
5,800万円 / 66.6平米
中央線・井の頭線「吉祥寺」駅 徒歩7分
眼下に広がるのは、避暑地なの?と思うほどの緑であふれる井の頭公園の眺め。カーテンいらずで生活できるどころか、むしろ緑のカーテンに包まれているような、そんな物件をご紹介します。
僕らの仲間の工務店さんが約5年前にリノベーションをした空間は、さすがのセンス。無垢フローリングでリノベ ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
今年は冬の終わりから春にかけて,全国的に例年よりも暖かい日が多かったようです。引越しなど新生活への準備を始めた方も多かったのではないでしょうか。。SUUMOジャーナルで3月に公開した記事では、「入居者のための食堂、昼・夕食500円、朝食はなんと100円! 「トーコーキッチン」開店から9年目。入居者希望増、書籍化など、さらにすごいことになってた!」「【2024年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 。トップ3はすべて江戸川区で6万5000円以下!」などが人気TOP10入りしました。本稿では、バラエティー豊かな記事の見どころをご紹介いたします。
2024年3月の人気記事ランキングTOP10はこちら!TOP10はこちらの記事となりました!
第1位:入居者のための食堂、昼・夕食500円、朝食はなんと100円!「トーコーキッチン」開店から9年目。入居者希望増、書籍化など、さらにすごいことになってた!
第2位:3Dプリンターの家、国内初の土を主原料としたモデルハウスが完成! 2025年には平屋100平米の一般販売も予定、CO2排出量抑制効果も期待
第3位:【2024年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング。トップ3はすべて江戸川区で6万5000円以下!
第4位:シャッター街、8年で「移住者が活躍する商店街」に!20店舗オープンでにぎわう六日町通り商店街・宮城県栗原市
第5位:「いつか来る災害」そのとき役立つ備え4選。備蓄品サブスクやグッズ管理アプリ、大切なもの保管サービスなど「日常を取り戻す」ために一歩進んだ防災を
第6位:【2024年】東京23区の中古マンション価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?
第7位:高齢化進む築50年超の団地が大学サッカー部寮になった!芋煮会や大掃除など、学生と高齢者が支えあう竹山団地 神奈川県横浜市
第8位:土地の価格、道が一本違うだけで大きく変わるのはなぜ? 1平米6万円差が出ることも! 「路線価図」で街あるきしてみた
第9位:車椅子での家事動線など追求したら、リノベがバリアフリーの家の最適解だった! 扉ナシ・カウンター下は空間に、など斬新テク満載の共働き夫婦の家
第10位:「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」梅田が西宮北口と大差で3年連続1位に! 本町、尼崎も躍進
※対象記事とランキング集計:2024年3月1日~31日に公開された記事のうち、PV数の多い順
第1位:入居者のための食堂、昼・夕食500円、朝食はなんと100円!「トーコーキッチン」開店から9年目。入居者希望増、書籍化など、さらにすごいことになってた!
(写真撮影/片山貴博)
手づくりの食事を朝100円、昼・夕500円のワンコインで毎日提供。賃貸物件の入居者のために不動産会社が運営する食堂「トーコーキッチン」は、朝8時から夜8時まで利用可能。栄養バランスを考えてつくられた日替わり&週替わり定食、カレーライス500円やキッズプレート300円などを手ごろな価格で味わえます。2015年のオープン以降、「街の一角に自分たち専用の食堂がある」という安心感を味わえる魅力的な仕組みによって、賃貸物件への入居希望者が増えるとともに、多くの注目を集め続けています。今回は、食堂「トーコーキッチン」のある淵野辺(神奈川県相模原市)を訪れ、8年間の変化について聞いてきました。
第2位:3Dプリンターの家、国内初の土を主原料としたモデルハウスが完成! 2025年には平屋100平米の一般販売も予定、CO2排出量抑制効果も期待
(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
熊本県山鹿市にある住宅メーカーLib Work(リブワーク)は、環境への配慮と持続可能性を追究したいという思いのもと研究を重ねました。その結果、土を主原料とする3Dプリンター住宅のモデルハウスの第1号「Lib Earth House “modelA”」が2024年1月、ついに完成。今まで日本で開発されてきた3Dプリンター住宅はコンクリート造のみで、土を原材料とした3Dプリンターの家は国内初とのこと。代表取締役社長の瀬口力さんは、2025年には100平米の平屋での一般販売も予定しており、ゆくゆくは火星住宅建築プロジェクトを目指しているのだとか。実際に実物を目にするため、同社の「Lib Work Lab(リブワークラボ)」を訪れてみました。
第3位:【2024年】東京23区の家賃相場が安い駅ランキング。トップ3はすべて江戸川区で6万5000円以下!
(写真/PIXTA)
東京都内でも特に利便性が高い暮らしを望むなら、やはり23区内が人気。交通網が充実しており商業・文化施設も豊富、さらに賃貸物件の数も多いため理想的な物件を探しやすいといった魅力があります。一方で、首都圏でも飛び抜けて家賃が高い点がネックに。ですが、探せばきっと予算内で住める物件はあるはず! 例えば、1位にランクインした江戸川区の京成本線・江戸川駅周辺の物件なら、家賃相場は6万4000円のうえ、スーパーも点在していて便利そうです。今回は、東京23区内にある駅ごとの家賃相場を調査。駅から徒歩15分圏内にある賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満のワンルーム・1K・1DK)の家賃相場が安い駅トップ20をご紹介します。
第4位:シャッター街、8年で「移住者が活躍する商店街」に!20店舗オープンでにぎわう六日町通り商店街・宮城県栗原市
(写真撮影/難波明彦)
シャッター街になりつつあった宮城県栗原市。しかし、今では地方への移住をテーマにした情報誌の、全国の人口5万人以上10万人未満の市を対象にした評価の総合部門で1位になるほど人気に。そのなかでも特に注目されているのが「六日町通り商店街」です。実は2016年ごろから、自治体や商店会、地域おこし協力隊らが連携し、移住者が開業しやすいようにと努めてきました。その結果、現在では、個性的なお店が約20店舗オープンし、若手中心にイベントなどを企画、多くの人が集まるようになり活気を取り戻しました。その「六日町通り商店街」再生の取り組みと現状を紹介します。
第5位:「いつか来る災害」そのとき役立つ備え4選。備蓄品サブスクやグッズ管理アプリ、大切なもの保管サービスなど「日常を取り戻す」ために一歩進んだ防災を
(写真提供/日本郵便)
大規模災害を想定した、最低限の水や非常食の備蓄は必要不可欠です。しかし大地震により物流が途絶え、支援物資も届きづらい状況を思えば、防災リュックの中身だけでは心もとないときもあるでしょう。また、避難所や仮設住宅での生活が長引いた際には、嗜好品や思い出の品など「心を癒やすアイテム」も必要になることも。
可能であれば最低限ではなく、最悪を想定した十分な備えをしておきたいところ。そこで記事では、マンション単位で導入できる備蓄品のサブスク「防災サステナ+」や、防災備蓄をスマホでまとめて管理できる「SAIBOU PARK」などを紹介しています。
第6位:【2024年】東京23区の中古マンション価格相場が安い駅ランキング。シングル向け、カップル・ファミリー向け、それぞれ1位は?
(写真/PIXTA)
全国のなかでも群を抜いて人口が多いのが東京都。多少の増減はありつつも増加傾向が続き、総務省によると2023年の1年間で東京都への転入者数は転出者数を約6万8000人も上回っているそうです。そんなニーズの高さも反映し、東京23区内の住宅価格は他地域に比べて高め。利便性のよさや仕事の都合から都内に住みたい、でも費用はなるべく抑えたい……と考える人も多いのではないでしょうか。そこで記事では、東京23区内に位置する駅から徒歩15分圏内にある、中古マンションの価格相場を調査。シングル向け(専有面積20平米以上~50平米未満)の1位には、価格相場2980万円で2駅がランクイン。さらに、カップル・ファミリー向け(専有面積50平米以上~80平米未満)では、価格相場3024万5000円であの区がランクイン! それぞれの中古マンションの価格相場が安い駅ランキングをご紹介します。
第7位:高齢化進む築50年超の団地が大学サッカー部寮になった!芋煮会や大掃除など、学生と高齢者が支えあう竹山団地 神奈川県横浜市
(画像/片山貴博)
神奈川県横浜市緑区にある竹山団地は、神奈川県住宅供給公社が1960年代に開発した約45haの大規模団地です。築50年を超えた約2800戸を有する建物は、日本の高度経済成長期に建設され、他の団地同様に老朽化と高齢化の問題を抱えていました。しかし、「学生たちに共同生活や地域貢献を通じて課題解決型の教育を実践したい」と考える神奈川大学と、保有資産やこれまでのノウハウを活かして団地活性化に取り組みたい公社のニーズが一致し、2020年に「連携・協力に関する協定書」を締結。今では、大学のサッカー部員が団地の空室に入居し、防災訓練や地域のイベントに参加したり、学生食堂を兼ねるカフェの運営、商店街の清掃などを行ったりしています。この取り組みの背景や、約4年間を経てつくり上げてきたもの、入居する学生たちの本音などを聞いてきました。
第8位:土地の価格、道が一本違うだけで大きく変わるのはなぜ? 1平米6万円差が出ることも! 「路線価図」で街あるきしてみた
(写真撮影/小林景太)
「交差点をはさんでこちら側とむこう側」「道が一本違うだけ」ーーそれなのに、土地の価格が大幅に変わる。こうした不思議な現象が、街のあちこちに見られます。なぜそんなことが起きるのでしょうか? 街をもっとよく知る手がかりとして、注目したのが国税庁が毎年発行する「路線価図」。相続税や贈与税の算出時に参照され、インターネット上で見ることができるデータです。本来は持ち歩くための地図ではありませんが、住まいと街の解説者として30年以上活動する中川寛子さんは、この地図を活用して土地の価格の理由を探る「街あるき」をしています。2023年には著書『路線価図でまち歩き 土地の値段から地域を読みとく』(学芸出版社)を刊行しました。記事では中川さんと一緒に土地価格の謎を解明します。
第9位:車椅子での家事動線など追求したら、リノベがバリアフリーの家の最適解だった! 扉ナシ・カウンター下は空間に、など斬新テク満載の共働き夫婦の家
(写真撮影/桑田瑞穂)
日本には、病気やケガなどで脚部や上肢・胴体の一部を使わずに生活する方が約193万1000人(2016年 厚生労働省 生活のしづらさなどに関する調査)います。今回取材させていただいたNさん夫妻(30代)は、人生の節目節目で引越しをし、4つの賃貸住宅に住んでみるも「たくさんの不便があった」と話されていました。そんな彼らが、リノベーションを決めた理由をはじめ、賃貸住宅の生活にはどんな不便があり、住宅にはどんなことを求めているのか? マンションをリノベーションし、自分たちらしい住まいを手に入れたNさん夫妻の事例を通して、「バリアフリー住宅×リノベーション」の可能性に迫ります。
第10位:「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」梅田が西宮北口と大差で3年連続1位に! 本町、尼崎も躍進
(写真/PIXTA)
リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024年関西版」を発表しました。今回住みたい街(駅)ランキングで1位となったのは「梅田(地下鉄御堂筋線)」。
なぜ、人気なのか?選ばれた理由や街の魅力(住みたい理由)をご紹介します。その他にも、前回のランキングから上昇した地域や、穴場とされている地域も要チェックです。
3月の人気記事ランキングでは、人や地域との繋がりに関する記事のランクインが目立ちました。その他、災害対策や環境面に配慮したテーマの記事など、今、住まいに求められていることが見えてきます。新生活が始まる時期だからこそ「もしも」の対策はしっかりとりつつ、住み心地がよく地域の方との交流も楽しめそうな、あなたにピッタリな街を探してみてください。
東京都では、STEM分野の魅力発信事業「オフィスツアー」を実施している。令和5年度事業の第3弾として、建設分野から竹中工務店のオフィスツアーが開催された。筆者は、女子中高生向けのツアーと聞いて、彼女たちはどんな目的で参加し、どんなことを感じるのか興味を持った。そこで、オフィスツアーを取材することにした。
科学・技術・工学・数学の4分野の職場を訪問するオフィスツアーまず「STEM」とは何か説明しよう。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4分野の総称だ。いわゆる理系分野と言ってよいのだろうか、こうした分野で女性が働くことの魅力を発信する事業ということだ。
東京都では、令和5年度事業として、第1弾は大日本印刷/SCSK/NTTデータ、第2弾は日本マイクロソフトのオフィスツアーを実施した。そして今回の第3弾は、建設分野の竹中工務店。現場見学があるからか、参加人数は20人とこれまでよりも少ない人数の募集枠だった。
竹中工務店オフィスツアーのチラシ
抽選で選ばれた女子中学生&高校生が集合当日はまず、竹中工務店の会議室に、かなり多くの応募から抽選で選ばれた女子中高生が集合した。集まってきた女子中高生は、友達と2人で参加する生徒も何組かいたが、多くは1人で参加しているようだった。5人ずつの4グループに分かれて着席するが、初対面でもすぐに打ち解けて、学校の話などをしてにぎやかになっていた。
少し話を聞いてみると、学校に掲示したポスターを見て応募した人もいれば、母親や知人が教えてくれた、アプリ広告を見たという人もいた。高校生の場合は、すでに理系専攻を決めていて建築にも興味を持っているというケースがあったが、中学生の場合は文理専攻のどちらにするか迷っていて、その参考になればと思って参加したというケースもあった。
4グループに分かれて主催者からオフィスツアーの趣旨説明を聞く。周りにいる女性は竹中工務店の女性社員(筆者撮影)
○オフィスツアーのプログラム
開会のあいさつ(東京都・竹中工務店)
イントロダクション
社員とトークタイム(個別質問会)
館内見学・質疑応答
~バス移動~
作業所見学・質疑応答
閉会の挨拶(日本建設業連合会)
最初に、東京都生活文化スポーツ局 女性活躍推進担当部長の樋口 桂さんから、開催趣旨の説明があった。日本の場合は、STEM分野の大学に進学する女子生徒が少なく、就職先に選ぶ人も少ないが、その理由のひとつに性別による「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」があるという。つまり、女性は文系に進学するもの、理系の職場は女性には向かないといった無意識の思い込みが、進学や就職先を決定する場でも働いてしまう。そこで、東京都ではSTEM分野での女性活躍推進を目的に、オフィスツアーによって将来のイメージを持つことで、進路の選択肢が広がることを期待しているのだ。
女子中高生とゼネコンで働く女性社員のホンネのトークタイムさて、まずイントロダクションとして、設計部の藤田沙織さんから、建設業について、どんな仕事でどんな領域があるのかなどについて説明があった。竹中工務店は総合建設業者(ゼネコン)なので、建築主から依頼を受けて仕事が始まるが、一緒にモノづくりをするパートナー会社が数多くいること、建物づくりの全工程(企画開発から設計、施工、維持管理まで)のとりまとめをすることなどの説明があり、それぞれの工程の役割についても詳しい説明があった。
また、竹中工務店の女性の従業員比率は年々増加傾向にあり、現在は18.2%が女性で、その約4割が技術職だという。おそらく、参加した中高生が就職する頃には、その比率ももっと高まっていることだろう。
総合建設業について分かりやすく説明をする竹中工務店の藤田さん(筆者撮影)
次に、竹中工務店の女性社員8人が2人1組になって、全グループを回ってトークをする「トークタイム(個別質問会)」となった。女性社員は、設計本部、設計部、設備部、営業部、総務部から、年次も入社2年目から15年目までと、多様な部署・社歴からの参加で、ワーキングマザーもいた。
女性社員2人が各グループを回って、質問を受ける(筆者撮影)
筆者はいくつかのグループのトークタイムを見て回ったが、さまざまな質問がされていた。まだ中高生ということもあって、理系に進学した理由や大学で建築を専攻した場合の教室の雰囲気など、まずは進学に関する質問が多かった。また、竹中工務店に就職した理由や異動はどうやって決まるのかなどの質問もあり、先ほどの藤田さんは「東京タワーや東京ドームなどの誰もが知っている建物を作っていたことがきっかけ」と答えていた。
驚くような場所も。最先端のオフィスを見学次のプログラムは、竹中工務店の館内見学。7階建てのオフィスに約2400人が働いているという。東京本店のオフィスは、米国・健康建築性能評価制度「WELL Building Standard TM」※1の「ゴールド」ランクを取得している。
※1「WELL Building Standard」(WELL認証)とは、空間のデザイン・運用に「人間の健康」という視点を加え、より良い居住環境の創造を目指し、アメリカの公益企業であるIWBI (International WELL Building Institute)が制定した評価システム。
1階のカフェ&ダイニングには、野菜充実のサラダバーもあった。6階にはKOMOREBIというワークラウンジがあり、植物があちこちに配置され、水盤もあった。4階にはIZUMIという図書ラウンジ、BIMスタジオがあり、そこでは「BIM」※2の説明もあった。
※2「BIM」とは、Building Information Modelingの略で、建築物をコンピューター上の3D空間で構築し、企画・設計・施工・維持管理に関する情報を一元化して活用する手法
ワークラウンジKOMOREBI(筆者撮影)
BIMスタジオで「BIM」についての説明があった(筆者撮影)
建設現場の作業所を見学、工事中のビルの内部にも館内見学後は、報道陣も含めて全員がバスで移動し、都心部のとあるビルの建設現場を見学。(ただし、建築主の所有物なのでビルの撮影は禁止)。はじめに、作業所で働く女性社員から、ここで竹中工務店がどんな仕事をしているか説明があった。パートナー会社の多くは男性が中心となるが、日本建設業連合会の「けんせつ小町」の活動もあって、女性専用のトイレや更衣室が整備されているなど働きやすい職場になっているという。
作業所の仕事の説明をする清水きさらさん・渡邉桃子さん(筆者撮影)
女子中高生は2グループに分かれて、全員がヘルメットと軍手を着用し、工事用エレベーターに乗り込んで、工事現場のフロアを見学した。下層階は外装工事に加えて内装工事、設備工事も始まっていて、工事内容の違いなどの説明もあった。なお、参加者は事前に保険に加入している。
最後に質疑応答の時間があり、「一日どこで何時間くらい仕事をしているのか」、「現場事務所にいた人は何人でどの仕事をしているのか」といった作業所に関する質問もあったが、「学生時代にこれをやっておいて仕事に活かされたものはあるか」、「この仕事で良かったと思うことはあるか」といった質問もあった。清水さんは、「学生時代に学んだことは仕事の基礎になっているが、ゼネコンは関わる人が多い仕事なので、学生時代に多くの人とコミュニケーションを取ったことが最も活きている」、渡邉さんは「まだ建物が竣工したところを見ていないが、昨日なかったものが今日はできている変化が見られることにやりがいを感じる。竣工したらすごく感動すると思う」と答えていた。
さて、最後に参加者数人にツアーの感想を聞いた。「植物があるなどオフィスの工夫も印象に残っているが、人とのコミュニケーションが大切だという話が強く印象に残っている」、「建設というとデザイン(設計)しか思いつかなかったが、知らなかった役割がたくさんあって、役割によって携わり方が違うことが分かった」、「トークコーナーで直接いろいろ質問できたし、他の人の質問の答えも聞けてよかった」といった声があった。
また、「自分の仕事に誇りを持っているのがよく分かった。自分も誇りに思える仕事につきたい」、「大人は楽しそうではないから、大人になりたくないと思っていた。それが、仕事を楽しそうにしている姿を見て、興味を持った仕事をやりたいと思うようになった」という感想もあった。
筆者が思うに、オフィスツアーで最も大きな情報発信になったのは、そこで働く女性社員たちが仕事に誇りを持って生き生きとしている姿なのだろう。そうした姿を見れば、女子中高生たちも後に続きたいと思うにちがいない。
●関連サイト
東京都/STEM分野魅力発信事業「オフィスツアー」ー令和5年度 第3弾竹中工務店ー
東京都/STEM分野魅力発信事業「オフィスツアー」(開催結果)
キャンピングカー、バンライフなど、車と住まいが一体化したライフスタイルが注目を集めています。そんなトレンドの影響もあってか、リノベーションオブ・ザ・イヤー2023で特別賞を受賞したのがキャンピングカーをリノベした「動く家」です。キャンピングカーをリノベしたら、一体どのような住まいになったのでしょうか。施主と設計を担当した建築士に話を聞いてみました。
中古のキャンピングカーをリノベしてできた「動く家」今回の「動く家」プロジェクトの施主・川原一弘さんは、サーフィンやキャンプを趣味としていて、もともとハイエースを所有していました。ただ、コロナ禍もあって自由に移動できず不便さを感じていたため、別荘またはハイエースへの買い替えを検討していましたが、偶然、中古のキャンピングカーを発見しました。
もともと、熊本を中心にリノベーションや店舗デザインなどを幅広く手掛けていた会社ASTERの社名を知っていた川原さんは、すぐに会社宛にメールを送り、相談したといいます。
「状態のいいキャンピングカーがあるのですが、これをリノベできますか」。すると、わずか10分後にメールで「できますよ!」と即答が。このレスポンスに後押しされ、キャンピングカーを購入したのです。2022年3月3日のことでした。
30年前に製造されたキャンピングカー。横顔がりりしい!(写真提供/ASTER中川さん)
車は1993年製造、建物でいうと築30年、広さは8平米のワンルーム。キッチン・バス・トイレと運転席がついていて、昨今、都心部で話題になっている「激狭ワンルーム」と同程度といってもいいかもしれません。
「せっかくのキャンピングカーなので、単なる改装で終わらせるのは惜しいと思いました。居住性を高めて『動く家』にするのはどうだろう、という案を川原さんに提案したところ『よいですね』と話がまとまりました。キッチン・トイレ・シャワーは十分に動くためそのままで、位置などの変更も行っていません」と話すのは、設計を担当したASTERの中川正太郎さん。
既存の駆体のギミック、良さは残しつつ、価値を高めるのは「リノベ」の得意とするところです。車の改装では終わらせずに「家」「別荘」のように使える空間をつくる、そんなプランニングが固まりました。
居住性を高めるのは素材感。住宅用の無垢材、家具屋のソファを採用「動く家」にするということは、すなわち「居住性を高める」こと。そのため、プランニングでは手触り、心地よさなど素材感を活かすことにしようと思い至ったといいます。
リノベ前の写真。これはこれで味があります(写真提供/ASTER中川さん)
リノベ前の写真。室内から運転席を見たところ(写真提供/ASTER中川さん)
「内装の雰囲気の参考にするため、キャンピングカーショーを訪れるなどし、かなりの数のキャンピングカーを見学しました。そのなかで気がついたのは、家らしさというのは、やはり素材ということ。自動車改装用パーツで木っぽい見た目にするのは容易ですが、やっぱりどこか工業用部品なんです。ですから、今回は住宅用の建材を使おうと。床や壁にはたくさん木材を使っていますが、突板(スライスした天然木をシート状にして加工したもの)を貼っていますし、塗装も住宅用、照明はダウンライトです。ソファなども車用ではなくて家具屋さんに依頼しました」と中川さん。
ソファベッドは折りたたみ式で、ベッドのように広げたところ。間接照明がおしゃれ(写真提供/ASTER中川さん)
ソファベッドをソファとテーブルを囲む椅子にした状態(左)とベッドにした状態(右)の間取図。バス・キッチン・トイレ。動線も考えられた、まさに家(写真提供/ASTER中川さん)
狭い空間だからこそ、目に入るもの、手や足で触れるものの素材感が大事というのは、わかる気がします。また、空間がコンパクトになることから、省スペースで小さく作られていることが多い船舶用パーツを採用したとか。
「施工に関しては、普通の住宅のリノベとほぼ同様の工程です。残せる部分は残しつつ、施工する床やソファなど既存のものは剥がしています。床はヘリンボーン(角が90度になっている貼り方)なので、座席と接する面など、細かな部分は職人さんも苦労したと思います」(中川さん)
床のヘリンボーンを貼っているところ。車だと思えないですね(写真提供/ASTER中川さん)
こうしてみると手仕事でできているのがわかります(写真提供/ASTER中川さん)
施工にかかったのは約1カ月半、費用は130万円ほど。通常、リノベーションでは職人さんが現地に赴いて作業を行いますが、そこは車なので、なんと職人さんの庭に移動してきて作業をしたそう。大工さんも家ではなく車に施工するとは、きっと貴重な機会になったことでしょう。
車内に船舶用の照明を採用するなど、狭くても快適に暮らせる工夫が凝縮(写真提供/ASTER中川さん)
窓の景色が移ろう、動く城のような最強の可動産が完成!完成した住まいは、常に移動して窓から景色が動いていく「動く城」のよう。出来上がりについて施主の川原さんは、「最強の可動産ができた!」と表現します。
この車からの眺め、そのままロードムービーに使えそう(写真提供/ASTER中川さん)
「動線がスムーズなので、寝る、着替える、くつろぐ、収納からモノを出す、といった行動が家と同じ感覚でできています。目的地についてもキャンプ設営は不要ですし、着替えやシャワー、トイレの場所を探すといった行動にストレスがなく、滞在時間を思う存分、アクティビティに使えます。運転席にロールスクリーンがあるので、下ろして映画を見たりもしています。2人の子どもたちはゲームをしたり、家となんら変わらないくつろぎ方をしていますね。窓から景色がキレイなんですけど、まったく見ていないという……」(川原さん)
キッチンでコーヒーを淹れるだけで、至福のひととき(写真提供/ASTER 中川さん)
ロールスクリーンを下ろしてゲーム中。川原家のお子さんになりたい(写真提供/川原さん)
こうして動く城に家族を乗せて、サーフィンや釣り、キャンプに行ったり、初日の出を屋根の上で見たりと、すっかり家族の居場所になっているといいます。ご近所にも評判で、同級生が内見(?)するということも多いとか。
生活に必要なインフラでいうと、電気は大型のポータブルバッテリーを搭載、上水は大きめの給水タンク、下水も汚水タンクがあるため、「家」と変わらない快適さをキープ。断熱材はもともと入っているため今回は手をつけていませんが、現状、エアコン1台で冬も夏も快適に過ごせるといいます。そこはさすが断熱先進国ドイツ製!といったところでしょうか。
一方で、キャンピングカーはそのものが大きいので運転では注意が必要なこと、事前に駐車するスペースを調べておくこと、目的地までの道路が細すぎないか、という点に注意しているそう。もう一つ、気を付けている点として、家の生活感を持ち込まないことをあげてくれました。
お子さんたちのものは極力、厳選して持ち込んでいます(写真提供/川原さん)
「子どもがいるとどうしても、住空間に生活感がにじみでてしまいますよね。せっかくおしゃれにつくってくれたので、この世界観を壊さないように、大人のインテリア空間にするよう、努めています」(川原さん)
ああ、わかります、その気持ち。子どもと一緒の空間は好きなんだけれども、たまには生活感のない大人の空間にいたい……。「動く家」はそんな大人の切なる願いも叶えてくれたようです。
家や住宅ローンのように「動かせないもの」に囚われない生き方を提案したい今回の「動く家」、現在、乗れているのはほぼ週末といいますが、川原さんがもっとも魅力を感じたのは、「家が自分についてくる、自分本意の生き方ができること」だといいます。
「私たちが暮らす九州は、風光明媚な場所が多くて、阿蘇、天草、鹿児島、大分、宮崎など、自然そのもの、移動そのものが楽しいことが多いんです。『動く家』があれば、ドライブに出かけてそのまま夜空を眺めたり、美しい景色を見て、気に入ったら長く滞在したりと、自由に暮らすことができる。時間通りに動くというより、自分に合わせて家がついてくる、そんな生き方を可能にすると思いました」
窓の向こうに広がる絶景! キャンピングカーで九州を巡るのを夢見ている人は多いのでは(写真提供/川原さん)
動く家。ドライブだけでもしてみたい(写真提供/ASTER中川さん)
設計を担当した中川さんも、手応えを感じているようです。
「弊社の『マンション』『一戸建て』『賃貸』というメニューに『車』という領域を増やしたいくらい。一軒家+離れや応接間のような感覚で、車の空間を使ってみたいという人は多いと思います」と話します。確かにテレワークスペース、家族の避難場所などとして、十分に「ほしい」という人はいることでしょう。
ともすると、私たちは、家や住宅ローンという「重いもの」に縛られがちですが、「動く家」はそうした重たさや、「動かせない」という思い込みを追い払ってくれる存在です。
「老後のためにと今まで積み立ててきた有価証券を取り崩さず、担保に入れて資金調達するスキームを組むことで月々の返済負担をなくし、目先を楽しむことを実現しています。今、老後や将来のためにといって貯蓄や投資にまわす人は多いですが、死ぬときにお金はもっていけません。やりたいことを我慢するのではなく、きちんと暮らしとやりたいことは両立できるんだよという、事例になっていけたらいい」と話す川原さん。
キャンピングカーやバンライフが広がりはじめたものの、「いいなあ」「やってみたい」という人は多いはず。ただ、移動する車窓のように、人生は移ろいゆき、変化していくもの。「定年後に」「ゆくゆくはキャンピングカーで」と憧れるのではなく、実はすぐにでも動き出すことが大切なのもしれません。
●取材協力
ASTER
ASTERのInstagramアカウント
2022年11月、国交省の研究機関である国土技術政策総合研究所(以下、国総研)がLGBTQの人たちに対する自治体の取り組みを調査した報告書「LGBTに対する地方公共団体における住宅政策の取り組み調査報告」を公開しました。47都道府県のうち、ほとんどがLGBTQの人たちを「住宅の確保に配慮が必要な人」として位置付けているのに対し、市区町村など1700以上の基礎自治体となると十数件のみとなり、その意識のギャップが浮き彫りになっています。
2015年以降、性的マイノリティとされるカップルが人生を共にすることを宣誓し、婚姻と同じように自治体が認める制度「パートナーシップ宣誓制度(以下、PS宣誓制度)」を導入する自治体が徐々に増えているなかで、住まいの問題は改善しているのか、同性パートナーと共に公営住宅に入居できるのかなど、国交省 国総研 建築研究部長 長谷川洋さんにお話を聞きました。
LGBTQは「住宅確保要配慮者」?住まい探しにおける問題とはLGBTQの人たちが賃貸物件に入居しようとすると、収入面に問題がなくても同性カップルというだけでオーナーや管理会社に入居を断られる、という体験談を耳にすることがあります。また、トランスジェンダーの人が不動産会社で担当者に証明書記載の性別と見た目とのギャップに驚かれたり、同性カップルは夫婦とみなされず、ファミリータイプではなくルームシェア可の部屋しか紹介してもらえなかったり。住まい探しで嫌な思いをすることも多いようです。
同性カップルが住まい探しをしても、根強い偏見や制度が追いついていないために、なかなか思うようにいかない現実がある(画像/PIXTA)
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・高齢者・外国人・LGBTQなどへの根強い入居差別に挑む三好不動産(福岡)、全国から注目される理由とは
・「当たり前の人生」を生きたい トランスジェンダー家を買う
高齢者や低所得者など、住まい探しに困難を抱える人たちの中でも、ことLGBTQの人たちが直面している問題について、日本では残念ながらあまり理解が進んでいるとは言えません。以下の資料からも、2/3近くの回答者が「性の多様性に対する社会の理解が進んでいない」と感じており、不動産会社に相談に行くことに不安を覚えている当事者が多いことが分かります。
回答した人の 2/3近くが、性の多様性への理解が進んでいないと感じている(出典:浜松市「令和元年度第1回浜松市広聴モニターアンケート調査『性の多様性について』」)
L(Lesbian、レズビアン)やFB(Female Bisexual、女性のバイセクシュアル)など多くの当事者たちが不動産会社に行くことに不安を感じている(資料提供/NPO法人カラフルチェンジラボ「2021年セクシュアル・マイノリティーの居住ニーズに関するアンケート」)
不動産会社の中には、社内で勉強会や研修を行ってLGBTQの人たちが抱える悩みや問題への理解を深め、当事者が相談しやすい環境づくりや希望に沿った物件を紹介しようと尽力する会社も、もちろんあります。
しかし、そうではない会社がまだまだ多いのも現状です。時には「LGBTQを住まい探しの支援が必要な対象とした『住宅確保要配慮者』に含めるべきか」ということそのものが議論となることもあるのです。
そこで、2022年11月に、国交省国総研が全国の自治体や関係団体に向けてLGBTQに対する調査を実施しました。調査を行った長谷川さんは、その実施背景について次のように語ります。
「LGBTQの住まい探しといっても、ゲイ、レズビアン、トランスジェンダーといったさまざまな属性ごとに抱える問題もあり、一括りにはできません。民間の不動産会社などがそれらの問題に対しどのように対応しているのか、地方自治体の住宅施策で同性カップルが公営住宅に入居できるのか、国の調査機関としてのデータもありませんでした。そこへ、LGBTQの住宅問題に取り組んでいる研究者から一緒に調査を進めないかと話をもらい、地方自治体の取り組みについて私が担当することになったのです」(長谷川さん、以下同)
調査は、メールやFAXを用いてアンケート形式で実施し、都道府県や指定都市のほか、東京23区と中核都市、そして賃貸住宅供給促進計画やすでに居住支援協議会を設立している市区町村を含め、計157団体から回答を得ました。
地方自治体がLGBTQの住まいに対してどのように取り組んでいるのか、2022年8~9月にメールによるアンケート方式で調査を行った(資料提供/国土交通省国総研)
LGBTQは「住宅確保要配慮者」? 調査で見えた、意識のギャップ住まい探しに困っている人の民間賃貸住宅への入居促進を図る「住宅セーフティネット法(正式名称:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」では、“LGBT※は「法律で定める者」ではなく、「国土交通省令で定める者」の中のひとつ”として例示されているに過ぎません。PS宣誓制度の有無が各自治体によって異なるため、国はLGBTを住宅確保要配慮者に含めるかどうかの判断も各地方自治体の判断に委ねる、つまり国として必須で定義するものではない、ということのようです。
※以降、資料に関する事項については、当時の調査内容にあわせてLGBTQではなくLGBTと表記
住宅セーフティネット法では、LGBTは「国土交通省令で定めるもの」の1例として例示されている(資料提供/国土交通省国総研)
実際に調査結果を見ると、賃貸住宅供給促進計画を策定している「都道府県」は47中46、LGBTQを要配慮者として位置付けているのは47中44です。一方、基礎自治体にあたる市区町村などを含む「その他」では、賃貸住宅供給促進計画策定済みがわずか0.3%、LGBTを要配慮者として位置付けているのは0.2%となっています。
この結果からは、ほとんどの都道府県がLGBTを「住宅確保要配慮者」としているのに対し、市町村レベルでは、1619団体のうち、位置付けているのは3件のみと読める(資料提供/国土交通省国総研)
その一方で「市区町村などの基礎自治体は、個別には賃貸住宅供給促進計画を定めていなくても各都道府県の定める計画に基づいて施策を行っているはず」と考えることが可能です。そうなると賃貸住宅供給促進計画策定済みの基礎自治体は97.9%+0.3%、LGBTを要配慮者として位置付けている基礎自治体は93.6%+0.2%と読むこともできるわけで、この数値をどのように解釈すべきかに迷います。
長谷川さんは、「市町村で賃貸住宅供給促進計画をつくっていなくても、LGBTを位置付けているところはあるかもしれないが、はっきりとは掴めていない」とした上で、次のように話しています。
「PS宣誓制度を市町村で導入していなくても、都道府県が導入していれば、それに乗る形で都道府県の出した証明書を有効として、LGBTQでも公的サービスを受けられる基礎自治体も多いです。
LGBTの位置付けは自治体によって差がありそうですが、そのような実務的な側面で考えれば、実際に住宅確保に困っている当事者がいるのですから、国としては、LGBTは法律が指定する『住宅確保要配慮者』にあたる、と捉えることができます」
渋谷区が発行するパートナーシップ証明書(画像/渋谷区)
LGBTQが抱える住まいの問題が見えにくいワケ次に「LGBTからの住宅相談」の状況を見てみましょう。
自治体の中でLGBTからの住宅相談を受けたことがあることを示す「相談あり」は全体で8%と、自治体の担当者のほとんどがLGBTの住まいに関わる問題に直接的に対応した経験がないことが分かります。
LGBTQからの住宅相談を受けたことのある自治体はごくわずか(赤枠)。そのうち、半数以上が同性カップルで公営住宅に入れるかという相談になる(資料提供/国土交通省国総研)
日本におけるLGBTQの割合は、3~10%といわれています。にもかかわらず、こんなにも「聞いたことがない」と回答する人が多い理由は、LGBTの人たちが自治体に住まいの相談に行く機会がほとんどないからだと考えられます。
「10人に1人がLGBTQだとしても、カミングアウトしている人はほんのひと握り。社会や周囲の人から差別されることなどを恐れて、親にも、会社にも知られないように生活している人が大勢います。
不動産会社に入居を断られても、自治体の窓口に相談に行く人がいないため、制度はあっても実際に対応したことがない、また問題の実態を把握できていない自治体職員が多いのです」
パートナーシップ宣誓制度の導入と必ずしも一致しない公営住宅の施策さらに、各自治体のPS宣誓制度の導入予定と同性カップルの公営住宅への入居を認める予定との関係についても見てみましょう。
まず、本調査を公表した2022年11月時点のPS宣誓制度の導入状況は、都道府県で21%、最も高いのは政令指定都市の85%です。
PS宣誓制度の導入が最も進んでいるのは、指定都市の85%。導入割合が低いのは、都道府県の21%で、指定都市以外の属性において、半数以上が導入していないという結果となった(資料提供/国土交通省国総研)
このうちPS宣誓制度を導入していない自治体に今後について確認すると、PS宣誓制度を導入予定、もしくは導入に前向きな自治体が、必ずしも同性カップルの公営住宅への入居を認める予定ではないこと、または逆にPS宣誓制度の導入は未定でも公営住宅への入居を認める予定の自治体があることが分かりました。
そして、PS宣誓制度の導入や公営住宅への同性カップルの入居を認める予定のない自治体がまだまだ多いのも気になるところです。
「PS宣誓制度の導入予定」と「同性カップルの公営住宅への入居を認める予定」の関係図。少数ではあるが「PS宣誓制度の導入は未定、なし」でも公営住宅への入居も認める方向の団体や、その逆があるのは興味深い(資料提供/国土交通省国総研)
「この点については、地方自治体の住宅部局からすれば『公営住宅への入居を認めるかよりも、PS宣誓制度を導入するのが先で、導入されてから対応する』という考え方が背景にあります。事実、PS宣誓制度導入が未定のところは公営住宅への入居も未定というところが多く、住宅部局がPS宣誓制度導入よりも先駆けて公営住宅で同性カップルを受け入れようとしているところもありますが、何らかの公的な証明書がなければ二人の関係を示すものがなく、動きづらいようです。
中には、婚姻届の受理と同じようにPS宣誓制度も『窓口となるのは各市区町村の役割』として、判断は市区町村に任せ、都道府県としては導入していないケースも見られます。そうなると、市区町村が動かない限り公営住宅への入居は難しくなりますね」
これらの結果からは都道府県と市区町村の間で考え方に相違があり、互いに押し付けあっているような構造も垣間見えるようです。長谷川さんは「各都道府県や市区町村にもっと話を聞いて、打開策を探っていく必要がある」と指摘しています。
同性カップルの公営住宅への入居を認めるには、二人の関係を示す何らかの公的な証明書が必要。しかし、都道府県と市区町村の間にはPS宣誓制度の導入に関して、考え方に隔たりがあるようだ(画像/PIXTA)
LGBTQの住まい探し、これからどうしたらいい?今回の調査結果を踏まえて「『課題』や『今後の対策』としてどのようなことが考えられるか」という問いに対し、長谷川さんは「この調査だけでは、なぜLGBTQの住まい探しが難しいのか、明確な理由は掴めない」といいます。
例えば、高齢者であれば孤独死や残置物の処理の問題、低所得者の場合は家賃滞納リスクなど、賃貸住宅のオーナーや管理会社が入居を拒否する原因が見えやすいので、原因ごとに解決策を考えることが可能です。しかし、LGBTQの場合は入居困難となる原因が見えづらく、個別性も高いため「社会全体に対する啓発」や「不動産会社や管理会社の担当者の教育」を行っていくしかないと長谷川さんは考えています。
「LGBTQフレンドリーな店舗を登録して、そこへ行けば嫌な思いをせずに安心して住まいを確保できるという不動産会社を増やす公的な仕組みが必要です。ただ、当事者の気持ちが大きく関係しているので、制度を整えて行政のお墨付きがつけば入居が促進されるというものでもありません。
担当者に悪気がなくても何気ないひと言でLGBTQの人たちを傷つけてしまうことがあります。当事者にとっては、どのような対応をされるか分からない不動産会社を訪れること自体が恐怖なのです。担当者の教育がしっかりとされていて、ここなら嫌な思いをせずに賃貸住宅を紹介してもらえるということを、見える化していかなければならないと思います」
今回の調査を行った国交省国土技術政策総合研究所 建築研究部長を務める長谷川さん。今後も定点観測的にLGBTQに対する行政の姿勢を調査し続けたいと話す(画像提供/長谷川さん)
LGBTQのパートナーシップ宣誓制度は、今回の調査後にも都道府県での導入や社会的な認知がかなり進んできていますが、市区町村レベルにも浸透して住まいの問題解決にもつながっているかというと、まだまだというのが現実のようです。今回の調査で見えにくかった「なぜ、LGBTQの人たちの賃貸物件への入居が難しいのか」という問題の答えは、きっと、当事者の心にいかに寄り添った支援を提供できるか、を考えることに尽きるのではないでしょうか。
その具体策のひとつである公営住宅への入居が可能な状態へとつながっていくには、制度に頼るばかりではなく、各自治体の担当者をはじめ、私たちが問題について知ることから始める必要がありそうです。
●取材協力
・国土交通省 国土技術政策総合研究所
・LGBTに対する地方公共団体における住宅政策の取り組み調査報告
・NPO法人カラフルチェンジラボ
リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、”住みたい街”1位に輝いた「横浜」(神奈川県)にフォーカスし、街の魅力を探ります。
市を挙げて「子育てしたいまち ヨコハマ」を目指す1位に輝いたのは「横浜」。7年連続の総合1位に加え、今回は「男女別・年代・ライステージ」すべてのカテゴリーで1位となりました。特に、子育て世帯(夫婦+子ども)のポイントが大きくアップ。若いファミリー層からの支持を集めています。
横浜市
その背景にあるのは、近年の横浜市による子育て関連施策の強化。2022年12月に取りまとめられた「横浜市中期計画2022~2025」では、横浜市として初めて子育てを軸とした基本戦略「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」が策定されました。これにより、今後さらに子育て世帯向けの施策が充実していくものと考えられますが、すでに実現、あるいは具体的な計画が進んでいるものもあります。
たとえば、2023年8月からの中学3年生までの医療費無料化です。ほかにも、2023年6月から新たに2つの施策がスタートしています。
・「はじめてのおあずかり券」無料クーポン配付開始
2023年4月1日以降に生まれた児童がいる世帯を対象に、市内の一時預かり施設を無料で体験できる電子クーポンを配付。対象児童1人につき24時間まで(※30分単位)
・「横浜子育てサポートシステム」無料クーポン配付開始
同じく、2023年 4月1日以降に生まれた児童がいる世帯が対象。地域で子どもを預け合う会員制・有償の支え合い活動「子サポdeあずかりおためし券」を配付。対象児童1人につき8時間まで無料で預かりを利用できる。また同年7月からは利用料を1時間800円から500円に改定
これらはいずれも、一時預かり施設や支援サービスの利用ハードルを下げ、便利さや施設の雰囲気などを知ってもらうための施策。その後の継続的な利用につなげ、子育て世帯に時間的・精神的なゆとりを持ってもらうことを目的としています。
市では、この「子育てにおける時間的・精神的なゆとり」を施策の柱にしていて、出産直後はもちろん、子どもが小学校・中学校に上がってからのサポートにも注力。市内にある小学生の放課後の預かり所(放課後キッズクラブ、放課後児童クラブ)の数は政令市で最も多く、2024年の7月からは、夏休みの昼食提供をモデル実施します。2026年4月からは、市立中学校で“みんなで食べる中学校給食”もスタート予定です。子どもたちの成長を支えるため、市の中学校給食専任の栄養士が献立を作るとともに、アレルギー代替食などの提供も検討されています。
また、2024年度の目玉施策の一つとして「子育て応援サイト・アプリ」のリリースも予定。産前・産後の手続きがスマホ一つで可能になり、負担を軽減するほか、アプリを通じ子育て世帯が必要とする情報も発信されていく予定です。
・「子育て応援サイト・アプリ」2024年6月末より
1、さまざまな行政手続きがアプリから可能に。わざわざ区役所へ行く手間や書類記入の手間を軽減(はじめは、妊娠・出産期の手続きを中心にスタートし、順次拡大)。
2、子育て世帯が知りたい情報をアプリ内に集約。地域のイベントや、必要な予防接種の情報など(利用者の住所や子どもの年齢、興味関心に応じた手続きやイベントの情報など)が届く。
3、その他、電子母子手帳や施設検索などの機能を搭載する予定。
さらに、10月からは出産費用の独自助成(最大9万円)もスタートし、安心して出産できる環境の充実が図られます。
こうした施策の影響もあってか、横浜市が実施している市民意識調査でも「子どもを安心して育てられる街」としての期待感が大きく上昇。2023年度の調査では「今後の横浜がどのようなまちになればよいと思うか」という問いに対して、「子どもを安心して育てられる」との回答が44.0ポイントと前回の24.6ポイントに比べ19.4ポイントも増加しています。
もちろん、これは市の取り組みに対する評価を直接的に反映したものではありません。ただ、横浜市としても子育て環境にまつわる市民の関心が高まっていることは十分に承知しているといい、今後のさらなる施策強化が期待できそうです。
他ジャンルの注目施設が続々と誕生市の施策だけでなく生活環境の良さ、海辺のスケールの大きな自然環境や公園の数、遊び、ショッピング、グルメ、文化的な体験など、あらゆるものを兼ね備えるマルチな魅力は横浜の大きな特徴です。2020年から2024年にかけては、横浜駅・みなとみらい駅・桜木町駅周辺で大型商業施設の開業やリニューアル、さらには映画館やプラネタリウム、ギャラリー、アリーナといったカルチャー・エンタメ施設も相次いで開業しています。
「JR横浜タワー」(2020年6月開業)。2つの商業施設とシネマ、トークショーなどのイベントも開催されるアトリウムで構成。屋上広場「うみそらデッキ」からは、横浜港や横浜ベイブリッジを一望できる
「JR横浜鶴屋町ビル」(2020年6月開業)。商業施設の「CIAL横浜ANNEX」「ジェクサー・フィットネス&スパ24横浜」「JR東日本ホテルメッツ 横浜」のほか、小規模認可保育所も入る。歩行者デッキ「はまレールウォーク」で、JR横浜駅きた西口・JR横浜タワーと接続
「横浜赤レンガ倉庫」(2022年12月リニューアル)。新コンセプトに「BRND NEW “GATE”」を掲げ、開業してから初めてのリニューアル。新規出店25店舗を含む66店舗がそろい、フードコートも拡充された
「横浜コネクトスクエア」(2023年4月開業)。みなとみらいの中心エリアに誕生した、エリア最大級の複合ビル。低層部の商業施設、高層部のオフィスからなる。桜木町駅からペデストリアンデッキで一体化
「CeeU YOKOHAMA」(2023年12月開業)。スーパーマーケットの「イオンフードスタイル横浜西口店」をはじめ、24の専門店で構成。9階には各種クリニックやストレッチ、リラクゼーションサロンなどが集まる
これ以外にも、横浜駅きた西口では43階建のタワーに飲食店や子育て支援施設、ホテル、住宅などが入る「THE YOKOHAMA FRONT」が2024年3月に竣工。エンタメ系では、世界最大級の音楽特化型アリーナ「Kアリーナ横浜」が2023年9月に開業し、2024年春にはMARK IS みなとみらいに複合型映画館「ユナイデッドシネマ・みなとみらい」が、同じく2024年4月にはスポーツの国際大会やコンサート、大規模イベントなどに使われる「横浜BUNTAI」がオープン。挙げればキリがないほど、次から次へと注目のスポットが生まれ続けるエリアは全国を見渡しても稀です。
国内外の大企業が横浜を選ぶワケさらに、今の横浜は「働く場所」としての魅力も高まっています。今回の住みたい街ランキングでは、「横浜の街の魅力(住みたい理由)」として「魅力的な働く場や企業がある」がトップに。
実際、近年は自動車関連をはじめ横浜に本社機能を移す企業が増加。2022年にはいすゞ自動車が横浜ゲートタワーに本社を移転。2024年には独ボッシュの日本法人が横浜に新社屋を建設し、各地に点在する研究拠点もそこに集約される予定です。また、2019年の京セラ、2020年の村田製作所、2021年のソニー、2022年のLGなど、エレクトロニクスメーカーが研究開発施設を構える動きも目立っています。
横浜のビジネス環境が国内外から評価される理由は、東京都心や羽田空港へのアクセスの良さ、また、採用環境の良さが挙げられます。横浜市の人口は約376万人で、基礎自治体のなかで国内最多です。とりわけ、技術者・研究者の数が多く、令和2年の国勢調査では16万4920人で、政令市ナンバーワン。東京工業大学など理工系の大学も市内に9校と多く、特に技術部門の人材採用に課題を抱える企業にとっては魅力的です。さらに、企業立地促進条例など企業の進出を支援する市の制度も充実しています。
ちなみに、新たに横浜市が積極的な誘致を進めているのは、子育てに関連する商品やサービスを手掛ける企業。この点からも、市全体として「子育てしやすい街」を目指していることが伺えます。
2022年3月、みなとみらいにオープンした「YUMESAKI GALLERY(ユメサキギャラリー)」
また、みなとみらい地区に拠点を構える企業には、一部をギャラリーやミュージアムとして街に開放しているところが多いのも特徴のひとつ。横浜市と地域のルールのなかで、単にオフィスを構えるだけでなく「企業と街の人との交流を生むスペース」などの賑わいを生み出す空間を設けています。こうした取り組みが、他にはない街の特徴を生み出しているようです。
もともとの環境の良さに加え、次々と生まれる注目スポット、さらに、市の施策を含めた子育て環境の充実ぶりに、働く街としての魅力まで加わった近年の横浜。イメージだけでなく実力を伴った人気であることがうかがえます。「住みたい街ナンバーワン」に選ばれ続けるのも、当然といえるかもしれません。
●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース
宿やホテルを予約できる「じゃらん」のじゃらんリサーチセンターでは、宿泊旅行についての大型調査「じゃらん宿泊旅行調査」を定期的に行っている。今回、Z世代に焦点を当てて、Z世代の価値観や旅行への意識について再分析した結果を公表した。それによると、Z世代は「地域貢献意識」が高く、「地方への移住を考える旅」も実施しているという。地方移住の鍵になると見られるZ世代の意識について詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
じゃらん宿泊旅行調査を再分析/リクルート じゃらんリサーチセンター
公表されたリリースでは、「Z世代」を調査対象の20代(18歳~29歳)として分析している。調査対象全体をクラスター分析すると、「1.地域体験交流」「2.地域訪問」「3.話題性重視」「4.効率・欲張り」「5.リピートなじみ」「6.計画」「7.こだわりなし」の7タイプに分類できる。
なかでも、「地域体験交流タイプ」は、Z世代男性で29.6%、女性で15.8%の出現率となり、他の世代よりも多いことが分かった。このタイプは、観光したら終わるといったものではなく、「地域や地元の文化や生活習慣を深く理解し、地域社会とのつながりを築くことに重点が置かれている」点に特徴があるという。
また、「地域体験交流タイプ」は男性が多いのに対して、「効率・欲張りタイプ」は女性が多く、なかでもZ世代の女性は22.6%と最多だった。効率・欲張りタイプの特徴は、効率よくできるだけ多くの場所を回り、新しい場所への好奇心が強いタイプだという。女性のほうが、友人や恋人との旅行比率が高いことも影響しているそうだ。
●宿泊旅行に対する意識 クラスター構成2023(性年代別)
出典:じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査再分析」より転載
Z世代の「地方への移住」を考える旅は実施フェーズにじゃらんリサーチセンターによると、Z世代に多い「地域体験交流タイプ」で強く見られる因子が「地域志向性」だという。「地域志向性」と相関の強い6項目(ⅰ地域のためになること、貢献できることを選ぶ、ⅱ将来の移住やライフスタイルの参考になりそうな旅をする、ⅲ地元の人に積極的に話しかけて情報を聞いたり交流する、ⅳ旅行先の風土や生活習慣を体験する、v自ら主体的に参加する・体験する、ⅵ暮らすように旅をする)を可視化すると、次の画像のようになり、Z世代の地域志向性の高さが分かるという。
●Z世代の地域とのかかわりへの意識と実施(男女別)
出典:じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査再分析」より転載
また、コロナ禍を経てZ世代で最も変化した項目は、「地域のためになること、貢献できることを選ぶ」で、男女ともに「地域貢献意識」が大きく上昇したという。
ほかにも、「地方移住」はコロナ禍で注目度が一気に高まったキーワードだが、コロナ禍前後を比べると「将来の移住やライフスタイルの参考になりそうな旅をする」ことへの関心が高まり、実施ポイントも増加していることから、関心にとどまらず実施フェーズへの移行の兆しが見られるという。
増加が期待される「地方移住」について、Z世代が関心を持ち、動き出しているとは、なんとも頼もしい限りだ。
Z世代の価値観は、地域で活躍することがかっこいい!?この分析を担当した同研究員の池内摩耶さんは、分析結果を「とーりまかし別冊 研究年鑑 2024」で詳しくまとめている。そこで池内さんは、「なぜZ世代は『地域とのかかわり』を求めるのか」についても考察している。
「①オンラインやリモートなど学び方、働き方が柔軟になったことで移住含め地域がより身近な存在となったこと。②Z世代の三大都市圏居住率は年々高まり約6割で地域を知る機会に乏しいこと。③地域に居を構え地域活性に向き合う若手への注目など、コロナによって「地域」というものを強く意識する機会が増えたこと。主にこれらの要因が、Z世代が地域とのかかわりを求める動機付けとなり、地域で活躍することへの憧れ・かっこよさのような志向性が表れていると考えられる」という考察だ。
Z世代がこれからの地方移住の核になりそうだ、という結果については頼もしいと思うが、一方で受け入れ側の体制の改善にも期待したい。地方自治体が予算を取って地方移住を呼び込むさまざまな対策を用意しているが、地域特性を生かした魅力的な対策でなければ、「選ばれる地方」にならない。また、受け入れる地元の住民が「よそもの」意識を持っていると、移住は進まない。
人口減少、急激な高齢化が進むなか、移住先としての地方の選別がなされるようになるだろう。こうした課題を解決していかないと、地域志向性の高いZ世代に注目されることが難しいかもしれない。
●関連サイト
じゃらんリサーチセンター「じゃらん宿泊旅行調査を再分析」
じゃらんリサーチセンター「とーりまかし別冊 研究年鑑 2024」
2023年4月、「モノをつくる力で、コトを起こす人」の育成をミッションに掲げて徳島県神山町に開校した高等専門学校「神山まるごと高専」(理事長・寺田親弘/Sansan(株))。教育界とは異なる起業家が主導した私立校であるため、設立から運営まで何もかもが手探りで進んだ。地域も巻き込み、各界から注目を集めた同校は、開校1年を迎えた今、どのような成果と課題が見えてきたのだろうか。
地域活性化で注目を浴びるまちに生まれた新たな教育機関徳島市内から車でおよそ40分。神山町は自家用車さえあれば、都市部から比較的アクセス容易な場所に位置する人口約4200人のまち。特産は日本一の生産量を誇る柑橘類のスダチ。80%以上が山林に覆われた町域の中心を鮎喰川が流れ、その周囲に集落が点在する、一見すればよくある田舎町だ。
一方で近年において、企業のサテライトオフィスが続々と開設され、若者たちが営むショップ等もオープンするなど、地域活性化の好例として、メディアに「奇跡の田舎」と取り上げられることも少なくない。
そんなまちに誕生した神山まるごと高専は、文科省認可としては約20年ぶりに新設された高等専門学校。いわゆる「高専」は、1960~70年代にかけて、高度成長期の急激な工業化に対応する人材養成を目的として、全国に創設された。入学資格は中学卒業程度とし、主に工科系の課程を5年間履修する高等教育機関だ。
現在日本にある高専は58校。そのうち国公立が54校で、神山まるごと高専を含む私立は4校。高専生が対象の「ロボットコンテスト(通称ロボコン)」などを目にしたことがある方も多いだろう。卒業生の就職率は高く、その人材は産業界から一定の評価を受けているとも言われる。
とはいえ昨今の少子化や理数離れ、四年制大学への進学者の増加により、創設期の勢いに比べ、高専を取り巻く環境は変化してきている。そんななか誕生した神山まるごと高専の一期生の入試は、国内外から出願があり、約9倍という高倍率となった。
その狭き門をくぐり入学したのは44人。彼らは今、寮で共同生活を送りながら、時に壁にぶつかり、学業と神山町での暮らしを謳歌している。
旧神山中学校の校舎をリノベーションした寮「HOME」。3学年分の寮室と食堂、図書室などが入る(画像提供/神山まるごと高専)
「HOME」から鮎喰川を挟み対岸にあるのは、授業や研究の拠点となる「OFFICE」。町産材の「神山杉」をふんだんに活用した校舎になっている(画像提供/神山まるごと高専)
■関連記事:
徳島県神山町で最先端の田舎暮らし!子育て世代が主役の「大埜地の集合住宅」
碧い清流、パン職人のわたし――徳島県神山町
「これからの時代、自分でデータをつくり、自分でプロトタイプをつくり、そして提案するような、技術を持った起業家が求められています。それができないと社会のスピード感についていけないと思います。つまり『モノをつくる力で、コトを起こす人』です」と語るのは常務理事・事務局長を務める松坂孝紀さん。同校が描く卒業後の進路の比率は、就職30%、大学などへの編入30%、そして起業40%だ。
それを実現するべく、神山まるごと高専では「テクノロジー×デザイン×起業家精神」の3つの領域を、1学科で複合的に学ぶ。“テクノロジー”では、ネット社会の未来に対応した情報工学から電子工学で、モノをつくる力の基礎を養う。また“デザイン”は、つくりたいものを絵や言語などに具現化するため、デザインや映像、建築、ゲームづくりなどの技術を身につける。そして“起業家精神”では、ビジネスの基本や起業の方法、他人を巻き込むコミュニケーション力などを学ぶ。
東京出身の松坂さんは、東京大学卒業後、人材教育会社を経て、2017年に人事コンサルティング会社の子会社を起業。同時に企業や自治体の人や組織づくりプロジェクト等も推進する。2021年より神山まるごと高専の立ち上げに携わる(写真撮影/藤川満)
1コマ90分の授業は、一般的な座学中心ではなく、実験や演習に加え、ディスカッションやグループワークなど双方向的で実践的な内容を重視し、問題解決能力を育んでいく。
さらに毎週水曜日の夕方に開催される特別授業「Wednesday Night」では、第一線で活躍する起業家、経営者、クリエーターを招き、これまでの彼らの経験を語り、また食事も共にして、コミュニケーションを深める。この一年で24回開催され、合計50名のゲストが同校に足を運んだ。
大講義室で行われた「Wednesday Night」の前半。この日のゲストスピーカーは山口周氏((株)ライプニッツ代表)、山崎亮氏(studio-L代表)、坊垣佳奈氏((株)マクアケ共同創業者/取締役)の3人(写真撮影/藤川満)
「Wednesday Night」の後半は、「HOME」に会場を移し、ゲストと学生が食事や焚き火を共にしながら語り合う(写真撮影/藤川満)
「起業家たちと学生が接することで、この5年間で起業を身近な選択肢として捉えてもらいたい」と狙いを語る松坂さん。学生たちはゲストと名刺交換することで、卒業時には起業家とのコネクションも持つことができる。起業を目指す学生にとっては、またとないチャンスを得ることができる仕掛けだ。
私立でありながら学費実質無料を実現したスキーム注目すべきもうひとつは、一人年間200万円の学費が実質無償という点だ。それには「家庭の経済状況に左右されず、世界を変える可能性を秘めた子どもたちの、誰もが目指す学校にしたい」という強い思いが込められている。
これを実現するにあたり、民間企業から一口10億円の出資や寄付を募り、それを運用して得た運用益を返済不要の奨学金に当てる仕組みを構築。この日本初の取り組みに、ソフトバンク、富士通、ロート製薬など、日本を代表する企業が賛同し、合計11社、総額100億円の金額が集まった。現在、一期生だけでなく二期生以降の学費無償化の目処もたっている。
資金を拠出した企業は「スカラーシップパートナー」として以降も連携していき、学生との共同研究や新事業の創造などに取り組んでいく。ほかにも物品やサービスを提供する「リソースサポーター」、実際に各社の強みのある領域を授業で提供する「プログラムパートナー」など、合計70社以上の企業が同校の運営を支援している。それほど日本の企業が同校に期待を寄せている表れと言えよう。
「OFFICE」の窓ガラスにはパートナー企業の会社名がずらりと並ぶ(写真撮影/藤川満)
進学校よりも魅力を感じて門を叩いた現在の在校生は東京、北海道、徳島と全国各地から集まっている。なかにはロンドンの日本人学校出身の学生もいて、さまざまな思いを持って神山の地で全寮生活を送っている。開校当時は特にルールもなく、戸惑いがちだった学生たちも、会議を開くなどして、自分たちの主体的な考えに基づいた自治へ歩みつつある。
「一人になる時間はあまりないですが、毎日が修学旅行みたいで楽しい」と寮生活を語るのは東京都出身の市川和さん。一時は同室者との価値観の違いに悩んだというが、「今は吹っ切れた」と心境の変化もあった。
高校受験時の市川さんは、ICUや青山学院にも合格していたが、父親の紹介で同校の存在を知り、あえて神山まるごと高専を選んだ。「ICUや青山学院に進学すれば、安定した道を歩んだかもしれませんが、自分の心に正直になり、より楽しそうなこちらに決めました」
当初は具体的な目的があったわけではないが、現在はグラフィックデザインに興味を持ち、先述の「Wednesday Night」のチラシやEスポーツに関するフリーペーパーの制作に力を入れている。「この学校に入って初めてAdobeのソフトを授業で触れてみた時『これまでの勉強よりおもしろいことあるじゃん!』って思いました」と目を輝かせる。
そんな市川さんだが、もともとはバスケに打ち込むスポーツマンで、美術はむしろ苦手だった。「そのころはアイディアがあってもそれを具現化する方法を知らなかった。やり方さえ覚えれば、誰でもできることに気づきました」
広告代理業を営む父親の影響もあり、日ごろからデザインと起業が身近にあった市川さんだが、将来は起業よりも、まず就職して経験を積みたいと考えている。「デザインを続けていくかはまだわかりませんが、雇われる人の気持ちや仕事の姿勢を理解したうえで、いつかは起業したい。一方的な経営者にはなりたくないですから」
「自然が好きなので、神山は散歩をしていても楽しい。ただもう少し娯楽があれば嬉しいですけど」と神山の印象を語る市川さん(写真撮影/藤川満)
もっと社会との関わりを持ちたくて高校を中退高知県出身の名和真結美さんは、国際バカロレアを実践する中高一貫校を高校1年時に中退し、神山まるごと高専への道を選んだ。国際バカロレアとは、世界の複雑さを理解し、それに対処する力を養う総合的な教育プログラム。「バカロレアに出会って、学びの面白さを知りました。でも学校の課題や勉強ばかりで、社会とのつながりを感じることができませんでした」
社会とのつながりを求めていた名和さんにとって、面白さと同時に違和感を感じていた中学時の学習環境、そして高校進級時、中学からお世話になった教員が、神山まるごと高専へ転任したことが契機となる。「学校外で起業家精神プログラムに参加して、そこで再会したその先生がキラキラ輝いて見えた。そこからこの学校のことを調べてみたら、『私がやりたいことができる!』と思いました」
「国際バカロレアプログラムを受けて、思考するクセがついてしまった。思考の旅とでもいいますか(笑)」と笑う名和さん。旅をするような感覚で、その時にやりたいことをやることを信条としている。現在、アートやファッションに強い関心を持ち、創作活動にも取り組んでいる。
「あ、あとロボット! これまで経験はなかったですけど、ここでプログラミングに触れてみたら、凄い面白くて!」。現在、名和さんは13人のチームでロボットづくりに勤しむ。目標はアメリカで開催されている世界的ロボット競技会「ファースト ロボティクス コンペティション」への参加だ。
「チームのなかでロボットづくりの経験者は一人しかいません。でも知らないテクノロジーをどんどん開発してくのが楽しいです。それが動いた瞬間が本当にうれしいですね。チーム内のコミュニケーションや資金集めには苦労しましたけど……」と語る名和さん。ハワイで行われる予選に出場するための資金600万円は、企業や地域の人から協賛金で集めることができた。今、ロボット製作に日夜集中できる準備は整っている。
現在製作中のロボットを前にする名和さん。寮生活には満足しているが、「まだまだ自治には至っていないので、みんなでアップデートしていきたい」と語る(撮影/藤川満)
テクノロジーだけではない、人との繋がりでやりたいことが見えてきた「中学時代は、将来なにか特にやりたいことがあったわけではありません。たまたま父親に勧められてこの学校のキャンパスツアーに参加して、進学を決意しました」と語るのは静岡県出身の伊藤楽大さん。入学後、起業家や教員とコミュニケーションを取るうちに、徐々に「やりたいこと」が見えてきたという。
「いろいろチャレンジしている大人と出会えたことで、選択肢がものすごい広がった。今はその選択肢のなかから、農業が『やりたいこと』としてクローズアップされてきました」。静岡の市街地で育った伊藤さんは、神山の自然に触れたこともひとつのきっかけになった。
同校の理事が運営する農園に足を運んだり、周辺の草刈りの手伝いなどを経て、ますます農業にはまっていった。神山町特産であるシイタケの農家をはじめ、農業を通じて地域の人と関わりを深めていくことで「自分でやりたいことができる」と自信を持ち始めている。
その一方で悩んだのは、寮生活と偉大すぎる起業家たちの存在。「寮生活は自分にはあまり合わなくて、少し悩みました。それと『自分も起業家のようにならないといけない』というプレッシャーも感じました」
ふたつの悩みに押しつぶされそうになった伊藤さんを救ってくれたのは、同校のスタッフの存在。「時間が解消してくれたものありますが、話を聞いてサポートしてくれたスタッフさんのお陰で乗り越えることができました」と振り返る伊藤さん。目下じゃがいもづくりに興味を傾けているが、将来は自然関係の会社の経営を夢のひとつとして描いている。
伊藤さんが作物を育てている畑は、同校の敷地近くにある。農業以外にも美術や国語の授業が楽しいという伊藤さん。「なにより先生たちが楽しそうに授業をするのがいい!」(撮影/藤川満)
話を聞いた3人は、それぞれに充実した学生生活を送っていることが分かる。とはいえ遊びたい盛りの多感な世代。神山の自然に満足しているものの、カラオケやゲームセンターなど仲間と遊べる場所は少なく、都会的な刺激を直接受ける機会も少ないのも事実だろう。
さらに試験で60点以下の赤点となれば、進級は叶わない。難関を突破した力はあったとしても、今の環境に馴染めず、この先全員が苦労せず進級できるとは限らない。マイナス面や不安を上げれば切りがないが、少なくとも大半の学生が生き生きと過ごしているのは印象的だった。
起業家が創った学校だからこそ起業家が育つ大いなる可能性「学校というものは基本的に安定を求めるものかもしれませんが、私達が大切にしているのは変化し続けること。今後時代が変わるたびに私達もスピード感をもって変化していくことが勝負かと思います」と未来を見据える事務局長の松坂さん。それは既存の学校のあり方や制度に抗い続けることでもあるという。
今、学生たちは何もかもが暗中模索だった入学時から、徐々に視界がひらけ、それぞれの道を歩みだしている。そんな彼らの将来に起業家たちも期待を寄せる。「Wednesday Night」にゲストスピーカーとして登壇した(株)マクアケ共同創業者/取締役の坊垣佳奈氏は語る。
「第一線で活躍している起業家たちが創った学校だから、同じようにできる人が生まれるはず。ここの学生たちは感じる力と考える力がある。それをもっと強くして、さらに自分の感覚を大切にして、やりたいことに情熱を注いでほしい」。社会にどんな変革をもたらす人材が羽ばたくのか、一期生が卒業する4年後、そしてその後も注視していきたい。
「Wednesday Night」の後半、坊垣氏らと学生が焚き火を囲んで語らう。坊垣氏は開校前から神山に足を運び、同校に注目していた(撮影/藤川満)
●取材協力
神山まるごと高専
「SUUMO住みたい街ランキング 関西版」で、昨年から総合順位3位をキープし、高い支持を得ている自治体が兵庫県「明石市」だ。子育てサービスが充実していることは全国的にも有名だろう。瀬戸内海のおだやかな気候と、自然環境に恵まれた明石での生活に注目だ。
所得制限なし! 子育て支援施策が充実した明石市兵庫県明石市は「住みたい自治体ランキング」で昨年に続き3位となるとともに、「住みたい街(駅)ランキング」でも明石駅(JR山陽本線)が過去最高の16位にランクイン。こうした人気を集める大きな要因が子育てに関する自治体サービスの充実だ。所得制限のない無償化施策だけでも①子ども医療費の無償化、②第2子以降の保育料の完全無料化③0歳児の見守り訪問「おむつ定期便」、④中学校の給食費無料化、⑤公共施設の入場料無料化の5つの政策が実施されている。他にも、市内の公立幼稚園での給食、高校生世帯への児童手当など、将来を担う子どもたちのための支援が豊富だ。さらに、保育士へ向けての「保育士定着支援金」を実施、採用後7年間で最大160万円の支援金を直接支給することで、毎月の家賃負担をサポートし、保育士が明石に定着するような補助を行っている。
その結果、明石市の人口は2023年地点で30万人を超えており、11年連続で増加している。子育て世代の転入が増えていることからも、施策の効果がうかがえる。
ただ、人気の背景は行政の施策だけではなく、明石市がそもそも持っていた魅力にも大きな要因があるように思える。次章で紹介していこう。
明石市松江の海岸線。子どもたちと遊ぶことができる海がすぐそばにあることも明石市の魅力(写真撮影:井村幸治)
おだやかで過ごしやすい街、明石兵庫県の南部に立地する明石は、おだやかな気候に恵まれている地域である。関西の人口5万人以上の都市部では降水量は最も少なく、日照時間も長い。さらに、県内で2番目に晴れの日が多く、年間降水量も1000ミリ程度だ。おおよその最高気温が33度から35度、最低気温がマイナス6度から4度で、年間の平均気温は14度から15度、と、一年を通して快適に住むことが可能な気候だ。地形的には平坦な場所が多く、古くから疏水やため池を利用した治水事業も行われている。
また、瀬戸内海の自然環境にも恵まれている。林崎・松江海水浴場、藤江海岸海水浴場、江井ヶ島漁港や住吉公園といったスポットが海岸沿いにならび、子どもたちと一緒に海水浴や水遊びを楽しめる。明石海峡大橋や淡路島を望む景色は何時間でも眺めていられそうだ。
これほど綺麗な海岸に、徒歩や自転車でも遊びにいくことができる街は関西でも少ない。釣りやキャンプ、マリンスポーツを家族で楽しめる街であることも人気の秘密なのだと思う。
明石市松江の松江公園。海の透明度がとても高い海岸。周辺にはカフェや駐車場、トイレも整備されている(写真撮影:井村幸治)
一方で、瀬戸内海を使った交通の要衝として万葉集の時代からの歴史を持ち、江戸期以降は明石城を中心に城下町として栄えた明石には寺社仏閣や古墳も点在している。日本酒造りの蔵元も多く、見学や直売を楽しむことができる。JR明石駅前の魚の棚商店街(うおんたな)には地魚を安く提供してくれる飲食店もたくさん並んでいる。大人も楽しめる街でもある。
明石市魚住の魚住住吉神社。目の前の海岸に向いて社殿が立ち、能舞台もある。公園も併設され子どもたちが遊んでいた(写真撮影:井村幸治)
JR明石駅前の魚の棚商店街(うおんたな)。昼飲みを楽しめる飲食店も多く、週末は行列も(写真撮影:井村幸治)
住んでみてわかる居心地の良さ明石市は、住んでみることではじめてわかる魅力も多い街だ。JR東海道線と山陽電鉄本線が並行して東西を結び大阪や神戸へのアクセスも良好、JR明石駅から三ノ宮駅までは新快速で約15分、大阪までは新快速で37分だ。西明石駅から山陽新幹線を利用すればビジネスや旅行にも便利だ。
日本の桜100選の明石公園や、大型遊具のある石ケ谷公園など大小合わせて400カ所の以上の公園があり、ふらりと遊ぶことのできる公園が身近にあるのも魅力のひとつ。近年ではため池の跡地を再利用し、「みんなにやさしい」をコンセプトにした「17号池魚住みんな公園」が令和5年4月29日にオープン。子どもから高齢者までのびのび体を動かせる運動公園で、たくさんの親子連れで賑わっている。
明石市では今後、防災拠点ともなる市役所新庁舎の建設や市民病院の再整備、道路整備などのインフラ再構築も検討されている。まだまだ伸びしろのある街といえそうだ。
2023年にオープンした「17号池魚住みんな公園」。遊具や球技場もあり、たくさんの親子連れで賑わっている(写真撮影:井村幸治)
明石公園。さくら名所100選に選ばれており、春先は桜が綺麗だ(画像:PIXTA)
明石市立天文科学館。日本標準時子午線上に立つ、「時と宇宙」をテーマとした博物館で、遠足などで訪れる人も多い(写真撮影:井村幸治)
子育て施策の充実で知られている明石は、恵まれた風土と地理的要因で、古代から連綿と人々の暮らしが営まれてきた街でもある。瀬戸内海の美しい自然に身近に触れあえる暮らしと、快適な生活利便性も得られることもその人気の背景にある。もともとのポテンシャルを考えると、今後も人気を集めることは間違いなさそうだ。
JR南武線、各駅停車駅の「武蔵新城」。低層住宅が立ち並ぶのどかな街です。駅周辺にある、なんてことのない商店街のなかに、最近ゆるやかな人のつながりが生まれつつあります。その中核を担うのが、このエリアで多くの土地を引き継いで管理をしてきた石井家の3代目、石井秀和(いしい・ひでかず)さんです。彼は、この街に人のつながりを生むために、コワーキングスペースや、シェアスペースなど大小さまざまなしかけをつくり、住民が地域で暮らすための接点を広げています。一体どんな取り組みなのでしょうか。
昔ながらのマンションの一角に、”小さな庭”をつくる神奈川県・川崎市の武蔵新城エリア。各駅停車の「武蔵新城」駅を降りて北口方面にぬけると、目の前では昔ながらの商店街「新城北口はってん会」がお出迎え。理容店、町中華店などの小さな店がひしめく中央の通りをしばし歩いて路地に入ると、5階建てのマンションの1階部分に見えてくるのがカフェ「新城テラス」です。まず、エントランス前にある美しい緑とベンチが添えられたスペースが目にとびこんできます。まるでマンションであることを忘れてしまうような、”街の庭”。
カフェ「新城テラス」の前は、通りや店と一体感をもたらすような、憩いのスペースを設けている(写真撮影/桑田 瑞穂)
カフェ「新城テラス」外観。開放感あふれ、緑に囲まれた気持ちの良いエントランスが、訪れる人たちを迎えてくれる(写真撮影/桑田 瑞穂)
ゆったりとした 24席のカフェスペースでは、近所の人々が談笑をしたり、学生がおしゃべりや勉強をする姿も。思い思いの過ごし方をしています。カフェの裏手には中庭も存在しています。中庭では、カフェで購入したドリンクやフードを手に語らうこともでき、住民以外の人の往来もあるフラットな場所です。
近所の住民や学生たちが思い思いの時間を過ごす(写真撮影/桑田 瑞穂)
コの字型のつくりをしたマンションの一辺にはカフェが、そのもう一辺にはワークショップスペース「PASARBASE新城」とパン教室「シュクレアラネージュ」があり、コンパクトな敷地の中に多彩な機能がぎゅっと集います。
中庭からはマンション2階に接続するスロープ階段が設けられており、マンションのサービススペース「新城WORK-BOOTH-」と「新城WORK-FITNESS-」への出入りができる。階段奥に見えるのが、ワークショップスペース(写真撮影/桑田 瑞穂)
これらのスペースを立ち上げたのは街の中心人物でもある、株式会社南荘石井事務所の代表、石井秀和さんです。江戸時代より地主として数多の土地を守り抜いてきた石井家は、現在このエリアを中心に23物件を所有しています。カフェやワークショップスペースの入っているマンション「セシーズイシイ7」も、石井さんの所有する建物です。
武蔵新城生まれ、武蔵新城育ちの石井さんは、現在事務所の2代目として跡を継いでいます。「親を継ぎたいとは全く思っていなかった」と快活に笑いながら振り返ります。
「父には『大学なんか行かなくていい、さっさと跡を継いでくれ』と思われていたようです。ただ、一度家業を継いでしまうと、ほかの世界を見ることができなくて、つまらないじゃないですか。むしろ建築や不動産なんて硬くて難しいしゴメンだぜ、と思っていました」
資産を建て直すのか、活かすのか、試行錯誤が始まる1998年に大学を卒業後、秀和さんはIT企業のカスタマーサービス職として就職します。ここで学んだことはのちにオーナー業に風穴を開ける経験となったと話します。その間も父親は秀和さんが跡を継ぐことを心待ちにしていました。その気持ちをくみとりたいと、秀和さんは2000年に実家の不動産会社へ入社し、2013年に父親の立場を引き継ぎ、代表に就任します。
「不動産」に面白みを感じていなかった秀和さん、しかし「街全体をデザインしていくこと」ととらえるようになってからは、この街のことに興味が増していきます。当時、街のコミュニティづくりについて勉強をしていた時期だったことも影響していたようです。
「設計事務所のブルースタジオさんが手掛ける街づくりに、憧れていたんですよね。ほかにも、コモンスペースや、街に開かれたコミュニティスペースが各所にある東京・池袋の街づくりのひとつである『IKEBUKURO LIVING LOOP』や、九州・福岡を拠点にしている『吉原住宅』のような存在にも憧れを抱いていました。あんな風に、自分の会社が持つ物件を活かして面白い人たちが往来する街をつくりたい、という夢を描きはじめていました」(石井さん)
飲み歩いて人と話すことが好きな石井さん。難しいことよりも楽しいこと、人との交流を大切にしています(写真撮影/桑田 瑞穂)
人の集うコミュニティや場所、という側面に興味が増していった石井さんは、次第に武蔵新城のことを、このようにとらえていました。
「住んでいる家やマンション、街に何か楽しみを見出せることがないと、つまらないじゃないですか。武蔵新城は、溝の口駅と、知名度がぐんとアップした武蔵小杉駅にはさまれている、はざまの場所。実際は商店もたくさんあり住みやすい街ですが、比べてしまうとなんてことのない住宅街に見えるんです。これから社会全体が人口が減少していくわけで、よりここに住みたいと思ってもらえる街にならないと、街がさみしくなる。そう心が決まると、事業としてやりたいことが増えていきました」
まず取り組み始めたのが、カフェとワークショップスペースの入る賃貸マンション「セシーズイシイ7」でした。1992年竣工で部屋数は60室ほど。当初大規模改修の時期を迎えていて、どのように改修するべきか、とても悩んだそうです。その時に、憧れとして描いていた「このマンションに、この街に住みたいなと思ってもらえるような、しかけがあったら面白いのでは」と考えるようになりました。
カフェでは、自家製ハーブシロップを使ったドリンクやスイーツをつくって提供している (写真撮影/桑田 瑞穂)
こうして石井さんは、居室があった1階部分をオープンスペースとしてリノベーションし、2016年にまずはカフェをオープンしました。
街の人たちの「やりたい」に応えて、地域に開かれたスペースを次々と生み出す拠点を生み出すことで、そこで自然と交流していく姿に、石井さんはますます面白みを見いだしていきます。そして、石井さんのもとには、街に住むあらゆる人から相談が持ちかけられるようになっていったのです。
「『実はお店をやってみたいんだ』『コミュニティスペースをやってみたいの』と相談されるようになったんですよ。だんだんと変化していく街の一角を見て、同じ商店街の人や、近所のママさんからも同じような声をかけられるようになっていったんです。だったら、“やりたいことがある人が、挑戦できる場所をつくってあげたい! “と、自社管理物件の一部をさらに活用することにしました」
そこで、2016年に「セシーズイシイ7」から徒歩5分ほどの場所にある、築50年以上のマンション「第六南荘」の一部をリノベーション。事務所や店舗利用が可能な仕様に変更し、まず一部の店舗がオープンします。そこから少しずつ、さまざまな店舗が入居して徐々に店やスペースが増えていきました。
「第六南荘」の外観。自転車で訪れた人がフラッと立ち寄っていくのが印象的(写真撮影/桑田 瑞穂)
通りに面した1階部分は「菓子工房 ichie」や、一級建築士事務所「ピークスタジオ」の事務所が並んでいます。塀がとりはらわれた庭先には、共用デッキが設けられており、通りからデッキを通じて、各々のスペースに入ることができます。オープンなスタイルゆえ、行き交う人の姿も見え、風も光も感じられるなごみの空間です。
デッキは、入居者である建築事務所の「ピークスタジオ」が設計(写真撮影/桑田 瑞穂)
お店やカフェだけではもったいないーー石井さんはさらに、「セシーズイシイ7」の向かいにある自社商業店舗の一部に、コワーキングスペースの「新城WORK」をオープン。時は、コロナ禍により人々の働き方は出社形式から、リモートワークが増えた変化の時期。20代~40代を中心に、新城WORKにも次第に人が訪れるようになったそうです。
商業ビルの2階部分をコワーキングスペースにリニューアル。合わせて店舗のサインたちも街の景観に溶け込むようリデザインした (写真撮影/桑田 瑞穂)
「普段はもっと年齢層が高い世代の方が街には多かったのに、コロナ禍をきっかけに若い人たちを目にすることが増えました。この街に、こんなに若い方がいたんだな、という驚きの気持ちでいっぱいでした」
オープンスペースではミーティングする人もいれば、パソコン作業や勉強にいそしむ人もいる(写真撮影/桑田 瑞穂)
この街、住んでいて意外と面白いかも?と思ってもらえるしかけと関係づくり現在石井さんは、もとから所有する土地に加えて、新たに周辺エリアの土地を購入し、新たな取り組みを始めています。
2023年5月には「セシーズイシイ7」の隣に、住み開きができる店舗兼住宅を建築しました。このマンションの土地はこれまで地域の方が所有していましたが、周辺物件と合わせてより一体感あるまちづくりをしたいために、石井さんが土地を購入したそうです。
新しく竣工した店舗兼住宅。「第六南荘」のように、通りに面したつくり(写真撮影/桑田 瑞穂)
通りと建物の間に、あえてスペースを設け、気軽に近づけるようなつくりに。軒先には小さな縁側があり、通りがかりの人がふらりと腰かけることができ、入居者や店を訪ねてくる人、道ゆく人と自然な会話が生まれていました。
店舗前にはベンチや縁側があり、つい立ち寄りたくなる(写真撮影/桑田 瑞穂)
入居する飲食店のオーナー。石井さんとは毎日のように立ち話をしているそう(写真撮影/桑田 瑞穂)
「この街をもっと人のつながりにあふれる場所にしたいんですよね。せっかく商店街の中にある立地で顔を合わせている人たちがたくさんいる。実際に商店街の飲食店を飲み歩き回遊するイベント『ふらっと1000Bero in 武蔵新城』というイベントも開催しました。これからも彼らや、事業家の方と手を組んで、もっともっと活性化させていきたいですね。組合のようなしっかりした組織とかではなくていいんです。フラッときて顔を合わせられるそういうゆるい繋がりが大切だと思うし。そのためのしかけをつくっていきたいですね」
現在「セシーズイシイ7」の2階に、共用スペースの増設をはじめている。まずはフィットネススペースを設置(写真撮影/桑田 瑞穂)
「セシーズイシイ7」の2階に増設したフォンブース(オフィス内等に設置するボックス型の個室スペースのこと)(写真撮影/桑田 瑞穂)
続けて、不動産業は単に場所貸しではないと力を込めて言い切る石井さん。
「今私たちが所有しているのは、23物件370世帯でほとんどが自主管理なんです。これほどの人とコミュニケーションがとれる関係って貴重ですよね。もちろん今は昔と違って、家賃を払うために管理人に会うということがなく、全て振込みで完結できてしまう。でも、思えばこの関係性ってもったいないですし、広げることができる可能性がありますよね。これほどの方と接点を持てるならば、皆さんに街の面白さを伝えるきっかけをつくれたら幸せだと思っているんです。これからのまちの不動産屋は、ただ住むだけではなく、暮らし方の提案をしていきたいし、私はこの街でそういう存在になりたいですね」
一人の行動がきっかけとなり、街の憩いの場がデザインされ始めましたが、これは石井さんがオーナーだからできることなんじゃない?と思われそうです。しかし、理由はそれだけではなさそう。この街を面白くしたい、街の人とちょっと交流してみたい、そういう思いがある人が少しでも集い、共感してくれるオーナーさんが手を差しのべてくれたら、どの街でも人のつながりは生み出せる気がします。
こと現代は、人のつながりをうとましく思う人もいるかもしれません。組合や商店会のように「必ず何かをしなくてはならない」関係性ではない、つながりが大切なのではないでしょうか。ほんのちょっとでも人と向き合い、言葉を交わし合う関係を少しずつでもいいから生み出していきたいですね。ただ住むだけより、街がほんのり面白くなるかもしれません。
●取材協力
・株式会社南荘石井事務所
・新城テラス
・新城WORK
・SEES ISHII LABO
リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、”住みたい街といえば”の代名詞的な存在だった吉祥寺をおさえ2位になった埼玉県「大宮」にフォーカスし、街の魅力を探ります。
駅周辺の商業施設に1000以上の店舗が集まる吉祥寺を抑え、初の2位に輝いた大宮。埼玉県勢としても過去最高順位となりました。特に評価されているポイントは、買い物環境、遊ぶ環境の充実ぶり。「街の魅力(住みたい理由)」として、最も多くのポイントを集めたのも「文化・娯楽施設が充実している(映画館、劇場、美術館、博物館など)」(62.3%)で、以下「ショッピングモールやデパートなどの大規模施設がある」(61.5%)、「街に賑わいがある」(57.8%)と続きます。
大宮駅前
大宮駅内・駅周辺だけでも「ルミネ1・2」「エキュート大宮」「大宮アルシェ」「そごう大宮店」「高島屋大宮店」「大宮マルイ」「大宮西口DOMショッピングセンター」があるという買い物天国ぶり。さらに、大宮の隣駅、さいたま新都心駅に直結する「コクーンシティ」を含めた8つの商業施設の総店舗数は1000店を超えます。
買い物だけでなく、駅から直径2km圏に「飲食街(南銀座・北銀座)」、「ライブスポット(さいたまスーパーアリーナ)」、「公園(大宮公園・大宮第二公園)」、「神社(氷川神社)」など、さまざまな要素が凝縮。
古着屋ストリートとして知られる「一の宮通り」や、ケヤキ並木が美しい「氷川参道」など、個性豊かな通りも魅力的です。
氷川神社
また、実はサウナ・スパも質量ともに充実していて、「おふろcafé utatane」や「美楽温泉 SPA HERBS」などの人気施設に加え、2023年4月には大宮駅徒歩4分の場所に個室サウナとワーキングスペース、カフェが融合した「ととのい+」もオープンしました。
そして、大宮といえばやはり「東日本の玄関口」と称される、鉄道交通の利便性の高さが光ります。新幹線だけでも6路線が乗り入れ、通勤、通学だけでなく、旅行・出張にも便利なアクセス環境。2024年3月には北陸新幹線の金沢~敦賀駅間が開業し、大宮駅から福井駅や敦賀駅まで乗り換えなしで移動できるようになりました。
「中学生以下の子どもを持つファミリー」に選ばれ続ける大宮大宮は埼玉県の県庁所在地である「さいたま市」に属していますが、さいたま市の大きな特徴の一つが「ファミリー層から選ばれている」ことです。じつは、さいたま市は0歳~14歳の転入超過数(転入数から転出数を引いた数)が全国最多。2015年から2023年まで9年連続で1位と、14歳以下の人口増加が続いています。これはつまり、「中学生以下の子どもを持つファミリー」が数多く転入していることの現れです。
子育て世帯の増加に伴い、さいたま市も受け入れ対策を講じてきました。まず、高まる保育需要に対応するため、ここ数年は特に保育施設の整備に注力。平成29年(2017年)の304施設から令和5年(2023年)は513施設と、7年間で1.7倍以上に。定員数も1万9388人から3万788人に増加しています。こうした施設の拡充に加え、保育コンシェルジュなどの相談支援にも力を入れた結果、2022年から待機児童数0人を実現しました。
大宮駅
子育て世帯にとっては、さいたま市の教育環境も魅力。義務教育レベルでは、特に英語教育の充実ぶりで知られています。さいたま市独自の英語教育「グローバル・スタディ」は、全ての市立小・中学校で、9年間一貫したカリキュラムのもと英語を教えるというもの。これにより、中学3年生時点で英検3級相当の学力を有している子どもの割合が全国1位の86.6%に(※文部科学省「令和4年度 英語教育実施状況調査」より)上るなど、目覚ましい成果が生まれています。
中学3年生時点で英検3級相当の学力を持つ生徒は86.6%。全国の政令都市でも突出して高い数字だ
東京から埼玉へ移転する企業が増加中近年では、さいたま市のビジネス環境にも大きな注目が集まっています。ここ10年間(2013年~2022年)の企業の転入超過数は、神奈川県に次ぐ全国2位。特に、東京都から埼玉県に移転する企業が多く見られます(※帝国データバンク発表「埼玉県・本社移転企業調査」(2013年~2022年)より)。
さいたま市
多くの企業にとって、大宮の交通利便性は大きなメリット。また、さいたまエリア(埼玉県中心部)は東京23区に比べてオフィス賃料も手頃です。
加えて人材採用の面でも、さいたま市には大きな利点が。市による将来推計人口は2035年まで増え続け、2050年時点でも現在と同程度の人口水準を維持できる見通しです。
これらの魅力に加え、近年は大宮駅周辺で再開発が進み、大型のオフィスビルが増加中。駅近に快適なオフィス環境が整備されることで、ますます企業移転が加速すると見込まれます。
駅の近くで進む大型再開発にも期待大宮駅周辺の再開発は企業のオフィス需要を満たすだけでなく、街にさらなる活気を呼びます。たとえば、駅東口では2022年4月に、市民ホール、集会場、商業施設、クリニック、オフィスなどから成る「大宮門街(おおみやかどまち)」が誕生しました。大宮駅前に新たな人の流れを生み、そのにぎわいを氷川参道へと結ぶ。そんな、駅と街をつなぐ結節点としての役割も担っています。
「大宮門街」。1階から6階にショップやレストラン、4階から9階には「RaiBoC Hall(市民会館おおみや)」が入り、コンサートや演劇、各種イベントなどに幅広く利用される
大宮門街に隣接するエリアでは、新たな再開発事業「大宮駅東口大門町3丁目中地区第一種市街地再開発事業」が、2023年12月に都市計画決定。100mの高層ビルに高規格のオフィス、店舗、銀行、緑溢れるオープンスペースなどを整備する計画で、一帯の風景が大きく変わりそうです。
一方、駅西口では2023年5月に「大宮ソラミチKOZ」、2024年3月27日に「アドグレイス大宮」という民間大型複合ビルが誕生。今後も、ソニックシティビルの北側のエリア約5.6haについて、機運の高まったところから段階的に整備を進めていくまちづくりの方針を定めています。2024年7月にはその第一弾として、住宅、オフィス、店舗から成る「大宮サクラスクエア」が誕生予定。これを皮切りに、これから数年にわたって開発ラッシュが続く発展性や、それに伴う期待感も、大宮に人気が集まる大きな理由の一つといえそうです。
2024年7月に誕生予定「大宮サクラスクエア」
大宮が初めてTOP10入りしたのは2018年。2022年には初めてTOP3に、そして今回は初の2位と、少しずつ着実に順位を上げています。
東京都心部と同等以上の交通・生活利便性がありながら、遊びや文化、自然、ビジネス環境にも恵まれ、なおかつ住宅コストも手頃で、再開発による今後の発展まで見込める大宮。知名度ではなく、住み心地や街の魅力、将来性に対する純粋な評価が、この順位に現れているといえそうです。
●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース
一見華やかな大都会、ニューヨークでの暮らし。しかし、生活にはお金がかかる!
生活を維持するために多くの移民が働く場所、それは飲食店。
単身やってきたニューヨークで飛び込んだ先は大衆酒場。愉快な同僚と寿司との出会い、そして別れ。
仕事って、生活って、幸せってなんだろう?そんなことを考えながら寿司を巻く日々のこと。
出勤日数が増えるにつれ、個性豊かな同僚たちとの交流も増えていきます。ルイスの店の従業員には彼の元からの友人や身内が多く、仕事中もとても和やかな空気。イザベラもルイスとは長い知り合いのようですが、私が22歳の時とは全く比べ物にならないほどにしっかりしていてルイスといつも言い合いをしています!
レストランビジネスでの仕事も長くなってきましたが、同僚は南米の方が圧倒的に多いです。シチュエーションは人それぞれだけど、英語を全く話さない方も多いため、現場でスペイン語がわかるとものすごい強みになります。
私は一切話せず、これをきっかけに勉強しようとスペイン語の語学学習のクラスを取り始めましたが、本当に難しくてなかなか定着しません。大人になってからの言語の習得って本当に大変ですよね。
お店を閉める作業は従業員一丸となって行います。キッチン回りを徹底的に掃除・消毒し、 明日の営業に備えるのです。
NYで一番多い害獣といえば、なんとネズミ!日本ではほとんど見たことがなかったのですが、 こちらでは至る所で目にします。地下鉄や路上にもうろうろしているので毎回ギョッとしてしまいます。
ネズミを防ぐには、 米などの穀類が床に落ちたままにしないように気を付けることが大切です。今回バターを投げる羽目になったのも、虫やネズミ予防のためといっていいと思います(ゴミ袋を完全に処理したあとだったため)。
レストランビジネスには保健所からInspectorという職業の人が不定期でやって来て、清潔さの基準を満たしているかなどを査定します。これがすごく細かい上に厳しく、査定に合格できなかった場合はビジネスを一定期間閉めないといけなくなることもあるため、オーナーは戦々恐々です。食品の保存状態や温度ひとつで営業できなくなることもしばしばあります。
お店の窓にA、B、Cといったアルファベットの書かれた紙が貼られていますが、Aはインスペクターの査定に合格したとても清潔なお店という意味です。そして、もちろんルイスのお店はAです!
作者:ヤマモトレミ
89年生まれ。福岡県出身。2017年、勤めていた会社の転勤でニューヨークに移住。仕事の傍ら、趣味でインスタグラムを中心に漫画を描いて発表していたところ、思った以上に楽しくなってしまい、2021年に脱サラし本格的に漫画家としての活動を開始。2022年にアメリカで起業し個人事業主になりました。アメリカで食っていくために寿司をやっていくことを決意し、週4ブルックリンで寿司をつくっています。
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「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」では総合13位、得点ジャンプアップしたランキングでは3位に食い込んだのが地下鉄御堂筋線、四つ橋線、中央線の「本町」駅だ。大阪のビジネスの中心地として多くの企業が進出し、オフィス街として捉えられていた本町だが、近年は住みたい街としても注目を集めている。
関西圏で人口増加率が最も高くなっている大阪市中央区大阪市中央区に立地する本町駅は、地下鉄御堂筋線や四つ橋線で大阪の中心地・キタやミナミとも直結する一方、交差する地下鉄中央線を利用すれば「2025年大阪・関西万博」のアクセスとなる新駅「夢洲」駅とも一本で結ばれるなど、交通アクセスも抜群のエリア。本町駅周辺はオフィスだけでなく文化・娯楽施設や大規模商業施設も充実、御堂筋沿いには高級車やハイブランドのショップが並んでいる。煌びやかで華やかな街といったイメージが強いが、実は別の顔も持っている街だ。
それが「住まう街」としての顔。大阪市中央区は関西2府4県の中で人口増加率、15歳未満の人口増加率がともにナンバー1となっている。小学校の児童数も2011年の2189人から2023年は3854人と急増している。子供を持つファミリー層が急激に増加しているのだ。
この人口の増加の背景には、本町駅を囲む西区・中央区での住宅供給増加がある。中央区では2019年から2023年の間に約6000戸の新築分譲マンション供給があった。古いオフィスビルなどが建て替えられマンションに生まれ変わっている姿をあちこちでみることができる。住宅供給に伴い人口増も見込めることから、コンパクトなスーパーやベーカリー、ドラッグストアなど毎日の生活に必要な店舗の出店も相次いでいる。
魅力的な企業が存在し働く場としての魅力を持つ街に、住まう場としての選択肢・住宅が提供されることで、若い世代を含めて多くの人たちから注目を集めているのだ。「2024住みたい街ランキング関西版」で本町を選択した人たちの理由としても「仕事のできる施設がある」、「不動産の資産価値が高そう」、「魅力的な働く場や企業がある」といったポイントが上位に挙げられている。
人口が増加、特に15歳以下人口が増えている大阪市中心部では、市による子育て支援施策が行われている。中でも、保育所等を利用したくても利用できない待機児童の解消と小学校活性化に着目したい。
以前の大阪市では待機児童の数が多く、平成24年(2012年)地点で抱えている待機児童の数が600人を超えていた。そこで市は、待機児童を含む利用保留児童の解消を最重要施策として位置づけ、待機児童解消特別チームを立ち上げ、さまざまな施策を組み合わせながら待機児童の解消に取り組んできた。例えば、保育所の入所枠拡大や保育の無償化だ。民間のマンションにも保育所を併設した物件が設置されている。現在も「大阪市こども・子育て支援計画(第2期)」が実施中で、医療費の助成や保育料無償化の年齢層の拡大などが進んでいる。
また急増する児童・生徒対策として本町エリアからも近い北区中之島に「中之島小中一貫校」が2024年4月に開校される。北区中之島と堂島の児童は就学可能で、その他の市内エリアからも抽選ではあるが入学が可能。本町エリアである中央区、西区には小中一貫校はまだ存在していないため、今後の計画に期待したい。
建設工事が進められている「中之島小中一貫校」(写真撮影:井村幸治)
人口増加にあわせ、商業施設の営業スタイルも変化本町周辺は商都・大阪の中心地でもあり、明治時代からのレトロビルや商業施設が残るエリアでもある。例えば、船場センタービル、通称「せんびる」は1970年に大阪万国博覧会の開催に合わせて建設された合計10棟が東西におよそ1000m連なる建物で、地下には地下鉄中央線、地上は中央大通り、上空は市道築港深江線と阪神高速道路が通る特殊な施設だ。平成27年(2015年)の改修工事によって外観を一新し、新たな本町のランドマークとなった。「せんびる」は、オフィスやビジネス来訪者をメインのターゲットとしていたため飲食店街は土日祝は営業しない店が多かった。しかし、住民の増加や集客増加によって飲食ニーズが増えたことで2021年から土日祝日も営業する店鋪がほとんどに。本町周辺のオフィス街の飲食店舗でも、週末営業をする店が増えている。
高速道路の高架下にある船場センタービルはファッション関係の小売店や卸売店が多数入居している(写真撮影:井村幸治)
御堂筋沿いでは2019年には大丸心斎橋店がリニューアルオープン、2020年には心斎橋PARCOがオープン。ファッションフロアや日本の伝統やものづくりを感じるフロアだけではなく、ポケモンといった日本のポップカルチャーに特化したフロアを設けることで、老若男女を引き込む場所へと進化を遂げた。さらに、日常的に利用するスーパーやアカチャンホンポの大型店もあるなど、子育てや日常生活にも困ることはないだろう。
中央通り沿いにある「アカチャンホンポ」。商店街は飲食店も多数あり日常生活にも便利な街。すぐそばにはタワーマンションも見える。(写真撮影:井村幸治)
充実した交通インフラ、なにわ筋線の計画にも注目現在工事が進められている「なにわ筋線」は、うめきた(大阪)地下駅(2023年春に「大阪駅」として開業)と、JR難波駅および南海本線の新今宮駅をつなぐ新たな鉄道路線。関西高速鉄道が鉄道施設を整備・保有し、JR西日本および南海電鉄が鉄道施設を使用して旅客営業する新路線で2031年春の開業が予定されている。本町エリアには地下鉄中央線と連絡する「西本町駅」が新設予定だ。なにわ筋線の整備により、関西国際空港や新大阪駅へのアクセス性の向上、鉄道ネットワークの強化、大阪の南北都市軸の強化などの効果が図られる。
また、先に述べたように、地下鉄中央線は「2025年大阪・関西万博」会場とも直結する。夢洲はその後、統合型リゾート「大阪IR」が計画されているエリアでもある。こうした交通網の充実により、本町エリアへの注目度はさらに増していく可能性が高いだろう。
本町エリアはすでに住みたい街としての魅力を、充分に高めてきている。これからも、交通網の整備、既存建築物の集約や大規模な再開発によってその集客力や注目度はさらに高まる可能性が高い。今後のランキングの結果にも注目したい。
リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、前回から20位と脅威のジャンプアップを果たした「秋葉原」にフォーカスし、街の魅力を探ります。
「働く街」としての評価が上昇過去最高位の29位にランクインした秋葉原。昨年の49位から20も順位を上げ、昨年から「得点ジャンプアップした街(駅)」のランキングでも2位と飛躍しました。
性別、年代別、ライフステージ別の内訳では、男性の支持が8割と圧倒的。特に30代男性、シングル男性から多くの支持を集めています。また、前回調査に比べ「子どものいない共働き夫婦」からの得票も増加しました。
秋葉原といえば、やはり「サブカルチャーの街」というイメージ。しかし、今回の調査で秋葉原を支持した人が挙げた「街の魅力(住みたい理由)」を見てみると、現在のアキバの意外な一面も浮かび上がってきました。
街の魅力の1位は「仕事のできる施設がある(コワーキングスペースやカフェなど)」、2位は「魅力的な働く場や企業がある」と、いずれも秋葉原のビジネス環境が高く評価されていることが分かります。
秋葉原
一方で、5位「文化・娯楽施設が充実している(映画館、劇場、美術館、博物館など)」、6位「学びや、趣味の施設がある(稽古事・カルチャースクールなど)」など、サブカルの街らしい項目も上位に。また、7位は「周囲の目を気にせず自由な生活ができる」。オタクやインバウンド(訪日客)まで幅広く受け入れる、街の懐の深さがうかがえます。
秋葉原駅徒歩10分圏内にスーパーが充実仕事、遊び環境の充実ぶりに対し、生活の場としてのイメージは薄い秋葉原ですが、じつは秋葉原駅周辺はたくさんのスーパーがあり、静かな住宅地が点在しています。
たとえば、「肉のハナマサ秋葉原店」(24時間営業)や「ライフ神田和泉町店」(9:30~24:00)、「オリンピック淡路町店」(9:00~21:00)、「ピーコックストア神田妻恋坂店」(8:00~23:00)は、いずれも秋葉原駅から徒歩10分程度。小型食品スーパー「まいばすけっと」も各所に点在しています。
秋葉原駅周辺はたくさんのスーパーがあり、静かな住宅地が点在
JR高架下の商業施設「CHABARA」には、“食のテーマパーク”がコンセプトの「しょくひんかん」があり、全国から厳選した約4000のご当地グルメアイテムがそろっています。なお、同じ高架下には、クリエイターのアトリエやギャラリー、ものづくりをテーマにしたショップなど全52店舗からなる「2k540 AKI-OKA ARTISAN」、オーディオ、カメラ、ホビーなどのショップが集まる「SEEKBASE」も。日常使いのお店だけでなく、趣味の世界を探求できる場所、ひとひねり加えた個性豊かなショップが充実しているのもアキバの魅力です。誰もが知る商業施設ではなく、サブカルチャーや職人の街といわれてきたルーツにちなんで独自のコンセプトを打ち出した空間は、ここに来なければ得られない体験ができ、遊びに来る人・働く人・暮らす人をも飽きさせません。
「2k540 AKI-OKA ARTISAN」。高架下にショップ、アトリエ、ギャラリー、飲食施設が並ぶ
2023年4月、JR山手線・秋葉原駅の高架下に誕生した「キャンプ練習場」。都心の高架下でテント設営やキャンプ飯など、キャンプの練習体験ができる
「SEEKBASE AKI-OKA MANUFACTURE」。ここでしか出会えないプロダクトや食の専門店が集結
アニメ・トレカ、空前のブームにより子どもも楽しめる街にそして今、秋葉原を熱くしているのが、アニメとトレーディングカード。アニメ産業市場(ユーザーが支払った金額を推定した広義のアニメ市場)は2017年に初めて2兆円を突破し、2022年は2兆9277億円と5年で約1.5倍の市場規模に成長(出典/一般社団法人日本動画協会「アニメ産業レポート2023」)。また、「カードゲーム・トレーディングカードゲーム」も2022年の市場規模は前年比32.2%増で2348億9100億円となりました。
一般社団法人日本玩具協会調べ「玩具市場規模調査結果」より
もともと人気のあった『ポケモンカードゲーム』に加え、『ONE PIECEカードゲーム』など新しいゲームも登場し、秋葉原にはこれらトレカを扱うショップが月に複数軒のペースで開店しています。これらのコンテンツにより、秋葉原は子どもたちにも楽しめる場所に変貌しつつあります。
成人男性のイメージが強かったメイド喫茶にも、子どもに人気のキャラメニューと子ども料金を設け、家族連れで楽しめる場所も誕生。オタク・マニアと呼ばれたアキバは、尖りつつも裾野を広げ、さまざまな人を受け入れる街に変貌していく過程といえるかもしれません。
駅前にはオフィスビルも増え、「働く街」としてのイメージも定着しつつある
「mAAch ecute 神田万世橋」。ショップ、カフェ、アート空間が並ぶ
秋葉原という街は戦後の闇市からはじまり、電気街、サブカルの発信地と、変化を繰り返しつつ発展を遂げてきました。そして、改めて今の街を見つめてみると、驚くほど多彩な顔を持っていることに気付かされます。次々と新しい魅力を備え、アップデートされ続ける。そんな秋葉原の、これからにも注目です。
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SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース
高齢者や障がいのある人、低所得者などが賃貸住宅への入居を断られ、住まいを確保できないことが問題となっています。そんななか、神奈川県厚木市が取り組んでいるのが、物件オーナーや管理会社が住まいの確保に困っている人の入居を受け入れやすくするために、居住支援法人(※)や不動産会社と連携した見守りサービスの実施、住まい探しや暮らしに関する相談窓口の開設です。
厚木市における不動産会社との連携、住まいの支援やその背景にある思いについて、厚木市まちづくり計画部住宅課(2024年4月より都市みらい部住宅課に名称変更)の戸井田和彦(といだ・かずひこ)さん、古財有香(こざい・ゆか)さん、市内の不動産会社・トータルホーム代表取締役の加藤靖教(かとう・やすのり)さんに話を聞きました。
※居住支援法人:住宅セーフティネット法に基づき、住宅の確保に配慮が必要な人が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、居住支援を行う法人として各都道府県をはじめとする自治体が指定する団体等
高齢者が賃貸住宅に入居しやすくするためには、どうしたらいい?近年、全国的に高齢者の独り住まいや高齢者だけで暮らす世帯が増える中で、孤独死や家賃の滞納などを懸念するオーナーや管理会社から、高齢者が賃貸物件への入居希望を断られてしまうという問題が生じています。
厚木市の全人口に占める65歳以上の高齢者の割合は2023年10月時点で26%。人口の約1/4を高齢者が占めていることになります。全国の自治体が同じ問題を抱えていて、2017年には住まい探しが困難な人たちの賃貸住宅への入居を促進するため、国は住宅セーフティネット法(正式名称「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」)を改正。これを機に、厚木市でも「民間賃貸住宅の空き室を活用して高齢者が入居しやすくなるような取り組みを進めていこう」という機運が高まりました。
厚木市では人口の約1/4が65歳以上の高齢者となっている(資料提供/厚木市)
「なぜ高齢者の入居が難しくなっているのか、という問題を突き詰めた時に、家賃滞納や孤独死、死亡後の残置物の処理といった問題が浮かび上がりました。
この対応策として取り入れたのが、かながわ住まいまちづくり協会が実施する「神奈川あんしんすまい保証制度」の一つである、『あんすまコンパクト』。安否確認と費用補償がセットになった見守りサービスです。賃貸住宅に入居する一人暮らしの高齢者がこのサービスを利用することで、オーナーさんや管理会社が抱える不安を少しでも軽くし、高齢者を受け入れやすくできないかと考えました」(厚木市 古財さん)
見守りサービスの費用補助で利用しやすく。さらに連携が広がる厚木市は利用者の費用面での負担を軽くしてサービスを使いやすくするために、初回登録料(1万円+消費税1000円)を市が補助する制度を2019年にスタート。この補助制度の取り組みは神奈川県内では初、全国でも東京都中野区に次いで2番目だったこともきっかけとなり、かながわ住まいまちづくり協会が実施する「あんしん賃貸支援モデル事業」の実施市に選ばれました。同年から研修会や住まい探し相談会の開催、関係者連絡会での情報交換など、居住支援の取り組みを開始したのです。
孤独死や残置物の処理など、オーナーや管理会社のリスクを減らすための見守りと費用補償がセットになった「あんすまコンパクト」。通常は初回登録料1万1000円と月額1650円の利用料がかかるが、導入しやすくするために市が初回登録料を負担する(資料提供/厚木市)
そして、このあんすまコンパクトの導入が、厚木市と市内不動産会社との連携が始まる大きなきっかけになったといいます。
「このサービスが孤独死などの不安に対する軽減策となって高齢者の入居促進へとつながっていくには、入居者への費用の補助だけでなく、不動産会社の理解と協力も不可欠です。そこで職員が、サービスを提供するホームネットと一緒に不動産会社を回り、制度の説明をしたり、研修会などで紹介したりして制度の周知に努め、協力していただける不動産会社を募りました」(厚木市 古財さん)
見守りサービスの補助制度を周知するために厚木市とホームネットが不動産会社を回ったことが連携強化につながっていった(画像/PIXTA)
厚木市の補助制度が始まる前までは、ホームネットと業務委託契約を結んでいた不動産会社は、わずか6社でした。それが今では27社になり、年間2~3社ずつ増えている状況だそうです。
また、このサービスを周知するための活動は、不動産会社などの民間企業と直接話をする機会の増加にも繋がりました。
「不動産会社がどのようなことで困っているのか、現場の声を聞くことができるようになったのは大きいですね。定期的に情報交換会を開催するのも、居住支援の取り組みの一つ。現場の意見をいただくことで、違う立場での視点を知ることができるので今後の取り組みの参考になっています」(厚木市 古財さん)
より主体的に住まいの支援に関わるため「居住支援協議会」を設立さらに厚木市では、住まい探しが困難な人たちが円滑に入居するための支援をする機関として、2023年に厚木市居住支援協議会を設立しました。
居住支援協議会の前身となったのは、2021年から厚木市住宅課が主体となって行っていた「厚木市あんしん賃貸住宅支援事業」でした。住宅課と福祉部局の担当課、不動産関係団体や福祉の関係団体も加わり情報交換や意見交換を行っていたのですが「部署間での温度差を感じていた」と古財さんは言います。
厚木市居住支援協議会の事務局である厚木市まちづくり計画部住宅課(2024年4月より都市みらい部住宅課に名称変更)の古財有香(こざい・ゆか)さん(写真提供/厚木市)
「その原因は、組織の壁でした。市の職員は皆それぞれに従来の業務があるので、どこか業務外の活動的な雰囲気がありました。しかし、居住支援を行うにはそれぞれがもっと主体的に動く必要があります。自分たちの業務と捉えて取り組んでもらうためにも、住宅課が主導するのではなく、居住支援協議会という組織を立ち上げた方が良いと考えたのです」(厚木市 古財さん)
居住支援協議会は住宅セーフティネット法の改正により、各都道府県に設置することが定められていますが、市区町村単位で設置している自治体はまだ少ない状況です。厚木市では協議会を立ち上げた後、全体の活動とは別に研修会を企画するグループと資料を作成するグループの2つに分け、より少人数での検討も行っています。協議会に参加するメンバーが意見を出しやすくし、活動に積極的に関わるようにするための工夫です。
また、定期的な意見交換会や研修会のほか、年に5回住まい探し相談会を開催して、居住支援を必要としている人の窓口としての役割を果たしています。
幅広い支援を目指して、居住支援協議会を設立。参加者がより積極的に、主体的に参加していくようワーキンググループなどの工夫も欠かせない(写真提供/厚木市)
居住支援協議会で実施する「住まい探し相談会」の様子(写真提供/厚木市)
広がる支援の輪。住まいを必要とする人と支援を直につなぐ見守りサービスの補助から始まった厚木市の居住支援は、居住支援協議会の設立へと繋がり、さらに行政や民間にも変化をもたらしました。
「居住支援の入口は高齢者の方でしたが、今では高齢者だけでなく、障がいのある方や外国籍の方、ひとり親世帯の方など、幅広い方の支援を行っています。最近では精神障がいのある方からのご相談も多くなっていますね」(厚木市 古財さん)
協議会のメンバーでもあるトータルホームは、精神障がいのある人の地域復帰に関する居住支援も行っている不動産会社。2019年3月に神奈川県から居住支援法人に指定されています。
「行政と関わることになった最初のきっかけは、精神障がいのある方に対して厚木市にはどのような支援があるのかを聞きに行ったことでした。福祉協議会に参加するようになったことで県から居住支援法人の指定を受け、市の居住支援協議会にも参加するようになりました。運営に十分な資金を収益だけでまかなうのはなかなか厳しいので、補助金を受けられるようになったのは大きいです。また市から直接、相談をもらうこともあり、スムーズに相談者と支援を結びつけられるようになりました」(トータルホーム 加藤さん)
トータルホームの加藤靖教さん。精神障がいのある人などの居住支援に力を注いでいる。厚木市の職員も何かあれば相談するという頼もしい、居住支援協議会のメンバーの一人(写真提供/トータルホーム)
古財さんは「支援が必要な人を現場での経験豊かな不動産会社や市民団体などに、すぐにつなぐことができるようになった」と話します。行政での対応が難しいと感じることがあると加藤さんにもすぐに相談しているのだそう。
厚木市の居住支援協議会は、行政にも民間にも、連携を深め、視野を広げる場として機能しているようです。
最後に今後の課題を3人に尋ねると、それぞれの思いを語ってくれました。
「居住支援協議会という、相談できる場所があることをまだまだ知らない人が多いと思います。もっともっと周知し広めていくことが必要です。そして、協議会の活動も、子育て支援、DV・家庭相談、医療の分野などとも連携し、幅広く対応していかなくてはならないと考えています」(厚木市 古財さん)
「見守りサポートを取り入れたり、賃貸債務保証会社と連携して万一の補償を加えても、現場レベルではまだまだオーナーさんや不動産会社の理解が進んでいないと感じます。制度ができても、それをどうやって活かしていくかが課題です。啓発活動と、実際にやってみて実績を作っていくことをコツコツ積み重ねていくしかないですね」(トータルホーム 加藤さん)
「公営住宅の募集でも目立つのは、一人暮らしをする高齢者の応募の多さです。しかし、市営住宅は高齢者が入居するには規制が多すぎると個人的には感じています。高齢者の入居促進という視点では、むしろ民間の不動産会社に働きかける方が早く解決に近づくかもしれません。公営住宅でももっとルールを緩めるなどして、行政が居住支援を率先してやる姿勢を見せる必要があるのではないでしょうか」(厚木市 戸井田さん)
「これまで日本の発展を支えてきた高齢者の方々が安心して暮らせる住まいを供給していきたい」と熱い思いを語る、厚木市まちづくり計画部住宅課(2024年4月より都市みらい部住宅課に名称変更)課長の戸井田和彦さん(写真撮影/りんかく)
行政や居住支援協議会の施策が現場と乖離している、住宅と福祉の連携がうまくいかない、といった話をよく耳にします。また逆に、地元のNPO法人などが強いリーダーシップを取って地域全体の居住支援を推し進めている自治体もあります。
しかし厚木市においては、そのどちらにも当てはまらないように思います。居住支援協議会を立ち上げて1年足らず。まだまだ課題は多いようですが、居住支援に携わる人それぞれの思いが、同じ方向を向いて皆で一歩ずつ歩を進めているように感じました。
市の補助するあんすまコンパクトや相談窓口、居住支援協議会など、これまで丁寧につくってきた制度や体制をいかに活用していくか、今後の発展に期待したいですね。
※戸井田和彦さんは2024年3月23日にご逝去されました。謹んで御冥福をお祈りします。(本記事は2024年2月7に取材したものです)
●取材協力
・厚木市
・株式会社トータルホーム
兵庫県の南東部に位置し、大阪府と接している尼崎市。「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」では自治体ランキングの総合順位で過去最高の19位にランクイン。特にシングル男性では8位、夫婦のみ世帯では16位と若い世代からの人気が高まっている。その要因を探ってみよう。
大阪駅まで最短で6分、非常に便利な交通アクセスが魅力通称「あま」、電話番号の市外局番は「06」と大阪市と同じで、他地域の人からは「大阪じゃないの?」といわれる尼崎市であるが、れっきとした兵庫県の街。市内は東西に、北から阪急神戸線、JR東海道線、阪神本線の3線が並行して通っている。JR尼崎駅から大阪駅までは一駅6分(新快速)、阪神尼崎駅から大阪梅田駅も一駅7分(直通特急)と大阪とは至近。JR尼崎駅からは東西線を利用すれば北新地や京橋へも直通、阪神尼崎駅から阪神なんば線を利用すれば大阪難波や奈良方面までも直通と、非常に便利な交通アクセスをもつ街でもある。
2023年のプロ野球日本シリーズでは阪神とオリックスが対決し、それぞれの本拠地「阪神甲子園球場」と「京セラドーム大阪」を阪神なんば線が結ぶことから「なんば線シリーズ」とも呼ばれた。尼崎市はその中間に位置しており、市内各地でも非常に盛り上がった。「2024住みたい自治体ランキング」でも尼崎の魅力として「いろいろな場所に電車・バスで移動しやすい」という項目が2位に挙げられているが、通勤・通学やショッピングはもちろん、エンターテインメントや余暇を楽しむためも便利な街であることが評価されているのかもしれない。
また、尼崎は市内全体が平坦で道路網も整備されたコンパクトシティという特徴をもち、自転車の利用にも適している。市も事故防止のルール指導、駐輪場整備、自転車道の整備、盗難防止対策などを実施。積極的に自転車を安全・安心・快適に利用できるまちづくりを進めている。さらに、3路線をタテに結ぶように路線バスが尼崎全体をカバーしているため、南北の交通アクセスも良好だ。
JR尼崎駅は東西線と宝塚線が分岐する交通の要所(写真/PIXTA)
駅周辺の再開発が起爆剤となり、住宅供給も活発に「2024住みたい街ランキング」では、尼崎市の一番の魅力として挙げられているのが「コストパフォーマンスがよく便利なお店や飲食店がある」というポイント。また同ランキングで発表している、交通利便性や生活利便性が高いのに家賃や物件価格が割安なイメージがある駅を選ぶ「穴場だと思う街(駅)ランキング」でも、上位10位までの中に尼崎市にある駅が3駅(4位/阪神本線尼崎駅、7位/JR東海道本線尼崎駅、10位/阪急神戸線塚口駅)もランクインしている。古くからの商店街が残り、人情味溢れるやりとりが楽しめる街である一方、再開発により尼崎市内の主要駅の周辺エリアが整備されていることがこれらの評価に寄与しているといえるだろう。
たとえば、キリンビール尼崎工場の跡地があったJR尼崎駅周辺には、百貨店やあまがさきキューズモールが入る複合施設が整備されており、駅とはペデストリアンデッキで直接繋がっていることもあり非常に便利だ。駅の周辺では高層マンションを中心とした住宅が立ち並び若い子育て世帯の流入につながっている。
JR尼崎駅前、再開発により誕生した複合商業施設。周辺には医療施設なども整備されている(写真撮影:井村幸治)
JR尼崎駅の周辺では分譲マンションも立ち並んでいる(写真撮影:井村幸治)
また市内ではJR塚口駅の駅前で工場敷地の再開発により、都市型のコンパクトシティ「ZUTTOCITY」が整備され、マンションと一戸建てあわせて1200戸以上の住宅と商業施設のほか、道路や公園が誕生している。今後の予定では、阪急神戸線の武庫之荘駅と西宮北口駅間に新駅(武庫川新駅(仮称))設置の計画もある。
こうした駅を核とした再開発が進むことで、市内だけでなく広域からの注目を集めるようになっている。その結果、尼崎市内での住宅は一戸建て・マンションとも安定した供給が続いている。既存ストックを地域の資源として活かし、守り、育てることで都市空間の質の向上を図り、持続可能な都市をめざすという市の都市計画が反映されたまちづくりが行われているといえるだろう。
「尼崎は便利だけど、治安はどうなの?」と思う方もいるだろう。尼崎市では治安の悪いイメージを払拭するための取り組みも積極的に行っている。たとえば、街頭犯罪防止の取り組みとして、ひったくり現場表示板の掲示、「青パト」を使った防犯パトロールの強化、警報器付きロック装置を付けたダミー自転車を活用する盗難対策「Alar-mmy.(アラーミー)」などの施策だ。結果、刑法犯認知件数は、取り組み前の平成24年(2012年)と比べ、9年間で約63%減少している。令和5年度(2023年度)には市内にあった暴力団事務所もゼロになり、安心して暮らすことができる街へと生まれ変わっている。
子ども向けの施設の開発も進んでおり、2022年には関西初のキッズパーク「モーヴィあまがさき」がオープンした。ボートレース尼崎の一部を活用した親子の遊び場で、発達段階に応じて分けられたゾーンで思い切り身体を動かすことができる場所だ。ボーネルンド社や行政が協働し子ども向けのスペースやイベントを開催しており、なかなか予約が取れないほどの人気となっている。
ボートレース尼崎に隣接する水明公園では思い思いに遊ぶ親子連れの姿も(写真撮影:井村幸治)
また、2025年3月には阪神大物駅に近接する小田南公園の整備によって、阪神タイガースのファーム施設を中心とした「ゼロカーボンベースボールパーク」が誕生する予定。ベースボールファンだけでなく、家族で楽しめる憩いの場としても注目を浴びそうだ。
豊富な種類の子育て支援、安心して暮らすことのできる環境その他にも、尼崎市では子育てを世代に向けたさまざまな施策も実施している。たとえば乳幼児等医療費助成制度により、就学前の児童は通院費の自己負担が不要となる。さらに、高校生までは入院費の自己負担も不要だ。また妊娠、出産、育児に関する不安や困りごとなど、すべての妊婦や子育て世帯に寄り添い必要な支援につなぐ「伴走型相談支援」と、出産育児関連用品の購入や子育てサービス等の負担軽減を図る「経済的支援(出産・子育て応援給付金)」を一体的に実施している。他にも市内には「すこやかプラザ」「つどいの広場」が設置されており、子育て中の親子が気軽に集まって仲良く遊んだり、お母さんやお父さんが情報交換や交流を行うことのできる場を提供。アドバイザーによる子育て相談や、子育てに関する講習・イベントも開催されている。
街全体としては高齢化が進んでいるものの、駅周辺の再開発が進みマンション供給も増加したことから若い世代も増えている尼崎。高い利便性とコストパフォーマンスの良さは今後も評価されていくだろう。治安や子育てに対する取り組みも充実してきており、さらに注目度はアップしていく可能性が高い。
東京私大教連が公表した「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」によると、私大生への仕送りの額は低水準にとどまっている一方で、家賃などの住居費の負担は増えているという。入学にかかる費用も上がりつつあるというので、調査結果を詳しく見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」を公表/東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)
東京私大教連の調査の対象は、首都圏(1都3県)の私立大学・短期大学13校に2023年度に入学した新入生の家庭。受験から入学までの費用は、自宅通学者が162万3181円(前年度比で1万901円増額)、自宅外通学者が230万2181円(前年度比で4万6801円増額)となり、いずれも過去最高額となった。
特に自宅外通学者では、物価高による「生活用品費」の支出増が大きく、「家賃」や「敷金・礼金」の住居費も上昇している。一方、「受験費用」は1万1500円減額となり、受験校数を減らすなどで費用を抑えていることがうかがえる。
■受験から入学までの費用(住居別)
(出典:東京私大教連「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」より転載)
仕送りの平均月額は8万9300円、家賃の平均月額は6万9700円自宅外通学の場合、「仕送り額」の平均月額は8万9300円。最近はおおむね横ばいで推移している。(5月は入学直後の新生活や教材の準備で費用がかさむため、6月以降の仕送り額で平均を算出している。)
ところが、「家賃」は上がり続けている。平均月額は6万9700円で、前年より2400円増え、過去最高となった。その結果、年々「仕送り額」と「家賃」の差が縮まり、仕送り額から生活費に充てられる金額が減少する形となっている。平均月額の差額は1万9600円なので、30日で割ると約653円となり、おおむね1日653円で生活することになる。なかなか厳しい状況だ。
■「6月以降の仕送り額(月平均)と「毎月の家賃」の推移 ~月平均の仕送り額は8万9300円
(出典:東京私大教連「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」より転載)
さらに、仕送り額の平均月額に占める家賃の平均月額の割合を見ると、実に78.1%を占め、過去最高の比率になった。
■「6月以降の仕送り額(月平均)に占める「家賃の割合」の推移 ~仕送り額に占める家賃の割合は8割に迫る
(出典:東京私大教連「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」より転載)
筆者はこのコーナーで、2016年にも同じ調査結果を取り上げた(「首都圏の私大生の平均家賃は6万1200円、どんな物件がある?」)が、2015年度の調査結果(70.6%)について書いていたので、「仕送り額に占める割合は初めて7割を超えることとなった。」としている。それからさらに上昇して、2023年度には8割近くにまで達しているのだ。
では、家賃の平均月額6万9700円で東京の賃貸を探すことを考えてみよう。SUUMOで東京都の家賃相場情報を見てみる(2024年4月10日更新情報)と、ワンルームなら23区内でも家賃相場が7万円を切る区があることがわかった。中野区、杉並区、北区、板橋区、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区だ。このほかの区でも、築年数が古かったり駅から距離があったりする物件なら、7万円を切る家賃のものが見つかるかもしれない。1K/1DKの広さで家賃相場が7万円を切るとなると、23区にはなかったが、立川市、武蔵野市、三鷹市、調布市を除いた東京都下の地域が該当した。
都心部から少し離れれば、希望の家賃や広さの賃貸が探せる状況ではあるようだ。ただし、セキュリティーがしっかりしているとか、宅配ボックスが欲しいなどの条件をつけていくと家賃は上がっていく。物件探しには、優先順位をしっかりつける必要があるだろう。
●関連サイト
東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)「2023年度 私立大学新入生の家計負担調査」
長野県長野市の善光寺門前エリアは、若い世代を中心に空き家をリノベーションした店が増え、にぎわいを創出しているまちとして、全国的にも注目が集まっています。その立役者として知られるのが、空き家専門不動産会社「MYROOM」の倉石智典さん。事業を始めたい人に空き家を仲介するに至った思い、長年まちを案内している「空き家見学会」のこと、新たな拠点でスタートした“まちづかい”への取り組みについて、お話をうかがいました。
空き家活用で150店舗オープン。空き家専門不動産会社「MYROOM」長野駅からぶらぶら歩けば30分ほど。古い街並みが残る善光寺門前エリアでは、ここ20年ほどの間、空き家を活用した小さな店舗が次々とオープンし、にぎわいを生み出しています。
観光客でにぎわう善光寺表参道(撮影/新井友樹)
この界隈で事業を始めたい人と空き家をつないでいるのは、2010年に創業した「MYROOM」代表の倉石さん。MYROOMはいわゆる通常の新築・中古物件は取り扱わない、空き家専門の不動産会社です。設計事務所と建設業も兼ねていて、リノベーションの設計施工や管理までワンストップで行っています。
「空き家の未来をデザインする」をコンセプトにMYROOMを立ち上げた倉石智典さん(撮影/新井友樹)
これまで倉石さんが事業者と空き家をマッチングした事例は、ゲストハウスに雑貨店、ブックカフェなど、およそ150軒にものぼります。そもそも、なぜ空き家専門の不動産会社を始めようと思ったのでしょうか?
「空き家を専門に扱っている不動産会社がなかったからです。なにも、地域活性化とかまちににぎわいを、と考えたわけではなくて、ビジネスとして、ニッチなところを狙ったというわけです」と、倉石さんは穏やかに話します。
創業当初、空き家は全国的に問題になり始めていました。ご多分に漏れず、長野市中心部の善光寺界隈も、使い手のいない古い空き家が増え続けていたころ。「建物って、地理や産業の成立ちを背景に建てられてきたじゃないですか。今は時代が変わって、ライフスタイルも変わった。人生の中で人は移動するし、人口もどんどん減っている。地理も産業も引継ぐ必要性はなくなりましたよね。どこでも住めて誰でも家が手に入る。このままでは、空き家だらけになっていってしまいます」
倉石さんの仲介で、築70年の建物がカフェと古着屋に生まれ変わった(撮影/塚田真理子)
「一般的な不動産会社では、不動産価値のない古い空き家は取り扱いません。一方で、空き家バンクなどでは、行政が費用を出して無料でサイトに掲載をしています。いわゆる“1円物件”などもそう。でも、これまで大切に引き継いできた土地や家を使わないからといって使い捨ててしまうようで悲しいし、違和感を感じていました」
空き家は決して単体で存在していたわけではなく、古く長く、地域で引き継がれてきたものです。その大切な建物を、使いたい人が楽しく使わせてもらう、それがまちを引き継いでいくことにつながる。そんな思いが倉石さんのなかにはあったのです。
古さが味わいに。カフェも古着店も客層は幅広いという(撮影/塚田真理子)
おもしろいのは、小商いをしてみたい事業者と空き家をマッチングするその手法です。倉石さんは事業者の「やりたいこと」をヒアリングし、倉石さんの頭の中にあるまちの地図や歴史や現在地、人の流れなどをもとに、「ここならうまくいくんじゃないか」という相性のいい物件候補を提案してくれます。
「空き家は歩いて見つけて、所有者を調べて訪ねて行って、貸していただけそうなところはストックしています。でも、所有者がわかっても貸さない、貸せないとか、いろいろな事情がありますよ」と倉石さん。そう、大家さんに頼まれて仲介しているわけではないので、順番が逆なのです。その建物はかつてどう使われていたのか、まちのなかでどんな存在だったのか。この家に合うのはどんな人かな、今ここでどんな商売をやったら地域に溶け込めるかな……そんなことを日々妄想している倉石さんだからこそのマッチング方法なのです。
その妄想をみんなでできたらいいな、という思いで毎月開催しているのが、2011年から続く「空き家見学会」です。
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MYROOMでは空き家の鍵を数十軒分預かっているといいますが、物件情報はウェブサイトなどに公開されていません。このエリアで空き家を活用して店を開きたいと考える人は、まず「空き家見学会」に参加することからスタートします。
空き家見学会とは、2011年、善光寺西之門にある編集企画室「ナノグラフィカ」とともに始めたもの。現在は、倉石さんが2021年に立ち上げた新拠点「R-DEPOT(アールデポ)」が引き継ぎ、毎月1回行っています。R-DEPOTについてはのちほど紹介するとして、まずは空き家見学会に同行させてもらいました。
現在は、「R-DEPOT」の若きスタッフがまちを案内している(撮影/新井友樹)
見学会の参加者は、半数が長野市内、半数は市外または県外の人だそう。多いときは10名、平均5~6名が参加します。予約制で時間は2時間ほど、参加費は無料です。
R-DEPOTに集合したら、まずは案内人、参加者ともに自己紹介(撮影/新井友樹)
観光客はなかなか足を踏み入れない路地へ。昔の地形やかつてこの場所にあったものなど、歩きながら紹介してくれる(写真撮影/新井友樹)
空き家見学会というネーミングですが、いわゆる物件紹介というものとはわけが違います。物件までの道すがら、今駐車場になっているところには昔こういうお店があって、こんなふうににぎわっていて、細い路地にはかつて川が流れていて……といったように、まちの案内も繰り広げられます。建物は3~4件見学するものの、間取りやスペック、家賃の紹介はありません。というか、貸せるかどうかも決まっていないとのこと。
「空き家になる前の暮らしぶりを参加者の方にはお伝えしています。大家さんやご近所さん、大工さんから聞いたエピソードなども交えたりして」(倉石さん)
この日見た建物は3軒。古いガラスのレトロさにグッとくる(撮影/新井友樹)
ここは昔タバコ屋さんだったところ。2階は住居だった模様(撮影/新井友樹)
坂の上に立つだけに、2階の窓を開けると、眺めがいい!(撮影/新井友樹)
100年前にどうしてここに建物が建ったのか。使われなくなったとき、とっくに壊して駐車場にすることもできた、けれど壊さなかった理由ってなんだろう。代々ご先祖様から引き継いでいる建物だから。街並みが壊れるから。ご近所に申し訳ないから。まちのおかげで商売できていたから――その背景を知ることが大切だと思い知ります。
まちを歩き、実際の建物を見ながらそんな話を聞いていると、当時の風景がよみがえるように想像できました。そしてこれからここをどう使ったら楽しいのだろう?と、これからの“まちづかい”のことも想像できた気がします。これは、画面上ではきっとわかりえなかったことで、現場だからこそ感じられた体験なのでしょう。
大通り沿いに立つ建物。昔の記憶やエピソードがその家ごとに詰め込まれている(撮影/新井友樹)
古い農機具のポスターや看板も残されていて、時が止まったかのよう(撮影/新井友樹)
1件目の空き家は築100年くらいで、もともとは篩(ふるい)屋さんだったとか。2軒目は元タバコ屋。玄関横に窓口があって、ここでコーヒースタンドとかやったら楽しいだろうな。3軒目の広い農機具店は、ガラスの掃き出し窓から見える小さな中庭が素敵で、シンボルツリーみたいな木を植えたら映えそう。こんなに広いならシェアハウスがいいかも?と、思わず妄想がふくらんだのも楽しい経験でした。
R-DEPOTに戻ったら、見学会参加者は「門前暮らし相談所」にも参加できます。門前でしたいこと、使いたい空間についてなど、スタッフと個別に相談できます。この日一緒に参加した男性は、学生時代この辺りに通っていたといい、得意な語学を活かして物販の店をやりたいと語っていました。果たして次のステップに進めたのでしょうか。
「同じ場所を見ても、どう受け止めるかは人によって違います。ここを引き継ぎたいと思うかどうか。いい人がいい使い方をしてくれたら、大家さんも、建物も、地域もみんなが喜んでくれます。残したい人と使いたい人の手助けになれればいい。選択肢のひとつを提示できたらいいなと思っています」(倉石さん)
倉石さんがつないだ、若きオーナーと空き家の現在地カフェ「POLKA DOT CAFE」のオーナー・山田大輔さん(右)と、古着店「COMMA」オーナーの駒込憲秀さん(左)(撮影/塚田真理子)
実際に倉石さんの紹介で空き家を借り、商いを始めた2組のオーナーさんにも話を聞いてきました。
まず1組目は、1階でカフェ、2階で古着屋を営む幼馴染のふたりです。きっかけは、30歳で東京からUターンし、地元で飲食店を始めたいと思った山田さんが、同級生の駒込さんに声をかけたこと。「彼が、いつか自分で古着屋をやりたいと話していたのを思い出したんです。2人でやれたら家賃も安く済むと思いました。善光寺門前エリアは古い建物をリノベしたおしゃれな店が多いから、若い人たちが来てくれるんじゃないかなと」(山田さん)。
古い建物は山田さんが希望していたレトロポップな雰囲気によく合う。倉石さんに相談しながら、自分たちも壁を塗るなどして改装した(撮影/塚田真理子)
残置物のアイスケースが活躍。「床は知り合いの子どもがペンキのついた靴で歩き回っちゃったので、いっそ、それで行こうか、と」(撮影/塚田真理子)
翌月の空き家見学会まで待つ時間が惜しく、MYROOMの倉石さんに直接連絡を取り、このまちでやりたいことを語ったふたり。広くて2店舗を仕切れそうな建物を3件紹介してもらい、最初に見たこの2階建ての建物に決めました。
「築70年以上ですかね。昔はそば屋さんだったようですが、物置状態で。住まいだった2階は床が割れていたりして、正直いうと最初はピンときませんでした。でも、1階と2階で店が分けられるのはいいなと思ったし、原状回復不要で好きなようにリノベーションできるから、自分たちの世界観がつくりやすい。MYROOMさんが手がけたほかのリノベ物件もおしゃれだったので、そのままお願いすることにしました」(山田さん)。
費用を抑えるため、自分たちでタイルを貼ったり壁を塗ったりしたことも、愛着が湧く要因に。ちなみに、上の写真のアイスケースは残置物。「これが使えたのもよかった。店でかき氷を出したかったので、アイスストッカーとして大活躍しています」(山田さん)
カフェを通り、奥の階段で2階へ。天井が低いので頭上に注意(撮影/塚田真理子)
かつて押入れだったところも活用してディスプレイ(撮影/塚田真理子)
「地元の成人式で『自分の店を持ちたい』とスピーチしたのを大ちゃん(山田さん)が覚えていてくれて、声をかけてくれたから独立に踏ん切れました」と駒込さん(写真撮影/塚田真理子)
敷金・礼金は1カ月ずつ、改装費は1階が500万円、2階が100~200万円ほどかかりました。「家賃は1棟で6万円なので、3万円ずつ。コロナ禍には、なにより固定費が低いことのありがたみを痛感しました」とふたりは声をそろえます。
2018年春に2つの店がオープンしてはや5年。その間、同じ通りには革小物の店、美容室、イラストレーターによるTシャツの店など、同様に空き家を活用した店が次々とオープンしています。「昔から商売しているお隣の店主さんに、最近若い人たちが歩くようになってきたねと言われました。歩いてあちこち店をめぐれたら楽しいし、まちもにぎわいますよね」
3階建ての団地の一室がおしゃれな焼き菓子店にHEIHACHIRO BAKE SHOPオーナーの小渕哲さん。戸隠から車で40分ほどかけて毎日通勤している(撮影/塚田真理子)
2019年、築50年ほどの元NTTの社宅だった団地の一室にオープンしたのが、「HEIHACHIRO BAKE SHOP」です。店主の小渕哲さんは、スキー場がある山のリゾート、長野市戸隠で妻とともに焼き菓子店を営んでいましたが、長野市のまちなかにも出店したいと考え、ネットで情報を収集。
「まちづくりにも興味があって、数年前には空き家見学会にも参加したことがあったんです。そのときから、店というのはまちをつくる大事な要素なんだなと考えていました」
MYROOMの倉石さんとも面識があったことから、事業計画書を持参して相談してみることに。そこで紹介してもらったのが、このCAMPiT本郷団地でした。
「駐車場が6台確保できたことが決め手になりました。ここ長野市三輪は門前エリアから車で6~7分と少し離れた住宅街で、調べてみると市内でもかなり人口が多い。地域のお客さまに日常的に利用してもらえたらと思ったのです」
信州大学とのプロジェクトで既に完成していたというウッドデッキ。天気がいい日はパラソルとベンチを設置。ここで焼き菓子を食べることもできる(撮影/塚田真理子)
もとの間取りは3LDK。「完成させてから入居者を募集するのではなく、住み手や使い手の想いに合わせて自由に使えるようにしたい」という倉石さんの考えから、内装や設備はあえて改装しないまま残されていました。
リノベーションは、雑誌の写真など小渕さんが好きなテイストを提示して、倉石さんやMYROOMの施工担当者と相談しながらつくり上げました。水回りなどは移動させたため、配管工事などに費用がかかったといいます。リノベーションとの総額はおよそ800万円。
現在、この団地にはHEIHACHIRO含め4つの店舗と会社が入っていて、ほかに住宅としても活用されているそうです。
床は工事現場で使っていた足場材を再利用。古道具店で購入した棚に焼き菓子を陳列している。人気はマフィンとスコーン(撮影/塚田真理子)
さらに小渕さんは、HEIHACHIROの経営が軌道に乗ったころ、かねてからやってみたかったドーナツ店の開業に取り掛かります。善光寺門前エリアにより近い立地で空き家がないか倉石さんに相談したところ、ちょうどR-DEPOTを立ち上げるべく、長野市西後町の元NTTのビルを改装中だったタイミング。
「ビルの離れのようなところに、倉庫だったのか、守衛さんがいたところなのか、6.5坪ほどの空間があったのです。この辺りは官公庁に近く人通りもあるうえ、R-DEPOTにはさまざまな企業も誘致していて、集客も望めそう。そこで、テナントのようなかたちで入居させてもらうことにしました」(小渕さん)。
左がR-DEPOT、右が小渕さんのドーナツ店「LAGOM DOUGHNUT & DRINK(ラーゴム ドーナツアンドドリンク)」(撮影/新井友樹)
路地裏感があってなんだかワクワクする店構え(撮影/塚田真理子)
こちらはどこか路地裏風の、趣のあるロケーションが魅力。厨房設備を入れてドーナツを製造、窓越しに販売するスタイルです。
長野駅と善光寺を結ぶ中央通りから1本入ったところですが、中央通りと比べると家賃は1/3くらいに抑えられているとか。平日はサラリーマン、週末は観光客と、客層は違うものの日中は常に人の流れがあり、気軽にドーナツを買い求める人の姿でにぎわっています。
「ここ(NTT)で昔働いていたとか、団地の焼き菓子店の方は昔住んでいたとか、そういうお客様も来てくださって、懐かしがってくださるのがうれしいです」
路地裏感があってなんだかワクワクする店構え(撮影/塚田真理子)
“まちづかい”の拠点、R-DEPOTが始動R-DEPOTは2022年6月に完成。元電報局で女性の多い職場だったため、1階と3階は女性用トイレのみというのが建物の歴史を物語る(撮影/新井友樹)
最後に、倉石さんが設立した新拠点「R-DEPOT(アールデポ)」について話をうかがいました。R-DEPOTがあるのは、長野駅と善光寺のほぼ中間地点に立つ築50年ほどの3階建てビルで、元NTTの電報局だったところ。5年以上使われていなかったこの建物を一棟丸ごと借り、「移住創業、まちづかいの拠点」というコンセプトのもと活動をスタートしました。
1階は、R-DEPOTが運営する古道具店とカフェ、オフィス。2・3階は、クリエイターやIT企業など10社ほどに転貸しています。なかには長野県庁がサテライトオフィスとして入居して仕事をしていたり、NHK長野放送局がサテライトスタジオとして1階ショップ横で「善光寺monzen studio」と題するテレビ・ラジオの放送も行っていたりしています。
味のある家具や食器などが並ぶR-SHOP(撮影/新井友樹)
1階の古道具店「R-SHOP」は、取り壊される建物からレスキューした家具や雑貨などを、次の使い手につなげるための場所。奥には古材のストックルームもあり、リノベーションの際に再利用したりしています。
「たとえば食器も、お祝いのときやお客さんが来たときに使って、またちゃんと保管しておいたような、とっておきのものもあるんです」と倉石さん。代々大切に受け継がれてきたものは、これからも想いを引き継ぎながら使ってほしい。1階は誰でも利用もできるので、ふらりと立ち寄って、気軽に手に取ってみられるのもいいですよね。
この建物と出会ったとき、「新しい拠点にできたらいいな」とインスピレーションがわいたという倉石さん(撮影/新井友樹)
たとえばこの家具のタイトルは「Rがチャーミングなタンス」。どこから、いつレスキューしてここに来たのかも、商品の魅力とともに伝えている(撮影/新井友樹)
カフェも併設。ちなみに、上で紹介した「LAGOM」のドーナツをカフェに持ち込むこともできる(撮影/新井友樹)
一角にはカフェもあります。移住相談をしたい人、新しく事業を始めたい人など、お茶を飲みながらコミュニケーションの入り口になれば、と考えたからです。
R-DEPOTでは移住者交流会も開かれています。既に移住した人、これから移住を考えている人ともに参加でき、先輩移住者からの経験談やアドバイスが聞ける座談会のようなもの。具体的な補助金の話や、移住創業情報、まちのおすすめスポットなども教えてもらえます。
長野駅前で65年ものあいだ営業し、昨年惜しまれつつ閉店した喫茶店の什器なども引き取っている(撮影/新井友樹)
上階にはシェアオフィスやコワーキングスペースも。移住創業を始めた人、地元企業、入居者、R-DEPOTスタッフなどが交流し、仕事につながるきっかけづくりをめざす(撮影/新井友樹)
キャンプを思わせるパブリックエリア。休憩に使うほか、クリエイターがポップアップイベントを行うことも(撮影/新井友樹)
さらに、空き家にまつわるさまざまな取り組みが、R-DEPOTを拠点にスタートしています。長野市の認定事業として始まった「まちの家守(やもり)事業」も、新しい試み。
「空き家を貸したい人と借りたい人をつなぐウェブサイト『まちの掲示板』をつくります」(倉石さん)。まちに引き継ぎたい空き家のストックと、まちで始めたい事業を、サイトでPRできます。
物件については、かつてどのように使われていたか、地域の中の位置付け、改修はいくらくらいかかりそうか、といった話を。事業希望者はどんなマーケットがあって、売り上げはいくらくらい望めそうか、ということを相談できるといいます。
そのなかから、ストック1物件、事業者1組をピックアップして紹介する「まちの寄合会議」を公開開催します。これは、不動産会社、デザイン会社、経営コンサル、金融機関、創業者OBなどがガイドとして参加する、2日間のユニットワーク。
「現地調査やデザインワーク、事業計画など、これまで事業者が自分でやらなくてはならなかったこと、MYROOMが時間をかけてサポートしてきたことを、2日でまとめて、みんなで考えて共有しようという企画です。成約するかどうかは、別の話。お互いにこんなはずじゃなかった、というのを防いで、事業、建物、地域、3つの価値が高まることが狙いです」と倉石さんは話します。
このほかにもR-DEPOTではさまざまなイベント、相談会などが定期的に催されていて、たくさんの交流が生まれています。もちろん、空き家見学会も継続中です。
R-DEPOTの窓も楽しい掲示板。思わず立ち止まって読んでしまう(撮影/新井友樹)
取材を通して、「この取り組みは、お見合いのようなもの」という倉石さんの言葉が印象に残りました。入り口はネットでも、顔を見せあって名乗るところが最初のスタートライン。自分の希望だけではダメで、縁やタイミングもあるでしょう。倉石さんたち経験を持った人が仲人になって、お互いに知る期間を設けることも大切。
物件単体の仲介では決してなく、あくまでも“まちを引き継ぐ関係づくり”に重きを置いていることがわかります。
まちなかにR-DEPOTという拠点があることで、建物とまちの魅力が伝わって、それを引き継ぎたい人にバトンを渡せる。結果として楽しい“まちづかい”が実現していくことに、思わず心が躍るようでした。
●取材協力
MYROOM
R-DEPOT
POLKA DOT CAFE
COMMA
HEIHACHIRO BAKE SHOP
LAGOM DOUGHNUT & DRINK
リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、世界的人気のエンタメ施設が誕生し、注目度が急上昇している「練馬」にフォーカスし、街の魅力を探ります。
「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」がオープン前回の63位から過去最高位の48位にランクアップした西武池袋線・都営大江戸線の練馬駅。昨年から「得点がジャンプアップした駅」のランキングでは5位、「穴場な街」ランキングでは4位と、街に対する注目が高まっていることがうかがえます。
性別・年代別・ライフステージ別の内訳では、前年に比べ「男性20代」「女性40代」「シングル世帯」からの支持が伸びました。
練馬
練馬に関心が寄せられている要因として、まず挙げられるのは「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 メイキング・オブ・ハリー・ポッター」の存在。2023年6月16日、アジア初の「ハリー・ポッター」スタジオツアーとして「としまえん」の跡地にオープンしました。ちなみに、ロンドンのスタジオツアーは、オープンから10年以上が経った現在でも予約が困難という人気施設です。
スタジオツアー東京では、ホグワーツ魔法魔術学校の象徴的な大広間、ダイアゴン横丁、禁じられた森といった物語の世界を体感できるほか、魔法動物に遭遇したり、豪華な衣装を鑑賞できます。
地域の人々や国内の観光客のほか、訪日外国人からの関心も高く、国内最大級のインバウンド総合メディア「訪日ラボ」を運営する株式会社movが発表した「インバウンド人気観光地ランキング」では、東京ディズニーランドなどを抑え2位に。街に新たな人の流れを呼び込む起爆剤になっています。
練馬城址公園
また、2023年5月には、同じ「としまえん」の跡地を中心に「練馬城址公園」も一部開園。園内の中心を流れる石神井川沿いの「川辺の散策ゾーン」、四季折々の花が咲き、イベントが開催される「花のふれあいゾーン」、「エントランス交流ゾーン」などが整備されています。今後も段階的に整備され、全面開園は2029年を予定。交流・憩いのスペースとしての魅力はもちろん、広域防災拠点としても、地域住民にとっては頼もしい存在です。
周辺には、「豊島園 庭の湯」や「ユナイテッド・シネマ としまえん」などの人気スポットもあり、一帯は1日過ごせるリゾートエリアに進化中です。
「豊島園 庭の湯」。1200坪の日本庭園を擁する都内最大級のスパ施設。天然温泉、バーデプール、サウナ、食事処などがあり、1日中楽しめる
緑豊かな環境と気軽に農業を体験できる環境練馬区の大きな特色の一つに挙げられるのが、緑豊かな環境です。区域に占める樹木などの割合を示す緑被率は23区でも上位で、区立公園などの面積も年々増加。2014年から2022年までの9年間で、10haも広がっています。
また、東京23区でありながら農地が多いことでも知られています。区民農園など農業を体験できる施設も増加中で、2022年の段階で87施設に。2023年には種まきから収穫まで体験できる「高松みらいのはたけ」も開設されるなど、区民が農業に親しむための取り組みに力を入れています。
「高松みらいのはたけ」
一方で、練馬駅南口には「練馬三角地帯」と呼ばれる飲食店街も。安くて美味しい飲食店が密集しています。人気居酒屋の「春田屋」や、町中華の「小姑娘」など、昼飲みでにぎわうお店も多数あり、レトロな下町的な雰囲気とともにさまざまな世代に愛されています。
練馬三角地帯
手厚い子育て施策も魅力子育て環境に目を向けると、練馬区では直近9年間で保育定員数を8500人拡大。2021年から3年連続で待機児童ゼロを達成しています。2016年には全国初となる区独自の幼保一元化施設「練馬こども園」を創設。現在24園で実施し、定員は1869人(令和5年4月1日時点)。「3歳からは預かり保育のある幼稚園に通わせたい」という保護者のニーズに対応し、共働き家庭などからも利用されています。
同じく2016年には、小学校の放課後に児童が図書室などで読書や自主学習ができる「ひろば事業」と学童運営を一体化した「ねりっこクラブ」もスタート。年々、実施校数と定員枠を増やし、2023年時点で区内の全65校中52校で実施。定員枠は7012人に達するなど、小学生の居場所をしっかりと用意しています。
他にも、新宿から10km圏の駅のなかでは家賃が2番目に安い穴場感、2040年まで人口の増加が見込まれている将来性の高さなど、ポジティブな指標も多い練馬。もともとの住み心地の良さに加え、休日を過ごす街としての魅力が強化されたことで、ますます人気が高まっていくことは間違いなさそうです。
【調査対象物件】駅徒歩15分以内
シングル:築年数35年以内の10平米以上~40平米未満(1R,1K,1DK)の物件(定期借家を除く) ファミリー:築年数35年以内の50平米以上~80平米未満の物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/8/1~2023/10/31
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(マンション/アパート)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出
●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース
「SUUMO住みたい街ランキング2024 関西版」で、3年連続で総合1位を獲得している駅が、「梅田(※)」駅だ。大阪のビジネスの中心地として多くの企業が進出し、複数の商業施設が立ち並び賑わいを見せている梅田周辺だが、近年は再開発により住宅供給も増加。都心に住むことに対する関心が高まっている。
※「SUUMO住みたい街ランキング2024 関西版」では、地下通路や連絡通路で接続している駅は同駅として集計しており、梅田駅には、大阪駅、大阪梅田駅、東梅田駅、西梅田駅、北新地駅の得点も含む
拡大する「うめだ」。遊ぶ・働くだけでなく住む場所としても進化大阪市北区にある梅田駅を中心とする「キタ」は、関西随一の繁華街だ。JR大阪駅をはじめ、阪急、阪神、大阪メトロといった複数路線が乗り入れているターミナル駅でもあり、ビジネスマンや観光客、買い物客で賑わっている。ビジネス・商業の街としてのイメージが先行する梅田だが、近年の開発で住宅供給が増えており、資産価値としての面が注目されつつある。直近10年間でも広い意味で梅田エリアとされる大阪市北区・福島区で約1万5000戸の分譲マンションが供給されている。
高層ビルが立ち並ぶ大阪駅の周辺(撮影:井村幸治)
現在、うめきた2期地区開発事業の要である「グラングリーン大阪」は、オフィス、ホテル、中核機能、商業施設、都市公園、住宅が揃う複合的な場所として工事が進められている。一部は住宅として供給される予定で、分譲マンション「グラングリーン大阪THE NORTH RESIDENCE」は最高価格25億円の住戸が誕生することで話題となった。
実際、大阪市北区の人口はここ数年で特に増加しており、今後も増加が見込まれる。「住みたい街ランキング2024」で梅田を選択した人たちの理由としても「仕事のできる施設がある」、「不動産の資産価値が高そう」、「今後、街が発展しそう」といったポイントが上位に挙げられている。仕事や買い物をする場としてのイメージが強かったが、他の人気上位の駅に比べ若い世代を中心に注目を集めており、都心に住まうことの現実味が増していると考えられる。
グラングリーン大阪の工事現場。話題の分譲マンションも姿を見せ始めている。左側のタワーマンションはグランフロント大阪の街区(撮影:井村幸治)
グラングリーン大阪の工事現場。オフィスやホテルが入居する複合ビル工事が進められている。正面奧のタワーマンション群は福島区に位置する(撮影:井村幸治)
「SUUMO住みたい街ランキング2024関西版」梅田が西宮北口と大差で3年連続1位に! 本町、尼崎も躍進
充実した子育て環境、公立小中一貫校も4月に開校人口増加とともに、ファミリー世帯も増加しているため、大阪市は子育て環境の改革に積極的に取り組んでいる。中でも、待機児童の解消に向けた取り組みに注目だ。大阪市では待機児童数も多く、平成24年時点では600人を超えていた。そこで市は、さまざまな施策を組み合わせながら待機児童の解消に取り組んできた。保育所の入所枠拡大を行う中で、大規模な民間マンションにも保育所の整備が進められている。他にも、子育て世帯の経済的負担を軽減するとともに、子どもたちの学力や学習意欲、個性や才能を伸ばす機会を提供するため、市内在住の小学5年生から中学3年生の約5割を対象として学校外教育にかかる費用を助成する事業などが実施されている。
さらに、「大阪市立中之島小中一貫校」が2024年4月に新たに開校される。景観と調和したデザインの外観で、グラウンドやプール、体育館などを含む学校機能をコンパクトにまとめた校舎となっている。通学対象となるのは梅田に近接する堂島と中之島エリアだが、市内からは入学応募が可能だ(応募多数の場合は抽選となる)。
大阪市立中之島小中一貫校の校舎(撮影:井村幸治)
開発が進む商業施設と、街並みの変貌への期待感が高まる梅田周辺は、従来からオフィスと商業施設が集約された街であったが、近年は再開発やリニューアルが進められており街並みは変化し続けている。うめきたの開発はその最たる例だ。2023年には、大阪駅うめきた新駅(うめきたエリア)として地下ホームが開業。約91,000平米の敷地全体のうち約半分の約45,000平米が公園という緑豊かな空間であるグラングリーン大阪は、うめきた公園を中心にビジネスから観光まで幅広いニーズを担う南街区、イノベーティブなライフデザインを実現する北街区と、3つのエリアに分かれている。
グランフロント大阪は大阪の顔として、すっかりおなじみになった(撮影:井村幸治)
うめきたの先行開発区域であるグランフロント大阪は2013年のまちびらき以来、梅田の新たな顔として多くの市民に親しまれている。周辺にはルクア、大丸、阪急、阪神など百貨店や若者向けの商業施設が揃い、2022年に阪神百貨店が全面リニューアルした。さらに、JR線路をはさんでグラングリーン大阪の南側にある郵便局の再開発JPタワー大阪は2024年3月竣工、7月に開業予定で、KITTE大阪として飲食店や商業施設も多数誘致される予定だ。若年層はもちろん多世代を惹き付ける集客力はさらに高まっていきそうだ。
KITTE大阪は2024年7月に開業予定で主要テナントの顔ぶれも発表されている(撮影:井村幸治)
梅田エリアは、従来のイメージとして確立されていた、働く場・遊ぶ場としてのイメージに加え、大規模なマンションの開発により、住まう場としてのイメージを獲得しつつある。グラングリーン大阪が開業すれば街なかに森のある新しい街が誕生することになる。今後の発展からも目を離せないだろう。
『トッカン』シリーズ(早川書房)などの代表作がある小説家の高殿円さん。最近、伊豆(静岡県)の築75年のリゾートマンションの1室を98万円で購入しました。この体験を、2024年4月に発行した同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』に綴っています。
もともと和室2Kだった部屋を、約200万円かけて40平米1Rへとリノベーションし、DIYにも挑戦しました。築古リゾートマンションのリノベで注意した点やDIYのコツを伺います。
産業廃棄物の処理が必要な部分は、業者へ依頼高殿さんの部屋は、購入した当時、襖で2部屋に区切られた和室だったそう。高殿さんはまずはどこまで工事可能か、同じマンション内でAirbnb(民泊)を借りてシミュレーションすることから始めました。
「古い壁や建材によってはアスベストが混ざっていたり、壁の中に配管が通っていたりすると工事を断られてしまうこともありますから、まず壁や天井をどこまで壊せるのか確認しました」
小説家の高殿円さん
産業廃棄物の処理が必要な和室の天井落としや、土壁部分の取り壊しは、業者へ依頼。張るのが難しい総柄の壁紙の処理も、職人さんに頼みました。
「壁紙と床を替えるだけでも、部屋の雰囲気は変わります。私は一点投資型で、ポイントとなる場所にお金をかけて、ほかは安く仕上げるタイプ。今回は壁紙にポイントを置きました」
鳥が舞う印象的な壁紙はドイツのデザイナーが手掛けた作品。上海でプリントアウトして輸入したもので、日本国内で使用したのは高殿さんが初だったそう。部屋の中のフォーカルポイントになっています。
作業の様子を見て、ほかの壁紙の張り替えも工数的に同じ職人へ頼んだほうがいいと判断し、ほかの箇所の処理も合わせて依頼。全部で約40万円ほどかけて壁紙を替えました。
鳥が舞う壁紙が目を惹く。壁紙は10万円以上した奮発ポイント
床には飲食店などでも使われる硬くて傷がつきにくいサンゲツ(メーカー)の黒いフロアタイルを使用。
「もともと床板は張り替えるつもりだったのですが、部屋の畳を上げたら、木の素材が良くって。そのまま使っても大丈夫だと判断しました。リゾートマンションはもともと超高級マンションですから、築75年経っても使えるほど良い材質のものが使われているのでは、と施工をお願いした職人さんから教えていただきました。張り替え代が浮いた分、フロアタイルにお金をかけました」
キッチンは、木製だったものをすべて取り除き、業務用のステンレスシンクを取り付けました。
「ステンレスって磨けば何年でもピカピカに使えるのでいいですよね。中古品を約2万円で取り付けました。業務用なので、普段の手入れも楽です」
キッチンのガス回りには、名古屋でつくられた燃えにくい素材のステーションタイルを業者に張ってもらいました
■関連記事:
・温泉付きリゾートマンションを98万円で購入してみた! 「別荘じまい」が狙い目、Airbnbで宿泊内見など物件選びのコツ満載 小説家・高殿円さん 伊豆
・大の家好き作家・高殿円の新刊エッセイ『35歳、働き女子よ城を持て!』インタビュー
水回りは配置を動かすとお金がかかるので、今回は現状維持。お風呂やトイレはDIYして、気に入って使えるように工夫しています。
お風呂場の天井部分などの塗装壁は、表面が湿気にやられ、かびやすい部分。漆喰風に見える水性シリコン素材の「STYLE MORUMORU」を自分で塗って仕上げました。
「STYLE MORUMORUを20kgぐらい買って、友人を呼んで天井などを塗装しました。最初はていねいに塗っていたんですけど、思ったよりも時間がかかったので途中から急いで塗り終えました。無事に漆喰風になってほっとしています」
「STYLE MORUMORU」を塗ったお風呂場の天井
お風呂の床は、自分でタイル塗装。浴室全体の色合いを締める紺色を選びました。
「濡れる場所をタイル塗装するのは難しいんですが、『失敗してもいいや』と気楽に挑戦しました。修復方法を知っていれば、多少剥がれても直せます。もちろんプロに頼むほうがキレイですが、先々ちょっとしたことでも費用がかかりますから、長く住むなら少しでも自分で覚えることにメリットを感じました」
シックな色合いの浴室の床
昭和風のお風呂ですが、蛇口を取り替えるなどちょっとした工夫を施して、気に入って使えるようにしています
トイレの扉のガラス部分は、いわゆるレトロガラス。マンション建築当時に使われたものをそのまま活用することにしました。
「細工があるガラスは当時使われていた型がなくなり、現在は製造することができません。せっかくなのでそのまま活かすことにして、縁(フチ)の部分はアイアンペイントを塗りました」
現在は手に入らない細工ガラスの扉
高殿さんがDIYに使った用具の一部
収納場所は少なめに部屋の内装で高殿さんがこだわったのは、クローゼットを設けないこと。天井からアイアンのパイプを吊るし、衣服をかけて陳列しています。
「収納スペースを設けないことで、部屋自体を広く使えます。私はもともと掃除好きで、神戸の自宅にも家具をあまり置いてないんです。収納場所があると、あっという間に物が増えちゃうんですよね。」
天井に近い場所に洋服やタオルやシーツなどを収納する棚を自作。広島県の廿日市市で木製品を製造する「WOODPRO」から足場材を取り寄せてつくりました。
「足場材って建物を作る時に利用されるのでペンキで汚れていたりするんですけど、ガサッとした質感が好みで利用しました」
同じ足場材を使って、ベッドヘッドの制作も行いました。
「ベッド自体はアイリスオーヤマで購入した安価なものですが、動いて壁紙と擦れてしまうので、足場材を使ってベッドヘッドをつくりました」
足場材を使ってつくられた棚とベッドヘッド
ベッド下も収納場所として活用します
食器棚も同じ要領で、足場材を使って制作し、見せる収納。来客が多いため、ワイングラスなどが増えて、天井から吊るす収納方法も取り入れたそう。
「工夫したのは水切りカゴの配置場所。水が滴っても困らないように、洗濯機の上に置きました。収納場所が少ないなかで、どう楽しんで生活するか、チャレンジの場となっています」
調味料なども並ぶ食器棚
洗濯機に置かれた水切りカゴ
高殿さんは神戸との2拠点生活を送るため、月の半分以上はセカンドハウスを空けています。空き巣対策としても、家具類は最低限に揃え、家電や小物もジモティーやYahoo!オークション、メルカリなどで安く購入したそう。
資材高騰直前に滑り込めたこともあり、今回のリノベーションとDIYでかかった総額は約200万円。
「DIYはコストを削減できる分、失敗もしますから、それも含めて楽しめるどうか、自分の性格を見極めて挑戦することが大切だと思います」
Airbnbに宿泊してリノベーション後の自室を想像するのは、なかなか考え付かない妙案です。セカンドハウス利用が多いリゾートマンションだからこそできる技ですが、2拠点生活に憧れたら試してみる価値がありそうです。
●取材協力
高殿円さん
小説家。漫画の原作や脚本なども担う。2000年、『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞。2013年、『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。2024年4月には同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』を刊行。X(旧Twitter)
<撮影:曽我美芽 / 構成:結井ゆき江 / 取材・編集小沢あや(ピース株式会社)>
『トッカン』シリーズ(早川書房)などの代表作がある小説家の高殿円さん。最近、伊豆(静岡県)の築75年のリゾートマンションの1室を98万円で購入しました。この体験を、2024年4月に発行した同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』に綴っています。
もともと3Kだった物件をリノベーションとDIYで1Rに仕上げ、部屋のお風呂で温泉を楽しんでいます。自宅は神戸にある高殿さんが2拠点生活を始めたきっかけや、リゾートマンションを購入した経緯、物件選びのポイントを伺いました。
自分の人生を支える拠点・温泉付きのセカンドハウス小説家の高殿円さんはコロナ禍で大好きな海外旅行ができず、気持ちが塞ぎ込んでしまったことをきっかけに、自分の人生を支える拠点として温泉付きのセカンドハウスの購入を決めました。
「昔から大の温泉好き。それに、自宅は神戸(兵庫県)なんですけど、東京へ出張する度に小さなストレスが重なっていたんですよね。ホテルに泊まってもドライヤーの風量が気になるし、いつもの美容液やお気に入りのタオルケットとか、荷物が多くなって大変だなと思ったんです」
高殿円さん
伊豆のリゾートマンションから東京までは、特急列車「サフィール踊り子」を使えば約2時間。最寄駅からはタクシー圏内で、観光資源が豊かな土地だけに、買い物もネットスーパーを利用できるそう。
「静岡県の南側はすべて海。視界も抜けがあって気持ちがいいし、太陽の光でどこも暖かく、睡眠の質もよくなりました」
山の上に立つリゾートマンションは海からの照り返しで冬でもエアコンなしの半袖で過ごせるほどの温かさ。箱根の山から海へ向かって風が吹くため、潮風の影響を受けることもほとんどないのだそう。
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大の家好き作家・高殿円の新刊エッセイ『35歳、働き女子よ城を持て!』インタビュー
「物件探しでは、セカンドハウスで自分が叶えたいポイントを整理することから始めました。私はお風呂好きで、1日の3分の1は漬かっていたいタイプです。だから温泉と、海が見える景観の2つを重視して探し始めました」
どの温泉地がいいか、まずは草津温泉や別府温泉、道後温泉、有馬温泉などあらゆる場所を旅しました。
「そのうち自分のなかで『瀬戸内海以外の海が見たい』『神戸からアクセスしやすい場所がいい』と条件が出てきて、最終的に伊豆エリアでセカンドハウスを探すことに決めました」
おおよそのエリアを決めた後は、よりリアルな現地の状況を知るために、近隣のお店を訪ねます。
「情報収集で良かったのは美容院。ご高齢の方が経営する場所ではなく、若い人が働く活気のある美容院で話を聞きたかったので、まずはネット予約できる場所を探しました」
そこでヘアカラーとカットを注文。その間に「最近どうですか?」と話しかけて、地域の良いところやおすすめのお店をヒアリングしていきます。たまたま高殿さんが訪ねた美容院は、東京で修業して、コロナ禍をきっかけに地元で店を構えた美容師だったといいます。
DIYしたこだわりのドレッサースペース 日々のメイクも楽しいのだとか
高殿さんは美容院で情報収集するだけでなく、美容院に来るお客さんにも注目しました。
「白髪染めや子どものヘアカットは、セルフで仕上げるか、美容院へ通うかの二択ですよね。美容院って、実は家計の余裕と切実に結びついているんです。美容院の客層や施術内容を、地域の豊かさを測るポイントにしていました」
特に重視したのは、子どものヘアカット。高殿さんが訪れた美容院では、入れ代わり立ち代わり近所の子どもが一人でやってきて施術していたそう。
「子どもが一人で美容院へ通うのは、母親が忙しく働いている家庭で、周辺の治安が良いからこそできることだと考えました。子育て世代が活気づく地域は少子化が緩やかですし、移住者が増える余地があるとわかりました」
「お部屋で源泉を楽しみたい」温泉好きのマニアックな物件探し情報収集を進める一方、温泉の条件についても整理していきました。実際に物件を見るだけではなくAirbnb(民泊)やマンスリーマンションを利用して、さまざまな温泉付きマンションや一軒家に宿泊。改めて、温泉付き物件を所有する難しさを感じたといいます。
温泉を一軒家などで利用する際は温泉権が必要です。温泉権は新規取得後10年ごとに更新料がかかります。建設当初は温泉権を所有していた物件でも、相続を機に手放してしまうケースや、温泉権を所有していないのに「温泉付き」を謳ってトラックなどで温泉を運び入れるケースもありました。
加えて、温泉は温度が低くても成分を含有していれば認められるため、ガスボイラーで沸かす管理費にコストがかかる場合もあったそう。
「温泉付きマンションの管理費は、高いと約10万円もかかることもあるんです。2拠点生活では維持費が重要。軽視することはできませんでした。また、リゾートマンションで空き部屋が多い物件は、管理費の負担が増えるケースもありますから、その辺りの事情も尋ねるようにしていました」
一方、さまざまな物件と出会うなかで、高殿さん好みの温泉付き物件の条件も見えてきます。
「大浴場付きリゾートマンションは冬は寒いなかを出歩かないといけないし、同じマンションの住民と会ったら挨拶もしなくちゃいけない。それよりは、1人でじっくりお部屋のお風呂に漬かって、好きに過ごしたいなと気付きました」
将来的に売ることも考えて物件購入最初に提示していた条件以外にも、実際に住むとなると細かなところが気になってきます。例えば虫。高殿さんは虫が苦手なので、マンションの下の階や山の中にある一軒家を避けたそう。
「リゾートマンションの1階は虫が出やすいだけでなく、湿気が上がってきやすいので床が傷んでいる可能性もあるんです。でも、庭付きでペット可物件の場合は1階でも人気が出ます。人によって好みは分かれますが、私は上層階を選ぶようにしました」
加えて、将来的に売ったり貸したりすることも考えたといいます。
「住みたい地域のマーケットを見続けると、すぐに売れるマンションとなかなか売れないマンションの違いがわかってくるんです。流動性が高い物件は売りやすいから、まずはそういう物件を探しました」
最初にあげていた高殿さんの条件である海が見える景観は、マリンスポーツ好きなどから変わらない人気があります。加えて温泉が楽しめるとあれば魅力的な物件です。
「リゾートマンションの場合は、Airbnbとして貸し出しているケースも多いので、購入希望のマンションに滞在してみて、人気の理由を探るようにしていました」
宿泊するAirbnbは、ほかの部屋と同じ間取り。どれくらいのリノベーションができるか配管の位置などもチェックしたそうです。
高殿さんが購入したリゾートマンションは0円で売られている部屋もあります。相続したはいいけれど維持費がかかり手放す選択をした場合や、高齢になってから介護付きマンションへ移るために「別荘じまい」をするケースも多いのです。
「0円物件はお値打ち価格ですが、給湯器などの設備が古いと入れ替えに何十万円もかかったりします。また、築年数が古いと、建築素材にアスベストが含まれる可能性がある物件もあります。いざリノベーション工事を依頼したら『請けられません』なんてことも。どこまで内装が変えられるかは、リノベーションを経験した人と一緒に行かないとわからないかもしれません。同じマンション内にリノベ済みの部屋があれば、参考になると思います」
購入意思を固めた後は、マンションの管理組合の議事録も忘れずにチェック。
「まず、新しく入居した人と、元から住んでいた人が仲良く暮らすために建設的な対話ができているかを見ます。例えば『1階はペット可物件じゃなかったけど、空き部屋になるよりは需要が見込める選択をしよう』など、前向きな議論ができているか。壮絶な論争があったマンションには、ご近所トラブルが発生しないか、構えてしまいますよね。入居者同士の話し合いの様子は、長く物件を所有するつもりであればまずチェックしたいポイントです」
60度の源泉が出るリゾートマンションを購入し、現在は月のうち1週間ほどを伊豆で過ごしている高殿さん。高殿さんのSNSでは地魚を使ったおいしそうな料理が見られ、満喫している様子が伝わってきます。
「ひとりで過ごすのはもちろん、滞在中は友達が代わる代わる遊びに来ます。みんなで順番に温泉に入って、絶景を眺めて、伊豆の海鮮を楽しむんです。友達が友達を連れてくることもあります」
大人数で滞在となると光熱費も心配になりそうですが、なんとこの物件、温泉付きだからこそ節約ができているのだとか。
「まず、温泉は沸かす必要がないため、ガス代は月に約980円。その分、熱いお湯を運ぶための配管メンテナンスが必要ですが、私のようなお風呂好きはガス代を気にせずに使いまくれるのでお得な気分です。加えて、温泉代は月額利用料が決まっていて、水道代とは別請求。結果として水道代が抑えらえます」夢の温泉付きリゾートマンション、初期費用は98万円の購入費のほか、リノベーションとDIYに約200万円がかかったそう。物件取得後のDIYやインテリアについても、別記事で詳しく伺います。
●取材協力
高殿円さん
小説家。漫画の原作や脚本なども担う。2000年、『マグダミリア 三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞。2013年、『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。2024年4月には同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』を刊行。X(旧Twitter)
<取材・編集小沢あや(ピース株式会社)/撮影:曽我美芽 / 構成:結井ゆき江 / >
リクルートが、首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県)在住の20歳~49歳の男女9335人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2024」を発表。今回は、7年連続で「穴場の街」1位に君臨し、今回は総合順位アップも果たした「北千住」にフォーカスし、人気の秘密を探ります。
「穴場の街」7年連続トップ「穴場な街」ランキング7年連続1位の北千住。「住みたい街」の総合順位も昨年の28位から23位に上昇しました。特に、「20代(18位)」「シングル男性(15位)」「夫婦のみ世帯(15位)」から多くの支持を集め、前回調査に比べて「共働き夫婦世帯」「夫婦+子ども世帯」の得票も増えるなど、幅広い層から推されていることが分かります。
北千住が穴場たる所以は、交通利便性、生活利便性が高いわりに住宅コストを抑えられる点。たとえば、築40年未満のファミリー向け中古マンションの価格相場は4980万円。東京駅から15km圏内の駅では圧倒的に手頃で、住みたい街ランキング上位30位までのなかでは断トツの安さです。
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、築40年未満の40平米以上、80平米未満の物件(敷地権利は所有権のみ)
【データ抽出期間】2023年8月1日~10月31日
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンションの物件価格(3億円以下)の中央値を算出
一方、賃貸物件もシングル向けの家賃相場が7万8000円、カップル・ファミリー向けは14万7000円で、こちらも住みたい街ランキング上位50位までで東京駅まで10km圏内で比較してみると、かなり割安です。
【調査対象物件】 駅徒歩 15 分以内 シングル :築年数35年以内の10 平米以上~40 平米未満(1R,1K,1DK)の物件(定期借家を除く) ファミリー:築年数35年以内の50 平米以上~80 平米未満の物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】 2023/8/1~2023/10/31
【家賃の算出方法】上記期間で SUUMO に掲載された賃貸物件(マンション/アパート)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出
また、商店街には激安の惣菜店、駅前の飲み屋横丁には、いわゆる「せんべろ」の居酒屋が点在しているほか、駅周辺には日常使いのスーパーも多いなど、あまりお金をかけずに生活できる環境は大きな魅力です。
北千住の街が大きく変わるきっかけになったのが、大学の誘致。足立区では2000年に放送大学が綾瀬から北千住にある「学びピア21」へ移転したのを皮切りに、2006年に「東京藝術大学」の千住キャンパス、2007年に「東京未来大学」、2010年に「帝京科学大学」、2012年に「東京電機大学」と12年間で5つの大学が誕生。現在では、北千住駅周辺で合計1万5000人(※)の学生が通っています。
※谷塚駅が最寄りの文教大学東京あだちキャンパス 学生約2000名を加えると足立区では約1万7000人
実は、現在の東京電機大学がある場所はもともとマンションの建設が検討されていたといいます。しかし、一過性でない人の流入を目指し、計画を変更して大学の誘致へと舵を切りました。その結果、駅周辺には大学生を中心に常に若者たちの活気が生まれ、そこから少し離れた川沿いの自然豊かな環境に住宅が整備されるという、バランスの良いまちづくりがなされています。
大学のチカラを街のチカラに特筆すべきは、大学を誘致して終わりではなく、大学と区が積極的に連携し街の活性化につなげている点。足立区役所のシティプロモーション課では、大学側との窓口になる担当者を複数配置し、6つの大学全てと連携事業を実施しています。たとえば、大学構内で小・中学生向け講座を実施したり、大学生と未就学児、小中学生がコミュニケーションをとれる機会をつくることで、子どもたちの大学や研究への関心を高めたり。他にも、街の人が参加できる大人向けの講座を開いたり、芸大コンサートに地域の人を招待したり、帝京科学大学で高齢者向けの認知症に関する講座を実施したりと、全ての年代にフィットする講座を用意。2023年は153の連携授業を実施しています。
また、東京藝大と足立区、NPOによる「昔まち千住の縁」は、十数年前から続く街中アートプロジェクト。”音”をテーマとした多種多様なプログラムを展開していて、これをきっかけに複数のアートスポットが区内に誕生。「千住=アートの街」をイメージづけると同時に、アーティストと学生、住民同士の交流につながるなど、さまざまな波及効果が生まれています。
【せんつく】……「つくる」と「学ぶ」がテーマの交流拠点。建築家の青木公隆さんを中心に2つの空き家をリノベーションし、飲食店やパン教室、整体、学習塾などが活動するほか、イベントやハンドメイドなどのワークショップも行われている
【仲町の家】……千住大橋の建設に尽力した石出掃部介吉胤(いしでかもんのすけよしたね)の子孫が守ってきた日本家屋と庭を活かした文化サロン。展覧会や音楽イベントなどが行われる
10年以上におよぶ「教育」への取り組みここ10年あまり、足立区が特に力を注いできたのが「教育」への取り組み。全国でも珍しい「学力定着推進課」を設置し、「誰一人取り残さない」をキーワードに子どもたちの学習を手厚くサポートしてきました。個々の学力に合わせたフォローはもちろん、成績上位でありながら家庭の事情等で塾に行けない中学3年生を対象に民間教育事業者を活用した「足立はばたき塾」を開校するなど、子どもが学ぶ機会を失わないための取り組みに注力しています。
その際たるものが、2023年度からスタートした「返さなくていい奨学金」。成績優秀でも家計的に進学が難しい子どもに対し、大学等に在学する期間(正規の修業年限)について、返済不要の奨学金を給付するというものです(40人まで)。他にも、中学1年生を対象にした勉強合宿、放課後や夏休み期間を利用し前年度のつまずきを解消する個別補習なども。
これら、区独自の学力向上支援策は着実に実を結びつつあります。2023年の「学習定着度調査(※前学年における学習内容の定着状況を把握するための調査)」では、中1、中2の英語と中3の数学を除く、ほとんどの学年・科目で全国平均を上回りました。
もともとの住みやすさ、荒川・隅田川沿いの環境の良さに加え、十数年にわたる区の取り組みが実り始めたことで、じわじわと人気が高まってきた北千住。今回の「住みたい街」の総合順位でも23位と、TOP20以内をうかがう位置にまできています。もはや「穴場の街」ではなく、その魅力が多くの人に認知されつつあることの証といえるかもしれません。
●関連サイト
SUUMOリサーチセンター「SUUMO住みたい街ランキング2024 首都圏版」プレスリリース
2014年からtoCスタートアップによるプレゼンイベント「sprout(スプラウト)」が開催されているが、今回はスピンオフ企画として、建築系学生によるプレゼンイベント「sprout student edition」を行うと聞いた。当初は、学生が建築関係のアイデアをプレゼンする場だと思っていたが、よく調べると単なるアイデアレベルではないようなのだ。プレゼン現場に行って、実際に聞いてみた。
7チームが10枚のスライドを200秒でプレゼンsproutでは、10枚のスライドを20秒ずつ流す形でプレゼンする、という独特の手法をとっている。強制的に切り替わるので、スライドが次に移ってしまったり、説明するスライドが出るのを待ったりといったことも起こるが、200秒で終わるというのがルールだ。それぞれのプレゼン後には、登壇者のテーマ領域に精通する起業家やスタートアップに関わりが深いプロのゲストコメンテーターの感想も聞ける。
今回のゲストコメンテーターは、清水義次さん(株式会社アフタヌーンソサエティ 代表取締役)、冨田阿里さん(株式会社スマートラウンド 取締役チーフエバンジェリスト)、國枝伸行さん(東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ)の3人。
ではまず、学生7チームのプレゼン内容を登壇順に、簡単に紹介しよう。
1番手は、生成AIを用いた、地域性をもとにしたボトムアップデザインの探求を行うプロジェクトチーム「NESS」だ。実際に地域芸術祭が開かれた墨田区京島(戦火を免れた長屋が多く残る下町)で生成した画像を展示したり、再開発が推進されている赤羽地区で高齢者も巻き込んだワークショップを行うなど、すでに実証実験を実施している。また、ワークショップツールからプラットフォームへ展開し、意思データを介して行政と住民の合意形成の一助を作るという構想も持っている。
プレゼン後は、東急の國枝さんが「ワークショップでは、人の意見に対して意見しづらいなど本音がつかみにくいところがあるが、AIを使うことで本音を引き出しやすくなるだろう」とコメントするなど、3人それぞれが感想を述べた。
登壇者:早稲田大学創造理工学部建築学科中谷研究室 B4 森原正希さん、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 M2 須藤望さん
2番手は、「Withvac」。センシング(センサーと呼ばれる検知器によって測定の対象を計測し、定量的な情報を取得する技術)によって得られる設備の運転データをAIを用いて高度に解析することで、設備の不具合や非効率な運転を自動で検知し、設備のメンテナンスを効率化・高度化するためのプロジェクト。将来的には運用段階における建築物のあらゆるデータを、ビル単体ではなく周辺を含めて統合的に扱うプラットフォームをつくり、データ連携によって環境問題にアプローチしたいと考えている。
登壇者:東京大学工学部建築学科4年 宮田龍弥さん、東京大学工学部建築学科3年 藤間朋久さん
3番手は、「COLUB」。読書会を開こうと思ったときの最大のハードルが「始まらないこと」と「続かないこと」といった事例から、事前準備のいらない独自の読書会スタイルや簡単にテーマ選定・日程調整ができる「ともに学ぶためのツール」を提供して、すでに70回以上の勉強会を開催している。このツールをさらに、自身の大学の建築系学生や芸大建築系の学生、ゼネコンやシェアオフィスコミュニティなどにも広げることで、都市に集うツールにしたいと考えている。
登壇者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 M1 山路湧さん
4番手は、「ReLink」。Re(リユース)×Link(つなぐ)のことで、解体されて残せない建物に、リユースデザインを提供しようというもの。すでに存在する中古建材販売市場のストック情報とデザインアイデアのデータベースを提供することで、中古建材を見つけやすくしたり中古建材の残し方を探しやすくしたりでき、これまで捨てられていた部材と空間デザインのバリューチェーン・サプライチェーン構築をするという考えだ。
登壇者:明治大学大学院理工学研究科建築・都市学専攻構法計画研究室 D1 本多栄亮さん
5番手は、「stitch」。テーマは家具のリメイク。アンティークやブランド家具だけでなく、身近な家具もリメイクする手法を確立することで、どんな家具でもリメイクを楽しめる出会いのある家具ブランドへとつなげていきたいと考えている。
登壇者:多摩美術大学大学院美術研究科 デザイン専攻環境デザイン領域 松澤穣研究室 M1 森田靖之さん
6番手は、「Pochant」。大量生産されてきた無個性の箱型建築は、予定調和な空間になってしまっていることから、室内空間に波風を立てる存在を置いて空間を流動的にしたいと考えた。いろいろな素材の流動物を自室に置いて実験し、不織布をPochantとして箱型空間に置くことで生活がどう変わるかを検証している。
登壇者:東京藝術大学美術学部建築科学部 B4 馬場 悠輔さん
7番手は、「おちば」。寄席の画一的な空間ではなく、落語の演目から高座、木戸、屏風といった舞台空間をデザインし、噺(はなし)の世界観に没入してしまうようなアーティステックな落語会を実現しようとしている。今年のGWに落語「愛宕山」で実施する予定。おちばは、街なかに落ち葉がひらりと舞い落ちるようにして都市に生まれる“落ち”の“場”なのだとか。
登壇者:東京大学大学院 新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻 M1 中山亘さん
以上が、7チームのプレゼンだ。200秒なので、とにかく展開が速く、文系脳の筆者には苦手なAIの話ではついていくのが難しかった……。とりあえず、筆者が理解できた範囲なので、不正確かもしれない点を了解いただきたい。
優勝者はオーディエンスの投票で決定!「sprout」の特徴は、プレゼンの優勝者をイベントに参加したオーディエンスの投票で決めること。投票フォームを見たら、それぞれのプレゼンを5点満点で評価していく形式で、多く得点したチームが優勝ということのようだ。
QRコードで投票をする。ゲストコメンテーターの3人もそれぞれスマホで投票した
まず、イベントを共催する一般社団法人HEAD研究会賞が紹介され、「Pochant」の馬場さんが射止めた。そして、優勝者は、「NESS」の森原さん・須藤さんに決定。前回のスタートアップの優勝者(LIFULL ArchiTech 北川啓介さん)からトロフィーが贈呈された。
優勝したNESSの2人にトロフィーが贈呈された
ゲストコメンテーターの國枝さんは、各プレゼンの感想の際に何度も、東急でできないか、東急沿線でやらないかと話していたので、閉会後にイベントの感想を聞いた。まず、レベルの高さに驚いたという。「マネタイズはこれからだと思うが、自分たちの情熱から純粋に提案しているのが社会人にはない強みだと感じる。使う側の目線に立っていけば、さらに発展すると思う」ということだった。
レベルが高いのは、インキュベーション・プログラムを経た7チームだからプレゼンのレベルが高いのには、実は理由がある。登壇者は、一般社団法人ASIBAの第1期プログラムの卒業生で、2カ月間の都市建築領域に特化したインキュベーション・プログラムを経た7チームだからだ。
では、「ASIBA」(Architecture Studio for Impact Based Action)とはなにものか、代表理事 二瓶雄太さん(東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻修士課程)に聞いた。
一般社団法人ASIBA 代表理事 二瓶雄太さん
二瓶さんは建築の中でも解体の研究をしていたが、解体がテーマとなると扱わなければならない領域は広く、社会に出ていく必要があると感じていた。そんなとき、同じテーマを研究していた早稲田大学の森原さん(NESSの登壇者の一人)と知り合った。建築系学生が思い描く提案を、提案に留まらずに社会に実装するには仲間と環境が必要で、ないなら自分たちでやったらよいとASIBAを立ち上げた。幸いなことに、まだ実績もない中で、清水建設や日建設計といった日本の建築界のビッグ企業がリターンを求めずに応援してくれた。
参加者と伴走しながらそれぞれの提案を実装する力を育てる、ASIBAのインキュベーション・プログラムでは、毎週課題を設けて展開していく。そこにはゲストとして、東京R不動産のディレクターを務める林厚見さんほか、パートナー企業から第一線で活躍する人や東京大学の准教授などが、レクチャーや学生のプレゼンの講評を行っている。それを受けて学生たちは仮説検証を重ねて、最後に最終講評会を行った。と、ここまでやったチームによるプレゼンなので、レベルが高いわけだ。
学生たちのホンキ度もかなりのものだ。閉会後に優勝したNESSの須藤さんに話を聞いた際に、このプロジェクトをライフワークとして取り組んでいきたいと話していた。学生なので、プロジェクトは将来へのステップとしてとらえているのかと思ったのだが、強い信念で始めてなんとかビジネスにつなげたいと考えていることが伝わってきた。NESSが優勝したが、最終講評会から2カ月たって、他のチームがさらにブラッシュアップしているとも言っていた。
ReLinkの本多さんも、震災で壊れた住宅をなんとか一部でも残せないか、解体が決まったが看板だけでも残せないかといった相談が、人づてに来ているという。すでに構想や提案なのではなく、実社会とつながっているようだ。
こうした経緯から、今回の建築系学生によるプレゼンイベント「sprout~プレイスティック student edition~」は、スタートアップを支援し「sprout」を運営するバ・アンド・コー株式会社と、HEAD研究会、ASIBAの3者が共催となっている。プレゼンを聞いた筆者は、学生の情熱に大いに元気をもらった気がする。建築業界の未来が、なんだか楽しみになってきた。
※掲載写真はすべて筆者が撮影したものです。
省エネ性能の高い住宅への関心が高まっている。2050年のカーボンニュートラルに向けて、政府が省エネ住宅を推進していることなども、その背景にある。国土交通省では、省エネ住宅を推進する一方で、そうした住宅を住みこなすための25のポイントをまとめ、公開した。そのポイントを詳しく見ていこう。
【今週の住活トピック】
「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす住まい方ガイド ~高機能な住宅の性能を発揮させる25のポイント~」を公開/国土交通省
国土交通省がまとめた住まい方ガイドでは、断熱性能の高い住宅を、日中の日射しなども活用して、効果的に住みこなす工夫をまとめている。その前提となる「断熱性能の高い住宅」については、住宅性能表示制度における「断熱等性能等級6以上」の住宅を対象としている。
「断熱等性能等級」とは、国が定める「住宅の品質確保の促進等に関する法律」にて明示されているもので、住宅の多様な性能のなかで断熱性能を示す指標のことだ。現在は1等級~7等級まであり、等級が高いほど、高い断熱性能を有していることになる。
出典:省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす住まい方ガイド
なお、政府が2025年にすべての新築住宅に適合を義務づける「省エネ基準」のレベルは、「断熱等性能等級4」かつ「一次エネルギー消費量等級4」だ。一般的に、省エネ住宅といえば、この「省エネ基準適合住宅」を指す。政府はさらに、この省エネ基準を2030年までに「ZEH水準」に引き上げようとしているが、ZEH水準のレベルは「断熱等性能等級5」かつ「一次エネルギー消費量等級6」だ。
今回のガイドは、それよりもさらに高い断熱性能を有する、「断熱等性能等級6以上」の住宅を前提としている。この等級になると、省エネだけでなく、住宅内に温度差がない健康的で快適な生活が送れるレベルになる。かなり高い断熱性能を前提としていることになるのだが、住まい方の25のポイントは、そこまで高い性能を有していなくても効果はある内容なので、ぜひ知っておいてほしい。
ちなみに、「断熱等性能等級」は住宅そのものの断熱性を測るもので、「一次エネルギー消費量等級」は住宅で使うエアコンや給湯器などの効率性や太陽光発電設備などのエネルギー量を総合的に測るものとなっている。
住まい方の25のポイントを一挙に紹介それでは、ガイドに掲載された25のポイントを紹介しよう。
視点1:熱が逃げない断熱性が高い住宅は季節に応じた日射しのコントロールが大切
①(夏)日射しは冷房の大敵!窓からの日射しをしっかり遮りましょう
②(夏)外出する際は日除けを閉めて熱を入れないようにしましょう
③(冬)日射しは暖房の助っ人!窓からの日射しの熱で家中を暖めましょう
④(春・秋)室温に合わせて窓からの日射しを調整しましょう
視点2:暖冷房機器を適切に運転することで少ない暖冷房エネルギーでも快適に
⑤在宅時、暖冷房設備は風量「自動」で「連続」運転しましょう
⑥断熱性の高い住宅では暖冷房の設定温度を控えめにしましょう
⑦暖冷房機器の定期的なメンテナンスで効率を向上させましょう
⑧冷房運転時に設定温度に到達して除湿機能が働かない場合には除湿モードに切り替えたり除湿機を活用しましょう
⑨外の湿度が高い時には窓を閉めておくようにしましょう
⑩乾燥が気になる場合には適度に加湿しましょう
視点3:断熱性が高い住宅では空間をつなげて気持ち良い空気を家中に
⑪各室の内部ドア等を開けて家中を暖冷房しましょう
⑫扇風機やサーキュレーター等で冷気を家中に回しましょう
⑬サーキュレーターや小さな暖房器具を併用することで家中を暖めましょう
⑭24時間換気設備は常時運転させましょう
⑮外気が快適な場合は窓を開けましょう
⑯室内に熱がこもったら窓を開けましょう
視点4:災害時でも日常生活を維持するために高性能な機能をもしもの備えに
⑰電気・ガスなどのインフラが止まっても在宅避難ができます
⑱太陽光発電の電気を利用しましょう
⑲蓄電池を利用しましょう
⑳エネファーム(家庭用燃料電池)を活用しましょう
㉑給湯機を活用しましょう
断熱性が高い住宅を住みこなすもうひと工夫
㉒室内外の温湿度を確認しましょう
㉓カーテンの設置の仕方、開け閉めで調整しましょう
㉔季節に応じた服装で調整しましょう
㉕植栽で日射しを調整しましょう
出典:省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす住まい方ガイド
断熱性能の高さを活用するための4つの視点まず、断熱性能の高い住宅は外への熱の出入りが少ないことから、「季節に応じて日射しをコントロールする」というのが第1の視点だ。特に注目したいのは、窓の内側でカーテンなどによって日射しを遮る(約60%の日射熱が入る)よりも、窓の外側でブラインドなどによって日射しを遮る(約20%の日射熱が入る)ほうが、効果が大きいということ。また、窓の前の地盤面に植栽などを配置して照り返しを防ぐものも、効果があるということも覚えておきたい。
出典:省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす住まい方ガイド
第2の視点は、断熱性能の高い住宅では、「暖冷房機器を適切に運転する」というもの。夏や冬になると、エアコンの効果的な使い方について、マスメディアやSNSで多くの情報が流れていることからも、よく知られている工夫といえるだろう。
第3の視点は、断熱性能の高い住宅ならではだろう。少ない台数のエアコンでも、住宅内全体を暖冷房できるからだ。「空間をつなげて気持ち良い空気を家中に」という視点になっている。その際に、サーキュレーターや扇風機(夏)、小さな暖房器具(冬)を使うことも効果的だという。
夏は、エアコンの冷気と同じ風向きにサーキュレーターや扇風機を置くと、室内の下に溜まった冷気を循環させるので、室内全体を冷やすことができるといわれている。冬も、暖気が循環するようにサーキュレーターを置いたり、暖気が回っていない場所に小さな暖房器具を置いたりして、住宅全体を暖めると良いという。
出典:省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす住まい方ガイド
第4は「高性能な機能をもしもの備えに」という視点。つまり、高機能の設備などを設置している場合は、災害時などで在宅避難に役立つ使い方ができるというものだ。太陽光発電設備や蓄電池、エネファーム(家庭用燃料電池)、貯湯ユニットがある給湯器(エコキュートなど)があれば、停電や断水でも一定の電気や水が使えるからだ。
そのほか、「もうひと工夫」として、カーテンの設置方法や服装、植栽などによる工夫と、室内外の温度や湿度を確認することの重要性を紹介している。
たとえ住宅自体の断熱性能が高いとしても、夏の暑い日射しや冬の冷気をそのまま取り込んだり、エアコンの設定温度を適切にしていなかったりすると、無駄なエネルギーを使ってしまうことになりかねない。せっかく備わった住宅の性能なので、住み方を工夫してより省エネ性を高めることを考えたいものだ。ガイドはネットで無料公開されているので、より詳しい情報を知りたい人は、ホームページからダウンロードしてはいかがだろうか。
●関連サイト
国土交通省「断熱性の高い住宅でのオススメの住まい方、紹介します」
令和5年度 国土交通省補助事業「省エネ性能に優れた断熱性の高い住宅を住みこなす住まい方ガイド」
「地方に空家があるなら、移住希望者に住んでもらえばいいんじゃない?」そんな誰もが空想する取り組みを実行に移し、大成功している自治体があります。富山県上市町です。では、どのようにして成功させたのでしょうか。現場を見学してきました。
0円空家バンクに希望者殺到。能登半島地震の被災者も受け入れ富山県上市町は、富山駅から電車で約25分の約2万人の町(令和6年1月31日時点)です。町内の多くは山岳地で、名峰・剱岳があるほか、映画『おおかみこどもの雨と雪』(細田 守監督)の舞台になった町でもあります。以前、SUUMOジャーナルでは、「古民家をイメージした公営住宅が誕生!」という記事でもご紹介しました。
この上市町で2022年にはじまったのが「上市町0円空家バンク」(空家解消特別推進事業)です。仕組みとしてはとてもシンプルで、空家所有者の依頼・要望を受けて、行政が建物や土地の現地調査を行い、0円空家バンクに登録します。0円空家バンクを見て取得を希望する人を募集し、内覧会を実施したうえで、空家所有者が取得希望者を選定し、契約を締結、譲渡という流れになります。
上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)
空家所有者は無償で建物や土地を譲渡できるほか、相続手続き・不用品の処分費用として最大10万円の補助が受けられます。また、取得希望者は住宅が0円で手に入るだけでなく、定額50万円(所有権移転登記費用が発生する場合には贈与税など)の補助があり、さらに該当すれば移住定住の助成金を受け取れます。一方で上市町は空家の指導や特定などに人手を割く必要がなくなり、人口減少どころか定住者の増加、税収増も見込めます。
まさに三方良しの取り組みとあって、2022年度の制度スタートからすぐに人口増へとつながり、その年度のうちで転入者数が前年度より77人、2023年度にはさらに170人まで伸びています。なかでも県外転入者数は、2022年度に前年度の4.4倍となり、2023年度には2021年度の5.9倍まで増加しています。
また、今年1月に発生した能登半島地震の被災者も、2月にこの「0円空家バンク」を利用して移住につながりました。建物の所有者が「被災者の力になりたい」ということで、譲渡が決まったといいます。空き家が住まいという資源として活用できている、好事例といってよいでしょう。
空家を持つと“詰む”!? 所有者にも補助金を出す理由とは「空家バンク」そのものは全国各地にありますが、ここまで成果が出ている自治体はなかなかありません。上市町の取り組みにはどういった特徴があるのでしょうか? 上市町建設課の金盛敬司主幹に話を聞きました。
上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)
「以前は、私は固定資産税を担当する部署にいたのですが、空家の所有者から、実家が空家になっているので手放したいという相談を受けていました。その後、現在の建設課に異動になったところ、できるだけ安く住まいを手に入れたい、空家を紹介してもらいたいというニーズがあることに気づきました。副町長からも大胆な取り組みを、という後押しもあり、不動産業者が取り扱わない『無料』の物件に絞って、町が紹介すればいいんじゃないか、という仕組みを思いつきました」と解説します。
0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)
不動産は売却額が200万円以下の場合、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限は「成約価格× 5%」+消費税と決められています。ただこの手数料では事業として利益を出すことができず、事実上、扱うことはほとんどありません。そのため、「0円でもいいから引き取ってほしい」という要望があっても流通することはなく、空き家として放置されてしまうのです。国は対策として、2023年より「相続土地国庫帰属制度※」をはじめましたが、手放すにも20万円もしくはそれ以上の「負担金」や各種手続きが発生するので、「手放すのにもお金がかかる……」と二の足を踏む人がいるといいます。
※相続土地国庫帰属制度/相続または遺贈(遺言によって特定の相続人に財産の一部または全部を譲ること)によって土地を相続した人が、土地を手放し、国庫に帰属させることを可能にした制度
空家・農地に十分な市場価値がない、売却に必要な図面や書類がない、国庫に帰属させようにもお金がかかる、建物を解体したくても解体費用が出せない、家庭や健康状態によっては家財や荷物の片付けができない。さらに思い入れのある家だからこそ、譲渡する相手は誰でもいいわけではない。経済面はもちろん、感情面も入り交じり、より問題を複雑にしています。「上市町0円空家バンク」では、こうした所有者の事情を考慮して空家所有者にも費用を助成し、譲渡先の決定権も所有者が決める制度です。
「空家所有者には、食器や仏壇、寝具、壊れた家電などは処分していただくことと、権利や担保は整理・抹消と相続してから登録していただくことを説明しています。一方で、タンスなどの大型家具に関しては利活用できることもありますので、そのままでよいですよとお伝えしています。間取図は法務局と固定資産税担当の部署で閲覧し、私が図面を作成します。写真も撮影して、0円空家バンクに登録。複数の応募者のなかから、基本的には直接会っていただき、この人なら、という方に譲渡を決めていただきます」(金盛さん)
空家に残された立派な家財たんす。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)
これは、金盛さんが一級建築士でもあるからこその機動力です。ちなみに前述の映画監督の細田守さんとは中学の同級生で高校進学時に先生がこの2人を呼んで、美術の道を目指すように勧めたとか。出てくるエピソードにまたまたびっくりします。
<「上市町0円空家バンク」の空家所有者のメリット>
・家財の処分費用助成がある
・譲渡相手を見つけてもらえるが、最終決定は自分たちで行う
・譲渡に必要な物件写真撮影や間取図作成、応募者募集は行政が行う
一方で、取得希望者にも安全な住まいを用意するよう、配慮しています。
「どんな建物でも0円空家バンクに登録できるのか、というとそうではありません。われわれが現地調査を行い、損傷度や危険性に応じて1から4ランクまで判定します。居住するには危険がないと判断でき、なおかつ不動産会社が取り扱わないものを0円空家バンクに登録し、希望者を募るのです。一方で100万円~500万円など価格がつきそうなものは、不動産会社を紹介し、扱ってもらっています。逆に不動産会社から行政に相談して、といわれることもあり、お互いに補い合っている関係です」(金盛さん)
また、0円空家バンクで上市町を知り、内見に来て土地を気に入り、中古住宅を購入して引越してくることもあるよう。
「上市町は、富山駅まで富山地方鉄道も利用できますし、行政や病院、学校、商業施設などもまとまっています。建物が0円というのでどんな山奥・へき地かと思ったら、コンパクトで便利そう、気に入ったとのお声を聞きます。0円空家バンクの住宅取得者には50万円が助成されますが、ほかにも若者・子育て世帯定住促進事業などの他の助成制度を使えば、住宅取得補助費用として最大360万円までもらえます」(金盛さん)
上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)
「上市町0円空家バンク」は、充実した移住定住ポータルサイトをもっているほか、YouTubeでも情報発信をしており、首都圏はもちろん、関西、沖縄、海外からはアメリカやオーストラリア・ドバイなどからも申し込み・反響があったとか。基本は現地で内見しますが、難しい場合はオンラインで建物のルームツアーを行い、紹介しています。こうした「かゆいところに手が届く」あたりも成功の秘訣といえそうです。
こうした情報発信がうまくいき、一時期、不動産会社からは「上市町から売る土地・不動産がなくなった」とまでいわれたほど。もちろん、移住者が来てくれれば、家具や家電、リフォーム、カーテンなどの家財を購入する必要があり、地元企業にも還元されていきます。民間の不動産会社で利益が出せるものは民間で行い、行政にしかできないことに絞って行うというのも大きなポイントのようです。
移住者が近隣コミュニティと打ち解けるため、LINEを活用上市町のこの0円空家バンクでは、今まで17号まで登録され、うち16物件が契約済みとなっています。(令和6年3月18日時点)そのなかには、建物の雑草対策としてヤギの飼育をはじめ、それをきっかけに子どもたちや近所の人とのつながりもでき、地域コミュニティにもすっかりと打ち解けたという移住者もいるそう。
赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)
ヤギと飼い主さん。これは人の輪が広がります(写真提供/上市町建設課)
「この制度を利用して移住してきた方からは、可処分所得と時間が増えたということをよく聞きます。通勤時間が短くなったり、テレワークをしたりすることで、家族といっしょに過ごす時間が増えた、また、住宅ローンや家賃に縛られずに使えるお金が増えたという声もありますね。水、お米、魚、野菜がおいしい、山が美しいと、改めて上市町の良さを教えてもらえることも多いですね」(金盛さん)
また、移住者がスムーズに地域コミュニティに打ち解けられるよう、LINEオープンチャット「ウェルカミ」を開設し、地域の情報を発信していて、住民情報交換、交流の場をつくっているとか。年1回にオフ会も行い、リアルとSNSの両方で移住支援を行っています。
上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)
<「上市町0円空家バンク」の移住者側のメリット>
・0円で土地、建物などが入手できる
・国内外の遠方、オンライン内見も可能
・移住後は地域コミュニティに打ち解ける仕組みも
では、0円空家とはどのような物件なのでしょうか。実際に2物件を見学させてもらいました。まず、向かったのは上市駅近くの121平米、1962年(一部1972年)築の建物です。こちらは能登半島地震で被災された方が住むことが決定しています。店舗付き住宅だったようで、道路に面して建物がひらかれているのが特徴で、2階は和室となっています。建物全体に古さは感じるものの、キッチン、バス、トイレといった水回りをリフォームし、窓は二重窓にすれば、ぐっと住みやすくなるのが素人目にもわかります。
上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
玄関を開けるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
一階の和室は、畳もキレイな状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
そして、もう一軒の0円空家を見学させていただきました。こちらは建物内部ではなく、外側から。土地と私道をあわせて約800平米、住宅220平米で間取り10DK、車庫と物置で50平米超になります。建物はいちばん古いもので1971年築、増改築を重ねていますが、まだまだ住めるというか、こんな立派な家が0円!?と驚きを隠せません。これが0円で住めるのであれば、私はなんのために都会で生きているのか、人生の価値基準が揺らぐ音がします。
こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。眼の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
現在も取得希望者・空家登録者を募集中!制度はよりブラッシュアップして継続へこの取り組み、以前から上市町に暮らす住民たちからも好評だとか。
「やはり隣家が空家だと、火事や、動物が住み着く、台風や雪などの自然災害での倒壊の危険など、不安が募るようです。若い世代に住んでもらえてうれしい、ほっとしたという声を聞きます」(金盛さん)
家は人が住んでいないとあっという間に劣化していきます。新しい人が入居し、手入れをしながら住んでもらえたら、これほどに幸せな出会いはありません。また、今回のような震災があった場合、被災者支援にも有効であることがわかりました。
上市町には、誰も居住していない、売買市場にも取引されていない空家が、現在、336戸ほどあるといいます(令和6年1月取材時点)。これを単なる「空家」だと思うと負債になりますが、この仕組みでマッチングが成立していけば、立派な「資源」であり、「伸びしろ」ということになります。金盛さんは、「まずは空家の所有者の方に登録してもらいたい」といい、今ある制度をよりブラッシュアップし、次世代につなげていくと意気込んでいます。
取材をしたあとには、制度そのものもすばらしいですが、「空家を所有する人」「移住を考えている人」のお困りごとを一つずつ解決していく、「ていねいさ」「人柄のよさ」が心に残りました。制度をつくるのも人ですが、運用するのも人。良い町を次世代に残していきたい、そんな思いが「上市町0円空家バンク」成功の秘訣だと思いました。
●取材協力
上市町移住・定住ポータルサイト
富山県上市町公式ホームページ
「地方に空家があるなら、移住希望者に住んでもらえばいいんじゃない?」そんな誰もが空想する取り組みを実行に移し、大成功している自治体があります。富山県上市町です。では、どのようにして成功させたのでしょうか。現場を見学してきました。
0円空家バンクに希望者殺到。能登半島地震の被災者も受け入れ富山県上市町は、富山駅から電車で約25分の約2万人の町(令和6年1月31日時点)です。町内の多くは山岳地で、名峰・剱岳があるほか、映画『おおかみこどもの雨と雪』(細田 守監督)の舞台になった町でもあります。以前、SUUMOジャーナルでは、「古民家をイメージした公営住宅が誕生!」という記事でもご紹介しました。
この上市町で2022年にはじまったのが「上市町0円空家バンク」(空家解消特別推進事業)です。仕組みとしてはとてもシンプルで、空家所有者の依頼・要望を受けて、行政が建物や土地の現地調査を行い、0円空家バンクに登録します。0円空家バンクを見て取得を希望する人を募集し、内覧会を実施したうえで、空家所有者が取得希望者を選定し、契約を締結、譲渡という流れになります。
上市町0円空家バンクの仕組み(資料提供:上市町役場)
空家所有者は無償で建物や土地を譲渡できるほか、相続手続き・不用品の処分費用として最大10万円の補助が受けられます。また、取得希望者は住宅が0円で手に入るだけでなく、定額50万円(所有権移転登記費用が発生する場合には贈与税など)の補助があり、さらに該当すれば移住定住の助成金を受け取れます。一方で上市町は空家の指導や特定などに人手を割く必要がなくなり、人口減少どころか定住者の増加、税収増も見込めます。
まさに三方良しの取り組みとあって、2022年度の制度スタートからすぐに人口増へとつながり、その年度のうちで転入者数が前年度より77人、2023年度にはさらに170人まで伸びています。なかでも県外転入者数は、2022年度に前年度の4.4倍となり、2023年度には2021年度の5.9倍まで増加しています。
また、今年1月に発生した能登半島地震の被災者も、2月にこの「0円空家バンク」を利用して移住につながりました。建物の所有者が「被災者の力になりたい」ということで、譲渡が決まったといいます。空き家が住まいという資源として活用できている、好事例といってよいでしょう。
空家を持つと“詰む”!? 所有者にも補助金を出す理由とは「空家バンク」そのものは全国各地にありますが、ここまで成果が出ている自治体はなかなかありません。上市町の取り組みにはどういった特徴があるのでしょうか? 上市町建設課の金盛敬司主幹に話を聞きました。
上市町建設課の金盛敬司主幹(左)と企画課の盛一紗弥子係長(撮影/SUUMO編集部)
「以前は、私は固定資産税を担当する部署にいたのですが、空家の所有者から、実家が空家になっているので手放したいという相談を受けていました。その後、現在の建設課に異動になったところ、できるだけ安く住まいを手に入れたい、空家を紹介してもらいたいというニーズがあることに気づきました。副町長からも大胆な取り組みを、という後押しもあり、不動産業者が取り扱わない『無料』の物件に絞って、町が紹介すればいいんじゃないか、という仕組みを思いつきました」と解説します。
0円空家バンク誕生の経緯(資料提供/上市町建設課)
不動産は売却額が200万円以下の場合、不動産会社が受け取れる仲介手数料の上限は「成約価格× 5%」+消費税と決められています。ただこの手数料では事業として利益を出すことができず、事実上、扱うことはほとんどありません。そのため、「0円でもいいから引き取ってほしい」という要望があっても流通することはなく、空き家として放置されてしまうのです。国は対策として、2023年より「相続土地国庫帰属制度※」をはじめましたが、手放すにも20万円もしくはそれ以上の「負担金」や各種手続きが発生するので、「手放すのにもお金がかかる……」と二の足を踏む人がいるといいます。
※相続土地国庫帰属制度/相続または遺贈(遺言によって特定の相続人に財産の一部または全部を譲ること)によって土地を相続した人が、土地を手放し、国庫に帰属させることを可能にした制度
空家・農地に十分な市場価値がない、売却に必要な図面や書類がない、国庫に帰属させようにもお金がかかる、建物を解体したくても解体費用が出せない、家庭や健康状態によっては家財や荷物の片付けができない。さらに思い入れのある家だからこそ、譲渡する相手は誰でもいいわけではない。経済面はもちろん、感情面も入り交じり、より問題を複雑にしています。「上市町0円空家バンク」では、こうした所有者の事情を考慮して空家所有者にも費用を助成し、譲渡先の決定権も所有者が決める制度です。
「空家所有者には、食器や仏壇、寝具、壊れた家電などは処分していただくことと、権利や担保は整理・抹消と相続してから登録していただくことを説明しています。一方で、タンスなどの大型家具に関しては利活用できることもありますので、そのままでよいですよとお伝えしています。間取図は法務局と固定資産税担当の部署で閲覧し、私が図面を作成します。写真も撮影して、0円空家バンクに登録。複数の応募者のなかから、基本的には直接会っていただき、この人なら、という方に譲渡を決めていただきます」(金盛さん)
空家に残された立派な家財たんす。まだまだ使用可能(撮影/SUUMO編集部)
これは、金盛さんが一級建築士でもあるからこその機動力です。ちなみに前述の映画監督の細田守さんとは中学の同級生で高校進学時に先生がこの2人を呼んで、美術の道を目指すように勧めたとか。出てくるエピソードにまたまたびっくりします。
<「上市町0円空家バンク」の空家所有者のメリット>
・家財の処分費用助成がある
・譲渡相手を見つけてもらえるが、最終決定は自分たちで行う
・譲渡に必要な物件写真撮影や間取図作成、応募者募集は行政が行う
一方で、取得希望者にも安全な住まいを用意するよう、配慮しています。
「どんな建物でも0円空家バンクに登録できるのか、というとそうではありません。われわれが現地調査を行い、損傷度や危険性に応じて1から4ランクまで判定します。居住するには危険がないと判断でき、なおかつ不動産会社が取り扱わないものを0円空家バンクに登録し、希望者を募るのです。一方で100万円~500万円など価格がつきそうなものは、不動産会社を紹介し、扱ってもらっています。逆に不動産会社から行政に相談して、といわれることもあり、お互いに補い合っている関係です」(金盛さん)
また、0円空家バンクで上市町を知り、内見に来て土地を気に入り、中古住宅を購入して引越してくることもあるよう。
「上市町は、富山駅まで富山地方鉄道も利用できますし、行政や病院、学校、商業施設などもまとまっています。建物が0円というのでどんな山奥・へき地かと思ったら、コンパクトで便利そう、気に入ったとのお声を聞きます。0円空家バンクの住宅取得者には50万円が助成されますが、ほかにも若者・子育て世帯定住促進事業などの他の助成制度を使えば、住宅取得補助費用として最大360万円までもらえます」(金盛さん)
上市町移住・定住ポータル「かみスイッチ」(写真提供/上市町建設課)
「上市町0円空家バンク」は、充実した移住定住ポータルサイトをもっているほか、YouTubeでも情報発信をしており、首都圏はもちろん、関西、沖縄、海外からはアメリカやオーストラリア・ドバイなどからも申し込み・反響があったとか。基本は現地で内見しますが、難しい場合はオンラインで建物のルームツアーを行い、紹介しています。こうした「かゆいところに手が届く」あたりも成功の秘訣といえそうです。
こうした情報発信がうまくいき、一時期、不動産会社からは「上市町から売る土地・不動産がなくなった」とまでいわれたほど。もちろん、移住者が来てくれれば、家具や家電、リフォーム、カーテンなどの家財を購入する必要があり、地元企業にも還元されていきます。民間の不動産会社で利益が出せるものは民間で行い、行政にしかできないことに絞って行うというのも大きなポイントのようです。
移住者が近隣コミュニティと打ち解けるため、LINEを活用上市町のこの0円空家バンクでは、今まで17号まで登録され、うち16物件が契約済みとなっています。(令和6年3月18日時点)そのなかには、建物の雑草対策としてヤギの飼育をはじめ、それをきっかけに子どもたちや近所の人とのつながりもでき、地域コミュニティにもすっかりと打ち解けたという移住者もいるそう。
赤ちゃんや動物ってそれだけで打ち解けますよね(写真提供/上市町建設課)
ヤギと飼い主さん。これは人の輪が広がります(写真提供/上市町建設課)
「この制度を利用して移住してきた方からは、可処分所得と時間が増えたということをよく聞きます。通勤時間が短くなったり、テレワークをしたりすることで、家族といっしょに過ごす時間が増えた、また、住宅ローンや家賃に縛られずに使えるお金が増えたという声もありますね。水、お米、魚、野菜がおいしい、山が美しいと、改めて上市町の良さを教えてもらえることも多いですね」(金盛さん)
また、移住者がスムーズに地域コミュニティに打ち解けられるよう、LINEオープンチャット「ウェルカミ」を開設し、地域の情報を発信していて、住民情報交換、交流の場をつくっているとか。年1回にオフ会も行い、リアルとSNSの両方で移住支援を行っています。
上市町オンライン交流コミュニティ「WELKAMI」(写真提供/上市町企画課)
<「上市町0円空家バンク」の移住者側のメリット>
・0円で土地、建物などが入手できる
・国内外の遠方、オンライン内見も可能
・移住後は地域コミュニティに打ち解ける仕組みも
では、0円空家とはどのような物件なのでしょうか。実際に2物件を見学させてもらいました。まず、向かったのは上市駅近くの121平米、1962年(一部1972年)築の建物です。こちらは能登半島地震で被災された方が住むことが決定しています。店舗付き住宅だったようで、道路に面して建物がひらかれているのが特徴で、2階は和室となっています。建物全体に古さは感じるものの、キッチン、バス、トイレといった水回りをリフォームし、窓は二重窓にすれば、ぐっと住みやすくなるのが素人目にもわかります。
上市町駅近くの0円空家(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
玄関を開けるとたたき、その奥に浴室。窓ガラスもレトロかわいい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
一階の和室は、畳もキレイな状態です。大きな姿見がありかつては美容室だったのかな、と推測できます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
そして、もう一軒の0円空家を見学させていただきました。こちらは建物内部ではなく、外側から。土地と私道をあわせて約800平米、住宅220平米で間取り10DK、車庫と物置で50平米超になります。建物はいちばん古いもので1971年築、増改築を重ねていますが、まだまだ住めるというか、こんな立派な家が0円!?と驚きを隠せません。これが0円で住めるのであれば、私はなんのために都会で生きているのか、人生の価値基準が揺らぐ音がします。
こちらが220平米・10DKの住まい。晴れていると美しい山々の景色を望めます(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
こちらは離れ。もちろん0円。ここをリノベしてサウナにしたい。眼の前の土地はととのいスペースなどにしたいと、妄想が止まりません(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
電動シャッター付きの車庫。2階は倉庫になっています。っていうかここに住めるのでは?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
現在も取得希望者・空家登録者を募集中!制度はよりブラッシュアップして継続へこの取り組み、以前から上市町に暮らす住民たちからも好評だとか。
「やはり隣家が空家だと、火事や、動物が住み着く、台風や雪などの自然災害での倒壊の危険など、不安が募るようです。若い世代に住んでもらえてうれしい、ほっとしたという声を聞きます」(金盛さん)
家は人が住んでいないとあっという間に劣化していきます。新しい人が入居し、手入れをしながら住んでもらえたら、これほどに幸せな出会いはありません。また、今回のような震災があった場合、被災者支援にも有効であることがわかりました。
上市町には、誰も居住していない、売買市場にも取引されていない空家が、現在、336戸ほどあるといいます(令和6年1月取材時点)。これを単なる「空家」だと思うと負債になりますが、この仕組みでマッチングが成立していけば、立派な「資源」であり、「伸びしろ」ということになります。金盛さんは、「まずは空家の所有者の方に登録してもらいたい」といい、今ある制度をよりブラッシュアップし、次世代につなげていくと意気込んでいます。
取材をしたあとには、制度そのものもすばらしいですが、「空家を所有する人」「移住を考えている人」のお困りごとを一つずつ解決していく、「ていねいさ」「人柄のよさ」が心に残りました。制度をつくるのも人ですが、運用するのも人。良い町を次世代に残していきたい、そんな思いが「上市町0円空家バンク」成功の秘訣だと思いました。
●取材協力
上市町移住・定住ポータルサイト
富山県上市町公式ホームページ
福岡県久留米市東櫛原町にある「H&A Apartment(ハンダアパート)」は、半田啓祐さん(兄)と満さん(弟)からなる大家ユニット「H&A brothers」が管理運営する賃貸アパートです。築古ですが、家庭菜園や飲食事業者の誘致、マルシェの開催などの工夫で、入居者と近隣の人との交流を促し、新たな繋がりを地域にもたらしています。従来の「大家さん」のイメージを覆す、「コミュニティデザイナー」とは? 豊かな暮らしができる場づくりを地方都市で行うふたりに話を聞きました。
親が管理するアパートが老朽化、DIYと家庭菜園付きアパートで再起西鉄久留米駅のひとつ隣の小さな櫛原駅前にある「ハンダアパート」。敷地内には、「半田ビル」と「アベニール櫛原」の2棟のほか、菜園広場やデッキがあります。1階にあるパン屋さんやカレー屋さん、コーヒースタンドなどのお店やアパートで開催する駅前マルシェには、近所の人も多く訪れます。
菜園で育てた野菜で近所の人と食事会。そうめん流しの時の写真。「ハンダアパート」を中心に人が緩やかに繋がる(画像提供/H&A brothers)
左から半田啓祐さん(45歳)と満さん(44歳)(画像提供/H&A brothers)
H&A brothersのふたりが、両親の管理していたアパートを引き継いだのは2013年ごろ。10年の月日をかけて、住民参加型のワークショップや地域イベントを通じて入居者さん、ご近所さんが繋がり合う場を育てていきました。現在は、「コミュニティデザイナー」として、職人シェアオフィス「BASE」の運営、リノベーション設計施工、DIYワークショップの企画・運営、空き家対策や移住定住支援など行政や大学と連携した幅広い街づくりプロジェクトに取り組んでいます。
アパート敷地内で、不定期に、マルシェを開催(画像提供/H&A brothers)
コアメンバーを務める久留米移住計画のオンラインイベント。うきは市・大川市・大木町・小郡市・久留米市・大刀洗町の6市町が集まり、筑後エリアの魅力や移住のリアルを発信(画像提供/久留米移住計画)
もともと東京の飲食チェーン店で働いていた啓祐さんが、不動産業界に関わりはじめたキッカケは、両親が管理していた古い貸家を取り壊した後に、新築アパートを建てるタイミングでした。ところが、建築会社が倒産し、数百万の資金が戻らない事態に。「このまま何も知らないで不動産業に関わるのは怖い」と考えた啓祐さんは、地元の不動産会社に転職して経験を積みました。
家業であるアパート経営に関わりはじめたのは、2010年ごろ。当時、両親が管理していた半田ビル(1981年築9戸)が老朽化し、空室が増加。苦労するふたりを見て、空室対策や入居者募集に取り組むことになったのです。
「何か手を打たなければと焦る気持ちでしたが、長年アパート経営をしていた家族の危機感は薄く、父の賛同を得られず、予算もありませんでした。業者に頼めないなら自分でやるしかないと、ぼろぼろの外観を修繕するため、ひとりで、外壁を塗ったり、花壇をつくることからはじめました」(啓祐さん)
そのころ、大学で建築を学んだあと、東京のディベロッパーで働いていた満さん。遠隔で啓祐さんの相談に乗っていましたが、ある日、父から連絡が入りました。
「『啓祐が壁を塗っているから止めてほしい』と(笑)。久留米に戻って兄に話を聞くと、お金をかけられない現状がよくわかったんです。家賃が4万円まで落ちていて、何百万円もかけてリフォームしても、せいぜい5万円に上げられるかどうか。資金を全然回収できないんですね。それだったらもう自分たちでやろうって、DIYを手伝うようになりました」(満さん)
満さんは、仕事を辞め、ディベロッパーでのプランニングや設計の経験を活かし、3部屋をリフォーム。啓祐さんは、「アパートの敷地内に家庭菜園をつくってみよう」と思いつきます。
「敷地にあった古い木造アパートを取り壊した空き地がありました。家庭菜園は自分も興味があったし、入居者さんに聞いてみたら、やりたいという子育て世代の方がいました。そこで、土を入れ替えて、区画をつくり、小規模に期間限定のお試しでやってみることにしました」(啓祐さん)
そうして、菜園付き賃貸アパートが誕生。啓祐さんが内覧に立会い、入居希望者に説明すると好評で、次第に入居者が増え、家賃もアップし、経営が上向きに。入居率は、約60%から90%に、家賃は4万円から5万円になりました。築古のぼろぼろだった半田ビルとアベニール櫛原の2棟は、「ハンダアパート」として息を吹き返したのです。
手づくりで始めた「家庭菜園」から”アパート再生物語”は始まった(画像提供/H&A brothers)
現在の菜園と広場。入居者の子どもさんの要望でチャボを飼うことに。応援する入居者が交代でお世話(画像提供/H&A brothers)
パン屋さん誘致や駅前マルシェ開催で、街に開いたアパートへ「ハンダアパート」の経営が回復したころ、意外にもふたりは、転職を考えていました。「当時は地元への思い入れはそんなに強くなかった」といいます。
「中学・高校と県外の学校に進学したので、地元の友人との繋がりも薄くて。改めて久留米を知ろうと、観光プログラムや街歩きに参加してみると、同世代の人たちが面白いことをやっていることがわかったんです。久留米市内の交流会などにも参加し、久留米絣(がすり)の伝統工芸を活かして着物のプロデュースを行っている人など街で活動する人達と繋がることができました」(啓祐さん)
一方、「経営も良くなったし、好きな仕事をしよう」と、東京で転職活動をしていた満さんは、面接の際、思いがけない言葉をかけてもらいました。
「家庭菜園付きアパートの話をすると興味を持ってもらえて、『自分でやってみたら』と言われることが結構ありまして。電話で兄に、こういった評価があると伝えました。東京で、ビンテージビルをプロデュースしている(株)スペースRデザインの吉原勝己さんや、住民同士が交流する賃貸住宅などを手掛ける青木純さんが登壇した勉強会に参加したことで、どんどん街を意識するようになっていったんです」(満さん)
「新しいことをやれる可能性が地方にはあるんじゃないか」と考えたふたり。転職活動をやめ、2014年から、本格的に、「ハンダアパート」の経営に乗り出します。家庭菜園の次に手掛けたのは、「DIYできる賃貸」でした。
壁を好きな色に塗装したり、好きな壁紙を張れるDIY賃貸は、店舗や事務所としても入居可能(画像提供/H&A brothers)
新住民の入居前のDIYには、入居者もお手伝い。子どもたちはすぐに仲良しに(画像提供/H&A brothers)
「東京では、リノベーションして家賃を上げていきますが、久留米でやろうとしたとき、ぼくたちには当初、かけられるお金がなかった。かけたとしても家賃は2万円も上げられない。最初は費用対効果の面から始めたDIYでしたが、自分たちでつくった部屋に愛着が湧くようになり、入居者さんにも壁に色を塗ったり、棚をつけたりとお部屋作りに参加してもらうようにしました。費用に関しては、部屋の状態で違いますが、基本改修工事や原状回復程度は大家負担。それ以上超える部分は入居者さん負担です。DIYに参加することで入居者さんも愛着のある好きな空間で暮らせます」(満さん)
また、大家さんの交流会や勉強会で、「社会課題をビジネスで解決するソーシャルビジネス」について学んだことで、「自分たちのビルを使って地域の課題解決ができないか? 自分たちの敷地や建物だけじゃなくて、エリアで見るとどうか?」と考えるように。「家庭菜園付きアパート」から「街と繋がるアパート」への転換点になりました。
通りに面した駐車場のフェンスに設けた掲示板。近所の小学校の卒業式の日に六年生へお祝いのメッセージを書く子ども達(画像提供/H&A brothers)
アートイベントで遊具を置いた菜園広場。ドッジボールやシーソー、ブランコで遊び放題(画像提供/H&A brothers)
「2014年から街の人が参加できるイベントをはじめました。DIYした部屋の見学会や、アパートに置くベンチづくりなどのワークショップを開催したり、以前から入居者の交流のために開いていた食事会にご近所さんを招いたり。アパート前で行っていた小さなマルシェを「くしわら駅前マーケット」と名付け、『こんな駅前になったら良いな』という思いで続けています」(満さん)
アパート1階に店舗出店者を募り、今では、カレー屋さん、パン屋さん、コーヒースタンド2つ、料理教室の5店舗ができました。居住者、店舗経営者、近所の人の参加を通じて、「自分たちの暮らしをつくる」コミュニティが生まれています。
「入居者同士が仲良くなったとしても、いずれ引越していなくなってしまうんですよね。イベントの核になっていた入居者さんがいなくなると途絶えてしまう。近所の方に参加してもらうことで、活動や人の繋がりが維持できるのだと思います」(啓祐さん)
店舗のお客さん、入居者さん、ご近所さん、さまざまな人が行き交うアパート1階の日常の風景(画像提供/H&A brothers)
近所にファンも多いコーヒーショップやカレー屋さん(画像提供/H&A brothers)
2020年にアパート1階にオープンしたパン屋さん(画像提供/H&A brothers)
DIYワークショップなどで地域の職人さんや住民が繋がる「コーポ江戸屋敷」次に、H&A brothersが手掛けたのは、西鉄久留米駅から約2km半ほど南下した住宅地にあるコーポ江戸屋敷です。約1000坪の広い敷地に3棟があり、昭和の団地のような雰囲気でした。現在は、スペースRデザインとH&A brothersが協働で建物管理をしています。
2016年に団地再生プロジェクトに加わったH&A brothersは、当初、3室のリノベーションを担当しました。
「入居者がDIYで完成させる、『育てる』をコンセプトにした部屋と、棚などを設けて、好きなものを『飾る』お部屋、2タイプつくりました。入居者はすぐ決まったのですが、家賃が思ったほど上がらなかったり、全部で48室あるので、このままリノベーションをするとものすごくお金がかかることがわかり、違うやり方を探すことになりました」(満さん)
鉄筋コンクリート造4階建の「コーポ江戸屋敷」リノベーション前(画像提供/ビンテージのまち株式会社)
H&A brothersが手掛けた232号室「ほんのりサクラ~飾る暮らし~」(画像提供/ビンテージのまち株式会社)
転機となったのは、建物や敷地の特徴や周辺環境を活かしたコミュニティデザインを学ぶビンテージ団地カレッジの開催でした。
「プロにお金を払って管理していくのではなく、コミュニティで維持管理する方向にしないと続かないだろうと。最終的には入居者が自発的に動いてくれて、隣人同士ちょっとしたお世話をし合うようなコミュニティにしたいねと話し合いました。それから、花の種まきのワークショップなど入居者さんを巻き込んだDIYイベントを開催。とても好評で、楽しみながら積極的に参加してくれる人が増えていきました」(啓祐さん)
また、団地の一室に、ビンテージ団地カレッジに参加したメンバーを中心に、久留米の職人さんのシェアオフィス「BASE」が完成しました。
「職人同士が交流して新しいことを始めたり、若い世代の人が職人の仕事に興味を持ってもらえる場をつくろうと。現在参加しているのは13人で、大工、電気、水道、塗装、クロス、鉄工、硝子、造園など幅広い職種の職人が集まっています」(満さん)
入居者さんと一緒にゴーヤの苗植えワークショップ(中央)(画像提供/ビンテージのまち株式会社)
BASEの完成見学会で行った餅まき。入居者さんが集まって一緒に盛り上がった(画像提供/ビンテージのまち株式会社)
「BASEは、住民の食事会の会場にもなっていて、入居者さんとの繋がりが生まれています。そうめん流しのイベントがあったときは、職人さんが竹を割って、そうめん流しの台をつくってくれたことも。入居者さんから相談があった部屋の修理や建物のメンテナンスもBASEの職人さんが対応してくれています。入居者さんも顔見知りの職人さんが工事に入ってくれる安心感があるそうです」(啓祐さん)
2019年には、1階に大きなウッドデッキが完成し、パン屋「江戸やしきパン工房」がオープン。2020年には、カフェ「ツキシマコーヒー」が出店し、入居者や近隣の人の憩いの場になっています。
共用部のウッドデッキから直接店内へ入れるためご近所さんも利用しやすい(画像提供/ビンテージのまち株式会社)
2016年に発行を開始したニュースレター「コーポ江戸屋敷だより」。現在の編集者は啓祐さん(画像提供/ビンテージのまち株式会社)
「場ありき」ではなく「やりたいこと」を応援する場をつくりたいアパートから街への活動を続け、関係人口を生み出し、人と人を繋いできたH&A brothers。現在は、移住定住支援など行政や大学と連携した取り組みにも参加。今年は久留米大学そばで空き家を活用した学生シェアハウスの開業準備を進めています。
「ハンダアパートもコーポ江戸屋敷も、自分たちが関わらなくても、つながりが自然に増えていけるようにしたいですね。例えば、入居者に動画クリエイターの方がいて、入居している店舗のプロモーションムービーをつくるなどお互いの仕事に繋がるようなことが起きています。このように自発的な動きがどんどん起こる場所にしたいです」(啓祐さん)
コモンルームで、毎週末に営業中の「半畳コーヒーさん」。同じくコモンルームを利用している「満月としょかん」とのコラボ企画も開催(画像提供/H&A brothers)
2023年11月に開催した「くしわら駅前リトルマーケット」は、近所の公園や神社のイベントと同日に開催し、3カ所をつなぐスタンプラリーとまち歩きツアーを実施(画像提供/H&A brothers)
「ますますアパートから街に広がる活動が増えています。ハンダアパートでは、お店をやってみたい人に、コモンルームという共用スペースをレンタルしてきました。行政と行っている空き家調査も、周辺にお店を出したい人に繋げたいという思いで取り組んでいます。空き家があるから何かするのではなく、何かしたい人を応援する場所をつくっていきたいと思っています」(満さん)
入居者同士からご近所さん、地元の職人さん、移住者……ハンダアパートやコーポ江戸屋敷から、コミュニティの輪が、波紋のように街じゅうに広がっています。手探りで始まったH&A brothersの物語は、「地方だからできること」がまだまだあると気づかせてくれました。
●取材協力
・H&A brothers
・H&A Apartment
・久留米移住計画