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前回(「2023年のマンション市場を総括。新築・中古マンションの価格推移と供給戸数を徹底解説!」)に続き、2023年の住宅市場を総括したい。今回は、東京カンテイが公表した「マンション・一戸建て住宅データ白書 2023」から、三大都市圏の新築・中古一戸建て市場ついて見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「一戸建て住宅データ白書 2023」を公表/東京カンテイ
新築マンションの価格高騰が指摘され、中古マンションの価格も新築に誘導されるように上昇している。上昇に鈍化傾向が見られるが、手が届きにくい状況となっている。では、一戸建ての市場はどうなっているのだろう?
東京カンテイが公表した新築・中古一戸建てデータで、三大都市圏の状況を見ていこう。
東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」
まず、2023年の首都圏の新築一戸建ての平均価格は4769万円で前年より5.4%上昇した。「2015年の調査開始以来最高額を3年連続で更新した」という。近畿圏でも前年より3.8%アップして3680万円になり、こちらも上昇が続いている。また、中部圏でも前年より0.6%アップの3417万円となり、「調査開始以降8年連続で上昇している」という。
三大都市圏ともに新築一戸建ての平均価格は上昇を続けているが、前年と比べると上昇率は縮小しているのが特徴だ。また、価格の上昇に対して、土地面積や建物面積の平均は、わずかながら縮小する傾向が見られる。
次に、中古一戸建てに目を向けよう。2023年の首都圏の中古一戸建ての平均価格は4016万円で、前年より2.5%上昇した。近畿圏では2589万円(前年2.8%上昇)、中部圏では2447万円(2.3%上昇)と、新築一戸建て同様に、三大都市圏ともに価格は上昇している。ただし、前年からの上昇率については、首都圏では大幅に縮小(10.2%→2.5%)、近畿圏では縮小(5.3%→2.8%)、中部圏では拡大(1.4%→2.3%)と、動きがそれぞれ異なっている。
一方、三大都市圏ともに中古一戸建ての平均価格は上昇を続けているが、平均の土地面積や建物面積は拡大している。新築一戸建てが面積を小さくしているのとは、逆の動きだ。
新築一戸建ての建物面積は100平方メートル未満のシェアが増加一戸建ての面積について、さらに詳しく見ていこう。首都圏の例となるが、建物面積の面積帯シェアの推移を見よう。
東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」(首都圏)
首都圏の建物面積帯を見ると、新築一戸建てで100平方メートル未満(80平米未満・80平米台・90平米台)のシェアが増えているのが顕著で、近畿圏でも中部圏でも、面積の小さな一戸建てのシェアが拡大する同様の傾向が見られる。
一方、中古一戸建てでは、面積帯の推移に新築ほどの大きな変化は見られないが、建物面積120平方メートル以上のシェアが増えているのが特徴。この点も、近畿圏や中部圏で同様の傾向が見られる。広い一戸建てを探すなら、中古一戸建ての方が見つけやすいという状況のようだ。
新築一戸建てで面積が小さくなるのは、新築特有の要因がある。例えば、分譲事業者が広めの一戸建ての土地を取得した場合に、2区画や3区画などと区分けして、小さな一戸建てを建てて売るからだ。首都圏の新築一戸建てで顕著なのだが、土地面積で「50平米以上80平米未満」と「80平米以上100平米未満」のシェアが大きく拡大していることから、そうしたことがうかがえる。土地の仕入れ値が上がり、コンパクトにして購入希望者の買いやすい価格に抑える傾向が見て取れる。
一戸建てはマンションに比べて市場は安定している!?最後に、2023年の一戸建ての市場をマンション市場と比較して見ていこう。東京カンテイでは、参考資料(マンションデータがまだ確定していないため)として、三大都市圏の2023年のマンション市場の結果も紹介している。
東京カンテイ「一戸建て住宅データ白書2023」
マンション、特に新築マンションを見ると、価格の上昇レベルでかなりばらつきがある。新築マンションの供給戸数が近年減少しているため、例えば東京23区で高額で大規模な新築マンションが売り出されると、その影響で平均価格を強く押し上げるといった現象が起きている。価格が乱高下しているわけではなく、国内外から居住・投資目的で需要がある特定エリアでの価格上昇が顕著なのだ。
一方、一戸建ては、投資目的の需要はあまりないので、供給戸数や価格は比較的安定している。それでも新築・中古ともに価格が上昇しているマンションから、面積の広い一戸建てを志向する傾向もあり、価格が上昇気味という状況と見てよいだろう。
なお、東京カンテイによると、新築マンションの供給エリアは変わらずに駅近での供給が多く、新築一戸建ては首都圏と中部圏で駅徒歩10分から15分へと変化する状況が見られたという。これは最寄駅からの距離へのこだわりがマンションのように強くはなく、一戸建てならではの住環境の立地で供給をしているからだと指摘している。なお、「近畿圏は駅間が短く最寄駅からの所要時間が相対的に近くなる圏域」という特徴があるという。
さて、2023年の住宅市況はおおむね好調で、価格の上昇傾向が続いている。とはいえ、富裕層や投資目的の需要が価格上昇を受け入れていることから、価格が大きく変動するマンションとは異なり、一戸建ての価格上昇は上昇率が縮小するなど、落ち着きを見せつつある。ただし、新築一戸建てについては、価格上昇を面積の縮小で軽減する傾向も見られる。
2024年から新築住宅は省エネ基準適合住宅でないと住宅ローン控除が適用されないなど、省エネ性能を強化する動きもある。2024年4月からは、広告する際に省エネ性能ラベルを表示することが努力義務になるので、一戸建てを選ぶ際にも省エネ性能のレベルに注目してほしい。
●関連サイト
東京カンテイ「Kantei eye 118(マンション化率/マンション・一戸建て住宅データ白書)」
地方を訪れると、みな「ここには何もないから」という。気の効いた飲食店、カフェやパン屋もない。近くに遊ぶところがないからと県外まで出かける。「でもそれなら、いま住んでいる場所を、遊びに行きたい所にする方がおもろいやん」と話すのは、徳島の美馬市脇町で店舗兼ギャラリー兼オフィス「-みんなの複合文化市庭-うだつ上がる」を運営する高橋利明さんだ。いま、うだつ上がるには地元の20~30代が集まり、新しいイベントや仕事が生まれる文化の発信地になっている。(取材執筆/甲斐かおり)
美馬市脇町のうだつの町並みは重要伝統的建造物群保存地区で観光客も訪れる(撮影/藤岡優)
「うだつ上がる」とは何か?徳島県の美馬市脇町は、「うだつの町並み」で知られる重要伝統的建造物群保存地区である。
「うだつ」とは、町家の両端につくられた小さな屋根つきの防火壁のことをいう。高い位置にあるほど繁栄の象徴となり「うだつが上がる」の語源となった。脇町は江戸時代、藍の集散地として栄え、いまも“うだつ”の上がる建造物、大きな商家の並ぶ街並みが残っている。
そんな街中に、築150年の民家を改修してできた店舗兼ギャラリー兼オフィスが、「-みんなの複合文化市庭-うだつ上がる」(以下、うだつ上がる)だ。いまは雑貨屋、喫茶、本屋、古着屋、家具屋、ギャラリーが入居しており、週末にはモーニングやチャイカフェ、洋菓子屋が営業している。
うだつ上がるの入り口。(撮影/藤岡優)
うだつ上がるを運営する高橋さんの本業は、建築家。設計事務所として活用するには広すぎるこの家の一部をオフィスとして使いながら、自ら雑貨屋を運営。2階では家具のショールーム(大阪を拠点に活動するクリエイティブユニット graf のサテライトでもある)、ギャラリーも運営している。
加えて、ここを「誰もがスモールスタートをきれる場所にしたい」と、各スペースを“間借り”できるサービスを始めた。高橋さんは、その理由をこう話す。
高橋利明さん。建築家であり「うだつ上がる」を運営している(撮影/藤岡優)
「この町は観光地ですけど、数年前に来たとき、お店がほとんどなくてびっくりしたんです。建物はきれいに残っているけど、住人には高齢者が多くて、街並みの維持で精いっぱい。まちのポテンシャルを活かすには、保存するだけじゃなく利活用するのが大事やなと」
建築家の知識をいかして、古い建物でも明るく活用できることを、ショールームとして見せられるんじゃないかと考えた。
うだつ上がる店内のショップ部分。この右奥がカフェスペース(撮影/藤岡優)
うだつ上がるの2階。家具のショールーム(graf)であり、奥はギャラリーになっている(撮影/藤岡優)
「もう一つ、僕の生活圏を楽しくするには、僕以外にも“何かしたい人”が沢山いないと面白くならないなと。この辺りでは、やりたいことより安定した仕事を選ぶ若い人が多くて、でも徳島には何もないって週末は県外に遊びに行っちゃう。それなら地元を遊びに行きたい町にする方が楽しいやんって。うだつが、そうした“何かしたい”を叶えられる場所になったらいいなと思ったんです」
左から谷あおいさん、高橋利明さん、岑田安沙美さん、脇川裕多さん。それぞれ「うだつ上がる」で活動している。うだつを行き来する人はほかにも大勢いる(撮影/藤岡優)
「うだつ上がる」があったから、徳島に戻ってきたいま、「うだつ上がる」は地元の20~30代を惹きつけ、地域内外の人が行き交う場所になっている。出会いの場というだけでなく、新しいことに挑戦できる場。ただ仲の良い人たちと過ごすだけではなく、ほどよく緊張感のある場でもある。
では、どんな風に、みんなここに集まってくるのだろう。
たとえば、脇川裕多さん(31歳)の場合。実家は同じ美馬市の老舗和菓子店で、20代のころから神戸、東京へ出てパティシエの仕事をしてきた。いつか、地元に戻り、脇町でケーキ屋を始めたいと思っていて、SNSで「うだつ」を知り、高橋さんの元に遊びに訪れた。
「時々、地元に戻った時だけでもうだつでポップアップやったらええやんと高橋さんが言ってくれて。その2~3カ月後、父が病気になって一時的に戻ってきて実家を手伝うことになったんです。そしたら高橋さんが、週末だけでも自分のお菓子屋始めたらと言ってくれて。平日は実家の和菓子屋を手伝って、週末だけここで洋菓子屋を始めて。ちょうどチャイ屋をやりたいという女性がいたので、一緒にやったらと」(脇川さん)
脇川さんの焼き菓子ブランド「あわい」のお菓子。滋味深くて美味しい(写真提供:脇川さん)
徳島の季節のものを素材にした、ケーキやシュークリーム、夏はかき氷が評判。(写真提供:脇川さん)
いずれまた東京に戻ると話していた脇川さんは、この2~3カ月の間に、東京に帰るのをやめたのだという。なぜだろう。
「うだつにいたら全国から訪れる人に、土日だけでもたくさん会えるんです。マルシェやイベントなどの情報も入るのでチャイ屋さんと一緒に出店したり。地元に誰も知り合いがいなかったけど、一気につながりが増えました。今なら徳島に戻ってもいいなって。こっちで本腰いれてやろうと思えました」(脇川さん)
パティシエの脇川裕多さん。徳島で焼き菓子ブランド「あわい」を立ち上げた(撮影/藤岡優)
脇川さんとともにチャイ屋を始めた岑田安沙美(みねだ・あさみ)さん(27歳)の場合はこうだ。つい2年前まで姫路の小さな会社で、コワーキングスペース事業など企画系の仕事をしていた。個人でデザインの仕事も請けるようになり、もうしばらくは県外で働こうと思っていたが「高橋さんとうだつに出会って、徳島に帰っても何とかなる気がした」と言う。
うだつで出会った人たちからデザインの仕事が入り始める。
岑田安沙美さん。今はデザインの仕事を手がける(撮影/藤岡優)
いつかチャイ屋をやってみたいと話す岑田さんに、古本市というイベントでチャイを出した後、パティシエの脇川さんを紹介されて「常設で二人でやってみたら」と背中を押したのも高橋さんだった。
高橋さんは言う。
「準備ができたらやりたいとみんな言うけど、いつ準備できんねんって話で。やるって決めたら、いやでも準備せなあかんので。チャイが飲めて、美味しいケーキ食べられる店なんて、この辺りに他にないぞと」(高橋さん)
もちろんそうして始めた活動が、すぐに本業になるわけではない。そうしたいかどうかも人によってさまざまだろう。本業にならなくたっていいのかもしれない。大事なのは、まずやってみたかったことにチャレンジできる場があること。
ほかにも「うだつの高橋さんと出会って、土日だけでも来たら?と言ってもらったのが、徳島に帰るタイミングだと思った」と話す若者が何人もいた。
チャイおよび洋菓子カフェの様子(提供:うだつ上がる)
うだつ上がるでのイベントの際の様子(提供:うだつ上がる)
20代女性たちの出会いから始まった「古本市」この場所がまさに20代世代の出会いの場所になり、一つの形として結実したイベントに「うだつのあがる古本市」がある。2022年11月に第1回目の古本市が開催され、半年後の春に第2回、そして2023年10月、うだつの近くの「オデオン座」という劇場で、第3回が開催された。
主催は、うだつで知り合った23~28歳の女性6人組。リーダーで発起人の谷亜央唯(たに・あおい)さんはこう話す。
「もともと徳島には本屋や美術館など、文化的なものが少ないなと思っていて。同じことをSNSで投稿している徳島の女性がいて、気になっていたんです。うだつに初めて来たとき、その女性と会って意気投合して。古本市の仲間になるほかのメンバーともここで出会って、その日にはもうどんな場所が徳島にあったら嬉しいか、みんなで話していました。卒業して徳島で一度就職したけどうまくいかなくて。数カ月で辞めたとき、うだつがなかったら東京に出てたと思うんです。でもやっぱり徳島で何かしたいなと思っていて、うだつでみんなと会って今があります」
谷亜央唯(たに・あおい)さん。今はうだつ上がるで週末にモーニングを提供しながら神山町の宿で働き、「古本市」の活動を進めている(撮影/藤岡優)
できることなら地元に居たい、戻りたい。そう思っている若い人たちは意外に多いのだと、改めて気付かされる。でも地元にはできることが何もないと思っている。
「じゃあまず、自分たちで何か始めてみては」という高橋さんの気持が20代の女性たちにも伝わった。6人は本業の傍ら、古本市の準備を進めていく。
「古本市に来てくれたお客さんには、本だけじゃなくてこの町も楽しんでほしいから、お客さんの目線でみなでまちを見てみようと歩いてみたり。1回目のときは出店してくれる人がいるかもわからなかったので、最悪自分たちで出店すればいいよねと話して。でも結果的に全部出店枠が埋まったんです」(谷さん)
「うだつのあがる古本市」の垂れ幕(提供:うだつのあがる古本市)
古本市の準備で、まち歩きをした際の様子 (提供:うだつのあがる古本市)
初回の開催から第3回にかけて、古本市の規模はどんどん大きくなっていった。第3回目の出店数はうだつ上がるに10組、オデオン座に15組。この成功は、谷さんたちの自信につながったに違いない。都会でなくても、これほど本や人が集まる素敵なイベントができる。徳島でもできる、自分たちで実現できたと。
第3回の古本市が開催された、うだつ上がるから徒歩3分ほどの「オデオン劇場」。屋外には多くの飲食店の出店も。(撮影/筆者)
第3回の古本市の様子。大勢の出店者とお客さんでにぎわった(提供:うだつのあがる古本市)
イベント当日は出店者に向けたトークイベントも行われた(提供:うだつのあがる古本市)
うだつ上がるは、「何か面白いことの生まれる場所」「いろんな若い人たちが集まってくる場所」として、認識され始めている。
「巻き込み力」の源高橋さんは不思議な人だ。独特の関西弁で周りを笑わせながら、知らず知らずみなの背中を押している。高橋さんなくして、今のうだつ上がるはないし、うだつに惹き寄せられて徳島に戻った若い人たちもいないだろう。
大阪の生まれ育ちで、中学生までは芸人になりたかったという。その後、成り行きのような形で建築への道を歩み始める。建築の勉強は嫌いだったが「学校は楽しくて仕方なくて、無遅刻・無欠勤・無早退やった」と胸を張って言う。
(撮影/藤岡優)
人と関わるのがとことん好きなのだと思う。そしてその楽しい気持を全身全霊で表してくれるので、関わる人は嬉しくなるし、何かあれば高橋さんに声をかけたくなる。
最初はそれほど好きではなかった建築も、「自然と共生型」の建築との出会いをきっかけに、のめりこんだ。大阪から徳島へやってきたのも、徳島で活動していた建築家の元で修行しようと決めたからだった。
その人の元で9年間修行した後に独立してからは阿波市に暮らし、設計事務所を開業。イベント企画の仕事なども手がけるようになる。阿波市の地産の食材の美味しさをアピールするために「100人BBQ」を企画したときには、世代を超えて150人以上が集まった。現在は美馬市に店兼事務所を構えて、住宅や店舗など建築の仕事を手がけながら、うだつ上がるを運営している。
高橋さんと話す中ではっとした瞬間があった。
「小さいころから、自分と関わった人はみんな幸せになるべきやって思い込んでるんところがあって。せめて僕とおるときは、みんな笑顔にしたい。常に笑かしたい。相手が笑えば自分も一緒に笑うしな。自分一人で笑ってんなってよく言われますが(笑)」
高橋さんの巻き込み力は、そこからくるのかもしれないと思った。
(撮影/藤岡優)
変な大人に出会える、寄り道できる場所たとえば取材の日、高橋さんは「今日はこの後、建築の仕事で福井に出張する」と話していた。パティシエの脇川さんも福井まで連れていくという。
「福井でショップやっている知り合いが、ポップアップをやらせてくれるというので、僕が打ち合わせしている間に、脇川くんがかき氷を販売したらいいなと思って。僕がもっているつながりも、自分だけがもっているより、できるだけ誰かと共有できるならその方がいいので」
高橋さんは23年近く徳島にいて、嫌でも自分が生まれ育った環境、大阪との違いを感じるという。
「この近くの高校は進学校で、みんな遅くまでスーパーの休憩室で勉強しています。でも何になりたいとか話さない子が多い。徳島におったら、いろんなものに触れる機会が圧倒的に少ない。自分は大阪にいた頃、無意識にいろんなものにふれていたと思うんです。チラシのデザイン一つとってもそうやし、学校帰りには毎日まちに出て遊んで、いろんな人に会うてたし。
徳島にいても、その環境は大人が提供しないとだめだと思う。いろんな仕事や遊び場にふれる機会を。うだつ上がるの意味って、そういうところにあるんかなとも最近思う」
だから、地元の人たちが“何かを始められる”場であることと、「ここでもこんなに面白いことや楽しいことができるで」と若い人たちに見せられることが重要。
「地元の高校生が制服でうだつに来てくれると、テンションあがります。最近、明石くんという男の子が学校帰りに店に来てくれるんですよ。うちで初めてブラックコーヒー飲んで、美味しかったんでまた来ましたって。『友達いないんですよねぇ』とか色々しゃべってくれて。そんな風に子どもが寄り道して、変な大人に出会える場所を増やしたい」
最近は、同じうだつの町並みの通りに、うだつの2号店を増やすことを考え始めた。
「2号店の店名はもう『よりみち』でもいいかなと思ってます」。
そう言って笑った。
(撮影/藤岡優)
●取材協力
-みんなの複合文化市庭-うだつ上がる
最近のリノベーションブームを受けて、実家を、あるいは中古一戸建てを購入してリフォームすることを視野に入れている人も多いのではないでしょうか。しかし、気をつけてほしいことがあります。それは住宅の性能向上です。その名も「性能向上リノベの会」を立ち上げた、YKK AP 住宅本部 リノベーション事業部の西宮貴央さんにお話を伺いながら、その理由を紐解いていきましょう。
耐震性能や断熱性能が心もとない中古一戸建てがたくさんある古い中古一戸建てをライフスタイルに合わせてリノベーションすると、あわせて「耐震」「断熱」性能も高めることができる(写真提供/YKK AP)
中古一戸建てをリフォーム/リノベーションすれば、たいていは新築一戸建てを建てるよりも費用を抑えられます。注文住宅同様に自分たちのライフスタイルに合わせた間取りや仕様にできるのが魅力。
そんな中古一戸建てのリフォーム/リノベーションで注意したいのが、「耐震」と「断熱」性能の向上です。
リノベーション前(写真提供/YKK AP)
レッドシダー(北米のヒノキ科針葉樹)のサイディングに、既存の銅葺きを補修した屋根、大きな窓のコントラストがモダンな「鎌倉の家」(写真撮影/桑田瑞穂)
窓の周りの壁(写真では見えないが)にはYKK APの耐震フレーム(フレームⅡ)が入り、さらに手前の大きな柱に見える部分も耐震フレームが入った施工事例(写真提供/YKK AP)
(写真撮影/桑田瑞穂)
特に、耐震性能については令和6年能登半島地震で改めてその重要性を感じていることでしょう。耐震性能について簡単におさらいすると、建物の地震に対する強さの評価基準は耐震等級1~3の3段階あり、等級1でも、数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度)に対しても倒壊や崩壊しないとされています(しかし“いちおう”であり、大破も有り得る)。現在の建築基準法ではこの等級1が最低基準です。
これは2000年6月に施行された建築基準法の改正に基づくものです。そのため、これ以前に建てられた一戸建ては現行の耐震性能を満たしていない可能性があります。特に1981年5月以前に建てられた(建築確認を取得した)旧耐震基準時代の一戸建てについては、自治体が補助金制度を設けてまで耐震診断を促すほど、耐震性能に不安があります。
(写真/PIXTA)
また断熱性能については、昨今の光熱費の高騰を受けて、何とかしたいと思っている人もたくさんいるでしょう。脱炭素化社会に向けて新築一戸建ては2025年から省エネ基準への適合が義務化され、断熱等級4以上が求められます。さらに遅くとも2030年までには断熱等級5以上が義務化される予定です。断熱等級4は現在の省エネ基準(平成28年(2016年)基準)、断熱等級5はZEH水準をクリアしていることを示します。
そもそも省エネ基準は昭和55年(1980年)に初めて制定され、この時の基準は現在の断熱等級2に相当します。以降省エネ基準は随時改訂されてきましたが、基準への適合は義務ではなかったため、断熱性能が心もとない一戸建てが非常に多く存在しているのが現状です。現在、断熱等級の最高は7。日本における等級6相当の断熱性能が当たり前になっている中、極めて遅れをとっています。
耐震・断熱性能の向上を明確な数値等で示すプロジェクトでは、このような構造自体に性能が不十分な一戸建てを高性能な新築並かそれ以上の耐震性能、断熱性能まで高めることはできるのでしょうか。結論から言えば、技術的には十分可能です。しかし、その性能はリフォーム施工例によってバラツキがあるのが現状です。
バラツキがある理由は後述しますが、そんな状況下で、明確な耐震性能、断熱性能の数値を掲げて2017年から取り組んできたのがYKK APによる「戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト」です。同プロジェクトについては、以前「おしゃれだけじゃない!最先端の“性能向上リノベ“で新築以上の耐震性や断熱性を手に入れる」で取材したので、そちらも参考にしてください。
(写真撮影/桑田瑞穂)
このプロジェクトでは耐震性能は最高等級の耐震等級3(上部構造評点1.5以上)、断熱性能はHeat20のG2(断熱等級6相当)を目標に中古一戸建ての性能を向上させてきました。
耐震等級3とは、倒壊・崩落することなく災害復興の拠点として機能し続けられるだけの高い耐震性があることを示します。消防署や警察署等に義務づけられている耐震レベルです。
自治体が補助金制度によって耐震工事を促している1981年5月以前の旧耐震基準時代の一戸建てでも、しかるべき耐震工事を行えば、耐震等級3基準にまで高めることができます。
「先日の令和6年能登半島地震でもそうですが、やはり耐震性能が低い、特に築40年以上の旧耐震だと命の危険があります。そればかりか、倒れた建物が隣家を壊したり、道を塞いでしまって緊急車両が先に進めないことが多々あります」と、同プロジェクトを立ち上げたYKK AP 住宅本部リノベーション事業部の西宮さん。緊急車両が通れなければ、救える命も失われてしまう可能性があります。
■耐震等級の区分(2000年基準)
耐震等級耐震性対象等級3耐震等級1の1.5倍の耐震性消防署や警察署など。長期優良住宅の対象等級2耐震等級1の1.25倍の耐震性避難場所に指示されている学校や病院など。一方、断熱性能がHeat20のG2とは、断熱先進国であるヨーロッパとほぼ同じ世界トップレベルということです。G2は断熱等級6に相当します。
■断熱等級の区分
断熱等級等級7Heat20のG3レベル等級6Heat20のG2レベル等級5ZEH水準。遅くとも2030年までには新築住宅に義務化予定等級42016年の省エネ基準。2025年から新築住宅に義務化等級3平成4年(1992年)基準等級2昭和55年(1980年)基準。1980年の省エネ基準と同等等級1等級2未満また「Heat20のG2(断熱等級6相当)」は、ZEH水準(断熱等級5)以上ですから、太陽光発電等を備えればエネルギー収支が実質ゼロ以下になります。
昨今の光熱費の高騰に頭が痛いという人も多いでしょう。しかしそれでも今は国が電気や都市ガスの小売事業者に対して補助金を交付することで、一般家庭や企業等の光熱費が値引きされているのです。
この「電気・ガス価格激変緩和対策事業」は、消費者が直接補助金を受けるわけではないので実感しにくいのですが、とはいえ私たちの光熱費が抑えられているのは確かです。ところが同事業は2024年4月末までに終了し、5月以降は激変緩和の幅が縮小される予定です。もしこの事業が終わったら……と思うとゾッとしませんか。しかし、G2レベルに高めて太陽光発電を備えれば光熱費の悩みをスッキリと解消できそうです。
戸建性能向上リノベーションの費用は約2000万円では「耐震等級3」と「断熱等級6(Heat20のG2相当)」にリノベーションする費用は、一体どれくらいかかるのでしょうか。
一から計算して設計できる新築と違い、中古一戸建ては1棟ごとに立地や間取り等が異なります。さらに古い一戸建ては部屋が細かく分かれているなどするので、やはり現代の暮らしに合わせた間取りに変更しなければなりません。
三重の事例(写真提供/YKK AP)
三重の事例(写真提供/YKK AP)
だからといって、性能向上も間取り変更も、ある意味“思う存分に”やってしまうと費用がうなぎ上りに。いくら耐震や断熱性能が向上するからといって、費用があまりにもかかるのであれば誰もやりたいと思わないでしょう。
「性能を向上させつつ、いかに費用を抑えるかも、我々のプロジェクトでは重要な要素でした。プロジェクトを経た結論として、新築の基準を大きく超える性能に向上させて、かつ暮らしやすい間取り等に変えるための費用は、規模に大きく左右はされますが、概ね2000万円前後だとわかりました」と西宮さん。
「これなら同性能の新築一戸建てを、同じ場所に建てるよりは安く抑えられます。それに、今から新築一戸建てを建てる場合、駅から徒歩15分などの立地が多いのですが、中古一戸建てなら徒歩2~3分の空き家が見つかることも。これからは新築よりも立地条件が良くて、性能の高い一戸建てにリノベーションできる中古物件が増えてくると思います」
また、親族の残した一戸建ての性能を向上させた人は“愛着”がある分、2000万円以上の費用をかける傾向があるそうです。
さらに最近は、生活の中心になるゾーンだけ断熱を行う「ゾーン断熱」を選択する人も増えているのだとか。「住宅全体の耐震&断熱向上リノベーションを図る方々は、だいたい30代~50代です。対して70代以上は断熱のみ “ゾーン断熱”を選ぶ傾向があります」
■ゾーン断熱のイメージ
日常的に長い時間を過ごす場所、行き来することでヒートショックなど健康リスクの高い水まわり・廊下などを含めた生活空間を断熱リフォームする
子育てを終えた二人暮らしの高齢者が、2階建ての住宅全体を断熱するよりも、生活の中心である1階部分のみなどを“ゾーン断熱” するというイメージです。これなら費用を抑えつつ、人生最後の時間のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めることができます。
まずは耐震性能や断熱性能についての知識を得ることから始めようところで、先述のようにリフォームの施工例によってバラツキがあるのはなぜでしょうか。
理由の1つは、施主側が耐震や断熱についてあまり詳しくないことがあります。施主側から具体的な数値等を求めず、施工会社も、例えば断熱で言えば「冬は暖かく夏は涼しくなります」など方針に合意できればスムーズに商談が進んでいくことでしょう。施主の示した予算内で最大限の性能向上を図ればいいので施工する側も、あまり詳しくなくても商売になります。
(写真/PIXTA)
「あるいは、事業者としては性能向上の技術は知っていても、“そうなれば費用が膨らむが、どうやって施主に説明すればいいのかわからない”など、勧める際のさまざまな課題があります。そこで私たちは、事業者向けに2021年10月に“性能向上リノベの会”を立ち上げました」(西宮さん)
この会では性能向上リノベーションを行いたいと思う事業者に対して、次の4つの役割を果たします。
①技術サポート。対象となる住宅の築年数と目指す性能を入力することで、コストイメージと工事内容が一目でわかる早見表や、現場調査で漏れがないようにするチェックリストといったツールの提供です。
②業務サポート。耐震性能、断熱性能の計算、補助金申請、太陽光発電設置など、専門知識が必要になる業務のサポートです。施工会社が、必要に応じて専門企業とスムーズに業務提携できる仕組みを提供しています。
③営業サポート。施主側に対する同会の取り組みを周知することです。一例として、同会に参画している事業者が自慢の「性能向上リノベ物件」をエントリーする「性能向上リノベ デザインアワード」があります。評価された施工事例は性能を数値化して1冊の本にまとめられ、販売されています。
④ネットワーク。大学教授や専門家によるセミナーを通じて知識のアップデートを通じて会員の知識をアップデートしてもらうための取り組みです。また会員の手がけた施工事例を訪れて、質問できる見学会などもあります。
事業者同士の交流や、技術的ノウハウの習得などに役立ててもらえるように、同会では現場見学会を適宜開催している(写真提供/YKK AP)
現在、この「性能向上リノベの会」に参画している事業者は約500社。“性能向上リノベ”に賛同したのは施工会社だけでなく、断熱材をつくっているメーカーや「いくら性能を高めても、白アリに喰われたらお終い、と防蟻会社も参画してくれました」
今後は高齢者の屋内事故を減らすための取り組みや、既存の賃貸物件の性能向上にも取り組みたい、と西宮さん。また「高性能な中古一戸建てを一般消費者に勧めるために、買取再販などを手がける不動産会社の参画を促していきたいですね」
このように、「性能向上リノベの会」の活動が進むほど、全国各地に「性能向上リノベ」された一戸建てが増えていくはずです。
確かに現状は、耐震性能や断熱性能が新築に劣る一戸建てで暮らしても、目に見える不具合は感じないかもしれません。しかし悲惨な地震の映像から目をそらして、光熱費の請求書を見てため息を漏らしているなら、まずは「性能向上リノベの会」などの施工事例を見たり、遅くとも2030年までに義務化が予定されている断熱等級5とは?を調べてみることから始めてみませんか。
●取材協力
YKK AP
台湾は、日本からも飛行機で近く、人気の旅行先です。台湾の活気と雰囲気、台湾グルメを味わえる夜市は定番スポットで、日本各地でも台湾に関係するイベントが開催されています。台湾は、中国大陸ルーツの漢人による統治の他、1895年から1945年までの50年間にわたって日本が統治するなど、複雑な歴史を有し、街には、それぞれの時代の名残があります。東京大学大学院で、台湾の都市計画を研究している都市デザイナーの三文字昌也(さんもんじ・まさや)さんに詳しく伺いました。
さまざまな時代の痕跡が残る街とその上を流動する夜市三文字昌也さん。研究のため1カ月滞在した基隆市の正濱漁港彩色街屋前で(画像提供/三文字昌也さん)
台湾の首都・台北市(画像提供/三文字昌也さん)
台南市は古都として知られ、オランダ時代以降の各時代の歴史的建造物が数多く残されている(画像提供/三文字昌也さん)
台南 祀典武廟前に出る布袋戲の舞台(画像提供/三文字昌也さん)
東京大学工学部都市工学科に在学中、旅行で訪れた台湾の都市に魅了された三文字さんは、台湾の都市計画に関する学術的研究をしながら、2018年に合同会社 流動商店を設立し、都市デザイン、建築設計等の実務に携わっています。それだけでなく、台湾夜市にちなむイベントを各地で行っています。2019年に台湾夜市のゲームを紹介した「台湾夜市遊戯大全」を自費出版し、2023年9月にはTBS系のバラエティ番組「マツコの知らない世界」に出演。台湾への造詣の深さが話題を集め、SNSで大きな反響を呼びました。
台湾イベントTAIWAN PLUS 2023で、流動商店がプロデュースした「台湾夜市遊戯場」(画像提供/三文字昌也さん)
アジアの都市をテーマにしたイラスト展「アジア都市透視展」(空想地図作家・今和泉隆行氏と共同制作)(画像提供/三文字昌也さん)
19歳で初めて台湾を訪れた三文字さんは、清朝以前の古い建物や路地がある街並みに日本統治時代につくられた近代的な道路があるなど、都市の中に各時代の痕跡が重なり合って残されていることに、興味を惹かれました。ちょうど研究分野を都市計画に決めたころで、1年間の台湾留学を経て、台湾の都市計画やまちづくりの研究に携わることになりました。台湾の街のどういうところに面白さを感じているのでしょうか。
「台湾の都市は、位置関係や特徴で日本の都市に敢えて雑に当てはめると、台北が東京、台南が京都、基隆が横浜で、台中が名古屋、高雄が大阪と理解できそうです。いちばん歴史があり、古い街並みが残っているのは、台南。18~19世紀の建物が街の中心部に残っています。当時の建物は赤レンガの壁が特徴の閩南(びんなん)式建築で、道も入り組んでいます。一方、日本統治時代に市区改正事業によってつくられた道路は、直線的でグリッド状。それぞれの時代の建物や道などの風景がレイヤー状に重なっているのです。ありとあらゆるところに歴史の痕跡が残っていて、歩いているだけで本当に楽しいなと思いますね」(三文字さん)
金門島に残る閩南式建築(画像提供/三文字昌也さん)
その上で、三文字さんが注目したのは、夜市でした。
「出店場所が毎晩変わらない“固定夜市”とそうではない“流動夜市”があるのですが、留学時代住んでいた台南市にあるのは、基本的に流動夜市でした。何より衝撃的なのは夜に並んでいた400店舗程もの屋台が朝にはきれいに片づけられ、また夜には別の場所に移動していること。流動することで、都市のいろんな所が活用され、固定しないことで、リスクやコストを抑えている。今の日本にはない都市のにぎわいをつくる仕掛けとして流動夜市はとても面白かったんです」(三文字さん)
駐車場が夜になると、屋台で埋め尽くされる(画像提供/三文字昌也さん)
台南 武聖夜市の競り屋台(画像提供/三文字昌也さん)
南機場夜市。台北で人気のある夜市のひとつ(画像提供/三文字昌也さん)
多くの屋台やお店が路地一帯に並ぶ(画像提供/三文字昌也さん)
日本統治時代の都市計画と台湾独自の「都市の使いこなし方」日本統治時代の都市計画の特徴はどんなところでしょうか?
「日本が台湾で行った都市計画は、衛生の向上をまず最初の目的とし、下水構などのインフラを整備するところから始まりました。そして、城壁を壊してつくった台北の三線道路など、近代都市にふさわしいとされた道路網やインフラが徐々に整備されたのです」(三文字さん)
台北の三線道路、現・中華路一段(画像提供/三文字昌也さん)
その上で、三文字さんは、台湾の面白さを、「都市の使いこなし方がうまい所」だと話します。日本統治時代につくられた道路やロータリー、公園には、日本統治時代から仮設の屋台が並び夜市ができていたと言うのです。戦後も、大陸から来た人などの住居が出来始め、人口が増えるのに従って、次々と常設のバラックが建てられた場所もあります。違法でも、社会的、政治的な問題ゆえに政府も簡単には追い出せず、道路上のバラックがその場所のまま商業市場に建て替わったり、ロータリーがそのままグルメの名所になった事例があるそうです。
アーケード下の道路沿いで歌劇団が演舞(画像提供/三文字昌也さん)
「台湾の人々は、日本の都市計画の技師たちが思いもつかなかったほど公共空間をたくましく流用して、それがじわじわと柔軟に生き残って、今の台湾の都市の豊かさに繋がっているのではないかと思っています。良くも悪くも夜市のような都市空間の使い方は、台湾独自に発展した都市文化だと言えるでしょう。90年代位まで違法なものも多かった夜市も、自治的に管理する組合ができ、今では行政とわたり合って、許可を得ている例が多いようです。むしろ、2000年位から政府が観光資源として位置づけ、サポートするようになりました」(三文字さん)
その背景には、「多様な民族や文化が交錯する台湾の複雑な歴史もある」と三文字さんは言います。台湾の歴史を理解することは、台湾の現在の姿を理解する上で欠かせません。
「道」に人が集まることで「街」になる台湾の人々が街をどのように考えているかよくわかる例として、三文字さんは、1980年に出版された『中国人の街づくり』(郭 中端、堀込憲二 共著、相模選書 刊)という本を紹介してくれました。本の冒頭には、「道に人々が集まって市を開くことで、だんだん街になる」という「台湾の街の成り立ち」が描かれています。街の原型となるのは、道端に集まった露店商。そうして市が立ち人が集まり、儲かった人は露店から店舗を構え、うまくいったらビルを建てます。そこには、たくさん人が来て、ビルの前にまた露店が出る……その繰り返しで街が大きくなるというのです。
「これはもちろん極端な例ですが、前提として、『まちはみんなのもの』という発想があるのではないでしょうか。道路でもなんでも自分たちの生活をよりよくするために使えるものは使おうという発想が根底にあると感じます」(三文字さん)
例えば、その象徴的な事例が亭子脚(ていしきゃく)と呼ばれるアーケード空間です。
アーケード下にテーブルや椅子が置かれ、人々が集う(画像提供/三文字昌也さん)
「亭子脚は、日よけや雨よけの歩道として設けられた場所ですが、民有地でありながら公共の歩道扱いされるなど、実際は、100%公でも100%民でもない曖昧な空間になっていて、露店が出たり、オートバイを置いたり、さまざまな使われ方をされています。問題が起きたら、政府が対応しますが、皆でうまく使っている限りは、特に問題にならない。台湾の象徴的な風景だと思います。日本の都市の場合、道路上に段差解消スロープを置いただけで、それが本当に危ないのか、支障がないかを考える前に反射的に通報する人がいますよね。もちろんルールとしては正しいのですが、日本人が街の公共空間に対して、なぜおおらかさを失ってしまったのか、それでむしろ失ったものもあるのではないかと考えることもあります」(三文字さん)
日本の都市計画に活かしたい柔軟な道路使用や文化財活用日本の都市計画や街づくりに活かせるのはどんなところでしょうか。
「道路など都市空間の柔軟な利用のあり方を、いちばん学ぶべきだと思いますね。公共空間の利活用に関して、もっと流動性を持たせて積極的に使っても実は支障がないことも多いと思います。日本の道路占有許可は、交通を阻害するデメリット以上の公益性や価値がないと許可されませんが、裏路地など問題ないケースもあるはず。そのほかは、文化財の利活用ですね。研究者から、『台湾の文化財建築行政は日本の20年先を行っている』という声があるほど。文化財建築のリノベーション、再利用の成功事例が行政も民間もたくさんあります。使える補助金が多く、文化財をリノベーションしてお店を出す若い人も多いようです。資金面のハードルを下げる仕組みづくりも学びたいですね」(三文字さん)
文化財建築をリノベーションして活用している例。撫台街洋樓(画像提供/三文字昌也さん)
撫台街洋樓(画像提供/三文字昌也さん)
日本では最近、企業活動にほとんど使用されていない不動産を「遊休不動産」と呼び、マルシェや、期間限定の公園をつくる取り組みもあります。街を「流動的に使うこと」と「遊休不動産の活用」の違いはどのような点でしょうか。
「遊休不動産の文脈では、土地の活用という目的ありきでイベントがはじまりますが、今見てきたような台湾の夜市の事例では、活動が先にあって、適した場所として土地が選ばれます。夜市は、街で商売をしていた人たちが、屋台をしてもうかる場所を探して、いろんな交渉過程を経て、結果的に、空き地や路上に落ち着いて形成されたものです。日本の遊休地で、デベロッパーが人を集めて、イベントをやっても続かないことが多いのは、入り口の違いが大きいと思います」
日本で注目する事例として、三文字さんが挙げたのは、大阪市にある繁華街、新世界市場の商店街です。シャッター街化が進んでいましたが、2022年10月から、新世界市場商業協同組合が「新世界市場屋台街プロジェクト」を立ち上げ、シャッターが下りた店舗前に屋台を設置し、新たな賑わいを創出する取り組みを行っています。
新世界の夜の姿(画像/PIXTA)
「うまい作戦だなと思いました。地権者、家主との複雑な交渉を避けつつ固定式の屋台で衛生設備を入れて飲食店営業許可が取れますから。現在では8店舗まで拡大しているようです。日本で取り入れられる『流動的なまちづくり』のいい事例だなと思った取り組みですね」(三文字さん)
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最後に、三文字さんに、台湾のおすすめスポットを聞きました。ガイドブックでは詳しく載っていない穴場も!
「いかに都市空間が使いこなされているかを見ていくと、めちゃくちゃ面白いと思います。また、古い街並みが残る一方で、急速に再開発が進んでいる場所もあります。両極端な都市の振れ幅を体験していただけると面白いと思います」(三文字さん)
台湾の最北端にある港湾都市、山と海に囲まれた「基隆」
基隆中心部の全景。港が都市の中心にあります(画像提供/三文字昌也さん)
基隆市は、台湾の主要な港湾都市のひとつです。
・明德、親民、至善大樓
「旭川河という河川の上に立ち塞がる直線的な3棟のビル。1~2階には老舗カフェやバーなども入っていて、探検し甲斐がありますよ。1967年に建設された建物更新をどうするかが課題となっています」
・委託行商圈
「基隆市の中心にある古着や雑貨などの舶来品を販売していた商店街です。戦後、海外との行き来が制限されていた時代の基隆は、輸入代行業者で賑わっていました。その業者があった街並みは一度廃れましたが、近年、文化創意・地方創生の文脈で盛り上がる新しい商店街となっています」
・太平小学校のリノベーション・太平青鳥書店
「基隆港を一望できる場所にある小学校をリノベーションした本屋さんです。台湾の文化創意の一つの象徴的な事例ではと思います」
・正濱漁港
「歴史ある漁港の工場建築等をカラフルに塗装。港として現役でありながら観光地へと変化を遂げました。星浜山というグループがアートを中心としたまちづくりを進めています」
外壁がカラフルでフォトジェニックな正濱漁港彩色街屋(画像提供/三文字昌也さん)
北部に位置する台湾最大の都市「台北」
近年急速に再開発が進んでいる(画像提供/三文字昌也さん)
台北市は、台湾の政治、経済、文化の中心地で、総統府や立法院などのほか、台北101などの高層ビルが立ち並んでいます。
・南機場住宅、華江整宅社区
「南機場住宅は、6つの団地、計61棟、5,632の住戸から構成されるマンモス団地群。華江整宅社区は、1970年代に建設された共同住宅群です。公共住宅の住みこなし、使いこなし。どこまでが私的空間で、どこまで公的空間か? 考えながら、散歩してみると面白いですよ。南機場には夜市もあります」
台北市の南機場住宅(画像提供/三文字昌也さん)
・新富町文化市場、東三水町市場
「新富町文化市場は、台北市萬華区にある文化施設です。1935年に建設された公設市場を、2017年にリノベーションしてオープンしました。東三水町市場は、台北市萬華区にある公設市場。公民連携のリノベーションの好事例です。現役の老舗市場アーケードに隣接して共存している点が興味深いです」
南機場夜市の入口(画像提供/三文字昌也さん)
南西部に位置する台湾の歴史や文化、自然を体感できる都市「嘉義」
嘉義の市街地の風景(画像提供/三文字昌也さん)
嘉義市は嘉南平野北部の中心都市です。
・文化路夜市
「市の中心にあるメインストリートである文化路が夜に車両通行を止めて夜市になる事例。まちの使いこなしを体感できるのでは」
文化路夜市のアーケードゲーム屋台(画像提供/三文字昌也さん)
南西部に位置する古都「台南」
台南のシンボル、赤かん楼(「かん」は山冠に坎)(画像提供/三文字昌也さん)
台南市内には、歴史的建造物が数多く残され、グルメの街としても有名です。
・永楽市場、國華町
「台南随一のグルメストリートですが、路上への展開や永楽市場の建物の使われ方、屋台の形などをみながら歩くと楽しさアップ。朝と夕方で風景が違うのも面白いところ」
リノベーションによる新しいお店が多い新美街には観光客が集まる(画像提供/三文字昌也さん)
・その他
「もともとなんでもなかった普通の通りが、近隣商店同士の繋がりや新しい店舗の出店でにぎわい、観光客が増えていった場所が結構あります。そんな事例である新美街、正興街をあてもなく散歩するのも楽しいです」
「こんな風景がいたるところにあります。台南の路地裏。どこか探してみてください」(三文字さん)(画像提供/三文字昌也さん)
台湾最大の港を有する「高雄」
高層ビルの立ち並ぶ高雄市街(画像提供/三文字昌也さん)
高雄市は、台湾の経済と貿易、文化的中心地として知られており、多くの博物館や美術館、劇場があります。
・哈瑪星
「高雄の最も古い市街地の一つで、日本式の家屋も残っていますが、地元の団体が一個一個の建物を丁寧に保存、活用し続けています」
・駁二芸術特区
「もともとの鉄道駅や倉庫・関連施設を中心に広大なエリアをアートスペースとして公園化しています」
駁二芸術特区(画像提供/三文字昌也さん)
「『流動的なまちづくり』と僕が言っているものを本当に実践するために、近々、僕も東京で飲み屋台をやらないとな……!」と三文字さん。日本と深い関わりのある台湾のまちづくり。「都市を使いこなす」という発想は、今の日本の都市に新しい風を吹かせることでしょう。
●取材協力
・三文字昌也さん
・三文字昌也さん個人web
・合同会社流動商店
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載14回目。今回は、オーストリアのウィーンにあり、ウィーンで建築とお酒を同時に楽しめる特別コースに欠かせない名建築、賃貸マンション「ベルビュー・タワー(BelView Tower)」(設計:コープ・ヒンメルブラウ)を紹介する。
脱構築主義を代表する建築家コープ・ヒンメルブラウ設計の賃貸マンション建築好きにとってウィーンと聞くと、20世紀の巨匠アドルフ・ロースやルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインを思い出す。前者は世界的に著名な「アメリカン・バー」(ロース・バー)を、後者は「ストンボロウ邸」を設計した。ウィーンに行くと必ず寄りたいのが「アメリカン・バー」だ。薄暗くちょっとミステリアスなアトモスフィアで、かつては娼婦がたむろしていたという話を聞いたことがある。
だがいきなり「アメリカン・バー」に行くのはもったいない。同じケルントナー通りの少し南側にコープ・ヒンメルブラウが設計した「ライス・バー」がある。ここはシャンペン・バーだが、ここで下地をつくってから、はしごして「アメリカン・バー」へと行くのが、建築とお酒を同時に味わえる特別コースと、同地を数回訪れた自分は思っている。
(c)Duccio Malagamba
さてこのコープ・ヒンメルブラウが近年設計したのが、「ベルビュー・タワー」だ。ウィーン駅のすぐ近くという好立地に建ったこの建築物は賃貸マンションである。かつて彼らの作品はいわゆるデコン(デコンストラクティヴィズム=脱構築主義)という範疇の建築として知られていた。そうしたアヴァンギャルドな作品を得意としていた彼らが、比較的落ち着いたアパートメントを設計した。
「ベルビュー・タワー」は、カルティエ・ベルヴェデーレ地区にあるシュヴァイツアー・ガルテンという緑の多い公園の近くにある。建物には249戸のアパートメントがあり、2 ルーム・タイプが234戸、3ルーム・タイプが15戸ある。小さいルーム・タイプが多いのは、独身か若いカップルの入居者を想定したコンセプトがあるようだ。
部屋には天井冷房と床暖房完備、ウィーンの景観が楽しめるバルコニーもこのレジデンシャル・タワーの形態は、アメーバーのような有機的なフォルムで流れるようなモノリシック・ストラクチャー(一体となっている構造)となるよう考案された。ペリメーターのパラペットは、白い粉体塗装アルミニウム製と高価な仕上げで、これが建物全体の外壁をぐるりとカバーしているが、あるところでは途切れている。それはその外壁部分の環境的ファクターが異なるからなのだ。つまり風当たり、騒音、日当たりなどが異なるので、それに対応したデザインが成されている。その結果ひとつの建物のファサードでも場所によってデザインが異なるという、微に入り細を穿った処理をほどこしているのだ。
各アパートメントには天井冷房と床暖房が装備されているという豪華さだ。さらにウィーンの魅力的な景観を見晴らすバルコニーがあり、高度なアウトドア・リビングを可能にしている。日射が限定される部分では、建物の一部が突出しており、適切な自然光と景色を取り込むためのメタル製の出窓となっている。
(c)Duccio Malagamba
「ベルビュー・タワー」の外壁はプラスター断熱合成ファサードでデザインされている。さらに開口部は固定された3重ガラスか、もしくは回転式、あるいはアルミニウムとガラスによる傾斜形になっている。ガラス張りの1階部分はポスト&ビーム構造で、アルマイト(酸化アルミニウム皮膜を施したアルミニウム)で作られたメタル被覆ウォール・パネルで構成されている。エントランスは1階ファサード中央部に配されている。
エントランスホール(c)Duccio Malagamba
住民はフィットネスルームや発送用の郵便ボックスを利用できるマンションの住民は、地下のサウナ・エリアにあるプロ仕様の器具を備えたフィットネスルームを使用できる。また共用で使えるキッチンがあるコモン・ルームはランドスケープされたプラザにアクセスでき、そこでは住民同士が交歓したり、種々の活動をシェアできる。またアパートメントにはコイン・ランドリーがあるので、住民に洗濯機は不要だし、発送できる郵便ボックスがあるので郵便局に行く必要もない。地下パーキングからアパートメントへは、バリア・フリーでアクセス可能となっている。建物はDGNB(ドイツ持続可能な建築物評議会)よりゴールドの認証を得ている。
●関連サイト
Coop Himmelblau
私が住んでいるマンションでも、EV(電気自動車)充電器の設置が取り沙汰されるようになってきた。まだEV車を所有している人がいないので、具体的な検討課題にはなっていないが、いずれは本格的に議論されることになるのだろう。そこで今回は、マンションにEV充電器を設置することについて、深掘りしたいと思う。
マンションにEV充電器の設置が求められる理由とは?政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指し、これに伴い、グリーン成長戦略を策定した。その中で成長が期待される分野として自動車を挙げ、乗用車については2035年までに新車販売で電動車100%を目標に掲げている。
そうなると、充電インフラを整備する必要がある。そのため、政府は補助金を用意して、電気自動車・プラグインハイブリッド自動車(以下、電動車)の充電設備の設置を促進している。
充電インフラは、自宅や事業所などの「基礎充電」、高速道路などの移動中の「経路充電」、ホテルや商業施設などの「目的地充電」に大別される。特に懸念されるのが、基礎充電だ。一戸建てなら電動車を買った本人が充電設備も整えればよいが、マンションの場合は共用部の電気を使用するために、合意形成が難しいことが考えられるからだ。
さらに東京都でも、2030年度までに都内で新車販売される乗用車を100%非ガソリン化することを目指している。東京都にはマンション居住者が多いこともあり、条例により2025年4月から都内の新築マンションに規模に応じた数の充電設備設置を義務化することになっている。また、既存のマンションについても、管理組合などに補助金を出すなどして、設置を促している。
このように、電動車が普及するにつれて、充電インフラを整備する必要があるが、私有財産である自宅、特に駐車場を共有するマンションでの充電設備設置が大きな課題となっているのだ。
マンションに電動車充電設備を設置するメリットとは?もちろん電動車所有者なら、自分のマンションの電動車充電設備で夜間などに充電しておきたいと思うだろう。新築分譲マンションでは、デベロッパーがあらかじめ電動車充電設備を設置して販売する事例が多くなっている。一方で、既存のマンションの場合は後付けで設置をすることになるが、電動車どころか車自体を持っていない人もいる。そうした人にとってもメリットはあるのだろうか?
「既存の分譲マンションへの電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)充電設備導入マニュアル」を作成した、(一社)マンション計画修繕施工協会(以下、MKS)に聞いてみた。事務局の細田義裕さんによると、「電動車の普及に伴い、その充電設備がないマンションは買い手に選ばれにくくなる」という。マンションに電動車充電設備が設置されていることがスタンダードになったときに、設置されていないマンションは購入の選択肢から外されるので、売りづらくなる。つまり資産価値に影響するというわけだ。
ここで、日産自動車が実施した、「EV(電気自動車)の購入時に重要な住居の環境について」の調査を見てみよう。調査対象は、集合住宅居住者でEVの購入意向のある30~50代の男女400人。EVの購入検討者「集合住宅に充電設備がないとEV購入が難しいと感じるか」を聞いたところ、88.6%が「難しいと感じる」(とても感じる36.0%+まあまあ感じる52.6%)と回答した。EVの所有とマンションの充電設備の関係性が強いことが分かる結果だろう。
日産自動車【EVと住環境についての調査リリース】より
電動車充電設備を設置するデメリットは高額な初期費用?ではデメリットはなんだろう?MKSの細田さんによると、設置に伴う導入費用が大きな課題だという。どの程度の額になるかというと、マンションの構造や設備、充電設備の種類や台数などによって大きく変わるという。
マンションの共用部の電気容量によって、たとえば共用部から電源を確保できない場合に新たに電柱を立てて電気を引く必要があったり、共用部の電源から設置する駐車場まで距離があり、ケーブルの埋設工事が必要であれば、工事費用はかなり高額になる。EV・PHEV充電設備導入マニュアルの中に、いくつかモデルケースの設置工事費用を試算した事例があるが、最低で約46万円、最高で約3104万円とかなり幅がある。
加えて、充電設備の利用方法によっても、設置計画が変わる。利用方法は、電動車を所有する居住者専用使用の場合、電動車の所有者が充電設備を共用する場合、電動車のカーシェアリングを導入する場合の主に3つあるという。
■利用方法によるメリットとデメリット
マンション計画修繕施工協会「既存の分譲マンションへの電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)充電設備導入マニュアル」より
また、充電設備にもいろいろな種類があり、それぞれで費用も異なる。まず大別して、「普通充電器」と「急速充電器」に分かれる。急速充電器は、短時間で充電可能であるが、費用は高額になる。短時間で充電が必要な「移動充電」に向いており、マンションでは普通充電器が向いているという。
東京都環境局のパンフレット「マンションへの電気自動車の充電設備導入基礎ガイド」より
さらに、普通充電器にもさまざまなタイプがあり、どのタイプを何台設置するかの設置計画によって、費用も変わってくる。
■普通充電器の概要
(一社)次世代自動車振興センターのチラシ「EV・PHV用充電設備導入をご検討の皆様へ」より普通充電器を抜粋
ようするに、マンションの構造や電気容量などを調べて、どういった利用方法を採るかを考えながら、具体的にどこにどれを何台設置するかといった設置計画を立ててみないと、設置に関する全体の工事費用がわからないということだ。それを知るには、充電サービス事業者に依頼して設置プランと見積もりを出してもらうしかないのだろう。
ただし、国が充電設備費・工事費で50%~100%補助金を出している。補助対象となる充電設備が定められているが、普通充電設備設置の場合で、機器費用の50%(上限額35万円)、工事費用の100%(上限額135万円)が2023年度の補助金の額だ。加えて、東京都の補助金も利用できれば、持ち出しがほとんどない場合もあるようだ。
電動車充電設備の導入のハードルになるのは管理組合での合意形成補助金を利用できれば、電動車充電設備の設置工事費用をかなり抑えることはできるが、導入する際のハードルになるのは何だろう?MKSの細田さんによれば、管理組合での合意形成だという。電動車所有者や購入検討者が利益を受けることになるので、利益を受けない人たちが反対したり先送りしたりすることになる可能性がある。
また、電動車充電設備設置に前向きな管理組合であっても、設置に伴う工事費用をどう負担するか、使用電気料をどう負担するか、不公平にならないようにどういったルールで運用するかなど、決めるべきことがたくさんある。細かいルールについても管理組合で合意する必要があるので、かなりの時間を要することにもなるだろう。
EV・PHEV充電設備導入マニュアルには、費用の負担方法について考え方の一例を紹介している。充電設備の設置の際には、マンションの共用設備として修繕積立金を用いて設置し、その後、充電設備の利用者から月々の利用料などで回収する方法だ。使用した電気料金は充電設備の利用者が支払うことを基本に、実態に応じて選択する。充電サービス事業者によっては、スマホを用いて各自が使った分だけ徴収する方法を採っている場合もある。こうしたモデルケースを参考に検討するとよいだろう。
既存マンションへの充電設備設置には注意点がいろいろある充電設備を設置するとなった場合、注意点もいくつかある。
まず、機械式駐車場によっては設置できない場合もある。安全に機械式駐車場を使うために、電動車対応とするための要求事項が定められている。まず、設置されている機械式駐車場のメーカーに、充電設備が設置できるかどうかを確認する必要がある。
さらに、電動車はバッテリーを搭載しているため、車種によっては車両が重たくなる。機械式駐車場それぞれに重量制限があるので、サイズや重量に制限が生じるかどうかも確認しておきたい。電動車充電設備はあるのに、そもそも自分の電動車では機械式駐車場を利用できないといったことがあると、トラブルの要因になる。
また、補助金を使いたいと思ってもいつでも利用できるとは限らない。補助金は毎年予算を組んで募集するもので、たとえば2023年度の国の補助金は早期に予算枠に達してしまったため、予備費で追加枠が設けられたという経緯がある。補助金は流動的な部分もあるので、常に最新の情報を正確に把握しておくことが大切だ。
こうした注意点に適切に対処するには、充電サービス事業者がカギになる。充電サービス事業者は数多くあり、設置から運用まで幅広く手掛ける事業者も多いが、それぞれ取り扱う充電設備や提供するサービス内容が異なるので注意が必要だ。管理組合の意向に沿った提案をしてくれるか、補助金などの知識は正確か、設置から運用、管理まで欲しいサービスが提供されるかなど、見極めて選びたい。
また、MKS細田さんによると「長期的な観点で計画することも重要だ」という。電動車所有者が年を追うごとに増えていったり、急速な技術革新によって電動車自体や充電設備が進化する可能性もある。導入後に容量が不足したり、新しい規格に対して陳腐化したりすることも考慮したい。また「充電サービス事業者は個別の通信規格で運用していることが多いが、標準通信規格※に対応していれば、サービス事業者を変更した場合でも既設の設備を使い続けることができる」という。
※充電設備を管理システムで遠隔制御する標準通信規格OCPP=Open Charge Point Protocolなど
筆者のマンションでは、駐車場に空きがでることが多くなっていることもあり、機械式駐車場を使い続けるのか、外部貸しで運用するのかなどの問題も抱えている。今後はEV充電器設置の問題も加わるので、管理組合に「駐車場専門員会」を設置して長期的に検討することを提案した。電動車充電設備も一度導入すればそれで終わるものではないようなので、きちんと議論する必要があるだろう。
●関連サイト
マンション計画修繕施工協会「電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド車(PHEV) 充電設備導入マニュアル」
日産自動車【EVと住環境についての調査リリース】
次世代自動車振興センター「充電インフラ補助金サイト」
東京都マンションEV充電器情報ポータル「補助金制度」
2024年に入って、2023年の住宅市場の動向が相次いで公表された。そこで今回は、不動産経済研究所と東京カンテイが公表したデータから、首都圏及び近畿圏の新築・中古マンションの価格動向について見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「首都圏/近畿圏 新築分譲マンション市場動向2023年(年間のまとめ)」を公表/不動産経済研究所
「『中古マンション70平米価格推移』2023年(年間版)」を公表/東京カンテイ
まず、2023年の新築マンション市場だが、東京23区の平均価格が1億円を超えたとニュースになった。やはり、マンション価格は上がり続けているのだろうか。
不動産経済研究所が公表した首都圏の新築マンションの平均価格は、前年(2022年)の6288万円より28.8%アップの8101万円。まだまだ大きく上昇している。と、見てよいのだろうか?実は、詳しく見ていくと、必ずしもそうではないのだ。
ここ3年間の首都圏と近畿圏の平均価格の推移を見ていこう。
■新築マンションの平均価格(単位:万円)(不動産経済研究所)
2021年2022年2023年対前年上昇率首都圏62606288810128.8%東京23区829382361148339.4%東京都下5061523354273.7%神奈川県52705411606912.2%埼玉県480152674870-7.5%千葉県4314460347864.0%対前年2.9% up0.4% up28.8% up2021年2022年2023年対前年上昇率近畿圏4562463546660.7%大阪府475746834435-5.3%兵庫県45334456513915.3%京都府39604927548811.4%奈良県4292430445585.9%滋賀県401743154159-3.6%和歌山県36623655423715.9%対前年9.1% up1.6% up0.7% up不動産経済研究所「首都圏/近畿圏 新築分譲マンション市場動向2023年(年間のまとめ)」のデータを筆者が抜粋して作成まず、首都圏を見ると、明らかに、東京23区の平均価格が1億円を超え、対前年上昇率が39.4%と大幅に上昇したことで、全体を引き上げていることが分かる。「三田ガーデンヒルズ」など、超高額の大型物件の影響も大きかったと思われる。人気エリアの横浜市・川崎市を抱える神奈川県では、まだ上昇トレンドにあるが、東京都下(3.7%)、埼玉県(-7.5%)、千葉県(4.0%)では、大幅に上昇しているわけではない。
首都圏の供給戸数を見ると、2023年は対前年9.1%ダウンの2万6886戸となり、そのうち1万1909戸、4割以上が東京23区で占めている。23区の価格上昇の影響が首都圏全体に色濃く出たわけだ。
次に、近畿圏を見ると、2023年の平均価格は前年より0.7%アップの4666万円。大票田の大阪府で対前年5.3%ダウンの4435万円になった影響が大きい。一方、兵庫県(特に神戸市)と京都府(特に京都市)では価格が上昇している。
兵庫県については、供給戸数が対前年23.8%ダウンの2666戸(神戸市は35.5%ダウンの971戸)なので、特定の大型物件の影響を受けたという見方もできるだろう。一方、京都府も供給戸数が減少したが、大型物件が出にくいエリアでもあるので、根強い需要によるものと考えられる。
つまり、東京23区と京都市などは、国内の富裕層だけでなく、海外からも需要があるため、価格上昇トレンドが続いていると見てよいだろう。
2023年の中古マンションの平均価格は首都圏・近畿圏ともに上昇が鈍化では、2023年の中古マンション市場を見ていこう。東京カンテイでは、70平米換算して平均価格を算出しているのが特徴だ。なお、近畿圏は新築マンションと同じ2府4県だが、エリア別についてはサンプル数の多い2府県の平均価格を算出している。
■中古マンションの平均価格(単位:万円)(東京カンテイ)【70平米当たり】
2021年2022年2023年対前年上昇率首都圏4166471648021.8%東京都5739630164231.9%内、 東京23区6333684270553.1%神奈川県3114352036654.1%埼玉県2528290430204.0%千葉県2292256927727.9%対前年11.6% up13.2% up1.8% up2021年2022年2023年対前年上昇率近畿圏2607281628922.7%大阪府2820304730851.2%兵庫県2270242525314.4%対前年6.2% up8.0% up2.7% up東京カンテイ「『中古マンション70平米価格推移』2023年(年間版)」より抜粋して筆者が作成首都圏の中古マンションの平均価格(70平米換算)は、前年より1.8%アップの4802万円。最も上昇率が高かったのは千葉県の7.9%で、東京23区(3.1%)の上昇率が他県より低いのが、新築マンションと大きく異なる点だ。
東京カンテイによると、東京23区の中でも「都心部」では上昇率が6.3%となり、「堅調なトレンドを示している」という。また、「割安感が強い周辺3県の方が高い上昇率を示すも、前年までの勢いに陰りが認められる」と指摘している。
次に、近畿圏を見ると、中古マンションの平均価格は前年より2.7%アップの2892万円。こちらも新築マンション同様に、「圏域平均をけん引してきた大阪府で強い鈍化が見られる」。また、新築マンション同様に、兵庫県では神戸市で対前年9.4%アップの2634万円となるなど、大阪府とは異なる動きを見せている。
2023年の中古マンション市場は、首都圏・近畿圏ともに、これまで急激に高騰してきた価格の上昇が鈍化し、頭打ちになる可能性を感じさせる市況となっているようだ。
不動産経済研究所では、新築マンションの「2024年の供給予測」も公表している。それによると、首都圏の新築マンションは2023年より10.7%増える見込みで、東京都の市部、神奈川県、埼玉県で供給戸数が大きく増え、近畿圏でも2023年より17.9%増える見込みで、大阪府の市部で大きく増えるという。
新築マンションは、この4月から省エネ性能を見える化した省エネラベルの表示が努力義務となり、2025年4月からは現行の省エネ基準適合が義務化される。省エネ性能の高い新築マンションの供給が進むようになると、中古マンションとの性能の違いが表面化する可能性がある。
これからマンションを購入する場合、新築か中古かは予算や立地などさまざまな条件で選ぶことになると思うが、特に築年の古いマンションについては、購入時にリフォームをして省エネ性を高めることをオススメしたい。
●関連サイト
不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向2023年(年間のまとめ)」
不動産経済研究所「近畿圏 新築分譲マンション市場動向2023年(年間のまとめ)」
東京カンテイ「『中古マンション70平米価格推移』2023年(年間版)」
2023年11月13日、豊島区居住支援協議会(東京都)で高齢者の居住支援をテーマにしたセミナーが開催されました。区内のオーナーや不動産会社、行政職員のほか「誰でも」参加が可能なこのセミナーに登壇したのは、住宅関係団体や住宅部門、福祉部門の行政職員、民生委員など多彩な9人。
セミナーでは、高齢者の入居についてオーナーや管理会社が抱える不安と、それを具体的な解決に繋げる先進的なサービスの数々を紹介! さらに高齢者の居住支援において豊島区の各団体が抱える“本音”や“悩み”が共有されました。
当日の詳しい内容と、セミナー開催を居住支援協議会に提案した、日本賃貸住宅管理協会あんしん居住研究会所属の伊部尚子さん(ハウスメイトマネジメントソリューション事業本部)のお話を紹介します。
「ここまでのメンバーがそろうセミナーは他にない」渾身の時間冒頭、「ここまでのメンバーがそろうセミナーは他に見たことがない」という伊部さんの挨拶で始まった会。第一部は伊部さんによるセミナーで高齢者の居住支援における「豊島区での課題と解決策」について、第二部はコーディネーターの豊島区居住支援協議会副会長の露木尚文さんも含め総勢9人の関係団体代表者たちによるパネルディスカッションというプログラムです。
第一部は伊部さんのセミナー、第二部は高齢者の居住支援に関わる団体の代表者たちによるパネルディスカッション(撮影/唐松奈津子)
伊部さんは、都内他区で居住支援協議会のセミナーに講師として呼ばれた際に「区民であり、勤務する不動産会社、ハウスメイトの本社がある豊島区でこそ、こんなセミナーを開催したい」とこのプログラムを提案し、半年をかけて準備したそうです。
豊島区居住支援セミナーは、今回の開催を提案した伊部さんのセミナーから始まった(撮影/唐松奈津子)
豊島区と受け入れ側のオーナー、管理会社が抱える「4つの不安」自治体である豊島区、受け入れ側のオーナーや管理会社、それぞれが高齢者の受け入れに課題や不安を抱えていると言う(画像/PIXTA)
第一部のセミナーでは、豊島区、そして高齢者を賃貸住宅に受け入れる側となるオーナーさんや管理会社が抱える課題や不安、そしてその解決策が提示されました。豊島区は65歳以上の人口のうち、単身世帯が占める割合が全国1位。その単身高齢者世帯の約4割、また要介護認定者の約1割が民間の賃貸住宅に住んでいることがわかっています。
豊島区は65歳以上の人口に占める単身世帯の割合が全国1位。そのうち約4割が民間賃貸住宅に住んでいる(データ提供/豊島区居住支援協議会)
これだけ多くの高齢者が民間の賃貸住宅を必要としている実態があり、豊島区はその受け皿となる住宅の確保を課題としてセーフティネット住宅制度や空き家の活用などに取り組んでいます。一方、伊部さんは受け入れ側となるオーナーさんや管理会社は次の4つの不安を抱えていると言います。
「(1)滞納が発生したら?
(2)入居者死亡後、契約解除できる?残った荷物は?
(3)孤独死があったらリフォームや次の募集は?
(4)認知症になったら
……という不安です。このうち(1)や(3)は活用できる家賃債務保証会社や民間の見守りサービスが増えてきました」
オーナーや管理会社が抱える、高齢者受け入れの4つの悩み。伊部さんは「このうち3つはお金の問題」だと語る(資料提供/伊部さん)
増えてきた支援サービスとこれまでの取り組み(1)の滞納については、緊急連絡先が家族でなく友人・知人でも入居審査を可とする家賃保証会社が増え、全日ラビー保証や宅建ハトさん保証など、不動産業界団体でもオリジナルの保証サービスを提供しています。
また(3)の孤独死については「クロネコ見守りサービス」のように、専用の電球を設置して点灯情報を家族に送る「見守り電球」の設置と運送スタッフの訪問を組み合わせた便利なサービスが出てきました。入居中に高齢になっていた入居者には、契約途中からでも審査が通りやすく、福祉系の業務提携先が入居中の支援を行う「ナップ賃貸保証」が注目をされています。さらに不動産関係団体などが提供する少額短期保険であれば、審査なしで加入でき、万一の際には孤独死に関連する原状回復費用や荷物処分費用をオーナーが直接請求できます。
第一部のセミナーでは、実際に活用できるサービスについても紹介。例えばナップ賃貸保証は、単身高齢者が契約の途中からでも利用しやすいという(資料提供/伊部さん)
「いま特に難しいと感じるのは(2)解約と残置物の問題、(4)認知症の問題です。(2)は法整備が進んだものの、使い勝手が悪く利用が進んでいないため、不動産団体や不動産関係者などから声が上がり、より使いやすくするための議論が始まっています。(4)の認知症の問題は不動産会社では手が出せない領域なので『いかに福祉とつながるか』が大切になります」
住民の気づきが誰かを救う、豊島区独自の制度「地域福祉サポーター」この福祉とつながるきっかけとなる、豊島区独自の制度が「地域福祉サポーター」制度です。豊島区在住・在勤・在学の18歳以上の一般の人が登録し、高齢者など、地域において配慮が必要な人たちを見守り。たとえば「近所の人をしばらく見かけないが大丈夫だろうか」「毎晩、怒鳴り声が聞こえる家庭があって気になる」など、住民だからこそ気づける異変を「小さなアンテナ」として察知し、行政につなぎます。登録するためのスタート研修のほか、年3回程度、講師を招いて地域での気づきの視点を養う「学習会」や公開講座、交流会などを開催しているそう。
豊島区には区民が「地域福祉サポーター」となって生活に課題を抱える人たちを支援につなげる仕組みがある(画像/豊島区民社会福祉協議会)
さらに豊島区内8カ所の区民ひろばに「コミュニティソーシャルワーカー(CSW)」と呼ばれる人たちが2名ずつ計16名常駐しています。豊島区民社会福祉協議会に属するコミュニティソーシャルワーカーは、地域福祉サポーターから寄せられた地域の異変や困りごとを関係機関と協力して解決につなげる役割を担っています。
豊島区のコミュニティソーシャルワーカーの活動例。「個別相談・支援」「地域支援活動」「地域の実態把握」「住民の福祉意識の醸成」「地域のネットワークづくり」の5つの役割を担い、さまざまな活動を行っている(画像/豊島区民社会福祉協議会)
「ほかにも民生委員さんなどが中心となって熱中症予防のための戸別訪問や高齢者実態調査をしたり、シルバー人材センターの訪問員が声かけをしたり、豊島区が行っているさまざまな見守り事業があり、ケアを必要とする人をサポートしています。ところが、これら福祉の体制があることを不動産会社は知りません。逆に福祉関係者はその人が住む部屋の大家さんが誰か、管理する不動産会社がどこかを知らないのです」
本来は福祉と住宅をつなぐために豊島区居住支援協議会が設けられているはずですが、今はまだ問題点を洗い出す段階で、具体的な情報共有までは進んでいないようです。
「もうちょっと情報共有すれば解決できることも」これからの可能性この福祉関係者と不動産関係者の情報共有が不足しているという指摘は、第二部のパネルディスカッションでも福祉、不動産双方の登壇者から指摘がありました。モデレーターを務めた豊島区居住支援協議会副会長の露木さんは「見守りが住まいの問題とつながっているか」「情報をどうやって共有するか」「入居に懸念のある人からの相談のときに、誰につなぐといいか」と具体的な取り組みについて登壇者に投げかけます。
第二部のパネルディスカッションのモデレーターを勤めるのは豊島区居住福祉協議会副会長の露木さん(撮影/唐松奈津子)
「『お元気かな』と高齢のかたの様子を見にいくと孤独死が見つかったり、『ぎりぎりのとき』もある。緊急事態なのに連絡先につながらず、民生委員にはそれ以上の情報がありません。周辺とのつながりや連携を取らないと対応ができないんです」(民生委員・児童委員の竹村さん)
「私たちも安否確認をして、情報がないときに民生委員さんや地域のかたに聞く時もあります。オーナーさんが代替わりされているなどで情報を追えないことも。賃貸物件の担当をされる管理会社とも連携が取れれば、万一のときにも早期発見できるのは」(豊島区社会福祉協議会の宮坂さん)
「もうちょっと情報共有すれば解決できるものもあるのではと感じた。連携できる仕組みづくりを進められれば」(豊島区高齢者福祉課高齢者事業グループの大曽根さん)
パネルディスカッションの様子。左から豊島区の宮坂さん、児童委員・民生委員の竹村さん、不動産業界団体に所属する鎌田さん、深山さん(撮影/唐松奈津子)
「対応に困った大家さんや管理会社から入居者のかたについて『情報を教えてくれ』という相談は少なくない。行政として対応が難しいこともあるが、そこで終わらないようにしている。行政から家族や友人に連絡をとって『不動産会社が困っているから連絡してほしい』と伝えたり。連携によってコミュニケーションが取れていくはず」(豊島区中央高齢者総合相談センターの澤口さん)
「行政は個人情報において壁があり、難しいことも多いと確かに思う。一方で相談があった時点でその方の家族情報、近隣関係、病気もいろんな話を聞いて情報管理をしている。病院からの連絡や命に関わることについては個人情報の壁を突破できることも。関係者がそのかたにとって最も良い方法を考えながら検討できるといい」(豊島区高齢者福祉課基幹型センターグループの前場さん)
左から伊部さん、豊島区の高齢者福祉課の大曽根さん、中央高齢者総合相談センターの澤口さん、高齢者福祉課基幹型センターグループの前場さん(撮影/唐松奈津子)
「民生委員さんなども含め、60歳で若手と言われるような制度・体制は限界がきている。もっと関係各者が一緒にやればいいじゃないと思う。各関係団体から数人が携わるチームを作ることなどが必要」(全日本不動産協会の鎌田さん)
「昔の不動産屋や大家さんは家賃を現金で受け取りに行ってそれが安否確認になっていたり、御用聞きをしたりしていた。現在はそういう風習がなくなったからこそ、プラットフォームをつくって情報共有して一元管理することが重要。ここにアクセスすればなんとかなる、という仕組みづくりが大事」(東京都宅地建物取引業協会の深山さん)
パネルディスカッションは、パネリストのひとりとして第二部でも登壇した伊部さんの「今日このメンバーの顔がお互いにわかった、ということだけでも意味がある。日ごろからやり取りをすれば『こういうこと困ってて』という相談や『個人情報の壁があるけどどうにか一緒に考えよう』という声かけができる。これをきっかけに新しい豊島区の仕組みをつくっていければ」という言葉で締めくくられました。
セミナー終了後には多くの質問が寄せられ、その中の15の質問について一つひとつ回答したものが豊島区居住支援協議会のホームページには掲載されています。とくに「行政と民間の連携体制」「情報を共有するための仕組み」には多くの参加者が課題を感じた様子。ひとつのセミナーをきっかけに居住支援の取り組みが推進されていく、その萌芽を垣間見ました。これからの豊島区の居住支援の動きにも注目です。
●取材協力
・豊島区居住支援協議会
・株式会社ハウスメイトマネジメント
・露木 尚文さん(豊島区居住支援協議会副会長)
・深山 大介さん(東京都宅地建物取引業協会第四ブロック豊島区支部 社会貢献委員長)
・鎌田 隆さん(全日本不動産協会東京都本部豊島・文京支部 副支部長)
・竹村 敏さん(民生委員・児童委員)
・大曽根 誠さん(豊島区保健福祉部 高齢者福祉課高齢者事業グループ)
・前場 徳世さん(豊島区保健福祉部 高齢者福祉課基幹型センターグループ)
・澤口 清明さん(豊島区保健福祉部 中央高齢者総合相談センター)
・宮坂 誠さん(豊島区社会福祉協議会 共生社会課)
・伊部 尚子さん(日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会)
来春から大学に進学し、初めての一人暮らしをスタートさせる人もいるだろう。そんな新入生や、これから入学を目指す人の参考になるように、今回は早稲田大学・早稲田キャンパス(東京都新宿区)の周辺駅にアクセスしやすく、家賃相場が安い駅を調査。さらに不動産会社「ハウスメイトショップ新宿店」の佐久真正樹さんから、早稲田キャンパスに通う学生が住む街としておすすめの駅を教えてもらった。どんな駅がラインナップされたのか、さっそくご紹介しよう。
早稲田キャンパス最寄駅(高田馬場駅、早稲田駅、西早稲田駅)いずれかまで20分以内の家賃相場が安い駅TOP15順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数/到着駅)
1位 田無 6万円(西武新宿線/東京都西東京市/20分/0回/高田馬場駅)
2位 西武柳沢 6.1万円(西武新宿線/東京都西東京市/19分/0回/高田馬場駅)
3位 上井草 6.6万円(西武新宿線/東京都杉並区/19分/1回/高田馬場駅)
3位 東伏見 6.6万円(西武新宿線/東京都西東京市/17分/0回/高田馬場駅)
5位 井荻 6.9万円(西武新宿線/東京都杉並区/15分/1回/高田馬場駅)
6位 下井草 7万円(西武新宿線/東京都杉並区/14分/1回/高田馬場駅)
6位 上石神井 7万円(西武新宿線/東京都練馬区/13分/0回/高田馬場駅)
6位 成増 7万円(東武東上線/東京都板橋区/19分/1回/高田馬場駅)
9位 野方 7.2万円(西武新宿線/東京都中野区/13分/0回/高田馬場駅)
10位 江古田 7.3万円(西武池袋線/東京都練馬区/18分/1回/高田馬場駅)
10位 鷺ノ宮 7.3万円(西武新宿線/東京都中野区/9分/0回/高田馬場駅)
10位 都立家政 7.3万円(西武新宿線/東京都中野区/15分/0回/高田馬場駅)
13位 小竹向原 7.4万円(東京メトロ副都心線/東京都練馬区/11分/0回/西早稲田駅)
13位 氷川台 7.4万円(東京メトロ有楽町線/東京都練馬区/13分/0回/西早稲田駅)
15位 武蔵関 7.45万円(西武新宿線/東京都練馬区/15分/0回/高田馬場駅)
―――
「ハウスメイトショップ新宿店」佐久真さんおすすめの駅
ランク外 朝霞台 5.95万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/29分/1回/高田馬場駅)
ランク外 朝霞 5.95万円(東武東上線/埼玉県朝霞市/27分/1回/高田馬場駅)
早稲田大学を代表するキャンパスといえば、国の重要文化財に指定された大隈記念講堂が立つ東京都新宿区の早稲田キャンパス。6つの学部生が通うキャンパスでは、2027年度より共用開始を目指す新校舎「新9号館」の建設も計画されている。そんな早稲田キャンパスはJR山手線と西武新宿線、東京メトロ東西線が通る高田馬場駅から東へ歩いて20分ほど。駅から早稲田キャンパスに向かう通りは「早稲田通り」と呼ばれている。数多くの飲食店に加えて古書店も立ち並んでいる点は、さすが大学お膝元の街といった趣だ。またこの一帯には早稲田大学に加えて学習院女子大学もあるほか、高校や専門学校、学習塾も多いので、学生らしい若者の姿もよく見かける。
早稲田キャンパスのすぐ近くにはサークル活動の拠点である学生会館を備えた戸山キャンパスがあり、高田馬場駅から徒歩15分ほどの場所には西早稲田キャンパスも。各キャンパスの近くには東京メトロ東西線・早稲田駅や東京さくらトラム(都電荒川線)早稲田駅、東京メトロ副都心線・西早稲田駅もあり、そちらを利用する学生も少なくない。
高田馬場駅前(写真/PIXTA)
そこで今回は高田馬場駅をはじめ、早稲田駅、西早稲田駅のいずれかの駅から20分圏内にある駅を調査対象とし、それぞれの駅から徒歩15分圏内にある学生向け賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK。以下同)の家賃相場が安い駅を順位付けした。その結果が上記のランキングだ。
ちなみに高田馬場駅の家賃相場は9万1000円、早稲田駅と西早稲田駅は9万3000円。都心部だけあって学生にはハードルが高めの金額だが、早稲田大学の学生たちは実際、どんな場所に住んでいるのだろう。早稲田大学の学生にも利用されている、「ハウスメイトショップ新宿店」の佐久真さんにお話を伺った。
「特に早稲田大学の学生さんは、キャンパスまで歩ける範囲で物件を探していらっしゃる方が多い印象です」と話す佐久真さん。「どこに住むとよいかは人それぞれで、例えば学業に専念したいなら移動時間を極力減らすために早稲田駅周辺、大学以外にもアクセスしやすいほうがよければJR山手線も通る高田馬場駅周辺や、高田馬場駅まで2駅のターミナル駅・新宿駅周辺などがよいでしょう」。早稲田駅の周辺は高田馬場駅ほどの繁華街ではないので、落ち着いて暮らせる住環境のよさを求める人にもおすすめだという。
通学時間を短く、家賃も抑えたい場合はランキング上位の西武新宿線沿線をチェック!通学時間をなるべく短縮するなら、大学の近くに住むのがベストだろう。とはいえ、予算もあるし近さだけを重視して住まいを決めるのは難しいことも。そんな場合は、今回調査した家賃相場が安い駅のランキングを参考にするのもいいだろう。ランキングトップ15の駅は家賃相場が6万円台~7万円台なので、家賃相場が9万円台だった早稲田キャンパスの徒歩圏内と比べるとだいぶ負担を抑えることができる。
最も家賃相場が低かったのは、西武新宿線・田無(たなし)駅で家賃相場は6万円。西東京市に位置し、早稲田キャンパスの最寄駅の一つである高田馬場駅までは急行に乗ると3駅・約20分でたどり着く。田無駅には「エミオ 田無」が併設され、スーパーや飲食店などが3フロアにわたって展開。北口駅前にはショッピングセンター「アスタ」と日用品やファッションの専門店街も備えた総合スーパー「リヴィン田無」もあり、買い物環境が充実している。市役所の田無庁舎がある南口駅前は、大型店舗がある北口側に比べると細い道が入り組んだ街並みだが、駅前広場や幹線道路の整備も計画されているようだ。
■学生時代に田無駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
※コメント内容は住んでいた学生当時のモノです(以下、記事内すべて同)
・住んでいてよかったところ
「新宿まで1本!!! 最強すぎ!」(21歳女性)
「急行が止まる、買い物がしやすい、基本的に徒歩5分圏内に何でもある」(26歳女性)
「大型スーパーが駅前にあり、そこで必要なものがすべてそろうので楽だった」(29歳男性)
・住んでいて困った点など
「車通りが多い(27歳女性)
「電車が常に激混み(※)」(29歳女性)
※時間帯による場合あり
田無駅前(写真/PIXTA)
1位・田無駅をはじめ、トップ15には西武新宿線の駅が11駅もランクインした。高田馬場方面に向かって、田無駅(1位)~西武柳沢駅(2位)~東伏見駅(3位)~武蔵関駅(15位)~上石神井駅(6位)~上井草駅(3位)~井荻駅(5位)~下井草駅(6位)~鷺ノ宮駅(10位)~都立家政駅(10位)~野方駅(9位)と連続する駅が上位を占めている。高田馬場駅の1駅先には西武新宿駅があり、ランクインした中では最も距離がある田無駅からでも急行に乗れば西武新宿駅まで約23分。野方駅からだと西武新宿駅まで各駅停車に乗って約17分で行くことができ、大学キャンパスだけではなく新宿エリアにアクセスしやすい点も西武新宿駅沿線の魅力だろう。
ランクインした西武新宿線の駅のうち、高田馬場駅までの所要時間が最短なのは10位・鷺ノ宮駅。急行で1駅・約9分という近さで、家賃相場は7万3000円だ。中野区に位置する駅の周辺は住宅地で、大型商業施設が立ち並ぶような街並みではないぶん落ち着いて暮らしたい人にはよさそうだ。南口側には「鷺宮八幡神社」を囲むように住宅地が広がる一方、北口側は中杉通り沿いを中心に多彩な店舗が軒を連ねている。飲食店も多彩なジャンルがそろっており、気軽に利用できるテイクアウト可能なお店が多いのも嬉しいところだ。
鷺ノ宮駅(写真/PIXTA)
■学生時代に鷺ノ宮駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「(駅の近くに)『OKストア』が2つもあってとても便利。コンビニやドラッグストアもあるので生活用品には困らない。新宿や池袋など繁華街も近いのですぐ遊び場に行けるし人にも会いやすい」(29歳女性)
「急行が止まる。スーパーが多い」(24歳女性)
・住んでいて困った点など
「(夜は暗いので)街灯はもう少しあったらよかった」(29歳女性)
「最寄りに大きなお店はあまりないので、大きな買い物は電車を乗る必要がある」(29歳女性)
■2位 西武柳沢
・住んでいてよかったところ
「新宿まで乗り換えナシで行ける。下町感にあふれている」(28歳男性)
「美味しいラーメン屋がたくさんある」(27歳女性)
・住んでいて困った点など
「気軽に入れる低価格のレストランが少ない」(21歳女性)
「(小さなスーパーはあるが)大きなスーパーが近くにない」(27歳女性)
■3位 上井草
・住んでいてよかったところ
「騒音等は少なく、個人経営のお店が多いので雰囲気は悪くない。また、『CATS&DOGS』というカラオケが安い上に楽器の練習が可能だったので、スタジオを借りる余裕がない音楽をやっている学生には優しかった」(28歳女性)
「閑静な住宅街であるが、少し移動すればチェーン店などもある」(24歳男性)
・住んでいて困った点など
「駅の近くに普通のスーパーや大きなドラッグストアがない。 急行が止まらない」(28歳女性)
「電車の乗り換えが若干不便だった」(24歳男性)
■3位 東伏見
・住んでいてよかったところ
「落ち着いていて夜も静かでよかった。駅の近くのベーグル屋さんやパン屋さんがおすすめ」(29歳女性)
「街並みが小綺麗で落ち着いている」(21歳女性)
・住んでいて困った点など
「電車が各駅停車しか止まらない」(27歳女性)
「スーパー(の種類)が少なくて不便」(29歳女性)
トップ15にランクインした駅の家賃相場は早稲田キャンパス周辺に比べるとリーズナブル。しかし、「もっと安さを追求したい、でも通学しやすさも担保したい」という人もいるだろう。そこで「ハウスメイトショップ新宿店」の佐久真さんに、家賃を抑えたい人向けのおすすめの街を聞いてみると……。「東武東上線の朝霞駅や朝霞台駅です」と教えてくれた。
朝霞駅の南口(写真/PIXTA)
おすすめ駅の一つ、朝霞駅は埼玉県朝霞市に位置しており家賃相場は5万9500円。2023年3月のダイヤ改正で東武東上線の急行停車駅となり、「急行なら池袋駅まで3駅・最短約16分で到着。東京メトロ副都心線直通の東武東上線に乗れば、乗り換えせずに西早稲田駅まで約29分で行くことができます」。高田馬場駅までは池袋駅でJR山手線に乗り換え、計約27分で行くことができる。朝霞駅には駅ビル「エキア朝霞」が併設され、ラーメン店やハンバーガー店、カフェといった飲食店に、ファッション・雑貨店、ドラッグストアなど約20店が並んでいる。駅前にも複数の飲食店が点在するほか、安さを売りにしたスーパーもあるので自炊派で食費を節約したい人にもいいだろう。
朝霞台駅(北口)駅前広場(写真/PIXTA)
■学生時代に朝霞駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「チェーンのレストランやカフェなどが充実している。また、朝霞駅、朝霞台駅、北朝霞駅の3つを利用できるので、遠出しなくても遊べる場所がある」(29歳女性)
「24時間スーパーがあることはとても心強かった」(25歳女性)
・住んでいて困った点など
「夜道は暗くて人通り少ないので注意が必要」(25歳女性)
朝霞台駅は朝霞駅の1駅隣に位置し、朝霞駅と同じ埼玉県朝霞市内、家賃相場も5万9500円と同額だ。こちらは2023年3月より快速急行の停車駅となっており、「快速急行なら池袋駅まで2駅、最短約17分です」。朝霞駅と同様に池袋駅でJR山手線に乗り換えると、高田馬場駅までは計約29分。東京メトロ副都心線直通の東武東上線に乗ると、西早稲田駅まで乗り換えなし・約32分だ。また、「朝霞台駅の駅前ロータリーをはさんでJR武蔵野線の北朝霞駅があり、2つの路線を利用できる点も便利ですよ」と話す佐久真さん。朝霞台駅は改札前コンコースにファストフード店やベーカリー、書店などがあり、駅前には複数のコンビニや気軽に入れる飲食店も。すぐ近くにスーパーもあるので、日常の買い物には困らない環境だ。
■学生時代に朝霞台駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「近くに大きな公園があり、リフレッシュできる」(30歳女性)
「都内、ディズニーランドなど主要な場所に電車1本で行けて、アクセスがかなり良い」(24歳女性)
・住んでいて困った点など
「夜少し騒がしく、夜道を帰る時は気をつけていた」(30歳女性)
「池袋、新宿、渋谷などのアクセスは便利だが、朝霞台駅自体は駅前にルミネなどのファッションテナントや百均、雑貨屋などがなく不便を感じる」(29歳女性)
さて、2023年3月に相鉄・東急新横浜線が開業したことにともなって、東武東上線~東京メトロ副都心線~東急東横線~東急新横浜線~相鉄新横浜線~相鉄線の直通運転もスタート。つまり東武東上線沿線から東海道新幹線の停車駅でもある新横浜駅まで、ダイレクトアクセスが可能に。また、東武東上線は池袋と逆方面に進むと、川越や東松山といった埼玉県内の駅を通っている。だから、例えば東海道新幹線をたびたび利用したい人、川越方面や東急東横線沿線の渋谷駅や横浜駅によく出かけるという場合は、通学以外の面でも東武東上線沿線に住むと便利だろう。そんなふうに、通学で利用する駅以外に沿線にはどんな街があるのかもチェックしつつ住む街を探すと、より充実した学生生活が送れるかもしれない。
●取材協力
ハウスメイトショップ
●家賃相場ランキングの調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている高田馬場駅、西早稲田駅、早稲田駅(メトロ、都電)まで20分以内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/2~2023/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※早稲田駅については、メトロ、都電を最寄りとする物件両方の中央値を掲載しています
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年11月27日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載
【家賃相場の調査】株式会社リクルート
●クチコミの調査概要
●調査実施時期:2024年1月17日~2024年1月22日
●調査対象者:現在東京・神奈川・埼玉にお住いの、学生時代(大学・大学院・専門学校問わず)、家賃相場ランキング記載の駅周辺の賃貸住宅で一人暮らしをしたことがある18~30歳までの男性219名、女性445名
●調査方法:インターネット調査
●有効回答数:664
●調査主体:株式会社リクルート、実査委託先:楽天インサイト株式会社
同じマンション内や近所に住んでいても、なかなか隣人の顔が見えにくいのはよくあること。「コミュニティ醸成型サービス」とは、同じ街やマンションに住む人限定のプラットフォームで、簡単にリアルタイムでコミュニケーションできる機能を備えている。地域コミュニティを支える基盤として、コロナ禍以降、存在感を増している。「日本DX大賞」UX部門 優秀賞を受賞したマンション・自治会の住民限定コミュニティ醸成サービス「GOKINJO」と、東急運営の地域共助プラットフォームアプリ「common」を取材。コミュニティ醸成型サービスの最新事例を紹介する。
ご近所で多世代交流できるきっかけをアプリでつくる(画像提供/コネプラ)
マンション等の住民限定で近所付き合いができるアプリ「GOKINJO」新型コロナウィルス流行の前後に登場した各社のコミュニティ醸成型サービスは、地域情報の共有を促し、住民同士の共感を育てる機能があり、利用することで暮らしが豊かになるよう設計されている。
株式会社コネプラが運営するGOKINJOは、マンションなどの住民限定で、程よいご近所付き合いが出来るサービス。街やマンションの資産価値向上や防災力アップに繋がるサービスとして、タワーマンションから戸建て分譲地の自治会まで幅広く導入されている。
子どものお下がりや日用品を住民間で気軽に無料でシェアリング・リユース(画像提供/コネプラ)
サービスの構想がはじまったのは、2019年に募集された旭化成グループの社内コンテストがきっかけだった。最終プレゼンを経て実証実験を行い、初の社内ベンチャーとして2022年4月にコネプラが創業された。開発に関わったのは創業メンバーのCEO中村磨樹央さん、CTO森屋大輔さん、マーケティングディレクター根本由美さん。中村さんと根本さんに企画の背景や開発の経緯を取材した。
左から中村さん、森屋さん、根本さん(画像提供/コネプラ)
老若男女を問わず、多くのユーザーに愛用されていることが評価され、DX推進を加速させるDXコンテスト「日本DX大賞2023」で、全国から応募のあった100を超える企業、自治体、公的機関、大学からUX部門 優秀賞を受賞(画像提供/コネプラ)
「構想の元になったのは、私と森屋が知り合った時、森屋がつくっていた子どもを保育園に入れる保活をしているママ同士を繋げるサービスでした。保活情報を頑張って勉強して集めても入園したら必要ない。一方で、保活中のお母さんはその情報をすごく欲しがっている。Aさんが不要となった知識や経験は、Bさんにとっては必要なものにも関わらず、価値交換の仕組みがこのような狭小地域社会においては機能していませんでした。特に子育て中の女性やシニアなど資本主義社会から分断されがちな人たちをケアしながら、地域での価値交換を機能させるサービスをつくろうと話し合いました」(中村さん)
その後、プロジェクトに加わった根本さんは、11年ほど自社ブランドの住宅設計に携わってきたが、「お客様の暮らしを見ている中で、物やスキルを持て余していて役立てる場所がない方が多いと感じていた」と同じ課題感を抱えていた。
そこで、特定地域内で「信頼できる相手」とつながり、無形の遊休資産活用に結び付ける現在のGOKINJOのプラットフォーム開発に着手。シニアにも使いやすいUI開発に苦心し、古い「らくらくフォン」等のシニア世代が所有する機種をテスト用に数台購入し、操作しながら開発にあたった。
2020年9月から、分譲マンションでGOKINJOの運用がスタート。開始時のGOKINJOは、気軽な情報をやりとりできる「情報交換」機能を搭載。その後、「お譲り機能」、「お助け」機能、「お知らせ」機能、「コイン」機能が追加された。
「不要な物をあげてお金をもらうより、ありがとうって笑顔をもらった方が嬉しいという方は少なくありません。お譲り機能では、子どものお下がりや日用品を無償でシェアリングしたり、住民間でリユース出来る場を提供しています。コイン機能は、貨幣経済に乗らないコミュニケーションを表現するために開発しました」(根本さん)
ニックネームなど匿名で利用でき、多世代間で情報交換が盛んに行われている(画像提供/コネプラ)
マンションの住民間で譲渡する品物を、ゆるく受け渡しできるキャビネも提案。部屋番号を明かさずに、気軽にモノのやり取りができる(画像提供/コネプラ)
マンションの住民は、アバターや画像を選び、ニックネームを登録、パーソナル情報で「2歳の女の子がいます」「ランニング好き」など自由にプロフィールを公開設定できる。顔はわからなくても、「こういう人が近くに住んでいるんだな」とわかる。アプリ利用者は居住者のみで、また、コネプラが管理・運営を行ってくれるので、匿名不特定多数のSNSにはない安心感があると好評だ。
アプリ上住民同士で問題解決が進むなどマンション運営上のメリットもGOKINJO は2023年11月10日現在、12箇所の分譲マンションや分譲地で使用されており、利用住戸数は、約2000戸、ユーザー総数は約3300人。20代から90代まで多世代に支持され、順調に導入物件を増やしている。
GOKINJOを導入したマンションの理事の声を紹介しよう。
新築で導入した東京都板橋区のマンション(約230戸)は、開始3年で住民の91%330名が利用している。30~40代の理事からは、「潜在的意見が出やすい」「理事会活動の可視化が図れる」という声がある。大阪市にある築8年のマンション(約280戸)では、住民の72%にあたる286名が利用。30代理事は、メリットに、「子育て世代に必須な近所の情報がわかり、譲り合いもできること」を挙げている。
アプリ投稿を組合運営に役立てたり、住民が情報交換することで問題解決できたり、居住者がランニングクラブを立ち上げ、GOKINJOを通じて集まったメンバーで練習・マラソン大会に参加するなどアプリからリアルへ展開したケースもある。お金で買えない体験は、マンションの価値向上にも繋がっている。
「壊れていた自転車置き場の空気入れを買い替えませんか?」という投稿に寄せられた使い勝手のいい製品の情報を管理組合に提案、共同購入に至った例(画像提供/コネプラ)
マンション以外では、分譲後30年が経過した佐賀県基山町けやき台の分譲地に導入。登録者のうち70%が年齢60代以上。掲示板をデジタル化するなどタイムリ―な情報発信で交流が活発に(画像提供/コネプラ)
居住マンションの元理事で、GOKINJOを導入するきっかけをつくった奥井亮佑さん(30代)に詳しく伺った。
「2022年1月に、居住マンションの理事になり、マンション情報のデジタル掲示板づくりに取り組んでいるとき、GOKINJOに出会ったんです。課題解決の手段として理事メンバーで導入を検討し、半年間の検証期間を経て、採用に至りました」(奥井さん)
奥井さんは、GOKINJOを毎日利用するヘビーユーザー。「日次で情報が更新されますので、それを見るのが毎日の楽しみ。自分の投稿にたくさん『いいね』がつくと嬉しいです」と話す。
たびたび利用するというお譲り機能を利用して、子ども用の衣服、おもちゃ、電子機器などを譲渡した。マンションでは、年2回GOKINJOのお譲り機能をもちいたバザーを開催している。GOKINJOと組み合わせることで自宅に居ながら出品物をスマホで確認でき、大変便利だと大人気に。苺ジャムの蓋が固すぎて開けられなかった時、お助け機能タブでSOSしたというユニークな使い方も。マンションの中で、力自慢の人を募る投稿をしたところ、数分以内に立候補コメントが続々届きびっくり。集会室で公開開封式を実施し、無事に苺ジャムを美味しく食べることができたという。
「マンション居住者と挨拶する機会が増え、マンション全体が明るくなった気がしますね。アプリを通じて知り合った方々と、一緒にイベント(ゴルフコンペや、飲み会)の企画もするようになり、同一の趣味を持った知人が増えて、楽しいマンション生活を送れています」(奥井さん)
地域と連携した仕掛け(地域クーポン等)を使って、街を盛り上げることができるのもメリットだ。これからのGOKINJOに期待するのは、地域特化の防災情報の自動連係や、連携防災イベントの実現。理事会としても活用を広げていきたいと考えている。
GOKINJO導入のマンションではデジタルからリアルな交流へ発展する例も。マラソン大会や集会室でのボードゲーム大会など住民主体のイベントが開催されている(画像提供/コネプラ)
同じ街をフォローする住民同士が交流できる東急「common」commonの利用イメージ(画像提供/東急)
コミュニティ醸成型サービスには、同じマンションの住民に限らず、同じ街に住む人を対象にしたものもある。東急が運営するcommonは、投稿機能、譲渡機能、相談機能を搭載したアプリで、同じ街に住むご近所さんとの共助関係を生み出し、より良い街をみんなでつくるサービスだ。開発を主導した東急株式会社デジタルプラットフォームデジタル戦略グループの小林乙哉さんと池原雄大さんにプロジェクトの経緯を取材した。
小林さん(左)・池原さん(右)のお写真(画像提供/東急)
不動産や鉄道、いわゆるハードの開発を行ってきた東急だが、少子高齢化などの課題解決のため、2010年代からソフトな街づくり、住民主体の街づくりを推進してきた。住民参加の街づくりを進める中で新たに生じた課題があった。
「二子玉川や池上などで住民参加や公民連携の街づくりに関わる中で、例えばイベントを実施した場合でも住民のごく一部の方しか参加していただけないということに気づきました。より多くの地域の住民の皆さまに何かしらの形で関わっていかないと解決できない課題が地域には多い中で、これまでの住民参加の街づくりのやり方の限界を感じました。また旧来の地域コミュニティが高齢化や担い手不足の問題を抱えている中で、デジタルを使って、新しい共助の仕組みをつくろうと2019年の末頃からプロジェクトがはじまりました」(小林さん)
東急が2019年に公表した長期経営構想のビジョン。CaaS(City as a Service)構想は、リアルな街づくりに加えて、デジタル技術を積極的に活用した新しい街づくりを目指している(画像提供/東急)
地域に関心があってもきっかけがない、忙しくて関われない人は多い。そのような大多数の人たちに関わってもらえるような場をつくることがプロジェクトの使命だった。プロジェクトを進める中で、コロナ禍に突入。開発メンバーもテレワークになった。
「自宅にいる時間が長くなり、散歩をするようになってはじめて自分が暮らす街の魅力に気づいたんです。こんな素敵な景色があったんだ!と思った時に、同じ街に住む人同士で情報などを共有する方法が無いな、そういう場をつくれないだろうかと思うようになりました」(小林さん)
結果的に、開発メンバーのコロナ禍の体験が、街の景色や出来事、食や防犯・防災の情報などを共有できる投稿機能の開発に繋がった。
なんていうことのない見慣れた風景が輝く一瞬。写真は、多摩川のマジックアワー(画像提供/東急)
2021年3月、第1弾として二子玉川エリアでcommonの運用をスタートした。投稿機能のほか街の困りごとや疑問を解決していく「質問・回答機能」を提供。これらの機能を利用者が活用すると、街への貢献が数値として可視化される機能も搭載した。
街のどこで何が今起こっているかがわかるタイムラインとマップ ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)
相談に答えるなど街に貢献するとポイントがもらえる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)
「『同じ街に住む、働く特定多数の人とのコミュニケーション』を促進・活性化させるのが狙いです。2023年1月から対象エリアを東急線沿線全域に拡大しました。コミュニケーションできる範囲は、駅を基点とした生活圏単位に限定。二子玉川や自由が丘など駅名でエリアを提示し、好きな街、コミュニティに属したい街を選んでいただく形にしています。街をフォローする感覚が近いと思います」(小林さん)
■関連記事:
【東急・京急・小田急】少子高齢化で変わる私鉄沿線住民の暮らし。3社が挑む沿線まちづくり最前線
2023年12月末時点で累計ダウンロード数は約10万と着実に増加し、アプリ内での月間コミュニケーション数(投稿数、コメント数などのユーザー間のやりとりの合計)は30,000件を突破した。従来のSNSのような不特定多数でもなく、また特定の知り合いでもない、新しい交流が生まれている。運用開始前後からアンケートやインタビューを実施し、届いた声を開発に活かしてきた。どのような声が寄せられていたのだろうか。
街歩きで見つけたお蕎麦屋さん。「地域のお店こそ街のアイデンティティを形づくるもの」という考えから、ユーザーだけでなく、地域店舗も、広告費なし(無料)で利用できるようにした(画像提供/東急)
「運用開始後のアンケートで多かったのは、譲渡機能の要望です。既存のサービスは、対象エリアが広域だったり、機能が有料だったり、身近な人に無償で譲りたいというニーズを満たせていないことがわかりました。commonが目指すのは、自分のリソースを他人の為に使って街に貢献できること。二子玉川エリアで運用を開始した直後から譲渡機能の開発の検討を進めていました」(池原さん)
2021年12月に実装された譲渡機能には、マイナンバーカード等の公的身分証明書を使った本人確認機能を導入し、安心して譲渡できる仕組みをつくった。「大きくて郵送料がかかるようなもの、お金をもらわなくてもいいものを譲る際に役立つ」と好評だ。小さなものなら、駅付近に設置した無料で利用できる「commonスポット」も用意されている。譲りたいものをロッカーに入れて対面なしでやりとりできるので、通勤・通学の合間にも手軽に譲渡できる。不要になった物を譲ることで、地域に関わるのは、ハードルが低く、地域コミュニティへの入口としてよさそうだ。
取引相手にのみ本人確認後の町名までの住所(例:世田谷区玉川)を公開する仕組み。確実に同じ街に住んでいるかを判別できる ※デザインは当時のもの(画像提供/東急)
さらに、commonを使ったリユースプロジェクトが神奈川県座間市内全域で実施されている。市民間の無償譲渡の促進により廃棄物を減らすプロジェクト(実施期間:2023年10月23日~2024年2月29日)だ。画期的なのは、手渡しや「commonスポット」のほかリユース品を玄関先等へ出すことで、市の粗大ごみ収集・運搬を担う座間市リサイクル協同組合が回収し、貰い手の玄関先等へお届けする無料サービスを選択できること。高齢者や外出が難しい方の利用促進が期待されている。
2023年6月に搭載した相談機能では日々の暮らしの中で生まれた悩みについて、同じ街の人に相談したり、相談にのったりできる(画像提供/東急)
植栽に関する相談の投稿に対して、地域の観葉植物・生花店がアドバイスを寄せてくれたこともある(画像提供/東急)
「人口が減少していけば税収も減少し、自治体ができることが限られていく中、住民サイドで解決しなくてはいけないことが増えていくはずです。住んでいる方が地域に貢献できる仕組みがますます求められると思います。今のcommon には住民間の助け合いの機能しかないのですが、将来的にはユーザーの声が直接街づくりに繋がるような機能を増やしていきたいですね」(小林さん)
近年、少子高齢化や自然災害の増加などにより、地域住民間の共助の必要性は、高まる一方。見返りを求めないやりとりから新たな地域コミュニティを生み出す「GOKINJO」と、「common」。「親切にしてもらったから、私もしてあげたい」という人間の素直な気持ちに寄り添うサービスだと感じた。
●取材協力
・株式会社コネプラ
・common
選手村跡地のビッグプロジェクトとして話題となる「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」。先行して、分譲マンションの販売が行われたが、賃貸住宅街区にある賃貸住宅の募集も始まった。通常の賃貸に加えてシェアハウスもあり、シェアハウスを運営するリビタによるプレス向けの見学会が開催されたので参加した。
HARUMI FLAGには約13haの広さに24棟、住宅は全5632戸先行して販売された新築マンションに話題が集中したが、HARUMI FLAGには3つの分譲住宅街区(SEA VILLAGE・SUN VILLAGE・PARK VILLAGE)に4145戸の新築マンションがあるほか、賃貸住宅街区(PORT VILLAGE)に1487戸の賃貸住宅(シェアハウス他含む)がある。このほか教育・保育施設や商業施設があるのだが、約13haの広大な土地なので、それぞれの棟がゆったりとした住棟配置になっている。
その賃貸住宅街区にはA~Dの4棟のマンションが建ち、一般的な賃貸住宅だけでなく、シニア住宅やケアレジデンス(サービス付き高齢者向け住宅)も提供されている。そのD棟の7~9階の一角が「シェアプレイス HARUMI FLAG」になる。
実は筆者は、東京2020パラリンピックのフィールドキャストとして、選手村でボランティアをしていたので、HARUMI FLAGは懐かしい場所でもある。賃貸住宅街区の選手たちを担当したことも何度かあり、カウンターでさまざまな対応をしたほか、選手団の鍵の受け渡しを確認したり選手を故障対応スポットまで案内したりと、いろいろな思い出がある。ただ、とにかく広いので、担当する街区の見回りをするだけでも時間がかかったと記憶している。
東京2020の選手村だったと記載されたサインボードもある(筆者撮影)
共用施設が充実のシェアプレイス HARUMI FLAGさて、シェアプレイスとは、リビタのシェア型賃貸住宅で、共用施設が充実しているのが特徴だ。このシェアプレイス HARUMI FLAGでも、8階と9階に2層吹き抜けの共用施設がある。
「シェアプレイス HARUMI FLAG」公式サイトより
2層はそれぞれ階段で行き来でき、8階には大きなキッチンのあるシェアラウンジが2カ所とシアタールームがある。
シアタールーム(左)とシェアラウンジA(右)(筆者撮影)
シェアラウンジB(筆者撮影)
9階には、ソファや腰かけのあるシェアラウンジCがあり、海を臨むバルコニーに出ることもできる。
9階バルコニー(筆者撮影)
シェアプレイス HARUMI FLAGならではの特徴が、賃貸住宅街区にある他の住棟の共用施設も利用できることだ。8・9階の施設に加え、A棟の大浴場、C棟のフィットネスルームやワークスペースも無料で利用できる(他に有料のパーティルーム等の施設もある)ので、ここまで共用施設が充実しているシェアハウスはめったにないだろう。
2層吹き抜けで開放感のある共用施設(筆者撮影)
いちいち外に出るのは面倒だと思ったが、地下でつながっていて他の住棟に行き来できるのだという。残念ながら見学はできなかったが、雨が降っていても気にせず大浴場に行けるなら、風呂好きの筆者は毎日通うだろうと思った。
シャワーブース付のワンルームタイプのほか、ユニット型も次に居室だが、個室型(ワンルーム)が58室、ユニット型(まとめ借り)が13ユニット(56室)の計114室。個室型の面積は25.01平米~28.46平米、インターネット(無料)とエアコン、照明が設置済みで、シェアハウスには珍しく各戸にシャワーブースがある。賃料は11万4000円~12万6000円(予定)と共益費1万円(水道・光熱費は個別契約)だ。
リビタのプレスリリースより転載
個室型(筆者撮影)
シェアプレイス HARUMI FLAGならではのユニット型は、法人の社宅向けだ。74.63平米~92.09平米の広さに、約10平米の鍵付き部屋が4室または5室あり、キッチンとトイレ(2台)、洗面台(2台)、シャワーブース(2台)を共同で使う。居室にはエアコンのほか冷蔵庫や脚付きマットレス、デスク・チェアなどが設置済み。単身者の社員などが共に暮らす形となる。
また、リビタのシェアプレイスの特徴は、多世代・多業種のコミュニティ形成にある。居室が充実するほど、共用施設での触れ合いが少なくなりがちだが、共用施設を活用したコミュニティ形成のための活動をシェアプレイス居住者に向けて開催していく計画だ。そのために「エディター制度」を仕掛けている。
当初の賃料などを軽減する代わりに、共用施設でイベントの企画やシェア暮らしの魅力発信をしてもらう多様な人材をエディターとして募集した。当初4人の計画だったが、6倍以上の倍率となり多様な人材が応募してきたこともあって、枠を6人に増やし、3月から活動が開始されるという。
D棟のエントランスホールはなかなか豪華だ(筆者撮影)
D棟の外観。一部形状の異なっている部分がシェアプレイスの共用施設。住棟ごとの間隔は広く取られている(筆者撮影)
まだ開発中の部分もあるが、BRTの選手村ルートが2月1日から開通シェアプレイス HARUMI FLAGは2月1日から入居可能だ。HARUMI FLAG全体としては、タワー棟(工事中)を除き入居が始まっているものの、現在工事を行っている施設もある。街として完成するにはまだ時間がかかるが、交通アクセスは良くなる。
いよいよ東京BRTの選手村ルートが2月1日から開通するのだ。JR新橋駅から「HARUMI FLAG(晴海五丁目ターミナル)」停留所を結ぶもので、東京都によると乗車時間は11分となっている。既存のBRTと合わせると、虎ノ門ヒルズから国際展示場までカバーすることになる。今後も延伸などの予定があると聞く。
なお、BRTとは「Bus Rapid Transit」(バス高速輸送システム)の略で、連節バスの採用などで通常のバスより輸送力高めたもの。
筆者が見学したときにはまだBRTが開通していなかったので、都営地下鉄大江戸線「勝どき」駅からかなり歩くことになった。BRTならもっと楽に往復できたのにと、ちょっと残念な思いがした。
「HARUMI FLAG」については、その規模感や立地条件などから、人によっては好き嫌いがあるかもしれない。ただ、シェアハウスという形態から見ると、これだけ共用施設が充実しているものはないだろう。共用施設の大きな窓からの眺めもシェアプレイス HARUMI FLAGならではのものだ。こうしたことをどう評価するかは、人それぞれだろう。
●関連サイト
リビタのプレスリリース:コミュニティがある住まいで、「フラグ」に溢れる暮らしを提案|『シェアプレイス HARUMI FLAG』2024年1月オープン
「シェアプレイス HARUMI FLAG」公式サイト
東京BRT 「2/1(木)~選手村ルート運行開始について」
ホテルの実測スケッチがSNSで人気を集め、2023年8月に『東京ホテル図鑑』(学芸出版社)として書籍化が実現した一級建築士・カラーコーディネーターの遠藤慧さん。実測スケッチとは、建築物などの対象物を観察しメジャーなどでそのさまざまな部分を測量、スケッチに落とし込んだもの。初の著書には、「アマン東京」「帝国ホテル」など人気の名建築ホテルがたっぷり収録されています。どのような視点で実測スケッチを描いているのか? ホテルの実測スケッチに密着し、建築スケッチに込めた思いをたっぷり語ってもらいました。
遠藤慧さん。講談社の雑誌『with』にて「実測スケッチで嗜む名作建築」連載中(写真撮影/池田礼)
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名建築ホテルを実測スケッチで味わう。「アマン東京」「LANDABOUT TOKYO」「hotel hisoca」など 一級建築士 遠藤慧さん
『東京ホテル図鑑 実測水彩スケッチ集』(学芸出版社)(画像提供/遠藤慧さん)
「HOTEL K5」「アマン東京」「山の上ホテル」「hotel Siro」など東京・近郊で人気のホテルを収録(画像提供/遠藤慧さん)
遠藤さんは、建築事務所に勤めていたころ、設計のリサーチとしてホテルの実測スケッチを描きはじめました。デザインの勉強のためにホテルを実際に訪れ、建築家が建てた空間を体験しながら描いたスケッチは、現在までに30枚以上! 丁寧に描き込まれた実測スケッチからは、建築を慈しむ遠藤さんの眼差しや感動が伝わってきます。初の著書となる『東京ホテル図鑑』には、2020~2023年、宿泊して描いた23のホテルの実測スケッチを収録。見開きに1つのホテルの要素を詰め込んだ図鑑のような仕上がりです。
見開きページでホテルの1ルームの空間を表現。左ページにはパース(遠近法で描いた線画)、右ページに平面図、中央付近にアメニティを描いた例(The AOYAMA GRAND Hotel 建築設計:三菱地所、インテリアデザイン乃村工藝社A.N.D)(画像提供/遠藤慧さん)
実測したホテルの写真と解説、スケッチの参考にした色や素材のリストも掲載(アマン東京 設計:大成建設、インテリアデザイン:ケリー・ヒル・アーキテクツ)(画像提供/遠藤慧さん)
遠藤さんが図鑑的なスケッチを描くようになったきっかけは、東京藝術大学美術学部建築科の授業「建築と表現」の課題でした。
その時試みたのは、建築の空間を表現する際、1つの側面だけではなく、断面や置いてある植物など空間を構成している全てを1枚に収めたスケッチを描くことでした。指導担当の中山英之教授から「君がやりたいのは図鑑なんだよ」と指摘され、遠藤さんはハッとしたと言います。子どものころ、図鑑が好きだったことを思い出したのです。例えば、小学館の図鑑シリーズでは、「タンポポ」のページを見ると、花の断面や蕾から開いていく様子、植物学的な分類、タンポポの花を使った草遊びまで、あらゆる事象がタンポポを説明するものとして、1ページに収められています。幼い遠藤さんにはそれがとても美しく思えたのです。
遠藤さんの実測スケッチには、真上から見た平面図、建物を縦に切った時の断面図、立体的に表現されたパースなどが1枚に収められ、さまざまな角度からホテルの魅力を伝えています。シャンプーや歯ブラシなどのアメニティやフードを描いたマニアックなスケッチも! 情報量が多く、見飽きることがありません。
限られたスペースに機能とデザインを両立させた収納や洗面台は必ずスケッチ。タオル入れやコンセントの配置も描いたスケッチ(The AOYAMA GRAND Hotel 建築設計:三菱地所、インテリアデザイン:乃村工藝社A.N.D)(画像提供/遠藤慧さん)
遠藤さんの琴線に触れたものは描かれる運命。ルームキーや部屋に飾ってある花も(山の上ホテル 建築設計:ヴォーリズ建築事務所ウィリアム・メレル・ヴォーリズ/現一粒社ヴォーリズ建築事務所)(画像提供/遠藤慧さん)
「hotel hisoca」の実測スケッチ(設計・施工:UDS)(画像提供/遠藤慧さん)
「hotel hisoca」の実測スケッチを描いた縁で、ホテルのコンセプトブックのイラストを担当。美しい絵本をめくっているよう(写真撮影/池田礼)
遠藤さん、一体どうやって描いているんですか!? そこで、実際に宿泊して実測スケッチする過程を見せてもらうことに。著書にも登場する「all day place shibuya」実測スケッチに同行。書籍に収録されているのは、2022年12月、ダブルルームに宿泊し、実測スケッチしたものです。今回は、スイートルームの実測スケッチを行います。
使われている色や素材から設計者の意図を探るJR渋谷駅から徒歩5分、高低差のある道路に挟まれた角地に立つ「all day place shibuya」。2階のレセプションに、小さなジュラルミンのキャリーケースをひいて現れた遠藤さん。「初めて泊まるお部屋を描けるのがとっても楽しみ!」とにっこり。2回目の来訪ですが、初めて訪れた時のホテルの印象はいかがでしたか。
「一番魅力的に感じたのは、道路との高低差を段状のベンチや花壇で上手く調整しながら、屋外空間をつくっているところです。誰でもするっと入っていけるポケットパークのよう。街にとっても素敵なことだと思います」(遠藤以下略)
街に開きながら囲われた感もあり、ベンチには、コーヒーやビールを手に語り合う人々の姿がありました。
高低差のある道路に囲まれているがレベル差を活かしたエントランス(写真撮影/池田礼)
床やベンチ、花壇の立ち上がりには緑色のタイルを使用(写真撮影/池田礼)
2022年にダブルルームに宿泊した時描いたスケッチ(all day place shibuya 企画・設計・運営:UDS、客室インテリアデザイン:DDAA)(画像提供/遠藤慧さん)
「とても素敵なのは、エントランスに入った時の体験が途切れずに2階まで続いていくこと! 1階のカフェの床に使われている緑色のタイルは、屋外やエレベーターの中まで連続していて、内外が繋がっているんです。多治見の美濃焼を使ったオリジナルのタイルは、色むらが本当にきれいで、街とホテルをグラデーショナルに繋いでくれています」
植栽と相まってイメージカラーの緑が強調されている(写真撮影/池田礼)
色むらが美しい緑色のタイルがエレベーターの床まで連続している(写真撮影/池田礼)
建物のインテリアデザインは、DDAA。ホテルのレセプションがある2階のレストランはPuddleによる設計です。
「素材の使い方などデザインコードが似ているので、建物全体に共通言語があると感じます。2階は土色のタイルを床と壁面の一部に用いたデザインですが、エントランスも、床と花壇の立ち上がり部分にタイルを使用していました。レセプションに置かれたアクリル板と金メッキの単管パイプを使った造作のテーブルがすごくカッコイイです!」
※デザインコード
「配置」「色」「形」「素材」など、空間の秩序を構成する「視覚的な約束事」
スタッフが常駐するコミュニケーションテーブルや季節のディスプレイを展示するテーブルは、DDAA・元木大輔さんによるオリジナル(写真撮影/池田礼)
一級建築士でありカラーコーディネーターでもある遠藤さんだからこそ気づける視点はハッとすることばかり。解説をしながら壁やテーブルにそっと触れる遠藤さんは、物言わぬ建物と語り合っているように見えます。
「建築は、とても雄弁なんですよ。事前に資料も調べますが、訪れないとわからないことの方が多いんです。設計は箱だけつくるわけじゃなくて、過ごす人のことを考えて雰囲気も含め、トータルにデザインされています。滞在して、その場に身を置くことで、設計者の思いを辿っていきたいと思っています」
2階にあるピッツァ・ダイニング「GOOD CHEESE GOOD PIZZA」では、毎朝、清瀬の農場から届く新鮮な牛乳からつくったチーズを提供(写真撮影/池田礼)
モーニングで選べる「つくりたてストラッチャテッラ オンザブレッド」は、もちもちとしたチーズとサーモン、アボカドのコンビネーション(写真撮影/池田礼)
描くことで、ものをよく見ることができる今回、実測スケッチをするのは、「Weekend Suite」(広さ53.7平米・定員2名)です。入室するやいなやドアに貼ってある避難経路図をまじまじと見る遠藤さん。
「フロアにある部屋の並びを確認しているんです。宿泊する部屋が、このフロアで一番多いタイプなのか特殊な位置づけなのか把握することから始めます」
ゆったりとしたソファスペース。22時までならゲストを呼んでパーティ等も可能(写真撮影/池田礼)
感嘆の声をあげながら、メモをとったり、収納をのぞいたり、楽しそうな遠藤さん(写真撮影/池田礼)
(写真撮影/池田礼)
ベッドルームから水回り、収納を見て回ります。ベッドとソファスペースの間にあるユニークな形のオブジェは、オリジナルデザインの照明でした。
「ホームページの写真で見た時は何だろう?と思っていましたが、ベッドとソファスペースの仕切りとしてとても良いですね。金属ブラインドの透け感が良い感じ。ぐにゃぐにゃ柔らかそうな照明でとてもかわいいです」
ベッドルームの壁には首都高をモチーフに制作されたアート(作:安田昴弘氏)が飾られています。以前遠藤さんが宿泊したダブルルームと同様に本棚などの什器には緑色のメラミン化粧板が使われていました。
コーヒーにまつわる本が置かれたシェルフには、コーヒー豆やミルも用意されている(写真撮影/池田礼)
積層合板を小口に現したメラミン化粧板の棚。右は壁や床の色や素材を示したもの(画像提供/遠藤慧さん)
「部屋に使用されているメラミン化粧板の緑色は、共用部のタイルの緑色とは印象も実際の色味も違いますが、他の素材がグレーや黒などの無彩色系なので、テーマカラーのグリーンがとてもきれいに伝わってきます。広いお部屋で見ると深い色に見え、本棚の天板が外の光やアートの色をほのかに反射して美しいです。入り巾木や造作家具の収まり、カーテンの見せ方など、ものとものとの取り合いが良いですね。壁面が真っ白ではなくてほんの少しグレーで、自然光を柔らかく広げていて、とても良い見え方になっています」
ホテルの担当者から、ひととおり、部屋の説明を受けたあと、実測がスタート。キャリーケースから次々と道具を取り出します。実測に使うのは、レーザー距離計と金属製のメジャー、色見本帳のほか見慣れない道具も。
左回りに、レーザー距離計、三角スケール、スコヤ(直定規)、コンベックス(金属製メジャー)、色見本帳(写真撮影/池田礼)
「レーザー距離計は部屋の外形など長い距離を測る時に便利です。椅子の高さなど中距離はメジャー、小さな厚みなどはノギス。コップなどの厚みや丸いものの径を測る時に使います」
慣れた手つきでレーザー距離計を壁にあてる遠藤さん。ベッドルームとソファスペースの長辺の長さは7m以上! 実測すると部屋の端から端まで想像以上の距離があり、どうりで広いはずだ!と納得。
「空間を何となく見ているだけでは描けないんです。構造がどうなっているのか理解するために、さまざまな角度からよく見るようにしています」
「後ろが窓になっているのが清々しくてとても良いですね」と遠藤さんお気に入りの洗面所(写真撮影/池田礼)
実測したら、最終的なレイアウトをイメージしながら、スケッチブックにおおよそのレイアウトや気になった家具などを描き、寸法を入れていきます。部屋の規模にもよりますが、その後の下書きやペン入れ、水彩による着彩は自宅で行うことが多いそうです。
(写真撮影/池田礼)
今回は、スケッチブックにひと晩でこんなに描き込んだというから驚きです(画像提供/遠藤慧さん)
描きたいのは、コップではなくコップが置かれた空間編集部に届いた実測スケッチ。設計者やデザイナーの思いと遠藤さんの感動が響き合い、生まれた1枚(画像提供/遠藤慧さん)
完成した実測スケッチを見た瞬間、思わず、ため息がこぼれました。紙面を大胆に使ってソファスペースからベッドルームのパースが描かれています。1階のクラフトビールバーのグラスには高さや幅のサイズが書かれ、「使ってみて欲しくなった!」という備えつけのソーダサーバーまで事細かに描かれています。
左下は、「カッコ良すぎる」と遠藤さんが感じたローテーブル。古材とアクリル板、荷紐のベルトなど素材についてのメモも(画像提供/遠藤慧さん)
壁と床の間にある巾木の素材や壁や家具の足まわりなども事細かに。神は細部に宿るとはまさにこのこと!(画像提供/遠藤慧さん)
チーズのとろとろが見事に描写された「つくりたてストラッチャテッラ オンザブレッド」。ピンクペッパーがピリッ(画像提供/遠藤慧さん)
遠藤さん、こんな目線で見ていたんだ……と驚くと共に、自宅のようにくつろいだ部屋の印象が蘇りました。
「空間の雰囲気が伝わったなら、とても嬉しいです。例えば、コップがあった時、私が描こうとしているのは、コップそのものじゃなくて、コップが置かれている空間です。何となくこの部屋いいなと思う時、その理由が1つだけということはあまりないと思います。コップのそばに置いてある食べ物だったり、その後ろにある窓からの光だったり、全部ひっくるめて、良いなと感じているはず。部屋を訪れた時の印象をどうやったら表現できるんだろう? と思って辿り着いたのが、図鑑的にいろんな断面を見せる実測スケッチだったのです」
カーテンを開けた時の感動が伝わってくる(帝国ホテル東京 設計:高橋貞太郎/本館、インテリアコーディネート:ジュリアン・リード/本館インペリアルフロア)(画像提供/遠藤慧さん)
実測スケッチ風ホテルステイの楽しみ方最後に、『東京ホテル図鑑』をもっと楽しむ方法や自分に合ったホテルを選ぶポイントを教えてください。
「SNSには『本は、汚さないように大切にします!』と言ってくださる方もいて有難いのですが、自分で訪れたホテルの感想を書き込んだりして使い込んでもらっても嬉しいです。建築資料として参照できるつくりにこだわったので、自分もとても役立っています。『どうやってホテルを見つけていますか?』という質問もよく受けますが、私は、素敵だなと思ったホテルに巡り合ったら、設計者やデザイナー、運営会社をチェックして、同じ系列のホテルに行ってみたりすることもあります」
表紙カバーの裏には、遠藤さんからのサプライズが。本の中で紹介したホテルの平面図が同じスケールで、入り口の向きをそろえて面積順にズラリ(写真撮影/池田礼)
本に紹介されている部屋と同じ部屋に泊まって、遠藤さんが感じたことを追体験したり、スケッチとの違いを感じたりしても楽しそう! 逆に実測スケッチされていない部屋に泊まるのもアリ。こういうパターンのデザインもあるんだ!など気づきがありそうです。
遠藤さんが実測スケッチを描くモチベーションは、「行ってめちゃくちゃ良かった!」という自分の感想を伝えたいというシンプルな思いです。
「こういう風に描いたら良さが伝わるんじゃないかと思いつくと、ワクワクするんですよ。スケッチを見た人から『行ってみたくなった!』というコメントが届くとすごく嬉しいですね」
建築をよく見て思いを込めて描くからこそ、遠藤さんは、設計者やデザイナーが建物に込めた物語を見つけることができるのでしょう。
『東京ホテル図鑑』のスケッチからは、街とホテル、雰囲気や居心地のデザインなど当たり前に過ごしていた空間がどのようにつくられているのかを学ぶことができます。「いつか海外のホテルを実測スケッチして本を出したい」と語った遠藤さん。以前、「all day place shibuya」の担当者が、レセプションで『東京ホテル図鑑』を展示したところ、海外のお客さんに大反響だったそう。夢が叶う日はそう遠くないかもしれません。
●取材協力
・遠藤慧(X:Twitter)
・all day place shibuya
大学進学を機に、新年度から一人暮らしをスタートさせる人も多いはず。そんな人の参考になるように今回は慶應義塾大学で学部数が多い、日吉キャンパス(神奈川県横浜市)と三田キャンパス(東京都港区)に通いやすく、家賃相場が安い駅を調査! 各キャンパスの最寄駅である、日吉駅まで電車で15分圏内、または田町駅・三田駅・赤羽橋駅いずれかまで電車で20分圏内に位置し、家賃相場が安い駅のランキングをご紹介する。さらに不動産会社「ハウスメイトショップ」目黒店店長の山本泰史さん、武蔵小杉店店長の加瀬舞子さんに聞いた、各キャンパス周辺にある学生が住む街としておすすめの駅や、ランキング上位の街に住んだことがある人々の口コミも見ていこう。
日吉キャンパス最寄駅:日吉駅まで15分以内の家賃相場が安い駅TOP15(16駅)順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 羽沢横浜国大 5.55万円(相鉄新横浜線/神奈川県横浜市神奈川区/11分/0回)
2位 片倉町 5.8万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/神奈川県横浜市神奈川区/15分/1回)
3位 西谷 6万円(相鉄新横浜線/神奈川県横浜市保土ケ谷区/14分/0回)
3位 白楽 6万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/12分/0回)
5位 妙蓮寺 6.2万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/10分/0回)
6位 岸根公園 6.3万円(横浜市営地下鉄ブルーライン/神奈川県横浜市港北区/13分/1回)
6位 大口 6.3万円(JR横浜線/神奈川県横浜市神奈川区/13分/1回)
6位 東白楽 6.3万円(東急東横線/神奈川県横浜市神奈川区/13分/1回)
9位 高田 6.85万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/5分/0回)
9位 小机 6.85万円(JR横浜線/神奈川県横浜市港北区/14分/1回)
9位 東山田 6.85万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市都筑区/7分/0回)
12位 日吉 6.9万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/※分/※回)※起点駅
12位 菊名 6.9万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/5分/0回)
12位 日吉本町 6.9万円(横浜市営地下鉄グリーンライン/神奈川県横浜市港北区/2分/0回)
15位 綱島 7万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/2分/0回)
15位 大倉山 7万円(東急東横線/神奈川県横浜市港北区/4分/0回)
―――
「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」加瀬さんおすすめの駅
15位 綱島
ランク外 元住吉 7.6万円(東急東横線/神奈川県川崎市中原区/1分/0回)
ランク外 武蔵小杉 8.5万円(東急東横線/神奈川県川崎市中原区/2分/0回)
順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数/到着駅)
1位 昭和島 7.5万円(東京モノレール/東京都大田区/19分/1回/田町駅)
2位 流通センター 7.9万円(東京モノレール/東京都大田区/18分/1回/田町駅)
3位 西馬込 8.2万円(都営浅草線/東京都大田区/15分/0回/三田駅)
3位 多摩川 8.2万円(東急目黒線/東京都大田区/20分/0回/三田駅)
5位 大森町 8.3万円(京浜急行本線/東京都大田区/20分/1回/三田駅)
6位 糀谷 8.4万円(京浜急行空港線/東京都大田区/20分/0回/三田駅)
7位 千駄木 8.5万円(東京メトロ千代田線/東京都文京区/20分/1回/三田駅)
7位 川崎 8.5万円(JR東海道本線/神奈川県川崎市幸区/16分/1回/田町駅)
7位 大岡山 8.5万円(東急目黒線/東京都大田区/15分/0回/三田駅)
7位 馬込 8.5万円(都営浅草線/東京都大田区/13分/0回/三田駅)
7位 武蔵小杉 8.5万円(JR横須賀線/神奈川県川崎市中原区/18分/1回/田町駅)
7位 平和島 8.5万円(京浜急行本線/東京都大田区/14分/0回/三田駅)
13位 荏原町 8.6万円(東急大井町線/東京都品川区/18分/1回/三田駅)
13位 京急蒲田 8.6万円(京浜急行本線/東京都大田区/18分/0回/三田駅)
13位 洗足 8.6万円(東急目黒線/東京都目黒区/16分/0回/三田駅)
―――
「ハウスメイトショップ目黒店」山本さんおすすめの駅
13位 洗足
ランク外 中延 9.1万円(都営浅草線/東京都品川区/11分/0回/三田駅)
ランク外 武蔵小山 9.2万円(東急目黒線/東京都品川区/12分/0回/三田駅)
慶應義塾大学のキャンパスは各地にあるが、メインとなるのは多くの学部の1・2年生が通う日吉キャンパスと、同様に複数の学部の2~4年生や大学院生が通う三田キャンパスだ。
日吉キャンパス(写真/PIXTA)
神奈川県横浜市港北区に位置する日吉キャンパスの最寄駅は日吉駅。東急東横線と東急目黒線、横浜市営地下鉄グリーンライン、さらに2023年3月開業の東急新横浜線が乗り入れている。東口駅前には見事なイチョウ並木が延びており、そこはもう敷地面積約10万坪という広大な日吉キャンパス。駅西口側には食料品街からユニクロなどの服飾・雑貨店、家電量販店までそろう「日吉東急アベニュー」があるほか、リーズナブルな飲食店も豊富な商店街が広がっている。
■学生時代に日吉駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
※コメント内容は住んでいた学生当時のモノです(以下、記事内すべて同)
・住んでいてよかったところ
「駅の周りに必要なものが大体そろっていて便利です。美味しい飲食店が多く、ランチなどはお手ごろなお店も多くて良いです。『アクイロット』(イタリアン)が好きです」(30歳女性)
「駅前の商店街は安い店が多くよく利用していた」(28歳女性)
・住んでいて困った点など
「夜に騒ぐ学生や若者が多い」(27歳男性)
今回お話をうかがった「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」店長・加瀬舞子さんは、「日吉キャンパスに通うのは単位取得のため学校に通う機会が多い1・2年生が多数。そのため最寄りの日吉駅や、近隣駅にお住まいになる学生さんが多いですね」と教えてくれた。そんな日吉駅は12位にランクインしており、学生向け賃貸物件の家賃相場(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK、駅から徒歩15分圏内。以下同)は6万9000円。さらに家賃を抑えたいなら、ランキング上位の5万円台~6万円台前半の駅もチェックしたい。加瀬さんからは「近すぎると友人のたまり場になり、遠すぎると通学が面倒になるので、学校から20分ほどの範囲で探すのもいいですよ」とのアドバイスも。その点からも、あえて最寄りの日吉駅ではない街に住むのもアリだろう。
三田キャンパスの慶應義塾図書館(写真/PIXTA)
続いて三田キャンパス周辺の様子を見てみよう。東京都港区にある三田キャンパスは慶應義塾の原点といえる地だ。最寄駅である田町駅にはJRの山手線や京浜東北・根岸線が乗り入れ、駅周辺はビジネス街として発展。再開発によりここ数年で大規模なオフィスビルや複合ビルが誕生し、今後も高層ビルの竣工が複数控えている。一方で駅から大学へと向かう通り一帯は、リーズナブルな飲食店がひしめく学生街でもある。また、田町駅のすぐ近くには2023年11月グランドオープンの商業エリアを備えた「田町タワー」に直結する、都営地下鉄三田線・浅草線の三田駅も。キャンパスから北へ徒歩8分ほどの場所にある都営大江戸線・赤羽橋駅とあわせて、この3駅が主に大学の最寄駅として利用されている。
田町駅周辺の学生向け賃貸物件の家賃相場は12万円、三田駅の家賃相場は12万1000円、赤羽橋駅の家賃相場は12万5000円。大学への通いやすさなら最寄駅周辺に住むのが一番だろうが、学生にとってこれだけの家賃を払うのは厳しそう……。「ハウスメイトショップ目黒店」の山本泰史さんも、「三田周辺は家賃が高めのため、電車を使ってドア・トゥ・ドアでキャンパスまで30分以内にある物件を探す方が多い印象です」とのこと。上記ランキングで記載している所要時間は「電車の乗車時間(乗り換え時間含む)」であり「物件~駅/駅~大学間の所要時間」は含まないので、その点は物件探しの際に考慮したい。とはいえ家賃相場に注目するとトップ13の駅は7万円台~8万円台なので、田町駅や三田駅、赤羽橋駅の周辺よりもだいぶ費用を抑えることができる。
家賃の安さで住まいを選ぶ際は、上記のランキングをぜひ参考にしてほしい。※上位駅の住みごこちに関するクチコミは記事末に掲載
しかし家賃相場はもちろんのこと、住みやすい街かどうかも大事だろう。そこで先に登場したお二人に、日吉・三田の各キャンパスに通う学生の住む街としておすすめの駅を教えてもらった。
あわせて、学生時代に、実際に紹介駅の周辺に住んでいた人たちのクチコミも紹介するのでぜひ参考にしてほしい。
まずは日吉キャンパスに通う学生も利用する、「ハウスメイトショップ武蔵小杉店」店長の加瀬さんにおすすめの街をうかがおう。先述したように、日吉キャンパスに通う学生は日吉駅や近隣駅に住むことが多いのだそう。「日吉駅や日吉近隣の東急東横線沿線は、飲食店をはじめ、商業施設が充実している駅も多く、初めての一人暮らしでも安心して住める環境ですよ」と加瀬さん。なかでも特におすすめの駅を3つ、教えてくれた。
元住吉駅(写真/PIXTA)
おすすめ度1位は日吉駅の隣、東急東横線と東急目黒線が通る元住吉駅。今回の調査では、家賃相場は7万6000円だった。「駅を挟んで東西2つの商店街があり、チェーン系の店舗や地元の個人商店も含めて約280店舗の商店が立ち並んでいます。主にファミリー層が住むエリアなので、落ち着いた住環境を求められる方には非常におすすめできる駅です」。また、駅から徒歩7分ほどの場所に広大な「川崎市中原平和公園」があったり、駅前を流れる渋川沿いに約2kmにわたる桜並木が続いていたりと、自然を感じられる環境なのも魅力だという。
■学生時代に元住吉駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「駅を出たところに商店街があり、いつも人がいて温かい雰囲気が好きだった。ブレーメン通りは食品や日用品がそろうだけでなく、美味しいチーズが出てくるお店など飲食店も充実していた」(28歳女性)
「スーパーやカフェ、郵便局、区役所が近くにあるので何も困らない点は良かった」(29歳女性)
・住んでいて困った点など
「各停しか止まらない」(19歳女性)
「駅近くだとお店や人が多くてうるさいかも」(25歳男性)
武蔵小杉駅(写真/PIXTA)
次なるおすすめは東急東横線と東急目黒線、JRの南武線など各線が乗り入れる武蔵小杉駅。日吉駅までは東急東横線でも東急目黒線でも2駅・3分前後、家賃相場は8万5000円だ。「家賃の価格帯は少し上がりますが、住みたい街ランキングでも上位に入る、人気が高いエリアです。『ららテラス 武蔵小杉』や『グランツリー武蔵小杉』など大型商業施設も充実。乗り入れ路線も多く、都内への玄関口として非常に利便性が高い駅です」
「SUUMO住みたい街ランキング2023 首都圏版」(リクルート調べ)で14位にランクインした武蔵小杉駅は神奈川県川崎市にあるが、駅東側を流れる多摩川を越えると東京都大田区に。東急東横線の通勤特急に乗れば、自由が丘駅まで1駅・約6分、渋谷駅まで3駅・約17分で行くことができる。日吉キャンパスまでの近さはもちろんのこと、せっかく進学で上京するならば都内までの近さも重視したい人には、うってつけだろう。また、武蔵小杉駅は今回調査した「三田キャンパス」周辺の家賃相場が安い駅ランキングだと7位。1・2年次は日吉キャンパス、3年次以降は三田キャンパスに通う予定の学生なら、進級後も引越しせず住み続けられる点も便利そう。
■学生時代に武蔵小杉駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「飲食店が多い、商業施設もある、交通の便がいい、メリットはたくさんあります」(24歳女性)
「JR線と東急線の両方にアクセスができて、とても便利」(20歳女性)
・住んでいて困った点など
「人が多いので駅が混雑する」(27歳女性)
「人があふれていて落ち着ける場所は少ないこと」(23歳女性)
綱島駅(写真/PIXTA)
加瀬さんおすすめの3つ目の駅は、日吉キャンパス周辺の家賃相場が安い駅ランキングで15位の東急東横線・綱島駅。元住吉駅とは逆側、日吉駅から下り方面へ1駅目に位置しており、家賃相場は7万円だ。「スーパーやドラッグストア、飲食店など、駅周辺には幅広いジャンルの店舗がとても豊富。2023年3月には東急新横浜線の新綱島駅がすぐ近くに開業しており、ますます利便性が高まっている点も注目です!」と加瀬さん。
東急新横浜線は日吉駅~新横浜駅を結ぶ路線で、同時期に開業した新横浜駅~西谷駅を結ぶ相鉄新横浜線とともに、相鉄・東急直通線の連絡線としての役割を担っている。相鉄線と東急線との相互直通運転が始まり、神奈川県央部~東京都心部間のアクセス性が向上したと話題だ。新しくできた新綱島駅は綱島駅から歩いて5分ほどなので、この辺りに住むと2駅2路線が利用できるわけだ。新駅開業にあわせて道路の整備などの再開発も進められ、より住みやすい街へと進化している。
■学生時代に綱島駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「一人暮らし向けの飲食店が充実しており、東横線や目黒線で都心へのアクセスも良好なことからお勧めしたいです」(21歳男性)
「駅前にはスーパーや商店がそろっている。日常的な買い物には困らない街だと思う」(28歳男性)
・住んでいて困った点など
「意外とガヤガヤしてる」(28歳男性)
三田キャンパスへの通学にも便利な街は、「ハウスメイトショップ目黒店」山本泰史さんにうかがった。住む街を選ぶ際のポイントは、「交通の利便性が高い駅であること」と話す山本さん。「三田キャンパスを利用する3・4年生は、アルバイトや就職活動など学校外での活動が増えてくる時期。そのため学校への行きやすさを踏まえたうえで、別の場所へのアクセスの利便性も高い駅を選ぶのがよいでしょう」
三田キャンパスは最寄駅が多く、どの路線がよいのかも迷うところ。その点をうかがうと、「特におすすめは東急目黒線の沿線。都営三田線と相互直通運転されていてキャンパスがある三田駅まで乗り換えせずに行けること、目黒駅に出れば都内の主要駅に行きやすいJR山手線に乗り換えられる点が魅力です」と教えてくれた。
なかでも山本さんイチ押しは、急行停車駅でもある東急目黒線・武蔵小山駅。大学最寄りの三田駅までは都営三田線直通の東急目黒線なら約12分で行くことができる。家賃相場は9万2000円と少々高め。「開発が進み、近年は家賃相場が上がった点はネック。ですが、東京で最も長いアーケード商店街があって、買い物や外食にたいへん便利な環境です。にぎわいのある街なだけに適度に人目があり、一人暮らしの学生さんも安心して暮らせるでしょう」
武蔵小山駅前の風景(写真/PIXTA)
武蔵小山商店街パルム(写真/PIXTA)
都内最長だというアーケード商店街「武蔵小山商店街パルム」は、全長約800mで店舗数は約250軒にものぼる。商店街の東側駅前エリアには、再開発で2019年に開業したショッピングモール「パークシティ武蔵小山ザモール」や、品川区役所の出張所や商業施設も備える2021年6月竣工の複合施設も。駅周辺の再開発は現在も進行中なので、今まさに街が生まれ変わりゆく様子を見られる点も魅力だ。
■学生時代に武蔵小山駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「林試の森公園が近くにあり、土日はそこでゆったり過ごすことができた」(30歳男性)
「アーケード付き商店街があるので、雨の日でもお買い物が便利」(28歳女性)
・住んでいて困った点など
「学生が多く、うるさい」(30歳男性)
「土日は混んでる」(28歳女性)
もう少し家賃相場を抑えたいなら、「東急目黒線の東京都区間内では比較的、家賃相場が安い、洗足(せんぞく)駅もおすすめです」と山本さん。洗足駅の家賃相場は8万6000円で、三田キャンパス周辺の家賃相場が安い駅ランキングで13位に。三田駅までは都営三田線直通の東急目黒線に乗ると約16分だ。
洗足駅前の風景(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
「駅前にスーパーやドラッグストアがそろっていて買い物に便利な環境。駅周辺は閑静な住宅街で落ち着いた印象です。そのぶん人通りが少なく心細く感じるかもしれないので、住まい探しの際に駅までの道のりチェックも忘れずにしましょう」
2023年に開業100周年を迎えた洗足駅の駅前には美しいイチョウ並木が続き、並木通り沿いを中心に商店街が広がっている。日々の食事に役立つ惣菜店や、自家焙煎にこだわるコーヒーショップなど個性的な店が豊富なのでめぐり歩くのも楽しそう。また、洗足駅から徒歩10分弱に位置する東急大井町線・北千束駅を利用することも可能だ。
■学生時代に洗足駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「静かで、住人の方々も穏やかな人が多い印象。碑文谷公園などの広い公園もあるので運動したりなど健康面にも良い」(28歳女性)
「大きな駅まで数駅で行ける」(25歳女性)
・住んでいて困った点など
「飲食店、特にチェーン店が少ない。自炊しない人には、いい店がないかもしれない」(28歳男性)
「環状7号線がすぐ近くを通っているため、道路が近いと車の音が大きく、慣れるまで時間がかかりました」(28歳女性)
山本さんがもう1駅、おすすめしてくれたのが都営浅草線・中延(なかのぶ)駅。家賃相場は9万1000円で、三田駅までは約11分。
「都営浅草線と東急大井町線が利用できて便利。若者に人気の自由が丘駅までも1本で行くことができます。駅近くには商店街が3つあり、八百屋さんや精肉店などが並んでいるので食費を抑える助けにもなるかも。駅前にユニクロがあるのもうれしいところです」
商店街のなかでも注目は、「なかのぶスキップロード」と呼ばれる中延商店街。中延駅から北に延びており、東急池上線の荏原中延駅まで約330mも続くアーケード商店街だ。買い物に利用できる商店街独自のポイントシステムも用意されているので、ポイントを貯めつつお得に買い物ができる。
なかのぶスキップロード(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
■学生時代に中延駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「浅草線と大井町線が通っており、都内の大体の場所には行きやすい。浅草線の隣駅にある戸越には、商店街にたくさんのお店が立ち並び、休日に食べ歩きをしたのがいい思い出になった」(30歳女性)
「地域密着で盛んな商店街がある。多路線を利用できて交通アクセスも便利。銭湯がたくさんある」(30歳男性)
・住んでいて困った点など
「大型のスーパーが近くになく、買い物に不便だった」(30歳女性)
「大通りは車通りが激しい」(26歳女性)
さて今回はランキング調査に加え、これまで多くの学生を新生活へと送り出してきた不動産会社のお話を参考に、学生におすすめの街をご紹介した。住む街によって生活の充実度は変わってくるし、学生時代に暮らした街は卒業後も大事な思い出の地になるだろう。しっかりと自分の好みにあった街を選び、ぜひ楽しい新生活を送ってほしい。
■日吉キャンパス最寄駅:日吉駅まで15分以内の家賃相場が安い駅3位までの駅周辺のクチコミ
1位 羽沢横浜国大
・住んでいてよかったところ
「のどかな場所。大通り沿いに美味しいラーメン屋があった」(30歳男性)
「大学に近くて楽 」(24歳女性)
・住んでいて困った点など
「道幅が狭いし坂が多い」(28歳男性)
「坂が多い。主要駅である横浜駅へのアクセスが悪い」(30歳男性)
2位 片倉町
・住んでいてよかったところ
「都心にアクセスしやすいが、駅から少し離れると程よい田舎なところが良い」(21歳女性)
「横浜駅が近く、遊びに行くのには便利だった」(26歳男性)
・住んでいて困った点など
「(自然豊かだが)虫が気になった」(29歳女性)
3位 西谷
・住んでいてよかったところ
「主要駅から離れているので家賃は安く、横浜まで一本なので交通の便がよい。スーパーなどにも困らないし、路線も増えたのでいろいろな場所へ出やすくなった」(29歳女性)
「交通の便が良い」(26歳男性)
・住んでいて困った点など
「周辺にお店が少なかったので、これからに期待」(27歳男性)
「スーパーなどが遠い」(26歳男性)
3位 白楽
・住んでいてよかったところ
「住みやすい、暖かみがある、安心感がある、スーパーやドラッグストア、病院などに困らない」(24歳女性)
「業務スーパーやドラッグストア等充実しているので日用品や食品(などの購入)に困らない。『焼肉屋わんこ』がとてもおいしい」(29歳男性)
・住んでいて困った点など
「学生が多かったので、夜などうるさかった」(28歳女性)
「坂が多い」(30歳男性)
■三田キャンパス最寄駅(田町駅、三田駅、赤羽橋駅)いずれかまで20分以内の家賃相場が安い駅3位までの駅周辺のクチコミ
2位 流通センター
・住んでいてよかったところ
「生活環境が整った街だと思った」(25歳)
「(近隣に)スパがいっぱいあります」(30歳男性)
・住んでいて困った点など
「便が少し不便」(27歳男性)
3位 西馬込
・住んでいてよかったところ
「始発駅なので確実に座れる、乗り過ごしがない」(30歳女性)
「都心へのアクセスが良い」(27歳女性)
・住んでいて困った点など
「駅付近の飲食店が少ない」(28歳女性)
「駅前にスーパーが一つしかない、住民の数の割に店が少ない」(30歳女性)
3位 多摩川
・住んでいてよかったところ
「1本で渋谷や池袋に出られるので交通の便はとても良い」(23歳女性)
「河川敷が近くて散歩ができる」(23歳女性)
・住んでいて困った点など
「近くにスーパーやコンビニがない、少ない。手軽に楽しめる飲食店がない」(23歳女性)
「水害が怖い」(28歳女性)
※1位 昭和島はクチコミなし
●取材協力
ハウスメイトショップ
●家賃相場ランキングの調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている明大前駅まで15分以内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/2~2023/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年11月27日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載
【家賃相場の調査】株式会社リクルート
●クチコミの調査概要
●調査実施時期:2024年1月17日~2024年1月22日
●調査対象者:現在東京・神奈川・埼玉にお住いの、学生時代(大学・大学院・専門学校問わず)、家賃相場ランキング記載の駅周辺の賃貸住宅で一人暮らしをしたことがある18~30歳までの男性219名、女性445名
●調査方法:インターネット調査
●有効回答数:664
●調査主体:株式会社リクルート、実査委託先:楽天インサイト株式会社
新年度が始まる春は引越しシーズン。進学を機に大学の近くで一人暮らしを始める予定の人も、そろそろ引越し先を探す時期だろう。そんな新入生や、これから入学を目指す人の参考になるように、今回は東京都杉並区にある明治大学・和泉(いずみ)キャンパスの最寄駅である明大前駅にアクセスしやすく、家賃相場が安い駅を調査。さらに不動産会社「ハウスメイトショップ下北沢店」店長・山室貴広さんがおすすめする、和泉キャンパスに通う学生が住む街、ランキング上位の街に住んだことがある人々の口コミもご紹介していきたい。
和泉キャンパス最寄駅(明大前駅)まで15分以内の家賃相場が安い駅TOP15(17駅)順位/駅名/家賃相場(主な路線名/駅の所在地/所要時間/乗り換え回数)
1位 三鷹台 6.9万円(京王井の頭線/東京都三鷹市/13分/0回)
2位 つつじヶ丘 7万円(京王線/東京都調布市/12分/0回)
2位 久我山 7万円(京王井の頭線/東京都杉並区/9分/0回)
2位 調布 7万円(京王線/東京都調布市/13分/0回)
5位 松原 7.2万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/9分/1回)
6位 仙川 7.3万円(京王線/東京都調布市/11分/0回)
7位 井の頭公園 7.4万円(京王井の頭線/東京都三鷹市/15分/0回)
8位 永福町 7.5万円(京王井の頭線/東京都杉並区/2分/0回)
8位 宮の坂 7.5万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/13分/1回)
8位 経堂 7.5万円(小田急小田原線/東京都世田谷区/13分/1回)
8位 桜上水 7.5万円(京王線/東京都世田谷区/2分/0回)
8位 西永福 7.5万円(京王井の頭線/東京都杉並区/4分/0回)
13位 豪徳寺 7.6万円(小田急小田原線/東京都世田谷区/14分/1回)
13位 浜田山 7.6万円(京王井の頭線/東京都杉並区/6分/0回)
15位 下高井戸 7.7万円(京王線/東京都世田谷区/1分/0回)
15位 山下 7.7万円(東急世田谷線/東京都世田谷区/11分/1回)
15位 富士見ヶ丘 7.7万円(京王井の頭線/東京都杉並区/9分/0回)
―――
「ハウスメイトショップ下北沢店」山室さんおすすめの駅
ランク外 千歳烏山 7.88万円(京王線/東京都世田谷区/7分/0回)
ランク外 明大前 8.3万円(京王井の頭線/東京都世田谷区/※/※)※起点駅
ランク外 下北沢 8.71万円(京王井の頭線/東京都世田谷区/4分/0回)
東京都内を中心に、4キャンパス・10学部を抱える明治大学。東京都杉並区には主に法学部や商学部といった文系学部の1・2年生が通う、和泉キャンパスがある。2022年春には学生の交流スペースも備えた新教育棟「和泉ラーニングスクエア」が誕生している。この和泉キャンパスから徒歩5分ほどの最寄駅はその名も「明大前駅」。明治大学予科(当時)が移転してきたのを機に1935年から、この駅名になったのだとか。
明大前駅(写真/PIXTA)
京王線と京王井の頭線が通る明大前駅は、新宿駅まで京王線の特急や急行で2駅・最短約7分、渋谷駅まで京王井の頭線の急行で2駅・最短約6分という好立地。駅に直結して、スーパーや書店、飲食店などを備えた「フレンテ明大前」がある点も魅力の一つだ。駅周辺は細い路地に沿ってコンビニや100円ショップ、ファストフード店やラーメン店といったリーズナブルな飲食店が立ち並び、学生にも愛用されている。大型の商業施設はなく、駅前から少し離れると住宅街。また、明治大学以外にも日本女子体育大学の附属高校など学校が点在しており、通学時間帯の駅周辺は学生の姿でにぎわっている。
明大前駅周辺で暮らす学生も多いそうで、「ハウスメイトショップ下北沢店」の山室さんも明大生が住むイチ押しの街として明大前駅を挙げてくれた。
「大学生の住まい探しは、キャンパスまでドア・トゥ・ドアで30分以内、もしくは電車で2~3駅圏内がおすすめ。近年は自転車でも通える距離内でお探しになる方が増えています。また、住む街を選ぶ際はアルバイトや部活動など、授業以外の利便性も考慮するとよいでしょう。その点、明大前駅は2路線利用可能で渋谷駅や新宿駅に乗り換えなしでアクセスできるため非常に便利。駅前商店街に飲食店も多く、コンパクトながら生活に必要な施設はそろっています」
また、明大前駅を含む京王線笹塚駅~仙川駅間では現在、連続立体交差事業が進行中。すでに高架橋が姿を現してはいるものの、事業終了まではまだしばらくかかる様子。明大前駅の高架化にともなって駅舎のリニューアルや駅周辺地区の再開発も計画されているため、完成を楽しみに待ちたい。
■学生時代に明大前駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
コメント内容は住んでいた学生当時のモノです(以下、記事内すべて同)
・住んでいてよかったところ
「ご飯屋さんやカフェがたくさんあるので休日も充実」(21歳女性)
「新宿と渋谷へアクセスしやすいので、交通の便が非常によかった」(27歳女性)
・住んでいて困った点など
「学生が多いので騒々しい」(25歳女性)
「大きいスーパーが少し遠い」(28歳男性)
そんな明大前駅から徒歩15分圏内にある、学生向け賃貸物件(10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK。以下同)の家賃相場は8万3000円。便利な街だけあって、学生の一人暮らしにとって安くはない。もう少し家賃相場がお手ごろで魅力的な街として山室さんがおすすめしてくれたのが、京王線・千歳烏山駅だ。
千歳烏山駅(写真/PIXTA)
東京都世田谷区に位置する千歳烏山駅の家賃相場は明大前駅より4000円ほど低い7万8800円で、「家賃を抑えたい方におすすめです」とのこと。「親しみやすい風情あふれる商店街があり、ドラッグストアや定食屋さんなど日常使いできる店が多数、立ち並んでいます。また、家具や工具を買いたい場合はホームセンターが隣駅の仙川にありますので、カーシェアなどを利用すれば20分程度で行くことが可能です」と山室さん。駅周辺の商店街にはスーパーから個人商店まで約150軒以上もの店舗がひしめく、活気ある街並み。また、前述した京王線の連続立体交差事業区間に千歳烏山駅も含まれ、将来的には駅の高架化が予定されている。千歳烏山駅から明大前駅までは、京王線の区間急行で2駅・約7分。京王線の特急停車駅でもあるため、新宿駅まで3駅・約17分で行くこともできる。
■学生時代に千歳烏山駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「駅前は何でもそろっていて良かった。チェーンではない美味しいご飯屋さんが多く、週末に新しいお店を開拓するのが楽しかった」(30歳女性)
「駅前に何でもあるので便利。交通の便が良い」(28歳女性)
・住んでいて困った点など
「大きいスーパーがない」(26歳男性)
「駅から離れると暗い」(28歳女性)
続いてランキング上位になった駅についても見ていこう。
明大前駅まで電車で15分圏内にある、家賃相場が最も安かった駅は東京都三鷹市にある京王井の頭線・三鷹台駅。家賃相場は6万9000円で、明大前駅よりも1万4000円も低い。明大前駅までは各駅停車で7駅・約13分で行けるほか、明大前駅とは逆方面に進むと若者にも人気の街・吉祥寺駅に2駅・約3分で到着する。
三鷹台駅周辺の様子(写真/PIXTA)
井の頭恩賜公園(写真/PIXTA)
1位・三鷹台駅周辺は線路と沿うように神田川が流れ、川の北側にあるドラッグストアとコンビニの先には立教女学院の敷地と住宅地が広がる。商店が多いのは川と線路の南側。スーパーやコンビニのほか、三鷹台駅前通り沿いの商店街を中心にラーメン店や宅配ピザなどの飲食店も点在している。また、1駅隣の7位・井の頭公園駅(家賃相場7万4000円)に行くと、駅前に緑豊かな「井の頭恩賜公園」が広がっている。三鷹台駅から「も電車や自転車で訪れやすく、気軽にリフレッシュに出かけられる点も魅力だ。
■学生時代に三鷹台駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「閑静な住宅街、吉祥寺や渋谷へのアクセスが良い」(30歳男性)
「自転車で足を延ばせば、星を見るのに適した公園がある(都立野川公園)」(30歳女性)
・住んでいて困った点など
「スーパーが少ない」(28歳女性)
「主要な駅などには少し遠い」(29歳女性)
久我山駅(写真/PIXTA)
2位には家賃相場が同額の7万円となった、京王線のつつじヶ丘駅と調布駅、京王井の頭線・久我山駅の3駅がランクイン。この3駅のうちでは明大前駅までの所要時間が最も短い、久我山駅について見てみよう。久我山駅は東京都杉並区に位置し、明大前駅までは京王井の頭線の急行で2駅・約9分。明大前とは逆方面に1駅進むと1位・三鷹台駅があり、三鷹台駅前から続く神田川が久我山駅南側を流れている。川に架かる久我山橋は駅前広場のような役割を担っており、その先はスーパーやドラッグストア、飲食店が立ち並ぶ商店街。駅の北側にも多彩な飲食店が軒を連ねるほか、スーパーや100円ショップも。川沿いの遊歩道を西に進むと緑に囲まれた「宮下橋公園」があり、駅から東に10分ほど歩くと2020年開園の広々とした「高井戸公園」に行けるなど、自然を感じながらのんびり過ごすこともできる。
■学生時代に久我山駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「駅前に夜まで営業しているスーパーがあり、商店街やコンビニなども充実していて、規模は大きくないが住みやすかった。吉祥寺に行けば何でもそろうので、不便はなかった。お寺などもあり、散歩もできた」(24歳女性)
「自然がいっぱいで、帰ってくるだけでも都会の喧騒から逃れられる。家賃が比較的周りよりも安く、急行も停まる駅なので住みやすい」(28歳男性)
・住んでいて困った点など
「(駅から少し離れると)周りが畑に囲まれて、夜は暗いところもある」(28歳男性)
■2位 つつじヶ丘
・住んでいてよかったところ
「落ち着いた雰囲気で、スーパーやドラッグストアも近くにあった」(27歳女性)
「生活に必要なものが周りにそろっていて買い物が便利」(28歳女性)
・住んでいて困った点など
「百均がない、スーパーが(駅前に)1つしかない」(21歳男性)
「交通はやや不便」(27歳女性)
■2位 調布
・住んでいてよかったところ
「個人経営のお店が何軒かあり、どこも美味しいし温かい印象」(30歳女性)
「駅前には家電屋さんや商業施設があり、充実している」(29歳男性)
・住んでいて困った点など
「各駅停車しか止まらないため、移動に時間がかかる」(24歳女性)
「特に駅前から離れると街灯が少ない」(25歳女性)
トップ15のうち明大前駅まで最短で行けるのは、15位にランクインした京王線・下高井戸駅だ。東京都世田谷区に位置し、家賃相場は7万7000円。明大前駅までは1駅・約1分という近さで、歩いても15分弱。明治大学・和泉キャンパスにも歩いて約15分、自転車なら約5分で行くことができる。駅周辺は細い道沿いにさまざまな店舗がひしめく商店街。温泉風呂やサウナを備えた銭湯「月見湯温泉」や、名画座「下高井戸シネマ」など、地元の人に長らく愛される商店も多い。日本大学文理学部の最寄駅でもあるため、学生が通いやすいリーズナブルな飲食店が豊富なのも嬉しいところだ。
■学生時代に下高井戸駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「商店街にお店がいろいろあって楽しい」(24歳女性)
「商店街があり、買い物が楽」(25歳男性)
・住んでいて困った点など
「特急が止まらない」(25歳男性)
「交通が不便」(29歳女性)
さて、明治大学の学生が住む街として「ハウスメイトショップ下北沢店」の山室さんはもう1駅、おすすめしてくれた。それは京王井の頭線・下北沢駅。
下北沢ショッピングストリート(写真/PIXTA)
「バンド、サブカル、古着の聖地。駅前商店街はいつも20代の若者でにぎわっており、学生さんにとても人気がある街です。その分少々、家賃は高いですが……」と話す山室さん。家賃相場は8万7100円で、確かに明大前駅よりもアップしてしまう。しかし明大前駅までは京王井の頭線の各駅停車で3駅・約4分、自転車なら10分弱。渋谷駅までは各駅停車で4駅・約7分、急行なら1駅・約3分で行ける。小田急線も乗り入れているので、通勤急行や快速急行に乗って2駅・約9分で新宿駅にも出られるアクセスのよさが魅力だ。
下北沢の街自体も山室さんがおすすめするように若者に人気があり、遠方から遊びに来る人も少なくない。古くから人気のショップや飲食店に加え、小田急線の地下化にともなってここ数年で新スポットも次々とオープン。商業施設「シモキタエキウエ」を併設した新駅舎や、線路跡地が商業ゾーンやホテルに生まれ変わった「下北線路街」、井の頭線高架下を活用した商業空間「ミカン下北」など、新施設が街の魅力を高めている。話題のスポットにふらりと出かけたり人気店の食べ歩きをしたりと、学業以外の時間も充実させたいタイプの人なら下北沢での暮らしを気に入ることだろう。
■学生時代に下北沢駅の周辺に住んでいたことがある人のクチコミ
・住んでいてよかったところ
「カフェ等の飲食店、洋服屋、ネイルサロンや美容室も充実している。休日にブラブラしたいならうってつけ」(23歳女性)
「個人経営の面白い飲み屋が多く、友達を誘いやすかったのはよかった」(30歳男性)
「東京のサブカルチャーの中心の一つだと思っていて、さまざまな人や文化に触れることができるので、そういうのが好きな人にはとてもおすすめできると思う」(28歳男性)
・住んでいて困った点など
「人が多すぎて、落ち着かない」(21歳女性)
「静かなところで暮らしたい人には不向き」(26歳女性)
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「サブカルのシモキタ」開発で再注目。熱気と個性が下北沢に戻ってきた!
シモキタは「奥下北沢」も面白い! トレンドとレトロが共存する 4スポットを「DDDART」オーナー手槌真吾さんとディープに巡る
総勢150名「シモキタ園藝部」が下北沢の植物とまちの新しい関係を育て中。鉢植え、野原など、暮らしと共にあるグリーンがあちこちに
●取材協力
ハウスメイトショップ
●家賃相場ランキングの調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている明大前駅まで15分以内の駅(掲載物件が20件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2023/2~2023/10
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、朝7時30分~9時の検索結果から算出(2023年11月27日時点)。所要時間は該当時間帯で一番早いものを表示(乗換時間を含む)
※記載の分数は、駅内および、駅間の徒歩移動分数を含む
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が1回までの駅を掲載
【家賃相場の調査】株式会社リクルート
●クチコミの調査概要
●調査実施時期:2024年1月17日~2024年1月22日
●調査対象者:現在東京・神奈川・埼玉にお住いの、学生時代(大学・大学院・専門学校問わず)、家賃相場ランキング記載の駅周辺の賃貸住宅で一人暮らしをしたことがある18~30歳までの男性219名、女性445名
●調査方法:インターネット調査
●有効回答数:664
●調査主体:株式会社リクルート、実査委託先:楽天インサイト株式会社
厳しい寒さが続くこのごろ。『SUUMOジャーナル』で12月に公開した記事では、「賃貸住宅に革命起こした『青豆ハウス』、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い」「サラリーマン30代コンビ『週末縄文人』、石斧や土器から竪穴住居まで手づくり。文明ゼロからスタート、人気YouTuberの縄文ぐらしに密着」などが人気TOP10に入りました。見どころをご紹介します。
12月の人気記事ランキングTOP10はこちら!第1位: 賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区
第2位: サラリーマン30代コンビ「週末縄文人」、石斧や土器から竪穴住居まで手づくり。文明ゼロからスタート、人気YouTuberの縄文ぐらしに密着
第3位: 築36年賃貸が大人気の理由は”大家さん”?! マンガ1000冊読み放題(定期入替)やコーヒー無料などホスピタリティ満載「百合ヶ丘池上マンション」神奈川県川崎市
第4位: 地元企業の共同出資で生まれた絶景の宿「URASHIMA VILLAGE」。地域の企業が暮らしのインフラを支える時代が始まっている 香川県三豊市
第5位: 「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!
第6位: 転出超過つづきの危機から一転、転入者が10倍以上に!「おしゃれ田舎プロジェクト」の勢い、長野県小諸市が移住者から熱視線
第7位: 【JR中央線】家賃相場が安い駅ランキング2023年(東京-高尾32駅)。TOP3は多摩地域でALL5万円台!
第8位: 最大の不安は「物価高」。節約志向が高まるなかでも持ち家派が多数。住宅ローンの不安を軽減する方法を紹介
第9位: 賃貸住宅トレンド2024は個性強め! 注目4キーワードは趣味特化・店舗兼用・省エネ性能・デジタル化
第10位: 高騰続く新築マンション、2024年は買いやすくなる? 価格・金利上昇から見る買い時や注目の「省エネ性能」を解説
※対象記事とランキング集計2023年12月1~31日に公開された記事のうち、PV数の多い順
第1位: 賃貸住宅に革命起こした「青豆ハウス」、9年でどう育った? 居室を街に開く決断した大家さん・住民たちの想い 東京都練馬区
(画像提供/青豆ハウス)
「青豆ハウス」は、東京都練馬区にある賃貸住宅。”育つ賃貸住宅”というコンセプトを掲げ、2014年から住む人、集う人々がコミュニティを育んできました。9年の間には、設立時からいた住民の卒業も経験。その部屋は「欠番の部屋」とし、1階は “まちのキオスク”として地域に開き、2階は住民たちのもうひとつの部屋として活用することにしました。そして現在、「青豆ハウス」はどう育っているのでしょうか? 大家の青木純さんに、9年間を振り返ってもらいました。
第2位: サラリーマン30代コンビ「週末縄文人」、石斧や土器から竪穴住居まで手づくり。文明ゼロからスタート、人気YouTuberの縄文ぐらしに密着
(写真撮影/嶋崎征弘)
チャンネル登録者数14万人超の人気YouTuber「週末縄文人」。30代のサラリーマン二人組「縄(じょう)さん」と「文(もん)」さんは、週末に現代文明を離れ、縄文時代の生活を再現する活動をしています。なんと、石斧や土器、竪穴住居もイチから手づくり! 二人には、高度なテクノロジーに支えられた現代の住まいや暮らしはどのように見えているのでしょうか。縄文生活は、現代の生き方にも変化をもたらしたのでしょうか。山の中の活動拠点にお邪魔して話をうかがってきました。
第3位: 築36年賃貸が大人気の理由は”大家さん”?! マンガ1000冊読み放題(定期入替)やコーヒー無料などホスピタリティ満載「百合ヶ丘池上マンション」神奈川県川崎市
(写真撮影/片山貴博)
築36年の賃貸物件「百合ヶ丘池上マンション」は、周辺エリアの家賃相場より高いというのにほぼ満室、空室が出てもすぐ埋まってしまう人気物件。その秘密は、大家さんのユニークなアプローチ!住人が利用できるシェアルーム「サードプレイス102」にはマンガ1000冊(しかも中身は3カ月ごとに入れ替えされるサブスク制)の読み放題や無料コーヒーなどのサービスがあり、住民の生活を豊かにする工夫がいっぱい! しかも大家さんはYouTuberとしても活躍中。「こんな物件に住んでみたい!」という気持ちがかき立てられます。
第4位: 地元企業の共同出資で生まれた絶景の宿「URASHIMA VILLAGE」。地域の企業が暮らしのインフラを支える時代が始まっている 香川県三豊市
(撮影/Fizm藤岡優)
雲や夕焼けが映り込む“天空の鏡“と呼ばれる光景がInstagramで話題になり、年間50万人が訪れるようになった香川県三豊市の父母ヶ浜。 そんな父母ヶ浜に2021年1月、一棟貸しの宿「URASHIMA VILLAGE」がオープンしました。地元の民間企業11社による共同出資の仕組みは、今や三豊市の交通や教育、不動産などのベーシックインフラ整備にまで広がっています。飲み会から始まったという、この「URASHIMA VILLAGE」構想の仕組みとは? 事務局の瀬戸内ワークス・原田佳南子さんと、地域プロデューサーの古田秘馬さんにお話をうかがいました。
第5位: 「高齢者が賃貸を借りづらい問題」に解決策はあるか? R65代表取締役に聞いた!
(筆者撮影)
近年、報道もされている「65歳以上の高齢者は賃貸住宅を借りづらい」という問題。65歳以上の部屋探しを支援する「R65不動産」では、高齢者が入居できる物件を紹介するとともに、高齢者の賃貸入居を難しくする課題を解消する取り組みを積極的に行っています。高齢者の部屋探しには、どんな課題があるのか。その解決策は?実態について、代表取締役の山本遼さんに話を聞きました。
第6位: 転出超過つづきの危機から一転、転入者が10倍以上に!「おしゃれ田舎プロジェクト」の勢い、長野県小諸市が移住者から熱視線
(写真撮影/窪田真一)
長野県東部に位置する小諸(こもろ)市は、3年連続で転入者が転出者を上回ったことで注目を集めています。2021年には16人増、2022年は一気に169人増、2023年は7月末時点で187人増という人気ぶり。なんとその理由のひとつには、「まち歩きが楽しくなってきたから」という理由が挙げられるといいます。かつては年間100人を超える転出者が出ていたという小諸市を変えたのは、その名も「おしゃれ田舎プロジェクト」。若い人たちが出かけたくなる街づくりとは? プロジェクトの仕掛人で、小諸市役所で働く高野慎吾さんにお話をうかがいました。
第7位: 【JR中央線】家賃相場が安い駅ランキング2023年(東京-高尾32駅)。TOP3は多摩地域でALL5万円台!
(写真/PIXTA)
東京を代表する路線の一つ、JR中央線。今回は、中央線内で東京都内に位置する駅の家賃相場を調査しました。東京駅から高尾駅の全32駅は、千代田区から八王子市まで、約53kmの沿線に点在しています。東京都、といってもその住環境はさまざま。もちろん家賃相場にも大きな違いが――? なんと、1位(最も家賃相場が安い駅)と32位(最も家賃相場が高い駅)には倍以上! さて、最も家賃が安い駅はどの駅でしょうか。
第8位: 最大の不安は「物価高」。節約志向が高まるなかでも持ち家派が多数。住宅ローンの不安を軽減する方法を紹介
(写真/PIXTA)
今回の記事では、カーディフ生命が2000人を対象に実施した「第5回 生活価値観・住まいに関する意識調査」を取り上げました。調査結果によると、対象者が現在最も不安に思っているのは「物価高」。しかし物価高による節約志向が進む中で、「家を買う派」は67.1%と依然、多数派に。住宅購入に対する憧れは健在のようです。この不安を軽減するための方法として、無理のない返済計画の立て方や、保険によるリスク軽減なども紹介。ぜひ一読して、将来の生活設計の参考にしてみてください。
第9位: 賃貸住宅トレンド2024は個性強め! 注目4キーワードは趣味特化・店舗兼用・省エネ性能・デジタル化
(写真撮影/片山貴博)
賃貸といえばどれも似たような間取りで無個性――。そんな思い込みを裏切る個性的な賃貸物件が日本各地で少しずつ増えています。お店をひらけたり、相撲部屋付きだったり、農園付きの物件も!? 次に賃貸物件にやってくる新しい風とは? SUUMO副編集長でSUUMOリサーチセンター研究員でもある笠松美香氏によると、2024年の賃貸住宅トレンドは「コンセプト賃貸」「趣味特化型賃貸」「省エネ性能の強化」および「デジタル化」の4つが注目されているといいます。さっそく内容をチェックしてみましょう。
第10位: 高騰続く新築マンション、2024年は買いやすくなる? 価格・金利上昇から見る買い時や注目の「省エネ性能」を解説
ブリリア聖蹟桜ヶ丘ブルーミングテラス(写真提供/東京建物、東栄住宅)
「新築マンション」と検索すると「高騰」「億ション」など、景気の良い検索キーワードが表示される昨今。都市部では、新築マンションの価格は高騰を続けています。とはいえ、多くの世帯で収入が価格上昇に追いついていないのもたしか。このまま新築マンションは高嶺の花に――? 2024年の新築マンション市場はどのように動くのか。『SUUMO』編集長・SUUMOリサーチセンター長の池本洋一氏に、市場動向と買うべきときに見ておいてほしいポイントなど、最新事情を取材しました。
12月の人気記事ランキングでは、新しい賃貸住宅の形や不動産市場の動向を調査した記事などのランクインが目立ちました。まだまだ寒い日が続きますが、今年も住まいに関する新しい取り組みや、市場動向などを取り上げていきたいと思います。本年もよろしくお願い致します。
2025年から断熱等級4以上が義務化されるのは“新築”の住宅。「既に建てたわが家は関係ないし、今さら断熱リフォームするのはお金がかかる。暑さ寒さも今までどおり我慢すれば……」と思わずに、部分的でも断熱リフォームしませんか。人生100年時代といわれるように、思いのほか先は長い。それにひと部屋だけのプチ断熱でも、光熱費の削減はもちろん、生活習慣病をはじめ、さまざまな病気からあなたや家族を守ってくれるのですから。
断熱住宅にすれば老若男女を問わず健康になれる!?家族みんなが過ごすことの多い21.8畳のLDKを断熱リフォームした事例。暮らしやすい間取りになったのに合わせて、健康的な暮らしも手に入れることに(写真提供/スペースマイン)
「断熱住宅は省エネだけでなく、健康に資する」ことが、最近になって次々とわかってきました。それも高齢者のヒートショックを防ぐだけではありません。子どもたちも働き盛りの男性も女性も、「暖かい家」は老若男女を問わず私たちの健康にたくさんのメリットがあることが判明してきているのです。
詳しくは「室温18度未満で健康寿命が縮む!? 脳卒中や心臓病につながるリスクは子どもや大人にも。家の断熱がマストな理由は省エネだけじゃなかった」をご覧いただきたいのですが、かいつまんでお話しすると、“暖かい家”には例えば下記のような健康メリットがあります。
・高血圧症のリスクを抑える
・脂質異常症の発症を抑制する
※脂質異常症とはいわゆる悪玉コレステロールや中性脂肪などの血中濃度が異常な状態
・夜間頻尿を抑える
・住宅内でのつまずきを減らす
・子どもの風邪や病欠が減る
・女性の月経前症候群(PMS)が減る
・女性の月経痛が減る
・在宅ワークの効率が上がる
・断熱改修するだけで血圧を約3mmHg下げられる
伊香賀先生たちによる調査データより。断熱改修する前と後で、居住者の血圧が平均で3.1mmHg低下しました(出典:慶應義塾大学 理工学部 教授 伊香賀 俊治さんの資料より、JSH2014(日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2014)
「高血圧症のリスクを抑える」について、少しだけ説明すると、住宅に断熱改修をするだけで血圧が平均で3.1mmHg低下することがわかりました。これは住宅と健康の関係についての第一人者である慶應義塾大学教授の伊香賀俊治(いかが・としはる)先生をはじめ、建築と医療の研究者80名のチームによる調査と研究の成果です。
慶應義塾大学 理工学部 教授、日本建築学会 前副会長 伊香賀 俊治先生(写真提供/伊香賀先生)
「厚生労働省は国民の健康のために血圧を4mmHg下げる数値目標(健康日本21(第二次))を掲げていますが、食事の工夫や運動といった生活習慣を改めなくても、住宅の断熱改修だけで目標の約8割を達成できることになります」(伊香賀先生)
このように、“住宅の断熱性能”は “健康”と密接な関係があると判明してきたのです。
これまで日本では「住宅」と「健康」の関係について、あまり注目されることがありませんでした。しかしWHO(世界保健機関)は6年前の2018年11月、「住宅と健康に関するガイドライン」の中で「冬は室温18度以上にすること」を各国に強く勧告。「冬の室温が18度以上あると、呼吸器系や心血管疾患の罹患・死亡リスクを低減する」とし、特に子どもや高齢者には「もっと暖かい環境を提供するように」と言葉が添えられています。
出典:WHOウェブサイト 2018.11.23公表
断熱性が高い家でもそうでない家でもエアコンの温度設定が同じならば、室内環境も同じでは?と思うかもしれません。しかし、断熱性の低い家では、常に壁面や床面など外と接している部分から冷気が伝わり、ムラがあるため温度が一定で快適な環境はつくれないのです。そんな暖かい家にするために、住宅の断熱性能の向上が欠かせません。とはいっても、住宅の断熱リフォームにはそれなりの費用がかかります。特に古い住宅だと、断熱に加えて耐震補強も必要な場合が多く、費用が膨らんでしまいがちです。そこでオススメしたいのが、住宅の一部だけでもいいので断熱する「部分断熱」という方法です。
例えば子育てを終えた二人暮らしなら、ほとんど使わなくなった2階を省き、普段よく過ごす1階部分だけ断熱をするといった「生活の中心エリアに絞って断熱する」というやり方です。もちろん理想は住宅全体の断熱リフォームですが、健康のことを考えると、費用面で諦めて何もしないよりは「部分的にでも断熱して、そこで生活するようにしたほうがよいでしょう」と伊香賀先生も言います。
「部分断熱」を行って夏も冬も快適に、光熱費も削減できたでは、実際に「部分断熱」を実践した人は、どのように感じているのでしょうか。奈良県で部分断熱と耐震補強工事を行ったAさんに話を伺いました。
・築38年の日本家屋をリフォーム
色のついた部分が今回のリフォーム個所。耐震性能は耐震等級2まで高められました
・部分的な断熱リフォームでも健康的に暮らしやすくなる
Aさん宅の場合、外壁の土壁をそのまま残すことにしたので、その内側に断熱材を入れました。その分、工事前より室内が少し狭くなっています(写真提供/スペースマイン)
(写真提供/スペースマイン)
夫の実家である築38年という日本家屋をリフォームしたAさん。夫の母とAさん夫妻、それに2人の子どもの5人で暮らしています。
「子どもが成長したのを機に、リフォームをすることにしました。義父が亡くなる前に『この家は耐震性が心配だ』と言っていましたから、まず耐震性をどうしても高めたいと思いました。また、外壁が土壁の古い日本家屋ですから、冬は外の冷気が入ってきて、とても寒かったんです。しかも、床がとても冷たくなるほど家の中が冷えるのに、2階の寝室にはエアコンもないし……」とAさん。
・窓には樹脂製サッシの高断熱窓を内窓として設置
断熱材を入れたこともあり、厚くなった壁を利用して樹脂サッシの高断熱窓を内窓に設置(写真提供/スペースマイン)
しかし、耐震工事に加えて断熱工事や間取り変更を行うと、どうしても予算をオーバーしてしまいます。また約10年前に浴室やトイレなどをリフォームしたばかりだったので、フルリフォームするのは少し抵抗感もありました。そこで施工を担当した「スペースマイン」の矢島一(やじま・はじめ)さんは「建物全体の耐震工事をした上で、普段よく過ごす部屋だけでも断熱工事することを提案しました」
断熱工事を行う場所は、家族が一緒に過ごす21.8畳という広いLDKと、2階の寝室4つに限定。土壁を解体して外壁を新設すると費用がかかるので、矢島さんは土壁を残し、該当部分の内側に厚い断熱材を入れて、窓は樹脂サッシの高断熱窓に入れ替えました。
このように部分的な断熱リフォームした新しい“わが家”の住み心地について、「もちろん夏は涼しく、冬は暖かくなりました。それはエアコンの使い方でも明らかです」とAさん。
「21.8畳のLDKは、もともと洋室と広いキッチンに分かれていて、それぞれに10畳用のエアコンが設置されていました。今回LDKとして1つの空間にまとめた際に、この2台のエアコンは備えたままにしたのですが、結局リフォーム後に使っているのは1台だけです」。これまで約20畳の空間を温めるには10畳用のエアコンが2台必要でしたが、断熱性を高めたら1台で済むようになったというわけです。
BEFORE→AFTER(写真提供/スペースマイン)
しかも、今回のリフォームに合わせて太陽光発電システムと蓄電池を備えたこともあり「電気代が以前より大きく減ったのは当然ですが、昨年の夏はあれだけ暑かったのに、太陽光発電だけで家じゅうのほぼすべての電気をまかなえました」。部分的に断熱リフォームするだけでも、光熱費の削減になるという証左です。家をコンパクトに建て替えなかったことで、屋根面積を広く保てたことも、太陽光発電のメリットをたっぷり受けられることにつながりました。
Aさんの施工例からも「部分断熱」でも快適に暮らすことができ、光熱費の削減につながることがわかります。もちろん、WHOが勧告している「室温18度以上」も、普段過ごしている部屋では容易に達成できる、つまり健康的な暮らしを送れることになります。
「部分断熱」の場合、ヒートショック対策が欠かせない一方で「部分断熱」となると、ヒートショック対策が心配だという人もいるでしょう。ヒートショックとは、温度の急激な変化で血圧が上下に大きく変動することによって、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす健康被害のこと。特に断熱性能の低い住宅では、冬に暖かいリビングを出て、寒い脱衣場を経由してから、熱いお風呂に入るのでリスクが高まります。住宅をまるごと断熱リフォームすれば、部屋や廊下等の温度差が少なくなりますが、それら日常行き来するスペースが動線的に離れている場合、「部分断熱」では住宅内の温度差が解消されないため、ヒートショックの危険性は消えません。
(写真/PIXTA)
そこで矢島さんは「特に衣服を脱ぐ脱衣場などには人感センサー付きの電気ストーブの設置をオススメしています。また暖かい部屋から廊下に出る時は、1枚羽織れるように、ドアの外に衣類を掛けられるようにしておくと便利です」
つまり、部分断熱をするなら、ヒートショックのリスクを十分理解した上で暮らしたほうが良いということ。その上で、予算ができたらさらに追加の断熱リフォームを、できれば住宅をまるごと行うようにすることが理想的です。
単に寿命を延ばすのではなく、断熱住宅で健康的な長寿を目指そう気になる費用ですが、矢島さんの会社の場合、「部分断熱」をする場合の目安として「10畳の広さで150万~200万円」と説明しているそうです。
「また、断熱工事には補助金制度があるので、それも有効に使うようにするといいでしょう。今なら国土交通省と地方自治体とで費用の最大8割・70万円まで補助する制度が利用できます」(矢島さん)
それでも「老い先が短いから」と躊躇する高齢者もいるかもしれません。しかし、先述したように、人生は意外と長いもの。人生100年時代だからといって、皆が皆100歳まで元気でいられるとは言いませんが、日本人の平均寿命は明治時代の40歳台からほぼ2倍の80歳台に延びています。
・断熱住宅は健康寿命を延ばす
伊香賀先生たちによる調査データより。冬の居室の平均室温が14.7度の「寒冷住まい群」に比べて、同17.0度の「温暖住まい群」の高齢者の要介護認定になる年齢は、約3歳後ろ倒しになることがわかりました(出典:中島侑江、伊香賀俊治ほか:地域在住高齢者の要介護認定年齢と冬季住宅内温熱環境の多変量解析 冬季の住宅内温熱環境が要介護状態に及ぼす影響の実態調査 その2. 日本建築学会環境系論文集 84(763), p.795-803, 2019.)
さらに、伊香賀先生たちの調査研究によって、断熱住宅にすると介護が必要になる年齢が遅くなる、つまり健康寿命が延びるという結果も出ています(上記グラフ)。健康寿命が延びれば、もちろん子どもにとっても負担が減ります。もしも読者が両親の暮らす実家等の断熱リフォームを勧めても、「老い先が……」と遠慮するようであれば、「部分断熱」だけでも行うように勧める、あるいは費用を負担してあげてはいかがでしょうか。
●取材協力
スペースマイン
慶應義塾大学 理工学部 教授 伊香賀 俊治さん
2023年11月下旬、初雪が降った日の盛岡。筆者はどうしても来たくなり、高速バスに揺られた。
理由は2つある。一つは、筆者がかつて心を打たれた街を、もう一度味わいたくなったから。
そしてもう一つは、作家・写真家のクレイグ・モド(Craig Mod)さんにインタビューさせてもらったからだ。ニューヨークタイムズ紙に「盛岡」を強く推薦し、同紙の「2023年に行くべき52カ所」で、その2番目に盛岡を抜擢させた張本人。
インタビューでモドさんが語った盛岡の姿が頭から離れず、バスに乗ったのだ。
「ちゃんと国が国民を守ろうとしている国」JR盛岡駅前で(写真撮影/辰井裕紀)
早稲田大学への留学をきっかけに、23年日本に住み続けるモドさん。各媒体に寄稿して多数の著書を発表し、これまでMediumやスマートニュースなどのアドバイザーや、イエール大学(米国)の講師を務めるなど国内外で活躍する。
そして東海道や中山道を徒歩で踏破するなど、日本の隅々まで歩くことがライフワークだ。
わかりやすい自然の要素以上に、日本の至るところにある黄色と黒のキリスト教の看板などの生活の足跡に興味をもち、雑多な旧街道沿いを「パチンコロード」と呼び、そのウラにある強大なグローバリズムを感じ取る。
新潟県長岡市で(写真撮影/辰井裕紀)
外国人という客観的な視点を持ちながら、日本人以上に日本の姿を見つめてきた張本人だ。そんな彼は、少子高齢化や経済的な問題を抱える日本をどう見ているのだろうか?
運よく、鎌倉の自宅でインタビューする機会に恵まれた。
モドさん宅の和室で(写真撮影/桑田瑞穗)
まず、モドさんは何がきっかけで日本に来たのか。
モド「地元(コネティカット州)の治安が悪かったんです。アメリカには国民保険とかもほとんどなくて、みんな苦しんで。ちゃんと充実して生きるなら離れないといけないと思って。留学するなら思い切って遠くまで行った方が面白いと思って、日本を選びました」
感情を込めて語るのが、「初めて、ちゃんと国が国民を守ろうとしているところに来た」こと。
モド「アニメや漫画、寿司も好きだったわけじゃなくて、日本を何も知らないままで来て。でもこんなに安全で、深みと味のある街で生活できるのは奇跡。アメリカ、とくにサンフランシスコとかは、『地獄の地獄のさらに地獄』まで堕ちられるし、脱出する手段がない」
それがドラッグ中毒者を生み、ドラッグほしさに暴力を振るったり、万引きしたりの犯罪天国になる。生活保護などのサポートがある日本とは大きな違いがあった。
モド「日本は貧富の差が比較的小さくて、金持ちと一般人の生活が大きく変わらない。同じ保険も手に入るし、同じ地下鉄や道路も使える」
著書「Kissa by Kissa: 日本の歩き方」(2020年発行)より(写真撮影/桑田瑞穗)
そして、日本に暮らし続けられた根本的な要素が「物価の安さ」。
モド「すごく安かった。ホームステイしても1年の学費が、アメリカの5分の1から10分の1とか」
それが、「ひたすら街道を歩く」などの一朝一夕ではとても儲からないようなモドさんの活動を支えたのだ。
東京は「世界でも奇跡のように安全」モドさんが来日から35歳まで、長らく住んでいたのが東京。どんな街か。
モド「東京、本当に奇跡のように安全で、こんなに広く人口がすごく多いのに、本当に時計のような美しい動きができる街。このスケールでスムーズに動いているところは本当に東京だけ」
(写真撮影/辰井裕紀)
ニューヨークやロンドンは建物の状態があまりよくなかったり、地下鉄がちゃんと動かなかったりするが、東京はその心配がないという。
モド「あと東京は(世界の大都市としては)建物やお店を比較的自由に建てられるから、いろいろな住宅やお店が混在できて、そのおかげで家賃が安くできる。柔軟にスクラップ・アンド・ビルドを行ってタワーマンションなんかを建てているから」
ニューヨークやロンドンでは、集合住宅の家賃が高くて単身では借りられない人が多く、ルームシェアなどをするのが普通。「日本の物価は安すぎて、経済成長の足かせになっている」ともささやかれるが、若者にとっては、他国に比べ自由で挑戦がしやすい視点もあるという。
モド「東京だとまだ、自分の予算に合わせて住める。僕も20代で広尾・表参道・代官山・恵比寿のあたりにずっと住んでいました。6畳の和室で、月6万円とかの物件がまだ残っていますから」
モドさんがかつて住んだ恵比寿。JR恵比寿駅前の様子(写真撮影/辰井裕紀)
モド「僕は20代のとき、儲からない芸術活動ばかりしていたんですが、東京だとお金のためにやりたくないことをたくさんしなくても、やりたいことがちゃんとできるし、博物館とか美術館も楽しめる。800円でおいしい昼ごはんを食べられるのは日本だけです」
鎌倉に転居して8年、今でも東京が恋しくなることもある。
モド「でも東京で困るのはね、住みたいところがありすぎて、選ぶのが難しい。谷根千(谷中・根津・千駄木)もいいし、蔵前や清澄あたりも面白くなったし……」
東京人が見ない地方の現状そんな東京とは、一線を画す現状があるのが地方だ。アメリカの地方出身者として、モドさんは歩いてその姿を目に焼き付けた。
1万キロを超える道のりの中で幾度も見たのが、旧街道沿いにあるドラッグストアなどのチェーン店、パチンコ屋が多数連なる風景。モドさんは「今日の私たちを表現している」と語る。
モド「僕は東京から京都まで中山道で歩き、東海道も歩いたんですけど、今はパチンコ屋やギャンブル場ばっかり。でもこれ、日本だけじゃないんですよ」
愛機・ライカとともに1万キロを歩いたモドさん(写真撮影/桑田瑞穗)
アメリカでもヨーロッパでもみんな同じように、大きなチェーン店が並ぶ。
モド「これがダメとかじゃなくて、これで何を損しているのか、考えた方がいい」
こうなって我々が何を得し、何を損しているか。街道にあるのは、現在進行形のグローバリズムだ。
そして街道を越えた先には、日本人の多くが見て見ぬふりをする地方の姿がある。
モド「田舎へ行けば行くほど、“床屋(美容室)と喫茶店”しか営業していなくて、シャッター街ばかり」
モドさんの記事にも、「田舎で老人介護施設が多い」「ラブホテルを使う若い人が減ってラブホテルの廃墟が並ぶ」など、少子高齢化を示す描写が目立つ。
モド「高齢化社会って都会じゃあまり想像がつかないけど、地方を数カ月歩くと、『もう終わりと思うしかないような町や村』が多い。それはどうにか守らなきゃとかじゃなくて、もう人口や産業の有無の問題。現実として、終わりに向かう流れを止めるのは難しい」
それでも「喫茶店」が残った限界集落が生まれ続ける地方。その中でモドさんを癒やしたのは、喫茶店だった。
モド「パチンコ屋やチェーン店ばっかりだし、残された個人店は喫茶店と床屋・美容室だけで、それで喫茶店へ行くことになって。社会の中での喫茶店の立場や、よさが見えてきた」
喫茶店で目につく料理は「ピザトースト」しかなかったので食べてみたら、意外においしく、「私の魂の食べ物」というほどになった。
(写真撮影/辰井裕紀)
それにしても田舎の個人商店は、なぜ床屋・美容室と喫茶店が残るのか。
モド「コミュニティのハブみたいになっているはず。高齢化社会になるほど、孤独が増える。でも喫茶店さえあれば、毎日モーニング食べて、みんなとお喋りできるから」
さらに個人の喫茶店はモーニングセットなどで、価格競争に強いチェーン店にも対抗できる価格で提供する。
モド「あとチェーンだとスタッフと仲良くなるのは難しいし、もしそうなっても、いつか担当者がどっか行っちゃうから。何十年もずっと挨拶するマスターや奥さんの方が特別です」
(写真撮影/桑田瑞穗)
盛岡のような中核市にはチャンスがある道行く人たちと挨拶を交わしながら、数々の街を通り過ぎたモドさん。こんな考えが芽生えた。
モド「小さい村はどうしても、たぶん守れないと思うけど、中核市ぐらいだと、チャンスはある」
ニューヨークタイムズに盛岡市(岩手県)を推薦したのはその思いからだった。また、東北にはインバウンドの観光客の0.9%しか行かない※。経済的に応援したい気持ちもあった。※観光庁「宿泊旅行統計調査」に基づく、2023年3月の外国人宿泊者ブロック別シェアより
モド「でも、盛岡は何度行ってもすごく充実している。にぎやかで若者が頑張ろうとしている姿をたくさん見られる街。大きい街が近くにないのに、盛岡だけはすごく充実感がある。10カ所の中核市を巡るプロジェクトで街を歩きましたが、その中でも盛岡は街並みもきれいだし、岩手山もきれいに見えるし。川もきれいで気の流れがいいし、市民に余裕を感じた」
杜の大橋から望む雄大な岩手山(写真撮影/辰井裕紀)
モド「加えて、喫茶店も面白かったし、大正時代の建物も残っているし、大学生のエネルギーもあるし。バランスのある街だと思って推薦しました」
モドさんが推薦した盛岡の喫茶店、リーベ。筆者もモーニングを注文し、2階席の平和な静寂を味わった(写真撮影/辰井裕紀)
岩手銀行(旧盛岡銀行)旧本店本館。東京駅の設計でも知られる辰野・葛西建築設計事務所によるもの(写真撮影/辰井裕紀)
そして、モドさんの尽力により盛岡がニューヨークタイムズの「2023年に行くべき52カ所」の2番目に選ばれ、2023年は膨大な数の取材依頼が相次いだ。
とてつもない数の取材に応対し続けた理由に、「中規模や小規模な町でも快適で大事な人生を過ごせると伝えたい」との思いがあった。
モド「私も中核市に近いアメリカの工業都市が地元だったんですが、工場が中国へ行くなどして産業がなくなって。みんなの苦しみばかりを子どものころに見てきたから」
(写真撮影/桑田瑞穗)
モド「盛岡の個人のお店は重要なコミュニティで、文化もつくっている。そういうお店が、個人で実現できるのを見ると感謝するし、私の地元から見ると、本当に奇跡のような状態だから」
盛岡のような、元気な中規模都市は少ないのか?
モド「少ない。寂れているところがほとんどです」
盛岡は、なぜそうならなかったのか?
モド「結構大きいのは大学があること。『大谷翔平モデルの時計』も作っている盛岡セイコー工業も近郊にあるし、ものづくりの仕事がある。あと、新幹線が停まるのも大きい。新幹線が停車する街と、そうじゃない街は全然違う。中山道を歩くとすごく感じる」
なお、東洋経済が1993年から発表している「住みよさランキング」の北海道・東北編で、2023年版の2位に盛岡市がランクイン。年間小売販売額と同1人当たりの販売額は北東北では1位という。
盛岡と各地をつなぐ新幹線はやぶさ号(写真撮影/辰井裕紀)
ちなみに筆者も盛岡の老舗のバーで、「今まさに世界的企業を相手にしている盛岡のものづくり文化」をマスターから力説され、ある自動車関連部品メーカーの活躍を紹介いただいた。南部鉄器からその精神は脈々と受け継がれているのだ。
(写真撮影/辰井裕紀)
それは、さまざまな問題に直面する日本のヒントにもなるという。
モド「本当に盛岡みたいなところが、あるんですよ。ほかにも山口市(山口県)とか松本市(長野県)とか尾道市(広島県)とか、そういった感じの街が守られたらいいと思う。東京で大きい会社に勤めなきゃとかばっかりじゃなくて、個人で本屋とかジャズ喫茶とかバーやりたいと思っている方が、できるスペースがあれば。中核市だとちょうどやりやすいから」
なお、2024年のニューヨークタイムズの「2024年に行くべき52の場所」で、山口市の選出にも関わったモドさん。選んだ理由をこう語っている。
「山口市は盛岡の魅力と同じ特質を多く備えています。若い起業家を惹きつける、人間的なスケールで充実した生活ができる街。京都、金沢、広島が日本の『レコードのA面』なら、山口と盛岡は『B面』で、控えめな天才性が含まれることが多い面です」
山口市の米屋町商店街(写真撮影/辰井裕紀)
快適で大事な人生を過ごせる街・住まいをあらためて、中核市ならではのよさは何か。
モド「東京だと疲れる。大きすぎて、ときにコミュニティをつくりづらい。少し地方に行けば、自分の好きなことがやれるくらいの町のリソースがありつつ、それでいて疲れない。鎌倉に住んでいる人たちは、みんな『もう東京行けなくなっちゃった』とか言っていますよ」
モドさんはさらにニュースレターの中で、「(盛岡のような)こうした小規模なビジネスの有り様は、大規模なデベロッパーによる東京の巨大開発と対極にある。そこには、巨大な構造物の中に似たような店ばかりが並び、小規模事業者には手が届かず、個性のかけらもない。盛岡は、盛岡にしかない個性や趣にあふれている」と語っている。
もりおか歴史文化館前の庭にて(写真撮影/辰井裕紀)
そんなモドさんは、8年前に東京から鎌倉に転居した。
モド「東京の観光客が増えすぎて、疲れた。鎌倉も多いんだけど、観光客が行くところは同じ。八幡宮、小町通り、大仏にしか行かないから、一本離れればすごく静か」
鎌倉の海を望む(写真撮影/桑田瑞穗)
モド「鎌倉の大きい家に引越してきて、最初の晩に超泣いた。東京で住んでいた6畳の部屋じゃなくて、本当はやっぱりこれぐらいの広い家がほしかったんだなって」
ご近所さんも優しく、「みんな面白い人生を過ごしている」という。
モド「僕はご近所のみなさんより3、40歳ぐらい年下だけど、たぶん『モドさんは何者?』とずっと思われてたんじゃないかな。今年いっぱいテレビに出始めたら、優しくなった(笑)」
(写真撮影/桑田瑞穗)
さらに、鎌倉は交通の便もいい。
モド「東京まで50分ぐらいで、グリーン車も500~1,000円くらい(※)でスタバのコーヒー1杯くらいの値段。1本で渋谷、池袋まで行けるし、吉祥寺に住むよりずっと楽だと思ったんです」
※2024年3月16日よりJR東日本は価格改定
鎌倉でモドさんがお気に入りの「甘縄神明宮」(写真撮影/辰井裕紀)
(写真撮影/桑田瑞穗)
モド「鎌倉は企業の社長やクリエイターなどの面白い人もたくさん住んでいる。山歩きもできるし、海を眺めながら癒やされるし、おいしいお店もあるし……」
そして、人々の暮らしの中にいい人生に必要なものは何かを探し続けるモドさん。今、それをどう考えているか。
モド「『充実感』を感じることです。自分が興味があって、少し上手にできる活動に集中すると充実できる。この前も日本刀の職人さんを見学して、それを実感した。過酷な状態でずっときつい作業をしているんだけど、すごく充実していい日々を過ごしている、と。その充実した生活や仕事で、快適で大事な人生を過ごせるか……」
そんな充実したことに没頭できる街こそ、いい街のはずだ。
(写真撮影/桑田瑞穗)
最後に「住むなら、どんな家がおすすめか?」について、モドさん流のアドバイスをもらった。
モド「コミュニティが感じられるところに住むのが、大事。古いアパートでも、周りでコミュニティをすごく感じられるなら、100倍くらい、いい人生は過ごせるから」
◇ ◇ ◇
「小さい村はどうしても、たぶん守れないと思うけど、中核市ぐらいだと、チャンスはある」
膨大な数の田舎を歩いて見てきたモドさんの、現実的な見識。初めて47都道府県すべてで日本人の人口が減った今、日本のどこなら人生の大切な思いを実現して住めるか……自らにもう一度問いかけた。
モドさんの仕事場(写真撮影/桑田瑞穗)
(写真撮影/桑田瑞穗)
(写真撮影/桑田瑞穗)
(写真撮影/桑田瑞穗)
●取材協力
クレイグ・モドさん (Craig Mod)
2021年に紀伊半島を約30日間踏破した回想録「Things Become Other Things」が発売中。
「漁師、口の悪い子ども、そしてひどく悲惨で素晴らしいコーヒー」たちに出合った記録が叙情的な写真とともに記されている
山口県の下関駅前で居住支援に力を入れている上原不動産の橋本千嘉子さん。不動産業を営んできた両親の背中を見て育ち、自身も生まれ育った街に集まってくる、さまざまな住まい探しに困難を抱える人たちの入居をサポートしています。また、入居を促進するためのオーナーへの啓蒙活動や社員の教育、行政や福祉団体との連携促進、街の活性化にも尽力しています。何がそこまで橋本さんを突き動かすのか、お話を聞きました。
歴史的背景を知ると見えてくる、下関駅前エリアの成り立ち上原不動産がある山口県の下関駅前は海に囲まれた地形の港町。駅周辺は建物の老朽化が目立ち、再建不可のものも多いといいます。橋本さんは、この下関駅前で40年以上続く上原不動産の代表の長女として、両親の背中を見て育ちました。自身も5人の子どもを育てながら家業を担う2代目です。
橋本さんによると、この辺りはもともと1940年代に朝鮮半島から日本に抑留された人たちが帰国を目指して港のあるこの地に集まってきたものの、国に帰ることができず暮らし続け商売を営んでいる人も多い地域だそう。当時はバラックがたくさんあって活気があり、今もそのころを思わせる古い街並みが残っている。
歴史的背景を知ると、また違った風景が見えてきます。
少子高齢化、地元に留まらず都会に出ていく若者といった、現在の地方都市がどこも抱えている問題に加え、「総合病院や拘置所や更生保護施設など、駅周辺の環境もあって、体の悪い人や生活再建を目指す人、外国人など、住まい探しにおいても配慮や支援を必要としている人たちが、より多い地域といえます。この地で不動産賃貸管理業を続けていくためには、移住者を増やすなど、人を呼び込む必要性を強く感じています」(橋本さん、以下同)
本州最西端にある都市、下関市。人口の減少率は全国平均よりも高く、65歳以上の高齢者は市の総人口の1/3以上を占める(画像提供/上原不動産、出所/JMAP地域医療情報システム)
「若いころは好きになれなかった」韓国語が飛び交う街そんな橋本さんも、若いころはこの街が好きになれなかったといいます。
「私自身、在日韓国人3世で帰化しているのですが、韓国語の飛び交う雑多な雰囲気の街を、素直に受け入れられませんでした。スマートな都会的生活に憧れて、東京のデザイン系の学校に進んだのですが、強烈なホームシックに襲われました。その時初めて、自分がどれだけ地元のことを大好きだったかに気づいたんです」
地元に帰った橋本さんが会社を手伝い始めて間もないある日、入居者が突然亡くなり、警察と一緒に現場検証に立ち会うことがありました。その人は、かつて道端に倒れていたところを世話好きな橋本さんのお母さんがおぶって保護したことのある人でした。「不動産屋って、ここまでやらなくてはいけないんだ」と深く印象付けられた出来事だったといいます。
風光明媚な観光地も多い一方で、地元に根付いた人々の暮らしもある。大好きな地元を支えていきたい、子どもたちが自慢できる街にしたいという思いが、原動力(画像/PIXTA)
誰もやらないなら、まずは自分たちで。居住支援法人に登録上原不動産の代表である橋本さんの父は、3~4年前から不動産業界のこれからを見据え、住宅弱者に対する支援団体の連携の場である「下関市居住支援協議会」の立ち上げを行政や宅建協会などに提案してきました。しかし人手が足りないことなどを理由に、なかなか実働に向かいません。
「誰もやらないなら、まずは自社でやらなくては、と考えて2021年9月に山口県の居住支援法人に登録し、福祉についても勉強し始めました。居住支援法人の登録には専用窓口、専用スタッフ、専用ダイヤルを設置・明示する必要があり、大変でした。しかしその仕組みをつくったことで、お問い合せを受けやすくなり、行政や福祉法人との連携体制ができつつあります」
上原不動産のホームページより。専任スタッフを置き、相談窓口をつくるのは大変だったが、問い合わせしやすい環境を整えることができ、相談の増加につながっている(画像提供/上原不動産)
居住支援法人となって大きく変わったのは「断らなくても良い方法を見つけよう」という意識でした。そして受け入れ可能な物件を増やすためにはオーナーや管理会社の理解が必要です。オーナーの意向を知るために上原不動産が独自で行ったアンケートでは、約9割が要配慮者の受け入れOKとの回答だったそう。
「ただし『受け入れ可』は、当社が責任を持って対応することが大前提となっていました。そこで私たちも今まで以上に入居後の生活サポートに目が向くようになり、いろいろなサービスの導入を進めてきたのです」
65歳以上の人にはAIによる見守りと死亡補償を組み合わせたサービスへの加入を必須にしたり、携帯電話も固定電話も持っておらず家賃保証会社を利用できない人のために格安スマホの代理店となったり。それぞれの事情に応じて幅広く対応できるよう、家賃保証会社5社以上と提携しながら、緊急連絡先を確保し、連帯保証人がいない人であっても自社所有物件に入居できるようにするなど、二重三重のサポート体制を整えているそうです。
上原不動産で65歳以上の人の入居時に加入を必須としている、電気の使用量をAIが判断し、いつもと違う動きがあってもすぐに察知、連絡できるシステム。利用者の手を煩わせることなく、プライバシーも守りながら見守りができる(画像提供/上原不動産、出所/R65不動産)
若手社員の教育に悩むことも……体制を整え、国の制度も活用現在、上原不動産には約25人の社員が在籍しており、その中の居住支援推進課という専門部署に社員2人が在籍しています。賃貸事業部の営業担当者が支援を必要とする入居希望者に対応するときには、居住支援推進課が伴走する体制です。
未来推進事業部に所属する住居支援推進課を中心に居住支援に当たるが、相談者や入居者の対応は各窓口の担当者が行っている。居住支援推進課は組織の枠を飛び越え、必要な支援と繋いでいく伴走型の部署だ(画像提供/上原不動産)
しかし中には、居住支援を進める会社の方針に「福祉事業をやるために入社したんじゃない」「もっと利益を追求する楽な方法があるのではないか」という社員や、共感できずに退職する人もいたそう。さらに時代が変わってデジタルシフトしていけばいくほど入居者との関わりは事務的になり、関係が希薄になっていきます。
「私たちがこの街で商売をしていくということは、福祉的支援を必要とする人たちにも寄り添っていくということ。社員数が少ないときは何となく意志統一ができていましたが、会社が大きくなると『理念』というものを内外に打ち出していかないと伝わらないことに気づきました」
橋本さんは最初こそ社員全員に居住支援について学んでもらおうとしていましたが、それが難しいことを痛感し、社員のキャリアのステージにあった教育を行うべく、会社としてノウハウを蓄積中です。
「不動産取引本来の醍醐味なども理解した上で支援のあり方を学んでいかないと、居住支援に取り組む価値が伝わらず、業務の大変さに皆疲弊していってしまうんですね。なので合間あいまに伝えながら、理解できているスタッフが伴走するようにしています」
さらに2022年度からは厚労省が実施している「高齢者住まい・生活支援伴走支援プロジェクト」に参画。居住支援に取り組む団体の悩みや課題をサポートし、解決に導く制度で、専門家にアドバイスを受けるなどした結果、誰にも相談できずに抱え込んでいた担当社員の精神的負担を軽くすることができました。そして行政や地域を巻き込んで開催した2年目となる2023年10月の勉強会では、橋本さんが横串を刺したいと考えていた市の住宅課と福祉部の連携が少しずつ進んでいると感じられたそう。下関市の居住支援を前に進めるためにも「今後も継続していきたい」というのが現場の声です。
高齢者住まい・生活支援伴走支援プロジェクトの勉強会の一コマ。地域の関係者同士、お互いの補完性や他機関連携の重要性を学び、共有する機会となったという(画像提供/上原不動産)
さまざまな取り組みを進める中で、見えてきた課題とはこのように多くの取り組みを進めてきた橋本さんだからこそ「不動産屋として、居住支援法人として、どこまで関わるべきか悩む」と言います。例えば、本人が自立して暮らしたいと言っても、福祉の専門家から見れば施設に入った方が安心で安全というケース。本人の意向を優先して民間の賃貸住宅に受け入れることで、入居者が事故に遭ったり、死につながったりすることは避けなければなりません。
「どこまで寄り添うべきなのか、どこまで受け皿を準備すべきなのか、正直まだ答えは出せずにいます。本人が望むなら賃貸住宅での受け入れ先を探したい私たち居住支援法人としての目線と、病院や福祉事業者の目線のバランスをとるのはとても難しいです。ケースワーカーなど専門知識のある人とつながる必要性を感じます」
そしてもう一つ、行政の横のつながりを推し進めること。行政が部署の垣根を越えて案件や問題に関わることは安易ではありません。橋本さんもその事情や体質は理解しつつも、街をよくしたいという想いは皆同じはずだと考えています。
「だったらこの交わらない人たちをくっつけられないものかと、駅前のコワーキングスペースで行政の人や学生、関東で活躍している下関出身の人などをゲストスピーカーとして招くイベントを企画したりしています」
街に人を呼び込む、橋本さんの興味深い活動については、また違った話が聞けそうです。
勉強会、研修会を独自で開催するなど、居住支援活動の普及に努めている。写真右が橋本さん(画像提供/上原不動産)
「不動産は国交省から、居住支援については厚労省から政策が下りてきますが、居住支援法人になっていろいろな政策を自分の身近に置き換えて俯瞰して見られるようになった」と橋本さんは言います。
自分たちの周りにいる人たちがお客さまとしてのターゲットであり、入居をサポートするために必要な方策を模索していくこと。幼いころから両親の背中を見てきた橋本さんにとって、居住支援の取り組みは当たり前で自然なことなのかもしれません。
そして行政や周りの団体を巻き込み、若い人たちへと伝えていこうとする橋本さんの竜巻を起こすようなパワフルさに惹きつけられました。上原不動産の今後の活動にも注目していきたいですね。
●取材協力
上原不動産株式会社
2023年は、世界各地で異常気象が相次ぎました。異常高温、大雨やサイクロンなど多数の死者を伴う気象災害により、多くの住宅やインフラが甚大な被害を受けました。日本も年平均気温は過去最高で、記録的な豪雨が発生。地球温暖化によって引き起こされる異常気象は、今後もさらに頻発する見込みで、各国は地球温暖化を抑制する脱炭素に向けた取り組みを加速しています。
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサーとして「脱炭素」を追ってきた堅達京子さんに最新事情を聞きました。2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された、COP28※の成果や課題、住宅業界の脱炭素の動きを解説します。
※COPは、地球温暖化の影響緩和や適応策、炭素排出削減目標などに焦点を当て、国際社会の協力を促進する国際会議です。
(写真/PIXTA)
『化石燃料からの脱却』の合意は画期的な一歩堅達さんの著書『脱炭素革命への挑戦 世界の潮流と日本の課題』(山と渓谷社 刊)(画像提供/堅達京子)
2020年10月、菅前首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」により、地球温暖化対策の「脱炭素」に対する日本全体の関心が高まりました。カーボンニュートラルとは、地球温暖化を進めないように、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること。政府は、これを2050年までに達成する目標を掲げています。これは、日本が脱炭素社会の実現に向けて、産業構造や社会システムの転換を進めていくことを意味しています。2021年に開催されたCOP26について堅達さんを取材した際、「この8年が地球温暖化を食い止める正念場」という強いメッセージがありました。それから2年、脱炭素の観点から世界はどのように変わったのでしょうか。
堅達さんは、「温暖化の危機は加速しているのに、人間は戦争や紛争に明け暮れ、結束が弱まっている。そういう2年間だったと思います」と話します。
「温暖化の悪影響が一層顕在化してきています。リビアの砂漠地帯やイタリアの洪水、アマゾン川流域の干ばつ、ハワイの山火事などがニュースで報じられました。海氷や陸地の氷が驚くほどの速さで溶け、特に西南極の氷床が大きく減少しているという科学者たちの報告があります。太平洋島嶼国は、海面上昇による国土消失が懸念されています。そして、ウクライナ戦争やガザ侵攻が勃発しました」
世界中で洪水や山火事、干ばつなどが続発(PIXTA)
そうして2023年11月30日~12月13日、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催された「COP28」。気候変動の悪影響を受けやすい途上国の損失と損害(ロス&ダメージ)を支援する「ロス&ダメージ基金」や各国の脱炭素対策の進捗を評価する「グローバル・ストックテイク」などについて議論されましたが、なかでも大きな成果は「『化石燃料からの脱却を10年間で加速する』という合意が採択されたこと」だと言います。
「近年のCOPでは、『化石燃料の段階的廃止』という文言が合意文書に盛り込まれるのかが焦点でした。化石燃料の燃焼は、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスを排出する主な原因で、大気中に蓄積することで、地球温暖化が引き起こされます。
化石燃料の廃止は、地球温暖化を抑えるために必要不可欠ですが、COP26、COP27では、化石燃料への依存度が高い国々からの反発があり、見送られました。
COP28では、『化石燃料からの脱却を10年間で加速する』という合意が採択されました。190を超える世界の国と地域の合意文書に盛り込まれたことは歴史的な進展であり、2023年が、石油や石炭に依存する『化石燃料時代の終わりの始まり』だと言えるでしょう」
化石燃料とは、石炭・石油・天然ガスなど。火力発電などで燃焼する際、温室効果ガスを排出する(PIXTA)
一方で、「『廃止』という強い言葉が最初の案から消えて、『脱却』という解釈の余地を残す言葉になってしまった点は残念」と堅達さん。
「『phase-out(段階的廃止)』には、『全面的に無くす』という強い意味がありますが、『transitioning away(脱却)』は、『移行』と訳されることもあります。玉虫色だからこそ合意できた面もあるでしょうが、訳し方次第で都合よく解釈できる余地が残ってしまいました」
とはいえ、そんな中でも、化石燃料からの脱却を「10年間で加速する」と期限を明記できたことは大きい成果と言えるでしょう。
ビジネス界で加速する再生可能エネルギーの活用再生可能エネルギー(再エネ)とは、太陽光、水力、風力、地熱、バイオマスなどの、枯渇せずに繰り返して永続的に利用できるエネルギーのこと(PIXTA)
また、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、ロシア産パイプラインガスへの依存度が高い欧州などで天然ガス価格が高騰したこともここ数年での大きな出来事のひとつ。日本に住む私たちも、日々影響を実感しています。
「脱炭素化」が停滞、後退するのではという見方もありました。それでも、堅達さんは「脱炭素なくしてビジネスはできない時代に突入します」と話します。
「最新の研究では、想定されていたほどウクライナ戦争による化石燃料への揺り戻しは起きなかったと捉えられています。むしろ、ロシアの天然ガスに依存するのは危険だという認識が強まり、再生可能エネルギーへの転換が一層加速しました。
その流れは、ビジネス界も同様で、例えば、アップルは、2030年までに、販売されるすべての製品をカーボンニュートラルにすることを目指すと宣言。再生可能エネルギーに移行するサプライヤー(商品やサービスを供給する人・企業)の数を大幅に増やしただけでなく、製品に使用するリサイクル素材の量を増やしています」
液化天然ガスのパイプライン。ロシア の ウクライナ 侵攻 で 世界的 に 需給が逼迫した(PIXTA)
ビジネス界が脱炭素に向けた取り組みを加速させている背景には、世界各国でカーボンプライシングの導入が進んでいることがあります。
「カーボンプライシングとは、温室効果ガスの排出に価格を付ける仕組みで、例えば、炭素税は、温室効果ガスの排出量に応じて課税する制度。
1トンあたりの値段が1万円を超える国もある中、日本のカーボンプライシング(『地球温暖化対策のための税』)は、石炭火力発電の排出量に1トンあたり306円と世界各国と比較して低い水準にとどまっています(2024年1月8日時点)」
欧州連合(EU)は、2023年5月に、炭素税に匹敵する「炭素の国境調整メカニズム」を施行。温室効果ガス排出量の多い国から、排出量の少ない国への輸入品に対して、炭素価格相当の費用を課す制度です。さらに、2023年7月から「デジタルプロダクトパスポート」の導入を義務付け、製品の製造者、販売者、消費者、そしてリサイクル業者などが製品の持続可能性に関する情報を電子的に記録したものを共有できるようにしました。
温室効果ガス排出量の多い国から輸入される製品の競争力を低下させ、排出量の少ない国から輸入される製品の競争力を高める施策で、日本企業への影響も少なくはありません。
もはやビジネス界は、「脱炭素なくして商いができない」時代に突入しているというのです。
脱炭素ビジネスで世界をリードする中国に対抗するため、アメリカは国内の脱炭素産業育成に多額の資金を投入している(PIXTA)
現在、脱炭素ビジネスは、欧州・アメリカと中国が牽引していますが、アメリカでは、2017年6月、ドナルド・トランプ大統領のもと、地球温暖化対策の国際的な枠組みであるパリ協定からの離脱を表明したのは印象的なできごとでした。
ジョー・バイデン大統領により2021年2月に復帰しましたが、その間に何があったのでしょうか。
「アメリカが離脱を宣言する中、2017年にドイツのボンでCOP23が開催されました。アメリカのビジネス界はどうするのか注目されましたが、アメリカの大手企業100社以上が連名で、『ウィーアースティルイン(We are still in)』の声明を発表し、『我々はまだパリ協定にいる』と表明したんです。企業には、アップル、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなどアメリカを代表する企業が名を連ねていました。2024年アメリカ大統領選挙で、たとえドナルド・トランプ氏が再選されたとしても、ビジネス界の脱炭素の動きは止まらないでしょう」
脱炭素と住まいの新潮流、世界の最新事情住宅業界の脱炭素の動きについて、堅達さんは「世界各国で新築住宅への太陽光発電の義務化が進むこと」に注目しています。
「COP28では、『化石燃料からの脱却』を実現するために、2030年までに再生可能エネルギーを3倍にして、エネルギー効率を2倍にすることが目標になりました。
具体的な政策としては、新築住宅の太陽光発電の義務化が注目されています。既に、アメリカのカリフォルニア州やハワイ州では、新築住宅に太陽光発電を設置することが義務化されていましたが、日本でも、東京都が2025年4月から、新築住宅への太陽光発電設置の義務化を決定しました」
太陽光発電や電機自動車の充電ステーションが街の当たり前の風景に(PIXTA)
「化石燃料を廃止するには、石炭だけではなくて、石油と天然ガスからも脱却しなければいけません。
ニューヨーク市で2021年12月に可決された『新たな建築物での天然ガス使用を禁じる法案』は、その先駆けとなる政策です。2024年1月から7階建て未満の新築建物、2027年7月から7階建て以上の新築建物に対して、暖房、給湯、調理などのすべての用途で天然ガスの使用を禁止するもの。ニューヨーク市の新築建物は、すべて電気で暖房や給湯、調理を行うことになります。ガスをひねって調理する時代が終わりを迎えているのです」
街づくりや住宅にもEVシフトの動きが出てきており、こちらも見逃せないと言います。
「ここ数年で大きく進んだ分野は、EVです。ガソリン車やディーゼル車などの内燃機関車から、電気自動車(EV)への転換が急速に進んでいます。
世界におけるEV車の普及率は2023年には14%を超え、欧州では20%と5台に1台がEVの時代に突入しています。欧州、中国、アメリカでは、EVシフトを加速させるために、住宅へのEV充電設備の設置義務化を進める動きが広がっています。
日本では、東京都が、全国に先駆けて、2025年4月から、賃貸住宅を含む新築の住宅すべてにEV充電設備の整備義務化を施行。日本におけるEV車の普及率は世界水準を大きく下回っています。今後、EVシフトを加速させると同時に、全国へ充電ステーションの整備が急がれます」
自宅のガレージにEV充電設備を備えた住宅(PIXTA)
また、堅達さんは「日本が一番遅れている既存住宅の断熱化が急務」と警鐘を鳴らします。
「『エネルギー効率2倍』を達成するためには、建物の省エネ性能を高めることが重要です。欧米では、住宅の断熱化は、エネルギー消費量の削減や、室内環境の改善、快適性の向上などの目的で、広く普及しています。それに比べると、日本では、特に既存住宅における省エネ診断や断熱工事の普及が進んでおらず、省エネ性能向上が遅れています」
既存住宅の性能表示については、2025年4月から義務化される予定。リクルートでは、2024年4月より、不動産情報サイト『SUUMO』に掲載される新築住宅の省エネ性能表示を開始します。「SUUMO」では、エネルギー消費性能を星の数で表示(国土交通省HPより)
ドイツでは、2002年に「省エネルギー建築法(EnEV)」が施行され、新築住宅の省エネ性能を一定の基準に満たすことが義務付けられ、既存住宅についても、2020年より、一定の基準に満たない住宅の売買や賃貸の際に、省エネ診断を実施することが義務化されました。
「国土交通省では、新築住宅の断熱性能を『ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)』の基準まで引き上げる目標を掲げています。また、2022年度から、『既存住宅における断熱リフォーム支援事業』により、窓やドアなどの断熱改修に対する補助金制度が拡充されました。
努力義務だけでは遅々として進みません。義務化と補助金等をセットにして導入するアプローチが効果的です」
「都市(まち)の木造化推進法」(国土交通省2022年施行)にともない、大型の木造建築が続々と登場していることにも注目しているとのこと。「木材を大規模建築に大量に使うことで炭素を貯留し、温室効果ガス排出量の削減につなげようと、『木造化』への期待が非常に高まっているのです」(堅達さん)(画像提供/三井不動産・竹中工務店)
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現在、日本では国全体としての排出量取引制度は実施されていません。日本政府は2026年度の本格稼働に向けて準備を進めている段階です。岸田首相は、2022年1月に「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を提唱していますが、課題もあります。
世界では日本の脱炭素政策は、どう見られているのでしょうか。
「残念ですが、日本の温暖化対策は、世界から評価されていないのが現状です。
COP28の会場では、日本は、脱炭素で間違った方向に進んでいるとして、環境NGOから『化石賞』に選ばれました。化石賞とは、気候変動対策に対して足を引っ張った国や企業に与えられる不名誉な賞です。
また、脱炭素化の手段として、アンモニアを燃料として利用することに注力していますが、これについても冷ややかな目を向けられています。確かに、アンモニアは、燃焼時にはCO2は排出しませんが、現状では生成する時にCO2を排出しますから、差し引きでいえば効果が低いと言われるのは当然です」
日本は、化石燃料に多額の公的資金を投じていると非難されている(PIXTA)
「もはやマイボトルやエコバッグの自助努力だけで温暖化は止まりません」と堅達さん。
「まず、政府が、ルールや期限を決めてシステムを変える必要があります。『衣食住』の『住まい』は、地球環境の問題を身近に感じる入り口。断熱性能のいい住宅なら、快適に暮らせて地球環境にも優しい。太陽光や蓄電池を搭載すれば、防災にもなり、一石二鳥三鳥になります。省エネ性能表示を確認するなど、消費者として、環境に配慮した商品を選ぶことが地球の未来を変えると思います」
世界では、脱炭素化によるパラダイムシフトで、今までの思想や社会全体の価値観などが、革命的に、劇的に変化しています。日本でも2019年に風力発電の再エネ海域利用法が施行され、洋上風力発電の導入が本格化。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、脱炭素技術の研究開発に2兆円の「グリーンイノベーション基金」を創設するなど、脱炭素社会の実現に向けた投資を拡大しています。百点満点のエネルギーはなく、課題はありますが、堅達さんのように建設的な視点でとらえることが大切だと感じました。
●取材協力
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー
堅達 京子(げんだつ・きょうこ)さん
1965年、福井県生まれ。早稲田大学、ソルボンヌ大学留学を経て、1988年、NHK入局、報道番組のディレクター。2006年よりプロデューサー。NHK環境キャンペーンの責任者を務め、気候変動やSDGsをテーマに数多くの番組を放送。NHKスペシャル『激変する世界ビジネス “脱炭素革命”の衝撃』 『2030 未来への分岐点 暴走する温暖化 “脱炭素”への挑戦』、NHK民放の6局連動特番『1.5℃の約束 いますぐ動こう、気温上昇を止めるために』はいずれも大きな反響を呼んだ。
2021年8月、株式会社NHKエンタープライズに転籍。日本環境ジャーナリストの会副会長。環境省中央環境審議会臨時委員。文部科学省環境エネルギー科学技術委員会専門委員。世界経済フォーラムGlobal Future Council on Japanメンバー。東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員。福井県立大学客員教授。
主な著書に『脱炭素革命への挑戦 世界の潮流と日本の課題』『脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流』。
リンゴやブドウ、サクランボなど果樹栽培が盛んなまち北海道仁木町に、ほぼ自然素材だけで建てられた「CORONTE(コロンテ)」という一棟貸しの小さなコテージが2023年夏に誕生した。企画設計したのは、木こりとして森で自ら木を切り出し、それを素材にした建築を手がけてきた陣内雄(じんのうち・たけし)さん。「動物が巣にする素材でつくる家は文句なく心地よい」と言い、みんながそれを体験できる場をつくりたかったのだという。今回筆者は、真冬に森の中のコテージで一泊。陣内さんの言葉に大きく頷く体験をリポートしたい。
木こりが建築に関わったら、木材はもっと自由に活用できる無垢の木、羊毛、もみ殻石灰、ミツロウ紙、漆喰といった自然素材で建てられたタイニーコテージ「CORONTE」。
筆者は、このコテージのオープンを心待ちにしていた。
実は10年くらい前から、近年その名を知られてきた「化学物質過敏症」の症状があり、香りのある洗剤や柔軟剤に触れると頭痛がしたり、ホームセンターなどで合板などの売り場に長時間いると喉が痛くなったり。多くの人は感じにくい程度の化学物質で日々苦しんでいるので、自然素材をふんだんに使った家で過ごしたら、自分の体にどんな変化が起こるのだろうかと興味を持っていた。
森の中の斜面に張り出すように建てられている(撮影/久保ヒデキ)
(撮影/久保ヒデキ)
「CORONTE」を企画設計したのは札幌市出身の陣内雄さん。高校2年生で建築家になることを志し、東京藝術大学の建築科に入学。在学中から設計事務所で働いていたが「まわりは人工物ばかりで、もうこれ以上、建築はいらないんじゃないか」という疑問が頭をもたげたという。
同時に、高校生のころに地球温暖化に関する小さな記事を新聞で見つけ、それに大きなショックを受けており、次第に森や自然環境へと関心が向くようになった。作家であり環境保護活動家であるC. W. ニコルさんの本を読み漁り、ニコルさんが所有する森を実際に訪ね、林業に目覚めた。1992年に北海道に戻り、森林組合で林業の作業員として働くことにした。
陣内さんは1966年生まれ。木こりや建築とともに音楽活動も行い『北の国へゆこう』などのCDも発売(撮影/久保ヒデキ)
森林組合で林業に従事する中で、効率を優先して重機で木をすべて伐採してしまう現場を多く経験する中で、木をできるだけ切らずに森を守りつつ整備を行いたいという思いが芽生えた。
単なる林業作業員ではなく、森に寄り添う「木こり」として活動を模索しつつ、家を建てることもいつも傍にあった。
1996年には下川町の山の中に藁ブロック構造の「ストローベイルハウス」を仲間と建て、その経験を活かして、2006年には伝統工法に「ワラの断熱と土の気密と蓄熱を合わせたらどうか?」と考えて旭川に自宅を建てた。
大まかな構造は工務店に依頼。土壁は仲間を募って自分たちの手で仕上げた。
木こりの活動と建築が一本の線になったのは2019年。
その4年前には、林業会社に属さずフリーランスの木こりとして山主から整備の依頼を直接受けたり、仲間の木こりと仕事をシェアしたりしながら、各地の山に赴いた。
整備の中で行われる間伐。木と木の間が混み合っていると成長が妨げられることから、一定の時期が来たら間隔をあけるために一部の木を伐採する。間伐材は成長途上であり、時には曲がって太い枝だらけのものもある。それらの多くはパルプ(※)の原料となってしまうが、「こうした木でも立派な構造になるのではないか」と陣内さんは考えていた。
※パルプ:木の繊維を分離させた植物繊維。主に紙の原料になる
林業のプレイヤーを増やしたいと「森と街のがっこう」という活動も続けている。各地の山で実際に研修を行っている(提供/CORONTE)
そこで「キコリビルダーズ」を立ち上げ、自ら伐採した木を使って本格的に建物を手がけるようになった。
これまでに下川町にある「jojoni パン工房」や弟子屈町に「キコリキャビン」と名付けたアルファベットのAの形の住宅を建てた。
「キコリキャビンの骨組みには、間伐したカラマツを使っています。間伐材も丸太に近い状態で使えば、ねじれが起こりにくく強度も出ます」
カラマツの間伐材を構造に使ったキコリキャビン(撮影/Tetsuro Moriguchi)
梁にはあえてカーブのあるカラマツを使った。「しなりがある方が構造として強い」と陣内さん(撮影/Tetsuro Moriguchi)
一般的な住宅では、集成材(複数の板を結合させ人工的につくられた木材)を柱や梁に使い、壁や床には合板が利用されるケースも多いが、陣内さんは無垢材や自然素材を積極的に取り入れてきた。
しかしこれまではコストや手間の問題もあり、部分的に合板なども使用しており、いずれはすべて自然素材で「やり切りたい」という思いが募り、宿泊施設をつくろうと思い立った。
「CORONTE」のイメージスケッチ(提供/CORONTE)
真冬の北海道、自然素材でどこまで断熱できる?筆者が「CORONTE」を訪ねたのは12月中旬。冷え込みが厳しくなり朝晩はマイナス5度ほど。
「CORONTE」の案内には「Wi-Fiはありません。携帯電話の電波が2本くらい立つポイントがあります」と書いてあり、また暖房も薪ストーブのみということで、キャンプなどに興味のない自分が、たった一人で一夜を過ごせるのだろうかと、行く前には不安がいっぱいだった。
鳥のような目線で景色を見てほしいと、居住空間は高いデッキの上に。階段を上がるとデッキがありコテージの入り口がある(撮影/久保ヒデキ)
背面から見ると屋根の構造がよくわかる。屋根裏が少し突き出したようになっていて、窓から森の景色が楽しめる(撮影/久保ヒデキ)
部屋に入ってみると、とても暖かかった。
19平米ほど(ロフト含む)とコンパクトなこともあり、小型の薪ストーブ1台で室内はすぐに暖まることがわかった。
ソファーベッドが置かれたリビング。漆喰とカラマツの板が内壁に使われている(撮影/來嶋路子)
小さな薪ストーブだが、火をつけるとすぐに室内は暖まる(撮影/久保ヒデキ)
奥にキッチンとトイレ、シャワールームがある。ロフトに2つベッドが設置されている(撮影/來嶋路子)
今回断熱に使ったのは、羊毛、もみ殻石灰。
屋根の曲面部分には羊毛、壁はもみ殻石灰と杉皮ボードで断熱。内壁は、漆喰とシラカバの板を使った。これらの自然素材は調湿、蓄熱にもすぐれ、冬は暖かいのだという。
また厚めに仕上げた漆喰は、蓄冷効果もあり、夏には夜の冷気を窓から取り込んで、温度が下がったらドアを閉めておくと日中も涼しく過ごせるそうだ。
ホウ酸処理した羊毛を屋根の断熱に使用(提供/CORONTE)
自然には直線は存在しない。木のカーブをそのまま活かして今回、設計にもこだわり、直線がほとんどない小屋となった。
当初、柱や梁、屋根の構造は直線だったそうだが「自然界には直線はほぼないこと」「風景に調和すること」「木のそのままの曲がりを活かすこと」を考えて、縦長のドーム状となった。
床板も幅の違うシラカバをまるでパズルのように組み合わせた。コロンとした形状からCORONTEと名付けられたという。
生木を製材し張っていった。「生木のうちならしなやかさがあるからカーブがつくれます」(提供/CORONTE)
床板に使ったシラカバ。カーブをパズルのように組み合わせていった(提供/CORONTE)
また、今回は住宅ではなく宿泊施設であることから、積極的に実験も取り入れたという。モミの木のような形状のヨーロッパトウヒも建材として利用。
「この木は、どんなに太くてまっすぐでも、軽くて弱いということで、ほとんど紙の原料となるパルプ材になってしまいます。でも、使い方によっては合板の代わりになるのではと思いました」
製材して板にし、それを15度の角度で組み、一層目とクロスするように二層目も15度の角度をつけて組んだ。
また、同じく材が柔らかいため建材には使われないドロノキをトイレとシャワールームの引き戸に活用。
「ドロノキの使い道に困っている木こり仲間がいたので、どうやったら建材に応用できるか考えてみようと思いました」
旭川にある作業場で構造をつくった。ヨーロッパトウヒの板を15度の角度で組んでいく(提供/CORONTE)
旭川から仁木町へコテージを運びクレーンで吊り上げ設置した(提供/CORONTE)
ドロノキでつくった引き戸。木目に風合いが感じられる(撮影/久保ヒデキ)
今回使った木材の中には、陣内さんが切り出し、それをため池に半年間つけ、じっくりと乾燥させたものもある。木材を乾燥機に入れて乾かす方法もあるが、水中乾燥すると時間はかかるが、反りや割れなどを防ぐ効果が高いという。
「昔ながらの木材の乾燥方法です。しっとりした風合いがあって、色つや香りがよいです」
昔はどこでも木材を何年も水中で貯木してから製材していたという。山里の農村には開拓時代につくられたため池があって、現在は使われていないため、それを活用しようと思った。また、そこにある木材だけでなく、土や藁などその場で手に入る素材で家をつくるということも当たり前に行われていた。
接着剤などを使わずにタイルを仕上げてくれる職人を探すのに苦労したという。カウンターのカラマツも、水につけた丸太を製材して、きれいな赤味が出た(撮影/久保ヒデキ)
さらに紹介しきれないくらい、さまざまな挑戦がある。
鳥の目線のような風景を味わってもらいたいとあえて傾斜地に建てた。
また、そこにあったミズナラの木を切らないで、デッキから突き出るような構造とした。
手間がかかる作業ばかりだが、それが雇用にもつながると陣内さんは考えている。
「職人さんたちは、手間がかかって大変だと口々に言うけれど、自然の中で作業をすることで、みんなとても明るい表情になっています。現在の建築は効率重視で手間になることを極力避けるけれど、気持ちを込めて丁寧に仕事ができるし、技術も継承できる。それに自然素材なのでほとんどゴミも出ないのも良い点だと思います」
パートナーの澤野雅子さんがコテージをどこに設置するか決めた。傾斜地に建てるのは手間だが景観は素晴らしいとトライすることに(撮影/久保ヒデキ)
デッキの構造部分。丸太を組み合わせ、気が枝を伸ばしているような景観をつくりたかったのだそう(撮影/久保ヒデキ)
デッキを突き抜けてミズナラが生えている。夏には青々とした葉をつける(撮影/久保ヒデキ)
当初の計画で総予算は700万円ほどだったという。
しかし、柱や壁を曲線でつくることに方向転換したことなど予想を超える手間がかかり、1000万円以上かかったという。
「コストはかかりましたが、自然素材の家ならメンテナンスをしっかりしていけば200年、300年と使い続けられます。こうしたスパンで考えたら、決して高価なものじゃないと僕は思います」
電気はバッテリーを使用。宿泊者が来ると充電しておく。建設現場でも使えると考えこの方法にした。水は地域で使われている井戸水を使用。トイレは微生物の働きによって排泄物を分解・処理するバイオトイレを設置。インフラもオフグリッドにこだわる(撮影/久保ヒデキ)
コテージの周りの森を整備。道をつけた(提供/CORONTE)
裏の森に入っていくとウッドデッキが現れた。まちで林業に興味がある仲間と丸太を組んでいったという(撮影/久保ヒデキ)
山と海を守りながら、みんなが暮らすことができたら「CORONTE」は陣内さんにとってゴールではなく始まり。
この建物が建っているのは、あさひの杜の敷地。あさひの杜は、朝日こうじさん、ゆかりさん一家が、山の中で畑を耕し、犬、猫、鶏、馬、カメなど動物たちと暮らす場所。
「子どもたちが豊かな自然の中でのびのびと夢を思い描ける世界をつくること」を目標にイベントを開いたり、子どもが集う場をつくっている。
朝日さんが陣内さんの活動に共感したことから「CORONTE」がこの場に建った。ここを拠点にしつつ、陣内さんは仁木町一帯で「ずっとみんなの森」というプロジェクトを始めようとしている。
「山の木をすべて切り倒す『皆伐』をしなくても山を守り続けながらみんなが暮らすことができたらと考えています。山を守ることは海を守り、人の暮らしも豊かになります」
ずっとみんなの森プロジェクト、イメージスケッチ(提供/ずっとみんなの森プロジェクト)
介護付きコテージがあったり、子どもたちが遊ぶ森があったり。多世代が集い、仕事にもつながる森をつくりたいのだという。イメージスケッチを描き、このプロジェクトに関心を持ってもらう人を増やそうと秋には仁木町で説明会を行った。
コテージの近くにあったカラマツ林があるとき伐採されてしまった。植林した木は伐採の時期になると、大抵の場合すべてを切る「皆伐」が行われる。陣内さんは、「皆伐」ではなく木々を守りながら森を活用する方法を考えている(撮影/久保ヒデキ)
陣内さんからさまざまな話を聞いた後、薪ストーブの使い方のレクチャーを受け、筆者は一人で「CORONTE」に宿泊した。
雪が音もなく降り積もる中、夜9時、薪をストーブにたくさん焚べ、熾火(おきび。薪が炭になり炎を上げず芯の部分が真っ赤に燃えている状態)になったのを確認してからロフトで眠った。
明け方4時くらいにいったん目が覚めた。薪ストーブの火は完全に消えていたが、部屋はまだほんのり暖かく、掛け布団一枚でも心地よかった(おそらく15度くらい)。
明け方まどろみながら、自分がいつもより一段深く呼吸ができ、肩や首の凝りがゆっくりとほぐれていくように感じられた。
手を伸ばすと漆喰壁があり、壁も暖かさを保っている。
触っていると、まるで卵の中で守られているような安堵感があった。
ベッドが置かれたロフト。天井に手が届く場所だが、むしろ何かに包まれているようで心地よかった(撮影/久保ヒデキ)
窓からは木々が見えた。森と一体になったような感覚が味わえる(撮影/久保ヒデキ)
「自然素材の家は文句なく気持ちいい」
陣内さんはいつも語っていたが、それは本当のことだった。
朝起きて薪ストーブに火を灯し、その上にケトルを乗せて、手回しのミルでコーヒーを挽いた。
お湯が沸くまで、雪がゆっくりと降り落ちる窓の景色に見惚れていた。
それだけなのに、この満ち足りた気持ちはどこからわいてくるのだろう。
心の底からリラックスして、ただただ時間が過ぎていくのを楽しんだ。
窓から見える森の景色(撮影/來嶋路子)
この素晴らしい体験を、言葉でとても言い表せないのが何とも悔しい。
筆者は化学物質に触れていると、何らかの違和感があるので、この場にいて救われたような思いがした。
コテージというより、ここは自分にとってのシェルターであると感じた。みなさんも一度泊まっていただけたら、その気持ちよさを感じられるのではないかと思う。冬季は試験運用中。来春の本格オープンを楽しみにしていただきたい。
●取材協力
Tiny cottage「CORONTE」
北海道余市郡仁木町東町