
22万7,000円 / 62.6平米
井の頭線「井の頭公園」駅 徒歩5分
吉祥寺の住宅街に現れる、庭付きの小さな建物。外観のフォルムや質感、隣接する庭の生い茂る緑、居心地良さそうなウッドデッキのテラスがなんとも素敵な印象でグッときます。
戸建に見えますが、もとは母屋に付随するハナレ(音楽室)として建築された建物で、現在は母屋と連結されて長屋形式になっ ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
住まいの気密性・断熱性を高める重要性は、徐々に周知されつつあります。しかし、その一方で、高性能住宅を施工する工務店の中でも、意識や技術には差があるというのが現状です。
2025年にはすべての新築住宅に省エネ基準の適合が求められますが、新築住宅の着工数は減少傾向にあり、既存住宅の割合は増えるばかり。さらに、新築住宅は高騰を続けていることから、消費者ニーズを満たし、カーボンニュートラル達成のためには、新築住宅のみならず既存住宅の性能向上が不可欠だといえるでしょう。
そこで今回は、いち早く気密・断熱改修に力を入れている埼玉県の工務店「夢・建築工房」を取材。代表取締役の岸野浩太(きしの・こうた)さんに、今の日本の課題や高性能リノベーションの効果についてお聞きしました。
30年前から超高性能な家づくりに取り組む理由(写真提供/夢・建築工房)
(写真提供/夢・建築工房)
夢・建築工房は1995年、埼玉県東松山市で創業しました。今でこそ、住まいの断熱、気密の重要性が認知され始めていますが、約30年前の当時の家は、夏は暑く、冬は寒いのが当たり前。窓は単板ガラスが一般的で、1992年の省エネ法改正により徐々に断熱性能の重要性が高まりだしたころ、同社ではすでに樹脂製のサッシやペアガラスを取り入れ、気密測定や全館暖房などの仕組みを導入していたといいます。
「創業者の土居は、空調換気の仕事やハウスメーカーの現場監督を経て独立したと聞いています。おそらく、何か変わったことをやりたかったんじゃないですかね。当時、うちでつくっていた住まいは、UA値でいうと0.5前後くらい(ZEH水準以上)です。時代に先駆けてここまでやるのは『バカ』ですよ(笑)でも、その『バカ』たちが日本の住宅性能を上げてきたのだと思います」(岸野さん、以下同)
岸野さんが代表に就いたのは、2013年のこと。その前年には東京都でドイツ認定のパッシブハウスを2棟施工し、UA値0.3を切る家(断熱の最高レベル)を建築していたといいます。とはいえ、当時はまだまだ高断熱・高気密の重要性やその言葉自体もあまり認識されていない時代だったため、同社の現場に見学に来る工務店も多かったのだとか。
「営業も発信もせず、ただただ性能の高い住まいづくりをしていたら、自ずと高性能住宅として評判が上がっていきました。一般の方より先に目をつけてくれたのは、全国のメーカーさんや工務店さんです。当時、興味津々でうちの現場を見に来ていた業者さんは、今では断熱等級7の住宅しかつくっていないですよ」
夢・建築工房 代表取締役 岸野浩太さん(写真提供/夢・建築工房)
日本の家づくりはようやく「スタートライン」に立ったところ高性能住宅は、単に高性能な建材や設備を使うだけでなく、高い設計力や施工技術を要します。同社では、高い品質を維持・管理するため社内に住宅管理部を置き、同社専属の8名の大工のみが施工しているそうです。
「大工さんを増やすときは、しばらく他の大工さんと一緒に現場に入ってもらいます。先進的な家づくりをしている他国に学びに行くこともありますし、うちみたいに他とは違うことをやっている工務店の現場にお邪魔して学ばせていただくこともあります。モットーは『2歩先を行く』こと。他と同じことをしていないで、常にバカなことをやっていきたいと思っています」
建築業界には、以前から他社と切磋琢磨し、学び・学ばれる文化があるようです。しかし、そのような交流が見られるのは一部であり、日本の建築技術は決して高いとはいえないと岸野さんは言います。
「ゆめけんの家 コンセプトハウス」(写真提供/夢・建築工房)
(写真提供/夢・建築工房)
「2025年からすべての新築住宅に省エネ基準適合が義務付けられますが、いくら机上で高性能な住宅を設計しても、それが実現できるかどうかは現場の意識や技術次第です。また、たとえ高気密・高断熱であっても、空調や換気の入れ方、使い方によってはすごく寒い家になってしまうこともあります。断熱材の入れ方によっては、数年でカビが見られるようになってしまうこともあるでしょう」
省エネ基準適合義務化に先駆け、2024年4月には「省エネ性能表示制度」がスタートしました。これにより、消費者の意識も徐々に高まっていくことが予想されます。岸野さんによれば、日本の家づくりはようやくスタートラインに立ったところ。高品質の家をつくるには知識や技術が求められますが、それ以前に「住宅の性能を高めよう」という意識が必要だといいます。
「知識や技術の差は、わずかなものだと思います。やろうとしなければ、できるようにはなりません。とはいえ、北海道、東北、関東圏……と徐々に施工技術の高まりは南下してきていて、近年は近畿圏で盛り上がりを見せています。まだまだ高気密・高断熱の施工がしっかりできる職人さんは少ないですが、これから徐々に増えていくことに期待したいですね」
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注)単位未満を含む数値で計算しているため、表章数値による計算とは一致しない場合がある
2024年4月に総務省から発表された令和5年住宅・土地統計調査の住宅数概数集計の速報値によれば、2023年10月時点の日本の住宅総数は6,502万戸。2018年からの5年間で4.2%増加しました。このうち900万戸が空き家で、空き家率は13.8%と過去最高となりました。
2025年から省エネ基準適合が義務付けられるのは、新築住宅のみです。しかし、近年の新築住宅着工戸数は年間80万戸程度にとどまることから、カーボンニュートラルの推進や空き家問題の解消のためには、6,500万戸以上存在する既存住宅の性能向上と流通促進が不可欠だといえるでしょう。
昨今では新築住宅の高騰が見られることもあり、同社でもリフォームやリノベーションに力を入れているといいます。
「我々は、より多くの方に断熱等級6や7の住まいの良さを体感していただきたいんです。新築でここまで高性能な住宅となると、一般の人にはなかなか手が届きません。しかし『中古住宅+リノベーション』であれば、新築住宅を買うより500~1,000万円ほど価格を抑えられます。断熱等級4の新築戸建と断熱等級7の築30年の住宅が同じ金額で取得できるのであれば、圧倒的に後者のほうが”買い”だと思います。30年という差は、リノベーションで埋められますからね」
築30年の木造戸建てを高性能住宅に既存建物調査で施主の要望を確認。さらに改修範囲と断熱性能気密性能をどこまで高めるか相談
既存リビング
左/既存洗面所、右/既存浴室
(写真提供/夢・建築工房)
同社がフルリノベーションした築30年の木造住宅は、一見すると綺麗な外観ですが、内部の壁面表層は黒カビが目立ち、壁内はかなり腐食が進んでいたといいます。床下には、シロアリ被害も見られました。
「中古住宅探しからサポートさせていただくときは、新耐震基準かつ延べ床面積が80~100平米程度のお住まいをご提案させていただきます。この程度の広さであれば、長期優良住宅の認定を取得することも可能で、リノベーション費用も抑えられるからです。加えて、今は瑕疵(かし)保険を付帯することもできるので、新築と遜色ない安心感が得られると思います」
解体後(写真提供/夢・建築工房)
このお住まいは、基礎補強が必要になり、気密性・断熱性もできる限り最新の状態にしたいという施主さんの要望もあったことから、床・壁・天井を全面的に解体したのだとか。かなり大掛かりな工事となったようですが「ここまで解体するからこそ安心できる」と岸野さんは言います。
「工事の際は必ず中か外をすべてスケルトンにしますので、基礎・柱・梁が健全である証拠を写真に収めることができます。中古住宅に不安を抱くのは『見えない』からです。いっそ、すべてむき出しにしてしまったほうが安心できるんですよね。シロアリ被害があっても、腐食が見られていても、丁寧に補修します」
リノベーションデータ
高断熱工事熱損失係数UA値0.45W/m2Kへ改修(既存時UA値2.1W/m2K)天井:熱貫流率0.12W/m2Kへ改修(既存時4.48W/m2K)壁:熱貫流率0.42W/m2Kへ改修(既存時0.81W/m2K)床:熱貫流率0.37W/m2Kへ改修(既存時2.54W/m2K)サッシ:オール樹脂アルゴンガス入りペアへ入替え(既存時アルミ単板ガラス)玄関ドア:熱貫流率0.9W/m2K超高断熱木製ドア高気密工事気密測定C値1.7cm2/m2、合板気密工法・シート気密工法による冷暖房工事暖房:エアコン冷房:エアコン換気工事第1種熱交換型換気システム:パナソニック製を使用「部分断熱リフォーム」でLDKを断熱気密空間に(画像提供/夢・建築工房)
部分断熱リフォームとは、寝室だけ・LDKだけなど、部分的に断熱改修を実施するリフォームを指します。床・壁・天井に加え、窓も改修することで、一部分だけ完全な断熱気密空間に仕上げるといいます。
「総断熱改修をするほど予算をかけられない方に選ばれているリフォームです。この事例の施主様は、60代のご夫婦。2階に上がることが億劫になってきたということで、1階の和室を洋間に変えて、将来的には1階だけで生活できるようにしたいと希望されていました。私たちが気になったのは『でも、寒いのよね』のひと言。家全体を断熱改修することができなくても、長く過ごす場所が快適であれば暮らしの満足度は高まることから、部分断熱リフォームをご提案しました」
(写真提供/夢・建築工房)
部分リフォームとはいえ、床、壁、天井を解体し、窓は樹脂サッシに交換。床断熱・壁断熱・天井断熱に加え、床下・外周部・隣室との間には気流止めを施工しました。
リフォーム後のLDKは、冬でも無暖房で17~18度ほどで、夏は冷房の効きが格段に上がり、電源をOFFにしてもしばらく涼しい状態が続くのだとか。岸野さんは、家中の窓を高性能なものに替えるのなら、部分断熱リフォームをおすすめしたいと言います。
「窓を替えれば暖かくなりますし、冷暖房効率も上がりますが、それは『輻射(ふくしゃ)』による効果ではありません。この事例はLDKのみの断熱リフォームなので、冬場は廊下が一桁の温度になることもあります。しかし施主さんは、寒い廊下に出ても寒さを感じづらいとおっしゃっていました。高気密・高断熱の家は暖房で無理やり空気を暖めるのではなく、床・壁・天井からの輻射熱によって体が温まるため、芯までぽかぽかになります」
完成(写真提供/夢・建築工房)
買取再販事業の先に見据える「暖かいまちづくり」夢・建築工房は、リフォーム・リノベーションに加え、買取再販事業にも積極的に取り組んでいます。
「リノベーションに力を入れるのは、工務店にとっても良いことだと思うんですよ。新築の設計や施工に比べて、時短になるからです。さらに、買取再販事業は自社の意思で物件購入からリノベーションまで施工できます。新築やリノベーションを受注しながら2~3棟でも買取再販事業に時間と労力を割くことができれば、タイムパフォーマンスは一層高くなると思います」
(写真提供/夢・建築工房)
現在、同社で施行中の買取再販住宅「鳩山町楓ケ丘の家」は、築45年の在来軸組2階建住宅。改修後のUA値0.26で、断熱等級は日本の現行制度の最高等級にあたる「7」、C値は世界でもトップレベルの「0.8以下」となる予定です。
岸野さんは、買取再販事業で「暖かいまちづくりを目指したい」と語ります。このため、現在は、埼玉県の鳩山町に絞って買取再販事業を推進しているのだと言います。「2歩先に行くこと」をモットーとするからには、気密性・断熱性の追求だけでなく、工務店としての新たなステージを見据えているようです。
性能向上リノベーションは「三方良し」の住まいの選択肢性能向上リノベーションは、人手不足や土地不足、空き家問題などの課題も解決できるとともに、消費者は取得費も抑えられることから、工務店、国、消費者にとってメリットの大きい三方良しの選択肢ともいえます。岸野さんによれば、まだまだ高気密・高断熱の施工がしっかりできる職人さんは多くないとのことですが「新木造住宅技術研究協議会」や「パッシブハウス・ジャパン」など、技術の習得に熱心な工務店が加盟する団体もあるようです。
性能向上リノベーションを実施するには、リノベーションによってどのように生まれ変わるのか、リノベーションにいくらかかるのか、補助金制度は利用できるのか、長期優良住宅の認定は取得できるのか……など幅広い知識と経験が必要です。物件選びの段階で意識が高く、技術力のある工務店に相談することで、住まいの選択肢は格段に広がるのではないでしょうか。
●取材協力
夢・建築工房(スーモサイト)
●画像出典
総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅概数集計(速報集計)結果」
今年も、熱中症を想起させる救急車のサイレンが気になる季節になりました。そこで早めに対応したいのが住宅の断熱です。断熱というと寒い冬を連想するかも知れませんが、暑い夏からも命を守ってくれるのです。夏の断熱の効用について、住宅と健康の関係についての第一人者である慶應義塾大学名誉教授の伊香賀俊治先生に教えていただきました。
慶應義塾大学名誉教授 伊香賀俊治先生(撮影/片山貴博)
今年も熱中症に注意が必要、なかでも住宅内で過ごす高齢者は危険!?気象庁は昨年2023年9月に、同年の日本の夏(6月~8月)は1898年の統計開始以降で最も気温の高い夏だったと発表しました。さらに同庁が今年4月に発表した「向こう3カ月(5月~7月)の天候の見通し」によれば、全国的にこの初夏は「高い見込み」だそう。暑かった昨年同様、今年もまた熱中症に注意する必要がありそうです。
熱中症とは、高温多湿な環境に長時間いることで、体温を調整する機能が上手く働かなくなり、体内に熱がこもった状態を指します。場合によっては意識障害やけいれんが起こり、時には死に至ることさえあります。
(写真/PIXTA)
テレビや新聞では炎天下のなかでの「スポーツの練習中」や「農作業中」に倒れて緊急搬送された、というような熱中症がよく取り上げられます。しかし、熱中症になる場所で一番多いのは、実は屋外ではなく「住宅の中」であることはご存じでしょうか。
約40%が住宅の中で熱中症になり、緊急搬送されました(出典/総務省「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)
また、熱中症で緊急搬送される人の年齢を比較すると、下記のように65歳以上の高齢者が半数以上を占めています。
熱中症で緊急搬送される人の半数以上が65歳以上の高齢者でした(出典/総務省「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」)
さらに、伊香賀先生によれば「住宅内の熱中症の発生箇所は居間・リビングや寝室が多く、熱中症で緊急搬送された高齢者の多くがエアコンを使用していませんでした」と指摘しています。
伊香賀先生による、高齢者の住宅内の熱中症発生場所の調査結果です。「居間・リビング」と「寝室・就寝中」が71%を占めます(伊香賀俊治、堀 進悟、三宅康史、鈴木 昌、村上由紀子: 住環境と熱中症、日本臨牀 Vol.70, No.6, pp.1005-1012, 2012年6月)
伊香賀先生による、住宅内で熱中症になった人々が冷房を使っていたかどうかを調べた結果です。住宅内で熱中症になった人の85%が冷房を使っていませんでした。また冷房を使わなかった人の60%が扇風機も使っておらず、50%が窓を閉めていました(伊香賀俊治、堀 進悟、三宅康史、鈴木 昌、村上由紀子: 住環境と熱中症、日本臨牀 Vol.70, No.6, pp.1005-1012, 2012年6月)
つまり、炎天下を避けて大人しく家で過ごしていたにもかかわらず、いつの間にか熱中症になる可能性がある、ということです。特に暑さを感じにくくなり、エアコンは体に悪いと思っている高齢者は注意が必要です。
さらに、伊香賀先生は「古い集合住宅の最上階にある住宅は、熱中症になる危険が高くなります」と注意を促します。その理由は、下記を見ると一目瞭然です。
同じ日・同じ地域の一戸建てと集合住宅の室温の違いをグラフ化したもの。当日の最高気温は36.4℃の猛暑日でした。一戸建てでは朝の5時には28.5℃まで室温が下がりましたが、集合住宅ではなかなか室温が下がらず、特に最上階の住戸では朝5時になっても32.0℃ありました(伊香賀先生調査)
コンクリートは蓄熱性が比較的高い建築材です。そのため近年のRC造(鉄筋コンクリート造)等の分譲マンションなどはしっかりと断熱が施されていますが、古い集合住宅は断熱が不十分であることが多いのです。すると日中の日射熱を蓄熱した、建物の天井(最上階の天井)や外壁が夜になっても住宅を温め続けるという状態になるのです。
調査した古い集合住宅では最上階の天井の表面温度が32.5℃に達していました。この時の就寝時の住人の体温は、熱中症の「厳重警戒(上記表参照)」域でした(伊香賀俊治:屋内で発生する熱中症、特集 熱中症と闘う in 2019 for 2020、救急医学第43巻第7号、pp.912-917、ヘルス出版)
熱中症を防ぐ目安としては「室温28℃以下で湿度が70%以下」では、家の中の温度が何℃以上だと熱中症になる危険があるのでしょう。
「実は、WHO(世界保健機関)や、国による確たる基準は現在のところありません。まだ研究中であることや、国や地域によって、汗をかきやすい(=体温を下げやすい)体質が異なるなどの理由からです」と伊香賀先生。
(撮影/片山貴博)
ただし、目安としては「室温28℃以下で湿度が70%以下」にするといいそうです。
これは、厚生労働省が働く職場環境(事務所衛生基準規則)に定めている数字。ここで注意したいのは室温だけでなく、湿度も重要だということです。なぜなら、湿度が高いと汗がかきにくくなるため、体温調整が上手くいかなくなるからです。
下記は、日本生気象学会の「日常生活における熱中症予防指針」をもとに、伊香賀先生が作成した表になります。これによれば、たとえ室温が26℃でも、湿度が70%未満なら「注意」ですが、湿度が90%であれば「厳重警戒」になります。
温度基準注意すべき生活行動の目安注意事項室温と相対湿度の組み合わせ例危険エアコンでは、「除湿」機能はさることながら、「冷房」機能でも室温を下げる際に、湿度も下げてくれます。ですから断熱をしっかり施せば、エアコンを効率的に働かせることができ、熱中症を避けることができるのです。
もはや日本の夏は亜熱帯気候に変化している!?それにしても、最近の日本の夏は暑くなったと感じませんか。「昔はエアコンなんてつけずに眠れた」や「扇風機を回したまま寝ると、風邪を引くといって親に怒られた」という昭和世代も多いのではないでしょうか。
事実として、下記のデータでは日本の夏が確実に暑くなっているとわかります。
棒グラフ(緑)は毎年の値、折れ線(青)は5年移動平均値です。1950年以前は5日以下だったのに対し、1990年に初めて30日を記録すると、2018年には49日に到達しています(出典:気象庁)
上記は京都のグラフですが、東京も大阪も北海道も福岡も、全国各地で軒並み夜でも気温が25℃を下回らない熱帯夜が増えているのです。
以前「室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマストな理由は省エネだけじゃなかった」でも紹介しましたが、1330年代に書かれた『徒然草』には「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる」、という記述があります。
当時、京都に暮らしていた吉田兼好(『徒然草』の作者)は、夏の暑さに辟易としていたのでしょう。だから家をつくるなら夏の暑さをなんとかすれば、冬はなんとでもなると書いたのですが、上記グラフから推測すれば、700年以上前の京都には猛暑日なんてほとんどなかったと思われます。
つまり「吉田兼好(『徒然草』の作者)が嘆いた夏よりも、今はさらに暑い夏なのです」と伊香賀先生は言います。「日本の夏は、亜熱帯気候に変化していると思います」。
もはや兼行が暮らしていた頃のように、風通しをよくすればしのげた夏ではなく、冬と同様、家の断熱性能を高めて冷房機器や暖房機器を効率的に使うことが望ましい夏になったということです(冬の断熱効果については「室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマストな理由は省エネだけじゃなかった」をご参照ください)。
暑い夏の危害は、高齢者だけでなく、子どもや大人にも迫っているまた、夏のエアコンの使用といえば、数年前に小学校でのエアコン使用の是非がニュースになりました。文部科学省も2018年に学校環境衛生基準において、教室の温度を「10℃以上、30℃以下が望ましい」から「18℃以上、28℃以下が望ましい」へと改訂しましたが、伊香賀先生による調査でも、夏の暑さが子どもたちに与える悪影響は如実に表れています。
A校とE校は木造校舎、B・C・D・F・G・H校はRC造の校舎です。また木造とA・E校はどちらも断熱改修を施した前と後の結果を記載しています。このように、体感温度が高い教室のほうが体調不良や集中力の低下が起こりやすいとわかります。木造とA・E校は断熱改修をしたことで、それらの低下がはっきりと見られました(「月刊 健康づくり_健康に住み続けられる住まい入門_熱中症抜粋_2020年度」より)
このように、校舎の断熱改修を施したことで体調不良を訴えたり、集中力が欠如する児童が減ったのです。「体調不良になったり、集中ができない校舎は、とても学ぶ環境とはいえないでしょう」と伊香賀先生も話します。
(撮影/片山貴博)
(写真/PIXTA)
もちろん、暑い夏の危害は、子どもや年寄りだけに及ぶわけではありません。伊香賀先生の調査によれば、働く世代の仕事効率も下げているのです。
オフィスビルで働いている人に協力してもらい、冷房設定温度の違いで作業効率がどう変わるか調べたところ、室温25.7℃が最も作業効率が良いとわかりました。
(「月刊健康づくり_健康に住み続けられる住まい入門_熱中症抜粋_2020年度」より)
一方で、28℃から25.7℃へ室温を下げれば光熱費が余計にかかりますが、代わりに残業が減ります。この調査では人件費3000万円/月が節約できるのに対し、光熱費の増加はわずか34万円/月という結果になりました。
省エネしたいなら、温度設定ではなく、建物を断熱するそもそも夏のエアコンの設定温度に28℃が推奨されてきたのは、省エネという目的からです。一方で、作業効率や費用対効果を考えれば25.7℃が理想です。
だからといって省エネをおろそかにするわけにはいきません。そこで、エネルギーをほとんど使わずに快適な室温を維持しやすいよう、建物に断熱を施すことが重要になります。断熱性能を上げることで、エアコンのエネルギー消費量を下げることができるからです。
(写真/PIXTA)
国も現在、住宅だけでなく、オフィスビル等の断熱性能を高めて省エネ化を図ろうとしています。その一例が「ZEB(ゼブ)」の推奨です。ZEBとは住宅のZEH(ゼッチ)同様、快適な室内環境のまま、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにする建物のこと。もっと分かりやすくいえば、ほとんどエアコンを稼働させなくても快適なビル、のことです。国はこのZEB化に対する補助金制度を用意しています。
もちろん、断熱性能が重要なのはオフィスビルだけではなく、私たちの住宅も同じです。ですから国は現在、住宅については断熱に関する補助金制度をいくつか用意しています。
その中でも、断熱の要である“窓の断熱”を促す補助金制度「先進的窓リノベ2024事業」は、内窓の設置だけでも補助金を受け取れるので、手軽に利用できる補助金制度です。今夏を迎える前に、こうした補助金制度を使って自宅のリフォームを検討してみてはいかがでしょうか。
また、もし離れて暮らす高齢の両親がいるなら、お盆の時期よりもできるだけ早く、断熱リフォームの話をしてみてください。断熱すれば夏も冬も安心です。壁を剥がすような大がかりな断熱リフォームだと、両親は二の足を踏むかもしれませんが、例えばリビングと寝室に内窓を備えるだけなら拒否感が少なく応じてくれるかもしれません。
その際に、実家に温度湿度計がないなら持っていくことをおすすめします。高齢になると体の温度センサーが上手く機能しないので「実は自分たちが思っている以上に蒸し暑い」とわかれば、断熱の話もスムーズに進むはずですよ。
●取材協力
慶應義塾大学 理工学部 名誉教授
日本建築学会 前副会長
伊香賀 俊治(いかが・としはる)さん
1959年東京生まれ。1981年早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修了。(株)日建設計環境計画室長、東京大学助教授を経て、2006年慶應義塾大学理工学部教授に就任。2024年4月より名誉教授、5月末より一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター 理事長に就任日本学術会議連携会員、日本建築学会副会長、日本LCA学会副会長を歴任。主な研究課題は『住環境が脳・循環器・呼吸器・運動器に及ぼす影響実測と疾病・介護予防便益評価』。著書に『すこやかに住まう、すこやかに生きる、ゆすはら健康長寿の里づくりプロジェクト』『”生活環境病”による不本意な老後を回避するー幸齢住宅読本ー』など。
近年“住宅の省エネ”、中でも“断熱”への関心が高まっています。2022年の建築物省エネ法の改正を受け、2025年4月以降に着工するすべての新築住宅・非住宅で「断熱等級4」以上が義務化されることの影響も大きいでしょう。
そもそも断熱はなぜ住宅に必要なのでしょうか? また断熱によって住まいはどう変わるのでしょうか? エコハウス研究の第一人者、東京大学 准教授の前真之(まえ・まさゆき)さん(工学系研究科 建築学専攻)に聞きました。
そもそも「断熱」とはどのようなものでしょうか?
「断熱とは、熱の出入りを断ち、部材の表と裏に温度差を作り出す技術です。次の画像は断熱材としてよく使用されるグラスウールをホットプレートで熱したときの表裏の温度差を計測したときのものです。ホットプレートに接する下部の面は加熱されて150度以上になっていますが、反対側である上部の面は30度に保たれており、120度以上の温度差が生じています。断面には温度分布のグラデーションができていて、熱を遮断していることがわかりますね」(前さん、以下同)
断熱材であるグラスウールをホットプレートで熱したときの温度差を実証したときの様子。断熱材によって下側のホットプレートの熱が上部では断たれていることがわかる(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)
「この断熱材の性能を活かして断熱・気密をしっかりしていれば、エアコン1~2台で住まいの全空間を冬も夏も快適な状態に保つことができます。実はエアコンを使用するとき、各部屋に1台ずつ4~6畳用のエアコンを同時に稼働させて低負荷運転を続けるのはエネルギー効率が悪く、電気代が余計にかかります。自動車が渋滞にはまると燃費が悪くなるのと同じです。それよりも家全体を1台で空調することでエアコンにうまく負荷をかけたほうがずっとエネルギー効率が良く、電気代を抑えられるのです」
冬にエアコン1台で暖房の効き具合を比較したときの様子(左が写真、右が遠赤外線カメラで撮影して温度分布を表したもの)。断熱等級6以上になると床の温度が22度を超え、エアコン1台で広いLDKスペースや隣接する部屋も含めた全体が暖まっている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)
断熱が必要なのは、冬だけじゃない!「夏の断熱」が大事な理由部屋の温度差について考えるときには、近年「ヒートショック(急激な気温の変化によって血圧や脈拍が変動することで心筋梗塞や不整脈、脳出血・脳梗塞などの発作を起こすこと)」による事故の報道などを通じて、住宅内の気温差が問題になっていることを思い起こす人もいるでしょう。この住宅内で暖房している場所と暖房していない場所の間で極端な温度差が生じるのは、まず第一に断熱・気密の不足、次に家全体を暖める空調ができていないことが原因です。建物の断熱・気密をしっかり確保して、暖房の熱を家中にしっかり届ける仕掛けが必要なのです。
ヒートショックとは、部屋間の寒暖差によって血圧や脈拍の変動が体に悪影響を与えること(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)
ヒートショックは冬に起こることが多いのですが、前さんは「これからは、夏を健康・快適に過ごすためにも断熱が非常に重要」だと言います。
「一日の最高気温が35度を超える猛暑日の発生日数を見てみると、1980年代・ 90年代は年間でほぼゼロ日だったのが、2023年には40日を超える地域が出てきています。北海道や東北地方でも熱中症になって救急搬送される人が2023年には2022年の10倍に急増しました。日本はエアコンを使わずにガマンすることが省エネだと考える風潮もあり、暑さ・寒さに耐えて命を脅かす事件が多発しています。すでに温暖化の影響は明らかですが、今後さらに夏の暑さは厳しくなることが予想されます」
(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/日本気象協会推進「熱中症ゼロへ」プロジェクト)
さらに深刻なのは、子どもたちが長い時間を過ごす小・中学校です。
「学校建築は本来、換気が命。大きな窓を開けて空気を入れ替え、風を通すことで快適に過ごせるように設計されています。ところが、近ごろは夏期の外気温が高すぎて、窓を開けると室内が熱くなるため、開けられません。断熱が十分に施されてない学校施設では、外の熱がそのまま室内に侵入するため、どんなに冷房を入れても涼しくならない。結果、子どもたちが学習に集中できないばかりか、中には熱中症にかかってしまう子も出ています。子どもたちを過酷な暑さと汚れた空気から救うため、最近では教室を断熱改修する取り組みが広がっています」
築40年以上の建物も多い小・中学校は換気する前提で設計されているため、断熱性能が低く、子どもたちの日常が危険にさらされている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)
学校の断熱改修前後における冷房時の温度変化。いずれも冷房1台を稼働させているが、天井断熱を施すことで、同じ冷房器具でも教室全体の温度を下げられるようになる(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)
この状況に対して、強い危機感を抱いた前さんは、2023年の夏に、学校改修を求める2万6千人の署名を集めた上で、当時の文部科学大臣に小・中学校の断熱改修について提言をしたこともあるそう。ところが当時は「通常の建物改修で十分に対策できる」との返答で、納得のいくものではありませんでした。
「自治体によっても学校の断熱改修などの対応には差があります。例えば、ある都道府県では積極的に対策がとられているが、隣の県では全く断熱改修に取り組まれていなかったりします。自治体によって子どもたちの教育環境が大きく異なっている実態はあまり知られていません」
積極的に取り組みが行われている自治体の例として、東京・葛飾区では、区内の小・中学校で児童・生徒とワークショップ等を行いながら断熱改修し、その効果検証をしています。同じく東京・杉並区でも今後、断熱改修に取り組んでいく予定だそうです。
「文部科学省も、2024年3月に公開した『学校施設のZEB化の手引き』において、『まずは断熱改修から!』ということで、予防改修+屋根断熱を緊急で行うことを提言しています。日本中の教室が一刻も早く、すべて断熱改修されることを期待しています」
2025年4月から「断熱等級4」が義務化! 省エネ性能の表示制度も始まる建築物省エネ法の改正(正式名称:脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律)を受け、2025年4月以降に着工するすべての新築住宅・非住宅で「断熱等級4」「一次消費エネルギー4」以上であることが義務化されます。これに先駆けて2024年4月に開始した建築物の省エネ性能表示制度は、新築住宅の販売時や賃貸住宅の入居募集時に住宅性能を明示することを販売・賃貸する事業者の努力義務としたもの。省エネ性能ラベルに記載される住宅性能の中で最も重要なのは、家マークの数で表されている「断熱性能」です。
前さんは「住宅の省エネ性能表示がようやく開始されたこと自体は一歩前進」と評価しながらも、「住宅も商品である以上、性能がきちんと表示され、それを買う側・借りる側が確認をして購入・賃借するのは当たり前のこと。今回ははじめの一歩であり、今後は中古住宅も含めて、住宅の性能が買う人・借りる人のすべてに提供されていくことが肝心です」と言います。
東京大学 工学系研究科 建築学専攻 准教授の前真之(まえ・まさゆき)さん。「Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室」を主宰し「みんなが快適で豊かに暮らせる住まいのあり方」を追究している(写真撮影/片山貴博)
2025年から義務化されることが決まっている「断熱等級4」も、もはや十分な断熱性能とはいえません。国土交通省は「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」にもとづき、断熱性能に1~7の等級をつけており、数字が大きいほど断熱性能が高いことを示します。ところが、前さんによれば「義務化される断熱等級4は、世界標準と比べると低すぎる」そう。
「断熱性能は、UA値(外皮平均熱貫流率)で判断されます。これは外気に触れる住宅の壁や屋根、窓などから室内の熱がどれくらい外に逃げやすいかを表したもので、数値が小さいほど断熱性能が優れていることを示します。地域の気候に応じて、断熱等級ごとにUA値の上限(基準値)が定められています。日本で2025年に義務化される断熱等級4という基準は、25年も前の1999年に設定されたものであり、同じ程度の寒さの諸外国のと比較してもUA値がはるかに大きく、断熱性能が不足しています」(前さん、以下同)
「断熱等級4」は1999年時点の他国の水準と比べても大きく劣る(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/国土交通省「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第三次報告案)及び建築基準制度のあり方(第四次報告案)について」)
日本の断熱基準には抜け穴も!? 断熱性能はどう見るといい?さらに前さんは適正な基準であるべき指標が「日本では住宅を建てる側が達成しやすくするために、基準があえて緩められているのでは」と指摘します。
「次の図は日本の住宅・建材生産者団体の有志が20年先を見据えて設けた『HEAT20』という断熱等級と国交省が定める先の断熱等級とを比較したものです。日本の断熱等級は8つの地域区分に応じて各等級ごとのUA値(※1)を設定しています。上位の断熱等級である5~7はHEAT20(※2)のG1・G2・G3の指標を参考に定められたはずなのですが、なぜかHEAT20のUA値と比べると準寒冷地である4地域(代表都市:秋田)や5地域(代表都市:仙台)のUA値が大きい、断熱性能が劣るほうに緩和されているのです。また、国交省が2030年までに義務化するとしている『ZEH水準」の等級5では、準寒冷地の4地域(代表都市:秋田)や5地域(代表都市:仙台)が、温暖地の6地域(代表都市:東京)や7地域(代表都市:鹿児島)と同じ基準値でよいとされています。本当にこれでいいの?と疑いたくなる基準です」
※1:UA値…外皮平均熱貫流率。住宅の熱の出入りのしやすさを表す
※2:HEAT20…「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」のこと。住宅外皮水準のレベル別にG1~G3と設定し、提案している
等級5では、準寒冷地である秋田や仙台などを代表とする地域が、東京や鹿児島と同じUA値になっている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室)
このような基準になっている背景について、前さんは「建設会社が全国で建築物を建てるときに、建築物の着工数が多い首都圏の6地域に基準を寄せることで、準寒冷地である4地域や5地域の建築物でも同じ断熱で仕様基準を達成できるようにしているのではないか」と疑念を向けます。
さらにこのような基準設定の違和感は、マンションの断熱性能の評価方法や太陽光発電の搭載など、さまざまなところで見られ「国交省が2025年から義務化する断熱等級4、2030年までに義務化予定の断熱等級5を満たすから、十分な住宅性能がある」とはいえないと言います。
それでは、一般の人が省エネ性能ラベルなどで判断するときには何を基準に判断すればいいのでしょうか?
「先の表で断熱等級4と5のUA値を比較して見ると分かりますが、その差は大きくありません。実際に住んで体感できるほどの断熱効果が感じられ、暖冷房のコストも抑えられるのは、HEAT20のG2相当である断熱等級6以上だと考えています。もうちょっと断熱を頑張ると、温度と電気代のバランスが十分に良くなります。こうした断熱等級6+αの断熱は国交省の規定にはありませんが、断熱等級6.5とか呼んだりしています。
温度と電気代のバランスを取るには等級6以上が必要、等級5はZEHレベルといえどもまだ十分ではなく、等級4ともなると23年前の基準で不十分といって良いレベル、等級3以下だと実質無断熱といっていいと思います。残念ながら日本の住宅ストックの多くはこうした実質無断熱のため、今後はリフォーム時に断熱改修を行うことも重要になります」
「住宅の性能を高めるためには、国、さらには自治体の努力が不可欠です。住宅の性能向上に関する施策で、とくに進んでいるのは鳥取県です。今の欧米基準と比べても遜色のない住宅性能評価基準として、新築では『NE-ST(ネスト、とっとり健康省エネ住宅)』、既存改修では『Re NE-ST(リネスト、とっとり健康省エネ改修住宅)』を設け、断熱はもちろん、気密性能についても基準を設けています。県内で生産された建材を使うことを条件に、新築住宅の性能に応じた補助金を出して導入を促進。また、中古住宅に対しても『T-HAS(ティーハス、とっとり住宅評価システム)』という独自の住宅性能査定エンジンをつくり、中古住宅の性能やリフォームの状況を適正に評価できるようにしました。この仕組みによって高い評価を受けた住宅は、中古住宅として売買する際もその価値に応じた銀行の融資が可能になるはずです」
鳥取県では独自に「とっとり健康省エネ住宅性能基準」を設け、基準を満たす新築住宅に補助金を出すなどしている(画像提供/Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室、出典/鳥取県)
他には山形県でも「やまがた省エネ健康住宅」として独自に認証する仕組みがあるほか、長野県も類似の制度を導入しようとしているようです。また、断熱への取り組みは自治体だけではありません。地域でがんばっている、家の作り手がたくさんいるのです。
「近年、小さな工務店などでも『基本的な住宅性能を満たす家を建てることが、住む人の快適で健康な生活につながる』と考えて、懸命に断熱に取り組んでいる会社が全国にたくさんあります。ぜひそのような物件や会社に注目してほしいですね」
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最後に前さんに、これから私たちが住まいの省エネや断熱をどのように考えていくかべきかについてメッセージをもらいました。
「近年、デザイン性の高いものや3Dプリンターを使った技術など、建築手法に凝ったものなどさまざまな建築が話題にのぼりますが、私は本来、建築は手段であり、目的そのものではない。建築は『器』であり、その中で営まれる人びとの生活がメインのコンテンツだと考えています。なので、中で暮らす人を幸せにすることこそが、建築の第一の使命のはずです。住む人を幸せにするためには、当然に快適で安心で安全な家でなければなりません。寒い、暑い、電気代が高いなどといった問題は、今や設計や技術によって容易に解決できるわけですから、早急に解決しなければならない問題です。今の日本の低い住宅性能基準に合わせて住宅をつくっていては、到底、数十年後の将来に評価される、つまり資産としても価値のある家にはなりません。
断熱の効果は一度体験してみれば全く快適性が異なることを感じていただけるものです。最近ではいろいろなところで、断熱ワークショップやオープンハウス、宿泊体験などをやっているのを見るようになりました。目にされる機会があればぜひ実体験をしてその効果と『暮らしが変わる』可能性を実感してほしいと思います」
「断熱の効果は体験してみないとわからないが、一度体験すると断熱なしの生活には戻れない」と言う前さん(写真撮影/片山貴博)
工学部の建物の屋上には、断熱効果を実験するためのハウスを設置。土台が回転するようになっており、あらゆる方角に窓の向きを変えることで日照条件を変更しながら日射取得や暖冷房熱負荷などの測定ができる(写真撮影/片山貴博)
前さんは「1回施工すれば効果が数十年という長いスパンで続くのが、建築の良いところ」だと言います。さらに「2100年に暮らす人から『建てておいてくれて、ありがとう』と言ってもらえる住宅を増やしていきたいと思いませんか?」と投げかけます。
日々の自分と家族の生活を快適で安心なものにするために、そして日本の住環境全体をより良いものにしていくためにも、断熱に興味をもち、その良さを実感する機会を積極的に探してみることが「幸せな暮らし」への第一歩になるかもしれません。
●取材協力
東京大学 Maelab前真之サスティナブル建築デザイン研究室
愛知県岡崎市にある「サルベージSHOP レトロカルチャー」は、不要なモノを持ち込み、それに相当する価値の必要なモノを持って帰ることができるという、物々交換で成り立つショップ。どんな物々交換が行われているのか、筆者も物々交換に参加しがてら、お話を聞いてきた。
廃棄物処分場の廃棄物を見て「なんとかしたい」と考案岡崎市は愛知県の三河地域に位置し、徳川家康公生誕の地として寺社や史跡が多く残る街。物々交換ショップ「サルベージSHOP レトロカルチャー」は、岡崎市南部ののどかな街にある。
住宅街に立つ2階建ての倉庫が「サルベージSHOP レトロカルチャー」。店の前に3台の車が停められ、大量の持ち込みもOK(写真撮影/倉畑桐子)
約50坪あるという2階建ての倉庫に、数千点の衣類や雑貨が並ぶ「サルベージSHOP レトロカルチャー」は目を引き、住宅街の中ですぐに見つけられる。リサイクルショップが好きな人であれば、「何かおもしろいものが見つかりそう」とワクワクすることは間違いない。
ここで「物々交換を楽しんでいってください!」と明るく迎えてくれるのは、代表の古田雄大さんと妻のゆうこさん。「サルベージ」とは“救済”という意味だという。捨てられてしまうモノの救済のために、古田さんが「サルベージSHOP レトロカルチャー」を始めたきっかけは、片付け業をしていた時のことだった。
本業の片付け・不用品回収事業の傍ら、「サルベージSHOP レトロカルチャー」を運営する古田雄大さん(47歳)。古民家改築の経験から地域の空き家の情報にも詳しく、貸主と借主のマッチングのボランティアも検討中(写真撮影/倉畑桐子)
海上自衛隊に入隊し、5年間の任期を満了した後、東京のIT企業に就職した古田さん。3年後、地元である愛知県岡崎市に戻り、前職の関連業を立ち上げたものの仕事が増えず、片付けや不用品回収、遺品整理のアルバイトを始めた。地域で信頼を得て整理事業が拡大する中で、市内の廃棄物処分場の様子を目の当たりにする。
「トラックの荷台から、まだ使える大量のモノを処分場に流し捨てる様子を見て、『なんとかできないかな。自分は持ち帰ることができないけど、これを欲しい人もいるよな』と考えたんです」
元々、古民家を購入して自力で改築するなど、古いモノが好きだった古田さん。まずは、捨てられてしまうモノを激安価格で販売するリサイクルショップを始めることにした。
店頭に立つのは、妻のゆうこさん(43歳)がメイン。こちらはパーティーグッズの棚の前(写真撮影/倉畑桐子)
「すると、次第に売り上げが気になるようになり、モノを救うために始めた事業なのに、これでは当初の目的とは違うなと。そして、うちが不要だと判断したものを販売するんじゃなくて、みんなが不要なモノを持ってきて、必要なモノを持って帰る方がいいなとひらめいたんです」
訪れた人が次々に足を止めたアクセサリーコーナー。子どもも大人っぽいアクセサリーに挑戦できる(写真撮影/倉畑桐子)
おしゃれな色のランドセルが棚に並んでいた(写真撮影/倉畑桐子)
誰もがいつでも気軽に来られる物々交換スタイルを確立「当初は入場料や参加費をもらうことも考えました。でも、モノを救うには『誰もがいつでも気軽に』来られなければ意味がないなと考えて、お子さんでもふらりと来られるように、完全に無料にすることにしました」と古田さん。
バトンを持ってポーズする子。子どもが気軽におもちゃや雑貨を選んでいけるのが魅力(写真提供/レトロカルチャー)
こうして、現在の「自宅の不要品を持ち込み、誰かの不要品を自由に持ち帰ることができる」というスタイルを確立。持ち込んだモノよりも多くもらいたいという場合は、相当額をこの店に募金する。また、何も持ち込まないけれど欲しいモノがある時は、店内にある瓶に500円を募金し、こちらも店の運営資金にするというシステムだ。
持ち込んだモノ以上に欲しいモノがある時は、店内にある瓶へ募金を(写真撮影/倉畑桐子)
「2020年のスタート時は、どのくらいの人が来てくれるか予想もつかず、1カ月のうち1週間だけオープンする形で数カ月続けたのですが、毎回、お客さんが多すぎて、お店の前に大混雑をつくってしまったんです」と古田さん。不要品の物々交換には多くのニーズがあった。
試行錯誤を経て、現在は週4日、午前中に営業する形式に。1日平均20人くらいが、1人当たり約10個の不要なモノを持ち込み、必要なモノを選んで持ち帰る。
不要なモノと必要なモノを交換できると、みんな思わずニッコリ(写真提供/レトロカルチャー)
「物々交換をせず、不要なモノを持ち込むだけで帰る人もいますし、何時間も商品を眺めるだけで楽しんでいく年配の方もいます」とゆうこさん。日課のように立ち寄る人もいて、地域の“遊べるコンテンツ”としても浸透しているようだ。
使い終わった語学学習の本などを持ち込んだ人(写真提供/レトロカルチャー)
「どうしても売れ残り、日にちが経ってしまったものなどは処分場へ持ち込みますが、それは月に1度、軽トラで半分くらいの量だけです」と古田さん。持ち込まれる商品数から考えると、かなりの量のモノを救済できているといえるだろう。
小説や絵本、ビジネス書など、さまざまな書籍が並ぶ本のコーナー。ゆうこさんが定期的に整理整頓している(写真撮影/倉畑桐子)
商品は持ち込まれ、人件費は夫妻が店頭に立って削減するとしても、家賃や光熱費などがかかるはず。古田さんに運営の費用面について尋ねると、「赤字です、赤字!」と笑う。「サルベージSHOP レトロカルチャー」の現金収入は、1年間約30万円の募金のみ。それに対して2階建ての倉庫の家賃は年間180万円だという。差額は古田さんの自腹で賄い、運営しているという状況だ。
「日々、利益が出る方法を模索していますが、なかなか難しいですね。古着の着物を使ったレンタル事業なども試しましたが、うまくいきませんでした。現在、『サルベージSHOP レトロカルチャー』は完全なボランティアです。でも、お金を稼ぐこと以外で幸せを感じられるのって豊かなことなんですよ」と古田さん。
環境問題に対する身近なアクションを起こすきっかけに持ち込まれるモノの中で一番多いのは古着や雑貨。人気商品は食品だという。
「お歳暮やお中元の余りの缶詰や食用油を寄付してくれる人や、自宅の家の庭でできた果物を大量に分けてくれる人、近隣の農家の人が規格外の野菜を持ち込んでくれるというケースもあります。朝、持ち込まれて店頭に並べると、すぐになくなります」
すぐに空っぽになってしまうという食品コーナー。筆者の訪問時、野菜や果物はすでになかった(写真撮影/倉畑桐子)
活動に賛同した企業が化粧品の在庫などを提供してくれることもあり、店内には新品の商品も見られる。「新品の商品は募金につながるのでありがたいですね」と古田さん。他に家電やウエディングドレスなども並び、まさに「なんでもある」という印象だが、珍しいモノでは、バイク販売会社が中古の原付バイクを提供してくれたケースもあったという。「原付バイクは欲しい人が多かったので、SNS経由で入札を実施し、購入権を得た方には入札価格を募金していただきました」
化粧品や医療用ウィッグを企画販売する企業から、使用期限が2カ月後という美容液の提供も。フリープライスで寄付を募って配布(写真提供/レトロカルチャー)
肌のハリをアップする美容液は大人気。期限が過ぎると廃棄物になってしまうところ、2200本が必要な人の元へ届いた(写真提供/レトロカルチャー)
レトロな原付バイクは、入札して購入権を得た必要としている人の元へ(写真提供/レトロカルチャー)
土曜日は小学生が多く訪れるという。
「小さい頃に遊んでいたおもちゃやぬいぐるみ、本を持ち込んでくれて、これから遊びたいおもちゃや文具などを持って帰ります。小学3、4年生の女の子は、アクセサリーやバッグを楽しそうに選んでいきますね」とゆうこさん。
子どもに人気のおもちゃコーナー。遊んで満足したら、また物々交換に持ち込んで循環(写真撮影/倉畑桐子)
古田さんは話す。「親御さんから聞いた話ですが、『おもちゃを捨てるよ』というと『絶対イヤ!』という子どもも、『おもちゃを物々交換に持っていって、誰かに使ってもらおうか』というと、自ら持っていくようになるのだと。このお店が、モノを大切に使って、まだ使えるモノを次の人に使ってもらうという循環を、自然と身に付けてくれるきっかけになったらうれしいです。現代の環境問題に対して、身近で楽しく行動を起こせることの一つとして、気軽に物々交換に参加してもらえたらと思っています」
きょうだいで来店しておもちゃを選び、募金していく子どもたち(写真提供/レトロカルチャー)
いざ物々交換。自分が持ち込んだ不要品の価値とは……?筆者も物々交換に参加してみた。来店した人は、まず、持ってきた不要品を店先にあるテーブルの上に並べる。大きな家具や5年以上前の家電、布団や枕、壊れているものや汚れているものなど、いくつか持ち込みNGのものがあるので、ホームページで確認を。
筆者は今回、子どもが使い終わった絵本やおもちゃと、使わなかったベビー用品など10点ほどを持ち込んだ。
店先のテーブルで、筆者が持ち込んだ商品を検品してくれるゆうこさん(写真撮影/倉畑桐子)
持ち込まれた品物は、ゆうこさんが検品する。「使えないものを持って来られると、ここでゴミになってしまいますから」
どうしても使えないものは持ち帰ってもらうというが、多くは、検品後ブラシをかけるなどしてきれいにしてから、衣類やおもちゃなど、ジャンルごとのコーナーに並べられる。
人手が足りないため、一気に持ち込まれると検品が間に合わず、良くも悪くも、「こんなモノが持ち込まれたの!? 」と驚くようなモノが混ざることもあるそう。だからこそ、ブランド物などの掘り出し物が見つかる楽しさもあるという。
その後、持ち込んだ人は自由に店内を見て周り、持ち込んだものと「だいたいの価値が合う」と自己判断した必要なものを持ち帰ることができる。持ち帰ったものを転売したり人に配ったりするのは禁止事項だ。
持ち帰る商品やタイミングは自由なので、「中には、消しゴム1個を持ち込んだだけで、大量の商品を持ち帰るような大人もいますが……」と表情を曇らせるゆうこさん。それは明らかにマナー違反だが、「持ち込んだモノに相当する価値の必要なモノを持ち帰る」という自己判断は、なかなか難しい。持ち込むモノを選ぶ時にも悩んだのだけれど、物々交換にはモラルが問われる気がする……。
アイテムごとに仕分けられたファッションのコーナー。物々交換であれば新しいコーディネートにも挑戦しやすい。ただ試着室はないので、「合わなかったらまた持ち込んで」とのこと(写真撮影/倉畑桐子)
物々交換が成り立つ社会を、いずれは地域の観光資源に「だから、物々交換が成り立っているということは、すごいことなんです。ここ岡崎市で成立しているということは、地域の人達のモラルが高いということであり、これは自慢できるものと言ってもいいと思う。物々交換の活動が、ゆくゆくは岡崎市の観光資源の一つになればうれしいですね」と古田さん。
実際、他の地域の人からも興味を持たれることが多いといい、東京や静岡、岐阜などから車で乗り付けて、大量の不要品を持ち込むケースもあるそう。ある時は、岡崎市に来た海外からの観光客が、SNSで調べて「レトロカルチャー」に立ち寄り、物々交換をしていったこともあるという。
「お店の立ち上げ当初、本当の幸せってなんだろうと考えました。行き着いたのは、地域の人を助けて、感謝が循環するような地域社会をつくり、その中で暮らすことでした。今、お店の存在が地域の人から感謝され、僕たちへの差し入れをいただくこともあります。環境問題に対して行動しながら、感謝が循環する場を自分たちで提供できていることは、とても幸せです」と古田さんは語る。
古着屋感覚で友達と一緒に来ると、ますます楽しい(写真提供/レトロカルチャー)
「実績を積み重ねたら、認可を受けて、いずれは就労継続支援B型事業所の就労対象者や、退職後のシニアが店頭に立てるようにしたいという目標もあります。また、自宅の不要品の整理が難しいシニアのために、高齢者支援団体や老人ホームと提携したいという計画も。レトロカルチャーの物々交換のモデルが、全国に広がっていってほしいと思います」と話してくれた。
元々リサイクルショップが好きで、日頃から寄付や購入をしている筆者にとって、物々交換はとても楽しかった。事前に持ち込むおもちゃをキレイに拭いたり、子どもの幼児期を思い出したりと、準備段階から充実していた。
モノとモノの価値の交換は、寄付とは違った緊張感やワクワク感があると思った。これからもモノを大切に使って、また物々交換に行ってみたいと思う。
筆者が物々交換でゲットしたのは、シャツとキャラクターグッズ計4点。とても気に入っている(写真撮影/倉畑桐子)
●取材協力
一般社団法人レトロカルチャー みんなの物々交換
2040年代をめどに、周辺一帯で大規模な再開発が計画されている東京都・新宿駅。現在も大いににぎわっている駅周辺の、さらなる発展が期待されている。JR各線をはじめ京王線、小田急線、東京メトロ丸ノ内線、都営地下鉄の新宿線と大江戸線が乗り入れる一大ターミナルでもあり、交通の利便性のよさもピカイチだ。そんな新宿駅周辺のシングル向け賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場は、12万3000円と都内でも高め。便利な新宿駅にアクセスしやすく、家賃を抑えて住むにはどこがいいのだろう? 新宿駅から電車で30分圏内でありながら、家賃相場が安い駅のランキングをチェックしていこう。
新宿駅まで電車で30分以内の家賃相場が安い駅TOP19(20駅)順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 京王よみうりランド 5.44万円(京王相模原線/東京都稲城市/30分/1回)
2位 西国分寺 5.8万円(JR中央線/東京都国分寺市/28分/1回)
2位 読売ランド前 5.8万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/24分/1回)
4位 朝霞 5.9万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/29分/1回)
5位 生田 6.0万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/22分/1回)
5位 田無 6.0万円(西武新宿線/東京都西東京市/28分/1回)
5位 西武柳沢 6.0万円(西武新宿線/東京都西東京市/28分/1回)
8位 京王稲田堤 6.05万円(京王相模原線/神奈川県川崎市多摩区/28分/1回)
9位 稲田堤 6.1万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/29分/1回)
10位 和泉多摩川 6.4万円(小田急小田原線/東京都狛江市/22分/1回)
10位 百合ヶ丘 6.4万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市麻生区/26分/1回)
10位 西調布 6.4万円(京王線/東京都調布市/28分/1回)
10位 飛田給 6.4万円(京王線/東京都調布市/29分/1回)
14位 中野島 6.5万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/26分/1回)
14位 久地 6.5万円(JR南武線/神奈川県川崎市高津区/28分/1回)
14位 京王多摩川 6.5万円(京王相模原線/東京都調布市/26分/1回)
14位 宿河原 6.5万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/26分/1回)
14位 狛江 6.5万円(小田急小田原線/東京都狛江市/20分/1回)
19位 向ヶ丘遊園 6.6万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/19分/1回)
19位 蕨 6.6万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県蕨市/26分/1回)
※21位以降は記事末に掲載
新宿駅から30分圏内にある駅のうち、徒歩15分圏内のシングル向け物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が最も安かったのは、京王相模原線・京王よみうりランド駅で家賃相場は5万4400円。京王相模原線の快速で調布駅へ出て、京王線の特急に乗り換えると新宿駅までは計約30分。京王線に直通の京王相模原線区間急行を利用すれば、乗り換え0回・約39分で行くこともできる。
京王よみうりランド駅(写真/PIXTA)
京王よみうりランド駅が位置する東京都稲城市は1965年に決定された多摩ニュータウン計画により都市開発されたエリアで、同駅周辺も都心のベッドタウンとして発展してきた。駅の北側を中心に住宅地が広がり、徒歩5分ほどの場所にはスーパーやドラッグストア、100円ショップ、書店などを備えたショッピングセンターも。コンビニも点在しているため、日ごろの買い物には困らないだろう。駅前にサッと食べられるような飲食店は多くないがが、駅から北へ15分ほど歩いて府中街道沿いに行くと増えてくる。府中街道を超え、駅から17分ほど歩けばJR南武線・矢野口駅も利用可能だ。
駅の南側に目を向けると、上空にゴンドラが見える。駅前の乗り場からゴンドラで10分弱、そこは遊園地「よみうりランド」だ。この遊園地の西側、駅から見ると南西方面のエリア一帯では現在、再開発が進行中。「TOKYO GIANTS TOWN(東京ジャイアンツタウン)」構想が掲げられ、読売巨人軍の新球場が2025年3月にオープン予定だ。そして「よみうりランド」が手がける水族館をはじめ、飲食店などの関連施設を含めたグランドオープンは2026年度中を目指している。周辺の区画整理により幹線道路の整備も進められているので、周辺住民の暮らしやすさもアップしそう。
西国分寺駅前の様子(写真/PIXTA)
2位には家賃相場が同額の5万8000円となった2駅がランクイン。その一つは東京都国分寺市に位置するJR中央線・西国分寺駅だ。JR中央線の快速で国分寺駅に行き、通勤特快に乗り換えると約28分で新宿駅へ。西国分寺駅から快速1本でも約33分で到着する。新宿駅の先にあるJR中央線沿線の四ツ谷駅や東京駅にもアクセスしやすいほか、埼玉県の南浦和駅や千葉県の新松戸駅・西船橋駅方面と結ばれたJR武蔵野線も乗り入れている。そんな西国分寺駅には駅ビル「nonowa(ノノワ) 西国分寺」が併設され、飲食店を中心とした店舗が改札内外で営業している。駅周辺には複数のスーパーやドラッグストアがあるほか、100円ショップやインテリア用品店、飲食店などが並ぶショッピングモールがあるのも便利。駅から南東へ7分ほど歩くと芝生広場や池が広がる「都立武蔵国分寺公園」があるので、息抜きに訪れてもいいだろう。
都立武蔵国分寺公園(写真/PIXTA)
読売ランド前駅(写真/PIXTA)
2位になったもう一つの駅は小田急小田原線・読売ランド前駅。神奈川県川崎市多摩区に位置しており、通勤準急で登戸駅に出て、快速急行に乗り換えると計約24分で新宿駅へ。乗り換えずに各駅停車1本で向かうと、新宿駅まで約42分だ。駅名からわかるように、読売ランド前駅は「よみうりランド」の最寄り駅の一つ。しかし「よみうりランド」から見て1位・京王よみうりランド駅は北側に、読売ランド前駅はバスで10分ほど離れた南側にあり、両駅間は直線距離で2km少々離れているので間違えないように注意したい。読売ランド前駅の北側には日本女子大学の附属中学・高校が佇む丘があり、住宅街は丘の周囲と、駅の南側。商店があるのは駅南側が中心で、駅舎の南口側にスーパーが併設されているほか、手づくりソーセージが評判の精肉店をはじめ鮮魚店やベーカリーといった個人商店や、ドラッグストア、コンビニなどが並んでいる。
上位に多くランクインした路線は小田急小田原線とJR南武線ここまでピックアップした上位3駅には京王相模原線、JR中央線、小田急小田原線という3路線の駅が並んだが、上位20駅を見てみると最多となった路線は6駅がランクインした小田急小田原線だ。新宿方面に向かって、10位・百合ヶ丘駅(家賃相場6万4000円)~2位・読売ランド前駅(同5万8000円)~5位・生田駅(同6万円)~19位・向ヶ丘遊園駅(同6万6000円)~上位20駅外の1駅(登戸駅、同6万9000円)をはさんで10位・和泉多摩川駅(同6万4000円)~14位・狛江駅(同6万5000円)という順に並んでいる。最も新宿駅寄りに位置するのは準急と各駅停車が停まる14位・狛江駅だが、新宿駅までの所要時間が最短なのは急行や通勤急行、通勤準急も停車する19位・向ヶ丘遊園駅だ。「新宿駅まで近い駅」を探す際は地図上の位置を参考にしがちだが、距離的な近さではなく時間的な近さを重視する際は、急行や準急といった駅に停車する列車種別にも目を向けるとよさそうだ。
向ヶ丘遊園駅(写真/PIXTA)
さて19位・向ヶ丘遊園駅から新宿駅に最短所要時間で向かうには、通勤急行で登戸駅に出てから快速急行に乗り換えるルートで計約19分。通勤急行1本でも、新宿駅まで約21分で到着できる。向ヶ丘遊園駅は神奈川県川崎市多摩区に位置し、かつては駅名の由来となった遊園地の最寄り駅として活躍していた。その遊園地は2002年に閉園したため、現存しない施設名を冠した珍しい駅となっている。駅の南方には豊かな緑を残した都市計画緑地「生田緑地」があり、広大な敷地内には美術館や科学館、「ばら苑」、「藤子・F・不二雄ミュージアム」などの施設が点在する。そうした自然や文化・観光施設を背景にして住宅地が広がる、落ち着いた街並みだ。
生田緑地ばら苑(写真/PIXTA)
そんな向ヶ丘遊園駅周辺では現在、大規模な再開発が進行中。同駅の北口周辺から隣駅の登戸駅にかけての一帯では区画整理事業が進められ、新たな道路整備に向けて中央銀座商店街通りの廃道・建物解体が行われるなど街並みが大きく様変わりしている。その一環として、2023年4月には商業・賃貸住宅の複合施設「GINZA FOREST」がオープン。駅前広場の工事も2025年度中の完了を目指して進められ、バスロータリーの広さが既存の約3倍に拡張される計画だ。さらに駅前広場をはさんだ一角には、商業店舗スペースを含む25階建てのマンションが2025年内に完成予定だそう。
駅南側の街並みも変化の過程にある。駅から徒歩5分ほど、1万1000平米超の敷地で商業・住宅複合開発が行われ、2024年7月のマンション入居開始に先立って4月にはスーパーや家電量販店など14店舗を備えた商業施設「クロス向ヶ丘」がオープンした。また生田緑地の敷地内東部、かつてあった遊園地「向ヶ丘遊園」跡地を「商業施設エリア」「温浴施設エリア」「自然体験エリア」の3つのゾーンに分けて開発する計画も発表されている。コロナ禍の影響もあってか2023年度竣工としていた当初計画から大きな遅れが発生しているようだが、今後の進捗に期待したい。
上位20駅で小田急小田原線に次いで多かった路線は、4駅がランクインしたJR南武線。沿線には9位・稲田堤駅(家賃相場6万1000円)、14位の中野島駅と久地駅と宿河原駅(同6万5000円)がある。そのうち家賃相場が最も安かった9位・稲田堤駅の様子を見てみよう。
京王稲田堤駅前の風景(写真/PIXTA)
神奈川県川崎市多摩区に位置する9位・稲田堤駅から新宿駅までは、まず登戸駅に出てから小田急小田原線の快速急行に乗って計約29分。8位にランクインした京王相模原線・京王稲田堤駅と徒歩5分ほどの位置関係にあり、両駅間を乗り換える人も多く利用している。かつての稲田堤駅はJR南武線の線路の北側にしか改札口がなく、朝のラッシュ時などは踏切に足止めされた人々や乗り換え客で駅周辺が非常に混雑していた。その解消に向けて工事が進められてきた橋上駅舎が、2023年8月についに完成。橋上駅舎および自由通路南側(南口)ができたことで、駅の利用しやすさがアップしたと好評だ。自由通路北側(北口)の工事も進行中で、完成後は線路をはさんだ北側・南側の行き来がしやすくなり利便性がより向上する。
駅周辺にはスーパーやドラッグストアのほか、飲食店も立ち並ぶ。ラーメン店も複数あり、豚骨系、家系、国産小麦麺などそれぞれ特徴的なので食べ歩きも楽しそうだ。京王稲田堤駅前にもスーパーや飲食店があるので、買い物にも食事にも便利な環境と言えるだろう。
●21位~45位
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分以内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、築年数35年未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/8~2024/2
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンションのうち普通借家契約の物件のみ)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2024年4月22日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
梅雨の季節がやってきた。リンナイが、カビ専門家・千葉大学真菌医学研究センター准教授の矢口貴志先生監修により、カビに関する意識調査を実施した。普段やっているカビ対策が、実は逆効果という場合もあるようなので、詳しく見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」を発表/リンナイ
まずは、リンナイの「カビ対策○×クイズ」10問に挑戦してみよう。
■リンナイ作成「カビ専門家 矢口先生監修 カビ対策○×クイズ」
□ 1. 入浴後は浴室のドアを開けておく
□ 2. 重曹はカビに効く
□ 3. パッキンのカビはスポンジでこする
□ 4. 圧縮袋はカビを防ぐ
□ 5. 湿度と温度の2つの条件が揃うとカビが生える
□ 6. 浴室のカビ掃除は天井から
□ 7. 玄関はカビが生えづらい
□ 8. 冬の結露もカビの温床になる
□ 9. パッキンのカビ汚れは落ちない
□ 10. 使用後の洗濯機のフタは開けておく
自信のほどはいかがだろう? 実は1番は、今年の正月に筆者も実家でもめたばかり。実家で入浴後に浴室のドアを全開するように言われたが、そうすると浴室の湿気が部屋中に流れるからやってはいけないと答え、ひと悶着(もんちゃく)あったのだ。
正解は以下のとおり。
1. 入浴後は浴室のドアを開けておく (×)
2. 重曹はカビに効く (×)
3. パッキンのカビはスポンジでこする (×)
4. 圧縮袋はカビを防ぐ (〇)
5. 湿度と温度の2つの条件が揃うとカビが生える (×)
6. 浴室のカビ掃除は天井から (〇)
7. 玄関はカビが生えづらい (×)
8. 冬の結露もカビの温床になる (〇)
9. パッキンのカビ汚れは落ちない (×)
10. 使用後の洗濯機のフタは開けておく (〇)
筆者の場合、パッキンを歯ブラシでこすってしまったことがあることや、そもそも浴室の天井を掃除しないということなど、いくつか不正解はあったものの、7問以上正解の「カビ対策優等生」になれた。皆さんはいかがだったろうか?
正答率が低いのは、「カビが発生する条件」や「浴室の換気方法」リンナイが意識調査対象者にこの○×クイズを行った結果から、正解率の低いものをいくつか見ていこう。
出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」
最も正解率が低かった(正解率11%)のは、「5.湿度と温度の2つの条件が揃うとカビが生える」だ。カビが発生しやすいのは、「湿度(60%以上)」「温度(20~30℃)」「栄養分(食べカス・人のアカなど)」の3つの条件が揃うこと。矢口先生によると「浴室はせっけんカス、湯アカ、皮脂などカビの栄養源になるものが多く、温度と湿度が高いため、カビが目立つ」のだという。逆にいうと、どれか1つの条件を満たさなければ、カビは発生しにくくなるということを覚えておきたい。
次に正解率が低かった(正解率27%)のは、「1.入浴後は浴室のドアを開けておく」。カビ発生の3つの条件のうち、「湿度」を下げるには、浴室の水分を取り除くことが重要だ。矢口先生によると「入浴後にドアを開けておくと、脱衣所や居室の湿度が高くなり、屋外に面した壁や家具の裏など、思わぬ場所で結露を起こしてしまう」という。やっぱり、ドアを閉めて浴室乾燥機でしっかり乾燥させるのがよいのだ。
リンナイの意識調査では、「普段どのように浴室を乾燥させているか」という質問に対して、60%が「換気扇を使用する」と答え、「浴室のドアを開ける」は43%だった。
出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」
ちなみに、浴室の窓を開けて屋外に湿気を出す場合、窓を全開にすると浴室内の中央部分の空気が多く移動してしまうので、窓は細めに開けて、壁際に空気が通るようにするのがよいという。もちろん、雨の日は、窓を開けずに換気扇を使うのがよい。
続けて正解率の低いものを見ていこう。「4.圧縮袋はカビを防ぐ」(正解率33%)については、圧縮袋は湿気を防いでくれるため、上手に使えばカビ予防にもなるが、衣類が少しでも汚れていると袋の中でカビが繁殖してしまう場合もあるという。
「2.重曹はカビに効く」(正解率42%)については、重曹ではカビを根元から取り除くことができないので、次亜塩素酸ナトリウムが配合されたカビ汚れ専用洗剤を使うのがよいと矢口先生。
梅雨を快適に過ごすには「溜めない」「止めない」「吸わない」カビで悩むのは、「カビ汚れが落ちない」(カビ掃除の悩み不満1位:73%)だけでなく、せっかくカビを落としても「すぐにカビが復活する」(2位:64%)ことだ。
出典/リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」
矢口先生によると、「空気中に浮遊するカビの胞子が落下して定着し、そこで発芽、菌糸を成長させ、さらに胞子をつくって増殖する」のがカビ発生のメカニズムで、「カビの菌糸が目地やパッキンの隙間などに入り込むと、カビ汚れ専用洗剤が浸透しづらく、落ちにくい汚れとして残る」「洗浄後、カビの菌糸が少しでも残っていると、またそこから生育を始め、カビ汚れがすぐに復活する」のだという。
そこで矢口先生は、「溜めない・止めない・吸わない」が梅雨を快適に過ごす3つのポイントになると助言している。
■矢口先生監修 梅雨を快適に過ごす3つのポイント
1. カビの栄養源を溜めない
カビの栄養源となるもの、浴室では皮脂、せっけんカス、湯アカなど、リビングルームなどでは食べカス、ダニの死骸、ふん、土などを含むホコリをこまめに取り除くことが必要。掃除は朝イチに、ウェットタイプのモップで拭き取り、そのあとで掃除機をかけるのがよい。
2. 空気の流れを止めない
空気のよどんでいる場所、家具の裏、部屋の隅、クローゼット内、下駄箱内などはカビが生えやすくなる。カビの胞子が定着しないように、扇風機、サーキュレーターなどを使用して、空気の流れをつくること、つまり換気が重要。
3. なるべくカビを吸わない
カビを多く吸いすぎると呼吸器系のアレルギーを起こすことがあるので、カビをなるべく吸わないようにして、快適な生活を心がけて。
意識調査の結果を見ると、自宅のカビ汚れが気になる場所の1位は「浴室」(92%)だが、2位には「エアコン」(43%)が挙がった。エアコン内部の湿気を放置するとカビが繁殖しやすいので、エアコンを使い終わったらすぐに電源を切らず、15~20分ほど送風運転して乾燥させるとよいという。また、梅雨時は部屋干しをしたくなるが、浴室乾燥機が備わっている場合なら、浴室のような小さな部屋は効率よく湿度を下げることができるので、浴室で衣類を乾燥させるのがオススメだという。
じめじめした梅雨をカビの汚れ取りに追われないように、正しい知識で快適に過ごしてほしい。
●関連サイト
リンナイ「熱と暮らし通信 カビに関する意識調査」
野村不動産と東日本旅客鉄道は、共同で推進している国家戦略特別区域計画の特定事業「芝浦プロジェクト」の街区名称を「BLUE FRONT SHIBAURA(ブルーフロント芝浦)」に決定した。報道関係者に対して、街区名公表と合わせ、S棟(2025年2月に竣工予定)の一部エリアの先行内覧、新たな舟運航路を含めた船上からの見学会を開催した。筆者も参加したので、事業の概要について紹介したい。
浜松町駅最寄りに高さ約230mのツインタワーが誕生新街区名「BLUE FRONT SHIBAURA」の開発計画は、端的にいうと、浜松町ビルディングの建替事業で、新たにS棟とN棟のツインタワーを建設するもの。いずれもオフィスが中心で、S棟にはホテルを、N棟には住宅を高層階に設け、低層階に商業施設が入る。2021年10月に着工したS棟はすでに骨格が建ち上がり、2025年2月に竣工する予定。N棟は着工が2027年度なのでまだ既存のビルが立っており、2030年度に竣工予定となっている。
出典:プレスリリースより転載
ただし、単なる建替事業にとどまらないのが、このプロジェクトの大きな特徴だ。
浜松町駅から竹芝・日の出ふ頭をつなぐネットワークを形成浜松町駅周辺では、世界貿易センタービルディングの建替事業(浜松町駅西口地区開発計画)や東京ポートシティ竹芝、ウォーターズ竹芝など大型再開発プロジェクトが複数進行していた。浜松町駅西口地区、竹芝地区と芝浦一丁目地区との三地区連携を図ることで地域の回遊、にぎわいの創出といった効果を生み出すようになっている。
出典:プレス発表会のプレゼンシーン(筆者撮影)
JR浜松町駅は北口と南口に東西自由通路が整備され、歩行者のアクセスが向上することになるが、その浜松町駅からの歩行者専用道路に屋根を設けてアンブレラフリーで「BLUE FRONT SHIBAURA」に行けるようになる計画だ。
出典:プレスリリースより転載
一方、日の出ふ頭に「Hi-NODE」(ハイノード)をつくり、船客待合所のほか芝生広場や海をのぞむテラス付きのカフェ・レストランなどを整備。Hi-NODEと竹芝地区をつなぐ橋を架けて夜間にライトアップするなど、水辺に開かれたにぎわい空間を創り出した。
「Hi-NODE」(筆者撮影)
東京湾のベイエリアの整備は、国や東京都も後押ししている。このプロジェクトは、「国家戦略特区」に認定され、東京都が掲げる「東京ベイeSGまちづくり戦略」にも盛り込まれている。東京都は、東京湾岸のベイエリアを、海と緑の環境に調和したサステナブルなエリアとして発展させようと考えているからだ。
新しい働き方「TOKYO WORKation」を提供するオフィスさて、先行内覧が行われたS棟には、高層部に日本初進出の「フェアモントホテル」が入る。S棟が面する運河に船着き場を設けて、ホテルの専用船によるクルージングサービスが提供されるのが、この場所ならでは。低層部には水辺を活かした飲食店などの商業施設が入り、オフィスで働く人の需要にも応える。
メインとなる中層部のオフィスでは、「TOKYO WORKation」を提供する。眼前に広がる空と海、ツインタワーを囲む運河と緑地といった自然を身近に感じられるような、さまざまな工夫をしている。大きな特徴の一つが、共用部のワークスペースの多様さだ。建築中の28階フロアでその説明を受けた。この階には、さまざまなワークスタイルのラウンジ・バケーション・テラスエリアや共創エリア(フレキシブルにレイアウトが変えられる)などがあり、フィットネスやサウナなどのエリアもある。特に、約10m幅の大開口となるバックデッキは、内側と外側をつなぐ大空間となっていて、東京湾の眺望をゆっくり楽しむことができる。
こうした多様なワークスペースは、アプリで予約ができるようになる。アプリでは、見たい景色やリラックスしたい、集中したいなどの気分でも検索できるというから驚きだ。その日の状況に応じたワークスペースを選ぶことで、業務のパフォーマンスが高まるのだそうだ。これは、野村不動産の従業員を集めて、柔軟なオフィスで勤務した場合とそうでない場合で実験を行った効果検証からも明らかになったという。
バックデッキの外側部分。画像では小さく感じるが、実際にはかなり大きい空間となっている(筆者撮影)
開放的な開口部からは海だけでなく、東京タワーも見える(筆者撮影)
舟運の拠点にもなり、海からの景観にも配慮最後に、Hi-NODEから小型船で海に出て、船上からベイエリアを眺めた。
日の出船着場から小型船に乗る(筆者撮影)
この芝浦・日の出と晴海を約5分でつなぐ「BLUE FERRY」の運航が、2024年5月22日に始まった。今回は、その航路とは異なる回遊ルートが運航された。船はまず、竹芝ふ頭付近に行ってから、BLUE FERRYの船着き場のある晴海フラッグ付近へ移動し、豊洲市場やレインボーブリッジの手前で折り返すルートだ。
出典:取材当日に配布された船上ツアーのルート(青ライン)を筆者が撮影
ツインタワーの建築デザインは、槇文彦氏が名誉顧問を務める槇総合計画事務所によるもの。最大の特徴は、カーテンウォールの外壁だ。残念ながら晴天とはならなかったが、外壁が水面のように情景を映すというので、船上から注意して見ていた。
3層構成のタワーは上層階に行くほどセットバックする形状で空が広く見えるようになっている。まだS棟のみのシングルタワーだが、将来はこうしたツインタワーになると、パースを見せてもらった。
建築中のS棟。最初は東京タワーが右手側に見えた(筆者撮影)
将来は少しデザインの異なるツインタワーが誕生する(筆者撮影)
S棟の外壁に空の雲が映っている(筆者撮影)
角度を変えると近くのビルが映る。東京タワーは左側に位置を変えた(筆者撮影)
カメラの腕と天気がもっと良ければきれいに写せたのだろうが、場所や天候によって違う表情を映すという外観の目的が、海から見るとよく分かる。夕日が映えるところも見てみたいものだ。それにしても、方向音痴の筆者には、東京タワーの位置が変わるのが不思議でならない。
対岸の晴海フラッグ(筆者撮影)
お台場方面トレインボーブリッジ(筆者撮影)
このプロジェクトは、ツインタワー内のオフィスに勤務する人やホテルや商業施設を利用する人だけにとどまらず、地域の活性化によって、快適な水辺空間を楽しみたい人や船を利用したい人などにもメリットを生み出す。ベイエリアに新たな魅力をもたらすものだろう。
6月1・2日にはHi-NODEで、音楽やヨガ、フードを楽しめる水辺FESTIVALが開催されたという。東京では再開発がめじろ押しだが、JRやゆりかもめの陸のアクセスとふ頭からの海のアクセスを利用できる、ベイエリアの玄関口となるエリアの再開発となる。その点では、他と異なるユニークな再開発といえるだろう。
●関連サイト
野村不動産、東日本旅客鉄道「延床面積約 55 万平米の大規模複合開発「芝浦プロジェクト」街区名称決定 「BLUE FRONT SHIBAURA」~更なる成長が期待されるベイエリアと東京都心部の結節点「つなぐ“まち”」を目指す。~」
2024年5月26日に終了した「東京建築祭」では2通りの楽しみ方がある。ひとつは、限定イベントに参加して深く楽しむ方法だが、申し込むタイミングが合わなかったり抽選に外れてしまったりで、必ずしも参加できるとは限らない。そこで、予約なしで誰もがその日に見学できる、18の「特別公開」プログラムをどう楽しめるかレポートしたい。
「東京建築祭」の特別公開で好きな建築を選んで見て回ろう公開日時であれば、予約なしに無料で見学できるのが「特別公開」プログラムだ。今回は、「日本橋・京橋」「大手町・丸の内・有楽町」「銀座・築地」「神田周辺」のおおむね4つのエリアに点在する18の建築が対象だ。
まず、ライブ配信「東京建築祭の歩き方」が公開された。YouTubeで見逃し配信もされていたので、最初にこれを見ておけば、各建築の見どころを東京建築祭実行委員長で建築史家である倉方俊輔さんの解説で理解できる。そのうえで、見学するコースを決めたり、見どころをメモして出向いたりすればよいのだ。
出典:東京建築祭公式サイトより
さらに、「東京建築祭オーディオガイド」も用意されている。公式サイトの特別公開のそれぞれの概要説明の下部に「オーディオガイド」の情報が掲載されている。すべてではないが、おおむね「外観」と「内観」について1分程度の倉方さんの解説が聞ける。これを事前に聞いてもよいし、アプリ「まいまいポケット」をスマホにダウンロードしておき、その場でオーディオガイドを聞くこともできる。アプリには地図もあるので便利だ。
建築の専門知識があまりない場合、「見学に行ったけど、どこを見たらよいのかよくわからなかった」ということもありがちだが、こうした解説を利用すると楽しめるだろう。
そして、最後にSNSに投稿するという楽しみ方もある。自身の感想を書いたり、ほかの人はどこを見学してどこに着目したかを探してもよい。知らない人たちだが、建築祭という枠で何となくつながっているというのもよいものだ。
出典:筆者のFacebookより
■関連記事:
https://suumo.jp/journal/2024/06/11/202967/
さて、特別公開のメインは5月25日(土)26日(日)の週末だが、先行して5月21日(三越劇場)や5月23日~25日(国際ビルヂング・新東京ビルヂング・明治生命館)に公開したものもあった。筆者は5月23日に大手町で仕事があったので、立ち寄ることにした。
平日の午後ということもあって、ビルを利用する人の出入りが多く、東京建築祭の見学者が押し寄せるという状況ではなかった。が、筆者が滞在している間に何組かが熱心に撮影したり、建築資料の解説ボードを熱心に見たりしていた。これは東京建築祭の見学者に違いないと、何人かに声をかけた。
国際ビルヂングのエレベーターホール(筆者撮影)
新東京ビルヂングのエントランスホール(筆者撮影)
明治生命館(丸の内 MY PLAZA)外観(筆者撮影)
国際ビルヂングで話を聞いた人は、建築好きなので東京建築祭にとても興味があるが、週末や三越劇場の21日には予定があって来られないので、23日に3つのビルを見学しようと思ってやってきたという。来年実施されたら、もっと多くを見学したいとも。
また、新東京ビルヂングで話を聞いた建築関係の仕事をしている男性は、夫婦で開催期間中に9つを回る予定だという。9つを選んだ基準は、まだ見ていないもの、通常非公開部分が見られるもの、そして今後見られない可能性のあるものだそうだ。たしかに、国際ビルヂングは帝劇と一体的に建て替えることになっているし、有楽町周辺のビルで建て替え予定のものも多い。今のうちに見ておくべきだろう。
本番当日、レンタサイクルでホンキモードの見学5月25日は別の記事にまとめたガイドツアーの取材もあったので、カメラマンに同行してもらい、終日見て回れるだけ見学することにした。移動しやすいのはレンタサイクルだと思い、自転車に乗るのは20年ぶりと渋るカメラマンの内海さんにも自転車を借りてもらった。
特別公開の最初の見学先は「堀ビル」と決めていた。新橋で気になる外観のビルであったことに加え、古い住宅を見に行くと、錠前や建具の金物に堀商店の金物がよく使われているので、堀商店のビルということへの関心もあった。行ってみると入場待ちの列ができていたが、あまり待たずに入場できた。
スクラッチタイルと窓がつくる水平線が特徴の堀ビルの外観(撮影/内海明啓)
堀ビル(goodoffice新橋)は、竹中工務店が堀ビルのオーナーからマスターリース契約で長期間借りて、シェアオフィスとして改修し、それをグッドルームが運用している。スタッフの方に声をかけると、建築祭のスタッフだけでなく、竹中工務店のCOT-Lab(共創拠点)やグッドルームの人たちもスタッフとして参加しているという。受け入れる側のホンキ度もかなりのものだ。
シェアオフィスの1階部分が今回の特別公開エリア。青銅製の両開きドアは堀商店ならでは(撮影/内海明啓)
さらに、事前の抽選による予約が不要なサプライズツアー(先着順の予約が必要)を4回実施するという。オープン前にすでに140人ほどが並んでいたということで、1時間ほどでサプライズツアーの予約が埋まってしまったのだそうだ。そこで、サプライズツアーを取材させてもらうことにした。
サプライズツアーのガイドはCOT-Lab新橋代表の杉本照彦さん(撮影/内海明啓)
堀ビルが完成した後に、道路の下を地下鉄銀座線が通ったこともあって、地盤沈下の跡が見られるといった話に始まり、屋上から地下1階まで各階を案内してもらった。特に4階は堀家が住まいとして使っていたこともあり、和室の趣きが残る部屋や寝室の暖炉が残る部屋など個性的な部屋が多かった。また、2階の共用廊下では、もともとオフィスのドアの前に設置されていた金物格子扉を取り外して、天井の照明として使っている。
堀ビル2階の金物格子扉を活用した天井照明(撮影/内海明啓)
エレベーターがないので、戦後GHQに接収されなかったという点も、建物の保存にプラスに働いた。竹中工務店が、使ってきた建物の歴史を残すように、外観をそのまま維持できるように、さまざまに工夫して改修したことが伝わる解説だった。
さて、サプライズツアーに参加した後は、再び自転車で新橋から銀座を抜け、日本橋方面へ。次に寄った「旧宮脇ビル(川崎ブランドデザインビルヂング)」も、その次の「日証館」も、いずれも入場の行列ができていた。ただ日証館では、エントランスホールの混雑具合と行列の長さを見て、東京建築祭スタッフが柔軟に入場人数を調整したようで、長い割には列が動いて、それほど待つことはなかった。
解体を免れて改修された旧宮脇ビル(川崎ブランドデザインビルヂング)(撮影/内海明啓)
品格のある外観の日証館(撮影/内海明啓)
日証館ではQRコードでオーディオガイドにアクセスできるようになっていた(撮影/内海明啓)
次は、川を越えて「三井本館」へ。ここはかなり長い行列ができていた。
アメリカン・ボザール・スタイルの三井本館(撮影/内海明啓)
三井本館は、東西と南の三方が道路に面しているが、今回は西側の日銀通りに面した合名玄関が特別公開された。筆者が行ったときには、西側から南側までびっしりと列ができ、東側に折れるところまで続く長さだった。建築祭スタッフに聞いたところ、午後になるほど列が長くなったという。
三井本館の次はさらに北上して、「丸石ビルディング」へ。行列がわずかだったのは、内部の撮影が禁止だったため、入退場の回転が速いからだろう。天井のレリーフや照明、床のタイルなど、撮影できないのが残念なくらいに美しかった。それでも、ロマネスク様式の外観を多くの見学者が近くから遠くから、何枚も撮影していた。
この外観の魅力は、異なる素材でさまざまな表情を見せたり、入り口の両脇にねじり柱やライオン像があったりして、親しみやすさを感じさせることだ。と、偉そうに書いてみたが、「まいまいポケット」アプリの倉方さんのオーディオガイドの受け売りだ。解説が具体的でわかりやすいのも、活用を勧めたい点だ。
ロマネスク様式の丸石ビルディング(撮影/内海明啓)
スマホのアプリでオーディオガイドを聞く筆者(撮影:内海明啓
さて、本日の最後は「江戸屋」に決めて移動した。老舗の店舗だけに、入場できるキャパは少ない。行ってみると行列はできていたが、10人程度を入れ替える形で混乱なく見学していた。建築祭のスタッフが、次の入場グループを店舗前に誘導し、注意事項を説明して待機させたり、それ以外の人たちを別の場所に並ばせるなど、適切な誘導とルールを守る見学者の様子に感心した。
看板建築の好事例。軒先から突き出た6本のラインは刷毛を表現しているという(撮影/内海明啓)
江戸屋の見学者に今日はどこを見学してきたか聞いてみた。年配の女性二人組は、「カトリック築地教会」でハルモニウムの演奏を聴くのが楽しみだったので、最初に演奏時間に合わせてカトリック築地教会に行き、近くの「築地本願寺」「井筒屋」「三井本館」「江戸屋」と回ったという。残念ながら、井筒屋は入場制限で入れず、三井本館は行列が長すぎて断念したが、ハルモニウムの演奏が聴けたので良かったという。
このように、特別公開は自由に見学できるが、行列が長いこともあれば入場制限がかかることもある。井筒屋はキャパオーバーになって入場制限がされて、そのことをX(旧ツイッター)で知らせていたが、気づかずに行った人も多いようだった。
まだまだ見学、リノベーションビル3連チャン5月26日も神田周辺のビルを3つ見学した。事前にXをチェックして、それほど混雑していないことを確認して出かけた。共通するのは、いずれも既存のビルをリノベーションして活用していること。まず行ったのが「神田ポートビル」だ。
神田ポートビル外観(筆者撮影)
印刷会社の旧社屋をリノベーションして、地下は「サウナラボ神田」、1階は写真とデザインの「ゆかい」、2・3階は「ほぼ日の學校」、4~6階が印刷会社という文化複合ビルに生まれ変わった。
地下1階のサウナラボのフロア(筆者撮影)
サウナラボで枯葉の束を見ていたら、サウナで使うヴィヒタだと教えてくれた、サウナ好きの大学生に出会った。建築学部ではなく政治経済学部だが、都市経済学を勉強しているので、都市の発展や構造という観点で東京建築祭に興味を持ったという。そして、特別公開の神田ポートビルに来てみたら、かつて利用したサウナがあるビルだと知ったという。目的があるとそこにしか目が行かないが、改めて建築という視点で見ると違うものが見えてくるだろう。
また、事前に前日の状況をXで調べて、三井本館は朝イチで行くのがよさそうで、築地本願寺はランチタイムが空いていそうだと、予定を立てて回っているという人もいた。SNSは、情報収集に有効に使えるという面もあるので、上手に活用したい。
次に行ったのが「岡田ビル」。現在の法規制に合わなくなった古いビルを、大胆に「減築」することで生まれ変わったビルだ。1・2階は日本初出店のthink coffee、3~6階はオフィスだが、減築により光と風が通るようになり、快適な空間になっている。
左:岡田ビル外観 右:吹き抜けになった減築部分(筆者撮影)
減築という珍しい手法ということもあってか、屋上で出会った3人組は大学院の修士課程で建築を学んでいる院生だった。法規制をどのようにクリアしたか、既存の躯体をどのように使っているかなどに興味を持って、見学に来たという。
そして筆者が建築祭の最後に訪れたのは、「安井建築設計事務所 東京事務所」だ。築約60年のオフィスビルをリノベーションし、その中に東京事務所を移転。「美土代クリエイティブ特区」と名づけた、まちにひらき人とつながる空間をデザインした、ユニークなオフィスだ。
(筆者撮影)
ここで16時から20分程度の設計者による特別プレゼンテーションがあるというので参加したが、立ち見も多くてざっと200人を超えるほどの人が集まっていたと思う。熱心にメモをしたりプレゼンの画面を写メしたりする人もいたので、建築に関心の高い人が集まったようだ。
そういえば、25日(土)に見て回った際には、6~7割が女性、しかも若い人から年配の人まで幅広いというのが筆者の印象だった。建築好きの女性がここまで多いのかと、驚いたものだ。ところが、26日(日)に見た神田周辺の3つのリノベーションビルに限れば、明らかに若い人が多い。リノベーションによる活用という点で、建築知識のある人や学んでいる人がより興味を持つテーマなのだろう。
このように、建築の知識がそれほどない人でも、専門性のある人でも、それぞれで楽しめるというのが建築祭の魅力なのだと思う。今回改めて分かったことは、建築にはとてつもなくパワーがあるということだ。
クロージングイベントもあると聞いて、のぞいてみた。キックオフで倉方さんは、やってみないとどれだけ人が集まるかわからないので、「不安半分・期待半分」と言っていたのが、クロージングでは「都心の風景を変えるほどの人が集まった」と表現した。つまり、東京初の建築祭として大成功だったようだ。来年以降も継続すると宣言してもらったのが、なによりうれしい。
クロージングイベントの様子(筆者撮影)
さて、建築祭が終わってしまったのに、いまさら楽しみ方の記事を読んでも……と思う人もいるかもしれない。でも、東京の都心には、まだまだ魅力的な建築が数多くある。三井本館で行列に並んだ人は、隣の三越日本橋本店の美しさに気づくだろうし、公開された玄関の向かいの日本銀行も名建築で知られている。日本銀行本店では解説付きで見学ができるし、三越劇場も劇場主催で有料のガイドツアーをたまに開催している。
また、ガイドツアーに漏れてもその外観を見学することはできるし、東京建築祭で得られた情報は、自身で見て回る際にも役立つだろう。秋には大阪や京都、神戸でも建築祭が開催される。こうして建築見学に慣れていくうちに、来年の東京建築祭がやってきて、さらに楽しめるようになる。そのように考えて記事を見ていただけるとうれしい限りだ。
●関連サイト
東京建築祭公式サイト
世界で最も乗降客数が多い駅としてギネス世界記録に認定されたこともある、巨大ターミナル・新宿駅。JR各線をはじめ京王線、小田急線、東京メトロ丸ノ内線、都営地下鉄の新宿線と大江戸線が乗り入れ、駅周辺のビジネス街や繁華街を訪れる国内外の人々が平日・休日を問わず多く利用している。さらに「新宿グランドターミナル」構想に基づいて新宿駅の直近地区、西口地区、西南口地区などの再整備が計画され、今後はますますの発展が予想されている。そんな新宿駅まで電車で30分圏内というアクセス性のよさを確保しつつ、価格相場が安い街を調査してみた。その結果をご紹介しよう。
新宿駅まで電車で30分以内にある中古マンションの価格相場が安い駅TOP10【シングル向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 西馬込 2790万円(都営浅草線/東京都大田区/28分/1回)
2位 方南町 2980万円(東京メトロ丸ノ内線/東京都杉並区/11分/0回)
3位 地下鉄成増 3080万円(東京メトロ有楽町線・副都心線/東京都板橋区/26分/1回)
3位 成増 3080万円(東武東上線/東京都板橋区/22分/1回)
5位 板橋区役所前 3180万円(都営三田線/東京都板橋区/20分/1回)
6位 大山 3200万円(東武東上線/東京都板橋区/16分/1回)
7位 南千住 3280万円(東京メトロ日比谷線/東京都荒川区/30分/2回)
8位 川崎 3330万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市幸区/30分/2回)
9位 雑司が谷 3380万円(東京メトロ副都心線/東京都豊島区/11分/1回)
10位 王子神谷 3385万円(東京メトロ南北線/東京都北区/27分/1回)
※11位以降は記事末に掲載
【カップル・ファミリー向け】
順位/駅名/価格相場(主な路線名/駅の所在地/新宿駅までの所要時間/乗り換え回数)
1位 読売ランド前 2630万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/24分/1回)
2位 京王稲田堤 2990万円(京王相模原線/神奈川県川崎市多摩区/28分/1回)
2位 北戸田 2990万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/27分/0回)
4位 朝霞 3380万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/29分/1回)
5位 生田 3480万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市多摩区/22分/1回)
5位 蕨 3480万円(JR京浜東北・根岸線/埼玉県蕨市/26分/1回)
7位 戸田 3539.5万円(JR埼京線/埼玉県戸田市/25分/0回)
8位 中野島 3565万円(JR南武線/神奈川県川崎市多摩区/26分/1回)
9位 百合ヶ丘 3649万円(小田急小田原線/神奈川県川崎市麻生区/26分/1回)
10位 久地 3650万円(JR南武線/神奈川県川崎市高津区/28分/1回)
※11位以降は記事末に掲載
新宿は日本屈指の繁華街だけあり、駅の徒歩15分圏内にある中古マンションの価格相場も高め。今回の調査によると、「シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)」は5025万円、「カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)」は8998万円という結果に。しかし新宿駅から電車で30分圏内にまで範囲を広げて見ると、価格相場がグッとリーズナブルな街もあることが判明。その調査結果を見ていこう。
馬込駅(写真/PIXTA)
「シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)」ランキングの1位は、都営浅草線・西馬込駅で価格相場は2790万円。東京都大田区に位置し、西馬込駅から4駅目の五反田駅でJR山手線に乗り換えると、計約28分で新宿駅に到着する。JR山手線の五反田駅~新宿駅間にある目黒、恵比寿、渋谷、原宿、代々木の各駅へも行きやすい。西馬込駅は都営浅草線の始発駅でもあり、混雑する通勤の時間帯でも座りやすい点も魅力だろう。地下にある駅から地上に出ると国道1号・第二京浜道路が通っており、その大通り沿いにスーパーやドラッグストア、コンビニが点在している。脇道に入ると地元の人に愛されるベーカリーや飲食店などの商店がぽつりぽつりとあるほかは静かな住宅街が広がり、落ち着いた暮らしができるだろう。
方南町駅周辺(写真/PIXTA)
2位は東京都杉並区にある東京メトロ丸ノ内線・方南町駅で、価格相場は2980万円。新宿駅までは乗り換え不要で約11分という近さ。ちなみにこの所要時間は、9位の東京メトロ副都心線・雑司が谷駅(価格相場3380万円)と並んでトップ10では最短タイ。ただ、雑司が谷駅~新宿駅は乗り換えが必要なので、新宿駅までのアクセス性のよさは方南町駅がトップ10で最強といえるだろう。
地下にある方南町駅のホームから地上の1番出入口へと出ると、そこは環七通りと方南通りが交わる方南町交差点。周辺には24時間営業のコンビニや24時まで営業するスーパー、ドラッグストアやファミレスがあり、都内有数の大街道・環七通りは昼夜を問わず車が行き交うので帰宅時間が遅くなっても寂しくなさそうだ。駅の2番出入口はアーケード商店街が続く方南通り沿いにあり、こちらもにぎやかな雰囲気。気軽に入れるチェーン系の飲食店や持ち帰り弁当店、元気な個人商店の青果店や精肉店などが軒を連ね、電車を降りてから買い物や食事をするならこちらの出入口を利用すると便利だろう。
3位には価格相場3080万円で東京メトロ有楽町線・副都心線の地下鉄成増駅と東武東上線・成増駅の2駅がランクイン。駅名からもわかるように、両駅は駅前のバスロータリーをはさんで向かい合うように近接している。地下鉄成増駅から新宿駅までは、線路を共有して運転される東京メトロ有楽町線・副都心線で新宿三丁目駅へ出て、東京メトロ丸ノ内線に乗り換えると計約26分。成増駅から新宿駅までは、東武東上線で池袋駅に出てからJR埼京線に乗り換えて計約22分で行ける。新宿駅に向かうなら、東武東上線の成増駅を利用するとよさそうだ。
成増駅周辺(写真/PIXTA)
成増駅にはスーパーや総菜店、書店などを備えた駅ナカ商業施設「EQUiA(エキア)成増」が併設されているほか、地下鉄成増駅と成増駅の周辺には商店が充実。日常使いできる多彩な飲食店をはじめ、スーパーやドラッグストア、コンビニが複数あり、買い物も食事も駅周辺で済ませられる。2024年3月には両駅から徒歩3分ほどの場所に、ディスカウントストア「MEGA ドン・キホーテ成増店」もオープン。4階建ての店舗は都内最大級の売場面積を誇るそうで、日用消耗品や生活雑貨、家電などに加え、生鮮食品や石窯焼きピザなどの総菜にも力を入れており、日々の買い物に役立ちそうだ。
川崎駅前(写真/PIXTA)
5位以下にもさまざまな駅が並んでいるが東京都外・JR沿線から唯一、トップ10入りした8位のJR東海道本線・川崎駅を見てみよう。価格相場3330万円の川崎駅は神奈川県川崎市幸区に位置している。新宿駅まで約30分で行くには、JR東海道本線で品川駅に出てからJR山手線に乗り換えて大崎駅へ、さらにJR埼京線に乗って新宿駅に向かう乗り換え2回のルート。品川駅からJR山手線に乗ったまま新宿駅に向かうルートなら、川崎駅から所要時間は約33分かかるものの乗り換え1回で行くことが可能だ。川崎駅から東京駅まではJR東海道本線で3駅・約18分、JR東海道本線の反対方面に乗ると横浜駅まで1駅・約7分で行くこともできる。
JRの京浜東北・根岸線や南武線も乗り入れるターミナル駅であり、すぐ近くに京急本線・京急川崎駅もある川崎駅周辺はにぎやかな街並み。JR駅舎に駅ビル「アトレ川崎」が併設され、駅前にはショッピングモールの「ラゾーナ川崎プラザ」をはじめとした大型商業施設が林立。さらに川崎駅と京急川崎駅を結ぶ地下街「川崎アゼリア」も広がり、雨の日も濡れずに街の各方面にアクセスできるのも便利だ。
すでに大いに発展している川崎駅周辺だが、さらなる再開発事業の計画も。京急川崎駅の北側では、1万人規模のアリーナを核として宿泊施設・飲食施設・商業施設を含む複合エンターテインメント施設の建設を目指す「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」が始動。2025年着工、2028年の竣工・開業が目標だそう。また、京急川崎駅西口地区でも再開発事業の計画がある。こちらは高さ約119mと高さ約46mの複合商業ビルを中心にした街づくりを目指すもので、2025年の着工、2030年の事業完了が予定されている。
「カップル・ファミリー向け」には川崎市多摩区から4駅ランクイン「カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)」ランキングの1位は、小田急小田原線・読売ランド前駅で価格相場は2630万円。新宿駅周辺の価格相場は8998万円だったので、その3分の1以下という結果だ。神奈川県川崎市多摩区にある読売ランド前駅から新宿駅までは、まず通勤準急で登戸駅に出て、快速急行に乗り換えると計約24分。乗り換えずに各駅停車1本で新宿駅に向かうと、約42分で到着する。
よみうりランド(写真/PIXTA)
駅名にある通り、読売ランド前駅は遊園地「よみうりランド」の最寄駅の一つ。とはいえバスで10分ほど離れた立地だ。駅の北側には日本女子大学の付属中学・高校がたたずむ丘があり、住宅街は丘の周囲と、駅の南側に広がっている。商店があるのは駅南側が中心で、駅舎の南口側にスーパーが併設されているほか、手づくりソーセージが評判の精肉店をはじめ鮮魚店やベーカリーといった個人商店や、ドラッグストア、コンビニなどが並んでいる。駅の徒歩30分圏内には幼稚園や保育園、小中学校も複数あるので、子育て世代も多く住む地域のようだ。
京王稲田堤駅(写真/PIXTA)
2位には価格相場2990万円となった、京王相模原線・京王稲田堤駅とJR埼京線・北戸田駅の2駅がランクインした。京王稲田堤駅は1位・読売ランド前駅と同じ神奈川県川崎市多摩区にあり、読売ランド前駅から北へ車で8分ほどの立地。京王相模原線の区間急行で調布駅に行き、京王線の特急に乗り換えると新宿駅まで約28分で行くことができる。京王線特急に直通の京王相模原線特急列車もあり、そちらを利用すると新宿駅まで乗り換え0回・約30分だ。
京王稲田堤駅の南口改札を出るとすぐ左手にスーパーがあり、右手にはコンビニやドラッグストアが見える。駅高架下をくぐって進むと、100円ショップやファストフードなどの飲食店、ドラッグストアなどが並ぶ商店街が続いている。車道と歩道が一体となったような細い道でありながら人通りが多いのは、この先にJR南武線・稲田堤駅があるため。京王稲田堤駅から徒歩5分ほどの稲田堤駅前にも商店街が広がっており、飲食店はこちらのほうが充実している印象だ。
北戸田駅(写真/PIXTA)
もう1つの2位の駅、JR埼京線・北戸田駅は埼玉県戸田市にある。新宿駅まではJR埼京線1本・約27分で、途中駅である池袋駅にも行きやすい。新宿とは逆方面に約14分乗車すると、埼玉県屈指のターミナル・大宮駅に到着する。
北戸田駅の周辺には住宅街が広がり、駅高架下の店舗をはじめ徒歩20分圏内にスーパーが9軒もあることからも住民の多さがうかがえる。そのうちの1軒は駅から徒歩12分ほどの「イオンモール北戸田」に併設され、ファッションや雑貨、インテリアのお店もついでに立ち寄りやすい。駅から20分ほど歩くとホームセンターもあり、買い物環境は充実しているといえるだろう。遊具がある公園も点在しているほか、駅から徒歩15分ほどの場所には水泳や体操など子ども向けスポーツ教室を開講している「戸田市スポーツセンター」も。駅から西へ車で10分ほど走った荒川沿いには、河川敷の調節池に沿って整備された市営公園「彩湖・道満グリーンパーク」があり、BBQや釣りができるので休日に家族で出かけるのも楽しそう。
さて、トップ10を見てみると1位・読売ランド前駅や2位・京王稲田堤駅をはじめ5位・生田駅、8位・中野島駅、と神奈川県川崎市多摩区の駅が4駅ランクインしていた。多摩区は川崎市の7つの行政区のなかでは最も北側の多摩川沿いに広がり、川を越えると東京都の狛江市や調布市というロケーションだ。
多摩区では独自の取り組みとして「多摩区子育て支援パスポート」を発行している。これは多摩区商店街連合会と協働した取り組みで、18歳までの子どもがいる家庭を対象として商店街の協賛店や公共施設が割引などのサービスを提供するというもの。割引サービスがありがたいのはもちろん、街ぐるみで子育てを応援してくれる地域なのだと感じられる点もうれしいところだろう。こういった生活をサポートする制度は自治体によって内容や充実度がさまざま。家族とともに長く定住するための住まいを探す際は、物件の価格に加えて地域の制度もチェックすると、より充実した暮らしが送れるだろう。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている新宿駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数40年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2023/8~2024/2
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2024年4月22日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
リクルートが『住まいの売却検討者&実施者』調査(2023年/首都圏)を実施した。過去1年以内に売却を検討した人に、その物件や売却理由、売る時期をどう見ているかなどを聞いている。今どきの売却実態を見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)公表/リクルート
リクルートの調査は、首都圏に住む20歳~69歳の男女に、2023年12月~2024年1月に実施したもの。まず、過去1年以内に土地や居住用不動産の売却を主体的に検討したかを聞き、該当した18%を売却検討者として、本調査を行っている。なお、そのうち38.5%が売却を完了している。
売却を検討したのは「買い替え」か「相続・贈与」か「不要な不動産を処分するため、その他」かを聞いたところ、「買い替え」が58.5%、「相続・贈与」が25.1%になった。ただし、50代・60代では「相続・贈与」の割合が3割前後と増える傾向が見られた。
では、「売却しようと思った理由」は何だろう?1位は「売れるときに売るため」(28.0%)、2位は「住む場所を変えるため」(26.9%)となったが、年々減少にある。3位は「高いうちに売るため」(26.0%)だった。近年の不動産の価格上昇を受けてのことだろう。
不動産を売却しようと思った理由(複数回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)
売却を検討した物件は、「土地」が25.4%、「一戸建て」が40.0%、「マンション・アパート」が34.6%だった。興味深いのは、売却検討物件の所在地だ。「東京都」が減少トレンドにある一方で、「千葉県」と「埼玉県」がこれまでより増加する形となった。早い時期から価格上昇が感じられた東京23区から遅れて、千葉県や埼玉県でも買い替えがしやすい市場になったということだろうか。
売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)
「高く売るのに有利な時期」か?有利57.5%、不利9.7%さて、不動産の価格が上昇トレンドにあることで、売却に有利な時期と感じている人が多いのだろうか? 調査結果を見ると、「高く売るのに有利な時期だと感じていた」のは57.5%(とても19.8%+やや37.7%)となり、半数を超えた。一方、「不利な時期だと感じていた」のは9.7%(とても2.5%+やや7.2%)だった。過去の調査と比べると、有利という回答が増え、不利という回答が減る傾向が見られる。
※有利・計(「とても有利な時期だと感じていた」+「やや有利な時期だと感じていた」)
※不利・計(「やや不利な時期だと感じていた」+「とても不利な時期だと感じていた」)
売却検討物件の属性(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)
注目したいのは、有利の割合が、売却タイプ別では「相続・贈与」が51.8%であるのに対し、「買い替え」が64.2%とかなり高くなっている。さらに、物件タイプ別では、「一戸建て」が51.0%で横ばいの傾向であるのに対し、「マンション・アパート」が62.0%、「土地」が61.6%と前年より増えている。高く売るのに有利と感じている人が多いものの、不動産によってその感じ方に微妙な差があるようだ。
売却で時期と価格のどちらを重視する?さて、「売れるときに売る」「高く売れるときに売る」と思う人が多く、「売却に有利な時期と感じる」人が多いなか、重視するのは、「時期」と「価格」のどちらなのだろう?
「時期(いつ売れるか)を重視する(した)」か、「価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」かを聞くと、「どちらかといえば」を含む「時期重視」派は47.2%、「価格重視」派は34.2%、「どちらともいえない」は18.6%という結果となった。
※時期 重視(「時期(いつ売れるか)を重視する(した)」+「どちらかといえば時期(いつ売れるか)を重視する(した)」)
※価格 重視(「どちらかといえば価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」+「価格(いくらで売れるか)を重視する(した)」)
時期と価格のどちらを重視するか(単一回答)(出典:リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」)
ただし、年代別で見ると、「時期重視」派は、20代で67.4%、30代で55.0%と、全体平均の47.2%よりもかなり高くなっている。若い世代の方が、子どもの入学前になど、売るタイミングが決まっていて、早く売ることに重きがあるからなのだろうか?
高く売るには、不動産価格が上昇あるいは高止まりしている時期であること、一定規模の需要(不動産を買う人が多い)があること、などの条件が必要だ。後者は、売れるときに売るための条件でもある。住宅ローンの金利上昇がいよいよ現実的になっている今は、売るにはよいタイミングといえるだろう。とはいえ、売る物件と買う人がうまくマッチングするには、個別の事情もある。自分の物件が今の市場でどういったポジショニングにあるのか、見極める必要もあるだろう。
●関連サイト
リクルート「2023年『住まいの売却検討者&実施者』調査(首都圏)」
東京で初開催となる建築祭が、大盛況のうちに2024年5月26日に終了した。「東京建築祭」の概要や見どころなどは、開催前から多くのメディアで紹介されていたので、ここでは実際に、建築祭はどんな内容で行われ、どんな人たちが参加して楽しんだのか、その実態を2回に分けてレポートしたい。
「東京建築祭」の楽しみ方は2通り。限定イベントに参加するには?建築祭に参加して楽しむ方法としては、主に2パターンがある。ひとつは、通常は非公開のエリアが公開される「特別公開」の建築物を見学するパターン。もうひとつは、参加人数が限定されるイベントに参加するパターンだ。人数限定のイベントは、クラウドファンディングまたはガイドツアー(多くは有料)により提供される。
「東京建築祭」を主催するのは、東京建築祭実行委員会だ。倉方俊輔実行委員長(大阪公立大学教授)をはじめ、8人の実行委員により構成される。実行委員たちが手弁当で活動し、スタッフをボランティアで集めたとしても、建築祭を魅力的に告知する専用サイト・パンフレット等の作成費用や事務局の運営費用などがかかる。協賛パートナーを募って支援してもらうほかに、一般の方からクラウドファンディング(以下、クラファン)の手法で資金を集めるスタイルを取った。
出典:「東京建築祭」クラウドファンディングのサイトより
クラファンには、純粋に開催を応援して資金を提供するだけでなく、用意されたリターンを選択して資金提供する方法もある。東京建築祭のクラファンでも、建築家の藤本壮介さんのスケッチによる東京建築祭2024トートバッグや、建設工事中のGinza Sony Park 特別見学会、三越劇場での東京建築祭キックオフイベントへの招待などのいくつかのリターンが用意された。今回のクラファンには、337人から計約624万円の協賛が集まった。ただし、クラファンのリターンの場合は先着順となるので、希望のリターンを選ぶには早期の情報入手も必要だ。
一方、東京建築祭のガイドツアーは44プログラム(同じツアーが複数回開催される場合もある)が用意された。一部に無料のガイドツアーもあるが、多くは有料で、申込者の中から抽選で参加者が決まる。ガイドを務めるのは、その建物の設計者や建築に関わる人であったり、建物の所有者や使用者であったりと多様な顔ぶれだ。面白いところでは、テレビドラマ『名建築で昼食を』の原案者である甲斐みのりさんの案内で、実際に名建築でランチを楽しむツアーなどもあった。
ガイドツアーで最も申し込みが多かったのは、帝国劇場の「建替え工事直前、谷口吉郎の名作・劇場内特別ツアー」だったという。閉館が決まっている名建築を倉方さんの案内で見学できることに加え、例外的に帝国劇場側の希望を受けた無料ツアーであったこともあり、申し込みが殺到したという。当選確率はおそらく数%というほどの激戦だったのではないか。
三越劇場での「東京建築祭キックオフイベント」に潜入さて、クラファンで最も多い87人が選んだリターンが、トートバッグ付きの「東京建築祭キックオフイベント」への招待だ。そこで、キックオフイベントを取材させてもらった。
キックオフイベントは創建当時のロココ調の装飾が残る三越劇場で開催された(筆者撮影)
キックオフイベントは、まず、豪華な装飾に彩られた三越劇場の副支配人・齊木由多加さんによる、建築解説で始まった。日本初の百貨店として「デパートメント宣言」を表明し、日本橋に最先端の設備を採用したルネッサンス様式の本店を建築したものの、関東大震災で被災し、残った躯体を活かして修復した際に、三越劇場(当時は三越ホール)が誕生したことや、天井を飾る美しいステンドグラスは実は4段構成になっていること、至るところに隠し絵があることなどを解説してくれた。
副支配人の齊木さんによる三越劇場の建築解説もあった(筆者撮影)
次いで、実行委員長の倉方さんから東京建築祭の狙いが説明され、キックオフの特別プログラムへ。まず、ゲストの建築家・藤本壮介さんが、自身の設計した建築物を紹介しながら、建築の可能性を語るミニ講演。最初の事例として紹介された、フランス南部のモンペリエに建築した集合住宅「L’Arbre Blanc」に驚いた。恥ずかしながら筆者は、この集合住宅を初めて知ったのだが、木から枝が伸びるように躯体から張り出した奥行きのあるバルコニーの写真を見て度肝を抜かれた。ほかにも、前橋の白井屋ホテルなど多数の建築物が事例として紹介された。
次に、ジンズホールディングス代表取締役CEOの田中仁さんが登壇。経営者という顔のほかに、前橋市の街の再生者という顔もお持ちで、市のビジョンをつくり、白井屋ホテルに始まるまちの活性化にどう取り組んできたかという話をされた。
最後に三人によるトークセッションがあり、会場の参加者を含めた撮影会を経て、キックオフイベントは終了した。キックオフには、協賛パートナー事業者の方やボランティアスタッフの方もいたので、クラファンによる招待客が誰かわからなかったのだが、撮影会の際に事務局からの「トートバッグをかざしてください」という呼びかけに応じて、多くの方がトートバッグを取り出してかざしていた。その顔はちょっと誇らしげに見えた。
登壇した三人によるトークセッション。左から倉方さん、藤本さん、田中さん(筆者撮影)
ガイドツアー「【教文館・聖書館ビル】A.レーモンドの名建築へ、非公開エリアに潜入」次に、ガイドツアーをレポートしよう。取材をさせてもらったのは、銀座の「教文館・聖書館ビル」だ。日本近代建築の父ともいわれる、アントニン・レーモンドが手掛けたビルというから、申込者も多かっただろう。集合場所の1階エントランスホールに、当選した15人が集まってきた。
参加者にこのガイドツアーを申し込んだ理由を聞いてみると、このビルの前をよく通っていたり、書店でよく本を買っていたりして、馴染みのあるビルの非公開の場所が見られると聞いて、申し込んだという声が多かった。
教文館・聖書館ビルの1階エントランスに集合。東京建築祭スタッフがガイドの2人を紹介(撮影/内海明啓)
さて、ガイドツアーは、建築祭のスタッフから見学時の注意事項などの説明があった後、ガイドを紹介して始まった。教文館代表取締役社長の渡部満さんと専務の森岡新さんが、今回のガイドだ。「今では創建当時の建物をそのまま保存するという考え方が浸透しているが、かつてはそこまでの意識はなかった。そのため、外壁など改修された部分も多いが、まだ当時のものも残っている。エントランスの天井のレリーフもその一つで、今回、そうしたものを中心に見学する」という。
教文館ビル側のショーケースに、東京建築祭のためのさまざまな資料が展示されていたが、写真の右側の模型は都立大崎高校のペーパージオラマ部がレーモンドの設計図を基に作成したもの。当時は屋上にアール・デコ様式の塔が2つあったが、左の模型のように広告塔を建てるために1つを撤去してしまったという。ただ、もう1つの塔の台座はまだ屋上に残っている。
エントランスのショーケースに東京建築祭のための展示が並ぶ(撮影/内海明啓)
このビルの特徴は、教文館ビルと聖書館ビルが隣接して1つのビルになっていることだ。エントランスやエレベーターホールを共有しているが、階段室を見ると壁を隔ててそれぞれのビルに行く階段が分かれている。実は、当時の階段が地下に残されていて、それを見ると教文館側は2色になっていることが分かる。
1階部分の階段室(撮影/内海明啓)
地下の階段室を見ると色の違いが分かる(撮影/内海明啓)
さて、ツアーは1階から屋上、5階、地下へと移動し、またエントランスに戻るという流れだったが、5階には床の大理石や階段室の仕切り、室内に入るドア部分など当時のものが多く残っている。ほかにも、今は使われていないが、メールシューターやダストシュート、消防用の送水口(1階)が残っている。
床の大理石や日本聖書協会側のドア枠などは当時のもの(撮影/内海明啓)
メールシューターは手紙を入れるとそのまま下に落ちて集められる仕組みだった(撮影/内海明啓)
エントランスに戻ると、社長の渡部さんが当時のエピソードをいくつか紹介した。教文館ビルの1階と地下に、当時では珍しい「富士アイス」というモダンなレストラン・パーラーがあったこと。まだコーヒーに馴染みがない時代だったので、ブラジル大使の依頼を受けたレーモンドが、聖書館ビルの1階に、「ブラジルコーヒー」を設計した。そこには、レーモンドと親しかった画家の藤田嗣治の「大地」という壁画があったが、閉鎖に伴い壁画はブラジルに渡り、今は広島のウッドワン美術館が所蔵しているという。
なお、聖書館側の外壁に4つのレリーフがあったが、今もその1つが残っている。ぐるりと回れば見つけられるので、読者の方も探して当時の面影を感じてほしい。
ガイドツアーが終わった後、参加者に感想を聞いた。「ダストシュートなど当時のものがまだ残っているのが、素晴らしい」といった声や、「社長さんからじかに、建物の歴史を聞くことができてよかった」という声があった。レーモンド設計の建築を長く見守り続けた人が、ガイドとして解説してくれるだけに、単なる解説にとどまらない思いも伝わってくる。それが、こうした企画の魅力だろう。
さて、こうした解説付きで建築について学べる機会、ましてや、通常は非公開の部分に入り込んで解説してもらえる機会というのは、そう多くはない。東京建築祭ならではの限定企画は、そうした機会を得られる場でもある。キックオフイベントやガイドツアーを追体験していただこうと記事にまとめたものの、情報が多すぎてすべてを盛り込めないことが残念だ。
限定企画に参加するには、早期に情報を入手したり、強運で当選を引き当てたりする必要もある。来年に東京建築祭が開催されたら、ぜひ早めに動いてほしい。それでも、限定となると、機会を得るのはなかなか難しいかもしれないが、一方、東京建築祭では事前申し込みが不要な「特別公開」が多数ある。それをどう楽しむかについては、別の記事で紹介したい。
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東京建築祭公式サイト
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載17回目。今回は、フランス・パリにある39階建て高層ビル「トゥール・デュオ(Tours Duos)」(設計:ジャン・ヌーヴェル)を紹介する。
V字形に傾斜した大胆な造形美フランス建築界の巨匠ジャン・ヌーヴェルといえば、飛ぶ鳥を落とす勢いの世界的な建築家である。2002年東京に彼初の超高層「電通タワー」を完成させ、その後ニューヨークに超高層のハイグレードな「53West53」を完成させ、さらに中国に「深セン・オペラハウス」、「上海浦東美術館」と話題の作品をデザインし続けてきた。そのパワフルなヌーヴェルが、今度は地元パリに「トゥール・デュオ」というV字形に傾斜したユニーク極まりない建築を完成させ、パリジャンの度肝を抜いた。
(c)Roland Halbe_AJN
今パリの東部地区は新規開発が進行し、パリの未来に向けて強烈な牽引力を発揮しつつある。というのは今年(2024年)の7月からの夏季オリンピックのため、パリは高層ビル建設のラッシュが続いている。こうした状況の中、ジャン・ヌーヴェル設計の「トゥール・デュオ」は、ドミニク・ペローがデザインした「フランス国立図書館」からセーヌ川沿いに少し下った位置で、パリ左岸の13区にあるブリュヌゾー通り沿いに立ち上がった。
エッフェル塔、モンパルナス・タワーに次ぐ、パリで3番目に高いビル2棟からなる「トゥール・デュオ」は、延床面積140,000m2の巨体で、39階建て、高さ180mの「デュオ-1」にはオフィス、オーディトリアム、レストラン、ショップが組み込まれている。29階建て、高さ125mの「デュオ-2」にはオフィス、レストラン、ショップ、ホテル(139室)、パノラミック・レストラン、バーなどがある。また「デュオ-1」にはオープン・テラスがあり、パリのワイドな景観を満喫できるようだ。建物は324mのエッフェル塔、210mのモンパルナス・タワーについで、パリで3番目に高いビルとなった。
(c)Roland Halbe_AJN
建物は2棟がV字形に対峙した感じで立ち上がっているが、手前に立っていて頂部に頭がある建物が「デュオ-1」で、奥側に傾いて見えるのが「デュオ-2」である。「デュオ-2」には、著名インテリア・デザイナー&建築家のフィリップ・スタルクがデザインしたホテルがある。敷地がセーヌ川沿いの工業地帯とはいえ、おそらくゴージャスなフィニッシュが施されていることは想像に難くない。
「トゥール・デュオ」の特徴のひとつは、サミット(頂上部分)に”頭”があることだ。高層ビルに”頭”がデザインされていることは、歴史的に見ても非常に少ない。これらふたつの”頭”で建物は識別可能となっているし、これらふたつのサミットがお互いにトークし合ったりしているように見えるのだ。
(c)Roland Halbe_AJN
(c)Roland Halbe_AJN
このような建物同士の関係性については、かつてアメリカの著名建築家ダニエル・リベスキンドが、シンガポールに「レフレクションズ・アット・ケッペル・ベイ」という集合住宅タワー群を建て、その中の大小のタワーがお互いにトークしているように見えたデザインが話題になったことがある。
夏季オリンピックの建築ラッシュの中でも期待のプロジェクトパリ東部開発の起爆剤ともいえる「トゥール・デュオ」は、強烈なランドマークとして君臨する必要があり、このエリアを未来へと牽引するメルクマール的存在となっている。さらに先述のように、「トゥール・デュオ」は夏季オリンピックの建設ラッシュの一翼を担うプロジェクトとして期待が高まっているのだ。
今年の夏、パリ・オリンピックに行かれる方もいると思うが、有名なドミニク・ペローの「フランス国立図書館」などの建築を見学する方は、そこから歩いていける距離にあるジャン・ヌーヴェルの話題作「トゥール・デュオ」も建築見学リストに入れるのをお忘れなく!
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Tours Duo
従来、家はハウスメーカーや工務店、建築士が設計し、施工事業者が建てるものだったのが、今はそこに住まう人自身が家をデザインし、施工まで手がけられる時代になりました。そんな、新しい住まいづくりの仕組みを世に打ち出したのは、テクノロジーの力で誰もが作り手になれる世界を実現する、を掲げた建築系スタートアップ「VUILD株式会社」。同社が手がけるデジタル家づくりサービス「NESTING」によって、建築デザインや施工など専門家の領域だったものが、そうでない人にも開放され、自ら住まいの作り手になることができます。今回は、その記念すべき「NESTING」の1棟目を建てたお施主さんと、「VUILD
株式会社」の代表・秋吉浩気さん、「NESTING」事業責任者の森勇貴さんに、サービスの背景や「NESTING」で建てる価値など、話をうかがいました。
「NESTING」の家・外観(画像提供/VUILD株式会社)
施主自らデザインできて、施工もできる。そう聞くと、「DIYでつくった家」といったイメージを抱く人もいるかもしれません。しかし、「NESTING」は「DIY」の要素を含んでいながらも、「DIY」のクオリティを大きく超えるデザインと性能が光る家。日本の風土に根差した自然に溶け合う佇まいで、「HEAT20 G2」(断熱等級6)という最高レベルの断熱性能を誇ります。
「NESTING」の家・内観(画像提供/VUILD株式会社)
そんな、プロが手がけるような建築を、専門家でもない一般生活者がどうすれば建てられるようになるのでしょうか。そもそも、「NESTNG」のサービスを始めたきっかけは?まずは代表・秋吉浩気さんに事業の背景をうかがいました。
「VUILDでは、“「いきる」と「つくる」がめぐる社会へ”を、会社のビジョンとして掲げています。例えば、食べること。料理をつくり、それを食べることで、僕たちは生きているわけです。料理をつくる過程には、好きな食べものをつくる楽しさもあるだろうし、おいしく仕上げる工夫を凝らす楽しさもある。こんなふうに、生きるためにつくり、つくることで生きるという循環の先に、僕たちのいきいきとした暮らしがあるのではないかと感じて、「誰もが作り手になれる世界を実現する」をVUILDの活動モットーとしています。
そこで、VUILDが初めに取り組んだのが、3D木材加工機「ShopBot」の販売。誰もがものづくりの作り手になれるように、ものづくり技術の普及に取り組んできており、現在までに日本全国200箇所以上に導入してきました。ですが、デジタル機械を使いこなすまでには一定のハードルがあり、単に機械を販売するだけでは「誰もが作り手になれる世界を実現する」には至らないと感じました。
そこで、次にスタートしたのが、設計データさえあればそれを機械で加工可能なデータへと自動で変換してくれるツール「EMARF」です。これにより、ものづくりへの技術的なハードルがぐっと下がったものの、結局はものづくり経験のある人や、設計者でないと、このプラットフォームを活用できないという課題にぶつかりました。そこで思い浮かべたのが、Apple社のiPhone。技術の匂いをあまり感じさせないのに、高性能なテクノロジーが一つの端末に結集していて、誰もが直感的に操作できる。それでいて、デザインもかっこいい。それまでインターネットに興味を持っていなかった人も、iPhoneの普及によりインターネットに親しむようになったりして、僕はそれを「技術の民主化」だと捉えているんです。
ならば、僕たちがフィールドとしている「建築の民主化」を目指すためには、どうすればよいか。Apple社のiPhoneのように、技術を技術として販売するのではなく、テクノロジーをパッケージングしてブランドを築くことで、ものづくりや、建築の作り手としての入り口が開かれるのではないかと考えて、デジタル家づくりサービス「NESTING」の事業構想が浮かび上がりました」
「VUILD株式会社」の代表・秋吉浩気さん
「これまでは、つくることに興味のある人や、すでに作り手である人を相手にしたサービスを手がけてきました。でも世の中を見渡してみると、お金を出せばある程度のものが手に入る時代ですから、ほとんどの人が生産者というより消費者サイド。「いきる」と「つくる」がめぐる社会を築くには、社会の大多数を占める消費者にアプローチしないと、本当の意味で世の中を変えることはできない。「NESTING」が普及していくことで、これまで消費者だった人を生産者に変えることができるかもしれないと思いました」(秋吉さん)
誰でも直感的にデザインできる。基礎も、構造体も、自分でつくれる。だから、誰でも建てられる!「NESTING」で建てる家と、従来の家づくりにどんな違いがあるのか。
第一に、「NESTING」は施主の主体・主導で家づくりが進行するというところに、大きな違いがあります。例えば、設計プロセス。一般的には、施主の要望を工務店や設計士が聞き取り、それに基づいた設計プランを「提案する」流れですが、「NESTING」では施主がデザインを手がけ、そのサポートをプロが行います。
専門家が行う建築設計を、どうやって初心者でも手がけられるようにしたのか。その背景には、デジタル技術の活用があり、施主は専用アプリを使ってパソコン上で操作しながら、間取りや空間のイメージを膨らませられます。(注:アプリは改修中のため、実際の仕様と記載が異なる場合があります)
「NESTING」専用アプリ。画面上で建物の大きさや間取りを直感的にデザインできる
第二に、「価格の透明性」。従来の家づくりは、工務店や設計士に設計の比重があるため「何に」「どれだけ」コストがかかっているのか、施主側からは見えづらいという側面があります。そのため「知らない間に、コストが膨れあがっていた」なんてことも。また、木材加工、基礎工事、建て方工事、屋根工事、断熱材の吹付け、塗装、床張りなど、工事の工程ごとに専門の事業者が入っているため、見積もりも煩雑で時間がかかってしまいます。
それに対し「NESTING」は、施主本人がデザインを手がけるスタイルであるため、「何に」「どれだけ」コストがかかるのか、「何を」「どうすれば」コストが増えるのか・減らせるのかが分かります。その上、電気工事や給排水設備工事など、資格が必要な工事以外は施主本人で建てられるつくりとしているため、複数の事業者が入ることもなく即座に精度の高い見積もりが可能。このようにして、価格の透明性が実現できているのです。
さらに、「NESTING」の建物に使う木材パーツの多くを前述した3D木材加工機「ShopBot」で加工しており、事業者に依頼せずとも自分たちで高精度な木材加工ができる。それも、価格の透明性を高めている特徴の一つです。
木材を加工する3D木材加工機「ShopBot」(画像提供/VUILD株式会社)
「ShopBot」で加工した「NESTING」の木材キット(画像提供/VUILD株式会社)
この部品は、女性や子どもでも運べるように全て10kg以下で制作されています。だから、体力に自信がない人でも安心。家族や友人と協力しながら、自分たちの手で家の構造を組み上げることができるのです。
家の基礎も自分たちでつくります。一般的にはコンクリートを打設しますが、「NESTNG」では杭工法を用いて、電動工具を使いながら自分たちで杭を打ち込んでいきます。
専用の金物に単管パイプを打ち込み、基礎が完成!施工方法さえ覚えれば、初心者でもできる(画像提供/VUILD株式会社)
「NESTING」を横から見た図面(画像提供/VUILD株式会社)
第三に、建物のデザインに心が行き届いているというところ。誰でもつくれる家と聞くと、デザイン性が置き去りにされそうな印象がありますが、「NESTING」の家は違います。
「NESTINGのデザインパッケージを考えていた当初、コストカットするために軒の出をなくす案もありました。安価で合理的な家を建てようとすると、屋根を削って真四角な家をつくるのが一番いいんです。でも、日本建築は「屋根の建築」とも言われるくらい、気候条件的にも重要な存在。「NESTING」のデザインで最も特徴的でありこだわったのは、屋根かもしれません」(秋吉さん)
「NESTING」は、日本の風土や自然に溶け合う家。自然を愛する人、古くからある日本らしい風景を好む人の心をつかむデザインです。
(画像提供/VUILD株式会社)
記念すべき「NESTING」の1棟目は、香川県・直島のお宿こうして考えられた構想が、リアルに実現できるのか。その検証も兼ねて、「NESTING」は応募制というかたちで、2023年春にサービスが始動しました。そこで、記念すべき一人目の施主に選ばれたのは、東京都在住・清るみこさん。IT関係の企業に勤めながら、香川県にある直島が好きで、宿泊業を営まれています。今回は、新たにもう1棟、直島で宿の運営を始めようと、「NESTING」で建てることにしたそうです。
「NESTINGを選んだ理由は、早く建てたかったというのと、おもしろそうだったから。デザイン性と快適性にこだわってつくりたかったので、「NESTING」ならそれが叶いそうだと思いました。
よくある話だと思いますが、建物にこだわればこだわるほど、設計や施工費用がかさみ、後で減額調整をすることになりますよね。これまでは、工務店さんに丸投げしていたために、材料費以外にどんな費用がかかっているのか、減額の余地があるのかないのか、分からなかったんです。でも、「NESTING」はセルフビルドなので、工程も費用も自分でつくりながら理解することができる。VUILDさんとだからできる宿づくりでした」(清さん)
完成した宿の外観(画像提供/VUILD株式会社)
今回は、スピード感を重視していたために、清さんご自身が設計やデザインをすることはなく、「NESTING」のベースとなるデザインをもとに、設計者のスタッフと相談しながら間取りを決めていったそう。その後の、木材キットの加工などには清さんも積極的に参加されました。
「海老名に木材加工の工場があり、毎週末のように通いながら、部品が製造されていく様子を見学したり、部品の組み立てを体験させていただいたりしました。私自身、DIYで棚をつくったりしたことはありますが、こんな大掛かりな加工現場を見たことはなくて。とても勉強になったし、このキットで建物がつくれるんだ……!と、驚きもありました」(清さん)
部品づくりを体験された様子(画像提供/VUILD株式会社)
今回、基礎工事は事業者が行い、部品の組み立ては清さんやお仲間の皆さんで手がけられました。
「土日の2日間、友人たちが直島に手伝いに来てくれて、「VUILD」のスタッフさんや地元の大工さんの手を借りながら、自分たちで部品を組み立てていきました。女性が多かったので、屋根など高所での作業や男手が必要な施工は、サポートに来てくれていたスタッフさんにお任せしたのですが、部品を運んだりネジ締めをしたりと、大工さんに相談したりしながら、それぞれが役割を見つけて動いていました」(清さん)
ご友人と一緒に、2日間の建て方ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)
チームワークを発揮し、どんどん組み上げていきます(画像提供/VUILD株式会社)
2日間で上棟!(画像提供/VUILD株式会社)
屋根の板金工事や、壁の取り付けは「VUILD」のスタッフさんや大工さんが行い、清さんは床のタイルシールの貼り付けを担当。
「仕事の合間をぬって、毎週のように直島に通いながら、タイルシートを貼っていました。一見、簡単そうに見える作業も、ズレなくピシッと貼るのが意外と難しくて。床に接着するボンドが固まってしまい、一部だけ床が盛り上がってしまったりと、苦労しました」(清さん)
その後、再度ご友人の皆さんに集まってもらい、2日間の塗装ワークショップを開催。素人でも壁や建具をムラなく塗れるように、「NESTING」のためにオリジナルで開発した塗料を使用されたそうです。
ご友人が集まり、塗装ワークショップを開催!(画像提供/VUILD株式会社)
皆さん、塗るのに夢中になっています(画像提供/VUILD株式会社)
こうして完成した宿が、こちら。
庭からの外観。海に面している直島の気候風土に合わせ、潮風にも耐えられるよう外壁は焼杉を使用している(画像提供/VUILD株式会社)
ダイニングからリビングを見た様子(画像提供/VUILD株式会社)
リビングから縁側を見た様子(画像提供/VUILD株式会社)
写真で見ても、未経験者がセルフビルドで建てた宿だとは思えない、ハイクオリティな仕上がりであることが分かります。さらに、着工してから竣工するまで工期は、たったの2カ月。実際の稼働日に換算すると、43日。通常では考えられない、驚きのスピードです。「NESTING」で建ててみた感想や手応えを、清さんはこのようにお話しされました。
「昔の家づくりって、コミュニティを巻き込みながらつくり上げていく側面があったと思うんですけど、現代はそれが薄れてきてると思うんです。その点、「NESTING」を通じて自分たちの手で建てることで関わった人たちの愛着も湧くし、直島の近隣の方が工事の様子を見に来て、そこから会話が始まったりもして。この場を運営するのは私であっても、みんなで場を共有している感覚が、とてもユニークだなと感じました。
その一方で、スタッフさんや大工さんの手を借りながらも、ほぼ全てをセルフビルドでつくっているので、後からみると手直しをしたくなるようなところもあります(笑)。でも、それも含めていい思い出ですね」
どんな人に「NESTING」を勧めたいですかと尋ねると、「中小企業のチームビルディング研修にピッタリだと思います」と、清さん。
「実際に自分が建てるプロセスに参加してみて、組織のチームビルディングにすごくいいなと思ったんです。タイプの異なる人間が、同じゴールに向かって形にしていく過程の中で、学べるものがたくさんある。なので個人的には、店舗やレストラン、小規模の宿を運営されている中小企業の会社さんが、スタッフみんなで建てて、一緒にその場を築いていくみたいな「NESTING」の活用はとても魅力的だと思います」
ご友人と一緒に建てることで、さらに関係性が深まったと清さん。つくること、建てることは、単なる手段ではなく、その過程そのものが人と人とのつながりを育み、場が地域にひらいていくきっかけになりそうです(画像提供/VUILD株式会社)
「NESTING」で一番届けたいのは、つくる喜びや楽しさ1棟目の「NESTING」建築を経て、「VUILD」代表の秋吉さんは、可能性を感じられたと話します。
「清さんとご一緒できたおかげで、改善の余地がどこにあるかを確かめることができました。建てるというプロセスにおいては、住宅を購入するのとは明らかに違う光景が現場に広がっていて、関わっている人全員が、すごく楽しそうに作業している姿が印象的でした。「NESTING」によって、家づくりのあり方が変わる。その確かな手応えをつかむことができました。
さらに言えば、自分たちで家をつくれたなら、地域づくりや街づくりも自分たちでできるかもと思えたりして、「NESTING」を入り口に、つくることや街づくりに対してどんどん主体的になっていく可能性があるなとも感じました。
今回の1棟目をふまえて、現在は2棟目の「NESTING」を建てているところ。その施主は、「NESTING」事業責任者の森さんです。総工費1000万円、工期1カ月を目標に進めているところです」
森さんは栃木県で暮らしており、移住を検討されている方を対象にした「お試し移住拠点」として建てられているそう。
「NESTING」事業責任者の森勇貴さん
「都市圏に住みながらも、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心があるような人たちが増えてきていると思います。僕も、その一人。以前は東京に住んでいたのですが、今は那須に移住してリモートで仕事をしています。「NESTING」でお試し移住拠点をつくろうと思った理由は、自分たち家族が移住してみて、まちの魅力を存分に感じたため、移住仲間を増やしたかったから。今、建物の躯体が組み上がったところで、完成が楽しみです」(森さん)
安全管理を行った上で、息子さんと一緒に施工現場に入る森さん(画像提供/VUILD株式会社)
この2棟目の実践を経て、本格的に「NESTING」のサービスがローンチできる目処がたってきましたと、秋吉さん。新たに10組の先行ユーザーを募集し、次々に「NESTING」を建てようと志す仲間が集まってきているそうです。
能登半島地震によって全壊してしまった家を、「NESTING」を使って自力で再建を目指す人。東京から地方に移住して、自然と共生するサステナブルな暮らしを実践しようとする夫婦。地域への移住促進に取り組む会社のオフィスとして…などなど。
その用途や目的はさまざまですが、共通しているのは、地域との関わりがあることや、建物を通して、周りとのコミュニティを開いていこうとしていること。森さんが話すように、自分らしい生き方や暮らし方に興味関心がある人、地域や自然とのつながりを求める人に、「NESTING」が選ばれている傾向があるようです。
「今後、さらに展開していくにあたって、その地域ごとに使う素材やデザインをアレンジできればと思っています。地域資源を活用したり、自然が循環するきっかけに「NESTING」がなれたらなと。さらには、大工や職人の高齢化・減少化が進んでいますから、家づくりのプロが減っても、家づくりを諦めなくていい環境を僕たちが整備していけたらいいなと考えています」(秋吉さん)
「NESTING」で家を建てることは、自分の「生きる」を「つくる」こと。そして「つくる」ことで、「生きる」ことの実感や手応えが、その人の人生に蓄積されていく。そのおもしろみや価値は、きっと頭で考えることではなく、自分の心と体で感じるもの。「NESTING」は、地に足をつけた生き方や暮らし方へと、現代に生きる人々のあり方を建てなおす起点となり、拠点となりそうです。
●取材協力
VUILD
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東日本不動産流通機構が、2023年度に成約した首都圏中古マンションの管理費や修繕積立金について、分析した結果を発表した。それによると、管理費も修繕積立金も前年度より上昇しているという。なぜ上昇しているか、その理由も含めて考えてみたい。
【今週の住活トピック】
「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」を発表/東日本不動産流通機構
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)は、不動産会社間で不動産情報を共有するシステムなどを運用する指定流通機構で、東日本を担当している。それを通じて成約に至った中古マンションについて、年度ごとの管理費や修繕積立金などのランニングコストを分析している。
2023年度の首都圏中古マンション月額平均額は、1戸当たりで管理費が平均1万2831円、修繕積立金が1万1907円だった。これを1平米当たりに換算すると、管理費は平均201円(前年度比2.1%上昇)、修繕積立金は187円 (同3.1%上昇)となった。いずれも、前年より上昇したことが分かる。
首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金の月額(平均額と1平米当たり)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より抜粋転載)
マンションの管理費は、日常の管理を円滑に進めるためのもので、管理会社への委託費、共用部の清掃費や水道光熱費、共用設備の点検などに使われる。また、修繕積立金は、計画的に行われる大規模修繕工事を実施するために積み立てられる。
まず管理費については、地域では東京都区部で高く、築年では築10年以内や築11~20年など、新しいものほど高くなっている。また、総戸数50戸未満、200戸以上でも高くなっている。
一般的に、高額なマンションほど、その設備仕様や管理サービスの水準が高くなり、維持管理の費用も高くなる傾向がある。また、大規模なマンションには、共用施設が多いため、その維持管理の費用もかかってくる。一方で、大規模なマンションは発生する固定費を多くの戸数で分担できるが、50戸未満の小規模なマンションでは分担できる戸数が少ないため割高になる場合もある。
こうした要因が管理費に影響するわけだが、近年新築マンションの価格高騰により高額なマンションが増えていること、なかでも東京都区部でその傾向が顕著であることから、管理費を引き上げる要因になっているといえるだろう。
次に修繕積立金を見ると、管理費ほどの金額差はないが、50戸未満の小規模なものは1戸当たりの平均額が高くなっており、規模感の影響が出ている。目立つのは、築10年以内で低くなっていることだが、これには別の理由もある。
築年数が新しいほど管理費が高く、修繕積立金が低い理由とは?管理費と修繕積立金の1平米当たりの月額の推移を築年別に見ていこう。
建築年別の1平米当たり管理費・修繕積立金(月額)(出典:東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」より転載)
管理費は、1967年~1977年など築年の古いものでは月額150円前後で推移しているが、以降は200円近くに上がり、バブル期で豪華なマンションが多かった1988年~1993年では200円を超えるものの、おおむね横ばいに推移していた。しかし、2013年以降は右肩上がりの上昇トレンドになり、2023年に建築されたマンションではついに300円を超える結果となった。
これには、管理員の人件費の高騰が大きく影響している。政府が2013年に施行した『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)』による定年延長や再雇用などにより、定年後の仕事の選択肢が広がった。管理員の仕事は、かつては定年退職後の雇用の受け皿になっていたこともあり、採用が難しくなった結果、近年は人手不足に陥っているのだ。そのため、報酬を引き上げるなど人件費が上昇し、それが管理費にも影響しているというわけだ。
また、近年は共用部で使う水道光熱費などさまざまなものが値上がりしているので、管理費が上がる要因が多くなっている。築年の新しいマンションほど管理費が高くなるのには、こういった要因もあるのだ。
一方、修繕積立金はおおむね横ばいで推移してきたものが、ここ10年程度を境に下降トレンドになっている。これを見ると、修繕積立金の負担が軽減されてきたように見えるが、けっしてそういうわけではない。建設工事の費用が上昇しているなかで、大規模修繕工事の費用も上昇しないはずはない。
「均等積立方式」か「段階増額積立方式」か?修繕積立金については、かつては規制がなかったため、マンション分譲時に長期修繕計画を作成しているものの、それを確実に行えるだけの修繕積立金の額を設定していない事例が多かった。それでは実際の大規模修繕工事を実施するのに支障があるということで、長期修繕計画通りに工事が行えるように修繕積立金の金額を設定するようになった。
とはいえ、マンションを販売する際には管理費・修繕積立金・駐輪駐車場代などの合計月額が低い方が売りやすいこともあって、それまで主流だった均等に積み立てる「均等積立方式」から、あらかじめ段階的に増額する「段階増額積立方式」を採用する事例が多くなった。
「段階増額積立方式」では、当初の修繕積立金の額は抑えられているが、5年ごとなどに一定割合で上がっていく形になる。修繕積立金の値上げは、管理組合の総会で承認される必要があり、否決されると値上げができなくなる。
修繕積立金で築年の新しいマンションの月額が低いのは、値上げされる前の金額の事例が多いという事情もあるのだ。修繕積立金については、さらに注意点がある。
長期修繕計画は適宜見直すことになっているが、近年、大規模修繕工事にかかる費用が上がっている。建築資材や水道光熱費などの上昇に加え、建設業界や物流業界では残業時間を規制する2024年問題が拍車をかけて人手不足が深刻化している。そして人件費の高騰は大規模修繕工事の費用に大きく影響する。となると、以前の長期修繕計画上の費用と現実の費用にズレが生じる可能性も高い。不足しない計画だったとしても、不足する可能性もあるのだ。
毎月払うランニングコストは安い方がよいのだが、管理費も修繕積立金も上がる可能性はある。特に、「段階増額積立方式」では、負担すべき費用を順繰りに送る形なので、上がることが前提となっている。
新築マンションを購入する場合は、ランニングコストが上がる可能性を考慮する必要があるし、中古マンションを購入する場合は、修繕積立金の積立方式がどうなっているか、長期修繕計画はいつ見直されたものかなども、しっかり確認する必要がある。事前に把握できることをスルーしてしまうと、将来家計に大きな影響が出るということもあるので、忘れずに確認してほしい。
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東日本不動産流通機構「首都圏中古マンションの管理費・修繕積立金(2023年度)」
1950年に図書館法が制定されてから、戦後全国で次々と誕生した図書館。今、過渡期を迎えています。これらの建物が老朽化しており、いっせいに寿命を迎えているのです。東京都・西多摩郡瑞穂町の「瑞穂町図書館」にもこうした課題がありましたが、これまでの建物をあえて残しながら改修し、新たな空間をつくり上げる道を選びます。そして「誰もが居心地の良い、街のいこいの場」の機能を加えたのです。こうした改修プロジェクトを主導したのは、町民たち。どのような歩みを経てきたのでしょうか。図書館改修事業に携わった方の思いをお聞きしました。
街のリビングのような、心ゆるせる場所東京都心の北西部にある人口3万2000人ほどの小さな町、西多摩郡瑞穂町。最寄駅である箱根ヶ崎駅には、東京駅からは電車で1時間半ほど乗ると到着します。町内には狭山丘陵の一角があり、背景には緑豊かな山並みも目にすることができます。
街の中央部にある瑞穂町図書館は、2022年3月にリニューアルオープンしました。コンセプトに掲げているのは、「本や人とゆるやかにつながり、自分の居場所と感じられる図書館」。そのテーマどおりに、図書館内のほとんどのスペースでおしゃべりや飲食がOKで、多くのくつろげるスペースがあります。
夕方になると緑のネオンサインが点灯。浮かび上がる姿は幻想的です(写真撮影/片山 貴博)
1階エントランスを入るとすぐ目に入るスペース。おしゃべりも、読書も、ワークショップも。あらゆることができるリビングのようなエリアです(写真撮影/片山 貴博)
2階建ての図書館には、開口部全面に配置されたロングソファや、木製のボックス型読書ブース、Wi-Fiと電源が完備された無料のブース型ワーキングスペースなど、あらゆる人が快適に過ごせる空間が用意されています。
緑に囲まれたロングソファコーナーはまるでリゾート地で読書をしているかのような雰囲気を味わえます(写真撮影/片山 貴博)
黙々と一人で読書や仕事をすることができるパーソナルブースには、開館と同時に人が集まっていました(写真撮影/片山 貴博)
配置されている書棚も、本に手が伸ばしやすいように、フロア全体が背の低い書棚で囲まれています。さらには子どもが手に取りやすいサイズの書棚に、ゆるやかなカーブを描いた面陳列の木製書棚も印象的です。ゆったりとしたスペースや通路に、あたたかみのある木製の家具でつくられたやわらかな空間。
10代の学生たちに向けた本を集めたコーナー。手に取りやすい高さになっています(写真撮影/片山 貴博)
靴を脱いでくつろぐことができる、子ども向けのコーナー(写真撮影/片山 貴博)
ボックスブースでは、落ち着いて飲食、勉強、打ち合わせも可能です(写真撮影/片山 貴博)
瑞穂町にゆかりのある大瀧詠一さんが発表されたレコードを集めたコーナー(写真撮影/片山 貴博)
そこでは新聞を広げてくつろぐ人や、仕事や勉強に夢中になる人、黙々と本を読む人などと、思いおもいの時間を過ごす風景が広がります。なかには開館と同時に来館し、一日中図書館に浸る人も。まるで自分の家のリビングでくつろぐかのような雰囲気です。とはいえ、お互いにやりたいこと、求める空気感など、相手を尊重し合いながら秩序を保っています。
晴れた日は2階のテラスも利用できます。日光浴をしながらコーヒーを飲み、読書をすることができるなんて、なんて最高なのでしょう(画像提供/瑞穂町図書館)
「ここは誰もがいてよい場所。なので、私たちからは”こうしろ”、”ああしろ”と強制はしません。ですが、例えば”今あそこには誰々がいて、こんなこと気にしているみたいよ”と促しはします。自発的に相手のことを考えてもらうために、そっとサポートをするイメージです」と、司書の西村優子さんは話します。
新しくするのではなく、今ある施設の魅力を活かす「実はこの図書館は、私と生まれ年が同じなんです」
瑞穂町生まれの前館長・町田陽生さんはそう話を切り出します(取材当時は館長)。
リニューアル前の図書館は築45年で、設備の老朽化が目立ち、若年層の来館者が伸び悩んでいたことが気がかりでした。おまけにエレベーターもなく、車いすの人にも訪れにくい環境。なんとか変えたいと、誰もが利用しやすく快適な図書館へと改修するプロジェクトがはじまったのです。
瑞穂町は全てを新たに建て直すのではなく、既存の建物を活かすために一部減築をした上で、新たな建物を増築するという、2つの方法を組み合わせて改修する道へと踏み切ります。
せっかく改修するならば、何としても多くの人に訪れてもらえるようになりたいと願っていたと、前館長の町田さんは話します(写真撮影/片山 貴博)
「限られた期間と予算のなかで事業を進めていく必要がありました。図書館は駅から離れた位置にあり、立地も良いとはいえない場所です。ここで改修をするにあたり、どうすれば多くの方に来ていただき、町民に愛される図書館にできるかと模索する毎日でした」町田さんは、こう振り返ります。
建物改修と並行して、「図書館がどうあってほしいのか」という、ソフト面を考える取り組みも行うことになりました。そこで町は、住民参加型ワークショップを開催するべく、場を立ち上げたのです。
町民のやりたいこと、かなえたいことを集めて実現していくワークショップは、瑞穂町図書館のリニューアルの屋台骨を決めるものとなりました。
図書館の基本計画の策定段階である2019年に「図書館をみんなで考え・つくるワークショップ」を3回、その後2021年には「図書館をみんなで考え・活用するワークショップ」を3回開催。合計167人の、親子連れや学生、お年寄りなど幅広い世代の町民が参加しました。
彼らの描いていた図書館の理想像は「おしゃべりをしながら本を読みたい」「コーヒーが飲める場所がほしい」「Wi-Fiが使えるようになってほしい」「子どもが泣いてしまってもいいようなスペースがほしい」というものでした。
町民の声をもとにドリンクマシーンを設置。館内で自由に飲むことができます(写真撮影/片山 貴博)
もちろん町民全ての願いをかなえられたわけではありません。ですが、一つひとつ耳を傾け、願いを実現することで、町の人にとって「居心地のよい場所」が生み出されたのです。
こうした街の人との意見交換では、新たなコミュニティも誕生しました。それが「図書館ファンクラブ」です。集まった10名ほどのメンバーは、図書館のスペースを使って、イベントの企画や運営を担っているのです。こうした積極的に関わってくれる街の人が増えたことで、図書館は活気にあふれるようになりました。
この日は反物の端切れを使って、ブックカバーをつくるワークショップを行っていました(写真撮影/片山 貴博)
ファンクラブのメンバーの一人である村上豊子さん。彼女は腹話術の人形をあやつり、語り部をしています。この日は相棒である人形の「くりちゃん」とともに、図書館に足を延ばしていました。リニューアルした図書館のことをこう話します。
「これまで町の人は、地域活動の場所が限られていたんです。こういった場所ができて、積極的にイベントができるのはうれしいですね。子どもたちと接する機会が増えたことも喜びの一つです」
村上さんの相棒、腹話術人形の「くりちゃん」とともに(写真撮影/片山 貴博)
本を手にしたら、新しい発見がある書棚を目指すリニューアルのもう一つのテーマは、書籍の配置の見直しでした。ここでは、テーマ配架が取り入れられたのです。テーマ配架とは、日々の暮らしに近いテーマや地域に根ざしたテーマなど、瑞穂町独自の6つのテーマで本を分類して並べることです。
図書館といえば日本十進分類法(NDC)での区分が知られているところ。例えば「文学」「哲学」「産業」などと聞くと、誰もが思い出すかもしれません。しかし、瑞穂町図書館ではその分類の根底を残しつつも、とらわれすぎない独自の6つのテーマを設定したのです。
例えば生活を豊かにする本が並ぶ「QOL(クオリティー・オブ・ライフ)」や、瑞穂の地域について学ぶ本が並ぶ「みずほ学」、10代の若者に寄り添ったテーマの本「ティーンズ」などといったセグメントです。訪れる人の目的や興味で本が探せる配置になっています。司書たちはこの6つのテーマに沿って、自らが選書や配置をしているのです。そのスタイルは、まるで、独立形書店のようでもあります。
瑞穂町の歴史や、瑞穂町にある企業にまつわる本が集められた「みずほ学」コーナー(写真撮影/片山 貴博)
そもそもこの本の並べ方も、町民とのワークショップで意見を聞いて取り入れたのだとか。
「子どもがメダカを飼いたいって言ったときに、メダカの生態の本も、メダカの飼い方の本も見たいじゃないですか。でもこの2つって全然違う場所に配置されているんです。あっちもこっちも行き来するって大変ですよね。じゃあ、どういう本棚の構成だったら探しやすいのだろう?と。そしてわかったのが、テーマを設けて本を並べるということだったのです。お子さんにも、感覚的にわかりやすいような本棚になったんですよ」と司書の西村さんは笑顔で語ります。
こうした配置によって生まれたうれしい変化がありました。関連する本をついでに2冊、3冊と借りて行く人が増えたことです。
子育てを支える本や、子どもたちに手にしてほしい本が集まる「みずほ育」コーナー(写真撮影/片山 貴博)
町田さんはこう続けます。
「その人の求めている知的欲求がより深まるといいますか。本と本、人と人のつながり、こういうコンセプトがにじみ出た本棚でもありますね」
生活を豊かにする本が集う「QOL」コーナー(写真撮影/片山 貴博)
町民の手で、町民の知識で、この場所での体験を自分ごとにしていくリニューアル後、来館者も増加。2018年度と比較すると約2倍に増えました。これは純粋に書籍を借りる人だけではなく、ここに憩いを求めて訪れている人も含まれているそうです。でもそれでいいと西村さんは言います。
「本のある空間に触れること、これが大切だと思うんです。小さいころから”なんとなく本のある空間”に身を置くことで、将来大きくなったときにここに戻ってきてくれる。そうあってほしいなと願って、くつろぐ、おしゃべりするだけでも足を延ばしてほしいと思っているのです。町の人の憩いの場であることが一番ですから」
本の配置に試行錯誤したことを話してくれた西村さん。全国にある図書館を視察して研究しているそうです(写真撮影/片山 貴博)
今、図書館のあり方は大きく変わっています。西村さんは「この町を愛する人たちが自分の手でここをよくしていくこと。それが愛着を生み出しているのだと思います。まだまだやれることはあります。町民の力を借りながら、私たち職員はよりよい選書とは? もっと快適なスペースつくりとは? と、じっくり考えていきたいです」と話しました。
課題はもちろん残ります。この図書館は役場の職員が運営をしているため、誰かが異動をすると仕組みを維持しにくくなる恐れがあるのです。そこは、これから担い手を増やしていくよう工夫をしていく必要がありますが、町民にとっても役場の職員の皆様にとってもやりがいはありそうです。
瑞穂町図書館のみなさん。日々の運営のために、積極的にアイデアを出し合っているそうです(写真撮影/片山 貴博)
取材の最後に西村さんは、こう話してくれました。
「今、全国各地で、図書館のあり方について考える必要が出てきています。ただ課題があっても、民間業者に委託する方法以外にも解決方法はあるのだと思います」
たしかに、自分たちの手で工夫をしていくことはできるのでしょう。時代は変わるので、図書館の役割も変わって当然。その工夫ができれば、もっと自分たちにとって心地よい施設になりそうですね。
●取材協力
瑞穂町図書館