Ayaka Ishikawa

【完全版】19種類のユーザーリサーチメソッドについて解説!

ユーザーリサーチとはUXデザインを行う際に必要となるユーザーのニーズ、行動、好み、課題を明らかにするための調査のこと。最近では「UXリサーチ」とも呼ばれている。 UXデザインプロセスの一部であり、ユーザー体験を向上させるために必要不可欠なプロセスとなっている。ユーザーのニーズや課題などを間違えて捉えてしまったり、十分に理解ができていない場合は、製品やサービスの失敗につながる可能性があるため、ユーザーリサーチは非常に重要な存在なのだ。 ユーザーリサーチの概要やなぜ必要なのかについては下記の記事で詳しく話している。ぜひそちらも合わせてチェックいただきたい。 実践デザイン思考!量より質を極めるユーザーリサーチ基本のキ 近年、ユーザーリサーチやUXリサーチという言葉が日本でも少しずつ浸透し始めているものの、ユーザーリサーチの手法がたくさんあって何をすればいいかわからないという相談をよく受ける。そこで今回は『19種類のUXリサーチメソッドのメリット、デメリットと活用場面』について解説していく。 どんなユーザーリサーチメソッドがあるの? まずはこのマトリクスの見方について解説していく。縦軸が意識調査(Attitudinal)か行動観察(Behavioral)で別れていて、横軸が質的調査(Qualitative)と量的調査(Quantitative)に別れている。 ・意識調査(Attitudinal):ユーザーが「どう思っているか」や「何を感じているか」を聞いて理解する ・行動観察(Behavioral):ユーザーが「実際に何をしているか」を観察して把握する ・質的調査(Qualitative):少数のユーザーから詳細情報を集めて「なぜ」「どのように」を深く理解する ・量的調査(Quantitative):多くのユーザーから数字で表せる情報を集めて傾向を把握する 4種類のマークのそれぞれの意味 🟢自然な製品使用 (Natural use of product):ユーザーが普段どおりに製品を使う様子を観察する 🔴脚本化された製品使用 (Scripted use of product):決められたタスクやシナリオに沿って製品を使ってもらい、その様子を観察する 🟡脱文脈化 (Decontextualized – not using product):製品を直接使用せずに、ユーザーの意見、態度、または知識を調査する 🔵限定的使用 (Limited use of a limited form of the product):製品の一部や簡易版を使って、特定の側面だけを調査する マトリクスの見方がわかると、それぞれのメソッドがどのような目的でどのような方法で行われるかが大まかに理解できるようになる。 それぞれのユーザーリサーチメソッドの解説 それではここからマトリクスにあるリサーチメソッドについて解説していく。 1 🟡インタビュー (Interviews) 一対一で詳細な質問を行い、ユーザーの意見や経験を深く掘り下げる手法 ・メリット: 詳細な情報が得られる、柔軟な質問が可能 (追加質問ができる) ・デメリット: 時間がかかる、サンプル数が限られる ・活用場面: 新製品の開発初期段階、ユーザーの行動や動機の深い理解が必要な時 2 🟡フォーカスグループ (Focus Groups) 少人数のグループでディスカッションを行い、意見や反応を収集する手法 ・メリット: 多様な意見が一度に得られる、参加者同士の相互作用を観察できる (意見の一致や対立、アイディアの発展過程など) ・デメリット: 特定の意見に引っ張られる可能性がある、個人の深い洞察が得にくい ・活用場面: 新しいコンセプトの初期評価、製品の改善点を探る時 3 🟡アンケート (Surveys) 多数のユーザーから定量的なデータを収集する手法 ・メリット: 大規模なデータ収集が可能、統計的分析に適している ・デメリット: 深い洞察が得にくい、質問の設計が結果の質に大きく影響する ・活用場面: 顧客満足度調査、市場動向の把握、大規模な意見収集が必要な時 4 🔵参加型デザイン (Participatory Design) ユーザーを設計プロセスに直接参加させる手法 (デザイナーやエンジニアと一緒に、ユーザーがアイデア出しや試作品の作成に関わる) ・メリット: ユーザーのニーズを直接反映できる、革新的なアイデアが生まれやすい ・デメリット: 時間とリソースがかかる、ユーザーの意見と専門家の知識のバランスを取るのが難しい場合がある ・活用場面: 新しいサービスの開発、既存製品の大幅な改善を行う時 5 🔵魅力度調査 (Desirability Studies) 複数のデザイン案をユーザーに提示し、好みや印象(魅力度)を評価してもらう手法 ・メリット: ユーザーの感情的な反応を把握できる、競合製品との比較が可能 ・デメリット: 主観的な評価になりがち、機能性の評価には適さない ・活用場面: 複数のデザイン案の中から最適なものを選ぶ時、ブランドイメージの評価をしたい時 6 🔵カードソーティング (Card Sorting) ユーザーに情報やカテゴリーをグループ分けしてもらう手法 ・メリット: 情報構造の最適化に役立つ、ユーザーの思考プロセスを理解できる ・デメリット: 結果の解釈に時間がかかる、コンテキストが失われる可能性がある ・活用場面: ウェブサイトの情報設計、アプリのメニュー構造の設計をする時 7 🔵ツリーテスト (Tree Testing) ユーザーにサイトの階層構造から特定の情報を探してもらい、サイト構造の分かりやすさを評価する手法 ・メリット: […]

【30億円を生み出したセルフオーダーレジ】マクドナルドの成功の裏側をUXデザインの観点から紐解く

マクドナルドは、セルフオーダーレジの導入により約30億円の追加利益を生み出した。 この増益は、主に顧客がセルフオーダーレジを使うことで平均客単価が上昇したためである。マクドナルドのCEOは、セルフオーダーシステムによって顧客が従来よりも多くの商品を注文する傾向があると述べている。(参照元) この記事では、セルフオーダーレジがどのようにして成功を生み出したのか、UXという観点からユーザー体験の向上と企業の利益の両面から探っていく。 セルフオーダーレジとは? セルフオーダーレジとは、レストランやファストフード店で、顧客が自分で注文を行うためのタッチパネル式の端末である。これにより、顧客は従業員を介さずにメニューを確認し、選択、注文、決済をスムーズに行うことができる。また、通常のレジに比べて、列に並ぶ時間が短縮され、待ち時間を減らす利点がある。 実際にマクドナルドでは、2008年にヨーロッパで初めてセルフオーダーレジを導入した。それ以降、バーガーキングやKFCなどの競合他社も追随して導入し、今では多くのファストフードチェーンで一般的な存在となっている。 それでは、セルフオーダーレジによるユーザーの体験価値の向上について見ていこう。 ユーザーの利益(UX)の向上 マクドナルドがセルフオーダー体験を向上させるために取り組んだことは主に4つある。 ①シンプルさ なるべくシンプルなUIにすることでユーザーが迅速に注文できるように設計されている。 ファストフードを利用する多くのユーザーは、食べたい商品がすぐに見つかり、オーダーできることを求めているため、非常に重要な要素となっている。マクドナルドのセルフオーダーレジでは、ハンバーガーやサイドメニューなどがセクションごとにわかりやすく分かれており、それぞれのアイテムは画像中心のUIとなっているため、直感的にオーダーできるUIとなっている。 ②カスタマイズ性 ユーザーの好みやアレルギーに合わせて注文をカスタマイズできるようになっている。 具体的には、ハンバーガーのトッピングやソースなどの追加や削除など、ユーザーが簡単に調整ができるようになっているため、より多くのユーザーが食事を楽しめるような工夫がされている。また、注文ミスを減らすために、最後に確認が表示されるような導線となっており、ユーザーも安心してオーダーできる設計となっている。 ③楽しい操作感 タッチスクリーンを利用することで直感的に指で操作できるUIになっている。画面のデザインもカラフルでポップな動きをするUIになっているため、ユーザーが楽しみながらオーダー体験できるように設計されている。 ④多言語対応 マクドナルドのセルフオーダーレジでは、複数言語から言語を選べるようになっている。日本では、日本語と英語などから選ぶことができるようになっている。日本語でオーダーができないユーザーでも英語表記に切り替えてオーダーすることが可能になっている。 企業利益の向上 マクドナルドが自社の利益を向上させるために使ったテクニックは主に6つある。 ①ナッジング ナッジングとは、ユーザーに選択の自由を与えつつ、人間の認知バイアスや思考の癖を理解した上でさりげない誘導を行うこと。 セルフオーダーレジの支払い画面では、クレジットカード支払いを推奨するようなUIになっている。クレジットカードでの支払いの方がキャッシュよりも支払い額が増えると言われているため、このようなUIを採用していると考えられる。 また、なるべく多くのセルフオーダーレジを配置することで、待ち時間を減らし、離脱防止に繋げている。7人以上並んでいる時は最大で70%の人が列に並ぶのをやめてしまうという研究結果もあるため、なるべくレジ待ちの列を短くすることが列からの離脱を減らし、オーダーの最大化に繋げている。 ②アップセリング アップセリングとは、ユーザーが当初検討していた単価の低い商品から単価の高い商品の購入を促すこと。 セルフオーダーレジ内のハンバーガーセクションでは単価の高いハンバーガーから順に表示されており、高いハンバーガーが目線の位置にある状態である。元々安価なチーズバーガーを頼もうと思っていたとしても、少し高くて美味しそうなビッグマックを選んでしまう仕掛けになっている。アップセリングのために、ナッジングも利用されていると考えられる。 ③バンドル販売 バンドル販売は、単価で購入するよりもお得な価格でセット商品を提供すること。 セルフオーダーレジでハンバーガーを選んだ後に、ポテトフライや飲み物が含まれたお得なセット商品が表示されるようになっている。ハンバーガーの利益率はそこまで高くないため、ポテトや飲み物などの利益率の高いサイドメニューを一緒に頼んでもらうことが利益率拡大につながる。 ④クロスセリング ユーザーが購入検討している商品に追加の商品を提案することをクロスセリングという。 セルフオーダーレジでは、ハンバーガーを選択した後にセット商品だけでなく、セット商品以外のナゲットやマックフルーリーなどがレコメンドされるような画面設計になっている。また、直感的で楽しいオーダー体験ができるUIが、通常よりも多くの商品を注文しやすい環境を作り出している。 ⑤ダークパターン ダークパターンは企業の利益を優先した結果になるよう、ユーザーが意図しない行動を取らせることを指す。 言い換えると、ユーザーの利益よりも企業の利益を優先させるずるいデザインである。セルフオーダーレジの画面では、トータルの金額がスクリーンの下に小さく表示されており、立っている状態だと視野に入らないデザインとなっている。そのため、ユーザーは合計金額が増えていても気づきにくい。 ⑥A/Bテスト 異なるバージョンを比較して、どちらが効率的かを統計的に検証することをA/Bテストという。 セルフオーダーレジのスクリーン上で、ランダムにコンポーネントの色やサイズ、表示テキスト、商品の並び順やレコメンド商品の表示を変えたりしている。A/Bテストを通して、マクドナルドは利益を最大化できるUI/UXを追求している。 結論:UXデザイナーはユーザーの利益と企業の利益のバランスを考えた設計が重要 マクドナルドのセルフオーダーレジの成功は、ユーザビリティの向上と収益増加の両立を示す好例だ。もちろんナッジングやダークパターンに関しては、ユーザーの信頼を失う可能性や倫理的な問題につながる可能性があるため、ベストな活用事例かどうかは判断が難しい。 しかし、この事例からユーザーと企業の利益の両方を意識することが重要だということがわかるだろう。UXデザイナーの役割は、この両者のバランスを取りながら、長期的な価値を創造することである。 以上のことから、UXデザイナーがユーザーと企業の利益の両方を考慮する上で重要なポイントは以下の3点である。 ①ビジネス目標の理解 企業の戦略や収益モデルを深く理解し、UXがそれらにどう貢献できるかを常に考えることが求められる。ユーザーの問題解決と企業の収益向上を同時に実現できることがベストケースである。 ②長期的価値の創造 短期的な利益だけでなく、長期的なユーザーロイヤリティと企業の持続可能性を考慮する。短期的な利益を追求しすぎることで、ユーザーが離れていってしまうリスクもあるため、長期的な目線を持ちながらプロジェクトを進める。 ③クロスファンクショナルなコラボレーション マーケティング、開発など、他部門と密接に連携することで、様々な意見を取り入れることが可能になる。総合的な視野を持ってプロジェクトを進めることがユーザーや企業のどちらかの利益に偏ることを防ぐ。 これらのポイントを踏まえることで、UXデザイナーはユーザーと企業の利益の双方を向上させるサービスやプロダクトを生み出すことができるだろう。