
8万円 / 18.19平米
東西線「早稲田」駅 徒歩5分
細い路地の奥。もさもさと茂る緑に囲まれ、隠れ家のような雰囲気の建物。ミニマルなサイズで、コロンとした形がかわいらしいです。
物件は、その1階にある小さなワンルーム。
約7畳の部屋にキッチンと玄関。実質5畳の部屋に暮らすようなコンパクトさ。備え付けの収納もコンパクトで、ミニマリ ... 続き>>>.
圧倒的に不動産情報が多いですが。。。。
サウナを愛してやまない“サウナー”たちの夢といえば、自宅にサウナを設置する「プライベートサウナ(自宅サウナ・おうちサウナ・ホームサウナ)」ではないでしょうか。今回は、プライベートサウナ・業務用サウナを取り扱う株式会社メトスの佐野貴司さんに、サウナの最新事情や、サウナーの夢をかなえるプライベートサウナ設置のための価格と工期、注意点などを伺いました。
“自宅サウナ”を設置したい! どうしたらいいか聞いてみた年齢や性別などを超えて、サウナを満喫する人が増えています。ただ、コロナ禍でサウナブームが加速したこともあり、温浴施設のサウナが密になるのが気になったり、時間制/抽選制になったりして、思う存分楽しめない、もっと自由にサウナを楽しみたい、と考えている人は多いことでしょう。
そんなストレスが無用なのが、“自宅サウナ”です。このところ、サウナがついている物件やサウナを導入した人のご自宅などを紹介しましたが、今回はよりつっこんで、サウナを設置するにはどうしたらいいか、サウナ市場の動向について聞いてみました。
サウナ愛好家の推定人口推移。世の中の動向に左右されず、コアなサウナラバーがいることがわかります(画像出典/日本サウナ・温冷浴総合研究所)
「日本のサウナ実態調査2022」(一般社団法人 日本サウナ・温冷浴総合研究所調べ)より。2021年はコロナ禍で気軽に楽しむ「ライトサウナー」は減りつつあるものの、ヘビーサウナー、ミドルサウナーのコアな「サウナラバー」は減ってはいません。
予算は135万円(別途工事費)。約1平米から設置でき、施工は1~2日で完了!サウナブームといわれる今、自宅サウナの事情はどのようになっているのでしょうか。株式会社メトスの佐野貴司さんはこう話します。
「サウナは2000年代よりずっとブームといわれているんですが、コロナ禍により温浴施設の自粛や時短営業が続出。また、昨今は電気代などの高騰により温浴施設は苦境が続き、閉鎖するところもでてきています。そのため、温浴施設でサウナを楽しんでいた人が、『プライベートサウナ』の導入を考えることとなり、ニーズが激増している状況です」
メトスの小規模なサウナ「クリマ」。自宅で一人サウナに入るって、ぜったい至福のひととき!!(写真提供/メトス)
「弊社のサウナでは、灼熱したサウナストーンに直接水を注ぎ、爽快なロウリュの醍醐味を味わうことができます。ストーブはコンパクトな設計ながら、熱の対流を促進させるよう工夫されています。ベンチレイアウトも[ストレート][対座][L型]など多彩なものがあります。今や自宅サウナは特別なものではありません。必要な予算、スペースや設備ですが、もっとも小さい一人用であれば、本体代135万円~、広さは約1平米、電源は単相200V、100Vがあれば設置できます。施工そのものは、1~2日で終わりますよ」とのこと。
サウナといえばもっと大掛かりなものを想像していましたが、拍子抜けするほど「できそう」な感じがしてきました。ちなみに、これは一戸建て、マンションともに共通だといいます。
自分好みのロウリュ(ストーブの上で温められたサウナストーンに水やアロマ水を掛けて蒸気を発生させる入浴法)ができるのもプライベートサウナの楽しみ(写真提供/メトス)
一人用サイズのサウナ・クリマ。コンパクトで設置しやすいのも魅力(写真提供/メトス)
ランニングコストは電気代で1カ月あたり数千円台。カギは冷水浴と“ととのい”スペース!気になるプライベートサウナのランニングコスト、メンテナンスについても聞いてみました。
「お風呂とサウナのエネルギーコストを比較した場合、サウナのエネルギーコストはすごく少なくて済むんです。お風呂は水をお湯にしますが、そのエネルギーと比較して、サウナは使うエネルギーが約3分の1で済むといわれています。サウナの場合、壁面からくる輻射(ふくしゃ)熱が8割となるため、省エネでもあるんです。地域ごとに電気代も違うので、一概には言えませんが、一般のご家庭で毎日のようにサウナに入られている方でも、サウナの電気代は月々3,000円程度しかかかっていないとおっしゃる方がほとんどです。温浴施設の利用料金として考えると、2回分くらいでしょうかね。また、使用後は使用部分を拭いておき、扉をあけておけばOK。換気や消毒などのお手入れは特に不要です」となんとも心強い回答です。
同社のサウナを導入している人には、一般家庭はもちろん、スポーツ選手や俳優、有名企業幹部など、多忙を極めていそうな人も多くいるそうです。ちなみに、メトスのサウナ愛用者には、浴槽を導入せずにシャワー&サウナというご家庭もあるのだとか。
(写真提供/メトス)
余談ですが、筆者はお風呂の掃除が大の苦手で、浴槽のお手入れの大変さを考えると、シャワー&サウナの選択肢も十分「アリ」な気がします。ちなみに、サウナ設備の寿命は20年~30年ほど。「10年に一度は電気点検が必要ですが、20年ご愛用いただいているご家庭もあります。問題なく使えています」と佐野さん。点検の必要性も含め、システムバスと同じような耐用年数ですね。
一方で、自宅で“ととのい”をかなえるために、「サウナの設置以上に大切になる」のが「ととのいスペース」だといいます。
「プライベートサウナを設置するのは難しくないのですが、サウナの近くに冷水浴や外気浴・休憩ゾーンがなければ、交互浴ができず、ととのわないんですよ……。ご家庭の場合、脱衣所に扇風機と椅子を置く、お風呂に冷水を入れて交互浴をするなどで対応する人が多いでしょうか。サウナ単体だけでなく、『冷水浴』『ととのいスペース』も含めて考えてほしいですね」(佐野さん)
調光式LED照明。間接照明になっているので柔らかい光がじんわりと広がります(写真提供/メトス)
また、「ととのいスペース」は、水滴が落ちるため、こちらのほうが掃除やお手入れが重要になるかもしれません。個人的にはととのいスペースで「空が見たい」と思い描いていましたが、今の家の動線を考えると現実的ではないかな……。ただ、自宅の庭やバルコニーを「ととのいスペース」にうまく活用できれば、きっと理想のサウナができることでしょう。
「PSEマーク」をチェック、ノウハウのある施工会社に一方で、メトスの佐野さんは、加熱するサウナブームでぜひ注意してもらいたいことがあるといいます。
「近年、さまざまな企業や個人が『プライベートサウナ』『DIYサウナ』を取り扱うようになりました。なかには『●万円でできる』と価格を全面に訴求しているところ、法令についてよくわかっていないのではないかと不安になる企業も参入しています。ただ、サウナはその性格上、裸で熱源にあたります。もし火が出てしまったら大やけど、漏電・火災になれば、自分だけでなく周囲にお住まいの人の生命・財産にも関わります。電気用品安全法上、認可された『PSE』マーク付きのサウナであるか確認することをお勧めします。
設置・施工の際にも、技術的知見はもちろん、関係法令や地域ごとの条例にも精通している企業にお願いすると安心ですね」(佐野さん)
サウナを選ぶときには、PSEマークを確認して(画像提供/メトス)
●取材協力
メトス
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おうち時間が増えたコロナ禍で「自分だけの空間を持ちたい」と、タイニーハウス(小屋)が注目を集めています。「小さな空間、大きな時間」をコンセプトに開発された、BESS(ベス)のログ小屋シリーズ「IMAGO(イマーゴ)」も然り。わずか9.8平米、約6畳という狭さが落ち着くと、販売数を増やしています。さらに、車両扱いという“走るログ小屋”なるものも登場しました。それぞれの小屋ライフをとことん楽しむ、ユーザーの声も聞きました。
10平米弱のログハウスをつくった背景は?ログハウスの小屋「IMAGO」が誕生したのは2016年10月のこと。BESSを手がける(株)アールシーコアの木村伸さんと松島綾子さんは、この10平米弱の小屋をつくった背景をこう話します。
「BESSはもともとログハウスからスタートした会社。吹き抜けやデッキやロフトといった、遊びの基地のような楽しい空間がある、“家は、暮らしを楽しむための道具だ”という考え方です。住宅に関する法的な基準が厳密になっていく昨今、一度『家』という概念を取っ払ってみようと。原点に立ち返り、ブランドとしての小屋を提案しようという背景から生まれたのが、このIMAGOです」(木村さん)
横長のIMAGO[R]、正方形に近いIMAGO[A]の2タイプとも、広さは10平米弱(写真提供/BESS)
IMAGO[R][A]には“建てるログ小屋”というキャッチコピーが(写真提供/BESS)
「IMAGOはぜひセルフビルドを楽しんでほしいと、キットで販売することを決めました。ログ材は、厚さ7cm×14.5cmの14段積みです。実は2006年に一度ログ小屋を開発したことがあるのですが、当時のログ材は厚さ11cmでセルフビルドするには重く、大変だったのです。また面積は、10平米以上になると建築確認申請が必要になる(※防火地域・準防火地域以外の敷地の場合)ことから、10平米を超えない広さとしました」(木村さん)
IMAGOには、ウッドデッキなどで自然いっぱいの外の空間と一体化して楽しむ[R=レセプター型]、農園など、目的の空間に置くことでその場の活用を仕掛ける[A=アクティベータ型]という形違いの2タイプあり、ともに畳数でいえば約6畳。ほどよいコンパクト感で、暖かみのあるログ空間の中、釣りやキャンプなどの道具を置いてメンテナンスしたり、クラフトや楽器などの趣味を楽しんだり。リモートワークが多い人なら仕事部屋としても使えそうです。
好きな色に塗装して。離れや趣味小屋にももってこい(写真提供/BESS)
小屋の販売数は増加中。セルフビルドにトライする人もほかにも、実際に購入された方はどんな楽しみ方をしているのでしょう?
「趣味を楽しむところとして活用される方が多いですが、友人家族を招いて過ごすとか、お子さんの二段ベッドを置いてときどきそこで寝泊まりするというお話も聞きます」(松島さん)
ちょっと非日常の体験ができそうで、想像しただけでワクワクします!
さらに、教室を開いている方や、洋菓子や花の販売スペースとして使っている方もいるそう。また法人が複数購入し、宿泊施設やペットホテルにしているケースもあるようです。
プリザーブドフラワーショップとして活用しているケースも(写真提供/BESS)
(写真提供/BESS)
(後述する可動式に対して)この固定式IMAGOは、2018年に80台、コロナ禍に突入した2019、20年にはそれぞれ110台超を販売。2021、22年はそれぞれ150台近くと、販売数を伸ばしています。自宅で過ごす時間が増えたことで、ログ小屋での新しい暮らしの楽しみ方が広がっているといえそうです。
「ユーザーの方などは結構セルフビルドされている印象が強いです。動画付きのマニュアルを用意しているので、どなたでも自作していただけます。期間の目安としては、2人以上で毎日作業すれば2週間ほど。雨さえしのげれば慌てなくてもいいので、週末ごとに作業して、1カ月ほどで完成させる、という方が多いようです」(木村さん)
自分で、または家族や仲間とチャレンジすれば、きっと愛着もひとしおでしょう!
桑原さんはIMAGOを離れとして活用。柿の木に吊るしたブランコとあいまって、楽しげな雰囲気(撮影/窪田真一)
それでは実際にIMAGOでの小屋時間を楽しんでいるユーザーさんにお話をうかがってみましょう。
長野県安曇野市で八百屋を営む桑原さんは、家族4人暮らし。ログ小屋の前にはバイクやバギーが置かれ、秘密基地のような雰囲気がヒシヒシと伝わってきます。
もともと小屋には興味があったのでしょうか?
「うちは敷地が250坪と結構広いんです。土地を買うとき、ここ全部買ってくれたら坪単価を安くするよと言われ、じゃあ、と。5年ほど前の春にBESSで自宅を建てて、同じ年の11月、バイク旅の帰りに展示場に寄って、お世話になった担当者に新しいバイクを見せようと思ったら、セルフビルドできる小屋が発売になるという話を聞きまして。ちょうど庭に東屋を建ててそこでBBQでもしたいな、と思っていたから、東屋より小屋の方がおもしろいじゃん!俺つくる!とすぐ予約しました」
6畳の空間は、高校生の頃から集めていたお気に入りでいっぱい(撮影/窪田真一)
ログ小屋をセルフビルドできるところに惹かれたという桑原さん(撮影/窪田真一)
もともと古いバイクやビンテージ家電を直すのが好きという桑原さん。ログ小屋もひとりで、なんと2週間ほどでつくり上げてしまいました。
「ツリーを置きたいから、クリスマスまでに完成させたい一心で。夜にトンカンやっているとご近所迷惑なので、仕事が終わって17時から19時までを作業時間と決めて夢中でやりました。夢中になれば、なんだってできるものですよ」
7cm厚のログ材で組み立てた小屋。塗装は家族みんなで(撮影/窪田真一)
お風呂みたいな“おこもり”感もあり、視界が広がる開放感もありログ小屋の中におじゃますると、カラフルな自転車にミニバイク、発電機、チェーンソー、レトロな看板、ファミコンまで、桑原さんの“好き”がぎゅぎゅっと詰まっていて、約6畳の空間がおもちゃ箱のよう。陳列の仕方にもセンスを感じますが、どれも飾りではなく、すべて桑原さんが手を入れて使えるように修理済み。
「昔は売ります・買います情報が載っている雑誌でお気に入りを見つけては入手していました。物置にしまってあったそれらの雑貨をひっぱり出して並べてみたら、すごくいい感じ!ようやく日の目を見たと感慨深かったです」
完成当時は、お子さんとここで絵本を読んで過ごすのが習慣だったとか。
「母家に置いてある絵本から好きなのを選んで、わざわざ小屋に持って行って読むんです。おんぶして行ったりね。寒いけど小屋の薪ストーブにみんなで薪を入れてあっためて。キャンプとまではいかなくても、ちょっと場所が変わるだけでなんだかワクワクするし、小屋で過ごした時間は子どもたちとのいい思い出になっています」
小屋はまさに、桑原さん一家の特別な時間を生み出す場所になったのです。
入口には一間分タイルを敷いてエントランススペースに(撮影/窪田真一)
小屋の中央には、沖縄の米軍の家具屋で見つけてカバーを張り替えたという赤いソファをレイアウト。そこに座ってハーッと肩の荷を下ろしてリラックスするのが、桑原さんのいつもの過ごし方です。
「僕にとって小屋はお風呂のようなもの。ある程度狭くて、好きなものに囲まれてこもれる密閉空間は、湯船みたいに安心できる。一方で、サッシを開け放てば、デッキの先に庭が見えて、視野が広がる感じ。これは家以上の開放感です。バンのバックドアを開け放し、腰かけて海を見ながらおにぎりを食べるときみたいな、気持ちのよさを感じます」
狭さと広がり。その両立が、この小さなログ小屋の大きな魅力でもあるのです。
サッシを開けると、ウッドデッキとの一体感で実際の面積以上の広がりを実感。「季節が変われば季節の空気を感じ、雨が降れば雨を眺めています」と桑原さん(撮影/窪田真一)
ソファに座れば、庭の向こうに母家が見え、リビングにいる家族の姿をここからぼーっと眺めるのが好きだという桑原さん。逆にリビングから見る小屋も素敵なのだとか。
「タイマーで暗い時間だけ小屋の間接照明が点く仕組みにしているんです。暖かいライトがうっすらと光って、夜の眺めがまたいいんですよ」
音楽を聴きながら何も考えずに過ごすのが至福のとき。沖縄の楽器・三線(さんしん)もときどき練習中(撮影/窪田真一)
最後に、安曇野の冬は氷点下になることも多いですが、薪ストーブのおかげで小屋の中はぽかぽかでした。薪ストーブは最初から計画して設置し、小屋の完成後、あとから床と天井に断熱材も入れたのだそう。
「自作したから知識がついたんです。あとでここ直したいなと思っても、プロの大工さんに依頼したとしたら『またお金かかっちゃうな』だけど、一度つくった経験があるから直し方がわかる。もちろんお金もかからない。自分の八百屋の増築までできるようになっちゃった(笑)。苦労してつくる、面倒くさいのが楽しいんです。想像はどんどんふくらみます」と、つくるを楽しむスタイルがとても印象的でした。
薪ストーブがログ小屋によく似合います(撮影/窪田真一)
母家(写真左)と小屋の距離感もいい感じ。今後は家族で乗れるブランコを庭につくる計画も(撮影/窪田真一)
住宅の枠を飛び出して。車輪が付いた“動くログ小屋”で旅へ!?これまで見てきた“建てるログ小屋”に対し、“走るログ小屋”IMAGO iter(イマーゴ イーテル)、“移るログ小屋”IMAGO X(イマーゴ エックス)も登場しています。発売は2021年10月。国産ログ材を使った、どっしりとした外観が目を引きます。
見ての通り、車輪がついていて車で牽引(けんいん)するタイプの小屋(写真提供/BESS)
IMAGO iterは木屋根と幌屋根の2タイプ。木屋根は三角屋根がかわいらしく、写真の幌屋根は採光性に優れています(写真提供/BESS)
「たとえば農地や、防火などの建築条件で、これまでそのままでは建てられなかった場所に『置ける』、車両扱いのログ小屋です。コロナ禍の状況を受けて、もっといろんな場所で小屋を楽しもう、というアプローチにしたらおもしろいんじゃないかと」とBESS木村さん。
建築基準法に代わって道路運送車両法に準拠した、車両タイプのログ小屋。自分の車で牽引できる、つまり思い立ったらどこにでもログ小屋を連れて行って設置できる、という発想です。
釣り道具を乗せて海へ、キャンプをしに大自然の中へ、星を見に天文台の小屋を走らせて。好きなときに好きなところで、好きなものと過ごせる時間と空間は、なんと自由で贅沢なことでしょう。
IMAGO iterの走行風景がムービーで見られます(映像提供/BESS)
車両だからこそ、さまざまな場所に出向いてワークショップを開催したり、移動スタジオや災害時の仮設住宅といった使い方も(写真提供/BESS)
7cm厚の国産杉が暖かみを感じさせます。Xの天井は、ログハウスらしい斜め屋根(写真提供/BESS)
気軽に動かして、どこでも自由に小屋ライフを楽しめる可動タイプのIMAGOはセルフビルドはできないものの、無塗装での引き渡しのため、自分好みに塗装を楽しむことが可能です。
Xは広さ約7畳とゆったり。iterは約4畳とコンパクト。どちらも牽引に使われるシャーシ(車台)から考えられたサイズです。
牽引するには、牽引自動車第一種免許と中型SUV(Xは大型SUV)以上の車が必要です。そう聞くとなかなかハードルが高く感じますが、可動式のメリットはなにより「動かせる」こと。
たとえば、庭に置いたログ小屋の場所を移動させる。季節に応じて向きを変えてみる。模様替えのように気軽に動かせば、窓から見える景色も新鮮に映るはず。公道を走る牽引はせずとも、固定式よりもはるかにフレキシブルな使い方ができそうです。
なお、ちょっとした移動なら、別売りのドーリー(ボートなどの牽引に使う器具)があれば牽引車がなくても手動でもできます。今後は、リモコンタイプのドーリーの販売もBESSで計画中だとか。
幌屋根タイプは小屋とは思えない明るさ。四方に窓があり、視界も風通しも良好です(写真提供/BESS)
可動式の魅力は、キャンプ場など自然の中のコテージとして設置すれば、夏は水辺に、秋は紅葉のそばに、イベントがあれば一同に集めて……と、季節や目的に合わせてベストポジションで楽しめること。小さな駐車場や庭など、建築ができない街なかには、コーヒースタンドやスイーツ専門店などの小規模店舗として。農園の近くに設置すれば、ふだんは休憩所に、収穫期には直売所として利用できます。
山梨県の花農家がつくった静かなキャンプ場では、IMAGO Xをキャビンとして利用しています(写真提供/moss camp field)
(写真提供/moss camp field)
実際にこれまで販売した約40台は、店舗やコテージとして使われるケースが多いそう。高速道路のサービスエリアに洋菓子店として出店したり、湖畔のキャンプ場に10台ほど並べたり、また鉄道の高架下でのイベント時には、受付ブースとして使用したことも。
「小屋を子ども部屋にするというケースもあると思いますが、子どもが成長して独立したとき、その小屋を持たせてあげる、なんていうことも不可能ではありませんよ」とBESS松島さん。小屋を「動かせる」ということは、そんな可能性も広がっていくのです。
自宅、固定式小屋に続いて可動式小屋も設置。「ここは遊ぶ部屋」アトリエの看板はご主人のお手製(写真提供/BESS)
可動式小屋を購入した岐阜県のKさんご夫妻にもお話をうかがってきました。
ご自宅をBESSで建て、さらに上の写真からもわかるように、固定式のIMAGOの姿も。
「そう、これで3つ目なんです。もともとキャンピングカーやトレーラーが好きで。ログ小屋を牽引していろんなところに行けるというのがおもしろいなぁと思って、興味を持ちました」とKさん(夫)。
展示場で紹介され、木屋根タイプのIMAGO iter(イーテル)を購入。本体価格の386万1000円に加え、納車費用、設置費用、車検取得費用などで60~70万円ほどだったそうです。
先に導入した固定式のものは、お2人が愛用するキャンプ道具や自転車、冷蔵庫などを置く小屋として活用。ときどきそこで食事をすることもあるそうで、「外ではないけれど、家の中とも違う。アウトドア感覚で過ごせるんです」とKさん(妻)は言います。
小屋にタイヤが付いていて、車両というのがわかります。前後にはナンバーも(写真提供/BESS)
一方、可動式の方は、車両ゆえ基礎はいらず、出入りのためのデッキは自分たちで製作。こちらは主にKさん(妻)が、離れの個室のように使っているのだとか。
「1日の大半はここで過ごしています。趣味のペーパークラフトをつくったり、音楽を聞いたり、友人とお茶したり。ベッドはマッサージ機能が付いているので、横になってリラックスしたりしています」とKさん(妻)。
居心地よくて寝てしまいそうですね!
「夜ここに泊まることもありますよ。星がすごくきれいなんですよ。デッキでお酒を飲みながら星を眺めて。アウトドアの延長みたいな感じかな。庭先でBBQもできるから、外で食べたり、小屋で食べたり、自由にくつろいでいます」
目の前にはBBQを楽しめるスペースが(写真提供/BESS)
小屋があることで、新たなコミュニティが生まれた思ってもみなかった反響は、設置した場所とも関係がありました。
「いずれ出しやすいところにと思って、道路に面した庭先に置いたのですが、近所の子どもたちが遊びに来るようになったんです。よちよち歩きの子はハシゴをつたってデッキに上がるのが楽しいみたいで。ママさんたちにはコーヒーセットを用意しておいて、『お茶してきー』って。自宅の方はやっぱり用事がなければピンポーンって来ないじゃないですか。こっちも掃除しなきゃとか思って気軽には呼べないし。小屋はすごく気楽なところ。デッキに座っておしゃべりすることも多いですよ」とKさん(妻)は言います。
タイヤの付いたログ小屋の存在自体、大人も子どもも興味を持ってしまいますよね。
「見ず知らずの方も通りかかると気になるみたいです。何するところですか?と聞かれるので、遊ぶ部屋だよって答えています」
約4畳のスペースにベッドやテーブルを配置。「無垢材のおかげか、日が入ると冬でも暖かく、夜も寒くない」とKさん(妻)(写真提供/BESS)
ログ小屋を牽引して、日本一周の旅を計画中ギターが趣味というKさん(妻)、最近はカリンバも始めたとか。ログ小屋で演奏することもあるそうで。
「昨年の夏、音楽仲間とここで演奏会をしたんです。デッキをステージにして、庭にお客さんを呼んで。すごく楽しかったので、またやりたいなと思っています」
動かせるログ小屋だからこそ、いろいろな場所でも演奏会ができそうですね。
現在のところまだ動かしていないログ小屋ですが、実は今年の春にはご夫妻そろって牽引自動車第一種免許を取得する予定だとか。そして2~3年のうちに、このログ小屋を引き連れて、日本一周をする計画があるというから楽しみです!
「これまで何十年と、ワンボックスカーに乗ってあちこちにキャンプに行っていました。ここはくつろげるしベッドで寝ることもできるから、快適な旅ができそうです」
ご夫妻とワンちゃん、猫ちゃんも連れてのログ小屋の旅、ぜひレポートを待ちたいと思います。
ペーパークラフトなど多趣味なKさん(妻)。ワンちゃんもログ小屋がお気に入り(写真提供/BESS)
IMAGOのクラフトもKさんの手づくり!ちゃんとBのロゴ入りです(写真提供/BESS)
つくる喜びを満たしてくれる小屋と、好きなところで好きなことを楽しめる小屋。小さなスペースだからこそ、ひとり時間を存分に楽しんだり、気軽に外とつながれたりする。そんな小屋があることで、第三の場所としての空間だけでなく、豊かな時間まで生まれるのだなと感じました。
BESSでは今後サウナ小屋のリリースも計画中だとか。ログハウスとサウナは相思相愛、しかも可動式。小屋の広がり、これからも目が離せそうにありません。
●取材協力
BESS(株式会社アールシーコア)
IMAGO
住宅金融支援機構が発表した「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」によると、増加していた「変動型」の利用者が減少に転じたという。それでもなお、約7割が変動型を利用している。金利が上昇した場合、変動型を利用していても問題はないのだろうか?
【今週の住活トピック】
「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」を発表/住宅金融支援機構
まず、住宅ローンの金利タイプについておさらいしておこう。35年などの返済期間を通して金利が固定される「全期間固定型」、当初の3年や5年、10年などの選択した一定期間だけ金利が固定される「固定期間選択型」、半年ごとに金利が見直される「変動型」の3タイプがある。今のような低金利の局面において、全期間固定型は変動型よりも金利が高く設定されている。
次に、調査対象者や時期を確認しよう。調査対象は、2022年4月~9月の間に住宅ローンを借りた1500件で、調査は2022年10月~11月に実施された。金融緩和策を維持してきた日本銀行が、長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げ、実質の利上げかといわれたのが、2022年の年末のこと。これにより、いよいよ金利上昇が現実的になってきたと指摘されたのだが、これよりも前に住宅ローンを借りた人に調査を実施したことになる。
では、調査結果を見ていこう。今回の調査で注目されたのは、「変動型」が減少したこと。代わって「固定期間選択型」や「全期間固定型」が増加した。それでも、69.9%が変動型を選んでいる。やはり、変動型の低金利に魅力を感じるということだろう。
利用した金利タイプ(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」)
低金利のメリットを活かしたい人が多いなか、金利の上昇リスクを抑えたいと考えて、全期間固定型や固定期間選択型を選んだ人が以前より増えたのだろう。
実際に「今後1年間の住宅ローンの金利見通し」を聞いた結果は、「現状より上昇する」が41.7%になり、前回調査(2022年4月調査)の39.2%よりわずかに増えた。特に、全期間固定型を選んだ人では、上昇するという回答が、前回の45.1%から今回の52.7%に増加している。変動型より金利は高く設定されているものの、低金利のいまのうちに全期間の金利を固定してしまおうと考えた人もいたのだろう。
変動型を選んだ約7割のなかでも、金利上昇に強い人、弱い人がいる調査時期よりも現時点のほうが、金利上昇が現実的になっている。実際に、全期間固定型の代表となる【フラット35】の最頻金利※は、2023年3月時点で、5カ月連続で上昇した。変動型はまだまだ金利が上昇する気配はないが、長期に金利を固定するものは少し上がっているのだ。
※※最頻金利とは、取扱金融機関が提供する最も多い金利のこと
つまり、これから考えるべきリスクは金利が上昇することで、利息が増え、毎月の返済額(ボーナス時加算も併用していればその返済額も)が増えてしまうことだ。返済額が増えても、家計に支障がない人もいれば、それによって返済が難しくなる人もいるだろう。
まず気になる点、その1は「融資率」だ。住宅価格(注文住宅なら建築費用)の何割を住宅ローンで充当するかで、頭金を1割入れていれば、9割が住宅ローンとなる。調査結果を見ると、変動型を選んだ人が最も多いのが「90%超100%以下」ということだ。さらに「100%超」つまり、住宅価格だけでなく諸費用分まで借りた人でも、変動型を選んだ人が多いのも気になる。
融資率(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」)
融資率90%超で変動型を選んだ理由が、低金利の変動型でなければそこまで借りられなかったという人は、要注意だ。
例えば、毎月12万円の返済(年間返済額144万円)で住宅ローンを35年返済で借りるとする。変動型(金利0.45%で試算)なら、借入可能額は4662万円だが、全期間固定型(金利1.45%で試算)なら借入可能額は3950万円に下がる。毎月12万円の返済で4500万円を借りたい場合は、変動型などの低金利のものしか選択できないということになる。
もちろん、月々の家計に余力があれば、金利上昇に伴う返済額の増加の影響は少ない。その意味では、気になる点、その2は「返済負担率」となる。返済負担率とは、年収に対して年間の住宅ローンの返済額が何%になるかを表すものだ。
一般的に住宅ローンでは、年収が高くなるほど、高い返済負担率でも借りられるようになる。例えば、先ほどの事例(毎月返済額12万円)では、年収600万円の人なら、返済負担率は24%なので問題はない。これに対して、年収400万円の人だと返済負担率が36%まで上がるので、金融機関側から借入額を減らして毎月の返済額を抑えるように求められることになる。
返済負担率(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」)
調査結果を見ると、多くの人が返済負担率10%超から25%以内の安全圏で借りている。が、年収400万円以下の人で返済負担率25%~30%だったり、高年収でも支出の多い家計で返済負担率が35%超だったりすると、支出の削減が難しい場合もあるので、金利上昇に伴う返済額の増加の影響が大きくなるだろう。
金利上昇リスクに対して具体策をもとうそして最も気になる点、その3が「金利上昇リスクへの対応を考えていない」場合だ。調査結果を見ると、変動型を借りている人で、金利上昇で返済額が増加した場合の対応について「見当がつかない、わからない」という人が20.7%もいる。
金利上昇に伴う返済額増加への対応(出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」)
資金に余力があって、返済を継続できる(31.6%)、全額完済できる(13.6%)なら問題はない。また、「一部繰り上げ返済をする」(24.5%)という人も多いのだが、元金の一部を繰り上げて返済するので、そのための資金が必要になる。「借り換え」(9.0%)も同様で、相応の諸費用がかかる。貯金に余裕がなくて融資率9割超という人には、難しい対応策かもしれない。
また、金利上昇のために変動型から借り換える場合、借り換え先の金利も上昇しているはずだし、一般的に変動型よりも先に長期間金利を固定するタイプが上がっていくので、金利上昇に気づいたときには、すでに借り換え先の金利も上がっていてリスク回避の効果がないという場合もあるだろう。
変動型は金利が上昇しても急激に返済額は増えないけれど…急激に金利が上昇したバブル期のときに導入されたのが、変動型の5年ルールだ。急激に返済額が増加するのを抑えるために、金利が上昇して利息が増えても、返済額の設定見直しは5年おきとし、返済額を増やす場合でも1.25倍までに制限するというもの。今でもこのルールを適用する金融機関は多い。
したがって変動型で金利が上昇した場合でも、このルールによって、急激に返済額が増える事態にはならない。しかし、返済額が増えないだけで、支払うべき未払い利息は残る。元金も減らないため、トータルの利息はどんどん積み上がることになる。
住宅ローンは35年間などの長期間にわたって返済するものだ。自分や共に住宅ローンを借りたパートナー、あるいは勤務先の事業などによって、収入が想定より減ってしまうリスクもあるので、目いっぱい借りてしまうことに注意したい。さらに、金利上昇リスクが高まる状況なので、これから借りる人はぜひ、金利が上昇したときにどう対応するかを考えて、住宅ローンを選ぶようにしてほしい。
●関連リンク
「住宅ローン利用者の実態調査結果(2022年10月調査)」(住宅金融支援機構)
外国人が日本で暮らすには、住居を確保する必要があります。しかし、言葉の問題や文化の違い、偏見などもあり、必ずしも入居までの道のりは容易ではありません。
一方で、そのような外国人の入居希望者に対し、外国人スタッフが自らの体験も含めて賃貸オーナーとの間を取り持つ不動産会社もあります。取り組みや課題について、外国人を雇用する不動産会社2社、イチイ代表取締役の荻野政男さん、ランドハウジングのタイ事業部(海外事業)責任者である橋本大吾さん、そしてランドハウジングで働くタイ人スタッフのカナさんに聞きました。
外国人が日本で住まいを探すとき、最初にぶつかる壁は、言葉や文化の違いでしょう。日本語がわからなければ、契約書の内容や行政の情報、例えば細かいところでは燃えるゴミを何曜日に出せばいいのかなど、さまざまな情報が得づらく、掲示されていたとしても読んで理解をすることが困難になります。
母国ではここまでゴミを細かく分別する習慣のない場合もある。地域によってもゴミを出す日は異なるので、日本語を読めない外国人は、きちんとした説明がないと、どのゴミをいつ出したら良いか理解するのは難しい(画像/PIXTA)
公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が2021年に実施した「外国人入居受入れに係る実態調査」では、「契約内容について説明してもらっており、かつ内容を理解できた」人は67.3%だったという結果が出ています。契約内容は日本語で説明されたと回答した人が半数以上なので、内容を理解できずに契約している外国人が3割以上いることも当然かもしれません。また、契約内容を説明されていないのであれば、それは宅建業法違反になります。
大前提として、賃貸物件を借りようとする外国人は、初めて日本に住む人がほとんどでしょう。
「トラブルが起こるのは『外国人だから』ではなく、『初めて経験することだから』ではないでしょうか。『初めての人か、経験者か』による違いと見る必要があると思います」と、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を始め、現在は韓国・中国・アメリカなどの外国人スタッフとともに外国人の入居サポートを行うイチイ代表取締役の荻野政男さんは話します。
さらにオーナーはじめ、近隣住民や他の入居者など、日本人の接し方にも、問題があるようです。
「『日本人は接してくれない』という話を留学生からよく聞きます。海外では近隣の住人同士、挨拶したり、話しかけたりして相手を知ることが不審者対策になるという考えがありますが、日本では知らない人に声をかけることは稀です」(荻野さん)
どうしても最初に心を開くまでに時間がかかってしまう日本人は少なくありません。せっかく日本に来ても、日本人との交流をなかなかもてず、情報を得にくいのも外国人にとっては戸惑う要因になっているようです。
日本が好きで来日しても、日本人とコミュニケーションを取れず、戸惑ったり、孤独を感じたりする外国人も多い(画像/PIXTA)
外国人の入居者希望者に対する賃貸オーナーの印象は?外国人が入居すると、言葉や文化、生活習慣の違いからトラブルになるのでは、と考えるオーナーや管理会社が一定数いるようです。
例えば、「家に上がる際には靴を脱ぐ」「ゴミの分別」などがきちんとできるのか、友人や知人を呼んで大騒ぎをして周辺への「騒音」が問題になるのでは、と考える人もいるとのこと。しかしそれらのほとんどは「先入観にすぎない」とランドハウジングのタイ事業部(海外事業)責任者である橋本大吾さんは言います。ランドハウジングでは外国(タイ)に支社を設置し、現地採用のタイ人スタッフと日本の本社で勤務する日本人・タイ人スタッフが連携して、日本への留学や転勤で移住することになるタイの人たちの住まい探しから入居後の生活をサポートしています。
「これまで接した外国のお客さまは、ルールを知っていれば、きちんと守りたいという人がほとんどです。もちろん、ルールや日本の慣習を知らずにトラブルになることはゼロではありませんが、日本人でもきちんとゴミを分別する人もいれば、そうでない人もいます。『外国人だから』という括りは当てはまりません」(橋本さん)
ランドハウジング では、年間300~400人の外国人に賃貸物件を仲介していますが、そのうち実際にトラブルが起こる割合は1~2%程度。日本人の賃貸トラブルとそう変わらない肌感覚だそうです。
公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会が2021年に実施した「外国人入居受入れに係る実態調査」では、実際に「外国人入居者が問題を起こしたことがある」と答えた家主は1.5%でした。実際はトラブルが多いわけではない外国人を受け入れない理由として最も多いのが「コミュニケーションや文化の違いに不安がある」という不安や偏見からなのです。
実際に「入居者が問題を起こしたことがあるため」と回答した家主はわずか1.5%に過ぎない(資料/公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会「外国人入居受入れに係る実態調査報告書(2021年)」)
外国人がスムーズに入居するための鍵となるのは「外国人スタッフ」外国人がスムーズに入居できるようにするために今回取材した2社が取り組んでいる対策は、いずれも「しっかりとした事前説明」と「母国語の通じる外国人スタッフ」の存在でした。
「トラブルを起こさないようにするためには、事前に説明することにつきます。トラブルが起こったときも、外国人の立場や考え方を理解しつつ、母国と日本の習慣の違いを説明できる外国人スタッフの存在は大きいですね」(荻野さん)
外国人の入居検討者にとって外国人スタッフは、初めて日本に来た時に同じような苦労をしている「先輩」です。母国語の通じる人がサポートしてくれるのは心強いに違いありません。
外国人スタッフが母国語で日本の生活習慣や文化の違い、煩雑な手続きの方法などをサポートすることが異国での生活の不安を払拭し、トラブル回避につながる(画像提供/ランドハウジング)
ランドハウジングで働いているタイ人スタッフのカナさんは、こう話します。
「日本語が話せない人や日本のことを知らないお客さまへの物件紹介や、日本での暮らしについて説明・アドバイスできることが私のやりがいです。『ありがとう』という言葉をいただくと、私が日本とタイの架け橋になりたいという気持ちが強くなります」
話を聞かせてくれたタイ人スタッフのカナさん(写真1番左)。留学生として日本の大学で学ぶために来日し、帰国・卒業後にランドハウジングのタイ支社に入社。現在は日本の本社で働く(画像提供/ランドハウジング)
一方で荻野さんによると、管理会社やオーナーに物件について問い合わせをする際、入居希望者が外国人だと伝えるだけで10件のうち9件は断られてしまい、中には、問い合わせをした外国人スタッフの日本語アクセントが少し違うだけで、詳しい話を聞いてもらえないこともあるそうです。
「このような日本の不動産会社の対応の中で、これまで志のある外国人スタッフが、心折れて辞めていくこともありました」(荻野さん)
私たち日本人が、外国人スタッフの尽力によるチャンスを、差別や偏見で潰してしまっているのかもしれません。さらに、外国人入居者への差別的考え方は日本の賃貸業にとってマイナスになる可能性も。
「日本では今後ますます空室が増えると考えられる中で、空室対策としても外国人入居者の受け入れは重要です。しかし、そのためには不動産会社自体が外国人に対する差別的な考えを改める必要があります」(荻野さん)
母国語の資料作成や、外国人の多岐にわたる要望に応える外国人にとって、日本の賃貸借契約書や複雑な手続きは、とても難しいものです。役所で説明書などを用意していても、日本語や英語・中国語などの限られた言語のものしかありません。説明には時間も手間もかかりますが、正しく理解してもらうために母国語に翻訳した資料を作成したりもしているそうです。
「入居前に日本の住まい探しの流れについて説明する書面を見せて案内したり、契約する際に母国語のしおりを作成して、入居後のゴミの分別や解約の仕方・解約ルール・違約金などについて説明したりします。さらに契約後も困ったことがあれば、いつでも連絡できるよう連絡先を伝えるようにしています」(カナさん)
タイ人スタッフがつくったタイ語の日本の住まい探しの説明書。タイではオーナーが自ら賃借人を探すのが一般的で、日本のような入居審査や詳細な契約書はない。日本とタイの違いを理解してもらうことも大事(資料提供/ランドハウジング)
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会でも、居住支援のガイドラインについてハンドブックをつくって渡す、トラブル回避のために多言語で入居や生活のルールに関する動画をつくり公開する、などの取り組みをしています。ホームページではさまざまな参考資料や多言語に対応したガイドブックのダウンロードが可能です。
また、「3カ月間だけ借りたい」「家具・家電を新たに購入すると大変なので家具・家電付きがいい」という外国人の多様なニーズに応えるため、不動産会社はそれに応じたサービスを提供する必要があります。今回取材した2社も、一般賃貸物件の紹介だけではなく、シェアハウスやマンスリータイプ、留学生寮や留学生会館などを自社で管理したり、所有・運営したりするなどして対応しているそう。
以前は日本人の連帯保証人が必須でしたが、最近は外国人入居者を対象とする家賃保証会社などもあり、連帯保証人を付けなくても家賃保証会社を利用することで契約ができるようになってきています。
外国人の入居問題は改善している?現場の「リアル」を聞いた外国人の住居問題に携わるようになって20年以上という荻野さんに、問題は改善しているかを率直に聞いてみました。
「私が取り組みを始めた当時と比べると、日本人が外国人と接する機会も増え、オーナーも代が変わって、かなり理解を得られるようになってきていると感じます。とはいえ、外国人を取り巻く現在の環境は、理想とする状態を10とすると半分くらい、まだ道半ばです」(荻野さん)
イチイの荻野さんは、1978年から外国人向けの賃貸住宅事業を開始。近年は日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会 会長として関係する制度の普及や外国人入居者に関する研究などを行ってきた。日本における外国人居住支援のパイオニア的存在(画像提供/イチイ)
それでもここ10年ほどで、外国人スタッフの雇用によって、トラブルは事前の対応で十分回避が可能であることが、オーナーにも理解されるようになってきたそう。賃貸物件の空室が増えるなどの外的要因も相まって、外国人の入居に前向きなオーナーや管理会社も増えてきました。
例えばランドハウジングの橋本さんは「ランドハウジングでは、管理部門と連携して、取引のある大家さんに対して外国人入居の啓蒙活動を積極的に行った結果、自社の管理物件約1万戸のうち、8割は外国人の入居に理解を得られるようにまでなった」と言います。先ほどの、10件に9件断られる賃貸業界全体の実情と比べるとその差は歴然です。
しかし新たな課題も見えてきました。海外の“当たり前”と、日本の賃貸物件の設備のスタンダードが大きく異なっていることもその一つ。海外では賃貸住宅には家具や家電、インターネット環境が付いていているのが一般的になっています。外国人の入居を増やし、空室を少なくしていくためには、このような設備面を検討していくことも必要でしょう。
外国人の居住支援では、以下の2点が非常に重要なようです。オーナーや管理会社の、外国人への偏見や誤解を解くこと。そして、外国人の入居希望者に対して、母国と日本の違いを理解できるよう説明し、入居後もわからないことや困ったことを相談できる場所をつくること。
外国人入居者の中には、日本人から注意されると、差別されていると感じてしまう人もいるそうです。そのような場合も、同じ国出身のスタッフが話せば、心を開き、よく理解してくれるといいます。外国人スタッフのきめ細かいサポートがオーナーさんや管理会社、そして、外国人の入居者を結びつける鍵となっているようです。
コロナが少しずつ落ち着きを見せる中、外国人の訪日が回復し、住む人も増えることが想像されます。日本に魅力を感じて「住んでみたい」と思ってくれた外国人が入居しやすい環境づくり、もっと言えばカナさんのような橋渡し役を担ってくれている、想いのある外国人スタッフが働きやすい社会にすることが大事です。そのためには、私たち自身の意識改革も必要ではないでしょうか。
●取材協力
・株式会社イチイ
・株式会社ランドハウジング
都心の30駅を環状に結んで走るJR山手線。東京駅や新宿駅をはじめ沿線の駅には都心から各方面に延びる路線が多数乗り入れており、都内交通網の要と言える存在だ。そして便利で人気があるゆえに、東京都内でも特に家賃相場が高いことでも知られている。そんなJR山手線のなかでも、家賃相場がリーズナブルな駅を調査! 各駅から徒歩15分圏内にある、一人暮らし向け賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DK)の家賃相場を安い駅順にランキングした結果をご紹介しよう。
JR山手線の家賃相場が安い駅ランキングJR山手線の30駅のうち最も家賃相場が安かったのは、田端駅で家賃相場は8万6500円。北区にあり、JR山手線の駅では最も北側に位置している。駅北口側に併設された「アトレヴィ田端」にはスーパーやドラッグストア、ベーカリーに飲食店などが入っており、日常的に活用しやすそう。駅周辺にもスーパーやコンビニが点在し、深夜0時まで営業するスーパーもあって便利。駅前のビルにはファストフード店やファミレスがあるほか、駅周辺には気軽に入れる和食や中華の食堂、そば店に居酒屋も点在し、サッと食べて帰ることもできそうだ。
(写真/PIXTA)
2位は田端駅から1駅目、荒川区にある西日暮里駅で家賃相場は8万7000円。JR京浜東北線も停車するほか、赤坂駅や表参道駅と結ばれた東京メトロ千代田線が通っている。JRの駅舎から少し離れた場所には、東京23区北東部へ延びる日暮里・舎人ライナーの駅も。駅の東側にはファストフード店からカフェ、居酒屋に焼き肉店……とさまざまな飲食店が立ち並んでいるので、外食する場所には困らないだろう。駅から徒歩10分圏内にスーパーやドラッグストアも複数。さらに、食べ歩きもできる谷中銀座商店街も駅から歩いて10分ほどなので、休日に訪ねても楽しそう。
3位は豊島区にある目白駅で家賃相場は8万8000円。両隣に位置する5位・高田馬場駅(家賃相場9万1000円)と7位・池袋駅(同9万3000円)ほどには繁華街は広がっておらず、落ち着いた雰囲気の街並みだ。とはいえコンビニやドラッグストアは駅周辺に複数あるので、日常のちょっとした買い物には困らない。駅前には飲食店やスーパーなどが入ったおしゃれな雰囲気のショッピングモール「トラッド目白」も。このショッピングモールが面した目白通り沿いには飲食店も点在しているが、少し裏道に入ると静かな住宅街が広がっている。
1位・田端駅からJR山手線の外回り(時計回り方向)に乗ると2位・西日暮里駅~4位・日暮里駅(家賃相場8万9000円)と続き、逆方向の内回りに乗ると1駅目が10位・駒込駅(同9万4000円)という位置関係。駒込駅~田端駅、田端駅~日暮里駅は、それぞれ歩いても15分少々という近さだ。そして連続するこの4駅はいずれも、さまざまな大学に通いやすい立地でもある。最寄り駅というほど接近はしていないが、たとえば田端駅から自転車で15分圏内に限っても、東京都立大学や女子栄養大学、東洋大学、日本医科大学、東京大学、東京藝術大学などのキャンパスがある。周辺一帯にはこうした大学に通う学生向けの賃貸物件が豊富にそろっていることも、JR山手線沿線にしては家賃相場がリーズナブルな理由の一つかもしれない。
学生が多く利用する駅周辺には若者が日常使いできる価格帯の飲食店も多く、一人暮らししやすい街並みが広がっている。しかし昔はいざ知らず、JR山手線では家賃相場が低めであっても、学生には「安い」とも言えない金額ではある。その点、社会人の一人暮らしならば住む街の候補に入れやすいかもしれない。
また、1位・田端駅がJR山手線で最北の駅であることに加え、トップ10の駅はいずれも北側に集中。さらには、順位が入れ替わりつつも日暮里駅~新大久保駅間の連続する10駅すべてがトップ10入りをしていたのだ。JR山手線沿線でリーズナブルに住みたい場合は、まず「北側にある駅」と覚えておくとよさそうだ。
南側にある駅のうち狙い目は高輪ゲートウェイ駅~目黒駅間の5駅!北側にある駅ほうが家賃相場はリーズナブルな傾向にあることは分かったが、「JR山手線のなかでも、JR中央線で南北に分けた場合の南側にある駅のほうが都合がいい。それでもできる限り家賃を抑えたい……」という場合はどの駅がよいだろう。ランキングを見てみると、高輪ゲートウェイ駅(13位・家賃相場10万1000円)~品川駅(14位・同10万3000円)~大崎駅(12位・同10万円)~五反田駅(15位・同10万5000円)~目黒駅(16位・同10万8000円)と連続する5駅がよさそうだ。南側に位置する駅のほとんどは家賃相場が11万円以上だが、この5駅のみ家賃相場が10万円台に収まっている。
JR山手線の南側にある駅のうち家賃相場が最も安いのは、12位・大崎駅。JR各線に加えてりんかい線も乗り入れており、お台場や有明、新木場方面にもアクセスしやすい。駅の北口と南口の改札を結ぶ通路沿いには駅ナカ商業施設「Dila(ディラ)大崎」があり、ユニクロやドラッグストア、飲食店が営業中だ。そして改札を出て駅東側のペデストリアンデッキを進むと、ショッピングモールとオフィスビルからなる「ゲートシティ大崎」や「大崎ニューシティ」へ。駅西側にも同様にオフィス棟と商業棟を備えた「ThinkPark」がある。
大崎駅前(写真/PIXTA)
かつては都内有数の工業地帯だった大崎エリアは1980年前後より工場跡地の再開発が進められ、1990年代~2000年代には大規模なオフィスビルや複合ビルが次々と誕生。いまやビジネスと商業の街として発展している。そして今また、大崎はさらなる進化の過程にある。2022年1月には駅から東へ徒歩8分ほどの旧ソニー本社跡地に地上19階建てのオフィスビルが誕生したほか、駅の西口側で再開発事業が進行中。住宅や事務所、店舗、保育所などを備えた地上35階・地下3階建てのビルが2025年度内に竣工予定だ。
また、12位・大崎駅~15位・五反田駅の中間地点でも、再開発ビルの建築が計画されている。目黒川に面した約1.6ha区域に地上20階建てと39階建ての商・住・業務の複合ビル2棟が建ち、周辺には公園も整備される予定。2027年度の竣工を目指しているそうだ。このビルに先立つ2023年12月には、五反田駅から南に徒歩8分ほどの旧ゆうぽうと跡地に地上20階・地下3階建ての複合ビルができる予定。高層階には宿運営で人気の「星野リゾート」が手がけるホテル、その下にはオフィスエリアや飲食エリア、品川区運営の多目的ホールが設置されるという。
五反田駅周辺(写真/PIXTA)
さらに、15位・五反田駅~16位・目黒駅の間には、新街区「MEGURO MARC」が生まれている。賃貸住宅、分譲住宅、オフィスの3棟からなる「複合型のまちづくり」が進められ、すでに地上13階・地下1階建てのオフィス棟と、地上24階・地下2階建ての賃貸住宅棟は2022年に完成。3棟のうち最も高層ビルとなる地上32階・地下1階建ての分譲住宅棟は、2023年8月竣工予定だ。
今回の調査では、JR山手線の南側としては家賃相場が低めだった高輪ゲートウェイ駅~目黒駅間。上記に挙げた以外の高輪ゲートウェイ駅~品川駅間を含めて続々と再開発が進行しており、このエリアの注目度が高まっていくのは必至だろう。今後は家賃相場が上がることも考えられるので、今のうちに一度住んでみるのもアリかもしれない。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/1~2022/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
リクルートは関西圏(大阪府・兵庫県・京都府・奈良県・滋賀県・和歌山県)に居住している20歳~49歳の4600人を対象に実施した「SUUMO住みたい街ランキング2023関西版」を発表した。さて今年の順位は?
TOP3は昨年同様1位「梅田」、2位「西宮北口」、3位「神戸三宮」まず、今年の「2023年の住みたい街(駅)ランキング」の結果を紹介しよう。
TOP3は1位が関西ナンバーワンの都心「梅田」、2位が盤石の人気を誇る阪神間の街「西宮北口」、3位が神戸市の玄関口「神戸三宮」だった。
順位は昨年(2022年)と同じだが、1位と2位の得点差は122点と昨年より広がっており、「梅田」の人気の高まりがより顕著となった。
20位までに目を向けると、滋賀県の「草津」が7位にランクインし、2018年以降の最高位を獲得した。
「京都河原町」「心斎橋」も過去最高位に。それぞれ京都市、大阪市の中心エリアにあり、商業施設が集積する華やかな街。大都市の利便性を存分に享受できるのが共通した魅力だ。
2位と得点差を大きく広げて断トツ1位となった「梅田」は、昨年の得点と比べても82点もポイントアップしている。
街の魅力項目では、「働く場として」「街の賑わい」などのほか、「不動産の資産価値が高そう」が上位にあげられた。
別途SUUMOで行った「住まいの価値観に関する調査」では、若い世代ほど住宅の資産性を重視し、そのときに自分に合った選択で住み替えたいと考える傾向がある。現在、梅田周辺は「うめきた2期地区開発プロジェクト」が進み、関空直結のJR「うめきた新駅」が今年3月開業など、資産価値の面で高いポテンシャルを持つ。
本来、ビジネスや商業のイメージが強い梅田だが、JR大阪駅北側「うめきた」エリアの再開発による活性化で住宅供給も増加。直近の5年間でも徒歩15分圏内で3000戸以上の分譲マンションが供給された。
住宅の増加や、資産価値重視の傾向が、住む対象として大きな注目を集める背景となっているのだろう。
(写真/PIXTA)
さらにTOP50の中で大きく得点を上げた街を見てみよう。
神戸三宮(+49点、3位→3位)、十三(+37点、123位→68位)、中津(+36点、48位→32位)など、都心部の注目度の高さがうかがえる。
一方、「嵐山」(+60点、25位→13位)、「伏見桃山」(+29点、146位→81位)、御影(+29点、30位→24位)、箕面(+29点、33位→25位)なども順位を上げた。都心へのアクセスが良い上、緑豊かな自然環境にも恵まれた近郊の街も支持を集める結果となった。
アンケートでは「住みたい街(駅)」とともに「住みたい自治体」についても尋ねた。ランキングに合わせて、昨年から得点がジャンプアップした注目の自治体のトピックスにふれていこう。
1位は昨年に引き続き「兵庫県西宮市」、2位が「大阪府大阪市北区」。3位は昨年の6位から大きくランクアップした「兵庫県明石市」だ。得点も昨年から131ポイントアップ。自治体の中で最も得点を伸ばした。
(写真/PIXTA)
近年の明石市の人気には目を見張るものがある。
明石市を支持したのは、「夫婦+子ども世帯」「女性総合」「女性30代」が多く、「シングル女性」「シングル男性」でも過去最高位を獲得。
街の魅力を尋ねると、全国的にも有名な「子育てサービスの充実」のほか、「メディアに良く取り上げられて有名」「今後街が発展しそう」などの回答が多かった。行政の独自施策とメディアへの発信力がランクアップに功を奏したとも言えそうだ。(子育て支援の“東西横綱”千葉県流山市と兵庫県明石市、「住みたい街ランキング」大躍進の裏にスゴい取り組み)
明石市への投票は関西出身者では昨年の4位から3位にアップだが、関西圏以外の出身者でみると昨年の17位から5位と、大幅に上昇した。話題をきっかけに関西に地縁の薄い人からも注目を集めるようになってきており、さらなる人口増が期待される結果となった。
また、「子育てに関する自治体サービスが充実している」の項目で明石市に次いで2位となったのが、「住みたい自治体」で24位にランクインした箕面市。昨年からの得点ジャンプアップランキングでも5位に入っている。
18歳以下の子どもの医療費無料(親の所得制限なし)や、通学路や公園の防犯カメラ設置やコミュニティバス「オレンジゆずるバス」の運行など、子育てや防犯、福祉などのサービスが充実した街だ。
一方、街づくりの面でも、大阪大学箕面キャンパスが2023年度開業予定の「箕面船場阪大前駅」に移転し、周辺には図書館や芸術劇場なども誕生予定。「みのおキューズモール」と繋がる「箕面萱野駅」も2023年度に開業予定と、今後の資産価値上昇への期待も膨らみそうだ。
箕面萱野駅(写真/PIXTA)
若い世代の人気を集めた華やかな街、大阪市天王寺区。働き暮らす街として存在感を高める草津市大阪市天王寺区は昨年の7位から今年は4位に。年代・ライフステージ別では20代で2位、20代男性では1位と若い世代から人気を集める結果となった。得点ジャンプアップランキングでも明石市に次ぐ2位。主な理由に「文化・娯楽施設の充実」や「街に賑わいがある」などがあげられ、華やかな印象の街として人気を集めていることがわかる。
天王寺区には2014年に「あべのハルカス」がオープンし、翌2015年には天王寺公園にサッカーコートやレストラン、カフェなどの施設を備えた「てんしば」エリアがオープン。その後も「てんしばi:na」など、新しい施設の誕生が相次いだ。“楽しく暮らせる街”の顔が人々の心をつかんだようだ。
てんしばi:na(写真/PIXTA)
「住みたい自治体ランキング」で初のトップ10入りした草津市。「住みたい街ランキング」でも昨年より順位を上げ7位にランクイン、得点ジャンプアップランキングでも前述の箕面市に次ぐ6位に食い込んでいる。
草津市は再開発により大型商業施設を整備。草津駅を核とする発展への期待に加えて、琵琶湖畔の美しい景観や、JRで京都や大阪と直結する交通アクセスの良さなども魅力だ。
街の魅力が広く認知されるととともに、人口増加も顕著に。草津市のある滋賀県は転入超過数が全国で8番目、関西2府4県では1番多く、中でも草津市は大津市に次ぐ転入超過数だ。立命館大学をはじめとする産官学連合による製造業の発展などの成果もあり、働き暮らす街としての存在感を増しているといえるだろう。
2023年の「住みたい街ランキング」では、「梅田」が圧倒的人気を集めた。また、「神戸三宮」「十三」「中津」「なんば」なども大きく得点を伸ばし、大都市中心部の人気の高まりが顕著となった印象だ。
一方、大きく躍進した郊外の街もある。子育て施策を中心とするサービスが全国的な話題となり人口増を実現した「明石」、再開発で評価を高めた「草津」などだ。どちらも街の整備や市民目線の施策の充実に取り組み、地道に成長してきた結果と言えそうだ。
大都市やブランド的な街だけでなく、派手さや知名度はなくても魅力のある街がこれからも登場してほしいと感じる。
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「SUUMO住みたい街ランキング2023 関西版」プレスリリース
「まほうのだがしやチロル堂」は、貧困や孤独といった環境にある子どもたちを、地域みんなで支える魔法の駄菓子屋さん。子ども食堂など食べ物を通じた取り組みが話題になるなかで駄菓子を通じた新しい取り組みです。この仕組みを支えているのは地域の大人の寄付。2022年にグッドデザイン大賞を受賞しており、理由は、大人が飲食を楽しむことで、代金の一部が寄付され、子どもたちはチロル堂のカプセルトイに投じた100円で、100円以上の価値のある駄菓子や食事をすることができる仕組みが評価されたことから。発起人のひとり、石田慶子さんにチロル堂の魔法の仕掛けを伺いました。
子どもたちに金銭での支援以上に価値のある食べ物を支援できる仕組み奈良県生駒市の大通りから一本入った路地に「まほうのだがしやチロル堂」(以下、チロル堂)はあります。学校帰りの子どもたちが暖簾(のれん)をくぐると、そこは懐かしい駄菓子屋さん。入口にあるカプセルトイには、魔法がかけられています。100円を入れて出てきたカプセルには、チロル堂だけで使える店内通貨「チロル札」が入っています。子どもたちは、このチロル札でお菓子を買ったり、カレーを食べたりすることができます。カプセルに入っているチロル札は1枚100円以上のものと交換でき、しかも枚数は1枚から3枚と運しだい。ドキドキ感は昔からある駄菓子屋の醍醐味と同じです。
暖簾が目印。やって来た子どもは最初に入口のガチャガチャを回す(画像提供/一般社団法人無限)
表情は真剣そのもの。「チロル札何枚出てくるかな」(画像提供/一般社団法人無限)
カプセルには、1~3枚チロル札が入っている(画像提供/一般社団法人無限)
近隣の幼稚園児や小学生でにぎわう(画像提供/一般社団法人無限)
魔法を可能にしているのは、地域の大人たちの寄付。このチロル堂には、大人も利用可能なチロル食堂やチロル酒場が併設されており、大人が飲食を楽しむことで、代金の一部が寄付され、子どもたちはチロル堂のカプセルトイに投じた100円で、100円以上の価値のある駄菓子や食事を食べることができるのです。例えば「チロルこどもカレー」は一般価格500円、これを子どもは1チロルで食べることができます。大人には日常のなかで気軽に寄付を行う機会、子どもたちにはそれを受け取る機会を、ともに1つの場所で生みだしているのです。
「チロルこどもカレー」を食べに来た仲良し二人組(画像提供/一般社団法人無限)
チロル堂をつくったのは、生駒市で放課後デイサービスを行う石田慶子さん、子どものためのアートスクールを開いている吉田田タカシ(ヨシダダ・タカシ)さん、デザイナーの坂本大祐さん、地域子ども食堂「たわわ食堂」を運営する溝口雅代さんの4人。発起人の石田さんに解決したかった地域の課題と、チロル堂が地域の子どもや大人たちに与えた影響を伺いました。
2021年8月にオープンしたチロル堂には、平日には30~40人、休日には200人の子どもたちが訪れます。多いときは、大人も含めると、ひと月で2500人が暖簾をくぐります。
カウンターでお絵描きや宿題をしたり、カレーや駄菓子を食べたり(画像提供/一般社団法人無限)
「当初は、お母さんと来たり、コソっとひとりで来て帰る子どもが多かったんですが、運動会の休憩時間中に、『チロル堂って知ってるか?』って子どもたちのうわさ話が学校中に広がって、運動会の振替休日に驚くほど多くの子どもたちがやってきたんです。そのうち、『上がっていいらしいよ』となり、子どもたちだけで待ち合わせしてカレーを食べに来たりするようになって。私たちも、チロル堂のスタートは、子どもたちの居場所になることだと思っていたので、よかった!と思いました」(石田さん)
子どもたちからどんな悩みが寄せられていますか? という質問に、石田さんは首を横にふります。
「子どもたちが、今困っているか困っていないかは、重要じゃないと思うんです。提供しているのは駄菓子や食事ですが、今貧困の子どもだけを対象にしているわけでもありません。今来ている子がいつ困るかわからないですよね。ずっと困らない子、問題を抱えない子はいないのではないでしょうか。困ったときにヘルプが出せるように、ここが開き続けることが大事だと思っています」(石田さん)
「放課後チロルに集合ね」と待ち合わせ場所に(画像提供/一般社団法人無限)
子どもの問題は、大人や社会の問題につながっている日本では、子どもの約7人に1人が貧困状態にある(厚生労働省国民生活基礎調査)といわれています。無料や安価で栄養のある食事や団らんを提供する「子ども食堂」が全国的に広がってはいますが、石田さんは複雑な思いや疑問を感じていました。
「子ども食堂があることはもちろん良いことですが、必要なこと自体がそもそも問題だと感じていました。子ども食堂ができることで、『困ったときはあそこに行けばいいよ』という大人が増えるとしたら、どうなんだろうと。隣の困っている子どもを地域の大人が助けるという責任を放棄しているように思うのです。おなかを空かしている子どもがいたら、大人がごはんをおごってあげるのは自然なこと、地域の子どもたちを大人が支えるのは当たり前のことではないでしょうか。困っている人は、行政や福祉が助けるべきだと大人が考え、自分たちの問題と切り離してしまうことで、子どもたちが誰にヘルプしたらいいかわからない社会をつくってしまっているんです」(石田さん)
石田さん(右)と子どもに誘われてやって来たお母さん(画像提供/一般社団法人無限)
石田さんが子どもの課題を社会の課題と考えるようになったのは、10年前から行ってきた障がいのある子どもの療育支援でした。子どもの抱える問題によって窓口が異なるなど、福祉支援があまりに縦割りで、横のつながりが薄いと痛感したと言います。
「子どもが困っていることの多くは、本人の障がいなどでなく、大人の問題や社会の問題だと気づいたんです。貧困や虐待、無理解や差別。問題は複雑に絡み合っているし、支援の縦割りで切り離されてしまうと解決できない多くの問題に直面し、福祉支援だけでは限界を感じていました」(石田さん)
アートや街づくりなど異なる経験をもつ4人が力を合わせるそんなとき、石田さんが出会ったのが、子ども食堂「たわわ食堂」の溝口さんでした。子ども食堂は、多くは子どもだけが利用する場所になっていますが、たわわ食堂が、子どもや大人、おじいさん、おばあさんが集い、支援する側、される側を超えた多様な人が集まる場所を実現していることに感銘を受けたのです。「課題を解決するのは、こういう場所なのかもしれない」と考えた石田さん。溝口さんと多様な世代、カテゴリーの人が集まる場所をつくろうと2019年ころから動き始めました。
次に石田さんが声をかけたのが、吉田田さんと坂本さんでした。
「福祉の人間が地域活動を行っても、福祉の場にしか刺さらなくて、自分たちの表現する力が足りないことはわかっていました。多くの人に届けるためには、もっと伝わる表現力、デザイン力が必要と考えました。吉田田さんは、子どものアートを通じた教育、坂本さんは、街づくりに携わっていて、“人間”に興味あるふたり。デザインをしていて人も見えている人は、ふたりの他にいないと思いました」(石田さん)
建物のデザインも手掛けた吉田田さん。暖簾は、坂本さんのデザイン会社が担当(画像提供/一般社団法人無限)
吉田田さんも坂本さんも石田さんの思いに即座に賛同。プロジェクトが大きく動き出したのは、吉田田さん発案の「寄付を『チロ』と呼ぶ」「この場所だけの通貨『チロル』を使って子どもたちが通貨以上の飲食ができる」という仕組みが生まれたとき。坂本さんによってロゴやチラシのデザインが決定。溝口さんは、週に1回、チロル堂で、運営費のサポートを受けながら子ども食堂を開くことになりました。チロル食堂のカレーやお弁当は、石田さんが運営する障がいのある人の就労支援のお仕事としてつくっています。
楽しみながら寄付ができる大人の居場所「チロル酒場」「子どもたちが抱えている問題は多様ですが、いちばん課題だと感じているのは、孤立、孤独です。都会・田舎に関係なくどこでも起こっている問題で、今の時代を象徴する、子どもに限らない日本の課題だと思っています。地域の大人が子どもを支える構造をつくるために必要なのは、子どもだけでなく、大人の居場所をつくること。それがチロル酒場です。昼間の駄菓子屋を見て、子どもの場所でしょ?と思っていた大人たちが、酒場がスタートしてから多くの方が訪れてくれるようになりました」(石田さん)
チロル酒場では、おいしい料理やお酒が提供され、子どもたちの親だけでなく、地域の大人でにぎわいます。店主との会話を楽しんだり、日頃の愚痴で盛り上がったり、大人たちは、飲食や場を楽しみながら、自然と寄付ができます。
水・木・金・土の18時30分から営業するチロル酒場。地元のインフルエンサーが店主を務めることも(画像提供/一般社団法人無限)
ドリンク・フードすべての代金に、子どもたちへの「チロ」が含まれている(画像提供/一般社団法人無限)
「地域の大人が子どもを支えていると意識することが大事だと思っています。といっても、難しいことを議論する場所だとはできるだけ言いたくないんです。誰と出会うか、どんな話がはじまるかは自然に任せていきたいです。運営側が方針やルールを設定した瞬間に入る人が限定的になってしまう。それは子どもたちも同じ。ここは100円でカレーが食べられる場所という事実だけでいいんです」(石田さん)
現金で寄付をした人は、壁に名前入りのシールを貼れる(画像提供/一般社団法人無限)
広く寄付を募り、全国からお菓子や野菜、お米などの寄付も寄せられている(画像提供/一般社団法人無限)
はじめてチロル堂に関わるには、どうしたらいいですか? と尋ねると、「チロル食堂やチロル酒場においしい食事やお酒を飲みに来ていただけるとうれしいです。昼間はただのお店ですが、夕方になると子どもたちがワーッと集まってきます。その空気を味わいに来ていただくのがいちばんいいかな」とほほ笑む石田さん。
大人用の「ツキノワ・OTONA CURRY」は、コーヒー付き1200円。代金の一部が子どもたちへの寄付になる(画像提供/一般社団法人無限)
子どもたちが困っていることの要因は大人たちの問題につながっていると考え、共に解決しようと考えられたチロル堂の仕組み。金沢に2号店が、大阪に3号店がオープン。そのほか4カ所が準備中です。石田さんたちがかけた小さな魔法が、少しずつ全国へ広がっています。
●取材協力
まほうのだがしやチロル堂
東日本不動産流通機構(以下、東日本レインズ)の「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」の結果を見ると、築20年以下の中古マンションのニーズが底堅いことが分かる。詳しく見ていくことにしよう。
【今週の住活トピック】
「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」を発表/(公財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)
データ元の東日本不動産流通機構について、説明しておこう。まず、指定流通機構とは、国土交通大臣指定の組織で、各地域の主な不動産会社が会員となっているもの。会員の不動産会社は、REINS(レインズ)と呼ばれるネットワークシステムに、不動産の情報を登録することで情報を共有している。東日本レインズは、全国のうち東日本地域を管轄している。
今回のデータは、東日本レインズが2022年の1年間において、REINSに新規に登録されたり成約の情報を得たりした、首都圏の中古マンションと中古一戸建ての物件を“築年数”の観点から分析し、市場動向をまとめたものだ。
今回の首都圏の市場動向の特徴の1つが、築年数の古い中古マンションの市場に占める比率が高いことだ。
中古マンションの市場を見ると、「築31年超」の物件が占める比率は、新規登録物件(新たに売り出した物件)で2021年44.7%→2022年46.9%に拡大し、成約物件(契約が成立した物件)で2021年29.7%→2022年31.5%に拡大している。その分、築年の浅い「築5年以内」や「築11~15年」が縮小している。
新規登録物件・成約物件ともに、「築5年以下」の比率が拡大している中古一戸建て市場と比べると、対照的な結果だ。
築20年以内の中古マンションの売買は好調?特に注目したいのが、築20年以内の中古マンションの状況についてだ。
まず、築年帯別の平均価格を見ていこう。
売り出す側はできるだけ高く売りたいので、まずは希望価格で売り始める。一定期間で売れない場合は、価格を下げることになるし、買う側はできるだけ安く買いたいので、不動産会社を通じて価格交渉を行う。このため、新規登録価格よりも成約価格のほうが下がるというのが一般的だ。
中古マンションの平均平米単価と中古一戸建ての平均価格を見ると、新規登録物件と成約物件で、常に一定の開きがあるのは、このためだ。そして、それぞれ築年帯が古くなるほど下がっていく傾向が見られる。
上が中古マンションの築年帯別平均平米単価、下が中古一戸建ての築年帯別平均価格(出典:東日本レインズ「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」)
次に、築年帯別の新規登録件数に対する成約件数の割合=「対新規登録成約率」を見ていこう。
中古マンションでは、「築6~10年」が最も対新規登録成約率が高く(35.2%)、「築0~5年」「築11~15年」「築16~20年」がおおむね28~30%程度となり、築20年を超えると下がり続けることが分かる。
これに対して、中古一戸建て市場の対新規登録成約率では、築6~築25年以内ではおおむね30~32%で横ばいとなっており、中古マンションに比べると築年帯別による対新規登録成約率の差が小さくなっている。
築年帯別の取引動向「対新規登録成約率(成約件数/新規登録件数)」(出典:東日本レインズ「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」から一部データ抜粋)
「対新規登録成約率」(出典:東日本レインズ「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」から一部データ抜粋)
中古マンションのカギは、広さ&築年か?中古マンションには、「築年帯別平均価格」のデータもある。実はこちらを見ると、築20年以内までは新規登録件数と成約件数の平均価格がかなり近いことが分かる。
中古マンションの築年帯別平均価格(出典:東日本レインズ「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」)
具体的に平均価格を見ていくと、次のようになっている。「築6~10年」では、成約平均価格が新規登録平均価格を上回っている。
○成約平均価格○新規登録平均価格築0~5年:6638万円6777万円築6~10年:6193万円6053万円築11~15年:5543万円5616万円築16~20年:5250万円5578万円ではなぜ、築20年以内の平均価格では両者が近くなっていたのか。これは平均面積を見ると分かる。築20年以内までは、新規登録物件の平均面積は約55~65平米であるのに対し、成約物件の平均面積は約63~70平米と開きが大きくなっている。
中古マンションの築年帯別平均面積(出典:東日本レインズ「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」)
したがって、築20年以内の中でも、面積が広いもののニーズが高く、その結果として成約物件の平均価格が高くなっていると考えられる。対新規登録成約率が最も高くなっている「築6~10年」は、「築年数×面積×価格」のバランスがよいということだろう。
そうはいっても、築20年以内の中古マンション平均価格は5000万円を超える高額となっている。平均価格が2000万円台となる「築26~30年」、「築30年超」の価格的訴求もあり、築年数の古いものへの需要も高いのが実態だ。
おそらく、築年数が浅いものの中でも面積が広いもの、築年数が古いものの中でも利便立地や管理状況のよいもの、などが選ばれて成約に結び付いているのだろう。築年数の浅いものの市場シェアが少ないからといって、それだけで売れるわけではなく、広さと価格とのバランスが大事だと理解しておきたい。
●関連リンク
「築年数から見た首都圏の不動産流通市場(2022年)」(公財)東日本不動産流通機構(東日本レインズ)
全30駅を環状に結んで走るJR山手線は、東京の大動脈とも言える路線。都心の主要エリアを囲むように線路が続き、東京駅や新宿駅をはじめ東京を代表する駅がずらりと並ぶ。都心から各方面へと向かう路線に接続するターミナル駅も多く、JR山手線沿線に住む便利さはピカイチ。そのぶん、沿線の物件価格が高いことでも有名だ。では実際、その物件価格はいかほどのものなのか? JR山手線30駅それぞれの中古マンションの価格相場を調査してみた。専有面積20平米以上~50平米未満の「シングル向け」と、専有面積50平米以上~80平米未満の「カップル・ファミリー向け」について、価格相場が安い駅ランキングを発表しよう。
JR山手線の中古マンション価格相場が安い駅ランキング※有楽町(千代田区)は調査対象物件数が11件以下のためランク外
※東京(千代田区)、有楽町(千代田区)は調査対象物件数が11件以下のためランク外
JR山手線内でもリーズナブルに住みたいなら「中央線より北側」に注目!(写真/PIXTA)
「シングル向け」中古マンション(専有面積20平米以上~50平米未満)の価格相場が最も安かったのは、北区に位置する田端駅。最も安いとはいえ価格相場は3095万円であり、JR山手線沿線の物件価格の高さがうかがい知れる。「カップル・ファミリー向け」(専有面積50平米以上~80平米未満)の価格相場は5780万円で、2位にランクインした。
(写真/PIXTA)
田端駅の北口は線路を覆うように橋上駅舎が建ち、駅ビル「アトレヴィ田端」を併設。3フロアにわたりスーパーやドラッグストア、飲食店などが並んでいる。この田端駅は武蔵野台地の東端部に位置し、起伏にとんだ台地と平坦な低地で構成された高低差のある街並みが特徴だ。北口とは一転して小ぢんまりとした無人駅舎がある南口も、出てすぐに階段道路があるような造りとなっている。台地のふちに沿って続く線路の東側、西側共に繁華街といった印象ではなく、静かな住宅地が広がる。スーパーなどの買い物環境が整っているのは、線路の東側の様子。しかし駅北東部はJRの車両基地に広い面積を取られ、山手線と少し間を開けて東北本線の線路も通っているため、線路東側の住宅街は駅から少々離れたエリアが中心だ。
「カップル・ファミリー向け」の1位は田端駅から1駅目、荒川区にある西日暮里駅で価格相場は5680万円。「シングル向け」では3位で価格相場は3580万円だった。JR京浜東北線も停車するほか、東京メトロ千代田線が通っているため赤坂駅や表参道駅にもアクセスしやすい。JRの駅舎から少し離れた場所には、東京23区北東部へ延びる日暮里・舎人ライナーの駅もある。駅東側は狭い路地に面してさまざまな飲食店が立ち並び、その先が住宅街。駅の西側には日暮里・谷中の総鎮守「諏方神社」が鎮座し、例年8月の大祭には多数の露店が並んで大いににぎわう。
西日暮里駅(写真/PIXTA)
諏方神社(写真/PIXTA)
この諏方神社の横を通って7~8分も歩くと、隣駅の日暮里駅にたどり着く。西日暮里駅~日暮里駅間は山手線内では最短距離、500mほどしか離れていないのだ。そんな立地関係もあってか日暮里駅の価格相場は西日暮里駅と大きくは違わず、「シングル向け」は3665万円、「カップル・ファミリー向け」は5990万円で共に4位にランクインした。さて、西日暮里駅を出て諏方神社前を南下していき、交差点を左折すると日暮里駅へ、右折すると谷中銀座商店街にたどり着く。ここは約170mの間に60店舗ほどがひしめき、日々の買い物はもちろん食べ歩きにも人気の商店街だ。日暮里駅からも西日暮里駅からも訪れやすいので、このエリアに住んだらぜひ愛用したい。
谷中銀座商店街(写真/PIXTA)
ここまで見てきたように、田端駅、西日暮里駅、日暮里駅……と「シングル向け」「カップル・ファミリー向け」共にランキング上位には近接した駅が並んだ。さらにランキングを見ていくと、上位つまり価格相場が安い駅は、環状に走るJR山手線の北側半分に集中していることが判明。JR山手線を時計に見立てると、3時の位置に秋葉原駅、9時の位置に新宿駅があり、両駅を結んでJR中央線が走っている。JR山手線内でもリーズナブルに住める街を探すなら、JR中央線で南北に分かれる円(JR山手線)の北側半分に注目するといいだろう。
沿線30駅は街の特徴もさまざま。大規模再開発が進行中の駅も多数ランキング上位には北側半分の駅が並んでいる、と話したが例外もある。それは「シングル向け」の価格相場が4095万円で10位にランクインした、港区の高輪ゲートウェイ駅だ。立地としてはJR中央線よりも南側、JR山手線の南側半分にある。JR山手線では最も新しく、開業は2020年。有名建築家・隈研吾氏が設計を手がけた駅舎や、駅構内の無人AI決済店舗「TOUCH TO GO」などで話題を集めたこの駅は、周辺エリアで行われている再開発事業の一環として誕生した。同事業の第I期として「高輪ゲートウェイシティ」の街づくりが進められており、駅と3棟の複合棟、文化創造棟と住宅棟を建築中。2024年度末には2棟の複合棟の開業と、高輪ゲートウェイ駅の全面開業が予定されている。
高輪ゲートウェイ駅(写真/PIXTA)
そんな再開発の過程にある高輪ゲートウェイ駅の東側は臨海部の埋め立て地で、その先は東京湾。駅西側には赤穂義士のお墓がある泉岳寺の敷地と再開発エリアが大きな面積を占め、駅周辺で今現在、住宅地となっているスペースは意外と大きくはない。加えて50平米未満の中古マンションはあまり市場に出ていない様子。シングル向け物件数が限られるなか算出された価格相場(中央値)なので、今回は「カップル・ファミリー向け」の価格相場(9580万円)と比較して割安な結果が出たが、揺れ幅が大きい面はあるかも。また、街の再開発が進むと中古物件相場の底上げも考えられるので、よい物件を見つけたら今のうちに押さえておくのが吉かもしれない。
さて、JR山手線が都内の主要エリアを結んで走っていることは確かなのだが、北側半分に価格相場がリーズナブルな駅が集中するなど、路線を1周する間に通る街の特徴は多彩だ。時計で言うと6時あたりに位置する、新幹線の停車駅でもある品川駅を出て外回り(時計回り)に進んでいくと、まずは近年の再開発でビジネス街としても大きく発展した大崎駅が、そして、繁華街と住宅地が共存する五反田駅、閑静な住宅街が広がる目黒駅、恵比寿駅を過ぎると「100年に一度」といわれる大規模再開発が進む渋谷駅へ。若者にも人気の街、原宿駅や代々木駅の先には、世界屈指のターミナル駅・新宿駅。商業施設が林立する中を北上すると、韓流カルチャーで賑わう新大久保駅に着き、その先は大学など学校も多い高田馬場駅、目白駅へと続く。そして渋谷と新宿に並ぶ繁華街と言われる池袋駅を過ぎると、大塚駅、巣鴨駅、駒込駅と住宅街の様相が色濃くなってくる。
田端駅まで来ると時計で言う12時の位置に。ここからは環状線の東側半分に入り、ランキング上位の西日暮里駅~鶯谷駅へと南下していく。そして新幹線駅でもある上野駅、問屋街が広がる御徒町、サブカルと電化製品の街として外国人にも知られた秋葉原駅あたりは、どこか下町らしさも残る街並み。その先の神田駅~東京駅~有楽町駅~新橋駅は東京都心の中でも中心部、ビジネス街と官公庁街が整然と続く。さらに南下すると東京湾岸の臨海エリアへ。羽田空港とモノレールで結ばれた浜松町駅は、海外から東京を訪れる際の玄関口の機能をもつ街になるべく大規模再開発が進められている。そしてビジネス街と学生街を抱える田町駅を過ぎると、JR山手線最新の駅・高輪ゲートウェイ駅に到着。さらに隣駅の品川駅に行けば、これで1周約1時間だ。
車窓を流れる街並みは特徴さまざまで、若者やビジネスマンなど乗り降りする人のタイプも駅により違う様子。沿線には高台も低地もあって勾配が感じられるなど、変化に富んだプチ電車旅が楽しめる。都内に住む人も意外と30駅を一気に制覇したことがある人は少ないだろうが、沿線に住みたいと考えているなら、まずはぐるりと1周して街の変化を肌で実感するのもおすすめだ。
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されているJR山手線沿線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】
駅徒歩15分圏内、物件価格相場3億円以下、築年数35年未満、敷地権利は所有権のみ
シングル向け:専有面積20平米以上50平米未満
カップル・ファミリー向け:専有面積50平米以上80平米未満
【データ抽出期間】2022/1~2022/12
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
2022年11月、京都市中心部に点在する近代建築を公開する一斉公開イベント、「京都モダン建築祭」が開催されました。京都や大阪を拠点に研究活動を行う建築史家らが選定する文化的価値の高い建築物が公開されるとあり、初開催にもかかわらず3日間でのべ3万人の参加者を数える注目イベントとなりました。現役の庁舎建築や教会、レストラン・商店など民間の建築、長い歴史のなかでもともとの用途から転用された文化施設など、さまざまなバリエーションが楽しめる36軒が参加しました。
京都で開催の建築公開イベント。「モダン建築」をテーマにした理由京都市役所本庁舎 市会議場。普段から一般公開されているエントランスホールや屋上庭園に加え、通常非公開の市会議場と正庁の間が公開された(写真撮影/筆者)
建築を見ることを趣味とする筆者にとって、普段は中に入れず、外観を眺めるしかない建築の内部を見学できる機会はありがたく貴重です。また数ある名建築の中から興味を引く建築物を探し、その見学方法まで調べて見に行くのとは異なり、気軽に楽しめるのも人気の理由。地域に住む人びとが地元文化の魅力に触れる機会にもなり、こうした建築公開イベントは各地に広がりを見せています。
今回参加したのは、近現代建築と呼ばれるもの。社会が近代化していく時代以降につくられたもので、日本における時代区分としては概ね明治維新以降の時期を指します。一般的には社寺建築や町家など、より古い年代の建築のイメージが強い京都において、近現代建築をテーマにしたのはなぜなのでしょうか?
聖アグネス教会。教会建築は普段から見学者を受け入れているところも多いが、信者でないとなかなか入るのはハードルが高い(写真撮影/筆者)
祭壇。実際に使用されている状態そのままを知ることができるのも、建築公開イベントの醍醐味(写真撮影/筆者)
「建築史の研究者からすると、京都は優れた近代建築の宝庫なんです。けれどそのことはあまり知られていません。存在と認識のギャップが最も激しいのが京都なのではないかと。われわれとしてはごく自然に、京都の近代建築の素晴らしさを知っていただきたいという思いが出発点となっています」
今回お話を伺ったのは、大阪公立大学教授で京都モダン建築祭の実行委員に名を連ねる建築史家の倉方俊輔氏。2021年に京都市京セラ美術館で開催された「モダン建築の京都」展でも、アドバイザーを務めました。
入場待ち列ができるほど人気となったフォーチュンガーデン京都。島津製作所の旧本社ビルがレストランに転用されている(写真撮影/筆者)
(写真撮影/筆者)
(写真撮影/筆者)
「京都市の美術館で行う展覧会だから、京都市民のためになる建築の展覧会にしようと。公立の美術館で京都の近代建築をまとめて紹介するのは初めての試みでした。展覧会で紹介した建築は、実際に京都市内に建っているもの。せっかくなら展示だけでなく実物も見てもらおう、ということで建物所有者の方に掛け合って建築見学ツアーを実施したり、会期終了後もオンラインサロンを継続するなど活動が広がっていきました」
こうした展覧会を機に生まれた動きが、京都モダン建築祭につながっていったといいます。今回公開された建築も、展覧会で生まれた縁があってこそ公開できたものも多いそうです。
倉方さんは、大阪で10年続く建築公開イベント「イケフェス大阪」でも長年実行委員を務めてこられました。2019年からは、東京都品川区の名建築を公開する「オープンしなけん」の企画にも携わり、優れた建築の魅力を広めていく活動に力を注いでいます。大学で教鞭を執る傍ら、こうした活動も大切にしている倉方さん。どのような思いで取り組んでいらっしゃるのでしょうか?
「私自身は、ライトな層、専門的なことに詳しいわけではないけれど建物を見るのが好きとか、自分が描いている漫画の背景のヒントにしたいとか、そういう方々を大切にしたいです。もちろん建築の専門家であったり、普段から建築を見に行くことを趣味にしているような人も大切なんだけれど、こういうイベントを通して、建築を使った楽しみが世の中に増えていくといいなと思っています。
例えば今回取り上げているようなモダン建築だと、大正時代や明治時代の、建てられた当時の生活がそのまま残されていたりするわけですよね。そこから何か想像を広げたり、受け取り手次第で新しい見方ができることで、その人にとっての楽しみが増える。新しい楽しみが増えていくことは、世界を豊かにしていくことにつながると思っているので、建築の楽しみ方を増やしていくことで貢献していきたいですね」
参加建築マップ。京都市中心部の36軒が、11月11~13日の3日間に参加した(写真提供/京都モダン建築祭実行委員会)
ビギナーから建築通まで、誰もが楽しめる多彩なプログラム京都モダン建築祭では建物の公開のほかにも、専門家のガイドツアーをはじめとするさまざまなプログラムが用意されました。日々の運営に携わる方が、建物の歴史や運営面での工夫も交えて案内してくれるツアーや、倉方さんや実行委員長である笠原一人さんをはじめ建築史家の方が街歩きをしながら建物ひとつひとつのデザインの特徴を解説してくれるツアーなど盛りだくさん。なかにはツアーでしか見学ができない建築もあり、高い抽選倍率となりました。ライトな建築好きから専門家まで、各々の知識レベルによって違った楽しみ方ができるラインナップです。
任天堂旧本社社屋をリノベーションしたホテル丸福樓。京都モダン建築祭の特別ツアー参加時に撮影(写真撮影/筆者)
2022年のリニューアルの際、建築家の安藤忠雄による新棟(ガラス張り部分)が増築された(写真撮影/筆者)
筆者も参加させていただいた、笠原一人さんによる三条通の近代建築ツアーでは、三条通に建ち並ぶバリエーション豊かな近代建築の鑑賞ポイントが紹介されました。一括りに近代建築といっても、手掛けた建築家によってまったく異なる表現になるのが面白いポイント。また同じ建築家であっても、ほんの少し建てられた時期が違ったり、建物の用途の違いによって表現が変えられていて、その背景を知ることで一気に身近に感じられます。
見学する建物が通り沿いに連なっているのも重要で、金融関係の施設が集中するエリアから商業エリアへと歩みを進めることで、街の発展の歴史も同時に学ぶことができます。近世以前の社寺建築のイメージが強い京都で、なぜモダン建築を取り上げるのか。ひとつには「市の中心でまさに今人々の生活と密接に結びつくモダン建築は、役目を終えたら壊されてしまう可能性がある。今のうちから親しんでもらうことでこうした建築が街に必要なんだと感じてほしい」と笠原さん。建築史家として古い建物を残していきたい思いをもちつつ、ツアーでは純粋に個々の建築の面白さを紹介してくれました。
ツアー前はどれも似たような様式建築に見えていた建築群が、ツアー後はひとつひとつのデザインが際立って見えてくる。こうした機会を通じて建築の魅力が広まっていくことで、優れた建築が街に残り豊かな景観が維持されていくのだなと感じます。
講義室でレクチャーを聴くのとは違い、実際に街へ出て現物を見ながらそのデザインに込められた意図を聞く体験は、知識が体に染み込んでいくような充実感を得られました。京都モダン建築祭ではこうしたツアーのほかWEBサイト上でも、建築を解説する音声コンテンツが用意され、建物を見ながら建築の知識を同時に学ぶための工夫が伺えました。
三条通界隈の近代建築群。観光客でにぎわうルートに、バリエーション豊富なモダン建築が建ち並ぶ(写真撮影/筆者)
それは実行委員の方々自身が建築をどのように楽しんでいるのか、その姿勢から来ているのではないかという気がします。倉方さんは、建築を見る楽しみについてこのように語ってくれました。
「あっちからやってくる感じ、それが建築ならではの面白さですね。こちらから理解しようとか楽しもうとか思わなくても、建築の中に入れば空間に包まれるし、いろんなスケールのものが目に入ってきて、向こうから楽しみがやってくる感覚があります。
それに知識があればあったで、これがつくられた年に戦争が始まったんだなとか、これをつくった人が後にあの建築をつくったんだなとか、その関係を読み解いたり、前に見たものと目の前のものが頭の中でつながって、何かひらめきが生まれたりとか。そうやってあっちからやってくるものをいかに捉えるか、というのが真の『鑑賞』なんじゃないかと思います。繰り返し訪れている建築でも、行くたびに自分自身の知識や経験が増えているから、また新しいものが見えてきますし、それこそ見に行く対象も無限にあるので、とにかく飽きないです。その感じをみんながもてるようになるといいですね。結構いい趣味だと思いますよ、交通費くらいしかかからないですし(笑)」
大規模な近代建築が集まる岡崎エリアに建つ、京都市武道センター(旧武徳殿)(写真撮影/筆者)
旧武徳殿内部。西洋由来のトラス構造が屋根を支えているため木造の大空間が可能となっている。西洋の技術が近代の木造建築を支えている例(写真撮影/筆者)
祇園祭と肩を並べる一大イベントに。実行委員長の思いイベントに一番力を尽くしている実行委員の方々自身が、こうした純粋な建築の面白さにのめり込んでいるからこそ、このようなイベントが開催できるのだなと実感させられます。
笠原さんはこの京都モダン建築祭を、「ライバルは祇園祭」と位置づけています。京都の街なかを舞台に繰り広げられる祇園祭には、調度品や美術品を飾った町家などを公開する「屏風祭」と呼ばれる行事があります。普段は見ることのできない京都の文化に親しむ機会を設けることで次の世代につないでいこうとする思いは、今も昔も変わらないということなのかもしれません。
1000年の歴史をもつ祇園祭と開催1年目のモダン建築祭とでは1000倍の歴史の差があります。しかしモダン建築祭が100年続けば差は10分の1に、1000年続けば差は2分の1へと縮まっていく。いつか祇園祭に並ぶ京都を代表するイベントになってほしいと語る笠原さんの言葉には、建築という数千年の歴史をもつ文化と長年向き合ってきた重みが見え隠れするように思いました。
日頃は古建築に目が行きがちな京都の知られざる魅力に触れる建築祭、ぜひ長く続いていってほしいですね。
●取材協力
京都モダン建築祭 実行委員会
お隣さんとはうまくやっていきたいもの。お隣さんの樹木などが自分の敷地に入り込み、通行の邪魔になったり美観を損ねたりした場合には、何とかしてほしいと伝えたい。とはいえ、世の中いろいろな考え方のひとがいる。無用なトラブルをさけるためには、ルールが必要になる。民法にも隣家との関係を調整する規定がある。「相隣関係(そうりんかんけい)」と呼ばれるものだ。この相隣関係の規定の一部が改正され、2023年4月より施行となる。(1)隣地使用権、(2)竹木の枝の切除・根の切取り、(3)ライフライン設備の設置・使用権、の3つだ。今回はそのうちの(2)竹木の枝の切除・根の切取りについて解説する。
隣地から侵入する竹木の根は自分で切れるが、枝は切ってもらうのが原則「隣地の木の枝が越境している時は木の所有者に切ってもらう。一方、根が越境している時は自分で切ってしまってOK」。これはわりと有名ルールなので、聞いたことがあるかもしれない。枝と根で扱いが違うのだ。なんで?と思う人もいるだろう。
枝や根も含めて竹木(樹木)といえども財産だ。所有者以外は勝手に切除できない。これが原則だ。「他人の土地に越境している方が悪いんだろう!切っちゃえ」というのはダメなのだ(自力救済の禁止、といいます)。明らかに向こうが悪いと思うような違反行為があった場合にもその竹木の所有者に対応してもらうことになる。
つまり、枝に関するルール=他人のものなのだから勝手には切除できない、というのが法律的には普通の発想なのだ。では、なぜ根は隣地所有者が切ることができるのか。民法の解説書などを読むと次のような説明がある。
①枝切りは、竹木の所有者が敷地内で切除できるが、根は伸びている隣地に入って作業する必要がある(隣地所有者に切ってもらった方が、作業が容易)。
②枝は、果実などがついている場合など、財産的価値があることもある。一方、根には価値がない。
うーーん、根菜などは根にも価値があるのでは、という気もするが……。それはともかく、「枝は切れない。根は自分で切れる」が原則なのだ。この点は2023年4月以降も変わりはない。
隣地の所有者がわからない、というのも珍しいことではないところがこのルールには一つ問題がある。越境している木の枝を隣地所有者に切ってもらうおうとしても、空き地など隣地の所有者がわからない、連絡が取れないという場合だ。そんな時はどうすればよいのか?
実は日本には「所有者不明の土地」が少なくない。有識者で構成される「所有者不明土地問題研究会」の報告によれば2016年時点の調査で所有者不明率は20.3%。この割合を全国に適用すると約410万ヘクタールの土地が所有者不明、ということになる。…と言われてもぴんとこないが、なんと九州本島より広いのだそうだ。土地の所有者が不明、ということは決して珍しいことではないのだ。
隣から枝が越境していて美観を損ねたり、庭の利用の邪魔になっている。しかも所有者が不明。となると…。まぁ、普通は勝手に枝を切っちゃいますよね。でもさきほど説明したように、法律上は勝手に切ることは許されない。私もいちおう大学の教員なんで、「勝手に切っちゃいましょう」などと無責任なことはいわずに法律の解説を続けることにする。
所有者不明の場合にはどうすれば?話を戻す。土地の所有者が不明と聞いて、登記を見ればわかるのでは?と思ったかもしれない。しかし、相続が発生した際に登記がされない、ということも珍しくはない。相続登記が義務ではないことがその理由だ。登記はお金もかかるし、面倒なのでつい放っておかれてしまう。実は、この点も法改正され、来年、令和6年4月より相続に伴う登記が義務化される。とはいえ、現状すでに、登記上の所有者が死亡している、連絡先が不明などということも少なくない。土地の所有者を探すのがなかなか大変ということになる。
また、所有者が分かっていても、枝を切ってくれない、ということもあるだろう。高い木の枝などは業者に依頼しなければ切るのも難しく、お金もかかるだろう。枝は所有者に切ってもらえ、と言われても所有者がわからない、わかっても切ってくれない、では困ってしまう。
「こんな状況なら、自分で切ってしまっても相手も文句は言わないでしょう」と思うかもしれないが、個人間のケースばかりではない。例えば、所有者不明の土地から道路に伸びた枝や葉が信号を見えにくくしている、公園の美観をそこねている、というケースもある。道路や公園を管理する市町村としては、勝手に切断するという違法行為を犯すわけにはいかないのだ。
(写真/PIXTA)
枝を自分でも切ってもよい場合とはそこで今回の法改正だ(やっと本題に入る。前置きが長いのが大学教員の悪い癖)。以下3つのいずれかに該当する場合は、越境した枝を切ることが法律上も可能になった。
①枝を切ってくれ、と催告したのにいつまでも切除されない。
②竹木の所有者が不明。または所有者はわかっているが連絡先が不明
③急迫の事情があるとき
①。まずは、竹木の所有者(通常は土地の所有者か使用者だろう)に枝を切ってくれ、と催告する。それでも「相当の期間」切除されないのならば、越境された側が枝を切ってもかまわない、と改正された。なるほど。でも「相当の期間」って…。いったいどのくらい我慢すればよいのだろう??
2週間が目安!?これは「個別の事情を踏まえて判断」される。要はケースバイケースなのだ。ここらあたりが法律の頼りになるような、ならないような点と思うかもしれない。竹木の位置や大きさや枝の越境状況、土地の利用状況、竹木自体の財産的価値など様々な事情があるだろうから、一概には線を引けないのだ。
とはいえ、目安となるものがないわけではない。法案を審議した参議院法務委員会では、「竹木の所有者に枝を切除するために必要な時間的な余裕、時間的な猶予を与えるという趣旨からすれば、基本的には二週間程度は要することになるのではないか」という説明が政府参考人からあった(「第204回国会 参議院 法務委員会 第9号 令和3年4月20日」と検索すれば誰でも議事録を読むことができます)。「相当の期間」を判断する材料のひとつになるかもしれない(2週間経過すれば勝手に切ってよい、ということではないですよ。念のため)。
所有者を探さなければならない!?また、②にあるように所有者が不明ならば、自分で枝を切ってしまってもかまわない。放っておくと伸び続けてしまうから、これはありがたいルールだ。とはいえあくまで「所有者が不明」「所有者がわかっても連絡が取れない」という場合の話だ。所有者を探す努力をしなければダメなのだ。
空き地や空き家など住んでいる人がいない場合では「所有者を探すのが面倒だな」と思うかもしれない。登記で所有者を調べるにもお金がかかる。登記に記載された土地の所有者が死亡している、住所が変わっている、ということもありうる。そのため根の場合と同様、自分で切れる、という案も検討されたようだが、それは採用されなかった。竹木所有者の権利を守るためだ。
③は差し迫った危険があるときだ。時間的余裕がないのであれば、枝を切って構わない。具体的には、「地震により破損した建物の修繕工事用の足場を組むために、隣地から越境した枝を切る」といった場合などを想定している。
費用は誰が負担するのか(写真/PIXTA)
竹木の枝や根の切り取りに専門業者に依頼しなければならない場合、当然、タダではない。この費用は誰が負担するのか。
枝や根の越境は、不法行為(他人の権利を侵害する行為)に該当し、損害賠償請求権が発生するから、竹木の所有者が負担することが筋だろう。法改正について議論した衆議院法務委員会でも政府参考人からそのような回答があった。しかし、費用負担については改正法でも明文化されていない。事案ごとに協議や調整を行う、ということになっている。
(このあたりの議論も国会の議事録を読むことができる。興味のある方は「第204回国会 衆議院 法務委員会 第6号 令和3年3月23日」で検索を)。
今回の法改正によって、個人の宅地だけでなく、道路や公園など公共用地に、隣接地の竹木が越境してきた場合、新しいルールに基づいて枝を切り取ることが可能となった。
とはいえ、それは隣地所有者が切除しなかった場合の話だ。そもそもは、空き家となった実家などで近隣に迷惑をかけるようなことのないよう、所有者が管理すべきものなのだ。今は利用する予定がないから、といって放っておく、隣地に枝が伸びている、枯れ葉もたくさん落ちている、という事態も珍しくない。土地の所有者である以上、責任をもって管理しなければならない。さらに言えばお隣さんと良好な人間関係を築いておくことも大切だろう。円満な人間関係があれば、法律など持ち出す必要はないのだから。
電気代の値上がりが続き、住まいの省エネ性能に関心が高まっています。そんななか、施主がプロの力を借りつつ、「断熱性の高い施工方法を学びながら、自分たちで省エネで環境にやさしい住まいをつくる」というワークショップが開催されました。子どもたちや周辺住民も加わりつつ行われた、楽しい模様をレポートします。
ハーフビルドで断熱等級6相当の省エネ住宅を建てる!……って、できるの?高騰が続く光熱費を背景に、住まいの断熱性能、省エネ性能が急速に注目を集めています。そんなさなか、プロの力を借りて施主が自邸を建てるという「ハーフビルド」方式で、あたたかい家をつくるというワークショップが開催されました。その住まいの舞台となったのは、神奈川県相模原市緑区、旧藤野町の里山。東京と神奈川、山梨の県境にあり、東京駅まで1本でアクセスできるものの、のどかな環境です。
断熱ワークショップの舞台となる住まい。神奈川県内とはいえ、里山ののどかな雰囲気(写真撮影/桑田瑞穂)
この住まいの施主は、30代の森川夫妻。妻は会社員、夫は今、退職して家づくりに全力投球しています。設計と施工を担当するのはHandiHouse projectのみなさん。SUUMOジャーナルでも、「施主も“一緒に”つくる住まい」という連載を続けていましたが、今回はその試みがバージョンアップし、「5地域の断熱等級6」(※1)相当の住まいをつくるのだといいます。相模原市は6地域にあたりますが、お住まいのある山間部は山梨にも近く、冬にはマイナスになることも多々あるため、山梨市と同等の5地域の断熱性能を求めることにしたといいます。
※1 日本は地形の気候に合わせて省エネ基準地域が8区分されています。数字が小さいほど寒い地域で、首都圏の都市部は多くが6地域に該当します。その地域区分によって、等級の評価基準が異なるので、同じ等級6の評価でも、6地域より、5地域の方がより高いものが求められます
「住宅省エネルギー基準」による地域区分(一般財団法人住宅・建築SDGs推進センターHPより)
断熱等級6と7は2022年10月に新設されたばかりですが、等級6はこれからの日本の住宅が目指すべき断熱のスタンダード暮らす、等級7は世界基準のトップクラスに相当します。とはいえ、今までは最高等級が4だったことを考えると、ハーフビルドでつくるには十分にハイレベルな水準でもあります。では、どのようにしてこのプロジェクトがはじまったのかを、施主の森川夫妻に聞きました。
「家をつくるにあたり、まずできる限り、自分たちの手でつくりたいという希望がありました。また、夫妻ともに寒がりで、一方で化石燃料や石油エネルギーをできるだけ使いたくない、減らしたいとの考えから、高断熱・高気密の家がいい。加えて、私たちには2人の子どもがいるのですが、現在、深刻化する気候変動に対し、未来の世代に自分たちなりの『解』を示しておきたい。加えて、地域の建材や廃材を使いたい、また太陽光パネルを搭載、将来的に電気自動車を購入してV2H(※2)にしてほぼすべてのエネルギーを太陽光で賄うプランを考えていたんです。そんな理想もりもりの家づくりがはたしてできるのか、依頼先を探していたところ、設計事務所HandiHouse projectの中田さん夫妻を紹介されて。コレだ! とすぐに決まりました」とその理由を明かします。
※2 V2H 自動車(Vehicle)から家(Home)へという意味。電気自動車に蓄えられた電力を、家庭用に有効活用する考え方。
「パーマカルチャー」(持続可能な循環型の農業をもとに、人と自然がともに豊かになるような関係性を築いていくためのデザイン手法)に加えて、地域や将来の環境のことを考えて家づくりをしたいと考えていた夫妻と、共感できる設計事務所の出合いは、まさに奇跡&運命ともいえるものでしょう。それが、今回のワークショップ開催の運びとなりました。
ワークショップ参加者やご近所さんの見学も。断熱への関心は高い2023年1月中旬、断熱ワークショップが開催されました。2022年のうちに家づくりのプランが確定し、地鎮祭と基礎工事、棟上げ、屋根の防水や外壁張り、窓設置が完了しているので、見た目はほぼ「家」になっています。また、天井や床には発泡プラスチック系の断熱材10cmがプロの手によってすでに入っている状態です。
ワークショップ前には準備体操。本日もご安全に!(写真撮影/桑田瑞穂)
施工する前にまず住まいの断熱性能についての説明、使う断熱材やその理由、性能をHandiHouse projectメンバーから説明してくれました(写真撮影/桑田瑞穂)
今回ワークショップを開催したHandiHouse projectの中田りえさんは、この試みについて、「施主だけでなく、参加者、ご近所の方などに、住まいの断熱の大切さを知ってもらえるいい機会になりますよね。あと、住まいの建築のプロセスにはいろいろとありますが、断熱って特別なスキルはいらず、ていねいに施工することが大切なんです。ウレタンスプレーで吹き付けるのも楽しいし。それこそお子さんやママ、パパも参加しやすいし、もっとこの輪を広げていけたら」と話します。
ワークショップの開催はHandiHouse projectのフェイスブックページや施主の森川さんがブログで告知したこともあり、筆者のSUUMOチームとはまた別に4名の取材チームがいらっしゃいました。ハーフビルドのワークショップは何度も参加しているという人もいれば、初めてという人も。いずれにしても「断熱や気密に関心がある」「DIYで家づくりがしてみたい」と、住まいそのものへの関心の高さが伺えます。
森川邸の断面図。断熱材を10.5cm入れる図面になっています(写真撮影/桑田瑞穂)
まずは施工する建物の前にて、自己紹介とあいさつ、そして準備体操をします。楽しそうではありますが、やはり事故や怪我をするわけにはいきません。その後、場所を建物内にうつし、「なぜ、今、断熱が大事なのか」「高気密が大切な理由」「今日の作業手順」を説明してもらいました。ここで断熱等級6は外皮性能レベル(いわゆるUA値)では0.46で、省エネ等級4の北海道と同水準あること、施工しやすさから発泡系断熱材を使うこと、断熱材は価格と性能がほぼ比例すること、住まい完成時には気密測定を行い、住宅の隙間総量を表すC値は実測で0.4をめざすという話が出ていました。ちなみに、C値は数値が低いほど気密性にすぐれるというもので、現時点で一般的な住まいでは1以下、世界基準のパッシブハウスで0.6以下だといわれています。0.4というのは、細部にわたって隙間なくていねいな施工が求められる水準のため、ハーフビルドでこの数字を本当に実現できるの?と筆者は驚きが隠せません。
ちなみに断熱ワークショップの作業そのものはとてもシンプルで、間柱(まばしら)に合わせてあらかじめカットされている断熱材(発泡プラスチック系)をはめこんでいくというもの。
断熱材を入れる前の壁の様子。柱と間柱(まばしら)の間は38cm(写真撮影/桑田瑞穂)
柱と柱の間に、断熱材(発泡プラスチック系)を埋め込んでいます。手で押すだけで施工できるので、めちゃくちゃシンプル(写真撮影/桑田瑞穂)
断熱材は幅に合わせてカットされていますが、さらに現場で長さをカットします。カットするのは施主の森川さん(妻)。ちゃんとまっすぐサイズに合わせてカットできるか、ドキドキします(写真撮影/桑田瑞穂)
カットした断熱材を埋め込んでいきます。隙間があってはいけないので、最後は押す力が必要です(写真撮影/桑田瑞穂)
手で押すと凹んでしまうため、木槌と板を使ってはめていきます(写真撮影/桑田瑞穂)
隙間を見つけては、発泡ウレタンスプレーで埋めていきます。金具の周辺も同様に行います(写真撮影/桑田瑞穂)
説明をうけると、みんな夢中になって断熱材を加工したり、はめていく作業に入りました。また、発泡ウレタンスプレーで隙間を埋めていくのも楽しいよう。パズルがぴったりはまってく感覚、プチプチをつぶすのにも似た、おもしろさがあります。
森川さん(夫)の仕上げによって、壁一面に断熱材が入りました(写真撮影/桑田瑞穂)
県産材を施主が用意する。文字通り地域に根ざした家づくりワークショップは午前10時にはじまりましたが、途中、森川夫妻と中田さんのお子さん、ご近所のお子さん、近隣の方も顔を出すなど、なんともにぎやか。あっという間に終わった印象です。家のなかに資材を置かずに安全には十分配慮し、断熱材を充填する作業そのものは釘などをほとんど使わないので、部屋の片すみで子どもが遊んでいました。なんとも幸せで楽しげな施工風景です。家づくりってこんなにも楽しいんですね。
HandiHouse project中田さん夫妻のお子さんたち。断熱材を机にして、ぬり絵をしています(写真撮影/桑田瑞穂)
今回の住まい、床のフローリングや外壁などに使う木材は、すべて神奈川県内の地元のものを使っているとのこと。また自身の手で製材所に運び、なんと自身で製材も行った森川さん。インターネットでクリックひとつで海外のものも安く手に入る時代ですが、「輸送にかかる環境負荷を考えたら、地域の木材を使う方がいい。今回、使っているのはこの近郊、家からなるべく近い山で採れた木材です」と言います。
住まいの広さは4人家族にはコンパクトな60平米ほどの平屋。自分たちで施工をすることもあり、躯体は凸凹がなく、シンプルな長方形です。ロフトがありますが、それ以外のところは将来に仕切りを自由に変更できるなど、可変性のある間取りにしています。窓は樹脂サッシでトリプルガラスを採用、断熱や窓など、住んでから手を入れにくい箇所にお金をかけているのがわかります。
施主である森川夫妻とご両親、さらにはご近所のお子さんたちと一緒に(写真撮影/桑田瑞穂)
ちなみに、森川夫妻、妻は出産をして現在育休中、まだ頻回授乳もある時期です。また、夫はこの住まいづくりに合わせて会社を退職し、現在はフルタイムの大工見習いをしているとのこと。まだまだ手のかかるお子さんがいるのに、このチャレンジ精神と取り組み、夫妻ともにパワフルすぎる!
「ほぼ毎日、現場に来て家づくりに携わっているので家のつくりを理解できています。将来、多少の不具合が出ても自分たちで修正していけます。この家づくりで身につけたことを、これからの家族の変化に合わせた家づくりにも活かしていきたい」と夫。本当の意味で、「持続可能な家づくり」をめざしているんですね。
そしてこのワークショップ、何よりの特色は楽しいこと!!
「この前ね、子どもに『お父さんとお母さんは、家ができるたびに友達が増えている』って言われたんですよ」と中田りえさん。施主も一緒につくるという価値観に惹かれて依頼するので、施主と工務店・建築士という間柄ではなく、友達になるのは当たり前といえば当たり前かもしれません。
お昼にはほうとうをつくって食べます。みんなで食べるともっと美味しい(写真撮影/桑田瑞穂)
ちなみに、午前に断熱材がひと通り充填されたところで、午後は焼き杉づくりに挑戦。焼き杉とは、杉の表面を焼き焦がして、耐久性や耐火性を高めたもの。知識としては知ってはいましたが、実際に焼く作業なんてめったにない貴重な機会なので、体験させていただくことに。
神奈川県産材の杉。3枚の板を三角形にして紐で固定します(写真撮影/嘉屋恭子)
下の七輪に火を入れて焼いていきます。右のように煙と火が上がったら完成!(写真撮影/嘉屋恭子)
できた焼き杉は、外壁材として使用するため、全部で200枚以上焼く計算(写真撮影/嘉屋恭子)
冒頭に紹介した通り、今年は電気代が高くなっていること、寒さが厳しいこの地域では、建物の高断熱化はとても注目度の高いトピックスになっています。ふらりと立ち寄ったご近所の方からも「高気密・高断熱の家って~?」「窓はトリプルサッシで~?」と会話が盛り上がっていました。そもそも、人って楽しそうにしていると集まってきますよね。もちろん、森川夫妻の人柄もある気がしますが、家って単なる建物ではなくて、人と人とをつなぐ特別なものなのだなと実感します。
森川家の住まいは今年3月、竣工の予定です。汗と思い出がつまった住まいは、一見すると小さな、普通の家に見えるかもしれません。ただ、断熱性や持続可能性、つくり手と住まい手のつながりなどは今までにない「新しい家」への試みがつまった住まいでもあります。これからの住まいは、コンパクトであたたかく、長持ち、地域や自然と一体となっている。こんな「森川さんち」のような家が増えていったらいいなあと思います。
●取材協力
森川家
ハンディハウスプロジェクト
●参考サイト
「住宅の省エネルギー基準」一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター
ニューヨーク人情酒場へようこそ!これは、ブルックリンにある小さな酒場(レストラン)で起こったいろんな出来事。
大都会の夜、一杯の酒から始まる人間模様。作者はこのお店で今お寿司を作っているよ。
にわかに信じがたいドリンクSake Bombですが、これが意外なほど浸透しています。しかも、お箸の上に載せた日本酒入りのおちょこはテーブルを手で叩きまくった振動でビールの中に落とすという野蛮極まりない手順で完成します。挙げ句の果てにビールと日本酒を混ぜたものを飲むというのだから日本人としては目も当てられないといったところですが、アメリカのパリピにはSake Bomb好きが多い印象があります。でも、そもそも日本酒を置いているバーでないとできない遊びなので、条件的には厳しいです。(アジア人経営でないアメリカのバーで日本酒・焼酎を置いているところは少ない。)
アメリカのパリピのやるドリンキング・ゲーム的な遊びは、私のようなオタクの日本人には経験がないほど原始的なものが多く(球をコップに投げ入れて外れたらショットを飲むやつとか)ちょっと困惑してしまいます。でも、あんまり知らない人と距離を詰めるにはちょうどいいのかも!?
日本でサラリーマンを経験した人間といたしましては、「ちょっと飲みに行く」のイメージは仕事終わりの居酒屋での一杯だったんですが、パーティー好きなアメリカ人やラテンアメリカ人にとってはちょっと違ったようです。
とくにラテンの人々はサルサミュージックが流れ出すと自然に腰が動き出し、週末はどこでも構わずに踊り出してしまいます。上司も部下も関係なく、踊ってるときはみんなハッピー。おおらかで優しい心を持った人が多い印象で、ダンスが下手な私にも踊りを教えてくれたりなど。
でも、この日はかなり激しかったな。次誘われたら参加してみようと思います。絶対浮くと思うけど……。
作者:ヤマモトレミ
89年生まれ。福岡県出身。2017年、勤めていた会社の転勤でニューヨークに移住。仕事の傍ら、趣味でインスタグラムを中心に漫画を描いて発表していたところ、思った以上に楽しくなってしまい、2021年に脱サラし本格的に漫画家としての活動を開始。2022年にアメリカで起業し個人事業主になりました。ブルックリンのレストランで週4で寿司ローラーをやっています。
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2月22日は「猫の日」だったのニャー。「猫の日」にちなんで、ゼロリノベを運営するgroove agentが、東京都在住の猫を飼っている20~40代の男女1000人を対象に、猫と暮らす家に関してアンケート調査を実施した。それによると、猫と暮らす家にはお悩みがいろいろあるのだという。どんなことだろうか?
【今週の住活トピック】
「猫と暮らす家のお悩みランキング」を公表/groove agent
筆者はかつて「ペットは犬より猫? 散歩、しつけの手間が犬人気下落の要因か」という記事を書いたが、ペットフード協会の調査によると、飼育されるペットの頭数は、2014年以降ずっと猫が犬を上回っている。それほど、ペットとして猫の人気は高いのだ。
家族同様の愛猫でも、猫と暮らす家についてはお悩みも多いようだ。ゼロリノベの調査によると、お悩みの3位は「家具や壁で爪をとぐ」、2位は「毛が抜けて敷物や洋服につく」、そして1位は「猫飼育可能な物件が少ない」という結果だった。
猫と暮らすうえで、家の中のことは対応方法を自身で工夫できたとしても、住める家自体が見つけにくいことが最大の悩みごとというわけだ。
猫と暮らすために住み替えるなら、新築戸建て?調査対象者が現在猫を飼っている家は、「賃貸」が51%、「持ち家」が49%とほぼ同じだ。ただ、「猫と暮らす家」として満足しているのは全体の44%で、その内訳は「持ち家」が57%を占めたので、持ち家のほうがやや満足度が高いようだ。賃貸に不満を感じる理由としては、家が狭いことなどが挙がっているという。
では、「猫と暮らすために購入・住み替えするなら」どんな家がよいのだろう。結果は「新築戸建て」が最多の32%だった。「中古戸建て」の14%と合わせると戸建てが46%になり、マンション(新築マンションと中古マンションの合計で39%)より戸建てのほうが猫と暮らしやすいと思っている人が多いようだ。戸建てに住み替えを検討している人のコメントに、「管理組合などの規定に縛られない戸建てに住み変えたい」とあるように、マンションでは「管理規約」などでペット飼育に関する細かい制限があるからだろう。
猫の爪とぎ用のボードを壁に張ったり、こまめにブラッシングしたりと、猫を飼ううえでの工夫などはいろいろあるだろうが、ここでは、猫が飼える物件を探すときに注意したいことを説明しよう。
まず、賃貸物件について。はじめから「ペット可」で入居者を募集している物件を選びたい。その場合でも、ほかの入居者とのトラブルを避けるために、ペット飼育のための建物になっていたり、飼育のルールがあったりするほうがよいだろう。賃貸物件の中には、エントランスに足洗い場があったり、室内の壁のクロスを上下に分けて下の部分だけ張り替えできるようになっているものもある。また、一般的には、退去の際にはペットによる臭いや損傷について原状回復が求められるので、室内の仕様設備や契約書の内容などもしっかり確認したい。
次に、新築や中古のマンションの購入について。マンションには「管理規約」などの規則がある。必ず「ペット飼育可能」になっているか確認し、ペット飼育の条件としてどんなルールがあるかを詳しく調べよう。ペットの大きさや頭数に制限がある場合がほとんどなので、自分の希望通りに猫が飼えるか確認したい。ほかにも、ペット委員会などの飼育者の組織があり、予防接種を義務づけるなどの会則が整っているほうがよいだろう。ペット対応型マンションとして、ペット飼育のための共用設備や設計がなされているものもある。
新築か中古かについては、いろいろな考え方があるだろう。先ほどの調査結果では、猫と暮らすために購入・住み替えをするなら新築戸建てに住みたいと回答した人のなかには、「注文住宅にすれば自分たちにも猫にも住みやすい家が設計できるかもしれないから」とコメントした人もいて、分譲の新築物件ではなく注文住宅を建てるイメージをもっている人もいるようだ。同じ理由で、中古住宅を買ってリフォームやリノベーションをしたいと回答した人もいるだろう。
猫の安全や健康を守るには、滑りにくい床材やペットドア・キャットウォークの設置など、通常の住宅にはない仕様や設備を採り入れる必要がある。そういう意味では、中古住宅を買ってすぐに、あるいは一定期間が経ってからペット対応のリフォームをするという選択肢も有効だ。
最後に指摘したいのは、猫を飼っている人との情報交換も大切だということ。戸建てのほうが規制を受けることなく猫を飼える側面もあるが、マンションの場合には飼育仲間と情報交換ができるという側面もある。何を重視するかをよく考えて、詳しく調べたうえで物件を選ぶのがよいだろう。
さて、本連載の筆者の担当編集者は犬派らしいが、SUUMOジャーナルの記事で「猫」のテーマは人気だという。丸まって寝たり猫じゃらしで遊んだりする姿を見れば、癒やされて家事や仕事の疲れも解消されることだろう。室内で飼いやすいこともあって、猫人気は今後も続くと思われる。飼い主にとっても愛猫にとっても、暮らしやすい家が増えることを期待している。
●関連サイト
「猫と暮らす家のお悩みランキング」(ゼロリノベ調べ)
東京都内に住む際、交通面や買い物など生活の利便性から23区内を候補に考える人が多いだろう。ただ問題は、家賃相場が高いこと……。なるべく家賃を抑えられる住まいを探すなら、どの駅がいいのか? 23区内でも特に家賃相場が低めな区はどこだろう? そこで今回は、東京23区内に位置する駅それぞれの、徒歩15分圏内にある賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満のワンルーム・1K・1DK)の家賃相場をランキング。家賃相場が安い駅TOP20をチェックしていこう。
東京23区内の家賃相場が安い駅TOP20(21駅)順位/駅名/家賃相場(主な路線/駅の所在地)
1位 葛西臨海公園 5.60万円(JR京葉線/江戸川区)
2位 一之江 6.40万円(都営新宿線/江戸川区)
2位 新柴又 6.40万円(北総線/葛飾区)
4位 京成小岩 6.50万円(京成本線/江戸川区)
4位 京成金町 6.50万円(京成金町線/葛飾区)
4位 江戸川 6.50万円(京成本線/江戸川区)
7位 竹ノ塚 6.55万円(東武伊勢崎線/足立区)
7位 金町 6.55万円(JR常磐線/葛飾区)
9位 小岩 6.60万円(JR総武線/江戸川区)
9位 柴又 6.60万円(京成金町線/葛飾区)
9位 瑞江 6.60万円(都営新宿線/江戸川区)
9位 篠崎 6.60万円(都営新宿線/江戸川区)
13位 堀切菖蒲園 6.70万円(京成本線/葛飾区)
13位 小菅 6.70万円(東武伊勢崎線/足立区)
13位 船堀 6.70万円(都営新宿線/江戸川区)
16位 谷在家 6.75万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
17位 上井草 6.80万円(西武新宿線/杉並区)
17位 五反野 6.80万円(東武伊勢崎線/足立区)
17位 喜多見 6.80万円(小田急線/世田谷区)
20位 梅島 6.85万円(東武伊勢崎線/足立区)
20位 青井 6.85万円(つくばエクスプレス/足立区)
※22~44位は記事末
1位は家賃相場がトップ20で唯一の5万円台、5万6000円だったJR京葉線・葛西臨海公園駅。駅高架下には2021年1月、アウトドアブランドのショップをはじめ飲食・物販エリアやイベントスペースを備えた複合商業施設「Ff(エフエフ)」がオープンしてる。開業3年目を迎えた現在はリニューアル工事中で休業区画も多い状態だが、今後は新たなショップのオープンも見込まれるので楽しみにしたい。
葛西臨海公園駅(写真/PIXTA)
そんな1位・葛西臨海公園駅は江戸川区の南端に位置し、駅南側の出口を出ると「葛西臨海公園」が目の前に。東京湾に面した園内には水族館や大観覧車があり、海も一望できる。一方の駅北側には青果と花を扱う都の中央卸売市場と、物流倉庫街が広がっている。そのため駅付近に住宅はさほどなく、住宅街らしくなるのは駅から徒歩15分以上のエリア。そのあたりまで出ると、幹線道路の環七沿いにファミレスが点在していたり、住宅の合間にスーパーやコンビニがあったりと日常使いできる商店も。駅から徒歩35分ほど離れるとショッピングセンターやホームセンターがあるので自転車や車が使えると生活の幅が広がるだろう。交通の面を見てみると、東京駅までJR京葉線1本で5駅・約13分の近さ。東京駅とは逆方面に乗ると1駅目が舞浜駅で、ディズニー好きにはたまらない立地でもある。
葛西臨海公園(写真/PIXTA)
2位は同じく江戸川区にある、都営新宿線・一之江駅で家賃相場は6万4000円。両隣は9位・瑞江駅(家賃相場6万6000円)と13位・船堀駅(家賃相場6万7000円)で、瑞江駅の1駅先は家賃相場6万6000円で同額9位の篠崎駅、という位置関係だ。この4駅では最も家賃相場が安かった一之江駅の様子はというと、4階建ての駅ビルにスーパーや持ち帰り弁当店、中華レストランがあって便利そう。2021年9月に東口駅前広場の正面に誕生したスーパー「マルエツ」をはじめ、駅周辺にもスーパーやコンビニ、ハンバーガーや牛丼などの気軽に入れる飲食店があり、一人暮らしに嬉しい環境だろう。都営新宿線に乗ると、神保町駅まで約23分、市ケ谷駅まで約27分、新宿駅までは約33分だ。
一之江駅前(写真/PIXTA)
一之江駅よりもやや家賃相場が高い、両隣の瑞江駅と船堀駅はどんな街だろう? 9位・瑞江駅の駅前にはディスカウントストア「ドン・キホーテ」やスーパー、100円ショップが入った商業ビルがある。ほかにも多彩な飲食店やコンビニなどが立ち並び、一之江駅よりもにぎわっている様子。また、13位・船堀駅の駅前には、都内を見渡す展望塔や映画館を備えた江戸川区のシンボルタワー「タワーホール船堀」が立っている。さらに船堀駅前では再開発が計画され、2028年度の供用開始を目指す地上20階建ての区の新庁舎と、地上27階建ての複合ビルの建設が発表された。駅周辺地区はほかにも開発計画が目白押しで、今後の船堀駅は江戸川区の中心エリアとしての存在感を高めていくだろう。
さて、2位には同額6万4000円で葛飾区にある北総線・新柴又駅もランクインした。柴又と聞くと9位の京成金町線・柴又駅(家賃相場6万6000円)を思い浮かべる人もいるだろう。映画『男はつらいよ』の主人公・寅さんの生まれ故郷としてロケ地にもなった柴又駅周辺は観光地としてもにぎわっているが、そこから歩いて10分ほどの新柴又駅周辺は静かな住宅街。スーパーやドラッグストア、コンビニはあるが繁華街といった雰囲気ではないので、落ち着いた生活ができそうだ。北総線は京成本線~京成押上線~都営浅草線~京急本線へと直通運転されているため、新柴又駅から乗り換えずに日本橋駅や新橋駅に行けるのも魅力。品川駅までも電車1本、約45分で到着する。
新柴又駅(写真/PIXTA)
TOP20には東京23区東部の江戸川区、足立区、葛飾区の駅がずらり2位・新柴又駅と9位・柴又駅のように、名称が似通った駅は4位以下にもランクインしている。4位・京成小岩駅と9位・小岩駅、同じく4位・京成金町駅と7位・金町駅だ。
4位・京成小岩駅は京成本線の駅で家賃相場6万5000円、9位・小岩駅はJR中央・総武線(各駅停車)の駅で家賃相場6万6000円。駅名が似ていてどちらも江戸川区内、そして住宅街にある点は同様だが、両駅間は徒歩20分弱ほど離れている。4位・京成小岩駅前はスーパーやコンビニ、飲食店があり、暮らしやすそうな街並み。2駅先の青砥駅から都営浅草線直通の京成押上線に乗り換えられるので、浅草駅や新橋駅にも行きやすい。また、京成小岩駅から京成本線で約21分の日暮里駅に出ると、山手線や常磐線などJR各線に乗り換え可能だ。
そんな京成小岩駅以上に駅前がにぎわっているのが9位・小岩駅だ。JR中央・総武線(各駅停車)に乗ると、秋葉原駅や市ケ谷駅を経由しつつ新宿駅まで約38分。隣の新小岩駅でJR総武線快速に乗り換えれば、東京駅まで約19分で行ける。駅にはショッピングセンター「シャポー小岩」が直結され、食品関係のお店や飲食店が営業中。改札を挟んだ千葉側エリアは改装工事中で、3月下旬にリニューアルオープンを予定している。改札直結の1階部分は約100mの通路沿いにファッション雑貨店やカフェなどが並ぶアーケード街に、地下1階部分は生鮮食料品街になるという。
小岩駅(写真/PIXTA)
小岩駅を出ても、約170店舗がひしめき区内最大の商店街と言われる「小岩フラワーロード商店街」をはじめ、線路の北側にも南側にも活気ある商店街が広がる。さらに注目は、駅周辺で大規模再開発が進行中ということ。北口側には住宅や商業の複合ビルと駅前広場が2031年度に完成予定。南口側にはすでに再開発エリア「ファスタ小岩」の商業施設棟とマンションが誕生しており、さらに地上33階建ての商業・住宅複合ビルも2026年度中に竣工予定だ。
小岩フラワーロード商店街(写真/PIXTA)
名前が似ているもう1組の駅、葛飾区にある4位・京成金町駅と7位・金町駅もチェックしてみよう。この2駅は駅前広場をはさんで南側に京成金町線の京成金町駅、北側にJR常磐線の金町駅が位置し、周辺住民は2路線が利用できる環境。家賃相場が京成金町駅は6万5000円、金町駅は6万5500円と若干の違いが出たものの、「どちらの駅により近いか」という点にはあまりこだわる必要はないだろう。東西に走るJR常磐線の線路をはさんで、北側のほうに飲食店が多く、南側のほうがより住宅街らしい街並みではあるが、どちら側にも日常生活を支えるスーパーやコンビニは備えている。
ここまで紹介してきた通り、トップ20には近接しあう駅も多くランクインしている。改めて見てみると、トップ20全21駅の所在地は、江戸川区が8駅、足立区が6駅、葛飾区が5駅。いずれも東京23区の東部に位置しているため、リーズナブルな賃貸物件を探したいならまずこのエリアをチェックするとよさそうだ。とはいえ江戸川区をはじめ東部エリアも近年は再開発が進められ、街の様子も変わりつつある。住みやすい街として人気が高まると、家賃相場も上昇しがち。来年、同様の調査を行った際は違った顔ぶれの駅がランキングに並ぶかもしれない。
■22-44位
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京23区内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/1~2022/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
東京都内に住む際、交通面や買い物など生活の利便性から23区内を候補に考える人が多いだろう。ただ問題は、家賃相場が高いこと……。なるべく家賃を抑えられる住まいを探すなら、どの駅がいいのか? 23区内でも特に家賃相場が低めな区はどこだろう? そこで今回は、東京23区内に位置する駅それぞれの、徒歩15分圏内にある賃貸物件(専有面積10平米以上~40平米未満のワンルーム・1K・1DK)の家賃相場をランキング。家賃相場が安い駅TOP20をチェックしていこう。
東京23区内の家賃相場が安い駅TOP20(21駅)順位/駅名/家賃相場(主な路線/駅の所在地)
1位 葛西臨海公園 5.60万円(JR京葉線/江戸川区)
2位 一之江 6.40万円(都営新宿線/江戸川区)
2位 新柴又 6.40万円(北総線/葛飾区)
4位 京成小岩 6.50万円(京成本線/江戸川区)
4位 京成金町 6.50万円(京成金町線/葛飾区)
4位 江戸川 6.50万円(京成本線/江戸川区)
7位 竹ノ塚 6.55万円(東武伊勢崎線/足立区)
7位 金町 6.55万円(JR常磐線/葛飾区)
9位 小岩 6.60万円(JR総武線/江戸川区)
9位 柴又 6.60万円(京成金町線/葛飾区)
9位 瑞江 6.60万円(都営新宿線/江戸川区)
9位 篠崎 6.60万円(都営新宿線/江戸川区)
13位 堀切菖蒲園 6.70万円(京成本線/葛飾区)
13位 小菅 6.70万円(東武伊勢崎線/足立区)
13位 船堀 6.70万円(都営新宿線/江戸川区)
16位 谷在家 6.75万円(日暮里・舎人ライナー/足立区)
17位 上井草 6.80万円(西武新宿線/杉並区)
17位 五反野 6.80万円(東武伊勢崎線/足立区)
17位 喜多見 6.80万円(小田急線/世田谷区)
20位 梅島 6.85万円(東武伊勢崎線/足立区)
20位 青井 6.85万円(つくばエクスプレス/足立区)
※22~44位は記事末
1位は家賃相場がトップ20で唯一の5万円台、5万6000円だったJR京葉線・葛西臨海公園駅。駅高架下には2021年1月、アウトドアブランドのショップをはじめ飲食・物販エリアやイベントスペースを備えた複合商業施設「Ff(エフエフ)」がオープンしてる。開業3年目を迎えた現在はリニューアル工事中で休業区画も多い状態だが、今後は新たなショップのオープンも見込まれるので楽しみにしたい。
葛西臨海公園駅(写真/PIXTA)
そんな1位・葛西臨海公園駅は江戸川区の南端に位置し、駅南側の出口を出ると「葛西臨海公園」が目の前に。東京湾に面した園内には水族館や大観覧車があり、海も一望できる。一方の駅北側には青果と花を扱う都の中央卸売市場と、物流倉庫街が広がっている。そのため駅付近に住宅はさほどなく、住宅街らしくなるのは駅から徒歩15分以上のエリア。そのあたりまで出ると、幹線道路の環七沿いにファミレスが点在していたり、住宅の合間にスーパーやコンビニがあったりと日常使いできる商店も。駅から徒歩35分ほど離れるとショッピングセンターやホームセンターがあるので自転車や車が使えると生活の幅が広がるだろう。交通の面を見てみると、東京駅までJR京葉線1本で5駅・約13分の近さ。東京駅とは逆方面に乗ると1駅目が舞浜駅で、ディズニー好きにはたまらない立地でもある。
葛西臨海公園(写真/PIXTA)
2位は同じく江戸川区にある、都営新宿線・一之江駅で家賃相場は6万4000円。両隣は9位・瑞江駅(家賃相場6万6000円)と13位・船堀駅(家賃相場6万7000円)で、瑞江駅の1駅先は家賃相場6万6000円で同額9位の篠崎駅、という位置関係だ。この4駅では最も家賃相場が安かった一之江駅の様子はというと、4階建ての駅ビルにスーパーや持ち帰り弁当店、中華レストランがあって便利そう。2021年9月に東口駅前広場の正面に誕生したスーパー「マルエツ」をはじめ、駅周辺にもスーパーやコンビニ、ハンバーガーや牛丼などの気軽に入れる飲食店があり、一人暮らしに嬉しい環境だろう。都営新宿線に乗ると、神保町駅まで約23分、市ケ谷駅まで約27分、新宿駅までは約33分だ。
一之江駅前(写真/PIXTA)
一之江駅よりもやや家賃相場が高い、両隣の瑞江駅と船堀駅はどんな街だろう? 9位・瑞江駅の駅前にはディスカウントストア「ドン・キホーテ」やスーパー、100円ショップが入った商業ビルがある。ほかにも多彩な飲食店やコンビニなどが立ち並び、一之江駅よりもにぎわっている様子。また、13位・船堀駅の駅前には、都内を見渡す展望塔や映画館を備えた江戸川区のシンボルタワー「タワーホール船堀」が立っている。さらに船堀駅前では再開発が計画され、2028年度の供用開始を目指す地上20階建ての区の新庁舎と、地上27階建ての複合ビルの建設が発表された。駅周辺地区はほかにも開発計画が目白押しで、今後の船堀駅は江戸川区の中心エリアとしての存在感を高めていくだろう。
さて、2位には同額6万4000円で葛飾区にある北総線・新柴又駅もランクインした。柴又と聞くと9位の京成金町線・柴又駅(家賃相場6万6000円)を思い浮かべる人もいるだろう。映画『男はつらいよ』の主人公・寅さんの生まれ故郷としてロケ地にもなった柴又駅周辺は観光地としてもにぎわっているが、そこから歩いて10分ほどの新柴又駅周辺は静かな住宅街。スーパーやドラッグストア、コンビニはあるが繁華街といった雰囲気ではないので、落ち着いた生活ができそうだ。北総線は京成本線~京成押上線~都営浅草線~京急本線へと直通運転されているため、新柴又駅から乗り換えずに日本橋駅や新橋駅に行けるのも魅力。品川駅までも電車1本、約45分で到着する。
新柴又駅(写真/PIXTA)
TOP20には東京23区東部の江戸川区、足立区、葛飾区の駅がずらり2位・新柴又駅と9位・柴又駅のように、名称が似通った駅は4位以下にもランクインしている。4位・京成小岩駅と9位・小岩駅、同じく4位・京成金町駅と7位・金町駅だ。
4位・京成小岩駅は京成本線の駅で家賃相場6万5000円、9位・小岩駅はJR中央・総武線(各駅停車)の駅で家賃相場6万6000円。駅名が似ていてどちらも江戸川区内、そして住宅街にある点は同様だが、両駅間は徒歩20分弱ほど離れている。4位・京成小岩駅前はスーパーやコンビニ、飲食店があり、暮らしやすそうな街並み。2駅先の青砥駅から都営浅草線直通の京成押上線に乗り換えられるので、浅草駅や新橋駅にも行きやすい。また、京成小岩駅から京成本線で約21分の日暮里駅に出ると、山手線や常磐線などJR各線に乗り換え可能だ。
そんな京成小岩駅以上に駅前がにぎわっているのが9位・小岩駅だ。JR中央・総武線(各駅停車)に乗ると、秋葉原駅や市ケ谷駅を経由しつつ新宿駅まで約38分。隣の新小岩駅でJR総武線快速に乗り換えれば、東京駅まで約19分で行ける。駅にはショッピングセンター「シャポー小岩」が直結され、食品関係のお店や飲食店が営業中。改札を挟んだ千葉側エリアは改装工事中で、3月下旬にリニューアルオープンを予定している。改札直結の1階部分は約100mの通路沿いにファッション雑貨店やカフェなどが並ぶアーケード街に、地下1階部分は生鮮食料品街になるという。
小岩駅(写真/PIXTA)
小岩駅を出ても、約170店舗がひしめき区内最大の商店街と言われる「小岩フラワーロード商店街」をはじめ、線路の北側にも南側にも活気ある商店街が広がる。さらに注目は、駅周辺で大規模再開発が進行中ということ。北口側には住宅や商業の複合ビルと駅前広場が2031年度に完成予定。南口側にはすでに再開発エリア「ファスタ小岩」の商業施設棟とマンションが誕生しており、さらに地上33階建ての商業・住宅複合ビルも2026年度中に竣工予定だ。
小岩フラワーロード商店街(写真/PIXTA)
名前が似ているもう1組の駅、葛飾区にある4位・京成金町駅と7位・金町駅もチェックしてみよう。この2駅は駅前広場をはさんで南側に京成金町線の京成金町駅、北側にJR常磐線の金町駅が位置し、周辺住民は2路線が利用できる環境。家賃相場が京成金町駅は6万5000円、金町駅は6万5500円と若干の違いが出たものの、「どちらの駅により近いか」という点にはあまりこだわる必要はないだろう。東西に走るJR常磐線の線路をはさんで、北側のほうに飲食店が多く、南側のほうがより住宅街らしい街並みではあるが、どちら側にも日常生活を支えるスーパーやコンビニは備えている。
ここまで紹介してきた通り、トップ20には近接しあう駅も多くランクインしている。改めて見てみると、トップ20全21駅の所在地は、江戸川区が8駅、足立区が6駅、葛飾区が5駅。いずれも東京23区の東部に位置しているため、リーズナブルな賃貸物件を探したいならまずこのエリアをチェックするとよさそうだ。とはいえ江戸川区をはじめ東部エリアも近年は再開発が進められ、街の様子も変わりつつある。住みやすい街として人気が高まると、家賃相場も上昇しがち。来年、同様の調査を行った際は違った顔ぶれの駅がランキングに並ぶかもしれない。
■22-44位
●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている東京23区内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2022/1~2022/12
【家賃の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む月額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
島根県奥出雲町。人口わずか約600人、200世帯ほどの小さな三沢(みざわ)地区にその不動産会社はある。以前は不動産会社が一軒もなかったこのまちへ移住して、5年前に「オクリノ不動産」を開業したのは糸賀夏樹さん。
2021年8月には地域の人たちと一緒になって古民家を改修し、レンタルスペース&キッチン、「金吉屋(吉は旧字体、以下同)」をオープンさせた。今ここは頻繁にイベントやお店が開かれ、地区の人たちが出入りするまちの拠点になっている。オクリノ不動産のオフィスも、この建物に入る。なぜ、この場所で不動産事業を?また、一事業者がどう地域の人々の信頼を得ていったのか。現地を訪れて聞いてきた。
(写真撮影/RIVERBANKS)
感じた「空き家バンク」の限界出雲市から車で約50分。山間を縫うように車を走らせて向かったのは、島根県東部に位置する奥出雲町。たたら製鉄などで有名な場所だ。三沢地区には民家が軒を連ね、宿場町のような雰囲気が漂う。この中心部の通りに「金吉屋」はある。
今も金吉屋に残る「たばこ屋」の出窓。かつては雑貨屋だったというころの看板も屋内に飾られている。(写真撮影/RIVERBANKS)
築およそ170年の古民家をリノベーションし、レトロな趣を残したまま、装いを新たにした「金吉屋」はレンタルスペース&キッチンとして活用されている。運営するのは、「オクリノ不動産」の糸賀夏樹さん。
出雲市出身の糸賀さんは、20代は大阪で塾講師として働いていた。ところが病気をきっかけにして人生を見つめ直す。誰とどう時間を過ごし、どんな働き方をするのが自分にとって幸せか。また家族にとっては?を考えた。
「塾講師は子どもが好きで始めた仕事でした。でも夜遅くまで帰ってこられないので、自分に子どもができても、子どもに会えない生活になるなと思ったんです」
右が「オクリノ不動産」代表の糸賀夏樹さん、左は「トモの会」のメンバーであり「NPO法人ともに」代表の吉川英夫さん(写真撮影/RIVERBANKS)
縁あって、島根県北部の奥出雲町への移住を決意する。3年間は地域おこし協力隊として、移住定住のコーディネーターに就任。その一環で携わったのが「空き家バンク」の運営だった。
ほどなく、糸賀さんは気付く。
「不動産の専門知識がないと無理だなって。それで勉強して1年目で宅建を取りました。と同時に、空き家バンクだけで不動産を扱うことの限界も感じたんです。空き家バンクは行政の管轄なので、住民の信頼を得やすい半面、所有者と利用者のマッチングまでしかできない。契約までは立ち入れないし、お金の話は言語道断。でも現実として『あとは双方でやってください』ではうまくいかない場合が多いんです。
双方の利益を考えて法律や税金のこと、お金の話もして契約まで責任もって間に入らないと成立しない。そうしている間にも、空き家は増えるし劣化していきます。民間として不動産に携わる重要性を感じました」
(写真撮影/RIVERBANKS)
オクリノ不動産の誕生そこで糸賀さんは、協力隊の同期だった濱田達雄さんとともに、任期3年目にして事業体「オクリノ不動産」を立ち上げる。協力隊の任期期間中は利益相反になるため契約には立ち入らないようにしていたが、細やかな対応が効いて成約数は増えていった。任期1年目に10件ほどだった成約数は、「オクリノ不動産」が独立した令和元年(平成31年度)には28件と、任期初年度の倍以上の成約数を達成。
ところがいざ独立してみると、「空き家バンク」の良さにも気付いたという。
「不動産屋に対するイメージって、まだいいものではなくて、気軽に不動産屋に相談に行こうとはならないんですね。相手が事業社だと警戒されてしまう。多くの所有者さんはまず空き家バンクに相談します。行政にはお金儲けじゃないという安心感があるんです。
そこで、ファーストコンタクトは空き家バンクに、それを引き継いでうちのような会社が契約までするような連携の方法に落ち着きました。今もうちの取扱い案件のうち7~8割は空き家バンクの物件です」
同時に、不動産会社がまちの一員になることの重要性にも気付いた。「小さな拠点」モデル事業などを活用しながら、不動産会社ながら地域の一員としてフィールドワークに加わり、空き家の状況を把握する。住民の信頼を得られれば、お客さんの側から「空き家を出そう」という流れになるのが理想。
「少しずつそういう動きができ始めているかなと思います」
(写真撮影/RIVERBANKS)
まちのにぎわいは、人口数じゃなく“ワクワク感”だオクリノ不動産のコーポレートメッセージは「まちのにぎわいをつくる」。ただしその「にぎわい」とは人口のことではないという。まちはコンパクトになっても、いる人たちがやりたいことを楽しめる、ワクワク感のあるまち。
「一度は自分も田舎が嫌で都会に出た身ですし、自分の子どもに田舎は嫌だと思われたら悔しいと思ったんです。人口ビジョンを見ると人が減っていくのは自然現象で、仕方がない。でも人が減ってコンパクトになっても、あそこはみんな楽しそうだよねとか、新しいことが起きて活気があるよねって場所になれば、子どもも楽しいだろうと思ったんです。そのために不動産屋ができることがあるなって」
そこで2021年にオープンしたのがレンタルスペース兼キッチン「金吉屋」だった。金吉屋は、昔は近隣に知らない人はない、地区のシンボル的なお店だった。オーナーだった方は「いつか地域のために使いたい」と、築およそ170年になる建物を細々とメンテナンスしていたという。
「この家を借りられることになって、自由に改修もしていいと言ってもらって。自分たちでDIYで改修すれば、リノベーションのいいショールームになると思ったんですね。
ただそれだけじゃなく、地域の仲間とやれたらいいなと。みんながやりたいことを実現する場所にするには、みんなの関わりしろをどれだけつくれるかが重要だと思ったんです」(糸賀さん)
「金吉屋」の内観(写真撮影/RIVERBANKS)
若い者の集まり「トモの会」とともに「金吉屋」をオープン糸賀さんの提案を受けて「やろうやろう」と協力してくれたのが、まちの若い者会「トモの会」だった。
「僕らがあえてこの一番人口の少ない三沢地区に事務所を構えているのは、地元の人たちが元気で、応援しようって空気感があるのが大きい。若い人たちも危機感をもって自分たちで何とかしなきゃいけない、楽しいことをやろうといった独立心が強くて、音楽フェスを開催したりしていました」
「トモの会」に属するのは地区の30~50代の40人ほどで、金吉屋のプロジェクトに携わったコアメンバーは糸賀さんを入れて7名。介護系のNPOの代表もいれば、大工も土木関係者もいる。
DIYに関わった「トモの会」のメンバー(写真撮影/オクリノ不動産)
リノベーションの様子。DIYに関心のあるメンバーによってさまざまな試みが行われた。(写真撮影/オクリノ不動産)
「誰しもやりたいって気持ちには賞味期限があると思うんです。ばっと熱が上がっても覚めてしまうとしたら理由があって、その三大理由は『場所がない』『時間がない』『お金がない』。その一番目の場所がないことをまず解消しようと。思いついたことを気軽に実現できる場所を身近につくろうというのが発端です」(糸賀さん)
完成した金吉屋の大きなガラス戸をがらがらと開けるとまず広い土間があり、その奥が多目的スペース。左奥におしゃれなライトの下がったカウンターとキッチンが備え付けられている。それらを時間単位で手頃な価格でレンタルできる。
「金吉屋」で開かれたバーの様子(写真撮影/オクリノ不動産)
「金吉屋」で開かれた視察の様子(写真撮影/オクリノ不動産)
今は週に2回「NPO法人ともに」による「ともに食堂」がオープン。その日は、まちの通りに行列ができるほどにぎわう。子どもたちの「やってみたい」という言葉も後押しして、子どもだけで企画から運営までを手がけるフリーマーケットも開催。糸賀さん自身も大人のためのバーを開くなどさまざまなイベントや期間限定のお店が開かれている。
金吉屋で子どもたちによって運営されたフリーマーケット(写真撮影/オクリノ不動産)
地域のお祭り「みざわまちあかり」の様子。コロナ禍で実施できなくなった祭りの賑わいを金吉屋前の通りで実現するべく、工夫して実施した(写真撮影/オクリノ不動産)
金吉屋で生まれるにぎわいに触発されて「私もやってみたい!」とキューバサンドの店をオープンする女性も現れた。そんな風に少しずつ、まちの人たちの「やりたい気持ち」に火がつき始め、地区外の人たちも訪れるようになっている。
(写真撮影/オクリノ不動産)
長期的にまちのにぎわいを生む装置としてもともと金吉屋の3軒隣には「みらいと」というまちのシェアオフィスおよび創業支援の施設があった。「金吉屋」ができるまでは、オクリノ不動産もみらいとのオフィスを利用していた。
町の創業支援施設「mILIght(みらいと)」の入口(写真撮影/RIVERBANKS)
金吉屋のリノベーションにも積極的に協力してくれた「トモの会」のメンバーであり「NPO法人ともに」代表の吉川英夫さんとも、この「みらいと」で出会ったという。吉川さんは話す。
「最近はこの集落も人が減って、昔のような行事もなくて寂しいよねという話になって。若い人たちで何か面白いことしたいねってところから、トモの会は始まったんです。みんなが集まれる場所がないので欲しいなと思っていたところへ、この人(糸賀さん)がやろうって言うもんだから、ちょうどいいなって(笑)
良かったなと思うのは、ただ飲み会していたときとは違って、金吉屋を通じて町外のいろんな人が出入りするようになって、交友関係が一気に広がったことです」
DIYを始める際は「いくらかでも手伝ってくれる人たちにお金を払おうと思っていた」と話す糸賀さん。だが地域の仲間から返ってきた言葉は「なめんなよ」だった。
「そういうんじゃないと。俺ら自身が楽しいし、自分らのためだと思うからやるんだと。その代わりみんなでやりたいことをやろうと言われて、腹が決まったというか。DIYも、こうした方がいいってアイディアをみんなが出し合いながら、時には意見がぶつかって喧嘩したりして。それほどみんなが、本気でこの場所を自分の場所だと思ってくれているのが嬉しいんです」(糸賀さん)
そうした場ができた今、さらにまちに人の循環を生むことができたらと考えている。
「『みらいと』に創業支援の機能はあります。でもペーパー上の計画ができても実践する場所がない。そこで金吉屋で実践してもらって、うまくいけば創業してもらう。そのとき地域にうまくつないでくれるのが吉川さん。創業したらようやく物件が必要になるので、やっとうちの不動産事業に結びつきます。まだまだこれからですが、そうした長期的なしかけをつくれたらいいなと考えています」
金吉屋ができるまでオクリノ不動産のオフィスが入っていた、まちの創業支援施設「みらいと」(写真撮影/RIVERBANKS)
空き家は、不動産として流通させるのが難しいといわれる。すぐに住めないほど傷んでいたり、家財がそのまま残されていたり、所有者が高齢者や離れた所に住んでいるケースも少なくない。
そうした数々のハードルを越えて、空き家を欲しい人を掘り起こしてマッチングしていくには、一般的な不動産会社とは違ったスタイルが求められるのかもしれない。放置されている空き家を活用できるかどうかが、まちの活性化には重要で、大袈裟にいえばその鍵を握るのはまちの不動産会社ではないか。空き家を地域のにぎわいに結びつける、そんな試みがここ奥出雲町で始まっている。
奥出雲町三沢地区の街並み(写真撮影/RIVERBANKS)
●取材協力
オクリノ不動産
筆者の住む北海道岩見沢市の山あいの美流渡とその周辺地区には、小さなお店を開いたり、木工や陶芸などを制作し販売したりといった、自分なりの生き方を模索する移住者が集まっている。
美流渡地区は人口わずか330人と過疎化が進むが、なぜこのエリアに移住者が集まってくるのだろう?
共通する価値観は大量生産社会への疑問、そして自給自足的な暮らし方だ。この小さな集落で、いったいどのようにして生計を立てているのだろう。つねに安定した収入があるわけではないが、それでもなんとかやりくりをして暮らす、移住者たちの3つのケースを紹介する。
岩見沢市は北海道有数の豪雪地帯。朝、扉を開けると、膝上まで雪が積もっているということはたびたび。筆者は、道外からの移住希望者の地域案内をこれまで何度かしたことがあるが、雪の多さを知って「ここには住めない」と語る人は多かった。最寄りの駅まで車で25分。4年前に小中学校も閉校しており、商店も数えるほどしかないことから、「便利さ」や「暮らしやすさ」を求める人にとっては厳しい環境だ。
岩見沢が全国ニュースで取り上げられるのは、大抵大雪のとき。降り始めからの降雪量が2メートルを超え、自衛隊に出動が要請されたこともある(撮影/來嶋路子)
けれども、ここ4、5年の間にポツポツと移住者がやってきている。年に1、2世帯(ときにはそれ以上の年も)と数としてはわずかだが、美流渡地区の人口が330人、その周辺地域も含めて500人ほどと考えると地域への影響は少なくない。
そして移住者に共通するのは、大量生産・大量消費という価値観とは異なる生き方をしようとしているところ。ほとんどの場合、空き家をDIYで改修するなど、できる限り自分の手で暮らしをつくっていこうという意識をもっている。
酒屋や食堂など商店は数店。車で20分ほどの市街のスーパーまで買い出しに行く家庭が多い(写真撮影/來嶋路子)
今回、こうした人々の中から3組に、いまの暮らし方と、経済活動をどうやって営んでいるのかについて話を聞いてみることにした。
旅行先で空き家を見つけ、電撃移住した一家。ハーブティブレンドのお店「麻の実堂」笠原麻実さん「どうやって生きているのかと聞かれたら、自然に生かされているとしか言いようがない」。
そう語るのは、美流渡よりさらに山あいに入った万字地区で暮らす笠原麻実さんだ。笠原さんは、自宅の周りでオーガニックハーブを育て、ハーブティブレンドを販売する「麻の実堂」を営んでいる。
自宅の玄関先が小さなお店。このほかオンラインストアでも販売を行っている。
麻の実堂のハーブブレンド。もともとハーブティが苦手だったという笠原さん。そんな自分でも飲みやすいブレンドをつくりたいと日々研究を重ねている。滋味深い味わいが魅力(撮影/久保ヒデキ)
「自然に生かされている」という言葉は、ハーブという自然の恵みを活かしたものづくりを行うことはもちろん、暮らしのあらゆる部分に関係している。
暖房は薪ストーブ。夫の将広さんが、知り合いが所有している山で間伐を兼ねて丸太を切り出している。笠原さんは、時間を見つけてはそれを割って薪にする。
また春から秋にかけては山菜を採取し、食卓の一品に加えている。畑で野菜も育てていて、トマトピューレや味噌など保存食づくりにも精を出す。さらには、ヤギとニワトリを飼い、ミルクや卵も自給している。
5歳になる息子さんは、ニワトリやヤギと一緒に遊ぶ(撮影/佐々木育弥)
笠原さんはヤギのミルクと採れたての卵を使ったケーキをつくることも(撮影/來嶋路子)
笠原さんは、まるで何十年も前から農的暮らしを営んでいるように見えるが、実はそうではない。5年前までは、夫妻はともにショップの販売員として働きながら東京のマンションで暮らしていた。
移住のきっかけは突然訪れた。2018年、美流渡地区に移住した友人のもとを生まれたばかりの息子を連れて訪ねたときだった。
「2泊3日の旅でした。ここで過ごしているうちに私たちも田舎暮らしをしてみたいという気になって。そのときたまたま空き家を見せてもらったんです」(笠原さん)
紹介された空き家は2世帯がつながった炭鉱住宅だった。そのうちの1世帯に暮らしている(撮影/來嶋路子)
友人を介して見に行った空き家は、万字地区にある元炭鉱住宅だった。築50年以上経過していて、床が沈んで直さなければ住めない状態だったという。
しかし、二人の心は動いた。都会の暮らしには先が見えない閉塞感を感じていた。そして、帰りの飛行機に乗ったときにはすでに移住を決めていたのだという。
話はとんとん拍子に進み、家は無償で譲り受けることになり、東京の住まいを3カ月で引き払った。
「全部、東京に置いてきましたね。本当にあの家があるのだろうかと不安を抱えながらやってきました(笑)」(笠原さん)
旅行で訪ねた以降は下見もせず、地域がどのような場所かもまったく知らないという、まさに電撃移住だった。
移住後に、どうやって生活費を稼いでいく計画だったのかと尋ねると、「私はタイ古式マッサージができたので施術をしようと考えていました。それがうまくいかなくても、どこかでアルバイトしたっていいし、なんとかなると思っていました」(笠原さん)
夫が炭鉱住宅を改修。自宅でマッサージの施術も行っている(撮影/久保ヒデキ)
試行錯誤の中での暮らしが始まった。炭鉱住宅は住みながら改修したため、最初はキャンプのような毎日。内装は将広さんが手がけた。父親が大工だったこともあり、見よう見まねでやっていったという。
また、畑にも挑戦しようと、とりあえず直売所に苗を買いに行った。
「お店の方に恐る恐る『畑をやりたいんですけど、どの苗を買ったらいいでしょうか?』と聞いて、何も分からなくて土地の真ん中にポツンと苗を植えたんですよ(笑)」(笠原さん)
手探りだった畑づくり。毎年経験を重ね、多種多様なハーブと野菜を育てられるようになった(撮影/來嶋路子)
近隣には果樹園が多く、人手が必要だということが分かった。果樹は機械化が難しく、手作業に頼る部分が多い。二人は繁忙期に農園で働くこともあった。笠原さんは、自宅でタイ古式マッサージの施術も行い、冬季は将広さんが運送会社や除雪のアルバイトに出かけたりも。
「経済的な太い柱があるわけではなく、何本もの細い柱があって、ようやく暮らしている感じです」(笠原さん)
ハーブの焙煎は薪ストーブの炎でじっくりと。まろやかな味わいに仕上がるという(撮影/久保ヒデキ)
こうした中で、一昨年よりハーブブレンドティーの販売を開始。地域の閉校した校舎を利用したイベントに出展しクチコミで広がるようになった。昨年からはハーブを利用したワークショップも開くようになり、固定ファンもつくようになった。
お湯を入れたら、焦らずにじっくり蒸らす。この蒸らしが美味しいお茶をいれるポイント(撮影/久保ヒデキ)
ハーブに目覚めたのは、移住当初、出産後の体調不良で受診したクリニックの処置で、命の危険にさらされるような経験があり、薬や医療の在り方に疑問を感じるようになったことから。昔の人々の知恵や身の回りのものを活かして、体のメンテナンスができないだろうかと考えたという。
そして、ハーブや民間療法などの本を大量に読み、また畑で植物をじっと観察し続ける中で独自のやり方を編み出していった。
この日は朴葉(ほおば)をお茶にしてみた。松や桑、桜などさまざまな植物のブレンドに挑戦している(撮影/久保ヒデキ)
コンビニでものを買わなくなった。お金に依存しない暮らしに目覚めて現在、笠原一家の収入の約3分の1がハーブ関連とマッサージ。そのほかは、将広さんのアルバイトなどさまざまな仕事の積み重ねで成り立っているという。
東京時代よりも収入はかなり減っているそうだが、その分、余計な出費も少なくなった。
「家賃もかからないし、コンビニでお惣菜やお菓子を買ったりもしません」(笠原さん)
ただ、除雪機や車のメンテナンス代など、思いがけない出費がかさむときも。しかし、不思議にタイミングよくお金が回っているそうだ。こんな出来事の積み重ねからも、自分たちは「自然という大いなる力に生かされている」と感じずにはいられないのだという。
今後の目標は万字地区にごはんやを開くこと。万字地区の人口は80人で一軒も商店がない地域。だからこそ地元の人たちがいつでも立ち寄れる場所をつくりたいと、新たな空き家を取得して改修中だ。
「ハーブもごはんやも、しっかりとした形になるまでにはすごく時間のかかることだと思います。だから焦らずにやっていきたいですね」(笠原さん)
ワークショップ「魔女のお茶会」も開くようになった。参加者と一緒にガーデンで育てたハーブを収穫。それを使ってブレンドティーやボディクリームづくりをしている(撮影/佐々木育弥)
自分らしく、やりたいように進んでいけばいい。そう心から思えたのは、自然とともにある暮らしを始めたことが何より大きかったという。
「都会では、人と足並みをそろえなくてはならないと思ってとても窮屈な思いをしていました」(笠原さん)
家の裏につくったドラム缶風呂に入りながら、山あいの景色を眺めたり、タンポポやニセアカシアなど、山や野にある植物をサラダや天ぷらにしたり。その一つ一つが、生きているという実感をわきあがらせ、心を豊かに満たしていく。
ハーブはさまざまなところに生えている。「つんで匂いを確かめてみてください。すごくいい香りがしますよ!」と笠原さん(撮影/佐々木育弥)
各地を放浪後、木工作家として美流渡にアトリエを開いて。「アトリエ遊木童」木工作家・五十嵐茂さん「やっと出稼ぎに行かなくても、暮らすことができるようになった」。
上美流渡地区で「アトリエ遊木童」という名で家具を制作する木工作家・五十嵐茂さんは、笑顔で語った。
この地に移住したのは、およそ20年前。新潟出身で10代のころに単身で上京し、ライブハウスで働いた。20代でインドを放浪。38歳になって帯広の職業訓練校で家具づくりを学び、その後、美流渡に落ち着いた。アトリエを開く決め手の一つは土地代の安さ。当時、市が所有していた土地の借用料は年間2500円だったという。
五十嵐さんは自宅をセルフビルドし、妻の恵美子さんとここで暮らすようになった。
五十嵐茂さん。10・20代はミュージシャンを目指して活動したこともあった(撮影/佐々木育弥)
移住して5年ほどは、木工作品の制作とともに介護の仕事なども行っていた。
その後、東京の青梅市にある共同アトリエに所属するようになり、東京のクラフト市や百貨店などでの販売も行ってきた。
「北海道だけでは作品の需要が少なくて、『出稼ぎ』に出ていたんだよね」(五十嵐さん)
座面にさまざまな樹種を組み合わせて、カラフルな色合いを出したスツール(撮影/佐々木育弥)
こうした暮らしに変化がやってきたのは昨年。
笠原さんも出展した地域の旧校舎を利用したイベント「みる・とーぶ展」に参加したことだ。
このイベントは、地域でものづくりをする人々や、各地のミュージシャン、飲食店を営む人々など20組以上が集まって約2週間にわたって実施されている。
昨年は、春、夏、秋の3回開催され、合計で4300人が来場した。
「みる・とーぶ展」に出展。市内の「木工房ピヨモコ」との2人展を教室で開催した(写真撮影/來嶋路子)
このイベントで五十嵐さんは春に「おんがくしつ no 椅子展」を開催。
定番となっていたスツールをメインにした展示を行った。教室には時間が足りずに塗装まで仕上げられていなかったテーブルも置いた。購入希望者が現れたら、後日塗装をして届ける予定だった。
しかし、ここで思いがけない展開があった。
「テーブルの塗装を自分でやりたい。孫にじいちゃんがつくったテーブルだよと言ってプレゼントしたいんだ」という男性が現れた。
また、別の来場者からも、テーブルを一緒につくりたいので教えてほしいと頼まれたという。
無垢の板を使ったテーブル(撮影/佐々木育弥)
みんなでつくり、交流することの大切さを知って「これで分かったのが、完成品を売るんじゃなくて、みんなでつくるってことが大事なんだということ。時代は変わったんだね」(五十嵐さん)
夏のイベントでは「おんがくしつ no 椅子展」ともに、「組み木スツールワークショップ」も会場で常時行うこととした。
あらかじめ脚や座面のパーツはつくっておき、参加者は組み立てと仕上げを行い、4時間程度で完成するようにした。10名だった定員はすぐにいっぱいになった。
スツールづくりワークショップのチラシ。参加料は約2万円。通常の商品を買うよりもかなりリーズナブルな値段を設定した(画像提供/みる・とーぶプロジェクト)
商品をたんに販売していたころよりも、売り上げは伸びた。年3回の「みる・とーぶ展」の収益と、その場で受けた注文によって、今年は暮らしを回すことができたそうだ。
組み木スツールワークショップの評判は上々。自分でつくったという物語によって、その人にとって何倍も思い出深い椅子となっていた。
「椅子をつくっている間に、みなさんの人生について聞かせてもらいました。深く話ができたことが本当によかった」(五十嵐さん)
この地域に移住した画家・MAYA MAXXさんとのコラボも行った。五十嵐さんが額をつくり、それに合う絵をMAYAさんが描いた(撮影/佐々木育弥)
人々の物語を共有すること。それは五十嵐さんの喜びにもなった。そして過疎地でも人が訪れ、そこで作品を売って暮らせる可能性が開けたことは、大きな希望につながった。
「ここは元炭鉱町で、廃れていく一方だと思っていたけれど、近年になってパワフルな移住者がやってきて、まちの風景が変わっていくのを感じるよ」(五十嵐さん)
今後の目標は、彫刻も制作すること。木の中から現れ出た精霊のような不可思議な作品をつくっていきたいのだという。
自分でものをつくって販売し、生計を立てようとする移住者がいる一方で、札幌と美流渡の二拠点暮らしを選択する人もいる。
「平日に会社員として働いて、週末にはやりたいことを自由に試してみたい」。
美流渡で月に2回、週末に玄関先で古本屋を開く「つきに文庫」を営み、アフリカンダンサーとしても活動をする寺林里紗さんは、そんな風に考えている。
「つきに文庫」を開く寺林里紗さん。冬季は休業、春から営業を再開する(撮影/佐々木育弥)
札幌から車で1時間半ほどの美流渡を知るきっかけとなったのは、万字地区に移住したアフリカ太鼓の奏者の友人が、この地で定期的に太鼓教室を開催していたこと。参加者の中から「アフリカンダンスもやってみたい」という希望があって、その講師として寺林さんに声がかかった。
アフリカンダンサーとしてライブのステージに立つことも。美流渡地区でダンスワークショップも開催している(撮影/來嶋路子)
「美流渡は、山並みがまるで四国のようでいい場所だなあと思いました。それに、移住者のみなさんが、週末になるといろいろなイベントをやっていて、おもしろい人たちのいるところだと感じていました」(寺林さん)
以来、週末住めるような家を探すようになり、1年ほどして知人の紹介で空き家を見つけた。一部修繕も必要だったが地域の友人らの手を借りて整えていった。
2階の屋根裏から山々が見渡せる。その風景が気に入ったという(撮影/佐々木育弥)
寺林さんの家には、近所の子どもが遊びに来るようになった。子どもたちが楽しめるようにと、玄関先で古本屋を開いてはどうかとあるとき思った。絵本を用意し、地球環境や旅、暮らしのエッセイなど、これまで自分が読むためにと集めてきた本を並べた。
初めてお店を開けたのは2021年7月。友人が訪ねてきて本を手に取り「これください」と言ったとき、本の値段を決めていなくて戸惑ったという。
「まさか売れるとは思っていなくて(笑)」(寺林さん)
玄関先がお店。自分が読んだことのある本を並べている(撮影/佐々木育弥)
その後は値段をつけて販売するようになったが、商いをやっているという意識はあまりないという。玄関先がオープンスペースとなり、本を通じてコミュニケーションが生まれ、みんながのんびりと過ごせる場づくりを大切にしている。
「いま建築事務所で働いています。働くことは好きなんですが、ドジらないように、毎日すごく緊張していますね」(寺林さん)
寺林さんは社会人として働きつつ、週末の月に2回古本屋さんを開き、バンドやダンス活動も続けている。美流渡に拠点を設ける以前に、これまで2度、アフリカに2~3カ月滞在してダンスを学んだことがある。1回目は会社に長期の休みを取って行き、2回目は退職して向かったが、帰国後すぐに新しい就職先を探すことができたという。
古本屋を始めると、友人からさまざまな本が集まるようになったという。寺林さんは、それを一つ一つ読んでから、ラインナップに加えていく(撮影/佐々木育弥)
「ここに住む移住者のみんなは、以前とは暮らしを大胆に変えていますが、私にはそんな勇気はないので二拠点暮らしをしています。でも、いずれは美流渡に移住したいという想いももっています」(寺林さん)
場所を変えることによって仕事とプライベートの切り替えができるそうで、週末、美流渡へと車を走らせていくと、気持ちがゆるみ、ワクワクした感覚があふれてくるのだという。
子どものころから自然の中で過ごすのが大好きで、木登りが得意中の得意だったという寺林さんにとって、山あいのこの場所は生きるエネルギーをチャージする重要な場所になっている。
「空が広くて、四季を通じた変化があった。ここに来ると本当に心が安らぐんですよ」(寺林さん)
美流渡で木に登って、ヤマブドウの実を採ることも(撮影/佐々木育弥)
お金をどう稼ぐかではなく、地域や自然と関わる中からできることを探して今回紹介した3人のように、移住者たちは、地域の人々や自然と関わる中で、何ができるのかを探り、自分なりの活動を続けている。
笠原さんは、体調を崩したことがきっかけでハーブに目覚めた。寺林さんは、美流渡に本を置いてあるスペースがなく、子どもたちに喜んでもらえたらと古本屋を始めた。そして五十嵐さんは、この地で人々と触れ合う中で、完成品を売るのではなく、みんなでつくるという方法にシフトさせていった。
旧美流渡中学校で開催された「みる・とーぶ展」には「麻の実堂」、「アトリエ遊木童」、「つきに文庫」も参加。来場者の声から新たな工夫が生まれることもある(写真撮影/佐々木育弥)
みんなそれぞれ、作品や本が売れるようにと日々試行錯誤を繰り返しているが、収入がそれほど見込めないからといって、現在の活動をやめるわけではない。
共通しているのは、「お金が儲かるから」とか「得をしそうだから」という尺度で物事を選択せず、自分が「心からやりたいことかどうか」で動いているところ。
「貯金をしておかないと、先行き不安では?」と思う人もいるかもしれない。当然、多少の不安はあるだろうが、お金がなければ畑で食べ物をつくったり、農家の手伝いに行けば「きっとなんとかなる」と考えている人は多い。
また、家も自分たちで修繕すればいいし、電気やガスに頼りすぎずに薪を燃料にすればいい。ここで暮らしていくうちに、生きていくための力が自然に備わってきているのではないかと思う。
今回紹介した移住者たちは、日々、協力しあって生きている。イベントを共同で開催したり、アフリカ太鼓のバンド活動もみんなで行っている(写真撮影/來嶋路子)
「もう、都会のマンション暮らしには戻れない」と笠原さんは夫妻で語り合うことがあるという。地面の近くで暮らすことが、何より重要だと分かったそうだ。
都会で将来への安心を求めると貯蓄や投資、保険などという紙に頼る他はない。もちろん都会にいれば、公共施設や病院などが近くにあって利用しやすいという安心感もあるだろう。一方でこの地の移住者は、この大地とつながっていて、いつでもそこから恵みを受けることができるという安心感があるのだと思う。
●取材協力
麻の実堂
つきに文庫