマンションよりもメリットがあるそうです。

また、キッチンやバスルームなど水まわりの設備がないビルには、そういった設備を設けるだけでなく、床や天井ができるだけフラットになるように配管やダクトの経路を配慮します。

築年数が経過している古いビルの場合は、ビル全体の性能を見直すことも欠かせません。ビルの耐久性を高めるために、外壁や屋上の劣化部分を修繕したり、結露を防ぐために窓を二重サッシにしたり、断熱性を高めるために壁に発泡ウレタンを吹き付けたりといったこともおこなうそうです。

気になる費用は?

リノベーションをすることで、ビルでも理想的な間取りや住環境を手に入れることができると分かったところで、やはり気になるのが実際にビルリノベにかかる費用です。

「ビルリノベの費用の考え方は、基本的に一戸建てやマンションと同じです。しかし、鉄骨造やRC造のビルの場合、構造をそのまま活かしやすいので、古い木造一戸建てをリノベーションするよりもかえってコストダウンになることもあるんです」(田代さん)

【画像4】壁に囲まれていた階段ホールをガラス張りに。LDKとの一体感を生み出すことができた(画像提供/株式会社クラフト)

【画像4】壁に囲まれていた階段ホールをガラス張りに。LDKとの一体感を生み出すことができた(画像提供/株式会社クラフト)

ちなみに、同社の場合「20万円/平米」がリノベーション費用の目安だそう。5階建ての鉄骨造ビル(リノベーション面積127平米)の場合、リノベーション費用は約2500万円とみておくとよいでしょう。

「ビルは新築時に45~50万円/平米ほどのコストがかかると言われていますので、既存のビルをリノベーションしたほうが割安です。もちろん、通常の住居のリノベーションと同様で、大幅な間取り変更や大規模な修繕などが必要となれば、その分コストがかかります。予算に合わせて、何をどこまで手を加えるのかを考えるのは、中古の一戸建てやマンションのリノベーションと同じです」(田代さん)

ところで、ビルをリノベーションして暮らしたいと考えているのは、どんな方が多いのでしょうか。
 
「当社にビルリノベのお問い合わせをいただくのは、お子さまがいらっしゃる40代の方が多いですね。親族が所有しているビルを改装して居住する目的でリノベしたいというご要望が大半です。ご親族所有のビルで利便性のある立地にあれば、マンション等を購入するよりも経済的に安く、思いどおりの間取りや空間を手に入れられますからね」(田代さん)

自身や親族が所有しているビルをリノベーションして居住するだけでなく、なかには古いビルを購入して住居に改装してしまうケースも少なくないのだとか。

「都内の好立地にあるビルを購入して、リノベーションされる方もいらっしゃいますね。1棟まるまる住居にする方だけでなく、例えば4階建てのビルを購入して1・2階をテナント用賃貸スペースに、3・4階を住まいにリノベーションする方もいらっしゃいます。好立地にあるビルであれば、テナントが入りやすいので家賃収入も見込めるんです。なかにはすでにテナントが入っているビルを購入して、自分好みにリノベーションされる方もいます」(田代さん)

【画像5】社員寮として使われていた渋谷区の古いビル(右)を購入。1・2階をテナント用賃貸スペースに、3・4階を住まいにリノベーション。その後、隣の土地があいたため、新たにビルを新築し(左)、テナント貸ししている(画像提供/株式会社クラフト)

【画像5】社員寮として使われていた渋谷区の古いビル(右)を購入。1・2階をテナント用賃貸スペースに、3・4階を住まいにリノベーション。その後、隣の土地があいたため、新たにビルを新築し(左)、テナント貸ししている(画像提供/株式会社クラフト)

また、東京都中央区の賃貸用ビルを一棟丸ごと購入してリノベーションした方は、日本橋や銀座といった立地へのアクセスがよくなったのだとか。通勤もラクになり、休日は家族で散歩がてら銀座にショッピングしたり、歩いてランチやディナーを楽しんだりする暮らしを満喫しているそうです。

ちなみに、最近は「ビルリノベすることで屋上やルーフバルコニーをうまく活用したいと考えている人が多い」と言います。

【画像6】ルーフバルコニーとリビングをひと続きにした事例。広いリビング空間を演出できた(画像提供/株式会社クラフト)

【画像6】ルーフバルコニーとリビングをひと続きにした事例。広いリビング空間を演出できた(画像提供/株式会社クラフト)

「最上階のルーフバルコニーをリビングとひと続きにして、開放感を引き出すリノベが人気ですね。屋上でホームパーティーやバーベキューをしたり、花火鑑賞などを楽しんだりと、都心にいながらちょっと贅沢な日常を送ることができるんです」(田代さん)

ビルリノベして暮らすことで、ライフスタイルも自然と変化するようです。逆にライフスタイルをより充実させるために、ビルリノベを選択する人も今後増えるかもしれません。

「立地重視で都心の一戸建てを検討している人は、ぜひビルも選択肢に入れてほしい」と田代さんは言います。住居選びの選択肢が広がるだけでなく、木造の一戸建てよりも自由にリノベーションプランを考えることができるのもビルリノベの魅力。「ビルリノベ」ならあなたの理想の住まい方を実現できるかもしれません。

●取材協力
・株式会社クラフト

「東京五輪前に家を買いたい。選び方のコツはありますか?」 住まいのホンネQ&A(1)

「住まいのホンネQ&A」は、誰もが知りたい住宅に関する様々なQ&Aについて、さくら事務所創業者・会長の長嶋修氏にホンネで回答いただく新連載です。

第1回の質問は「東京五輪前に家を買いたい。選び方のコツはありますか?」。
東京五輪前で住宅価格が高騰しているとも言われていますが、人生設計の上でどうしても”いま”家を買いたいのだ、という人もいるでしょう。
そんな時はどうやって選べばよいのか? 五輪にまつわる住宅の「ウソ・ホント」と共に、長嶋氏に解説いただきます。
本当に「高い」のか? 五輪前、不動産市場の真実

オリンピック前に家を買いたいという理由は何でしょうか?

ちまたではオリンピックまでは不動産価格高騰が続くといった意見や風潮がありますが、そのような事実はほとんど見られません。過去のオリンピック開催と経済・不動産市場の関係を調べると、たしかにオリンピック前後で経済や不動産市場が上下動しています。しかしこうした動きは主に新興国や経済規模の小さい国の場合に限られ、先進国・経済規模の大きい国ではオリンピック前後でそれほどの変化は見られません

例えば2012年のロンドンオリンピックにおいて英国政府は「オリンピックが英国不動産市場に与える影響は、なかった」とするレポートを出しています。以上のことから、2020年東京オリンピックが不動産市場に与える影響は、選手村や競技場ができる都心湾岸地区など一部を除いて、ほとんどないと考えてよいでしょう。それよりは、経済動向や人口動態が不動産市場に与える影響のほうが遥かに大きいと思われます。

まずは不動産市場がすでに3極化していること。そしてその傾向は今後ますます強くなるといった見通しを持っておく必要があります。私のイメージでは現在、不動産市場は以下のような割合で構成されていると考えています。

[1]「価値維持ないしは上昇する:10-15%」
[2]「徐々に価値を下げ続ける:70%」
[3]「無価値あるいはマイナス価値に向かう:15-20%」

「価値維持ないしは上昇」というと都心の超一等立地などをイメージするかもしれませんが、必ずしもそればかりではなく、都市郊外でも地方都市でもこうした立地は存在します。最もボリュームが大きいのは「徐々に価値を下げ続ける(70%)」。国内の多くがこれに当てはまります。問題は下落率で、年率2%ずつなのか4%ずつなのかといったところ。最後は「無価値あるいはマイナス価値」ですが、こうしたところに家を買うといったケースは非常にまれでしょう。

本格的な人口減少、少子化・高齢化社会を迎えるにあたり、この3極化傾向はますます強くなると考えてください。

新築マンションが高騰、中古は「新築との価格差」で人気

2012年12月の、民主党から自民党への政権交代以降、アベノミクスや黒田バズーカといった経済政策、また人手不足による人件費上昇や建築コスト高騰で日本の不動産価格はほぼ右肩上がりの上昇を続けてきました。しかしその内訳にはかなりの温度差があります。

2017年12月の首都圏新築マンション市場の平均価格は6019万円(出所:不動産経済研究所「首都圏のマンション市場動向2017年12月度」)と、随分と高くなりましたが、とりわけ都区部は7531万円(同)と、サラリーマンには手の届かないところまで高騰しています。ただしその中身を見ると「都心・駅近・一等立地・大規模・タワー」といったワードに象徴されるような物件の比率が高まり、一方で「郊外・駅遠」といった物件の比率が下がっていることが平均価格を押し上げていることにも注意が必要です。新築マンションの発売戸数はなだらかな減少傾向で、価格高止まりのこの傾向は今後も続き、東京五輪以降もこの傾向は続くでしょう。新築マンションはある意味「ぜいたく品」といった位置づけになりそうです。首都圏以外の他都市でもこうした傾向は同様ですが、首都圏ほど上昇しているわけではありません。

一方で中古マンション市場は好調です。その理由は「新築との価格差」。東京都区部などではその価格差は約2000万円、神奈川県・埼玉県などでは約3000万円以上も。こうなると、良質な中古マンションを買ってリフォーム・リノベーションしたほうが家計にも優しい上、自分の思い通りの間取りや内装にできるといったメリットが浮かび上がってきます。新築マンション価格が高止まりする中で中古マンション価格はそれを追うように、なだらかな上昇を継続するでしょう。

【画像1】(不動産経済研究所/東日本不動産流通機構資料より筆者作成)

【画像1】(不動産経済研究所/東日本不動産流通機構資料より筆者作成)

ただしその上昇率にもかなりの温度差があり、東京都心3区では政権交代以降60%以上も価格上昇しているのに対し、神奈川県・埼玉県・千葉県の上昇率は20%程度です。

【画像2】(出所:東日本不動産流通機構)

【画像2】(出所:東日本不動産流通機構)

また、駅から求められる距離は年々厳しくなっていることにも注意が必要です。例えば東京都心7区の中古マンションでは、5年前は、駅から1分離れると平米あたり8000円程度下落していましたが、昨年は、駅から1分離れると平米あたり約1万6000円も下落しています。
これは都心に限らずどの地域にも言える全般的な傾向です。
【画像3】(出所:東日本不動産流通機構)

【画像3】(出所:東日本不動産流通機構)

一戸建て市場も2017年から上昇傾向

一方で一戸建市場に顕著な兆しは見られませんでしたが、2017年あたりから上昇傾向にあるのが見てとれます。これは、マンション価格が上がりすぎたことによる相対的な割安感や、日銀によるゼロ金利政策から住宅全般が買いやすくなったことなどが主な理由であると思われます。

【画像4】(国土交通省資料より筆者作成)

【画像4】(国土交通省資料より筆者作成)

低金利というのは言うまでもなく家計に優しく、家を買うにはもってこいの状況であるといえます。固定金利にしておけば、後の金利上昇も怖くありません。そうした意味では、低金利の今は買い時と言っていいでしょう。

では金利はいつ上昇するか。正確に時期を読み取ることはできませんが、今後景気が良くなっても悪くなっても金利は上昇します。景気が良くなりインフレ率が高まれば、それに応じて日銀のゼロ金利政策が解除される可能性が高まりますし、景気が悪化し日本国債の信任が失われるようなことがあれば、現行の金利水準を維持することができなくなる可能性が出てきます。いずれにせよ現在のような低金利がいつまでも続くとは思わないほうがいいでしょう。

ところで金利の上昇は、不動産市場には大きな下落圧力です。これは、住宅購入者の購買力が減退するため。3000万円を期間35年、金利1%なら毎月の支払いは約8.5万円で済みますが、3%に上昇すると約11.5万円と、毎月3万円、総額では約1300万円も増えてしまいます。低金利の恩恵を受けていま家を買う人も、こうした事態に陥っても価格が落ちない、落ちにくい立地を選んでおく必要はあります。

オリンピック前の2019年10月には8%から10%への消費増税が控えています。これまでは増税前に駆け込み需要があり、その後反動で市場が落ち込み価格が下がるのがセオリーでした。次もおそらくこうした動きは起こりそうですが、前回より消費税率の上げ幅が少ないこともあり、それ程大きな影響はないものと思われます。価値が落ちない家を買うことに注力しておけば2%程度の消費増税も誤差の範囲といえ、あまり気にする必要はないでしょう。

では具体的にどんな立地を選べばいいのか。またどんな建物なら価値が落ちにくいのかなどについて、次回コラムでお伝えします。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

夫婦がマンションを購入するベストタイミングは? ライフステージごとに比較!

将来子どもが欲しいと思っている夫婦にとって、「いつマンションを購入すべきか」が悩みの種になっているかもしれません。そこで、ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんに、マンション購入のタイミングについてライフステージごとにメリット・デメリット、注意点を伺いました。
マンション購入前に必ず確認しておきたいポイントって?

どんなタイミングでマンションを購入するにしても、必ず夫婦で確認しておきたいポイントがあると風呂内さんは言います。

「ずっと住むのか、それともライフステージの変化に合わせて売ったり貸したりする可能性があるのか。つまり“投資視点”に重きを置いて購入するのか、完全に“住まい視点”で購入するのかによって、選ぶ物件は大きく変わってくるので、事前に夫婦間で認識を擦り合わせておく必要があります」(風呂内さん、以下同)

例えば、子どもの成長に合わせて買い替えたり、貸したりするのであれば、コンパクトでもアクセスの良い駅近の物件がいいとのこと。一方、ずっと家族で所有し、暮らしていくのであれば、駅からは多少距離があっても広くて仕様や設備の良い物件を購入するといったように、購入物件の選び方は変わってくるのだとか。

「両方の視点をもっていたほうがいいのですが、どちらをより重視するのかによって適する物件が変わってきます。家賃を節約したくて家を買うのか、広い家に住みたくて家を買うのか、自分たちがマンションを購入する目的をしっかりと確認しておくべきです」

それではこの前提を踏まえた上で、ライフステージごとのポイントを見ていきましょう!

妊娠する前にマンションを買うと?

子どもを妊娠する前の、夫婦2人だけの共働き世帯が、もっとも経済的に合理的な物件を選べる可能性が高いと風呂内さんは言います。

「夫婦共働きの場合、立地やアクセスの良さで物件を決める傾向があるため、住まいとして購入したマンションでも売ったり貸したりしやすいことが多いのです。こうした“投資視点”で物件選びができるのが、このタイミングで購入するメリットであると言えます」

ただし、注意点もあります。

「この時期の共働き世帯は、経済的にゆとりがあるため、高額なローンを組んでしまいがちです。出産後、一方の収入が減ることやなくなる可能性も加味した上で、大きすぎない物件を購入することを意識した方が良いと思います」

マンション購入にあたっては、少しでもいいものを……と思ってしまいがちなもの。フルタイムで共働きをしている夫婦の収入で考えれば支払い可能な物件でも、産後その収入を維持できるかどうかは分かりません。子どもを望む家族にとって、妊娠前の期間は不確定要素の多い時期。産後に妻が離職したり、時短勤務になったりして、所得が下がるかもしれないということを念頭において物件探しをする方が良さそうです。

【画像2】「【フラット35】で住宅ローンを組めば、物件を賃貸に出すこともできます。民間ローンは賃貸に出せない場合が多いので、貸す可能性があるなら、あらかじめ【フラット35】で住宅ローンを借りるという対策も有効です」

【画像2】「【フラット35】で住宅ローンを組めば、物件を賃貸に出すこともできます。民間ローンは賃貸に出せない場合が多いので、貸す可能性があるなら、あらかじめ【フラット35】で住宅ローンを借りるという対策も有効です」

子どもが生まれてからマンションを買うと?

それでは子どもが小さいころにマンションを購入する場合はどうでしょうか?

「世帯年収をベースにローンを組もうとした場合、妊娠中や産休・育休中は住宅ローンに制限が出てきてしまうこともあります。住宅ローンの借り入れ限度額は前年度の所得で算出されるため、休業中や時短勤務の場合、所得に応じてフルタイムのときよりも借りられる額が少なくなる場合があります。そもそも妻の収入を加算できなくなったり、思ったようにローンが借りられなくなったりすることも」(風呂内さん)

一方で、子どもが生まれた後に家を買うと、待機児童の人数や学区、公園、病院など、子育て環境を重視した住まい選びができるという利点もあるようです。またある程度リアルな視点でライフプランが立てられるので、住まいの仕様や設備、間取りに夫婦のこだわりを活かしやすくなります。

「価格の面では、産前と同様、働き方が変化する可能性を見越して大きすぎない買い物をしないことが重要です。今借りている賃貸の家賃と駐車場代などの固定費を足した額と、ローン、管理修繕費、固定資産税の総額を比較して同額程度になるといいですね」

子どもが大きくなってからマンションを買うと?

最後に、子どもが思春期を迎え、自分の部屋が欲しくなるタイミングでマンション購入を検討するときの注意点は何でしょうか?

「立地条件を無視した、広い家に目が行きがちになることです。しかし、大きくなった子どもと一緒に住まう期間は、進学や就職、結婚のタイミングなどを考えても、数年~長くても20年という場合が多いと思います。将来子どもが巣立ち、夫婦だけの生活に戻ったときに、本当にその物件で良いのかどうか、一度落ち着いて考える必要があります」

頭金も多く用意でき、子どもの意向を取り入れた住まい選びができるという利点はあるものの、予算内で広さを求めてしまうため、“投資視点”で見たときに売りづらい物件を手にしてしまう傾向があるようです。

「このタイミングに限らず言えることですが、ライフスタイルの変化に応じて売ったり貸したりしやすい物件を購入しておけば、将来、住まいによって家族の行動が縛られる可能性を回避できます。世帯の人数や働く場所が変わったときに手に負える物件を買うことが大切です」

勉強や趣味に集中できたり、家族がほどよい距離感で生活できたりする広い家は、思春期の子どもを持つ家庭には魅力的ですが、“投資視点”も忘れないようにしたいですね。

マンション購入のベストタイミングは、夫婦がともに「買おう!」と思った“その時”なのかもしれません。ただ忘れてはならないのは“投資視点”ももっておくこと。今のライフステージだけで判断するのではなく、この先の家族の変化に対応してくれるフレキシブルな物件選びがポイントになりそうです。

風呂内亜矢さん●取材協力
風呂内亜矢さん
1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
自身のマンション購入の経験をきっかけに、お金の勉強をはじめ、ファイナンシャルプランナーに。メディア実績も多数

リノベしやすい中古マンションはどう選ぶ? 物件探しとプランづくりのコツを聞いてみた

「中古マンションを購入してリノベしたい」という声をよく耳にするようになった。しかし思いどおりの部屋をつくるためには物件探しが重要だ。実際は「リノベしやすいマンション」「リノベしにくいマンション」もあるからだ。買った後に「こんなはずじゃなかった!」とならないために、見分けるためのポイントを「中古×リノベーション」を数多く手掛ける株式会社NENGOの林久順(はやし・ひさより)さんと小堀良治(こぼり・よしはる)さんに聞いてみた。
自分が手にしたい「理想の暮らし」に合わせた物件を探す

NENGOではリノベーションしたい人を物件探しの段階からサポートする『おんぼろ不動産マーケット』を運営している。不動産の紹介担当の小堀氏は「マンションを探す段階から、その人の理想の『くらし』が、環境や立地に加えて、リノベーションで実現できるかどうかを一緒に考え、物件を探す必要があると思っています」と言う。確かにはじめてマンションを購入する人たちは、知識も経験も少ないことがある。専門知識をもった人にサポートしてもらえるのは安心だ。

「建物については、構造が大切ですね。竣工図面があれば、それを確認します。例えば壁構造(柱がなく、壁梁や壁により、支えられる構造)の場合は、ラーメン構造(柱と梁により構成されている構造)に比べて、壁を抜いて広い空間にするということができない場合もあります」
ラーメン構造であっても抜ける壁と抜けない壁はある。スケルトンの状態になっていれば確認しやすいが、まだ内装が残っている場合の内見の状態では分かりづらい。「図面がなくても、壁を叩いてみたり、ユニットバスの点検口から確認できることもあります」と林さん。

「床や天井の状態も大切です。古いマンションの場合、上下水道の配管が下の階の住戸の天井の中に埋め込まれている場合があります。そのときは自宅内に配管を通す必要があり、水まわりの場所を大きく変更することができなかったり、室内に段差をつくらざるをえない場合もあります」とのこと。

また建築時の検査済証があるかどうかも大切なポイントだ。「検査済証がないような物件の場合は、銀行に融資してもらえない場合があります」現金でマイホームを買える人なら別だが、住宅ローンを組んで買うケースがほとんどだろう。資金計画の点でも重要になるということだ。

古いマンションであれば耐震性も気になる。「耐震基準適合証明書(※)を取っているかもポイントになりますね。建物への信頼もありますが、住宅ローン減税における築後年数要件の緩和でも必要になります」と小堀さん。買ったあとで確定申告に行ったときに住宅ローン減税の対象ではないことを知る人もいるので気を付けておきたい。

※耐震基準適合証明書:建物の耐震性が基準を満たすことを建築士等が証明する書類。中古住宅の場合、住宅ローン減税が利用できるのは、非耐火構造で築20年未満(耐火構造の場合は築25年未満)の建物に限られるとされているが、「耐震基準適合証明書」付きの物件であれば、築年数が古くても住宅ローン減税の対象となる

【画像1】NENGOが手掛けた、中古リノベーションの事例。写真左:解体後。写真右:リノベーション後(画像提供/株式会社NENGO)

【画像1】NENGOが手掛けた、中古リノベーションの事例。写真左:解体後。写真右:リノベーション後(画像提供/株式会社NENGO)

築年数よりも、管理の行き届いたマンションを選ぶことが大切

内見時にはマンションの管理状態も確認しよう。「マンションの管理状態がいいか悪いかは、内見に行って共用部を見ると分かります。そこを見ないでどうするんだ、くらいの感じですね。管理のいいマンションは清掃がきちんとされていて、スキがない感じがすると思います」と小堀さん。

マンションによっては専有部のリノベーションでも、使う素材が指定されているところもある。「主に遮音性に関係する床の素材の場合が多いです」(同)。例えばむくフローリングの部屋にしたいと思っていても、遮音性の観点で決まりがある場合もあるので、どう解決できるか確認が必要だ。

いずれにしても「理想の住まい」を手に入れるには、マンション全体の管理状況も大きく影響をしてくる。マンションの管理状況を調べる詳細は、以前取材した「中古マンション見学のポイントを、熱血マンション理事長に聞いてみた!」を参考にしてもらいたい。規約や修繕計画などを確認しておくことは、快適なマンション暮らしには欠かせないポイントだ。

住み心地を左右するのは、目に見えない「温熱環境」を重視したリノベーション

ディレクション担当の林さんは「弊社が手掛けたリノベーションは、一見、写真映えがしないかも知れません。それは一番重視しているのが断熱や遮熱といった『性能』の部分だからです。この部分に配慮するのとしないのとでは、住んでからの快適さが違います」と話す。

住み始めて不都合を感じるのは、実は目に見えない「住宅の性能」だ。壁紙やフローリングは後からいくらでも変えることができる。しかし断熱性や気密性能といったものは、最初にきちんと対処しておかないと後から高めることは難しい。

「特に温熱環境は健康という面でも大事だと思います。家の中のヒートショックで亡くなる方は交通事故で亡くなる人より多いそうです」とのこと。加えて2020年からは建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)により住宅にも最低基準が設けられる。

「これからは『耐震』のように、旧省エネ基準・新省エネ基準と区別され、建物の資産価値を左右することになると思いますよ」(同)

【画像2】NENGOのリノベーションでは、断熱材や複層ガラスなど快適な温熱環境を実現できるプランを提案している(画像提供/株式会社NENGO)

【画像2】NENGOのリノベーションでは、断熱材や複層ガラスなど快適な温熱環境を実現できるプランを提案している(画像提供/株式会社NENGO)

「インスタ映え」よりも、ていねいな素材選び

リノベーションを実施するにあたって、NENGOでは見学会を度々開催するそうだ。林さんは「経験した人の話を聞いてもらうのが、一番参考になるようです。弊社でリノベーションをした人は協力的な方が多く、自宅を公開してくれる場合が多いですよ」と言う。なかには何度も足を運び、仲良くなってしまうこともあるそうだ。

林さん自身も、ヒアリングを通して顧客と親しくなることが多い。「ご夫妻の履いている靴が、偶然僕の履いている靴と一緒だったということもありました。趣味が一致するということは暮らし方も一致する可能性がありますね。一見建物とは関係ない会話が、リノベーションプランのヒントになることも多いんですよ」本の趣味や暮らしの趣味を知ることで、より満足してもらえる住まいが提案できる。そのための時間を大切にしているそうだ。

また、むく材の使用など素材をていねいに選ぶということを重視しているそうだ。「弊社のリノベーションは、出来上がったときはそっけないように見えることが多いです。いわゆる『インスタ映え』はしないかも知れません。でも、なんだか居心地がいいな、と感じてもらえる空間をつくっています」(同)。住んでいる人がいずれ自らつくりこんでいく余白を残し、住まいと住み手が一緒に成長していける空間を用意しているそうだ。

【画像3】不動産の紹介担当の小堀さん(左)と、設計ディレクション担当の林さん(右)。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】不動産の紹介担当の小堀さん(左)と、設計ディレクション担当の林さん(右)。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

いろいろハードルが高そうな「中古マンションを購入して自分スタイルにリノベーション」。だが、自分であらかじめ知識を身に付けておくこと、そして必要なときには専門家のサポートを得ることで、実現できるかもしれない。

●取材協力
株式会社NENGO

「50平米未満」のマンション購入、税制、融資、どんな落とし穴がある?

晩婚化、未婚率・離婚率の上昇、高齢化などさまざまな要因で、単身世帯が増加している。不動産流通経営協会(FRK)によると、ひとり住まいの住宅購入については、「50m2未満」という住宅の面積がキーワードになるという。どういうことだろうか、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」を公表/不動産流通経営協会(FRK)立地の利便性が重視される「ひとり住まい」の住宅購入

「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査」によると、過去5年以内に三大都市圏で住宅購入を検討/購入した人のうち、住宅の購入後に「単身」で住む予定があった人は、検討者で21.3%、購入者で10.8%だった。さらに、「50m2未満の物件」について、どの程度の人が単身で検討/購入したかをみると、検討者で 9.4%、購入者で3.2%だった。

この結果についてFRKは、「50m2未満の物件購入ニーズは約1割の人にあるものの、実際に購入しているのは購入者全体の約3%と、実際のニーズに対して、適切な住宅供給ができていない可能性があるとみられる」と分析している。

また、50m2未満の物件を検討または実際に購入した人には、住まい選びの重視点に特徴が見られる。

調査結果では、50m2未満検討者が検討時に重視していたことでは、「路線・駅やエリア」が8割超と高く、「最寄り駅からの時間」「通勤・通学時間」などアクセスや立地面を挙げる人が 50m2未満非検討者に比べて多い。さらに、50m2未満購入者を見ると、50m2以上購入者に比べてアクセスや立地面を重視し、間取りや広さを妥協する傾向もうかがえる。

【画像1】検討者・購入者がそれぞれ重視していたこと(出典/不動産流通経営協会「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」より抜粋転載)

【画像1】検討者・購入者がそれぞれ重視していたこと(出典/不動産流通経営協会「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」より抜粋転載)

では、50m2未満の物件を検討/購入しなかったのは、どういった理由からだろう?

調査結果の「50m2未満の物件を検討しなかった理由」を見ると、「暮らし方を考えると、自分には狭すぎるので」が最も多い(画像2)。しかし、注目したいのは、50m2以上を実際に購入した人が2番目に多く挙げた理由、「住宅ローン控除の適用外だから」だ。

【画像2】50m2未満の物件を検討しなかった理由(出典/不動産流通経営協会「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」より転載)

【画像2】50m2未満の物件を検討しなかった理由(出典/不動産流通経営協会「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」より転載)

住宅ローン控除などの減税には、登記簿面積50m2以上の適用条件 

「住宅ローン控除」とは、住宅ローンの年末残高の1%を10年間にわたって所得税などから控除するというもの。かなりの額が納めた税金から戻ってくるので、利用する人は多い。この住宅ローン控除を受けられる条件として、「住宅の床面積が50m2以上」というものがある。

政府は、「豊かな住生活が実現するため」として、住宅の面積を広くしようと誘導してきた。そのため、マイホーム取得を促進する減税などの適用条件として、住宅の面積を50m2以上に制限している場合が多い。住宅を買うときの減税措置には、ほかにも「登録免許税の税率軽減」もあるが、同様に50m2以上であることが条件となる。

また、住宅を買うときなどに親や祖父母から贈与を受けた場合、一定額の贈与額が非課税になる「住宅取得等資金の非課税制度」の条件でも、住宅の面積を50m2以上としている。このように、税制の優遇措置を考えると、50m2というのが一つのハードルとなっていることが分かる。

注意したいのは、ここで説明した税制上の床面積とは、「登記簿面積」であることだ。マンションの不動産広告で表示される面積は、「専有面積」であることが多い(中古の一部で登記簿面積が記載されていることもある)。マンションの登記簿面積が「内法(うちのり)」、つまり壁の内側だけの面積であるのに対し、専有面積は「壁芯」、つまり壁の厚みの中心線で測る面積なので、壁の厚みが加算されない登記簿面積のほうが小さくなる。

専有面積が50m2だから住宅ローン控除が適用されると思っていたら、登記簿面積は50m2未満だったということもあるので、面積の違いについて正しく理解しておきたい。

※なお、「不動産取得税の軽減制度」と「新築家屋の固定資産税の税額軽減」の適用条件である、床面積50m2以上の床面積は「課税床面積」なので、共用部分の持ち分が加算された面積となる

何を重視するか、住まい選びの優先順位を明確に

さて、利便性の良い立地でかつ広さを求めると、住宅の価格は高くなる。予算内なら問題はないが、予算が足りない場合は、狭くなっても利便性を重視するか、利便性を妥協して広さを重視するかといった、優先順位が決め手になってくる。

住宅ローン控除を受けるためだけに、予算より高い50m2以上の住宅を買ってしまい、重い返済負担を抱え続ける、といったことだけは避けたいものだ。

したがって、「親からの贈与を受けて住宅を購入するので、贈与税の非課税枠を使いたい」とか、「返済に問題はないが、借入金が多いので減税効果を最大限に活用したい」など、減税効果を考えたうえで、50m2以上にするなどの判断をするとよいだろう。

一方、住宅ローンを利用する場合にも、住宅の広さは影響するのだろうか?

住宅金融支援機構が民間金融機関と提携する、全期間固定型の【フラット35】を借りる場合は、マンションなら30m2以上、一戸建てなら70m2以上の床面積で、住宅金融支援機構が定めた技術基準に適合する住宅という条件がある。こちらは専有面積30m2あれば、借りることができる。

銀行ローンなどの民間金融機関もそれぞれ独自の基準があるので、住宅の面積の条件の有無については、それぞれ確認が必要だ。

税金を納める身としては、減税はできるだけ活用したいと思う。だからといって、減税目的だけで重視する優先順位を変える必要はないだろう。避けたいのは、「知らなかったことを買った後に悔やむこと」だ。住まい選びの際には、その準備として、こうした知識も身につけておきたい。
なお、住宅の面積以外にも適用条件はあるので、必ずそれぞれ確認してほしい。

「50平米未満」のマンション購入、税制、融資、どんな落とし穴がある?

晩婚化、未婚率・離婚率の上昇、高齢化などさまざまな要因で、単身世帯が増加している。不動産流通経営協会(FRK)によると、ひとり住まいの住宅購入については、「50m2未満」という住宅の面積がキーワードになるという。どういうことだろうか、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」を公表/不動産流通経営協会(FRK)立地の利便性が重視される「ひとり住まい」の住宅購入

「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査」によると、過去5年以内に三大都市圏で住宅購入を検討/購入した人のうち、住宅の購入後に「単身」で住む予定があった人は、検討者で21.3%、購入者で10.8%だった。さらに、「50m2未満の物件」について、どの程度の人が単身で検討/購入したかをみると、検討者で 9.4%、購入者で3.2%だった。

この結果についてFRKは、「50m2未満の物件購入ニーズは約1割の人にあるものの、実際に購入しているのは購入者全体の約3%と、実際のニーズに対して、適切な住宅供給ができていない可能性があるとみられる」と分析している。

また、50m2未満の物件を検討または実際に購入した人には、住まい選びの重視点に特徴が見られる。

調査結果では、50m2未満検討者が検討時に重視していたことでは、「路線・駅やエリア」が8割超と高く、「最寄り駅からの時間」「通勤・通学時間」などアクセスや立地面を挙げる人が 50m2未満非検討者に比べて多い。さらに、50m2未満購入者を見ると、50m2以上購入者に比べてアクセスや立地面を重視し、間取りや広さを妥協する傾向もうかがえる。

【画像1】検討者・購入者がそれぞれ重視していたこと(出典/不動産流通経営協会「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」より抜粋転載)

【画像1】検討者・購入者がそれぞれ重視していたこと(出典/不動産流通経営協会「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」より抜粋転載)

では、50m2未満の物件を検討/購入しなかったのは、どういった理由からだろう?

調査結果の「50m2未満の物件を検討しなかった理由」を見ると、「暮らし方を考えると、自分には狭すぎるので」が最も多い(画像2)。しかし、注目したいのは、50m2以上を実際に購入した人が2番目に多く挙げた理由、「住宅ローン控除の適用外だから」だ。

【画像2】50m2未満の物件を検討しなかった理由(出典/不動産流通経営協会「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」より転載)

【画像2】50m2未満の物件を検討しなかった理由(出典/不動産流通経営協会「『ひとり住まい』の持ち家ニーズ調査(首都圏・関西圏・中部圏)」より転載)

住宅ローン控除などの減税には、登記簿面積50m2以上の適用条件 

「住宅ローン控除」とは、住宅ローンの年末残高の1%を10年間にわたって所得税などから控除するというもの。かなりの額が納めた税金から戻ってくるので、利用する人は多い。この住宅ローン控除を受けられる条件として、「住宅の床面積が50m2以上」というものがある。

政府は、「豊かな住生活が実現するため」として、住宅の面積を広くしようと誘導してきた。そのため、マイホーム取得を促進する減税などの適用条件として、住宅の面積を50m2以上に制限している場合が多い。住宅を買うときの減税措置には、ほかにも「登録免許税の税率軽減」もあるが、同様に50m2以上であることが条件となる。

また、住宅を買うときなどに親や祖父母から贈与を受けた場合、一定額の贈与額が非課税になる「住宅取得等資金の非課税制度」の条件でも、住宅の面積を50m2以上としている。このように、税制の優遇措置を考えると、50m2というのが一つのハードルとなっていることが分かる。

注意したいのは、ここで説明した税制上の床面積とは、「登記簿面積」であることだ。マンションの不動産広告で表示される面積は、「専有面積」であることが多い(中古の一部で登記簿面積が記載されていることもある)。マンションの登記簿面積が「内法(うちのり)」、つまり壁の内側だけの面積であるのに対し、専有面積は「壁芯」、つまり壁の厚みの中心線で測る面積なので、壁の厚みが加算されない登記簿面積のほうが小さくなる。

専有面積が50m2だから住宅ローン控除が適用されると思っていたら、登記簿面積は50m2未満だったということもあるので、面積の違いについて正しく理解しておきたい。

※なお、「不動産取得税の軽減制度」と「新築家屋の固定資産税の税額軽減」の適用条件である、床面積50m2以上の床面積は「課税床面積」なので、共用部分の持ち分が加算された面積となる

何を重視するか、住まい選びの優先順位を明確に

さて、利便性の良い立地でかつ広さを求めると、住宅の価格は高くなる。予算内なら問題はないが、予算が足りない場合は、狭くなっても利便性を重視するか、利便性を妥協して広さを重視するかといった、優先順位が決め手になってくる。

住宅ローン控除を受けるためだけに、予算より高い50m2以上の住宅を買ってしまい、重い返済負担を抱え続ける、といったことだけは避けたいものだ。

したがって、「親からの贈与を受けて住宅を購入するので、贈与税の非課税枠を使いたい」とか、「返済に問題はないが、借入金が多いので減税効果を最大限に活用したい」など、減税効果を考えたうえで、50m2以上にするなどの判断をするとよいだろう。

一方、住宅ローンを利用する場合にも、住宅の広さは影響するのだろうか?

住宅金融支援機構が民間金融機関と提携する、全期間固定型の【フラット35】を借りる場合は、マンションなら30m2以上、一戸建てなら70m2以上の床面積で、住宅金融支援機構が定めた技術基準に適合する住宅という条件がある。こちらは専有面積30m2あれば、借りることができる。

銀行ローンなどの民間金融機関もそれぞれ独自の基準があるので、住宅の面積の条件の有無については、それぞれ確認が必要だ。

税金を納める身としては、減税はできるだけ活用したいと思う。だからといって、減税目的だけで重視する優先順位を変える必要はないだろう。避けたいのは、「知らなかったことを買った後に悔やむこと」だ。住まい選びの際には、その準備として、こうした知識も身につけておきたい。
なお、住宅の面積以外にも適用条件はあるので、必ずそれぞれ確認してほしい。

敷地内に認可保育園 子育てしやすい住まいをつくる【育住近接(2)】

昨今の保育所探しの大変さに、自治体もさまざまな取り組みを始めている。板橋区大山で建設中のマンション“Brillia大山 Park Front”でも敷地内に認可保育園が計画されている。しかもこのマンションには、働く女性が提案する住まいの共創プロジェクト “Bloomoi(ブルーモワ)”が参画していると聞いた。今回は自身が働くママでもあるメンバーに話を聞いて、仕事と子育てを両立する住まいについて考えてみた。育住近接
近年、保育園や学童保育施設などをマンションや団地内に設置する「育住近接」というトレンドが生まれています。「育住近接」を実現させた物件や団体の取り組み事例を紹介する企画です。駅からの距離より、自宅~保育所~駅への動線が大事

夫婦共働きはとにかく忙しい。特に小さな子どもがいると保育園探しが大変だ。できればマンション内に保育園があればベストだろう。最近では自治体の取り組みも積極的で、大規模なマンションが建設される場合は保育園をつくってほしいと要請することも多いようだ。

“Brillia大山 Park Front”は、敷地内に小規模認可保育園が開園予定されている。もちろん住人がそのまま入園できるわけではないが、もし入園できたら「育住近接」として、ほぼ理想的。保育園を併設するマンションということで、より子育て世代が集まりやすいようだ。

自分自身が1歳と2歳の子どもを育てている鈴木さんはBloomoiメンバーの1人。「駅の近くに保育園があるよりも自宅の近くにあるほうがずっと便利です。大人と違って子どもは歩くのに時間がかかるので、とにかく自宅の近くにあってほしい。雨の日は特にそう思います」

また6歳と7歳の2人の子育て中の稲富さんは「子どもにはいくつかの習い事をさせていますが、送り迎えや一人で通えることなどを考慮して家の近くに通わせています。何を習わせるかを考えると同時に家からの通いやすさもかなり重視しますね」

話を聞いてみると、自宅から保育園(習い事)、そして駅への動線が大切なようだ。自宅が駅から多少遠くなっても、この動線がスムーズであれば毎朝の負担が少なくなる。自分たち自身が産休を取った後に仕事復帰しただけに、説得力のある意見だ。

【画像1】Brillia大山 Park Front外観完成予想図(写真提供/東京建物株式会社)

【画像1】Brillia大山 Park Front外観完成予想図(写真提供/東京建物株式会社)

共創をテーマに2012年から活動しているプロジェクト

Bloomoiは、働く女性が提案する住まいの共創プロジェクトがテーマだ。2012年から東京建物株式会社の中で、女性社員による住まいづくりを提案していこうと始動した。「Bloomoi」は、「Bloom(咲く)」と「moi(私)」からなる造語で、働く女性の笑顔や才能が咲き誇るという意味が込められている。それぞれが暮らしの“幸せ密度を高めること”を目指している。

「『つくり手側の思い込みで住まいを提供しているのではないか?』という疑問に立ち戻って考えることからスタートしました。そのためにアンケートなどのデータはもちろん、働く女性一人ひとりのホンネを知ることから始めました」とスタート時からプロジェクトのプロモーション担当として参加している岩谷さん。

まず自分たちの1週間の行動をさらけ出して実際のリアルな生活を探ってみたり、グループワークやSNSなどで対話を積み重ねたりしてきた。加え他の企業で働くさまざまな女性たちとのミーティングも続けている。

「ライフスタイルが多様になり、女性の価値観が決してワンパターンではなくなっている今だからこそ、 常にホンネに耳をかたむけることが大切だと実感しています」と岩谷さん。そこで出会った意見から、次々に商品化を続けている。

Bloomoiスペースと名付けた空間は、『季節家電や水などのストック品をたっぷり収納する』という目的や『海外のテレビドラマのような服や靴を飾りながら収納できるクロゼット』という目的が選べるようになっている。またキッチンも対面式が人気だと思っていたが、働く女性のなかには片付けに手が抜ける・料理に集中できる独立型を好む人も多いことに気付いた。

さらに朝は洗面室が家族の順番待ちで困っているという声に、洗面ボウルを片寄せにして2人並んで使えるよう工夫したプランも用意。2015年には一般公募により選ばれた女性10人と一緒に、“理想のリビングダイニング”をつくり上げるプロジェクトを実施。Bloomoiライブラリーと名付けた空間は、家事の合間にちょっとした作業をしたいという声から、キッチンのそばにワークスペースを開発している。

【画像2】Brillia大山ザ・レジデンス Bloomoiスペース(スタイルクロゼット) (写真提供/東京建物株式会社)

【画像2】Brillia大山ザ・レジデンス Bloomoiスペース(スタイルクロゼット) (写真提供/東京建物株式会社)

【画像3】Brillia文京江戸川橋 コダワリキッチン(写真提供/東京建物株式会社)

【画像3】Brillia文京江戸川橋 コダワリキッチン(写真提供/東京建物株式会社)

プロジェクトに参加することで仕事へのスタンスが変わった

このプロジェクトは部署横断でメンバーが集まっており、自分の担当業務とは別のプロジェクトチームとして活動している。活動を続けて6年、メンバー自身もさまざまなライフステージの変化を体験しているそうだ。

「私は去年の10月から参加しています。実は子どもを産んで仕事を続けるのは周りに迷惑をかける存在になるのではないかと悩んだこともあります。復職してBloomoiに参加し、同じような立場のメンバーのなかで、迷惑をかけることを気にするのではなく、どう成果を出して貢献するかを大事にしようと自分の目線が変わりました」と鈴木さん。

「私は約10年間、販売現場で働いていました。出産を経て今は別の部署に所属していますが、自分自身のライフスタイルの変化に応じた視点と共に販売現場で培った販売センターに来訪されるお客様の声を商品企画で活かせることなどもやりがいになっています」と稲富さん。

「実際は試行錯誤を続けながら6年続けてきました。まず東京建物の中でも、Bloomoiの活動を理解してもらうのに時間がかかりました。最近では実績に納得してもらい、参画できることが多くなりました」と岩谷さん。着々と新たなメンバーが加わり、プロジェクトの活動はさらに広がっている。

建物というハード面に加えてソフトについても考えていきたい

マンションという建物を整えても、住む人たちがどんな暮らしを続けていけるかというソフト面での目配りも大切なことだ。

「私たち親がどうしても無理なときに、近所のおじいちゃんが子どもの送迎してくれたり、遊ばせながら私の帰りを待っていてくれることがあります。保育園でお知り合いになった方なのですが、その方も子どもたちとかかわることを生きがいに感じてくださっているようです。そんな見守りのシステムがマンション内でできたらいいなと思うことがあります」と稲富さん。

「働いているとマンション内のコミュニティに参加しづらい面もあります。入居前の交流会など、自然に参加できるシステムを考えていきたいと思っています」と鈴木さん。

自分たちが悩んだこと、立ち止まったことを、等身大で解決していくという姿勢は、働く女性たちの共感を呼ぶだろう。

世界144カ国を対象にした男女の差を数値化した「ジェンダーギャップ指数」ランキング(世界経済フォーラム2017年)で、日本は114位という状態だ。働く女性たちの置かれている状況はまだまだ厳しい。こういった民間企業の活動と行政の積極的な取組に、今後も期待したいところだ。

●取材協力 
・東京建物株式会社 Brillia Bloomoiプロジェクト 

マンションの課題を明確化、設備の無償導入を実現【管理はつなぐ[7]】

住民経営マンションを取り上げる本連載の第7回では、「ブランズタワー文京小日向」を紹介する。茗荷谷駅から徒歩7分、有名大学をはじめ、学校が多く、充実した教育環境が整ったエリアに立地するマンションだ。
合意形成を促す決め手は、住民との“キャッチボール”

竣工から4年で、大規模修繕までまだ数年のゆとりがある。管理組合の仕事の難易度としては比較的低く、一般的にはともすれば“弛み”が出る時期かもしれない。しかし、だからこそ課題を積極的に見つけ、改善することが大切だと第4期理事長の宮崎氏は話す。
「例えば駐輪場です。当初自転車は各戸1台分の割り当てでしたが、想定よりも子どもの数が多いことなどから不足したため、利用率の低いバイク置場を転用しようということになったのです。そこで、更新後の駐輪場内のアクセス案や、駐輪場所の希望調査など、理事会からの問いかけを文書にまとめて各戸に配布しました。さらに住民の回答を集めて“駐輪場増設に関してこんな声が寄せられています”というレスポンスも開示。いわば理事会と住民でキャッチボールを行い、その過程も文書にして配布、公開したのです」
 住民の暮らしにプラスになる提案でも、総会で合意が得られず却下される可能性もある。そこで理事会では、住民に納得してもらうため、各種の文書、アンケートを作成し、ルール決定や新施策決定までのプロセスを明らかにすることに。1年近く時間をかけて合意を促し、総会で駐輪台数の増設を承認してもらったという。
「丁寧なフローによって結果的に早く解決できました」(宮崎理事長)

【画像1】(左) バイク10台分のスペースを自転車14台分に転用。新たに黄色いテープで区分けした。上下段の駐輪ラックもあるが、上げ下ろしが面倒な上段の使用者をアンケートで募り、電動アシスト自転車利用者の負荷を軽減 (右) 窓からは小石川植物園などが見える (写真撮影/中垣美沙)

【画像1】(左) バイク10台分のスペースを自転車14台分に転用。新たに黄色いテープで区分けした。上下段の駐輪ラックもあるが、上げ下ろしが面倒な上段の使用者をアンケートで募り、電動アシスト自転車利用者の負荷を軽減 (右) 窓からは小石川植物園などが見える (写真撮影/中垣美沙)

問題を明確化し、灌水設備の無償導入を実現

また、マンションの大切な資産でもある、外構部の植栽についての取り組みも成果を収めている。
「低層部の壁面やエントランス前に緑を配しているのですが、タワーならではの風の強さや、日が差し込みづらい環境だったことからうまく成育しませんでした。そこで管理会社を通じて、施工会社に改善を要求してみたのです。実は瑕疵担保責任を果たすべき期間は既に切れていたのですが、竣工前に予見できなかった成育環境などの問題点を明確にして交渉したところ、育ちやすい品種への植え替え、自動灌水設備の導入をすべて無償で行ってもらえました」(花島監事)
 無償対応とした施工会社の誠意も素晴らしいが、何より理事会と管理会社が協働して説得材料を準備し、折衝を試みたからこその結果だ。
「この先、大規模修繕に向けた資金計画など重要な課題が待っています。それをスムーズに進めるためにも目前の課題を着実に解消することが理事会に求められると思います」(宮崎理事長)

【画像2】(左)エントランス右横にある植栽。無償で植え替え・自動灌水設備導入をしてもらった (右)エントランスの対面にある竹垣にも無償で灌水設備を導入してもらった(写真撮影/中垣美沙)

【画像2】(左)エントランス右横にある植栽。無償で植え替え・自動灌水設備導入をしてもらった (右)エントランスの対面にある竹垣にも無償で灌水設備を導入をしてもらった(写真撮影/中垣美沙)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授 大月敏雄氏が語る建築家の視点

物件が竣工し、管理組合が発足してもすぐに実務的な仕事は進められない場合が多い。しかしここでは、まだ築4年ながらアンケートでスマートに駐輪場不足の解消を実現。共用部の全照明をLEDに交換し、時間帯によって冷暖房を送風に切り替えて光熱費も削減した。植栽問題の無償対応も引き出しており、コスト意識が高い。一方で唯一の共用施設であるゲストルームの清掃に元ホテル従業員を充てるなど、“住民満足度”への配慮も見られる。資産価値の維持・向上に好影響をもたらすだろう。
隣接するマンションと合同で防災訓練を行う計画があるというのも良い話。防災に対する意識が高まるのもさることながら、住民同士の交流促進にも期待できる。

【画像3】ゲストルームは特にベッドメイキングに留意して清掃が行われている(写真撮影/中垣美沙)

【画像3】ゲストルームは特にベッドメイキングに留意して清掃が行われている(写真撮影/中垣美沙)

【画像4】(左)物件エントランス(右)春日通りから見た外観(写真撮影/中垣美沙)

【画像4】(左)物件エントランス(右)春日通りから見た外観(写真撮影/中垣美沙)

【画像5】原則的に立候補者を募り、いなければ輪番で理事を決める。理事長は互選で決定。理事会開催は2カ月に1回が基本。1・2階のカーディーラーも一入居者だが、管理、修繕などは会計を分離

【画像5】原則的に立候補者を募り、いなければ輪番で理事を決める。理事長は互選で決定。理事会開催は2カ月に1回が基本。1・2階のカーディーラーも一入居者だが、管理、修繕などは会計を分離

※この記事は『都心に住む』2017年11月号(9月26日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

購入経験者が語る! 「中古マンションを買いたい」と思ったときに、準備すべきこととは?

「そろそろマイホームが欲しい。中古マンションを買ってリノベーションしたい」と思っても、まず何から手を付けていいか分からないと思うことはないだろうか。インターネットや情報誌で物件探しをするのも大切だが、あらかじめ自分自身で準備しておくと、住まい探しがスムーズにいくことは多い。今までに2回マイホームを購入した筆者の体験からアドバイスしたい。
一番大切なのは、マイホーム購入への優先順位を決めておくこと

最初にするべきことは、「マイホームを買いたい」と思ったきっかけを明確にしておくことだ。「家賃がもったいないから」とか「結婚するから」とか「子どもが生まれるから」といった時期的な理由ももちろんあるが、もっと具体的な「自分がマイホームで実現したい生活」をまとめておくことが大切だ。

例えば「もっと便利なところに住みたい」のか「もっと静かなところに住みたい」のか。あるいは家族が増えるから「もっと広い住まいが欲しい」のか、子どもが独立したから「もっとコンパクトに住みたい」のか。さらに家族全員できちんと話し合っておくことも大事なのだ。自分はいいと思っても、他の家族の意見が違うこともある。

できればかなえたい要望を箇条書きにして、優先順位をつけておくべきだろう。いろいろな物件を検討しているうちに、自分の本来かなえたい要望から、どんどん離れていくことがある。また優先順位を決めておけば、物件の検索をする場合の大切なキーワードになる。また不動産会社に相談するときも要望に近い物件を探してもらいやすくなるはずだ。

【画像1】(写真/PIXTA)

【画像1】(写真/PIXTA)

どれ位ローンが借りられる? 自分自身のデータを用意しよう

自分の要望はもちろんだが、自分自身を客観的に評価してもらうためのデータを用意しておくことも大切になる。住宅ローンがどれくらい借りられるか、そしてどのくらいの額なら無理なく返済できるかのめどを立てておきたい。それによって選ぶ物件の予算が異なってくる。

大手企業の会社員や公務員であれば、それほど心配することはないが、起業したばかりの事業者やフリーランスの場合、思ったほどローンが借りられない場合が多い。会社員や公務員の場合でも、車のローンを抱えていたり、カードローンが残っていたりすると金融機関の評価は厳しくなるので、事前に自分がどれくらいの評価があるかを金融機関に相談してみることをすすめたい。

私がはじめて中古マンションを買ったのは20代後半だった。女性で単身、しかも小さな編集プロダクションのライターでは、なかなか金融機関も不動産会社も本気になってくれない。頭金がどれくらい用意できるか、年収はどれくらいあるかなどを示す必要があった。つまり、自分がどれくらい本気でマイホームを買う気があるかをプレゼンするための材料が重要なのだ。

最近では金融機関のサイトを利用したり、ファイナンシャルプランナーに相談したりすることができるので、借りる住宅ローンの目安は物件探しと並行して実施しておくべきだろう。

不動産会社も、いい物件情報が入ってきたときに優先的に紹介したいのは、すぐに購入する準備ができている人だ。確かに最初から収入などの個人情報を伝えるのは抵抗があるだろう。しかし信頼できる担当者に出会えたら、より親身になってもらうためにも、自分のデータはきちんと知ってもらうほうがおすすめだ。

【画像2】(写真/PIXTA)

【画像2】(写真/PIXTA)

マイホームに100%はない! 時には片目をつぶることも必要

マイホームへの要望と予算が決まったら、実際に足を運んで物件を見に行くことになる。ただし不動産は100%満足できる物件に出合える確率は低いと思っておこう。2000万円の予算で探す人でも、1億円の予算で探す人でも、必ず「ここだけは残念」という点が出てくることがある。

ここで最初につくった箇条書きが役に立つ。夢のない話をしてしまうようだが、マイホーム探しの極意は、自分の理想と現実を、いかにうまく帳尻を合わせるかだと思っている。

1回目の購入時に私があきらめたのは「沿線」だった。当時はバブル絶頂期だったので、最初の希望だった中央線から有楽町線に変えざるを得なかった。「都心からの近さ」は変わらないが方向を変えて思いどおりの広さと間取りを手に入れた。

2回目は「築年数」だった。その代わりに「都心立地」の物件を購入した。いずれも私自身は満足して住むことができたので、優先順位を決めていてよかったと思っている。

中古マンションは実際の建物を確認できるのがメリット

中古の場合は、図面の段階で購入することが多い新築マンションに比べて、実際の建物やマンションの管理状態を確認できるのが大きなメリットだ。

エントランスや共用廊下がきちんと清掃されているのはもちろんだが、ゴミ置き場の清掃状態や分別状況などを確認しよう。また掲示板も管理状況がよく分かるポイント。清掃や点検の予定が書いてあったり、管理組合主催のイベントが開催されていたり、町会に参加していたり、しっかりコミュニティが形成されているところは安心だ。

管理員がいれば挨拶しておこう。管理員の人柄は住み心地に大きく影響する。できれば管理規約なども確認しておきたい。ペットの飼育は可能かどうか、駐車場の空き状況なども、聞けるとベストだ。きちんと対応してくれる管理員がいることはマンションの管理組合もきちんと機能していることになる。

意外に仲介会社は細かいことは把握していない場合がある。不安なことがあれば質問しよう。しっかり調べて返答してくれる会社が信頼できる目安になる。

【画像3】(写真/PIXTA)

【画像3】(写真/PIXTA)

たくさんの物件を見て回るうちに、「優先順位」が変わってくることももちろんある。そんなときは、その理由が自分に知識が身に着いたからなのか、冷静な判断ができなくなっているのか、見直してみることが必要だ。「ここだけは譲れない」という点と、「これは譲れる」という点を明確にすると、自分にとって満足できる「マイホーム」に出会えるだろう。

知っておきたい「一生賃貸」にひそむリスク。あなたに向いているのは持ち家?賃貸?

家を買うというリスクを冒したくない、住みたいところに住み替えしやすい、などの理由から、『一生賃貸』でいいと思っている人もいるでしょう。でも「買わないリスク」というのもあります。どんなリスクがあるのでしょう。また、『一生賃貸』に向いている人とはどんな人なのでしょう。不動産を通じたライフプランに詳しいファイナンシャルプランナーの永田さんに聞いてみました。
一家の稼ぎ手に万一の事態があったときにリスク大

持ち家:住宅ローンの支払いは「団体信用生命保険」で残債が「ゼロ」に
賃貸:家賃が払えず「引越しを余儀なくされる」ことも

「よく比較される賃貸と購入ですが、お金の面では住居費の総額は条件次第で変わるため、一概にどちらがトクかは断言できません」という永田さん。では『一生賃貸』のリスクはというと、まずは「万が一のときの保証」が挙げられると言います。

「借り続けることへの対抗軸に上がるのが、住宅ローンを組んで購入すること。この住宅ローンを組む際には多くの場合、団体信用生命保険に加入します。万一、ローンを組んだ人が亡くなった際、残債がゼロになる保険です。その結果、残された家族には住み続けられる場所と資産を残すことができます。賃貸の場合は世帯主が亡くなっても家賃を支払い続けなければなりません。家賃を抑えるため、引越しを余儀なくされることもあるでしょう。そのため『一生賃貸』を選択する場合は、生命保険の加入や、日ごろからの貯蓄などでリスクを軽減するための備えが必要となるでしょう」(永田さん)

住宅ローンが払えないvs家賃が払えない。どちらが大変?

持ち家:返済が滞り事故情報が登録されると信用も毀損
賃貸:事故情報が登録されなければ再スタートを切りやすい

「どちらも大変なことですが、住宅ローンのほうが厄介なことになることが多いです」(永田さん)。実は住宅ローン(住宅購入)を原因として破産した人は近年増えており、10年間で約1.5倍になったという統計があります(※1)。低金利もあって頭金を入れずに無理な住宅ローンを組み、支払いができなくなったり、共働きを前提にして購入した場合、離婚や病気などで片方が働けない状態になってしまい、支払えなくなったりするケースが増えています。住宅ローンの場合、支払いの滞納を続けると、借入先の銀行等の金融機関は一括返済を求め、任意売却などをしない場合は、競売に向けて裁判所から現況調査が入るなど大変なことに。また、「ローンの事故情報が登録されると、しばらくの間、住宅ローンやカードローンあるいはクレジットカードの利用が難しくなるなど、その後の生活に支障が発生することも考えられます」(永田さん)

一方、賃貸の場合も、滞納が続くと督促のうえ、保証人、保証会社も巻き込むことになりますが、「事故情報が登録されることがなければ、支払い完了後に家賃の安い部屋に引越して住居費を抑えるなどで、再スタートを切りやすいかもしれません」(永田さん)。住宅ローンのように巨額のお金を一括で返済ということがない分、支払い滞納時のリスクは少ないと言えるかもしれません。

※1:2014年破産事件及び個人再生事件記録調査(日本弁護士連合会)

年金を当てにする試算は持ち家前提。DINKSはリスク軽減策を

持ち家:住宅ローンがなくなり生活費だけの負担に
賃貸:年金ベースの試算では家賃+生活費の支払いは難しい

「『一生賃貸』のリスクは、年金生活になるリタイア後も家賃の支払いが続くことでしょう。生活費と住居費を年金でまかなうのが難しくなるので、退職までに貯蓄しておく必要があります」(永田さん)。必要な貯蓄額は家賃によって変動しますが、例えば総務省が発表している家計調査(平成28年)では、2人以上無職・世帯主65歳以上世帯の支出は住居費を除き、生活費は25万3152円。一方、年金などの収入は20万5682円で、毎月4万7470円は貯蓄からまかなう必要があります。65歳から90歳までの計算で1424万円になります。これに住居費が加わるのですが、例えば家賃10万円の場合、25年計算だとすると合計3000万円。つまり約4400万円が必要になります。

特にDINKSはリスク回避を考えておく必要があるといいます。「共働きで現役バリバリの方々は収入や体力があり、子どもがいないと教育費負担を考えなくて済む分、財布のひもが緩みがち。多少家賃が高くても余裕があるので、希望の暮らしを優先して貯蓄がおろそかになりやすいです」(永田さん)

ちなみに住宅・土地統計調査(総務省・平成25年)によると、ほとんどの年金生活者は持ち家で、約1.5万円が住居費として算出されています。持ち家は住宅ローン支払いが終わる分住居費が少なくなるので、その分貯蓄は少なく済みやすいのです。「また持ち家の場合は売却、賃貸運用という選択肢もあります」(永田さん)

さらに「『一生賃貸』の最も大きなリスクは、高齢になって自分が弱ったとき」と永田さん。「家賃が苦しいとなれば、安い賃料の物件に引越してコストを下げればいいのですが、老齢になるにつれ借りられる物件の選択肢が減っていくことは事実です。現在、サービス付き高齢者向け住宅が充実してきたり、空き家利用の促進などから、一昔前に比べて借りやすい環境は整いつつあります。しかし、今もって大家さんは支払い遅延リスクや、何かあった際のことを考えて高齢者を敬遠しがちです。結果、いいなと思った物件が借りられないこともあります。また、認知、判断機能が衰えると、契約行為そのものができなくなることもあります。子どもがいる場合は成人した子どもが代わりに契約するという手段もとれますが、単身の場合はそれも難しい。さらに、施設への入居が必要となったときに、持ち家は売却して入居資金をねん出する方法が考えられますが、賃貸では貯蓄を切り崩さなければなりません。これも老後が長い時代のリスクのひとつといえるでしょう」(永田さん)

こうした上で人生設計を考える一つの目安が年齢であると永田さんはいいます。
「私は賃貸派も購入派も50歳台がひとつの節目だと考えています。現役のときとリタイア後では、賃貸に対して受け入れられるリスクや探す物件も変わってきます。リタイア後の生活が想像できるようになる50歳台、60歳台こそ、今後の「住まい」について、あらためて持ち家にするか賃貸にするか、じっくり検討することができるタイミングなのではないでしょうか。もちろん、その時点でどちらでも選択できるように、若いうちから老後資金の備えをしっかり準備しておくことが大切なことは言うまでもないでしょう」

【画像1】老後に突入する前に「住まい」について持ち家にするか賃貸にするかじっくり検討すべきだと語る永田さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

【画像1】老後に突入する前に「住まい」について持ち家にするか賃貸にするかじっくり検討すべきだと語る永田さん(写真撮影/山口俊介(BREEZE))

気軽に引越しやすく、住みたいところにも住みやすい、住居費だって抑えようと思えば抑えられる。そんな賃貸のメリットも『一生賃貸』となるとリスクがあるようです。特に高齢になった際のことを考えた、長い人生設計をすることが大切のようです。

●取材協力
・(株)フリーダムリンク

新築と中古のマンション市場、2017年首都圏の市況はどうだった?

不動産経済研究所が首都圏と近畿圏における2017年の新築マンション市場動向を、東日本不動産流通機構(東日本レインズ)が2017年の「首都圏不動産流通市場の動向」を、それぞれ発表した。さて、2017年首都圏の新築と中古のマンション市場は、どんな市況だったのだろう?【今週の住活トピック】
「首都圏マンション市場動向(2017年まとめ)」を発表/不動産経済研究所
「首都圏不動産流通市場の動向(2017年)」を発表/(公財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)首都圏の新築マンションは4年ぶりの増加、中古マンションは3年連続の増加で過去最高に

まず、不動産経済研究所によると、新築マンションの2017年の新規供給戸数は3万5898戸で、前年比0.4%増だった。2013年から供給減が続いていたが、4年ぶりの増加となった。ただし地域別で違いがあり、東京都下と神奈川県、千葉県では減少、東京都区部と埼玉県で増加した。

これに対して、東日本レインズによると、中古マンションの2017年の成約件数は3万7329件で、前年比0.4%増と伸び率は新築マンションと同様。成約件数は3年連続で増加となり、過去最高を更新した。地域別では、埼玉県と神奈川県では減少、東京都と千葉県では増加した。

【画像1】新築マンションの新規供給戸数の推移(出典:不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向(2017年まとめ)」)と中古マンションの成約件数の推移(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年)」)

【画像1】新築マンションの新規供給戸数の推移(出典:不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向(2017年まとめ)」)と中古マンションの成約件数の推移(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年)」)

注意したいのは、不動産経済研究所の市場動向では、ファミリータイプの民間の新規分譲マンションだけが対象となっている点だ。加えて、数値は供給戸数、つまり新規に販売された戸数なので、すべてが契約に至ったわけではない。ちなみに、累積契約率は83.2%となっている。

一方、東日本レインズの市場動向では対象が幅広く、ワンルームやリゾートマンションなども含まれる。加えて、数値は成約件数、つまり契約に至ったと東日本レインズに報告があった件数(件数は戸数と同じ)となっている。

したがって、単純に数値だけで比較することはできないが、2017年の首都圏のマンション市場では新築と中古で同じくらいの成約があったと推測できる。

新築も中古も、首都圏のすべての地域で価格は上昇

次に、マンションの価格について見ていこう。

新築マンションの1戸当たりの平均価格は5908万円で、前年より418万円・7.6%上昇した。地域別では、東京都区部7089万円(6.9%上昇)、東京都下5054万円(1.4%上昇)、神奈川県5524万円(9.6%上昇)、埼玉県4365万円(2.6%上昇)、千葉県4099万円(0.3%上昇)とすべてで上昇となった。

中古マンションの1戸当たりの平均成約価格は3195万円で、前年より56万円・4.8%上昇し、5年連続の上昇となった。地域別では、東京都区部4238万円(5.0%上昇)、東京都下2635万円(0.8%上昇)、神奈川県2805万円(5.1%上昇)、埼玉県2016万円(3.5%上昇)、千葉県1969万円(2.2%上昇)と、こちらもすべてで上昇した。

次に、各戸の面積の違いによる影響を排除するために、1m2当たりの平均単価を比べてみよう。

新築マンションの1m2当たりの平均単価は85.9万円で、前年より8.3%上昇した。地域別では、東京都区部108.3万円(7.8%上昇)、東京都下71.2万円(2.7%上昇)、神奈川県77.1万円(8.3%上昇)、埼玉県61.1万円(2.0%上昇)、千葉県57.0万円(1.8%上昇)と、やはりすべてで上昇となった。

【画像2】新築マンションの平均価格の推移(出典:不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向(2017年まとめ)」)と中古マンションの平均価格の推移(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年)」)

【画像2】新築マンションの平均価格の推移(出典:不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向(2017年まとめ)」)と中古マンションの平均価格の推移(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年)」)

中古マンションの1m2当たりの平均単価は50.00万円で、前年より4.4%上昇し、5年連続で上昇し23年ぶりに50万円台に達した。地域別では、東京都区部73.78万円(4.1%上昇)、東京都下39.03万円(1.1%上昇)、神奈川県41.88万円(4.3%上昇)、埼玉県29.68万円(3.3%上昇)、千葉県26.90万円(2.1%上昇)とすべてで上昇した。ただし、平均築年数は20.70年となり、経年化が年々進んでいる。

【画像3】新築マンションのm2単価の推移(出典:不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向(2017年まとめ)」)と中古マンションのm2単価の推移(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年)」)

【画像3】新築マンションのm2単価の推移(出典:不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向(2017年まとめ)」)と中古マンションのm2単価の推移(出典:東日本レインズ「首都圏不動産流通市場の動向(2017年)」)

新築マンションの価格は2013年、2015年、2017年で高騰しているのに対して、中古マンションは2013年からじりじりと上昇している点が特徴だ。

新築マンションの価格はさまざまな要因で変動し、新築の動きにつれて中古も変動する

新築マンションの市場動向は、経済情勢などの影響を強く受ける。例えば、リーマンショックや東日本大震災が起こったときには市場は縮小した。縮小期は確実に売れる人気エリアに新築マンションの供給が集中し、そのため価格が上昇する傾向が見られる。

また、東京オリンピックの開催が決まると、オリンピック需要でマンションの建築資材が高騰し、震災復興需要や地価が上昇に転じたことも加わって、マンションの原価といえる部分が値上がりした。こうしたことが、近年の新築マンションの価格上昇の理由となっている。

中古マンションは、新築マンション市場の影響を受ける。新築マンションの供給が少ないエリアでは、中古マンションに目が向けられるようになるし、新築の価格高騰、特に都心部などでは一般の人の手が届かない価格で販売されるようになると、中古マンションの需要が強くなる。その結果、成約件数が増えて、成約価格も新築ほど急激ではないがじりじりと上昇しているというのが、首都圏のマンション市場の実態だ。

これまで新築と中古を比較してマンション市場を見てきたが、マンション選びをする際に、当初から新築か中古かを決めてしまうのはどうかと思う。本来はどんな街に住みたいか、どんな暮らしがしたいかを考えて、それが実現するマンションを選ぶべきだろう。その結果として選んだマンションが、新築だったり中古だったりするという選び方が、スタンダードになることを期待している。

女性は特にご用心!? ”見栄っ張り”住宅ローンの落とし穴 賢い住まいのマネー術(4)

住宅ローンが低金利なので収入に対して多額の住宅ローンが組んでしまいがちな時代です。この際だからと、ワンランク上のエリアや物件などを選んでしまう人もいるかもしれませんね。しかし、返済のことをしっかりと考えた上で毎月の収入から無理なく返済できる金額を考えることが大切です。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。「せっかくだから」とよいものを選ぶと、トータルですごい金額に

「せっかくだし、ウッドデッキを付けたい」「おうちを買うなら港区か渋谷区がよい」など、“一生に一度だから”とマイホームにこだわりを持ち過ぎる人は予算をオーバーしがちです。女性は特にご用心。「壁紙は変えたい」「カーテンとソファーカバーは統一したい」など「友達が来た時に自慢をしたい」という見栄っ張り支出は、一つ一つは何とかなる金額でも積み重なると総額で大きな金額になるからです。このオプションを付けるといくら追加支出がかかるのかをメモをして総額を計算するようにしましょう。

 そもそもマイホーム探しの前に予算を決めるべきです。予算とは自己資金と無理なく返済できる住宅ローンの金額の合計額です。住宅ローンは毎月の収入のなかから無理なく返済でき、かつ定年退職までに返済できる金額に留めるようにしましょう。

借入額によって毎月返済額はこんなに変わる

例えば、借入金額3000万円、金利1.5%、35年返済(元利均等返済)の場合、毎月の返済額は約9万2000円です。他の条件は同じで借入額を4000万円にした場合の毎月返済額は約12万2000円になります。毎月の返済額が3万円も変わるのでその差は大きいですね。

 「ローン返済額は家賃相当額」とも言われますが、その他にもかかる固定資産税など維持費にも注目しましょう。また、マンションの場合、管理組合や、管理人常駐のための管理費、将来のメンテナンスのための修繕積立金が必要になります。どちらも5年毎に見直しがあるケースが多く、修繕積立金に関しては途中から上昇する場合も多いです。ローン返済額に維持費も加えて、以前に借りていた家賃と同等額であれば家計を無理なく回しやすいでしょう。

 また、変動金利で借りる場合は毎月の返済額が途中で変わる可能性もあるので注意しましょう。変動金利で借りる場合、市場金利の変化によって住宅ローン金利も変動します。半年ごとに金利の見直しがあるのが一般的です。10年以上の固定金利を組むとその期間は返済額が一定のために将来の返済額を見通しやすくなります。

ローンを返済しながら老後資金を作れますか?

住宅ローンを組めるだけ組んではいけないもう一つの理由にローンを返済しながら老後資金を貯めなければならないということが挙げられます。60歳以上の単身無職世帯の平均的な収入は約12万円ですが、支出は約15万6000と毎月約3万6000円の赤字になっています(総務省統計局「家計調査報告2016」より)。年間で約43万円の貯金を取り崩している計算になるのです。

 例えば、65歳までは働くというA子さんの場合。65歳から90歳までの25年間は年金と貯金の取り崩しでの生活になります。平均的な支出と同じように年43万円取り崩すのであれば、生活費だけでも25年間で1075万円になります。介護などの予備費も加えると約1500万円の老後資金を作る必要があることが分かるでしょう。老後資金は退職金、確定拠出年金、積立型の生命保険などで準備をしてももちろん大丈夫です。

老後とのバランスも考えて、マイホームの予算を再度調整しましょう

老後資金が恐ろしいと感じた人も多いかもしれません。ですが、ローンを完済済みのマイホームがあるということは一つの老後への備えになります。実は先ほどの家計調査の平均的な支出額のうち、住居費は月約1万3000円程度。ローン完済後の持ち家で維持費だけを支払っている金額を前提として計算されています。つまり一生賃貸の場合、あるいは退職後もローンを完済できていないという場合は更に多くの貯金を準備する必要があるのです。

 無理のない範囲のローンに留め、退職までに完済をして、その住宅に住み続けるということが原則にはなりますが、老後を迎えるにあたって持ち家ということは一つの安心材料にはなりそうです。

住宅購入は一生で一番というくらい大きなライフプランになります。金融広報中央委員会の「知るぽると」というサイトでも資金プランシミュレーションができます。借入額の条件を入れて毎月の返済額を試算する「借入返済額シミュレーション」を事前にすることもおすすめです。借入額によって毎月の返済額が、さらには老後のゆとりが大きく変わるために、じっくり考えて決断をすることをおすすめします。

花輪陽子phpto2花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

食事は「夫婦別々」!? 人気漫画家に聞く、パートナーとうまく暮らすコツ

結婚や同棲を機に、パートナーとひとつ屋根の下で甘い生活を送る……はずが、ささいなことでイライラしっぱなし。「こんなはずじゃなかった!」と嘆く人も多いのではないだろうか。そんな悩みに「夫婦だからこそ、赤の他人以上に気遣いが必要」と話すのが、『妻は他人 だから夫婦は面白い』(KADOKAWA)の著者・さわぐちけいすけさん。Twitterでフォロワー10万人を突破する人気漫画家だ。
SNS経由で人生相談も受けるさわぐちさんに、心穏やかにパートナーと暮らしていくための心構えについて伺った。

「自分のことを自分でできない人」と暮らせば疲れるのは当たり前

──さわぐちさんのご家庭では夫婦喧嘩が全くないとお伺いしました。二人暮らしとのことですが、普段はどういう生活をされているのでしょうか?

さわぐちけいすけさん(以下、さわぐち):特別なにかしているわけではないですが…人に話すと驚かれるのは、「食事は夫婦別々」という生活スタイルですね。

食事は別ですが時間帯は一緒になることが多いので、一人がつくって食べて、もう一人に「キッチン空いたよ~」と声をかける、みたいな感じです。時々「蕎麦、いっぱい茹でたから食べる?」とシェアしたり、月に1・2度ほど外食したりすることもあるんですが、二人で食卓を囲むのは月に1回か、多くても2回くらいだと思います。

このスタイルは、妻と暮らし始めた当初から続いています。たぶん、同棲や夫婦の悩みの6割以上は「妻(女性)ってこうするもの」「夫(男性)ってこうするもの」と決め付けず、こんな風にお互いのペースを尊重することで解消できるんじゃないかな。

【画像1】イラスト/さわぐちけいすけさん

【画像1】イラスト/さわぐちけいすけさん

──というと?

さわぐち:同棲して、「自分のことを自分でできない」というのはひとつのネックだと思うんですよ。

「効率化のために役割分担をする」というなら全然問題ないんですけど、家事を自分でできない、相手に任せるような人と暮らしたら、それは疲れるはずです。多少好きでなくなったとしても、それぞれ自分のやるべきことを自分でできるなら、そんなに苛立ったりしません。

うーん、確かに相手が好きで好きでたまらないときなら尽くせても、恋の熱が冷めたころパートナーが一切家事をせずぐうたらしていたら、イラっとしてしまうかも。ただ、仮に夫(妻)が料理や洗濯をしようとすると、「ウチの実家の味はこんなんじゃない!」とか「空のペットボトルをシンクの上に置いとかないでよ!」とこれまた喧嘩になる場合もあるのでは? と心配になる。

さわぐち:「夫と妻で家事のやり方が違う」というのも、構わないと思います。相手が間違っているわけじゃありませんから。

たとえば、夫が洗濯した服をしっかり畳んで入れなかったとしても、皺にはなるけれど、それで問題ないといえば問題ないですよね? あくまで、こちらが「こうしてもらえると嬉しい」というだけの話。結局、そのことが相手には分からないから、イライラする前にお願いするんです。

夫婦だからといって、「相手を理解している」わけではない

──ちなみにお二人は、これまでどんな部屋に住んでこられましたか?

さわぐち:二人とも部屋の広さにさほどこだわりがなかったので、妻が大学時代住んでいた月5万円のワンルームに、私も入った感じです。現在は月7万円、1DKの部屋を借りています。

【画像2】イラスト/さわぐちけいすけさん

【画像2】イラスト/さわぐちけいすけさん

──同棲を始めるとき、2人で「こういう風に暮らしていこう」と何か話し合ったりは?

さわぐち:住んでみないと分からないことのほうが多いと思うので、何か決めるなら実際に同棲してからにしようと考えていました。事実、一緒に住み始めてから気づいたことがいくつもあります。

たとえば、私は1日でも外出しないと具合が悪くなるほど出かけるのが好きなんですが、妻はずっと家にいたいタイプだと気づきました。ただ、妻からすると一日ずーっと一緒にいるのも疲れるらしく、むしろ「どんどん出かけて!」って言われますね(笑)。

ただ、そういう食い違いが出てきたとして、意見は伝えてもぶつかる必要はないと思っています。

──なるほど。ぶつからないために、お二人の間でルールを決めてらっしゃるんでしょうか?

さわぐち:ルールは一切ないですね。代わりに、気になったとき「ごめん、今まで気づいていなかったんだけど、こうされるのはあまり好きじゃないかもしれない」とこまめに伝えるようにしています。

強いて言うなら、お互いの機嫌がいいときを選んで言っているかな。二人ともそう決めたわけではないんですけど、機嫌の悪いときは何を言っても嫌だと思うので。

それは、互いに「相手を理解していない」と知っているからできることです。どんなに努力しても、妻(夫)がどういう状態かを完全には分かってあげられない。だからこそ気を遣える。油断すると、「夫婦だから」と相手のことを全部知っているような気持ちになるじゃないですか。だから、常におもんぱかるよう自分に言い聞かせています。

……確かに、夫婦やカップルだと「妻(夫)のことは自分が一番よく分かってる」と高をくくって、ないがしろにしがちな気がする。ついつい夫に対して「夫婦の会話の時間? そんなものより仕事したいんだけど。分かるでしょ」と言わんばかりの態度をとってしまう筆者も、さわぐちさんの言葉に思わずドキッとしてしまった。

夫婦でも「見知らぬ他人と同棲する」くらいの気配りをしてもいい

──ズバリ、結婚生活や同棲中にイライラしないための最大の秘訣を一言でお願いします。

さわぐち:「相手に期待しないこと」です。

「期待しない」って「期待する」より難しくて、「自分が何に期待しているのか」を見つけないといけません。でも、帰宅したら家が荒れていない。それだけでもすごくないですか? 「期待しない」というのは、それくらいのレベルでもいいと思うんですよ。

また、たとえば、「パートナーが急にいなくなって、見知らぬ他人と今日から同棲しなきゃいけない」という状況を想像してみてください。そうしたら、初対面だし「あの人は明日何時に寝るんだろう?」とか考えますよね。パートナーに、それくらいの気の遣い方をしてもいいと思います。究極、シェアハウスのイメージに近いと言ってもいい。

──結婚や同棲となると、ついつい相手を特別視して期待しがちになりますが、その期待を手放すということでしょうか。

さわぐち:もし「夫婦の生活はこうあるべき!」という固定観念に苦しめられているのであれば、それくらい雑な考え方をしてみてもいいかもしれません。夫婦って、あくまで書面で契約しただけなので。

「私達のやり方はあくまで事例のひとつ。参考になる部分があればピックアップしてみてください」と語ったさわぐちさん。「一日三食作ってるんだから、一言くらい『おいしい』って言いなさいよ!」と般若のごとき形相で毎日夫に念を送っていた筆者にとって、目の覚めるような思いだった。

●取材協力
さわぐち けいすけ氏

女性は特にご用心!? ”見栄っ張り”住宅ローンの落とし穴 賢い住まいのマネー術(4)

住宅ローンが低金利なので収入に対して多額の住宅ローンが組んでしまいがちな時代です。この際だからと、ワンランク上のエリアや物件などを選んでしまう人もいるかもしれませんね。しかし、返済のことをしっかりと考えた上で毎月の収入から無理なく返済できる金額を考えることが大切です。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。「せっかくだから」とよいものを選ぶと、トータルですごい金額に

「せっかくだし、ウッドデッキを付けたい」「おうちを買うなら港区か渋谷区がよい」など、“一生に一度だから”とマイホームにこだわりを持ち過ぎる人は予算をオーバーしがちです。女性は特にご用心。「壁紙は変えたい」「カーテンとソファーカバーは統一したい」など「友達が来た時に自慢をしたい」という見栄っ張り支出は、一つ一つは何とかなる金額でも積み重なると総額で大きな金額になるからです。このオプションを付けるといくら追加支出がかかるのかをメモをして総額を計算するようにしましょう。

 そもそもマイホーム探しの前に予算を決めるべきです。予算とは自己資金と無理なく返済できる住宅ローンの金額の合計額です。住宅ローンは毎月の収入のなかから無理なく返済でき、かつ定年退職までに返済できる金額に留めるようにしましょう。

借入額によって毎月返済額はこんなに変わる

例えば、借入金額3000万円、金利1.5%、35年返済(元利均等返済)の場合、毎月の返済額は約9万2000円です。他の条件は同じで借入額を4000万円にした場合の毎月返済額は約12万2000円になります。毎月の返済額が3万円も変わるのでその差は大きいですね。

 「ローン返済額は家賃相当額」とも言われますが、その他にもかかる固定資産税など維持費にも注目しましょう。また、マンションの場合、管理組合や、管理人常駐のための管理費、将来のメンテナンスのための修繕積立金が必要になります。どちらも5年毎に見直しがあるケースが多く、修繕積立金に関しては途中から上昇する場合も多いです。ローン返済額に維持費も加えて、以前に借りていた家賃と同等額であれば家計を無理なく回しやすいでしょう。

 また、変動金利で借りる場合は毎月の返済額が途中で変わる可能性もあるので注意しましょう。変動金利で借りる場合、市場金利の変化によって住宅ローン金利も変動します。半年ごとに金利の見直しがあるのが一般的です。10年以上の固定金利を組むとその期間は返済額が一定のために将来の返済額を見通しやすくなります。

ローンを返済しながら老後資金を作れますか?

住宅ローンを組めるだけ組んではいけないもう一つの理由にローンを返済しながら老後資金を貯めなければならないということが挙げられます。60歳以上の単身無職世帯の平均的な収入は約12万円ですが、支出は約15万6000と毎月約3万6000円の赤字になっています(総務省統計局「家計調査報告2016」より)。年間で約43万円の貯金を取り崩している計算になるのです。

 例えば、65歳までは働くというA子さんの場合。65歳から90歳までの25年間は年金と貯金の取り崩しでの生活になります。平均的な支出と同じように年43万円取り崩すのであれば、生活費だけでも25年間で1075万円になります。介護などの予備費も加えると約1500万円の老後資金を作る必要があることが分かるでしょう。老後資金は退職金、確定拠出年金、積立型の生命保険などで準備をしてももちろん大丈夫です。

老後とのバランスも考えて、マイホームの予算を再度調整しましょう

老後資金が恐ろしいと感じた人も多いかもしれません。ですが、ローンを完済済みのマイホームがあるということは一つの老後への備えになります。実は先ほどの家計調査の平均的な支出額のうち、住居費は月約1万3000円程度。ローン完済後の持ち家で維持費だけを支払っている金額を前提として計算されています。つまり一生賃貸の場合、あるいは退職後もローンを完済できていないという場合は更に多くの貯金を準備する必要があるのです。

 無理のない範囲のローンに留め、退職までに完済をして、その住宅に住み続けるということが原則にはなりますが、老後を迎えるにあたって持ち家ということは一つの安心材料にはなりそうです。

住宅購入は一生で一番というくらい大きなライフプランになります。金融広報中央委員会の「知るぽると」というサイトでも資金プランシミュレーションができます。借入額の条件を入れて毎月の返済額を試算する「借入返済額シミュレーション」を事前にすることもおすすめです。借入額によって毎月の返済額が、さらには老後のゆとりが大きく変わるために、じっくり考えて決断をすることをおすすめします。

花輪陽子phpto2花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

来年には消費税10%、マイホームはいつ買うのがお得? 賢い住まいのマネー術(3)

いよいよ来年、2019年10月に消費税率が10%に引き上げられる予定です。多くの人にとって人生で最も大きな買い物になるマイホーム購入やリフォーム、いったいいつ行えばよいのでしょうか。駆け込み購入が得かと思いきや、10%になっても受けられる優遇措置もあります。比較検討してみましょう。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。消費税8%と10%、マイホーム購入価格はどれくらい変わる?

消費税が2%変わるとマイホームなどの大きな買い物をするときに値段が大きく変わりそうですね。どんな場合に消費税がかかるのかみていきましょう。まず、住宅価格のうち土地代は非課税になります。課税されるのは新築マンションや一戸建ての「建物分の価格」です。土地に関しては「資本の移転」であるとされ、消費税はかかりません。

例えば、価格が4000万円の物件のうち、建物分の価格が2000万円なら消費税額は「2000万円×8%=160万円」、税込価格は4160万円となります。10%になると消費税額は200万円で税込み価格は4200万円になり、40万円負担が増えることになります。

個人が売主の中古住宅を購入する場合には消費税はかかりませんが、不動産会社がリフォームして販売する中古住宅などの場合には課税されます。リフォームの場合も同じように消費税が課税されます。

購入時にかかる諸費用で消費税がかかるのは、仲介手数料、住宅ローン事務手数料、登記費用のうち司法書士報酬など。各種保険料、マンションの管理費などは課税されません。消費税がかかる費用、かからない費用と整理をすることでおおよその負担増が見えてきます。

いつまで8%で買える? 経過措置とは?

そもそも、消費税率はマイホーム購入のどの時点の税率が適用されるかご存じでしょうか。工事完了(引渡し)時点の税率となります。ただし、税率が引き上げられる半年前にあたる2019年3月31日までに契約したものには経過措置が適用され、引渡しが同年10月以降になっても「8%」で課税されます(新築の場合もリフォームの場合も同じ)。

基準日直前にリフォーム工事を実施する場合、工事の集中や天候等により工事が遅れ、工事完了(引渡し)時期が10月以降となり、「10%」が適用される可能性があります。そのため、増税前にリフォームを検討している人は早めに計画を立てておくとよいでしょう。もちろん新築の場合も余裕を持った計画を立てる必要があります。

10%になっても負担を軽減させる政策がある

それでは消費税が上がったら、増税分の負担がそのまま増えるのみなのでしょうか。2014年4月に消費税が8%へと引き上げられた際、その負担増を軽減するために「すまい給付金」制度が新設されました。これは、一定の収入以下(年収510万円以下が目安)の人が住宅ローンを借りて家を買う場合、収入に応じて最高30万円の給付が受けられる制度です(購入年齢が50歳以上の場合は、住宅ローンを借りない場合でも受けられる場合がある)。これが、消費税10%になると、給付額は最大50万円に引き上げられ、収入の上限(年収775万円以下が目安)も引き上げられます。

この他、家の購入や新築のために、親や祖父母から資金贈与を受ける場合の「贈与税の非課税枠」も変わります。消費税8%の現在は、「最大1200万円」ですが、消費税10%となると、「最大3000万円」まで贈与税がゼロになります(非課税となるためには、贈与の翌年の3月15日までに住宅の引き渡しを受け、遅滞なく居住しなくてはならないなど各種要件あり)。

結局いつ買えばよいの?

いつ買うのがオトクなのかは、それぞれのケースで異なります。増税で増える負担と、負担を緩和する制度から受ける恩恵を天秤にかけ、8%で買うのか10%で買うのかどちらが自分にとって有利なのかを検討してみましょう。そのためには個々人でシミュレーションをしてみることが有効です。負担のほうが大きくなるようならば前倒しを検討するのも手かもしれません。マイホームは大きな買い物でその後のキャッシュフローも変わるので、場合によってはFPなどの専門家に相談をするのも手です。

増税で具体的にいくら負担額が増えるのか、シミュレーションをしてみると、思ったより少ない金額だった、という方もいるかもしれません。例えば、親や祖父母から援助をたくさん受ける人の場合、消費税が10%になってから拡大する「贈与税の非課税枠」を利用するのも一つです。「すまい給付金」の対象になりそうな方もウェブサイトでシミュレーションができるのでいくらもらえそうか確認をするとよいでしょう。

いかがでしょうか。人によっては必ずしも8%で駆け込んだほうがよいというわけでもないことが分かると思います。消費増税の負担と負担を軽減させる政策を理解し、自分はいつ買うのがよいのかを家族で話し合えるとよいでしょう。

花輪陽子phpto2花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

中古住宅を買ってリフォームした人、それぞれ費用はいくら?どう捻出した?

リクルート住まいカンパニーが「2017年大型リフォーム(リフォーム費用300万円以上)実施者調査」の結果を発表した。中古を買ってリフォームした人の場合、物件購入費用は平均3156万円、リフォーム費用は平均628万円だという。それぞれ費用はどうやって捻出するのだろうか?【今週の住活トピック】
「2017年大型リフォーム実施者調査」を発表/リクルート住まいカンパニー購入した中古住宅を入居前にリフォームした理由に、「自分好み」や「割安」も

この調査は、直近3年以内に、300万円以上のリフォームを実施した人が対象。300万円以上のリフォームということは、キッチンや浴室などの水まわりの交換や複数居室など広範囲なリフォームをしたということだろう。

この中でも、中古住宅を購入してリフォームした人に注目してみたい。

中古で購入した住宅をリフォームした人は、全体の20.2%。この中には、入居後ある程度住んだうえでリフォームした人も含まれるので、純粋に「中古で購入した住宅をリフォームしてから住み始めた」という人を見ると、このうちの55.1%だった。つまり、全体の1割強が中古を買ってリフォームして住んだと見られる。

入居前にリフォームした理由を複数回答で聞くと、「リフォームすることで、自分好みの家にしたかったから(デザイン)」が35.9%、「住みたい物件を見つけたがリフォームが必要だったから」が34.8%、「(新築と比べて)費用を抑えたいと思ったため」が27.2%、「リフォームすることで、自分好みの家にしたかったから(間取り)」が26.1%と上位に挙がった(画像1)。

老朽化などによる「必要性」もさることながら、「自分好み」や「割安」を求めたということが分かる。

【画像1】中古住宅を購入して、入居前にリフォームした理由(複数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年大型リフォーム実施者調査」より一部抜粋して転載)

【画像1】中古住宅を購入して、入居前にリフォームした理由(複数回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年大型リフォーム実施者調査」より一部抜粋して転載)

中古を買ってリフォームは、割安?

新築を購入するより中古を購入してリフォームしたほうが、費用が抑えられるのだろうか?
新築の価格が高騰している都心部などでは、総額で抑えられる可能性も高いが、実際には希望する立地や物件によって異なるだろう。

調査結果ではどうなっているのだろう。
中古を購入してリフォームした人の全体の平均額は以下のとおりだ。( )内は首都圏と関西圏の平均額だ。
・物件購入費用 :3156.3万円(首都圏:4014.1万円、関西圏:2280.0万円)
・リフォーム費用:628.1万円(首都圏:513.9万円、関西圏:757.9万円)

もちろん、物件価格に重きを置いた人もいれば、安く買ってリフォームにお金をかけた人もいるだろう。
調査結果の特徴としては、広範囲に分散していることが挙げられる。画像2を見ると、物件購入費用は、「1000万円未満」~「5000万円以上」までそれぞれに分散しているし、リフォーム費用は、「300万~500万円未満」が半数近いものの「500万~700万円未満」~「1000万円以上」までそれぞれ分散している。

また、首都圏では物件購入価格が高くなる代わりにリフォーム費用を抑える傾向が見られ、関西圏ではその逆の傾向が見られるといった特徴もうかがえる。

【画像2】1)中古を買ってリフォームした人の物件購入費用 2)中古を買ってリフォームした人のリフォーム費用(数値自由回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年大型リフォーム実施者調査」より一部抜粋して転載)

【画像2】1)中古を買ってリフォームした人の物件購入費用 2)中古を買ってリフォームした人のリフォーム費用(数値自由回答)(出典:リクルート住まいカンパニー「2017年大型リフォーム実施者調査」より一部抜粋して転載)

中古+リフォームは、「築年数の古いものを安く買って、大がかりにリフォームをする」のか、「立地や広さなどにこだわる代わりに、リフォーム費用を抑えられる物件を選ぶ」のかなど、戦略的に選択できるという側面もあるわけだ。

購入+リフォーム、それぞれの費用はどうやって捻出する?

調査結果(複数回答)を見ると、物件購入費用は「住宅ローン」が62.0%、「自己資金」が52.2%だが、リフォーム費用は「自己資金」が66.3%、「(物件と合わせて借りる)住宅ローン」が22.8%、「リフォームローン」が9.8%となっている。ほかには、親などからの贈与や融資などがある。

物件購入費用で住宅ローンを使っていない人が4割近くいるということは、物件購入の全額を自己資金や親からの贈与などでまかなったということだろう。物件価格が1000万円未満や1000万円台であれば、それも十分可能だ。

つまり、どのように費用を捻出するかは、「自己資金や贈与などでどれだけの額を充当できるか」でかなり変わってくる。

中古+リフォームの費用については、物件購入費用には主に「住宅ローン」を活用し、リフォーム費用には「自己資金」や「親からの贈与」を活用するのが一般的だ。リフォーム費用は、追加工事が発生するなど変動する可能性が大きいので、柔軟に対応できる自己資金などを利用するほうが使い勝手がよいからだ。調査結果を見ても、リフォーム費用では圧倒的に自己資金が多くなっている。

「住宅ローン」は、住宅購入だけでなく、一定のリフォームでも利用できる。購入した物件を担保にするので、35年などの長期間の返済で、低金利で借りることができる。その分、審査に時間がかかったり、抵当権設定などの諸費用がかかったりする。

最近では、「中古住宅+リフォーム一体型」の住宅ローンも登場し、物件購入にリフォーム費用をプラスした金額を借りることができる事例も増えている。ただし、中古住宅を購入する段階で、リフォーム費用が確定している必要があるなど、購入とリフォームの見積もりを並行して行っていないと利用できないということがある。

一般的に「リフォームローン」なら無担保なので審査期間も短く、購入後にリフォームの見積額が確定してから申し込んでも間に合うなど、柔軟な対応がしやすい。ただし、住宅ローンに比べると借りられる額が少ない、返済期間が短い、金利も高めに設定されているといった違いがある。

こうしたローンの違いを理解したうえで、自己資金や贈与などでいくらまで住宅取得に充てられるのか、その額をどこで使うかというように検討し、それぞれの費用の捻出方法を決めるのがよいだろう。

「中古住宅を購入」して、入居前に「リフォームする」のは、決して簡単なことではない。それぞれ難易度が高いうえ、時間的な制約もあって効率よく進める必要があるからだ。一方で、自分の予算をどう振り分けるかといった選択肢が豊富なので、安く買って思い切ったリフォームをしたり、立地にこだわって手が届くものを探したりといったことも考えられる。それが楽しめるか、難しいと思うかは、人それぞれだろう。

有名な3物件を訪問! ヴィンテージ・マンション徹底解剖(後編)

長い歳月を経てもなお、高い価値を維持し続けるヴィンテージ・マンション。その価値はどのようにして保たれてきたのでしょうか。また、実際の住み心地も気になるところです。後編では、「広尾ガーデンヒルズ」と「三田綱町パークマンション」、「ビラシリーズ」を訪問。ヴィンテージ・マンションの真価を探ってみました。
竣工時より高値がつく「広尾ガーデンヒルズ」【画像1】広尾ガーデンヒルズのサウスヒル(写真撮影/浜田啓子)

【画像1】広尾ガーデンヒルズのサウスヒル(写真撮影/浜田啓子)

最初に訪ねたのは日本のヴィンテージ・マンションとして有名な「広尾ガーデンヒルズ」です。1984年から2年にわたって分譲され、約5万7000m2の敷地に15棟が立ち並んでいます。

敷地内は「ヒル」と呼ばれる5つの区域に分かれ、それぞれが異なるコンセプトでデザインされています。なかでも、セキュリティー含め高いグレードを目指したのがサウスヒル。石畳が美しいこのヒルの3棟は100m2を優に超える住戸がプランされ、それぞれにコンシェルジュが常駐する80年代としてはとても珍しいホテルのようなエントランスロビーが設けられています。

【画像2】サウスヒルのエントランスロビー(写真撮影/浜田啓子)

【画像2】サウスヒルのエントランスロビー(写真撮影/浜田啓子)

また、敷地の中央に位置するセンターヒルには管理センターのほか、カフェ、ミニスーパー、クリニック、銀行などが入り、このマンションの暮らしを支えています。竣工から30年以上たった現在も高い人気があり、流通価格は新築時とほぼ変わらず、値上がりしている住戸も少なくないそうです。

【画像3】センターヒルの広場(写真撮影/浜田啓子)

【画像3】センターヒルの広場(写真撮影/浜田啓子)

時代に合わせて管理の内容も進化

そんな広尾ガーデンヒルズの“価値”の一つが、前編でも触れたように敷地内を彩る豊かな緑。広尾駅のほど近くから続くメインストリートには、見上げるほどの高さのケヤキ並木が連なり、春になると桜の名所になる場所もあります。クスノキ、ツツジ、ツバキなど数えればキリがないほど多種多様の樹木が植えられていて、歩いていると思わず深呼吸をしたくなる心地よさです。

「竣工当時は背丈が低かった樹木が、30年以上の歳月で大きく育ちました」

こう教えてくれたのは、第34期の管理組合理事長、国安嘉隆さん。樹木の成長はまさに長い歳月を経たマンションだからこそといえるでしょう。

もっとも、樹木の成長には剪定(せんてい)や土壌の改良など適切な管理が欠かせません。管理組合では理事会とは別に植栽委員会を立ち上げ、管理会社や造園業者と相談しながら植栽の管理・保全を計画的に行っているそうです。

「三田綱町パークマンンション」はタワーマンションの先駆け【画像4】三田綱町パークマンション(写真撮影/浜田啓子)

【画像4】三田綱町パークマンション(写真撮影/浜田啓子)

純白のタワーが2棟並ぶ「三田綱町パークマンション」も、やはり住民主導の管理によってその価値は守られてきました。竣工したのは1972年。19階建て・地上52mの高さを誇り、「東京タワー、霞が関ビルに次ぐ、日本における第3の高層建築物」として大きな話題に。超高層マンションの先駆けとしても知られています。

マンションを訪ねてみると、まず目を引くのは立地の希少性。北側には三井グループ迎賓館「綱町三井倶楽部」があり、その庭園を眼下に望むことができるうえ、北西側にはオーストラリア大使館、東側にはイタリア大使館が控えて、東京都心とは思えないほど緑が多く閑静な環境が広がっています。

【画像5】住戸から見て楽しめる綱町三井倶楽部の庭園(写真撮影/浜田啓子)

【画像5】住戸から見て楽しめる綱町三井倶楽部の庭園(写真撮影/浜田啓子)

そんな豊かな住環境に加えて、ランドスケープも魅力満載です。敷地内には表情豊かな和風庭園があり、生活のなかで四季の移ろいを楽しむことができます。管理員の方によると、野鳥が多く飛来し、白鷺やカルガモ、カメなどの姿をみかけることもあるとか。

公道からエントランスまでは50mほどのアプローチで結ばれて、傍らには全住戸分の152台分の平置き駐車場がつくられています。都心でこれほどぜいたくに敷地を使ったマンションは今となってはあまり見られず、そこが気に入って購入を決めたという居住者もいるほどです。

【画像6】広々としたエントランス(写真撮影/浜田啓子)

【画像6】広々としたエントランス(写真撮影/浜田啓子)

価値が維持できているのは、管理のたまもの

共用部についても同様で、各所にゆとりが感じられます。1階には24時間有人のフロントがあり、庭園の緑が広がるガラス張りのロビーラウンジもまさにホテルさながらです。一方、住戸設計についても、各フロアとも住戸数は4戸以内に抑えられ、全室が角住戸というリッチさ。専有面積は120m2前後というゆとりある広さが実現されています。

【画像7】ロビーラウンジはホテルのよう(写真撮影/浜田啓子)

【画像7】ロビーラウンジはホテルのよう(写真撮影/浜田啓子)

聞けば、10戸については、1階にシャワーやトイレ、エアコンを完備したメイドルームが付属。現在は書斎や子どもの勉強部屋として使われているそうですが、竣工時は実際にメイドさんが住んでいたという話から居住者のライフスタイルが想像できます。

こうした住まいのクオリティを高いレベルで維持するには、やはり管理が重要といえるでしょう。

「躯体や設備などの修繕とともに、共用部の段差を解消してバリアフリーを徹底するなど、より快適に暮らせるよう常に見直しをしています」

と話すのは管理組合の理事長。竣工時の姿を保つのが第一ですが、難しい場合には雰囲気を損ねずにそれに代わる方法も検討するとのこと。ロビーの廊下を木の壁から大理石にしたのはその一例。時代に応じて変えるべきところは変えつつ、このマンションに暮らすステイタス感は維持していきたいと話してくれました。

斬新なデザインのビラシリーズ【画像8】ビラ・ビアンカ(出典/『都心に住む by SUUMO』2017年9月号)

【画像8】ビラ・ビアンカ(出典/『都心に住む by SUUMO』2017年9月号)

昨今のマンションには見られない、高いデザイン性から歴史に名を刻む物件もあります。その代表がビラシリーズ。

ビラシリーズの第1号「ビラ・ビアンカ」が竣工したのは1964年。以降、セレーナ、フレスカ、ローザ、グロリア、モデルナ、サピエンザ、ノーバという8つのマンションが1980年代までに竣工しています。

このシリーズを手掛けたのが、興和商事の前会長である故・石田鑑三氏。住宅づくりに情熱を注いだ石田氏は、生産性と合理性が第一とされた高度経済成長の真っ只中で、デザインを最重視したマンションを打ち出しました。

ビラ・ビアンカはガラスのキューブを積み上げたような幾何学的なデザインが取り入れられています。直線的な造形は1960年代から70年代にかけて、欧米の建築界の潮流であったモダニズムを意識したもの。その容姿は神宮前という場所にあっても目を引き、さながら街にたたずむアートという趣。設計者は建築家、堀田英二氏。石田氏の熱意をくみ取りながら、採算を度外視してこのマンションをつくり出したといいます。

【画像9】廊下にあるガラスブロックの円柱(出典/『都心に住む by SUUMO』2017年9月号)

【画像9】廊下にあるガラスブロックの円柱(出典/『都心に住む by SUUMO』2017年9月号)

壊すのは簡単。でも、一度なくしたものは取り戻せない

シリーズのほかのマンションもしかり。20世紀建築の巨匠、ル・コルビュジエの弟子である坂倉準三氏が創設した坂倉建築研究所を設計に起用するなど、それぞれに明確なコンセプトを打ち出した上で、ふさわしい設計者を石田氏自らが選び、幾度も打ち合わせをした後にプランを練り上げ、さらに建設現場にも足しげく通って完成させてきたのだとか。

そのコンセプトを盛り込んだのがマンション名です。セレーナ(静寂)、グロリア(栄光)、フレスカ(新鮮)といった名前は、確かにマンションのフォルムや色に表れています。

ビラシリーズは、いわばプロデューサー的立場にあった石田氏と、気鋭の設計者との共同作業によって誕生した渾身作というわけです。その思いを引き継いでいるのは、ビラシリーズに暮らす人々。「斬新なデザインにほれ込んで入居する人がほとんどです」と話すのは、ビラシリーズの管理に携わる「興和商事」の新槙さん。

「修繕に関しては、セントラル空調が住戸ごとのエアコンにしたり、老朽化した給排水管の取り替えをしたりと、必要なところには手を加えながら、できる限り、竣工当時の状態を保っていく方向で進めています。

例えば、ビラ・モデルナの場合、3年前にエントランスの回転扉が壊れて取りはずすことも検討しました。でも、回転扉はデザインの重要な要素。やはり残そうということになったんです。壊すのは簡単ですが、一度なくしてしまったものはもう取り戻せないですから」

ビラシリーズに限らず、建物の老朽化は避けて通れない問題です。その点をどのように解決していくか。ヴィンテージ・マンションの真価が問われる場面といえるのかもしれません。

【画像10】ビラ・モデルナの回転扉(写真撮影/浜田啓子)

【画像10】ビラ・モデルナの回転扉(写真撮影/浜田啓子)

ヴィンテージ・マンションに共通するのは、建てられた当時に込められた思いとそこで暮らす人々の思い。双方が一つになって初めて、ヴィンテージと呼ばれる価値が生まれるということを実感しました。当然、そのマンションに暮らすのは、その思いの一端を担うということ。どこまでそのマンションを愛せるか。ヴィンテージ・マンションを買うときには、自分に問いかけてみるといいかもしれません。

●前編はこちら
どう探す? どう住む? ヴィンテージ・マンション徹底解剖(前編)
●取材協力
・広尾ガーデンヒルズ
・三田綱町パークマンション
・ビラシリーズ/興和商事
●監修
・坂根康裕さん

どう探す? どう住む? ヴィンテージ・マンション徹底解剖(前編)

住宅雑誌で特集がされたり、ネットで専門サイトが立ち上げられたりと、なにかと目にするヴィンテージ・マンション。一般の中古マンションとはどこが違うのでしょうか。

前編では、住宅評論家の坂根康裕さんに、ヴィンテージ・マンションの魅力と基礎知識、買うときに気をつけたいことなどを伺いました。
ヴィンテージ・マンションには明確な定義がない!

ワインや車などによくあるヴィンテージ物。このヴィンテージは「歳月を経て、より価値が高められた物」という意味合いで使われています。マンションの場合、「アンティークでかっこいい高級マンション」のようなイメージをもちますが、本来はどのような物件を指すのでしょうか。

さっそく坂根さんに伺うと、「実は、ヴィンテージ・マンションには明確な定義はありません」との意外な答えが。

【画像1】ワイン(写真/PIXTA)

【画像1】ワイン(写真/PIXTA)

坂根さんによれば、そもそもマンションにヴィンテージという言葉が使われ始めたのは2000年代初頭。バブル崩壊後のデフレの影響で画一的なマンションが増えるなか、「過去にはこんな面白い物件があった」と目を向けられたのがきっかけだったそうです。

「実際、過去のマンションのなかには、建物デザインや住戸プランが非常に個性的で、新しいライフスタイルを提案しようとさまざまな工夫が盛り込まれているものもありました。そうした価値を多くの人たちが認め、ここに住みたいという人が絶えない物件がヴィンテージ・マンションと呼ばれている。その評価の高さは、当然、流通価格に結びつきます。エリアや駅からの距離など条件をそろえて比べたときに、他の物件よりも下落率が低かったり、逆に上がっていたりすることがあり、資産価値も高いといえるわけです」

南欧風の青い瓦屋根や屋上プールなど、物件ごとに個性あり

そんないわゆるヴィンテージ・マンションの魅力の一つは、先にも挙げたように、個性的な建物やデザイン。昨今の新築マンションとはどこが違うのでしょう。

「マンションの区分所有法が定められたのは1960年代の初めですが、建物のデザインで個性が際立つのは1964年東京オリンピックのころのマンションですね。例えば、そのころに初めて分譲された秀和レジデンスシリーズは、南欧風の青い瓦屋根と白い塗り壁、さらにバルコニーに配した黒の鉄柵が特徴です。こういうデザインは昨今のマンションにはなく、今でもファンがいるほどです。

東京オリンピック開催の翌年1965年に竣工した『コープオリンピア』は、欧米先進国に追いつけ追い越せという時代を反映して、屋上にはプールがあり、ロビーはまさにホテルライク。当時は集合住宅=団地というイメージが強く、それを払拭したいという気概もあったのでしょう。今見ても新しさを感じます」

ほかにも、アート作品のように大胆なフォルムを描いていたり、ホテルのような和風庭園があったり、エントランスが特大の絵画で彩られていたり。ヴィンテージ・マンションは、ドア、窓、把手のような細部にも個性が宿り、今見るとアンティーク感もあって心がくすぐられます。

【画像2】コープオリンピア(写真/PIXTA)

【画像2】コープオリンピア(写真/PIXTA)

ヴィンテージ・マンションは希少性のある都心エリアに集中

加えて、ヴィンテージ・マンションの魅力といえるのが立地です。千代田区、渋谷区、港区などの都心に集中し、その時代だからこそ得られた希少な立地に立つマンションも少なくありません。

都心タワーマンションの先駆けと言われる「三田綱町パークマンション」は、大正時代からの歴史がある「綱町三井倶楽部」に隣接し、その庭園を借景として楽しむことができます。また、1980年代のマンションを代表する「広尾ガーデンヒルズ」も立地の希少さで知られています。都心にあって約5万7000m2もの敷地面積を誇る大規模マンションは、今後、建てられないだろうとも言われています。

その「広尾ガーデンヒルズ」は豊かな緑がシンボルですが、これもまた、多くの人が認める価値につながると坂根さんは言います。

「時間とともに朽ちるのが建物なら、時間とともに成長するのが植物とコミュニティ。『広尾ガーデンヒルズ』は竣工から約30年たった現在、樹木が成長して森のような環境が生み出されています。これは新築マンションにはない魅力と言っていいでしょう」

樹木は放っておけば伸び放題で本当の森になってしまいますが、人が快適に暮らせるのはきちんと管理がされている証拠。つまり、植栽の美しさは「マンションをきれいに保ちたい」といった住人の意識の高さの表れであり、そこには成熟したコミュニティがあるとも考えられるわけです。

【画像3】三田綱町パークマンションの住戸から望む「綱町三井倶楽部」の庭園(写真撮影/浜田啓子)

【画像3】三田綱町パークマンションの住戸から望む「綱町三井倶楽部」の庭園(写真撮影/浜田啓子)

時を重ねた物件だからこそ、躯体や設備の状況は要チェック

もちろん、長い歳月を経てきたマンションだからこそ、購入にあたっては注意点もあります。その一つが躯体や設備などの老朽化です。

「どんなに素晴らしいマンションでも経年による劣化は免れません。特に、古いマンションの場合、給排水管のメンテナンスは欠かせません。取り替え工事が行われているかなど点検や工事の履歴は要チェックです。併せて大規模修繕が適切に行われているか、また今後、どのような修繕計画があるのかを確認しておくと安心です」

修繕履歴や長期修繕計画など管理状況に関することは、管理会社が作成する「重要事項に係る調査報告書」に記載されています。仲介会社に依頼すれば用意してくれるはずなので、購入を決める前にしっかり目を通しましょう。
さらに見ておきたいのは、断熱性や遮音性といった住宅の基本性能です。

「法的整備が進み、マンションの基本性能が高まったのはここ十数年の間。それ以前は、物件によって差があるということは頭に入れておきたいですね。古いマンションでは断熱性の低い資材が使われていたり、断熱材が入っていなかったりすることもあります。また、新耐震基準が採用された1981年以前のマンションであれば、耐震診断を実施し、必要に応じて耐震補強がされているかどうかの確認は必須です」

断熱性については、断熱材を入れるなどリフォームで補強することも、場合によっては可能です。窓ガラスも内窓を入れたり、物件によっては複層ガラスに変更できたりする場合もあるとのこと。変更の可否は管理規約で定められているので、事前に確認しておくといいでしょう。

【画像4】マンションの大規模修繕工事(写真/PIXTA)

【画像4】マンションの大規模修繕工事(写真/PIXTA)

住みたいと思ったら、仲介会社に連絡して気長に待つべし

では、ヴィンテージ・マンションに住んでみたいと思ったら、どのように探せばいいのでしょうか。

手がかりになるのは、やはりインターネットの物件検索サイト。どんなマンションがあるのかを見ていくことができます。ただし、人気の物件はなかなか売却住戸が出ず、売りに出てもすぐ成約済みなんてことに。

「住みたいマンションを見つけたら、仲介会社に連絡し売り物件が出たら教えてもらうのが確実でしょう。最近はリノベーション会社がリノベ済みの住戸を売りに出すケースも多いので、そこから探してみるのもいいかもしれませんね」

いずれにしろ、いつ売りにでるかは未知の部分。時を重ねてきたマンションのように、じっくり気長に待つ感覚が必要のようです。

ヴィンテージ・マンションと呼ばれる物件には億を超える高額物件が多くある一方、小さめながら3000万~4000万円台の住戸も。決して、高嶺の花ばかりではないようです。ただし、ワインや車などと同様に、嗜好性の強いもの。資産性といったこと以上に、そのマンションに対して愛着をもてるかどうかが大切なのかもしれません。後編では、まさに愛着をもって暮らす人たちが住むヴィンテージ・マンションを訪問。管理組合の活動や暮らしについてレポートします。

●監修
・坂根康裕さん
1987年株式会社リクルート入社。『都心に住む』『住宅情報スタイル 首都圏版』編集長を経て、2005年独立。
現在は高級マンションを中心に取材、執筆等活動中。住まいのWEBマガジン『家の時間』代表も務める。
日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』 『住み替え、リフォームの参考にしたいマンションの間取り』

2018年、住宅ローン控除を受けるために必要な書類は? はじめての確定申告ガイド

昨年、住宅ローンを借りて住宅を購入した人は、条件が合えば住宅ローン控除(住宅ローン減税)が適用になる。ただし、住宅ローン控除(住宅ローン減税)を受けるためには確定申告が必要だ。会社員にはあまり縁のない確定申告だけれど、所得税や住民税の節税対策になるので忘れずに手続きをしたい。ここでは制度を利用するための条件や手続きの方法について詳しく紹介していく。
住宅ローン控除(住宅ローン減税)の基本をおさらい。戻ってくるのはいくら?

住宅ローン控除(住宅ローン減税、住宅借入金等特別控除)とは、住宅ローンの年末残高の1%相当額が10年間、所得税から控除される制度。確定申告をすることで、控除をうけることができる。

確定申告は、1年間の所得を税務署に申告して所得税額を「申告納税」する、または納めすぎた所得税額を「還付申告」すること。会社員の場合、毎月の給与からその年の所得税の概算額が天引きされているため、住宅ローン控除(住宅ローン減税)で、確定申告(還付申告)をすることで、このすでに納めてある所得税から、控除される金額が戻ってくることになる。

住宅ローン控除(住宅ローン減税)の最大控除額は下の表のとおり。一般住宅の場合、10年間で400万円(1年で40万円)ととても大きな金額だ。ただし、実際に所得税から戻ってくる金額は納めている税額が上限。所得税から年間40万円を控除されるには、年末時に住宅ローン残高が4000万円以上あること、所得税を40万円以上納めていることが条件になるため、実際の控除額は年収や借入額によってケースバイケース。なお、所得税から控除し切れなかった分は、一定の限度で住民税からも控除される。

【画像1】住宅ローン控除(住宅ローン減税)の最大控除額(筆者作成)

【画像1】住宅ローン控除(住宅ローン減税)の最大控除額(筆者作成)

【画像2】住民税からの控除の最大控除額(筆者作成)

【画像2】住民税からの控除の最大控除額(筆者作成)

利用できるのはどんな住宅ローン?どんな人?どんな家?

住宅ローン控除(住宅ローン減税)を利用するには、住宅ローン、人、家それぞれに要件がある。下にまとめた要件をチェックして、自分がクリアしていれば確定申告の準備を始めよう。

<住宅ローンの要件>
・返済期間10年以上
・借入金は住宅の建物の取得のために借り入れたもの。または住宅の建物と敷地にかかる借入金を一体として借り入れたもの
・銀行や信用金庫、農業協同組合、住宅金融支援機構、社内融資などからの借入金(親族や、役員をしている会社などからの借入は対象外)
・勤務先からの融資の場合は、無利子又は0.2%(平成28年12月31日以前に居住の用に供する場合は1%)に満たない利率による借入金を除く

<人と家の要件>
・新築住宅の場合
・新築または取得の日から6カ月以内に入居し、適用を受ける各年の12月31日まで引き続き住んでいること
・住宅ローン控除(住宅ローン減税)を受ける年の合計所得金額が3000万円以下であること
・新築または取得した住宅の登記簿上の床面積が50m2以上。店舗併用住宅等の場合は床面積の2分の1以上が居住用であること
・居住した年とその前後2年間(通算5年間)、居住用の財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除等の特例を受けていないこと

・中古住宅の場合
上記の「新築住宅の場合」の要件を満たしたうえで
・建築後使用されたものであること
・次のいずれかに該当すること
 ○マンション等の耐火建築物の場合は、建築後から取得までの経過年数が25年以内
 ○木造など非耐火建築物の場合、建築後から取得までの経過年数が20年以内
 ○新耐震基準に適合する建物であること(既存住宅売買瑕疵保険に加入して2年以内の中古住宅も、新耐震基準に適合するものとされる)
 ○贈与や、生計を一にする親族等からの購入ではないこと

確定申告はいつからいつまで? 手続きはどうすればいい?

2017年分の確定申告書の受け付けは2018年2月16日(金)から3月15日(木)まで。ただし、住宅ローン控除(住宅ローン減税)は確定申告のなかの「還付申告」に当たり、入居した年の翌年1月1日から申告ができる。つまり、昨年家を買って入居した人の場合、2月16日を待たなくても、すでに申告することができるのだ。確定申告期間中は税務署が混雑するので、準備が整っているなら早めに申告してしまうといいだろう。また、還付金は指定の金融機関口座に振り込まれるが、手続きが早いほうが振り込まれる時期も早くなる傾向にある。

ではここで、住宅ローン控除(住宅ローン減税)の手続きに必要な書類とどこで入手するのかを確認しておこう。

【画像3】住宅ローン控除(住宅ローン減税)に手続きに必要な書類と入手先(筆者作成)

【画像3】住宅ローン控除(住宅ローン減税)に手続きに必要な書類と入手先(筆者作成)

上表の書類がそろったら、必要事項を確定申告書、住宅借入金等特別控除額の計算明細書に記入して税務署に持参してもいいし、郵送してもいい。また、国税庁のサイト上で確定申告書を作成してインターネット(e-Tax)で送信する方法もある。

確定申告は生まれてはじめてという場合、「書類の記入の仕方がよく分からない」「間違えないか不安」「ふるさと納税や医療費控除も重なっていて混乱してしまう」など、不安に感じる人もいるだろう。

その場合は、最寄りの税務署に相談を。確定申告期間中、税務署に設けられる確定申告会場では税務署員がマンツーマンで相談にのってくれる。また、税務署によっては確定申告の期間中は日曜日にも会場を開けているところもある。居住地を管轄している税務署の予定を事前にチェックしておこう(なお、一部地域では確定申告会場が税務署以外の場所に設けられるところもあるので注意)。

確定申告は毎年しなくてもOK。2年目以降は年末調整の対象に

会社員など給与所得者の場合、一度確定申告をしてしまえば、2年目以降の住宅ローン控除(住宅ローン減税)の手続きは勤務先の年末調整で済む。1年目の確定申告後、税務署から残り9年分の「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」が送られてくるので保管しておき、毎年、金融機関からの住宅ローンの「残高証明書」といっしょに勤務先に提出すればOKだ。

つまり、住宅ローンを使って家を買ったら、その翌年に1度だけ確定申告をすれば、あとは自力での申告をしなくても最長10年間の節税ができるのだ(自営業者、個人事業主等の場合は、毎年申告が必要)。

なお、還付申告の場合は入居の翌年1月1日から5年間申告書を提出することができる、つまり、申告をし忘れたり、3月15日を過ぎたりしても過去5年分までさかのぼって申告し、税金の控除を受けることができるのだ。

年度末が近づいてきて何かと忙しい時期だが、住宅ローン控除(住宅ローン減税)の申告手続きをしなければせっかくの節税チャンスを逃しかねない。これから10年間の節税のために、早めに準備をして申告しよう。

●関連記事
・確定申告で税金が戻ってくる、住宅ローン控除ってどんな制度?
・住宅ローン控除って、実際いくら戻ってくるの?

ブルーボトルや清澄庭園…注目の清澄白河駅から徒歩1分、新築マンション分譲開始

東京メトロ半蔵門線、都営大江戸線「清澄白河」は、約400年もの歴史を重ねながらも、駅から3km圏内には東京・日本橋エリアなど開発プロジェクトが進む注目のエリア。
交通アクセスも良好で、東京メトロ半蔵門線、都営大江戸線「清澄白河」駅から、新宿には30分、渋谷に24分、六本木は20分など都心に乗り継ぎなしで行くことができる。また東京メトロ半蔵門線で1駅の「水天宮前駅」と直結した「東京シティエアターミナル(T-CAT)」を利用することで羽田空港や成田空港など、空の便も使いやすい。
その「清澄白河」駅から徒歩1分(75m)という恵まれた立地に、12月11日に株式会社FJネクストが「ガーラ・プレシャス清澄白河駅前」全戸数73戸の新築分譲マンションの販売を開始した
ガーラシリーズのマンションは、同社によると「交通利便性の高い立地である事に最も力を入れて仕入・開発に取り組んでいる」とのこと。とりわけ「ガーラ・プレシャス清澄白河駅前」は清澄白河駅より徒歩1分(75m)という立地が最大の強み。

「ガーラ・プレシャス清澄白河駅前」が位置する東京都江東区白河周辺は、医療機関や図書館や資料館、美術館などの公共施設が数多く点在し、金融機関などの生活利便性施設も整っている。また、東京都指定の名勝にも指定されている清澄庭園、米国西海岸発のブルーボトルコーヒーなどもある。自然の景観を楽しみながらおしゃれなカフェでくつろぐ……といった、おしゃれなライフスタイルが目に浮かぶ。

【画像1】画像提供/株式会社FJネクスト

【画像1】画像提供/株式会社FJネクスト

「ガーラ・プレシャス清澄白河駅前」の仕様は、3重の施錠でより高い安全性を実現する先進のカードキーシステムの導入、暮らしのサポートを行うフロントサービス兼用の居住者専用の電話相談窓口「ガーラコンシェルジュサービス」、全戸の専用部に快適なインターネット接続環境など、居住者ニーズを追求し、かつ機能性もある仕様・設備となっている。

開発が進む注目の都心東エリアの「清澄白河」。しかも駅から徒歩わずか1分という好アクセス。立地に恵まれた本物件は人気が出そうだ。

「リノベ・オブ・ザ・イヤー2017」 13の受賞作品から見えた4つのトレンド

今年で5回目を迎える「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2017」の授賞式が2017年12月14日に開催され、「この1年を代表するリノベーション作品」が決定しました。住宅から商業施設までさまざまな作品はどれも、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれます。その最新傾向を探ってみました。
価値ある建物を残すこと。それがリノベの王道

リノベーション・オブ・ザ・イヤーとは、「リノベーションの楽しさ、魅力、可能性」を感じさせる事例作品を表彰する、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会主催のコンテスト。リノベーションとは、建物の性能を向上させたり、本来よりも価値を高めたりすることですが、「中古住宅を購入してリノベで自分らしい家に変えたい!」「魅力的なリノベ済み住宅が欲しい!」という施主の希望は年々高まり、多くのリノベーション住宅が登場しています。

今年はエントリー作品155のなかから、グランプリ1作品、部門別最優秀作品賞4作品、特別賞8作品が選ばれました。まず、グランプリと部門別最優秀作品賞の特徴を紹介します。「どれがグランプリに選ばれてもおかしくなかった」という審査委員評が上がったように、いずれもクオリティの高い作品が選ばれています。

●総合グランプリ
『扇状のモダニズム建築、桜川のランドマークへ』 株式会社アートアンドクラフト

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【画像1】阪神高速道の湾曲したフォルムに沿うように扇状にデザインされた外観が目を引くモダニズム建築。1、2階は店舗、3、4階はクリエイター向けのアトリエ兼住居に(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)

【画像1】阪神高速道の湾曲したフォルムに沿うように扇状にデザインされた外観が目を引くモダニズム建築。1、2階は店舗、3、4階はクリエイター向けのアトリエ兼住居に(写真提供/株式会社アートアンドクラフト)

国が推奨する優良住宅として1958年に建築された「併存住宅」。長年、桜川のランドマーク的な建物として親しまれてきました。老朽化のため建て替えを検討されていましたが、プランナーの「長年、街の風景の一部となってきた建物は壊さず残したい」というあつい想いによってリノベーションで生まれ変わることに。

「建物への愛情やリスペクトを感じる事例」「価値あるものを残すことこそリノベーションの王道。それを卓越したリノベーションスキルで叶えている。老朽化した設備をよみがえらせる技術力、過剰にならないよう慎重に練られたデザイン力、個性的なテナントを選ぶマーケティング力などで、高いハードルをクリアした」と高評価。
◎エリア:大阪府、築年数:59年、延床面積:1128.57m2、費用:1億2550万円(税込)、対象物件:店舗・事務所・共同住宅

●部門別最優秀作品賞〈1000万円以上部門〉
『光、空気、気配、景色。すべてが一つにつながる − 代沢の家(YKK AP×HOWS Renovation×納谷建築設計事務所)』 YKKAP株式会社

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【画像2】隣地の緑を暮らしに取り込むように窓を配置。1、2階がつながり、風や光、家族の気配を伝えています。断熱性能を高めた家だから実現した広がりのある空間です(画像提供/YKKAP株式会社)

【画像2】隣地の緑を暮らしに取り込むように窓を配置。1、2階がつながり、風や光、家族の気配を伝えています。断熱性能を高めた家だから実現した広がりのある空間です(画像提供/YKKAP株式会社)

築30年でありながら、2020年に義務化される次世代省エネルギー基準を上回る断熱性を実現した家です。窓メーカーのYKK APがリビタのリノベーション事業「HOWS Renovation」とコラボレーション。高性能樹脂窓、高断熱材への入れ替えなどによって高い断熱性を確保し、省エネ設備や太陽光発電の設置によってゼロエネルギーハウス化も達成。開口部耐震フレームの採用や耐力壁の増加によって耐震性も高めています。

築年数のたった家でも工夫次第で新築以上の性能を得られることを実証しています。広い開口部は、日の光が入って明るく、開放的なので魅力がある反面、断熱性と耐震性にとってウィークポイントになりがちですが、開口部を残したまま性能を格段に高めている点で「リノベでここまでできる」と改めて気づかされます。

今後、中古住宅の性能面での向上のために、リノベーションが目指すべき指針的な作品とも言えるでしょう。
◎エリア:東京都、築年数:30年、施工面積:144.38m2、費用:3300万円(税込)、対象物件:一戸建て

●部門別最優秀作品賞〈1000万円未満部門〉
「マンションでスキップフロアを実現 ~上下階を利用したヴィンテージハウス~」 株式会社オクタ

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【画像3】スキップフロアはワークスペースと収納の2層構造。濃淡のあるウォールナットの床、白く塗ったアンティークブリックの壁など、施主の要望に応え切ったこだわりの内装です(画像提供/株式会社オクタ)

【画像3】スキップフロアはワークスペースと収納の2層構造。濃淡のあるウォールナットの床、白く塗ったアンティークブリックの壁など、施主の要望に応え切ったこだわりの内装です(画像提供/株式会社オクタ)

完成度の高いラフで無骨な内装に加えて、マンションではなかなか見ることのないスキップフロアの間取りに、「楽しくなる住まい。暮らしを楽しく変えるのはリノベの目的の一つで、リノベの使命を改めて感じさせる作品だった」と高い評価を受けました。

縦の広がりを活かしたプランは、広さの限られたマンションでの空間活用術として、今後広がっていくのではないかと思います。
◎エリア:東京都、築年数:41年、施工面積:36.31m2、費用:500万円(税込)、対象物件:マンション

●部門別最優秀作品賞〈500万円未満部門〉
「ツカズハナレズ」 株式会社シンプルハウス

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【画像4】上/子ども部屋の壁は天井下に隙間を設けて抜け感をつくり、圧迫感を排除。下/ヴィンテージ風塗装のパイン床と針葉樹の壁に、コンクリート表しにした天井で、無骨で個性ある空間に仕上がっています(画像提供/株式会社シンプルハウス)

【画像4】上/子ども部屋の壁は天井下に隙間を設けて抜け感をつくり、圧迫感を排除。下/ヴィンテージ風塗装のパイン床と針葉樹の壁に、コンクリート表しにした天井で、無骨で個性ある空間に仕上がっています(画像提供/株式会社シンプルハウス)

「子ども部屋をオープンにかつ間仕切りたい」という相反する要望に応え、リビングに隣接した2つの空間に扉を設けず、いつも家族がつながる間取りにしています。

リノベーションというと、リビングや水まわりがメインテーマになりがちですが、子ども部屋を中心に考えている点、家族の関係性がリノベーションで表現されている点が注目されました。また、約60m2のマンション全体を498万円で仕上げるのは難易度が高いと思われますが、そうした点も評価のポイントとなりました。
◎エリア:兵庫県、築年数:19年、施工面積:65.80m2、費用:498万円(税込)、対象物件:マンション

●部門別最優秀作品賞〈無差別級部門〉
「流通リノベとシニア団地」 株式会社タムタムデザイン

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【画像5】上/団地の1階とは思えない、おしゃれな内装のデイサービス。無垢材をふんだんに用いたぬくもりある施設に、利用者の方々は心和むのではないでしょうか。下/イートインできる惣菜店ではオーナーが健康相談も行っています(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

【画像5】上/団地の1階とは思えない、おしゃれな内装のデイサービス。無垢材をふんだんに用いたぬくもりある施設に、利用者の方々は心和むのではないでしょうか。下/イートインできる惣菜店ではオーナーが健康相談も行っています(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

UR団地の1階に入るデイサービス施設と惣菜店。元作業療法士であるオーナーがケアマネージャーとして立ち上げた施設と店舗です。惣菜店にはイートインと健康器具コーナーを併設し、健康相談やデイサービスへの入所案内も行っているそうで、地域住人が集う新たなコミュニティの場となっています。

さらに、このリノベーションに当たっては、商品として流通できない「林地残材」を施主が直接購入してリノベに活用するという、新たな木材の流通経路を開拓しています。

リノベーションを通じて、高齢化しつつある地域社会だけでなく、林業という地元産業をも元気にしていく取り組みがなされ、社会的課題の解決手法の有効な方法として大きな可能性を示しています。
◎エリア:福岡県、築年数:42年、施工面積:216.19m2、費用:3200万円(税込)、対象物件:店舗と福祉施設

リノベが毎日の満足度だけでなく、生き方をも変える

リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、住宅メディア関係者を中心に編成された選考委員によって「今一番話題性がある事例・世相を反映している事例は何か」という視点で選考されるため、年によって受賞作品の傾向がさまざまに変化します。昨年や一昨年は、「空き店舗を住宅として再生」「インバウンド向けの宿として活用」「DIYリノベ」「団地再生」「住宅の基本性能を格段に高めるリノベ」などが特に目立っていましたが、今年はどんな傾向があったのでしょうか。

グランプリ、部門別最優秀作品賞4作品のほかに、8作品が特別賞を受賞しています。今年の審査員特別賞には「超高性能エコリノベ賞」「公共空間活用リノベ賞」「グッドコンバージョン賞」などがあり、個々の受賞作品や部門名からも分かるとおり、リノベーションの領域は広く、果たす役割は多様であることを示しています。今年は特に次の4つのトレンドに注目しました。

(1)施主の「こんな暮らしがしたい!」というあつい想いに応える

「リノベーションを選ぶお施主さんは感度の高い人が多く、要望のレベルが年々高くなっている」という審査委員評があったように、今年は「こんな暮らしがしたい」といった、コンセプトが明確な施主が多かったように思います。つくり手は、施主の要望に正面から向き合い、形にしていく手腕が求められますが、見事に応えた作品が目立ちました。

【画像6】素敵ライフスタイル賞『てとてと食堂、はじめます。』(画像提供/株式会社リビタ)

【画像6】素敵ライフスタイル賞『てとてと食堂、はじめます。』(画像提供/株式会社リビタ)

『てとてと食堂、はじめます。』は、自宅マンションで料理教室や食事会を開催したいという施主の思いを叶えるべく、キッチンを中心にした住まいに。リノベーションが働き方まで変えてくれることを証明したような事例です。

【画像7】こだわり実現賞『アパレル夫妻の23年分の想い』(画像提供/株式会社ニューユニークス)

【画像7】こだわり実現賞『アパレル夫妻の23年分の想い』(画像提供/株式会社ニューユニークス)

『アパレル夫妻の23年分の想い』は、多趣味なご夫妻の「思い出の品や好きな物はいつも見ていたい」という想いを壁一面の棚で叶えました。色使いを含む高いデザイン力が発揮されています。

【画像8】グッドコンバージョン賞『銀行を住まいに コンバージョン』(画像提供/株式会社オレンジハウス)

【画像8】グッドコンバージョン賞『銀行を住まいに コンバージョン』(画像提供/株式会社オレンジハウス)

『銀行を住まいに コンバージョン』では、「合宿所のような家が欲しい、将来カフェを開きたい」という希望を叶えるべく、施主が選んだのは、銀行として使われた建物を転用すること。施主の自由な発想にきちんと向き合い、水まわりの配置を工夫するなど、オフィスビルを快適な住まいに変えるためのプランが練られました。

【画像9】コピーライティング賞『吾輩は猫のエドワードである。』(画像提供/株式会社スタイル工房)

【画像9】コピーライティング賞『吾輩は猫のエドワードである。』(画像提供/株式会社スタイル工房)

『吾輩は猫のエドワードである。』は、中古住宅を友人3人と猫5匹でシェアする家に改変。防音性能を高め、インテリアに溶け込むようなキャットウォーク、キャットタワーを設けるなど、人も猫も快適に暮らせる工夫が随所にあります。

(2)デザイン、性能…魅力度を増す「再販リノベ物件」

リノベーション物件には、建物の所有者(住人)の希望に応じて行うものだけでなく、「再販物件」というものがあります。リノベーション会社や不動産会社などが購入した中古住宅をリノベーションし、家の価値を高めて販売することです。そうした作品は住人の希望などの前提条件がないため、設計者の想いがこもった作品性の高い物件が見られました。

【画像10】ベストデザイン賞『100+∞(無限)』(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

【画像10】ベストデザイン賞『100+∞(無限)』(画像提供/株式会社タムタムデザイン)

『100+∞(無限)』は、こんな住宅デザインが可能なんだと思わせる事例。アーチ型の袖壁が連続する美しいギャラリー的に使える場所は住む人の感性を豊かにしてくれそうです。

【画像11】優秀R5住宅(※)賞『サバービアンブームの夜明け』(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

【画像11】優秀R5住宅(※)賞『サバービアンブームの夜明け』(画像提供/株式会社ブルースタジオ)

『サバービアンブームの夜明け』は、旗竿地、階段40段のアプローチなど制約の多い立地に対して、眺望を活かした約30畳の2階リビングなど魅力的なコンテンツをプラスしています。

※「R5住宅」とはリノベーション住宅推進協議会が定める品質基準に適合したリノベーション済み戸建住宅のことで、再販物件を安心して購入するための一つの指針となるもの

(3)住宅性能を高めることはリノベの使命

日本の家は冬寒いのが当たり前だった時代から大きく変わり、2020年に次世代省エネ基準が整備されるなど「家の中すべての空間が寒くない」という高い断熱性が求められています。家の中に寒い空間があるとヒートショックなど健康に悪影響を及ぼし、さらに暖房の熱源が多く必要なので地球温暖化の一因に。

そんな背景から、昨年に続き今年も性能エコリノベ事例『代沢の家』(前章参照)が部門別最優秀賞を受賞するなど、省エネ性能や断熱性能など居住性能を高めたリノベに注目が集まっています。ノミネート作品の性能レベルが年々アップしていると感じるとともに、築古の住宅でも快適に変えることが期待できると思いました。

【画像12】超高性能エコリノベ賞『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』(画像提供/YKK不動産株式会社)

【画像12】超高性能エコリノベ賞『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』(画像提供/YKK不動産株式会社)

『パッシブタウンで「一生賃貸宣言」しませんか?』では、長年、社宅として使われた建物を減築し、断熱強化によって、世界で一番厳しいと言われる省エネ基準を実現させました。解体・新築の道を選ばず既存建物を残すこと自体もエコだと感じさせてくれます。

(4)人が集まる場所、人と人をつなぐ場所を生むのもリノベの力

ここ数年、空き家や空き店舗など、住みにくい・使いにくいとされてきた物件をリノベーションすることで、新たな価値を生んでいる事例が目立って増えてきたように思います。立地に合ったコンセプトの住宅に変えることで、街ににぎわいが増していくなど、地域社会にも多大な影響を及ぼしているのです。

今回、部門別最優秀賞を受賞した『流通リノベとシニア団地』(前章参照)でも取り上げましたが、空き店舗に団地住人のメイン世代である高齢者が必要とする施設、デイサービスやイートインの惣菜店を設けることで、団地に暮らす人々が自然と集う場所となりました。そうした人の流れを生み出していくのも、リノベーションの持つ力の一つです。

【画像13】公共空間活用リノベ賞『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』(画像提供/株式会社リビタ)

【画像13】公共空間活用リノベ賞『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』(画像提供/株式会社リビタ)

『ここに復活!!東洋のベネチア構想 LYURO東京清澄』は、隅田川畔に立つオフィスビルをホテルに転用した事例。水辺の活性化を目的とした東京都の「かわてらす」事業に採用され、河川敷地を誰でも使えるテラスとして整備。屋内にとどまらず、街との融合も図る仕組みが注目されました。

数々の事例を見ていくことが、リノベ実現のハードルを低くする

今年は初ノミネートや初受賞という会社が数社あり、リノベーションの広がりを感じました。受賞作品、ノミネート作品を見ていくと、多くのリノベーション会社が、施主の希望を叶えるプランニング力・デザイン力、住宅性能を改善する高い技術力を発揮していることが分かります。それは、住む人の暮らしをすてきに快適に変えてくれる力であり、社会の問題をうまく解決する力でもあります。そうした力は活かしてこそ。

今、「リノベーションをしたいと思っているけれど、どうしていいのか分からない」という人は意外と多いかもしれません。そんな場合は、気になる事例をじっくり見てみてください。具体的にどうしたいのか、どんな会社に依頼をすればよいのかがだんだん分かってくるのではないでしょうか。高い提案力をもつリノベ会社なら、漠然とした思いも具体化させてくれるはず。

リノベーション住宅推進協議会は「リノベーションEXPO」を毎年9月ごろから全国で開催しています(2017年は16会場で開催)。特に大阪会場では2日間で1万人を集めるほどの人気だったそう。ワークショップやセミナーなどもあり、気軽にリノベの知識を学べる場ともなっています。自分に合った依頼先が見つかるかもしれません。

【画像14】2018年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション住宅推進協議会)

【画像14】2018年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション住宅推進協議会)

毎年、授賞式を見てきましたが、今回一番感じたことは「人と人とのつながりが素晴らしいものを生む」ということ。リノベーションを依頼する側と提案する側、そうした人と人の出会いが「こんな暮らしがしたい」という思いを具体的な形に変えていく。どんな住まいにリノベするのかは機械的にポンと決められるものではない、住み手とつくり手の思いがこもった究極のオーダーメイドなのだとも感じました。

既存の建物や暮らしにまったく異なる価値をもたらすのがリノベーションの一番の醍醐味(だいごみ)。今回も、さまざまな制約のもと、自由な発想でリノベされた多彩な作品それぞれに、人を幸せにする「再生の物語」を垣間見ることができました。

●取材協力
・リノベーション住宅推進協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2017」

ユナイテッドアローズ、フルオーダーのマンションリノベーション事業に進出

リノベーションマンションは、オリジナリティの高いインテリアや間取りを好む人々からの人気が高い。ファッションの一環として自分らしい住まいを求めるトレンドを受けて、不動産業界とアパレル業界が本格的にコラボレーションした、フルオーダーのリノベーションサービス「Re : Apartment UNITED APROWS LTD.(リ アパートメント ユナイテッド アローズ ) 」誕生。2018年1月6日よりサービスがスタートする。リノベーション事業や不動産仲介・売買事業を手がけるグローバルベイス株式会社と、アパレルブランドを展開する株式会社ユナイテッドアローズがタッグを組んだ。グローバルベイスの担当者は、今回の取り組みは両業界にとって革新的だと言う。「これまで、アパレル企業の家具部門とリノベーション会社が協業して、リノベ-ション済み物件に家具を設置したりすることはありましたが、今回は住空間の一部ではなく、空間作りの全てのプロセスにユナイテッドアローズが参加した事例となり、この点が業界初となります。内装やオリジナル家具の制作等、ユナイテッドアローズのブランドの世界観が、スタイリッシュかつ快適に住空間に落とし込まれています」とのこと。

具体的には都心の優良中古マンションの調達と施工をグローバルベイスのリノベーションワンストップ事業「マイリノ」が行い、内装デザインから家具製作に至るまでのプロデュースをユナイテッドアローズが行う。オーダーの流れは、モデルルームを見ながら顧客のライフスタイルや趣向をヒアリングし、間取りや設備等をアレンジした物件プランを提供するもの。

注文までの詳しい手順は下記のとおり。
(1)グローバルベイスまで問い合わせ
(2)希望の住まいや予算などのヒアリングを実施
(3)物件選びから資金計画を行う
(4)リノベーションの段取りを提案
(5)リノベーションの施行(定期報告など諸事項あり)
(6)物件の引き取り

モデルルームの第一弾は東京都武蔵野市のビンテージマンションの一室。インテリアの詳細も公開されている。

【リビング】
ユナイテッドアローズのオリジナル家具を設置。ガラスとアイアンを組み合わせた扉や、部屋ごとに設置している演出照明、壁と同様のモルタルを使用したリビングテーブル、壁にユナイテッドアローズのセレクト塗装を施すなど、こだわりがつまった空間。

【画像1】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像1】画像提供/グローバルベイス株式会社

【書斎】
リビングの一角にガラス張りの書斎スペースを設置。ガラス材とアイアンをパーティションに使用したオリジナル建具を使用。

【画像2】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像2】画像提供/グローバルベイス株式会社

【キッチン・ダイニング】
アイランド型のオリジナルキッチンには、オープン・シェルフが備え付けられ、グラスなどをディスプレイ収納が可能。また、キッチンとダイニングテーブルの天板は同じ大理石素材で制作したものを使用し統一感を演出。壁面は、天然の石の六角モザイクタイル。一つ一つ風合いが異なるオリジナルタイルを使用。

【画像3】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像3】画像提供/グローバルベイス株式会社

【洗面室】
壁面タイルはキッチンスペースと同じ天然石六角モザイクタイルを、また洗面台はキッチン・ダイニングと同じ大理石の天板を採用。

【画像4】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像4】画像提供/グローバルベイス株式会社

【寝室】
ユナイテッドアローズならではのオリジナルの見せるウォークインクローゼット。ガラスとアイアンで造作し広々とした収納スペースに。

【画像5】画像提供/グローバルベイス株式会社

【画像5】画像提供/グローバルベイス株式会社

今後の展開として、2018年の2月と4月にApartment UNITED ARROWS LTD.モデルルームの第2弾と第3弾が完成する予定とのこと。アパレル業界とリノベーション業界がコラボレーションする個性的な住まいが、どのように広がっていくのかが注目される。

日当たりも体感!? 建てる前に家具配置できる、バーチャルモデルルームが登場

VR(仮想現実)と聞くと、とっさにゲーム関係のものだと想像してしまいがち。けれど、 アメリカのコンサルティング会社「IDC」の分析(※参照リンク)によると、VRとAR(拡張現実)の世界市場規模が2020年には1443億ドル(2017年12月現在、約16兆1507億円)に達する予測されている。これは実に、2015年から2020年の間で年平均198.0%の成長率なのだ。そんなVRはゲーム業界にとどまらず、既に様々な分野に進出してきている。日本の建築や住宅デザイン業界にも、VRを利用した新たなサービスがスタートしている。今回新たに販売されたのは、ゲーム開発会社の株式会社ヒストリア(東京都目黒区)が開発した、住宅やオフィスの販売促進用ソフトウェア バーチャルモデルルーム「Solid Vision」だ。

【画像1】画像提供/株式会社ヒストリア

【画像1】画像提供/株式会社ヒストリア

近年、建築のビジュアライズでもリアルタイムCGの技術が使用されるようになってきていたことに着目した株式会社ヒストリアは、長年ゲーム開発を行ってきたスタッフと建築業界出身のスタッフがタッグを組み、建築ビジュアライゼーションソフトウェア「Solid Vision」を開発。マンション・戸建て・オフィスなど、あらゆるタイプの物件の「完成後の姿」をコンピューター上でシミュレーションすることができるようになった。壁材、床材などのイメージを瞬時に交換できるだけではなく、家具を配置したレイアウト案も確認できる。

【画像2】画像提供/株式会社ヒストリア

【画像2】画像提供/株式会社ヒストリア

ヒストリアの担当者によると、新築マンションのモデルルームでの活用では、階数ごとに景観を変える等の眺望のシミュレーションに対応したり、日照シミュレーション機能を活用しバルコニーの日当たりも見せられるという。オフィス版では、40人想定のレイアウトや60人想定のレイアウト等、ニーズに応じたプランのシミュレーションも可能だ。

【画像3】画像提供/株式会社ヒストリア

【画像3】画像提供/株式会社ヒストリア

また、「Solid Vision」は、専用の機器を使用することで「Solid Vision VR」を体験することができる。ウォークスルー機能を使って、実際にその家やオフィスの動線確認や、実際にどういう見え方をするのか確認できるのだ。VR上でも壁材や床材のイメージを変更できるので、素早く様々な内装イメージを体験できるというメリットも。

しかも姿勢を低くすると、VR上の視界もその高さに変わるという機能が。ヒストリアの担当者は「しゃがんだ際には、子供の目線での高さの確認が可能です」と語っている。更に「家具を配置した時の生活導線や、実際の目線の高さで感じる圧迫感などを事前に体感することが出来ます」とのこと。

既に「Solid Vision」を導入している住宅販売会社は、販売中の分譲住宅や注文住宅のプレゼンテーションの際に活用しているという。その住宅販売会社から「今までは模型と予想図でしか伝えられなかった完成形を、バーチャルで体感できることで、成約のスピードを早められる」と好反応を得ている。

VRの市場成長とともに、これからは「建てる前にVRで確認」という時代になるかもしれない。

【ファミリー編】東京駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

住宅は人生最大の買い物といわれている。家選びの判断軸はそれぞれだが、子どもがいる家庭は、子育ての環境や地域性に加え、実家との距離なども考慮する必要があるだろう。それに加え、通勤などの利便性も、高価な買い物には欠かせない大切な要素だ。

子育てと仕事の両立に便利な駅はどこなのか、日本の玄関口であるターミナル駅、東京駅へのアクセスから考えるべく、東京駅まで30分圏内の中古マンションの価格相場が安い駅をリサーチ。これまでシングル、DINKSと世帯のタイプ別に紹介をしてきたが、最後は3K以上の物件を対象としたファミリー向けトップ10を紹介する。
●ファミリー向け、東京駅まで30分以内の物件相場が安い駅TOP10
(順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/東京駅までの所要時間)
1位 扇大橋 2285万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約25分)
2位 東船橋 2380万円(JR総武線/千葉県船橋市/約30分)
2位 西新井大師西 2380万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約30分)
4位 江北 2490万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約28分)
5位 下総中山 2605万円(JR総武線/千葉県船橋市/約26分)
6位 栄町(東京) 2640万円(都電荒川線/東京都北区/約26分)
7位 四ツ木 2690万円(京成押上線/東京都葛飾区/約26分)
8位 西船橋 2780万円(JR総武線ほか/千葉県船橋市/約25分)
8位 西川口 2780万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/約29分)
10位 柏 2830万円(JR常磐線ほか/千葉県柏市/約30分)

1位は日暮里・舎人ライナーの扇大橋。同沿線駅は上位に3駅ランクイン

1位は、東京都足立区にある日暮里・舎人ライナーの駅、扇大橋。日暮里・舎人ライナーは2008年3月に開業した路線だ。沿線には都道58号線があるため、車でのお出かけには便利といえそう。荒川の河川敷も近く、のびのびした子育てをしたい家庭には魅力的。駅から近くに小学校も2校存在している。

【画像1】荒川に架かる扇大橋を通過中の日暮里・舎人ライナー(写真/PIXTA)

【画像1】荒川に架かる扇大橋を通過中の日暮里・舎人ライナー(写真/PIXTA)

8~10位の駅は、乗り換えがゼロ

子育て世帯が気になるのは、周囲の買い物施設の充実具合だろう。8位の西船橋駅は、駅ビルのほか、タイムセールの充実したスーパー「ベルクス」や駐車場完備の総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」など、子育てで便利なものの買い物がほぼまかなえそうな環境だ。

ファミリー層に人気の街なのか、調査対象物件数も100以上。JR総武線のほか、JR武蔵野線やJR京葉線、東京メトロ東西線、東葉高速鉄道と利用できる路線も多く、東京駅まで乗り換えがゼロなのは、通勤だけでなく休日に子連れで遊びに行くにも魅力的だ。

【画像2】西船橋駅(写真/PIXTA)

【画像2】西船橋駅(写真/PIXTA)

同じく8位で、埼玉県川口市の西川口駅も、乗り換えが不要。ランクインした駅のなかでは物件数が一番多く、150件以上掲載されている。駅直結の商業施設「ビーンズ西川口」や、24時間営業のスーパー「東武ストア」があり、買い物も便利。整備計画の浸透からか、現在は落ち着いた住宅街に変わりつつあるのに加え、飲食店も充実している。なかでも、本格的な中華料理店が多く、日本では珍しい郷土料理などが楽しめる店もある。

10位の柏も、西船橋や西川口よりはわずかに時間がかかるものの乗り換えがいらない駅。JR常磐線は快速、特急もとまるほか、東武野田線も乗り入れており、商業施設「柏高島屋ステーションモール」が直結している。ほかにも駅周辺には百貨店や家電量販店などのショップも集中しているほか、野菜の直売所などもあり、子どもの食にこだわりたい人には楽しみが見いだせそうだ。

また、スーパーサイエンスハイスクール指定校の千葉県立柏高等学校や、「医歯薬コース」がある中高一貫の千葉県立東葛飾高等学校など、特徴のある学校が近くにあることも、子どもの将来を考えると大きな魅力だろう。

子どもが小さいうちは、電車に乗ってのお出かけは子どもにとっては楽しい思い出となるが、親にとっては少し負担があるもの。だからこそ、主要駅まで乗り換えが不要な駅、または自家用車の所有に便利な駅は、子育て世帯にとって魅力的にうつるだろう。同じ東京駅から30分圏内でも、千葉から埼玉まで範囲は広い。子育てに重視するものの優先順位を吟味して、すてきな環境を探したいものだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数40年未満、専有面積100m2未満、3K以上の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2016年10⽉1⽇~2017年9⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

住民経営マンション「管理はつなぐ」[6] 「富久クロス コンフォートタワー」

住民経営マンションを取り上げる本連載の第6回では、「富久クロス コンフォートタワー」を紹介する。山手線内側という好立地にありながら、約2.6haもの広大な敷地を擁する「富久クロス」。従前は街なかの各所で土地が売買されていたが、空き家が増えてしまったことから防犯・景観面を問題視した地元住民が立ち上がり、大学の研究員のサポートを受けながら実現したのが住民主導の再開発プロジェクト「富久クロスプロジェクト」だ。生まれ変わった街区内には、イトーヨーカドーをはじめとする多種多様な店舗、認定こども園、クリニックなどがそろい、商業棟の屋上には地権者住戸が再現されている。そんな新たな街のシンボルとして分譲されたのが、総戸数1000戸超の大規模タワーマンション「富久クロス コンフォートタワー」なのだ。
入居者の後押しを受けて、コミュニティ形成に注力

マンションの開発時には、デベロッパーが10万件の声を集め、『1000のイゴコチ』として書籍にした。多彩な共用部の活用法や入居者のコミュニティの形成法などを掲載している。管理組合では、この書籍を参考に、七夕祭りや絵本の読み聞かせ会など、さまざまなイベントを開催。広報部会長の尾上氏は次のように言う。
「東日本大震災後に販売されたこともあって、購入者の大半が人と人とのつながりを重視していたのです。 “共用スペースを地域イベント開催の場として提供したらいいのでは” “クラシックコンサートをやってみたい”など、入居者の方々も積極的に提案を寄せてくださるんですよ」

【画像1】(左) 道路を挟んで隣接している「富久さくら公園」からマンションを望む (右) 43階から44階にかけてメゾネット方式で設置された「スカイラウンジ」 (写真撮影/川瀬一絵)

【画像1】(左) 道路を挟んで隣接している「富久さくら公園」からマンションを望む (右) 43階から44階にかけてメゾネット方式で設置された「スカイラウンジ」 (写真撮影/川瀬一絵)

周辺8棟のマンションと防災・防災対策に取り組む

また、コミュニティ形成に関する取り組みは、マンション内だけにとどまらない。前理事長が退任後に町内会や周辺のマンションに呼びかけ、地域で交流を図りながら、防災・防犯対策に取り組んでいくことになったのだという。この方針は、現理事長の松浦氏もしっかり継承している。
「町内会や周辺8棟のマンションの管理組合と民泊問題について話し合ったり、地元警察の協力のもとで防犯セミナーを開催したりと、ほぼ月に1回のペースで交流を保っています」
昨年からは、マンション内の防災対策強化にも乗り出した。
「各階に2名ずつ防災委員を選出しました。万が一の場合は、この2名が避難指示や声かけにあたることにしています」(松浦氏)
富久クロスにおけるさまざまな取り組みは、これからの大規模マンションや再開発エリアのあるべき姿を示す、新たなモデルケースなのかもしれない。

【画像2】(上)建物の2 階部分に広がる「彩華の広場」(下)1階の「グリーンカフェ」では、有機野菜を使った総菜を楽しめるほか、定期的に入居者向けのマルシェを開催 (写真撮影/川瀬一絵)

【画像2】(上)建物の2 階部分に広がる「彩華の広場」(下)1階の「グリーンカフェ」では、有機野菜を使った総菜を楽しめるほか、定期的に入居者向けのマルシェを開催 (写真撮影/川瀬一絵)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授 大月敏雄氏が語る建築家の視点
初代理事長が周辺地域に呼びかけたり、 2期目から理事の任期や改選法を見直すなど、早い段階で管理組合の運営基盤となる仕組みや体制を整えているのは素晴らしい。現在までのところ、理事は立候補者でカバーできていると聞いたが、これも、当初段階から精力的に意見や提案を受け入れてきた運営体制の賜物だと思う。
防災・防犯にも高い意識をもって取り組んでいるが、サイネージや防災備蓄倉庫の設置といったハード面の備えとともに、安心感の醸成につながるだろう。
個人的には、理事経験者のOB会設立を提案したい。知見のあるOBが現役に対するサポート・助言役を務めれば、管理組合の取り組みをより充実させられると思う。【画像3】1階エレベーターホール脇のサイネージ。地震発生時には、建物の状態が表示される。各フロアのエレベーターホールにも、同様のモニターが設置されている(写真撮影/川瀬一絵)

【画像3】1階エレベーターホール脇のサイネージ。地震発生時には、建物の状態が表示される。各フロアのエレベーターホールにも、同様のモニターが設置されている(写真撮影/川瀬一絵)

【画像4】理事会は、監事を含めて全21名で構成。知見を継承するため、2期目から任期を2年にし、毎年半数を改選している。理事会の下には5~10名の部会を分野ごとに設置し、メンバーは理事が兼務している

【画像4】理事会は、監事を含めて全21名で構成。知見を継承するため、2期目から任期を2年にし、毎年半数を改選している。理事会の下には5~10名の部会を分野ごとに設置し、メンバーは理事が兼務している

※この記事は『都心に住む』2017年10月号(8月26日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

【DINKS編】東京駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

家を購入するとき、立地はとくに重視するポイントだろう。交通の便の良さは誰もが求めるものだが、どう重視するのかは、世帯のタイプによって異なるもの。その基準のひとつになるのは、日本の玄関口ともいえるターミナル駅、東京駅へのアクセスだ。
そこで、東京駅まで30分圏内の、中古マンションの価格相場が安い駅をリサーチ。今回は2K、2DK、2LDKの物件を対象とした、DINKS向けのトップ10を紹介する。
●DINKS向け、東京駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
(順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/東京駅までの所要時間)
1位 江北 1780万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約28分)
2位 西新井大師西 1990万円(日暮里・舎人ライナー/東京都足立区/約30分)
3位 京成立石 2280万円(京成押上線/東京都葛飾区/約27分)
3位 西川口 2280万円(JR京浜東北線/埼玉県川口市/約29分)
5位 四ツ木 2330万円(京成押上線/東京都葛飾区/約26分)
5位 青砥 2330万円(京成本線/東京都葛飾区/約29分)
7位 下総中山 2380万円(JR総武線/千葉県船橋市/約26分)
8位 小菅 2480万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/約29分)
9位 板橋本町 2500万円(都営三田線/東京都板橋区/約29分)
10位 綾瀬 2535万円(JR常磐線・東京メトロ千代田線/東京都足立区/約26分)

23区内で2000万円を切る江北駅が1位 近所で楽しく飲める街も

1位は、東京都足立区に位置する江北駅。駅の周辺の商業施設は多くないが、スーパーや家電量販店などがあり、生活必需品の買い物に困ることはなさそうだ。また、2位の西新井大師西駅は、日暮里・舎人ライナーで江北駅と隣同士。両駅ともに東京23区内でありながら、価格が2000万円を切ることは、大きな魅力といえるだろう。

3位は東京都葛飾区の京成立石駅。駅前には下町情緒あふれるアーケード街、立石仲見世通りや、昭和レトロな飲食店が並ぶ「呑んべ横丁」などがあり、仕事帰りに夫婦で待ち合わせて赤ちょうちんで軽く飲んで帰宅、といったオトナの時間が味わえそうだ。

しかし京成立石駅は、これから工事が始まる京成押上線の高架化対象区域のため、オトナの雰囲気ある街並みを楽しめるのは、残りあとわずかかもしれない。その代わり、現在は交通渋滞が課題となっている11カ所の踏切がなくなるほか、高架下空間には公共施設などが整備される予定。生活する上で快適さが向上することは間違いないだろう。

【画像1】立石仲見世通り(写真/PIXTA)

【画像1】立石仲見世通り(写真/PIXTA)

商店街がある街は、ファミリーになってもそのまま住めそうな魅力

7位の下総中山駅は千葉県船橋市。JR総武線の各駅停車駅だが、京成中山駅が徒歩圏内のため、京成本線も利用が可能だ。駅前は24時間スーパーなどの買い物拠点のほか船橋市役所の連絡所もあり、用事をコンパクトに済ませられる。お互い仕事で忙しいDINKSにとって心強い味方となりそう。こちらも再開発が進んでおり駅前は整然としているが、少し歩けばローカルな雰囲気が漂う店舗もあり、休日はのんびり散歩ができそうだ。

9位の板橋本町駅周辺は、環七通りと中山道17号線が交差しており、車の便が良い。スキーやゴルフなどアウトドアレジャーが好きで車を所有する夫婦にとっては、趣味を満喫するのに住みやすそうだ。

駅前のスーパーは小規模なものが多いが、中山道の隣に並行している旧中山道は板橋本町商店街という長い商店街。今後子どもが生まれたとしても、買い物を含めて快適に住み続けられる街だろう。

また、板橋本町駅は都営三田線沿線。東京駅までは1回乗り換えがあるが、実はその必要がない場合も。大手町駅で下車すれば、地上からも地下からも東京駅に出られるため、実質は乗り換えゼロだ。

【画像2】中山道(写真/PIXTA)

【画像2】中山道(写真/PIXTA)

夫婦共働きで子どもがいない世帯は、比較的経済的な余裕があることが一般的で、双方が趣味やこだわりを大切にしている家庭も多い。マンションを購入するなら通勤に加え、それぞれの好きなことやライフスタイルへの考慮も必要かもしれない。

次回は、ファミリー世帯向けに、中古マンションの価格相場が安い駅を紹介する。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数40年未満、専有面積100m2未満、2K、2DK、2LDKの物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2016年10⽉1⽇~2017年9⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

住宅ローン、変動金利型を選ぶ人が減っている!? 自分に合った金利タイプの選び方とは

住宅ローンには主に、変動金利型や固定期間選択型、全期間固定型の3タイプがある。2016年度に最も多く貸し出されたのは変動金利型なのだが、実は前年度より大幅に減少したという。その背景と金利タイプによる違いについて説明していこう。【今週の住活トピック】
2017年度「民間住宅ローンの貸出動向調査」の結果公表/住宅金融支援機構金利タイプは3つ。変動金利型が半数を占めるが大幅に減少

住宅ローンの金利タイプには、半年ごとに金利が見直される「変動金利型」、当初一定期間の金利を固定する「固定期間選択型」、返済中金利が変わらない「全期間固定型」があり、「固定期間選択型」で当初金利が固定される期間は、2年、3年、5年、10年などがある。

住宅金融支援機構が2017年7~9月に実施した「民間住宅ローンの貸出動向調査」によると、金融機関が2016年度に新たに貸し出した(借り換え含む)民間住宅ローンの額の構成比は、「変動金利型」が49.9%と半数を占めたが、2015年度の61.8%に比べて大幅に減少した。

一方、「固定期間選択型」は増加し、特に当初10年金利を固定する「10年固定」は2015年度の18.2%から28.8%と大幅に増加する結果となった。

【画像1】金利タイプ別の貸出実績(出典/住宅金融支援機構「民間住宅ローンの貸出動向調査(2017年度)」)

【画像1】金利タイプ別の貸出実績(出典/住宅金融支援機構「民間住宅ローンの貸出動向調査(2017年度)」)

住宅ローンを利用した人を対象とした調査結果のなかには、変動金利型が増えたという結果が出たものもあるが、全国の金融機関311件の貸出額の調査結果なので、全体の傾向を表していると見てよいだろう。

ただし、この調査には民間金融機関と住宅金融支援機構が提携する全期間固定型ローンの【フラット35】は含まれていない。そのため実際には、【フラット35】の貸出額が加わることで、「全期間固定型」は調査結果より多くなると考えられる。

今後の金利動向にも注意!金利タイプはどう選ぶ?

さて、住宅ローンを借りる際に、どう考えて金利タイプを選んでいるのだろう?

どの金利タイプを選ぶか決めるには、適用される金利や予定している返済期間、今後の金利変動をどう予測するか、金利上昇による利息増加への対応力などによって変わる。

金利は低いほど利息が少なくて済むが、長期的に返済を続ける住宅ローンの場合、金利が変動するリスクを読み込んでおく必要がある。ローンを借りる際に金利を固定した期間は、市場の金利が変動しても固定される。

一般的に、今のような市場が低金利のときには、「変動金利型」のほうが適用される金利が低く、長く金利が固定される「全期間固定型」のほうが金利は高くなる傾向にある。

もし「今後は市場の金利が上がる」と予測するなら、適用される金利が変動金利型より少し高くても、今の低金利を長く固定できる「全期間固定型」などを選ぶほうがよいとされる。逆に「市場の金利はまだ下がる」と予測するなら、「変動金利型」を選ぶほうがよいとされる。

また、「今後も市場の金利が変わらない」と予測するなら、適用金利が低い「変動金利型」や変わらないと思う期間の「固定期間選択型」(2年くらいは変わらないと思うなら2年固定を選ぶなど)を選ぶとよいだろう。

調査結果で変動金利型が減少しているのは、すでに最低水準の低金利になっているのでもう大きく下がることはないという予測が増えているという見方もできる。さらに、10年固定が増加しているのは、そうはいっても10年程度は今の低金利が続くという予測が多いとも考えられる。

返済期間や金利上昇への備えによっても選択肢は変わる

ただし、返済期間によって考え方は変わる。借り換えで返済期間が短くなっている場合などはなおさらだ。

最長の35年返済では、35年間にわたって金利が上乗せされるが、例えば10年返済なら金利は10年間にかかるだけだ。5年後に市場の金利が上昇を始めたとすると、残りの30年間も金利上昇の影響を受ける場合と残りの5年間しか影響を受けない場合では大違いだ。

金利は借入額の元金にかかる点も見逃せない。同じ額を借りた場合でも返済期間が短いほど、毎月の返済額は増えるが借入額の元金の減り方も早い。元金の減り方が早いほど、金利上昇による利息増加の影響を小さくできるというわけだ。

ほかにも、めいっぱいローンを借りて家計に余裕がない場合は、金利が上昇して毎月の返済額が増えると家計を圧迫するが、余裕が十分ある場合なら毎月返済額の上昇への対応策もいろいろ考えられる。

今後は金利が上昇すると予測した場合でも、返済期間が短い場合、金利上昇への備えがある場合などでは、適用される金利が低い金利タイプを選ぶという選択肢もある。

どの金利タイプを選ぶかは、こうしたことを総合的に考えて判断するのがベストだ。

そうはいっても、目先の適用金利の低いものを選ぶ人が多いのが現実だろう。長く返済する不安から、毎月の返済額を減らしたい気持ちも分からないではない。
でも、長く返し続けるからこそ、借入額や返済期間、金利タイプは慎重に判断したいもの。多くの人が選ぶ金利タイプではなく、自分の家計や将来プランに合った金利タイプを選ぶようにしてほしいものだ。

東京駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング【シングル編】

家を購入するとき、重視する項目の大きなひとつが交通の便だろう。通勤や通学先への近さや乗り換えの有無など、人によって重視するポイントはさまざまだが、日本の玄関口ともいわれる東京駅へのアクセスを重視する人は多いかもしれない。
東京駅はJR主要幹線と東京メトロ丸ノ内線が乗り入れ、東海道新幹線・東北新幹線の起点駅であるなど、通勤・通学はもちろんのこと、国内外から人が行き来する巨大ターミナル駅。
今回は、その東京駅まで30分圏内の、中古マンションの価格相場が安い駅をリサーチし、シングル、DINKS、ファミリーと世帯のタイプ別にトップ10を紹介する。まずは、ワンルーム、1K、1DK、1LDKの物件を対象とした、シングル向けの結果から見てみよう。
●シングル向け、東京駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
(順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/東京駅までの所要時間)
1位 鶴見 1430万円(JR京浜東北線ほか/神奈川県横浜市/約26分)
2位 葛西 1680万円(東京メトロ東西線/東京都江戸川区/約26分)
3位 北池袋 2080万円(東武東上線/東京都豊島区/約26分)
3位 板橋本町 2080万円(都営三田線/東京都板橋区/約29分)
5位 新子安 2175万円(JR京浜東北線/神奈川県横浜市/約30分)
6位 亀戸水神 2180万円 (東武亀戸線/東京都江東区/約25分)
6位 巣鴨新田 2180万円(都電荒川線/東京都豊島区/約26分)
6位 とうきょうスカイツリー 2180万円(東武伊勢崎線/東京都墨田区/約27分)
9位 小岩 2190万円(JR総武線/東京都江戸川区/約21分)
9位 北千束 2190万円(東急大井町線/東京都大田区/約28分)

1位は横浜・鶴見駅。ラッシュ時には始発列車もアリ!

1位になったのは、神奈川県横浜市にある鶴見駅。幹線であるJR京浜東北線の沿線のため、乗り換えなしで東京駅まで利用できる。快速なら約26分だが、普通列車にのっても約30分で東京駅まで到着可能。しかも、ラッシュ時には鶴見駅始発の列車も設定されている。

「鶴見」というと工業地帯というイメージをもつ人も多いだろうが、鶴見駅周辺は横浜市の副都心に指定され、商業施設が多く入った駅ビル「CIAL鶴見」をはじめ、飲食店や銀行、スーパーなどが点在し、生活に必要なものは不自由しないだろう。また、物件数もランキング内では一番多く、単身者の住環境がととのっていることがうかがえる。

【画像1】鶴見駅(写真/PIXTA)

【画像1】鶴見駅(写真/PIXTA)

3位の北池袋は、東武東上線の各駅停車駅。日本最大級の繁華街のひとつである池袋の隣駅であり、距離も2キロ弱と近いため、池袋駅の圏内ともいえる。池袋で遊んで終電を逃しても、徒歩でも帰宅が可能なので、シングルの気楽さを満喫できるのではないだろうか。

とうきょうスカイツリー駅周辺は買い物環境が充実。浅草駅や押上駅も使えて便利!

6位のとうきょうスカイツリー駅も、遊びや趣味を優先したいシングルには楽しい場所だろう。観光名所である東京スカイツリーや、商業施設「東京ソラマチ」のおひざ元であるため、食べ物やファッションアイテムなどの買い物に困らない。

また、1駅隣は浅草駅で距離も遠くなく、散歩がてら歴史ある街並みや料理を毎日楽しむことも可能だ。東京スカイツリーを挟んだ反対側の最寄駅、押上駅を利用すれば、成田空港(時間によっては羽田空港も)まで一本という便の良さも、旅行が好きなシングルには魅力的だろう。

また、東武伊勢崎線は東京メトロ日比谷線と半蔵門線と相互直通運転しているのも、大きな利点。有楽町や渋谷など、通勤や遊びに便利な街へ乗り換えなしで行くことができる。

【画像2】東京スカイツリー(写真/PIXTA)

【画像2】東京スカイツリー(写真/PIXTA)

東京駅からの所要時間が一番短かったのが、9位の小岩駅。総武線の各駅停車駅で、かつ隅田川と荒川と2つの大きな川を越えるため、都心からとても離れたような気持ちになるのだが、意外にも約21分で東京駅に到着できる。駅周辺はスーパー以外にも商店街が多く、生活必需品の購入には便利。また、駅東側には韓国料理店が立ち並んでおり、焼き肉好きにはぴったりの街かもしれない。

身軽なシングルにとって、通勤環境と同じくらい趣味や交流の場も重要視するポイントだろう。マンション購入を考えるときは、会社までのアクセスだけでなく、駅周辺の環境も見極めたいところ。自分が求めるそのものスバリな駅や沿線でなくても、理想の暮らしをかなえられる駅はまだまだたくさんあるといえそうだ。

次回は、DINKS向けに、中古マンションの相場が安い駅を紹介予定。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数40年未満、専有面積100m2未満、ワンルーム、1K、1DK、1LDKの物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2016年10⽉1⽇~2017年9⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

【シングル編】東京駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング

家を購入するとき、重視する項目の大きなひとつが交通の便だろう。通勤や通学先への近さや乗り換えの有無など、人によって重視するポイントはさまざまだが、日本の玄関口ともいわれる東京駅へのアクセスを重視する人は多いかもしれない。
東京駅はJR主要幹線と東京メトロ丸ノ内線が乗り入れ、東海道新幹線・東北新幹線の起点駅であるなど、通勤・通学はもちろんのこと、国内外から人が行き来する巨大ターミナル駅。
今回は、その東京駅まで30分圏内の、中古マンションの価格相場が安い駅をリサーチし、シングル、DINKS、ファミリーと世帯のタイプ別にトップ10を紹介する。まずは、ワンルーム、1K、1DK、1LDKの物件を対象とした、シングル向けの結果から見てみよう。
●シングル向け、東京駅まで30分圏内の物件相場が安い駅TOP10駅
(順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/東京駅までの所要時間)
1位 鶴見 1430万円(JR京浜東北線ほか/神奈川県横浜市/約26分)
2位 葛西 1680万円(東京メトロ東西線/東京都江戸川区/約26分)
3位 北池袋 2080万円(東武東上線/東京都豊島区/約26分)
3位 板橋本町 2080万円(都営三田線/東京都板橋区/約29分)
5位 新子安 2175万円(JR京浜東北線/神奈川県横浜市/約30分)
6位 亀戸水神 2180万円 (東武亀戸線/東京都江東区/約25分)
6位 巣鴨新田 2180万円(都電荒川線/東京都豊島区/約26分)
6位 とうきょうスカイツリー 2180万円(東武伊勢崎線/東京都墨田区/約27分)
9位 小岩 2190万円(JR総武線/東京都江戸川区/約21分)
9位 北千束 2190万円(東急大井町線/東京都大田区/約28分)

1位は横浜・鶴見駅。ラッシュ時には始発列車もアリ!

1位になったのは、神奈川県横浜市にある鶴見駅。幹線であるJR京浜東北線の沿線のため、乗り換えなしで東京駅まで利用できる。快速なら約26分だが、普通列車にのっても約30分で東京駅まで到着可能。しかも、ラッシュ時には鶴見駅始発の列車も設定されている。

「鶴見」というと工業地帯というイメージをもつ人も多いだろうが、鶴見駅周辺は横浜市の副都心に指定され、商業施設が多く入った駅ビル「CIAL鶴見」をはじめ、飲食店や銀行、スーパーなどが点在し、生活に必要なものは不自由しないだろう。また、物件数もランキング内では一番多く、単身者の住環境がととのっていることがうかがえる。

【画像1】鶴見駅(写真/PIXTA)

【画像1】鶴見駅(写真/PIXTA)

3位の北池袋は、東武東上線の各駅停車駅。日本最大級の繁華街のひとつである池袋の隣駅であり、距離も2キロ弱と近いため、池袋駅の圏内ともいえる。池袋で遊んで終電を逃しても、徒歩でも帰宅が可能なので、シングルの気楽さを満喫できるのではないだろうか。

とうきょうスカイツリー駅周辺は買い物環境が充実。浅草駅や押上駅も使えて便利!

6位のとうきょうスカイツリー駅も、遊びや趣味を優先したいシングルには楽しい場所だろう。観光名所である東京スカイツリーや、商業施設「東京ソラマチ」のおひざ元であるため、食べ物やファッションアイテムなどの買い物に困らない。

また、1駅隣は浅草駅で距離も遠くなく、散歩がてら歴史ある街並みや料理を毎日楽しむことも可能だ。東京スカイツリーを挟んだ反対側の最寄駅、押上駅を利用すれば、成田空港(時間によっては羽田空港も)まで一本という便の良さも、旅行が好きなシングルには魅力的だろう。

また、東武伊勢崎線は東京メトロ日比谷線と半蔵門線と相互直通運転しているのも、大きな利点。有楽町や渋谷など、通勤や遊びに便利な街へ乗り換えなしで行くことができる。

【画像2】東京スカイツリー(写真/PIXTA)

【画像2】東京スカイツリー(写真/PIXTA)

東京駅からの所要時間が一番短かったのが、9位の小岩駅。総武線の各駅停車駅で、かつ隅田川と荒川と2つの大きな川を越えるため、都心からとても離れたような気持ちになるのだが、意外にも約21分で東京駅に到着できる。駅周辺はスーパー以外にも商店街が多く、生活必需品の購入には便利。また、駅東側には韓国料理店が立ち並んでおり、外食好きには楽しい街だろう。

身軽なシングルにとって、通勤環境と同じくらい趣味や交流の場も重要視するポイントのはず。マンション購入を考えるときは、会社までのアクセスだけでなく、駅周辺の環境も見極めたいところ。自分が求めるそのものスバリな駅や沿線でなくても、理想の暮らしをかなえられる駅はまだまだたくさんあるといえそうだ。

次回は、DINKS向けに、中古マンションの相場が安い駅を紹介予定。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数40年未満、専有面積100m2未満、ワンルーム、1K、1DK、1LDKの物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ算出期間】2016年10⽉1⽇~2017年9⽉30⽇
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換回数は問わない)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している

「勝ち組・負け組」はっきりと? 2018年の不動産市場を5つのキーワードで予測

明けましておめでとうございます。2017年の不動産市場を振り返ると、一時、新築マンションの発売戸数や契約率が伸び悩んだものの、「供給調整」「価格調整」によって適温状態にまで回復した感があります。

こうした流れを受けて2018年の不動産市場はどうなるでしょうか? 注目すべき5つのキーワードを元に予測してみましょう。

キーワード1「金利動向」:不動産価格を左右も大きくは動かない?写真/PIXTA

写真/PIXTA

まず気になるのは「金利動向」。金利が上がれば不動産価格は下がり、金利が下がれば不動産価格は下がります。例えば月々10万円の住宅ローン支払いで金利1.5パーセントなら3270万円借りられますが、仮に3パーセントに上昇すると、借入額は2600万円と、670万円も減ってしまい、それだけ不動産取得能力が減退してしまうためです。

黒田日銀総裁の任期が18年4月8日に満了するのに伴い「後継は誰か」「再任はあるか」などが話題になっていますが、いずれにしても2017年衆議院選挙で信任を得た安倍政権の路線を、大きく転換するような事態にはならず、このことで金利が大きく動く可能性は考えにくいでしょう。

景気動向を見れば、世界景気の同時回復にも支えられ、上場企業の業績は拡大しており、18年3月期の純利益は前期に続いて過去最高を更新する見通し。18年には世界経済もやや鈍化する可能性があるものの、アメリカは段階的な金利上げ、EUも金融緩和引き締め方向へ動くと見られ、緩和を継続する日本との金利差が拡大すれば円安になり、輸出企業を中心に株価は上がります。

日経平均株価はかつてより随分上昇した感がありますが、それでもPER(株価収益率)は15倍程度と、欧米の20倍程度に比して相対的な割安感があり、現行水準の2万2000~2万3000円のラインを超えるようだと不動産市場には思い切り追い風。一定の株式売却益が不動産市場に流れる可能性があります。

ただ、気になるのは「地政学リスク」。北朝鮮が今後どのような動きに出るか。複数のシナリオのうち、政権維持を条件として北朝鮮が核を手放すことになれば安心感が増しプラスの影響、米軍が先制攻撃を行った場合、多少の動揺はあるものの短期で収束すれば大きな影響はなく、国内の米軍基地が攻撃にさらされるようだと株価にも景気にも大マイナスで先が見通しにくくなる、といったところでしょう。

キーワード2「三極化」:価値が上がり続ける物件も写真/PIXTA

写真/PIXTA

いずれにせよ長期的な不動産市場は「三極化」に向かいます。国内の多くの不動産価格は下がり続け、価値ゼロないしはマイナス価値に向かう物件が出てくる中で、一部の不動産は価格維持、ないしは上昇の余地が残されています。

 その内訳はざっと、
「価値維持あるいは上昇する 10~15%」
「徐々に価値を下げ続ける 70%」
「無価値あるいはマイナス価値に向かう 15~20%」
 といった具合です。

このことは、どのタイミングで、どんな場所に、どのような不動産を買うかで、天地ほどの格差が生まれることを意味します。資産化する「富動産」からマイナス資産となる「負動産」まで、「勝ち組不動産」と「負け組不動産」がはっきりする時代が到来したのです。「不動産は、1にも2にも3にも「立地」です。その地域の人口動態が不動産価値にどのような影響を与えそうか、よく見極めましょう。

キーワード3「立地適正化計画」:「活かす街」と「そうでない街」が決まる写真/PIXTA

写真/PIXTA

不動産価格の「価値維持ないしは上昇」といえば、都心の一等立地をイメージしがちですが、都市郊外や地方にもこうした立地は存在します。

本格的な人口減少社会の到来を踏まえ「活かす街」と「そうでない街」を決める「立地適正化計画」の取り組みが全国357の自治体で行われていますが(2017年7月末時点)、昨年に引き続き、2018年も多くの自治体で続々とこの計画が公表されます。今後、誘導区域の内側か外側かで地価水準が大きく分かれ、地価維持できるのは区域内だけになりそう。不動産業者や金融機関が資産価値を維持しやすい区域への投資を優先するためです。

埼玉県毛呂山町は作成中の立地適正化計画のなかで「20年後に公示地価を10%以上、上昇させる」といった目標を掲げています。町の人口は同期間に18%程度減る見通しですが、居住区域に住宅を誘導して人口密度を保ち、投資を呼び込むことで地価上昇につなげるとしています。こうした自治体の姿勢が長期的には、暮らしやすさはもちろん、不動産価値にも大きな影響を与えるのは必至ですので、自治体のHPなどで確認しましょう。

キーワード4「中古市場活性化策」:インスペクション説明義務化、経験不足のインスペクターに注意

国は2025年までに「中古住宅市場」「リフォーム市場」を倍増させる方策を掲げており、2018年は具体的な活性化策が目白押し。

まずは「インスペクション説明義務化」。もう少し詳しくいえば「媒介契約」「重要事項説明」「売買契約」の各段階で、ホームインスペクション(住宅診断)の存在やその内容について、宅建業者に説明を義務付けるものです。住宅診断そのものが義務付けられたわけではないことにご注意ください。いずれにせよこれで、中古住宅の「よくわからないから不安」といった懸念が一定程度解消され、日本でも爆発的にインスペクション(住宅診断)が普及するものとみられます。

ただし懸念もあります。国は、インスペクションを行う「既存住宅状況調査技術者」を養成し、年度末には2万4600人になる見込みですが、半日程度の講習を受けるだけの比較的簡単なものであるため、経験不足のインスペクターが市場に多数出ることになります。そうなると必然的にトラブルが予想され、ユーザーがインスペクターの「実績」や「経験」、また「不動産業者と癒着がないか」などのフィルターを持つことが重要となるでしょう。

キーワード5「テック元年」:AIやVR、IoTでワクワクの未来写真/PIXTA

写真/PIXTA

昨年あたりから萌芽が見え始めた各種の新技術。AI(人工知能)で物件情報の提供などを行う不動産会社が今後も増加。現在はごく簡単な対応しかできませんが、データの蓄積とディープラーニング(情報の蓄積)によって大きく機能向上を果たすでしょう。「AIに提案されたマンションを買った」という事例も増えるかもしれません。

VR(バーチャルリアリティー)は、ゴーグルなどをかけると内外装のリフォーム後の映像、インテリアコーディネートの例などが見られるというもの。ゴーグル不要の技術などもで始めており、中古活性化には大きく寄与しそうです。

IoT(Internet of Things)は住宅とインテリア・家電などをつなげ、生活を一変させるかもしれません。朝起きれば自動でカーテンが開き、冷暖房は自動調整、コーヒーも勝手に沸かしてくれ、カギの開け閉めはスマホでなんてことはあたりまえに。冷蔵庫の在庫確認やお年寄りの見守り、空き家のセキュリティー対策なども容易になるでしょう。

更なる先に「自動運転」が可能になれば、やはり街のあり方や暮らしは激変。「ブロックチェーン」といった技術は不動産取引を根本的に変える可能性を秘めています。やや専門的になりますが、米国内の複数の州はすでに、不動産取引において仮想通貨の使用を認める法整備を進めています。例えばバーモント州は、ブロックチェーン技術による取引記録が、証拠の観点から許容されるとの前提を認めた法律を制定しました。こうなると不動産業者を介さずとも、より安全に不動産取引を行うことが理論的には可能です。

技術の進展が変える不動産の世界。なんだかワクワクしますね。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

「中古マンション」「空き家」「事故物件」…5つのキーワードで2017年不動産市場を振り返る

今年も残りあとわずか。今回は不動産取引から世の中で注目された事件まで、5つのキーワードを元に2017年の不動産市場を振り返ってみます。私が挙げるキーワードは以下の5つです。

【今年の注目5大キーワード】
キーワード1:中古マンション
キーワード2:下町
キーワード3:空き家
キーワード4:事故物件
キーワード5:地面師

早速、一つずつ見ていきましょう。

キーワード1「中古マンション」:初めて新築マンションを上回る

2017年は、中古マンション成約数が統計上初めて新築マンション発売戸数を上回りました。
要因の一つとして、まず国が「住生活基本計画」において2025年に中古住宅流通市場規模を 8兆円へ、リフォーム市場を12兆円へ、合わせて20兆円規模へ拡大する目標を掲げ、補助金提供など各種の方策を打ち出している影響があります。

中古人気に火がついた理由は、なんといっても2000~3000万円もの価格差。それだけの金額差があるなら、中古を買って思い通りにリフォーム・リノベーションしたほうがお得だ、といった向きがで始めたこと。それに応じて業界にも中古やリフォーム・リノベーションを手がけるプレイヤーが増加したことなどがその理由です。そもそも欧米など日本以外の先進国では圧倒的に中古住宅流通の割合が多いのですが、日本も、ようやく他の先進国同様の不動産市場に転換を始めたとみていいでしょう。

【画像1】2017年の地域別新築・中古マンションの価格差(不動産経済研究所・東日本不動産流通機構資料より筆者作成)

【画像1】2017年の地域別新築・中古マンションの価格差(不動産経済研究所・東日本不動産流通機構資料より筆者作成)

2017年の首都圏の新築マンション発売戸数は3万戸台後半の見込みで、ピーク時の半分以下となっていますが、価格は高止まりを続けています。これは、90年バブル時やリーマン・ショック前のプチバブル時とは異なり、近年のマンションが「都心部」「駅前・駅近」「大規模・タワー化」の傾向にあるため。都区部の新築マンション価格は6258万円(不動産経済研究所)と高止まりしており「バブル崩壊か?」といった声も聞かれましたが、実際にはバブルでもなく、したがって崩壊もありませんでした。

国際的に見れば日本の不動産価格はまだ低水準にあり、他国の水準に追いつこうとしているのが実態です。ましてや新築マンション市場は先述したように、低額物件の供給は絞られ高額物件の割合が高くなっていること。また資金体力のある大手不動産会社の販売専有比率がかつては20パーセント程度だったところ、現在では40パーセント程度になっており、かつてのバブル崩壊時のような投げ売りが起きにくい、弾力性のある市場となっていることがその理由です。

もちろん歴史的な低金利が市場を下支えしてるのは言うまでもありません。

キーワード2「下町」:北千住や赤羽などが人気に【画像2】写真/PIXTA

【画像2】写真/PIXTA

2012年12月の政権交代以降、都市部の不動産価格が一貫して上昇を続けてきたこともあり、「北千住」「赤羽」など相対的に割安感のあった下町がクローズアップされ人気を集めた年でした。物価が安い、価格帯に対して利便性が高いなどが主な理由です。ただし、東京北東部は地盤の弱い地域も多く、耐震性や災害対策には注意を払う必要があります。

キーワード3「空き家」:1000万戸を突破、今後も増加の一途【画像3】写真/PIXTA

【画像3】写真/PIXTA

2013年時点における日本の空き家は820万戸にのぼり、空き家率は13.5パーセントと先進国最大です(総務省統計局「平成25年住宅・土地統計調査」より)。この調査は5年毎に行われますが、現時点で既に空き家数は1000万戸を優に突破しているとみられ、本格的な人口・世帯数減少局面を迎えるなかで今後も空き家は増加する一方です。

空き家が増加すれば街が荒廃し、犯罪の温床になるなどして地域の不動産価値の下落要因となります。上下水道のインフラ修繕やゴミ収集などの行政サービス効率も悪化し自治体経営を圧迫、十分な行政サービスを行えなければそれも不動産が下落する要因となります。街をコンパクトにする「立地適正化計画」について全国357の自治体が取り組みを始めていますが、各自治体の都市計画を勘案した不動産選びが重要視された一年でした。

また、2017年は不動産を舞台に起こったいくつかの「事件」が、世の中の注目を集めた年でもありました。

キーワード4「事故物件」:座間アパート事件で注目【画像4】写真/PIXTA

【画像4】写真/PIXTA

まず記憶に新しいのは「座間アパート事件」。神奈川県座間市のアパートから男女9人の遺体が見つかった事件です。事件が起こったアパートはいわゆる「事故物件」でしたが、こうした事故物件は今後どのように扱われるでしょうか。

事故物件に明確な相場はありませんが、一般的には賃料・売買価格ともに相場より20~30%程度下がるとされています。ただしこの事件のように大々的に報道され、世の中に広く知られるようになった物件はさらにマイナスになる可能性もあります。

この事件を受けて「事故物件を避けるにはどうしたらよいか」といった取材が筆者には殺到しましたが、賃貸と売買で扱いは異なります。そもそも「事故物件」について明確な定義はないため、不動産業者はそれぞれこれまでの裁判判例を参照しつつ、取り扱いや諸条件を決めている状況です。

例えば売買の場合は「(事故物件となる原因が発生してから)50年経過しても告知する必要がある」とした判例があります。一方で賃貸の場合、事故の後に別の入居者が入ればその次の入居者には告知しなくていいとした判例も。

物件の所在地によっても事情が変わってきます。都市部では企業間取引や投資案件などもあることから不動産取引の匿名性が高く、取引が活発なこともあり、事故の記憶も風化されやすい傾向にあります。しかし農村部では取引が少なく周辺住民の記憶も長らく残る傾向にあるという解釈です。

いずれにせよ事故物件を避けたいなら、不動産業者に直接「これは事故物件ですか?」と尋ねることです。業者には「告知義務」があり、嘘をつけば違法になるためです。ただし業者も知らなかった場合はこの限りではありません。

キーワード5:「地面師」:プロの不動産会社も数十億円の被害【画像5】写真/PIXTA

【画像5】写真/PIXTA

そして「地面師事件」。売主を装った詐欺師グループによって架空の不動産売買が行われ、買主はお金を騙し取られるといった話です。こうした地面師グループに、大手不動産会社も数十億円の被害にあったことで「プロでも騙されてしまうのか」と社会が騒然としました。地面氏の手口は巧妙です。まず印刷技術の発達で権利証や印鑑・印鑑証明・パスポートなどは真贋が見抜けないほど精巧に作られています。また地面師は不動産業者や登記を行う司法書士、時には近隣住民を装う者など、取引に関わるプレイヤーのグループで行動することが多く「自分以外全員グルで、騙されたのは自分だけ」といった状況に陥りがちです。

こうした事件は比較的物件価格の高い都心部や、地方であっても優良な不動産で起こる傾向にあります。地面師も効率よく犯罪を行いたいためです。こうした事件に巻き込まれないためには、契約前に売主と面談すること。それもできれば売主の自宅に訪問することです。

地面師はこうした面倒を避ける傾向にあり、複数の不動産業者はこうしてリスクヘッジしています。それでも万全とはいえず、不動産業者や司法書士はこうした自体に備え損害保険に加盟していることが多いのですが、それが適用になるか、どの程度適用になるかはケースバイケースです。ちなみに売主は、権利証などの保管に落ち度があったなどよほどの過失がない限り、仮に所有権が移転しても権利は取り戻せます。

2017年の不動産市場をざっと振り返ってきましたが、いかがでしょうか。新年の第一弾のコラムでは、2018年の不動産市場を占います。お楽しみに。

s-長嶋修_正方形.jpg長嶋 修  さくら事務所創業者・会長
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。【株式会社さくら事務所】

憧れのタワーマンション!購入検討者に聞いた「住みたい階」は意外な結果に!? タワマン調査[1]

都市部を中心に増えているタワーマンション。そこに住むことに憧れをもつ人も多いですが、実際に3年以内にタワーマンションを購入する予定の人に、購入予定金額や間取り、住みたい階、購入する際に心配なことなどをズバリ聞いてみました。
購入予定金額トップは3000万~5000万円。間取りは3LDKが人気

駅近で設備が充実しており、人気エリアの物件には優雅な生活を送る富裕層や成功者が住んでいるイメージがあるタワーマンション。その購入予定金額は気になるところです。

結果は3000万~5000万円未満(34.0%)がトップでした。2位は5000万~7000万円未満(28.0%)、3位は7000万~1億円未満(21.0%)でした。
人気エリアにあるタワーマンションは高額ですが、都市周辺部など立地を選べば、同じクオリティでも人気エリアに比べると手が届く価格のよう。また、同じマンションでも、低層階は高層階に比べて価格がおさえられており、狙い目かもしれません。

【画像1】1億円以上の物件を購入予定の人は全体の1割程度(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】1億円以上の物件を購入予定の人は全体の1割程度(出典/SUUMOジャーナル編集部)

ちなみに、今回の調査回答者の世帯年収で最も割合が大きかったのは1000万円~1500万円未満(23.0%)、続いて600万円~800万円未満(19.0%)、400万円~600万円未満(17.0%)でした。

【画像2】1000万円未満の世帯年収が半数を超えた(51%)(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】1000万円未満の世帯年収が半数を超えた(51%)(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、購入予定物件の間取りは3LDK(K・DK)が45.0%と人気。続いて2LDK(K・DK)が30.0%、4LDK(K・DK)が16.0%でした。今回は夫婦と子どもの世帯が39.0%、本人のみ(一人暮らし)29.0%、夫婦のみの世帯が23.0%だったので、夫婦と子どもで住む、または今は夫婦2人だけだが将来子どもが生まれることを見据えて子ども部屋を確保できる3LDK(K・DK)を選ぶ人が多いのかもしれません。

【画像3】3LDK(K・DK)、4LDK(K・DK)のファミリー向けの間取りを購入予定が6割(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】3LDK(K・DK)、4LDK(K・DK)のファミリー向けの間取りを購入予定が6割(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】本人のみ(一人暮らし)で購入する人も約3割いる結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】本人のみ(一人暮らし)で購入する人も約3割いる結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

住みたい階は意外にも10~14階が1位

タワーマンションというと眺望の良い高層階に住むイメージがありますが、実際に購入予定の人が住みたい階は何階あたりなのでしょうか。

一番人気は10~14階(20.0%)。続いて40階以上(18.0%)でした。タワーマンションに抱いているイメージとして「眺望が良い」という回答が7割を超えていたので、高層階が一番人気かと予想していましたが、意外にも10~14階がトップに。これは、高層階になるにつれ購入価格が上がるほか、後で触れる災害時の心配が理由としてあるのかもしれません。

【画像5】20階以下を購入予定の人が全体の4割を占める(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像5】20階以下を購入予定の人が全体の4割を占める(出典/SUUMOジャーナル編集部)

とはいえ、通常のマンションなら10~14階も高層階です。さえぎる建物が少ないため眺めも良く、タワーマンションに抱いているイメージにある「駅から近い」(66.0%)、「アクセスが良く出かけやすい」(61.0%)、「通勤に便利」(44.0%)、「共有施設で休日を楽しめる」(39.0%)などを備えており、タワーマンションの良さを堪能できそうですね。

【画像6】眺望、駅近、アクセスの良さがそれぞれ6割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像6】眺望、駅近、アクセスの良さがそれぞれ6割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

購入する上で心配なのは、災害時、維持費、購入時の価格

良いイメージが先行するタワーマンションですが、購入する上で心配なことはあるのでしょうか。

多くの人が一番心配しているのは「災害時」のこと(61.0%)。例えば地震。高層階になるにつれ、その揺れは大きくなります。実際の揺れよりも大きく感じることもあるようで、高層マンションならではの心配といえるでしょう。また、地震などの災害によりエレベーターが止まることもあり、特に高層階に住んでいる場合にはその上り下りが大変なよう。20階に住む筆者の友人は、子どもに留守番をさせて買い物に出た際に地震が起こり、重い荷物を持ちながら階段を上るのに時間がかかり、自宅に着くまでの間子どもが心配だったと話していました。このような災害時の不安から、子どもがいるファミリーがあえて低層階を選ぶということもありそうです。

2位は「維持費が高い」こと(49.0%)。タワーマンションは、ゲストルームやキッズルーム、コンシェルジュサービスなど共有施設やサービスが充実していることが多く、通常のマンションよりも維持費が高いと思われています。確かにマンションの修繕の際には最新機器や共用スペースの広さなどから修繕費が高くなることはありますが、管理費に関しては世帯数も多いのでそれほど高くない場合もあるかもしれません。

3位は「購入時の価格が高い」こと(44.0%)。高層階になるにつれ眺望も良く、価格は上がります。憧れのタワーマンションに住むからには高層階に住みたいという希望はあるものの、購入金額を検討した結果、低層階に落ち着くというケースもあるようです。

【画像7】一番の不安は「災害時」で6割以上が回答。「維持費が高い」「購入時の価格が高い」も5割近い人が支持(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像7】一番の不安は「災害時」で6割以上が回答。「維持費が高い」「購入時の価格が高い」も5割近い人が支持(出典/SUUMOジャーナル編集部)

セレブのイメージが強いタワーマンション。今回の調査では、購入予定額のトップは3000万~5000万円未満、住みたい階の一番人気が10~14階と、予想よりも低価格、低層階に落ち着く結果となりました。この結果を見て、少し頑張れば手が届きそうな印象を受けた人も多いのではないでしょうか。
災害時の心配や維持費の高さへの不安などはあるようですが、購入前に知っておけば、「こんなはずではなかった!」ということが少なそうですね。
眺望が良く、防犯上安全であったり、共用設備が充実していたり、24時間管理が安心といったメリットも多いタワーマンション。新たな家探しの候補に入れてみてはいかがでしょうか。

●調査概要
・[タワーマンションに関する調査]より
・調査期間 2017年9月26日~28日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:東京都、大阪府、名古屋市のタワーマンション(20階建て以上)を3年以内に購入する予定がある方
・有効回答数:100名

憧れのタワーマンション!購入検討者に聞いた「住みたい階」は意外な結果に!? タワマン調査[1]

都市部を中心に増えているタワーマンション。そこに住むことに憧れをもつ人も多いですが、実際に3年以内にタワーマンションを購入する予定の人に、購入予定金額や間取り、住みたい階、購入する際に心配なことなどをズバリ聞いてみました。
購入予定金額トップは3000万~5000万円。間取りは3LDKが人気

駅近で設備が充実しており、人気エリアの物件には優雅な生活を送る富裕層や成功者が住んでいるイメージがあるタワーマンション。その購入予定金額は気になるところです。

結果は3000万~5000万円未満(34.0%)がトップでした。2位は5000万~7000万円未満(28.0%)、3位は7000万~1億円未満(21.0%)でした。
人気エリアにあるタワーマンションは高額ですが、都市周辺部など立地を選べば、同じクオリティでも人気エリアに比べると手が届く価格のよう。また、同じマンションでも、低層階は高層階に比べて価格がおさえられており、狙い目かもしれません。

【画像1】1億円以上の物件を購入予定の人は全体の1割程度(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】1億円以上の物件を購入予定の人は全体の1割程度(出典/SUUMOジャーナル編集部)

ちなみに、今回の調査回答者の世帯年収で最も割合が大きかったのは1000万円~1500万円未満(23.0%)、続いて600万円~800万円未満(19.0%)、400万円~600万円未満(17.0%)でした。

【画像2】1000万円未満の世帯年収が半数を超えた(51%)(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像2】1000万円未満の世帯年収が半数を超えた(51%)(出典/SUUMOジャーナル編集部)

また、購入予定物件の間取りは3LDK(K・DK)が45.0%と人気。続いて2LDK(K・DK)が30.0%、4LDK(K・DK)が16.0%でした。今回は夫婦と子どもの世帯が39.0%、本人のみ(一人暮らし)29.0%、夫婦のみの世帯が23.0%だったので、夫婦と子どもで住む、または今は夫婦2人だけだが将来子どもが生まれることを見据えて子ども部屋を確保できる3LDK(K・DK)を選ぶ人が多いのかもしれません。

【画像3】3LDK(K・DK)、4LDK(K・DK)のファミリー向けの間取りを購入予定が6割(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像3】3LDK(K・DK)、4LDK(K・DK)のファミリー向けの間取りを購入予定が6割(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】本人のみ(一人暮らし)で購入する人も約3割いる結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】本人のみ(一人暮らし)で購入する人も約3割いる結果に(出典/SUUMOジャーナル編集部)

住みたい階は意外にも10~14階が1位

タワーマンションというと眺望の良い高層階に住むイメージがありますが、実際に購入予定の人が住みたい階は何階あたりなのでしょうか。

一番人気は10~14階(20.0%)。続いて40階以上(18.0%)でした。タワーマンションに抱いているイメージとして「眺望が良い」という回答が7割を超えていたので、高層階が一番人気かと予想していましたが、意外にも10~14階がトップに。これは、高層階になるにつれ購入価格が上がるほか、後で触れる災害時の心配が理由としてあるのかもしれません。

【画像5】20階以下を購入予定の人が全体の4割を占める(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像5】20階以下を購入予定の人が全体の4割を占める(出典/SUUMOジャーナル編集部)

とはいえ、通常のマンションなら10~14階も高層階です。さえぎる建物が少ないため眺めも良く、タワーマンションに抱いているイメージにある「駅から近い」(66.0%)、「アクセスが良く出かけやすい」(61.0%)、「通勤に便利」(44.0%)、「共有施設で休日を楽しめる」(39.0%)などを備えており、タワーマンションの良さを堪能できそうですね。

【画像6】眺望、駅近、アクセスの良さがそれぞれ6割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像6】眺望、駅近、アクセスの良さがそれぞれ6割を超えた(出典/SUUMOジャーナル編集部)

購入する上で心配なのは、災害時、維持費、購入時の価格

良いイメージが先行するタワーマンションですが、購入する上で心配なことはあるのでしょうか。

多くの人が一番心配しているのは「災害時」のこと(61.0%)。例えば地震。高層階になるにつれ、その揺れは大きくなります。実際の揺れよりも大きく感じることもあるようで、高層マンションならではの心配といえるでしょう。また、地震などの災害によりエレベーターが止まることもあり、特に高層階に住んでいる場合にはその上り下りが大変なよう。20階に住む筆者の友人は、子どもに留守番をさせて買い物に出た際に地震が起こり、重い荷物を持ちながら階段を上るのに時間がかかり、自宅に着くまでの間子どもが心配だったと話していました。このような災害時の不安から、子どもがいるファミリーがあえて低層階を選ぶということもありそうです。

2位は「維持費が高い」こと(49.0%)。タワーマンションは、ゲストルームやキッズルーム、コンシェルジュサービスなど共有施設やサービスが充実していることが多く、通常のマンションよりも維持費が高いと思われています。確かにマンションの修繕の際には最新機器や共用スペースの広さなどから修繕費が高くなることはありますが、管理費に関しては世帯数も多いのでそれほど高くない場合もあるかもしれません。

3位は「購入時の価格が高い」こと(44.0%)。高層階になるにつれ眺望も良く、価格は上がります。憧れのタワーマンションに住むからには高層階に住みたいという希望はあるものの、購入金額を検討した結果、低層階に落ち着くというケースもあるようです。

【画像7】一番の不安は「災害時」で6割以上が回答。「維持費が高い」「購入時の価格が高い」も5割近い人が支持(出典/SUUMOジャーナル編集部)

【画像7】一番の不安は「災害時」で6割以上が回答。「維持費が高い」「購入時の価格が高い」も5割近い人が支持(出典/SUUMOジャーナル編集部)

セレブのイメージが強いタワーマンション。今回の調査では、購入予定額のトップは3000万~5000万円未満、住みたい階の一番人気が10~14階と、予想よりも低価格、低層階に落ち着く結果となりました。この結果を見て、少し頑張れば手が届きそうな印象を受けた人も多いのではないでしょうか。
災害時の心配や維持費の高さへの不安などはあるようですが、購入前に知っておけば、「こんなはずではなかった!」ということが少なそうですね。
眺望が良く、防犯上安全であったり、共用設備が充実していたり、24時間管理が安心といったメリットも多いタワーマンション。新たな家探しの候補に入れてみてはいかがでしょうか。

●調査概要
・[タワーマンションに関する調査]より
・調査期間 2017年9月26日~28日
・調査方法:インターネット調査(ネオマーケティング)
・対象:東京都、大阪府、名古屋市のタワーマンション(20階建て以上)を3年以内に購入する予定がある方
・有効回答数:100名

家中ポカポカ、気温差なし!1台で快適「全館空調」とは

年間を通して、家中が快適な温度に保たれる全館空調。三井ホームやセキスイハイム、住友林業などの各社が提供しているが、「興味はあるけれど電気代が心配」「実際に暖かくなるのか疑問」という人もいるのでは? そこで今回は全館空調システム「エアロテック」を提供する三菱地所ホームと「エアロテック」利用者に、その仕組みや使い心地、気になる設備投資や電気代のことをきいてみた。
お風呂も廊下も常に快適! ひとつの室内機で隅々までカバー

冬本番になると、暖房をつけている部屋とそうでない部屋の温度差が激しく、朝起きたとき、入浴のときなど寒い部屋に移動するのがおっくうになってしまうこともある。ところが全館空調の家ならば、常に家の隅々まで暖かくて快適だそう。しかも、空調設備は半畳ほどのスペースに納まるコンパクトな室内機のみ。各部屋には吹出口とコントローラーしかないという。一体どうしてそんなことが可能なのだろうか? 

全館空調「エアロテック」を展開する三菱地所ホーム株式会社の事業推進部、狩野彩香(かりの・さやか)さんによれば、そのポイントは家自体の断熱・気密性にあるとのこと。

「実は一般的なつくりの家は、家の隙間から多くの熱エネルギーが漏れてしまっています。弊社の場合は家を建てる際に断熱・気密性の極めて高い工法を採用することと併せて『エアロテック』を導入していただくことにより、エネルギーのロスが少なく効率のよい空調を実現しています」(狩野さん)

家中を暖かくするというと、それだけ多くのエネルギーが必要そうに思えるが、実は全館空調の家はエネルギー効率がよく、電気代も安くなる。例を挙げると約150m2の部屋で一般的な局所空調(個々の部屋に空調設備を設置すること)の住宅の冷暖房費が年間約9万6000円だとすると、全館空調を導入すれば年間でおおよそ4万9000円から5万5000円までに価格を抑えられる(三菱地所ホーム株式会社調べ)。

「電気代節約の理由としては、家自体の高い性能に加え、通年で全館空調を使用することによる、エネルギー効率のアップもポイントです。冷暖房は起動して一気に温度を上げたり下げたりするときに一番電力が必要なのですが、通年空調することにより、起動時のエネルギーロスが無くなります。さらには局所空調の場合に多い、部屋のドアの開け閉めによるエネルギーロスも起こらないのです」(狩野さん)

全館空調は少ないエネルギーで快適に暮らすことができ、地球にもお財布にも優しいようだ。

【画像1】三菱地所ホームの「エアロテック」は個別空調にくらべ冷暖房費が抑えられるという(画像提供/三菱地所ホーム)

【画像1】三菱地所ホームの「エアロテック」は個別空調にくらべ冷暖房費が抑えられるという(画像提供/三菱地所ホーム)

お掃除ラクラク、間取りも自由。使い勝手の良さは折り紙つき

全館空調がエネルギー効率の面で非常に優れていることは分かったが、実際の使い心地はどうなのだろう。5年前、一戸建ての建て替え時に「エアロテック」を導入したOさんに、そのメリットとデメリットをきいた。

もともと「家が奥行きのある細長いつくりだったせいか、局所空調のときは気温の差が激しかったのです。でも全館空調にしてからは、とても快適になりました。また間取りの自由度が増したこともうれしいですね。建て替えの際は大きな吹抜けを取り入れたり、リビングとダイニングを引き戸で緩やかに区切ったりと、自由な発想で居住スペースをデザインしてもらいました」(Oさん)

全館空調にすると、部屋ごとに扉を設ける必要がない。吹抜けはもちろん、廊下を書斎やラウンジとした、遊び心のある間取りも実現できるのが魅力だ。またOさんによれば、導入時には想像していなかったメリットもあったそう。それがメンテナンスの手軽さだ。

「お掃除がとっても楽です。以前は各部屋で天井付の空調を使用していたため、室内機をひとつひとつ掃除していました。また何年かに1度は業者にクリーニングを依頼していたので高額な出費がありました。それが全館空調にすると室内機がひとつ。2週間に1度、床置きの室内機からフィルターを抜いて、掃除機で吸うだけで完了です。何か不具合があっても、保証が充実しているので安心して使っています」(Oさん)

確かに、一般的に空調設備はメンテナンスに手間と費用がかかる。それに対して全館空調は室内機がひとつなので、掃除がラクそうだ。また設備は設置後10年間無償で保証され、もしも夜中に全館空調が故障した際にも24時間体制でフォローされるそう。10年目以降は年間2万から3万円で同様のメンテナンスが受けられる(※)。よいことづくめに思えるが、デメリットはないのだろうか。
※三菱地所ホーム株式会社エアロテックの場合

「デメリットは、あまりに家の中が快適で外の気温が分からないことでしょうか。ですから外出のときは窓を開けたり、一度家から出て気温を確認しています」(Oさん)

外気温に影響されない快適空間ゆえのデメリットは、なんともうらやましいものだった……!

【画像2】室内機はこれ一台。室外機は2台で済むので、インテリアもエクステリアも、スタイリッシュにまとまりそうだ(画像提供/三菱地所ホーム)

【画像2】室内機はこれ一台。室外機は2台で済むので、インテリアもエクステリアも、スタイリッシュにまとまりそうだ(画像提供/三菱地所ホーム)

全館空調の導入に当たる費用は新築の場合30坪から40坪で約200万円ほどだという。建物の断熱・気密性と空調効果が連動しているので、リフォームで後付けするには難しさもあるそう。ただし、狩野さんによれば「必ずしも不可能ではないので相談してほしい」とのことだ。一戸建てだけでなくマンションに後付けする例もあるので、新築や建て替えの予定がある人はもちろん、リフォームを考えている人も導入を検討してみてはどうだろう。

●取材協力
・三菱地所ホーム株式会社

家中ポカポカ、気温差なし!1台で快適「全館空調」とは

年間を通して、家中が快適な温度に保たれる全館空調。三井ホームやセキスイハイム、住友林業などの各社が提供しているが、「興味はあるけれど電気代が心配」「実際に暖かくなるのか疑問」という人もいるのでは? そこで今回は全館空調システム「エアロテック」を提供する三菱地所ホームと「エアロテック」利用者に、その仕組みや使い心地、気になる設備投資や電気代のことをきいてみた。
お風呂も廊下も常に快適! ひとつの室内機で隅々までカバー

冬本番になると、暖房をつけている部屋とそうでない部屋の温度差が激しく、朝起きたとき、入浴のときなど寒い部屋に移動するのがおっくうになってしまうこともある。ところが全館空調の家ならば、常に家の隅々まで暖かくて快適だそう。しかも、空調設備は半畳ほどのスペースに納まるコンパクトな室内機のみ。各部屋には吹出口とコントローラーしかないという。一体どうしてそんなことが可能なのだろうか? 

全館空調「エアロテック」を展開する三菱地所ホーム株式会社の事業推進部、狩野彩香(かりの・さやか)さんによれば、そのポイントは家自体の断熱・気密性にあるとのこと。

「実は一般的なつくりの家は、家の隙間から多くの熱エネルギーが漏れてしまっています。弊社の場合は家を建てる際に断熱・気密性の極めて高い工法を採用することと併せて『エアロテック』を導入していただくことにより、エネルギーのロスが少なく効率のよい空調を実現しています」(狩野さん)

家中を暖かくするというと、それだけ多くのエネルギーが必要そうに思えるが、実は全館空調の家はエネルギー効率がよく、電気代も安くなる。例を挙げると約150m2の部屋で一般的な局所空調(個々の部屋に空調設備を設置すること)の住宅の冷暖房費が年間約9万6000円だとすると、全館空調を導入すれば年間でおおよそ4万9000円から5万5000円までに価格を抑えられる(三菱地所ホーム株式会社調べ)。

「電気代節約の理由としては、家自体の高い性能に加え、通年で全館空調を使用することによる、エネルギー効率のアップもポイントです。冷暖房は起動して一気に温度を上げたり下げたりするときに一番電力が必要なのですが、通年空調することにより、起動時のエネルギーロスが無くなります。さらには局所空調の場合に多い、部屋のドアの開け閉めによるエネルギーロスも起こらないのです」(狩野さん)

全館空調は少ないエネルギーで快適に暮らすことができ、地球にもお財布にも優しいようだ。

【画像1】三菱地所ホームの「エアロテック」は個別空調にくらべ冷暖房費が抑えられるという(画像提供/三菱地所ホーム)

【画像1】三菱地所ホームの「エアロテック」は個別空調にくらべ冷暖房費が抑えられるという(画像提供/三菱地所ホーム)

お掃除ラクラク、間取りも自由。使い勝手の良さは折り紙つき

全館空調がエネルギー効率の面で非常に優れていることは分かったが、実際の使い心地はどうなのだろう。5年前、一戸建ての建て替え時に「エアロテック」を導入したOさんに、そのメリットとデメリットをきいた。

もともと「家が奥行きのある細長いつくりだったせいか、局所空調のときは気温の差が激しかったのです。でも全館空調にしてからは、とても快適になりました。また間取りの自由度が増したこともうれしいですね。建て替えの際は大きな吹抜けを取り入れたり、リビングとダイニングを引き戸で緩やかに区切ったりと、自由な発想で居住スペースをデザインしてもらいました」(Oさん)

全館空調にすると、部屋ごとに扉を設ける必要がない。吹抜けはもちろん、廊下を書斎やラウンジとした、遊び心のある間取りも実現できるのが魅力だ。またOさんによれば、導入時には想像していなかったメリットもあったそう。それがメンテナンスの手軽さだ。

「お掃除がとっても楽です。以前は各部屋で天井付の空調を使用していたため、室内機をひとつひとつ掃除していました。また何年かに1度は業者にクリーニングを依頼していたので高額な出費がありました。それが全館空調にすると室内機がひとつ。2週間に1度、床置きの室内機からフィルターを抜いて、掃除機で吸うだけで完了です。何か不具合があっても、保証が充実しているので安心して使っています」(Oさん)

確かに、一般的に空調設備はメンテナンスに手間と費用がかかる。それに対して全館空調は室内機がひとつなので、掃除がラクそうだ。また設備は設置後10年間無償で保証され、もしも夜中に全館空調が故障した際にも24時間体制でフォローされるそう。10年目以降は年間2万から3万円で同様のメンテナンスが受けられる(※)。よいことづくめに思えるが、デメリットはないのだろうか。
※三菱地所ホーム株式会社エアロテックの場合

「デメリットは、あまりに家の中が快適で外の気温が分からないことでしょうか。ですから外出のときは窓を開けたり、一度家から出て気温を確認しています」(Oさん)

外気温に影響されない快適空間ゆえのデメリットは、なんともうらやましいものだった……!

【画像2】室内機はこれ一台。室外機は2台で済むので、インテリアもエクステリアも、スタイリッシュにまとまりそうだ(画像提供/三菱地所ホーム)

【画像2】室内機はこれ一台。室外機は2台で済むので、インテリアもエクステリアも、スタイリッシュにまとまりそうだ(画像提供/三菱地所ホーム)

全館空調の導入に当たる費用は新築の場合30坪から40坪で約200万円ほどだという。建物の断熱・気密性と空調効果が連動しているので、リフォームで後付けするには難しさもあるそう。ただし、狩野さんによれば「必ずしも不可能ではないので相談してほしい」とのことだ。一戸建てだけでなくマンションに後付けする例もあるので、新築や建て替えの予定がある人はもちろん、リフォームを考えている人も導入を検討してみてはどうだろう。

●取材協力
・三菱地所ホーム株式会社

代々木上原で家賃7万円。“普通の家賃”で都心に暮らす2組に話を聞いた

都心住まいにあこがれても、「家賃が高そう」と、都心で暮らすことを考えたことすらない人も多いのではないでしょうか。でも、探してみると意外に平均的な家賃で住める物件もあります。そこで、実際に都心にお住まいのかたに「意外と都心で暮らせるよ!」という体験談と部屋探しのアドバイスをうかがいました。

※平均的な家賃…一人暮らし世帯7万1000円、3人以上世帯11万円(出典:リクルート住まいカンパニー/2016年賃貸契約者に見る部屋探しの実態調査【首都圏版】)
※都心…ここでは千代田区、品川区、渋谷区、新宿区、中央区、文京区、港区の7区を指します

「代々木上原」家賃7万円、一人暮らしのHさん

代々木上原に住むヘアメイクアーティストHさんは表参道のサロンに勤務する富山県出身の32歳。彼女の部屋のお家賃は、6.7万円にプラス0.3万円の管理費の計7万円。駅徒歩10分、代々木上原は坂が多いのですが、それほど気にはならないそうです。

Hさんは、下北沢の2DKでルームシェアをしたあと、2年後の更新タイミングで引越しをすることに。そのタイミングで出合ったのが、この代々木上原の物件です。すでに4年住み、つい先日2回目の更新を終えました。5年目に突入していることからも、なかなか気に入っている様子がうかがえます。

「渋谷駅まで、徒歩20分程度の距離なのに、わりと落ち着いた雰囲気です。緑も多くて静かな環境。物件探しのときは更新期限が迫っていて時間がなくあせっていたのですが、友人が紹介してくれた不動産屋さんが親切で、運よく気に入った物件が見つかりました」(Hさん、以下同)

引越しに当たってHさんが出した条件は「仕事で通う表参道に近い」「日当たりがよい」「建物がしっかりしていそうな『鉄筋・鉄骨』で、木造はNG」の3つが主なもの。ユニットバスで一口コンロ、洗濯機も外置き(ベランダ)ですが、それは仕方がないことと割り切っており、6.7万円と管理費3000円でこの物件なら文句はないと満足しているそうです。

【画像1】Hさんが勤務する表参道(写真/PIXTA)

【画像1】Hさんが勤務する表参道(写真/PIXTA)

築年数は30年と古めですが、リノベーションが施され、内装は白で統一されています。白熱灯の間接照明は特にお気に入りだそうです。これまでご近所づきあいや家そのものに関しては特にトラブルはありませんでしたが、一度だけねずみがはいってきた痕跡を見つけたことがあったそうです。直接遭遇はしませんでしたが、すぐに駆除業者を呼んで消毒と予防をしました。その後は痕跡もみつかりませんし、遭遇もしていませんが、怖い思い出になっているそうです。

「収納もたっぷりあります。3畳分あるロフトは、部屋とは区別してメイクの練習などのアトリエとして使っています。希望していた日当たりも3面採光で気持ちがいいです!」

今でも十分都心といえますが、“THE都心”への憧れの気持ちは尽きることがないようで「もっと都心に住みたい!」というHさん。表参道まで自転車通勤できる快適な毎日を過ごせているようです。

「北参道」家賃11万円、家族4人で暮らすNさん

副都心線北参道駅から徒歩7分、11万円の物件にお住まいのNさん(36歳)。ご主人と保育園に通うお子さま2人の4人で暮らしています。フリーのスタイリストとして働いていて、ご主人も同じ業界。昼間はお子さんを保育園に預けています。7階建ての3階にあるお住まいは1LDKで、広さは60m2弱、築年数は30年。住んで3年目とのこと。

以前は代々木にお住まいだったNさん、引越したきっかけは、「駐輪場」でした。「大きな地震があったときに駐輪場の屋根が壊れたのですが、大家さんは修復してくれず、駐輪場そのものがなくなることに。子育て世代の私たちに自転車は必須ですから、引越すしかありませんでした」(Nさん、以下同)

そのタイミングでNさんが2人目のお子さんを出産。上のお子さまを連れて遠方のご実家へと長期帰省している間にご主人があっという間に物件を決め、Nさん不在の間にお一人で引越し作業を敢行。その際、ご主人が決めた条件は「家賃」「間取り」「直感」という3つだったそう。「新居の要望を言う余裕もなかったのですが、なんとなく代々木の20万円の部屋と同じくらいのところを探してくれると思い込んでいました」

数カ月後、実家から帰ってきて新居にはじめて入ったHさん。外観に気になるところはないし、室内もリノベーションされていてきれいでした……が、「洗濯機は外置き、代々木の部屋にあった独立洗面台がないことに驚きました」

最初は憤ったものの、だんだんと慣れてきたそう。また、以前から9万円も家賃が下がったために、生活にはずいぶん余裕が出たといいます。「二人とも自営業(フリー)で、生活にあまりお金をかけるのは不安なので、ちょうどよいのかもしれません。今は不自由を感じなくなりました」

部屋数が少ないため、親子・夫婦喧嘩したときなども顔を合わせねばなりません。しかたなく一緒の布団で寝ることになるので、家族の距離が近くなり、以前よりもよりあたたかな生活ができているようです。

ところで、Nさんの部屋はどうして11万円という破格なのでしょうか。

不動産屋さんで20万円以下の物件を探していて11万円の部屋を見つけたご主人は、当初やはりすこし心配になったそう。実は、このお部屋は地方にお住まいのご高齢の方が、もともと投資用に購入した部屋。ただ、そこまで家賃収入に執着がなく家賃を安く設定しているとのこと。また、「住みやすいように」と床の張り替えなど、積極的にリフォームもしてくれるそうで、とてもいい大家さんに出会えたようです。

Nさんのマンションは管理員さんも古くから住んでいるご近所さんも親切だといいます。「いまだに回覧板があったり、ものをもらったりあげたりする」ような、古きよきご近所づきあいをしているそうです。

都心暮らしの一番のメリットは職場や目的地まで距離が近いこと。ネットショッピングでより生活が便利に

Hさんは都心暮らしについて「職場から近いのがいちばんです。自転車も使え、移動時間が短いし、タクシーを使っても安いです」とよさを教えてくれます。

Nさんは、もともとは都心で暮らすことを不便に感じていたようです。いちばん近いドラッグストアが人通りの多い竹下通りにあるなど、日常の生活に向かないと思っていたからです。ただ、いまはネットで日用品から食品までなんでも買えます。もともとは職場まで徒歩や自転車でいけることから都心に住み始めましたが、「都心でより便利に安く暮らせる時代が来た」とNさんは思っているそうです。

「どんな場所でも『住めば都』。意外とどこでも変わらない生活ができます。買い物するお店がなくても、ネットで探せます。それに、このあたりはタクシーの1メーター410円でどこでもいけますし、カーシェアリングを利用すれば子どもがいても移動が楽です。ママ友もたくさんいますが、みんな子育てに仕事にと、パワフルなのが都心。空気もみなさんが思っているほど悪くないですよ」(Nさん)

また、都心は意外と子どもを遊ばせやすいとも感じているそうです。「歩いていける国立競技場には子どもが自転車の練習をできる場所がありますし、代々木公園や新宿御苑も近いです。ただ、小さな公園など、家の近所に遊ぶ場所がないのがすこし不便かもしれません」(Nさん)

都心に普通の値段で住む 家探しのコツとは?

Hさんは「お部屋探しのコツは不動産屋さんと仲よくなること。不動産屋さんはやっぱり最新の情報をもっていて、仲よくなっておけばいち早く教えてくれます」と言います。

また、「妥協できる点とできない点を決め、優先順位をつけておきました。例えば私は同じユニットバスでも許せるタイプのものと許せないタイプのものがあったので、そういう細かいところまで決めて、たくさん見たほうがよいです。探せばあるので、あきらめない。よくばってもよいと思いますし、焦点を決めて探してみてください」とアドバイスしてくれました。

数年後にはお子さまの小学校入学に合わせて、勉強部屋確保のためにも引越そうと思っているNさん。ご夫婦での開業も予定されているそうですが、またこの近くに住むことになりそうです。都心の暮らしやすさを知っているからこそ、また都心へと引越したくなるのかもしれません。

探すのが難しいと思われがちな「都心の手ごろな部屋」。自分の譲れない条件を絞れば、希望の家賃に収まる物件は見つかりそうです。また、場所によっては静かな生活を送ることもできますし、ネットショッピングがより便利になり、日常生活にお金がかかり過ぎたり、日用品を買うお店がなくて不便ということも以前よりなくなってきたように感じます。都心に憧れをもっているかたは、都心暮らしを検討してみてもよいかもしれません。

配偶者控除大改正、何が変わる? 賢い住まいのマネー術(2)

働く女性の就労促進を促す効果を狙って、2018年1月から配偶者控除が大きく改正されます。配偶者控除が改正されることによって、共働き世帯の働き方はどのように変わるのでしょうか。控除額を超えたとしても、住宅ローン控除と合わせ技で節税する方法もあります。どういうことなのか、解説していきましょう。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。配偶者控除大改正、何が変わる?

そもそも配偶者控除とは、妻(夫)の年収が「103万円以下」なら、パートナーの給与所得から38万円が控除されるという仕組み。103万円を越えると控除額が段階的に減っていき、141万円でゼロになるために「103万円の壁」と言われてきました。

今回の改正で、38万円の控除が受けられる妻(夫)の年収の範囲が「150万円以下」に変わります。150万円を超えると控除額が減っていき、201万円を越えるとゼロになります。政府は控除を受けることができる範囲を広げることにより、より働きやすい社会を目指していくとしています。

もう一つのポイントとして、配偶者控除が適用される夫に年収制限が付くようになることが挙げられます。夫の年収が「1120万円を超える」と控除額が次第に減り、年収「1220万円を超える」とゼロになるのです。従来は配偶者特別控除にのみ年収制限が付いていましたが、今後はたとえ妻に収入がなくても、高額納税者である夫は配偶者控除を適用されなくなります。

配偶者控除を越える働き方もあり? それぞれが住宅ローンを借りられる! 【画像1】(写真/PIXTA)

【画像1】(写真/PIXTA)

とはいえ、子育てが落ち着いて再就職を考える際に、配偶者控除の上限を少しだけ越えてしまうという場合も出てくるでしょう。頑張って働いて年収が250万円という場合、受けられる控除がなくなってしまい、損になってしまうのでしょうか。

たしかに、配偶者控除は受けることができなくなります。しかし、妻が安定した収入を得ることによって受けることができる有利な制度もあります。

その代表例として「住宅ローン控除」があります。住宅ローンを借入れて住宅を取得する場合に、取得者の金利負担の軽減を図るための制度ですが、住宅ローンを借入れる者が個人単位で申請をし、世帯単位ではないのがポイントです。つまり、夫婦でしっかりと収入がある場合はそれぞれがローンを借り、それぞれが住宅ローン控除を受けることができるのです。住宅ローン控除は税額から直接差し引く税額控除のために、非常に有利な制度になります。

具体的には、毎年末の住宅ローン残高または住宅の取得対価のうちいずれか少ない方の金額の1%が10年間に渡り所得税の額から控除されます。また、所得税からは控除しきれない場合には、住民税からも一部控除されるのです。

どれくらい節税できる?ケーススタディで考えてみよう!

「子育てが落ち着いて再就職をしたい」「家族計画も固まってきたのでおうちも買いたい」そんな風に考えているA家庭の場合。妻が働いて収入をしっかりつけてから、夫婦で住宅ローン控除を受けるという方法も考えられます。

例えば、夫収入600万円、妻収入250万円、5000万円の住宅ローンを組む予定で、夫が4000万円、妻が1000万円の借り入れをし、住宅ローン控除を受ける場合。軽減される所得税・住民税は最大で夫が約40万円、妻が約10万円になります。年末のローン残高が減ることによって受けられる税額控除は少しずつ軽減されますが、10年間控除を受けることができます。

具体的な控除の仕組みを知りたい場合はこちら
住宅ローン控除って、実際いくら戻ってくるの? 

次に共働きをしていた時にそれぞれ住宅ローンを組んでいたB家庭のケース。出産後に妻が働いていない期間があり、その期間は所得がないため、当然住宅ローン減税を受けられなかった期間がありました。しかし、子育てを終えて再び働くことで、また夫婦で住宅ローン控除を受けることができるようになります。

このように、妻が安定をした収入をつけることで住宅ローンを組むことができ、住宅ローン控除のような有利な税金のメリットを享受することができる場合もあるのです。

「103万円の壁」など扶養の範囲で働くということに目が行きがちですが、収入を付けることで社会的な信用を得ることができ、お金を借りるということも可能になります。住宅ローン控除のように、夫婦それぞれ個人単位で受けることができる税制の優遇と、”合わせ技”で考えていきたいものですね。

花輪 陽子花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

配偶者控除大改正、何が変わる? 賢い住まいのマネー術(2)

働く女性の就労促進を促す効果を狙って、2018年1月から配偶者控除が大きく改正されます。配偶者控除が改正されることによって、共働き世帯の働き方はどのように変わるのでしょうか。控除額を超えたとしても、住宅ローン控除と合わせ技で節税する方法もあります。どういうことなのか、解説していきましょう。【連載】賢い住まいのマネー術
住まいに関する支出は、家庭の大きな割合を占めるもの。保活から住宅ローン控除まで、住まいに関する家計管理や節約術に定評のあるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんが解説します。配偶者控除大改正、何が変わる?

そもそも配偶者控除とは、妻(夫)の年収が「103万円以下」なら、パートナーの給与所得から38万円が控除されるという仕組み。103万円を越えると控除額が段階的に減っていき、141万円でゼロになるために「103万円の壁」と言われてきました。

今回の改正で、38万円の控除が受けられる妻(夫)の年収の範囲が「150万円以下」に変わります。150万円を超えると控除額が減っていき、201万円を越えるとゼロになります。政府は控除を受けることができる範囲を広げることにより、より働きやすい社会を目指していくとしています。

もう一つのポイントとして、配偶者控除が適用される夫に年収制限が付くようになることが挙げられます。夫の年収が「1120万円を超える」と控除額が次第に減り、年収「1220万円を超える」とゼロになるのです。従来は配偶者特別控除にのみ年収制限が付いていましたが、今後はたとえ妻に収入がなくても、高額納税者である夫は配偶者控除を適用されなくなります。

配偶者控除を越える働き方もあり? それぞれが住宅ローンを借りられる! 【画像1】(写真/PIXTA)

【画像1】(写真/PIXTA)

とはいえ、子育てが落ち着いて再就職を考える際に、配偶者控除の上限を少しだけ越えてしまうという場合も出てくるでしょう。頑張って働いて年収が250万円という場合、受けられる控除がなくなってしまい、損になってしまうのでしょうか。

たしかに、配偶者控除は受けることができなくなります。しかし、妻が安定した収入を得ることによって受けることができる有利な制度もあります。

その代表例として「住宅ローン控除」があります。住宅ローンを借入れて住宅を取得する場合に、取得者の金利負担の軽減を図るための制度ですが、住宅ローンを借入れる者が個人単位で申請をし、世帯単位ではないのがポイントです。つまり、夫婦でしっかりと収入がある場合はそれぞれがローンを借り、それぞれが住宅ローン控除を受けることができるのです。住宅ローン控除は税額から直接差し引く税額控除のために、非常に有利な制度になります。

具体的には、毎年末の住宅ローン残高または住宅の取得対価のうちいずれか少ない方の金額の1%が10年間に渡り所得税の額から控除されます。また、所得税からは控除しきれない場合には、住民税からも一部控除されるのです。

どれくらい節税できる?ケーススタディで考えてみよう!

「子育てが落ち着いて再就職をしたい」「家族計画も固まってきたのでおうちも買いたい」そんな風に考えているA家庭の場合。妻が働いて収入をしっかりつけてから、夫婦で住宅ローン控除を受けるという方法も考えられます。

例えば、夫収入600万円、妻収入250万円、5000万円の住宅ローンを組む予定で、夫が4000万円、妻が1000万円の借り入れをし、住宅ローン控除を受ける場合。軽減される所得税・住民税は最大で夫が約40万円、妻が約10万円になります。年末のローン残高が減ることによって受けられる税額控除は少しずつ軽減されますが、10年間控除を受けることができます。

具体的な控除の仕組みを知りたい場合はこちら
住宅ローン控除って、実際いくら戻ってくるの? 

次に共働きをしていた時にそれぞれ住宅ローンを組んでいたB家庭のケース。出産後に妻が働いていない期間があり、その期間は所得がないため、当然住宅ローン減税を受けられなかった期間がありました。しかし、子育てを終えて再び働くことで、また夫婦で住宅ローン控除を受けることができるようになります。

このように、妻が安定をした収入をつけることで住宅ローンを組むことができ、住宅ローン控除のような有利な税金のメリットを享受することができる場合もあるのです。

「103万円の壁」など扶養の範囲で働くということに目が行きがちですが、収入を付けることで社会的な信用を得ることができ、お金を借りるということも可能になります。住宅ローン控除のように、夫婦それぞれ個人単位で受けることができる税制の優遇と、”合わせ技”で考えていきたいものですね。

花輪 陽子花輪 陽子(ファイナンシャルプランナー)
CFP認定者、1級FP技能士。外資系投資銀行を経てFPに。「夫婦で貯める1億円!」「貯金ゼロ 借金200万円!ダメダメOLが資産1500万円を作るまで」などの著書やテレビ出演、雑誌監修など多数。

2018年度の税制改正、ポイントを解説 住宅購入に関わる減税措置や特例の延長など

自民・公明両党が2018年度の税制改正大綱を決定した。目玉となった所得税改革では、基礎控除の引き上げと給与所得控除の減額により、2020年から年収850万円を超える会社員が増税となる。そのほか、住宅購入などに関係する改正も含まれているので見ていこう。
新築住宅の固定資産税の減額措置を2年間延長

今回の大綱に盛り込まれた住宅関連の税制改正は、既存の特例などの期限延長がほとんどだ。

まず新築住宅向けの固定資産税の減額措置は2年間延長される。この措置は新築住宅の建物分の固定資産税を、一戸建ては3年間、マンションは5年間、2分の1に減額するというもの。国土交通省の試算によると、2000万円の一戸建てを新築した場合の固定資産税が、減額措置によって3年間で約26万円軽減されるという。措置の期限が2018年3月31日までとなっているが、これを2020年3月31日まで延長する。

長期優良住宅に対する特例措置も2年間延長される。長期優良住宅とは、良質な住宅を長期にわたって良好な状態で住み続けるために、耐久性や耐震性、維持管理のしやすさなどの基準を満たす住宅を認定する制度。認定された住宅は購入時の登録免許税や不動産取得税、新築時から一定期間(一戸建ては5年間、マンションは7年間)の固定資産税が軽減される。この特例措置の期限を2020年3月31日まで延長するという内容だ。

土地を購入する場合の不動産取得税については、税額を計算する際の評価額を2分の1にしたり、税率を本則の4%から3%に軽減する特例措置がとられている。この特例の期限を3年間延長し、2021年3月31日までとする。

不動産会社が中古住宅を買い取ってリフォームをした上で販売する「買取再販」について、耐震や省エネ、バリアフリーなど一定のリフォームを行った住宅を買うと建物分の登録免許税が通常の3分の1に軽減される特例措置がある。この特例の期限も、2020年3月31日まで2年間延長される。

マイホームの買い替えなどに関する特例を2年間延長

不動産を売って売却益(譲渡所得)が出た場合、所得税や住民税がかかるが、自宅を買い替えた場合は各種特例が受けられる。売却益がなかったものとして次に買い替えるまで課税を繰り延べられる「買換え特例」や、売却損が出た場合に最長4年間の所得から繰り越して相殺できる「譲渡損失の繰越控除」だ。これらの特例の期限を2019年12月31日まで2年間延長する。

一定の性能向上リフォームを行った場合の固定資産税の特例措置も2年間延長となる。この特例は耐震改修の場合は2分の1が、バリアフリー改修や省エネ改修の場合は3分の1が、長期優良住宅化改修の場合は3分の2が、それぞれ工事の翌年度の固定資産税から減額されるというもの。改正により特例の期限が2020年3月31日まで延長される。

不動産を買うときの売買契約書や、住宅を建てるときの工事請負契約書に貼る印紙税は、特例措置により軽減されている。例えば契約金額が1000万円超5000万円以下の場合の印紙税は本則では2万円だが、現行では1万円だ。この特例の期限を2年間延長し、2020年3月31日までとする。

税制改正大綱はあくまで与党による税制改正“案”だが、ほぼ大綱の内容どおりに改正されるのが通例となっている。今後は2018年1月からの通常国会に関連法案が提出され、3月末までに確定する見通しだ。

●参考
・平成30年度税制改正大綱

「あれ? この土地安い?」と思ったときに、気を付けたいポイントとは

「注文住宅でマイホームを建てたい」と思うなら、まずは土地を手に入れる必要がある。ポータルサイト等で土地を検索していると、たまに立地も広さも同じような条件なのに、お値打ちの土地が見つかることがある。安心して暮らせるなら何の問題もないが、事前にチェックしておくべきことがあるのではないか? 一級建築士の佐川旭(さがわあきら)さんに土地のチェックポイントについて教えてもらった。
なぜ、相場より安い土地があるのだろう?

まず、相場よりも安い価格で土地が売り出されるときには、一般的にどんな理由が考えられるかを聞いてみた。

・土地の形がいびつ
三角形や極端に長いなどの土地は、正方形や長方形などの整形の土地より評価額が低くなる

・土地が傾斜している
土地の一部または全体が傾斜している。平らな土地に比べて価格が低く抑えられていることが多い

・建物に囲まれた旗竿地(はたざおち)である
出入口となる通路部分が狭く、その奥に家の敷地となる部分が存在する旗のような形状の土地。日当たりが悪いなどの理由で価格が抑えられている

・接道(土地が接している道路の幅)の条件が悪い
建築基準法による接道義務に準じていない場合、建物が建てられない場合もある。建てられてもセットバック(建築物を道路の境界線から一定の距離だけ後退させること)の必要があり、敷地面積が削られる

・地盤が軟弱である
泥や多量の水を含んだ柔らかい土などからなる地盤。建物の重さを支えきれず、建物が沈下するおそれがある

つまり「地盤の良い整形地で建築基準法に準じた道路に面した開放感のある土地」というのが、一般的に評価が高く、価格も高い土地ということになるようだ。「同じようなエリアに位置していても、マイナスポイントがあることで土地の価格が安くなっているということはあります」と佐川さんは話す。

マイナスポイントは、設計次第でプラスに変えられる!?

それでは安い土地を選んではいけないのだろうか。答えはノーだそう。

「例えば三角形の土地ならば、角の部分を活かして、駐車場にしたり庭にしたりすることができます。傾斜地の場合は、通常の土地に立つ建物では味わえない絶景を得られることもあります。旗竿地は中庭をつくって空からの光を取り入れるなどの工夫で、開放感のある家にすることも可能です。

一般的にはマイナスでも、人によってはプラスに変わることもあります。ピンチはチャンスと考えて、設計の工夫で魅力的な家にすることは可能です。逆に欠点を魅力に変えた物件のほうが、唯一無二の住まいが出来上がることが多いですよ」(同)

地盤が心配な場合は、その場所が以前どんな用途に使われていたかをしっかり調べるといいそうだ。「行政のサイトなどで調べることもできますが、加えて昔から住んでいる近隣の方に話を聞いてみるのもいいですよ」(同)。地盤調査を購入前にできることはまれなので、情報を集めておくことは大切だ。

しかし軟弱な地盤の場合も、地盤改良をすれば家を建てられる強度は得られるそう。「地盤改良は100万円程度で可能です。むしろ、どんな土地であっても家を建てる前には必ず地盤調査をします。土地は個々で条件が違うので、きちんと調べて問題があれば改良しましょう。そうしておけば、どんな家を建てるにしても安心ですからね」(同)

建てたい家が実現できない可能性も? 必ず確認すべきこととは

マイナスがプラスに変えられるとはいえ、おさえておかなければならないポイントもあるようだ。

「土地には法的な制限があるので、自分の土地だからといって好き勝手に建てるわけにはいきません。用途地域、容積率、建ぺい率、高さ制限や斜線制限など、購入前にチェックするべき項目がいくつもあります。自分が建てたい家が実現できない場合もあるので、きちんとチェックすることをお勧めします」(同)

・用途地域
用途地域とは、住宅地、商業地、工業地など、土地利用を指定した12種類の地域区分のこと。用途地域によって住環境が左右される

・建ぺい率と容積率
建ぺい率とは、敷地面積に対する建築面積の割合。容積率とは、敷地面積に対する延床面積の割合のこと。同じ敷地面積でも建てられる建物の大きさが異なる

・高さ制限と斜線制限
高さ制限とは、その土地に建てられる建物の高さの上限を定めたもの。斜線制限とは、道路や隣地に影響する部分の建物の高さの上限を定めたもの。建物の形状や大きさが変わることがある

「これらに加えて、景観を維持するための景観条例や、がけ付近の建築を制限する『がけ条例』などの特殊な制限があったり、都市計画で道路予定地になっていたりする場合などもあります。いずれも家を建てる場合に、頭に入れておく必要がある大切なポイントです」(同)

何はともあれ、「どんな家を建てたいか」を家族で話し合おう

土地を購入する際は、事前に勉強しておきたいことが山ほどある。しかし、それ以前に重要なこともあるようだ。

「まず家族で、どんな暮らしをしたいか、そのためにどんな環境と住まいが必要かを話しあっておくことが大切ですね。自分たちが建てたい家によって土地選びも違ってきます」(同)

気になる土地を見に行くときも1人では行かずに家族で行くことが大切だ。

「朝、昼、晩、晴れた日、雨の日など何回も足を運ぶことを勧めます。同じ土地でも時間帯や気象条件で様相が変わります。音の問題なども時間帯によって変わる可能性があるので確認しておく必要があります」(同)

土地を購入することは人生でそう何度もない。ほとんどの人が家づくりに必要な条件や法規制を知るところから始めるはずだ。今まで聞いたこともない専門用語で頭が混乱してしまう可能性もある。そうならないためにも、まずは家族でどんな家を建てたいのかを話し合い、ある程度の知識を蓄えることが重要だ。そのうえで、可能ならば建築会社や建築士といった家づくりのプロに相談することを勧めたい。

●取材協力 
・株式会社 佐川旭建築研究所

マンションって、誰がどうやって管理してるの?マンションの「管理」を担う人たちに聞いてきた

「戸建て住宅と違って、マンションに住んでいれば自分以外の第三者が管理してくれる」という認識で分譲マンションを購入する人が結構いるようだ。しかし、いったいどこの誰が、いつ、どのように管理してくれているかについて、きちんと把握できているだろうか。分譲マンション購入を検討するなら、知っておきたい、マンションの管理の仕組みのイロハを取材してきた。
管理組合、管理者、理事会、管理会社、管理員…それぞれの役割とは?

「マンション管理」の構成員として、管理組合、管理者、理事会、管理会社、管理員と似たような言葉が羅列され分かりづらい。それぞれの立場や役割が違うので、それをまとめておこう。

【画像1】マンション管理の仕組み(画像提供/一般社団法人マンション管理業協会)

【画像1】マンション管理の仕組み(画像提供/一般社団法人マンション管理業協会)

まず管理組合とは「区分所有者が全員で建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(区分所有法第3条)」のことで、マンションを購入した人が構成員となる組織だ。つまり区分所有者による区分所有者のための団体である。ここで大切なことは、区分所有者は本人の意思に関係なく管理組合には必ず加入しなければならないということだ。「区分所有者=管理組合」ということである。「面倒なので管理組合には加入しない」といった選択の余地はない。

「一棟の建物全てを所有するオーナーが賃借人に貸している賃貸マンションは区分所有法の適用になりませんし、管理組合は存在しません。所有者が1人のオーナーだけなので建物の管理もオーナーの責任になります。分譲マンションの場合は専有部の管理は区分所有者が各々管理し、共用部は区分所有者全員で管理する責任があります」と、今回取材を受けていただいたマンション管理業協会、業務部の 山崎有恒さん。

建物等の管理は「区分所有法の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、管理者を置くという方法によって行われる(同法3条)」と決められている。

そしてここでの「管理者」とは区分所有者全体の集まりである管理組合の代表者にあたる。その管理業務を全員で行うことは難しいので、「集会(総会)の決議により管理者を選任し、選任された管理者が管理業務を実行すること(同法25条~29条)」となっている。多くのマンションではこれが「理事会」にあたり、その目的は、管理組合がするべき業務を執行する機関として機能することだ。会社で言えば取締役会に似たような役割になるだろう。

管理の具体的な業務については専門的・技術的な知識が必要なことも多く、管理組合と理事会だけで行うのは実際には難しい。管理業務を管理会社に一括して委託、あるいは一部を委託して行うのが通常だ。

つまり管理会社は、管理の主体である管理組合と締結した管理委託契約に基づいて管理業務を委託されているという立場だ。あくまでも管理に関する主役は管理組合であり、その意思決定に沿った「業務」を依頼されて実施するのが管理会社というわけだ。

国土交通省作成の「マンション標準管理委託契約書」では、下記のように管理業務を類型化している。

■事務管理業務
管理組合の会計の収入及び支出の調定、出納、当該マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整を期間事務というが、管理会社はこの3つを一括しての外部に再委託することは禁止されている。この業務に関連して、管理費、修繕積立金の収納があり、管理に管理業者が関与するため、財産の分別管理について、詳細な規定が設けられている。

■基幹事務以外の事務管理業務(理事会支援業務、総会支援業務、その他)
・管理員業務
一般的には通勤方式が多く、受付等の業務、点検業務、立会業務、報告連絡業務に細分化される。
・清掃業務
日常清掃(床の掃き拭きやちりはらい等を中心とした清掃)と特別清掃(定期的に床の清掃やワックス仕上げ等を行うことをいう)に細分化され、いずれも清掃員が作業を行う。
・建物・設備管理業務
建物点検、検査、エレベーター設備、浄化槽、排水設備、消防用設備、機械式駐車場設備が掲載されている。

「管理会社は、管理組合と『管理業務委託契約』を締結し、管理業務を委託される立場です。その管理業務のうち、『基幹事務』の会計面については管理会社の会計部が、マンションの実務的な運営面は一般的に『フロントマン』と呼ばれる担当者が対応する例が多いですね。そして管理業務のうち最も日常的な業務を担当しているのが一般に管理員と呼ばれる人たちです」と山崎さん。管理と言っても、その仕事内容は幅が広い。

「管理員室」の管理員さんは、毎日何をしているの?

管理員さんは、どのような立場なのかも聞いてみた。
「各管理員は管理会社と雇用契約を結んで各マンションに派遣されている場合が多いです。業務内容もあらかじめ管理会社と管理組合が決めた内容に沿って仕事の範囲が決められています。ごく稀に自主管理をしているマンションの場合は管理組合が直接管理員を雇っている場合がありますが、ほとんどの場合は管理会社の社員もしくは派遣です」とのこと。

次に管理員さんは一体どんな仕事をしているか、疑問に思ったことを聞いてみた。
「実際の仕事は大きく分けて受付業務、点検・巡回業務、立会業務、報告連絡業務等です。居住者や来訪者からの問い合わせ・ご相談の対応や集会室等共用施設の予約管理が『受付業務』。建物・設備の目視点検、無断駐車等の確認が『点検・巡回業務』。外注業者の業務履行やゴミ搬出時に立ち会う『立会業務』です。中には日常の清掃やゴミ出し等の『清掃業務』を管理員がかねている場合もあります」
マンションの規模によっては、各担当者が別々にいる場合もあるようだ。

住民から「自分の部屋(専有部)の電球交換をしてほしい」といった要望もあるらしいが、基本的には共用部の管理が中心だ。あくまでも「管理委託契約書」で決められていて、必ず年1回(契約期間1年の場合)は管理会社から区分所有者にその内容の説明が行われてから契約することになっている。つまりプラスαの要望があれば住民は管理組合・理事会に要望して、それが管理組合全体の要望であれば管理会社と協議して契約条項に入れる必要がある。管理員に直接交渉しても契約外の業務は依頼できないというのが通常だ。

つい、あれもこれもお願いしたくなるが、その業務が契約に沿っているかどうかは「管理委託契約書」で確認しておく必要がある。

あくまでも「管理組合」が管理の主役である

「マンションの管理」はめんどうなので他人事と思っていても、購入して区分所有者となった人は、同時に管理組合員になり、主体的に取り組む責任が生まれるのだと思う。それはマンションを購入する前から頭に入れておきたい。

「管理のいい悪い」が取りざたされることが多いが、実はそれを決めるのは区分所有者であり、その集合である管理組合だ。マンションの「管理規約」にしても、「管理委託契約書」にしても、個々のマンションにあったものに総会の決議で変更はできる。またマンション管理会社や管理員を信頼して、存分に働いてもらうようにするのも、管理組合の能力にかかっている。快適なマンション生活のために知恵を出し合って工夫していくと、自ずと「管理のいいマンション」にたどり着けることが可能であり、強いては自分たちの財産を守ることにつながる。

最近では、マンションの管理を自分ごとと捉え、積極的に参加している理事たちの話題も耳にする。マンションの理事の情報交換の場も生まれつつある。しかし一般的にはまだその意識は低い。自分自身の資産運用の1つとしても、もっと区分所有者一人ひとりが主体的に「マンション管理」にかかわる必要がある。

●取材協力
・マンション管理業協会

サイトを利用して1億円の節約を実現、マンション大規模修繕の見直し術

マンションも築10年が近づいてくると、そろそろ初めての大規模修繕を考えなければならない。しかし「大規模修繕はどこに頼めばいいのか」、「そもそも相場が分からない」等々、マンションの管理組合の悩みは尽きない。今回、大規模修繕を比べられる「マンション修繕入札サイト」を活用して、1億円もの節約を実現した管理組合があると聞き、その実情を聞いてみた。
そもそも大規模修繕は誰がどのように行うのか

管理組合に建築の専門家がいればいいが、おそらくいない場合が多いはずだ。また組合員に建設会社に勤めている人がいても改修部門に携わる方でないと知識は十分ではない。おそらく最初は委託している管理会社に頼むことが多いだろう。しかしそれが正解なのだろうか。

大規模修繕の依頼方法として、現在は大きく2つの方法がある。責任施工方式と設計監理方式だ。

「責任施工方式」とは、マンション管理組合と工事施工会社が工事請負契約を直に結ぶ方式。この場合は、調査診断、改修設計、資金計画から実際の工事までの全てを1社がおこなう。

「設計監理方式」とは、第三者(専門家)である設計コンサルタント会社に、調査診断、改修設計、工事施工会社選定補助、資金計画、工事監理などを委託する方法だ。「管理」ではなく「監理」ということばを使う意味は、単に工事を管理するのではなく、工事の内容自体も現場で監督するということで使われている。

最近では「チェック機能が働く」と、設計監理方式が人気を集めている。工事費以外に、設計監理業務費用として専門家の費用が発生するが、建物診断から始まり、工事の仕様決定、施工会社選定の補助、工事が始まってからは現場巡回や施工内容のチェックも委託できるので注目されている。

しかし国土交通省住宅局からの「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」(平成29年1月27日)という通知でも示されたように、設計会社と施工会社の談合があったり、一部の設計コンサルタントがバックマージンをもらうなどの事例があり、設計コンサルタント選びも注意が必要だ。

それではどうやって適切なパートナーを選べばいいのか。紆余曲折しながら、実際に大規模修繕に取り組んだ例を聞くのが一番早い。ということで、あるマンションの事例について取材してみた。

修繕積立金の予算額とぴったり。見積もり額に不信感…

築14年、約280戸のAマンションは首都圏の郊外に位置するマンションだ。修繕委員会としてかかわっているAさんにお話を伺った。

「2014年2月、築10年を越えたところで大規模修繕に取り組むことになりました。まず管理を委託していたX管理会社自身が、自社と自分たちの推薦する2社の合計3社での設計監理の相見積もりを出してきました。結局、総会では最安値のX管理会社を設計監理者として可決しましたが、X管理会社主導の不透明な決め方にすっきりしませんでした」とAさん。

そのX管理会社が設計監理者として算出した当初の大規模修繕工事の設計見積もりは3億8000万円という提示だった。「当時、修繕積立金の額がちょうど同額程度貯まっていたので、どうも金額ありきの見積もりではないかと不信感が生まれました」

翌年の3月に修繕委員会が発足。委員会の中には、X管理会社を信用する人たちと、X管理会社に不信感を持つ人たちに分かれていた。修繕委員会の中でX管理会社の見積もりに不信感を持つ委員が「1戸80万円位が相場だと聞いている」という話が出ると、管理会社派の委員が「それなら1戸80万円の見積もりを作ればいい」と言い出す人もいた。実際それに応じてX管理会社は2億2000万円の設計見積もりを提示してきたそうだ。

サイトを利用して最終的に1億円の節約を実現できた

いったい見積もりとは何のためにあるのかと不安感を持つようになったAさんたちは、8月に「マンション修繕入札サイト」を知り、客観的な判断を求めて相談することにしたそうだ。「単なるマッチングサイトではなく、コンサルティングもしてくれるということで信頼できそうだと思いました」とA さん。

「入札サイトの担当者から、同じX管理会社が管理し設計監理も請け負った埼玉のBマンションの事例を聞いたのですが、X管理会社が仕様や数量を作成、計算した統一の見積内訳書について、Zという設計事務所に検証してもらったところ、たとえば塗装面積がマンションの面積より広くなっているなど、不透明に4000万円ほど増額されていたことがあったというのです」

そこで、Aマンションでも、Bマンションで設計検証をしたというZ設計事務所に頼むことにしたそうだ。
結局Z設計事務所にX管理会社の設計見積もりの設計検証をしてもらったところ、同じ工事内容で3億8000万円から3億2000万円へと設計見積もりが下がったそうだ。

X管理会社に不信感を抱いた修繕委員会と理事会は2016年7月には臨時総会を開き、設計監理をZ設計事務所に引き継いでもらうことに決定した。12月には入札サイトや住民紹介、業界新聞を使っての公募など、幅広く募集して、工事会社15社が応募してきた。

「その間も反対派の住民からはかなりの抵抗にあいました。X管理会社と結びついている住民がビラを配るなど、臨時総会は大荒れに荒れましたが、結局X管理会社を設計監理者から外すことができました」

修繕委員会としてはオーバースペックである工事を取りやめるなどZ設計事務所とともに工事内容も精査し、結局入札サイトの会員である新工事会社が2億6000万円で請け負うことが決まった。追加工事の2000万円を含めて合計2億8000万円に工事費が決定。最初の見積もりから1億円も節約できることになった。

一連の事態を鑑みて、Aマンションは管理の委託自体も他の管理会社に変更した。そのため年間の委託料も300万円下がったそうだ。

公平・客観的な情報を得るためには外部組織を上手く活用するべき

ほとんどのマンションでは、管理を管理会社に委託している場合が多く何の疑問も持たず、大規模修繕も管理会社におまかせという例も多いだろう。

管理会社自身が施工会社として大規模修繕工事に手を挙げる場合以外でも、管理会社と関係のある工事会社を紹介されることも多く、適正利益以外のマージンが上乗せされる事もあるようだ。

そもそも見積もりが上がってきても、それが劣化具合に応じた必要な工事のものかどうか判断するのは管理組合側では難しい。そのとき、どんな点をチェックするべきだろうか。

「責任施工方式で工事会社から見積書を取得した場合、各社がバラバラな仕様項目や数量を入れてくる事が多いです。その場合、マンションの劣化具合に対してどの仕様項目が必要か、またその仕様のグレードは適正か、数量は正しいのか、という判断を管理組合側でしなくてはいけません。その際、工事金額が安いというだけで施工会社を決めてしまうと、手抜き工事をされたり、その結果大規模修繕工事が終わってまだそれほど月日が経っていないのに修繕箇所が再度劣化したりする事もあります。このような事を念頭にいれて信用のおける会社を吟味することが大切です」と入札サイトの担当者。

「設計監理方式の場合では、大規模修繕工事の経験豊富な一級建築士が理事会、修繕委員会の意見をくみ取りながら、今行うべき工事が何かを教えてくれます。劣化具合からして先送りできる工事内容と今手を打つべき工事内容を見極めてくれますし、例えば使い勝手が悪い箇所の改良や、住民の多くが希望する駐輪場の増設工事なども、資金面を含めてアドバイスしてもらえるため、管理組合としては必要な工事と適正金額の判断がしやすく安心です」(同上)

見積もりを取る前に、管理組合が建物・設備の劣化を把握する

正しい見積もりを取るためには、まずマンションが実際にどのような状態になっているかの現況把握が第一歩だ。建物や設備の各箇所について劣化度をランク付けして、実際の工事の必要性・緊急度を明確にする必要がある。そのために、まずは簡易建物調査診断を無料でやってくれるところ(設計事務所・施工会社・入札サイトなど)があるので、そのようなところを利用して複数の診断資料を得るのも1つの手だ。

簡易版の調査診断で、ある程度の概要を把握し、より詳細な状況を知るために正式な調査診断を有料で依頼するのがよいだろう。いずれにしても、管理会社にお任せすればいいというものではなく、管理組合自体がマンションの現状をきちんと把握しておくことが大切だ。

自分たちが納得した工事内容を基本に見積もりを取れば、高すぎる費用や安すぎる費用は排除できる。また自ずと相場観も養えるはずだ。そのためにも工事費の見積もりは項目ごとにきちんと出してもらおう。素人でもわかる見積もりを作ってもらうのは当然のことである。

大規模修繕はあくまでも管理組合が主導権を握り、必要な工事を適切な費用で実施するべきだ。そして公平・客観的な情報を得るためには外部組織を上手く活用するべきだろう。

●取材協力
日本システムマネジメント株式会社 「マンション修繕入札サイト」
●参考
国土交通省:設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について

住民経営マンション「管理はつなぐ」[5] 「クロスエアタワー」

住民経営マンションを取り上げる本連載の第5回では、クロスエアタワーを紹介する。高架の首都高3号渋谷線と山手トンネルの高低差約70mを接続し、ジャンクション、公園、集合住宅などを合わせて建設。世界でもほぼ前例のない高度な土木技術を駆使した複合再開発で生まれたマンションだ。メイン写真手前は9階で接続する人工庭園。2回転ループした高速道路の屋上、地上約35mの高さにつくられており、未来感漂う先鋭的な構造だ。
ヨガ教室や、ケーキ教室など多彩なイベントが盛況

第4期理事長の礒辺氏が話す管理組合の方針は、クロスエアタワーの未来的な外観と異なる家庭的なものだった。
「縁あって同じマンションに暮らすのだから、やはり良いコミュニティを築きたいというのが理事会の総意です。そのため、住民間の交流を促そうといろいろなイベントを行っています」
その内容が充実している。2年前から始めたヨガ講座は6階の広いラウンジを使って月に十数回実施。著名インストラクターの指導が好評で、毎回約15~30名の枠がすぐに埋まる。昨年10月半ばには初の試みとして、タワー屋上で中秋の名月に照らされながらのヨガも実現させた。また、住民自ら名乗り出て講師役を務めるクリスマスケーキ教室開催や、ひな人形の寄贈など理事以外の住民からの働きかけも目立つ。「新年会、ハロウィン、クリスマスツリー点灯式+コンサートなどのイベントもあり、これらが盛況なことから住民の皆さんが能動的に動いてくださるようになったと思います」

(左)ヨガ教室は初心者~中級者までレベル別に開催。男性も3~4割参加 (右)住民から寄贈されたひな人形は計2台。春に1階グランドロビーに飾られる (画像提供/クロスエアタワー)

(左)ヨガ教室は初心者~中級者までレベル別に開催。男性も3~4割参加 (右)住民から寄贈されたひな人形は計2台。春に1階グランドロビーに飾られる (画像提供/クロスエアタワー)

トランクルームの増設など、日常的に使う設備改善も

さらに、住民の声や状況に応じて共用施設のカスタマイズも進めている。「ハイルーフや大型SUVなどの所有者が想定より多かったため、余裕があった普通車用の駐車スペースを大型車用に割り当てました。また、駐輪場内に各々の空気入れが置かれて雑然としていたので、エアーコンプレッサーを購入して各自の空気入れを片付けていただいたほか、空きスペースを活用してトランクルームも増設しました」
定期的なイベントだけでなく、住民の日常的な暮らしにも目を配り、整然として快適な共用空間を保つ。こうした取り組みが功を奏して住民の愛着は着実に増しているようだ。それを象徴するのが、理事の成り手に困らないことだと礒辺理事長は話す。
「40代、50代が中心で忙しい世代ですが、主体的にマンション管理に臨もうとする姿勢を感じます。この機運を次につなげていきたいですね」

(左)新年会やハロウィン、クリスマスツリー設置など主なイベントの会場になる1階グランドロビー(右)4つあるゲストルームは大人気で2 カ月先まで予約が入る。家具はすべてイタリアの人気ブランド、カッシーナ(写真撮影/柴田ひろあき)

(左)新年会やハロウィン、クリスマスツリー設置など主なイベントの会場になる1階グランドロビー(右)4つあるゲストルームは大人気で2 カ月先まで予約が入る。家具はすべてイタリアの人気ブランド、カッシーナ(写真撮影/柴田ひろあき)

建築・住宅計画等を専門とする東京大学教授 大月敏雄氏が語る建築家の視点
世にあるマンションの組合理事には比較的男性が多いが、ここは代々、女性理事が目立つという。女性ならではの視点で商業施設のサインが悪目立ちしないように要望を提出したり、シェアサイクル車体のカラーリングにも配慮するなど、日々の生活に関連する提言が実現していることは、住民の暮らしの満足度を押し上げてきたはずだ。このマンションのように男女の理事がバランス良く存在すると、住み心地の向上につながるのではないだろうか。
また、駅周辺の再開発とグローバル化が進む渋谷の市街地に近いことから、物件内表示の多言語化も検討材料に挙げているとのこと。都心の物件なら今後の国際化は不可避なだけに、参考にしたい取り組みだ。国道246号線と山手通りの交差点に面した商業施設。品ぞろえ豊富なスーパーは25時まで営業(撮影/柴田ひろあき)

国道246号線と山手通りの交差点に面した商業施設。品ぞろえ豊富なスーパーは25時まで営業(撮影/柴田ひろあき)

住宅部会は計11名、非住宅部会は計3 名で構成。月1 回、定例報告や商業施設サイン変更の事前確認、イベント計画の共有などを行う。住宅部会は副理事長3 名で理事長を補佐する

住宅部会は計11名、非住宅部会は計3 名で構成。月1 回、定例報告や商業施設サイン変更の事前確認、イベント計画の共有などを行う。住宅部会は副理事長3 名で理事長を補佐する

※この記事は『都心に住む』2017年9月号(7月26日発売)からの提供記事です
※管理組合のルールや方針は変更される場合があります

参考にしたい「理想の新婚部屋」はどれ? ライフスタイルに合わせた4つの間取りを紹介

結婚情報誌「ゼクシィ」編集部とデベロッパーの伊藤忠都市開発が共同で、新婚夫婦向けの「理想の新婚部屋」を4タイプ提案している。新婚といっても、人それぞれ新婚生活の過ごし方が異なるため、理想の部屋も変わるのだという。実際にどんな間取りが提案されているのか?詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「ゼクシィ」と「伊藤忠都市開発」の共同企画『理想の新婚部屋』4タイプの人気投票を受付開始/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発どの「理想の新婚部屋」が好み?ライフスタイルで間取り・内装は大違い!

「理想の新婚部屋」を4タイプ用意したのは、ゼクシィ編集部が花嫁285人に調査し、新婚夫婦のライフスタイルを分析した結果、大きく4タイプあることが分かったから。伊藤忠都市開発のマンションのモデルルームなども参考にして、両者で検討してそれぞれの理想の空間を具体化していったという。

新婚部屋の基本は、バルコニー付きの50m2の空間だ。ライフスタイルに応じて、間取りや内装を大胆に変えて次のような図面で表現している。詳しい間取り説明は、『ゼクシィ』首都圏版 1 月号や「理想の新婚部屋投票サイト」に掲載されているが、ここでは筆者の各間取りに対する印象を述べてみたい。

●Aタイプ
【画像1】いつだってラブラブでいたい『恋人夫婦のルームロマンス』(出典/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発のプレスリリースから転載)

【画像1】いつだってラブラブでいたい『恋人夫婦のルームロマンス』(出典/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発のプレスリリースから転載)

Aタイプは、いつでも二人でいたい、互いの存在を感じていたい夫婦向けの間取りだ。メインルームは大きなベッドを置いたリビング兼寝室。ソファに座ったりベッドの上でごろごろしながらテレビや映画の視聴ができる。バスルームが大きいのも特徴で、これなら二人一緒に入ることも可能だ。玄関に2人の思い出を飾れるメモリアルコーナーを用意するといった工夫も。

この間取りの場合、来訪者の居場所があまりないので、基本的に二人だけの時間を楽しみたい夫婦向きだろう。独立したダイニングスペースがなく、リビングのソファがそれを兼ねるので、普段は互いに仕事が忙しくて一緒にじっくり食事をする機会が少ない夫婦という想定だろうか。

互いが視界に入ることの多い間取りなので、違うことをしていても相手の存在を感じられるが、一方で室内から気持ちを解放したいと思うことも。そのとき生きてくるのが、中央のガラス張りの中庭空間なのだろう。非日常世界がどこにいても見えることで、気持ちがリセットできるのかもしれない。

●Bタイプ
【画像2】程よい距離感で、ゆる~く一つが心地よい『猫っぽカップルの気まま暮らし』(出典/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発のプレスリリースから転載)

【画像2】程よい距離感で、ゆる~く一つが心地よい『猫っぽカップルの気まま暮らし』(出典/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発のプレスリリースから転載)

Bタイプは、間仕切りのない開放的な空間で、室内での行き来がしやすい。相手がどこにいるか自然と感じられるようになっているが、壁に向いた読書や趣味のための小さなカウンターも複数用意されているので、一人で集中作業をする場所も確保できている。

この間取りの大きな特徴は、平面の図面では分かりにくいのだが、室内空間の高低差を活用している点だ。ダイニングと一体のキッチンは、土台を下に敷いてここだけ高くしている。周囲が見渡せる工夫だ。ベッドはロフトに配置(ハシゴで移動)していて、その下は収納などの閉じた空間として使えるようになっている。ただし、高低差を活用するには天井の高さが必要。天井が低いと逆に圧迫感が生じてしまうからだ。

ほとんどの時間は相手の行動を見ながら、離れたり一緒に行動したりといった選択ができる間取りなので、ゆる~くつながっていたい夫婦向き、あるいは開放的な間取りが好きな夫婦向きといえるだろう。

●Cタイプ
【画像3】ふたりもいいけど、ひとり時間も大事『七夕カップルの愛ある家庭内週末婚』(出典/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発のプレスリリースから転載)

【画像3】ふたりもいいけど、ひとり時間も大事『七夕カップルの愛ある家庭内週末婚』(出典/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発のプレスリリースから転載)

Cタイプは、玄関から入るとまずそれぞれの収納付き個室に入る間取りだ。夫婦といえども自分の時間を大事にしたい、睡眠をしっかりとりたいといった夫婦向きだろう。

来訪者の動線も、必ずどちらかの個室を通ることになる。一方で、LDKのスペースもしっかり確保している。くつろぎ空間として、そのままソファとしてもベッドとしても使える「デイベッド」を据え、ごろごろしたりうたたねしたりしながら夫婦二人の時間を楽しむこともできる。

「七夕カップル」とはうまく名付けたものだ。互いが個室にいる時間が長くならないように、夫婦一緒の時間はラブラブでいたいという愛の強さがあってこそ生きる間取りか?

●Dタイプ
【画像4】みんな集まれ!カップルから家族になっていく『カジュアル夫婦のお家フェス』(出典/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発のプレスリリースから転載)

【画像4】みんな集まれ!カップルから家族になっていく『カジュアル夫婦のお家フェス』(出典/リクルートマーケティングパートナーズ・伊藤忠都市開発のプレスリリースから転載)

Dタイプは、必要なプライベート空間をコンパクトに集約し、バルコニーと一体にしてLDK空間を活用できるようにした間取りだ。

大きなキッチンカウンターを囲むダイニング空間とグニャグニャソファを置いた「ふわモコスペース」と名付けたリビング空間を独立して確保している。機能分けをしたLDKは来訪者を迎えるハレの時間も、夫婦で過ごす日常のケの時間も、常に使われる空間となる。

玄関からLDKへの動線も兼ねる広い廊下的な空間は、子どもの遊び場になる「キッズランド」として提案されている。子どもと大人のパブリック空間を分けるという発想のようだが、来訪者の荷物置き場や夫婦の収納置き場になってしまう危険性も感じる。

ホームパーティー好きの夫婦、あるいはパブリックとプライベートなど機能をしっかり分けたい夫婦向きと言えるだろう。

人気投票の結果で理想の新婚部屋が実現する?

通常のマンションでは、できるだけ多くの人に買ってもらうために、万人受けする間取りや内装が採用されることが多い。今回提案された4タイプの間取りは、新婚夫婦に限らず、ライフスタイルが確立している夫婦に合うように、かなり大胆な間取りとなっている。

50m2という制約があるので、LDKも寝室も収納も水まわりも広く……ということはできない。どこを重視してどこを妥協するかメリハリをつけた結果が、個性的な間取りを生んでいる。こうした間取りの考え方は、これからリフォームする人や家を建てる人にも、参考になる点があるだろう。

提案する4タイプについて、人気投票が2018年1月31日まで行われている。その結果を受けて、実際にその間取りが伊藤忠都市開発の新築マンションで採用されるという。実現した部屋も見てみたいものだ。

●理想の新婚部屋人気投票サイト
https://www.e-uketsuke.jp/itochu-shinkon/

「旧耐震」って危ないの? それでも住みたいならどう選ぶ?

「少しでも賃料が安い物件に住みたい」あるいは「かっこいいリノベーションマンションに住みたい」……。そんなとき、候補に挙がるのが築年数を経た中古マンションだ。しかし、大型地震が頻発している昨今、いわゆる「旧耐震」の物件に不安に感じる人も多いだろう。そこで、耐震制度そのものの解説から、旧耐震物件に住みたい場合はどう選んだらよいかを、碓井建築オフィス代表で一級建築士の碓井民朗(うすい・たみお)さんに聞いてみた。
そもそも「新耐震」と「旧耐震」って、どういうこと?

中古マンションを選ぶときの基準として、新耐震か旧耐震であるかはよく取り沙汰される。だが、そもそも旧耐震・新耐震とはいったい何かについて、一般人の知識は曖昧であることも多い。

「耐震基準というのは、建物が地震の震動に耐えうる能力を定めるものです。1919年に日本で最初の建築法規である『市街地建築物法』が制定されますが、最初は木造のみの基準でした。関東大震災の次の年の1924年に同法が規則改正され、耐震基準が導入されました。その後1950年に同法が廃止され、あらたに『建築基準法』が制定され、その中で耐震性に関する基準ができたのです。

その後も大きな地震があるたびに見直されています。例えば1968年の十勝沖地震を経て1971年に建築基準法の改正があり、鉄筋コンクリート造の柱の帯筋が強化されました。さらに1978年の宮城県沖地震を経て1981年6月に大きな『耐震基準』の改正がありました」(碓井氏)

なかでも大幅な改正が行われたのが、1981年6月1日。耐震設計法が抜本的に見直された。
「現在では1981年以前の基準を『旧耐震』、以後の設計法を『新耐震』と呼んでいます」(同)
「旧耐震」では、震度5程度の地震に耐えられることが基準だったが、「新耐震」では、建物の倒壊を回避するだけでなく、建物内の人命が重要視され、比較的よく起きる中程度の地震では軽度なひび割れ程度、まれに起きる震度6~7程度の大きな地震でも崩壊・倒壊しないことが求められている。

「注意したいのは、新耐震かどうかの判断は建物が完成した『竣工年』ではないということです。特にマンションは完成まで時間がかかるので、1982年に完成したマンションでも、建築確認済証の交付日が1981年6月1日以前であれば旧耐震になります。中古マンションや中古住宅を購入する場合は、不動産販売会社や自治体で確認する必要があります」(同)

耐震改修工事の実施率はわずか5.9%、なぜ進まない?

これだけ大きな問題なのに耐震補強工事はあまり進められていない。2013年に東京都が発表した「マンション実態調査(※1)」では、都内にある旧耐震基準の分譲マンションのうち耐震診断を行った物件は17.1%、実際に耐震改修工事の実施率は5.9%となっている。

つまり8割以上のマンションではマンションの耐震診断すら行っていないということだ。その理由についても聞いてみた。

「耐震補強工事は実は難しいのです。1階のピロティ部分(※2)を補強しただけで耐震工事をしたと言っている場合がありますが、『耐震補強工事』は全ての階を行わないと効果はないと思います。住戸のバルコニー側や廊下側の外壁には『筋かい』(※3)が最低限必要になりますが、技術的には可能でも実際には無理です。『筋かい』を入れるとなると住戸内での生活が不自由になりますし、大変な工事費の負担になります」と碓井氏。

耐震診断自体に費用がかかるうえ、不適格という結果が出れば耐震工事にどれだけ費用がかかるか分からない。結果的に耐震診断も実施しないという結論になる場合が多いようだ。

旧耐震物件に住むなら? 中古マンションの選び方

しかし旧耐震のマンションは、都心からのアクセスに恵まれた立地が多い。新築マンションでは手が届かない場合でも、中古マンションだからこそ住めることもあるはずだ。どうしても住みたいと思う際のアドバイスを聞いてみた。

「どうしても旧耐震のマンションを選ぶ必要があるならば、私は『壁式構造』(※4)のものをすすめます。壁全体で建物を支えているので強度が『ラーメン構造』(※4)よりも高いです。阪神・淡路大震災でも、5階建て(高さ地上15m)以下の『壁式構造』については被害が少なく、また、少数の被災事例も、地盤の関係で沈下や傾斜が生じたもので、建物の壁等の破損はほとんどなかったと言われています」(同)

立地についてはどこをチェックすべきだろうか。
「築年数を経た建物であれば、より地盤がしっかりしていることが重要視されます。国土交通省による国土地盤情報検索サイト(KuniJiban)や行政が公開している液状化予測図等を確認しておくのも重要ではないでしょうか」と碓井氏。

中古マンションの購入を検討する場合、やはり「旧耐震であるか新耐震であるか」ということが、大きなチェックポイントであることが分かった。併せて立地条件や構造など、さまざまな条件を照らし合わせることも大切だ。住まいは資産としてはもちろん、人の暮らしや命を預かるものなので、冷静に判断する必要があるだろう。

●取材協力 
・碓井建築オフィス●参考資料と注釈
(※1)マンション実態調査(東京都)
(※2)1階部分を柱だけで構成した吹放しの空間
(※3)建物の構造を強固にするために、柱と柱との間に斜めに入れる部材。
(※4)鉄筋コンクリート造には「ラーメン構造」と「壁式構造」の2種類の形式がある。「ラーメン構造」とは、柱と梁により構成されている構造。一方、「壁式構造」とは、柱がなく、壁梁や壁により、支えられる構造であり、通常は5階建てで地上15m以下までの建物に採用される。

なぜ空き家は増えるのか?そのヒントが、人気アニメの間取りに隠されていた

わが国の空き家数はもうすぐ1000万戸に迫ろうとしている。7軒に1軒は空き家だ。しかし、日本では欧米に比べて、中古住宅の取引は低い水準にある(2013年国土交通省「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」)。その理由は、親世代の家の間取りに理由があるという。埼玉県で、行政の立場から空き家問題に取り組むお二人にお話を聞いた。

時代を代表する4つのアニメ、その間取りから浮かび上がるのは……?

親世代の生活や住宅スタイル、ひいては「間取り」がその子世代の暮らし方にはマッチしない!? そんな問題提起をしたのは、埼玉県鴻巣市 都市整備部副部長の高橋英樹さんと、埼玉県庁 都市整備部 建築安全課企画担当主幹の小松克枝さんだ。日本人の生活スタイルと住宅の間取りについて、人気アニメに登場する住宅、磯野家(サザエさん)とさくら家(ちびまる子ちゃん)、野原家(クレヨンしんちゃん)、天野家(妖怪ウォッチ)の4つを比較し、その変遷を分析している。

着目したキーワードは次の2つだ。

◎家族構成(多世代同居・核家族)
◎家族のコミュニケーション空間の割合(居間・リビング)

いったいどういうことなのか。さっそく4つのアニメの間取りを見てみよう。

[1]サザエさん:磯野家の間取り
原作の4コマ漫画は、昭和20年代に新聞連載としてスタートしている。磯野家の家族構成等の設定は戦前のモノであったが、1969年(昭和44年)のアニメ化の際に時代設定等がいったん整理された。このため「昭和40年代」の設定と言える。

特徴
設定:昭和40年代
■3世代の同居
■それぞれの世代に個別の部屋を確保
■家族の団らんは主に居間(和室・8畳)
■家族のコミュニケーション空間は限定的【画像1】サザエさん:磯野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

【画像1】サザエさん:磯野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[2]ちびまる子ちゃん:さくら家の間取り
作者の子ども時代の設定で、昭和40年代後半から50年代前半をベースにしている。

特徴
設定:昭和40~50年代
■3世代の同居
■それぞれの世代に個別の部屋を確保
■家族の団らんは主に居間(和室・8畳)
■家族のコミュニケーション空間は限定的【画像2】ちびまる子ちゃん:さくら家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

【画像2】ちびまる子ちゃん:さくら家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[3]クレヨンしんちゃん:野原家の間取り(1階)
漫画の連載は1990年(平成2年)で、1992年(平成4年)にアニメ化されている。

特徴
設定:平成初期
■両親と子どもの核家族
■家族の団らんの場は、リビング・ダイニング&キッチン
■1階の大部分が家族のコミュニケーション空間【画像3】クレヨンしんちゃん:野原家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

【画像3】クレヨンしんちゃん:野原家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

[4]妖怪ウォッチ:天野ケータくんの家
2012年(平成24年)に漫画での連載がスタートし、2014年(平成26年)にテレビアニメがスタート。平成20年代を代表する大ヒットアニメ。

特徴
設定:平成20年代
■両親と子どもの核家族
■家族の団らんの場は、リビング・ダイニング&キッチン
■1階の大部分が家族のコミュニケーション空間【画像4】妖怪ウォッチ:天野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

【画像4】妖怪ウォッチ:天野家の間取り(画像提供/高橋英樹さん)

ここまで、日本を代表する4つのテレビアニメから間取りの変遷を見てもらった。
高橋さんは「ここから読み取れるのは、核家族化の進展と生活スタイルの欧米化です」と分析する。
「平成に入ったころから祖父母世代用の部屋と来客用の空間がなくなりました。平成20年代になると和室も消え、1階空間のほぼ全てが家族のコミュニケーション空間になりました」(同)

確かに、筆者が最近目にする新築住宅の広告でも、システムキッチンや床暖房はすでに定番アイテムとなり、10年ほど前には目新しかった「リビングイン階段」や「メザニン(中2階)」なども一般的になった。和室はノスタルジー空間となり、来客用の空間は親子間を含む家族間のコミュニケーションのための空間に吸収されていった。

高橋さんはその結果として、リビング空間が広がり、現在の住宅では家族のコミュニケーション、とりわけ「親と子がどうかかわるか」が、家の間取りにも影響しているのではないかと考えている。

”今どきの間取り”の中古住宅も増える?

高橋さん自身、10年前に熊谷市の実家を受け継ぐ際に、すでに築40年ほどたっていた親の家を取り壊して新築した。

当時、妻と子ども1人(現在は2人)と暮らしていた高橋さんは
「ユニットバス、システムキッチン、床暖房、これら3つの要素が僕らの世代が家に求めるものだと思います。
設備が古いうえに、親が建てた家は“ちびまる子ちゃん”の家のような中廊下型で、自分の家族の暮らしには向かないと感じました。実家では、家族5人が6畳の居間で窮屈にテレビを見たり食事をしたりしていましたが、廊下をはさんだ二間続きの和室はほとんど使われていませんでした(笑)」
と打ち明ける。

一方、小松さんは「私は、10年ほど前、実家の近くに中古住宅を買ってリフォームして暮らしています」と言う。

「私の家族は夫と子ども2人ですが、1990年代後半に建てられた住宅で“クレヨンしんちゃん”の家のような、リビング・ダイニング&キッチンで家族団らんできるタイプだったことと、耐震性が高かったことが理由として大きいでしょう。
同規模の新築物件より安価なこともお得感がありました。私は仕事柄、スクラップ&ビルドではなく、躯体さえしっかりしていれば既存の建物を再活用したいという思いもありました。実は、高橋さんの言う住宅に求める3つの要素(ユニットバス、システムキッチン、床暖房)は無かったのですが、おいおいリフォームしていこうと思っていたので気になりませんでした。入居前に内装を、入居後に洗面・ユニットバス、外構と、数年ごとにじっくり、自分好みにリフォームして楽しんでいます」

そんな小松さんに対し高橋さんは
「抵抗感がなくリフォームを選択できる人って、まだあまり多くないのではないでしょうか。私の実家のように築40年以上の住宅の場合、リフォーム後の姿をイメージすることは難しい。みんながみんな建築の知識をもっているわけではありません。10年前の私もそれができませんでした。今から考えると少し残念な気もします」
と話す。

高橋さん、小松さんともに、埼玉県におけるこれからの住宅のあり方、そして空き家問題に行政の立場から対策に取り組んでいく立場にある。
小松さんは「自治体が目指す方向性や、住まい手の住宅の選び方はいまだ新築志向という現実と、空き家の数を抑えたいという目標とのギャップに戸惑うこともあります」と打ち明けてくれた。

埼玉県は、1970年から2010年までの40年間で、人口は約2倍に増加した。しかし、日本全体の少子高齢化は埼玉県でも例外ではなく、これから人口減少が始まると予想されている。

小松さんは「これからは、平成以降に建てられた、リビング・ダイニング&キッチンが一体となった今どきの家族にも通用する間取りの中古住宅が多くでてきます。今の生活スタイルに適したこうした中古住宅を購入する人も増えてくるでしょう」として

「中古住宅を次の利用者に受け継いでいくためには、その地域で活躍する建築士さんや不動産屋さんの役割が非常に大きいと感じています。多くの人が『買いたい、住みたい』と思えるすてきな住まい方を提案してもらいたい。そのことが、誰も住まない空き家を少なくすることにもつながります」と、その思いを語ってくれた。

●取材協力
・埼玉県都市整備部建築安全課