
15万円 / 49.14平米
中央線「武蔵境」駅 徒歩15分
縦に伸びる空間は素直に気持ちが良い。大きな窓が開放的な、光差し込むお部屋の紹介です。
ダイナミックな吹き抜けのおかげで空間の広がりを感じるメゾネット。インテリアを選ばないシンプルな内装も自分好みにカスタマイズしやすそうです。道路に面したお部屋なので、カーテンはつけた方が良いかな ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
デンマークといえば、世界的な環境先進国。80年代から再生可能エネルギーの利用へシフトを進め、大気や水のクリーン化や廃棄物の資源化、持続可能な社会への移行に早くから取り組んでいます。
なかでも特徴的なのが、ゴミ処理施設「コペンヒル(Copenhill)」。ゴミ処理施設にもかかわらず、人が毎週こぞって集まるのです。なぜなのでしょうか? 今回は現地から、その秘密に迫ります。
デンマーク・コペンハーゲンの街並み(写真撮影/ニールセン北村朋子)
ゴミ処理施設=スキー場&ハイキングコース!?ゴミ処理施設といえば、なんだかに嫌なニオイがしそうだし、煙突から汚れた排気も出そうだし……という人が多く、NIMBY(Not in my backyard. うちの裏庭にはお断り)というイメージでしょうか? いえいえ、それも今は昔。
デンマークでは近年、ゴミ処理施設の環境改善が進み、排ガス中の有害物質やフライアッシュの除去が高度に行われています。また、巨大な空気の吸込口をつくることでゴミ処理施設特有のニオイが建物の外に漏れないようになっています。さらに、施設の建物自体のデザインもスッキリした美しいデザインを採用しているところが多く、市民や子どもたちに向けた勉強会や見学会などのプログラムも豊富なので、ゴミ処理施設は市民にとってより身近な場所となっています。
コペンヒル(C)Daniel Rasmussen
2019年10月にオープンしたゴミ処理施設「コペンヒル」。その名の通り、銀色に光る、高さ85mの小高い丘のようなその建築物のてっぺんからはコペンハーゲンの街を一望できます。近くにはコペンヒルの建設と同時期にできたアパート群が立ち並び、世界的に有名なレストラン「noma」(食を提供するという文化の新たな形を模索するため、2024年末を持って惜しまれつつも閉店予定)からもそれほど遠くない場所です。海に面した方に目を向ければ、コペンハーゲンのミデルグルン洋上風力発電所や、スウェーデンへと続くオアスンブリッジも見えます。
デンマーク・コペンハーゲンの街並み(写真撮影/ニールセン北村朋子)
(c)SLA
コペンヒルは、コペンハーゲン近郊の5つの自治体で運営するゴミ処理施設、アマー・リソース・センターに位置します。ルーフトップはなんとスキー場! グリーンの人工スノーマットで覆われた幅60m、長さ450 mのゲレンデが広がり、一年中スキーを楽しむことができます。
(C)Astrid Maria Rasmussen
グリーンの人工スノーマットで覆われた幅60m、長さ450 mのゲレンデでは、一年中スキーを楽しむことができる(画像提供/Press/CopenHill)
スキースロープデザインは、世界有数のデザイナーであり、新潟県妙高市の新井スキー場も手掛けた米国International Alpine Design in Colorado (IAD)のほか、冬季オリンピックで近年トラックデザインを担当しているScandinavian Shapersのデイヴィッド・ナイや、デンマークを代表するハーフパイプとスロープスタイル・チャンピオンのニコライ・ヴァンが手掛けました。
ルーフトップは自然が豊かでミツバチの姿も見かける。海に面した方はミデルグルン洋上風力発電所も見える(画像提供/ニールセン北村朋子)
さらには、500mのハイキングトレイルやランニングコース、世界で最も高いクライミングウォールも併設され、それぞれ、思い思いにスポーツアクティビティを楽しむ人でいつもにぎわっています。
エレベーターもしくはリフトで上まで上がると、ルーフトップカフェで絶景を楽しみながら休憩したり、スキーを下りた後は、スキーカフェでゆっくり飲食を楽しむこともできます。
スキーのほかにもさまざまなスポーツアクティビティを楽しめる(画像提供/Press/CopenHill)
(画像提供/Press/CopenHill)
(C)Daniel Rasmussen
コペンハーゲンは古くから自然との共存が大切にされてきた街。近年は生物多様性や気候変動による都市の高温化やゲリラ雷雨対策、自然環境が身近にあることでの心身両面へのポジティブな作用をより重要視して、建築物の屋上をフラットな形状にして緑化を奨励したり、車の車線を減らしてできたスペースや既存の公園に都市型水害対策のため、雨水を受け止めることができる緑地スペースを施したりと、都市計画にもさらにさまざまな工夫を凝らしています。
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コペンヒルのあるアマー・リソース・センターは、ゴミ処理施設であると同時に、ゴミを燃やす熱を利用して年間3万世帯分を発電し、7万2千世帯分の熱供給を行うエネルギー施設でもあります。
デンマークでは、1970年代のオイルショック後から、中東のオイルに頼りきりだったエネルギー資源を、自国で自給自足できるように方向転換しました。その結果、それ以前から行われていた熱供給も、ゴミ処理時に発生する熱や、麦ワラなどのバイオマスを利用する方向へと転換していきました。コペンハーゲンでは、ほぼ100%の世帯や公共施設に地域熱供給(※)が導入されていますし、デンマーク国内全体では、どの自治体でもゴミ処理の熱は必ずエネルギーに転換され、地域の住宅に供給されています。
※地域熱供給(地域冷暖房)とは、冷水や温水などを一箇所でまとめてつくり、街や個々の建物に供給する仕組み。個々の場所に設備を設置して行う「個別熱源方式」に比べ、省エネ性や防災性の面で優れており、その導入が期待されている
燃料となるワラ(写真撮影/ニールセン北村朋子)
地域熱供給をまかなう太陽熱パネル(写真撮影/ニールセン北村朋子)
家庭で暖房の役割を担うラジエーター(写真撮影/ニールセン北村朋子)
2011年、老朽化したアマー・リソース・センターのゴミ処理施設の建て替えコンペで選ばれたのは、建築界のスター的存在であるビャルケ・インゲルス率いる建築事務所BIG。ゴミ処理施設兼エネルギー施設の屋上をスキー場にするという、他の誰も考えつかなかったアイデアの実現に挑むことになりました。
通常、ゴミ処理施設やエネルギー施設は、一般の人にとって直接訪れることのない場所かもしれません。でもビャルケ・インゲルスという建築家にとって、こうした「境界線」はいつも問いのテーマであり続けているようです。
例えば、彼がコペンヒルに先駆けて、2010年にコペンハーゲンの新開発地域オレスタッドに建設した「8ハウス」。これは、8の字の形をして、なだらかな傾斜のあるユニークな建物で、1階が商業施設、2階以上が住居になった複合施設ですが、ここも、建物の通路が歩道からひと続きになっていて、そのまま居住者じゃなくても歩道のように上がって建物の一番上まで上がることができるようになっています(6人以上のグループは別途有料の見学ツアー申し込みが必要)。
8ハウス(写真撮影/ニールセン北村朋子)
通常なら、アパートはそこに住む人だけに入ることが許されるのが普通ですが、歩道からプライベート空間につながり、そのまま動線がつながるという考え方は、公と私をゆるやかに、ファジーにつなぐという、新しい価値を生み出しています。このユニークな建物と、そこから見える絶景を、そこを日常的に使う人だけでなく、もっと多くの人と共有したい。そんな思いが感じられます。
「普段は直接縁のない人たちでも、せっかく新しくつくるインフラだもの、可能な限りとことん使い、楽しんでほしい」。8ハウスに通ずる思想を、コペンヒルにも見ることができます。
山のような傾斜を、自然を少しでも感じながら登るという体験、スキーやスノーボードの体験をするには、山のないデンマークでは不可能だから、海外に行くほかなかった。そんなこれまでの当たり前が、コペンヒルというアイデアを実現したことで、「学校の帰りにスキーに行く」「週末に友達や家族とちょっとスキー」という当たり前にアップデートされたのです。
コペンヒルでスキーを楽しむ人々。装備はレンタルできる(画像提供/Press/CopenHill)
社会に必要なことも、もっと楽しくゴミ処理施設のような、今の時点では社会にとって必要なもの(将来的にはゴミという概念すらなくなるかもしれないけれど)は、これまでは私達のような一般市民にとっては、お世話になってはいるものの、直接その場所に出向いたりして関わる場所ではありませんでした。ただ、法に則って、きちんとそこにある、という価値だけが求められていたのかもしれません。
ところが、コペンヒルの誕生で、その概念は覆されました。ゴミ処理エネルギー施設が、誰にとっても必要な場所であるだけでなく、誰でも気軽に行って楽しめるという、ひとつでいくつもの役割を果たせる施設に進化したのです。
スキーやトレッキング、ランニングを楽しむためにそこへ来る人が増えれば、その場所の本来の機能や役割にも関心が向くのは自然なことです。こうして、関わる人を直接的に増やしていくことが、毎日を楽しく、かつ、地域社会のあり方へ気持ちを向ける人を自然に増やしていくことにつながっているのが、コペンヒルの大きな価値の一つと言えそうです。
あなたの街には、ゴミ処理施設がありますか? そこに行ったことがありますか? その施設と、あなたが直接関われることはありそうですか? 自分の街のあり方にも、思わず目を向けたくなってきませんか?
(C)Daniel Rasmussen
(画像提供/Press/CopenHill)
スキーやスノーボードをやらない人も、コペンハーゲンに来たらバスに乗って、コペンヒルを訪ねてほしい。ルーフトップカフェでコーヒーを飲んで眼下に広がる景色を眺めていたら、ひょっとして、これまで自分が一所懸命線引きしていた何かの境界線が、実はいらないかもしれないと気づけるかもしれません。
(C)Visit Copenhagen
●取材協力
COPENHILL
ニューヨーク人情酒場へようこそ!これは、ブルックリンにある小さな酒場(レストラン)で起こったいろんな出来事。
大都会の夜、一杯の酒から始まる人間模様。作者はこのお店で今お寿司を作っているよ。
胡散臭いと思っていたんです。他人同士でつるんで家族と呼び合うなんてこと。NYという土地は、身寄りがない中、単身で飛び込んでくる人がすごく多いのですが、そういう土地柄だからこそ、NYに長く住んでいる人たちは友達をすごく大切にします。本当の家族は離れた国に住んでいて滅多に会うことができないから、付き合いの長い友人たちを親戚のように扱う人が多い。
私自身一人で知らない土地に勢い余って引っ越してきてしまった上に起業までしてしまい、なんだかすごく心細かったけど、ペルーからやってきて長くNYに住んでいるマスターにこう言ってもらえたことがすごく嬉しかったです。
いろいろなきっかけで友情や絆は展開していくものですが、一緒にくぐり抜ける修羅場が多い分、やっぱり仕事を通じた出会いというのは良い関係に発展しやすい気がします。
日曜、メイビスとエミリーと3人のシフトは全員同年代で本当に楽しかったです。
しかしこの頃、NYの街はコロナ禍前の活気を取り戻し、ほぼ平常運転だったにもかかわらず何故だか店は閑古鳥で、シフト中にぼーっと過ごす時間も多くなっていきました。
バーテン業の長いエミリーは話がうまくてエンターテイナーでしたが、折り紙を体得しているとは思いませんでした。メイビスのリアクションにも爆笑だったのですが、カエルを指で弾いて跳ばすという原始的な遊びに2時間ぐらい使ってしまったとき、何かがまずいほうに動き始めているような気がしたことを覚えています。
そしてその嫌な予感は、残念なことに当たってしまうのです。
作者:ヤマモトレミ
89年生まれ。福岡県出身。2017年、勤めていた会社の転勤でニューヨークに移住。仕事の傍ら、趣味でインスタグラムを中心に漫画を描いて発表していたところ、思った以上に楽しくなってしまい、2021年に脱サラし本格的に漫画家としての活動を開始。2022年にアメリカで起業し個人事業主になりました。ブルックリンのレストランで週4で寿司ローラーをやっています。
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国土交通省は、令和4年度の「住宅市場動向調査」の結果をとりまとめ、それを公表した。毎年実施している大型調査ではあるが、コロナ禍を経て、住宅を取り巻く環境も変わりつつある。その影響がどう表れているか、見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「令和4年度住宅市場動向調査」の結果を公表/国土交通省
この調査は、2021年4月~2022年3月に住み替えや建て替え、リフォームを行った世帯を対象に行ったもの。注文住宅と中古住宅は全国を、分譲住宅、民間賃貸住宅、リフォームについては三大都市圏を対象にしている。
さてコロナ禍では、対面を避けるためにオンラインによる接客やオンライン上の内覧などの手法が採り入れられるようになった。そこで、まずはインターネットの活用がどの程度進んでいるかを見てみよう。
今回の調査では、住宅の住み替えや取得の際の工程を次のように分けて、インターネットの活用状況を聞いている。
(1) インターネットを通じた情報収集
(2) インターネットを通じた問い合わせ、説明会・内見等の申し込み
(3) オンライン会議システム(ZOOM、Teams、Skype等)を活用した物件説明・商談
(4) VR(仮想現実)またはAR(拡張現実)ツールを活用した物件内見
(5) オンラインでの住宅ローン審査(※民間賃貸住宅は対象外)
(6) オンラインでの重要事項説明(※民間賃貸住宅は(5))
(7) 電子署名等を活用した電子契約(※民間賃貸住宅は(6))
(8) (1)~(7)の経験はない(※民間賃貸住宅は(7))
住宅取得等の過程におけるインターネットの活用状況(出典:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要より転載)
いずれの場合も、「インターネットを通じた情報収集」(図の黄色の棒グラフ)が最多でおおむね6割半~8割を占め、特出して多くなっている。次いで、「インターネットを通じた問い合わせや内見等の申し込み」で、最少の賃貸住宅で2割弱、最多の分譲集合住宅(新築マンション)で5割弱といったところだ。
働く場では普及している「オンライン会議システム」の活用だが、図の赤い棒グラフを見る限り、あまり活用が進んでいないようだ。新築マンションの販売センターなどで話を聞く限りでは、多くのデベロッパーがオンライン会議を使った物件説明をしているという話だったので、意外に活用度合いが少ないなというのが正直な感想だ。
売買契約や賃貸借契約の際の電子書面やオンラインの活用はこれから広がるか?これから普及が進むだろうと見ているのが、インターネットの活用状況の選択肢のうち、(6)のオンラインでの重要事項説明や(7)の電子書面を活用した電子契約である。売買契約や賃貸借契約を交わすときには、必ず重要事項説明を行う(貸主が不動産会社の場合は対象外)ことになっている。かつては必ず対面で行うこととされていたが、オンラインで行うことが可能になった。ただし、国土交通省が定めた細かいルールに準じて行う必要があるため、その環境が整わない不動産会社もあったりして、エンドユーザーが希望しても必ずしも実施できない場合もある。
また、必ず書面で重要事項説明書や契約書を作成することになっていたので、電子書面の交付が可能になった2022年5月以降には、より一層オンラインによる契約の効率化が図れるようになったので、実施状況が上がっていく可能性がある。
社会実験の取り組み(出典:国土交通省「ITを活用した重要事項説明及び書面の電子化について」サイトより転載)
在宅勤務の普及によってそのための個室を確保した?次に、コロナ禍で普及した在宅勤務の影響を見ていこう。今回の調査では「在宅勤務等のためのスペースの状況」について、次の選択肢を用意して聞いている。
(1)在宅勤務等に専念できる個室がある
(2) 在宅勤務等に専念できる仕切られたスペースがある
(3)仕切られてはいないが在宅勤務等に専念できるスペースがある
(4) 在宅勤務等に専念できる個室やスペースなどはない
在宅勤務等のためのスペースの状況(出典:国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要より転載)
賃貸住宅に住み替えた世帯では、在宅勤務のためのスペースがない(図の赤い棒グラフ)という回答が最多で、個室がある世帯は3割強にとどまった。しかし、注文住宅や新築一戸建て、新築マンション、中古一戸建て、中古マンションでは、在宅勤務のための個室があるという回答が最も多かった。また、マンションよりも一戸建てのほうが個室を確保する割合が高い傾向がうかがえる。
これは、住宅の広さの影響があるだろう。一般的な賃貸住宅は持ち家よりも面積が狭いので、在宅勤務のための個室を用意することが難しく、持ち家のなかでも一戸建てのほうが部屋数を確保しやすいので、在宅勤務に充てる個室を用意しやすいということだろう。
個室ではないスペースも含めると、在宅勤務のためのスペースというのは、今後の住まい選びでも意識する必要があるだろう。
住宅スゴロクの崩壊?新築マンションは複数回の取得が多い最後に、筆者が気になった「住宅取得回数」について見ていこう。
調査で住宅取得回数を聞いたところ、すべての住宅の種類でほとんどが「今回が初めて」と回答している。「今回初めて」の割合が最も少ない新築マンションを見ても、72.9%に達している。逆にいうと、新築マンションを買った世帯のなかで17.4%が「2回目」、9.0%が「3回目以上」と回答しており、4世帯に1世帯は今回の新築マンションが複数回目の取得となる。
理由はさまざまあるだろう。高齢化や少人数世帯の増加により、マンションのほうが暮らしやすいと考える世帯が増えたこと、マンションのほうが売りやすいこと、新築マンションの価格が高騰して購入世帯が限定されたことなどが考えられる。
かつて「住宅スゴロク」といわれた、賃貸住宅→マンション→庭付き一戸建てと住み替えるのが理想とされた時代は終わったようだ。
住宅取得の実態は、そのときの経済状況や社会的な変化が反映された結果になる。ITの進化や働き方の変化、住み心地の価値観の変化など、さまざまな要因が調査結果に表れているようだ。
●関連サイト
「令和4年度住宅市場動向調査」の結果を公表/国土交通省
国土交通省「令和4年度住宅市場動向調査」調査結果の概要
ドローンによって収集された災害時の情報を地図に反映したり、ビジネスの用途に合った土地を現地調査なしで世界中から探したりと、地図データを活用したサービスや取組みが進んでいます。それらの基盤となるのが、“G空間情報”です。「地理空間情報技術(Geospatial Technology)」の頭文字のGを用いた地理空間の意味で、将来が期待される科学分野の一つとして注目されています。2023年1月から、登記所備付地図データの一般公開が始まりました。これらの地図データを活用することで、どんな問題の解決が進み、また、私たちの生活はどう変わるのでしょうか? 最新の取組みを取材しました。
登記所備付地図データを無償で誰でも利用できるようになった!「空飛ぶクルマの実用化に向けた未来のカーナビ」「メタバースを活用して空き家問題を解決するサービス」……夢のような世界の実現化に向けて、G空間情報を活用する動きが広がっています。
2022年12月6日に開催された地理空間情報の活用を推進するイベント「G空間EXPO」には、1424名の人が会場を訪れ、オンラインアクセス数は、4万5493。会場では、地理空間情報を活用したビジネスアイデアコンテスト「イチBizアワード」の受賞式が行われ、冒頭で紹介したサービスなどが表彰されました。
サービスの基盤となるG空間情報の提供元は、「G空間情報センター」です。「G空間情報センター」は、さまざまな地理空間情報を集約し、その流通を支援するプラットフォーム。法務省から提供された地図データを利用者がワンストップで検索・閲覧し、情報を入手できる仕組みの構築を目指す機関です。
2023年1月から新たに、登記所備付地図データの一般公開が始まり、「G空間情報センター」にログインすることで、誰でも電子データをダウンロードでき、無償で利用することができるようになったのです。
内閣官房主催の「イチBizアワード」。390件の応募から15件のビジネスアイデアが選出された(画像提供/角川アスキー総合研究所)
地理空間の高低差を利用して車を交差させて渋滞を緩和するアイデア(芝浦工業大学附属中学高等学校)(画像提供/角川アスキー総合研究所)
地理空間情報を基に国土を生成したVRコンテンツ。空中旅行などのバーチャルツアーなどの活用が期待される(Voxelkei)(画像提供/角川アスキー総合研究所)
背景には農業分野におけるICT活用のニーズがあった法務省の地図作成事業では、不動産の物理的状況(地目、地積等)及び権利関係を記録してきましたが、登記記録だけでは、その土地が現地のどこに位置し、どんな形状をしているかはわかりませんでした。
以前から、土地の位置・区画を明確にするため、法務局(登記所)に精度の高い地図を備え付ける事業が全国で進められてきました。その結果、全国で約730万枚の図面が整備され、登記情報に地図を紐づけることで、それぞれの土地の所有者などが調べやすくなりました。
しかし、今までは、法務局において地図の写しの交付を受けるか、インターネットの登記情報提供サービスで表示された情報(PDFファイル)をダウンロードする方法しかなく、加工可能なデータ形式で手に入れることはできなかったのです。
農業分野におけるICT活用のため、農業事業者等から、まとまった区域の登記所備付地図の電子データを入手したいと要望があり、個人情報公開の法的整理をした上で、今回、地図データを加工可能な形式で提供できるようになりました。
農業のICT化で自動走行トラクターやドローンによる生育状況の把握が可能になる(画像/PIXTA)
データはXML形式のため、ダウンロードしてすぐに地図として見ることができず、表示するためには、パソコン等にアプリケーションをインストールすることが必要で、一般の人が簡単に利用するのは難しいものです。しかし、加工可能なデータとして得られるようになったことで生活関連・公共サービス関連情報との連携や、都市計画・まちづくり、災害対応などの様々な分野への展開が可能となり、私たちの暮らしに新しい効果がもたらされることが期待されています。
宇宙ビッグデータを活用した土地評価エンジン「天地人コンパス」冒頭に紹介した「イチBizアワード」では、誰でも手軽に土地の価値がわかる「天地人コンパス」が最優秀賞を受賞しました。G空間情報や地球観測衛星データをビッグデータと組み合わせたサービスです。開発に携わった株式会社天地人の吉田裕紀さんに地図データ公開の価値とG空間情報を活用したサービスで今までより何が便利になるのか伺いました。
天地人は、JAXA公認のスタートアップ企業で、地球観測衛星データとAIで土地や環境を分析し、農業、不動産などさまざまな産業を支援するサービスを展開しています。地球観測衛星データとは、陸や海の温度、雨や雪の強さ、風や潮の流れ、人の目に見えない情報のこと。「天地人コンパス」は、地球観測衛星データとG空間情報を重ね合わせて、ビジネスにおいて最適な土地を宇宙から見つけることができる土地評価サービスです。農作物が美味しく育つ場所を探したり、土地や建物の災害リスクをモニタリングしたりすることができます。
地球上のどんな地域でも条件で比較できる(画像提供/天地人)
「天地人コンパス」で提供されるのは、20種類以上の地図空間情報や最長10年分の衛星データを独自のアルゴリズムで分析したデータ。アカウント登録で誰でも無料で使うことができます(フリープランは一部機能を制限)。
「G空間情報×地球観測衛星データ」を体感できる機能は、エリアの中から条件に一致する場所を探すことができる「条件分析ツール」と2点間の地表面温度や降水量の類似度を測れる「類似度分析ツール」です。東京都近郊の2015年と2020年の地表面温度をビジュアルで比較してみると、温暖化の影響が一目瞭然でした!
条件分析ツールで、設定項目を1月~3月、日中15℃以上にして、2015年と2020年を比較すると、地表温度の変化が色で表現される。赤いエリアが多い方が暖かい日が多かったとわかる(画像提供/天地人)
「一般的に使われているオンラインMAPには、地図の上に道路情報やお店の情報、お気に入りの場所など、いろいろな情報が表示されています。あれは、地図のデータの上に、お店のデータなど、情報ごとに「層(レイヤー)」になって重なっているんです。同様に、『天地人コンパス』はさまざまな情報レイヤーを重ね合わせることで、特定の条件にマッチする場所を視覚的に探すことができます」(吉田さん)
ダムや公園のG空間情報は以前から公開されていましたが、自治体ごとにいろんなフォーマットが混在し、管理もばらばらで統一が難しいという課題がありました。「国が主導して、全国で統一されたデータフォーマットが公開されたのは、かなり価値がある」と吉田さん。
「データを使うビジネスにとって信頼できる唯一の情報源になるのがポイントで、マスターとなるデータを皆が参照できる。2023年に一般公開された登記所備付地図の電子データは主に不動産関係業者が使うことになると思いますね。G空間情報センターが公開しているG空間情報は日本で一番整っている地図データといえます。弊社もそのデータを使って開発をしています」(吉田さん)
今回公開された地図のデータを「天地人コンパス」に組み込めば、農地にしたり、何かを建設しようと決めた時、次のステップとして、土地の所有者は誰か、面積がどのぐらいあるのかということが、コンパスの中だけでわかるようになります。「天地人コンパス」は有料オプションとして企業の持っているデータを重ね合わせることが可能です。実際、不動産関係の企業からの相談が増えているといいます。
愛知県豊田市と連携して作成した「水道管凍結注意マップ」。スマホで自宅の水道管の凍結の注意を確認できる(画像提供/天地人)
「今後、『天地人コンパス』に不動産企業が蓄積している部屋の間取りや築年数、建物階数などのデータを組み合わせれば、一気に活用が広がります。天気予報だと東京に雨が降る程度しかわかりませんが、『天地人コンパス』だと1km単位で気象の変化がわかるので、渋谷区の中でも特に暑くなりやすいとか、この公園は日当たりがいいとか自分が住もうとしているエリアがどのぐらい快適なのか現地に行かなくてもわかるようになります。類似検索ツールを使えば、日本の中でヨーロッパの地中海と同じような気候の場所、リゾート気分を味わえる場所がどこか探すこともできるんですよ」(吉田さん)
2点間の似ている度合いをパーセンテージで表現する類似度分析ツール(画像提供/天地人)
新たに開発された「天地人コンパスmoon版」。月の地面の高低差がわかり、クレーターの深さを富士山などと比較できる(画像提供/天地人)
「地球規模で仕事することが増えている」と吉田さん。気候変動で温暖化が進んだ場合、地球環境に合わせて作物の農作地を変えていく必要があると指摘されています。
「温暖化・SDGsなどの課題に対して身近に感じています。例えば、日本でも米の銘柄ごとの産地は、今と20年後だったら場所が変わっているかもしれません。『天地人コンパス』は、場所探しが一番軸なので、適した場所を探せる。解決に関わっているという実感があります」(吉田さん)
「天地人ファーム」で、宇宙から米つくりに適した土地を探して栽培した「宇宙ビッグデータ米」(画像提供/天地人)
G空間情報×ドローンで、自然災害発生後すぐに現地状況を地図へ反映する大地震が起きたとき、この道は安全に通れるだろうか?、洪水や大規模火災が起きたとしたら、どちらに逃げればいいのだろう?と不安に感じたことはありませんか?
防災分野において、自然災害、政治的混乱等の危機的状況下で、地図情報を迅速に提供し、世界中に発信・活用することを目的に活動をしているのが、NPO法人「クライシスマッパーズ・ジャパン」です。理事長を務める青山学院大学教授の古橋大地さんは、「空間情報は、安全安心な生活のライフライン」と言います。
「もし自分や家族、大切な人たちの周りで大規模災害が起きたら、とにかく生き延びて欲しいですよね。そのためには、市民が自分たちの力で情報を取得し、自らの判断で安全な場所に逃げることが大変重要です」(古橋さん)
大災害が発生すると、被害が大きいエリアほど被災状況がわからず、住民の避難や救助活動に支障が出るという問題があります。その際、最初に必要となるのが、被災状況をすばやく反映できる発災後の地図づくり活動「クライシスマッピング」です。「リアルタイム被災支援・地図情報」とも呼ばれ、被災地の衛星画像や航空写真画像、地上から撮影されたスマホ写真などから被害状況を地図上に落とし込み、被害のエリアや規模をリアルタイムで視覚的にわかりやすくした地図のことをいいます。
「クライシスマッピング」という言葉が使われ始めたのは2010年のハイチ地震のころです。「オープンストリートマップ」という世界中の誰でも自由に地図情報を共有・利用でき、編集機能のある世界地図をつくる共同作業プロジェクトで、初めてハイチの被災地の地図をリアルタイムで更新する活動が行われました。古橋さんもその活動に参加したひとりでした。
「世界中のボランティアがネット上に集まり、震災後の正確な地図をつくりました。2010年1月にハイチ地震、2月にチリ地震があり、2011年2月にニュージーランドのクライストチャーチで地震があったんですね。3月には、東日本大震災が起こりました。『あっちでも起こった、こっちもだ。今はどこだ』という感じでクライシスマッピングの作業をしていたことを覚えています」(古橋さん)
2010年ハイチ地震当初のオープンストリートマップ(左)と、詳細な情報が落とし込まれた更新後の地図(右)(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)
世界中で次々と災害が起きていることを痛感し、ますます「クライシスマッピング」の必要性を感じた古橋さん。日本で「クライシスマッピング」を広めるために2016年に設立したのが、「クライシスマッパーズ・ジャパン」でした。被災地で撮影された写真を基に、世界でもっとも詳細で最新の「現地の被災状況マップ」をつくり、国連や赤十字などの救援活動のために必要な情報支援をしています。
熊本地震前の益城町のオープンストリートマップ。情報が少なく何がどこにあるのか把握できない(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)
熊本地震時航空写真のトレース作業によって建物情報を取り込んで更新された益城町のオープンストリートマップ。この地図に倒壊した建物や崩落した橋、土砂災害で流された鉄道線路などの被害状況を反映させ、最新のストリートマップとして公開する一連の作業が「クライシスマッピング」と呼ばれる(画像提供/DRONEBIRD, OpenStreetMap Contributors)
同時期に立ち上げた「DRONEBIRD」は、G空間情報とドローンで空撮した情報を重ね合わせ、どこで災害が起きても発生から2時間以内に現地状況を地図へ反映する体制を整えるプロジェクトです。津波による浸水や、放射能で汚染された場所でもドローンなら飛ばせます。地図を作成する「マッパー」を募り、ドローンの撮影部隊を育成しています。
2019年台風による相模原市緑区の土砂災害をドローンで撮影(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)
「DRONEBIRD」と災害協定を締結する自治体が増えている。ドローンを抱える伊勢原市市長と古橋さん(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)
「DRONEBIRD」の「クライシスマッピング訓練」の様子(画像提供/DRONEBIRD,CC BY 4.0)
「我々の活動におけるG空間情報センターのメリットはふたつ。大学の研究者や業界関係者の協議会があり、信頼できる組織であること。日本語ベースで情報が公開されていることですね。新しいツールの多くは、英語ベースですから。専門的なツールを使い慣れていない国内の人に向けて、地図データを利用可能な形で提供しているG空間情報センターの存在は大きいと思っています」(古橋さん)
地図データの一般公開により、認知や活用が進むG空間情報。「イチBizアワード」の授賞式は、G空間情報で新しいサービスを開発しようという熱気に溢れ、G空間情報が今とてもアツイ分野だと実感しました。今後、身近で、「地図でこんなことができるようになったの!?」と驚くことが増えるかもしれません。
●取材協力
・G空間EXPO
・株式会社角川アスキー総合研究所
・株式会社天地人
・NPO法人「クライシスマッパーズ・ジャパン」
私達の生活に癒やしをくれる存在、公園。住んでいる街にあると、休憩したり、子どもを遊ばせたりと、いろいろと助かりますよね。公園情報プラットフォーム「PARKFUL」(アプリ)は、全国の公園の情報が集約され、近くの小さな公園も検索でき、口コミ情報でリアルな公園の評判を知ることもできます。「PARKFUL」WEB版では、公園を“レンタル”できる「PARKFUL Rental」のサービスが始まりました。これらのサービスは、地域の人たちにどのようなメリットをもたらすのでしょうか。パークフルの高村南美さんに伺いました。
全国の公園情報を集約することで何が便利になる?公園を楽しむための情報が充実している「PARKFUL」WEB版(画像提供/パークフル)
パークフルは、公園で見かけるベンチや遊具などを製造、販売している株式会社コトブキのグループ会社で、国内12万カ所以上の公園情報を有するプラットフォーム「PARKFUL」(アプリ・WEB)を運営しています。目指しているのは、公園に関する情報を集約し、自治体の情報管理や公園づくりの基盤となること。
自治体の情報発信や広報をサポートしたり、公園情報が一般の人の役に立てるように提供しています。さらに、公園の占用許可などの申請をオンラインでできる「PARKFUL Rental」、公園管理活動を効率化する「PARKFUL Watch」など自治体向けサービスを展開しています。
左:公園のサイズ、地域、特徴、設備情報のキーワードから公園が探せる。右:マイページでは、投稿した公園やフォロー中の公園、保存したイベントをまとめられる(画像提供/パークフル)
「インターネットで公園を検索しても、位置情報しか出てこなかったり、有名な公園の情報ばかりになることが多いと思います。『PARKFUL』アプリの特徴は、市区町村の境なしに、ひとつのアプリで全国の公園を探せること。マップ機能や検索機能のほか、公園を訪れた人が、写真とコメントで公園の魅力を投稿したり、レポートでき、マイページに、自分の投稿やフォロー中の公園をまとめる機能があります。地元の人しか知らないような小さな公園やどんな施設や設備があるのか、利用状況や評判など細かい情報を一覧で知ることができるのです」(高村さん)
公園で友人とピクニックすることが多い筆者。今までは、誰もが知っている人気の公園に行っていましたが、いつも混んでいて、静かにピクニックができる公園を探したい!と思っていました。さっそく「PARKFUL」アプリを使ってみました。
エリアを「東京都」にして、検索キーワードは「ピクニック」を選ぶと、近くにある大小35の公園がヒットしました。公園情報が一覧で示され、規模、アプリの中で見られた回数、写真点数なども一目瞭然です。
その中で気になった中央区の黎明橋公園を詳しく見てみます。芝生広場があるけれど、どんな状態なのか気になる……。「みんなの投稿」をチェックすると、綺麗な芝生広場の写真が! 「イクシバ」という芝生を皆で手入れする取組みをしているから、芝生は青々としていて、ピクニックに最適そう! ボール遊びをするエリアがちゃんと分けられているのも安心。「超高層ビルの日陰になる時間は暑い日でも過ごしやすい」という有益情報も発見。ピクニックの集合時間を決める参考にしよう……。
筆者がインターネット検索より便利だと感じたのは、「東京都 港区 公園 桜梅の名所 おむつ台」など複数キーワードを一発で検索できることです。場所によっては、インターネット検索より、検索結果が少ない公園もありますが、公園だけの情報が表示されるのでとても見やすく感じました。
左:緑のマークは、公園の規模を表している。右:公園を利用したユーザーが投稿した写真付きの本音レビューが参考になる!(画像提供/パークフル)
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「実は、あまり知られていない、地域に寄り添った小さな公園が全国には無数にあるんです」と高村さん。
「住んでいる方は、町内にある公園にとても愛着を持っています。『公園を思い浮かべてください』と言われたら浮かんでくる近所の公園が皆さんにあると思うんです。コトブキは、『パブリックスペースをにぎやかにすることで人々を幸せにする』という経営理念で製品をつくってきました。『集めた公園情報を皆で活用して、遊具などをもっと楽しく使ってもらいたい』という思いで、グループ会社の株式会社コトラボが開発したのが、『PARKFUL』(アプリ・WEB)でした」(高村さん)
苦労したのは、47都道府県に何十万とある公園情報を一つのフォーマットに落としこみ、自治体ごとに持っていた公園情報をまとめること。地道な作業を繰り返し、2014年に「PARKFUL」アプリをリリース。13万4300DL、WEB版は、30万PV/月に達しています(2023年5月時点)
※現在、WEB版での全国公園検索は、連携自治体の公園情報のみ掲載される仕様になっているため、他の自治体の公園情報はアプリでの検索を推奨している。
子どもに大人気の大型遊具ロング&ローラーすべり台がある公園や結婚式が挙げられる公園など特集記事が充実(画像提供/パークフル)
WEB版のオンラインショップでは、ニューヨークの公園など世界のパブリックスペースをまとめた冊子も販売(画像提供/パークフル)
2017年から週1~3回アプリを利用しているというユーザーの小峰智子さんに使用感を伺いました。
「子どもが小さいので、近くの公園を検索したり、帰省した時やお出かけ先で近くの公園を検索するために使っています」と小峰さん。
使いやすいところは?
「公園に特化しており、遊具やベンチなどの情報があるのがいいですね。検索には公園しか出てこないので、例えば公園名がうろ覚えで一部検索で『代官山』と打てば代官山と付く公園だけが出てきますので、検索が早いなと感じます」(小峰さん)
おすすめの使い方を教えてください。
「公園の特集記事もあるので、読むとワクワクしますし、行ったことのない公園を検索するのが楽しいです。毎回写真の投稿をしているので、あとで過去に行った公園を見返すこともあるし、ほかの人と公園の情報を交換し合っているような感覚があります。行ってみたい公園はフォロー機能でチェックしています。いつか全国の公園の情報がコンプリートされたらいいなぁと期待しています」(小峰さん)
公園レンタルの申請がオンラインでできる「PARKFUL Rental」2017年に都市公園法が改正され、民間企業の進出が進み、公園内にカフェができるなど、より多様な公園の活用が見られるようになってきました。パークフルの自治体の情報管理・地域との公園づくりの基盤となる事業として、マルシェやフリーマーケットなど公園の占用/行為許可の各種手続きが簡単にできる公園レンタルサービス「PARKFUL Rental」があります。「PARKFUL Rental」では、ヨガイベントなど少人数で費用の発生しない集まりなど個人利用の届け出もできます。
事業者が工事などで公園の一部を占用する場合は占用許可、イベント等で公園内を一部占用する場合などは行為許可の申請をする必要がある(画像提供/パークフル)
「サービス導入前の2020年1月、兵庫県芦屋市の道路・公園課と実証実験を行いました。実証実験では、既存の書面での申請を残したまま、公園レンタルサービスを導入。1~3月の間に全34件の申請があり、約8割がオンラインによる申請で、手続きの所要時間は、書面申請に比べて7分の1以下になりました」(高村さん)
申請者側も自治体側も手続きの作業時間が大幅に削減できることが確認され、2021年4月より、芦屋市に正式に導入。市内の公園をレンタルしたい人誰もが簡単にインターネットで各種申請ができるようになりました。
導入前は、窓口まで行き書面で申請する必要がありましたが、一連の手続きを24時間365日できるようになった(画像提供/パークフル)
自治体・維持団体向け「PARKFUL Watch」から、最新情報をアプリに転載さらに、2021年6月には、公園の維持団体の活動をデジタルで記録・管理し、発信できる自治体・維持団体向けサービス「PARKFUL Watch」がリリースされました。
「全国の公園の維持管理には、数万団体が関わっていますが、活動内容や頻度などを自治体、維持団体双方で把握することが難しい面がありました。『PARKFUL Watch』は、ボランティアさんなど日常的に公園の維持管理を行う担い手が、活動状況をデジタルで自治体へ簡単に共有できるサービス。『PARKFUL』(アプリ・ウェブ)と連動し、活動内容を一般の方へ知ってもらうこともできます」(高村さん)
維持管理者がスマホで送信した管理情報は、『PARKFUL Watch』を介して自治体が把握できる。公開したい管理情報は、『PARKFUL』アプリに転載(画像提供/パークフル)
一般の人は、アプリに転載された管理情報から、「壊れていたベンチが直ったんだ」「花壇にこんな花を植えたのね」など公園の状態がわかる(画像提供/パークフル)
神奈川県茅ケ崎市など複数の自治体・団体での運用が始まっています。「公園内不具合の報告が正確になり、現場調査が減った」「以前よりコミュニケーションが増えた」という声が届いているそうです。
2023年4月現在、パークフルが、連携・公式情報の管理をしている自治体は71。各サービスについて全国の自治体からの問い合わせが増えています。
「地域との公園づくりに役立っているようです。『PARKFUL Watch』は、地域の人にとっては、これまでなかなか目に触れることのなかった維持管理の活動を知ることができます。『PARKFUL』アプリであれば、例えば、『公園のここが夜怖い』という情報を市民の方が載せて、自治体の方が知ることで、明るくしたり、綺麗にするなどの運営指針を立てることができます。各サービスを公園が安全で安心で楽しい場所に変わっていくために皆さんに役立ててもらえたら嬉しいです」(高村さん)
最近の公園は、敷地内にカフェがあったり、マルシェなどのイベントを開催したり、地域コミュニティの要へ進化しています。パークフルでは、今後、「PARKFUL」アプリに、自治体や管理会社が発信したイベント情報をユーザーがプッシュ通知で受け取れる機能を検討中です。全国の公園情報がまとまることで広がる公園の活用。筆者もピクニック以外の楽しみ方をアプリで開拓したいと思っています。
●取材協力
株式会社パークフル
ひとり親が住宅を確保することは、低所得であることや家賃滞納リスクなどの懸念から困難を極めることがあります。そんな状況を救うために2021年4月、住宅セーフティネット法に「ひとり親向けシェアハウス」の基準が追加されました。背景には、家事・育児・仕事のすべてをひとりで行わなければならないひとり親世帯の孤立を防ぎ、自立を促す住まい方として、ひとり親同士が支え合って暮らすシェアハウスが注目されてきたことがあります。
新しい基準が追加されて2年、ひとり親世帯の住宅事情はどう変化したのでしょう? 専門家・NPO理事・シェアハウス事業者の3名が座談会でホンネを話し合いました。
写真左から、シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん、追手門学院大学 地域創造学部 准教授 ・葛西リサさん、特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
追手門学院大学 地域創造学部 准教授・葛西リサさん
ひとり親、DV被害者、性的マイノリティの住居問題、シェアハウス研究を専門にしている。主な著書に、『母子世帯の居住貧困』(日本経済評論社)、『住まい+ケアを考える~シングルマザー向けシェアハウスの多様なカタチ~』(西山夘三記念 すまい・まちづくり文庫)、『13歳から考える住まいの権利』(かもがわ出版)がある。
特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん
日本で初めてとなるシングルマザー専用シェアハウス『ぺアレンティングホーム』、シングルマザー向けシェアハウスが集まるサイト『マザーポート』の発起人。
シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん
幼少期の複雑な家庭環境、不動産会社での勤務経験を活かし、2015年に起業。シングルマザー向けシェアハウスを5棟運営中。
(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――はじめに、ひとり親向けシェアハウスとはどのようなものか教えてください。
追手門学院大学 地域創造学部 准教授・葛西リサさん(以下、葛西さん)「ひとり親向けシェアハウスとは、さまざまな事情を抱えたシングルの母子が一同に集まり暮らす賃貸型のシェアハウスのことを指します。主に女性向けが前提とされていますが、これには理由があります」
――どのような理由があるのでしょうか?
葛西さん「母子世帯は年々急増しており、父子世帯と比較して圧倒的に世帯数が多く、2倍近く収入格差があるという統計があります。こうした背景から一般の賃貸住宅に入居したくても入居できないという課題があるのです。また持ち家の多くは夫名義であることが多いため、父子世帯は持ち家率が高いのですが、母子世帯は離婚後にまず住宅の確保を迫られます。この問題を解決するために、シェアハウスは女性向けに提供されています」
――実際、入居している方からはどんな声がありますか?
シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん(以下、山中さん)「私たちが運営する施設に入居するお母さんたちからは、『一時的にサポートを受けることができる場所があるのはありがたい』『低廉な家賃で家を借りることができるのは助かる』という声を多く聞きますね」
――住宅確保要配慮者が入居しやすい賃貸住宅の供給を促進する法律、通称『住宅セーフティネット法』は、住宅確保要配慮者のひとつの属性として「ひとり親」が明記され、2021年4月にひとり親向けシェアハウスの基準が新設されましたね。なぜ見直しされたのですか?
葛西さん「ひとり親世帯の数は年々増えていますが、ひとり親世帯、特に母子世帯は貧困率が高く、不動産会社やオーナーの家賃滞納に対する不安から入居できる住宅が限られている現状がある。つまりひとり親世帯が入居できる住宅のニーズが高まっているのです。またシェアハウスに同じ立場の人と一緒にくらし、育児や家事を分担、サポートする体制があることで、ひとり親の経済的・社会的・精神的な負担が軽減されるというメリットも確認されています」
――基準の新設によるメリットは?
特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん(以下、秋山さん)「シェアハウスを運営するオーナーや事業者は、ひとり親向けシェアハウス基準の追加によって、シェアハウスをセーフティネット住宅として登録することで、改修費や家賃低廉化の補助(※)を受けられる可能性が出てきました。ただしこれらの補助を受けるためには、セーフティネット住宅の中でも住宅確保に配慮が必要な人向けの『専用住宅』として登録する必要があります。
今後こうしたひとり親向け専用シェアハウスの登録が増えていけば、賃貸を希望する母子世帯にとっても、選択肢が広がっていくメリットはありますね」
※家賃低廉化の補助・・・住宅確保要配慮者のうち低額所得者が賃貸物件に入居する際、行政が民間賃貸住宅などのオーナーに対して補助金を交付する制度
住宅セーフティネット法の制定前からひとり親の居住貧困問題の研究、政策提言を続けてきた葛西リサさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
基準が変わって、ひとり親世帯向けシェアハウスはどうなった?――シェアハウス基準の追加から2年。ひとり親によるセーフティネット登録住宅の利用状況は変化していますか?
葛西さん「まだまだ変化したとは言いがたい印象です。まず、ひとり親向けの専用住宅として制度を活用できるハウスが少ないのです。その数を増やすために制度面でもっと変化をしてほしいのは、ひとり親向けセーフティネット住宅における『家賃低廉化措置』の制度化ですね。国の基準として追加されたものの、実際に補助制度の設計・運用は各自治体に任せられています。
国土交通省によると補助費用の予算化は、各自治体での判断に委ねているそう。各自治体はどうしてもひとり親世帯の支援よりも、他の支援に予算を優先してしまいがち。つまり枠組みはできたのだけど、それが十分に活用されていないという事態なのです」
秋山さん「実際に日本に1700ほどある自治体の中で、制度化・予算化ができているのは30程度。その中でも運営事業者が制度を利用できている実態が見えるのは横浜市(神奈川県)ぐらいではないでしょうか。横浜市はセーフティネット法の基準新設前から、独自でひとり親向けのシェアハウスの基準を設けてきました。基準新設は、一見するとひとり親向けシェアハウスの運営事業者が補助制度を利用できるようになったように見えるのですが、実際は自治体が制度化していないために、利用できないことが多い状況です」
NPO理事はもちろん、建築士としても社会課題の解決に取り組む秋山 怜史さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
葛西さん「横浜市は家賃補助付きセーフティネット住宅制度を設けており、この制度を活用することで、オーナーさんは家賃低廉化や家屋改修費の補助を得ることができます。特に家賃補助は最大で月4万円。補助があれば賃料を下げることができるので、低所得の人たちも家を借りやすくなるのです。ひとり親向けシェアハウスを営む『YOROZUYA』オーナーの小林剛さんは『セーフティネット住宅として登録しただけでも、問い合わせが増えた』と話しています」
横浜市磯子区にあるシェアハウス「YOROZUYA」(画像提供/マザーポート)
ひとり親向けシェアハウスの維持・運営、難しいのが現実――そもそもセーフティネット登録住宅の件数は増えているのでしょうか。
葛西さん「登録件数自体は増えていますね。ただし『ひとり親世帯などを優先する専用住宅』が増えないのです」
秋山さん「ひとり親向けシェアハウスの事業は、維持・運営が非常に難しいことを痛感しています。当NPOの会員である運営事業者と連絡を取ると『事業をやめました』『これからは募集を停止する予定です』というコメントが時折あり、数年前は全国に30以上いた運営者が今年は20強と徐々に数が減ってきています」
シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん(以下、山中さん)「セーフティネット住宅として登録するためには耐震基準を満たす必要がありますが、家賃を下げるためにそれなりに築年を経た物件で運営することが多いため、旧耐震基準のハウスも多いです。これを現在の耐震基準を満たすように改修するためには、補助金だけでは到底まかなえません。当社のように自社で物件を持たず、マスターリース(一括借上げ)で運営していると、オーナーさんに改修の打診をすることも簡単ではないのです。総じて制度を利用するのにハードルが高いのでセーフティネット住宅としては登録しない、という結論に至ってしまうのです」
シングルマザーのためのシェアハウスを複数経営する山中真奈さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
葛西さん「『自治体で家賃低廉化補助制度を設けているか』と『その地域にひとり親向けシェアハウスを運営するオーナーや事業者がいるか』。そのマッチングができれば横浜市のように制度を活用できる事業者や物件が出てきますが、うまくマッチングされないと、ひとり親向けシェアハウスの数は増えないのでしょう」
制度活用をどうするか。注目したいスキームや補助金――住宅セーフティネット制度以外で、ひとり親やひとり親向け住宅を運営する事業者が活用できる自治体の制度・手段はありますか。
山中さん「スキーム面で新しい事例として挙げられるのは、豊島区で開設したひとり親向けシェアハウスです。これは秋山さんが代表を務めるNPO法人 全国ひとり親居住支援機構と豊島区が協働して『ひとり親向けシェアハウス』開設に向けた新たなスキーム『豊島区モデル』を構築した例です。私たちシングルズキッズは豊島区サイドからの熱いアプローチを受けて、運営事業者として参画。これまでのように物件の借上げはせずに、運営のみを担っています」
秋山さん「運営事業者には、お金周りのことを心配せずに運営に注力してほしいという考えで、物件の借上げ(物件オーナーへの家賃の支払い)を私たちNPOが担うことにしたのです」
ひとり親向けシェアハウス(豊島区モデル)スキームイメージ(画像出典/豊島区ホームページ)
葛西さん「この事例の良い点は、事業のリスクを1事業者だけが負うのではなく、シェアハウス運営事業者、NPO、行政とそれぞれの強みを活かしながら役割を分担して参画できる仕組みであることです。こうした体制にできると、今後もっとひとり親向けシェアハウスが増えていくように思いますね」
実践者・有識者としてそれぞれの立場から課題について話し合う3人(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
山中さん「ほかに、入居者であるひとり親世帯の立場で活用しやすいと感じる制度は、厚生労働省が設けている『住居確保給付金制度』です。この制度のメリットは、離職や減収、例えばコロナ禍のような不測の事態が起きた際でも、申請すれば市区町村ごとに定める額を上限に原則3カ月分、実際の家賃額を支給してもらえます。さらに延長は2回まで可能、最大9カ月間の利用ができることも。家賃の支払いに苦慮している入居者の方には、私たち事業者からこうした制度の案内をしています。それによって事業者も収入を確保できるからです」
事業者サイドへの啓蒙を継続的に行い、プレイヤーを増やす――今後、ひとり親世帯へ向けた住宅セーフティネット制度の活用は進むのでしょうか。
山中さん「実際に事業者として、入居者のニーズは拡大していると感じます。問い合わせなども増えていますので」
葛西さん「メディア掲載などにより、ひとり親世帯の住宅確保の問題は目に触れる機会が増えており、認知は上がっているのではないでしょうか。最近はひとり親向けシェアハウスとして、水まわりなどを共用するハウスだけではなく、バス・トイレが1世帯ごとに分かれているアパート型のハウスも出てきました。不動産業界としても、日本全体の人口が減り、空室や空き家が増えるなかで今後は住宅の確保が困難な人たちへ向けて積極的に住宅を提供していくべきという風潮も高まっているようです」
秋山さん「住宅セーフティネット制度は、家を借りる人(入居者)に啓蒙するよりも、私たちNPOが取り組んでいるように、積極的に制度を活用したい事業者に向けてもっとアナウンスをしていったほうが良いと思います。そもそも事業者自体がこの制度を知らないと活用をすることができません。
今後の居住支援を担うプレイヤーをもっと増やしていくことが、行政やわたしたち支援者のやるべきことですね」
――ひとり親にとっては、今後どんな暮らしができる社会になるのでしょう?
秋山さん「『将来に希望を持てる社会が実現されていく』と思います。住宅は生活すべての基盤。住まいに困ることなく、安心安全である暮らしは、その先の未来を考える上で最も大切なことのひとつなのです。ひとり親のための住まいが増えることによって、誰もが安心して未来を見据え、将来に希望が持てるようになっていくと信じています」
葛西さん「自活をスムーズに進めることができる社会になっていくと思います。夫の収入に依存して住まいを得る女性は未だに多く、離婚時には不利に働いています。婚姻中に育児を背景に仕事を辞めたり、パートなどの短時間労働に変更したことで、資金と信用力不足になり、母子世帯は貧困に陥りやすい。ゆえに住宅市場から排除される傾向があるのです。
住宅がなければ就職も子どもの学区も決定できず、新生活のビジョンが描けない。さらには居所が定まらず、親子ともに精神的に追い詰められ、不安定となるケースも少なくないです。しかし本来、子どもの健やかな成長を保障するためにも、自活の第一歩となる住宅の確保は、公的に保障されるべきこと。ひとり親のニーズに合致した住まいサービスが増えることで、居場所を失った親子を減らしていけると願っています」
ひとり親シェアハウスに対する利用者のニーズは年々増加。しかし事業者は運営状況が厳しく撤退し、シェアハウスが年々減少していっているという「ニーズと実態の逆行」の事実に歯がゆく思います。住宅セーフティネット法の基準追加は、ひとり親の居住問題が注目されるきっかけにもなっていますが、これを単なるイベントにせず、より制度が根付くように国や自治体の積極的なバックアップが望まれるのではないでしょうか。今後の動きにますます注目です。
(グラレコ作成/SUUMOジャーナル編集部)
●取材協力
・追手門学院大学 地域創造学部 准教授 ・葛西リサさん
・特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん
・シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん
・ひとり親向けシェアハウス『YOROZUYA』(神奈川県横浜市)
・「ひとり親向けシェアハウス」官民協働実現(東京都豊島区のモデルケース)
国土交通省は、2023年1月~2月に全国97社の賃貸住宅管理業者などに立入検査を実施した。「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の施行後、初めての立入検査となった。検査を実施した背景やその結果などについて見ていこう。
【今週の住活トピック】
賃貸管理業者などへの初の立入検査を実施/国土交通省
まず、この法律が制定された背景について説明しよう。
賃貸住宅はオーナー(大家)が管理する場合もあるが、近年は管理業者に委託するケースが大半だ。管理業者は、家賃や敷金などの受け取りや賃貸借契約の更新、退去時の立ち会い、敷金の返還などの一連の業務を行うほか、建物の点検や補修、清掃なども行っている。賃貸暮らしにおいては、きわめて重要な役割を担っているのだ。さらに、サブリースと呼ばれる、管理業者がオーナーから借りて、それを管理業者がエンドユーザーに又貸しする形式も増えている。
出典/国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」より転載
一方で、宅地建物取引業者やマンション管理業者の場合は法規制があり、国土交通省の監督下にあるが、賃貸住宅管理業者には法規制がなかった。そこで、オーナー・入居者と管理業者の間のトラブル防止を目的に、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が制定され、2021年6月に施行された。
その内容は、「賃貸住宅管理業者の登録制度の創設」(管理戸数200戸未満は任意)と、主に次のようなことを義務づけたもの。
・管理受託契約を締結する際に重要事項を説明する
・受託した業務の実施内容を定期的に報告する
・家賃などの財産を自身の財産と分別して管理する
・業務管理者を配置する
登録制度への賃貸住宅管理業者の登録数は、2023年3月末時点で8943社、管理戸数は合計で約790万戸となっている。今回、法律に則り適正に事業が営まれているかどうかについて、全国97社に対して立入検査を実施した。
国土交通省は検査を実施した結果、97社のうち59社に対して是正指導などを行った。かなりの割合だが、気になる指導内容を見てみよう。
指導の対象(重複あり)について、件数が多いものには次のようなものがあった。
・28件「管理受託契約締結時の書面交付義務違反」
→ 書面に記載すべき項目に不備があるなど
・18件「書類の備え置き及び閲覧義務違反」
→ 業務状況調書を作成しない、電子保存のみで書面化していないなど
・17件「管理受託契約締結前の重要事項説明義務違反」
→ 重要事項説明書に記載すべき項目に不備があるなど
出典/国交省「【概要版】賃貸住宅管理業者等への全国一斉立入検査結果(令和4年度)」より転載
国土交通省では、一部の賃貸住宅管理業者などに法律の内容について理解不足が見られたが、指導した結果、59 社すべてで是正がなされたことを確認している、と公表した。
賃貸住宅に入居する場合の注意点賃貸住宅に入居する場合は、賃貸住宅の管理は誰が行うのかを確認しよう。管理を管理業者が受託している場合は、管理業者が登録制度に登録しているかどうかも確認しておきたい。登録事業者かどうかは、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」の「賃貸住宅管理業者」タブで検索できる。
また、国土交通省では、「貸主が建物の所有者ではない場合」には、次の3点を確認するように入居者に注意を促している。
■「貸主が建物の所有者ではない場合」の注意点
(1)入居する部屋はサブリース住宅かどうか
(2)賃貸借契約書に、貸主が建物のオーナーに変わった場合に住み続けられる旨の記載があるか
(3)サブリース業者から維持保全の内容や連絡先の通知を受けているか
(出典:「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」のサブリース住宅の入居者への注意喚起リーフレットより)
サブリース住宅の場合、オーナー(所有者)はサブリース業者と賃貸借契約を結び、サブリース業者は入居者に又貸しして転貸借契約を結ぶ。この場合の転貸借契約には、オーナーが誰であるかも記載するように、国土交通省では指導している。また、オーナーとサブリース業者の間の賃貸借契約が終了した後も、入居者がそのまま住み続けられることが契約書に記載されていれば、万一のときも安心だ。
また、維持保全とは、賃貸住宅の建物や設備などの清掃や点検、補修などを行うことで、入居者の生活に支障がないように適切に管理されることが望まれる。サブリース住宅の場合はサブリース業者が行うので、具体的にどんなことをするのか、不具合があった場合などにどこに連絡すればいいかが通知されていることが必要だ。
(写真/PIXTA)
さて、いまの賃貸住宅は、その多くが管理業者によって管理されている。入居者にとっては、家賃の督促や故障・修繕の対応、他の入居者への苦情対応などについて、誰に相談してどう対処してくれるかは、日々の生活に大きく影響する。賃貸住宅に入居する際には、管理についてもしっかりと確認してほしい。
●関連サイト
国土交通省「賃貸住宅管理業者及び特定転貸事業者59社に是正指導~全国一斉立入検査結果(令和4年度)~」
国土交通省の賃貸管理業者検索サイト
●参考サイト
国土交通省の賃貸住宅管理業法ポータルサイト
「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」のサブリース住宅の入居者への注意喚起リーフレット
ひとり親が住宅を確保することは、低所得であることや家賃滞納リスクなどの懸念から困難を極めることがあります。そんな状況を救うために2021年4月、住宅セーフティネット法に「ひとり親向けシェアハウス」の基準が追加されました。背景には、家事・育児・仕事のすべてをひとりで行わなければならないひとり親世帯の孤立を防ぎ、自立を促す住まい方として、ひとり親同士が支え合って暮らすシェアハウスが注目されてきたことがあります。
新しい基準が追加されて2年、ひとり親世帯の住宅事情はどう変化したのでしょう? 専門家・NPO理事・シェアハウス事業者の3名が座談会でホンネを話し合いました。
写真左から、シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん、追手門学院大学 地域創造学部 准教授 ・葛西リサさん、特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
追手門学院大学 地域創造学部 准教授・葛西リサさん
ひとり親、DV被害者、性的マイノリティの住居問題、シェアハウス研究を専門にしている。主な著書に、『母子世帯の居住貧困』(日本経済評論社)、『住まい+ケアを考える~シングルマザー向けシェアハウスの多様なカタチ~』(西山夘三記念 すまい・まちづくり文庫)、『13歳から考える住まいの権利』(かもがわ出版)がある。
特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん
日本で初めてとなるシングルマザー専用シェアハウス『ぺアレンティングホーム』、シングルマザー向けシェアハウスが集まるサイト『マザーポート』の発起人。
シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん
幼少期の複雑な家庭環境、不動産会社での勤務経験を活かし、2015年に起業。シングルマザー向けシェアハウスを5棟運営中。
(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
――はじめに、ひとり親向けシェアハウスとはどのようなものか教えてください。
追手門学院大学 地域創造学部 准教授・葛西リサさん(以下、葛西さん)「ひとり親向けシェアハウスとは、さまざまな事情を抱えたシングルの母子が一同に集まり暮らす賃貸型のシェアハウスのことを指します。主に女性向けが前提とされていますが、これには理由があります」
――どのような理由があるのでしょうか?
葛西さん「母子世帯は年々急増しており、父子世帯と比較して圧倒的に世帯数が多く、2倍近く収入格差があるという統計があります。こうした背景から一般の賃貸住宅に入居したくても入居できないという課題があるのです。また持ち家の多くは夫名義であることが多いため、父子世帯は持ち家率が高いのですが、母子世帯は離婚後にまず住宅の確保を迫られます。この問題を解決するために、シェアハウスは女性向けに提供されています」
――実際、入居している方からはどんな声がありますか?
シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん(以下、山中さん)「私たちが運営する施設に入居するお母さんたちからは、『一時的にサポートを受けることができる場所があるのはありがたい』『低廉な家賃で家を借りることができるのは助かる』という声を多く聞きますね」
――住宅確保要配慮者が入居しやすい賃貸住宅の供給を促進する法律、通称『住宅セーフティネット法』は、住宅確保要配慮者のひとつの属性として「ひとり親」が明記され、2021年4月にひとり親向けシェアハウスの基準が新設されましたね。なぜ見直しされたのですか?
葛西さん「ひとり親世帯の数は年々増えていますが、ひとり親世帯、特に母子世帯は貧困率が高く、不動産会社やオーナーの家賃滞納に対する不安から入居できる住宅が限られている現状がある。つまりひとり親世帯が入居できる住宅のニーズが高まっているのです。またシェアハウスに同じ立場の人と一緒にくらし、育児や家事を分担、サポートする体制があることで、ひとり親の経済的・社会的・精神的な負担が軽減されるというメリットも確認されています」
――基準の新設によるメリットは?
特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん(以下、秋山さん)「シェアハウスを運営するオーナーや事業者は、ひとり親向けシェアハウス基準の追加によって、シェアハウスをセーフティネット住宅として登録することで、改修費や家賃低廉化の補助(※)を受けられる可能性が出てきました。ただしこれらの補助を受けるためには、セーフティネット住宅の中でも住宅確保に配慮が必要な人向けの『専用住宅』として登録する必要があります。
今後こうしたひとり親向け専用シェアハウスの登録が増えていけば、賃貸を希望する母子世帯にとっても、選択肢が広がっていくメリットはありますね」
※家賃低廉化の補助・・・住宅確保要配慮者のうち低額所得者が賃貸物件に入居する際、行政が民間賃貸住宅などのオーナーに対して補助金を交付する制度
住宅セーフティネット法の制定前からひとり親の居住貧困問題の研究、政策提言を続けてきた葛西リサさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
基準が変わって、ひとり親世帯向けシェアハウスはどうなった?――シェアハウス基準の追加から2年。ひとり親によるセーフティネット登録住宅の利用状況は変化していますか?
葛西さん「まだまだ変化したとは言いがたい印象です。まず、ひとり親向けの専用住宅として制度を活用できるハウスが少ないのです。その数を増やすために制度面でもっと変化をしてほしいのは、ひとり親向けセーフティネット住宅における『家賃低廉化措置』の制度化ですね。国の基準として追加されたものの、実際に補助制度の設計・運用は各自治体に任せられています。
国土交通省によると補助費用の予算化は、各自治体での判断に委ねているそう。各自治体はどうしてもひとり親世帯の支援よりも、他の支援に予算を優先してしまいがち。つまり枠組みはできたのだけど、それが十分に活用されていないという事態なのです」
秋山さん「実際に日本に1700ほどある自治体の中で、制度化・予算化ができているのは30程度。その中でも運営事業者が制度を利用できている実態が見えるのは横浜市(神奈川県)ぐらいではないでしょうか。横浜市はセーフティネット法の基準新設前から、独自でひとり親向けのシェアハウスの基準を設けてきました。基準新設は、一見するとひとり親向けシェアハウスの運営事業者が補助制度を利用できるようになったように見えるのですが、実際は自治体が制度化していないために、利用できないことが多い状況です」
NPO理事はもちろん、建築士としても社会課題の解決に取り組む秋山 怜史さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
葛西さん「横浜市は家賃補助付きセーフティネット住宅制度を設けており、この制度を活用することで、オーナーさんは家賃低廉化や家屋改修費の補助を得ることができます。特に家賃補助は最大で月4万円。補助があれば賃料を下げることができるので、低所得の人たちも家を借りやすくなるのです。ひとり親向けシェアハウスを営む『YOROZUYA』オーナーの小林剛さんは『セーフティネット住宅として登録しただけでも、問い合わせが増えた』と話しています」
横浜市磯子区にあるシェアハウス「YOROZUYA」(画像提供/マザーポート)
ひとり親向けシェアハウスの維持・運営、難しいのが現実――そもそもセーフティネット登録住宅の件数は増えているのでしょうか。
葛西さん「登録件数自体は増えていますね。ただし『ひとり親世帯などを優先する専用住宅』が増えないのです」
秋山さん「ひとり親向けシェアハウスの事業は、維持・運営が非常に難しいことを痛感しています。当NPOの会員である運営事業者と連絡を取ると『事業をやめました』『これからは募集を停止する予定です』というコメントが時折あり、数年前は全国に30以上いた運営者が今年は20強と徐々に数が減ってきています」
シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん(以下、山中さん)「セーフティネット住宅として登録するためには耐震基準を満たす必要がありますが、家賃を下げるためにそれなりに築年を経た物件で運営することが多いため、旧耐震基準のハウスも多いです。これを現在の耐震基準を満たすように改修するためには、補助金だけでは到底まかなえません。当社のように自社で物件を持たず、マスターリース(一括借上げ)で運営していると、オーナーさんに改修の打診をすることも簡単ではないのです。総じて制度を利用するのにハードルが高いのでセーフティネット住宅としては登録しない、という結論に至ってしまうのです」
シングルマザーのためのシェアハウスを複数経営する山中真奈さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
葛西さん「『自治体で家賃低廉化補助制度を設けているか』と『その地域にひとり親向けシェアハウスを運営するオーナーや事業者がいるか』。そのマッチングができれば横浜市のように制度を活用できる事業者や物件が出てきますが、うまくマッチングされないと、ひとり親向けシェアハウスの数は増えないのでしょう」
制度活用をどうするか。注目したいスキームや補助金――住宅セーフティネット制度以外で、ひとり親やひとり親向け住宅を運営する事業者が活用できる自治体の制度・手段はありますか。
山中さん「スキーム面で新しい事例として挙げられるのは、豊島区で開設したひとり親向けシェアハウスです。これは秋山さんが代表を務めるNPO法人 全国ひとり親居住支援機構と豊島区が協働して『ひとり親向けシェアハウス』開設に向けた新たなスキーム『豊島区モデル』を構築した例です。私たちシングルズキッズは豊島区サイドからの熱いアプローチを受けて、運営事業者として参画。これまでのように物件の借上げはせずに、運営のみを担っています」
秋山さん「運営事業者には、お金周りのことを心配せずに運営に注力してほしいという考えで、物件の借上げ(物件オーナーへの家賃の支払い)を私たちNPOが担うことにしたのです」
ひとり親向けシェアハウス(豊島区モデル)スキームイメージ(画像出典/豊島区ホームページ)
葛西さん「この事例の良い点は、事業のリスクを1事業者だけが負うのではなく、シェアハウス運営事業者、NPO、行政とそれぞれの強みを活かしながら役割を分担して参画できる仕組みであることです。こうした体制にできると、今後もっとひとり親向けシェアハウスが増えていくように思いますね」
実践者・有識者としてそれぞれの立場から課題について話し合う3人(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
山中さん「ほかに、入居者であるひとり親世帯の立場で活用しやすいと感じる制度は、厚生労働省が設けている『住居確保給付金制度』です。この制度のメリットは、離職や減収、例えばコロナ禍のような不測の事態が起きた際でも、申請すれば市区町村ごとに定める額を上限に原則3カ月分、実際の家賃額を支給してもらえます。さらに延長は2回まで可能、最大9カ月間の利用ができることも。家賃の支払いに苦慮している入居者の方には、私たち事業者からこうした制度の案内をしています。それによって事業者も収入を確保できるからです」
事業者サイドへの啓蒙を継続的に行い、プレイヤーを増やす――今後、ひとり親世帯へ向けた住宅セーフティネット制度の活用は進むのでしょうか。
山中さん「実際に事業者として、入居者のニーズは拡大していると感じます。問い合わせなども増えていますので」
葛西さん「メディア掲載などにより、ひとり親世帯の住宅確保の問題は目に触れる機会が増えており、認知は上がっているのではないでしょうか。最近はひとり親向けシェアハウスとして、水まわりなどを共用するハウスだけではなく、バス・トイレが1世帯ごとに分かれているアパート型のハウスも出てきました。不動産業界としても、日本全体の人口が減り、空室や空き家が増えるなかで今後は住宅の確保が困難な人たちへ向けて積極的に住宅を提供していくべきという風潮も高まっているようです」
秋山さん「住宅セーフティネット制度は、家を借りる人(入居者)に啓蒙するよりも、私たちNPOが取り組んでいるように、積極的に制度を活用したい事業者に向けてもっとアナウンスをしていったほうが良いと思います。そもそも事業者自体がこの制度を知らないと活用をすることができません。
今後の居住支援を担うプレイヤーをもっと増やしていくことが、行政やわたしたち支援者のやるべきことですね」
――ひとり親にとっては、今後どんな暮らしができる社会になるのでしょう?
秋山さん「『将来に希望を持てる社会が実現されていく』と思います。住宅は生活すべての基盤。住まいに困ることなく、安心安全である暮らしは、その先の未来を考える上で最も大切なことのひとつなのです。ひとり親のための住まいが増えることによって、誰もが安心して未来を見据え、将来に希望が持てるようになっていくと信じています」
葛西さん「自活をスムーズに進めることができる社会になっていくと思います。夫の収入に依存して住まいを得る女性は未だに多く、離婚時には不利に働いています。婚姻中に育児を背景に仕事を辞めたり、パートなどの短時間労働に変更したことで、資金と信用力不足になり、母子世帯は貧困に陥りやすい。ゆえに住宅市場から排除される傾向があるのです。
住宅がなければ就職も子どもの学区も決定できず、新生活のビジョンが描けない。さらには居所が定まらず、親子ともに精神的に追い詰められ、不安定となるケースも少なくないです。しかし本来、子どもの健やかな成長を保障するためにも、自活の第一歩となる住宅の確保は、公的に保障されるべきこと。ひとり親のニーズに合致した住まいサービスが増えることで、居場所を失った親子を減らしていけると願っています」
ひとり親シェアハウスに対する利用者のニーズは年々増加。しかし事業者は運営状況が厳しく撤退し、シェアハウスが年々減少していっているという「ニーズと実態の逆行」の事実に歯がゆく思います。住宅セーフティネット法の基準追加は、ひとり親の居住問題が注目されるきっかけにもなっていますが、これを単なるイベントにせず、より制度が根付くように国や自治体の積極的なバックアップが望まれるのではないでしょうか。今後の動きにますます注目です。
●取材協力
・追手門学院大学 地域創造学部 准教授 ・葛西リサさん
・特定非営利活動法人 全国ひとり親居住支援機構 代表理事・秋山怜史さん
・シングルズキッズ株式会社 代表取締役・山中真奈さん
・ひとり親向けシェアハウス『YOROZUYA』(神奈川県横浜市)
・「ひとり親向けシェアハウス」官民協働実現(東京都豊島区のモデルケース)
床から天井まで壁面いっぱいに、ずらりと並べられたスニーカー。色とりどりの600足に囲まれた空間は、美術館のようでもある。その部屋の主は、ナイキやデッカーズなどで30年にわたりスニーカーのセールスに従事してきた高見薫さん。高見さんの仕事の履歴、そしてスニーカーの歴史が詰まった「スニーカー部屋」を拝見しながら、美しく収納するためのポイントやこだわりを伺った。
ファッションアイテムとしてのスニーカー史高見薫さんは1991年にナイキジャパンに新卒入社。96年にはナイキショップの立ち上げなどにも携わった。2018年からはデッカーズジャパンに転職し、同社が取り扱う「UGG(R)」のスニーカーのセールスを担当している。
千葉県にある高見さんの自宅の一室には、三面の壁に600足が並ぶ「スニーカー部屋」がある。1990年代から現在までのスニーカーの歴史、高見さんの仕事履歴が詰まった、圧巻の空間だ。
床から天井まで全面を使った壁面棚に、美しく並ぶ600足。これでも全部ではないという。ここに収まらないぶんは玄関などに収納されている(写真撮影/小野奈那子)
高見薫さん。ナイキ時代は新モデルやコラボ商品の販売戦略の企画など、さまざまなプロジェクトに従事。現在はデッカーズジャパンに所属し、同社のスニーカー戦略を推進している(写真撮影/小野奈那子)
――ものすごい数ですね。これだけのスニーカーをコレクションするようになったきっかけは何だったのでしょうか?
高見:確かにすごい数なんですけど、私はコレクターっていうわけじゃないんですよ。
――どういうことでしょうか?
高見:好きで集めている方には失礼かもしれないですけど、私の場合は集めているというより「集まっちゃった」というほうが正しくて。30年間、ずっとスニーカーに近い仕事をしてきたので、必然的にこれだけの数になってしまいました。セールスの仕事をやっていると、その時々で会社が推していく商品のことを知っておかないといけないじゃないですか。だから自分でも買って履いてみたりしているうちに、どんどん増えていったんです。
「集まっちゃった」とはいえ、一足一足に対する思い入れは強いという(写真撮影/小野奈那子)
――そのスタンスは少し意外でした。
高見:みんなに不思議って言われますね。ただ、そもそも私がナイキジャパンに新卒入社した1991年って、スニーカーをファッションで履くという感覚がなかったんですよ。当然、今のようにコレクションする人も少なくて。当時はいわゆるスニーカーブームがくる前で、会社もあくまでスポーツシューズとして売っていました。
高見さんがナイキに入社した1991年に発売された「エア マックスBW」(写真は復刻)。入社年度に出た最高峰モデルの一つということで、高見さんにとって思い入れの深い一足だという(写真撮影/小野奈那子)
――1996年に「エア マックス95」が大ブレイクし、スニーカーブームが起こる少し前あたりから、何となくスニーカーがストリートファッション系の雑誌にも取り上げられるようになったと記憶しています。
高見:そうですね。大きなきっかけの一つが1992年のバルセロナオリンピックです。アメリカの男子バスケットボール代表が「ドリームチーム」と呼ばれる最強チームを結成し、そこから「バッシュブーム」が起こります。そうした動きと、アメリカのファッションやヒップホップなどの文脈も相まって、スニーカーがファッション誌に掲載されるようになりました。
――そこからスポーツシーン以外でもスニーカーを普段履きするカルチャーがじわじわ広がって、「エア マックス95」の登場によって一気にブレイクすると。
高見:「エア マックス」というのはナイキのスニーカーの最高峰のシリーズとして、1987年から新作が毎年のように発売されていました。そのなかで、たまたまブームになったのが95年モデル。スタイリストさんが気に入ったのか、当時、芸能人の方がテレビなどでよく95マックスを履いていたんですよ。それを見た視聴者の間で「あの靴はなんだ!」となり、1996年に大ヒットするという。
じつは同じ96年にナイキショップがオープンするんですけど、開店と同時に95マックスを求めるお客様が殺到しました。なかにはオープン予定日の1カ月前から並ぶ人もいたりして。
左側の棚に並んでいるのが「エア マックス95」。発売当初の貴重なモデルもある(写真撮影/小野奈那子)
――当時の熱狂ぶりはよく覚えています。「エアマックス狩り」なんて事件も起こるほどの社会現象になりましたよね。
高見:ただ、当時はブームが加熱しすぎて「ナイキだったら何でもいい」みたいな人も増えたんですよ。それで、ひと通り商品がお客様に行き渡るとブームが一気に萎(しぼ)んでしまいます。1998年あたりから急激に失速しましたね。
それからは会社も「もう一度しっかりスポーツシューズとしてアプローチしていこう」という方向に向かうんですけど、一方で「せっかく新しいお客様を獲得できたのだから、本格的にファッションアイテムとして仕掛けていこう」という声もあって、2000年前後くらいからスニーカーをスポーツとファッションの両輪で展開していく動きが出てきます。その後、2010年くらいになると、他社ブランドでもスポーツ仕様と普段履きのスニーカーをはっきり区別して売るようになっていきましたね。
1996年に発売された「エア リフト」。つま先部分が足袋のように分かれているのが特徴。高見さんは2000年ごろ、よくこれを履いて出社していたそう。「靴下なしで履けてラクなので愛用していましたね。社割で安かったのもあって、たくさん買いました(笑)」(写真撮影/小野奈那子)
――確かに、ある時期からシューズ専門店でも、スポーツ用とファッション用のスニーカーのコーナーが分かれるようになりました。
高見:そうですよね。それが2010年代までの動きです。ちなみに、最近では小規模なブランドもスニーカーやスポーツシューズに参入するようになりました。ひと昔前まではナイキやアディダスといった、いくつかの大手しかやっていなかったんですけど、今はそれこそ私が所属するデッカーズジャパンが取り扱う「UGG(R)(アグ)」や「HOKA(R)(ホカ)」だったり、「Salomon(サロモン)」「On(オン)」など、さまざまなブランドがスニーカーやランニングシューズを手掛けるようになっています。
「UGG CA805 Zip」。それまでブーツのイメージが強かったUGG(R)が、本腰を入れて開発したスニーカー。2018年にデッカーズジャパンに入社した高見さんがセールスを担当し、一時期はこればかり履いていたのだとか(写真撮影/小野奈那子)
高見:多様なブランドの参入と技術の進化により、デザインのバリエーションも広がっています。よりファッショナブルになっていて、洋服に合わせる楽しみも広がっていると思いますよ。
UGGの最新スニーカー「CA805V2 Remix」。スリッポンのように軽やかな履き心地が特徴。初代モデルから5年でデザインも大幅に進化している(写真撮影/小野奈那子)
600足を収納する「スニーカー部屋」のつくり方――この家に引越してくる前は、どのようにスニーカーを保管していましたか?
高見:以前は実家近くの団地で一人暮らしをしていたんですけど、スニーカーは箱に入れて天井の高さまで積んでいました。少し大きめの地震がくると一気に倒れて悲惨なことになっていましたね。それに加えて、トランクルームも2つ借りていました。ですから、今みたいにすぐに取り出せる状態ではなかったです。
ただ、この家を買ったのはスニーカーのためというわけではありません。結婚して夫が私の部屋に越してきて、夫婦ともに物が多いから生活スペースが激狭になってしまったんです。通路も片側通行でしか通れないくらい狭くて……。
そんな生活から抜け出したくて引越しを考えていた時に、たまたまこの一戸建てが売りに出ているのを見つけました。それで、せっかく買うならスニーカーをちゃんと保管できるように、一部をリフォームしようと考えたんです。建築士さんに相談したところ、元のオーナーが2人の息子さんの部屋として使っていたスペースを、スニーカー部屋に変更しようということになりました。
もともとは壁で仕切られていたスペースを一つの空間にリフォーム。3つの壁全面に、新たにスニーカー専用棚を設けた(写真撮影/小野奈那子)
――壁面棚をつくるにあたって、建築士さんに要望したことはありますか?
高見:とにかくできるだけ多くの靴を並べられるようにしてくださいと。最初は箱ごと棚に収納する案もあったんですけど、そうするとお店のストックルームみたいになっちゃって全然面白くないじゃないですか。だから裸のまま並べちゃおうと。剥き出しだと埃が溜まったりもするんですけど、私はコレクターではないからか、あまりそのへんは気にならなくて。
一つひとつの棚板の高さを変えることも可能。高見さんは一番高い靴の縦幅に合わせて棚板の位置を統一している(写真撮影/小野奈那子)
壁面棚の両サイドには鏡を設置し、無限にスニーカーが並んでいるように見せる遊び心も(写真撮影/小野奈那子)
高見:あと、これは建築士さんから勧められたんですけど、棚の材料は北海道のチーク材を使っています。とても綺麗な木材ですし、スニーカーも映えるだろうということで。北海道から輸送しなきゃいけないので高いんですけどね。
――スニーカーのコンディションを保つという点でも、やはり天然木を使った棚のほうがいいのでしょうか?
高見:そうですね。スチールラックなどに置いている人も多いと思いますが、金属は錆びる可能性があるので、靴にとってはあまりよくありません。
それから、スニーカーのコンディションを保つためには、部屋の空気の状態にも気を配る必要があります。なるべく空気を循環させることと、湿度が高くなりすぎないこと。空気が湿っていると、靴がどんどんベタベタになってくるんです。この部屋では、空調でなるべく一定のコンディションをキープできるようにしています。
――ちなみに、ずっと置いておくよりも、たまには履いたほうがよかったりしますか?
高見:はい。履かないと逆に駄目になりやすいです。置きっぱなしにしていると空気中の水分がスニーカーに溜まっていき、ミッドソール部分の素材が加水分解を起こしてしまうんです。すると、靴底からボロボロと崩れてしまう。それを防ぐにはたまに履いてあげて、身体の重力を利用して水分を抜くことが必要です。私もここにあるスニーカーはただ飾るだけじゃなくて、なるべく履くようにしていますよ。
(写真撮影/小野奈那子)
グループ分けで美しく。思わず眺めたくなる棚に――上から下まで、とても美しくスニーカーが並んでいますが、飾る時のコツやポイントがあれば教えてください。
高見:私の場合は、持っているスニーカーをグループ分けするところから始めました。まずは「ランニングシューズ」「バスケットシューズ」といった感じで大まかに分類し、そこからさらに細かく種類を分けます。あとは年代別だったり、シンプル系・派手系みたいな形でグループを分けていきました。そのうえで、エクセルで作った棚の図面に、何をどこに入れるか入力しながらシミュレーションしましたね。
実際に棚に置く時には、薄い色から濃い色の順番に並べたり、背が低い順から並べたりと、なるべく美しく見えるように意識しました。このあたりはナイキで学んだ陳列の法則みたいなものを取り入れています。
靴の種類ごとに分けた上で、デザインが派手なコーナー、シンプルなコーナーなど、なんとなくグループをつくるだけでも見栄えがよくなる(写真撮影/小野奈那子)
――ここまで美しく飾られていると、もはやスニーカーというよりインテリアのようです。眺めているだけで楽しくなりますね。
高見:私自身はあまりインテリアという感覚はないのですが、眺めるのは楽しいですね。やはり、一つひとつに思い入れがあるので。「これは、あそこに行った時に買ったよな」とか、「これを履いていた時、仕事大変だったな」とか、いろんなことを思い出します。
――この部屋は、高見さんの歴史そのものなんですね。
高見:そうですね。ですから、一般的なコレクターの方とは違う感覚なんでしょうけど、全てのスニーカーに愛着があります。もともとは狭い空間から逃げるために家を買い、やむにやまれずリフォームした部屋ですが、今となっては懐かしい思い出にひたれる大切な場所になりましたね。
●取材協力
UGG(R)/デッカーズジャパン
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載6回目。今回は、スイス南西に位置するヴォー州にある「ル・ロゼ新フィルハーモニック・コンサートホール」、通称「カーナル・コンサート・ホール(Carnal Concert Hall)」(デザイン:ベルナール・チュミ)を紹介する。
14世紀の古城の境内に建設。先端的な装いに身を包んだサステイナブル・コンサートホール「ル・ロゼ新フィルハーモニック・コンサートホール」は、スイスのヴォー州にある最古の著名な寄宿学校のひとつにできたコンサートホールである。寄宿学校はジュネーブとローザンヌの中間にあるロール近郊の14世紀の由緒ある古城「シャトー・ル・ロゼ(ロゼ城)」の境内に建設されたものである。ポール・エミール・カーナルによって創立された寄宿学校「ロゼ学院」は、そのような歴史的に著名な敷地に建立された建築である。今回完成したコンサートホールは、創立者の名前をとって「カーナル・ホール」と呼ばれている。
(c)Iwan Baan
「ロゼ学院」はスイス最古の名門寄宿学校のひとつで、超高級な中等教育機関であり、世界のエリートやセレブリティの子弟や子女が数多く入学している。例えばモナコのレーニエ3世、ケント公爵エドワード2世、ショーン・レノン(ジョン・レノンとオノ・ヨーコの息子)、丹下憲孝(建築家・丹下健三の息子)、高田万由子(女優、葉加瀬太郎の妻)、ロスチャイルド家(ユダヤ人の富豪)、アガ・ハーン4世(ムスリムのインド人大富豪)、その他多数。
アメリカの建築家、ベルナール・チュミによってデザインされた「ル・ロゼ新フィルハーモニック・コンサートホール」は木造の矩形(くけい・長方形のこと)のコンサートホールで、ステンレス・スティール製の低い円形ドーム内に独立して建設されたものである。歴史的なキャンパスという敷地の中に、UFOのような形態の超現代的な建築が追加されたことで、その対比が新しい息吹を流し込んだと言われて好評である。建物は木立越しに見ると、ステンレス・スティール製のドーム形の屋根や外壁が、日光に輝いてシャープで先端的な雰囲気を醸している。俯瞰した写真の正面左側の暗い大きな開口部がエントランスとなっている。
建物を俯瞰すると敷地に落差があり、エントランス部分は1階レベルだが、右手の日が当たっている側は地下レベルから立ち上がっており、地下1階、地上2階建てになっている。学校側から要求されたプログラムは、メインとなる900席のコンサートホールをはじめ、ブラック・ボックス・シアター、会議室、リハーサル&練習室、図書室、ラーニング・センター、レストラン、カフェ、学生ラウンジ、その他のアメニティを含む盛りだくさんの内容であった。
(c)Iwan Baan
関連記事:連載「世界の名建築を訪ねて」
エアコンは不使用、機械式の自然換気のみを採用建築家ベルナール・チュミが考える先端的なフィルハーモニック・ホールは、いかにしてサステイナビリティの目標と組みわせることができたのか。彼は低く配置された反射する直径80mのステンレス・スティール・ドーム内に、リサイクルされたOSB合板(配向性ストランドボード)を全面的に使用したコンサートホールをデザインしたが、エネルギーを消費するエアコンは使用せず、機械式の自然換気を採用しているのみなのだ。これはスイスの比較的涼しい気候を鑑みたデザインで、建物は歴史的な雰囲気のキャンパスに、スマートな現代建築的なイメージで溶け込んでいる。
このプロジェクトでは材料が建物のデザイン・コンセプトに重要な役割を演じている。というのは、メインであるコンサートホールは、ドーム型の建物内部に木造で独立して立っており、全体を覆う反射性のステンレス・スティール製のメタル・ドームとコントラストをなしている。言わば2重外皮とも取れるデザイン・コンセプトは、コンサートホールを音響的に独立させ、近くを走る鉄道が発する騒音もシャットアウトしている。こうしたデザインが、近隣環境への音響的配慮を十分考慮したものと好評なのだ。
(c)Iwan Baan
建築家ベルナール・チュミの洗練されたデザイン力が発揮された作品世界的に著名な建築設計事務所であるオブ・アラップ・ニューヨーク社が音響設計を担当したのも効果を発揮している。施主であるロゼ学院からの「カーナル・ホール」についての要求事項は、非常に野心的なものであった。曰く、国際的な学生コミュニティにサービスできるワールド・クラスのコンサートホールであると同時に、世界一流のオーケストラを迎えられるものであった。実際に建築家のベルナール・チュミは粋を凝らしたデザインを展開した。その結果「カーナル・ホール」のオープニングには、世界的に著名な巨匠シャルル・デュトワの指揮によるロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の豪華なパフォーマンスが、アカデミックなアトモスフィアの中で開催された。
今から40年ほど前の1982年、パリの「ラ・ヴィレット公園」のコンペに勝利し、一躍世界の建築界に頭角を現した建築家ベルナール・チュミは、ル・コルビュジエと同様スイス人ながらフランス国籍を取り、同国で活躍してきた。その後ニューヨークにも事務所を開設し、コロンビア大学建築プランニング保存学部長を務めながらデザイン活動をし、同大学にエポック・メイキングな「ラーナー・ホール」を設計し話題になった。現在はニューヨークとパリで設計に専念している。
数カ月前に、久しぶりに彼の中国に完成した「ビンハイ科学博物館」の資料を見たが、要塞のようなその斬新なデザインは目を見張るものがあった。今回はそれとは違って、故郷スイスに完成した未来的な相貌をした、先端的ハイエンドかつサステイナブルなコンサートホールが生まれたことにより、彼の洗練された衰えを知らぬデザイン力を、まざまざと見せつけられた感じである。
(c)Christian Richters
世界中の建築を訪問してきた建築ジャーナリスト淵上正幸が、世界最先端の建築を紹介する連載6回目。今回は、スイス南西に位置するヴォー州にある「ル・ロゼ新フィルハーモニック・コンサートホール」、通称「カーナル・コンサート・ホール(Carnal Concert Hall)」(デザイン:ベルナール・チュミ)を紹介する。
14世紀の古城の境内に建設。先端的な装いに身を包んだサステイナブル・コンサートホール「ル・ロゼ新フィルハーモニック・コンサートホール」は、スイスのヴォー州にある最古の著名な寄宿学校のひとつにできたコンサートホールである。寄宿学校はジュネーブとローザンヌの中間にあるロール近郊の14世紀の由緒ある古城「シャトー・ル・ロゼ(ロゼ城)」の境内に建設されたものである。ポール・エミール・カーナルによって創立された寄宿学校「ロゼ学院」は、そのような歴史的に著名な敷地に建立された建築である。今回完成したコンサートホールは、創立者の名前をとって「カーナル・ホール」と呼ばれている。
(c)Iwan Baan
「ロゼ学院」はスイス最古の名門寄宿学校のひとつで、超高級な中等教育機関であり、世界のエリートやセレブリティの子弟や子女が数多く入学している。例えばモナコのレーニエ3世、ケント公爵エドワード2世、ショーン・レノン(ジョン・レノンとオノ・ヨーコの息子)、丹下憲孝(建築家・丹下健三の息子)、高田万由子(女優、葉加瀬太郎の妻)、ロスチャイルド家(ユダヤ人の富豪)、アガ・ハーン4世(ムスリムのインド人大富豪)、その他多数。
アメリカの建築家、ベルナール・チュミによってデザインされた「ル・ロゼ新フィルハーモニック・コンサートホール」は木造の矩形(くけい・長方形のこと)のコンサートホールで、ステンレス・スティール製の低い円形ドーム内に独立して建設されたものである。歴史的なキャンパスという敷地の中に、UFOのような形態の超現代的な建築が追加されたことで、その対比が新しい息吹を流し込んだと言われて好評である。建物は木立越しに見ると、ステンレス・スティール製のドーム形の屋根や外壁が、日光に輝いてシャープで先端的な雰囲気を醸している。俯瞰した写真の正面左側の暗い大きな開口部がエントランスとなっている。
建物を俯瞰すると敷地に落差があり、エントランス部分は1階レベルだが、右手の日が当たっている側は地下レベルから立ち上がっており、地下1階、地上2階建てになっている。学校側から要求されたプログラムは、メインとなる900席のコンサートホールをはじめ、ブラック・ボックス・シアター、会議室、リハーサル&練習室、図書室、ラーニング・センター、レストラン、カフェ、学生ラウンジ、その他のアメニティを含む盛りだくさんの内容であった。
(c)Iwan Baan
関連記事:連載「世界の名建築を訪ねて」
エアコンは不使用、機械式の自然換気のみを採用建築家ベルナール・チュミが考える先端的なフィルハーモニック・ホールは、いかにしてサステイナビリティの目標と組みわせることができたのか。彼は低く配置された反射する直径80mのステンレス・スティール・ドーム内に、リサイクルされたOSB合板(配向性ストランドボード)を全面的に使用したコンサートホールをデザインしたが、エネルギーを消費するエアコンは使用せず、機械式の自然換気を採用しているのみなのだ。これはスイスの比較的涼しい気候を鑑みたデザインで、建物は歴史的な雰囲気のキャンパスに、スマートな現代建築的なイメージで溶け込んでいる。
このプロジェクトでは材料が建物のデザイン・コンセプトに重要な役割を演じている。というのは、メインであるコンサートホールは、ドーム型の建物内部に木造で独立して立っており、全体を覆う反射性のステンレス・スティール製のメタル・ドームとコントラストをなしている。言わば2重外皮とも取れるデザイン・コンセプトは、コンサートホールを音響的に独立させ、近くを走る鉄道が発する騒音もシャットアウトしている。こうしたデザインが、近隣環境への音響的配慮を十分考慮したものと好評なのだ。
(c)Iwan Baan
建築家ベルナール・チュミの洗練されたデザイン力が発揮された作品世界的に著名な建築設計事務所であるオブ・アラップ・ニューヨーク社が音響設計を担当したのも効果を発揮している。施主であるロゼ学院からの「カーナル・ホール」についての要求事項は、非常に野心的なものであった。曰く、国際的な学生コミュニティにサービスできるワールド・クラスのコンサートホールであると同時に、世界一流のオーケストラを迎えられるものであった。実際に建築家のベルナール・チュミは粋を凝らしたデザインを展開した。その結果「カーナル・ホール」のオープニングには、世界的に著名な巨匠シャルル・デュトワの指揮によるロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の豪華なパフォーマンスが、アカデミックなアトモスフィアの中で開催された。
今から40年ほど前の1982年、パリの「ラ・ヴィレット公園」のコンペに勝利し、一躍世界の建築界に頭角を現した建築家ベルナール・チュミは、ル・コルビュジエと同様スイス人ながらフランス国籍を取り、同国で活躍してきた。その後ニューヨークにも事務所を開設し、コロンビア大学建築プランニング保存学部長を務めながらデザイン活動をし、同大学にエポック・メイキングな「ラーナー・ホール」を設計し話題になった。現在はニューヨークとパリで設計に専念している。
数カ月前に、久しぶりに彼の中国に完成した「ビンハイ科学博物館」の資料を見たが、要塞のようなその斬新なデザインは目を見張るものがあった。今回はそれとは違って、故郷スイスに完成した未来的な相貌をした、先端的ハイエンドかつサステイナブルなコンサートホールが生まれたことにより、彼の洗練された衰えを知らぬデザイン力を、まざまざと見せつけられた感じである。
(c)Christian Richters
古くは明治神宮の森、近年では池袋の新しいランドマーク南池袋公園など暮らしやすさやまちの心地よさに深く関係している、ランドスケープデザイン(景観デザイン)。最近、“サブカルのまち”下北沢(東京都世田谷区)の風景が、大きく変わったことが話題になりました。下北沢のまちを久々に訪れた人は、豊かな緑をあちこちで目にすることができるでしょう。「シモキタ園藝部」の企画と立ち上げに取り組み、今は共同代表としてシモキタ園藝部で活動を続けるほかにも、全国の様々な地域でランドスケープデザインを通じた街づくりに取り組んでいる株式会社フォルクの代表である三島由樹さんは、緑を通じて社会課題を解決する「ソーシャルグリーンデザイン」の担い手のひとり。いま、緑を使ってどのように都市の課題に取り組んでいるのでしょうか。
下北線路街のランドスケープデザインの構想に携わる。下北線路街の緑の手入れをする地域コミュニティ「シモキタ園藝部」もフォルクが企画と立ち上げに携わった(画像提供/一般社団法人シモキタ園藝部)
東京都八王子市の「AJIROCHAYA」では、明治時代から続くお茶屋さんの改修に伴うランドスケープデザインおよびコミュニティのデザインを行った(画像提供/フォルク)
関連記事:総勢150名「シモキタ園藝部」が下北沢の植物とまちの新しい関係を育て中。鉢植え、野原など、暮らしと共にあるグリーンがあちこちに
都市計画の歴史は、ランドスケープ・アーキテクチャーから始まった慶應義塾大学とハーバード大学大学院で、ランドスケープデザインを学んだ三島さん。ランドスケープは、「風景・景観」という意味があります。学部時代は「ランドスケープデザインといえば、緑を使って綺麗な空間をつくるもの」と認識していた三島さんは、ランドスケープ・アーキテクチャーの本質が、「都市の課題解決のために生まれた学問と職能」であるとアメリカで学び、衝撃を受けました。
「慶應義塾大学の恩師であった、建築家の坂茂先生からは、社会貢献のできるデザインが大切であること、ランドスケープ・デザイナーの石川幹子先生からは、緑地は社会共通資本であることを学びました。その後、石川先生の勧めでハーバード大学の大学院に進みましたが、アメリカでは、近代化と経済成長によって汚染された土地であるブラウンフィールドをいかに現代において人が暮らすことができる環境として再生するかが、ランドスケープデザインのメインテーマでした」(三島さん)
ハーバード大学院で学んでいたころの三島さん(画像提供/フォルク)
「楽しくも猛烈な日々だった」と振り返る(画像提供/フォルク)
最も衝撃を受けたのは、セントラル・パーク(Central Park)の設計思想を学んだときのことでした。セントラル・パークは、19世紀につくられたアメリカのニューヨーク市マンハッタン地区の中央にある美しい都市公園です。
「私はセントラルパークについて、ほとんど知らなかったのですが、調べてみると、それは感染症対策のために計画された公園という一面を持っています。当時ニューヨークは、人口の爆発的な急増があり、道端に馬の死骸が転がっているような劣悪な環境で感染症が蔓延していました。開発されていく街の中に、緑の空間をつくり、人種の差別なく、全ての人が生き続けられる環境をつくることが目的だったのです」(三島さん)
セントラル・パークは、ニューヨークの密集した市街地の中に存在する(画像/PIXTA)
セントラル・パークの設計者のひとりフレデリック・ロー・オルムステッドが、建築、土木などを束ねた環境デザインの専門分野として提唱したランドスケープ・アーキテクチャーは、その後、都市計画分野の基礎になりました。ランドスケープデザインは、都市についての問題意識から生まれたものだったのです。
開発が進む街に開かれた皆の庭「AJIROCHAYA」アメリカから帰国した三島さんは、東京大学での研究・教育活動を経て、2015年にフォルクを設立。最初に手掛けたのは、出身地である八王子市の中心市街地にある「AJIROCHAYA」です。同郷で同世代の建築家、松葉邦彦さんからの誘いでした。
まわりの高層マンションの中に灯る「AJIROCHAYA」(画像提供/フォルク)
「『AJIROCHAYA』のまわりには高層マンションがたくさん建っています。周辺にはかつて専門店が並んでいたのですが、それらがどんどんなくなって高層マンションに建て替わっているんですね。依頼主は、明治時代発祥のお茶屋さんのオーナー。『高層マンションによる街の改変とは異なる、この街の文化を承継し創造していくような新しい場所づくりができないか』という問題意識から、プロジェクトが始まりました」(三島さん)
「AJIROCHAYA」がつくられる前は、前面に歩行者専用道路がありますが、シャッターが下りたお茶屋さんは、街に対して閉じた印象でした。そこで、三島さんは、街に面したスペースに庭をつくってパブリックスペースとしてまちに開放し、街の人が大きな木の下で道ゆく人たちを眺めたり、大きなベンチでくつろいだりできる、「街に開かれた庭」を提案しました。
三島さんが初期に提案したスケッチ(画像提供/フォルク)
駐車場に完成した庭。カフェなどのテナントも入り、ほっとできる場所に(画像提供/フォルク)
「意識したのは、街の人を受け入れる場所づくり。奥行42mの敷地は、前と後ろが歩行者道路に接していました。そこで、敷地内に、道路と道路をつなぐ路地(私道)をつくり、日中は、街の人が自由に通れるようになっています。通り沿いには、知らない人同士でも気詰まりなく座れる大きなベンチを宮大工さんと一緒につくって設置しました」(三島さん)
敷地の前面(右)は歩行者専用道路、奥(左)は甲州街道に接している。矢印部分を新しく通路にした(画像提供/フォルク)
以前は、通り過ぎるだけだった場所でくつろぐ街の人(画像提供/フォルク)
通路が抜け道になり、街に新しい人の流れができた(画像提供/フォルク)
改装中の蔵(画像提供/フォルク)
ajirochayaの現場で出会った八王子の宮大工、吉匠建築工藝。宮大工の技術を使って金輪継のベンチをつくってもらった(画像提供/フォルク)
職人さん・地域の人が一緒になって、園路に石を据えていく(画像提供/フォルク)
「AJIROCYAYA」では、コミュニティデザインもフォルクが手掛けています。例えば、施工中は、皆が愛着を持ってこの場所に関わっていけるように、園路の舗装も造園の親方に教わりながら、大学生・地域の人・テナントの人に協力してもらい、時間をかけてつくりました。オープン後の植栽管理については、「にわのひ」というイベントを行い、テナントの人や地域の人が一緒に手入れをする日を設けることを試みました。コロナ禍で休止していましたが、今後また開催していけたらと考えています。
社会を変えるソーシャルグリーンデザインとは三島さんは、一般社団法人ソーシャルグリーンデザイン協会の立ち上げに関わり、理事を務めています。ソーシャルグリーンデザインとは、緑で地域課題の改善と持続可能な社会を目指す、新しいデザインムーブメントです。
「ソーシャルデザイン(social:社会、design:計画)は、商業主義的、消費的なデザインに対し、社会貢献を前提としたデザインのこと。ソーシャルグリーンデザインは、それを緑を通じて実現しようとしています」(三島さん)
「緑=植物と狭く捉えるのではなく、緑は承継すべき都市の文化であり、新しい文化が生まれる素地であると考えています。『AJIROCHAYA』や『シモキタ園藝部』のコミュニティづくりに関わったのも、場所をつくって終わりではなく、いかに緑に関わる人を増やし、地域社会を育てていくかが、景観をデザインすること以上に大事だと思っているからです」(三島さん)
街づくりを学ぶ学生と地域住民をマッチング全国には、豊かな自然がありながら、うまく活用できていない地域がたくさんありますが、ソーシャルグリーンデザインは、地域課題を解決するひとつの方法になるのでしょうか?
「ソーシャルグリーンデザインと直接関係するプロジェクトではないのですが、地域住民と大学生とのマッチングをして、街づくりを学ぶ学生に実践の機会を提供するまちづくりワークショップ『PLUS KAGA』を石川県加賀市で2016年から行っています。日本全国で、人口減少などを背景とする身近な地域の課題が置き去りにされていることが多々ありますが、地域住民はそれらすべてをコンサルタントなどのプロに相談できるわけではない。一方、『大学で街づくりを学んでいるけど、自分で考えて実践する機会が少ない』、と感じている学生は少なくないように思います。地域住民と大学生が出会って、ともに地域課題に向き合う機会をつくってきました。その中で、地域と緑に関するプロジェクトもたくさん生まれてきました」(三島さん)
全国の大学から、延べ61名ほどの大学生が活動に参加。地域の人と一緒にプロジェクトを進めていく(画像提供/フォルク)
加賀市の水と緑の未来マップ(画像提供/フォルク)
「大学生が地域で活動を始めると、地域の人たちもアクティブになっていきます。この6年間で、地域の山や水辺の環境を再生するプロジェクトなど37ものプロジェクトが生まれました。デザインをする人だけじゃなく、行動できる人、関係をつくっていける人を育てていくことが重要です。九州や台湾など、さまざまなところから大学生が加賀市にきましたが、街に愛着が生まれて卒業後も通い続ける人も多くいます。街づくりは行政がやるというイメージを持たれがちなんですけど、ひとりひとりが街づくりは自分でできるんだと思ってもらえたら嬉しいですね」(三島さん)
社会問題を解決に導くランドスケープデザインを生かした街づくり。身近な癒やしの存在である緑が、ソーシャルイノベーションを起こす力があることに驚きました。三島さんは最近では福井県勝山市の建設会社と共に地域の遊休資源を活用した循環型の新規事業の立ち上げや、和歌山県田辺市の中山間地帯で地域と自然と連携した教育施設のランドスケープデザインなどを手掛けているとのこと。ますます持続可能な都市計画が求められる今、街の緑との関わり方も変わってきそうです。
●取材協力
株式会社フォルク
長期の育児休業中に、移住体験の制度を活用して北海道へのプチ移住を果たした私たち夫婦&0歳双子男子。
約半年間の北海道暮らしでお世話になったのは、十勝エリアにある豊頃町(とよころちょう)、上士幌町(かみしほろちょう)という2つのまち。
実際に暮らしてみると、都会とは全然違うあんなことやこんなこと。田舎暮らしを検討されている方には必見⁉な、実際暮らした目線で、地方の豊かさとリアルな暮らしを実践レポートします! 今回は上士幌町&プチ移住してみてのまとめ編です。
9月上旬から1月末まで滞在した上士幌町は、十勝エリアの北部に位置する人口5,000人ほどの酪農・農業が盛んなまち。面積は東京23区より少し広い696平方km。なんと牛の数は4万頭と人口の8倍も飼育されています。そして、十勝エリアのなかでも何と言っても有名なのが、「ふるさと納税」。ふるさと納税の金額が北海道内でも上位ランクなんです。そのふるさと納税の寄付を子育て施策に充て、0歳~18歳までの子どもの教育・医療に関する費用は基本無料、ということをいち早く導入したまち。子育て層の移住がかなり増えたことで注目を集めています。
町の北側はほとんどが大雪山国立公園内にあり、携帯の電波も届かない国道273号線(通称ぬかびら国道)を北に走ると、三国峠があり、そこからさらに北上すると、有名な層雲峡(上川町)の方に抜けていきます。
上士幌町の北の端、三国峠付近の冬のとある日。凛とした空気が気持ちよく、手つかずの国立公園が広がります(写真撮影/小正茂樹)
上士幌町にある糠平湖では、この冬から、完全に凍った湖面でサイクリングを楽しめるようになりました(上士幌観光協会にて受付・許可が必要)。タウシュベツ川橋梁のすぐ近くまで自転車で行くことができ、厳寒期しか楽しめないアクティビティ&風景が体感できます(写真提供/鈴木宏)
糠平湖上に期間限定でオープンするアイスバブルカフェ「Sift Coffee」さん。国道から数百メートル歩いた湖のほとりにて営業。歩き疲れた体に美味しいコーヒーが沁みわたります(写真撮影/小正茂樹)
上士幌町の暮らし。徒歩圏でなんでもそろうちょうどいい環境上士幌町は人口5,000人のまちで、中心となる市街地は一つ。この中心地に人口の約8割、4,000人ほどが住んでいるそう。ここにはスーパーがコンビニサイズながら2つ、喫茶店や飲食店もたくさんあります。そして、コインランドリーに温泉に、バスターミナルに……と生活利便施設がきっちりそろっています。中心地から少し離れると、ナイタイテラス、十勝しんむら牧場のカフェ、小学校跡地を活用したハンバーグが絶品のトバチ、ほっこり空間がすっごくステキな豊岡ヴィレッジなどがあり、暮らすには不自由はほぼないと言ってもいいと思います。
そして、なんと、2022年12月から、自動運転の循環バスが本格稼働しているんです! ほかにも、ドローン配送の実験など、先進的な取組みがたくさんなされているまちでもあります。実は上士幌町さんには、デジタル推進課という課があります。ここが中心となって、高齢者にもタブレットを配布・スマホ相談窓口が設置されています。デジタル化に取り残されがちな高齢者へのサポート体制をしっかり取りながら、インターネット技術を十分活用し、まちのインフラ維持、サービス提供を進めていこうという町としての取組みは素直にすごいなと感じました。
カラフルな自動運転バスがまちの中心地をループする形で運行。雪道でも危なげなく動いていてすごかったです(写真撮影/小正茂樹)
十勝しんむら牧場さんにはミルクサウナが併設。広大な放牧地を望める立地のため、牛を眺めたり、少し遅い時間なら、満点の星空を望みながら整うことができます(写真撮影/荒井駆)
ナイタイテラスからの眺めは壮観! ここで食べられるソフトクリームが美味しい。のんびり風景を楽しみながら、ゆっくり休憩がおすすめです(写真撮影/小正茂樹)
我が家イチ押しの豊岡ヴィレッジは木のぬくもりが感じられる元小学校。子ども用品のおさがりが無料でいただけるコーナーがあり、双子育児中の我が家にとっては本当にありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)
誕生会やママのHOTステーションなどさまざまな出会いの場が上士幌町では、移住された方、体験移住中の方などが集まる「誕生会」と呼ばれる持ち寄りのお食事会が月1回開催されています。毎回さまざまな方が来られるので、移住されている方がすごく多い、というのがよく分かります。移住して25年という方もいらして、移住者・まちの人、両方の視点を持っていらっしゃる先輩からの上士幌暮らしのお話は、すごく参考になることが多かったです。
毎月行われている移住者の集い、誕生会。12月はクリスマス会で、サンタさんから双子へもプレゼントが!(写真撮影/小正茂樹)
また、上士幌町といえば、我々子育て世代にとって、すごくありがたい取組みが「ママのHOTステーション」。育児の集まりの場合、子どもたちが主役になり、「子育てサロン」として開催されることが多いのですが、この取組みの主役は“ママ”。ママが子どもたちを連れて、ゆっくりしたひと時を過ごすことができる場を元保育士の倉嶋さんを中心に企画・運営されていて、今や全国的にも注目される取組みになっています。
実は、上士幌町で移住体験がしたかった一番の目的は、この「ママのHOTステーション」を妻に体験してもらいたかったこと、倉嶋さんの取組みをしっかり体感したかったことにありました。ほぼ毎週のように参加させていただいた妻は本当に大満足で、ママ同士の交流も楽しんだようです。ここでは、〇〇くんのママではなく、きちんと名前でママたちも呼び合い、リラックスムード満点の雰囲気づくりも素晴らしいなと感じました。妻は、「ママのしんどい気持ちや育児悩みを共有してくれて、アドバイスをくれたりするのがすごくありがたいし、同じような立場のママが集ってゆっくり話せるのは嬉しい。子どもの面倒も見てくれるし、ここには毎週通いたい!」と言っていました。こういった同じ境遇のお友達ができるかどうかは、移住するときの大きなポイントだと感じました。もっといろいろな同世代、子育てファミリーに特化したような集まりがあってくれると、更に安心感が増すんだろうなと思います。
ママのHOTステーションの取組みとして面白いところは、「ベビチア」という制度。高齢者の方が登録されていて、子どもたちの世話のお手伝いをしてくださいます。コロナ禍になり、遠方にいるお孫さん・ひ孫さんと会えず寂しい思いをしている高齢の方々などが登録してくださっていて、週1回の触れ合いを楽しみにしてくださっている方も。「子育て」「小さな子ども」というのをキーワードに、多世代の方がのんびり時間を共有しているのはすごくいいなと感じました。
ママのHOTステーションが開催される建物は温浴施設などと入り口が一緒になるので、自然発生的に多世代のあいさつやたわいもない会話が生まれていて、ほっこりします(写真撮影/小正茂樹)
乳幼児救急救命講習会にも参加できました。ベビチアさんたちの大活躍のもと、子どもたちの面倒をみていただき、じっくりと救急救命講習に参加できたことはすごくありがたかったです(写真撮影/小正茂樹)
上士幌町の移住相談窓口は、NPO法人「上士幌コンシェルジュ」さんが担われています。こちらの名物スタッフの川村さん、井田さんを中心に移住体験者のサポートを行ってくださいました。私たちも入居する前から、いろいろと根掘り葉掘りお伺いして、妻の不安を取り除きつつ、入居後もご相談事項は迅速に対応いただきました。
移住体験住宅もたくさん!テレワークなどの働く環境も私たち家族が暮らした移住体験住宅は、75平米の2LDKで、納屋・駐車スペース4台分付きという広さ。豊頃町の体験住宅に比べるとやや狭いものの、やはり都会では考えられない広さでゆったり暮らせました。住宅の種類としては、現役の教職員住宅(異動の多い学校の先生向けの公務員宿舎)でした。平成築の建物で、冬の寒さも全く問題なく、この住宅の家賃は月額3万6000円で水道・電気代込み。移住体験をさせていただくと考えると破格の条件かもしれません(暖房・給湯などの灯油代は実費負担)。今回お借りできた住宅以外にも、短期~中・長期用まで上士幌町では10戸程度の移住体験住宅が用意されています。ただ、本当に人気のため、夏季などの気候がいい時期については、かなりの倍率になるようです。ただし、豊頃町と同じく、上士幌町でもエアコンがないことは要注意。スポットクーラーはあるものの、夏の暑さはかなりのものなので、小さなお子さんがいらっしゃる場合は、ご注意ください。エアコンはもう北海道でも必須になりつつあるようなので、少し家賃が上がっても、ご準備いただけるといいなぁと思いました。また、ぜいたくな希望になりますが、食器類や家具などの調度品も比較的古くなってきていると思うので、一度全体コーディネートされると、移住体験の印象が大きく変わるのでは、と感じました。
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必要最低限の家具・家電付き。広めのお家やったので、めっちゃ助かりました(写真撮影/小正茂樹)
私たちの住まいになった住宅は、まちの中心からは徒歩10~15分ほど。ベビーカーを押して動ける季節には、何度も散歩がてら出かけましたが、ちょうどいい距離感でした。南側は開けた空き地になっていて、日当たりもすごくよくて、冬の寒い日も、晴天率が高いため、日光で室内はいつもぽかぽかになっていました。
一戸建てかつ納屋まで付いて、月額3万6000円とは思えない広々とした体験住宅。子育てファミリーにとっては、一戸建ては音の心配も少なく、すごく過ごしやすかったです(写真撮影/小正茂樹)
体験住宅の南側は空き地が広がっていて、本当に日当たり・風通しも良く、都会では到底体感できないすがすがしい毎日を過ごせました(写真撮影/小正茂樹)
また、私たちは育児休業中だったため使うことはなかったのですが、上士幌町さんはテレワークやワーケーションなどの取組みについてもすごく前向きに取り組まれています。
まず、テレワーク施設として「かみしほろシェアオフィス」があります。建設に当たっては、ここで働く都市部からのワーカーの方に向けて眺望がいいところ、ということで場所を選定されたそう。個室などもあり、2階建ての使い勝手の良いオフィスとなっています。
個人的に2階がお気に入り。作業で煮詰まったときに正面を見ると気持ち良い風景が広がり、リラックスできる環境(写真撮影/小正茂樹)
さらに2022年にオープンしたのが「にっぽうの家 かみしほろ」。この施設はまちの南側、道の駅のすぐ近くに位置しています。こちらは宿泊施設になりますが、1棟貸しを基本としていて、広々したリビングで交流や打ち合わせ、個室ではプライバシーをしっかり守りつつお仕事に没頭することなどが可能に。また、ワーケーション滞在の方のために、交通費・宿泊費などの助成制度も創設されたとのことで、これからさまざまな企業・団体の活用が期待されます。
にっぽうの家は2棟が廊下で繋がった形状。仕事・生活環境が整っていて、余暇活動もたくさん楽しめる場所で、スタートアップなどの合宿をしてみるのは面白いなと感じました(写真撮影/小正茂樹)
子育て層にとって、子どもの教育環境というのが移住検討するに当たってはかなり重要な事項となります。上士幌町では、「上士幌Two-way留学プロジェクト」として、都市部で生活する児童・生徒が住民票を移動することなく、上士幌町の小・中学校に通うことができる制度が2022年度から始まりました。この制度を使えば、移住体験中や季節限定移住などの場合も、お子さんの教育環境が担保されることとなり、これまでなかなか移住検討までできなかった就学児がいるファミリーも懸念材料の一つがなくなったこととなります。
十勝には質の高いイベントがたくさん! 起業支援なども盛ん半年ほど暮らしてみてわかったことはたくさんあったのですが、子育てファミリーとしてすごくいいなと思ったのが、「イベントの質が高く、数も多い」にもかかわらず、「どこに行ってもそこまで混まない」こと。子育てファミリーにとって、子どもを遊ばせる場所がそこここにあるというのはものすごく大きいなと感じました。
とよころ産業まつりでの鮭のつかみ取り競争のひとコマ(写真撮影/小正茂樹)
個人的にかなり気に入ったのが芽室公園で行われたかちフェス。広大な芝生広場を会場に、さまざまな飲食・物販ブースや、サウナ体験、ライブが行われていました。すごく心地よく長時間過ごしてしまいました(写真撮影/小正茂樹)
ママたちが企画・運営した「理想のみらいフェス」には3,000人を超える来場が。様々な飲食店やワークショップが並ぶなか、革小物のハンドメイド作家の妻も双子を引き連れて、ワークショップで出店していました(写真撮影/小正茂樹)
また、実際に移住して暮らすとなるとお金をどうやって稼ぐかというのもポイントになってくると思います。上士幌町では、「起業支援塾」が年1回開催され、グランプリには支援金も出されるなど、起業サポートも充実しています。また、帯広信用金庫さんが主催され、十勝19市町村が協賛している「TIP(とかち・イノベーション・プログラム)」というものも帯広市内で年1回開催されています。2022年は7月から11月まで。私も育児の隙間を縫って参加させていただきましたが、かなり本気度が高い。野村総研さんがコーディネートをされているのですが、実際5カ月でアイディア出しからチームビルディング、事業計画までを組み上げていきます。ここで起業を実際にするもよし、このTIPには多方面の面白い方々が参加されるため、横の繋がりが生まれたりし、仕事に繋がることもあると思います。
TIPでは、カーリングと美食倶楽部のビジネス化チームに参加しました。チームで体験会を実施して、カーリングの面白さを体感しました(写真撮影/小正茂樹)
また、こちらは直接起業とは関連がありませんが、「とかち熱中小学校」というものもあります。これは、山形県発祥の社会人スクールのようなもので、「もういちど7歳の目で世界を……」というコンセプト。ゴリゴリの社会人スクールというよりは、本当に小学校に近い仲間づくりができるアットホームな雰囲気。とはいえ、テーマは先進的な事例に取り組むトップランナーさんの講義や、地元の産業など。こちらも講師はもちろん、開催地が十勝エリア全般にわたるため、参加者の方もさまざまで、人間関係づくりにはもってこい。こちらには家族全員で参加させていただいていました。
2023年1月は豊頃町での開催。当日の講師は金融のプロとお笑い芸人というすごく面白い取り合わせの2コマの授業。毎回、双子を連れ立って授業を聴講でき、育児のよい気分転換にもなりました(写真撮影/小正茂樹)
農業に興味がある方は、ひとまず農家でアルバイト、というのもあります。どこの農家さんも収穫の時期などは人手が足りないケースが多く、農業の体験を通じて、地元のことを知れるチャンスが生まれると思います。私も1日だけですが、友人が勤める農業法人さんにお願いして、お手伝いさせていただきました。作物によって時給単価が違うそうなのですが、夏前から秋まで色々な野菜などの収穫がずっと続くため、いろんな農家さんに出向いて、農業とのマッチングを考えてみる、というのもありだと思います。
かぼちゃの収穫はなかなかの重労働でした。農作物によって、アルバイトの時給も違うそうで、なかには都会で働くより時給がよい場合もあるそう(写真撮影/小正茂樹)
今回、長期の育休を取得し、子育てを実践するとともに、自分のこれからの暮らし方を見つめなおせるいい機会が移住体験で得られました。2拠点居住は子どもができると難しいのではとか、地方で仕事はあるのかなどの漠然とした不安を抱えていましたが、「どこに行っても暮らしのバランスはとれる」ということも分かりました。
大阪の暮らしとは明らかに異なりますが、既に暮らされている方々に教えてもらえれば、その土地土地の暮らしのツボが分かってきます。個人的には、地方に行くほど、システムエンジニアやクリエイターさんたちの活躍の場が実はたくさんある気がしています。こういう方々が積極的に暮らせるような仕組みづくりが出来ると、自然発生的に面白いモノコトが生まれてきて、まちがどんどん便利に面白くなっていくのではないかなと感じました。
我々家族としては、今後2拠点居住を考えていくにあたって、我々1歳児双子を育てている立場として重視したいポイントもいくつか判明しました。それは、「近くにあるほっこり喫茶店」「歩いていける利便施設」があることです。双子育児をするに当たって、双子用のベビーカーって重たくて、小柄な妻は車に乗せたり降ろしたりすることはかなり大変。さらに双子もどんどん重たくなっていきます。そう考えると、私たち家族の現状では、ある程度歩いて行ける範囲に最低限の利便施設があったり、近所の人とおしゃべりができる喫茶店があったりするのはポイントが高いなと妻と話していました。
我々夫婦の趣味がもともと純喫茶巡りだったこともあり、気軽に歩いて行ける範囲に1軒は喫茶店が欲しいなぁと思いました(写真撮影/小正茂樹)
今回、長期育休×地方への移住体験という新しい暮らし方にトライしてみて、憧れの北海道に実際暮らすことができました。これまで漠然とした憧れだった北海道暮らしでしたが、憧れから、より具体的なものになりました。また、たくさんの友人・知人や役場の方との繋がりもでき、仕事関係についても可能性を感じられました。
子どもが生まれると、住むまちや家について考えるご家族は多いのではないでしょうか。育休を機会に、子育てしやすく、親たちにとっても心地よいまち・暮らしを探すべく、移住体験をしてみるのは、より楽しく豊かな人生を送るきっかけになると思います。10年後には男性の育休が今より当たり前になり、子育て期間に移住体験、という暮らし方をされる方がどんどん登場すると、地方はより面白くなっていくのではないかなと感じました。
家族みんなの、より心地よい場所、暮らしを移住体験を通じて探してみませんか? いろいろな検討をして、移住体験をすることで、暮らしの可能性は大きく広がると思います。
移住して1カ月ほど経過した時の写真。これからもこの子たちにとっても、楽しく、のびのび暮らせる環境で育ててあげたいなと思います(写真撮影/小正茂樹)
●関連サイト
上士幌町移住促進サイト
上士幌観光協会(糠平湖氷上サイクリング)
上士幌町Two-way留学プロジェクト
十勝しんむら牧場ミルクサウナ
ママのHOTステーション
かみしほろシェアオフィス
にっぽうの家 かみしほろ
理想のみらいフェス
十勝イノベーションプログラム(TIP)
とかち熱中小学校
かちフェス