btraxのデザイナーが考えるクライアントコミュニケーションの5つのコツ
デザイナーの仕事は、実は「デザインをしていない時」こそが重要であると筆者は考えている。 というのも、もちろん成果物も重要であるが、その手前で、どんな手順を踏んでそのアウトプットまで辿り着いたかも重要であり、むしろそういった過程こそが、最終的なアウトプットのクオリティに大きく影響を与えると感じている。 特にデザイナーがクライアントワークに入った場合、成果物の完成度は、技術的なデザインのクオリティの高さだけでなく、クライアントからの期待にどれだけ応えられたか、という側面にも大きく左右されるのだ。 筆者もデザイナーとして、クライアントワークでデザイン業務をすることが多い。しかしこの記事では、クライアントワークの過程で気がついた、デザイン業務以外でデザイナーが気をつけるべき点を紹介していく。 プロジェクトゴールの見直し デザインプロセスの設計と説明 言葉の認識確認と辞書作り レビュー会の適切な運営 社内での咀嚼の時間 1.プロジェクトゴールの見直し クライアントへの提案時はもちろん、提案後、実際にプロジェクト化し、プロジェクトが始まる際といった早期のタイミングでもゴールの見直し、再確認は行うべきだ。 具体的には定義されている課題やゴールは適切かを確認する必要がある。 クライアントが設定してきた課題やゴールが適切かを改めて自分達で問うことで、課題の背景に興味を持つことができる。 クライアントにも確認をとりながら課題の背景を知っていくことで、クライアントから受け取った資料の文字情報や会議の会話では見えてこなかった部分が見えてくる。 場合によっては課題のリフレーミング(再定義)を行うことで、より最終的な成果物が効果的なものになると考える。 リフレーミングとは? – ヒットの秘訣は問題へのアプローチの仕方にある 気をつけなくてはいけないのが、これはあくまでも「見直し」であり、場合によっては他の方法を提案しようというものであり、必ずしもクライアントの意見を否定したほうがいいというわけではないということだ。 デザイナーにはクライアントからの要望を冷静に見定めていく客観性が求められ、もし課題そのものが間違っていると感じるのであれば、その理由をしっかりと言語化をしクライアントに伝える必要がある。 2.デザインプロセスの設計と説明 デザイナーの考えるプロセスを、デザイナーではない人にも理解してもらうことは、仕事に対する納得度と相手からの理解度を得るためにもとても重要な作業である。 大概の現場において、デザインの教科書に載っているプロセス通りに事が進むことは少ない。 ゆえにデザイナーはプロジェクトごとにプロセスの最適化が必要である。 この時、そのアレンジしたプロセスがデザイナーの独りよがりなものにならないためにも、クライアントにそのプロセスの意図をわかりやすく説明することはとても重要だ。 相手にわかりやすく伝えようとする行為は自身の提案する各プロセスがどんな意味を持つのかを自分でも改めて客観的に理解するのにも役に立つのではないかと感じている。 デザインプロセスを筆者がクライアントに説明する上で、気をつけていることが3つある。 1つ目は専門的な言葉やカタカナ語など特定の業界の人が使いやすい言葉を避けること。また、使わざるを得ない場面であればその単語を説明する一言を付け加えることである。 最近はデザイン系の言葉が一般にも認知されてきてはいるが、なるべくデザインの専門用語も避けるべきだと思っている。 2つ目はスライドに図を使ったり、スライドに載っている図や文章でクライアントが理解できていない場合は、FigmaやMiro上でその場で新たに図を作成して説明する。 3つ目は、人によって解釈が違いそうな言葉を使う際には、その言葉と意味が混在されやすい別の言葉を比較し、今回使いたい言葉の意味をはっきりとさせる。 このように相手がデザインに関する知識が無い前提に丁寧に言葉遣いや説明の方法を気をつける必要があると考える。 3.言葉の認識と辞書作り クライアントによっては、その会社ならではの専門用語や略称があったりする。 そういった言葉については、わからないときははっきりと意味を聞き、その言葉と定義をまとめたプロジェクト用の「辞書」となるものを作っておくのがおすすめだ。 そうすることで認識の齟齬を防止し、表記の揺れをなくすための対策になる。 さらに可能であれば、普段のクライアントの言葉遣いを真似ることをおすすめする。 そうすることで彼らとのコミュニケーションがスムーズになり、結果として認識の齟齬が少なくなる。 また、クライアントに自分たちがプロジェクトのことを十分に理解しているという安心感を持ってもらえるようになる。 ちなみにビートラックスでは、プロジェクトにおける辞書作りの一つの方法として、付箋にわからない言葉を意味を聞いたのち、付箋でまとめて一目で見直すことができるようにしている。 スプレッドシートにまとめるより見やすく、後からグルーピングもしやすく、領域ごとの言葉の整理ができるからである。 4.レビュー会の適切な運営 これはデザインをした後の話だが、クライアントとのデザインレビューとその事前準備も重要だ。 レビュー会は、クライアントが求めることと自分たちの現状の進捗の差分を話し合いながら把握できる貴重な時間である。 そのため、話し合いで議論すべきポイントが事前に絞られ、検証したいことがクライアントにも十分に理解されていることが重要である。そうすることで少ない時間でクライアントから欲しい意見を引き出すことができる。 そのためには前提として、2で紹介した【デザインプロセスの設計と説明】によってそのプロセスへの理解を常に得られていることが重要だ。 筆者は定例会議で今現在のプロセスで行っていることを資料の最初に入れておき、毎回の会議の初めに確認する時間を作っている。少しくどいと思われるくらいに丁寧に表現した方が、クライアントにとっては結果的に効果的だと実感している。 しかし、そうは言ってもレビュー会では意見の発散に終始してしまう時もある。 その際には、議事録ノートに「Parking Lot (今は一旦おいておいて)」と呼ばれる欄を作ってそこにまとめておき、後から振り返れるようにすると意見が無駄にならずに済む。 ちなみに近年はリモートワークが一般的になったことによってオンラインツールを活用したレビューの実施が可能になった。 そこでビートラックスでは、デザインのUIなどのレビューは会議外で自由にFigmaなどでコメントをもらい、会議ではそのフィードバックに対する認識の確認や議論する場という、時間による棲み分けを明確にしてみた。 このようにすることで、効率が良くレビューの進行を行うことができた。 5 社内での咀嚼の時間 レビュー会後や定例会議の直後に、社内のプロジェクトメンバーでクライアントからの意見を整理し、「咀嚼」する時間も、メンバーの認識を揃えて次のアクションを明確にする上で重要だと考える。 クライアントからの意見を受け、なぜ彼らがそのような発言をしたのかをすぐにメンバー全員で考えるメリットは以下である。 クライアントからの意見や言葉のイントネーションや意図をまだ鮮明に覚えているため、議論が効率的に行える。 皆で一度話し合うことで「なぜそのような修正が必要なのか」を改めて問いやすくなる。 話し合いの中でネクストアクションをタスクレベルまで細分化・具体化できる。 チーム内で認識の齟齬がなくなる。 このように会議直後にメンバーみんなで話し合うことで、クライアントの求めていることは何かを常に意識しながら効率よく次へと進めるだろう。 終わりに 今回はデザインスキルとは違った観点で、デザイナーにとって重要なクライアントとのプロジェクト進行に関するポイントをまとめた。いずれも共通して重要なスキルは、コミュニケーションの丁寧さだと感じた。 特に、クライアントから大量の情報を受け取り、それを適切な形でユーザーに届けるデザイナーという仕事の特性上、クライアントのコミュニケーションの質は、最終成果物のクオリティに大きく影響すると感じている。 この記事で述べた内容は、著者が実際にクライアントとのプロジェクトを通じて感じたり、実践したことになる。 みなさんの仕事において、少しでも参考になれば幸いだ。