『魔法のリノベ』ドラマ秘話。コロナ禍で人生を見つめ直している今こそ共感のテーマ 脚本家・プロデューサーインタビュー

「まさかリノベがドラマになるとは。感慨深い……」「国土交通省住宅局イチオシ」など、不動産業界のみならず、住まいを管轄する国土交通省まで注目しているのが、今クールのテレビドラマ『魔法のリノベ』(主演:波瑠)です。その魅力はどこにあるのでしょうか。プロデューサーの岡光寛子さん、脚本を担当するヨーロッパ企画の上田誠さんにお話を伺いました。

きっかけはコロナ禍。2年の構想制作期間を経て実写ドラマ化!リノベを扱ったドラマ『魔法のリノベ』が放映中(写真提供/カンテレ)

リノベを扱ったドラマ『魔法のリノベ』が放映中(写真提供/カンテレ)

今ある建物に対して、新たな機能や価値を付け加える「リノベーション(以下、リノベ)」。修繕をして元通りにする「リフォーム」ではなく、間仕切りを広くする、住宅設備をより現代的で使いやすいものへと変更するなどの工事をすることをいいます。

2022年7月から放映されているテレビドラマ『魔法のリノベ』(カンテレ・フジテレビ系、月曜午後10時)は、このリノベをテーマにしたお仕事ドラマ。このところ住まいや不動産を扱ったドラマはあるものの、主に家を買う、売る、借りるといった題材を扱っているため、「まさかリノベがテーマになる日がくるとは……」と不動産や住宅関連企業、国土交通省まで注目、SUUMOジャーナルも放映開始から熱く見守るなど、まさに「業界騒然」なドラマなのです。

まずは、リノベを扱うようになった、その背景などを岡光プロデューサーに伺いました。
「今回のドラマは、星崎真紀さんの同名マンガが原作です。きっかけとなったのは2年前のコロナ禍。半強制的に自宅で過ごす時間が増え、家や家族、仕事や人生についてあらためて考えた人は多かったはず。私もそのひとりですが、住まいをリノベすることで人生もリノベしていく、人間関係や壊れたものを再生していくというテーマに惹かれました。脚本を上田さんにお願いし、月曜22時にふさわしい実直なお仕事ドラマに、遊び心とクセを付け加え、ヒューマンとコメディが行き交うエンタメにしています」と話します。

波瑠さんが演じる主人公の小梅。もともとは大手リフォーム会社にいましたが、人間関係でやらかし、転職してきます(写真提供/カンテレ)

波瑠さんが演じる主人公の小梅。もともとは大手リフォーム会社にいましたが、人間関係でやらかし、転職してきます(写真提供/カンテレ)

ドラマそのものは、大手リフォーム会社にいた主人公の小梅(波瑠)が、理由あって家族経営の「まるふく工務店」に転職してきたところからはじまります。主人公とコンビを組むのは工務店の長男でもあり、2回の離婚歴があるシングルファーザー福山玄之介(間宮祥太朗)。それぞれ凹凸はあるものの、回を重ねるごとによき理解者、よい雰囲気になっていく、という展開です。

ドラマは1話完結、課題を抱えた家族(ゲスト俳優)がリノベを依頼し、それらを主人公の小梅たちが解決していく、という展開です。そのため、毎週視聴するとよりおもしろいですし、途中から見てもわかりやすいストーリー仕立てです。和モダンと夫婦のかたち、夫婦の寝室どうする、事故物件で暮らしたい、風水と強烈な占い師、防犯と親子など、「今らしさを感じるリノベ」を扱っています。どの回も、何度も見返したくなるおもしろさです。

小梅とコンビを組むのは、間宮祥太朗さん(右)演じる福山玄之介。バツ2のシングルファーザーで圧倒的お詫び力「詫びリティ」の持ち主(写真提供/カンテレ)

小梅とコンビを組むのは、間宮祥太朗さん(右)演じる福山玄之介。バツ2のシングルファーザーで圧倒的お詫び力「詫びリティ」の持ち主(写真提供/カンテレ)

ミニチュア、CAD、アイテム、エンディングまで見どころいっぱい!

ドラマのストーリー、展開もおもしろいのですが、ドラマの舞台となる「1階 工務店」と「2階 玄之介の部屋」に本物の住宅設備を採用しているだけでなく、提案する間取りをCAD(実際に建築の現場で使用されている設計ソフト)とミニチュア模型までちゃんとつくり込んでいてドラマ中に登場したり、リノベ依頼者の家のリノベ前と後のセットを組んで多角的に見せたりしています。主人公たちが使っているお仕事道具なども限りなくリアルで、「予算、すごいことになっているのでは」「凝っているなあ……」という感想しかありません。

1階まるふく工務店の様子(写真撮影/カンテレ)

1階まるふく工務店の様子(写真撮影/カンテレ)

2階にある玄之介と進之介の部屋。キッチンや内窓など、LIXILの本物の住宅設備を使ったセット。室内用窓を採用するとはさすが!(写真撮影/カンテレ)

2階にある玄之介と進之介の部屋。キッチンや内窓など、LIXILの本物の住宅設備を使ったセット。室内用窓を採用するとはさすが!(写真撮影/カンテレ)

「今回の制作費は特別なものではなく、通常のドラマと同じ範囲でやりくりしています。ミニチュアに関しては『シルバニアファミリー』や『ブロックおもちゃ』のように、小さな住まいのもつよさ、シズル感を表現したくてぜひ取り入れようと。住まいのビフォーやアフターも毎回、工夫としてしっかりつくっています。原作に似た物件を探してきたり、それをどう表現するか美術技術VFXチームと相談したり、まさにスタッフ全員の総力戦ですね」と岡光さん。

また、リノベのプロが監修し、脚本のたたき台の段階、脚本執筆後の段階、撮影の段階と、逐一、相談したり、チェックしてもらったりしているそう。当然、出演者が持っている仕事道具なども極力、プロ仕様になっているので、リアリティーが増すようになっています。

オープニングに登場するミニチュア。「1階 まるふく工務店」の様子です(写真提供/カンテレ)

オープニングに登場するミニチュア。「1階 まるふく工務店」の様子です(写真提供/カンテレ)

CADの画面をスタッフが見ているシーン(写真撮影/カンテレ)

CADの画面をスタッフが見ているシーン(写真撮影/カンテレ)

設計図面。リノベのビフォーとアフター、住まいの課題と解決法などをセリフに落とし込んでいるので、「なるほどねー」と納得しながら視聴できます(写真撮影/カンテレ)

設計図面。リノベのビフォーとアフター、住まいの課題と解決法などをセリフに落とし込んでいるので、「なるほどねー」と納得しながら視聴できます(写真撮影/カンテレ)

会社のロゴや住所まで入ったリノベーションを提案するシート。「もう散らからない」というコピーがリアル(写真撮影/カンテレ)

会社のロゴや住所まで入ったリノベーションを提案するシート。「もう散らからない」というコピーがリアル(写真撮影/カンテレ)

セット内のチラシまでつくり込まれています(写真撮影/カンテレ)

セット内のチラシまでつくり込まれています(写真撮影/カンテレ)

「まるふく工務店」の外観。看板やのぼりもあり、「どこかにありそう……」な感じを醸し出しています(写真撮影/カンテレ)

「まるふく工務店」の外観。看板やのぼりもあり、「どこかにありそう……」な感じを醸し出しています(写真撮影/カンテレ)

まるふく工務店のマスコット、「まるふくろう」(写真撮影/カンテレ)

まるふく工務店のマスコット、「まるふくろう」(写真撮影/カンテレ)

ドラマはもちろんファンタジーの部分もありますが、お仕事ドラマの場合は「説得力」と「リアルさ」がカギになります。だからこそ細部に手を抜かないという、制作陣の意気込みを感じます。また、個人的に大好きなのが、エンドロールで紹介されるリノベ後の住まいの様子です。特に出演者がリノベ後の家で幸せそうにしている姿を見ると、見ているこちらもウキウキするので、筆者は何度も見返しています。「まだ月曜日……(白目)」となりがちな時間帯にコレを視聴できるの、いいですよね。

第1話のリノベ後の住まい。夫妻の関係をすぐに見抜いた小梅の観察力、提案力に驚かされます。築60年の住まいを「一気に刷新したい」と乗り気の夫、あまり積極的になれない妻。その根っこにあったわだかまりを見つけ、解決しました(写真撮影/カンテレ)

第1話のリノベ後の住まい。夫妻の関係をすぐに見抜いた小梅の観察力、提案力に驚かされます。築60年の住まいを「一気に刷新したい」と乗り気の夫、あまり積極的になれない妻。その根っこにあったわだかまりを見つけ、解決しました(写真撮影/カンテレ)

大きなキッチンにそば打ちなどのお話に登場したアイテムがちらりと映り込んでいます(写真撮影/カンテレ)

大きなキッチンにそば打ちなどのお話に登場したアイテムがちらりと映り込んでいます(写真撮影/カンテレ)

和モダンのよさ、夫妻のこれからの暮らしが想像できて、明るい気持ちになります(写真撮影/カンテレ)

和モダンのよさ、夫妻のこれからの暮らしが想像できて、明るい気持ちになります(写真撮影/カンテレ)

すべて新しくすればいいというものではないのが、リノベの魅力だと思います(写真撮影/カンテレ)

すべて新しくすればいいというものではないのが、リノベの魅力だと思います(写真撮影/カンテレ)

空間は人間関係を変える。まさにリノベに魔法はある!

ドラマは回を進めるごとに人間関係がより複雑になってきてハラハラする場面も。特に主人公がかつて在籍していた会社の後輩である桜子の怖さ、イラっとさせる具合が絶妙で、Twitterでも「桜子」がトレンド入りしていました。もちろん、社内でのやりとりのコメディシーンは、見ていてニンマリしてしまいます。脚本家の上田誠さんは、セリフをどのように考えたのでしょうか。

脚本を担当する上田誠さん(写真提供/ヨーロッパ企画)

脚本を担当する上田誠さん(写真提供/ヨーロッパ企画)

「マンガ原作があるので、これを非常に大切にしています。それこそ文字起こしをするくらい自分の血肉にして、脚本にとりかかりました。星崎先生もかなりリノベについて取材をされていらっしゃって、尋常ではないこだわり、想いを感じています。ドラマのクライマックスはリノベ案のプレゼンなので、営業の言葉遣いを逸脱することなく、その上で心に残る台詞を目指しています。『どうぞイメージなさってください』『リノベは魔法なんです』というセリフを、役者さんがどう表現するかは見どころのひとつだと思っています」と上田さん。

クライマックスのセリフはいつも同じですが、毎回、言い方が微妙に異なります。役者さんってすごいですね(写真提供/カンテレ)

クライマックスのセリフはいつも同じですが、毎回、言い方が微妙に異なります。役者さんってすごいですね(写真提供/カンテレ)

なるほど、決めセリフがあるからこそ、毎回の変化がおもしろいんですね。また演者さんも役に入り込むことで、「何かやってやろう」というアドリブも出てくるんだとか。これも脚本家と出演者、信頼関係のなせる技ともいえるのでしょう。また、ドラマは、住まいや家族に潜む「闇」や「魔物」「不満」を毎回発見して対峙、解決していくミステリー仕立てにもなっています。これは新築の住まいを買う/借りるだけでは、なかなかできない展開です。

案件が無事終わると、ふたりで打ち上げに行く。ひと仕事終えたあと、緊張がすこしゆるみ、信頼感、距離感がより近づいていきます(写真提供/カンテレ)

案件が無事終わると、ふたりで打ち上げに行く。ひと仕事終えたあと、緊張がすこしゆるみ、信頼感、距離感がより近づいていきます(写真提供/カンテレ)

「既存の住宅を舞台にするので、必ず家族や夫婦の問題が根っこにあるんですよね。第2回がわかりやすいですが、冒頭に夫妻の行動があって、手がかりや引っかかりがある。見ながらアレはなんだったのかと考えていただき、観察やヒアリングを進めるなかで、小梅たちと一緒になって解決し、気持ちよくエンドロールまで向かってもらえたらと思います」と岡光さん。

なるほど、リノベーションはミステリー、その発想はありませんでした。では、上田さんから見たリノベーションの魅力はどんな点にあるのでしょうか。
「舞台を長年、やってきた経験から、空間の変化が人間のコミュニケーションに与える影響を目の当たりにしてきました。人間関係の問題は、空間で具体的に解決できることもあるんです。だからこそ、リノベに魔法はあります!と言いたいですね。また、リノベを通して、人生や家族が再生していく様子も見てほしいなと思います」と話します。

まるふく工務店の面々。左から玄之介と三男の竜之介、従業員の小出誠二、主人公の真行寺小梅、越後寿太郎。小さな会社らしい、わちゃわちゃしたやり取りは見ていて心和みます(写真提供/カンテレ)

まるふく工務店の面々。左から玄之介と三男の竜之介、従業員の小出誠二、主人公の真行寺小梅、越後寿太郎。小さな会社らしい、わちゃわちゃしたやり取りは見ていて心和みます(写真提供/カンテレ)

ドラマでは、住まいや家族に潜む問題を「魔物」と表現しています。ひとりでも、夫妻でも、家族であっても、家に潜んでいる「魔物」に向き合うのは時間、お金、何より気力が必要です。だからこそ、新築物件と同じように「家に自分たちを合わせる=リノベ済み」物件のほうを選ぶ人が増えている傾向もあるようです。でももし、ドラマのように、プロの手を借りつつ、自分たちの課題と向き合い、解決できるのであれば、きっと「暮らしに家を合わせた」家が手に入るのだと思います。仲間といっしょにパーティを組み、前に進む。まさにリノベは人生そのもの、ですね。

リノベの「魔法」にかけて、突然現れるRPG風のシーン。「魔物」も出てきます!(写真提供/カンテレ)

リノベの「魔法」にかけて、突然現れるRPG風のシーン。「魔物」も出てきます!(写真提供/カンテレ)

●取材協力
『魔法のリノベ』(月曜22時~22時54分、フジテレビ系)
Tver
カンテレ
ヨーロッパ企画/脚本家 上田誠さん

ドラマ『魔法のリノベ』放送開始! リノベーション理解や事業者選びのヒントにも

7月から「魔法のリノベ」というテレビドラマがスタートした。リノベとはリノベーションのこと。住宅関連のテーマのドラマなので、さっそく視聴した。住宅の間取りや製品などが多く登場するのだが、住宅建材・設備機器メーカーの企業LIXILが製品をドラマの撮影セットに提供しているという。で、ドラマはと言うと……。

【今週の住活トピック】
システムキッチンや水栓、サッシ、インテリアなどLIXIL製品をドラマ撮影セットに美術協力/LIXIL

テレビドラマ「魔法のリノベ」放送スタート!

関西テレビの「魔法のリノベ」サイトを見ると、「人生こじらせ凸凹営業コンビが、“住宅リノベ”で家や依頼人の心に潜む魔物をスカッと退治!」とある。どうやら、住宅のリノベーションを通じて、依頼した家族の人生のリノベーションまでしてしまうことが、「魔法のリノベ」という意味らしい。

原作は星崎真紀さんの漫画だ。筆者は漫画を拝読していないので、放送されたテレビドラマでしか、その内容を把握できていない。初回は、波瑠さん演じる真行寺小梅が、間宮祥太朗さん演じる福山玄之介が営業を務める『まるふく工務店』に転職してくる下りが描かれ、中山美穂さんと寺脇康文さんが演じる夫婦の古い家をリノベする…という展開だった。

LIXILによると、このドラマの「1階 まるふく工務店」と「2階 玄之介の部屋」に、システムキッチンや水栓、サッシ、インテリアなどの製品を美術協力しているという。

玄之介の部屋(出典/LIXILニュースルームより)

玄之介の部屋(出典/LIXILニュースルームより)

玄之介の部屋のリビングで、小梅が登山用の寝袋にくるまって寝ていて、芋虫状態で子どもに発見されるというシーンがあった。工務店の2階というからには、それなりの設備機器が設置されていて当然だろう。LIXILでは、最新のシステムキッチンやキッチン・リビング収納、非接触で吐水/止水ができるタッチレス水栓、ハイブリッド窓、内装壁機能タイル、インテリア建材などを美術協力していているという。

美術協力しているLIXILの製品(出典/LIXILニュースルームより)

美術協力しているLIXILの製品(出典/LIXILニュースルームより)

住宅のリノベーションとはなんだ?

今ではよく使われる用語になっている「住宅のリノベーション」だが、実は正式な定義はない。

一般的に住宅業界では、リフォームは経年劣化した部分を建築当時の水準に戻す改修工事のこと。リノベーションとは、キッチンなどの設備の交換や間取りの変更などの大規模な改修工事だけでなく、いまの生活を快適にするレベルに住宅の性能を引き上げることも含んでいる。たとえば、第1話で中山美穂さんの実家をリノベーションする際に、キッチンの交換や間取りの変更に加えて、古い家なので耐震性も引き上げようという話が出ていた。耐震基準なども年代によって変わってくるので、いまの基準に引き上げることが安全性確保のために大切だからだ。

リノベーション業界の団体である(一社)リノベーション協議会のホームページを見ると、リノベーションを次のように定義している。

「リノベーションとは、中古住宅に対して、機能・価値の再生のための改修、その家での暮らし全体に対処した、包括的な改修を行うこと。例えば、水・電気・ガスなどのライフラインや構造躯体の性能を必要に応じて更新・改修したり、ライフスタイルに合わせて間取りや内外装を刷新すること」

この定義について、リノベーション協議会の会長である内山博文さんに話を聞いた。
この定義は10年以上も前、協議会を立ち上げる時に決めたもので、当時はリフォームとリノベーションの違いもあいまいだった、という。包括的な改修としたのは、住宅の機能改修というハード面だけでなく、そこに住む利用者のソフト面も含めて、住宅の価値を上げていこうという考えだった。

10年以上経ったいまでは、世の中にリノベーションがポジティブに受け取られて、今住んでいる住宅をリノベーションするだけでなく、中古住宅を買ってリノベーションをして住むという選択肢も一般的になってきた。リノベーションが、新築という規制の枠にはまらない、自分らしい暮らしをデザインするのに最適な方法だと気づいたからだろうと、内山さんは見ている。

リノベーションで魔法はかけられる?

さて、ドラマタイトルに「魔法の」という修飾語がついているが、「リノベーションで魔法はかけられるか?」と内山さんに聞いてみた。「事業者もいろいろあるので、すべての事業者に当てはまるとは思わないが」という前置きはあったが、「生活者の目線で一緒に課題を解決できる事業者が増えてきたと思っている」と、会長らしい視点のコメント。生活者の希望を超えるものを提案できる、ある意味で魔法が使える事業者も数多くいるということだろう。

第2話では、夫婦別寝室プランを夫婦それぞれで希望するが、希望している理由に加えて、夫婦の関係性を読み取ってプランを提案していた。生活者と同じ目線で課題を解決してこその提案だ。

最後に、「このドラマに、どんなことを期待しているか?」と聞いた。内山さんは「ドラマは、2社のリノベーション事業者が競争する展開となっているので、どういう会社を選んだらよいかということが、視聴者に伝えられることに期待している」という。

ドラマでは、事業者側の都合を上手に隠して顧客に提案するライバル会社と、生活者目線で提案する小梅たちの会社が競争をする形になっている。実際に、リノベーションをやるという事業者は多いが、事業者の提案はそれぞれ異なる。当初の玄之介の営業のように、顧客の希望条件をそのまま図面にする提案もあれば、小梅のように生活者の代わりに課題を解決する提案もある。なかには、顧客の希望を無視した事業者側の都合による提案もあるかもしれない。

建築の専門知識のない一般の消費者には、その違いがわかりにくいだろう。となると、各社から見積もりを取った結果、工事費用の金額だけに目が行きがちということも。ドラマ効果で、提案内容をしっかり見極めるということが一般的になって、自宅での暮らしの価値を上げるようなリノベーションが実現することを、筆者も大いに期待している。

●関連サイト
ドラマ「魔法のリノベ」ホームページ
LIXILニュースルーム「7月スタートのカンテレ・フジテレビ系月10ドラマ「魔法のリノベ」 番組枠内で“夏の断熱リフォーム”を訴求するインフォマーシャルを放映開始」

『大豆田とわ子』が社長を務める「しろくまハウジング」はリアリティ満載!監修の専門家に聞いた

各テレビ局の2021年春のドラマがスタートした。その中で注目したいのが『大豆田とわ子と三人の元夫』だ。注目した理由は、松たか子さんが演じる大豆田とわ子の仕事にある。住宅建設会社の女社長というからには、ドラマの中で建設関係の話題がてんこ盛り。そこで、ドラマ制作の裏情報を聞いてきた。
専門家による「建築監修」でリアリティ満載

『大豆田とわ子と三人の元夫』の主人公・大豆田とわ子は、しろくまハウジングの社長に就任したばかりのバツ3女性。ひょんなことから三人の元夫たちと顔を合わせることになり、三人に振り回されながらも幸せを求めて奮闘するという物語だ。並行して、それぞれに新しい恋の(あるいはトラブルの)兆しもあって、先が読めないドラマになっている。

さて、ドラマのストーリーは別として、注目はしろくまハウジングのことだ。医療ドラマには医師が監修に当たるように、しろくまハウジングにも建築士の監修がいた。建築士の上田真路さんが代表取締役を務めるKUROFUNE Design Holdingsだ。

上田さんに、具体的にどういったことに関わっているのかを聞いた。

しろくまハウジングは“こだわりの注文住宅”で一目置かれているデザイン系建設会社。第1話では、「法規の読み違い」というトラブルが起きる。法規にかなうように、徹夜で設計を修正する大豆田とわ子。優秀な建築士であることが分かるシーンだ。

設計の変更についてスタッフに説明するシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)

設計の変更についてスタッフに説明するシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)

番組プロデューサーの要望に応じて、住宅の設計時にどんなトラブルが起こりうるか、上田さんが情報提供をした例のひとつだ。第1話で起きたトラブルは、「第2種高度地区ではなく、実は第1種高度地区だった」というもの。第2種より第1種のほうが規制は厳しいので、第2種が前提で設計した建築物では建築の許可が得られないことになる。そこで、急遽、第1種の規制に合うように設計変更をする必要があるわけだ。

市街地の土地などには、都市計画法でそれぞれの土地に定められた建物の用途制限があり、これを“用途地域”という。主に住居系、商業系、工業系などに分かれ、例えば交通量の多い工場地帯に住宅が混在しないような規制をしている。重ねて、自治体ごとに、北側の隣地などに圧迫感をなくして日照などを確保するために“高度地区”を定めている。建築物を建てるにはこうした細かい法規制をクリアする必要があるのだ。

専門用語が飛び交うので、脚本にも上田さんの助言が反映される。大豆田とわ子は、自ら設計を変更した図面と模型をスタッフに見せながら、「北側の厳しい斜線制限がかかる側はボリュームを削減しました。3階のベッドルームはロフト部屋に変更して、代わりに広めのテラスを設置しました」と説明する。“斜線制限”とは、隣地の日照などを確保するために建物の高さだけでなく、建物上部の形状にも制限を設けるもの。斜線制限で3階にベッドルームをつくれなくなったので、2階の居室の天井を高くして、その居室の一部を2層式にしてロフトにすることで、制限をクリアしたのだ。全体の居住空間が減ってしまったので、庭に広めのテラスを設置して、部屋の延長空間として活用してもらおうという、使い勝手を考えた提案だ(と筆者は解釈している)。

このように、仕事の上でのトラブルを乗り切るドラマの展開において、専門知識の裏付けや専門用語を使った台詞が必要になるので、プロの監修が求められるのだ。脚本をつくる段階から関わるだけでなく、ドラマの展開に沿って、しろくまハウジングの作品として登場する建築物の設計図面やパース、模型などもKUROFUNE Design Holdingsで提供している。

しろくまハウジングが手掛ける大学図書館の図面とパースもKUROFUNEで提供した(第3話より)(画像提供:関西テレビ)

しろくまハウジングが手掛ける大学図書館の図面とパースもKUROFUNEで提供した(第3話より)(画像提供:関西テレビ)

第3話の大学図書館の設計について、若手建築士の仲島登火(神尾楓珠さん)が素晴らしいデザインを提案する。そのデザインを見てとわ子は、「スイチョクカジュウとスイヘイタイリョクをこのタイリョクヘキとハシラで支えるのか」と言う。多くの視聴者にとってはなんのこっちゃ?という台詞だが、建築に多少でも関わった視聴者なら「垂直荷重と水平耐力をこの耐力壁と柱で支えるのか」と漢字で聞き取ることができる。医療ドラマなら「なんのこっちゃ?」側の筆者も、このドラマなら「ふむふむ」側になるので、なんとなくうれしい。

さて、ドラマのほうでは、このデザインでは予算に収まらないという難題が勃発する。そのため、社長と設計部の間で気まずい雰囲気が漂い、とわ子は悪戦苦闘することになる。

製図の引き方から席の配置まで、プロが見ても納得感のあるドラマに

建築物に関する提供だけではない。第1話と第3話には、とわ子に扮する松たか子さんが図面を引くシーンがある。最近はCAD(コンピューターを使った設計を支援するツール)で設計するのが主流だが、とわ子は手で図面を描いている。筆者は建築については専門ではないので知らなかったのだが、製図で線を引くときには少しくるくる回るように描くのだそうだ。上田さんは、撮影現場に立ち会ってこうした演技指導もしている。松たか子さんは呑み込みが早かったそうだ。

ドラマでは松たか子さんが図面を引くシーンも多い(画像提供:関西テレビ)

ドラマでは松たか子さんが図面を引くシーンも多い(画像提供:関西テレビ)

ほかにも、第1話で住宅地のプロジェクトで設計部の三上頼知(弓削智久さん)が、模型を指さしながら説明するシーンがあったが、その手の動きなどにも演技指導が入っている。上田さんは「建築のプロが見ても違和感がないようにしている」という。

プロジェクトのデザインについての説明を受けるシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)

プロジェクトのデザインについての説明を受けるシーン(第1話より)(画像提供:関西テレビ)

また、上田さんは、しろくまハウジングのオフィスのつくり方にも助言をしている。フロアの一段高いところに社長の席がある、おしゃれなオフィスなのだが、社長とスタッフの距離などにも配慮がなされている。

例えば、社長の席の近くに営業部署を置き、次いでインテリア部署や設計部署があり、遠い席に見積もりをする積算部署や経理部署があるという具合だ。それぞれの部署に応じて、壁材や床材のサンプルを置き、すぐに打ち合わせができるように大きなテーブルを置くなど、見た目では気づかないような細かい配慮もされているのだ。

しろくまハウジングのオフィスの様子(第3話より)(画像提供:関西テレビ)

しろくまハウジングのオフィスの様子(第3話より)(画像提供:関西テレビ)

余談になるが、上田さんによると、建築士は黒か白の洋服を着ることが多いという。デザインが主役となるように建築家自身はシンプルに見せるということと、建築現場は汚れやすいので汚れが目立ちにくい服を着ることが関係しているのではないかと。それを聞いてドラマを見直すと、さすがに主役の大豆田とわ子の衣装は、白や黒ではなくカラフルなものだが、設計部署の三上や登火などは黒い服を着ていたので、上田さんの情報提供が活かされているのかもしれない。

ドラマ本編はいよいよ佳境に

さて、ドラマを楽しむには、建築の専門用語が分からなくても全く問題はない。しかし、実はこうした専門知識の裏付けがあるといったことが分かると、違う面白さも加わるのではないか。

このドラマをきっかけに建築に興味を持ってくれる人たちが増えて、その中から世界的に活躍する建築士が誕生するかもしれないと思うと、ワクワクする。もちろん、とわ子が元夫の誰かと元鞘に収まるのか、はたまたこれから新たなパートナーが登場するのか、ドラマ本編の展開も楽しみたいと思う。

●取材協力
KUROFUNE Design Holdings
プレスリリース
関西テレビ
番組HP

人気ドラマ『まだ結婚できない男』、2019年の桑野(阿部寛)の住まいは進化した?

2019年秋は話題のドラマが勢ぞろいしていますが、なかでも注目を集めているのが、13年ぶり(!)の続編となる『まだ結婚できない男』(毎週火曜日夜9時~カンテレ・フジテレビ系)。阿部寛演じる偏屈、独善的、皮肉屋の桑野信介と周囲の人々が織りなす日常をコミカルに描いたドラマは、放送第1回目から高視聴率を記録し、Twitterでも話題になっていました。では、その「自宅」はどうなったのでしょうか。関西テレビの米田孝プロデューサーと美術担当の株式会社テレビ朝日クリエイト 美術制作部・吉野雅弘さんにその裏話を聞きました。
時代は変わった。桑野とその部屋はどう変わる?

今回のドラマは、2006年に放映された「結婚できない男」の13年後を描いたもの。主人公は見た目もよく、収入もあるのにあえて「結婚しない」と主張する一級建築士の桑野信介。前作では建築事務所を中心に、マンションの隣人、医師(かかりつけの医師)、親戚を巻き込みながら話が展開していきました。

この作品、桑野信介が建築士という職業柄のためか、「住まい」について話題になっていることが多いのも特徴です。「女性がマンションを買うと婚期を逃す」「キッチンは家の中心にあるべきだ」「家、妻、子どもは人生の三大荷物」(桑野談)などなど……。

あれから13年。世の中は変わり、「結婚してもしなくても、それはその人の選択」「お一人さまの人生もいい」と独身男性・独身女性の生き方が尊重されるように。また寿命も延び、「人生100年時代」と言われるようになりました。では、新しいドラマはどのように変わったのでしょうか。

まず1回目の放映で分かったのは、桑野信介の順調な仕事ぶり。何しろ新国立競技場のコンペ(※国際的な建築賞の受賞経験がないと応募できない)に手を挙げ、テレビ取材を受け、講演会に呼ばれるなど「一流建築家」の仲間入りをしているようです。

桑野の住むマンションの内廊下。共用部分には宅配ボックスが導入されていました。桑野は502号室に住んでいます(写真提供/カンテレ)

桑野の住むマンションの内廊下。共用部分には宅配ボックスが導入されていました。桑野は502号室に住んでいます(写真提供/カンテレ)

一方で、分譲賃貸の自宅マンションは引越さず、部屋は大きく変わっていません。経済力を考えればもっと良いマンションに引越すこともできたはず。それとも、同じマンションに住み続けているのには理由はあるのでしょうか。

米田孝プロデューサーは、「プロデュース部としては、視聴者の目線にたったときに、『13年経っても変わらない桑野』を表現する一つの象徴でもあります。また、その中でも実は変わっているところもいろいろある……というのは大きな意図ではあります」と裏側を明かします。

自宅はあえて引越さず。前作から見続けているファンは、「桑野の部屋が変わってない!」と思い出すはず(写真提供/カンテレ)

自宅はあえて引越さず。前作から見続けているファンは、「桑野の部屋が変わってない!」と思い出すはず(写真提供/カンテレ)

直接照明だけでなく、複数の個性的な照明を配置しているのは、さすが建築家というべき?(写真提供/カンテレ)

直接照明だけでなく、複数の個性的な照明を配置しているのは、さすが建築家というべき?(写真提供/カンテレ)

また、美術担当の吉野さんによると、「あくまで私の個人的な意見ですが、仕事で成功した桑野は、新しい家に引越しするだけの資金はあるはず。しかし、桑野はこだわりの人です。部屋の広さや高級感を求めるのではなく、自分の理想の部屋を追い求めた結果、部屋の広さ、家具の配置など、今の部屋がベストだったのではないでしょうか」とのこと。

確かに引越せるけど、あえて「引越さない」。自分にとってのベストが何かを知っている桑野らしい選択といえます。ほかにも、良いものは使い続けるということで「ダイニングテーブル」「フランク・ロイド・ライトのタリアセンのライト」は同じものを使っているそう。確かにあの性格ならそうするだろうな、と妙に納得してしまいます。

「独身男性の理想の部屋」、家電がアップデート!

そもそも桑野信介の部屋の特徴は、広々としたLDKを仕切らず、趣味のスペース、仕事のスペース、食のスペースをバランスよく配置し、眠る以外の機能が一つの部屋で完結している点です。

徹底的に一人にこだわった部屋。ダイニングテーブルはじめ、椅子はすべて1脚(写真提供/カンテレ)

徹底的に一人にこだわった部屋。ダイニングテーブルはじめ、椅子はすべて1脚(写真提供/カンテレ)

リビング脇にある仕事スペース。ここではよくエゴサーチをしているシーンが流れる(写真提供/カンテレ)

リビング脇にある仕事スペース。ここではよくエゴサーチをしているシーンが流れる(写真提供/カンテレ)

また、部屋に置いてあるのはシンプルかつ、こだわりのあるアイテムのみ。「ミニマリスト」とはまた違いますが厳選したコレクション、自分の好きなものに囲まれて過ごす。「独身男性の理想の部屋」としてある意味、完成しているのかもしれません。

さらに、桑野信介の部屋の特徴として、「イスが1つ」という点があげられるといいます。

「大きなアイランドキッチンがあるのに、大きなダイニングテーブルにはイス1つ。音楽用チェアも1人用。これは『自身が満足するための部屋』の象徴でもあるのです」(吉野さん)

家族ではなく、自分が好きなものにこだわって、配置する。惜しみなくお金と時間を使える独身男性、個人的には羨ましくもあります。ただ、部屋には大きな変化はありませんでしたが、小物は時代とともにアップデートされているといいます。例えば、家電製品。

オーディオセットは最新型に。より高音質で趣味のクラシック音楽鑑賞に酔いしれているのだろう(写真提供/カンテレ)

オーディオセットは最新型に。より高音質で趣味のクラシック音楽鑑賞に酔いしれているのだろう(写真提供/カンテレ)

桑野の部屋で「変わった」象徴でもあるスマートスピーカー。どう使いこなしていくのか注目(写真提供/カンテレ)

桑野の部屋で「変わった」象徴でもあるスマートスピーカー。どう使いこなしていくのか注目(写真提供/カンテレ)

シンクとIHクッキングヒーターが別々になった珍しい二型のキッチン。味にうるさい桑野らしく、炊飯器や電子レンジなどの家電は一新されている(写真提供/カンテレ)

シンクとIHクッキングヒーターが別々になった珍しい二型のキッチン。味にうるさい桑野らしく、炊飯器や電子レンジなどの家電は一新されている(写真提供/カンテレ)

キッチン脇にはロボット掃除機が導入されている。13年前は普及途上でしたが、今やすっかりおなじみ(写真提供/カンテレ)

キッチン脇にはロボット掃除機が導入されている。13年前は普及途上でしたが、今やすっかりおなじみ(写真提供/カンテレ)

「家電やオーディオ機器に関しては、13年という時間が経過していますので今の時代に合わせたものを用意しました。13年前よりもはるかに高性能なものです。オーディオ機器は13年前よりもさらに高音質で音楽を楽しめますし、冷蔵庫などは手をかざせば扉が開くなど、いいものは取り入れています」(吉野さん)

なんと、それは気になる……。さらに番組予告などではスマートスピーカーに話しかけるシーンが見られ、公式サイトではお掃除ロボットが活躍しています。偏屈な桑野が最新家電をどう使っているのか、どんな皮肉をいうのか、注目したいところです。

金魚と指揮棒。小物を使ったお芝居にも注目

ドラマでは桑野信介が大きな目をギョロりとさせながら、毒舌をふりまくのが見どころのひとつ。皮肉屋でひとこと多い性格は、一歩間違えれば大炎上、単なる嫌なヤツになりそうなものの、どこか憎めない。そのバランスが絶妙です。

「自室で音楽に合わせ、指揮棒を振る桑野はやっぱり憎めないですよね。その点、一人掛けチェアと指揮棒は桑野信介を象徴するアイテムです。あとは13年間、大事に育てているという設定の金魚。13年前と金魚鉢が一緒なので小さく、かなり窮屈そうではあるのですが」と吉野さん。確かに13年前は指揮棒を持っていなかった。そっか、指揮棒を買ったんだな桑野……。自室以外にもバーやカフェの小物は、お芝居の大切な要素だとか。

前作から飼育を続けている金魚。その脇には外出先でも様子を見られるネットワークカメラが(写真提供/カンテレ)

前作から飼育を続けている金魚。その脇には外出先でも様子を見られるネットワークカメラが(写真提供/カンテレ)

独自のファッションセンスをしている桑野。それでも阿部寛が着るとなんとなくサマになるから不思議(写真提供/カンテレ)

独自のファッションセンスをしている桑野。それでも阿部寛が着るとなんとなくサマになるから不思議(写真提供/カンテレ)

「多くのシーンで折り紙や小さな置物などを配置しています。撮影の際に阿部さんが手に取ってお芝居に取り入れてくれる場合もあります。あとは桑野がまどか(吉田羊演じる弁護士)の事務所に手土産として持っていくバナナ。スタッフが毎回、市場まで仕入れに行ってくれています(!)」というから、美術スタッフの並々ならない気合が伝わってくるようです。

第1回の放送では、「人生100年時代、誰にでもセカンドステージがくる。そのときどんな家で暮らしたいのか。結局のところ、私は自分が住みたい家をつくりたいのかもしれません」という重たい、また13年前には考えられなかったテーマが提示されました。もちろん、恋の行方も気になりますが、個人的に桑野がどんな家をつくるのか、その答えに注目したいと思います。

こちらは玄関。前作よりシックでより高級感ある印象に(写真提供/カンテレ)

こちらは玄関。前作よりシックでより高級感ある印象に(写真提供/カンテレ)

●取材協力
関西テレビ
『まだ結婚できない男』
※「まだ内見できない所 桑野の部屋を大公開!」

ドラマ『義母と娘のブルース』ロケ地・大岡山レポート! 「ベーカリー麦田」誕生秘話も

人気ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS・火曜放送中)、略して“ぎぼむす”。綾瀬はるか演じるヒロインの岩木亜希子がキャリアウーマンから、小学3年生の義母に“就職”。家事や育児に奮闘するホームドラマだ。第二章では「ベーカリー麦田」(店長/佐藤健)の再建をかけて奮闘中。そのロケ地が東京都目黒区と大田区にまたがる街「大岡山」だ。そこで、ロケハンスタッフや商店街理事長に大岡山の魅力について聞いた。
ロケ地候補は100以上! 原作のイメージにぴったりの建物を大岡山で発見

2018年9月11日(火)に9話が放送になる『義母と娘のブルース』。主人公・亜希子(綾瀬はるか)は、夫・宮本良一(竹野内豊)が亡くなってから10年、高校3年生になった義理の娘・みゆき (上白石萌歌)と二人暮らしをしている。亜希子はみゆき最優先の生活を送るためキャリアウーマン時代の貯金を元手にデイトレードで家計を支えるも、みゆきの目には楽な仕事に映っていた。それではいけないと、働く親の姿を娘に見せるべく一念発起し、倒産寸前のパン屋「ベーカリー麦田」に就職。ビジネス手腕を発揮して、経営の立て直しをはかるために奔走する。

この「ベーカリー麦田」の撮影現場となっているのが、大岡山北口商店街。実在する建物の1階空き店舗にセットが組まれている。なぜこの場所がロケ地に選ばれたのだろう? 制作スタッフの清藤唯靖さんに裏話を教えてもらった。

まるで本物のパン屋さんのような「ベーカリー麦田」はすべてセット。撮影時には人だかりができるそうで、観光地化しているそう(写真提供/TBS)

まるで本物のパン屋さんのような「ベーカリー麦田」はすべてセット。撮影時には人だかりができるそうで、観光地化しているそう(写真提供/TBS)

大岡山北口商店街での撮影シーン(写真提供/TBS)

大岡山北口商店街での撮影シーン(写真提供/TBS)

「原作のイメージに合う街を見つけるため、1カ月半くらいロケ地を探しました。なかでも、大井町線沿線はマンションもあって都会的な雰囲気がありながら、下町の風情も持ち合わせていることから有力候補に。大岡山になった決め手は、『ベーカリー麦田』のイメージに合う建物が見つかったことです。『ベーカリー麦田』はドラマ後半のメイン舞台になるので、監督もかなりこだわっていました。かわいいとかスタイリッシュではなく、味がある建物がいいとオーダーされていて、100棟ほど提案したところ、正面の間口の雰囲気がいいと即決でした」(清藤さん)

「ベーカリー麦田」の厨房。佐藤健演じる、元ヤンキーの麦田章店長の“ダメっぷり”をただすべくヒロイン・亜希子が叱咤激励する場面でもおなじみ(写真提供/TBS)

「ベーカリー麦田」の厨房。佐藤健演じる、元ヤンキーの麦田章店長の“ダメっぷり”をただすべくヒロイン・亜希子が叱咤激励する場面でもおなじみ(写真提供/TBS)

本格的なパン焼き機もセットに完備。こうした機材も物語に臨場感をもたらす重要なアイテム(写真提供/TBS)

本格的なパン焼き機もセットに完備。こうした機材も物語に臨場感をもたらす重要なアイテム(写真提供/TBS)

街ぐるみの撮影とあって、ロケを通して人とのつながりがある暮らしの良さを実感したという清藤さん。いまでは大岡山北口商店街にぞっこんな模様。

「大岡山、とくに北口商店街に1日いると、住んでいる人の魅力がひしひしと伝わります。皆さん協力的で撮影を温かく見守ってくださるので、とてもありがたいです。昔ながらのお総菜屋さんやお茶屋さん、お弁当屋さんなど魅力的な個人商店が多くて、ほっとします。人情に厚いのは大岡山に根付く文化なのかもしれませんね。居心地が良過ぎて仕事終わりには、スタッフと商店街にある大衆酒場『やかん』に入り浸っています(笑)。このお店の気さくな雰囲気が大好きなんです。やはり便利さだけではなく、人とのつながりがある街はすてきですよね」(清藤さん)

8話を撮影中の風景。下町の風情がありながら、都心にも近いとあって大岡山のとりこになるスタッフも続出しているとか(写真提供/TBS)

8話を撮影中の風景。下町の風情がありながら、都心にも近いとあって大岡山のとりこになるスタッフも続出しているとか(写真提供/TBS)

廃校寸前の小学校を人気校へ! 大岡山は地域愛にあふれる人が集まっている

大岡山北口商店街振興組合の相川英昭理事長は、生まれてから69年間、大岡山で育ち暮らす一人。畳店を営みながら、ボランティアで商店街の活性化に尽力してきた人物である。商店街の特長について、次のようなポイントを挙げてくれた。

大岡山北口商店街振興組合の相川英昭理事長。懐が深く、とても気さくな人柄でドラマスタッフからの信頼も厚い

大岡山北口商店街振興組合の相川英昭理事長。懐が深く、とても気さくな人柄でドラマスタッフからの信頼も厚い

「まずは、地域密着型であることですね。商店街を訪れてくれるお客様に還元できるイベントもたくさんやっていて、お客様に感謝の念を伝えることは惜しみません。交通安全や防災訓練も商店街主導で積極的に実施しているので、地域とのつながりが自然と深くなります。また、近隣の人が買い物に来るので、お店の主人たちもほとんどのお客さんの顔を覚えているんです。些細なことかもしれませんが、心ある人の存在が暮らしの安心にもなると思います」(相川理事長)

170ある商店は、生鮮食品から肉屋さん、魚屋さんまでバラエティ豊富。「商店街の店主たちは、品ぞろえには並々ならぬこだわりをもっていますよ」と自信をのぞかせる相川理事長。

商店街の“ご意見番”、下山和子(麻生祐未)が営む不動産屋さん。こちらも大岡山北口商店街にあるセット(写真提供/TBS)

商店街の“ご意見番”、下山和子(麻生祐未)が営む不動産屋さん。こちらも大岡山北口商店街にあるセット(写真提供/TBS)

また、大岡山という街は、地域で子どもを見守り育てようという風土が定着しているという。

「大岡山駅のすぐそばに、私の母校でもある大田区立清水窪小学校があるんですが、少し前までは生徒が集まらず廃校寸前だったんです。そこで、同じく大岡山にキャンパスがある東京工業大学の教授にわれわれ地域に住む卒業生からも相談を持ち掛けたところ、実践的な科学教育で独自性を出すのはどうかという話になり、大学と行政が協力して『おおたサイエンススクール』を設置する運びとなりました。その授業内容が良いと評判になり、いまでは入学希望者が増加してクラスが足りないほどです。地域に暮らす人、特に子どものためになることなら、街ぐるみで取り組もうという姿勢は長年受け継がれている風土ですね」(相川理事長)

ちなみに、制作スタッフの清藤さんは相川理事長から「きよちゃん」と呼ばれ、かわいがられていた。こうした大らかな人情が、きっとドラマのハートフルな雰囲気に好影響をもたらしているのかも。これからクライマックスに向けて、ますます目が離せない“ぎぼむす”。物語もさることながら、ぜひ街の風情にも目を向けてみると楽しみも一層広がりそうだ。

●取材協力
TBS系 火曜ドラマ『義母と娘のブルース』(毎週火曜 夜10時放送中)

話題ドラマ『隣の家族は青く見える』の舞台、コーポラティブハウスのセットをレポート

2018年1月から放送中のドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ)。深田恭子さんと松山ケンイチさんが演じる妊活に励む夫婦を中心に、集合住宅で暮らす4世帯の家族の成長と葛藤を描いた物語です。舞台となっている集合住宅は、購入希望者が意見を出し合いながら自由設計する「コーポラティブハウス」。戸建ての注文住宅に近い自由度で決められるとあって、近年注目されています。今回のドラマでは、どのようなところにこだわっているのでしょう? 部屋のセットを見学させていただきました。
登場人物の個性が垣間見られる部屋に。4タイプの部屋の特徴とは?

毎週木曜22時から放送中の『隣の家族は青く見える』。深田さんが演じる主人公の五十嵐奈々(いがらし・なな、35歳)は、スキューバダイビングのインストラクターをしている活発な妻、そして松山さんが演じる五十嵐大器(いがらし・だいき、32歳)は、中堅玩具メーカーに勤める心優しいけどちょっと頼りない夫。そんな二人は、“コーポラティブハウス”を購入したことをきっかけに、子づくりをスタートします。ところが、そう簡単には子どもは授からず、不妊治療の専門クリニックに通うように。

五十嵐家だけではなく、コーポラティブハウスでは、川村家(子どもをつくらないカップル)、広瀬家(男性同士のカップル)、小宮山家(幸せを装う夫婦)、それぞれ他人には言えない秘密を抱えながら暮らしていて……。
主人公の夫役・松山ケンイチさんは、番組公式サイト掲載のインタビューに次のようなメッセージを寄せています。

「コーポラティブハウスに住む人たちはそれぞれに悩みを抱えていますが、それぞれ違った形の幸せも抱えていると思うんです。なので、幸せの形がひとつではないということ、いろんな幸せの形があるということをきちんと表現できたらなと思っています」

キャストのリアルな演技もさることながら、それぞれに個性的な住み手のキャラクターを投影したセットも、みどころのひとつです。

ということで、早速コーポラティブハウスを見学していきたいと思います。今回、セットを案内してくれたのは、美術デザインを担当するフジテレビ美術制作局デザイナーの宮川卓也さん。

【画像1】月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『世にも奇妙な物語』他、ドラマからバラエティまで、番組のジャンルを問わず活躍している宮川卓也さん(撮影/末吉陽子)

【画像1】月9ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、『世にも奇妙な物語』他、ドラマからバラエティまで、番組のジャンルを問わず活躍している宮川卓也さん(撮影/末吉陽子)

まずは、各部屋のこだわりについて教えてもらいました。

【五十嵐家】
「夫がおもちゃ会社勤務、妻がダイビングスクールの講師ということで、遊び心を感じられる部屋にしました。マリンっぽさを出したり、滑り台があったりと、楽しそうな空間にしています。色味も、ちょっとかわいらしい感じにして、すごくおしゃれではないけど、お互いの趣味がマッチしている雰囲気を狙っています。あとは、友人からもらった結婚祝いの寄せ書きを飾るなど、皆から好かれている夫婦なんだなということが、小物から伝わるようにしています。また、ベッドルームとかもそのまま抜けて奥が見えるんですけど、不妊がテーマのドラマなので、リビングで会話をしていても、あえて奥のほうでベッドがちらつくようにしています」(宮川さん、以下同)

【画像2】ところどころにアクセントのブルーを散りばめたリビング。子どもがはしゃぎそうな滑り台も(撮影/末吉陽子)

【画像2】ところどころにアクセントのブルーを散りばめたリビング。子どもがはしゃぎそうな滑り台も(撮影/末吉陽子)

【画像3】友人たちからの寄せ書きも飾られているベッドルーム。マリンテイストのアイテムもかわいい(撮影/末吉陽子)

【画像3】友人たちからの寄せ書きも飾られているベッドルーム。マリンテイストのアイテムもかわいい(撮影/末吉陽子)

【川村家】
「スタイリストとネイリストのカップルなので、スタイリッシュでおしゃれなデザインにしました。品が良くて、ちょっとエロティックな感じにしたくて、色味はダークトーンに。どっちかというとバブリーなテイストにしています。結婚もしていないですし、子どももいらないという家庭なので、二人が楽しく住めるような、趣味のもので固めているというイメージです。ただ、これから子どもを引き取るかもしれないということで、この状態で、子どもが来てどうなるのかっていうのがこれからの見どころかなと思いますね。このままじゃ、多分、生活できなくなってしまうので、それをどういう風に工夫して、物語がどのように進んでいくのか、注目してもらいたいです」

【画像4】大人感漂うムーディーな雰囲気がすてきな川村家のリビング(撮影/末吉陽子)

【画像4】大人感漂うムーディーな雰囲気がすてきな川村家のリビング(撮影/末吉陽子)

【画像5】調度品はモノトーンで統一されていておしゃれ。ただし、どこを切り取っても生活感はない(撮影/末吉陽子)

【画像5】調度品はモノトーンで統一されていておしゃれ。ただし、どこを切り取っても生活感はない(撮影/末吉陽子)

【小宮山家】
「ごく一般的な夫婦+子ども二人の4人家族ということで、普通のマンションぽいつくりにしています。ただ、妻がちょっと曲者でして、周囲の家族との間に波風を立てるタイプの人。自己顕示欲が強いところがあるので、普通のマンションをベースにしながらも、ところどころ背伸びしている感じを出しています。あとは、やたら子どもの写真を貼っているなど、全体的に子どもがいてこそ本当の幸せという価値観を表現しています。夫は、尻に敷かれているので、自分専用のスペースはありません。高価なL字キッチンがあって、ダイニングテーブルの隅に夫のスペースがある、というイメージです。インテリアは、ナチュラルベースでバリアフリーにしています」

【画像6】子どもたちの絵や写真が目を惹くリビングダイニング(撮影/末吉陽子)

【画像6】子どもたちの絵や写真が目を惹くリビングダイニング(撮影/末吉陽子)

【画像7】やや物が多い気がするものの、きちんと片付けられている(撮影/末吉陽子)

【画像7】やや物が多い気がするものの、きちんと片付けられている(撮影/末吉陽子)

【広瀬家】
「建築士の仕事をしているとあって、洗練されたおしゃれな空間、というよりは、少しユニークなつくりにしたいと思いました。海外のデザイン本や、アーティスティックな写真を飾るなどして、個性的な空間にしています。おしゃれでありつつ、どのようなバックボーンで生活しているのか、一目で分かるように心がけました。また、川村家との違いを色でみせるため、少し明るめのグレイッシュなトーンでまとめています。あとは、珍しい形状のアイランドキッチンを配置して、建築士ならではの『複雑な空間をおしゃれにまとめました』という雰囲気を出しています」

【画像8】デザイン本や模型などが置かれた棚がスペースの仕切りとしても機能(撮影/末吉陽子)

【画像8】デザイン本や模型などが置かれた棚がスペースの仕切りとしても機能(撮影/末吉陽子)

【画像9】すっきりと片付けられているアイランドキッチン。木工製品のようなディテールがおしゃれな照明にもセンスを感じる(撮影/末吉陽子)

【画像9】すっきりと片付けられているアイランドキッチン。木工製品のようなディテールがおしゃれな照明にもセンスを感じる(撮影/末吉陽子)

美術デザイナーが考える、コーポラティブハウスの魅力

住む人の個性を反映した4タイプの部屋のセット。物語同様、その細部にも注目したいところです。宮川さんに、セットをつくる際のセオリーを聞いてみました。

「どこで切り取られても、“この登場人物の部屋なんだな”と分かることを前提にデザインしています。例えば、壁をバックに演じるシーンでも、ただの真っ白な壁にならないように、その登場人物の個性を感じるポイントが映り込むように心掛けています。それは、おそらく美術デザイナーなら誰しも意識しているセオリーではないでしょうか。あとは、役者さんご自身のバックボーンもあるので、どのような生活をしてきたのか、ときに聞いてみたり想像したりしながら、感情移入しやすい空間づくりを心掛けています」

【画像10】コーポラティブハウスの模型(撮影/末吉陽子)

【画像10】コーポラティブハウスの模型(撮影/末吉陽子)

今回のドラマでは、デザイナーズ家具を取り扱う「リグナ」のアイテムがテイストに合うということで、メインに起用しているとのこと。なんでも、「セットをつくりあげるにあたっては、脚本家さんと話して人物のイメージを固めるまでに、かなりの時間を費やします。『この登場人物はこういう人なんだ』とイメージをつくりあげるのは、ドラマの核になるところですから」とのこと。

ちなみに、宮川さんが住むとしたら? 「僕もデザイナーなので住むとしたら広瀬家ですかね。もっと棚をいっぱいつくってデザイン本を置いて、作業台も使いやすくもう少し大きくしたいと思います」

さて、今回コーポラティブハウスという、新しいタイプの住まいをセットに落とし込むにあたっては、入念なリサーチを重ねたといいます。そこで改めて、コーポラティブハウスの良さを感じたと宮川さん。

【画像11】4世帯が暮らすコーポラティブハウスの共有スペースは、ドラマでも度々登場する場所だ(撮影/末吉陽子)

【画像11】4世帯が暮らすコーポラティブハウスの共有スペースは、ドラマでも度々登場する場所だ(撮影/末吉陽子)

「コーポラティブハウスをメインに設計しているメーカーを演出担当者と一緒に3、4社まわり、実際の建物を見学させてもらいました。自分たちで、構造から空間、部屋、床材から壁の色まで決められるのはメリットだと思います。あと、マンションだと隣に誰が住んでいるか分からないことが多いかもしれませんが、ゼロから建てるため、皆で集まって話し合いをするので、顔を見られる安心感があります。

そうした過程を経て、連帯感ができると聞きました。裏を返せば、ちょっとお付き合いしにくい人がいた場合、もめごとの要因にもなってしまう不安もありますが、メーカーさんいわく、普通のマンションのような距離感を保って住むこともできるそうなので、住む人次第なのかなと思います」

現代社会に生きる家族が抱える悩みを、新しい住まいのかたちを舞台にリアルに描いたドラマ。ぜひ物語と一緒に、お部屋のつくりにも目を向けてみてくださいね。

●取材協力
・フジテレビ木曜ドラマ『隣の家族は青く見える』