Aoi Omori

全ての人に必要なデザイン的マインドセット:デザイン会社の非デザイナーが体感していること

デザインの役割のひとつに、課題解決がある。 実際、我々btraxとしてもデザインを通じて企業の課題を解決することを目指して、これまで20年にわたってサービスを提供してきた。 しかし筆者はそれ以上に、デザインはマインドセットそのものであると思う。 これまでFreshtraxでも度々取り上げてきたデザイン思考やデザイン経営といった言葉を代表に、デザインがデザイナーだけのものから、今やデザインは多くの人にひらかれたものとしての認知が広がりつつある。 全てのビジネスパーソンにデザインのマインドを 筆者はbtraxに所属し、その中のマーケティングチームのメンバーとして働いてきた。そして「非デザイナー」の立場でデザインの現場に携わってきて確実にわかることは一つ。 ” たとえ非デザイナーであっても、誰しもがデザインに触れるべきなんだ ” ということ。 これは、冒頭にも触れたデザイン経営、デザイン思考といったビジネス的なトレンドの上澄みを掬った話ではなく、実体験として感じたからこそ言えることである。 非デザイナーとしてデザインに多いに助けられることがあるとすれば、それは特にマインドの部分だろう。実際に手を動かすデザインワークこそしないかも知れないが、デザイナーのマインドを持つといいことずくめである。 この記事では、デザイン会社でマーケターをすることで得られたデザイン的なマインドセットと、実際に仕事の場においてデザイナーと協業する上で、気をつけてきたことをご紹介したい。 1. Yes and … デザイン的なマインドセットの形容として真っ先に出てくるのがこの言葉である。 これは、アイディアや提案に対し、まずは受け止め(Yes)、その上で「いいね、じゃあ◯◯しよう」とさらにアイディアを付け足して(And) で返答するマインドセットのこと。さらに別のアイディアを提案したり、新たな情報を付け足すことで、そのアイディアの広がりを生み出すことができる。 このマインドセットのメリットは、心理的安全性が高められ、コミュニケーションが円滑になるということだと実感している。誰しも真っ向から否定されてよい気分にはならないだろう。 発言をしても即座に否定されることを恐れてそもそも発言が少ない状況になると、議論自体が活性化せず、元も子もない状態になる。 かくいう筆者も、実はある時までは、たとえばデザインコンセプトの立案を依頼したデザイナーに対し、フィードバックをするなんて恐れ多い… などと、皮肉のような情けない尻込みをしている時期があった。「デザイナーに対して、デザインのフィードバックを、非デザイナーである自分がするのか?」という具合に。 しかし、「こういうアイディアもあるのでは?」とYes and 的なフィードバックをしたことで、そこからさらに様々な方向性を検討することができ、結果的にチームとしてよいものを作り上げることができた。 ちなみにPixer社では、Plussing (Plus + ing)というフィードバックの手法を取り入れている。Plussingとは、新たなアイディアを思いついた時、否定するのではなく、そのアイディアにさらにアイディアを足すことで、よりよくしようと努めるまさにYes andに基づく方法だ。 あっと驚くクリエイティブな世界を見せてくれる裏側にはこうしたオープンマインドでYes Andな姿勢があるのかもしれない。 なぜ優秀なデザイナーでも酷いデザインを生み出してしまうのか? 2. Start at the end 直訳すると「終わりから始めろ。」つまり「逆算思考を持って推進せよ」ということだ。筆者自身、入社後にデザイナーの同僚から教わって以来大切にしてきた言葉だ。 これはむしろ、ビジネスで一般的な考え方だろう。目標を先に決め、それに向かって戦略を組み立てていく。この過程で、終着点を見据えることで、途中の課題や妨げになる要素を予測し、それを乗り越えるための戦略を練ることができる。 しかし、デザインにおいても、結果や最終的な目的を先に想像し、それから逆算してプロセスを始めることが効果的だ。そもそもユーザーがどんな体験を求めるのかを探ることから始めるケースも非常に多いが、たとえば製品開発においては、まず最終的にユーザーが求める体験を考え、それを実現するためのデザインや機能を構築していく。 また、非デザイナーとしては、このStart at the endの考え方を持つと、たとえばクライアントプロジェクトにおける最終的な成果物は何になるのか。資料をまとめる上で、ドキュメントであるべきか、スライドの資料であるべきか…など、物事の「枠」を考える癖をつけることができる。 この癖をつけることで、根本的な勘違いや手戻りによるロスタイムを減らすことができ、効率的なプロジェクト推進につながると思っている。 3. Done is better than perfect デザインというよりはむしろシリコンバレー的なマインドにも重なる部分が大きいこちらは、Meta(旧Facebook)の創業者でありCEOであるマーク・ザッカーバーグの名言。意味は「完璧を目指すより、まず実行することに価値がある」。 こちらも、「デザイン会社である」に並ぶくらい重要な「サンフランシスコ・シリコンバレーに拠点がある」btraxで仕事をしていて日々その重要性を感じる言葉である。そしてこれもまた、スピード感が明暗を分けるさまざまなビジネスシーンにおいて言えることだと思う。 この考えを念頭に置くことで、時間とリソースの効率的な活用を促し、成果を生み出すための動き方に意識的になれる。特にデザインタスクでは、何度も修正や改善を重ねることがあるが、常に完璧を求めてしまうと、進捗が遅れたり、アイディアそのものの実現が難しくなることがある。 また、筆者のマーケティングのフィールドで言えば、早期の段階で実行に移し、リアルなデータやフィードバックを元に進化させていくことが重要になる。変化が速い現代において、柔軟性を持ってアクションを起こしていくことが必要だと思う。 シリコンバレーの企業はどのようにしてスピードを上げているのか? また、この言葉は特にデジタルサービスとの相性が良い。なぜなら、デジタルサービスは多くの場合、”完璧な状態になる日は来ない”から。 まずはリリースをし、その後小さなアップデートを繰り返してサービスの質を上げていくというスタイルが叶うデジタルサービスは、逆にいうと、リリースしないと何も始まらない。軽いフットワークで動くことの重要性を物語る言葉だと思う。 また、早めにリリースすることのメリットは、その分早くユーザーや周囲からのフィードバックを受けられることだろう。 「三人寄れば文殊の知恵」ではないが、そのサービスに注がれる視線が多いほど、様々な角度からのフィードバックを得られることは明白だろう。その声を元にどんどん改善をしていった方が結果的により速く、よりユーザーニーズに沿ったサービスになるのではないかと思う。 デザイナーと働く上で意識すべきこと 次に非デザイナーとしてデザイナーと働く上で意識してきたことをご紹介する。実は、デザイナーの仕事の2/3はコミュニケーションであると言えるほど、コミュニケーションが重要なウェイトを占める。 これはつまり非デザイナーとしても、デザイナーと意思疎通をするシーンや時間が多いことを意味する。特に、新規事業や事業開発、コミュニケーション、ブランディングなどの部署にいらっしゃる方はデザイナーとのやりとりが日常的に発生するのではないだろうか。 下記は、デザイナーがクライアントワークにおいて往々にして遭遇する「しんどいシーン」をまとめているおもしろ切ない動画だ。 これを見て思うのは、決してクライアント側に悪気があるのではなく、デザイナーとの効果的なコミュニケーションの方法を知らないことも多いのではないかと思う。(非デザイナーとしてはぜひとも反面教師にしたい。) 以下にご紹介することが少しでもその助けになればと思う。 1. HOWではなく、WHYを伝える デザイナーに意図を伝えるのは必須だ。具体的な作業をお願いするのではなく、達成したいことを伝えることがポイントだ。 よくあるのが、非デザイナーからデザイナーへのフィードバックとして「ここの文字を赤にして」「ここの文字を大きくして」という具体的な作業指示 (HOW)。しかし、これでは本質的によいデザインになるとは限らない。 また、こういったHOWのみを伝えるコミュニケーションが常態化した場合、デザイナーは指示を受けてその通りに修正するだけの下請け的な動きを強いられることになり、モチベーションも落ちてしまうだろう。 そうではなく、理由や意図(WHY)を伝えるのだ。文字を目立つ赤色にしたいのも、サイズを大きくしたいのも、おそらくその情報を確実にユーザーに伝達する必要があるからではないだろうか。 したがってデザイナーに伝える時には、「この目的を達成するために、この情報をしっかりとターゲットのユーザーに届ける必要がある」という形で伝えるようにしたい。 目指す目的を達成するためには、必ずしも色を変えることだけが方法ではないこともありうるし、意図を達成するためのデザイン的なアプローチの引き出しは、きっとデザイナーの方が豊富であろう。非デザイナーにとっては、それを解決するための手段として、色やサイズを変えることしか思い浮かんでいないだけかもしれない。 このように伝えれば、デザイナーとは指示出しと御用聞き、という関係性ではなくむしろ、お互いにフラットに、目的を果たすための建設的なディスカッションを行うことが容易になるだろう。 2. 制約を設ける クリエイティブには制約が必要だ。ここでいう制約とはざっくりと、期限という時間的な制約と、進行する上で守るべき条件/項目といった発想や作業的な制約に大きく二分される。 非デザイナーは、デザイナーに対していわば「制約を設ける」側に立つことが多い。枠組みを作り、その中でデザイナーに躍動してもらうために制約を設けるのだ。 実際の仕事の中で制約を設けるときに作っているのが、「デザインブリーフ」である。 デザインブリーフとは、制作物の意図や目的、そして制約などをまとめたもので、デザイナーに明確なディレクションを伝え、彼らと目線を合わせた上で、作業に取り掛かってもらうために重要なアイテムである。筆者もデザイナーにタスクを依頼するときは必ずデザインブリーフを作成するようにしてきた。 デザインブリーフの作成方法に関する詳細はぜひ下記の記事を参照いただきたい。 デザインブリーフの役割とその作成方法 3. 効果を伝える 実際に効果を伝えることは非常に重要だ。これだけの効果を獲得できた、ということを数値と併せて示そう。客観的な数字を以って自分のデザインが評価された、うまくワークしたことが伝わるとよい。これはモチベーションに関わるトピックだ。 デザインそれ自体では定量的に評価をすることは難しいかもしれない。それでも、たとえばそれを用いたマーケティングキャンペーンの効果やパフォーマンスなど、デザイナーにとってはモチベーションをあげる有効な指標となる。 デザインの役割の一つに課題解決があるということは冒頭の通りだ。特にビジネスの文脈におけるデザインはこの役目を担うことが多い以上、実際に生み出されたデザインが、役割を果たせたのかどうかは適切にフィードバックをする必要があると感じている。 ここまでデザイナーとのコミュニケーションにおいて意識してきたことを3つをまとめて思うのは、非デザイナーができるのは、デザイナーが仕事をするために、適切なフィールドを用意し、適切なお伝えをすること、これに尽きるのではないかということだ。 デザインという大海を見ることのススメ デザインの世界はまさに大海であり、そこに漂う自分は井戸から出たばかりのカエルだと思う。 ますます広義化するデザインは、知れば知るほどわからなくなることさえある。でも、”ゆでガエル”にならないために、ぜひビジネスに活かせるデザイン、マインドセットとしてのデザインに興味を持って、学んでいただきたい。 自社のビジネスにデザインを取り入れたい経営者や外部デザイナーの活用に困っている方のBtraxへのお問い合わせはこちら

Twitter→X 事例から考えるリブランディングのポイント

昨今のホットトピックといえば、TwitterからXの社名・サービス名・ロゴ変更に関するリブランディングだろう。突然かつ大胆な変化に驚き、今後の動向が気になっている方は多いはずだ。 ビートラックスが7月より開始したPodcast「BTRAXのCEOによるサンフランシスコ・デザイントーク」においても早速本件を取り上げた。 本記事では、「【第2回】Twitter→X 事例から考えるリブランディングのポイント」をまとめる形で、デザインやブランディングの目線で捉えたTwitterからXへのリブランディングを解説していく。 ブランディングとリブランディング まずはキーワードとなるブランディングとリブランディングそれぞれに対する簡単なご説明から。 ブランディングは、何もないところからブランドを築いていく。一方で、リブランディングは、既存のブランドを変更させた方が、より企業価値を高められる、もしくは企業の指針に合致すると判断されたケースに実施されるものである。 そして、リブランディングにおいて非常に重要なのは、これまで築いてきたブランドおよびブランド資産を上手に引き継ぎ、アップデートをする意識を持ち、それを実現することである。 今さら聞けないブランディングとは ブランド作りにおけるロゴの役割 一説によると、人間のインプットはその8割を視覚に頼っているといわれている。これはブランディングにも十分に適用される。あるブランドをそのブランドだと認識してもらうために視覚的なアプローチは欠かせない。 そこで重要な役割を担うのが、ロゴやアイコンだ。 「一部がかじられた銀のりんご」を見ればAppleというブランドのものだとわかるように、これらには、例え文字を羅列しなくとも、そのブランドを視覚的かつ直感的に認識・理解してもらえる効果を持つ。いわば、ブランドの伝達をショートカットしてくれるものだ。 リブランディングにおいても、ロゴの変更となると非常に重要だ。なんといっても、ロゴはブランドの顔なのだから。それが変更されることが持つ意味の大きさは想像に難くないだろう。 デザイナーが見るTwitter→Xのリブランディング案件 ”非常にまれで今までにない事例” では早速、さまざまな議論を呼んでいるTwitterからXへの社名およびサービス名の変更を主とするリブランディングについて考えていきたい。 単刀直入に表現すると、この件は前代未聞だ。「名前とロゴを変えているにもかかわらず、サービスを変えていない」状況になっているからだ。 従来、社名やサービス名とそれらのロゴを変更する際は、会社全体の事業転換やM&Aなどが契機になることが多い。つまり、あくまで会社やサービスに関する大きな変革に伴って、ロゴ等が変更される。 しかし今回は、イーロン・マスク氏が個人的にTwitterを買収し、会社全体やTwitterというサービスに本格的に手を入れる前に、まずは社名およびサービス名とロゴだけを先行して変えている状態になっている。この順序の逆行が、今回のTwitter → Xの件が前代未聞たる理由の一つである。 従来のセオリーからの「逸脱」のオンパレード また、2023年8月までの動きに関しては、実は、ブランディング・リブランディングのセオリーからすると「やってはいけないこと」をことごとくやってしまっている状態なのである。 先述の通り、この動きがまさに前代未聞であり、今の時点で良し悪しの評価が難しいことは前提にある。そのため、今後こうしたブランディングの動きが正になる可能性も否定できないことも併せて示しておきたい。 上記をご承知おきいただいた上で、3つの「逸脱」をご紹介していく。 1. いきなりビジュアルの変更に着手 まず1点目は、会社やサービスとして目指す全体的な方向性の説明を欠いた状態で、社名やロゴなど、わかりやすいビジュアルを変更させることから始めてしまったこと。 リブランディングにおいて何かを変更させるには、そこに至った理由やストーリーが必要だ。しかし今回はその説明がない状態でいきなりロゴと社名/サービス名が変わっている。 この状態は、まるでイーロン・マスク氏の気まぐれにしか見えない。サービスを使っているユーザーからすると、納得できず、抵抗感が強いだろう。 リブランディングは、ロジカルな意思決定に基づき、そのブランドに関わるステークホルダーとのコミュニケーションの上でなされるという従来の考え方からすると、ユーザーを置いてけぼりにしていることは物議を醸すひとつの要因になっていると考えられる。 2. Twitter社が築いてきたブランド資産をゼロリセット ブランドには、人々に認識され、愛されることで培ってきたブランド資産がある。Twitter社も例に漏れず、2006年の創業以来、青い鳥のアイコンを見ればTwitterだと認識し、使い続けるファンを世界中に拡大させ続けてきた。これらは紛れもなくTwitter社のブランド資産だ。 冒頭でも述べたように、リブランディングには、まるでバトンリレーを行うように、既存のブランド資産を上手く引き継いでブランドをアップデートさせる発想が不可欠である。リブランディングは、ブランド資産のバトンを渡すことなのだ。 しかし、今回のTwitterからXへの移行においては、慣れ親しんだ鳥のアイコンはXの文字に、青のブランドカラーは黒っぽい色にと、それぞれを引き継ぐことなく、全くの別物へと変えられた。 これは、ブランド資産というバトンを完全に落としてしまい、再度ブランド構築のスタートラインに立っているような状態なのだ。これが2点目の逸脱である。 これの何が問題か。ブランドの再構築には膨大な時間とお金を要するということだ。これから、Xとして0からブランド構築およびその認知活動をしていく必要があるだろう。また、ブランド作りにおいて、近道や時間短縮はできない。それ相応の時間がかかるのだ。 3. とりあえず社名・サービス名とロゴだけ… 変更の中途半端さ ブランディングで一番重要なのは、統一性である。 しかし、この点においても、現状のX社はうまく行っていない部分が多い。これまで述べてきた社名・サービス名とロゴの変更においても、「差し替え」程度であり、その範囲はまだごく一部に限られており、中途半端だ。 青いボタン(現在 文字はTweetからPostに変更されている)しかり、本社の看板しかり、多くのことがTwitterのまま残されていた。 このチグハグ感もまた、人々を混乱させることになってしまっている。サービスは変わっていない上に、色々なものはTwitterのままであるのに、肝心なブランドは全部更地の状態になっているのだ。 ブランディング・リブランディングの効果的なプロセス ちなみに、ビートラックスでは、ブランディングとリブランディングの効果的なプロセスをそれぞれ定義している。 まずブランディングにおいては、以下の5つのステップを設けている。 ポイントは、いわゆる見た目のデザインを行うのではなく、それ以前で、ブランドがステークホルダーに届けたい価値を明確にしたり、自社理解を深めたりするステップが存在すること。 これらをベースにロゴやアイコンなどのビジュアルアイデンティティや、それらをデリバリーするためのマーケティング戦略などを練り上げていく。 意外と知らないデザインとブランディングの関係性 また、リブランディングにおいては、リーンブランディングという考え方が効果的だと考えている。図にすると下記のようにサイクル型になる。 ここでも「ブランドコアの策定」として、まずはブランドのあり方を見つめ直すことから始まる。 そして、そのコアを「検証」としてブランドに実装することで、ユーザー含むステークホルダーに見える形にし、リブランディングの様相を明らかにしていく。さらにそこで得られた反応を学びとして捉え、場合によっては次の意思決定の材料にする、というのがざっくりとしたリーンブランディングの流れだ。 リーンブランディングもやはりそのプロセスは、まずはブランドが自らの足元を見て、そして目指す場所を眺めて、という内省的なアクションから始まるのだ。 ブランド構築に役立つリーンブランディング その基本と3つの活用シーン おわりに:吉と出るか凶と出るか 今後の動きに注目 8月上旬現在時点におけるTwitterからXへの社名およびサービス名の変更を主とするリブランディングに関する所感をまとめてみた。 本件がこれからどのような展開を迎えるのか、イーロン・マスクの意思決定およびX社の動向について、我々ビートラックスも引き続き注目していきたい。 今後もビートラックスでは本ブログ Freshtraxに加え、冒頭にご紹介したPodcast「BTRAXのCEOによるサンフランシスコ・デザイントーク」においてもデザインに関する情報を発信していく。ぜひお聴きいただけたら幸いだ。 そのほか、今回のエピソード内で取り上げた話題に関連する記事はこちら: ロゴのリデザイン ー Gapの失敗 Airbnbの成功の背景にある理由とは 失敗事例から学ぶブランディングの要注意ポイント 2022年にリブランディングを行った12のブランド

【初心者向け】CESに初参加!行ってこそわかるその実情と参加時のポイント5つ

毎年年始にラスベガスで開催される世界最大のテクノロジーの祭典CESに参加してきた。 昨年2022年に続くオフライン開催となった今年は、公式によると出展社数は3,200社、参加者数は115,000名以上に上ったとのことだ。 筆者は今回が初参加だったため、抱いた印象や参加時のポイントなどをまとめていこうと思う。今後CESに初めて参加される方にとっても、ガイドのようにご覧いただけたら幸いだ。 1. 広い, 大きい, 高い ポイントと言うより感想に近いのだが、まず何より感じたのが、とにかく「広い、大きい、高い」の三拍子。もっと言うと、ラスベガスそのものが何かと規模の大きな街なのだ。飛行機が着陸する時点で、見える建物のサイズが普段日本で目にしていたものと何かとてつもなく違う気がする。 そしてこの感覚は、空港から宿泊先に向かう道中、そして宿泊先から会場へと向かう道中でますます強まっていった。CESの内容以前に、とにもかくにもスケールが大きいことが印象に残っている。 2. 移動が肝 規模が大きいとなると、課題になるのが移動。普段日本で過ごしている時とはまるで異なる感覚を持つ必要がある。 すぐ隣にありそうに見える建物も、いざ歩くと数十分かかることも。(近く見えるのは、そう錯覚するほどに建物もとんでもなく大きいからだ。) 例えば、メイン会場の1つであるコンベンションセンターだけでもCentral Hall、North Hall、West Hall、South Hall(今年は展示なし)と分かれている。 また、コンベンションセンター以外にも、The Venetian Expo、Mandalay Bay、ARIAなど、市内の複数の会場でセッションや展示が行われており、この距離は到底歩けない。 そんな会場間の移動には、無料シャトルバスやモノレール、もしくはUberやLyftといったライドシェアサービスをうまく活用していきたい。 コンベンションセンターに話を戻そう。というのも、同じコンベンションセンターとはいえど、Central HallとWest Hall間は、徒歩で移動すると15-20分程度かかってしまうというトラップがあるからだ。てっきり歩けるだろうと思ってしまうと痛い目に遭う。 こうした移動問題に切り込んだのが、Vegas LOOPだ。 Vegas LOOPは、Vegas Loopを運営するBoring Companyに、テスラ CEOのイーロン・マスクが投資したことから実現した。Central HallとWest Hall、South Hall間をそれぞれ地下道で繋ぎ、テスラ車で送迎してくれるCES公式の交通サービスである。 会場間の移動時間はわずか1,2分で、無料で利用できる。その上いずれのステーションにも乗り場が10つほどあり、巡回している車両の台数もかなり多いため、乗るまでの待ち時間もほとんどない。 日本ではまだ馴染みがないゆえに、ぜひ乗ってみたいと感じるテスラ。 その上申し分なく便利で、テスラに対して悪い印象を持つ余地がない。テスラ社がCESにブースを出さずとも、テスラ車の乗車体験をさせて、ファンを作ってしまう。非常に上手なやり方だとも感じた。 3. 何を持ち帰るべきかを明確に CESにここ10年ほどは毎年参加しているCEO Brandonの話によると、パンデミック直前の最盛期に比べると、今年は70%程度の規模に感じたとのこと。(パンデミック以来初のオフライン開催となった2022度からは1.5倍ほどに戻った感覚だそう。) しかしそれでも数にして3,200社以上が展示を行なっていた。さらにブースのサイズも非常に大きなものが多く、1つ見るのにもある程度時間のかかるブースも。 よって、テーマや観点を持ってブースやセッションを回ることを強くおすすめする。ご自身が関わっている業界や興味のある業界の企業を見ていくのも良いし、業界問わず、使われているテクノロジー軸で見ていくのも良いだろう。 せっかく来たのだからと全てを見て回りたくなる気持ちもよくわかるが、残念ながら物理的にも時間的にも難しい。この点は割り切って、うまくテーマを絞りながら見ていくのが良い。 4. テクノロジーは実体があるとわかりやすい プロトタイプ時点のものも多いとはいえ、かなりの割合の企業が、プロダクトや実体のあるものを展示していたことも印象的だった。 特に、新興のテクノロジーやディープテックのような概念的、もしくはまだまだ世間的な認知が途上にあるものは、展示においてはモノに落とし込まれていると、実際にそれらがどのように機能し、どんな役割を果たすのかを感覚的に理解しやすい。 例えばフランスのソフトウェア系の企業であるDassault Systèmes (ダッソー・システムズ)は、3D技術を活用したデジタルツインを出現させるインタラクションを展示。 パフォーマンスをする女性の動きをカメラが感知し、全く同様の動きが後方に3Dで投影され、シンクロしたように動いていた。 ここに使われている技術は、医療への利用用途が想定されているとのこと。医者が患者の身体を事前に診察したり、脳外科手術のシミュレーションのように使ったりすることを叶える。 言葉だけではなかなかイメージを掴みにくいことも、実際に目に見えたり、手に取ったりできる形で表現されていると、そのサービス自体はもちろん、背景にあるテクノロジーの本質的な価値も理解しやすい。 5. プレゼンテーションが全て 自明かもしれないが、プロダクトやサービスのプレゼンテーションがその企業全体のイメージをかなり大きく左右する。 これはブースのサイズにかかわらず、だ。もちろん大きいブースは視覚的にも目に入りやすく訪問されやすい。しかし、それだけではサービスの魅力を伝えるには不十分だと感じた。 ポイントは、見せ方と語り方に分かれると感じている。 まずは1点目の見せ方について。これは、主要テクノロジーがどのように使われているのか、何が他の類似サービスと異なるのか等がわかりやすく会場の場づくりに反映することが重要だということだ。 例えば自動車。今年は自動車を展示する企業が多かったようで、その展示方法に個性が出ていた。 スクリーンに強みを持つ企業は、見ている人に実際に自動車に乗って、スクリーンをじっくりと見てもらうようにしていたり、新たなコンセプトやデザインを強調している企業、は、自動車を回転台に乗せ、360°ぐるっと眺められるようにしていたり。 後者の例としてStellantisを挙げる。同社は、プロダクトラインの1つであるRAMの新たなコンセプトトラックを発表。片面が大きく開かれた状態で360°内装も含めてよく見える状態での展示だった。 ボイスコマンド機能やARのヘッドディスプレイ、わずか10分で100マイル走行を可能にする急速な充電機能など、さまざまな観点で注目要素が詰まったコンセプトトラックの効果的なプレゼンテーションだったように思う。 次に語り方だ。ブースでは、その企業のメンバーが自分たちのプロダクトのことを説明したり、こちらからの質問に答えてくれたりする。 その際に、自分たちのサービス価値を的確に伝えられるかが重要になるのだろうと感じた。この説明は、スタートアップにおけるピッチのさらに短縮版のようなもので、 何をビジョンやミッションに掲げているか 誰のためのものか どんなテクノロジーを活用しているか などを交えてサービスを簡潔に説明するスキルは、その企業に対する印象の良し悪しにも影響する。 おわりに: 忘れずにアウトプットを 色々な会場やブースをへとへとになりながら回って得たせっかくのインプットも、何もしないとすぐに忘れてしまう。ぜひアウトプットの機会を適宜設けていただきたい。 飲み込まれそうなほどのインプットを得ることになるCESでは、何もしないままでいると、記憶も薄れていき、「どこの企業がどんなことを発表していたっけ?」と内容がぼんやりとしたものになってしまう。 したがって、グループで行かれる方は、仲間間でその日の終わりにラップアップを設けるのも良いし、セッションやブースの合間に、お互いに印象的だったことを持ち寄り、会話を交わすだけでも得たものが記憶に残りやすいと思う。 個人で参加される方も、写真はもちろん、ノートやメモにキーワードなどを簡単にでも書き留めておくなりすることがおすすめだ。 筆者も、初めてCESに参加した時のことを忘れまいと思いながら、こうして記事を書いている。この記事はまず1本目で、後日実際に回ったブースや印象的だった企業などのまとめも公開していく予定だ。

グローバル起業家輩出の登竜門 Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKAに参加すべき3つの理由

福岡市は、2016年からグローバルスタートアップ育成事業『Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA』を実施している。 これは、日本におけるスタートアップシーンを牽引する福岡市から、世界に通用するスタートアップやそのマインドを持った人材を輩出することを目的としている研修プログラムだ。 われわれbtraxは、2016年の開始からこれまで毎年、その運営を支援してきた経緯がある。7年目となる今年も運営を行っており、今はまさに参加者を募る最終段階にある。 この記事では、改めて『Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA』のポイントや実績、そして今年度参加のメリットをまとめていく。これを読むみなさまにプログラムの魅力が伝わり、そして応募を検討いただけたら幸いだ。 『Global Challenge! STARTUP TEAM FUKUOKA』のポイント 1. のべ1,000人以上を輩出 確かな実績のあるプログラム 本プログラムは過去6年の開催で、1,000名以上の卒業生を輩出してきた。毎年の参加者には、年齢も性別も問わず、本当にさまざまな方にご参加いただいてきた。 その中からは本プログラムをきっかけに起業に至り、ビジネスを大きく成長させているスタートアップも続々と生まれてきている。 一方で、ここで一つ覚えておいていただきたいのが、今すぐに起業をしたい人だけのためのプログラムではないということだ。 つまり、「今は特にビジネスアイディアがない」「起業できたらいいなとは思っているがまだ曖昧だ」といった方にこそ受講をおすすめしたい。 というのも、研修は「起業家候補者」向け対しても、広くさまざまな知識やスキルが網羅できるように設計されているからだ。詳しくは次章にて。 2. ビジネスを広く網羅する国内研修 少数精鋭で「本場」に挑む海外研修 では早速、みなさんが最も気になるであろう研修に関してご紹介する。 今年度は、「国内研修」と「海外研修」の2部構成で実施予定だ。コロナ禍の状況も少しずつ落ち着きを見せてきたこともあり、3年ぶりに海外研修が組み込まれている。 国内研修は全5回で構成されている。各回のテーマは下記だ。 コロナ禍が変えたスタートアップの潮流 ~メタバース, Web3.0, NFT, DAO いま何を理解しておけば乗り遅れない!? ますます重要になった生活者視点からのビジネスアイディア発想 ~ユーザー視点でビジネスを考え、人にうまく伝える方法 グローバル・コミュニケーションへの心構えの習得 資金がないとビジネスは始まらない 投資家を唸らせるビジネスプレゼンとは! ピッチバトル 〜世界の扉を開け! スタートアップの基本知識に始まり、デザイン思考、グローバルコミュニケーション、投資関連、そしてピッチまで、スタートアップに関する「必須科目」を各回で網羅していく予定だ。スタートアップについて学ぶ最初のステップとして、十分に活用いただける内容だと思う。 研修のイメージとして、コロナ禍以前最後のオフライン開催となった2019年度の研修の様子をご紹介する。 第1回国内研修にて、スタートアップ起業家同士の対談の様子 第2回国内研修 デザイン思考に基づくアイディア発想ワークショップの様子 第5回 海外研修でのイベント登壇をかけた英語でのピッチバトル また、今年度も、毎回の研修には各分野で第一線でご活躍されている講師の皆さんにご登壇いただく。 現役のスタートアップ起業家や、デザインリサーチャー、さらに英語を用いたグローバルコミュニケーションのプロや、投資家、弁護士まで。普段はなかなか話を聞くことのできないことも含めて直々にレクチャーいただける時間になる。 一方海外研修は、主に国内研修内のピッチバトルにて選考を勝ち抜いた少数精鋭のメンバーに対して研修を実施する。 場所は、われわれbtraxが本社を構えるスタートアップの本場、サンフランシスコ・シリコンバレーエリアだ。 ここでの大きな目的は、この研修期間内に実施されるピッチイベント『SF Pitch Night』に参加をすることだ。現地のスタートアップと凌ぎを削り、現地の投資家向けに英語でピッチをする、という経験ができる。 日本でもピッチイベントは多く開催されているが、海外のピッチイベントに登壇するというある意味「度胸試し」のような体験ができる機会はそう多くないのではないだろうか。ぜひ挑戦していただきたい。 ピッチイベントの前後では、btraxオフィスにて、メンバーがメンターとなる形でアイディアのブラッシュアップを行う。それも、ほとんどマンツーマンに近い形で徹底的に。 デザインスプリントやイマージョンキャンプのように、短期間で一気にアイディアを磨くことで、飛躍的な改善やブレイクスルーを目指す。 また、ピッチ特有の構成や英語での言葉選びなど、ピッチに最適化したアイディアの見せ方まで一緒に考え、磨き上げていくサポートも行う。 研修詳細はこちら: https://www.fukuokastartup.com/program 3. 単年度で終わらない 強力な運営のサポートとアルムナイグループの存在 また、研修そのものからは少し離れるが、過去6年の蓄積があるということは、それだけ多くの卒業生とのつながりがあることを意味する。 本プログラムでは、Facebookでの公式グループを始め、過去の卒業生とのコミュニティを展開しているため、その期のプログラムが終了しても、研修生間の関係性が長く続いている。 実際、期を跨いで交流のある方や、同期で協力してアイディアの検証やテストを行っているケースもよく耳にする。 また、われわれ運営事務局についても、プログラム期間のみならず、終了後も、あるいは年度をまたいででも、研修生のみなさまのサポートをさせていただいている。ある相談ごとに関して適任者を紹介するなど、相談役として気軽に相談いただける関係性を心がけている。 起業をはじめとして、何か新たなことを始める上で、ネットワークは不可欠。従来のネットワーク外に飛び出し、新たな出会いを得るチャンスとしても、このプログラムへの参加は絶好の機会と言えると思う。 終わりに 本プログラムは、福岡市にゆかりのある方であればどなたでも無料で受講いただける。 国内研修から海外研修まで全回の研修を通じて、グローバルな視野やマインドを持った起業家および起業家候補生を輩出できるよう運営としても最大限サポートをさせていただく次第だ。 この研修をきっかけに新たな一歩を踏み出すきっかけになった方を過去何名も目の当たりにしている。 少しでもご興味をお持ちの方はチャレンジしてみることをおすすめする。詳細や応募は、公式Webページをご覧ください。研修にてお会いできることを楽しみにしています!

サンフランシスコのデザイン会社が今Web3に踏み出したわけ

新サービスWeb3 Design Lab 開始
先日、btraxは新サービスとして「Web3 Design Lab」の提供を開始した。
このサービスは、XRやメタバース、NFTを含むWeb3と、デザインを活用することでこれからの世界を動かすサービスづくりをサポートするものである。
Web3 Design Labは、主に日本企業を対象としている。これからますます成長が見込まれるとともに、グローバルサービスとしての可能性も十分に秘めているWeb3領域に対し、新たな事業を作りたいという思いを支えていくサー…

CXデザイン実現のための「カスタマージャーニー発想」そのコアにある3つの考え方

最近、CXという概念が浸透し、その「実装」に奔走するフェーズに入ってきている。 本記事では、そんなCXについて、基本の定義、ビジネスにおける重要性、これから企業に求められるCX実装のために持つべき観点をまとめてお伝えしたい。 CXとは? そもそもCXとは、Customer Experienceの略であり、日本語では顧客体験と表現される。似て非なる概念として、UX (User Experience)があるが、セットで考えると理解しやすいだろう。 UXがユーザーを対象としているのに対し、CXはユーザーを含むそのサービスやプロダクトに関わる人全員を対象としている。 つまり、CXとUXは包含関係にあり、全くの別物と捉えるのではなく、UXを含むさらに広範囲を対象としているのがCXだと考えるべきだろう。 また、「UXデザイン」同様に「CXデザイン」という言葉もよく聞かれるようになっている。これは、ユーザー体験だけでなく、その前後を含む顧客体験全体をデザインする行為と考えるのがわかりやすいと思う。 関連記事: CXデザインとは?UXデザインとの違いとそれぞれの役割 ビジネスにおいてCXが重要視されている理由 では、そんなCXという概念が、なぜビジネスにおいて重要とされ始めているのか。 その何よりも強力な理由が、CXの質と売上が比例することが明らかになりつつあるからだ。つまり、より良いCXを提供している企業は、売上も高いのだ。 いくつか具体的な数字を用いてご説明しよう。 Dimension Data社による調査では、CXを改善した企業のうち84%が収益の向上を、また79%がコスト削減を実現したと報告されている。 また、顧客ロイヤリティという観点では、 同社が2つの結果を発表している。 1つは、CXを改善し向上させた企業のうち92%が、顧客ロイヤリティの向上をも実現することができたということ。 そしてもう1つは、彼らの調査対象のうち73%の消費者は、良い顧客体験は、自分たちがそのブランドに対して抱くロイヤリティに影響すると考えている、ということだ。 こうした数字を見ていくだけでも、CXが持つビジネスにおけるポジティブな影響と重要性が垣間見えてくるだろう。 CXを考える上で重要なこと では、CXを実装し、顧客との関係性を構築するためにはどんな考え方を持つと良いのだろうか? 筆者は「カスタマージャーニー発想」が重要なマインドセットであると考えている。そして、このカスタマージャーニー発想は、顧客のサービス体験を「線」で捉えることと、本記事では定義したい。 CXをデザインすることはすなわち、UXも含めて顧客体験全体を考えることである。 UXとCXの関係性については上記の通りだが、サービス体験という名の、顧客にとっての旅の始まりから終わりまでを一貫したものとして捉えることがカスタマージャーニー発想であり、これがCXの基盤になると考えている。 あえて「線で捉える」としたのは、この手の話には、「顧客とのタッチポイント」という言葉が頻出することに関係する。 というのも「タッチポイント」という言葉には「ポイント」という表現が用いられているため、「点」の印象を持ちやすいだろう。 しかし、ここでは、複数のタッチポイントが連なることで線形を描いている、あるいは、タッチポイントを繋いでいくことで線状のカスタマージャーニーができあがるイメージを持っていただきたい。 オンラインで情報を収集をしてオフラインの店舗に買いに行く、オフラインで実際に目にしたものを後日オンラインショップで購入する。など、顧客は、無意識のうちにチャネルを縦横無尽に行き来して、最終的な購買やサービスの利用に至るもの。 したがって、カスタマージャーニーを考える側としても、「オンラインだから」「オフラインだから」とチャネルを区別して単体で捉えるのではなく、総合的な流れを考えることが重要だと考えている。 カスタマージャーニー発想を支える3つの概念 そんな「カスタマージャーニー発想」を考える時に、理解しておきたいのが、以下の3つの概念である。 デザイン思考のマインドセット サービスドミナントロジックの基本原理 デジタライゼーション デザイン思考 まずはデザイン思考。今回はそのプロセスを解説するのではなく、あくまでもデザイン思考が持つ特徴について簡単にご説明したい。 具体的には、反復性のあるプロセスであることだ。 デザイン思考は、5つのプロセスで成り立っているが、それを遵守することだけが正ではない。実際のデザイン思考を用いた現場では、プロセスを行ったり来たりすることも少なくない。 下記の図はbtraxが考える、デザイン思考を用いたサービスデザインのプロセスを表現したものだ。 ご覧の通り、必ずしも左から右に進む矢印だけではなく、右から左への矢印、すなわち前のプロセスに戻っていくアプローチも入っている。 今いるプロセスがどこなのか、何を達成しようとしているのかを明確にしながら、その時必要なプロセスを踏むことがデザイン思考の基本と言えるだろう。 ここがちゃうねんデザイン思考。5つの誤解とは サービス・ドミナント・ロジック 2つ目のサービス・ドミナント・ロジックは、小難しいカタカナだと敬遠したくなる気持ちもわかる。しかし、内容はそこまで複雑ではない。 サービス・ドミナント・ロジックは、一般的に有形の「モノ/プロダクト」と、無形の「サービス」と考えられている両者を包括的に捉え、顧客との価値共創を目指すことと定義されている。 ここでのポイントは、顧客との価値の共創にある。 サービス・ドミナント・ロジックは、「モノとしての価値は、それが実際に使われるまでは生まれない」、別の言い方をすれば、「モノは使われて初めて価値を持つ」という考え方に立脚している。 そして、実際にモノを使ってもらう前後の過程を「サービス」として、重要視するものだ。 つまり、顧客の使用がなければ、モノが価値を持つことができないという意味で、顧客はモノおよびサービス価値の共創者であると考えられるのだ。 プロダクトのサービス化を実現するための3つの方法 デジタライゼーション 最後に、デジタライゼーション。昨今言うまでもなくデジタル化が進んでいるが、これによる変化を理解することが、カスタマージャーニー発想をより骨太なものにしてくれるという意味でご紹介しておきたい。 というのも、デジタライゼーションが可能にしたこと。それは、まさにオフラインとオンラインという概念を顕在化させたことだと考えている。 つまり、デジタルおよびオンラインという概念が生まれたからこそ、それまで必然視されていたオフラインの存在やその特性がかえって際立ち、結果的にそれぞれの特徴を活かしたアプローチが取れるようになってきたということだ。 OMO(Online Merges Offline)という考え方はまさにこれに当たるものだろう。 そういう意味で、一連の顧客体験における、さまざまなチャネルを縦横無尽に行き来しながら進んでいく様子は、デジタライゼーションによって可能になっていると言っても過言ではないだろう。 また、デジタライゼーションは、サービスそのものの柔軟性も高める働きをしていると考えることもできそうだ。 その一例として、デジタルでは、欠陥によるダメージが作り切りのモノよりも小さいのではないか、という話を挙げたい。 この具体的な説明には、アプリの例がわかりやすいだろう。 アプリは、まだ一部の機能が万全でなくてもリリースされることが多い。もしくは、リリースしても不具合が見つかれば、アプリは公開したまま修正を行い、新しいバージョンをリリースするといった対応が可能だ。 もちろん致命的な失敗や、従来は考えにも及ばなかった脅威もあるため、安易に「失敗しても問題ない」とは言えない。しかし、多少の欠陥を認めながらもサービスを継続させやすいのは、デジタルに移行してこその新たな在り方ではないだろうか。 OMO – 顧客体験向上のための2つのトレンドと4つの成功事例 カスタマージャーニー発想の本質は、垣根を超える柔軟性 最後に、ここまで簡単に今回のテーマに寄せて定義をご紹介した「デザイン思考」「サービス・ドミナント・ロジック」「デジタライゼーション」の3つが、なぜカスタマージャーニー発想に重要なのかを明確にしていきたい。 この理由を考える際に、3つに共通するポイントに着目したい。 それは、いずれも何らかの境目を薄くする、あるいは垣根を超える柔軟性を持ったアプローチであるということだ。そしてこれこそが、カスタマージャーニー発想の醸成、さらにはCXデザインをよりよく行うため最大のポイントではないかと筆者は考えている。 デザイン思考は各プロセスの垣根を超え柔軟にプロセスを横断していく。 また、サービス・ドミナント・ロジックは、その定義が物語るように、ハードとソフト、あるいはモノとサービスの境界を融解し、1つのサービスとして価値を提供することを指す。 そしてデジタライゼーションは、オンラインとオフラインという考え方を明確にし、そして両者を活用した総合的な戦略および施策立案を可能にした。 このように三者ともユーザーや顧客を中心に据えることで、彼らに良い体験を届けるためのプロセスや手段に対し、ある意味寛容に、多くの選択肢を持った考え方であると言えそうだ。 柔軟なアプローチには、柔軟なチームを 最後に、上記を実現するために、組織内においては、部署間の連携がこれまで以上に必須となるだろう。もうお気づきかもしれないが、カスタマージャーニーやCXをまったくの他人事にできる部署は一つとして存在しないのである。 もちろん、それぞれのタッチポインやチャネルに対し、担当部署やメインで取り組むチームは割り当てられるだろう。 しかし、ここで重要なのは、各部署が担当する内容が「その部署だけのもの」にならないように留意する必要があるのではないかと考えている。 UXデザイナーは本当にデザイナー?UXデザインの役割の拡大 終わりに CXの重要性に始まり、実際にCXをマインドセットとしてどのように捉えると良いのか、その糸口となりそうな3つの考え方とその背景にある共通点について解説をした。 UXに引き続きCXもそのベールが少しずつはがれ、実用に向けた取り組みをなされている方も多いだろう。理解を深めるために本記事が少しでも参考になれば幸いだ。 btraxでは、まさに本記事でご紹介したようなUX含めCXを総合的に捉えるアプローチを重要視し、ユーザーや市場を理解するリサーチから、ブランドデザイン、サービスデザイン、そしてそれらをユーザーにお届けするコミュニケーションデザインまで、包括的にサービスを提供させていただいている。 各フェーズにおける実際のアプローチや、過去のクライアントさまの事例は下記の会社概要PDFにてご紹介している。ご興味のある方はぜひダウンロードください。 参考記事: Why (and How) Customer Experience Drives Business Growth

【イベント総括編】アメリカ進出成功のために問うべき15の質問に一問一答

先日btraxは、「なぜ日本企業はアメリカでうまくいかないのか? 〜目指すべきは脱営業 顧客を獲得するアメリカ市場戦略〜」というオンラインイベントを実施した。
ビジネスにおける日米差や、アメリカ進出を考える際のよくある落とし穴を中心に、事例とともにお伝えした。
また、参加者の皆さまからは非常に多くのご質問をいただき、その数は時間内で回答しきれないほどだった。
そこで今回も前回に引き続き、イベント当日、時間の都合上回答をすることができなかったご質問に対して、登壇したbtrax CEO, Brandon…

マーケティングに役立つ8つの認知バイアスとその活用事例

最近、書店に並ぶ本を見ていると、ビジネスシーンにおける認知バイアスへの注目度の高まりを感じる。 認知バイアスとは元来、認知心理学や社会心理学の用語。 人が何かを判断する時などに、統計学的な誤りや、個々人の物事の見方によって認知に歪みが生まれ、その結果非合理的な判断をさせる要因となるものを指す。 ユーザー理解の究極として人間の認知の理解があるのかもしれない、などと感じつつ、今回は、マーケティングに役立つ8つの認知バイアスを実際の活用シーンや事例を用いながらご紹介していく。 人は他者や周囲に影響を受ける 人は想像以上に周囲の影響を受けている、そんなことを実感する効果からまずはご紹介しよう。 1. バンドワゴン効果 これは、多数が選択をしている対象に、より多くの支持が集まるという効果である。 日々生まれるあらゆるトレンドは、どれも最初はマイクロトレンドから始まり、次第にメガトレンドになっていくが、この現象もバンドワゴン効果によって説明できる。 ちなみにこの背景には、同じく認知バイアスの1つとして語られることの多い FOMO (Fear of Missin Out) が存在していると考えられる。FOMOは、何かを見逃すことによって取り残されることへの不安や失敗する恐れを意味する。 FOMOという言葉自体はソーシャルメディアが一気に普及した数年前を境によく聞かれるようになったが、概念としてはずっと昔から人間の認知に関わる特徴として存在していた。 「取り残されないように」とまでは行かなくても「自分もその波に乗りたい」という気持ちでサービスを選んだり、利用した経験がある人も少なくはないのではないだろうか。 マーケティングに活用するなら バンドワゴン効果をマーケティングに活かす最もシンプルな方法として挙げられるのは、キャンペーンの告知で「人気ナンバーワン」や、「ユーザーから高評価獲得」といったメッセージを使用すること。 施策そのものへの活用としては、インフルエンサーマーケティングや、著名人による口コミやおすすめなども、バンドワゴン効果を期待したものだと考えることもできる。 また、BtoC向けのビジネス施策にありがちかと思うかもしれないが、BtoB企業においても「Testimonials」として、過去のクライアントからの声をウェブサイトに載せることもよくある。 第三者からの客観的な評価を示すことで、その企業の信頼性を高めるとともに、自分たちも成功事例に続きたいと思わせる気持ちを誘発する効果が期待できる。 多数の人に支持されていることが間接的に伝わるメッセージを磨き、発信していくこと、あるいは、すでに多数の人に支持されている人の影響そのものをうまく活用することが、この効果をビジネスに活かす上で、基本でありながらも重要なことだろう。 2. 希少性のバイアス これは、何かを失う可能性を感じたり、その恩恵を享受できる可能性が低いことを感じたりしたときに、人はより一層対象に対して価値を感じるという効果である。 希少性の高いものに対して、人はより高い価値を感じると言い換えることもできる。 マーケティングに活用するなら この効果を演出するには、自ずとさまざまな「制限」が必要になってくる。マーケティングキャンペーンにおける訴求点として、いくつか例を挙げてみたい。 時間:期間限定, 締切〇〇, 有効期限〇〇まで 個数:数量限定, 限定〇〇個, 残りわずか 接点:会場限定, 出席者限定 表現のニュアンスの違いだけのものも含むが、ざっと挙げるだけでもこのような感じだろう。 特に個数に関しては、先に述べたバンドワゴン効果との相乗効果もあり、「数が少ない = 売れている、人気である」などと想起されやすく、結果その恩恵に預かりたいと思う心理からこの効果が生まれるのだろう。 人は枠組みや基準をもとに考える 想像以上に我々は枠組みや基準に振り回されて判断をしているものだ。 3. アンカリング効果 これは、先に提示された数字や条件が基準となって、その後の判断がその基準に左右される効果のこと。 アンカーとは錨のことであり、船は錨を下ろすとそこから動きにくくなることからこの名前が付けられている。 マーケティングに活用するなら アンカリング効果が使われるシーンとしては、価格が絡むものがよく挙げられる。 例えば、上記のような価格が一覧になったもの。サブスク系サービスのプランとその価格を見せる方法としてよく見るものだと思う。 また、割引やセールの際にもよく使われている。割引前の価格を残したまま、セール価格が書かれているタグを目にしたことがある方は多いだろうが、まさにこれはアンカリング効果を狙ったもの。 値引き前の価格とセール価格両者を載せることで、値引き前の価格がアンカーとなり、セール価格をより安く、お得に感じさせる効果があるのだ。 4. フレーミング効果 これは、同じ意味を持つ情報でも、その伝えられ方や立脚点によって、人は全く異なる印象を受け、判断をも変わるというものだ。 この効果の説明でよく用いられるのが、病気の例だ。 医療従事者を対象にしたある研究におけるシチュエーションで、「術後1ヶ月の生存率は90%です。」と伝えた場合、手術を選ぶ人は80%だった。これに対し、「術後1ヶ月の死亡率は10%」です。と伝えられた場合、手術を選ぶ人は50%ほどにとどまったそうだ。 フレーミング効果には、場合によっては解釈を歪め、恣意的な使い方をされかねない側面もある。あくまで顧客やユーザーを利する目的で活用したい。 マーケティングに活用するなら フレーミング効果は、上記の事例のように数字を使って何かを伝える時はもちろん、それ以外の、メッセージの伝達にも効果的に使うことができる。 英語であれば、「Now」や「Today」といった「今すぐやろう!」とユーザーを奮い立たせる言葉や、「Get」や「Grab」といった、手に入れる、掴むといったユーザーメリットがわかりやすい言葉を使う場面は非常に多い。 また、「Don`t waste your time」「Don’t waste your money」といった表現は「これ以上時間やお金を無駄にしないで」という一見ユーザーのことを気にかけているような文言だが、「無駄」や「〜しないで」という禁止の表現が使われているだけで、ネガティブに感じやすい。 こういったメッセージを打ち出す場合は、代わりに「Save」を使い「節約する」「保存する」というようなニュアンスを採用することも多い。(参考) これらは英語ならではの雰囲気を活かした事例にはなるが、よりポジティブに聞こえる言い回しはないかと探ることは、日本語にも参考にできる部分は多いだろう。 人は時間によって判断を変える 人は、情報が伝えられる時間によっても、情報そのものに抱く印象やそこから導く判断が異なってくる。 5. 系列位置効果 系列位置効果、漢字が並んだ何やら難しそうな名前だが、定義は至ってシンプル。 人は、いくつかの情報を認知したり、記憶したりするとき、情報の順番によって認知のしやすさや印象が変わるという効果だ。 そしてこの系列位置効果は、初頭効果と親近効果に分類される。 初頭効果は、初めに提示された情報は覚えやすく、判断に影響しやすいというもの。また、親近効果はその初頭効果と対になる効果で、最後に提示された情報の方がより覚えやすく判断に影響を及ぼしやすいというものだ。 すなわち、一連の情報のうち、最初と最後の内容は覚えやすく、中間に位置する情報は見逃しやすいということ。 マーケティングに活用するなら この効果をマーケティングで活かす時の方法もシンプル。 最も重要な情報を最初か最後に置き、さほど最も重要でない情報は全体の真ん中に配置することがおすすめだ。 また、重要な情報を最初か最後におくか、迷った時にはこのような場合分けもできるそうだ。(参考) 読んだ直後に、ユーザーに何かを決断してもらわなければならない場合は、最も重要な情報を最後に置く 読んだ後にユーザーが時間をかけて決断する場合は、最も重要な情報を一番上に置く 6. エンダウト・プログレス効果 これは、人は進捗がゼロの状態よりも、初めに進捗を与えられた状態からの方が対象へのモチベーションが高く、目標を達成しようとする効果のこと。 この効果では。負担を感じがちな「最初の一歩」をケアすることによってユーザーをエンカレッジする マーケティングに活用するなら 代表的な活用事例を2つご紹介しよう。 まずは、ポイント制度。最初にポイントが付与された状態でスタートすると、ユーザーは、引き続きポイントを貯める意欲を持ちやすくなる。 ポイントを活用したビジネスの代表例であろう楽天社の例を挙げたい。 楽天カードに新規入会し、利用した人に対してポイントを付与するキャンペーンを長きにわたって行い、ユーザーを増やし続けている。 もちろん、エンダウト・プログレス効果だけがこのキャンペーンを成功に導いているとは言いきれない。 しかし、ユーザー側の心理として、先にポイントがもらえた状態でカードの利用がスタートできるのであれば、引き続きポイントを活用して買い物をしようと思いやすいこともまた事実だろう。 2つ目の事例は、主にWebサイトやアプリで用いられる、進捗を表すバー。この事例はマーケティングというよりは、UIデザインの範疇だ。 ユーザーに情報を入力してもらうフォームや、ローディングの残り時間を示す時によく使われるものだ。 フォームの入力をしてもらう際に、何も情報を入力していなくても、バーが少し進んだ状態からスタートするようにしておく、もしくは名前を入れただけで、グンと入力バーが伸びて、一気に進んだ感覚にさせる、など。 フォームの入力はユーザーにとっては単に面倒なだけの作業。できればスキップしたいと思うくらい煩わしいものだろう。ましてやローディング時間など、ただ待つだけの時間で、短ければ短いほど良い。 ユーザーに快い体験を提供するために、かなり細かいことと思われるかもしれないが、侮ることなかれ。 人は物事と自分の距離によって判断を変える 人は、対象と自分がどれだけ身近/疎遠であるかによっても、判断を変えてしまう。 7. IKEA効果 世界的に有名なインテリアブランド「IKEA」を冠したこの効果は、自分が手をかけたものに、人はより価値を感じるという効果だ。 そう、まさに、IKEAで購入した家具を自分の手で作り上げた際に感じるあの達成感と家具への愛着がこの効果を物語っている。 一歩間違えると、自分の成果物を過信することにもなりかねないため、あくまで客観的な視線を忘れずに、とここでお伝えしておきたい。 […]

【イベント総括編】ブランディングに関する24の質問に一問一答

先日btraxは、「日本企業はなぜブランディングが弱いのか? – btrax Event Series 01 Brand Design」というオンラインイベントを実施した。 ブランディングに関するよくある誤解を解消し、経営におけるブランディングの重要性をより深く理解していただくことを目指して開催した本イベントは、多くの方にご参加いただき、大盛況のうちに終了した。 しかし、イベント内にて参加者のみなさまからはご質問やコメントを非常に多くいただき、その数は、時間内では回答しきれないほどだった。 そこで、イベント当日、時間の都合上あまり十分な回答をすることができなかった、もしくは、回答をすることができなかったご質問に対して、登壇したbtrax CEO, Brandonより改めて回答をもらい、記事にまとめる運びとなった。 Q1. 日本でのブランディングとアメリカでのブランディングのプロセスに違いはありますか? A. おそらく日本のブランディングプロセスの多くが、20世紀から行われていたCIデザインと、広告中心の手法が踏襲されていると考えられます。 一方でアメリカの場合は、多くの企業がデジタルチャンネルの活用を10年ほど前から積極的に行なっているため、それらを活用したよりスピーディーで柔軟な形のブランディングが行われていると思います。 Q2. 最近アメリカで話題になっているブランディング手法やケースがあれば教えて欲しいです。 A. これに関しては、まさに上記の質問にも関連する「リーンブランディング」ですね。 今までのようにじっくりと作り込むのではなくて、素早くリリースして、改善していく手法です。以前に弊社のブログにて詳しく紹介してあるので、そちらをご参照ください。 ブランド構築に役立つリーンブランディング その基本と3つの活用シーン Q3. ブランディングの非常に良いサンプルとして、AppleのSteve JobsがやったThink Differentが非常に印象的でした。 A. とても素晴らしいブランドキャンペーンだったと思います。 特にテレビCMやビルボード広告で全く商品を紹介せずに、世界を変えた偉人の写真と共に自分達の信念を語ったというのが、模範的なブランドメッセージの発信方法だと思います。 Q4. 営業やマーケティング活動がブランディングだ、と思っている人にブランディングを上手く説明するにはどうしたらよいでしょうか? A. 営業をする際にもブランド力がある企業の方が圧倒的に成果が出しやすいと思います。 飛び込み営業や、メールでの営業をした場合でも、無名のブランドよりもブランド力が高い企業の方が返事をもらえる可能性が格段に高くなると思います。また、マーケティングをする際にも同様で、その効果が高まると考えています。 Q5. 日本国内で展開するブランドを前提とした場合、営業力に頼らないブランディングを上層部に打診するにはどうしたらよいですか? A. ブランド力が直接企業の売上、利益、時価総額に影響することをデータと一緒にプレゼンすると良いかと思います。 Q6. 今は「パーパス」がバズワードですが、パーパスとブランディングについてはどう説明していますか? A. 現代のブランディングにおいては、企業の掲げるパーパスはとても重要な役割を果たします。 自分達の存在意義と、世の中に対してどのような役割を果たしたいかをより明確にすることで、ブランドメッセージもより伝わりやすくなると思います。 Q7. ブランドを構築してからお客様に認知されるまでどのくらいのスパンを見たほうがよいですか? A. おそらく最低でも半年、理想的には1年はかかると思います。例えばAppleが倒産寸前の状態からJobsが復帰し、ブランド力が高まるまで最低でも3年はかかったと考えられます。 したがって、企業がブランディングの効果をあまりにも急ぎすぎてしまうと、長期的には逆効果になります。 Q8. 中小企業のブランディングで重要なことはありますか? A. 多くの中小企業は、大企業に比べて小回りが利きやすく、失うものも少ない、トップの一存で物事を決めやすいなどのメリットがあると思います。 ブランディングにおいても速いスピードでどんどん世の中に発信していけるのではないかと思います。 Q9. ベンチャー企業に対してブランディング提案をするポイントはありますか? 立ち上げの初期はあまり名前やロゴにこだわりすぎなくても良いと思います。それよりも優れたプロダクトとユーザー獲得に注力するべきだと思います。 スタートアップ立ち上げ時に重要ではない20の項目と最も重要な2つの事 Q10. ブランド価値の算出方法を教えていただけますか? A. 企業のブランド価値は常に流動的であるため、非常に難しい質問ですが、一般的には下記のような手法が活用されています。 同じ市場における類似商品・サービスと比べ、そのブランドがどれほど高く売れているかを比べて算出する方法。 買収された類似ブランドの売却価格、もしくは買収する際の金額を基準にする方法。 収入、キャッシュフロー、コスト削減、将来の収益などの財務指標をもとに、どの数字がブランドの評判や認知度によって直接得られたものかを評価する方法。 現在の顧客数を評価し、将来の顧客数を予測し、それぞれに生涯価値 (LTV)を割り当てる手法。 Q11.ブランディングは、プロダクトアウトとマーケットイン、どちらの思考から考え始めるのがよいですか?それとも自社ブランドなのでプロダクト側だけで考えてよいのでしょうか? A. ブランド力とプロダクト力は企業の成功においては両輪の関係です。ですので、プロダクトのUXとブランドメッセージの統一が重要になってきます。 特にデジタルサービスはプロダクト自体がブランド力を牽引する役割を果たすので、プロダクトのUXもしっかりと作りたいところです。 Q12. 会社がブランディングを意識すべきタイミングはいつ頃だと思いますか? A. 業界にもよりますが、プロダクトがある程度完成し、ユーザーがつき始めた頃がよいと思います。 例えばTwitterは、これまでに5回ほどロゴをアップデートし、その度にブランド力を高めています。 また、Airbnbも軌道に乗り始めた頃にブランドを大幅に改善しています。 両者とも知名度が高まり、勢いに乗ったところで一気にブランディングに力を入れたようです。 Q13. 改めて体験デザインとは、具体的にどういったものですか? A. これは世の中的にはUXデザインとかユーザー体験デザインと呼ばれているものです。商品やサービスを利用した際に、その利用者が受け取る体験の良し悪しを決めるデザインです。 また、UXデザイナーの仕事は利用者と提供者の両方が満足する体験をデザインすることになります。 【わかりやすく解説】UXデザインの基本と主要概念 Q14. 既存の商品やサービスをDX化、デザインする案件の場合、ブランディングと結びつけた事例はありますか? A. 現在我々が行なっているプロジェクトのいくつかは、まさにDXとブランディングを掛け合わせたものです。 例えば、本業がアナログのものづくりの会社が、そのブランドメッセージをモバイルアプリ等のデジタルサービスを通じてユーザーに体感してもらうタイプのプロジェクトをいくつか進めています。 Q15. ターゲットが60歳以上の場合でもデジタルの手法を採るのでよいですか? A. そうですね。現代では世代に関係なく、デジタルでのブランドコミュニケーションは必須だと感じます。 特に欧米の国々では高齢者でもパソコンやスマホを使いこなしているので、グローバル規模で考えるのであれば、サービスもデジタルメインで考えるべきだと思います。 Q16. アメリカのZ世代以下の世代はGAFAMのブランドをあまり支持しておらず、Web3向けの企業を支持していると聞きました。実際の現状はどうなっていますか? A. そうですね。最近はGAFAM に代表される、いわゆる「ビッグテック」があまりにもユーザーのデータを所有して力を持ちすぎていることから、一部のユーザーからの不安と不満が挙がっているのは確かです。 一部の企業が独占するより、民主主義的に、Web3の概念に期待をしている人たちも増えてきていると思います。 世界が注目するミレニアル・Z世代 その最新トレンドと消費嗜好 Q17. ブランドの価値を与えるのはユーザーであり、ユーザーは「タダ」でその価値を提供するのは違和感があります。Web3の流れは必須ですね。 A. かなりレベルの高い質問ですね。ユーザーがブランド力を高めているのは間違いないですが、タダで行なっていることが必ずしも悪いとは思わないです。 また、Web3は今後どのような役割になるのかが未知数なので、ブランディングへの影響力に関しても楽しみに思っています。 Q18.国内事業を立ち上げていき、どこかのタイミングで海外進出を考える時に、ブランディングで注意して考えないといけないポイントは何ですか? […]

ブランド構築に役立つリーンブランディング その基本と3つの活用シーン

リーンブランディングという言葉をご存知だろうか?おそらく「リーンスタートアップなら知っているが…」という思いで、今この記事を読んでいる方も一定数いらっしゃるのではないかと思う。
筆者もまさにその一人だった。この記事では、リーンブランディングの定義から実際にリーンブランディングを実践する際のポイントまで、その基本をご紹介していく。
リーンブランディングの定義とその特徴
リーンブランディングの定義だが、その発想の基となるリーンスタートアップについて簡単に触れておきたい。
リーンスタートアップ…

ブランディングのためのデザインコンペ i-PRO Future Design Challengeで得た手応え

先日、パナソニックi-PRO センシングソリューションズ株式会社さま(以下、i-PRO)と共催した「i-PRO Future Design Challenge」の受賞作品が決定した。 これは、今回初開催となった、2021年7月から1ヶ月半ほどの応募期間を設け、世界中からアイディアを募るグローバルデザインコンペだ。 コンペ全体のコンセプトを「未来の課題をデザインで解決する」とし、「テクノロジーが発展しすぎた未来社会の犯罪を解決する」をテーマに設定した。 テーマの決定に際し、テクノロジーは、我々の生活を便利にする一方、リテラシーを欠いたり、使い方を誤ったりすれば、巧妙な犯罪行為に使われる可能性があることを提起。 いわば「諸刃の剣」のようなテクノロジーとこれからいかに付き合っていくべきか、そんな課題感をテーマに込めた。 また、審査員には、全世界からスタートアップや最新のビジネスに精通する4名をお迎えした。 Bjoern Eichstaedt氏 – Managing Partner & Co-Owner of Storymaker GmbH, Germany Brandon Hill – Founder & CEO of btrax, Inc. Casey Lau氏 – Co-host of RISE & Web Summit Tokyo 西村真理子氏 – HEART CATCH Inc. i-PRO Future Design Challenge開催にかけた想い 本コンペの構想から開催に至るまで、主催であるi-PROには一貫した大きな目的があった。 それは、企業ブランディングである。そしてその中にも、社内に向けた目的と、社外に向けた目的の双方が存在した。 i-PRO社内に対して:自社にデザインマインドセットを持っている自覚を高めること。 社内に対するi-PROの意図は2つあった。まず1つ目は、btraxというデザイン会社とタッグを組んでグローバルデザインコンペを開催することにより、自社の取り組みの一つとして、デザインにスポットライトを当てた事業を行うこと。 そしてもう1つは、自社がビジネスにおけるデザインの価値を理解し、重視しているということをi-PRO社内に浸透させることだった。 i-PRO社外に対して:i-PROというデザインドリブンな会社があると国内外に広めること。 i-PROは、世界的に著名なPanasonicから2019年に分社化した会社である。感知器などを使用して情報を計測・数値化することで、問題を解決したり、未然に防いだりするセンシングソリューション分野におけるパイオニアとして業界を牽引してきている。 そんなi-PROには、国内外で「Panasonicから生まれた会社」というよりも「i-PRO」という個の会社として認知度を上げたいという強い想いがあった。 そのため、i-PROの名前をコンペそのものの名前に掲げ、コンペそのものを認知拡大の機会と捉えた。 デザインコンペ i-PRO Future Design Challengeで得たもの 全世界から集まったハイレベルなアイディア 全世界を対象に作品を募り、世界中から応募を集めることができた。そして、その中から、Gold Award 1作品、Silver Award 2作品を選出した。 Gold Award PORTALa Myra Bening氏(インドネシア) スマートホームによって提供される快適さに潜む、我々の危険に対する直感を鈍らせ、周囲の状況や環境の異常に気づかなくさせる危険性に対するソリューション。 ラテン語で「門」を意味する「PORTA」は、スマ ートホームにおける“デジタルゲート”として機能。スマートホームの活動の異常を検知すると、自動的にWi-Fi接続を終了し、バックアップデータを使ってデバイスを動作させることができる。 YouTube動画はこちら。 Silver Award Glass – A Future Interface Arnav Nigam(インド) 世界が複雑化し、相互作用やその影響を管理することは困難になっているなか、制御メカニズムとして機能すると同時に、シームレスなデジタル体験を提供するもの。 YouTube動画はこちら。 QGene QGene Solutions (Vinay Sudhakaran氏、Mohd. Saim Nasim Lari氏、Arun Thangaraj氏) (インド) QGeneは、将来のデジタル上のなりすましを防ぐための、DNAをベースにしたデジタルタトゥー。皮膚に貼ることでDNAと主要な行動特性が抽出され、ゲノム配列にもとづいて、独自の「デジタル遺伝子」となるデジタルマトリックスを生成するものだ。 YouTube動画はこちら。 今回のテーマは「未来」に舞台が置かれていたこともあり、参加者からのアイディアも、すでにある課題を考える以上に想像力を働かせて練られたものが多く、大変興味深かった。 また、コンセプトアイディアのみならず、プロダクトデザインやプレゼンテーションまで高度に作りこまれた作品が多く見受けられた。 デザインコンペを開催するメリット 今回、btraxは運営としてこのコンペに参画した。そこで、実際に運営を行ったことで実感している、本コンペで得た学びをまとめてみたい。 1. 主催者のビジョンやテーマに共感する人を集めるブランディング的効果 先述の通り、今回のコンペには、i-PRO自社内外双方へ向けたブランディングに貢献できるものにする狙いがあった。そしてその結果、今回のテーマに共感した方より、多数の応募を獲得できた。 実際に受賞者からは、今回のテーマで提起した課題感に共感したことで、応募を決めたとの声も上がっている。 日本企業は、自社に誇れる技術や実績を持っていることが多い。i-PROも例に漏れず、センシングソリューションの高い技術力と、それらを落とし込んだ優れたデザインのプロダクトを有している。 […]

意外と知らないデザインとブランディングの関係性

デザインとブランディング、どこかクリエイティブな雰囲気ゆえに一括りに認識されていることが多く感じる。 本記事では、そんな「デザイン」と「ブランディング」という2つの概念について、両者の関係性を考えてみたい。 同じ「デザイン」でも3つの顔がある まず、日本語では一口に「デザイン」といっても、実は英語圏には、デザインを3つの種類で捉える考え方が存在する。その場合、以下のように大文字と小文字の表記でその違いを区別するケースが多い。 design Design DESIGN 1. design 小文字のみで表記されるこちらは、いわゆる「見た目のデザイン」。グラフィックデザインや、工業デザイン、広告デザインが対象となる。明確なターゲットを設定した上で、彼らに訴求するデザインを完璧に仕上げることを目的とするデザインだ。 2. Design Dのみが大文字のこちらは、利用されることを目的としたデザイン。例えば、UIデザインを含むWebデザインなど、デジタルという非常に広いフィールドが対象になる。これはつまり、1のような「特定の誰か」ではなく、「不特定多数のみなさん」にとって使いやすいデザインである必要があるということでもある。 3. DESIGN 全て大文字表記のこちらは、サービスデザインやUXデザイン、デザイン思考など、経営やサービスに直接的なインパクトを与えるデザインを指す。「デザイン経営」の文脈で日本でも注目を集めてきたデザインはここに分類される。 ここではユーザーを設定することが重要視され、具体的に想定されたユーザー中心のサービス体験の設計、ひいては経営判断により、ビジネスを成長させることを目的とする。 上記3つのデザインに共通することは、いずれもデザインが何らかの目的や課題を解決するための手段であるということ。デザインの対象こそ異なるが、この点は一貫している。 design, Design, DESIGNの違いを知っていますか? ブランディングの基本 では次に、ブランディングについて。 そもそもブランドとは一言で表すと、「顧客を含むステークホルダーとの約束」。そして、ブランディングとは、「その約束を結び、守っていくための活動」だと定義したい。 ただ約束を結ぶのではなく、それを守り続ける継続性と、長期的な一貫性が重要だ。そして最終的には、企業価値を向上させることが目的になる。ここを見失ってはならない。 ちなみにこの記事では、ブランディングは、マーケティングとの比較において、「相手に自分のイメージを持ってもらう努力」と記されている。 では、そんなブランディングはどの部署が行うべきか?こう問われると、マーケティングや広報部門の担当というイメージが浮かぶかもしれない。 一方、企業価値は誰の手に委ねられるべきか?こう問われたならどうだろうか。自分には無関係だと目を背けるのは難しくなるはずだ。 上記の定義のもと、ブランディングを企業価値の向上を目指す活動だと捉えると、ブランディングは、マーケティングや広報のみならず、サービスを管轄する商品企画から技術・開発系の部署、ひいては経営層もその重要性を認識すべき、企業活動における芯と言えるのである。 また、ブランディングにおいて向上を目指す企業価値とは、目に見えない企業の資産、または、その企業やサービスが選ばれる理由と表現することもできる。ブランディングで向上を目指す企業価値には以下のようなものがある; ブランド・ロイヤルティ(ex:「やっぱりビールはアサヒ」) ブランド認知(ex: 「あ、資生堂の新しい化粧品が出てる」) 知覚品質(ex:「ナイキのスポーツシューズならまず間違いないだろう」) ブランド連想(ex:「ジャガー= 高級車」) 今さら聞けないブランディングとは デザインとブランディングの関係性 デザインとブランディング、それぞれの定義を明らかにしたところで、次に両者の関係性を見ていきたい。 デザインとブランディングの関係性、それは簡単に言うと、手段と目的だ。 企業価値を向上するという目的を持ったブランディングに関わるさまざまな活動に対して、デザインの力を活用するのだ。 (さらに言うと、ブランディングもそれ自体が目的になってはならず、企業活動の目標を達成するための手段であるべきなのだ。) 両者に違いが存在するというよりは、もはや「手段」と「目的」というレベルで根本的に異なる。そのため、同じレベルで比較をしたり、優劣をつけたりすることはそもそも難しいとお伝えしておきたい。 デザインがブランディングに与える価値 では、具体的にデザインがブランディングにどんな価値を与えることができるのかを考えていきたい。 まずは、ブランディングをざっくりと5つの段階に分ける。これはbtraxがブランドづくりをサポートさせていただく際にも採用しているプロセスである。 Envisioning:ブランドのビジョンや提供価値を言語化・可視化する Brand Experience Design:言語化したブランドのコアに基づくブランド体験をデザインする Service Design:ステークホルダーとの接点がブランドを纏った総合的なサービスを設計する Service Architecture:より具体的にブランドを伝える手段を整え、マーケティング戦略を作り出す Growth Strategy:マーケティング施策の実行や分析、サービスの拡大を考えていく この5つの段階総じて、デザイン思考のマインドセットを持って取り組むことは前提にある。 しかし、ここで特筆すべきは、いきなり「design」見た目のデザインが出てくるのではなく、まずはブランド(自社)を理解することから始まること。 改めて言語化されたブランドをより対外的にわかってもらうためにはどうすべきかを考える 3. Service Design以降で「design」に本格的な出番が回ってくるのだ。 よくある誤解が、ブランディングは、ロゴやアイコンをデザインすることだと考えてしまうことだ。これは間違ってはいないが、これが全てではない上に、それだけを行うのではブランディングとは言い難い。 あくまでもその前に、ブランドがステークホルダーに届けたい価値を明確にしたり、自社理解を深めたりすることがまず辿るべきプロセスになると覚えておいていただきたい。 ブランディングにデザインの発想が欠けていたら? ブランディングにデザインの視点がいかに重要かをご紹介するために、デザインバックグラウンドがない場合のブランディングの失敗事例を簡単に取り上げてみたい。 かの有名なUberの事例だ。Uberはこれまで何度もリブランディングを行っている。そのうちの1回、事業拡大に際して行われたリブランディングプロジェクトにおいて、CEOのTravisは、その総指揮を執った。 ちなみに、ここ数年で大きく業績を伸ばしているスタートアップの経営層には、デザイナーとしてのバックグラウンドを持つメンバーがいるケースが少なくないが、Travisはデザインバックグラウンドを持っていない。 【デザイン × 経営】ビジネスにおけるデザインの価値を追求する7人の起業家 果たしてそんなプロジェクトで一体何が起きたのか。 簡単に言うと、Travisは「自分の好み」を表現しようと躍起になってしまった。 気持ちはわかる。自分が何よりも愛着を持った自分の会社のリブランディングときたら、創業者である自分が、と前に出て行きたくなるだろう。 しかし彼は結果的に、自分の頭の中だけで描いているものを「ロゴ」に込めることに夢中になり、他のプロジェクトメンバーを置いてけぼりにしてしまった。 このリブランディング プロジェクトは、完全に「Travisの自己表現の場」になってしまったのだ。 また、プロセスも望ましいものではなかった。いわば完全にトップダウン型で、Travisとその周囲のメンバーたち、といったように二分化が起き、有機的なチーム構造は破綻した。 その結果、他のメンバーはTravisのリクエストをデザインに反映するのに奔走。最終的に、酷評を受けるロゴが出来上がることになってしまったのだ。 関連記事:ロゴのリデザイン ー なぜGapが失敗しAirbnbが受け入れられたのか ブランディングにデザインが必要な本当の理由 Uberの例からお伝えしたいのは、非デザイナーならブランディングに関わるべきではない、ということではない。ブランディングの重要性を理解し、意味や目的を設定した上で、それを達成しうるチーム・メンバーと共にブランディングを行うべきだということだ。 むしろ、企業全体に関わるブランディングという活動だからこそ、多様な視点を持ったメンバーを含めたクロスファンクショナルなプロジェクトメンバー構成が望ましい。そして、彼らとの対話やディスカッションの中でブランドを様々な角度から捉えていくことが重要だろう。 また、主にロゴのリブランディングだったということは考慮されるべきだろうが、Uberの事例では、「デザイン」はおそらく「ロゴデザイン」の文脈のみでの登場だったのではないかと客観的には感じている。 冒頭のデザインの3つの顔のうち、「design」にあたる、見た目のデザインをすることに終始してしまった印象だ。 しかし、先述したように、本来ブランディングでは、「DESIGN」で定義されているレベルでもデザインが適用されることが望ましい。つまり、デザイン思考やサービスデザインなど、ビジネスに直結するデザインの考えを持ってブランディングを行うことが必要なのだ。 デザイン思考のフォーカスがプロセスにあるように、ブランディングにおいてもプロセスが重要視される。 また、立派な果実が成るには肥沃な土壌が必要であるのと同じで、まず、ブランドのビジョンを言語化・可視化したり、言語化したブランドのコアを組織内に浸透させることで、土壌をしっかりとつくることが欠かせない。 その土壌あってこそ、ロゴやアイコン、プロダクト、Webサイトなど、アウトプットという果実がブランドの一貫性を持った素晴らしいものになっていくのだ。 最後に: ブランディングに関するE-bookを提供中 デザインとブランディング両者の定義、簡単にbtraxのブランディングプロセスをご紹介した。また、失敗事例としてUberのリブランディングについて取り上げ、ブランディングにおけるデザインの役割について解説してきた。 3本目としてリリースしたE-bookでは、この記事では網羅しきれなかった、ブランディングでよくある課題や、より詳細なbtraxのブランディングプロセスを用いたブランディングの具体例をご紹介している。 本記事の続編としてご覧いただけると思う。ご興味のある方はぜひE-bookをダウンロードしてご覧ください。

デザイン視点で心を掴む UXライティングの基本5項目

マーケティングとデザインにはかなり親和性があると感じる。ベン図で表すと、ちょうど中心で重なる部分だとイメージしやすい。そしてそれはまさしく、UXという考え方だ。 もともとUX (User Experience, ユーザー体験)は、デザイン界隈の言葉だった。しかしこの発想自体は、マーケティング然り、あらゆる事柄に適用できる汎用性の高いものだ。 使い手となるユーザーやターゲットとしている顧客起点で発想すると考えれば、両者は似ているからだ。昨今のビジネスシーンでUXがこれほど重要視されていることも、ここに理由があるだろう。 今回は、デザインとマーケティングの交差点であるUXについて、UXライティングという観点で解説をしていく。 コンテンツを考えるマーケターの方、そしてそれをデザインに落とし込むデザイナーの方はもちろん、普段のコミュニケーションにも活かせることが多いため、あらゆるビジネスパーソンにとって知っておいて損のないスキルをご紹介できると思う。 UXライティングとは? 最近では日本でも関連書籍が出版されており、注目度の高まりを感じるUXライティング。まずはその概念的な側面をご紹介しておきたい。 UXライティングは、ユーザーに物事の価値を、的確に、なおかつストレスなく伝えるためのライティング手法だ。「UX」の意味合いは、「ストレスなく」の部分に込められている。読みごこちがよく、内容もわかる文章を設計することだ。 UXライティングと検索すると、CTAボタンに添える「詳細はこちら」といった言葉や、エラー画面に表示される言葉をユーザーにストレスなく提示するための言い回しを考えるなど、アプリやWebサイト上などのUIデザイン上の言葉が前提になることが多い。 しかし、今回の記事はもっと広く捉えたい。本記事で取り上げるUXライティングは、言葉を通じてユーザー体験を設計することだ。言葉のデザインと表現することもできるだろう。 これは特別革新的なものではない。ただ、適用範囲が非常に広い。なぜなら、ユーザーや顧客とのあらゆる接点で必要となる文章は、すべてUXライティングの対象となるからだ。 明日から使えるUXライティング5つのポイント 短く、簡潔に、必要な時だけ 専門用語を避け、ユーザーが使う言葉を使う ほどほどな丁寧さ あくまでもポジティブに 翻訳されやすさも考慮 1. 短く、簡潔に、必要な時だけ これは、UXライティングの基本中の基本ともいえるルールだ。ユーザーが行動を起こすために認識しなければいけない情報は少ないほど、彼らの負担は減る。 そのため、短く、簡潔な文章を作ることを心がけることが文字を通じたユーザビリティの向上につながる。 また、「必要な時だけ」というポイントは意外と盲点なのではないかと思う。主にデジタルサービスに言えることだが、良かれと思ってガイドやメッセージをずっと画面に表示させるのは、おせっかいになりかねない。 ユーザーが困った時や特別な操作を要求する時にのみ、メッセージを表示させる設計にすることも念頭においておくと良いだろう。 2. 専門用語を避け、ユーザーが理解できる/使う言葉を使う ユーザーの中にある語彙と、サービス側が使う語彙のレベルを揃えることも非常に重要だ。もちろん、サービスの説明においては、専門用語を使わざるを得ないシーンもあるだろう。 その場合でも、ユーザーにとってあまり必要のないものであれば多用を避けたり、理解を助ける具体例を提示するようなコンテンツがあると良い。 難解なことをわかりやすく伝えることにこそ、ユーザーの心地よい体験を考慮するUXライティングの真髄があるように感じる。 エラーメッセージを表示する際に、エンジニアにしかわからないようなシステム側のメッセージが出てしまうことを避けるのも、この項目に当てはまる。 ユーザー心理を掴むUXデザイン手法: 3対1の法則 3. ほどほどな丁寧さ 丁寧な言葉が好印象を与えることは間違いない。しかし、丁寧すぎるとかえって読みにくさを感じたり、やりすぎ感を抱かせて、ユーザーとサービスの間に距離を生んでしまう可能性もある。 特に日本語の場合、敬語という独自のルールがある。これが文章を長く、複雑に見せる要因になりかねない。かしこまって丁寧語や尊敬語を多用しすぎると、結局何が言いたいの?と思わせてしまうかもしれない。 普段、比較的近い距離感で話す間柄の相手にも、メールになった途端に他人行儀のようになってしまうことは日本人のあるあるだろう。これは、UXライティングでは避けることをおすすめしたい。 サービスやプロダクトにも人格があることを意識し、ユーザーと自然な会話を交わすことをイメージしながら言葉を選ぶと、適度な丁寧さの言葉が生まれると考えている。 ブランドの個性を定める – ブランドパーソナリティー【ブランディング入門#5】 4. あくまでもポジティブに 使いやすさやわかりやすさといった機能面もさることながら、好感が持てる、使いたくなる、といった感情面への訴求も重要だ。 そしてこれをUXライティングを通じて実現するために、1つのポイントとして挙げられるのが、ポジティブな言葉を使うこと。エラーの指摘やトラブル、ローディングやサービス側の作業完了までの待ち時間など、ユーザーにとってネガティブに感じざるを得ないシーンは往々にしてある。 そこで、例えばネガティブをポジティブに変換したUXライティングのコツとして、現状を伝えるのではなく、次のアクションを提示する、というものが考えられる。 エラーが出ていることや、何かに時間がかかっていることなど、今自分が身をもって実感しているため、わざわざサービスから指摘されたくないと思うのがユーザー心理だろう。 そこで、次にこうしましょう、こういう改善方法があります、といった突破口の具体的な提示があると良い。 5. 翻訳されやすさも考慮 グローバルにユーザーを持ちうる場合や、海外向けにも展開していたり、将来的にそれを目指すサービスにおいては、そのコンテンツも、現地市場で使われている言葉への翻訳が簡単にできるものが望ましい。 これは、究極的な言い方をすると、100人が読んでも100人全員が同じ解釈を持てるコンテンツ、受け取る側によって内容が違ってしまうことがないコンテンツを作ることが求められているということでもある。 「1. 短く、簡潔に、必要な時に」にも関連するが、シンプルかつ文法的にも正しく書かれた文章ほど理解されやすく、それは翻訳のされやすさにもつながる。言語間のニュアンスの違いはあるにしろ、エッセンスの部分は適切に受け取られる可能性が高い。 日本語の場合特に、「〜が」といった順接と逆接どちらにも取れるものや、「〜のXX」など、所有や主格など複数用途に捉えられる助詞には要注意。 普段の会話の中では誤って使ってしまった場合でも気にならないことが多いだろうが、文字コンテンツにする時には正しく使えているかを確認する必要がある。 コンテンツづくりにもUXの発想を これまでご紹介してきた5つのポイントは非常に基礎的に聞こえたり、すでに実施している方も多いかもしれない。あるいは、小手先のスキルに感じる方も少なくないだろう。 それでも、記事のタイトルを魅力的なものに変えるだけでPV数がグッと上がったり、 CTAボタンの文言を修正したらCVRが改善したりすることがあるように、実際にユーザーと対峙しているコンテンツへの小さな工夫が大きな変化を生むかもしれない。 ビートラックスではクライアントさまのサービス開発をご支援する際には、UXライティングとして今回ご紹介したポイントを含め、サービス全体のUXデザインの設計を行っている。 ユーザーの心を掴むUXデザインに関して、ご相談がありましたらぜひお気軽にお聞かせください。

パーソナライズの死角とデジタル・セレンディピティ

パーソナライズ。ユーザー個々人の嗜好に合わせて、最適と思われる選択肢をサービス側から提示してくれる仕組み。これが「トレンド」という認識は過ぎ去り、もはやスタンダードと言えるほどに様々なサービスに適用され、ユーザー体験を豊かなものにしてくれている。 しかし、実はパーソナライズには思わぬ罠が仕掛けられていて、知らないうちにそれにハマっている可能性もあるのではないか。そんなことに気がついたので、この記事を書いている。 パーソナライズ機能の虜に 唐突だが、私はNetflixユーザーで、よく映画やドラマを観ている。会員になったばかりの頃は、自分が興味がありそうな作品がどんどんおすすめされてくる仕組みにワクワクした。マッチ度98%の作品なんて観ないという選択肢はないとさえ思ったし、実際に観てみると「やはり」と思わされた。 逆に、あえて60%程度のあまりマッチ度が高くない作品を観てみると、なるほどハマらない。Netflixは私よりも私のことをわかっているのではないかと思うほどにレコメンドの精度が高くて驚いた。 パーソナライズの死角 しかし、次第にどことなく味気なさを感じるようになった。もちろん、Netflixや作品に非があるのではない。Netflixの作品の80%以上がレコメンド機能を通じて観られているというデータも存在するほどで、非常に精巧に設計されていることは言うまでもない。ただ、マッチ度にしたがって映画を観ることに対してもどかしさを抱き始めたのだ。 良くも悪くも、すべてが想定内なのだ。マッチ度が高い作品=面白い。感動した。マッチ度が低い作品=あまり響かない。刺さらない。といったように、どんな時もマッチ度に比例した等式が成り立ってしまう。 だから、「たまたま観てみた作品が面白かった」という経験をすることが難しくなってしまったのだ。これはもう少し概念的な言葉で表すと、デジタルデバイス上で映画を観るという行動における、偶発性がもたらす幸福、つまり、セレンディピティを得られるチャンスがグッと減ってしまったということだ。 もちろん自分の意識の問題もあるのだろうが、いつの間にか自分の嗜好の中でしかサービスの選択ができなくなっている可能性に気づき始めた。 デジタル・セレンディピティの時代 昨今のテクノロジートレンドを語る上で、デジタル・セレンディピティという言葉が使われ始めている。この言葉は、文字通り、デジタルの世界における偶発性、セレンディピティのことを指す。 デジタル・セレンディピティを望む声は、大きくなってきているようだ。なぜなら、セレンディピティはオフラインの場で起こりやすいものだから。 例えば、ふらっと立ち寄ったお店で戦利品に出会えたり、旅先のホテルがアップグレードされていたり。こういったことはまさにセレンディピティに当たるが、経験のある方もいらっしゃるのではないだろうか。 しかしコロナ禍に突入し、オフラインでの行動が大幅に制限され、代わりにオンラインの世界での行動が増えたことで、こういった機会は減ってしまっているのだ。 先ほどまで挙げていたNetflixをはじめとするパーソナライズ機能を持ったサービスにはAIが必須の存在。そしてこれまで、AIをはじめとするテクノロジーやデジタルにはできなかったこと。それは、偶然や予想外を演出すること。 AIによるパーソナライズやレコメンデーションは、そのユーザーが何を見たか、何を買ったかなどといった事実に基づく。つまり、過去の事実に基づいた結果であるため、ある程度はユーザーの趣味趣向に合致した「堅実な」ポイントに行き着くが、逆に言うと、それ以上の偶然な出会いにはなりにくいものだった。 AI時代のUXデザイン、GPT-3から考えるこれから必要なマインドセット デジタル・セレンディピティの演出 – 3つの方法 しかし2021年は、そういったテクノロジーやデジタルの世界でも、セレンディピティが生み出されることが見込まれている。 レコメンドやパーソナライズの精度が上がるにつれ、偶然な出会いの機会は反比例的に減っていくことは、AIを中心とするテクノロジーの進歩に伴う代償だと思っていたが、諦めなくて良いようだ。 では具体的にどのようにサービスにおいてデジタル・セレンディピティを生み出していけば良いのだろうか?(なお、ここで言うサービスはでデジタルであることを前提とする。) まずは、ユーザー自身で、自分の守備範囲から出ることを意識してみることだ。この意識を持つだけでも変わるだろう。自分を客観視したり、他人の視点を入れてみたりすることも、デジタル・セレンディピティに近い恩恵を受ける一助となるだろう。 ただ、可能ならサービス側からサポートがあるとより嬉しい。そこでサービスを考える上で、デジタル・セレンディピティの機会創出を促す、サービスデザイン的な仕掛けを考えてみたい。 1. バリエーションを増やす これは、実際にプロダクトを販売するサービスだと想像しやすい。プロダクトのバリエーションを増やすことは、シンプルにユーザーにとっての選択肢を増やすことになる。選択肢が増えると、そのユーザーにとって新たな出会いとなる確率も比例して高まる。 ユーザーに「そういえばこれが欲しかった」、「こんなものがあったら良いと思っていた」などといった気付きを与えられるかもしれない。 また、マーケティング戦略において、「ついで買い」や「合わせ買い」を視野に入れた商品展開をも一つの方法になりうる。英語では「クロスセル」と呼ばれ、国内外問わず世界中で採用されている手法だ。 例は数多くあるが、Appleもこの方法を取っている。MacBookを購入するする際に、アクセサリーをついでに勧めている。MacBookの価格を考えるとこういったアクセサリー類の価格は安く感じてしまうし、いつか必要になりそうだと思ってつい一緒にカートに入れてしまうことを誘発する。 2. ユーザーとの接点を増やす サービス側がユーザーとの接点を増やすことも有効だろう。彼らがサービスを使う機会を増やしたり、WEBサイトを訪れてもらう回数を増やしたりすることで、サービスの利用を通じたセレンディピティに出会う可能性を高めるという考え方だ。言わば「場数を増やす」作戦だ。 ここでは、オムニチャネルでユーザーとの接点を総合的に捉え、全ての接点における体験の質を上げるCXデザインの発想が求められてくる。 各チャネルとコンテンツの適性を考慮するだけでなく、ユーザーがどのような流れでサービスを体験し、どこで彼らにとって新鮮なコンテンツを提供できそうか、そんな視点を持つことが重要だろう。 UXデザインとCXデザインの違いとそれぞれの役割 3. 新たな切り口を提案する 最後は、新たな切り口の提案をすることでユーザーを喚起する方法だ。例えば1人のユーザーに対し、その人自身の過去の行動ではなく、時には他のユーザーの行動をもとに、新たな提案をしてみることも良いだろう。 通販サイト等でよく見かける「他のユーザーはこんな商品も見ています」といった商品の案内は、まさにこれを実践しているものだ。 ここで重要だと思うのが、ユーザーの嗜好から全く外れているものは強く勧めないということだ。いくらセレンディピティを狙ったとはいえ、それまで完全に蚊帳の外だったものに突然惹かれる確率は高くはないだろう。 ユーザーの視野に入っていないコンテンツは、存在を認識されていないのと同然。それを見せることは、ユーザーの目には新鮮に映り、結果的にセレンディピティを生みやすくなると思う。 こうしてポイントを挙げてみると、非常にシンプルだったり、すでに実践されていたりするものも多い。ただ、「セレンディピティを生む」という視点で見てみると、新たな気付きがあるのではないだろうか。 終わりに “意図的に”“意図しない”出会いをデザインすること、これがこれからのユーザー体験の向上のために重要なポイントになると考えている。 そのために、コミュニケーションの延長線上にあるようなごく自然な方法ながら、ユーザーの視野を広げたり、視線を変える後押しとなるサービスデザインや、マーケティング戦略づくりが求められていくと思う。 ユーザーが本当に求めているサービスデザインとは?そんな疑問や課題をお持ちの方はぜひお気軽にお問い合わせいただきたい。デザイン思考をインストールするためのワークショップやユーザーリサーチを通じた彼らの本質的なニーズの発見など、様々なデザインアプローチでサポートさせていただきたい。 ユーザーの心を掴むヒントは“ハイパー・パーソナライゼーション“にあり

非デザイナーのためのデザイン関連記事まとめ

非デザイナーでもデザインについて勉強し、その知識をつけていくことはビジネスにおいて非常にポジティブな影響をもたらす。
それは、昨今言われてきた「デザイン経営」に始まり、「UI/UX」という概念、または「DX (デジタル・トランスフォーメーション)」を推進していくためにも、経営やビジネス的な意味での「デザイン」を理解することが重要になってきたからである。
この記事では、本ブログ「Freshtrax」にて過去に公開してきた記事の中から、非デザイナーがデザインを勉強する上で、参考にしていただきたい記事をカ…

DXの波に乗れ!注目のファッションテックスタートアップ5選

デジタル化で遅れをとるファッション業界にもDXの波が到来 Stitch Fix: サブスク縛りなしのオンラインスタイリングサービス Poshmark: 巨大ユーザーコミュニティを持つ「海外版メルカリ」 Betabrand: ユーザーはデザイナー  共創型ファッションプラットフォーム Bolt Threads: 菌類に蜘蛛の糸  次世代素材を提供するバイオ系スタートアップ Provenance: 商品の旅路を見える化 消費者に安心を与えるサプライチェーン管理ツール DXの流れを受け、「XaaS」と呼ばれるモノのサービス化や、デジタルシフトも同様に注目されていることは誰の目にも明らかだろう。 様々な業界がその波に乗ろうと奮闘する中で、今回はファッション業界に焦点を当ててみたい。 ファッションは経済の動きそのものを表しているように思う。衣食住というように、ファッションは人間の生活の基本であり、密接に絡んでいるからこそ、産業の変化が起こるとその影響も受けやすいと考えている。 それと同時に、デジタル化が遅れている業界だとも言われてきた。しかし、今年のコロナショックを受けてDXにまつわる動きが多く聞かれるようになった状況で、ファッション業界もDXの観点を取り入れていくことがより一層求められている。 この記事では、そんなファッションに関連して、テクノロジーをうまく掛け合わせて新たな価値を提供しているサービスを紹介していきたい。 1. Stitch Fix Stitch Fixは、オンラインのスタイリングサービスだ。AIとプロのスタイリストによってパーソナライズされたコーディネートを提案してもらえる。 コストは、1回につき20ドル。まず最初にユーザーは希望する価格帯とサイズ、体型の他、普段のライフスタイルやファッションに関する姿勢に関する質問にクイズ形式で回答していく。 簡単なクイズ形式でユーザーの体型や嗜好を絞っていく そして、その後、ユーザー1人1人のために組まれたコーディネートが自宅に届き、気に入ったものはそのままキープして購入可能、買い取らないものは送り返すという仕組みだ。 このサービスの特徴的なところは、サブスクリプションモデルではないところ。この手のサービスは、サブスク型であることがもはや前提のルールのようになっている印象があるが、1回のみの利用が可能で、サービスを試すハードルが低い。 サブスクにありがちな、うっかりステータスの更新を忘れてずるずるとサービスを継続してしまうというミスの心配もない。 プロのスタイリストによるコーディネートの提案とその他のオペレーションにおいて、人間が担うべき領域と、テクノロジーに任せて効率化を図るべきポイントをうまく両立しているところがStitch Fixの強みであり特徴だ。 同社は、今年の発表で、アクティブユーザー数が350万人、前年度比17%増、純収益に関しては、4億5,510万ドル、前年比22%増と報告している。 同社のCEOは、コロナ禍の外出制限を受けて、オフィス向けの商品よりも、アスレジャー(アスレチックとレジャーを合わせた造語)に焦点を当てたことがこの伸びの1つの要因と考えている。 出社の機会が減った代わりに、家で過ごす時間が増え、ヨガウェアやスポーツウェアをはじめとするカジュアルな商品のニーズが高まったのだ。(参考) 2. Poshmark Poshmarkは、CtoC型ソーシャルコマースサービスだ。北米に6,000万人のコミュニティメンバーを持ち、1億点ものアイテムを取り扱う巨大なプラットフォームである。 その仕組みは「海外版メルカリ」とでも言えるだろうか。売り手は、商品をプラットフォーム上にアップロードして販売する。 そして買い手は、通常のECサイトのように買い物を楽しみ、場合によっては出品者と値段を交渉したり、コメント欄にてサイズやカラーバリエーションの質問などのやりとりを行ったりできる。 また、Instagramの使い方も秀逸だ。サービスに対するユーザーの口コミや写真を中心に、イベント情報まで、様々なコンテンツを投稿している。ユーザー同士の繋がりでサービスが成立しているからこそ、彼らにフォーカスした内容が多い。 View this post on Instagram #MeetthePosher – @connors.closet_ AKA Connor! 👋 “Hey! My name’s Connor and I’m a 14 year old entrepreneur with a love for thrifting clothing and flipping them for profit on Poshmark.🙌🏼 • I joined Poshmark back in April of 2018, but I didn’t really start taking it *seriously* until the beginning of 2019. Since then, I have sold over 750 items and my business […]

アメリカの総消費40%を占めるZ世代について押さえるべき5つの特徴

米国の総消費量40%を占めるZ世代とは。 ミレニアル世代と大きく異なる 特徴① 堅実で本質主義なコツコツタイプ 特徴② デジタルは当たり前 「リモートネイティブ」という新たな側面も 特徴③ 8秒間が勝負。コンテンツの“超”大量消費時代の中、モバイルファーストが鍵 特徴④ ダイバーシティーへの理解 「ありのまま」リアルさの重視 特徴⑤ 買い物はオンラインと店舗のハイブリッド  「開封」もコンテンツに オンラインとオフラインのシームレスなサービス・UX設計が重要 Z世代やGen Z。ミレニアル世代と一括りで語られることも多いが、細かく見ていくと、その属性や世界観、考え方はミレニアル世代と大きく異なる。 この記事では、アメリカのデータを中心に、Z世代の特徴や消費動向、物事に対する姿勢など、その習性を紐解いていく。彼らをターゲットにしたサービス開発や、マーケティング戦略を考えている方の一助になれば幸いだ。 実は筆者も1997年生まれのZ世代。自分の肌で感じるものも織り交ぜながら書いていければと思う。 Z世代とは?ミレニアル世代とは似て非なる存在 諸説あるが、Z世代は1996年から2012年に生まれた世代を指す。一方のミレニアル世代は、1981年から1995年に生まれた世代である。Z世代は、9.11の同時多発テロや、リーマンショックなど、アメリカの歴史に残る大きな出来事を幼いながらに経験してきた世代だ。 また、2020年時点でアメリカにおける総消費の40%以上をZ世代が占め、さらには、金額にして1,430億ドルもの購買力を持つというデータも存在する。これほど大きなボリュームの消費者層を取り逃すわけにはいかないことは自明だ。 では、ここからZ世代の特徴を購買行動などのマーケティングの視点から分析していく。 1. 堅実的かつ本質主義なリアリスト まず特徴としてあるが、リアリスト(現実主義者)だということ。これは、先述のリーマンショックからの大不況に起因しているという主張が一般的である。 この頃、Z世代本人たちはまだ幼く、直接その影響を受けているとは考えづらいが、彼らの親が苦労をした分、お金に関する知識やマナーが教えられている可能性は高そうだ。 Z世代やミレニアル世代は、消費において、体験に重きを置くというデータは随所で見られる。しかし、2世代間には違いが存在する。 ミレニアル世代がラグジュアリーな体験を求めるのに対し、Z世代が求めるのは、たまの非日常ではなく、日々の楽しみであり、日常的なポジティブな体験のようだ。瞬間的な刺激よりも、コツコツと毎日のQOL (生活の質) を上げることに興味を持つことからも、堅実さが窺える。 また、ブランドのネームバリューよりも、実際のプロダクトそのもののユニークさや質の良さを重視する傾向にあり、本質的な側面もある。 2. テックネイティブ・デジタルネイティブ ミレニアル世代が、“Tech savvy (テクノロジーの精通者)”と表されるのに対し、Z世代は“Tech native (テックネイティブ)” と呼ばれることが多い。テクノロジー中心の世界が成熟していく過程を見て育ってきたのか、浸透しきった環境で生まれ育ってきたのかの違いだ。 Z世代は、新たなツールに対する抵抗感をほとんど抱いていないように感じる。というのも、生まれた時から携帯は当たり前。“ガラケー”よりもむしろ、スマホを身近に感じる世代で、デジタルデバイスを始めとするツールに壁を作ることは少ない。 モバイル前提 また、デジタルツールのなかでも「モバイルの利用」がZ世代の特徴だ。Z世代の98%がモバイルデバイスを所有しており、コミュニケーションはもちろん、買い物もコンテンツ視聴もモバイルで行う割合が高い。 Z世代のオンラインアクティビティ時の媒体別使用率 この最たる例が、モバイルファーストを主戦略とするTikTokだろう。次のコンテンツを見る際は、モバイルならではの「スワイプ」をしていく仕様で、そのUXもモバイルを念頭に設計されている。そんなTikTokは、アメリカにおける全ユーザーのうち、60%がZ世代だ。 ソーシャルコマースの兆し その他、ソーシャルコマースの潮流がきている。Instagramに関しては、モバイルとデスクトップの利用率の比較では、ユーザーの98%はモバイルで利用している。 写真がメインのInstagramは、商品画像を載せ、キャプションにその説明を書くことができるため、オンラインショッピングのプラットフォームに向いている。 また、Z世代は、他の世代と比較して2〜3倍の割合でソーシャルメディアで買い物をしており、最も利用しているプラットフォームはInstagramで、41%はブランドのアカウントをフォローしているというデータもある。 モバイル上でのユーザーがほとんどを占める上に、とりわけZ世代にとっては、ショッピングプラットフォームとしても利用されるInstagramでの購買は今後ますます盛り上がっていくのではないかと考えている。 関連記事:ブランド拡大に欠かせないソーシャルコマースとは。特徴と海外トレンド紹介 リモートネイティブ また、Z世代は、テック / デジタルネイティブもさることながら、リモートネイティブ世代だ。2020年現在、Z世代に当たる層は、高校生/大学生か、社会人1、2年目といったところ。 コロナウイルスの影響で、多くの学校や企業でリモート対応が始まり、彼らは、Zoomに代表されるオンラインコミュニケーションツールを駆使した会議や授業を余儀なくされ、適応をしてきたことだろう。 テックネイティブという基盤を持っているため、新しいツールへの適応に骨を折ることは少なかったと考えられる。 一方で、Z世代が求めるものは変わってきていると筆者は考えている。例えば、名刺交換のマナーよりも、オンラインミーティングで独特の間をうまく対処し、議論に入っていく方法や、オンラインを前提とした上司とのコミュニケーションの方法の方が知りたいと感じる。 作られたばかりのルールを新たな当たり前として生きていかなければならないため、先人からの教えが活かせることが少ない。 状況があまりにも大きく変わってしまったため、従来のルールでは通用しない局面にいる。その意味で、Z世代には先駆者的なアントレプレナーシップ的なマインドを持った行動をしていくことが求められていくのではないかと思う。 3. コンテンツの“超”大量消費 様々な記事でこの特徴を目にしたが、これはきっとZ世代ではない世代の方々が出した答えだと思った。なぜなら、筆者を含めZ世代張本人たちは、自分たちが膨大な量のコンテンツを消費している自覚すらないからである。 集中力はたったの8秒 1つのコンテンツに対する集中力が極端に短いことも特徴だ。平均して8秒ほどとされている。大量にコンテンツを見ているということは、1つのコンテンツに使う時間が短いとも言える。 また、大量にコンテンツを見ているからこそ審美眼が育っており、良し悪しの判断も速い。興味のないものにはすぐに拒否反応を起こし、広告を見抜くのは一瞬だ。 8秒間の勝負の鍵を握るのは、Z世代の使う“言語”に合わせることだ。GIFやミーム、絵文字と言ったビジュアルコミュニケーションを積極的に活用すると良い。 実際、Z世代を対象にしたある調査では、コロナ禍におけるフラストレーションの対処に、ミームなどユーモラスなコンテンツが一役買っていると回答した割合が72%という結果も出ている。 それだけミームはZ世代にとって身近なものであり、テキストだけでなく、ビジュアルも使った、流行りの共通言語や内輪ネタとうまく絡めたコンテンツも利用することは、彼らとの距離を近づける1つの方法だと思われる。企業としても、コンテンツ作りの際にはぜひ意識したいポイントだ。 4. 「ありのまま」「多道」の重視 他の世代と比較して、ダイバーシティーへの理解があるというのもまたZ世代の特徴だ。SNSがあって当然の世界で生きてきたZ世代は、学校教育やオフラインで出会う周りの人以上に「見知らぬ誰か」の発信を目にしている。 それだけ多種多様なコンテンツに出会う機会に恵まれており、その中で多様性に対する理解や知見が自然と育まれていったのではないかと思う。筆者も、学校教育以上に、普段視聴するコンテンツから多様性を学ぶ機会が多いように感じている。 関連記事:令和に絶対押さえるべきインクルーシブマーケティングとは。事例6選 リアルな声こそ重宝される また、「ありのまま」というキーワードから派生して、不完全さ、失敗、正直さへの共感もZ世代に刺さるコンテンツを作る鍵になるだろう。先述したように、Z世代はモバイル上で買い物をすることが多く、その際には、SNSやブログなどといったリアルな声を参考にしている。 ある統計では、Z世代は初めて購入するものに対しては第三者による口コミを確認してから購入の検討をすると回答した割合が86%、そしてそのうちの68%が、3つ以上の口コミを読み、熟考したのちに購買を決めるというデータが出ている。 口コミには赤裸々な感想が書かれているもの。ポジティブなものだけでなく、時にはネガティブな要素もある正直なメッセージこそ、Z世代にとっては信頼のおける価値ある情報となる。 5. オンラインとオフラインの使い分け ショッピングに関してZ世代は、情報のインプットや検討はオンラインで、購入はオフラインで行う傾向がある。 モノを買う場合、実際にオフラインの店舗に足を運んで買い物をしたいと考える割合が多い。実物を見たり、モノを購入するだけでなく、店舗の雰囲気や体験全てを包括的に経験した上で総合的に評価をする、ということだ。 日本でのわかりやすい例は、年始に原宿駅前にオープンした@cosme tokyoだろう。もともと@cosmeは、コスメや美容関連商品の口コミサイトとして知られていたが、オフラインのフラッグシップショップをオープンさせたことで話題になった。 また、 アメリカでも、Z世代をターゲットとしたブランドが、オフラインの店舗体験に重きを置いていることはみなさんもすでにご存知だろう。 Z世代を対象にしたIBMの調査を見てみる。いつもどの方法でモノを購入するか?という問いに対し、実店舗やウェブサイト上など、購入方法の頻度を回答してもらう質問だ。 この結果、ほとんどのモノを実店舗で購入するとの回答が67%だった。この数字は、購入チャネルとしてウェブサイトやアプリを最も使うと答えた割合の3〜5倍に相当する。 Z世代のモノ購入方法とその頻度に関する調査 オフラインとオンラインの「いいとこ取り」をして購買行動を起こすのがZ世代の特徴だと言えそうだ。 オンラインでは、SNSやブログ記事を通じて多くの口コミに出会い、商品の良し悪しを総合的に判断することができる。そしてそのインプットを踏まえ、実際に店舗に足を運び、自分の目で商品やその使用感を確認して、購入するかを決める傾向にあると分析できる。 また、動画コンテンツにおいて、面白いところは、開封の様子を載せるものが多く見られるということだ。 開封体験、侮ることなかれ たかが開封と思うかもしれないが、されど開封だ。実際、Instagram上では #Unboxing (開封) というハッシュタグのついたコンテンツが150万以上投稿されている。 また、開封の様子と共に商品を紹介する動画は非常に多く、公式チャンネルが発信しているものもあれば、一般ユーザーによる開封動画もある。 Z世代・ミレニアル世代を中心に人気を誇るコスメブランドGlossierのプロダクトの開封動画 開封体験そのものは、消費者全員・全世代を対象に考えられるべきものだが、SNSや動画のコンテンツになると、Z世代は見逃せないターゲットになる。 Z世代は、コンテンツの「正直さ」に信頼を寄せることは先述の通りだ。実際に手元に商品が届いてから、開封して使用するまでの一連の流れを見せてくれる開封コンテンツは、自分が購入した場合の状況が想像しやすく、購買体験をリアルに感じられる。 したがって、購買行動において包括的な体験を重視するZ世代たちにとってより有益なものに感じられるのではないだろうか。 商品だけでなく、開封からの一連の流れを購買行動として認識することはもちろん、それら全てがZ世代にはコンテンツ化されることも頭に置いて、ユーザー体験をデザインしていく必要がある。 ましてや、このコロナ禍だ。年代別の傾向などもはや関係なく、ECでの買い物率が跳ね上がっている。家にいながら価値を感じてもらえる購買行動のために、開封というフェーズも軽視してはならない。 最後に これまで Z世代の特徴をマーケティング目線で解説してきた。章立てて説明はしているが、それぞれのポイントは密接に関わり合っており、総合的に捉えていただけると幸いだ。 テックネイティブという最大の特徴から、特にモバイルを中心とするデジタルデバイスを起点としたコミュニケーションが重要になる。Z世代は、物事をそもそもデジタルを前提で考えているため、もはや「重要」というよりも「必須」でデジタルの活用を考えていくべきだ。 その一方で、自分の目で確かめたい、自分が信用できるものを選びたいという思いから、オフラインの体験にも価値を感じているところが大きなポイントだと筆者は考えている。 […]

コロナ疲れを克服!心身共にケアするウェルビーイング系サービス5選

コロナの影響で心身ともに疲れが。今こそ「ウェルビーイング」について考える必要あり!注目のウェルビーイング系サービス5選 Moon Juice: 美容だけでなくストレス軽減等にも効く、植物由来のクリーンビューティープロダクト WellSet: WellTechの先駆者。ウェルビーイング系サービスの総合プラットフォーム hims/hers: 驚異の成長でユニコーン企業入り。男女のデリケートな悩みに寄り添うD2Cブランド Oura: 睡眠時のコンディショニングもサポート。指輪型の超スマートIoTデバイス Blueboard: リワードの送り合いで体験を提供。従業員体験の向上を図るToB向けプラットフォーム 長期的に見て、心身両者に対してポジティブに働くウェルビーイングサービスであるかがポイントに サービス提供者が向き合うべきは、サービスを通じたユーザーの課題解決 リモートワークが新たな働き方として普及し、ニューノーマルが浸透し始めている段階にある。その一方で、「ニューノーマルが生み出す4つの意外な社会課題」にあるように、思いがけない課題も出てきている。 上述の記事で挙げられている課題のひとつに「働きすぎてしまう」というものがある。リモートワークで、家にいる時間が長く、通勤時間も仕事に充てられる状況になったことが原因だ。 実際、Human Resources Exectiveによると、7割の人がこれまでのキャリア全体を通じても、最も大きなストレスを感じているとの調査結果が出ているほか、抗うつ剤や抗不安剤などの処方も増えているという。また、6割以上の人が、このコロナ禍で仕事における生産性の低下を感じているとのデータも出ている。 朝起きて、仕事をして、寝るという淡々としたタイムラインで毎日が進んでいく。ほとんどの時間を仕事に費やしていて、気がつくともうこんな時間。あっという間に一日が終わると感じている方も多いことだろう。 いつ収束するのかも見通しも立っておらず、家にいることを余儀なくされ、自由がない。ただでさえ塞ぎ込みそうな、あるいは、爆発しそうな精神状態になりかねないのに、なんだかんだで仕事をしすぎてしまうという不本意さ。心身共に疲弊していないだろうか。 こういった、身体の不具合を治すだけでなく、心も整え、改善していくためには、「ウェルビーイング」という言葉が重要になる。ここ数年でよく聞かれるようになった言葉だが、その一般的な意味は、身体的、精神的、社会的に満たされている状態のこと。 特に、身体的な充足以上に、精神的にも満たされていることがウェルビーイングの定義の中核にある。健康よりも、ウェルビーイングなのか。たとえ健康的に役立つサービスだとしても、長期的に見て精神的、社会的に自分が満たされているのか、といった点に着目しているのがポイントだ。 今回は、ウェルビーイングやウェルネスをテーマにしたサービスや取り組みについてご紹介していきたい。新たな環境に順応せざるを得ない状況において、これまでの生活との摩擦やギャップで精神的にも疲弊してきていると感じるという方の一助になったら幸いだ。 Moon Juice Moon Juiceは、LA発のウェルビーイングブランドだ。アダプトゲンという成分に着目したサプリメントや、スキンケアグッズを扱う。アダプトゲンは、ハーブや漢方由来の成分で、ストレスの軽減や美肌効果などが期待できる。 View this post on Instagram BUILD RESILIENCE//⁣⁣ Cortisol out of balance can weaken your immune system. SuperYou contains four potent adaptogens that work to regulate cortisol and address the effects of stress on the mind and body. ⁣ ⁣ Get it @sephora.⁣ ⁣⁣ #SuperYou #moonjuice #sephora⁣ A post shared by MOON JUICE (@moonjuice) on Apr 12, 2020 at 8:26am PDT 脳の活性化を助けるもの、肌の調子を整えるもの、コラーゲンを補給できるものなど、効能も様々。また、サプリメントといっても、錠剤のものだけでなく、ドリンクに溶かして摂取できる『Moon Dust』という粉末状のものもある。 Moon Juiceは元々、創業者であるアマンダ自身のが患っていた慢性的な免疫疾患を、アーユルヴェーダ療法(インド古来の伝統医学)で寛解した経験に基づいている。この経験から自身でも学びを深め、植物の力を活かしたクリーンなプロダクトを作ることに至ったという。 Moon Juiceのプロダクトは、その成分の純度や効力、微生物含有量、農薬の量などを専門家と共に検証した、高品質さを徹底したもの。自分たちが摂りたいと思う、高品質なものしか作らないという強い信念に基づいている。 また、カリフォルニアを中心にオフラインの店舗も持っており、そこでは、プロダクトの販売はもちろん、ジュースやミルク、スナック類などの提供も行っている。 WellSet WellTech(Well-being/Wellness × Technology)という言葉や、WaaS(Well-being/Wellness as a Service)という言葉も出てきている。数兆円の市場規模というポテンシャルを秘めたウェルビーイング業界において、WellSetは先駆的なサービスだ。 WellSetは、ウェルビーイングやウェルネスにまつわるサービスの予約ができるプラットフォームだ。セラピストや鍼灸師、アーユルヴェーダのインストラクターなど、様々なカテゴリーのプロを検索で見つけ、施術の予約までを一気通貫で行うことができる。 また、『Virtual Wellness Studio』という、メディテーションやエクササイズを対面で行うイベントにも参加することができる。コロナ禍ではオンラインで行われているが、オフラインのイベントも含め、お試し感覚で、より気軽にサービスを利用することができる仕組みも設けている。 WellSetの強みは、網羅性の高さにあると筆者は考えている。ただでさえ類似した言葉が多く、混乱するウェルビーイングやウェルネスの概念。それを逆手に取ったかのようなサービスに思える。 症状や希望するインストラクターカテゴリー、価格など細かく条件を絞って検索が可能(公式HPより) サービスの検索画面では、症状やどどのようなカテゴリーの施術を希望しているかによって細かく条件検索が可能。詳細なニーズも汲むことができるようになっている。 多岐にわたるカテゴリーを網羅しているということは、当然対応できるニーズも広い。「こんなものもあるだろうか?ひとまずWellSetを見てみよう」とサービスを利用する人が多いのではないかと予想できる。 […]

デザインから環境問題を考える。エコ・サステナブル系サービス5選

自分たちの生活と環境の結びつきを再確認するタイミング。 ROTHY’S:一気通貫のサステナビリティー意識。サンフランシスコ発女性用シューズのD2Cブランド BIOSSANCE:バイオテクノロジーが実現する、環境への高レベルの配慮と高い安全性を誇るコスメブランド Veles:サプライチェーンから環境に配慮。資源の循環を目指した、廃棄食材生まれの家庭用洗剤 Capsulier Lite:気軽に楽しめるカフェタイムをさらにエコフレンドリーに。高いユーザビリティー提供するプロダクト Bird:より一層求められる環境への配慮。サンフランシスコではお馴染みの電動スクーター 優れたデザインを通じて問題へのアプローチを体現。「モノの使用」に留まらない「コトの提供」が重要 これまで環境問題へのアプローチは壮大な話のように感じられて、イマイチ危機感や実感を持つことが難しいと思っている方も、今回のコロナウイルスの一件で、生活と環境は強く結びついていると感じているのではないだろか。 コロナウイルスが我々の生活に多大な影響を与えていることは言うまでもないが、こうした人間の生活スタイルの変化も、環境に影響を及ぼしているのだ。 具体的には、全世界的な移動の自粛により、ガスの排出量が減少しているというデータが出てきている一方、衛生面を考慮して使い捨てのものを利用するシーンが増えたことでゴミの量が増加している、など。 世界中で品薄状態が続くマスクも、やはり使い捨てのものが多く使用されており、そのゴミ問題が深刻視されて始めている。 環境問題は自分たちの生活に強い結びつきがあるからこそ、身近な取り組みから向き合っていくことが大切だと改めて認識すべきだろう。 そこで今回は、我々の生活に溶け込み、身近な部分から環境への配慮をするプロダクト・ブランドをご紹介する。環境問題へのアプローチだけでなく、優れたデザインによってより良いユーザー体験を提供しているところもポイントだ。 ROTHY’S 2020年始、原宿駅前にサンフランシスコ発サステナブルなメリノウール製シューズブランドAllbirdsが日本初上陸を果たしたのが記憶に新しいが、同じくシューズ系列では、ROTHY’S(ローシーズ)も、サステナビリティーを掲げるレディースシューズとバッグのD2Cブランドだ。 著名人にもファンが多く、ナタリー・ポートマンやイギリスのメーガン妃も愛用。これまでには累計100万足、1億4000万ドル以上の売り上げを出している。 ROTHY’Sのプロダクトには、海洋ゴミになっているペットボトルをリサイクルした繊維素材が使われており、シューズのソール部分もカーボンフリーの素材でできている。 View this post on Instagram Our current spring favorites. Which styles are in your wardrobe rotation? 💭 A post shared by Rothy’s (@rothys) on Feb 25, 2020 at 8:11am PST 無駄ゼロを掲げ、中国の自社工場で生産されるプロセスでは、独自の3Dニット加工で編み上げるため、裁断のゴミも出ない。 さらには靴やバッグを入れて配送する際のボックスも丈夫で、梱包材を必要とせず、ここでもゴミを出さないようにしている。 製造前の素材の段階から発送に至るまで環境に配慮をしているだけでなく、プロダクト自体も優秀。軽量で、シューズは足によく馴染み、履きやすさもピカイチとのこと。 ニット生地であるため、専用の袋に入れて洗濯することもできる。シンプルなデザインで女性のライフスタイルに寄り添うプロダクトと言えるだろう。 関連記事:D2Cブランドに学ぶ!カスタマーと繋がる開封体験デザイン BIOSSANCE BIOSSANCE(バイオッサンス)は、環境への配慮と高い安全性を実現するクリーンビューティコスメブランドだ。 元々BIOSSANCEは、マラリア治療のためのテクノロジーで特許を取得したローレンス・バークレー研究所の研究者たちが立ち上げた。バイオテクノロジーのバックグラウンドが高い品質を支えている。 コスメやスキンケアに関して、アメリカ国内で使用が禁止されている成分はわずか12種類。しかもこれは1938年からアップデートされていないという。ヨーロッパが1,376種類であるのに対して驚きの数値だ。 これが意味するところは、それだけ肌にも環境にも悪影響を及ぼしかねない成分が含まれてしまうリスクがあるということ。 一方、BIOSSANCEが自社製品に対して独自に定めている使用禁止成分はなんと2000種類。非常に厳しい品質基準を設けることで、人間を含め環境に配慮をしたプロダクトを開発している。 BIOSSANCE公式HPより そのうちの1つが、サトウキビ由来成分100%のスクワランオイル。元々スクワランは、サメの肝油から抽出されるのが一般的だ。 しかし、美容効果の高いスクワランを求めてサメの乱獲が行われたり、絶滅が叫ばれたりと、生態系に悪影響を及ぼす事例も存在する。 そこでBIOSSANCEは、強みであるバイオテクノロジーの知見を生かし、バイオマス資源としても注目されるサトウキビからスクワランを生成することに成功した。 また、製品自体だけでなく、ロジスティックスやコミュニティレベルで環境対策を徹底している。 例えば、配送ではカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出と吸収がプラスマイナスゼロの状態)を徹底したり、森林再生プロジェクトへのサポートをしていたり。 その他、WEBサイト上で『THE CLNAN ACADEMY』というオンラインレッスンを配信し、多方面からクリーンな成分の重要性に関する啓蒙を行うなど、多岐に及ぶ活動をしている。 Veles およそ97%が廃棄食材でできている家庭用洗剤Veles(ヴェレス)。石油化学成分など、環境にマイナスな影響を及ぼす成分は一切含まれておらず、水やアルコール、酢酸などの成分を抽出して作られている。 一般的に売られている家庭用洗剤の90%は水でできているという。これほど大部分を占めているのだから、環境に配慮した洗剤には水の使用も当然大きく関係してきそうだが、Velesは、廃棄食材から抽出した水を再活用している。そのため、水の使用も大幅にカットできているプロダクトなのだ。 Veles公式HPより また、詰め替え(近日発売予定)を購入し中身を詰め替えて使っていくため、容器のゴミも出さずに済む(アメリカは日本ほど詰め替えパックが主流ではない)。 また、この容器自体も環境に配慮されたもので、リサイクル可能なアルミニウム製だ。 原材料となる廃棄食材を調達する際には、大手廃棄物運搬業者と提携し、埋め立てられる予定の廃棄食材を彼らから直接受け取り、加工に回すことでサプライチェーンを簡素化。運搬の際のガスの排出も抑えることに成功している。 Velesが掲げる「Cleaning is closing the loop」というステートメントは、「掃除をすることは、(自分たちの環境にあるものを)循環させること」といった翻訳になる。 これは廃棄食材から成分を取り出し、洗剤として新たなプロダクトを生み出し、それもまた再生可能な有機物でできているという、資源の循環を意味している。 Capsulier Lite 手軽に本格的なコーヒーを楽しむことができると、日本でもネスプレッソのような自宅エスプレッソマシンが人気を博した。 専用のマシンに好みのカプセルをセットし、ボタンを押すだけでドリンクが出来上がる仕組みだが、通常このカプセルは使い捨てで、プラスチックゴミが出てしまう。 このゴミ問題を解決しているのが、 Capsulier Lite(キャプシラーライト)。洗って何度でも使用可能なカプセルを作ることができるプロダクトだ。最新のIoTガジェットのキュレーションストアb8taにも取り上げられており、CES2019への出展実績もある。 毎回のカプセルのゴミが出ないだけでなく、自分で好きなコーヒー豆を選んでオリジナルのカプセルを作って楽しめるため、それだけでも価値を感じることができる。 既製品がカバーしきれていないところに目をつけ、ピンポイントで訴求していく面白い例だと思う。また、特定の機能に特化しており、用途は1つという、いわば「n=1」なプロダクトであるため、使うときの紛らわしさや迷いもなく、ユーザビリティーも高いと言える。 Bird サンフランシスコには、車や自転車だけでなく電動スクーターのライドシェアも浸透している。LimeやSPiNなど複数のメーカーが展開しているが、その中の1つであるBirdは、個人向けに電動スクーターの販売も行っている。 車を使用しなくとも行ける範囲であれば電動スクーターを利用することは、エコフレンドリーな姿勢だと言えるだろう。 Bird公式HPより ただ、電動スクーターは自動車のような排気ガスの排出がないだけで、その製造過程や充電のため、回収する際には温室効果ガスを排出しているのが現状だ。一概に環境に優しいとは言い難いかもしれないことをここで断っておきたい。 電動スクーターそのものをリサイクル素材で製造することや、回収車としてEV自動車を利用するなど、より細かな環境への配慮が求められている。 関連記事:シェアサイクル事業問題から見るサンフランシスコ市の意思決定の速さ 最後に サステナブル、エコフレンドリーなど、環境問題に対して警鐘を鳴らすサービスやプロダクトは多く存在する。しかし、それらを使うことのメリットや価値、影響力の大きさは、たとえ多大なゴミの削減に繋がっているなどと具体的な数字が提示されたとしても、なかなか実感が湧きにくい。 それは、自分のすぐ目の前で問題が起きているのではないからだ。問題自体がいつ始まったかもわからない上に、地球規模という非常に大きな問題であるため、自分ごととして捉えにくい。 しかし、そのプロダクトやサービスには環境に配慮していることがより身近に感じられるストーリーで伝えられたら、あるいは、仮に環境に配慮しているものと知らなくとも使いたくなるような優れたデザインだとしたらどうだろうか。 「環境に配慮されていさえすれば、デザインの良し悪しは気にしない」というブランドはおそらく選ばれなくなってくる。 むしろ、「イケてる上に、環境にも配慮している」「わかりやすくて、使い勝手が良い」といったように、優れたデザインに加えて環境問題に取り組む姿勢が付加価値として上乗せされる構造がこれから主流になってくるだろう。 そうなると、問題意識をいかにしてプロダクトやサービスといった形あるものにしていくか、どのようにストーリーを組み込み、デザインに反映させていくかが重要になってくる。 そして、この考え方はもはや環境問題だけに限らずともサービスデザインの際の肝だ。利用するだけの「モノ」で留まってしまうのではなく、その先の「コト」を提供できるサービスづくりが求められる。 我々btraxも、問題起点でイノベーティブなサービス開発ができるよう日々クライアントの方々と取り組んでいる。ご興味のある方はぜひこちらからお問い合わせいただきたい。 参考記事:Why Fashion Customers Can’t […]

シリコンバレーのトラベルテックADARAの日本進出に学ぶローカライゼーション【インタビュー】

シリコンバレー生まれのトラベルテック企業ADARAの日本進出ローカライゼーションの秘訣を探る 専門用語x英語は日本に持ち込む際に難関。でも英語圏では共通言語 言語だけではない、進出先のビジネス・非ビジネス文化、マナー、働き方など人を意識した違いを考慮する必要あり 米国ではプレゼンで話していることを見る。日本では文字情報、書類を見る傾向あり 日米、お互いの「物差し」を理解すべし 2019年日本を沸かせたラグビーW杯や2020年夏のオリンピックなど、世界的なスポーツイベントによる日本へのインバウンド需要が高まっている。これを見越した企業・政府の動きが見られるようになってきた。 また、こういった需要・取り組みに対して興味を持ち、日本市場への参入を考える海外企業も多くなってきている。そして、こういった海外企業が日本市場に参入してくる際の戦略や自国との違いを知ることは、日本企業にとって非常に貴重な情報だ。グローバル市場を見据えたサービスや事業の展開に必要な知見を養うことができる。 ADARAもその1つだ。海外から日本に渡ってきた旅行者の動向をデータ分析し、旅行関連企業、サービスの支援を行っている。 今回、ADARAのコマーシャルディレクターである森下順子氏(June)を訪ね、日本でビジネスをしてきた4年間についてインタビューを実施した。 ADARAの事業拡大、ローカライズ、企業の文化、顧客との関係について伺った内容をまとめている。そしてそこから、日本から海外、海外から日本という両方向のベクトルに目を向け、ローカライズの際の視点や、マーケットインのポイントを解説していく。 日本へのビジネスの拡大 Q. btraxは2017年のADARAの日本へのサービスローンチイベントに携わらせていただきました。どうしてADARAは、当時日本市場への進出を決めたのですか? A: 本社は、米国カリフォルニアのパロアルトにあります。200名のスタッフと、世界に20ものオフィスを構えています。2016年には、アジア市場への参入のため、シンガポールにオフィスをオープンしました。 その後日本、香港、シドニーとアジア環太平洋エリアへのサービスの拡大をしていきました。10年間でADARAは急成長をしてきたと思います。 2017年日本でのローンチイベントの様子 日米間の言語の壁。特に専門用語は最難関! Q: ADARAは既に世界中にオフィスがありますが、日本市場への進出はスムーズでしたか? A: 最初はやはり苦労がありました。時に言語の壁です。ADARAは米国に拠点を置き、ヨーロッパ圏やアジア環太平洋圏にオフィスがあるので、共通語は英語です。ですので、日本に対しては、あらゆるものを日本語に翻訳する必要がありました。 例えば、セールスレポートや、マーケティング関連の資料、さらにwebサイトです。この困難を乗り越えるために、日本と本社両方でバイリンガルのスタッフの採用も行いました。 日本国内でのサービス展開を通じ、日本政府や地方自治体、あるいはそういったところの観光局など、公的機関とも近い距離で仕事をする機会もあります。彼らは日本語を話しますが、デジタル専門用語や、旅行関連の専門用語がわからないということもしばしばあります。 ですので私は、専門的な英語を日本語に翻訳し、専門的領域を知らない彼らでも理解できるような形にしなければなりませんでした。これは本当にチャレンジングなことでした。 小手先のローカライズでは機能しない Q: ARADAの本社は米国にあり、日本とは大きく異なるカルチャーを持っていると思います。日本市場への参入に際し、戦略面でも米国のものと変える必要はありましたか? A: 米国本社の戦略にならって日本でも展開をしようと考えていました。しかし、日本の慣習やトーン、マナー、ビジネスルールに合わせてローカライズを行いました。顧客基盤を成長させ、新たなビジネス領域へと拡大させようと考えていますので、日本の顧客が求めているものを尊重しなければいけないと思います。 日本でのビジネスが成長するにつれ、チームを拡充させ、とりわけ政府機関のようなローカルビジネスのニーズに合致するように戦略を変えていこうと考えています。日本は、特に旅行業界において、最も注力すべき市場の1つなのです。 ローカライズの鍵は、やはり参入先の市場動向や言語だけでなく、根付いたものにフィットする形で提供をすることにあると言えるだろう。また、施策レベルではなく、その大本にある戦略レベルでローカライズをしていく必要もある。 Q: ADARAが日本に進出した当初、初期顧客にはどのようにしてアプローチをしたのですか? A: まずは前職で元々持っていたネットワークを活かしました。私は長年広告、マーケティング業界にいたので、旅行関係やデジタル関係のマーケティングエージェンシーに声をかけ、プレスレビューもいただきました。 リードを生むところから始めましたね。その次に、この業界や公的機関などの他の業界にもサービス拡大の機会を獲得できる人材の採用をしていきました。 事業を広げるのは人の力。築いてきたネットワークは活かすべきだ。特に新たな市場に参入していく際や新規事業などは、ゼロから基盤を築いていかなければらず、コストがかかる。それまでのネットワークを生かすことができないかと考えてみることも重要だろう。 また、海外市場への参入を考える場合、こういったネットワークを活かした事業の拡大は、現地に根付いた人、現地の知見を持っている人を中心に行っていくことが効果的かもしれない。現地の感覚を理解している人を使うことで、より確度高くローカライズに取り組むことができる。 事業をローカライズする Q: ADARAを日本の人に説明する時に感じた難しさは何でしたか? A: テクノロジーを紹介したり、専門的な用語を使うと、他の星から来たエイリアンのように見られることがあります。しかし皆さん、いつも新たな学びに対して熱心でいらっしゃいます。そうした時に、皆さんが理解できるよう、「インプレッション」や「クリック」などのカタカナ語を使わないようにしています。 先日のADARAセミナーでは、デジタルマーケティングと測定ソリューションについてお話しました。すると、「ピクセルって何ですか?」や「トラッキングって何ですか?」といった質問を受けました。 オンラインとオフライン、双方の視点からの理解の必要性 これは、「釣り」に似たようなものなのですが、こちらから用語や概念をたくさん伝えれば、向こうが何を聞いてくるのか(何について知らないのか)知ることができます。こうして私は情報を収集していますが、そのためには、エサをまくことから始めなければならないのです。 また、どんな人がWebサイトを訪問しているか、誰が広告を見ているのか、必ず始めに理解する必要があります。デジタル面においてはこのようなことからはじめました。 セミナーなどのオフラインで話す機会と、Webサイトなどを通じたオンライン上での顧客の行動データという、両方の視点からローカルを理解することがポイントだ。 Q: ADARAはしばしば地方自治体と連携しているとおっしゃいましたね。彼らは自分たちで顧客データを所有していないため、ADARAのサービスは非常に魅力的であるように思います。彼らにサービスを売り込むのはスムーズでしたか? A: 4年前にADARAに入社したとき、電話をかけたり、メールを送ったりして観光局に連絡しなければなりませんでした。しかし、2年前、私たちの最大のパートナーの1社である日本政府観光局がADARAにサインアップし、インパクト測定ツールを導入してくださいました。それ以来、ADARAに業界の注目が集まるようになったのです。 現在では、(こちらから行かずとも)連絡をいただけるようにまでなりました。近隣住民の方と行政間での話し合いや意見交換もなされるようになったのです。 例えば九州に行った際は、現地でのセミナーで人に会い、ネットワーキングをしました。そしてその翌日、近隣の行政で観光部門のマーケティングを行っている方から、ADARAについてもっと知りたいとの電話をいただいたのです。 組織に所属するメンバーがそれぞれ築いてきたネットワークを生かすことは重要だ。しかし、よりインパクトがあるのは影響力のある企業や人に認知してもらい、その価値を広めてもらうというPR的な第三者からの視点を持つことだろう。 ADARAの場合、公的機関に導入されたことによってサービスの信頼度を高めた。現地でネームバリューを持つ企業や人物の目に留まり、採用されることは、サービスを拡大させるための大きなステップになる。 とりわけ日本では、公的機関や大企業など、ネームバリューを持った組織がそのサービスの価値を左右したり、大きな影響を及ぼしたりするケースも多い。また、日本企業は米国よりも、サービスやプロダクト以前に、その企業の過去実績を重視する傾向にある。 一方、米国は日本と比べ、公的機関や大企業とのタイアップが拡大のための必要条件ではないような印象を受ける。また、CMなどで芸能人を使うケースも少ない。日米で、どのような訴求の違いが効果があるのかは異なるようだ。 鳥の目、虫の目、そして魚の目を持つ Q: 観光局、旅行代理店などとの仕事の中で、日本の顧客について学んだ一番の教訓は何ですか? A: 旅行者はインターネットを使用して次の目的地を検索したり、どれほどコストがかかるかを確認したりします。また、旅行中もFacebookを使ったり、写真をInstagramに投稿したりすることで、友人と体験を共有します。 つまり、デジタル空間には非常に多くの接点があるということです。しかし、太平洋諸国や米国などの先進市場と比較すると、日本の旅行業界は少し遅れている状況です。 2019年のラグビーW杯や今年のオリンピックを迎え、この市場で多くのインバウンド旅行者が見られることもあり、この業界の人は、既に今までやってきたことよりもさらに旅行者を魅了し、誘致する方法を模索している状況です。 駅に置かれているパンフレットやガイドブックはもはや意味を為しません。マーケターの観点から、適切なタイミングで適切な人にリーチする方法を考える必要があります。 旅行者の行動の変化から、従来の旅行体験そのものを見直し、デジタルシフトを視野に入れたマーケティングを行っていく必要がありそうだ。 また、ローカライズには、「鳥の目」で市場を把握したり、「虫の目」を持って現地にフィットする形を模索したりすることが重要である以前に、時代という大きな流れの変化にも確実に対応していく「魚の目」を持つことが求められる。 Q: 日本市場に参入していくに際し、最も重要なことは何ですか? A: 最も重要なのは、現地の人の声を聞き、尊重の意を見せることです。これは、日本文化に限ったことではなく、日本のビジネス文化に対してもです。クリエイティブであり、なおかつ現地に存在するニーズに合わせることに努めています。 日本で”信頼”を築くということ Q: ADARAはどのようにして顧客からの信頼を築いたのですか? A: まず、データを提供してくれるパートナーに対し、透明性を示しました。彼らが私たちにデータを提供する際、こちらは、そのデータをどう使うのかを伝え、なおかつ先方にデータの扱い手の決定権を委ねています。 また、パートナーから頂いたデータは全て別々に分けて安全に保管しています。航空会社やホテルチェーンとお仕事ができたのもこれが理由だと思います。信頼を築いています。 海外進出した企業はほとんどの場合、その国ではゼロの状態からのスタートとなる。そのため企業側からの積極的な信頼構築のためのアクションが重要になる。クリアなコミュニケーションや姿勢を示すことは、その状況の打破に繋がる。相手が抱くモヤモヤを自ら晴らす行動が重要だ。 世界的なスポーツイベントの連続開催に際して Q: ラグビーW杯や、東京オリンピックについて触れていらっしゃいました。180万枚ものラグビーW杯のチケットのうち、33%が外国人(日本人以外)によって購入され、また、日本は、2020年の東京オリンピックまでに2000万人もの観光客を誘致するとの予測もあります。 旅行関連企業にとって非常に大きなビジネスチャンスが巡ってくるわけですが、こういったイベントが差し迫ってくることでADARAに関心を持つ顧客の数の増加はありましたか? A: そうですね。ADARAは、世界中200以上もの航空会社やホテルチェーン、オンラインのトラベルエージェンシー等とパートナーシップを結び、旅行データベースを構築しています。 彼らは、我々のトラベルデータコープに参画し、データの共有を行います。データに基づいて、日本に来る人や、来日した際に行こうと考えている場所などを特定することができます。また、何人で旅行をするのか、いくらお金を使うのか、などをWebサイトのデータから知ることも可能です。 特に日本のマーケターは、自分たちのサービスをプロモーションしたいと思うはずです。ラグビーW杯で人々が日本に来ると分かっていれば、旅行客にもっと自分たちのサービスの魅力に触れてみて欲しいと思うのです。 日本チームと社内文化 Q: ADARAの日本オフィスの雰囲気はどのような感じなのでしょうか?米国の本社と似ているのか、あるいは、日本の伝統的なビジネススタイルを踏襲しているのでしょうか? A: その中間でしょうか。日本オフィスにいるスタッフのほとんどは米国企業での勤務経験があります。ですので、米国の環境ややり方には慣れていますね。コミュニケーションに関しては非常にスムーズです。 また、旅行関連ビジネスだからだと思いますが、ADARAで働いている人は旅行に情熱を傾けています。常に「次はどこに旅行するの?」「バケットリスト(死ぬまでにしたい100のことをまとめたリスト)にはどこが書かれているの?」などといった質問が飛び交っています。これは電話でも。 自分の人生や経験をスタッフ同士でお互いにシェアしています。これは決して他の会社にないこと、というわけではありませんが、とてもADARAらしいことです。 Q: 会社のカルチャーが日本オフィスでのコミュニケーションの円滑化に役立っているとお考えですか? A: はい、そう思います。他の日本の企業のように、ADARAにもよりフレキシブルにしていこうという動きがあります。ADARAには日数無制限の有給取得制度があり、リモート勤務が可能になっています。 実際、お子さんがいる女性社員が2人います。彼女たちはお子さんのお世話もしなくてはなりませんよね。彼女たちには、時々学校関連のことで対応しなくてはいけないことがあり、そういった時は家から勤務することもあります。 こういった職場環境を大切にしています。ちなみに私は旅行が好きで、休暇を取る予定なのですが、現地のカフェでオンラインに入り、リモートで仕事することはよくあります。 一見、社内カルチャーはローカライズや市場参入には直接的には関係のないことに思える。しかし、社内カルチャーを参入先の風土や雰囲気に合わせていくことは、その場所でビジネスを展開させていくことに効果的のようだ。 活字至上主義の日本と、イメージドリブンの米国 Q: 日本オフィスと米国の本社との関係はどうですか?また日米でコラボレーションする際はどういった雰囲気ですか? A: 日本オフィスは、基本的に米国本社のガイドラインに沿っています。ですが、言語や適用している戦略は区別させていこうと思っています。例えば、米国はプレゼンテーションは画像が多く、文章は少ないのが典型です。 しかし日本では、プレゼンターが話をしている間でさえも、聴く側はスライド上に書かれている文章に意識を向けていることが多いです。 これは、日本のビジネスシーン、特に保守的な業界では一般的に見られます。米国本社も次第に私たちの意見に耳を傾け、日本で成功を収めるために、日本で重んじられていることを大切にすることの必要性を理解し始めています。 米国ではプレゼンで話されていることを重視する一方、日本では文字情報に重きが置かれ、紙の書類を使用するシーンも多い。そのためADARAは、日本企業に対しては、事前にプレゼン資料をシェアし、スムーズな理解とディスカッションができるよう工夫をしているのだ。 […]

澤円x越川慎司激論!日本企業がイノベーションを生み出す組織になるには【DFI2019】

イノベーターとは要素の組み合わせができる人や、足し引き掛け算ができる人。イノベーターになる可能性は十分にある
芽を育てるマインドセットと前進がみられる失敗には評価する制度を
イノベーションできないことの言い訳をするのではなく、「当たり前を疑う」こと。お互いに不得意なことを補い合える人を見つける

「イノベーション」や「グローバルマインドセット」。口で言うことは簡単だが、依然として横並び意識が色濃い日本の企業で実行に移すハードルは高い。
なかなか躍動できない若手や、そんな若手たちをどう扱うべきかわか…

グローバルにイノベーションを起こす人の7つの特徴

経済産業省が「デザイン経営宣言」を発表したのが2018年のこと。経営にデザインを取り入れることで、組織のイノベーションの創出力を高めようとする試みだ。
実際、日本の多くの企業でも、デザインを取り入れる動きが見られるようになり、その効果も少しずつ現れ始めている。
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イノベーション、説明できますか?
では、そもそも「イノベーション」とは何だろうか?ふわっとした「なんとなく」のイメージに留まり、その定義ができていないのではないだろうか?
バ…