Shuhei Yoshida

ASIMOの誕生から引退まで 日米の人型ロボットの歩み

2022年3月31日にHondaが開発した人型ロボット「ASIMO」が引退した。ASIMOは2000年に初期モデルが登場した。人間さながらに二足歩行する様子は大きな話題になり、二足歩行ロボットのアイコン的な存在として、日本のロボット開発史の新たなるステージを切り拓いた。 その一方で、ほぼ同時期の4月初頭にTeslaは開発中の人型ロボット「Tesla Bot」の最新動画を公開した。その様子は、自然すぎてロボットだと思えないほどだ。全身タイツを着た人間が歩いているだけにしか見えない。 excited to try out the @Tesla bot! comment what you guys want me to test out with it! pic.twitter.com/o299JbUYkT — Shelby Church (@shelbychurch) April 2, 2022 人型ロボットの歴史を振り返ると日本とアメリカが大きく関わっている。「最初のロボット」が何かということは諸説あるが、アメリカでは1926年に「Televox」が、日本ではほぼ同時期の1928年に「学天則」が開発され、ロボット開発の歴史がスタートしている。 現在では様々なロボットが我々の生活を支えている。工場などで使われる産業用のロボットやインフラの点検用のロボット、ロボット掃除機、配送業の人手不足を解消するデリバリーロボットなどなど。 これらのロボットはその専門分野に特化した形状をしており、人型ではない。しかし一般的にロボットと言われて想像するのは、やはりASIMOのような人型ロボットだろう。 シリコンバレー発、人の課題を解決する未来のロボットたち ASIMOが登場した2000年前後は、日本のロボット開発が大きく躍進した時期であった。そのASIMOが引退した時期に、新たな人型ロボットが登場したのは象徴的な出来事だろう。 そこで本記事では主に日米の人型ロボットを比較しながら、ASIMOの登場から引退までのロボット史を振り返ってみよう。 1990年代後半〜2000年代前半 ロボット開発の黎明期 この時代は、日本でロボットが流行し多くのロボットが登場した。前述のASIMO以外にもSONYのペット犬ロボット「AIBO」や二足歩行ロボットの「QRIO」、産総研の「HRP-2」、現在も続く世界的なロボットの競技大会としての「RoboCup」の開催などが話題に上った。 また小型の二足歩行ロボットによる格闘技競技の「RoboOne」をテーマにしたテレビ番組が放映されるなどロボットブームがおきていた。 アメリカではiRobot社のロボット掃除機「Roomba」が発売され、日本でも話題になった。また同社の軍用ロボット「PackBot」など、軍用ロボットの開発もこの時期から本格的に始まっており実際にアフガニスタンなどに投入されている。 このように、アメリカでは人型ロボットよりも実用性を重視したロボットのニュースが多かった印象だ。現在、PackBotはワシントンDCの国立アメリカ歴史博物館で歴史的な発明品の一つとして、任天堂のゲームボーイ等とともに展示されている。 歩行・コミュニケーション共に「自然さ」への挑戦 歩行機能に注目してみると、前述の通りASIMOをはじめとして、HRP-2のような等身大のものからQRIO等の小型のものまで多種多様な二足歩行ロボットが開発されていたが、その動きはゆっくりしており、すり足のように歩く能力しかなかったり、歩行中にバランスを崩して転倒するロボットも多かった。 一方でアメリカのBoston Dynamics社が軍用の四足歩行ロボット「BigDog」を開発し、その非常にリアルで、実在の動物のような歩行能力で人々を驚かせた。 重い荷物を背負いながら斜面や荒れた地面を難なく歩き、横から蹴りを入れられてもバランスを保つなど、その性能の高さで世間を驚かせた。 ↑ボストン・ダイナミクス社のBigDog また、人間とコミュニケーションするための能力として、人間そっくりの外観や自然な会話の実現、表情の変化などに注目したロボットも研究・開発が進められている。 その一例として大阪大学と株式会社ココロが共同で開発した「アクトロイド」が挙げられる。 ↑初期型のアクトロイド 人間そっくりな外観のロボットで、表情も変えながら人間と対話できるロボットだ。しかしその様子はどこか不自然さを感じる人も多かった。 一般的に、人間は人間に近いリアルなロボットやCGを見ると違和感や嫌悪感を抱く「不気味の谷」現象が発生すると言われており、アクトロイドはそれを実証した形となった。 この不気味の谷をいかに解消するかが、ロボット開発における現在まで続く課題となっている。その後もアクトロイドはバージョンアップを繰り返し、その違和感は徐々に少なくなってきている。 2000年代の集大成とも言えるロボットとして、2009年に、産総研とココロが共同で開発した「HRP-4C」があるだろう。二足歩行の機能と人間そっくりの頭部を持ち、その表情も自然な感じだ。歌やダンスを披露したりファッションショーに参加するなども行っていた。 ↑HRP-4Cがファッションショーに登場 2010年代 災害現場におけるロボットの有用性 2011年にASIMOの新型が公開され、歩行機能のアップデートなどに加え、ボトルを開けて飲み物を注ぐというような、人間に近い作業も可能になった。 ↑新型ASIMOのデモンストレーション 同年3月11日に東日本大震災が発生し、その対応にロボットも投入されていた。例えば、福島第一原子力発電所の内部調査のために、前述の米iRobot社のPackBotが使用された。 また、日本のロボットとしては、国際的なレスキューロボット競技である「ロボカップレスキュー」で培った技術を元に高い踏破性能を持った災害ロボット「Quince」も投入された。Quinceは放射能汚染により人間の入れない内部状況の把握に一役買った。 ASIMOを原発作業に活用できないか、という意見もあったが、そもそも災害地での活動を想定しておらず、作業現場への投入は行われなかった。こういった災害地域では、がれきや段差を越えて進める踏破能力が重要となるため、当時の二足歩行ロボットには難しいミッションであった。 実用性を重視して進化していく日本のロボット 2013年にアメリカ国防高等研究計画局 (DARPA) は災害救援ロボットのコンテストとして「DARPA Robotics Challenge」を開催した。そこの予選で最高得点を叩き出したのが東大発ベンチャー企業の「SCHAFT」の二足歩行ロボットだ。 SCHAFTは国内ではあまり注目されなかったようだがGoogleに買収され、「日本企業として初めてGoogleに買収された企業」としても話題になった。 また、2010年後半、日本では産総研がHRPシリーズの最新型として、「HRP-5P」を開発した。これは重労働が可能なロボットとして、石膏ボードをビス打ちするデモ動画を公開し、歩行だけでなく物を掴んで運び、工具を使ってビス打ちをするという作業まで可能になっている。 ↑HRP-5Pが作業する様子 また、トヨタもマスター操縦システムで人間が遠隔操作を行う「T-HR3」を開発した。人間による操縦ではあるが、二足歩行だけでなく両手を使って様々な作業も可能だ。 バーテンダーのようにカクテルを作るデモンストレーションの実演など、人間と同じ仕事をこなす能力を示している。 一方、アメリカでの状況として、2013年にBoston DynamicsがDARPAと共同で開発した人型ロボット「Atlas」の動画を公開した。スムーズな二足歩行だけでなく、片足立ちでバランスをとる様子の動画を公開し、二足歩行技術の高さが話題になった。 Atlasはアップデートを続けており、現在でも最先端の二足歩行ロボットの一つと言える。また、Boston DynamicsはGoogle、Softbankに買収された後、2021年6月に韓国ヒュンダイ自動車に買収された。 ↑Atlasの初期型。動画後半で高度な二足歩行機能を見ることが出来る 人工知能技術によるロボットのコミュニケーション能力の向上 さて、この年代のコミニュケーション機能に注目してみると、人工知能技術の向上によってロボットの能力も飛躍的に上がっていた。 例えば、2015年に囲碁プログラム「AlphaGo」が初めて人間のプロ棋士を破るなど、人間に迫る能力を持つことが証明された。 こういった人工知能の発展は歩行機能やロボットの目となる画像認識など多くの機能で活用されており、人間とロボットの対話能力に関してもその能力向上に大きく関与している。 2014年、Aldebaran Roboticsを買収したSoftbankは「ペッパー」を発表した。 ペッパーは人間と自然に会話できる能力をもち、話している相手を目線で追うなどの仕草も違和感がなく、楽しく会話できるロボットとして日本各地で受付、案内ロボットとして活躍した。身近なロボットとしてその姿を見た人も多いだろう。 しかし、残念ながらペッパーは2020年に生産が終了している。また2022年4月にAldebaran Roboticsを前身とするSoftbank Roboticsのヨーロッパ子会社はドイツのUnited Robotics Groupによって買収された。 前述のアクトロイドも機能がアップデートされ、ホテルの受付をこなすなどの活躍が話題になっている。他の例としては、東芝がコミュニケーションロボット「地平アイこ」を開発し、日本橋三越で受付嬢を努めた。 こういったコミュニケーションロボットの中で注目すべきは、香港のHanson Robotics社が開発した「Sophia」だ。 Sophiaは高度な対話AIを持ち、さらに人間同様に自然に表情を変えながら会話する。その表情は少しぎこちなく見えるが、会話中に冗談めかしく微笑むなど、感情を持っているかのような仕草は人間が話しているのではないかと感じさせる。 Sophiaはテレビ番組に出演したり、インタビューを受けたりとその会話能力が大きく注目され、なんとFuture Investment Initiativeの開催に先立ち、サウジアラビアの市民権を取得するなど、多くのニュースになった。 ↑Sophiaのインタビューの様子 2020年代〜現在まで ロボットの身体能力の飛躍的な進歩 改めて過去のロボットを見てから現在の最新ロボットを見てみると、ASIMOの登場から大きく技術が進歩していることを実感できるだろう。 歩行能力については、ASIMOが誕生した時代ではきれいな平面など限定された足場で、ゆっくりと歩くのが精一杯で、激しく動くとすぐに転倒してしまっていた。現在では、屋内外の環境でも走る、階段を上る、ジャンプするなどが可能になっており、その移動能力は大きく向上している。 Boston DynamicsのAtlasは機能アップデートが続けられ、最新動画ではアスレチックのようなコースでパルクールを行いながら進んでいく様子を見ることができる。歩行だけでなく障害物をジャンプしながら進んだり、バク転など人間以上の動きを実現している。 ↑Atlasの最新パルクール動画 2021年にTeslaがTesla botの動画を初公開した。本記事の冒頭で触れた歩行の様子と同様に、全身タイツの人間が踊っているのではと疑いたくなるようなあまりにも自然な動きで、かえって不気味に感じるほどだ。 ↑Tesla botのダンス アメリカオレゴン州のAgility […]

未来のUI – Space Xに見る全面タッチスクリーンの利点と弱点

昨今、宇宙関連のニュースを聞くことが増えてきた。イーロン・マスク氏率いるSpace X は宇宙船「クルー・ドラゴン」での有人宇宙飛行を成功させた。宇宙飛行士を宇宙ステーションまで送り届け、無事に帰還も果たした。 このフライトには日本人宇宙飛行士の野口 聡一氏も参加しており、無事宇宙から帰還を果たした聡一氏のニュースを見た方も多いだろう。 Amazonの創業者のジェフ・ベゾス氏は起業したBlue Originが7月20日に初宇宙旅行を行うことも話題になっている。この宇宙旅行にはベゾス氏自身も参加するという。 そんな中で宇宙船のデザインも変わってきている。特に注目されているのは前述のSpaceXのクルー・ドラゴンがコクピットにタッチスクリーンを採用し、主だった操作を全てタッチ操作で行うという点だ。 SpaceXのタッチスクリーン指向のUI クルー・ドラゴンの船内はSF映画に出てくるような未来的なデザインになっている。コクピットには、アポロ計画の宇宙船やスペースシャトルなど、これまでの宇宙船にあった大量のボタンやレバー、計器類などは無くなっている。 その代わりにあるのが大きなタッチスクリーン。いくつか物理ボタンはあるものの、主な操作は全てタッチスクリーンで行われる。またSpaceXの宇宙服もそのグローブがタッチスクリーン操作に対応したものになっている。 クルー・ドラゴンは自立型の宇宙船で、宇宙空間での航行や宇宙ステーションへのドッキングなどは全てソフトウェアが行う。操縦桿や多数のボタンは必要なく、操縦者はタッチスクリーン上で航行を確認し、タッチ操作で宇宙船の設定を行うことになる。 クルー・ドラゴンの船内 ゲーム感覚で操作できるシュミレーター もちろん緊急時などのために、手動での操作も可能だ。SpaceXはクルー・ドラゴンでの宇宙ステーションへのドッキングシミュレータを公開しており、手動でクルー・ドラゴンを操作する場合、どういった感じになるのか試すことができる。なかなか遊びがいのあるシミュレータになっているので、ぜひ一度試してみてほしい。 このシミュレータで注目すべきは、UIのデザインが昨今のスマホアプリやビデオゲームを彷彿とさせる作りになっていること。そうしたものに慣れ親しんだ人であれば、宇宙飛行士としてトレーニングを積んだ人でなくても直感的に操作できる。 Teslaとも共通するコンセプト イーロン・マスク氏が同じくCEOを務めるTeslaの車内インテリアも同じようなコンセプトを持っている。極力、人間の操作する部分を減らし、ソフトウェアによる制御による自動化を目指している。 テスラのユーザー体験。しばらく乗ってみてわかったその凄さ 例えば、新型のモデルSではシフトレバーはなくなり、自動車自身がギア操作の制御を行う。どうしても人間が操作したい場合にタッチスクリーンからドライブ/リバースの変更などを行う。 Here you go! https://t.co/yGBIFdbIB1 pic.twitter.com/1A9BBWwfkE — Sawyer Merritt 📈🚀 (@SawyerMerritt) June 11, 2021 他の宇宙船との違い このデザインはどのくらい斬新なのか?SpaceX以外で最近話題になっている他企業と比べてみよう。 クルー・ドラゴンのライバルとされているのがボーイング社の宇宙船「スターライナー」だ。現在開発中で、7月にもテストフライトが予定されている最新鋭機だ。こちらは伝統的な大量の計器、ボタン類が多く配置されたコクピットとなっている。 AmazonのCEO ジェフ・ベゾスが同じくCEOを務め、7月20日に初の宇宙旅行を計画しているBlue Originはどうだろうか。その参加チケットが2800万ドルで落札されたことが話題になったためこちらも少し触れておこう。 Blue Originの宇宙船「ニューシェパード」は、11分間という短時間でのほぼ完全自動運転の宇宙旅行を目的とした宇宙船だ。そのため、旅行客のためのスペースが大きく取られていて、クルー・ドラゴンのようなコクピットも存在しない。 これからはタッチパネルが標準的なUIに? 近い将来に、インターネット、スマートフォンなどに慣れ親しんでいるデジタルネイティブの世代が宇宙飛行士の中心世代になるだろう。その際にトレーニングコストを大きく下げることができることが期待されている。 また、タッチスクリーンのUIはChromiumやJavascriptといったWeb系のソフトウェア開発でよく使われる技術で作られており、現代的なWebアプリライクのUIを実現するのに活用されている。 タッチスクリーンは有用か SpaceXはなぜタッチスクリーンを採用したのか、宇宙船の操作に対してどんなメリットがあるのかを通じて、全面タッチスクリーンの可能性を考えてみよう。 タッチスクリーンによるUI/UXの評価 物理デバイスをタッチスクリーンにすることで、UIはソフトウェアで構成されたものになる。これにより、Webソフトウェアなどで用いられているUX/UIの指標と照らし合わせ、評価・検討することができる。 SpaceXのソフトウェアの全容は公開されていないが、画像や動画など公開された情報からクルー・ドラゴンのUIはWebソフトウェアでも重視されているUIデザインの鉄則を押さえていることが見て取れる。 タッチスクリーンの利点1: エラープルーフの面でも有利 こういった鉄則を踏襲することは、単純な使いやすさの向上だけでなく安全面でも重要になる。緊急事態が起きた際などに、焦りからのとっさの操作間違いが起きないようなUIデザインは、安全性が重視される宇宙船において重要なポイントだ。 タッチスクリーンの利点2: 慣れ親しんだユーザビリティーの実現 SpaceXは目新しさでタッチスクリーンを導入したのではなく理論に基づいてインタフェースがデザインされており、いくつかのUXの法則を実現することでユーザビリティの高いUIを実現している。その例をいくつか見てみよう。 フィッツの法則 画面上の対象間の移動に関する人間の動作をモデル化した法則。主にマウス操作で移動にかかる時間を計測する。近年ではタッチデバイスでの研究も盛んに行われている。 フィッツの法則はUIの普遍的な法則と言われており、クルー・ドラゴンのUIも多くの要素がこの法則を考慮しているようだ。例えば操作画面では主だったボタン等を画面の端に配置しており、これはフィッツの法則を踏襲していると言える。 またフィッツの法則と照らし合わせて、優れたインタフェースとしてパイ・メニューがある。SpaceXのシミュレータで確認できるが、宇宙船の飛行制御UIはこのパイ・メニューを元にしたインタフェースになっている。 ヤコブの法則 ユーザーの経験則に基づいたUIデザインの法則で、ユーザビリティに関する10の原則が提唱されている。経験則に基づいてユーザビリティを評価するヒューリスティック評価の指標とされることが多い。 クルー・ドラゴンのUIは、前述したように現在のアプリやゲームなどで一般的なUIに近いデザインになっている。それらに慣れ親しんだ人であれば、その経験から、ある程度直感的に扱えるデザインになっている。 複雑さの保存の法則 どんなシステムやプロセスにも、減らすことのできない複雑さが存在するという考え方で、その複雑さはシステムとユーザーのどちらかが引き受けなければならないとされている。 この法則にしたがって考えると、従来の宇宙船は、その複雑さをシステムだけでなく、操縦者側も大量のボタンや計器類などを使用することで負担していたと言える。 クルー・ドラゴンでは、シンプルに分かりやすくデザインされたUIの利用や宇宙飛行制御の自動化などにより、その複雑さをシステム側に移行して、操縦者の負担を減らすことができている。 UXデザイナーなら知っておきたいデザインに関する10の法則 タッチスクリーンの利点3: 製造コストの削減 SpaceXは、安価でのロケット打上げが大きなセールスポイントになっており、タッチスクリーンの導入も製造コスト削減に一役買っているだろう。 従来のコクピットに比べてタッチスクリーンは、ハードウェアの製造やメンテナンスが簡単に行える。また問題が起きた際のソフトウェアの修正はもちろん、タッチスクリーン自体の交換も簡単だ。 さらにソフトウェア更新により、機能の追加やインタフェースのデザイン変更といった改修も簡単なので、タッチスクリーン自体は長く使い続けることができるだろう。 タッチスクリーンの利点4: 船内の空間を確保できる タッチスクリーンであれば、物理的なボタンの設置に比べて省スペースで設置できる。事実、クルー・ドラゴンのタッチスクリーンは位置を変える時ができ、宇宙飛行士の乗り降りの際などに十分なスペースを確保できる。 また、ソフトウェア上のUIは自由にデザイン可能。つまり、そのシチュエーション毎に必要な情報のみを表示することができる。 画面表示を切り替えて複数の情報を管理できるため、物理的な計器類を大量に置く必要がない。こうしたデザインはTeslaのタッチスクリーンでも確認でき、画面の切り替えが分かりやすいようにデザインされている。 クルー・ドラゴンでは最長で5日間の民間向け宇宙旅行も計画されており、快適に過ごせる船内はこうした宇宙旅行でのユーザー体験向上にも貢献するだろう。 画面下のメニューで表示内容を切り替えられるTeslaのタッチスクリーン タッチスクリーンの利点5: トレーニングコストの削減 前述したように、タッチスクリーンに慣れ親しんだデジタルネイティブ世代は直感的に扱えるだろう。では、これまでの宇宙船に慣れ親しんだ宇宙飛行士はどう感じるのだろうか? このUIの開発には、かつてのスペースシャトル搭乗ミッションもこなしたベテランの宇宙飛行士 Douglas Hurley氏、Robert Behnken氏が協力している。操作性の向上やミスタッチがなくなるよう改良に貢献したという。 彼らは、これまでと異なるデザインのUIを習得するトレーニングが必要だったと語っているが、最終的には問題なく技能習得を済ませている。 実際に、2人は2020年5月に行われたSpace X初の有人宇宙飛行ミッション「Demo-2」に参加し、クルー・ドラゴンで宇宙に行っている。このDemo-2ミッションではHurley氏は宇宙船の制御機能を確認するために、手動での飛行試験も行っており、タッチスクリーンでの操作を問題なくこなしている。 前述のシミュレータのように、ソフトウェアのUIであればPC上でも操作を確認することができる点も挙げられる。本格的な搭乗型のシミュレータがなくても、トレーニングを積むことができるのは大きなメリットだ。 タッチスクリーンのデメリット では、タッチスクリーンに問題はないのだろうか。タッチスクリーン導入の弊害になりそうな問題点を考えてみよう。 タッチスクリーンの弱点1: 常にスクリーンを見なければいけな 物理ボタンを用いたインタフェースとの最大の違いは、タッチスクリーンは画面を見ながら操作が必要な点だろう。物理ボタンのように、よそ見をしながら操作するのは難しい。 そのため、宇宙船の外の様子とタッチスクリーン上のインタフェースを同時に確認する必要がある。これはデザインの大きな制約である。これが自動車や航空機を完全タッチスクリーンにすることが難しい理由の一つだろう。 タッチスクリーンの弱点2: スクリーンの故障 = 宇宙船の故障 また、多くの人が心配するのは、電気系トラブル等でタッチスクリーンが表示できないと何も操作できないということだろう。 物理ボタンや計器がどれか一つ故障しただけであれば、他のボタン等は使い続けることができる。しかし、全面タッチスクリーンは故障すると宇宙船の機能がほとんど操作できなくなってしまう。こういった事態を考慮した運用を十分考える必要があるだろう。 タッチスクリーンの弱点3: 再トレーニングが必要 前述した内容と矛盾するようだが、今までの宇宙船のインタフェースに慣れていた宇宙飛行士にとっては慣れるまでのトレーニングが必要になるだろう。タッチスクリーン上の操作自体はそれほど難しくないだろうが、タッチスクリーンを使うこと自体に心理的に慣れる必要がある。 特に宇宙飛行士は、様々な緊急事態を想定する必要がある。緊急事態が発生した場合でも、タッチスクリーン上でスムーズに宇宙船を制御できるように十分なトレーニングが必要だろう。 デザイナーに必要なのはスキルアップではなくスキルチェンジ タッチスクリーンはデザインのあり方を変えるか? 宇宙船という安全性を要求されるものにタッチスクリーンを導入することを不安視する声がある一方で、SpaceXの新しいデザインが宇宙船の概念を変えると評価する声もある。 これまでの宇宙船の大量の物理ボタンをタッチスクリーンに一新したのは、日本のガラケーやBrackberryやNokiaのようなキーボード型のUIを持っていたスマートフォンが、タッチスクリーンをメインとするiPhoneに取って代わられたことを思い起こさせる。 […]